超次元機動戦士ネプテューヌ (歌舞伎役者)
しおりを挟む

前日譚〜プラネテューヌのニューライフ。ミズキの出会いと別れ〜
出会い


2話にありますが
ーーーー『』
と表示されたら『』の中に書いてあるBGMを脳内で再生してください。スパロボみたいに。わからなかったらyoutubeで検索検索ゥ!
終わりは各自の判断で(適当


もし、今目の前にいる人と永遠に別れなければならないとすれば。

その時はどんな顔で別れればいいのだろう。

 

精一杯笑ってみせる?

 

くしゃくしゃに泣いてみせる?

 

それとも、無表情で見送る?

 

みんなは笑って別れてくれた。

 

僕は………僕は、笑えていただろうか……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……………………」

「ミズキ」

「何も言わないで。今はただ………こうしていたいんだ」

 

森の中の草原に横たわるミズキという少年。身長は高く、180cmはあるだろうか。短い茶髪だがその目元はうかがい知れない。右腕で目を覆い隠しているからだ。だがその頬には涙が伝っている。

そして何より、体中が傷だらけだ。

 

「ぬら?」

「…………………」

「!」

 

木の陰からこちらを見つめてくるスライヌ。それを寝ている少年とは違う男が睨んで追い払う。

薄汚れた腰巻を巻いた筋肉質な男。

だがその体はとても小さく、宙に浮いている。

 

「ねえ、ジャック」

「………なんだ」

 

その小人はジャックというらしい。

 

「僕は………笑えていたかな?」

「ああ。笑っていたよ」

 

即答だった。

そしてミズキは覆い隠していた腕を上げて天に手をかざす。

その手の甲には燃え上がる炎のシンボルが彫られていた。

 

「だったら………嬉しいな」

「今は休め。この次元の情報収集にも時間がかかる」

「うん」

 

そのままミズキは脱力して体を大の字に広げる。

そんな中、森の奥から大きな鳴き声がした。

 

「ギャーーーーース!」

 

「っ、何⁉︎」

 

その声に上半身を起こす。

周りを見渡すと森の中から首を出したドラゴンが見えた。

 

「ドラゴン⁉︎」

 

さらに間髪入れずに女の子の悲鳴がする。

 

「きゃっ!」

 

「まさか、襲われてるのか……⁉︎」

 

ミズキは体を起こす。

そして傷だらけの体も気にせずにそこへ走り始めた。

 

「ミズキ!」

「今度は…………!」

 

ジャックの制止も聞かずに走り始める。その目には先程見せていた弱さはない。

その目は決意に満ちていた。

 

「今度は、助けてみせるんだ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「やった〜!天鱗だ!天鱗!」

「お姉ちゃん……またゲームしてたの?」

 

ゲイムギョウ界という次元。

その四大陸の1つ、プラネテューヌの女神のネプテューヌとその妹ネプギアだ。

 

「これを出すのに何十体ドラゴン倒しただろうな〜。きっと私のせいで生態系ピラミッドが崩れてるよ」

「お姉ちゃん、またイストワールさんに怒られちゃうよ?」

 

実はネプテューヌは今日はモンスター退治の仕事があったのだ。

ちなみに、書類仕事はネプギアとイストワールで請け負っている。

イストワールというのはプラネテューヌの教祖。本に座って空を飛ぶ小さい女の子である(精神年齢は間違いなく女性)。

 

「まあまあ、これ終わったら行くよ。ほ、ホントだって。な、なんでそんな目で見るのさ〜!」

「早くしないと、怒られちゃうよ?そしたらまたプリン抜きにされちゃう」

「!そ、それはいけないよ!私にとってプリンは私より大事!」

「なんか色々逆転してる気がするよ……」

「というわけでサラダバー!」

 

ピューンと逃げるようにネプテューヌは部屋を後にした。

 

「ふう、危なかった〜」

 

いそいそとネプギアはネプテューヌがやっていたゲームの後始末をする。

ちゃんとセーブして、決められた手段でゲームを終了して、電源を切り、ディスクをまとめて、しまう。

 

「ふう。証拠隠滅っと」

「ネプギアさん」

「はい?」

 

間一髪。

ネプテューヌが仕事をサボっていた痕跡はもう残っていない。

ネプギアはほっと胸をなで下ろす。

 

「ネプギアさん?しゃがんで何をしているのですか?」

「い、いや何でも!ちょっとコンポジット端子を探してて……」

「……なんですかそれ。ああ、いや、そんなことより」

 

珍しくイストワールは慌てた様子。いや、最近は珍しくもないか。

もうじき女神同士の友好条約が結ばれるという時期。その中心のプラネテューヌは特に今は仕事が多い。

ネプテューヌがご覧の有様のためにイストワールの心労もとんでもない。

ホント、胃に穴どころか天元突破。彼女のドリルは胃を貫くドリルだ。

 

「ネプテューヌさんを知りませんか?もうモンスター退治に行ってしまわれましたか?」

「え?お姉ちゃんはもう行っちゃったと思いますけど……」

「そ、そんな!もう、どうしてサボっていて欲しい時に限って真面目に仕事するんですか!」

 

どうやらネプテューヌは何をしても怒られるらしい。サボっていてもサボってなくても怒られるってそれもうどうすれば……。

と、ネプギアが苦笑いしているとイストワールは事情を教えてくれた。

 

「実は今、赤黒いエンシェントドラゴンが迫ってきていると情報が入っているんです!」

「赤黒い、エンシェントドラゴン……?」

 

そんな個体、聞いたこともない。

 

「どうやら、他の個体よりもずっと強力で獰猛らしく、ラステイションからこちらに向かってきたらしいんです」

「そんなに強いんですか?」

「既に、他のエンシェントドラゴンを何匹か倒したらしいのです。もちろん、ネプテューヌさんに倒してもらうつもりですが注意はしないと……!」

 

何故そんな個体が、などと言っている場合ではない。

 

「じゃあ、私も行きます!」

「…………ええ。お願いします。アイエフさんとコンパさんにも頼んだので一緒に行ってください」

「はい!」

 

このままじゃお姉ちゃんが危ない。

私が助けなきゃ!

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃ネプテューヌは口笛を吹きながら森の中を散策していた。

もちろん、そんな強力なエンシェントドラゴンがいるなど露ほどにも思わないまま。

 

「口笛を吹くとモンスターが寄ってくるってね!それっ!」

 

早速茂みから飛び出たモンスターに刀で攻撃、一撃で仕留める。

倒したモンスターは電子の光となって消えた。

だがネプテューヌは何やら不思議に思っていた。

ここら辺はもうモンスターの巣窟のはずなのだが数があまりにも少ない。

それに何かに怯えているようでもある。

 

「どうしたんだろ?まあいっか!仕事が減るなら私的にも嬉しいし!」

 

だが深く考えないのがネプテューヌ。

お気楽にまた口笛を吹いて歩き始めた。

 

「へっ?」

 

だが目の前に降り立ったのは先程までの小物ではなかった。

 

「ギャーーーーース!」

 

「えええええええっ⁉︎」

 

赤黒いエンシェントドラゴン。

それは周りの木をバキバキと踏み倒しながらネプテューヌに咆哮を浴びせた。

 

「な、なんで⁉︎私がドラゴンばっか倒したから⁉︎すいませんほんの出来心だったんです〜!」

 

そんな謝罪がドラゴンに通じるわけもなく。

むしろ威嚇されたと思ったドラゴンはその口を大きく開く。

 

「えっ、ちょ、タンマ!」

 

開いた口から炎が吹かれる!

 

「きゃっ!」

 

ネプテューヌは横に飛び退く。

尻餅をついてブレスが当たった地面を見るとそこは燃えてるなんてものじゃない。

地面まで赤熱している熱量にはさすがのネプテューヌもビビった!

 

「………なんて神砂嵐してる場合じゃないよ!」

 

マジでヤバい。

………いや伝わんないかもしれないけど。

さすがに私も主人公補正がどうとか言ってられない事態。

なんで、こんなドラゴンがここに?

このあたりにはこんなのいないはずなのに!

 

「っ!」

 

顔を上げてドラゴンを見る。ドラゴンはその血に濡れた爪を大きく振り上げているところだった。

 

(ヤバ………!)

 

腕を組んで目を瞑る。

上からの衝撃に備えたネプテューヌだったが………その衝撃は横から来た。

 

「うおおおおおっ!」

「ねぷっ⁉︎」

 

な、なになに⁉︎

男の人の声がして横からドンってタックルされて転がってる⁉︎

 

「ね、ねぷぅぅう〜!」

「………っ、はっ、はっ、はっ……」

 

ゴロゴロ転がっていた回転が止まる。

ぎゅっとつぶっていた瞳を開くとその上には少年がいた。

涙を流しながら、こちらを見つめて………泣いてるのに、笑ってる?

 

「良かった……間に合った。今度は、間に合った………!」

「え、えと………」

 

そこでネプテューヌは自分の手がぬるりとしていることに気付く。

寝転がった自分の上に男の人がかぶさっている状態のまま自分の両手を見る。

ぬるぬるしていたものの正体は、血だった。

 

「え⁉︎まさか、キミ!」

「大丈夫。何も怖いものなんてない。僕は君を………君を!」

 

立ち上がった少年はこちらに背を向けてドラゴンを見据える。

その背中は大きくて、頼もしくて、そしてなんだか、寂しかった。

 

「君を、守りに来た!」

「………………」

 

ネプテューヌは声も出せない。

その男の人の周りを男の小人がくるりと飛んだ。

いーすんみたいな人?でも、やたらと筋肉質……。

 

「新生『子供たち』、記念すべき最初の任務は……ドラゴン退治だよ」

「ふっ、幸先良いな」

「まったくだよ」

 

顔は見えないけれどきっと不敵な笑みを浮かべているのだろう。

すると後ろからよく見知った声がした。

 

「お姉ちゃ〜ん!」

「ネプ子!」

「ねぷねぷぅ!大丈夫ですかぁ⁉︎」

「みんな!」

 

あいちゃん、コンパ、ネプギア!

 

「ちょうど良かった。君達は逃げて。あいつは僕が食い止める」

「む、無理だよ!みんなで力を合わせて……!」

「ま、まずは逃げましょう!それから、じっくり作戦を立てて……!」

 

ネプギアが撤退を提案する。

だがドラゴンはそれすらも許してくれないだろう。逃げるのにもだいぶ手間がかかるはずだ。

 

「………ジャック。使える機体は?」

「中破したエクシアが一機のみだ。後は使い物にならない」

「損害箇所は?」

「左腕がない。片目もなかったが別の機体のものを応急措置でつけた。武器はGNソードのみ、それも折れている。装甲も何箇所か外れている」

「十分だね」

「いやいやいやいや!」

 

おかしいでしょ!不穏な言葉しか聞こえないんだけど!

 

「下りなさい!無理よ!見たでしょ、あの威力!」

「無理?生憎、こんな劣勢は僕の中では日常茶飯事だ」

 

あいちゃんの忠告にも耳を貸さない。

 

「それに怪我してるですぅ!」

「大したことないよ」

 

コンパの心配も跳ね除ける。

 

「キミ1人じゃ!」

「僕は1人じゃない」

 

私が言うことにも反論した。

するとドラゴンが痺れを切らしたのか再び叫び出す。

 

「グアアーーーーーーーーッ!」

「…………変身」

 

目を閉じて首を垂れた男の人が握った右拳を胸に当てる。すると胸から強烈な閃光が放たれた!

 

「うっ!」

「っ!」

「眩しっ!」

「あぅ」

 

その光が消えた時、目の前には男の人の姿はなかった。その代わりに目の前にはーー。

 

《ねえ、ジャック。ジョーはいつもなんて言ってたっけ》

「駆逐する、だったと思うぞ」

《そっか………》

 

体の節々から火花やスパークが飛び散って、左腕はボロ布で覆われていて、戦う剣は折れている。片目は赤く輝いてツノは折れてボロボロ。それでも変わらない信念を胸に抱いた機人がいた。

 

《エクシア改め、ガンダムエクシアリペア。目標を駆逐する!》




はい、天鱗が出なくて火竜を40匹くらい討伐した男です。

筆者は知識がガバガバなので「おい、これ口調違うぞカス。タヒね!」とか「おい、この設定違うぞカス。タヒね!」とかあったら教えてください。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘

早速BGMです。

エクシアリペアはトランザム出来たはず。………マキブとかでやれるし。




人は皆戦う。何のため?

 

貴方は守るためと言った。

 

貴方は何を守るの?

 

世界?

 

主義、理想?

 

家族?

 

友達?

 

結局、貴方が守りたいのは自分だけ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ーーーー『Fight』

 

 

「ウソ!」

「変身した⁉︎」

 

私とネプギアが声を上げる。

あれって女神化⁉︎いや、あの人は男だし……神化?モンスターをストライクしそう!

 

「ガアッ!」

《ふっ!》

 

振り下ろされた爪の一撃をエクシアリペアが飛んで避ける。

そしてそのまま空中で静止した。

 

「飛んだ⁉︎」

「プロセッサユニットもないのに!」

 

エクシアリペアは右手のGNビームライフルからビームを2連射する。

両方当たったが多少怯んだだけでダメージは入っていない。

 

「くっ、ネプ子!私達も援護するわよ!」

「う、うん!刮目せーー」

 

「来るなッ!」

 

「!」

 

ジャックの叫び声に全員の足が止まる。それほどの迫力が小さい体から放たれていた。

 

《くっ、うっ!》

 

少ないスラスターでドラゴンの攻撃を紙一重でかわしていくエクシアリペア。

その一瞬の隙をついてエクシアリペアはドラゴンの足元へと接近した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

《なああああだっ!》

 

GNソードを展開して切りつける。

だがその刃こぼれしたボロボロの剣では『切れて』いない。肉をぐしゃぐしゃにして無理矢理引き離すような斬撃だ。

 

「グアアッ⁉︎」

 

《くっ!》

 

暴れたドラゴンから離れる。

足に切りつけたものの、やはり決定打にはなっていない。

 

《ラチがあかない!ジャック、GNビームサーベルの修復を最優先!》

「している!あと5秒!」

《トランザムの限界時間は⁉︎》

「3秒!」

《上出来!》

 

1度距離をとったエクシアリペアの手に小さな剣の柄が握られる。

その先からビームの刃が現れた。

 

《はああああっ!》

 

そして急接近。目指すは急所、首!

 

「グアアッ!」

 

《トランザム!》

 

『TRANS-AM』。

機体内に圧縮されたGN粒子を全面開放して一時的に3倍の機動力を得ることができる。

そしてその時機体は赤く輝いてーー!

 

《はあっ!》

 

キンッ……………。

 

「⁉︎」

 

一瞬だった。ネプテューヌ達には赤い軌道しか目には写らなかった。

 

「は、速い………!」

 

アイエフだけがようやくそれだけの言葉を言える。

エンシェントドラゴンの首はGNビームサーベルによって切り抜けられ、両断されていたのだ。

ドラゴンが光になって消えるのと同時にエクシアリペアの赤い光は消えた。

そしてエクシアリペアの変身は解け、ミズキの姿になる。そう、あの速さの勢いのまま、である。

 

「キミ⁉︎」

「ぐあっ!」

 

木に背中から激突してミズキは声をあげて気絶する。

 

「うええっ⁉︎着地失敗⁉︎0点、0点、0点!」

「お、お姉ちゃん今はふざけてる場合じゃ!」

「血もたくさん出てるですぅ!」

「とりあえず教会まで運ぶわよ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「それで、どういうことですか?」

 

ジャックは教会でネプテューヌ、ネプギア、アイエフ、イストワールに囲まれていた。

ミズキは教会の一室で寝ている。コンパはミズキを看病しているのでここにはいない。

 

「ネプテューヌさん達の話によれば、あの人は変身したとか。あなた達は何者ですか?」

「返答次第ではこのまま拘束させてもらうわ。悪いわね、今はちょっとピリピリしてるの」

 

厳しい目付きのイストワールとアイエフ。

女神達の式典が迫った今、テロなどに特に敏感になっている。ましてや、諜報員のアイエフなら当然だろう。無論、教祖のイストワールもだ。

 

「………まず、俺の名前はジャック。あいつの名前はミズキだ」

「フルネームは?」

「俺はジャック。あいつはクスキ・ミズキ」

「ミズキっていうんだ……」

 

ネプテューヌの頭の中にはボロボロの勇姿。少なくともネプテューヌにはミズキが悪い人には思えない。

 

「それと……俺達が何者だったか、か……」

 

顎に手を当ててジャックは考え込む。

オールバックの黒髪と尖った目。口調も相まってイケメンであることに間違いはない。体も筋肉質だし。

 

「そうだな……。別次元から来た、なんて言ったら信じてもらえるか?」

「別次元?」

 

アイエフが顔をしかめる。

 

「嘘をつくならもう少しマシな嘘をつきなさいよ」

「本当だ。ここの時間が俺達と同じならば、つい数時間前に時空の歪みがあるはずだ」

 

アイエフがイストワールに目配せをする。

 

「調べます。これくらいなら3日もかかりませんね」

 

イストワールが小さい体で受話器を取って電話をかける。そういうのを観測しているところに電話をかけているのだろう。

 

「そして俺達はその次元からここに来た、というわけだ。狙ってこの次元に来たわけではないし、何より俺達も次元旅行など望んではいなかったがな」

「じゃあ、なんで来てしまったんですか?」

 

ネプギアの素朴な疑問。

だがその質問にジャックは本当に……本当に顔をしかめた。苦渋に歪んだその顔は何かを悔やむよう。

 

「……俺達の次元は壊されたんだ」

「次元が、壊れる?」

「そんなことあるの?」

「ある。そのせいでみんな死んだ。みんな、だ。何もかもが消え去った」

「………………」

 

ジャックは依然、俯いたままだ。

 

「ご、ごめんなさい。私、そんなこと聞いちゃって……」

「いい。気になるのは至極当然だ」

 

顔を振って前を見る。その顔にはさっきの暗さはなかった。

 

「確認が取れました。確かに、大きな歪みが観測できたようです。今日の夜、報告する予定だったらしいです」

「………一応、筋は通ってるらしいわね」

 

荒唐無稽だけど、とアイエフは付け足す。

そこにコンパが戻ってきた。

 

「あの、私も質問していいですか?」

「構わない」

「あの傷、なんでついたんですか?切り傷、火傷、打撲、捻挫、体中ボロボロだったですぅ」

「そんな怪我してたの⁉︎」

「ああ、してただろうな」

「じゃ、じゃあなんであの時私達をーー」

 

ネプテューヌが食い付く。

ボロボロだったのだ。比喩でもなんでもなく。見てきたコンパはわかるが全身傷だらけで動いているのが不思議なくらいだ。傷がないところを探すのが難しいくらい。

 

「1つ目の質問。コンパ……とか言ったか。あの傷は戦争の傷だ」

「戦………争………」

 

ネプテューヌ達の頭に蘇るのは女神戦争の記憶。

 

「この次元に来る直前までミズキは戦っていた。ミズキの仲間もだ。そして、この次元に来てあのドラゴンの声を聞き、俺達は駆けつけた」

「駆けつけた、なんて……」

 

文字通り、駆けることも出来ない体だったはず。それを支えていたのは心なのか。

 

「2つ目。ネプテューヌと言ったな。その質問の答えはそれがミズキだからだ」

「そ、それは……」

「答えになってないじゃん!」

 

ネプギアが苦笑いしてネプテューヌがツッコム。

 

「間違っていない。自分がどれだけ傷つこうと誰かを助けるお人好し。他人が傷ついたり死ぬことを誰よりも嫌う男だ、あいつは」

「……優しいんですね」

 

ネプギアが少し微笑む。

ジャックも笑ったがその真逆、皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

「そんなにも優しい奴がついさっきまで人の死を見てきた。そして俺達の次元の全ての死を見たんだ。………皮肉だよな」

「……………」

 

みんな押し黙ってしまう。

そこに控えめな優しい声が響いた。

 

「あの〜………」

「起きたか、ミズキ」

「えっ⁉︎」

 

通路の角から顔を出しているのは先程の少年、ミズキだ。

 

「だ、ダメですぅ!まだ寝てないと!」

「あ、看病ありがとね。君の名前は?」

「私はコンパですぅ。ってそうじゃないですぅ!」

 

通路からミズキが苦笑いしながら体を出す。その様に女性陣が全員顔を赤くした。

 

「は、裸⁉︎」

「腰巻か。俺とお揃いだな」

「やめてよ。僕はジャックと違って体が逞しくないんだから……」

 

掛け布団を腰に巻いた状態でその体をさらしている。だがところどころに包帯などの治療の跡が残っていて痛々しい。

 

「そうだ、それと………」

 

ミズキが体中の包帯を外していく。

その下には傷跡が一切なかった。

 

「え……?」

「もう治ったよ。君の看病のおかげかな」

 

そう言ってミズキはふふっと笑う。

 

「あ、ありえないですぅ!だって、あんなに傷が……」

「僕は、人間じゃないから」

「え?」

 

ミズキは自嘲気味に笑う。

じゃあ、お前は一体なんなのか。

それを聞く前にミズキが口を開いた。

 

「とりあえず、服が欲しいかな。ごめんなさい、服を貸していただけないでしょうか」

「と、とりあえず、プラネテューヌの職員の制服をお貸しします。ネプギアさん、一緒に服を買いに行ってはもらえませんか?」

「え?わ、私ですか?」

「ええ〜!ネプギアばっかりズルい!私は⁉︎」

「ネプテューヌさんは仕事です」

「そんな!モンスター退治はしたのに!」

「書類仕事が増えたんです。少しだけですから、やってください」

「ぶ〜っ、横暴だよ〜!」




ミズキのイメージは大人になったリトバスの理樹。


【挿絵表示】


ジャックは黒髪になった某A・U・O。
中身は別ですけど。


【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネプギアと友達になろう

ミズキ無個性になりそう(震え




 

人は何かと引き換えに何かを貰う。

 

お金と引き換えに何かを貰う。

 

引き換えに出来ない物もあるって?

 

結局同じだよ。

 

愛も恋も友情も何かを差し出さなきゃ得られないものさ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ウィーン、とドアが開く。

そこからいくつか袋を抱えたミズキが出て、それから荷物を持たないネプギアが出てきた。

出てきたのは服屋、プラネテューヌではそこそこ有名なチェーン店だ。

 

「ありがとうね、付き合ってもらって」

「いえ、いいんです。ここのこと、まだわからないでしょうから」

 

柔らかい笑みを浮かべるネプギア。ネプテューヌと同じく、ネプギアはミズキを悪い人とは思ってはいなかった。

根拠はあまりない。

ただ、自分を命懸けで助けてくれたというだけだ。

 

「ネプギア、だっけ。女神ってさ、何が出来るの?」

 

先程店の中で服を物色しながらネプギアはこの次元の仕組みをミズキに説明した。

 

「何が、ですか?」

「うん。何でも願いを叶えたり、何でも出来るのかなって」

「そんなことはないです。お姉ちゃんの他にも3人女神はいるんですけどみんなそんなことは出来ません」

「ふぅ〜ん、そっか……」

 

 

「やっぱりこの世界にも、神はいないね」

 

 

「何か言いましたか?」

「ううん、何も」

 

ボソリと呟いた声はネプギアには届かなかったようだ。

 

「ネプテューヌ?だっけ。あの紫の女の子は変身が出来るんだっけ」

「はい。1度見たらびっくりすると思いますよ」

「ネプギアも出来るの?」

「私は……出来ません」

「………………」

 

2人と逆行して子供達が笑いながら通り抜けて行った。

それをミズキは振り返って背中が消えるまで見続けた。

 

「ミズキさん?」

「………ううん。そうだ、ネプギア」

「なんですか?」

「人が出来るはずの何かが出来ない時、その理由は大抵2つある」

「2つ、ですか?」

「そう。1つは全力を出していない時。もう1個は」

 

ミズキは自分の胸を親指でトントンと叩いた。

 

「何かを怖がっている時だ」

「何かを……?」

「うん。さ、帰ろうか」

 

ミズキはニコリと笑って1度歩いただけの道を戻り始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ふふふ、そうなんですか」

「うむ。これがまた傑作でな……」

 

帰ってくると空中に漂うイストワールとジャックが笑いながら話していた。

 

「もう仲良くなってるの?」

「うむ。小さいもの同士、気が合うらしいな」

「羨ましいよ。僕も友達が欲しいな」

 

くすくすと笑ってミズキは自分にあてがわれた部屋へ向かう。

 

「もう仲良くなったんですか?」

「そうですね。最初は話しにくい方かと思ったんですけど、案外話せる人で」

「へぇ〜………」

 

ネプギアは感心する。

私はミズキさんとまだ少しぎこちないのに。

だけどこればっかりは解決するのは時間だろう。ネプギアは部屋に向かった。

 

(アレも作りたいしね……♪)

 

上機嫌に鼻歌を歌いながら部屋に向かったネプギア。

ネプギアとすれ違いでミズキが戻って来た。

キョロキョロと周りを見渡してからイストワール達の方へ向かう。

 

「どうかしましたか?ミズキさん」

「ううん。大した用はないよ。教えて欲しいことがあって」

「教えて欲しいこと?」

「うん。あのねーー」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「出来ました〜!」

 

ネプギアの部屋……というか改造された研究室(ラボ)

地面に座り込んだネプギアの前に1つの辺の長さが50cmくらいの立方体があった。真っ白で周りにはコードや端子が散乱している。

 

「ふふ、よ〜し……起動!」

 

ポチッとな、と起動スイッチを押す。

のだが何か起こる気配もない。し〜ん、と静まり返るだけだ。

 

「あ、あれ?おかしいな、どこか配線間違えたかな〜?いいんですよ?動いていいんですよ〜?」

 

立方体を開いてガチャガチャと弄ってみる。

中には赤とか青とか黄とか間違えて切ったら爆発しそうなコードで溢れているがネプギアはそのコードのジャングルを手でかき分けて何かを確認していく。

 

「あれ?あれあれ?」

「ネプギア?」

「ひゃあああいっ!」

びくーんっ!

 

バッと後ろを振り向くとそこには何かの箱を持っているミズキが立っていた。

 

「なななななななんでここここここここに!」

「いや、ノックしたんだけど……『いいんですよ』って言われたし」

 

『いいんですよ?動いていいんですよ〜?』

 

「あ、あれは違っ、っていうか、その!」

「あ〜、隠さなくてもいいよ。機械弄りが好きなんでしょ?」

 

背中に先程の立方体を隠すネプギア。

それをくすくすと笑いながらミズキも腰を下ろして目線を合わせる。

 

「だ、誰からそれを?」

「ナイショ。くすくす」

 

 

「いいことした気がします」

「ネプギアにとってはこの上なく悪いことかもしれんがな」

 

 

「そ、それで……私を脅しに来たんですかっ!」

「いやいやいやいや。別にそんなこと……」

「それであんなことしちゃうんですよね⁉︎こんなこともしちゃうんですよね⁉︎エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

「うん、とりあえず落ち着こうか。どうどう」

 

目をグルグルさせて捲したてるネプギアをあやす。

 

「僕はネプギアと仲良くなりたいだけだよ。一緒に機械弄り、させてもらえると嬉しいな」

「や、やっぱりそんなこと………え?」

 

てっきり脅されるとばかり思っていたネプギアはミズキの提案に今度は目をまん丸にする。

 

「お、脅さないんですか?」

「なんで脅すのさ。もしかして、脅されたいとか?」

「そ、そんなことはありません!私はいたってN(ノーマル)です!N(ネプギア)だけに!」

「君もなかなかの変人だよね」

「が〜ん!変人認定されてしまいましたっ!」

「くすくすくす……」

 

ミズキは回り込んでネプギアが隠していた立方体を手にとって中を見る。

 

「ふむふむ……ロボット作ってるの?」

「あ、はい、そうです。わかりますか?」

「うん。………でもこれ、動いた?」

「いえ。ボタン押したんですけど起動しなくって……」

「だよね」

 

ミズキは覗き込むのをやめて持ってきた箱を開く。そこにはコードや端子、中には何に使うのかもわからない工具が詰め込まれていた。

 

「こ、これは⁉︎見たことない端子ばかりです!」

「くすくす、任せて」

 

ミズキはその中から赤い導線を取り出す。

そしてカチャカチャと立方体の中に取り付けた。

 

「うん。これで動くと思うよ」

「ほ、ホントですか!」

「うん。ボタン押してみて」

 

ネプギアは高鳴る胸の鼓動を抑えて赤いスイッチをカチリと押す。

 

「起動!」

 

すると立方体の1つの面がテレビのように光って少ないドットでシルエットを作る。

それはまるで顔のようだった。

 

《コンニチハ、マスター》

「やった〜!動いた!」

 

ネプギアは飛び上がって喜ぶ。

そして目をキラキラさせながらミズキの手を握ってブンブン上下に振った。

 

「ありがとうございます!ミズキさんのおかげでネプギアスクエアが起動しました!」

「そ、それはわかったからもうちょっと勢い抑えてアババババ」

 

ものすごい勢いで両手が振られている。

 

「ホントに………!あれ?」

 

ネプギアは急に手を振る感覚が軽くなったことに気付く。

自分のミズキの手を握っている両手を見てみると………。

 

「あ」

「ぴゃあああああああああ!」

 

「な、なになに⁉︎ネプギアの悲鳴⁉︎」

 

ガラッとドアを開けてネプテューヌが入ってくる。

 

「あ、ネプテューヌ。違うんだ、これは……」

「さては!ネプギアに酷いことしたね⁉︎エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

「なんで姉妹揃って考えることが同じなのかなあ⁉︎ってそうじゃなくって!」

「ミズキさんの手が〜!」

「あ〜、落ち着いてネプギア。大丈夫だよ〜」

「どうしたのネプギア⁉︎ミズキの手があんなところやこんなところをまさぐってきたの⁉︎ミズキ最低!」

「なんでガンガン僕のヘイトが溜まっていくの⁉︎理不尽だよ!」

「ミズキさんの手が、手が、取れちゃいました〜!」

「ほらやっぱり!ミズキの手が………へ?」

「あ」

 

ミズキがヤバいと思うも時すでに遅し。

ネプテューヌはネプギアの手に握られたミズキの手を見てしまった。

 

「ぴゃあああああああ!」

「ぴゃあああああああ!」

「ああっ!この始末!」

「ね、ネプギアが人殺しになっちゃったよ!」

「落ち着いて!僕まだ死んでないよ!」

「ま、マスターハンド……クレイジーハンド……ふふふふふふふふ」

「ネプギア、気を確かに!」

「かくなる上は〜!ネプギアを殺して私も死ぬ!ミズキはとりあえず埋める!」

「それ完全に巻き添えだよねえ⁉︎」

「何やってるんですか。さっきからうるさいですよ?」

「あ」

 

イストワールまで部屋に……。

 

「ぴゃあああああああ!」

「ぴゃあああああああ!」

「ぴゃあああああああ!」

「ああもう滅茶苦茶だよ……」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「な、な〜んだ、取り外し可能なのか〜!初めからそう言ってよもう〜!」

「聞かなかったのは君達じゃないか……」

 

切断面同士をくっつけると手が動く。手首をぶらぶらさせて感触を確かめる。

 

「ごめんね、修復が甘かったみたい。驚かせちゃったね」

「修復って………」

 

ふと、ネプギアが思い出す。

ミズキの発言、『僕は人間じゃないから』。そしてネプギアの手元にはさっき完成したロボットがあった。

 

「もしかして……ミズキさんってロボットなんですか?」

 

あんなに早く傷が治ったり、手が取れたりくっついたり。人間じゃなかったら、ロボットなんじゃないか。

だがその予想は外れた。

 

「そんな大層なものじゃないよ。僕は………兵器さ」




3話目にして書くことがない。
しばらくアニメの前日談が続きます。戦闘もないから退屈かもです。
……お願い、続けて読んで……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネプギアと特訓

アニメまで入れない……。

早く、早く……。


強くならなきゃって君が言う。

 

だって、強くならなきゃみんなを守れないから。

 

弱くていいんじゃないのって僕が言う。

 

だって、弱かったら守るものなんて最初っからないんだから。

 

それでも強くならなきゃって君が言う。

 

だって、みんな君に守られたいから。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアは目が覚めた。

今日は目覚めがいい。時計を確認するといつもよりも大分早い早朝だ。

 

「起きよ」

 

二度寝しようとも思ったが早起きは三文の徳とも言う。それに、なんだかこのまま寝てしまうのは勿体無い気がした。

顔を洗って髪を整えて着替えて部屋を出る。

そのままネプギアは外に出た。

早朝はまだ日が昇っていなくて、風が心地良い。

 

「ん〜………!」

 

大きく伸びをして深呼吸。

新鮮な空気が肺の中に満ちる。

 

「そうだ」

 

散歩でもしようか。時間はあるし、公園くらいまで行って帰ってこよう。

足取り軽く公園まで歩き出す。

スッキリした頭の中で1人の男の笑顔が浮かんだ。

 

「ミズキさん………」

 

うっとりした表情で空を見上げる。顔は赤らんでいるようにも見える。ほう、と熱い息を吐いてミズキのことを考える。

だって……だって……!

 

「あんなにも、機械に詳しいだなんて……!」

 

初めてあんなに機械に詳しい友達が出来た。私が悩んでいたことや不思議に思っていたことを話すと同意してくれる。こんな人初めて。

 

「今日は〜♪ミズキさんと〜♪お買い物〜♪」

 

それに今日はミズキさんと買い物の約束をしているのだ。目覚めが早い理由もそれ。

足りない工具の話をしたらミズキさんも工具が足りないらしく、街案内がてら電気屋に行くことに。

今からワクワクする。

それに、結構ミズキさんは色々といい人だ。

まずイケメンだし。

それに俺タイプではないが常に相手のことを考えているのがわかる。

俺口調の人が女の子を引っ張るなら、ミズキさんは女の子の背中を後押しする人だ。

ネプギアも思春期の女の子。それに、男の人との出会いが乏しい上に男の人と暮らすなんてことをしてしまっては色々と考えてしまう。

 

「ミズキさん、みんなと仲良いし……」

 

ネプテューヌはもちろん、最初はミズキのことを注意していたアイエフさんやイストワールさんともいつの間にか仲良くなっている。コンパさんだってそうだ。

ああ、今にもミズキさんの声が聞こえてきそうで………。

 

アッ!アンナトコロニユーフォーガ!

ニドトダマサレルカー!

 

そうそう、こんな声で………え?

 

「ミズキさん?それに……」

 

この声はアイエフさん。

我に返って周りを見渡すともうそこは目的地の公園。その公園から2人の声がする。

ネプギアはその公園を覗き込んでみた。

すると草原の上に2人がいた。

だが…………。

 

「えいやっ!」

「甘い。軽いよ、アイエフ」

「くそっ!」

「そう。だけど、それじゃ隙だらけだよ!」

「あうっ!」

 

2人が戦ってる⁉︎

 

「な、何してるんですか⁉︎」

「ん、ネプギアじゃないか」

 

ミズキさんが手を振ってくる。

それに手を振り返して……ってそうじゃない!

 

「な、何してるんですか⁉︎喧嘩はダメです!」

「クスクス、喧嘩じゃないよ。安心して」

「え?じゃあ何して……」

「稽古つけてもらってたのよ。私が。残念ながら、全然敵わないけどね」

 

尻餅をついたアイエフさんが言う。

さっきミズキさんがアイエフさんのカタールの連打をビームサーベル1本で軽くいなして足払いしたからだ。

ミズキはアイエフに手を貸して立ち上がらせる。アイエフは尻についた砂をパンパンと払った。

 

「朝ランニングしてるミズキを見つけてね。見習って私もついて行ってそのまんま流れで勝負しようってなって……」

「なんで流れで勝負しようってなるんですか………」

「いや、その………」

 

素振りをしているミズキを見てたら「組手する?」ってなってそこからヒートアップして……。

 

「くすくす。どうする、アイエフ?もう1回やる?」

「当たり前よ!見てなさい、今度は勝つんだから!」

 

アイエフはミズキと間合いを大きくとってカタールを構える。

ネプギアは戦いに巻き込まれないように2人から離れた。

 

「行くわよ!」

 

アイエフがカタールを構えて突進する。

対してミズキは棒立ちでビームサーベルだけを前に向けている。

 

「やあっ!」

 

左、右、左の順で縦、横、突きを繰り出す。

それら全てをミズキは後退しながら上半身だけの動きだけでかわした。

そして突きを出した腕をとって背負い投げ。

 

「くっ!」

 

だがアイエフはくるりと回って着地した。

 

「このっ!」

「そこ」

「っ!」

 

振り返って飛び出したアイエフの首筋にビームサーベルの切っ先が突き付けられた。

 

「今のは間合いを取るべきだったね」

「くぅぅ〜、また負けた……!」

 

アイエフが悔しがって地面をだんだんと叩く。

 

「ネプギアもやる?」

「え?」

「お願いできるかな、相手」

 

アイエフさんでも軽くあしらわれる人に私が……?

でも、恐れてちゃダメだ。私は早く女神化ができるようにならなきゃいけない。いつか、お姉ちゃんを超えなきゃいけないんだから。

 

「お願いします」

「うん」

 

ネプギアがビームソードを構える。ミズキもビームサーベルを構え直した。

今度はアイエフが2人から離れる。

 

「いくよ!」

「くっ!」

 

ミズキが飛び出してビームサーベルを縦に振るう。それをネプギアはビームソードで受け取った。

ビーム同士のぶつかり合いでスパークが起こる。

 

「負けません!」

「あ、ネプギア。パンツ見えてる」

「ええっ⁉︎」

「はい隙あり」

「きゃわっ⁉︎」

 

驚いた隙に足払いして転ばされてしまった。

 

「くすくす。僕の勝ちだね。ちなみに、パンツ見えてるのはウソ」

「な、ふ、ふざけないでください!」

「ふざけてなんかないさ」

 

スカートを抑えてネプギアが真っ赤な顔で抗議する。

だがミズキは厳しい顔でネプギアに言い放った。

 

「君は負けた時にさっきみたいな言葉を言われて負けたって言い訳できる?」

「そ、それは………」

「バカみたいな戦術だけど……それで死んじゃったら元も子もないでしょ?戦場では相手は正々堂々戦ってくれるわけじゃないよ。1対2なんて当たり前だし、人質だって取る」

「……………」

「ちなみに、アイエフも同じような手段で負けたよ」

「………………」

「何よネプギア。そのジト目は。アンタも同じようなことで負けたでしょ⁉︎」

「ちなみに、アイエフには『あ!あんな空に不死鳥が!』で引っかかった」

「………………」

「やめてよ!そんな目で私を見ないでよ!」

「くすくす。さ、続けよっか」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ひぃ、ひぃ………」

「はあっ、はあ……」

「ん、もうこんな時間だよ。そろそろ帰ろっか。ネプテューヌが朝ご飯を待ってるよ」

「つ、ついに……」

「1度も勝てないなんて……!」

 

アイエフとネプギアはばったりと汗だくで地面に大の字になる。

 

「くすくす。2人とも、歩ける?」

「わ、私は大丈夫です〜……」

「ごめん、私は無理………」

 

ネプギアはともかく、アイエフがギブアップしてしまった。ランニングまで付き合ってくれたのだからその分疲労が大きいのだろう。たかが30分くらいの組手だったが、その疲労は大きい。

 

「ネプギアは歩けないとね。午後には出かけるんでしょ?」

「は、はい。大丈夫です。行けます」

「くすくす。アイエフは歩けない?」

「情けないけど……無理ね……。置いて行って、いいわよ……」

「そんなわけにもいかないよ」

 

ネプギアは立ち上がったがアイエフは大の字のままだ。

そのアイエフの脇の下に手を入れてミズキがアイエフを持ち上げた。

 

「うんっ、しょ……っと」

「きゃっ!ちょ、何してんのよ!」

「アイエフ、軽いね」

「そんなこと聞いてないわよ!」

「よ〜しよし、怖くないぞ〜」

「あやしてんじゃないわよ!」

 

アイエフを抱き抱えて歩くミズキ。

 

「降ろしなさいよ〜!」

「じゃあ、力ずくで降りてみなよ。くすくす」

「くっ〜!力入らないのわかって〜!」

「ほら、ネプギアも行こ」

「あ、はい」

 

喚くアイエフとそれを物珍しそうな目で見るネプギアを連れて、ミズキは教会へと帰った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「おっそ〜い!もう私お腹ペコペコどころかぺぺここぺぺここーーってどうしたの⁉︎」

「あはは……語呂が悪いね……」

「ネプギアは汗びっしょりだし!あいちゃんはミズキに抱かれてるし!私が幸せいっぱいな二度寝をしてる間に何があったのさ〜!」

「い、いい加減降ろしなさいよ!」

「くすくす。それじゃ、ネプテューヌ。ネプギアとアイエフをお風呂に入れてきてくれるかな」

「あいさ〜!報酬は⁉︎」

「朝ご飯かな」

「タダ働きだよそれ〜!」

 

おいおい泣きながらネプテューヌはネプギアとアイエフ(長時間抱かれていたら歩けるようになった)を連れて風呂場に行こうとする。

だがネプギアが立ち止まって振り返った。

 

「あの、朝ご飯は………」

「今日は僕が作るよ」

「え、ミズキ料理できんの⁉︎」

「得意料理はネズミの姿焼きかな」

「ミズキ、やめて」

「じ、冗談だよ。そんな真顔で言わないでよ……」

 

こちらをジト目で見ながらネプテューヌは風呂場に歩いて行った。

おいしいのに。ネズミ。

 

「……………」

「ミズキ」

「………どう、ジャック」

「残念ながら……お前の予想通りだ」

「………っ」

「あの赤黒いモンスターはビフロンスの影響で……」

「もういい。………朝ご飯作らなきゃ」

「ミズキ」

「何さ」

「考えろ。考え抜け。お前が結論を出すんだ」

「………もう、答えは出てる。覚悟が、ないだけさ……」

「………ならいい。それともう1つ」

「……………」

「いい加減、その愛想笑いをやめたらどうだ」

「………わかってる」

 




アイエフは根は甘えん坊な気がする。ほら、あっちじゃ子供だったし。

ネズミ料理はいけませんね。夢の国に潰されます。(そっちかい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネプギアとデート大作戦

話重め。もっとコメディを頑張りたいなあ。


 

猫は見ていたその恋を。

 

猫はその恋を羨ましく思った。

 

猫は見ていたその愛を。

 

猫はその愛を羨ましく思った。

 

猫は見ていたその終わりを。

 

猫は終わりを羨ましくは思わなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ネプギア、準備はいい?」

「はい!バッチリです!」

「それじゃ行こっか」

 

教会の玄関でネプギアがフンスフンスと鼻息を荒くしている。

ミズキは白いスキニーを履いてボーダーのカットソーを着ている。その上に七分袖のジャケットを着ていた。

ネプギアは少しモコモコした白いワンピースに着替えている。その肩に斜めがけを背負っていた。

 

「そのお店はどこにあるの?」

「15分くらい歩きます!」

「じゃあ、道案内よろしくね」

「はい!」

 

2人は歩き出す。

ミズキはネプギアの歩くスピードに合わせて隣を歩く。

 

「そうだ、いくつかミズキさんに質問してもいいですか?」

「質問?別にいいけど……なんで?」

「私、まだあんまりミズキさんのこと知らないから……。だから、今の機会に気になることを質問してみたいなって」

「なるほどね。じゃあ、僕も後で質問するね。最初の質問は?」

「えっと〜………」

 

うんうん唸るネプギア。

質問が出てこないらしいが、少ないからではなく多いからだろう。

 

「そうだ!ミズキさんって、いつもニコニコしてますけど怒ったこととかないんですか?」

「くすくす、僕だって怒ることはあるよ」

「どんな風にですか?全然想像できないです」

「みんなには人格が変わるって言われた」

 

ゾクッ。

ネプギアは背筋が凍るのを感じた。

これ以上はこの質問はいけない、本能がそう言っていた。同時に、絶対に怒らせちゃいけないとも。

 

「あ、後は〜……。あ、どうしてそんなに機械とかに詳しいんですか?」

「元いた次元で色々ね。戦艦を直したりとか、ロボットとかを作ったりしたから」

「戦艦、ですか?」

「そう。いつも壊すのはみんなでさ、僕だけ後片付けで……クスクスクス」

 

そう言って笑うミズキの顔を見たネプギアは不思議な安心と不安に襲われる。

『くすくす』ではなく『クスクス』と笑うミズキの顔はなんだか心の底から笑っているみたいだったから、安心した。

じゃあ、今まで私達に向けていた顔は……?

あのくすくす笑いはどこから笑っていたんだろうとネプギアは不安になった。

 

「………っ、………」

 

言いたいことが喉元まで出て引っ込む。

この質問をしてしまっては、何かが壊れてしまうかもしれない。

でも、確かめずにはいられない。

理性と不安、そのせめぎ合いは狂おしいほどの不安に軍配が上がった。

 

「み、ミズキさんは………」

「ん?」

「ミズキさんは、私達のこと……好きですか?」

「…………………」

 

ミズキさんの顔が見られない。うつむいて顔を上げられない。

ミズキさんのことだから、きっと『好き』って言ってくれる。

だけど、もし、もしその笑顔がくすくす笑いだったら……クスクス笑いじゃなかったら、私は………。

 

「好きだよ。大好きだ。イストワールもアイエフもコンパもネプテューヌもネプギアも」

「っ!」

 

バッと顔を上げる。

その顔はネプギアが予想していたどちらの顔でもなかった。

悲しそうな顔。笑ってなんかなくて、辛そうな顔をしていた。

 

「たかが数週間だけど……もう君達のことは大事な友達だと思ってる。傷つけたくないし、離れたくないんだ」

 

どうして、そんな悲しい顔をするんですか……?

 

そう言いたいのに、言えなかった。

ふとネプギアはミズキの次元のことを思い立った。

もしかして、ミズキはまたあの次元のように私達が消えるって考えてるんじゃないか?

きっと、ミズキの次元にはもっとたくさんの友達がいたはずだ。私達なんかより、全然親しい親友がいたはず。

それが一瞬で消えてしまっては心の底から笑えなくて当然だ。いや、嘘でも笑えるはずがない。

無理していたんだ、きっと。

 

「ミズキさん……あの」

「ん?どうかした?」

「私達……大丈夫ですから。私達、消えたりしませんよ?」

「………クス、ごめんね。心配かけちゃったかな」

 

ミズキさんは歩きながら私の頭を撫でてくれる。

ずいぶん身長差があるけれど……ミズキさんの手は温かかった。

 

「それじゃ、ネプギア。1つ、頼まれてくれるかな」

「はい、なんですか?」

「………僕はね。あの次元でみんなを助けられなかったんだ。きっとどこかで選択を間違えて、ミスをした。そのミスを必死に取り返そうとしたけど、結局ダメであの次元は壊れてしまった」

「………………」

 

やっぱり。

ミズキさんはきっと、凄い力を持っていたんだ。世界すら変えられるくらい、凄い力を。

だけど、その力を以てしても次元の崩壊が止められなかった。

ミズキさんは精一杯やったはずだ。それは今までの時間でわかる。みんなを助けるために、きっと頑張った。

だけど、救えなかった。きっとミズキさんは今でもそれを悔いているんだ。

 

「だからさ、もし、もしさ。僕1人では誰かを助けられそうになくなってしまった時は、君を頼っていいかな」

「……任せてください!きっと私が、ミズキさんの力になります!」

「………ありがと」

 

私が、ミズキさんを覆う不安を払うことができるなら。

 

「じゃあ、今度は僕が質問していいかな?」

 

そう言ったミズキさんの顔は優しい笑顔だった。

切り替えてくれたんだ。

このお出かけ……お出か………デートを楽しくするために。

い、いいじゃないですか!1人でそう思うだけなら!

 

「ま、待ってください!あと1個だけ!」

「………?う、うん。何を慌ててるの?」

「なんでもないです!」

「………うん?」

 

え〜とえ〜と、何か、何か……!そうだ!

 

「ミズキさんは、好きな人っていますか?」

 

ぴゃああああああああああ!

なななな何を質問してるんですか!私!

 

天使ネプギア「ダメよ、今すぐにでも撤回しなさい?好きな食べ物と間違えたって言えばいいのよ」

悪魔ネプギア「んなつまんないことすんな!他の人を言ったならライバルってことだし、自分を言ってくれたなら万々歳じゃねえか!」

天使ネプギア「でも………」

悪魔ネプギア「何より、面白そうだろ?」

天使ネプギア「そうですね」

 

天使いいいいぃぃ〜!

なにやりこめられてるんですか!口車に乗せられてますよ!ほんの数秒でってどれだけチョロいんですか!ていうか悪魔の私なんか男らしくないですか⁉︎

 

「そうだね、さすがに今はいないよ。でも昔、告白したことはあるよ?フラれちゃったけどね」

「ああ、わかります。あの苦味がいいんですよね」

「ネプギア?会話が成り立ってないよ?」

 

ミズキがブンブンとネプギアの頭を振ってネプギアを再起動させる。

 

「はっ!私、一体なにを言って……」

(やっぱりなかなかの変人だよなあ)

「そ、そうでした!ミズキさんの告白の話でしたよね!」

「気恥ずかしいな、フラれた話なんて」

「どうしてフラれたんですか?」

「グイグイくるね……。そうだね、その女の子には『ミズキはまだ恋がなんなのかわかってないみたいね。恋ってものが何かわかってから出直してきて』って言われた」

「こ、恋を……ですか?」

「うん。クスクス、恥ずかしい話でしょ?」

「ちなみに……今はわかったんですか?」

「ううん。今でもわからないや。でもあの時の気持ちは恋じゃなかったってのはわかるよ」

「どんな気持ちだったんですか?」

「ん〜………、クス、内緒。さ、次は僕の番だよ」

「そ、そんな〜!」

 

でもなんだかんだ質問はラストと言ったのに根掘り葉掘り聞いてしまったことは否定できない。つまり、なにも言えない。

 

「質問。ネプギア」

「はい?なんですか?」

「目的地まで、あとどれくらいかな?」

「え、あ!」

 

すっかり忘れてました!

えっと、ここは………。

 

「だ、大丈夫です!もうすぐ着きます!」

「そっか。それなら良かった」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その数時間後。

ホクホクした顔でネプギアは電気屋から出てきた。

その手にたくさんの紙袋を持って。

 

「はあ〜………私は今、幸せです……」

 

うっとりした顔でつぶやくネプギア。

そしてネプギアは振り返ってミズキを見た。

 

「今日はありがとうございました!」

 

ネプギアは頭を下げてお辞儀する。

 

「もうすぐ式典の準備が始まるので、すぐには無理ですけど……また、一緒に来ましょうね!」

「…………うん」

 

「また、ね………“くす”」




旗(ビィン!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネプテューヌとデート大作戦

ドラマCDを参考にしました。
イチャイチャパラダイスにできるように。


 

みんなといると楽しいね。

 

みんなといるあなたはとても楽しそう。

 

1人でいると寂しいね。

 

1人でいるあなたはとても寂しそう。

 

ふふっ、あなたは嘘つきなのね。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

テレビの前で真剣な目をした男女が1組。

2人ともコントローラーを両手で持って一心不乱にテレビの画面を見つめてカチャカチャとボタンを連打し、スティックを回す。

 

「…………っ!」

 

そして2人は揃って両手を挙げた。

 

『クリアー!』

 

ネプテューヌとミズキだ。

 

「やったやった!まさかミズキとやったらこんな簡単にクリア出来るなんて!ミズキのおかげだよ〜!」

「ネプテューヌこそ、凄い反射神経だったじゃないか。ネプテューヌは対戦より、協力の方が好き?」

「うん!対戦も対戦で好きだけど、やっぱ協力っていいよね!」

 

いや〜、良かったよ〜。

式典の前の最後の休日だからね、この日までにこのゲームをクリアしたかったんだよ〜!

私1人で一日中頑張るつもりだったけど、ミズキとやったら午前で終わっちゃったね!

午後が余っちゃった。

 

「どうする?最後の休日でしょ?他のゲームする?」

「え?う、う〜ん……」

 

どうしよう。

これから先、ミズキとはしばらく遊べないし、それを普通のゲームで終わらせたくはないな……。

 

「そうだ!ゲーセン行こうよ!」

「ゲーセン?」

「うん!私の超プロゲーマー並みの実力、見せてあげるよ〜!」

「ゲーセン、ゲーセンか……。行ったことないな」

「ならちょうどいいね!」

 

案内してあげよう!そして初見ゲームをやらせてボコボコにしちゃおう!

 

「ネプテューヌ。今すっごい意地悪いこと考えなかった?」

「へ?ぜ〜んぜん、そんなことないよ〜!このプラネテューヌの女神たる私がそんなこと考えるわけないじゃ〜ん!」

「………ふ〜ん」

 

やば、ジト目でこっち見てるよ。超疑ってる!こんな時は逃げるが勝ちだね!

 

「じゃあ私着替えてくるね〜!」

「あ………クス」

 

言うが早いがピューンと駆けて行ったネプテューヌを見て呆れたように口元を緩ませる。

そしてミズキはゲームの後片付けをするのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それから数分後。

ミズキも着替えてテレビの前でネプテューヌを待っていた。

昔から女性は身嗜みに時間がかかる。ミズキの次元でもそれは同じだった。

遅いなどというとよく説教されたものだ。

 

「………クス」

「ごめんなさい、待たせたわね」

「ううん。全然待ってない……よ……?」

 

目の前にいたのはネプテューヌではなかった。別人だ。

 

「どうかした?そんなにジロジロ見て。どこか変?」

「いや、その………」

 

髪は紫で長く、結ばれている。僕より低いけど身長高め。胸も大きい。正直スタイルもいいし、美人だと思う。

うん………うん。そうだね………。

その、つまり、なんていうか……

 

「……………誰?」

「へ?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ふふふ、そういうことね。ミズキのキョトンとした顔、可愛かったわよ」

「やめてよ。まさかこんなに変わるとは思ってなかったんだ」

 

2人はプラネテューヌの町並みを歩いていく。目指すは大型ショッピングモール、その中のゲーセンだ。

ネプテューヌはミズキの顔を覗き込んでからかう。ミズキは恥ずかしいのか顔を赤くしてしまっている。

 

「それが女神化なんだね。みんなそんなに体格変わるものなの?」

「私は特に極端ね。どう?私のセクシーな体つきに声も出ないでしょう?」

 

ボン。

キュッ。

ボン。

 

確かにスタイルはいい。自慢するだけのことはある。っていうか性格まで変わってるし。まるで別人みたいだ。

 

「なんていうか、うん、美人だと思うよ」

「あらあら。もっと褒めていいのよ?これは、サービスなんだから」

 

そう言って腕を組んでくる。

ぎゅっと抱き締められると、その、柔らかいのが……。

 

「ネプテューヌ。その……胸、胸」

「当ててるの。ふふっ、嬉しい?」

「嬉しいって答えたらセクハラで逮捕されそうだよ……」

 

ミズキは苦笑いで答える。

 

「それにしても……あんまり動揺しないわね。もしかして、嬉しくなかった?」

「ああ、いや、そうじゃないよ。ごめんごめん」

 

不安そうな顔をしてしまった。安心させたくて頭を撫でる。いくら身長が高くなったといっても僕よりは低い。

左腕にくっついているネプテューヌの頭を右腕で優しく撫でているとネプテューヌは頬を膨らませた。

 

「もう。せっかく女神化したのに、また子供扱い?」

「くす、そういうわけじゃないよ」

 

拗ねてるのかな。だとしたら可愛い。

引き続き頭を撫でる。

 

「じゃあ、なんでここまでしてるのに反応薄いのよ」

「へ?」

「こんな美人が腕組んだり、胸当ててあげたりしてるのよ?普通はドギマギしたりするものなんじゃないの?」

「自分で言うかな……」

「さっきミズキが言ったんじゃない」

「くす、そうだったね」

 

また拗ねてる。頭を撫でる。また拗ねる。

ネプテューヌにとっては悪循環かもしれないけど、僕にとってはいいサイクルだ。

 

「なんていうかね………うん、慣れてるんだ」

「慣れてる?」

「うん。僕の次元でもよく友達がこうやって胸当ててからかってきたんだ。だから、耐性はあるってことかな」

「………なんか、ジェラシー」

 

嫉妬しなくても………。

僕は苦笑いする。

 

「……その人と」

「ん?」

「その人と、私。どっちが美人?」

「え?」

「その人と私。どっちが可愛いって聞いてるの」

 

むすっとまた頬を膨らませている。

でも、心配はいらない。僕には選択肢は1つしかないのだ。

 

「大丈夫だよ。その子には彼氏がいたから」

「へ?そうなの?」

 

そう、女の子には彼氏がいたのだ。だから、彼を差し置いて彼女を可愛いなんて言えない。

女の子はカレン。男はジョー。

カレンはたくさん笑う元気な子でイタズラ好きだった。ジョーはいつも冷静沈着でクールだった。

今でもあの2人がよくくっついたものだと思う。まるで正反対な性格だというのに。

 

「クスクスクス………」

「何笑ってるのよ」

「クス。……ううん、なんでもないよ。だから、僕も対抗策を教えてもらったんだ。彼氏さんから」

「対抗策?」

 

そう。ジョーに聞いてみたんだ。いっつもカレンが胸をくっつけてからかってくるんだって。そしたらジョーはこう言ったんだ。

 

『俺なら……そうだな。まずその手を振りほどくんだ。そして………』

 

「んっ」

「あっ………」

 

腕を離すと不安そうな顔をするネプテューヌ。それも作戦のうち。

 

『そしたら、不安そうな顔をするはずだ。その隙を突いて……』

 

「えいっ」

「あっ…………」

 

『肩を寄せて抱き締める』

 

「どう?ネプテューヌ」

「………ばか」

 

効果は絶大。

 

『ジョーもやったの?』

『ああ。その場の思いつきでやったら大成功だ。カレンのやつ、顔を真っ赤にして黙り込んだ。新鮮だったぞ』

『ジョー、後ろ……』

『にゃ〜っ!ジョーのバカ〜!』

『おっと。すまん、ミズキ、また後でな』

『あはは……』

 

 

ーーーーーーーー

 

 

吹き荒れる爆音。耳を劈くゲーム音。そう、これがゲーセンだ。

 

「さあ、楽しみましょう。ミズキにいいとこ、見せてあげるんだから」

「うん。楽しみにしてるよ」

 

ネプテューヌはスタスタと慣れた足取りでゲーセンの奥に向かう。

 

「何するの?」

「まずは、ガンシューティングなんてどう?」

「いいね。それなら僕も慣れてるよ」

「ミズキの場合は実銃でしょ……」

 

2人並んで銃を手にする。

重さと感触を確かめる。ゲームシステムも書いてあるので、一応それも読む。

 

「オッケー。ネプテューヌはどこまで行けた?」

「最高記録で4階層くらいまでだったわ」

「なら、クリアも出来るかもね。僕もいるから」

「あら、私がいいとこ見せるのよ?ゲームで私に勝てるなんて、思わないことね」

「クス、頼りにしてるよ」

 

2人揃ってコインを入れる。

すると目の前で2人の男女が部屋の中にいるシーンから始まった。

どうやらゾンビが溢れるこの建物から脱出するのがストーリーらしい。

 

「行くわよ!」

「任せて!」

 

ネプテューヌは正確無比な射撃でゾンビをどんどん倒していく。

片やミズキといえば。

 

「………………」

 

全ゾンビの頭に1発、ヘッドショットで倒した。

 

「弾は無限にあるんだから、節約しなくていいのよ?」

「つい、クセでね」

 

現実の弾薬は無限じゃないからね。

 

「さあ、気を抜かずに行くわよ!」

「うん」

 

 




ジョーのイメージは叢雲劾です。
カレンのイメージは……なんか、猫耳さん。髪は短め。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

れっつ、めいく、ふれんず

私の本領は音ゲーです。太鼓の達人が得意。やってる人は是非教えてください。


良いことはたくさんした方がいい。

 

悪いことはしちゃいけない。

 

みんな知ってる世界の常識。

 

じゃあ良いことと悪いことって何?

 

この世には偽善とかお節介って言葉もある。

 

何が何だかわからなくなって、私は何もしないことにした。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

結果は……うん、惜しかった。

最後より1個前のボスで2人とも死んでしまった。結局コンティニューしてクリアしたけど。

画面に張り付いてくる小さい虫みたいなやつも、大きなボスも、投げつけてくる物も全部撃ち抜いた。

 

「すごいね、ネプテューヌ。慣れてるんだね」

「ミズキも凄かったわ。さ、次のゲームに……」

「待って、ネプテューヌ。これ」

 

クリア後に画面が変わった。

どうやら、2人の相性診断なんてものがあるらしい。

 

『100%!抜群の相性!』

 

「クス、抜群だって」

「そりゃ、クリアしたから当たり前よ」

「クスクス、そうだね」

 

顔は嬉しそうだけど、それについて言及しないであげる。

 

「さあ、次はクレーンゲームよ」

「クレーンゲーム?」

「そうよ。このクレーンを操作して、この穴に景品を入れるの。やってみる?」

「やってみようかな」

 

1って書いてあるボタンで上に、2って書いてあるボタンで横に動くらしい。

 

「どれにするの?」

「それじゃ……とりあえずこれで」

 

この世界のキャラはよく知らないけれど、この猫のキャラクターはなんとなく好きだな。

コインを入れて取りたいぬいぐるみの真上にクレーンを持ってくる。

 

「よし!」

 

だが哀れ、クレーンはぬいぐるみの重量を持ち上げられずにそのまま上に行ってしまった。

 

「えっ⁉︎」

「ふふっ、そんな簡単じゃないわよ。ただ持ち上げようとしても、ぬいぐるみは持ち上がらないように出来てるのよ」

「そんな………」

「私を見てて?……そうね、このお菓子でも取ろうかしら」

 

ネプテューヌが狙うのはお菓子が置いてあるやつだ。どうやら、並んでいるポテトチップスを取るらしい。

 

「ここを……こうよ!」

 

ネプテューヌはクレーンを止めたが、少しずれてしまっている。

 

「ずれてるけど……いいの?」

「いいのよ。見てて」

 

クレーンはうまくポテトチップスの重心をずらして転がり落とした。

 

「やったわ!」

「へえ〜……そうやってとるのか……」

「ふふ。さ、次のゲームをしましょう?」

 

ネプテューヌについていく。

するとネプテューヌがクレーンゲームの台の1つに少し視線を止めた。

だがそのままスタスタと言ってしまう。

……………。

 

「………ネプテューヌ、ストップ」

「え?どうかしたの?」

「悔しくってさ。これ、1回でいいからやらせてくれない?」

「……別にいいけど」

 

その中にいたのは可愛らしい犬のキャラクター。名前は柴犬と書いてムラサキイヌ。プラネテューヌは紫の女神であるネプテューヌが治めているからかな。

 

「出来るの?さっき失敗してたけど……」

「任せて」

 

コインを入れてクレーンを動かす。

さっきのネプテューヌみたいに、重心をずらすように……。

 

「ここ」

 

ウィーンとクレーンは動いて、見事柴犬の重心をズラした。

 

「よし!」

 

次の瞬間、柴犬は景品穴に落ちていた。

 

「やった!」

「凄いじゃない、ミズキ」

 

柴犬を穴から取り出す。

フカフカしていて、とても触り心地がいい。

僕は迷わずそれをネプテューヌに差し出す。

 

「はい、ネプテューヌ」

「え?私に?」

「欲しかったんじゃないの?さっき、ちらっと見てたよね?」

 

間違ってると恥ずかしいんだけどね。

だけどそれは杞憂だったようでネプテューヌは少し迷って手を宙に彷徨わせた後、ぬいぐるみを受け取ってくれた。

 

「あ、ありがと……。じゃ、私もお返ししなきゃね」

 

ぬいぐるみで顔の下半分を隠してそんなことを言う。

ネプテューヌは逃げるように台の間をすり抜けていった。

それを追いかけていくとネプテューヌは小さいキーホルダーがたくさんかかっている台の前で止まった。

 

「どれ取るの?」

「………これよ」

 

ネプテューヌが指差す先には……ネプテューヌ?

女神化する前のネプテューヌをデフォルメしたようなキーホルダーだ。

 

「1発でとって驚かせてあげるんだから」

「頑張ってね」

 

まだお姉さんアピールみたいなのは続けているらしい。

でもネプテューヌはしっかりと有言実行、キーホルダーを落としてみせた。

 

「はい。私のキーホルダーよ。……大事にしてよね?」

「もちろんさ」

 

ネプテューヌからキーホルダーを受け取る。

無くさないように、ズボンに括り付けた。

 

「さあ、次は格闘ゲームよ。なんか、さっきからからかわれてる気がするし……ここらで流れを取り戻すわ」

「格ゲーかあ……。これは熟練度の差が出るね」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ホラホラホラホラ」

「いたっ、いたっ、いたた!下段キック連打ってせこっ!それでも女神か〜!」

「なんとでも言いなさい!それっ!」

「くぅ〜!この、このこのこの!」

「はい、カウンターよ」

「初見殺しも甚だしいね!」

「これで勝確よ!ホラホラホラホラ」

「か、壁ハメは!NG!NG!えぬ……ぐわっ!」

「今思ったけどNGってネプ(N)ギア(G)の略かしらね」

「知らないよそんなこと!」

 

 

「くちゅんっ!…………?」

 

 

「あ、煽るのを忘れてたわね」

「それはゲーマーとしてどうなの⁉︎」

「身内だからいいのよ。ほら、かかってきなさいよ」

「この!」

「はい、カウンター」

「いい加減にしてくんない⁉︎」

 

この後散々負けた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「酷い目にあった……」

「ふふ、最後に勝てて良かったわ。これで私の女神としての素晴らしさがわかったんじゃない?」

 

いや、ゲーマーとしては尊敬するけど女神としてはちょっと……。

 

「せめて、もうちょっとお仕事したら尊敬するよ」

「う。違うのよ、アレは休憩なの。女神の仕事はハードなんだから」

「はいはい、休憩ね。くすくす」

 

ネプテューヌはバツが悪そうな顔をする。図星というか、痛いところを突かれたのだろう。

すると、ネプテューヌはまた腕を組んできた。昼のリベンジかな?と思ったが違うらしい。

なんだか、もっと温かい……柔らかな笑顔をしている。

 

「ねえ、ミズキ。ミズキは前、自分のことを兵器と言ったわよね」

「………うん、そうだね」

「でもね、ミズキ。ミズキが自分のことを兵器と言った理由はわからないけれど……きっとミズキは兵器なんかじゃないと思うの」

「………どうして?」

 

僕が問うとネプテューヌはさらに強く僕の左腕を抱きしめた。

 

「だって……こんなにも、温かいのだもの……」

「……………」

 

『ミズキは兵器なんかじゃないわよ。れっきとした、私達の、仲間よ。ミズキは私達の、友達!』

 

「…………クス」

 

そんなことを言ってくれた女の子を思い出す。

嬉しくて、少し笑ってしまった。

 

「だから、ね?そんな寂しそうに笑わないで。そんな顔されると、私、ミズキが何処かへ行ってしまいそうで……」

 

黙って右手でネプテューヌの頭を撫でる。

するとネプテューヌはさも名案を思いついたかのように顔を上げた。

 

「そうだわ。もうすぐ女神の式典があるのは知ってるわよね」

「え?う、うん」

「その後にパーティがあるんだけど、ミズキも招待してあげるわ」

「え?女神のパーティに、僕が?」

「何も女神だけじゃないわ。あいちゃんとコンパも来る予定なの。どう?」

 

ネプテューヌなりに元気付けようとしているのだろう。

そんな気持ち、無駄になんかできるわけがない。

 

「うん。喜んで」

「………良かった」

 

僕達はそのままプラネテューヌの教会に向かって歩き始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「それじゃ、よろしいですわね?それじゃ、今回の会議はこんなところで……」

「あ!そうだ、みんな!」

 

パソコンの前でネプテューヌが身を乗り出す。

画面には3人の女の子。

それぞれラステイションの黒の女神、ノワールとルウィーの白の女神、ブランとリーンボックスの緑の女神、ベールだ。

数時間前から式典の打ち合わせを4人でしていたのだが、それももうベールが締めて終わろうとしていた。

それをネプテューヌが遮ったのだ。

 

「式典終わった後のさ、パーティあるじゃん!」

「ゲームならやっちゃダメよ」

「ダメなの⁉︎」

「ダメなのですか⁉︎」

「ベールまで驚いてどうすんのよ!」

「ネプテューヌ。ふざけてるならもう締めるわよ」

「あ、違う違う!そうじゃなくて!」

「じゃあさっさと用件を言いなさい」

 

ブランはご機嫌斜めだ。それというのもついさっきまでブランの妹であるロムとラムが後ろではしゃぎまくっていたからだ。

 

「そ、その式典にね、1人、男の子を招待しようと思うの!ミズキ、っていうんだけど〜」

「男の子?まあ、別に構いませんけど……わざわざ私達に聞くことではありませんわよね?」

 

別に自分の国から1人男を招待するくらい、この場で聞くようなことではないだろう。

ネプテューヌ以外の3人はみんなそう思った。無論、ネプテューヌでもそれくらいわかってるはずである。だからこそ、3人は怪訝に思った。

 

「あの、その、ね?みんなに頼みがあって……」

「何よ。アンタにしては珍しく歯切れが悪いわね」

「……そのミズキって人がどうかした?」

「まさか、結婚の報告とかではないですわよね⁉︎」

「ち、違う違う!そんなんじゃなくて!」

 

顔を真っ赤にして否定するネプテューヌ。

それを目ざとく見たベールが追及する。

 

「あらあら?もしかして、まんざらでもないとかですわね?いいですわね、ネプテューヌは。女神ともなると出会いがなくて……。理想の殿方とは出会えないものですわ」

「ベール……アナタ、そんなこと考えてたの?」

「ノワールは考えたことはありませんの?理想の殿方と出掛けたり、話したり……。私達は女神である前に女なんですから」

「2人とも。話、脱線してる」

 

脱線した話をブランが軌道修正する。

ネプテューヌに視線を向けて、早く話せと目で言った。

 

「その、頼みっていうのは……ミズキと、友達になって欲しいの」

「はい?」

「え?」

「あら?」

 

3人が3人揃って不思議な顔をする。

ネプテューヌは理由を話し始めた。

 

「その、ね。ミズキ達は別の次元から来たらしくって。その次元は戦争で壊されちゃってミズキ達はその次元の唯一の生存者なんだ」

「つい前まで戦争をやっていた身としては、耳が痛いですわね」

「それで?その話がどうして友達になって欲しいとかになるのよ」

「ミズキとはもう1ヶ月以上暮らしてるんだけど……その戦争のせいか、なんか、寂しそうなの」

「寂しそう、ですか」

「うん。ミズキはいつもくすくすって笑うんだけど、なんか、無理してるみたいで」

「……それで、私達に?」

「そう。みんなと友達になったら、ミズキも心の底から笑えるかな……って。そう思うんだ」

「………なるほどね」

「まあ、構いませんわよ」

「そうね。断る理由はないわ」

「ホント⁉︎ありがとう!いや〜、持つべきものは女神仲間だね!」

 




アニメ版だとこんなに女神達は仲良くないですね。ま、いいじゃないですか(適当



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女神会議という名のガールズトーク

次はアニメ1話の冒頭です。


人は何故、同じ過ちを繰り返すのだろう。

 

私は、親が子供に過ちを伝えるのを怠ったからだと考えた。

 

私はそんなことが起こらぬように子供には私の全てを教えた。

 

子供は、私になってしまった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

先程までの沈痛な表情は何処へやら、ネプテューヌはいつもの調子を戻して笑う。

 

「それで、そのミズキって人はどんな人なの?」

「え?」

 

ノワールが質問した。

 

「当然の疑問でしょ?ネプテューヌから見て、そのミズキって人はどんな人なのよ」

「え、えと……」

「確かに気になるわ。まずは外見から教えてもらえる?」

「外見かあ……。そうだ!確か、写真あったから持ってくるよ!」

「写真、ですか?」

「そう!今日記念写真を撮ったんだ!」

 

そう言ってネプテューヌは画面の前からいなくなる。

女神の式典で忙しくなり、しばらくはろくに話せなくなりそうだという時に、ネプテューヌが提案したのだ。

みんなで写真を撮ってそれを見てれば大丈夫だって。

ネプテューヌは自分の部屋に戻って立ててあるその写真を持ってくる。

 

「おまたせ!この人だよ!」

 

男の人の両端に笑顔のネプギアとピースサインしたネプテューヌ。その隣にアイエフとコンパが写っている。ネプテューヌの腹の辺りには小人が2人。イストワールとジャックだ。

 

「この小人さんはどなた様ですか?」

「あ、えっと説明してなかったっけ?いっけね!ミズキのサポートロボットのジャックだよ!」

「サポートロボット?」

「うん。気持ちがあるんだって。『ちゃんと、考えて、感じる僕の友達』……ってミズキが言ってた」

「じゃあ、この真ん中の男の人がミズキでいいのかしら?」

「そうだよブラン。どう?」

「どう、と言われても……」

「普通にイケメンですわよね。優しそうな顔をしてますわ。一人称は『僕』な感じの」

「うん。ミズキは自分のことを『僕』って言うよ」

「っていうか……普通に優良物件……」

「そうかしら?男である以上、私達を守れるくらいじゃないとダメよ。いかにもヘタレって感じの顔じゃない、その人」

「何言ってんのさ、ノワール!ミズキってば無茶苦茶強いんだからね!」

「へえ〜?じゃあ、どれくらい強いのよ」

 

意地で言い返したのだと思ったのだろう。ノワールは意地悪にそんなことを言う。

だがネプテューヌは至極真面目な目で言った。

 

「下手すれば私より強いよ?」

「ほら、やっぱ………え?」

「だ〜か〜ら〜!私より強いかもしれないって言ってんの!ノワールの耳は節穴だね!」

「いや、穴でいいとは思うのですけど……それはホントですか?」

「ネプテューヌ、冗談キツイわよ」

「そ、そうよ!いくらシェアが1番低いとはいえ、仮にも女神が負けるなんて……」

「嘘じゃないよ!」

 

これは本当の本当。

ぶっちゃけネプテューヌは本気でミズキと戦ったら勝てる自信はなかった。

ミズキの変身は1度しか見ていないがプロセッサユニットなし、ボロボロだったあの時でさえ、あの機動力。そして何より、あの赤く輝くモード。

 

「一応聞くけど……ミズキって人間なの?」

 

ブランが質問する。当然だ、女神に勝てるような人間などいるはずがない。

 

「え?う、う〜ん、どうだろ?」

「なんでそこで疑問系なのよ……」

「違うかも。変身するし、傷はすぐ治るし、手は取れるし………」

「それは間違いなく人間ではないわ。ていうか、ツッコミどころが多すぎるのだけど……」

 

ツッコミの大渋滞。いったいどこから問い詰めればいいのだろう。せめて、あとネプテューヌが3人いれば……。

ねぷ?

ねぷ?

ねぷ?

ノワールは頭痛がして考えるのをやめた。ネプテューヌが3人とか悪夢以外の何物でもない。

 

「凄く問い詰めたいですが……ていうか凄く気になって夜も眠れなくなって女神式典で寝不足で倒れてしまいミズキさんに介抱される未来が見えますが」

「それは幻よ、ベール」

「もうそろそろ時間ですわね。私は用事があるので、これで失礼しますわ」

「それじゃあ、私も」

「私もそうするわ」

「わかったよ、じゃあね!あ、ミズキのことさ、妹達にもよろしくね!バイバーイ!」

 

ブツッと通話が切れた。

ちなみにベールの用事というのはネトゲのイベント開始だったのだが……それを誰かが知る由もなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ふう」

 

パソコンを数回クリックして電源を切る。

ノワールは地球儀やら何やらが並んだ机の上の真っ黒い画面のパソコンを見つめた。

 

(戦争の被害者、ね……)

 

本当に耳が痛い。ネプテューヌから経緯を聞いてどきりとしたのは私だけではないはず。

そうだ、戦争というのはたくさんの犠牲を出す。

ミズキはそのいい例ではないか。

 

「お姉ちゃん、終わった?」

「あ、ユニ。ええ、終わったわ。もう入っていいわよ」

「は〜い」

 

ドアを開けてユニが入ってくる。

ユニはノワールの妹、女神候補生だ。その手には書類の束を抱えている。

 

「はい、お姉ちゃん。書類だよ。どうだった?」

「特に問題はない……けど……」

「お姉ちゃん?」

 

黙り込んでしまったノワールをユニが心配そうに覗き込む。

 

『妹達にもよろしくね!』

 

「……ねえ、ユニ。相談があるんだけど」

「え?相談?どうしたの、お姉ちゃん。珍しいね」

 

ユニは自分が頼られたと思ったのか嬉しげだ。ノワールもそれにつられて笑顔になる。

 

「大したことじゃないわ。数週間後に、女神の友好平和条約が結ばれるでしょう?」

「うん。女神同士の戦争を止めて、仲良くしましょうって条約だよね」

「そうよ。その後にパーティがあるんだけど、ユニも参加しない?」

「え、私も?私は留守番のはずじゃ……」

「だから、相談。もし、ユニがパーティに出席すると、帰って来た時にユニの仕事が増えちゃって大変でしょうから」

「でも……どうして?いきなりそんなこと……」

 

確かに、疑問に思うだろう。

ユニもパーティには行きたい。あっちには友達のネプギアもいることだし。

だけど、ノワールが手のひらを返すなんて珍しい。気まぐれなわけはないのだから、何か理由があるはずだ。

 

「プラネテューヌからとある男の人が参加するらしいの。その人と友達になって欲しいってネプテューヌに頼まれてね」

「男の人?」

「そ。妹達にも友達になって欲しいらしいわ。だから、仕方なく、本当に仕方なく、了承したの」

「………ふふ、お姉ちゃんもなんだかんだ言ってネプテューヌさんのこと、好きだよね」

「な、そんなことないわよ!そんなこと言ってる暇があったら、書類片付けなさい!まだまだ仕事はあるんだから!」

「は〜い、お姉ちゃん。ふふっ」

 

顔を真っ赤にしたノワールから逃げるようにユニは部屋を後にした。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「戦争、ね………」

 

ふぅ、と息を吐いてブランは椅子から立ち上がった。

するとドアが開いて元気いっぱいの双子の女の子が2人、駆け寄ってきた。

快活な方がラム、おとなしい方がロムだ。

 

「お姉ちゃん!」

「お姉ちゃん……仕事、終わった……?」

「ええ。今終わったわ」

「ねえねえ、私達もパーティ行きたい〜!」

「私も……。ネプギア達に、会いたい……」

「ダメ。連れて行くわけにはいかないわ」

 

駄々をこねる2人を説得する。

だが、ちっとも聞いてくれる様子がない。

 

「いいじゃん!私達も遊びたいよ!」

「お姉ちゃんばっかり……ずるい……」

「なんと言おうとダメ」

 

まだ子供の2人を外の国に連れて行くなんて、危ないことこの上ない。それに、2人はとてもイタズラ好きで、よく教会の職員にイタズラをしては追いかけられている。

そんな子を連れて行けるものか。

だが親の心子知らず。

今回の場合は『姉の心、妹知らず』か。

どうやってロムとラムを納得させようか考えているとふと、さっきの話を思いついた。

 

「パーティには連れて行けないけど……。その代わり、ロムとラムには友達を作ってあげる」

「友達?」

「どんな人……?」

「パーティに来る、ミズキっていう優しそうな男の人。その人は2人と友達になりたいらしいの」

 

本当はみんなと、だが。この場合は嘘も方便だ。

 

「本当に⁉︎」

「私達と……⁉︎」

 

心の中でブランはガッツポーズする。

 

あたっく、ちゃ〜んす。

 

………なんだ今のおじさんは。

 

 

「その人の予定がわからないからいつになるかわからないけど、いつかその人を連れて来てあげる。だから、今回のパーティは我慢してくれない?」

「うん!大丈夫!ロムちゃんもいいよね?」

「うん……。我慢、する……」

「いい子ね、2人とも」

 

大正解!ポイントゲットでございます。

 

だから、あなたは誰よ。

 

2人の頭を撫でると2人は笑顔になった。

 

「さ、もう寝なさい」

「うん!」

「お姉ちゃんは……?」

「私はあと少し仕事をしてから寝るわ。おやすみなさい」

「うん……おやすみ……」

 

 

ブランは妹達を説き伏せられた満足感と、ミズキをダシに使ってしまったことに少しの罪悪感を抱いてパソコンの前に戻った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌはパソコンの電源を切るとリビングへと向かった。

もちろん、休憩のためだ。だが今回ばっかりはサボりではない。本気で疲れた。

 

「ふぇ〜、疲れたよ〜……。誰か、私に癒しを……。ホイミ、ホイミネーを……」

 

ばったりとソファーに突っ伏す。

 

「あ、お姉ちゃん。大丈夫?」

「あんまり大丈夫じゃない……。ネプギア、私にホイミネーをかけて……」

「滋養強壮の食材でも買ってこようか……?」

 

ネプギアは苦笑いをしながらソファーに突っ伏す姉を見る。

見えちゃいけないところが見えていてだらしないが気にしない。スカートの中とか。

 

「うう……頑張らなきゃ。栄養ドリンク飲んでもうひと頑張り!」

「うん!私も手伝うよ」

 

冷蔵庫までフラフラ〜と歩くネプテューヌ。

 

「最近みんなとも会ってないし……」

「仕方ないよ。でも、モンスター退治とかは請け負ってもらってるんだし」

「そうだよね。みんなも頑張ってるんだもんね!」

 

私だけが寝るわけにはいかないよね!

そう思って冷蔵庫を開けるとその中にビニール袋に包まれた何かが入っていた。

 

「あれ?こんなのさっき開けた時には……」

「くんくん……はっ!これは、プリン!」

「匂いでわかるの⁉︎」

 

完全密封のはずだが。

 

「プリンさえあれば私は元気100倍、プリンマン!さあ〜、食べ……ってあれ?2つある……」

 

早速冷蔵庫から取り出すと感触から中には2つ入っていることがわかった。

ネプテューヌは不思議に思って袋の中からプリンを取り出すとスプーンと一緒にメモ用紙がひらりと床に落ちた。

 

「あれ?メモ?」

「どれどれ……『ネプテューヌ、ネプギア、お仕事お疲れ様』……」

「もしかして、ミズキから⁉︎」

 

ネプギアがメモを拾い上げてそれを読み上げる。

 

「『疲れてると思うけど、これを食べて元気を出して。応援してるよ、ミズキより』……だって」

「〜〜〜!ありがとね、ミズキ!この恩は必ず返すよ!」

「お、お姉ちゃん⁉︎」

 

ネプテューヌは走り出して行ってしまった。

 

「プリンは食べないの⁉︎」

「終わってから食べるよ!さあ、お仕事頑張るよ〜!」

「ま、待ってよお姉ちゃん〜!」

 




アタックチャンス。
ヨシヒコ二期とか超楽しみ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

英雄の名は、ガンダム

セリフ、あってるでしょうか……。耳コピだから危うい。


これはきっと君の後悔。

 

君はそれを引きずって歩いている。

 

これはきっと君の苦しみ。

 

君はそれをこれから引きずろうとしている。

 

これはきっと君の幸せ。

 

君はそれに気付かずに踏みつけた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

白い鳩が数羽並んで飛び立つ。白い鳩は平和の証。

 

「ゲイムギョウ界にあまねく生を受けし皆さん」

 

バタバタと旗が並ぶ。並ぶ旗は秩序の証。

 

「新しき時代にその第一歩を記す今日この日を皆さんと共に迎えられることを、喜びたいと思います」

 

ネプテューヌが歩きだしてきた。女神化した姿でドレスを着て。

 

「ご存知の通り、近年世界各国で争いの絶えることはありませんでした」

 

その一方で白髪の女神が黒いマントを脱ぎ捨てた。

 

「女神、ブラックハートが治めるラステイション」

 

それと同時に兵隊達が一斉に立ち上がる。

そしてノワール=ブラックハートは前へと足を踏み出した。

 

「女神、ホワイトハートが治めるルウィー」

 

また兵隊達が立ち上がる。

そしてブラン=ホワイトハートが前に歩き出す。

 

「女神、グリーンハートが治めるリーンボックス」

 

また、兵隊が立ち上がりベール=グリーンハートが前に歩き出す。

 

「そして私、パープルハートの治めるプラネテューヌ」

 

ネプテューヌ=パープルハートが女神達が歩く道の交差点に着く。それと同時にプラネテューヌの兵隊達が立ち上がった。

これで4カ国の兵隊達が全て立ち上がった。

 

「4つの国が国力の源であるシェアエナジーを競い、時には女神同士が戦って奪い合うことさえしてきた歴史は過去のものとなります」

 

4人の女神の足元にあった6角形のブロックが宙へと真っ直ぐ浮かんでいく。

 

「本日結ばれる友好条約で、武力によるシェアの奪い合いは禁じられます」

 

ブロックの上昇が止まった。4人の女神が空中で向かい合う。

 

「これからは国をよりよくすることでシェアエナジーを増加させ、世界全体の発展につなげていくのです」

 

4人の女神が前に歩いていく。

そして両手を隣り合った女神に触れて、目を閉じ、天を仰ぎ、誓い始めた。

 

『私達は、過去を乗り越え、希望あふれる世界を作ることを、ここに誓います』

 

ネプテューヌが目を開き、優しく微笑む。

それと同時に空には花火が上がり、地には拍手が巻き起こるのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「はあ〜、疲れた」

 

ネプテューヌは変身後の姿ではぁ、と息を吐く。その息には無事式を完遂することができた安堵も含まれていた。

 

「皆さん、お疲れ様ですわ」

「お疲れ様」

「お疲れ……」

「みんな、お疲れ様。はぁ、女神化解きたいわ……」

 

ネプテューヌはまたため息を吐く。今度はただ「疲れた」というだけの重っ苦しい息だ。

 

「解けばいいじゃないの。もう解いていいんだから」

「ほら、もうすぐミズキが来るのよ。みんなは式典の後、直接来てたからここにいるけど。ミズキはいなかったからここに来るまでに少し時間がかかるのよ」

「なるほどね」

 

ノワールは素直に納得する。

アイエフやコンパ、それにイストワールや妹達は式典にも参加していたために既にパーティ会場にいるが、ミズキはそうはいかない。

 

「……あれ?でもそれと女神化を解かないことの何が関係してるのよ」

「やーね、サービスよ、サービス。ノワールだって国民達には立派な姿を見せたいでしょ?それと一緒」

「一緒……なのかしら」

 

なんか、それはそれでシャクだ。認めてはいけない気がするが、国民の前でいちいち女神化している身としては何も言えない。

 

「では、私も女神化は解かないでおきますわ。初対面はいいところを見せたいですからね」

「好きにしろよ」

 

機嫌が悪そうにブランは言い捨てる。機嫌が悪い理由は、その、大きさが違うからだ。色々と。

 

「あら?ブラン、妹達はどうしたの?」

「帰らせた。まだあいつらにパーティは早え」

「そうなの?ロムちゃんとロムちゃんにもミズキに会って欲しかったのに」

「そのうちルウィーに来な。2人にもミズキの話はしたんだ。会うのを楽しみにしてた」

「それはいいですわね。私もミズキさんをリーンボックスに招待してみましょうか」

「なによ、みんなミズキを狙ってるの?」

「そうでなくとも自分の国を見ず知らずの人に見てもらうというのはやってみたいですわね。『どうですか、私の治める国は』って」

「そういう意味からラステイションに来なさいよ。シェアNo. 1の国を見せてあげたいわね」

「もう。みんな節操なさすぎよ」

 

ワイワイと女神の間で話が盛り上がる。

それを少し離れて見ながらユニとネプギアが話していた。

 

「ねえ、ミズキ、ってどんな人?」

「ミズキさん?そうだね……。私はもう、ミズキさんなしじゃ生きていけない、かな」

「⁉︎」

 

無論、機械の話が出来るからなのだが。

 

「遅いわね。何時頃に来る予定なの?」

 

ノワールが痺れを切らした。その視線の先には時計があってその短針は7を、長針は2のあたりを指していた。

 

「おかしいわね、ミズキが時間に遅れるなんて。あいちゃん、ちゃんと時間は伝えた?」

「ええ、伝えたわよ。7時には来るようにって」

 

時間の5分前には来るような人なのに。

 

「何かあったのかよ?」

「いや、そんなことはないはずだけれど……」

 

心配そうに入口の門を見つめるネプテューヌ。

その門が勢いよく音を立てて開かれた。

 

「あ、ミズ………キ……?」

 

そこにいたのはミズキだ。

ただし、タキシードを着て、ドアを蹴破り、ドレス姿の女の人をお姫様抱っこして。

 

『』

 

「コンパ!コンパ、いる⁉︎」

「………ふぇ?わ、私ですか?い、いるですぅ」

「ちょっといい?」

 

コンパがミズキの元へ駆けていく。そこで何やら話をしているようだが女神達のところには聞こえない。

その女神達のところに小人がひらりと飛んできた。

タキシードを着ているがシャツの第一ボタンは開けてネクタイをしていないため、ホストみたいな格好だ。

 

「遅れてすまない」

「ジャック……あれは?」

「ん?ああ、ここに来る途中に足を挫いた女を見つけたのだ。間取りにも詳しくないから医務室が何処にあるかもわからなくてな。なら、会場にいるであろうコンパに任せるのがちょうどいいのではないかという話に」

「ああ、そういうことね」

 

ネプテューヌはこめかみを押さえて納得する。

 

「まるで姫を抱えた王子様のようでしたわね」

「いったい何事かと……」

 

ベールとノワールも呆れる。

 

「でもよ、コンパを呼びに行けば良かったんじゃねえの?そっちの方が目立たないで済んだだろ」

「それもそうね。応急手当とかも出来なかったのかしら?」

 

ブランとノワールは文句を言う。

ジャックはそれについても補足の説明をした。

 

「ミズキは痛がっていたあの女を置いていけるような奴ではない。それに、ミズキの周りには数秒あれば捻挫くらい治るような奴らばかりいたから応急手当の経験もない。その上……」

「その上?」

「あいつが見てきた怪我は、大抵どうにもならないような怪我ばかりだからな」

「 」

 

女神達は絶句してしまう。

ジャックに皮肉を言っている様子はない。つまり、素なのだ。それが、ミズキとジャックの当たり前なのだ。

 

「ふう、遅れてごめん」

「あ、ミズキ……」

 

苦笑いしながらミズキが駆け足でやってきた。

ちなみに後ろでは名も知らぬ女がコンパに手当されながらキラキラした目でミズキを見ていた。アイエフは「この天然タラシめ……」と毒づく。

 

「初めまして。僕はクスキ・ミズキです」

「あ………ああ、ネプテューヌから話は聞いていますわ。私がリーンボックスの女神、ベールですわ」

「私がルウィーの女神、ブランだ」

「私はラステイションの女神、ノワールよ。あっちにいるのが、妹のユニ」

 

ニコリと笑って頭を下げるミズキ。だが皆は今までの話で先入観があったのか距離を取り気味だ。

 

「よろしくお願いします。式典、見させてもらったよ」

「どうだった?私のセリフ。かっこ良かったでしょう?ねえ、ノワールもそう思うわよね」

「え?ま、まあまあね。どうせ、イストワールが台詞考えたんでしょうけど」

「む」

「あはは……でも、みんな立派だったよ。それに、尊敬する」

「私達を尊敬?つい前まで戦争してた奴らをか?」

 

ブランがそう言う。

世辞を言う気ならやめろ、という目だ。

だがミズキはうんと頷いた。

 

「うん。だって、戦争を止めたのも君達でしょ?」

「……………」

 

ブランは黙り込む。

 

「でも、僕らも負けてないよ。僕らだって戦争を止めたんだ」

「………え?」

「何さネプテューヌ。そんな鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をして」

「ま、待ちなさいよ。アナタの次元が壊れたのって戦争のせいじゃ……」

 

ノワールがネプテューヌの疑問を代弁する。

 

「その、1つ前の戦争だよ。戦争してた2つの国を、両方倒したんだ。僕と、みんなとで」

「み、みんなって、もしかしてミズキみたいな人が?」

「そうさ。僕達はみんな、その身に英雄の力を宿していたんだ」

 

ミズキは右手の手の甲を見せる。そこには燃え上がる炎のマークが彫られていた。

 

「英雄の名前はガンダム。……覚えていてね」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「久しぶり、ネプギア」

「あ、久しぶりです、ミズキさん」

「それと初めまして、ユニ」

「あ、はい。初めまして」

 

しばらくネプテューヌ達と話していたミズキはユニと話すためにネプギアの元へとやってきた。

 

「君も、女神候補生なんだよね」

「はい、一応。でも、まだまだなんです」

「まだまだ?」

「はい。女神化も出来ないし、仕事もお姉ちゃんに叱られてばっかりで……」

「そ、そんなことないんですよ。ユニちゃんはとても仕事が出来るんです」

「でも、私はお姉ちゃんを超えなきゃいけない……。そんなの、無理なのに……」

「ユニちゃん……」

 

ユニは肩を落として凹んでしまう。

その手に持ったグラスに注がれたワインの湖面が揺れた。

 

「………それは、確かに時間を必要とすることだよね。もっともっと頑張らなきゃいけないことだ」

「…………はい」

「でもね、ユニ。きっとノワールは君を叱ってるんじゃない」

「でも、いつも『もっともっと頑張りなさい』って……」

 

そう言って顔を上げたユニ。ミズキはクスリと笑う。

 

「ノワールはきっと、ユニに期待してるんだ」

「私に、期待……?そんなこと、ないです」

「そうでなきゃ、君を励ましはしないよ」

「お姉ちゃんは、私を励ましてなんか……!」

「クスクス、ノワールは少し不器用なだけさ」

「ぶ、不器用って………」

 

だがユニはいつも近くでノワールを見ているから心当たりがあった。ネプテューヌに素直になれない姿など何度も見てきた。もしかして、私にも?

 

「大切なのは『ひたむきな心と負けん気』。真っ直ぐ突き進む心があれば、きっと女神化も出来るさ」

「ひたむきな心と……負けん気」

 

ユニはその言葉を噛みしめるようにもう1度呟いた。

どうしてだろう、この人の言葉には真実味がある。心の奥にストンと落ちるような……解けない問題が解ける時の閃きのような……。

 

「頑張ってね、ユニ」

「は、はい!」

「ところでネプギア。ジャックを知らない?」

「ジャックさんですか?さっきテラスでイストワールさんと話してるのを見ましたよ」

「ありがと。ネプギアも、頑張ってね」

「は、はい!」

 

2人の頭を撫でてネプギアの話の通りにテラスへ向かう。

ガラスの窓を開いてテラスに出ると夜風がミズキの前髪を揺らした。

その先を見るとこちらに背を向けて手すりに座っているイストワールとジャックがいた。

 

「ジャック、いい?」

「くく……!ん、ああ、ミズキか」

「うん」

 

ジャックはイストワールと楽しそうに話していたのだろう、背中を震わせて笑っていた。イストワールも目尻に涙を浮かべて笑っている。

 

「き、聞いてくださいミズキさん。にゃなるあって……ふふふっ……!」

「にゃ、にゃなるあ?」

「も、もうこれが最高で……もう、店長さんと強盗犯が……!にゃなるあ……!」

「店長さんと強盗犯の間に何が⁉︎強盗されたとしか思えないんだけど⁉︎」

「ご、強盗犯が……懐から卒業アルバムを持ち出して……!ふふふっ……!」

「まったく話が掴めないんだけど⁉︎」

「特に、店長さんが強盗犯と愛を誓い合うところなんか最高ですよ、ふふっ……!」

「あれ⁉︎なんで2人が結婚してんの⁉︎普通は憎み合う仲だよね⁉︎ていうかそこは笑うところなの⁉︎」

 

なんの話をしてたんだろう。本当に。

 

「イストワール、悪い、少し席を外してくれるか」

「は、はい。それじゃ、また」

「うむ。またな」

 

イストワールがパーティ会場へと戻った。それを見てからミズキは後ろ手で窓を閉める。

 

「………決めたよ、ジャック」

「そうか。………どうする」

「僕は、ネプテューヌ達を守りたい。みんなを守りたい。だから、だから……」

「最も嫌なことでもやる、か?」

「うん。僕はクズになる」

 

ぎゅっと拳を握り締める。

 

「僕のためにここまでしてくれる友達を……僕は、傷つけなきゃいけない」

「その覚悟は、出来たか」

「うん。明日だよ。明日の夜、僕は………」

 

 

 

「プラネテューヌを、旅立つ」

 

 

 

「たとえ、2度と帰れなくなっても」

 




やっとこさ1話(の冒頭)に突入。
オープニングが終わるまであと3話くらいあります。オープニングは3週間も続くような大層なものでしたっけ(白目


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつでも別れは突然に

オープニング、2週間目(白目


僕は間違ってなかった。

 

僕の出した答えは決して間違っていなかったんだ。

 

君は間違ってなかった。

 

君の出した答えは決して間違っていなかったんだ。

 

じゃあどうして、僕らは間違えたのだろう。

 

間違ってしまったのは、どこから?

 

 

ーーーーーーーー

 

 

本日のプラネテューヌは朝から雨だった。

女神式典の当日ではなくてラッキー、といったところか。

朝と昼の間、10時ぐらいにネプギアは雨で濡れた窓を眺めた。

 

「雨って、憂鬱な気分になるなあ……」

「飴が降ってきたら大喜びなのにね〜」

「お姉ちゃん……」

 

子供じゃないんだから、という目でネプテューヌを見る。

 

「やっぱ、雨の日こそゲームだよね!さあ、これまでやれなかった分を取り返すよ!ネプギアも一緒にやろ!」

「うん、いいよ。じゃあ、ミズキさんも誘ってみるね」

「お、いいね!ミ〜ズキ〜!どこ〜⁉︎」

 

ネプテューヌが教会中に響く大声で呼びかけるが返事がない。いつもなら「ネプテューヌ、うるさいよ……」と苦笑いして出てくるはずなのに。

 

「部屋かな?」

「そうだね、探してみよっか」

 

部屋で寝てるとかそういうことかもしれない。そういうことなら仕方ない、核爆弾を使ってでも叩き起こしてゲームに参加させなければ。

 

「物騒だよお姉ちゃん……」

「地の文読まないでよネプギア!」

 

俺の妹が地の文を読めるはずがない、略して俺妹だね!

ミズキの部屋の前に立ってノックをする。

コンコン。

 

「知ってるネプギア?ノックを2回するのはトイレの時だけだよ」

「えっ⁉︎」

 

私も小耳に挟んだだけだけど。

ここで「入ってまーす」とかいう返事が帰ってきたら爆笑モノどころか爆笑しすぎて問題になるね。爆笑問題だよ。

だけど部屋の中から返事も何も返ってこない。

 

「あれ?寝てるのかな……」

「ミズキったらお寝坊さんだね!仕方ない、この超絶美少女かつ、女神たる私がモーニングコールをしてあげるよ!」

 

このままだとモーニングコールどころかモーニングフライングボディプレスを食らいそうだがネプギアは口には出さない。

 

「入るよ、ミズキ!」

 

ネプテューヌが物怖じせずミズキの部屋のドアを開ける。

 

「あれ、鍵空いてる……」

「誰もいないみたい……」

 

部屋は整然としていてミズキの気配すらない。

 

「どこ〜⁉︎ミズキ〜⁉︎」

 

ネプテューヌはすぐ引き返してミズキを探すべく部屋の外に出る。

それを追いかけようとしたネプギアだったが、ベッドの下から出てきたモノのせいで立ち止まる。

 

「ロボット……?」

 

球体のコロコロ転がる可愛らしいロボット。それが目の前のベッドの下から転がり出てきたのだ。

 

《ハロー、ネプギア!ハロー、ネプギア!》

 

目をピカピカ光らせて嬉しそうにしているように見える。

ネプギアはそれを両手で抱えた。

 

《ネプギア、プレゼント!ネプギア、プレゼント!》

「きゃっ」

 

その球体が急にぱかっと宝箱のように半分に開いた。ネプギアは驚いて顔を背けはしたが、手は離さなかった。

 

《ネプギア、プレゼント!ネプギア、プレゼント!》

「これ………USB……?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ねえ、いーすん、ミズキ知らない?」

「私も、ジャックさんを探しているのですが見つからないのです……。もしかしたら、外にいるかもしれません」

「外?この土砂降りの中で?」

「そんなわけありませんよねえ……」

 

イストワールも首を傾げている。

ネプテューヌは次にコンパを見つけた。

 

「コンパ!ミズキ知らない?」

「みずみずですか?知らないですぅ。でも、外には出てないと思うですぅ」

「なんで?」

「まだ傘立てに傘が刺さってましたから。雨は朝から降ってるし、傘も持たずに外に出ることはないと思うですぅ」

「そっか……ありがと、コンパ!」

 

コンパにお礼を言って別れる。

次にネプテューヌはアイエフを見つけた。

 

「あいちゃん、ミズキを知らない?」

「ミズキ?見てないわね」

 

ネプテューヌはサアーッと血の気が引いていくのを感じた。

何処にもいないって、もしかして何処かに行っちゃったり……。

脳裏に寂しそうなミズキの笑顔が浮かぶ。何処かへ行っちゃいそうな笑顔。繋ぎ止めていないと消えちゃいそうな、危うげな笑顔。

 

「でも、教会中探していないなら……屋上じゃない?」

「え?」

「だから、屋上よ。屋上は探した?」

「ううん、探してない……。ありがと、あいちゃん!探してくる!」

 

すぐに身を翻して屋上に向かう。

確かに、屋上なら少しベンチもあるし、そこには屋根もある。そこにいることも考えられなくもない。

重いドアを開けて階段を上っていく。息が切れることも汗をかくことも気にならない。

 

「ミズキ!」

 

バンッ!とドアを開く。

いなかったら、私は……!

だがその心配は杞憂だった。ミズキはちゃんといた。

傘も差さず、屋根の下にも入らず、ただただ雨をその身で受けてこちらに背を向けていた。

 

「……ミズキ?ど、どうしたの?そんなに濡れたら風邪引いちゃうよ?」

「………ネプテューヌ」

 

振り向いたミズキの顔は……最悪だった。

優しい笑顔なのに、薄ら寒い。今すぐその笑顔をやめてと頼み込みたくなるような寂しさがそこにはあった。

 

「ほら、ミズキ、ゲームしよ?今日はミズキのやりたいゲームしようよ。あ、やりたくないならまた後でもいいんだ。だから、えっと、その………」

「ネプテューヌ」

 

捲したてるネプテューヌをミズキは笑顔を崩さずに見る。

ネプテューヌの胸の中には言いようも知れぬ不安感があった。絶対にこのままじゃダメだと、根拠もなく思った。

 

「ごめんね、ネプテューヌ」

 

その一言でネプテューヌは凍りつく。

 

「僕は、プラネテューヌを旅立つよ」

 

「……………え?」

 

旅、立つ?

何処かに、行っちゃう?

 

「あ、ああ!他国への体験留学とかそういうこと⁉︎な、な〜んだ、驚かせないでよ!私、心臓止まるかとーー」

 

「いつまでか、わからない」

 

「思っ……た……」

 

「もう、帰れないかもしれない」

 

「え………?ねえ、ミズキ……」

 

フラフラとネプテューヌはミズキに近付く。

その足元で銃弾が弾けた。

 

「っ⁉︎」

 

ミズキが撃ったのだ。その手には銃がある。

 

「それ以上近付かないで」

 

「…………………!」

 

なんで、こんなこと。わからない、私、わからないよ、ミズキ。

 

「なんで……?なんでよ、ミズキ……」

 

「………………」

 

「どうして、行っちゃうの……?」

 

「………教えられない」

 

「なんで………?」

 

喉の奥から絞り出すように声を出す。

だって、だって…………!」

 

「私達、友達でしょ………⁉︎」

「…………そうだ」

「じゃあ、一緒に行く」

「………………」

「ミズキ1人でそんな危険な目に合わせられない!私もついて行く!」

 

「………………クス、君ならそう言ってくれると思った」

「ミズキ…………!」

「でも、ダメだ。わかって、ネプテューヌ。僕は、君をこれ以上傷つけたくない」

「私は……!」

 

違うんだよ、ミズキ。

行っちゃったら、傷つくんだよ。

いなくなっちゃったら、傷つくんだよ。

お願い、ずっと、ずっとここにいて欲しいんだよ……!

 

「………イヤ。行かせたくない」

「ネプテューヌ、僕に何を言っても無駄だよ」

「でも、私は、それでも………!」

 

「ミズキの、友達でしょ………⁉︎」

「……………そうだ」

 

だったら、私は。

ミズキを絶対に引き止める。ミズキは間違ってる。ミズキを私が止める。

何をしたって。たとえ、最低なことをしたって!

 

「だったら私は!力づくでもミズキを止める!だって私は!ミズキの友達だから!」

 

「ネプテューヌ………!」

「変………神………!」

 

ネプテューヌの体が光り輝いた。

髪が伸び、身長も伸び、胸も大きくなる。そして体にプロセッサユニットを身につけ、太刀をミズキに突きつけた。

 

「行くわよ、ミズキ。どうしても行きたいっていうなら私を倒してから行きなさい!」

 

「…………変身」

 

ミズキは握った右拳を胸に当てる。燃え上がる炎のシンボルが見えるのと同時に、ミズキの体が光り輝いた。

 

青と白を基調にした色。関節部の緑色をしたGN粒子タンク。右手にはGNソード、左手にはGNシールド。肩と腰の後ろにGNビームサーベルとダガー。左右の腰にはGNロングブレイドとショートブレイド。

 

その機体は完全に修復されていた。

あの時、私を助けてくれた機体。それが今、私に剣を向けている。

ガンダムエクシア。それがその機体の名前だ。

 

《僕は……君を、傷つける。でも、それでも僕は行かなきゃいけない。だって僕は………!君の、友達だから……!》

 

2人とも、友達のために。ただ、友達を助けたいがために。なのに、争う。何故、争う。

 

「…………っ!ミズキイイィィィッ!」

《ネプテューヌウウゥゥゥ!》

 




次で前日譚が終わりです。次からアニメを追えそう。

この章だとエクシアしか出してないですけど、他のシリーズも出すつもりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着

クロス・コンビネーションのくだりは対スローネツヴァイ戦の初トランザムリスペクトです。


その戦いは譲れないものを守るために。

 

そして勝った方は言うんだ。

 

「私が正義だった」と。

 

そして負けた方は言うんだ。

 

「僕は間違っていたのか」と。

 

でも、本当は気付いてる。

 

どっちも間違いだったって。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ーーーー『DECISIVE BATTLE』

 

 

GNソードと太刀がぶつかり合い、火花を散らす。その反作用を利用して2人とも間合いを取り、またぶつかる。

 

2人の体を雨が容赦なく打つ。

ネプテューヌとエクシアの戦いは空中戦になっていた。

激しい雨で2人の戦いが地上から見えないことは不幸中の幸いだった。

何故なら2人の戦いが、野次馬のせいで止まることはないからだ。

 

「どうしたの⁉︎その程度⁉︎拍子抜けね!」

《っ、くっ………!》

 

ネプテューヌの太刀の一振りがGNソードで受けたミズキを吹き飛ばす。

後退しながらGNソードを折りたたんでライフルモードにする。

そしてビームを乱射するが防御魔法で防がれてしまった。

 

「このっ………!」

 

ネプテューヌは足元の円陣を蹴って急加速。ビームをかいくぐってミズキに飛び蹴りを浴びせる。

 

《くうっ………!》

 

GNシールドで受けるが衝撃はいなせない。蹴飛ばされた。

 

「結局、その程度ってことでしょ⁉︎ミズキの覚悟は⁉︎」

《ンッ…………!》

 

その攻勢を途切れさせはしない。

すぐに間合いを詰めて太刀を振るう。

間一髪でGNソードを展開して受け止めた。

 

《くそっ………!ネプテューヌ、わかってよ!君のためなんだ!》

「ミズキこそ!私は、ミズキのために……っ!」

 

ギャリギャリと擦れ合う刃が火花を散らす。

 

「やっぱり、私達のこと友達だなんて思ってないんでしょ⁉︎たかが1ヶ月の付き合いってことでしょ⁉︎だから、こんなに簡単に私達を捨てるんでしょ⁉︎」

《そんな………ことっ!》

「私も!ネプギアもあいちゃんもコンパもいーすんも!みんなみんな、ミズキのこと好きなのよ⁉︎それをミズキは捨てたいの⁉︎」

《違うっ!》

「私達のこと、大っ嫌いだって言いなさいよ!」

《っ!》

「私達のこと、大っ嫌いなんでしょ⁉︎全部嘘だったんでしょ⁉︎元の次元の友達の方が良かった⁉︎私達の、こと……っ!」

《やめろッ!》

 

GNソードの一振りが膠着状態にあった2人の間合いを取る。

 

《はあっ、はあっ、はぁ………っ!》

「……なによ、やっと本気?いいわよ、切れるものなら切りなさいよ!私は絶対に、負けなんかーー」

《ネプテューヌはっ!》

「…………!」

《僕が、本当に君達のこと嫌いだと思ってるのかっ!》

「…………そんなの……!」

《僕が!君達のことを嫌いなわけ、ないだろッ⁉︎》

「そんなの、知ってるわよ!分かってるわよ!でも、そう言ってもらわないと納得できないじゃない!ミズキに行って欲しくないの!」

《ネプテューヌ!》

 

 

「ミズキ、さん……?お姉、ちゃん……?」

 

 

《⁉︎》

 

声のする先を見るとそこにはネプギアが屋上からこちらを見ていた。その瞳は動揺に揺れている。

 

「余所見なんて、いい度胸じゃない!」

《はっ、うわっ!》

「ミズキさんっ!」

 

その隙を突いてネプテューヌは間合いを詰めてエクシアを蹴飛ばす。

 

「はああっ!」

 

そしてもう1度ネプテューヌがエクシアを追って空の円陣を蹴って急加速する!

 

「これで終わりよっ!クロスッ・コンビネーッションッ‼︎」

《!》

 

十字の斬撃がエクシアを襲う。

確かに、金属を断ち切る感覚。

 

(手応え、あった!)

 

だがネプテューヌの目の前にあったのは十字の傷を受けたエクシアではなかった。

 

「盾……⁉︎」

 

断ち切られていたのは捨てられた盾だった。4つに割れた盾が爆発する。

ハッとネプテューヌは顔を上げる。

そこには雨をその身に浴びながら赤く輝くエクシアかいた。

 

 

ーーーー『TRANS-AM RAISER』

 

 

「トランザム、システム……!」

 

《……僕は、幸せ者だ。僕のために、ここまでしてくれる友達を、持てた……》

 

エクシアがGNソードを展開する。

 

《約束する、ネプテューヌ。僕は必ず生きてここに帰ってくる。だってここはもう、僕の家だから……》

「っ、そうよ!ここが!プラネテューヌが!ミズキの家よ!」

《ネプテューヌ。君がくれたキーホルダー、失くさない》

 

エクシアが急加速する。

 

(速い!)

 

GNソードを展開しての切り抜け。ネプテューヌは全く反応できなかった。辛うじて太刀で斬撃を防ぐがあまりの勢いに吹き飛ばされる。

 

「くっ!」

《僕は、君の元気な姿にいつも励まされてた!》

 

折り返したエクシアがGNソードを横に2度振る。

ネプテューヌの背中に3倍の速度の斬撃が2度浴びせられた。

そして体を回転させてローリングソバットでネプテューヌは蹴飛ばされる。

 

「うあっ!」

 

わかってた。勝てっこないって、最初から。それでも、止められたら良かった。止めたかった。無理だってわかってても、諦めきれなかった。

 

《みんなと過ごした日々は、僕を温めてくれるような日々だった!》

 

腰のGNダガーを2本、ネプテューヌめがけて投げる。

振り返ったネプテューヌは防御魔法で防ぐがGNダガーが防御魔法に突き刺さる。ミズキはそれを狙って折りたたんだGNビームライフルを前進しながら撃つ。それはGNダガーに当たり、GNダガーは爆発した。

 

「ああっ!」

「お姉ちゃん!」

 

《君を、傷つけたくなんかない!だけど、僕は君を守りたいんだ!》

 

GNブレイドを両手に持って縦に振り下ろし横に切る。井の字の斬撃だ。

 

「くっ、うっ!」

 

《君だけじゃない、ネプギアも、アイエフも、コンパもイストワールも!女神のみんなだって、僕は守る!》

 

GNブレイドを捨て、GNビームサーベルを2本引き抜く。

それを大きく振りかぶって縦に振り下ろした。

ネプテューヌは太刀を横に構えて受け止めるが………。

 

「………っ、あっ………!」

「お姉ちゃんっ!」

 

太刀ごと叩き斬られてネプテューヌの体にまで斬撃を食らわす。

それを斜め下、屋上に向かって蹴飛ばした。

さらにそれをトランザムの加速で追う。

 

《ぬあああああああッ!》

 

『ミズキ!』

『ミズキ?』

『……ミズキ!』

 

《うわああああああッ!》

 

その笑顔を振り切って、ミズキはGNソードでネプテューヌを切り抜けた。

 

「……………っ………」

 

ネプテューヌは光と共に女神化が解けて真っ逆さまに屋上に落下した。

 

「っ、お姉ちゃんっ!」

 

そこにネプギアが駆け寄る。続いて赤い閃光をまとったエクシアが屋上に降り立つ。

エクシアを包んでいた赤い光は消えて元の青と白を基調にした機体に戻った。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 

ネプギアがネプテューヌの上半身を抱え起す。

 

(生きてる……!気絶してるだけだ……)

 

安堵したのも束の間、乾いた笑い声がその空間に響いた。

 

《ふふ………ははっ、はは……っ!》

「ミズキさん……」

《バカみたいだ、僕は……!こんなに、大切な友達を傷つけて……!それで、友達を守るためだなんて、ははっ………!》

 

機械の顔からは表情はわからない。だけど、きっと悲しい顔をしているのはネプギアにだってわかった。

 

《ははっ、くっ、はははっ……!うっ、ぐっ、ははっ、僕は、僕は……!僕、は……!うっぐ、うわああああああああああ!》

 

空を見上げて叫ぶ。

 

「ミズキさん……泣いてるん、ですか……?」

《うぐっ、ふはっ……!そうだよ、僕は適当なこと言って、泣かせて、傷つけた!その上勝手に、泣いてるんだ……!》

 

涙は出ていない。だが空から降り注ぐ雨はミズキの涙のようでもあった。

 

《………ネプギア、僕は、君との約束を忘れないから……》

「ミズキさん、どこへ行くんですか……?」

《………さよなら》

 

背中を向けたミズキ。その背中をネプギアは追うことが出来ない。

そしてミズキが空を飛び、雨の中に消えてもネプギアはずっとずっとその虚空を眺めていたのだった。

 




次回予告

「私、わからないよ、ミズキ……!私、ミズキに会いたいよ……!帰ってきてよ、ミズキ……」

ミズキがプラネテューヌから消え、ネプテューヌは塞ぎ込んでしまう。

「EX種……?」

そして各国に出没する赤黒い個体、EX種。

「ここが私の国、シェア保有量No. 1の国、ラステイションよ」

そして舞台はラステイションへ。

ミズキの行方は?EX種の謎は?ラステイションの森を、トリコロールの機体が駆け抜ける!

「クスキ・ミズキ。ストライク、行くよ!」


ーーーーーーーー

うわさっむ。自分で見返して嫌になりました。(´・_・`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章〜ラステイションのドラゴン退治。切り捨てるものは〜
ストライク、出撃


長くなっちゃいました。


さあ、これから何をしよう。

 

私達は自由になったんだ。

 

遊ぼう。

 

学ぼう。

 

笑おう。

 

そう思っていたのはもう過去の話。

 

私達は今を、懺悔に費やす。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

森を走る少女が1人。その後ろには無数のモンスターがいた。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ………!」

 

森を出た先は崖。振り返った少女の先には何体もの獣のようなモンスターがいた。

 

「ガルルルル……」

 

森について誰よりも詳しいのは森に住む者。獣モンスター達は完全に狩りを成功したと見た。

 

「ガァーッ!」

 

そして一斉に飛びかかる。

だが少女はニヤリと微笑んだ。

 

「作戦通り!お姉ちゃん!」

「任せなさい!」

 

死角になっていた崖下から飛び上がったのは女神化したノワール!

その手には大剣を構えている。

完全に油断して飛びかかった獣達めがけて、一閃!

 

「レイシーズ・ダンスッ!」

「⁉︎」

 

獣達は光の粒子となって消えた。

 

「やった!」

「よくやったわね、ユニ。今日はユニのお手柄ね」

 

地面に着地してからノワールが変身を解く。

 

「え?でも私、1匹も倒してないし……」

「成果はね。でも、ユニに助けられたのは事実。ユニがいなきゃ、あのモンスター達を一網打尽には出来なかったわ」

 

ラステイションのとある森で猛威を振るっていた獣達。彼らは賢く、罠にもかからずに畑や牧場を荒らしていたために討伐の依頼が来たのだ。

ずる賢いモンスターをまとめて倒す手段としてユニは囮作戦を提案、ノワールを説得してその作戦を発動した。結果は、大成功。

 

「でもまだまだね。もっと頑張りなさい」

「……………」

 

(やっぱり、まだまだ、か……)

 

そう言われると少し凹んでしまう。せっかく今日も頑張ったのに。そもそも、完璧なお姉ちゃんを超えるなんてーーって、ダメダメ!

 

「ひたむきで負けん気、ひたむきで負けん気……!」

「ユニ?どうかした?」

「う、ううん!でもお姉ちゃん、次は見ててね!次こそは私、たくさんモンスター倒すから!」

「え?あ、ああ、うん。頑張りなさい?」

「よし、ひたむきで負けん気……!」

 

後ろを向いて呪文のように唱える。最近は、少し凹んでしまう度にこの言葉を思い出すようになってきた。

ミズキ、って人。その人の言葉。

この言葉を唱えると何だかやる気が湧いてくる。負けないぞって、勝ちたくなる。お姉ちゃんにだって、勝ちたくなる!

 

「さて、もう1つの依頼ね。パワフルコングのEX種の討伐よ」

「EX種……?」

「ユニは知ってるかしら、最近、各国に赤黒いモンスターの個体が発見されてるでしょ?」

「ああ。それなら聞いたことあるよ」

「それをこれからはEX種って呼称することにしたの」

 

各国に出没する赤黒い個体。赤黒くなった個体は通常種よりも凶暴さ、獰猛さが増してその一帯を荒らしまわる。

雑魚モンスターが赤黒くなっているうちはまだいい。EX種は誰彼構わず戦いを挑むので、さらに強いモンスターに倒されるからだ。

だが、中級や上級モンスターがEX化するととんでもないことになる。会ったモンスターを倒して捕食し、行動範囲を広げる。するとその一帯の生態系は破壊され、最悪街にも被害が出る。そうなる前に、女神達はEX種を倒すようにしていた。

 

「パワフルコングって中級モンスターだよね?」

 

スピードは遅いが非常にタフでパワーがある。基本的に数匹の群れで行動するモンスターだが、EX種ともなると1匹で行動している可能性が高い。

 

「そうね。でもEX種だから、上級モンスター並みの強さだと思うわ。気をつけましょう」

「うん」

 

上級モンスターってことは、それなりに危険。油断すれば、女神だとしてもただでは済まないだろう。

そんなモンスターに私が……私が……私が倒すんだ!そう、そう考えるのよ、ユニ!これはチャンスなの。お姉ちゃんに認めてもらうための!

 

「よーし!頑張ろうねお姉ちゃん!」

「え?う、うん?」

 

最近妹の様子がちょっとおかしいんだが。

ノワールはやたらとハッスルしているユニを冷や汗を垂らしながら見ていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「EXパワフルコングはラステイションの東の遺跡で発見されたらしいわ」

「結構、入り組んでるね……」

「そうね。まとまって、常に周りを警戒しながら行くわよ。変身」

 

ノワールが変身する。ユニと背中合わせに周りを警戒しながらゆっくりと進んでいく。

 

「ガルルル………!」

「⁉︎」

「どこ⁉︎」

 

モンスターが喉を鳴らす音が聞こえた。確実に、近くにいる。

 

「ユニ!上!」

「え⁉︎」

 

ノワールにつられて上を見るとこちらに向かってくる影が見えた。

 

「きゃあっ!」

「ユニ⁉︎」

「だ、大丈夫!」

 

間一髪で避けられた。

落ちてきた影は遺跡の地面に深くめり込んで周囲に振動を起こした。

 

「来たわね!」

「これが、EXパワフルコング……?」

「ゴアアアアッ!」

 

赤黒く変色したパワフルコングは雄叫びをあげる。周りには仲間がいる気配もないし、肉体もなんだかパンプアップしている。

そして何より、そのパワー。

 

「ゴアッ!」

 

EXパワフルコングが地面に拳を打ち付けるとまるで地震のような揺れが起こる。

 

「きゃあっ!」

 

ふらついてユニは倒れてしまった。

 

「ユニは後方支援を!早く!」

「わ、わかった!」

 

ふらついた体勢を必死に直して背を向けて遺跡の陰に隠れる。

 

(あそこ!)

 

そして遺跡の建物の1つにまで駆け上がった。

ノワールとパワフルコングが戦っているのが見える。

ノワールは飛べるために地震を気にする必要はないがパワフルコングも負けてはいない。強靭な筋力で飛びかかり、殴りかかる。

ノワールも既に何度か切りつけているが、全く効いている気配がない。

 

「くっ……いい子だから……動かないで……!」

 

スコープを覗いて照準を合わせてようとするが上手くいかない。パワフルコングは飛んだり跳ねたりして動きが落ち着かない。ノワールもそれでは狙撃がし辛いのをわかって低空を飛行し始めた。

 

(少し、危ない賭けだけど……)

 

チラリとユニを見る。

大丈夫。最近のユニは見違えるようになった。まだまだ頼りないが、心が強くなってきている。

 

「任せたわよ、ユニ!」

「ゴアアッ!」

 

パワフルコングの渾身の拳をノワールは大剣で受け止めた!

 

「くっ!」

「今だ!」

 

パワフルコングの動きが止まった、その隙!

 

「当たってっ!」

 

ライフルを3連射!

弾は全てパワフルコングに命中した、が。

 

「ゴア?」

「効いてない⁉︎そんな!」

 

パワフルコングの注意がユニに寄った。

パワフルコングはユニのいる遺跡に向かって飛びかかった!

 

「ユニ!」

「きゃあっ!」

 

ユニに向かって拳を打ち付けるパワフルコング。ユニはそれも間一髪で避けたが、追い詰められてしまった。

 

「こ、来ないで!来ないで!」

 

ライフルを連射するが全く効いていない。弾かれてしまっている。

後ずさりながらライフルを撃つが急に後ろの床の感覚がなくなる。

 

「行き止まり⁉︎そんな⁉︎」

 

下は硬い地面。空を飛べないユニでは、降りられない。

さらにライフルがカチ、カチと音を立てるだけになった。弾切れだ。

 

「あ………!」

「ユニから離れなさいよッ!」

「ゴアッ⁉︎」

 

パワフルコングが拳を振り上げた直後、飛び込んだノワールの大剣がパワフルコングの脇腹にめり込む。

 

「この……っ、ケダモノが!」

「ゴアアッ!」

 

そのまま吹き飛ばす。

パワフルコングは隣の建物の壁にめり込んだ。

 

「大丈夫、ユニ⁉︎」

「う、うん。ありがとお姉ちゃん……」

 

そうだ、パワフルコングは⁉︎

めり込んだ壁のあたりを見るとそこには確かに動く影があった。

 

「そんな、効いてない⁉︎」

「…………っ」

 

ノワールのいつもの剣なら倒していた。いや、少なくとも大ダメージは与えていたはずだ。だがさっき、パワフルコングの拳を受け止めた時。

 

(手首、が……っ)

 

ジンジンと痛む。捻挫しているのかもしれない。これでは……。

 

「ゴアッ!」

「お姉ちゃん、こっち来る!」

「くっ!」

 

仕方なく大剣を構えるノワール。

パワフルコングが今まさに飛び込んで来ようとした瞬間、その遺跡は巨大な足によって踏みつけられた!

 

「えっ⁉︎」

「なに⁉︎」

 

パワフルコングはその足に踏みつけられ光の粒子になって消える。その足の正体は……!

 

「赤黒い、エンシェントドラゴン……⁉︎」

「ウソ、でしょ……⁉︎」

 

さらにその悪夢は加速する。

そのエンシェントドラゴンの脇に、さらにもう1頭、エンシェントドラゴンが降り立った。

 

「お姉ちゃん、これって……!」

「EXエンシェントドラゴンの、つがい……!」

 

『ーーーーーーーーーー!』

 

「きゃあっ!」

「っ、く!」

 

その咆哮だけで吹っ飛んでしまいそうだ。

だが、2匹の様子がおかしい。

 

「こっちに、気付いてない……?」

「お姉ちゃん?」

「と、とりあえず隠れるわよ。まずは作戦を練るの」

「わ、わかった」

 

岩陰に隠れようとした2人。だが、その遺跡に声が響いた。

 

《待てっ!》

 

「グアッ‼︎」

「グアアアッ!」

 

「な、なに?」

 

どうやら、2匹のエンシェントドラゴンはその声に注意をしていたようだ。

ノワールは振り返って2匹を見る。そこには、威嚇しているエンシェントドラゴンと空を滑空する機人がいた。

赤、青、白のトリコロール。手には大きな赤の中に黄のラインが入った盾を持っている。もう片方の手には無骨な鉄色のライフル。背中には羽をX字に伸ばしたような赤いブースターがあった。

 

 

ーーーー『ガンダム 出撃』

 

 

「あ、あれは⁉︎」

「なに、あのロボット……」

 

ライフルの引き金を4回引く。放たれた緑色のビームは全弾エンシェントドラゴンに当たる。だが、全く効いていない。

 

「ゴアアッ!」

 

エンシェントドラゴンAが炎のブレスを吐く。その機人は盾で受け止めた。

そして着地、着地点に振り下ろされる爪を避けてまた空を滑空する。

 

「あんの、バカ……っ!」

 

どこの誰かもわからない民間人がこんな強力なモンスターに手を出して!このままじゃ死ぬに決まってるじゃない!

 

「お姉ちゃん、何するの⁉︎」

「あいつを助けて離脱するわ。ユニは先に逃げてなさい!」

「でも!」

「ライフルが効かないんだから、ユニがいても意味ないでしょ⁉︎」

「っ!」

「………いい?逃げるのよ」

 

ノワールはそう言って飛んでいく。ユニはそこから動くことができなかった。

 

(私……は………)

 

「そこのアンタ!援護するから、逃げなさい!」

《ノワール⁉︎ダメだ、離れろ!》

「なんで私の名前………っ⁉︎」

 

エンシェントドラゴンBがこちらを向いている。

口からブレスを吐く寸前だ。

 

《ノワール!》

 

その間に機人が入り込んで盾で庇う。

だが、機人は炎ブレスで視界がふさがれていた。

エンシェントドラゴンAの振り下ろす爪に吹き飛ばされてしまう。

 

《うわあっ⁉︎》

「アンタ⁉︎くっ!」

 

機人は吹き飛んでユニのいた遺跡の床に転がった。

 

「………っ、だ、大丈夫ですか⁉︎」

《あ、うん。全然無傷だよ》

「そ、そんなわけ………!」

 

だが確かにその装甲は土や砂で汚れているものの、傷は見受けられなかった。

PS装甲。それがその機人ーーストライクガンダムーーの防御力の秘密。

フェイズ(P)シフト(S)装甲と呼ばれる装甲に一定の電圧をかけると装甲は相転移して物理的な衝撃をほぼ無力化することが出来る。耐熱性も向上、まさに鉄壁の装甲。

そしてストライクガンダム、もう1つの特徴は。

 

「くっ、こいつら!」

 

ノワールは空に飛び上がって間合いを取ろうとする。だが2匹のエンシェントドラゴンも翼を広げて空に飛び上がった。

 

《マズい、ノワール………!》

 

背中の巨大なブースターがパージされた。

ゴトンと音を立てて床にブースターが落ちる。

 

《ユニ、手伝って!》

「え、は、はい………え?」

 

なぜ、私の名前を?

だがそれを聞く前にストライクはライフルと盾も床に捨てた。

 

《換装!》

 

右肩と背中に新しい装備が追加された。緑色をしたミサイルポッドとバルカン砲が右肩に。そして何より、背中にマウントされた2mほどもある巨大な砲の存在が目を引く。

そう、ストライクの特徴はストライカーパックシステムと呼ばれる換装システム。その時の状況に応じて装備を変え、対応する。

この装備は砲撃戦用の装備、ランチャーだ。

 

《僕は奥のをやる!ユニは手前のエンシェントドラゴンを狙撃して!》

「そ、そんな……。私のライフルじゃ、効きません。多分、ちっとも……」

《だからってノワールが危ないってのに何もしないのか⁉︎》

「で、でも……」

《言ったはずだよ、負けん気を見せろ!》

「負けん気………」

 

その言葉を言ってくれたのはただ1人。まさか、その機人は………!

 

 

ーーーー『INVOKE』

 

 

「ミズキさん……⁉︎」

《行くよ、ユニ!》

「………っ、くっ!」

 

スコープを覗く。的はでかい、外すわけがない。だが、ただ撃っても蚊に刺されるほどしかないだろう。

硬い甲羅の合間を狙うしかない。そしてその中で1番ダメージの大きい場所!

 

(目を………!)

 

そう、目だ。どんな強靭な甲羅や鱗を持つ生物でも目だけは硬くない。そして、目は間違いなく急所の1つだ!

 

(落ち着いて………。大丈夫、ミズキさんが隣にいる……!)

 

手の震えを必死に押さえる。

そして唱えるんだ。ひたむきな心と、負けん気!

 

「そこっ!」

《いっけええええええッ!》

 

まず、ミズキのビーム砲からとんでもない太さのビームが発射される。赤い光を白で包んだような陽電子砲の照射がエンシェントドラゴンBを襲う!

 

「グアアアッ⁉︎」

「なに⁉︎」

 

《そこだああっ!》

 

さらに照射が続く。そしてエンシェントドラゴンBは光になって消えた!

 

ユニの撃った弾は真っ直ぐ飛んで行き、エンシェントドラゴンAの軌道を完全に読んだ。

まるで吸い寄せられるようにユニのライフルの弾はエンシェントドラゴンAの左目に命中した!

 

「グアッ⁉︎ゴッ、ガアアッ!」

 

エンシェントドラゴンAはたまらず地面に落下する。

 

「やった!」

《よし!ユニ、後は任せて!》

 

また装備を換装するストライク。ストライクはランチャー装備をパージして水色の装備を左肩と背中に装備する。その背中には大きな刀が装備された。ノワールが振るっている物よりも遥かに大きい大剣。

その装備はソード。近接戦用のストライカーパックだ。

 

「グアアアアアアッ‼︎」

 

こちらに向かって怒りの咆哮を浴びせるエンシェントドラゴン。だがソードストライクはそれに怯まず突進していく。

ブースターを吹かしながらジャンプするように移動する。

 

《ノワール、下がって!後は僕がやる!》

 

頭のバルカン砲を撃ちながらエンシェントドラゴンに向かう。

エンシェントドラゴンが吐いた炎ブレスを飛び上がって避け、左肩に装備された武器を引き抜いた。

ビームブーメラン、『マイダスメッサー』!

 

《てやっ!》

「グアアアッ!」

 

マイダスメッサーを投げる。それはエンシェントドラゴンの右の翼に切れ込みを入れた。

そしてブーメランは帰ってくる。それはエンシェントドラゴンの背中に突き刺さった。

 

「グアアアアアアッ‼︎」

 

「なんなの、あいつ……強い……」

 

ノワールはあっけにとられてその戦闘を見ていた。

EX化したエンシェントドラゴン2頭なんて私でも倒せるかわからない。それを、あの機人は簡単にやってのける。

 

ソードストライクは肩に対艦刀『シュベルトゲベール』を担いで急接近する。

エンシェントドラゴンはそこめがけて爪を振り下ろそうとするが………不意に。

ミズキの中で、何かが弾けた。

 

パリィィ……………ン………!

 

《ッ!》

 

ブースターで急接近しながらロケットアンカー『パンツァーアイゼン』を射出する。

アンカー先端のクローが振り下ろす前の爪に食いついた。

そしてアンカーが引き戻る力を利用してソードストライクは空へと高く飛び上がった。

 

《やあああッ!》

 

シュベルトゲベールを引き抜いて一閃!

エンシェントドラゴンの右腕が断ち切られた。

 

「グアアアアアアッ⁉︎」

「なんて、威力………!」

「すごい、ミズキさん……」

 

「グアッ!」

《うわっ!》

 

エンシェントドラゴンはボロボロの翼で羽ばたく。

その風圧をソードストライクはシュベルトゲベールを地面に突き刺して耐える。

 

《くっ、待てっ!》

 

「グアア!」

 

エンシェントドラゴンはフラフラと飛び上がって逃げてしまう。

唯一追えるのは空を飛べるノワールだが、あまり得策ではない。それに、ノワールはその場から動けなかった。

 

《逃したか………くそっ》

 

光に包まれてソードストライクへの変身が解ける。

そこにはミズキが立っていた。

 

「やっぱり、ミズキさんだ……」

「アナタ……ミズキ?」

 

2人がミズキに近づいてくる。ノワールは空から降りて、ユニは遺跡から駆け寄って。

 

「………うん、3日ぶり、かな。ユニ、ノワール」

 

ミズキはそう言って“くすり”と笑った。




アニメではオープニングの後は式典の1ヶ月後の話です。
今は式典からまだ3日しか経ってません()

ランチャーのアグニが2mなのはもともとの大きさが20mだからです。ガンダムは全長が大体18mなのでミズキの身長も計算しやすい180cmにしました。

もちろん、ラステイションに行ってストライクを出した理由は……ね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ひたむきな心と負けん気

キャラ崩壊してるかも。許してちょ。


切り捨てるなんて、そんなことできない。

 

やるんだよ。仕方のないことだ。

 

それでも私は、そんなことできない。

 

ダメだ。仕方のないことだ。

 

じゃあ、なんで。

 

それが、生きるということだろう?

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「こんにちは、ミズキさん。3日ぶりですね」

「こんにちは。大丈夫だった?」

「はい」

 

ユニとミズキが話している。

ノワールは気になって聞いた。あの、機人のこと。

 

「あれが、ミズキの変身?」

「うん。ガンダムだよ。ごめんね、エンシェントドラゴン、逃がしちゃった」

「……呆れた。そんなこといいのよ。むしろ、助けてもらったのは私達なんだし」

「あ、そ、そうでした。ありがとうございました!」

「ううん。元はと言えば、あのドラゴンをここまで追い込んだのも僕だから……」

「いいのよ。とにかく、ありがとうね」

 

素直にお礼を言う。ユニは頭を下げてノワールは微笑んだ。

 

「それじゃあ、ユニ、帰りましょうか。ミズキもプラネテューヌに帰るんでしょう?」

「……………っ」

「ミズキ?」

「………ううん、なんでもない。でも僕は、まだプラネテューヌには帰れないんだ」

 

ミズキは微笑んでいるがその顔に力はない。

 

「帰れない、ってどういうことですか?」

「ネプテューヌと喧嘩でもしたの?」

「………うん、そんなとこ、かな」

 

はあ、とノワールはため息を吐く。

ネプテューヌが追い出したかミズキが出て行ったかは知らないが大変なことにはなってるらしい。

 

「じゃあお礼もしたいし、教会まで来る?」

「………え、いいの?」

「いいわよ。どちらにしろ借りは返すつもりだったし。ユニもいいわよね?」

「うん、もちろん!」

「………クス、ありがと。それじゃ、ついて行こうかな」

「そうしなさい」

 

ノワールが先頭になって歩き始める。

するとノワールの右手首がドキンと痛んだ。

 

「………っ……!」

 

「ノワール?」

「………どうかした?」

 

ノワールはミズキの声に振り返る。できるだけ、なんでもない顔を作ったつもりだったが。

 

「はい、ダウト」

「う」

「え?お姉ちゃん、どうかしたの?」

「な、なんでもないわよ」

「はい、ダウト」

「う」

 

連続でミズキに否定されて観念する。

 

「ほら、その手首。怪我してるんじゃないの?」

「………そうです」

「よろしい」

 

右手首を押さえているのはバレバレだったらしい。

 

「ほら、見せて」

「痛っ……」

 

ノワールを座らせて手首を見る。手首を持ち上げようと触っただけでノワールは顔をしかめた。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「ええ、心配いらないわ。これくらい……」

「ウソつかない」

「いたたたたたたっ!いたっ、いた!やめてやめてやめて!」

 

掴んだノワールの腕のまったく捻挫とは関係ない場所の皮をつねる。

 

「ジャック、いい?」

「ああ。何か用か?」

(いったいどこから?)

 

いつの間にかそこにはジャックがいた。

 

「氷と袋、あるかな」

「一応、ある」

 

空間からビニール袋の中に入った氷が出てきた。それを掴んでノワールの手首に優しく置いた。

 

「冷たっ………」

「我慢して。ウソついた罰だよ」

 

意地悪な顔でそんなことを言うミズキ。

手首は冷たいのに、ミズキに触れている手のひらは温かい。そのせいでノワールの体温は冷やされているはずなのに上がっていく。

 

「ノワール?顔が赤いよ?」

「な、なんでもないわよ!ちょっと血を浴びすぎただけ!」

「なんかカッコいいね⁉︎」

「そうよ、血を浴びすぎただけで……スイカの食べ過ぎとかじゃないんだからねっ⁉︎」

「知ってるよ⁉︎まずその可能性はないと思ってるよ⁉︎」

「うう……顔から赤い髪をした白雪姫が出てきそう……!」

「顔から人出せたらそれはもう悪夢だよ……」

「じゃあシ○ンクス」

「覇王色!」

「2人ともなんの話をしてるの……?」

 

ユニが困惑した目でこちらを見ていた。

 

「そういえば、ユニ。あの狙撃、凄かったね」

 

動きが単調だったとはいえ、目を正確に狙った狙撃。

 

「ノワールもそう思うでしょ?」

「え?そ、そうね。でも、弾切れの時はヒヤッとしたわよ」

「あ〜……う、うん……」

 

パワフルコングを相手にしたときのこと。お姉ちゃんがいなかったら、どんなことになってたかわからない。

 

「ユニ」

「あ……。で、でもね、お姉ちゃん。次は頑張るから!」

「……ええ、その意気よ(もうこのテンションにも慣れたわね)」

 

シジミ!シジミタベロ!アツクナレヨ!

 

「ところでミズキはしばらくラステイションにいるの?」

「そうだね。ここでやらなきゃいけないことがあるから」

「やらなきゃ、いけないこと……?」

 

あれ、ラステイションにはネプテューヌと喧嘩して来たんじゃ……。

 

「あ、あの……。ミズキさんに頼みがあるんですけど……」

「ん?なに?改まって」

「あ、あの!私と付き合ってくれませんか⁉︎」

 

「」

 

「一応確認するけど、練習とか特訓に、だよね?」

「?はい、そうですけど?」

「紛らわしい言い方はやめようね。ノワールが真っ白になってるから」

「ああっ!お姉ちゃん!」

 

黒の女神なのに真っ白とはこれいかに。

 

「お姉ちゃん、しっかり!」

「世界と人々を救いましょう」

「白い!心まで白いよお姉ちゃん!」

「洗濯科学のアリエー○……」

「漂白剤!」

「私は、ゲーム最強……」

「それは白!映画化!」

「私、どーなつの誓いを……」

「それはSHIROBAKO!」

「そうだ、敵国から国を守る建物を……」

「それは城!同音異義語まで⁉︎」

「チェスの……」

「それも城!ルークだよ⁉︎」

「あの人は犯人じゃないみたいね」

「シロ!」

「無限の剣を作って……」

「それは士郎!っていうかお姉ちゃん、正気に戻って!」

「あはは………」

 

そんなこんなで結局帰るのは夜になってしまった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様」

 

夜ご飯を食べて一息つく。

久々に美味しいご飯を食べた。

クエストでお金を稼いで適当なご飯を買うばっかりだったからなあ。

 

「おや、新顔かい?」

「あ、こんにちは。お邪魔してます」

 

やって来たのは中性的な外見の……外見の……男かな、女かな。

 

「僕は神宮寺ケイ。よろしく」

「僕はクスキ・ミズキ。よろしくね」

 

「似てる……」

「似てる……」

 

ノワールとユニが同時に漏らす。

結局ケイの性別はわからないままさっさと何処かへ行ってしまった。

 

「そ、そうだ。約束ですよ、ミズキさん。特訓しましょう」

「ああ、うん。もうちょっと待ってね。さすがに食後は厳しいよ」

「あ、そうですね。じゃあ私、それまで書類仕事してます」

「うん。準備出来たら呼びに行くよ」

「はい!」

 

ユニもたったかたーっと走って行ってしまう。

 

「だいぶユニに懐かれてるのね」

「クス、そうかな」

「そうよ。なんていうか、憧れてるって感じね」

「憧れてる、か」

 

確かにユニは憧れていた。

魔法のような言葉を授けてくれて、強くて、優しくて。

まるで兄ができたようにユニは思っている。

 

「………そんな、憧れられるような人じゃないよ、僕は……」

「そうかしら?あの言葉教えたのもミズキでしょ?」

「あの言葉?」

「最近ずっと言ってるのよ、『ひたむきな心と負けん気』って」

「……クスッ、覚えてたんだ」

「もうそのせいでユニが暑っ苦しくて。大変よ」

「クスクス。ノワール、顔が嬉しそうだよ?」

「………うるさいわね」

 

プイッと顔を背けるノワール。

 

「それじゃ僕はユニのところに行ってくるよ」

「そういえば、ミズキは夜どうするつもり?」

「夜?…………やん」

「そういうことじゃないわよ!」

 

肩を掴んでザビエルのポーズ。

 

「夜、泊まるアテはあるのかって聞いてるのよ」

「え?特にないけど……」

「それじゃ今日はここに泊まって行きなさい」

「え?いいの?」

「遠慮しないでいいわ。アナタ達が特訓してる間に部屋は整えとくから」

「ありがとね、ノワール」

「いいのよ。ついでに、この国をよく見て行きなさい」

「この国を?」

「そう。ここが私の国、シェア保有量No. 1の国、ラステイションよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「狙いが甘い!」

「くっ、これならっ!」

 

ライフルの弾を乱射して牽制して距離をとる。その隙に狙いを定めて、撃つ。

だがライフルの弾はビームサーベルで消し炭になってしまった。

突進してくるミズキを牽制しようと引き金を引くが、

 

「弾切れ⁉︎」

 

カチリカチリと引き金を引く音がするだけ。

 

「自分のライフルの残弾数くらい、体で覚えて!」

「きゃあっ!」

 

模擬戦用に熱量を絞ったビームサーベルで切られてしまう。

 

「接近された時のために最低限、剣術も出来るように、ね」

「は、はい……」

 

尻餅をついたユニの手を取って引き上げる。

 

「さあ、まだいけるね?」

「は、はい!」

「よし、その意気だ」

 

教会の草原で特訓している2人をノワールはベランダの上から見ていた。

 

「今度は防御が甘い!」

「は、はいっ!」

 

「ユニ………」

 

本当に最近のユニの成長は凄まじい。もともと素晴らしかった事務仕事はさらに早さ、精度が上がっている。事務仕事に限って言えばもう私は追い越されているかもしれない。

このままならきっとユニは女神化もすぐ出来るようになる。

だけど、なんだろう、この不安感は。

ユニが遠いところへ行ってしまう気がする。

このままユニが女神化出来るようになるのは嬉しいことだ。嬉しい、はずなのだ。

 

「ユニ……アナタは私に守られてればいいの。私がずっと、守るから」

 

ノワールは振り返ってベランダを後にする。ノワールは2度と、ユニの特訓を見ようとは思わなかった。

 




ノワールヤンデレ疑惑。
え?なんのことですか?別に未来日記とか見てないですよ、ええ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

君を探しに

ようやくネプテューヌ復活回。

タイトルはグリザイアより。


ありがとうね、君は私を庇ってくれた。

 

おかげで私は生きられたんだよ。

 

ふざけないで、なんで私を庇ったの。

 

君のせいで私は苦しかったんだよ。

 

死んでも守るなんてそんなの偽善。

 

いたずらに私を苦しめただけよ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「…………ミズキ……」

 

 

アイエフとコンパが教会の中に入る。傘を差して走ったのか足元や服が濡れてしまっている。

 

「イストワール様、どういうことですか⁉︎」

「私にも、まだ状況がつかめていないんです。とにかく、これで体を拭いてください」

「あ、ありがとですぅ」

「一体どういうことよ!ミズキが、ミズキが!」

 

 

「ネプ子を倒して何処かへ行ったって!」

 

 

「…………っ」

 

椅子に座って黙っていたネプギアが唸る。

アイエフはイストワールから渡されるタオルも受け取ろうとしない。

 

「ネプギア、アナタは何か知ってるんじゃないの⁉︎」

「………はい、知ってます」

「どういうことよ⁉︎ミズキは裏切ったとか、そういうこと⁉︎」

「あ、アイちゃん、落ち着いて……」

「これが落ち着いていられる⁉︎ミズキは、ミズキは私達の……!」

 

友達だったんじゃないのか。

そう言いかけたアイエフを黙らせるようにネプギアが立ち上がった。

 

「な、なによ……」

「ミズキさんは……私達を守るためって言ってました……。ミズキさんは、私達を守るために、お姉ちゃんを傷つけるしかなかったって……」

「ど、どういうことよ。わけわかんないわよ。どうしてネプ子を守ろうとしてネプ子を傷つける結果になるのよ⁉︎」

「………わかりません。でも、ミズキさん達はみんなにこれを、残していってくれました」

 

ネプギアが差し出したのはUSB。そしてネプギアの足元にコロコロとロボットが転がってきた。

 

《ネプギア、ゲンキ、ダセ!ネプギア、ゲンキ、ダセ!》

 

「……………」

 

ネプギアは机の上にあったノートパソコンにそのUSBを差し込んで中身を見せる。

 

「な、なにが入ってたですか?」

「………これです」

 

 

『ネプテューヌへの手紙』

『ネプギアへの手紙』

『アイエフへの手紙』

『コンパへの手紙』

『イストワールへの手紙』

 

 

「………何よ、これ」

「私は、もう自分の分は読みました……」

「そんなことは聞いてないわよ!これは何って聞いてるのよ!」

「アイちゃん、やめるですぅ!」

 

声を荒げるアイエフ。

だがアイエフを責められはしない。みんな、多かれ少なかれ動揺しているのだ。

 

「……お姉ちゃんは精一杯止めようとしました。でも、ミズキさんは強かったんです。圧倒的でした……」

「ね、ネプ子に勝つなんて……」

「……ここにいる誰にも、ミズキさんは止められませんでした」

 

その言葉にみんなは言葉を失う。

 

「ねぷねぷはどうしてるですか?」

「今は部屋で寝てます。気絶してるだけで、大きな怪我はありませんでした」

「その手紙には、何が書いてあったのよ」

「……………言いたく、ありません」

「………そうね。先に私が読むわ。いい?」

「いいですぅ」

「異論はありません」

 

これが、あの日の出来事。

今は、その1週間後。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ネプ子はまだ塞ぎこんでるの?」

「………はい。ご飯もろくに食べません……」

「気持ちはわかるけど、だからって……」

 

ネプテューヌは自分の部屋に篭りっきりになっていた。あれだけ好きだったゲームもプリンもしないし食べない。

それどころか、風呂や着替え、食事さえも疎かにする有様だ。

 

「ミズキさん……どこ行っちゃったんでしょう……」

 

コンパは胸を押さえてミズキを心配する。

 

「私の手紙には、『もう帰ってこれないかもしれない』って書いてありました……」

「私だってそうよ。あんな、手紙なんて残して……!」

「でも、ミズキさんも私達とは別れたがってはいなかったはずですぅ」

 

それはネプギアにだってわかる。あの時ミズキさんは泣いていたんだ。

ネプギアへの手紙にはたくさんのことが書いてあった。今までの感謝や、謝罪。そして、約束のこと。

 

『君との約束は守る。死んでも君ともう1度電気屋に行きたいんだ。だから、ネプギアも僕の頼みを聞いてくれないかな』

 

『君を、頼ってもいいかな』

 

ダメなわけ、ないじゃないですか……!

ネプギアはぎゅっと胸を握り締める。

 

「イストワール様は?」

「イストワールさんも、まだ元気はありません……」

「イストワール様にだけは、ジャックからの手紙だったのよね」

「そうです」

「私……みずみずに帰ってきて欲しいですぅ」

「……みんな、そう思ってるわよ」

「私の手紙にはありがとうって書かれてたですぅ。応急手当教えてくれてありがとうって、手当できる私は凄いね、とか、他にも、他にも………」

 

コンパは途中で言葉に詰まってしまう。

 

「特に重症なのはネプ子よね」

「はい……。まだ手紙も読んでくれません……」

「きっと、大切なことが書いてあるはずですぅ」

 

みんなはまだ『ネプテューヌへの手紙』を読んではいない。

その手紙は読むべき人がいるから。

 

「………今日、何としても読ませるわよ」

「で、でもお姉ちゃんは……」

「仕方ないじゃない。ミズキがいなくなって辛いのはみんな同じ。だけど、そこで立ち止まっちゃダメよ」

「そうですぅ。いっぱい辛くて悲しいですけど……ねぷねぷはそれを乗り越えなきゃいけないですぅ」

 

それにネプテューヌは今、ろくに仕事もしていない。

 

「こんなビラが配られてたですぅ」

「これは………」

 

コンパが差し出したビラには『女神NO』だの『女神いらない』だの書かれている。

 

「そうです。そろそろネプテューヌさんには仕事をしてもらわないと」

「イストワールさん……」

 

ヒラリとイストワールが飛んでくる。

その表情では悲しみを隠しきれていない。あえて気丈な態度を取っているのがわかる。

 

「ネプテューヌさんのシェアは下がる一方です。早くネプテューヌさんを仕事に復帰させないと……」

「……イストワールさんの手紙には、何が書いてあったんですか?」

 

ネプギアが聞く。

イストワールは顔を歪めて膝の上に置いた手をきゅっと握りしめた。

 

「ほんの、数行ですよ……!『別れたくはなかった』、『必ず帰ると約束する』とか……!」

「イストワール様……」

「そんな、そんな、少ない言葉で気持ちが伝わるんです……!ジャックさんも辛かったったいうのが伝わるんです……!」

 

イストワールが静かに声を荒げる。目尻には光るものが見えた。

 

「……だから、ネプテューヌさんにも読ませなければいけません」

 

その目を拭ってイストワールは前を見た。

 

「凹むのも、泣くのも、ネプテューヌさんの勝手です。それは、仕方のないことです。でも、この手紙を読まないのはただの逃げなんです。ミズキさんの気持ちを知りたくないだけです」

「イストワールさん……」

「行きましょう、ネプギアさん」

「行くわよ」

「行きましょう?」

 

「…………はい」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌは部屋のベッドに座って頭から毛布をかぶっていた。

その胸にミズキが取ってくれたぬいぐるみを抱きしめて。

 

「…………………」

 

どれが、本当だったんだろう。どれが嘘だったんだろう。

全部本当だったのかな。それとも……全部、嘘?

 

「私、わからないよ、ミズキ……!私、ミズキに会いたいよ……!帰ってきてよ、ミズキ……」

 

「お姉ちゃん……入るよ」

「……………ネプギア、みんな……」

 

部屋に入ってきたのはネプギア、あいちゃん、コンパ、イストワール。ネプギアは胸にノートパソコンを抱えている。

 

「お姉ちゃん、ミズキさんの手紙……」

「……読みたくない」

「お姉ちゃん………」

 

ネプテューヌはさらに強くぬいぐるみを抱きしめる。きっと、あの時の笑顔は本物。きっと、そう。あの時のミズキはどうかしてたんだ。ミズキが私を切るわけがない……。

 

「いい加減にしなさいよ、ネプ子」

「あいちゃん………」

「あいちゃん、待つですぅ」

「いいえ、待てないわ。いい加減にしなさいよ、ネプ子。何を逃げてばかりいるのよ、ミズキのこと信じたいんじゃないの⁉︎」

「ミズキは………でも……」

 

私を切った。友達なら、切るわけがない。やっぱりそうだ。ミズキは私のこと、最初から嫌いだったんだ。そう考えれば、全部納得できる。

 

「ミズキは、私のこと、嫌いなんだもん……。そんな人の手紙なんて、読みたくない……」

「……っ、本気で言ってるの⁉︎ミズキが私達のこと嫌いだって、本気でそう思ってるの⁉︎」

「そうだよ。だって、そうじゃなきゃミズキが私を切るわけ……」

「っ、甘えるのもいい加減にしなさいっ!」

「あうっ!」

「あいちゃん!」

「アイエフさん!」

 

近付いたアイエフがネプテューヌの頬に平手打ちをする。パチン!と大きな音が響いてネプテューヌの左頬を真っ赤に染めた。

 

「認めなさいよ!納得したいだけでしょ⁉︎嫌いだって思えば、楽に納得できるからそうしてるだけなんでしょ⁉︎そんなの、逃げてるってことじゃない!」

「違う……ミズキは、本当に……!」

「違わないわよ!アンタ、ミズキの何を見てたの⁉︎そんなにミズキが信じられない⁉︎何かあったのか、何のためだとか考えなかったの⁉︎」

 

アイエフがネプテューヌの胸倉を掴みあげる。

そのネプテューヌの瞳には光が宿っていなかった。

 

「だって……ミズキは、いなくなっちゃったんだ……。私達を、置いて……」

「そうよ、置いてかれたわよ!でもね、それはネプ子のせいよ!」

「……違う………」

「もっとシェアがあれば良かったじゃない!もっと修行してれば良かったじゃない!全部ネプ子の怠慢でしょ⁉︎ネプ子がサボりにサボったツケよ!」

「違う………!」

 

ネプテューヌがキッとアイエフを睨み返す。その目は涙ぐんでいた。

 

「ネプ子はミズキが信じられないの⁉︎ネプ子こそ、ミズキのこと本当は嫌いなんじゃないの⁉︎」

「違う!私は……私は!ミズキのこと、大好きだもん!」

 

ネプテューヌが言い返す。そして胸の内にくすぶった感情を吐き出し始めた。

 

「私だってミズキのこと信じたい!信じたいよ!でも、ミズキはここにはいない!聞きたいよ、ミズキに!そうすれば、私は、全部はっきりする!でもミズキはいないの!全部、全部、この中でグルグルしてるの……!」

 

ネプテューヌはうずくまって強くぬいぐるみを抱きしめる。

聞かないと、わからない。でも、もう聞くことはできない。私の力が足りなかったから。

 

「じゃあ、追いかければいいじゃないの……!」

「え………?」

「追いかければいいじゃないの⁉︎何を1回きりの負けでウジウジしてるのよ!追いかけて、探して、もう1回見つけて!何をしてもまた連れて来ればいいじゃない!」

「ミズキを……探す………」

 

でも、どこに居るかもわからないんだよ?何してるかもわからないんだよ?今、どんな顔してるかも……わからないんだよ?

 

「諦められるならその程度ってことよ。ネプ子のミズキへの想いはね」

「………………」

「ネプギア、それ寄越しなさい」

「えっ、あっ、はい………」

 

アイエフがネプギアからノートパソコンをひったくる。それをネプテューヌが座っているベッドに置いた。

 

「よく考えなさい」

 

それだけ言い残してアイエフは部屋から出て行った。

残ったのはコンパとネプギアとイストワールだけだ。

 

「……………」

 

「ネプテューヌさん、アナタはわからないと言いましたね」

「……………」

「でも、現状でミズキさんの気持ちを最も感じられるのはその手紙だけです。それを読みたくないというのは、ただ怖がってるだけなのではないでしょうか……?」

「……………」

「私が言いたいことはそれだけです」

 

続いてイストワールが部屋から出て行った。

 

「ねぷねぷは、みずみずのこと好きですか?」

「………好き、大好きだよ……」

「ならきっと、みずみずもねぷねぷのこと大好きなはずですぅ」

「……………」

「ねぷねぷ、待ってるですよ」

 

続いてコンパが部屋を出る。

残ったのは、ネプギアだけになった。

 

「………ねえ、ネプギア……」

「なに、お姉ちゃん」

「本当に、ミズキは私達のこと好きなのかなぁ……?ミズキは私達のこと………」

「………今から確かめればいいと思うよ」

「ネプギア……」

「それで、帰ってこようよ。別れるのなんて、そんなの嫌だって」

「でも私、また負ける……」

「じゃあ強くなればいいんだよ。私も強くなるよ。それに……」

「……………」

「負けたって、もう1回挑めばいいんだよ。今度は負けないよって、何度でも」

「ネプギア………」

「待ってるよ、お姉ちゃん。一緒に行こう?」

 

ネプギアも部屋を出ていった。

残ったのはネプテューヌとパソコンと、ミズキがくれたぬいぐるみだけ。

 

「ミズキ………」

 

ネプテューヌは震える手でカーソルを動かす。そしてそのカーソルは『ネプテューヌへの手紙』で止まった。

 

本当に、ミズキは私のこと、好きなの……?

 

あの時の寂しい笑顔を思い出す。雨に濡れた寂しい笑顔。だけど、その腰には、確かに……。

 

私の、キーホルダー、持ってた……。

 

ネプテューヌは確かな決意を胸に、その手紙を読み始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「お姉ちゃん……」

「ネプ子」

「ねぷねぷ……」

「ネプテューヌさん……」

 

リビングにはみんなが揃っていた。

ネプテューヌはバッと頭を下げる。

 

「ごめん、みんな!それと、ありがと!」

 

みんなが笑顔になっていく。

 

「私、完全復活だよ!まずはラステイションから!さあ、探しに行こう!」

 

『…………うんっ!』

 

こうして、ネプテューヌ達はラステイションへと旅立った。




時間が少し前後しました。

時系列としては「アイエフ達駆けつけ」→「その3日後にミズキとノワール達がラステイションで出会う」→「その4日後にネプテューヌ復活」です。

果たしてネプテューヌ達はミズキに出会えるのでしょうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミズキの残り香

はあ?1話の半分も終わりませんよ…?




君は海の向こうへと駆け出した。

 

なんでそんなことができるの?海の向こうにはなにがあるかわからないのに。

 

君は空の向こうへと駆け出した。

 

なんでそんなことができるの?空の向こうにはなにがあるかわからないのに。

 

君は振り向いてこう言った。

 

僕がいるには、ここはあまりにも退屈すぎるからだよ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……ねえ、よくわからないのだけれど」

 

ノワールの眉がピクピクと動く。

腕を組んだ姿は不機嫌そのものだ。

 

「なんで隣の国の女神がウチの教会で寝てるのかしらっ⁉︎」

 

それもそうだ。

ベランダに設置されたベッドでネプテューヌがくつろいでいる。

………いや、なんでだと。

これはつまり、日本の首相官邸でオバマ・ザ・プレジデントが「アイムハッピー。ハッハッハ」とか言いつつダラけてるのと同じようなことだ。アベ・ザ・ソーリダイジンが「ホワイ。アイキャントアンダスタンド」というのも仕方のないことだろう。

 

「気にしないで〜、ノワール……」

「私が気にするのよっ!」

 

ネプテューヌといえばつい数時間前の勢いは何処へやら、完全に安眠モードだ。

 

「お姉ちゃん……」

「わかってるよ〜、ネプギア〜。ねえ、ノワール。ちょっと頼みがあるんだけど〜」

「何よ。悪い予感しかしないのだけれど?」

「私とさ、模擬戦してくれない?1回だけでもいいからさ〜」

 

案外まともな頼みだ。

普段のノワールなら聞いていたかもしれないが……生憎今は無理だ。

 

「今は無理よ」

「え〜!なんでよ!」

「これよ」

 

右手の手袋を外して手首を見せる。そこには包帯が巻かれていた。上からではわからないが包帯の下には湿布が貼られている。

 

「え?ノワール、怪我?」

「利き手の手首をね。だから、今は無理。治ってからならいくらでも相手してあげるけど……」

「私が手当しましょうか?」

「いいわ。もう手当はしてもらったから」

 

そう言ってノワールは手袋をつけ直しながらベランダから部屋へ戻っていく。

 

(あの包帯の巻き方、どこかで……?)

 

「もう〜、つれないなあ、ノワールは!そんなんだから友達少ない〜とか、ボッチ〜とか言われちゃうんだよ!」

「なっ!」

 

なかなか痛いところを突かれたようでノワールがうろたえる。

 

「手首の怪我ぐらい、奇跡のパワーでパパッと治しちゃいなよ!可愛い可愛い女神様からの頼みだよ〜!」

「治せるわけないでしょ!それに、友達くらいいるわよ!」

「………ふ〜ん?誰、それ?どこのどなた様?」

「う………!」

 

ノワールが答えに窮しているところにエレベーターが到着した。そこには書類の束を抱えたユニがいた。

 

「お姉ちゃん、書類終わったよ」

「あ、ありがと。そこの机に置いといて」

「うん」

 

ユニは机に書類の束をドンと置く。

そして未だに言い争いをしているノワールを見てもじもじし始めた。

 

「あ、あの……お姉ちゃん」

「だから……!ん、どうしたの、ユニ?」

「どうかな、今日、結構早く仕事、出来たんだけど……」

 

自信がある。今日は特に早いタイムのはずだ。よく頑張ったねと頭を撫でられてもおかしくはない。

 

「…………ええ。よく頑張ったわね。お疲れ様。今日はもう休んでいいわよ」

「………うんっ!」

 

頭は撫でられなかったが褒めてもらえた。

だが、ノワールの表情は笑顔のはずなのになんだか寂しい。ネプテューヌはその笑顔に見覚えがあった。ミズキもしていた顔だ。

 

「ノワール……?」

 

胸がズキズキと痛む。ノワールも、何か嘘をついている?何か、隠している?

 

「あ、あの、ノワールさん。私ちょっと……」

「ん、どうかした?」

「いえ。ちょっと、行ってきます」

 

ネプギアも寂しい笑顔で行ってしまった。ノワールの笑顔には気付いていないだろうが、ミズキのことを考えて辛くなってしまったのかもしれない。

ネプギアは1人にしてあげたい。

 

「………あ〜!もしかして友達ってユニちゃんのこと⁉︎ダメだよ、妹はさすがに友達としては……!」

「ち、違うわよ!」

 

そんなことを話してノワールを引き止める。

今、私は酷い顔をしてるんだろうなって思った。

 

そしてユニは寂しい笑顔をして出て行ったネプギアを不思議に思った。

 

「ネプギア……?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……………」

 

湖の湖面を橋の上から見つめる。湖面に映った自分の顔は我ながら酷いものだった。

 

「ミズキさん………」

 

「ネプギア」

「……ユニちゃん……」

 

2人は座って話し出す。

 

「ユニちゃんは最近どう?仕事とか……」

「私?私は大丈夫よ。ミズキさんが言ってくれた言葉があるから」

 

『ひたむきな心と負けん気』。

ネプギアはそんな言葉を受け取っているユニを羨ましく思った。消えてしまったミズキの残り香がユニに残っている気がしたのだ。

 

「ネプギアこそ、どうしたの?らしくないわよ」

「……あのね、ラステイションに来たのはね、理由があるの」

「理由?」

 

そう、理由(ワケ)がある。

 

「実は……私達のところからミズキさんがいなくなっちゃったの。だから、私達は……」

 

そうだ、私達は。

 

「探しに来たの。それで連れ戻しに来たの」

「ミズキさんを?」

 

きょとんとした顔をしているユニ。

 

「ミズキさんならつい数日前までここにいたわよ?」

「うん………え?」

「え?」

「ええええええええっ⁉︎」

 

慰めの言葉とか励ましの言葉とかが来るかと思っていたらまさかの情報でしたっ!

 

「あ、あれ?ミズキさんはネプテューヌさんと喧嘩したって……。消えちゃったってどういうこと?」

「き、聞きたいのはこっちだよ!っていうか、ユニちゃんはミズキさんに会ったの⁉︎」

「あうあうあうあうネプギア揺らさないで揺らさないで混ざるぅぅぅ」

 

ネプギアは立ち上がってユニの肩を掴んでブンブン揺さぶる。

ユニはぐるぐると目を回してしまった。

 

「だ、だって……私稽古だってつけてもらったわよ?」

「け、稽古まで⁉︎」

「強いのね、ミズキさんって。私、全然歯が立たなかったわ」

「ゆ、ユニちゃん!その話、kwsk!」

「え?う、うん………」

 

ネプギアの必死さに内心ドン引きしながらユニはつらつらと数日前の出来事を話し始めたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃。

ネプテューヌとノワールはまだ言い争いをしていた。ネプギアから注意をそらすために始めた言い争いだったが、楽しくなってきちゃったのだ。

 

「だから!友達はいるの!」

「どこの誰?教えてよ、ノワール」

「そ、それは………」

 

ぐっ、と言葉に詰まる。

だがノワールには最終手段があった。

 

「い、いるわよ。あの人が」

「だから誰?」

「み、ミズキよ」

「……っ………」

 

不意にノワールからその名前が出てきてネプテューヌは一瞬怯んだ。

それをノワールは攻撃のチャンスとして捉えた。

 

「っていうか、私と模擬戦するためにわざわざ来たわけじゃないでしょ?」

「え?い、いや、それは確かについでだけど……」

 

ラステイションに来てミズキを探すついでにノワールやモンスターと戦ってレベルアップしたかっただけで。

 

「ミズキならまだラステイションにいるかもしれないわよ。探しに行ってきたら?」

「………え?な、なんでそのこと!」

「え?なんでもなにも、ミズキと喧嘩したんじゃないの?」

「だ、だから!ノワールはなんでそのことを知ってるのさ!」

「ミズキと会ったからよ」

「……………!」

 

ネプテューヌは胸の内が暖かくなるのを感じた。

ミズキは、ここにいる……!

 

「お、お姉ちゃん!大変だよ!ミズキさんが、ミズキさんがここにいるって!」

「ま、待ってよネプギア〜!」

 

慌てた様子でネプギアとユニがエレベーターから駆けて来た。

 

「………どうやら、何かあったみたいね」

「うぐ」

「仕方ないわよ。正直に話しましょう、ネプ子」

「ですぅ。これ以上は誤魔化せないですよ」

「…………わかった」

 

こうしてネプテューヌは数日前の出来事を話し始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「なるほど、ね……。そんなことがあったの……」

 

ノワールとユニはネプテューヌ達から話を聞いて頷く。

 

「確かに、話が噛み合わないとは思ってたのよね。そうとわかっていれば引き止めていたのに……」

「すれ違いだったね」

「そう!その話だよ!」

「そう!その話です!」

 

ネプテューヌとネプギアが同時に声を荒げる。アイエフとコンパは苦笑いだ。

 

「ここにミズキさんがいたってどういうことですか⁉︎」

「どういうことなの⁉︎」

「わかったわかった話すから落ち着いて」

 

ノワールが立ち上がった2人を椅子に座らせる。

最近は妹も含めて熱くなる人が多くて困る。

 

「私がミズキに会ったのは……ちょうど、4日前かしら」

「私達を助けてくれたんです」

「何から⁉︎」

「そ、そこまで………」

 

これはもう根掘り葉掘り聞かれることは決まっているらしい。ノワールとユニは胃が痛くなるのを感じた。




オバマ・ザ・プレジデントとアベ・ザ・ソーリダイジンはお気に入り。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

緑の提案

EX化って言うとウルトラ怪獣が出てきますね。僕のトラウマはシルバーブルーメです。


誰か、彼の名前を教えてください。

 

私は彼に感謝したいのです。

 

誰か、彼の名前を教えてください。

 

私は彼に助けられたのです。

 

誰か、彼の名前を教えてください。

 

彼は、死んでいたのです。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「まず、私達はEX化したパワフルコングの討伐をしていたの」

 

「そしたら、EX化したエンシェントドラゴンのつがいが現れた」

 

「ここまではいい?」

 

「大丈夫です」

「大丈夫ですぅ」

 

ノワールの確認にアイエフとコンパが返事をする。

 

「ネプギア、EX化って?」

「あの、赤黒いモンスターいたでしょ?アレのことだよ」

「ああ」

 

ネプテューヌが閉じこもっていた時期に決まったことなのでネプテューヌはそれを知らなかった。

 

「私もその時にこの手首の怪我をしてて結構危なかったの。その時に助けてくれたのが、変身したミズキだったわけ」

「青色と白色だった?」

「………いや、違うわね。胸のあたりが赤かったわよ」

「私達が知ってるのと、違う機体……?」

 

ネプギアとネプテューヌが首を傾げる。

 

「で、ミズキに怪我の手当てとかしてもらったからそのお礼に教会に招いたの」

「あ!だから!その包帯の巻き方……」

 

アイエフが声を上げる。

 

「あいちゃん、どうしたですか?」

「その包帯の巻き方、どっかで見たことあると思ったらコンパの巻き方よ。ほら、パーティの時にコンパが応急手当したでしょ?」

「はい、したですぅ」

「その巻き方、ミズキは覚えてたのよ。それで………」

 

探せば探すほどにミズキの残響が聞こえる気がする。ミズキの手がかりが見つかる。

 

「それでその夜から私はミズキさんに稽古をつけてもらったの。次の日の……昼前までやってたかな」

「そこまでは読者もわかってるよ!その後だよ、後!」

「ど、読者……?えーと……」

 

ネプギアのメタ発言にユニもドン引きしている。

 

「確か、やらなきゃいけないことがあるって言ってたよ。それを終わらせてからじゃないと、帰れないって……」

「やらなきゃ、いけないこと……?」

「なんだろう……?」

 

ネプテューヌとネプギアが悩む。

だが、それがわからないから悩んでいるのだ。

 

「何か、心当たりはありませんか?」

「どんな些細なことでもいいですぅ」

「それについては私も何も知らないけど……」

 

でも、当分の目的には心当たりがある。

 

「実はEX化したエンシェントドラゴンは1匹逃げたの。多分、それを討伐しに行くんじゃないかしら」

「そうだね。ボロボロだったけど、危険だもんね」

 

片腕と片目と肩翼を失ったとはいえ、恐ろしいモンスターだ。

 

「それは、何処にいるの⁉︎」

「わからないわ。見かけたらすぐ報告するように国民には言っているけれど、エンシェントドラゴンの件は1つもないわ」

「そんな………」

「何処かに隠れて傷を癒しているか、何処かでのたれ死んだか……」

 

そのどちらかだろう。

 

「………ノワール……何とかならない?」

 

エンシェントドラゴンを見つければそこにミズキはいるかもしれない。だがミズキはもうエンシェントドラゴンを倒して何処かへ行ってしまったかもしれない。

ネプテューヌは祈る気持ちでノワールに縋る。

 

「………エンシェントドラゴンの件は私達にも放っておけない件よ。そのうち、討伐しようと思ってたわ」

「え……?」

「強くなって、ミズキを見つけたいんでしょ?なら、手伝いなさい。モンスター退治よ」

「の、ノワール様それは一体……」

「モンスター退治に出かけるの。モンスターを退治しながらエンシェントドラゴンないし、ミズキを探す。そうすれば、強くなりながらミズキも探せるんじゃないかしら」

「………うん!ありがと、ノワール!」

「別にアンタのためじゃないわ。そんな顔見てると私の寝覚めが悪くなるからよ」

「もう、ノワールは素直じゃないなあ!そんなんだからボッチなんだよ!」

「だから!ボッチじゃないわ!」

 

また言い争いを始めたノワールとネプテューヌ。

その脇でユニがネプギアにそっと話しかけた。

 

「大丈夫よ、ネプギア。きっと見つかるわ」

「うん……だよね。きっと見つかるよね」

 

するとネプギアの『Nギア』から着信音が鳴り始めた。

 

「あれ、メール……。ロムちゃんから……?『私がラステイションにいるって知ってる』……?」

「私が知らせたの。凄い羨ましがってた。後でミズキを見つけたら連絡するようにも言っておくわ」

「うん……ありがとね、ユニちゃん」

 

ワタシタチハテキ!

ユウコウジョウヤク!

 

「あの2人はまだやってるの……?」

「まだまだ時間がかかりそうですぅ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ラステイションから遠く離れた白の国、ルウィー。1年を通して雪が降り積もる国だ。

その教会でロムはネプギアにメールを送った端末を閉じる。ラムは不機嫌そうに足をタンタンと鳴らしていた。

ロムとラムは白の女神ブランが治める国、ルウィーの女神候補生だ。2人は双子で外見は瓜二つ。だが、性格は真逆と言っていいほど違う。

姉のロムは無口で大人しい。逆に妹のラムは活発で元気だ。だが2人はいつも仲良し。育ち盛りの子供だ。

 

「いいなあ……。ネプギアちゃんとユニちゃん、一緒に遊べて……」

 

ロムはボソリと呟く。

それは近くでマウスをクリックしているブランにも聞こえたのか、少しクリックが荒くなる。

 

「……………」

「お姉ちゃん、どうして私達は他の国に遊びに行っちゃいけないの⁉︎」

 

ラムがついに振り返ってブランに抗議する。

ブランは静かにマウスを握って静かに言い返した。

 

「………ワガママ言わないで……」

「私もネプギア達と遊びたい!」

「……ミズキを連れて来るって、約束したはずよ……」

「ミズキって人、いつまで経っても来てくれないじゃない!もう式典から1週間経ったのよ⁉︎」

「しばらくはミズキだって疲れてるでしょう?今日、ネプテューヌに連絡してみるから……」

「イヤ!今がいい!」

「………仕事の邪魔………」

「どうして、どうして、どうして⁉︎」

「……………」

 

ロムがちらりと2人を見る。

 

「ねえ⁉︎」

 

駄々をこねるラムについにブランの堪忍袋の尾が切れた。

振り返って座っていた椅子の肘掛を叩く。

 

「うるっせえ!仕事してるって言ってるだろッ⁉︎」

 

だが言ってからブランはハッと我に帰る。目の前には声を荒げたブランから怯えたロムを庇うようにラムが立っていた。

 

「………お姉ちゃんのイジワル」

 

ラムはそれだけ言い残す。

 

「行こ、ロムちゃん」

「あ、待って、ラムちゃん……」

 

2人は門を開いて部屋を出てしまった。

それからブランはパソコンに振り返った。

 

「悪いわね、騒がしくて」

《いいえ。いいんですのよ》

 

パソコンにはとある人が映し出されていた。

緑の女神、ベール。ベールは画面の向こうで腕を組んで優しい笑顔をしていた。

 

「互いに戦っていた私達と違って、妹さん達は無邪気ですわね」

 

そのセリフはベールの治める国にだけ妹がいないことから出たセリフなのだろうか。

ネプテューヌにはネプギア、ノワールにはユニ、ブランに至ってはロムとラムという双子までいるのに、ベールには妹がいない。

そのためにベールは裏でネプギアを妹にしようと企んでいるのだが……それはまた別の話。

 

「私達も、もっと仲良くなれるのかしら」

「武力の行使をやめたからといって、いきなり『良き隣人』になるわけではないわ。そんなことより………」

「ええ。では、提案の続きをお話ししますわね」




良き隣人ってのはキリスト教でよく使われますね。他の宗教でも使われるかもしれませんが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネプテューヌの国、ノワールの国

ようやくアニメ1話の半分を超えた。あと少しで戦闘です。ラステイションに相応しいあの機体が登場の予定。


昔、こんなお話がありました。

 

神様が悪い街を滅ぼそうとしましたが、人間がそれを止めようとしたのです。

 

神様、あの街にいい人が100人でもいれば街を滅ぼすのをやめてくださいますか。

 

許そう、私は街を滅ぼさない。

 

神様、あの街にいい人が10人でもいれば街を滅ぼすのをやめてくださいますか。

 

許そう、私は街を滅ぼさない。

 

神様、あの街にいい人が1人でもいれば街を滅ぼすのをやめてくださいますか。

 

許そう、私は街を滅ぼさない。

 

結局、街は滅んでしまいましたとさ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ノワールはマウスをクリックして国民からのモンスター退治の依頼を見る。

モンスター退治というのは対症療法である。

ある程度モンスターを事前に倒すことはできるものの、モンスターの動きなどを把握できているわけではない。

つまり、依頼が尽きない。

 

「そう、ね……。ラステイションの東の遺跡でエンシェントドラゴンを見つけて……。その後アイツは南に逃げたから……」

 

大まかではあるがエンシェントドラゴンの動きを考える。傷ついたドラゴンが休息を取るとしたら、何処に隠れるだろうか?

さらにそれプラス、モンスター退治の依頼やネプテューヌの経験になるほどのモンスターがいる場所の兼ね合いも考える。だが危険すぎてもいけない。さらにクエストの優先度も考えて………。

 

「………むむむむ」

 

ノワールの中ではミニノワール達があーでもないこーでもないと会議を繰り広げていた。

 

「何よ!ネプテューヌなんかのためにそこまで考える必要があるの⁉︎」

「いや、待とう。これはミズキのためでもあるんだ」

「確かに……。ミズキのことは、ちゃんと考えなきゃ……」

「それに、国民のためでもあるんじゃなーい?」

「あのドラゴンを蔓延らせてしまってはならない」

「結局、何を1番優先するかでしょ?」

「ねえそこのノワール。アナタ好きな人とかいる?」

「私は国民を愛しておりますわ。ノワールこそ、好きな人はいますの?」

「そこ!無駄話しない!」

「だから、まず最初に考えることは……!」

「そこから決めないと……!」

「饅頭食べたい……!」

「だから無駄話はしない!」

「どうでもいいけどマカロン」

「言わせません!」

「私寝ていい?」

「ザメハ!」

「はっ、ここは誰?私は何処?」

「言ってることがメチャクチャよ!」

「こ、こう……こうして……コロンビア」

「悩むほどのこと⁉︎」

「この、顔の角度がね……?」

「そんなことはどうでもいい!」

「あ!そろそろ新しいドラマが始まるわよ」

「え、マジ?録画しといてー」

「私はリアルタイムで見ます!そういうこだわりなのです!」

「だーかーらー!話を聞きなさーい!」

 

ドカーーーーン!

 

「わわっ!ノワールの頭がボンバイヤーだっ⁉︎」

「お、お姉ちゃん⁉︎」

「我ながら、役に立たない私ね……」

 

嫌気がさす。もうちょっと使えると思ったが。ネプテューヌの怪電波とか放射能とかを受信した挙句、巨大化して目覚めてオキシジェンデストロイヤーで殺されてしまうのだろうか。

だがその可能性は今自分でミニノワール達を爆破したので消えた。良かった、この先怪獣は生み出されないみたいね。

 

「世界からシン・ゴ○ラの脅威は去ったわ……」

「ノワールは何を言ってるの?」

 

ネプテューヌですらドン引きする有様。ノワールは達観した顔で空を眺めていたがそのうちパソコンをまた弄り始める。

 

(そうよ、簡単なことじゃない)

 

ネプテューヌのことは一旦頭から追い出そう。追い出して捕まえて魔女裁判にかけた末に一生バームクーヘンを水なしで食べ続ける刑にして干からびさせて天日干しして日保ちがするようにすればいいのだ。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

「そんなことないわよ」

 

ネプテューヌがカッピカピになる姿を想像すると頬が緩む。

心なしか上機嫌になったノワールは目当てのクエストを見つけた。

 

「これでいいんじゃない?」

「なに?そのクエスト」

「ナスーネ高原でモンスターの大群が出現したの。多分、EX種の影響だと思うわ」

「モンスターの大群が出現したことと、EX種の存在って何か関係があるんですか?」

「いくらモンスターだって、何もないところから一箇所に大発生はしないわ。多分、EX種に住処を追われたのよ」

「あ、なるほど……」

「だから、近くにもしかしたらEXエンシェントドラゴン、そしてミズキがいるかもしれないわね」

 

無論、推測の域を出ないが。

 

「モンスターは大したことないからレベルアップにはならないと思うけど……それでもいい?」

「うん、いいよ。レベルアップは二の次だもん。まずは、ミズキを見つけること!」

 

ネプテューヌはミズキに会えるかもしれないと張り切っている。

 

「それに、プラネテューヌの国境にも近いしね」

「え〜⁉︎それってもしかして、その足で帰れって言ってるの〜⁉︎」

「当たり前じゃない。まさか、ミズキが見つかるまでここにいるつもり?」

「そのつもりだよ!こればっかりは譲れないからね!」

「やめてよ。アナタがいると仕事の邪魔なのよ」

「最悪野宿だってする覚悟だよ、私は!ミズキだって何かやり遂げるまでは帰ってこないって言ってたんでしょ?だったら私だって、ミズキを連れ帰るまではプラネテューヌには帰れないよ!」

 

普段はおちゃらけているネプテューヌだが……大事なところは芯が通っている。その芯が、譲れないところだと叫んでいるのだろう。

 

「………わかったわよ。勝手にして」

「よ〜し!じゃあみんな!モンスター退治に出発だよ〜!」

「お〜!……ってなんでアンタがリーダーみたいになってんのよ〜!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ノワール達、モンスター退治一行はナスーネ高原へと向かう森の中を歩いていた。先頭はノワールとユニが歩いて道を案内する。

だが。

 

「いい?そもそもナスーネ高原には約5種類のモンスターが生息していて……」

「お姉ちゃん」

「つまり……ん、何よ」

「誰も聞いてない……」

「え⁉︎」

 

姉の後ろを控えめに歩いていたユニが言い辛そうに言う。実際言い辛かったのだが。

ノワールが振り向いた先にはプラネテューヌからの御一行がそれはもう思い思いに過ごしていた。

 

「はふぅ、疲れたですぅ」

「大丈夫、コンパ?」

 

丸太に座って休憩するコンパと心配するアイエフ。これはまあ、許そう。

 

「はっ!これは幻の後ろから見ると読めない看板ッ!」

 

シャキーーン!

 

………………。

 

「お姉ちゃん、看板って基本そうだよ……」

 

ビシッとポーズを決めながら言ったネプテューヌに浴びせられるのは容赦ない静けさの洗礼。ネプギアだけがようやくそのツッコミを口に出せた。

 

「ちょっと!」

 

というわけで反省タイム。

 

「いいっ⁉︎」

「ほら、ペース落ちてる」

 

ノワールが最後尾になって1番後ろのネプテューヌを棒でつついて前に進ませる。

 

「もう〜、ノワールってば真面目なんだから〜」

「悪い?」

「いっつもそれだと、疲れちゃわない?」

「疲れるくらいなんてことないわ。私は、もっともっと良い国を作りたいの」

「そりゃあ私も良い国作りたいけど〜、楽しい方がいいな〜」

「アナタはそれでいいの?」

「うん、いいの」

 

ネプテューヌは少し前に走ってノワールの方を振り返る。

 

「ミズキが手紙でそう言ってくれたから。ミズキは私の政治が好きだって。人を笑顔にさせる、楽しい国を作ろうとするその政治が好きだって、ミズキは言ってくれたの」

「…………………」

「だから私は、私が間違ってるとは思わない。私は私の作りたい国を貫き通せるんだ」

「…………ネプテューヌ」

「あ!だからってノワールの政治が間違ってるって言ってるわけじゃなくて!」

「ペース落ちてる」

「あいたぁ⁉︎」

 

ネプテューヌの腹に棒が刺さった。

そうこうしているうちに森の向こうから歓声が聞こえてきた。

ノワールは走ってその歓声の原因を確かめる。

そこにはナスーネ高原で暮らす人々がノワールに向かって手を振っていた。

 

「女神様だ……」

「ブラックハート様がいらっしゃった……」

 

ノワールもそれに手を振って返す。

だがハッと何かを思い出す。

 

「いけない!アクセス!」

 

ノワールの体が0と1の数列の中に包まれた。

 

「ええ⁉︎変身今やっちゃう⁉︎」

 

ノワールの服が消え、代わりに体を新しいタイツのようなスーツが覆っていく。髪を留めていたリボンを外すと真っ黒だった髪が真っ白になって輝く。その背中にはプロセッサユニットが装備された。

 

「女神はいつも国民に威厳を感じさせることが必要だと私は思うわ」

「だからって、わざわざ変身は……」

「ネプテューヌはどう思うの?」

「私?私は……」

「ミズキが好きだったのは、アナタがどんな風に国民に接する姿だったのかしらね」

 

ノワールはそう言って宙を飛んで国民の元へと降り立っていく。

 

「みなさん、モンスターについて聞かせてくれるかしら?」

 

ネプテューヌは省みる。いつも私はどんな風にプラネテューヌの人と接していただろう。どんな風にミズキと接していただろう。

ただ、それと同時に。ふと、思うこともあったのだ。

 

「目の前で変身しても威厳とかなくね?」

 

とりあえずネプテューヌはそれが言いたかった。




ミニノワール、全滅。仕方ないね。
ネプテューヌか天日干しされる姿を想像して笑ってしまった俺は末期だと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

R18の恐怖

タイトルからして俺どうかしてますね。内容もですけど。


この手が君に触れる。

 

この手から君に少しでも優しさが伝わればいいのに。

 

この手が君に触れる。

 

この手から君に少しでも想いが伝わればいいのに。

 

この手が君に触れる。

 

この手から君の気持ちを感じられればいいのに。

 

この手が君と離れる。

 

君の想いと優しさは、僕を確かに変えた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ナスーネ高原の辺りに住んでいた人々の案内でモンスターが蔓延っている地域まで向かう。

そこにはよくもまあこんなにいるもんだと呆れるくらいのモンスターの数。目の前にも丘の上にも様々なモンスターが彷徨っている。

それぞれのモンスターが弱いことが救いか。だが、『戦いは数だよアニキ』ということわざもある。

 

「ここがナスーネ高原ね」

「ええ。モンスターが大量発生して困っているのですわ」

「わかりました。お隣の国のネプテューヌさんとネプギアさんが対処してくれるそうです」

「ねぷっ⁉︎いきなりふる⁉︎」

「この数を私達だけでやるんですか?」

「ミズキよりも強くなりたいんでしょ。ついでに、活躍もアピールしときなさい」

 

それもそうだ。経験値が低いならたくさん倒せばいいだけのこと。

 

「広報用に、撮影しといてあげるね」

 

ユニがネプギアからNギアを受け取って起動する。

 

「ちぇ〜、面倒くさいなあ」

 

どうせならメタルな奴をたくさん狩って楽に経験値を稼ぎたい。これだけモンスターがいればメタルスライヌとか転がってないものか。

 

「ま、こんな奴らくらい、楽勝だもんね!」

 

『戦いは数だよアニキ』ということわざはあるが……『数だけいたって』ということわざだってある。

ネプテューヌは体操代わりに坂道を前転で降りてジャンプしながらローリング。

そして華麗にシュタッと降り立った。オリンピックの金メダルも真っ青な床。10点、10点、10点!

 

「やっちゃおっか!」

 

まずはミズキに会う前にウォーミングアップから!

ネプテューヌの手に日本刀が握られる。ネプテューヌはその柄を引き抜いて投げ捨てた。

 

「ネプギア!」

「うん、お姉ちゃん!」

 

私だって、強くなる。少しだけだけど、ミズキさんに公園で教えてもらったことはまだ私の胸の中にある!

ネプギアは手に持ったビームソードの刃を展開する。

 

 

ーーーー『ignited』

 

 

「…………っ!」

 

ネプテューヌとネプギアは果敢に敵の群れに突っ込んでいく。

ネプテューヌの一振りが何匹もの敵を一斉に葬る。

 

(ミズキなら、これくらい……!)

 

きっと、笑いながら倒していくんだ。

微笑みながら、正確無比な動きで、無駄なく、迅速に。

私だって、負けていられない!ミズキに、勝つんだから!

 

「はあっ!」

 

ネプギアのビームソードも既に何匹も敵を倒していた。

 

(思い出して、ミズキさんはどうするって言ってた……⁉︎)

 

常に2秒、3秒後の相手の動きを予測し、それに見合った行動を取る。それはたとえ何人敵がいても同じこと。

ネプギアは視界に映る敵の次の動きを予測していた。未来視なんて大層なものじゃない。誰にでも出来る、基本中の基本!

 

「やあっ!」

 

飛び込んできたモンスターに合わせてビームソードを振るう。それはしっかりと命中してモンスターは消える。

やった、見えてる。私には、見えてる!

 

「さすがネプギア!我が妹よ!」

「………うんっ!」

 

だが目の前の敵を倒したからといって戦いは終わらない。

丘の向こうからまだまだモンスターは湧き出てきた。

 

「…………」

「……っ、………」

 

剣を構え直して気を引き締める。

数は多い、注意しなくてはならない。だが、それを恐れていては何にもならない!

 

「ちぇすとーーーぉっ!」

「本気で行きます!」

 

ネプテューヌとネプギアは数の不利などものともせず敵をどんどん倒していく。

それをユニはNギアで撮影していた。

できるだけ、カッコよく。できるだけ、綺麗に。活躍が一目でわかるような写真が望ましい。

ユニは写真を撮りながら2人の活躍を見て頬を緩める。

だがノワールの方を振り向くとノワールは厳しい顔つきで腕を組み、2人を見ているだけだ。

 

「数が多すぎるわね」

「私達も手伝うです、あいちゃん」

「そうね」

 

2人はネプギアとネプテューヌのいるモンスターの群れの中へと走っていく。

アイエフとコンパだって、ただネプテューヌがミズキを連れ戻すのを見ているだけのつもりはない。

2人だって、戦う。ネプテューヌやネプギアがいなくたってミズキを連れ戻せるように。

 

「あいちゃん、コンパ!」

 

ネプテューヌとネプギアは2人の援軍を見て嬉しくなる。だが、それが気を緩めることとなってしまった。

 

「きゃっ!」

 

ネプギアが敵の植物モンスターの触手のムチを食らう。ビームソードで受け止めたからダメージは小さいが、普段なら問題なく避けられる攻撃だ。

 

(ダメ!集中しなきゃ……!)

 

ネプギアは深呼吸をしてからまた敵モンスターに向かった。

アイエフが両腕を組むとその袖口からカタールが現れる。

 

「いくですよ〜!」

 

コンパの手元には大きな大きな注射器が。

 

「はっ!」

 

アイエフの両手のカタールでモンスター達が数匹倒される。

ネプギアは女神式典のために1度しかミズキと相手はしていないが、アイエフはその間も何度かミズキと特訓をしているのだ。

その教えと教訓はアイエフの中に流れて動きを変えていく。

 

「えいっ!」

 

コンパは大きな注射器を足元のモンスターに突き刺す。そのまま注射器を押し込むと何かしらの薬品が注入されモンスターはドロドロに溶けていく。

アイエフは思う。マジでアレなんの薬品?

たまにアイエフは笑顔でモンスターをドロドロに溶かしていくコンパに薄ら寒い恐怖を覚えるのだった。

 

「まさに百人力!これで勝ったも同ぜーーー」

 

と言いかけたところで丘の向こうから大量の植物モンスター達が飛び上がった。

住処を追われたモンスター達は必死だ。まさに、生きるか死ぬか。

モンスター達から触手やら粘液やらスライヌやらイイ感じのもののオンパレード。

18禁でR18、泡風呂お布団なんのその。アウトな世界で大活躍する触手やら粘液やらの洗礼がネプテューヌ達を襲う。

 

「お姉ちゃん、私達も助けてあげた方が……」

「ダメよ」

 

ユニの提案はノワールに却下された。

 

「ここはあの子達だけでやることに意味があるの」

 

ユニは、それをどうしても納得できなかった。

お姉ちゃんの狙いはわかってる。さっき言った通り、ミズキさんを探すついでにレベルアップを図るというのは本心。

だけど、ノワールは嘘はついていないが本当のことも言ってはいなかった。

ノワールの狙いはネプテューヌのシェアを回復させること。

ノワールもここ最近のプラネテューヌのシェアの下がりようは把握していた。いくら怠け者だと言っても、下がり方が極端すぎたのだ。

そんな時にネプテューヌがやってきてミズキが消えた話をした。そこでノワールはその問題とミズキの話が結びつく。

きっとネプテューヌはミズキが消えてしまって、落ち込んでいたのだ。それで仕事がいつも以上に出来ず、シェアが下降していた。

だから、シェアを上げるべくネプテューヌ達にモンスター退治を任せているのだ。

広報用の写真を撮り、ネプテューヌの活躍をここの人々にアピールさせ、シェアを上げる。

女神にとってシェアとはつまり力だ。シェアが上がれば自ずと力も上がる。それはいずれ、ミズキに勝つ力となるはず。

それがノワールの考え。

だがユニはそれにどうしても納得できない。

 

(どうして?お姉ちゃんがいれば、あんなのすぐに……)

 

「………うん」

 

ユニは渋々頷く。

ネプテューヌ達の方ではなかなかアレな光景が繰り広げられていた。

 

「きゃっ!変なところ触るな!」

「気持ち悪いですぅ〜……」

「そんなとこ、入ってきちゃダメ!……ぅんっ!」

「だーはははは!くすぐったい、笑い死ぬ!あーはははは!助けて、ひーっ!」

 

ネプテューヌ達に絡みついているモンスターの後ろにもまだまだモンスター達が待ち構えている。隙あらばR18にしてしまおうと企むDNN.comのしもべ達。

やめて!『超次元ゲイムネプテューヌ』は健全な少年少女のためのゲームよ!

 

アイエフの体には切り払っても切り払っても新しい触手がまとわりつく。

ネプギアの体にも同じだ。ネプギアにはなんだかよくわからない緑色のネバネバしたものがかけられていた。

 

「こ……のっ……!」

「はあっ、ぅぅん、んぅっ……!」

 

ミズキの特訓を受けたことのある2人はミズキの言葉を思い出していた。

 

『もし、君達が負けそうになって』

 

「ふぅっ、はぁ……っ」

「やっ、離れて……!」

 

『土壇場の土壇場、ピンチのピンチのピンチの連続の時』

 

「ふざけないで、よ……!」

「アナタ、達なんか……!」

 

『そしてその時、後ろに守りべき人達や国民がいた時は』

 

「ふぅっ、はあ………」

「うううっ!」

 

『まず1度、深呼吸。どんな状況でも集中が大事だ。雑念を追い払う』

 

「すぅーーーっ、はあ………」

「すぅっ、はぁーーーっ……」

 

ネプギアとアイエフは大きく息を吸って吐く。1度、体にまとわりつく触手や粘液は忘れる。自分をリセットし直す。

 

『そして恥も外聞もかなぐり捨てるんだ。泣いても悔しくても恥ずかしくても立ち向かうんだ!』

 

「やああっ!」

「はああっ!」

 

 

ーーーー『100年の物語』

 

 

ネプギアとアイエフは剣を振り回して手当たり次第に触手を切り刻んでいく。

服の中に入ってくるとか気持ち悪いとか考えてみればどうでもいい。そんなこと、誰かの命に比べればどうってことなんかない。

そして、ネプギアとアイエフはただ乱暴に触手を切り刻んでいるわけではない。

その上で、相手の2手3手先を読む。

もうネプギアとアイエフは体に触手など触れさせなかった。

華麗に、踊るように、舞うように周りの敵モンスターを倒した。

 

「お姉ちゃん!」

「コンパ!」

 

ネプギアはネプテューヌ、アイエフはコンパの元へ向かって2人に群がる敵モンスターを倒す。

 

「コンパ、大丈夫⁉︎」

「行くよ、お姉ちゃん!」

 

そしてすぐ敵に向かって剣を構え直す。もう油断はしない!

 

「………うんっ!いくよネプギア!」

「大丈夫です!やっちゃいますよ〜!」

「負けませんっ!」

「お前ら、冥界に送り返してやるよっ!」

 

4人はモンスターを撃退していく。誰かがやられたならみんなでそれをフォローする。

ネプテューヌ達はもう2度と触手に捕まることはなかった。

それを見ていたユニは一安心して微笑んだ。

だがノワールだけは厳しい目付きをしていた。

あんな雑魚モンスター達を1人で倒せないようじゃ……ミズキのあの強さには到底及ばない。

 

「ネプテューヌ……もっと頑張りなさいよね」

 




かのドズル様はことわざを言っていたのですね。

余談ですがピンチのピンチのピンチの連続もことわざですよ(大嘘

え?なんでスライヌから触手になったかって?いや、そんな、趣味とかじゃないですよ。本当ですってば。本当なの!この後の話に関わるの!そんな関わらないけど!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなEX

焼け付く息でなんで麻痺するんでしょう…。


アナタの目の前に赤と青の箱があるわ。

 

赤にはアナタの大切な人が入っているわ。

 

青にはワタシの大切な人が入っているわ。

 

さて、アナタはどちらを切り捨てる?

 

……フフッ、青よね。

 

じゃあ、赤を捨てましょう。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ、ふぅ〜……っ!」

 

アイエフはその場にへたり込む。

もうナスーネ高原にはモンスターは1匹たりともいなかった。

 

(集中すると……疲れるのね……。次からは適度に気を抜かないとダメね……)

 

集中して疲れるのは心のはずだが不思議と体まで重くなっていた。自分は案外スタミナがないのかもしれない。

 

「はふぅ……」

 

コンパは粘液だらけの体のまま倒れこむ。頭には触手の残骸が残っていた。

 

「もう……ダメぇ……」

 

ネプギアも倒れこむ。ネプギアも精神力を使ったせいか酷く疲れた。

でも、まだまだだ。あれくらいの敵に手こずるようじゃ、ミズキには勝てない。

 

(そうだ、今日ユニちゃんに模擬戦の相手してもらおう……)

 

アイエフさんにも。もっともっと頑張らなきゃ。

 

「はあ〜、鞭も触手も私の趣味じゃないよ〜……」

 

ネプテューヌは乱れた服を直そうともせずに座り込んだ。そこにノワールがやってきた。

 

「どうして女神化しないの。変身すればあんな奴ら、簡単に……」

「まあ、ほら、なんとかなったし?」

「他の人になんとかしてもらったんでしょ⁉︎」

「うう………」

 

それもそうだ。ネプテューヌは何も言い訳できない。

でも………。

 

「ミズキならきっと、変身しなくても倒しちゃうから……。私も、そうならなきゃって……」

「っ、そんなんだから……」

 

シェアが、ミズキは。そう言いたいところをぐっとノワールは飲み込んだ。それはきっと、ネプテューヌ自身が1番わかっているはずだから。

 

「せいぜい休んでおきなさい。私はトゥルーネ洞窟へ行ってくるわ」

「え、でもノワール手首は……」

「モンスター退治くらい、大丈夫よ」

「それじゃ、私も……」

 

ユニがノワールを手伝おうとするがノワールに一蹴された。

 

「大丈夫よ。ユニはネプギア達を介抱してあげて」

「あ、うん……」

「それじゃ、トゥルーネ洞窟へ案内してくれるかしら」

「あ、はい………」

 

ノワールは住人の1人に連れられて行ってしまった。

 

(私、ダメだなぁ……)

 

1人でやれるべきだった。ぎゅっと地面の草を握り締める。ブチブチと音を立てて足元の草が千切れる。

 

「あ、ユニちゃん、写真どうなった?」

「ん、撮れてるわよ。はい、返すわ」

 

ネプギアがユニからNギアを受け取って先程の写真を見る。

 

「……………」

「どうかしたの?」

「あ、ううん。フォームに無駄があるかなって……」

 

ネプギアはNギアを操作して自分のメアドに写真を送る。あの時は無我夢中といった感じだったが、見返してみればなんと無駄の多い。

 

「あの〜、ユニ様……」

「あ、はい。どうかしましたか?」

 

住人の1人がユニに控え目に近付いて話しかける。

 

「アレは一体なんでしょうか……?」

「アレ?」

 

住人が指差す方向はネプテューヌ達が戦っているところから少し離れた丘の上。

ユニとネプギアは顔を見合わせて住人と一緒に丘の上に登っていく。

そこから見下ろした先には驚くべき光景が広がっていた。

 

「ウソ⁉︎」

「これって……!」

 

その下には巨大なドラゴンの足跡。草を踏みつけ、地面を凹ませたのがはっきりわかる。

 

「エンシェントドラゴンの足跡⁉︎」

「この方角……トゥルーネ洞窟の方角だよ!」

 

まさか、あのEXエンシェントドラゴンが⁉︎

生きていて、トゥルーネ洞窟で休息を取っているのだとしたら……!

 

「お姉ちゃんが危ない!」

「知らせなきゃ……!」

 

すぐに振り返ってネプテューヌの元へと向かう。

だがネプテューヌとネプギア達の間の地面が大きく盛り上がり、その行く手を阻まれる。

 

「ねぷっ⁉︎なになに⁉︎」

 

地面を突き破って巨大なキノコ型のモンスターが飛び出てきた!

その体は、赤黒い。

 

「EX種⁉︎今、このタイミングで⁉︎」

「早くお姉ちゃんに知らせなきゃいけないのに!」

 

だが、こんな巨大なキノコ型のモンスターなど見たことがない。EX種への変化は一体どれほどの謎を秘めているのか。

 

「早く!逃げてください!」

「私についてくるですぅ!」

 

コンパとアイエフが怯える住人を先導して避難させる。

だがEXキノコは体中から胞子を放出した。

 

「なに⁉︎」

「この風向き……!逃げて!」

 

胞子は風に吹かれてネプテューヌ達へと向かっていく。

アイエフとネプテューヌは咄嗟に口をコートや手で覆うが他は間に合わない。

コンパと住人達を胞子が包み込んだ。

 

「きゃあっ!……あっ、あ……!」

「コンパ!くっ……!」

 

コンパと住人達は皆苦しんで地面に倒れる。

 

「体が、痺れるですぅ……」

「まさかの痺れ粉⁉︎あいちゃん、注意を引くよ!」

「わかってる!」

 

ネプテューヌとアイエフは左右に離脱して胞子から逃げる。

 

「こっちこっち〜!」

「アンタの相手は私よ!」

 

キノコ型モンスターはその赤黒い手を精一杯伸ばしてネプテューヌを叩きつける。

だがネプテューヌは後ろにジャンプしてかわした。

 

「へっへ〜ん!大したことないみたいだね!さっさと倒しちゃおう!」

 

ネプテューヌは太刀を引き抜く。

丘の上でユニは痺れ粉を見て、キノコの正体を見破る。

 

「まさか……あのキノコ、ユメミダケ⁉︎」

「ユメミダケ?それが、あのキノコ?」

「そう。胞子をばらまいて仲間を増やすんだけど、その胞子には麻痺効果と幻覚効果があるの!」

「幻覚効果って……」

「幻を見るってことよ!」

 

バッと痺れ粉を吸ってしまった人達を見る。その人達は何かにうなされているようにも見えた。

 

「あぅ、来ないでください〜!いや、いや……!」

 

「大変、すぐに助けないと……!」

「ネプギア、風向きに気をつけてね!いくわよ!」

 

ネプギアとユニも左右に分散する。

EXユメミダケは周りを囲む敵を認識したようだ。その手で皆を叩き潰そうとするが動きは鈍い。当たれば致命傷だが、当たりはしない。

 

「オロ、オロロ!」

 

「こっちよキノコ!」

 

ユニが手の射程外からライフルを撃って牽制する。パワフルコングやエンシェントドラゴンには通じなかったが、EXユメミダケには効いている。

 

「オロロロロ!」

 

「何度やっても無駄だよ!今だっ!」

 

ネプテューヌは身軽に攻撃を避けて叩きつけてきたユメミダケの手を太刀で切りつける。

 

「オロロッ!オロオオオオ!」

 

「やったね!」

 

ユメミダケは両手を自分の近くの地面に叩きつけた。

誰かを狙ったような攻撃ではない。まるでフラついたから手をついたような動作だ。

 

「あれ?もうやられちゃうの?」

「………なにか、くる?」

「っ、みんな危ない!」

「えっ?」

 

ボコボコボコボコ!

 

ユニが叫んだ時にはもう遅かった。

ユメミダケの周りを囲うようにキノコが槍のように突き出てくる。それはどんどん円周を広げていった。

 

「逃げ場が……ない……!」

 

そのキノコは高さ数mはあるだろう。そのキノコはネプテューヌ達の目前にまで迫った。

 

「ねぷっ!」

「きゃあっ!」

「あうっ!」

「みんな!」

 

離れていたユニを除いた全員にキノコの槍が直撃する。

全員キノコの槍に絡まって身動きが取れなくなっていた。

 

「ヤバい……このままじゃ……!」

「ねぷっ⁉︎こ、これ、さっきの……!」

「痺れ……こ…な………」

 

そのキノコの槍からも胞子が飛び出した。ネプテューヌ達はさっきよりも大量の胞子をゼロ距離でなす術もなく吸ってしまう。

 

「あ………ダ……メ………」

 

体が痺れて言うことを聞かなくなる。視界がだんだんと狭まっていく。

 

「ミ……ズ……キ………」

 

(助けて………)

 

最後の言葉は発せられることはなかった。




キノコさんはノワールが洞窟で倒してたキノコです。アレがEX化したのがこのキノコ。名前はわからなかったので適当につけました。

キノコが出てくるなら植物型のモンスターの方が都合いいかなって。あんまりアニメのままでもアレですしね(言い訳


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パーフェクトストライク

タイトルからしてネタバレ。


僕はヒーローだ。

 

だから、人知れず悪と戦いみんなを守る。

 

けれど、勘違いするな。

 

僕は君達の為に戦っているわけじゃない。

 

僕は縛られているんだ。

 

ヒーローに、君たちに。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

………あれ?私、何をしてるの?

なんで、みんな泣いてるの?そんな箱の中を見て。

みんな、泣かないでよ。箱の中に何があるのさ。

 

箱の中には手を組んだ誰かが顔に白い布を被せられて眠っていた。いや、死んでしまったのか。

私はその白い布をめくる。

そこには、恐ろしい顔をしたミズキがいた。

 

「ひっ………‼︎」

 

ミズキはギョロリと濁った目をこちらに向ける。

 

「あ……あ……!」

 

やだ、イヤ。怖い怖い怖い。来ないで。

 

「イヤアアアアアアッ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「イヤアアアアアアッ!」

「イヤ、やめてっ!」

「うあっ、うわあっ!うわああ!」

 

 

 

 

 

「そんな……みんな、やられちゃったの……?」

 

ユニは離れたところから戦慄する。一瞬だった。女神であるネプテューヌもすぐにやられてしまった。

 

「オロオロオロオロ!」

 

ユメミダケは未だにその声をあげて笑っている。

 

「………くっ!よくもネプギアを!」

 

ライフルを連射する。

それは確かにユメミダケにダメージを与えたが、中途半端な射撃ではユメミダケの気を引くだけだった。

 

「オロロ!オローーー!」

「っ⁉︎痺れ粉⁉︎」

 

ユメミダケはユニに向かって口から痺れ粉を吹き出す。

そんな、普通のユメミダケはそんなことできないのに!

咄嗟に口を手で押さえたが痺れ粉の量が多すぎる。目の前が痺れ粉で見えなくなるほどの量だ。

 

(やば、これは………!)

 

意識が遠のくレベルだ。

体が、動かない………!

 

その時、ユニはその痺れ粉の嵐の中に立つ人を見た。あるいは、それは幻だったのかもしれない。ユメミダケの胞子が見せる幻影だったのかもしれない。

だとしても、ユニはそれに頼った。

 

「お願い………お姉ちゃんを……!トゥルーネ、洞窟へ……!」

 

ユニの意識は途切れた。

 

 

ーーーー『meteor』

 

 

《………ユニ……》

 

ユニの隣に立っていたのは機人だった。

あの時と同じように、ユニ達を助けに来た。ネプテューヌを助けに来た。

 

機人は空に向かって左脇に抱えた『アグニ』を打ち上げる。

 

「オロッ⁉︎」

 

ビームは空へと打ち上がる。

そしてその熱でユニの周りの胞子は燃え上がって消えた。

 

「ユメミダケ……その粉は非常に強力だが、熱に弱い」

 

ジャックがふわりと空から降りてくる。

 

《ジャック、あの症状を治療するにはどうすればいいの》

「手っ取り早いのはあいつを倒すことだ。あいつを倒すと飛び散る粉が解毒剤の作用になる」

 

その機体もあの時と同じようにストライクだった。

だがその形態はノワール達を助けた時のどれとも違う。いや、正確には『どの形態でもある』。

そのパックは『エール』でも『ソード』でも『ランチャー』でもない。『マルチプルアサルト』ストライカーパックを装備した、パーフェクトストライクガンダム。

背中には『エール』の大型ブースターと新たに追加された予備バッテリー。それにシュベルトゲベールとアグニを接続するアーム。

左肩には『ソード』のユニット、右肩には『ランチャー』のコンボウェポンユニットが装備されている。

 

《よくも、ネプテューヌ達を……!》

 

ネプテューヌ達はまだ悪夢にうなされている。救い出す、僕が!

 

《みんなを離せっ!》

 

頭部のイーゲルシュテルンからバルカン、右肩のウェポンユニットから120mm対艦バルカン砲とミサイルが発射された。

 

「オロ、オロオロッ!」

 

その数発はユメミダケを掠めてダメージを与えるが、ほとんどがユメミダケを外れる。

では、どこを狙ったのか。

それはユメミダケの後方でミサイルが爆発したことでわかった。

 

「オロッ⁉︎」

 

ユメミダケの胞子が燃えて消えていく。

 

《覚悟、して!》

 

「オロオロ!」

 

シュベルトゲベールを引き抜いてブースターをふかして突進する。

それにユメミダケは痺れ粉を吹きかけるが。

 

《機械に効くわけ、ないだろ!》

 

急停止してアグニで目の前のキノコを焼き払う。背中のバッテリーが音を立てて1つパージされた。

キノコは焼き払われた途端に破裂してキラキラした粉を吹き出した。

それは風に乗ってユニの方へと飛んでいく。

 

「う………う……」

 

どうやら効果は本物のようだ。ユニが呻き声をあげた。顔も心なしか穏やかになっている。

 

《ブチ抜くッ!》

 

アグニをユメミダケに向かって照射する。

 

「オロッ!」

 

だがユメミダケは地面に手をついてキノコを生やす。それは折重なり、盾のようになってビームを防いだ。1つ、また1つと予備バッテリーが地面に落ちていく。

 

「オロオロオロオロッ!」

 

ビームを防いだ体勢のまま、ユメミダケはさらに大量のキノコを生やす。

その逃げ場のないキノコの槍がパーフェクトストライクを襲う。

その槍が眼前にまで迫った時、ミズキの中で何かが弾けた。

 

パリィィ………………ン……!

 

それはS.E.E.D(シード)

遥か古代、ミズキ達の次元ではこのような論文が発表されたことがある。

Superior Evolutionary Element Destined-factor。略してSEED。

それは人種などを問わずして一部の人間に現れる、人類が1つ上のステージに進むための可能性。

今、ミズキの視界は背中まで全方向にまで広がり、周囲の動きが全て指先で感じられるほど正確に把握できている!

 

(シルヴィアの、力。シルヴィアが託してくれた、力!)

 

僕を友達だと、仲間だと言ってくれた人。僕が好きだと思っていた人。僕を、連れ出してくれた人!

 

『さあ、ミズキ。次の冒険は何処にしましょうね?』

 

ボコボコボコボコ!

 

ストライクは照射をやめて、ブースターをふかして低空を滑空し、地面から突き出してくる槍を後退しながら避ける。

その真後ろに飛び出てくる槍が、ミズキには見えていた。

 

(1m37.5cm後方!見える!)

 

くるりとストライクは後ろを振り向く。そしてその槍の真上に足を構えた。

そしてキノコの槍は遥か上空へと伸びる。それはまるで、ストライクを打ち上げたかのように。

 

「オロッ!」

 

そのキノコが伸びた勢いでバク宙。空高く逆さになった体勢でストライクはアグニを構えた。

 

《いっけええええぇっ!》

 

「オロオオオオッ⁉︎」

 

ユメミダケの顔面にアグニのビームが直撃する。ユメミダケは顔から煙を出して音を立て、倒れた。

 

「オロッ、オロ、オロ!」

 

《まだッ!》

 

逆さのままストライクは空中を飛ぶ。アグニを背負い、今度はシュベルトゲベールを引き抜く。

 

《くううあッ!》

 

「オロロロロロ⁉︎」

 

その顔面に馬乗りになりながらシュベルトゲベールを突き刺す。バチバチとスパークが散ってユメミダケを焦がしていく。

 

「オロ、ウォロ、ウォーー!」

 

《倒れて、よっ!》

 

まだ抵抗を試みるユメミダケ。ストライクはシュベルトゲベールを突き刺したまま背中のビームサーベルを引き抜いてシュベルトゲベールのを突き刺して出来た傷口に差し込んだ。

 

「オロロロロロロローッ⁉︎」

 

《落ちろォッ!》

 

さらにイーゲルシュテルンとガンランチャー、対艦バルカン砲を撃ち込む!

 

「オロ、オロ、オロー………」

 

パアッ!とEXユメミダケは光となった消えた。ユメミダケが作り出したキノコの槍もだ。そして、それと同時に大量の粉が広がる。

ネプテューヌ達は槍が消えたことにより、地面に落ちてしまった。

 

「あうっ」

「あっ」

「くっ」

 

呻き声は漏らしたものの、まだ起きないようだ。

そしてストライクの最後のバッテリーが外れ、装甲が色を失った。

 

《ギリギリだった……》

「これだけの粉が飛び散れば、風向きに関係なくここにいる全員が十分な量の解毒剤を吸えるさ」

《それなら、良かったよ》

 

ユメミダケの粉はキラキラと光って綺麗だ。

ミズキは変身を解く。

 

「ミズキ……さん……っ」

「………ユニ」

「お姉ちゃんを……お願い……」

「わかってる。すぐ、助けに行くさ」

 

そう言ってミズキは頭を撫でる。そのミズキの目はSEEDを発現させたことによりハイライトが消えていた。

どうやら、解毒剤を飲んでもまだしばらくは体は動かないらしい。

 

「行くよ、ジャック。もう1機、ストライクは残ってるはずだ」

「ストライクEだな」

「うん」

 

ミズキはちらりとネプテューヌの方を見る。穏やかな顔で眠っているネプテューヌ。

あそこに帰りたいと思う。帰れたら、どんなに嬉しいことか。だけど、今は出来ない。

ノワールも、守りきるんだ……!

 

「クスキ・ミズキ、ストライク、行くよ!」

 




冷静になりました。粉塵爆発しますよねコレ(テオテスカトルを狩りながら

補足説明。

ガンダムSEEDの機体は全てバッテリーで動いています。ビーム撃つのも電気がいるし、PS装甲も電気を流すことで色が付いて硬くなっているわけです。なので、バッテリーが切れるとPS装甲は鉄色になって効果を失います。

また、次の話もミズキはSEEDを発現させたままです。

ミズキが告白した(ネプギアとのデートの話参照)のはシルヴィアという名前の人なわけです。ミズキの友達3人目、かな。とりあえずミズキの友達の名前はジョー、カレン、シルヴィアしか名前は出ません。……予定では。

次でアニメ第1話がやっとこさ終わります。……予定では。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ノワール

はい、1話終わり。長すぎやしないすか?


ふふっ、また失敗ね。

 

アナタはいっつも失敗ばかり。

 

アナタはいっつもミスばかり。

 

さあ、いつもの選択よ。

 

アナタが切り捨てるのは、ノワール?それともワタシ?

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「消えなさい!」

 

ノワールが振るう剣がモンスターを一撃で切り伏せる。

そしてノワールはすかさず後ろの敵に注意を向ける。

後ろの敵が振り下ろす剣をノワールは右手で剣を持って受け止めた。

 

(よし、怪我は大丈夫……!)

 

もう痛まない。これならもう大丈夫。

 

「はあっ!」

 

返す刀でモンスターを切る。

ノワールはこれを繰り返して洞窟を奥へ奥へと進んで行っていた。

そしてその洞窟も、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。

 

「行き止まり?……ハズレかしら」

 

こんなことを言っては不謹慎だが……実はノワールはミズキと戦ってみたかった。

それは女神のプライドとか、単純な興味とか色々あるのだが、やはり興味が大きい。ネプテューヌに圧勝するほどの実力をノワールは確かめてみたかった。

 

「今日はこれで打ち止めね」

 

残念だが。ネプテューヌにもミズキはいなかったと伝えよう。

 

「グルルルル………」

 

「っ⁉︎まさか!」

 

帰ろうと振り返ったノワールの目の前にはボロボロのドラゴンが立っていた。

片方の羽は千切れ、片腕は失われ、片目も潰れている。そして何より体が赤黒い。

 

「アンタ、この前の!」

 

ノワールがエンシェントドラゴンを覚えていたようにエンシェントドラゴンもまた、ノワールを覚えていた。

怒りを晴らすように、エンシェントドラゴンは雄叫びをあげる。

 

「グオオオオオオオオーーーーッ!」

 

「くっ……!うるさいわね……っ!」

 

エンシェントドラゴンの雄叫びで洞窟が揺れ、パラパラと小石が落ちる。

エンシェントドラゴンは残った左腕でノワールを叩こうとするが、ノワールはすかさず後退して避ける。

 

「まだまだイキがいいじゃないの!」

 

ノワールは剣を握り直してもう1度右手の感覚を確かめる。イケる、十分!

素早くノワールはエンシェントドラゴンの右手側に回りこむ。エンシェントドラゴンの右手は切り落とされているためだ。

 

「もらったっ!」

 

横からエンシェントドラゴンに斬りつけようとするとエンシェントドラゴンの頭に小さな竜人が飛び降りた。その体、体につけている骨の兜や爪までもが赤黒い。

また、EX種⁉︎

 

「キュウッ!」

 

竜人がエンシェントドラゴンを守るようにノワールの懐に入り込む。そしてノワールのガラ空きの腹にタックルを叩き込んだ!

 

「あうっ!」

 

プロセッサユニットが消えてノワールは吹っ飛ばされる。そして洞窟の行き止まりの壁に打ち付けられた。

 

(何よ、このパワー……っ!)

 

痛みで動けない。起き上がろうとするノワールをエンシェントドラゴンの左手が押さえつけた。

 

「うあっ!あああっ!」

 

ギリギリと体が岩に押し付けられて圧迫される。力を込めて引き離そうとした矢先、ノワールを不思議な感覚を襲う。

まるで体と魂が分離するような感覚。その脈動がノワールの耳にはっきりと聞こえた。同時に、ノワールの体が光り始めた。

 

「え⁉︎ウソ、変身が……!うああっ!」

 

変身が解けて元の姿に戻ってしまうノワール。ノワールはますます強く壁に押し付けられる。女神化していない姿では、保たない!

 

「アクセス、アクセス!なんで、くううっ!」

 

そのノワールの耳に、不思議な言葉が聞こえた。まるで、頭に直接響くような声。ノワールは頭の中を虫が這いずり回るような感覚を覚えた。

 

あら。モンスターばかりだと思っていたけど……これはまた美人さんが来たものね。

 

「ああっ、何よ、この声……!くうっ!」

 

ちょうど良かった。そこの美人さん、その体をちょうだいよ。助けてあげるから。

 

「な、なに、を……!うああっ、あっ!」

 

ついにノワールの骨がミシミシと音を立て始めた。このままでは、潰される……!

 

我慢しないで。拒んじゃワタシが入れないわ。入れて、ね?助けてあげるから。

 

「黙、って……!」

 

凄く不快な声。両手が自由だったならノワールは今、すぐにでも耳を塞いでいたことだろう。

だがその言葉は甘ったるい。蛇のような甘言はノワールの心の扉を開けようと毒を流し込んでくる。

 

お願い………入れて?

 

「………っ、イヤァァァァァッ!」

 

その時、エンシェントドラゴンと竜人は気付けなかった。ノワールを倒すことに夢中になっていたのか。

 

黒い影が洞窟を縫うように動いて背後まで迫っていることに、気付かなかった。

 

《ノワールを、離せ……っ!》

 

「グアアッ⁉︎」

 

背中のユニットのウイング、その内側の2連装リニアガンが同時に火を吹く。

それはエンシェントドラゴンの顔面に当たり、エンシェントドラゴンはたまらずバランスを崩して倒れた。

 

「あうっ」

 

ノワールは押し付けられていた手から解放されて膝をつく。

黒い影はノワールに向かって両手からアンカーを射出する。それは力なく膝をついたノワールの両肩にくっついて引き上げる。そして黒い影はノワールを空中で抱きかかえて着地した。

 

《ノワール、無事⁉︎》

「ミズ……キ………?」

《………!良かった、怪我はない⁉︎》

「だ、大丈夫……、だけど……力が、入らない……」

 

エンシェントドラゴンのダメージが大きすぎる。いや、それだけではない。それ以外の、何かが……?

 

「ミズキ」

《わかってる、切り捨てろって言うんだろ⁉︎》

「答えは決まっているな?」

《もちろんだ!》

 

ミズキの機体の名は(ノワール)。ストライクの強化改修型であるストライクEにノワールストライカーを装着した、ストライクノワール!

『パワーエクステンダー』という新たなバッテリーを搭載し、装甲もかける電圧によって強度が変更できる(V)ァリアブル(P)ェイズ(S)フト装甲になっている。

生まれ変わったストライクはVPS装甲を漆黒に染め上げ、今ノワールを救いに来たのだ。

 

ストライクはノワールをそっと地面に寝かせる。

 

《少しだけ、待ってて。すぐやっつける!》

「ダメ、あいつは強いわ……!アナタだけでも、逃げて……」

《そんなこと、出来ない。それに、あんな奴ら、僕の敵じゃないさ》

 

ストライクは腰のビームライフルショーティーをそれぞれ両手に持つ。ビームライフルショーティーはその名の通り、銃身を拳銃レベルまで切り詰めて連射性と取り回しを強化したものだ。

それを指に通してクルクルと回し、それを両方手の甲を上にしてエンシェントドラゴンへと向けた。

 

《そうだ、あれくらい……!》

 

 

ーーーー『戦闘部隊』

 

 

《障害、認められない………!》

 

 

【挿絵表示】

 

 

上半身、下半身ともに黒を基調とした色合い。足の白部分も微かに灰色じみている。ツノと肩の黄色が目立つ機体。

その背中は頼もしい。胸の奥から温まるような安心感。ノワールはそれを感じていた。

 

(カッコ……いい………)

 

そんな場違いな感想を抱くくらいには。

 

「キュウウッ!」

「グガアアアアッ!」

 

猛る竜人とエンシェントドラゴン。竜人は地面を飛び回って接近し、エンシェントドラゴンは爪を振り下ろそうとしている。

 

《遅い………!》

 

ストライクはビームライフルショーティーをそれぞれに向ける。そしてそれを連射し始めた。

 

「ガアアッ⁉︎」

「キュウッ!」

 

エンシェントドラゴンはその大きい図体のために連射を食らってしまう。大したダメージではないものの、牽制にはなっている。

竜人は逆に全ての弾を避け切っているものの、ストライクに近付けない。

両手に持った拳銃を別々の相手に向かって撃てるなど、そうそう出来ることではない。

人間、それぞれの手を四角と三角に動かすことすら難しいというのに。

たかが牽制でも、ノワールはミズキの戦闘能力の高さを感じていた。

 

「キュウッ!」

 

竜人は痺れを切らしてストライクに向かって接近し始める。弾幕を避け切って多少の被弾には怯まずにストライクに飛びかかった。

 

「キュウウウッ!」

「っ、ミズキ、危ない!」

 

そいつのパワーはとんでもない。小さい体でありながらそのパワーはそこらのモンスターを軽く越えるほどだ。いくら装甲が硬いと言っても衝撃までは防げない。吹き飛ばされてしまうだろう。

 

《動きが単調だよ》

 

ストライクは右手のエンシェントドラゴンを撃っていたビームライフルショーティーを捨てて背中のウイングの外側からフラガラッハ3ビームブレイドーービームエッジ内蔵型大型対艦刀ーーを引き抜く。

そしてそれを指の間に挟んで掌からアンカーランチャーを竜人に向かって発射した。

 

「キュウッ⁉︎」

 

《飛んじゃ身動きも取れないでしょ……⁉︎》

 

アンカーで引き寄せられる竜人。それはまるで右手に持ったフラガラッハに引き寄せられるようにーーーー。

 

「ギュッ⁉︎」

 

ドスリ。

逆手に持ったフラガラッハが竜人の腹を貫く。

 

《…………………》

 

「ギュ、ギュウウ……」

 

まだ動こうとする竜人。その傷口に左手のビームライフルショーティーの銃口を押し付けた。

 

「ギュウウゥゥゥ⁉︎」

 

フラガラッハを突き刺したままビームライフルショーティーの弾が連続で打ち込まれていく。

連射を続けるうちに竜人は光になって消えた。

 

「グガアッ!」

 

エンシェントドラゴンが雄叫びをあげる。ストライクは左手のビームライフルショーティーも捨ててもう1本のフラガラッハを抜いた。

 

《君に、ノワールはやらせない……!》

 

エンシェントドラゴンが左手を振り下ろしてくる。

ストライクは掌からアンカーランチャーを天井に向かって撃ち出す。アンカーはストライクを引き寄せて空中へと浮かせ、エンシェントドラゴンの爪を避けた。

ストライクは天井に張り付いて2連装リニアガンを連続で撃ち込む。

圧倒的な速度のそれをエンシェントドラゴンは狭い洞窟では避けられない。エンシェントドラゴンの体にリニアガンの弾が当たって爆発する。

 

「グアッ⁉︎」

 

《いくよ、ラスト……!》

 

ストライクは洞窟の壁を蹴ってエンシェントドラゴンに急接近する。

そしてその勢いのまま、フラガラッハで切り抜けた。

 

「グアアッ!」

 

《まだだっ!》

 

さらに折り返してもう1度。

そしてその勢いのまま距離を取りつつ反転。まだ残っていた右目に向かってフラガラッハを投合する。

 

「グアアアアアアッ⁉︎グアッ、グアッ⁉︎」

 

命中。

さらに刺さったフラガラッハに向けてリニアガンを乱射する。それはフラガラッハに命中してフラガラッハごと爆発した。

 

「グアアア!ゴオオオオッ!」

 

(な、なんて………)

 

美しい戦いなのだろうか。美しく、華麗で、それでいて優雅。あんな戦い、ノワールにはとてもじゃないが出来ない。

ノワールは上半身だけを起こしてストライクの動きを吸い寄せられるように見ていた。

それに感想を言うならばーーーそう、カッコいい。それに尽きる。

 

ストライクはノワールの元に着地する。目の前では光を失ったEXエンシェントドラゴンが暴れまわっている。

 

「トドメは、ささないの……?」

《……放っておいても、アレはもう終わりだ》

 

それより、と振り向こうとしたストライクに天井から石ころが当たる。

その原因はエンシェントドラゴンが暴れまわってそこら中の壁に衝突しているからだ。そして、その振動はさらに大きくなっていく。

 

「痛っ……!」

 

ノワールの頭に石ころが当たる。

そして洞窟の揺れはドンドン大きくなり、やがて大きな岩盤が落ちた。

 

「きゃあっ!」

《まさか、崩れるのか……⁉︎》

 

ドラゴンは依然、暴れている。このままでは、洞窟が崩れる!いや、洞窟の崩壊はもう止められない、か……!

 

「ミズキ、逃げて!」

《だから、出来ないって言ったでしょ⁉︎》

 

ストライクは掌からアンカーを伸ばしてノワールを引き寄せて抱き抱える。そして洞窟の出口めがけ加速し始めた。

 

「私を置いて行きなさい!アナタまで巻き込まれるわよ!」

《そんなことは起こらない……!君を助けて僕も脱出する!》

 

ノワールのせいで自重が重くなり、速度が減衰する。そうなれば洞窟の脱出も出来なくなるかもしれない。

ノワールはまだミズキを納得したかったがギュッと強く抱きしめられて言葉を遮られた。

 

「………ミズキ……」

 

《見えた!出口!》

 

光が差す出口が見える。

洞窟の倒壊は寸前だ。加速をかけて飛び出そうとするがその前に巨大な岩盤が落ちてきた!

 

《邪魔ッ!》

 

すかさずリニアガンで撃ち砕く。

ストライクはノワールを庇うように瓦礫に向かって背中を向ける。

そしてーーーー!

 

「出たっ!」

《っ、やった………!》

 

ストライクは洞窟から脱出した。

ストライクは草原に降り立ってノワールを降ろして変身を解いた。

 

「ミズキ………」

「良かった、ノワール。無事だね?」

「う、うん……」

 

ミズキはへたり込んだノワールの頭を撫でる。頭を撫でられるなんて子供の頃以来でノワールは顔が熱くなった。

 

「そ、そうだ、ジャックは⁉︎」

「いるよ」

「ここにな」

 

ジャックは何もない虚空から現れた。ジャックはロボットのためにミズキの変身に使う倉庫次元への立ち入りが出来るのだ。

 

「だから、いきなり消えたりしてたのね……」

 

ノワールは合点がいった。

 

「ノワール、本当に怪我はない?」

「だ、大丈………」

 

そこでノワールは以前のことを思い出す。正直に言った方がいいだろう。どんな小さなことでも。ミズキは心配してくれているのだ。

 

「……少し、左腕が痛いかも」

「見せて」

 

エンシェントドラゴンに押し付けられた時の左腕が痛んでいた。

おとなしく言われた通りに左腕をミズキに見せる。その腕からは切り傷なのか、皮が破けて血が出ていた。

 

「消毒するよ。ちょっと痛いかも」

「痛っ………!」

「クスクス、我慢してね」

 

ミズキは倉庫次元から取り出した消毒液をノワールの傷口にかける。そして脱脂綿で血を拭き取った。

そしてその周りを丁寧に包帯で巻いてくれる。その動作の度にミズキの手の体温をノワールは感じて気恥ずかしくなった。

ふと、ノワールは自分の胸の奥から響く脈動を感じる。洞窟内で感じた脈動とは似ても似つかない、心地よい脈動。少し早めのそのリズムがノワールの体温を上げていった。

 

(なに、これ………?)

 

ノワールがその脈動を不思議がっているうちにミズキの治療は終わった。

 

「それじゃ、僕はもう行かなきゃ」

「え?そ、そんな……」

 

ノワールは自分の感情が信じられなかった。

ネプテューヌとかネプギアのために止めたのならわかる。だが今ノワールは自分の感情でミズキを引き止めてしまった。

 

「ここでやるべきことがあるんじゃないの……?」

「………もう、終わったよ。正確には、出来なくなったかな」

「え……?」

「どちらにせよ、もう君とも別れなきゃいけないみたいだ。ごめんね」

 

またミズキが頭を撫でてくれる。

自分の感情がコントロール出来ずにノワールは戸惑う。

頭を撫でてくれた途端にさっきまでのマイナスの感情は吹き飛んでプラスの感情が湧きだしたからだ。

 

「……ナスーネ高原にみんなが倒れてる。みんなを介抱してあげて」

「え?ちょ、それってどういう……」

「またね、ノワール。必ずまた、会いに行くよ」

「ミズキ!」

 

ミズキは走って森の奥へと消えていく。ノワールは座ったまま追いかけることができなかった。

胸の中に今まで感じたことのないほどの喪失感が生まれる。ノワールはその正体を確かめたくて、唇にそっと人差し指を当てた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それを木の陰から見ていた者がいた。2人ともローブを被っていて顔は分からないが、1人がそのローブのフードを外した。

そこには小さな真っ黒い二足歩行のネズミがいた。

 

「まさか、崩壊してしまうとはな。おい、ネズミ。お前の図体なら入れるだろう?」

「はあ、仕方ないっチュね。報酬、弾んでもらうっチュよ」

 

ネズミの手には何かのレーダー。それはある1つの点を示していたーーー。




次回予告

「アナタが新しい執事ね」

舞台は白の国、ルウィーへ。ミズキは変装してルウィーの教会へと紛れこむ。

「私も強くなる。ミズキに借りを返すの」

ネプテューヌ達の旅はノワール達を加えてより賑やかに。そしてその一行もまた、ルウィーに向かっていた。

「よろしいですのね?この計画を公開すれば、世界に革命的な変化がもたらされますわよ?」

そしてブランとベールが企む計画とは。

ルウィーで起こる大騒動。雪の降り積もる中を、1機の翼が駆け抜ける!

「ターゲット、ロックオン。……破壊する!」

ーーーー

相変わらず寒い。
前格射撃派生。

「障害、認められない…!」はガンダム界でも屈指のカッコいいセリフだと思います。

それと、ガンダムが好きな方は気軽に話しかけてきてほしいです。感想でも、メッセージでも。僕の周りにはガンダム好きな友達がいないのでガンダムの話ができないのです。気軽に、話しかけてください。
ネプテューヌ好きな人も然りです。このクソにわかが知ってることは少ないですけど、話したいんですよね。ロムラムが好きな人いらっしゃい(変態


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章〜ルウィーの戦う執事。計画とペドリストと舞い降りる翼〜
暖かな時間


まぁた前日譚をやってるよ。アニメにない部分まで書いちゃうから進まないのって言ってるでしょ!


新しい国。

 

新しい土地。

 

新しい街。

 

新しい家。

 

新しい人。

 

なのに、アナタの心は古いまま。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ルウィー。その教会でブランはキーボードを高速でタップしていた。カタカタと静かな部屋に音が鳴り響く。

チラリとブランは時計を見た。

 

(そろそろね………)

 

時計を見ると既に10時ぐらいにはなっていた。

もうすぐ、新しい執事が来るはずである。

ブランの予想に(たが)わず部屋のドアがコンコンコンとノックされた。

 

「入りなさい」

「失礼します」

 

キィ……と音を立ててドアが開く。そこには燕尾服を着て白い手袋をつけた男が立っていた。

 

「アナタが新しい執事ね」

「はい」

 

その男の特徴といえば……仮面をつけているところか。目だけを覆う仮面をつけていて顔がわからない。

 

「初めまして。クスノキ・スミキと申します」

「………アナタ、仮面は外せないの……?」

「はい。理由がありまして」

 

仮面を付けた男が執事など怪しくて仕方がないが……一応、ミナが面接したのだし、大丈夫だろう。

ちなみにミナというのはルウィーの教祖だ。

 

「……そう。まあいいわ。仕事の内容は既に説明されているわね?」

「はい」

「なら……」

 

ブランが続けようとしたところで部屋のドアがまた開く。

 

「お姉ちゃ〜ん!」

「一緒に遊ぼ……?」

 

ロムとラムだ。2人は元気いっぱいにブランのいる方へと走ってくる。

その途中で2人はスミキに気付いた。

 

「あれ?誰この人?」

「新しい執事よ。私は仕事があるから、その人と遊んでくれないかしら」

「執事……さん……?」

 

スミキは振り返るとロムとラムに目線を合わせるためにしゃがんだ。

 

「初めまして。クスノキ・スミキだよ。一緒に遊んでくれるかな」

「うん!いいわ!遊んであげる!」

「あげる……」

 

なぜ上から目線なのか。

スミキはチラリとブランに目配せをしてロムとラムに引っ張られて部屋を出て行った。

それを確認してからブランは溜息を吐く。

 

(さて……今回は何週間、いや、何日もつかしら……)

 

姉のブランが仕事で忙しいためにロムとラムの世話は一部メイドや執事に任せているのだが、雇った端からやめていくのだ。

原因はロムとラム。2人がイタズラをしてある者は怒って、またある者は諦めて教会を後にしていく。

ブランは2人のイタズラに付き合わされるスミキを内心可哀想に思いながらまたパソコンに向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「何して遊ぶ⁉︎」

「何して遊ぶ……?」

 

2人に部屋に連れ込まれたスミキは2人に言い寄られていた。仮面を付けていても分け隔てなく接してくれる無邪気さに感謝しながらスミキは部屋の周りを見渡した。

 

「そうだね……。絵本とかどう?」

「もうここのは全部読んだ〜!」

「退屈……」

 

まあそれもそうか。

それじゃあ、とスミキは人差し指を立てる。

 

「僕が知ってる昔話をしようか」

「昔話?」

「そう。……むか〜しむかし、ここの次元ではない、遠い遠い次元のお話です」

「遠いところ……?」

「うん。そこでは戦争が起こっていました。地球に住んでいる人と、宇宙に住んでいる人のね」

「宇宙って……星があるところ?」

「そうだね。お星様が輝くところだ」

「お星様……綺麗……」

「地球に住んでいる人は負け続けて、もう戦争にも負けてしまいそうでした」

「この星……負けちゃうの……?」

「宇宙人にやられちゃうの⁉︎」

「その時、地球人に救世主が現れたのです」

 

そう、それが全ての始まり。

 

「救世主……?」

「凄い人ってことよね!」

「うん。救世主の名前はガンダム。ガンダムはとても強くてあっという間に宇宙人を倒してしまったんだ」

「地球人の勝ちね!」

「ばんざい……」

「その次元ではその後もたくさんの戦争が起こるんだ。だけどその度にガンダムは姿形を変えてみんなを助けたんだよ」

 

地球に住む者と宇宙に住む者。侵略する者と抵抗する者。人種の違い、世界の破壊。

 

「ガンダム……凄い……」

「ガンダムって強いのね!」

「そうだよ。君達のところにも、ピンチになったら必ずガンダムが訪れる」

「私達のところにも⁉︎」

「やった……!」

 

ロムとラムは無邪気に喜ぶ。ピンチになるようなことがないのが1番望ましいのだが。

 

「これで僕の話はお終い。次は……オセロでもやろうか」

「いいわよ!私強いんだから!」

「ラムちゃん……いつも私に負けてる……」

「そ、そんなことないわよ!勝負よ、執事さん!」

「執事さん?」

「?何か変?」

「執事さんは、執事さん……」

「クス、そうだね。それじゃ勝負だよ、ラムちゃん」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「…………ん……」

 

ブランは机に突っ伏していた体を身じろぎさせる。

そしてハッとしたのか急に体を起こして時計を見た。

時刻は3時過ぎ。

どうやら、寝てしまったようだ。

 

「しまったわね………。ん……?」

 

座っていた椅子の背もたれから毛布が落ちた。私の体にかけられていたようだ。一体、誰が………。

 

「お目覚め、かな?」

「……アナタ………」

 

私にスミキが寄ってくる。その手にはコップがある。

 

「どうぞ」

「……ありがと……」

 

中身はホットミルクだ。程よい熱さで、飲むと胸から温まる。ブランはほう、と息を吐き出した。

 

「……毛布をかけるくらいなら、起こしてくれればよかったのに……」

「仕事中に寝てしまうなんて、余程疲れてるのかと思いまして」

「ロムとラムは……?」

「遊んでいたら寝てしまいました。お昼ご飯の後だったので、余計に」

 

そう言えば昼ご飯も食べていなかった。ホットミルクを飲んだことで今更ながら空腹を覚える。

 

「今からでも簡単なものを作りましょう。座ってお待ちになってください」

「いいわ。書類仕事が間に合わなくなる……」

 

時間にして2時間程寝てしまっていたのだ。単純計算すれば、その分今日は夜更かしすることになってしまうだろう。

 

「書類なら、ほとんど終わらせておきましたよ」

「……え……?」

「ブラン様が直接書かなければならないもの以外は全て終わらせておきました。ブラン様がやらなければならないのはこれくらいです」

 

そう言ってスミキは奥から書類の束を持ち出してくる。その厚さは5mmもない。これくらい、30分もかからないだろう。

 

「どうして……」

「私はブラン様の執事ですから。最近、お疲れではありませんか?」

「それは……そうだけど……」

 

ベールとの計画がある。そのために仕事は余計忙しく、最近はロクに睡眠も取れない有様だ。

 

「ちょうどいい機会です。今日はゆっくりお休みになってください。では、僕は昼食を作ってきますので」

「あ………」

 

そう言ってスミキは部屋を出て行ってしまった。

 

(お礼も……言えなかったわね……)

 

ブランは引き止めようとあげた手を下ろした。

気を抜いた瞬間にブランの体に重い疲労感がのしかかる。自分の体はだいぶ酷使されていたらしい。

椅子に寄りかかって目の前の書類の束を見る。

ブランがやらなければならない仕事だというのに、その書類もほとんど仕事は終わっている。せいぜいブランが判子を押したり、サインを書いたり、ブランしか見れない重要な書類だったりな程度。

他の雑多な部分は全て埋められている。それも、完璧に。

正直、助かった。

このまま仕事を手伝ってくれればだいぶ楽にーーー。

 

(………ダメ。これは本来、私の仕事なのだから……)

 

甘えそうになる自分を律する。

それに、どうせすぐ辞めてしまうのだ。執事になって1日目からこれとは、正直頼もしい。

だがそれに頼っては辞めてしまう後が辛くなる。

でも、今だけは。

ブランは椅子に引っかかった毛布にくるまって暖をとるのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ごちそうさま……」

「お粗末様」

 

クスクスと笑ってスミキは皿をさげる。

素直に美味しかった。仕事も出来て料理も出来るなんて、ますますここ(ルウィー)にいて欲しい。

 

「それじゃ、お休みになってください」

「……今は、目が冴えてるの……」

 

1回寝たからだ。

 

「では、まだ仕事を?」

「……いや……もう仕事はないし……」

 

スミキが昼ご飯を作る間に書類仕事も終わったし、計画の準備も今日のノルマはこなせた。

だとしたら、アレだ。最近出来なかったアレをしよう。

 

「……しばらく、読書をしようと思うわ……」

「読書、でございますか」

「そうよ、読書。スミキは、嫌い……?」

「……いえ。嗜む程度ですが、好きです」

「ならちょうどいいわね。……付いてきて」

「僕も、ですか?」

「アナタと本が読みたいの。……嫌かしら?」

「……クス。いえ、喜んでお伴します」

「よろしい」

 

ブランも笑顔になる。

ブランはドアを開いてスミキを先導する。

 

「そういえば、まだお礼を言っていなかったわね。……ありがと」

「……どういたしまして。クスクス」

 

顔が見えないのをいいことにブランはお礼を言った。ブランは気恥ずかしくて少しばかり歩調が早くなる。

 

「……ここよ」

 

ブランは扉を開く。そこにはまるで図書館のようにたくさんの本棚と本が並んでいた。

 

「凄い……ですね……」

「私の自慢の蔵書よ。好きなのを読んでいいわ」

 

ブランは広大な本の海の中でも迷わずに目当ての本へと向かう。

 

(踏み台を……)

 

これだけの蔵書ならば必然的に本は高いところへも積まれる。ブランが読もうとしていた本はブランの身長では背伸びしても届かないくらいの位置にあった。

踏み台を探そうとすると後ろから手が伸びて目当ての本を取ってくれる。

 

「これでよろしいですか?」

「……ありがと」

「どういたしまして。クスクス」

 

ブランに本を手渡してスミキは何処かへ行ってしまう。ここにある蔵書ならきっとスミキが好きなジャンルの本もあるはず。

ブランは本棚の近くに置いてある椅子に座って目当ての本の目当てのページを開く。

 

「………………」

 

ペラ、ペラと本をめくる音だけが響く。周りから切り離されたような静かな空間ではそんな音でさえ部屋中に響く。

そして、本を探すスミキの息遣いさえも。

 

「………………」

 

どうにも集中出来ない。

音が近づいたり遠ざかったりする度にちらりちらりと音のなる方を見てしまう。そんなことをしても見えるはずがないのに。

本を取ってめくる音。その本を気に入ってくれるだろうか。

そしてまた本を取ってめくる音。その本は気に入ってもらえるだろうか。

そしてまた本を取ってめくる音。その後に本をしまう音はせず、こちらに向かって歩く音が聞こえた。

 

「………………」

 

意識的に目線を本に戻す。

………しまった、この辺りの文章に見覚えがない。数ページめくって見覚えのある文を見つけてそこからまた読み始める。

 

「……………?」

「………………」

 

コツンと椅子に何かが当たる。

目線をチラリとそちらに向けると椅子をわざわざこちらに持ってきたスミキがいた。

 

「……………」

 

スミキの顔を見るとスミキはニコリと笑って私と背中合わせになるように座って本の1ページ目をめくった。スミキの読んでいた本は物語の本だった。

 

「………物語は、好き?」

「はい。出来ればたくさん笑ってたくさん泣けるような、そんな話が好きです」

「……そう………」

 

会話はそれだけ。

ブランは本に目線を戻す。本の中ではルウィーの有名な学者が生物についてあーでもないこーでもないと論じていた。俗に言う、説明文だ。ブランはそれぞれの文にそれぞれの良さがあると思う。

ブランは説明文の良さは自分で考えられることだと思う。

文を読み、自分の頭の中で噛み砕いて理解する。説明文はとてもじっくりと読める文章だ。

だが、噛み砕けない。

特別この文章が難しいわけではない。むしろ途中まで読んだ感想としてはわかりやすい説明だと思うくらいだ。

文が頭の中に入ってこないのだ。チラチラとバレないようにスミキの方を見てしまう。

 

「………………」

 

スミキの息遣いが気になる。私の息遣いも聞こえてしまっているのだろうか。

気になって、気になる。まるで引き寄せられるようにブランはスミキの背に寄りかかった。

 

「………………?」

「……このままで……」

「……はい」

 

スミキはしっかりと私の上半身を受け止めてくれる。意外とその背は大きくて私がすっぽりと収まってしまうほどだ。

ミズキが呼吸をする度に膨らむ背中がわかる。ミズキの体温がわかる。仄かな安心感。ブランは本を閉じていた。

そして、すぐ後に図書館に響いたのはブランの寝息だった。

 

「…………すぅ……すぅ……」

「…………クス。仕方ない人だね」

 

スミキも本を閉じる。

背中に寄りかかる心地よい重さを感じながらスミキは仮面を外した。

 

「ごめんね、ブラン。バレちゃいけないからって、こんな……」

 

ミズキは寝ているブランに謝る。

アンチクリスタルはすぐそこにある。だが、壊さなければならない。ジャックに解析は頼んでいるものの、いかんせん警備が厳重だ。

ジャックも簡単には入れない。入れたとしても長時間はいられない。

これはどうやら、だいぶ時間がかかりそうだ。

 

「……………すぅ……」

 

静かな寝息が聞こえた。

そうだ、とりあえずは。

 

「頑張ったね、ブラン。……お休み」

 

ブランを、ベッドに運ぶことから。




一年戦争にはどっちが悪いとかはあんまりないとは思いますけどね。どっちかっていうと連邦が悪いですけど、やってたのは高官たちですし。
ブランと静かな読書をしたい感は異常。ルウィーの教会に図書館なんてありましたっけ…?(小声


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

挽肉バラ肉餅つき大会

ちなみに『クスノキ・スミキ』の由来。
『クスノキ』は元々の『クスキ』に1文字足しただけ。『スミキ』は『ミズキ』を入れ替えて濁点を取っただけ。由来ってほどでもないですねこれ。


僕はその夢を見れるだろうか。

 

夢を見ることには何もいらない。

 

僕はその夢を叶えられるだろうか。

 

夢を叶えるには力がいる。

 

僕はその夢を叶えられた。

 

夢を断ち切るには何が必要?

 

 

ーーーーーーーー

 

 

舞台は変わってラステイション。

時間も遡ってミズキがみんなを助けた翌日のこと。

 

「あぁぅ〜……まだちょっとピリピリしてるよ〜……」

「私も〜……」

 

ネプテューヌとネプギア、コンパとアイエフは痺れる体を引きずってノワールとユニが待つ部屋へと向かっていた。

 

「大丈夫ですか?」

「だいじょばない〜……」

「私も、まだ痺れてるわね……」

「嫌な感じです〜……」

 

コンパだけは通常運転だ。

至近距離で大量の粉を吸ってしまったネプテューヌ達よりも症状は軽いらしい。

それもそうだ、吸ってしまったものの粉は風ですぐに飛んで行ってしまったし分散していたから吸った量も少ない。

粉を吸ってしまった国民もすぐに痺れは治って帰って行った。

 

「入るよ〜……」

「どうぞ」

 

あの後は大変だった。

目を覚ましたもののまだ上手く体が動かないみんなをノワールが励まして何とか教会まで送り届けたのだ。

しかもいつの間にか倒されてたキノコについては、

 

『明日説明するから。私にも考える時間が必要なの』

 

とはぐらかされる始末。結局キノコを倒したのはネプテューヌ達のお陰ということになっていたがなんだか納得いかない。

 

ドアを開いて中に入る。

そこにはパソコンの前に座るノワールとその側に立つユニがいた。

 

「ユニちゃん、大丈夫?まだ痺れてる?」

「うん、少し。でもすぐに治ると思う」

 

心配するネプギアにユニは笑顔で答える。

 

「それでノワール!どういうことなのさ!あのキノコはいつの間にかいなくなってるしノワールは怪我してるし!ちゃんと説明してよね!」

「それは、ちゃんと説明するわ。そうね、ユニが説明した方がキノコの話はわかりやすいわね」

「確か、ねぷねぷ達はキノコさんにやられちゃったんですよね?」

「情けないことにね。それで粉を吸って幻覚を見てたのよ」

 

ノワールを除いた全員はあの幻覚を思い出して顔を青くする。本当に幻で良かったという悪夢ばかりだった。

 

「でも、ユニちゃんは吸ってなかったよね?」

「私もあの後すぐに粉を吸っちゃったの。その時、粉の中に立つ人がいて……」

「わかった!その人が助けてくれたんだね!その人誰⁉︎」

「………ミズキさん、です」

 

『…………っ⁉︎』

 

ネプテューヌ達は一斉に息を飲む。まさか、そんなことがあるわけがない。

 

「目覚めた時にキノコはいなくってミズキさんは変身を解いていました。それで、洞窟のお姉ちゃんを助けてって言ったらすぐに……」

「ミズキが、私達を………?」

「あの時、私達のすぐ側に……」

「ミズキはいたっていうの……⁉︎」

 

ネプテューヌとネプギアとアイエフは驚愕の事実に言葉が出ない。

確かに、あの強力なEXモンスターを倒せるのは女神以外ならミズキくらいのものだが……。

 

「でも、その包帯……」

 

コンパがノワールの左腕に巻かれた包帯に気付く。

アイエフもそれを見て気付いた。

 

「コンパの結び方……ね……」

 

どうやら話は本当らしい。

 

「それで、ミズキは洞窟でEXエンシェントドラゴンに負けそうになってた私を助けてくれたの。もっとも、ソイツが暴れたせいでトゥルーネ洞窟は崩れてしまったわけだけど……」

「な、なんで引き止めなかったのさ!すぐ側にいたんでしょ⁉︎」

「お姉ちゃん……」

「やめなさい、ネプ子」

「で、でも、ミズキは……」

「それを言ったら痺れ粉にやられてた私達だってそうでしょ」

「そ、それは………」

 

ネプテューヌは黙り込んでしまう。

ノワールだけに非があるわけではない。全員が全員命の危機に陥り、それをミズキに助けてもらったのだ。

 

「………それでね、ネプテューヌ。頼みがあるの」

「へ?の、ノワールが私に頼み?」

 

ネプテューヌはなんだか背筋がゾクゾクするのを感じた。嫌な予感がする。ノワールが私に頼み事なんて天変地異の前触れか。今日はラステイションに槍が降るか。いや、隕石が降る。

 

「多分だけど、ミズキはもうここ(ラステイション)にはいないの。追いかけるなら、他の国に行くべきだと思う」

「う、うん……。それは、わかるけど……」

「でも私はミズキの戦いを見て……悔しいけど、アンタが負けたのも納得できたわ」

 

2度、ミズキの戦いを見たが凄まじい戦闘力だと思う。

その戦いに『カッコいい』とかいう感想を抱くのだ。そんなの、ノワールは初めてだった。

 

「う、うん。それで?何が言いたいのさ!」

「……しばらく、ここに残ってくれない?」

「……え?」

ネプテューヌは言ってる意味がわからなかった。それはユニ以外のみんなも同じようだ。

 

「え、えと、お姉ちゃんの邪魔がしたい……とかじゃないんですよね?」

「ええ。でも、このまま追いかけて仮に私も加えて2対1で戦ってもミズキには勝てないと思うの」

「………………」

 

みんなは黙り込んでしまう。ノワールにそこまで言わしめるほどの力をミズキは持っている。

 

「あのね、私もお姉ちゃんもネプギア達に協力するつもりなの。もし良かったら連れて行って欲しい」

「え?でも……」

「私は借りは返す主義なの。それに……」

「………?」

 

もう1度会いたい。

理由は、昨日散々考えた。その理由は到底受け入れ難いものだったが……整理はつけた。

このまま2度と会えないなんてことはノワールにとっても嫌なことになったのだ。

 

「それがどうして私達がラステイションに残る理由になるのさ!一刻も早くミズキを追わなきゃいけないのに!」

「そうね。時間が経てば経つほどミズキは私達から離れていくわけだし……」

 

アイエフが同意する。

ノワールは立ち上がってネプテューヌに理由を告げた。

 

「模擬戦、するわよ。ネプテューヌ」

「ええ、今更⁉︎」

「このままじゃ私達はミズキに逆立ちしたって勝てっこないの。強くなるわよ、ネプテューヌ」

「だ、だからって……」

「ネプギア、私達も」

「ユニちゃん……」

「アイエフさんも、コンパさんも」

「…………」

「…………」

 

最初に決心したのは、ネプギアだった。

 

「……私、やるよユニちゃん」

「ネプギア………。うん!」

 

そして、アイエフとコンパ。

 

「仕方ないわね。私達も付き合いましょう」

「はいですぅ!」

 

そしてノワールとネプテューヌ。

 

「アンタはどうするの」

「たは、これだけやるって言ってたら私も断れないよ!仕方ない、相手してあげるよ、ノワール!」

「決まりね。期間は5日間のつもりよ」

 

そうと決まれば。

ユニとネプギアは早速外へ出る。

 

「行くよ、ユニちゃん!」

「負けないんだから!」

「行くわよ、コンパ」

「あ、待ってあいちゃん!」

 

そしてコンパとアイエフもそれを追いかける。

 

「アクセス」

 

ノワールは女神化を始めた。

変身が完了してノワールの髪が白く染まる。

 

「さあ、ネプテューヌ」

「うん。……変身」

 

ネプテューヌの体が0と1の数列の世界に包まれる。

服は弾け飛んで光に包まれ、体と髪が大きく伸びて三つ編みになる。そして、背中に蝶の羽根のようなプロセッサユニットが装着された。

 

「5日間もいらないわ。……すぐ追いかけるんだから」

「私も強くなる。ミズキに借りを返すの」

 

いつの間にか2人の間ではどっちが先に相手を倒すかという勝負になってしまったようだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そして時間は現在。

ルウィーの教会の自分の部屋のベッドの上でブランは目を覚ました。

 

「………………私」

 

また寝てしまったのか。

時計を見ると時間は7時。そろそろ夜ご飯の時間だ。

 

「……起きましょうか」

 

布団から這い出ると机の上にとある1冊の本が置いてあった。見覚えがある、私の読んでた本だ。

 

「………なんで……」

 

寝ぼけた頭で帽子を手に取り本の表紙を見る。そこには付箋でメモが付けられていた。

 

『気持ちよさそうに寝ていたのでベッドに運びました。勝手に部屋に入ったことをお許しください。 スミキ』

 

「……別に、そんな……こ……と……?」

 

ブランの頭の中に寝る寸前までの記憶が蘇る。

 

「〜〜〜〜⁉︎」

 

なんかとてもスミキが気になってもたれかかったらその呼吸と暖かさになんだか安心して眠くなってきちゃってそのまま寝た⁉︎

そ、そんな、そんな、恋人みたいなこと……!

 

「うわああっ!クソ、クソッ!何してんだアタシは!何考えてたんだぁぁ〜ッ!」

 

枕をバンバン!と布団に叩きつける。破れた枕が羽毛を周りに撒き散らしてからようやくブランは我に帰る。

 

「……忘れましょう。何もなかったのよ。いいわね?」

 

アッハイ。

 

そんな幻聴を聞いてからブランは荒れた息を整えて部屋を出る。

なんだかまだ顔が熱い気がするが気にしない。

でもお礼だけは言っておかなければ。恥ずかしいとかそういうのを込みにしても運んでくれたのは事実。それは即ち労ってくれたということだ。

 

(そろそろ夜ご飯の時間だし、キッチンにいるかも……)

 

ブランはキッチンに向かった。キッチンの開いた扉から明かりが漏れている。包丁で食材を切る音も聞こえるので恐らくそこにいるのだろう。

 

「入るわよ……」

「あ、おはようお姉ちゃん!」

「お姉ちゃん、おはよ……」

「ロム、ラム……」

 

そこにはロムとラムがいた。

そして包丁を振るっていたのはスミキだった。

 

「おはようございます。……よく眠れました?」

「……おかげさまで……。ありがとうね、わざわざ」

「いいんですよ」

 

クスクスと笑ってスミキは微塵切りにした玉ねぎをひき肉と卵が入ったボウルの中に入れた。今日はハンバーグだろうか。

 

「ねえねえ、執事さん!私もされたい!」

「お姉ちゃんばっかり……ズルい……」

「こらこら、料理中だから触るのはダメ。話すのはいいから」

「はぁい。でも、憧れるもん!」

「お姫様みたいだった……」

「…………?」

 

ブランは妹達が言っていることがよくわからなかった。一体何をされたがっているのだろう。私がされたことといえば……特に、ないはずだ。少なくとも妹達が見ていた時は。

 

「でも2人にもしたよ?2人がお昼寝した時には、僕も君達を運んだけど……」

「起きてる時がいいの!」

「今、して……」

「いいの?手、ベタベタだよ?ほれ〜」

「きゃ〜!来ないで〜!」

「逃げろ〜……」

 

スミキがベトベトになった手を見せつけるとロムとラムは笑いながら逃げてブランの陰に隠れる。

 

「2人はさっきから何を言ってるの……?」

「だから、お姉ちゃんみたいなことされたいの!お姉ちゃんも覚えてないの?」

「だから、何を……?」

「お姫様……抱っこ……」

「…………あ?」

 

今、信じられない単語が聞こえた。なんだって?ウチの姫様が1番カワイイ?ケリ姫?ピーチ姫?恋のヒメヒメぺったんこ?

 

「おい、ロム。もう1回今の言ってみろ」

「お姉ちゃん?目が怖いよ……?」

「いいから!」

「ふぇ?だ、だから……私達もお姫様抱っこされたいって……」

「………これはどういうことだ?スミキィ」

 

ブランの目は赤く光って獣のような吐息を吐いていた。

だがスミキは肉をこねていてそれに気付かない。

 

「ブラン様を運ぶ時にその運び方で運んだんですよ。そこをちょうど起きたロムちゃんとラムちゃんに見られて………っ⁉︎」

「お前が挽肉になる覚悟は出来たかッ⁉︎」

「うおおおっ!」

 

ブランの振り下ろすハンマーを両手を組んで止める。

 

「ぼ、僕は食べても美味しくないですよ!」

「うるせえ!だったら生ゴミとして捨ててやらあ!」

「し、執事さん……!」

「お姉ちゃん、やめて〜!何をそんなに怒ってるの〜⁉︎」

「ほ、ほら、2人もそう言ってることですし、ここは1つ……!」

「お前が潰れればそれでお終いだっ!」

「ぼ、僕はまだ潰れるわけにはいかないんですけどっ⁉︎」

「るせえっ!生意気に力入れてないでさっさと潰れちまいな!」

「お姉ちゃん、ストップだってば!これ以上は執事さんが本当に潰れちゃうよ〜!」

「だ、誰か……助けて……!」

 

今日もルウィーは平和です。




ノワールのフラグを立て、ブランのフラグを立てた。
ブランの変身後の一人称ってワタシですかアタシですか。それとも俺?

話の時系列は『ラステイションでみんなを救出』→1日後→『ネプテューヌ特訓開始』→1日後→『ミズキ執事化』→4日後→『ネプテューヌ特訓終了予定』です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ルウィー来訪

スミキの出来る妻感は異常。


アナタはワタシに気付いてくれない。

 

こんなに近くにいるのに。

 

アナタはワタシに気付いてくれない。

 

こんなに呼びかけているのに。

 

アナタはワタシに気付いてくれない。

 

こんなに触れているのに。

 

アナタが幻だと気付くのに、ワタシは永遠を要した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

夜のルウィー。

ロムとラムは大きなハート型のベッドで仲良く隣り合って寝ている。

そんな中、灯りもつけずにブランは高速でキーボードを叩いていた。

瞳を赤く光らせてフフッと笑う。

すると部屋の明かりが急についた。

 

「んっ………、スミキ」

「こんな暗い中でパソコンなんか見たら、目が悪くなりますよ?」

 

コトリとスミキはブランの机にホットミルクを置く。

 

「ん……ありがと……」

 

ブランはそれに口をつけた。

 

「アナタももう寝なさい……。こんな夜中まで起きてたら、明日が辛いわよ……」

「ブラン様が起きているのに、僕が寝れるわけありませんよ」

「……勝手にしなさい……」

「クスクス、そうします」

 

どうやら私はこの仮面をつけた優しい男に、だいぶ依存しきっているらしい。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その翌日。

昼前のルウィーを1台の馬車が……馬車が……馬車?トナカイが引っ張っているから……トナカイ車?いやむしろサンタ?

それが走っていた。

 

「うわ〜、綺麗な街〜!」

 

その窓から顔を出してネプギアがカラフルな建物で出来た街を眺める。

 

「ルウィー、ずっと来たかったんだ」

「ネプギアがそう思ってる気がしてさ〜!むふふ〜!」

 

ネプテューヌがそう言うとネプギアは窓の外を見るのをやめて座席に座り直す。

 

「ロムちゃんとラムちゃんに遊びに来てって言われてたの。2人が他の国に行くの、ブランさん許してくれないんだって」

「ああ〜、ブランってお堅いとこあるからね〜。そんなことしてると、ノワールみたいにボッチになっちゃうのにね〜!」

「ふふっ」

「目の前にいるんですけど」

 

この……この……もう馬車でいいや。馬車に乗っているのはネプテューヌ、ネプギア、ノワール、ユニだ。

アイエフとコンパも連れて行きたかったのだが、2人は仕事が入ってしまった。終わり次第、すぐに向かって合流するとのこと。といっても、予定通りに仕事が進めば2日後にはもうルウィーには着いているだろう。

 

「っていうか!誰がボッチよ!」

「ごめんごめ〜ん!でも〜、面と向かって聞いた方が、自分を変えるきっかけになるよ!」

「ぐ〜たら女神に言われたくないわよ!それに、私にはミズキっていう友達がいるんだから……」

 

はあ、と息を吐いてノワールは椅子に座り直す。

 

「ネプテューヌと一緒に行くのは失敗だったかしら」

 

1人ないしユニを連れて行けば良かったと今更ながらに思った。

そんな姉を見て妹2人は苦笑いしながら顔を見合わせるのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

バシャーン!

 

「やった⁉︎」

「今日こそ……」

 

バケツが水をこぼす音。

ロムとラムはその音を確認して道の角から出る。

これはロムとラムの作戦だ。スミキをゴミを利用して誘導し、バケツを落とす!今回こそは、成功した⁉︎

 

「あ〜っ!」

「あ……」

 

だがスミキは傘を差していた。

おかげで上から落ちてくる水は全てガードされてしまった。

 

「な、なんで教会の中で傘を差してるのよ!」

「クスクス、偶然だね」

「今回こそは……絶対バレないはずなのに……」

「忠告。作戦会議はもっと小声でした方がいいよ」

「聞こえてたの⁉︎」

「ズルい……」

「はいはい。約束通り、片付けなさい」

「ちぇっ、はぁい」

「残念……」

 

ロムとラム、そしてスミキの間ではとある約束がされていた。ロムとラムはスミキにイタズラしても良いが、失敗した場合は自分達で片付けをするというものだ。

ちなみに、スミキの全戦全勝。

ミズキがイタズラを退けたり2人の相手をしてくれているおかげで今のところブランはスムーズに仕事が出来てとても気分がいい。

だが今まで以上に計画の仕事は忙しくなり、体に疲労が溜まっているのも実感していた。

 

そして今、ブランはいつもの広い仕事場で会談を行っていた。

ブランの正面に座っていたのは、ベール。

 

「よろしいですのね?この計画が実行すれば、世界に革命的な変化がもたらされますわよ」

「承知しているわ。実行までには、絶対バレないようにしないと……」

「失礼します」

 

スミキはロムとラムを退けてから部屋に入って来た。

 

「紅茶、お注ぎしますね」

 

2人のカップに紅茶を注いでいく。

 

「この方は?」

「初めまして。クスノキ・スミキといいます」

 

仮面をつけた風貌にベールはブランに問う。

しかし、この人、何処かで……?いや、気のせいか。

 

「ウチの教会の執事をしてもらってるの」

「あら、そうなのですか。それにしても会談中にまで入れるだなんて、信頼しておりますのね」

「……ええ。私の自慢の執事よ」

「ハハ、照れますね」

 

紅茶を注ぎ終わったスミキは頭を下げて退室しようとするがその扉が乱暴に開かれた。

 

「お姉ちゃん……」

「見て見て〜!」

「こら、ロムちゃん、ラムちゃん片付けは?」

「すぐするよ!それより、これ!」

「これ………」

 

ロムとラムはブランに1冊の本を手渡す。

そのページを開くとそこにはとんでもないラクガキがされていた。

 

「な……これ……!」

「お姉ちゃんだよ〜!」

「ロムちゃんと書いたの……!」

 

プルプルとブランの体が震えだす。

 

「げっ」

 

スミキは挽肉の恐怖を思い出して声を上げた。

 

「アタシの大事な本に……!お前らぁっ!」

「おんなじ顔になった!」

「きゃあっ……!」

 

ロムとラムはすかさず退散を始める。

 

「待ちやがれぇっ!」

「きゃ〜っ!」

「逃げる〜……!」

「お、お待ちください!ストップですブラン様!」

 

追いかけようとしたブランをスミキは羽交い締めして止める。

 

「は、離せ!今日という今日は、あいつらを脱穀してやるんだ!」

「マトリョーシカ⁉︎お、お待ちください!」

 

ブランが持っていた本をスミキはひったくってラクガキが書いてあるページを開く。

 

「この本を直せばいいのでしょう?お任せください、直してみせます」

「………出来るの?そんなこと……」

「はい。直せたら、また一緒に読書してくださいますか?」

「……約束するわ。任せたわよ……」

「お任せください」

 

スミキは本を大事に抱えた。

 

すると曲がり角の向こうからロムとラムの声がした。

 

「あ〜っ!ユニちゃん、ネプギアちゃん!」

「来てくれたの……⁉︎」

「え………?」

「………っ!」

 

ブランはその名前に驚いていた。

スミキはまるで胸の痛みを抑えるかのように顔をしかめた。

 

「それでは、僕は用がありますので」

「あ、スミキ……?」

 

スミキは走って行ってしまった。

礼もしないで、慌てて……。どうかしたのだろうか?

 

「うん。遊びに来たよ」

「やっほ〜、ブラン!いるんでしょ〜⁉︎」

 

奥からネプテューヌの声が聞こえる。ブランはベールと顔を見合わせたが、ベールは落ち着いた様子で紅茶を飲んでいるだけだ。

 

「あら、美味しい……」

 

そんな一言を漏らして。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「まあ〜、そんなわけでね!ルウィーに新しいテーマパークが出来たっていうから、遊びに来たの!」

「それだけじゃないでしょ」

「う、わ、わかってるよ〜!」

 

4人の女神が教会の庭の丸テーブルを囲む。

妹達は雪が積もっている方で雪遊びをしていた。

ベールは新しい紅茶に口をつけるが、すぐにそれをテーブルに置いた。

 

「同じ茶葉のはずなのに……こんなに差が出るものなのですわね。(ワタクシ)も勉強してみようかしら……」

「?ベール、何か言った〜?」

「なんでもありませんわ。それでネプテューヌ、本題は何ですの?」

「イストワールから、連絡は受けたわ……。どういうこと?ミズキが消えた、というのは……」

「えっと〜……」

 

 

 

 

「まさか……女神を倒せる人間がいるわけが……」

「ブランも信じられないわよね。でも、一目見たらわかるわよ。あの強さは完全に女神を超えてる」

「そんなお方だったのですか……。ですが、手がかりはないのでしょう?」

「全くないね!」

「胸を張って言えることじゃないでしょ?もう……」

 

何故か威張るネプテューヌにノワールがツッコム。

 

「だからこそ、とりあえず遊ぼうって言ってるんだよ!多分EXモンスターが出てきたらそこにミズキも来るはずだし!それまで遊んで待ってようよ〜!」

「残念だけど……多分ミズキはこの国には現れないと思うわよ……」

「ええ〜、なんでさブラン!ブランにミズキの何がわかるのよ!もう!」

「昼ドラじゃないんだから……」

 

またノワールがツッコム。

 

「この国ではEXモンスターはほとんど確認されていないわ……。確認されたとしても、隣国からやって来たものくらいね……」

「EXモンスターを倒したいならリーンボックスに来ては?自慢じゃありませんが、リーンボックスはそこそこEXモンスターが出没するんですのよ?」

「ええ〜!テーマパーク行きたいよ〜!」

「アンタは結局遊びたいだけじゃないの!……でも、ラステイションでもあの時以来、EXモンスターは発見されていないわね……」

「あ、でも〜、プラネテューヌでも出たって話は聞かないよ?」

 

その話に全員が食いついた。

 

「ミズキが来た国のEXモンスターが、いなくなっている……?」

 

ノワールの考察に全員が頷く。

 

「でも、ルウィーには来てないんでしょ?」

「ラステイションに来る前にルウィーに来てたのかも……。あるいは、ラステイションとルウィーを交互に移動してたとか……」

 

ブランがネプテューヌの反論を跳ね返す。

 

「では、次に現れるのは私のリーンボックスということですか?」

「その可能性は高いと思うわ」

「う〜ん……。じゃあなにさ、ミズキはEXモンスターを倒すためだけに国を出たってこと?」

「確かに……説得力がない……。それくらいの理由だったらネプテューヌに隠す必要はない……」

 

う〜ん、と女神が唸る。

その脇ではブランの顔をした雪だるまが完成していた。やたらとハイレベルでリアルである。

 

「でも、EXモンスターを倒しているのは確かよ。リーンボックスに向かった方がいいんじゃないの?」

「私はそれでもいいんだけどね〜。ネプギア達がさ〜」

「ネプギアがどうかしましたの?」

「ロムちゃんとラムちゃんと遊びたがってたから〜?とりあえず、テーマパークには行かせてあげたいなって」

「……まあ、それもそうね」

「テーマパークの噂は私も聞いています。リーンボックスではまだEXモンスターが出たという報告はありませんから……みんなで遊びに行ってはどうでしょう?」

 

するとそれを聞きつけたラムがこちらに向かってくる。それを追いかけて妹達も女神達のところへ駆け寄った。

 

「スーパーリテイルランド⁉︎行きたい行きた〜い!」

「連れて行って……!わくわく……!」

 

ロムとラムの2人はすっかり目を輝かせている。余程楽しみなのだろう。

それを見てブランは考える。女神達が保護してくれれば妹達は安全だろう。だけど、私は………。

 

「……妹達を連れて行ってくれるかしら」

「え?ブランは?」

「お姉ちゃん……行かないの……?」

 

ロムが残念そうに言う。

 

「私は……行けない……」

「え〜、仕事〜?やめちゃいなよ〜!昔の偉い人も言ってるよ〜。『働いたら負けかなって思ってる』って!」

「それ、偉い人じゃないから……」

 

またノワールがツッコム。今日はノワール大忙しである。

だが突然ブランは机を叩いて立ち上がる。全員がブランに注目する中、ブランは静かに告げた。

 

「………とにかく、私は無理……」

 

そうしてそのまま何処かへ行ってしまう。

ロムとラムは突然ブランが怒ったことに困惑し、顔を見合わせるのだった。

 

 

 

曲がり角を曲がって誰にも自分の姿が見えなくなったのを確認してからブランは壁に手をついて体重をかけた。

 

「………ふぅ……」

「……良かったのですか?」

「……スミキ……」

 

そこにはブランを心配して見るようなスミキがいた。仮面をかけているからわからないが、声色でわかる。まだ1週間も過ごしていないが、そんなことくらいブランにだってわかった。

 

「……いいの……。私には、まだ仕事がある……」

 

ブランは壁から手を離してスミキとすれ違った。

 

「……どうか、ご無理をなさらぬよう」

 




わかんないの!馬車って言えないじゃん!トナカイって何科⁉︎

スミキ…じゃない、ミズキの目的とはなんなのでしょう。

ルウィー編は他に比べてささっと終わるかも。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ロムとラムをお願い

ロリコンの登場。レロレロレロ。え?私が舐めてるのはチェリーですよ。


アナタ達のためにやっているのに。

 

どうしてアナタ達のためにならないの?

 

みんなのためにやっているのに。

 

どうしてみんなのためにならないの?

 

倒れたワタシを支えたキミ。

 

ワタシはキミを見習った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「わ〜い!」

 

まずは元気いっぱいにラムの入場。

 

「待って、ラムちゃん……!」

 

そしてロムの入場。

 

「2人とも!ちゃんとコート着て〜!」

 

次にネプギアで。

 

「ネプギア!入場券忘れてる〜!」

 

ユニ。最後にはそれを見て笑うブランを除いた女神達だ。

 

テーマパークの中は……何というか、見覚えがある。っていうか見覚えしかない。

小さい子供の味方、ガ○ラみたいな亀だのやたらと大きくてブニブニしてるキノコだの土管だの。どう考えてもヒッヒフー!な世界である。

ネプギアとユニはキノコを見てあのユメミダケを思い出し、頬を引きつらせていた。

 

「あ、スライヌ模様のコイン!」

 

ユニはスライヌの模様が描かれたコインを空中(どうやって浮いてるんだ)から取る。

 

「こっちはアイルーだ!ふふっ」

 

ついにそこからも参戦したようだ。CAPCONからモンスターの登場である。あの世界の敵も踏んだら死ぬのん?

ロムとラムはコインを見つけてそれを取る。だがその絵柄は納得のいくものではなかったらしい。

 

「あ……テリトス……」

「こっちはテスリト……」

 

何が違うんですかね。形かな?

 

「つまんな〜い!」

 

そして女神達はそんな風にはしゃぐ妹達を見ていた。ベールとノワールはベンチに座ってネプテューヌは何やら屋台で食べ物を買っている。

 

「く〜ださ〜いな〜!」

 

ノワールはベールに向かって愚痴を言う。

 

「他国の女神がわざわざ来てるんだから、ブランも付き合うべきじゃない?ホント、何考えてるのかわかんないわ」

「まあ、確かに。彼女はもう少し私のように大人になるべきですわね」

 

ばるん。

 

「私のように」

 

何処が、とは言わない。

ノワールは露骨なアピールに苦笑いだ。

 

「ねえ、そういえばベールはどうしてルウィーにーーー」

「ねぷぅ〜〜!」

 

響いたのはネプテューヌの悲鳴。驚いてそっちを見ると亀に襲われているネプテューヌがいた。

 

「この亀、私のピーチを狙ってるよ〜!うぅ、イヤぁ〜!助けて〜!うわぁぁ!ねぷぅ〜!」

 

看板には亀が桃を食べるシルエットと『CAUTION!』の文字。

ノワールは……もう、放っとくことにした。

 

 

 

「あ!ロムちゃん、でって竜模様!レアアイテムだよ〜!」

「あれもでって竜……!」

 

ラムは飛び上がって喜ぶ。ちなみにでって竜とは『でっていう』と鳴く竜で背中に主人公を乗せてくれる。多分。

 

「あ!あれも!全部でって竜!」

 

視線の先には幾つものレアコインが並んでいる。普通なら喜ぶところだが……。

 

「でも……もう、いいかな」

 

ラムですらお腹いっぱいな量だ。

だがロムはまだ足りないみたいだ。

 

「お姉ちゃんにも持って行ってあげる……」

「え〜……?」

 

ラムは腕を組んで頬を膨らませる。

 

「お姉ちゃん、一緒に来てくれなかったんだよ?」

「………そうだけど……。それに、執事さんにも……」

 

眉を垂らすロム。それを見てロムは元気を出すように言った。

 

「……わかった。お姉ちゃんと執事さんの分もいっぱい持って帰ろ!」

「……うん……!」

 

わ〜い!と2人はコインを追って建物の裏へと走っていく。

その裏でベトベトの舌なめずりをしている怪物がいることも知らずに。

 

「………レロ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアがキョロキョロして何かを探し回っているのをユニは見つけた。

 

「どうしたの、ネプギア」

「ロムちゃんとラムちゃん、何処行っちゃったのかな」

「あっちの方に行ってたけど……」

 

ユニが指差すのはでって竜コインが道のように連なった先の建物の裏だ。

 

「ロムちゃん?ラムちゃん?……あっ!」

 

「アケケケケ!」

 

その裏には巨大な黄色い怪物がいた。両手にはロムとラムを持って大きな舌を動かしている。

 

「ん〜!」

「うむ〜!」

 

2人は握り締められながら声が出せないように指で口を押さえられていた。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

「アンタ、何やってんのよ!」

 

ロムとラムは捕まっていたのか!

 

「イーッヒッヒッヒッ、レロ〜!」

 

怪物は巨大な舌をネプギアとユニめがけて伸ばしてくる!

 

「くっ!」

「はっ!」

 

だがユニとネプギアは左右に飛んでその舌を避けた!

 

「なにぃ⁉︎」

「ええっ⁉︎アレを避けた⁉︎」

 

怪物の足元には黒い肌をしてフードを被ったガラの悪そうな女もいる。あいつらを倒さなきゃ!

 

「ユニちゃん!」

「ネプギア!」

 

特訓の成果だ。

ネプギアとユニは深呼吸して瞬時に戦闘態勢を整える。

 

「ええいっ!」

「こ、このっ!」

 

ネプギアがビームソードを持って怪物に斬りかかるのを女が鉄パイプで弾く。

 

「きゃあっ!」

 

ネプギアははじき返されてしまった。

だが地面に着地してすぐに態勢を整える。

 

「このっ!」

「ン〜?バカ者!幼女に当たったらどうする!この、たわけ〜!」

「なっ……!」

 

ライフルの弾が怪物に命中するが全く効いていない。それどころか怒り出してしまった。

ユニにまるで槍のように尖った舌が伸びてくる。

 

「きゃあっ!」

 

ユニは間一髪で避ける。

だが、今の一撃で床が大きく抉れて音が出た。

 

「ネプギア、何事⁉︎ああっ!」

「なによ、アンタ!」

「2人を離しなさいな!」

 

女神達もその音を聞きつけてやってきた。

 

「ん〜!ん〜!」

「んむむ〜!」

 

「ヤッバ!ここは、逃げるが勝ち!」

 

女が地面に煙玉を叩きつけると煙がそこら一帯を覆いこんだ。

 

「ゴホッ、コホッ!」

 

前が見えない!逃げられる!

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「そう言われましても、ブラン様に『誰も通すな』と申し付けられているんです……」

 

使用人のメガネをかけた女が扉を遮っている。

その前にはテーマパークから戻った女神達が並んでいた。

 

「ええ〜⁉︎私達女神仲間なんだからいいでしょ〜⁉︎」

「せめて、謝らせてください!」

「ロムとラムが誘拐されたのは、私達のせいなの!」

「そんなことはないわ。2人はよく戦ったわよ」

「でも……」

 

ネプギアとユニが俯向く。

 

「既に、警備兵を総動員して、捜索させていますので……」

「それは知ってるけど!」

 

『……帰って……』

 

扉の向こうからブランの声が聞こえた。

 

『アナタ達はいつも迷惑よ……』

 

「……………」

 

みんなは黙り込んでしまう。

ブランは扉の奥で振り返り、ドアから離れた。

その時、女神達の間を割って仮面を付けた男が割り込んできた。

 

「………入れて」

「あっ……」

 

その男は使用人を退けてドアの中へ入っていく。

その様を女神達は呆気に取られて見ていたが、ベールを除く全員がデジャヴを感じていた。

あの声、どこかで………?

 

「ロム……ラム……」

 

ブランは力なく歩いて誘拐された妹達の名前を呼ぶ。もちろん、そんなことをしても2人は帰ってこない。

 

「私のせい……!私が、姉として、もっと、ちゃんとしていれば……!あっ……!」

 

ブランはフラフラ歩いていたために足がもつれた。

そのまま倒れてしまいそうなブランを誰かが前から抱きしめて止めた。

 

「ブラン………」

「………スミキ………」

 

力なく崩れ落ちるブランを支えながら一緒に膝をつく。

その胸元にブランは顔を埋めた。

 

「ロム……と……!ラム……が……!私の、せい……!私の、せいなの……!」

「……ブランのせいじゃ、ないよ……」

 

スミキは胸にじんわりとした熱さを感じる。すすり泣いているのはわかっていた。スミキはただ優しくブランの頭を撫でる。この1週間、色んなブランを見てきたがこんなに弱々しいブランは初めてだ。

 

「なんとかしなきゃ……!なんとか……!」

 

涙を拭いてブランはスミキの胸から離れ、立ち上がる。

その時、立ち入りを禁じているはずのドアがガラッ!と開いた。

 

「ガラッ!ガラッ!ガラッ!」

 

扉を開く音を何故か3回繰り返した女。直後、ブランにライトが当てられる。

何故?見張りはどうした……?

女はピンク色のゴスロリ服を着ていて背はとても小さい。その後ろには全身黒タイツの男が2人いた。

その3人はブランに走り寄ってきた。

 

「………誰?」

「私はアブネス!幼年幼女の見方よ!」

 

知らない、といった顔をしているブランにアブネスは補足説明をした。だが………。

 

「大人気ネット番組!アブネスチャンネルの………って、あれ?どうしたの⁉︎」

 

突然後ろの黒タイツの2人がドサリドサリと倒れた。アブネスは後ろを向いて2人の安否を確かめる、

 

「………ごめんね。君に恨みはないけど……」

 

アブネスはブランの後ろから響いた声に振り向いた。

 

「ひっ⁉︎」

 

ブランには見えていないが、スミキから放たれるオーラは圧倒的だった。仮面をつけているのにもかかわらず、叩きつけるような怒りが伝わってくる。

 

「………今は邪魔だ」

「あ………」

 

アブネスもドサリと倒れた。

 

「何をしたの……?」

「………なんでもないよ」

 

振り向いて確かめるブラン。その足元がまたふらついた。

 

(っ………立て……ない……)

 

それをまたスミキが支える。

 

「……また……切り捨てなきゃいけないなんてね……。2人と、アンチクリスタル。けど……今回も同じだ。もう答えは決まってる」

「何……を……?」

 

さっきと同じように抱き合いながら座り込む。

スミキはその仮面を外した。

 

「結構、バレないものだね」

「アナタ………!」

 

仮面を外したミズキの顔にブランは目を見開く。

 

「ウソついてて、ゴメン。君の執事も、もうやめなきゃいけないね」

「待って………!ダメ……!」

 

ミズキの胸に当てられたブランの手。それをミズキは両手でしっかりと握った。

 

「2人は僕が助ける、必ず。君は……しばらく休んだ方がいい」

「そんなこと、出来ないわ……。私が、ロムと、ラムを……!」

「僕の執事としての最後のお願い。……いいかな?」

 

ミズキはブランをお姫様抱っこで抱え上げる。

 

「あ………!」

「クスクス。君はまた、怒ってしまうかな」

 

そのままミズキは扉を開いてブランの部屋へと向かう。

警備兵は総動員しているし、女神達も庭で待機していて誰ともすれ違わないのが救いか。

 

「僕が1番君を近くで見てた。君の頑張りも、努力も」

「……ミズキ………」

「手伝えれば良かったんだけどね。君が危ないのもわかっていたのに、手伝えなかった。君がここまで疲れてしまったのは、僕のせいだ」

「やめて………アナタのせいじゃない……」

「その言葉、そっくり君に返すよ」

 

クスクスと笑ってミズキは歩く。

ブランの部屋にたどり着いたミズキは足を開いていたドアに引っ掛けてドアを開く。

そしてベッドに近付きながらブランを回転させて向かい合わせになるように抱き締める。左手だけでブランを支えて右手で掛け布団をめくった。

 

「私は……ロムとラムを……助けなきゃ、いけないのに……!」

「……泣かないで、ブラン」

 

ブランを布団に寝かせて掛け布団をかける。

帽子を外して目に浮かぶ涙を拭ってあげた。

 

「僕は君との読書の時間が、ここで1番好きな時間だったよ」

「……ミズ……キ……」

「変身」

 

ミズキの体が光り輝く。その眩しさに目を細めたブランが次に見たものは機人だった。

白を基調にして腰や胸、肩に青のライン。胸には透明な緑の球体が輝き肩や胸、ツノの黄色が目立つ。

何よりの特徴は背中に白地に黄のラインが入った翼が生えていたことだった。

 

「アナタ……は……」

《じゃあね、ブラン》

「ミズキ……、ロムと……ラム……を……お…ね、が……い………」

 

ブランはそう言って目を閉じた。

 

《……任せて》

 

機体の名はウイング。ウイングガンダム。

左手に持った赤い尖ったシールドと右手には巨大なライフルがある。

 

ウイングガンダムは扉から飛び立ち、その姿を鳥に変えて、大空を飛んで行った。




ネプギアとユニは修行の成果が出たみたいですね。

補足説明。
ウイングガンダムは変形をすることができるモビルスーツです。いわゆる、『寝ただけ変形』ですが。変形した後のシルエットはもう、鳥なんです。特にあの爪。バード形態とか言ってるし。

2話は本当に早く終わりますね。なんの差でしょう…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

翼を持ったガンダム

超イケボのパイロットが乗った機体が登場。



任された。

 

その使命感が僕を動かす。

 

任された。

 

その義務感が僕を動かす。

 

任された。

 

君の気持ちが、僕を動かす。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ええっ⁉︎ブランが倒れた⁉︎」

「はい。私もさっき執事の1人に聞いて……」

 

既に日は落ちかけてルウィーを夕焼けが照らす時間。

外でテーブルを囲んでいたネプテューヌ達は突然の知らせに驚く。

 

「………みなさん」

 

ベールはその知らせを受けて意を決したのか強い意志を持って瞳を向けた。

 

「ロムちゃんとラムちゃんを見つける方法があります」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「実は、ブランとはある計画を進めていましたの」

 

ベールは執務室に行ってパソコンを起動し、パスワードを打ち込む。空間に写し出されたいくつもの画面が様々な情報を見せる。

 

「ルウィーで人工衛星を使ったサービスが行われていたことは、ご存知ですわね?」

「確か、10年くらい前に終わったやつよね?」

 

ノワールが思い出す。大昔とは言わないが、そこそこ昔の出来事だ。

 

「実はあの人工衛星はまだ稼働していて地上写真のデータを送ることができるのですわ」

 

画面のいくつがルウィーの上空を映し出した。

 

「ただし、低解像度の」

 

その通りに街がある程度をまでいくとアップにならなくなる。これでは詳細がわからない。

 

「それを解析して高解像度にするソフトウェアをリーンボックスの研究所が開発しましたの」

 

カタカタと慣れた手つきでベールはキーボードを叩いて画面を変化させていく。

 

「そこでブランに持ちかけたのですわ。ルウィーが写真のデータを提供してくれれば、我が国はこのソフトを提供すると」

 

「ええ⁉︎それって、アナタ達だけが世界中の情報を得られるってことじゃない!」

「ええ⁉︎私達、見られすぎちゃって困るじゃん!」

「いいえ。私達そのデータをみんなで共有しようと考えていたのですわ」

 

『……え?』

 

「ブランが言い出したんですのよ?『友好条約を結んだのだから、4つの国で等しく利用すべき』だと」

「そうなの?」

「だから、公開するタイミングをうかがっていたのですわ。サプライズプレゼントみたいで、洒落てるでしょう?」

 

『………』

 

みんなは顔を見合わせる。

するとパソコンがピコンと音を立てた。

 

「みなさん、解析が終わりーー」

 

ビーム、ビーッ、ビーッ、ビーッ!

 

「ねぷっ⁉︎」

「な、なに⁉︎」

「どうしたんですか、ベールさん⁉︎」

 

急にパソコンから鳴り出す警報音。

 

「まさか……⁉︎」

 

先程よりも数倍早いタップでパソコンの画面を変えていく。

 

「やはり、ハッキング⁉︎女神のパソコンをハッキングだなんて、いい度胸ですわね!」

 

カタカタカタカタとベールが細かくキーボードを叩く。

 

「ね、ねぷっ⁉︎指の動きが見えないよ⁉︎」

「くっ、強い!せめて、ハッキング源だけでも!」

 

すると画面にアルファベット4文字が浮かび上がった。

 

「『JACK』……ジャック?」

「ジャック⁉︎」

「ジャックさんですか⁉︎」

 

ネプギアとネプテューヌは顔を見合わせる。

他の女神もその名前を思い出した。

 

「ああ、あのイストワールみたいな小人の……。でも、どうして彼がハッキングを……?しかも、データが何も荒らされていない……」

「きっと、ロムちゃんとラムちゃんの居場所を確かめた……!」

「ということは、つまり……!」

 

ネプギアとユニが結論にたどり着く。

 

「2人を助けるために……⁉︎」

「来てくれたんだ、ミズキさんが!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「んんっ、んっ……」

 

薄暗い部屋の中でロムは目を覚ます。体が動かない。縛られているようだ。

寝ぼけ眼で前を見るとそこには、

 

「レ〜ロレロレロレ〜ロ……」

「ひっ!イヤっ!」

「ん……ロムちゃん……あっ!」

 

怪物が舌なめずりをしていた。

思わずあげた悲鳴でラムも目覚める。

 

「ア〜クククク!寝起きの幼女キター!」

 

仮面ライダーにでも変身するのだろうか。

 

「舐めまわしちゃってもいいかな⁉︎」

 

答えは聞いてない。

 

「だっはー!」

 

その矛先はロムに向いた。

 

「ひっ、いやあぁぁ!」

 

舌に巻かれて持ち上げられひたすら舐められる。ロムはその気持ち悪さに悲鳴をあげた。

 

「ちょっと!ロムちゃんに何するのよ!やめなさい!」

「ヒヒッ!」

「えっ、きゃああっ!いやっ、やめて〜!」

 

今度はラム。ロムとラムは抵抗できない中、ひたすら怪物に舐められ続ける。

 

「トリック様〜、身代金要求の電話してきました〜。……って何やってるんすかっ!」

 

ドアを開けてさっきの体色の悪い女が帰ってきた。もう名前わかんねえし、下っ端でいいね。

 

「見ての通り、幼女を癒しているのだ!俺のペロペロには治癒効果があるからな!」

「そ、そうすか……」

「レ〜ロレロレロレロレロレロレロレロ」

 

また舐め始めたトリックを置いて下っ端は部屋を出た。

次の瞬間。

 

 

ーーーー『思春期を殺した少年の翼』

 

 

ドカァァァァンッ!

 

「な、なんだぁ⁉︎」

「なに⁉︎」

「なんなの……⁉︎」

 

壁が爆発して大きな穴を開ける。そこから鳥型の戦闘機が銃口をトリックに向けて入り込んできた。

そのライフルからビームが発射される。

 

「危ないっ!」

 

トリックはその体を弾ませて後退し、ビームを避ける。

 

「なんだぁ、あいつ、大したこと……っておわぁぁ⁉︎」

 

トリックは自分がさっきまでいた地面を見る。

地面は広範囲にわたって焼けただれ溶けてクレーターを作っていた。

この威力、ただのビームではない。

 

「む⁉︎あいつは……⁉︎ぬあっ!」

 

後ろから衝撃を感じてトリックは両手からロムとラムを離してしまう。

 

「きゃあっ!」

「やっ……!」

 

縄で縛られた状態では受身が取れない。このままでは壁に当たって怪我をしてしまうところを機人が2人を抱えた。

 

「えっ⁉︎」

「誰、なの……⁉︎」

 

そう、さっきまで戦闘機がいたはずが、人型の機体がロムとラムを助けたのだ。つまり、変形した。

ウイングは盾からビームサーベルを取り出してロムとラムの縄を切る。

 

「あ、ありがと……」

「………動く……!」

《……クス、言ったはずだよ。君達がピンチの時、ガンダムは必ず助けに来るって》

 

その声にロムとラムは聞き覚えがあった。心安らぐような、優しい声色。

 

「そ、その声、もしかして……!」

「執事さん……!」

《……そうだ。僕が、ガンダムだ》

 

しゃがみこんで2人の頭を鋼鉄の手で撫でる。

2人は安心したのか、笑顔になった。

 

「こ、この〜!」

《誘拐犯……!ブランを泣かせたのは、君か……!》

 

ウイングは振り返ってトリックを見据える。

トリックは幼女が自分の手から離れて怒り狂っていた。

 

「幼女を!返せ〜っ!」

《ロム、ラム!逃げてっ!》

「う、うんっ!」

「はい……!」

 

ロムとラムはウイングの背中にある扉から逃げていく。

 

「うおおっ!幼女の敵め!お前みたいなロボットが幼女に好かれるか〜っ!」

《好かれなくたって構わないさ。今、ここでお前を倒せれば……!》

 

ビームサーベルの緑色の刃を展開する。

そしてバックパックのウイングのスラスターをふかして果敢にトリックに立ち向かった。

 

《ターゲット・ロックオン。……破壊する!》

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「こんのっ、貫いてやるぅ〜!」

 

ウイングの頭部のバルカンを物ともせずにトリックの舌がウイングへと向かってくる。

ウイングは一瞬だけ下方向にスラスターをふかして少し高度を上げた。

 

「んなっ!」

 

まるで舌の上を滑るようにウイングはトリックに突進していく。

そしてその伸びきった舌に……!

 

「あいだぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ビームサーベル!

トリックの舌は真っ二つにちょん切られる。

 

《焼けろッ!》

 

そのまま接近してビームサーベルでトリックの腹にX字の斬撃を加える。

 

「いいっ!いだい、いでえっ!ひゃあぁぁっ!」

 

トリックはたまらずウイングが部屋に開けた穴から外に脱出した。

 

《逃がすかっ!》

 

ウイングガンダムは変形してトリックを追った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「いいんですのね?本当に作戦もなしに入って……」

「大丈夫!ミズキならもう助けちゃう頃だよ!」

「行きましょう、ダメだったらその時です!」

「もう、適当なんだから」

 

ネプテューヌ、ネプギア、ノワール、ユニ、ベールは写真を解析してわかった誘拐犯のアジト、建設途中のテーマパークの跡地に向かった。

そして、その室内に入っていく。

 

その数分後。

足取り確かにそこに向かっていた女神がいた。

 

「ロム、ラム………!」

 

そして。

 

「ミズキ……!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「や、やっべ〜、こりゃもう身代金どころじゃねえよ〜……!」

 

下っ端はあの戦闘を見ていた。

というわけで下っ端らしく逃亡を企てていたところである。

 

「ひっ、ひっ、はっ!」

 

「ああっ!誘拐犯!」

「げげっ!女神!」

 

ネプテューヌが指差して言う。

 

「もう逃がさないわよ!女神をなめないでよね!」

「な、舐めてたのは、トリック様だけで……」

「さあ、教えなさい。ロムちゃんとラムちゃんは何処にいるの⁉︎」

「し、知らねえ!変なロボットが来て、逃がしちまったよ!」

「変なロボット……ミズキ!」

「奥に、いるんですね!」

 

その言葉を聞いてネプテューヌ達は一目散に奥へと向かっていく。

 

「うげっ、ちょ、やめ、踏むな、うがぁぁっ!」

 

その後には……下っ端が踏まれて倒れていた。

 

「………アナタも大概気の毒ですわね」

「うるせえ……」

 

ただそこに残っていたベールだけが同情してくれるのだった。

 




俺がガンダムだ。この名言は出すつもりはなかったんですけど、話の流れで自然に出てきて、ならまあいいかなって。

次でルウィー編はお終い。

次はリーンボックスですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

約束

ルウィーはお終い!

ブランの旗も上手く立てられましたかね。


絶対帰る。

 

君の言葉が君と僕を繋ぐ。

 

絶対帰る。

 

君の想いが君と僕を繋ぐ。

 

絶対帰る。

 

君との約束が君と僕を引き寄せる。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ひーっ、ひーっ、酷い目にあった……!」

 

トリックは物陰に隠れながら進んでなんとか逃げおおせていた。

あと少しでテーマパークを抜け出せる、というところで目の前には!

 

「おおっ!おおおっ!」

 

ロムとラムもテーマパークから脱出するために金網を登っている最中だった。

 

「幼女!幼女さえいれば俺は戦える!ヒーヒヒヒ、幼女は最高だぜ……」

 

長い舌を利用して自分で自分の舌を舐める。するとみるみるうちに舌の先っぽは再生し始めた。回復効果があるというのは本当らしい。

 

「さあ、いらっしゃあい!ペロペロしてあげるよぉん!」

「ひっ!」

「あっ……!」

 

そしてまた舌を伸ばす。その舌がロムとラムを捉える寸前!

 

「あいたぁっ!」

 

その舌をハンマーが抑えた!

そのハンマーにはロムとラムは見覚えがあった。

世界で1番頼りになって、強くって!

 

「よくも……!私の大切な妹に何しやがる……!許さねえぞ、この変態が!」

 

大好きな、お姉ちゃんだ!

 

 

ーーーー『JUST COMMUNICATION』

 

 

「変態⁉︎それは褒め言葉だ!」

「そうかよ。なら、誉め殺しにしてやるぜ!」

 

ブランの体が0と1の世界に入り込む。

持っていた本を開くと本は光になり、その光がブランを包む。足元からスーツが装着され帽子は消えて髪は青く光る。背中にプロセッサユニットを装着して手には巨大な斧を持つ!

 

「覚悟しやがれ!このド変態!」

「ウケケケ!シャアッ!」

 

空を飛んだブランに対抗して高く飛び上がったトリック。だが後ろからの射撃で態勢を崩す!

 

「ぎゃあああっ!」

 

「なに⁉︎」

「執事さんだ!」

「執事さんだよ、お姉ちゃん……!」

「なに、ミズキが……⁉︎」

 

ブランの先には鳥型の戦闘機が。それは変形して人型になった。それは確かに、ブランが眠る前に見たミズキが変身した姿だ!

 

「ミズキ!」

《ブラン、僕に合わせて!》

「おうっ!」

 

ウイングはビームサーベルを引き抜いて落ちていくトリックを切り抜ける!

 

「ぎゃあっ!」

「くたばれ、クソ野郎がっ!」

「ぐわっ!」

 

そしてブランも斧で切り抜ける!

 

《まだあっ!》

「ひいいっ!」

「オラァッ!」

「うええっ!」

 

交互にブランと切り抜けることにより、だんだんとトリックの高度が上がっていく!

 

《ブラン!決めて!》

「よっしゃあっ!テンツェリン!」

「や、やめてぇっ!」

「トロンベェェッ‼︎」

「うわぁぁぁっ!」

 

強大な斧の一撃が遥か彼方までトリックを吹っ飛ばす!

だが終わりじゃない。まだもう一撃!

 

《ターゲット・ロックオン。……バスターライフル、出力最大!》

 

キィィィンと銃口が光り輝く!

 

《消えろ!変態ロリショタペドがっ!》

 

そして発射される最大出力のビーム。

夜空を照らすほどの光に、その太さ、威力、全てがトップクラスだ。

その熱量と威力は周りの空気を一瞬にして電離化させる。その灼熱の奔流はトリックに直撃した!

 

「げげげげげ〜!幼女、ばんざ〜い!」

 

遥か空でトリックは爆発した。

 

《任務………完了》

 

それを確認してからウイングとブランは地面に降り立って変身を解く。

 

「執事さん……」

「それが執事さんの……顔……」

 

ロムとラムは初めて見るミズキの顔をまじまじと見つめる。

 

「ごめんね、ロム、ラム。怖い思いをさせちゃったね」

「う、ううん!いいの!」

「2人とも助けに来てくれたから……いい……!」

「ロム……ラム。私も、ごめんなさい。こんな目にあわせて……」

「……お姉ちゃん、お土産!」

 

俯いていたブランにロムとラムがコインを見せる。

 

「でって竜……!はい、お姉ちゃん。執事さんも……」

「……ロム、ラム……」

「ありがと、大切にするよ」

 

2人はコインを受け取る。

 

「それと、ブラン」

 

ミズキが懐から取り出したのは1冊の本だった。

 

「これ……あの時の……」

 

ブランはページを見渡すがそこには落書きの痕跡など1つもなかった。

 

「ブラン。君との約束が僕をまた、ここに戻らせるよ」

「アナタ……ダメよ、行かせないわ」

 

ブランは身構える。武力行使も辞さない構えだ。

 

「執事さん、行っちゃうの⁉︎」

「やだ……行かないで……!」

 

ロムとラムもミズキにすがりつく。

 

「大丈夫。2人のコインも……僕をここにまた、帰らせる。ほんの少しだけ、さよならだ」

 

ニコリと燕尾服を着たミズキは微笑む。

 

「……変身」

 

ピカッとミズキが光って3人が目を背ける。目を開けた時にはミズキはもう、空の彼方にいた。

 

「ミズキ!」

「執事さん!」

「執事さん……!」

「………っ、ミズキ……!」

 

ブランは空を飛ぶミズキの姿を見えなくなるまで見つめていた。胸の前でぎゅっと本を握りしめながら。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃。夜のルウィーを歩くメガネをかけた使用人が1人、いた。

それは周りに人がいないことを確認して路地裏に入ると皮を脱ぎ捨てる。

するとそこには先程の女の面影などない女が現れた。

大事そうに抱える箱の中には赤く輝くクリスタル。

それを眺めて女は小さく笑うのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ええ〜っ⁉︎」

 

その後日。

ネプテューヌが昼のルウィー中に響く声を上げた。

 

「寝不足〜⁉︎」

「そう……気を失ったのはそのせい……。一緒に遊びに行けなかったのも……」

「何よそれ……」

 

ノワールは呆れたような声を出す。

 

「ここのところ徹夜続きで……アナタ達と向き合う余裕がなくて。ミズキはいつも私を労ってくれてたんだけど……」

 

肩を揉んだり、飲み物を入れてくれたり。

 

「仕事は私がやるからって、全部私がやってて……。そのツケがきたのよ」

 

ブランはバツが悪そうに俯く。

 

「だから、ミズキには頭が上がらないわ……。私は倒れたのに、ミズキはそのまま2人を助けに行っちゃうんだもの」

「うん、ミズキはそういう人だからね〜!ミズキなら多分、死んでも助けに行っちゃうよ!」

「わかるわ。そのまま一緒にぶっ倒れてもおかしくなかったわよ」

 

ミズキの人となりを知っているノワールがネプテューヌに同意する。

 

「紅茶の淹れ方も上手だったですわ……。あんな人に世話してもらっていたなんて、羨ましいですわ」

「羨ましい!」

「羨ましいわね」

「ノワールまで……もう」

 

くすりとブランが笑う。

そこにロムが走ってきた。

 

「お姉ちゃん……出来た……!」

 

今度は『画用紙』の上に、ロムとラムはお絵描きをしているようだ。

 

「うん……よく出来てる」

 

頭を撫でるとロムは嬉しそうに戻っていった。

 

「でも……案外ミズキもイタズラ好きなのね。知らなかったわ……」

「え?なんで?」

「これ……」

 

ブランが差し出したのはミズキが修復してくれた本だ。

ネプテューヌはパラパラとページをめくって本の中身を確認していくが別段おかしなところはない。

 

「うん?これのどこにイタズラがしてあるのさ」

「何も書いてないですわよね」

「そうよね」

「私も最初はそう思ったんだけど……カバーを外してみて」

「カバー?ああっ!」

 

表紙のカバーを外すとそこには、ブランとロム、ラムの顔の似顔絵が書いてあった。デフォルメされた、ニッコリ笑顔で。

さらにネプテューヌは反対側も見てみる。

そこには仮面をつけたミズキが笑っている絵があった。

ネプテューヌ達は呆気に取られて口をあんぐり開けている。

 

「………大したことしてくれるわ……。失くすわけにはいかなくなっちゃった」

 

ブランはミズキの絵のように、にっこり微笑んだ。




次回予告

「ミズキはきっと、この国のどこかにいる」

次なる舞台はリーンボックス。ネプテューヌ一行はミズキを探してリーンボックスを彷徨う。

「ボク……どんな歌が歌いたいんだろう……」

苦しみ、悩む5pb。答えを見つけようとあがく彼女に魔の手が迫る。

「もう……間に合わないのかもしれない。けど、諦めない。負けない。最後まで、抗うんだ!」

ミズキの旅の終わりも近付いていた。彼の目的とは。ネプテューヌを傷つけてでも成し遂げたかったこととは。リーンボックスの空に可憐な歌声とゼータが響きあう。

「僕は……もう、ダメなのかもしれない」

ーーーー


バスターライフルって案外えげつない武装なんですね。
wikiで設定読んだらまあ、とんでもない威力。ツインバスターライフルになったらさらにその上ってマジ戦術兵器ですね。最大出力じゃ3発しか撃てないのも頷けます。

はい、あのオープニング前の話を引き延ばします。だって、ただライブじゃつまらないじゃないですか…(言い訳
さらにその次の章は見せ場のオンパレードですね。多分次の章は数話で終わるので海のように広大な心で許してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章〜リーンボックスの歌姫。響く弱音と震える歌声〜
超次元アイドル、5pb.


あ、安心してくださいよ、この章はすぐ終わりますから、はい。


優しくなりたいと誰かが願った。

 

そうなれば、人の痛みがわかるから。

 

優しさを捨てたいと誰かが願った。

 

そうなれば、楽に生きられるから。

 

でも僕は、優しさを捨てたくなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

リーンボックス、その街中。

今日はリーンボックスでは1日中雨が降っていた。

そんな中をミズキは傘もささずに歩いていた。

 

「……………」

 

体中ずぶ濡れで髪からは水が滴り表情はうかがえない。

ミズキは路地裏に入り込む。その中の屋根の下に入り込んだ。

 

「ジャック」

「……なんだ」

「……あと、アンチクリスタルは幾つ?」

「2つ、いや……1つ」

「………………」

 

ザーと雨の音が遠く聞こえる。

失敗、続きだ。何1つ、成功させられていない。こんなんじゃ、誰も守れない……!

 

「僕はもう……ダメかもしれない」

 

約束を、守りたいのに。僕の中の優しさがそれを許さない。そんな優しさ捨て去れたらと思う。だけど、その優しさが僕だから。その優しさがみんながくれたものだから、捨てられない。

 

「………ジャック、僕を軽蔑するかい?」

「何をナイーブになっている。この程度で軽蔑していたら、『子供たち』なんかで過ごせやしない」

「………そうだね」

 

そうだ。僕は1人じゃないんだ。この次元のみんながいる。あの次元のみんなだってきっと僕を見守ってくれている。

 

「自分のやりたいことだけやる……だよね」

「思い出したか?なら、まだ頑張れるな?」

「うん。……そうだ、負けられない」

 

ミズキの目には消えかけていた炎が灯っていた。その火はいくら雨に濡れようが消えることのない、決意の灯火。

 

「最後のアンチクリスタルは……リーンボックスのどこかにある」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その数日後。ルウィーでのこと。

 

「申し訳ありません」

 

ベールはみんなに向かって頭を下げていた。ちなみにみんなとは各国の女神、女神候補生に加えてアイエフとコンパだ。

 

「そんな、頭をあげてよベール。アナタは何も悪くないじゃない」

「そうだよ!悪いのはそのペドリストなんだから!」

「テロリストね。ペドはあの変態だけで十分よ……」

 

頭を下げるベールをみんなが擁護する。

 

「しかし、後少しだけチケットを取るのが早ければ……。申し訳ありません」

「大丈夫ですよ、ベールさん。ライブに行けないのは残念ですけど、生中継されるんですよね?だったら……」

 

ネプギアもベールを擁護する。

 

何故ここに至ったかというと。

ルウィーにもミズキが現れて消えたとなると、残る可能性はリーンボックスのみになった。

ネプテューヌ姉妹とアイエフ、コンパ、ノワール姉妹に加えてブラン姉妹も同行を望んだためにリーンボックスの女神であるベールはとある提案をする。

 

『皆さんを招待しますわ』

 

リーンボックスの歌姫、5pb.のライブチケットを取って招待することを約束したのだ。ベールはリーンボックスの女神である上に、5pb.の親友でもある。だから頼めばチケットは取れるはずだったのだ。だったの、だが。

テロリストからの予告があったのだ。5pb.のライブを襲う、と。

ベールはもちろん5pb.にライブを中止するように忠告したのだが、5pb.は断固として拒否。

観客が1人もいなくたって私は私の歌を届けたいとベールにその熱意を伝えたのだ。

ベールはその熱意に押されてライブ中止を取りやめる。無論、警備を強化することで。

そして例え女神といえども裏からチケットを取ることはできなくなってしまったのだ。

 

「もう!無粋だよね!せっかく歌を歌ってくれるっていうのにさ!私の歌を聞けえ!」

「ネプテューヌ、戦闘機にでも乗る……?」

 

シャウトするネプテューヌにブランがツッコム。

 

「しかし、これではその後のホームパーティも危うい有様ですわ……。これでは……」

「だからいいって言ってるでしょ。ホームパーティくらい私達で準備できるんだし、アナタは5pb.の警護があるんでしょ?」

「はい……」

「ならしっかり5pb.を守ってからよ。私達はミズキを探してるから」

 

ノワールの言う通りでもあった。ベールはその言葉にようやく頭を上げる。

 

「では、私は一足先にリーンボックスへと向かいますわね」

 

ベールは席を立ってリーンボックスへと向かった。最後まで「本当に申し訳ありません」と頭を下げながら。

 

「でも残念だな〜、ライブ見たかったよ!」

「こればっかりは仕方ないわよ。でも、テロが起きたらすぐに駆けつけるようにはしましょう」

「そうね……。どんな手段を使ってくるかわからないわけだし」

 

大陸中のアイドルの5pb.。

彼女を狙う理由は犯行予告には明記されていなかったらしい。

 

「お姉ちゃん、私達はどうするの?」

「そうね、しばらくここにお世話になっていいかしら」

「構わないわ。ロムとラムもいいわよね」

「うん!大丈夫だよ!」

「嬉しい……!」

 

そういうわけで、ネプテューヌ達はもう少しルウィーに滞在することになった。

 

「あ、それじゃ、また模擬戦やる?」

「ええ〜!変身すると疲れるんだも〜ん!」

「アナタがダメならブランに頼むわよ」

「ブランはやるの〜?」

「私は……そうね、やらせてもらおうかしら」

「仕方ないな〜、じゃあ私もやろっと!」

 

「またやろっか、ユニちゃん」

「うん。ロムちゃんとラムちゃんもやる?」

「模擬戦?なんで?」

「強くなるためだよ。強くなって、女神化できるようになって、ミズキさんを連れ戻すの」

「執事さんを……?」

「うん。やらない?」

「やる……ラムちゃんも、やろう……?」

「いいわよ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ライブ、3日前。

5pb.はリハーサルのためにライブ会場へと来ていた。海が非常に近い会場で潮風の匂いがする。

5pb.は車から降りるとまるで国の要人を警護するように大勢のSPが周りを囲んだ。

 

「…………」

 

一見、5pb.は平然とその中を歩いているように見える。では、心の声を聞いてみよう。

 

(ひゃあああああああ知らない人ばっかで、怖いよぉぉぉぉぉっ!)

 

そう、5pb.は極度の人見知りなのである。

ベールと親友ではあるが、むしろベール以外にあまり友達がいない。

ライブなどは平気なのだが……こんなに近くにいると怖くて怖くて仕方がない。

表情は笑顔のままカッチンコッチンで無意識のまま手と足を動かしている状態である。

しかし車から会場の入り口にまで向かうとそこには変身したベールが待っていた。

 

「ありがとうですわ。もう戻ってよろしくてよ」

 

ベールの号令で厳ついSP達は車に戻っていく。

 

「5pb.ちゃん?大丈夫ですか?」

「ムゲン○ンチ……」

「ダメみたいですね」

 

○限拳とかどこの1万2000年ですか。

 

「正気に戻って5pb.ちゃん、私ですわ、ベールですわよ」

「スト○ーサンシャイン……」

「ダメみたいですね」

 

古いですわね。5pb.ちゃんは進化の力で動いているとかですか?

 

「5pb.ちゃん、いい加減みんな飽き始める頃ですわよ」

「フクシャハドウ……」

「ええい、いい加減治りなさいな」

 

紅蓮なのですか、もう。

 

少し乱暴に頭を振るとようやく5pb.は正気を取り戻した。

 

「はっ!ボクは一体……」

「なんでもないですわ。さあ、早くリハーサルをしましょう」

「……?う、うん……?」

 

ベールに連れられて控え室に向かう。

 

「ここが控え室ですわ。リハーサルは……」

「わかってるよ。あと1時間くらいだよね」

「ええ。あと、5pb.ちゃんに付きっ切りのSPがそのうち控え室入りするはずですわ」

「う………」

 

そう、ベールは5pb.がライブを開くための絶対条件として付きっ切りのSPを付けるということを約束させたのだ。

無論、ライブ中などは側にはいないがそれでも近くで見守るという約束で。

 

「でも……やっぱり、気が散っちゃうと思うよ……」

「今さら何を言っていますの。いい機会ですから、そのSPさんと仲良くなってみては?」

「そ、そんなの、無理だよぉ……」

 

ベールははあ、と溜息を吐く。ステージの上ではあんなに立派なのに。

 

「とにかく、私も打ち合わせがあるので。危なくなったら、机の上のスイッチを押してくださいな」

 

それだけ言ってベールは言ってしまった。

 

「………………」

 

5pb.は縮こまってしまう。自分を変えたいとは思っているものの……やっぱり、怖いものは怖い。

多分、SPさんが来たら満足にウォーミングアップ出来ないだろうから今のうちに……。

 

「ーーーーーーー」

 

5pb.は椅子から立ち上がって発声練習を始める。

発声練習しながら周りを見渡してみたが、この控え室は中々の広さだ。

逃げられるようにドアが2つあり、中央に長机と椅子、部屋の壁にはガラスやピアノまである。

 

「ーー……ふぅ」

 

発声練習はお終い。喉は十分に温まった。

次は歌の練習。

爪先でリズムをとって頭の中に音楽を流す。

 

「光れ、夢の星………!」

「失礼します」

「超新星爆発しまぁぁぁぁすっ!」

「えっ⁉︎爆発っ⁉︎」

 

5pb.はドアを開いて現れたSPに恐れおののいて部屋の端っこまで逃げる。

 

「ち、近付かないでください!押しますよ!押しちゃいますよ!」

「待ってよ!それ万が一のためのスイッチだよね!」

 

体を縮めてガクガク震える5pb.。SPは確かにスーツを着てはいるものの、サングラスなどはかけていないし顔はにこやかなのだが……やっぱり怖い。

 

「す、ストップストップ。えと……僕何かしましたか?」

「え、あ、いや、そういうことではなく……」

 

両手をあげて降参のポーズをとるSP。

少し眉を下げてそんなことを言うから、5pb.は訂正した。

 

「ボク、その、極度の人見知りなんです……。だから、その、キミが悪いわけでは……」

「ああ、そういうこと。クスクス、びっくりしたよ」

 

SPは机の近くの椅子を取って壁際に持って行ってそこに座った。

 

「じゃあ、出来るだけ離れてた方がいいね」

「で、出来れば、そういう風に、していただけると……」

「僕の名前はクスキ・ミズキ。5pb.、君は僕が守るよ」

 

そう言ってミズキと名乗った男はニコリと微笑んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ライブ会場でのリハーサルは完全警護の元、行われていた。

事前にチェックを受けたものしか入ることは出来ず、入口と出口は完全にロックする。

さらに、監視カメラを使ってリアルタイムで会場中の様子を見ている。

SPはとある警備会社に頼んで隙はない。

では何故そこにミズキが潜り込めたかというと答えは簡単、ハッキングだ。

 

「甘いセキュリティだ。少し用心が足りないんじゃないか」

 

そう、ひとえにジャックの力あってこそだ。ジャックが得意とするのはハッキング。そして、情報処理。

この電子化した世界では警備会社にウソの申請を送り監視カメラの映像を偽装するなど簡単なことなのだ。

 

そして電子の世界の中でジャックはミズキと5pb.がいる控え室を見ていた。

 

「ククク、愉快じゃないか。なあ、ミズキ」

 




夢の星、超新星爆発。

5pb.の口調あってますかね…?キャラ設定も若干微妙なんですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伝えたい想い

急ピッチで進んでます。


その歌は、何のために?

 

その歌は、祈るために。

 

その歌は、何のために?

 

その歌は、感じるために。

 

その歌は、誰のために?

 

その歌は、私のために。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ーーーー!ーーーー!」

「はい、お終い!いい歌だったわよ!」

「あ、ありがとうございます!」

 

リハーサルが終わって控え室に戻る。

そこで着替えて帰るのだ。

扉を開こうとして体が固まる。

た、多分この扉の向こうにはミズキが……!

で、でもいつまでもここで立ち止まるわけにはいかないし、ベール様の言う通りに友達は作った方がいいと思うし、何よりこのままじゃ歌に支障が出るし……!

 

「何してんの?」

「アイエエエエエ!」

 

ミズキ⁉︎ミズキナンデ⁉︎

 

「とにかく、中入りなよ」

「え、あ、うん……」

 

ここにミズキがいるということは部屋の中には誰もいないということだし、5pb.は素直に部屋の中に入って出来るだけミズキと距離をとる。

中にはタオルが備え付けられていたのでそのタオルで汗をかいた体を拭く。

そして、反省。

 

(コーチはいい歌って言ってくれたけど……)

「ねえ、5pb.はさ」

「ひゃ、ひゃひっ……?」

「噛みすぎ、噛みすぎ」

「失礼、噛みま」

「そのネタはいいからね」

 

危ない、噛むところだった。

 

「5pb.は、何のために歌ってるの?」

「………何の、ために、か……」

 

結局、ボクの悩みもそれに由来するのかもしれない。

 

「実はボク、スランプなんだ……」

「そう?まだ人気は上がってる最中だと思うけど」

「まだみんなにはわからないだけで……。ボクの中では歌が何なのか、わからなくって……」

「歌が、何なのか……」

「最初は、みんなに声を届けたくて無我夢中だったんだ。でも最近は、ボクの歌って何なんだろう、って思って……」

 

椅子に座って俯く5pb.。

 

「言葉にできるものじゃないっていうのは、わかるんだ。誰かに聞いて答えが得られるものじゃないっていうのも。でも、ボクの歌に意味があるのかなって、最近思う」

「……………」

 

ミズキはしばらく黙った後に口を開いた。

 

「5pb.はどんな歌が歌いたいの?」

「どんな……歌、か?」

「5pb.が歌う歌に意味が付いてくるんじゃない。5pb.が意味を込めて歌うから、みんなにそれが伝わるんだ」

「…………」

「5pb.は、どんな歌が歌いたい?」

「ボクは……どんな歌が歌いたいんだろう……」

 

どんな歌が歌いたいんだっけ。

歌い始めた頃は確かにこの胸の中にそれはあったはず。それは一体、どこに行っちゃったんだろう……。

 

「わからないなら、考えてみよう。君は、どんな歌を聞かせたい?」

 

ミズキは部屋の端に備え付けてあるピアノに向かった。椅子に座って悲しげな旋律を奏で始める。

 

「行かないで、どんなに叫んでも、オレンジの花びら、静かに揺れるだけ」

「…………」

「やわらかな額に残された、手のひらの記憶遥か、とこしえのさよならつま弾く」

 

5pb.は知らぬ間に涙が目から溢れていたことに気付いた。

 

「……その歌、誰に向けて歌ってるの……?」

「………今はいない、友達に」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

本番前、最後のリハーサル。

結局、答えは見つからないままだ。

控え室に戻ってドアを開ける。そこにはミズキがいた。

 

「僕にもだいぶ慣れたみたいだね」

「そう、みたい……」

 

がっくりと椅子に腰を下ろす。

 

「まだ、見つからない?」

「うん……。それどころか、八方詰まりだよ」

「聞かせてくれるかな」

 

ミズキにはずっと歌の悩みを聞いてもらっていた。それ結局、後戻りのできない今日にまで。

 

「ボクは、凹んでいる人は励ましたい。泣いてる人を喜ばせたい。怖がる人を勇気付けたいんだ」

「うん。それは、すぐに見つかったよね」

「でも、ボクは1人だ。ボクが届けられる思いも、1つだけなんだ」

「…………」

「だから、わからない。どうすればいい?ねえ、ミズキ」

 

5pb.はミズキを振り向いて聞く。

 

「それに、ボクの歌は無力なんだ」

「無力……?」

「うん。歌は何でもできると思う。世界を変えられるとも思う。だけど、ボクの歌はテロリスト1人止められないんだ……」

 

きっと歌は世界を平和にできる。人と人だって繋げる。次元を超えて、想いを伝えられる。

けど、ボクの歌はそんな大層なことはできない。テロリストだって、止められやしない。そんな人が歌ったって、何もできるわけがない。

 

「……きっと、人には出来ることと出来ないことがある」

「………うん」

「5pb.も言ったけど、自分は1人だ。だから、想いは1つしか伝えられないっていうのも、正しい。5pb.には、人間にはいくつもの想いを1度に伝えることはできない」

「……やっぱり、そう、だよね」

「でも、歌うことは5pb.にしか出来ないことだ」

「……歌う、ことが……」

「人には出来ることと出来ないことがある。だから、人はきっと手を繋ぐんだよ」

「手を、繋ぐ……?」

「そう、手を繋いで、繋がろうとするんだ」

 

ミズキは歩み寄ってそっと5pb.の手を取った。5pb.は驚いたが、その柔らかい感覚に手を離せない。

 

「きっと、繋がることも人間には出来ない。でも、人は繋がろうとし続けるんだ。いつか、繋げる日を信じて失敗し続ける」

「でも……ボクは……」

「ある人が言ったんだ。『想いだけでも、力だけでも駄目なのです』って。5pb.には力がない。だから、想いを届けるべきなんじゃないかな」

「ボクが……想いを……?」

 

それはきっと、ボクが歌を通して届けられるもの。いや、歌なんか通す必要はない。言葉を通じて、時には話さなくたって伝わるもの。

 

「でも、ボクは、想いを届けられない……!ただ、1つだけだ。ボクは何を届ければいいんだ……⁉︎」

「その想いが伝わる」

「…………!」

「諦めないことだよ、5pb.。いくつもの想いを伝えようとすることをやめちゃいけない。その努力と頑張りと想いはきっとみんなに伝わる」

「そん……な……」

 

そんな、簡単なことだったのか。伝えようと努力することが、伝わる。そんなことで、ボクは全てを伝えられる……。

 

「応援してるよ、5pb.」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ライブ当日。

5pb.は決意を胸に秘めてライブ会場に到着した。

 

「5pb.ちゃん、大丈夫ですの?」

「バッチリだよ。任せて」

 

今日はミズキには会わない。ミズキは持ち場について私を見守ってくれているのだ。

 

「5pb.ちゃん……なんか、一皮剥けましたわね」

「そうかな……。そうかもしれない」

 

大切なのは諦めないこと。ボクはいくつもの想いをみんなに伝えたいんだ。そのいくつもの想いを、1つも切り捨てなんてしない。全部まとめて届けるんだ。きっとそれは今は無理なことだけど、諦めはしない。いつか、届けたい。

そしてその想いは、きっと届く。私がガムシャラに努力する想いはきっと届く。

 

「ボク、歌うよ。みんなに届けたいんだ、想いを」

 

 

 

そのライブ会場の近くの港。そこに小さい黒いネズミがやってきていた。

着ているのはウェットスーツだろうか。酸素ボンベも担いでいる。

そのネズミは海に飛び込んで海底を歩き始めた。

 

「まったく、人使いが荒いっチュよ。傭い主だからって、あのオバハン……」

 

愚痴をブツブツ言いながらネズミはレーダーが示すある方向へと向かって歩き続ける。

 

「ん、あったっチュ!これで……チュ⁉︎」

 

海底には赤く輝くクリスタル。その近くにプラプラと海中で揺れる灯があった。

 

「ま、待つっチュ!それは美味しくは……!」

 

それはアンコウ。海底に隠れていたアンコウはその赤いクリスタルを餌と間違えて口の中に飲み込んでしまった。

 

「⁉︎⁉︎⁉︎」

 

その途端、アンコウは激しく苦しんで暴れ出す。

 

「ま、マズいことになったっチュ!ここは、逃げるが勝ちっチュ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、ネプテューヌ達はリーンボックスの教会についていた。

みんなでソファーや地面に座ってテレビ画面を見つめている。

 

「ライブ開始って何時からだっけ?」

「あと少しだよ、お姉ちゃん」

 

ウキウキしながら待っているネプテューヌにネプギアが言う。

 

「呑気ね、ネプテューヌ。ミズキがこの国にいるかもしれないっていうのに」

「だから慌ててないんだよ!このタイミングでEXモンスターとか出てこれば、きっと私達はミズキに会える!」

「この国にいる確証なんて、何もないけどね……」

「ミズキはきっと、この国のどこかにいる」

「ネプテューヌ……」

 

ネプテューヌはそれを感じているように見えた。

 

「あ!始まった!」

 

ユニが声を上げる。その声でみんながテレビを見つめる。

ライブ会場では、5pb.がパネルに乗って宙に浮かんだところだった。




そんな簡単にネズミにクリスタルは取らせませんよ(ゲス顔

アンコウさんはかの有名ゲームに出てきたあのモンスターになるかもです。

ミズキが歌ったのは「暁の車」。オトーサマー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伝わる想い、確かな力

やっとオープニング前のライブが終わります。


その歌は、なんのために?

 

その歌は、祈るために。

 

その歌は、なんのために?

 

その歌は、感じるために。

 

その歌はなんのために?

 

その歌は、君のために。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《光れ!夢の星!オーバーリミット!限界なんて、超えてくよきっと!誰にも負けないから!》

 

『……………!』

 

ネプテューヌ達は鳥肌が立つのがわかった。5pb.の歌は直ではないが聞いたことがある。いい歌だとも思った。だが、こんなに聞く者の心を震わせるような歌だったか……⁉︎

 

「すごい……!心がビリビリする……!」

「私も!なんか、凄い!」

 

ロムとラムもそれを感じていた。

聞き惚れるとはこういうことを言うのだろうか。

ネプテューヌ達は画面の向こうの5pb.に釘付けになっていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「5pb.ちゃん……凄い……!」

 

ベールは観客席から見えないステージの裏でその声に震えていた。

ぶるりと体が震えて鳥肌が立つ。

この歌は今までのものと比べ物にならないほどいい歌だ。

 

5pb.の後ろから煙を吹き出しながらベールのペイントが施された戦闘機が5つ、駆け抜ける。

それは5pb.のライブに合わせて煙で模様を作り出す役目の戦闘機だ。

するとその真正面、5pb.の向いた方向から1機の小さな戦闘機が突っ込んできた。

 

「アレは⁉︎」

 

前から赤、青、白の順に色が基調になっていく。その戦闘機の背には銃が取り付けられていた。

その戦闘機の側面からすれ違いざまにビームが2本、発射される。

ベール柄の戦闘機は咄嗟に避ける。

 

「チッ!なんだアイツは!」

「俺達の作戦がバレたって言うのか⁉︎」

「黙ってな、お前ら!作戦変更、降下するよっ!」

『アイアイ、マム!』

 

「あの戦闘機は私が仕留めます!アナタ達は5pb.ちゃんを……!」

 

そう言ってベールは飛び出そうとするが、その瞬間にベール柄の戦闘機からパイロットが飛び出した。そいつらは背中にスラスターを背負っていて、まるでプロセッサユニットのようにして空を飛んだ。

パイロットを失った戦闘機はまとめて海に向かって飛んでいく。

 

「な、なんですの、アレは!私は戦闘機にあんなもの……!」

 

パイロットにあんな装備を許してはいない!

まさか、テロリストが2つ同時に⁉︎

そんな、犯行声明は1つのはずで……!

 

《ベール!何ぼーっとしてんの!》

「え⁉︎」

 

テロリストの1人だと思われていた小さな戦闘機は複雑な変形を始めた。だが、その間僅か0.5秒ほど。

そこには額に『Z』の文字を刻まれたガンダムがいた!

その名は、Z(ゼータ)ガンダム!

下半身は白、上半身は青を基調としたカラーリング。特徴的なのはその細い顔とシールド。右手にライフルを持ってZは空を駆けた!

 

《5pb.を守るよ!ベール、力を貸して!》

「そ、その声って……、まさか、ミズキ様では……」

 

「なんだい、アイツは!総員、あのツノから仕留めるよ!」

『アイアイ、マム!』

 

戦闘機から飛び降りた総員5名のテロリスト。

その全員が全員、手にアサルトライフルを持った。

 

「撃てっ!」

 

リーダー格と思われる女の号令でテロリストはZに向かって発砲する。

Zはスラスターをふかしてその銃撃を難なく避けていく。

 

「クソっ、なんなんだい、あの機動力は!」

 

テロリスト達はZに向かって飛び上がっていく。

 

観客達は銃声を聞いてパニックに陥っていた。歓声が一瞬にして悲鳴に変わり、我先に逃げようとする者が人を踏みつけ、別れさせていく。

そんな中に大きく声が響いた。

 

《み〜んな〜!》

 

5pb.だ。

口元のマイクを握ってライブ会場中に大声が響く。

 

《私の歌を、聞いて〜っ!》

 

会場中が静まり返る。その隙を突いて5pb.は中断された歌を始めた。

 

《光れ!夢の星!オーバーリミット!》

 

「ファ、5pb.ちゃん……?」

「なんだいアイツ!こんな状況で歌うなんて、気でも狂ったか!」

 

全員が5pb.の歌に注目する。

全員がライブが始まった時の興奮を思い出す。

 

「煩いんだよ!このっ!」

「っ、いけない!」

《5pb.!》

 

リーダー格の女が5pb.に銃口を向ける。ベールは5pb.の前に飛び出して槍を回転させ、銃弾を弾いた。

Zも5pb.の前に立ち、ライフルを撃って牽制する。

 

《それでいい!5pb.!伝えるんだ、想いを!》

(ボクは、みんなを……!みんな、大丈夫!ボクが、歌ってる!)

「ミズキ様……5pb.ちゃん……」

 

不思議と観客達は心が温まるのを感じた。そして慌てることなく、焦ることなく、譲り合って逃げていく。

 

「そんな……5pb.ちゃんが、やりましたの……?」

 

ベールはそれを空中から見て驚愕している。今もまだ響いている歌声が観客を安心させているというのか。

 

「チッ、女神まで現れたか!分が悪い、撤退するよ!」

 

テロリスト達はライブ会場の上から逃げ出した。

だがすぐにそのテロリストの悲鳴。そして水しぶきの音が聞こえた。

 

「お待ちなさい!」

 

ベールはテロリスト達を追いかけようとするがテロリスト達の様子がおかしい。まるで、逃げようとしているのに引き寄せられているような……?

 

「うわぁぁっ!」

「なんだよ、あのバケモノ!」

 

「一体、何が……⁉︎」

 

その時、会場のモニターが外の様子を映し出した。

そこには、海から上半分を出した巨大な赤黒いアンコウがいた!

 

「EXモンスター⁉︎このタイミングで⁉︎」

 

「ひいいっ!」

 

そのアンコウは大きく口を開けている。まさか、テロリスト達は吸い込まれている⁉︎

 

「ぎゃああっ…………」

 

テロリスト達は抵抗虚しく全員アンコウの中に飲み込まれる。

アンコウの大きな口の中には尖った牙が。そして体中には鋭いトゲが生えている。頭の上には提灯が揺れていた。

 

「止めなければ……!」

《ベール、待って!》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「うええっ⁉︎ば、バケモノ⁉︎これ特撮映画とかじゃないよね⁉︎」

「赤黒い……まさか、EXモンスター!そんな、大きすぎるわよ!」

「ミズキもいるけど……あんなヤツ、倒せるの……?」

 

女神達はテレビに映る巨大なアンコウに戦慄する。

 

「急いで向かうわよ、アクセス!」

「ネプギア達はついてきちゃダメだからね!変身!」

「ここは私達だけでやる……!変身……!」

 

女神達は変身する。

 

「そんな、私達も……!」

「ダメよ、危なすぎるわ!」

「でも……!」

「あいちゃん、コンパ、ネプギア達を見てて!行くわよ!」

「ちょ、ネプ子!」

「ねぷねぷぅ!」

 

女神達はライブ会場にまで飛んで行った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《ベール!迂闊に突っ込まないで!》

「ですが、アレを早く倒さなければ!」

 

「ウォオオオオ!」

 

アンコウは大きな唸りを上げる。

地面にまで這い上がってくるかはわからないがこれ以上は街に被害が出る。

 

「援護お願いしますわ!」

《ベール!》

 

ベールは飛び上がってアンコウまで向かっていく。左右に折れ曲がりながら素早く接近して狙いを定めた!

 

「食らいなさい!レイニー・ラトナ……!」

 

その瞬間、アンコウの提灯が激しく光った!

 

「うっ……!目が……!」

《ベール!》

 

もろに閃光を食らってベールは目が眩んでしまう。

そしてベールには見えていなかった。

大口を開けたアンコウが、いままさにベールを飲み込もうとしているのを………。

 

《ベールゥゥッ!》

 

バクン。

ベールがアンコウの口の中に消えた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ベールさんっ!」

 

ネプギアがテレビの画面を見て悲鳴をあげる。

 

「そんな、ベール様が……」

「食べられちゃったですぅ!」

 

ネプギアはがくりと膝をつく。

 

「食べられちゃったの……⁉︎」

「ベールお姉ちゃん、死んじゃう……?」

「だ、大丈夫よ!きっとミズキさんが助けてくれるわ!」

 

妹達はその可能性にかけるしかなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《あ………あ……!》

 

空中でZは呆然と漂っていた。

 

《ベー………ル………》

 

「ウォオオオオ!」

 

目の前ではアンコウが大口を開けて笑っている。

そのアンコウがZを見た。だがZは動こうとしない。

いざアンコウがZを吸い込もうとした瞬間、Zの耳に5pb.の声が届いた。

 

《ミズキ!ミズキなんでしょ、キミ!》

《……5pb.………》

《ミズキが言ったんじゃないか!大切なのは、諦めないことだって!諦めないで、ミズキ!ベール様を、助けて!》

《………そうだ……!諦めて、たまるか……!》

 

Zが大きく空中に舞い上がる。

 

《もう……間に合わないのかもしれない。けど、諦めない。負けない。最後まで、抗うんだ!》

《ミズキ、教えて!ボクは、ボク達は、何をすればいい⁉︎》

 

観客もベールが飲み込まれるのを見ていたのだ。その心は1つ、あのアンコウを倒して、ベールを救いだせ!

 

《想いを貸して!みんなの、想いを!君達の想いが力になる!》

 

 

ーーーー『閃光の中のMS』

 

 

《君達が想いを!僕は力を!》

 

「ウォオオオオッ!」

 

《みんな!想いを、彼に!》

『うおおおおおっ!』

 

5pb.の掛け声で観客達の心は1つになる。Zが、Zに内蔵されたバイオセンサーとミズキのニュータイプ能力がそれを力にする!

Zはビームサーベルを引き抜いた。

 

《わかる、わかるよ……!Zがみんなの心を感じて、繋げる!》

 

Zの体が紫に光り輝く。機械の身体がオーラをまとっているのだ!

 

《うおおおおっ!はあああああっ!》

 

ビームサーベルを両手で握ったZ。その刀身が信じられないほど長く、太くなる!

 

「ウォッ⁉︎」

 

《ベールを……ベールを……!》

 

Zがその巨大なビームサーベルを、振り上げて………!

 

《返せぇぇぇぇぇぇぇッ‼︎‼︎》

 

「⁉︎⁉︎⁉︎」

 

振り下ろす!

アンコウは真っ二つに切り裂かれた!

 

《やった!》

『おおおおおっ!』

 

5pb.と観客から歓声が沸き起こる。

 

《っ、ベールッ!》

 

Zは変形して海の中へと突っ込んでいく。

 

(そうだ、ベール様……!)

 

5pb.はステージを駆け下りて港へと向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

港に駆け下りた5pb.。

周りを見渡すがまだ人影はない。

そこに、水音が聞こえた。

 

「5pb.……!」

「ミズキ!」

 

ベールの肩を抱えたミズキが海の中からずぶ濡れで戻ってきた。

 

「ベール様は⁉︎」

「ベールが……ベールが、息をしてないんだ……っ!」

「………っ‼︎」

 

地面に変身の解けたベールが横たわる。

ミズキは急いで心臓マッサージを始めた。

 

「諦めて、たまるか……!」

「ミズキ……」

「起きて、ベール……!ベール……!」

 

ベールの口を開いて人工呼吸をする。

 

「ベール様……!」

「ベールっ!」

 

「………っ、ごほっ!ごほっ、ごほっ!」

 

「………!ベール!」

「ベール様!」

 

ベールが咳き込んで口から海水を吐き出す。

よかった、息を……!

 

「あ……5pb.ちゃん、ミズキ様……私……」

「もう、大丈夫だ。良かった……」

「良かった、ベール様……」

 

ほっと胸を撫で下ろす。

だがミズキはすぐに立ち上がった。

 

「……ごめん、僕はもう行くよ」

「え⁉︎そ、そんな……!」

「ミズキ……さま……」

「5pb.、君のライブ、最高だったよ」

 

次にミズキの体が光った時、ミズキはもうそこにはいなかった。遥か空を飛んでいたのだ。

 

「…………」

 

5pb.とベールはその行き先をずっと見つめていた。




テロリスト主犯のモデルはシーマ様。
ミズキがSEEDに続いてニュータイプ能力まで覚醒させました。違うんですよ、もともと全部使えたわけじゃないんです。それは後々明らかにしますけど。
アンコウのモデルは10倍くらいでかくしたチャナガブル。覚えてるかな〜、チャナガブル。
あ、こんな浅瀬にアンコウがいるわけねえだろ!とかいうツッコミはなしです。ここはゲイムギョウ界だから!(必死


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終わりの始まり

これでお終い。
次からはアツいですよ。アニメでもアツかったし。……アツくできるかなあ。


始まりはいつだって唐突なもの。

 

気がついたら始まりは始まっている。

 

始まりはいつだって緩やかなもの。

 

気がついたら始まりは終わっている。

 

始まりはいつだって恐ろしいもの。

 

気がついたら何かが変わっている。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ねっぷぅぅ〜〜〜〜〜〜っ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

リーンボックス中にネプテューヌの大声が響く。

その声たるや『プラネテューヌの雄叫び』。ウラララララ!

 

「じ、じ、人工呼吸をされたぁぁぁ〜っ⁉︎」

「え、ええ……」

 

ネプテューヌの慌て様にベールもドン引き気味だ。

 

「な、な、な、なんて羨まけしからん私もしたいなことを!」

「ね、ネプテューヌ……願望が漏れてますわよ?」

 

3分の2は欲望だった。

 

「の、ノワール?ブラン?あの……みんな、どうしたのですか?」

 

ベールは冷や汗を垂らしながらみんなを見る。

2人ほど「じんこーこきゅー?」と?マークを浮かべている者がいたのでアイエフとコンパが確保した。

 

「いや、その……私も、イヤではありませんでしたのよ?それで私は助かったわけですし……。ですが、不可抗力でしたし……。だから、その……許してもらえませんか?」

「……別に、怒ってはいない。ただ、ムカッとした」

「それは〜……怒ってるのでは?」

 

ブランは激しい口調が出てはいないものの、不機嫌気味だ。

 

「別に、私はミズキさんが好きとかそういうわけじゃないけど……」

「な、なんか私もあまりいい気分はしません……」

 

ユニは口を尖らせてネプギアは苦笑いしている。

 

「……ネプテューヌ、不可抗力だったのは確かだし、ここはノーカンってことで手打ちにしましょう」

「ねぷっ⁉︎ノワールは悔しくないの⁉︎」

「悔しくはないわよ。別に、ミズキがあっちの次元でキ……キ……キ……」

「キス!ちゅ〜!接吻!」

「そ、そんなに言わなくてもわかるわよ!それをしてない保証もないわけだし!」

 

ぶっちゃけ悔しいのは内緒である。

だがここは人工呼吸してもらったことを責めるのではなく、無事ベールが生きていたことを喜ぶべき時だ。

 

「とにかくノーカン、ノーカンなの!そんなことより、ホームパーティーの準備がまだでしょ⁉︎」

 

時刻は3時頃。

教会は派手に散らかっていてこのままではホームパーティーどころか座るところもない有様だ。5pb.のライブをテレビで見る時もそのあたりの荷物を後ろに放り投げてスペースを作り、見ていたくらいなのだから。

 

「はい、散った散った!」

「で、でた〜!こういう時に仕切りたがる奴〜!」

「いいから!一旦人工呼吸の件は置いとく!」

 

むしろ火山に向かってぶん投げた挙句に地脈を赤石で刺激して噴火させ宇宙にまでぶっ飛ばしてから考えるのをやめたいが!

 

「はい、開始!」

 

ベールは今更「心臓マッサージもされましたから……その、胸も」などとは言えなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

みんなはノワールの指示と班分けでホームパーティーを夜に間に合わせるべく行動を開始した。

ネプギアとアイエフ、コンパは食料の買い出しに行っていた。

ちなみにアイエフとコンパは「じんこーこきゅーってなによ?ねえっ!」だの「じんこーこきゅー……未知の世界……」だの言う幼女をいなしていたので若干お疲れ気味だ。

そんな中、コンパは待ち合わせ場所に到着していた。

 

「みんな、まだ来てないみたいですね」

 

紙袋を抱えたコンパは周りを見渡してアイエフとネプギアがいないことを確かめる。

その道を小さな黒いネズミがダラダラと歩いていた。

 

「チュ〜っ、チュ〜っ、酷い目にあったっチュ……。なんでネズミが海に潜らなきゃいけないっチュか。海の鼠って漢字で書いたら海鼠(ナマコ)っチュよ、まったく……」

 

体はびしょ濡れで水を滴らせながら歩いている。その肩には同じくびしょ濡れの斜めがけを担いでいる。

 

「チュ〜っ、チュ〜っ、チュッ⁉︎」

 

フラフラの足取りで歩いていたためについにネズミは転んでしまう。その拍子に斜めがけの中から何かが転がり落ちた。

 

「チュ〜っ、今日は厄日っチュよ……」

「……?」

 

そのネズミにコンパが気付いた。

 

「痛かったっチュ……?」

 

ネズミが顔を上げるとそこにはこちらの顔をしゃがみこんで覗き込んでくる天使が……いや、女がいた。

 

…………………。

 

アーアアアーアーアアー!(賛美歌)

 

「ほわぁぁ………」

 

ネズミは顔が熱くなるのを感じた。

 

「な、なんチュか。ネズミがこけるのがそんなに面白いっチュか」

「……元気そうで、良かったですぅ」

 

…………………。

 

「ほわぁぁぁぁ………!」

 

バキューン!と胸の奥が撃たれる感覚。

 

「あ、でも擦りむいてるですね」

 

コンパはスッとネズミの手を取る。

 

「ほわぁぁ⁉︎」

 

バキューン!と2度目の胸を撃たれる感覚。ネズミは今まで感じたことのない動悸に襲われる。

 

「これ、貼ってあげるですね」

貼ってあげるですね。

貼ってあげるですね。

貼ってあげるですね。

貼ってあげるですね。

 

アーアアアーアーアアー!(頌栄)

 

「チュ〜っ、チュ〜っ、チュ〜っ」

 

ネズミはさっきとは違う理由で呼吸が荒くなっていた。そこに、トドメの一撃。

 

「はい、これでもう大丈夫ですよ?」

 

ネズミは、恋に落ちた。

 

「気をつけて下さいね、ネズミさん」

「は、はいっチュ……」

「あ、体も拭いてあげるです」

「ぅ、チュぅ〜……」

 

コンパがハンカチでネズミの体を拭く。ハンカチ越しに感じる手の感覚にネズミはまた顔を赤くした。

 

「じゃあ、私はこれで」

「あ、待ってくださいっチュ!」

「なんですか?」

なんですか?

なんですか?

なんですか?

なんですか?

 

いちいち彼女の言葉が胸に響く。

 

「あ、あの……お名前は、なんと言うっチュか?」

「ああ、コンパですぅ」

「こ、コンパちゃん……可憐なお名前っチュ……」

 

しばらくネズミは惚けていた。

 

そこに買い物を終わらせたネプギアが戻ってくる。

ネプギアは足元の赤黒い十字の形をしたクリスタルに気がついた。

なんとなく気になって拾う、と。

 

ドクン。

 

「あっ……!」

 

体と魂が分離するような感覚。その脈動をネプギアは聞いた。

 

あら?珍しいわね、女の子なんて。

 

頭の中に直接響く声。ネプギアはその声がひどくおぞましく感じて身震いした。

ネプギアは足から力が抜けて膝をついてしまう。手に持っていた紙袋も落としてしまい、果物が道へと転がった。

それにコンパとネズミが気付く。

 

「ぎあちゃん?」

「触るんじゃないっチュ!」

 

あらあら。またネズミさんなの?

 

そんな声がネプギアの頭の中に響く。

ネズミは走ってネプギアの手からクリスタルをひったくる。そのまま走って行ってしまった。

 

「ぎあちゃん、どうしたですか?」

「わかりません。突然力が抜けて……」

 

変な声も聞こえた。

 

「貧血ですか?でも女神さんが貧血なんて聞いたことないですぅ」

 

ネズミは走り続けてアイエフの横も通り過ぎる。

 

「…………?」

 

そして人気のない路地裏に入り込んで一息ついた。

 

「チュッ、チュッ、チュ〜っ。危なかったっチュ。まさか女神の妹に……。まあ、それはさて置き……」

 

 

「コンパちゃん天使。マジ、天使!チュ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「みなさん、お待たせしましたわね。我が家のホームパーティーにようこそ」

 

ベールはテーブル一面に並べられた料理の前でそんなことを満面の笑みで言う。

 

「……というかベール。ほとんど何もしてない」

「やめましょう。言っても虚しいだけよ」

 

ブランの言葉にノワールが溜息をつく。

ネプテューヌはネプギアに話しかけた。

 

「さっき、立ち眩みしたんだって?」

「うん。もう平気だよ」

 

ネプギアは本当になんでもないらしく笑顔を作る。

 

「さあ、遠慮なく飲んで、食べて、騒ぎましょう。今日のために、飛びっきりのゲームも用意しておりますわ」

 

ゲーム、という単語にネプテューヌが食い付いた。

 

「おお!なになに⁉︎」

「説明するより、見せた方が早いですわね。ネプテューヌとノワール、少し後ろに立ってくださいな」

「ほいな〜!」

「えっ、なに?」

 

ノワールとネプテューヌが言われた通りの場所に移る。2人をカメラがレンズを動かして見つめた。

 

「では、華麗に戦ってくださいまし」

 

ピッとベールがコントローラーのボタンを押すと脇に置いてある球体の機械から映像が映し出され、部屋がまるでジャングルのようになった。

 

「わあ〜!」

「すご〜い!」

「あ、ねぷねぷが!」

 

そしてネプテューヌとノワールと言えば。

 

「ねぷっ⁉︎スライヌになってる!」

「こ、これ私なの⁉︎」

 

スライヌになっていた。

 

「2人の動きを特殊なカメラで読み取って、立体投影しているのですわ。なかなかの技術でしょう?」

「じゃあ、この格好でノワールと戦えばいいんだね!や〜い、ノワスライヌ!ねっぷねぷにしてやんよ!」

「え、なによノワスライヌって!」

「ていやっ!」

「あっ!」

 

スライヌ化したネプテューヌがノワスライヌに体当たりする。すると空中に50Pという文字が表示された。

 

「いえ〜い、ポイント先取〜!」

「私を怒らせたわね!覚悟しなさいネプライヌ〜!や〜っ!」

 

だが体当たりは飛んで避けられノワスライヌはひっくりかえってしまう。

 

「いえ〜い、逆さノワスライヌ〜!」

「ちなみに、もっと実践よりのシミュレーションモードも用意してありますから、戦闘の訓練にも使えますのよ」

「凄い!」

「私も遊びたい!」

「ええ。どんどん遊んでくださいな」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、夕焼けが空を焦がす頃とある港でローブを着た女が佇んでいた。

 

「チュッ、チュッ、チュッ、チュッ……」

 

そこに先程のネズミが走り寄ってくる。

女は黒ずんだ肌をしており血色が悪い。唇も紫色をしていた。魔女のようなとんがり帽子もかぶっている。

その女はそのネズミに気付くなり文句を言った。

 

「遅い!計画を台無しにする気か!」

「これでも精一杯急いだっチュよ!あのEXモンスターと余裕のないスケジュール組んだオバハンが悪いっチュ!」

「オバ……、傭い主をそう呼ぶのはやめろと何度言えば……!」

 

だが女は呼吸を整えて姿勢を正す。

 

「ま、まあいい。ネズミ風情にいちいち腹を立ててもいられん。例のモノを早くよこせ」

「わかってるッチュよ」

 

女はネズミの斜めがけから取り出した赤黒いクリスタルを受け取る。

 

「フフ、これで4つ揃った……」

 

夕焼けが1人と1匹の影を長く伸ばす。日はもう沈もうとしていた。

 

「今夜……世界というゲイムのルールが塗り替えられる……」

 




次回予告

「僕は……!くそっ、くそっ!僕は結局、このザマだ……!」

ミズキの恐れていたことがついに起こる。絶体絶命の女神達。

「ミズキさん……私、約束を守ります!」

女神候補生達の反撃が始まる。女神候補生は、姉を超えるために奮闘する。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉッ!」

戦場にこだまするミズキの想い。その想いは未来を変えられるのか。

「夢なんかじゃないよ……。これはきっと、ミズキさんの力……。ガンダムの力……!」

女神候補生の中に芽生えた新しい力は。ミズキ達の反撃と覚醒が始まる。

「僕は……僕は、みんなを!助けに来た!」

ーーーー

人工呼吸はカーズになったのです。
賛美歌わかっても頌栄わかる人いるかな〜、いたらお気軽に話してください。キリスト教学校だったりしたので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4章〜女神を救え。次元を越えて繋がる想い、女神候補生の覚醒〜
女神捕縛


第4章の始まり始まり。
2話の後書きにミズキの顔を追加しました。次はジャックの顔を書こうかと思います。拙いんですけどね。だから書き直します。いつになるかはわかりませんが。


君がもし、起きるとわかっている終わりを止められないとしたら?

 

ただ泣き叫ぶ?

 

くじけて膝をつく?

 

何も感じないように心を閉ざす?

 

僕は、諦めないよ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ドアを叩く音にベールは怪訝な顔で出る。

そこにはリーンボックスの教会の職員がいた。

 

「なんですの?まだパーティーの最中でーーーえっ……?」

 

奥ではみんなが遊んでいる。

だがベールは教会職員の耳打ちを受けると目の色を変えた。

その様子にノワールがゲームのスイッチを切るとみんなは元の姿に戻った。

 

「ねぷ?もう終わり?」

「何かあったの、ベール」

「いえ……ズーネ地区にある廃棄物処理場に多数のモンスターが出現したという情報があったのですわ」

 

ベールはすぐにパソコンを立ち上げてズーネ地区について検索し始める。

 

「ズーネ地区……離れ小島ね。引き潮の時だけ、地続きになるという」

「モンスターくらい別にどこでもでるっしょ?」

「いえ……。国が管理している地域ですから、そんなことはあり得ないはずですわ。でも……」

 

パソコンの画面には多数のモンスター反応。

 

「事実のようですわね」

 

ベールは椅子から立ち上がる。

 

「私、今から行ってきますわ」

「私も行くよ〜!」

「けれど、これは私の国のことですから……」

「こうして私達がいるのも何かの縁だしさ!手伝わせてよ!」

「またお決まりの、友好条約を結んだ以上は仲間〜、ってやつ?」

「ま〜ね〜!」

「私も手伝う」

 

意外なことにブランが名乗りを上げた。

 

「もしかしたらそこにミズキがいるかもしれない……。ベール、EXモンスターは確認できる?」

「……いえ、今のところは。ですが出ないという保証もありませんわ。これだけの異常な出現はEXモンスターが関わっている可能性も十分にありますから」

「じ、じゃあ私も行くわよ!ミズキがいるかもしれないんでしょ⁉︎」

「んじゃ〜、決まり!4人で行こうか!」

「みなさん……」

 

ベールは予想外の見方に嬉しそうな顔をする。そこにネプギアが発言した。

 

「あの!」

「………?」

「私も、行きます!ミズキさんがいるなら、私も……!」

「わ、私も行く!」

「私も!」

「私も……!執事さんに、会いたい……!」

「アナタ達はダメ。ミズキがいる保証もないし、何よりEXモンスターはアナタ達では歯が立たないわ」

「え〜っ⁉︎」

「ユニも当然留守番よ。アナタまだ変身も出来ないんだから」

「う……」

 

それを言われると弱い。いくら頑張ると言っても、成果がついてきていない。

 

「ネプギア!ここはお姉ちゃんに任せといて!たまにはいいとこ見せないとね!」

「……うん……」

「じゃあそんなわけで!変身!」

 

ネプテューヌ達4人の女神が光に包まれて変身を遂げる。

 

「ではみなさん、参りますわよ」

 

4人の女神達は夜空を羽ばたいて飛んでいく。

ネプギアはそれを心配そうに見つめていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、ズーネ地区では無数の機械モンスター達が蠢いていた。

 

「よくもまあ、これだけ雑魚モンスターを揃えたものっチュね」

「でなければ、女神をまとめて誘き出すことなど出来んからな。ククク、早く来るがいい」

 

魔女とネズミは怪しく微笑んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアはベランダの柵に寄りかかって星を見るわけでもなく俯いていた。

別に連れて行ってもらえなかったのが悲しいわけじゃない。もっと別のーーー。

 

「ネプギアちゃん?大丈夫?」

「え?私は大丈夫だけど……」

 

そんなネプギアを心配したのかロムが来てくれた。

 

「何だか、心配なの。お姉ちゃんが……」

「ネプギアちゃんのお姉ちゃん、あんまり強くないの?」

「ううん。本気出したらすごいよ。ミズキさんには負けちゃったけど、それから特訓してどんどん強くなってる。それに、こんなに弱い私をいつだって守ってくれるもの。でも……」

 

ネプギアは胸を押さえた。

 

「なんでかな。今日だけは、胸騒ぎがするの」

「胸騒ぎ……?」

 

夜風が2人の髪を揺らす。少し肌寒くて2人は部屋へと戻った。

 

「うん……うん……ありがとう、オトメちゃん」

 

部屋に戻るとアイエフが何やら電話をしている最中だった。

 

「思った通りだったわ」

「何かわかったんですか?」

「ショッピングモールにいたネズミ。気になって諜報部の同僚に調査を頼んでおいたの。案の定、各国のブラックリストに乗ってたわ。要注意人物、というか要注意ネズミとしてね」

 

そのネズミはネプギアも見覚えがある。真っ黒なネズミだ。そしてコンパも見覚えがあった。

 

「ええ⁉︎あのネズミさん、悪い人だったです?……悲しいです」

「しかも、数時間前にズーネ地区に船で向かっていたこともわかったの」

「それって、つまり……」

「推測でしかないけど、ズーネ地区にいきなりモンスターが現れたのには裏があるんじゃないかってこと。今ならまだ引き潮に間に合う。私、ちょっと様子を見に行ってくるわ」

「……私も……!」

 

様子を見に行こうとするアイエフをネプギアが引き留めた。

 

「私も、連れて行ってください!」

「え?ダメよ。ネプギアまで危険にさらすわけには……」

「どうしても気になるんです!お願い、アイエフさん!」

 

そういったネプギアの声色にはいつになく焦燥が含まれているような気がした。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、女神達はズーネ地区に到着しようとしていた。

 

「見えてきましたわよ」

「けっ!うじゃうじゃいやがる」

「数ばかりで、大したことないのばっかじゃない」

「だけど万が一、街に渡ったりEXモンスターが現れたりしたら大変よ。早く倒して……っ⁉︎」

 

地面を割って地中から移動砲台のようなモンスターが現れる。そこそこ大きいが、体は赤黒くない。

その出現に女神達は急ブレーキをかけて静止する。

彼女らに移動砲台のようなモンスターが砲塔を向けて、弾を撃ち出してきた。

 

『っ⁉︎』

 

女神達は散開して攻撃を避けながら各々の武器を取り出す。

そして撃ち出される弾を避けたり、武器で相殺していった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃ネプギアはアイエフのバイクに乗ってズーネ地区へと向かっていた。

 

「いい?危なくなったらすぐ逃げるのよ?」

「はい。ありがとうございます、アイエフさん」

 

だが胸騒ぎが収まらない。それどころか、どんどん激しくーーーー。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「このデカブツが真打か!」

「敵に不足なしですわね」

「おあつらえ向きに1人1体!」

 

ノワールが円陣を蹴ってモンスターに急接近した。

 

「競走ね!」

「抜け駆けはさせねえ!」

 

ノワール、ブラン、そしてベールがモンスターに向かって接近し始めた。

 

「3人とも待って!ここはみんなで1体ずつ倒していくのがセオリーじゃ!」

 

そんなことを言うネプテューヌにノワールが挑発するように言い放つ。

 

「腰抜けのセオリーね」

「……まったく、変身するとみんな妙に強気なんだから……」

 

ネプテューヌも不敵に笑って円陣を蹴った。

 

「まあ、私もそうだけどっ!」

 

ネプテューヌは急加速する。そのスピードは凄まじくあっという間に女神達との差を詰める。

 

「お先っ!」

 

さらにネプテューヌは円陣を蹴って加速。女神達を追い越す。

 

「なっ⁉︎」

「あんの野郎っ!」

「負けていられませんわね」

 

ネプテューヌは最低限の上下左右移動で弾幕をかいくぐっていく。

 

「4体全部いただきよっ!クロス・コンビネーションッ!」

 

ネプテューヌがモンスターの1体を斬り伏せた。モンスターは光になって消える。

 

「次っ!」

「させないわよっ!レイシーズ・ダンスッ!」

 

次なる標的に狙いを定めたネプテューヌだったが、その前にノワールがそのモンスターを倒す。

 

「テンツェリン・トロンベ!」

「レイニー・ラトナビュラ!」

 

そして最後にブランとベールがほぼ同時にモンスターを仕留めた。

 

「同着かしら?」

「どっちもビリ、とも言うわね」

「チッ、次はこうはいかねえ」

「ネプテューヌ、アナタ少し見ないうちに随分速くなったんですわね」

 

その時、地面がボコッと盛り上がったことに誰も気付かなかった。

 

『っ⁉︎』

 

女神達の足元から黒いコードのようなものが伸びてきた。それは女神達を捕らえて縛り、身動きを封じた。

 

「っ⁉︎」

「何よ、これ!」

「………ッソ!」

「気持ち悪いわね!」

 

だが女神達も大人しく囚われはしない。力を込めて動き回り、コードを引きちぎろうとする。現にコードはちぎれかけていた。

その時、崖の上で魔女が怪しく微笑んだ。

 

「ククク……そろそろか」

「あいつが、黒幕……⁉︎」

 

魔女が赤黒く輝くクリスタルを箱の中に入れた。

 

「さあ、女神達よ。我がサンクチュアリに堕ちるがいい!」

 

魔女が女神達の頭上にその入れ物を投げた。すると入れ物は女神達の頭上で停止する。そこから三角錐の赤黒い結界が生まれ、ネプテューヌ達を封じ込めた!

 

「なんだこの光……っ!」

「っ、なに⁉︎」

「力が……っ!どうして……⁉︎」

 

女神達の力が抜け、コードに抵抗できずに完全に拘束される。女神達はそれに抗えず、身動きを完全に封じられた。

 

「あの石……!アレを破壊すれば……!」

 

ネプテューヌは手に持っていた太刀を頭上の石に向かって放り投げる。

だがその太刀は石に当たる前に光となって消滅してしまった。

 

「そんな!……っ!」

 

ネプテューヌもコードに縛られ、身動きを封じられてしまう。

 

「ククク、シェアエナジーを力の源にしているモノはその石には近付けない。たとえそれが、武器であろうと、女神自身であろうとな」

「……っ、どういうことですの……!」

「この石の名はアンチクリスタル。シェアクリスタルとお前達とのリンクを遮断し、力を失わせる石だ」

「アンチクリスタル……っ⁉︎」

 

下からパシャパシャとシャッター音が聞こえる。そこでは小さな黒いネズミが縛られた女神達の写真を撮っていた。

 

「いい写真っチュ。これは世間に大旋風を巻き起こすっチュよ」

 

「…………っ!」

「この………っ!」

「……っ……!」

「こんなこと……絶対に許さない!すぐにぶちのめしてやるんだから!」

 

女神達はコードから逃れようと力を込めるが、まったく抵抗できない。

 

「アナタ……何者なの⁉︎」

「私の名はマジェコンヌ。4人の小娘が治める世界に混沌という福音をもたらす者さ。ククク、ハーッハッ……」

「そしてオイラはワレチュー。ネズミ界No.3のマスコットっチュ」

「ネズミ……いいところで……邪魔をするな!」

「っチュ?なにを言うっチュか。ラステイションの崩れた洞窟と、アンコウの腹の中からアンチクリスタルを拾ってきたのは、オイラっチュよ」

「まず私がプラネテューヌで1つ目を手に入れた時から全てが始まったのだ。それに、ルウィーの教会からアンチクリスタルを盗んでくる大立ち回りを演じたのも私だ」

 

その言葉の中には聞き覚えのある単語がいくつか出ていた。

 

「ルウィーの教会って……。ブラン、あの石のこと……」

「……ああ。知ってる。厳重に保管していたが、あの誘拐騒ぎのあと行方不明になってた」

「………言ってくださっていれば……」

「仕方無えだろ!こんなにいくつもあるなんて知らなかったんだ!それに、アンコウの腹の中って……!」

「……恐らく、私を飲み込んだあのアンコウですわ」

 

ノワールはラステイションのトゥルーネ洞窟の事件を思い出す。魂と体が分離するような感覚。今感じるこの感覚に少し似ている。

 

「まさか、トゥルーネ洞窟のも……!いや、待って、そんな、まさか……!」

 

ノワールはそこでふと気付く。

ルウィーとプラネテューヌになくて、ラステイションとリーンボックスにあったもの。

ルウィーとプラネテューヌにはなくて、ラステイションとリーンボックスにいたもの!

 

「まさか、アンチクリスタルは、EXモンスターを⁉︎」

「ほう、勘がいいな。褒めてやる、小娘。お前が言う通り、この石には触れたモンスターをEX化させる力もある。まあ、EXモンスターは私も手を焼いたがな」

 

そしてノワールは勘付く。

EXモンスター達の近くには誰がいた?いや、EXモンスターの近くではない。

ラステイションを駆けずり回り、ルウィーの教会に勤め、海の近くのライブを守った男の名前は⁉︎そこにいつも何があった⁉︎

 

「そんな……まさか!」

「ノワール⁉︎何が……えっ⁉︎」

 

急にネプテューヌの体が光り輝く。その光が消えるとネプテューヌは変身前の姿に戻っていた。

 

「ねぷっ⁉︎変身が……!」

『っ⁉︎』

 

ネプテューヌだけではない。次々と女神達の体が光に包まれていく。

 

「言ったはずだ。その結界の中にいる限りお前達は力を失っていくと」

「っ、きゃあっ!」

「っ……!」

「なんてこと……っ!」

 

女神化が解けたことでネプテューヌ達の体はさらに強く締め付けられる。もはや自力での脱出は絶望的になっていた。

 

「…………お姉ちゃん……」

 

そんな中、崖の上に1人の少女が膝をついていた。

 

「お姉ちゃんっ!」

 

ネプギア。それに隣にはバイクにまたがったアイエフもいる。

 

「ネプギア⁉︎」

 

その声につられてモンスターがアイエフ達の周りに集まってくる。

 

「ネプギア、乗って!」

「でも、お姉ちゃんが!」

「……っ、ネプギア!」

「っ!」

 

アイエフが強引にネプギアをバイクに乗せて逃げる。アイエフは片手で拳銃を持ち、運転しながらモンスター達を狙い撃っていく。

 

「今は逃げるの!」

 

「いいっチュか。逃げるっチュよ?」

「構わん。まだ変身もできぬ女神の妹など」

 

アイエフ達は潮が満ちかけて半分埋まっている道をバイクで走る。

ネプギアは姉が囚われている島の方向をずっと見続けていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、リーンボックスの浜辺。

そこにミズキが両手両膝をつけて震えていた。その顔の下にポタポタと涙が滴り砂浜に色を付けていく。

 

「っ、く!くそっ……!くそっ、くそっ、くそっ………!」

 

砂浜に何度も何度も握った拳を打ち付ける。

 

「一体、僕は何をしてるんだ……っ!あんな大層なことを言っておいて、助けるなんて宣言して!結局僕は……!何も、守れなかったじゃないか……っ!」

 

砂浜の砂を握り締める。逃がさまいとしても指の間からすり抜けていく砂はまるで、友達の命のようだ。

 

「僕は……何だ……っ⁉︎何がしたかったんだ……⁉︎僕は、また間違えたのかッ!」

「………ミズキ……」

「僕は……!くそっ、くそっ!僕は結局このザマだ……!」

 

ひとしきり砂浜に拳を打ち付けてからミズキは荒げた息を整える。

 

「ミズキ……だが、まだ間に合う」

「……っ!わかってる!まだ、無理じゃない!」

「まだ誰も死んでないぞ、ミズキ」

「そうだ。5pb.に思い出させてもらった……諦めなんかしない。僕1人じゃ無理でも、僕にはみんながいるんだ………っ!」

 

 

『……任せてください!きっと私が、ミズキさんの力になります!』

 

 

「ネプギア………!」




ネプテューヌも成長してましたね。アニメとは随分違う強さ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真実と後悔

ミズキの目的がついに明らかに。


僕は弱くなったなあ。

 

みんなに助けてもらってばかりだ。

 

僕は弱くなったなあ。

 

みんなに助けを求めてばかりだ。

 

僕は強くなったんだ。

 

みんなも含めて僕だから。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

リーンボックスの教会。そこでは妹達が沈鬱な表情をしていた。ネプギアは俯いていて特に元気がない。

 

「……アナタ達は1度教会に帰った方がいいわ」

「待って!そんないきなり帰れって言われても、納得できるわけないでしょ⁉︎もっとちゃんと説明して!」

「いつものお姉ちゃんなら、悪者なんて1発なのに!」

「お姉ちゃん……死んじゃうの……?」

「き、きっと大丈夫です。女神様がそう簡単にやられるわけない……」

「でも!」

 

ユニがコンパの言葉を遮る。

 

「『力が奪われた』って、さっき……!」

「………ごめんなさい」

 

その声はネプギアの声だった。

 

「ぎあちゃんだけが悪いわけじゃ……」

「ううん」

 

ネプギアの脳裏には買い物の時の記憶が浮かんでいた。

 

「買い物の時に拾った石、あれがきっとアンチクリスタルだったんです……」

「……やめましょう。今そんなことを考えたってどうにも……」

「どうして……、どうしてあの時目眩がしたかちゃんと考えてれば……!お姉ちゃん達に、報せてれば……!」

「ネプギアのバカァッ!」

 

その罵倒はユニから発せられたものだった。1番の親友の、ユニから。

 

「お姉ちゃんは……!私のお姉ちゃんは、とても強いのに……アンタのせいで……!」

 

ユニは怒りを抑えきれなかった。涙と共に心の中の感情が溢れ出た。

 

「お姉ちゃんの代わりに!ネプギアが捕まっちゃえば良かったのよッ!」

「っ!」

 

ネプギアの胸にその一言が鋭く刺さる。ネプギアの目からも涙が溢れ出た。

ユニは走って部屋から出て行ってしまった。ドアを乱暴に閉める音が響く。

 

「ううっ……!ううっ、うっ……!」

 

すすり泣くネプギアをみんなはただ見つめていることしか出来なかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、拘束されていた女神達は大した緊張感もなく捕まっていた。

 

「あ〜、もう!退屈〜!ゲームしたい〜!」

「私達、捕まっているのよ?」

「ですが、せめて『四女神オンライン』のチャットだけでも……。ギルドの人達と待ち合わせしていますのに……」

「おお、ネトゲ廃人!こういう時だけは心強いね!ね〜、ノワール!……ノワール?」

 

ノワールは必死に何かをこらえるように顔をしかめていた。体は微かに震えている。

 

「くっ……!」

「ノワール?どうしたの、どこか痛いの?」

「……違うわよ……!」

「じゃあなんでそんな顔してんのさ。もしかして、笑いを堪えてるとか!」

「………ふ、ふざけてんじゃないわよッ!」

「え?ノワール?ど、どうしたのさ……」

 

ノワールは声を荒げた。その目は潤んでいるようにも見える。

 

「ええ、笑いたいくらいよ!アナタ達と、自分のバカさ具合にね!」

「ど、どうしたのですかノワール」

「そ、そんなに悲観しなくてもいいじゃん!きっと助かるって〜!」

「ふざけないでよ……!私達は、何をしていたのよ……っ!」

「ノワール、説明して。何をそんなに悔やんでいるの」

 

ブランの質問にノワールは下唇を噛みながら答えた。

 

「ミズキよ……っ!」

「……ミズキが、どうかしたの」

「だから!気付かないの⁉︎ミズキはいつも何をしてたの⁉︎どこにいたの⁉︎何のためにプラネテューヌを旅立ったのよっ!」

「だから、それは、EXモンスターを倒すためではなくて?」

「違うわよ!ラステイションとリーンボックスを彷徨ってルウィーでは教会に留まっていたのよ⁉︎そこにはいつも何があったのよッ⁉︎」

 

全員がその言葉で真実に気付く。

ラステイションとリーンボックスはそれぞれ洞窟と海。ルウィーには教会にあったもの。それは……。

 

「まさか……ミズキは、アンチクリスタルを……っ⁉︎」

「そうよ!ネプテューヌをどうしても連れて行けなかった理由はそれよ!アンタがついていけば足手まといになるだけだものね!」

 

女神であるネプテューヌがアンチクリスタルを集める旅になど危なくて同行させられるわけがない。仮にアンチクリスタルが武器に転用されればネプテューヌの命は簡単に奪われてしまうだろう。

 

「じゃあ……ミズキは、失敗したの……?こんな、ことに、なるってことは……、死んじゃった、の……⁉︎」

「……っ、そんなわけないでしょッ⁉︎私達はアンチクリスタルを集めようとしてるミズキに何をしたの⁉︎何をしてもらったのよッ⁉︎」

 

ラステイションではノワールを助けて。ルウィーではロムとラムを助けた。リーンボックスではベールと5pb.を助けた。

 

「私達を助けるために!アンチクリスタルを切り捨てたのよッ!私達が危なかったから!ミズキはアンチクリスタルを諦めたのッ!」

「え……?そんな、ウソ、だよ……」

「……それでは、私達は……!」

「ミズキの邪魔を、していたというの……?」

「そうよっ!私を助けるためにアンチクリスタルを諦めた!ロムとラムを助けるためにアンチクリスタルを諦めた!5pb.を助けるためにアンチクリスタルを諦めて!ベールを助けるためにアンチクリスタルを諦めた!」

 

アンチクリスタルを取ればノワールが死んでしまうかもしれないから。

アンチクリスタルを取ればロムとラムが帰ってこないかもしれないから。

アンチクリスタルを取れば5pb.がテロリストに襲われてしまうかもしれないから。

アンチクリスタルを取ればベールが死んでしまうかもしれなかったから。

 

「きっと……ミズキはプラネテューヌにいた時に気付いたのよ。EXモンスターとアンチクリスタルの関係と、アンチクリスタルが持つ効力に」

「だから……私を傷つけても……?」

「そうよ!結局アナタは、アナタを助けようとしてたミズキの気持ちを踏みにじって、余計に傷つけただけだった!」

「………っ!」

「ノワール」

「言い過ぎですわよ」

「ブランも、ベールも悪いのよ!アンタ達がしっかりしてればミズキはアンチクリスタルを回収出来ていた!私だって悪いのよ!私がもっと強ければ、今頃こんなことにはなってないのッ!」

 

ノワールは涙を滴らせながら肩を上下させる。

 

「何をしてたのよ、私は……っ!ミズキとは、たった数回会っただけなのよ?ほんの少しだけ話をしただけなのよ?なのに、ミズキは私達を助けようとしてくれて……!」

「………ノワール………」

「私達は邪魔しかしなかったじゃない……!きっとその度にミズキは傷ついていたのよ……?私達を助ける度に、きっと傷ついてた……!『また、失敗した』って……!」

 

もうノワールの涙は止まらない。腕が縛られて涙を拭うことも出来ないが、それでもノワールは溢れる涙が止まらなかった。

 

「私達は……!何をしてたの……っ⁉︎一体、何をしてたのよ……っ!こんなんじゃ、女神失格どころじゃないわよ、ミズキの友達になる権利すらない……!」

 

『……………』

 

全員が沈鬱な顔をする。

みんなに、責任があった。ミズキの想いを裏切り続けた。どうしてか、なんて真剣にも考えなかった。

そのことは捕まってしまったことよりも、このままでは死んでしまうことよりも、女神達の心を強く締め付けた。

 

「フン。ようやくいい顔になってきたじゃないか、小娘共。どうだ?これから死を迎えることになる感想は」

「……今すぐ殺してほしいくらいよ……」

「クク、そんなお前に朗報だ。足元を見てみるがいい」

 

女神達が足元を見ると結界の底面から黒ずんだ水が溜まってきていた。

 

「なに……これ……」

「不気味ですわ……」

 

その水は女神達の体から少しずつ、少しずつ滴っていた。

 

「それはやがて、お前達を苦しめ死に至らしめるだろう」

 

ピチョンピチョンと音を立てて溜まっていく水。女神達にはそれが何もかも飲み込んでしまうかのような闇に見えた。

 

「残された僅かな時間を楽しむがいい。ククク………」

 

マジェコンヌは何処かへと去っていく。

女神達の心の中にはもう抵抗しようなどという心は生まれなかった。その心の中には無意識に傷つけていた友人の笑顔。あまりにも罪深い自分達。

 

「………もう……私達は、ミズキの友達なんかじゃ……ない……」

 

 

ネプテューヌはそう呟いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

アイエフは教会の外に出て各国に連絡をしていた。女神候補生の迎えを頼むためである。

 

「はい……はい。それでは、よろしくお願いします」

 

アイエフは全ての国に連絡し終わって溜息を吐く。

 

「あいちゃん、終わったですか?」

「ええ。そうだ、イストワール様にアンチクリスタルの調査をお願いしようかしら」

 

「その必要はないぞ」

 

「な、なによアナタ………っ⁉︎」

「あ、あ、あ………」

 

アイエフとコンパは開いた口がふさがらないといった様子だ。

 

「………ネプギアは、この中だね」

「通させてもらう」

 

ドアを開けて2人組がリーンボックスの教会の中に入っていく。そのドアを閉める音でアイエフとコンパの2人は我にかえった。

 

「ま、待って!」

「待つですぅ〜っ!」




セリフ長くって読み辛いですね…。

ついにあの男が帰ってくる!(アメリカ映画感

変身する機体は……お楽しみに。ま、ある程度予測はできると思いますけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

みんなを助けに来た

神BGMのお出ましですよ。もう、アレ鳥肌立つっつの。


失わない。

 

失えない。

 

失いたくない。

 

失いたくないから。

 

失敗はしない。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアはまたベランダで俯いていた。

夜空に流れ星が光ってネプギアは顔を上げる。

 

「ネプギアちゃん」

「ほら早く!」

「っ、わかってるわよ」

 

ロムが呼ぶ声に振り向くとそこにはロムとラム、そしてラムに連れられてユニがベランダにやって来ていた。

ユニはまだ涙を拭っている。

 

「ユニちゃん……」

「仲直り、しよ?」

 

ロムが差し出した手をネプギアは取る。その上にラムとユニの手も重ねられた。

 

「言い過ぎ……ちゃった。ごめんね……?」

「……ううん」

「わかってる……わかってるの!ネプギアのせいなんかじゃ……!わかってるのに!」

 

ユニの目からまた涙が溢れる。

 

「うん。気持ち……わかるから」

「ううっ……うっ……!」

 

ユニは涙を拭い直す。そしてつらつらと語り出した。

 

「私のお姉ちゃんより強い人なんて、ミズキさんくらいだと思ってた……。私のお姉ちゃんとミズキさんがいる限り、なにがあっても大丈夫って、そう思ってたの」

「おんなじだよ。私だってお姉ちゃんがいないとなんにも出来ない。今だって、どうすればいいのかーーー」

 

その瞳がまた諦観に沈もうとした時、その声はした。

 

「ま、待つですぅ!」

「ま、待ちなさいよ!“ミズキ”!」

 

「えっ………?」

 

日が昇り、夜明けが始まる。新しい光が世界を照らす。その光を浴びて窓を開けて現れたのはーーーー。

 

「………ネプギア」

 

…………ミズキだった。

 

「み、ミズキ、さん………」

「……頼みが、あるんだ」

 

ミズキは頭を下げた。

 

「み、ミズキさん……どうして……?」

「執事さん、よね……?」

「執事さん、帰ってきたの……?」

 

「……みんなにも、頼みがある」

 

ふとネプギアはあの日の約束を思い出す。

 

「僕はみんなを助けるつもりだった。助けたくって頑張ったんだ。けど、何処かでミスをしてしまった。間違えてしまったんだ。その結果、みんなは捕まってしまった……」

 

「ミズキさん……」

 

「もう、僕1人じゃどうにもならないんだ。僕1人では、もうネプテューヌもノワールもブランもベールも助けられない。だから……」

 

『君を頼っていいかな』

 

「助けてくれ、みんな。僕に力を貸してくれ……!」

 

ネプギアの返事は決まっていた。

 

「ミズキさん……私、約束を守ります!」

「ネプギア……」

「手伝わせてください!今度は私が、ミズキさんを助けます!」

「でも、私達まだ女神化も……」

「出来るようになればいいんじゃない!」

 

ユニをラムが励ました。

 

「執事さん……私達を助けてくれた……。今度は、私達の番……!」

「ロム、ラム……」

「……そうね、私もミズキさんに助けてもらった……。その借りは返さなきゃ!」

「ユニ……」

「ミズキさん、一緒に戦いましょう。お姉ちゃん達を、助けるんです!」

「ネプギア……」

 

女神候補生達はその目に強い光を宿した。今が、姉を越える時だ。

 

「ミズキ、私達もいるわよ」

「ねぷねぷ達を、助けるですぅ!」

「アイエフ、コンパ……ありがとう」

 

ぎゅっとミズキは拳を握り締める。

 

「そうなれば特訓ね!」

「女神化……頑張る……!」

「ミズキさん、久しぶりに稽古をつけてください!」

「わ、私も!お願い、ミズキさん!」

 

ミズキは返事の代わりに強くうなづいた。

 

「………始めるよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「やああ〜っ!」

「軽い!ユニ、ロム、ラム!フォローは⁉︎」

「くっ、当たれ当たれ!」

「そんな弾が当たるかっ!」

「くっ!」

「これで……!」

「食らって!」

「近付き過ぎだ!切られたいのか!」

「コンパ、行くわよ!」

「はいですぅ!」

「背後から襲うのに掛け声は問題外だ!」

「うわっ!」

「あうっ!」

 

ミズキは女神候補生とアイエフ、コンパを圧倒していた。ビームサーベルを両手に持って全員の攻撃をいなしている。

 

「負けません……!そこっ!」

「っ!」

「やった……!」

 

ネプギアがミズキに1太刀浴びせる。

 

「うん。良くなった。全員、見違えるほどだよ」

「ほんと……?」

「全然歯が立たないわよ?」

「そんなことはないさ。今ならそんじょそこらのモンスターは目じゃないよ」

 

そう言ってミズキはロムとラムの頭を撫でる。そこにジャックが漂ってきた。

 

「ミズキ」

「どうしたの、ジャック」

「もうあまり時間がない。もうすぐこの写真が公開される」

 

ジャックが空中に写真を映し出す。それは捕らえられた女神達の姿だった。

 

「そうなればシェアが下がって救出は絶望的になる……か」

 

シェアは女神や女神候補生の力の源。シェアが下がればネプギア達の力は失われる上に、ネプテューヌ達の死期も早まってしまうかもしれない。

 

「ミズキさん、行きましょう。お姉ちゃん達を……」

「……その前に、作戦とおまじない」

「おまじない、ですか?」

「うん。みんな手を出して」

 

みんなが手の甲を上にしてミズキに向かって手を出す。まずミズキはコンパの手を取った。

 

「これは僕達が大切な戦いの前にやってたおまじないだよ。……コンパ」

「は、はいですぅ!」

「その優しい心、忘れないで。みんなを癒してあげて」

「は、はいですぅ!」

 

ミズキはコンパの手の甲をなぞっていく。するとなぞった道筋に赤い線が浮かび上がり、それは炎の形を取った。

 

「これ……みずみずの手の模様と同じですぅ」

「数時間で消えちゃうけどね。……アイエフ」

「う、うん」

「その冷静な判断力を頼りにしてる。みんなを引っ張ってあげて」

「……任せて」

 

アイエフの手の甲にも炎のマークが浮かび上がった。

 

「ラム」

「はい!」

「大切なのは立ち向かう心。がむしゃらに走り抜けて」

「わかったわ!」

「ラム」

「はい……!」

「必要なのは気持ちを言葉にする勇気。姉妹で力を合わせるんだ」

「わかった……!」

 

ロムとラムの手にも炎のマークが浮かび上がった。

 

「ユニ……わかってるね?」

「『ひたむきな心と負けん気』、ですよね!」

「100点だ。それがあれば何だって超えられるさ」

 

ユニの手にも炎のマークが浮かび上がる。最後はネプギアだ。

 

「ネプギア」

「……はい!」

「君に必要なものは心の叫びだ。その奥底から気持ちを爆発させて。そうすればきっと、変身だって出来る」

「………はい!」

 

ネプギアの手の甲にも炎のマークが浮かび上がった。

これで全員の手に炎のマークが記された。

 

「クク、まるで昔に戻ったようだな」

「うん。いつもみたいに終わるさ。みんなやっつけて取り戻して……。それで終わりだ」

 

ジャックの舌にも炎のマークが彫られていた。その炎のマークは、『子供たち』の仲間の証。友達の証。

 

「……作戦を伝えるよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

女神達が囚われている結界にはもう大分黒ずんだ水が溜まっていた。

時間が経てばじきに女神達を飲み込んでしまうだろう。

だが、誰もそんなこと怖くはなかった。

ただその胸にあるのは、後悔だけ。

 

「………私達、このまま死んじゃうのかな……」

 

ネプテューヌがそう呟く。死ぬことが怖いんじゃない。死んでしまってミズキに謝れなくなるのが怖いのだ。

 

「……きっと、助けが来ますわ」

「誰が来るって言うのよ」

「……アナタ方の妹達ですわ」

「ユニが?無理ね、あの子はまだ1人でモンスター退治をしたことだってないのよ?」

「ロムとラムも……戦えない」

「ネプギアだって、しっかりしてるように見えて甘えんぼだし、無理だよ……」

「それは……アナタ方のエゴではなくて?『ずっと可愛らしい妹でいて欲しい』。そのエゴが、妹達を変身できないままにしてるのではありませんか?」

「……………」

 

ノワールには心当たりがあった。ユニが強くなろうとした時に感じたあの気持ち。ユニが強くなるのは嬉しいことのはずなのに、何故か嫌だった。それは、私のエゴだったというの……?

 

「それに……きっと、ミズキ様が来てくれますわ。私達を助けに」

「……来ないわよ。愛想尽かされても仕方ないことを、私達はしたんだから……」

 

諦めたって不思議じゃない。誰だって嫌になる、こんなことをされたら。

 

「……私は、ミズキと本を読む時間が凄く幸せだったわ……。温かくて、癒されて、幸せで……。ずっとこのままでいたいと、そう思ったわ……」

「ブラン……」

 

ブランはその気持ちを吐き出し始めた。ブランの目にも涙が浮かんでいた。

 

「私だって……!ミズキのこと、好きだったかもしれなかったのよ……!」

「ノワール………」

「もう1度会って、確かめようとしてた……。それが結局、ミズキを苦しめていたことも知らずにね……」

 

ノワールの目にも涙が浮かんだ。ノワールの頬を静かに涙が伝う。

 

「………ネプテューヌはどうですの?」

「……………」

「私は……あの方を不思議な方だと思いますわ。あの方がいると、周りが満たされていく……。みんながあの方の意思に引っ張られて、寄っていく気がしましたわ」

「………私は、さ」

「………ええ」

 

ネプテューヌの顔はぐしゃぐしゃになっていた。涙と嗚咽が漏れて止まらない。

 

「ミズキと暮らす時間が、楽しくって……!ずっと一緒にいられればいいなって思ってたよ……!だから、別れた時は辛くって、追いかけようとした……!」

 

会いたかったんだ、ミズキに。そう願うことすら、間違っていたのだろうか。

 

「私、間違ってたのかな……⁉︎ミズキに会いたいなんて、思っちゃいけなかったのかな……⁉︎」

 

その瞬間、警報音が鳴り響いた。

 

「チュ⁉︎なんチュかこれは!」

「どうした、ネズミ」

「こ、高熱源体が物凄いスピードで接近してくるっチュ!う、上っチュよ!」

 

みんながその声につられて上を向く。

すると立ち込める暗雲の向こう側から雷の如く、ビームが落ちてきた。

 

「チュ〜っ⁉︎」

「くっ……!なんだ、これは!」

 

ビームは地面に当たって衝撃波を発生させる。モンスターはその衝撃波に当たっただけで光になって消えていく。

暗雲から純白の機体が舞い降りた。全身を白い装甲で包み左手にはシールド、右手には無骨なライフルを持っている。

その機体はビームでモンスターがいなくなった場所にゆっくりと着地した。

 

 

ーーーー『RX-0』

 

 

「あ……!あ…………!」

「なんで、なんで……っ⁉︎」

「来てくれた……また……!」

「あのお方が……来ましたのね……!」

 

《ネプテューヌ!君は間違ってなんかなかった!》

 

「っ!」

 

《君だけじゃない、ノワールもブランもベールもだ!君達は何1つ間違っていない!》

 

「そんな……!そんなわけ、ないっ!私達は、ミズキを邪魔し続けて……!」

「私達はアナタの友達でいる権利はないの……!帰って、帰ってよ……!」

「ここはもう……!せめて、ミズキ様だけでも……!」

 

《うるさいっ!》

 

『っ!』

 

《君達にどう思われようが知ったことじゃないよ!ただ僕は!今までしてきたようにこう言うんだ!》

 

 

《僕は……僕は、みんなを!助けに来た!》

 

 

『………っ!』

 

 

「なんだ、お前。邪魔をするな、消えろ!」

 

マジェコンヌは戦闘態勢を整えようとする。

そこにネプテューヌ達の泣き声がこだました。

 

「うわぁぁぁんっ!ミズキ、ミズキっ!」

「アナタは……!なんで、いつもいつも……っ!」

「イヤ……死にたく、ない……!本当は、死ぬのなんか、イヤよ……!」

「ミズキ、様……!」

 

全員が涙を堪えきれない。

なんで、来てくれたのか。なんで、助けてくれるのか。なんで、そんなに、そんなに……!

 

「イヤだよ!死にたくないよ、ミズキ!助けて、助けてよ!」

 

《……任せて、みんな。僕が君達を救ってみせる!》

 

その純白の機体の名は一角獣(ユニコーン)。額の1本のブレードアンテナがまさにユニコーンの角のように伸びている。

その手に持ったライフルの名は『ビーム・マグナム』。

ユニコーンはビームマグナムを両手で持ってその銃口をマジェコンヌに向けた!

 

「なっ⁉︎」

 

エネルギーが銃口で丸くスパークして……!

 

《当たれぇぇぇッ!》

 

バキューーーーンッ‼︎

 

「うおおっ!」

 

飛んでいく!

マジェコンヌは紙一重でそれを避けるが……!

 

「なっ⁉︎うああっ!」

 

そのビームに掠っただけでマジェコンヌは吹き飛ばされた!

 

《みんなをやらせはしない……!僕は!みんなを助けるんだッ!》




ユニコーン、単機で突入。

ノワールがミズキを探したがってた理由は惚れてたから。他の人達はまだミズキに惚れてる確固たる何かはない模様。

ユニコーン登場シーンはシャンブロの前にユニコーンが立ちはだかった時のアレ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女神候補生、出撃

BGMの大安売り。仕方ないね、良いBGMだもんね。


素直に泣いて。

 

素直に笑い。

 

素直に心の中を晒す。

 

そんな君は醜くて、だらしなくて、汚くて。

 

でも、最高だった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ーーーー『MOBILE SUIT』

 

 

「う……ぐ……!よくも……!」

《………………》

 

マジェコンヌが立ち上がる。普通のモンスターくらいなら掠っただけで倒せるほどの威力だが……どうやらマジェコンヌもただの人間ではないらしい。

 

「変身……!」

《なっ……変身⁉︎》

 

マジェコンヌがその姿を変える。頭から2つの羽を生やし背中には悪魔の翼のようなプロセッサユニット。手には黄金の槍を持っている。その姿は堕女神や堕神、堕天使と呼ぶにふさわしい姿だった。

 

「許さんぞ、お前!お前は楽には殺さん……嬲り殺しにしてやる!」

《やってみろ……!僕は負けない!僕の後ろにはみんながいるんだ……!》

 

ユニコーンは体を浮かしてまたビームマグナムを両手で構える。

銃口にエネルギーがスパークし、凄まじいスピードで飛んでいく。そしてマガジンがガシャンと音を立ててリロードされ、もう1発。

だがマジェコンヌは空に飛び上がり2発のビームマグナムをひらりひらりと避けた。

 

「ふん!そんな弾に!」

《くそっ!》

 

接近して槍を振るうマジェコンヌ。

ユニコーンは背中にビームマグナムをマウントして左腕のサーベルラックからビームサーベルを抜刀。受け止めた。

 

「もう間に合わんよ!どうやっても女神どもは死ぬ!手遅れなんだよ、何もかも!」

《手遅れだろうが、なんだろうが!僕は今あそこで泣いてるみんなを見捨てられやしない!》

「戯言を!」

《お前に!みんなはやらせない!》

「なんなんだよ!お前は!」

《僕はクスキ・ミズキ!みんなの友達だァァッ!》

 

ユニコーンの背中のブースターが唸りを上げる。

 

「くううっ!」

 

マジェコンヌがそのパワーに押されて後退し始めた。

 

「なんだ、このパワーは⁉︎」

《ここからっ!》

 

ユニコーンが槍を払いのけてマジェコンヌにタックルする。

 

「ぐあっ!」

《いなくなれぇぇぇぇ!》

 

そのまま肩を掴んで最大パワーで前進。マジェコンヌを吹っ飛ばした。

 

「つ、強い………!」

 

女神達は今なお涙を流しながらミズキの戦いを見ていた。

 

「お前、お前ぇっ!食らえ、剛腕の戦斧!」

 

突如マジェコンヌの槍が黄金の斧に形を変える。その斧は、ブランの!

 

《なにっ⁉︎》

「テンツェリン・トロンベ!」

《ぐわぁぁっ!》

 

盾で受けたユニコーンはそのまま地面に埋まってしまう。

 

「アレは……私の……!」

「な、なんでブランの必殺技が使えるのさ!」

「ククク……私には他人の能力をコピーする力があってな……。ついに私は女神の力をもコピーしたということだよ」

「そんなこと、出来るはずありませんわ!」

「現にこうして出来ている!」

 

マジェコンヌは地面のユニコーンに向かって急加速。その手の武器は斧から大剣に形を変えた。

 

「あの剣……私の!」

「じゃあ、まさかノワールのまで⁉︎」

「レイシーズ・ダンスッ!」

《ぐあっ!》

 

ユニコーンはまた盾で受けるが吹き飛ばされ地面に転がる。

 

「ふん!お前に私は倒せん!女神の力を宿したこの私にはな!」

《ク……クク……何か、勘違いしてるみたいだね……》

「なに?」

 

ユニコーンは立ち上がった。気のせいか、その装甲の隙間から赤い光が漏れているように見えた。

 

《君を倒すのは僕じゃない……!女神候補生達だ!》

「はあ?まだ変身も出来ないザコどもが、だと?ならばお前は何をしている?」

《僕は、みんなをこんな目に合わせたお前を……1発、殴りに来ただけだよ……!》

「減らず口を!」

 

マジェコンヌのプロセッサユニットの翼からいくつもの結晶が分離した。

 

《っ、ファンネル⁉︎》

 

それは編隊移動をしながらユニコーンにビームを浴びせていく。

 

「ほらほら!私を殴るのではなかったのか⁉︎ン⁉︎」

 

そしてその結晶は完全にユニコーンを包囲した!

 

《くっ……!》

 

「ミズキ!」

「これで終いだ!」

 

一斉に放たれたビーム。そのビームを完全に避けることはできないように見えた、が。

 

《うおおおおおおっ!》

 

「なに⁉︎」

 

突如としてビームはユニコーンに当たる寸前で屈折してあらぬ方向へ飛んでいく。

そしてユニコーンの装甲が展開し始めた。

中からは赤く発光するフレームが現れ、ランドセルは展開して新たなブースターが現れた。ツノは割れて顔は入れ替わり、見覚えのあるツインアイへと形を変える。シールドはX字にフレームが展開した。

 

「バカな⁉︎変形……いや、変身した⁉︎」

「あれは……ガンダム、なのですか……?」

 

《もう……君と戦える時間は数少ないみたいだね》

 

今頃は女神候補生達も到着した時間だろう。そうなれば女神候補生達にマジェコンヌを譲らなければならない。

 

「そうなる前に私を殴るか?そんなこけ脅しに!」

《これが、今の僕の全力だ!》

 

ユニコーンが発動したのは『NT-D』。またの名をニュータイプデストロイヤー。この機体を『ユニコーンモード』から『デストロイモード』に変身させるシステムだ。

そしてデストロイモードの時の機動性はーーー!

 

「⁉︎」

 

瞬間移動と見紛うほど圧倒的なものだ!

 

ユニコーンはマジェコンヌをビームサーベルで切り抜けていた。

その場にいる誰1人としてその動きが見れなかった。彼女らの目にはユニコーンが残す赤い軌道しか見えていなかった。

 

「あ、あれが……」

「ミズキ様の、全力……」

 

ノワールとベールが言葉を漏らす。圧倒的、そうとしか言えない。

 

「ぐああっ!くっ!」

《逃がさない!》

 

距離を取るマジェコンヌをユニコーンが追いかける。

 

「くそっ!」

 

追いつかれる寸前にマジェコンヌの結晶がユニコーンに向かってビームを撃つ。

ユニコーンは上に跳ね上がってそのビームを避け、その手を結晶にかざした。

 

「なに⁉︎ど、どうした!動け!」

 

その瞬間、結晶はまるで通信が途絶されたかのようにふわふわと宙に漂う。

それらが全てマジェコンヌの方を向いた。

 

「なっ!」

《サイコミュ・ジャック………!僕にその武器は通じない!》

「っ、舐めるなぁぁっ!」

 

マジェコンヌはユニコーンが操る結晶のビームを全て避けてユニコーンへと接近する。

 

「その程度の速さなど!狂瀾怒濤の槍、受けるがいい!」

「まさか、私の技も……!」

「レイニー・ラトナビュラァァッ!」

《ぐううっ!》

 

まるでマシンガンのように速い突きがユニコーンを打突していく。

ユニコーンは盾で受けていたがたまらず後退してサイコミュ・ジャックを解いてしまった。

 

「続けて食らえ!」

《させるかっ!》

 

ビームマグナムを片手で撃つ。接近していたマジェコンヌは防御魔法を展開するがその衝撃で吹き飛ばされた。

 

「………っ、ミズキ……!」

 

ネプテューヌはその様子を歯噛みして見ていた。

ミズキが私達のために頑張ってくれているのに、私は何もできない……!

 

「ミズキ!頑張れ!ミズキ!」

《ネプテューヌ………!……うんッ!》

 

ネプテューヌの応援にミズキは答えてくれる。それを皮切りに女神達からミズキへと応援が湧き上がった。

 

「ミズキ!」

「ミズキ………!」

「ミズキ様!」

 

「ええい、耳障りな!」

《うおおおおっ!》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その数分前から女神候補生達はズーネ地区へと辿り着いていた。

 

「ぎあちゃん達、まだ変身も出来ないのに……」

「妹達が戦ったって言えば、シェアの減少も抑えられるでしょ。それに、誰も負ける気なんてないわ。……でしょ?」

「……はいですぅ!」

 

アイエフとコンパも前に出る。

そこには女神候補生達が強い意志を持って立っていた。

 

「みんな、準備はいい?」

 

ユニの質問にみんなが頷く。

 

「それじゃ、行くわよ!」

 

女神候補生達がその号令で飛び出した!

 

「やああっ!」

 

ネプギアはビームソードで次々に雑魚モンスターを切りつけていく。敵の動きがゆっくりに見える。これくらい、いくらでも倒せる!

 

「ええいっ!」

 

ユニは次々と正確な射撃でモンスターを沈黙させていく。こんな奴らに構ってる暇はない。私達が倒すべきなのは、あの魔女!

 

「んっ……!」

「ていっ!」

 

ロムが防御魔法でラムを守り、ラムが敵を倒してロムを守る。一心同体のコンビネーションだ。

 

「ラムちゃんは、私が守る……!」

「うん!私がどんどんやっつける!」

「アンタ達に、構ってられないのよ!」

「覚悟してください!」

 

女神候補生達はどんどん前に進んでいく。

アイエフとコンパだって負けてはいない。

 

「邪魔よ!」

「痛いのいくですよ!」

 

カタールと注射器で次々と敵を倒しながら進軍する。女神候補生にはない、慣れている人間の動きだ。

みんなは敵を順調に減らしながら女神の元へと進んでいた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ビーッビーッビーッビーッ!

 

「ねぷっ!これ、まさか……!」

「ユニ達が、来たの⁉︎」

 

倒れたセンサーが敵接近のブザーを鳴らす。

 

「そんな、あの子達が……」

「みんなは、戦えるように……⁉︎」

 

マジェコンヌの太刀とユニコーンのビームサーベルがつばぜり合い火花を散らす。

 

「フン!あんな雑魚くらい、モンスターの群れも乗り越えられはせん!」

《君は……みんなを見くびり過ぎだ……!》

「何が違うというのだ!まだ変身もできぬ小娘に!」

《今、変わる!みんなはきっと、変身できるようになるんだ!》

「何を根拠に!」

《信じているんだ!みんなを!》

「っ、そんな不確かなものを!」

 

マジェコンヌがユニコーンを弾き飛ばす。

 

「そのままありもしない希望を抱いて、死んで行け!」

「あの構えは、私の……!」

「クロス・コンビネーションッ!」

 

十字の斬撃がユニコーンを襲う。かつてエクシアの盾をもやすやすと切断して見せたクロス・コンビネーション。

だがユニコーンの両手のサーベルラックが180度回転。そこから発振したビーム・トンファーをクロスしてクロス・コンビネーションを受け止めた。

 

「なっ!」

《ひとりぼっちのお前に……何がわかる!》

「何を!」

《僕達を……ナメるなッ!》

 




アレはファンネル。ファンネルなの。

NT-Dの機動力おかしいですよね…。『強化人間ですら瞬間移動と見紛う』レベルですもん。それに追いつく周りの機体も凄いですけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変身

長くなっちゃいました。みんなが変身するところまでやりたかったので。


それはいつも突然だった。

 

まるでそれは春の日の目覚めのように。

 

それはいつも突然だった。

 

まるでそれは髪を撫でる風のように。

 

私の中の何かが、弾ける。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

女神候補生達はモンスターの群れの中を先に進んでいく。だがモンスターの攻撃は激しさを増し、彼女らの進行スピードは鈍っていた。

 

「くっ!」

 

ネプギアがモンスターのビームを防御魔法で辛うじて防いでいるところだった。ネプギアは膝をついている。

 

「ネプギアちゃん!」

「ラムちゃん……!きゃっ!」

 

ネプギアを助けようとしたラム。それに気を取られたロムが敵の攻撃を食らってしまう。

 

「ロムちゃん!」

 

その悲鳴を聞いて振り返ったラムがモンスターに攻撃されかける。

 

「危ない!」

 

それを間一髪で狙撃してユニが助ける。

 

「ユニちゃん、後ろ……!」

「えっ⁉︎くっ……!」

 

直後背後から現れたモンスターに振り向き、引き金を引く。だが引き金はカチリと音を立てるだけだ。

 

(弾切れ……!しまった!)

 

「くっ、負けませんっ!」

 

ネプギアは攻撃の一瞬の隙を突いてモンスターを倒す。

だがすぐにもう1体のモンスターが弾丸を浴びせてきた。ビームソードは破壊され、防御魔法も限界が近い。

 

「きゃっ!来ないで、来ないでよっ!」

 

近くを見ればユニもモンスターの攻撃を辛うじて防いでいるところだ。

ロムもラムも、アイエフもコンパも周りのモンスターのせいで助けに行けない。

 

(どうしよう……私……間違えてた……?)

 

絶対絶命。このままでは全滅するのも時間の問題だ。

 

(やっぱり私達に戦いは無理だったの……?)

 

防御魔法がひび割れ始めた。だがどうにもならない。武器もないし、助けも来ない。

 

(助けてよ、お姉ちゃん、ミズキさん……!)

 

その時、ネプギアは右手に熱を感じた。

 

「えっ……?」

 

右手の甲がまるで燃えているように熱い。だが嫌ではない。

 

(私……またお姉ちゃんを、ミズキさんを頼ってる……)

 

右手に刻まれた炎が次々とネプギアに言葉を送ってくる。

 

『何かを怖がっている時だ』

 

(私は……何を怖がっているの?)

 

モンスターだろうか。自分が死ぬことだろうか。お姉ちゃんがいなくなることだろうか。

違う……その、どれでもない。私が怖がっているものは、なに?

 

『君に必要なものは心の叫びだ。心の奥底から気持ちを爆発させて』

 

「私、は………!」

 

何が怖かったんだ。何が嫌だったんだ。叫べ、心の奥から。引っ張り出せ、本音を。自分でも気付かないほど奥底にある気持ちを!

 

「私は……お姉ちゃんに憧れていたかったんだ……!」

 

私が怖いのは、お姉ちゃんよりも強くなること。お姉ちゃんよりも強くなって、頼れなくなってしまうこと。

だけど、だけど、もし、そのお姉ちゃんがいなくなってしまうのなら……!

 

「私っ!お姉ちゃんだって超えますっ!」

 

その叫びがネプギアの体から衝撃波を発した。それに巻き込まれてモンスターは消えてしまった。

 

「ありがとう、ミズキさん……!」

 

右手が熱い。この胸が熱い。みんなの意思が、ここにある。

私は、もっともっと強くなる!私は、誰よりも強くなる!

 

「変身っ!」

 

ネプギアの体を0と1の数列が覆った。その体に光をまとい、胸に無数の情報が流れ込む。右手、左手とスーツが装着され、光が晴れた時、全身をスーツが覆っていた。

女神、パープルシスターがここに誕生した!

プロセッサユニットを背中に装着し、その手に持つのは『(M)ルチ(P)(B)ーム(L)ンチャー』。射撃も近接もこなせる万能武器だ。

 

ネプギアは空高く飛翔し、ユニを襲うモンスターを狙い撃つ。ロムとラム、アイエフとコンパの周りのモンスターもM.P.B.Lから放たれるビームに撃たれて消滅した。

 

「ネプギア………」

「ネプギア!」

「ぎあちゃん!」

「ネプギアちゃん!」

「すごい……!」

 

ネプギアは低空を飛行し、モンスターの群れの中へも恐れずに突撃する。

 

「退くことだけは、出来ません!」

 

お姉ちゃんを助けるために!あの魔女を倒すために!

 

「だから、やるしかないのっ!」

 

ネプギアがM.P.B.Lで敵を切りつけ、射撃して倒す。

 

「ミラージュ・ダンス!」

 

ネプギアの猛攻で敵の数がぐんぐん減っていく。

 

「みんな、今!」

 

みんなも負けてはいない。士気が上がった彼女らは体勢を立て直し次々とモンスターを撃破する。

地面に転がるレーダーがモンスター全滅の音を立てた。

 

「バカな!雑魚モンスターが、全滅しただと⁉︎」

《それみろ……!もうみんなはすぐそこまで来てる!》

 

ネプギア達は姉の元へと向かっていた。

 

「私が挫けそうになった時、この手の炎が熱く燃えたんです。そして、ミズキさんの言葉が響いた。それで私は自分の弱さに気付けたんです」

「弱さ?」

「はい。お姉ちゃんやミズキさんに守られてたいから、このままでいいって……。弱いままで、強くなっちゃいけないって、思ってたんです。心の奥底からその想いを叫んだら……」

 

アイエフの疑問に答える。

ミズキさんの言葉が、私を導いた。自分の中に閉じ込めてた想いを解放することが、変身に繋がったんだ。

 

「参考にならないわね。弱くていいなんて思ったことないもの」

「そ、そうだよね……」

 

きっと、変身の鍵は人それぞれ。みんなまだ、心の奥底に何かをしまってるんだ。

 

「さて、そろそろよ」

 

崖を登るとそこには結界の中に囚われた女神達がいた。

 

「っ、お姉ちゃん!」

「ネプギア⁉︎変身できてる!」

「……お姉ちゃん!」

「お姉ちゃんっ!」

「お姉ちゃん……!」

「ユニ……」

「ロム、ラム……」

 

そしてその横では今なお戦っているマジェコンヌとユニコーンがいた。

 

「ミズキさんっ!」

《ネプギア……!変身できたんだね!》

「ミズキさん、あとは私たちに任せてっ!」

《任せたっ!》

「逃がすか、このっ!」

 

撤退しようとするユニコーンにマジェコンヌが追い縋る。

 

「あのおばさん、変身してる⁉︎」

「女神でもないのに……⁉︎」

「おばさんじゃない、マジェコンヌだ!お前達はこの小僧を嬲り殺しにしてからゆっくり殺してやる!」

「ミズキさんはやらせないわよ!」

「執事さんを守る!」

「執事さん……!」

《………クス、こんなに言われちゃな……!》

「お前が1番の邪魔だ……!お前さえいなければどうにでもなる!」

《みんなに、土産を残していく!》

 

鍔迫り合いから離れてビームマグナムを手に持つ。

 

《みんなが示してくれた可能性を、無駄にはしない……!》

 

距離を取ったユニコーンは逆にマジェコンヌに向かって急加速。そして、キィン!という音と共にユニコーンはマジェコンヌの目の前にまで迫っていた!

 

「なに⁉︎」

 

その軌跡はまるで心電図のように荒ぶっていた。

ユニコーンがマジェコンヌを蹴飛ばす。そこに頭部のバルカンを撃ちながら接近した。

 

「くっ、ううっ!」

 

後退しながらマジェコンヌは防御魔法を展開してバルカンを防ぐ。

 

《そこに、ビームマグナムが撃てる!》

 

さらにビームマグナムを撃つ。

 

「うああっ!」

 

防御魔法を一撃で貫通してマジェコンヌは吹き飛ばされる。

 

《みんな!今だ!》

 

「っ、はい!」

 

ネプギア達がその声でマジェコンヌに向かって進む。

 

《最後……!1発殴らせてもらう!》

 

盾を捨てて身軽になったユニコーンがマジェコンヌに急接近。そしてその速さのままにマジェコンヌの顔面を殴り飛ばした!

 

「うああっ!」

 

マジェコンヌはたまらず地面に落ちる。

 

《………みんなを!》

 

ユニコーンは反転して女神達が囚われている結界へと向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「く、ううっ、あいつ………!」

 

マジェコンヌはゆっくりと立ち上がる。その目線の先には赤く光る機人。

 

「待ってください!」

「……ああん?」

 

声のする先には女神候補生達。

 

「雑魚の分際で……私を見下すな!」

 

マジェコンヌが地面に武器を怒りのままに叩きつける。それだけで突風が起こりネプギア達は吹き飛ばされそうになった。

 

「なんで……どうしてこんなことを!」

「フン!私が求めているのは女神の必要ない世界!誰もが支配者になり得る世界だ!」

「それって……アナタが支配者になろうとしているだけじゃないですか!」

「私より強い者が現れればその者が支配者となる。これこそが平等な世界だ」

「そんな屁理屈!」

「ならばお前達が私を倒してみろ。お前達が私を倒してくれるのだろう?」

 

ふわりとマジェコンヌは空中へと浮かんだ。

 

「あの小僧を倒す前に……お前達で憂さ晴らしをしてやろう」

「っ!」

「クロス・コンビネーション!」

「ああっ!」

 

ネプギアが十字の斬撃で上空に吹き飛ばされる。M.P.B.Lで受けたものの、ダメージが大きい。

ネプギアは体勢を立て直して空中で下がりながらM.P.B.Lを連射する。

 

「遅い遅い遅い遅い!さっきの小僧に比べれば、止まって見えるぞ!」

「うあっ!」

 

マジェコンヌはそのことごとくを避けてネプギアに接近、叩き落とす。ネプギアは地面に激突した。

 

「くっ……あっ!」

「ククク、いい気分だ」

 

起き上がろうとしたネプギアの腹を踏みつける。ネプギアが手で足を払おうとするが動かない。

 

「ロムちゃん……!」

「ラムちゃん……!」

 

ロムとラムは抱き合って震えていた。目の前で苦しむネプギアを助けたいのに、その足が動かない。涙がこぼれそうになる。

その時、2人の右手の炎も熱を持ち始めた。

 

「え……?これ、執事さんの……」

 

『大切なのは立ち向かう心』

 

「執事さんの、炎が……!」

 

『必要なのは気持ちを言葉にする勇気』

 

そうだ、執事さんはそう言ってくれた。そうすれば、変身だって……!

 

「ラムちゃん……私、あの人、嫌い……!」

 

右手の炎がさらに激しく燃え上がる。もっと、もっとと訴えてくる。

 

「ラムちゃん、私あの人……大っ嫌い!」

「私も、嫌い……!悪い人は、倒さなきゃ!」

 

姉妹で力をあわせるんだ。

そうだ、ラムちゃんがいれば。

そうだ、ロムちゃんがいれば。

何1つ、怖いものなんてないっ!

 

2人が手を繋ぐとそこから光が広がっていく。2人の炎が合わさる。体中が、熱くなる!

 

「変身っ!」

「変身……!」

 

「なに……?」

 

2人の体が0と1の数列に包まれた。足元から体が光に包まれ、スーツにその身を包む。2人の元に新たな杖がやって来て、プロセッサユニットが装着された。

女神、ホワイトシスターズの誕生だ!

 

「やっつける、イヤな人!」

「やっつける、イヤな人……!」

 

以心伝心、二身一体!

その杖が巨大な氷の塊を作り出した。

 

『はああっ!アイス・コフィン!』

 

「なっ、うああっ!」

『やった!』

 

巨大な氷の塊がマジェコンヌに当たった。だがマジェコンヌはその煙の中から飛び出してきた!

 

「食らえ!レイシーズ・ダンス!」

「きゃあっ!」

「きゃああっ!」

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

吹き飛ばされるロムとラム。それを援護しに、ネプギアが飛んでM.P.B.Lを連射した。

 

「やった⁉︎」

 

全ての弾がマジェコンヌに直撃した。

だがマジェコンヌは煙の中で堂々と立っていた。全く、効いていないのだ。

 

「反撃させてもらうぞ?奴がいないならば……!」

 

翼の結晶が一斉に分離し、3人にビームを浴びせる。

ロムとラム、ネプギアは辛うじて防御したり回避しているがいつ当たるかわからない。

 

「くっ……うっ……!」

 

ユニの持つライフルが震える。撃ちたいのに、指が言うことを聞いてくれない。

 

(みんなが変身出来ているのに……私だけ……!)

 

動け動けと言い聞かしているのに、体がまるで自分のものではないようだ。

 

(お姉ちゃんだって、見てるのに……!)

 

その時、はっとその気持ちに気がついた。

 

(なんで私、お姉ちゃんのことばっかり……!)

 

こんな気持ち、私が抱きたい気持ちじゃない。

私、お姉ちゃんやミズキさんに憧れているつもりでいた。違う、この胸の中に燻る気持ちはそんなものじゃない。ただ、甘えたいっていう幼稚な気持ちだ。

そんなものじゃない。私が抱きたい気持ちは、そんなものじゃない!

その時、引き金を引こうとする右手の甲に熱が宿った。その熱に気付かされる。大切なのは、『ひたむきな心と負けん気』!

 

みんなが変身できてなんで焦っているの?みんなが変身したからこそ、『私だって』って思うべきじゃない!

お姉ちゃんが見ていてなんで緊張しているの?見ているからこそ、『見せつけてやる』って思うべきじゃない!

 

なんで、あいつを怖がっているの?あいつを見て抱くべき気持ちはなんなの?

 

「そうよ、ユニ。標的のことだけ考えるの。私は、どういう気持ちでいるべきなの⁉︎」

 

答えはわかってる!

 

「負けてたまるか!」

 

ライフルが1つの結晶めがけ飛んでいく。それは結晶に命中して撃ち砕いた。

 

「なにっ⁉︎」

「………見える」

 

今なら私、変身だって!

 

「やああっ!変身!」

 

ユニの体も0と1の世界に入り込んだ。身体を包むスーツを身につけ体は軽量化、髪は白く染まってクルクルと巻かれる。

ブラックシスターがここに誕生した!

手には巨大なライフルである『エクス(X)(M)ルチ(B)ラスター』を構える。

狙いをつけてX.M.Bを2連射。結晶の軌道を完全に読んだユニは2射で4つの結晶を砕いた。

 

「なにっ⁉︎」

「迷いなんかない……!あるのは覚悟だけ!」

 

全部見える。動きがわかる。この歪みのない感情が私を動かす!

 

「エススマルチブラスターッ!」

「なっ、うわぁぁっ!」

 

X.M.Bのビームがマジェコンヌの翼に直撃する。砕けはしないものの、マジェコンヌは大きく体勢を崩した。

 

「ユニちゃん、カッコいい!」

「やったねユニちゃん!」

「凄い……!」

「みんな……。ええ!あんなのさっさと倒しちゃうわよ!」

 




変身。
変身するヒーローはたくさんいますけど僕が好きなのはウルトラマンですかね。僕の中でウルトラマンはメビウスで終わってますけど。なんならコスモスで終わってたかも。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚醒

24歳、覚醒です(ナニ




届かない、その胸に。

 

僕の想いはどうすれば届く。

 

届かせたい、その胸に。

 

僕の想いをどうしても届けたいんだ。

 

届かせる、その胸に。

 

僕の想いを届かせてみせる。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ロム、ラム……」

「ユニ……」

「みんな、素晴らしいですわ」

 

女神達は結界の中で次々と変身する妹達を見ていた。変身して精一杯戦う妹達はなんだかとても立派でーーー。

 

《みんな!》

 

「ミズキ!」

「ミズキ……!」

「ミズキ………」

「ミズキ様……」

 

結界の側にユニコーンが着地した。

空中からジャックが現れる。

 

《ジャック!解析開始!》

「了解だ!」

 

「み、ミズキ!私、私……!」

《そんなこと、後でいいよ!まずはこの結界を、壊す!》

 

ユニコーンがビームマグナムを構えて結界に向かって2連射する。そして新たなマガジンを加えてさらにもう1発撃った。

 

「そんな、ビクともしないなんて……!」

「ミズキ……」

 

すると足元に溜まっていた黒い水が蠢き出した。黒い水は手のようになって女神達の体に絡まり始めた。

 

「はっ⁉︎」

「なんなの、これは……」

《ジャック!アレは⁉︎》

「アンチクリスタルの結界が完成し始めた……!」

「そ、そのアンチクリスタルってのは何なのさ!」

「アンチクリスタルは行き場の失ったシェアエナジーをアンチエナジーに変換する力もある……!このままでは女神の命は奪われるぞ!」

《くっ……!ならば……っ!》

 

マグナムを捨ててビームトンファーを結界に突き刺す。だが結界は破れる気配もない。

 

《くっ……ぐっ!》

「冷たい……」

「私、既に体の感覚がありませんわ……」

「ええっ⁉︎」

「そうね、麻痺し始めてる……」

「全身に絡みつく前に、何とかしないと……!」

「ど、どうすればいいの、ジャック!」

「それを今解析している!」

《クソォォォッ!》

「ミズキ……」

 

そこにアイエフとコンパもたどり着いた。

 

「ミズキ!私達も手伝うわよ!」

「ええいっ!」

 

アイエフとコンパは結界に向けて攻撃をするが、コンパの注射器は針が折れてしまった。

 

「そんな……!」

「コンパちゃん、それ、無駄っチュよ」

「ネズミさん……」

 

後ろにはようやくここまで戻ってきたワレチューがいた。

 

「隕石が落ちてもその結界は壊れないっチュ。その程度じゃ……」

「無理じゃないです!きっと壊すんです!」

「その意気よ、コンパ……!」

「……諦めた方がいいと思うっチュ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

女神候補生達もマジェコンヌに苦戦していた。

みんなの強力な攻撃は全く当たらず敵の攻撃は防御魔法を数発で砕く威力を持つ。

 

「弱い弱い!変身できてもお前達はその程度だということだ!」

「くっ……!」

「バカにしないで!」

「やっつける……!」

 

魔法を使おうとしたロムとラムの眼前にマジェコンヌが迫った。

 

「レイニー・ラトナビュラ!」

「あああっ!」

「ロムちゃん!」

「余所見している余裕があるのか?テンツェリン・トロンベ!」

「きゃああっ!」

 

2人は地面に叩き落とされた。

次にマジェコンヌはユニに狙いを定めた。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

「もうじき女神どもも死ぬ!お前達がここで戦う意味などない!」

「そんな、こと……っ!」

「レイシーズ・ダンス!」

「きゃああっ!」

 

ユニも姉の技で地面に落とされた。3人は立つことができない。

 

「ユニちゃん!」

「お前で最後だ!」

「っ、やられはしません!」

 

マジェコンヌとネプギアの武器がぶつかり合いスパークする。だがパワーは完全にマジェコンヌの方が上だった。

 

「くっ、ううっ!」

「己の弱さを噛み締めながら、絶望して死んで行け!」

「きゃあっ!」

 

マジェコンヌに武器を振り切られてネプギアは吹き飛ばされる。

 

「お前も叩き落としてやるよっ!」

「っ!」

「クロス・コンビネーション!」

「きゃああっ!」

 

ネプギアも地面に叩き落とされた。痛みで体が動かない、立てない。

 

「トドメだ」

 

マジェコンヌの武器の形状が鎌へと変化する。その武器の形は4人の女神の武器のどれにも似ていない。

 

「ウィッチーズ・ハントッ!」

 

「………あ……っ……!」

 

女神候補生達に浴びせられた黒い斬撃。ネプギアは歪む視界の中で姉がいる結界を見ていた。

 

「お姉ちゃん………」

 

ネプギアの意識は途切れた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ベール!」

 

4人の女神の中で1番底にいるベールの体の半分が黒い水に埋まった。上半身も黒い水に包まれようとしている。

 

「ネプテューヌ……」

「ベール、ベール!」

 

ベールはネプテューヌに手を伸ばす。ネプテューヌはその手をしっかりと掴んだ。

 

「ミズキ様……私、最期に助けに来てもらえて………」

《やめろ、ベール、ベール!》

「………………」

「ダメェェェェッ!」

 

次にブランの体が水に包まれ始めた。

 

「ノワー……ル……」

「くっ、ブラン……!」

 

ブランはノワールに手を伸ばす。ノワールもその手を掴んだが、引き上げられない。

 

「ミズキ……私の本……」

《ブラン!ブラン!》

「…………………」

《ブラァァァン!》

 

ブランはその目を閉じた。

水はどんどん水位をあげていく。

 

《クソッ、クソッ、クソッ!開け、開けよっ!みんなが、みんなが……!》

 

次にノワールとネプテューヌの体が水に浸かり始めた。ノワールとネプテューヌはお互いに手を伸ばす。

 

「ネプテューヌ……!」

「ノワール……」

 

その手をお互いに掴んだが、体はもうほとんど水に浸かっていた。

 

「ミズキ……ありが……と……」

《ノワール、ノワール!ねえ、ノワール!》

「私……アナタの……こと…………」

《ノワール!》

「ねえ……ミズキ……ごめん、ね……?」

《ネプテューヌ、ネプテューヌ!や、やめろ……やめろよっ!》

「私……ずっと、会いたかった、よ………」

《……っ、ネプテューヌゥゥッ!》

 

結界が完成した。中は真っ黒くなって見えなくなる。

 

「ネプ子………」

「ねぷねぷ………」

《ううっ!くそ、くそ、くそくそくそ、くそぉぉぉっ!》

 

ユニコーンは膝をついて地面を叩く。

 

 

ーーーー『UNICORN』

 

 

《やめろ………やめろ、やめろ、やめろよ……っ!2度と、僕の、友達は………!》

 

ユニコーンの体が緑に点滅し始めた。その体に何かが集まっていく。

 

《ベール……ロム……ラム……ブラン……ユニ……ノワール……ネプギア……ネプテューヌ……っ!》

 

奇跡が、起こる。

 

《やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!》

 

「なっ⁉︎」

 

ユニコーンの体が緑に発光しオーラが体から溢れる!その光は島中に満ちて島を照らした。

その光にアイエフとコンパは吹き飛ばされた。

 

「み、ミズキ⁉︎」

「み、みずみずの後ろに……子供がいるですぅ……」

 

《うああああああ!うおああああっ!》

 

「な、なんだこの光は⁉︎シェア……⁉︎いや、違う!な、なんだこれは!あ、熱い!」

 

「お、お前ら……。まさか、次元を超えて、想いが届いたというのか……⁉︎」

 

ユニコーンの後ろに子供達が集まっていく。

 

おい、何をやってる?お前がいないと始まらんだろう。

 

「ジョー……」

 

にゃは、今が見せ所にゃ!ほら、ジャックもこっちにくるにゃ!

 

「カレン……」

 

何やってんのよ、ジャック。友達が困ってるのよ?助けるしかないでしょ?

 

「し、シルヴィア……。……ふっ、そうだな。俺も力を貸すぞ、ミズキ!」

 

《うおおおおおおおおっ!》

 

「バカな⁉︎結界を、破って……⁉︎」

 

ユニコーンはその手を結界へと入れていく。

 

《ぐっ……!ベール、ベールっ!》

「あ………?」

 

暖かな緑の光がベールを包み込む。するとベールが目を開けた。

 

「なんですの……?この、暖かな光は……」

《何やってんだよ、ベール!2度も死にかけるなんて!》

「ミズキ様……!ミズキ様が、発する光が……」

《僕がいる限り、死にたくなっても死なせるもんか!ベール!》

「ミズキ様………!」

 

結界の中へと入り込んでいくユニコーン。その手がベールの手をしっかりと掴んだ。

次に、光はブランを包み込んだ。

 

《ブラン!目を覚まして!》

「あ………ミズキ………?」

《約束しただろ⁉︎本を、読むんだ!また!あそこで!》

「ミ……ズキ………」

《君を、死なせないっ!》

 

ユニコーンはブランの手も掴んだ。そしてユニコーンは黒い水の中を上へ上へと登っていく。

暖かな光はノワールを包んだ。

 

《ノワール!君はいつもいつも、危なっかしいんだよ!》

「ミズキ……!なんで、アナタは……!」

《理由なんてどうでもいい!君を助けに来たって、そう言っただろ⁉︎》

「ミズキ……!私、は……!」

《勝手に諦めないでよっ!ノワァァル!この手をッ!》

 

ユニコーンの手がノワールの体に触れる。

そこから光はネプテューヌを包み込んで行った。結界の中に、光が満ちていく。

 

《ネプテューヌ!》

「ミズキ……!私、謝りたくて、会いたくて……!」

《謝らなくていい!会いたくていいんだ!君は僕の友達だろ⁉︎帰ってくるって、そう言ったのに君がいなくなったらどうするんだよ!》

「だって……!ミズキ、私達のこと……!」

《っ、大好きだよッ!みんなみんな!だから死なせたくないんだよ、ネプテューヌ!》

「っ、ミズキ、ミズキぃ………!」

《こっちに来て!ネプテューヌ!君が来なきゃ、始まらない!誰1人欠けても、ダメなんだ!》

 

ユニコーンの手がネプテューヌの体に触れる。緑の光が5人を包み込んだ。

 

「何よ……これ……」

「子供達が……集まるですぅ……」

 

《フル・サイコダイブッ!》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「な、なんだよ、この光は⁉︎」

 

シェアではない。だがシェアに似ている。この光は一体、何が発する光だ⁉︎

 

「っ⁉︎」

 

後ろに気配を感じてマジェコンヌは振り返る。そこには信じられない光景が広がっていた。

女神候補生達が緑の光に包まれて宙に浮いているのだ。その目がゆっくりと開いていく。

 

「ラムちゃん……不思議だね……」

「うん……すごい不思議……」

 

「夢……だったのかしらね……。ミズキさんの気持ちが、伝わって……」

 

「夢なんかじゃないよ……。これはきっと、ミズキさんの力……。ガンダムの力……!」

 

右手の甲が熱を持つ。光を発する。

女神候補生達はミズキがそうしたように、握った右手を胸に当てた。

 

変身(change)………NEXT』

 

「うわっ!」

 

女神候補生達の体が右手から発する光に包まれた。

ロムの背に巨大な砲身が装着される。ラムのプロセッサユニットは大きくX字に伸びて銀色に輝いた。2人の杖はさらに長く伸びて胸に緑の光を宿した。

 

「負けない……この中にあるのは、ガンダムの力……!」

「私達が、倒す……!負けられないの……!」

 

ユニのプロセッサユニットにコーン型の物が新たに装着された。X.M.Bはその威力を保ったまま小型化、ユニの髪はさらに長く伸びて手には盾を持った。

 

「ミズキさんのくれた力……今の私達なら!」

 

ネプギアのM.P.B.Lに赤いラインが入っていく。背には新たにウイングの形状のプロセッサユニットが装着され、手にはNの字が刻まれた盾を装備した。

 

「覚悟してください……!英雄の力、見せてあげます!」

 




ネプギアにはAGE1。ユニには試作1号機。ロムとラムにはXです。
ロムとラムはなんか、2人組のガンダムがいいかなって思ってフリーダムジャスティスか、スターゲイザーか、Xかなって。いや、Xは2人乗りじゃないですけど。

言いたいことは、ティファ可愛い。つまりイストワールは可愛いし沙都子は可愛いしメロンパンナちゃんも可愛い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミズキ

覚醒からの瞬殺は確定。
それと2話のエクシアリペアとミズキをアプリで書き直しました。一応ここにも乗せておきます。


【挿絵表示】



【挿絵表示】



ごめんね。

 

ずっと謝りたかった。

 

ごめんね。

 

やっと謝れた。

 

ごめんね。

 

謝ってごめんね。謝れなくてごめんね。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「くっ、こけおどしを!」

 

マジェコンヌがネプギアへ接近して武器を振るう。

ネプギアは後ろに後退しながら新たなM.P.B.Lを発射した。

 

「こんなもの……っ⁉︎」

 

マジェコンヌの防御魔法がネプギアのビームの一撃で割られた。

 

(M)ルチ(P)(D)ッズ(B)ーム(L)ンチャー……!」

 

ネプギアの新たな武器、M.P.D.B.L。ビームを回転させることで貫通力を上げたビームを発射できる。

 

「チッ!」

「ネプギア!」

 

後ろからユニが接近してくる。マジェコンヌは上昇しながら結晶をユニに向かって撃つ。

 

「見えてるって、言ってるでしょ!」

「くっ、バッタか⁉︎」

 

ユニの急加速、急旋回にビームはユニの体を掠りもしない。ユニの加速、運動性能は格段に上昇していた。

 

「小型化したって……!」

 

取り回しの良くなったX.M.Bを撃つ。マジェコンヌはそれを避けながらネプギアとユニの2人から離れた。

 

「逃がしません……!『スパロー』の機動性なら……!」

 

ネプギアの足と手に新たなプロセッサユニットが装着された。まるで羽のようなそれを使ってネプギアはマジェコンヌを追う。

 

「ちいっ!」

 

マジェコンヌの結晶がネプギアにビームを撃つがシュピッという音を立ててネプギアもそのことごとくを避ける。

 

「いくら速かろうと!」

「っ、しまった⁉︎」

 

結晶はネプギアを包囲する。そしてすぐにネプギアに向かってビームを撃つが、ネプギアはその軌道が見えていた!

 

「はああああっ!」

 

ドクン、と体の中で何かが脈動する。

わかる、これは『Xラウンダー』の力!

ネプギアは体を捻ってそのビームの網を避けた!

 

「バカな⁉︎」

「シグルブレイドで!」

 

M.P.D.B.Lの刃の部分が緑に輝く。ネプギアそれを逆手に持って自分の周りの結晶をすべて切り裂いた。

 

「この、小娘がぁっ!」

「やらせないわよ!」

 

ユニが前に出てX.M.Bの銃底の部分でマジェコンヌの斬撃を防ぐ。

 

「ビームジュッテ……!」

「っ、なんなんだ、お前達は!」

 

 

ーーーー『Satellite Cannon』

 

 

「ラムちゃん……!」

「ロムちゃん、わかるよ!これの使い方!」

「私も……わかる……!」

 

ロムの背中の砲身が分離し、マジェコンヌの方を向く。ロムがそれを支え、ラムがロムの肩を後ろから持った。ラムの背中の大型になったプロセッサユニットがX字に開き、銀色に光る。

 

「魔力を、流し込む!」

「全部、入れる………!」

 

2人が砲身に魔力を注ぎ込む。だが足りない。魔力が足りな過ぎる。

 

「全然足りない⁉︎そんな、私達じゃ……!」

「大丈夫……!助けが来る……!」

「なんでわかるのよ⁉︎」

「わかるの……!月が出てる!信じて、ラムちゃん……!」

「……わかった!私も信じる!」

 

あなたに、力を………!

 

「っ!」

「きた!」

 

2人の体から圧倒的な魔力が溢れ出す。

次元を超え、時を超えた想いを2人は感じた。

 

「大丈夫、撃てるよ……!」

「狙いは、オッケー⁉︎」

 

砲身の中に魔力が流し込まれた。エネルギーは完全に充填され、2人の体が光り輝く!

 

「私達がこの銃爪(ひきがね)を引く……!」

「でも、みんなを守るためなら!」

 

「なに⁉︎この魔力は⁉︎」

 

「アイシクル・サテライトキャノン……!」

「いっけーーーっ!」

 

ロムとラムの氷の魔力を流し込んだ、アイシクル・サテライトキャノンが放たれた!

夜の空をまるで昼のように照らす極太の真っ白なビームがマジェコンヌを襲う!

 

「バカな、魔法まで、凍って……⁉︎」

「まだよ!」

「凍って……っ!」

 

天を突き抜けたサテライトキャノン。それは空中ごとマジェコンヌを凍らせて巨大な結晶を作り出した!

 

「やった!」

「ユニちゃん……!」

 

 

ーーーー『100年の物語』

 

 

「任せて!X.M.Bァァァッ!」

 

ユニがX.M.Bを構える。自分の重さで落ちていく結晶とその中に閉じ込められたマジェコンヌ。

それに向かってユニがX.M.Bを最大出力で発射した!

 

「がっ……ふっ……!」

「ネプギア!」

「任せて、ユニちゃん!」

 

X.M.Bが氷の結晶をマジェコンヌごと貫き割る!

それに向かってネプギアが『スパロー』の機動力で接近した。

今のネプギアには落ちていく氷が止まって見える。

シュピッとプロセッサユニットが音を立てて急加速を繰り返す。ネプギアは氷を蹴りながらマジェコンヌの目の前に迫った!

 

「『タイタス』のパワーで!ビームグロォォォォブッ!」

 

ネプギアの両手両足のプロセッサユニットが消え、その代わりに身にまとうスーツに赤いラインが入ってネプギアの手を紫のビームが覆った!

 

「ビーム・ナックルッ!」

「うああああっ!」

 

そのパンチがマジェコンヌを吹き飛ばす!

マジェコンヌは遥か空へ飛んでいく!

 

「こっちが本命!M.P.D.B.L、最大出力!」

 

そのマジェコンヌにM.P.D.B.Lを向ける。

 

「いっけぇぇぇぇっ!」

 

螺旋を描くビームがマジェコンヌを捉えて巻き込む!

 

「うがぁぁぁぁっ!」

 

マジェコンヌを突き抜けてビームは天を穿つ!マジェコンヌはそのビームに飲まれて消えた。

 

「………やった?」

「やった、の……?」

「ええ!やったのよ!」

「……っ、やった!」

 

喜んだのもつかの間、ネプギアはハッと結界の方を振り向く。

 

「お姉ちゃんは⁉︎」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌはふと目を覚ました。

 

えと……確か、ミズキが助けに来てくれて……それで、嬉しくって……私……。

 

ネプテューヌが漂っている場所は緑色の明るい空間だった。

気付けば周りにはみんながいた。

ベール、ブラン、ノワール、そしてミズキ。

 

「みんな………」

「……起きた?ネプテューヌ」

「うん。……あのね」

「大丈夫、わかるよ。全部、この胸の中に伝わる」

 

ミズキが優しく頭を撫でてくれる。

するとみんなが目を覚まし始めた。

 

「ここ……は……?」

「おはよう、みんな。……よく聞いて」

 

ミズキは女神達の手を取って繋げた。

 

「ミズキ……なにを……?」

「あの結界を抜け出すよ。君達なら出来る」

「ミズキ様は、何処へ……?」

「僕は……そうだね、また何処かへ行ってしまうかもしれない……」

「そ、そんな!」

 

ネプテューヌがミズキに近付こうとする。ミズキはそのネプテューヌの頭を抱きかかえた。

 

「僕も……今回ばかりは、行きたくない。だから、みんな……」

 

「僕を、助けてくれ……」

 

ミズキはぎゅっと力を込めるがネプテューヌから離れていく。ミズキは名残惜しそうに手を伸ばしてこちらを見ていた。

 

「っ、わかった!わかったよ、ミズキ!必ず助けに行くから!」

「わ、私もよ!絶対にアナタを救い出すわ!」

「私も……!約束は、守る……!」

「私も、約束しますわ!」

 

「クス……待ってるよ、みんな……」

 

ミズキはふっと透けるようにして消えてしまった。その世界に残されたのは手を繋いだ女神だけ。

 

「………行こう、みんな!」

「そうね。今度は私達がミズキを助ける番よ!」

「命懸けでミズキは助けてくれた……!私達だって……!」

「何があっても、諦めませんわ。あの方のように……!」

 

想いを、1つに。

シェアを共鳴させて……!

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「あれは⁉︎」

「み、みずみずぅ!」

 

結界の中が光り輝く。その源は女神だ。

色を失ったユニコーンが結界の外に弾き出される。そのまま岩に体を打った。

 

「……ミズキ、お前……」

 

ユニコーンの変身が解けてミズキへと戻る。

ミズキは岩に体を預けて座っていた。

 

「クス……僕ね、すごく満ち足りてるんだ……」

「だが、それでお前が……」

「大丈夫……。みんなが助けてくれるって、言ってくれたんだ……。だから、大丈夫なんだよ……?」

「ミズキ………」

 

 

結界がひび割れて中から光が溢れる。

その光が結界をどんどん破り、そして結界が光に包まれて消えた。

だが、その中には誰もいない。

 

「お姉ちゃん……?」

 

「ここよ、ネプギア」

 

「っ!」

 

後ろを振り向くと空に浮かぶ4つの影。朝日と共に輝く様は女神、そのものだった。

 

「っ、お姉ちゃん!」

「お姉ちゃん……!」

 

ロムとラムがブランに抱きついた。ブランはそれをしっかりと受け止める。

 

「会いたかった……!」

「お、お姉ちゃん!うわぁぁん!」

「泣くな……。私はもう、どこにも行かねえからよ」

 

「お姉ちゃん……ご、ごめんね……。遅れちゃって……」

「何を謝ってるのよ」

「………っ」

「よくやったわね。成長したのね、ユニ。……ありがとう」

「っ、お姉ちゃん!」

 

ユニもノワールに抱きついた。

 

「お姉ちゃん、あのね、私、私ね……!」

「ええ。よく頑張ったわね、ネプギア。大丈夫よ……これからはずっと一緒よ」

「お姉ちゃんっ!」

 

ネプギアも感極まってネプテューヌに抱きつく。

そのままみんなはゆっくりと下降して地面に降り立った。

ただ1人、ベールだけは寂しそうに立っていた。

それに気付いたネプギアがベールをぎゅっと抱きしめた。

 

「……お疲れ様でした……」

「……ありがとう……」

 

そこにアイエフとコンパが走り寄ってきた。

 

「た、大変ですぅ!みずみずが!」

「ミズキが、ミズキが!」

「み、ミズキさんがどうかしたんですか⁉︎」

 

女神達はその言葉を聞いてうん、と頷く。

 

「ミズキのところへ、行くわよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そこにはまだ岩に体を預けて座っているミズキがいた。

 

「………みんな……よかった……」

「……ミズキ」

「ネプギア達も……良く、頑張ったね……」

「み、ミズキさん……!」

 

クスリと笑ってミズキはネプテューヌの方へと手を伸ばす。ネプテューヌはその手を取って強く握った。

 

「必ず、助けに行くから。何があっても、諦めないから。だからミズキ、もう休んでいいのよ……」

「……うん。絶対、帰るんだ……。プラネテュー……ヌ……に……」

「っ!ミズキ……っ!」

 

ネプテューヌが握っていた手がするりと抜けて地面に落ちた。

ミズキは安らかに幼子のような笑顔で眠りについた。




M.P.D.B.Lとかクソ長い。
次回からはミズキの過去を明らかに。

補足説明。
ロムとラムは新たにサテライトキャノンを習得。魔力を流し込むことで絶大な威力のビームを発射できますが、今の2人の魔力を全て流し込んでも必要なエネルギーの2%程しかありません。月が見えていると2人の体に魔力が充填されるので、現在は月が出ていないと撃てません。

ユニは新たに絶大な加速性能と運動性能を獲得。他の3人も総合的に能力が上がってはいますが、ユニは特に。X.M.Bは威力そのままに小型化され、銃底にはビームジュッテがあります。胴体を分離させようとしましたけどやめました。気持ち悪いんだもん……。

ネプギアは換装能力を習得。ノーマルの状態ではM.P.B.Lの貫通力が上がります。タイタスでは攻撃力と防御力が上がり拳や足にビームをまとって攻撃可能。スパローではM.P.B.Lの剣の部分がシグルブレイドとなり斬撃能力が強化。さらに機動力も大幅に上昇します。
Xラウンダー能力も芽生え始めました。今回でも対セシル戦の避け方をさせてみました。

こんなもんかな。
自分がガンダム出そうと思うとどうしても好みの関係で偏りが出ますね。あんまり出てないガンダムも多いです。リクエストあったら言ってください。むしろください(切実


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5章〜ミズキを救え。託された想いと変身の先へ〜
ジャックとイストワール


新章スタート。なんだか長くなりそうな予感。バトル多めだと思われます。


「どういう……こと、なんですか……」

 

プラネテューヌの教会のミズキの部屋。そこでミズキはベッドに寝ていた。

その脇には戦いを終えた女神と女神候補生。それに、アイエフとコンパとイストワール、ジャック。

 

「どうして!ミズキさんは起きないんですかっ⁉︎」

 

ネプギアが声を荒げる。

だが誰も答えられない。

唯一、答えられるのは……。

 

「ジャックさん、どういうことなんですか……!」

「…………」

「ミズキさんは、どうなったんですかっ⁉︎」

「…………死んだんだよ」

「…………!」

「肉体は死んでいない。だが……」

「……説明してくれない?ジャック」

「…………」

「私達、ミズキに……」

「……わかっている」

 

ネプテューヌが説得しようとするとジャックはそれを抑えて前に出た。

 

「ミズキは……そうだな、精神エネルギーを使い切ったといえばわかりやすいか」

「精神エネルギー……ですって?」

「そうだ。お前達も見たはずだ。あの暖かな緑色の光を」

 

ノワールの疑問に答える。

あの時、ミズキの体から発していた光、あれはミズキの心の光だったのだろうか。

 

「アレはミズキだけの光ではない……。次元を超え、死を超えて届いた友人達の光でもある」

「つまり……ミズキがいた次元の人達が助けに来たということ……?」

「そうだ」

「そ、それなら私達見たですぅ。みずみずの後ろに子供達が集まるのを……」

「それがミズキの友人達だ。崩壊した次元のな」

「それじゃあ、あの子供達は死んだ後もミズキを………?」

「そう言っている。あいつらが力を貸してくれたからこそ、みんなはこうして生きているのだ」

 

コンパとアイエフはミズキの後ろに立つ子供を見ていた。まるで新しい遊びが始まったかのように集まる子供達を……。

 

「ちょっと待って。じゃあミズキはオバケの力を借りて私達を助けたってわけ?」

「信じられないだろうな。だが、それがニュータイプだ」

 

ノワールの疑問も無理はない。ミズキ達の次元では何億年という時間をかけても人類の多くが信じられなかった力なのだから。

 

「本来ならミズキの体ごと光に融けて消えていたはずだ。だが不幸中の幸いと言うべきか、融けたのは心だけだ」

「どうして、体は融けなかったのですか?」

「………ミズキの体の90%以上はミズキのものではない。人工物で出来ているからだろう」

「………どういう、ことですの?」

「そもそもミズキに親と呼べる人物はいない。いくつものDNAを掛け合わせ、肉も骨も人工。唯一ミズキのものだと言えるのは、その心だけだ」

「ミズキ様は、あちらの次元で何があったのですか……⁉︎そんなの……!」

「………もういいだろう。俺はミズキの心を再び取り戻す方法を探す」

 

ジャックはふわりと飛んで部屋から出て行ってしまった。

 

「ジャックさん……」

 

それをイストワールが追いかけた。

 

残された人達はみんなミズキの顔を見ていた。安らかな寝顔。心が死んでいるなんて今でも信じられない。ふと目を覚まして、クスクスと笑ってくれそうで……。

 

「……ネプギア、大丈夫だよ。きっと助ける方法が見つかるって!」

「お姉ちゃん……」

「ミズキだって、私達を助けてくれたんだもん!私達に出来ないことないよ!」

「………うん……」

 

ネプギアはゆっくりと立ち上がった。

そして自分の右手の甲を撫でる。その炎のマークは既に消えていた。

 

「私達はとりあえず国に帰りましょう。少なからずシェアが低下しているはずよ」

「そうね……。しばらくは、仕事が手につかないでしょうけど……」

「……ミズキ様を、任せましたわよ」

「任せてよ!」

 

「じゃあね、ネプギア」

「大丈夫!きっと執事さん起きるよ!」

「信じるのが、大事……!」

「みんな……」

 

そう言って他国の女神と女神候補生は帰って行った。

残されたのはネプテューヌ、ネプギア、アイエフ、コンパ。

 

「ネプ子、アンタ頼まれたんでしょ、ミズキに」

「うん。助けてって言われた。だから、助けるよ。ミズキがしたように、諦めないよ」

「私も、頑張ります。この手の炎は消えても、まだミズキさんの力はこの胸にありますから……」

「……頑張るです!みずみずだって、みんなががっかりしてるのは嫌なはずですぅ!」

「……そうね。まずは仕事よ。シェアを取り戻して力をあげなさい、ネプ子」

「うん!行くよ、ネプギア!腕試しにモンスター退治だよ!」

「うん!お姉ちゃん!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ジャックさん」

「……イストワールか」

 

ジャックは屋上で空を見つめていた。そこにイストワールがやってくる。

 

「……俺は、謝るのがまだだったな。すまない、イストワール」

「構いません。約束通り、こうして帰ってきてくださったのですから」

「……だが、こんな帰還は誰も望んではいない」

「ジャックさん……」

「本当なら、アンチクリスタルはすぐに見つかって俺が解析し、その方法で破壊していたはずだ。だが……こうなってしまった」

「……誰が、間違えてしまったのでしょうね」

「誰も間違ってなどいない。相手のために動こうとして、それが拗れてこうなった。それが人の悲しいところだ」

 

ジャックはイストワールとすれ違って屋上から教会の中に戻ろうとした。だが、イストワールはその行く手を塞いだ。

 

「ジャックさん……アテは、あるのですか?」

「そんなものはない。だが必ず見つける」

「どうするつもりですか」

「手当たり次第にこの世界中のデータを見させてもらう。データがなければ俺が研究を始めよう」

「ですが」

「諦められないんだよ」

「……………」

「悪いがそこを通してくれ。ハッキングにも目をつぶってくれると助かる」

「ジャックさん、待ってください」

「…………」

「ミズキさんは1人で戦ってきたのでしょう?ずっと孤独なまま、ネプテューヌさん達を助けるために」

「そうだ」

「ですが、ミズキさんも最後にネプテューヌさん達を頼ったと聞きます」

「……何が言いたい」

「ジャックさんも、私を頼ってはくれませんか?私なら……」

「………」

 

イストワールの情報収集能力なら確かに手がかりも見つかるかもしれなかった。

だが、ジャックは頷かない。

 

「お願いします。ジャックさんがミズキさんを助けたいように、私もジャックさんを助けたいのです」

「………だが」

「ジャックさんも辛かったのでしょう?ミズキさんも、ジャックさんも、全然私達を頼ろうとしないから……。全部自分達でやろうとして、辛い気持ちだけを背負うではありませんか」

「…………」

「頼っていいのですよ。何もかも分け合いたいと思うから友達なのではありませんか?私も感じたいのです。ジャックさんの辛さを、悲しみを」

「………わかった。頼らせてもらう」

「ジャックさん………」

「イストワール、力を貸してくれ」

「………はい」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌとネプギアは変身してモンスター退治をしていた。

だが、ネプテューヌはネプギアの様子に違和感を抱く。まるで、何かに焦っているような、そんな苛立ちを感じる。

 

「……今日はこんなものかしらね。そろそろ帰りましょう」

「待って、お姉ちゃん。あと少しだけ……!」

「ダメよ、ネプギア。焦るのはわかるけど無茶をしちゃ」

「………うん……」

 

ギリリとネプギアはM.P.B.Lを握りしめた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「それでは……」

 

イストワールはその頭の中から情報を引き出そうとする、がジャックに止められた。

 

「いや、今回に限っては徹底的に探す。イストワールの頭の中の本を全てひっくり返してな」

「そんな、それでは時間がかかります。私の頭の中の全ての情報をあたるなんて、3年はかかります」

「だから力を貸してくれと言った。力を貸すということはイストワールだけが頑張るということではない」

 

ジャックはイストワールの手をとった。

 

「イストワールの頭の中を漁らせてもらう。無遠慮にな。イヤならイヤと言え」

「……大丈夫です。私の中の何を見られても構いません」

「イストワールは俺の中を少なからず見ることになる。……イヤならイヤと言え」

「……大丈夫です。ジャックさんの何を見ても、私は動じません」

 

ジャックはイストワールの目をじっと見る。イストワールは決意を込めた目でそれを見つめ返した。

 

「………ならば、イストワール。その本棚を荒らそう」

「どれくらいかかりそうですか?」

「3日でやる」

 

ジャックはイストワールの額に額を付けた。

お互いに意志を持ったロボットだからこそ出来る情報の共有。

イストワールの中の情報が全てジャックの中に流れ込んでくる。

それはまるで雨のように降り注ぐ本の情報を全て閲覧し、取捨選択するようなもの。

ジャックの本領はその圧倒的な情報処理能力。イストワールの中の何もかもをジャックは見る。

 

(この、圧倒的な知識量は……!)

 

ジャックの体が熱を持つ。情報処理がだんだんと粗くなりかける。それをジャックは意志の力で堪えた。

何としても、ミズキを助けるために。

 

イストワールはジャックの頭の中の様々なものを断片的に見た。

戦火、戦火、戦火。

そして光る笑顔。子供達。ガンダム。

 

(ジャックさんを、癒してあげたい……)

 

イストワールはそう思った。

何だか、ジャックは無理をしている。いや、ジャック“だって”無理をしている。このままではジャックもミズキのような結末を迎えてしまえそうでイストワールは怖かった。

 

(どうか、ジャックさんが……)

 

私達を頼ってくれますように。

 




ニュータイプの考え方って人それぞれあるみたいな感じで説明が難しいんですよね。作品によってやってることが違いますし。
皆さんはニュータイプについてどう考えますかね…。聞かせてくれると参考になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネプギアの焦り

みなさん量産機の中で何が好きですかね。
僕はドム・トローペンとかズゴック・Eとかが好きです。


翌日の朝、ネプテューヌはネプギアの姿を探していた。

起きてはいるらしいのだが教会の中にはいない。まさかネプギアまでいなくなるはずは……と思い外に出るとそこには素振りをしているネプギアがいた。

 

「ふっ、ふっ、ふっ……!」

「お〜、ネプギア!頑張ってるね!」

「お姉ちゃん……。うん、ありがと。でも、まだまだ……!」

 

ネプギアはそう言って木刀を振るう。

そこにアイエフがやって来た。

 

「あいちゃん、おはよ!」

「おはよ。……ネプギアね、今日何時に起きたと思う?」

「え?今が7時だから……6時とか?」

「5時よ。5時に起きてランニングしてずっと素振りしてるの」

「ええっ⁉︎」

 

そう言われてネプギアを見るとネプギアはなんだか鬼気迫るような形相だった。

前見たような、焦りみたいなのを感じる。

 

「私がいくら言ってもやめないのよ。ネプ子なら止められない?」

「わ、わかったよ」

 

ネプギアのところに言って説得を始める。

 

「ネプギア、そろそろご飯だよ!とりあえず素振りは切り上げない?」

「あ……もうそんな時間……。ごめんお姉ちゃん、あと少しだけ……」

「ダメダメ!いきなりそんなに頑張ったら倒れちゃうよ!ゆっくり体を慣らさないと!」

「……うん、そうだね」

「お詫びと言っちゃなんだけど、一緒にモンスター退治に行こうよ!」

「ううん、大丈夫。今日は私、1人で行ってみたいの」

「え………?」

 

ネプギアが誘いを断るなんて。

 

「あ、あの、そういうことじゃなくて!せっかく変身できるようになったから1人で行ってみたいな〜……って!」

「あ、ああ!そういうことね!もう〜、びっくりしたよ〜!さ、そうと決まれば朝ご飯だよ〜!」

「うん」

 

ネプテューヌは気付いていた。

ネプギアが寂しい笑顔をしていたことに。その笑顔はミズキの時もノワールの時もそう。何か嘘をついている時に見える笑顔だ。

ネプテューヌは後ろを歩くネプギアの心中を察しようと思ったが出来なかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「………もう朝か」

「ふぅ………」

 

ジャックはイストワールの額から額を離す。

イストワールは力が抜けたようにへたり込んだ。

 

「すまない、無理をかけた」

「い、いえ、構いません。これくらい……」

「いや、休憩を取ろう。倒れてしまっては元も子もない」

 

ジャックは部屋から出て行ってしまった。

イストワールは気分が下がるのと同調しているかのように高度を下げる。

それは疲れたのもあるが何より自分が不甲斐ないのもある。

 

「これでは、教祖失格です。もっと頑張らなければ……」

 

気合いで高度を上げて部屋を出ようとするとそこにジャックが入ってきた。

 

「冷蔵庫にあったプリンを持ってきた」

 

空中からプリンと小さなスプーンが現れた。小さい体でもこの能力を駆使すれば何でも運べるらしい。

 

「食べよう」

「ですが、それは多分ネプテューヌさんの……」

「構わんだろう。さあ、バレる前に食べ切るぞ」

「………はい」

 

くすりと笑ってプリンの蓋を開け、食べていく。

ネプテューヌの悲鳴が教会中に響き渡ったのはその数分後だった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアはモンスター退治の依頼があったプラネテューヌの森の中を歩いていた。

気を張り続けて、いつ何処から敵が何をしてこようと反応出来るように。

するとネプギアの後方で草むらがガサッと音を立てた。

 

「そこっ!」

「⁉︎」

 

ネプギアがビームソードで飛び出した敵を切り裂く。

だがネプギアは全く嬉しそうな顔をしない。険しい顔のまま、また歩き出した。

 

「………ダメ、こんなんじゃ……」

 

森が開けて草原が広がっている。

そこにはうじゃうじゃとモンスターがいた。まるでそれはラステイションで経験したようなモンスターの数だ。

 

「変身……NEXT!」

 

ネプギアは変身を完了しさらに武装が強化される。

 

「もっと、もっと………!」

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

ネプギアが降り立った草原にはもうモンスターは1匹たりともいなかった。

ネプギアはほぼ無傷だがそれでも険しい顔をしたまま。

ネプギアは気配を感じて後ろを振り返る。そこには小型のモンスターがひょこひょこと逃げているところだった。

 

「待ちなさいよっ!」

 

飛び上がってM.P.D.B.Lを振り下ろそうとするとそれが何者かの太刀に阻まれた。

 

「っ!」

「ネプギア」

「……っ、お姉ちゃん……」

 

そこには変身したネプテューヌがいた。ネプテューヌの太刀でネプギアの剣は阻まれたのだ。

 

「心配になって追いかけてきたらこれよ。ネプギア、これはどういうこと?」

「……ごめんなさい、お姉ちゃん……」

「謝罪の言葉が聞きたいわけじゃないの。どうしてこんな危ないクエストに1人で行ったのかを聞いてるの」

「……だって……っ!」

 

ネプギアは涙を流していた。ネプテューヌに厳しく当たられたからではない。

 

「私、ミズキさんより強くならなきゃ……!もっともっと強くなってミズキさんを超えなきゃいけないのに……!ひっく、ううっ……!」

「……どうしてミズキより強くならなきゃダメだと思うの?」

「ひぐっ、だって、そうじゃなきゃミズキさんを守れない……っ!」

 

強くなってミズキを守りたい。守らなければダメなのに、力が足りな過ぎる。いくらモンスターを倒そうと胸に残るのは虚しさだけ。焦りだけが募っていく。

 

「……だったらネプギア。明日は私と模擬戦をするわよ」

「ぐすっ、……え?」

「それでネプギアが欲しいものを掴みなさい。今日はもう帰るわよ」

 

ネプテューヌは振り返ってスタスタと先を歩く。

私の欲しいものは何か。決まってる、強さだ。

ミズキさんを守れる強さが欲しい。ただ、それだけ………。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

翌日、ネプギアとネプテューヌは変身した状態でプラネテューヌの森の深くにいた。

近くにはアイエフとコンパもいる。

 

「さあ、ネプギア。手加減はなしよ」

「う、うん……」

「今日は強くなったネプギアの実力を確かめるためってのもあるのよ。怪我をしてもコンパがいるから、精一杯来なさい」

「わ、わかった!それじゃ、行くよ!」

 

ネプギアがNEXTになり武装が強化された。

 

「ええいっ!」

 

ネプギアがM.P.D.B.Lをネプテューヌに向かって撃つ。ネプテューヌは防御魔法では防御しきれないことをわかってひらりひらりと弾を避ける。

 

「私も、手加減はしないわ!」

 

ネプテューヌはネプギアに向かって弾を避けながら接近する。

ネプギアはスパローに換装し、逆手にM.P.D.B.Lのシグルブレイド部分を構えた。

 

「そらっ!」

「くっ!」

 

ギャリギャリと刃が擦れ合う。

ネプギアは距離をとってネプテューヌを翻弄すべく急加速と急旋回の動きを繰り返す。

シュピッ、シュピッと音を立ててネプギアはネプテューヌとの距離を詰める。

 

「そこっ⁉︎」

「っ、危ないっ!」

 

ネプテューヌが間合いを詰めて攻撃に出ようとする度にネプギアは間合いを取って仕切り直す。

ネプテューヌの太刀よりもシグルブレイドはリーチが短い。そのため懐に入り込まなければ勝機はない。

自分の間合いにネプテューヌが入るまで、慎重に間合いをはかり機敏に移動する。

 

「くっ」

「そこっ!」

 

ネプテューヌが迂闊に前に出たところに機動力を生かして懐に入り込む。

 

(決まった!)

 

シグルブレイドを腕のプロセッサユニットの勢いも使ってネプテューヌに切りつける。

だがネプテューヌは太刀を小手先で回してそれを受けた。

 

「えっ⁉︎」

「軽いわよ、ネプギア!」

「きゃあっ!」

 

そのままネプテューヌは太刀を振り回してネプギアを吹き飛ばす。

その腹にネプテューヌの跳び蹴りが入った。

 

「うっ!」

「まだよ、ネプギア!」

 

ネプギアはプロセッサユニットの力を全開にしてスピードを落とし、地面に着地する。

そこにネプテューヌが迫り太刀を振り下ろそうとしていた。

 

「もらった!」

「タイタス!」

 

ネプギアのM.P.D.B.Lは消えて赤いラインがネプギアのスーツに入る。

ネプギアは腕を十字に組んでネプテューヌの太刀を受け止めた。

 

「っ、そんな!」

「タイタスの、防御力とパワーなら……!」

 

そのままネプギアはネプテューヌの太刀を両手で掴んだ。

 

「飛んで、お姉ちゃん!」

 

そのままネプギアは1回転してネプテューヌを投げ飛ばした。

 

「きゃあああっ⁉︎」

「今だ……!」

 

ネプギアはノーマルに換装し直してその手にM.P.D.B.Lを持つ。

ネプテューヌめがけて地上からビームを発射する。

 

「くううっ、当たらないわよ……っ!」

 

だがネプテューヌは投げられた勢いを生かしてさらに後退、M.P.D.B.Lのビームの有効射程外にまで離脱して防御魔法で易々とビームを弾いた。

 

(さすがに、お姉ちゃんは強い……!)

「さあネプギア、続けるわよ!」




AGE1はこんなにホイホイ換装出来ないですけど、まあ許してヒヤシンス。
こうして書いてるとネプテューヌって飛び道具がないんですね。Gガン並みの潔さ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心の強さ

次回から話をパパっと進めたいですね。早くイチャイチャさせたい。


「ねえ、あいちゃん」

「なによコンパ」

「なんで2人は模擬戦してるですか?」

「ネプ子からはネプギアが欲しいものを掴ませるためって聞いたわよ」

 

上空ではネプテューヌとネプギアの拮抗した戦いが行われていた。

ネプテューヌはなかなか攻撃出来ず、ネプギアは決め手がない、といった感じか。

 

「ぎあちゃんは何が欲しいんですか?」

「それはネプギアにしかわからないわよ。でも……」

「でも?」

「多分、単純な強さではないと思うわ」

 

 

 

「くっ、なんで……!」

「そこっ!」

「ああっ!」

 

ネプギアがネプテューヌの太刀を受けて吹き飛ばされる。

ネプギアは後退しながらM.P.D.B.Lを発射するが擦りもしない。

 

「っ、なんで!」

「どうしたの⁉︎もう限界かしら⁉︎」

「くっ、あっ!」

 

苛立つネプギア。自分が主導権を握っているはずなのに仕留められない。

ネプギアはノーマルの状態のM.P.D.B.Lでネプテューヌの太刀を受け止めた。

 

「まだわからないかしら?ネプギアの欲しいものは掴めそう?」

「っ、まだまだ!」

 

ネプギアはプロセッサユニットのパワーを最大にしてネプテューヌを押し切ろうとする。

ネプテューヌはそれを横にいなす。ネプギアは咄嗟に後退できず、ネプテューヌに背中を晒した。

 

「そこねっ!」

「きゃあっ!」

 

ネプテューヌの真っ直ぐ振り下ろした太刀がネプギアの背中にもろに入った。

ネプギアは落下して地面に叩きつけられた。

 

「ぎあちゃん!」

「行きましょうか」

 

コンパとアイエフもネプギアに駆け寄った。

ネプギアは地面に叩きつけられたものの、ダメージは少ないらしく立ち上がった。

無論、武器の出力を模擬戦用に絞っていたというのもあるが。

 

「勝負ありね、ネプギア」

 

ネプテューヌは空から降りてくる。

 

「ぎあちゃん、怪我はないですか?」

「は、はい……。大丈夫、です……」

 

ネプギアの顔は暗い。それは負けたから、ではあるが悔しいからではない。負けて悔しいから暗い顔をしているのではない。負けた自分が情けなくて嫌になるから暗い顔をしているのだ。

 

「ネプ子、そろそろ答えを教えてあげたら?」

「……そうね、ネプギア」

「………うん」

「多分ネプギアの力は私と互角かそれ以上はあるわ。それでも負けたのはどうしてだと思う?」

 

思い当たる節はたくさんある。

苛立っていたこと、熱くなりすぎたこと、ミス。でもやはり1番の要因は……。

 

「経験、だと思う」

「そうね。それも確かに一因だわ。だけど、70点」

 

ネプテューヌは指を立ててウィンクしてくる。

 

「ネプ子にしては考えてるじゃない。じゃあネプギアには何が足りなかったっていうのよ」

「そのためにはまずネプギアが欲しいものについて考える必要があると思うの。あと、一言余計よ」

「ぎあちゃんが欲しいものですか?ぎあちゃんは、何が欲しいですか?」

「私は……もっと強さが欲しいです。ミズキさんを守れるくらいの強さが。だから、ミズキさんよりも強くなりたいんです」

 

あの笑顔を2度と失いたくない。ずっと側にいて欲しい。だから、私が守り抜きたい。

 

「つまり、ネプギアは『ミズキより強くなりたい』ってことだけど、それって『ミズキを守りたい』ってことよね」

「それは……うん」

 

ミズキさんがいなかったらこんなに強さが欲しいとは思わない。ミズキさんが守りたいっていう気持ちがあって、それから私はミズキさんよりも強くなりたいって思ってるんだ。

 

「で、今ネプギアは何をしてる?」

「そうね……。ミズキを守るために強くなろうとしてる、ってことでいいのよね?」

「は、はい。そうです」

 

そのためにモンスターも倒してるし、トレーニングも始めた。

 

「すると、ネプギアに今足りないものは『強さ』それと私が勝った要因の1つの『経験』が足りないわね」

 

ネプテューヌは指を2本折る。

 

「ねぷねぷはそれを補うために模擬戦をしたんじゃないんですか?」

「それもあるけど、あくまでそれはついでよ」

 

チッチッチと得意げに指を振るネプテューヌ。

 

「……なんか、今日はネプ子がウザいわね」

「ヒドいわね⁉︎せっかく人が順を追って説明してるって時に!」

 

ネプテューヌがアイエフにムキーッ!と怒る。

 

「……まあいいわ。でもね、ネプギア。アナタに足りないものはまだあるのよ」

「……まだ?」

「そう。それはネプギアが私に負けた1番の要因でもあるわ。それって何だと思う?」

 

その言葉でネプテューヌ以外の3人がう〜んと考え込む。

 

「頭の良さ、とかですか?」

「だったらネプギアの方が上よ」

「そ、そうですね……。私、馬鹿なこと言ったです」

「………泣いていいかしら」

 

ネプテューヌが少し涙目だ。

 

「そうね、ネプギアがまだ女神化を使いこなせていない……ってのは経験に入るわよね」

「体格……とかじゃないですよね」

 

ばるん、とコンパの胸が揺れた。

……………。

 

「それで優劣が決まるわけないでしょまったくよく考えて発言してくれないコンパそもそもアナタはねいつもいつも……」

「ふええっ⁉︎あいちゃんが怒るですぅ!」

「……私も、抑えきれない憎悪が……」

「ふええっ⁉︎ぎあちゃんまで⁉︎」

 

ちなみにこの瞬間ルウィーの女神が“ボールペンを”ボキリと割って、変身すると体の一部が軽量化するラステイションの女神候補生が無意識に舌打ちをした。

 

「じゃあ、答え合わせ。ネプギア、アナタに足りないのはココよ」

 

ネプテューヌはトントンと自分の胸を指で叩いた。

……………。

 

「ネプギア、今なら勝てるわね?」

「はい。他にも2人ほど味方してくれる人がいると思います」

「きゃあああ違う違うそういう意味じゃなくって!」

 

鬼の形相で武器を振り上げた2人を必死に抑えるネプテューヌ。

 

「ミズキが持ってて、ネプギアが持ってないもの。それは心の強さよ」

「心の……強さ……?」

「そうよ。私だって、全然ミズキには及ばないものよ。私だってミズキに託されなかったら今頃ネプギアみたいになってたかもしれない」

 

ミズキが頼んでくれたから、信じてると言ってくれたのがネプテューヌの心を支えて強くしていた。

 

「例えば……強くなったネプギアとミズキが戦ったとして。ミズキは何度ネプギアに倒されても立ち上がるはずよ。それは、心が強いから」

「心……が……」

「だから、ね?ただ強くなろうとしても意味ないの。それをネプギアは、本当はわかってたはず」

 

思い当たる節はある。ネプギアの心に強く根付いていた虚しさ。それはきっと、こんなことが意味のないことだってわかってたから……。

 

「でも、じゃあ、『心の強さ』がミズキさんに追いつくにはどうしたらいいのかな……」

「それは私にもわからないわよ。『心の強さ』って言っても1つじゃないわ。ミズキは挫けない心を持ってる。けど、その反面とても脆いって、私は思うわ」

 

他人のためなら何度でも立ち上がるミズキ。だけど、その分他人がいなくなった時は普通の人以上に傷つく。それがミズキだ。

 

「私は私の強さを見つけるわ。ネプギアも、ネプギアの強さを見つけなさい」

「私の、強さを……」

「ネプ子、大事なところで適当ね」

「……あいちゃん、私に何か恨みでもある?」

「別に」

「ちょ、私が何したっていうのよ〜!」

「はいはい、コンパ、帰りましょう」

「はいですぅ」

 

コンパとアイエフがさっさと帰るのをネプテューヌが追いかける。それを見ながらネプギアは自分の胸にあるものを確かめた。

 

(私の、強さは……)

 

ネプギアはそれを握りしめる。まだ、確信なんかないし、正解があるわけではないけれど。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……イストワール、大丈夫か」

「………え?あ、はい、大丈夫ですよ」

「ダメだな。休むぞ」

 

しゅんとイストワールは落ち込んでしまう。

休みを取るペースが3日目に入って段々と多くなり始めた。

自分が足手まといになっている、という事実にイストワールは珍しく打ちのめされていた。

 

「すいません、私のせいで……」

「謝るくらいなら休め。それに、イストワールだけが悪いわけではない。俺がペースを考えないのも悪い。だから気にするな」

「……でも、全然そんなことは……」

「そんなことは、なんだ」

「全然、休みたがっているようには見えません。いざとなれば、私のことなんて……」

 

ふぅ、と息を吐いてジャックは次元倉庫から小さなペットボトルのようなものを取り出す。それをイストワールに向かって投げた。

 

「あっ、とっ、とと……!」

 

イストワールは取りこぼしそうになったものの、なんとかキャッチする。

キンキンに冷えていてとても美味しそうな水だ。

 

「男という生き物は、強がる生き物だ」

「………え?」

「俺も強がっている。そして、ミズキも強がっていた」

「それは、つまり……」

「本音を言えば俺もキツい。顔に出ないだけだ」

 

ジャックは自分の分のペットボトルの栓を開けてグビグビと飲む。ジャックの口の端から水が滴った。

 

「だが、女というものは強がらない生き物だ。その代わりに強がる男を癒す。俺はそのように考えている」

 

ジャックは次元倉庫に空になったペットボトルを放り込む。

 

「だから、この状況は俺の望むような状況でないことはわかるな?」

「は、はい……」

「……話が逸れたな。これでは何が言いたいかわからんか」

 

ジャックは首の動きで「飲め」と伝えてくる。イストワールはその通りに栓を開けて水を飲み始めた。

やはり、キンキンに冷えていて美味い。

キンッキンに冷えてやがる……!美味すぎる、反則的だ……っ!

 

「せめて労らせろ、と言いたいのだ。女に無理はさせるものではない。だが無理をさせている今、せめて俺はイストワールを労らないと気が済まない」

 

厳しい表情のままジャックは部屋の扉から外へ出て行く。

 

「もう1つ。……男は面倒くさい生き物だ」

 

そう言ってジャックは部屋から出て行った。

イストワールはポカンとそれをしばらく見ていたが、しばらくしてやっとジャックの言葉を理解できた。

 

「照れ屋さん……ということでしょうか」

 

無理をしないで休めと言いたくて、それで自分も休みたいと言いたくて、終いには私を休ませたい、と言ったということか。

それを正直に言えず御託を並べてしまうのも、男の面倒くさいところだと。

 

「だとしたら……カワイイですね」

 

イストワールは残った水を飲み干す。

喉を冷たい水が潤していく。

 

「では、お言葉に甘えて」

 

少し、眠りましょうか。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その日、夕日が沈むころ。

ジャックはイストワールの額から額を外した。

 

「ジャックさん……?休憩ですか?」

「いや、その必要はない。各国の女神を集めるぞ」

「そ、それでは……」

「……ギリギリ3日には間に合ったというところか。明日から始めるぞ」

 

 

「ミズキ救出作戦の開始だ」




ツンデレジャック。
この言い方だと世界中のツンデレが操られそうです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全ての始まり

ミズキが生まれてからゲイムギョウ界にやってくるまで。長っ苦しい説明文です。読むのが嫌になると思います……。

それと、また挿絵を書き足しました。『ノワール』にも貼りますがここにも貼っておきます。


【挿絵表示】



プラネテューヌの教会、そのリビングのようなところに各国の女神と女神候補生が集まっていた。それにアイエフとコンパを加えたのがここのメンバーだ。イストワールは疲れが出たらしくぐっすりスリープモードだ。

そこにジャックが入ってくる。

 

「話には聞いてると思うが、これよりミズキ救出作戦を開始する。まずは作戦の説明からだ」

 

『…………!』

 

全員が決意を秘めた目でジャックを見る。

ジャックはその視線を受け止めて説明を開始した。

 

「今回の作戦はミズキの心を呼び覚ますために、お前達がミズキの心の中に入り、直接呼び覚ますというものだ」

「ミズキの心の中?」

「そうだ。お前達もあの結界で体験しただろう。フル・サイコダイブだ」

「フル・サイコダイブ……」

 

ノワールはその言葉に聞き覚えがあった。確か、ミズキが結界の中に入った時の……。

 

「あの時、お前達は心の中でミズキと出会ったはずだ。そして、託された」

「あれって……私達の心の中だったんだ……」

 

ネプテューヌはあの時のことを思い出す。なんの建前も上辺もなく感じ合えたようなあの世界。あれは心の中の世界?

 

「ミズキは強力なニュータイプであったからお前達の心に踏み込むことができたが……お前達にはそれは出来ない」

「じ、じゃあどうすればいいのよ!」

「執事さん、起きない……?」

「それを可能にする」

 

ロムとラムの疑問にジャックは空中にモニターを浮かべた。

 

「ミズキを……例えば、萎んだ風船だとしよう。中の空気が心だ。お前達という膨らんだ風船がミズキという風船の中に入り込み、少しずつ空気を入れるようなものだと思ってもらっていい。そうすれば後はミズキの中で勝手に風船は膨らむ」

 

モニターには風船の画像が映し出された。

 

「だがお前達にはこの風船の口を通り抜けることが出来ない。俺がその中継役を務めるが、因子がいる」

「因子……?なによ、それ」

 

ユニが聞き慣れない単語に首を傾げる。

 

「ミズキを構成する要素のようなものだ。幸い、お前達はそれに事欠かない」

 

モニターには全員の顔が映し出された。

 

「ミズキの光を間近で浴びたアイエフとコンパ」

 

「ミズキの力をその身に宿す女神候補生」

 

「そしてミズキが心の中に踏み込んだ女神」

 

「全員がミズキの中に入れる可能性がある」

 

その事実に全員が嬉しそうな顔をする。助けられるかもしれない。自分達の手で。

 

「だが全員が入れるわけではない。あまり入る風船が多過ぎれば器であるミズキの風船は破裂してしまう」

 

モニターには風船がたくさん中に入った結果、破れてしまった風船が映し出された。

 

「そして何より、お前達はミズキのことを知らなさ過ぎる」

 

『……………』

 

全員が俯く。確かに、ミズキのことを何も知らない。1番過ごした時間が長いネプテューヌでさえも知らないことだらけだ。

 

「……少し、昔話をしようか」

 

宙のモニターが大きくなった。

 

「仮にもお前達はミズキの心の中に入る。ならば、その心を受け止めて抱きしめる必要がある。ミズキは未だにお前達との間に壁を作っている。その壁を打ち壊すにはまず、ミズキの過去を知ってもらう」

 

モニターが真っ黒く染まった。

 

「……覚悟を持って見届けろ。これがミズキのありのままだ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキは試験管の中で生まれた。

地球から遠く離れたコロニー、その研究所だ。そこでは非道な実験が日夜行われていた。

世界を……いや、宇宙を真っ二つに割った戦争は終わりを知らなかった。既に戦争は5年も続いていた。

モビルスーツと呼ばれる巨大な兵器がひたすらに弾を撃ちあい、壊れていく。

 

その戦争をしていた片方の国……A国はとある人体兵器を作ろうとしていた。

何億年と前から戦争が起こる度に現れてその戦局を大きく左右した機体、『ガンダム』。それを再び復活させようとしたA国はそれを人の体に埋めこもうとした。

人間サイズにまでガンダムを小型化して戦わせる。

では、パイロットは?

 

そこで生み出されたのが変身システムだ。最近見つけ出された次元科学を使い、倉庫次元なるものを作り、その中に小型化したガンダムを収納。そして人間が変身することでガンダムを動かすのだ。

人間の意志だけをガンダムに瞬時に移動させ、肉体は倉庫次元に置く。

それは並の肉体では不可能だった。だから、人体実験を行ったのだ。

 

戦争の孤児を安値で買い取り、連れて来る。

まず第1に体に埋め込む次元装置からだ。

それを体に埋め込んで使えるようになれば、成功。失敗すれば子供は死んだ。死体から次元装置を引きずり出して、また埋め込む。

成功確率が10%を超えることはなかった。

 

そして成功したならば倉庫次元に置かれても無事な肉体を作る必要があった。

徐々に体の筋肉や骨を人工物に置き換えていく。

さらに、兵士としても死なない体を作ろうとして様々な機械がさらに埋め込まれた。

成功した者は永遠とも言える寿命と強固な肉体、傷ついても瞬時に回復する体を手に入れた。

その成功確率、1%。

 

死んだ子供達は資金の足しとして臓器を売られ、残りは宇宙に捨てられた。人を人とも思わぬ狂った実験。

それが成功した子供は最終的にたった3人だった。

 

だが資金も時間も無限ではない。

研究者は考えた。始めから壊れない肉体を作ればいいのだと。

様々なDNAを採取し、盗み、混ぜていく。母親だとか父親だとか、そんなものはない。

そして何度か失敗を重ねた後に彼は生まれた。

産声をあげて泣く子供は4番目の子供としてDという名前をつけられた。

満を持して研究者は彼に手術を行う。そしてそれは成功した。今までにないスムーズさで。

Dは特別な存在として3人の子供のいる部屋へ入れられた。

そこにはAとBとCという子供がいた。

それがミズキの出会い。ミズキの始まりだ。

 

『アナタはなんて名前?私はね、シルヴィアっていうのよ。いい名前でしょ?』

『君は、Bじゃないの?』

『嫌よ、そんなダッサい名前。アナタも嫌じゃない?Bとか』

『クスクス、そうかもしれないね。でも、僕の名前もDっていうつまらない名前だよ』

『ここはひとつ、シルヴィアが命名したらどうにゃ?』

『そうだな。俺達の新しい仲間なのだから』

『それもそうね……。クスクスって笑うから……クスキ……クスキ・ミズキ!』

『なんで僕はミズキなの?』

『語呂がいいじゃない。なんとなくよ、なんとなく』

 

彼らは本来洗脳紛いの教育を受けて完全な戦闘マシーンとなるはずだった。

だがシルヴィアは違った。いつかこの狭い世界から出て旅をするのだと強く願った。

そしてそれはジョー、カレンという仲間を作り、さらにミズキも加えた。

 

『4人になったからチームっぽいわよね。私が隊長。ジョーが副隊長。カレンが戦闘員で……ミズキは下っ端?』

『納得いかないにゃ!私は副隊長やるにゃ!』

『悪いがここは譲れんな』

『僕の下っ端よりマシだと思うけどな……』

 

そして彼ら彼女らは教育を受けながらも洗脳されることはなかった。シルヴィアが教えたのだ。

世界には本当のことと嘘のことがある。それを見極めなければならない。大人が言ってることにも間違いはあるのだから、と。

ある日、ミズキは研究所内の道を歩いている時に台車で運ばれる山積みになった子供の死体を見た。

 

『重いんだよなあ、ったく』

『役に立たないくせに扱いにくいときた』

『本当に、生きてる意味なんかねえのにな』

 

そんな会話を聞いた。

それはミズキの経験する初めての感情だった。

内側から爆発するような、涙が出るような、何かにぶつけなきゃ気が済まないような。

 

『ここを出よう!みんなを助けよう!僕達にならそれができる!』

『だが、ここがどこかもわからんのだぞ』

『ここを占領すればいくらでもわかるよ!僕は、僕と同じくらいの子供達が捨てられるのが許せない!お願い、シルヴィア!』

『……ミズキ、アナタ……』

『…………!』

『……最高に面白そうなこと思いつくじゃない!』

『シルヴィア!』

『隊長がそう言うなら従うしかないにゃ。作戦を考えるしかにゃいね』

『………ふふっ、仕方ないな』

『うんっ!仕方ない!』

 

ミズキ達はガンダムの力を駆使して研究所を占拠した。

決して子供は逆らわないと思っていた大人のうろたえよう。そして子供達の救出。その過程でいくつもの死体を見た。手遅れの子も見た。目の前で死んだ子も見た。

大人は脱出ボートを使わせて宇宙に置き去りにした。

その研究所にあった戦艦をミズキ達は占領。そして宇宙を2分する戦いの中でも中立を保っていたC国に亡命した。

その最中に何度も攻撃されたがその度に追い返した。ミズキ達の力は圧倒的だった。

 

『ねえ、ミズキ。アナタって何でもできるわよね。つまんなさそうよ』

『うん。僕はたくさんの遺伝子を混ぜられたらしいから、いろんな才能があるんだよ』

 

ミズキは何でもできた。料理も洗濯も運動も勉強も戦いも。

シルヴィアはそれをつまらなさそうと言ったが、ミズキはそれでよかった。それがみんなの役に立っているのがつまらなくても嬉しかった。

そして戦艦は遂に中立のC国に辿り着くことが出来た。C国は手厚い支援をしてくれ、子供達も預かって必ず親を探すと言ってくれた。それに嘘偽りはなく、親に再会できた子供も数人いた。

その国でミズキの気持ちは膨らんでいく。

 

『……この戦争が終わらない限り、みんなみたいな子供はたくさん生まれる……』

『だったら、ミズキはどうしたいの?』

『にゃ、また面倒ごとかにゃ?ミズキはお人好しだにゃ』

『頬が緩んでいるぞ、カレン』

『当たり前にゃ。面倒だけど……嫌じゃないにゃ!』

『言わなくてもわかるさ、ミズキ。さあ、シルヴィア』

『よし、仕方ないわね!私……私、たち……』

『どうかしたか?シルヴィア』

『お腹でも痛いのにゃ?』

『な、なんてこと!私としたことがチーム名を考えるのをすっかり忘れていたわ!今から決めるわよ、すぐ決めるわよ!』

『チーム名、ね……。ヤンキースみたいなものか?』

『子供達で良くない?』

『子供たちぃ〜?にゃんでそんな名前なのにゃ?』

『子供を助ける、子供だけのチーム。だから、子供たち、とか』

『ふむ、子供たち、子供たち……ね……。採用よ!』

『ええ、いいのかにゃ?』

『ちょっと物足りないけど、私達のことをビシッと指してるわ!じゃあ、『子供たち』!作戦開始よ!』

 

 

 




シルヴィア、カレン、ジョーの登場。
ミズキが生まれて、戦争を止めて、そして次元が崩壊してしまうまでの話。
ミズキの希望に満ちていたころのお話です。長く説明口調が続くので、飛ばした方がいいかもです。次の話で多分、終わります、


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラスボス、揃い踏み

説明口調終わりっ。退屈になりがちなんで、パッパパッパとバトルしてイチャイチャさせましょ。


そしてたった4人のチームは子供を助けるために戦争を止めるべく戦った。

A国とB国が戦っている。なら、両方倒してしまえばいいじゃない、と。

4人はB国の戦艦を奪い取って宇宙へ飛び立って戦った。

その過程でミズキは何度も悩み苦しんだ。

何故殺さなければならないのだろう。

何故人は死ぬのだろう。

何故こんなに苦しいのだろう。

その度にミズキはみんなに励まされた。みんなに気付かせてもらった。

なんでも出来たミズキが唯一できなかったことが助けること。

どんなに手を伸ばしても命はまるで綺羅星のように消えていく。

ミズキは、それにも負けない強さを手に入れた。今はダメでも、次は。次がダメならその次こそはと。

 

『あら?ミズキ、戦争は終わったらしいわよ?』

『ホントに⁉︎』

『拍子抜けよね。3年も戦ってないのに』

『なら、次の楽しいことを探せばいいさ』

『そうね。さ、次の案はある⁉︎』

『少し休むにゃよ。私はC国に帰ってみんなの顔が見たいにゃ』

『カレンは相変わらずだな』

『うるさいにゃ、ジャック』

 

その中でジャックという新たな友達も生まれた。

だが、戦争は終わっていなかった。

突如、彼らの耳にA国の本拠地である月が占拠されたという情報がある。

黒幕はビフロンスという女。彼女は天才だった。

天才だからこそ、全てに絶望して、それでもまだ希望を抱こうとしてコールドスリープに入った。

だが彼女が目覚めた時、戦争は終わっていた。それが彼女を一層に絶望させる。

 

戦争が終わるということはまた戦争が起こるということじゃないか。何故人類は滅んでいないのか。私は私が絶望しないために、この世界を壊そう。

 

彼女は圧倒的だった。彼女の体にもミズキ達と同じ変身システムが埋め込まれていた上に、彼女の英知を結集したものが彼女自身に埋め込まれていた。

 

『次元破壊爆弾ですって⁉︎それも、あと1ヶ月で爆発⁉︎』

『シルヴィア、行こう!』

『当たり前よ!こんなに面白い世界を壊されてたまるもんですか!』

『さっさと帰って寝るにゃ』

『今までにない大仕事だな』

 

だが彼女は不老不死の体だった。細胞の1つすら残せば復活する化け物。

彼女の圧倒的な力の前に4人は押されていた。

 

『あははは!この爆弾を止める術はないの!諦めて寝てたら⁉︎』

『ふざけないでよね!無理なんて言葉は聞き飽きてるの!』

『じゃあ無駄!無茶!アナタ達のやってることはね、意味のないこと!』

『それでも私達がやりたいことなのよ!アンタに言われてやめられるほど、私はお嬢様じゃないの!』

 

4人は必死に戦った。

だがジョーの体の半分は消し飛んだ。カレンの両手はなくなった。シルヴィアの胸には剣が貫通していた。

だがミズキはボロボロの体でビフロンスを機能停止にまで追い込んだ。

それと同時に次元破壊爆弾はカウントダウンを始めてしまう。どのみち、ビフロンスを倒しても次元破壊爆弾は爆発する運命だったのだ。

 

『みんな、頑張って!大丈夫、きっと助かる!』

『……っ、はあ……ミズキ……。次元ゲートよ……』

『次元ゲート……⁉︎』

『傷の浅いアナタなら使える……。どこに繋がるかは、わからないけど……。そこを、開けば……』

『シルヴィア、お前らしくないな……』

『……わかってる、わよ……』

『さあ、ミズキ、開くにゃ。……時間がないにゃ……』

 

ミズキは次元ゲートを開いた。

その瞬間、ミズキは背中を押されて次元ゲートの中に押し込まれた。

 

『お前らしくないよ、シルヴィア……。ミズキだけ、助けるなんてな』

『うっさいわよ……。最期なんだから、カレンと抱き合ったりとかしてたらどうよ』

『それは後でもできるにゃ。今は……』

 

3人はそれぞれ体に刻んだ炎のマークを次元ゲートの向こうのミズキに見せる。

そして最高の笑顔でミズキを送った。

ミズキは涙でぐしゃぐしゃになった顔で右手の炎のマークを3人に見せた。

3人と同じ、笑顔で。

そしてミズキは次元ゲートをくぐり、どこの次元かもわからない次元に飛ばされた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「それが、あの時の……」

 

その直後にエンシェントドラゴンとの戦闘をしてネプテューヌを助けたのだ。

 

「人が潜れる次元ゲートはまだ未完成だった。どこに飛ぶかもわからない上に一方通行。さらに入り口の次元ゲートを制御するのに最低でも3人必要だった」

 

全員が俯く。

そんな過去、知らなかった。あるとも思わなかった。

 

「そしてあのアンチクリスタルはビフロンスの絶望が形になったものだった」

「え⁉︎」

「ミズキは最初にエンシェントドラゴンと戦った時からそれを感じていたのだ。奴の絶望などロクなものじゃない。現に奴の絶望は女神を殺す力を持っていた」

 

ミズキが1人で国を出た理由はミズキ自信がケリをつけたいという気持ちもあったのだが。

 

「……これで話は終いだ。後は、ミズキの中に入る者を決めるが……」

 

女神達が一歩前に出た。

下に向けていた目を前に向け、まっすぐに見据える。

 

「……決まりだな。これより、作戦を開始する」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

部屋にはミズキが変わらない笑顔で横たわっていた。

何も憂いていないような笑顔。

 

「……恐らく、お前達が入ればミズキの心の防衛システムが働く。それを打ち倒せ」

「打ち倒すのですか?」

「そうだ。人工的な手段で入ろうとした時に起こるノイズのようなものだ。打ち消して構わん」

 

4人の女神は変身した。

そして全員がミズキの手を握る。

 

「……頼んだぞ」

「任せて」

「任せなさい」

「任せろ」

「任せてくださいまし」

 

「……人工フル・サイコダイブ、開始」

 

4人の女神は糸が切れたようにバタンと倒れた。その手だけは離すことなく。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「………ここは……」

 

ベールは変身後の姿で目覚める。

そこは真っ暗な世界だった。遠くにいくつもの煌めきが見える。

 

「宇宙、なのでしょうか」

 

ふと後ろを振り向くと戦火が見える。巨大な戦艦や人型のロボットが戦っている。

 

「ククク……永遠の戦いから解放され眠りについた戦士を呼び覚まそうと言うのか……」

「誰ですの⁉︎」

 

後ろを振り向くとそこには灰色のどっしりとしたガンダムがいた。顔には仮面のようなフェイスガード、背中には太陽のような円板型の大型バックパックがある。

 

 

「この機体の名はプロヴィデンス……。無垢な戦士の無垢な眠りを脅かす女を退ける者さ」

「プロヴィデンス……」

 

左手の大型のビームライフルーーユーディキウムをプロヴィデンスはベールに向けた。

 

「帰れ、女!貴様の中に少しでもミズキへの情があるのなら!」

「悪いけど、そういうわけにもいきませんの」

 

ベールは槍を召喚して構えた。

 

「通させてもらいますわ」

 

 

 

 

 

ブランも似たような宇宙にいた。だが周りはとても静かでデブリが大量に浮かんでいる。

 

「なんだ、ここは……」

「貴様……何をしに来た」

 

上を見上げるとそこには赤茶けた悪魔のような形のガンダムがいた。

胸のクリアグリーンのコアが光り輝いている。

 

「テメエがノイズか。悪いが通させてもらうぞ」

「フン……この機体の名はエピオン。貴様は」

「私はブランだ」

「……もう言葉はいらん。貴様も戦士と言うならば、かかってこい!」

 

エピオンの右手のビームソードから緑色の刃が発振した。

ブランも斧を構える。

 

「どきやがれ!」

 

 

 

 

「宇宙……なの……?」

 

ノワールは真っ暗な中に星の煌めきが輝く世界にいた。

瞬間、ノワールは急上昇する。

その直後にノワールがいた場所を極太のビームが掠めて行った。

 

「っ、誰⁉︎」

「フン、避けたか。でも、そうでなくては拍子抜けだ」

 

視線の先には真っ赤な機体。胴体には特徴的なキャノン砲のようなものが4本ある。目はモノアイだ。

だが、その機体は変形を開始する。

振り向いて関節をひっくり返し、顔を展開したその姿はガンダムだった。

 

「ガンダム……⁉︎」

「リボーンズガンダム、行く」

 

 

 

 

 

「ここが……ミズキの心の中なの……?」

 

ネプテューヌはキョロキョロと周りを見渡す。

周りにはロボットの残骸が大量に転がっている。それは無残でネプテューヌは胸が締め付けられる。ミズキはこんな世界で生きてきたのだろうか。

 

するとネプテューヌはデブリ帯の方向で煌めく物を見た。それはバレルロールをしながらこちらに近付いてくる。

 

「っ、敵……⁉︎」

 

敵は手に持った銃をこちらに向けた。ネプテューヌはそれに見覚えがあった。

ミズキがあの時持っていた……!

 

「ビームマグナム……⁉︎ヤバい!」

 

ネプテューヌは急上昇してそのビームを避ける。飛んでいったビームが機体の残骸を蹴散らしていく。

 

「帰れ……!何をしに来た!」

「っ、あいつがノイズ……⁉︎」

「ここから、いなくなれぇぇぇっ!」

 

黒と黄色の機体がビームマグナムを持っている右腕からビームサーベルを引き抜いた。

 

「バンシィ!奴を引き裂けぇッ!」

 




プロヴィデンス、エピオン、リボーンズ、バンシィ・ノルンの登場。
原作のような言葉遣いを目指しますが、あくまでミズキの心の中の彼らなのでミズキには甘いです。やたらと。
こん中ではプロヴィデンスが1番ヤバいと思いましたね。なんですかあの弾幕。その中を掻い潜るキラもキラですけど。

ノワールやネプギアがアンチクリスタルに触れた時に聞いた声はビフロンスの声だったわけです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロヴィデンスー天帝ー

対プロヴィデンス戦。意味は天帝とか神意とか摂理って意味らしいです。カッコよすぎィ!

今度はジャックの挿絵も書きました。ジャックは裸に腰巻が普段着れす。第2話、戦闘にも貼っています。


【挿絵表示】



プロヴィデンスは核エンジン搭載型の高性能機だ。核エンジンより得られるほぼ無尽蔵の電力により、PS装甲は常に展開されビームも弾切れすることはない。

 

「落とす……!」

 

そのユーディキウム・ビームライフルから緑色のビームがベールに向かって飛んでいく。

だがその大型のライフルはベールの素早い動きを捉えられなかった。

ビームが届く頃にはベールは既に移動している。

 

「悪いですけど、ここでモタモタしている暇はありませんっ、のっ!」

 

接近したベールが槍を突き出すがプロヴィデンスの複合兵装防盾システムから突き出したビームサーベルがそれを弾く。

 

「何故起こす……!長き戦いからようやく休めるというのに!」

「くっ!」

 

振り戻したビームサーベルを後退して避ける。

 

「ただ助けると、ただそのためだけに戦い続け、苦しみ、悩み、足掻く!その姿のなんと哀れなことか!」

「アナタは、何を!」

 

接近したプロヴィデンスのビームサーベルを槍で弾く。そしてプロヴィデンスを蹴飛ばした。

 

「だが、ただ真摯に!無垢に!その心を貫く姿のなんと美しいことか!」

 

下がりながらユーディキウムの引き金が引かれる。ベールは間合いを取りながらそれを避けて行った。

 

「お前が!またその戦いの中にミズキを連れ戻そうというのなら!」

「っ⁉︎」

 

プロヴィデンスの背中の円板状のバックパックから多数の円錐状の物が分離した。

その名はドラグーン。量子通信により無線で動くビーム砲だ。

プロヴィデンスに装備されているのはビーム方が2門装備された小型のタイプが8基、ビーム砲が9門装備された大型のものが3基、合計11基に、砲門の数は43門。

それはピュンピュンと素早い動きでベールに襲いかかる。

 

「くっ、はっ、っ!」

 

ベールもドラグーンから発射されるビームを懸命に避けながらその間合いから離れようと後退する。

 

「所詮、貴様は!」

「くっ!」

 

だが接近したプロヴィデンスが息つく暇を与えない。

ビームサーベルを槍の柄の部分で受けた。

 

「半端な覚悟でミズキに責を負わせる!奴の荷物を増やす!それを見ていた気分はどうだ⁉︎荷物にも気付かず気楽に過ごしていた時間は楽しかったか⁉︎」

「っ、そんな……!」

 

ドラグーンが鍔迫り合っているベールに追いついた。

ベールは瞬時に間合いを取ってドラグーンの間合いから離れようとする。

 

「“助ける”ことの重さも知らずに!知らないから笑い、楽しみ、喜ぶ!貴様がミズキの何を知る⁉︎」

「くっ、うっ……!」

 

ドラグーンがプロヴィデンスの周りに集まり、44門の銃口が一斉にベールに狙いを定める。

ベールはできるだけ躱すが、いくつかは防御魔法で受けざるを得ない。

 

「ミズキ様は……!いつも笑っていました!アナタこそ、ミズキ様の何を知っているというのですか⁉︎」

「全てだ!奴は知ってこそ、笑う!楽しむ、喜ぶ!知っているからこそ、失敗すれば啜り泣く!成功すれば微笑む!だが、その日々に安らぎはない……!また、次の者が助けてと叫ぶ!」

「っ、ああっ!」

 

ついにベールの防御魔法が破られる。

ベールは一か八か、プロヴィデンスに接近した。

 

「お前もその1人だろう?お前もミズキの心をすり減らした者の1人だ!その咎人が、何故ここに来るッ!」

「レイニー……!」

 

弾幕を避けながらベールはプロヴィデンスに接近する。

槍を構えて接近した瞬間、全てのドラグーンが一斉に火を噴いた!

 

「ああっ⁉︎」

 

まるで網のようなビームがベールを射止める。

左肩に被弾して勢いが止まったベールの隙を見逃しはしない。

瞬時にドラグーンはベールを囲んでいた。

 

「しまった⁉︎」

「堕ちていけ、女神!」

「っ、あっ!うっ、あああっ!」

 

懸命に避けるがビームの雨から逃れることはできない。ベールの全身をビームが打つ。

 

「綺麗事を並べて御託を言いに来たのなら!今ここで、死んで行け!」

 

ボロボロになって体中から黒煙を上げるベールにビームサーベルを発振しながら接近する。

 

「っ、うあっ!」

「フハハハ、フハハハハハハ!」

 

ベールの胴がビームサーベルで切られ、ベールは吹き飛ぶ。そしてデブリにその体を埋めた。

 

「まだ終わらん!何人たりともこの眠りを邪魔させはせぬ!」

 

デブリに埋まっているベールにドラグーンがビームを浴びせていく。ベールは声も上げない。そのうちにデブリは繰り返されるビームに粉々に砕けた。

 

「フハハハ!ハハハハハ!」

 

ベールはその笑い声をひたすらに聞いていた。

彼の言葉の意味も考えた。

ミズキのことを考えればこそ、ミズキを助けない方がいい?

 

「そんな……こと……ない……ですわ」

 

ミズキは、ミズキはあの時に言ってくれたのだ。助けてと言ってくれたんだ。

それを私が信じなくて、誰が信じる……!

 

あら、手酷くやられたわね。

 

「な……に………?」

 

ま、ミズキの心を突破するなんて私でも無理よ。ここはひとつ、手を組まない?私も寝たきりのミズキは嫌なのよ。

 

「……残念ですけど……遠慮させてもらいますわ」

 

ベールはもう1度槍を握り締める。

そして高笑いをしているプロヴィデンスをキッと見つめた。

 

「散々、助けてもらったのですわ、私達は……。今回くらいは……自分の力で、やらなければ、面目がありませんの……」

 

プロセッサユニットがベールの体を支える。

 

「まだ、ですわ……!覚悟、してもらいますわ!」

「フン!ならば叩き潰すまでだ!」

 

再びベールは槍を持って接近するが動きに冴えがない。

すぐにドラグーンの弾幕に捕まって集中砲火を食らってしまう。

 

「ううっ、あう!」

「気付け!その想いは間違いであるということに!」

「うああああっ!」

 

ビームの雨がベールの体を焦がしていく。

 

「何故起こそうとする⁉︎結局貴様は自分のことしか考えていない!お前のため、君のためと言いながら自分のためだ!それに気付きながら認めようともしない!逃げ、知らず、聞かず!そして自分をも誤魔化す!」

「っ、私は……っ!」

 

ベールは槍を回転させて正面からのビームを弾く。

そのままデブリ帯に入ってドラグーンの集中砲火を防ぐ。

 

「何が違う、何処が違う!答えて見せろ、見せてみろ!貴様はミズキの新たな未来たり得るのか⁉︎」

 

デブリ帯から飛び出したベールはプロヴィデンスに回り込みながら接近、だがプロヴィデンスは盾でその槍を防ぐ。

 

「私は、私のためにミズキ様を起こすのですわ!」

「それでミズキを崩すつもりか!辛うじて形を保っているだけの脆い男を!」

「崩しはしません!」

「何故そう言い切れる⁉︎」

「私が、支えます!」

「貴様に出来るわけが!」

「やるしか、ないのですわ!」

 

ベールがプロヴィデンスを蹴飛ばす。そして間合いを詰めて槍で薙ぎはらう。それをプロヴィデンスはビームサーベルで払って受けた。

 

「私が、ミズキ様に会いたいのですわ!会った結果ミズキ様が崩れてしまうと言うならば……支えるしかないのですわ!」

「まだ並べるか!耳に心地よい言葉はまるで毒だ!人の心を溶かし、変えていく!」

「御託でも綺麗事でもありません!人は、1人では崩れてしまうから集まるのですわ!」

「その集まった仲間は死んだ!あの次元に残されて!貴様に彼ら彼女らの代わりができるか⁉︎」

「代わりなんて、最初っからなる気はありませんわ!」

 

ベールの周りにドラグーンが接近する。それを避けながらベールは大きく後退し、回り込みながら再びプロヴィデンスに接近しようとする。

 

「1人では崩れてしまうから!私が、今度こそは友達になるのですわ!彼が崩れてしまいそうな時に、寄り添い、助ける!」

「また助けると!その重みをわかれと、言ったはずだぁっ!」

「うあっ!」

 

ドラグーンから放たれたビームがベールの右手に当たる。その衝撃でベールは槍を手放してしまった。

 

「貴様が言っていることは欺瞞だ!ただ共に沈みゆくことを良しとするか!そんなもの、刹那の快楽を与える毒だ!」

「うあああっ!」

 

ドラグーンがまたベールの体にビームの雨を降らす。

 

「その想いを貫く強さもない者がぁッ!」

「あうっ!」

 

プロヴィデンスがビームサーベルでベールを叩き落とす。

 

「くっ、はっ……っ!」

 

アナタ、なかなか良いこと言うじゃない。力、貸してあげるわよ。

 

「いらないと、申しております……!」

 

そう言わないの。私があげたいんだから、私がやるの。

 

「ですが……!」

 

アナタがしたいことは、そういうことでしょ?

 

「……っ、好きにすれば良いですわ!」

 

良い子ね。それじゃ、頑張って。

 

ベールは左肩に熱を感じる。そこには炎のマークが刻まれていた。ミズキのマークと同じもの。『子供達』の、仲間の証。

 

「まだ立つか!まだ聞かぬか!まだ逃げるか!」

「逃げなんて、しませんわ……!」

 

ベールはその左肩に右手を重ねる。

 

「私はこの想いを貫くことから、逃げはしませんわ!誰に何を言われようと、この想いを貫きます!」

「非力な者が、生意気に!」

「私はもう、非力ではありません!」

 

女神候補生のように、その力を、その身に!

 

変身(change)、NEXT!」

 

 

ーーーー『Realize』

 

 

「ぬうっ!」

 

ベールのプロセッサユニットが形を変えていく。青く輝くその翼は自由の翼。

その右腕には盾が装備され、ベールの新たな槍がその手に握られる。

 

「フリーダムの力!味わってもらいますわ!」

「貴様がその力を扱ったとて!」

 

ベールの中で何かが弾ける。ベールの瞳はハイライトを失った。ベールはSEEDすら発現して見せたのだ。

 

「覚悟なさい!」

 

ベールが大きく飛翔する。それを追いかけるドラグーンに反転しながら翼の中に収納されたバラエーナプラズマ収束ビーム砲を2門同時に発射する。そのビームに巻き込まれて小型ドラグーンが1基爆発する。

 

「不完全なその力で!」

「不完全でも!」

「ミズキを救うなどと!」

「私は、それしか知らないのですわ!」

 

ベールの手にさらにもう1つ槍が握られる。その柄同士を連結させてベールの手に長大な槍が握られた。さらにその槍の刃の部分からビームが突き出てさらにリーチを伸ばす。

アンビデクストラスハルバードだ!

 

「はああっ!」

 

ベールが突進しながら槍を振り回してドラグーンを2基落とす。

そのままプロヴィデンスに近付いて槍を振るった。

 

「くううっ!」

 

プロヴィデンスは後退して避けるがビームの刃がユーディキウムに当たって爆散する。

 

「やめろ、やめろ!ミズキを、苦しめるなぁッ!」

 

プロヴィデンスの周りに集結したドラグーンが一斉にビームを撃つ。

だがベールは槍を回転させてそれを防ぎながら突進する。

 

「私が、私が……っ!」

 

ベールはその槍を右手に持ち、大きく振りかぶって投合した。

ドラグーンがビームを数発浴びせるが槍は壊れない。

その槍は吸い込まれるようにプロヴィデンスの胴体に当たった。

 

「ぐっ、ううっ!」

「ミズキ様を、支えるのですわ……!」

 




ベールにはSEED系の力が。シルヴィアが力を貸してくれました。
変身はまだまだ不完全で発現してるのは翼のユニットと盾くらい。

クルーゼはごちゃごちゃ喋るので大変ですね。おかげで量が多くなりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピオンーゼロの悪魔ー

ガンダムWよりエピオンの登場。色も相まって悪魔みたいなガンダムです。マシンキャノンは搭載されていません(白目


ブランが斧を構えて突進する。

エピオンもビームソードで真っ向から受けてたった。

 

「うらぁッ!」

「フンッ!」

 

ブランの両手での重い一撃をエピオンは片手で受け止めていた。

ブランはそのまま前進してエピオンをデブリにぶつけようとする。

だがエピオンはぶつかる寸前にデブリを蹴飛ばして上に逃げた。

 

「チッ!」

「ぬあッ!」

 

エピオンが左手のヒートロッドを伸ばしてブランの斧に巻きつける。

 

「このッ!」

 

ブランは武器を取られまいと自分の方へ武器を引っ張った。だがエピオンはその勢いを利用してブランに近付いてきた。

 

「それッ!」

「ぐっ!」

 

ブランは斧を横にして縦に振り下ろされるビームソードを防ぐ。

だがエピオンはすぐにブランを蹴飛ばす。

蹴飛ばされたブランをエピオンは斧に巻きつけたヒートロッドで引っ張る。

武器は取られなかったものの、そのままブランはデブリに叩きつけられた。

 

「ぐあっ!」

「その程度か⁉︎」

「ざっ、けんなッ!」

 

ぶつけられた衝撃でヒートロッドが外れた斧を持ってエピオンに突っ込む。

 

「馬鹿の一つ覚えでは!」

「チッ!」

 

ヒートロッドを横薙ぎに振ってくる。

ブランはスピードを落としてその場に留まって鞭を避ける。

 

「割れやがれッ!」

 

だがブランは直後に上に浮き上がりながら前に飛び、渾身の力で斧を叩き落とす。

エピオンは両手でビームソードを持ってそれを受け止めた。

 

「邪魔なんだよ……ッ!私はこんなとこでモタモタしてらんねえんだ!」

「私を倒せずしてミズキを救えるなどと思うな!」

「じゃあテメエを倒せばなんの問題もねえよなぁっ⁉︎」

「この世界では心の強さが力になる……!超えてみろ、私をッ!」

「上等だっ!」

 

ブランはもう1度斧を叩きつける。

エピオンはそれも受け止めて払い退のける。

 

「まだだァッ!」

 

払いのけられた勢いも利用して回転し、斧を横に振り回す。

エピオンは盾で受けたが遠心力も利用したその攻撃に吹き飛んでいく。

 

「くたばりやがれッ!」

「フンッ!」

 

間合いを詰めて振るう斧に真っ向からビームソードをぶつける。

だがブランの斧は弾き飛ばされてしまった。

 

(パワー負けした⁉︎私が⁉︎)

「言ったはずだ!心の強さが力になると!」

「ぐぅっ!」

 

エピオンのタックルに吹き飛ばされる。

体勢を整えて前を見た時、エピオンがビームソードを構えて目の前にいた。

 

「風穴を開けさせてもらう!」

「くっ!」

 

エピオンのビームソードによるレイピアのような突きを斧でいなして避ける。

 

「どうしたどうした⁉︎動きが止まって見えるぞッ!」

「ナメんなっ!」

 

ブランがエピオンの頭に頭突きを喰らわす。

 

「痛っ、てえなッ!」

「ぬんっ!その意気は良し!」

 

怯んだエピオンを蹴飛ばす。

 

「ごちゃごちゃと!」

「はああっ!」

 

斧を振り下ろすが盾で受けられる。

 

「やるな!ならば私も、全力で応えるまで!」

「テメエが全力を出そうが出さまいが関係ねえッ!どの道叩き潰すんだからな!」

「そのセリフ、いつまで言えるかな⁉︎」

 

ブランの空いた胴体にビームソードが横薙ぎに振るわれる。

ブランは体を浮かしてそれを避けるが、その隙にエピオンに間合いを取られてヒートロッドで吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ、この程度!」

「エピオン……私に応えてみせろ!」

 

エピオンの胸の緑色のコアが光り輝く。

 

「なんだ、何をしてやがる⁉︎」

「ゼロシステム、発動!」

 

エピオンがビームソードを構えてこちらに向かってくる。

それに合わせて横薙ぎに斧を振るったブランだったが、

 

(避けた⁉︎)

 

エピオンは体を沈めてそれを避ける。

ガラ空きの胴体めがけてエピオンがX字に斬撃を食らわす。

 

「くうっ!」

「まだまだまだ!」

 

後退するブランにエピオンが接近しつつ、ヒートロッドを伸ばしてくる。

それがブランの右腕に巻きついて腕を焼く。

だがブランは左手に斧を持ちかえて逆にエピオンに向かっていった。

 

「何をしたのか知らねえがッ!」

「ぬん!」

 

ブランの左手の斧をエピオンが右手のビームソードで受け止める。

そして残った手でお互い組み合う。

 

「オラッ!」

 

ブランが死角である足元から膝蹴りを繰り出そうとする、がエピオンは下半身をふわりと浮かせてそれを避けた。

 

「んなっ!」

「見えているぞッ!」

 

戻る勢いで今度は逆にブランが膝蹴りを食らう。

吹き飛んだブランをヒートロッドで引き戻してさらにビームソードで切りつけた。

 

「ぐああっ!」

「動きが鈍いぞッ!」

(あいつ……!)

 

間違いなく必中の膝蹴りだったはずだ。

しかも私の目が狂ってなければ、あいつは私が膝蹴りをする前から動いていた。まるで、そこに来ることがわかっているかのように。

 

「離しやがれっ!」

 

腕のヒートロッドを斧で切断する。

 

(私の勘が正しければ……!)

 

もう1度斧を持って接近する。

横薙ぎに斧を振るが避けられ、さらに踏み込んで縦に振るうがそれもいなされる。

 

「テメエ、やっぱり!」

 

私が斧を振るう前から動いている。そして避ける動きに迷いがない。

 

「未来を、見通すガンダム……!」

「気付いたか!だが気付いたところでどうにかなるわけでもあるまい!」

 

エピオンが使っているのはゼロシステム(エピオンシステム)。

分析・予測した状況の推移に応じた対処法の選択や結末を搭乗者の脳に直接伝達するシステムだ。

そのシステムがあれば、事前に取るべき行動をパイロットに見せることができる。その正確さは搭乗者に未来すら見せるほどである。

 

「だからって、諦められるか!」

「諦めてもらうために私がいるのだ!」

 

踏み込んだブランへのカウンター突きが決まる。腹をもろに突かれたブランは後ろに飛んでいく。

 

「ぐっ、ううっ!」

「必要ないのだ!ミズキにとって、お前達はァーーッ!」

 

それを追いかけ接近するエピオン。ブランは避けようとするがそれすらも見破られてタイミングをずらした突きを食らってしまう。

 

「うあっ!」

「ここで眠っていろッ!」

 

ヒートロッドで打ち上げられる。エピオンは変形してクローでブランの両腕を掴んだ。

 

「くっ、ぐっ!」

「これで、終わりだぁーーっ!」

 

錐揉みしながら急上昇して急下降。

そのまま飯綱落としでブランはデブリに叩きつけられた!

 

「うあああっ!」

 

デブリに叩きつけられ弾んだブラン。変形を解いたエピオンがビームソードを最大出力に引き上げると、緑色の刃が大きく伸びた。

 

「終わりだッ!」

「……がっ………!」

 

ブランの後ろのデブリごと切り裂く斬撃。

ブランはそこにフラフラと漂うだけになっていた。

 

「この眠り、妨げさせはせん!」

 

「く………は……!」

 

にゃはー、痛そうだにゃー。

 

「んだ、テメエは……!」

 

お、怒るにゃ怒るにゃ。力を貸したげるにゃよ。私も寝たきりのミズキは嫌にゃ。

 

「っ、る、せえ……!黙ってろよ……!」

 

ブランがデブリを掴みながら立ち上がる。

 

ミズキを癒せるって言うにゃら、力を貸したげるにゃよ?

 

「はっ、癒す……?」

 

ブランは鼻で笑って近くを漂っている斧を掴み直す。

 

「生憎私はこういう性格だからな……!癒すなんて、冗談でもねえ。ただ、ただよ。アイツと本を読んでた時間は本当に癒されたんだ……!」

 

周りを漂うデブリを斧でかっ飛ばしてエピオンに飛ばす。

 

「むっ!」

 

エピオンはそのデブリをビームソードで切り裂くがその残骸で出来た死角からブランが接近していた。

 

「うあらッ!」

「ぬっ!」

 

ビームソードで受けるが吹き飛ばされた。

今度はエピオンがデブリにぶつかる。

 

「うおらあああッ!」

「くっ!」

 

間髪入れずに斧で一閃。

エピオンは横に回って避けるがブランはすかさず2つに割れたデブリの片方を斧で吹き飛ばす。

 

「ぬんッ、やるな!」

 

ヒートロッドで払いのけた。だが先程と同じように目の前にはブランが迫っている!

 

「くたばりやがれェェッ!テンツェリン・トロンベェッ!」

「2度同じでは食わん!」

「うぐっ!」

 

斧を振るうより先にエピオンの右手のパンチがブランの腹に減り込む。

 

「まだ抵抗するか!」

「くっ!」

 

ヒートロッドで叩きつけられ、ブランが怯む。

 

「ここで決着をつける!もう2度と、誰もここに現れんようにな!」

「そりゃそうだ!私がテメエを倒すからな!」

「減らず口をッ!」

 

エピオンの斜め下への跳び蹴りでブランが吹き飛ぶ。

 

にゃ、キミじゃあアレには勝てにゃいよ。おとなしく、力を貸してって言えば貸してやらんこともないにゃ。

 

「黙ってろ、テメエはッ!」

 

エピオンのビームソードを斧で受け止める。だがすぐに回し蹴りを腹に食らった。

 

「終わらさせてもらう!」

「クソ、がっ!」

 

ほらほら、終わるらしいにゃよ。キミにはミズキを癒すことはできないのにゃ?

 

「出来るわけがねえッ!私は迷惑かけてばかりで……!これからもずっと!」

 

斧を力任せに振るって受けたエピオンを吹き飛ばす。

 

「私はッ!ただいつまでも、あそこで本を読んでいたいだけだァッ!」

「世迷言をッ!」

 

突っ込んだブランが横薙ぎのヒートロッドを受けて吹き飛ばされる。

 

「私の敵は貴様だッ!ミズキの眠りを妨げる貴様をッ!」

「ぐあっ!」

 

エピオンのビームソードがブランの体に当たる。だがエピオンはそれでは終わらず、さらに何度も斬撃を与えた。

 

「そらそらそらそらそらそらそらそらそらッ!」

「うああああああああっ!」

 

ブランの体が吹き飛ばされる。エピオンはすかさずそれを追った。

 

「最大出力!これで、帰ってもらうぞ!」

 

大きく上段にビームソードを構えたエピオンが急接近してくる。だがブランは動くことができない。

 

しょーがないにゃー、もう嫌だと言っても無理矢理押し付けるにゃ。せいぜい頑張ってにゃ。

 

 

ーーーー『Rhythm Emotion』

 

 

「ぬああああッ!」

「っ!」

 

ブランの体にビームソードがめり込んでいく。

エピオンがビームソードを振り下ろし切った時、ブランは左胸に熱さを感じていた。

ボロボロになって漂っていたブランはその胸の熱さに惹かれるように左手を胸に添える。

 

「私は、本を、約束を……!」

 

そうだ、それがミズキの癒しにもなっていたんだ。何も難しいことなんて、この世界にはない……!

 

「守るって、決めたからなァ……!本も、約束も、ミズキも……!」

「まだ来るか!」

「何度でも、行くぜ……!変身(change)、NEXT!」

 

ブランの体が光に包まれた。

特徴的な形のウイングスラスターが2基、背中に装着される。胸にはクリアグリーンの結晶。その手に握られた斧がより細身に、だが重みを増す。その刃の部分には緑色のビームが薄く展開された。

 

「くっ、ぐっ……!」

 

だがブランは頭を押さえて苦しみだす。

 

「当然だ。貴様にそのシステム、扱えるかな⁉︎」

 

ブランの頭の中には無数の声が響いていた。

 

『突撃だ。自分の身のことは考えるな』

『ただ斧を振るえ。痛みは感じないようにする』

『刺し違えろ。それが確実だ』

 

「く……ぐ……!どいつもこいつも、耳障りだ……!」

 

ブランは斧をデブリに思いっきり打ち付けた。

 

「少し黙って、言う事聞いてろッ!」

「フンッ!そのシステム、抑え込むか!」

「言うこと聞かねえ奴らは、妹だけで十分なんだよ!」

 

完全無欠に見えるゼロシステムにも欠点がある。それはシステムが勝利をひたすらに求めるために、搭乗者の意思や倫理に反する行動も平然と選択させることだ。故に、このシステムを使いこなすには望ましい命令とそうでない命令を取捨選択し押さえ込むだけの精神力が必要なのだ。

だが今ブランはゼロシステムを押さえ込んだ。

ブランの目には、数秒先の未来が見えている!

 

「さっきまでの私だと思うなよ……ッ!こっから先が本番だ!」

「どの道貴様を沈めることに変わりはない!ゼロシステムの力、最大限に引き出すッ!」

 

ブランのウイングスラスターが展開されて圧倒的な推力でエピオンへと向かう。

 

「オラァッ!」

「そらッ!」

 

エピオンとブランが鍔迫り合う。だがブランの斧の峰の部分からバーニアがふかされた。

 

「なにッ!」

 

そのままエピオンのビームソードを押し切る。エピオンの肩の装甲が溶けて亀裂が走る。

 

「くっ、まだまだ!」

「おあああッ!」

 

2人が離れて打ち合い、また離れる。それを何度も繰り返して登っていく軌道は螺旋を描いていく。

 

「ゼロ、奴の反応速度を超えろ!」

「いくら、テメエの方がゼロを使いこなせていてもッ!」

 

ブランの一撃がエピオンを吹き飛ばした。

 

「心の強さが!ここでの力だってんなら!」

 

背中のウイングスラスターと斧のスラスターが前にだけ進むべく唸りを上げる。

 

「テン、ツェリンッ!」

「くううっ!」

「ゲヴィッタァァーーーッ!」

「ぐっ⁉︎」

 

ブランは一瞬のうちにエピオンの後ろに移動していた。

ブランが移動してからエピオンの胴が2つに分かれていく。

 

「叩き割ってやったぜ……。テメエの心ごと!」




テンツェリンっていうのは踊り子という意味らしくトロンベというのは竜巻の意味らしいです。ドイツ語で。
竜巻の…上位互換…大嵐?全部手札に戻しちゃう?ということで大嵐で検索かけたらゲヴィッターというらしく。それっぽい名前だったので使わせてもらいました。
ミリアルドのセリフはやりにくくて。こんな感じでしょうかね。

今回はカレンの力です。セリフからしておちゃらけてますがゼロシステムを扱えるほどの精神力の持ち主。

ブランはまだツインバスターライフルと盾、それに変形機能がありませんね。変形…どうしようか…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リボーンズー再世ー

日に日に長くなっていくぅ。この連続試合も次で最後です。


ノワールは目の前で高みから見下ろすようにしているガンダムを睨む。

そのガンダムは右手にGNバスターライフル、左手にはGNシールドを持っていた。背中にはGNビームサーベルがある。リボーンズはそれを左手で引き抜いた。

 

「さて、何をしに来たなどと聞く気はないよ」

「……っ」

「帰ってもらう。君はミズキにとって不必要な存在なのだから」

「あら、帰れと言われて帰ると思うのかしら?」

「帰らせるために僕がいる」

 

無造作にリボーンズが右手のGNバスターライフルをノワールに向けた。

 

「消し飛んでもらう」

「っ!」

 

GNバスターライフルから照射ビームが撃ち出された。

ノワールは飛び上がってそれを避ける。

 

「さあ、罪深き女神よ。堕天の時だ」

 

リボーンズが背中から赤い粒子を撒き散らしながらノワールに接近する。

ノワールは円陣を蹴って真っ向からぶつかり合う。

 

「なかなかの力だ。だが、僕には遠く及ばない」

「アンタ、さっきからムカつくのよ!」

 

GNビームサーベルとノワールの大剣が散らす火花が激しくなる。

 

「ファング」

 

リボーンズの腰の後ろアーマーから小型のGNファングが4基射出される。GNファングはビーム砲を内蔵しビームサーベルも展開可能な遠隔操作兵器だ。

それは瞬時にノワールの周りに展開した。

 

「なに⁉︎」

「君も大したことはないね」

 

ファングがそれぞれビームサーベルを展開してノワールに切りつけていく。

 

「ああっ、うっ、あっ!」

「下がれ」

 

怯んだノワールの腹に冷たい銃口が押し付けられる。そのまま引き金が引かれ、強力なビームがノワールの腹に浴びせられた。

ノワールはそのビームに押されて吹っ飛び、デブリにぶつかってやっと止まった。

カシャカシャとファングがリボーンズの元へと戻っていく。

 

「拍子抜けだね。もう終わりかい?」

「そんな、わけ……!ないでしょ……!」

 

ノワールがデブリから体を起こす。ペッと口から血を吐き出した。

 

「アナタも……案外大したことないわよ。全然効いてない」

「言うね。偽りの神が……!」

 

ノワールに向けてリボーンズがGNバスターライフルを撃つ。ノワールは飛翔してそれを避けてもう1度接近する。

 

「君の間合いには入らせないよ。ファング!」

 

腰の後ろアーマー4基、そして盾から4基の小型GNファングが飛び出す。

ノワールに向けてビームサーベルを展開して迫るそれをノワールはひらりひらりと避ける。

 

「やあっ!」

「フン、やるじゃないか」

 

ノワールが接近する勢いを緩めることなくすれ違い様に1基のファングを切り落とした。

ノワールはそのままリボーンズに大剣を振り下ろす。

 

「……っ、あら?その程度かしら?」

「……僕を怒らせたいようだね」

 

ノワールの後ろからファングが迫ってきた。ノワールは後退してファングを避ける。

 

「あまり僕を怒らせない方がいい。苦しんで死ぬことになる」

 

変形してリボーンズキャノンになり腹のGNキャノンからビームを連射する。

ノワールはそのビームとファングを避けながら接近しようとするが左手のGNバスターライフルのビームが足に引っかかる。

 

「うあっ!」

「今だ、ファング!」

 

その隙をついてファングがノワールに迫る。ノワールは懸命にそれを避けるが脇腹にファングが刺さる。

 

「きゃああっ!」

「その隙は逃さない!」

 

怯んだノワールに向けて極太のビームが発射される。

ノワールはすんでのところで避けるがファングが休む暇を与えない。

 

「くっ、ううっ!」

「さっきまでの威勢はどうしたんだい?」

 

リボーンズに変形し直してGNバスターライフルを照射し、小型GNファングはリボーンズへと戻っていく。

ノワールはそれも避けて再びリボーンズに接近する。

 

「やああっ!」

「ぬんっ!」

 

再びスパークが剣の間で飛び散る。

 

「この空間では心の強さが力になる……。君は余程ミズキに依存しているようだね」

「依存なんて、してないわよっ!」

 

ノワールが大剣を振り切ってリボーンズを退ける。間合いを詰めて1度、2度剣がぶつかり合う。

 

「ほう。ではミズキは君にとってのなんだ?」

「っ、好きなのよ!ミズキがっ!」

 

リボーンズを蹴飛ばして大剣を振り回すがリボーンズは後退して避ける。そして盾から4基のファングが再び射出された。

 

「好き、か。到底僕には理解し難い感情だね」

「つまんない男ねッ!」

 

ビームを撃って牽制してくるファングを避けながらまたファングの1基が切り落とされた。

 

「意味としては知っているさ。全てを美化して全てを歪める哀れな気持ちだ。そんなもの、僕には不必要な感情なんだよ」

「好きは、好きはそんなんじゃないわよ!」

 

ノワールはファングに牽制されてリボーンズにうまく近寄れない。

リボーンズキャノンに変形してビームを連射してノワールをさらに遠ざける。

 

「ミズキにもそんな感情は存在していないよ」

「そんなわけ、ないでしょ!」

 

ノワールはビームの嵐を高速で回り込みながら避けていく。

 

「だが彼の中には愛がある。全人類を包み込もうとする愛が」

「神じゃ、あるまいし!」

「そうだ。ミズキは人の身でありながらそんな感情を抱いている。無論、神でもないミズキにそんなことが出来るわけがない」

 

新たにファングが腰裏から3基射出された。

ノワールを襲うビームの数が多くなっていく。

 

「知っているかい?ミズキは神を恨んでいる。それは女神である君達も例外ではない」

「なにを!」

「ミズキの生い立ちは知っているだろう?手を伸ばしても届かない光。叫んでも届かない声。ミズキは神ではなかった。だから祈ったのだよ。神様、どうか僕に力をくださいとね」

 

リボーンズキャノンは変形してリボーンズガンダムになる。

そして背中の大型フィンが射出された。

その正体は大型のGNフィンファング。4本のフィンファングが折れ曲りながらノワールへと向かっていく。

 

「ミズキの世界には神はいなかった。だからミズキの祈りも叶えられることもなかった。だが、考えてもみたらどうだい?やってきた世界には女神などという存在がいる……」

「っ、くっ!」

 

フィンファングがビームを照射して網のようにノワールの動きを阻害する。その背中に小型GNファングから放たれたビームが当たった。

 

「しかも女神などという名を冠しておきながら女神は非力だった。あまりにも。人であるミズキに敗北するほどね」

 

体勢を崩したノワールにファングが集中砲火をかける。ノワールの体から煙が吹き上がった。

 

「うあっ、あっ、きゃあああっ!」

「ミズキは君達に言いたかったはずだ。何故そんなにも無力なのかと。神だというのなら僕の願いを叶えて欲しいと。もう1度やり直したい、とね」

 

リボーンズがGNバスターライフルをノワールに向かって照射する。

ノワールは防御魔法を展開するが吹き飛ばされた。

 

「くっ、ぐっ!」

「わかるかい?本当はミズキは君達にうんざりしていたんだよ。だから君もそんな感情は捨てたまえ。どうせ叶うことのない想いだ」

「そんな簡単に捨てられたら!苦労してないのよ!」

「君も頑固だね。無駄だと言っているのに」

 

ファングがリボーンズの体へと戻っていく。リボーンズはファングを収納しながらリボーンズキャノンへと変形した。

 

「私は、ミズキのことが……!」

「ミズキのためを思うのならここから立ち去れ。君はミズキを再び戦いに引き戻す気かい?」

「そんなことは!」

「まだわからないのか!」

 

GNキャノンのビームが放たれた。ノワールはそれを螺旋を描くように避けながらリボーンズキャノンに迫る。

 

「君がそんな感情でミズキを引き戻すからミズキはまた苦しむんだよ!君のエゴでミズキはまた傷つく!」

「なにを!」

「無力で下等な偽りの神が!」

 

リボーンズキャノンの指からワイヤーが放たれた。ノワールは防御魔法を展開するがワイヤーはそれをすり抜けてノワールの腕に巻きついた。

 

「っ⁉︎」

「君が弱いから!ミズキがまた戦わなくてはならない!」

「ああああああああっ⁉︎」

 

ワイヤーから高圧電流が流れてノワールの体を焼いていく。

 

「そうすればまた繰り返しだ!愚かな女神はなにも学ばない!そうしてミズキが擦り切れて死んでしまうまでこんなことを続ける!」

「ああああああっ!っ、くっ!」

 

ノワールがワイヤーを切断して高圧電流から逃れる。

だがリボーンズキャノンの連射されるビームが避けられない。被弾してしまう。

 

「あっ、くっ!」

「神を恨んだミズキは神に殺される……!君達女神に殺される!そんなこと、僕は許せないんだよ!」

「私は、殺しなんか……っ!」

「現に君はミズキを戦場に連れ戻そうとしている!」

 

リボーンズガンダムに変形してGNバスターライフルを撃つ。ノワールの体にビームが掠った。

 

「どうせ君にミズキを守れるはずがない。また守られてしまうんだよ。そしてそれを繰り返してミズキは死ぬ」

「させないわよっ!」

「君がすると言っているんだよ」

「だとしたって!」

「トランザム」

 

リボーンズガンダムの体が赤く発光する。

あれは、ネプテューヌから聞いている……⁉︎

 

「何故わかろうとしない……!君は認めたくないだけだ。この先の未来に起こる惨劇を!」

「私はミズキを守って……!」

「それが不可能だと言っている!ファング!」

 

小型GNファングが6基、大型GNフィンファングが4基射出される。それは今までと全く違うスピードで残像を残しながらノワールに近付いていく。

 

「君がミズキを超えられるかい?ぬるま湯の中で暮らしてきた、偽りの女神が!」

「超えてみせるわよ……!今は無理でも、いつか、必ず!」

「そうすれば今度は君が壊れる。君が壊れるのを見たミズキが壊れる!結局同じなんだよ!」

「っ、私は壊れなんか!」

「壊れるよ!」

 

ノワールはファングの動きを目でも追えない。

全方位から浴びせられるビームも避けることができない。しかも威力もトランザムによって跳ね上がっている。

 

「うあああっ!」

「だから退がれと言っているんだ。今ならまだミズキは壊れていない。ただ眠っているだけだ。誰も壊れていないんだ、幸せじゃないか」

「そんな、幸せ……!」

 

リボーンズも残像を残しながら移動する。

ノワールの体をGNバスターライフルとファングが交互に焼く。

 

「あっ、ううっ、ああっ!」

「君の好きという気持ちが結果的にミズキを壊す」

 

リボーンズがGNビームサーベルで2度切りつけた。さらに切り抜ける。

 

「それを分かれよ」

「うああああっ!」

 

そこにファングが一斉にビームを撃つ。その全てがノワールに命中する。

リボーンズはトランザムを解除してファングを収納する。そしてキャノン形態に変形した。

 

「君のその気持ちは罪だ。ミズキを殺す罪だ」

「か……ぐ………」

「焼け爛れろ」

 

最大出力のGNキャノンがノワールに直撃した。ノワールは声も上げずにそれを食らってしまう。照射が終わった時、ノワールは遥か彼方の宇宙を煙を上げながら漂っていた。

 

(私が……この気持ちを抱いたことが……間違いだっていうの……?)

 

この気持ちを抱いてミズキを起こせばどうしてもミズキは壊れてしまう。私が守ってもミズキが守っても必ず両方壊れてしまう。どちらが先かということだけだ。

 

そうだ。必ずそれでは壊れてしまう。

 

(でも……諦められない……!)

 

なら、ミズキが壊れることを是とするのか?

 

(そんなわけ、ない……っ!)

 

ならばどうするつもりだ。

 

「はーっ、はーっ、簡単な話よ……!」

 

焼けた体を起こす。もう全身に力が入らないが、それでも。

 

「一緒に、戦うのよ……!一緒に、守るのよ……!1人じゃ壊れるなら、2人で……!」

 

ノワールのプロセッサユニットが残った力を総動員してリボーンズへと向かっていく。

 

「やめろ」

 

だがGNバスターライフルが撃たれてノワールはまた吹き飛ばされる。

 

「2人じゃダメなら、みんなで一緒に戦えばいいのよ……!」

 

お前はそれが正しいと思うのか?

 

「思うわよ!ミズキに聞いたら、クスクス笑ってそう言ってくれるだろうから……!それに私はミズキに頼まれたのよ、借りも返してないのよ!」

 

ボロボロの体で剣を構える。

 

「どいてもらうわよ……!アナタが何を言おうが私は、迷わない!」

 

………いいだろう。ならばミズキを壊すなよ。

 

「誓うわ」

 

……行け。力は宿った。

 

ノワールは右の脇腹に熱さを感じた。そこには炎のマークが浮き上がって見えた。

 

「戦うわよ、私は、一緒に!そのための力……!変身(change)……NEXT!」

 

 

ーーーー『儚くも永久のカナシ』

 

 

ノワールの体が光り輝く。

ノワールの両肩にコーン型のプロセッサユニットが2つ装着され、そこから緑色の粒子が噴き出す。そしてノワールの大剣の刃の部分がクリアグリーンになる。

 

「ツインドライブか……。それが君だけのものだと思うな」

「邪魔なのよ、アナタ!その鼻っ柱、へし折ってやるわ!」

 

ノワールの両肩のGNドライブが背中を向いて唸りを上げる。その粒子が描く形は00。

 

「トランザム」

「トランザム!」

 

2人が赤く染まっていく。

残像を残すほどの速さで2人は剣を打ち合っていく。

 

「ファング!」

「遅いのよ!」

 

ノワールはファングの嵐もトランザムの機動力で避けていく。

だがリボーンズがGNビームサーベルを振り下ろすとそれを受け止めるために止まらざるを得ない。

その隙にファングが1基ノワールの背に刺さった。

 

「やれ、ファング!」

「くうっ!」

 

ノワールを蹴飛ばすリボーンズ。蹴飛ばされたノワールの周りにファングが迫る。

だがノワールはそのファングの1基を手のひらで握って受け止めた。

 

「ぐぐっ、ぐっ……!」

 

ビームサーベルがノワールの手を焼く。さらにノワールはその手のファングを他のファングの防御に使う。2基のファングが砕けた。

 

「何を!」

「覚悟が、あるんだから!」

 

その機動力で大型のファングを切り落とした。これで小型ファングが残り4基、大型フィンファングが残り3基だ。

 

「無理だよ、君には!」

「その無理を覆したのが、ミズキでしょ⁉︎」

 

後退するリボーンズをノワールが追う。数回剣戟を重ねてまたリボーンズが後退する。ファングやGNバスターライフルの射撃など物ともせずにノワールはリボーンズを追い詰めていく。

 

「そこよっ!」

 

さらに小型ファングを切った。

するとリボーンズのトランザムが解除された。

 

「くっ、さっきのトランザムが……!」

「はあああッ!」

 

動きが鈍くなった大型フィンファングをさらに切り落とす。

そしてノワールはリボーンズの眼前にまで迫った。

 

「これでぇぇぇッ!」

「くそおおっ!」

 

ノワールの大剣がビームサーベルを持った左腕を肩から切り落とす。

だがリボーンズは残った右手のGNバスターライフルを捨ててノワールの体を掴んだ。

 

「くっ!」

「僕にも覚悟はある!やれ、ファング!」

「はあああああああッ!」

 

大型フィンファングがビームサーベルを展開してノワールに刺さる、その直前にノワールの目が黄金に輝いた!

 

「なっ⁉︎」

 

ファングが刺さる瞬間、ノワールはまるで砂細工を崩すように緑色の粒子になって消えた。

 

「まさか、量子化⁉︎」

「やあああああッ!」

 

振り返ったリボーンズの先に砂時計を逆再生するようにノワールの体が出来上がっていた。

ノワールの大剣がリボーンズの腹に減り込んだ。そしてその周りの装甲を熱で溶かしながら断ち切り、リボーンズの体が真っ二つに分かれた。

 

「そんな、この僕が!」

「女神、ナメんじゃないわよ!」

 




告白剣。余は奏者が大好きだー!

力を貸したのはジョー。ツインドライブシステムとトランザムシステム、それにイノベイターが覚醒しました。

この上から目線はなかなか難しい。アニメでもリボーンズガンダムとダブルオーライザーの戦闘って案外短いんですよね。だからセリフが掴みにくかったです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バンシィ・ノルンーNT-Dー

はー、終わり終わり!ちゃっちゃと次からイチャイチャね!早くぷるるんにも会いたいし!


ビームサーベルを持ったバンシィが背中のアームドアーマーDEで上乗せされた機動力で接近してくる。

ネプテューヌは太刀で受け止めたがその勢いを抑えられずにバンシィに押されてしまう。

 

「く、く、く………!」

「お前が、全ての元凶かっ!」

「ああっ!」

 

バンシィに蹴飛ばされる。

なんとか停止するネプテューヌだったがその頃にはもうバンシィはネプテューヌの後ろに回っている。

 

「フンッ!」

「きゃあっ!」

 

背中から切り抜けられる。バンシィは切り抜けた後に振り返り、両手でビームマグナムを構える。

 

「うおおおおっ!」

「くっ!」

 

紙一重で避けるがビームマグナムは紙一重では足りない。その衝撃だけでネプテューヌが吹き飛ばされる。

 

「あああっ!」

「その程度かッ!」

「くっ!」

 

瞬時に体勢を立て直してビームサーベルを受け止める。

 

「来るな、来るなァッ!貴様と出会わなければ、ミズキはこんなことにはならなかったんだ!」

「っ、だから助けに来たのよ!」

「その資格が、お前にあるのかァァァッ!」

(っ、推力が足りない!)

 

ブースターを全開にしたバンシィをいなす。勢いそのままに背中を向けたバンシィを追う。

振り返ったバンシィはビームマグナムで受け止めようとした。

 

「もらった!マグナムごと!」

「甘いんだよッ!」

 

ビームマグナム下部のリボルビングランチャーの4つの穴の1つからビームジュッテが飛び出して太刀を防いだ。

 

「なに⁉︎」

「帰っちまえよッ!その程度なら、尻尾巻いて帰っちまえェェッ!」

 

ビームサーベルで切り上げられ、その腹にビームマグナムの引き金が引かれた。

 

バキューーーーンーーーッ!

 

「うああああッ!」

 

ネプテューヌはそのビームをもろに食らって吹き飛んでしまう。

だがプロセッサユニットの出力を上げて急停止する。

 

「けほっ、けほっ、ごほっ!」

 

だがあの時のミズキのマグナムほどダメージはない。それはネプテューヌの心が強いのが要因だ。

 

「負けられないん、だからっ!」

 

ネプテューヌが円陣を蹴って急加速、バンシィへと一直線に向かう。

バンシィはネプテューヌの太刀をビームサーベルで受け止めた。

 

「なんなんだ……なんなんだよ、お前はッ!そんなにミズキを苦しめたいかッ!」

「違うっ!」

「なら何故ここに来た!ミズキを苦しめるためだろうが!」

「違う!私はミズキを、助けに!」

「寝言をォォッ!」

「どっちが!」

 

ネプテューヌがほんの少し下がって剣の間合いを取り、剣を2度振るう。バンシィはそれを全てビームサーベルで弾いた。

 

「気付けよっ!お前がミズキを苦しめたんだろうがっ!」

「そんなこと……!わかってるわよっ!」

 

バンシィがビームマグナムでネプテューヌの頭を殴る。

 

「うあっ!」

「図々しいんだよ、お前!」

 

怯んだネプテューヌにビームサーベルを叩きつけるがネプテューヌは太刀で受け止める。

 

「お前さえ……!お前さえいなければ、ミズキはこの世界で静かに暮らしてたんだ!」

「わかってるッ!」

 

ネプテューヌがバンシィを蹴飛ばす。

 

「わかってるわよ、アナタなんかに言われなくてもそんなことくらい!」

「なら!」

「何にも知らずに助けられて……!何にもわかろうとしなくて……!だから、助けに来たのよ!」

「罪滅ぼしのつもりかァッ!」

「恩返しのつもりよッ!」

 

追うネプテューヌにバンシィは後退しながらリボルビングランチャーの武装の1つ、ボップミサイルで迎撃する。

ネプテューヌはその爆発を避けながらバンシィに迫る。

 

「恩返しなんかじゃない!お前がやろうとしていることは、焼き直しだ!」

「そんなことは私がさせない!」

「いいや、起こる!苦しんでいたミズキをお前がまた苦しめて……!そしてまたミズキが起きても!お前がまた繰り返す!」

「私は!ミズキの家になるの!ミズキの友達になるの!」

「お前がここに来たことで現在(いま)が狂いだす!その狂った歯車、俺が止めてみせる!」

 

太刀を振るうネプテューヌをビームサーベルで軽く払う。

そしてバンシィはまるで猛るように、雄叫びをあげるように首を振る。

 

「NT-D……!応えろ、バンシィ!」

 

バンシィの全身の黒い装甲が拡張し、その中から黄色に輝くサイコフレームが露出する。顔はガンダムフェイスに変わり、背中のアームドアーマーXCが拡張して頭のツノは割れた。その姿はまるで獅子のようだ。

デストロイモードになったバンシィはビームサーベルを腕のサーベルラックに戻してアームドアーマーDEを腕に装備して盾にする。

 

「そんな、あいつも……!」

「お前にミズキと共にいる資格はない……。お前がミズキを苦しめたくないと言うのなら!」

「ああっ!」

 

盾でタックルされ、ネプテューヌが怯む。

そこにバンシィがマグナムを構える。ネプテューヌは防御魔法を展開するが撃たれたのはビームではなく、リボルビングランチャーから撃ち出された青く光り輝く弾だった。

 

「っ、なに⁉︎」

 

後退しているネプテューヌの防御魔法に減り込む青い光弾。それが弾けて爆発した。

 

「きゃああっ!」

 

ネプテューヌの防御魔法が砕ける。撃ち出したのは瞬光式徹甲榴弾だった。

 

「帰れ!お前がそうやってミズキといるから、ミズキが苦しむんだ!休ませてやれよ、ミズキをっ!」

「こんなの、休みなんかじゃない……っ!くっ!」

 

デストロイモードになったバンシィの機動力はユニコーンモードとは比較にならない。

黄の軌跡を残しながら迫ったバンシィが右腕のビームトンファーでネプテューヌを突く。ネプテューヌは太刀でいなしてバンシィと肩でぶつかり合う。

 

「こんなの、死んだも同然よ!休むならせめて、言いたいこと言わせて!やりたいことやらせて!それなら休ませなさいよ!」

「その時間を失くさせたのはお前達だ!」

「だから私が今から作るのよ!」

「そうすればミズキが苦しむ!」

「じゃあ、私はどうすればいいのよ!」

「帰れと言ってるんだよォッ!」

「それは出来ないって、言ってるでしょッ⁉︎」

 

バンシィのバルカンがネプテューヌに降り注ぐ。怯んだネプテューヌにバンシィは膝蹴りを脇腹に食らわせて離れる。

 

「分かれよ……分かれよッ!起こせばミズキがまた苦しむって、何故分からない⁉︎このままが、このままが1番幸せなんだ!」

 

再び0距離でビームマグナムを撃つ。ネプテューヌは吹き飛ばされて機体の残骸の中にその身を埋めた。

 

「ぐっ……!何が幸せよ……!そんなの、ミズキだって望んでない!」

「ミズキが望むことを何もかもやらせれば!アイツは自分を傷つけていくんだよッ!」

 

またバンシィがビームマグナムを撃つ。

ネプテューヌは飛び上がって避け、またバンシィに向かっていく。

バンシィは腰の後ろから予備のビームマグナムのマガジンを装着してまたネプテューヌに発射する。

ネプテューヌは円陣を蹴ってそれを避け、バンシィに向かう。

 

「アイツが望むままにした結果がコレだ!望むままにさせれば、ミズキはいくらでも自分を傷つける!傷つけて傷ついて、その分命を救って!もうそんなのは沢山なんだよッ!」

「だけど……!」

「お前だって傷つくミズキなんて見たくないはずだ!笑ってるミズキを見つめてたいんだろ⁉︎」

「くっ……!」

「なら!その胸の中にある笑顔だけで、妥協しとけよッ!何も死に顔を見ることもないだろうがァッ!」

 

盾を前に構えてバンシィがネプテューヌに突進してくる。

ネプテューヌは太刀を振るうが盾で払われた。その腹に右腕のビームトンファーの斬撃が入る。

 

「うああっ!」

「お前が家になろうが、友達になろうが!」

「あうっ!」

 

その腹に左手のシールドを打ち付けて前進。

シールドに内蔵されているメガ・キャノンが撃たれる。

そのビームで吹き飛ばされるネプテューヌを逃しはしない。アームドアーマーDEを逆さにしてその首に突く。

 

「あうっ、あっ!うぐっ!」

「ミズキが苦しむことには変わりはない!」

「くっ、うっ……!」

 

そのままバンシィは前進して戦艦の残骸にネプテューヌが押し付けられた。その首にアームドアーマーDEが減り込む。

ネプテューヌは太刀を手放してそれを離そうとするがビクともしない。

 

「ミズキを苦しめたくないのなら、ここで消えろ!」

「私は……っ、ミズキを助け、に……来たの……!」

「助けなんかじゃない!お前の伸ばす手は、戦火に引き込む悪魔の手だ!」

「私、は……!ただ……!助け、助け、に……!」

「まだ言うか!」

 

歪む視界の中でネプテューヌはバンシィの奥にミズキを感じた。

私の助けはミズキのためにならないのか。眠らせておいたほうがミズキのためなのか。ミズキは苦しむ運命なのか。

 

「そんな、悲しいこと……!」

「悲しいなァ⁉︎だからここでその物語は終わりだ!悲劇の物語は、ここで俺が終わらせてやる!2度と悲劇は起こさせない!」

「終わりなんか、させない……っ!」

 

ネプテューヌがゆっくりとアームドアーマーDEを押し返していく。

 

「なにっ⁉︎」

「私が、私と、紡ぐのよ……!1人で眠らせなんか、するもんですか……!」

 

アームドアーマーDEを跳ね上げてネプテューヌがバンシィの腹に拳を叩き込む。

怯んだ隙に太刀を掴んだ。

 

「いつも!私が一緒にいるの! 1人になんかさせない、ミズキが何処に飛び込んだって!どんなに苦しんだって!私はそこに着いて行く、一緒に感じる!」

「お前がミズキに追いつけるかァッ!」

「眠ってるこの隙に追いつくのよ!先には行かないわ、しっかり叩き起こして手を繋いで仲良くゴールするのよ!」

「お前っ、ふざけるなァァァァッ!」

「私はミズキと一緒にいる……一緒にいたい!2度と1人にはさせない!」

 

ネプテューヌはバンシィのビームマグナムを太刀で弾き飛ばした。

 

「お前ェェッ!」

「ただ、私は!一緒にいて!ミズキが苦しんだ時に、いつもこういうのよ!」

 

ネプテューヌが前に太刀を向ける。それはバンシィに向けたものではない。その後ろ、優しい男に向けたもの。

 

 

「ミズキ!私が、助けに来たわよ!」

 

 

「やめろ……やめろ……!しゃべるなぁぁぁぁああ!」

 

バンシィがそれに気圧されるように後ろに下がる。

ネプテューヌは右手の甲に熱さを感じた。声は聞こえないし、見えもしない。だけど感じる。わかる、何もかも!

 

 

ーーーー『RX-0』

 

 

変身(change)、NEXT!」

 

ネプテューヌの背中に2つのブースターとサーベルラックが装備されたプロセッサユニットが装着される。

さらにネプテューヌの左手には真っ白な盾、そして太刀の刃はピンク色に光り輝いた。

 

「まだよ、まだ変身できる……!NT-D……!」

 

ネプテューヌのスーツに紫の輝く筋が入る。プロセッサユニットには新たに2つのブースターが展開され、サーベルラックが立ち上がる。そして盾はNの字に拡張し、太刀も紫のフレームを見せて長くなった。

 

「これで互角よ……!かかってきなさい!」

「そんな、そんな、答え……!間違ってる!」

「間違ってるかどうかは、2人で決める!」

 

ネプテューヌが紫の軌跡を残してバンシィに接近する。

ネプテューヌが振るう太刀をバンシィは盾で受け止めた。

 

「く、ぐ……!俺は、2度と!ミズキをッ!」

「わかってるわよ!全部わかる!でも、私にも譲りたくないものがある!」

「ぐうううおおおおおああああああッ!」

 

バンシィがビームマグナムを捨て、背中からビームサーベルを引き出す。ネプテューヌはそれを盾で受け止めた。

バンシィはバルカンをネプテューヌに撃つがネプテューヌは怯まない。

 

「通してもらうわよ!アナタの奥に、ミズキがいる!私はミズキに会う!」

「会わせないッ!起こさせないッ!そんなこと、許さないッ!」

 

ネプテューヌのプロセッサユニットがさらに唸りを上げてバンシィを押す。

ネプテューヌはバンシィを押し飛ばしてもう1度太刀を構えた。

 

「これで決める!覚悟しなさいッ!」

「やらせない!うおおおおっ!」

 

バンシィはアームドアーマーDEを背中にマウントして機動力を上げる。

ネプテューヌは円陣を蹴って突進するバンシィと正面からぶつかり合う!

 

「ぐっ、うっ!」

「はあああああッ!」

 

太刀がビームサーベルで受けたバンシィを吹き飛ばす。

後退したバンシィはビームサーベルで追撃を受けようとするがその前にネプテューヌがビームサーベルを持った右腕を切り裂いた。

 

「ぐうっ!」

「まだ、抵抗するならっ!」

 

左腕のビームトンファーでネプテューヌを斬りつけようとしたバンシィの左肩を断ち切る。

バルカンで最後の抵抗をするバンシィを蹴飛ばしてその腹に太刀を投げて突き刺す!

 

「ぐっ、うああっ!」

「この想いは、誰にも譲らないの!」




ネプテューヌが言ってたのはウサギとカメです。
悲しいなぁ。

これで同じようなバトルはお終いです。闇リディの叫びを再現できたでしょうか。あ〜、NサブNサブ。
女神達はそれぞれミズキに対して答えを出しました。支えて癒して共に戦って一緒にいて。
そのうちきっとみんなもうちょっと武器が増えるかと。ハイマットフルバーストとか最大出力とかライザーソードとかビームマグナムとか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつもに帰ろう

はい、終わり!次からはたくさんイチャイチャさせて!それからアニメに行きましょう!


目を覚ました時、女神達は同じ空間にいた。

 

「あら……みんな、終わったの?」

「ええ。だいぶ手こずったけどね」

「ですが、言ってることは正しかったとも思えます。彼らも、確固たる心の力を持って私達を退けようとしていました……」

「だからって、コッチも譲る気はねえだろ」

 

みんな新たな姿でその空間に漂っていた。さっきまで戦っていた場所と同じようで違う場所。さっきまでと違うところは、この宇宙が静かだということだ。

 

「あら、ブラン。アナタ、少し胸膨らんだ?」

「んだよ、ネプテューヌ。皮肉……か……?」

 

ネプテューヌの言葉にチラリと胸を見てみると確かに、巨乳とはお世辞にも言えないものの膨らみが大きくなっている。

 

「……アイデンティティが壊れた気がするが、まあ素直に嬉しいぜ」

「ブランだけズルいですわ。私ももうちょっと……」

「テメエは地獄に落ちてろ」

「はいはい、喧嘩しない。ミズキを探すわよ」

 

中指を○ァック!と立てたブランをノワールがなだめて周りを見渡す。

するとネプテューヌが引き寄せられるように漂った。

 

「ネプテューヌ?どうかしたの?」

「……多分、これよ」

 

ネプテューヌが掴んだそれは結晶の欠片だった。薄い青色のそれは脈動しているように光り輝いている。

 

「ネプテューヌ、わかるのですか?」

「ええ。……なんとなく、だけど」

「で?私達はそれをどうすればいいんだ?」

 

ブランの疑問に全員が黙り込む。そういえば、全く聞いてなかった。

 

「と、とりあえずセーブしましょう。それから一旦ここを出て……」

「………マズいわね……はぁ」

「ネプテューヌにもわかりませんの?」

「え?えと、う〜ん……」

 

ネプテューヌは手に持った結晶を色んな方向から眺めるが特にこれといって変なところもない。

 

「……私達ってよ。つまりは、ミズキがやってくれたことを人工的にやってるわけだよな?」

「あ、ああ、そうですわね。つまり、ミズキ様と同じことをすればいいと。頭いいですわ、ブラン」

「ミズキってあの時何をしてたかしら」

「……手を繋いだわ」

 

その言葉に女神達が目を合わせて頷く。

そして結晶に全員が触れた。

 

「……………!」

 

瞬間、女神達は光に飲み込まれた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「っ⁉︎」

 

バッとネプテューヌは目を覚ます。

体を見ると変身が解けている。

それどころかここはさっきまでいた宇宙ではない。

部屋だ。多分、ミズキの部屋。

キョロキョロと周りを見渡すが誰も周りにはいない。

ネプテューヌはベッドの側に座っていたから、恐らくミズキの手を握ったことは本当だ。

……そうだろうか。全部、夢?

 

「な〜ははは、なわけ!」

 

ネプテューヌは笑いながら立ち上がる。だが周りに全く人の気配がない。

ネプテューヌの笑いは段々と乾いていく。

 

「そんな、わけ……」

 

するとネプテューヌは笑い声を聞いた。

聞き覚えのある声の中に1つ、懐かしい声がする。

 

「っ!」

 

バンとネプテューヌはドアを開けてリビングへ駆け出す。

焦る足が何度ももつれて転びそうになる。その度に壁に手をついてリビングへ、声のする方へ!

 

「ミズキ、ミズキ………!」

 

笑い声はどんどん大きくなる。声の数はどんどん増えていく。

ネプテューヌの顔に抑えきれない笑顔と涙が浮かぶ。

 

「ミズキっ!」

 

リビングへ到着する。

その名を叫びながら。ネプテューヌの前には座ってコントローラーを握ったミズキがいた。

 

「ミズキ、ミズキ……!」

「クスクス、やっと起きた?ネプテューヌ」

「普段グータラしてるから起きるのが遅いのよ」

「悪いわね。もう満員よ……」

「ネプテューヌはしばらく順番待ちですわ」

 

そこには女神も女神候補生もアイエフもコンパもイストワールもジャックもいる。

 

「っ、〜〜〜っ!」

「うわっ!」

「ミズキぃぃぃ〜〜っ!」

 

ネプテューヌは感極まってミズキに飛び込む。

ミズキはそれを受け止めたがひっくり返ってしまった。

 

「ミズキ、ミズキ!ミズキ〜〜っ!」

「……クスクス、ただいま。ネプテューヌ」

「う、う、うわあぁぁぁぁん!」

「わ、わ、泣かないでよ、ネプテューヌ……」

「あ、ミズキさんがお姉ちゃんを泣かせた〜」

「女泣かせね、ミズキさんも」

「え」

「執事さんの甲斐性なし〜!」

「甲斐性なし……!」

「ちょ、2人ともそんな言葉どこで覚えてきたの⁉︎」

「少しそうやって反省してなさい。みんなに心配かけたんだから」

「ねぷねぷは任せたですよ〜」

「な、そんな〜……」

「ところでミズキ様?コントローラーを握り直した方がいいのでは?」

「もう……瀕死……」

「ええっ⁉︎」

「手加減はしないわよ!そりゃ〜!」

「の、ノワールもタンマ!ね、ネプテューヌ一旦離れてよ〜!」

「やぁぁぁぁだぁぁぁぁ!」

「幼児退行⁉︎」

 

めでたし、めでたし。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「〜♪アニメじゃない♪アニメじゃ……うん」

 

ミズキは胡座をかいて膝の上のビームソードの柄を確かめる。

ちなみに場所はネプギアの部屋、隣にはネプギアもいる。ビームソードはネプギアのものだ。

 

「こんなものじゃないかな。出力を調整できるようにして、燃費を良くして……」

「へえ〜、一見変わりないように見えますけど……」

 

ネプギアが試しにビームソードの出力を最大にして剣の部分を展開してみる。

 

「えっと……こう」

「あ」

 

ビームソードの剣がまるで如意棒の如く伸びて天井に突き刺さった。

 

「…………何もなかった。いいね?」

「アッハイ」

 

ネプギアは返事して出力を最低にしてビームソードをしまった。

 

「ところで、さっきからネプテューヌが静かだね。仕事でもしてるの?」

「あ〜……いや、今からすることになると……」

「?」

 

 

 

 

「聞いていますか、ネプテューヌさん!」

「き、聞いてるよ!うん!いい加減釘宮病のワクチンを作らないとって話だよね!」

「まったく関係ありません!釘宮病は不治の病なんです!ってそんなことより!」

 

厨二病も不治の病です。致死率は80%。釘宮病なら99.9%です。

いつものイストワールの説教タイムだ。

ネプテューヌは床に正座させられている。ミズキ救出の時はまだ許してもらえたがミズキが無事な今、言い訳が効かない。

 

「マジェコンヌの時はあまりシェアが下がらなかったからいいものの……!またシェアが緩やかな下降をしているのですよ!」

「は、はい、すいません……」

 

すると部屋のドアが開く。

 

「クスクス、またお説教?やっぱり変わらないね、ここは」

「み、ミズキも何か言ってよ〜!」

「シェアが下がるのは困るしね……。僕も手伝おうか?」

「ダメです!あんまりミズキさんに手伝ってもらうとネプテューヌさんが仕事しなくなります!」

「そんな〜!」

「クスクス……」

 

さらに開いた扉からネプギア、その後にジャックも入ってきた。

 

「お姉ちゃん、私も手伝うから!」

「うう〜、助けてネプえもん〜!」

「それ名前的にはお姉ちゃんも含まれるんだけど……」

 

妹に泣きつく姉。威厳/zeroである。

 

「そうイストワールもカンカンするな。小ジワが増えるぞ」

「な、なんですって〜⁉︎」

「冗談だ、冗談。落ち着け、どうどう」

 

ジャックがイストワールの文句を受け流している。だが決してイストワールも嫌なのではない。

 

「クスクスクス……!」

 

ミズキは笑いを抑えきれないようで声も抑えずに笑った。

そして指を立てる。

 

「イストワール、提案。ネプテューヌと模擬戦して、ネプテューヌが勝ったら僕が仕事をするよ」

「では、ミズキさんが勝ったら?」

「ネプテューヌ1人で今日はお仕事祭り」

「それはいい考えですね」

「ねぷっ⁉︎マジ⁉︎分が悪くない⁉︎」

「ならネプギアも一緒にする?その場合は勝率が上がるけど、仕事にネプギアを巻き込まれる」

「やらせる!」

「躊躇ないね……。ネプテューヌには損がないもんね……」

 

にしても遠慮とかないのか。

 

「ネプギアは?」

「願ってもない機会です!やります!」

「オッケー。じゃ、外で始めようか」

 

ミズキとネプテューヌとネプギアがドアから外に出て行く。それとすれ違いにアイエフとコンパが入ってきた。

 

「あれ?イストワール様、ネプ子達は何を?」

「模擬戦です。お仕事を賭けた」

「あ〜……2対1ですか?」

「はい」

「2人とも、勝てるでしょうか……」

「まあ、十中八九……」

 

 

ネプーーー⁉︎

キャアーー⁉︎

 

 

 

「……ああなるだろうな」

「じゃあ今日はねぷねぷ達はお仕事ですか?」

「そうですね。どうせ、ミズキさんは手伝うでしょうけど」

「そればっかりは仕方ないですよ」

「ああ、仕方ない。それがクスキ・ミズキという男だ」

 

4人は顔を見合わせて笑うのだった。




次回予告

「ウルト○マンより遅いだなんて……そんなのただのバイクじゃないか!」

伝説の光の戦士を越えようとするミズキとアイエフ。

「……エロいな」「……エロいですね」

ネプギアの未発達のプロポーションが内なる欲望を爆発させる。

そしてミズキの国巡り。泣いたり、落ち着いたり、怒ったり。宮永ロムと宮永ラムの実力は。ベールの指がピーーを示す。

次回、超次元機動戦士ネプテューヌ。閑話祭り、です。


ーーーー


アニメじゃない。いいね?
釘宮病とは日本に蔓延している恐ろしい病気です。未だ有効なワクチンや治療法が解明されておらず、(社会的な)致死率99.9%です。症状としては突然くぎゅううううと叫び始めること。ハガレンの弟が好きなアナタ!アナタも釘宮病ですよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6章〜日常への回帰。ミズキの国巡り〜
甘えん坊ネプテューヌ


キャラ崩壊してますかね…。まあさせたんですけど(開き直り


「ん〜ふふふ♪」

「…………」

 

ミズキの膝の上にネプテューヌが座っている。

リビングではあるもののネプテューヌは何をしているというわけでもない。

ゲームしているわけでもなく仕事しているわけでもなくプリンを食べているわけでもなく本当にただミズキの膝の上に座ってご機嫌そうに笑っているだけだ。

 

「んふふ♪むふ〜……」

 

ミズキも何をするわけでもなくネプテューヌの脇の下から手を通してネプテューヌの頭に顎を乗せている。じんわりと顎が温かい。

 

「んふっ、ふふふ〜♪」

 

ネプテューヌが反転してミズキに頬ずりし始めた。ミズキは構わず顎だけネプテューヌの頭から離してされるがままにする。

それをアイエフが遠巻きに眺めていた。

 

「なにあれ……キモっ」

 

女子の言葉って辛辣だよね。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「えへへ〜♪ミズキ、頭撫でて〜♪」

「ん」

「えへへ〜」

 

「何よアレは……砂糖吐きそうなんだけど」

「ちょっと重症ですよね……」

「あ、ネプギア」

 

言われるがままに頭を撫でるミズキとご機嫌なネプテューヌ。

遠巻きに眺めているアイエフの隣にネプギアがやってきた。

 

「どういうことよ、アレは。ほんの3日会わなかっただけでとんでもないことになってるわよ」

「なんか、反動だと思います……」

 

ネプテューヌが笑っているのはいつものことなのだが……なんか、ベクトルが違う。

ネプテューヌの笑顔はあくまで屈託のない元気な笑顔であってあんな新婚ホヤホヤみたいな甘ったるい蕩け切った笑顔ではないのだ。

 

「最初はミズキさんも困った顔してたんですけど……最近はもう受け入れ始めちゃって」

「現実逃避じゃないのそれは」

 

ネプテューヌの優先順位はこの3日の間ゲームよりもプリンよりも仕事よりもミズキとの触れ合いの方が上だというのだろうか。

 

「ねえ、ミズキ。ぎゅってして〜」

「ん」

「んふ〜♪」

 

「待って、ごめん、限界。ブラックのコーヒー頼める?ジョッキで」

「それはカフェインが致死量だと思います」

「糖尿病になるのよりマシよ」

「アイエフさん、優先順位が入れ替わってますよ」

 

見るものすら狂わせる甘ったるさ。ここまで来ると甘さは兵器である。

 

「ふわぁ……眠くなってきたよ」

「私も〜。このまま寝ちゃおっか〜……」

「うん……そうしよっか……」

「カンガルーが1匹……カンガルーが2匹……カンガ……ルー……」

「なんで……カンガルー……」

「スヤァ」

「スピー」

 

「なんなのよあの落ち着いた空間は」

「安らぎを感じますね……」

 

するとそこにイストワールとジャックがやって来た。

 

「イストワール様、ネプ子はあれで大丈夫なんですか?」

「仕事はしてるので……文句が言えないんですよね……」

「あれでしてるんですか?」

「ちゃんとネプテューヌだけでな。仕事終わるまで触れ合いはなし、と言ったら超速で仕事を終わらせるようになった。おかげでシェアも持ち直してきてる」

「ええ……」

「織姫と彦星も再開したらあんな感じなんでしょうねって思うネプギアです……」

 

ぐっすり眠る2人を遠巻きに眺める。

 

「こんなんでみんなは大丈夫なんですか?」

「そうだな。今教会では砂糖菓子を売りさばいてる」

「ああ……もう砂糖大放出なんですね……」

 

アイエフはげんなりとしている。

 

「今この教会で唯一2人に近付ける人といえば……」

「あれ?また寝ちゃってるですか?」

 

後ろからやってきたのはコンパ。2人の放つ甘ったるいオーラを物ともせずに音を立てないように2人に近付いていく。

 

「コンパくらいなんですか」

「そうなんです。さすがに私でも近寄り難く……」

「イストワール様は悪くありません。あの2人が悪いんですあの2人が」

 

「こんなところで寝たら風邪引くですよ?」

「ん、ん〜……コンパ?ごめんね、今ネプテューヌを動かーー」

「ん〜……や……!」

「せないみたいだね。悪いけど毛布を持ってきてくれるかな」

「はいです。ふふっ、ねぷねぷが甘えん坊さんです」

 

コンパが毛布を取りに部屋へと向かう。

ミズキはネプテューヌの頭を撫でながらアイエフ達に困った顔を見せた。

 

「ごめんね。ネプテューヌが甘えてくるから……」

「ミズキ、アンタ無事だったの?」

「心を殺して飲み込まれるのを防いでたよ……。ああいう絡まれ方はあんまり体験したことないから……」

 

ミズキは苦笑いしながらネプテューヌを眺める。

 

「まあ、こういうのも良いかなって。いつもの元気なネプテューヌに戻るまで、こういうのを楽しんでるよ」

「こんなお姉ちゃん初めて見ます……」

「私もですね。子供の時からネプテューヌさんは元気でしたから……」

「クスクス、イストワールも見たことないネプテューヌなんて相当レアだね」

「思い出したら赤面するパターンだな」

「ネタにするよ。クスクス……」

 

安らかな顔でぐっすり眠るネプテューヌ。ミズキは優しい顔でその頭を撫でていたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ねえ、ネプテューヌ」

「ん?なに?」

「………これは、女神会議のはずよね?」

 

ネプテューヌが見ている先はパソコンの画面。そこにはノワール、ブラン、ベールの顔が映っている。

 

「まあ、確かに非公式ではありますが……それにしても……」

「……離れなさいよ、ネプテューヌ」

「イヤだよ!ミズキは私のものなの!」

「あはは……ネプテューヌの所有物になった覚えはないんだけど……」

 

ネプテューヌはミズキの膝の上に座っていた。ネプテューヌの頭の上には困った顔のミズキが映っている。

 

「百歩譲ってミズキが一緒にいるのはいいとして!なんで膝の上なのよ!」

「私が座りたいからだよ!キリッ!」

「理由になってな〜い!」

「チッ」

「ほら、ブランも舌打ちし始めたことですし……。少しでいいので離れては?」

「え〜!いいじゃん別に!私がどうかするわけじゃないんだしさ!」

「そりゃテメエは幸せだろうなぁッ⁉︎」

「ま、まあまあブラン。僕がしばらくいなかったからその反動なんだ。ごめんね」

「……ケッ、ミズキに免じて許してやるけどよ……」

「ですが、やりにくいですわね……」

「……はあ、もう仕方ないわよ。何か議題はある?」

「ないよ〜」

「ないわ」

「ありません」

「あらそう?じゃあ……」

「あ、はい」

 

ミズキが手を挙げた。

 

「議題っていうか相談事なんだけど、いい?」

「へ?そんなことあったっけ?」

「ん、今思いついた」

「……?まあいいわ。それで、その相談事っていうのは?」

「ちょっと、君達の国に行きたいなって」

「へ?私達の国に?」

「うん。ちゃんと顔合わせて謝罪とお礼がしたいって思ってて」

「ダメ〜〜っ!」

「あはは……まあ、そう言うとは思ってたけど……」

 

ネプテューヌが荒ぶってミズキの膝の上で暴れる。

 

「大丈夫だよ、ネプテューヌ。すぐプラネテューヌ(ここ)に帰ってくるよ」

「ダメッ!それは信じてるからいいけど、ダメなの!」

「いいじゃないの、別に。そりゃ私達だってミズキがいると嬉しいけど、奪い取るつもりはないわよ」

「ノワールが1番奪う確率高いじゃんか!」

「な、なんでよ!」

「私も、執事じゃないミズキに来て欲しいのだけど。ロムとラムも喜ぶだろうし」

「私もミズキ様には正式にお礼がしたいですわ。ミズキ様だけリーンボックスでもてなしていませんし……」

「ほら、ネプテューヌ。みんなもそう言ってるし……」

「ダメ〜!絶対ダメっ!」

「ネプテューヌ、独り占めはダメよ……」

「みんなが独り占めするからダメなんだよ!」

「ああ、もうこんがらがってきたわ」

「いいじゃないですの、ネプテューヌ。何故そんなワガママを?」

「そうね。いつにも増して頑固だけど……」

「何か理由があるのかしら?」

「て、テメエの胸に聞け〜!特にノワール!」

「だからなんで私なの⁉︎」

「とにかく!これはミズキの前では話せないから、また私達だけで話す機会を作るよ!」

「クスクス、お願いね」

「前向きに善処する方向性で検討しとく!」

「それはやらないと言ってるようなものでは……」

「やれたらやる!」

「それもですわよ……」

 

本日の女神会議、成果。

…………特になし。

 




行けたら行く。魔法のような言葉ですね。
ネプテューヌは甘えきったらこんな感じだと思います。いつもならもうちょっと連れ回したりすると思うんですけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バイク大改造計画。目指せ、仮面ラ○ダー

こんなアホみたいな話なのに文字数だけはすごい。


プラネテューヌの教会、そこでアイエフが鼻歌を歌いながら工具を持って歩いていた。やたらとご機嫌である。

ミズキがそのアイエフを見かけて不思議に思い、こっそりついていく。

 

「〜♪さあ、やるわよ〜!」

「殺る?」

「殺らないわよ!……ってミズキ」

 

辿り着いたのはおおきなガレージ。しかし中が真っ暗だ。

 

「ん〜……車でもいじるの?」

「車じゃないわ。バイクよ」

「バイク?」

 

アイエフが真っ暗闇の中に入って慣れた様子で明かりをつける。そのガレージの真ん中には緑色のバイクが立てられていた。

 

「へえ……手入れするの?」

「ええ。久しぶりにね」

 

蛇口からホースを引っ張ってきたり雑巾代わりにするいらない服を広げたりアイエフがせわしなく動く。

 

「……ねえ、アイエフ」

「ん?どうかした?」

「……ものは相談なんだけどさ」

「なによ、ハッキリ言いなさい」

「……改造したくない?」

「……え?」

 

アイエフが手に持っていたモンキーレンチをカランと落とす。

 

「なんか、こう……お気に入りなのはわかるんだよ?」

 

ミズキは近づいてバイクを撫でる。だが、やはり長く使っているのか細かく見ればところどころ傷や汚れが目立つ。

 

「でもさ、ほら……リッター3000kmとかにしたくない?」

「0が2つほど多いわよ!」

「いや、ほら、時間はあるでしょ?弄るのは僕がやるから、ちょっとだけ、夢見たくない?」

「なんか、口調が怪しいことこの上ないんだけど……」

 

アイエフがモンキーレンチを拾ってこっちにやってくる。

2人は机の前に立ってミズキが紙とペンを取った。

 

「まずはさ……空を飛ばせたくない?ほら、アギ○みたいに」

「私はまず○ギトを知らないんだけど……空を飛ぶのはまあ、夢があるわね」

 

アイエフの厨二病心がウズウズしだした。

 

「ビーム砲とかどう?」

「いいね。最大速度は秒速400mとかにしてみない?」

「それ軽く音速超えてるわよ……!」

「音速にすると衝撃波がネックだね……。ミノフスキークラフトとかを……」

「え、ちょっと待って?」

 

アイエフが紙にペンで『やりたいこと』リストを書き上げていくミズキを止める。

 

「本気で改造する気?」

「……アイエフが許してくれるなら」

「え、バイクが空飛ぶわけないでしょ?」

「飛ばせるよ?」

 

なにを言ってるの?当然でしょ?みたいな顔でミズキが見つめてくる。

なにを言ってるの?バカなの?と答えたいアイエフは頭を押さえた。

 

「そもそも、動力はどうすんのよ」

「何か積もうかなって。擬似太陽炉とかあるし、核融合炉とかもある」

「それは最早バイクではないわよね」

「アイエフ……改造は原型なくなるまでやってこそだよ?」

「そんな改造聞いたことないわよ!」

 

なにやら目がキラッキラしているミズキを必死に止めるべくアイエフが粘る。

 

「待って、アイエフ。軽めの人工知能とか……」

「いらない!いらないから!」

 

け、結局ミズキも大人なようで根っこは子供なのね……。勉強になったわ。

 

「でもさ、アイエフ。ちょっと想像してみてよ」

「な、なによ」

「君がつけてる腕時計に『来て』って言ったらだよ?ガレージから自動的にバイクが飛び出して空を飛んでだよ?」

「………(ゴクリ)」

「君が走る横に並走してさ、君が飛ぶとその下に入って座れるんだ。そしてバイクが『イエス・マスター』とか言ってさ」

「…………………(ゴクリンチョ)」

「犯人を追いかける君は抵抗する犯人をビーム砲で蹴散らしてさ、空を飛ぶんだ。……カッコ良くない?」

「………カッコいいです」

「………欲しくない?」

「………欲しいです」

「………始めようか」

「………始めます」

 

アイエフ、陥落。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「さて、とりあえずまあ、最低限として性能は上げたいね」

「性能を?かなり丸い提案じゃない」

「とりあえず、老朽化した部分を新しい部品に変えよう」

 

カチャカチャと関節部だったりボルトだったりを新しいものに入れ替えていく。銀色に輝くボルトに変わっただけでなんとなくイイ感じに見える。

 

「次は……まあ、1番簡単なビーム砲かな」

「それが1番簡単なのね……」

「けど、動力をなににするかで変わってきちゃうからね。とりあえずミサイルくらいにしておこっか」

「くらい?今くらいって言った?ミサイルなのよ?」

「ナパームとかじゃないから安心して。全自動ロックオンの控えめなやつだよ」

「それは控えめではないわ。絶対」

 

アイエフは夢を見ながらも常識は見逃さないように気を張る。

 

「戦闘機で一番マズいのは背後を取られることだからね。後ろのタイヤにミサイルポッドをつけよう」

「戦闘機じゃないわよ、バイクよ。そこんとこヨロシクぅ」

 

後部タイヤにミサイルポッドが2つ取り付けられた。

ミサイルは後ろに飛ぶようになっているが、まあ一応ミサイルは想像していたものよりずっと小型だ。

 

「よし、次は空を飛べるようにしようか」

「出来たら凄いとは思うけど……なにから手をつければいいのか……」

「さすがに音速は諦めようか。衝撃波は周りに被害が出るからね」

「出来ないから、ではないのね。出来てしまうのね。そこに痺れる憧れるゥ」

「というわけで、動力炉はどうしよう……」

 

う〜んと悩む。

「ちなみに候補は?」

「擬似太陽炉と核融合炉とエイハブ・リアクターと……」

「よくわかんないけど全部ヤバいってことだけはわかるわ」

「よし、ここはシンプルに核融合炉でいこうか」

「何がシンプルなの?核なのよね?」

「核反応炉じゃないよ!核融合炉だから!間違えないでね!」

「何が違うのよ」

「wik○に聞いて!」

「丸投げしたわね」

 

するとミズキは次元倉庫から核融合炉っぽい鉄の塊を取り出した。

 

「これ、エンジンと取り替えても気付かないんじゃない?」

「そうだね。取替えがやや面倒だけど……」

 

ガシャガシャガッシャン!

 

「はい、取り替え完了」

「今日はいつも以上に適当な文ね」

「ちょっと火入れてみてよ」

「……まあ、いいけど……」

 

アイエフが浮かせたバイクのハンドルを握って少し加速してみる、と。

 

「ねえ、これだけで針が振り切れそうなんだけど」

「っべえ、こんなんつけたら一般道走れないよ……最高」

「いやいやいやいや」

 

アイエフとしてはタイヤが回る回らないくらいの気持ちでやったのだが。

 

「おかしいわよね、これ。こんなの音速どころかフルスロットルだったら○ルトラマンより速いんじゃないの?」

「何を言ってるのアイエフ!ウルト○マンより遅いだなんて……そんなのただのバイクじゃないか!」

「私はただのバイクを求めてるのよ!」

「仕方ないな……。じゃあ1割抑えるよ」

「ほぼ抑えられてないわよ!9割は抑えなさいよ!」

「そんな……!じゃあこの四次元突入装置の取り付けは……⁉︎」

「諦めなさいよ!ていうか何よその危なっかしいものは!」

「仕方ないな……余剰のエネルギーはビーム砲に回すよ。多分、島が……なんでもない」

「今何か言いかけたわよねぇ⁉︎島ひとつ消えるようなビームが出るのよねぇ⁉︎」

「もう、アイエフはワガママだなあ。ぷんぷん」

「私が悪いの⁉︎ていうかぷんぷんって⁉︎」

 

溜息をついてミズキはまたカチャカチャとバイクを弄り始めた。

 

「リミッターを付けとくから。0なら出力は普通のバイク。10ならシュワッチする覚悟の速度で」

「魂がシュワッチするわよね。多分天国に向かって飛んでるわよね、私」

「で、あとはウイングとかを付けて……」

「……もうバイクの面影はないわね……」

「前輪には、ビーム砲」

「それはやっぱりつけるのね⁉︎」

「出力は控えめにしておくよ。火傷するくらい」

「まあ、それくらいなら……」

 

部品をとっかえひっかえ、バイクが生まれ変わっていく。

そしてそこに堂々と立っていたのはさっきの姿の面影もないバイクだった。

 

「まず、これは兵器だからね。声紋認証及び指紋認証機能付き」

「声紋と指紋?」

「指紋はハンドル部分、声紋は直接バイクに話しかけるか電話で。とりあえず僕とアイエフの分を登録しておくね」

 

ピピッとミズキが新しく取り付けられたコンソールを叩いて認証が終わる。

 

「で、人工知能……というより、これはS○riだね」

「Sir○なのね」

「起きて」

《はい、マスター》

「呼び方は何がいい?マスターとかご主人様とかあるけど……」

「マスターでいいわよ。それで、この兵器類は?」

「ミサイルとビーム砲。威力と性能は説明した通り。さすがにこれは試し射ちするわけにはいかないね」

 

クスクスと笑ってミズキは武器ロックもかけた。

 

「で、空を飛びます」

「飛んでしまうのね……」

「リミッターを5まで解除すれば出来るよ。滑走路が必要ではあるけどね」

「はあ……。もういいわ。これでお終い?」

「そうだね。あとは……」

 

ミズキがまたコンソールをカチャカチャと弄る。するとバイクに取り付けられていた部品が全て消えて元のバイクの姿に戻った。

 

「手入れ、しようか」

「……そうね。手伝ってくれるわよね?」

「もちろん。あ……」

「ん?まだあるの?」

「………名前、どうしよう……」

「え?」

「普通名前つけるよね?何たら号とか……」

「……………」

「案ある?」

「任せて」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアは散歩がてら教会から外に出た。

すると遠くから叫ぶ声が聞こえてくる。

 

「………?なんだろう?」

 

ネプギアはふらふらとその声に惹かれるようにして歩く。

そこにはガレージがあった。

 

「ここ、確かアイエフさんの……」

 

ダカラ!ヤッパリコレクライガ!

ワカッテナイワネ!ドイツゴトフランスゴノロマンヲ!

 

「あれ、ミズキさん?」

 

ガレージの中は明かりがついている。

ネプギアはそれを覗き込んだ。

 

「ここはシンプルにハウンドドックとかどうだ!」

「なってないわね!モイヒェルメルダーとかどうよ!ドイツ語で暗殺者って意味よ!」

「君は諜報員でしょ!天使の名前とかどうだ!デュナメスとかキュリオスとかヴァーチェとかナドレとか!」

「カタカナを脱してみましょう!流星号とかどう⁉︎」

「ダサい!暴走族みたいだよ!朱雀天昇号とか!」

「私のバイクは緑なのよ!朱雀は赤色じゃない!」

「だからって玄武はおかしいでしょ⁉︎」

「やっぱり神様の名前よね!さっき天使の名前も出たけど、空を飛んで悪しき者を捕まえる……それはやっぱり神様の役目よね!天空の女神のディオネとか!」

「くっ、なかなかいい名前だけど……!君は悪役の名前に惹かれないの⁉︎悪魔の名前でどうだい⁉︎バルバトスとか!」

「くっ、それはわかるけど!」

「…………………何を、言ってるんでしょう……」

 

ネプギアはあまり見たくないものを見てしまったようだ。

ネプギアは何も見なかったことにしてそこから静かに去った。

 

 




ウルトラ○ンの飛行速度はまあ…ウルト○マンごとに違いますがマッハ3とか、もっと速かったり。
ガンダムの名前の由来を(知ってる限り)並べてみました。ダブルオーの機体のガンダムは大体が天使の名前だそうで。流星号はオルフェンズより。オルフェンズのガンダムフレームの機体の名前はソロモン72悪魔から抜粋されています。だから建造されたガンダムフレームも72体なわけです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラステイション全焼の危機

タイトルは内容とほとんど関係はありません。
ちょっとラステイションが灰になるだけですよ。ハハッ。


ミズキは町で往来する人々を眺めていた。

今日はネプギアとの約束を守ってネプギアと出かけたのだが、ここに到着した途端にネプギアは何処かへ行ってしまった。サプライズがあるらしいが。

 

「…………」

 

そんなわけで暇だから壁にもたれかかりながら街を歩く人を見ていたわけである。

するとネプギアが行った方向から声がした。

 

「ちょ、ちょっとネプギア!何処に行く気⁉︎」

「ほら、早くユニちゃん!待ってるよ!」

「だから誰が⁉︎」

 

そんな声が聞こえる。片方はネプギアで、もう片方はユニらしい。

すぐにこちらに向かってくる2人の少女が見えた。

 

「はぁ、はぁ……お待たせしました!」

「クスクス、僕も今来たとこだよ」

「あれ⁉︎私と一緒に来ましたよね⁉︎」

「み、ミズキさん⁉︎お、おはようございます!」

「そんなにかしこまらなくても。クスクス……」

 

サプライズはユニらしい。

 

「今日はユニと一緒に買い物?」

「はい」

「ちょ、ちょっと、ネプギア!聞いてないわよ!」

「クスクス、僕も聞いてない」

「せっかくだし、いいかなって……って、ゆ、ユニちゃん、なんで引っ張るの?」

「いいからこっち来て!」

「…………?」

 

ユニとネプギアは後ろを向いてコソコソと話を始めた。その声はミズキには聞こえない。

 

(なんで黙ってたのよ!そうとわかってれば……!)

(ユニちゃん、嫌だった?)

(嫌じゃないわよ!むしろ大歓迎だけど!それはさておき、私にはお姉ちゃんがいるのよ⁉︎)

(……?私にもお姉ちゃんはいるけど?)

(そういうことじゃなくて!私がお姉ちゃんに黙ってミズキさんとデート紛いのことしてるってバレたら大変よ!)

(あ、あ〜……。ノワールさん、ミズキさんのこと好きなんだっけ……)

(嫉妬の炎でラステイション存亡の危機よ!もう!)

 

「呼んだ?」

「な、なんでもないです!とにかく、今日はネプギアとショッピングに来たの!いいわね!」

「う、うん!」

「…………?」

 

ミズキは首をひねる。

 

「それで、今日はショッピング?電気屋には行かなくていいの?クスクス……」

「そ、それは後で」

「一応、ネプギアとは服を買う予定だったので、そうしたいと思います!」

「じゃあ、僕は荷物持ちだね」

「………なんか、ミズキさんって損な立場にいたんですね」

「女の子と買い物に行ったら男は荷物持ち。これは常識、って教えられたかな。クスクス……」

「………私はちゃんと荷物持とう」

「私も」

 

ネプギアとユニはそんな決意を新たに秘めたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「これなんかどう?」

「それはネプギアに似合うんじゃないの?」

 

きゃっきゃきゃっきゃと服を選ぶ2人を後ろから保護者のようにミズキが眺める。

 

「ミズキさんはどう思いますか?」

「ん?そうだね……この防弾チョッキなんかどうかな」

「実用性ピカイチ!ってそうじゃなくて可愛い服をチョイスしてください!」

「……確かにちょっと無骨すぎたかもね」

「そういう問題でもないんです!そもそもが違うんです!」

「それ以前になんで服屋に防弾チョッキがあるのよ……」

「この花柄とかどう?水玉もあるけど」

「バリエーション豊富ですね⁉︎」

「……ちょっとネプギアにはサイズが合わないかな」

「サイズの問題でもありません!」

「うわ、シュワちゃん用とかあるわよ、これ。本当にバリエーションだけは凄いのね」

「アイルビーバック!」

 

ネプギアがカルチャーショックの連続で狼狽えている。

 

「じゃあ、この『一見普通の服だけど力をセーブするために封印が施されている服』は……」

「誰のため⁉︎本格的にここは誰のための服屋かわからなくなってきましたっ!」

「見て、ネプギア。ここのベルトはカードを入れてターンアップすると人間でも変身できるらしいわよ」

(ブレイド)!古いです!筆者の年齢がわかります!」

「見てネプギア。ナマコがプリントされてる服だよ。面白いね」

「普段なら面白いと言えてますけどこの状況ではとても言えません!」

 

ネプギアがぜえぜえと息を切らしたあたりでボケるのをやめる。

 

「そうだね……。ロムとラムくらいに小さい子供とかはよく服買ってあげてたし……。ベールくらいの身長ならカレンやシルヴィアの服を参考にできるんだけどね……」

「私達くらいの身長の子はあまり服買わなかったんですか?」

「ていうか、自分で選んじゃうからさ。ううん、これと……」

 

数分後。

試着室からネプギアが出てきた。

 

「なんでチャイナドレスなんですかっ!」

「……エロいな」

「……エロいですね」

「やめてください!」

 

そんなこんなで今日のショッピングは数着服を買うだけで終わった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そして街。

ネプギアの行きたい電気屋に向かって歩いているがもう時間は昼を過ぎていた。

 

「何か食べてく?」

「あ〜……確かにお腹空いたかも」

「でも、ここら辺にお店は……」

 

周りを見渡すがそこは公園のど真ん中だ。噴水が水を吹いている。

 

「探してくるよ。2人はそこのベンチに座ってて」

「あ、でも」

「疲れたでしょ。これくらい、任せてよ」

 

そう言ってミズキは行ってしまう。

ネプギアとユニは素直にベンチに座った。

 

「なんだかんだ服も持ってもらっちゃってるし……」

「相変わらず、頼りになるというか献身的というか……」

 

ふう、と2人は息を吐く。

 

「ねえ、ミズキさんは他の国には行かないの?」

「ううん。迷惑かけたのを謝るのとお礼で1度は全部の国を回るかもって言ってた。でも、お姉ちゃんが許してくれなくって……」

「ネプテューヌさんが?どうして?」

「ほら、ノワールさんとかに告白されて付き合っちゃったらプラネテューヌから出てっちゃうかもしれないから……。そのこと自体は言ってないけど、とにかくダメ!って」

「……修羅場の可能性もなきにしもあらずよね」

「うん……」

 

今度は2人で溜息を吐く。

ミズキのことはもちろん好きだが……憧れの感情が強い2人にとってはなんていうか、優しい先生とかお兄さんみたいな好きだ。

だがそもそもミズキが女神ですら、妹ないし年下の女の子のように扱っている節がある。

ユニはミズキの中に入ったノワールから『ミズキは恋愛感情を抱かない』という話を聞いてはいるが、どうなのだろうか。

するとユニは遠くでこちらをチラチラと見ながらコソコソ話す男達を見た。

なんだか『金!暴力!S○X!』とか言いそうな奴らだ。

 

「ネプギア、離れましょう。ちょっとああいうのは……」

「え?ゆ、ユニちゃん?」

 

ネプギアの手を引いてベンチから立つ。

あんなのに絡まれるなんてごめんだ。

だがこちらが立ったのを見て男達はこちらに寄ってきた。

 

「もう……!」

「ゆ、ユニちゃん?」

 

後ろを振り向かずにスタスタと駆け足で歩く。

その肩がポンと叩かれた。

 

「触んないでっ!」

「おっと」

「え?」

 

振り向いて拳を振り回したがそこにいたのはミズキさんだった。ミズキさんは軽く拳を手のひらで受け止めた。

 

「あ、あれ?あいつらは……?」

「女の子と外を歩く時。障害はできるだけ未然にスマートにカッコよく排除しろ。ってさ」

 

ミズキが指差す先にはなんだか倒れて悶えている男達。

 

「何したんですか?ミズキさん」

「ん?………ちょっとね」

 

ネプギアの質問に顔を背けるミズキ。

 

「ちょっと、ちょっとだけだよ?ちょっとだけ、ユメミダケの粉を……」

「え」

「え」

 

ユメミダケ、というのは体から胞子を吹き出すモンスター。その胞子は痺れ粉であり、さらに幻覚まで見てしまう。

ネプギアとユニは以前にEX化したユメミダケと戦った苦い思い出があるのだが……。

 

「まさか、あの時の粉を⁉︎」

「だ、だからほんの少しだけだよ!」

「……ミズキさんって偶にえげつないことしますよね……」

「あ、あはは……。まあ、2人をナンパしようとしたんだ」

 

そう言って2人の頭に手を乗せてくしゃくしゃと撫でるミズキ。

 

「あれくらいは、ね。クスクス」

 

そう言われてからユニがはっと無礼に気付く。

 

「あ、わ、私殴っちゃって……!」

「え?ああ、いいよ別に。鋭いパンチだったね。クスクス……」

「そ、それはなんだか女子としては嬉しくない……」

「あ、そうだ」

 

ミズキが空中から湯気を立てるたい焼きを取り出した。

 

「たい焼き、好きかな?」

 

たい焼きは美味しい。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ふはぁ、極楽です……」

「これだけあればユニのライフルもとある科学で超電磁砲に出来るよ」

「いいです!そんなレベル5な能力はいらないです!」

「ベクトル操作くらいにしとく?」

「出来るんですか⁉︎」

 

電気屋から3人で外に出る。

ネプギアはご満悦で機械類を眺めていてミズキは慣れた様子でカゴに機械類を入れていきユニはそんな2人を遠巻きに眺めていたのである。

 

「それじゃ、帰ろうか。荷物、持てるかな?」

「あ、はい、大丈夫です。ありがとうございました」

「クスクス、いいよ。それじゃ、またね」

「はい!」

 

ユニが荷物を持って行ってしまった。これからラステイションに帰るのだろう。

 

「さて、僕らも帰ろう……ん?」

「ミズキさん?どうかしましたか?」

「これ、ユニのだよね?」

 

ミズキさんが持った袋はユニが買った服が入った袋だった。

 

「あ、そうですね。今から走れば間に合うかな……」

「いや、いいよ。今からラステイションに届けてくる」

「ラステイションの教会にですか?」

「うん。10分くらいで戻ってこれると思うけど……早く帰ってそれ、使いたいでしょ?」

「は、はい……。凄く、ウズウズしてます」

 

ネプギアが抱えているのは電気屋で買った機械類。早く弄りたくて仕方ないのだろう。

 

「クスクス。それじゃ僕はラステイションに行ってからそのまま教会に帰るよ。帰る時間は同じくらいになるね」

「はい。それじゃ」

「うん、また教会でね」

 

ミズキさんは変身して荷物を持ったままラステイションの方向へと飛び立った。

 

「うん?荷物を届けに……ラスティションの教会?」

 

何か、大変なことが………。

 

「ああっ!ノワールさんがっ!」

 

この後ラステイションが燃えたとか燃えなかったとか。




そのための、右手。あとそのための拳。
ちなみに僕は餡子が嫌いなのでたい焼きは食べたことないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デート・改

またデート回。これから多くなるとは思うんですけどね。


 

ネプテューヌが机の上で書類に向かっている。

その顔はむすっとしていてあまり機嫌が良くは見えない。

その部屋のドアを開けてミズキが入ってきた。その手にはジュースが入ったコップが握られている。

 

「はい、ネプテューヌ。お仕事お疲れ様」

「……ありがと」

「もう、機嫌直してよ、ネプテューヌ。せめて理由だけでも教えてよ」

「だから、言えないの〜!」

「はいはい。クスクス……」

 

結局ネプテューヌは女神達に押されてミズキの国巡りを許可することになってしまった。そのせいで不機嫌なのである。

 

「ネプテューヌ、午後空いてるかな?」

「え?空いてるよ〜」

「じゃあ、ちょっと出掛けようか」

「何処に?誰と?」

「ネプテューヌと。場所はまだ決めてない」

 

書類から目を離してミズキの方を見るといつものようにニコリと笑っているミズキが。

 

「約束、守ろうと思って。ネプテューヌの行きたい場所に行こう。ゲーセンでも、何処でも」

「ん、ん………」

 

生返事をして書類に目を戻す。

なんだか恥ずかしくて顔を見てられないからだ。

するとミズキがネプテューヌの横の書類の束を持って行った。

 

「そうと決まれば手伝うよ。ネプテューヌも行きたい場所、考えといて」

「わ、わかった……」

「クスクス、それじゃあね」

 

ネプテューヌの頭を優しく撫でてミズキは部屋を出て行く。

ネプテューヌはミズキの手の温度が残る頭にそっと手を置いた。

 

「断れるわけないじゃんか……ふんっ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「それで、やっぱりゲーセンなんだね」

「ええ。もちろん、他の場所にも行くつもりよ?」

「クスクス、任せるよ」

 

やってきたのは再び爆音鳴り響くゲーセン。

ネプテューヌは変身していてやっぱりミズキと腕を組んでいる。

 

「それじゃ、またクレーンゲームする?」

「い、いいわよそれは。格ゲーするわよ」

「クスクス……」

 

ネプテューヌが前のことを思い出して赤面する。さっさとネプテューヌは格ゲーの台に陣取った。

 

「さあ、始めるわよ。今日もボコボコにしてあげるわ」

「どうかな?僕も帰ってきてからプラネテューヌで格ゲーはやってたけど」

「ふふん、せいぜい数日でしょ?このゲームの熟練者である私に敵うはずがーー」

 

《1P、WIN!》

 

「私としたことが……死亡フラグを立てすぎたわ……」

「クスクス、忘れてた?僕はなんでも出来るんだよ」

「ひ、卑怯よそんなの!」

「さて、負けた方は勝った方の言うことを1つ聞いてもらうよ」

「あれ⁉︎そんな話あったかしら⁉︎」

「行間に目を凝らしてごらん。うっすらと見えてくるはずだよ」

「行間に、行間……見えるはずないでしょ⁉︎」

「クスクス、命令するよ」

「話聞いてるかしら⁉︎」

「クレーンゲームをやろう。またネプテューヌにプレゼントしたいからさ」

「む……す、好きにしなさい!」

「クスクス、そうする」

 

ミズキは少し前に行ってそれからネプテューヌの方を振り返った。

 

「どうかしたの?一緒に行こうよ」

 

そう言って手を差し出してくる。ネプテューヌは意固地になりながらその手を乱暴に掴んだ。

 

「それで、今日は何をとるのよ?」

「ん〜……どうしようかな」

 

ミズキはキョロキョロと周りを見ながらネプテューヌの手を引いて歩く。

 

「それじゃ、この『にゃんにゃん先生』にしようかな」

 

にゃんにゃん先生とはとある漫画に出てくる招き猫のキャラクター……らしい。

 

「犬の次は猫?」

「うん。それじゃ、任せて」

「また『なんでもできる』ってやつかしら?」

「この前とは景品の形が違うからね。そんなにうまくはいかないと思うな」

 

苦笑いしながらミズキはコインを入れるべくネプテューヌの手を離す。

ネプテューヌはほんの少しだけ寂しそうな顔をした。

 

「ん〜………ここかな……?」

 

ミズキがクレーンを操作している。

なんだか寂しくて下を向いたネプテューヌの目にミズキのズボンからぶら下がる物が見えた。

 

「ん、失敗か……」

「ねえ、ミズキ」

「うん?」

「そのキーホルダーって……」

「ああ、これね」

 

ミズキがちゃらりと音を立てるキーホルダーを見る。

それはいつかの時にネプテューヌがミズキにプレゼントしたものだ。

 

「もしかして、ずっと持ってたの……?」

「まあね。汚れちゃったりしたんだけど……これだけは、失くさないようにしてた」

 

優しげにキーホルダーを撫でるミズキ。ところどころ色が剥げたりしてしまっているものの、きっとこのキーホルダーはミズキの旅を全て見てきたのだろう。

 

「途中、何回も挫けそうになったんだよ。ネプテューヌ達が心配になった時もあった。けど、このキーホルダーを見ていると頑張れる気がしてね」

 

ミズキはネプテューヌに歩み寄った。そしてその頭を優しく撫でた。

 

「だから、ありがとう。それとごめんね。たくさん、悲しませちゃったし泣かせちゃった」

「………っ、バカ……!」

「んっ……ネプテューヌ………」

 

ネプテューヌがミズキの胸に飛び込む。胸がじんわりと温かくなる。ミズキはそれを優しく見つめて抱き締めた。

 

「……ネプテューヌ、恥ずかしいよ」

「ダメよ、これは罰なんだから……!また私を泣かせた罰よ……!」

「ネプテューヌ……。クス、僕はやっぱり甲斐性なしかもね」

 

通路の中とはいえこんな場所で抱きかれて目立たないはずもなく。

ミズキはネプテューヌの言う『通行人から凄い好奇の目で見られる上に写真をめちゃくちゃ取られる』という罰を甘んじて受けていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「もう大丈夫?ネプテューヌ」

「い、いいわよ。もう、大丈夫だから」

「なら、次に行きたいところはある?」

 

ネプテューヌは泣いてしまったことに赤面しているものの、ミズキが繋いだ手を離してくれないのでなんだか微妙な距離で歩いていた。

ミズキはなんだかんだ数回目のチャレンジでしっかりとぬいぐるみを取ってしまってそれを担いでいる。

 

「でも……他に行きたいところないのよね」

「ゲーセン以外に選択肢ないって……」

「そ、そんな顔しないでよ……」

 

なんだかしおらしくなってしまったネプテューヌ。

ネプテューヌは恥ずかしがるとしおらしくなるということをミズキは学習した。

 

「それじゃ、僕の行きたいところに行かせてもらおうかな」

「ミズキが?別にいいけど……何処に行くの?」

「ん〜……何処か、綺麗なところ」

「綺麗?」

「そ。森でも海でも公園でも……景色が綺麗なところに行きたい。心当たりはある?」

「そうね、それなら森の方へ行きましょう。私がお気に入りの場所があるの」

「それじゃ、そこへ行こう」

 

ネプテューヌと一緒に森まで歩く。そこまで距離はないし、ミズキもクエストに行っているので森の場所はわかる。

 

「ミズキ、私もごめんなさいね。アンチクリスタルを集めるためって知らずに、迷惑かけて……」

「迷惑なんかじゃないよ。たくさん後悔したし失敗もしたけど、それはネプテューヌのせいじゃない」

「いいえ、私のせいよ。ミズキがここを出ようとした時も、私……」

「ネプテューヌは間違ってないよ。僕だって立場が逆なら同じようなことをしてたよ。ちゃんと話さなかった僕も悪いしね」

「でも、それでもごめんなさい。私、ミズキと離れたくなくって……」

「わかってる、わかってるよ。だから何も言わなくっていい」

「うん……。でも、これだけは言いたいの。ミズキ、ありがとう。私達を助けてくれて、本当にありがとう」

「……どういたしまして」

 

ネプテューヌがミズキと距離を詰めて腕を組む。

もう日は沈もうとしていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌが言うお気に入りの場所はプラネテューヌが一望できる崖の上だった。

日はもう沈みかけていて夕日が綺麗だ。夜になればきっと満点の星空が見えるだろうし。

 

「私ね、ここが好きよ。プラネテューヌが一望できて、国民の皆も見れて。私の家だって気がするの」

「うん。僕もこの国が好きだよ。みんなが楽しそうに笑ってるこの国が好きだ」

 

2人は崖の上からプラネテューヌを見下ろす。

いつの間にか日が沈んで夜になった。少しずつプラネテューヌの街に電灯が点いて煌びやかになっていく。

 

「ねえ、ここはミズキの家よ。いつだって帰ってきていい、家なの」

「うん。わかってる。ここは僕がいていい街だ」

「だから、ね?ミズキ……」

 

ネプテューヌが縋るようにミズキに近付く。

ミズキがネプテューヌと向かい合う。

 

「帰ってきてね?またいなくなっちゃ、イヤよ……?」

「うん。また帰ってくる」

 

ミズキがネプテューヌの頬を撫でる。ネプテューヌはその手に手を重ねた。

 

「だから、はい。これ、預けるよ」

 

ミズキがズボンからキーホルダーを取ってネプテューヌの手に握らせた。

 

「僕が帰ってくる時まで預かっておいてね、ネプテューヌ」

「……ええ。きっと、預かってるわ」

 

しばらく2人はそこでプラネテューヌの街並みを眺めていた。




さあ、国巡りの始まり始まり。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒の国の初恋

短めです。一国一話のペースで。


 

ラステイション、教会。

ノワールとユニは今にも泣き出しそうな顔で書類に向かっていた。

2人の左側には終わらせた書類の山。その山は迅速かつ正確な2人の作業によってどんどん高くなっていく。

2人の右側にも書類の山。それは左の終わらせた書類の山の軽く3倍ほどはある。これが終わらせてない書類の山だ。

2人は懸命に書類の山を低くしていくものの全く減る気配がない。

何かに追われるように仕事をしている2人がいる部屋にチン、とエレベーターが到着する音がする。

 

「!」

「!」

 

2人はまるで油が切れたロボットのようにギギギと首をエレベーターの方へ向ける。

そしてエレベーターの扉が開いた。

 

「おはよう、ノワール、ユニ。久しーー」

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁん!』

 

「ええっ⁉︎」

 

ノワールとユニが突然泣き出した。

 

「え、えと、その、ご、ごめん?と、とにかく泣き止んで、ね?」

 

『びぇぇぇぇぇぇぇん!』

 

「何故⁉︎」

 

ミズキが近寄って2人を慰めるとさらに2人が激しく泣く。

ミズキは狼狽えながら2人が泣いているのを懸命に慰めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「仕事が終わらない?」

「………うん」

「そうなんです……」

 

それからしばらくして、2人はしゅんとしてミズキの前に座っていた。

 

「今日はなんだか特に仕事が多くって……いつもはこんなにないんだけど……」

「私達でも1日かかるような量で……それで、ミズキさんが来る時間に間に合わなくって……」

「なんだ、そんなことか……」

 

ふぅ、と安堵の息を吐く。

泣くほど嫌われたのかと心配になった。

 

「手伝うよ。早く終わらせちゃおう」

「ううっ、ミズキぃ………」

「あ、あ〜、もう泣かないで……。どれだけ弱ってるの……」

「み、ミズキ、さ……うぇぇぇぇん!」

「もう泣いてるだと⁉︎」

 

相当追い詰められていたらしくいつもよりやたらとメンタルが弱い。

ミズキはとんでもない高さの書類の半分を取った。

 

「さ、頑張ろう。大丈夫、すぐに終わるさ」

「う、うん。そうよね。すぐに終わるわよね」

「が、頑張ります」

「クスクス、その意気だ」

 

ミズキの励ましで元気が出た……というよりかは吹っ切れた2人が仕事に復帰する。ミズキも片っ端から書類を片付けていく。

 

「ルウィーで見せたらしい手腕、頼りにしてるわよ」

「あれはジャックにも手伝ってもらったから……」

 

苦笑いしながら書類を片付けていく。そんなことを言いながらもミズキが書類を片付けるスピードはノワールに勝るとも劣らない。

案外、書類整理は早く終わったのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そして3人はモンスター退治へと向かっていた。

 

「あ〜あ、せっかくミズキにラステイションを見てもらおうとプランを立てたのに、台無しよ」

「クスクス、それはまた次の機会にね。別に今回が最後ってわけじゃないんだから」

「また来てくれるんですか⁉︎」

「滞在は難しいかもしれないけど、遊びに行くのはいつでも行けるから。予定が合ったら、また案内して」

「わかったわ。その時こそ、私の国を見せてあげるんだから」

「と、言っても僕もそこそこラステイションは歩いたけどね」

「え?いつ来たのよ」

「アンチクリスタルを探してる時。森の中だけじゃなくて街の中も見てたんだ」

 

ミズキが困ったような笑顔でこちらを見る。

 

「アンチクリスタルの時はごめんね、2人とも。それと、ありがとう」

「いいのよ、別に。お互い様……って言いたいけど、まだまだ借りはあるし」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

ノワールは顔を背けて、ユニは素直に頭を下げる。

 

「クス、ありがと」

 

そう言ってまた3人は森の中を歩き出す。

 

「ミズキは、ラステイションで何をしてたの?」

「ここでは……EXモンスターを追ってたくらいだよ。プラネテューヌを出て初めて寄った国でもある」

「……どう?私の国。パッと見た感じは」

 

ノワールは少し心配していた。ミズキはネプテューヌの国が好きだと言っていた。ならば、私の国はどうなのだろう。優れているという自信はある。けれど、それと好かれるかどうかは別問題だ。

 

「心配しなくてもいいよ。この世界の国はみんなが国民を幸せにしたくて、それを追い求めてるのがわかるんだ」

 

ノワールの頭をミズキが撫でる。

 

「ちょ、ちょっと!子供扱いしないでよ!」

「ごめんごめん」

 

ノワールの頭から手を離す。そして今度はユニの頭を撫でた。

 

「な、なんで私……」

「ノワールが嫌だって言うから。クスクス……」

「か、からかってますね⁉︎」

「ごめんごめん。クスクス……!」

 

ミズキはユニの頭からも手を離す。

 

「ネプテューヌはみんなを幸せにする方法が笑顔になることだと思ってる。ノワールはみんなを幸せにする方法が国を発展させることだと思ってる」

 

ラステイションは工業国家。

ノワールは特に工業に力を入れて国を潤わしているのだ。

 

「本当にみんなのことを考えて国を作る。そんな人が作ってる国だ、嫌いなわけないよ」

 

もう1度ミズキはノワールの頭に手を伸ばす。が、触れるか触れないかのところで手を止めた。

 

「な、なによ」

「撫でて欲しい?クスクス……」

「い、いらないわよ!」

「はいはい」

「〜〜〜!」

 

顔を背けたノワールの頭を撫でる。ノワールは耳まで真っ赤になってしまった。

少しデコボコした3人はモンスター退治を依頼された場所に進んでいた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そして次なる場所は静かな湖畔。

森から少し離れた草原にミズキは寝っ転がった。

 

「ん〜……気持ちいい……!」

「そうね。私もこういうのは嫌いじゃないわ」

「私はここ初めて来たな……」

 

モンスター退治も終わらせてすぐ近くに湖畔があるとノワールが言うのでついてきた。

周りにはモンスターなどおらず、ただ静かな風が吹き抜ける安らかな空間だ。

 

「このまま寝ちゃいそうだよ」

 

ミズキは目を閉じて笑顔になっている。このままでは本当に眠ってしまいそうだ。

 

「……私も寝ます!」

 

ユニがミズキの隣に寝転がった。

ユニが閉じた目の片方だけを開いてノワールに目配せをする。

 

「ぐ………」

「ノワールはどうする?」

「わ……私も寝るわ」

「そっか。じゃあみんなでお昼寝にしようか」

 

ミズキを中心にユニとノワールが寝っ転がる。

ミズキは大の字で寝ていてノワールとユニはミズキを向いて寝転がっている。

 

「……………」

 

ノワールは目を閉じずにミズキの横顔をじっと眺める。

安らかな顔で目を閉じているミズキの顔は何故かとても安心できる。ずっと隣にいたいとそう感じさせる。

もっと近寄りたいと思う。物理的な距離だけでなく、心の距離も。知ってることも知らないこともあるってことを許せてしまう間柄になりたい。

多分、この胸がじんわりと熱くなるような気持ちは恋だ。証拠はない。確信なんてない。恋なんて初めてなのだから。

これは恋なんかじゃないのかもしれない。勘違いなのかもしれない。

あるいは他のみんなが抱いている気持ちこそ恋なのかもしれない。みんながまだ気付いていないだけなのかもしれない。

 

この気持ちを誰かに定義してもらいたい。それは恋なんだよ、愛なんだよと。あるいは勘違いだよ、それは恋ではないと。

でもこの気持ちを知ってるのは私だけ。誰かに定義してもらうことなんて出来ない。

なにより、私が他人にそう言われたからってこの気持ちを恋だと信じることをやめはしない。

きっとまだ気付けていないことは驚くほど近くにあって有り得ないほど遠くにある。

でも、これから何があったってきっと私がこの気持ちを恋だと信じることはやめないから。恋を疑うことはしないだろうから。

 

「ん……ノワール?」

「……………」

 

ミズキの投げ出した腕の上に頭を乗せる。腕枕というやつだ。

 

「枕。……枕がないと、眠りにくいでしょ……」

「……うん、眠りにくい」

 

ミズキはノワールのほんのり赤く染まった顔を見てクスクスと笑う。

まったく、気付いているのかいないのか。甘えてると思ってるのだろうか。

この気持ちを信じてる。疑うことはきっとない。でも、素直にはまだなれないから。

 

「ん……………」

 

今はまだ、こうしてるだけで。

3人は川の字になってぐっすりと眠った。

 




果たして国巡りはどうなるのか。まあ山もオチもないような平坦な話になってしまうと思うんですが。私のアイデア不足が原因。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白い雪の温もり

ラステイションを出てミズキはルウィーへ。


 

しんしんと雪が降り、常に街が雪で化粧をする街、ルウィー。

美しさと静けさを兼ね備えたような肌寒くも暖かな街。

だが、そんなルウィーは今。

 

「ねえねえ、お姉ちゃん!執事さんまだ⁉︎」

「もう、時間10分も過ぎてる……!」

「……私も待ちわびてる。けど、さすがに……」

 

ピュオオオオオオ!

 

「この吹雪じゃね……」

 

ルウィー、天気。猛吹雪。

 

「昼には止むってテレビで言ってたよ!」

「それに、連絡もない……!」

「私も電話はした。ラステイションは出てるらしいから、ルウィーに向かっているのは確かよ」

「じゃあなんで来ないの⁉︎」

「この吹雪じゃろくに前も見えないし……迷ってるのかもしれないわね」

「仕方ないけど……残念……」

「あるいは、ミズキに限ってないでしょうけど……」

 

遭難。ないし、凍死。さすがに救神の英雄が雪に負けましたでは笑い話にもならない。

多種多様な性能を持つと言われるガンダムのことだ、悪天候にも耐えるガンダムくらいあるはず。

そう思っているとパソコンが光って音を立てた。着信の音だ。

 

「執事さん⁉︎」

「多分。……もうすぐ門の前に来るらしいわ。迎えに行ってあげて」

「は〜い……!」

 

届いていたのはメール。遅れてごめんとも添えられてある。

ブランは『大丈夫、気をつけて来て』と返信してから玄関へと向かった。

 

 

ロムとラムは元気に走って玄関へと向かっていた。

門の前に到着したところでちょうど大きな門が音を立てて開かれた。

 

「執事さんおそ〜い!15分のちこ……く……?」

「だ……れ……なの……?」

 

玄関を開いた先にいたのは全身を真っ白い雪で包んだ雪男。

ロムとラムはつい最近見たミステリー番組を思い出す。

雪男は人間を食べてしまうのだ!そして食べられた人間は、骨すら残らない……!

 

「ロム、ラム………」

「きゃあああ呼ばれたぁぁぁ!」

「来ないでぇぇ………!」

 

ロムとラムは泣きながら後ろにダッシュ。ちょうどやって来たブランに抱きついた。

 

「どうしたの、ロム、ラム……」

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆゆゆき!」

「おとおと、おとこ……!」

 

ロムとラムが震えながら指をさす。その先には確かに雪男と言える風貌の者が立っていた。

 

「………まさか……」

 

ブランはハンマーを取り出す。と言ってもピコピコハンマーレベルのミニサイズだ。

そしてロムとラムをその場に置いて雪男へと近づいて行く。

 

「ブラン………」

「………やっぱり」

 

コン、とブランがミニハンマーで雪男の頭を叩く。すると雪男を包んでいた雪はバラバラと崩れ去り………。

 

「……ロム、ラム。お風呂入れてきて」

 

ミズキがいた。

 

「寒い、よ、ブラン……」

「………気の毒ね」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「はぁ〜………生き返る……」

 

ミズキが温かいお茶を飲んで溜息をつく。

 

「何をしたらあんな雪男になれるのよ」

「吹雪だって聞いたから早めにラステイションを出たんだけどね。ひたすら歩いてたらああなっちゃった」

 

結局ラステイションでは2人と昼寝をした後教会でご飯をご馳走してもらった。たくさん話をしてから寝て、吹雪だというニュースを聞いたので早めにラステイションを出たのだが吹雪を舐めてた。さすが主人公。駆逐艦だからとバカにしてた。

 

「執事さん、逃げてごめんなさい……」

「ごめんね……」

「ううん、こっちこそごめんね。泣かせちゃった」

 

ミズキはカップを置いて2人の頭を撫でた。

 

「それで、どういう予定なの?外とかに遊びに行く?」

「いいえ、ずっとこの教会にいていいわ。午前中はロムとラムに預ける」

「本当⁉︎」

「遊んでいい……⁉︎」

「ブランはどうするの?」

「私は残った仕事を片付けるわ。終わったらまた……しましょう」

「わかった。無理はしないでね」

 

仕事に追われた状態では安心して読書などできない。

ブランは1人残されたものの……決して孤独感や疎外感は感じず、この後に残された楽しみに想いを馳せた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そしてミズキはロムとラムに部屋に連れ込まれていた。

 

「執事さん、遊ぼう!」

「遊ぼう……!」

「今日は何するの?またオセロ?」

「麻雀……とか……?」

「麻雀⁉︎」

「あのね、私の得意技は嶺上開花なのよ!」

「咲いた!それを咲かせられるの⁉︎」

「私はね……国士無双十三面単騎待ち……!」

「得意技であってたまるか!冗談じゃない点数が持ってかれるよ⁉︎」

「むぅ。じゃあシャ○バ!」

「シ○ドバ⁉︎」

「執事さん……ワガママ……!」

「いや、僕がしばらく会わない間に2人は何を覚えたの⁉︎」

「仕方ないよ、ラムちゃん……。我慢してババ抜きしよう……?」

「仕方ないわね!我慢してあげるわ!」

「僕が悪いの⁉︎」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ブランが仕事をしていてもドアの向こうからはしゃぐ声が聞こえてきていた。だがブランはいつものように怒る気にはならなかった。

その声も今は止んでいてブランは静かに執務に集中できていた。

パソコンのエンターキーを押す。仕事、終了。

ふぅ、と息を吐いて椅子にもたれかかる。

その机に静かに紅茶が添えられた。

 

「ブラン、お疲れ様」

「……ありがと……」

 

一緒に置かれた砂糖を少しだけ混ぜて紅茶を飲む。おいしい。

 

「2人は……?」

「部屋にいてもらってる。もう昼ご飯の時間だよ」

 

そう言われて時計を見ればそんな時間だ。

 

「……ミズキが作るのよね?」

「クスクス、バレてるか」

 

ブランが得意げな顔で言うとミズキもバツが悪そうに頭を掻く。

 

「食べ終わったら、わかってるわね……?」

「もちろん。……本を読もう」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ロムとラムはいっぱいになったお腹をさすって教会内のとある扉の中を覗いていた。

本がいっぱいある場所。絵本や簡単な本は全て2人の部屋に置いてあるのでこの部屋にあるのは難しい本ばっかり。字だけの本ばかりだ。

だから2人はここに寄り付くことはないのだが今日ばっかりは事情が違った。

2人の目線の先にはただ座って背中合わせになって本を読んでいるブランとミズキがいた。

2人ともさっきから音も立てずに本に向かっていた。

 

(ちぇ、つまんな〜い!本読んでるだけじゃない!)

(でも……楽しそう……)

 

小声で会話する。

するとチラリとミズキがこっちを見て微笑んだ。

 

(バレた!)

(逃げろ〜……!)

 

2人はたったかたーとドアの前から逃げる。

それからミズキはまた本に向き直った。

 

「……………」

「……………」

 

じんわりと温まっていく空気はここが雪国であることを感じさせない。

特にブランはミズキにもたれかかっていて、背中から温もりが伝わるのでなおさらだ。

だがそれほどリラックスしているのにもかかわらずやっぱり本には集中できない。進まないし、頭の中に入ってこない。

それでもよかった。ただミズキの息遣いが近くで感じられれば。

ああ、もしかしたら私は本を読みたいんじゃないのかもしれない。近くでミズキを感じていたいだけなのかもしれない。

 

「ブラン」

「……なに……?」

 

唐突に名を呼ばれる。慌てて目線を本に戻したのは内緒だ。

 

「ごめんね、ブラン。それと、ありがとう」

「……気にしてない。私も謝らなきゃいけないし、感謝しなきゃいけない」

 

助けたのは事実だが、それ以上に助けられたのも事実。本来感謝すべきなのはブランの方だ。

 

「……私は、こうしてるだけで癒される。満ちてく。……ミズキは、どう?」

「……僕も、温められる。この時間好きだって、あの時も言ったよ」

 

顔は見えないがニコリと笑っているのはわかる。

ブランはなんだか胸がほわほわするのを感じた。たまらなく嬉しいのだ、私は。好きなこの時間が共有されていたとわかった。

 

「私、本が読みたいんじゃないと思う……。こうしてミズキが感じられていれば、本はなくてもいいんだと思う」

「……そうかもしれないね。こうしてブランの鼓動を感じられてれば、本はいらないのかもね」

 

そう言われてブランはさらに胸が熱くなるのを感じた。

ブランはパタンと音を立てて本を閉じる。ミズキも同じように本を閉じた。

 

「私……もっとずっと、ミズキを感じていたいわ……」

「いいよ、ブラン。遠慮なんかしなくたって」

 

静かな空間でブランがミズキの方を向く。

そしてブランは背を向けたままのミズキに抱きついた。

胸と腹、それに腕や顔にもミズキの温もりが広がっていく。ミズキを感じる。ブランはそれがたまらなく幸せだった。

 

「ブランを感じるよ。凄く、温かい」

「私も、ミズキを感じる……。鼓動が、わかる……」

 

ミズキの左胸の鼓動がブランの体に染み渡っていく。

ブランは自分のトクントクンと早鐘を打つ鼓動はミズキに伝わっているのだろうかと思った。

 

「今日は眠らないわ。だって、もったいない……」

「うん。いつまででも僕を感じていていいよ」

 

男の人に抱きつくのなんて初めてで。

でもこの胸の高まりと安心感はミズキ以外では感じられないものだと思うから。

このまま私とミズキの境界線がなくなって溶け合い、温もりを分かち合って1つになれたらな。ブランはそう思った。

そして、ミズキも同じならいいな、とも。




宮永ロム、宮永ラム。

次なる目的地はリーンボックス。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

失○れた未来を求めて

某有名エロゲより。


次なる国はリーンボックス。ミズキの国巡り、最後の目的地だ。

その国の女神たるベールはそわそわと落ち着きなく教会を彷徨っていた。

 

「………どういうことですの、ブランまで……」

 

ブランが『ミズキに陥落させられた』、と今日の朝告げた。そのことについては別に誰が付き合ってるわけじゃないのだからとやかく言うことではない。2人の女が1人の男に同時に惚れただけのことだ。そんな三角関係、ドラマでだってよく見る。

現にノワールも嫌に思ったわけではない様子だった。むしろ対抗心を燃やしてさらに意気込んだようだ。

そう、三角関係なら良く見るのだ。これで、もし、もしネプテューヌがオチて。あまつさえ私もオチるようなことがあれば。

 

「お、恐ろしいことになりますわ……」

 

想像しただけで恐ろしい。絶対ヤンデレが生まれる。

私だけはオチるわけにはいかないのだ。

そんな決意を固めていると職員が来客を知らせに来た。

時刻からしてミズキが来ると思われる時間よりまだ早い。と、すれば恐らく……。

 

「いらっしゃいませ」

 

扉を開けるとそこにはサングラスをかけてこちらを見る女の子が。

 

「5pb.ちゃん」

「うん、お邪魔するよ」

 

サングラスを外したその素顔は超次元アイドル5pb.。次元も時空も股にかけてバジュラを歌で鎮めたりする……しないですわね、はい。

5pb.を教会に迎え入れて案内する。

 

「よく休みが取れましたわね。忙しいのでしょう?」

「ミズキが来るって言うなら仕事してる場合じゃない。練習の1つや2つ、抜け出しちゃえるよ」

「悪い子ですね、ふふっ」

 

そうして部屋に着く。

今度は自力でしっかりと片付けた部屋に5pb.を座らせるとまた職員が来客を知らせた。

 

「今度こそ、ミズキ様ですわね。私が迎えに行ってきますから、5pb.ちゃんはここで待っててくださいまし」

「うん。ミズキの驚く顔が見たいよ」

 

来た道を折り返してベールがまた教会のドアを開く。

するとそこには日差しを浴びて眼を細めるミズキがいた。

 

「初めてまともな入国をした……」

「……どうしたのですか?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキがカップに3人分の紅茶を注ぐ。琥珀色の液体が静かな音を立てて深さを増していく。

 

「はい、出来たよ」

「ありがとうございます。もう1度ミズキ様の紅茶を飲んでみたかったのですわ」

「ベール様……普通紅茶を入れるのは逆だと思うよ……」

「クスクス、まあまあ。飲んでみたいって言ってもらったんだし」

 

コトリと紅茶がベールと5pb.の前に置かれる。2人はそれにお好みで砂糖を追加して口に含んだ。

 

「………やはり美味しいですわ。私が淹れてもこんな味には……」

「昔シルヴィア達に練習をさせられたことがあってね。だから慣れてるんだ」

「ボクは紅茶のことはよく分からないけど……美味しいと思うよ」

「クスクス、ありがと」

 

ミズキも自分の分の紅茶を飲む。

穏やかで温かい空気が部屋に満ちてーー。

 

「そういえば、なんでベールって妹がいないの?」

 

なかった。凍りついた。

 

「み、ミズキ、それは………」

「ずっと気になってたんだよね。それとも、いるけど教会から出れないとか?」

「………私に妹はいないのですわ」

「でも、そのうち出来るんじゃーー」

「いないのですわっ!」

「は、はい………」

 

キッとこちらを見る剣幕にミズキはつい返事をしてしまう。

 

「ですが、いつか手に入れるのですわ。フフ……ネプギア……待っていてくださいまし……」

「ネプギアはネプテューヌの妹だけど……」

「奪い取るのですわっ!何事も、欲しいものは奪い取るのがリーンボックスですわ!」

「あれ⁉︎私達の国ってそんな物騒な国だっけ⁉︎」

「だ、だいぶ拗らせてるんだね……」

 

ミズキはあははと苦笑いをする。

 

「欲しいって思ったら出来るものじゃないんだね、妹って」

「当たり前ですわ。ミズキ様だって、そんなに手っ取り早く妹が作れるわけないでしょう」

「義兄妹ならたくさんいたけどね」

「義兄妹……って、盃を交わせば〜ってやつ?」

「うん。盃は交わしてないけどね。みんな僕の妹になりたがるから……」

 

戦争の間に助けた女の子達がどこからかそんな話を聞きつけてきて、そこから広まりに広まって結局ほとんどの女の子と義兄妹の契りを交わすことになったのだ。無論、男の子もたくさんいたけれど。

昔は僕の義兄妹や義兄弟の多さにシルヴィアが嫉妬……っていうか意地を張ったことがあった。

その時ばかりは僕が勝者だったわけだけど。

 

「……この際、性転換でも……」

「恐ろしいこと言わないでよ……」

 

去勢とか冗談じゃない。

 

「そうですわ。ミズキ様はフリーなのですし……私と妹になる気はありませんか?」

「ベール?せめて弟って言い直さない?」

「もうベール様も必死だね……」

 

ベールの瞳のハイライトが消えている。もう周りが見えてないというかなりふり構わないというかトランス状態というか。

 

「でも僕は弟って慣れてないんだよね。兄なら慣れてるんだけど」

「でも、ベール様が妹っていうのはなかなか想像出来ないね」

「クスクス、お姉さんキャラだもんね。ベールのお兄さんなら、やってあげてもいいけど?」

「違うのですわ。私が欲しいのは妹なのですわ。断じて兄や姉などいらないのですわ!」

「僕に妹を求めないでよ……」

 

根本……主に性別から間違っていることに気付かないのだろうか。なんだかいつもおっとりした雰囲気のベールの新しい一面を見た気がした。

 

「でも、ミズキって甘えるより甘えてもらうタイプなんだね」

「モテるのは子供限定だけどね」

 

複雑な気持ちなのだろうか、若干苦笑い気味のミズキ。

そんなミズキを見て、ベールはある作戦を思いついた。

 

(そうですわ。ここはベールとブランのためにも、ミズキ様の恋愛事情について聞いてみるのも……)

 

確かフラれたことがあるとは言っていたらしい。だがそれだけでは情報不足、ミズキの趣味や好みを聞いておいて損はないだろう。

 

「そういえば、ミズキ様は彼女いない歴=年齢らしいですわね」

「あはは、お恥ずかしいことにね。モテる人が羨ましいよ」

「え?ミズキって彼女いたことないの?」

「うん。告白したことはあるけど、フラれちゃってね。それ以来……っていうかそれも恋じゃなかったしなぁ」

 

やはりミズキは恋をしたことがないらしい。だが嘘の可能性もある。たとえその話が本当でもこれから恋させられるようにさらに聞き出しておこう。

 

「ミズキ様は、どんな女性が好みなのですか?」

「あ、それボクも興味ある」

「そうだね……、優しい人が好きかな。心の奥が優しい人」

「顔とか体格はどうなの?」

「あんまり気にしないかな。そうやって体で決めつけるのは失礼だ……って教えられたし」

 

ブランにも勝機が出てきたらしい。

 

「今まで恋をしたことは、何回くらいありますの?」

「う〜ん、ないかな。もしくは、気付いてないだけかも」

「へ〜。逆に告白されたことはある?」

「小っちゃい子にね。『お嫁さんになる〜』とか『大好き〜』とか」

 

とことん縁があるというかないというか。ここまでだと不遇ですらある。

 

「今は誰が好き、とかありますの?」

「ううん。この次元で会った女の子なんて、女神や女神候補生の他には5pb.くらいだしね」

「あら、私達は女として見ていないと?」

「そういうわけじゃないよ。ただ、君達って恋するのかなって思うよ」

「あら、私だって恋はしたいですわよ」

「そうなの?」

「ええ。理想の殿方とお付き合いだなんて、女の子なら誰しもが考えることですわ」

「ボクも考えることはあるよ。アイドルやってる間は恋愛はご法度だけどね」

 

2人ともさも当然のことのように言う。

 

「なんか、『私が愛しているのは国民です』みたいなイメージがあったよ。5pb.なら愛しているのはファンかな」

「そんなことはありませんわよ。私だけに限ったことではなく、みんなちゃんとした恋はしたがっていますわ」

「みんな……って、みんな?」

「ええ。ネプテューヌもノワールもブランも、きっと恋をしたいはずですわ」

「そっか……。なんだか見方が変わるな」

 

ベールは心の中でガッツポーズをする。ミズキは今まで女神が恋をしないと思って見ていたのかもしれない。こうして女神でも恋をするという観念を植え付けていれば、自ずと女神にも興味が湧くはず……!

 

「ボクもファンは好きだけど、それとは別に男の人に出会いたいなって思うよ」

「5pb.もそういうこと考えるんだ」

「ラブソングも良く歌うしね。やっぱり出来るだけ感情移入した方が歌は良くなるし」

「それもそっか……」

 

ミズキはう〜んと考えるような表情をする。もしかしなくても女性の見方が変わってきているらしい。ここが畳み掛けるチャンス。

そう、確かに人は恋をする。恋のためなら人はなんだって出来る。だが、『下心』と書いて『恋』とも言う。結局、人……特に男子を動かすのは!

 

「それに、経験とかに興味はありませんの?」

 

性・欲!

これに尽きる。高校生が付き合いたい理由の半分はピーーーーしたいからだ。多分。

もう、本当に男子ったらえっちなんだから。

 

「べ、ベール様⁉︎」

「あらあら、5pb.ちゃん?顔が赤いですわよ?」

「だ、だって……!」

「別に私はえっちな話をしたいわけではありませんわ。コレだって立派な愛の形ですわ」

「ベール様、指、指!」

 

あら、私の手にモザイクが。

 

「ですが、生物として当然ですわ。愛する人とまぐわう悦び……」

「『喜び』だよ、ベール様!漢字!」

「とにかく、レディースコミックなどでもコレは1つの愛として描かれることが多いですわ。冗談抜きで、愛する人とは交わるべきでしょう」

「ぅ、ま、まあ……」

「そう思いますわよね?ミズキ様」

「ん?ん、その、コレ?ってなに?」

「ダメ!ミズキ、その指ダメ!」

 

ミズキがベールの真似をしてイイ感じの指を見せる。ミズキの手にもモザイクがかかった。

 

「コレはコレですわ。単刀直入に言えばーーーー」

「言っちゃダメ!」

「………?なんのこと?」

「子作りですわよ、子作り。子供の作り方はわかるでしょう?」

「あの……卵子と精子がドッキングだよね」

「そうですわよ。そのための行為ですわ」

「うぅ……なんでこんな猥談に……」

 

5pb.が顔を真っ赤にして俯いてしまう。

だがミズキは本当に不思議そうな顔をして首を傾げる。

 

「ん……そういえば、どうやって卵子と精子ってくっつくんだろう」

「………はい?」

「え………?」

「コウノトリが関係してるとか、そんな感じ?」

 

『………………』

 

2人して固まる。

まさか、まさか………。

 

「セーーー」

「言っちゃダメ!ダメだからねベール様!」

「え、いや、まさか……コレを知らない?」

「だから指!」

「いや……ガチなのでしょうか……。私達をからかっているという可能性も……」

「で、でも、あの様子を見る限り……」

 

コウノトリなど言っているミズキだ。もしや、そのまさかだ。

 

「……………」

「ベール?どこ行くの?」

「………ちょっと、ミズキ様にゲームを貸そうと思いまして」

「ゲーム?なんの?」

「パソコンでやるノベルゲームですわ。題名は……『失われ○未来を求めて』といいますわ」

「『失わ○た未来を求めて』?」

「ええ……。少し、勉強した方がいいかもしれませんから」

「ボクもそう思う……」

 

結局ミズキは『失われた未○を求めて』という表紙に女の子が印刷されたゲームを貰ってリーンボックスを後にしたのだった。

 

「恋を知らないというのも……案外これが原因なのかもしれませんわね」




ゲスベールと案外純真なミズキ。エロゲをやればしっかりと汚れてくれることでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7章〜復讐の時。女神(居候)と幼女(居候)とパワードスーツ(オカマ)〜
NTRネプギア


NTRはイヤぁぁぁ!(ステラ感
次回予告忘れてた…。まあ、閑話みたいなものだし、多少はね?


プラネテューヌの外れ。ネプテューヌがお気に入りと言っていた場所にプラネテューヌのみんなでピクニックに来ていた。

イストワールは留守番で、それに付き添ってジャックも留守番だ。

照りつける日が心地よく、吹き抜ける風が心地よい。

 

「はむ……ん、美味しい」

「はむ!ん、おいし〜!」

「……アンタ達も変わらないわね」

 

サンドイッチを頬張るミズキとネプテューヌを見てアイエフが呆れたような声を出す。

 

「生死の境を彷徨ったりとか、ミズキはしばらく旅行してたりしてたのに」

「クスクス、そうそう変わらないよ。僕の中じゃ、あれくらいの生死の境は通学路みたいなものだよ」

「毎日往復するレベルだね⁉︎」

「まったく……」

 

驚愕に目を見開くネプテューヌを見ながらアイエフがお茶を飲む。

 

「でも、また元通りですね。しばらくは大きなこともないといいんですけど……」

 

ネプギアが気持ち良さそうに目を細める。

だが、そんなわけはなく。

 

「あーーーーーーーーっ!」

 

『?』

 

後ろを振り向くとそこには黄色い髪に青い瞳の女の子。ていうか幼女。もこもこした黄色地に黒のシマシマが入った服は蜂を感じさせる。

 

「あーーーーーーーーっ!」

 

「な、なに?あの子」

 

ネプテューヌが困惑したように周りを見る。ネプギア、コンパ、アイエフを見て最後にミズキを見たがミズキも『僕も知らない』という風に首を振った。

 

「コンパ!アイエフ!」

 

「え⁉︎」

「だ、誰ですか?」

 

何故かコンパとアイエフの名を知っている黄色い幼女。その子は2人を指差してにひひと笑った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

舞台は移ってラステイション。

その教会でノワールが後手に自分の部屋の鍵を静かに閉める。静かな室内にカチャリと鍵が閉まる音が響いた。

それからノワールは抑えきれなくなったように口角を上げてスキップし始める。

 

「ふんふんふんふふ〜ん♪ふふふ〜ん♪ふ〜ん♪」

 

鼻歌も歌って小躍りしながらだ。こんな姿をノワールを知る誰かが見れば別人と思うほどだろう。

 

「やっと、やっとこの時が来たわ♪」

 

そして姿鏡の中の自分を見つめてまたふふっと笑う。

そして着替えでもするのか服をするすると脱いでいく。ノワールの体を包んでいた服がだんだんと衣擦れの音を立てながら地に落ちていく。

 

…………その様子を盗撮されているとも知らずに。

 

ノワールの部屋には無数の小型カメラ。そしてその映像でノワールの着替えを見ながら笑う強化外骨格を着た者がいた。

それはどこかはわからないが部屋全体が現在のノワールの様子を収めた別々のカメラの風景に覆われている。

ピンク色の強化外骨格を着た何者かはその様子を見ながらふふっと笑うのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「うおっ、くっ!この、こうして!はぁっ、危ない!」

「む〜………!」

 

ネプテューヌがいつものようにテレビに向かってゲームをしている。カチャカチャと高速でボタンを押してスティックを回す様子を黄色い幼女が不機嫌そうな顔で見つめていた。

 

「ぴー、暇!ねぷてぬ、遊んで!」

「ぴー子、だから言ってるでしょ?ねぷてぬじゃなくて、ネプテューヌ。のぉぉぉぉぉ!」

 

ネプテューヌがゲームをしながら悲鳴をあげる。その画面が突然プツリと途切れた。

 

「えっ⁉︎あっ!」

「へへ〜ん」

 

犯人はぴー子か!

 

「もう、ダメでしょ?セーブしないでブチ切りするなんて……」

 

一応さっきまでやってたのはボス戦でその前にセーブしておいたから大した被害はないが。

ゲームを再起動しようとゲーム機のボタンを押すがテレビが点かない。真っ暗なまんまだ。

 

「え?あれ?あれあれ?」

 

どうしたことか。テレビをやられたのかゲーム機がやられたのかとあちらこちらを見回していると異常の原因を見つける。

 

「あ〜っ!」

 

見るとコードが切れている。ぴー子、引きちぎったの⁉︎

 

「ちょっとぴー子!さすがにこれはダメでしょ!」

「わ〜い!」

 

ネプテューヌがぴー子を叱るべく追いかけ回す。ぴー子はやっと構ってもらえて嬉しそうにネプテューヌから逃げる。

 

「こら〜!」

「わ〜い!」

「待て〜!」

「きゃ〜!」

 

部屋の中をドタバタとあちらこちらへと往復するネプテューヌとぴー子。

それをアイエフとコンパは椅子に座って見ていた。

そこにミズキもやってくる。

 

「クスクス、今日も元気だね」

「あ!みずき!」

「おはよ、ピーシェ」

「うん!おはよ!」

 

その子の名前はピーシェと言った。

 

「話を聞いててもなかなか要領を得なかったけど……」

「おぱんつに名前が書いてあって良かったですぅ」

 

ピーシェがミズキの方へ駆け寄る。ミズキはしゃがみこんでピーシェを抱き締めた、

 

「ナイス、ミズキ!さあ、私のゲーム機の恨み〜!ここで会ったが100年目〜!」

「ま、まあまあ。ゲーム機は僕が直すからさ」

「ふ〜ん!ぴー、ねぷてぬなんかに負けないもん!」

「言ったな〜!この〜!」

「とぅ!」

「あっ」

 

ネプテューヌがミズキに抱かれたピーシェに殴りかかるとするとピーシェはミズキの腕を抜け出してジャンプした。

 

「ぴー、ぱ〜んち!」

 

「あっ………ぐえっ………!」

 

「あ、あ〜あ………」

 

ネプテューヌの背後にピーシェが降り立って振り向いたネプテューヌに華麗なアッパーを決める。

ネプテューヌはパタリと倒れて白く燃え尽きて灰になった。

 

「へっへ〜ん!どう、みずき⁉︎ぴー、つよいでしょ⁉︎」

「強い強い。ピーシェは凄いね」

「えへへ〜……」

 

幼女にモテる、という嬉しくない特性を持つミズキがその力を遺憾なく発揮してピーシェの頭を撫でる。ピーシェは嬉しそうに笑った。

 

「でも、暴力はダメだよ、ピーシェ。強いのはいいけどね」

「つよいと、いいの?」

「そう。包丁は食べ物を切る物だけど、人を切っちゃダメでしょ?」

「うん。きっちゃ、め!」

「同じことだよ。その拳は使うべき時に使って使うべき相手に使うんだ」

「………?ぴー、よくわかんない!」

「クスクス、そのうちわかるよ」

 

またピーシェの頭を撫でる。

するとネプテューヌがダウンから復活した。

 

「く、くら〜!私はまだ負けてな〜い!」

「あ、そうだネプテューヌ。またベールが来てるよ」

 

ミズキがリビングにやって来たのもそのためだ。

 

「ベールが?いや、今はそんなこと……ってベール⁉︎」

「うん。ネプギアがNTRれそうだよ?」

「ネプギアぁぁぁぁっ!」

「クスクス……」

 

ネプテューヌが全速力でベールの元へと向かう。

それを見てひとしきり笑ってからミズキもそれを追いかけた。

 

「NTR?ってなんですか?」

「………知らないでいいわよ」

 

はぁ、とアイエフは溜息を吐く。

すると部屋にイストワールとジャックが入ってきた。

 

「イストワール様、まだピーシェの保護者は見つからないんですか?」

「ええ。もう3週間も見つかりません」

「何かしらの情報は寄せられてもいいはずだがな。何かわけがあるのかもしれん」

「わけってなんですか?」

「………出来れば考えたくはないな。親の愛情を受けられぬ子供など、いてはならない」

 

ピーシェはミズキとネプテューヌがいなくなって退屈そうにソファーに座って足をプラプラさせている。

あれぐらいの歳の子供をミズキ達は何人も保護した。あれぐらいの歳の子が死んでいくのも何回も見た。あれぐらいの歳の子が泣くのも、何回も見た。

 

「子供は笑顔がいい。楽しく笑っているのが、1番だ」

 

ジャックはそう言ってリビングを後にした。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

教会のベランダでは百合の花が咲き乱れていた。

真っ赤なソファーにベールが座ってネプギアはその胸に顔を埋めて抱きしめられている。

 

「ネプギアちゃん、柔らかいでしょう……?」

「はい、ベールさん……」

 

夢見心地といった有様である。ネプテューヌではたとえ変身してもこの柔らかさを味わうことはできない。

 

「ふふ、いいんですのよ?お姉ちゃん、と呼んでくださっても」

「でも、私のお姉ちゃんは、あんっ」

 

ベールが一層強くネプギアをぎゅっと抱きしめる。

 

「ああ、もうベールさんがお姉ちゃんでいいかも……」

「そうでしょう?」

 

「………出来上がってるね〜」

「あらあら、ミズキ様」

「ネプギア妹化計画は着実に進行してるみたいだね……」

「ええ。あと一歩というところですわね。えい」

「あぁん」

 

ベールがまた強くネプギアを抱きしめる。もうネプギアの瞳は蕩け切ってトロットロだ。

そこにエレベーターが到着し、中から荒々しい足並みでネプテューヌが参上した。

 

「くぉら〜!ウチの妹に〜、何してくれとんじゃ〜っ!」

「お姉ちゃん!」

 

ネプテューヌの参上で一瞬正気を取り戻したネプギア。だがすぐに抱きしめられて「あは〜ん」とか言いながら目を蕩けさせた。

 

「いいじゃないですの。たまに親交を深めるくらい」

「たまにじゃない!ここのところ毎日でしょ⁉︎」

「まあまあ、私は情報を提供したわけですし。少しくらい役得があってもいいでしょう?」

「ぐ………!」

「ん?情報って?」

「なんでもありませんわ」

 

主にミズキのこととかミズキのこととかミズキのこととか。他にもミズキのこととか例えばミズキのこととか。

 

「やれやれ、まるで小姑ですわね。これからもゆっくりと関係を育んでいきましょうね、ネプギアちゃん」

「はぁ〜………!」

「ネプテューヌ、もう手遅れな気がするけど」

「手遅れじゃないよ!ネプギアは渡さないんだから!」

 

ムキー!と両手を上げて怒るネプテューヌをミズキが宥める。

 

「それに、今日はアナタを呼びに来たんですのよ?ネプテューヌ」

「え?私も攻略対象?まさか、姉妹丼⁉︎やだ、そんな、ねっぷぅ〜……!」

 

体をクネクネさせて照れを表現するネプテューヌ。

 

「なんか、変だよネプテューヌ」

「変⁉︎キモいって言いたいような顔してるね!」

「そうではなくて。ブランから連絡が入っているでしょう?」

「え?そうだっけ?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ラステイション、教会。そのベランダではピョンピョンと耳の長い小さなカンガルーのような動物が跳ね回る。

ユニがその動物を捕まえて抱き上げる。

 

「見て、耳長バンリクートのクラタンよ。最近飼い始めたの」

「可愛い……!」

「抱っこさせてさせて〜!」

 

それを見てラステイションに訪れたロムとラムが喜ぶ。撫でたり触ったりして楽しんでいたが、その隣ではブランとノワールが話していた。

 

「で、何の用?」

「ノワール、簡単に言うとネットワークセキュリティのことよ……」

「ああ、ウチの鉄壁のセキュリティを手本にしたいのね〜」

「いや、あの……」

 

ノワールはそのセキュリティに自信があるらしく得意げにしている。ブランの言葉なんて聞こえちゃいない。

 

「まあ当然ね。一流のスタッフを惜しみなく雇って作られた難攻不落のファイヤーウォールだもの」

「最近稼働を始めた人工衛星システムもそれで守られているの?」

「ええ、もちろん。真似させてあげてもいいけど……正直お金はかかるわよ♪」

 

華麗にウィンクをするノワール。そんなノワールにブランが信じられないことを告げた。

 

「ラステイションのサーバーから衛星にハッキングされた形跡があるわ」

「………はいぃ⁉︎」

「だから……」

「ありえないわ!あのセキュリティが突破されるのは空から人が落ちてきて衝突するくらいのーーー」

 

「ーーーーぅーーーー」

 

「え?」

何か上から悲鳴が聞こえた気がして空を見る。するとそこにはネプテューヌがいた。

 

「………は?」

 

「ねっぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「ちょ、ちょちょ、え⁉︎」

 

ネプテューヌはノワールに向かって落下してくる。なんで落ちてるの、とか変身しろ、とか言いたいことはあるものの、まずは回避から!

するとさらにネプテューヌに追いつこうとする赤く光る戦闘機が見えた。

 

《ネプテューヌぅぅ⁉︎》

「み、ミズキ!ちょうど良かったヘルプミー!」

《くぅぅぅぅぅあぁぁぁぁ!》

 

赤く光っているのはトランザムだろうか。元の色がオレンジであるその機体の名前はキュリオス。可変式の機体であるのだがーーー説明はまたいつか。

そのキュリオスがネプテューヌの隣に並んで変形し、人型になる。

そしてネプテューヌを抱き締めて精一杯逆制動をかけるが減速する気配がない。

 

《ネプテューヌ、歯食いしばって!》

「う、うん!いー!」

《健康な歯!ぐわぁぁぁ!》

 

ドカーンと音を立ててミズキがネプテューヌを庇って不時着する。

周りにはコンクリートが砕けた砂埃が舞い上がった。

 

「ごほっ、ごほっ!み、ミズキ⁉︎」

「ミズキ……!」

 

全員もれなくネプテューヌより先にミズキの心配をしているのは言及してはならない。

砂埃が晴れるとそこにはネプテューヌが尻餅をついて座っていた。

 

「ふ〜、助かった〜!あれ?ミズキは?」

 

周りを見渡すがミズキがいない。

 

「………アナタの下よ」

「ミズキが、目を回してる……」

「きゅ〜………」

「うわわわっ!ミズキ⁉︎」

 

地面にめり込んで変身が解けたミズキはそのまましばらく目を回していたのだった。




キュリオス、下敷き。
僕はあの機体大好きなんですよ。大好きなんです。あのトランザムとか最高じゃないですか。アレルヤ機は不遇ですけど……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キレた後は自分の沸点の低さに自己嫌悪するのがわかってるんですけどね

長めのタイトル。私は起こらないタイプですのでタイトルのような気持ちにはなりません。ええ。本当ですって。


「ごめんね〜、ミズキ〜」

「大丈夫だよ。ただ久し振りに撃墜されたよね」

「私の体はミサイルか何か⁉︎」

「いや、重さが兵器レベルだよ」

「が〜ん!私重くないよ!重いのはベールだよ!私もさすがにブランには及ばないけどさ……」

「どこを見て言ってるの、ネプテューヌ」

「あ、あはは……なんでもな〜い……」

 

ブランからささっと離れるネプテューヌ。ラステイションの教会はなかなか賑やかになっていた。

女神姉妹とミズキ、ピーシェが集まっている。

 

「その子は?」

「ん?この子の名前はピーシェ。はい、ぴー子挨拶」

「ぴーだよ!」

「あらあら、ネプテューヌったらいつの間に子供がそんなに大きく……」

「いや〜、そうなんだよね〜!初めてお腹を痛めて産んだ子供だからもう可愛くって可愛くって……」

「どういうこと⁉︎」

「どういうこと……⁉︎」

「な、なんで僕に詰め寄るの⁉︎」

「浮気なの⁉︎」

「ミズキの裏切り者……!」

「浮気も何も僕はまだ付き合ったことすらないんだけど⁉︎」

「体だけの関係ってことね!」

「汚らわしい……!」

「どうしてそうなるのかなあ⁉︎別にピーシェは僕の子供でもないよ⁉︎」

「親権を捨てたわね!この外道!」

「無かったことにする気……⁉︎」

「どうしろっていうの⁉︎」

 

「あわわ……あわよくばノリツッコミで笑いを取ろうと思ってたのにいつの間にか大変なことに!」

「ふふ、愉快ですわぁ……」

「うわっ!ベールが小悪魔だ!リトル、デビル、ベールだ!」

「なんですの、その三段活用は。……まあいいでしょう。ロムちゃん、ラムちゃん、仲良くしてあげてくださいまし」

「う、うん……」

「お姉ちゃんが変だ……」

「放っといていいですわ。さあ、遊んでらっしゃいまし」

 

ピーシェがロムとラムに連れられて遊びに行く。

そしてミズキはノワールとブランに詰め寄られている。必死に弁解してはいるものの、さすがに助け舟が必要か。

 

「ほら、2人とも。今はハッキングの件についての話でしょう?」

「む………」

「ピーシェはただの迷子だよ〜!もう、2人とも早とちりなんだから〜!」

「……ならいい」

 

渋々という顔で2人が言及をやめる。

 

「場所を変えますわよ。ノワール、案内してくださいますか?」

「わかったわ。ユニ、しばらくここを頼むわよ」

「あ、うん」

 

女神とミズキがエレベーターを下っていった。

それを確認してからユニはネプギアに話しかけた。

 

「あのね、ネプギア。ちょっと相談があるんだけど……」

 

 

 

 

「ノワールさんの様子がおかしい?」

「最近夜になると執務室にこもって何かやってるの……。たまに、変な笑い声とかも聞こえてくるし……なんだか心配なのよ」

「つまり、ノワールさんが1人で何をしてるか知りたいの?」

「え、うん、まあ、そういうことだけど……」

「ならいいものがあるよ!たまたま持ってきたんだけど……」

 

ゴソゴソとネプギアがポケットの中から何かを取り出してユニに見せる。それは手のひらよりも小さい小型カメラだった。

 

「え?これって……」

「映像を遠隔地に無線で送る目立たない大きさの機械だよ〜!」

「要するに隠しカメラよね……」

「こんなに小さいのにHD映像をリアルタイム圧縮するんだよ〜!すごいよね⁉︎1度ちゃんとセットアップしてみたかったの!いい!いいよね⁉︎」

「え……えっと……」

 

ユニは若干相談相手を間違えたかも、と思った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃女神とミズキはスーパーコンピューターが立ち並ぶラステイションの教会の一室に来ていた。

 

「ふ〜ん……凄いコンピューターだね」

「でしょう?」

「ひ〜ひひひ!でも、ノワール前に自慢してたよね⁉︎『ラステイションのセキュリティは世界一ィィィッ!』って!は〜はは!」

「ネプテューヌ、笑い過ぎだよ……」

「起きてしまったことは仕方ない」

「大切なのは再発防止と……」

「こんなことをした不届き者をとっちめることよね!」

「うん、僕達の得意分野だね。ジャック」

 

ミズキがジャックの名前を呼んだがジャックが出てこない。いつもなら空中から出てくるはずなのだが。

 

「ジャック?」

「………呼んだか」

「今日は遅かったね。どうしたの?」

「……なんでもない。それで用はなんだ?」

「……… ?」

 

「ねえねえ、なんでジャックあんなに不機嫌そうなのさ」

「さあ、知らないわよ。なんかやってたことを中断させちゃったんじゃない?」

 

まあ、イストワールとの会話が中断されて不機嫌なのだが。

 

「このスーパーコンピューターのハッキングの形跡を辿って欲しいんだ。あと、新しいファイヤーウォールの作成かな」

「………3分でやる」

「早っ!」

「所詮ファイヤーウォールなど人が作ったものだ。この程度、オリジナルキャラを出すまでもない。ビル」

 

意味不明な語尾をつけてジャックがコードを掴む。

 

「……………まあ、この世界のファイヤーウォールの中ではマシな方だが……それでも脆いな」

「そ、そうなの?」

「他の国のファイヤーウォールがビスケットだとしたらここのは歌舞伎揚げだな」

「脆い!お菓子の壁を私達は必死に作ってたの⁉︎」

「だからその程度だと言っている。ファイヤーウォールは書き換えてコンクリートレベルの硬さにしておくぞ」

「そんなにちゃちゃっと出来るものなの⁉︎」

「時間をかければもっと硬くできる。だがまあ、即興ではこれくらいだ」

 

ノワールが驚愕している。

ミズキの方を向いて「どんなセキュリティだったのアンタ達」みたいな目で見てきたがさすがにミズキもジャックのハッキング能力の足元にも及ばない。

 

「その不届き者の場所は突き止めた。データは送っておくぞ」

「ありがと、ジャック。また呼ぶかもしれないけどいい?」

「………それは構わんが……ミズキ、少し話がある。長くなるからお前達は先に行っててくれ」

「何か重要なことなの……?」

「大したことではない。少しでも危なくなればお前達を頼る。それでいいだろう?」

「……わかった。行きましょう」

 

みんなは納得してノワールの端末に送られたデータが示す場所へと向かっていく。それを見送ってからジャックはミズキを見た。

 

「それで、話って?」

「………これを見て欲しい」

 

 

ーーーー

 

 

「ふんふんふふ〜ん♪ここかな〜?こっちがいいかな〜?」

 

ネプギアが執務室の本の上や間に小型カメラを置いて良いアングルを探す。

 

「ネプギア、楽しそうね……」

 

ユニは退屈そうに壁にもたれかかっている。

 

「よし!」

 

ネプギアは良いアングルを見つけたらしく、ユニと共にベランダの外へ出る。そしてNギアを起動して小型カメラの映像を受信した。

 

「ちゃんと映った!」

 

そこには執務室で遊ぶロムとラムとピーシェの姿が映っていた。

 

「こんなに見えちゃうんだ……」

「凄いでしょ⁉︎ミズキさんが作ったプログラムを埋め込んでミズキさんが考えた技術でこの画質を実現したんだよ!」

「ミズキさんが作ったのアレ⁉︎」

「わ、私も手伝ったもん!汗拭いたりとか!」

「手術⁉︎」

 

ネプギアはこのカメラの凄さを熱弁しているがユニは何だか気持ちが晴れない。

 

「あ、あれ?どうしたの?」

「なんだか、すごく悪いことしてる気になってきちゃった……」

 

知りたいのは山々だったがこんな手段は取りたくない。

 

「ねえ、やっぱりアレ外さない?」

「そ、そうだね」

 

カメラを外そうと執務室に戻ると3人がはしゃぎ回って机の周りにまで近付いていた。

するとエレベーターが到着してミズキが姿を現す。

 

「あ、執事さん!」

「お帰り、執事さん……!」

「みずき、おかえり!」

「うん、ただいま。ダメだよ、そっちに行っちゃ。もうちょっとあっちで遊ばなきゃ」

 

『は〜い!』

 

揃って返事をして机から離れていく。

するとネプギアのNギアがノイズを立て始めた。

 

「あ、あれ?」

「なにこれ……?」

 

そこにはたくさんのアングルが映し出されていて遊びまわる3人の様子を映し出している。

 

「混線してる……。あれ?でも、混線してるってことは……!あの部屋、他にも隠しカメラがある!」

「え⁉︎でも……!」

 

バキッ!

 

「なに⁉︎」

 

突然の音にユニが画面から執務室へと目線を戻す。

そこには指先で機械を潰すミズキがいた。

 

「あ、あれ?ミズキさん?どうかしたんですか?」

「………ううん。ちょっと、ね……」

 

今度はミズキが本棚に向かう。そしてネプギアが設置したカメラを発見した。

 

「ん、これ……僕達が作ったやつ?」

「は、はい!そうです!あの、ミズキさん、その辺りに……!」

「わかってる、盗撮カメラだよね。ん〜と……ここかな?」

 

バキッ!

 

「し、執事さん……?」

「怖い……」

「みずき、おこってる?」

「ちょっとね」

 

3人には笑顔を向ける。

ちょっと、と聞いて3人は安心したようだがネプギアとユニは『ちょっと』だけ怒っているとは思えない。

その時、ネプギアは思い出す。

 

 

『怒ったらどうなるんですか?』

『みんなからは人格が変わるって言われた』

 

 

「ひぃぃっ!」

「ね、ネプギア?」

 

あの発言を思い出して震えが走る。

怯えている間にもミズキは1つ、また1つとカメラを潰していく。

 

「あ、あの〜、ミズキさん……もしかして、隠し撮りとか嫌いですか?」

「ん?いや、それ自体は嫌いじゃないよ。むしろ面白いとも思ってる。嫌いだったらネプギアと隠しカメラなんて作らないしね」

「じゃ、じゃあ、なんで……」

「……僕が嫌いなことの1つはね。こういう軟弱なことなんだよね」

 

バキッ!

 

今度は潰したカメラを足でグリグリと踏みつけた。

 

「たくさん撮ってるみたいだし……やっちゃいけないことと、やっていいことの区別はつけてもらわないと」

 

また1つカメラが潰れた。

 

「ちょっと行ってくる」

 

ミズキが握った右手を胸に当てる。

するとミズキが光り輝いて変身した。

真っ白で厚い装甲に黄色い角。足はヒールのようになっており、腕部は青く塗られ背中には無骨な太刀と巨大な滑空砲を背負っていて右手に恐竜の頭部を思わせる巨大なレンチメイスを持っている。

その機体の名はガンダムバルバトス。この形態は第6形態と言われている。

 

バルバトスはガコンガコンと音を立ててベランダへと歩いていく。

 

「なにあれ!みずき、すごい!」

「そうよ、執事さんも変身できるのよ!」

「執事さん、カッコいい……!」

 

3人は喜んでいるようだがミズキが怒っているのがわかっているネプギアとユニは自然とバルバトスに道を開けた。

 

《それじゃ、行ってきます》

 

『い、行ってらっしゃいませ……』

 

何故か敬語になってしまった2人。

バルバトスは出力を上げてベランダからラステイションの街へ飛び降りる。

それを見送ってからネプギアとユニはへなへなと座り込んだ。

 

「こ、怖かった……!」

「ミズキさんって、普段怒らないからわからなかったけど……やっぱり迫力あるのね……」

 

ちょっと泣くかもしれなかった。今回ばかりはあのガンダムフェイスが怖く感じられた。

 

「………どうする?多分、ミズキさんは盗撮犯を追いかけに行ったんだろうけど……」

「……どうしよう」

 

犯人をとっちめたい。けど、今は怒ったミズキさんが怖い。

 

「だ、大丈夫だよ。私達に怒ってるわけじゃないんだし。ちょっと、荒っぽいかもだけど……」

「……そうね。私達も行きましょうか。やっぱり盗撮されてたのは許せないし」

 

ネプギアとユニは立ち上がった。振り返って執務室を見るとそこには数々の壊されたカメラの破片が。それら全てが粉々に砕かれている。

……普通カメラは指先で壊せるほど脆くはないはずだが……。

 

「やっぱり怖い……」

「……私も」




ガンダムバルバトス、登場。荒っぽいことはこいつが適任かなって。

ジャックとイストワールの関係も徐々に親しくなっている模様。最近は助け合ったのもあって尚更。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鬼ミズキ(別名悪魔ミズキ。出会ったら即逃走すること)

バルバトスを名前の如く悪魔にしたくて。


ネプギア、ユニ、ロム、ラム、バンリクートを抱えたピーシェはラステイションの街を歩いていた。

盗撮犯を懲らしめるためだ。

 

「お姉ちゃんを盗撮だなんて許せない!絶対とっちめてやるんだから!」

「うう、なんだか私とかミズキさんに言われてる気分……」

「ネプギア、場所はわかる⁉︎」

「は、はい!えっと、この電波逆探知機じゃ大体の位置しか……」

「じゃあしらみ潰しに探すわよ!」

「さ、さーいえっさー!」

 

ビシィッ!と敬礼をしてネプギアはユニの後ろをついていく。

 

「にしてもよく電波逆探知機なんて持ってたわね。それもたまたま?」

「ううん。これはいつも持ち歩いてるよ。電波逆探知機とモバイルバッテリーは乙女の嗜みだもん!」

「どこの異世界の女子よ……」

 

モバイルバッテリーはまだしも電波逆探知機はどうかと思う。

 

「ねえねえ、ねぷぎゃ!」

「ん?なに、ピーシェちゃん」

「これ、なに⁉︎」

 

ピーシェが指差す足元を見るとそこには床が焼け付いた後のようなものがあった。

 

「あ、それならさっきも見たわよ?」

「ず〜っとあっちから、ある……」

「あ、あれじゃない?ミズキさんの足跡かも!」

「あ、ああ!ブースター使ってたもんね!」

 

空を飛べないガンダムだとしたらジャンプを繰り返していたはず。その跡だ。

 

「じゃあ、これを追っていけば……」

「ねえ、ねぷぎゃ、おなかすいた!」

 

そう言いながらピーシェがネプギアに抱きついてきた。

 

「え?ど、どうしよう……」

「おなかすいたすいたすいた杉田!」

「い、今ジョ○フとか坂田銀○の中身の人の名前があった気が……」

 

にしても食べ物は持ってきていない。お金もない。ミズキさんもいないから上手くあやせない。

するとロムとラムがふっふっふと笑い始めた。

 

「ピーシェは子供ね!私達はお姉ちゃんだからお腹空いても我慢できるのよ!」

「私も、お姉ちゃん……」

 

するとピーシェがぐっと悩む。

しばらく逡巡してからピーシェはネプギアから離れる。

 

「ぴーもおねえちゃんだもん」

「だったら我慢できるわね」

「偉い偉い。なでなで……」

「ロムちゃんもラムちゃんも凄い……」

「自分より子供がいると俄然大人びるのね」

「そういえば、ミズキさんも大人っぽいっていうか……」

「確かに。小さい子に囲まれるとああなるのかしらね」

 

ミズキの場合は周りにいたのは全員子供だった。シルヴィア達も中身は子供だったので、ミズキのブレーキ役としてのスキルはガンガン上がっていったのだ。

 

「あ、あれ!」

 

ネプギアが指差す方を見るとそこには大きくジャンプするバルバトスがいた。

 

「あっちね。……って、あれ……」

 

ユニが見た先を見るとそこには女神達が空を飛んでいた。

 

「なんでお姉ちゃんが?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ねえ、ノワール。なんで私達が直接行く必要があるの?別に警備兵に任せれば……」

「それじゃつまらないじゃない。私に恥をかかせたんだから、ぐっちょんぐっちょんにしなきゃ気が済まないのよ!」

「今日のノワールは荒っぽいですわね」

「私はこういうの嫌いじゃないぜ……っと、ここだな」

「ジャックが突き止めたハッキング犯の居場所ね」

 

女神が降り立ったのは廃工場だ。

もう使われてはいないらしく、ところどころが錆び付いている。

女神は着地して変身を解除した。

 

「あ〜あ、ミズキにも来て欲しかったな〜」

「話があると言っていたし……終われば来てくれるんじゃないかしら」

「だからって今回ばかりは待てないわ!ヤツは私の手で……!」

「まあまあ。熱くなっては負けですわよ」

 

そんな会話をしながら女神は奥へと進んでいく。

その様子をハッキング犯はカメラで見ていた。全ての行動が筒抜けだったのだ。

そしてハッキング犯は薄く笑うがすぐに別のカメラに映った物に目を向ける。

それは真っ白な機人だった。

 

「あら?同類かしら……」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ここに入っていったわよね……」

「ミズキさんが向かった方向もこっちだし……お姉ちゃんも盗撮犯を追ってるのかな」

 

5人と1匹は閉まった門の前で立ち往生していた。

するとピーシェの手からバンリクートが逃げだして門の隙間をくぐり、工場の中へ逃げ込んでしまった。

 

「あ!」

「にげた!まて〜!」

 

ピーシェもその小さな体格を生かして門の隙間を通って中へ入っていってしまう。

 

「ピーシェちゃん!」

 

呼ぶが戻ってこない。すぐに視界からいなくなってしまった。

みんなは顔を見合わせるのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃女神は入り組んだ工場内で明かりのついた部屋を見つけていた。隙間から中を覗くとそこにはモニターを弄るピンクと紫の装甲をまとった機人がいた。

機人とは言ってもガンダムのように戦闘用ではなさそうだ。パワードスーツと言った方が正しいか。

 

完全に背中を向けて隙だらけなのを確認してからノワールはドアを蹴り開けた。

 

「動かないで!両手を上げて、ゆっくりこっちを見なさい!」

 

4人の女神が武器を構えて退路を塞ぐ。

背中を向けた機人は両手を上げてゆっくりとこっちを見た。

 

「アナタね、ハッキング犯は!」

 

ハッキング犯はプシューと顔から空気を吐く。

 

「早く答えなさい!」

「…………」

 

そしてその機人は。

クネクネと体をくねらせた。

 

「ああん、そんな他人行儀な喋り方しないでぇ〜」

 

『…………』

 

全員がポカンとしてしまった。

 

「アタシのことはアノネデスちゃんって呼んで?」

「ねぷぅ〜!」

 

数瞬遅れてネプテューヌがすっ転ぶ。

 

「お、オカマさん?その見た目で〜⁉︎」

「あら、失礼ね。心は誰よりも、乙女よ?」

「ほんと、わかりやすくオカマね」

「しかも、ちょっと毒舌だったりするんですわよね。きっと」

「あったり〜。胸だけでかいぃぃっ⁉︎」

「ねぷっ⁉︎」

「な、なに⁉︎」

 

突然工場が大きく揺れた。

ネプテューヌは今度は本当にすっ転んでしまう。

アノネデスの罠とも思ったがアノネデスも狼狽えているようだ。

 

「な、なになに⁉︎まさか、さっきの白いの⁉︎」

「え?白いのって、まさか……きゃっ!」

 

また大きく工場が揺れる。

その揺れはだんだんと近くなってきているようにも思える。

 

「ああん、生で狼狽えるノワールちゃんカワイイ………きゃっ!」

「な、なに⁉︎アンタね、こんな状況で……きゃ!」

 

揺れがどんどん激しくなっていく。

 

「や〜ね、本気よ、アタシ。証拠もあるもの、ほら」

「な、なによこれ⁉︎」

 

アノネデスが指を鳴らすと部屋中に執務室のノワールの画像が映し出された。

 

「え⁉︎ええっ⁉︎」

「おわぁぁ!あっちもノワール!こっちもノワール!み〜んなノワールだ!ねぷぅぅ!」

 

また揺れた。

 

「いい加減、ヤバいかも……」

「ですわね。早く捕まえないと……」

 

 

 

 

その頃女神候補生達は工場の中に入ってピーシェ達を探すことに決めた。

 

「ピーシェ〜⁉︎どこ〜⁉︎」

「クラタ〜ン……⁉︎」

「どこ行っちゃったんだろう……」

「なんか、さっきから揺れるし……早く見つけないと、危ないかも」

 

 

 

 

「私、ノワールちゃんの大ファンなの。ノワールちゃんのこと、なんでも知りたくって!」

「そんなことどうでもいいのよ!それに、私には心に決めた人がいるんだから!」

「おおっ、ノワール大胆!」

「……ミズキを渡してたまるもんですか……」

「な、ぬわぁんですって⁉︎ノワールちゃんを誑かした人が⁉︎」

「誑かしてないわよ!」

「どこの馬の骨よ!今すぐアタシがとっちめてーーー」

 

 

ーーーー『lron-Blooded Orphans』

 

 

《ここだよ》

 

「へっ?」

 

ドカーーーン!

 

壁を打ち破って中から瓦礫と砂埃の中から白いガンダムが姿を現した。

そしてそのガンダムは床に思いっきりメンチレイスを叩きつけた。

 

「み、ミズキ!」

《ここの馬の骨って言ってるんだけど》

「ま、まさか、壁を叩き割ってきたの⁉︎」

《ちょっと面倒でさ。ところで……隠し撮りした画像、これだけじゃないよね》

「あら、勘がいいのね」

 

アノネデスが指をパチンと鳴らす。

するとそこに新たなノワールの画像が……出てこなかった。

 

「じゃ〜ん!これがノワールちゃんの秘蔵写し………なにこれぇ⁉︎」

《みんな、目をつぶった方がいいよ》

「も、もう見ちゃったよ〜!おえ〜!」

「な、なによ、この汚いのは!」

「まさか、これって……」

「あらあら。アノネデスさんもわかってらっしゃいますねぇ。腐腐腐……」

 

画面に映し出されたのはホモ画像ばかり。美少年だったり美青年だったりが裸で絡み合って顔を赤らめて菊の花が咲き乱れてみたいな画像ばっかりだ。

 

「な、なになに⁉︎まさか、アタシのパソコンがハッキングされた⁉︎」

《ウチのジャックを舐めないでよね。君の画像フォルダの中身は全部この画像に返させてもらったよ》

「まさか、映像も⁉︎」

《全部ガチムチレ○レングとか真夏○夜の淫夢に変えといた》

「うぉえぇぇぇぇぇっ!」

 

アノネデスはパソコンデータの惨状にキラキラしたアレを吐く。スーツの顔からどうやってアレが出てるかは聞いちゃいけない。

 

《気をつけてよね、ノワール。いろんな写真が公開されるところだったよ》

「いろんな写真って?」

《……最近の夜にやってること》

「え?…………ああ!」

 

ノワールは顔を真っ赤にしてそれに思い立つ。

そしてミズキの方へ寄った。

 

(ま、まさか、見たの⁉︎)

〈僕とジャックだけだよ。口外はしないし、データも消したから安心して〉

(アナタが見たのが問題なのよ!まさか、それがジャックの相談内容⁉︎)

〈うん。ごめんね、見ちゃって。でもコスプレしてたノワール可愛かったよ〉

(かわい……!も、もうっ!)

 

そう、ノワールが毎晩していたのはコスプレである。服まで自分で作るのめり込みっぷりだ。

ジャックが情報の海の中で見つけたノワールの写真をミズキにも見せて、そしてカメラを破壊してここに来るに至ったのだ。

 

《さて……どうせUSBにも保存してあるんでしょ?こればっかりは……》

 

ミズキがレンチメイスを振り上げるとそれが恐竜の口の如く開く。中にはチェーンソーまで見えている。

それをアノネデスの目の前のモニターに叩きつけて挟み込んだ。

 

《物理的に破壊しなきゃねぇ……!》

 

ギャリギャリと歪な音を立ててパソコンがバキンと割れた。

 

「み、ミズキ?ど、どうしたのさ?なんか、いつもと違うような……」

《ネプテューヌ、ちょっと下がっててくれるかな?》

「は、はいぃ!」

 

ネプテューヌがミズキのただならぬ雰囲気に俊足で後退して敬礼する。

 

「ど、どうしたのですか、ミズキ様。怒ってらっしゃるのですか?」

《……そうだね。少し……怒ってるぜ》

「………『ぜ』?」

「ミズキ、どうしてそんなに怒っているの」

《……悪い、ブラ公》

「……ブラ公……⁉︎」

《ちょっと離れてた方がいいぞ。今の僕は不機嫌モードだ……!》

 

大きくレンチメイスを振り上げたバルバトス。その矛先はアノネデスに向いた。

 

「ひっ⁉︎」

《オラァッ!》

 

大きくバットを振るようにアノネデスの顔面めがけてメイスを振る。アノネデスはしゃがんで避けた。

 

《おうおう、よく避けたな。次はそのツラ叩き割ってやるよ。ククク……!》

「ククク⁉︎あれ本当にミズキなの⁉︎ねえ⁉︎」

「わからない。けど……私に似たタイプかも」

「怒ると本性が出るってこと⁉︎」

「いや、ミズキ様のあれは本性ではなく……なんといいますか、別人格のレベルですわよ……?」

 

《ハーハハハ!スクラップにしてやるよ、腐れ外道がよォッ!》

「ひいいっ!」

 

メンチレイスを苦もなく振り回してそこらの器具を叩き割って切断して蹂躙していく。

 

「に、逃げるが勝ち!いきなさい!」

《お?逃げられるとでも思ったかァ?》

 

アノネデスがカバンを持って逃げ出す。おそらくあの中にバックアップしたデータが入っているはず。

だがアノネデスの号令で空中に映ったモニターが攻撃を仕掛けてくる。

 

《おい、ネプ公!そいつ捕まえろ!》

「あ、あいあい!こら、おとなしくお縄につけ〜!私の命のために〜!」

「う、うるさいわね!アンタもこうよ!」

「痛っ!」

 

ネプテューヌがアノネデスに追い縋ろうとするがモニターが当たって邪魔をされる。

 

《チッ》

「す、すいませんでした〜っ!」

《………まあいい。今は破壊して殲滅して蹂躙するのが先だよなァッ⁉︎》

 

背中の滑空砲を構えてモニターを破壊していく。腹に響く大きな銃声の後に強力な実弾がモニターを吹き飛ばしていく。

 

《おい、お前ら!こいつらは任せたぞ!それぐらいできるだろ!》

「は、はい!お任せくださいませ!」

「……頑張ります」

「やらせてくださいですわ」

《ノワ公!お前は僕と来い!》

「わ、わかりました!」

 

ノワールが変身して部屋を飛び出したバルバトスを追いかける。

残りの女神はモニターの破壊を始めた。

 

「うぅぅ〜!ミズキが怖いよ〜!怒るとあんなことになるだなんて〜!」

「………正直、震えが止まらないわ……」

「私もですわ。これでこいつらを倒すのに手間取ったとしたら……」

 

…………ゴクリ。

 

「が、頑張ろうね!私達の命のために!」

「何されるか分かったものじゃない……」

「………本気で行きますわ」




淫夢汚い、はっきりわかんだね。

ミズキの楽しい楽しい暴走は次回で終わり。いつかぷるるんと共演させたい。

あと、出すガンダムに悩んでます←クズ
次のバトルは書き上げたんですが…要所要所しか決まってないし…私の趣味のガンダムしか出てこなくなってて。リクエストをください。なくてもください。ボールとか言ったら殴りますけどね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ぷるるん、ぷるると、ぷるるーと

アノネデスの中身ってお見せできないのが残念なレベルのイケメンなんですってね。なんか、仮面とか被ってたままの方がいい人っていますよね…。誰とは言いませんけど。


その頃アノネデスも必死に逃げていた。ホバー機能を使って裏口へと一直線。

だって捕まれば殺される。それはもう、無残な無残な殺し方で、R指定すら物足りないモザイクがかかってしまうような……。

……遺書を書いた方がいいかもしれない。

 

「『拝啓、愛しのノワールちゃんへ。アナタがアタシを見つけた時、それはもう無残な姿で原型のない肉塊として転がっていたと思います』……」

 

涙で時折、字がにじむ。

遺書を書きながらも生きることを諦めずに扉を開けてその扉に寄りかかる。

 

「ふぅ……ここまで来れば大丈夫でしょ」

 

生きている喜びを噛み締めて胸を撫で下ろしていると前から小さなカンガルーのような動物がまとわりついてきた。

 

「な、なに⁉︎や、ちょ、離れてよ!ヤダ!」

 

振り払おうとするがすばしっこく体から降りてくれない。

 

「あ〜!くらたん〜!」

「え?ぐふっ…………!」

 

決まったのはクラタンを追いかけて決まったピーシェのタックル。

パワードスーツすら物ともせずアノネデス本体にまで貫通するダメージ。アノネデスは尻餅をついた。

 

「いった〜………!」

「くらたん!あはは!」

 

ピーシェはアノネデスにまたがってクラタンを抱き抱えていた。

するとその物音を聞いたのか、角からネプギア達が現れた。

 

「ピーシェちゃん!ご、ごめんなさい!」

 

ネプギアが謝りながらアノネデスへと近づく。

 

「全く、どういう教育して………ん?アナタ、ピーシェ?」

「うん!ぴーだよ!」

「………………」

 

アノネデスが見極めるようにピーシェを見る。

 

「ん?なにこの写真……」

「あ!待ちなさい、それは……!」

 

ピーシェがぶつかった拍子にカバンの中身をぶちまけてしまったようだ。

アレは多分、アタシのお気に入り!アレを見られたら捕まる!そして死ぬ!殺される!あの白いのに!

 

「それから手を離してっ!」

「え?あ、は………⁉︎」

「え?」

 

ユニが驚愕に目を見開く。

その方向に目を向けると扉から太刀が突き出ているところだった。

 

「………遺書、置いときましょうか」

 

爆発音と共に扉が開く。開くというか爆散する。

 

《ヒャッハー!逃がしゃしねえぞオカマァッ!》

「ひいっ!」

 

「えと……アレ、ミズキさんだよね……?」

「………多分」

 

ネプギアとユニが固まってしまった。

バルバトスの奥から遅れてノワールがやって来た。

 

「え?ユニ?だ、ダメよ!早く何処かへ行って!非常に教育に悪いわ!」

「え、えと、教育って……?」

「早く!血みどろでぐちゃぐちゃになったナニカが見たくなければ、離れて!」

「わ、わかった!ほら、ロム、ラム、ピーシェ!こっち来て!ネプギアも!」

「ユニちゃん……腰が抜けて動けない……!」

「はあっ⁉︎」

「なにモタモタしてるのよ!死にたいの⁉︎」

「死にたくないよぉ〜!うわぁ〜ん!」

「あ〜、もうネプギア、私が引っ張るから!」

 

阿鼻叫喚である。

結局ユニがネプギアを引っ張ってネプギア達は角へと消えていく。

それを確認してからバルバトスはアノネデスを見下ろした。

 

《さて………アノネデスって言ったよな。お前のこれからの選択肢は2つある》

「………は、はい……」

死ぬか死ぬかだ(デッドオアデッド)

「1つじゃない!」

《ほらよっ》

「あだ、あだだだだだっ!いたっ、痛い痛い!」

 

メンチレイスでアノネデスの頭を挟んで持ち上げる。チェーンソーは回していないものの、ミシミシとアノネデスの頭部の機械が悲鳴をあげる。

 

「お、お願い、許して!データは渡すから!今までのことも謝るからぁ!」

《別に僕はさぁ、隠し撮りを怒ってるわけじゃねえんだよ。その写真が公開されても僕はここまでキレねえ……》

「じ、じゃあなんで……!」

《そういう軟弱なことがムカつくんだよ!オラァッ!》

「ひいぃえっ!あぐっ!」

 

メンチレイスを振り回してアノネデスを壁へと投げつける。

アノネデスはその衝撃で気絶してしまった。

 

《……はあ、成敗完了》

 

ミズキが変身を解く。

そして呆然としていたノワールを見た。

 

「ノワール、どうする?」

「へ?ど、どうするって?」

「こいつ。アノネデスだよ。ノワールも怒ってると思うから……」

「あ、い、いいのよ、それは。もうミズキがけちょんけちょんにしちゃったし」

「そう?ならいいんだけど」

 

どうやらミズキは元の人格に戻ったようだ。

 

「さて、じゃあこの写真をなかったこと(大嘘憑き)にしようか」

「なんか、ルビがおかしい気がするけど……まあ、それもそうね」

 

散らばった写真を集めて燃やす。

USBは粉々に砕いた。

 

「ジャックにファイヤーウォール作ってもらおうね。もう2度とこんなことないように」

「え、ええ。そうよね」

 

また同じようなことがあって鬼ミズキが出てこられてはたまらない。

すると爆散した扉の向こうから足音が聞こえてきた。

 

「さ、サー!敵は倒しましたですサー!」

「ん、みんな。ごめんね、任せちゃって。怪我はない?」

「い、イエス、サー!誰1人として怪我はしていないであります、サー!」

「……?なにその口調。クスクス、面白いね」

「……もしかして、戻った?」

「そのようですわね。一安心ですわ……」

「よ、よかった〜!ミズキ、ミズキなんだよね⁉︎」

「……?当然、そうだけど?」

 

ネプテューヌとブランとベールが胸をなで下ろす。

ミズキはきょとんとしてるあたり自覚はないらしい。

 

「お、お姉ちゃん……?戻ってもいい……?」

「ああ、ユニ。もういいわよ。もう大丈夫だからね」

 

角からそーっとユニが顔を出した。

ノワールの許しを得て妹達がゾロゾロと出てくる。

 

「お、お姉ちゃん〜!私、私………!」

「ええ。怖かったわね。もう大丈夫だからね」

「うわぁ〜ん!お姉ちゃん、わだじ、死ぬかと……!」

「うん、怖かったね!私も怖かった!私も死ぬかと思った!むしろ1回死んだから!」

 

ネプギアとユニが姉に抱きつく。命がある喜びを噛み締めて。

 

「あれ?でもなんでネプギア達がここにいるの?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

警備兵がアノネデスの手に手錠をかけて連れて行く。その顔はひしゃげていて警備兵も何があったのかとノワールに聞いたほどだ。

ちなみにノワールはその質問に「知らぬが花……いや、知らぬが桃源郷(シャングリラ)よ」と言って退けた。ただならぬ雰囲気に警備兵もそれ以上聞くことはなかったという。

そして今は勝手にアノネデスを探していた妹達にノワールが説教タイムである。

 

『ごめんなさい……』

 

「……まあいいわ。私のことを考えてやってくれたのは確かだし、大きな被害は……物理的にはなかったし」

 

精神的にはコロニー落としレベルの大災害が起こっているが。

 

「とにかく。今度はちゃんと私達に相談すること。それと、絶対にミズキを怒らせないこと」

 

『はい!』

 

即答だった。

ただしロムとラムは事情を飲み込めていないのか不思議そうな顔をしている。

子供の純真な心だけは守りきったらしい。

いいの、たとえ私達の心が○斗の拳レベルに崩壊したとしてもこの子達が守れれば……。

 

「さて、一件落着。これでまたいつもと同じだね」

 

当のミズキは癒えない傷を残したのにも気付かずに涼しい顔をしている。

みんなはげんなりした顔でミズキを見ていた。

するとネプテューヌはピーシェの姿が見当たらないことに気付く。

周りを見渡すと壁に体育座りしているピーシェを見つけた。

 

「おなかすいた……」

 

結局あの時に我慢してから何も食べていないのでお腹が空いているのだろう。そんなピーシェにネプテューヌは歩み寄った。

 

「ピーシェ」

「ん?」

「はい、プリン。こっそり持ってきたんだ〜」

「ぷりん!ぴー、食べる!」

「うん。でも、半分こね。私も食べるから」

 

そこで全部あげると言えないのがネプテューヌらしいというか。それでもピーシェは嬉しそうに笑った。

 

「うん!ねぷてぬと食べる!」

「………クスクス、これで仲直りかな」

 

その様子をミズキが温かい目で見ていた。

 

 

ーーーー

 

 

そしてラステイションへとミズキ達は戻ってきた。もうかなり遅い時間で夕焼けが綺麗だ。

そのベランダにノワールとミズキがいた。

 

「あ、あの……ね、ミズキ。私、コスプレしてたじゃない……?」

「うん。凄く出来が良かったよ。写真見た限りじゃ1から手作りだったし」

「まあね、苦労したわ……じゃなくて。その、幻滅した……?」

「幻滅?」

 

ノワールはベランダの手摺に寄りかかっているためにミズキからはノワールの顔は見えない。でも、多分沈んだ顔をしてるんだということはわかった。

 

「だって、私女神なのに……その、秘密でこんなことしてて。ミズキも嫌よね、こんな私……」

「……ああ、そんなこと。クスクス、大丈夫だよ、ノワール」

 

ノワールの頭を後ろからミズキが撫でる。ノワールは赤くなった顔を手摺に乗せた腕に埋めた。

 

「僕は君を女神としてなんか見てないよ。君は1人の、可愛い可愛い女の子だ。だから、コスプレしてても幻滅なんてしないよ」

「か、かわ……!」

 

思わずノワールは顔を上げてミズキを見てしまう。ミズキは優しい笑顔でノワールを見ていた。

 

「クスクス……。頼りにしてるよ、ノワール」

 

ミズキがまたノワールの頭を撫でる。大人しく受け入れていたノワールだったが、突然ミズキがその手を離す。

 

「み、ミズキ?」

 

いい雰囲気だったのに、どうして。

そう思って頬を膨らませてミズキを見るがミズキは空を見上げている。

 

「………なにか、来る?」

「なにか?なにかってなによ?」

「………アレ、かなぁ?」

 

まさか、またネプテューヌが落ちてくるわけはないし……と思って空を見るとそこには落ちてくる女の子がいた。

 

「2度目⁉︎」

「わぁぁぁぁ!どいてどいてどいて〜!」

「ああ、もうっ!」

 

ミズキが大きくジャンプして女の子をキャッチする。薄い紫の髪をした小さな女の子だ。

 

「わぁ〜、ありがと〜。キミ、すごいね〜」

「………歯を食いしばろうか」

「歯を〜?うん、い〜」

「健康的だね〜……。ぐわぁっ!」

 

ドカァン!

 

「ミズキが墜ちた!」

 

このひとでなし!

 

「な、なになに⁉︎凄い音したけど⁉︎」

 

ミズキと女の子落下の衝撃で大きな音が響いてそれに驚いたネプテューヌ達がベランダに駆け出してくる。

そこにはミズキを下敷きにして座っている女の子がいた。

 

「危なかった〜。キミ、大丈夫〜?」

「………だいじょばない」

「ごめんね〜?痛かった〜?」

 

女の子がミズキから降りて背中をさする。ミズキは床にめり込んでいて顔は見えない。

 

「ちょ、ちょっとアンタ誰よ!」

「私〜?私はね〜、プルルート〜。プラネテューヌの〜、女神だよ〜」

「………え?」

 

「え⁉︎」

 

『ええ〜っ⁉︎』

 

「…………痛い」

 




慣れたミズキ。2度目の撃墜ってそれ…。
さあ愛しの愛しのぷるるん登場であります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゲテモノ万歳

ありがとナス!な話。



ラステイションの牢獄。

静かな牢獄に看守の足音だけがこだまする。その看守がアノネデスの牢獄を通り過ぎる。

アノネデスはベッドに座って頬杖をつき、退屈そうにしていたが、看守が目の前を通り過ぎてからプルルルと発信の音を立てる。

パワードスーツには電話機能もあったらしい。ミズキのせいでひしゃげているものの、機能はまだ生きていた。

 

「……うん、アタシ」

 

何者と連絡を取っているのかはわからないが知人であることは確からしい。

 

「うん、いたわよ、あの子。せっかく衛星までジャックして探したのに、別口でなんて……」

 

何かが徒労に終わったらしく疲れたようにはぁ、と息を吐く。

 

「ん?……わかったわよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

夜のプラネテューヌ、その教会の晩御飯。

ネプテューヌ、ネプギア、アイエフ、コンパ、ミズキ、ジャック、ピーシェともう1人、おっとりした女の子がワイングラスを持っていた。その女の子が立ち上がって自己紹介をする。

 

「私〜、プルルート〜。よろしくね〜」

 

パチパチと拍手する。

そしてコンパが乾杯の音頭をとった。

 

「それでは、プラネテューヌの新しい女神様にーーー」

「ちょお〜っと待った〜っ!」

 

ところがコンパの音頭をネプテューヌが遮った。

 

「それじゃ私がぷるるんに女神の座を奪われたみたいじゃん!」

「クスクス、確かに」

「いくらプラネテューヌだからって言っても、別次元だから!そこんところよろしく!」

「それにしても、プルルートが別の次元から来たなんてね」

 

同じく他の次元からゲイムギョウ界にやってきたミズキはなんだか親近感を感じる。いや、もともと出会って数秒で尻に敷かれた(誤解しか生まない表現だ)のだが。

 

「うん〜。私の次元もいいところだけど〜、ここもいいところだね〜」

 

プルルートの間延びした口調になんだか少し気の抜けた感じになる。

 

「変身もできるのか」

「うん〜、できるよ〜。でも〜、みんなには、あんまり変身しないように言われてる〜」

「ふぅん。どうして?」

「う〜ん……なんでだろ〜……」

 

プルルートがのんびり悩む。

ネプテューヌがそれを見ている隙にピーシェは肉を食べ終わってしまったらしく、不満そうな顔で周りを見渡す。

そしてネプテューヌのステーキに狙いを定めた。狙い撃つぜぇ!

 

「えいっ!」

「あっ!ちょっとぴー子それ私の!」

「ん〜、ぴーがおにくたべる!」

 

みんなは晩御飯のステーキを食べ始めたが、ネプテューヌから驚愕の声が上がる。

 

「きゃああ〜っ!」

「どうしたの、ネプテューヌ」

 

もう色々と慣れているプラネテューヌ一同は悲鳴ごときで慌てたりしない。こういう時は大抵どうでもいいことなのだ。

 

「これ!ナス〜!近づけないで〜!」

 

ほら、やっぱり。

 

「ネプテューヌ、ナス嫌いなの?おいしいじゃん」

「嫌い嫌い!ナスやだ!fat○も見たくない!」

「それはキノコも付け足さなきゃだよ」

 

ミズキは苦笑いしてナスを頬張る。

 

「食べられるものがあるだけ幸せだよ。ぺんぺん草食べるよりはマシでしょ?」

「ミズキのリアル○金伝説はアテにならないよ!現代人のほとんどは野草を食べて飢えをしのがないよ!」

「ふぅん、ナス、ご馳走なのに」

 

モグモグと何の苦もなくナスを口の中に入れていく。ネプテューヌはそれを信じられないような顔で見ている。

 

「ネプギアは平気なの?」

「はい、私は大丈夫です。嫌いなものもそんなにないですよ」

「ネズミは?」

「嫌いです」

「………しゅん」

 

キッパリと即答したネプギアにミズキは落ち込んでしまう。

ふと思い立ったのかイストワールがジャックに質問する。

 

「もしかして、ジャックさんもそんなものを食べたりしたんですか?」

「いや、俺が生まれた時には『子供たち』はそこそこ豊かになっていたしな。少なくとも野草を食べたことはない」

「では、ネズミは?」

「………ある」

「あるんですか⁉︎」

「なんていうか、こう、マズくはなかったな……」

「マズくないんですか⁉︎」

「まあな。衛生面としてはどうかと思うが……」

「私もそう思うですぅ」

「焼けば大丈夫なんだよ。血は栄養になるし、皮は集めれば売れる。残ったものは肥料になるし、万能食材だよね」

「なんでそんなネズミを崇めるのさ……」

 

ネプテューヌはドン引きである。

 

「そもそも、ネズミなんてこの世のなーーー」

「イストワール?どうかしたか?」

「あば、あば、あばばばばばば」

「イストワール⁉︎」

「あ〜っ!ほら、ナスなんか食べるから!」

「ネズミを摂取させなきゃ!」

「ネズミは薬じゃないわよっ!」

 

突然体を震わせて怪音を発し始めたイストワールにみんなが慌てる。その様子を窓の外から見ている1人と1匹がいた。

それぞれローブを被っていて顔は見えないがその血色の悪い肌には見覚えがある。

 

「…………?」

「ミズキ〜?どうかしたの〜?」

「……ううん、なんでもないよ」

 

ミズキが窓の外を見た瞬間には彼女らは既にそこから消えていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「いやあ、別次元からの着信なんて初めてで。マニュアルを読むのに手間取ってしまいました」

「まったく、狂ったかと心配したぞ」

 

イストワールとジャックがとある部屋の中で小人と向かい合っている。

それはイストワールだった。多少幼いが、イストワールの前にイストワールがいる。

本の上に座っていてこの顔、この声、この口調。舌ったらずではあるが彼女は別次元のイストワールそのものだった。

 

「こちらこそ、突然電話してすみませんm(_ _)m。プルルートさんがお世話になっております」

「なんだか、小さいですね」

「俺達が言えたことではないがな」

「あ、小っちゃいからってバカにしないでくださいね(>_<)。プルルートさんをそちらの次元に送ったのだって、私なんですから」

「……そちらの次元では次元科学が進んでいるようだな」

 

ジャック達の次元は次元科学が発達していないこともあって3人を置いてきてしまったのだから、何か思うところがあるのだろう。

大きいイストワールはジャックの方をチラリと盗み見た。

 

「一応、進んではいます。でも、まだまだわかってないことは多いです」

「そうなのか。さも当たり前のように言うものだからな」

「当たり前なんかじゃありません( ̄∩ ̄#!結構大変なんですよ?」

「そうか、すまないな」

「まあ、マニュアルをよく読めば書いてあるんですけどね。3日かかりました;^_^A」

「……それだけの、科学力があればな……」

「あの、ジャックさん……」

「いや、わかっている。今更過去を悔やむつもりはない」

 

教訓は未来に活かすということだろう。

 

「ふむ、小さい方のイストワール。そのうち機会があれば次元科学について教えてくれ」

「それはかまいません( ̄^ ̄)ゞ。あの、つかぬ事を聞きますが……」

 

小さいイストワールは口を濁す。さっきまで言いたい放題であったのだが。

 

「なんですか?私達に答えられることなら、なんでもお聞きになってください」

「それじゃあ、遠慮なく。お2人は付き合ってるんですか\(//∇//)\?」

 

「……………はい?」

「……………………」

 

ジャックだけは冷静にはぁ、と溜息をついた。

 

「断じて違う。俺とイストワールは単なる友人だ」

「そうなんですか?それは失礼しましたm(_ _)m」

「構わない。ところで、何故この次元にプルルートを送り込んだ?」

 

後ろの方でフリーズしている大きいイストワールは無視して話を続ける。

 

「実は、私達の次元からそちらの次元に大きなエネルギー反応が確認されたんです。何か、あるいは誰かが次元を移動した可能性があるのですw( ̄Д ̄; )w」

「ふむ、なるほどな」

「その存在のエネルギーがあまりにも大きいので、そのエネルギーがないとこちらの次元のバランスが保てなくなるんです」

「……次元の崩壊が起こるのか?」

「それは最悪の場合です。ですが、何かしらの影響は出ます。だから、プルルートさんには『大きな存在』の正体を突き止めてこちらに連れて帰ってもらわなければならないんです」

「………そうか」

 

次元の崩壊。ミズキやジャックが最も恐れ、また最も忌むべき現象だ。

 

「それで、その存在はどうすれば見つかる?」

「それが、3日調べてもわからなかったんです・゜・(ノД`)・゜・。。できるのは、そちらの世界の現象を早めに察知することくらいです」

「そんな、悠長な……!」

 

一瞬だがジャックは次元のトンネルから崩壊する次元を見た。全てが歪んで0になるような恐ろしい現象だった。何もかもを奪い去る、その何もかもを残さない次元の崩壊。それだけはなんとしても止めなければならない。

 

「ですから、この世界で何か大きな現象が起こった時、必ずその大きな存在はそばにいるはずですε-(´∀`; )」

「……わかった。尽力しよう。………ところで、だ」

「ぷしゅ〜………」

「いつまで呆けているつもりだ」

 

ジャックはイストワールに斜めに3回チョップすることで起こすのだった。

 

「あっちの私は壊れたテレビか何かですか(^_^;)」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

コンパがお盆に全員分のプリンを持ってリビングにやってきた。

 

「デザートですよ〜」

「やった!」

 

その中の1つには『ねぷの』と蓋に名前がしっかりと書いてある。

ネプテューヌがそれを取ろうとすると脇から手が出てきてそれを奪い取った。

 

「あ、ちょっとぴー子!」

「ぴー、これたべる!」

「こら!ちゃんと『ねぷの』って書いてあるでしょ⁉︎」

「ねぷのがいいの!」

「なにを〜!やるか〜!」

「やめなさい、ネプ子。大人げないわよ」

「ねぷちゃ〜ん?喧嘩は〜、ダメだよ〜?」

「………」

 

アイエフとコンパにそう言われて引き下がるネプテューヌ。

結局ミズキが苦笑いしながらネプテューヌの頭を撫でたのでそれに免じてネプテューヌは引き下がった。

 

「クスクス、ネプテューヌが好きなんだよ」

「そんなことないよ!絶対嫌がらせじゃん!」

「ぴーもねぷのこときらい!」

「む〜!」

「む〜!」

「クスクス、喧嘩するほど仲が良いってね。ほら、プリン食べよ」

 

さすが子供のあやしが上手いミズキは2人の背中を押して椅子に座らせる。

皿の上にプリンを押し出して食べる。ネプテューヌは慣れた様子でプリンを押し出したが、ピーシェは上手くいかない。

 

「…………?」

「………あっ!」

 

力任せに押し出しているとプリンが粉々になってしまった。

 

「だ〜はははは!」

「…………!」

 

ネプテューヌがそれを見て大笑いする。プルルートがピーシェは涙目だ。

 

「クスクス、しょうがないなあ」

「ミズキさん?」

 

ミズキはしーっと口の前で指を立てる。今にも喧嘩を始めそうな2人を見ながらミズキもプリンをわざとぐしゃぐしゃにして押し出した。

 

「だはは!だ〜はははは!」

「〜〜!」

「………ネプテューヌ、ピーシェ」

「え?」

「ん?」

 

皿の上のプリンは見事にぐしゃぐしゃ、手間で汚れてしまっている。

 

「ティッシュ取ってくれない?」

「……あははは!ミズキ、なにそれ〜!」

「あはは!みずきへたくそ!」

「もう、いいからティッシュちょうだいよ〜」

 

ネプギアはそれを見て驚愕している。これがあやすってことなんだなって。ネプギアは子育てスキルが1上がった。




平和的敗北主義者、ミズキ。
負けてあげることも重要なんだなって。
さて、もうじきありがとナス!の悪夢がやって来ますね。変身する機体は赤いあのガンダムです。
絵文字面倒くさいよぉぉぉぉ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

へ〜んし〜ん!

短め。
バトルは次回から。


 

翌日の朝早くに教会でイストワールが話をしている、が。

 

「………というわけらしいです。なので、一刻も早くその大きな存在を……って聞いていますか?」

 

ネプテューヌはテレビに向かって真剣にゲームをしていてネプギアはNギアをピーシェに取られて追いかけっこの最中だ。

 

「は、はい!すいません!聞いてます!あ、もう返して〜!」

「聞いてる聞いてる〜!とりあえず大きな反応はないよ〜!」

「まだ教会から出てもないじゃないですか……」

 

だがネプテューヌはゲームをポーズ画面にしてイストワールの方を向いた。

 

「ミズキは?」

 

ピタリとネプギアも動きを止める。ピーシェが不思議そうにネプギアを見た。

 

「今ジャックさんと話しています」

「………そっか」

 

次元の崩壊が起こるかもしれないなんて話を聞いたらミズキの心境も穏やかではないだろう。

もう2度と起こさないと決意しているはずだ。

するとミズキが部屋に入ってくる。

 

「ん、話終わった?」

「ミズキさん、あの……」

「ミズキ」

 

ネプテューヌとネプギアがミズキの前に立つ。ミズキはクスリと笑って2人を抱きしめた。

 

「大丈夫だよ。頼りにしてる。力を貸してくれる?」

「もちろん、貸すよ!」

「任せてください!」

「クスクス、ありがと」

 

もう1人では行かないと2人の頭を撫でる。その様子をプルルートがじっと見ていた。

 

「それじゃ、私はとりあえず調べてきますね」

「はい。いつもいつもすいません」

「いいんですよ。……あっ、そうだ」

 

出掛けようとしたアイエフが立ち止まる。

 

「コンパもこれから仕事でしょ?後ろ乗ってく?」

「はい。じゃあお願いするですぅ」

「了解よ」

 

アイエフとコンパも部屋を出て行く。

 

「僕はトレーニングしてくる」

 

ミズキも部屋を出て行く。それを見たプルルートはふらりとミズキについて行ったのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

「………なんか今日はやたらと工事が多いわね」

 

コンパを後ろに乗せたアイエフがバイクに乗って道路を走っている。

だがさっきから通行止めばかりで迂回するしかない。

 

「ごめんなさいね、送るって言ったのに遅れちゃって」

「いいですよ。あいちゃんと一緒なら楽しいですぅ」

「そ、そう?」

 

アイエフは顔を少し赤らめてバイクを走らせる。

まあ、リミッターを解除すれば空を飛んでどこまでもなのだが滑走路がいるし、何より後ろにコンパを乗せて落ちてしまっては大変だ。

しかし、それを抜きにしてもこのバイク性能がいい。ブレーキはしっかり効くし音も小さくなったし燃費も良くなった。アイエフは結構このドライブをたのしんでいた。

スピードを上げて急ぐがいきなりバイクを包む空気が紫に染まった。

 

「っ⁉︎」

「きゃああ⁉︎」

 

バイクに急ブレーキをかけて止まる。だが勢い余って紫の空気の中に入り込んでしまう。

 

「コンパ、口を塞いで!」

「………すぅ……」

 

アイエフはすぐに口を押さえるがそれが遅れたコンパがすぐに眠ってしまった。

 

「コンパ………!」

「ククッ、案外簡単に引っかかったな」

「アンタは……!」

 

目の前にはローブを被った女と小さいネズミ。

まさか、あの時、死んで………た……。

 

アイエフの視界が歪んで暗闇に消える。アイエフが聞いたのはバイクと共に自分が倒れる音だった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキは教会の外に出て立ち止まり、体操を始めた。

 

「で、どうかした?プルルート」

「あ〜、やっぱり気付いてた〜?」

「もちろん。何か、話があるの?」

 

壁の陰に隠れてたプルルートが出てくる。

 

「あるけど〜、トレーニング終わってからで〜、いいよ〜?」

「……それじゃ、公園までついてきてくれる?僕はまず、ランニングの前に公園まで歩くんだ」

「いいよ〜。一緒に行こう〜?」

 

2人並んでゆっくりと公園まで歩く。

 

「ねえ〜、ねぷちゃんとか〜ぎあちゃんとかと、何があったの〜?」

「………やっぱり、気になるよね。クスクス」

 

公園まで歩きながらこれまでの経緯を話す。

出会いのこと、アンチクリスタルのこと、みんなに助けてもらったこと。

ちょうど公園に辿り着く頃にはプルルートに全てを話し終わっていた。

 

「そんなことが〜……あったんだ〜」

「うん。だから、プルルートの次元も絶対に崩壊なんてさせたくない。プルルートにはあっちにも友達がいるんでしょ?」

「いるよ〜。ノワールちゃんとか〜、ブランちゃんとか〜、ベールちゃんとか〜」

「へ〜。みんなあっちの次元でも女神をやってるんだ……」

 

もしかしたら、別次元の僕達もいるのかとしれないとミズキは思った。

きっとその次元では、みんな平和に暮らせていればいいなとも。

すると空間からジャックが現れた。呼んではいないはずだが。

 

「どうかしたの?ジャック」

「これを見ろ、ミズキ」

 

ジャックは有無を言わさずに空中に写真を映し出す。

そこには杭に縛り付けられたアイエフがいた。

 

「アイエフ⁉︎」

「ひどい〜……!」

 

気絶してはいるようだが怪我はないようだ。

 

「既にネプテューヌとネプギアが向かった」

「わかった。場所は?」

「ここだ」

 

ジャックが映し出した地図には現在地と目的地が映し出された。場所はプラネテューヌの外れ、農園地帯だ。

 

「ここからじゃ少し時間がかかるか……!すぐに行くよ!」

「頼んだぞ」

 

ジャックが空中へ消えていく。

 

「どうするの〜、ミズキくん〜?」

「助けるに決まってる。変身、出来るね?」

「うん〜。でも〜、出来るだけ変身するなって〜……」

「友達を助ける以上の理由が変身に必要?」

「……ないよ〜。わかった〜。へ〜んし〜ん!」

「………変身」

 

2人の体が光に包まれた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「う……う………!」

 

縛り付けられたアイエフが目を覚ます。食い込んだ縄が痛い。

目の前にはとんがり帽子を被った魔女のような女。アイエフにだって見覚えがある。女神や女神候補生を追い詰め、アンチクリスタルを集めていた……!

 

「アンタ……マジェコンヌ!」

「ククク………復讐の時だ」

 




いや、次の機体はマジで知識がない。wikiでもなんでも使ってお勉強です。
でも日本人の鑑みたいなガンダムなんで、カッコよく書きたいなあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

赤龍降臨

最カッコいいアイツの登場。ドSのあの人も登場。


「アンタ、どうして⁉︎」

「あの島には万が一のために抜け穴が掘ってあってな。私はそこからまんまと逃げおおせたというわけだ」

 

マジェコンヌの体には傷1つなく、怪我は完治したらしい。

 

「何度来たって無駄よ、おばさん!またネプ子やネプギアがアンタを倒すわ!ミズキだって……!」

「………その口を少し塞ぐ必要があるようだな」

 

マジェコンヌが一歩アイエフに近付く。その雰囲気にアイエフは身を強張らせた。

拷問だってされても不思議ではない。痛みには慣れている方だが、アイエフは唾を飲み込んだ。

マジェコンヌがアイエフの頬を掴んで口を開けさせる。

 

「むむ……むぐ……!」

「これでも、食らえ!」

「っ⁉︎む〜〜っ!」

 

アイエフの口に(本当に)ナスが食らわされ、(物理的に)口が塞がれた。

抵抗するアイエフだったが新鮮なナスはアイエフの口の中にめり込んでいく。抵抗できずにアイエフはナスを飲み込んでしまった。

 

「げほっ、げほっ、げほっ!な、なにすんのよっ!この年増!」

「ほう。またナスが欲しいようだな」

「ちょ、やめ、ん〜っ!」

 

酷い、あまりにも残酷な拷問だ。いくらナスだと言っても生で食わされる身にもなって欲しい。しかもまるごと。これはさすがにアイエフにもキツかった。

 

「ほおら、全部食え、残さず食え。ナスの皮にはポリフェノールがいっぱいだぞ〜?」

 

そこにネプテューヌとネプギアの声がこだまする。

 

「やめなさい!」

「アナタの相手は、私達です!」

「ネプ子、ネプギア!」

 

ネプテューヌとネプギアが変身して空を飛び、アイエフの元へとやってきた。

その声にマジェコンヌが振り返る。

 

「ふん、来たか」

「アナタ……マジェコン……!うっ!」

「お姉ちゃん⁉︎」

 

突然ネプテューヌが苦しんで口を抑える。

 

「ごめんなさい、ちょっと、ナスの匂いが……!」

「ナス⁉︎」

「フハハ!今頃気づいたか!女神の弱点は既に調査済み……このナス農園は私が買い占めたのだ!」

 

それに声に周りを見渡すとまあ、ナスナスナス。ナスだらけでナスパラダイスだ。

 

「バカ言わないで!いくらナスが嫌いだからって、それだけでやられるわけないでしょ⁉︎」

「それはどうかな?行けっ、我が紫のしもべ達よ!」

 

マジェコンヌが収穫したナスが空中に向かって投げられた。

それはポポポポンという音を立ててモンスターへとなる。羽の生えた馬に乗り、ナスの体で槍は尖ったズッキーニだ。精霊馬ってモンスターになるとこうなるのだろうか。それぞれは小さく戦闘力が高いとは思えないが数が多い。油断すればあっという間に崩されてしまうだろう。

 

「ええいっ!」

 

ナスが苦手なネプテューヌに変わってネプギアが射撃で数を減らす。だがほとんど当たらずにたくさんの精霊馬が向かってくる。

 

「くっ!」

「ヤダ、来ないでよっ!」

 

ネプテューヌが太刀で精霊馬の1匹を叩きつける。するとその精霊馬が破裂した!

 

「うっ!」

「お姉ちゃん!」

 

破裂自体にダメージはないがネプテューヌの顔全体にナスの汁が飛びかかる。

 

「フハハ!どうだ、女神!新鮮なナスは匂いからして違うだろう!」

「うっ、くっ………うぷっ」

 

ネプテューヌが口を押さえて苦しみだす。

 

「っ、あっ!」

 

そして変身が解けてしまった。ネプテューヌが真っ逆さまにナスが生い茂る農園の中に落下していく。

 

「きゃあああっ!」

「お姉ちゃん!」

「余所見をしている暇があるのか、女神候補生!」

「くっ!」

 

助けに行きたいがネプギアのところにも精霊馬がやってくる。ネプギアはそれの相手で手一杯だ。

 

「いたた……いいっ⁉︎」

 

地面に落ちたネプテューヌにも精霊馬が向かっていく。

 

「いや〜っ!ナス怖いナス嫌い〜!」

 

ネプテューヌは精霊馬から逃げて右往左往。

 

「お姉ちゃん!えいっ!」

 

ネプギアは精霊馬を減らしていくがキリがない。その上……。

 

「ううっ!前が……!」

 

スプラッシュするナスの汁。ネプギアは攻めあぐねていた。

 

「頑張りなさいよネプ子!こんなおばさんが作ったモンスターなんて……!」

「まだ言うか!」

「えっ、ちょ、ん〜〜っ!」

「せっかくだからナスを食べさせ続けてやる!」

「ん〜〜〜っ!」

 

アイエフの口の中にナスがひたすら放り込まれ続ける。

 

「ひゃ〜っ!来ないで〜!」

 

ネプテューヌはひたすら精霊馬から逃げ続けている。

 

「くっ!」

 

ネプギアは精霊馬に囲まれて苦戦している。

その戦場に2本の緑のビームが差し込まれた。

ネプテューヌと精霊馬の間に牽制するように落ちたビームが地面を焦がす。

 

「これ……ミズキ!」

 

後ろを振り向くとそこに白い装甲から赤いフレームが見えるガンダムが接近していた。

背中には紫に輝く3本の剣。そして腰には本来モビルスーツが持たないはずの日本刀が装備されていた。

機体の名はアストレイレッドフレームレッドドラゴン。

その頭ーードライグユニットーーのV字型のアンテナの後ろからまるで炎が揺らめくようにビームアンテナが展開された。

レッドドラゴンは左腰の菊一文字の日本刀、『ガーベラ・ストレート』を構える。

 

《ガーベラ・ストレート……!》

 

勢いを緩めることなく精霊馬の大群へと接近、そしてすれ違う。

すれ違った時には既にガーベラ・ストレートがほとんど鞘に収まっていた。

まるで時が止まったかのように動きを止める精霊馬。そしてガーベラ・ストレートの鍔が鞘にぶつかって音を立てる。

 

チン………ッ…………。

 

《秘技、微塵切り……なんてね》

 

精霊馬がバラバラになって消えていく。

 

「破裂……!……しない……?」

 

身構えたネプテューヌだったが精霊馬は全て破裂することなく消えていった。

 

《こいつの破裂を防ぐ方法は2つ。モンスターが破裂する前に一瞬で倒し切るか……》

 

ネプギアの周りを飛び回っていた精霊馬の1匹が打ち落とされた。

その鞭のような剣が飛んできたところをネプギアが見ると、そこには紫の長い髪、グラマラスな体格、蝶のようなプロセッサユニットにボンテージや下着のような形のスーツを身につける見知らぬ女がいた。

 

「死ぬ寸前まで上手に痛めつけて……行動不能にするか、よねぇ……」

 

女がじゅるりと唇を長い舌で舐める。

 

「ええっ⁉︎誰あれ⁉︎」

《プルルートだよ?》

「わっつ⁉︎ぷるるん⁉︎アレが⁉︎」

《うん、あれが》

「お姉ちゃん以上の変貌ぶり……」

 

それは変身したプルルートだった。ネプテューヌも変身すれば別人のようだがプルルートに至っては面影すらない。

 

「だぁかぁらぁ。アイリスハートだって言ってるでしょ?」

《ごめんごめん。でもいいじゃないか、同一人物なんだし》

「あらあら……生意気な子ねぇ」

《まずはこのモンスターを痛めつけることから始めよう?》

「……ま、楽しみは後にとっておいてあげるわ」

 

アイリスハートは嗜虐的に笑って剣を構える。剣は中に糸のようなものが通っていて刀身が分裂するようになっていた。

 

 

ーーーー『赤い一撃』

 

 

「来たか、白いの。付き添いも1人いるらしいが?」

《クスクス、プルルートを舐めない方が身のためだよ》

「フン、減らず口を!今度こそ地獄に送ってやる!」

 

マジェコンヌが腕を振ると一斉に精霊馬が飛びかかってくる。

 

「そらっ!」

 

アイリスハートが鞭のリーチを活かして遠くの敵まではたき落としていく。

 

「ちょっとぉ……脆すぎじゃない?」

「私も……負けられません!」

 

ネプギアもNEXTへ変身してシグルブレイドで精霊馬を切り裂いていく。スパローの機動力のおかげで精霊馬が破裂する瞬間にはネプギアはもう遠くへと切り抜けている。

 

「うわわっ!ミズキ、後ろ!ナスが来るよぉ!」

「問題ないよ。『カレトヴルッフ』の射角なら!」

 

背中にマウントされた3本の剣のうち、両端の2本が後ろから迫る精霊馬に矛先を向けた。その穴からはなんと、ビームが発射され精霊馬を撃ち落とす。

カレトヴルッフは銃と剣の形態を取る、万能武器なのだ。

ミズキは3本のうちの中央のカレトヴルッフを引き抜いてS(ソード)モードに組み替えた。

 

《ふんっ!やあっ!》

 

飛び上がって精霊馬を縦横無尽に切り刻んでいく。接近する敵も背中のカレトヴルッフが撃ち抜いていき、隙がない。

 

「ねえ、ぜんっぜん物足りないんだけど?」

《クスクス、拍子抜け?》

「こんなんじゃいつまで経っても絶頂できそうにないわよ」

 

精霊馬はまるで虫でもはたくかのようにプルルートに打ち落とされる。

 

「ならば、奥の手だ。これを見ろ!」

《っ⁉︎》

 

マジェコンヌが懐から取り出したのは赤く光るクリスタルの欠片。

 

《それは、アンチクリスタル⁉︎》

「ウソ⁉︎あれ全部砕けたんじゃないの⁉︎」

「ククク……出でよ、EXナス!」

 

死ぬほどダサい名前ではあったもののナスモンスターが3匹、アンチクリスタルの欠片に触れる。

するとナスがみるみるうちに巨大化していき、体色は赤黒くなる。

 

1匹は巨大な本当の精霊馬。足は割り箸のようになってはいるものの、グネグネ曲がる。

さらに1匹は人型。縦にしたナスから割り箸の手足が生えて顔のような切れ込みができる。

そして最後の1匹はただただ巨大なナスだった。

 

《また、EXモンスター……!》

「あら。さっきよりは手応えありそうじゃないの〜」

「ミズキさん、連携で!」

「私も戦う!変身!」

 

ネプテューヌが変身して空へ飛び上がる。

 

《大丈夫なの、ネプテューヌ》

「あれだけ大きいともうナスって気はしないわ。赤黒いし。それに、嫌いとか言ってられる状況じゃないもの」

《なら、信じるよ!》

「私はあの人型貰うわよ?邪魔したら許さないんだから」

 

プルルートが円陣を蹴って凄まじい速度で人型ナスへと向かっていく。ナスは無数のナスミサイルを生み出してプルルートへと撃ち出した。

 

「アッハハハハ!当たらな〜い!」

 

プルルートはバレルロールしながらミサイルを避けつつナスへと接近する。そして接近して剣を鞭にして振るう。

 

「そぉれっ!」

「ーーー!」

 

人型ナスは声も上げずに倒れる。

 

「バカな!」

「アハ、おっきい体ね!イジメ甲斐があるわぁ……!」

 

プルルートは倒れたナスを嬲るように鞭を打ち据えていく。

 

「楽しんでるみたい……」

《負けてられないね。2人とも、合わせて!》

 

レッドドラゴンが背中にはカレトヴルッフを背負い直して飛び上がる。カレトヴルッフはミラージュコロイドというガスを散布でき、そのおかげで慣性力をコントロールして機体姿勢を制御できるのだ。

レッドドラゴンの背中のカレトヴルッフから撃たれるビームとネプギアのM.P.D.B.Lが馬型のナスを牽制していく。

 

「お姉ちゃん、今!」

「任せて!クロス・コンビネーション!」

 

ネプテューヌの十字の斬撃がナスを切り裂く。だがナスが巨大であるが故に斬撃が浅く、大きなダメージにならない。

 

「フハハ!お前達の攻撃は通用しない!」

「なら、何度だって切りつけるまでよ!」

《ネプテューヌ、下がって!》

 

再び接近しようとしたネプテューヌがミズキの声に振り返る。

ミズキは背中のユニットをパージしてゆっくりと歩いてナスに向かう。

 

「ふん、観念したか?」

《冗談。見せてあげるよ、僕のとっておき……!》

 

空中から降り立つのは日本刀。それをレッドドラゴンがしっかりと掴む。

日本刀だ。日本刀ではあるものの……。

 

「な、なんだこの大きさは⁉︎」

 

全長、15m。ビル4階建くらいだと言えばわかりやすいか。いや、わかるか。

 

《一発逆転!150(ワン・フィフティ)ガーベラ!》

 

それを抱きかかえるように持って振り上げる。

 

「み、ミズキさん……凄い……!」

「さすがにこれは冗談だと思いたいわ……」

 

《そおおおおりゃぁぁぁぁぁぁッ!》

 

ナスは、縦に真っ二つに裂かれた。




ミズキはガンダムの約10分の1なので15mでしたが本当なら150mあるそう。しかもとんでもない切れ味の。アホか。
アストレイはにわかでよくわからんのです……。レッドフレーム、フライトユニット付けて、150ガーベラが振れないからPレッドフレームになって、それを通常時でも振れるようにパワードレッドになって、それにフライトユニットとカレトヴルッフを取り付けたのがレッドドラゴン……なんすかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドSのSは何のS?

引き続き赤い一撃をお楽しみください。


ーーーー『赤い一撃』

 

 

ナスを両断したレッドドラゴンの腕から排熱で蒸気が吹き上がる。

 

《プルルート、そっちは⁉︎》

「もう終わっちゃいそうよ。コイツも弱すぎ」

 

プルルートが力を入れて鞭を振るうとトドメを刺されてナスが消えた。

 

「あとは、この置物だけね」

「ククク……」

 

EXモンスターが2体も倒されたというのにマジェコンヌは小さく笑っていた。

 

「バカめ!こっちが本命だ!出でよ、ナス魔人!」

「ナス魔人〜?」

 

ネプテューヌが小馬鹿にしたような目でマジェコンヌを見る。

だが巨大なだけのナスは真っ二つに割れた。まるで卵から新たな命が生まれるように、そこには赤黒い人がいた。

 

「完全に人じゃない!」

「紫じゃないし、アレはもうナスって呼べるのかな……」

「なんでもいいわよ。私を絶頂させられないなら……!」

 

プルルートが円陣を蹴って急接近した。

 

「さっさと砕け散るがいいわ!」

 

剣でナス魔人を切りつけた。だが、刃が通らない。

 

「あら、カチカチなのねぇ」

「ーーーー」

 

腕を振ったナス魔人の攻撃を避ける。

 

《アイツ、硬い……⁉︎》

「これなら、どうです⁉︎」

 

ネプギアがM.P.D.B.Lを乱射する。だがM.P.D.B.Lの貫通力を持ってしてもナス魔人には傷1つない。

 

「そんな、直撃だったのに!」

『………貫通力』

「え?」

 

「だったら!」

 

ネプテューヌがナス魔人に向かって突きを繰り出す。攻撃力を一点に集中してもナス魔人の硬い表皮には傷1つつかない。

 

「くっ!」

《みんな、陽動頼める⁉︎》

「策があるんですか⁉︎」

《ある!援護して!》

「仕方ないわねぇ……」

 

遠距離からはネプギアのM.P.D.B.Lが、中距離ではプルルートの鞭がナス魔人を牽制する。近距離ではネプテューヌが気を引いてくれている。

 

「くっ、あっ!」

 

ネプテューヌがナス魔人に太刀を受けた腕を振られて飛ばされた。だがその時には既にレッドドラゴンがナス魔人に接近している。

 

「ミズキ!」

《任せて!》

 

右手での手刀で袈裟斬り、左手で発勁。

そしてレッドドラゴンが右手を握って振り被る!

 

《これが僕の、赤い一撃(レッドフレイム)だッ!》

 

そのまま全力でパンチ!

150ガーベラを持ち上げるほどのパワーを持った腕は武器にもなり得る。赤い一撃を食らったナス魔人は吹き飛んでゴロゴロと地面を転がった。

だがそのパンチでもナス魔人の表皮は軽く凹んだ程度だ。

 

「ふん、奥の手とは言ってもその程度か!行け、ナス魔人!………ナス魔人?」

 

ナス魔人は立ち上がろうとしている。だが立ち上がれていない。腕や足に力を入れているがプルプルと震えるだけでその場から動けていない。じきにナス魔人は光になって消滅した。

 

「バカな⁉︎ナス魔人の鎧はあの程度……!」

《脆い部分を狙って体の内部に直接ダメージを与える……それが赤い一撃の真髄だよ》

 

ミズキは変身を解いたが、その手にはガーベラ・ストレートが持たれている。

 

「お終い?マジェコンヌ」

「くっ……!」

 

マジェコンヌに向けてミズキが切っ先を突きつける。

 

「……僕は、君を殺す気なんてないよ。誰も怪我してないんだし。でも、その欠片は持ってちゃいけないものだ。渡してくれる?」

「誰が渡すか!こうなれば……!」

 

マジェコンヌがアンチクリスタルを懐から取り出した。

だがアンチクリスタルはマジェコンヌが掴んだ先から砕け始めてしまった。

 

「なっ⁉︎こ、この、アンチクリスタルが!」

「これは………?」

 

アンチクリスタルは砂のような小汚い色になって塵になって消えてしまった。マジェコンヌはそれを逃さまいと虚空で腕を振るが徒労に終わる。

 

「アンチクリスタルが……どうして……?」

 

ミズキはその現象を信じられないような顔で見ていた。アンチクリスタルが砕けるようなことがあるのか?時間経過?何か方法があったのか?

 

「ミズキ、あいちゃんは解放したわよ!」

「無事です!」

 

アイエフが縛り付けられていたところを見るとネプテューヌとネプギアがアイエフを解放しているところだった。アイエフは体の感覚を確かめるように手足を動かす。

 

「コンパ、コンパをどこにやったの⁉︎」

「……あの胸のでかい小娘ならあそこだ」

 

アイエフが詰め寄るとマジェコンヌは観念したのか遠くの小屋を指差した。

 

「行ってくるわ」

 

ネプテューヌがその小屋に向かって飛んでいく。

 

「ふぅ、一件落着かな……」

「ねえ、それはないんじゃない?」

 

振り向くとプルルートが不満そうな顔でミズキを見ていた。

 

「全っ然、満足してないんだけど〜?」

「あはは……でも、もう敵はいないし……」

「私は別に敵を倒したいんじゃないのよ〜?誰かを〜、イジメたいだぁけ」

「……え〜と、それはつまり?」

 

ミズキの頬に冷や汗が滴る。

 

「ミズキなら私を絶頂(イカ)せてくれるわよねぇ〜……」

「………タンマ」

「だぁめッ!」

「ぷ、プルルートさん⁉︎」

 

プルルートがミズキに向かって剣を振るう。ミズキは鞘に収めたガーベラストレートでその剣を受けた。衝撃で腕が痺れる。

 

「ち、ちょっと待ってよ!イジメるってどういうこと⁉︎」

「ミズキが〜……泣いても〜……叩くのをやめないわぁ〜!」

「終わりないよねそれ!終わりがないのが終わりだよねっ⁉︎」

 

ミズキが大きく飛びのいてプルルートとの間合いを取るがプルルートにすぐに間合いを詰められる。

ガーベラストレートの鞘で剣を受け止めた。

 

「いいわぁ、もっと抵抗しなさい?この、童貞」

「ど、童貞言うな!」

「あわわわ、私、どうすれば……!」

「わ、私にもわからないわよ!」

 

ネプギアとアイエフは困惑するばかりだ。

 

「いい、いいわぁ……!もっと、もっと抵抗しなさい!私が屈服させてあげるから!」

「うわっ!」

 

プルルートが重なった刀を上に払う。ミズキの浮いた体をプルルートがヒールのようなスーツで蹴飛ばす。

ミズキはコンパがいるという小屋へと壁を突き破って入ってしまった。

 

「な、なんだヤツは……めちゃくちゃだ……!」

 

マジェコンヌはドン引きしている。

 

「いたた……あ、ネプテューヌ」

「あ!ちょっとミズキ聞いてよ!このネズミったらコンパを襲おうとしたのよ⁉︎」

「チュ、チュ〜!離せっチュ〜!」

「ネズミ……じゅるり」

「チュ⁉︎お、オイラは美味しくないっチュよ⁉︎」

「それより、なんで壁から突っ込んできたですか?」

「あ………」

 

コンパの当然の疑問にミズキがさっきまでの非常事態を思い出す。

小屋に開いた穴から外を見るもプルルートが剣の先に電撃の球体を作っているところだった。人1人は飲み込んでしまうほどの大きさだ。

 

「いいっ⁉︎」

「ちょ、あれぷるるん⁉︎なんでミズキを攻撃してるのよ⁉︎」

「そ、それはその……!」

「あんなの食らったら死ぬっチュよ!」

「し、死んじゃうですかぁ⁉︎」

 

「アハハハ!アナタの悲鳴を聞かせて〜⁉︎」

 

プルルートが剣の先から電撃の球体を投げつけてきた。

 

「きゃあああっ⁉︎死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死んだ〜!」

「ま、まだ死んでないから!」

 

ネプテューヌはパニック状態だ。

コンパも驚いて動けない。ワレチューはネプテューヌに尻尾を掴まれて吊るされていないために最初から動けない。

 

「ど、どうにかするっチュよ!」

「言われなくても!避けてよね、プルルート!」

「はあ?」

 

ミズキがガーベラストレートを抜刀して振り被った。

 

「ガーベラァッ、ストレートォッ!」

 

そのままガーベラストレートをぶん投げる!

真っ直ぐ飛んでいくガーベラストレートが電撃に触れた瞬間、電撃は真っ二つに切り裂かれた!

 

「へえ、やるじゃない」

 

プルルートは体を少し横に逸らして貫通してきたガーベラストレートを避ける。

勢い余ってガーベラストレートはアイエフの足元に刺さった。

 

「ひいっ⁉︎」

「な、なんて切れ味……!」

 

ガーベラストレートは鍔の部分までまったく摩擦を感じさせずに減り込んでしまった。

 

「でもぉ……これで武器がなくなったわけよねえ……?」

「た、タンマタンマ!君を傷つけるわけには……!」

「さあ、お仕置きの時間よ!」

 

プルルートが円陣を蹴って突っ込んでくる。

ミズキは止むを得ず壁の穴から飛び出した。

 

「変身!」

「させないわよっ!」

 

空中でミズキが光り輝く。

プルルートはそれに構わずにミズキがいる場所に剣を振るうが何かに弾かれる感覚。

光が消えた時、その場にミズキはいなかった。

 

「あら、隠れんぼかしらぁ?出てきなさいよ、可愛がってあげるから……!」

 

プルルートが自分の周りを無差別に鞭で払っていく。

 

「あ、あれがぷるるんですかぁ?」

「……変身させちゃいけない理由がわかったわよ」

 

戦慄するネプテューヌ達。

するとプルルートの腕が何かに締め付けられてまるで縛られるようになった。

 

「あ、あらぁ〜……?なにかしら、これは……?」

 

戸惑うプルルート。その正面に色が広がるように機体が現れた。

 

《あ、危ない……便利だなぁ、ミラージュコロイド……》

 




レッドフレームでやりたいことはやった。あとはもうわかんないや…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ぬいぬい

短めです。これで7章はお終い。次から8章でしっかりバトルシリアス。
最近感想増えて嬉しいですね。本当にこういうトーク大好き。私は他のロボットも(スパロボってやった範囲だけ)知ってます。ゲッターロボから最近だとガルガンティアとか…マクロスとか?マクロスのΔはまだ見てないんですけどね。


現れたのはアストレイゴールドフレーム(アマツ)ミナ。

黒の装甲の中から金色のフレームを露出させた機体で女性的な機体に仕上がっている。

その機体の特徴として『ミラージュコロイド』がある。ミラージュコロイドは可視光線や赤外線を吸収する微粒子を磁場で物体に付着させる機能だ。

つまり、何者にも見えなくなりレーダーにも捉えられなくなる。

そして今プルルートを捕らえているのは天ミナの背面に装着された『マガノイクタチ』。本来は相手のバッテリーのエネルギーを吸収する武器だがミズキは壊れたこの機体を修復する時に相手のパワーを吸収する仕様にしたのだ。

 

「アナタ……なかなかやるじゃない……。いいわぁ……!」

 

プルルートは力を入れて逃れようとするができない。力を入れるほどにマガノイクタチにパワーを吸い取られる。

 

「あっ……えへ〜、負けちゃった〜」

《よかった……》

 

じきにプルルートの変身が解ける。

天ミナはプルルートを両手で抱き抱えてからマガノイクタチを外した。

天ミナはゆっくりと地面に向かって下降していく。

 

《もう……ひやひやしたよ》

 

地面にプルルートを立たせる。

プルルートは悪びれた様子もなく、ただ照れ臭そうに笑っていた。

 

「ごめんね〜。なんだか〜、イジメたくなっちゃって〜」

《そんなことでいちいち襲われてたら体が保たないよ……》

 

ミズキは変身を解いてプルルートの頭を撫でた。

 

「ま、これで本当に一件落着……かな?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その日の夕方、プルルートが布の前に座って裁縫をしていた。

それをミズキが見つける。

 

「よ〜し、かんせ〜い」

「何を作ってたの?」

「じゃ〜ん、ミズキくん〜」

「わあ……」

 

プルルートが差し出してきたのはミズキを模したぬいぐるみだ。2.5頭身くらいにデフォルメされていてとてもいい出来だ。

 

「それ〜、あげる〜」

「え?いいの?」

「うん〜。私〜、友達になった人のぬいぐるみを作るのが趣味なの〜」

「へえ……」

 

とても良い触り心地だ。ていうかさっきまで貞操の危機にあったのに友達というのも違和感があるが、別にいいか。

 

「ありがと」

「どういたしまして〜。えへへ〜」

「あれ?ミズキ、なにそれ?」

「なにそれ!」

 

やって来たのはネプテューヌとピーシェ。ミズキが持っているぬいぐるみを指差している。

 

「プルルートが作ってくれたんだよ」

「へ〜!ぷるるんが⁉︎いいな〜、ねえ私にも作って〜!」

「ぴーもほしい!」

「わかったよ〜。じゃあ〜、頑張る〜」

 

プルルートが大きな黄色い布を机の上に広げた。

 

「あれ?ぴー子から作るの〜?」

「うん〜。ピーシェちゃんは小さくて〜、早く終わるから〜」

「ぴーがさき⁉︎」

「そうみたいだよ」

 

ペンを取り出していざ始めようとした時、リビングに皿を持ったネプギアとコンパが入ってきた。

 

「夜ご飯ですよ〜!」

「ですよ〜!」

 

「ごはん!」

「あら〜、ピーシェちゃんのは〜、また後でだね〜」

「そうだね」

 

立ち上がって机に向かう。アイエフもリビングに入ってきた。

 

「いい匂いね、今日のごはんは?」

「麻婆茄子です」

「ええ〜っ⁉︎あんなことがあったのにまたナス〜⁉︎」

「ピーシェちゃんが前食べて気に入ったんだって。だからまた作ったの」

「なす、すき!」

「そ、そんな〜!」

 

机の上にコトリとナスが置かれる。ピーシェは喜んで椅子に座ってバクバクとそれを食べ始めているが、アイエフが固まっていた。

 

「ん?どうしたの、アイエーー」

「いやぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「アイエエエエ⁉︎」

 

ミズキが忍者になってゲルマン流忍術を駆使して明鏡止水の心意気を教えそうな感じで驚く。

アイエフはアイエフで死ぬのが嫌そうな悲鳴だ。

 

「ナス、ナスはイヤ!奈○きのこ先生もイヤ!○ateの新作ゲームなんていやぁぁ!」

「待ってアイエフ!それはいろんな人を敵に回してる!少なくとも僕は新作楽しみなのに!」

「お、おお!同士アイエフよ〜!わかる、わかるよ〜!」

「確かに、あんなことがあればトラウマにもなりますよね……」

 

ネプギアが納得して苦笑いをする。

 

「ちなみにミズキは赤○イバー派?キ○ス狐派?」

「○ル派かな。愉悦部入りたい」

「⁉︎」

 

ネプテューヌがミズキの将来を案じてヒステリックな顔をする。ほもぉ……。

 

「ナスはいやぁぁぁぁぁぁ!」

 

そんなアイエフのガイアないしデストロイな悲鳴はプラネテューヌ中に響き渡ったのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

翌日、ミズキとプルルートがプラネテューヌの街を歩いていた。

ピーシェとネプテューヌのぬいぐるみを作ろうとしたが、手持ちの生地では色が足りなかったからだ。

 

「ねえ〜、抱っこ〜」

「はいはい。よいしょっ……と……」

 

甘えてくるプルルートを速やかに抱き上げる。

 

「なんか〜、あったかいね〜」

「そうかな?でも、プルルートは温かいと思うよ」

 

ぎゅっとプルルートがミズキの胸に顔を埋める。そして頬を擦り付けてきた。

 

「私〜、眠くなってきちゃった〜。寝ていい〜?」

「ん〜、いいよ。お店に着いたら起こすから」

「……なんか〜、子供扱いしてない〜?」

「クスクス、ごめん。でも、プルルートは僕の周りにいた女の子と同じ感じだから」

 

昔はこういう風に甘えられたものだ。大量の女の子や男の子に。全員を一緒に相手することが出来ないから素早くあやすコツをすぐに掴んだ。

 

「え〜?子供扱いは〜、いやだな〜……」

「ごめんごめん。でも、お兄ちゃんみたいな立場が1番しっくりくるんだ」

「ふ〜ん……。じゃあ〜、変身しちゃおっかな〜……」

 

機嫌が悪そうな顔でミズキの顔を睨んでくる。

 

「別にいいよ。けど、そしたら僕から降りてね」

「……あれ〜?いいの〜?てっきり〜、嫌がると思ったんだけど〜」

 

だがあっさりとミズキが変身を許してしまったので意外そうな顔をする。

 

「私〜、変身嫌がられるのに〜……」

「そりゃ、叩かれるのは嫌だけど……その度に僕が止めるからさ」

 

そう言ってミズキはプルルートの頭を撫でる。

 

「……ふ〜ん。いつか勝って〜、ミズキ君をイジメるも〜ん」

「クスクス、頑張ってね」

 

そんな、日常の一幕。




次回予告

「好き!好き好き大好き!ミズキだぁ〜い好き!」

ネプテューヌの身に一体何が。ベタ惚れどころの話ではないぞ?

「ね、ね、ねぷてぬのばか〜っ!」

喧嘩してしまうネプテューヌとピーシェ。簡単なはずの仲直りは知らぬ間にどんどん遠ざかり、取り返しのつかない場所へと向かっていく。

「プルルート!お願い、正気に戻って!」

赤黒く染まってしまうプルルート。アンチクリスタルの脅威は去っていなかったのか。

「お願いぴー子、帰ってきて!私達は友達でしょう⁉︎私は、ぴー子のこと、大好きなのっ!」

もう2度と、誰かを何処かへなんて行かせない。失ってしまったものは取り戻す。行ってしまったのなら連れ戻す。その決意が女神に再び炎の紋章を刻ませる。

「ずっと、謝りたかった……大好き、ぴー子……」

ーーーー

僕はFate大好きです。extraの中で好きなのはキャス狐。赤セイバーも大好きですけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8章〜新国家誕生。繋ぐその手で取り戻す。変身の先の先へと〜
喧嘩と仲直り


新章スタート。さあ、まずはサービスから!女神達の水着が見たかったらアニメ見て!私は表現できないから!数年後とかに挿絵になるかもしれないけど、それもほぼ構図はパクッちゃうから!


 

ネプテューヌはベランダにこっそりやって来ていた。周りをキョロキョロと見渡してから段差に腰掛ける。

 

「ふぅ……誰もいないよね……?」

 

ネプテューヌの手元にはプリンとスプーン。プリンには『ねぷの』と名前が書かれている。

 

「いっただっきま〜す!」

 

ペリリと蓋を剥がしてプリンを一口頬張る。

すると最も安パイな声がした。

 

「ん、ネプテューヌ。ピーシェ見なかった?」

「っ……なぁんだ、ミズキか〜。驚かさないでよもう〜!」

「クスクス、ごめん。それで、ピーシェ知らない?」

「ううん、知らない。ていうか、ここに来たら困るというか……」

「?」

 

するともっとも恐れていた者の声がした。

 

「あ〜っ!ねぷてぬずるい!ぴーの!それ!」

「あ、ピーシェ」

 

ピーシェだ。ピーシェはネプテューヌに向かって走ってくる。

 

「それ、ぴーのねぷのぷりん!」

「いや、それおかしいから!ねぷのプリンってことは、私のプリンってことで……」

「む〜!ぴーの!」

「あっ!」

「あ」

 

ピーシェがネプテューヌからプリンを奪おうとタックルして、その反動でネプテューヌの手からプリンが落ちた。

プリンは地面に落ちてしまって中身が床に溢れてしまった。

 

「あ、あ〜……もったいない……」

「こ、こらぴー子!いくらなんでもそれはダメでしょ⁉︎」

 

ミズキが空からティッシュを取り出してプリンを拭く。

ネプテューヌはさすがに今回は理不尽だと思ったのかお怒りだ。

 

「む〜……めーなのはねぷてぬ!」

「わ、私⁉︎」

 

予想外の反論に一瞬怯むネプテューヌだったがさすがに譲れないのか持ち直した。

 

「ぴー子はいつも強引すぎなんだよ!ふ〜ん、そんなぴー子は嫌い!」

「っ!」

 

その一言はピーシェにはだいぶ堪えたらしく目に涙を浮かばせた。

 

「ね、ね、ねぷてぬのばか〜っ!」

「な、なにを〜っ!バカって言う方がバカなんだから〜っ!」

 

ピーシェは泣きながら出て行ってしまった。

 

「あ、あ〜……クス、追いかけてくるね、ネプテューヌ」

「い、いいよ、そんなことしなくても!」

「まあまあ。プリンは僕がまた買ってくるからさ」

 

ミズキは困ったような顔をしてネプテューヌの頭を撫でてからピーシェを追いかけていった。

 

「む〜……」

「な〜に子供と同じレベルで喧嘩してるのよ」

「えっ⁉︎」

 

振り向くとそこには各国の女神と女神候補生。

 

「い、いつからいたの⁉︎」

「ネプテューヌがプリンを落としたあたり……。ミズキは気付いてたわよ」

「ピーシェちゃんいじめた!」

「かわいそう……!」

「ええっ!私が悪いの⁉︎」

 

『悪いわよ(ですわね)(うんうん)』

 

「そ、そりゃ私だってちょっと言い過ぎたかなって思ってるけど〜……。……ってそんなことよりも!みんなして何の用なの?」

「……誤魔化しましたわね?」

 

みんながふぅと呆れたように息を吐いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ぐすっ、ぐすっ……」

 

ピーシェはリビングのソファーに座ってすすり泣いていた。

 

「あ、いたいた」

「ピーシェちゃん、見っけ〜」

 

そこに入ってきたのはプルルートとミズキだ。

 

「みずき、ぷるると……」

「はい、これ〜。出来たから〜、あげる〜」

「あ……」

 

プルルートの手にはピーシェを模したぬいぐるみ。

 

「ピーシェちゃんの〜、ぬいぐるみ〜」

「……!わ〜い!ぷるると、好き〜!」

 

ピーシェの目から涙が消えてプルルートに抱きつく。

 

「あと、ピーシェ。僕も作ってみたんだけど……受け取ってくれるかな」

「みずきも、ぬいぐるみ?」

「そ。プルルートに作り方を教えてもらって、作ってみた。プルルートに比べて小さいけど……」

 

ミズキの作ったぬいぐるみはガンダムの頭だけのぬいぐるみだ。丸っこくて、手のひらサイズに収まっている。キーホルダーのようにチェーンが付いていて吊り下げられるようになっていた。

 

「ほしい!みずきも、すき!」

「クスクス、ありがとね」

 

ピーシェは両手に2つのぬいぐるみを持ってミズキとプルルートに抱きついた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「R18アイランド〜?名前から察するにそれはもしや……!」

「ええ。“オトナ”しか入ることを許されない禁断の島ですわ。あ〜んなコトや、こ〜んなコトが昼夜問わず行われているという魅惑のテーマパークに、これから行くのですわ!」

 

頬を赤らめたネプテューヌにベールが得意げな顔でビシッと指をさす。

 

「おお!この章はもしかして……サービス章の予感!」

 

 

 

 

 

そしてその数十分後。

変身した(プルルート除く)女神とネプギア、それにミズキが空を飛んでR18アイランドに向かって飛んでいた。

ミズキはガンダムキュリオスに変身して飛行形態に変形、その上にプルルートを乗せている。

ガンダムキュリオスは白い装甲の中で胸と盾のオレンジの装甲が映えるガンダムだ。エクシアと同じ時期に開発されたガンダムで高機動が特徴だ。

 

「え?じゃあ遊びに行くわけじゃないですか?」

「ええ。残念ながら違いますのよ」

 

ネプギアがベールの話を聞いて質問する。

 

「R18アイランドにどデカイ砲台が設置されているのをウチの衛星が見つけたんだ」

「だから、調べることにしたのよ。イストワールからも注意しておいてって頼まれてたしね」

《へえ、ルウィーの衛星はホントに優秀だね》

「ま、まあな。ウチの衛星にかかれば、それくらい……!」

「リーンボックスのプログラムのおかげというのをお忘れになっていませんか……?」

 

ベールがジト目でブランを見る。

 

「誰かが、戦争を始めようとしているのかしら……」

 

女神に戦いを挑むなど愚の骨頂。さらにこちらにはミズキもいるのだから、愚の愚の愚の骨頂くらい愚の骨頂だ。

 

「ねえ〜、ミズキ〜。私〜、自分で飛びたいな〜?」

《ん、いいよ別に。乗り心地悪かった?》

「そういうわけじゃないけど〜、私も飛びたい時があるの〜」

《そういうことなら……別にいいけど》

「やった〜」

「え、ええ⁉︎ダメよ、お願いだからぷるるんはそのままでいて!」

「え〜?いいじゃん、ミズキ君も許してくれたんだし〜」

「そうよ。別に変身できるなら自分で飛べばいいじゃない」

「ノワールだって、アレを見たら絶対にそう思うから!ミズキも、なんで許せるのよ!」

《別に……危なくなったらまた止めるし?》

「少なからず被害は出るじゃない!」

「なによ、変身すると何か嫌なことがあるの?」

「ダメったらダメよ!」

「ねぷちゃんのケチ〜!」

《いたたた、背中を叩かないで!》

 

ガンガンとプルルートがキュリオスの背中を叩く。

 

「私も、変身はさせない方がいいかと……」

「そうなのですか?」

「はい……その……鬼ミズキさんと同じくらいの脅威といいますか……標的が自分なだけ、鬼ミズキさんよりタチが悪いといいますか……」

「それは絶対に変身させてはいけませんわね」

「私も賛成だ。断固阻止する」

 

2人は少しだけ体を震えさせながらプルルートを変身させてはいけないことを肝に銘じたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、プラネテューヌの教会ではユニとロムとラムが不満そうな顔でベランダに上がっていた。

 

「なんで私達はR18アイランドに行けないのよ!納得いかないわ!」

『(うんうん)』

 

ユニの心の叫びにロムとラムも頷く。

 

「まあ、仕方ないだろう。大人になるにはそれ相応の時間が必要だ。身体的にも、精神的にもな」

「そういう意味では、あの中で1番大人なのはミズキさんですね」

 

ジャックとイストワールも合流する。

 

「でも、ネプギアは行けてるじゃない!」

「そう言うな。子供の時間は貴重なものだ。冷静に考えてでも見ろ、普通の人間の寿命が80年だとして、子供でいられるのは20年もない」

「出来ないこともたくさんありますけど、それが子供時代というものですよ」

「でも私も行きたかった!」

「行きたかった……!」

 

ここにミズキがいれば3人はすぐに納得してくれただろうが、ミズキはネプテューヌに連れられてR18アイランドに行ってしまったのでそうもいかない。

するとベランダでピーシェをアイエフとコンパが囲んでいた。

 

「何か探しものですか?」

「手伝うわよ」

 

だがピーシェは胸の中にぬいぐるみを抱きしめているだけでしゃべらない。

ぬいぐるみはピーシェを模したものとネプテューヌを模したものだ。ガンダムのぬいぐるみはピーシェの服の裏側に引っ掛けてある。

 

『はい〜、これね〜?ねぷちゃんのぬいぐるみ〜』

『これあげて、仲直りしに行くよ』

 

「む〜……」

 

それを見つけたユニとロムとラムがピーシェに走り寄る。

 

「ここにいたのね」

「ピーシェちゃん、部屋でゲームしよ!」

 

だが3人の誘いにも返事をしない。

 

「何か探してるの……?」

「む〜……探してない!」

 

そう言ってピーシェはベランダから出て行ってしまった。

 

(あれ……?私、何か探してるって、わかった……?)

 

ロムが不思議な感覚に襲われた。だがロムはさして気にすることもなく、ピーシェの行った先を見ていた。

コンパとアイエフは苦笑いをする。

 

「明らかに、ネプ子を探してるわね」

「きっと、ごめんなさいが言いたいんです」

『ああ……』

 

納得する3人。

 

「可愛いとこあるじゃない。ネプ子も仲直りしてから行けば良かったのに。多分、ミズキも子供はそういうものだってわかってるのよね」

「2人はもう、家族みたいなものですから。家族だったらそういうこともあるです」

「喧嘩して、仲直りする。ある意味、あれくらいの歳の子が1番間違えて1番成長するんです」

「それは、経験談か?」

「はい。ネプテューヌさんも、昔はたくさん怒ったものです」

「今も大して変わらんがな」

 

ジャックとイストワールが声を抑えて笑う。

 

「ミズキさんも、昔は喧嘩とかしたんですか?」

「喧嘩なんて、しょっちゅうだ。ミズキが理不尽を言うことだって、何度もあった」

「そうなの?」

「でも、執事さん怒らないよ……?」

「良くも悪くもまだミズキはお前達のことを庇護対象……守るべきものとして思っているのだろうな。だから、子供扱いをする」

「でも、ねぷねぷ達も……」

「それはミズキもわかっている。お前達が力を合わせればミズキにだって勝てるだろう。ミズキだって、お前達のことは信頼している」

 

昔とは違う。1人でみんなを助けようとしたあの頃とは違うのだ。

 

「じゃあ、なんで子供扱いするのよ」

「……さあな。だが、お前達の姉の恋が叶うためには……」

 

ジャックはユニとロムとラムを見た。

 

「少なくとも、その壁は越えればならないのかもな」

「こい?」

「こい……?」

「クク、なんでもない」

 

ジャックは小さく笑うのだった。

 

 




私だって、いつまでも子供じゃないんだから…みたいな?はい、同人誌の読み過ぎですね。ちょっとネプテューヌの同人誌少なすぎんよ〜。

さて、この章でいろんなキャラの距離が縮まるといいな。……いや、私が書いてるんですけどね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オトナ審査

ヤッタぁぁぁぁ水着だぁぁぁぁぁ!
水着とミズキで被る。やりにくい、訴訟。


「あれ、ネプテューヌ着替え早いね」

 

ミズキが男子更衣室から出るとそこには水着になったネプテューヌが立っていた。

 

「そ、そうね……」

「ん?どうかした?」

 

ネプテューヌは自分の体を隠してモジモジしている。ミズキの方を見ると恥ずかしそうに目を逸らした。

 

「お、おかしくない?水着」

「……?別におかしくないよ?僕こそ、おかしくないかな」

 

ミズキが着ているのは黒地に青のペンキの飛沫が飛んだような模様のズボンと、上には白地にチャックの部分だけ青くなっているラッシュガードだ。ラッシュガードはチャックを開いているためにミズキの腹筋や胸筋が見える。

ネプテューヌは自分の水着姿が恥ずかしかっただけではなく、ミズキの体を見ているのが恥ずかしくて目を逸らしていたのだ。

 

「大丈夫よ、おかしくないわ。にしても、ミズキって結構いい体してるわね」

「クスクス、ありがと。でもジャックには敵わないなあ……」

 

ペタペタと自分の体を触るミズキ。

そのうち、更衣室からノワールとネプギアが出てきた。

 

「ん、ノワール、ネプギア」

「あ、み、ミズキさん……」

「う、ミズキ……」

「クスクス、みんな恥ずかしがり屋だね」

 

ネプギアとノワールも体をモジモジさせた。

 

「変じゃないから安心して。似合ってると思うよ」

「あ、本当ですーー」

「本当⁉︎」

「うん、本当。可愛いと思う」

「そ、そう?」

 

ネプギアの声をかき消すノワールの声。

よほど嬉しかったらしい。

 

「み、ミズキも、その……カッコいいわよ」

「……クス、ありがと。嬉しいよ」

(露骨なアピールね……)

(恋する乙女って変わるんだね、お姉ちゃん……)

 

小声で会話するネプテューヌとネプギア。これがオチた者の末路なのだろうか。

すると次はベールが更衣室から出てきた。

 

「みなさん、ちゃんと水着には着替えましたわね?」

「ベール。……って、すごい水着だね」

「ええ、そうでしょう?悩殺されました?」

「されないよ……」

 

ベールのビキニは胸が貝殻で出来ていた。いわゆる、人魚姫みたいな。

 

「変身した姿で水着になるって、なんか変な気分……」

「僕は何回か着替えて変身したネプテューヌ見てるからね。あんまり違和感はないかも」

「……ネプテューヌ、アナタ何してるの?」

「な、何もしてないわよ?ホントよ、ホント。そ、それに1回目はミズキがノワールと知り合う前だし……」

「それはつまり……2回目以降があるという意味かしら?」

「ヒェッ」

 

ネプテューヌがノワールに問い詰められている。

 

「クスクス、2回だけだよ。それも、両方ゲーセン行っただけだし」

「それはそれでネプテューヌのセンスを疑うわね」

「なんで私に攻撃ばっかりくるのよ⁉︎」

「あはは……」

 

涙目のネプテューヌにネプギアも苦笑いだ。

 

「この島のドレスコードは水着、もしくはオールヌードなのですわ」

「き、極端なコードだね……」

「あら、男子諸君にとっては楽園ではなくて?」

「そんなことないよ。それに、僕は女の子の体って見慣れてるし」

 

ピッキーーーーーーン!

 

空気が凍りついた。

 

「クスクス、もちろん小さい子のね。お風呂に入れたりしてたから」

「な、なんだ……」

 

ネプギアが安堵の息を吐く。

 

「からかってごめんね。クスクス……」

 

ミズキが意地悪に笑う。

 

「やっほほ〜い!」

「おう」

 

すると女子更衣室からプルルートとブランが出てきた。

 

「ね〜え〜、可愛い〜?」

「うん、可愛い可愛い」

「えへ〜」

 

ミズキに褒められてプルルートが頬を緩ませる。その様子をベールが見ていた。

 

「あらあら……」

 

なんだか微笑ましい。

そして目線をブランに向ける。

 

「あらあら……」

 

なんだか残念。

 

「おいこら!今胸見て言っただろ!」

「そ、そんなことありませんわよ」

「ダメだよ、ベール。女の子は体で決めつけちゃいけないんだよ?」

「男に教えられるのもどうかと思いますが……まあ、それはその通りですわね」

 

ミズキの援護にブランが嬉しそうな顔をする。

 

「み、ミズキ。その、私の水着……どうだ?」

「クスクス、今日はたくさん感想を聞かれる日だね」

「そ、そんなことはいいんだよ!私の水着をどう思うかだけ……!」

「似合ってると思う。可愛いよ。ごめんね、あんまり複雑な感想を言えなくって」

「べ、別にいいぜ……それだけで」

「ありがと。本当に、可愛いと思ってるからね」

「2回も言わなくていい!て、照れるだろうが……」

(まあ、私が心配しているのは入島審査のことなのですが……)

 

顔を真っ赤にしているブランを冷えた目で見てから入島審査のゲートを見る。

あそこでオトナと認められなければこの島に立ち入ることはできないのだ。

 

「さあ、ゲートを潜りますわよ」

「う……ついにこの時が……」

「大丈夫だよ、ブラン。もし潜れなくても、僕がなんとかするし」

 

ベールが先頭になって門へと向かっていく。

 

「入島審査をお願いしますわ」

 

ベールがそう言うとベールの前にモニターが現れた。

 

《R18アイランドへようこそ。問おう、アナタはオトナか?》

「当然ですわ」

「なんか、上から目線な問い方……」

 

ミズキが苦笑いする。

ベールは迷わず『はい』の選択肢をタッチした。

するとクイズの正解音のような音がピンポンピンポーンと流れた。

 

《クリアです。R18アイランドをお楽しみください》

「お仕事ですけどね……さあ、みなさんも」

「ええ」

 

ネプテューヌ、ノワール、ネプギアと問題なくゲートを潜ってしまう。

残ったのはブランとプルルートとミズキだけだ。

 

「………ゴクリ……」

 

ブランとプルルートが門の前に立つとモニターが現れる。

 

《問おう、アナタはオトナか?》

「オトナだよ〜?」

「………」

 

2人で『はい』を押す。

 

《ホントに?》

「むぐっ!」

「ぷる〜ん……疑われてるよぉ〜」

 

それでもめげずに『はい』を押す。

 

《ホントのホントに?》

「しつこい!」

 

ついに2人とも『はい』を連打する有様。

 

《そんな胸で?》

「うがぁ〜っ!」

「す、ストップ、ブラン!さすがに壊すのはマズいって!」

「は、離せミズキ!私は、私はぁ〜っ!」

「だ、だから僕がなんとかするから!」

 

暴れるブランを抑えてミズキが前に出る。

 

「どうするの〜?」

「まあ見てて」

《問おう、アナタはオトナか?》

「……よ〜しよしよし」

《あん、ちょっと頭を撫でなーーーーあばばばば》

 

ミズキはどちらの選択肢も押さずに画面に映った女の子の頭を撫でるようにタッチする。すると女の子はいつかのイストワールのように奇声をあげ始めた。

 

「これで通れるんじゃないかな。やってみて」

「む………」

 

もう1度ブランとプルルートが門の前に立つとモニターが再び現れる。

 

《アナタはオトナか……》

「納得された⁉︎」

「日本語って不思議〜」

 

正解音と共に門が潜れるようになる。

 

「ほら、ミズキも早くきなさいよ」

「今行くね」

 

どうやらモニターはあの1回きりで復活したらしくまた上から目線で問いかけてきた。

 

《問おう、アナタはオトナか?》

「……子供だよ?」

「そこでそう言っちゃダメでしょ⁉︎」

 

『いいえ』をタッチするミズキにノワールのツッコミが入る。

 

《待って?アナタはオトナよね?》

「コンピューターすら疑うオトナ度⁉︎」

「むぅ……だから子供だって」

「ちょっと素直すぎないかしら⁉︎」

《いや、アナタはオトナよ?》

「そうなの?」

《ええ。アナタは立派なオトナです。どうぞ、お通り下さい》

「まあ、そこまで言うなら……」

「コンピューターが譲った⁉︎」

 

どうやら、このR18アイランドも一波乱ありそうだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そしてみんなは変身を解いて森の中を歩いていた。もちろん、砲台探しのためである。

 

「来たはいいけどさ〜……どこを探せばいいの〜?」

「案内してくれる人がいると助かりますわね」

 

とは言ったが都合よく案内役が出て……来た。

 

「はいはいはいはい〜!」

 

へりくだった様子で腰を低くして出てきたのは肌色の悪い女の子。手をモミモミしていかにも商売をしているような様子だ。

 

「どうっすか?R18アイランドの案内ならこのリンダにお任せ!安くしときますよ?」

「ああっ!アナタあの時の誘拐犯!」

「げげっ!あの時の女神!」

 

ネプギアがリンダを見て思い出す。

 

「ああ、あの時の。でも、こんな子いたっけ?」

「ミズキは見てないかもしれないけどいたの!こいつが誘拐犯!」

「ウチの妹を誑かしたのはテメエか⁉︎」

「ひぃぃ〜っ!ご、ごめんなさい!で、でも今は心を入れ替えて、立派に働いているんです〜っ!」

 

リンダは後ろに飛びのいて素早く土下座する。

まあ、マジェコンヌやワレチューに比べたらはるかに素直に見える。

 

「いいんじゃないの?反省してるみたいだし」

「ああん?けどよ……」

「だけど、その代わり案内料はタダね。リンダも、それでいい?」

「は、はい!喜んで案内いたします!」

「クスクス、任せるよ」

 

ミズキはそう言って笑う。悪いことはさせない自信があるのだろうが……。

 

「けど……」

「ごめんごめん。許してくれる?」

「別に、ミズキに怒ってるわけじゃない」

「クスクス、じゃあ機嫌直してよ」

「む……」

 

ミズキが頭を撫でてくれたので機嫌を直したブランなのだった。




オトナミズキ。一応彼は酒もタバコも吸いましたし、やってることはオトナ。ですがほとんど不老不死なので体は10代後半くらいです。
タバコはどうしても好きになれなかった模様。好きなのはジョーくらい。酒はみんな大好き。カレンとシルヴィアは酒癖が悪く、2人は苦労しました。
ちなみになんだかんだ1番酒癖悪いのはミズキ。酒には強いからわからないだけで呑まれた瞬間から鬼ミズキ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

僕の黒の女神と白の女神が修羅場すぎる

彼女でも幼なじみでもなんでもないけどさあ…。
ええじゃないか、やりたかっただけだから!


 

リンダの案内に従って歩く。

ネプテューヌのとりあえず遊びたいという提案で、それに従って案内してくれている。

地面がだんだんと砂に変わっていき海に近いことを感じさせる。そして木々が開けた先にはーーーー。

 

「ここがR18アイランド1の景勝地!ヒワイキキビーチです!」

「う……」

「おお!おお〜!」

 

ミズキは目を背けてネプテューヌが歓声を上げる。それというのも……。

 

「な、なんでみんな裸なのよ⁉︎」

「解放的ですわね〜」

「僕は、ちょっと目のやり場に困るかな……」

「あれ〜?ミズキ君〜顔が赤いよ〜?」

「か、からかわないでよ。いくらなんでもこれは恥ずかしいんだから……」

 

ヒワイキキビーチにいる女の子はみんな裸である。イケないところにはしっかりと白い光がかかっていて安心安全です。

 

「ねえねえ、あの光ってるのは何?」

「ああ、あれはナゾノヒカリ草です。際どいところが大好きなんです」

「普通に水着を着ればいいじゃない!」

「際どいところ……!」

 

なるほど、あの光っているのはそういう植物らしい。

 

「一応、隠れてはいるんだね……」

「じゃあ、こういうことしちゃってもいいんだね〜⁉︎」

 

ネプテューヌが水着を脱ぎ捨てて海に飛び込んだ。水着を脱ぎ捨てた瞬間に際どいところにナゾノヒカリ草が張り付いて隠す。

 

「うっ」

「あれれ〜?また顔が赤いよ〜?」

「や、やめてってば」

「ふふふ〜。今のミズキ君、可愛い〜」

 

プルルートが擦り寄ってミズキをからかう。

 

「それじゃ〜、私も脱いじゃう〜」

 

プルルートも水着を脱ぎ捨てる。

 

「ほらほら〜、嬉しい〜?嬉しいでしょ〜?」

「や、やめっ………?」

 

プルルートがミズキの腕に抱きつく。するとミズキはその感触に違和感を覚えた。

 

「私も脱ぎますわ!」

 

ベールも脱いでネプテューヌに合流した。2人は裸のままで水を掛け合って遊んでいる。

 

「ふふ、気分爽快ですわ〜!」

「ネプギア〜!」

 

2人が手を振ってネプギアを誘う。

 

「く……み、みんながやってるなら……!」

「ストップ、ネプギア」

 

ネプギアが水着に手をかけようとした時、ミズキが待ったをかけた。

 

「もう、からかわないでよネプテューヌ。発案はベール?」

「あら、鋭いですわね。どうして気付きましたの?」

「プルルートのお陰だよ」

 

そう言って腕に張り付いたプルルートを見せる。

 

「ごめんね〜。ドジッちゃった〜」

 

ミズキがプルルートの胸に手をかけてナゾノヒカリ草を剥がすと、そこには脱いだはずの水着があった。

 

「2人とも、脱いでないでしょ?」

「あちゃ〜、バレたか〜」

「あと一歩でしたわね」

 

2人もナゾノヒカリ草を剥がす。2人ともちゃんと下に水着を着ていた。

 

「危うく脱いじゃうところだったね、ネプギア」

「うぅ……恥ずかしいです……」

 

ネプギアは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

「くそ〜、こうなればヤケだ〜!食らえっ!」

「きゃっ⁉︎」

 

ネプテューヌが海の中からノワールとブランに向けてナゾノヒカリ草を投げつける。

ナゾノヒカリ草がノワールとブランの体を覆って……なんだか……。

 

「水着着てるのに裸みたいだね。クスクス……!」

「や、やっ!恥ずかしい……!」

「な、なんてことをしてくれるの……!」

「や〜い!みんな裸だ〜!」

「お、お姉ちゃん、ちょっとやりすぎじゃ……!」

「ほら、ネプギアも〜!」

「きゃっ!」

 

ネプギアにもナゾノヒカリ草がくっついた。

 

「は、恥ずかしい……っ!」

「まあまあ、剥がしてあげるから……」

「ミズキにも〜!」

「だろうと思った」

「えっ⁉︎ひゃわ〜っ!」

 

投げられたナゾノヒカリ草をミズキは手で掴んで投げ返す。ネプテューヌの体をナゾノヒカリ草が覆ってしまい……そして……。

 

「お姉ちゃん、真っ白だ……」

「存在が規制対象のネプテューヌだね」

「ああいおんあんやあいお〜!(私そんなんじゃないよ〜!)」

「R18が服着て歩いてるみたいな女神」

「えうっ⁉︎ああいちうぉああいあ⁉︎(ねぷっ⁉︎私痴女かなにか⁉︎)」

「ほら、剥がしたげるから」

「ぷは〜っ!息苦しかった〜!」

「クスクス、普通に遊ぼう?ビーチボールとかあるからさ」

 

ミズキがみんなのナゾノヒカリ草を剥がしていく。

するとリンダがチラシを差し出してきた。

 

「そうそう、こんなイベントがあるんすよ」

「ん?『R18アイランド障害物遠泳大会』……?」

「景品はスイカらしいっすよ。どうっすか?」

「スイカかぁ……いいね。取れたらみんなで食べようかな」

「もうすぐ受付は締め切りらしいっす。参加、しますか?」

「うん、する。みんなはする?」

「いいわ。どうせ、変身するつもりなんじゃないの?」

「バレた?ちょっと海が得意なガンダムがいてね」

「でしょうね。じゃあ私達は勝ち目ないじゃない」

「クスクス、ごめん。その代わり、スイカは持って帰るね」

 

手を振ってミズキは受付へと走っていく。

 

「これで〜、スイカ食べられるね〜」

「ミズキ様なら確実でしょう。心配することはありませんわね」

「でもさぁ、これ、障害ってあるよ?」

「障害遠泳大会なんて、聞いたことないね」

「だよね?どんな大会なんだろう……」

 

そうして、遠泳大会が始まった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『さあ、始まるわよ!『R18アイランド障害遠泳大会』!実況は私、アブネスがお送りするわ!』

「あの女……あの時の……?」

「ん?ブラン知ってるの?」

「……ううん、知らない」

『参加者は27名!参加感謝するわ!ルールは簡単、障害を越えて片道2km往復4kmを泳いでもらうだけ!1位にはこのスイカを贈るわ!全員、準備はいい⁉︎』

 

参加者が歓声を上げる。

周りには屈強な人や日焼けした人が多くミズキに勝ち目はないように思えるが……多分素直に泳いだとしてもいい勝負をするだろう。『なんでもできる』のだから。

 

『それじゃ、よ〜い……スタート!』

 

アブネスの号令で砂浜の上の男達が一斉に海に向かって走り始めた。

そして次々と海の中に飛び込んでいく。ミズキも先頭グループに続いて海に入った。

 

「あれ〜?あの浮いてるのなに〜?」

「え?そうね……板か何かかしら?」

『まずは第1関門!板に書いてあるものを審査員に見せてもらうわ!お題は海の中にあるものから観客から借りなきゃいけないものまで多種多様よ!』

 

審査員は板が浮いてある辺りで手を振った。あの人に物を見せる必要があるらしい。

先頭グループは早くも潜ったり反転して戻ったりと動き始めた。

ミズキはとりあえず変身せずに板を手に取る。

それを見たミズキは反転して砂浜へと戻ってきた。

 

「あれ、戻ってきちゃったよ⁉︎」

「そういうお題だったのね。運はあまり良くないみたい……」

 

ミズキは急いで戻ってきてキョロキョロしてからネプテューヌのところへと走ってきた。

 

「借り物ですか?」

「うん。借り物っていうか……うん、借り物にしちゃいけないとは思うんだけど……」

「なによ、歯切れが悪いわね。なんて書いてあったのよ」

 

ミズキは苦笑いしながら板をもう1度見る。そしてみんなにその内容を見せつけた。

 

『彼女(彼氏)』

 

『ええええええっ⁉︎』

 

「そういうわけなんだ。嘘でもいいから……今だけ僕の彼女になってくれないかな……って」

 

ミズキはバツが悪そうに頭を掻く。

 

「いや、流石に不謹慎かな。今回はみんなには悪いけど諦めてもーーーー」

「ま、待ちなさいよ!」

「ま、待って……!」

(あら)

 

ノワールとブランが一歩前に出る。

それを見たベールが頬に手を当てて興味深そうな顔をした。

 

(これは、いいチャンスかもしれませんわね)

「どうかしたの、2人とも。もしかしてアテがあるとか?」

「い、いや、そうじゃなくて……いや、そうなんだけど……そうじゃなくて……」

「だ、だから……その……」

「……?」

 

端切れを悪くしてもじもじする2人。

 

「2人はミズキの彼女として立候補すると言いたいのですわよ」

「あ、ああ」

「ちょ、ベール!」

「ベール……!」

(いいじゃないですの。このままではいつまで経っても言いだせそうにありませんし。それに、スイカ食べたいからとか言い訳しておけばいいんですわよ)

 

2人にベールが耳打ちする。一応の逃げ道はあるのだから、損はないはずだ。

 

「でもいいの?そういうのって……」

「い、いや、その、別に好きとかじゃなくて……」

「………ぅ……」

「やれやれですわね」

(ちょっとベール!何してくれてるの⁉︎)

(ネプテューヌも反対するのですか?大丈夫ですわよ、あの2人の様子じゃ万が一にも付き合うことにはなりませんわ)

(だ、だけど……!)

(本当に大丈夫なんですか?)

(ネプギアも心配性ですわね。今から私が大丈夫にしますから、少しそこで見ていてくださいまし)

 

ベールが喉を鳴らす。

 

「あのですね、ミズキ様?2人はーーーー」

「は〜い。私が彼女になる〜」

「……え?」

 

ベールが素っ頓狂な声を出す。

横には元気に手を挙げる不安要素ーーーープルルートがいた。

 

「いいの?プルルート」

「うん〜。私〜、スイカ食べたいし〜。それに〜、ミズキ君イジメたいも〜ん」

「最後のはどうかと思うけど……それじゃあ……」

「ま、待ってよ!」

「待てよ!」

「え?」

 

ノワールとブランがさらに前に出てミズキに詰め寄った。

 

「わ、私!私が彼女の……役!あくまで、役をするから!」

「いや、私がやる!プルルートが良くて私がダメな理由はねえだろ⁉︎」

「え?えと……」

「え〜?私がミズキ君を〜、イジメたいんだけど〜」

「ミズキなら後でいくらでもイジメていいから!」

「ええ⁉︎イジメないでよ⁉︎」

「じゃあ〜、いい〜」

「僕の話を聞いてくれる⁉︎」

「おい、ミズキ!私の話を聞けよ!」

「僕の話を聞いてって!5分だけでもいい!」

「あくまで、あくまで仮定の話として!彼女にすらなら私よね⁉︎」

「いや、私だろ⁉︎ツンデレなんか使い古された属性なんかよりーーーー」

「なんですって⁉︎」

「なんだよ⁉︎」

「え、えと………」

 

いつの間にか喧嘩を始めてしまったノワールとブラン。プルルートはどこ吹く風でニコニコしている。ミズキはただオロオロしているだけだ。

 

「えと……ベールさん、その、これは……」

「私も予想外ですわよ。プルルートというイレギュラーが入るだけでこんなに……」

「まあ、これなら別にいいけどさ……」

 

3人は離れたところからそれを見つめている。

 

「そ、その、喧嘩はやめ……っ⁉︎」

「きゃっ!」

「うわっ!」

 

突如ミズキがノワールとブランを突き飛ばした。2人は押し飛ばされて尻餅をついてしまう。

 

「いたっ、ちょっとミズキ⁉︎」

「な、なにすんだよ⁉︎」

「うぐううっ⁉︎」

「えっ⁉︎」

「ミズキ⁉︎」

 

2人が文句を言おうと顔を上げると、そこには巨大な赤黒い怪鳥がミズキを足で掴もうとしているところだった。

 

「離れて、2人とも!くっ!」

 

あまりにも突然のことでミズキは武器を出すこともできず怪鳥の足に掴まれ、空に持ち上げられる。

 

「あれって、EXモンスター⁉︎」

「どうして今頃⁉︎」

(あの鳥……どこかで……?)

 

ネプテューヌとネプギアが遠くに飛び去ろうとする怪鳥を見て声を上げる。体色が赤黒く、背には周りよりも少し薄い色でハートマークが刻まれている。

 

「ミズキ君が〜、飛んじゃった〜?」

「の、呑気に見てる場合じゃないわよ!」

「こんの、邪魔すんじゃねえよ……!」

 

2人が変身して空を飛ぶ。

足に掴まれたミズキもただ掴まれているだけではない。

 

「く、く……!離してよっ!」

 

手にビームサーベルを握って刃を発振。出てきた刃が鳥の足を焼く。怪鳥はたまらずミズキを離した。

 

「クエェーーーーッ!」

「ヤバっ、落ちた後のこと、考えてなかった……」

「ミズキ!」

「うおっ」

「テメエ、覚悟はできてんだろうなッ!」

「クエエッ!」

 

ノワールがミズキを抱きかかえてブランが怪鳥を叩き飛ばす。

 

「っ、いけない!観客の方に!」

 




新たなEXモンスター現る。
次は海賊ガンダムですかね。おいおい答えだろこれ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クロスボーン・バンガード

あはんうふんな島はモンスターもあはんうふん。さあ、サービスの始まり始まり。


「クエェェーーーーッ!」

 

怪鳥は遠泳大会で集まっていた観客の方へ飛んでいく。

 

『こ、こっちに来た⁉︎みんな、逃げるのよ!え、私⁉︎こんな面白いネタ、撮らないわけにいかないでしょ⁉︎』

「馬鹿野郎ッ、早く逃げやがれっ!」

 

ブランが追いかけるが間に合わない。

怪鳥がその足でアブネスを掴もうとした瞬間、その前にネプテューヌが立ちはだかって太刀で受け止めた。

 

「やらせないわよっ!」

「離れてくださいっ!」

「クエッ!」

 

怪鳥に向かってネプギアのM.P.B.Lが放たれる。怪鳥はまた大空に羽ばたいて離れた。

 

「僕も行くよ、ノワール!変身!」

 

ミズキがノワールの腕の中から降りて光に包まれる。

そして現れたのは肩と胸が黒く染まったガンダム。背中には大きくX字に開いたスラスター、そして額に刻まれるのは大きな髑髏のマーク。その姿は中世の海賊そのものだ。

名前はクロスボーンガンダムX1。

クロスボーンは特殊ビームライフル、『ザンバスター』を構えて降下しながら怪鳥に向かっていく。

 

『み、見なさい!あの人が変身してロボットになったわよ!……えっ?アレはガンダムっていうの?リーンボックスに出てきたやつと似てる……?』

 

「やるわよ、ミズキ!」

《うん、ノワール!》

 

ノワールが先行して怪鳥へと向かっていく。

ミズキはザンバスターを怪鳥に向かって牽制するように撃つ。

 

「クエェェ!」

「うっ、くっ!」

 

怪鳥は弾を避けながら大きく翼を広げて突風を送り、ノワールを食い止める。

 

「そこねっ!後ろが隙だらけ!」

 

風の届かない後ろからネプテューヌが迫る。

だが怪鳥は鳥ではありえない動きで急旋回した。

 

「クッ、ウエアッ!」

「きゃっ!」

 

そして口からピンク色の粘液のようなものを吐き掛ける。それはネプテューヌに当たってベトベトにまとわりついた。

 

「な、なによこれ……気持ち悪い……!」

(あの液……まさか……!)

 

別に動きを阻害するわけでもなく、ネプテューヌの体をベトベトにしただけだ。

だが後ろからベールが焦った様子で追いついてきた。

 

「すぐに洗い落とすのですわ、ネプテューヌ!それは毒液ですわよ!」

「えっ、毒⁉︎」

《くっ、ネプテューヌ!》

 

クロスボーンがネプテューヌを抱きかかえて海へと急降下していく。

 

「み、ミズキ⁉︎」

《衝撃に備えて!海水で洗い落とすよ!》

「んっ!」

 

ドボーンと音を立てて2人が海に突入する。2人はすぐに首から上を海から出した。

 

《ネプテューヌ、無事⁉︎》

「ぷはっ、ええ。なんともな……っ⁉︎」

 

ネプテューヌの体が鼓動を感じて熱くなる。力が抜けてクロスボーンに寄りかかって息を荒くした。

 

「やはり、あの鳥……!」

《ネプテューヌ⁉︎ネプテューヌ、しっかりして!どこか痛いの⁉︎》

「う……く……!」

《ネプテーーーー》

「好きっ!」

 

ぎゅっとネプテューヌがクロスボーンを抱きしめる。

だが、えと、その……。

ありえない発言が聞こえた気がしてみんなの動きが止まる。というか凍りつく。

 

「好き!好き好き大好き!ミズキだぁ〜い好き!」

《え、えと……え?》

「愛してるわ!大好きよ〜!」

《べ、ベール⁉︎ネプテューヌがおかしくなったんだけど⁉︎》

「おかしくなんかないわ!これは私の正直な気持ち……好きよ〜!」

《変だ〜っ!》

 

「間に合いませんでしたか……」

「ど、どういうことよベール!別にネプテューヌは!」

「惚れてなかったはずだよな⁉︎それがどうしてあんなラブラブになってんだよ!」

「あんなお姉ちゃん、見たくない……」

「ねぷちゃん、大胆〜」

 

ベールだけは額を押さえて溜息をつく。目線の先には所構わず愛を叫ぶネプテューヌと狼狽えるミズキ。

 

「あの鳥は恐らく、R18アイランド名物『チャラオビッチチョウ』ですわ」

「『チャラ男ビッチ鳥』〜?」

「んだよ、その凄え遊ばれそうな名前は!」

 

ノワールとブランが赤黒い鳥を見て声を上げる。

 

「別名、愛玩鳥(ラブバード)。その特徴は背中にあるハート型の模様と口から吐き出す毒液ですわ。本来はもっと小さい上に臆病な性格なのですけれど……」

「な、名前からして卑猥ですね……」

《で、その毒ってなんの毒⁉︎》

「……惚れ薬ですわ」

《惚れ薬ぃぃ〜っ⁉︎》

「名前の由来でもあります。その毒を口から吐きかけて愛玩鳥に惚れた動物を捕食するという……」

「クズ!根っからのクズみたいな生き物だなそいつ!」

「毒を浴びてから最初に見た動物に恋慕の情が芽生えると言いますわ。EX化したとはいえ、さすがにここまでベタ惚れになるとは思いませんでしたが……」

《解毒薬は⁉︎あるんだよね⁉︎》

「も、もちろんありますわ。けれど、1度入り口に戻らなければなりませんし……。しかもその毒液は重ね掛けが効くのですわ!」

「重ね掛け……ってどういうことよ!」

「浴びれば浴びるほど恋慕の情は激しくなっていく……。私の見立てでは、2度目を浴びればネプテューヌはミズキ様を襲いますわ!」

「ええええええっ⁉︎」

 

無論、性的な意味で。

ガチのR18になってしまうということだろう。

 

「みなさん、あの液にはくれぐれも触れないようにしてーーーー」

「なにそれ〜、楽しそう〜」

「………え?」

「鳥さ〜ん、こっちこっち〜!」

《プルルート⁉︎》

「1回〜、浴びるだけだから〜」

《1回でもアウトだよ⁉︎》

「クエーーーーッ!」

《間に合わない⁉︎》

 

愛玩鳥は手を振るプルルートに向かう。ネプギアとクロスボーンがすかさずビームを発射するが牽制にもならない。

愛玩鳥はプルルートに向けてピンク色の惚れ薬を吐きかけた!

 

「う〜、気持ち悪い〜。これで〜、ミズキ君を見れば〜いいんだよね〜?」

《いいっ⁉︎》

「わあ〜……すご〜い……」

 

プルルートの瞳がぼんやりとし始めて海に浮かぶクロスボーンに向けてフラフラと歩き始めた。

 

「好き〜、好き〜、好き〜」

《息をするように好きって言うね⁉︎》

 

クロスボーンはネプテューヌを抱きながらスラスターを懸命に使ってプルルートの方へと向かっていく。

 

《ダメだよ、止まって!溺れるよ!》

「やだ〜、ミズキ君とちゅ〜するの〜」

《ああっ、迎えに行くのが嫌になる!》

 

「ああ、プルルートさんまで……」

「な、なんとしても愛玩鳥を倒しますわよ!」

「なあ、ノワール……」

「わかってるわよ、ブラン」

 

2人は小さく目配せする。

上手くいけばこの惚れ薬を使ってミズキを惚れさせることができるかもしれない。

本来、この愛玩鳥の毒液は誰しも1度は抱くであろう恋を後押しする程度の効果しかない。本能に従う動物ならまだしも、理性のある人間なら抗える程の効果しかない効果なのだ。

だから、この薬はほんの少しの一歩を進ませる薬。踏み出せない一歩を踏み出させる薬なのだ。

だから、こんなのは間違ってる。

こんな、強制的にさせるものなんて、本当の恋なんかじゃないから。

 

「覚悟しろよ、アホ鳥!」

「焼き鳥にしてやるわ!」

「クエエエーーーーッ!」

 

愛玩鳥は狙いをプルルートに定めた。毒液を吐きかけたからだ。

プルルートは文字通りクロスボーンしか見えておらず、迫る愛玩鳥に気付かない。

 

「好き〜、好きだよ〜?」

「クエッ!」

《プルルート!くっ!》

 

クロスボーンが背中の4基のスラスターを全て下方向に向けて使う。

クロスボーンとネプテューヌの体が少し浮き上がって海から浮いた。

 

《シザーアンカーッ!》

「わあ〜」

「クエッ⁉︎」

 

腰部前面装甲の左側がシザースとなり、プルルートに向かって飛んでいく。シザースにはチェーンが付いていてプルルートの手を掴んで引き寄せた。

愛玩鳥はプルルートへの攻撃を外してしまう。

 

《プルルート、怪我はないね⁉︎》

「うん、好き〜」

《会話が成立しない⁉︎》

「好きよミズキ〜!ん〜」

《ちょ、やめてやめて唇を寄せないでって!》

 

2人を抱きかかえたクロスボーンは重力が増して機動力が絶望的になる。

 

「クエッ!」

「させないわよっ!」

「テメエの相手は私だッ!」




惚れ薬。媚薬でもよかった。
後悔はしてない。反省はします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

髑髏

前回の分と2つに分けたのでこっちは短め。


まだ追いかけようとする愛玩鳥をノワールとブランが足止めする。

 

「ミズキ様、今引き上げますわ!」

「安全なところまで、運びます!」

 

ネプギアとベールはクロスボーンを持ち上げて遠くの砂浜へと向かっていく。

 

《あ、ありがと。助かるよ、2人とも》

「ん〜」

「ん〜」

《2人はもうちょっと自重してくんない⁉︎》

 

本当にベタ惚れでクロスボーンとキスしようとする2人。クロスボーンには口はないのだが。

 

「きゃあっ!」

「チッ!」

《ノワール、ブラン⁉︎》

「クエエッーーーー!」

 

愛玩鳥の羽ばたきで起こる突風で2人が吹き飛ばされる。その隙をついて愛玩鳥はノロノロと飛ぶクロスボーン達に接近してきた。

 

《っ、離れて!》

「あっ!」

「ミズキ様!」

 

加速してネプギアとベールの手から離れる。愛玩鳥の狙いは毒液を吐きかけたネプテューヌとプルルートだ。愛玩鳥は獲物を捕らえるべく足を前にして突進してきた。

 

《2人とも、しっかり捕まっててよ!》

「わかったわ。永遠に離さないんだから……!」

「大好きだよ〜」

 

2人がクロスボーンの体に強くしがみつく。クロスボーンは接近する愛玩鳥の足を手から発振させたビームシールド、『ブランド・マーカー』で受け止めた。

 

「クエッ⁉︎」

《くおおおっ!》

 

ビームシールドを攻撃したために愛玩鳥の足が焼ける。

その隙をついてクロスボーンはブランド・マーカーからビームシールドではなく四角錐状のビーム刃を発振させ、愛玩鳥に殴るように突き刺した!

 

「クエエッ⁉︎」

《まぁだッ!ここっ!》

 

それを引っ掛けながら胸のビーム・ガンからビームを、頭のバルカン砲からバルカンを打って近付く。

 

《ヒート・ダガーッ!》

 

そのまま飛び蹴りを食らわす。足から飛び出たヒートダガーの熱がさらに愛玩鳥にダメージを与える。

 

「クエエエエッ⁉︎」

《くっ!》

 

だがこれだけでは大したダメージになっていない。もっと、威力の大きい武器を当てなければならない。

「クエッ、ウェア……ッ!」

《っ、来るっ⁉︎》

 

落下しているクロスボーンとネプテューヌ、プルルートめがけて愛玩鳥が鎌首をもたげた。あれは毒液を吐き出す構えだ。

 

「ミズキ、避けてっ!」

「襲われるぞっ!」

 

「ウエエッ!」

《くうっ!間に合ってよっ⁉︎》

 

愛玩鳥から吐き出した毒液がクロスボーンに命中した!

だが、無駄だった。

クロスボーンの体は大きなマントで覆われていた。

 

 

ーーーー『クロスボーンガンダム』

 

 

「ん、ん〜……?」

「なにこれ〜……マント〜?」

 

クロスボーンの全身をを覆っていたのはボロ切れのようなマント。その名はABCマントといい、アンチ・ビーム・カーテン・マントの略だ。本来はビームを防ぐためのマントだが今は愛玩鳥の毒液を防ぐために役に立った。

 

《お願い、2人とも。少しだけでいい、離れてて。すぐに戻るから……!》

「え、え〜……?やだぁ〜」

「……どれくらい、待てばいいの?」

《1分!それだけで終わらせてくる!》

「……わかった、待ってる」

「え〜、私やだ〜!」

「ワガママ言わないの。1分だけだから」

《ありがと、ネプテューヌ。行ってくる!》

 

ネプテューヌが嫌がるプルルートを抱きしめて少しだけクロスボーンから離れる。クロスボーンは愛玩鳥へ向かって飛んでいく。

 

「ネプテューヌ、理性なんてないはずですのに……」

「お姉ちゃんは、心の底でわかってた……?」

 

クロスボーンのマスクのスリット部分が口のように開いてエアダクトが露出した。上がりすぎた機体温度を下げるための冷却機能の1つだ。

 

《うおおおあっ!》

 

ひらりひらりと飛んでABCマントをはためかせる。

そしてザンバスターを2つに分解してその片方を手に持つ。そこから大きなビーム刃が出てくる。大型ビームサーベル、『ビーム・ザンバー』だ。

 

《これで、両断する!》

 

大きく飛翔するクロスボーンだが、愛玩鳥が突風で邪魔をしてくる。

 

《っ、んっ……!》

「やられちゃいなさいよ!」

「ミズキの邪魔を、すんじゃねえッ!」

「クエッ⁉︎」

 

だが両横からノワールとブランが挟み込み、剣と斧を振るう。それに怯んで突風が止んだ。

 

《今だ、シザーアンカーで!》

 

両アーマーのシザーアンカーを射出する。それを片方ずつノワールとブランが掴んだ。

 

「行くぜ、ミズキ……!」

「飛ばしたげるから、覚悟してよっ!」

 

そのままシザーアンカーがクロスボーンを引き寄せる。クロスボーンが2人とすれ違う、そのタイミングで2人がクロスボーンをシザーアンカーを引っ張ることで投げ飛ばした!

 

「ミズキ、やっちゃって!」

「頼んだぜ!」

「クエエッ⁉︎」

《恋は、恋はそんなんじゃないんだ!それがわからないのなら!》

 

その勢いでビーム・ザンバーを愛玩鳥の腹に突き刺した!

 

「グエ⁉︎」

《強いられている恋の、一体どこに真実があるッ⁉︎寝言を言うなァーッ!》

 

そのままさらに胸からビームサーベルも引き抜いて突き刺す。そしてビーム・ザンバーを腹を裂くようにして引き抜いた!

 

「グエエエエーーーーッ⁉︎」

 

パアッと愛玩鳥は光になって消えた。

 

クロスボーンはゆっくりと地面に向かって下降していく。ABCマントは外れて光の粒子になって次元倉庫へと戻った。

 

「あ、ミズキ……」

「しょうがねえ、抱えてやるか」

 

ノワールとブランがクロスボーンを抱えようとゆっくりと近付く……が。

 

「ああん、遅いのよ〜、もうっ!もう1分何年にも感じられて……ああん」

「えへへ〜、あったか〜い。もう2度と離れないでね〜」

《うぐふっ、2人ともタックルしないでよ……》

 

『…………カチン』

 

「モテる男は辛い、それを体現してなさりますわね。男冥利に尽きるってとこですわね」

「ど、どうしましょうベールさん。一旦、なんとかお姉ちゃん達を引き剥がして……」

「いや、いいでしょう。このまま解毒薬を持ってきた方が……いや、この様子を見ていた方がいいですわね」

「助けないんですか⁉︎」

「だって……修羅場って愉快じゃありません?」

「愉快じゃないです!もう、私だけでも解毒薬を持ってきますから!」

 

ネプギアが島の入り口へと飛んでいく。

ベールは空を飛びながら喧嘩している4人の女神を見た。

 

「しかし……何故アンチクリスタルがなくなったのにEXモンスターが?」

 

気性がもともと大人しい生物だから今の今まで隠れていたのか?そしてビーチが騒がしくなったから出てきた……とは考えにくい。

ビーチが騒がしいのは年がら年中同じだし、何よりあれだけの巨体なら見かけた人間も被害にあった人間もいるはずだ。

 

「………一体、どういうことなんでしょう……」

 

ベールは言いようのない不安に包まれた。

 

 

その、森の中。女神からは見えない茂みの中に、怪しい影がいた。

その人は手に瓶とスプーンを持ち、愛玩鳥が吐き出して砂浜にへばりついた毒液を慎重にスプーンですくっていく。決して自らの手には触れないように。

そして拾った毒液は瓶の満たしていった。7割くらいがピンク色の毒液で満たされてから瓶の蓋を閉じる。

 

「………ふふ……これだけの量の毒液があれば……」

 

ニヤリと笑って……いや、その顔は分からない。パワードスーツで覆われたその体はみんな見覚えのあるオカマだ。

 

「計画発動のための条件は……残り1つ。ふふ……ふふふふ……」




改にはなってないX1でした。アニメ化はよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

酷い寒気がした

ファッ⁉︎なんだかすっごく多くなっちゃいましたよ。
あと、久し振りに挿絵を描きました。描いたっていうのもおかしいですけども。ここにも貼っておきます。

【挿絵表示】



「面白かった〜」

「ふぃ〜、ひどい目にあったよ〜!」

「それはこっちのセリフだよ……はあ……」

 

ネプギアが持ってした解毒薬は即効だった。飲んだ瞬間に2人はミズキから離れてくれたのだ。

 

「大丈夫ですか、ミズキさん」

「大丈夫、大丈夫。ただ、こう、心が疲れたよね……」

 

げっそりした顔をしている。

 

「あは〜、ごめんごめんご!ところで、ガイドさんは〜?」

「あれだけの騒ぎだったんだし、逃げたんじゃない?仕方ないわよ」

「自力で探すしかないと思うわ……」

「ええ〜、めんどくさ〜い!ノワール、魔法とかでパパッと探せないの〜⁉︎」

「無理よ、無理。地道に探しましょう」

 

みんながスタスタと森の中へと戻っていく。

 

「ね〜え〜ミズキ、アテとかないの〜⁉︎」

「今回ばっかりはないかな。でも、それだけの巨大な砲台なら作った形跡とかはあるんじゃないかな」

「形跡……ね……。確かに」

「形跡……って例えばどんな?」

「部品を運ぶためのトロッコとかが必要になるんじゃないかな。そうじゃなくても弾を運ぶ道も必要だし」

「確かに、そうですね。じゃあ、線路とか不自然に開けた道をたどっていけばいいってことですね!」

「ですが、そんなに都合よく見つか……りましたわね」

 

目線の先には不自然に開けた道と線路。

 

「クスクス。じゃあ、たどってみようか」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

というわけで案外スムーズに砲台が見つかった。

確かに、対空砲のようなゴツい見た目をしていて兵器として使われれば手を焼くだろう。

 

「ふぅん。結構強力な砲台なんじゃないかな。まあ………」

 

まあ、兵器として使われれば、だが。

 

「シャボン玉を打ち出してちゃあね……」

 

目の前の砲台はシュボボボと音を立ててシャボン玉を打ち出していた。

その上では裸の女性が踊っている。ここにはナゾノヒカリ草もなく、本当に素っ裸だ。

 

「み、ミズキ!見ちゃダメでしょ!」

「いや、なんか、ほら……さっきので疲れた」

「悟りを開くほどに⁉︎」

 

ネプテューヌとプルルートの猛烈アタックを受けたミズキの心はもう磨り減っている。

慌ててノワールが目を塞いでいるがあまり意味はないらしい。

 

「知人ならまだしも……なんていうか、見ず知らずの人の、しかも見せつけてるような感じだと……何も感じないよね」

「私に何を語ってるの⁉︎」

エロス(生命)

「そんな大層な話だったかしら⁉︎」

「いや〜、みんなパーリーピーポーだね!私も混ざっちゃおうかな〜!」

「自重しなさい」

「はい……」

 

ブランの制止でネプテューヌが踏みとどまる。自分でも一応恥ずかしいことをしていた自覚はあるらしい。

 

「しかし……私達はこのシャボン玉を見るためにここに来たということですか……」

「クスクス、いいじゃないか。みんなで遊べたんだし」

「それはそうですけど……」

「じゃあもう帰りましょう。ここにいても時間の無駄……っ⁉︎」

 

ノワールの目線の先。砲台の上にピンク色の目立つパワードスーツ、アノネデスが見えた気がした。

 

「アナタ!」

 

ノワールが走り寄るが、シャボン玉の影に隠れた瞬間にアノネデスは見えなくなっていた。

 

「……幻……?そうよね、だってあいつは……」

 

投獄されているのだから。こんな島にいるはずがない。そのはずだ。

 

「…………ッ⁉︎」

 

ミズキがバッと後ろを振り返る。その方角はプラネテューヌの方角だ。ミズキは胸を知らず知らずのうちに抑えていた。

 

「ミズキさん?どうかしたんですか?」

「………何か、起こる。胸騒ぎがする……っ、苦しいほど……!」

 

ミズキから冷や汗が垂れる。息も荒くなってひたすらにプラネテューヌの方向を見つめている。

 

「取り返しが、つかなくなる……ッ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その少し前。

アイエフとコンパはベランダいっぱいにビニールプールを広げてホースで水を入れていた。もちろん水着に着替えている。

 

「ミズキは気が利くわね〜。こんな大きいビニールプールを置いていってくれるなんて」

「これだけ大きいと、ちょっとした市民プールみたいですぅ」

「これなら私達も遊べそうね」

 

もうプールにはそこそこ水が溜まっていた。

そこに水着に着替えたユニ、ロム、ラム、ピーシェが入ってくる。

 

「できた⁉︎」

「できた……⁉︎」

「はい、そろそろいいですよ」

「やた〜!」

「あ、こら、ピーシェ!飛び込んじゃ、きゃうっ!」

 

ピーシェが飛び込んで大きく水しぶきを飛ばす。

 

「ダメでしょ!」

 

アイエフのお怒りもなんのその、パシャパシャと泳ぎ始めた。

ロムとラムはゆっくりと足から水に浸かっていく。

 

「まったく、なんで私がこんなビニールプールなんかに……きゃっ⁉︎」

 

ユニの顔にホースの水がかけられる。犯人はラムだ。

 

「スキあり!」

「こ、この〜……やったわね〜!」

 

楽しそうに笑いながらユニもプールへと入ってロムとラムを追いかける。アイエフとコンパもプールの中に入った。

 

「……………」

「何をやっている。入ったらどうだ」

「ひいっ!じ、ジャックさん……!」

「何をしている。せっかく水着に着替えたんだろう?イストワール」

「で、ですけど……」

「ほら、早くしろ」

「うう……、せめて、みなさんには見られないところに……」

「……仕方あるまい」

 

プールの脇にあった風呂桶が誰にも気づかれないまま次元の穴に消える。そして扉の奥にいたジャックとイストワールの所へとやってきた。

イストワールもジャックも水着に着替えていた。せっかくだからと水遊びをと誘われたがイストワールがあの手この手で逃れようとしたのだ。

やれ、溺れるだの。やれ、足場の本が濡れるだの。やれ、水着がないだの。

 

「要するに恥ずかしかっただけだろう?」

「うう、はい、そうです……」

「これなら俺以外に見られる心配もない。安心して遊べばいい」

「ですが……」

「教祖にも休息は必要だ。偶にはネプテューヌを見習って遊んだらどうだ?」

「ですけど、その、私は本がないと飛べないし……泳げないのですが……」

 

本がないのでイストワールは珍しく地面に立った状態だ。

 

「それくらい俺に持ち上げられないはずがない。ほれ、両手を上げろ」

「きゃっ、ちょ、恥ずかしいです……!」

「もう水着を見られてるんだからいいだろう」

「いや、それと触れられるのは別問題で……!」

「ほら、大声を上げるとみんなに気付かれるぞ」

「外道ですか⁉︎」

 

「あれ?今イストワール様の声がしなかった?」

「気のせいじゃないですか?」

 

「!」

「クク、静かにしてた方が身のためじゃないか?」

「わ、笑わないでくださいよ!訴えますよ〜!」

 

「やっぱり聞こえるわよ。ほら、あっちから」

「そうですか?でも、そうだったらそのうち来ると思うですぅ」

「そうね」

 

「!」

「ほら、足から浸かるぞ」

「う、うぅ………!」

 

顔を真っ赤にしてイストワールがジャックに持ち上げられる。そして桶の中に足から使った。高さはイストワールの胸ほどまである。

 

「これくらいなら何とかなるだろう。足もつくな?」

「は、はい。一応は……」

「なら、このまま遊べばいい。あくまで静かにな」

「……そう、ですね。それじゃあ、しばらくは……」

 

しばらくイストワールが顔を水につけたりして少しずつ水になれる様をジャックはニヤニヤしながら見ていた。

するとイストワールが来客のベルに気付く。

 

「あら、お客様ですかね……?」

「俺が応対をしよう。イストワールは体を拭いてこい」

「あ、はい」

「さて、どんな客が来た……?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

体を拭いて着替えたジャックの前には1人の女がソファーに座っていた。色の薄い髪にメガネをかけた若い女。オドオドしているのはここが教会だからだろうか。

 

「お待たせしました。連れてきましたよ」

 

イストワールが自分の人形を持ったピーシェを連れて部屋に入ってきた。そう、この女は……。

 

「本当に、お前がピーシェの母親なのか?」

「は、はい!そうです……!」

「ですが、ピーシェさんはアナタのことを知らないと仰っていますよ?」

「そうなのか、ピーシェ」

「うん……知らない……」

「そ、そんなわけ……!あっ!」

 

女が立ち上がると机に足が当たってコーヒーが溢れてしまう。

 

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」

「いいえ、いいんですよ。今拭く物を持ってきますから……」

「手伝おう」

 

イストワールとジャックが奥の部屋に消えていく。それを見届けてから女はカバンの中から慌てて瓶を取り出す。その瓶の中には赤黒い靄のようなものが詰まっていた。

 

「え?」

「………!」

 

その瓶をピーシェの目の前で開ける。すると赤黒い靄はピーシェの顔を包み込んでいく。ピーシェの目は暗く沈み込んだ。

ピーシェの手からトサ、と人形が落ちた。

 

「すいません。今拭きますから……」

「あの、思い出したみたいです……」

「なに?」

 

ピクリとジャックが眉をひそめる。

だがピーシェは女を見つめて呟く。

 

「……マ…マ………」

「ほら……」

「そ、そんな……」

「……………」

 

安堵した顔をしている女。

果たしてその裏にあるものは何か。その顔をさせた感情は何か。

子供が自分が母だということを思い出してくれたから?それとも……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「み、ミズキ!ちょっと待ってよ!」

《ごめん、みんな。この胸騒ぎを僕は無視できないんだ……!》

 

日が沈みかけたR18アイランド。

ミズキはアリオスガンダムに変身していた。

アリオスはキュリオスの次世代機。キュリオスと同じく可変機構を持ちオレンジの色が特徴的なガンダムだ。

 

「待って〜、ミズキ君〜。私も〜、行く〜」

「私も行く!お願いミズキ、連れてって!」

 

ネプテューヌとプルルートが一歩前に出た。

 

「この中じゃミズキが1番速いわね……私達は後から追いかけるわ!」

「急いで、ミズキ。何かあるんでしょう……?」

《きっと起こる。それはきっと、何かの始まりだ……!》

 

経験上、こんな胸騒ぎがある時はロクなことがない。誰かがいなくなってしまうような不安感。現にミズキはこの胸騒ぎに逆らって救えなかった人がいる。

 

《捕まって、2人とも!》

「うん、変身!」

「へ〜んし〜ん!」

 

アリオスが変形してその垂直尾翼を2人が掴む。

 

《最初から全開で行くよ、トランザム……!》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《はあっ、はあっ、はあっ……!ジャック!》

 

ベランダにアリオスがブレーキもそこそこに降り立った。

ついでネプテューヌとプルルートが着地して3人が変身を解く。

 

「ジャック、ジャック!」

 

ふわりと通路からジャックが現れた。ついでイストワールや女神候補生、アイエフにコンパが現れる。

 

「何か、あった……⁉︎」

「………ああ。あった」

「う、ウソだよ!だってみんなここに……!ここに……あれ……?」

「……ピーシェちゃんは〜……どこ〜……?」

「……ピーシェさんは、行ってしまいました」

「……く………!」

「え?い、行っちゃったって?」

「お母さんが迎えに来たんです……ピーシェさんはもう、ここにはいません」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌはプラネテューヌの街を駆けずり回っていた。その手にピーシェが落としていったぬいぐるみを持って。躓いても転んでもがむしゃらに走り続けた。どこにいるのかもわからないのに。

 

「こんなんじゃ、同じだよ……前と、同じ……!ミズキの時と、同じ……!」

 

 

 

リビングで追いついたみんなを加えて集まっていた。

 

「いくらなんでも急すぎやしないですか⁉︎」

「ピーシェさんがすぐに帰ると言って聞かなくって……」

「で、でもまた会えるんですよね⁉︎」

「それが住所を聞く前にいなくなっちゃったのよ」

「寂しい……」

「私達も最後に会えなかったのよ」

 

ユニとロムとラムも急な別れを寂しがっているようだ。

 

「……あの女。ピーシェを迎えに来たという女はな」

 

ジャックが口を開いた。

 

「1度も、ピーシェの名を呼んではいなかった」

 

『………!』

 

「ジャックさん、あまり疑うのは……」

「杞憂ならばよし。いくらでも俺を責めてくれ。だがな、ミズキの直感は告げたのだろう?」

「……うん。何か、嫌なことが起こる。それはこの程度のことじゃない。もっと胸の奥から潰されてしまいそうな……沈み込んでしまうような……」

 

ミズキが悲痛な顔で胸をぎゅっと握り締める。

 

「なんだか、寒いよ。寒くて、重くて、痛くて……!ダメなんだ、このままじゃ……!」

 

焦るような顔をしているミズキ。みんながその顔を見て否応無しに不安を煽られる。

 

「……ピーシェを探す。もしかしたらミズキの寒気はピーシェに関連しているかもしれないし、していないかもしれん。もしくは全てがミズキの勘違いなのかもしれん。だが、ミズキが……ニュータイプがこのような寒気を感じた時はな。大抵何かが起こる」

 

『……………』

 

「動かなければならない。後悔する前に」

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ……っ!」

 

街を走っていたネプテューヌは握ったピーシェの人形をぎゅっと握った。

 

「なんで、また、いなくなるの……?私の前から、みんな、みんな……!」

 

帰ってきてくれるかもしれない。ミズキだって帰ってきてくれた。

けど、それは約束があったからだ。

約束をする暇もなく、喧嘩したままで、何も残さないで……!

 

「ぴー子のバカ……っ!」

 

そんな小さい声が夜のプラテューヌに響く。

 

「バカって言った方が、バカだ……」

 

また、行かせてしまった。

ずっと、一緒にいたかったのに。




ネプテューヌ、2度目の別れ。ミズキの時よりもずっと唐突で、チャンスすらないままに。じゃあ一体どこから間違っていたのか。それをこれから考えようと。

イストワールの水着ですよ〜。脳内補完しました?訓練された皆さんならできるはず。信じてますからね、ええ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見つけたい答え

この章も長くなりそう…。


「ん、ん〜……」

 

朝、プルルートは部屋に人の気配があって起きた。寝ぼけ眼を擦ってその方向を見るとネプテューヌが棚を見つめている。

 

「……………」

 

棚に立てかけてあるピーシェのぬいぐるみだ。ピーシェが置いていってしまったもの。

 

「ねぷちゃ〜ん……?」

「あ、ぷるるん。ごめん、起こしちゃった?」

「ん〜ん〜……それは〜いいんだけど〜」

「ごめん、ぷるるん。もうすぐ朝ご飯だからね!」

 

そう言ってネプテューヌは部屋を出て行ってしまった。

 

「……これで〜、4回目〜……」

「ごめんね、プルルート。許してあげて」

 

部屋にミズキが入ってくる。

 

「私〜、怒ってないよ〜?でも〜、心配〜」

「大丈夫。もうネプテューヌはやるべきことがわかってるはずだから。あとは待つだけだよ」

「何を〜、待つの〜?」

「決意だよ。迷わない決意。……時間がいるんだ」

 

ネプテューヌがどうしたいかはわからない。どんな気持ちかも、予測しかできない。

 

「その時は助けてあげて、プルルート。ネプテューヌが道を見失った時、道を指し示すのは……友達の役目だ」

 

ミズキもニコリと笑って部屋を出て行った。

 

「……1番迷ってるの〜、自分のくせに〜……」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアが部屋のドアをノックする。中から「入っていいよ」という声が聞こえた。

 

「入ります」

「どうかしたの、ネプギア?」

 

ネプギアが入ったのはミズキの部屋だ。ミズキは机に向かって何かを書いていたみたいだ。

 

「あの……私、どうすればいいのかわからなくって……。お姉ちゃんも、みんなも悲しくって……。だから、ミズキさんなら何かわかるかなって」

「……答えはわかってるんだ。もう1度ピーシェに会って、たくさん話をするべきなんだ。それはわかってる。それはみんなわかってる。でも、僕も欲しい答えを持ってない……。一緒に考えてくれるかな?」

 

ミズキの机の上の紙にはミズキの考えが散らばるように書かれていた。

 

「最初は……僕達はどこから間違えたんだろうってことだよ」

「……R18アイランドに行ってさえなければ……でも、プラネテューヌに残ってたユニちゃん達も会えなかったって……」

「じゃあ、出会ったことが間違いなのかな?」

「そんなことはないです!」

「うん、その通りだ。でも、それじゃ八方詰まりなんだ」

 

ミズキは紙の上に大きくバツを書く。

 

「出会ってどうする?出会いたいのはなぜ?何が間違ってた?どこから間違えた?なんで間違えた?ピーシェはどんな気持ちでここを去ったの?今ピーシェはどんな気持ち?」

 

紙の上にどんどん問題が書かれていて、処理できない。どんなコンピューターだろうとこの問題は処理できやしない。

 

「……そんな……」

「わからないことが多すぎるね。だから、僕達にピーシェは助けられない」

「そんな!だって、そんなの、そんなの……」

「僕達にはできない。けど……もしかしたら、ネプテューヌなら……」

 

ミズキが見つめるのは文字で埋め尽くされた紙の中の僅かな余白。

 

「ネプテューヌなら、答えを持っているかもしれない。どうすべきか、どうしたいか、わかるかもしれない」

「お姉ちゃんが、ですか……?」

「うん。役割分担だよ。誰かにできないことがあるなら、みんなで手伝う。マジェコンヌの時もそうだったでしょ?」

 

マジェコンヌを倒すのはネプギア達の役目で、女神を救い出すのはミズキの役目だった。

だからきっと今回は、ピーシェを取り戻す役目はネプテューヌの役目なのだ。

 

「だから、今は僕達にできることを探してる」

「……助けましょう、お姉ちゃんを。お姉ちゃんを信じて……!」

「……うん、その通りだ。もしネプテューヌがしたいことがあったなら、僕達で全力で助けよう」

「……はい」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃アイエフとコンパはパソコンの前に座っていた。その画面にはユニとロムとラムが映し出されている。

 

「……というわけなんです。手伝っていただけますか?」

「うん。私達のところにもジャックさんから連絡は入ってるわ」

 

つい先程のことだが、ジャックが衛星の写真を解析してピーシェの行方を見つけ出したのだ。

ジャックはアイエフとコンパ、それに各国に協力を申し出て、とりあえず仕事のない女神候補生がその役目を果たそうとしているのだ。

 

「私達も、ピーシェちゃんに会いたい……!」

「絶対見つけ出すんだから!」

「はいです!きっと見つかるですよ!」

「じゃあ、これから目的地の座標を送るので飛んできてくださいますか?」

「ええ。座標は?」

 

 

 

 

 

アイエフとコンパはバイクに跨ってプラネテューヌの街の外れに到着した。

すると女神候補生が空から変身を解きながら降下してきた。

 

「待たせたわね」

「いえ。私達も今来たところですし」

「それで、ピーシェちゃんのいる場所は?」

「もしかして……あれ…?」

「は、はいそうです。あの建物ですぅ」

 

みんなでコンパが指差す建物を見る。

その建物は家……というよりは何かの事務所のようだ。ボロくて生活の匂いもなく、人が住んでいるのか怪しいくらいだ。

 

「……あれ?なんでロムちゃんわかったですか?」

「え?……なんでだろ……?」

 

不思議とわかったのだ。この感覚、前にも感じたことがある。

 

(私、最近変だ……)

 

ロムは子供ながらに自分の不思議な感覚を怖がってしまう。まるでなんでも見通してしまったような感覚がある。

 

「まあ、偶然なんじゃない?入りましょう」

 

ユニがみんなを連れて建物の中へと足を踏み入れる。

建物は本当に何かの事務所のようだがほとんどの部屋の扉は開いて使われていない。

唯一閉まっていた扉の前にみんなで立った。

 

「何かおかしいわね……」

 

ユニだけではない。全員が不審感を抱いている。ジャックは言ったのだ。母親と思われる女はピーシェの名前を1度も呼ばなかったと。やはり、ジャックの心配は当たっていたということだろうか?

 

「……誰かいますか〜?」

 

アイエフがドアを小突く。だが中からは返事がない。しかもドアには鍵がかけられていないらしくノックの衝撃だけでドアが少し開いた。

 

「……入りますよ〜⁉︎」

 

アイエフ達は慎重に部屋の扉を開いた。

奥へ奥へと向かっていくが全く人がいない。それどころか生活に必要なものすらない有様だ。恐らくだが、ここには人は暮らしていない……。

 

「これが、最後の部屋ね……」

 

アイエフがドアノブに手をかけた。その瞬間。

 

 

「ダメッ!」

 

 

「え?」

 

ロムが大声をあげた。

アイエフは驚きでドアノブから手を離してしまった。

 

「ど、どうしました?」

「……わからない。わからないけど……やだ……!」

 

ロムは直感でドアを開けてはいけないと感じているようだ。ロムがそっと後ずさってドアから離れていく。

アイエフはその様子を見て慎重にドアを近づき直した。

 

「だ、ダメ!ダメなの……!」

「わかってます。ドアは開きませんから……」

 

アイエフは懐から何やら機械を取り出してドアノブに取り付けた。

 

「……この裏、爆弾があるわね。ドアノブを下げると作動する仕組みになってる」

「ええ⁉︎じゃあ、さっきドアを開いてたら……!」

「……みんな、死んでたかもしれません」

「や、やったね、ロムちゃん!お手柄よ!」

「………うん……よかった、けど……」

 

自分の不思議な感覚が怖い。一体これは何?どうしてこんな感覚が芽生えたの?

 

「……ですけど、これではっきりしました。誰かが私達を罠にはめようとしていたということが……」

「じゃあ、ピーシェちゃんは、母親のところに帰ったんじゃなくて……」

「十中八九、攫われたわね」

 

その事実に全員が息を飲む。

 

「どうするの?この中に大事なものがあるかもしれないけど……無理矢理開けたらその大事なものごと、粉々になっちゃうわ」

「……私が爆弾を解除してみます。少し、時間はかかりますが……」

「任せたわよ。もしかしたらこの奥にピーシェちゃんへの手がかりがあるのかもしれないし……」

 

アイエフはドアに張り付いて爆弾の解除を始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

とある閉じられた部屋。その部屋の隅っこでピーシェを迎えに来た女は座り込んで爪を噛んでいた。

 

「なんで……私は……女神なんて嫌いなのに……!」

 

その目線の先にはひたすらにキーボードを叩く、アノネデス。監獄にいるはずのアノネデスが女の前にいた。

 

「女神はいなくなった方がいいんです……なのに、なんでこんなことに協力を……!」

「アナタも諦めが悪いわね、レイちゃん」

 

女の名前はキセイジョウ・レイ。女神排斥運動の活動家だ。

 

「アナタに無理矢理やらされてるだけじゃないですか!私、ただの市民運動家なのに……どうして私なんですか⁉︎」

「仕方ないでしょ。今回のクライアントがレイちゃんを仲間に引き込めって言ってきたんだし」

「そのクライアントって誰なんですか⁉︎」

「アタシも知らないわ。電話でしか話したことないし。ま、ギャラは悪くないわね」

「……私、もう帰ります!」

 

レイが立ち上がって部屋のドアを開こうとする。それをアノネデスが前を向いたまま引き止めた。

 

「あら、それはダメよ。アナタ……もう共犯なんだから」

「………!」

 

レイは立ち止まって振り返る。アノネデスもこちらをパワードスーツ越しに見ていた。

 

「攫ってきたのは他でもないアナタ、でしょう?」

 

モニターにはコードに繋がれて磔にされたピーシェが映っていた。目を閉じているピーシェの体に光が注がれていく。

 

「わかったらそんなところで腐ってないでアナタの仕事をして?この子もそろそろ仕上がるわ……」

「……………」

 

だが、2人には影になって見えていなかった。ピーシェの服の中にあるから気付かなかった。

ピーシェの服の内側、小さな小さなぬいぐるみがほんの少しだけ、揺れた。

 




ロムは何かに目覚め始めました。その感覚は一体なんなのでしょうか。
この章はそうっすね…クロスボーンに関係するガンダムの祭りで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強化人間

追いつかれる…追いつかれる…!ヤバイヤバイ早く書かないと。


 

ネプテューヌはプラネテューヌの森の中で木に寄りかかって座っていた。

 

「……………」

 

後悔している。それはわかってる。

もっと優しくしてあげればって思ってる。もっと遊んであげればって思ってる。もっと一緒にいればって思ってる。

けど、だからなに?

 

「………ぴー子……」

 

今となってはどうしようもないこと。胸の中の黒く渦巻く感情は時間がどうにかしてくれるものじゃない。私がどうにかしなきゃいけない。

けど、私はどうしたいの?

ぴー子を無理矢理親から引き離して……ぴー子は私のものだって言うの?そんなのは違う。

じゃあこのままぴー子のことを諦めるの?諦めて仕方がないって……そんなのも違う。

 

「ミズキ、ミズキは……どうなの……?」

 

そこにミズキはいないのに問いかけてみる。ミズキなら答えてくれそうな気がするから。ミズキは色んなことを経験してきたから。

でも、それは逃げじゃないの?違う、友達に助けを求めるのは当然じゃないの?

 

「…………私は、わからないよ……」

 

ミズキの時は、必ず帰るって言ってくれたから。帰りたいのだとわかっていたから。

でも、ぴー子はどうなの?ぬいぐるみを置いていったってことは帰りたくないってことじゃないの?

いや、考えるまでもなく親の元にいるのが1番の幸せのはずだ。幸せなはずなんだ。私が入る隙間なんてないはずなんだ。

 

「どうすれば、いいの……私は……⁉︎」

「ね〜ぷちゃ〜ん」

「………ぷるるん……」

 

頭を抱えたネプテューヌが寄りかかっていた木の後ろからプルルートがやってきた。プルルートはネプテューヌの隣に腰掛けた。

 

「どうして〜、泣いてるの〜?」

「………わかんない。私、どうして泣いてるんだろうね……。私、なにもわからなくなっちゃった。こういう時ってどうすればいいんだっけ……?」

 

そっと空に手をかざしてみる。

果たして、私は何を求めているのだろうか?

 

「私ね……ミズキを助けた時にね、誓ったの。ずぅっとミズキの側にいるって。絶対隣から離れないって。それで、一緒に悲しんで、苦しんで、喜んで……そうしてみせるって誓ったんだ」

「うん〜。ねぷちゃんは〜、いつもミズキ君の近くにいたよ〜?」

「でもね……ぴー子は何処かに行っちゃった……」

「そうだね〜。何処にいるか、わからなくなっちゃった〜」

「…………あれ、なんで私こんなこと考えてるんだろ……。こんなの、何にもならないのにね……」

 

ふぅ、と息を吐いて静かに日の光を浴びる。

 

「……ねぷちゃんは〜、後悔したいの〜?」

「……違う、と思う」

「じゃあ〜、何がしたいの〜?」

「……わかんない」

「会いたいんじゃないの〜?」

「会いたいかも、しれない。けど、ぴー子が嫌がるんなら……」

「……ね〜え〜。ねぷちゃ〜ん?」

 

プルルートがネプテューヌの顎を掴んで自分の方へと顔を向けた。そのまま間近で見つめ合う。その顔は嗜虐的に歪んでいた。

 

「ぷ、ぷるるん……?」

「私ね〜……ねぷちゃんのこと、好きだよ〜?でもね〜、今のねぷちゃん……なんだかつまんな〜い」

「っ!」

 

ネプテューヌの顔が悲痛に歪んだ。

 

「ね〜え〜。ねぷちゃん、いつまで嘘ついてるの〜?嘘つきすぎて〜、自分でもわからなくなっちゃった〜?」

「私……嘘、なんか……」

「ついてる〜。嘘ついてるから〜、わからないんじゃないの〜?」

「あ……う……やだ、やめて……嘘、つかないから……」

「へえ〜。どんな嘘つかないの〜?」

「そ、それは………」

「また嘘ついた〜。嘘がわかるって、嘘ついたよね〜……?」

「ご、ごめん……なさい……。謝るから、お願い……やめて、嫌いに、ならないで……!これ以上、いなくなっちゃ、嫌だよ……!」

 

ボロボロとネプテューヌの目から涙が溢れ出した。その涙は頬を伝ってプルルートの手にも触れた。

 

「………やっと謝れたね〜。でも〜、それは私に言うべきじゃないよね〜……?」

「あ………!」

 

見失って、いたんだ。

謝りたかっただけなのに。あの時のことを謝って、仲直りしたかっただけなのに。

 

「ぴぃ……子……!」

 

変に理由を振りかざして。変な大義を振りかざして。変に自分を誤魔化して。

自分がしたかったことを偽って隠して自分さえも騙してた。

例え、私のことが好きでも嫌いでも。ここにぴー子が帰ってきたくてもそうでなくても。親のところにいたくてもそうでなくても。

 

私がしなきゃいけないこと、あるじゃんか……!

 

「あうっ、あ、ああっ………うわぁぁぁ………!」

「……よく頑張ったね〜、ねぷちゃん……」

 

号泣するネプテューヌをプルルートが抱き締めた。

 

「関係、ないんだ……!誰の気持ちとか、どんな気持ちとか、何がしたいとか、するべきとか……!私は謝りたかったんだ……!あの時、やらなかったことを、今度こそ……!」

「うん〜。それでいいと思うよ〜?」

「……ありがと、ぷるるん……。私、今は迷わないよ。次も迷うかもしれないけど……今は迷わない。謝るため、だけに……」

「……どういたしまして〜」

 

2人が静かに抱き合って陽の光を浴びる。

そこに慌てた様子でミズキが降り立った。

 

「………ネプテューヌ……プルルート……」

「ぐすっ、ミズキ……」

「……わかったの、答え……」

「うん、わかった……。私、謝りたかっただけなんだよ……?ミズキの時は、会いたかったから……会って一緒にいたかったから、連れ戻そうとしたよね?」

 

ネプテューヌがプルルートの胸から離れて立ち上がり、ミズキの方を見据えた。

 

「でも、今度は違うよ。会って、謝る。それだけ。……ミズキは手伝ってくれる?」

「うん、手伝う。手伝うよ、ネプテューヌ」

 

ミズキはしゃがんでネプテューヌを抱き締めた。そして頭を撫でる。

 

「それで〜、ミズキ君は〜どうしてここに来たの〜?」

「あ……うん。実は、大変なことが起きたんだ」

 

ミズキが空にモニターを映し出した。やっているのはニュースのようだ。そのニュースの見出しは。

 

「………新国家エディン、誕生。……だってさ」

「…………えええええええええっ⁉︎」

「だから今すぐみんなと合流して調べに……うん?コンパ?」

「え?コンパから電話?」

「うん。ちょっと行ってくるよ。みんなと合流してから調査をお願い。くれぐれも気をつけてね」

 

そう言ってミズキは空へ飛び上がった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「た、大変よ!今連絡があって、新国家が誕生したって………どうしたの?」

 

アイエフを除いた全員は危険なために部屋から離れていた。そこでコンパが新国家誕生の連絡を受けて、ユニとロムとラムもそれを知った。

ニュースを知らせにユニはアイエフの元へと駆け寄ったが……既に部屋の扉は開いていた。

アイエフは部屋に少し入った状態で立ち竦んでいる。

 

「あ、あいちゃん?どうかしたですか?」

「………すぐにミズキを呼んで。ジャックでもいい」

「え?でも今は……」

「早く!早く知らせなきゃいけないのよ!」

「は、はい!」

 

アイエフが凄い剣幕で怒鳴ってくる。コンパは慌ててミズキへと連絡を取り始めた。

 

「ちょ、ちょっと!そんなに怒ることないじゃない!」

「その中……何かあるの……?」

「……大アリよ……なによ、これ。あの女はミズキと関係があるの?その新国家ってのは壊れた次元と関わりがあったってことなの……⁉︎」

 

アイエフが手に持っていたのは1枚の写真。凄く古びているし、端っこは破れたり欠けたりしている。

だがアイエフはその写真を決して傷つけないようにしていた。

疑問もあるが、それ以上にこの写真はーーーー!

 

 

『え?写真?』

『そうよ!ついに我が子供たちもインスタントカメラというものを買うことができたの!ほら、撮るとすぐに写真が出てくる!』

『へえ、凄いにゃ。いちいち写真屋に行かなくていいって、便利だにゃ〜』

『ちなみに、このカメラを買ったことでまた予算が圧迫されている』

『また⁉︎……まあ、ネズミ食べれるならいいけど……』

『おい、何てことをしてくれたんだシルヴィア。またネズミ狩りの暮らしに逆戻りか?』

『う。ま、まあまあ!次の拠点で奪えばいいのよ!それよりほら、みんな集まって!撮るから!』

 

 

中央には満面の笑みを浮かべた4人の男女と小人。その周りを囲むようにたくさんの幼い子供達がニッコリ笑っている。

間違いない、この写真は……ミズキの次元で撮られたものだ!

 

「ミズキの次元は、壊れたはず……!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

新国家エディン誕生の報せを受けた女神とネプギアはR18アイランドへと向かった。そしてそこには捕まったはずのアノネデスと新たな女神、イエローハートがいた。

 

「アナタ、どうして……!監獄にいたはずよ!」

「アレはアタシの影武者」

 

アノネデスは低い声で笑う。その脇には敵意を持った目で女神を見つめるイエローハートがいた。

 

「あのね、あのこわ〜いお姉さん達、みぃんなアタシを捕まえようとしてるのよ」

「……許さない!パパをイジメる人は、みんな、落ちちゃえ〜っ!」

 

イエローハートは黄色の髪をした活発そうな女の子だ。胸はベールよりも大きく、手に爪を装備して襲いかかってきた。

 

「っ、なんてパワー……!」

「ええいっ!」

 

大剣で爪を受けたノワールが吹き飛ばされた。

 

「ノワール!くっ……!」

「きゃあっ!」

 

ネプテューヌの斬撃が命中した。

だがまったく効いている様子はなく、むしろ楽しそうにイエローハートは笑った。

 

「あはは!楽しいね〜!もっと、もっと遊ぼ!」

「戦いを、楽しんでる……⁉︎」

「このっ!」

「くらいなさい!」

「きゃっ!あはは、痒い〜!」

 

ブランとベールの同時攻撃を受けてもピンピンしている。

イエローハートは円陣を蹴ってネプテューヌに迫った。

 

「ええ〜い!」

「っ!」

「このっ!」

 

だが寸前で戻ってきたノワールがイエローハートを蹴飛ばした。

 

「あはあは!お姉ちゃん達と遊ぶの楽しいね〜!」

「なんで、効かないのよ……!」

 

するとイエローハートが何かを感じたように海の方向を向いた。

 

「来た⁉︎」

「え?」

 

イエローハートは女神達を尻目に海の方向へと降下し始めた。

 

「あ、あれはミズキ様では?」

「あいつ、ミズキを狙ってやがるのか!」

「援護するわよ、追わなきゃ!」

 

4人がイエローハートを追って駆け出した。

 

《く、なんで、なんでだよ……!》

 

ミズキはクロスボーンガンダムX3に変身していた。

クロスボーンガンダムX3はクロスボーンガンダムシリーズの3号機。青の装甲が特徴的で胸には髑髏、額には3のマークが刻まれている。性能自体はX3と変わらないが実験的な武装が多く装備されている。

X3は水面スレスレを滑るようにして飛んでいた。狙いは、アノネデス。

 

「ダメっ!パパイジメないで!」

《っ!》

 

だが目の前にイエローハートが立ちはだかった。

X3はイエローハートなど見ていない。その向こう、足を組んで座っているアノネデスだけを見つめている。

 

《なんで、邪魔しないでよっ!僕のこと、みんなのこと、覚えてないのっ⁉︎ 》

「知らない!アナタみたいな人知らないもん!」

《ぐ……これが……こんな、ことがっ!》

「……フフフ………」

 

《これが人間のすることかッ!貴様ァーーーッ!》

 

「やめて!パパから離れてっ!」

 

イエローハートは爪でミズキに襲いかかってくる。

X3は手に持った実体剣、ムラマサブラスターで受け止めた。

 

「あらあら、アタシが何をしたっていうの?その子はアタシのために戦ってくれてるのよ?」

《戯言をッ!コンパに呼ばれた場所で見たんだ……!君は、アレがどんなものなのかわかって!》

「わかってるわよ。強い投薬や強迫観念を植え付けるマインドコントロール……その危険性はわかってるつもりよ?」

《君は、何もわかってないよッ!よりにもよって、強化人間への改造だなんて……ッ!》

「やめて!パパから離れてっ!」

《っ、くそ……っ、くそ、くそ……ッ!正気に戻ってよ!》

 

イエローハートに押し切られてX3が後退する。

そこに女神達がようやく追いついた。

 

「ミズキ、援護するわ!」

《っ、やめて!攻撃しちゃダメだ!》

「お姉ちゃん達も、パパをイジメるならっ!」

《くっ!》

 

X3がネプテューヌとイエローハートの間に入って爪を止める。

 

「なんでだよ、ミズキ!これはアイツから仕掛けてきて……!」

《違う!ダメなんだ、操られてるだけなんだ!みんなはアレが誰なのか、わかってるの⁉︎》

 

ギャリギャリと爪とムラマサブラスターが擦れあって火花を散らす。

 

「お兄ちゃんも、どいて!」

《くぅぅっ、ピーシェェェェッ!》

「えっ………?」

 

その名前にみんなが呆然とする。

今、誰の名前を……?

 

《セーフティ、解除ォッ!》

 

X3のムラマサブラスターから小型のビームサーベルの刃が14本飛び出した。

圧倒的な熱量がピーシェの爪を焼き始める。

 

「あつっ!」

《動きを止めさせてもらうッ!》

 

ピーシェの両手の爪が溶断された。ピーシェは防御魔法をX3に向けたが、X3はムラマサブラスターではなく、徒手の拳を構えた。

 

「Iフィールド・ハンドッ!」

 

ビームを防ぐバリア、Iフィールドが掌から発生した。それは防御魔法をも無効化してピーシェを殴り飛ばした。

 

「きゃあっ!」

《これで、邪魔しないでっ!》

 

すかさず回り込んだX3がムラマサブラスターでピーシェの背中のプロセッサユニットを切断する。

プロセッサユニットを失ったピーシェは海へと真っ逆さまに落ちた。

 




暴走…みたいなことはしないネプテューヌと謎の写真。
すいませんちょっとカットしたら不自然になりましたね。ここまで入れたくって…。
ピーシェに施されていたのは強化人間への手術。なぜそんなものがもたらされて短期間で可能になったかはそのうち。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仲間の証

バトル開始〜一歩半手前。


 

《はあっ、はあっ、はあっ、く……!》

「へんしんとけちゃったよ〜……」

 

変身が解けたピーシェは海の中で立ち上がった。その目は虚ろでキョロキョロ周りを見渡す。

 

「ぱ〜ぱ〜?ま〜ま〜?ど〜こ〜?」

《…………!》

 

砂浜へとピーシェが戻っていく。するとその前にアノネデスとレイが現れた。

 

「パパはここよ?おいで」

「ぱぱ〜!」

 

ピーシェがアノネデスのことをパパと呼んで走り寄る。

その様子をみんなは呆然とした様子で見ていた。

 

「だっこして〜!」

「はいはい」

 

ピーシェがアノネデスに抱き上げられて幸せそうな顔をする。

すると横の茂みからプルルートが出てきた。

 

「ね〜え〜。ピーシェちゃんに〜、何したの〜?」

「それは、あの子が1番知ってるんじゃないかしら?」

 

アノネデスはX3を見る。プルルートもX3を見た。

 

《強化人間への改造……!薬物投与、洗脳、マインドコントロールなどの非人的なことを人体に対して行うんだよ。それで人工ニュータイプを作り出す行為……どんな副作用が起こるか!》

「副作用〜?」

《精神的な障害だとか、情緒不安定になるだとか……!慢性的に薬物も投与しなくちゃいけないはずだ!》

「100点の解答ね。褒めてあげる」

「……ね〜え〜。ピーシェちゃんに〜、なにしてくれてるの〜?怒っちゃうな〜……!」

 

プルルートが変身した。

 

「取り返しのつかないこと、してくれたわね〜……。覚悟はいい?」

 

プルルートが鞭を地面に打ち据える。レイがひっと怯えた声を出した。

 

「あらいいの?アタシを傷付けるってことは……この子を敵にするってことよ?」

 

アノネデスに抱かれたピーシェが虚ろな瞳でプルルートを見た。

 

「ね、ねえぴー子?どうしたのよ、私達のこと、忘れちゃったの……?そんなわけ、ないわよね……?」

 

ネプテューヌがフラフラとピーシェに歩み寄る。だがネプテューヌを打ち据えたのは無情な拒絶の言葉だった。

 

「………だれ?」

「っ!」

「ぱぱとままいじめるひと、きらい!だいっきらい!あっちいって!」

「そ、んな………」

《こんな……!こんな、こと……!》

「ふふっ、改めて紹介するわ。こちらにおわすお方こそ、我らがエディンの女神。イエローハートこと、ピーシェ様よ!」

 

『……………!』

 

「そしてここでレイちゃんから重大発表がありま〜す。ほら、早くアレ読んで」

「は、はい……!」

 

レイが懐から紙を取り出して読み上げ始めた。

 

「……は……の……」

「声が小さ〜い!」

「エディンは!国内で生産された成人向けコンテンツの制限のない流通を各国に求める!これに賛同しない場合は!……わ、我が国への!宣戦!布告と見る!」

 

ザッザッと規則正しい足音が聞こえる。R18アイランド改め、エディンの軍隊の足音だ。しっかりと整列した軍隊は今すぐにでも銃を撃てるような体制を整えた。

 

「な、なによ、やる気⁉︎出来たばっかりでロクにシェアもないような国が……!」

《やめて、ノワール。一旦帰るんだ》

「でも!」

《これは!ただの戦争じゃない!ピーシェを取り戻せるかそうじゃないかの戦いなんだ!》

「でも……っ!」

《戦争は……僕が1番嫌いなことだ……!でも、だからと言って退けない!戦争を止めるにはもう手遅れなんだ……!だから、せめて早く止める!それが僕達のやることなんだよ……!》

「あら、戦争は止められるわよ?私達の要求を飲んでくれさえすれば……ね」

《僕は言ったはずだよ。流通とか制限とかどうでもいいんだ。この戦いはピーシェを取り戻すかどうかの戦いだ!》

「ふ〜ん。じゃあアナタはピーシェちゃんを取り戻せるの?」

《僕じゃない!ネプテューヌがきっと、取り戻してくれる……!僕は信じているんだ!》

「ミズキ……!」

 

ネプテューヌが振り返ってX3の顔を見る。

 

《覚悟してよ……!僕は君を、許さないから……!》

「楽しみにしてるわよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌの教会では女神候補生4人が集まっていた。ロムが話があるというからだ。

 

「それでロムちゃん、話って?」

「……あのね……最近私変なの……」

「変?」

 

ロムは俯いて椅子に座っている。その顔をネプギアは覗き込むがやはり浮かない顔をしていた。

 

「時々ね……どうしてかわからないけど……色々なことがわかるの……」

「それってもしかして、あの部屋の時の?」

「うん……。あの時も、嫌な感じがした……」

 

ユニの心当たりがあるのはアイエフが爆弾が仕掛けられたドアを開けようとしてしまった時のことだ。

普段のロムではありえない程のはっきりした声と切羽詰まりようだった。

 

「……私も、そういうことあるかも」

「え……?ネプギアちゃんも……?」

「うん。時々、モンスター退治とかしてる時に次の動きがわかったりするの……。マジェコンヌの時にも感じてたし……」

 

マジェコンヌの時ほどはっきりしたものではないが今でもその感覚が生じる時がある。

ロムは仲間がいるとわかって少し顔をほころばせた。

 

「私はなにも感じないわよ?」

「私も。そんな不思議なことないわ」

 

ユニとラムは首を傾げている。

 

「でも、そんなに悲観することかしら?」

「え……?」

 

ユニがあっけらかんと言い放った。

 

「少なくとも私達はその……なんていうの?勘?みたいなもので助かったんだし……悪いものじゃないんじゃないの?」

「そう、かもしれない……けど……」

「わかんないなら、執事さんに聞けばいいのよ!」

「執事さんに……?」

「そうだね。私が『勘みたいなもの』を身につけたのも、ミズキさんの力を発揮した時だったし……ミズキさんならなにか知ってるかも」

「執事さんに……」

 

確かに、なにか知ってるかもしれない。

あの部屋に散らばった資料を見るなり慌てて飛び出していったミズキが戻って来たときに聞けばいいだろう。

すると、またロムを不思議な感覚が襲った。

 

「………!帰って、来る……!」

「それって、ミズキさんが?」

「わかんない……。けど、誰かが帰ってくる……」

 

ロムが走ってベランダへと向かう。3人もそれを追いかけてベランダに出た。

ベランダから空を見上げるとそこには女神達が戻ってきているところだった。

 

「すごいロムちゃん!当たってるわよ!」

 

ラムが歓喜する。

女神達はベランダに降り立って変身を解いたがネプテューヌだけは変身を解くなりベランダから出た。

 

「お姉ちゃん⁉︎」

「ごめん、ネプギア……!」

 

ネプテューヌは顔を伏せながら行ってしまった。

変身を解いたミズキはネプギアを引き留める。

 

「大丈夫、ネプギア。少し……ほんの少しだけ時間がいるだけだから。泣きたい時は、泣くべきだ」

「でも……!」

「……大事な話があるんだ。少し、聞いてくれないかな」

 

 

 

 

 

 

「そんな、ピーシェちゃんと……!」

「戦……争………!」

 

ネプギアとユニが絶句した。

 

「決して間違えて欲しくないのは……これはエディンとの戦争じゃないってことだ。ピーシェを取り戻せるかどうかの戦争ってことだ」

「でも、ピーシェちゃんは私達のこと忘れちゃったんでしょ⁉︎」

「…………それでも、僕は取り戻したいから……!」

 

絶対に諦められない。ピーシェを殺すなんてことは絶対に嫌だ。

 

「ごめん、ミズキ。もう私達は国に帰らせてもらうわね。エディンは4カ国全てに宣戦布告をしたわけだし……」

「私達も、準備をしなきゃいけない……」

「どんな手段を用いてくるかもわかりませんしね」

「わかってる。だけど……その前におまじないだ」

 

ミズキが微かに微笑んで女神候補生達を見た。4人は顔を見合わせて笑ってから右手を差し出した。

 

「おまじない……?」

「お姉ちゃんも……手、出して……?」

「早く早く!」

「ユニは知ってるの?」

「いいから、右手を出してお姉ちゃん!」

「ベールさんも」

「……?え、ええ」

「ほら、プルルートさんも」

「ん〜?何するの〜?」

 

全員が手を出した。それを見て笑ってからミズキはまずノワールの手を取る。

 

「えっ、な、なによ」

「ノワール」

「う、うん」

「君の中にあるのは……人を変える力だ。それは自分だって変えてく。たとえ今はなにもできなくても……いつか変えられる。その時を信じて」

「………うん」

「信じてるよ、ノワール。僕はあの時の言葉、忘れてないからね」

 

ノワールの右手の甲に赤い炎のシンボルが刻まれた。

次にミズキはユニの手を取る。

 

「ユニ」

「はいっ!」

「ひたむきな心と負けん気……忘れてないね?」

「はい、覚えてます」

「君はまだまだ先に行けるよ。もっともっと強くなる。強くなって、ユニ」

「はい!」

 

次にミズキはロムの手を取った。

 

「ロム」

「はい……!」

「忘れないで、勇気を出すことだ。君の隣には……誰がいるか、わかってるね?」

「お姉ちゃんと、ラムちゃんがいるよ……!」

「うん、大丈夫だ。頑張って」

 

ミズキがラムの手を取る。

 

「もう、怖がってないね?」

「ええ!お姉ちゃんだっているもの!」

「うん、その通りだ。君達が力を合わせてできないことなんて、なに1つない。頑張って」

「うんっ!」

 

そしてミズキはブランの手を取った。

 

「ミズキ……」

「君の中にあるのは、戦うための力だ。けど、その力……何かを守るためにだって使えるはずなんだ」

「ええ……私はルウィーも、妹も、ミズキだって守ってみせるわ……!」

「頼んだよ。君がいなきゃ、僕は癒されないからね。クスクス……」

 

ブランの手にも赤い炎が刻まれる。

次にミズキはベールの右手を握った。

 

「ベール、君の中にあるのは戦いながら平和を求めた人の力だ。どんな矛盾の中でも……諦めないでね」

「わかりましたわ。私が1番乗りして、ミズキ様を助けてみせましょう」

「信じてる。支えてくれるから、僕はもう壊れないよ」

 

ベールの手にも赤い炎が刻まれる。

ミズキはネプギアの手を握った。

 

「ネプギア」

「はい!」

「君はもっともっと進化できる。もっと、もっともっと進めるんだ。今の君なら、その力を解き放てる」

「……はい!」

「いい返事だ。頑張ろうね、ネプギア」

 

ネプギアの手にも炎が刻まれた。

最後にミズキはプルルートの手を取った。

 

「プルルート、ネプテューヌをありがとうね。君のおかげで、ネプテューヌはきっと戦える」

「……そうかな〜?ねぷちゃん、泣いちゃったよ〜?」

「大丈夫だよ。だから、プルルートも……」

 

ミズキがプルルートの手に炎を刻み込んでいく。

 

「君は、とても優しい上に強いから。友達もたくさんいて……。けど、困った時は僕がいつでも助けに行くから」

「うん〜、わかった〜」

 

全員の手に炎を刻み終わる。子供たちの仲間の証を。

 

「みんな、信じてるよ」

 

ミズキは自分の右手の甲を撫でてニコリと笑った。




女神達は自国に帰ってミズキはネプテューヌの元へと向かった模様。

強化人間は大抵悲劇的ですからね…。幸せだったのはマリーくらい?1番泣きかけたのはステラ。……髪の色が、同じ……?(ゲス顔


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

侵攻

クロスボーンが出た、ということであのガンダムが登場。個人的にはあの武装の派手でもなく地味でもない感じが凄く好きです。


ミズキはネプテューヌの前の部屋に立つ。

 

「入るよ、ネプテューヌ」

 

ミズキが部屋のドアを開いた。

その中にはピーシェのぬいぐるみを抱き締めたネプテューヌが蹲っていた。

 

「ネプテューヌ」

「……信じてた。きっと仲直りできるって。……信じてた、のに……!」

 

ミズキは泣き出しそうなネプテューヌの手を取った。

 

「まだ、遅くないよ。ピーシェはまだ死んだわけじゃない……まだ、取り戻せる」

「でも、ぴー子は私のこと、知らないって言って……!」

「君なら取り戻せる。僕の中で見せたあの力……あの力はまだ、君の中にある」

 

ミズキがネプテューヌの頭をもう片方の手で撫でた。

 

「わかってるはずだよ?……何が不安?僕に話して」

「でも……だって……!」

「言ってくれなきゃわからないよ……。それは、ピーシェだってそうだ。伝えて、ネプテューヌ」

「……っ、うぅっ!」

 

ネプテューヌがミズキの胸に顔を埋めた。

 

「なんで……なんでこんなに遠くなっちゃったの⁉︎あの時、ごめんなさいって、言えてれば、こんなこと……!」

「うん、そうだね。きっとその時にネプテューヌは間違えちゃったんだ」

「それで、私、謝まろうって……!嫌いって言われても会いたくないって言われても謝まろうって……!でも、今のぴー子にはごめんなさいしても、届かないよ!」

「違うよ、ネプテューヌ。……届けるんだ」

「………!」

 

ミズキがネプテューヌの手を強く握った。

 

「届かせるんだよ、君のその想い。僕の時と同じように……ピーシェの中から、本当のピーシェを引っ張り出すんだ」

「それが、私の役目なんでしょ……?でも、怖いよ……!出来なかったら、今度は誰がいなくなるの……⁉︎」

「……ネプテューヌが1人なら、きっと出来ない」

「………!」

「……落ち着いて周りを見渡して、ネプテューヌ。君の隣からピーシェはいなくなってしまった……。けど、君の友達はピーシェ1人じゃない。誰がいる?」

「わ……たしの、友達は……!」

「ネプギアがいるよ。コンパもアイエフもプルルートもジャックも女神も女神候補生も……僕もいるよ」

「っ、ぅっ………!」

「君が取り返したいものは……みんなで取り戻す。力を貸すから、力を貸して?」

「私、貸すものなんて……!」

 

ミズキはクスリと笑ってネプテューヌの手の甲に炎のシンボルを刻みつけ始めた。

 

「あの時さ、ネプテューヌは……僕の隣にいるって言ってくれたよね。その言葉……まだ僕の支えになってる。ネプテューヌがいるならって思えるんだ」

「ミズキ……」

「本当言うとね。僕も泣きたいんだ。絶対起こしたくなかった戦争が起こって……ピーシェが僕達のこと忘れてしまって」

「じゃあ……なんでミズキは泣いてないの……?」

「クスクス、みんながいるからだよ。ネプテューヌがいるからだよ」

 

ミズキがネプテューヌの手に炎のマークを刻み終わる。

 

「僕はここにいるから。信じることだよ。僕ができたこと、ネプテューヌにもできるはず。1人じゃない、力を貸すから。信じてるよ、ネプテューヌ」

「ミズキ………」

 

すると部屋の外から慌ただしい足音が聞こえた。

 

「ネプ子、いる⁉︎」

「き、来たですぅ!」

「…………!」

 

コンパとアイエフが部屋のドアを開ける。来た、とはエディンの軍隊のことだろう。

 

「………僕は行くよ、ネプテューヌ」

「待って、ミズキ……!」

「僕は、いつもここにいる。君の隣を離れたりはしない」

 

ネプテューヌの手をミズキはもう1度握った。

 

「だからネプテューヌ、信じて」

 

ミズキは立ち上がってアイエフとコンパと共に部屋を出て行く。寸前、ミズキは右手の甲の炎のシンボルをネプテューヌに見せた。コンパとアイエフも右手に刻まれた炎を見せる。

 

「待ってるわよ、ネプ子。なんてことないわ、助ける人がピーシェに変わっただけ」

「前はねぷねぷのおかげでみずみずが助かったです。今回だって、きっとできるです!」

「………私には……できるかな……?」

 

そう呟いても聞いてくれる人はもういない。

顔を見上げて見れば、ミズキがくれたぬいぐるみ。

 

きっと、まだミズキは私のキーホルダーを持ってるんだ。私の言葉がミズキを励ましているんだ。ミズキは私を励ましてくれた。

………いい加減、逃げられない。

 

ネプテューヌはピーシェのぬいぐるみをミズキがくれたぬいぐるみの横に置く。

 

「もうぴー子から……逃げたりしない。みんな、私を信じてる。私しかできないことが、あるんだ」

 

ネプテューヌは右手の甲のシンボルを左手で握り締める。

あの時と同じだ。不思議とそこから熱が伝わってくるようで、勇気が湧いてくる。

 

「……ぴー子。私が、助けに行くから」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

エディン軍は夕方17時27分から各国に向けて一斉に進軍を開始した。

人口とシェアが少ないエディン軍はまずどこか1つの国に狙いを定めて侵攻するかと思われたが、予想は大きく外れることとなった。

だが、それでは明らかに戦力不足。エディン軍はどのような手段で戦力の増強を行ったのか。その答えは………。

 

「そんな……まさか……」

 

レーダーに映った多数の反応。各国はそれを軍隊だと勘違いしていたのだ。

それは軍隊ではない。あえていうなら群体。

 

「EX……モンスター……!」

 

空を飛び、地面を走るEXモンスターの大群。巨大で赤黒いモンスター達だ。

しかも様子がおかしい。本来EXモンスターは目に入ったものから攻撃するほどに獰猛なはずなのにまるで、統率がとれているように……!

 

「まさか、エディンはEXモンスターまで……⁉︎」

 

ネプギアは絶句する。

だがいつまでも止まっていてはいられない。

 

「最初から本気です……!」

 

NEXTへと変身したネプギア。

 

「プラネテューヌには、指一本だって!」

 

M.P.D.B.Lを乱射してEXモンスターを牽制する。モンスター達は散開して弾を避けた。

 

「くっ、数が多すぎる!」

 

ネプギアの武装は基本的に1対1のもので、対多数戦には向いていない。M.P.D.B.Lも連射性能はあまり高くなく、牽制すら満足にできない。

 

『………対多数戦能力』

 

「また……っ⁉︎」

 

また不思議な感覚がネプギアを襲う。人の声ではない、機械音声のような声だ。

そして別の感覚もネプギアに芽生える。

 

「………っ、見えますっ!」

 

複雑かつ不規則に移動していた鳥モンスターの軌道が読め、その先にビームを撃つとモンスターは吸い込まれるようにそのビームに当たった。

 

「やった!……いけない!」

 

地上もモンスターが襲い始めていた。

ネプギアはタイタスに換装して地上へと降り立つ。

 

「やああっ!どいて!」

 

落下する勢いでモンスターを踏みつける。さらにモンスターを殴り飛ばし、他のモンスターに投げつける。

だがそれでは空が手薄になってしまう。

 

「手が、足りない!」

 

だが遠距離から狙撃されたビームがモンスターの体を射抜く。

 

《ネプギアァーーッ!》

「ミズキさん!」

 

飛翔してきたのは右肩にF、左肩には91の文字が刻めこまれたガンダム、ガンダムF91だ。ダクトが露出した特徴的な胸部ブロックや背中の2本のビーム砲が特徴的だ。

 

《空は任せて!ネプギアは地上を!》

「わかりました!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌの教会、その部屋にプルルートとジャック、それに小さいイストワールのホログラムとこちらの次元の大きいイストワールがいた。

 

「た、大変です!その女神さんが大きな存在であることが、わかったんですよ!((((;゚Д゚)))))))」

「やはりそうですか……。それではあの女の子が最初からアイエフさんやコンパさんを知っていたのは……」

「多分、こっちの次元のアイエフさんやコンパさんと知り合いだったからだと思います(・ω・)」

「なるほど……」

 

2人のイストワールの間で話がされる。

 

「こちらでは世界の一部がもの凄い勢いで荒廃を始めています!恐らく、そこが本来ピーシェさんが治める地域だったのかと……!(;´Д`A」

「確かに、その可能性は高いですね」

「ちょっと!2人も話聞いてますか⁉︎(−_−#)」

「……聞いてるよ〜?」

「……………」

「ジャックさん……?」

 

プルルートは返事をしたがジャックは黙っているだけだ。

 

「俺は……戦争が嫌いだ。大っ嫌いだ。いや……俺は戦争が怖い」

 

ジャックが大きいイストワールを見つめる。

 

「震えが止まらん。俺達は常に戦火の中で暮らしてきたが……それでも戦争にはなれない。今この瞬間も砲撃音が聞こえてきたのなら逃げ出したいくらいだ」

「ジャックさん……」

「……俺やミズキを追い詰めるものが多すぎる。次元の崩壊、友との別れ、洗脳、望まぬ争い、そして戦争」

 

全てが忌み嫌うものだ。全てが2度と見たくないものだ。

 

「………俺は自分で戦争を止める力を持っていない。だから、怖い。俺の持つ情報処理能力やハッキング能力など、ピーシェを取り戻すために何の役にも立たん。無論、協力はするが……」

 

イストワールはジャックの震えを見た。鉄面皮のジャックが目を逸らす。それはイストワールが初めて見るような弱さがあった。

 

「すまないな。俺はとてもこの戦争には立ち向かえない」

 

ジャックは部屋を出て行く。

 

「私も〜、ピーシェちゃんは連れて帰りたいよ〜?でも〜、私にはできないから〜」

「な、なんでですか⁉︎プルルートさんが精一杯戦えば……!(◎_◎;)」

「連れ帰れるのは〜……ねぷちゃんだけだよ〜。無理矢理連れて帰っても〜、ピーシェちゃんの国〜、どっちにしても滅びちゃうも〜ん」

「………」

「でも〜、プラネテューヌは〜、守るよ〜?」

 

プルルートも部屋を出て行った。

 

「……きっと、勝って連れ帰るだけみたいな……そんな簡単なことじゃ、もうなくなってしまったんです。いろんな人の思惑とか……気持ちとか……そういうのが、絡まり合って……簡単なはずの問題が、難しくなっていった」

「……………」

「………でも、本質は1つです。みんなを私は信じます」

「あ!ど、どこに行くんですか!(つД`)ノ」

「少し不器用な人を、励ましに行ってきます。それでは」

 

イストワールも、部屋を出て行った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

各国を襲うEXモンスター達。

女神や女神候補生、軍が懸命に退治しているが劣勢気味だ。

 

「あははは、いいわぁ……それそれもっと!」

「一瞬にして世界中がこんなめちゃくちゃに……」

「何他人事みたいに言ってるのよ。我が軍の最高責任者はアナタなのよ?」

「我が軍って……女神も軍隊もモンスターも……!全部操ってるだけじゃないですか……!」

 

女神は強化人間としてアノネデスとレイを攻撃するもの全てを敵とみなすように調整してある。

軍隊は観光客を不思議な瓶詰めの赤黒い瘴気で操った。

モンスターは瘴気によってEX化された後に体に機械を埋め込んで支配を可能にした。

 

「だいたい、なんなんですかあの赤黒いの……!」

「だからアタシも知らないんだってば。クライアントに送られたものだし、詮索も禁じられてる」

 

実はエディンの実質的な支配者であるアノネデスもほとんどやっていることがどんな原理でどんな理由でやっているかはわかっていなかった。

送られてきた資料通りにピーシェを改造して、人を操り、モンスターを操った。

 

「私……怖いです。このまま世界がどうにかなっちゃいそうで……」

「さあ、どうかしらね」

 

モニターには各国の混乱が映し出された。

だが突如、リーンボックスの女神の体が輝き始めた。

 

「………?」




女神たちの新たな力の芽生え。さあ、必殺技のオンパレードと洒落込みましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

解放、次の次へ

前見たく1話1国みたいな感じにしようか迷ったんですけどこっちにしました。あくまで主体はプラネテューヌですし。
必殺技のオンパレードですよ。皆さんはどの主役機が好きですか?


「敵が、多すぎますわ……!」

 

リーンボックス、その国境近くの空中でベールは冷や汗を垂らす。

妹がいないことがこんなことに響くとは考えたくない。圧倒的な戦力不足が痛い。

入った情報によればリーンボックスはまだ送られてくるモンスターが少ない方らしい。現在最もモンスターが送られているのはプラネテューヌだ。

 

「ですけど……あんなこと、言ってしまいましたから!」

 

ベールが鳥モンスターをすれ違いざまに槍で切り裂く。

あんな大口を叩いてしまったから。1番に終わらせて、助けに行くと、支えると言ってしまったから。

 

「やるしかありません!」

 

地上は軍隊が戦ってくれる。ベールが主に戦うべきは空中だ。

 

「あいにく、全方位から攻められるのは……慣れておりますの!」

 

ミズキの心の中、プロヴィデンスとの戦闘で全方向からの逃げ場のない弾幕は経験済みだ。

それに比べれば、この程度!

 

 

ーーーー『Believe』

 

 

「はああっ!」

 

ベールがまたモンスターを貫く。

だがやはり数が足りない。自分が避けるだけならまだしも、守らなければならないのは自分の国だ。守ることがこんなに難しいだなんて、それでも……!

 

「私だけでは、できなくとも!」

 

右手の炎が教えてくれる。

また、もう1度芽生える。自由をその手に、ミズキの力をその手に、守り切ってみせる!

 

「変身……NEXT!」

 

ベールの体が光に包まれる。

ベールのプロセッサユニットが大きく広がって青い翼になる。腰には新たなブースター、そして槍は新しくなる。ベールはその槍をもう1本取り出し連結させ、アンビデクストラスハルバードにした。

 

「ミズキ様が、やり遂げたこと!私にできない道理はありませんわ!」

 

リーチが長くなったことで今まで手が届かなかった場所の敵に攻撃が届く。

空中の敵がとりあえずひと段落したところでベールは地上に降りる。

 

「皆様!心配はありません、私が守り切りますわ!」

 

兵士とモンスターの間に立ちはだかって自ら果敢にモンスターに立ち向かう。

モンスターは次々と切り刻まれているが、その時ベールは空中からリーンボックスへ向かうモンスターの大群が見えた。

 

「しつこい!しつこいのは、嫌われますわよ……!」

 

ベールが急速に後退して少しだけ上昇する。

その時、ベールの中で何かが割れてSEEDが覚醒する。

ベールが腰に新たに装備されたブースター兼、クスィフィアスレール砲とバラエーナを構える。さらに空中からいくつもの魔法陣が現れ、そこから無数の槍の穂先が突き出した。

 

「当たりなさい!フルバーストですわッ!」

 

ベールのクスィフィアスとバラエーナ、それに空中の無数の槍がモンスターに向かって飛んでいく。

しかもただ闇雲に撃っているわけではない、全ての槍がモンスターの急所を狙い澄ました必殺の一撃なのだ!

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

圧倒的な弾数がモンスターの侵攻を一時ではあるが完全に食い止める。

 

「皆様、今ですわ!私が切り込みます!」

 

ベールはモンスターを先んじて倒すべく、森の中へと飛翔した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「夕方に攻めてくるなんて!あっちの敵って頭が悪いのね!」

「月が出るまで……あと少し……!」

 

必殺のサテライトキャノンがあれば敵の殲滅なんて簡単なことだ。

それまで侵攻を食い止めれば、勝てる!

 

「でもロムちゃん、よかったの?結局執事さんに聞かなかったけど……」

「うん、いいの。この炎があると、全然怖くなくなった……!」

 

まるで些細なことのように感じられる。それに、ユニが言ったようにこの力は決して悪い力ではない。

 

「っ、危ない!」

「ありがと、ロムちゃん!」

 

敵からのビームを魔法で受け止めてラムがその敵を倒す。

 

「オラァァァッ!」

「お姉ちゃん、右!」

「くっ、このッ!」

 

敵の中心で斧を振るうブラン。ラムがブランに迫る敵の位置も教える。まさに三位一体だ。

 

「お姉ちゃん、私全然怖くないよ!なんでだろう、守りきれる気がする!」

「私も……!なんだか、絶好調……!」

「私もだ!負ける気がしねえ……!このまま敵がどれだけ来たって、負ける気がしねえ!」

 

日が沈み始めた。夕焼けが大きく空を焦がす。

 

「あと少し!」

「カチンコチンにしてあげる……!」

「それまでは私がやる!変身……!」

 

きっとやれる。あの心の中で手に入れた力は、まだ私の中に!

 

「NEXT!」

 

ブランの体が光に包まれた。

特徴的な形のウイングスラスターが2基、背中に装着される。胸にはクリアグリーンの結晶。その手に握られた斧がより細身に、だが重みを増す。その刃の部分には緑色のビームが薄く展開された。

そして若干、胸が膨らむ。

 

「お姉ちゃん、すごい!」

「カッコいい……!」

 

さらにブランの手には横に連結した巨大なライフルが装備された。その武器の名前はツインバスターライフル。

 

「ゼロ!私に未来を見せやがれッ!」

 

ブランの胸のクリアグリーンの結晶が輝く。そしてブランは敵の真ん中へと突っ込んでいった。

 

「……一掃する!」

 

ブランがツインバスターライフルを2つに分離させ、左右に銃口を向ける。

そこから強烈なビームが発射された!

氷属性のビームは触れた瞬間にモンスターを凍らせる。さらにブランはそのまま回転し始めた。俗にローリングバスターライフルと呼ばれる技だ。

 

「ここは通させねえっ!」

「私達も、負けられない……!」

「やろう、ロムちゃん!今なら私達、どんな敵だって!」

 

 

ーーーー『resolusion』

 

 

 

2人もNEXTに変身する。だが様子がおかしい。2人が変身するはずのシルエットが大きく変わっていく。

 

「え⁉︎なになに⁉︎」

「私達……進化してる……!」

 

身の丈を超えるほどの巨大なサテライトキャノンが2人に装備される。さらに2人のプロセッサユニットさえも大きくX字に広がる。

さらに2人の両手足にはピンクと青のカバーが装備された。

 

「ロムちゃん!」

「わかってる……!」

 

2人のサテライトキャノンが移動して腹の辺りに構えられる。2人のプロセッサユニットが大きくX字に開いて金色に光り輝いた。さらに2人の両手足のカバーも展開して中から金色の板が金色の光を散らしながら展開された。

 

「お願い!」

「私達に、力を……!」

 

大きく夜空に輝く月が2人の体を照らす。2人の体に魔力が満ちて、サテライトキャノンへと流入される。

2人の隣にブランも戻ってきた。

 

「私達が、この銃爪を引く!」

「でも、みんなを守るためだから……!」

「負けてられねえぞ、ゼロ……!最大出力で薙ぎ払う!」

 

ブランもツインバスターライフルを連結させて銃口を敵モンスターへの大群に向けた。

 

「覚悟しなさい!2倍どころの話じゃないから!」

「ツイン・アイシクルサテライトキャノン……!」

「発射ッ!」

 

3人から巨大なまばゆいビームが発射された。

島すら消し飛ばすほどの威力の極太のビームがモンスターどころか、周りの空気すらも凍らせて突風を巻き起こす。超低温、絶対零度の嵐の前に生き残る命など1つもありはしない。

 

「まだだァァーッ!」

 

さらに3人はそのままゆっくりと砲を回し始める。極太のビームは照射されたままモンスター達を薙ぎ払っていく!

そして照射が終わり、一瞬全ての物体の動きが停止してから砕け散る。モンスター達を凍らせた氷が結晶となって森へと降り注いだ。

 

「やった!」

「綺麗……!」

「まだ来てる!今のうちに前線を押し上げるぞ!」

「うん!」

「怖いもの無し……!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ラステイションではノワールとユニがモンスターの大群に苦戦していた。戦い慣れているとはいえ、やはりEXモンスターは変身したとしても一筋縄ではいかない。

 

「しつこい!多すぎるのよっ!こんなんじゃ、いずれ……!」

 

ノワールは懸命に敵を倒していくが押される一方だ。

そのノワールの背後に迫る敵をユニが撃ち落とした。

 

「ユニ!」

「じゃあお姉ちゃん!これだけの大群……倒しきれたら私達凄いよね⁉︎」

「……ええ、そうね!これくらい手応えがあったほうが、やりごたえがあるってものよ!」

 

ユニの背中のコーンが急加速、急旋回を可能にして次々と取り回しのいいX.M.Bで敵を撃ち落とす。

 

「ミズキさんが、こんな近くにいる!それだけで、戦える……!」

「この程度で音をあげてたら、ミズキに笑われるのよッ!」

 

2人が一時的に前線を押し返した。

 

「私、まだやれる……!そうよね、ミズキ!アナタの力、借りるわよ!」

 

ノワールの体が光り輝き始めた。

 

「変身、NEXT!」

 

 

ーーーー『TRANS-AM RISER』

 

 

ノワールの両肩にコーン型の太陽炉が装着された。そしてノワールの後ろから大剣を懸架した戦闘機がやって来た。

 

「な、なに⁉︎こんなの、前には……!」

 

戦闘機はノワールとドッキングする。瞬間、ノワールの体に力が漲るのを感じた。

さらにノワールの右手に戦闘機から分離した折りたたみ式の剣がノワールの右手に装備される。

 

「………!これなら!」

 

ノワールの体はさらに赤く発光する。

 

「トランザム!」

 

ノワールの右手の大剣ーーGNソードⅢが展開する。さらにノワールは左手に元あった大剣を構えた。

 

「この機動性なら、どんな敵だって!」

 

ノワールが赤い残像を残してモンスターを次々と切り刻んでいく。掟破りの大剣二刀流だ。

 

「お姉ちゃん、すごい……!」

 

でも!

 

「私だって、負けられない!」

 

ユニがX.M.Bを乱射しながら敵へと突っ込んでいく。

 

「いつか、お姉ちゃんだって超える!そのためには……!」

 

ユニの体が光り輝き始めた。

 

「もっと、私は強くなる!NEXT!」

 

天賦の才能がなくたって。インチキみたいな不思議な力がなくたって。

実力と努力だけで、私は自分の道を切り開く!

 

その意志に呼応するようにユニの体が強く光った。

X.M.Bが一転して大型化、ユニの体と同じくらいに長くなり、腕をはめ込む形で固定された。左手には丸い盾が装備された。

さらに両足もブーツのようにはめ込むような巨大なブースターが装着される。

 

「す、すごい!全然、今までと……!」

 

さらにユニの肩甲骨から上を包み込むようにアーマーが装備される。ユニの肩からミサイルポッドが突き出す。

 

「これなら!」

 

モンスターの大群に向けて急加速。その加速性能、今までの比ではない。今までの加速が鈍く感じるほどにだ。

 

「くっ、うううっ!負けてたまるもんですか……!」

 

その加速は当然ユニの体に強烈なGをかける。それでもユニはそれに耐えてさらに加速する。

 

「収束ミサイルッ!」

 

ユニのミサイルポッドから巨大な三角柱状のミサイルコンテナが射出された。そこから大量のミサイルが発射されて一斉に敵へと襲いかかる!

 

「ユニ……あなた……」

「くううっ、これくらい、使いこなす……!」

 

ユニが巨大化したX.M.Bをモンスターに向けて構える。その名も、メガ(M)エクス(X)マルチ(M)ブラスター(B)

 

「当たれェェェッ!」

 

ユニのM.X.M.Bから極太のビームが発射された。通常の射撃でさえ、今までの最大出力と同じくらいの威力のビームは何体ものモンスターを貫通して焼き払っただけでなく、掠めただけでもモンスターを溶かしてしまう。

 

「はあっ、はあっ、はあっ、はあ……!」

「私も、負けてられない!粒子、全部使い切るわよ……!」

 

ノワールは2本の大剣を構えた。そこから段々と粒子が集まってピンクに輝いてスパークする。

 

「トランザムッ!ライザァァーーーーッ!」

 

2本の大剣からとんでもない大きさと射程のビームが発射された!モンスターを抵抗させる間もなく夜空を照らすピンク色のビームは砲撃ではなく、斬撃!

 

「まぁぁぁだぁぁぁッ!」

 

さらにノワールが両腕を開くようにして敵を薙ぎ払う!

圧倒的な熱量の前にモンスターは塵も残らない。

 

「行こう、お姉ちゃん!」

「ええ!私達は、無敵なんだから!」




追いつかれたぁぁぁぁっ!

というわけでなんとかギリギリまで踏ん張ったもののここで追いつかれてしまいました。もう予約投稿してないです。
そんなわけで少し…1週間くらい投稿を休みます。1週間でまたたくさん予約投稿して、また1日に2度のペースでアニメ終了までやれれば…やれるといいなあ。やれるように頑張ります。本当に申し訳ないです。

以下、あとがき。


はい大安売り。
やっぱ試作3号機にはロマンがありすぎる。オーパーツとよく言われますけど、それがいい。

ベールは新たに腰のクスィフィアスレール砲を、ブランはツインバスターライフル、ノワールはオーライザーとGNソードⅢを装備。
ロムとラムはDXへと進化。デラックスじゃないぞ、ダブルエックスですよ。さらなる性能アップと共にそれぞれに1つずつサテライトキャノンが装備され、ツインサテライトキャノンへ。
ユニは言わずもがな試作3号機デンドロビウム。コウもあの機体には手を焼いていたらしいのでユニにも手を焼かせてみました。さすがにあのオーキスにユニをはめ込むのは気が引けたのでなんていうか…こう…GNアームズみたいなイメージで。ミサイル、爆導索、メガビーム砲、Iフィールドジェネレーター。さらに膝のブースターに大型サーベルを設置。やっべ、マジカッケェ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命の先へ

長らくお待たせしました!と言ってもこの話は短いですけど。どうやらバトルがだいぶ長いです。


ネプギアとF91はモンスターの大群相手に奮闘していた。しかし、今のところは拮抗を保ててはいるものの、疲労は溜まっていっている。

 

《なんとぉ……!》

「くっ、あっ!素の力からして、足りない……!」

 

F91が懸命に左肩に担いだビームランチャーとビームライフルで敵を撃ち落としている。

しかしF91が何かを感じ取る。

 

《っ、来た……!》

「あっはははは!遠足楽しいね〜っ!動物さん達と、お友達〜!」

《ピーシェ!》

「あ、お兄ちゃん⁉︎」

 

ピーシェがとんでもないスピードで向かってくる。F91がその前に立ちはだかった。

 

《ネプギア!モンスターの相手を頼む!》

「は、はい!」

「お兄ちゃんが遊んでくれるの⁉︎やった、楽しそう〜!」

《言ったはずだよ、ピーシェ!君のその力は、使うべき時に使うべき相手に使えって!こんなの、何もかも間違ってるじゃないか!》

「……?よくわかんない!パパとママをイジメる人は、みんな遊んでいいんだよ⁉︎」

《くっ、ピーシェ!》

 

ピーシェの爪を避け、ビームランチャーを腰のマウントラックで携行。そして左手でビームサーベルを引き抜いた。

 

《ピーシェ!正気に戻って!》

「なんのことだかわかんない!遊んで、遊んでよお兄ちゃん!」

《ピーシェ!戦いは遊びじゃないんだ!》

 

ピーシェの爪とF91のビームサーベルが火花を散らす。

もう片方の手が飛んでくるが、右手のビームシールドで防いだ。

 

「あはは!楽しいね、お兄ちゃん!」

《っ、全然楽しくなんかない!君と戦うのなんて、辛いだけなんだよ!》

「なんで⁉︎私のこと、嫌いだから⁉︎」

《大好きだからだよっ!》

 

お互いに離れて距離を取る。

F91の背中に装備されたビーム砲がピーシェに狙いを定める。

(V)ァリアブル・(S)ピード・(B)ーム・(R)イフルーー可変速ビームライフル、ヴェスバーだ。

対象物の耐久力や距離に応じて高速で貫通力の高いビームから低速で破壊力の高いビームまでを撃ち分けできる。

F91はヴェスバーの貫通力を高くしてピーシェを狙い撃った。

 

「きゃっ!あはっ、あははは!」

《ピーシェ!僕だ、ミズキだよ!思い出して!》

「知らないよ?お兄ちゃんのことなんか、全然知らない!」

《ピーシェ!》

「やめて!なんか、頭がむずむずする!私の名前を、呼ばないでっ!」

 

ピーシェがまた襲いかかる。

F91はライフルで牽制するが全ての弾が避けられて虚空へと吸い込まれる。

ピーシェの爪をビームシールドで受け止めるが、F91がピーシェのスーツの胸のあたりにあるネックレスのチェーンのようなものを見つける。

その先は谷間に挟まれていて見えないが……きっと、アレは!

 

《見つけた!君とみんなを繋ぎ止めてるモノ!ピーシェはまだ、みんなと繋がってる!》

「わかんないわかんないわかんない!お兄ちゃんが何を言ってるか、全然わかんないよ〜っ!」

 

押し切られる形でF91が後退する。

 

「もうやめて!頭が痒いの〜っ!」

《っ!》

 

突っ込んだピーシェとF91の間に鞭が差し込まれてピーシェが動きを止める。

 

《プルルート!》

「プルルート“様”ね。けど、私はこの子の相手なんてヤァよ」

《わかってる。今はネプギアの援護を!》

「仕方ないわねぇ。雑魚相手でも数がいれば、やりがいあるかしらッ⁉︎」

 

ネプギアの援護へとプルルートが向かう。

ネプギアはモンスターの群れを相手にしていて傷つき疲労していた。

 

「あら、これだけいても……あまり気持ち良くないわね」

「プルルート、さん……」

「下がってなさい、ネプギアちゃん。ここは私が引き継ぐから」

「っ、でも……!」

 

プルルートが鞭と電撃魔法で敵を薙ぎ払う。リーチの長いプルルートが敵の手の届かないところから敵を倒していく。

 

「私、下がれません……!お姉ちゃんが来るまで、ここを守らなきゃ!」

『………何もかもが足りない』

「っ、また……⁉︎」

 

ネプギアが右目に鈍い痛みを覚えて目を抑える。次にネプギアが目を開いた時、まるで網膜の上に焼きついたように文字が表示されていた。

 

「な、なに……⁉︎『データは充分』って、なんの⁉︎『進化する』って何に⁉︎」

「ネプギアちゃん?」

「私、進化する……⁉︎強くなる⁉︎」

 

 

ーーーー『運命の先へ』

 

 

ネプギアのNEXTが解ける。だが、それと同時にネプギアの体から光が発せられる。

 

「何もかもが足りなかった……!だから、何もかも、1から強くなる!そっか、それが……!」

 

ネプギアのM.P.B.Lは大型化して引き金のあたりの上下にアーマーがつけられる。肩から4枚の羽のようなプロセッサユニットが装備され、胸にはNの文字が輝く!

 

「私、進化するんだ!強く強く!体だけじゃない、心だって!」

 

ネプギアが大きく飛翔して大型化したM.P.B.Lを構えた。

 

「私の、新しい力!生まれ変わるんだ、私の強さが!」

 

マルチプルドッズビームランチャーの銃身をさらに大型化、貫通力を上げた形態ハイパードッズビームランチャーだ。

H.D.B.Lから発射されたビームはモンスターを倒すばかりか貫通して後ろの敵すら撃ち抜いた!

 

「M.P.B.Lに近接能力が、なくなったって!」

 

ネプギアがプルルートの横を高速で通り抜ける。その衝撃でできた突風がプルルートの髪を大きく揺らした。

 

「なんてスピード……」

 

ネプギアはH.D.B.Lを投げ捨てて両手にビームサーベルの柄を持った。

 

「2刀流!ミラージュ・ダンス改め、ウルフファングッ!」

 

クロスコンビネーションにも似たXの斬撃がモンスターを切り裂く。

そして素早くネプギアは飛翔して敵から離れる。

 

「まだ、私は戦えます!換装!」

 

ネプギアの肩の4枚の羽が消え、その代わりに2つの赤いキャノンが肩に装着された。膝には新たにアーマーが装備される。

対大軍戦用のウェア、ダブルバレットだ!

 

「ドッズキャノンの威力なら……!」

 

ネプギアが両手を前に出すとドッズキャノンの砲身も前を向く。その砲身がスパークし始めた。

 

「最大出力ですッ!」

 

放たれたビームがモンスターを飲み込んでいく。何体ものモンスターを飲み込んだ光の奔流が終わった頃には何も残ってはいなかった。

 

「ネプギアちゃん、あの子……」

「何処にいたって、逃げられませんから!」

 

肩のツインドッズキャノンを別々に動かして次々と敵を撃破していく。1発1発が通常のビームよりも威力が高い上、それが雨あられのように降り注ぐ。

さしものEXモンスターもその弾は避けられずに陣形に大きな穴を開けた。

 

「まだ、終わりません!妥協は、できないんです!」

 

ドッズキャノンをパージ、そこからまるで翼のように巨大ビームサーベルが発振した。

そしてネプギアは手のビームサーベルも発振する。

 

「4刀流です!決して、負けない!」

 

膝のアーマーからカーフミサイルを発射しながら接近。モンスターが周りを取り囲んだ瞬間、ネプギアは1回転。

ビームサーベルに引き裂かれたモンスター達が瞬間遅れて爆発した。

 

「なにあれ……⁉︎すごい!」

《余所見しないでよ、ピーシェ!》

「っ、お兄ちゃんと遊ぶのヤダ!痒くて、ムズムズして、イヤなの!」

 

ピーシェが爪を振り回してF91を吹き飛ばした。

 

「来ないでっ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ジャックさん、大丈夫ですか……?」

「……生憎、大丈夫ではない。これで大丈夫な奴は気が狂っている」

 

部屋に入るとジャックは疲れたように壁にもたれかかっていた。

 

「怖いんですよね……?」

「そうだ。戦火が怖い。砲撃が怖い。銃撃が怖い。何より……また人がいなくなるのが辛い」

 

ジャックが瞑目する。

イストワールはそんなジャックに近づいてそっと手を取った。

 

「大丈夫ですよ。みんなまた……帰って来ます」

「……万が一ということもある。それに、いつも成功するわけではない。いつか失敗する。ミズキだってそうだ、俺だってそうだった」

「……ジャックさん……」

「無論、そうならないように努力しているのはわかる。……だが、確証はないんだ」

「……なら」

 

イストワールはジャックの手を強く握った。

 

「私はいなくなりません。戦火が止むまで……ずっとここにいます」

「……頼りになるな」

「教祖ですから」

「クク……。そうだな、ここにいてくれると助かる」

 

ジャックは少し微笑んでイストワールと手をつないでいた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌはまだ揺れる瞳でベランダに立っていた。

ほんの少しだけ勇気が欲しくて右手の甲を撫でる。その温度が進ませてくれる気がした。

 

「私……逃げない。逃げちゃダメ。ピーシェから、もう逃げないよ」

 

ベランダの手すりに足をかけて、飛び降りた。

 

「変身!」

 




ネプギアはAGE2へと進化。Xラウンダー能力は健在ですが。
必殺技もネプギアを二刀流にするにあたってウルフファングにしちゃいました。いい人だったなあ、ウルフさん…。
やっぱりAGE2は最高だぜ。寝ただけ変形ではない変形ってガンダムの中では貴重だと思うんですよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女神、堕天

快楽堕(((殴


F91とピーシェの戦いが未だに繰り返されていた。

モンスター達はプルルートの援軍とネプギアの新たな力もあって心配はなさそうだが、ピーシェは別だ。

 

《やはり、強化人間は悲劇しか生まないっていうの……⁉︎》

「あははは!」

《そんなこと、させるかッ!》

 

ビームライフルの弾が当たって一瞬動きを止めたピーシェ。その隙に接近してピーシェの腹に2つのヴェスバーの銃口を押し当てる。

 

《ヴェスバーッ!》

 

0距離で破壊力を増したヴェスバーを発射する。ピーシェは錐揉みしながら吹き飛んでいくが、ダメージはないと言っていいだろう。

 

《くっ………!》

「ミズキ!」

 

F91の隣に急接近してきたネプテューヌが並んだ。

 

《ネプテューヌ!》

「今までごめん……!私が、助けに来たから!」

 

ネプテューヌが太刀を構える。

 

《ネプテューヌ、ピーシェの首だ!首に僕らとピーシェを繋ぐものがある!》

「ピーシェの首……?」

「あ!お姉ちゃん⁉︎お姉ちゃんも遊んで〜っ!」

「くっ!」

 

ピーシェの爪をネプテューヌが受け止めた。

 

「ミズキとぷるるんは先に行って!本拠地を叩かなきゃ、モンスターを止められない!」

《わかった!信じてるよ、ネプテューヌ!》

「ネプギアちゃん、ここはいいわね?」

「任せてください!私は負けませんから!」

 

プルルートとF91が前へと向かう。

向かい来るモンスターの大群を避けながら撃ち落としながら先へと進む。

 

《抵抗するんじゃない、いっちゃえよ!》

 

F91はビームランチャーを担ぎ直して次々とモンスターを撃ち落としながら進んでいった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

高速でR18アイランドへ向かったF91とプルルートはそこにたどり着いた。

目指すは敵本拠地の陥落。

 

《まずはあの砲台から!》

「私に命令しないでよねっ!」

 

プルルートが先行して砲台へと向かう。その砲台の砲身が全てプルルートに狙いを定めた。

 

「っ」

《危ないっ!》

 

F91が前に出てビームシールドで弾を受ける。

2人は弾幕を避けながら動くが弾幕が濃すぎて近付けない。

 

《くっ、バリアまで!》

 

ビームライフルを撃つがバリアに阻まれる。おそらく、対空シールド。ならば、圧倒的な威力でぶち抜くしか……!

 

《僕が砲台を引き付ける!その隙にプルルートは中へ!》

「私に命令しないでって言ったはずよ!」

《中はいくらでもメチャクチャにしていいから!》

「……特別よ。非常事態だから許してあげる」

 

プルルートはしぶしぶ降下する。

するとプルルート上空から茂みに隠れている人を見つけた。それに向けて降下して押し倒す。

 

「ひ、ひいっ!」

「あら……アナタ、あの時のガイドじゃない。まだここにも人がいたのねぇ」

 

そこにいたのはリンダだった。リンダは怯えるように震えている。

じゅるりと舌舐めずりしてリンダの頬を撫でる。

 

「ねえ……聞きたいことがあるんだけど、教えてくれないかしらぁ?」

「な、な、な、なんでありましょうかっ⁉︎」

「この辺りにあるはずの基地……その入り口はどこ?」

「そ、そ、そこですっ!そのあたりに変なピンクの奴が入ってくのを見ましたぁっ!」

「……どこかしらぁ?」

 

プルルートがリンダが指差す方を見るがそれらしきものは何もない。普通の森だ。

 

「そ、そこの木です!その木に扉があるんです!」

「……ふぅん。逃げたらお仕置きよ?」

「ほ、本当です!信じてください!」

 

まあ、真人間になったと言っていたし、信じていいかもしれない。だが念のため後ろの気配には気を配っておく。

 

リンダが指差す木を触ってみると、ある場所だけ肌触りが違う。プルルートがそこを強く押すと扉が開いた。おそらく、この木に飛び込めば基地に繋がるのだろう。

 

「あら、お利口さんねぇ。素直な子は、嫌いじゃないわよぉ?」

「あ、ありがとうございますっ!」

「それじゃ、もう行っていいわ。この中はどれだけ荒らせるのかしらねぇ?気持ち良くなれそうだわぁ……!」

 

プルルートがその穴へと飛び込んでいく。

それを見届けてからリンダはほっと一息ついたのだった。

 

「ふぅ、貞操は守りきったぜ……」

 

 

 

《くっ、この程度の弾幕……!》

 

F91は弾を避けながら隙あればビームを撃っている。だが貫通力を高めたヴェスバーでさえ、バリアは貫けない。

ならば残りの可能性に賭けるしかない。バリアの内側にまで接近して、撃ち抜く!

 

《リミッターを解除する!たとえ、僕の体が焼けようとも……!》

 

 

ーーーー『F91ガンダム出撃』

 

 

F91の動きが変わり始めた。

体が光輝いて肩から冷却用のフィンが3枚出てきた。

機体のバイオコンピューターがミズキのニュータイプ能力を感知してリミッターを解除、最大稼働モードへと移行したのだ。

F91の体が淡い光を纏って弾幕を避け始めた。

しかし、砲台の弾はあらぬ方向を撃つ。

そう、F91のMEPEが発動したことによる『質量を持った残像』現象のためだ。

F91の体は最大稼働モードになると機体表面の温度が高温になるため、装甲表面を剥離させるのだ。

それが空間に残ることにより、質量と実体を持った残像はまるでF91が分身しているようにコンピューターに誤認させるのだ!

 

《なんとォォォッ!》

 

F91が分身しながら徐々に徐々に砲台へと近づいていく。

だが近づけば近づくほど弾幕は分身しているように見せつけているとはいえ、濃くなってくる。

 

《だったら!軽くなればいいんだろ!風船くらいに、軽くなりゃいいんだろ!》

 

ビームランチャーを乱射して捨てる。ビームライフルも乱射して捨てた。

乱射したビームはバリアの内側に入り込み、砲の幾つかを壊す。

 

《戦争を始めて!みんなが怖がってるんだ!君達の都合だけで、殺されてたまるかッ!》

 

F91がついに、ヴェスバーを砲台に触れさせた!

 

《ヴェスバァァーーッ!》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

基地内、アノネデスはモニターが壊れたように大量のF91を誤認するのを見て狼狽えていた。

 

「な、なによ!なんなのよこいつ!こんなに強いなんて、聞いてない!」

 

何機ものF91がモニターに表示されてフリーズするほどだ。

モンスターに侵略させている国々も、女神達が発した新たな力で押し返されている。このままでは、負ける⁉︎

 

「な、なんだってんのよ!こうなったら、アタシが手動で直接……⁉︎」

 

アノネデスが次にモニターを見た時、それはF91の顔を映していた。

 

《戦争を始めて!みんなが怖がってるんだ!君達の都合だけで、殺されてたまるかッ!》

「ひいっ!」

 

フェイスガードが割れて両頬に収納、顔のエアダクトが露出して冷却を行う。

 

「ば、化物なのっ⁉︎」

《ヴェスバァァーーッ!》

 

モニターが一瞬だけ光るヴェスバーの光だけを届ける。

瞬間、天井に穴が開いてモニターはスパークして真っ暗くなった。

 

「きゃああああっ!」

 

さらに部屋の奥からはレイを縛ったプルルートが現れた。

 

「あらあら……ナイスタイミング、かしらねぇ」

「んむっ、ん〜!」

 

プルルートが鞭を振るうと周りの壁に無数の傷跡が生まれる。

 

「アナタあんまり好みじゃないけど……お仕置きはしなきゃねぇっ!」

 

プルルートが鞭をそこら中にぶつけて機械を全て破壊した。

そして天井からはF91が降り立ってくる。

 

《はあっ、はあっ、はあっ……!アノネデス!今すぐピーシェを止めて!君ならできるでしょ⁉︎》

 

F91は変身を解く。

だがアノネデスは気絶してしまったらしくミズキが何度体を揺らしても起きない。

 

「くそっ、起きてよっ!」

「そんなに心配しなくてもいいわよぉ。アレ、見てみなさい?」

 

プルルートが指差す方を見るとそこには不思議な機械があった。さっきプルルートが暴れて壊した壁の向こうにあったらしい。

そそり立つ4本の爪が光を集めている。

 

「アレは……⁉︎」

「シェアエナジー……人工的に集められるなんてねぇ」

 

ミズキはアノネデスを離してその機械に近付く。プルルートもそれに近付いた。

 

「私の好きにしていいって、言ったわよねぇ?」

「……うん。徹底的にお願い」

「言われなくても!ファインディング・ヴァイパーッ!」

 

プルルートの必殺技がシェアを集める機械を壊す、その瞬間だった。

 

「っ、なに⁉︎」

「うふ……このまま好きにさせるわけないでしょ……?」

 

プルルートの両手を鎖に繋がれた手錠が拘束する。

後ろを振り向くとアノネデスが起きあがってモニターのスイッチを押しているところだった。

そしてアノネデスはもう1つ、ガラスで覆われている大仰なスイッチに向かって拳を振りかざす。

 

「なによ、これ……!いい度胸じゃない、誰が女王様なのか、徹底的に……!」

「アタシよ。王様はアタシ。ばいばい、女神様」

 

ガチャン!という音を立ててそのスイッチをアノネデスが押す。

 

「くっ!」

 

ミズキが両手にマシンガンを持ってコンソールを破壊し尽くす。

だが、数瞬遅かった。

 

「っ、あっ……⁉︎」

「ふ、ふふ……あとは好きにやっちゃいなさい……。いつまでも、遊んでるといいわ……!」

「アノネデス!プルルートに何をしたッ!」

「ふふ……あの愛玩鳥、私が実験用に作ったEXモンスターなのよ。精神を強制的に操作する強い毒……ピーシェちゃんにも打ち込んだわねぇ」

「まさか、それをプルルートに⁉︎」

「あの子の中の最も強い意志が増幅されるように操作しといたわ。そうね……今あの子は」

 

プルルートの両手の手錠が外れた。

プルルートの体が赤黒いオーラで覆われて体にも赤黒いラインが入る。

そしてこちらを振り向いたプルルートの目は虚ろだった。

 

「アナタをイジメたくて……仕方ないんじゃないかしらっ⁉︎」

「君は……!君は、どこまで外道だァァーーッ!アノネデスゥッ!」

「何とでも言って!仲間内で争いなさい!どう⁉︎今の気分は⁉︎」

「それでも人間かッ、君はッ!」

「いい返事よ!さあ、やりなさい!堕女神と争ってぇぇっ……!」

 

プルルートがニヤリと笑ってこちらを見つめる。

 

「プルルート!正気に戻って!」

「無駄よ無駄無駄!あの時だって薬飲まなきゃ治んなかったでしょう⁉︎この毒に対応する薬、いつ作れるのかわからないけどねぇっ⁉︎」

「アハハハッ!なに、この清々しい気分!まるで媚薬を盛られたみたい……!アナタをイジメたくて、仕方がないわぁっ!」

「プルルート!」

「死の淵、シャトルランさせてあげるからねぇっ!」

「うわあああっ!」

 

プルルートの剣をビームサーベルで受けたが、吹き飛ばされる。そのまま強かに壁に体を打ち付けてしまった。

 

「いい悲鳴……!すっ、ごい気持ちいいわぁ!もっと、もっと聞かせて……!」

「くっ、プルルート、プルルート!」

「そんな声いらないわぁ。もっと甲高くて、切実で、恐怖と痛みに塗れた悲鳴を頂戴⁉︎」

「くっ、君が操られたっていうなら!」

 

ミズキが胸に手を当てる。

ミズキの体が光り輝いて姿を変えていく。

その姿は以前登場したX1だったが、体をさらなる装備が覆っていく。両肩には大きな髑髏、体全体を覆い尽くす紫の対ビーム防御用ユニット『フルクロス』。そして左手にはX3が装備していたムラマサ・ブラスターを持ち、右手には扇型に銃口が9門のビーム砲が広がるボウガンのような武器、『ピーコック・スマッシャー』を持つ。

その機体はクロスボーンガンダムX1フルクロス!

 

《君を助けに行く!待ってて、プルルート!》




ラフレシア撃破シーン。化物かっ!
プルルート闇堕ち。ていうかもう、アレは快楽堕ちみたいなもん。みたいなもんなの!
そしてミズキはフルクロスへと。両解放でチンパン楽し〜!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Feeling

プルルート対フルクロスとネプテューヌ対ピーシェの同時進行。クソ長くなりそうだよぉ〜。


 

「ぴー子!私よ、思い出して!ネプテューヌよ!」

「知らないってばあっ!お姉ちゃんのことなんか嫌いだし、会いたくない!」

「ウソよ!私がぴー子に会いたいんだから、ぴー子も私に会いたがってるのよ!」

「なにそれぇっ!」

 

太刀と爪が何度もぶつかり合う。

 

「嫌い嫌い嫌い嫌い大っ嫌い!寄らないでよっ!寄ったら、裂くよっ⁉︎」

「切ってみなさいよ!ぴー子がなんて言ったって、私はぴー子を取り戻す!謝りたいの!」

「いい!いいから!だから寄らないでって、言ってるの〜ッ!」

 

ピーシェがネプテューヌへ爪を何度も打ち込む。ネプテューヌはその攻撃を太刀で受けて後退した。

 

「ぴー子、私がわかるはずよ!アナタの中の私はまだ消えてないはず!」

「知らないことを、ごちゃごちゃぐちゃぐちゃ……!」

 

ピーシェは頭をガリガリと掻く。

 

「痒い、痒い、痒いの……!お願い、やめて!」

「っ、ぴー子……!」

 

ピーシェは涙を流していた。ネプテューヌの顔にほんの少し躊躇いの色が映る。

 

「やめて……!なんで、なんでイジメるの……?イヤだよ……!私、もうイジメられるのは……!」

「っ、ぴー子⁉︎」

「呼ばないでって、言ってるでしょぉぉっ⁉︎」

 

ピーシェの体から黄色のプレッシャーが放たれてネプテューヌが吹き飛ばされてしまう。

 

「きゃあああっ!」

「イヤァァァァッ!」

 

ピーシェの体から黄金のオーラが迸る。身体中から吹き出すオーラはピーシェそのものを内側から破壊してしまいそうに見えた。

 

「ぴー子⁉︎ぴー子、どうしたの⁉︎」

「あああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ピーシェのプレッシャーがまるでピーシェの中に収まるように消え去る。

 

「……………ぴー子……?」

「きらい……きらい」

 

うわ言のようにぶつぶつとピーシェがそれだけを呟く。

 

「きらいなひとは……みんな、けす!」

「っ⁉︎」

 

ピーシェが急接近してネプテューヌの鼻先に迫った。

 

「あなたも、きらい!」

「うぐっ!」

 

ピーシェの爪がモロにネプテューヌの腹に当たる。ネプテューヌは大きく吹き飛ばされた。

精一杯逆制動をかけるがピーシェは眼前に迫っている。

 

「きらい、けす、きらい、けす、きらい、けす!」

「ああっ!」

 

何度も何度もネプテューヌに爪を浴びせて追い越し、後ろから背中を蹴る。

 

「あは!むねがきゅんきゅんする!あなたをなぐると、きもちいいの!」

「あっ、ぐぅ、やあっ!」

 

何度も爪で切りつけて怯んだネプテューヌに向かって右手を大きく振り上げる。

 

「おっちろ、おっちろ!」

「あああっ!」

 

渾身の一撃でネプテューヌは地面に叩き落とされる。

ピーシェは上空から地面にめり込んだネプテューヌを見ていた。

 

「まだこわれないよね⁉︎もっとあなたをなぐりたいもん!」

「かはっ、あっ、くっ……!」

 

全身が痛い。体が思うように動かない。口に鉄の味が満ちる。呼吸が苦しい。

 

「でも、諦めないわよ!」

 

ネプテューヌが立ち上がって太刀をピーシェに突きつける。

 

「私は、ぴー子を!」

「よばないでって……いったよね⁉︎」

 

瞬間移動と見紛うほどのスピードでネプテューヌに接近していたピーシェのボディアッパーを食らう。

 

「うぐっ、ふっ……」

「あはっ、あはははっ!」

 

上空へと吹き飛ばされるネプテューヌ。それに追いついたピーシェは一回転してかかと落としを食らわせた。

 

「またおちた!たのし〜!」

「っ、私……!」

「つぎはね!ひっさ〜つ!」

 

ピーシェが地面にめり込んだネプテューヌへと飛び込む。

 

「ぴー、ぱ〜んち!」

「うぐっ……あっ……!」

 

ネプテューヌの腹に爪がめり込んだ。

ネプテューヌはそれで力尽きると思われたが、その瞳が光を取り戻す。

 

「ぴー子……!」

「えっ⁉︎」

 

腹にめり込んでいたピーシェの手を右手で握る。

 

「ぴー子が私のこと嫌いでも……私はぴー子のこと、大好きなのよ……?」

「やだ、やだ……!なんで、あついよっ!」

「きっと、殻で覆っちゃったのよね……?私と同じよ、殻に閉じこもるのは楽だから……」

「あ、あつい!もえちゃう!あついよ!はなして、はなしてっ!」

「その奥、泣いてるぴー子が私には見える……!赤黒い霧に覆われて、必死に泣いてるぴー子が私には見えるの!」

「やだっ!」

 

ピーシェはネプテューヌの手を振り払う。

ネプテューヌはゆっくりと体を起こした。

 

「私ね……魔法の言葉を知ってるの。どんな怖くても、安心できる魔法の言葉……!ねえ、ぴー子?」

「だ、誰⁉︎ぴぃ知らないはずなの!会ったことないもん!嫌いな人だもん!」

 

「………私が、助けに来たわ」

 

「い、いらないよ!お姉ちゃんなんか、いらない!」

「………もう1度、会いたいだけだから」

「や、やだやだやだっ!」

「NEXT。……お願いミズキ。私に力を貸して?」

 

優しい笑顔を浮かべて右手を胸に当てる。

ネプテューヌの体が光に包まれた。

 

「な、なに、これ……?暖かい、よ……!」

「そうよ。みんなの光だもの……。暖かくないはずがないわ」

 

ネプテューヌのスーツに紫の輝く筋が刻まれてプロセッサユニットはさらに4つのブースターを装着してサーベルラックが立ち上がる。

太刀も拡張して紫のフレームを見せて長くなり、盾もNの字に展開して紫のフレームを見せた。

そしてネプテューヌの手には新たに無骨な色のビームマグナムが握られた。

 

「お願いぴー子、帰ってきて!私達は友達でしょう⁉︎私は、ぴー子のこと、大好きなのっ!」

「ぴぃはお姉ちゃんのこと、嫌いだもん!友達なんか、いや!」

「ぴー子!」

「大ッ嫌い!こないでっ!」

 

ネプテューヌとピーシェがぶつかり合う。

まだピーシェに記憶を取り戻す兆しは見えないが、それでも!

 

「絶対に連れ戻す!2度と離れない!ずっとずっと、一緒よ!」

「お姉ちゃんの言うこと、わかんないよ!軽くて、ふわふわなんだよ!」

「届かせる!その、胸に!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

フルクロスに変身したミズキとプルルートが向かい合う。

 

「なぁに、それはぁ。なんだかぁ、イジメ甲斐があるわねぇ?」

《プルルート!お願い、正気に戻って!君はあの毒に負けてしまうような弱い人じゃないはずだ!》

「それは違うわよぉ?私は、進んで身を委ねてるの」

《嘘だよっ!本当のプルルートは優しくて、強いんだ!》

「私も本当のプルルートよぉ?どうしても私を止めたいっていうのなら……」

 

パシィンと鞭で床を叩く。

 

「私を……イカせてみなさい⁉︎」

《うくっ、くっ⁉︎》

 

プルルートが急接近してフルクロスに剣を振るう。フルクロスはムラマサ・ブラスターで受け止めた。

 

「ほらほらほら!もっといい悲鳴を頂戴!」

《うくっ、セーフティ解除!》

 

ムラマサ・ブラスターからビームサーベルが木の葉状に突き出した。

フルクロスは剣を振ってプルルートと間合いを取り、天井に開いた穴から外へと脱出した。

 

「逃がさないわよ!」

《逃げ回れば、死にはしないから……!》

 

後を追ってプルルートが飛翔する。

剣を鞭状にしてプルルートはフルクロスへと叩きつける。

 

《鞭を使うのは、君だけじゃない!》

 

ムラマサ・ブラスターをシザーアンカーに接続、振り回してプルルートの鞭をはじき返した。

 

《ピーコック・スマッシャー!》

 

プルルートが左から右に動くのを確認して扇状に開いたピーコック・スマッシャーが左から右にビームを放つ。

プルルートは寸前で上に飛び上がって避けた。

 

「いい、いいわ!もっと抵抗しなさい!私が屈服させてあげるからぁ!」

《そんなこと、ならない!》

「アナタが私を屈服させられるの⁉︎」

《違う!何としても、君を取り戻すんだァァッ!》

 

何度も剣戟を繰り返していると砲台のまだ生きていたマイクからアノネデスの声が響く。

 

「元気かしら〜?この戦争はほぼ負けが決定してるけど……だからって何もしないで大人しく捕まるなんてできないのよね〜」

《僕の方は戦争をやっているつもりなど、なァァァァいッ!》

「あっそ。そんなアナタに、私からスペシャルプレゼント〜」

 

フルクロスが砲台の方を見るとそこから飛翔する人の大きさほどの赤黒い鳥が見えた。

おそらくEXモンスターだが、体の多くを機械が覆っている。頭や翼には銃があるし、なにより頭を完全に機械が覆いつくしてしまっている。

 

「ごめんねぇ?アナタ達がいろいろ壊しちゃったせいで、この子制御できないのよ。ついでにお願い」

《っ、マズい……!》

「余所見なんていい度胸ね!」

 

プルルートの剣を受け止める。

マズい、と言うのはプルルートとモンスターを相手にすることがではない。

この毒が愛玩鳥と同じなのなら、プルルートは周りが見えてないことが問題なのだ!

 

「ケェーーン!」

 

モンスターが翼のビーム砲を撃って来る。制御をなくしたモンスターはプルルートに狙いを定めているが、やはりプルルートは避ける気配がない!

 

《っ、Iフィールド、展開!》

 

モンスターとプルルートの間に立ちはだかるように回り込み、両肩に装備されたスカルヘッドの機能、Iフィールドを展開する。

Iフィールドが展開されたことによりモンスターのビームはフルクロスに当たる前に弾けてしまう。

 

「これで2対1……いや、それよりもヒドイわね」

《アノネデスっ!プルルートを返せよっ!こんな、こんなことあっちゃいけないのに!》

「いやよ、渡さない。このままここで、力尽きちゃいなさい」

《だったら!君がプルルートを返さないっていうのなら!》

 

プルルートを押し切って蹴飛ばした。

 

《僕は、僕らしく!いただいていくッ!》

「いいわ、もっと抵抗してぇ!痛めつけて、ボロボロにして……殺してあげるからぁ!」

 

プルルートと何度も剣戟を重ねる。プルルートやフルクロスに浴びせられるビームは全てIフィールドで無効化された。

 

《無駄だよプルルート!僕には君の動きが、手に取るようにわかる!》

「だからなによぉ⁉︎私はイジメてイジメて……最後には殺したいだけ!」

《優しさを蝕む毒め!今僕が、吸い出してやるからッ!》

「アナタみたいなお人好しって、死ぬほどイジメたくなるの!化けの皮を剥いで、本性晒してぇ……!そうしてあげなきゃ、私が死んじゃう!」

 

プルルートの鞭がフルクロスを打つ。Iフィールドはビーム攻撃以外は無効化できないため、吹き飛ばされてしまう。

 

《っ、くっ!僕に、化けの皮なんてない!ずっと晒し続けて、君と素直に接したつもりだよ!》

「そういう偽善よ!大ッ嫌い!嘘つくくらいなら、死んだ方がマシじゃない⁉︎」

 

プルルートの手から小型の電撃が飛んでくる。ブランド・マーカーで受け止めてモンスターに牽制のビームを撃つ。

 

《何を根拠に!毒は君に懐疑さえ植え付けたっていうの⁉︎》

「経験よ!教えてあげる、人は嘘をつくのよぉ⁉︎」

《なら僕は、君にとって初めての人間だ!心の底を晒し続けた、馬鹿みたいな男だよ!》

「本性、晒しなさいよ!私がアナタを裸にしてあげる!」

 

プルルートの鞭をブランド・マーカーで受けたが吹き飛ばされる。体勢を崩したフルクロスにモンスターが狙いを定めた。

 

「ケェェンッ!」

 

ビームを乱射してフルクロスへと近づく。絶体絶命、万事休すのように見えた、が。

 

《っ、この瞬間を待っていたんだ!》

 

フルクロスが身を翻してモンスターへと直進。放たれるビームはIフィールドで弾かれる。

 

《鳥頭の君が!ビームが効かないと理解して直接攻撃を仕掛けるのを、待ってたんだッ!》

「ケェェッ!」

《落ちろッ!僕の邪魔を、しないでッ!》




ハマーン様、バンザーーーーイ!みたいなイメージのプレッシャー。
マシュマーのように暴走しかけたものの、ネプテューヌの変身でなんとか暴走しなかった模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2人の敗北

タイトルからして不安。


《どおりゃあァァッ!》

 

フルクロスが右手のブランド・マーカーを四角錐状に展開してモンスターに殴りつけた。

モンスターの胸に大きくXの文字が刻まれる。

 

《噛ませ鳥は、下がってて!》

 

そしてシザーアンカーに接続したムラマサ・ブラスターで叩きつけて両断。モンスターは爆発して消えていった。

その閃光を背に浴びてフルクロスがアイカメラを光らせる。

その様子をアノネデスは天井に開いた穴から見ていた。横には拘束を解かれたレイもいる。

 

「なによ、あの役立たず……!もう、早く復旧しなさいよ、このバカシステム!」

「に、逃げましょうよ……!今ならまだ……!」

「うっさいわね!下がってなさいよ!」

 

アノネデスが後ろのレイに向かって声を荒げる。

アノネデスは自分のノートパソコンをコンソールに繋いでシステムを復旧しているところだった。

 

「よし、動くわね⁉︎」

 

ノートパソコンに外の戦闘の様子が映し出された。中央には狙いをつけるような印がある。

砲台の1つが復旧したのだ。アノネデスはフルクロスに照準を合わせようとするが、フルクロスの動きが早すぎてうまくいかない。

 

「いい子だから止まりなさいよ!もう!」

 

怒鳴ってもうまくいくはずがなく。

フルクロスの圧倒的なスピードは砲台のそれを完全に超えてしまっていた。

 

「ふ、ふふ……なら……!」

 

アノネデスは目標をフルクロスから変更して、プルルートへと狙いを定める。

 

「庇うしか、ないわよね……⁉︎死になさい、化物……!」

 

プルルートは鞭を振るっているために動いていない。

その腹の辺りに、しっかりと狙いを定めた。

 

《っ、なに⁉︎》

 

フルクロスは歪な音を出して動く砲台に気付いた。

あの動きは、完全にプルルートを狙っている。

 

《逃げて、プルルート!》

「あは、そんなの効かないわよぉ?」

 

移動させるためにピーコック・スマッシャーを撃つが鞭で弾かれた。

このままじゃ、プルルートが撃たれる!

 

「うふふ、庇わないのならあの子が死ぬだけ……!」

《プルルートォッ!》

 

フルクロスはプルルートに向かって急接近する。

 

「あらぁ?頭でもおかしくなったのかしらぁ⁉︎」

《うわっ、ぐっ、くっ!》

 

鞭の直撃を何度も食らうが御構い無しに怯まず進む。

 

《保ってね、僕のクロスボーンガンダム……!》

「さあ、時間切れ……ばいば〜い」

 

アノネデスが砲台の発射キーに指をかけてゆっくりと押した。

砲台から弾がプルルートに向かって真っ直ぐ飛んでいく。やはりプルルートは周りが見えてないらしく、弾を避けようともしない。

もう、間に合わないはず。

その距離をフルクロスは埋めてみせた!

 

《うおおおおおァァッ!》

 

顔のフェイスガードが展開して冷却を行う。それと同時にフルクロスはX字のブースターを全て後ろに向けて加速した!

 

《プルルート!》

 

プルルートをタックルして吹き飛ばす。

それと同時にフルクロスの背に砲弾が直撃した。

 

《うわあああぁぁっ!》

「なにやってるのぉ?そんなことしてると、殺しちゃうわよっ!」

 

体勢を崩したフルクロスに隙を与えずにプルルートが迫る。

 

《うわっ!あああっ!》

 

ムラマサ・ブラスターを持った手を弾かれて、胴がガラ空きになる。

 

「死んでぇぇっ!」

《プルーーーー…………!》

 

それは、最悪の光景だった。フルクロスの腹をプルルートの剣が貫通している。

フルクロスの手から武器が溢れ落ちて、変身が解除された。

ミズキの腹からは血が吹き出してしまっている。目も虚ろで体から徐々に力が抜けていく。

最悪なのは、それを見ているプルルートがこれ以上にないほど恍惚の表情を浮かべているところだった。

 

「がふっ…………」

 

ミズキが口から吐いた血がプルルートの顔を汚す。

 

「あは……あは、あははは!ざ、ざまあないわ!あんだけ粋がってたクセに、大したことないじゃない!」

「あ……あ………!」

 

アノネデスはミズキをあざ笑うように笑い、レイは上空のショッキングな風景に言葉を失っている。

女神が、人を殺めた瞬間だった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌとピーシェの戦いはなおも続いていた。

ピーシェは圧倒的なスピードを持っていたが、NT-Dを発動したネプテューヌはそれに追いついている。

紫と黄の軌跡が空を落書きのように染めていく。

 

「ぴー子!」

「やだ、呼ばないで!体の中から、弾けちゃうからぁ!」

 

だがネプテューヌはただの1度としてピーシェを傷つけようと攻撃はしていなかった。

 

「違う……やり方が違うのね……⁉︎」

 

ただ声で呼びかけてもピーシェは拒むだけ。

ピーシェの心の外側の壁に阻まれて内側には届くことがない。

 

「嫌い!お姉ちゃんは、私の敵!」

「っ………!」

 

それを続けてもピーシェは頑なになるだけだ。

もっと、内側に直接届けなければ。

ピーシェの耳ではなく、心の奥へと届けるような声で。それは大きな声である必要はない。聞こえる必要はない。

 

「ぴー子………!」

「っ⁉︎」

 

ネプテューヌの消え入るような声にピーシェは動きを止めた。

ネプテューヌの体から発せられた脈動がピーシェの体をも脈動させた瞬間だった。

 

「だ、誰……?お姉ちゃん、誰……?」

「私は、ネプテューヌよ……!アナタの、友達……!」

「とも、だち………」

 

ピーシェの脳裏に塗り潰された記憶が蘇る。

いつも隣に誰かいたのだ。いつも隣で誰かといたのだ。

ただその姿が思い出せない。

まるで、その部分だけ切り取られてしまったかのようだ。

 

「大丈夫なのよ、ぴー子……。私は、アナタと仲直りしたくて……!」

 

ゆっくりとネプテューヌはピーシェに近付く。

ピーシェはもうネプテューヌから離れない。むしろ、ネプテューヌへと手をゆっくりと伸ばし始めた。

 

ネプテューヌがその手を取ろうとした矢先。

ピーシェが失われた記憶を取り戻そうとした矢先。

 

ダメよ、ピーシェちゃん……?

 

「ひっ⁉︎」

「ぴー子……?」

 

ピーシェが怯えたようにネプテューヌから飛び退く。

ネプテューヌはピーシェを怯えさせないように近付かないが、ピーシェは周りをキョロキョロと見回している。まるで、怖がっているのはネプテューヌではないようだ。

 

せっかくほんの少しの私が人の中に入れたのに。ここで追い出されたら私が困るのよね。

 

「ひっ!だ、誰⁉︎どこなの⁉︎」

 

ピーシェはあらぬ方向に爪を振り回す。

頭の中に直接響く声。ネプテューヌに名前を呼ばれた時とは比にならない不快な感覚がピーシェを覆う。まるで頭の中を虫が這い回っているようだ。

 

「た、助けて!誰かこの声を止めて!」

「ぴ、ぴー子⁉︎大丈夫、私がいるわ!こっちに来て、守ってあげるから!」

「お姉ちゃん……!」

 

ダメだって言ったわよね?

 

「ううっ!」

 

ピーシェは瞳に涙を浮かべて周りを見る。

こんな恐ろしい声、今まで聞いたことがない。

 

「や、やだやだやだっ!話しかけないでっ!」

 

ごめんね、ピーシェちゃん。でも、ピーシェちゃんがあのお姉ちゃんに寄らなきゃいい話よ?

 

「そ、それもやだ……!私、もうお姉ちゃんのこと……!」

 

じゃあ、仕方ないわね。

 

「ひっ!」

「ぴー子!」

 

ちょっと貰うわよ。

 

「っ、ああああああああっ⁉︎」

「ぴー子⁉︎」

 

ピーシェの体の内側から赤黒い瘴気が溢れ出した。その瘴気はピーシェの周りの空気を包み込み、ピーシェをも包んでいく。

 

「ひっ、やだ、やだ!お姉ちゃん!助けて!助けーーーーっ!」

「ぴー子っ!どうしたの、ぴー子!」

 

そして瘴気は再びピーシェの内側へと戻っていく。

瞬間、ピーシェは糸の切れた人形のように体から力を抜いた。

 

「ぴ、ぴー子……?」

「ヒッ、ヒヒヒッ、ヒ………!」

 

ビクンビクンとピーシェの体が揺れ、段々と上半身を起こす。

ピーシェの体は赤黒い瘴気を身にまとっていて、髪も赤黒く染まってしまっている。

 

「ヒヒヒ!遊ぼうよお姉ちゃん!」

「な、なんだって言うの……⁉︎」

 

逸らした上半身で前髪をかきあげるピーシェ。口調は似ているものの、ネプテューヌには今のピーシェが完全な別人に感じられた。

 

「ヒヒ、サッカーやろうよお姉ちゃん!」

「アナタ、誰よ!ぴー子に何をしたの⁉︎ぴー子は何処に行ったのよっ!」

「お姉ちゃんが、ボールね!ヒヒヒッ!」

 

ピーシェが赤黒い軌跡を残して接近してくる。ネプテューヌはその蹴りを受けるが、吹き飛ばされてしまう。

 

「それそれそれ!良かったね、ボールは友達だよ!つまりお姉ちゃんは友達!」

「なんなのよ、アナタはっ!ぴー子を返してよっ!」

「そぉれっ!」

「ああっ!」

 

蹴りの連打を叩き込んでいたピーシェだったが、爪を両手で振り下ろしてネプテューヌを叩き落とす。

 

「ヒヒッ!手使っちゃった!でもゴールキーパーだからセーフ!」

「ふ、ふざけないでよォッ!」

 

ネプテューヌが勢いを殺して大きく飛翔。

そして左手のビームマグナムを向けた。

 

「お姉ちゃん!」

「っ⁉︎」

「ヒヒッ、騙された〜!」

 

引き金を引くのを躊躇ったネプテューヌを嘲笑うピーシェ。

 

「次、何して遊ぼうか!決めた、キリスト遊び!」

 

ピーシェが両手をクロスさせて振り払う。すると爪が赤黒い瘴気で包み込まれた。

 

「擬似ファンネル……ん〜、名前なんにしよう?まあいいか、らいおんくろー!」

 

片手に3本、両手で合計6本のピーシェの爪が分離してネプテューヌへと飛んでいく!

 

「っ、なに⁉︎」

 

慣性の法則など完全に無視した急旋回、急停止、急加速で折れ曲がりながらネプテューヌ へと向かっている。

 

「うっ、く!これ……!」

 

ネプテューヌはそれを避け続けるが、あることに気付く。

この爪が折れ曲がる場所。そこに極小ではあるが……!

 

「防御魔法⁉︎そんな、複数の防御魔法を極小とは言っても何個も同時展開できるわけ……!」

 

しかも爪の反射角度まで完全に計算してだなんて、できるわけがない。

 

「すばしっこいねお姉ちゃん!でも、私の計算通りに動いてくれてるよ!」

 

これだけ反射しても爪の勢いは軽く人を切り裂くほどの威力なのは、ピーシェの肉体の力があってこそか。だが、その頭脳は一体何処から⁉︎

 

「はい、捕まえた!」

「っ⁉︎」

 

気がつけばネプテューヌの周りを爪が囲んでいた。四角錐を重ねたような、クリスタルの形だ。その中心にネプテューヌがいる。

 

「結界!」

「っ、あっ……⁉︎」

 

赤黒い瘴気が爪と爪とを繋いでネプテューヌを捕まえてしまう。

ネプテューヌはその中で力が抜けたように漂った。この感覚は覚えがある。

 

「アンチクリスタルの、結界……⁉︎」

「キリスト遊び、は〜じめ!」

「っ、かっ……は……!」

 

結界の頂点を担う爪からワイヤーが飛び出してネプテューヌの両手、両足、胴体、首に絡みつく。

力が入らないネプテューヌは全く抵抗できずに磔にされたような状態になる。

 

「は〜い、キリスト遊び!ここからどう処刑するかは、私が決めるね!」

「くっ、うっ………!」

「じゃあ……窒息死!1番エグい気がするもん!」

「うぐっ、う………!」

 

ネプテューヌの首に絡みつくワイヤーがキツく絞まる。ネプテューヌの首に食い込むほどになって、呼吸を阻害した。

 

「返して……!ぴー子を、返しなさいよっ……!」

「やぁだ、返しません!おろ、何これ。鼻血?」

 

ピーシェの鼻から血がポタポタと垂れ始めた。血がピーシェの真っ白なスーツを汚していく。

 

「あらら、耳からも出てる。さすがにこれだけの演算にはついてこれなかったか〜」

「くっ、何を……してるのよ……!」

「ナイショ〜!でもね、つまりこういうこと!」

 

ピーシェは自分の首をぎゅううと絞め始めた。

 

「ヒヒ、苦し……!でも関係ない、私の体じゃないもん……!」

「アナタ……は……!」

「バイバイお姉ちゃん。死ねっ!」

「っ……………」

 

ネプテューヌの首を絞めるワイヤーが、さらにキツく絞まった。




サイコジャマァァァッ!
インコムじゃなく擬似ファンネルって名称にしたのはワザとです。インコムはオールドタイプでも微小ながら出るニュータイプが出す脳波の増幅と(ニュータイプの特殊な脳波でファンネルは動くらしいです。インコムはそれを増幅してさらに)コンピューターで動かしてますが、擬似ファンネルは完全に演算頼り。
ですが瞬時に演算を終了させてその演算の通りにモノを動かす(今回の場合は反射)させられるとしたら、それはもうファンネルのように思い通りに動く武器。……ま、リフレクターインコムでいいと思うんですけど!
脳波はなくとも計算だけで動かすファンネル、擬似ファンネルって名称にしました。

ですがそんな計算に女神も耐えられず、ピーシェの頭は崩壊寸前。みたいな感じです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

逆転の切り札

アノネデスが外道になってる気がする……。まあいいか。


アノネデスの笑い声がその空間に満ちていた。

そして壊れた蛇口から吹き出る水のように地面に落ちるミズキの血液。それが地面に当たって弾ける音だけだ。

 

「……………」

「まだ死んでないわよねぇ?これから死ぬまで痛めつけてあげるから、覚悟してねぇ?」

「……を………」

「なぁにぃ?はっきり言いなさいよぉ」

「…を……!この瞬間を……!待っていたん、だ……ぁっ……!」

 

ミズキが剣を握るプルルートの右手を掴んだ。

 

「君が、密着して……!この手に、触れられる瞬間を……っ!待ち侘びてたんだ……ぁ……!」

「はぁ?もっとはっきりーーッ⁉︎」

 

それはプルルートの見た幻影だったのだろうか。

右手から炎が吹き上がるなんて。その炎が自分の腕を伝って体中を包み込んで焼いていくなんて。

 

「決して、諦めない……!例え僕が、傷つき、倒れようとも……!とり、もど……!」

「っ、あっ………!」

 

プルルートの体から赤黒さが消えていった。まるで右手の炎が焼き払ってしまったようだ。

正気に戻ったプルルートは自分が今までやってきたことと今の光景に息を呑む。

 

「わ、私…………!」

「……………」

 

ニコリと血だらけの顔で微笑むミズキ。

きっと死ぬほど痛くて死ぬほど苦しいはずなのにそれでもミズキはプルルートを安心させるためだけに微笑んでくれる。

そしてそれと同時に、ミズキの体は剣から抜け落ちて地面へと落下していった。

 

「……………」

 

まるで現実味のない風景。

地面に落ちたミズキの腹の辺りに血で水溜りができる。

プルルートの手には血で汚れた剣がある。その血が今の風景が現実だということを教える。

 

プルルートはゆっくりとミズキに向かって降下していく。

しゃがみこんでその顔を見るがミズキの瞳は閉じていた。

 

「ミズ……キ………?」

 

プルルートの変身が解ける。

幼い姿のプルルートはミズキの上に四つん這いで跨った。

 

「ねえ〜……起きて〜……?起きな、起き……ない、と〜……!怒る、よ〜……⁉︎」

 

プルルートの瞳から涙が流れ落ちた。その涙はミズキの頬へと落ちていく。

 

「お願い〜……!起きてよ〜、っ、ミズキ君〜……っ!」

 

すると森の奥からエディンの軍隊が出てきた。

大群が2人を素早く囲んで銃口を向ける。

 

「投降しなさい?今なら、その子の命を助けてあげてもいいのよ〜?」

 

その間を割ってアノネデスが入ってきた。恩着せがましく言うアノネデスをプルルートはキッと涙がにじむ瞳で睨んだ。

 

「許さない〜……!絶対、許さないから〜……!」

「あら、そんな口聞いていいの?私達が応急手当すれば、その子まだ助かるかもしれないのに……」

 

ピカッとプルルートの体が光って変身した。

そして涙を拭い捨ててアノネデスの前に立ちはだかる。

 

「誰もアンタなんかの治療なんか望んでないわよぉ……!ミズキが何のために私を助けてくれたのか、わかんなくなるでしょ……!」

「じゃあ、アナタもその子も死ぬわね」

「殺させないわぁ……!今度は、私が……!」

「構え」

 

アノネデスが片手を挙げると全員がプルルートへと銃口を向けた。

プルルートは血だらけのミズキを抱き上げる。

 

「絶対、渡さないんだから!」

「撃って」

 

アノネデスが手を振り下げるのと同時にプルルートの体が光り輝いた。

全方位から逃げ場のない銃弾が2人を襲う。

だが銃声と同時にその場に響いたのは銃弾を全て弾き返す音だった。

 

「なに⁉︎」

 

 

ーーーー『スカルハート見参』

 

 

プルルートとミズキの体は真っ黒なマントで覆われていた。それをプルルートはまるでドラキュラ伯爵のように翻す。マントの内側は真紅だった。

プルルートの蝶のようなプロセッサユニットの4つの頂点には新たなブースターが装着されていた。握る剣には護拳がついていている。

 

「許さない、絶対に許さない!アナタ達全員、メチャクチャにしてあげる!」

 

ミズキの体を抱えたプルルートが上に大きく飛翔する。

 

「そおれっ!」

 

プルルートが唯一稼働する砲台へと剣先を伸ばす。中に通された糸により分解されていく剣の切っ先が砲台に高速で回転しながら突き刺さる。

そのリーチは今までの比ではない。

すぐに砲台は音を立てて爆発する。それと同時にプルルートは剣を伝って砲台へと近付いた。

 

「や、やめなさい!」

「うるさいのよっ!黙ってなさい!」

 

鞭を大きく振り上げるプルルート。それを思いっきり砲台に叩きつけた。撃たれた箇所が大きく凹んでしまう。

それも1度ではなく何度も何度も。苛立ちを全てぶつけるように、感情を全てぶつけるように。

 

「くっ、うっ!このっ、このっ、この!これで満足かしら⁉︎こんなの、全っ然楽しくないわよっ!」

 

息を荒げたプルルートが鞭の動きを止めたその頃には砲台と呼べるものの原型はなかった。

ただの鉄屑になっていたのだ。

 

「っ、トドメよ……!」

 

プルルートの剣の先に電撃の球体が作られた。だがそれは段々と巨大化して砲台をその中に収めてしまうほどの大きさになっていく。

 

「な、なによアレ⁉︎て、撤退よ撤退!なんで、こんな化物ばっかり……!」

 

アノネデスと軍隊が森の奥へと消えていく。

その時、プルルートの胸の中で蚊の鳴くような声が聞こえた。

 

「僕ら、は………」

「ミズキ!」

「僕らは、人間だ……。君も、1人の……女の子、でしょ……?」

 

プルルートの腕の中でミズキはぎこちなく笑った。

それを見たプルルートは先程までの荒ぶるような気持ちではなく、静かな気持ちで砲台を見つめた。

 

「……ごめんなさい、ミズキ」

「……クス、許して、あげる……」

 

プルルートが剣を砲台に向けると巨大な電撃の球体は砲台に向かってゆっくりと向かっていった。

その球体は砲台を飲み込み、地面までも飲み込み、大きなクレーターを島に残した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌの首を絞めるワイヤーがギリギリと音を立てる。

ネプテューヌはアンチクリスタルの結界による消耗ではなく、窒息で死を迎えようとしていたのだ。

 

「わぁ〜、苦しそ……。でも、ほら、キリスト様になれるんだからさ!」

「かはっ、うっ……!ぴー子を、返しなさいよぉ……っ!」

「ん〜、じゃあゲームね!お姉ちゃんが3秒耐える度に私は自分を傷つけるね!い〜ち!」

「やめ、なさい……!」

「はい3秒!ヒヒッ、痛い〜!」

 

ピーシェは自分の腕に爪で傷をつけた。ぷっくらと血が湧いて腕から耐えている。

 

「やめて……!ぴー子を、傷つけないでぇ……っ!」

「また3秒!早く死ねばこんなに私が痛い思いしなくて済むのにな〜!」

 

今度は反対の腕に傷をつけた。

 

「ん〜、次はどこにしようっか!首とか……どう?」

「っ!」

「ほら、ほら〜!」

「ぴー子を、傷つけないでっ……!」

「ん?そうそうもうちょっと頑張って?ほらほら、その分絶望に塗れるでしょ?」

「っ、ぴー子を!返してぇぇぇぇ……ッ!」

 

ネプテューヌが全身に力を込めるとワイヤーが引っ張られていく。ネプテューヌの体は紫に脈動し始めた。

 

「そう!計算通り!やっぱりそうなるよね!やっぱり私、勝てないのかも!」

「ぴー子ォォォォッ!」

 

ネプテューヌの体から紫色のプレッシャーが放たれた。

それはアンチクリスタルの結界にヒビを入れている。ワイヤーも千切れ始めていた。

 

「みんなが、いるのよっ!ミズキが、私と一緒にいるの!だったら、こんな結界くらい……ッ!」

「うん、最高だね!」

「ああああああッ!」

 

ネプテューヌの叫びでアンチクリスタルの結界が割れた。ワイヤーも千切れて結界からの脱出を果たす。

結界の頂点を担っていた爪は反射してピーシェの手元へと戻っていった。

 

「ヒヒヒヒッ!もっと、もっと見せて!どうせ負けるんだから、楽しまなきゃ!」

「ぴー子を、返してもらうのッ!ぴー子に謝らなきゃいけないの!その前に障害が立ち塞がるなら……ッ!」

 

ネプテューヌがビームマグナムを捨てて太刀を両手で持った。

 

「誰だって!何だって!突き破るんだからァッ!」

「いっけぇ!擬似ファンネル!」

 

ピーシェの爪が再び放たれた。音を立てながら反射してネプテューヌへと向かっていく。

だが、ネプテューヌも負けてはいなかった。

 

「ファンネルッ!」

 

ネプテューヌの手から放たれた太刀がネプテューヌの周りを円を描くように回った。

ネプテューヌへと向かっていった爪は全てその太刀に薙ぎ払われる。

 

「ヒヒッ、凄い凄い!」

「はあああっ!」

 

しかしいくら薙ぎ払おうと爪は砕けず、ピーシェの手元に戻ってまた射出される。

そして高度な演算により、ネプテューヌのファンネルは擬似ファンネルに当たりにくくなっていた。

 

「ほらほら!やっちゃえ!私の擬似ファンネルっ!」

「この程度でェッ!」

 

だがいくら軌道が複雑だろうと狙われる目標はネプテューヌただ1人。

ネプテューヌはユニコーンとニュータイプの力で得られた先読み能力と反射神経で擬似ファンネルを避け、また打ち落としていく。

 

「ヒヒッ!いいねいいね!リツイートしちゃうくらいだよ!」

「ぴー子には、帰って来てもらう!やっと会えたの、2度と離れないっ!」

「じゃあ、私を追い出さなきゃね!さあ、どうすればいいでしょうか!正解者には漏れなく、クーポンをプレゼントだよ!」

 

そう、いくら擬似ファンネルを防ごうとピーシェの体からピーシェを支配する誰かを追い出さなければ勝機はない。

そしてそれも早急にやらなければ、ピーシェの体が高度な演算に耐えきれずに崩壊してしまう。

 

「この子の体をいくら傷つけたって私は出て行かないよ?さあ、どうすべきかわかる⁉︎」

「そんなもの、わかりきってるわよ!」

 

ネプテューヌがファンネルで擬似ファンネルを払い除けた。

 

「今の私なら使える……!お願いみんな、力を貸して……!」

 

ネプテューヌが瞳を閉じると空中に魔法陣のようなものが出来て、そこからクリスタルで出来た剣が舞い降りてくる。

 

「32式、エクスブレイド!見えない力で、アナタを討つ!」

「それ……信仰が力になってるのね?考えた、考えたね!それなら確かに、私を切れるかも!」

 

爪がピーシェの体へと戻っていく。

未だ赤黒い瘴気を纏っているピーシェだが、さっきの結界は紛うことなき、アンチクリスタルの結界。

アンチクリスタルの結界は強いシェアで壊すことが出来る。あの時も、今回もそうだった。

ならば、恐らくピーシェの体を支配しているのはアンチクリスタルに関係する何か。それは、強いシェアで霧散させることが出来るはず。

なればこその、32式エクスブレイドだ。信仰の力を形にしたこの剣ならば、ピーシェの中に潜むモノだけを霧散させられるかもしれない。

 

「待ってて、ぴー子!今、私が助けに行くから!」




ネプテューヌ、ファンネル習得。シールドファンネルって言うくらいだし……ソードファンネル?
32式エクスブレイドは信仰の力が形になったものらしいじゃないですか。それを手持ちにしてもいいかなって。

さて、この章も終わりに近づき同時にアニメも終わりに近づきますがアニメが終わってもまだ終わらせる気はないです。とあるネプテューヌシリーズに繋げようかと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日常という名の波乱へと

終わったぁぁぁぁ!
次からアニメもラストに入ります!


ネプテューヌが32式エクスブレイドを握りしめた。

 

「はああっ!」

「やあっ!」

 

ネプテューヌの32式エクスブレイドとピーシェの爪がぶつかり合う。

 

「うん、うん!いい戦術だよ!この剣を受けるためには擬似ファンネルを戻さないといけないもんね!そうなれば私も演算する必要ないし!」

「黙りなさい!それ以上、ぴー子の体で喋らないでよっ!」

 

そして機動力ならネプテューヌに利がある。

後退するピーシェをネプテューヌが追っていく。

 

「ファンネル!」

「えっ、あうっ!」

 

ネプテューヌの意思で動く太刀がピーシェを追い越して、柄でピーシェの腹を打つ。

そのせいで勢いが止まったピーシェにネプテューヌが追いつく。

 

「これで!」

「ガード!」

 

エクスブレイドで切りつけるがピーシェは爪で防いだ。

 

「惜しい惜しい!次は出来るかもね!」

「いつまでも、舐めくさってんじゃないわよ!」

 

2人が間合いを取って向かい合う。

ピーシェは1本ずつ、両手で2本の爪を射出した。

 

「擬似ファンネル!」

「通じないって、言ってるでしょ!」

「シェフの気まぐれ、私の同時攻撃も加えて!」

「っ、あっ!」

 

爪をファンネルで払ったネプテューヌだったが、ピーシェのパンチに吹き飛ばされる。

 

「それっ!」

 

ピーシェが爪を振るとそこから斬撃が飛んでくる。

ネプテューヌは上昇してそれを避け、左手に持っていた盾を投げ捨てた。

 

「っ、これ以上長引かせても私が不利になるだけ……なら!」

「捨て身の特攻、だよね!いいね、そういうのって燃える!」

 

ピーシェの手に擬似ファンネルが収納される。

 

「圧倒的不利……1撃でも貰えば私、負けちゃう……。なんて、最ッ高なの……⁉︎」

「ぷるるんとところにでも行けば⁉︎きっと、メチャクチャにしてくれるわよ……!」

 

ネプテューヌが円陣を蹴って移動した。

瞬間移動ほどもあるその移動速度は紫の軌跡を残して空を駆ける。

 

「はああっ!これが、今の私の全力よっ!」

「じゃあ、私はそれを砕くね!」

 

ネプテューヌのエクスブレイドとピーシェの爪がぶつかり合った。

ダイナマイトが爆発したような衝撃波が周りに飛び散り、クリスタルの結晶が森の中に散っていく。

砕けたのは、エクスブレイドだった。

 

「そんな……!」

「これで私の!か〜ちっ!」

 

ピーシェの爪がネプテューヌの腹を貫く、その寸前だった!

 

「あれっ?」

 

ピーシェの変身が解けた。そう、その瞬間はプルルートが砲台を破壊した瞬間だったのだ!

 

「っ、今よッ!」

 

エクスブレイドの柄を握り直す。

もうシェアの力はなくとも、まだみんなの意思がある!私の周りにみんながいる!右手にミズキがいる!

 

「信仰の剣が砕けたって!それに勝るとも劣らない、信頼の力が私にはある!」

 

エクスブレイドの刀身が復活し始めた。さっきよりもずっと歪で、カッコ悪くて、それでも美しく強い剣だ!

 

「見えない想いを見える剣に!この32式エクスブレイドで!」

「ヒヒッ、私の運が悪かったかな?」

「ぴー子から、出てってェッ!」

 

ピーシェの体をエクスブレイドが通り抜ける。

ピーシェの体には傷1つないが、ピーシェの体の赤黒い瘴気は霧散していった!

 

「……………」

「っ、ぴー子!」

 

ピーシェが真っ逆さまに落下していくのを受け止めた。

その時、ピーシェの首にぶら下がるキーホルダーのような物にネプテューヌは気がつく。

 

「これ、は………」

 

ガンダムの顔を模したぬいぐるみ。こんなのを作るのはミズキぐらいしかいない。

きっと首にぶら下げていたこれはずっとピーシェの側にいたのだ。

 

「ミズキが言っていたのは、これね……。これが私達とぴー子を、離れても繋ぎ止めていた……」

 

そのぬいぐるみをそっと撫でた。

 

「ぴー子……」

 

ふと、周りの空間が真っ白くなって2人の服が消えていく。何も覆い隠すことのない、本心の世界。

その中でピーシェはそっと目を覚ます。

 

「ねぷてぬ……」

「ごめんなさい、ぴー子。あんな小さいことで怒って……。許してあげられれば、良かったのに……」

「ぴ、ぴーも!ぴーもごめん!ねぷてぬのぷりん、おいしかった!だから、だから……!」

「ふふっ、たくさん食べたかったのよね。それがわかってれば……こんなに遠くにぴー子が行くこともなかった……」

 

ネプテューヌがそっとピーシェの頭を撫でる。

 

「ずっと、謝りたかった……。大好き、ぴー子……」

「ぴーも……ぴーもねぷてぬ、すき……!」

 

心が刹那、通じあう。

瞬間、白い世界が弾けた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

日常が再び帰ってきた。

プルルートが砲台の下の基地を潰したために制御がなくなり、近くにいるものから問答無用に攻撃するEXモンスターの特性が戻って同士討ちを始めたのだ。

増援も送られて来ず、そうなればもう討伐は容易であり各国は迅速にモンスターを退治した。

その後は首謀者の逮捕のためにノワール、ブラン、ベールがR18アイランドに向かうがそこで見たのは砲台があったはずの場所にあった大きなクレーターの中で血だらけのミズキに抱かれて泣く血だらけのプルルートの姿であった。

ミズキの傷自体はすぐに塞がったものの、出血は多量であり、病院に運び込まれたミズキは未だ目を覚まさない。

だがジャック曰く、命に別条はないらしく後は目覚めを待つばかりだ。

アノネデスとレイはすぐに見つかって逮捕され、投獄。

ピーシェもプラネテューヌの教会に再び保護されたが、元どおりにならないものがあった。

それは………。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌの大きな病院。そこに慌ただしい足音が響いた。

スライド式のドアを乱暴にネプテューヌが開ける。

 

「ミズキ、起きたって本当⁉︎」

「し〜っ、ネプテューヌ、病院ではお静かに」

「あ、ご、ごめん……」

「クスクス、いいよ。心配してくれてありがと」

 

ミズキが病院のベッドの上で上半身だけを起こしている。

 

「心配したよね〜、ねぷちゃん〜」

「うん、そりゃあもう。心配しすぎて、逆に私が死んじゃうくらいだったよ!」

「クスクス、それは困るね」

 

隣にはネプテューヌより先にプルルートが座っていた。

自分の意思ではないとはいえ、ミズキを大怪我させてしまったプルルートはずっと付きっきりでミズキの側にいたのだ。

ミズキが目覚めたと伝えてくれたのもプルルートだ。

その時、ネプテューヌはミズキの胸のあたりが湿っていることに気付く。

ミズキはネプテューヌに向けて困ったような顔をしてウィンクする。

きっと、プルルートはネプテューヌが病院に来るまでに泣いていたのだ。胸が湿っているのは、きっと涙とか鼻水とか涎とかだろう。

 

「あ〜、そうだ〜。私〜、飲み物買ってくるね〜」

「うん。“ありがと”、プルルート。助かるよ」

「どういたしまして〜」

 

プルルートが席を外す。

ミズキの「ありがと」は水を買ってきてくれて感謝するという「ありがと」ではなかった。

ミズキはネプテューヌを手招きするとネプテューヌがミズキの近くの椅子に座った。

ネプテューヌもプルルートの意思は察したらしく、ミズキの顔を見て困ったように笑った。

 

「……良く頑張ったね、ネプテューヌ」

「っ、…………ひぐっ」

 

ミズキのその一言でネプテューヌの瞳から涙が溢れ出した。

ミズキはネプテューヌの頭を抱き締めた。

 

「ぴー子、ね……!ぐすっ、帰ってきたよ……?すっごい……元気で……っ」

「うん。君のお陰だよ」

「改造された、体も……!ジャックが、っ、治して……えぐっ、治して、くれてる……!」

「うん、うん」

「でもね……!記憶が……っ、ひっ、ひぐっ、ぴー子のぉ……記憶、が……ううっ!」

「うん、うん……」

 

ネプテューヌの背中をポンポンと優しく叩く。

そう、あの戦いの後にただ1つ戻らなかったものがピーシェの記憶なのだ。

度重なる改造と強化人間として暴走しかけたこと、さらに……アンチクリスタルに似た何者かの支配。

それらがピーシェの脳を傷つけたためとジャックは推測している。

 

「でもね……っ!通じ合ったんだよ……?私、ほんの一瞬だったけど……!ひぐっ、あうっ、謝っ、て……!ご、ごめ、ごめんなさいって……っ、ぐすっ、大好き、って……!」

「うん、良く頑張ったよ。ネプテューヌは……良く頑張ったさ」

「でも……っ!私、ぴー子を、ぴー子、を……!」

「うん、全部伝えて。……慰めるから」

「ううっ、うわぁ……ん……!ひぐっ、あうっ、えぇぇ……ん……!」

「ネプテューヌ……君は、凄いよ……」

 

ミズキの胸の中で泣きじゃくるネプテューヌ。

その声を扉の向こうでノワールが聞いていた。

 

「………やめやめ。盗み聞きなんて、趣味が悪いわね」

 

ノワールが扉から身を離す。ノワールはネプテューヌが大丈夫になるまで、誰も入らないようにしていたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そして、別れの日はやって来る。

大いなる存在であるピーシェを元いたプルルートの次元に戻す日だ。

結局、最後の最後までピーシェの記憶が蘇ることはなかった。

 

「ばいば〜い、みんな〜。元気でね〜」

 

プルルートが手を振る。もう片方の手はピーシェと手を繋いでいた。ピーシェはネプテューヌのぬいぐるみを抱きしめている。

みんなも寂しそうな顔をしているが、その中にネプテューヌはいなかった。

 

「それでは、次元のゲートを開きますね」

 

天に巨大な魔法陣が現れ、そこから円柱状の柱が立つ。恐らく、あの中に入ればプルルート達は帰ってしまうのだろう。

 

「お〜い!ちょっとタンマタンマ〜!」

「遅いわよ、ネプテューヌ」

 

ネプテューヌがギリギリ走り寄ってきた。

その手には袋を持っている。

 

「はい、ぴー子。これ」

「なに?これ……」

 

ピーシェが袋の中から「ねぷの」と書かれたプリンを取り出す。そのプリンを覚えていないことにネプテューヌは一瞬顔を歪めたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。

 

「世界で、1番おいしいものだよ!」

 

するとプルルートが思い出したように手元から人形を取り出した。

 

「そうだ〜、ぎあちゃ〜ん。これ〜」

 

プルルートが取り出してのはネプギアを模したぬいぐるみだった。

 

「はい〜、あげる〜」

「わあ、ありがとうございます!」

 

ネプギアが満面の笑みを浮かべた。

次にプルルートはミズキを呼ぶ。

 

「あと〜、ミズキ君〜」

「ん?なに?」

 

プルルートは後手に何かを隠していて、何を持っているかわからない。

ミズキはプルルートに歩み寄る。

 

「む〜……届かないよ〜。しゃがんで〜?」

「ん、わかった」

「目もつぶって〜?」

「ん」

 

しゃがんだミズキが言われた通りに目をつぶる。

 

「プルルートさん、早くしてくださいよ?ゲートが閉まってしまいます(´-ω-`)」

「わかってるよ〜。それじゃ〜」

 

瞳を閉じた真っ暗な世界で話し声が聞こえる。

すると、みんなが息を飲む音とノワールの声が聞こえた。

 

「ミズキ!」

「えっ?」

 

幸か不幸か。

ミズキがその声に振り向いたためにーーーー。

 

 

 

プルルートのキスは頬に逸れた。

 

 

 

「ちゅっ」

 

 

 

「っ⁉︎」

 

『⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎』

 

みんなが口をあんぐり開けて、一瞬遅れて真っ赤になる。ロムとラムまで見てしまったため、非常に教育に悪い!

 

「…………えと……」

「もう〜、邪魔しないでよ〜。でも〜、確かに卑怯だったかもね〜」

 

プルルートも微かに頬を赤らめてニッコリと笑う。

 

「これは〜、助けてくれたお礼ってことにしておくね〜。また〜、会いに来てね〜?」

 

プルルートが次元ゲートの中に入る。それにつられてピーシェもゲートの中に入る。

 

「じゃ〜ね〜」

 

プルルートが手を振るとゲートの中が光に包まれる。

瞬間、それは奇跡か、必然か。

ずっとねぷのぷりんを見ていたピーシェがふと、呟く。

 

「………ねぷてぬ?」

 

「えっ………?」

 

3人が消えて光の粒子だけ残る。

その光の粒子も消えてみんながいた証がなくなっていく。

 

それでも、最後には、本当に。

 

全て、元通り。

 

「………まいったなあ」

 

とはならないようだ。いい意味で。





蘇る悪魔。

世界の終わりの始まり。

圧倒的な力。

………それにも負けない力が、目覚める。

次回、最終章。

「変身」

ーーーー

や っ た ぜ 。
後悔してない。むしろ歓喜してる。これ書いてニヤニヤしてる自分の顔見て死にたくなりました、へへっ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9章〜最後の決戦。世界が繋がる瞬間、奇跡が起こる。ミズキ、最後の変身〜
取材と告白とハードボイルド


ハードボイルドを目指して。ハードボイルドって何なのかよくわかんないんですけどね。Wな仮面ライダーみたいな?


ピーシェのオモチャなどを片付けてプラネテューヌもピーシェが来る前に元通りだ。

だが彼女らがいた証はプルルートのぬいぐるみが残している。

だからみんながいなくなってもみんなを忘れたわけではない。

だから普通の穏やかな日常が戻って……来たわけではない。

主にプルルートのせいで。

 

「………疲れた」

「今回ばかりはミズキが悪い」

「あはは……取り付く島がないなあ」

 

ずっとノワールとブランに叱られていた。昨日のことだが、まだ疲れが取れていない。実際は2時間ぐらいだったが体感としてはメイドインヘブンで時空が一周するのを加速なしでまるまる体感した感じ。

ネプテューヌにも冷たい視線を向けられているとイストワールとジャックが寄ってきた。

 

「ミズキさん、お客さんですよ?」

「お客?僕に?誰だろう……」

 

恥ずかしながらあまり知り合いなどいないんだけど。

 

「もうそこのドアの前にいる。会うか?」

「うん。断る理由もないし。どなた様でーーー」

「ガラッ!ガラッ!ガラッ!」

「…………」

「どうも!幼年幼女の味方、アブネスよ!」

(………会ったことあるんだけどなあ……)

 

そういえば、あの時は仮面をしてたっけ。

 

「アナタがクスキ・ミズキで間違いないわね⁉︎」

「う、うん、まあ。その幼年幼女の味方さんが何の用かな?」

「取材を申し込ませてもらうわ!クスキ・ミズキ……いや、ガンダム!」

(………面倒なことになったかも……)

 

 

ーーーーーーーー

 

 

結局取材を受けることにしたミズキ。ただし、ネプテューヌが隣にいるという条件付きで。

 

「えと……なんでバレたのかな?」

 

ミズキが珍しく余裕のない感じだ。頬からは汗が垂れている。

 

「R18アイランドでアナタが変身したのを見たの。それを放送したら、リーンボックスでも他の変身の目撃情報があるじゃない」

「あ、ああ……。あの時の……」

「アンコウの時だよね?」

「うん。そういえば派手にやっちゃったからなあ……」

 

ポリポリと頬を掻く。

 

「ルウィーでは突如テーマパークの上で変形した鳥のような機体、そして最近はプラネテューヌを飛び回る機体とか戦争の時に空を飛ぶ機体が確認されたわ!」

「まあ、隠すつもりはなかったしね。最近は色々必死だったし」

「そして!私はこんな記事まで見つけたわよ!」

 

アブネスがカバンの中から取り出したのは折りたたまれた紙だ。

それを開くとコピーされた新聞記事が印刷されていた。

 

「なになに?『火事から子供を救った謎のロボット』〜⁉︎」

「ああ、それ僕だね」

 

目撃されたのはラステイション。偶然ミズキが火事の現場に遭遇したために中の人を救助した時の記事だろう。

 

「他にも他にも!これら全て、アナタの仕業でしょう⁉︎」

「まあね」

「やっぱり!早速取材させてもらうわよ!」

「ま、待ってよ!ミズキの過去はそんなホイホイ話せるようなものじゃ……!」

「まあまあ。別に僕の過去だけを話すわけじゃないんだし。それに掻い摘んでだけなら、教えても僕は大丈夫だよ」

「で、でも……」

「昔なら言えてない。この意味、わかるでしょ?」

「む、むぅ……」

 

ネプテューヌはニコリと笑うミズキの顔に黙り込んでしまう。

 

「それじゃ言いたくないことは言わなくていいわ、アナタが何者なのか教えて!」

「そうだね……僕は別次元から来たんだ。その次元はとある戦争で壊れてしまって……僕だけがこの次元にたどり着いた、って感じかな」

「ふんふん」

「それでここに居候させてもらってる感じ。僕はその戦争で戦ってから、変身できるんだ」

「なるほどね……。それじゃ、あの変身した姿は?何種類もあるわよね?」

「うん。僕の次元で遥か昔に現れた英雄、ガンダムだよ。何億年もの時間をかけて何回か現れてるから、たくさんのバリエーションがあるんだ」

 

つらつらと質問されたことに答え、また一部は答えるのを拒否していく。

 

「そろそろ時間かな。悪いけど、また今度来てくれるかな?」

「ええ、わかったわ。今日はありがとう」

「あれ?案外素直にお礼言うね?」

「私をなんだと思ってるのよ!まあ、聞いた話はとても笑えるようはものではないし……何より!火事から幼年幼女を救ったところが尊敬に値するわ!」

「あ、あっそ……」

 

ネプテューヌが頬をピクピクさせる。

 

「これからも取材頼んでいいかしら!その話を本か何かで出版すれば、きっと多くの人に平和が伝わるわ!特に戦争後まだ間もないこの時期なら尚更よ!」

「まあ、伝わってることだけなら。でも僕のことは教えないよ?」

「構わないわよ!幼年幼女の味方の傷口に塩を塗るような真似はしないわ!それじゃ、またよろしくね!」

 

アブネスは小走りでドアを開けて出て行く。

 

「案外、悪い人じゃなかったのかも……」

「え〜っ⁉︎私あの人嫌い〜!」

「クスクス、確かに相性は悪いのかもね」

 

ミズキとネプテューヌはアブネスが見えなくなってから教会に戻った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

イストワールが小さな手でコンコンと部屋をノックする。

中から入っていいぞ、と声がした。

 

「失礼しますね」

 

ドアを開けて中に入る。

中にはジャックがいた。

 

「もう大丈夫ですか?」

「……すまないな。情けなかった」

「そんなことはありませんよ」

 

ニコリと笑ってジャックに近付く。

 

「……わざわざそれだけを確認しに来たのか?」

「ええ。わざわざです」

「……ふっ、そうか」

 

ジャックは軽く微笑む。

そしてイストワールに近付いていく。

 

「隣、いいか」

 

ジャックが指差す先はイストワールの座っている本だ。

 

「ええ、構いませんよ」

「失礼する」

 

イストワールが少し横にずれて空いたスペースにジャックが座る。

 

「ふむ。これは、なかなかどうして……」

「座り心地がいいでしょう?長年の改良の集大成です」

「得意げな顔をしているな。クク……」

 

ジャックは空中からショットグラスを持ち出し、透明な液体を少しだけ注ぐ。さらにその上からソーダが注がれた。

 

「なんですか、それ?」

「ジンだ。アルコール度数が高い酒として有名だな」

「うっ、すごい匂い……」

 

一応ソーダ割りしてあるのだが。

 

「まあ、酔わないとやってられないからな……」

「何がですか?」

「………すぐわかる」

 

ジャックは少しずつそれを飲んでいく。途中で口を離してイストワールにワイングラスを差し伸べた。

 

「チューハイくらいならある。飲むか?」

「まあ、それくらいなら」

 

よく冷えたチューハイが次元の穴から注がれる。グレープフルーツの爽やかな香りが辺りに弾けた。

 

「んっ……おいしいですね」

「ああ」

 

度数は低く、ほとんどジュースのようなチューハイをイストワールは喉を鳴らして飲み干していく。

ジャックはグビグビとジンを飲み干した。

 

「ジン、好きなんですか?」

「酔いたい時にこいつは1番だと個人的には思っている。他の酒でもいいのだが、今はこの辛い味が欲しくてな……」

「そうですか?お祝いなら、もうちょっと甘くても……」

「いいや、祝いの酒ではない。これは俺に決心をつけさせるための酒だからな」

「決心、ですか?なんの?」

「クク、すぐにわかる」

 

さっきと同じ答えをしてもう一杯ソーダ割りのジンを注ぐ。

 

「大丈夫ですか?そんなに度数の高いものを飲んで……」

「酒には強い方だ。それに、ほとんどソーダになっているしな」

 

またジンを飲み込んでいくジャック。それにならってイストワールもチューハイを飲み干した。

 

「……まあ、だいぶ酔えた。ちょうどいいか」

 

ポイとジャックがグラスを放り投げると次元の穴にグラスが消えていく。イストワールもその穴に向かって投げ入れるとワイングラスは穴に吸い込まれていった。

 

「わざわざ付き合ってくれてありがとうな」

「いえ。今度、一緒に飲むのもいいかもしれませんね」

 

ニコリと笑うイストワール。その顔を見つめたジャックの顔が赤いのは果たして酔いのせいだけなのか。

ジャックは本から立ち上がり空中にふわりと浮く。

 

「ジャックさん?そういえば、すぐにわかるって何がですか?」

 

 

「………好きだ、イストワール」

 

 

「…………はい?」

 

振り返ったジャックがいつもと変わらぬ鉄面皮でそんなことを言ってくる。

始めは冗談かと思ったが、ジャックの真剣な瞳に嘘はないと気付く。

 

「酒の力でも借りないと、こんなことは言えなかった。弱くてすまないな」

「……あ………と………」

「ククク、どうした。鳩が核弾頭を撃ち込まれたような顔をしているぞ」

 

ポカンと開いた口がふさがらない。

まず顔が熱くなり、その熱さが体中に伝わっていく。その熱さがイストワールの感覚を麻痺させて動くことができなくなる。

嫌でも瞳を逸らせない。

嫌でもないのだから、尚更の事。

 

「生憎、これでも心配性でな……。答えは今欲しい」

「あぅ、あぅあぅあぅ………」

 

ジャックがゆっくりとイストワールに近付いた。

その顎を指で軽く持ち上げ、上を向けさせる。

2人の鼻が触れ合う少し手前にまでジャックは顔を近づけてイストワールの瞳を真っ直ぐに見つめる。

 

「返事はいらん。ただ、瞳を閉じてくれ」

「……あ………!」

 

イストワールとジャックが見つめ合う。

瞬きすら許されないと思わせる程の真摯な瞳。その瞳を直視できず、顔を逸らそうとするがジャックに顎を抑えられているために出来ない。

せめてもの抵抗として瞳を逸らすが、ジャックが見つめていることは視界の端に映ってしまう。

 

「イストワール」

「……ご、ごめんなさいっ!」

 

イストワールがジャックの手から逃れて走るようにドアへと向かう。

だが部屋を出る直前、後ろを向いたまま耳まで真っ赤に染めたイストワールが声を漏らす。

 

「じ、準備できたら……飲みに、よ、呼びます、から……!」

「……出来るだけはやく頼む。クク……」

 

イストワールが逃げるように部屋から出て行く。

それを見届けてからジャックは机の端に足を組んで座る。

次元倉庫から缶ビールを取り出してプシュッと開ける。

 

「気長に待つか……。ククク……」

 

ビールをグビグビと飲み込んでいく。

 

「今日は浴びるほど飲むぞ。クックック……!」

 

ジャックは1人嬉しそうに酒を飲むのだった。




ジャックは自分を励ましてくれたイストワールに惚れた模様。
惚れたら間髪開けずに告白。アピールとかはなし。
新章はぶっちぎりですぐ終わると思います。すぐにアニメを終わらせましょうね。
なんか、とある感想が消えた?返信しようと思ったら消えたんですよね…。…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プラネテューヌ大ブレイク

短め。


 

「わあ〜!」

 

ネプギアが驚きの声を上げる。目の前には光り輝く大きなシェアクリスタル。

 

「こんなに大きなシェアクリスタル、初めて見た……」

 

アイエフとコンパも驚いているようだ。

ネプテューヌは逆に得意げな顔でふんぞり返っている。

 

「そう!今プラネテューヌは大ブレイク中なんだよ!」

「下降傾向にあったシェアがある日を境に急に持ち直したんです。今はもう他の3国に大きな差をつける勢いで……」

「でも、なんでそんないきなり?」

「それが……よくわからないのです。エディンの侵攻を食い止めたのが理由だと思ったんですけど、他の国も侵攻を食い止めているわけですし……」

「でも、ねぷねぷ頑張ったですぅ」

「まあ、その成果が出たと考えてもいいかもね」

「そう!やっとみんながプラネテューヌの魅力に気付いたってことだよ!あ、でもそんなことより!」

 

ゴソゴソと懐から大きな紙を取り出すネプテューヌ。それを開くと、そこには遊園地の風景が描かれていた。

 

「みんなへのお礼ってことで!教会を一般開放して、祭りだよ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ラステイションの教会、そのベランダに4人の女神とミズキが集まっていた。

 

「そういうわけで!みんなにも来て欲しいの!」

「仕事もあると思うんだけど、来てくれると嬉しいなって」

 

ネプテューヌがチケットを広げる。

だが、他の女神はあまり乗り気ではないようだ。

 

「私は無理よ。シェアが減少しているのに、遊んでなんかいられないわ」

「え〜っ!」

「そんなくだらないことで呼ばないで。それじゃ、私は仕事があるから」

 

ブランが変身して飛ぼうとするのをミズキが止める。

 

「ブラン」

「……んだよ」

「また今度、落ち着いたらまた遊びに行っていいかな?」

「……好きにしろよ」

 

口をへの字に曲げてブランが飛んで行ってしまった。

 

「…………」

「ナイスフォローですわよ、ミズキ様」

「怒ってるというか……機嫌が悪いというか、焦っているというか。そんな感じだったからさ」

「シェアがプラネテューヌに負けたことを余程悔しく思ってるのよ。あんないきなり抜かれちゃ、私だってたまったもんじゃないわ」

 

ノワールもやれやれと言った風に首を振る。

 

「ま、すぐに追い越すけどね」

「クスクス、ネプテューヌも負けられないね」

「私も、帰らせていただきますわ。リーンボックスも、やはりシェアが減少傾向にありますので」

「出演を依頼してる、5pb.ちゃんは?」

「あの日はもともと私と番組に出演する予定ですの。申し訳ありませんわね」

「ううん。5pb.にもよろしくね」

「ええ。伝えておきますわ」

 

ベールも変身して飛んで行ってしまう。

 

「ノワールも、やっぱり無理かな?」

「ええ。見てなさい、すぐに追い越すんだから」

「……うん。でも、偶然、もしかしたら、暇になったら来てね!」

 

ネプテューヌがノワールの手に強引にチケットを握らせた。

そしてネプテューヌも変身する。

 

「ミズキは少しここに残るんでしょ?」

「うん。夜までには帰るよ」

「え?なにそれ聞いてないんだけど⁉︎」

「あれ?ネプテューヌから連絡したって……」

 

ミズキがノワールの方を向くとネプテューヌが意地悪そうな顔でこちらを見ていた。

 

(は、ハメたわね〜!)

「?」

「それじゃあね。私も準備で忙しいから!忙しいから!どうしても帰らなきゃいけないから!名残惜しいけど!」

「ア、ン、タ、ね〜っ!」

「怖い怖い。それじゃあね」

 

手を振ってネプテューヌは飛んで行ってしまった。

 

「クスクス、それじゃあ理由から説明したほうがいいかな?」

「……お願いするわ」

「実は、エディンが使ってたシェアを供給する装置を見たくって。ノワールがもう調査を始めてるって聞いてるけど、僕の手でも調べたいんだ」

「まあ、それは構わないけど……まだわからない部分ばかりよ?」

「いいからいいから。僕が満足したいだけだからさ」

 

クスクスと笑う。

ノワールはミズキを研究室へと連れて行ったのだった。

 

 

 

 

「……データ、見せてもらっていいかな?」

「ええ。わかったことがあったら教えて?」

 

ノワールに許可を取ってから書類を眺める。

と言ってもほとんど中身がないような書類なのだが。

プルルートが巨大な電撃球をぶつけても少し焦げる程度の耐久力。そしてシェアを集める未知の機能。

 

「何かわかった?」

「ううん、何もわからないや」

 

あっけらかんとした顔でそんなことを言うミズキ。ノワールは思わずずっこけそうになってしまった。

 

「でも、もしかしたら別次元の技術なのかもしれないね」

「その可能性はあるわね。アナタ然り、ピーシェ然り。それに、写真があったって聞いたけど」

「ああ、これだね」

 

ミズキが懐からボロボロの写真を取り出してノワールに見せた。

 

「……楽しそうね」

「うん。……その写真を持ってるってことは、十中八九『子供たち』の誰かがこの次元にいるってことだと思うんだ」

「それって……!もしかして、死んだと思ってた人が……!」

「うん。もしかしたら、生きていてくれてるかもしれない。でも、そうだとしたらその人は何故強化人間の技術なんて……」

 

謎ばかりだ。結局、エディンとの戦争が終わってもわからないことが多い。一件落着のようで残された課題は多いのだ。

 

「そうだ、アノネデスは何か知らないの?」

「………その名前はあまり聞きなくないわね」

「クスクス、あんなことがあったからね。でも、アノネデスも指示通りに動いてただけなんだっけ……」

「ええ。そもそも捕まえた時に黒幕のことは何も知らないと言っているしね。黒幕を捕まえるまでは、本当に終わったとは言えないわ」

 

2人は険しい表情で装置を見る。

ミズキは一抹の不安を感じていた。

アンチクリスタル。強化人間の技術。ピーシェの人格の変化。戦争。裏切り。洗脳。

ビフロンスを思い出す。

ミズキの次元を壊した張本人にして、自らも壊れた次元にいながらもその身の絶望をアンチクリスタルとしてゲイムギョウ界に召喚された魔女。

彼女は壊れた次元に放り込まれたのだ、いくらほとんど不死の体とは言っても次元の崩壊に勝てるはずはない。だから死んだはずなのだ。

ならば、ゲイムギョウ界で起こっている一連の騒動はビフロンスの遺志を継ぐ者の仕業か……?

 

「ミズキ?」

「え?ああ、ごめん、考え事してた」

「はぁ。困ったらちゃんと相談しなさいよ?私はミズキと一緒に戦うって決めたんだから」

「うん、ありがと。それじゃ僕はそろそろプラネテューヌに戻るね」

「ええ。またね、ミズキ」

「うん、またね」

 

ノワールと別れてプラネテューヌへと飛び立つ。

 

「………あ、また目撃されちゃうかもなあ」

 

ミズキは心持ち上空を飛んだ。




ぬぅぅぅわぁぁぁぁんテストが始まりそうだもぉぉぉん!
テストが始まるまでに休暇にしたいっすね〜…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

広がる亀裂

ミズキ子供に大人気。カリスマ性S(子供に限る)的な。


 

イベントは大盛況。本当に大盛況で大成功だ。

教会の一部を一般公開してそこに遊具や屋台を設置、老若男女問わずたくさんの人々が集まった。

それで、ミズキは。

 

「ね〜え〜、次輪投げしよ〜!」

「輪投げ?いいよ、行こっか」

「え〜!私観覧車乗りたい〜!」

「よ〜し、じゃあ輪投げ終わったら乗ろうか」

 

子供をあやしていた。

一応親も近くにいるのだが……親が子と過ごしてきた時間が信じられなくなるくらいミズキになついている。

 

「うぇぇ〜ん!おかあさ〜ん!」

「よしよし、迷子かな?僕も一緒に探すから、泣かないで」

「ぐすっ、ひぐっ……」

「ミズキさん大人気だね、お姉ちゃん……」

「なんか、ここまでくると魔術レベルだよね」

 

呪いか何かをかけられたのではないだろうか。

 

「ほら坊や、そろそろ帰るわよ」

「え〜!もっとお兄ちゃんと遊びたい〜!」

「ワガママ言っちゃダメだよ。その代わり、教会に来たらいつでも遊んであげるから」

「うん……」

「心なしかシェアが上がってる気がするよ」

「どっちかと言うとミズキさんが神様になっちゃいそう……」

 

仏レベルである。後光が差して見える。

実際アブネスには後光が差して見えるようだった。

 

「ああ!なんてこと!ここまで幼年幼女に愛される存在がいただなんて……!」

「本当に宗教になっちゃうよ、これ!」

 

アブネスは手を合わせてナンマンダブナンマンダブとミズキを崇めている。

するとネプテューヌの端末が着信の音を鳴らした。

 

「ん、電話だ。もしもし〜?ブラン?やっぱり来てくれーーーえ?」

 

ブランから一方的に用件を告げられて電話が切れる。

 

「どうしたの、お姉ちゃん?」

「ううん、少し行ってくる。すぐ戻るから、ここをお願いできる?」

「うん、任せてお姉ちゃん!」

「それじゃ、行ってくるね!」

 

ネプテューヌが変身して外へ飛び立っていった。

 

「…………?」

 

ミズキがそれを不思議そうに見ていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「もう、今日は私だって忙しいのに……」

 

ネプテューヌがルウィーに近い山へと到着した。

 

「ブラン⁉︎どこ⁉︎来たわよ、ブラン⁉︎」

 

大声でブランの名を呼ぶが返事がない。自分で呼んでおいて遅刻かと責めたくなった矢先、上から気配がした!

 

「っ⁉︎」

「オラァッ!」

「きゃあっ!」

 

突如現れたブランが斧を叩きつけてきた。太刀で受け止めたが吹き飛ばされてしまった。

 

「ブラン、何をするの⁉︎」

「ネプテューヌ、シェアを渡してもらうぞ!」

「なんですって⁉︎」

 

また斧で切りつけてくるブラン。太刀で受け止めて間合いを取る。

 

「待ってブラン!条約で武力によるシェアの奪い合いは禁止されているわ!」

「じゃあ騙し取るのはいいってのかよ!」

「騙し取る⁉︎なんのことよ!」

「白々しいんだよ、ネプテューヌ!」

「っ!」

 

《やめてっ!》

 

「なにっ⁉︎」

《うわあっ!》

 

再び切り掛かったブランとネプテューヌの間にウイングへと変身したミズキが立ちふさがった。

盾で受け止めたが、ブランの勢いが止められず吹き飛ばされる。ネプテューヌがウイングを受け止めた。

 

「ミズキ、大丈夫⁉︎」

《うん、なんともないよ》

 

すぐにウイングがネプテューヌから離れてブランの前に立ちはだかる。

 

《待って、ブラン!一体ネプテューヌがなにをしたっていうの⁉︎》

「ミズキ、お前もつるんでるのか⁉︎」

《僕が信じられないって言うなら、ここで切り伏せればいい!》

 

ウイングが両手を広げた。

ブランは振り上げた斧を下ろす。

 

「………各国のシェアの動きを調べた。すると驚きだ、各国のシェアが減った分プラネテューヌのシェアが上がってるじゃねえか」

《プラネテューヌ……つまりネプテューヌがシェアを3国から奪い取っているって言いたいんだね?》

「そうだ。ネプテューヌじゃないならイストワールか、ネプギアか……!」

「待って、そんなことありえないわ!そもそも他国のシェアを奪うだなんて、そんなこと……!」

「だが、誰かがやってるんだ!」

《2人とも待って!武力じゃ何も解決しない!》

 

一触即発の2人を懸命になだめる。

 

《確かに、僕もプラネテューヌのシェアの急激な上昇は不自然だと思う。君達の国のシェアの下降もだ》

「だったら!」

《だけど、僕はみんなを信じてる。少なくとも、シェアを奪うなんて卑怯な真似はしないはずだ。そんなのは、ネプテューヌの望む国じゃない》

「ネプテューヌの味方をするっていうのか⁉︎」

《僕はみんなの味方でいたい。だから、この現象の謎を解明してブラン達のシェアも回復させるし、ネプテューヌの潔白も証明するつもりだ》

 

ウイングは警戒を解いて両手を下ろす。

 

《その調査は第三者の僕が請け負う。異論はある?》

「……ないわ」

「……ねえよ」

《ありがとう。ブラン、まずは君の言ってることの証拠を見せて》

「……わかった。ルウィーに案内する」

「ミズキ、でも」

《心配しないで、ネプテューヌ。君は一旦戻って感謝祭に参加すべきだ》

「ミズキ……」

《行ってくるね》

 

ウイングは変形し、ブランについて行く。

ネプテューヌはその場に漂いながらルウィーへと飛んでいく2人を見ていた。

 

「何が起こっているの……?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキはルウィーに着いてブランからプラネテューヌに他国のシェアが流れ込んでいるデータの書類を見せてもらった。

 

「うん、確かに。各国のシェアが奪われているようだ……」

「でしょう?」

「だけどブラン。わだかまりは抜きにして、そんなことが可能なの?」

「……無理なはずよ。でも、エディンとの戦争にはシェアを集める機械があった」

「うん。でもアレはプルルートが壊したし、今はラステイションにある。ノワールを疑うわけじゃないけど、今もシェアが吸われているとするなら怪しいのはラステイションじゃない?」

「……けど、プラネテューヌが新たにその機械を開発した可能性もある」

「…………」

 

腕を組んで考える。

なんらかの手段で黒幕がシェアを吸う機械を開発したとして、プラネテューヌに集めるのは何故だ?狂信者などの仕業なのか……?

 

「……僕なら。仮に僕が君達のシェアをプラネテューヌに移そうとするなら、もっと緩やかにやるよ。でも、これはさすがに急すぎる」

「……急がなければならない理由があったって言いたいの?」

「もしくは、バレてもいいと考えているか」

「………つまり?」

「君達を意図的に仲間割れさせようとしたか……。もしくは、バレたとしてもどうしようもないとか。僕は前者の可能性が高いと思う」

「筋は通っているわ。こうして私はネプテューヌに不信感を抱いたわけだし……」

「それならプラネテューヌにシェアを集めたのも納得できる。シェア保有最下位の国なら、尚更不信感を煽れる……」

 

書類の数字を見て考える。なら、犯人は?

 

「……ラスティションに行こう、ブラン」

「え、あ、ちょっと……」

 

ブランの手を引いて外へと向かう。

 

「アノネデスに会いに行く。一応、レイにも聞くつもりだけど……彼女はプラネテューヌにいるしね。それに、アノネデスの方が何か知っている可能性が高い……」

「わ、わかったから、手を、離して……」

 

ブランの消え入りそうな声はミズキには届いていなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、ノワールがラステイションの監獄へと足を運んでいた。

門番がいる厳重に警備された扉を開いて中に入ると空中に浮かぶ透明な球体の中に閉じ込められたアノネデスがいた。

 

「あら、ノワールちゃん。久しぶりね」

「よく言うわよ。この厳重警備の中、私にメールを送ってきたりして」

 

ノワールが呆れた顔をする。

 

「うふ、どうしてもノワールちゃんとガールズトークしたくって」

「言いたいことがあるなら早く言いなさい。私、暇じゃないんだから」

 

まだシェアは下降傾向にあるのだ。早く取り返さなければならない。

 

「あらあら、せっかちねえ。そんなんだと、友達無くすわよ?」

「………早く言いなさ……!……え?」

 

ノワールが声を荒げようとすると門番の1人が中に入ってきた。

ノワールにそっと耳打ちすると、ノワールも耳打ちを返した。

 

「あら、どうかした?」

「……アナタにお客様よ」

 

ノワールがはあ、と溜息をつくとドアが開かれる。そこにはミズキとブランが立っていた。

 

「あらあら……」

「……君に、聞きたいことがある」




事実確認、ブチ切れ→ミズキになだめられて落ち着く→手を握られて赤面=単純、と…。(((テンツェリントロンベ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ビフロンス、復活

あと少し、このまま勢いに乗って突っ走りましょう。


ミズキとブランが歩を進めてアノネデスへと近付く。ブランはノワールの隣で止まるが、ミズキはもう少し前に出た。

 

(ちょっと、なんでアンタまで一緒にいるのよ)

(……成り行き、としか)

(どういう成り行きでオカマの戦犯のところに一緒に訪ねに行くみたいなことになるわけ⁉︎)

(……私もわからなくなってきた)

 

ノワールとブランは一緒に頭を抱えた。

だがミズキは真剣な瞳でアノネデスを見据えた。

 

「アノネデス、君が知っていることを教えてくれない?今、他国のシェアがプラネテューヌに吸われていてーーー」

「ああ、それね。それなら今ノワールちゃんに言おうとしてたとこ。ちょうどいいからアナタ達にも話してあげる」

「シェアが吸われた⁉︎ちょっと、それってどういうーーー!」

「まあまあ、ノワールちゃん。まずはアタシの話を聞いて?」

 

アノネデスが足を組み替えた。

 

「実はね、ここ最近アタシ暇だったじゃない?だから、クライアントについて調べてたの」

「君に指示を下していた、という人のことだね」

「ええ、そうよ。そしたらとんでもない人の名前が出てきてねえ……」

「………誰、その人」

「キセイジョウ・レイ。またの名を……

 

『ビフロンス』

 

と言うわね」

 

「ーーーーッ!」

 

ミズキが息を飲む。そして膝はガクガクと震え、崩れ落ちた。

 

「ミズキ⁉︎」

「どうしたの、ミズキ……!」

「あ、あ………!ビフロンス……っ!」

 

体を抱えてブルブルと震えるミズキにノワールとブランが走り寄る。

 

「プラネテューヌにシェアが集まってるって言ったわよね?確か、彼女が投獄されているのもプラネテューヌ……。もしかして、プラネテューヌの女神様……危ないんじゃない?」

「っ!」

 

ミズキがバッと顔を上げる。

 

「……っ、僕が行くしか……っ、ないっ!」

 

ミズキが駆け出そうとするがそれを2人が止めた。

 

「待ちなさい!アナタ、また1人で戦う気⁉︎」

「私達のこと、信用できないの……⁉︎」

「……っ、僕、はっ……!今回ばかりは、一緒に来てくれって、言えない……!」

 

ミズキの瞳は動揺に震えている。口も戦慄いて、まるでとてつもない恐れに囚われてしまったようだ。

 

「ノワール、ブラン……!怖い、怖いんだ……っ!君達を、失いたくはないよ……!」

 

ミズキが2人を抱き締めた。

そこからミズキの震えが伝わってくる。2人は仮にも恋慕を抱いた相手に抱き締められたというのに、一片の嬉しさもなかった。

ミズキの震えから、恐れと悲しみが伝わってくるからだ。

 

「っ、ごめん……!」

 

ミズキはドアを開いて走って行ってしまった。

ノワールとブランはそこに立ち尽くすだけだ。

 

「ミズキ………」

「どういう、ことなの⁉︎アノネデス、説明しなさい!」

「ん〜?アタシもねぇ、あんまり大したことはわかってないの。でも……」

 

アノネデスが頬に指を当てるような仕草をする。

 

「アンチクリスタルの元凶で……強化人間の技術を提供し……他人を操る瘴気をアタシに送りつけ……モンスターをも操る機械もアタシに送りつけた。そしてシェアを集める機械を作れたのなら……シェアを奪う機械だって、作れるんじゃないかしら?」

「……何者よ、そいつ……!」

「……天才、じゃないかしら?」

 

アノネデスは鋼鉄の仮面の下でほんの少しだけ微笑んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その頃、プラネテューヌではアイエフがイストワールの部屋に入って来ていた。隣には大きく輝くシェアクリスタルがある。

 

「私が、挨拶を……ですか?」

「はい。ネプ子が何処か行ったっきり帰って来なくって……代わりに頼めないでしょうか」

「ええ、構いませんよ。構いません、よ?」

「?なんですか、今の間は?」

「い、いえなんでもありません。んんっ」

 

咳払いをして自分を落ち着ける。

ずっと前から考え込んで、今日やっとジャックへの答えを決めたのだ。

本番は夜、ジャックを誘って酒を飲みながらその答えを伝えるだけ……だがイストワールはとても平然とできる気がしなかった。

そのために精神統一に関する情報を片っ端から漁りに漁って今は『アニ○で分かる心療内科』を見ていたところだった。

しかしこの程度で心乱される程度ではまだまだらしい。

腕試しというか精神統一試しに大衆の前で話をするとしよう。

と、思って部屋を出ようとすると後方のシェアクリスタルがさらに眩く輝き始めた。

 

「な、なに⁉︎」

「これは……⁉︎」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌの大地が隆起した。

ビルは倒壊し、道路はひび割れ、大陸が空中へと浮かんでいく。

暗雲がプラネテューヌを覆い尽くした。

そしてそれと同時にプラネテューヌの監獄は爆散した。

 

「…………すぅ〜……ああ、戦乱の香りがするわ……」

 

その瓦礫の中に立っていたのはキセイジョウ・レイ。

レイは自分の体を動かして骨を鳴らす。

 

「うん、うん。これで何とかなるかな。ヒヒッ」

 

その手には赤黒い瘴気が渦巻く。

 

「変身!」

 

その瘴気がレイを包み込む。

水色だったレイの髪は赤黒く染まり、体をスーツと装甲が覆う。翼のようなプロセッサユニットを装備した姿が、レイの変身した姿だ。

 

「長かった……。長かった……本当に。これで、やっと世界を平和に導ける……」

 

ふわりと空中に舞い上がって空中に浮遊する大陸の前で止まった。

 

「あ〜、あ〜、マイテス、マイクテスト〜。世界のみなさ〜ん、聞こえるでしょうか〜。ブラジルの人、聞こえますか〜!」

 

突如、世界中の電波がジャックされた。

世界のテレビというテレビ、ラジオというラジオ、形態という携帯、電子機器という電子機器にレイの声と映像が届く。

 

「私は新たな女神、ビフロンスです。私は争いをする気はありません。私は世界の平和を求めています。皆が争わずに、誰も死なない世界を……」

 

ビフロンスは悲痛に訴えるような声と顔で世界中へと訴えかけた。電波ジャックで狼狽えていた人達が安心しかけた瞬間、次の一言で凍りつく。

 

「というわけで。この巨大な大陸、ありますね?これは……てってれ〜!地球破壊爆弾〜!です!」

 

世界が声を失った瞬間だった。

 

「私は絶望による平和を求めます!みんな絶望すれば争いなんてする気はなくなるよね!そして私は恒久的な平和なんて無理だと思ってます!なので〜……あと〜、ん〜、どうしよう……1時間後!この爆弾は爆発しま〜すっ!」

 

キラッと星が散るようなウィンクで世界にそう告げるビフロンス。

だが瞬間、世界は大パニックに陥った。

 

「この爆弾が爆発する寸前……みんなが絶望して何もかもが嫌になった瞬間に、ほんの一瞬に……平和は訪れます!というわけでみんな!平和のために死んで?」

 

そうビフロンスが告げると世界中は電波ジャックから解放された。

 

「っ、アナタ、何者よ⁉︎」

「ん、あ〜、お久しブリーフ」

 

ビフロンスの前に戻ってきたネプテューヌが立ちはだかった。

そのネプテューヌにビフロンスはまるで友達にあったような顔で手を振る。

 

「アナタ、キセイジョウ・レイ……いや、違うわね」

「こう言えばわかるかな?んんっ……お姉ちゃん!」

「っ、アナタ!」

「ご名答!こんにちは、ビフロンスです!」

 

ぺこりとビフロンスは頭を下げる。

全ての行動が、まるでふざけているようにしか見えない。

 

「アナタ、何が目的よ!こんなデマ流して、世界を混乱させて!」

「デマじゃないわよ、本当よ?本当の本当にこの爆弾は1時間後にこの星を割るのよ?」

「っ、デタラメを!」

「だから、デタラメじゃないって。ん〜、どうすれば信じてもらえるかな〜」

 

ビフロンスは顎に手を当ててくるりくるりと宙返りして考える。

いや、本当は考えていないのだ。天才の彼女はこの程度のこと、考える必要がない。ただ考えているふりをしているだけ。

 

「あ!そうだ……。あのね、ここにミズキって人いるでしょ?」

「アナタ、なんでミズキを!」

「ミズキの次元滅ぼしたの……私よ?」

「………っ!」

 

ビフロンスがニヤリと冷たい笑みを浮かべた。その笑顔にネプテューヌはまるで体の底から凍ってしまうような薄ら寒さを覚えた。

 

「ん〜ふふふ、やっとのことで私から逃げられたのにねえ……また壊されちゃうなんて、運が悪い〜!いや、ある意味運が良い〜!」

「そうはさせないわ!この世界は、わたしが守る!」

「うん、いい決意だね。でも、私も平和のために譲れないものがある!」

 

ビフロンスが片手をあげると空中に浮いた大陸から巨大なビーム砲が姿を現した。

ビフロンスの前にはモニターが現れてそれに高速で文字を打ち込んでいく。

 

「キャリブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定……擬似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結……ニュートラルリンゲージ・ネットワーク再構築して〜、メタ運動野パラメータ更新、フィートフォワード制御再起動、伝達関数……うん、コリオリ偏差修正、運動ルーチン接続、システムオンライン、ブートストラップ起動!」

 

ビフロンスがそう言いつつタップを終えるとビーム砲はその砲口を大きく開いた。

 

「じゃじゃ〜ん!すぅぱぁびぃむ砲!」

「……私を脅したって無駄よ!」

「ん〜?最初からキミを狙う気はないよ?」

 

ビーム砲は砲塔を旋回させて……教会へと狙いを定めた。

 

「っ⁉︎」

「ご〜、よ〜ん」

「やめなさい!」

「さ〜ん、ぜろ」

 

ネプテューヌがビーム砲の前に立ち塞がろうとしたが遅かった。

ビームは教会をなぎ払い、後方の街ごと教会を真っ二つに割った。

 

「はい、動かない。これ以上動いたらもう1回撃ち抜くよ?」

「……っ、アナタはっ!」

「アナタも平和のために協力してもらわなきゃ。私は諦めないよ?」

「そんな言葉、アナタが言う資格なんてないっ!」

「そうかな?例え道が間違っていたとしても……平和を求める心自体は尊いものだと思わない?」

「アナタは、平和なんて求めてない!」

「私は最初っから最後まで平和を求めてる。……アナタもそうでしょ?」

「っ、一緒にしないでぇっ!」

 

ネプテューヌが声を荒げる。

だがビフロンスはほんの少し微笑んでいるだけだ。

 

「私だって殺したくないもん!できれば殺したくない……けど、私には覚悟がある!平和のためなら、大量殺人犯になる覚悟だって……!」

「そんな、綺麗な言葉!嘘くさいのよ!」

「嘘じゃない!心の底からの言葉……だから、信じて!私を信じて、失望して?」

「っ、そんなことしないわ!守りきってみせる、みんな!」

 

ネプテューヌはビフロンスへと飛び立った。

ビフロンスは手に金属の鎌を召喚してそれを受け止めた。

 

「っ、なるほど。これじゃ私もびぃむ砲を操作できないもんね。うん、凄い凄い。思いつかなかった……」

「戯言っ!」

「でも、私は負けられない!世界の平和のためにも!」

「言わないでっ!」

「おいで、擬似ファンネル!」

「っ⁉︎」

 

ビフロンスの周りに赤黒い結晶で出来た刃が4本現れた。

それが発射されて防御魔法に当たって反射、ネプテューヌへと向かう。

 

「くっ、あの技を……!」

 

ネプテューヌが間合いを取った。

 

「擬似ファンネル、私に従え!」

「くっ、この程度なら!」

 

だが擬似ファンネルにはピーシェの体に取り憑いた時ほどのスピードがない。

ネプテューヌは難なくそれを避けるが、ビフロンスはさらに4つの赤黒い結晶の刃を召喚した。

 

「擬似ファンネル、やれるね?」

「っ、なにを⁉︎」

「気付いた?この射線上に……教会がある。アナタは受け止めるしかない……」

「まさか⁉︎」

「そう、そのまさか」

 

4つの擬似ファンネルは集合するとその中央にエネルギーがスパークする。

 

「くっ!」

 

ネプテューヌが防御魔法を展開してビームに備える。

 

「結晶化光線」

「きゃああああああっ!」

 

そこから発射された極太のビームがネプテューヌを襲う。

 

「ぐぐ、くっ、あっ!ああっ………!」

 

ネプテューヌが懸命にほんの少し防御魔法の角度を変えてビームのほとんどが教会を逸れて飛んでいく。

だがネプテューヌはその限りではない。

 

「あの時はできなかったから……今回はやろうね」

「………………」

 

ビームの照射が終わった時、ネプテューヌは磔にされて透明な結晶の中に閉じ込められていた。

 

「そうれっ」

 

ビフロンスが腕を振るとネプテューヌを閉じ込めた結晶が空中に浮いた大陸に固定された。

 

「磔遊び。アナタはどれだけ耐えられるかな?」

「………………」

 




ごちゃごちゃ言ってるのはストライク起動のセリフです。ビーム砲はストライクだった…?

ビフロンスは本当にただ平和を求めています。ただ平和は恒久的に存在するものではなくほんの一瞬のみ存在して、皆が絶望して生きる気力を無くした時にこそ、この世から争いがなくなると主張しています。ビフロンスはその絶望の手段にミズキの時は次元破壊爆弾、今回は地球破壊爆弾を使っています。
天才です。ええ。超弩級で。ただし、バカと天才は紙一重と言うようにビフロンスは知識はあってもそれしかありません。その時その時の状況判断とか知識じゃないものは苦手。常人並。ただし計算はできるという。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奮戦

ネプテューヌ瞬殺。この小者感。
この章は早く終わるかも。前回が長すぎだんだっつうの。


撃ち抜かれた教会の上部は崩壊を始めていた。

祭りの会場となっていた場所にも鉄骨や天井の破片が落ちてきていた。

 

「みなさん、落ち着いて避難してください!」

「公園に向かうですぅ!」

 

ネプギアとコンパが懸命に破片から国民を守りつつ安全な場所へと誘導する。

 

「みんな避難したですか⁉︎」

「はい!もう誰も……っ!アイエフさんと、イストワールさん!ジャックさんも!」

「ど、どこに行ったですか⁉︎」

 

コンパとネプギアが周りを見渡すと階段を下ってくるアイエフとイストワールが見えた。

 

「アイエフさん!イストワールさん!」

「ジャックさんは、何処ですか⁉︎」

「ジャック⁉︎見てないわ、何処に行ったの⁉︎」

「そういえば、今日は部屋にいるって言ってました!」

「じゃあ、まだ逃げ遅れて……⁉︎」

 

イストワールの顔から血の気が引く。

 

「ジャックさん!ジャックさん!」

「待ってください、イストワール様!危険です!」

「ですけど……!」

「俺なら心配はいらない!」

「ジャックさん!」

 

上の階からジャックが降下してくる。

 

「急げ、避難しろ!ビフロンスが来たのだろう……⁉︎」

「ビフロンスって誰よ!」

「俺達の次元を壊した張本人……奴は悪魔だ!すぐに各国と連絡を取って倒さなければならん!」

「でも、連絡ができないのよ!」

 

アイエフとイストワールはここに来るまでに何度も各国に電話をかけていた。だがただの一度として通じない。電波も完全に掌握されているのだ。

つまり、各国に救援が頼めない。

 

「わかっている!それを俺がやるのだ……!」

「何をする気ですか⁉︎」

「地下へ。プラネテューヌが保有するスーパーコンピューターと直結して、奴のハックを打ち破る!」

「そんな、危険です!」

「いいからお前達は先に避難しろ!」

「ジャックさんっ!」

 

ジャックは地下へと向かって降下していく。

イストワールはそれを追おうとするが、みんなに止められた。

 

「イストワール様、ダメですぅ!」

「でも、ジャックさんは!」

「地下ならまだ安全です、ここは彼に任せましょう!」

「ですけど、撃ち抜かれない保証なんて!」

「行きましょう、イストワール様!ジャックは必ず帰って来ます!」

 

そうだ、まだ答えも言い渡していないのだ。

ジャックはまだ、答えを受け取っていないのだ。

だから、死なれたら困る……!ジャックだってそうだ、だから、きっと……!

 

「……わかりました。急ぎましょう!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギア達が外に出るとさっきまで笑顔にあふれていたプラネテューヌから一転、泣き声がこだまする場所へと変わってしまっていた。

ネプギア達の誘導で公園に向かっているものの、怪我人や迷子は未だその場に留まってしまっている。

上空ではビフロンスとネプテューヌが戦っている。

 

「お姉ちゃんを助けなきゃ……!」

「待って、ネプギア!避難させるのが先よ!」

「でも…っ……!」

 

ネプギアは上空で戦っているネプテューヌを見る。一刻も早く助けに行きたいが、今は……!

 

「こちらです!公園へ向かってください!怪我人は運びます!」

 

怪我人や迷子を公園へと連れていく。

これで少なくとも周りに人はいなくなったはずだ。まだコンパが治療をしているし、迷子は親を探しているがすぐに見つかるだろう。

一安心していると国民の1人が悲鳴をあげた。

 

「パープルハート様が!」

「え⁉︎」

 

ネプギアがその声につられて上空を見るとそこにはビームを浴びているネプテューヌの姿があった。

 

「お姉ちゃんっ!」

 

ネプテューヌは結晶の中に磔にされ、爆弾に固定された。

それを見た国民が絶望する声を上げている。

するとビフロンスはビーム砲の砲口を避難している人達が集合している公園へと向けた。

 

「ん〜、あそこ。目が覚めた時たくさん国民が死んでたらショックだもんね」

 

ビーム砲にエネルギーがスパークし始める。

国民達は逃げ惑うが間に合わない。おそらく、この一帯は……!

 

「発射」

 

ビフロンスが手を振るとビーム砲から極太のビームが公園に向かって照射された。

ネプギアが諦めかけて目を閉じた、その瞬間。

 

 

ーーーー『MAIN TITLE』

 

 

《フィン・ファンネル!》

 

ビームとの間にコの字型のファンネルが6基入り込み、ファンネルとファンネル同士がビームの膜を張る。

それに阻まれてビームは弾け飛んだ。

 

「おっ」

《っ、くっ!お前、お前……!》

 

ネプギア達の前に新たなガンダムが舞い降りた。

名はν(ニュー)ガンダム。純白の装甲に身を包む、ニュータイプ専用のガンダムだ。

νは背中にフィンファンネルを収納してビフロンスを見据えた。そして次に視線はビフロンスに囚われたネプテューヌへと向かう。

 

《ビフロンスゥゥッ!よくも、よくもッ!》

「いらっしゃい、ミズキちゃん。アナタが来たなら……私もちょっと本気にならなきゃね」

 

ビフロンスが髪をかきあげるとそこには先程までのふざけた雰囲気はなくなる。

ただ冷たい瞳でνを見つめていた。

 

《ネプテューヌを返せっ!》

「大丈夫、死んではないわよ。アナタとの決戦に邪魔だったから閉じ込めただけ」

《決戦なんて、バカなこと!》

「あら、本気よ本気。前回私はアナタ達に負けた……。敗北は、乗り越えなきゃ」

《相変わらず、綺麗な言葉をッ!》

 

νが大空へと羽ばたいてビフロンスに向かった。

 

「わ、私も戦います!変身……っ⁉︎」

 

ネプギアが変身したが、力が抜けてその場に膝をつく。

 

「ネプギア⁉︎」

「まさか……!アイエフさん、シェアクリスタルは……⁉︎」

 

アイエフが懐からシェアクリスタルを取り出す。だがシェアクリスタルはさっきまでの輝きはどこへ行ったのか、錆び付いたように濁ってしまっていた。

 

「そんな、シェアが!」

「まさか、吸われて……!」

 

イストワールが空に浮かぶ爆弾を見るとその下部に大きく光を放つモノを見た。

間違いない、あの輝きはシェアクリスタルだ。

 

「ネプギアさん、変身を解いた方がいいです。消耗が激しくなります!」

「でも……!」

「今はミズキさん以外戦えません。彼に託すしか……!」

 

《行くよ、フィンファンネル!》

「擬似ファンネル、向かえ!」

 

νの背から6基のフィンファンネルが射出されてコの字型に変形して飛んで行く。

ビフロンスの周りには赤黒い結晶が6つ現れて反射して飛んで行く。

 

《何故、お前が今更!お前はあの次元の崩壊に巻き込まれて、死んだはずだ!》

「アナタ達が開いたゲートのおかげよ?次元が不安定な状態であんなゲートを開いたら、そりゃ異常も起こるわよ。結果、私の想いが結晶というカタチでこの次元に召喚された……」

《だったらもう1度倒すまでだよ!》

「できるかしら?1人ぼっちのアナタに!」

 

擬似ファンネルはνへと向かって行くがそのことごとくはνのビームライフルやフィンファンネルに撃ち落とされる。

 

《なんでみんなを弄んだんだ!どうしてみんなを傷つけた!》

「仕方ないじゃない。最初はエディンに国を作ってそのシェアで蘇るつもりだったのよ?事実私はあの黄色い子にも取り憑いた……」

 

だが擬似ファンネルはビフロンスの号令により、いくらでも増えて行く。

それをνは片っ端から撃ち落とす。

 

「この子が私を拾ったのが始まり。そして私はこの子に取り憑いて……今や完全に掌握した」

《何故、シェアを奪う⁉︎》

「私が復活するのに必要だったからよ。そして私が顕現することにもシェアは必要なの」

《不完全なお前なんて!》

「事実、私は不完成。あの時ほどの力はないけど……それでもアナタ、私に勝てる?」

《勝つ!僕は今日、君の呪縛を断ち切るんだ!》

 

フィンファンネルの集中砲火がビフロンスへと向かう。

だがビフロンスの目の前でそのビームは湾曲して彼方へと飛んで行く。

 

「次元フィールド。アナタの攻撃は私に届かない」

《届く届かないじゃない!届かせるんだ!》

「ホーミングレーザー」

 

ビフロンスの手から無数の細いビームがνに襲いかかる。

νはそれを避けるがビームは湾曲してνをどこまでも追って行く。

 

《あの歪みの応用⁉︎それでも、逃げながらでも!》

 

νの背中のバズーカが引き金を引かずともビフロンスへと弾を打ち出す。

だがその弾頭もビームに撃ち抜かれて爆発した。

 

《くっ、追いつかれる……っ!》

 

ビームの何本かはνに追いついて蛇のようにνの体を貫こうとする。νは盾でそれを受けるが、背中から回り込んでビームがやってきた。

 

《っ!》

「落ちなさい!」

 

振り向いたνだったが次の瞬間、大爆発が起こった。

その爆発の中にνは巻き込まれる。

 

「やった……?いえ、まだね!」

《うおおおおおっ!》

 

爆発の煙の中からνが現れる。

先ほどの爆発はダミーの爆発だったのだ。

 

「甘い、ホーミングレーザー!」

《君がたとえ、無敵のフィールドを持っていたとしても!》

 

フィンファンネルがνの周りへと集まり、四角錐のバリアを形成してνを覆い尽くした。先程のビーム砲も防いでみせたフィンファンネルバリアだ。

 

《それは、僕だって変わらない!》

 

ホーミングレーザーはことごとくνに特攻を試みるが、全てバリアで散らされる。

 

「小賢しい!」

《フィールド、干渉できるか⁉︎》

 

νのフィンファンネルバリアとビフロンスの次元フィールドがぶつかり合う。

スパークするフィールド同士。

だがビフロンスは一瞬でバリアの弱点を見抜いていた。

 

「擬似ファンネル!」

《っ、くそっ!》

 

フィンファンネルバリアはビームしか防げない。実体弾の防御は不可能なのだ。

ビフロンスの周りに現れたファンネルを避けるためにνを一旦退く。

 

その戦いの様子をネプギア達は地上から見ていた。

 

「こんな時に、戦えないなんて……!」

「ちょっと、アンタどいて!そこが1番いいアングルなの!」

 

ネプギアが悔やんでいると避難し終わったアブネスか三脚を設置して上にカメラを乗せた。

 

「アブネスさん、何を⁉︎」

「決まってるじゃない!この戦いを世界に広げるのよ!ガンダムが、頑張ってるんでしょ⁉︎」

「でも、今ネットワークは……!」

「じゃあ直接フィルムに焼き付けて私が見せに行くわよ!」

 

アブネスはカメラをいじってピントを合わせ、カメラの前に立つ。

 

「元気かしら、アブネスよ!これは上空で行われているプラネテューヌの戦闘の様子よ!」

「アブネスさん……」

「くっ、なんで繋がらないのよ!これを、ネット配信できれば……!」

「……ジャックさんが」

「え?」

「ジャックさんが、やってくれます!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌの地下、スーパーコンピューターが立ち並んでいる部屋。

そのコンピューターの1つにジャックは自らの体を接続してネットワークに入り込んでいた。

 

「さすが、城レベルのファイヤーウォールだ……!短時間でこれだけのハッキングをし、プロテクトまで作り上げるとは!だがな……!」

 

ジャックの体は処理による熱で触れられないほどに熱くなっていた。周りの空気が歪んで見えるほどだ。

 

「今の俺は、あの時とは違うぞ!ビフロンスゥッ!」

 




人は恋をすると変わるらしく。ジャック大奮戦中。もちろんミズキも。
誰しも叫びたいガンダムのセリフ、上位に食い込むと思います。「行けっ、フィンファンネル!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

希望を諦めないで

アブネス、いい立ち位置。


 

アブネスがカメラを弄ってなんとかネットワークに接続しようと奮闘する。

 

「動いて、動きなさいよ!」

「大丈夫です、きっとすぐ……!」

 

もう何度目かわからない配信開始のボタンの連打。

そのボタンをタップした時、世界中のモニターがバックされた!

 

「え⁉︎」

「やった……やりました!ジャックさんです!」

「な、何が何だかわからないけど……とにかく、接続されたなら!」

 

アブネスがカメラの前に立った。

 

「みんな、あの戦いの様子が見えるかしら⁉︎今プラネテューヌは突如現れた敵にシェアを奪われ、戦えない状況にあるわ!女神様も不甲斐ないことにやられてしまった!けど、あそこで戦っているガンダムが、アナタ達見えるでしょ⁉︎」

 

世界中にνとビフロンスの戦いが中継され始めた。

 

「あの機械の名前はガンダム!ある時はリーンボックスで女神を救い!ある時はR18アイランドに現れた化け物を退治した!英雄、ガンダムよ!」

 

生きることを諦めかけていた世界の人々の瞳に希望が宿る。

間違いなくあのガンダムはビフロンス相手に互角の戦闘をしている。もしかしたら、勝てるかもしれないのだ。

 

「各国に救援を求めるわ!世界に終わりが来ても、最後まで戦ってる人があそこにいるの!決して絶望してはダメ!世界中の幼年幼女が殺されてたまるものですか!」

 

世界の人々にほんの少しの希望の火が宿った。

 

「何よ、いつの間に私のハックが……」

《ジャックだよ!いくら君とて、戦闘中にハックなんてできないでしょ⁉︎》

「あら、私には無敵の次元フィールドがあるのよ?だから……」

《君は嘘もヘタだ!無敵のフィールドがあるのなら、君は僕に攻撃なんかする⁉︎僕の攻撃を防いでいるのは、僕にフィールドを破られる可能性があるからだ!》

「……まあ、当たらずとも遠からず。次元フィールドは無敵よ?けれど、限界時間がある」

 

νから放たれるビームがビフロンスの手前で湾曲して全て彼方へと消えていく。

ビフロンスが使用している次元フィールドというのはビフロンスを覆う空間の次元を湾曲、そこを通ろうとするものは歪んだ次元のために真っ直ぐ進むはずが結果として湾曲させるフィールドだ。

だがそれを常備稼働させるには膨大なエネルギーが必要となる。そのエネルギーはプラネテューヌのシェアだった。だがプラネテューヌのシェアのほぼ全てを使っても稼働時間はほんの数分、再充填には数時間という使い勝手の悪いフィールドだ。

 

「けれど、私はまだ本当の力の半分も出していないのよ?」

《っ、わかってるよ、それくらい!1割も出し切ってないでしょ、この程度!》

「さすが、私と2度合間見えただけある。それじゃ、行ってみましょうか。変身」

 

またビフロンスが変身を重ねる。変身した様子はほんの少し、体を覆うスーツに赤黒いラインが入った程度だが……。

 

「人は見かけによらぬもの。アナタには伝わる?この想い」

《この、渦巻く黒い感情は……!》

「そう、アンチエナジー」

 

ビフロンスの左手に赤黒い結晶が現れた。

 

「他人の信仰じゃない、私の意思で強くなれる力。例えみんながいなくなっても、私が諦めさえしなければ、この力は私に応えてくれる!」

《だから、そういうセリフを吐くなぁぁっ!》

 

νが周りの擬似ファンネルを撃ち落としながらフィンファンネルを収納し、ビフロンスへと盾のビームキャノンを撃ちながら接近する。

 

「無駄よ無駄。次元フィールド」

《うくっ!》

「エナジー、マッチング完了。吹き上がれ、エナジー!」

 

ビフロンスの右手にはシェアクリスタルが現れ、その2つをビフロンスは融合させた。

掌の中には不安定に渦巻き、互いを砕き合う光と赤黒さのクリスタルがあった。

 

「互いを破壊し合うエナジー……。私はエナジーにだって喧嘩してもらいたくない。だから、ほら、相反する2つのエナジーだって共存できた……」

《バカな!シェアエナジーとアンチエナジーのツインドライブ……⁉︎そんなことが……!》

「互いを壊し合おうとして、だからこそ強くなる。ふふ……これが私の第2形態」

 

生まれる圧倒的なエネルギーは先程の比ではない。

 

「これで……次元フィールドは1日くらい保つかしらね?」

《くそッ、バケモノめっ!》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ブランはあの世界をジャックした放送があってからすぐにルウィーに戻ってきていた。あんな放送があるなら国民がパニックに陥ることが確実だからだ。

教会に降り立ったブランの元にロムとラムが駆け寄る。

 

「お姉ちゃん!」

「お姉ちゃん……!」

「ロム、ラム、国民はどうなってる……⁉︎もしや、暴動なんて……!」

「ち、違うのお姉ちゃん!」

「みんな、落ち着いてる……!」

「え……?」

 

あんな放送を一般市民が見てパニックにならないとは思えない。既に対処したのか?

 

「お姉ちゃん、これ見て!今これが全世界で放送されてるの!」

「執事さんが、頑張ってる……!」

「これは……」

 

ラムが差し出したパソコンの画面には空中の戦いが映されていた。

ガンダムと謎の赤黒い女。今はガンダムが劣勢に見える。

 

「助けにいかなきゃ……!」

「さっきから執事さんの攻撃、1つも当たってないの!このままじゃ負けちゃう!」

「……でも、この国は……」

「ダメ……!ダメなの……!嫌な予感がするから、このままじゃダメなの……!」

 

ロムが必死に訴えかけてくる。最近身についたという不思議な予知能力か。

……この国に残って国民を守ることも必要だ。だがあの女を倒さなければ世界が滅びて国どころの話ではなくなる。何より、ミズキ1人にやらせていいのだろうか?

また1人で戦っている。

1人で戦おうとしている。

そんなの、負けるに決まってるのに……!

 

「……行くわよ。ロム、ラム、準備はいい?」

「お姉ちゃん……!うん!」

「いつでも、行ける……!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

νとビフロンスの戦いは熾烈を極めていた。

いや、それは最早戦いではなかった。ただビフロンスがνを痛ぶるだけだ。

 

「ホーミングレーザー!」

《くっ、バリア、保つかっ……⁉︎》

 

自分には全く攻撃が当たらず、相手には強力な攻撃を放てる。ミズキはチートだと叫びたくなったが、やめた。そのチートがビフロンスなのだ。そのチートに打ち勝てなければビフロンスには勝てない。

 

「ビームがダメなら、ミサイルよ」

《くそっ!》

 

今度はミサイルがνに向かって飛んで行く。ミズキはバルカン砲でいくつかを撃ち落とすが大多数が仕留めきれない。

 

《っ、ファンネルで!》

 

フィンファンネルもバリアを解除してミサイルへとビームを放つ。

大爆発が起こるがその中をすり抜けてきたミサイルが数発νに迫った。

 

《うわああっ!》

「今よ、擬似ファンネル!」

 

体勢を崩したνに擬似ファンネルが迫る。

νは不自然な体勢から赤黒い結晶を撃ち落そうとするが、何本かの決勝はνの体を切りつけて行く。

 

《くっ、ああっ!》

「まだよ、擬似ファンネル!」

 

何度も反射する結晶がνの装甲を切り裂いて行く。

νは完全に体勢を崩して今はただ悪足掻きで体を動かしているに過ぎなかった。

 

「シェアもアンチも……私は全ての感情を理解し、支配する」

《お前に人の気持ちが、わかるものかあっ!ぐあっ!》

「カオス・ビーム」

《っ、来て!フィンファンネル!》

 

螺旋を描くビームがνを消し去らんと周りの空気を消し去りながら向かう。

フィンファンネルがバリアを張ったがあまりの威力にバリアはヒビ割れ始めた。

 

《マズい……⁉︎》

「私の計算じゃ、約0.142566925秒しか保たないわよ」

 

その言の通り、ファンネルバリアはいとも容易く砕け散る。

 

《………!》

 

そのビームはνの目前にまで迫った。




没案

「私の計算じゃ、約1145148101919秒しか保たないわよ」
《汚い!》

純正太陽炉と擬似太陽炉のマッチング的な?両方打ち消しあうのでホワイトホールとブラックボールみたいな?水と油?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミズキの死力

戦いはクライマックスへと。
あ〜、また追いつかれそうだよ…。


《やられるってこと……っ⁉︎》

 

螺旋を描く白と黒のビームがνを飲み込もうとした、その時。

 

『アイスサンクチュアリ!』

 

《⁉︎》

 

目の前に大きな氷の壁が現れてそのビームを遮る。ここまで強力な氷魔法を使えるのは……!

 

《ロム、ラム!》

「ダメ、防ぎきれない!」

「砕けちゃう……!あっ!」

 

だがビームはかなり減衰しながらも氷の壁を貫く。

しかし、さらにνの前に立ちはだかった人がいた。

 

「ミズキさん!」

《ユニ!》

「Iフィールド、全開!」

 

ユニの手に持った円形の盾から発せられたIフィールドがビームを散らす。

3つの壁でようやくビフロンスのビームは止まった。

 

《なんで、君達が……!》

「ユニだけじゃないわよ!」

 

上空を見れば赤く体を発光させるノワールの姿。

 

「やああっ!」

「あら危ない」

 

ノワールはそのまま切りつけるがやはり軌道は逸れてしまってビフロンスにはかすりもしない。

だが傷だらけのνの前にはさらにブランとベールが立ちはだかった。

 

《ノワール、ブラン、ベールまで……!》

「馬鹿野郎ッ!なんで置いていきやがる!私達はまだ信頼されてねえのかよ⁉︎」

《違う!けど、あいつだけは……!》

「敵わないほど強いのであれば……それこそみんなで力を合わせるべきですわ。ミズキ様1人では勝てませんが、もしかすれば全員でなら勝てるかもしれません」

《だとしたって……!》

「バカッ!アナタらしくないわよ、ミズキ!いつもの自信はどこに行ったのよ!」

「そりゃあ、当然よ。ミズキちゃんは私に勝てなかったのよ?」

 

ビフロンスが口の端を歪めて笑う。その姿は蛇のようにおぞましいものだった。

 

「今は機械の体だからわからないけど……本当は震えてるんじゃない?泣き出しそうなんじゃない?怖くて怖くて、たまらないんじゃないの?」

《っ、そんなことは!》

「うふふ、アナタも嘘がヘタね」

 

νが少しビフロンスと距離を取る。その行動こそがミズキの恐れを如実に表していた。

 

「怖いのがなんだっていうのよ!そんなこと言ったら、私はもっと前から怖い戦いばっかよ!」

「けど……!私は、ロムちゃんが、お姉ちゃんが……!みんながいるから、怖くない……!」

「執事さんだってそのはずよ!1回負けたんなら、次は勝てばいいんだから!」

「うふふ、でもね。私も平和のために負けられないのよ」

 

ビフロンスの前にモニターが現れた。

 

《まさか、やめろっ!》

「いただきま〜す♪」

 

『‼︎』

 

突如女神達の体が重く沈み込む。浮いているのだけで精一杯という感じだ。変身も体にノイズがかかって解けかけている。

 

《君は、みんなのシェアまで!》

「私、第3形態……」

 

ビフロンスの右手のシェアクリスタルが量を増す。それに従って左手のアンチクリスタルもさらに量を増した。

 

「私とミズキの決戦にアナタ達は邪魔……。あの子と同じように……」

 

ビフロンスは壁に磔にされたネプテューヌを見る。未だ結晶の中に閉じ込められているネプテューヌは苦しそうな顔で目を閉じている。

 

「眠ってなさい」

《させるかっ!》

 

ビフロンスの手から放たれた結晶化光線が放たれるのと同時にνの意思でフィンファンネルが全員を覆うように三角錐のバリアを張った。

バリアに阻まれて光線は弾け飛ぶ。

 

「ミズキさん!」

《……君達はそこにいて。僕がやるから》

「おい、ふざけんな!お前、勝てるわけないだろ⁉︎」

《勝つんだよ。……自分の宿命は自分で断ち切る》

「ミズキ!テメエ、死ぬ気かよっ⁉︎」

《死ぬ気なんてない。僕1人で……勝たなきゃ》

 

 

(……………!ミズキ様……!)

 

 

ミズキが振り返って全員を見る。

そしてνは再び傷だらけの体でビフロンスへと向かった。

 

「馬鹿ね、アナタ!バリアなしでこのビームを防げるわけが!」

《避け切ってみせる……っ!》

 

ホーミングレーザーがνへと追いすがる。

νは尋常ではない高機動でそれを避けるが、やはり多勢に無勢。その上ビームはいくらでも追尾するとなれば避けようがないと言っていい。

 

《うわぁぁっ!》

「惜しい。次はアナタの腹を撃ち抜くわよ!」

 

ビームライフルがホーミングレーザーに貫かれて爆発する。

 

「ミズキ!くっ、やっぱり行かなきゃ……!」

「ダメですわ、ノワール。今行っても足手まといになるだけです」

「だからって、ここで何もしないでただ見ているだけなんて!」

 

νは反転してビームのいくつかを盾で受けるが焼け石に水だ。

 

《くっ、ううっ!お前を、倒すんだ!みんなの仇をっ!》

「憎しみで戦うから!そんなんだから私に勝てないのよ!」

《黙れェェッ!》

 

「執事さん、ダメ!あのままじゃ……!」

「………!まさか、執事さん……!」

 

νが急旋回してるビフロンスの方へと向かっていく。

 

「ホーミングレーザーを次元フィールドを逆手にとって防ごうってわけ?でもね……?」

 

ビフロンスからミサイルが放たれた。

νは挟み撃ちにされたのだ。

 

《今だ、デコイを!》

 

だがνの両手の指からダミーバルーンか射出され、νを守るように前後方に漂った。

 

「その程度で!」

《この程度だから!》

 

まずビームがデコイに当たる。後続のビームがデコイを貫いてνを貫こうとするが、デコイは爆発するとキラキラと輝く粉のようなものを撒き散らす。

それに触れたビームは減衰して消えていってしまった。

 

「ビーム撹乱幕……!」

《さて、こっちの中身はなんだろうね!》

 

次にミサイルがデコイに衝突し、デコイが炸裂する。

その瞬間、眩い閃光と爆音が辺りを包んだ。

 

「スタン、なんて……!」

《今なら!》

 

νが急加速した。

右手で背中からビームサーベルを引き抜いて接近。だが近付こうとしたのはビフロンスではなかった。

 

《うおおおおっ!》

 

「まさか、シェアを奪う装置を⁉︎」

「執事さんに私達の声、届いてた……!嘘ついてただけ……!」

 

「そうそう上手くいかせないわよ……⁉︎」

 

一瞬でビフロンスがνと機械の間に立ちふさがる。その機動力たるや、残像や軌跡すら見えないほどだ。

 

「アナタにこの装置を破壊させるわけにはいかないわ」

《だけど、次元フィールドを開いたままじゃ立ち塞げないよ!》

「……あまり私をなめないでね?」

 

次の瞬間にはνの腹に飛び蹴りが入っていた。

 

《うっ、ぐえ……!》

 

「ミズキさん!」

「なんだよ、アレ!まるで見えなかったぞ!」

 

《うっ、が……!まだぁっ!》

 

飛ばされたがすぐに前進し直して盾から牽制用のビームキャノンとミサイルを撃つ。

 

「いい加減、ウザいわよ」

《っ!》

「人が遊んでるからっていい気になって……お仕置き」

《っ、あ……!》

 

瞬時にνの目前にまで移動していたビフロンスの右手には巨大な金属鎌。

ビフロンスがそれを振った瞬間、盾を持ったνの左腕の肘から先が盾ごと切断された。

 

《ぎゃああああああぁぁぁっ!》

 

「ミズキ!ミズキ、ミズキ!ベール、離して!これでも助けに行っちゃダメだって言うの⁉︎」

「ダメですわ!今は耐えるんです!」

 

《っ、くっ!》

 

苦し紛れに右手のビームサーベルを振るが、その手首を掴まれた。

ギリギリと万力のような力で握り締められて動けない。

 

《うあっ、ああああっ!》

「次元フィールドがなくったって、私は強いわよ?気付いてた?私さっきまで一歩も動いてなかったのよ?」

《うぐっ、離せ……!》

「はい、どうぞっ」

《ぐわあああぁぁあっ!》

 

今度はνの肘が膝蹴りで折られた。曲がってはいけない方向へ肘が曲がってしまう。

 

「ミズキィッ!俺はもう、見てられねえぞ!こんなの、ただのリンチじゃねえかァッ!」

「ダメだと言ってるでしょう!」

「うるせえ!くっ……!」

 

ベールの手を離そうとするがシェアがないために力が出ない。

 

「このままじゃ、ミズキが、ミズキが!死んじまうってのに……っ!」

「今は、耐えるのですわよ……!私だって、辛いのです……!」

 

ベールの握った手から血が垂れている。シェアを失ってもそれほどの力が腕に込められていた。

 

《うくっ、うううっ!》

 

バルカン砲を撃つが効いていない。

 

「いい加減、飽きたわ。せいぜい苦しんで死になさい」

《っ、海ヘビ……っ!》

 

ワイヤーがνの胴体にくっついた。

その瞬間、ビフロンスから放たれた電撃がνを襲う。

 

《うわぁああぁ!あ、あぁぁあああぁあ!》

 

「ミズキ!」

 

「ヒヒッ!このまま死んでいきなさい!」

《うわぁ、あ、ば、ばががががが、あぁぁあ!》

 

νの体は高圧電流によって痙攣し、体から黒い煙を上げていた。

金属が焦げる嫌な臭いが女神の鼻をつく。

νの体はスパークして崩壊寸前になっていた。

 

「ヒヒヒヒヒッ!」

《あ、ああああっ!あ、うううおおおおおっ!》

「あら」

 

νの折れた右腕が歪に持ち上がる。

その手に握ったビームサーベルからビームの刃が発振される。

 

「海ヘビなら切れないわよ?対ビーム加工はしてあるわ」

《うがっ、がああぁぁあっ!》

 

だがνは海ヘビにビームサーベルを振り下ろすことはしなかった。

νは逆手にビームサーベルを持ってそれをビフロンスに向けた。

そしてそのまま、自分の右肩ごとビフロンスの左肩を貫いた!

 

「っ、ちょっと。痛いじゃない」

《うわぁぁあぁぁあ!ベェェェルゥゥウウウッ!》

「え?」

 

「任せてくださいまし……!」

 

νが断末魔のような声でベールの名を呼ぶと、ベールは手に持っていた槍を大きく振りかぶった。

 

「ベール⁉︎」

「あの時、ミズキ様は光信号で私達に伝えてくださいました……!ビフロンスを出し抜くために、声では伝えられず……!」

 

νがファンネルバリアで女神を覆って守った時、νの目が点滅して光信号でメッセージを伝えてくれていたのだ。

その内容は、『チャンスクル。シンジテル』。

 

「はあああぁぁぁっ!」

 

ベールが残り少ない力を全て使って投げた槍がシェアを奪う機械に向かって真っ直ぐに飛んでいく。

その勢いなら、確実に機械を破壊できるはず。

 

「このっ、うっ!」

《が、が、があがぁぁあああ!》

「アナタ……!」

 

ビフロンスが槍を止めようとするかνがビームサーベルで自分の体を貫いて固定しているので動けない。

 

「さっさと死になさい!アナタが死ねば、多くの人が絶望できるのよ⁉︎アナタなんかがいるから、平和は!」

 

ビフロンスが擬似ファンネルを召喚しようとするが、今放っても槍に届かない計算が瞬時に頭の中に浮かぶ。

ベールの槍は吸い込まれるように機械へと向かっていき、そして……!

 

《いっけぇぇぇぇぇぇッ!》

 

機械へと突き刺さる!

しかし、女神達は自分の体にシェアが戻るのを感じなかった。

 

「ど、どうしてだよ!力が……!」

「当たり前よ。強度だって最大限確保してるんだから。そんな味噌ッカスみたいなシェアで……」

「そ、そんな……!」

《まだぁぁぁっ!ファンネルゥゥゥッ!》

 

ヒラリ、と。

最後のファンネルが機械の目前へと迫っていた。

 

「アナタ、いつの間に!」

《うわぁぁぁぁぁぁっ!》

 

ファンネルががむしゃらに機械へとビームを放っていく。ベールの槍にそのビームが当たると槍は爆散して内部から機械を傷つける。

しかしνの変身も解けかけていた。

νの体が光り輝いて粒子に変わり、変身が維持できなくなる。

それと同時にファンネルも徐々に消えていく。

 

《ーーーーーーーー!》

 

νの声はもはや言葉になっていなかった。

だがそれでもνの意思を受けたファンネルは突進し、コの字型の先端を機械へと突き刺した!

0距離でビームが乱射される。

機械の内部が次々とビームの熱量で分子になって消えていく。

そして、ファンネルとミズキの変身が解けた。

ファンネルは消え去り、ミズキの変身も解けた。それに従ってビームサーベルも消えてビフロンスの肩が解放される。その瞬間にはもうビフロンスの肩の傷はふさがっていた。

ビフロンスが電流を解除してワイヤーでミズキを引き上げる。

ミズキの体は肉が焦げる匂いと黒い煙を発していて、その瞳は閉じられていた。左腕は肩から切断されていて右肩には穴が空いている。体には無数の切り傷が目立つ。

 

「……惜しかったわね。ほら、女神も結局……ってあれ?」

 

振り返るとそこには女神はいなかった。

逃げたかな、と思うと目の前に紫の光を散らしながら突進してくる影を見た。

 

「んっ、早いねぇ」

「ミズキをッ!離してぇぇぇぇっ!」




電撃って恐ろしいですよね…。Vでやってたんですけど、電流が流れると筋肉が縮んで離したくてもハンドル(?)みたいなのを離せなくなるらしいですね。怖い怖い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

僕は1人じゃないんだ

女神連合軍vsビフロンス。
全員バージョンアップです。


ネプテューヌが太刀で斬りかかる。

ネプテューヌがビフロンスの間合いに入る刹那、ビフロンスが違和感を抱く。

 

「っ、フィールドは?」

「やぁぁあっ!」

 

ビフロンスの鎌とネプテューヌと太刀が火花を散らしてぶつかり合った。

そう、ぶつかり合っているのだ。

 

「フィールドが、発生してない……。まさか、シェアは……⁉︎」

「ミズキから、離れなさいよッ!」

「っく、わかったわかったわよ」

 

ネプテューヌの腹に蹴りを入れて距離を取り、ミズキを繋いでいたワイヤーをまるでゴミでも捨てるように手放した。

 

「…………………」

「ミズキさんっ!」

 

そのミズキの体は変身したネプギアがしっかりと受け止める。抱きしめるとネプギアにミズキの体から溢れる血がこびりつく。

ネプギアは急いで地面にミズキを運ぶ。

 

「ミズキさん、ミズキさん、しっかりしてください!」

「みずみず、聞こえるですか⁉︎聞こえてたら反応してくださいです!」

「………あ……が…………」

「良かった、生きてる……!」

 

アイエフが瞳に涙を浮かべる。

コンパも手早く応急処置を始めるべく救急道具を取りだした。

ネプギアは空のビフロンスを見つめて血に染まった自分の手を握りしめる。

 

「よくも……!ミズキさんをっ!」

 

ネプギアが大きく飛翔して行った。

 

「アナタ、凄いわよ!あんなの、あんなの……!私、死んじゃうかと……!」

「………ぅ………」

 

アブネスも駆け寄ってミズキに声をかける。ミズキはゆっくりと瞳を開いて周りを見渡した。

 

「アナタの頑張り、全世界に届いたわよ!誇っていいのよ、アナタは!」

「そうよ、ミズキ!きっと、ネプ子達が倒してくれるわ!」

「……ぁ……は………?」

「っ、みんな無事よ!シェアが戻って、ほら!」

 

「テメエッ、はぁぁぁっ!」

「騒がしいわね……」

「絶対に、許さねェェッ!」

 

ブランが上空から現れて斧を力のままに振り下ろす。ビフロンスは軽くいなして距離を取る。

するとビフロンスの目の前には女神達が集結した。

 

「激おこぷんぷん丸って顔ね!ところで、アナタ達何する気?」

「ナメないでよ……!アナタは、アナタだけは……!」

 

女神の体が光り輝く。

先頭にはユニとロムとラムが飛び出した。

 

「ホーミングレーザー!」

「ロムちゃん、ラムちゃん!私の後ろに!」

 

ユニが先頭に立って盾からIフィールドを展開、ユニに当たるビームは全て弾けてしまう。

 

「収束ミサイルッ!」

「遅い遅い!ハエどころかカタツムリが止まっちゃうよ!」

 

そのミサイルは全てホーミングレーザーが撃ち抜いていく。

その爆煙を突き破ってユニが接近、その膝のブーツ状のブースターのヒザ関節の部分から巨大なビームサーベルが発振した。

 

「ミズキさんを、ミズキさんをォォッ!」

「遅いって言ってる。バカは何度言えば分かるの?」

 

膝蹴りをするように巨大ビームサーベルを突き刺すユニ。ビームサーベルを軽く受け流してユニの腹に肘打ちが入る。

 

「うっ……!」

「執事さんに、酷いことした……!」

「泣いて謝っても許さないんだから!」

 

ユニの後方からロムとラムが飛び出した。

ロムが杖を横に、ラムが杖を縦に振るとそこに氷の刃ができる。

 

「ハモニカ!」

「ブレード……!」

 

ユニがブースター使って急速に距離を取り、そこに十字の氷の刃が飛んでくる。

ビフロンスは釜を振ってそれを軽く粉々にした。

 

「おっそ〜い!なんつって!」

「ふざけるのも、いい加減にしたくださいますか……⁉︎」

 

気がつけばビフロンスの周りを青色のファンネルのようなものが包囲している。

それはベールのプロセッサユニットから放たれたスーパードラグーンだ。

ベールのプロセッサユニットは変化し、黒色の大型アームの骨組みが見える。その間からは青白い光の翼が放出している。ベールの体の関節の所々は金色に輝き、手には2本の槍を持っていた。

 

「ドラグーン!」

「それっ」

 

一斉にドラグーンがビームを放つがビフロンスはそのビームを体を逸らすことで避けてしまう。

ドラグーンが一斉に離脱すると、そこに大出力のビームが発射された。

 

「オラァァァッ!」

「Iフィールド展開」

 

ビフロンスの手から放たれたIフィールドがそのビームを反発させる。

だがあまりの威力のために、そのビームはIフィールドを飲み込み始めていた。

 

「っ、セーフ」

 

そのビームを放っていたのはブランのツインバスターライフル。ビフロンスはIフィールドが飲み込まれる直前にビームの射線から離れる。

 

「うらぁぁっ!」

 

ブランのプロセッサユニットは大きく形状を変化させていた。今までのあらゆるプロセッサユニットよりも異質。ブランの背中からは有機的な純白の翼が4枚生えていた。その姿はまさしく天使のごとく。

ブランは同じく純白の斧を振りかぶってビフロンスに叩きつける。

 

「っ、重い……」

「ゼロ!なんでもいい、私に勝利の未来を見せろォッ!」

 

斧をビフロンスから離してバッドでも振るように勢いをつけて吹っ飛ばす。

飛ばされたビフロンスの真後ろに円形の量子ゲートが現れてそこからノワールが姿を現した。

 

「瞬間移動って、マジ?」

「アナタが!アナタがミズキを苦しめた!」

 

ノワールの剣は細身になっていた。大剣と言うよりは太刀と言う方が相応しいか。左肩にはシールドが装備されている。

量子ゲートを作っていたGNソードビットがノワールの大剣と合体、大きさを増す。その姿はバスターソードと言うのが相応しい。

ノワールがバスターソードを横薙ぎに振るう。

 

「アナタは、許せないのよォッ!」

「っ、お……⁉︎」

 

ビフロンスが鎌で受けるが、鎌ごと両断されてビフロンスの腹に切れ込みが入る。

瞬時に再生するが、下方向から三日月状のビームがビフロンスに向かってくる。ビフロンスは横に動いて避けようとするが、三日月状のビームは曲がってビフロンスに向かって誘導される。

 

「この、ちょっぷ!」

 

ビフロンスは手刀でそのビームと打ち合い、相殺する。

ビームを撃ち出したのはネプギアだった。

ネプギアの背中や脚部に大きなプロセッサユニットが装着されていて、何よりネプギアの右腕に装備された、さらに巨大になったM.P.B.Lが目を惹く。

ネプギアの今の形態はオービタルと呼ばれる機動力重視のモード。手に持っているのはシグマシスロングキャノンだ。

そしてネプギアのビームを受けたビフロンスの後ろにはネプテューヌが迫っていた。

 

「マズイわねぇ」

「落ちてェェェッ!」

 

0距離でビームマグナムを発射する。

それでも吹き飛ばされながらビフロンスは腕を組んで余裕の表情を見せていた。

 

「う〜ん……さすがにこれだけの人数って面倒だなぁ……」

「ミズキさんは、私達に託してくれた!最後の最後に、私達を信頼してくれてたんです!」

「余裕こいてられるのも今のうちよ!アナタだけは、絶対に許さないんだから……ッ!」

「お姉ちゃん!」

「ネプギア!」

 

2人が吹き飛ぶビフロンスへと突進する。

ネプギアのプロセッサユニットが形を変えていく。肩には4枚のウイングが目立ち、右手のシグマシスロングキャノンは全長こそ短くなったものの、その分銃口が大きく開いたシグマシスライフルになる。

 

「お姉ちゃん、行って!」

「ネプギア、アナタも!」

 

ネプギアがシグマシスライフルを乱射しながらネプテューヌの後方に回る。

ネプテューヌはバレルロールを繰り返して先行する。

 

「う〜ん……やっぱり歯応えがないんだけど」

 

ビフロンスは戦艦の主砲ほどの威力のあるシグマシスライフルの射撃を蹴りや突きで弾いていく。

 

「行って、ファンネル!」

「擬似ファンネル、適当にやっちゃって〜」

 

ネプテューヌが太刀を投げる。

そこにビフロンスが気怠げな声で赤黒い結晶を3つ召喚して防御魔法に乱反射、ファンネルに向かう。

 

「ネプギア、準備はいい⁉︎」

「任せて、お姉ちゃん!」

「アナタ達はさあ……ミズキちゃんとか、その友達に匹敵するくらいに一途なの?」

「体に教えてあげるわよッ!」

 

すれ違い様、ネプテューヌがビフロンスの腹に膝蹴りを食らわす。そしてファンネルは全ての赤黒い擬似ファンネルを切り落としていた。

 

「強さとか、そういうんじゃないのよ?アナタは、一途?」

「体に教えるって、お姉ちゃんが言った!」

 

ネプギアのシグマシスライフルの銃底からビームの刃が現れた。シグマシスライフルの大きさのために強力なビームはビフロンスの体に切れ込みを入れる。

 

「シスターズ・コンビネーション!」

 

ネプテューヌが背中からビームサーベルを引き抜いてビフロンスにXの切れ込みを入れる。

その傷が交わるところにネプギアがシグマシスライフルの銃口を押し付けた!

 

「これで、フィニッシュです!」

 

最大出力でシグマシスライフルからビームが発射される。

そのビームの奔流は確実にビフロンスを飲み込んだ。

だが、ビフロンスはその射撃が終わった後も何事もなかったかのようにネプギアの目の前に立ちはだかっていた。

 

「そんな……!」

「私に教えるなんて、来世になってからやり直してきなさい?」

「ああっ!」

 

ネプギアがビフロンスの裏拳を食らって吹き飛ばされる。

 

「でも……まあ、期待はできるかしらね」

 

じゅるりと唇を舐めたビフロンスの底冷えのする笑顔に怖気が走る。戦意がこれ以上ないほど高まっていたみんなでさえ、一瞬怯むほどだ。

 

「かかってきなさい?あと約40分……遊んであげるから」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

地面に横たわるミズキにコンパが迅速に応急手当をする。

と、言っても応急手当でどうにかならないほどの怪我だ。全身の切り傷はまだしも、切断された左腕、向こうが見える穴が空いた右肩。電流による全身の火傷。右腕の骨折。

既にミズキの血はほぼ止まっていたが、それでも血の水溜りは未だに地面を浸していた。

そこに何処かへ行っていたアイエフが走って戻ってくる。

アイエフはミズキの切断された左腕を持ってきていた。

 

「これ、くっつくはずよね……⁉︎」

「た、多分!やるだけやってみるです!」

 

こんな簡易な処置では焼け石に水、ミズキが死の境界線を踏み越えないためにはミズキ自身の回復力だけが頼りだった。

コンパは既に回復が始まっている左肩に左腕をくっつける。ミズキは既に感覚がないのか、呻きもしない。

そこにまた1人の女が駆け寄ってきていた。

 

「はあっ、はあっ……!」

「アナタ……5pb.ちゃん!」

 

5pb.が息を整えてアイエフの方を向く。

 

「あ、あの……!ミズキ、という人は……⁉︎ガンダム、でもわかると……!」

「……ミズキはここよ」

「っ、ミズキ⁉︎」

 

アイエフが体を退けるとアイエフとコンパの体に隠れていたミズキの体が見えた。

5pb.はミズキに駆け寄ってその溢れる血の量に絶句する。

 

「っ、これ……!」

「大丈夫、まだ生きてるです!絶対に死なないです……!」

「ミズキ、ミズキ!ボクだよ、5pb.だよ!わかる⁉︎」

「ぁ……5……p、b.………?」

「………!」

 

ミズキがゆっくりと瞳を動かすとそこに5pb.の姿が映る。

 

「喋れてる……!みずみず、喋れるですか⁉︎」

「ぅ……ん………」

 

さっきまで呻き声ですらロクに出なかったのが、今は喋れている。それはつまり、電流で焼け爛れた声帯が治ったということだ。

 

「ぅ、ごめ………行か、な……きゃ……」

「バカ、動いちゃダメよ!」

「そ、そうよ!ただでさえこんな重症なんだから、寝てなきゃ!」

 

アイエフとアブネスが制止するがその必要はなく、ミズキの体はピクリとしか動かない。ダメージが溜まりすぎているのだ。

しかしミズキの声はゆっくりながらもだんだんとはっきりしていく。

 

「あいつ……は……。シェア……ないと、いられない……って……」

 

『私が復活するのに必要だったからよ。そして私が顕現することにもシェアは必要なの』

 

「シェアがなくなっても、あいつが消えてない……!それってなんでよ!もともと強かったって言っても、シェアがない女神って存在できるの⁉︎」

「できるはずがありません。でも、シェアが使えるということはあの方も女神なのは間違いありませんし……」

「きっと、ネプ子達のシェアに頼らなくても、シェアがビフロンスに少量だけどあるのよ。多分、あいつを繋ぎとめてるシェアは……」

「世界が壊れちゃえばいいって思う人のシェア……ってことだよね」

「ええ。中にはそういう人もいるのよ」

「ミズキさんがあれだけ戦っても、信じてくれない人がいる……ということです」

 

八方詰まりの人。生きる意味を見出せない人。既に絶望に呑まれてしまっていた何人かの人がビフロンスを信仰しているということだろう。

 

「だから……行かなきゃ、いけない……。みん……な…を、1つ、に……!」

「っ、アナタ馬鹿よ!そんな人達放っておけばいいじゃない!アナタはもう、十分頑張ったじゃない……!アナタに心打たれた人だって大勢いるのよ⁉︎」

 

アブネスが周りの人間を見渡す。

心配そうにミズキを見る者、上空の女神の戦いを見つめる者、様々な人はいてもガンダムの戦いが心に残っていない人などいない。

 

「だから……だ………!」

「だから、って……」

「だから……世界に人の……僕の……!心の光を、見せなきゃいけないんだろ……⁉︎」

「無理です!こんな体で、動けるわけがないですぅ!お願いです、寝ててください!」

 

コンパが涙を流してミズキに縋る。

だがミズキもその瞳から涙を流した。

 

「みんな、じゃなきゃ……!みんなが1つにならなきゃ……あいつは、倒せないんだ……!」

「そんなことはないですぅ!みずみずも一緒に戦ったです!今だって、みずみずの力……!」

「今、行かなきゃ……!僕は、愛してくれる人すら、守れないんだ……っ!」

「ミズキ、アナタ、気付いて……」

「気付かないわけ、ないでしょ……⁉︎知ってて、伝えられないのは……!何も言えない、ままは……!」

 

ミズキがブルブルと震える体で起き上がろうとする。だが体は意思についていかずに起き上がるどころか寝返りすらうつことが出来ない。

 

「もう、2度と……っ!みんなを、失いたく……ないっ!」

 

動かない体なのに瞳からは涙が溢れる。

戦いたいのに、戦えない。

このままじゃ守れない。またみんなを失うことになる。

 

『できるかしら?1人ぼっちのアナタに!』

 

「僕は……1人、じゃない……!」

 

『アナタの攻撃は私に届かない』

 

「届かせて、みせる……!届かせたいんだ……!」

 

ビフロンスのまとわりつく言葉を振り払う。

強い意志を持って周りを見渡せば、みんながいる。

1人じゃないんだ。

みんなが助けてくれるから。だから僕も、みんなを助けられて……!

 

「お願い、みんな……!僕を、助けて……!」

 

『…………!』

 

動かない体で懇願するミズキ。

情けなくて、無様で、哀れで。

それでもみんなは、その悲痛な頼みを断れなかった。

 

「………みんな〜!」

「5pb.……」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!ほら、今カメラ向けるから!」

 

5pb.が戦いを眺めている人達に呼びかける。アブネスはカメラを持って5pb.を撮り始めた。

 

「今、女神様が頑張って戦ってる!けど、ガンダムは……ミズキは瀕死の重傷なの!」

 

5pb.は広場の人間だけでなく、世界中に向かっても呼びかける。

 

「ボクは奇跡を見たことがあるよ!リーンボックスのライブ、ライブ会場にいたみんなの想いが1つになってモンスターを真っ二つにした!ベール様を救い出したんだ!」

 

その話は耳に新しい。巨大なEXモンスター相手にその場の人間の想いが1つになって女神を救い出したと。

 

「ライブ会場でさえ、あれだけの奇跡を起こせたんだ!みんな、ミズキを信じて!世界中の人の想いが集まれば、きっと……!」

 

5pb.はその場の人間に呼びかける。

だがまだみんなは想いの力など半信半疑でどうすればいいのかわからない。オロオロするばかりだ。

そこに凛とした声が響いた。

 

「みなさん。……プラネテューヌ教祖、イストワールです」

 

イストワールがカメラの前に出た。

一国の教祖が出るということはそれだけの事態だということだ。イストワールは凛とした様子で世界中に話しかける。

 

「今みなさんがお聞きした通りです。ビフロンスと名乗る者の強さは凄まじく、女神と女神候補生が懸命に戦っていますが、それでも勝てるかはわからないのです。お願いします、みなさん。ガンダムへと想いを届けてください」

 

ざわざわと広場がざわめき出す。

 

「シェアを渡せと言っているのではありません。ただ、ほんの少し、『頑張れ』と想うだけで良いのです。その弱くて儚く、穢れのない健気な想いこそが、力になるのです」

 

イストワールが頭を下げた。

 

「どうか、お願いします」




クアンタEWゼロストフリ。
それほどの力ですらビフロンスは余裕綽々。
今一度ミズキは奇跡を起こせるのか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

子供たち

クライマックスへと。初登場、チカとミナ。
スパロボVの存在を昨日初めて知りました…。閃ハサとクロスボーンの参戦が嬉しすぎますね。バンナムぅ…アニメ化するんだろぉ…?


プラネテューヌ地下ではジャックが奮闘していた。

継続的に注ぎ込まれるビフロンスのウイルスを撃退しているのだ。

だがその処理も出来なくなりかけていた。ジャックの体は既に火がつきかけていた。

 

「このままでは……間に合わん……!こうなれば……!」

 

例えるならばそれは軍隊から家を守る1人の戦士。軍隊という強力かつ多勢に対しジャックは今まで家を守り通してきたようなものだ。

当然それだけの負担はジャックにかかり、その1つとしてジャックの体に溜まる熱が挙げられた。

 

「意識を、データを、中に……!」

 

ジャックの中の全てのデータ、ジャックを構成する全てがコンピューターの中に注ぎ込まれていく。

ジャックの意識を全てコンピューターの中に注ぎ込めば、処理速度を高めることができ、その上負担もかかりにくくなる。

しかし直接ジャックという人格を書き換えられるというリスクもある。

電脳世界の中にジャックというデータが保存された。

現実のジャックの体は火がついてしまい、朽ちていく。

 

「っ、これは……⁉︎」

 

目の前にはビフロンスのウイルスという軍隊が迫っていた。

しかしその軍隊は横から入ってきた新たな軍隊に消滅させられる。

 

「何者だ、お前達は……!」

「……私達は、ハッカーよ」

「ハッカー………」

「リーンボックスのね」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……………」

 

一国の代表が頭を下げた。だがその事態以上にイストワールの必死さが伝わってみんなが押し黙る。

すると世界中の画面が入れ替わり、緑の髪をした女を映し出した。

 

「あれ………!」

「チカさん……!」

 

リーンボックスの教祖、チカだ。

チカは真っ直ぐに前を向いて話し始めた。

 

「リーンボックスの教祖、チカです。単刀直入に言います、彼に協力してあげてください」

 

『…………!』

 

「アタクシは彼とはなんの接点もありませんが……それでもアタクシは彼の戦いを見ていました。人柄がわからなくとも、顔も知らぬとも、それだけで彼は信頼に値する人物だとアタクシは思いました」

「チカさん……」

「何より、お姉……ベール様が話すのです。彼の話を。リーンボックスのみなさん、そして世界中の皆さん。どうか、彼に気持ちを届けてはいただけないでしょうか」

 

チカすらも頭を下げた。

するとプラネテューヌの広場にいる人の1人が腕を組んで目を閉じ、祈りの姿勢をとった。

そこから小さな小さな緑色の光が現れてミズキの方へと寄ってくる。

 

「人の……心、が……」

「あ、集まるですぅ。また、あの時みたいに……」

 

空からも小さくて微かな光がやってくる。

すると画面の向こうのチカは頭を上げた。

 

「リーンボックスだけではありません。ミナ」

 

チカが名前を呼ぶと画面がパッと入れ替わる。

そこに立っていたのはルウィーの教祖、西沢ミナだった。

 

「ルウィーの教祖、ミナです。今までの戦い、拝見させていただきました。そして私は直接は知らなくとも、間接的にガンダムを知っています」

 

「世界が……1つになってく……?」

 

5pb.がポツリと零す。

 

「ルウィーで起きた誘拐事件、ロム様とラム様を助けたのはガンダムだと聞いています。ならば、私は彼を信じます。イストワールが動いたということはそういうことです。私が、私達が動いたということはそういうことなのです」

 

ミナが毅然とした態度で言い放つ。

 

「ルウィーの皆さん、どうか彼に想いを伝えてください。世界中の皆さんも、どうか、頼みます」

 

ぺこりと頭を下げるミナ。そしてまた画面が移り変わり、ラステイションの教祖であるケイが現れた。

 

「ラステイションの教祖、神宮寺ケイだ。まあ、予測がついていると思うが……ラステイションも彼の支援を頼みたい。これは僕の独断ではあるが……きっとノワールもユニもそう言うはずだ」

 

「世界中が……ミズキに味方してる……」

 

「僕は勝つ確率が少しでも高い方を選ぶ。決して損はないはずだ。簡単なことだ。……信じればいい」

 

ケイはふっと鼻で笑って後ろを振り向く。

そこで通信は途切れた。アブネスが流している映像が世界にまた流れる。

 

空の向こうから緑色の光が満ち始める。その光は誰にでも見えるほどはっきりしていて誰にでもわかるほど暖かい。

周りの人が祈る度にそこから緑色の光は放たれて飛んでいく。それを見た人は信じようという気持ちになる。

ミズキの体を緑色の光が包み込んでいく。

 

「ああ………暖かい……よ……」

 

ミズキが穏やかな顔をして少し微笑む。

緑色の光はミズキを支えるように周りに集まり、ミズキはその光の力を借りてゆっくりながらも立ち上がり始めた。

 

「っ、はあ、ふぅ………クス、クス……アブネス、主役を映してよ……。主人公は、僕だよ……?」

「で、でも……!」

「いいから……。少し、情けないかもだけど……うっ」

 

それでもふらつくミズキを両端からアイエフとコンパが支えた。

 

「いいのよ、ミズキ……。こうなったらやれるだけやりきりなさい」

「絶対、死んじゃダメですよ!怪我もです!」

「……うん。大丈夫、楽勝だよ……!」

 

2人の体に支えられながらミズキは震えながらも立ち上がる。ミズキの体は緑の光に包まれて、ミズキに触れているアイエフとコンパにもその光の暖かさが伝わる。

アブネスはミズキに向かってカメラを向けた。

 

「っ、僕は……クスキ・ミズキです。あまり、っふぅ……たくさんのことは、言えな、うぐっ、ぶぉえっ!」

「ミズキ!」

 

ミズキの体が負荷に耐えられず、口から血を吐く。まだ電撃にやられた内臓は回復しきってないのだ。

 

「ミズキ、やっぱり!」

「ダメだアブネス!僕を、撮っていて……!」

 

ミズキは口の端から血を流しながらカメラの向こうを見つめる。

 

「感じます、みんなの声を、気持ちを……!僕がこの場でただ1つ、約束できることは……!みんなを、守り切るということだけです……!」

 

息を切れ切れにしてボロボロで。

それでもミズキはしっかりと瞳に光を宿して世界を見つめた。

 

「僕に力を貸してください……!僕が、みんなを助けに行きます……!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ノワールの左肩に収納されたソードビットが射出される。

 

「ソードビット!」

「何か言った?」

「っ⁉︎あうっ!」

 

ビフロンスにソードビットが届こうとした瞬間、ビフロンスはノワールの目の前にまで迫っていた。

ビフロンスはノワールに回し蹴りをして蹴飛ばす。

 

「私も、バスターソードで……」

 

ビフロンスの手に巨大な赤いバスターソードが握られた。

ビフロンスは身の丈ほどもあるバスターソードを片手で軽々と振り回しながらノワールへと迫る。

 

「薪割りみたいに、真っ二つ☆」

「おやめなさい!」

 

横からベールが飛び出す。

2本持った槍で素早い連撃を繰り出したがビフロンスはその間をするりと抜けながら体を横にして蹴りをベールの喉に食らわす。

 

「うぐっ……!」

「これで御陀仏!ヒヒヒッ!」

「ああっ!」

 

怯んだベールに思い切りバスターソードを振り下ろす。ベールは槍を交差させて受けたが叩き落とされる。

 

「後ろ」

 

そしてすぐさま振り向いてホーミングレーザーを発射する。

それは後ろから迫っていたロムとラムに向かって飛んでいく。

 

「ラムちゃん……!きゃあっ!」

 

ロムが前に出て防御魔法を展開するが吹き飛ばされる。

 

「ロムちゃん!ああっ!」

 

それに気を取られたラムもビームの直撃を食らってしまう。

 

「ゼロ!私に未来を見せろってんだ!どうしたってんだよ!」

「私に勝てる未来……見えない?」

「うっ、くっ!」

 

ニタァと笑うビフロンスに向かってブランが羽を散らしながら突撃する。

斧を振り回してビフロンスを攻撃するが全てヒラリヒラリと避けられてしまう。

 

「んん、反応速度が遅いわよ?」

「クッソォォッ!」

「それ、ほい」

「うあっ、がっ!」

 

バスターソードの柄で腹を打ち、怯んだ隙にバスターソードの腹でブランを吹き飛ばす。

 

「なんなのよ、なんなのよ、アナタ!」

「女神様よ。いいわ、その表情……絶望に呑まれかけてる」

「っ!」

 

ユニが恐れに呑まれたように後ろに下がる。

 

「いいのよ、身を任せて。それは間違った気持ちじゃないわ?ただ、体の力を抜いて……」

「やめてくださいっ!」

「しつこいわねぇ、アナタも」

 

斬りかかるネプギアをビフロンスは片手でバスターソードで持ち、受け止めた。

 

「あと少しで世界が平和になるというのに……どうして⁉︎」

「この世界を絶望に染めるなんて、許せるはずがありません!」

「それはエゴよ!この世には絶望を望む人がいる……それは私が顕現していることからも明らかよ!」

「そんな、こと……!」

「やっぱりアナタ達って信じてくれないの?どうしても平和を拒むっていうなら……」

 

ビフロンスの体から赤黒い瘴気が溢れ出す。

 

「これ、アンチエナジー……⁉︎」

 

ネプギアがその瘴気の正体に気づく。

ビフロンスは自分に蓄積しているアンチエナジーを全て解放したのだ。

 

「遊びは終わり。……殺すしかないわ」

「っ!」

 

ビフロンスの体をアンチクリスタルが覆い、鎧のようになっていく。

ビフロンスはネプギアを蹴飛ばしてバスターソードを投げつけた。

 

「あっ!」

 

ネプギアはそれを受け止められず吹き飛ばされる。

 

「さて………っ⁉︎」

 

ネプギアに向かおうとビフロンスが構えた瞬間、異変に気付く。

 

「この……光は……!」

「まさか、ミズキ⁉︎」

 

女神達も異変に気付いた。

空を緑色の淡い光が飛び交っているのだ。その光はミズキに向かって集まっていく。

 

「この光……執事さんだ……!」

「あの時と、同じね!」

 

どんどん光は増えて行き、暗雲をも吹き飛ばして空を覆う。

そして奇跡は起こった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「そんな……この、光は……」

 

イストワールが驚愕の声を漏らす。

緑の光に覆われたミズキの前にはキラキラと輝くクリスタルがあった。

 

「シェアクリスタル、ですって⁉︎」

 

アイエフがその正体に気づく。

 

「みずみず、神様だったですか……⁉︎」

「……ううん。きっと、みんなが僕と繋がったように……僕もやっとみんなと繋がれたってことなんだ」

 

ミズキはもうアイエフとコンパの支えを必要としなかった。

確かな足取りでそのクリスタルに向かって歩き始める。

きっと、2度も女神の心に触れたから。ミズキがシェアクリスタルを顕現させたのはただそれだけの理由なのだ。

ミズキがシェアクリスタルを掴もうと手を伸ばす。

 

「……………!」

 

瞬間、ミズキは気配を感じて後ろを振り返る。

そこにはかつての友達が並んでこちらを見ている。

半透明の体で手を振っている。その姿はミズキだけではなくその場にいる全ての人間に見えていた。

 

「シルヴィア……!ジョー、カレン……!」

 

『……久しぶりだな』

『やっほ〜だにゃ〜。しっかしあれだにゃ、随分ガールフレンドが増えたにゃ〜。(仮)とかじゃにゃいよね?』

『でも私には確信できるわね。アンタまだ童貞でしょ!気配でわかるからね!』

『処女に言われたくはないだろうな』

『まったくだにゃ』

『うっさいそこのバカップル!処女はステータスなの!』

 

現れるなり喧嘩を始める3人。

周りの人間はぽかんとしているが、それを見てミズキは腹を抑えて笑い始めた。

 

「ぷくっ、クス、クスクス……!ふふっ……!や、やめてよ……!おかしくって……ぐすっ、涙、が……!涙が、出てくるよ……!」

 

『ほらほら、泣かない泣かない!せっかく会ってあげてるのに何よその顔は!』

 

「うっさい……クスクス、バーカ……!」

 

『なっ、バカ呼ばわり⁉︎ふ〜ん、そういうこと言うのね⁉︎こうなったら勝負よ!私の生涯において唯一勝てなかったあの勝負でね!』

『子供にどちらが懐かれるか……か?』

『ええ!』

『勝敗は見えてるにゃ。シルヴィアに勝ち目はないにゃ』

『なんですって〜⁉︎』

 

「クスクス……ただそれだけのために……!ここに来たの……⁉︎」

 

『………ええ。ミズキの顔が辛気臭くなってないかな〜って思ってたけど、あんまり心配することはないみたいね』

『楽しそうだ。羨ましいよ』

『そういうことだにゃ。それに、来たのは私達だけじゃにゃいよ?』

 

空から何人もの子供が舞い降りてくる。

手を繋いでいたり、はしゃいでいたり、泣いていたり、じっと大人しくしてたり、いろんな子供達だ。

 

「みんな、も……」

 

『仕方ないから手伝ってあげる。私達は天下無敵の子供たち!仲間のピンチにはいつだって駆けつける!ってね』

 

子供達はシェアクリスタルに向かって歩いていく。シェアクリスタルに触れたものから笑い声をあげて光になり、シェアクリスタルの一部になる。そしてシェアクリスタルはどんどん輝きと大きさを増していった。

 

『さあ、行くわよ!』

『ん〜にゃ、肩が凝りそうだにゃ〜』

『やる気が出ないな』

『ちょっとアンタ達やる気出しなさいよ!』

 

シルヴィア、カレン、ジョーもシェアクリスタルに向かって歩いて行く。

その背中をミズキは呼び止めた。

 

「ま、待って!」

 

『ん?何よ』

 

「その……!僕は、あの時笑えてたかな……⁉︎みんなが笑ってた時、僕もみんなを笑顔で見送れた……⁉︎」

 

別れの時。みんなが笑って子供たちの紋章を見せ、笑顔で見送ってくれた。僕だって笑顔で見送りたくて、涙が溢れる顔で笑ったんだと思う。今の今までわからなかった疑問。

シルヴィアは即答する。

 

『バ〜カ!いい笑顔だったわよ!』

 

3人がニカッと笑って子供たちの炎の紋章を見せる。

ミズキはまた視界が歪む。だが今度は自分でも分かるほど笑えた。

 

「またね、バ〜カ!」

 

3人も光になってシェアクリスタルの一部になった。

 

「……………」

 

そんな様子をみんなは黙って見ていた。

ほんの少しの再開。次元を超え、死を超え、ただ友人のためだけに駆けつけた子供たち。

ミズキは今度こそシェアクリスタルに手を伸ばす。

 

「………みんな、行ってくる。晩御飯はネズミでいい?」

「………好きにしなさい。ネズミだろうがコウモリだろうが、なんだって作ってやるわよ!」

「行ってらっしゃいです!」

「どうか、頑張ってください」

「バッチリ撮ってあげるわよ!」

「ミズキ!ボクも歌うから!」

 

みんなが手を振ってくれる。それを見て少し微笑んでからミズキはシェアクリスタルを握り締めた。

 

「変身」

 




死人との再会。イメージはマリーダさんみたいなイメージで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奇跡

短め。この後の話と1つにしたかったんですけど、長くなったので。


ミズキの体から緑色の光が溢れ出す。その光は天へと昇り光の奔流となって空に浮かぶ地球破壊爆弾を包み込む。

 

「なに、これ……⁉︎」

 

ネプテューヌがその光を見て唖然とする。

だがビフロンスは舌打ちをした。

 

「またそういうの……⁉︎でも、これに打ち勝たなきゃ、平和は掴めない……!」

 

緑色の光は地球破壊爆弾を包み込むが、ネプテューヌ達には心なしかその爆弾が上に向かって行くように見えた。

 

「この光……私達の味方を、してるのね……?」

「爆弾が、空に昇って行く……」

「力場が発生しておりますの……?」

 

暖かなその光で包まれた爆弾はまるで太陽がもう1つ増えたかのようだ。

光は空へと消えて行く。きっと宇宙にまで爆弾を持って行くのだろう。

そしてさらにもう1つの光が天へと昇ってきた。

ネプテューヌ達の前に光は球体となって留まり、その光が弾ける。

 

「………………」

 

その中にいたのはミズキだった。

ミズキの体は上半身と下半身を真っ白なスーツに包んでいたが、それだけだ。羽化したての不完全な姿でミズキはそこに浮かんでいた。

ミズキの背中には真ん中が空洞になってドーナツ状になったような円型のプロセッサユニットが2つ装備される。

 

「……みんな、助けに来たよ」

「ミズキ……その姿……」

 

変身とも呼べないほどミズキの体は変化がなかった。服がスーツになったくらいだ。

 

「みんな、力を貸して。僕じゃ、僕だけじゃ……ここにいるみんなすら守れないから」

 

ミズキが振り向いて少し微笑む。

ネプテューヌはそれに微笑み返してから前に出てミズキの隣に並んだ。

 

「当たり前よ!さあ、行きましょうミズキ!」

「……うん。みんなとなら、何も怖くないから……!」

 

ミズキのプロセッサユニットの円の片方がミズキの前に出る。ミズキがそこに手を入れると倉庫次元へと直結し、ビームサーベルを引き出す。

 

「いいの、そんな不完全な姿で?私に勝てる?」

「勝つ、勝てるさ」

「根拠は?」

「ない!」

「いい答えよ!」

 

ビフロンスに向かってミズキが突進する。確かに先程よりもスピードは出ているが、これではビフロンスの圧倒的なスピードには敵わない。

 

「やあっ!」

「クリスタル・アーム」

 

ビフロンスの腕をアンチクリスタルが覆い、鋭利な刃となる。

それとビームサーベルがぶつかり合うが、ビフロンスの方が押している。

 

「アナタ、そんなシェアがあっても使いこなせてないんじゃない?それじゃ宝の持ち腐れよ?」

「使えるようになるまでだ!」

「ん〜、楽観的で希望観測。でもそれが希望だものね!」

 

ビフロンスは腕を振りミズキを吹き飛ばす。

だがミズキが退いた後ろからネプテューヌが迫っていた。

 

「たあっ!」

「ん」

 

太刀を腕で受け止める。

 

「硬い……!」

「当然。アンチクリスタルで出来た装甲はそう簡単に貫けないわよ?」

「ネプテューヌ、退きなさい!」

「ノワール!」

「当たれ当たれっ!」

 

ネプテューヌが退くとノワールが左肩の盾をビフロンスに向ける。そこからビームが発射されるがビフロンスの装甲に当たると弾けてしまう。

 

「ビームでダメなら、ミサイルだ!」

 

ミズキのプロセッサユニットの空洞から無数のミサイルが射出された。

 

「援護します!」

 

ユニからもミサイルが放たれる。

だがビフロンスはホーミングレーザーを放ち、それら全てを撃ち落とす……はずだった。

ミサイルの一部がビームを避けたのである。

 

「まさか……」

「ファンネルミサイルだ!」

 

ビフロンスを取り囲み、ミサイルが何発も当たって爆発する。

だがやはり大したダメージはないようでビフロンスは爆炎の中から余裕で生還した。

 

「……聞こえる、声が……。そうか、シェアはこう使う!」

「隙は与えられないわね」

「させるかッ!」

 

前に出ようとするビフロンスの前にブランが立ちはだかる。

ビフロンスは斧を横に振ってくるブランを上に飛んで避け、空中にいくつものビームの矢を展開する。

 

「ビーム・ゴーガン!」

 

無数のビームの矢がミズキめがけて凄まじい速度で飛んでいく。ホーミングレーザーの貫通力を高める代わりに追尾性をなくしたビームだ。

しかしその前にはベールが立ちはだかる。

 

「この程度……!」

 

ベールの中でSEEDが弾ける。瞳はハイライトを失い、ドラグーンを展開した。さらに空中にはたくさんの槍の穂先が現れた。

 

「観念なさい!」

 

ビフロンスが射出したビームの矢よりもさらに多くの槍とビームが飛んでいく。それは正確無比にビフロンスのビームを撃ち抜いて残った弾はビフロンスに向かって飛んでいく。

 

「チッ、うざったらしい」

 

弾はビフロンスに掠りもしない。

だがベールの後方に控えるミズキの手には緑色の光が満ちていた。

 

「シェア・フィールド!」

 

ミズキの手からシェアが上空に向かって放たれ、そこで弾ける。

まるで雨のようにシェアが降り注ぎ戦場を取り囲む。

 

「力が……湧いてくる……!」

「気持ちがわかる!すごい、すごい!」

 

戦場が鮮やかな緑色の光に染められると女神達の体には力が湧き上がる。まるで今までの傷が回復しきった上にパワーアップしたかのようだ。

それにミズキが放ったシェアの効果によって女神達の心は少しではあるが通じ合う。ニュータイプなどの才能を持った者はその力が高められ、そうでない者もその才能の片鱗を味わう。

だがビフロンスはその真逆だった。

 

「体が、重い……?息が、詰まりそう……?」

「そうだ、ビフロンス!このシェア・フィールドこそ、みんなの意志の力!君を拒み、希望を繋ごうとする想いだ!」

「戯言!みんな本当は心の底で絶望を望む……!こんな偽りの空間、飲み込んであげる!」

 

ビフロンスがアンチエナジーを漲らせるがそのエナジーは散ってしまう。ビフロンスの体を覆うアンチクリスタルも霧散し始めた。

 

「アンチエナジーが、存在出来ない……!」

「不完全な君の絶望が僕らの希望に勝てるものか!全世界を絶望は包み込めやしない……!世界を包めるのは希望だけだ!」

 

ビフロンスの復活は不完全であった。ミズキの次元の時であればさらに強く、硬く、速かった。不完全な復活であったがしかし、この世界でシェアエナジーとアンチエナジーを得たビフロンスは一時的に以前の強さを超えたのだ。

だが今このシェア・フィールドで覆われた空間ではアンチエナジーすら放出することを許されず、ごく僅かなシェアしか残らない。

それはつまり、以前よりも弱くなってしまったということなのだ。

 

「けど、たかがアンチエナジーを封じた程度で!私はどんなに弱くなっても絶望を諦めはしないわ!」

「僕だって、諦められない!みんなが笑う世界なんてないのかもしれない……争いはいつの世も続くのかもしれない!けど、僕が手の届く人達の笑顔だけは失わせやしない……っ!」

 

ミズキの周りに女神が集結した。

一斉にビフロンスを見つめ、希望と想いに満たされた世界に生きる。




ビフロンスのホーミングレーザーはガンバスターのホーミングレーザーです。ビフロンスは別のロボット作品の技大量出荷です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

good end〜笑顔の世界〜

アニメはこれで終わり。今まで読んでくださって有難うございます。
後書きにこれから先の予定が書いてあります。


「1、2、3の3段攻撃で行くよ。ビフロンスの精神の根本はアンチエナジーにある。アンチエナジーを全て打ち砕けなきゃ、ビフロンスは何度だって蘇る」

 

ビフロンスはミサイルポッドを2つ展開した。

身構える女神達だが、ミサイルポッドはどんどん数を増やして行く。最早数え切れないほどのミサイルポッドと弾頭が見える。

 

「一斉発射!インフィニット・ミサイル!」

 

その全てが一斉に火を吹いた。

何億というミサイルが女神達をめがけて飛んでくる。

女神達は散開したが、逃げ場などないほどにミサイルは面制圧をしていた。

 

「インチキもいい加減にしてよ……!」

「薙ぎ払います!」

 

ネプギアがフォートレスへと換装する。両手と両肩にシグマシスキャノンが装備され、その全てを前に向ける。

 

「最大っ、出力でぇぇっ!」

 

ネプギアの体から大出力のビームが発射される。

大量のミサイルを撃破したが、ネプギアはそれだけで終わらない。さらにネプギアは自分の体を回転させ始めた。

 

「やあああっ!」

 

ミサイルの壁に穴が開く。残りのミサイルは全て女神達を目掛けて行くが、今の女神達は意思が通じ合っている。

その心のままに、ネプギアが薙ぎ払って壁に穴を開けた瞬間に全員が前に出ていた。

 

「ネプギア、行くよ!」

「はい!」

 

ミサイルがその穴を少しずつ詰めて行く。

しかし女神達はその穴を通り抜け、ミサイルとすれ違う。

 

「まずビフロンスの戦闘能力を奪う!体を完全に消失させるほどの大火力を!」

「任せてください、ミズキさん!私達が!」

「冷たいのいくよ……!」

「塵も残さないんだから!」

「みんな、私も!」

 

女神候補生が前に出る。

 

「わかるわね!私達のコンビネーションで行くわよ!」

「うん!スペリオルアンジェラスで行こう……!」

「ダメダメ!そんなんじゃまだ足りないわよ!」

「……新しいコンビネーション!マキシマムアンジェラスで!」

 

『うん!』

 

ネプギアとユニが前に出た。ロムとラムは背中のサテライトキャノンを展開し始める。

 

「取って置きよ?空間制圧用、ホーミングレーザー……スプレッド・レーザー!」

 

ビフロンスの手から太いビームが発射される。

それはただ飛ぶだけではなく、ネプギアとユニの前方で弾けた!

 

「ネプギア、後ろに!私が先に行く!」

「私だって……!換装!」

 

ネプギアはユニの後ろに行く。ユニはIフィールドを使い、レーザーからネプギアを守る。

ネプギアはユニの後ろでオービタルに換装した。

 

「まずは牽制!」

「倒す気で!一撃が致命傷なんだから!」

 

ユニがミサイルポッドを射出した。

 

「全部使い切ってぇぇッ!」

 

ユニの体から8つのミサイルポッドが射出され、無数のミサイルがビフロンスに向かって飛んで行く。

さらにネプギアはシグマシスロングライフルを構えた。

 

「この力……!アナタの動き、わかりますから!」

 

シグマシスロングライフルから三日月状のビームが放たれる。ミサイルの豪雨の中でも決してビフロンスを見逃さないXラウンダーの力。

 

「っ、多すぎ……!私が言えたことじゃないけど」

 

ビフロンスはホーミングレーザーを放つが、いくつかのミサイルはそれをすり抜けてビフロンスに向かう。

無論、当たってもほとんどダメージはない上にそれすら楽々と避ける。

そのビフロンスの脇腹をビームが掠めた。

 

「っ、先読み能力……」

「今ぁぁッ!ネプギア!」

「任せて、ユニちゃん!」

 

爆炎の中からユニが飛び出す。

膝からビームサーベルを発振させてビフロンスを切り抜ける。ビフロンスの腹が引き裂かれるがすぐに再生した。

 

「この程度って、あれ〜……?」

 

切り抜けたユニの軌跡に光り輝く縄がある。それはユニから射出され、爆炎の先のネプギアが掴んでいた。

 

「換装……!フォートレス!」

「く、く……!負けてられない……!この程度のGにも、アナタにも!」

 

ネプギアがフォートレスに換装して必死に縄を握りしめてその場から動かないようにする。

ユニは縄が伸びきるとネプギアを支点として振り子のように旋回し始めた。

 

「シグマシスキャノン!」

「メガビーム砲!」

 

ネプギアは縄を支えつつ肩のシグマシスキャノンを撃ち込み、ユニは旋回しながらメガビーム砲を撃ち込んでいく。

ユニが何周もビフロンスの周りを回るとビフロンスの体を縄が縛り付けた。

 

「私達に力を……!誰にも負けない、力を……!」

「魔力、来る!」

 

ロムとラムの体は溢れる魔力で白く輝いた。

それぞれサテライトキャノンを脇の下に抱えてビフロンスに向かって突撃する。

 

「タイミング、バッチリだよ!」

「エネルギー、充填出来てる……!」

「行くわよ、フィニッシュへ!」

 

ユニが縄を切り離す。それと同時にネプギアを縄を離した。

 

「っ、爆導索……!」

 

瞬間、縄が爆発する。ユニが射出した縄は爆導索だったのだ。

ユニは振り向いて全力でビフロンスに向かって加速する。

 

「はぁぁぁっ!0距離で、叩き込む!」

 

そしてメガビーム砲の砲口をビフロンスの背中に叩きつけて、それでもまだ勢いを殺さずに前進する!

 

「データ足りない……⁉︎だからなんなんですか!ここでやれなきゃ、ダメなんです!いいから持ってきて!」

 

ネプギアもユニとぶつかるように前進する。

ノーマルに換装したネプギアの横に並走して砲身が表れ、ネプギアはそれを掴む。

 

「アタッチメント、接続完了!」

「ロムちゃん!ここで!」

「ラムちゃんと、決める……!」

「これがああぁっ!」

 

ネプギアのシグマシスライフルと接続された砲身が展開する。

そしてユニが押し上げて来るビフロンスの正面からその砲口を叩きつけた!

 

「私達の!」

「必殺技……!」

 

さらに左右から挟み込むようにロムとラムがサテライトキャノンの砲口を叩きつける!

 

『ツイン・アイシクルサテライトキャノン!』

「メガビーム砲最大出力!」

「ブラスティアキャノン!」

 

『発射ァァァァッ!』

 

「っ!」

 

4人が叩き出せる最高の火力がビフロンスに注がれた!

とんでもない爆風と威力がビフロンスを包み込み、核でも爆発したかのような爆炎が周りを覆う。

4人はその爆発に巻き込まれる前に離脱する。

 

「マキシマムアンジェラスです……っ!」

「やったぁ!」

「完璧……!」

「やりましたよ、ミズキさん!」

 

「く、ぐ……さすがに効くわぁ……」

 

瞬時に再生するかに見えたビフロンスだったが、再生に時間がかかっている。顔も苦悶に歪んでいて4人の同時攻撃が効いているのが目に見えてわかる。

 

「動きが止まった!」

「なら、私達の出番だなァ!」

 

女神4人が前に出る。

 

「ネプギア達に、負けてられないものね!」

「いいとこ見せてあげましょう!」

「年季の違いというものを見せてあげますわ」

「お前ら、一瞬でも遅れたら巻き添えにすっからな!」

 

『上等!』

 

ネプテューヌのプロセッサユニットが唸りを上げ、ノワールの体が赤く発光する。

 

「NT-D!」

「トランザム!」

 

ネプテューヌとノワールが軌跡と残像を残りながら圧倒的なスピードでビフロンスに接近する。

ネプテューヌがビームサーベルを引き抜くとその刀身は通常ではあり得ない高出力で形成され、リーチと威力が上がる。

ノワールはソードビットを刀身に合体させてバスターソードにした。

 

「間髪!入れるわけないわ!」

「ネプテューヌ、私に合わせなさい!」

 

『やあああっ!』

 

「ちょ、タンマ……!」

 

ビフロンスを連続で切り抜け、幾重にも軌跡と残像が重なり合う。

何度も何度も切り抜けた後にネプテューヌはソードファンネルを、ノワールはソードビットを射出する。

 

「ソードファンネル!」

「ソードビット!」

 

駄目押しの斬撃が決まると、ファンネルとビットはその場から離脱。間髪入れずにブランのツインバスターライフルが火を吹く。

 

「当たれぇぇっ!」

「っ、これは……!次元フィールド!」

 

なけなしのシェアとアンチエナジーを使って前面のみに次元フィールドを展開、防御したがビームの上を滑るようにバレルロールして迫るベールが目の前にいた。

 

「この槍の速さは、滝の如く!」

 

「んぐっ、くううっ」

 

ベールが二刀流の槍で放つ連続の突きを手刀で応酬する。

しかしベールの槍は段々と速くなっていき、さらに背中のドラグーンすらも展開された。

 

「カタラクト・ラトナビュラ!」

 

「うぐぐぐっ!」

 

手の動きが見えないほどの連撃を浴びせるベール。さらにドラグーンの集中砲火も加えられ、手刀は追いつかなくなりビフロンスの体は再生した端から穴が開く。

 

「それっ!」

 

ベールがトドメとばかりに最後の突きを繰り出すとビフロンスが飛ばされた場所に吸い込まれるように2射目のツインバスターライフルの最大出力が当たる。

 

「うううっ!」

 

「決めますわよ!」

「わかってる!」

「これで!」

「ラスト!」

 

消失しかけるビフロンスの周りに無数の魔法陣が現れる。そこから槍の穂先が出て中心のビフロンス目掛けて飛んでいく!

 

「ブラン!」

「ビフロンス!テメエに未来はねェッ!」

 

その槍の豪雨の中をブランが羽を散らしながら純白の体で駆けていく!

 

「テンツェリンッ!ゲヴィッターッ!」

 

ビフロンスを斧で切り抜ける。同時にビフロンスに突き刺さっていた槍が爆発する。

 

「こいつはオマケだ!ノワール!」

 

ビフロンスの体はブランが斧にまとわせていた氷属性の力で凍っていく。

 

「再生が、追いつかない……!」

 

「悪いけど、ネプテューヌの出番はないわよ!」

「な、なによそれ!」

 

ノワールのバスターソードがビフロンス目掛けて向けられる。その剣先から圧倒的な熱量のビームが放たれる!

 

「トランザムッ……!ライッザァァァァァッ!」

 

ツインバスターライフルに勝るとも劣らないビームがビフロンスの体を原子レベルで分裂させていく!

 

「行くわよ、これが私の全力!」

 

ネプテューヌが太刀を掴んでビームの上を移動する。

ノワールのビームが途切れた瞬間、ネプテューヌはビフロンスを切り抜ける!

 

「みんなも、私も、ミズキも!アナタの絶望に屈しない!たとえアナタの絶望が正しかったとしても、私は希望を諦めない!」

 

ビフロンスに太刀を投げて突き刺し、手に持ったビームマグナムを構える。

 

「ミズキ!決めなさい!」

 

バキューーーーーンッ!

 

ビームマグナムの弾がビフロンスに直撃、太刀ごと撃ち抜いて爆発する!

 

「か、く………!」

 

ビフロンスの体はほぼ消えかかっていた。それでもビフロンスは再生し始める。その隙を逃さず、ミズキが前に出た。

 

「プロセッサユニット、展開!行けっ!」

 

プロセッサユニットが薄く2つに分離して4つの円になる。

それがミズキの号令で一斉にビフロンスに向かった。

 

「ま、だ……!私は、平和を……!」

「これは、想いの結界!次元を超えた、想いの証!」

 

4つのプロセッサユニットがビフロンスを囲い、緑色の三角錐の結界を作り出す。その中にビフロンスは閉じ込められた。

 

「なんっ、で!どうして!人が笑うのはエゴよ!人は他人の不幸でしか笑えない!人が笑う世界は、誰かの不幸の上にしか成り立たないの!」

「だから絶望を望んだのか!」

「そう!争いがなければ人は幸せ……!その刹那の時のために、刹那の時があれば、救われる!」

「人が笑顔でない世界の、何が正解だって言うんだァッ!」

 

ミズキが両手を前に出すと結界の中がスパークし始める。圧倒的なシェアの結界がアンチエナジーを滅し始めたのだ。

 

「あああっ!人が笑顔の世界なんて、不可能なのに……!」

「違う!人はいつか、争いのない世界だって!」

「人の歴史が証明してる!何億年、何兆年かけたって人は、人は平和にはなれなかった!」

「どうして今ここにある光が信じられない!今この場所で輝く光こそが!」

 

ビフロンスのアンチエナジーが消えていく。それと同時にビフロンスの体は光になって消え始めていた。

 

「私は……真の平和、を……!私を倒したって、第2、第3の私が必ず現れる……!いつか、平和、を……!」

「絶望の権化め!消えろぉぉぉっ!」

 

パアッと結界が弾ける。

それと同時にビフロンスも完全に浄化され光となって消える。

シェア・フィールドが消えると空はいつの間にか青空。下では歓声を上げる人達がいる。

 

「………やっ、た……?」

「やったのよ!ミズキ!」

「う、うわわわわっ⁉︎」

 

ミズキに女神と女神候補生全員が抱きついた。

 

「ちょ、待って待って!落ちる!さすがに支えられないって!」

「あら、女の子が重いって言ってるの?」

「ベール、降りろ」

「まあそれも致し方ありませんかもしれませんねぇ」

「チッ……!」

「ちょ、ちょっと!私達の抱きつく場所ないんだけど!」

「隙間、隙間……!」

「ミズキさん、私のアレ見た⁉︎どう、どうだった⁉︎」

「わ、私も!強くなったと思うんですけど……!」

「わかったからみんなどいてぇぇぇっ!」

 

まだたくさん問題は残ってる。

まず、この落下の危機をどうするかとかね。

それでも、今は、今なら。

みんな、笑ってるから。




お終い!
と、言ってもアニメだけです。これからネプテューヌシリーズのmk2をやりたいと思います。タイトルの通り、これはグッドエンドです。ルートが分岐して俗に言うトゥルールートへと繋がるようになっております。トゥルールートが、mk2の話になります。
ですが私はmk2の話をほとんど知らない(アホ)テストが近い(地頭がアホ)ovaでぷるるんに会いたい(世界の真理)なので1ヶ月〜2ヶ月の間は『不定期更新』となります。この期間はovaもそうですし、グッドエンド後の話とか閑話とかを投稿します。生存はその不定期に更新される話で確認を。遅くとも2ヶ月後にはmk2を始めます。
この期間中にmk2のストーリーを確認して話組み立てて話を書き溜めるわけです。ゲイムキャラはどうするか検討中。5pb.とか新人どころの話じゃないし…。
それと、その期間中に私の活動報告でリクエストを募集しようかと思います。活動報告じゃなくても感想でも、メッセージでも募集してます。ただコメント少なそうで怖いんだよなぁ……。いつまでも待ってます、マイナーなやつとかは私が知らないことが多いので、名前だしてください。
それでは、とりあえずはぷるるんを。
ここから普通の後書き。

ーーーー


アクシズの押し返し。
ビームゴーガンはライディーンよりゴッドゴーガン。シェアフィールドはウルトラマンネクサスのフェーズシフトウエーブ。インフィニットミサイルはアクエリオンevolより倍々増殖誘導弾。スプレッドレーザーは蜃気楼より拡散構造相転移砲。ミズキのシェアの結界はXアストレイから。

あんまりガンダム要素多くなくてすいません…。許してください、なんでもしますから(ん?
まだ出してないガンダム多いですから!これから出るガンダムもいるでしょうし、mk2ではたくさん出したいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Extra Story〜あんな話やこんな話であっはんうっふんしたりしなかったりする話集〜
ヒロインは死ぬ可能性がなきにしもあらずだから毎週ヒヤヒヤしてます


ネタに走る。せっかくだから、たくさんイチャイチャしよう、うん。
そんなわけで、閑話その1。救世の悲愴(デデドン


ミズキの膝の上にネプテューヌが座っているいつものゲームの風景だが何だかネプテューヌの機嫌が悪い。

イライラしながらガチャガチャと乱暴にコントローラーを動かしている。

 

「ねえ、ネプテューヌ」

「なに?」

「いや……なんでそんなにイライラしてるのかなって」

 

ビフロンスは倒して一件落着。

傷ついたプラネテューヌはまだ復興中だし、宇宙では地球破壊爆弾が爆発してと大変ではある。

プラネテューヌに吸われたシェアは他の各国に戻り、またプラネテューヌはシェア最下位に戻ってしまった。

しかし他の3国のシェアも予定より向上せず、何事かと少しだけ揉めて……結局その分は僕のシェアだということが判明、国を持つか持たないかとか問題だらけだ。

だがなんというか、嬉しい悲鳴というか。決して嫌なことではないはずだし……。

 

「………爆発」

「ん?酔舞・再現江湖デッドリーウェィブ?」

「そんなややこしい名前じゃないよ!えええいっ!くたばれぇっ!」

 

ネプテューヌが雑魚モンスター相手に○ダンテをブチかます。

ちょ、なにそのMPの無駄遣い……。

 

「とにかく!私が言いたいのはね!」

「うんうん、あ、敵だ」

「リア充、爆発しろぉぉぉぉぉっ!」

 

ネプテューヌはイオナズンを唱えた!しかしうまくいかなかった!

小さい悪魔か何か?

 

「ああ……Re:亜獣(リア充)ね。でもいいじゃん、別に。幸せなんだから」

「別に街中でイチャイチャする分には構わないよ!この私の、女神たる、海よりも高く山よりも低いこの慈悲の心で……!」

「慈悲の心は海抜0mだね」

「でも!すぐ近くの友人にリア充がいるのは許せない!」

「一応、僕の近くにもリア充いたけどなあ……」

 

カレンとジョーとかいたし。

 

「でも!だって!いーすんとジャックだよ⁉︎」

「あ〜、その組み合わせね。でもほら、最初から気は合ってたじゃん」

 

めでたく御2人方は結ばれたらしい。

あれからジャックと1日中酒に付き合った時があり、事の一部始終を聞いたのだ。

イストワールが顔を真っ赤にしながら付き合って欲しいと頼んだりとかジャックがそんなイストワールにキスしたとか砂糖吐きそうな話をたくさん。

今思えばジャックの体があの決戦の後に燃え尽きていたのを見て1番泣き喚いていたのはイストワールだったしね。

「勝手に殺すな」とホログラムで現れたジャックを見て1番喜んでいたのもイストワールだった。

結構、お似合いなのかもしれない。

 

「む〜!こうなれば、私も彼氏作って見返してやる〜!」

「アテは?」

「………ないです」

「悲しいねえ」

「うぐっ、何も言えない……!こんな美少女がいるのに!誰か迎えに来て〜!」

「別に所構わずイチャイチャしてるわけじゃないじゃん。ちゃんとその辺りは節度をわきまえてるし」

「ぐ、ぐぅ……!う〜!二○ラム!」

「あ〜あ〜、昇天しちゃったよ……」

 

ゾンビモンスターが昇天していく。

 

「ミズキも人のこと言えないけどね。ネプ子は愚痴言う相手を間違えてるわよ」

 

アイエフが部屋に入って来て呆れたように言う。

 

「え?どういうこと?まさか、ミズキもリア充に⁉︎」

「違う違う、僕はリア充じゃ……」

「お姫様を2人……いや、プルルート様を加えたら3人待たせておいて?」

「うぐ」

「え⁉︎ミズキ知ってたの⁉︎」

「ま、まあ……ね……?」

「いつから⁉︎」

「その……ノワールのはマジェコンヌの時あたりから。ブランは国巡りの時かな……?」

「大分前じゃん!」

「し、仕方ないよ。心の中に入ったり入られたりしてたら気持ちもわかるんだよ」

「ええい、裏切り者!近寄らないでいただきたい!あいちゃ〜ん!私の愚痴を聞けぇ!」

「そんな歌聞くみたいに言われても……」

 

愚痴を話してもバジ○ラとは分かり合えないと思うんですけど。

 

「で?結局誰を選ぶ気でいるのよ。まさかこのまま有耶無耶にする気は無いわよね?」

「そ、それはね?でも、ほら、やっぱり1人だけ選ぶことに抵抗があるというか……」

「なるほど、ハーレム路線?出来るかしらね、プルルート様なんか特に独占欲強そうだし〜」

「後ろでそんな話をしないで!こうなれば……!」

 

いつの間にかネプテューヌのパーティが男だけになっている。

ネプテューヌは立ち上がって拳を高く振り上げた。

 

「とりあえずノワールをヤンデレにして……!」

「やめなさい」

「あいた!」

 

アイエフがネプテューヌにチョップする。

ヤンデレはシャレにならないもんね……。

 

「羨むのはいいけどそうやって邪魔するのはやめなさい」

「だってぇ!人の不幸は蜜の味っていうじゃん!」

「アンタ本当に女神⁉︎」

「とんだクズ発言……」

「そうだ、ミズキ!ノワールって実はツンデレなんだよ!」

「知ってるよ⁉︎」

「ノワールの秘密その2!ノワールは実は使徒!」

「カ○ル⁉︎」

「いや、5番目!」

「シャ○シェル⁉︎」

「ラミ○ルだよ!」

「アニメ準拠!劇場版ではなかった!」

「いや、そもそもノワール様はあんな正八面体じゃないでしょ」

「いや、あの姿は仮の姿なんだよ!私は見たことがあるよ、夜にノワールの部屋を覗いたら……!」

「……ゴクリ」

「そもそもネプ子はいつラステイションの教会に不法侵入したのよ」

「そこには!なんと蛇のおじさんが!」

「それは○ネークじゃないかなぁ⁉︎」

「なんでノワール様の部屋にスネー○がいるのよ!」

「まだあるよ!ノワールの皮を剥くとね……!」

「皮を⁉︎剥く⁉︎」

「ノワール様、剥いちゃいました……」

「なんと中はサイボーグ!」

「シュ○ちゃん⁉︎ノワールはタ○ミネーターだった!」

「私の活躍によって世界が大混乱してしまったから、それを食い止めるために未来から来たのがつまりノワールなんだよ!」

「ネプテューヌが悪いじゃん!」

「ノワール様完全に正義の味方じゃない!」

「そしてノワールはこう言うんだよ!……『ぼっちじゃない!』と……」

「そこは『I'll be back』じゃないの⁉︎」

「ノワール様は通常運転ね!」

「どう⁉︎ノワールに失望したでしょ⁉︎」

「むしろネプテューヌに失望だよ!世界を大混乱させたネプテューヌにがっかりだよ!」

「くっ……!これだけ言っても聞かないだなんて!」

「ネプテューヌは自爆しただけだよねえ⁉︎」

 

壮大に風呂敷を広げた挙句全くしまわなかった。

 

「くっ、じゃあブランの雑学!」

「もう聞きたくないんだけど……」

 

ミズキがげんなりしているとフラフラと覚束ない足取りでネプギアが部屋に入って来た。

心なしか顔も赤くなっているし息も荒い。

 

「ね〜、ネプギア聞いてよ〜!……ネプギア?」

「……あ……お姉ちゃん……」

「っと、ネプギア危ないわよ」

 

アイエフが近くに行ってネプギアを支える。

 

「……ネプギア、熱は?」

「熱、ですか……?確か、さん、じゅう……」

「30?」

「39.5億℃です……」

「メルトダウンだ!」

「億はいらないよね、億は。完全にネプギア風邪引いてるじゃないか」

「そうよ、寝てなさい。風邪薬買って来てあげるから」

「ち、ちが……私……寝たく、ない……あぅ」

 

カクリとネプギアは力尽きたように眠ってしまう。

とりあえずゆっくりとアイエフがネプギアを床に横たわらせるが、ネプギアはうんうんと唸っている。

 

「悪い夢でも見てるのかな?」

「それっぽいよね〜。ほら、風邪の時はそういうネガティヴな夢見やすいって言うし〜」

「さっきは風邪薬買うって言っちゃったけど、あの高熱ならもしかしたら別の病気の可能性もあるわよね」

「コンパなら診れるかな?」

「いや〜やっぱりそういうのって部署があるじゃん?外科とか、内科とか」

「ああ、なるほど。コンパの専門外の可能性も……」

「……ぃ……ん……」

「ネプギア?」

 

ネプギアが何やら、うわ言で何か呟いているようなので耳を寄せてみる。

 

「○リィィィィィン!」

「命はおもちゃじゃないんだぞぉぉぉぉ!」

「うわわわわなになになに⁉︎」

「はっ、しまったつい……」

「ついでどうしてミズキまで叫ぶのよ!」

 

何故だかわからないけど叫びたくなってしまった。

いや、寝てるネプギアが『ユリ○』とかこんなに叫ぶのもおかしいんだけど。

 

「は、離れてくださいですぅ!今すぐ、離れるですぅ!」

「な、なによコンパ!」

 

いきなりドアから出てきたコンパが声を張り上げる。コンパがこんなに焦るだなんて……いったい何が?

 

「早く離れてくださいですぅ!ネプギアちゃんの病気はヒロイン死も……」

「……………」

「ヒロイン死亡病ですぅ!」

「言い直した!」

「なかったことにしたよ⁉︎」

「か、かみまみたですぅ!」

「もうそのネタやめてよ!」

「ただでさえ使い古されてるのに!」

「い、いいから、早く離れてくださいですぅ〜っ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

数日後、ネプギアはまだベッドの上でうんうん唸っていた。

そしてミズキも若干涙目だった。

 

「……なんでミズキが泣いてんの」

「い、いや、だって……」

「マリーダさぁぁぁぁぁん!」

「うわぁぁぁぁぁ!」

「2人揃ってうっさいわね!」

「なんでしょうか、この空間は……」

 

ネプギアの悲鳴にミズキが耳を抑えてしゃがみこむ。ちなみに隣にはネプギアを心配してベールまで来ていた。

ダメだ、聞いてられない。なんて、なんて酷い……!

 

「フレェェェェイ!」

「僕はカガリ派でぇぇぇぇす!」

「だからうっさい!」

 

アイエフに叱られてしまう。

すると部屋にふわりとイストワールとジャックが入ってきた。

 

「げ、リア充!」

「だから……いい加減その呼び方はやめてもらえませんか?」

「やだね!滅されろ、リア充!」

「ステラァァァァァ!」

「滅されないでぇぇぇぇぇっ!」

「あ〜、もう耳がキンキンするんだけど!」

「このままではネプギアとミズキの喉が潰れるぞ」

「心配するのはそこですか⁉︎」

「まあ落ち着けコンパ。対策は見つけてきたのだ」

 

ジャックが空中にレポートのようなものを映し出した。

 

「ヒロイン死亡病……その名のとおりヒロインが死ぬ夢を延々と見続ける夢だ」

「うわ、エグっ……」

「じゃあ、ネプギアがさっきから叫んでるのはヒロインの名前?」

「恐らくな」

「バー○ィィィィィッ!」

「それは……!それは、ヒロインかな……?」

「変なとこで踏みとどまらないでよ!」

「大変珍しい病気で、調べるのに3日かかりました。ちなみに、先々々々代の女神がこの病気にかかっていたことがあるそうです。その時は『○リア』などと叫んでいたとか……」

「古いしガンダム関係ないし!」

 

いつの間にか死んでたけどさ!

 

「そういえば、ユニちゃんもロムちゃんもラムちゃんもその病気にかかったって言ってたよ?」

 

ネプテューヌの何故もっと早く言わないというセリフでラステイションとルウィーに連絡を取る。

 

《ええ、確かに症状は酷似してるわ。ユニは『フォウ』とか『プル』とか言ってる》

《ウチは『チェーン』とか『ルウ』とか『エマ』とか言ってるわ》

「……ルウが1番ヤバかったかな」

「だから何を言ってるのよ何を」

《アニュゥゥゥ!》

「うえぇぇぇん!」

「わ、泣いた!」

《ララァ!》

《クェェェス!》

「うっうっ、ひぐっ、うえっ」

 

モニター越しの声でさえミズキは泣き喚いてしまう。

 

「あ〜もうミズキが久々にウザいわね……。ジャック、対策って何?」

「ああ、この病気は『ワタシタチハマタイツデモアエル花』という花で治る」

「ワタ……なに?」

「ワタシタチハマタイツデモアエル花だ。略して『裸で話す花』」

「どう略したらそうなるのよ!」

「とにかく、そのワタシタチハマタイツデモアエル花を……」

「長ったらしい!」

「その花を探して煎じて飲ませなければならない。さすればたちどころに症状は回復して強い心で迷いを捨てて戦えるとある」

「別に戦わなくていいんだけど」

「その花の在り処はイストワールが調べてくれた」

「はい。ラステイションのトゥルーネ洞窟にあります。そこそこ近所ですよね」

「……………ん?」

《え?》

 

ミズキとノワールが聞き覚えのある単語に反応する。

 

「イストワール、今なんて?」

「だから、トゥルーネ洞窟です。あの洞窟の中にそのワタ……ワタ……なんとか花があるんです」

《……トゥルーネ洞窟……ですって?》

《私は少し遠いけど……そんなこと言っていられる場合じゃないものね。一緒に行くわ。ノワール、案内を……》

 

『トゥルーネ洞窟〜⁉︎⁉︎』

 

《……耳が潰れたかと思った》

「なにがおかしいんです?別に、なんの変哲も無い洞窟じゃ……」

「……壊しちゃった」

「……はい?」

《その洞窟、前にぶっ壊れたのよ……。今頃その花も岩の下じゃないかしら》

「えええっ⁉︎何してんのミズキ!」

「ちが、あれは、エンシェントドラゴンが!」

《いいのよ、ミズキに非はないわ。けどどうしよう……。トゥルーネ洞窟以外にワタシタチハマタイツデモアエル花はないの?》

「覚えた⁉︎そんなバカな⁉︎」

《いやそこで驚かなくていいでしょ》

《ワタ、ワタシ……》

《覚えようとしなくていいわよ》

「ワタシタチハマタイツデモアエル花はトゥルーネ洞窟にしか生えません……。どうしましょう、このままでは……」

《このままでは?》

「いずれ闇堕ちして現実世界でもヒロインを殺しかねないことに……」

「救世の悲愴⁉︎」

「そ、それはなんとしても防がなきゃ!」

「ですが、この世界にはないのでしたら……もう……」

「………あ、ああ!そうだ!まだ可能性あるよ!」

「……なるほどな、そういうことか」

「可能性って?この世界には、ワタ、ワタ……ああもうテンポ悪くなるよ!まどろっこし過ぎない⁉︎」

「そう、この世界にはないよ!でも、他の世界なら……!」

「………ああ!」

 

ネプテューヌもミズキが思い当たったことに気付く。

そう、この世界にないのなら、別の世界へ!

 

「プルルートのところに行こう!」

 

《…………げ》

《……マズい……》

 

そんな小さな声が聞こえた。




うぇっ、ひぐっ、死んでほしくないよぉ……。
AGEはヒロイン可愛かったし…。二部のヒロインはレミ。一部はユリンで三部はルウ。

とりあえず定期更新はこれでおしまい。mk2の準備に取り掛かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラブコメなら死ぬことはそうそうない。……はず。

お久しブリーフ。
今ネプテューヌmk2を書いてますけど…なんていうか…暗い!
とんでもない絶望感なのでこっちに明るさフルスピードです。


「ど〜も!学園のアイドルぅ〜、ネプテューヌだよ〜!」

「いつの間に私達は学園に入学させられたのよ」

「ハイスクールとかと勘違いするから不用意な発言はしない」

「そうですわよ。いくら私達が……私達が……」

 

 

「落下してるとはいえ?」

 

 

「まあ……そうなりますわね。現実逃避よりも解決案を探すべきですわ」

 

ただ今、プルルートのいるはずの次元。

絶賛空から落下中。

 

「私もベールに賛成よ。ここは落ち着いて、なんとか方法を模索して……」

「うわぁぁぁぁぁんもう落ちるのやだぁぁぁぁ!」

「落ち着いてって言ったよなぁ⁉︎」

「お決まりだけどさあ!鼻をザリガニに挟ませるくらいお決まりだけどさあ!落ちる身にもなってよ!結構痛いんだからねアレ!」

「痛いで済むアナタにびっくりよ!」

「ていうか、大人しく上にいるミズキ様に助けを求めればいいのでは?」

 

ミズキは変身してゆっくりと降下している。

ネプテューヌ達は変身して華麗に着地すると言ってしまったがためにミズキは放っているのだが、何故か変身ができず落下中なのであった。

 

「……まあ、それが1番妥当」

「お、お〜い、ミズキ〜!助けて〜!」

 

《………ホワイトベースを艦娘化したらどうなるんだろう……》

 

「割とどうでもいいこと考えてる⁉︎」

「ば、ネプテューヌ!その発言は聞き捨てなりませんわ!」

「ば、って言ったわよね、今。バカって言いかけたわよね」

「女人化は人が誇るべき宝ですわ!女人化があるからこそ、私達も生まれておりますのに!」

「その話はややこしいからやめてくんない⁉︎」

「女人化の歴史はかぐや姫にまで遡ることができますわ。古来の人々は月を女人化し……」

「それはいいから、ベール。とりあえずミズキを気付かせないと……」

 

《……『○だま』と『のぞ○』ってどっちが強いんだろう……》

 

「強いも何もないよ!2つともただの新幹線!」

「正面からぶつかり合った時の強度、ということかしら……」

「運転手即死するわよ⁉︎」

「お待ちください。まず、『こ○ま』と『○ぞみ』を女人化するのですわ」

「その話はもういいよ!」

「ねえ、いい加減落ちるわよ……!」

「ええ⁉︎やだやだやだ!ノワールクッションになって!」

「嫌よ⁉︎何最低なこと頼んでるのよ!」

「落ちてもいいから、たまにはふかふかぼいんぼいんな柔らかいところに着地したいよ〜!」

「では、私が抱きしめて差し上げましょう」

「ああ……ここが天国……アウターヘブン!」

「それは外よ」

「よ〜し準備万端!ノワール、もう我慢しなくていいんだよ〜?」

「なんで実は私がクッションになりたいみたいな言い方をするのよ!」

「だって〜、ノワールツンデレだし〜?」

「だからって言うこと全部真逆の意味で捉えないでくれる⁉︎」

「……私はネプテューヌの上に行かせてもらうわ」

「ちょ、ブラン!抜け駆けはずるいわよ!」

「ああ、こら、動かないでよクッション!」

「私はノワールよ!」

「……暴れたら……!」

 

《ん?あれ、まだ変身してない……。ま、なんとかなるか》

 

『のわぁぁぁぁぁぁ⁉︎』

 

どかぁぁぁぁぁぁん!

 

《………ならなかったみたいだね》

 

ミズキははぁ、と溜息をついて4人が落下した竹林に降り立った。そこには……。

 

「………えと……何があったの?」

 

下からノワール、ベール、ブランが山になっている。その脇に頭からざっくり突き刺さっているネプテューヌがいる。

 

「ふがっ、うむ、うもももも!」

「すもももももももものうち?」

「うむ〜!」

「大仰な感じでうむって言われたね」

「う〜も〜!」

「ごめんごめん冗談だよ」

 

ミズキがネプテューヌの腰を持って引っ張り出そうとするが……なかなか引っこ抜けない。

 

「ん……く……!まだまだ株は抜けません、と」

「うむ、むむむ!」

「株が抜けないと言うのなら……まずはそのふざけた幻想からぶち壊す!」

「うむっ⁉︎ぷっはああああ!」

 

ネプテューヌが引っこ抜けた。

 

「生きてる!私生きてる!」

「何があったの、ネプテューヌ?」

 

隣には死屍累々というか、死体の山。

 

「うっ……3人は……私を庇うために……ううっ……!」

「だとしたら完全に無駄だよね。庇いきれてないもんね。ネプテューヌだけ頭から埋まってるんだし」

「……でもほら?結局生きてるんだし、結果オーライだよね!」

「他が死んでるとオーライでもなんでもないと思うけど」

 

死体の山に近付いて1番上のブランの体をツンツンと突く。

 

「生きてる〜?」

「う……く……死んだわ……」

「よし生きてるね」

 

ブランをとりあえずどけて脇に退ける。

 

「……ちょっとミズキ、私の扱いがぞんざいじゃない?」

「………うぇぇぇん生きててよかったよぉぉぉ!」

「嘘くさ!」

「……まあいいわよ、ギャグパートだし……」

 

ブランは大人しく立ち上がってミズキの隣に並ぶ。

 

「ベール、生きてる〜?」

「うぅ……いもう、と……」

「遺言に欲望ダダ漏れだね」

「この遺言だと犯人が妹みたいだわ……」

「むしろダイイングメッセージ⁉︎」

 

ベールも持ち上げて脇に退ける。ベールも特に何事もなかったかのように起き上がった。

 

「私に妹はいつできるのでしょうか……」

「そんなに欲しいの?」

「ええ、とても。今も妹が欲しくてデ○ルーク星の姫様を招こうかと本気で考えていますわ」

「その星の姫様を連れてきても妹ができるわけじゃないからね。あの家は最初から妹いたから」

「それに、私はあんなラッキースケベな力を持っておりませんし……」

「そこは関係ないんだってば。まずは生まれ直すことが大事なんだってば」

 

暴走しているベールを諌めてノワールの元へ向かう。1番下にいたのがノワールだから1番重さを感じたのもノワールだろう。

 

「ノワール、大丈夫〜?」

「ぅく……く……」

「あら〜……目を回しておりますわね〜……」

 

ノワールを持ち上げると目がぐるぐるしていた。

本当に目ってこんな渦巻きするもんなのか……。

 

「ん?……あれ?」

 

ふと、地面を見るとそこには竹の葉に埋もれる見覚えのあるシルエット。

 

「……よっこら、せっ」

 

ノワールをとりあえず寝かせてそのシルエットを引っ張り出す。

すると……。

 

「あぅ………」

「……ノワールがもう1人」

「まさか、落下の衝撃で分裂⁉︎」

「いや、魂の可能性もあるわね」

「まずは念仏を唱えてみてはどうでしょう」

「それ成仏しちゃうよ⁉︎ノワールが本当にヘヴンにゴーイングだよ⁉︎」

「まあ、物は試しよ」

「それは試しちゃいけないやつ!」

「ナンマンダブナンマンダブ……」

「唱えた!」

 

ミズキがナンマンダブナンマンダブとブツブツ唱えていると抱き上げている方のノワールが眉をピクピクさせる。

 

「あら、成仏しかけているのかしら」

「だから成仏しちゃダメだって!」

「ナンマンダブナンマンダブ……」

「う……か……勝手に殺すな〜!」

「あ、起きた」

 

両手を振り上げてミズキに抱き上げられたノワールが怒る。

 

「あれ?じゃああっちのノワールは?」

「偽ノワールじゃないかしら」

「略して偽物ワール⁉︎」

「それは略してないわよ!ていうか降ろしなさいよ!ていうか人の上に落ちてくるってどんだけ非常識なのよ〜!」

「大変だなあ……」

 

ツッコミ役って本当大変。

ミズキは大人しくノワールを降ろす。

すると寝ている方のノワールも目を覚ました。

 

「う、う〜ん……て、はぁ⁉︎私⁉︎」

「え⁉︎なんで私がいるのよ!」

 

「ノワール、どうしたのですか〜?」

「大きな音がしたけれど……」

 

「え」

 

竹林の奥から今度は別のブランとベールが出てきた。

 

「ねえ、非常に区別がしにくくなったよ」

「ここはひとつ、台本形式にしてみたらどう?」

「なるほど!超次元側がAで、神次元側がBだね!」

「わかりやすいですわね。では、そうしましょう」

「ちょっとアンタ達何の話してるのよ」

 

ミズキ「なんでもないよ?」

のわA「なんでもないなら……ん?なんだか違和感があるわね」

べるA「気のせいですわよ。文面の問題ですわ」

のわA「……?何を言ってるかわからないけど、まあいいわ」

のわB「ちょっと!アンタ達無視しないでよ!」

 

非常に台本形式は誰が喋ったかわかりやすいなあ。

そう思っていると竹林の奥からパタパタと急いだ足音がする。

 

???「ね〜ぷちゃ〜ん!」

ねぷ「あ、ぷるるん!」

ぷる「ね〜ぷ………」

 

ピタリと笑顔でこっちに走ってくるプルルートが動きを止める。そしてミズキの方を見た。

 

ぷる「ね〜ぷちゃ〜ん」

ねぷ「おお、心の友よ!……ってあれ?」

ミズキ「あの……僕ネプテューヌじゃないんだけど」

ぷる「間違えちゃった〜。えへ〜」

 

プルルートはネプテューヌとするっとすれ違ってミズキに抱きつく。

 

のわA、ぶらA『…………カチン』

 

そしてノワールとブランが気を悪くする。

 

のわB「プルルートが友達ってことは……アンタ達が別次元の女神?」

ねぷ「いえ〜す!プラネテューヌの女神、ネプテューヌだよ〜!」

ぶらB「他の自己紹介はいいわ。似てるしわかるし面倒くさいし」

のわA「辛辣!」

ぶらA「自己紹介すらさせてもらえないなんて……」

べるB「ところで、彼は?」

べるA「彼はクスノキ・スミキと言いますわ。何というか……まあ……神様?なんでしょうか……」

ぷる「聞いてるよ〜。ミズキ君は〜、神様になるの〜?」

ミズキ「まだ決めてない。けど、多分ならないと思うな」

のわA「そうなの?」

ミズキ「うん。そもそも領土がないし。国を作るとしても勉強とかしなきゃだから、時間はかかると思うよ」

ぷる「私〜、ミズキ君が国作ったら〜、毎日遊びに行くね〜?」

ミズキ「仕事してよ……」

のわA「わ、私も毎日でも通うわ!」

ぶらA「……通い妻………」

ミズキ「仕事してってば!」

 

のわB「イチャイチャしてるわね〜……」

ねぷ「そうなんだよ〜!もうお父さん心配で!」

べるべる『いつならお父様になったのですか』

ねぷ「うおっ⁉︎息ぴったり⁉︎」

ぶらB「さすが別次元の同一人物といったところね……」

べるべる『あらあら。アナタとはなかなか気が合いそうですわね』

ねぷ「なにこのセルフエコー⁉︎音は遅れてやってくるものだった……⁉︎」

のわB「絶対違うから。音はそんなに主役を張ってないわよ」

べるA「やっぱり大きさこそジャスティス!ヘァッ!トウッ!モウヤメルンダ!ですわよね」

べるB「ええ。なんなら無限の正義までありますわよ」

 

ばるんばるんと2人のベールが胸を弾ませる。

 

ぶらB「……運命にでもなって、串刺しにしてやろうか……⁉︎」

べるべる『遠慮しますわ〜』

ねぷ「想いだけでも、力だけでもダメなのですわ」

 

全員『⁉︎』

 

ミズキ「え、ちょ、なに?」

ねぷ「へ?私何か変なこと言った〜?」

ミズキ「……いや、なんでもない。なんだか凄く、なんだろう、中身が似てる気が……」

ねぷ?「……キラ!」

ミズキ「いやいやいやいや!確信犯でしょ!今の絶対ピンク髪のあの人でしょ!」

ねぷ「へ?さっきからミズキなにを言ってるの?よくわかんないんだけど」

べるべる『すいません、無能な艦長で……。こんなんじゃディーヴァも……』

ミズキ「また増えた!」

ぶらB「中身の人のネタはわからない人が多いからやめましょう」

のわB「プルルート、いい加減教会に案内しなさいよ。こんなところで立ち話しててもしょうがないでしょ」

ぷる「わかったよ〜。じゃあ〜、ついてきて〜?」

 

プルルート達、こっちの次元の女神に連れられて一行は教会へと向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

一行は教会に着き、今は上階へと向かうエレベーターに乗っている。

教会が大きいのもあってエレベーターに乗っている時間も長くなる。

 

ぷる「私〜、ミズキ君の隣取った〜」

のわA「甘いわね」

ぶらA「遅いわよ」

 

プルルートがミズキの隣に行こうとするとノワールとブランが先んじてミズキの隣を占拠した。

 

ぷる「む〜……。じゃあ〜、前取った〜」

ミズキ「おっ、と」

ぷる「えへ〜、あったか〜い」

のわA、ぶらA『………ぐぐぐぐ』

 

プルルートが幸せそうな顔をしてミズキの胸に頬ずりしている。

 

ぷる「ねえ〜、ミズキ君、ちゅ〜しよ〜?」

ミズキ「いやそれはちょっと……」

のわA「わ、私もしてあげてもいいのよ?」

ミズキ「いやだから……」

ぶらA「私ならもっといいことしてあげるわよ」

ミズキ「話聞いて⁉︎」

ぷる「や〜ん、ミズキ君ったら〜、だいた〜ん」

ミズキ「もう聞く気ないんだね、そういうことだよね」

 

ねぷ「ぺっ」

べるA「女神が唾を吐きましたわね……」

 




また数日後の投稿になると思います。
活動報告、感想の書き込み募集してます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

偉人の言葉から学ぶことは多い

遅れて申し訳ないです。しかも短め。


ぷる「とうちゃく〜」

 

エレベーターが最上階に到達した。

結構長いエレベーターで待ちわびてたネプテューヌが……。

 

ねぷ「ヒャッハー!最上階だぁ!もう最上階に困ることはねえ〜っ!」

ミズキ「あたぁっ!」

ねぷ「あべし!」

 

世紀末なモヒカンと化したので成敗。

 

ねぷ「うぐふっ……き、効く……」

のわA「アンタが世紀末になるからよ」

ねぷ「私に優しかったのはミズキとネプギアくらいだったのに!ミズキも段々私に手厳しくなってきてるよ!」

ミズキ「そうかな?……そうかもね」

ねぷ「反省して!それはもう、謝罪会見で泣きわめくくらい反省して!」

ミズキ「さーせん」

ねぷ「軽っ!」

ミズキ「しゃっしゃっしゃー。……しゃーっす」

ねぷ「ウザっ!最近の若者みたいだよ!」

ミズキ「ワンチャン。ワンチャンワンチャン」

ねぷ「もう会話になってない!」

 

ミズキの偏見の若者を演じていると奥の方から声を聞きつけて小さい方のイストワールがやって来た。

 

いす「何事ですか?ゲイムギョウ界が核の炎に包まれたような声がしましたけど」

ねぷ「え⁉︎ちょ、これいーすん⁉︎ちっこくて可愛い〜!」

いす「え?きゃっ、ちょ、くすぐったいですよ」

ねぷ「ウチにも欲しい〜!……お持ち帰りする〜!」

ぶらA「その言い方はいろいろな誤解を生むからやめたほうがいいわよネプテューヌ」

ねぷ「へ?そう?別におかしくなくない?」

ぶらA「……ミズキが私をお持ち帰りした」

ねぷ「⁉︎」

ミズキ「嘘つかないでよ!」

ねぷ「そんな!ブランとミズキが大人のホテルであんなことやこんなこと……ねぷ〜!」

べるA「あら?ノワール今回は嫉妬しないのですわね」

のわA「さすがにアレは嘘でしょ」

ぶらA「その通りよネプテューヌ。その、イケない感じたるや……もう、プルルートもドン引きするレベル」

ぷる「え〜?な〜に〜?」

ねぷ「そんな!蝋燭とか鞭とか三角木馬が飛んで来そうなぷるるんがドン引きするなんて……いったい⁉︎」

ぷる「……私〜、悪口言われてる〜?」

ミズキ「あのさぁ……ネプテューヌも信じないでよ……」

ねぷ「あ!ど変態!」

ミズキ「訴えてやる!」

 

ミズキがネプテューヌを訴訟して大逆転な裁判なんて起こらせずに金をがっぽり稼いだ末に死刑にする算段を立てていると、ネプテューヌがふと壁に隠れてこちらを見ている女の子に気付く。

 

ねぷ「……ぴー子……」

ぴー「……………」

 

じーっとこちらを見ているピーシェ。なんだか不安そうな瞳をしている。

 

のわB「何かあったんだっけ?」

ぶらB「ええ。まあ、プルルートの話のほとんどの惚気だったから聞き逃すのも無理はないわ」

ミズキ「そんなことしてたの……⁉︎」

ぷる「えへ〜。つい〜」

べるB「大変でしたのよ?口を開けばアナタのことばかり……」

ぷる「だって〜、仕方ないも〜ん」

ミズキ「あはは……仕方ない、のかな……?」

 

ほんわかとした笑顔のプルルートに苦笑いで返す。

横目でネプテューヌを見るが、心配は無用だったようで。

 

ねぷ「おいで、ぴー子」

ぴー「………ねぷ……」

ねぷ「ネプテューヌでもねぷてぬでもいいよ!だからぴー子、おいで?」

ぴー「ねぷ、ねぷてぬ……ねぷてぬ〜!」

ねぷ「ぴー子!」

 

2人はお互いに駆け寄る。

抱き合って2人は幸せにーーーー。

 

ぴー「はあああっ!むげんぱ〜んち!」

ねぷ「うげはぁっ!」

ミズキ「あ〜……いつも通りだね」

 

ならなかった。

このまま抱き合うと思ってたらその幻想をブチ殺されました。ていうか一瞬ピーシェの拳が伸びたような……気のせい?

 

ねぷ「す、スタンドも月まで吹っ飛ぶこの衝撃……」

ミズキ「やっぱ腕伸びてたんだ……」

 

月にまでネプテューヌはぶっ飛んだらしい。

 

ぴー「きゃはは!ねぷてぬとんだ!」

ねぷ「ぷっ、あはは、完全復活だね、ぴー子!」

ぴー「つぎはえゔぉるのほうね!」

ねぷ「地球一周⁉︎私耐えられないよ!」

 

ピーシェは再会するまでに機械天使の力を身につけたんでしょうか……。人の射程の限界はズームパンチレベルだと思うんですけど。

 

ミズキ「……まあ、大丈夫みたいだね」

 

呆れたような顔で、しかし心の底から安心してミズキはじゃれ合う2人を見ていたのだった。

 

ぴー「さんみいったい、ぱ〜んち!」

ねぷ「うげぇぇぇえっ!」

 

訂正。

ピーシェとの遊びは生死をかけてやりましょう。

 

いす「あ、これ言ったほうがいいですかね?……『あなたに、力を……』」

ミズキ「前話のネタを引っ張らないでよ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そんなこんなでじゃれ合いも終わって。

 

ねぷ「あぅ……痛いよ〜、痛いよ……」

ミズキ「よ〜しよしよし、痛いの痛いのとんでけ〜」

ねぷ「飛ばないよ〜……」

 

ネプテューヌはだらしなく隣を歩いていた。

もちろん他の全員も連れて森の中を歩いていたが、その森が開けると目の前に邪悪な塔が見えた。

 

のわA「あれが?」

のわB「ええ。その名も『スーパーウルトラグレートエンドサンダーライトアンドダークネスチャージングスタートルネードゴッドパワーストロングミラクルゼロスカイマルチルナコロナエクリプスフューチャーフュージョンジュネッスオーバーレイ……」

のわA「もういい!もういいから!通称を教えて通称を!」

のわB「シャルロッ党よ」

のわA「だからどうやって略したらそうなるのよ!ていうか誤字!党じゃなくて塔でしょ⁉︎」

ぶらB「いいえ、合ってるわ」

べるB「他にもオルコッ党などが存在しますわ」

のわA「絶対嘘よね!からかわないでよ!」

べるB「そっちのノワール、かの偉人ルイ13世はこう言いましたわ。『朕は国家なり』、と……」

のわA「……だからなんだってのよ」

べるB「つまり、大きな慈愛の心を持って全ての善も悪も受け入れて心豊かに生きましょうということですわ」

のわA「絶対そんな意味ないわよねぇ⁉︎過大解釈にも程があるわよ!」

ぶらA「過大解釈どころか解釈は蒼の彼方にフォーリズムだけど……」

ぶらB「待ちなさい、そちらのノワール。かの偉人、武○遊戯はこう言ったわ。………『なぁにそれぇ』……と」

のわA「だからなに!」

ぶらB「つまりこの世は常に移り変わるもの、どんな強者もいつか衰えるという意味よ」

のわA「違うわよ!ただの疑問文よそれは!」

ミズキ「待ってノワール。かの偉人、苗○誠はこう言ったよ。『金と女が全てだ。それさえあれば他になにもいらねえ』と」

のわA「言ってない!絶対言ってないわよ!ていうかミズキまで参加したの⁉︎」

ミズキ「意味はね……」

のわA「聞いてないわよ!ていうか聞くまでもないわよ!」

ミズキ「ここは俺に任せて、あとはもう何も心配いらない、必ず帰るからって意味なんだよ」

のわA「のわぁぁぁぁぁ!」

ねぷ「あ、ノワールが壊れた」

ぷる「おもしろ〜い」

のわB「こっちの私は弄りがいがあるわね」

ぷる「こっちのノワールちゃんも〜……負けず劣らず、弄りがいがあるよ〜?」

のわB「ひっ⁉︎」

 

びくーんとあっちのノワールが体を硬ばらせる。

 

ねぷ「あっ察し」

ミズキ「調教済み、ってところかな」

のわB「ち、違うわよ!」

 

真っ赤になって否定しているが、バレバレである。

ノワールがあんなことやこんなことでいやんあはんうっふんで真っ白になる姿が見える。黒の女神なのに真っ白とはこれいかに。

 

ぶらB「ちなみに、その……なんて言ったかしら?『ワタシタチハマタイツデモアエル花』だったかしら?それはこの党の頂上……1万階にあるらしいわ」

ぶらA「なんで覚えられるのかしら……」

ミズキ「けど、1万階かぁ……。これは骨が折れそうだね〜」

 

うんたらかんたら塔は雲の上まで突き抜けている。

これの最上階ともなると、普通に登るだけでも疲れそうだ。

 

いす「いいですか?みなさんが元の次元に戻れるゲートが開くのは3時間後です!それを過ぎたらあと3年ほど元の次元には帰れませんからね!」

ミズキ「わかった。3年も帰れないのは大変だもんね、注意するよ」

のわB「それじゃ、行くわよ」

ミズキ「あれ?そっちのみんなも行くの?」

ぷる「もちろんだよ〜。だって〜、ねぷちゃん達は変身できないし〜。それに〜、私がついていきたいも〜ん」

ぴー「ぴーもいく!ミズキまもる!」

ミズキ「クスクス、ありがと。頼りになるね」

のわA「でも、往復で3時間ってだいぶ辛いわよ?本当に大丈夫なの?」

ぶらB「最上階にはワープポイントがあるらしいわ。それを使えば一瞬で戻れるらしい……」

べるA「登りだけだとしても厳しいですわね。ですが、やるしかありませんか」

ミズキ「そうだね。みんなのためだし、できるだけ早く帰ってあげなきゃ」

 

今もネプギア達は苦しんでいるのだ。もうそれはひどい悪夢で。本当にひどいと思います。あんなにヒロインを殺して……。

 

ミズキ「ぐすっ」

のわB「ええ⁉︎アンタなんで泣いてるのよ!」

ミズキ「なんでもない……。なんでも……うわぁぁぁん!」

のわB「⁉︎」

 

べるA「何にせよ……安全には終わりませんわね」

べるB「退屈しませんのね」

べるA「……忙しいのもそれはそれで疲れるのですわよ?」




また投稿は数日空くと思います。

それではリクエスト待ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女神のガールズトーク再び。別次元の女神も添えて

だいぶ間が空いちゃいましてごめんなさい。
しかもまだ続くし……。


ネプテューヌ達はとりあえず門を開いて中に入る。

 

ねぷ「お邪魔しま〜す!」

のわA「ば、声を出さないでよ!」

 

中には灯りがついていて良く見える。

 

ミズキ「塔っていうから、真っ暗かと思ってたけど……電力どこからきてるんだろ」

のわB「さあ?そんなこと調べる余裕ないくらいの場所なの、ここは」

ミズキ「本当に危ないとこなんだね」

べるB「と言っても危ないのは2階からですわ。1階にモンスターはほとんどいません」

ねぷ「あ〜お決まりだね!『この先に進むと帰れなさそうな気がする……』的な!」

ミズキ「帰れるといいな……と、階段だ」

 

早速階段を発見した。

テクテクと上に登る。

 

ぷる「ミズキ君〜、ご機嫌だね〜」

ミズキ「そう?クス、そうかもね。なかなかみんなが集合する機会ってないから。これにネプギア達もいると完璧なんだけど」

 

心なしか階段を登る足並みが弾んでいたみたいだ。

 

ミズキ「なんだか、うずうずする。今ならどんなにモンスターがいても倒せそうだよ」

べるA「頼もしいですわね」

 

そうこうしているうちに2階についた。

 

とりあえず通路が真っ直ぐになっているので全員でそこを歩いていると……。

 

ミズキ「ん、来たね」

ぴー「きたきた!」

 

行く手を阻むように3体のモンスターが現れた。

と言ってもまだまだ弱そうだ。お決まりの上に行けば行くほど強くなるあのシステムだろう。

 

ぶらA「12階くらいなら楽なのに……。金色の鎧も売れるし」

のわA「それは売っちゃダメだから!一応聖闘士の証だから!」

ぶらB「アナタ達は変身できないのだし、ここは私達に任せてーーー」

ミズキ「ふんすっ!」

 

ブランBがモンスターに向き直ると既にミズキが飛び出して1体のモンスターを殴り伏せていた。

 

のわB「へ?あの、もしかしてミズキって……」

 

ミズキ「ん〜、うずうずするなあ!」

 

残り2体のモンスターの頭を掴んでぶつける。そして両方とも壁に投げつけて減り込ませた。

 

のわB「結構強い?」

ねぷ「強いよ?」

ぷる「私も〜、負けちゃった〜」

べるB「プルルートが負けてしまうのですか……。それは……」

ぷる「でも〜、次は勝って〜イジメるんだ〜」

ミズキ「イジメないでほしいなあ……。クスクス」

 

手をパンパンと払ってミズキが笑う。

 

ミズキ「さあ、行こう?まだまだ先は長いよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そんなこんなで4階。

問題なくさくっと登って来たミズキ達の前にあったのは……。

 

ミズキ「エレベーター……だって」

ねぷ「ねぷっ⁉︎9999階まであるってマジ⁉︎」

べるA「手抜きですわねぇ……」

ぶらA「でも、ちゃんと倒さないと女神(アテナ)が……」

のわA「それは別の世界の女神様だから!ていうか今日のブランの星座へとこだわりはなに⁉︎」

ねぷ「まあまあ、楽できるならいいじゃん!ほら乗った乗った!」

のわB「ま、楽ならいいわね。時間もないことだし、さっさと行きましょうか」

 

全員がエレベーターに乗り込む。

だがミズキだけはエレベーターに乗らなかった。

 

ぷる「ミズキ君〜?どうかした〜?」

ミズキ「……僕、このまま上行くよ」

のわB「……はあ⁉︎」

ぶらB「上って、どうやって……」

ミズキ「壁をブチ抜いて……こう、ト○ンクスみたいに……」

のわA「あ〜そういうことね。……アンタならできちゃいそうね……」

ぶらA「まあ、大丈夫よね……。本当は一緒に行きたいけれど、どうしてもというなら仕方ないわね」

べるB「なんですの、その……彼への異様な信頼は」

ねぷ「まあ、なんとかなっちゃうんだよ〜!それがミズキっていうか?今までもなんとかなったし!」

ミズキ「ぶっちゃけ、そのエレベーター時間かかりそうだからさ。念のため、ね」

ぷる「上で会おうね〜?」

ミズキ「うん、行ってらっしゃい」

ぴー「みずき、またね!」

 

クスクスと笑うミズキが手を振る。

ミズキを前から知っている者達は手を振り返し、そうでない者は本当に大丈夫かと怪訝な目をしていた。

そしてドアが閉じ、上へと登って行く。

 

ねぷ「……よ〜し、上まで暇だし〜……クールズトークするよ〜!」

べるA「涼しそうな会話ですわね」

ねぷ「ギャールズトーク!」

ぶらA「イケイケな会話ね」

ねぷ「キールズトーク!」

のわA「殺し屋がしそうな会話ね」

ねぷ「グールズトーク!」

ぷる「愚かな人がやりそうな会話だね〜」

ねぷ「コールズトーク!」

のわB「いい加減正解言いなさいよ!ガールズトークでしょ⁉︎」

 

ネプテューヌの焼きましのようなセリフについにノワールBが痺れを切らした。

 

ねぷ「んじゃ気を取り直して〜。ガールズトーク!ぱちぱちぱち〜」

ぷる「ぱちぱち〜」

のわB「……はあ、まあいいけど。暇なのは確かだし……」

ぶらB「で、なんの話するつもり?」

ねぷ「…………………」

ぶらB「アナタ本当に女子?」

ねぷ「ねぷっ⁉︎じょ、女子だよ!ね〜、ぷるるん!」

ぷる「ほら〜女の子だよ〜?」

ぶらB「性別の話じゃなくて……わかったからスカートをヒラヒラさせないで」

 

スカートをパタパタさせるプルルートを諌める。

 

ねぷ「そっちのブランこそ、何か女子っぽい話できるの〜⁉︎」

ぶらB「朝飯前よ。ウケるって言ってればなんとかなるもの」

ねぷ「ならないよ⁉︎」

ぶらB「……そうよね、ウケる〜」

ねぷ「確かに女子っぽいかもだけど!そんな女子イヤだよ〜!」

べるA「別に、難しいことではありませんわ。あっさいことを深そうに話すのがガールズトークではなくて?」

ねぷ「浅いことって?」

べるA「そうですわね……。いわゆるJKが話すのは服やスイーツの話ではなくて?他には……」

ねぷ「他には?」

べるA「あ〜……恋バナ?とかじゃありません?」

 

のわA、ぶらA(げ)

 

ねぷ「それだ〜!恋バナだよ恋バナ!幸いネタには事欠かないし!」

のわA「どうせそのネタって私達のことでしょ?……はあ」

ぶらA「……人をネタ呼ばわりしないで」

ぷる「こいばなって〜、な〜に〜?花〜?」

べるA「恋バナというのは恋の話、略して恋バナですわ。プルルートも話しやすいのではなくて?」

ぷる「うん〜。たくさん話せるよ〜?」

ぴー「こいってなに?」

べるA「ピーシェにも、そのうちわかる時が来ますわよ」

のわB「私達には関係ない話ね」

ぶらB「そうなるわね。恋なんて、したことないし」

べるB「画面の中には恋をしたことはありますわよ?」

ぶらB「それは例外……」

ねぷ「まあまあそう言わずに!別次元の自分の惚れ方とか、参考になりそうじゃない?」

のわB「……興味がないわけじゃないけど、私達は女神だし。ま、最低でも私も守れるくらいの強さじゃないとね?」

のわA「……私と同じこと言ってる……」

のわB「えっ⁉︎」

 

ぶらB「ちなみに、こちらの次元に残された文献にはとある女神の逸話があるわ」

ねぷ「ほうほう、その内容とはッ?」

ぶらB「記録の上では死亡とされているけれど、実際は執事と駆け落ちしたのではないかという内容よ」

ぶらA「執事……。それ未来の私じゃないわよね……」

ぶらB「あら、彼はそっちの私の執事なの?」

ぶらA「そういう時期もあったのよ……」

 

のわB「で、いつ告白する気なのよ」

のわA「ひゅえっ⁉︎」

のわB「まさか手が出ないとかそういうアレ?乙女じゃあるまいし」

のわA「うぅ……。私だって一応乙女だもの〜!」

べるA「処女?」

のわA「やめてよ!読み方は同じかもしれないけど、やめてよ生々しい!」

ねぷ(そういえば、ミズキってノワール達がミズキのこと好きなの知ってるんだよね……。さすがにこれは言っちゃダメ!お口にチャックチャック!)

 

べるB「アタックは出来ているのですか?」

ぶらB「……あんまり。ミズキは基本的にプラネテューヌにいるし……」

ぷる「私も〜、会いたいんだけどね〜」

べるB「ネプテューヌが独占していると」

ぶらB「そうなるわね」

ぴー「ねぷてぬ、ひとりじめ、めっ!」

ねぷ「いや、待って待って!ミズキが最初に来たのはプラネテューヌであって、最初に出会ったのも私であって!保護者たる権利は私に……!」

のわA「な〜にを小難しいことを言ってんのよ。取られるのがイヤなだけなクセして」

ねぷ「うぐっ!」

ぷる「ねぷちゃんも〜、ライバル〜?」

ねぷ「いや、違う違う違う!全然そんなんじゃないけど、でも〜……」

 

もじもじと指をくるくるさせるネプテューヌ。

 

ねぷ「そもそも!ノワールとかがちゃんとミズキを奪い取れるかわかんないけどね!」

のわA「うぐ」

ぶらA「それは……」

ぷる「フラれるかも〜、ってこと〜?」

べるB「そうならないためのアタックでしょう?たとえ会えなくても、メールや電話、古式ですが手紙などもコミュニケーションの手段でしょう」

のわA「なるほど……。でも、会話の切り口がわからないわね」

べるA「些細なことでいいのですわよ。『今夜は月が綺麗ですね』とか」

のわA「告白じゃない!それ思いっきり好きって言ってるじゃない!」

ぴー「つきがきれい?それってすきってことなの?」

ぶらB「まあ、ほら、故事にちなんでるのよ。とりあえずは違うってことで覚えておくといいわ」

 

べるB「お互いの趣味とか話題の合致とかありませんの?好きな本とか、映画とか、なんでも」

ぶらA「……一応、ある……」

べるB「ならその話をすればいいのですわ。なんなら一緒に見ようとか理由をつけて会えますし」

ぷる「ベールせんせ〜。なかなか会えないのは〜、どうすればいいかな〜?」

べるB「そうですわね……。やはり、密度を高めるしかないのでは?プレゼントだったり、遊んだり……」

ぷる「プレゼント、かぁ〜」

 

ふんふんとプルルートは顎に手を添えて考え始めた。

 

ねぷ「おお……。ぷるるんが考え事なんて!」

のわB「それは失礼じゃないかしら……」

 

べるA「アタックも大事ですが、それ以前にもっと大切なことがあるのではなくて?」

ぷる「おお〜。ベールせんせ〜2人目だ〜」

べるB「もちろん、アレ、ですわね?」

 

全員『アレ?』

 

べるA「決まっています。合体ですわ!」

 

ベールが身体中からドリルを出して天元突破しようとしていた。

 

べるA「ちなみに、ギャグではありませんことよ?」

ねぷ「へ?そうなの?またパロネタかと……」

べるA「合体、即ち性的な合体のことですわよ」

ねぷ「ぶーっ!」

ぴー「せいてき?」

のわB「今更ながら、非常に教育に悪い密室ね、ここは」

 

ねぷ「そそそ、そんな合体なんて……ねっぷぅ〜!」

べるA「まあそれは付き合ってからでもいいでしょう。本当に大切なのは告白ですわよ」

ぶらB「告白……」

 

3人が今から告白するわけでもないのに喉を鳴らす。

 

ねぷ(多分意味ないんだけどなあ……。ま、いっか!)

 

べるA「手紙、口頭、メールなど、様々な手段を選び!」

のわA「…………」

べるA「夕焼けの校舎、夜の街、彼の家など様々なシチュエーションの中から!」

ぶらB「…………」

べるA「自分の想いを短い文でどれだけ伝えられるか!それこそが告白の醍醐味ですわ!」

ぷる「……………」

べるA「想像するだけで、胸が高鳴るでしょう?」

のわA「ま、まあ否定はしないわ。確かにロマンチックな方がいいわよね」

べるA「しかし……私から言わせてもらいますと、それだけでは“告白”という行為の7割しか考えられておりません」

ぶらA「7割?でも、他に必要な部分は……」

べるB「返事をされた後、ですわね?」

べるA「さすが私。わかっておりますわね」

ぶらA「告白の後……?」

べるA「ええ。想像してみるといいですわ。アナタ達が想いを伝えた後、永遠にも感じられる間があった後に……!」

 

ミズキ『ありがとう。僕もずっと前から好きだったよ』

 

ぷる「えへへへへへえへへへえへへへぇ〜」

ねぷ「ねぷっ⁉︎ぷるるんの頬が壊れたっ!」

ぴー「ちゅうかすーぷみたい!」

ねぷ「とろみレベルのトロトロ度⁉︎」

べるA「そう!そこですわ!その後!アナタは何をすべきか、そこを考えるべきですわ!」

のわB「それって、フラれた時のことも?」

べるA「わかってませんわね。恋は真剣勝負!負けた時のことは考えないものですわ!」

のわB「……何だか負けた気がするけど、何故か悔しくないわ」

ぶらB「つまり、『涙を流しながら抱きつく』とか、『感極まってキス』とかそういうところのことかしら?」

べるA「ええ。あわよくばそのまま……!」

べるB「はっ!今インスピレーションが湧きましたわ!帰ったら検索をかけなければ……!」

ねぷ「同人誌⁉︎いやむしろエロゲ⁉︎」

べるB「書くのに挑戦してもいいかもしれませんわね」

ねぷ「ついにデビュー⁉︎」

べるB「それでシェアも上がるかもしれませんし……!」

ねぷ「マジ⁉︎私もやる!さささっ、ぴー子、私の絵どう⁉︎」

ぴー「ぜろてん!」

ねぷ「が〜ん!」

 

そんな話をしているとエレベーターが音を立てて止まった。

 

ねぷ「あれ?もう着いたの?」

のわB「みたいね。……って、何してるの?」

 

後ろを向くとノワールAもブランAが顔を真っ赤にしてフリーズしていた。

 

ぶらB「あっちの世界にセ○ナトリップしているわね……。静かだと思ったら……」

ぷる「えへへ〜、やぁ〜ん、だめだよ〜。えへぇ〜」

のわB「こっちはこっちで起こしたら大変なことになりそうだし……」

 

ガコンとドアが開く。

さっきと大して構造の変わらない通路がある。

しかしその通路の真ん中には大きな穴が開いていた。

 

ミズキ「ん、来たね」

ねぷ「あ、やっぱりいた」

ぴー「みずき、さっきぶり!」

 

のわA、ぶらA、ぷる『!』

 

ミズキというワードに3人が再起動する。

そして何事もなかったかのように動き出した。

 

べるB「あそこまでなかったことにできるのも凄いですわね……。過負荷(マイナス)か何かですの?」

 

のわA「ごめんなさい、待った?」

ミズキ「………」

 

すかさず近寄るノワールの顔をポカンとした顔でミズキがほんの少し見た後、微笑んだ。

 

ミズキ「ううん、今来たとこ。クスクス、本当は立場逆じゃないかな」

のわA「こ、今度はちゃんとした立場でやりましょうね」

ミズキ「うん、やってみようね。クスクス……」

 

ねぷ(確かに……バリバリ気付いてるように見える!なんで気付かなかったのか不思議なくらいだよ!)

 

あまりにもミズキが平然としていたので分からなかったのかもしれない。

さっき少し黙ったりだとかこういうやりとりしたりだとか露骨なアピールされたりとかでミズキが気付いているのはわかるはずなのだが。

 

ぶらA「この穴、ミズキが開けたの?」

ミズキ「あ〜、ごめんね。ちょっと張り切り過ぎちゃった」

ぶらA「構わないわ……。凄い、と思うし」

ミズキ「クスクス、ありがと」

 

続いてブランAのターン。ブランは褒めるを繰り出した!

 

のわB「でも、これどうするのよ。私達は変身して飛べるけど、あっちの私達は……」

ミズキ「僕が抱えて飛ぼうかなって」

のわB「そんなに跳躍力あるの?」

ミズキ「飛べなくても、やりようはあるよ」

のわB「でも、私達が抱えた方が……」

ぷる「とうっ」

のわB「痛っ!」

 

その先は言わせないとばかりにプルルートがノワールBの太ももにチョップする。

ノワールBが涙目でプルルートを見るとプルルートがダメダメと言わんばかりに首を振る。

 

ぷる「じゃあ〜、抱っこして〜?」

ミズキ「ん、おいで」

 

のわB(ああ、そういうことね)

 

今回は自分が悪かったかとノワールBは反省する。

むしろミズキが私達に抱き抱えてとお願いしなかったあたり、ミズキがみんなにサービスしてると思うべきだろう。

………まさか、大きな穴開けたのもそのため?

 

のわB「まさか、ね……」

ミズキ「どうでもいいけど、僕は戦術予報士の資格持ってるんだ」

のわB「なんでそれを今言うのよ!ねえ!」

 

全ての行動を計算通りに感じてしまいそうになる。

疑心暗鬼に囚われ雛見沢症○群レベル5になってしまいそうなノワールだったが、それはさておき。ここにはいないイストワールまで狂ってしまいそうなことはさておき。

ミズキはプルルートを抱き上げた。いわゆる、普通の抱っこの体勢。

 

ミズキ「行くよ、プルルート。しっかり掴まっててね」

ぷる「うん〜。2度と離さない〜」

ミズキ「あれ、なんかデジャブ……」

 

R18アイランドでもこんなこと言われて抱きつかれた気がする。

 

べるB「でも、どうやって飛ぶ気ですの?」

ミズキ「これくらい、ちょっとブースターで後押しすれば……それっ」

 

どうやら足の裏だけにブースターを展開して大ジャンプしているらしい。

難なく余裕を持ってミズキは向こう岸に着地した。

 

ミズキ「はい、着いたよ」

 

ミズキがプルルートを降ろす。しかしプルルートは頬を膨らませていた。

 

ぷる「え〜……。もう終わり〜?」

ミズキ「クスクス、ごめんね、プルルート。

………あと少しだけ、ね」

ぷる「え?」

 

プルルートがそれをどういう意味か聞こうとするとミズキがまた戻って行ってしまった。

 

ぷる「………まさか〜……」

 




次回は(多分)ガンダム登場!ヒント!

げっっっっこうちょぉぉぉうであぁぁぁぁるっ!

Xの方ではないですけど、ヒゲが出ます。多分。

それでは活動報告でリクエストお待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

告白

やってやった。やってやったぞ。後悔はない。


ミズキ「次、誰行く?」

ねぷ「あ、ねえ私1人で飛んでいい?」

ミズキ「いいけど……飛べるの?」

ねぷ「なんとかなるなる!助走を付けて〜」

 

ネプテューヌが精一杯後ろに戻って「よーい」の準備をする。

 

ぶらA「その、次……お願いできるかしら」

ミズキ「ん、わかった。この前みたいのがいい?」

ぶらA「……お任せするわ」

ミズキ「はいはい。クスクス……」

 

消え入りそうなブランの声も聞き逃さずに抱き上げる。

前、つまりミズキが最初にルウィーに行った時と同じのお姫様抱っこだ。

 

ぶらA「っ………」

ミズキ「よし、それじゃ……」

ねぷ「ぴょ〜ん!カンガルーのように!」

 

ネプテューヌがミズキの横で走り幅跳び。

しかし。

 

ねぷ「いぃぃぃぃ…………」

ミズキ「落ちた⁉︎」

のわA「あの、バカ……」

 

突然の女神堕天の報告。

しっかり変身したあっちのノワール達が引き上げてくれました。

 

ぶらA「あの、その、早く……」

ミズキ「あ、ごめんごめん。んっしょ」

 

もう1度ブランを抱え直して大ジャンプ。ミズキは堕天することなく向こう岸にたどり着いた。

 

ミズキ「はい。お嬢様、乗り心地は如何でしたか?」

ぶらA「……うるさい」

ミズキ「お褒めいただいてるようで。クスクス……」

 

顔がうっすら紅潮しているブランの頭を撫でてまた戻る。

 

ぴー「ね、ぴーもいく!」

ミズキ「ピーシェも?じゃあ、はい」

 

しゃがみこんで両手を差し出すがピーシェが飛び込んで来ない。ピーシェは首を振って両手を出した。

 

ぴー「なげて!」

ミズキ「投げ⁉︎」

 

想像の斜め上をいく穴の渡り方だ。

ミズキは渋々ながらもピーシェの手を握って回り始める。

 

ぴー「あはは!」

ミズキ「ジャイアントスイン、グぅっ!」

ねぷ「あべし!」

 

なんということでしょう。

匠によって撃ち出された黄色の弾丸は吸い込まれるように紫の女神に向かって行ったではありませんか。

あんなに元気だった紫の女神もほらこの通り、即死です。

 

ねぷ「死んで……ない……」

のわA「しぶといわね」

 

おかしいな、あの威力なら即死のはずなのに。きあいのタスキとか持ってたのかもしれない。

 

ぴー「あははは!ねぷてぬたおれた!」

ねぷ「……身代わりの習得を……」

のわA「誰に身代わりさせるつもりなんだか」

 

ネプテューヌはぐったりと床に倒れてその上にピーシェが跨っている。ピーシェはぺしぺしとネプテューヌを叩いて追い討ちをかけている。

 

ミズキ「それじゃ次は……」

べるA「私は私に運んでもらいますわ」

ミズキ「そう?」

べるA「ええ。なので残った1人を運んであげなさって」

べるB「運びますわよ?」

べるA「頼みますわ」

 

ベールAがベールBに運ばれていく。

去り際にベールAがノワールAを見てウィンクしていく。

 

ミズキ「じゃあ……」

のわA「た、頼むわ。……優しく、慎重にね」

ミズキ「了解です、お姫様」

 

クスクスと笑いながらミズキが寄ってくる。

 

ミズキ「抱かれ方にリクエストはある?」

のわA「い、いいわよ普通ので」

ミズキ「ん。それじゃ失礼」

 

ノワールがミズキが抱きやすいように両腕を横に開く。

ノワールの脇の下にミズキが手を入れて持ち上げ、抱き上げた。

 

ミズキ「それっ」

のわA「っ」

 

ふわりと一瞬の浮遊感がノワールを襲う。

いつも空を飛んでいるはずなのだが、自分で飛んでいるわけではないからかノワールは少し不安になり、きゅっと抱き締める腕に力を込める。

それを感じたミズキが小さく笑った。

 

ミズキ「はい、おしまい。残り時間は?」

べるB「あと1時間くらいですわ」

ミズキ「余裕だね」

のわA「あの、ミズキ、その、ありがと」

ミズキ「どういたしまして。っても、この穴自体僕が作っちゃったものだし」

 

申し訳なさそうにミズキが頬を掻く。

ノワールBはそれを横目で見ながらミズキが全て計算済みである可能性を考え疑心暗鬼に陥っていた。なんだか喉も痒かった。

 

ぶらB「ここから先はワープポイントで先に進むらしいわ……」

ミズキ「へえ。それでワープポイントってどこ?」

ぶらB「あそこじゃない?」

 

ブランが指差した向こうには小さく光るワープポイント。

……とその前に立ちふさがるモンスター。

 

ねぷ「ねぷっ⁉︎多くない⁉︎」

ぶらB「硬そうね……。腕がなるぜ……!」

のわB「私達の出番ってわけね」

べるB「突破口を開きますわよ」

ぷる「いいとこ〜、見せてあげる〜」

 

4人の女神が変身した。

同じような容姿といってもプロセッサユニットは微妙に違う。プルルートはもう、何もかも違う。見慣れたけど。

 

ぶらA「大丈夫?随分数が多いけど……」

ぶらB「任せな。もともとそのつもりで来てる」

 

武器を構える女神達だったが、ミズキが女神達の前に出た。

 

のわB「ちょっと、下がってなさいよ。ここは私達の出番よ」

ミズキ「悪いけど、出番は譲ってもらうよ。僕だって、いいとこ見せなきゃ」

 

クスクスと笑ってミズキは右手を胸に当てた。

 

ミズキ「あと、これから先しばらくは金輪際ぼくに近づかないでね」

 

全員『⁉︎』

 

笑顔でそんなことを言うミズキに全員が凍りついた。まさか、怒ったとかそういう……。

 

ミズキ「でないと、服脱げちゃうから」

のわA「……へ?」

ミズキ「変身」

 

ミズキが光に包まれる。

その光が消えた時、立っていたのは白い機体。近未来的な流線的な装甲が目立つが、何よりも目立つのは……。

 

ねぷ「ヒゲ⁉︎」

ターンエー《ヒゲじゃない、ターンエー》

 

他のガンダムとは一線を画している形だ。

 

ターンエー《言いたいことはわかるよ?筆者も最初はそうだったもん。でもね、見てるうちに段々カッコよく見えてくるんだよ》

ねぷ「ええ〜……。うっそ〜……」

ターンエー《原作見たらわかります。それともう1つ》

 

ターンエーがモンスターに向き直った。

 

ターンエー《無双はガンダムの18番だよ!》

 

ターンエーが単身敵に向かって飛んでいく。

止める暇もない。

しかしターンエーの背中からキラキラした青白い粒子が背中から放たれ、それはまるで巨大な蝶のように広がる。

 

ターンエー《月光蝶!呼ぶよ!》

 

ターンエーがモンスターの上空を飛んでいくことで月光蝶がモンスターに触れる。するとモンスターは触れた端から砂になって消え、上半身を失っていく。

 

のわB「な、なによアレ!どんな武器⁉︎」

ターンエー《機械モンスターばかりで良かった。動物とかには効かないからね……!》

 

月光蝶はナノマシンを散布し、文明を砂に変えてしまう恐ろしい武器だ。過去に何度も文明を砂にして、リセットしてしまうほどの。

そのため、月光蝶に触れた機械モンスター……つまり文明は砂になって消えてしまうのだ。

ターンエーが部屋の端にたどり着く頃には全てのモンスターが砂になってしまっていた。

そして塔の中に風が吹き荒れ、砂を撒き散らす。

そして変身を解いた。

 

ぶらB「ったく、なんてヤツだよ……」

ミズキ「さ、行こう!みんなで!」

 

ニッコリとミズキが微笑む。

全員ため息を吐いてついて行った。その後にはしっかりと笑っているのだが。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

10000階にたどり着いたミズキ達。

すぐ前にはボロボロでコケが生えている遺跡のような大地がある。さっきまでの近未来的な足場とは大違いだ。

そして星型に5つの分かれ道。

 

ミズキ「分かれ道が……5つ。手分けしよっか」

のわA「ちょうどいいじゃない。別次元の自分達でペア組んで……ミズキはピーシェと組む?」

ミズキ「そうだね」

ピーシェ「ぴー、ねぷてぬといきたい!」

ねぷ「うっ、よよよ……。そんな嬉しいことを……」

ミズキ「クスクス、今回ばかりはネプテューヌに負けちゃったね。いいよ、行ってきな」

ぴー「うん!」

ぶらA「……待って。ということは、ミズキは……」

ぷる「私と。……ってことになるわねぇ」

ミズキ「そういうことだね」

のわA「ちょっと待ちなさいよおかしいわよそれ!っていうか変身解きなさいよ!」

ぷる「いいじゃない。いつ変身しようが私の勝手でしょう?そ・れ・に……」

 

プルルートこと、アイリスハートが指先でコツンとノワールAのおでこを小突く。

 

ぷる「こんな時くらい、いいじゃないのぉ。アナタ達はいつも一緒にいるんでしょう?」

のわA「うぐ」

ぷる「もしかしたら、盗っちゃうかもしれないけどぉ……許してねぇ?」

 

プルルートが手を振りながら行ってしまう。

 

のわA「ぐぐ……!なんなのよあの余裕は……!」

ぶらA「……不安しかないわね……」

のわB「ま、なるようになるわよ。一応ミズキはプルルートに勝ったって言ってたし、心配はいらないんじゃない?」

ぶらA「とは、言っても……」

ぶらB「不安なら、さっさと回収して戻ってきましょう。今のプルルートには何を言っても無駄よ」

べるA「それじゃあ私達は先に行ってますわね。それでは」

べるB「皆さんも、お気をつけて」

 

ベール達は手を振りながら1つの道へ消えた。

 

ねぷ「私達も行こっか!」

ぴー「うん!はやくはやく!」

 

ピーシェとネプテューヌ組も手を繋いで走って行く。

 

ぷる「それじゃあ、私達も行ってるわねぇ」

ミズキ「またここで会おうね」

 

ミズキとプルルートも行ってしまう。

ミズキは去り際、ペロリと舌を出してノワールとブランに合図していく。

大丈夫、という合図だろうか。

 

のわA「……不安だわ……。自信あるみたいだけど……」

のわB「イジイジしてても仕方ないわよ。私達も行きましょう」

ぶらA「……そうね。本題はロムとラムのためだし……」

ぶらB「急ぎましょう。それじゃまた」

 

ノワールとブラン達も別々の道に消えていく。

しかし彼女らにはふと、違和感が芽生えた。

 

のわA、ぶらA(ん?なんで合図……?)

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキとプルルート組、少しばかり駆け足で急ぐミズキとプルルート。

するとすぐに行き止まりにたどり着いた。

 

ミズキ「行き止まり、か……。ここは外れみたい」

 

振り返って別の道を探そうとして後ろを振り向くとプルルートが頬を両手で触ってきた。

 

ぷる「ねえ、ミズキ?あのキスの意味……わかってるわよねぇ」

ミズキ「……もちろん。間違って受け止めてる気はないよ」

ぷる「よねぇ。てっきり、次にこっちに来た時がその時かと思って……内心私、凄くドキドキしてたのよぉ?」

 

プルルートの右手がミズキの頬から離れて鎖骨の窪みをなぞる。

ミズキは少しこそばゆかったがプルルートの瞳を見つめ続ける。

 

ぷる「だからぁ……『あと少し』って言ってたけど、今、教えてくれないかしらぁ?」

ミズキ「…………」

ぷる「あの2人の気持ち……気付いてるわよねぇ」

ミズキ「うん。今頃気付いてる頃かもしれないね」

 

「大丈夫、抜け駆けされることはないよ」という意味の合図だった。

それはつまり、2人の好意を知っていると言ってもいい。

 

ぷる「でぇ?決断はどうする気?」

 

プルルートがさらに顔を近づけてくる。

額と額がくっついた。プルルートの前髪がこそばゆい。目と目が近い。プルルートの甘い香りが鼻腔をくすぐる。

そんな風に段々と今の状況を認識していく。ミズキだって動揺はしているが、それはプルルートも同じだった。

お互い平静を装っているが、頬が少し染まっている。

目を瞑り、唇を前に出す。それだけで同意が完了する体勢だ。

 

ぷる「私……わかってるつもりよぉ?アナタが優しいっていうのもわかってるつもりだし……だからぁ、私をフったっていいの。仕方ないわよぉ、あんなことしでかしたんだから……」

 

プルルートが言っているのはエディンとの戦争の時の話だろう。

毒のせいとはいえ、ミズキを刺した。

 

ミズキ「違う、プルルート。そんなことで君を嫌いなんてしないよ」

ぷる「……じゃあ、誰を選ぶ気ぃ?もしくは、全員?それともぉ……誰も選ばない?」

 

プルルートが額と額をくっつけたまま瞳を見つめてくる。

けれど、その瞳は揺れている。不安なのだ、彼女も。

 

ミズキ「僕は、プルルート達が僕を好いてくれるのを嬉しく思う。本当に、心の底から。それはきっと、今まで他の誰にも向けられたことのない気持ちだし、これから先向けられることがないかもしれない気持ちだってこともわかる」

 

プルルートが泣きそうな顔になる。ミズキの言葉の先を察したのだろう。

普段から眉は垂れているものの、今はさらに。あと少しだけでも言葉を紡げば決壊してしまいそうだ。

それでもミズキは言葉を続ける。

 

ミズキ「でも、僕は君の、君達の言う『好き』ってことがわからない。僕は1度間違えたんだ。『好き』って気持ちを間違えた。ねえ、プルルート。僕の胸にあるこの気持ちって好きって言える?」

ぷる「そんなの、そんなのぉ……」

 

プルルートの瞳に涙が滲んだ。

ミズキの頬から手が離れてミズキの胸に添えられる。

 

ぷる「鼓動が、物語ってないぃ……?」

ミズキ「……なら」

 

ミズキがプルルートを抱き締めた。

ミズキの胸の中にプルルートが顔を埋める。プルルートもミズキの背に手を回して強く抱き締めた。

 

ミズキ「なら、僕は……ごめんね、みんな好きだよ」

ぷる「それはぁ……っ、フってるつもり……?」

ミズキ「そんなことないよ。……プルルートも好き、みんなも好き」

 

プルルートの頭が優しく撫でられる。

 

ミズキ「僕はとんだ浮気者みたいで。……区別、つかないや。みんな、胸が高鳴る」

ぷる「ぅ、最低ぃ……」

ミズキ「うん、最低だよ、僕は」

ぷる「でも、私……」

ミズキ「言わせないよ」

 

顔をあげたプルルートの唇が塞がれた。

予想外の不意打ちにプルルートが目を見開く。けれどそれも一瞬のこと、触れ合った唇はすぐに離れた。

 

ミズキ「プルルート、好きだよ。これは……言わせない。僕が最初に言う」

ぷる「……私、も……。好き……ぃ……」

ミズキ「こんな、最低の男を?」

ぷる「うん。……だいすき……」

 

素に戻っているプルルートをさらに強く抱きしめる。

 

ミズキ「僕も、大好きだ」

 

少しだけ時が止まったような感覚。

いつまでもこうしていられる気がしたが……そんな時もそんなに長くは続かない。

静かな時は爆発音と悲鳴に遮られた。

 

「きゃぁぁぁぁっ!ひぇぇぇぇ!」

 

ミズキ「この声、ネプテューヌ……」

 

続いて大きな足音。モンスターに追いかけられているらしい。

視線をプルルートに戻すとプルルートが胸から顔を離してこちらを見上げていた。

 

ぷる「行きましょ。……いいから」

ミズキ「うん。行こう。でも君はお留守番ね」

 

意地悪に笑ってプルルートの瞳の涙を拭う。

 

ミズキ「顔、赤くなってる。……バレちゃうよ」

ぷる「……ミズキだって、顔赤いくせに……」

ミズキ「文句言わない。待ってなさい」

 

お互い抱き合いながらしゃがみこむ。

ミズキのは羞恥からくる赤さだが、プルルートは涙を拭った赤さなのだ。同じ赤さでも訳が違う。

プルルートは割り座になってそこに座った。ミズキとプルルートは離れたが、ミズキがプルルートの頭を撫でる。

 

ミズキ「すぐ、迎えに行くよ」

 

それだけ言ってミズキが駆け出していってしまった。

残されたプルルートは少し逡巡して、けれど立ち上がる。

 

ぷる「……待つなんて、できるわけないわよぉ……?」

 

ミズキ、現在彼女、1人。

 




ターンエーの最初はダサく見えても後半はカッコよく見える率は異常。最初はデストロイモードかっけーが段々とユニコーンモードかっけーになるみたいな。

ミズキが言うみんなはみんなです。みんな。ほんとみんな。

ちなみにこちらはグッドエンドのその後ですが、トゥルーエンドではまた毛並み変えようかと。ま、その前にトゥルー進めないといけないんですけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2度目までは正直できないっす

また間が空きました〜…。
とりあえずこれで13話が終わり…かな?まだまだ閑話は入れますけど。


ネプテューヌはピーシェと手を繋ぎ、遺跡の中を歩き回っていた。

そしてついに見つけたのだ、キラキラと光る花、その名も……。

 

「ワタシタチハマタイツデモアエル花!よっしゃ噛まずに言えた!」

「わた……わたぬき?」

「ぴー子、それ違うから!」

 

ガシャドクロの女の子と恋に落ちてしまう。

それはさておき、ネプテューヌとピーシェはせっせとそのキラキラ光る花を集めていく。

 

「ふぃ〜、こんだけあれば十分でしょ」

「はい、ねぷてぬ!あげる!」

「おお、サンキュー!後は帰るだ……け……」

「ねぷてぬ?」

 

立ち上がったネプテューヌがギギギと固まる。

 

「ぴー子……後ろ」

「うしろ?」

 

ネプテューヌが指差す先、ピーシェが振り向くとそこには。

 

「ガルルルル……」

「……おっきい!」

「おっきいなんて言葉で済む大きさじゃないよ〜!デカい、デカすぎるぅ〜!」

 

ネプテューヌの何十倍もある大きさのドラゴンが遺跡の壁を削りながらやって来た。

そしてネプテューヌと目が合う。

 

「目と目が合う、瞬間、好〜きだと気付〜いた〜」

「ガルル……」

「ごめんなさい冗談です許して〜!」

「グアァァァ!」

「ゆるされなかった!」

「逃げるよぴー子ぉぉ!」

 

歌ということなのでピンク髪のヒロインの如く歌ってみたものの、不評だったようで。

ピーシェの手を引いて必死に逃げる。その逃げようたるや、モンハンの最初の方の採集クエスト。

 

「勝てない勝てないって!でも上級者さんは倒しちゃうんでしょ⁉︎んで防具とか作っちゃうんでしょ⁉︎マジ信じられないよ〜!」

「ねぷてぬ、ひはいた!」

「火吐いた⁉︎きゃあああああ!」

 

ジャンプして火の玉を避ける。

しかしこの火の玉、当たってしまえば自分はともかく花が焼けてしまう。

 

「む〜……!ねぷてぬ、いじめないで!」

「ぴー子!」

 

ピーシェがドラゴンの前に立ちはだかる。

ピーシェの体が光に包まれた。

 

「へんしん!」

 

髪も身長も伸び、胸も大きくなる。スーツに身を包み、やってきたプロセッサユニットが分解されて両手と背中に装備される。

 

「行くよ!おりゃあっ!」

 

イエローハートとなったピーシェがドラゴンに飛んで行く。

そしてその顔面に、

 

「グアッ⁉︎」

 

飛び蹴りをかます。

ピーシェの凄まじいパワーでドラゴンは蹴飛ばされ、地面に背中を打った。

 

「ぴー子!」

「ねぷてぬ、先に行って!」

「うん!ありがと!」

 

ピーシェがウィンクしてくる。

それに応えてネプテューヌも後ろを振り向かずに走り始めたが、十字路に差し掛かる。

 

「えと、確か来る時はここを左に曲がったから……右!多分!」

 

ネプテューヌが右に曲がる。

しかし、その後ろ。左側に巨大なクジラ型モンスターがいた。

 

「っ……!」

 

ネプテューヌが気付いて振り向いたが、時すでに遅し。

クジラが大口を開けてネプテューヌを飲み込もうとーーー!

 

《伏せてネプテューヌ!》

「はいぃ!」

「グオオッ⁉︎」

 

声に従って反射的に頭を下げると頭上を巨大なハンマーが飛んで行く。ハンマーといってもブランが持つようなアレではなく、モーニングスターのようなアレだ。

それが自分でジェットを噴射しながらクジラに向かって飛んでいき、見事その顔面に減り込む。

 

《確実に、仕留める!》

 

さらに頭上を変身したミズキが飛んで行く。またターンエーに変身したようだ。

ターンエーが鉄球に繋がれた鎖を掴んで振り回し、もう1度叩きつける。

 

「グオッ⁉︎」

 

クジラは消えてしまった。

 

「さすがミズキ!いいとこで来るね!」

《ギリギリだよ……。あれ、ピーシェは?》

「あ、ぴー子!」

 

ネプテューヌとターンエーが移動してさっきの場所に戻る。

そこではまだピーシェがドラゴンと戦っていた。

 

「んっ、んりゃ〜!」

 

着実にダメージを与えているようだが、決定力に欠ける。

ドラゴンが吐いたブレスがピーシェを掠める。

 

「んっ、あつっ!」

「ガア……!」

「ぴー子!」

《ンッ……!》

 

怯んだ隙にドラゴンがピーシェに向かって爪を振り上げている。

ターンエーがハンマーを振り回してドラゴンに飛ばそうとした矢先、後ろから縄のようなものが飛んできた。

 

「ひゃっ⁉︎なにこれ⁉︎」

「んもう、手間がかかる子ねぇ」

 

その縄がピーシェの手を搦め捕り、こちらに引っ張る。そのためにドラゴンの手は空を切った。

 

《これ、鞭……ってことは……》

「ぷるるん!」

「さっきぶりねぇ、ねぷちゃあん」

 

プルルートが舌舐めずりをして立っていた。

 

《プルルート、なんで……》

「私が黙って言うこと聞くように見えるぅ?」

《……クス、全然見えない》

「よねぇ」

「あ、あの〜……これ取ってくれない?」

 

ピーシェが鞭の絡まった左手をプラプラさせる。

 

「あら、ごめんなさいねぇ。今取ってあげるから……」

「え、や、あれ、ちょ⁉︎」

 

プルルートが空中に飛んで鞭を振り回し始めた。

 

「回る回る回る回る回るぅ〜!」

「あはは、飛んでぇ〜⁉︎」

「ぷるるんそれ順番逆だから!『飛んで飛んで』から『回る』だから!ていうかぴー子ぉ⁉︎」

 

プルルートがピーシェを遠心力のままに投げ飛ばしてドラゴンにぶつけた。

涙目になりながら飛んだピーシェはしっかりとドラゴンの腹に人間弾丸となって直撃してくれる。

 

「グアッ⁉︎」

「あは、女神の弾丸なんて贅沢ねぇ……」

「ちょ、ぴー子⁉︎生きてますか〜!」

《伸びてる……》

「あぅ〜……」

 

ドラゴンは光になって消えてくれたが代わりにピーシェも目を回して伸びてしまう。

 

《……っと、介抱してる暇はなさそうだよ》

 

奥の方から新たなドラゴンが1、2、3匹。

さっきのドラゴンよりも体躯が大きく、手強そうだ。

 

「ど、どうすんの⁉︎ぴー子気絶してるのに!」

《ネプテューヌが取り敢えず連れて行って。僕とプルルートが……》

「食い止めるぅ?」

《いや……暴れる!》

 

景気付けにハンマーを叩きつけると、遺跡の床が破片を飛ばす。

そして2本ビームサーベルを引き抜いて構えた。

 

 

ーーーー『Final sure〜おお、再臨ありやと〜』

 

 

《うずうずしてたんだ……!暴れさせてもらうぜ!》

「………ん?『ぜ』?」

 

瞬間、ネプテューヌの脳裏に浮かぶのはあの苦い記憶。封印しかけていた、鬼ミズキの記憶。

 

「す、すぐに帰らせてもらうでありますです!ぴー子、ほら、歩いてよ〜!」

「きゅ〜……」

「重っ!胸重っ!こんなん無くなっちまえばいいのに〜!」

 

ネプテューヌがピーシェを引きずって退がる。後頭部に柔らかな膨らみが当たって幸せそうでもあるし悔しそうでもある複雑な顔をなさっておる。ふぉっふぉ。

それを見届けてからプルルートの体が光に包まれた。

 

《それ……》

「ちょっとはモノにしてきたのよ?だから私も……暴れるわぁ」

「ひぃ!変身したぷるるんと鬼ミズキの共演なんて、地獄だよぉ〜っ!」

 

プルルートのボンテージのようなスーツの上に幾重もの薄い装甲が重ねられる。手にした剣からは何本ものビームの刃が発振された。胸には小さなドクロが装着された。

 

「あの時のアナタと同じ……フルクロス、だったかしらぁ?」

《正解。お互いに1匹倒すとして、ラストはどうする?》

「競争。負けた方はなんでも言うこと聞くってことで」

《上等だぜェッ!》

 

ターンエーが大きく飛び出した。同時にプルルートも飛び出す。

プルルートの剣が分解され、伸びる。

 

《まるで魚の背骨だなぁ、おい!》

「そんなこと言ってるとぉ……私の巻き添えにされるわよ⁉︎」

 

プルルートが鞭を大きくX字に振るう。

ドラゴンAの腹に大きくXの文字が刻まれた。ドラゴンAが呻いて倒れるが、まだ生きている。

 

《くたばりな!デカブツ!》

 

ドラゴンBがブレスをターンエーに向かって吐いてくる。ターンエーはビームサーベルを手首で回転させ、ブレスを弾いていく。

 

《弱い弱い弱い!雑魚どもは、消えちまえ!》

 

ターンエーが地面に降り立ち、砂埃を巻き上げながらブレーキをかける。

狙うは足。ターンエーはドラゴンBの足の間近で跳び退きながら切りつける。

 

《大男!総身に知恵が回らずってなぁ!》

 

そのまま2本のビームサーベルを束ねる。

足を切られて前にふらついたドラゴンBの腹に!

 

《二刀合わせて!一刀両断ッ!》

 

ドラゴンBが真っ二つに切り裂かれた。

そしてドラゴンBが光になって消える瞬間にプルルートが前に出ている。

 

「あはぁ……!ほらほらほらぁ……!」

 

ヒールのかかとの部分でドラゴンAの傷口を痛めつけるように踏みつける。耐えきれなくなったようにドラゴンAも消えた。

 

「グオオオオアッ‼︎」

 

《さて……残りは1匹だが》

「派手に決めましょうか」

 

ターンエーは胸のマルチパーパスサイロからミサイルの弾頭を、プルルートは腰から中世の海賊が持つような古い拳銃を取り出した。

 

「うふふ……1度使ってみたかったのよねぇ」

《汚ねえ花火、打ち上げてやろうじゃねえか》

 

ターンエーは野球のピッチャーのように振りかぶる。球はミサイルの弾頭だ。

プルルートは先込め式の拳銃なので、銃口から弾を入れる。それも何かの弾頭だ。

 

《聞こえねえとは思うが……全員に告ぐ》

「一応、忠告しておくわねぇ」

 

 

『核を使う』

 

 

《せーのっ》

「ばぁん」

 

なんとも気の抜けた気合と共にターンエーの手からは核ミサイルが投げられ、プルルートの拳銃からは核弾頭が撃たれる。

 

そしてーーーー!

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ねぷ「ひいっ、ひいっ、はぁ〜っ!い、生きてるよね、私!」

ぴー「はぅ〜……」

 

ネプテューヌと目を回したピーシェがみんなと別れた地点にまで戻ってきた。

汗だくで生きている喜びを噛み締めていると先に帰っていたらしいノワール組、ブラン組、ベール組がやってきた。

 

のわB「ちょ、何よそれ!変身して気絶してるって……敵⁉︎」

ねぷ「いや、敵というか、敵ではないというか〜……」

のわB「すぐ行くわよ、助けに……!」

ねぷ「ああ、ダメダメ!絶対ダメ!行かなくていいから!ていうか行っちゃダメ!あそこには悪魔が2人いるから!」

のわB「悪魔ぁ?」

ぶらB「一体あそこには何が……?」

ねぷ「な、何がって……」

 

 

 

 

ねぷ「あわわわわわわわ」

ぴー「ぶぃぃぃぃぃぃぃ」

べるA「ネプテューヌの歯の根が合わないどころの話ではありませんね……。どれだけ震えていらっしゃいますの」

べるB「ピンク色の卵型の小さなリモコンで動く機械でも入れられました?」

のわA「ちょっと!R18にしないでよ!」

ぶらA「ついでにネプテューヌに触れてるピーシェまで震えてるし……」

 

考えてしまった。

もう、どれだけの惨劇かは筆舌に尽くしがたい。

もうあんなことやこんなことの末にさらにああなってこうでこうなればああなる。

なに1つ伝わんないな。

 

ねぷ「へ、へ、へへへ変身した、プルルートとね……?」

のわB「うんうん」

ねぷ「鬼ミズキが……」

 

3人『あっ(察し』

 

のわB「鬼ミズキ?」

ぶらB「何よそれは……」

べるB「彼が鬼の末裔……な訳ありませんわよね。そういう乙女ゲーは好みなのですけれど」

ぶらB「それはただの薄い桜の鬼よ」

 

ネプテューヌの震えの意味を察した3人と察せない3人に分かれる。

 

のわA「……こればっかりは、知らぬがシャングリラよ」

ぶらA「少女はお人好しでは生きていけないの」

のわB「どういうことよ。さっぱり意味がわからないんだけど」

べるA「頭と体を使えば勝てます。シャングリラでは……そうやって生きてきたんですわ」

ぶらB「………?」

 

揃って疑問符を浮かべる3人と震える3人。

あと気絶してるのが1人。

すると唐突に耳をつんざく爆発音。

 

ーーーーーーーーーーーー‼︎‼︎

 

ぴー「ひゃああっ、なになに⁉︎なにごと⁉︎」

ミズキ「あはははっ、やり過ぎた!あははっ」

ぷる「やり過ぎたね〜」

 

びくーんとピーシェが起き上がるのと同時にミズキとプルルートが帰ってくる。

 

ぶらB「なに、今の……」

ミズキ「核」

のわB「核ゥ⁉︎」

ぷる「あ、ねぷちゃ〜ん、花は〜?」

ねぷ「ぶ、ぶ、ぶるるるるぁ!」

ぷる「?」

ねぷ「ぶ、無事なのです!」

ぷる「そっか〜、良かった〜」

 

アナゴになるのか電になるのかハッキリしてほしい。

ネプテューヌはまだ震えているが他の3人はミズキが元のミズキに戻っているようでほっと胸を撫で下ろす。

 

ミズキ「それじゃ、帰ろっか。あそこだよね、出口」

ぷる「……ね〜え〜、2人には〜」

ミズキ「わかってるよ。せめて、2人きりの時にね」

 

コショコショとプルルートとミズキが話していたが特に気にせずワープポイントの前に進む。

ネプテューヌが1階に降りる方のスイッチを掴んだが……。

 

ねぷ「ガクガクブルぶるるるるぁ!」

ミズキ「やっぱセルなのか……」

 

ネプテューヌの震えは最高潮。

その震えが機械に伝わり、ワープ装置がバチバチと音を立てた。

 

ミズキ「んっ……これ」

べるB「これは……次元がつながった?一体どこですの?」

 

誤作動を起こしたらしく、壁の一部が虹色に光って向こう側にあるはずのない景色を映し出している。

 

ミズキ「見覚えあるね。ここは……」

のわA「トゥルーネ洞窟……の跡地ね」

ミズキ「ああ、そうそう。ここでノワールを介抱したんだっけ」

 

脇に崩れたトゥルーネ洞窟が見える。どうやら次元と次元が繋がってしまったらしい。

 

ミズキ「さすが主人公だね。クスクス……」

ねぷ「ひゃ、ひゃい………」

のわA(重症ね、これは)

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

一応、ワープポイントを使ってまだ神次元のプラネテューヌ。

すぐにでも帰ることはできたが、別れくらいちゃんとしなければ。

 

ミズキ「それじゃ、またね、みんな。また遊びに行くから」

 

4人は次元ゲートの中に立っている。

ふと、ネプテューヌは寂しそうな顔をしているピーシェに気付いた。

 

ねぷ「また会いに行くね、ぴー子!」

ぴー「ねぷてぬ……うん!」

 

ミズキ「それと、2人には帰ってから話があるんだけど……時間ある?」

のわA、ぶらA「(ビクーーン!)」

 

そう言われて2人は思い出す。

塔の中で生じた疑惑。それが予想の通りだとすれば……。

 

ミズキ「クスクス、とりあえずは妹達の病気が治ってから、ね?」

 

2人はガチガチに固まってしまう。

 

いーすん「そろそろ時間です!行きますよ!」

ぷる「ミズキ君〜、また会いにきてね〜」

ミズキ「もちろん、約束だよ」

 

プルルートが小指を出してくるので、ミズキも小指を出す。

そしてその指同士が交わった瞬間。

 

ぷる「えい」

ミズキ「え」

 

全員『あ』

 

プルルートがミズキを引っ張る。

引っ張られてミズキが1歩前に出ると、みんなが消えた。

 

ミズキ「………またやられた⁉︎」

ぷる「えへ〜」

のわB「ちょ、アンタ、ええ⁉︎なにやってんのよ!」

ぷる「独り占め〜。だって〜、いいでしょ〜?」

ミズキ「いや、帰らなきゃなんだけど……。塔まで行かせて……くれないみたいだね」

ぷる「そうよぉ?行きたいなら〜、私を超えて行きなさい?」

べるB「なんで変身するのですか……」

ぶらB「まさか、ここで……」

ミズキ「クスクス、勝てると思うの?」

ぷる「足腰立たないくらいにしてあげるわぁ!」

ミズキ「上等!」

 

教訓。

プルルートは別れ際に何するかわかったもんじゃない。




ウチのプルルートだけですけど。

さてさて、ここからがノワールとブランとミズキのあんなことやこんなこと。

んで、今やってるmk2ですけど……アレがいません。アニメ未登場の味方キャラ?つまりは…日本一からがすと……その他諸々。多すぎるとセリフがわかんなくなるんで…アイエフとノワールが同時にいるだけでわかりにくくなる。ギルティ。コンパとネプギアですら口調が似てるというのに。あれだけキャラ入れたらまた台本形式になっちゃいます。それは個人的に嫌だったんで…すいません。そのあたりのキャラが好きな人は申し出てください。閑話でやります。自分はあのあたりのキャラではケイブ好きです。しぬがよい。

そんなわけで、リクエスト募集してます。気軽にコメントしてください。では。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

将を射んと欲すればまずペガサスとドラゴンを射よ

ドーモ、最近友達に借りたファイヤーエムブレム暗黒竜と光の剣をやってる歌舞伎役者です。やっべリンダ可愛い。脆いけど。ペガサス三姉妹可愛い。脆いけど。


「はぁ〜………」

 

大きなため息。 肺の空気を全て入れ替えてしまうような長い長い呼吸。

それの息が髪に当たっているネプテューヌが眉をひそめてコントローラーを弄る。

 

「う〜ん………」

 

現在ミズキの膝の上のネプテューヌは降りようとかと悩む。

しかし最近はめっきり冷え込む。膝掛けはまだしも、尻の温かみは逃すわけにはいかない。

多少の呻き声には目をつぶり、ネプテューヌはカチャカチャとスティックを動かす。

 

「ぬぅぅぅ〜ん………」

 

ついにミズキが背中を大きく曲げてネプテューヌの頭に顎を乗せた。

腕は前に回しているために、後ろからネプテューヌの全身が覆われていてとても暖かいのだが……。

なるほど、これが呪いの武器とやらか、とネプテューヌは1人で納得する。いい装備には欠点がつきもの。デビルソードの攻撃力を過信しすぎると自分にダメージがいって◯バールあたりが即死するのが炎の紋章の宿命だ。

今回のデメリットはミズキの溜息。聞く者のテンションを地の底まで下げてしまうようなーーー。

 

「あぁぁぁぁさぁぁぁぁ……」

「狂化⁉︎」

 

バーサーカー化。騎士は徒手では死なないのである。

 

「もう、なんなのその溜息は。聞いてるこっちが溜息しちゃいそうだよ」

「ん〜……ん……」

 

無事ミズキはプルルートを切り抜けて帰ってきた。

ネプギア達も花を煎じた汁を飲んでたちどころに回復……しなかった。

余談ではあるが、ネプテューヌ達が見つけてきた花はワタシタチハマタイツデモアエル花に良く似た『コンナコトヲスルヤツラユルスモンカ花』であったのだ。

その効能のせいでしばらく妹達は掌で人の頭を掴みまくっていたが、今度こそワタ(以下略)花を取ってきてようやく回復。

『もう知るか』とはネプテューヌの言である。

 

そんなこんなあったものの、今はそこそこ平穏な日々。

のはずだがミズキは日に日に溜息の頻度が増えている。

 

「……あ、ミスった……」

「何やってんの?」

「ベールから借りたギャルゲー……」

「ギャルゲー?ふぅん、そういうの興味なさそうなのに」

「僕から頼んだんだ。勉強になるかと思って」

 

ミズキが持つ携帯ゲーム機には女の子の顔が写っている。そして選択肢が3つ表示された。

 

『無理やり脱がせる』

『相手から脱がせる』

『むしろ自分が脱ぐ』

 

「ファッ⁉︎何しようとしてんのこの主人公は⁉︎」

「え、一肌脱ぐか脱がないかみたいな」

「紛らわしい!エロゲーと勘違いするところだよ!」

 

カチカチとボタンを押して『むしろ自分が脱ぐ』を選択。一肌脱いだ主人公が好感度を上げた。

 

「ていうか、なんの勉強?確かにギャルゲーとかエロゲーは学べること多いけど……」

 

実際、学べることが多いのである。

もちろんピンキリではあるが泣けるものは特に泣けるし、家族愛や友情など学べることは大変多い。それはネプテューヌも少しではあるが知っていた。

 

「そりゃ、ギャルゲーやるんだから恋愛の勉強だよ」

「いや、それは学べるかどうかは微妙だけど……」

 

ネプテューヌも恋愛の経験が豊富なわけではないし、それどころか経験値/zeroなのだが。

 

「いいんだよ、少しでも参考になれば……。……あ」

 

『巨乳が好きです』

『おっきいのが好きです』

『小さいのに人権なし』

 

「何この主人公殺すよ⁉︎」

「こればっかりは人の好みだけどね……。ここで、このアイテムを使えば……」

 

『俺はオールラウンダーです』

 

「んっしょっと」

「それはそれでクズだよ……」

 

画面の中でも女の子達に主人公がドン引きされていた。しかし好感度は下がらなかったようだ。

 

「恋愛の勉強って……ぷるるんのため?」

「それもある、けど……。ふぅ」

「……?」

「………ノワールとブランが会ってくれない………」

「なんだよ惚気かよ」

 

ペッと唾を吐いたネプテューヌが興味を失ったようにゲームに戻った。

 

「あれから1度も会えてない……。のらりくらりとかわされ続けてるんだよ」

「てやんでい!勝手にしろっぺ!オイラは知ったこっちゃねえどすえ!」

「色々混ざってるけど……。……うん、確かに知ったこっちゃないよね」

 

ミズキがゲームを中断して脇に置いた。

 

「ほれ、どいてネプテューヌ」

「ほえ?どこ行くの?」

「部屋。メールするんだ」

「誰に?」

「ユニとロムとラム」

「なして?」

「将を射んと欲すればまず馬を射よ。ってやつ」

「……つまり?」

「女神のハートを射止めようと思ったらまずは妹から……ってことじゃない?」

「ハートを射止めるって……」

「やめて僕も言ってから恥ずかしくなったからホントやめて」

 

ミズキがネプテューヌを下ろして立ち上がる。

体を寒さで震わせながらミズキは自室に向かう。

 

「クク……覚悟してなよ……」

(不安だ……)

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それから数日後。

ルウィーの教会でブランが仕事をこなしていた。

 

(……最近、妙に静かね……)

 

物足りなさを覚える。何かが足りない気がする。

息抜きのついでに何が足りないか、と考えると……そうだ、最近ロムとラムが騒いでいないのだ。

毎日ドタバタと扉の向こうから足音が聞こえてきて、遊べ遊べとせがんでくるのだが……。

と、思った端からドタバタと足音がした。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 

バン、と大きくドアが開く。

ロムとラムが息を切らせながらやってきていた。ロムは片手に紙を持っている。

 

「なに?まだ少し仕事があるから、遊ぶのはまた今度に……」

「違うの……。これ……」

 

ロムが紙を差し出してきた。

紙はなんとクエストの依頼書。

 

「『ルウィーの絶滅危惧種、エンジェルモモンガを守れ』……?」

 

エンジェルモモンガとは、ルウィーの絶滅危惧種である。いやそれはわかってるという声は聞こえません。

 

「会いたい……!」

「会いたいって……。そんなの、動物園に行けばいくらでも……」

「違うのよ!そのエンジェルモモンガって、みつりょう?で減ってるんでしょ?そいつらをとっちめるのよ!」

 

ラムがそう言うので依頼書を改めて読んでみると、なるほど依頼書はそういう内容だ。

エンジェルモモンガはその名の通り、まるで天使のように空をフワフワと漂う動物で、毛皮は非常に高価で売れる。そのため密猟者に狙われやすい上に、漂っているだけなので動きが鈍く狩られやすい。

現在絶滅危惧種に登録され、ルウィーでも細心の注意を払って保護しているはずだが、まだ野生にもエンジェルモモンガはいる。それを守れということだろうか。

 

「運が良ければ、会えるということね。だけど、密猟者も装備が充実していて苦労しているみたいだし……」

「だからこそ私達が行くのよ!ね、行っていいでしょ!」

「モモンガさんに、会いたい……!」

 

ロムとラムの瞳に見据えられる。

少しの間考えてブランは結論を出した。

 

「いいわ。ただし、私も一緒よ」

「やった〜!」

「早く行こ……?」

「今ある仕事が終わったらね。支度をしておいて」

 

最近はデスクワークばかりで肩が凝っていたのだ。ここらで暴れてストレス発散、ついでにシェアも得られるとくれば願ったり叶ったりだ。

 

「は〜い!ほら行こ、ロムちゃん!」

「うん……!」

 

嵐のように2人は駆けていった。

ふぅと溜息をつきながら肩を回してパソコンに向き直った。

パソコンで仕事をしながらも、閉じているメールのバーが気になる。

 

(そういえば、返信先延ばしにしてたわね……)

 

ミズキから送られてきた「会いたい」というメール。多分、会えば何が起こるかは予想してる通りだ。多分、それは私自身も望んでいることだ。多分、私はそれを了承してしまう。

だが、あくまで多分だ。

プルルートの存在。それがブランに影を落としている。多分、ノワールも同じだろうけれど。

 

(話をつけたい、ってことかもしれないものね……)

 

不安と期待がないまぜになったわけのわからない感情。それにほんの少しの嫉妬のスパイスがかけられている。

 

(私の方が先なのに……)

 

それを言ったらノワールの方が先ではあるのだが、言いっこなしだ。先を越されたというのが悔しい。積極性の差だったというのだろうか。

もし、その差のせいでミズキに捨てられるようなことがあれば、私は……。

 

「……ごめん、なさい」

 

それが怖いから、先には進めない。このままが1人楽でいられる。

 

「『今日は、ロムとラムと仕事に行くから、会えないわ』……と」

 

最後に「ごめん」と書き出しておく。

送信をクリックして今度は罪悪感に胸を痛めた。随分と忙しい胸なことだ。

 

「……やらなきゃ」

 

ロムとラムとの約束がある。

口実に使ってしまったのは悪いが、しかし約束は約束。

期待させた妹達を裏切らぬようにブランは仕事を再開した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そして、エンジェルモモンガが生息していると言われている山。

本日は快晴、山の天気は変わりやすいといえどもまあ余程の事がない限り安心だろう。

しっかり服は着込んだし万が一のために様々なサバイバルグッズも持ってきた。

準備万端、何も憂いはない。

………はずだった。

 

「ニコニコ」

「……………」

「どうしたの、ブラン。顔が赤くなったり青くなったり緑になったりしてるけど」

「……………」

 

なんっ………で、ミズキがいるの……?

 

「……なんでもないわ。ほら、ミカンを食べ過ぎると肌が黄色くなるでしょう。アレと同じよ」

「赤は?」

「昨日紅生姜を食べ過ぎたわね」

「紅生姜⁉︎いや、出来ないことはないかもだけど……青は?」

「ブルーハワイの飲み過ぎね。最近は頭を良く使うから、糖分が欲しくて」

「シロップ一気飲み⁉︎じ、じゃあ緑は?」

「ピッコ○の食べ過ぎね」

「○ッコロ⁉︎」

「だからなんでもないの。そう、私は普通よ、普通。いつも通りなんだから」

 

「私達紅生姜もブルーハワイもピ○コロも食べてないけど……もがっ」

「し〜っ……。邪魔は、ダメ……」

 

ロムとラムは端っこの方で計画通りな顔をしていた。クッソゲス顔である。でも小さいから微笑ましい。

 

「さあ、行きましょう。早くしないと日が暮れるわ」

「……はいはい。ついて行きます、お姫様」

 




こんなこと!こんなことをするやつら、ロゴス!許すもんかぁーっ!(パリーン)

エロゲギャルゲはマジ泣けます。いや、本当なんですって…。

ファイヤーエムブレムは女キャラ可愛いですよね。まあ、ifとかはやってないんですけど。あ、やっぱ1番好きなのはチキです←



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

100話記念の夢の中

これで100話かな。というわけでちょっと外伝。


「…………えと」

 

ミズキは街中に立っていた。

街中に立つくらい言わずもがな普通のことである。が、しかしミズキは頭の整理が追いついていなかった。

 

「……街に出た覚えはないんだけど」

 

こんな歳から認知症でも発病したのだろうか。冗談じゃない。徘徊癖とかマジか。

だがそんなわけはない。作られた体なのだからその辺りの病気はあらかじめ対策されているはずだ。そもそもそんな、いきなり認知症なんて……。

 

「……何してたっけ僕」

 

街中を人がすり抜けていく。ていうかこの街も見覚えがない。そもそもここはプラネテューヌなのか?ゲイムギョウ界なのか?

 

一応何してたか思い出してみる。夜になって、ご飯食べて、風呂入って……。

 

「寝た、はず……。ってことは……」

 

自分の頬を力の限り抓ってみる。

 

「……痛くない」

 

夢かよ。夢オチかよ。それは1番やっちゃいけないでしょ。

 

「頬抓って『夢じゃない』ってのはよくあるけど、『夢だった』ってなるのは稀だなあ……」

 

聞いたことがある。明晰夢、とかいうやつだったか。自分の意思で展開が変わる夢。もしくは自分の意識がある夢。

 

「なんだ、夢か……」

 

試しに通行人の頭を軽く小突いてみる。何も反応せずに行ってしまった。うん、夢だこれ。

 

「はは、夢だね、これは。でも、どうせ夢なら何か良いことが起これば……」

 

「ちょっと、ミズキ!こんなところにいたの⁉︎どれだけ探したと思ってんのよ!」

 

「いい……の……に……」

 

声に振り返る。

だけど、振り返る前からわかっていた。この声は聞き覚えのある声だ。昔飽きるほど聞いて、今はもう2度と聞けないはずの……。

 

「シル……ヴィア……?」

「はあ?寝ぼけてんの?こんな歳から認知症なんて、介護はしないわよ」

「老人ホームに真っしぐらにゃ。幸せな余生を過ごすにゃ」

「あは、あはは……。手厳しい、なあ……クス、クス……」

「……いいから、お前も荷物を持て。俺1人では持ちきれん」

 

シルヴィア。カレン。ジョー。

夢だとわかってる。幻だってわかってる。それでも、これは、奇跡かもしれない。

 

「クスクス……仕方ないなあ、ほれ、ほれほれ」

「ぐおっ、突くな!崩れ、崩れる……!」

「崩れたらまた買い直しね」

「なっ、またあれだけの時間をかけるのか……⁉︎」

「わかった、わかった。持つよ」

 

ジョーの顔が見えないくらいに積み重なった箱の半分を持つ。

 

「さあ、昼ご飯よ!というわけで、エスコートしなさい、ミズキ」

「え、ええ?僕が?」

「そうよ。男には女をエスコートする義務があるの。そういうわけでオシャレで近くて高すぎずかといって不味くもないいい店を選びなさい!」

「無理だよ!」

「仕方ないにゃ。ジョーを見るにゃ、しっかり私をエスコートすべく、もう準備を……」

「お前はドッグフードでも食ってろ」

「にゃ⁉︎せめてキャットフードにしろにゃ!」

「じゃあキャットフードでいいんだな、ほれ」

「ハメたにゃ!騙したにゃ〜!」

「騙して何が悪い。これは騙し合いのゲーム……ライアーゲー」

「それ以上いけない」

 

ジョーが迂闊なことを口走らないうちに止める。

 

「ん〜……食べたいものとかある?」

「トリュフ、キャビア、フォアグラね!」

「私はフカヒレとかツバメの巣が食べたいにゃ!」

「ふざけろ」

 

当てにならない。

 

「フードコートとかじゃダメ……だよね」

「何よそのつまらない回答は。もっと、こう、ミズキが失敗して大恥かいて真っ赤になるような答えにしなさい」

「最低だ!」

「あら、今更?」

「……良く考えたら何度もされてた……」

 

自分の経歴に嫌気がさす。イジるだけならプルルートよりも技術は上なんじゃないか。

 

「思い出すにゃ。こういう時、男はどうするべきにゃ?」

「……『自分を殺して、相手になれ』……」

「そういうことにゃ。ミズキが食べたいものなんてどうでもいいにゃ。私達が食べたいものを振る舞うにゃ〜」

「……改めて聞くと理不尽にも程があるね……」

「男子の人権などあってないようなものということだな。孔明は言ったぞ、『女子怖い』と」

「それ孔明絶対言ってないし。そのセリフは多分世界のほとんどの男子が呟いたセリフだし」

「失礼にゃ、怖くなんかないにゃ。女子なんて嘘にゃ♪怖くなんかないにゃ♪」

「寝ぼけた男子が♪……勝手に見間違えて希望を抱いて……クク、裏では何を言っているかも知らずに……」

『女子怖い』

 

呟いてしまった。

 

「ほら、早く選びなさいよ。背中とお腹が合体して超合神セナオナヴィオンになるわよ」

「腸と超、だけににゃ?」

 

『あははははは』

 

「クッソ腹立つ……」

「諦めろ、今更だ」

 

絶対無理な条件の上に制限時間付きとか。ハードモードにも限度ってものがある。

 

(ん?待てよ、今ここは僕の夢の中なわけだし……)

 

こう、念じれば目の前にビビッと店ができるかもしれない。幸い、注文は多い。注文の多すぎて料理店もキレるレベルだ。いや、注文が多かったのは料理店の方だけどさ。あの注文の多さならお客様もブチギレ間違いなし。

 

「む、むむっ……」

「何してんのよ、ミズキ。ついに頭おかしくなったかしら?」

「ぐ……」

 

少しカチンときたが、抑えろ、抑えろ……。

 

「オシャレで近くて高すぎずかといって不味くもないいい店……むむ……」

 

自分で言ってて悲しくなってくるが、一泡吹かせるためだ。

 

「むむ……ん?」

 

念じているとたくさんの人が集まってきた。

 

「……何が起こってるにゃ?」

「何よ何よ、楽しそうじゃない!」

 

みんな工具や材料などを持ち寄っている。

そしてそんな中1人の人間が大きな鍋とコンロを持ってきた。

 

「……何事だ?」

 

鍋の中に全部の材料と工具をぶち込むとコンロの火がついてグツグツと煮出し始める。

中には水が入っていないはずなのだが、あのグツグツ沸騰しているのはなんなのだろう。中身の鉄が溶けるほどの熱なのだろうか。

 

「おい、あのピンク色のは何処かで見たことあるぞ」

「奇遇だね、僕もだよ……」

 

ピンク色の丸い1頭身の食いしん坊。どう見てもアレだ。ていうか、これ、最後の切り札ってやつじゃ……。

 

カービげふんげふんピンク色の食いしん坊が料理を終えて何処かへ去っていく。

同時に鍋の中からいろいろな物理法則とかに喧嘩売ってねじ伏せたように家が飛び出てくる。

 

「……本当にできた……」

 

イメージとは若干のズレがあるが、まあいいだろう。結果オーライだって。

 

「へぇ、なるほどね。入ってみる価値ありよ。ほら、遅れないで!」

 

シルヴィアの号令でゾロゾロと中に入る。

 

「俺達が荷物持ってること忘れてないか……」

「言いっこなしだよ」

 

中に入ると不思議なことに机は1つしかなかった。丸机が1つと、それを囲むように椅子が4つ。

せっかく大きなスペースがあるのに、がらんどうだ。でも、ミズキがこの4人でご飯を食べるためだけに作り出した店なら、当然なのかもしれない。

 

「く……ようやく荷物を置けるな」

「スペースあるしね。こんなに広いのに、勿体無い」

「にゃ?何言ってるにゃ、足りないくらいにゃ」

 

4人で椅子に座る。

カレンの言っていることがよくわからず、首を傾げているとカレンが顎で出入り口をクイクイと指し示した。

 

「…………!」

 

出入り口を見ると、そこから何人もの子供が入ってきたではないか。みんな幸せそうな笑顔で心底楽しそうにしている。

子供以外も入ってくる。全員の顔に見覚えがある。救いたくて、でも救えなかった人達だ。あの時、手が届かなかった人。あの時、声を届けられなかった人。

 

「これが、アナタの夢でしょ?」

 

シルヴィアの声に振り返る。

机に肘をついて優しい微笑を浮かべるシルヴィア。そんな姿、ガラじゃないのに。

 

「みんなが同じ部屋で、楽しく笑って過ごしてる。戦争の脅威に怯えることなく、普通の人生を送る。それがミズキの願いだにゃ。夢だにゃ」

「お前はそれを、実現させるつもりなのだろう?この胸を包むような部屋を、作りたいのだろう?」

「……クスクス、ジャックさえいれば、完璧だったよ」

「あ、そういえばアイツ仲間はずれね。ま、仕方ないわね。イチャコラしてるからよ」

「手厳しいな」

「うっさいリア充。ファッキンガム宮殿よ」

「ていうか、それを言うならミズキだって随分イチャコラしてるにゃ」

「この、裏切りおって!童貞、童貞、童貞!」

「やめて、連呼しないで!小ちゃい子いるし!」

「騒がしゃあ!アンタなんか処刑よ、処刑」

「処女だけに処刑ってにゃ?」

 

『ははははは』

 

「ほんっと下品……!」

「今更ながらあいつらは女子としてカウントしていいのだろうか」

 

はあと溜息をつくが、結局は微笑んでいる。楽しくて仕方ない。久しぶりのこの空間が、懐かしくて、楽しくて、涙を流す気にもならない。

 

「ま、私達は遺言も残さないまま死んだわけだけど……立派にやってて安心よ」

「毎日楽しそうだにゃ。そこ変われにゃ。寝取ってやるにゃ、女も」

「………」

「なんか言えにゃ。そこは彼氏として引き止めるとこだにゃ!」

「勝手に行け」

「ツンデレ⁉︎ツンばっかは嫌われるにゃ!」

「余計だ。お前に好かれてれば問題ない」

「っは!これがデレ!あざとい、あざとにゃ!」

「……訂正、ここにいるみんなに好かれていれば、俺は構わん」

 

周りの人達は一言も発さずとも、ニコニコと笑顔でこちらを見つめている。それだけで、僕はもう十分で、満ち足りていて。

 

「仇も討ってくれたし。いや〜、清々しいわね。あのムカつくクソ女にガツンと1発、かましてやりたかったのよ!」

「ガツンどころかガツガツ殴ってたのはシルヴィアにゃ。1番ぶん殴ってたにゃ」

「……あのさ、聞きたかったんだけど。あの、写真あるじゃん?」

「ああ、集合写真か」

 

みんなの顔が写った集合写真。みんな笑顔で、僕がずっと欲しかった世界がそこに体現されていて。

 

「アレは……なんなの、かな。もしかしたら、ビフロンスが送ってきてたかもしれないんだけどさ。やっぱり、こう、何かの偶然とかでさ」

「『上げてから落とす!そうすると絶望するでしょ〜⁉︎』……ゲホゲホ、あんなヒステリックボイス無理。真似できないわあんなん」

「だがアイツのやりそうなことではあるな」

「あ、あれ、わかんないの?」

「そりゃそうよ。結局私達はアナタの夢の中の存在なんだし。アンタに知らないことを私達が知るか」

「あ、あ〜……そうだっけ」

「……まあ、ビフロンスが死んだ今、真偽はわからんだろう。だから……」

「だから?」

「……自分が信じたい方でいいんじゃないか?」

「………クス、そうだね」

 

それもそうだ。本当に、みんなといると簡単なことに気付かされる。

 

「みんな、僕を引っ張ってくれてたんだなって、今更ながら気付いたよ」

「何を今更にゃ。苦労したにゃ、ワガママばっかで」

「だが、俺達もまた、お前に引っ張られてきた」

「……そうなの?」

「理想に向かって力が足りずとも決して諦めぬ姿。それに励まされないはずもないし、引っ張られるに決まっている」

「ま、お互い様ってことよ。ミズキの考えることは、時々だけど面白かったし」

「時々って……」

「まだまだその程度ってことよ。これじゃ、『子供たち』の雑用卒業はまだまだね」

「僕いつの間に雑用になってたの……」

「出会った時からよ。もう、生まれながらの雑用。雑用オブ雑用ね」

 

一応、最高の人類として誕生させられたはずだが、シルヴィアの前では雑用レベルらしい。

というより、彼女にとって何処でどうやって生まれたかなど関係ないということか。

 

「今はアンタが団長だけどね。出世したわねぇ」

「え、団長?……まあ、2人しかいないしね」

「それでも、ミズキが団長よ。これ、まだあるでしょ?」

 

脇腹の炎の印を見せてくる。

 

「……もちろんだよ」

 

ミズキも右手の炎の印を見せた。

 

「頑張りなさい。危なくなったら……気が向いた時、助けに行ってあげるわ」

「出来れば、毎回来て欲しいなあ。クスクス……」

「雑用風情が神に楯突くんじゃないわよ」

「神⁉︎」

「神っていうか、ガキ大将にゃ」

「フッ、違いない」

 

カレンには胸に、ジョーには肩にある炎の印。僕らを繋いでいる、仲間の証がそこにあった。

 

「また今度ね。次会う時までに派遣社員くらいにはなってなさい」

「アルバイト感覚⁉︎」

「またな、ミズキ」

「う〜、眠いにゃ。おらジョーてめえ膝貸せにゃ」

「ニードロップならくれてやる」

「それは気絶する意味で寝るにゃ」

「クスクス、それくらいがちょうどいいんじゃない?」

「足りんくらいだ」

 

ジョーと声を出して笑う。

するとシルヴィアが手を挙げた。

 

「ほれ、しっかり叩きつけなさいよ」

「……よい、しょっと!」

 

ハイタッチの構えだ。

ミズキも手を挙げて思いっきり叩きつけてやろうと手を振ると、その手が虚空を切った。

 

「あはは、騙されてやんの〜!はははっ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「っ」

 

ガバッと体を起こす。

 

……なんともしまらない終わり方だ。馬鹿にされて笑われたままで逃げられてしまった。

 

「…………」

 

にしても不思議な夢だった。誰かの策略か何かかと思うくらいには。

 

ふと、机の上の写真に目が向く。懐かしい顔ぶれと、理想の世界がその中にある。

 

「………撮ろう」

 

そうだ。撮ろう。

そう思った時には体は既に動いていた。布団から飛び出し、ドアを開けて駆け出す。

まだ彼ら彼女らの笑い声が耳に残っている。永遠に忘れたくない記憶を、残せるうちに残したい。それを慈しみたい。

 

「ネプテューヌ、写真!写真を、撮ろう!」




さて、なんだかんだ1ヶ月経ちました。というわけで予告。
再来週の月曜、21日からmk2を始めます。といってもその辺りからまたテストだったりしますし、12月とか1月は行事も多いので休みも多くなるかもです。追いつかれないようにとりあえず1日1話、7時投稿になります。もう、アレです、ガン暗いです。なので時たまぬるっと閑話が投稿されると思います。
こんな感じかな……?それではリクエストお待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勘弁してください雪山の上の面行くのは時間がかかるんすよ

いちいち登らなきゃいけないのがマジめんど臭い。特に死んだ時とか。
あ〜あ〜また上でティガとかフルフルとか狩らなきゃ…(1面に降臨




「執事さんっ、とっ、お仕事〜」

「執事さんっ…とっ…お仕事〜」

 

ロムもラムが歌いながらスキップして雪山を進む。

こんな突き刺さるような寒い中でも子供は元気だなあ……とかジジくさいことを感じてしまう。

もちろん、この国で暮らしてるから寒さに慣れているというのもあるんだろうけど。

 

「そんなにうるさいと、モモンガが逃げるわよ」

「それはやだ〜!静かにする!」

「してる……」

 

ブランが注意すると2人がピタッと口を閉じる。

ブランは2人を保護するように2人の間に入り込んでいる。つまり……。

 

(僕を近づける気は、ないね……)

 

ガッカリはしていない。むしろやる気が出てる。目の前にやりがいのある問題が転がっていて、それを解きたくなっている。

アレだ、相手が強ければ強いほど燃える、みたいな。

 

「ところで、モモンガってどのあたりにいるの?」

「保護区の中は安全でしょうから、私達はその外を見回ることになるわ。だから……山を上に登ることになるわね」

 

冬だからと言って山は加減してくれない。スキー場と違って木々もたくさん生えていて葉は落ちているとしても邪魔だ。おまけに道も雪が積もっていて歩きにくくなっている。

 

「わざわざこんなところまで密猟なんて……。ご苦労様だよ」

 

木々をかき分けて上へ上へと登っていく。どうやらまだまだ時間はかかりそうだ。チャンスもそのうちに見つけよう。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「…………」

 

山を登りながら後ろのミズキの気配を背中で感じる。

赤くなった顔は寒さと誤魔化せるだろうか。マフラーで顔は隠せているだろうか。

こうして避けるようなことをしているのは申し訳ないとも思う。けれど、仕方ない……という意見には納得してくれるだろうか。

隣にいたら知らず知らずのうちに顔を見てしまうに決まっている。目が合えば一巻の終わりだ。何が終わるかは知らないが。

 

「お姉ちゃん、まだ〜?」

「……あと少しよ。もうすぐで小屋が見えるはず」

 

ラムがダレ始めた。

子供にこの山は少々キツイかもしれない。しかも女の子に。

 

「疲れた……」

「飛んだ方が楽なんじゃない?」

「……見えたわよ」

 

2人が変身して飛んだ方が楽なんじゃないかと言い始めたが、それと同時に雪原の中に立つ小屋が見つかった。

 

「やた〜!」

「ついた……!」

 

今までの疲れは何処へやら、さっさと走っていく2人。

………ん?走っていく、2人?

 

「………計画通り」

「⁉︎」

 

ボソッと呟いた声が聞こえた。幻聴じゃないと信じたいが幻聴じゃない。

背中にオーラを感じる。なんだろう、敵に背後を取られた獣ってこんな感じなのだろうか。

振り向きたい。振り向きたいが振り向けない。まるでホラーだ。振り向いたら何かが起こってしまう。

 

「………あのさ、ブラン」

「………なにどすえ」

「口調、口調。キャラがぶっ壊れてる」

 

いいのだ、白の女神だから顔が白くても。

だが舞妓の顔は真っ白でも、唇だけは鮮やかな赤色。私の顔だって、多分真っ赤っか。

 

「だからね、ブラン」

「……仕事」

「ん?」

「仕事、あるでしょ」

「……ふぅ〜ん……へぇ〜……」

「公私を混同してはいけないわ」

「じゃあ、仕事終わったら2人で話していいの?」

「…………」

「沈黙は肯定と受け取るけど?」

「……昔から言うわよね。雄弁は銀、沈黙は金って」

「確かに言うね」

「つまり私は金よね」

「今若干銀になりかけてるけど、まあ確かに金だね」

「金イコール金メダルよね」

「まあ否定はしないよ」

「つまり私が1位よね」

「金メダル貰えるのは1位だけだろうね」

「つまり私の勝ちよね」

「1位ってことはそうだろうね」

「じゃあ私の言うことを聞いてもらうわ」

「……ん?」

「たとえ私が銀だとしてもよ」

「う、うん」

「確かに銀メダルは2位よ」

「それは当然だね」

「でも、○魂っていうでしょ?」

「金○ってのもあるけどね」

「セクハラね、訴えるわ」

「誘導だ!」

「それはさておき、坂田銀時は有名よね」

「実在してるしね」

「人気は坂田金時より上よね」

「………いや、別にそんなことは」

「上よね」

「……はい」

「つまり私が銀○よ。私がジャ○プよ。ドゥーユゥーアンダスタァァァァンドゥッ⁉︎」

「『スタンンンンドゥッ⁉︎』ね」

「そんなことはどうでもいいわ。つまり私が言いたいのは最近人気漫画が終わって悲しいということだけで……」

「それだけ?」

「…………」

「…………」

「行くわよ」

「……ねえ、ブラン」

 

少し強めの語気のミズキの声についうっかり振り向いてしまう。

咎めるような目でこちらを見るミズキの目を見て、すぐに下に下げた。

 

「……ごめん、なさ」

「謝んなくていい」

「…………」

 

ミズキの声に肩がピクリと震える。ミズキが怖いだなんて、そんなこと思いたくなかった。

まるで、幼い子供が大人に怒られるように下を向いていた。そうすれば顔を見ないで済むからだ。その分傷つかなくて済むから。

けれど、ミズキはそんな私の頬を両手で掴んで上を向けさせた。

 

「ブランっ」

「っ………」

 

1歩踏み込んだミズキと目が合う。いや、強引に合わせられた。

冷気が直接当たって冷えていた頬がミズキの手の体温で温められていく。まるでミズキが溶け込んでくるように。

それを感じながらもブランは目をそらした。

 

「ブラン、僕は、僕は……」

 

やめて、ほしい。

その先を聞きたくない。

その先に待っているものがわからないから。

 

「ミズ、キ……」

 

言って欲しい言葉がある。

けど、言って欲しくない言葉が出てくるかもしれない。それが怖い。

臆病なだけ、そうして壁を作る。それでもミズキはするりとその壁をすり抜けてきた。

壊すでもなく、優しく、ゆるりと、溶かすように。

それでも私はそれを跳ね除けたくなってーーー。

 

「お姉ちゃ〜ん?執事さ〜ん?」

 

「っ………」

「…………」

 

その声が聞こえるとミズキはブランの頬から手を離す。

危なく、跳ね除けてしまうところだった。跳ね除ければ、きっと溝ができていた。辛うじて溝ができなかったのはブランにとっては嬉しくもあり……しかしこの先の言葉が聞けなかったのは残念でもあった。

 

「あの、ごめ」

「謝らないでって。……その言葉は今、1番聞きたくないんだ」

 

眉尻を下げながら笑い、ゆっくりとブランの頭を撫でる。その手つきは優しくて、温かくて、思わずそのまま身を委ねたくなってしまう。

 

「お姉ちゃ〜ん?執事さ〜ん?」

「……今行くよ!」

 

ミズキはブランの横をすり抜けてラムの元へと小走りで向かう。

その背中を見てから、顔が寒いことに気付く。離れることがもうこんなにも寒く感じるようになってしまった。

離れるのは嫌だ。彼に離れられたら、きっと凍え死んでしまう。もう、彼がいない時間何をしていたかわからないほどに、私の中で彼は大きい。

けれど、近付かれるのは怖い。体験したことのない何かは、誰だって怖いものだ。けれど、こんなに恐れていいのだろうか?こちらに近づこうと努力する彼を恐れるだなんて、その時点で彼に近付かれる資格など……。

 

「自分勝手、ね」

 

自己嫌悪に陥る。

このまま止まっていて欲しい時も止まってくれない。止まっていて欲しい距離も変わっていく。

その流れに流されぬよう、意識して雪を踏みしめた。




短めですね。mk2の追い込みでペースが落ちてます。許してヒヤシンス。

ちな僕は2G至高勢です。害悪と罵ってください。3DSとか扱いづらすぎる…。武士道スタイルとかなんなんだよ。愛とか宿命とか言ってるんですかね…(偏見

雪山…凍傷…女と2人きり…ビームサーベル…。
訓練されたガンダマーのみなさんならこれだけでもうあっはんうっふんが察せるかと。
あ〜あ〜冬か〜クリスマスか〜今年もザク改だな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

報い

なっげえなこれ。mk2の日付からしてノワールはmk2の間に挟むことになりそうですね。哀れノワール。


小屋で準備を整え、荷物を背負って小屋を出る。

内外の温度差にロムとラムが悲鳴をあげた。

 

「さむい……」

「へえ、2人も寒いって言う時があるんだね」

「当たり前よ!私達をなんだと思ってるの!」

 

まあ、寒いで済むあたり2人の耐性は高い。

ちなみに僕は凍えそうです。

「ねえ、お姉ちゃん。何処にモモンガさんはいるの?」

「……………」

「お姉ちゃん?」

「……あ、いえ、なんでもないわ。密猟者が出没する場所はあの森のあたりよ」

 

ブランが指差す先には葉を落とした木々の森がある。針葉樹は辛うじて葉をつけていて、緑と白のコントラストが美しい。

 

「あそこにモモンガがいるの?」

「……多分」

 

プイッと顔を逸らされてしまった。返答も最低限の言葉だけだ。

 

「……まあいいか」

 

本当は良くないけど。さすがにこれはロムを恨んでもいいよね。

 

「……?どうしたの、執事さん。なんで見つめてるの?」

「……いや、なんでもない。ところでラム、ギロチンって知ってる?」

「ぎろちん……?ううん、知らないわ。なにそれ?」

「……とってもいいものだよ」

「?」

 

ブランの調子が悪いためにツッコミが機能しない。無垢な2人は首を傾げるだけだ。

 

「………待って」

 

森に近づいたあたりでミズキが静かに声を出す。

 

「どうかしたの……?」

「(シーッ)」

 

ミズキは口に手を当てて黙るように身振り手振りで指示する。3人はそれを見て口を閉じ、動きを止めた。

 

「……………」

 

何故ミズキがそんな指示を出したかわからなかったが、しばらく後に音が聞こえて自然と耳をすます。

まるでエンジン音のような、何かが駆動する音……。

 

「あっちか……!」

 

ミズキがバッと振り向いた先から音が大きく聞こえる。それは段々と大きさを増し、森の中から飛び出した。

 

「ヒャッハー!」

「いた!」

 

3つのスノーモービルに乗った奴ら。合計3人。

なるほど、アレがあれば足場の悪い雪山でも素早く移動できる。

 

「あいつらがみつりょーしてる⁉︎」

 

ガラの悪い顔つき。手に持った銃。さらにカゴの中には数匹の傷ついたエンジェルモモンガとあれば、密猟しかありえない。

 

「捕まえるよ!」

「逃さないわよ、変身!」

「変身……!」

 

ロムとラムが変身した。しかし……。

 

「さ、さむ〜い!なによこれ!上着もなくなるの〜っ⁉︎」

「お肌が……痛い……!」

「そ、それは我慢してよ……」

 

2人が体を震わせた。でも、そこそこ肌を覆う面積が多いスーツなのだからここは頑張ってもらいたい。

 

「お姉ちゃん……?お姉ちゃん……!」

「っ、え、ええ。わかってるわ。変身……!」

 

変身したブランも一瞬寒さに身を震わせるが、斧を振り払うのと同時にそれを振り払う。

 

「テメエら、逃げられると思うなよっ!」

 

「あいつら、女神ぃ⁉︎」

「ど、どうします兄貴!」

「どうするもこうするも逃げるしかねえだろ!金ヅルだけは落とすんじゃねえぞ!」

 

3人はスピードを上げて逃げていく。しかし、森を抜ければそこから先はスキー場のような見晴らしのいい斜面だ。

 

「見失う方が難しいぜ!」

「いくらスピードがあったって!」

「あの乗り物だけ、撃ち抜くよ……!」

 

ロムの杖の先に小さな氷の粒がいくつも作られてまるで雹のように密猟者に襲いかかる。

 

「チッ、撃て、撃て!」

「させないよ、変身!」

 

ミズキが変身すると……まさかの、戦闘機へと変身する。

 

「なんだあのオモチャは!」

 

現れた戦闘機に密猟者が発砲する。

しかし戦闘機は急上昇し、それを避ける。その隙に戦闘機を挟むように2つのユニットが現れた。

 

「な、なにぃ⁉︎」

「合体、した⁉︎」

 

そのユニットが戦闘機と合体し、人型になる。灰色に覆われたそのシルエットはまさしくガンダム。そう、ミズキが変身したのはインパルスガンダムだ。

 

《逃さない……!》

 

インパルスの装甲に色がつき、上半身は青を、下半身は白を基調とした色になる。

左手の盾は拡張し、右手に持ったライフルでスノーモービルを狙い撃つ。

 

「うおわっ!」

 

素早いモービル捌き、とでもいうのだろうか。間一髪のところでビームを避けたが、インパルスは接近をやめない。

 

《3人とも!》

「ええ!アイスコフィンっ!」

「私も、アイスコフィン……!」

 

ロムとラムがそれぞれ大きな氷塊を撃ち出す。

それは密猟者達の進行コース上に落ちた。

 

「うおおっ!」

「あ、危ね……うおわっ!」

 

焦ってハンドルを切った子分の密猟者2人がスリップして雪へとダイブする。空へ飛んだエンジェルモモンガが入ったカゴはロムとラムがそれぞれしっかりキャッチした。

 

「もう大丈夫だからね?」

「怖かったね……」

 

《フォースシルエットを!》

 

インパルスの後方から新たな戦闘機が現れた。戦闘機に装着されていたシルエットがパージされてインパルスの背中に装備される。

インパルスはストライクと同じように装備を変えることができるガンダム。

今装着したのは機動力重視のフォースシルエット。それを装備したインパルスはフォースインパルスとなって単独飛行が可能になるのだ。

 

《はぁぁぁっ!》

「私が行く!」

 

空を飛んだインパルスが低空飛行で密猟者に接近するが、その横をブランが追い越した。

 

《ブラン!》

「私は……!っ、心配いらねえよっ!」

 

加速したブランがあっという間にスノーモービルに追いついた。

 

「チッ!」

「大人しくしてろっ!」

 

ブランの斧がスノーモービルを切り裂いた。

 

「っ、と……」

 

バランスを崩したスノーモービルからモモンガが入ったカゴが飛んで行く。

ブランはそれをキャッチしたが……それに気を取られていた。

 

「誰が大人しく、捕まるか……」

《ブラン、危ない!》

「っ」

「食らいな、女神!」

 

ピンを抜いて密猟者が投げつけてきたものは、手榴弾だ。カゴを取ることに気を取られていたブランはそれを避けられない。

 

《ブラン!ぐあっ!》

 

ブランを抱きかかえて背中で手榴弾を受け止める。

 

「っ、ミズキ⁉︎」

《大丈夫、怪我はないよ……!》

 

インパルスが装備するVPS装甲は実弾では傷つかない。若干、衝撃は効いたけど……。

 

「この、よくもやったわね!」

「絶対許さない……!」

 

ロムとラムもこちらに飛んでくる。

しかし、2人は異音に体を止めた。

 

「なに?この音……」

「ゴゴゴ……って……」

 

ゴゴゴ……と腹に響き渡るような音。

 

「この音……!ロム、ラム、逃げろっ!」

「え?……あれ……!」

「え、え、な、なによアレは!」

 

腕の中でブランが声を上げる。

その声につられてインパルスも山頂の方を見る。そこには……。

 

《雪崩れ……だってぇ⁉︎》

 

粉々に崩れた雪が波のようにこちらに向かってくる。あんなの、防ぎようがない!

 

「おおかた、手榴弾とかが原因だろうなぁ!クソッ!」

《2人は逃げて!早く!》

「執事さん達は⁉︎」

《僕達は僕達で逃げる!モモンガの治療もしなきゃいけない、1人で山を降りられるね⁉︎》

「わかった……!行こう、ラムちゃん!」

「わ、わかったわよ!って、こいつらは⁉︎」

「た、助けてくれぇ!」

「あ〜もう!逃げ遅れたらあんたらのせいだからね!銃とか重いものは捨てなさいよ!」

 

ロムとラムは片手にモモンガを持ったカゴ、もう片手に大人を1人持ち上げて重そうにしながらも雪崩れの範囲から逃げるべく飛び上がる。

 

「オラ、テメエも逃げるぞ!」

「う、うるせえ!誰が騙されるか!」

「生きるか死ぬかの瀬戸際だぞ⁉︎死にてえのかっ!」

「捕まりたくもねえ!」

《あ〜もう、うるさいよ!》

 

ガチンと頭を殴ると密猟者のリーダー分は気絶してしまった。

ブランが密猟者の手を持って飛翔するが、その時にはもう目の前にまで雪崩が迫っていた。

 

《ブランっ!》

「ぬあっ、クソがァッ!」

 

ブランが渾身の力で密猟者を横へとぶん投げる。あの勢いなら雪崩の範囲の外まで行ってくれるだろう。生死は知ったこっちゃないが。多分、雪がクッションをしてくれる。

 

しかし、それは即ち逃げる暇がなかったということ。

 

「っ………!」

《くおおおあっ!》

 

盾とライフルを捨て身軽になったインパルスがブランを抱きしめ、せめて離れないように力を込める。

その瞬間、2人は雪の中へと飲み込まれた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

(……ン……ラ……ラン……ブラン……)

 

「ん……」

 

「ブラン!」

「ん、あ……?」

 

目を開けるとミズキの心配そうな顔が覗き込んでいた。

 

「………一緒に寝た覚えはないのだけれど……」

 

一瞬困惑した。危ない危ない、ミズキが旦那になった的なアレかと思った。

確か私達は雪崩に飲み込まれたはず。真っ暗い中で身体中を打ち付けるような痛みがあって……生きているらしい。

 

「ここは……痛っ」

「寝てて、ブラン。あちこち怪我してるはずだから」

 

変身は解けていて、身体中に痛みを感じた。

自分の体を見渡すと着ていたはずのコートがない。

 

「コートは……?」

「びしょ濡れだから脱がした。濡れてる場所はひとしきり拭いといたけど……不味いよ」

「……そういえば、ここは?私達はどんな状況?」

 

あの後、揺れが収まった後でミズキは雪の中を脱出した。

場所は土地勘のないミズキがわかるはずもなく、周りはなぎ倒された木々で溢れていた。

とりあえず気絶したブランの具合を見れるところに行きたかったのと、その時ちょうど天候が変わり始めたのもあって近くにあった洞窟の中に身を隠す。すると……。

 

「吹雪いた、のね……」

「うん。これじゃ1m前方のこともわからない。だから、吹雪が止むまでここにいようと思ってるんだけど……」

「……それは、いいわ。けど……本当に……マズい……」

 

ブランの体がガクガク震えている。

 

「ブラン?具合が悪いの?」

「違う……。けど……寒い……」

「…………」

 

身を縮こませているブランだが、焼け石に水だろう。雪で服も濡れてしまい、完全に雪で体温を奪われた上に火を起こすほどの木もない。

 

「ブラン、僕のコートを着て」

「でも……」

「いいから。僕は体が濡れてない、大丈夫だよ」

 

体育座りをするブランを着ていたコートで包み込む。少しだけだが人肌の温もりもある、寒さくらいは防げるはずだ。

 

「多分、雪崩の時にブランの物資は全部持ってかれたから持っているのは僕の物資だけ。あるのは……予備に持って来た少しの保存食だね」

「大切にしましょう……。他には何かないの?」

「時計、コンパス、レインコート、懐中電灯、タオル……使えそうなのは……ナイフ、応急キットと、杖とか?」

「上着のようなものは……ないのね……」

「うん。レインコートは……気休めくらいにしかならないだろうし」

「動けば、暖かくなるかしら……」

「ダメだよ。汗をかいたら凍傷になってしまう。そうだ、怪我はどう?」

「大丈夫……骨を折ったとかはないと思うわ。アザくらいだと思う」

「わかった。無理はしないでね」

「ええ……」

 

ブランが小さく縮こまって震えている。唇は真っ青だ。

 

「具合はどう?」

「……あまり、よくないわ」

「寒い、よね」

「指先の感覚が、なくなりそうよ……」

「………」

 

凍傷にかかってしまってはダメだ。

洞窟の奥、そこは暗闇になっていてまだ探索もしていないが……。

 

「洞窟の奥を探してくるよ。ブランはここで待ってて」

「で、も。アナタはコートも着ていないわ……」

「なんとかなる。僕は体も冷えてない、心配しないで」

「私の方こそ、心配しないで……。この程度、私は女神なんだから……」

「僕だってそうさ。別に死にに行くわけじゃない、すぐ帰ってくるよ」

 

ミズキはナイフと杖、懐中電灯を持って洞窟の奥へと向かう。

 

「そこで待っててね」

 

すぐにミズキは暗闇の中へと消えて行く。

それを見届けるが、正直ブランはあまり長くもちそうになかった。

 

「寒、い……」

 

こんな寒さだと……あの時を思い出す。

マジェコンヌに捕らわれ、死にかけた時。アンチクリスタルの寒さも、こんな感じだった。体の先から感覚が消え、飲み込まれ、意識が奪われる。

このままではそうなってしまうのもそう遠くない未来に思えた。

 

「…………」

 

体が空気の冷たさとは違う寒さに震える。抱きしめられるものは自分の膝だけ。精一杯縮こまってコートで自分の体を覆った。

小さく鼻で息を吸うと、体の中にコートに染み付いたミズキの香りが溢れた。

 

「………そう、よね」

 

凍えてしまうことがそう遠くない未来なら。ミズキが助けに来てくれるのもそう遠くない未来なのだろう。

そうだ。あの時、既に心の中に踏み込まれていたのだった。私とミズキの距離は、もうとっくに近い。

後は、お互いに認め合うだけなのだ。そうすれば、その距離に名前がつく。名付けたのはプルルートが先だっただけだ。

……もっとも、近付いたのは私が先だったわけだが。

 

「ふふ、ふ………」

 

眠るわけには、いかない。みんなに惚気話の1つもしていないのだ。眠れるわけがない。

そう思っているのに、コテンと視界が横に倒れた。ゆっくりと目蓋が閉じられていくのがわかる。ダメだとはわかっているのに、抗えない。

でも、きっと大丈夫。助けに来てくれるから。

またあの時と同じように、暖かな、光、で……包み、こん………で……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

意識が覚醒した。

目が開かない。だが、体の感覚は感じている。身体中が暖かい何かに包まれている……これは、なんだろう。

ここが現実なのか夢なのかわからないが……多分夢だろう。さっきまで雪山にいたのに、体がこんなに暖かいなんてあり得ない。

 

けれど目は開いた。

ここは何処なのだろうか。地獄の釜の中なら鬼を蹴飛ばして帰ろう。天国の雲の中なら天使の翼を引きちぎって降りようと心構えをして、それからここはそのどちらでもないことに気づく。

 

「あ………?」

 

体が何かに包まれていた。

目線の先には、天井。無数の水滴がポツンポツンと落ちて、ところどころにツララが生えている。

ツララ、漢字では氷柱。つまり、ここは雪山……?

 

そこでようやく体を包み込んでいる者に気づく。

お湯と、ミズキだ。

 

「ミズ、キ………?」

「……死ぬかと、思った」

「………ごめ……ううん、ありがとう……」

 

謝らないでほしいと言ったのはミズキだ。だから、こういう時は感謝の言葉を述べるべきなのだろう。

 

「……で、その……どういう状況なのかしら。私、その、少し……いや、だいぶ、恥ずかしいのだけど……」

 

肌の感覚でわかる。2人とも、裸だ。密着しているから見られてはいないものの、頭と頭が隣にあるように抱きしめられているために恥ずかしい。

少しでも身動ぎすればミズキの肌と自分の肌が擦れ合う。

 

「洞窟の奥、地底湖があったんだ。冷たくて、とても浸かれるような場所じゃなかったけど、それしかなかったから帰って来たんだ」

「そしたら……私、寝てたのね……」

「焦ったよ。いくら呼んでも起きないんだ。体も冷たいし、息も荒かった。……怖かった」

「うん、うん………」

「だから、ここを暖めたんだ。巨大なビームサーベルならこの程度の地底湖、すぐにお湯になる」

「それで……即興の温泉を……」

「うん。人肌があったほうがいいかと思って、今こうしてる」

「それで、あの……裸に、したのよね……」

「………そんなことは、今どうでもいいんだ」

 

温泉のように濁っているわけではない。お湯の中を見つめればもれなく体が見えるだろう。

そんな状況で密着して、その上今裸ということは服を脱がされたということ。全部見られたということ。

 

「ねえ、ブラン。遠いところに行って欲しくないんだ」

 

ミズキが腕を緩めると隣り合っていた顔が向かい合う。

見つめたミズキの目の周りは赤く腫れていた。

 

「…………」

 

そっとお湯から右手を出してミズキの目の周りを撫でた。そのまま頬でその手は止まる。

もう、怖くはない。このまま、暖かさに包まれているのなら、何もーーー。

 

「好きだよ、だから、もう行かないでよ……?」

「っ、ひくっ……うん……うん、行かないわ……」

 

気付けば私も涙を流していた。ミズキが両手を私の背中から頬へと移す。

私の涙を拭くためではない。とても簡単で、わかりやすくて、尊い、愛を確かめ合うための行為をするため。

 

「んっ……ふぅっ………ぷはっ」

 

目は閉じていても、涙は止まらない。

でも、それでも、報われたと思う。

誰だったか、初恋は報われないと言ったのは。そんな人に声を大にして言いたい。今、報われたのだと。恋は実ったのだと。

長くても、2人目でも、そんな些細なことは関係ない。今通じ合っている。それだけで十分なのだから。

 

ただ、ほんの少し、気になると、すれば……。

 

「逆上せ、た……カクリ」

「ブラン?……ブラン⁉︎」

 

一体どれくらいの時間お湯に入っていたのかということ。逆上せた原因はもう1つ。

顔から火が出るほど恥ずかしいというが、それを言ったやつに言いたい。

全身から火が出るほど恥ずかしいわ、これ。それこそ、私で湯が沸かせそうよ。これが、逆上せた原因。

それとは別に、唇も燃えるほど熱い。その熱だけは忘れたくないと思いながら、意識を手放した。






ねぷ「んで、どうしたの?」
ミズキ「吹雪止んだ、帰った」
ねぷ「それで?」
ミズキ「それでって、何が?」
ねぷ「そんな状況でブラン脱がしたりとか触れ合ったりとか体拭いたりとかまた着せたりとかして何もなかったの?」
ミズキ「ネプテューヌ、いい?」
ねぷ「うん?」
ミズキ「この作品は、R18じゃないよ」
ねぷ「……はい」



申し訳程度のインパルス。雪山って言ったらやっぱりエクスカリバーが印象深くて、ねぇ。……ホント、なんで生きてたんだろ、キラ…。いやアスランもだけど。メイリンは可愛いからいい。っていうかアスラン×メイリンになったってマジ?カガリが可愛いでしょカガリでしょ…。

次の投稿はmk2の前の状況整理…というか、キャラ説明?になるかと。オリキャラはガンダムお得意の裏設定加えてたくさん書いて、既存キャラはWikiより抜粋()
いや、書きます書きます。それでも量は少ないですけど。話が進むにつれてそれも編集していこうと思ってます。投稿した時と編集した時とでラグはあるかもしれませんが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

すまん、この歌舞伎役者ギャグの中でギャグを忘れた

もうクッソ雑。なんだこれ


ーーーークリスマスとは。

 

多くの人が知っている通り、Re:亜獣の祭りである。違う。やり直し。

 

 

ーーーー本来の、本当のクリスマスとは。

 

キリスト様が降誕したことを讃える日のことである。

今からおよそ2000年も前のことだからキリスト様が生まれて飼い葉桶に置かれた日は正確にはわかっていないが、それでも形式上はキリスト様の誕生日はクリスマスなのである。

まあ、もっとも、キリスト教ではクリスマスというのは日ではなく、その周辺の期間のことを言う。

その上、キリスト様は神ではない。神が遣わした人である。

……何が言いたいかと言うと。

 

僕達の世界→神がいる。

 

まあ、いるとしよう。未だ誰も存在を確かめたことはないものの、仏か、神か、アッラーか、八百万の神か、存在するとしよう。

 

では、彼らの世界は?

 

彼らの世界→守護女神がいる。

 

………キリスト様ってゲイムギョウ界にも存在したのかね。

 

 

 

「そんなことはどうでもいいから祭りじゃ祭りィッ!クリスマスは、飲んで騒いでハメを外す日だよぉぉぉっ!」

「それ僕が最初に否定した考え方!」

 

バンと机を叩いてものもーーす!(物申す)

 

「細かいことは気にしない!設定は会社に聞いて!私達に聞いちゃダメ!むしろ会社が私達の神様みたいなところあるよ!無印とmk2とかじゃ、全然話繋がってないもん!」

「……頭痛い」

 

早速アイエフがネプテューヌの呟きについていけず頭痛を起こした。

仕方ないね。

 

「あいちゃんとコンパ!それとネプギア達とか妹達は下がってて!mk2の出番が多すぎるんだよ!私達によこせ!出番!」

「アニメ版の〜、私くらい、出番がないよね〜」

 

プルルートがいつも通りのおっとり口調でネプテューヌに賛成した。

 

「いや、確かに、アンタ達が仲間になったら終盤に近付いてるって感じだけど……少なくともゲーム版でのシナリオ上は」

「でも……そのぉ、プルルートさんよりは……出番が多いですぅ」

「だよね〜。理不尽だよね〜。もっと出番、欲しいよね〜?」

「あ、プルルートが怒気を……」

 

プルルートがニコニコというかニ"ゴニ"ゴ笑い始めた。これアカンやつや。

 

「ま、待ってください!あの、このままじゃ収拾つかなくなるっていうか、せめて音頭の1つでも……」

「じゃかあしゃあ、ネプギアァァァッ!」

「お姉ちゃんもう酔ってるの⁉︎」

「安心して!まだ一滴たりとも飲んでないから!」

「それはそれで心配だよ⁉︎」

「んじゃま、はい、とにかくぅ、ネプギアが急かすからぁ、仕方なくぅ?開始の宣言をしまぁす」

「凄く嫌そうだ⁉︎」

「もう、今日はおかしくないかしら……」

「何がと言われると全部がおかしいです……」

「はい!飲んで騒いで大集合!女神もただの女に変わる、クリスマスの大大大、大パーティ!はっじまっるよ〜!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

のわ「で、また台本形式みたいになるわけね」

ねぷ「仕方ないよ。だって、キャラ多いんだもん!」

ぶら「ところで、妹達は……?というか、この場には女神とミズキ以外はいないけれど……」

ねぷ「mk2で出番が多いんで」

ミズキ「本当にハブきやがった⁉︎」

ねぷ「大丈夫、大丈夫!出番はあるよ!多分!」

ミズキ「それはないフラグなんだよなあ……」

べる「今回は、プルルートも加えているのですわね」

ぷる「そうだよ〜?私〜、作者さんのお気に入りなのに〜、話の都合上、なかなか登場できないから〜」

べる「今回はアナタもメタ発言をするのですわね……」

のわ「ところで、今回私達を集めた理由は……って聞くまでもないわね」

ねぷ「うん!さすが懸命なノワールだね!」

のわ「どうせ理由なんかないんでしょ」

ねぷ「当たり!」

のわ「…………」

 

ジト目で見ていたノワールも耐えきれず溜息をつく。

 

ねぷ「予定も何もないよ!アイディアもないから、行き当たりばったり!」

ぶら「……大丈夫なのかしら」

ミズキ「僕は全く大丈夫と思えないよ」

 

ダメだこりゃ。

 

ぶら「……なら、私から話題があるわ」

ねぷ「はい、じゃあブラン喋って〜」

ぶら「最近、ネプテューヌシリーズの新作が出たわよね。四女神オンライン、だったかしら?」

べる「ああ、もうメタな話は義務教育なのですね。わかりましたわ、もう無粋にいちいちつっこみませんわ」

のわ「ああ、出たわね。やっぱり、楽しそうではあると思うわ。それで?」

ぶら「私の……女神化した時の、ホワイトハートのしての姿、あったわよね」

ミズキ「ああ、魔法戦士じゃない方ね。あの、みんな女神化した姿はあったよね。本当の女神みたいに白くて羽が生えて……ん?」

ぶら「そう、羽が生えたのよ」

ねぷ「……?それが〜?」

 

 

ぶら「私×ゼロカスタムが公式で書かれたわ」

 

 

ねぷ「絶対違うよ⁉︎」

ぶら「私も目を疑ったわ。これは何かの間違いではないかと。でも……羽は4枚あったわ」

ぷる「ゼロカスタムも〜、羽は4枚あったね〜」

べる「でも、それは私も同じではなくて?確かにブランみたいな純白の羽ではないにしろ、私にも一応『自由の翼』なるものが……」

ぶら「アナタの羽は2枚よ」

べる「そこが違うと⁉︎」

ぶら「そういうことね」

べる「酷いですわ!PVは私がやりましたのに!」

ぷる「私も〜、女神化の姿欲しかったよ〜!戦う〜!イジメる〜!」

ねぷ「どうせ数百円払う羽目になるんだよ、ぷるるん教の人は」

ぷる「私DLCなの〜⁉︎」

ミズキ「いや、待って、落ち着いて考えよう。むしろDLCだからこその壊れ性能かもしれないよ」

べる「ありますわよね〜、そういうバランス崩壊。白と黒の一角獣とか電撃とか砂岩とかモヒカン2号機とか」

のわ「……アンタもメタな話への適応早いわよね」

 

ノワールが呆れた。はい、この話題ここで終わり。

 

のわ「もうちょっとマシな話にしましょうよ。ほら、せっかく季節はクリスマスなわけだし」

ミズキ「クリスマスっぽい話ってこと?」

のわ「そうよ。もう収拾つかないことは確定してるんだし、せめてそういうグタグタな話をしましょうよ」

べる「当たり障りのない話題としては……そうですわね、『サンタに貰うとしたら何が良いか』とかどうでしょう?」

ミズキ「うん、本当に当たり障りがないね」

べる「それでは、何が欲しいですか?プルルートはどうでしょう?」

ぷる「う〜ん、う〜ん……。イジ」

べる「次行きますわよ」

ぷる「な〜んで〜⁉︎」

べる「ロクな回答が返ってこないのがわかったからですわよ!」

のわ「そうね、ミズキに聞きましょう。アナタならマシな返答をしてくれるわよね」

ミズキ「ん〜、ガンプラ〜とか答えておけば楽なんだろうけどね」

のわ「ちょっと、ボケるの?」

ぷる「あ、は〜い。私〜、ミズキくんが欲し」

べる「言わせませんわよ!」

ねぷ「まさかの我が家的ツッコミ⁉︎」

ぷる「じゃあ〜、私〜、子供が」

べる「言わせませんっわっ!」

のわ「そんなに本気にならなくても……」

ぶら「スタッカート入れてるわね」

のわ「ネプテューヌ、アンタは何欲しいの?」

ねぷ「そりゃあ、サンタに頼むものって言ったらゲームでしょ!子供の頃からオモチャを頼もうよ!」

のわ「ブレないわね」

ねぷ「なんかノワールが冷たい!」

 

もうノワールが諦めた。はいこの話題ここで終わり。

 

のわ「もしかして、これから先もこの方式で区切ってくつもりじゃないわよね?オチどうすんのよ」

ミズキ「それは……ほら、神のみぞ知るということで」

のわ「私達全員神じゃない……」

べる「そんなことよりも、次の話題を出しましょう。先に進みませんわ」

ぶら「mk2が基本的にシリアスすぎるのが問題なのよ」

のわ「……?確かにシリアスっ気は強いけど、なんでそれがこの有様になる原因になるのよ」

ぶら「作者がギャグを忘れたのよ」

のわ「何その人が笑顔を忘れたみたいな!」

ミズキ「お〜れとの愛を守るため〜、おぉまえはたぁびだあち……」

ねぷ「そっちは明日を見失ってるよ」

べる「何故、いきなり北○の拳を?」

ぶら「作者がアニソンを聞いているからよ」

のわ「ほんっとに行き当たりばったりなのね!」

ぷる「あ、そうだぁ〜。いいこと思いついちゃった〜」

べる「……一応聞いてあげますわ」

ぷる「お話が〜、マンネリ?してる気がするから〜、ここら辺で〜、みんなで変身しない〜?」

ねぷ「あ、それいいね!結構性格変わるからね!」

のわ「まあ、いい意見ではあるんじゃない?それじゃ、変身しましょうか」

ミズキ「僕どうすればいいの?」

ねぷ「……変身しよ〜!刮目せよ〜!」

ミズキ「ガン無視⁉︎」

 

ピカッと光って変身。僕そのまま。

 

ネプ「うん、いいわね。久しぶりの変身っていうのも、いい気分だわ」

ノワ「私達はほぼ性格、変わらないんだけど?」

ブラ「私とか、ネプテューヌとか、プルルートが得意なだけだろ」

ベル「ブランはまだ控えめですわよね。ネプテューヌも根っこの部分では変わってませんわ」

プル「別人レベルになるのはぁ……私くらいのものよねえ」

ミズキ「あ、そういえばこうなるの忘れてた」

プル「いまさら戻れって言われたって、戻らないからねぇ?」

ミズキ「いや、戻れとは言わないけど……」

プル「ならいいわねぇ?」

ノワ「なんでもいいわよ。それより、この机の上の料理とか酒とかどうすんのよ」

ミズキ「そういえば手をつけてなかったね」

ブラ「せっかくだから食って飲もうぜ。勿体ねえ」

ミズキ「……なんか、体重とかウエストとか気にしてなさそうだよね」

ベル「モンスター退治やらなんやらで結局運動はさせていただきますから。多少の飲み食いくらい、どうってことありませんわ」

ミズキ「なるほどね」

 

グビグビ。モグモグ。

 

ブラ「お前、結構強いんだな。ザルか?」

ミズキ「いや、ちゃんと酔うよ?確かに酒には強いけど……限度はあるよ」

プル「んぅ、なんだか体が熱くなってきちゃったぁ。ミズキ、冷ましてくれなぁい?」

ミズキ「外行ってきなよ……」

プル「むぅ、つまんないわねぇ」

ネプ「さて、みんな適度に酔ったかしら?ここでまた、話題を提供してくれない?」

ノワ「まあ、少しは酔ってるけどさすがに理性を失うほどではないわよ、私は」

ネプ「ダメよそれじゃあ。理性無くして猥談するくらいじゃないと」

ノワ「それはさすがにダメよ⁉︎」

ネプ「まあ、猥談は冗談としても、酔ったから正直になれることってあるじゃない?そうすると、きっと話もスムーズに進むわ」

ミズキ「……ノワールのぉ〜?」

ノワ「え?」

ベル「ちょっといいとこ……見てみたい、ですわね」

ブラ「そぉれ、いっき、いっき!」

ノワ「するか!ていうか、ちゃんと話題提供しなさいっての!」

ミズキ「クリスマスの定番……ってなんだろうね。さっきサンタの話題が出たし……あ、プレゼント交換とか?」

ノワ「でも、プレゼントなんか誰も用意してないわよ」

ベル「では、そこから連想して繋げていきましょう。そうですわね……歌とか歌ってはどうです?」

ネプ「あら?それは私に対しての挑戦かしら?ガンダム界の歌姫(自称)の私に……」

ノワ「待ちなさい?私だって、歌に自信はあるわよ。アイドルの歌姫(自称)なんだから」

ブラ「別に競う気はねえよ。っていうか、それに関しちゃお前らの妹の方が歌が上手そうだ」

ベル「ですわねぇ。特にユニちゃんなんか凄く上手そうですわ」

プル「私だって負けてないわよぉ?」

ミズキ「確かにプルルートは上手そうだ……」

ブラ「ところで、気になるのはミズキだよ。歌上手いのか?」

ミズキ「そこそこには。……ブランはとんでもなく元気な歌歌いそうだ……ニャル……種島……うっ頭が」

ブラ「?何ブツブツ言ってんだ?」

ノワ「ま、歌を歌うにしても機材がないわね。せめてカラオケとか行けば別でしょうけど」

ネプ「でもいい流れよ。ここからもっと案を出していけないかしら」

ミズキ「一発芸とか?……無理か」

プル「そうねぇ。王様ゲームとかどうよ。とっても楽しそうだわぁ……」

ネプ「ぷるるんが王様になるとヤバそうね」

ミズキ「ありとあらゆる陵辱を受けそうだ……」

ベル「やってもいいですけど、危うい命令はダメですわよ?」

ブラ「それに関しちゃ、私達全員で審議すればいいな」

ネプ「はい、クジ作ったわよ。簡単に割り箸でだけど」

ミズキ(……そもそも全員王様超えた神様なんだけどなあ……)

 

全員で割り箸を掴む。うっわ、久々の地の文だ。

 

『王様だ〜れだ⁉︎』

 

バッと割り箸を引き抜く。

 

ベル「あら、私が王様ですわね」

ミズキ「それじゃ、命令をお願い」

ベル「そうですわね。それじゃ最初は当たり障りなく……

 

 

2番は3番にキスですわ」

 

 

『アウトォーーッ!』

 

 

プル「あら、別に構わないわよぉ〜?いいじゃない、キス」

ノワ「はいはいダメダメ!はいさーい!やめやめ!」

ミズキ「ここぞとばかりのアイドルアピール……」

ベル「冗談ですわよ。1割」

ミズキ「ほとんど本気だ⁉︎」

ベル「そうですわね、抱き締めるくらいなら構わないですわね?」

ミズキ「……まあ、それくらいなら」

ベル「時間も決めておきましょう。みんなで5カウントするまで、ですわ」

ブラ「んじゃ、2番と3番って誰だよ」

ネプ「3番よ」

プル「2番よ」

ミズキ「はいじゃあそういうことで」

ネプ「まあ今更どうってことはないわ。パッケージとかでもよく抱き合ってたし」

ベル「はい、では数えますわよ〜。せ〜の」

 

プルルートがネプテューヌを抱きしめた。

……だけで終わるわけもなく。

 

ネプ(ん、胸に顔が埋まって声が出にくいわね……)

プル「うふふ……まさか、抱き締めるだけで終わると思わないわよねぇ?」

ネプ「うむっ⁉︎む〜!」

ミズキ「ネプテューヌ?どうかした?」

ネプ「どうかしたも何もうむむっ⁉︎」

 

なんかネプテューヌがもがいてる。プルルートの谷間に何かあるのだろうか。

 

ネプ(首!舐めないでぷるるん!背中すぅ〜ってするのやめて!あっ!ダメ!それ以上は!)

ブラ「しぃ……5だ。終わりだぞ」

ネプ(!セーフ!)

プル「うふふ……喜んでるみたいだけど、別に、5秒経ったら終わりにしろなんてルールじゃないわよねぇ、ねぷちゃぁん?」

ネプ「!」

プル「いいわぁ、その顔すごくそそる。そらそらそらそらっ!」

ネプ「うむむむ〜っ!」

 

 

 

ネプ「もうお嫁にいけない……」

ノワ「馬鹿なことやってないで、早く次のくじ引くわよ」

ネプ「嫌よ!もう私くじ引かない!」

ミズキ「拗ねちゃったよ……」

プル「仕方ないわねぇ。もう飲み会みたいなことでいいんじゃないのぉ?」

ミズキ「なんか……まあいいや」

プル「ほぉらぁ、アナタももっとお酒飲みなさい?」

ミズキ「え?いや僕はもうむぐっ⁉︎」

 

プルルートにむりやり一升瓶を咥えさせられた。

っていうか普通はこういうときはもうちょっと優雅なお酒をむぐぐぐ!

 

プル「そぉれいっき、いっき♪」

ミズキ「むぐ、む……!」

ノワ「ああ、こらこら、それ以上はミズキが窒息しちゃうわよ」

 

パンパンとプルルートの腕を叩いてギブアップをしめすが、プルルートがやめてくれない。酒をこぼさないために飲み続けるしかうごごごご。

 

ネプ「ぷるるん、本当に苦しそうよ?」

プル「わかったわよぉ、はい、これで勘弁してあげる」

ミズキ「ぶはっ、ふーっ、ふーっ、ヤバ……!」

ブラ「何がやばいんだ?」

ミズキ「目の前ぐるぐるしてきた……」

ノワ「大丈夫?トイレまで行く?」

 

 

ミズキ「そ、その心配はいらねえよ。ノワ公」

 

 

ノワ「そう?……ん?」

ネプ「なんか……ん?」

ミズキ「ち、ちょっと気持ち悪りぃけど……まあ、無事だ。けど、僕の友達が言うにだ……」

ベル「え、ええ。なんでしょう」

ミズキ「僕、暴れ上戸らしい」

 

『』

 

プル「あらぁ、みんなどうしたの?急に黙っちゃってぇ」

ミズキ「う、ぐぐ、ぐ、

\\\\٩( 'ω' )و ////」

 

『\(^o^)/』

 

 

 

 

『_:(´ཀ`」 ∠):』

 




ミズキが酒飲んだら云々はキャラ紹介参照。
メリクリですみなさん。さあザク改はここですよ〜


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

〜mk2編〜
ネプテューヌmk2用取扱説明書


本編が進むに従って追記していきます。追記は本編が進んだ時に報告します。

11/23カレン挿絵
12/17ビフロンス挿絵


クスキ・ミズキ

 

 

【挿絵表示】

 

 

身長180cm

体重67kg

3サイズ なし

 

本作の(一応)主人公。一人称は僕。相手のことは名前で呼ぶか、わからなければ『君』と呼ぶ。ただしビフロンスだけは『お前』と呼ぶ。

精神年齢は幼い子供をあやしたり、子供たちメンバーの良心を務めたことにより高い。ほぼ不老のため、本人は便宜上18歳を名乗るが生きていた年齢としては実は15年ほどである。

性格は温厚で、ちょっとやそっとのことでは怒らない。仮に怒ったとしてもそれを内面に抑えることができるくらいには大人である。ただし、彼の中の地雷を踏むと『鬼ミズキ』と呼ばれるほど怒り狂う。口調が変わるほどである。

酒は飲むがタバコは吸わない。酒に弱くはないが、呑まれるとやはり鬼ミズキが顔を出す。

とある理由で様々な才能の遺伝子を持つため、ある程度の練習をすれば大抵のことは上手くなる。事務能力もスポーツも出来るが、その真価は戦闘にある。

元々の次元(以下G次元)で最強の兵士を作る『プロジェクトアレス』の完成品。

『プロジェクトアレス』とはG次元では大規模な戦争が長期に渡って続けられていたため、戦争をしていた片方の国が戦況を打破すべく提案したプロジェクト。

その内容は当時主流の兵器であったモビルスーツを人間サイズにまで縮小して、変身することにより戦うシステムにあった。しかしモビルスーツの小型化は可能であったが肝心の人間が変身に耐えらなかった。

そのために肉体の強化などが行われたが、国はそれでは効率が悪いと判断し、DNAを組み合わせたクローンを作って最初から肉体強化に耐えられる人間を作った。それがクスキ・ミズキである。

結果として肉体強化に耐えうる肉体を作るのと同時に様々な才能の遺伝子を持つことになった。そのため、彼の中では世界を変えることになる人間の協調の力がいくつも眠っている。

洗脳紛いの教育を受け、戦闘マシーンとなるはずだったミズキは同じく肉体を強化されたシルヴィア、ジョー、カレンとの接触で友情を深めていく。その中で芽生えた『優しさ』の感情のままに研究所を脱走、実験台とされるはずだった子供達を中立国まで送り届けた。

しばらくその中立国で暮らしていたが、シルヴィアの提案により戦争に介入することを決意。『子供たち』(ミズキ命名)を結成してたった4人の第3勢力として戦った。

4人は1人で軍隊を潰せるほど圧倒的な力を持っていたが、それでも戦いの中で救えない命や、救えたはずの命を見てミズキは現実を知る。

時に思い悩み、挫折しかける時もあったがその度に3人に助けてもらい、精神的にも強く成長していく。その中でジャックも生まれ、人類の協調の力も徐々に目覚めていった。

2つの軍隊のうち、どちらかが残ればそちらが覇権を握ってしまい、また醜い戦争が起こることを危惧した『子供たち』はほぼ同時にお互いの戦力に壊滅的な被害を与え、戦争を引き分けで終わらせた。

中立国が中心となって平和への歩みを進めていく中、コールドスリープをしていたビフロンスの宣戦布告により、再びG次元は戦いの渦に飲み込まれる。

戦争の直後でほとんどの国が軍隊を動かせない中、『子供たち』は必死にビフロンスの軍隊と戦う。

しかしビフロンスの狙いは歪んだ平和の思想のままにG次元を破壊する事であった。

5人がそれに気付いた時には既に遅く、ビフロンスは次元破壊爆弾を完成させていた。懸命に戦うも、次元破壊爆弾は起動済み。他の次元へと旅立とうとするビフロンスを必死に食い止めるも、G次元は破壊されてしまう。

3人が死力を振り絞って次元ゲートを開き、そこを通ってジャックと共にゲイムギョウ界へと辿り着いた。

初期は親友や友達ごとG次元を失ったことにより自分の身を顧みず、ネプテューヌ達とは意図的に距離を置いていた。しかし、出会った当初からミズキの中ではネプテューヌ達は決して手放したくない、大切な存在であった。

アンチクリスタルを巡る騒動の中で自分を心から心配してくれる友達の温かさに触れ、そこからはネプテューヌ達との距離を詰めている。G次元が消えたことによる心の傷も癒えており、糧にしている。

good endでは人々から得られたシェアで神になり、復活したビフロンスを完全に倒したが……⁉

 

 

 

シルヴィア

 

 

【挿絵表示】

 

 

身長164cm

体重48kg

B79 W58 H84

 

享年19歳。

民間船に乗って宇宙を移動している時に軍に襲撃され、子供であったシルヴィアだけは誘拐される。その際に家族は殺されてしまっている。

誘拐されたのは10歳の頃であり、ある程度の良識と知識があったために、そうやすやすと洗脳はされなかった。子供たちのメンバーの中では最年長にして最も早く肉体改造を受けていた。

一人称は『私』。他人のことは名前だったり『アンタ』と呼んだりする。

性格は自己中心的とも言えるが、リーダーシップがあるとも言える。彼女を知る者は本当に楽しげに彼女の指示に従っている。負けん気が強く、気が強い。

また基本的に行動理念は『それが楽しいか否か』であり、研究所を脱走した時も戦争に介入した時もそれが楽しそうだからという理由で行った。だが戦争の中で思い悩むミズキを見て自身の考えを少しずつ変えていく。ミズキ1人を次元ゲートに送り込んだのはそういう背景もあった。

思い立ったが吉日が理念のような女だが、その行動力からジョーには『思い立ったがクリスマス』などと言われている。ちなみにそれに引っ張られる側は大凶日まであるらしい。

戦争の最中、心の拠り所を求めたミズキに告白されているが一蹴している。

使っていた機体は主にSEED系列の機体。ミズキは宇宙世紀の機体を使っていたため、2人揃ってジョーとカレンに『ビミョー機体』とバカにされたことがある。

ちなみに子供たちのメンバーの喧嘩の原因は8割がシルヴィア。

 

 

 

カレン

 

 

【挿絵表示】

 

 

身長161cm

体重46kg

B89 W59 H83

 

享年17歳。

コロニーの貧民街で暮らしていたが軍によって誘拐され、肉体改造を受ける。物心ついた時には既に親に捨てられており、自身も盗みなどで生計を立てていた。

肉体改造を受けたのは2番目。その際に与えられていた娯楽品の漫画に影響され、語尾に『にゃ』がつく口調になった。

性格はマイペース。ミズキがいない時には(わりかし毒舌ではあるが)潤滑油を務める。だがハッキリ言って潤滑油としての実力はジョーの方が上であり、シルヴィアと一緒にバカをやることも1度や2度ではなかった。

その生い立ちから最初は他人を信じずにいたが、シルヴィアと触れ合う中で徐々に心を開いていく。戦争の中で再び人間不信に陥ってしまうが、身を呈して信頼を提示してみせたジョーに惚れる。以降は自他共に認めるバカップルとしてシルヴィアの舌打ちの原因となった。

余談ではあるが、かなり胸がでかい(変身したネプテューヌ以上ベール以下)。しかし比較対象にされるシルヴィアは頑として負けを認めない。その言い訳には肉体改造(豊胸手術)が使われる。無論、胸の大きさは天然。

一人称は『私』。相手のことは『アンタ』だったり『お前』と呼んだりする。

使っていた主な機体はW系。ゼロシステムを難なく扱ってしまうことからも精神力は尋常ではなく強いことがわかる。

ちなみに猫よりは犬が好きである。

 

 

 

ジョー

 

 

【挿絵表示】

 

 

身長183cm

体重72kg

3サイズなし

 

享年18歳。

裕福な家庭に生まれ、不自由なく育ったが戦争によって家族が分断。ジョーは母方についたが、家計が厳しくなったことにより軍に売られた。

肉体改造を受けたのは3番目。シルヴィアとカレンは小うるさい女子、ミズキのことは弟分として見ていた。その認識も戦争の間で大きく変わる。

自分を捨てた母のことを憎んではいながらも何処かで仕方のないことだと思っていた。そのせいかどこか達観した考えをしていたが、『子供たち』との友情、特にカレンと特別な関係になったことによってがむしゃらに足掻くようになる。

一人称は『俺』。相手は『お前』と呼ぶ。

性格はクール。ではあるが情には熱く、静かな顔の下には燃え盛る火のような激しさがある。要するに、根っこは子供である。

いつも女子メンバーに振り回されていたために目立たなかったが、実はかなりの策士。やろうと思えば女子メンバーは手玉にとることはできる。戦争に介入するにあたり、戦術も勉強したのでさらに磨きがかかった。

最期はカレンを庇ったことにより、カレン共々瀕死の重傷を負う。しかし死力を振り絞って次元ゲートを開き、ミズキの命を繋いだ。

主に使っていた機体は00系列。平常時でも1番トンデモ性能を発揮できていたので、撃墜スコアは4人の中で最も高い。

ちなみにジャックの人格データの大半をジョーが占めている。

 

 

ジャック

 

 

【挿絵表示】

 

 

身長測定不能

体重測定不能

3サイズなし

 

年齢不詳。生まれてから数年しか経っていないが、ジョーの人格データが大半を占めたせいか、性格はまとも。

小人サイズであり、常に宙を浮いて移動する。服も着るが、大抵は腰巻だけ。鍛えているため、なかなかいい体をしている。

その正体は戦争の中で敵国から奪い取った技術で『子供たち』が生み出したロボット。ロボットと言えども、肉体、精神共に限りなく人間に近い。開発を主導したミズキ(なんでも出来るからという理由で白羽の矢が立つ)曰く、人間とロボットのいいとこ取り。

シルヴィアが面白そうだからと4人のデータをめちゃくちゃに混ぜて生み出したら、何がどうしたのかハードボイルドな性格となった。

単に友達が増えるという理由で生み出されたジャックではあるが、戦争の惨劇を見て、学び、人間と同等に扱ってくれる仲間を見て自らも協力することを決意。その性質を生かし、主にサイバー戦で活躍した。

万が一のため、彼にも限定的な変身システムが実装されている。奥の手というよりは悪足掻きのためのシステムであるため、まだ1度も戦闘で使われたことはない。戦闘中は主に4人の変身システムのバックアップを別次元で務めている。

一人称は『俺』。このあたりはジョーの人格データが色濃く反映されている。

たった2人になってしまった『子供たち』でミズキを気遣うのと同時に、彼の意思を尊重する。ミズキが1人でアンチクリスタルを集めに行くと提案した時も、彼の覚悟が本当のものであることを確かめはしたものの、ミズキの提案に全面的に賛成していた。

イストワールとは体のサイズが同じ、ロボット(のようなもの)、空を飛ぶ、など共通点が多かったからか出会った当初から仲は良かった。

good endではビフロンスのウイルスを各国の助けを借りて切り抜け、イストワールに想いを届けることが出来たが……⁉︎

 

 

ビフロンス

 

 

【挿絵表示】

 

 

身長174cm

体重51kg

B87 W61 H88

 

年齢不詳。少なくとも見た目は10代後半から20代前半だと思われる。

ミズキ達と同じように変身システムとほぼ完全なる不老不死の肉体改造を受けている。ミズキ達が受けた手術の成功率は1%にも満たないものだったが、ビフロンスが自分に施したものはほぼ100%の成功率を誇る。

G次元で戦争の惨劇を見て、絶望という気持ちを肌で感じ取る。両親が殺され孤児となったビフロンスは難民キャンプでさらにその絶望を感じることになる。

全ての活気を奪ってしまうような絶望にビフロンスは世界を平和にする力を見出す。そして平和とは全人類が絶望した瞬間に一瞬だけ訪れるもの、という理念を持った。

戦争の最中で拾った武器の横流しで富を持ち、人を雇って軍の機密を奪う。その機密を土産に大国に亡命し、そこで研究職に就いた。

ビフロンスは隠されていた天才の才能を開花させ、軍には適当な成果を報告しながら平和を得るための研究を続けていた。

このまま戦争が続けばお互いの国が永遠と争い、泥沼になることを見抜いたビフロンスはコールドスリープで眠りについて戦争に巻き込まれない外宇宙へと旅立った。

全人類の大半が終わりのない戦争で絶望に包まれていることを期待して目覚めたビフロンスが最初に聞いた報せは戦争がたった4人の軍隊によって終結したというものだった。

ビフロンスは平和を得るための最終手段として次元破壊爆弾を作りだし、子供たちと戦う。

敗れはしたものの、次元ゲートで不安定になったところに次元破壊爆弾の衝撃が加わり、次元が不安定になってしまったためかその魂がアンチクリスタルとなってゲイムギョウ界に顕現する。

それを拾ったキセイジョウ・レイの中で力を蓄え、ついに不完全ながらも復活した。しかし、神になったミズキと女神の活躍で完全に消滅させられる。

 

ネプテューヌ

 

変身前

身長146cm

体重38kg

B73 W54 H76

 

変身後

身長164cm

体重48kg

B87 W58 H85

 

本作の(自称)主人公。プラネテューヌの守護女神。

変身前は明るい能天気な性格だが、変身すると一転してクールな大人の女性になる。しかしその状態でもボロが出ると変身前の口調が顔を覗かせるあたり、やはり同一人物である。

決して無能ではないが、サボり癖がある。そのため妹であるネプギアや特にイストワールは胃薬を飲む日々。

サボりの最も大きな原因となっているのはやはりゲーム。最近はミズキも仕事やゲームに巻き込まれている。

女神としての自覚はしっかりあるらしく、国民からの信頼も得られている。ネプテューヌの理想は国民達と笑顔で戯れる世界であったことからも、ネプテューヌも国民を大切に思っていることがわかる。

武器は太刀。NEXT変身時にはユニコーンガンダムの機能を使っている。

ミズキがゲイムギョウ界で最初に出会った人間(女神)であり、付き合いもジャックの次に長い。彼がいなくなった時には塞ぎ込むなどしていたが、みんなの説得を受け復活。以降はミズキを連れ戻すべく各国を旅して回る。

しかしマジェコンヌに囚われている時にその自分の行動が自分を守ろうとしたミズキの邪魔になったことを知り、ショックを受けた。

それでも変わらず命を賭して自分達を助けようとするミズキの行動に心打たれ、ミズキの救出作戦の時に進んで志願していっている。以降は仲の良い友達といった関係。

good endでは全員と協力してビフロンスを倒し、平和な日常を取り戻したが……⁉︎

 

 

ネプギア

 

変身前

身長154cm

体重40kg

B78 W56 H80

 

変身後

身長155cm

体重41kg

B80 W56 H82

 

プラネテューヌの女神候補生でネプテューヌの妹。

真面目ではあるが天然な一面もある。

機械好きであり、仲の良いユニにさえドン引きされるほど。

最初は変身ができなかったが、姉を助けるためにミズキの助言もあり見事変身を果たす。

武器はビームソード。女神化の後はマルチプルビームランチャー(M.P.B.L)を使う。NEXT変身時はガンダムAGE系列の力を使っていた。ガンダムAGEの性質上、万能型。

 

 

ノワール

 

変身前

身長158cm

体重43kg

B83 W56 H82

 

変身後

身長160cm

体重45kg

B83 W57 H83

 

ラステイションの守護女神。

真面目で責任感が強く、ネプテューヌにはライバル心を燃やしている。彼女の治めるラステイションはシェア保有量が1位。

典型的なツンデレ。ではあるが素直になれない自分はあまり好きではなく、友達がいないことを気にしていた。

コスプレ趣味がある。またグリーンピースが嫌いらしい。

最初はネプテューヌの『ミズキは女神よりも強い』ことに関して半信半疑であった。しかしラステイションに訪れたミズキの戦闘を見てミズキが自分よりも強いことを戦うまでもなく感じ取った。

助けられたことでミズキに恋をしたノワールはネプテューヌに協力するも、その行動がミズキの邪魔をしていることに気付く。

自分を死んでも仕方ないと思ったものの、命を賭して助けてくれるミズキの行為に感動。恋慕の情をさらに深め、ミズキ救出に一役買っている。

武器は大剣。ゲームでは片手剣がメインであった。NEXT変身時には00系列の機体の力を持つ。

 

 

ユニ

 

変身前

身長149cm

体重39kg

B77 W55 H81

 

変身後

身長148cm

体重38kg

B75 W54 H80

 

ノワールの妹で、ラステイションの女神候補生。

ノワールと同じく素直になれないところがあるが、根は素直。

優秀な姉と変身できない自分とを比べてコンプレックスを抱いていたが、ミズキの言葉を糧にして精神的に成長する。

姉が囚われた時にはミズキの言葉で完全にコンプレックスを克服、女神化を成功させた。

変身すると全体的に軽量化され、胸も縮んでしまう。

武器は銃器。変身後の武器はエクスマルチブラスター(X.M.B)。狙撃の腕は随一で、同じ銃を使うネプギアには近接では劣っても遠距離で優っている。

ミズキは(ネプギアもそうであるが)いいお兄ちゃんのような存在。そのうちお義兄ちゃんになるのではないかと思っている。

 

 

ブラン

 

変身前

身長144cm

体重36kg

B71 W53 H77

 

変身後

身長146cm

体重37kg

B73 W53 H77

 

ルウィーの守護女神。双子の妹を持つ。

普段は冷静で口数も少ないが、激昂したり変身したりすると人が変わったように乱暴な口調になる。

趣味は読書であり、本を読みふけっている。ルウィーの蔵書量も相まって読書量は大したもの。基本的にジャンルを問わず何でも読めるため、物語の本が欲しいと言ったミズキにスムーズに本を紹介できている。

ルウィーにあるアンチクリスタルは教会に保管されていると知ったミズキは変装してルウィーに執事としてやってくる。その時にはミズキの完璧に仕事をこなす姿を頼りになると感じ、一緒に読書した時には安らぎを感じていた。

ロムとラムが誘拐されたことで正体を明かしたミズキとの再び読書をするという約束を守るためにミズキを追いかけるが、既に自分のせいでミズキの邪魔をしていたことに気付く。

しかし、それでも約束を果たそうと命をかけるミズキを見て、自分も約束を果たそうとミズキの救出をしている。

武器は巨大なハンマー。変身すると斧になる。NEXT変身時はウイングガンダムの力を有し、ゼロシステムを抑え込むほどの精神力を見せる。

 

 

ロム

 

変身前

身長132cm

体重28kg

Bちょっとはある Wほそい Hほんのり

 

変身後

身長137cm

体重29kg

Bとびだしてはいない Wほそい Hほんのり

 

ルウィーの女神候補生。水色で姉の方。

妹であるラムとは対照的に無口で大人しい性格だが、変身後はサドっ気が顔を覗かせる。

戦いを恐れていたが、囚われた姉を前にしてラムと共に成長。2人一緒に女神化を成功させた。

武器はペン型の杖。変身後も形は変わるものの、同様である。魔法攻撃を得意とし、支援魔法も攻撃魔法も使える。

 

 

ラム

 

変身前

身長132cm

体重27kg

Bふくらみはじめ Wほそい Hうすい

 

変身後

身長137cm

体重29kg

B若干ある Wほそい Hうすい

 

ルウィーの女神候補生。ピンク色で妹の方。

姉のロムと違い、無邪気で元気な性格。しかし、ロムと同じく変身後はサディスティックになる。

姉のブランが囚われた時には恐れをロムと戦うことによって振り切り、女神化する。

武器はロムと同じくペン型の杖。変身後も同様。こちらも魔法攻撃を得意としている。これは教祖であり、2人の魔法教師でもあるミナの教育の賜物である。

 

 

ベール

 

変身前

身長163cm

体重48kg

B93 W61 H87

 

変身後

身長167cm

体重49kg

B95 W61 H88

 

リーンボックスの守護女神。

清楚で穏やかな人物であるが、実はネプテューヌを凌ぐほどのゲーマー。特にネトゲは廃人の域に達しており、囚われた時にもギルドのことを気にしたり3台のパソコンで同時にゲームをプレイできるほど。

家には自身が集めたグッズ(やはりBLモノが目立つ)も大量にある。しかし、それも部屋にある分は全体の2%ほどらしい。

4国で唯一女神候補生がいない女神であり、そのせいか教祖であるチカを妹のように可愛がっている。どうでもいいが体が固い。

5pb.をテロリストから守るために戦ったミズキと鉢合わせ(ルウィーでも変装したミズキと顔は合わせていたが)、そこで共闘する。突如現れたEXモンスターに吸い込まれてしまうが、ライブ会場に訪れた人間の意思の力を集めたミズキによって救出された。ちなみにこの時人工呼吸されているため(みんなはノーカンと言っていたが)、ミズキのファーストキスはベールである。

武器は槍。変身後も同様。NEXT変身時はSEEDの力で戦う。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1章〜絶望に包まれゆく世界。差し込む一筋の希望〜
捕囚の女神


mk2開始。
しばらく暗くて暗くて仕方がないです、はい。


………私達の世界には、ガンダムというアニメがあります。

アブネス、という人がアニメ化して大ブレイク。今や世界中の国民的アニメとなっています。

少し街を見渡せば張り紙はガンダム。中には銅像がある場所だって。

ゲームも小説など様々なメディアミックスもしていてその人気はとどまるところを知りません。

でも、どうしてか、なんででしょう。

私はそのガンダムを見るたびに。

頭が、痛くなって……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ゲイムギョウ界は犯罪組織マジェコンヌの脅威にさらされた。

ショップは枯れ、クリエイターは飢え、あらゆるギョウカイ人が絶滅したかに見えた。

だが、女神達は滅んでいなかった。

平和な世界を作っていた女神達だったが突如として4国の中心に現れたギョウカイ墓場とそこを治める犯罪組織マジェコンヌの登場以降、シェアがマジェコンヌに奪われて急速に衰退していく。

マジェコンヌが売り出す違法コピーツール、『マジェコン』などが主な原因だ。

事態を重く見た女神達は連合軍を結成。犯罪組織マジェコンヌへとプラネテューヌの女神『ネプテューヌ』、ラステイションの女神『ノワール』、ルウィーの女神『ブラン』、リーンボックスの女神『ベール』、それにプラネテューヌの女神候補生である『ネプギア』を加えて戦いを挑む。

…………その戦いから、3年。

未だ女神達は、帰ってこない………。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ギョウカイ墓場。

暗く寂しい場所だ。その儚さと肌にまとわりつくような怖さはまさに墓場と呼ぶにふさわしい。

ところどころに壊れた機械、割れた大地、倒壊したビル、湧き出すマグマ。

そんな人が寄り付かないような場所に2人の女の子が歩いていた。

 

「…………あいた!」

「し〜っ!静かにしなさいよ……!」

 

足元のコードに足を引っ掛けてすってんころりん。

思わず声を上げてしまった女の子をもう1人の女の子が諌める。

転んでしまった女の子の名前はコンパ。諌めた方はアイエフだ。

 

「もう、邪魔になるなら連れて行かないわよ」

「ご、ごめんなさいですぅ。でも、ここ……」

 

コンパが周りを見渡す。

 

「……ここが、もともとプラネテューヌの街だったとは、思えないですぅ……」

「………やめなさい。ここは今、マジェコンヌの領土なの。取り返したいなら、まずネプ子達を取り戻すのよ」

 

こんな場所でも、3年経っても、まだほんの少し生活の跡が残っているのが胸に響く。

 

「きっと、生きてるですよね……。そうです、ねぷねぷも、ギアちゃんも、女神さん達も取り返すですぅ!」

「だから大声を出さないの……!」

 

大声を張り上げてしまうコンパ。

アイエフはもう2度とコンパと潜入はしないと心に決めて……本当に強く心に決めて先に進んだ。

 

 

 

「結構歩いたわね……」

「はいですぅ……。疲れたですぅ」

 

「………ぅ………」

 

「ひっ⁉︎」

「……コンパ、だから……!」

「ち、違うです……!こ、声がしたです……!ほら、耳を澄ますですぅ……!」

「……………」

 

半信半疑でアイエフもじっと黙って耳を澄ます。

すると確かに丘の向こうから小さな呻き声が聞こえてくる。

 

「……確かに、聞こえるわね……」

「だ、誰でしょう……。も、もしかして幽霊とか……!」

「いや……違うわ、この声……!」

 

聞き覚えのある声だ。

アイエフは声が聞こえる丘を駆け上がる。慌ててコンパもついてきた。

その丘の下にあったのは、触手のようなコードに囚われたネプテューヌ達の姿であった。

 

「ネプ子!」

「ねぷねぷ!ギアちゃんも!女神さん達もいるですぅ!」

「……ぅ……あいちゃ……コンパ……」

 

ネプテューヌが微かに目を開けてまた閉じる。

他の女神達も目を閉じているが、死んではいないようだ。

 

「ネプ子、ネプ子!しっかりしなさいよ、ネプ子!」

「ねぷねぷ!ねぷねぷ!」

 

アイエフとコンパが必死に呼びかけるが、応えない。まさに瀕死といった様子だ。

 

「……ダメね、気を失ってる。なんなのよ、この触手みたいなのは!」

 

アイエフが女神を捕らえるコードに切りつけるが、傷もつかない。

 

「っ、無理か……!コンパ、シェアクリスタルを!」

「は、はいですぅ!確か、カバンの1番下に大切に……」

 

コンパがゴソゴソとカバンをいじり始める。

するとアイエフはピクリと何かに反応する。

 

「コンパ!」

「えっ、きゃあっ!」

 

上から巨人が飛び降りてきた!

アイエフは咄嗟に飛び退くが、コンパはその風圧と揺れでゴロゴロと転がってしまった。

 

「……ククク……ハァーハッハッハァ!」

「何者⁉︎」

「俺はマジェコンヌ四天王が1人、ジャッジ・ザ・ハード様だ!クク……3年!この時を3年待った!命知らずが無謀にも女神を助けにくる、この時をなァッ!」

 

ジャッジ・ザ・ハードと名乗る巨人はまるで化け物のような姿をしていた。黒い体に光るライン、足はなく空中に浮き、禍々しい翼と斧と槍を合わせたような武器を持っている。

 

「幹部クラスじゃない……!コンパ!私が時間を稼ぐから!」

「は、はいですぅ!」

 

アイエフが袖口からカタールを出して構える。

その隙にコンパは1番近いネプギアへと駆け寄った。

 

「ギアちゃん、ギアちゃん!」

「……ぁ……コンパ、さん……?」

「こんなところで死んじゃダメですよ!まだ、会わせたい人もいるんです!」

 

コンパがカバンの中からシェアクリスタルを取り出す。

その光をネプギアに浴びせるとネプギアを捕らえていたコードが崩れ落ち、ネプギアが解放される。

 

「よ、良かったですぅ!大丈夫ですか⁉︎」

「私は、大丈夫です……。それより、みんなを……!」

 

「きゃあっ!」

 

他の女神にもシェアクリスタルの光をあびせようとした瞬間、アイエフの悲鳴が聞こえる。

振り返るとアイエフがジャッジに吹き飛ばされているところだった。コンパとネプギアはアイエフに駆け寄る。

 

「あいちゃん!」

「大丈夫。けど、あいつの強さ……ハンパじゃないわね」

「私も手伝うです!」

「……私も……私も、戦います!」

 

ネプギアが前に出た。

アイエフとコンパは少し驚いた顔でネプギアを見るが……すぐにジャッジを見据えた。

 

「なら、しっかりついてきなさいよ!3年間寝てて体なまってるでしょうしね!」

「やるですよ、あいちゃん!スキルを使うです!」

「フン、その子娘1人では手応えがなかったところだ……。お前達は強いのか⁉︎」

「手応えないなんて、言ってくれるわね。コンパ、もしもの時は頼むわよ!」

「任せるですぅ!」

「任せたわよ、EXAM……!」

 

 

ーーーEXAMシステム、スタンバイーーー

 

 

「ううっ、くぅ……!やっぱ、キツイわね……!」

 

アイエフの目が赤く光り、構えを取る。

 

「やるわよ、EXAM!」

「雑魚が……。雑魚は何をしようと雑魚だ!」

 

アイエフの動きが変わった。ジャッジが手の武器を振り下ろしてもそれを最小限の無駄のない動きでかわす。

 

「ぬん!」

「はっ、ふっ……!そこっ!」

 

素早い動きで攻撃をかわしてジャッジに切りつける。だが傷1つついていない。

 

「フン、確かに動きは変わったが!」

「くっ!」

「あいちゃん!」

「っ、コンパさぁんっ!」

 

横薙ぎに振るわれる斧をコンパが入り込んで腕で受ける。

普通なら体が真っ二つになっているところだが、なんとコンパは傷1つなくその上ジャッジの斧さえ受け止めている。

 

「私に攻撃は通じない、ですぅ!」

「なに⁉︎」

「今よ、ネプギア!」

「は、はい!M.P.B.Lの最大出力で……!」

 

ネプギアがM.P.B.Lの出力を最大にしてジャッジにビームを浴びせる。

当たる寸前にコンパとアイエフは飛び退いてジャッジから距離を取る。

 

「ぬ、ぬぅ!」

「やった……⁉︎」

「……弱い!弱すぎるぞォッ!痒くて痒くて、笑ってしまいそうだ!」

「そんな……!」

 

ジャッジがもともと強いのもあるが、大きく開きすぎたシェアのせいでネプギアの攻撃は全く通じない。ネプギアの全力の攻撃でさえ、ジャッジには効かなかった。

 

「それで終いか?ならば……死ねェッ!」

「っ!」

 

ジャッジが斧を振りかぶり、ネプギアに向かって振り下ろしてくる。

 

(やだ、また、私……!)

 

何もできないで。

また負けちゃうんだ。

そんなの、そんなの……!

 

「いや……!」

「ハッハーッ!」

 

瞬間、ネプギアの体が光り輝いた。

 

『やめろォーッ!』

 

「ぬ、なっ⁉︎」

 

ネプギアの体から透明な男の子の影が出てジャッジに向かって突進する。

それはジャッジの体を突き抜けて消えていく。

 

「うっ、な、なんだ、これは……⁉︎」

 

ジャッジの体に傷はないが、フラフラとまるで目眩でも起こしたかのように頭を抑えている。

 

「な、なに⁉︎」

「っ、ギアちゃん!」

「……っ………」

 

ネプギアは男の子の影が出たと同時にまるで魂が抜けたように倒れる。

アイエフとコンパはネプギアに駆け寄った。

 

「ネプギア、ネプギア!ダメ、起きない……!」

「っ、くっ、どこだぁっ!出てこぉい!」

「み、見境なしですぅ!」

「くっ、今は逃げるわよ!」

「でも、ねぷねぷ達は……!」

「これを見て。多分、今ので……」

 

アイエフの手にはシェアクリスタルの破片が握られていた。粉々になって輝きを失い、とてもまだ力が残っているとは思えない。

 

「そんな……」

「ネプギアが助けられただけでも報酬よ。少なくとも、『彼』にはいい話ができる!」

「……わかりました、ですぅ」

「うっ、くっ……!結構重いわね……!」

「ぬうううっ!逃げるなァァッ!俺と、戦えぇぇぇっ!」

 

アイエフが気絶したネプギアを背負って走り始める。

後ろには暴れるジャッジと……何より、女神達。

 

「これは、私達の力が足りなかったからよ……!この悔しさは、私達のせいなんだから!」

「絶対、絶対また助けに行きます!だから、だからそれまで……!」

 

どんな理由があろうと、アイエフとコンパは友の前から逃げるのだ。今も命の危機に瀕しているであろう友の前から逃げるのだ。

だが2人の覚悟はとうに決まっていた。

薄情と罵れ、阿呆と蔑め。

それでも、みんなを助けられるたった少しの可能性のために。

それで皆が助かるのなら、安いものなのだ。




EXAM発動。アイエフが高笑いしながらモンスターぶん投げる姿とか…。
え?ガンダムはさすがにこんなに人気じゃないって?何言ってるんすか、これくらいだって(狂信者


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

現れるミズキ

ミズキは一体何をしていたのか。ギョウカイ墓場にはいなかったけれど、何をしているのだろうか…って話です。

それとシルヴィアの挿絵ができました。ここと、説明書に載せておきます。


【挿絵表示】



ふと、ネプギアは目を覚ます。

背中には柔らかい感覚。これは……ベッドだろうか。しばらく捕まっていたから、ひどく心地よい。

体を起こして空気を吸うと懐かしい香り。

不意にネプギアは身体の中から湧き上がるものを感じた。

 

「……っ、うくっ、ひっく……!」

 

帰ってこられたのだ、という感慨もある。懐かしさや安堵もある。

だがそれ以上にネプギアは自分が情けなくて涙を流した。

最高の場所での最高な朝なはずなのに、寝覚めは最低だった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアはひとしきり泣いた後、顔が赤くなっていないことを確認してイストワール達がいるであろう、教会の中心部へと進んだ。

何も変わっていない。間取りも、空気も、感覚も。全てが3年前と同じなのだ。

いや、同じではない。隣を歩く姉がいない。

元気に笑って軽やかに階段を登る姉と……姉と……?

 

ーーーーザザッーー

 

「……っ」

 

ネプギアの頭にノイズが走る。

足りない、のは……そう、ネプテューヌだけのはずだ。そのはずなのだ。

だがネプギアの記憶にはネプテューヌの隣を歩く、もう1人の姿が……。

 

ーーーーザザザザッーーザザザザーー

 

「っ、く……!」

 

思い出そうとすると頭にノイズが走る。

あまりのノイズにネプギアは頭を抑えてしゃがみこんだ。

いる、はずなのだ。ネプテューヌの隣の人物がまるで黒いペンで塗り潰されてしまったように思い出せない。

 

「っ、はぁ………」

 

ネプギアは頭を抑えながら手すりを掴んで立ち上がる。

 

「誰、なの……?お姉ちゃんの隣にいるアナタは、誰なんですか……?」

 

そう問いかけても誰も答えてはくれない。ネプギアの疑問の声は微かに反響し、次第に消えていく。

すると下から階段を登る足音がした。

 

「あ、ギアちゃん!」

「あ……コンパ、さん……」

「も、もう大丈夫なんですか⁉︎」

「は、はい。もうこうして歩けます。全然大丈夫ですよ」

「5日も寝てて心配したんですよ〜……!良かったですぅ……」

「私、5日も……」

 

そんなに寝ていたのか。

驚くネプギアにコンパが歩み寄る。

 

「ところで、何をしてたんですか?考え事してたみたいですけど」

「え……?……あれ、私何を考えてたっけ……」

 

………思い出せない。

何を考えたんだっけ。

そうだ、お姉ちゃんがいなくて寂しいなってことだ。

………うん、それだけのはず。

 

「……本当に大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!ちょっとぼーっとしてただけですから!さ、行きましょうよ。上に皆さんがいるんですよね?」

「はい、いるですぅ。足下気をつけてくださいね」

 

コンパが気遣ってくれる。

もうノイズのことなんて、忘れていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアはコンパと一緒にドアの前に立つ。

ふと、ネプギアはドアを開けようとして怖気付く。

………失望、されているだろうか。

戦いには負け、1人だけおめおめと逃げ帰ってきた。逃げる時でさえ、足手まといだった。

ネプギアの胸の中に再び暗雲のような情け無さが立ち込める。

だがそんなネプギアの気持ちを知ってか知らずかコンパがドアを大きく開いた。

 

「いーすんさん!あいちゃん!ぎあちゃんが起きたですよ!」

「ネプギアが⁉︎あ、ネプギア……!」

「ネプギアさん……良かった……」

 

2人はネプギアを見ると本当に心の底から安心したような顔をしてくれた。

ネプギアもその顔を見て安心し、部屋の中へと入ることができた。

 

「もう、お体は大丈夫なんですか?」

「は、はい。あの、私……ごめんな……」

「申し訳ありませんでした」

 

イストワールが近付いて気遣ってくれる。

ネプギアは頭を下げて謝ろうとするが、それより先にイストワールが頭を下げた。

 

「全ての責任は私にあります。皆さんを無謀な戦いに行かせてしまった……。ロクに敵の戦力も調べず、杜撰にも程がある作戦を……」

「そ、そんな!いーすんさんは悪くないです!私が、私の力が足りなかったから……」

 

ネプギアが俯く。

 

「……聞かせてもらえますか?3年前、ギョウカイ墓場で何が起こったのか」

「……私は、いまでも信じられません……」

 

……3年前。

4人の女神とネプギアはマジェコンヌ四天王の1人、マジック・ザ・ハードと合間見えた。

……手加減したわけじゃない。油断したわけでもない。何か怪我をしていたわけでもない。

全員が万全で、コンビネーションも完璧だった。あの時なら何者だって敵ではないと思えた。例えシェアが足りなくても、それを覆す力があると思えた。

………甘かったのだ。

みんな倒された。5対1だったのに。

全く歯が立たなかった。あっという間に全員が倒された。

 

「私、あの時……立ち向かえなかった……!最後に、私は……!」

 

助けて、と叫んだのだ。なんと、情けない。

足がすくんだ。手が震えた。そして立ち向かうことすらできずに自分も負けた。

 

「ネプギアさん……」

「信じられない……。ネプ子達が、たった1人に……⁉︎」

「あんなに強い女神さん達でさえ……」

 

ネプテューヌ達、4人の女神を相手にして勝てる者などいるのだろうか。

……いや、知っている。今この場でネプギア以外はその男の名前を知っていた。

 

「それで、あの……ゲイムギョウ界はどうなったんですか?私、3年も捕まってたんですよね……?」

「……事態はかなり深刻です。犯罪組織マジェコンヌの脅威は世界中に広まり、その名を知らぬ者は1人もいません。やはり『マジェコン』の影響が大きいかと……」

「マジェコン……」

 

違法コピーツール、マジェコン。平たく言えば、マジェコンがあれば世界中のゲームをタダで遊べてしまうのだ。

しかしそれはクリエイターやショップの破滅を意味する。どれだけ面白いゲームを作ってもマジェコンによってコピーされてしまい、売れないのだ。

つまりマジェコンはギョウカイ墓場にシェアを集めると共にゲイムギョウ界の荒廃すら進めてしまう機械だったのだ。

 

「ですが、希望はあります。……きっと、彼が……」

「え?何か言いましたか?」

「いえ。……なんでもありませんよ」

 

ちらりとイストワールがアイエフとコンパの方を見る。

その目線を見た2人はコクリとうなづいた。

 

「兎にも角にも、まずはシェアの回復からです。ネプギアさんが帰ってきたことで、シェアを回復させることができるようになりました」

「私が、シェアを……」

「はい。ネプギアさんがシェアを回復させていけば、犯罪組織もそれに属する者達も弱体化するはずです。それに、女神候補生はネプギアさんだけではありません」

「そっか……。ユニちゃんと、ロムちゃん、ラムちゃんが……」

「はい。ネプギアさん達を助けるためのシェアを集められたのも、彼女達の尽力あってのこそです。ネプギアさんが寝ていた時も、仕事の合間を縫って1度プラネテューヌに来てくれたんですよ」

「え⁉︎ほ、本当ですか⁉︎」

「本当よ。ネプギアのことを本当に心配してたし、安心もしてたわ。……いい友達を持ったわね」

 

アイエフが温かい目でネプギアを見る。

 

「恩返しのためにも、他の国のシェア集めも手伝うですよ!」

「その前にプラネテューヌのシェアを集めてからね。プラネテューヌのシェアがなくなったら元も子もないんだから」

「そ、そうでした……」

 

えへへとコンパがばつが悪そうに苦笑いする。

 

「ネプギアさんは、今日はもう休んでください。明日から本格的にシェアを……」

「……行きます」

「え?ちょ、本気?」

「はい、本気です。みんなが頑張ってるのに、私だけ寝るなんて出来ません」

「……止めても無駄みたいね」

 

ネプギアの強い瞳にアイエフは呆れたようにやれやれと手を振る。

 

「仕方ないわね。でも、私とコンパも一緒よ」

「ギアちゃん、頑張りましょうね!」

「はい」

 

3人が部屋を出て行く。

しばらくしてその閉じられたドアがもう1度開かれた。

扉を開けたのはアブネスだった。

 

「………良かったの?『ミズキ』」

 

アブネスがその名前を呼ぶと空中に人が投影される。

立体的な映像としてその場に立っていたのは、クスキ・ミズキだった。そして隣にはジャックも像として投影される。

 

《……うん、良かったんだよ。今はまだ、ネプギアは僕に会っちゃいけない》

「どうしてですか?きっとネプギアさんなら思い出して……」

《思い出したとしてもだ。同時にネプギアは強い後悔と嫌悪感に苛まれてしまうだろう。今でもただでさえ自分を責めているのだ。……と、言いたいのだろう?》

《うん。ユニやロム、ラムに会えないのもそれが理由》

「……嘘ね。怖いだけでしょ?」

《……クス、図星》

 

ミズキはアブネスの指摘に寂しそうな顔で笑う。

 

「にしても、すっかり忘れてるのね。アナタがいないことに違和感すら感じないだなんて」

「私達もそうでした。そして……そのまま……」

 

そのままギョウカイ墓場に捕らわれてしまった。忘れてしまったまま、2度と会えないだなんて許されない。

 

《アイエフも、コンパも、イストワールも思い出す時は大変だったんだ。……本当に》

「私だって大変だったわよ。アナタに取材してなかったらどうなってたことか」

 

アブネスがミズキに取材し、残した資料。それが失った記憶を呼び起こす風となったのだ。

アブネスがその中にあるワードに違和感を感じ、それを追い求めてようやくミズキのことを思い出したのだ。

そして、その記憶をイストワール達に伝えた。

 

《それもそうだけどね。……辛かったと思う。アイエフもコンパもイストワールも今は自然に笑ってるけど……数ヶ月前はそんなことできなかったから》

「失われた記憶……それを呼び起こすことは大変な嫌悪感を催しました。何もかもが信じられなくなり、忘れていたことで自分を責めてそのまま苦しみ続ける……」

《ビフロンスが残した絶望は……まだ生きている。そして大きくなりつつある》

《早く止めなきゃ。……手遅れになる前に》

 

プツン、とミズキとジャックは消えた。




アブネスいい立ち位置。マジいい立ち位置。

それでは感想と活動報告で待ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ビフロンスの残した絶望

何故こうなったのかっていう話。終わり方がグッドエンドとは違います。


3年と、少し前。

ネプテューヌ達が記憶を失ったままギョウカイ墓場に突入した数ヶ月前の話。

そう、ビフロンスが世界を絶望に包み込もうとしていた時だ。

 

「みんな、力を貸して!」

「……もちろんよ!ミズキ、私の力を貸すから!」

 

ネプテューヌは自らのシェアのほとんどをミズキに預けた。ミズキの力は跳ね上がったが、その分ネプテューヌがガクンと力を失って飛ぶこともままならなくなる。

 

「ネプテューヌ、君は……!」

「いいの、ミズキ。信じてるから、私は!」

「ネプテューヌ……!」

「ネプギアも、いいわよね?」

「はい!ミズキさんなら、信じられます!」

 

ネプギアもフラフラと頼りなく空を漂うだけになっていたが、それでも笑顔でミズキを見る。

 

「ネプテューヌのシェアだけじゃ足りないんじゃない?私のシェアも使いなさいよ」

「ノワール……!」

「だったら、私も預けないわけにはいかねえな」

「私も、託しますわよ」

「ブラン、ベール……!」

 

本当は力を失って苦しいはずなのに満面の笑みで信頼を伝えてくれる。それは女神候補生も同じだった。

 

「任せました、ミズキさん!」

「執事さん、頑張って……!」

「あんなやつ、ぎちょんぎちょんにしちゃって!」

「みんな……。…………!」

 

ミズキはビフロンスを見据え、体からシェアを漲らせた。

 

「ミズキ!あいつはシェアを形にした剣で倒せるわ!きっと、アナタにも出来るはずよ!」

「シェアの……剣を……!」

「げっ、私それ苦手〜。でも、私だって作っちゃうんだから!作ってワクワク!」

 

ミズキは空中にシェアを形にした虹色の剣を作り出す。

だがビフロンスも空中に赤黒い禍々しい刀を作り出した。

 

「微塵切りで……ゾクゾク!」

「みんなの力が溢れる……!お前に、負けるもんかぁぁーっ!」

 

2人の戦いは一瞬だった。

切り結んだ瞬間、ビフロンスの刀が砕けたことで勝負がついたのだ。

 

「うっそ、呆気なさ過ぎない?」

「やぁぁぁっ!」

 

ミズキはビフロンスの胸に剣を突き刺し、そのまま空中に浮いた地球破壊爆弾に突き刺した。

それでビフロンスは消えるはずだった。

しかし……。

 

「く、ククク……!ヒッヒッヒ……!私が……タダで死ぬと思う?」

「っ⁉︎」

「それともう1つ。……私がこの程度で終わると思う?」

 

地球破壊爆弾が突如として落ち始めた。

方角は4国の中心のあたりに向かってだ。

 

「地球破壊爆弾なんてウソ!私がそんな似たような手段使うと思う⁉︎私が仕掛けたのは……これ!」

 

ビフロンスの体の中に埋まっていたのは小さな小さなサッカーボールくらいの黒い球体だった。

 

「まず、アナタを別の次元に閉じ込める……」

「っ、まさか!」

「この爆弾ね……?世界中からここ数ヶ月の記憶に鍵をかけちゃう爆弾なの……」

「っ、ビフロンス、お前!」

「バイバイ?アナタの記憶は世界中から消える……それが真の絶望!自分は覚えているのに皆は知らない絶望!悪意のない言葉が切り裂く!悪意のない行動が辛い!ヒッヒッヒ!ヒーッヒッヒッヒッヒ!」

 

ミズキは別次元……本当に何もない空間に閉じ込められた。

それは今も同じだ。今もまだその次元から脱出できずにいる。

ジャックはビフロンスが植え付けたウイルスのせいで死にかけた。自分の周りに強力なロックをかけて周りの世界から一切を遮断することで生き永らえた。

しかしジャックは幸か不幸かデータになったおかげで爆弾の被害を受けずにいたのだ。引き換えに自分でかけたロックを解除するのに数年の時を要したのだが。

そして世界中から数ヶ月の記憶は消え去った。

その爆弾の恐ろしいところは記憶を消し去ることでもなければ、範囲が世界中に渡ることでもない。

数ヶ月もの記憶を消す以上、必ず違和感が残る。いなかった子供が生まれたり、いたはずの人が死んでいたり。

その違和感を違和感にせず受け入れさせてしまうのがその爆弾の最も恐ろしい効果であった。

4国の中心に落ちたビフロンスが浮かべた大陸はギョウカイ墓場となった。

 

そして、ビフロンスの残した絶望は、それだけではなかった……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌ、バーチャフォレスト。

そこをネプギアとアイエフ、コンパがテクテクと歩いていた。

 

「……あ、いたですぅ!」

「ぬら⁉︎」

「逃がさないわよ!」

 

コンパが指差した先にいたスライヌをアイエフが両断する。

 

「よし。あと何匹?」

「あと……1匹です!」

「よし、もう1歩ね」

 

3人はギルドで依頼を受け、スライヌの討伐をしていた。大量発生したスライヌを減らして欲しいとのこと。

スライヌは雑魚中の雑魚、シェアが万全でないネプギアでも心配はない難易度だろうとこのクエストを受注したのだ。

そしてそれももう終わろうとしていた。

 

「結構動けるじゃない、ネプギア」

「そうですか?でも、まだまだ……」

 

ネプギアが先に歩いていく。

アイエフとコンパはそれを見て目を見合わせた。

 

「……やっぱり、怖がってるですぅ」

「表面じゃ勇んでても、心の奥底は素直ね……」

 

ネプギアの戦闘に恐れが見える。

昔の……ミズキが一緒にいた頃のネプギアを覚えている2人から見れば、今のネプギアの戦い方は臆病にも程があった。

 

「……あ、いました!」

「え⁉︎ど、どこですか⁉︎」

 

と言っても、これは一朝一夕でどうにかなるものではあるまい。

怖がっているのなら克服するしかないのだ。ネプギアが何を恐れているのかはわからないが、そこから逃げるわけにはいかない。

 

「ぬら⁉︎ぬ、ぬら〜!」

「あ、逃げました!」

「追いかけるわよ!こら〜、待ちなさい!」

 

一目散に逃げるスライヌを追いかける。

案外スライヌのくせして足が速く追いかけるのに手間取ったが、それでも人間に敵うはずもなく追い詰める。

 

「手間かけさせてくれたわね。それじゃ、こいつでラスーーー」

「ぬら!」

「ぬら?」

「ぬらぬら〜!」

「ぬ〜ら〜!」

「へっ?」

 

追い詰められたスライヌが号令をかけると周りから何匹ものスライヌが出てきた。

 

「こいつら、こんなに増えてたの⁉︎」

「か、囲まれちゃったですぅ!」

「誘き出された……?あのスライヌに⁉︎」

「ぬぅららぬらら(計算通り)」

「悔しい!なんか悔しい!スライヌごときにハメられるって腹立つわね!」

 

アイエフが憤慨するが冗談じゃないくらい数が多い。

3人は背中を合わせてそれぞれ相手の方を向く。

 

「いい?落ち着いて闘えば所詮スライヌ。余裕のはずよ」

「わかったです」

「……………」

「ネプギア?」

「あ、は、はい!わかってます!」

 

ネプギアはこの状況に強烈なデジャヴを覚えていた。

前も似たようなことが、あった、ような……。

 

ーーーーザザザザッーーーー

 

「っ、う……!」

 

またノイズと頭痛がネプギアを襲う。

 

(いつ……⁉︎私、こんなにたくさんのモンスターを相手にしたことなんて、1度も……!)

 

「ネプギア?」

「な、なんでもありません……っ」

 

その疑問は2の次だ。今は目の前のスライヌを倒すことが先。

そう思ってノイズを追い出そうとすると、案外そのノイズはすぐに消えてくれる。

そしてネプギアはその違和感すら完全に忘れた。違和感があったことすら忘れたのだ。

 

「行くわよ!」

 

アイエフの号令で3人が一斉に飛び出した。

次々とスライヌが3人の攻撃で倒されていく。

ネプギアの動きは危なっかしいものだったが、それを抜きにしてもアイエフとコンパの動きはネプギアと一線を画していた。

 

「ふっ、はっ、ふっ、そこ……っ!」

「っ、えいっ!やっ、やあっ!」

「凄い……」

「3年間、遊んでたわけじゃないのよ!」

「私達だって、強くなったんですぅ!」

 

そう、3年間遊んでいたわけではなかったのだ。

ミズキに稽古をつけてもらっていた。ミズキが直接相手をすることはできなかったが、それでも口でアドバイスをしてくれた。

そして習得したのだ。ミズキの間近で光を3度浴びてようやく、2人の体の中にもガンダムの力が宿った。

 

「こんなんで手こずってたら……ミズキに笑われちゃうのよね……!」

 

ネプギアにはその名前が聞こえないようにポツリと呟く。

スライヌの数は減ってきていた。

 

「ぬ、ぬら……!」

「ざっとこんなもんよ」

「ぬ、ぬららら〜!」

 

スライヌが号令をかけると散らばっていたスライヌが1箇所に集まった。

そしてお互いにくっつき合い、融合して大きさを増していく。

 

「ぬぅらぁ〜」

「お、大きくなっちゃった!です!」

「耳を大きくしてる場合じゃないの。チッ、ちょっとこれは面倒ね……」

 

ビッグスライヌへと合体したスライヌがこちらに向かって突進してくる。

3人は横に飛んでそれを避けた。

 

「そうだ、ネプギア。変身してパパッとやっつけちゃなさいよ。リハビリ代わりよ」

「変、身……?」

「そうよ、女神化よ。できるでしょ?」

 

ふと、ネプギアの頭に浮かぶのは3年前の記憶。マジックの恐怖。

 

「い、いや………」

 

全然敵わなかった。強すぎた。

襲いかかる、痛み、苦しみ、辛さ……。

 

「いや……!怖い……!」

 

ネプギアが体を抱え込んでしゃがみこんでしまう。

あの時の記憶が頭から消えない。マジックの恐怖の前では他の女神候補生への感謝など微塵も残らず吹き飛んでいた。

 

「私、戦えない……!」

「ぬぅらぁ!」

「っ、ネプギア……!コンパ!」

「はいですぅ!」

 

コンパがネプギアの前に立ちはだかってビッグスライヌの攻撃を受ける。

コンパが発動させたのはチョバム・アーマーのスキル。強度に限界はあるものの、物理攻撃のダメージを0にできる。

しかしその質量までは受け止められず、コンパは吹き飛んでしまう。

 

「きゃあっ!」

「コンパ!」

「っ、コンパさんっ……!」

「だ、大丈夫です!それより……!」

 

尻餅をついたコンパだったが素早く立ち上がる。目の前にはこちらを見下すビッグスライヌ。

 

「くっ、もう!本当はこんなシステム使いたくないのよ⁉︎毎回毎回暴走の危険があったら危なっかしくてたまらないじゃない……!」

 

ーーーEXAMシステム、スタンバイーーー

 

「うあっ、くっ……!さっさと倒れてよ……⁉︎」

 

アイエフの目が赤く光り、コートの中から自動拳銃を2丁引き抜く。そして回り込みながら銃を撃ち、ビッグスライヌに接近して行く。

アイエフのスキルはEXAMシステム。人やモンスターの持つ殺気を感じ取り、そこから位置の特定や攻撃の回避をさせるシステムである。

しかしこのシステムは使うと自動的に敵を殲滅しようとする。そのためアイエフがこのシステムを抑え込まなければ暴走して周りの人間すら傷つける恐れのあるシステムでもある。

 

「そんなでかい図体で!私の攻撃が避けられるかしらッ⁉︎」

 

1度アイエフはこのシステムの殲滅衝動に屈して暴走したことがある。その時はやっとの思いでコンパが麻酔を打ち込んで止めたのだ。

2度とそんなことはしないという責任も覚悟もある。

しかし、それでも……!

 

「早く倒さなきゃ、早く……!」

 

アイエフは袖口からカタールを抜いて銃を撃ちながらビッグスライヌに迫る。

 

「ぬらぁ!」

「遅い!」

 

ビッグスライヌが突進を仕掛けようとした瞬間には数撃の攻撃が入っており、そして既に回避行動に移っている。

 

「ぬらぁ!ぬぅぅらぁぁ!」

「そうやってアナタは!全てのスライヌを見下すのね⁉︎」

「ぬらぁぁ!」

「その傲慢さと!ついでに私達をバカにした罪!償いなさい!」

「ぬらぁぁぁぁぁぁ!」

 

アイエフがカタールで何十本もの斬撃を浴びせた。

 

「オマケの、お注射ですよ!」

「ぬらっ⁉︎」

 

悲鳴をあげるスライヌにコンパが大きな大きな注射器をドスリと突き刺す。

すると……。

 

「ぬ"ら"ぁ"ぁ"……」

(だから!マジでアレ何の薬品よ!王水だってこんなことにならないわよ!)

 

ドロッドロの液体に溶けて地面へと吸い込まれて行く。

トドメをさせてご機嫌な笑顔のコンパを冷や汗を垂らしながら見る。

もし、暴走した時。アイエフに注入されるのがあの液体だとしたら。

 

「…………………」

 

暴走はしまい。自分のために。うん。

アイエフがEXAMシステムを切ると瞳の色が元に戻る。

 

「ふぅ、なんとかなったわね」

「………あ、あの……ごめんなさ、私……」

 

叱られるとでも思ったのだろうか。

ネプギアが座ったまま首をすくめている。

そんなネプギアをアイエフは優しい瞳で見つめた。

 

「何言ってんのよ。怪我はない?」

「は、はい……」

「ならいいのよ。さ、帰りましょう。クエスト達成の報告もしないといけないし」

「………はい」

「本当に、怪我はないですか?」

「はい。本当です。本当に……」

(心の方は致命傷みたいだけどね……)

 

アイエフは心の中だけでそう呟く。

 

(こんな時、ミズキがいたらね……。でも、今は会えないのか)

 




チョバムアーマーでした。ジャッジの斧を受け止めるレベル。何それやばくない?って自分で思ってます。まあ、ほら、ジャッジの時は1発でチョバムアーマーの耐久値が0になったってことで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

希望の結晶

フラグを回収していきます。一応筋は通ってる…かな?

カレンの挿絵が終わりました。ここと説明書に貼っておきます。


【挿絵表示】


次はミズキが持ってた集合写真みたいなのを描こうと思ってます。


クエストから帰り、ネプギアが寝た後の深夜の教会。そこにアイエフとコンパ、イストワールが集いミズキとジャックと話をしていた。

 

《そっか、ネプギアは……》

「ええ。怪我はしてないけど、心の方はヤバいわね。負けたことがトラウマになってみたい」

「でも、無理はないですぅ……」

 

女神達が全員自分の前でやられてしまったのだ。トラウマになったとしてもおかしくはない。

 

「ミズキ、やっぱりアナタ会ってあげなさいよ。アナタなら、例えネプギアの記憶が戻らなくても励ますことができるはずよ」

《……ごめん、ダメだ。記憶が戻らないなんて、過去のネプギアと今のネプギアを重ねてしまうなんて……僕が耐えられない》

「ミズキ……」

《それに、ネプギア達はあの爆弾を至近距離で食らったのだ。……記憶のロックはお前達より強力だろうな》

 

それはつまり、そのロックを壊す時にもそれなりの苦痛が伴うということだ。

この場にいる3人もとても苦しんだ。ただでさえ言葉では表せないほどの苦しみなのに、今の精神状態でネプギアがそれ以上の苦しみを味わったなら、ネプギアは今度こそ戦えなくなってしまうだろう。

 

《……敵はマジェコンヌだ。けど、これはマジェコンヌが望んだことじゃない……》

「全ては、ビフロンスのせいです」

「あの時にアンチクリスタルが消えてたけど……それがこの時のための策だったなんてね」

 

マジェコンヌとの2度目の戦いの時、マジェコンヌが手に握っていたアンチクリスタルが塵になって消えてしまったことがある。

それはアンチクリスタルに残されていたビフロンスの思念がマジェコンヌに乗り移ったということだったのだ。

そしてミズキが消えてからマジェコンヌの体を支配して活動を始めた。

マジェコンヌ四天王もビフロンスの手によって作られた者だ。今、マジェコンヌ四天王は完全なビフロンスの体を復活させるべくシェアを集めている。

だが、これだけのシェアが奪われていては……。

 

「復活は、そう遠くないってことですね……」

《時間がない。けど、希望はある》

 

そう、希望はある。

ミズキが別次元に飛ばされるまでの数瞬でこの世界に残した希望が。

 

「アナタのシェアクリスタルを集めるのね」

《うん。あの時僕がクリスタルにして守り抜いたシェア……。それがあれば、きっとネプギア達の力になる》

 

ビフロンスに飛ばされる瞬間、ミズキはその身に溢れるシェアをクリスタルという形で保存したのだ。そしてそれは世界中に散らばった。

 

《ネプテューヌ達が負けたのは僕の責任でもある……。だから、ネプテューヌ達は絶対に……》

 

ネプテューヌ達のシェアのほとんどがミズキに託されたために、その後のネプテューヌ達のシェアは少なくなってしまったのだ。

今この世界で循環しているシェアはほんの一部。世界が1つになった時のシェアがこの世界には隠されているのだ。それがあれば、犯罪組織を超えることが出来るはず。

 

「ミズキさんのせいではありません。悔やむのなら……」

《助けることにその想いを使え》

《……うん、ありがと》

 

ミズキは物憂げな顔で笑う。

 

(こっちもこっちで大概よね……。ミズキだって傷ついてるってことね)

 

何も出来なかったのだから当然だ。

ネプテューヌ達が命の危機に瀕しているというのに、ミズキは何も出来ない。こうして通信することさえ、制限時間がある。

 

「わかったわ。それはこっちに任せて」

「頑張ります!」

《ありがと。頼むよ、2人とも》

 

そう言うとミズキは先程よりもほんの少し明るい顔で笑った。

 

「………あ、そうそう。アブネスからメールがあったわよ」

《アブネスから?内容は?》

「え〜と……『MS-08TX[EXAM]、完成したわよ』……って、これって!」

《…………!そうか、完成したんだ……》

《この形式番号は……ガンダムではないのか》

《うん。ガンダムだとネプギア達が思い出してしまう可能性があるからね。でも、ガンダムと戦ったり、支えたりした機体だってたくさん存在した……。この機体はその内の1つだ》

 

MS-08TX[EXAM]……機体名、イフリート改。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「シェアクリスタルを……ですか?」

「そう。この世界中に散らばっている、先代女神が遺したといわれるシェアよ。それを回収しようと思うの」

「ネプギアさんが帰ってきたので、その余裕も出てきたからです。もちろん、まだシェアは万全とは言えないのでクエストもこなしてもらいますが……」

「その片手間に探す、ってことです」

「はあ……なるほど……」

 

ネプギアはふむふむと納得してくれる。

こんな作り話を信じてくれるネプギアに感謝すると同時に、3人の胸にはチクリとした罪悪感が芽生える。

 

「それでは、お願いできますでしょうか」

「はい、わかりました。ところで、アテは……」

「全くと言っていいほどありません」

「妙な自信ですね……」

 

ズッパシと言い切ったイストワールに苦笑いするネプギア。

そのままネプギア達はドアを開けて出て行った。

 

それからしばらくして、またドアが開く。

 

「失礼するわよ」

《ウチ、テレビないんで》

「集金人じゃないわよ⁉︎全く、せっかくこれを……っく、持ってきたっての、に……!」

 

アブネスが後ろから車に乗せた大きい箱のようなものを持ってくる。

 

「くあ、重っ……!もう、腰が痛いわよ」

《クスクス、ありがと。出来はどう?》

 

大仰な箱を開くとそこには鉄色をしたモノアイの機体があった。腕にグレネードランチャー、足にはミサイルポッドが装備され腰にヒートサーベルが2本マウントされている。

 

《あれ?色塗らなかったの?》

「アナタが出来るだけ早くもってこいって言うからよ!」

《ごめんごめん。でも本当にありがとね》

「……まあいいのよ。幼年幼女に間違ったことをさせる犯罪組織は許せないの。オマケにそれを正すべき大人まで間違ったことを容認したりとか」

《やっぱり大人は嫌い?》

「嫌いよ。でもアナタは別。だからお金を費やしてこれを作ったんじゃない」

 

大富豪になってほんの少しだけ大人びたアブネスがコンコンとイフリート改が入った箱を蹴る。

 

《だが、報酬は取るつもりなのだろう?》

「もちろん。報酬は幼年幼女の笑顔。……そのためならなんだってしてあげるわ」

《ん?》

「え?」

《今、なんでもするって言ったよね》

「え、いやそれは……」

 

汚い会話を繰り広げるとジャックがイストワールに目配せし、イストワールが書類の束を持ってくる。

 

《お金は返すよ。子供達の笑顔も保証する。だから、あと少しだけ僕に仮初めの力をくれる?》

「……あ〜もう仕方ないわね!軍隊だって作ってやるわよ!作ればいいんでしょ、作れば!」

《クスクス、ありがと。それじゃ、早速……》

《起動テスト、だな》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

昼頃、3人はひたすらバーチャフォレストを歩いていた。

 

「………ないわね〜」

「ないですね〜」

「ないですね……」

 

ない。

シェアクリスタルがない。

何もない。

 

「な〜い!ナイアガラの滝!華厳の滝!鉄華団!2期!」

「なんで連想ゲームなんですか……」

 

後半はもうわけわかんないし。

 

「でも、本当にないですね……。ついでと思って受けたクエストも全部達成しちゃいそうです」

「ほんと、手掛かりくらいないかしらね……」

「……逆に考えてみましょう!……チェス盤をひっくり返すんです!」

「どうして言い換えたのかはあえて聞かないわ。それで?」

「そのシェアクリスタルが何年も見つかってないってことは、人が探すような場所にはないってことです!つまり、こんな草原にシェアクリスタルがあったら誰かが見つけてるはずなんです!」

「なるほど、一理あるわね」

「それで、心当たりはあるですか?」

「……みんなの頭の後ろにあって……それを壊せば、私達の魂が元の体に戻ると……」

「そんな銀の戦車がレクイエムしてないわよ!」

 

肝心の心当たりがない。どうしたものか。

 

「………そうだ。心当たりならあるわ。このバーチャフォレストの最深部。そこなら人は寄り付かないはずよ」

「本当ですか⁉︎じゃあ、行ってみましょう!」

「は、はい!………ブラボーです!」

「チャリオッツしないで!」

 

3人はバーチャフォレストの最深部に向かうのだった。




ブラボー!はっはっは、ブラボー!(ぱちぱちぱち

これから先しばらくはミズキの変身はガンダム以外の機体に。

……ぬぅわぁぁぁん話がしたいもぉぉん!
今これを読んでるアナタ、好きなガンダムを教えてください(切実
教えなかった人の家にはザクレロを送りつけます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

イフリート改

早速登場。イフリート改マジ好きです。ていうかイフリートシリーズの近接大好きな感じが好き。


モンスターを倒しながら奥へ奥へと3人は進んでいた。

そしてついにバーチャフォレストの最深部にたどり着く。

 

「ここが、最深部……」

 

身長なんて軽々超える大きさの木の根が絡み合い、強靭な土台となって橋と橋とを繋いでいる。この橋は恐らくだいぶ前に作られたのだろう。

 

「ここにありますかね」

「あるといいわね。まずは歩き回りましょう」

 

キョロキョロしながら歩き回る。

同じような根っこに同じような橋が架かっているので油断すると居場所を見失ってしまいそうだ。

どこぞのシャボンが飛んでいる諸島のように番号でも書いてあるといいのだが。

 

「どう?ネプギアは何か感じたりしない?一応シェアだし、こう、ビビッとこないの?」

「え、ビビッとですか?う〜ん……『おい、鬼太○!』」

「裏声出さないの!」

 

妖怪レーダーは反応してくれなかったようだ。

一応周りに気をつけながら歩いているとネプギアが何かに気付いて立ち止まる。

 

「ギアちゃん、どうかしたですか?」

「いえ、あの。ちょっと、耳を済ますと……」

「?」

 

コンパとアイエフも黙って耳を済ます。

 

……ン………カン………カン……。

 

「……確かに。何か聞こえるわね。まるで何かを割ろうとしてるような……っ⁉︎」

「ま、まさか!」

 

3人は音のする方向に向かって走り出す。

音のする場所にシェアクリスタルがあって、この音がそれを割ろうとしている音だとしたら……!

 

「はっ、はっ、はっ……!あ、やっぱり!」

「や、やめてください!それを壊さないでください!」

「ああん?」

 

振り向いたのは鉄パイプを持った血色とついでにガラも悪そうな女の子だ。

ネズミの顔のようなフードをかぶっていて、彼女の目の前にはヒビが入っているシェアクリスタルがあった。

シェアクリスタルはとても大きく、今も虹色に光り輝いている。

 

「なんだぁ、テメエら。アタシが犯罪組織マジェコンヌの構成員が1人……」

「アナタ、リンダね!更生したんじゃなかったの⁉︎」

「はあ?アタシがいつそんなことをしたんだよ。ていうか、なんでアタシの名前を知ってんだよ」

(そうか……!こいつも記憶が……!)

 

ビフロンスの影響でリンダも記憶を失うと共に、人格も戻ってしまったのだろう。

 

「っ、あ……⁉︎なんか、テメエらを見てるとアタマが痛いぜ……。とことん不愉快だな!」

「っ、く……⁉︎あ、頭が……ガンガンする……!」

「ギアちゃん!」

「ネプギア!」

 

リンダは頭を抑えるくらいだがネプギアは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

これが記憶が戻る時の苦しみの1つ、激しい頭痛。

 

「なんで……⁉︎ううっ、頭が……!」

「……なんか、テメエらはどっかで見た気がするぜ……。初めて会った気がしねえ……!」

「ギアちゃん、立てるですか⁉︎あの下っ端さんを見ちゃダメです!」

「そうよ、ネプギア!下っ端のことなんか頭から追い出して!」

「ぐ」

「そ、そうだ……。下っ端なんて、気にしない……下っ端なんて気にしない……!」

 

ネプギアは自分に言い聞かせるように立ち上がる。

自己暗示……とは言えないものの、多少は楽になったようだ。

だがリンダは別らしい。大変ご立腹の様子。

 

「うが〜!人のことを下っ端呼ばわりしやがって!もう許さねえ!」

「あら、アナタ1人でどうする気?こっちには3人いるのよ?」

「大人しく、シェアクリスタルを壊すのをやめるですぅ!」

「へへっ、甘いんだよ。甘々だぜ、チョコレートより!マジック様から貰った機体……!出てこい!ドム・トローペン!」

 

リンダが手をあげると後ろに3機のモビルスーツが現れた。その名もドム・トローペン。

紫の装甲に身を包み、右肩にはラケーテン・バズ、背中にはヒート・サーベルを背負う陸戦用の機体だ。

目はモノアイで、十字のレールに沿ってそのモノアイが3人を見つめる。そして緑に光った。

 

「な、なに⁉︎ロボット⁉︎」

「いけ!やっちまえ!」

 

3機のドム・トローペンがラケーテン・バズを構えて一斉に撃ってくる。

その標的はコンパだった。

 

「コンパ!」

「が、ガードして……!きゃあっ!」

 

コンパが弾頭の直撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「コンパ!」

「うっ、あうっ……!クラクラするですぅ……」

 

仮にもバズーカの直撃を食らっても身体的なダメージがないあたり、さすがジャッジの斧にも耐えただけのことはある。

だがビッグスライヌとの戦闘と同じく、衝撃は受け流せない。

コンパは爆風の強い衝撃で脳震盪を起こしてしまった。そのせいで力が入らず、起き上がれない。

その隙だらけのコンパをドム・トローペンは逃がすつもりはない。

 

《……………》

「コンパ!くっ、ネプギア!コンパを頼んだわよ!」

「アイエフさん!」

「私は大丈夫!いいから早く!」

 

アイエフがEXAMシステムを発動させた。

アイエフの瞳の色は赤く光り、袖口からカタールを抜いた。

 

「本当なら、こうやって敵が多い方が……!」

 

EXAMシステムの本領は単騎で大多数の敵を相手にした時に初めて発揮される。EXAMシステムは制御されなければ無差別な殺戮を繰り返すシステムだ。周りを敵味方問わずシステムが叫ぶままに倒す、まさに狂戦士のような戦いぶりがシステムとしてのEXAMだ。

それをアイエフのように制御した時、初めて……!

 

「こっちよ!この十字キー!」

 

接近するアイエフに気付いたドム・トローペン達は標的をアイエフに切り替える。

後退しながら弾幕を作るが、アイエフはそれをことごとく避けて接近する。

 

「速い……!あんな分厚い装甲のクセしてなんて軽やかなの……!」

 

しかしドムシリーズの売りは分厚い装甲とホバーによる軽快な機動力。

本来両立するはずのない2つの長所を兼ね合わせた機体がドムシリーズなのだ。

アイエフは追いつけないとわかるや、懐から自動拳銃を2丁取り出して発射する。

 

《……………》

 

ドム・トローペンAは避けながらラケーテン・バズを構えた。その砲口に拳銃の弾が入っていく。

 

《…………!》

 

ラケーテン・バズが爆発した。

ドム・トローペンAは爆発する寸前で捨てて爆風を防ぎ、背中のヒート・サーベルを抜こうとするがその隙にアイエフが目の前に迫っていた。

 

「ナメないで!」

 

アイエフがカタールを振り下ろす。

ドム・トローペンAの右腕が肩から切断される。

その腕を掴んでアイエフがドム・トローペンBに投げつけた。

 

「うおらっ!」

《………!》

 

ドム・トローペンBはラケーテン・バズで撃ち落とす。

だが3機のドム・トローペンはアイエフの阿修羅のような戦いぶりに距離を取った。

 

「な、なんて荒っぽい野郎だ……!」

「悪いけど……これ使うとこうなっちゃうのよね!どんな無残な残骸になっても、恨まないでよ!」

「こ、こうなったら!やれ!アタシの考えた最強の必殺技!ジェットストリームアタックだ!」

《………!》

「っ、なに⁉︎」

 

3機のドムが縦1列に並んでアイエフへと突撃をかける。

まず先頭のドム・トローペンAがヒート・サーベルを構えてアイエフへと迫った。

 

「なにをするつもりか知らないけど!」

 

アイエフは怯まず突進する。

しかし、先頭のドム・トローペンAがヒート・サーベルを横薙ぎに振ろうとした刹那、ドム・トローペンAの胸部拡散ビーム砲が光った。

 

「うっ!」

 

ビーム自体に大した威力はないが、アイエフはその光に目が眩んでしまう。

だがアイエフは目を閉じながらも咄嗟に大きく上に飛んでドム・トローペンAの攻撃を避ける。

しかししゃがんだドム・トローペンAの後ろではドム・トローペンBがラケーテン・バズを構えていた。

 

「しまっ、きゃあっ!」

「アイエフさんっ!」

 

空中ではさすがのアイエフも身動きが取れず、弾頭の直撃を食らってしまう。

ドム・トローペンAとBは左右にすれ違い、ドム・トローペンCがラケーテン・バズを捨ててヒート・サーベルを引き抜いた。その刀身が赤熱する。

そして落下するアイエフにタイミングを合わせて切り抜けた。

 

「きゃあっ!」

「アイエフさぁんっ!」

 

アイエフが横薙ぎのヒート・サーベルに切り抜けられて吹き飛ばされた。

ネプギアはアイエフの元へ駆け寄る。

 

「アイエフさん、アイエフさん!」

「うあっ、う……!熱い……!」

 

アイエフは腹を抑えて倒れてしまっている。

倒れるアイエフにドム・トローペンBは容赦なくラケーテン・バズの砲口を向けた。

 

「っ!」

《…………》

 

(怖い、やだ……!でも、また目の前で誰かが傷つくのは……!)

 

立ち向かえない。光るモノアイがとても恐ろしく見える。感情のない人工知能に助けなど求めても無駄だ。

それでも誰かを失いたくはない。

だからネプギアはアイエフを引っ張ってその場から逃げようとした。

 

「うっ、くっ……!」

「ネプ、ギア……。違う、違うわよ……!立ち向かわなきゃ、ダメなの……!」

「ごめんなさい、アイエフさん……っ!だって、怖い……!でも、もう誰かが傷つくのだって……!」

 

だがその動きはとてもゆっくりだ。とても逃げられるとは思えない。しかも脇にはコンパだっているのだ。

背中を向けるネプギアを見逃すわけはない。

ドム・トローペンBは無慈悲にラケーテン・バズの引き金を引いた。

 

「っ、ダメ!」

 

誰かが傷つくくらいなら。

誰かがいなくなるくらいなら。

代わりに私が………!

 

「ネプギア、バカァッ!」

 

アイエフを庇ってネプギアが立ちはだかった。

ネプギアへと弾頭は飛んでいく。

その体が爆風の衝撃で吹き飛ばされてしまう、そうアイエフが思った瞬間のことだった。

 

 

ーーーー『戦慄のブルー』

 

 

《⁉︎》

 

ラケーテン・バズの弾頭の横からグレネードが当たって弾を相殺した!

 

「っ………!あれ、私……」

《どいて、ネプギア!》

「え……⁉︎」

 

横からドムと同じホバー移動で鉄色のモビルスーツが駆けてくる。

腰にヒートサーベルを差し、尖った肩とモノアイが特徴的なモビルスーツ。それはつい最近プラネテューヌでミズキの指示の元開発された、イフリート改だ。

イフリート改は右手を前に出す。その腕の2連装グレネードランチャーからグレネードが2発発射された。

ドム・トローペンBはネプギアから離れつつその弾を避ける。

そして右腕のないドム・トローペンAが左手にヒートサーベルを持ってイフリート改に向かった。

 

「な、なんだアイツ!」

《…………》

《例え、君の方が性能が上だったしても!》

 

イフリート改が腰のヒートサーベルを引き抜いて二刀流で真っ向から突進する。

普通、二刀流とは一刀流よりも弱い。片手で剣を振るということは、その片手に両手で振る程のスピードとパワーが求められるということだからである。

しかし、その条件をクリアした者が二刀流で戦った場合は……!

 

《…………!》

 

ドム・トローペンAが縦にヒート・サーベルを縦に振り下ろす。

イフリート改はそれを左手の剣で受け、同時に右手の剣でドム・トローペンAの腹を切り抜けた!

 

《…………!》

《僕が、僕こそが!》

 

何もできなかった。

守ると誓ったのに、守りに行くことすらできなかった。

だけど、次は違う。

必ずみんなの盾に、剣になってみせる!

そう、僕は……!

 

《僕は、ゲイムギョウ界の騎士だ!》

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

イフリート改の背後でドム・トローペンAは爆発した。

 

「うっ……あ、アナタは……⁉︎」

「な、なんだテメエは!よくもマジック様から貰った大事な機体を……!」

《僕は、僕の名前は……。……っ、クスノキ・スミキ!》

 

本当は会いたい。

名前を晒して思い出してと縋って、記憶を共有したい。

けれど、今はできない。

 

「クスノキ、スミキだぁ……?テメエ、マジェコンヌに逆らったってことはどういうことだかわかってんのかぁ?」

《…………》

「アナタ、なんで……!」

《……下がってて、アイエフ。ここは僕が引き受ける》

「あ、あの、アナタは……?」

《……大丈夫、ネプギア。もう心配はいらない。アイエフとコンパをお願い》

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ!話を聞けオラ!」

 

イフリート改が前に出る。

リンダに剣を向け、宣言した。

 

《僕は、ゲイムギョウ界を守る騎士だ!最初っから、犯罪組織に屈するつもりはない!》

「テメエ……泣いて謝ったんなら半殺しで許してやろうと思ってたのによ!やっちまえ、お前ら!」

《…………》

《かかってこい!EXAM、発動!》

 

ーーーEXAMシステム、スタンバイーーー

 

《調整は不充分、機体はEXAMの負荷に長く耐えられない……!クス、まるであの時みたいに……!》

 

ネプテューヌと出会った時のように。

こんなボロボロで戦えるわけないって、みんななら言うだろうな。

ネプテューヌがここにいたら行くな行くなってうるさいだろうな。

 

《そんな日を取り戻すために、僕は……!》

 

今は涙は流さない。

みんなに会えた時に、嬉し泣きできるように……!

みんなで、喜べる未来のために!

 

《そこをどいて!僕の邪魔をしないでッ!》

《………!》

 

脚部のミサイルポッドからミサイルが撃たれた。ドム・トローペンは左右に散開して攻撃を避けたが、2機の距離が離れた隙にイフリート改はドム・トローペンCに向かう。

 

《…………》

 

ドム・トローペンCはヒート・サーベルを引き抜きながら後退する。

後ろからの援護射撃をイフリート改は見ずとも避ける。

ニュータイプであるミズキの先読み能力とEXAMシステムの殺気を感じる能力の掛け合わせでミズキはこれ以上ないほど敏感に敵意を感じていた。

 

《接近戦なら、負けはしない!》

 

ドム・トローペンCは後退をやめ、逆に突進してくる。

横薙ぎに振るわれたヒート・サーベルをイフリート改はしゃがんで避けた。

 

《ホバー移動の弱点は!》

 

そしてスライディングの要領でスネに蹴りを入れてドム・トローペンCを転ばせる。

倒れたドム・トローペンCの背中に素早く立ち上がったイフリート改はヒートサーベルを突き刺した。

 

《成敗………!》

 

イフリート改が離脱すると同時にドム・トローペンCが爆発した。

 

「す、凄い……」

「ネプギア……アンタ、ねえ……!」

「あ、アイエフさん!ダメです、まだ動いちゃ……!」

「ギアちゃん、何してるですか……!あんなこと……!」

「コンパさん……ごめんなさい、でも……」

 

ネプギアは俯く。

 

「私、戦えないから……。でも、もう誰かが傷つくのはイヤで……!」

「っ、もう!お説教は後よ!それより、ネプギア……!」

 

腹を抑えながら立ち上がったアイエフが戦っているイフリート改を指差した。

 

「アイツから……!スミキ、から……絶対に離れないで!」

「え?あの人から……ですか?」

「アイツは、放っておいたら何処かに行っちゃうのよ……!誰かが繋ぎ止めてあげないと、ダメなの……!」

「でも、なんで私が……」

「ぎあちゃんじゃないとダメなんです!一緒にいるって言ってくれた女神さん達は、もういないんです……!だから……!」

 

ミズキを繋ぎ止めていた女神達が捕らわれ、ミズキの目の前から消えてしまった。

それじゃ、前に逆戻りだ。あの時みたいに1人で突っ走って、自分を犠牲にして、今度は取り返しのつかないことになるかもしれないのだ。

 

「ネプギア、お願い……!」

「……でも、私は戦えない……」

「だからって、みすみす目の前で人がいなくなるのを見ていられるの⁉︎」

「そ、それは!でも、何もできないならせめて私が……」

「違うですよ、ギアちゃん」

 

コンパがネプギアの手を握った。

 

「何もできないなんてことないです。ギアちゃんはたとえ小さい事でも何かができるはずですよ」

「でも、役に立たなかったら……」

「役に立つですよ。みず……んんっ、スミキさんはきっと、ギアちゃんが側にいるだけで元気百倍のはずです」

「スミキ、さん……。一体、何者なんですか、あの人は……」

「……昔々、みんなとお友達だった人です。とっても仲が良くて、いっつも笑っていて……すごく、楽しかったんです」

「…………」

 

そう言うコンパの目は何かを懐かしく思う優しい目だが、そのうちそれは悲しい瞳に変わる。

 

「いい、ネプギア。戦うべき時には戦わないと、何も守れないの。戦って傷つくならいいわ。いくらでもコンパが治してくれる。でも、誰かを庇って怪我するなんてのは絶対ダメ」

「……はい」

「わかったら行ってきなさい。アイツから……スミキから離れちゃダメよ」

 

ネプギアが振り返ってイフリート改を……スミキを見る。

あんなにも必死に、私達のために戦ってくれる彼はどんな人なのだろうか。

1度も出会ったことのないあの人の素顔は、体は、性格はどんな人なのだろう。

ネプギアの心に、そよ風が吹き抜けた。

 

(なんでだろう……。凄く、懐かしい。まるでいつか会ったことがあるような……)

 

心が温まるのと同時に、少しの焦りと心から何かがすっぽり抜け落ちてしまったような……そんな寂しさも感じて不思議な気持ちだ。

それと同時に心の奥から勇気が湧いてきた。

 

(なんでだろう……。何も怖くなんかない。さっきまであんなに怖かったのに、あの人が隣にいたらと思うと、そんなの消えちゃう……)

 

ネプギアが胸に手を当てた。

 

「………変身!」




雑魚だし…ジェットストリームアタックやりたいなあ…ドム…だったらドム・トローペンだな!みたいな。いや何が「だったら」なんだよって感じなんすけどね?だってドム・トローペン好きなんだもん…。
イフリート改の特格。ジーク・ゲイムギョウ界!とか言わせたかったんですけど語呂悪くてやめました。やっぱジーク・ジオンが1番しっくりくる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2章〜シェア解放の旅路。再会の女神候補生と教祖〜
救世主


ちなみにイフリート改はグフとドムの間に位置する機体です。ドム・トローペンはドムよりも強いドムです。本来なら性能差があるはず…ですけどね。


イフリート改は残ったドム・トローペンと懸命に戦っていた。

ニュータイプ能力とEXAMシステムでカバーしているものの、やはり性能差が激しい。そしてシェアの差も厳しい。

予想外の奇襲に最初はドム・トローペンも狼狽えてくれたが、徐々に得意な距離を見極められて近寄れなくなっていた。

そして時間がかかればかかるほど、EXAMシステムとニュータイプの動きに機体が耐えきれずにすり減っていく。

 

《うくっ、まだ……!》

 

脚部のミサイルポッドからミサイルを撃ち出したがドム・トローペンは左右に避ける。

 

「へへっ、今なら後ろから……ひっ⁉︎」

《動かないで!今の君は、悪党かもしれないけど!》

 

後ろから襲いかかろうとしたリンダの足元にグレネード弾が弾ける。

イフリート改が前を向いたまま後ろのリンダに腕部グレネードランチャーから弾を撃ち出したのだ。

それもニュータイプとEXAMシステムの相乗効果によるものだ。

 

《…………?》

《弾切れ!君が先に追い込まれた!》

 

ドム・トローペンがカチカチとラケーテン・バズの引き金を引くが弾が出てこない。

イフリート改が擦り切れるより先に弾が切れたのだ。

しかし……。

 

《うっ、くっ⁉︎オーバーヒート……⁉︎》

 

イフリート改は膝をつく。

あと一歩というところで機体の限界が来たのだ。イフリート改からは蒸気が吹き上がり、これ以上動けば爆発してしまいそうだ。

 

「あん、なんだぁ?ジジィみたいに膝なんかつきやがって……」

《やめて、リンダ……!君はもう、こんなこと……!》

「うるせえ!命乞いでもしようってか⁉︎やっちまえ、ドム!」

《……………》

 

ドム・トローペンがヒート・サーベルを構えた。

絶体絶命かと思われた瞬間、横からビームが放たれた!

 

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

そのビームはドム・トローペンに命中し、一撃で装甲を貫いて爆発させる。

 

「な、なんだ⁉︎」

「彼から……スミキさんから離れてください!」

「な⁉︎て、テメエ女神だったのか⁉︎」

 

膝をついたイフリート改の前に変身したネプギアが立ちはだかった。

 

《ネプギア、変身を……》

「くっ、すいません許してください……とでも言うかと思うか!こうなったら最初の目的だけでも果たさねえと、言い訳がつかねえ!」

「あ!や、やめてください!」

「こんなシェア、砕けちまえ!」

《……………!》

 

リンダがシェアクリスタルに向かって鉄パイプを振り下ろす。

ここからじゃ誰も間に合わないだろう。

きっとリンダの一撃でシェアクリスタルは粉々に砕け散る。

けど、そんなこと……!

 

《させてたまるかァッ!》

 

あのシェアクリスタルが砕けるってことは、みんなを助ける希望が砕けるってことだ!

あれは僕のシェアクリスタル。なら、僕が……!

 

ミズキが念じた瞬間、シェアクリスタルから1人の透明な男の子が飛び出した。

 

『……………』

「うわっ⁉︎な、なんだこれ!クラクラする……っ!」

 

その男の子がリンダをすり抜けるとリンダはそれに押されたようによろめき、膝をついた。

透明な男の子がネプギアの元へと向かい、その体の中に入った。

 

(えっ……?アナタは、誰なんですか……?)

『僕の名前はフリット・アスノ。君と一緒に戦ったんだ』

(でも、アナタのことを私は知らない……)

『忘れているだけさ。きっとこの会話もすぐに忘れてしまう。けど、これだけは覚えておいて』

 

ジャッジから逃げる時にも飛び出した男の子。彼がネプギアの心に入って繋がる。

 

『ガンダムは救世主なんだ。僕とガンダムは、君と一緒に救世主になる!』

(救世主に……私が……?ゲイムギョウ界を救う、救世主……)

『それだけは覚えていて。僕はいつでも、君の中にいるから』

 

「…………っ⁉︎あ、あれ……?」

 

唐突にネプギアは意識を取り戻すような感覚に襲われる。

何かあった気がするが……思い出せない。

多分、なにもなかったのだろうとまるで時間が飛んだような感覚を忘れた。

 

「く、くっそ〜、覚えてろ!次会ったらぶっ殺してやるからな〜っ!」

《あ、リンダ!》

 

イフリート改が手を伸ばすがリンダは走って逃げていってしまう。

 

「あ、待って……!」

「お前の言うことなんか聞くか!逃げるが勝ちだぜ!」

 

ネプギアも少し遅れて引き止めるがリンダはもう見えないような場所まで逃げてしまっていた。

逃げ足だけは早いらしい。

 

《リンダ……いつか、君の記憶も……》

「あ、あの……スミキ、さん?大丈夫ですか?」

 

ネプギアはリンダを追いはしないらしく、膝をついたイフリート改を覗き込んだ。

 

《うん、大丈夫。ネプギアこそ、怪我はない?》

「はい。助けてくださって、ありがとうございました」

 

他人行儀なネプギアとの会話に胸が痛む。どうしても以前のネプギアと今のネプギアを重ねてしまう。そして、その落差に勝手に傷ついている。

 

「それであの……どうして私の名前を、知っていたんですか?」

《……っ、……》

 

きっとネプギアは自分のことなど、なにも覚えていないのだろう。自分は覚えているのに、なんで覚えていないんだと叫びたい。

僕の名前はクスキ・ミズキで、前にみんなと戦って。この胸の中の喋りたいこと全部伝えたい。

それでも今は、それが許されないから。

 

《ずっと前から……知ってるよ。君のこと、みんなのこと……ずっと前から、知ってるんだ……っ!》

「そうなんですか……。あ、じゃあお姉ちゃんとも知り合いなんですか?」

《……うん。ネプテューヌには何度も助けられたよ》

「へえ〜……」

 

無垢な笑顔にキリキリと胸が締め付けられる。

すると後ろからアイエフとコンパがやって来た。

 

「アナタ、ねえ……」

「結局、来ちゃったですか?」

《うん。放っておけないよ。会えなくたって……守りたいから》

「……それはいいわよ。でも、アナタもいい加減覚悟を決めなさい」

《わかってる。……じゃあね》

「あ、もう行っちゃうんですか?」

《きっとまた、会えるよ。いつかね》

 

そのいつかはいつなのだろうか。

イフリート改は立ち上がってバーチャフォレストの最深部から橋をわたって出ていく。

 

「あ………」

「追っちゃダメですよ。ダメなんです」

 

手を伸ばすネプギアをコンパが引き止めた。

イフリート改は段々と木の陰に隠れて見えなくなる。

ネプギアは何だかそれが何かを無くしてしまうようで……とても不安な気持ちになる。何かとんでもないことをしているような、引き止めなきゃいけないような……焦り。

そんな感情もすぐに消えてしまいそうになることに、ネプギアは違和感を抱く。意識していなければ感情を忘れてしまうくらいに。その違和感すら風のように消えてしまった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「で?なんでアンタがいたのよ」

《起動テストでね。誰にも見られないような場所に行こうと思ったら》

「バーチャフォレストの最深部にいたんですね?」

《うん。それで遠目に走る君達を見つけたから追いかけたんだ》

 

ホログラムのミズキが笑う。

 

「それで、あんな無茶したのね?聞いたわよ、まだまだシステムは未完成だったってね」

《う……誰から?》

「この人から」

「…………」

 

アイエフが指差す先には不機嫌な顔のアブネス。それもそうだ、せっかくの新品ピカピカの機体が帰って来た途端にボロボロになっているのだから。

 

「ったく、被弾はしてないものの……。関節とか内部はもうボロボロよ?確かにこっちの技術も足りなかったかもしれないけど……!」

《ごめんごめん。お礼と言っちゃなんだけどさ》

 

ミズキがモニターにとある写真を映し出す。

そこには目をキラキラさせている男の子の姿があった。

 

「こ、これは!」

《僕を見かけた男の子。この子の写真あげるから許して》

「ゆ、許すわ!許します!」

《クスクス……》

《最近アブネスの扱い方がわかってきたようだな》

「不憫ですね……」

 

目をキラキラさせている男の子を見て目をキラキラさせるアブネス。キラキラがエンドレスだ。

 

「ところで、あのシェアはどうやって持ち帰ってきたんですか?聞いた話では、物凄く大きかったそうですが……」

「試しにギアちゃんが触った瞬間にキラキラして消えちゃったです」

「ネプギアは何だか力が湧くのを感じたみたいだし、多分シェアが戻ったんだろうなって……」

《うん、バッチリだよ。きっと他の国でもシェアが回復したと思う》

 

ミズキが世界中にばら撒いたシェアの内訳は4国から貰ったシェアとミズキのシェアだ。それが解放されたということはそれぞれのシェアがそれぞれの場所へと戻ったということ。

ネプギアが力が戻るのを感じたように、ミズキも力が湧いていた。

 

「そういうわけで、私達はラステイションに行くつもりよ。とりあえずプラネテューヌにはもう怪しい場所はなさそうだしね」

《うん。それについてなんだけど……頼みがあるんだ》

 

ミズキは強い瞳でアイエフとコンパを見つめた。

 

《僕もその旅に連れて行って欲しい》

 




機体の性能差か…。今のは、当たってやったのだ!
くっそ負け惜しみくさいですよね…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒〜ノワール〜

新章です。これから3国を巡り巡ってエブリワンすると思います。


翌日、呼び出されたネプギアはイストワールからとある端末を受け取っていた。

 

「これって……Nギア?ですか?」

「はい。ですが、カスタムをしてあります。きっとこれからの旅に役立つ機能を追加しておきました」

「旅、ってことは……」

「ええ。私達はこれからラステイションに向かうわ」

「………!」

 

アイエフの言葉にネプギアは嬉しそうな表情をする。

もしかしなくても、ユニに会えることが原因だろう。

 

「そのNギアの機能は様々ですが……メインの機能はそのボタンを押せば分かると思います」

「ボタン……?えっと……」

 

ネプギアがカスタムされたNギアのボタンを押す。

するとコール音が鳴って、しばらくすると電波が繋がる音がした。

 

《はい、こちらクスノキ・スミキです》

「えっ、これって……?」

《クスクス、昨日ぶり、ネプギア》

「スミキさん……?」

「はい。彼との通信機能が主なカスタム点です」

「え?でもこれってただの通話機能じゃ……」

「彼はとても遠いところにいるのです。それこそ、電波などなかなか届かないような場所に」

 

本来なら1日に数時間ほどしか通信できなかったが……シェアが増えたおかげか通信だけならほぼ制約がなくなった。このまま行けばミズキは別次元から脱出もできるかもしれない。あくまで可能性の話だが。

 

「電波が届かないって……でも、昨日は」

「アレも通信で動かしていたんです。あのモビルスーツがスミキさんの本体というわけではありません」

「モビルスーツ……それが、あのロボットの名前……」

「私達も知り合いなんですよ」

 

ネプギアはじっとNギアを見る。

クスノキ・スミキという名前に、なんだか少しの懐かしさがある。でもこの名前は知らないはずだし……何かに似ている?

 

「ネプギア?聞こえてる?」

「え、あ、はい!聞いてますよ!バッチリです!」

「じゃあ何を言ってたかわかる?」

「えと……アレです、やっぱりロッテリ○よりマ○ドナルドの方が人気ですよねっていう……」

「全然違うわよ!全く話聞いてないじゃない!」

「うう、すいません……」

《クスクス……》

 

ネプギアが恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

「ラステイションだけじゃなく、その後は他の国にも行くわよって話だったです。ですよね?」

「そういうこと。ネプギア、準備はいいわね?」

「は、はい!大丈夫です!」

「それじゃ、行きましょうか」

「お気をつけて……」

「任せてください、いーすんさん!それじゃ……」

 

ネプギア達は手を振って部屋を出ていった。

それを確認してからジャックが出てくる。

 

《行ったか。しばらくは静かになるな》

「ええ。そうです……ね……」

《……どうかしたか?》

「いえ、なんでも。なんでもありません」

 

よくよく考えればこの先しばらくは2人きりではないか……とイストワールは気付く。

結局、あの戦いのゴタゴタがあって未だにジャックに返事ができていないのだ。その後は記憶がなくなってしまったし、取り戻した後もジャックの体がないので一緒に酒を飲もうにも飲めない。つまり、返事ができない。

ジャックは自分よりも辛いだろうが、それでもイストワールはなんというか体がムズムズする。

 

《体のことなら、もうしばらく待ってほしい。この戦いが終わるか、みんなが帰ってくるまでの辛抱だ》

「でも、体くらい作れます。その気になればいつでも……」

 

ワガママだと思う。

教祖たる者、こんなワガママは今は言ってはいけない。自国ないし世界の情勢を考え、国民のために尽くすべきなのだ。

頭ではわかっている。だがこうも理論も理屈も無視して己が気持ちのままに動きたくなるのは感情の仕業だろう。

だがその感情は横暴で、屁理屈で、自己中心的だ。今だって自分より辛いはずのジャックに気持ちをぶつけてしまっている。気持ちをぶつけたいのはジャックの方なのに。

 

《俺は……今、イストワールに触れることはできん》

 

ジャックが手を伸ばしてイストワールに触れようとする。が、光の手はイストワールをすり抜けてしまい永遠に触れることはない。

イストワールもその手に触れようとするが、空を彷徨うだけだ。

 

「わかってます……。ワガママですよね」

《だがそれでいい。気持ちをぶつけたくなるのは悪いことではない。……その方が人間らしい》

「じゃあ、ジャックさんは人間ではないと?」

《俺だってぶつけたい。我慢しているだけだ》

「…………」

 

また前みたいなことを言う。

このままでは口喧嘩にまでなってしまいそうなところで着信があった。

 

「ん……ケイさんから、です」

《なら俺はしばらく消えていよう。またな》

 

ジャックはいなくなり、イストワールだけが残される。そしてイストワールが神宮寺ケイ……ラステイションの教祖からの着信に応えた。

 

「はい、私です。どうかしましたか?」

 

目の前にケイが現れる。もちろん、投影されているだけだが。

 

《久しぶりだね、イストワール。君に……ん、どうかしたかい?》

「はい?私どうかしてますか?」

 

ケイがイストワールの顔を覗き込んでくる。イストワールは自分の顔をペタペタと触るが特に変なところはないはずだ。

 

《やたらと不機嫌そうだけど……もしかして迷惑だったかな?》

「へ?い、いえ違います!不機嫌なのはその、他の理由があってですね……!」

《やっぱり不機嫌なのかい?》

「そ、それは……多分」

 

どうも私は自分で思っているより顔に出やすいらしい。これからは気をつけよう。

 

《都合が悪いなら、また日を改めるけど?》

「いえ、構いません。私に直接連絡してきたってことは何か大切なことがあるんですよね?」

 

1度切り替えてケイを見る。

先程は二の次にしてしまったがやはり私は教祖。やるべきことと責任がある。

ケイはイストワールに見つめられてゆっくりと口を開いた。

 

《……僕は、自分で言うのもなんだけどビジネスライクな性格だと思ってる。感情とか抜きにして、合理的にモノを考える》

「それは……はい、そうですね」

 

確かにケイはそういうところがある。ボランティアが苦手というか、自分に徳がないことをやらないというか。そういう考えの持ち主だ。

 

《一応、本当にビジネスもやっている。だからこそこの話をすることになったんだが……この考えばかりは、自分でもとても合理的とは思えない》

「はあ……」

 

話が見えてこない。ケイは何が言いたいのか、怪訝な目をしてケイを見ているとケイは意を決したように口を開いた。

 

《単刀直入に聞く。イストワール、君は記憶が抜け落ちていると思ったことはないか》

「………!」

 

その言葉にイストワールは目を見開く。

その反応を見てケイも何かを確信したようだった。

 

《その反応、自分もそういうことがあるか……もしくは何か知っている顔だね》

「………アナタは……自分で……そうですか……」

《ビジネスの記録を見るとどうしても記憶にない仕事の履歴があるんだ。しかもふとした拍子にそれを忘れてしまう。メモしていなければならないくらいだ。だから僕は記憶がなくなったという結論に行き着いたんだけど……どうだい?》

「……もし、もしケイさんがそれを興味本位で聞いているのなら……今すぐにやめてください」

《…………!》

 

イストワールは強い表情でケイを見た。その顔には拒絶の感情さえ感じられる。

 

「その真偽を知りたいなら、それ相応の覚悟を持ってください。でなければ、知らない方がいいことです」

《……そんなに重大なことなのかい?》

「覚悟はあるのかと、聞いています」

 

キッとイストワールがケイをいつになく厳しい表情で見つめる。そんな迫力はケイが今まで見たことがないものであった。

 

《……わかった、考えよう。それについての質問は保留する。それと、もう1つ質問がある》

「なんでしょうか」

《プラネテューヌで謎のロボットがマジェコンヌを退けたとの情報が入っている。これについて知っていることを答えてくれないか?》

「……それについてなら答えられます。ですけど、合理的に考えるとここで今私が答えるのはあまり良くないのではないかと思います」

 

イストワールがようやく表情を緩めてくれる。

ケイは少し驚いたような顔をしている。

 

《珍しいな、君が冗談を言うなんて》

「そうですか?私も、変わったのかもしれませんね」

 

ネプギアは記憶を失った。アイエフとコンパは記憶を取り戻して強くなった。

私もきっと、どこか変わっている。誰のせいかはわからないけれど。

 

「じきにネプギアさん達が教会にお邪魔するかと思います。その時にクスノキ・スミキという方に質問してください」

《それは、最初の質問もかい?》

「覚悟ができたなら」

《わかった。協力感謝するよ、イストワール》

 

ケイは少し微笑んで消えてしまった。

1人残されたイストワールはふぅと息を吐いて力を抜いた。

……ケイは3年をかけて思い出した。アブネスは数ヶ月で思い出した。もしアブネスがいなかったなら私達は何年かけて思い出したのだろう。ネプギアはあとどれくらいで違和感に気付いてくれるのだろうか。

物憂げな気持ちになっているとコンコンとドアを叩くノックの音がした。みんなは行ったし、多分今来るのは……。

 

「アブネスさんですか?どうぞ」

「失礼するわ」

 

やはり来客はアブネスだったようで、手には大束の書類を持っている。

 

「ミズキはいるかしら?新しいモビルスーツ開発の報告に来たんだけど」

「ミズキさん、ですか……」

 

一応ここからでも通信は繋げるが、今はまだネプギア達と話しているだろう。

 

「これからしばらくは連絡が取りにくくなると思います」

「何かあったの?」

「いえ、ずっと通話する人ができたので」

「ああ、そういうことね」

 

アブネスはなんとなく事情を察したのか、机の上に書類の束を置いた。

 

「『MSN-100』とメガ・バズーカ・ランチャーが完成したわ。ついでにコンセプトが似てる『MSN-001A1』の開発も進んでるって報告」

「ありがとうございます。助かります」

「はあ、疲れたわ〜。なんかない?こう、疲れが取れる方法とか食べ物とか」

「そう、ですね……。ジャックさんに子供達の笑顔でも集めてもらいます?」

「あ〜、ありね、それ!そうと決まれば早く検索かけてよ!ジャック、ジャック〜⁉︎」

《わかったわかった。そう焦らなくてもすぐに集まる》

「癒されるわ〜……。ジャックって本当有能よね〜……」

《なんで上から目線だ。そして俺の力をそんなことに使うな》

「珍しいですね、ジャックさんがツッコミに回るなんて」

《…………うるさい》

 

ジャックはこめかみを抑えて俯いたのだった。




あの金ピカ機体とスタイリッシュな機体。
シャアある意味可哀想ですよね…。金ピカでクソ目立つ上に目立たせてまで塗ったビームコーティングもあまり効果はなくフレームが露出して防御力は低い上に必殺のメガ・バズーカ・ランチャーは「ええい、照準が定まらん!」。ま、カッコいいから許されますけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

矛盾した気持ち

ビバラステイション。ビバ軽量化。やっぱ貧乳ってステ(ry


「ん〜、着いた〜!」

 

ネプギアが両手を振り上げて歓声を上げる。

それはやっとラステイションに到着したという喜びもあるだろうし、ユニに会えるという喜びもあるだろうが……。

「さすがラステイション!機械がいっぱい!」

《やっぱり判断基準はそこなんだね……》

 

機械>ユニ。ユニが不憫だ。

 

「そ、そんなことないですよ?ユニちゃんに会えることも嬉しいです」

《ユニに“も”だよね、“も”なんだよね》

「いやあのそのっ!そういうわけじゃ……!」

「はいはい、そこらへんにしときなさい。ネプギアも機械はまた今度。私達はやることが山積みなんだから」

「は、はい……」

《クスクス、ごめんね》

 

歩き出してラステイションの街の中に入る。

 

(この街も変わらないな……。ノワールさえ、帰って来て……)

 

みんなの記憶が戻れば元通り。そうするためにもシェアクリスタルをなんとしても集めないと。

 

「まずは、どうするんですか?」

「とりあえず、ギルドかしらね。シェアを集めなきゃいけないし」

「シェアクリスタルに頼るんじゃなくて、地道にも集めなきゃいけないです」

「そうですね。情報も集められますし……まずはクエストをこなさなきゃ」

 

それ即ちネプギアの戦闘技術の向上にも繋がる。

恐れは振り切ったとはいえ、記憶が消えてしまったのはやはり大きい。今まで教えてしまったこと全て忘れてしまったのだから。体で覚えている部分もあるっぽいが、同行している身として逐一教えてあげるべきだろう。

 

「スミキさんは戦うんですか?」

《ううん。僕が戦うのは本当に危ない時だけにしておこうと思う。そう何度も使える代物じゃないしね》

「そうですか……。スミキさんが戦ってくれたら心強かったんですけど」

《アイエフとコンパがいるから大丈夫だよ》

「そうです!任せてくださいです!」

「そうやっておだてないの」

「え、おだててたですか?」

《クスクスクス……》

「ええ⁉︎そんな〜!」

 

そんな話をしているうちにギルドに着く。

だがギルドはほとんどがらんどうだ。閑古鳥が鳴いている。

 

「人がいない……」

「それだけこの国もマジェコンヌの支配を受けてるってことでしょうね」

(ユニは……無事、なんだろうか……)

 

ユニも自分の記憶は忘れているだろうが、どの程度なのだろう。もしかしたら思い出してくれるかもという期待を抱いてしまう。

 

「情報、集まるといいですね」

「そうね。ま、あんまり期待はできないけど……」

「あ、じゃあその間にお仕事もらって来ますね」

 

ネプギアが2人と別れて受付へと向かう。受付には奥の方に行くと数人は依頼を受けている人はいるらしく、ちらほらと人影が見える。それでも大分少ないが。少なくとも自分が1人でギルドに行った時は……?

 

「うっ……!」

 

あれ、私……1人でギルドに行ったことなんてあったっけ……?ずっとお姉ちゃんと一緒で……仕事の貰い方も知らなかったはず、なのに……。

待って?私、そもそもいつ変身できるようになったの?ギョウカイ墓場に行く時には既に変身できていたけど……あれ?

私は、変身できなかったはずじゃ……?

 

「ううっ、うっ……!」

 

頭を鳴らすノイズが激しくなる。

頭を抑えようと手を伸ばした矢先、ネプギアの目が誰かに覆われた。

 

「えっ、ええっ⁉︎」

 

ネプギアは目の前が真っ暗になってしまった!

ネプギアが所持金を半分ほど落としてしまいそうなところに聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「ふふっ、だ〜れだ?」

「あっ、その声!」

 

手がネプギアの目から離れる。

ネプギアが後ろを振り向くとそこにいたのは……。

 

「ユニちゃん!」

「久しぶり、ネプギア。元気だった?」

「ユニちゃ〜ん!」

「きゃっ、ちょ、もう……」

 

嬉しさ余ってネプギアがユニに抱きつく。というか飛びつく。ユニは呆れたような顔をしてそれを受け止めた。

 

「会いたかった……会いたかったよ、ユニちゃん……!」

「ネプギア……」

 

ユニの胸に顔を埋めたネプギアが背を震わせる。ユニは優しい顔でそれを見たが、次にネプギアが顔を上げた時にはもうネプギアの顔に暗さはなくなっていた。

 

「ねえ、せっかくだから一緒にクエストに行こうよ!ユニちゃんが一緒なら心強いし!」

「もちろん。でも、私が受けたいクエストに行くわよ?ネプギアにレベルは合わせないから」

「うん、うん、大丈夫だよ!」

 

ネプギアがユニの手を取ってぴょんぴょん跳ねる。

ネプギアはアイエフとコンパを呼びに行く途中でふと、思いだす。ユニが来て思考が中断されたが……私はいつ変身できるようになったのだろう?確か、ユニも変身できなかった気がする……。

ネプギアの中に芽生えた違和感はもう消えなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ラステイションの海の上に丸い点と点を繋いだような橋がいくつも架かる場所、そこがリピートリゾートだ。

そこを4人はさくさくモンスターを倒して進んでいた。

 

「やっぱり凄いね、ユニちゃん。強い……」

「まあ、それほどもあるかしら。努力の賜物よね」

 

2人が離れながら前を歩いている。

その後ろをアイエフとコンパが歩いていた。

 

「はあ、3年経っても性格は変わらないわね」

「いつも通りのユニちゃんです」

「ところで、ユニ様にもバラす気はないのよね?」

《うん、ないよ。あの頃に逆戻りしちゃったのなら、きっとユニは……》

 

また無理をしているはずだ。向かうべき目標であるノワールが近くにいない3年間だっただろうが……きっとユニならノワールを超えようと思うはずだ。

 

「ねえ、さっきからブツブツ話してるけど……通話してる人って誰?」

「え?ああ、クスノキ・スミキって言います。まあなんていうか……プラネテューヌの強い人とでも覚えてくだされば」

「ふぅん」

《よろしくね、ユニ》

 

ミズキがユニに挨拶をする。

ユニは肩にかかった髪を払って得意げに言った。

 

「まあ、強いって言っても私には敵わないでしょうね。なにせ、女神候補生だもの」

《クスクス、確かにユニは強いね。さっきから見てるけど、凄い射撃制度だと思う》

「でしょう?」

《でも僕だって負けられないな。男は女の子を守るものだし》

「私だって負けられないわよ。超えなきゃいけないんだから……」

「え?誰を?」

「え、あ、いや、なんでもない。こっちの話」

 

ユニは笑って誤魔化す。

 

(やっぱりノワールを追いかけてるんだ……)

 

多分、1人で。

この強さは大変な努力の賜物だろうけど、それでも……。

 

(僕も、みんなを守りたいから……。次は守り抜くから、だから1度だって……)

 

ユニに言えなかったもう1つの理由。

僕だって1度きりでも負けることは許されない。みんなを守り抜かなきゃいけない。取り戻さなきゃいけない。

 

「にしても、広いわね〜ここも。見晴らしがいいから迷いはしないもの、の……?」

「ですね。バーチャフォレストみたいに木が生えてたら迷ってたで、すぅ……?」

「アイエフさん?コンパさん?どうかしましたか?」

「なによ、そんなにピッタリ固まって」

 

2人がまるで金縛りにでもあったように固まる。

2人の目線の先を見るとそこには行き止まりの円に座っているフードを被った女の子がいた。

 

「……?なんか、見覚えがあるような……」

「知ってるの?誰よ、あれ」

「……下っ端……!」

「え、あ、ああ!」

「下っ端?」

 

アイエフの絞り出すような声にネプギアがそのシルエットを思い出す。ユニは訝しむように下っ端と呼ばれた女の子を見た。

するとネプギアの声に気付いたのかリンダが振り返った。

 

「あ〜あ、ったく退屈だぜ……って、あ!お前らあの時の!」

「し、下っ端さんですぅ!今度は逃さないですよ!」

「だから下っ端って誰よ」

「下っ端さんは下っ端さんだよ!マジェコンヌの下っ端!」

「マジェコンヌの……?」

「ええい、だから下っ端下っ端うるせえ!ちょうどいいぜ、退屈してたとこだ。出てこい、トリック様より預かったモビルスーツ達よ!」

「スミキ、ちょっと通話切るわよ」

《うん、危なくなったら呼んで》

 

プツリとミズキとの通話が切れる。

リンダが右手に持った鉄パイプを振り回すと4機のモビルスーツが舞い降りてきた。

モビルスーツとは言ってもその姿は人よりもむしろドラゴンに近い。首は長く、羽が生えて左右対称の手。ダークブルーの塗装が施されたその機体の名前はガフランだ。

 

「やっちまえ!あいつらをボコボコにしちまえ〜!」

 

リンダの号令で4機のガフランは一斉に空へ飛び上がった。

 

「あいつら、空に⁉︎」

「ユニちゃん、空なら私達が!」

「ええ、行くわよネプギア!変身!」

 

空を飛べるのは女神候補生2人だけだ。

ネプギアとユニは変身して飛翔し、アイエフとコンパはリンダの前に立ちはだかった。

 

「今度こそ、逃さないわよ!」

「逃げたかったら、私達を倒してからですぅ!」

 

4機のガフランは掌からビームバルカンを発射する。

2人はそれを軽々と避けてガフランに接近する。

 

「ええい、当たって!」

「アンタ達がマジェコンヌに属するっていうなら……!」

 

ネプギアが前に出てM.P.B.Lを撃つ。

それはしっかりとガフランに命中したがガフランの装甲に当たった途端弾けてしまった。

 

「ビームが、効かない⁉︎」

「倒す!私が倒して、追いつくの!」

 

入れ替わってユニが前に出た。

そして自分の身の丈ほどもあるX.M.Bを構えた。

 

「エクスマルチブラスタァァッ!」

 

X.M.Bから放たれたビームは装甲に弾かれることなく、ガフランを貫いた。ガフランの1機が爆発する。

 

「大したことないのね、マジェコンヌも!」

「私も、負けられない……!」

 

ユニがまたX.M.Bを撃つと正確な狙いで再びガフランに命中し、爆散させる。

ネプギアはM.P.B.Lを構えてガフランに接近した。

ガフランはビームバルカンの発射口からビームサーベルを展開したが、ネプギアはガフランが切りつけるよりも早く近付いていた。

 

「接近戦なら!」

「自動操縦って、癖があるのよね!」

 

ネプギアがガフランを切りつけて倒す。それと同時にユニは見越し射撃でさらに1機のガフランを倒していた。

 

「……どうよ!これが私の力!」

「ユニちゃん、凄い……」

 

地上ではアイエフとコンパがリンダを端に追い詰めていた。

 

「へっ、へへっ……お前らを倒す必要なんかねえんだぜ」

「はあ?何を言ってるのよアンタは。追い詰められて気でも狂った?」

「今はまだその時じゃねえ……。じゃあな!」

「あっ!」

「う、海の中に飛び込んじゃったですぅ!」

 

リンダはピョンと飛んで海の中へダイブしてしまう。コンパとアイエフが海の中を見るが、リンダの姿は何処にもない。息継ぎに出てくる様子もない。

 

「逃したか……」

「うぅ、また逃げられたですぅ……」

 

溜息を吐くと空からネプギアとユニが降りてきた。2人とも変身を解く。

 

「凄いね、ユニちゃん!3機も落としちゃうなんて!」

「まあまあね。ネプギアもそこそこやるんじゃない?」

「うん、本当に凄い……。私が捕まってる間も、頑張ってたんでしょ?」

「………っ……」

 

チクリとユニの胸に痛みが走る。

 

「ユニちゃん?」

「そ、そりゃそうよ。私は……頑張ってる」

 

ネプギアが帰ってきたことは素直に嬉しい。本当に嬉しい。この気持ちは嘘じゃない。けど、それでも、この胸に湧き上がってくるこのドス黒い感情も嘘じゃない。

 

「ユニちゃん、一緒に来てくれない?私達、先代女神が遺したっていうシェアクリスタルを探してるの。一緒に、お姉ちゃん達を助けるのを手伝って欲しいの」

「……ごめん、ネプギア」

「え……?」

 

当然来てくれると思ったのか、ユニの否定にネプギアが面食らう。

 

「どうして……?もしかして、用事があるとか?別に今じゃなくったって……」

「あのね、ネプギアのことが嫌いなわけじゃないの。……それでもね、私ね……?」

 

3年前、連れて行ってもらえなかった。

ネプギアは連れて行ってもらった。

そして今、ネプギアは帰って来た。

ノワールは、未だに帰ってこない。

 

「なんで、なんでお姉ちゃんじゃなくてネプギアなのって、思っちゃうの……っ!ネプギアよりもお姉ちゃんが帰って来てくれたらなって思うのっ……!ネプギアが帰って来たことは嬉しいのに、嬉しくないの……!」

「ユニちゃん……」

 

ユニは涙を流す。自分の気持ちがバカみたいで……情けない。ネプギアが帰って来てからずっとこの気持ちを抱いてた。自己中心的過ぎると思う。ネプギアだって姉と会いたいだろうに、私だけこんな気持ちになっている。

だけど、それでも自分の気持ちに嘘がつけない。それがひどく情けない。

 

「ごめんね、ネプギア……。私、こんな気持ちでネプギアと一緒に行けない……!」

「ユニちゃん!」

 

ユニは後ろを向いて走って行ってしまった。

ネプギアは追いかけようと、引き止めようと手を伸ばすが唐突に頭の中にノイズが走る。

 

「あうっ、あ……!」

 

私は似たようなことを、言われたことがある……?




違和感が消えてないですね。ほんの少しだけ記憶が戻る希望が見えて来た?
ガフランの咬ませ犬。むしろ咬ませ竜?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神宮寺ケイのビジネス術

先言っておきます。
自分はビジネスとか知らんです!


逃げるように……いや、実際ネプギアから逃げてしまったユニは1人頭を抱えて俯いていた。

最低なことをしてしまった。いや、あんなことを考えていた時点で最低だ。

しかしユニの頭の中には自分を責める声とは別にもう1つ、不可思議な違和感とデジャブがあった。

それはこの気持ちに気付いてからだ。私は1度似たようなことを体験したことがあるようなデジャブ。私が声を荒げてネプギアを糾弾するとネプギアが何も言い返さずに黙って悲しそうに俯くのだ。

私がネプギアを糾弾すればどうなるだろう、ということをシミュレーションすればするほどその風景は確実に思えてくる。まるで迎える未来のような。あるいは、既に迎えた過去のような。

だから言えばネプギアがどうなるかわかっていたのに。凄く悲しむであろうことはわかっていたのに。未来がわかるからこそ、我慢しなければならなかった。未来が見えていたからこそ、言っちゃダメだと自分を律していたはずなのに。

 

「今度会った時……謝れるかな……」

 

本気でネプギアが嫌いなわけがない。むしろ好きだ。だからこそ仲直りしたい。ネプギアに非はないのだから。

でもネプギアも怒っているかもしれない。許してくれるかわからない。

自分が謝れるかどうかも心配だったが、ネプギアが許してくれるかどうかもわからない。

 

「ネプギア……」

 

ユニは深い溜息をついてトボトボと歩いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《ネプギア、大丈夫?》

「……はい、多分……」

 

ミズキが声をかけるがネプギアは俯いて歩くだけだ。時折通行人とぶつかりそうになって危なっかしい。

 

「いつまでもうじうじと引き摺らないの。今度会った時に謝ればいい話でしょ?聞いた話だと、ネプギアには非はないみたいだけど」

「ユニちゃんもギアちゃんのこと嫌いじゃないって言ってたです。きっと許してくれるですよ」

「はい……」

 

アイエフとコンパが励ますがネプギアは下を向いたままだ。

アイエフとコンパは似たような状況を知っている。マジェコンヌに女神達が捕まった時、ユニがネプギアに声を荒げたことがある。姉の代わりにネプギアが捕まれば良かったと。

 

(あの時の同じ……。でも、それなら簡単なはずなのに……)

 

一言ごめんなさいと謝れば済む話なのに。でもそうもいかないのだ。いろんな何かが邪魔をする。

 

ネプギアも不可思議な違和感を感じていた。頭の中にはさっきから微弱なノイズが走っている。

なぜだろう、私は似たようなことを言われたことがある。……ような気がする。

あの時も私は何も言えずに俯いていたのだろうか。だとしたら私は、何も変わっていない……。

 

「情報、集まらないですね」

「そうね。そもそもこんなに人が少ないんじゃ、集めろっていう方が無理よ」

《じゃあ、教祖のところに行けばいいんじゃない?ケイのところ》

「あ、あ〜……。あまり行きたくはないんだけど……仕方ないわね」

《なんで?悪い人ではないと思うけど……》

「いい噂も聞かないのよ。どっちかというと悪い噂を聞くわ。悪い人ではないってのはわかるけどね」

 

だいぶ前、ネプテューヌと別れて各国を回っていた時にミズキはラステイションに滞在したことがある。

その時にケイとは数度話したが、悪い人ではないはずだ。それにビフロンスとの決戦の時には力を貸してくれた。

それはアイエフもわかっているのか微妙は表情をしている。

 

「3人とも、ここの教祖さんを知ってるんですか?」

「ギアちゃんは知らないですか?」

「会ったことないんです。ユニちゃんとは話すけど、教祖さんとは1度も……」

 

だったら知らないのは当然か。

それにネプギアの記憶は3年以上前の記憶。会っていなくても不思議ではない。むしろ友好条約を結ぶ前まで記憶が遡っているのだから会っていない方が自然だ。

 

《ここの教祖は神宮寺ケイ。少し理屈っぽいけど、良い人だと思うよ》

「その理屈っぽいところが問題なのよ」

《あはは、手厳しいね》

「教会に行ったらユニちゃんもいるかもしれないです。その時は仲直りしましょうね」

「……はい」

 

4人は回れ右をしてラステイションの教会へと向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そこそこ歩いたところに教会はあった。

ネプギアが扉を開いて中へ入る。

 

「失礼しま〜す……」

《神宮寺ケイさんは、いらっしゃいますか?》

 

控えめにそろ〜っと入るネプギアの懐からミズキが教会中に響くぐらいの声で言う。

するとちょうど目の前にいる後ろを向いていた男……いや女の子が……女の子?うん、女の子が振り向く。

 

「やあ、待っていたよ。アイエフさんにコンパさんにネプギアさん。それに、スミキさん」

「え⁉︎ど、どうして私達のこと……!」

「君達のラステイションに来てからの行動は大体把握させてもらってるよ。プラネテューヌの行動もね」

「はあ、さすがの情報収集能力ね……」

《クスクス、それもビジネスの基本だもんね》

「ああ。そういうこと、だ」

 

一瞬、ほんの一瞬だけ狼狽えたように喋るリズムが狂う。

何故自分の信条を知っていた?スミキという男とケイは会ったことがない。なら、ケイという人物を噂として知れても自分の信条など知るはずもないはずだ。

確かにこの言葉は使い古されたものかも知れないが……こういうことに鋭敏になっていて損はない。イストワールが事情を聞けと言ったほどの男なのだから。

 

「それじゃ、なんで私達がここに来たかも知ってるですか?」

「もちろん。世界中に散らばったシェアクリスタルを探している……合ってるかな?」

「す、凄いです!」

 

まあ、情報源はイストワールなのだけれど。もっと言うならラステイションに来てからの動きを把握してるなんて嘘だ。ハッタリだ。

これもビジネスの基本のうちの1つだ。

 

「じゃあシェアクリスタルのある場所を知ってるの?」

「もちろん」

「じゃあシェアクリスタルのある場所、教えていただけませんか⁉︎」

「まあ待ちたまえ。僕ばかり情報を提供するのはーーーー」

 

『フェアじゃない』

 

《だよね?クスクス……》

 

ケイの声とミズキの声が重なる。ミズキはクスクスと笑っているが、顔の見えない上にミズキの人格も知らないケイにはその笑いが全てを見透かされているような笑いに聞こえた。

まるで計算も思考も何もかも先回りされているようで、それを嘲笑われているようだ。

 

「……そういうことだ。こっちの持って来てもらいたいものを持って来てくれれば、シェアクリスタルのある場所を教えてあげるよ」

 

実はミズキは普通に会話が面白くて笑っているだけなのだが……。

ビジネスにおける失敗その1、深読みのし過ぎ。逆に言えば深読みさせるのがビジネスとも言えるかもしれない。ハッタリも深読みさせる手段の1つだろう。

 

「その、持って来てもらいたいものってなんですか?」

「擬似太陽炉とガンダニュウム合金」

《………!》

 

ミズキが息を飲む。顔が見えていたなら動揺は隠し切れなかっただろう。

 

「擬似太陽炉と、ガンダニュウム合金……?聞いたことない素材です」

「今、犯罪組織マジェコンヌが自立稼働しているロボットを使っているのは知っているね?君達も既に対峙したはずだ」

《ロボットじゃないよ、ケイ。あれはモビルスーツっていうんだ》

「ふむ、モビルスーツね。覚えておくよ」

 

ミズキは何故ケイが擬似太陽炉とガンダニュウム合金を知っているのか察しがついた。

おそらく、リンダ以外にもモビルスーツを使って悪事をしている者がいるのだろう。その中には擬似太陽炉とガンダニュウム合金を使った機体もあるはずだ。そこから奪い取った、ということか……。

 

「その中に擬似太陽炉という動力炉を使った機体とガンダニュウム合金の装甲を使った機体があるはずだ。その機体から奪い取って欲しい」

「なるほどね……。スミキ、それってどれくらいレアなの?」

《そうだね……。まだそれらを使った機体と遭遇してないからなんとも言えないけど、少なくともそれらの素材を使った機体は強力だよ》

 

ガンダニュウム合金を使った機体なら『ビルゴ』や『ビルゴⅡ』。擬似太陽炉を使ったのなら『GN-X』や『GN-XⅢ』、『アヘッド』などだろう。

何れにしても性能は相当高い。自動操縦とはいっても手強いだろうし、こんな高性能機を扱う構成員もそうそういるものではないだろう。

 

(やはり、素材を使った機体を知っている……。僕ですら大した情報は持っていないのに……)

 

「スミキが手強いっていうのなら本当に手強いんでしょうね。それ以前に見つかるかも怪しい、か……」

 

アイエフが深い溜息を吐く。

 

「無理ならいい。その時は僕もおとなしく諦めよう」

「く……足元を見て……!」

「……わかりました。私達、その素材を探してきます!」

「……ほう」

「それと、私、教えて欲しいことがあるんですけど……いいですか?」

「構わない。僕ももう1つだけ頼みがある。それと等価交換ということで」

「ちょっと待ちなさいよ。先にそっちの条件を聞かせてくれる?」

「しばらくの間、スミキさんと話したい」

《…………!》

 

再びミズキが息を飲む。今回ばかりは他の3人も息を飲んだ。

 

「別にどうこうしようってわけじゃない。本当にただ話したいだけなんだ」

「待ちなさいよ、スミキがいないと依頼の品を抱えた機体だって……」

《話そう、ケイ》

「そうよ、できるわけ……ってええ⁉︎」

 

アイエフがテンプレな驚き方をする。

 

《アイエフの携帯に素材を持っている機体のデータを送るよ。くれぐれも気をつけて》

「あの、せめて私達も……」

《ケイは2人で話がしたいみたいだから。大丈夫、たとえNギアが壊されるとしたって僕が死ぬわけじゃないんだ。それに、ケイがそんなことするわけないよ》

「でも……」

《ビジネスの基本……》

 

『信頼関係』

 

「かな?」

《クスクス、当たり》

「なんだか、意気投合してるです?」

「はあ、仕方ないわね……。話が終わったら連絡入れて?迎えに行くから」

《ありがと。それじゃ、くれぐれも気をつけてね》

「はいはい、せいぜい気をつけるわ」

《代わりに、ネプギアのお願いを聞いてくれるかな?》

「僕ができる全力を尽くそう」

「あの、私……ユニちゃんに会いたいんです。今どこにいるかわかりますか?」

 

多分、スミキさんは私の依頼がわかって了承してくれたのだと思う。私が依頼したい内容がわかっていたから周りの反対も押しのけて、快く引き受けた。

なら、私だって一刻も早く……。

 

「ユニかい?ユニなら、クエストを受けに行ってからまだ帰ってきていない。教会に帰ってきたら伝えよう。彼女に会えるまで、僕が全力を尽くすよ」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃ、その携帯を渡してくれないかな?がっつくみたいで悪いけど……」

「いえ、構いません。それじゃ、これ……」

 

ネプギアの手からケイにNギアが渡る。

 

「ありがとう。責任を持って管理するよ」

「はい。それじゃあ……」

 

3人が振り返って出口へと歩いて行く。

最後にネプギアは振り返って少しだけNギアを見てから去る。

部屋にはケイだけが残された。

 

「さて、それじゃあいいかな?」

《その前に、ここにはプロジェクターはあるかな?……顔を合わせて話をする必要があるかもしれない》

「……わかった」

 

ケイはNギアを大事そうに抱えて教会の奥へと消えた。




宝玉と血晶なら周回すればなんとかなる気がしないでもない。
擬似太陽炉は30機くらいしか配られそうにないし、ガンダニュウム合金があればガンダムが作れる。これ集めろって言われたらなんとかならない気しかしない。いや、擬似太陽炉があってもガンダム作れちゃいますけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

記憶の奪還

教祖達可愛いっすね…。


ケイがNギアとプロジェクターをコードで繋ぐ。

ケイしかいない部屋でNギアからの声が響いた。

 

《まず、僕に話っていうのは?……何か重要な話なんでしょ?》

「……君は事情を知っているだろう?……僕は、いや僕達は記憶を奪われている……違うかな?」

《……覚悟の上?》

「イストワールにもそれを問われた。だけど、僕は今それなりの覚悟してこの質問をしているつもりだよ」

 

なるほど、イストワールに質問して、それからイストワールに僕に聞けとでも言われたんだろう。その時に覚悟を問われた、と……。

 

《……答えだけ言えば正解だよ。この世界の人々はみんな記憶を失っている。例外は僕とイストワール、アイエフとコンパくらいだ。他にも、アブネスって聞けばわかるよね?》

「あの大富豪まで……?」

 

こう聞くとやっぱりアブネスって有名人なんだな、と思う。ずいぶん出世したものだ。

 

「それは何故だ?誰の仕業だ?君は何者なんだ?何故イストワール達は記憶を取り戻したんだ?」

《……思い出せば、わかるよ。覚悟が必要なのは……思い出すことが辛いから》

 

プロジェクターがとある人の姿を映し出す。

背の高い優しげな顔の男。その男が閉じていた目を開いてケイを真っ直ぐに見つめる。

 

《僕の名前はクスノキ・ミズキ。……覚えているかな?》

 

まるで頭の中を風が吹き抜けるような感覚。

しかしそれも刹那のこと。すぐにケイを激しい頭痛とノイズが襲った。

 

「っ……⁉︎ぐっ、あ、あああっ!」

 

ケイが頭を抑えて倒れた。もんどり打って地面を暴れ回る。

 

「ぐっ、うっ、あ、頭が……!頭が、痛い……!」

《ケイ、我慢して。耐えるんだ。思い出してよ、僕のこと。3年前のこと、みんなのこと……!》

「うっ、ううっ、う……!」

 

 

ーーーザザッーーーーザザザザッーーーー

 

 

『おや、新顔かい?』

 

『彼の支援を頼みたい』

 

「僕は、こんなこと言ったことは、ないのに……っ!」

《拒まないで、ケイ!全部君の記憶なんだ!その頭痛は、押し込められた君が出て来ようとする痛みだ!》

「くっ、あ、ああっ……!」

《ケイ!》

「ーーーーっ!」

 

 

ーーーザザ、ザーーーーザーーーー

 

 

『どうしたんだい、ノワール。やけに機嫌がいいじゃないか』

『そ、そう?別にいつも通りよ、うん』

『はて、近々ノワールが喜ぶようなことがあったかな?』

『だ、だからなんでもないってば!』

『ユニ、最近何か出来事はあるかい?』

『ケイってば!話聞きなさいよ!』

『え、出来事?う〜ん……あ、ミズキさんが遊びに来るかもしれないの!』

『……ほう』

『ちょっとケイ。今何を察したのよ!』

『いや、何でもないよ、何でも。ふむふむ……なるほどね……』

『ケイ〜っ!』

 

 

「っ、は………!」

 

バッと体を起こす。

周りを焦って見渡すとそこはさっき自分がいた部屋とは違う部屋。寝ていたのはベッドで窓の外は真っ暗だ。

 

「っ、なに、が………?」

 

夢、ではないだろう。

よく見ればここはラステイション教会の仮眠室だ。自分の他に寝ている人はいないが、自分が寝ているのは2段ベッドだし通路を挟んで向こう側にももう1つ2段ベッドがある。

すると部屋のドアが開いて青年が入ってきた。

 

「あ、すいません!失礼を……!起きているとは思わず……!」

「いや、構わない。僕は、どうしたんだ?」

 

ベットから立ち上がる。

 

「私が呻き声を聞いて……それで視聴覚室に行くとケイ様が倒れておりましたので仮眠室にまで運びました。あ、まだ立ち上がっては……」

「大丈夫だよ。寝たおかげかスッキリしている。ほら、足取りも確かだ」

 

青年はまだ納得していないような顔をしているので足踏みをしてみせる。

 

「ですが……」

「わかったよ。自室に戻って寝ることにする。それでいいかい?」

「まあ、それなら……」

 

渋々青年は納得する。

まあ、自室に入るということは中でケイが何をしていようが青年が確認できないということなのだが。

無論、ケイも早めに寝る気でいるがそれでも確かめなければならないことはある。

 

「端末はどうした?多分、僕の近くにあったと思うんだけど……」

「それなら、今持ってます。これですか?」

 

青年は懐からNギアを取り出した。ケイはそれを受け取る。

 

「ありがとう。それじゃあ僕は自室に戻るよ」

「お大事にしてくださいね。ただでさえ、女神様が不在でケイ様もご無理をしているのですから」

「気遣いありがとう」

 

青年をすり抜けてドアから外に出ようとしたが、少しだけ気になったことがあって振り返る。

 

「ところで、君は僕と寝ようとしてここに来たのかい?」

「ち、違います!様子を見に来ただけです!」

「ははっ、わかってるよ」

 

からかい甲斐のある青年だな、とケイは思った。

 

自室に戻りながら頭の中を整理する。

……記憶は完全に取り戻した。

頭の中がクリアになったようだ。今なら過去の会話全てを言うこともできる。

聞きたいことは全てわかった。わからないことも予測もできた。

聞きたいことは彼のこと。ユニのこと、ノワールのこと。

ミズキはこれからどうする気だ?ネプギアには記憶がない、ならばそれには理由があるはず。ユニにも明かさない方がいいだろうが……イストワール達に教えてネプギアには教えない理由とは何だ?

そしてノワールのこと。3年前にギョウカイ墓場で何があった?今彼女はどうしている?無事なのか、それとも……。

 

「無事でいてくれてるよね、ノワール……」

 

ケイは静かに呟いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ラステイションのとある宿屋。

そこにはまるで屍のようにベッドに横たわる女の子が3人いた。

 

「アイエフ、さん……」

「………………」

 

返事がない。ただの屍のようだ……。

 

「コンパ、さん……」

「………はい、ですぅ……」

「まさか、これだけ歩き回って見つからない、なんて……」

「予想外でした、ですぅ……」

 

ぐてぇと着替えもせず風呂にも入らず……いや、それすらする元気もなく3人は疲れてベッドへと直行した。

散々歩き回ったが、ないのだ。

あんなダンジョンやこんなダンジョン、果てにはツボやタンスの中まで調べさせてもらったがないのだ。逆にシェアクリスタルが見つかるかと思ったくらいだ。

 

「アイエフさん、携帯の写真見せてもらえます……?」

「……………」

 

アイエフが無言で携帯を差し出してくる。

ネプギアもそれを受け取って画像を見た。

ビルゴ、ビルゴⅡ、GN-X、GN-XⅡ、アヘッド、エトセトラエトセトラ……。

 

「影も形もありませんでしたね……」

「……………」

 

誰も同意しない。というよりも同意しているのだが声を出す元気もない。

そもそも広大なラステイションの土地の中でせいぜい人程の大きさしかない機械を探せというのも無理があるのだ。

 

「効率的に探しましょう……。人に、聞く、とか……」

「……誰に聞きましょう……」

 

ちなみにさっきから「……」は時間にして1分ほどある。死ぬほどゆっくりな会話である。

 

「今日は、寝ましょう……。明日、スミキに聞いて、それ、で……」

「アイエフさん……?」

 

アイエフがついに力尽きて寝てしまった。

 

「コンパさん……?」

「………すぅ」

 

コンパは随分前から夢の中にいたようだ。

 

(私も……寝よう……)

 

ネプギアも眠るべく目を瞑る。

ゆっくりと落ちていく意識の中、ふとコンパが呟いた声を聞いた。

 

「ギア……ん……。思い、出すです……ぅ……」

(…………?)

 

何を思い出すのか、と聞きたかったがもう意識は浮上させることはできなかった。

ネプギアもすぐに穏やかな寝息を立てて眠っていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアは夢を見た。

今は隣にいないネプテューヌと話す夢だ。

 

ネプテューヌが取り留めのないことを言って、それをネプギアが宥める。それでアイエフが呆れた顔をして、コンパが笑う。

 

ふと、ネプテューヌが振り返って通路の先に手を振る。

通路から現れたのはイストワールだ。またいつものお説教タイムでネプテューヌが悲鳴をあげる。

 

………その後ろから、もう1人イストワールと同じくらいの人が……いる気が、する。

 

さらにその後ろ、背の高い男の子がクスクスと笑いながら歩いてくる……気がする。ネプテューヌと話して一緒に笑っている。

 

夢の中だからだろうか、2人の姿は薄ぼんやりとしていてどんな顔か、知っている人か、さっぱりわからない。

 

やがて背の高い方の男の人がネプギアの方にやってくる。そして少し話してくれる。

なんだかすごく優しそうな人で、よく話を聞いてくれる。

やがて背の高い男の人と小さい男の人が部屋の向こうへと歩いていく。

 

部屋の向こうは不思議なことに暗闇に閉ざされた崖になっていた。

みんなが形相を変えて必死に引き止める。けど、一歩も近付けない。

ネプギアはその男の人の手を掴んで引き止めた。

 

振り返った時に顔を見ると、不思議とどんな顔かはわからないのに寂しげな顔をしているのがわかった。

そして男の人はするりとネプギアの手からすり抜けて崖へと落ちていく。

 

どこまでもどこまでも、どこまでも………。




青年好き。貴重な男キャラ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

回れ右して戻ってらっしゃい

ぬうううわぁぁぁんテスト期間やだもぉぉぉん!
家で勉強三昧なので書くスピードが落ちる→追いつかれる→歌舞伎役者 is dead……。


ネプギアがふと目を覚ます。

夢を見ていた気がするが……内容が思い出せない。どんな夢だったっけ……。

 

「ん……あ、ああ!」

「ん……どうしたのよネプギア……」

「ふぁぁ……おはようさんですぅ……」

 

2人も寝ぼけ眼を擦って体を起こす。

しかしネプギアの目はパッチリと開いていて眠気などすっ飛んでしまっていた。

ネプギアの目は時計に向いていた。

 

「ええ⁉︎も、もうこんな時間⁉︎」

「お、お寝坊しちゃったです!」

「い、急いで支度しなきゃ!」

 

3人は朝から大慌てのようだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「………それで、慌てて来たってことかい?」

「そうなります……」

「お恥ずかしいですぅ……」

 

気付けば昼前、3人は大慌てで教会に向かいケイと話していた。ケイの手にはNギアが握られている。

 

「これを返すよ。すまないね、返すのが遅れて」

「あ、そうだ。倒れてたって聞きましたけど……」

「大したことないさ。そう、“頭痛”が酷くてね……」

『…………!』

 

ほんの一瞬だけケイがアイエフとコンパを見て「頭痛」の部分を強調して言う。

それだけで2人は察したようだ。

 

(ミズキ、アナタ……)

(うん、戻ったよ。僕のことは全部話した)

(でも、その、大丈夫だったですか?)

(たくさん僕と接したわけじゃないから、2人ほどではなかったよ。でも、やっぱり苦しいとは思う)

 

頭の中を無理矢理かき混ぜられたのと同じようなことだ。苦しい辛い以前に不快感が襲うはずだ。

それに耐えて今も涼しい顔をしているケイは立派だと思う。

 

「それと、ユニなら随分前にモンスター退治に行ってしまった。行き先はリピートリゾートだが……見つけられるかな」

 

リピートリゾートは広い。それはもう広い。リピートリゾートと一口に言っても無数の分かれ道がある中、ユニがいるブロックを見つけると言うのも難しいだろう。

 

「帰ってくるのを待つ方がいいわね。素材もまだ集まってないわけだし」

「おや、集まっていないのかい?」

《集まってなかったの?》

「おかげさまで、寝坊するまで探したわよ……!」

 

アイエフのこめかみに血管が浮かび上がる。

 

《やっぱり厳しいよね……。せめて探す場所を絞らないと》

「何処で見つかったとか、わからないですか?」

「ふむ、聞いてみようか。今職員に訪ねてくるよ」

 

ケイが奥の方へと向かう。

 

《3人とも、お疲れ様》

「いえ、そんな。結局1機も見つからなかったんですし……」

「スミキさんこそ、お疲れ様ですぅ。その、いろいろ……」

《大したことないよ。大丈夫》

 

絶対大したことあるのに、ミズキは平然な声色で誤魔化す。狂っている……というか、なんというか。おかしくなっているのは、ミズキだって同じだということがわかる。

こうして強がるのはいつまで続くのだろう。女神達が帰ってくるまで?だとしたら、早く女神達を連れ戻さないといつかミズキは壊れてしまう。

これがノワールがかつて言っていた、お互いに壊れるということの意味なのだろうか。

このままではミズキを壊さまいとする私達まで壊れる……のだろう。

 

「すまない、待たせたね。彼が事情を知っているらしい」

 

そんなアイエフの思考を裂くようにケイが青年を連れてやって来た。

 

「こんにちは。えと……擬似太陽炉とガンダニュウム合金でしたっけ?」

「ええ、そうなるわね。悪いけど、何処から見つかったか教えてくれないかしら?」

 

すると青年が苦笑いをしてケイを見た。ケイは素知らぬ顔で微笑している。

 

「ケイ様……あのですね……」

「いいだろう?僕の仕事も減って、僕を案じてくれる君からしたら万歳する出来事じゃないか」

「そういう問題ではなく……!はあ、わかりました、私の負けですよ」

「わかればいい。ほら、みんなも待ちわびているよ」

 

お手上げ、というように手を上げて青年はアイエフの方を向いた。

 

「まず……そもそも、この2つの素材はまだ1度しか発見されていない。つまり、レアもレア、スーパーレアな素材ということ」

「そ、そんなものだったんですか……」

「私も最初聞いた時びっくりしたよ。そんな見つかるはずもない素材を探させるなんてね……」

 

まるで竹取物語のようだ。情報とはかぐや姫と同じくらいのモノなのだろうか。

 

「……で、その見つかるわけもない素材は何処で見つかったのかしら?」

「何処で……というよりはやっぱり構成員を追うのが効率的だと思う。とりあえず行方がある程度わかっている構成員はこの2人……いや、1人と1匹」

「ん?」

「え?」

《あっ……》

 

1匹と聞いた瞬間にネプギアを除いた3人が察した。もしかしなくても……あの……。

 

「このリンダって女の子と……」

 

『ワレチュー……』

 

「ん?ああ、そうそう。よく知ってるね」

 

2人が頭を抱えて……ミズキも次元の向こうで頭を抱えてその名前を呼ぶ。

 

「やっぱりいるわよね。そりゃいるわよね……」

「ネズミさん、なんていうか、もう……」

《安定だよなあ……この小悪党な感じ》

 

溜息をついて呆れる。

 

「ワレチューはラステイションで確認されている。国を出たって情報もないから、まだラステイションにいるはずだよ」

「下っ端はどこにいるんですか?」

「国を出たという報告がある。行き先はプラネテューヌ」

「プラネテューヌ……⁉︎」

 

ネプギアが驚きの声を上げる。

 

「はあ、放っとくわけにもいかないわね。下っ端がそんなレアな機体を操るとは思えないけど……」

「やるしかないです。すぐ戻りましょう」

《そういうわけです。一旦僕達はプラネテューヌに戻ります》

「脱出のルートからすると、まだバーチャフォレストの最深部にいるはずだ。急げば間に合うと思うよ」

「気をつけて。素材が見つかることを期待しているよ」

「期待しないで待ってなさい!」

 

アイエフがそう言い残してから3人は教会を走って出て行った。

それから青年がケイをジト目で見る。

 

「ケイ様……。もしかして、適当にあしらってるんですか?」

「そんなことはないよ。彼女達なら集めてくれると信じているさ」

「……気のせいだと信じたいんですが、機嫌が良く見えます」

「おや、わかるかな?君は僕を良く見ているのだね」

「見ていなくてもわかります。頬が緩んでいらっしゃいますよ?」

「ふふっ、勘違いしているようだけど、別に『ざまあみろ』って思ってるから機嫌が良いわけじゃないよ」

「では何故……」

「ノワールが生きてたんだ。……こんなに嬉しいことはないだろう?」

 

そう言って青年の顔を見る。

生きているならきっと帰ってくる。生きているなら希望がある。そして奇跡はまた彼が起こしてくれる。

青年は少し驚いた顔をしていた。

そして口をパクパクさせた後にようやく言葉を発する。

何だか不自然にオロオロしている。ノワールが生きていて驚いているのだろう、と思っていたが……。

 

「ケイ様……その、あの……これを」

 

青年はポケットからハンカチを取り出してケイに渡した。

 

「あ、あの、それはまだ、今日は使っていませんので!では!」

 

青年は逃げるように何処かへ行ってしまう。

ポカンとそれを眺めているケイだったが、ふと自分の頬を伝うものに気付く。

 

「ん………」

 

水、なわけないか。いや、確かに水かもしれないが、これは涙だ。無論自分の目から流れたに違いない。

 

「は、はは……。泣いていたのか、僕は……道理で……」

 

トントンと叩くようにハンカチを目に当てて涙を拭く。ほんの少しだけハンカチが湿った。

 

「……洗って返さなきゃ、いけないだろうね」

 

あと何かお礼をしなければならないだろう。それ相応の対価は渡さなければならない。何かお菓子でも渡してあげよう。

ふと、そのハンカチを見ると端っこにイニシャルが記されていた。

I.R……?

 

「そういえば、彼の名前も知らなかったな」

 

また会った時に返そうとケイは思うのだった。




青年とケイの絡みがないようであるような香りだけして嬉しかった人です、はい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

百式

男のロマンを。発進シーンはいつ見てもカッコいいです。
SEEDの「○○、行きます!(ピッ、ピッ、ピッ、ピーン!)」も好きですし、00の「発進タイミングを○○に譲渡します」も好き。オルフェンズの2期オープニングの指をピッってするのも好き。
でも、やっぱ最高の発進シーンは分かりきってますね。

「出ろォォォォォォォッ!ガンダァァァァァァムッ!」




「そうだ、そうだ〜!もっと壊しちまえ〜!」

 

リンダの号令で赤いモビルスーツと青いモビルスーツがビームを放ち、バーチャフォレストの木々を焼き払っていく。

 

「ったくよぉ……。ラステイションの仕掛けは無事完了したのはいいものの……。あいつらが来るときは仕事が失敗するようになっちまって……」

 

あいつらの顔を思い出すと頭痛がする。それが気に入らない。

 

「憂さ晴らしだ!やっちまえ〜っ!」

「させません!」

 

頭上からビームがリンダに向かって飛んで来る。

すかさず赤の機体から円盤状の物体が空中に放たれ、その幾つかの間にバリアが作られた。

 

「っ、てめえらは!」

「ビームが、弾かれた……⁉︎」

 

ビームを放っていたのはネプギアだ。しかしそれも赤い機体の作ったバリアに阻まれてしまった。

 

《バカな!あの機体は……!》

「スミキ、見覚えあるの⁉︎」

「あいちゃん、来るですよ!」

「んっ!」

 

地上から走り寄る2人に青い機体が大きなビームキャノンを構える。背中の円形の大型ジェネレーターからコードを通じてエネルギーが送られ、2人に向かって撃たれた。

 

「アイエフさん!コンパさん!」

「何ともないですぅ!」

「にしても、なんて威力……!」

 

2人は左右に飛んで避けたが、ビームキャノンが直撃した床は赤熱して融け落ちてしまっている。

 

「今回ばかりはてめえらに勝ち目はねえぞ!なんてったって、こっちには最強の盾と矛があるんだからな!」

「スミキ、なんなのよあの機体は!」

《ヴァイエイトと、メリクリウス!気をつけて、性能はそこらのモビルスーツと比にならない!》

 

赤い機体がメリクリウス、青い機体がヴァイエイトだ。常に2機1組での連携運用を前提とし、最高の攻撃力と最高の防御力をそれぞれに分担して持たせたのだ。

 

メリクリウスがビームガンでネプギアに射撃を繰り出す。ネプギアは難なくそれを避けてM.P.B.Lでビームを撃つが……。

 

「くっ、なんてバリア……!」

 

メリクリウスのバリア、プラネイトディフェンサーがビームを弾いてしまう。

 

「コンパ、行くわよ!接近戦なら……っ⁉︎」

「ふええっ⁉︎危ないですよ!」

 

ヴァイエイトがビームキャノンを連射して来る。連射とはいえどもその威力は凄まじく、1撃だけでも致命傷を負ってしまうだろう。

 

「あんなの、チョバムアーマーでもガード仕切れないですよ!」

「EXAMしか……⁉︎」

「私が、接近戦を仕掛けます!」

 

ネプギアがM.P.B.Lを振りかざしてメリクリウスに接近する。ビームガンの牽制を避けて斬りかかるが、

 

《……………》

「っく、盾から、剣が⁉︎」

 

メリクリウスの防御に隙はない。手持ちのクラッシュシールドの中央からビームサーベルが発振され、ネプギアのM.P.B.Lを受ける。

 

「危ない、ネプギア!」

「青いのが!」

「っ、しまっ……!」

 

鍔迫り合っているとメリクリウスの背中からヴァイエイトがビームキャノンをこちらに構えていた。

 

「やめなさいよ!」

《…………》

「あああっ!」

 

アイエフが拳銃を撃つがビームキャノンの引き金が引かれる方が早い。

ネプギアは防御魔法で受けるが、たまらず吹き飛ばされて地面に落ちる。

 

「硬い……!仕方ないか……!」

 

拳銃の弾もガンダニュウム合金製の装甲に弾かれてしまう。

アイエフがEXAMシステムを使おうとした矢先、Nギアから声が響いた。

 

《僕が出る。数秒、持ち堪えて!》

「スミキ⁉︎出れるの⁉︎」

《百式が使える!メガ・バズーカ・ランチャーの火力なら、プラネイトディフェンサーだって……!》

 

ブツリと通話が途切れた。

アイエフとコンパは後退してネプギアを庇うように立つ。

 

「ネプギア、大丈夫⁉︎」

「腕が痺れてますけど、まだ……!」

「ギアちゃん、数秒だけ持ちこたえるですよ!」

「数秒……?」

「スミキさんが、来るですぅ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌの教会、その地下が慌ただしい機械の駆動音を響かせていた。

それを窓の向こうからジャックとイストワール、アブネスが見ている。

 

《出動の要請だ。イストワール、簡易次元ゲートは安定しているか?》

「はい、安定しています。Nギアをマーカーにして座標も特定しました」

「凄いわね〜……。なんか、男の子じゃなくても憧れるわね!女の子として、1度オペレーターってやってみたかったのよ!」

《ならやってみるか?1番いいところを譲ろう》

「いいの⁉︎じゃあ遠慮せずにやらせてもらうわ!」

 

窓の向こうにはカタパルト。懸架されて運ばれてきた金色の機体がカタパルトに脚部を固定する。そして瞳のツインアイが赤く光った。

機体の名は百式。全身は金メッキで覆われたように金に光り、背中の大きなウイングバインダーと肩に刻まれた『百』の文字が目立つ。背中にはビームライフルとバズーカを背負っていた。

 

《メガ・バズーカ・ランチャーも頼むよ!》

「アンタを送り出したらすぐに射出するわ!」

 

アブネスがマイクを握りしめて窓の向こうの百式に音声を送る。本来カタパルトの終わりはただの壁のはずなのだが、簡易次元ゲートによりそこには大きな虹色の穴が開いていた。

 

「いいわよ、ミズキ!行っちゃって!」

 

百式が膝をかがめて発進の体勢をとる。

 

《クスキ・ミズキ、百式!出ます!》

「出撃!」

 

アブネスがタッチパネルに触れるとカタパルトが動いて百式を送り出す。タイミング良く飛び出した百式が次元ゲートの向こうへと消えた。

 

「次!メガ・バズーカ・ランチャー!」

 

隣からメガ・バズーカ・ランチャーが移動して来る。青色で人間ほどの大きさがある巨大な砲台だ。

 

「準備できました。いつでも行けますよ?」

「了解!それじゃ射出!」

 

またアブネスがボタンを押すとメガ・バズーカ・ランチャーが凄まじい速度で次元ゲートの向こうへと消えて行った。

 

「……くぅ〜、いいわね!この、なんていうか、司令塔ポジションも悪くない!」

《気持ちはわからんでもない。が、基地がこれではな……》

 

次元ゲートが消えてしまった。

 

「これでは、ってどういうことよ」

「まだ今の技術では次元ゲートの連続使用ができないんです。今回はイフリート改の核融合炉のエネルギーを使いましたが……」

《次元ゲートはせいぜい開いて2分だな。出ないと帰る分のエネルギーがなくなる》

「まだまだ不完全、ってこと?」

《そうだな。俺も昔はこうしてみんなの出撃を見ていたが……足りないものだらけだ》

 

この地下のカタパルトは記憶を取り戻してからイストワール達が作ったものだ。各国の中心に位置するマジェコンヌは何処の国を襲うかわからない。だからプラネテューヌ地下に出撃のためのカタパルトを作ったのだ。

ちなみに次元ゲートの技術はかつてジャックが小さい方のイストワールに教わったものだ。

 

「そういえば、別次元の女神さんには救援を頼めないの?」

《無理だな。ミズキを別次元に送った影響でこの次元は歪んでいるのだ。普通の生活に支障はないだろうが、他次元とは未だ通信もできん》

「じゃあなんでミズキとは通信できるのよ」

《それもミズキの努力あってこそだ。あいつが今次元の彼方で何をしているか知っているか?》

「え?そりゃあ……脱出しようとしてるんでしょ?」

《具体的には?》

「え?う、ん〜……さあ……」

《クク、聞いて驚け》

 

ジャックが手をギュッと握った。

 

《次元の壁を、殴っているのだ》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

空中に虹色の穴が開き、そこから金色の機体が現れる。ブースターを使いその場に浮いていると、すかさず次元ゲートからメガ・バズーカ・ランチャーが現れた。

 

《いた、あれか……!》

 

百式が見る向こうにはヴァイエイトとメリクリウスの弾幕から必死に逃げる3人の姿。

 

《木々の、間を……ここで!》

 

メガ・バズーカ・ランチャーが展開して砲身が伸び、ステップアームが伸びて百式がそこに左足を引っ掛ける。百式本体にアームが固定され、エネルギーが充填され始めた。

 

《やはり、重力に引っ張られて狙いが定まらない……でも!》

 

 

《…………》

「あん?どうした?って、なんだありゃ!」

 

ヴァイエイトとメリクリウス、リンダが遥か遠方に百式を見つけた。

 

「あれは……!」

「2人とも、退がるわよ!あんなの巻き添えになったらシャレじゃすまない!」

「に、逃げるですぅ!」

 

3人は後退する。

 

「へへっ、けどこっちにはバリアがあるんだ!」

 

メリクリウスがプラネイトディフェンサーを展開してバリアを覆う。

 

《メガ・バズーカ・ランチャー……発射!》

 

メガ・バズーカ・ランチャーから極太のビームが発射された。

メリクリウスはプラネイトディフェンサーで受けるが、

 

「いいっ⁉︎な、なんだこの威力は……熱い!」

 

早くもプラネイトディフェンサーのバリアは割れかけていた。メリクリウスはさらに多くのプラネイトディフェンサーを使って高密度のバリアを張るが、それすら貫通しかけている。

 

「こ、こいつはヤベェ!」

 

リンダはバリアがまだ保っているうちに逃げ出した。

ヴァイエイトも射線上から逃げ出す。

 

《あまり、加減は出来ないよ!装甲は融解してから集めることになるかもね!》

 

やがてバリアは金色のビームに飲まれる。

メリクリウスもそのビームに飲み込まれていく。

 

《⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎》

 

「っ、なんて威力……!」

「これも、スミキさんが……⁉︎」

 

メガ・バズーカ・ランチャーが縮小して巡行形態に戻る。それに百式は手を引っ掛けてこちらに向かってくる。

 

《……………》

 

「っ、やらせません!」

 

ヴァイエイトが百式にビームキャノンを向けたのを見てネプギアが飛び出す。

不意を突かれたヴァイエイトはネプギアが乱射するビームを避けられない。

ガンダニュウム合金は数発のビームは防いでくれたが、やがて砕け始める。

 

「えええいっ!」

 

ネプギアがM.P.B.Lで斬りかかる。

ヴァイエイトは咄嗟にビームキャノンで受けたが一瞬受け止められただけですぐに切り裂かれてしまう。

 

《…………》

 

ヴァイエイトの武装はビームキャノンのみ。

武装を失ったヴァイエイトは後退しようとしたが、上から百式がおどり出る。

 

《逃さない!関節部を!》

 

百式が上からヴァイエイトの首にビームサーベルを突き刺す。

ヴァイエイトは少し蠢いた後、アイカメラが光を失って倒れた。

 

《………これで、依頼の半分は達成だね》

 

空中からメガ・バズーカ・ランチャーが降下してきた。それが地面に着地する。

 

《ついでにジェネレーターも手に入れられたよ。儲けものじゃない?》

「でも、赤い方はもうダメですよね?」

《ううん、僕の見立てじゃそんなことはないと思うよ》

 

メガ・バズーカ・ランチャーが直撃したメリクリウスはもう影も形もないと思っていたのだが……。

 

「うえっ、まだ原型あるじゃない!ホント、恐ろしい装甲ね、これは……」

 

倒れていたメリクリウスの装甲は多少融けているとはいえ、まだ原型を残していた。あれだけのビームを受けてこの程度のダメージしかないのだから、ガンダニュウム合金とは本当に恐ろしい。

 

「また、スミキさんに助けてもらっちゃいました。ありがとうございました」

 

ネプギアが頭を下げる。

 

《いいよ、それより3人とも怪我はない?》

「みんな怪我はしてないと思うですぅ」

《良かった。それじゃ僕は……》

 

百式が去ろうとするとピクリと止まる。

同時にNギアから着信音が鳴る。どうやら通信機能は同期されているらしい。

 

《もしもし?ケイ?》

《やあ。今いいかな?》

 

ケイの声がNギアから響く。

 

《構わないけど、どうかした?》

《ワレチューの居場所が判明したんだ。それを知らせようかと思ってね》

 

百式が目で……というよりツインアイでネプギア達にアイコンタクトを送る。

どうする?と聞いているのだろう。

3人は顔を見合わせた後、行くと言わんばかりに頷いた。

 

《わかった。今から向かうよ。場所は?》

 




みなさんはどの出撃シーンが好きですかね。作品ごとに微妙に違いがあって好きです。シーンでも違いますしね。出撃のセリフも。

売るよ出る出ます行きます行く行くぜイキスギィ!……ん?

特にお気に入りの出撃シーンとかあったら聞かせてください。
クアンタ出撃のシーンだったりユニコーンの初出撃だったりνガンダムの初出撃だったりF91の出撃だったりゼロカスタムの出撃だったり。
活動報告でもお待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

右か左か

ネズミ登場。黄色い電気ネズミでもないし茶色い喧嘩するネズミでもないし夢の国のネズミでもない。ハハッ♪



「チュ〜……」

 

「……なにあれ」

 

ユニはリピートリゾートで素材ーー擬似太陽炉とガンダニュウム合金ーーを探していたのだが、その途中で変かつ(齧歯類にしては)巨大かつ黒いネズミを見つけた。

前のめりに倒れていて、いい死に方をしてるなあと一瞬思ったがやはり近寄りがたい。ていうか率直に言うとキモい。

 

「…………」

「チュ〜……」

 

ライフルをネズミからそらさずにじっと見る。

撃つべきだろうか。

ネズミはペストを運ぶと言うし、何より害獣なのは確かだ。キモいから殺したいし。ペストは別名黒死病というが、ネズミもペストにかかると黒くなるのだろうか。だとしたらここで倒れているのはペストにかかったせいだということだろうか。

 

「……………」

 

しばらくしてユニは1つの結論にたどり着く。

 

(放っておこう)

 

触らぬ神に祟りなし。この場合は触らぬネズミにペストなし。

そんなわけでユニはさくっとネズミを見捨てて先へ行った。

すると目の前には分かれ道。右か左か、ライトオアレフト。

 

「……左ね!」

 

その数分後、今度はそこに、

 

『…………』

 

ネプギア、アイエフ、コンパがやってきた。

 

「えと、あの、これは……?」

「見捨てるわよ。先でスミキも待ってるだろうし」

「ま、ま、待ってください!あの、さすがに見捨てるのは可哀想というか……!」

「私も見捨てるのはイヤです。せめて、絆創膏だけでも」

「だってキモいじゃない」

「そ、そんな身も蓋もない……」

「あいちゃん達は先に行っててください。私ほんの少しだけ治療しますから」

「だからって置いて行けるわけないじゃない……。はあ、わかったわよ、待ってるわよ」

 

ネズミ……もといワレチューに絆創膏を貼る。

するとワレチューがゆっくりと立ち上がった。

 

「チュ〜……あ、あなた様は……」

「もう、ネズミさんまた怪我ですか?気をつけないとダメですよ?」

「は、はい……」

(あ〜またこうなるのね)

 

また好かれたらしい。記憶が戻ってもワレチューはワレチューか。

 

「さ、気が済んだ?そんじゃ捕まえるわよ」

「あ、あの人、いや、あのネズミってマジェコンヌの……」

「チュ⁉︎つ、捕まってたまるかっチュ〜!」

「あ、逃げた!」

 

コンパの手元からするりと抜けたワレチューが逃げる。ネプギアとコンパは必死に、アイエフはそこそこに追いかけたがさすが逃げ足が速い。

やはり腐ってもネズミ、猫と仲良く喧嘩しても大抵勝つだけある。

 

「チュ、チュ……?左っチュ!」

 

そしてそれを追う後続の3人。

 

「ど、どっちでしょう……?」

「左手の法則とかいうけど」

「じゃあ右ですぅ!」

「話聞いてた?」

 

と、すれ違った末に、左の方の話。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ふん、大したことない……!」

 

ユニのライフルの1射でモンスターが光になって消える。

 

「ったく、あのモビルスーツとやらは全然出てこないし……。こんなんで本当に集まるのかしら……」

 

ユニがライフルを肩に担いで歩く。

しかし道の先のものを確認した途端に素早く身を屈めた。

 

(アレは……!)

 

すぐ先のブロックに金色でピッカピカの機体。

確か、ケイに聞いた擬似太陽炉を搭載した機体の中には金色のものもあったはず。

慎重に呼吸を殺して音もなくライフルを構える。照準に狂いはない。

 

(当たる……!)

 

そう確信して引き金を引いた瞬間、それを察したかのように金色の機体がこちらを振り返る。

 

《敵ッ!》

(勘付かれた……!)

 

ライフルを撃ったが避けられる。

こちらに金色の機体が海を越えて飛びかかって来るのを前転して避ける。

振り返ってライフルを構えようとするが、それより先に額に銃口が当てられる。

 

「ッ……!」

《って、ユニ。何してんの?》

「……へ?」

 

金色の機体は警戒を解いてライフルを背中にマウントする。

金色の機体は百式であった。金ジムではなかったようである。

 

《ああ、そっか、わからないよね。僕はスミキだよ。ほら、Nギアで話してた》

「え、あ、ああ!」

 

その言葉にハッとする。

確かに声は同じだ。

 

《ユニも素材を探しにきたの?》

「そ、そうよ。言っとくけど、譲る気はないからね?」

《クスクス、じゃあ早い者勝ちだね》

「そういうことよ」

 

さっきは不覚を取ったが、次はそうはいかない。

そんな心持ちでいると百式がユニの後ろを見る。何事かとユニも後ろを振り向くと、そこには見覚えのある黒いネズミ。

 

「チュ、チュ、チュ〜……。ここまで来れば……」

「アンタ、さっきの……」

《あ、ワレチュー》

「チュッ⁉︎ここでもオイラのことを知ってる奴がいたっチュか⁉︎」

 

ビシッと指をさして百式が言うとワレチューが飛び退く。

 

「チュ〜……このまま逃げてもまたあいつらと鉢合わせするだけっチュ……。なら!」

「っ、何⁉︎」

《ユニ、避けて!》

 

海中からミサイルが飛んで来る。

不意を突かれたユニを百式が押し飛ばす。

 

「きゃっ!」

《くっ、う……!》

 

ユニの代わりに百式にミサイルが襲いかかる。

百式はバルカンで撃ち落とすが、避けきれずに数発を食らう。

 

《この程度……!フレームに当たってないなら!》

「っ⁉︎なっ……!」

 

耐えた百式だったが、押し飛ばされたユニの手を海中から伸びる何者かの手が掴んだ。

そのままユニを強引に引き摺り込む。

 

「っ、がぼっ!」

《ユニ⁉︎》

「や、助け………!」

 

一瞬でユニが水中に引きずり込まれる。

不意を突かれたためにライフルも手放してしまったようだ。

 

《水中用モビルスーツ……⁉︎そうか、だから……!》

 

リンダも海中に逃げ込んだのだ。そして素早く逃走できた。

百式は海の中に迷わず飛び込む。

水中用モビルスーツなら相手の独壇場だ。みすみす死地に飛び込むだけの行為かもしれない。

だが、それでも、ユニを見捨てることはできない!

 

《今いくよ、ユニ!》

 

水飛沫を上げて百式が飛び込んだ。

それをワレチューが冷ややかな目で見る。

 

「チュ、馬鹿っチュね。あいつらを水中で相手にして勝てるわけないっチュ」

 

トテトテとワレチューは歩き出す。

 

「今のうちに逃げるっチュ!それと……」

 

立ち止まって何を言うかと思えば。

 

「コンパちゃん天使!マジ天使!チュ!」

 

お変わりないようで。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「がぼ、ぐ……!」

 

わけもわからないままに泡と共に水中に引きずり込まれた。

目を開くが、海水であるためにろくに目が開けない。

辛うじて数瞬の間だけ自分を引っ張るモノを見た。

ぼやけていてよく見えないが、その機体が不気味に赤く目を光らせるのが見えた。

 

《…………》

「ひっ!」

 

足を振るが離してくれるはずもない。手持ちのライフルで撃ち抜こうとしたが、その時にようやく両手が軽いことに気付く。

 

(しまった!地上に……!)

《…………》

(やられる……!)

《ユニ!ユニ!》

(………!)

 

百式が潜行する。

肉眼とは違い、水中を見渡せる百式のカメラはユニの足を掴む機体を確認した。緑色の装甲に、巨大な2つの爪。

 

(ビグロ……!モビルスーツじゃない、モビルアーマーか!)

「がぼっ、が、ば……!」

(ユニの息がもたない……!減衰率が激しくても!)

 

ユニが手足をばたつかせ始めた。

水中ではビームの弾丸であるミノフスキー粒子の減衰率が激しく、射程と威力が落ちてしまう。

しかし設定を調整してビームを細く放てば、地上ほどとはいかなくともある程度はマシになる。

百式が背中のビームライフルを構えてビグロに向けるが、ユニが間に入り込んでいて危険だ。

 

《ならば、サーベルで!》

 

左手でサーベルを引き抜く。

これもエネルギーを絞って細く展開し、水中でも最低限使えるようにする。

ビグロがミサイルを発射してくるが、百式はうまく身動きが取れない水中でもなんとか体を動かしてそれを避ける。

 

「が、ば………!」

《そんな旧型に、負けるかっ!》

 

接近してビグロの爪の片方を切り裂いた。

ユニが解放されるが、もう息が切れる寸前だ。

百式は急いで浮上し、水面にユニの顔を出す。

 

「が……!はっ、けほっけほっ!うえっ、がふっ!」

《良かった、ユニ……っ⁉︎》

 

ユニはなんとか水面に顔を出すとむせながらも酸素を得る。

しかし安心したのもつかの間、百式は足元に迫る機体を感知した。

 

《ユニ、逃げて!絶対来ちゃダメだ!》

「きゃっ、痛っ!」

 

ユニを放り投げて地面へと投げつける。

やや乱暴になってしまったが、命の危険よりはマシだ。

 

《この、しつこいよ!》

 

百式が再び潜行するとビグロがその口のような部分にエネルギーをスパークさせる。

 

《………》

《メガ、粒子砲か!》

 

すかさず避けるが、百式は不用意にビグロには近づかなかった。

先程自分達を攻撃して来たミサイル。アレは対地ミサイルだ。しかしビグロは対地ミサイルを装備していない。

ならもう1機以上、モビルスーツかモビルアーマーがいるはずだ。

その思考に間違いはなく、ビグロの後ろでアイカメラを光らせるモビルアーマーが1機いた。





ビグロにはギレンの野望でお世話になりました。速いし射程長いのでなんだかんだ最後までいた気が。まあ油断すると速攻でぶっ壊されましたけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

水中戦

機会少ないですよねー、水中戦。水泳部のモビルスーツは可愛くて好きなんですけどね。


「けほっ、けほ!ぺっ、ぺっ」

 

びしょ濡れになったユニが地面の上で咳き込む。

口の中に入り込んだ海水で喉が痛い。

咳もおさまると周りがいやに静かであることに気付く。水面のすぐ下では今でも戦闘が行われているのかもしれないのに。

シンとした空気が痛い。さっきのスミキの発言を思い出す。

 

《ユニ、逃げて!絶対来ちゃダメだ!》

 

「……っ」

 

足手まといになったのだ。またしても。

強くなろうとして、姉よりも強くなりたかったのにまたこれだ。

強くなったつもりでいた。しかしそれはつもりだったのだ。これでは何も変わらないではないか。誰も助けられないではないか……!

 

ふと水面を見つめる。

戦闘の様子すらユニにはわからない。なんて無力。水の中に引き込まれた時だって、何もできなかった。スミキがいなければあのまま死んでいた。

 

「私……無力だ……」

 

ユニは自分の服の裾を強く握りしめた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

百式は水中を凄まじい速度で動き回るビグロを目で追う。

モビルアーマーは小回りがきかない。しかしその加速性能や武器の威力はモビルスーツと比べ物にならない。

水中ではライフルを向ける動きすら間に合わないほどだ。

 

《当たらなきゃ、どうっていうことはないけど……!》

 

だからと言ってこうして隙を探られてはジリ貧だ。海上に出たいが、背中を晒せばすぐにでもビグロはこちらを攻撃してくるだろう。そうなれば不利なのはこちらだ。しかしこのまま向かい合ったとて、どうなるものでもない。

 

瞬間、背面に反応。

 

《っ、新手!来たか!》

 

飛んで来たのはミサイル。クレイバズーカを脇の下に構えて撃つと途中で弾頭が弾けて散弾となる。それがミサイルを撃破した。

 

《グラブロか……⁉︎違う、このミサイルの粒子は……ッ⁉︎》

 

勘付いた瞬間、新たなミサイル。

そしてビグロがこちらに真っ直ぐ接近していた。

 

《しまっ、くっ!》

 

後ろを振り向かずに手だけ回してビグロにビームを撃つが、避けられてメガ粒子砲を撃たれる。

ギリギリで避けるが、そのビームは射線上のミサイルに当たる。途端にミサイルが弾けて粘液のようなものをまき散らした。

 

《やはり……!トリロバイト!》

 

最初のミサイルはGN魚雷。しかし今回のミサイルはケミカルジェリーボムだ。

ケミカルジェリーボムというのは着弾と同時に粘液が目標にまとわりつき、瞬時に硬化することで動きを阻害させる爆弾のことだ。

それは百式の右足にまとわりつき、関節を硬化させてしまう。

 

《くっ、があっ!》

 

怯んだところをビグロがクローで掴んでくる。

 

《うぐぐぐ……っ!》

 

そのまま加速され、想定外のGと水に体が叩きつけられる。

そして百式はそのままクローで握り締められる。

 

《くっ、ぐっ……!抵抗、しなきゃ……!》

 

クローから逃れようともがくが、ビクともしない。

頭をクローに向け、自分に当たる危険もあるが頭部バルカンを撃つ。いくつかは自分に当たってしまったが、クローを破ることに成功した。

その一瞬の隙に百式はビームライフルをビグロに向ける。

 

《………》

《僕の方が早い!》

 

ビグロがメガ粒子砲を放とうとするが、百式がその前にビームライフルの引き金を引く。

ビグロはビームが貫通して爆散したが、横からトリロバイトが迫っていた。

 

(ここは、深い……!圧殺するつもりか⁉︎)

 

気付けば水圧で機体はミシミシと悲鳴をあげていた。

捕獲命令でも出ているのか、ユニの時もすぐにメガ粒子砲で狙い打てるのにそうしなかった。

ユニの時は窒息死を、息をしない百式の場合は圧殺を狙ったのだろうか。

しかし捕獲命令が出ているというのなら、トリロバイトのケミカルジェリーボムが厄介だ。

 

(まずは浮上しなきゃ……!)

 

百式はビームライフルでトリロバイトを牽制しながら浮上し始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「右にはいなかったですね」

「だから言ったのに」

「でも左ならスミキさんが捕まえてくれたかも……」

 

ネプギア達がようやく右の道から戻って来た。さっきの分かれ道を通り過ぎてしばらく行くと、ネプギアの目に飛び込んで来たのはびしょ濡れで膝をつくユニだった。

 

「ユニちゃん⁉︎」

「っ、ネプギア……」

「どうしたの、こんなびしょ濡れで!風邪ひいちゃう、すぐ帰らないと……!」

「……ダメよ。でも、だからって……!」

 

ユニが床を叩く。

駆け寄ったネプギアがその剣幕にビクリと震えた。

 

「なによこれ!地面がボロボロ……!」

 

ネプギアはびしょ濡れのユニに夢中で気付かなかったが、地面には無数の凹みや破片が飛び散ってボロボロだ。

 

「敵が来たのね⁉︎スミキは、どこ⁉︎」

「………ここよ」

 

ユニが指差すのは海。

 

「海の中ですか⁉︎」

「……なにもできなかった。今も……!」

 

ユニが歯軋りする。

アイエフとコンパはその姿に見覚えがある。

やはり、後戻りしている。変身できるようになる前と同じだ。

 

「………私、行きます」

「……はあ⁉︎あのね、海の中なのよ!前もロクに見えないのよ!息も続かない!機動力だって絶望的!悔しいけど、任せるしかないのよ……!」

「でも、だからって見捨てられない……!」

「他でもないアイツが言ったのよ⁉︎来るなってね!」

 

立ち上がったネプギアにユニも立ち上がって激昂する。

きっとユニは咄嗟にミズキに言われた言葉とノワールに言われた言葉を重ね合わせているんだろう。

必要ないから、足手まといになるから。そういう意味でその言葉を捉えているのだ。

違う、その言葉は温かさから来たものだというのに。

 

「でも、私もう目の前で人がいなくなるのを見たくないよ!」

「っ、アナタは見れたからいいかもしれないけど!私は見れもしなかった!待つしかできなかった!もう何年も待ち続けて……!」

「でも……!」

「落ち着きなさい、2人とも」

「あうっ」

「痛っ」

 

アイエフが2人にゲンコツを落とす。

2人が頭を抑えてアイエフを見た。

 

「ユニ様の言うことはもっとも。ゴーグルすらないのに水中戦なんて、プロセッサユニットがあっても絶望的よ」

「ほら!」

「でも、ネプ子達が傷つくのを見れなかったのは今戦ってるスミキも同じ。……アイツも行きたかったけど行けなかった。じゃあ戦えないアナタと戦えてるスミキの違いはなに?」

「…………」

 

ユニが黙り込む。

今必死に戦えているスミキとただ立っているだけのユニ。

何が違うというのだろう。機械の体だからとか、そんな理由じゃない。もっと内側の、本質的なものの違いだ。

 

「これは宿題ね。コンパ」

「はいです!やってるですよ!」

 

しばらく静かだと思ったらコンパは後ろでNギアを弄っていた。

 

「あの、何を……?」

「アイツの場所がどこか、特定してるの。そうすれば敵がどの辺りにいるか大体わかるでしょ。そしたらアンタ達の出番」

 

百式の場所をNギアで特定し、その動きから相手の場所を大まかに予測。

そしたらあとは適当に弾丸を撃ち込むだけだ。当たれば儲け、当たらなくても牽制になればいい。

そしてそれができるのは水上に浮けるネプギアとユニだけだ。

 

「場所、わかったです!これを見るですぅ!」

 

コンパがネプギアにNギアを渡す。

Nギアの画面上では光る点が所狭しと動き回っている。

 

「翻弄されてるわね。アイツ、後退して攻撃を受けてる感じよ」

 

ユニもその画面を覗き込んだ。

アイエフの言の通り、比較的ゆっくりに百式が後退し、一定周期で別の方向に動く。

おそらくすれ違いざまに攻撃されているのだろう。

 

「アンタ達、頭は冷えた?」

 

アイエフがネプギアとユニを見る。

 

「頑張るですよ!」

 

コンパがぐっと手を握って応援してくる。

2人は顔を見合わせてうんとうなづいた。

 

「変身」

「変身」

 

ネプギアとユニが変身してNギアの反応に従い、海面すれすれに浮く。

そしてお互いの武器の銃口を海に沈めた。

 

「行くわよ、ネプギア」

「うん、合わせて」

 

2人はニヤリと笑いあい、引き金を引いた。





マイナーですよね、ビグロとかトリロバイトとか。わからない人もいるかもしれないです。シャンブロでも良かったんですが、アレは強過ぎるのでやめました。百式が敵うわけないでしょアレ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1vs1

喧嘩の始まり始まり。味噌汁とか食べるんですかね。ネプギアの背中に鬼の顔とか普通に嫌です。


百式はトリロバイトの戦法に苦戦していた。いわゆるヒットアンドアウェイというやつだ。

魚雷を撃ちながら突進、すれ違いざまにクローで挟もうとしてくる。

百式はギリギリ魚雷を撃ち落とし、間一髪でクローを避けているに過ぎなかった。

 

(いつやられても不思議じゃない……なら……!)

 

覚悟を決め、ビームサーベルを握り直す。

いざとなれば相打ちになっても倒す。

ヴァイエイトは首を切断すると沈黙した。ならおそらく弱点は頭部。そこを狙って捨て身で攻撃する。

 

牽制でビームライフルを撃つ。

しかし水中だということもあり、高機動であるトリロバイトには掠りもしない。

じきにトリロバイトが焦れて魚雷を撃ちながらこちらに向かってくる。

覚悟を決めて魚雷を撃ち落としていると、

 

《っ、これは……⁉︎》

 

水面から撃ち込まれる弾丸。

めちゃくちゃに乱射されるビームは幸運にも魚雷を撃ち落としてくれる。

いや、これは幸運なんかじゃない。

 

《ネプギア、ユニ……!》

 

トリロバイトがそのビームに狼狽え、百式とすれ違うのをやめようとする。

しかし、そうはいかない。

 

《モビルアーマーの、弱点は!》

 

百式が少し右に近寄れば逸れようとしたトリロバイトの軌道に重なれる。

 

《そんな勢いじゃ、ネズミが追えないんだ!》

 

小回りがきかないモビルアーマーは後退や急旋回することができない。できるのはせめて軌道をそらすことだけ。

その軌道上に百式は重なったのだ。

 

《!》

 

下手な鉄砲もなんとやら。

めちゃくちゃな射撃がトリロバイトに当たり、トリロバイトが体勢を崩す。

その隙を百式は逃さない。

 

《助かる……!やっぱり記憶がなくても、彼女らは……!》

 

ケミカルジェリーボムで機動力が落ちていても、前進することは出来る。

百式は素早くEパックをリロード、ビームを放ちながらトリロバイトに突進する。

ビームは何発もトリロバイトに直撃するが、それでも最後の足掻きとばかりにクローを伸ばしてくる。

それが百式に当たる寸前、

 

《頼りになる!みんなとなら、きっと!》

 

百式が跳ねた。

クローは空振りし、百式はビームサーベルを自分の下にいるトリロバイトに振る。

すれ違う勢いで勝手にトリロバイトのモニターが切り裂かれた。

 

《擬似太陽炉、3機。いただいていくよ》

 

トリロバイトが沈んでいく。

回収は後にするとして、百式は浮上した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《っ、ふぅ。あ、いたいた》

 

百式が水面から頭を出すとネプギアとユニと目が合う。

手を振るとネプギアが振り返してくれるが、ユニは手を振り返してくれない。

それにほんの少し苦笑しながら百式は大ジャンプして陸地に降り立った。

 

《はあ、手間かかるなあ……。海水浴びた上にこれじゃ》

「わ、なんですかこれ。カチカチですぅ」

《剥がすのには手間がかかりそうだよ。ったく、厄介なことしてくれたなあ……》

 

コンパとアイエフが先に寄ってくる。

それからネプギアとユニが戻ってきた。

 

「スミキさん、大丈夫ですか⁉︎」

《もちろん。擬似太陽炉もゲットだよ》

「敵は擬似太陽炉持ちだったの?」

《うん。後で回収してもらおう》

 

ネプギアとユニは地面に立つ。

 

《それと、ユニ。怪我はない?》

「え、私?そりゃ、私は何もしてないし……」

《違う違う。乱暴に投げちゃったでしょ》

「あ、それは、別に……」

 

少し膝を擦りむいた程度だ。

こんなの我慢できるしすぐ治る。こんな怪我でへこたれてはいられないのだ。

しかし百式は固まった足でぎこちなく歩いて近寄り、ユニの頭を撫でた。

 

《それでも、ごめんね。それともう1つ》

 

次の言葉がユニの胸を包む。

 

《助かったよ。とても》

「っ、そんなこと、は……」

《助かった。これは紛れもない、事実だ》

 

鉄の仮面なのに、温かく見える。

なんだか微笑んでくれている気がして、ユニはその景色に不思議なデジャブを感じる。

 

(………何か、を……)

 

何か大切にしていたものを失くしてしまったような気がした。

あるいはそれは物で。あるいはそれは人で。もしくは……言葉?

 

それと同時にユニの胸に湧き上がるのは、劣等感。

目の前の優しい男とネプギアに対して。

その強さを羨ましいと思う。

そしてスミキに褒められたこと。それがユニの中に疑問を生じさせる。

頼りになったのなら、私は、上なのだろうか。負けていないのだろうか。私が今までしてきたことの努力は実っているのだろうか。私が羨むその強さに届いているのだろうか。

 

「……勝負」

《え?》

「勝負、して。私と。今じゃなくていいけど、私……」

《僕と?……クス、そっか、わからないよね》

 

全て見透かしたようにスミキが笑う。

 

《じゃあ、ネプギアと勝負してみたらどう?》

「え、私ですか?」

《僕はこの通り、万全に戦えそうにないから。それに、ネプギアは君の友達でしょ?》

「ネプギア、と、勝負……」

 

ユニがネプギアを見つめる。

ネプギアもユニを見つめた。

 

「……わかった。やるわ。やりましょう。……本気で」

「……うん、わかった。手加減はナシだよ」

 

ネプギアが変身した。

ユニも自分の武器ーーX.M.Bーーを握り直して空を飛ぼうとする。

そのユニにスミキが声をかけた。

 

《ユニ、君のその気持ちを振り切る魔法の言葉を教えてあげる》

 

ふと、ユニの中で何かが脈動した。

 

《ひたむきな心と負けん気。……今度こそ、忘れないでいて》

「わかりました。……え……?」

 

自然に敬語が出た。

さっきまでタメ口で話してたはずなのに。しかも何だか、敬語の方が心地よい。

しかも、何故かこの言葉を聞くと……。

 

《行ってらっしゃい、ユニ。頑張って》

 

ユニはそんなことを言うスミキを見ながら空へ舞い上がった。

胸の中に広がるのはさっきまでの嫉妬とか焦燥などを全て消し去るような安心感。

全てのわだかまりを捨てた真っ白な気持ちでユニはネプギアと対峙できる気がした。

 

「行くわよ、ネプギア」

「うん、負けないから!」

 

 

 

「で、どういうつもり?」

《何も考えてないよ。ただ……ネプギアが相手した方がいいと思っただけだよ》

「みずみずはどっちが勝つと思うですか?」

《さあね。けど、間違いなく2人は強い。それに気付けるかだと思うんだ》

「なにそれ。ナルシストになれとでも言ってるの?」

《クスクス、そんな極端な話じゃないよ。でも、頑張った自分は認めてあげなきゃ》

「自分にご褒美ってことですか?」

「学生のテスト明けじゃあるまいし」

《クスクス、じゃあ僕は帰るね。これ、剥がさないとだし》

 

百式が光になって消えていく。

百式は最後にぶつかり合う2人の弾丸を見た。

 

「っ!」

「まだ……!」

 

2人が放ったビームがぶつかり合ったのだ。

お互いにビームは弾け、2人とも動き出す。

 

「誰が相手でも、弱点を突けば!」

「そこを補ってこそでしょ!」

 

ネプギアがM.P.B.Lを連射するが、全てユニにかわされる。

ユニは一発必中の心意気でX.M.Bを向ける。

 

「私は近接武器を持ってない……。ネプギアほど連射もできない、けど!」

 

ユニが放ったビームはネプギアへと真っ直ぐに向かう。ネプギアの動きを読んだのだ。

 

「っ、くっ!」

 

咄嗟に防御魔法で受ける。

しかしX.M.Bの威力が高く、ネプギアはガードしたものの後退してしまう。

再びネプギアが攻勢に出ようとした瞬間、背筋が凍るような危機感を感じる。

 

「っ!」

 

その危機感に従い頭を逸らすとこめかみをビームが掠めていった。動き損ねたネプギアの数本の髪が消える。

 

「単発の威力と……なにより、私の狙撃の腕が!」

「仕切り直して、好き勝手撃たせちゃダメだ……!」

 

ネプギアが大きく回り込むように移動してビームを放つ。当てようとしなくていい、当てなくていい。牽制になれば、狙撃の邪魔になれば。

しかしユニも牽制の射撃程度で狙撃ができなくなるほど臆病なわけではない。

虚と実の見分け。

動かなくてもいい射撃と動かなければならない射撃を見分ける。フェイントと本命を見分けるのだ。

そして自分は……!

 

「狙い撃つわよっ!」

「っ、く……!見越し射撃……!単純な動きじゃ読まれる!」

 

本命を撃ち続ける。それこそがネプギアへの牽制となる。ネプギアが近寄りたくなくなる。

ユニは完全にネプギアの動きを読んでいた。

それは一朝一夕で身につくものではないし、ましてや計算によるものでもない。

熟練のスナイパーだからこその感覚。それがユニに一瞬先の敵の動きを読ませるのだ。

 

「やっぱり、強い!あの威力は、手強い!」

 

やはり、脅威はX.M.Bの威力。

やっぱり……あれ?

私、ユニちゃんが変身したところ、見たことあったっけ……?

 

「そこッ!」

「っ、今は……!」

 

この違和感は捨てる。後で考えればいい。

この戦いに迷いはいらない。迷いや戸惑いがあれば、負ける!

 

「負けられない!なら……!」

 

X.M.Bとユニの狙撃の腕。

この2つをかわし、いなせるほどの機動力がなければ……!

 

「今度こそ!」

「プロセッサユニット、出力あげて!」

 

ネプギアはプロセッサユニットの出力を上げる。

ユニが放ったビームはネプギアを射止めるかと思われたが、ネプギアが急加速したために予測を外れ、虚空へ吸い込まれてしまう。

 

「この加速は、使えこなせるか、私次第!」

 

唸るプロセッサユニットの勢いのままネプギアがユニに向かう。

虚を突かれたユニが辛うじて狙いをつけてビームを撃つが体を逸らしたネプギアに避けられる。

 

「今!」

「しまっ……!」

 

その瞬間、ネプギアはユニの目の前に迫っていた。

反射的にX.M.Bを構えたが、多分それごと切り裂かれる。そうすれば攻撃の手段を失ったユニの負けになる。

届かない。自分の強さは誰にも届いていない。

1番身近な友達にも敵わない。こんなことではノワールを超えるなんて夢のまた夢だ。

 

悔しさにユニは切られる前から歯を軋ませる。

涙が滲む暇もない。切られる、そう思った時。

頭の中をノイズが駆け抜ける。知覚するのも遅れ、何よりも早く言葉が響く。

 

『ひたむきな心と負けん気』

 

「ーーーー!」

 

「っ、え⁉︎」

 

ネプギアが驚愕した。

ネプギアももらったと思った。これで勝ちだと思った。

真っ二つに切り裂かれるはずのX.M.B。その銃底にビームの刃が発振し、M.P.B.Lを受け止めている。

ビーム・ジュッテ。それがその装備の名だ。

 

「私が、勝つの……!」

 

歯軋りは力を込めるために使え。

涙は勝った時に流せ。

諦めるのは……もうナシだ!

 

「負けてたまるもんですか!アンタに勝つ!勝ってみせる!勝ちたいの!」

 





個人的に無茶苦茶便利だと思うんですよ、ビームジュッテ。正しくはジッテだとか銃につけるものじゃないとかいうツッコミはなし。
ちょっとした疑問なんですけど、ビームジュッテって斜めにも枝みたいにビームが突き出してるじゃないですか。あれ普通のビームサーベルじゃやらないんですかね。中世の剣みたいでカッコ良さそうですけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝ちたい

何が起こったか、ユニにもわからなかった。

間違いないことは、彼の言葉が勇気を与えてくれたこと。

その勇気に自分の何かが応えてくれたこと。

その何かはユニにはわからなかった。だがユニはそこに懐かしさを感じていた。

だが、今は!

そんな懐かしさに戸惑う暇もない!

このチャンスを、掴む!

 

「出力、よこして!」

 

ユニのプロセッサユニットが唸りをあげた。

ネプギアが使えたのなら、自分だってなんとしても使いこなせなければならない。負けられないのだ。たとえどんな些細なことでも!

 

「強い……!」

 

ネプギアがその勢いに押される。

しかしネプギアも押されたままで終われない。

 

「私だって、負けられないの!」

「それは私も同じ!お姉ちゃんを倒した敵、アナタを倒した敵を超えなきゃいけない!なら、私、どんなヤツよりも!」

 

ネプギアもプロセッサユニットの出力をあげた。

その瞬間、ユニが勢いを抑えてネプギアをいなす。

 

「しまっ!」

「強くなるッ!」

「ああああっ!」

 

背中を見せたネプギア。その背中に容赦なくX.M.Bを撃ち込む。

 

「まだでしょ⁉︎そんなんで、終わるわけないわよね!」

「くっ、やああっ!」

 

再び飛翔するネプギア。

しかし今のビームでプロセッサユニットがダメージを受けてしまったらしく、動きが鈍い。

 

「私には負けられない理由がある!勝ちたいと思う!」

「それは、私も同じ!」

「そう!彼も同じだった!」

 

ユニの放つビームがネプギアを掠める。

 

「でも、彼は戦えてる!あんなに強い!それは何故⁉︎なんであんなに戦えると思う⁉︎」

「っ、スミキさんは……!」

「私が勝てない敵をああも簡単に倒す!だって、そうよ!戦いは……ッ!」

「っ⁉︎」

 

ユニがネプギアに向かって飛翔した。

ネプギアはその気迫に押されて後退してしまう。しかしユニが接近する方が速い。

ユニがネプギアに肉薄した。

 

「勝ちたいって、そう強く思ったほうが勝つ!私はアナタに、勝つ!」

「ええいっ!」

 

苦し紛れにM.P.B.Lを横に振る。

しかしユニはそれすら見透かしたように体を沈めて避けた。

 

「うっ!」

 

ネプギアの腹にX.M.Bが押し付けられた。

そこでようやくネプギアはユニの狙いがわかる。

0距離での……!

 

「でやあぁぁぁぁッ!」

「きゃああああっ!」

 

X.M.Bの最大出力!

ネプギアがビームに吹き飛ばされて海に沈んだ。

 

「ネプギア!」

「ギアちゃん!」

「やめて!」

 

助けようとしたアイエフとコンパがユニの制止で立ち止まる。

 

「真剣勝負なの!手を出さないで!」

 

その剣幕に2人は動くのをやめる。

 

海の中ではネプギアが泡と共に沈んでいた。

意識はあるのに、体が動かない。腹が燃えるように熱い、痛い。

戦いは勝ちたいと強く思った方が勝つ、と言うのなら。ユニが勝ちたいと思う理由はなんだろう。

決まっている、姉のためだ。ノワールを助けたい、そのためにはノワールを倒した敵にも勝たなければならない。だから勝ちたい。

ネプギアだってそれは同じだった。ネプテューヌを助けるために、強くならなければならない。

でも、今はユニの方が強い。それは何故?姉への想いなら負けているつもりはない。

 

(別の、何かを………)

 

なら、他に理由がある。

ユニを強くさせる理由があるのだ。

 

でも私は強くならなければならない。誰よりも。だって、そうだ、私は。

 

「救世主になるんだ……!」

 

彼は騎士になるといった。

私は救世主になる。何故かはわからないが、胸の中から溢れるこの気持ちに嘘をつかず、向き合って……!

 

「私、救世主になる!ゲイムギョウ界を救う救世主に……!」

 

それが私の戦う理由。

救世主になるため、私は……!

 

ネプギアのプロセッサユニットが唸りをあげた。水の柱をあげながら舞い上がる。

ネプギアのM.P.B.Lにラインが入っていく。そしてネプギアは舞い上がった。プロセッサユニットが何故かはわからないが回復している。いや、回復どころか出力も上がっている。

どうしてなんて聞く暇はない。今はこの力を使って!

 

「……………」

「ネプギア、いいわよ、それでこそ!」

「私だって、もう負けられないの。ユニちゃんはきっと、勝ちたいだろうけど……私は!それ以上に勝ちたい!」

「勝敗が決めてくれるわよ!どっちが勝ちたかったかってね!」

 

ネプギアがM.P.B.Lから放つビームが螺旋を描いた。

ユニはそれを避けるが、恐れを感じた。

さっきまでのネプギアではない。武装も、心も、何もかも。

 

「ネプギアぁぁぁぁッ!」

「やああぁぁっ!」

 

だからと言ってユニは怯まない。

狙いをつけてX.M.Bを撃つが、ネプギアはそれを躱す。

 

(動きが違う!)

 

ネプギアのプロセッサユニットが直ったどころか、強化されている。

よく見れば背中にウイングのようなプロセッサユニットまであるではないか。

 

「そこをぉぉぉっ!」

「うっ、やあっ!」

 

ネプギアのM.P.B.Lの斬撃をビームジュッテで受けた。激しいスパークが飛び散る。

 

「私は、救世主になる!お姉ちゃんも、ゲイムギョウ界も救う、救世主に!」

「それがネプギアの戦う理由……⁉︎それでも!」

 

ユニがギリリと歯軋りする。

全人類のために戦う。ああ、なんと立派な理由だろうか。

自分のプライド、自己顕示欲、自己承認欲のために戦っている自分とは大違いだ。

しかし、だからなんだと言うのか。

情けなくても、みっともなくても、それでも私は勝ちたい!

 

「負けたくない……!負けるのは惨めだから!強くなりたい!強くないと、誰にも認められない!お姉ちゃんにも、褒めてもらえない!」

「それが、ユニちゃんの……⁉︎」

「みっともないと笑いなさいよ!情けないって罵りなさい!けど、それでも、私は勝つ!勝つのッ!」

 

ユニの背にコーン型のプロセッサユニットが新たに2つ、装備された。

そしてX.M.Bが段々と縮んでいく。

 

「強くなりたいと!そう願うことが……ァッ!」

 

お互いに間合いを取って武器を構え、引き金を引く。

お互いのビーム同士がぶつかり、弾けて消える。

 

「小型化されてる……!この取り回しと、連射力なら!」

「私も強くなりたい!強くないと、誰も救えない!だから……!」

 

2人がビームを乱射しながら突進し合う。

2人の体に向かって正確にビームが飛んでいくが、2人はそれを最低限避けながら進む。

無論、完全に避けきれるはずもなく、お互いの体にビームが当たる。

それでも2人は進む。退がる選択肢はない。退がるということは即ち、勝ちたい気持ちが負けているということだから!

 

「しぃぃぃずめぇぇぇぇぇッ!」

「はああああぁぁぁッ!」

 

2人の銃の銃口がぶつかり合った。

そして引き金を引くのも同時。

 

「あうっ!」

「あっ!」

 

2人のライフルが音を立てて爆発する。

2人の間を煙りが覆い、視界を奪う。

 

「やああっ!」

「っ、あっ⁉︎」

 

しかしすぐにネプギアは前に出ていた。

武器は持っていない、己の拳で殴りつける!

 

「はぁぁぁっ!」

 

怯んだユニにタックルしてプロセッサユニットの出力を上げる。

そのまま加速してネプギアはユニを地面に激突させる。

 

「あうっ!」

「っ、はあっ……!」

 

ユニが強く体を打ち付けた。

ネプギアはユニに跨って拳を振り上げる。

 

「……………!」

「……私の、勝ちだよ」

 

だがその拳を解いてゆっくりと下ろす。

ネプギアは立ち上がってユニの上からどく。

ユニも立ち上がって振り返り、上を向く。涙を流したくないからだ。しかし嫌でも嗚咽は漏れる。

 

(負けた……!あの時、拳が出ていれば……!)

 

心のどこかで退がろうと思ってしまった。だがネプギアはあの時前に出ようと思ったのだ。その差がこの敗北だ。

 

みんなのために戦うネプギアと、自分のために戦うユニ。勝ったのはネプギアだった。それはつまり、ユニが間違っていたということだ。

 

「ユニちゃん……」

「っ、く……!」

 

ネプギアの方が強かった。そして彼は、きっとさらに強い。

強いということはそれだけ譲れないものが多いということだ。自分には背負うものが少な過ぎる。

 

「次は、勝つ……っ!次こそはっ……!」

「あ……」

 

飛び立ったユニの背にネプギアの声が聞こえた。

数瞬悩んだ末にユニはネプギアに向き直る。

 

「次は絶対に勝つから!せいぜい、それまでに強くなってなさい!いい、約束よ!」

 

涙を零しながらユニがネプギアの目を見てそう言う。

 

「ユニちゃん……」

 

少し嬉しそうな顔をしているネプギアの顔をそれ以上は見つめていられず、ユニはまた飛び立った。

少なくとも、今回はネプギアから逃げなかった。

それだけは、自分を評価してあげてもいいかもしれないと思いながら。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「あ、終わったらしいわよ、ネプギア」

「本当ですか⁉︎」

 

アイエフが携帯を弄りながらネプギアに言う。

場所は宿泊先のホテル。

あの後、教会に行きケイに報告を行なった。

 

『やあ、集め終わったみたいだね』

『一応報告に来てるんだから、先回りするのはやめてもらえるかしら?』

『はは、すまない』

『君達、良く集めたね……』

 

青年は目をまん丸にして驚いていた。

 

『回収はこちらで行おう。頼めるかい?』

『了解しました。ですが、バーチャフォレストの方は……』

『うん、こちらからイストワールに連絡しておこう。とりあえずは海に沈んだ擬似太陽炉を』

『はい』

 

ケイがそう言うと青年は部屋を出て行こうとした。しかし、唐突にケイがそれを呼び止める。

 

『そうだ、君』

『はい?』

『………。……気をつけてくれ。まだマジェコンヌが残っている可能性もある』

『はい、わかりました』

 

何かを言い損ねたような感じだったが、青年は特に違和感を感じずに行ってしまった。

 

『あの、ところで、シェアクリスタルの方は……』

『ん。ああ、調べはついているよ。大体の場所だけどね。だけど……』

 

ケイが我に帰ったように言ったが、途中で言葉を切る。

 

『いいのかい?君、武器が壊れたみたいだけど』

『あ、そういえば……』

『修復はこちらですることになるかな』

『まぁた素材集めに行けって言うの?』

『はは、そんなことは言わないさ。もともと原因はユニにあるのだし』

『そんなことまで知ってるですか?』

『ユニを見ればわかる。これでも長い付き合いだからね』

 

というわけで、場所はわかっていながらもシェアクリスタルを集めに行けない状況にあったのだ。

 

「じゃあ、行くです」

 

むん、と立ち上がったネプギアは支度を整え始めた。





続編が出た時のキャラが序盤の方は弱い技とか能力使ってる率は異常。もしくは最強レベルの技が最低レベルになってたりとか。
その例に漏れずネプギアとユニも退化。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハンカチと黒鼠


あ^〜、ケイ可愛いんじゃ〜


ネプギア達と話し終わった後、ケイはイストワールと通話をしていた。

目の前にイストワールのホログラムがある。

 

「……というわけだ。バーチャフォレスト最深部にあるガンダニュウム合金を回収してほしい」

《わかりました。それについてはこちらで行います》

 

イストワールは快く了承してくれる。

しかし何かを思い出したのか、ピンと指を立てた。

 

《そうでした。ガンダニュウム合金を1機分だけ頂いてもよろしいでしょうか》

「ん、まあこちらでしたいのは成分調査程度だからそれくらいはいいけど……何故だい?」

《使って作りたい機体があるんです。あと、出来れば擬似太陽炉も譲ってほしいです》

「幾つ?」

《1つで十分です》

「……出来ないことはない。こちらで作りたいのは2つだからね」

《でも、それに見合う何かですか?》

「そういうことになる。無償というのは何だかムズムズして苦手なんだ」

 

ケイがそう言うとイストワールは小さく笑った。

 

《では、何をご所望ですか?》

「そうだね……。と言っても今は特に困ったことはない……」

《貸しにします?》

「それでもいいが……」

 

む〜んとケイは考え込む。

別にそんな大きなものを請求するつもりはない。そもそも記憶を戻してもらっただけでも一生返せないものがあるだろう。

そしてふと、ずっとポケットの中に入りっぱなしになっている物のことに気付いた。

 

「そうだ、これを……」

《それは……ハンカチですか?》

 

言いかけてケイがピタリと止まる。

もしかして……いやもしかしなくてもこれは大分恥ずかしい質問なのではないだろうか。人としてというか、常識としてというか。

 

(あの時から返せないなんてなあ……)

 

すぐに洗濯してポケットの中にしまっておき、何度か彼に会う機会はあった。

しかしその度に返せず、すると気まずくなりのスパイラル。あれか、反螺旋ギガドリルブレイクなのだろうか。

ちなみに僕はこのスパイラルって言葉はあまり好きじゃない。デフレスパイラルとか言うし。

 

「…………」

《それ、どなたのですか?イニシャル、ケイさんのじゃありませんよね?》

「む」

 

手に握って見つめていたらイストワールに勘付かれてしまった。

そう言えば彼の名前すら知らない。それは大分失礼なのではないだろうか。

 

「……いや、確かに僕のハンカチではないよ。だが決してこのハンカチは要求に関係するものじゃない。そう、少し汗をかいて。この部屋は多少蒸し暑くてだね……」

《返したいんですか?》

「…………だから」

《返したいんですね?》

「……はい」

 

珍しく論破された。

ここぞという時のイストワールの迫力には眼を見張るものがあるな……などとどうでもいいことを考えて現実逃避を試みるも上手くいかない。

 

「まあ、なんというか、非常に恥ずかしいことなのだが、未だにこれは返せていないね」

《何故です?貸してもらったっきり会えないとかですか?》

「いや、数度会っているよ。だが、なんというか、返せないままズルズルと……」

《珍しいですね。そういうのにはドライな方だと思ってましたけど》

「僕もビックリだ。こうも気まずくなるとは思ってなかった」

 

例えば……例えばこのハンカチがイストワールのものだったとして、僕は何の気兼ねもなくサクッと返してしまうだろう。

 

《では、手紙と一緒に返すというのはどうでしょう》

「手紙かい?しかし、わざわざハンカチを返す程度で……」

《そんな重っ苦しいものじゃなくていいんですよ。『この前はありがとう』って書いた付箋なんかを貼り付けておけばいいだけです》

「なるほど。それなら簡単そうではあるが……しかし……」

《まだ何か?》

「実は、僕はこのハンカチの持ち主の名前すら知らない。つまり彼が何処で何をしているかもわからない」

(あ、受け取ったのは男の人なんですか。……紳士ですね)

 

女に渡すハンカチを持っているなど、いい男ではないか。本当の紳士を目指して波紋でも習得しているのだろうか。

それはさておき、ケイはハンカチを置く場所に困っているのだろう。部屋に置いておけるならそれが1番いいが、そもそもの部屋を知らないのだろう。

 

《ではやはり手渡ししかありませんよ。何度も会っているのでしょう?》

「うむ……。僕もそれしかないと思う。勇気を出す……というより勇気を出すほどのことでもないし」

《なんか、恋する乙女の言い草みたいですね》

「恋する、乙女?ははっ、勘弁してくれ。僕はそういうのに1番縁がない女だよ」

 

チカはベールにゾッコンだし、ミナは(ケイの勝手なイメージではあるが)旦那と幸せな家庭を持ちそうだ。

 

「イストワールこそ、自分のことを棚に上げないでくれ」

《う……》

 

イストワールは絶賛恋する乙女ではないか。

墓穴を掘ってしまったイストワールがピクリと眉をひそめる。

 

《ま、待ってください。ジャックさんが一体どうしたと……》

「聞いたよ。ミズキから」

《……こんちくしょうめ、です》

「とても恋する乙女の口から出た言葉とは思えないね」

 

ケイが言えたことではないかもしれないが、女らしくない。もう少しお淑やかになるべきではないか。

 

「とにかく、助言ありがとう。これは返してくるとしよう。それじゃ」

《……勝ち逃げですか》

「バレたか。ははっ」

 

プツッと通話を切る。

不機嫌な顔をしていたが、まあいいだろう。

しかし、生殺しの状況とはなかなか面白い。どう見てもお互い好き同士なのに、約束が果たせないから好きと言えないとは。それもこれもマジェコンヌが原因であるが……。

 

「少しくらい、サボっても面白いかもしれないな」

 

1日も早く、なんてことは言わない。むしろ1日でも遅らせてからかいたい。

 

「珍しいですね。ケイ様がそんなことを仰るだなんて」

「む」

 

そんなことを冗談交じりに考えながら部屋を出ると目の前に青年がいた。

 

「はは、もちろん冗談だよ」

「サボるのは確かにダメですけど、頑張り過ぎもやめてくださいよ」

「肝に命じているよ。……そうだ」

 

さも今思い出したかのように言う。

本当は顔を見てすぐに思いついていたのだが、それは言いっこなしだ。

 

「……これ、この前はありがとう」

 

ハンカチをポケットから出して差し出す。

気恥ずかしかった理由としては泣いているのを見られたから、というのもあるのだがそれはさすがにイストワールには言えなかった。

 

青年はハンカチを見て今思い出したように手をポンと叩く。豆電球でも光ったのだろうか。

 

「ああ、いえ、わざわざ返さなくても。捨ててもらっても構わなかったのですが」

「そういうわけにはいかない。それに、これは君のイニシャルだろう?」

 

『I.R』、その刺繍がされていた。多分彼の名前のイニシャルだろう。

 

「あ、はい。母が縫ってくれまして」

「なおさら返さなければならなくなるよ。ほら」

 

青年がケイからハンカチを受け取った。

 

「ところで、君は何故ここに?」

「ああ、擬似太陽炉の回収が終わったので、報告に」

「そうか。問題は?」

「特にありません」

「ならいいよ。お疲れ様」

「ありがとうございます。それでは」

「……あの」

「はい?」

 

後ろを向いて歩き出した青年を呼び止めた。

まだ聞くべきことがあった。

 

「……君の名前を、教えてくれるかな」

「名前ですか。えっと、『イデ・ランド』と言います。変な名前ですよね」

「ランド……君はランドというのか」

 

呼びやすい名前ではないか。

 

「それでは、私はここで」

「ん、わかったよ。それじゃあね」

 

手を振って別れる。

心がスッとした……というか。悩みが消えた時というのはこんな気分だろう。怒られる、と思ったら大して怒られなかった時みたいな。

ケイは心地よい気持ちになったが、今まで何を考えていたのかを忘れてそれを思い出すのに時間がかかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ここ、ですか?」

「のはずよ。今更嘘はつかないと思うけど」

「でも、プラネテューヌのは目立ってたですよね?」

「そうね。こんなひらけた場所で見当たらないわけないと思うけど……」

 

リピートリゾートの無数に枝分かれした小島の1つ、そこにネプギア達はいた。

その辺りに反応があったとケイは言っていたが、周りにはキラキラ光るクリスタルなどありはしない。

 

「そうです、こんな時こそーー」

「発想の逆転?」

「チェス盤をひっくり返すですか?」

「あう、言われました……」

 

エンジンがかかりかけたネプギアだったが、2人の先回りで止まる。

 

「少なくとも、このあたりの視界内にはないけど?」

「……海の中、とか……」

「海、ですか?確かに気にしてなかったです」

「でも、深いところにあったらさすがにあの輝きでも……ん?」

 

アイエフが周りを見渡していると、ふと視線を止める。

その先をネプギアもつられて見ると……。

 

「ワレチュー……ちょうどいいわね」

 

真っ黒な巨大ネズミ。ワレチューである。

 

「えと、あの、何を……?」

「とっちめて情報を聞き出すわよ。どうせアイツもシェアクリスタルを狙ってるんだろうし」

「いや、あの、でもそれは……」

「いいのよ、マジェコンヌなんだし。ちょっとくらい殴って蹴って聞き出すだけ」

「それちょっとですか⁉︎」

「ほら行くわよ」

「あ、待ってください!」

「あ、わ、私も!置いてかないでほしいです〜!」

 

3人がワレチューに向かって歩く。

最初に突っかかったのはアイエフだった。

 

「ちょっとアンタ。オイコラ。待てって言ってんでしょ」

「ガラ悪すぎですぅ!」

「チュ?ーーッ、チュ……?」

 

ネズミがピクリと悶えるように頭を抑えた。

おそらく記憶の疼きだろう。

 

「アンタ、シェアクリスタルを探してるんでしょ?場所吐きなさいよ」

「チュ、なんチュかお前は。いきなり来てなんだっチュ。……あ!あの時の!」

「思い出してもらえたみたいね」

 

ワレチューが高速で後退る。

 

「あの、ネズミさん。シェアクリスタルの場所、教えてもらえないですか?」

「あ、コンパちゃん!会いたかったっチュよ〜!コンパちゃんとシェアクリスタルの両方に出会えるなんて、今日はなんて日だ!っチュ!」

「やっぱり見つけてるのね。ほら、痛い目にあいたくなかったら場所を教えなさい」

「そうはいかないっチュ!まずはお前らを倒して……!」

 

ワレチューが手をあげると地面がボコボコと隆起する。

そこから現れたのは金棒を持った1つ目の機体。

 

「無限の兵に埋もれるがいい!っチュ!」





アンリミテッドソルジャーワークス。
っつうかむしろアイオニオンヘタイロイ?の方がしっくり来るかも。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

AGE1-タイタス-

タイタスの語源って多分タイタンですよね。タイタンってティターンって読むんですって。ティターンズはタイタスだった可能性が微レ存ですね。


地面から無数の鬼のようなモビルスーツが湧いてくる。1つ目で棍棒を持っており、紺色の体。地面から湧き出す様子はゾンビのようでもある。

 

「こ、これは……」

「やっちまうっチュよ、デスアーミー!」

 

ワレチューの号令で大量のデスアーミーが襲いかかる。

 

「っ、多すぎよ!」

「でも、やるしかないです!」

「シェアクリスタルは、守らなきゃ……!」

 

ネプギアが変身して飛翔した。

上からM.P.B.Lを乱射する。狙いをつけなくても地面を覆い尽くすほどの数だ、勝手に当たってくれる。

 

「何よこいつら、雑魚じゃない!」

「ドンドン倒すですよ!」

 

アイエフが拳銃を乱射してデスアーミーに当てていく。デスアーミーは拳銃の弾丸程度でも倒れていく。

コンパは巨大な注射器から毎度お馴染み、よく成分がわからない液体を噴射。デスアーミーはドロドロになって溶けていく。

 

「これだけの密度なら、まとめて!」

 

ネプギアがビームを撃ちながら下降する。デスアーミーは棍棒型のビームライフルを構えてネプギアに撃つ。

 

「っ、濃い……!けど、そんなめちゃくちゃな狙いじゃ!」

 

しかしネプギアはそれをかいくぐっていく。

そしてネプギアがM.P.B.Lを持ち替えた。

 

「ミラージュッ!ダンスッ!」

 

ネプギアの舞うような連撃にデスアーミーはまとめて倒れていく。

地面に足をついたネプギアをデスアーミーが棍棒で殴ろうとするが、当たる寸前に空に逃げている。

 

「ユニちゃんと戦ってわかる……!こんな弾幕、無意味なんだ!」

 

狙いも何もない適当な弾幕では弾幕たり得ない。全ての弾が相手を撃ち落とすための弾であってようやく、弾幕は弾幕なのだ。

 

「邪魔しないでください!私は、私は!」

 

ネプギアがM.P.B.Lの照準を合わせる。

最も敵が密集しているところを薙ぎ払うように!

 

「救世主に、なるんですっ!」

 

最大出力のM.P.B.Lのビームがデスアーミーを薙ぎ払い、地面ごと削り取る。デスアーミーで覆い尽くされた地面がようやく見えたがしかし。

 

《…………》

 

「この、数ばっかり!」

「多すぎるですよ!」

 

すぐに地面からデスアーミーが湧き出してくる。味方の残骸を踏み越え、砕き、前に進軍する。

その様子には一片も死を恐れる様子はない。ただただ進軍し、敵を倒すだけの兵隊。

 

「キリがない!コンパ、切り抜けるわよ!」

「で、でも、この数じゃ……!」

「どの道このままじゃ数に押されて全滅よ!潰すべきは……!」

 

デスアーミーの奥の奥。

 

「中枢よ!」

「ネズミさんを、倒すですか……⁉︎」

「そうよ。覚悟決めなさい!遅れても助けないから!」

 

 

ーーーEXAMシステム、スタンバイーーー

 

 

「さあ、行くわよ……!」

 

アイエフの瞳が赤く光る。

2丁の拳銃を手首の動きだけでリロードし、デスアーミーの群れに向ける。

 

「道を開くです!お注射行きますよ〜っ!」

 

コンパが注射器から大量に液体を振りまく。

雨のように降り注ぐ液体がデスアーミーを溶かして道を開いた。

 

「弾が切れるまで、撃ち続けるわ!」

 

アイエフが拳銃を乱射しながらデスアーミーの群れを突っ切り始めた。コンパもその後について行く。

 

「んっ……!このっ……!」

 

ネプギアはデスアーミーの弾幕を避けつつ、M.P.B.Lを撃ち、地道に数を減らす。しかし焼け石に水どころか、数を減らす以上のスピードでデスアーミーは増えている。

 

「助けに行きたいけど……っ!くっ、数だけ!」

 

アイエフとコンパの援護に参加したいが、弾幕が濃くて近付けない。

 

「はっ、ふっ、はっ……くっ!」

 

アイエフの拳銃の引き金はカチカチと音を立てるだけになる。弾が切れた拳銃を目の前のデスアーミーに投げつけ、両手からカタールを抜く。

 

「近寄らないでくださいです!」

 

コンパの液体も底をつく。

針で攻撃して行くが、それでは手数が足りない。

 

「なんとしても、ここを超え……っ⁉︎」

 

殺気を感じて攻撃をかいくぐっていたアイエフだったが、突如地面から伸びた手に足を掴まれる。

 

「しまっ……!」

 

間髪入れずに周りのデスアーミーが棍棒を振り回してくる。数回はカタールで受けられたが、手が思いっきり足を引っ張ってきた。

 

「うっ、きゃっ!」

「あいちゃん!」

 

転んでしまうアイエフ。

身動きが取れないアイエフにデスアーミーが棍棒を振り下ろしてくる。

 

「っ」

「危ないです!」

 

コンパがアイエフに覆い被さって庇う。

チョバムアーマーのスキルがあるが、それでもこの数では……。

 

「コンパ、ダメよ、先に行きなさい!」

「む、無理です!あいちゃんを置いていけないです!あうっ!」

「アイエフさんと、コンパさんが……!やめてくださいっ!」

 

デスアーミーがコンパを塗りつぶすように上に集まって行く。

それを見たネプギアはM.P.B.Lを構えたが、

 

(この軌道じゃ、万が一……!)

 

躊躇う。

デスアーミーに当たらなければコンパに当たってしまう恐れがあるからだ。

 

「吶喊、しますっ!」

 

ネプギアが弾幕の中に突っ込み始めた。

射撃がダメだというのなら、近接攻撃しかない。

 

「2人から、離れてっ!」

 

コンパの上にまたがるデスアーミーから切りつけて倒す。

低空で飛んで周りのデスアーミーも倒すが、キリがない。

 

「うっ、く……!」

「ネプギアも、逃げなさい!あのネズミを探して、とっちめるのよ!」

「でも、それでも、私は……!」

 

見捨てることができない。

甘えていると、縋っているだけと思われても仕方ない。それでも今ここで傷つく人を捨てられるほど、今の私は強くない……!

 

「また見捨てたら、あの時と同じだから!」

「っ、アンタは!」

 

後ろからデスアーミーか棍棒を振るってきた。

 

「っ、あっ!」

 

M.P.B.Lで受けたが、弾き飛ばされてしまった。海の中にM.P.B.Lが沈んでいく。

 

「しまっ、くっ……!」

 

正面のデスアーミーが棍棒を振り下ろしてくる。

 

捨てる強さは持っていない。きっと捨てられる人は強い。捨てられるだけの覚悟がある。何かを捨てて、何かを得ることのできる人だ。

でも、きっとそれでは誰1人救えないから。私は誰かを救いたいから。

 

「一緒に行くんです!私達が、救世主に!」

 

腕をクロスして棍棒を受ける。

ネプギアの腕が砕かれると誰もが思ったはずだ。

しかし、砕かれたのはデスアーミーの棍棒だった。

 

《………⁉︎》

「使いこなす……!私の中に眠る力を!」

 

ユニの時に使えた力。それを今こそ発揮する時だ。

もっと強く、もっと硬く、もっと重く!

きっと、この力は私の意思に応えてくれる。

なら、叫べ!心の奥底から、願え!

 

「ビーム・グロォォォブッ!」

 

ネプギアの拳がビームに覆われる。そしてその拳を、デスアーミーの顔面に叩き込む!

 

「ビーム・ストレートッ!」

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

デスアーミーがネプギアの拳で吹っ飛んでいく。

吹き飛んだデスアーミーは後方のデスアーミーをも吹っ飛ばし、大きく直線状の道が出来る。

 

「……チュ……?」

「素手だからって、諦めない……!」

 

デスアーミーが吹き飛んでできた道の向こうにはワレチューがいた。

すかさず周りのデスアーミーがワレチューを守るように立ちはだかる。

 

「素手だからって諦めるほど、私は素直じゃないから!」

 

ネプギアの右足の先からビームが現れ、ネプギアの右足を覆っていく。まるでドリルのようにつま先が尖ったビームは脛まで伸びている。

 

「ビーム・ブーツ……!地面からアナタ達が湧いてくるのなら!」

 

ネプギアが大きく舞い上がり、右足を地面に向ける。

 

「やあああぁぁぁッ!」

「っ、チュ⁉︎ま、まさか……!」

 

急下降したネプギアの右足がついでのようにデスアーミーを貫き、さらに地面にまで突き刺さる。そしてネプギアの足が突き刺さった部分から小島はヒビ割れ、そのヒビはパキパキと音を立てて小島全体に広がっていく。

 

「この小島の中央には小島を支える支柱があります……!今、その柱を砕きました!」

「と、いうことは……チュ〜っ!」

 

小島が砕け散り、海に破片をまき散らした。

デスアーミーも足場をなくし、次々と海に落下していく。

 

「きゃっ、わぷっ、水……⁉︎」

「お、溺れるですぅ〜!」

「今、引き上げます……っん!」

 

アイエフとコンパをネプギアが引き上げて近くの小島へと立たせた。

 

「はあっ、ふぅ……助かったですぅ」

「ったく、びしょ濡れ……って、アレは……」

 

小島があった場所から何かが浮上してきた。

巨大で眩く輝くその結晶は、見紛うことのない……!

 

「シェアクリスタル!」

「なるほどね、無限に湧いてきておかしいとは思ったけど……これをエネルギー源にしてたのね」

「チュ、作戦失敗っチュ!こうなれば、逃げるが勝ちっチュね!」

 

ワレチューはネプギアがアイエフ達を降ろしたのとは別の小島にギリギリで逃げており、そこからダッシュで逃げる。

 

「覚えておくっチュよ。……それと、コンパちゅわあん!また会いにきて欲しいっチュ!待ってるっチュよ〜っ!」

「あ、待って……!」

「いいわよ、放っておきなさい。それより、あのクリスタルを」

 

ネプギアが浮遊してシェアクリスタルに近づく。

光を浴びているだけで暖かく、傷や疲れが癒えていく気がする。そのクリスタルにネプギアが触れるとクリスタルはさらに大きく輝き始めた。

 

「あ…………」

 

クリスタルが天へと舞い上がり、弾けて世界中に光の粒子を散らす。まるで光のシャワーのようだ。

 

「………これで、お終いですね」

「そうね。1度帰ってから、報告しましょう」

「…………」

 

ネプギアは頭の中にムズムズするような感覚を覚えた。

決定的に、足りない。何かはわからないけど、足りない。

最初は違和感なんて感じなくて、最初にシェアクリスタルに触れた時は違和感を感じるようになった。

今はさらに強く、確かにそれが感じられる。だからこそ、ネプギアは心が晴れない。

恐れ、焦り、哀しみ。負の感情ばかりが募っていく。

ネプギアは胸がきゅうっと締め付けられるのを感じた。この負の感情は一体どこまで高まっていくのだろうか。

そんなことを考えながら。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《……確かに、シェアの大幅な回復を確認したよ》

「こちらでもです。ネプギアさん達がやってくれたみたいですね」

《そのようだね。……しかし……》

 

ケイが厳しい顔をして顎に手を当てる。

 

《彼は……ミズキはどうしたんだい?一緒に戦ったわけではないみたいだけど》

「それが……通信が乱れたんです。今は復旧したんですけど……ちょうど戦いの前後に連絡が取れなくなり……」

《今までに似たようなことは?》

「特には。現在は原因を解明中です」

 

ふむ、とケイは顔を緩めた。

次元科学はまだまだ未知の科学。解明には時間がかかるだろう。

 

《しかし……彼は悔やんでるだろうね》

「恐らく。アイエフさんとコンパさんは空気を読んで『大したことなかった』と言ってくれましたが、もし誰かがまたいなくなっていたら……」

《今度こそ、終わりだ。ゲイムギョウ界も……彼も》

 

改めて危ない橋を渡っているのだということを認識させられる。今にも切れそうな細い細い糸の上を綱渡りするような感覚だ。

 

「それで……その、様子はどうですか?シェアが戻りましたが、ユニさんの様子は……」

《大きな変化はこちらでは確認していないよ。だが、最近物思いが増えたように思える。無論、僕が過敏になっているだけかもしれないけどね》

「……ですが、彼女にも芽生えましたよ」

《わかっているよ。だけど、記憶が多少なりとも戻っているのならもっと大きな反応を見せるはずだ》

「それはすなわち、ミズキさんを思い出すということだから……ですね」

 

ガンダムの力が、ユニとネプギアに再び芽生え始めた。

だが、それにもかかわらず2人はミズキの手がかりすら思い出していないのだろうか。

 

《別にユニ達が薄情というわけじゃない。むしろ、ユニ達ですら思い出せないことに驚くよ》

「確かに、恐ろしいことです。でも、でも……」

《自力で思い出して欲しいとは思うけどね。ミズキのためにも》

「昨日が奪われるのが、こんなにも堪えることだとは思いませんでした。昨日を奪われると、手の中にあるはずの明日さえ嘘に見えてくる……」

 

イストワールが表情を曇らせる。

シェアを取り戻すことで、彼女らの記憶が戻っていくのなら。

一刻も早く、集めて欲しい。イストワールはそう切に願った。

 




デスアーミーは後でスタッフの皆さんがおいしくいただきました。嘘です。
沈んで勝手に死にました、ということにしときます。DG細胞があるわけでもないですし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シロの国


12月になるとクリスマスを意識しますね〜。雪国のルウィーに到着したこともありますけど。ガンダマーあるいはネプテューナーのみなさんはいかがお過ごしでしょうか。
訓練されたガンダマーである私はもちろんザク改に乗ってサンタ祭りですわ。リア充爆発の意思を込めたグレネードを撒いて撒いてサンタ風船でキリスト様の誕生を祝福します。


さラステイションの教会。その玄関のドアを開いてネプギア達が中に入った。

 

「あ、いたいた」

 

すぐ前にケイが後ろを向いて立っているのに、アイエフが気付いた。

 

「……終わったみたいだね。お疲れ様」

「あの、一応報告に来てるんだから、先回りしないでくれるかしら?」

「すまないね。けど、あれだけのシェアが一気に上がる事があればさすがに気付くさ」

「……まあ、そうかもしれないけど……」

 

これでは報告に来た意味がないではないか、と思う。

 

「あの、ユニちゃんは……」

「ああ、わかっているよ。ユニなら君達が来て、そこに隠れた」

「そこ……?」

 

ケイが指差す先には……なんだろう、アレは。

 

「アナログテレビ、ね。近頃はほとんど見ないけど。地デ○カなんて珍しいマスコットキャラもいたわよ」

「あいちゃん、私知らないですよ?」

「そりゃ、私達が生まれる何十年も前の産物だもの。私だって実物を見るのは初めてよ」

 

無茶苦茶分厚い。というか、箱?画面は小さいくせして奥行きはあるし、ネプギアはこんなテレビを見るのは初めてだ。

 

「へえ〜……。これなら、私も作れるかな……」

「ところで、ユニちゃんは本当にそこにいるですか?」

「ああ。確かにそこに隠れた」

「え?ああ、もしかしてスクリーンを外せば中に入ってるとかそういう……」

 

 

クルー!キットクルー!

 

 

「……ん?」

 

アイエフが不穏なBGMに眉をひそめる。

 

 

クルー!キットクルー!

 

 

「ヴォォォォォ………!」

 

「きゃあああぁぁぁぁあああぁぁぁぁ‼︎」

 

「て、テレビから這い出て来たですぅ!這い寄ってくるですぅ!でも髪は真っ黒ですぅ〜っ!」

「お、落ち着きなさい!別にアレはクトゥルフの神でもないしましてや○子でも……!」

「ちょっと!ケイ、なんでバラすのよ!」

「すまない、そういう契約だからね」

「契約って……!」

「いや〜!喋らないで!来ないで!触らないで〜っ!」

「いた、痛い痛いネプギア痛い!な、殴らないでよ!触ってるのはネプギアからで……!」

「悪霊退散!南無阿弥陀仏!南無妙法蓮華経!十二王方牌大車併!震天烈空斬光旋風滅砕神罰活殺撃!」

「か、漢字言えばいいってわけじゃ……!い、痛いってば〜っ!」

 

正座。

説教。

深呼吸。

落ち着いた。

 

「……で、なんであそこに隠れたのよ」

「ち、ちょうどいいところにアナログテレビがあったからよ。それに、隠れてなんかないし」

「ちょうどいいところにアナログテレビがあるわけないでしょ」

「『待った!』ですぅ」

「それは僕が置いた」

「判決死刑」

「はは、手厳しいな」

「ブレ○ドさんですか?」

「その言い方だと仮面ライダーみたいね」

「あの……私達はいつまで正座していれば……」

「そのまま膝が溶けて朽ちてなくなって上半身だけになるまでよ」

「し、死んじゃいますよ!」

「足なんて飾りなんです。偉い人にはそれがわからないのですよ」

「飾りじゃないです!足がないとダメですよぅ!」

「特別に両腕を取り外し可能にすることも認めてあげるわ」

「なんの意味があるんですか⁉︎」

「………そのうち、ハン○・ハンマとかロー○ン・ズールとかが出来るんじゃない?」

「ていうか、マジで足ヤバくなって来たんだけど……!」

「はいはい、解いていいわよ」

 

2人がようやく正座を解くことを許してもらえたが、足が痺れて動かない。

 

「ふえぇ……痺れるよぉ……」

「ぐぐ……足が、動かない……」

「ほれほれ、ここか、ここがええんか?」

「あうっ、やめっ、ひゃっ」

「ちょっ、それ、びりってするから、らめぇ〜っ!」

 

アイエフのイタズラに2人が息をぜえぜえと切らす。

 

「な、何はともあれ……また会えて良かった、ユニちゃん」

「う……ネプギア……」

 

足を子鹿のように震わせてネプギアが立つ。ユニも足を震わせながら立ち上がった。

 

(しまらないですぅ……)

 

足はガックガクのブルブルなのに顔だけは真剣。シュールここに極まれり。

 

「あの、もう1回だけ聞くけど……一緒に来てくれない?私達と一緒に、お姉ちゃんを助けるために……」

「ダメ!今は、その、無理……」

 

まだ戦う理由が見つけられない。いや、その理由のために必死になれない。

出会ったこともない人のために命を賭して戦える気がしない。

それはつまり、心で負けているということ。心で負けるということは、腕っ節以前の問題だ。

全人類のために戦えなくたっていい。身近な人を守れればそれでいい。きっと大体の人はそう思ってる。けど、それじゃあネプギアにも勝てない。

 

(今の私じゃ、足手まといになるだけ……。だから………)

 

「うっ……うえぇ……」

「うぇっ⁉︎ちょ、なんで泣くのよ⁉︎」

「だって……ぐすっ、3年ぶりに会ったのに喧嘩しちゃって……仲直りも、ふぇっ、できなくてぇ……っ」

「いや、別にアンタが嫌いだから一緒に行かないってわけじゃないわよ!」

「ふぐっ、本当……?」

「……嫌いなら、お見舞いになって行ってないじゃない」

 

確かに、帰って来たのがノワールではなくネプギアだったことに少し妬みを感じた。

けれど、その感情は彼の言葉で吹き飛んだ。ひたむきな心と負けん気。不貞腐れたりしない、ましてや負けてもいいなんて思ってない。次こそはって、勝ちに行く。

 

「じゃあ……また、会ってくれる……?」

「え?いや、別にアナタが会いたいって言うなら会ってあげないことも……」

「会ってくれる……?」

「や、だから、ネプギアが……」

「会ってくれる……?」

「〜〜〜〜!」

 

そんな子犬みたいな目で見つめられても、困る……!

 

「……ワザとだったら相当にタチ悪いわよ」

「え?何が……?」

(まあネプギアに限ってそれはないか)

 

どうやら素直に言うしかないらしい。これもひたむきな心というヤツでやるしかないのだろうか。

 

「……わかった、わかったわよ。会うわ。会ってあげる。……これで満足?」

「……!うん、うん!ありがとね、ユニちゃん!」

「く、くっつくな!」

「はははっ、ユニにあんな顔をさせるなんて、彼女は大した人だね」

「……わかってるでしょ。それとも、3年前まであんな顔しなかった?」

 

じゃれ合う2人に聞こえない声でアイエフが呟く。

 

「……いいや、していたよ。昔はこれが通常運転だった」

「元どおりになってきた、ってことですか?」

「まだまだよ。いない人が、多すぎるわ」

「でも、まだ全て取り戻せるよ」

 

決して、諦めはしない。3年前の記憶を取り戻した者として、絶対に女神達を取り戻してみせる。その決意はネプギア達に勝るとも劣らない。

 

「……ギアちゃん、別れを惜しんでいる暇もないですよ。そろそろ出発しないと」

 

コンパが笑顔で言うとネプギアがユニから離れて身支度を整え始めた。

いつの日か、私達がネプギアに真実を偽らなくて済む日も来るのだろうか。

 

「必要だったとはいえ、長い時間拘束して悪かったね。アナタ達のこれからの旅の無事を祈っているよ」

「次はルウィー。ロムちゃんとラムちゃんに会えるんだ……」

「2人にもよろしく言っておいて」

「うん、言っておくね」

 

ユニとネプギアがバイバイと手を振り合う。

 

「ところで、ミズ……スミキは?さっきから喋っていないようだけど」

「最近電波が安定しないのよ。今も、ほら」

 

Nギアのアンテナが1本も立っていない。圏外の状態だ。

 

「ふむ、おかしいね。前はシェアが戻ると通信が安定したんだろう?」

「そのはずです。でも、あっちで復旧作業はしてるですから、すぐ回復すると思うです」

「そうか。……ルウィーではどうするつもりかと思ってね。もちろん、リーンボックスでも」

 

どうするつもりとは記憶のことだ。

ケイは違和感を抱いて……その違和感すら消されているのにもかかわらず、違和感を覚え続けてイストワールに相談することで、記憶を取り戻した。

果たして、ルウィーの教祖である西沢ミナとリーンボックスの教祖である箱崎チカには?

ロムとラムには教えないものとして、2人は記憶を取り戻せるのだろうか。恐らく、彼女らは何ら記憶に関して違和感を抱いていない。

 

「それは、どうでしょうね」

「……もし、教えないならそれでもいいが、これだけは伝えておいてくれ。求めなければ、手に入らないよ」

「『ねだるな、勝ち取れ。さすれば与えられん!』ですか?」

「そのセリフは知らないが……聖書にこうある。『求めなさい。そうすれば与えられる』とね」

「……わかったわよ。言葉通りの意味で捉えていいのよね?」

「もちろん。待つだけでは手に入らないものもある、そう伝えておいてほしい」

「確かに承ったです!」

 

ビシッとコンパが敬礼した。

 

「それじゃ、行くわよ。ルウィーへ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「うぅ……寒い……」

「ルウィーは寒いですからね。後で上着を買ったほうがいいかもしれないです」

「それは後回しね」

《まずは情報収集から、だよね》

「ええ」

 

ジョースター御一行間違えたネプギア御一行はルウィーに無事到着した。

地面にはうっすら雪が積もっていて踏み出す度にサクサクと小気味いい音がする。

 

「またギルドに行くんですか?」

「いや、今回は直接教会に行きましょう。ここの教祖は悪い噂聞かないし」

「そうなんですか?」

《西沢ミナって人が教祖なんだ。穏やかで、人当たりがいいというか。母性溢れる人、って感じかな》

「西沢、ミナさん……。優しい人、ってことですよね」

《そういう捉え方でいいよ。クスクス……》

「ったく、適当にも程があるでしょ」

 

というわけで教会に向かって歩く。

すると騒がしい声が耳につく。なんか聞いたことあるような、ないような……。

 

「なんでしょう、あっちが騒がしいですよ」

「放っときなさいよ。今は寄り道してる暇は……ん?」

 

 

「は〜い、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。楽しい犯罪組織マジェコンヌだよ〜」

 

 

「下っ端……」

《まあ、いるんじゃないかとは思ったけどね……》

 

アイエフは頭痛がするらしくこめかみを抑える。

 

「今なら、マジェコンも安く売ってるよ〜。これさえあれば、遊びたいゲームが遊び放題!」

 

媚びた笑顔で街行く人にビラ配り。あれだけ声を出して、立派なものである。マジェコンの宣伝でなければ、だが。

 

(はあ、なんで私がこんなことしなくちゃいけねぇんだ……)

 

しかし当のリンダ本人も不満タラタラ。

本人的にはこう……こんな地道で地味な仕事ではなく、もっと派手な、パーっとした仕事がしたいのである。成果が目に見えてわかるような、やりがいがあるような。

無論、みんなそんな仕事はやりたいし誰かがやらなきゃいけない仕事なのだから仕方ないのだが、どうしたって鬱憤はたまる。

 

「それもこれもあいつらのせいだ!」

「あいつらって、私達のことですか?」

「そう!ちょうどお前らみたい……な……?」

「?」

「………バイビー」

「あ、逃げたですぅ!」

「待ちなさいよ、この!」

「お、置いてかないでください〜!」

《……変わらないなあ》





地デジカとか死語ですねはい。
やっぱ教祖の中じゃケイが1番好きですね。ミナの別にダメじゃないのにダメな感じも大好き。みなさんはどこの教祖がお好きですかね。小さいいーすんとかほざいた人は通報します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

忘却の彼方


ロムとラムの登場〜。やっとテスト終わった。やったぜ。


「ぜえっ、ぜえっ、ひ〜っ、はあっ!こ、ここまで来れば……」

 

リンダが膝に手をついて息を切らす。

ここは……確か、ルウィー国際展示場の東館だったか。ここまで奥まったところに来れば、追いつかれまい。

 

「……なんか、ムカっ腹が立ってきたな」

 

な〜んで私はムカつく相手から逃げることになるのだろうか。目の前に来たのだからぶん殴ってやれば……って、無理か。それも含めて腹がたつ。

 

「チッ、むしゃくしゃするぜ……!」

 

あいつらが来てから仕事の失敗が目立つ。もちろん、あいつらがいない時に仕事はしているが、それは決まって成功している。つまりあいつらが来るということ=仕事の失敗、なんて嫌な式が出来上がっている。

 

「あ〜、いた!」

「っ⁉︎……って、なんだガキか」

 

声に振り返ると、そこにはこちらを指差すピンクの帽子と服の女の子がいた。女の子というか……幼女?

 

「んだよ、テメエは。私は今イラついてんだからよ、寄るな。しっしっ」

「何を!アンタなんてすぐやっつけちゃうんだから!」

「あ〜、ウゼェ!一体なんだってんだよ!」

 

頭まで痛くなって来た。本当にイライラする。

 

「そんな死にてえなら、ぶっ殺してやるよ!出てこい!」

 

リンダが手を挙げるとドム・トローペンが1機、傍に現れた。

 

《…………》

 

幼女めがけてラケーテン・バズの銃口を向けて躊躇いなく引き金を引く。

 

「………!」

 

幼女は避ける暇もない。悲鳴もあげない幼女の目の前で弾頭が爆発した。

 

「ったく、ザマー見やがれってんだ……」

 

まあ、憂さ晴らしは済んだ。

とりあえず、もう少し安全なところに逃げて……と鉄パイプを担ぐとバズーカが爆発したことによる煙が晴れる。

そこには……。

 

「……うえぇ⁉︎なんで、生きてやがんだ⁉︎」

「ラムちゃんを、イジメないで……!」

「あうっ、うっ……⁉︎ラ……ム……⁉︎」

 

その名を聞いたリンダが頭を抑えてうずくまる。

リンダの目線の先にはピンク色の服を着た幼女の前に立つ水色の服を着た幼女がいた。

 

「痛え、痛え……!あ、ぐぅ……っ!何モンだ、テメエ……!」

「ロムちゃん、ありがと!」

「うん……!2人で、やっつけよ……!」

 

2人の幼女が光に包まれた。

服は消え、代わりにスーツが体を覆ってプロセッサユニットが装着される。そして杖を掴んだ。

 

「なっ、テメエらも女神だったのか⁉︎チッ、ここは逃げるが勝ちだ!」

 

頭痛もするし、ロクに戦えない。ここはおとなしく戦術的撤退だ。

 

「逃さないわよ、ロムちゃん!」

「うん、ラムちゃん……!」

 

リンダが背を向けて逃げる。

追いかけようとするロムとラムの前にドム・トローペンが立ちはだかった。

 

《…………》

 

「2人一緒で!」

「壊れちゃいなさい……!」

 

ラケーテン・バズの弾頭を左右に別れて飛んで避ける。

再びくっついた2人が杖の先を合わせた。

 

『アイス・コフィン!』

 

氷の塊がドム・トローペンに向かって飛んでいく。苦し紛れにラケーテン・バズを撃つが、その程度では氷に傷1つついていない。

 

《⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎》

 

ドム・トローペンは氷塊の直撃を受けてしまい、胴体と足が真っ二つに割れる。それと同時に機体は大爆発を起こした。

 

「……騒がしいわね、終わりの瞬間まで!」

「男は黙って、サッポロビール……!」

 

男かどうかはわからないが、なんならビールを飲めるかもわからないが2人で決めポーズ。

あの下っ端っぽい奴は何処かへ逃げてしまったようだ。

 

「な、なによ今の爆発は⁉︎」

「あっちの方向ですぅ!」

 

「……新手かしら?」

「やっちゃおう……!」

 

2人の意見は合致。

曲がり角から出てくるであろう新手に身構える。

 

「確かこの辺りから……え?」

「お陀仏しなさい!」

「お縄につけ〜……!」

「きゃ、きゃああっ⁉︎」

 

顔を出したネプギアがロムとラムに氷の塊をぶつけられそうになる。危うく顔を引っ込めて避けた。

 

「これ、氷……!」

《ってことは、ロムとラム!》

 

壁からネプギアが飛び出す。

 

「待ってロムちゃんラムちゃん!私だよ、ネプギア!」

「……ネプギア?」

「そう!ほら、私だよ!」

 

 

「………誰?」

 

 

「え…………?」

《…………⁉︎》

 

ぞわりと背筋が凍る。この国が寒いとか、2人が氷魔法を使うからとか、そんなレベルの寒さじゃない。体の芯の芯から凍え切ってしまうほどの悪寒を感じる。

 

「な、何言ってるの⁉︎私だよ、ネプギア!プラネテューヌの女神候補生で、2人の友達!」

「……知らない……。私達の、友達じゃない……!」

「そ、そんな……⁉︎」

「しかも、プラネテューヌの女神ってことは敵ってことじゃない!」

「て、敵だなんて、違う……!」

 

ネプギアが汗を垂らしながら数歩後ずさる。

目の前の現実が受け止められていないような顔だ。

 

「ちょっと、冗談が過ぎます!ちょっと前に見舞いに来たばかりじゃないですか!」

「嘘なんかじゃないわよ。私達が、敵と友達になんてならないもの!」

「て、敵じゃないですぅ!そんな、なんでですか!」

「ルウィーのシェアを奪う、敵……。敵と分かれば、容赦はしない……!」

 

2人が杖を構えて舞い上がった。

 

「そんな……。ロムちゃん、ラムちゃん……」

(どういうことだ⁉︎記憶がさらに消されている⁉︎ビフロンスの仕業か、それとも……⁉︎)

 

つい数週間前の記憶が消えている、ということか⁉︎けど、ネプギアもユニも今以上に記憶は消えていなかった。さらに記憶が消えることなんてあるのか⁉︎

 

「アイス……!」

「コフィ……!」

 

《っ、ロム、ラムッ!》

 

ミズキが声を荒げる。

すると2人はまるで親に叱られたかのようにビクンと身を強張らせた。

 

「な、なに……?」

「誰よ、アンタ……」

 

2人の杖の先にあった氷塊が消えていく。

それと同時に2人が杖を落とした。

 

「っ、ああっ……⁉︎」

「ううっ、あ……!」

 

「っ、ロムちゃん、ラムちゃん⁉︎」

 

突然頭を抑えて2人が墜落し、苦しみ始める。

その姿に茫然自失としていたネプギアが我に帰り、2人の元に駆け寄った。

 

「ネプギア、ネプ、ギア……!ともだ……ち……っ!」

「ラムちゃん、しっかりして!ロムちゃんも!」

「ネプギアちゃん……!頭が、痛いよぉ……!」

「ロムちゃん⁉︎泣かないで、私、どうしたら……!」

 

「ちょっと、アレって……!」

「まさか、戻り始めてるですか⁉︎」

(そうか、記憶が……!)

 

何があったのかは知らないが、頭の中がぐちゃぐちゃになっているのだろう。もともと不自然な形でロックをかけられていた頭の中をしっちゃかめっちゃかにしてしまい、その結果記憶障害が起こったということか……⁉︎

 

「う……あ……」

「ネプギア……ちゃ……」

「ロムちゃん?……ロムちゃん!ラムちゃん⁉︎イヤ、ダメ!」

《2人を教会まで運ぶよ!急いで!》

「は、はい……!」

 

ロムとラムの変身が解けて気絶してしまった。頭痛が酷すぎたのだろう。

ネプギアは変身して2人を肩に担ぐ。

 

(一体、2人に何があったんだ……⁉︎)

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それからしばらく後。

ネプギア達は水色の髪をした女の人の前に立っていた。博士のような帽子にメガネ。普段なら穏やかな人物なのだろうか、状況が状況のためかその顔は引き締められている。

彼女の名は西沢ミナ。ルウィーの教祖だ。

 

「……あの、2人は……」

「大丈夫です、命に別状はありません。今は穏やかな顔で眠っていますよ」

「良かった……」

 

ネプギアが胸をなで下ろす。

しかしミナの顔は厳しいままだ。

 

「完全にこちらの管理不足です。まさか、ネプギアさんのことを忘れているなんて……」

《……前に、何かあったんですか?》

「はい。つい数日前に教会の中で2人が倒れているのを見つけたんです」

 

さっきのことから考えて、記憶が戻りかけたことによる頭痛が原因だろう。恐らく、ビフロンスのかけた呪いを破りかけ、違和感を抱いたのだ。

 

「その時は何か変化はありましたか?」

「いえ、怪我もありませんでしたし……2人も昼寝から起きたみたいに元気だったので、何もないかと思っていました。……今日までは」

 

アイエフの問いに心底悔やむように俯く。責任感が強いのだろう、自責の念を感じているようだ。

 

「実は、ギアちゃんの記憶が抜けてた……つてことですか?」

「恐らく、ネプギアさんに関する記憶だけではありません。ここ数年の記憶が抜け落ちてしまっています」

「そんな、なんで……」

「わかりません。俗にいう、記憶喪失でしょうか。頭を強く打った形跡などはなかったんですが……」

 

打つ手なし、といったところなのだろう。目覚めた時に2人が記憶を少しでも取り戻していることを期待するしかない、と。

 

(………教えるべき、か……?)

 

自分の中に問うてみる。

ケイは言った、求めなければ手に入らない、と。

それはミズキも十分に納得できる。2人が手を伸ばさなければ手は繋げないのだ。

今まで僕は相手が伸ばした手を掴もうとしていた。けれど、それじゃダメだ。自分が手を伸ばして、待たなければ。急かさなければならない。

 

「それで、アナタ方は何故この国に……?」

「私達は、シェアクリスタルを集めに来たんです。古の女神が遺したという、シェアクリスタルを……」

「古の女神が遺した……シェアクリスタル……?」

 

ミナが首を傾げる。

 

「そんな話、聞いたことありません」

「え?でも、実際にシェアクリスタルはあるし、いーすんさんも……」

「イストワールが知っていたのですか?……一体どこからそんな情報を……」

 

そりゃ知っているわけはない。作り話なのだから。

 

「事実としてシェアクリスタルはあります。最近大幅なシェアの増加がありましたよね?」

「それは……はい、確かに。では、本当にそんなものが存在したのでしょうか……」

 

まだミナは半信半疑だ。アイエフが助け舟を出してくれたものの、信じきれないのだろう。

 

「じゃあ、ミナさんはシェアクリスタルについては……」

「すいません、力になれそうにありません。申し訳ありません、迷惑ばかりお掛けしているのに、こちらは何もできない……」

「そ、そんな、構いませんよ。ダメで元々って感じだったので」

 

一層申し訳なさそうにするミナをネプギアが慰める。

 

「ネプギア、今日は日を改めましょう。あっちも忙しいだろうし、私達も情報を集める必要があるわ」

「そう、ですね。2人の看病もしなきゃいけないですもんね」

「申し訳ありません。シェアクリスタルについては、こちらでも調べ直してみます」

「お願いしますです」

 

お辞儀をして教会を出ようとする。

ドアを開いて出ようとしたその時、ミズキが意を決したように声を発した。

 

《待って。……話が、したい》

「え?スミキさん、何かまだ言うことがあるんですか?だったら……」

《ううん、前みたいに2人だけで話がしたい。多分、リーンボックスでも頼むと思うんだけどね》

「そんなに重要な話を……。スミキさんって、教祖さん達と知り合いなんですか?」

《まあ、そんなとこ。……今は忘れてるだろうけど、きっと思い出してくれるよ》

 

ネプギアとスミキが話すのをミナが手持ち無沙汰に見ている。それに気付いたネプギアがミナに駆け寄り、Nギアを差し出した。

 

「あの、スミキさんが話をしたいって。話をしていただけませんか」

「それは……構いませんが。それは重要な案件……なんですよね」

《重要だよ。とても……とても》

 

ともすれば、ロムとラムの容態に関することと同じくらい。

また、頭痛を強いることになる。ほんの少したりとも苦痛を和らげてあげることすら今の僕にはできないけれど……。

 

「わかりました。2人きりの空間で、話をしましょう」

《ワガママを聞いてくれてありがとう。ついでに、もう1つワガママがある》

 

ミナがそのワガママの内容を訪ねる前に、ミズキが強い語気を込めて言った。

 

《覚悟を、決めて》





記憶をさらに失った2人。どうやらほんの数週間前のお見舞いのことすら忘れている模様。一体何があったのか。

いや〜、追いつかれる……。早く続き書かないとですね〜。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破壊は痛みを伴うもの


昨日はすいませんでした!予約投稿を合わせるのをすっかり忘れてました…。てへっ☆
それと集合写真が(ようやく)できました。もうなんか、色々雑なんですけど許してください。モブの子供達もパクリなのでキャラわかる人は当てて見てください。


【挿絵表示】



「スミキさんは、何をしてるんでしょう……」

「気になりますか?」

「はい。何を話してるのかな、とは思います」

 

ルウィーの宿屋でベッドに座ったネプギアが疑問を口に出す。ルウィーは夜になり始め、冷え込んできている。暖房をつけているが、それでも少し肌寒い。

 

「そうね……。私達も知らないけど」

 

嘘だ。本当は知っている。知らないのは女神候補生くらいだ。

嘘をつき続けるのは、想像よりもずっと胸が痛む。

けど、それでも彼の方が胸を痛めている。そこまでしてやることは、きっと……。

 

「きっと、大切なことよ」

 

ネプギアにとっても。きっと、ミズキが関わったあらゆる人のためにも。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……アナタ、は……」

 

ルウィーの部屋で、ミズキが映像としてミナの前に現れていた。

ミナはその姿を見るなり、フラフラと足元が覚束なくなる。

 

「すいません、少し、頭痛が……」

《それでいいよ、ミナ。君に、事情を説明するよ》

 

机に手をつくミナをミズキが心配そうな目で見つめる。だが心を鬼にして、先を語る。

 

《単刀直入に言う。君はロムやラムと同じように記憶を失っている》

「記憶を……?そんなわけはありません、だって思い出せないことは何も……」

《それを認識できないだけだよ。思い出してみて、ロムとラムが変身できるようになったのはいつから?》

「いつからって……そんなの、決まってます。3年前から……」

《何をきっかけに?》

「何をってそれは……それは……あれ……?」

《僕は覚えている。今と同じように捕えられた女神を救うために、2人は変身を果たした》

 

ミナの目が曇っていく。必死に頭の中の記憶を整理しているのだろう。

 

「あれ、あれ……?すいません、ちょっと、混乱してて……」

《……混乱するのはわかる。けど、事実なんだ。ケイもイストワールも、記憶を取り戻している》

「ふ、2人が……?そんな、まさか。だってそれは、アナタのホラ話じゃ……」

《違う、信じて。今ロムとラムが寝込んでいるのも、そのせいだ。元凶は、ビフロンス。倒すべきは、アイツだけだ》

「そんな……そんな、あれ……?っ、すいません、また頭痛が……」

《ミナ、思い出して。スーパーリテイルランドが出来たのはいつ?》

「スーパー……リテイルランド……」

《ここに執事が来たのはいつ⁉︎》

「執事、なんて、募集した……覚えは……」

《資料が残ってるはずだ!仮面をつけた男が……僕が!ここにいたことは事実だ!》

「うっ、あっ……!」

 

ついにミナが膝をついた。耳を塞いで目を閉じ、必死に痛みをこらえている。

 

「頭が、痛い……!やめて……!」

《耳を塞いでもいい!目を閉じてもいい!けど、君が忘れてはいけないものは伝える!》

「やめて……!頭が、痛む……!」

《2人の成長を!覚えていなきゃいけないだろッ⁉︎見守ってなきゃダメだろッ⁉︎》

「………………!」

 

ミナが目を開いた。突如頭の中から見覚えのない光景が流れ込んでくる。

 

「ブラン……ロム、ラム……!なに、この景色は……⁉︎」

《その景色を、拒まないで!全て、包み込むんだ!》

 

乱れた髪の間から目を震わせるミナの顔が見える。怯えに飲み込まれそうになる顔だ。だけど、それでもやるべきことがある!

 

《ミナ!西沢ミナ!その鎖を、壊してっ!》

「っ、あっ………」

 

突如ミナの体が跳ね上がる。ビクンと体をそらせたミナの体が硬直する。目は見開き、汗は吹き出し、体は震えている。

しかし、わなわなと震える唇から言葉は発せられた。

 

「思い……出した………」

 

カクリと糸が切れたようにミナの全身の力が抜けて、床に横たわる。

 

《ミナ、大丈夫⁉︎》

「っ、はあっ、はあ………。だいじょば、ないですけど……けど……」

 

息を切らして胸を上下させるミナ。目は疲労困憊といった様子で閉じているがそれでも力を振り絞って話してくれる。

 

「思い出しました……。ミズキ、さん……」

《ミナ……》

「……少し、休んでもいいでしょうか……」

《もちろんだよ。ありがとう、ありがとう、ミナ……》

 

そのまま横たわったミナはやがてすぅすぅと寝息をたて始める。無理もない、記憶を取り戻すのは大変なことなのだ。

 

《ロムとラムの記憶……。せめて、最近の分だけでも……》

 

ネプギアに同じ苦しみを味わせたくはない。目覚めてた時に記憶も戻っているのが一番いいのだが、その望みは薄いだろう。現時点では今のように苦しませながら無理矢理することしか記憶を取り戻す方法はない。それをロムとラムに強いるべきか。

 

(……でも……僕は……)

 

ロムとラムのため、という理由もある。単純に自分が怖いから、という理由もある。

けれど、心の奥に残る浅ましいバカみたいな感情がみんなに思い出すことを強制しない1番の理由だ。

唾棄すべき感情を捨てたいのに捨てられない。この感情の名は、例えるならそうーーー。

 

《……期待、かな……くす、バカみたいだ……》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

………コソ。

………コソコソ。

………コソコソコソ。

 

「カサカサ、ですぅ」

「それじゃゴキブリよ……」

 

まるでテレビドラマで見るような刑事の如くコソコソと足音と気配を殺して動く3人。

壁に張り付きながら道の向こうを伺う様子は怪しいことこの上なく、これが男などだったら通報まっしぐらである。

では何故、そんなことをやっているのかというと……。

 

「…………」

 

下っ端の尾行のためである。

毎度毎度シェアクリスタルに近付く度に現れる下っ端。微妙に敵も強力で厄介なことこの上ない。

ここで発想を逆転させたのだ。

シェアクリスタルあるところに下っ端あり、なのなら下っ端あるところにシェアクリスタルあり、なのではないか?

そんなわけで下っ端を追いかけて何か情報を持っていないか、持っていればそれを聞き出すつもりなのである。

 

「……今。足音殺して」

 

諜報員であるアイエフの指示で動く。アイエフはこういうことのプロだけあって動きが違う。餅は餅屋ということか。

 

「……動きがないわね」

「本当は下っ端さん、何も知らないんじゃないですか?」

「かもね。だったら、とんだ無駄足だったわね……」

 

じ〜っと見つめてみるが、特に動きはなく暇を持て余しているような感じだ。

 

「ううっ、寒〜……」

「上着してても染みるですね……」

「確かに、寒いわね。ネプギア、ちょっとあそこの店行ってあったかいもの買ってきてよ」

 

アイエフが指差す先には大型のスーパーマーケット。あの中になら何かあたたかいものが売っているはずだろう。

 

「わかりました。リクエストありますか?」

「コーヒー。微糖」

「バケツお願いするですぅ」

「はい、微糖のコーヒーとバケツ……。……⁉︎」

 

高速修復材が必要な状況なのだろうか。まさか、コンパの正体は……。

 

「い、行ってきますね……」

 

深く聞くことはせずにスーパーへと向かう。

自動ドアが開くと暖かな空気が体を包み込んでくれる。

 

「あったか〜い……」

 

財布の中から小銭を取り出して飲み物コーナーへと向かう。

 

「コーヒーの、微糖は……。この、マックスコーヒーで」

 

ここにアイエフがいたら全力で制止していただろうが、それも叶わない。アイエフが将来糖尿病になることが決定した。

 

「バケツ……は……ないなあ……」

 

さすがにないか。近所の鎮守府ってあったかなあ……さすがにないよね。

 

「体をあっためるには……お酒だよね。このメチルアルコールを……」

 

ここにアイエフが以下略。コンパ即死確定。

 

「私は……うぅん、悩むなあ、何買おう……」

 

迷った末に手にしたのはカフェオレ。1人だけまともなものである。

 

さっさとお会計を済ませて外に出る。

するとそこには……。

 

「……ない……。もうちょっと、こっち……?」

 

ウロウロするロムがいた。

 

「………」

 

声をかけようと手を伸ばしたが、その手が止まって宙ぶらりんになる。

敵と呼ばれるとは思わなかった。いつものロムじゃないとはわかっていながらも、傷ついた。そして、恐れている。

 

「……っ……ぁ……」

 

困っているみたいだ。地面を見ながらウロウロして何かを探しているよう。

 

「……ロム、ちゃん……」

「………?」

 

意を決したつもりだったが、声はずっとか細くなってしまう。

そんな声でも呼ばれたことに気付いたロムは顔を上げた。

 

「……前の……悪い女神……」

「悪くなんか……。私、ロムちゃんの友達だよ……」

「違うよ。だって……」

「違くない!友達だから、ロムちゃんが困ってると思って、それで……」

 

ロムの顔が見れない。

はっきりとした敵意を持ってこちらを見てくるロムの目なんか、見つめられるわけない。

もう限界だった。

どんな罵倒の言葉をかけられても、言い返せる気はしなかった。何か言われれば、そのまま逃げ帰ってしまうのがわかる。

ロムが何か言い出せば崩れてしまうほどの脆い空間。

ロムが何か声を発しようとして息を吸う音にネプギアは首をすくめる。

しかしロムが発した声はネプギアの予想外のものだった。

 

「……悪くない」

「え……?」

「わかるよ。真っ直ぐだもん。……真っ直ぐだよ」

「ま、真っ直ぐ?えと、何が?」

「ネプギアちゃんが、曲がってないってことだよ。もしかして悪くないかもしれないけど……頭は悪い?」

「え、え、ええ?ま、真っ直ぐ?曲がってないって?ええ?」

 

さらっと酷いことを言われたが、ロムの言ってることの意味がわからない。1人大混乱しているネプギアにロムが唇を不満そうに尖らせながら言葉をかける。

 

「感じないの……?ネプギアちゃんはね、ピーンってしてるよ……。グネグネしてない。わかる……?」

「ご、ごめん……。わかんないや……」

 

頭がおかしくなった……わけではない、よね?

 

「……あ、そういえばロムちゃんは何を探してるの?」

 

話を逸らす。正直これ以上話しててもロムの言うことを理解できそうにない。

 

「……わかんない」

「え?」

「わかんないけど……忘れた気がする……。何処かに、起き忘れたものがある気がするの……」

「……………」

 

そう言うロムの顔を見てネプギアはようやく理解した。

感じているのだ、ロムは。

漠然としていて、それがなんなのかも見当がつかずに、それでも不安を感じている。

その心が感じるままに、動いている。それはきっと凄いことだ。誰にでもできるわけじゃない。

 

「何処にあるかなぁ……」

 

そう呟くロムの顔はとても儚げで、寂しげだ。

 

「あ、あのね、探し物ってね」

「うん……」

 

ロムが感じていることはネプギアにはわからない。伝えて欲しくても、まだ幼いロムにそんな漠然とした感覚を教えろと言う方が無理だろう。

だからネプギアは自分の経験則からしか何かを言うことができない。

 

「灯台下暗し。……案外近くにあるものだよ?」

 

少しでも役に立てばいいなと、そんな無責任な思いを抱きながら。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイエフのコートの中には秘密がいっぱい


申し訳ないですけど、お休みの報告です。
これから正月とか色々忙しい時期に入るので、ルウィーのお話が終わってから落ち着くまで投稿を休みます。ルウィーのところまではすでに書き終わってるんですけど、リーンボックスはまだなんでその間にそこも書きたいなと思ってます。


「す、すいません!遅れました……!」

「危ないわね。あと少しで置いてくところだったわよ」

「ってことは……」

「はいですぅ。ついさっき、下っ端さんが電話してたですよ。そしたら『シェアクリスタル』とか、『ブロックダンジョン』とか、『金ピカ』とか聞こえてきて……」

「金ピカ……?」

 

何だろう、それは。

 

「随分遅かったわね。何してたの?」

「あ……いや、あの……大したことじゃないです」

「ふぅ〜ん……。まあいいわ、行くわよ」

 

ロムはあの後すぐに気の向くまま、風の吹くままに何処かへ向かってしまった。

まるで、自分の直感に……何か得体の知れないものに動かされているかのように。

 

「ぎあちゃん?どうかしたですか?」

「……いえ、なんでもないです。急ぎましょう」

 

きっと、見つかる。探し物は、何処かにあるものなのだから。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「…………違う……」

「ちょっと、ロムちゃん!何処行ってたのよ!ミナちゃんも私もすごく心配して……!」

「ちょっと待って……」

 

帰ってくるなりロムは自室のタンスというタンス、箱という箱をひっくり返していた。

クローゼット、ない。服だけだ。

机の中、ない。ガラクタだけだ。

本棚の中、ない。絵本だけだ。

 

「ない、ない、ない……」

「ちょっと?何探してるの?手伝うわよ」

「……わかんない。でも、これじゃない……」

 

おもちゃでも、服でも、絵本でもない。

もっともっともっと、大切な何か。

 

「宝物、だよ……。宝物が、ないの……」

「宝物?それって、この机の中にあるヤツとか?」

 

道端で拾ったガラス細工。

 

「違う……。そんなんじゃない……」

 

確かに綺麗だ。今も大切にしたいと思っている。けど、そんなものじゃない。もっともっともっと……。

 

「……ない……どこ……?」

 

ひっくり返したもので部屋の中はだいぶ散らかってしまう。そんな海の中でロムは頭を抱えた。

 

「宝物……?私の部屋にあるかもしれないわ。探す?」

「うん……」

 

散らかった部屋を片付けることもせず、ロムはラムの部屋に向かう。

 

「違う、違う……。こんなものじゃ、ないの……!」

 

さっきよりも散らかさずに探してはみるものの、見つからない。

 

「ううっ、ひぅ……!ない、ないよぉ……!何処にあるの……?」

「わ、わわっ、ロムちゃん泣かないでよぉ〜……。あ、ミナちゃんなら知ってるかもしれないわ!」

「ミナちゃんが……?」

「ちょっと私、聞いてくるわね!」

 

ラムが走ってミナのいるはずの部屋に向かう。

部屋の扉を大きく開け放ったラムはそのままミナに駆け寄った。

 

「ラム?どうしたの、そんな乱暴にドアを開けて……」

「あ、あのあの!ロムちゃんが泣いちゃって……えと……」

「……?落ち着いて、事情を説明して?なんで、ロムが泣いているの?」

 

ミナがしゃがみこんでラムの顔を覗き込む。

 

「ロムちゃんが、何か失くしたって、それで探し回ってるんだけど……見つからなくて……それで、泣いちゃったの。ミナちゃん何か知らない?」

「失くしもの……?何を失くしたの?」

「それが……わからないって。わからないけど、何か失くしたって……」

「…………」

 

要領を得ない。

でも、ロムが泣いているのは事実なようだ。直接聞きに行くのがいいだろうか。

 

「……わかったわ。ロムは何処にいるの?」

「私の部屋!」

 

ラムと一緒にラムの部屋に向かう。

部屋の中に入るとロムが真ん中でうずくまってしくしく泣いていた。

 

「……ロム、どうかしたの?」

「ミナちゃん……。あのね、ないの……。何処を探しても、見つからないの……!」

「何が、ないの?」

「わかんない……」

「わ、わからないって……」

「でも……なにかが失くなってるの……!大切な、何か……」

「もしかして、何も言わずに外に出た理由はそれ?」

「うん……。ごめんなさい……」

「それは……もういいけれど。でも、何を失くしたかもわからないのに探してるの?」

「うん……」

「じゃあ、なんで失くなってるってわかるの?」

「……わかるの……。すっぽり、抜けてるの……」

 

ロムが胸に手を当てた。

 

「大きい、何か……。足りなくて、穴が空いてて……空で、それで……」

「……………」

 

抜けたもの、ロムに足りないもの。

それはつまり、記憶のことだろうか。昔も、ロムは何かを感じていたことがある。記憶は無くとも、その力は無意識のうちに使えているということなのかもしれない。

けれど、ミズキに言われた。教えてはならないと。

だからミナは何も言えない。泣いてるロムの涙を拭うこともできない。

彷徨った手はロムの頭を撫でることしかできない。

 

「ううっ、ひぐ……」

 

ふと、ミナは部屋の中を見渡して……異常に気づく。

 

(アレは……)

 

荒れた机の上にある写真。それだけはまったく動かないでそこにある。女神候補生が4人で集まった写真にはネプギアもユニも写っている。

なのに、この2人はそれに気付かない。これが、違和感を消し去ることの意味。

2人は、この写真を認識することすらも……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

先回りして、下っ端よりも先にシェアクリスタルを見つける作戦。

それは無事、上手く成功してくれた。

 

「あった!アレじゃないですか⁉︎」

 

ブロックダンジョンと呼ばれる、世界中の迷宮の第1階層。その果てにキラキラと大きく輝くクリスタルが見えた。

 

「よし……!先回りできた!」

「早く、アレを触りに行くです!」

「は、はい!」

 

ここからではだいぶ距離があるが、それでもこちらが先回りできるだろう。

色とりどりの様々な大きさのブロックが床を、壁を、階段を形作っている世界中の迷宮。

規則正しい立方体が作り出す通路を超えると、大きな広場が広がっていた。

すると、聞き覚えがありすぎる声が聞こえる。

 

「見ぃつけた。見つけたぜ、シェアクリスタル!」

「あ、下っ端!もう追いついてきたの⁉︎」

「げっ、お前ら!なんでここに⁉︎」

 

広場に繋がる別の通路から出てきたリンダと出くわしてしまった。

しかも、タチの悪いことにリンダの方がシェアクリスタル側にいる。

 

「ふっふ〜ん。下っ端さんの電話を盗み聞きして、ここまで来たですよ?」

「げっ、汚ねえ!お前らそれでも女神かよ!」

「なんとでもいいなさい。世の中には年賀状の住所からアジト突き止めた人もいるくらいなんだから」

「くっ!だけどよ、アタイが遅れたのは、それなりの準備をしてたからなんだぜ!出てこい、モビルスーツ!」

「っ、また!」

 

3人が飛び退いてリンダから距離を取る。

リンダとネプギア達の間に現れたのはトサカのようなツノと羽、モノアイと灰色の装甲が特徴的なモビルスーツ、ジンだ。

手にアサルトライフルを持った機体が2機いる。

 

「なによ、たった2機程度!」

「すぐやっつけてやるです!」

「へへっ、おいジン!無理はすんなよ!じゃあなっ!」

「あっ、下っ端が!」

「逃げたですぅ!」

「時間稼ぎってわけ?でもね!」

 

全員が武器を構えた。

ジンもアサルトライフルの銃口をこちらに向ける。

そしてジンが引き金を引くのと同時。

 

「来るわよ!」

 

バッと3人が別方向に飛んだ。

アサルトライフルの弾は虚空へと吸い込まれる。

 

「見た目がザコなのよね、アンタら!」

 

アイエフが両手で拳銃を持ち、片目を瞑って狙いを定める。

 

「関節部を狙えば、実弾だろうと!」

 

アイエフの弾が数発、ジンの首の関節近くの装甲に当たる。

危機感を抱いたのか、2機のジンは大きく飛んで距離を取りながら弾を撃ってくる。

 

「相手は、あいちゃんだけじゃないですよ!」

《………》

 

後ろからコンパが着地を狙って待機している。

ジンの片方はアイエフに牽制の弾丸を放ち、もう片方は反転してコンパの方を向いた。

 

「やあっ!」

《…………》

 

ジンは腰の重斬刀を引き抜く。

まるで中世の騎士のような形の剣を片手で持って上から斬りかかる。コンパの着地を取る戦法を逆手に取ったのだ。

コンパの注射器と重斬刀とがぶつかり合い、一瞬火花を上げた後に弾かれあった。

 

「きゃあっ!」

 

負けたのはコンパ。

尻餅をついてしまったコンパにジンが重斬刀を向けるが、

 

「甘いですよ。ええ〜い!」

 

コンパの注射器から水鉄砲のように液が噴射された。

 

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

ジンの装甲が煙を上げて溶けていく。全ての装甲を溶かしきるには至らないが、それでも関節やモノアイなど、脆弱な部分へのダメージは十分だ。

 

《…………》

 

スパークを散らしながら膝をつくジンを庇うように、もう片方のジンがアイエフへの牽制をやめてコンパに銃口を向ける。

しかし、それをネプギアが許さない。

 

「ていやっ!」

《⁉︎》

 

すんでのところでネプギアに気付いたジンはネプギアから離れる。

しかし、そのせいで傷ついたジンが救えない。

 

「安らかに、眠ってください……!」

 

動けないジンにネプギアがビームソードを突き刺した。

爆散しかけるジンだったが、その寸前に生き残ったジンに重斬刀を投げた。

 

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

コンパとネプギアが飛び退くのと同時にジンが爆発した。

生き残ったジンは地面に転がる重斬刀を持ち、二刀流でネプギアに襲いかかる。

しかし、横からアイエフが拳銃を撃ちながら近寄る。

 

《…………》

 

「頭にきてんの⁉︎いっちょまえに、機械のくせして!」

 

アイエフがコートの中に手を突っ込むと、それぞれの指の間に3本のナイフが握られた。

 

「スティレット!」

 

投げられたナイフの後部からジェットが噴射し、自分で推力を得た。

そしてジンの装甲を容易く貫き通して右肩に3本まとめて突き刺さる。

 

《⁉︎》

 

「私達はね、とっくに頭にきてるのよ!それが、わからない⁉︎わからないなら……!」

 

ジンは残った左腕の重斬刀をアイエフに向けて突進する。

しかしアイエフは身を屈めてその場から動かない。

 

「溶け落ちてしまいなさい!」

「いくですよ〜!」

 

コンパがアイエフの後ろから走ってくる。そしてアイエフの背中を踏んで飛び上がった。

 

「お注射、ガトリングモードです!」

 

コンパの注射器の針の部分が3つに分裂した。それが回転しながら高圧の液体を弾丸のように撃ち出す!

 

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

華麗にジンの上を宙返りしながら液体を浴びせていく。

そしてジンの後ろにコンパは着地した。

 

「これが、私達のコンビネーションです!」

「退きなさいよ、機械は!」

 

液体によって溶かされ、蜂の巣になったジンが爆発する。その光を浴びながら不敵に微笑む2人は、とても勇ましかった。






スティレットはブルデュエルのヤツです。あのナイフ。
ガトリングはアレックスのイメージ。さすがにコンパの腕がガッシャンはアレなのでせめて手持ち武器で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クィン・マンサ

これ書くにあたりクィン・マンサについて色々調べましたけど……クイン・マンサではないらしいです。あくまでクィン・マンサだと。


「下っ端は何処に逃げた⁉︎」

 

ジンを倒すなりアイエフはすぐに頭を切り替えて回りを見渡す。

 

「シェアクリスタルのところ、急がなきゃ……!」

 

ネプギアが変身して飛翔してシェアクリスタルに向かう。

しかし、リンダは既にシェアクリスタルに肉薄していた。

 

「へへっ……これで、この装置、を……」

 

シェアクリスタルに何やら変なお中元ほどの箱のような機械を取り付ける。

 

「それから、離れてください!」

「もう遅え!来るぜ、でっけえのがよぉ!」

 

ネプギアが精一杯近寄るが、距離があり過ぎる。

リンダが機械のスイッチを入れると、シェアクリスタルの周りが沈んだ紫色の歪みに包まれた。

 

「なに⁉︎」

「膨大なシェアを触媒に……生まれろ!そして、この国を滅ぼしちまえ!」

 

空間の中で何かが形作られる。

それは大きく、強く、速く。ただ強くあらんと強さだけを求めたような機体。

緑色で装甲を染め上げられ、両肩の大きなバインダーが目立つ。最も特徴的なのは、その大きさ。高さ、約4m。

 

「で、でか……すぎるわよ……」

「ギアちゃん、逃げるですぅ!」

 

「やっちまえ!」

 

その名は。

 

「クィン・マンサ!」

 

NZ-000 クィン・マンサ。

 

「っ⁉︎」

 

背中のコンテナから無数の小さなモノが射出された。

 

「これは⁉︎」

 

ネプギアの体目掛け、無数の小さな兵隊がビームを放つ。ネプギアは後退しながらビームの網に捕まらぬよう、逃げていたが……。

 

「まだ、増える⁉︎」

 

その数、30基。到底逃げ切れるものではない。

 

「ううっ、あっ!」

 

ネプギアの肩をビームが掠める。

 

(これだけ数が多くても……命令を下すのは、あの大きいの!)

 

ネプギアがビームを懸命に避けながらM.P.B.Lをクィン・マンサに向けた。

あの図体なら正確に狙いをつけなくても当たってくれる。引き金を何度も引くと、クィン・マンサにビームの雨あられが向かう。

 

《…………》

「ビームを⁉︎弾く⁉︎あっ!」

 

しかしそれもクィン・マンサの目前で飛び散った。

動揺したネプギアの腹にファンネルのビームが当たった。

 

「ギアちゃん!」

「ミズキを呼ぶわよ!それまで援護を!」

 

地面に落下したネプギアをファンネルが取り囲む。

 

「………!」

「やめるですぅ!」

 

コンパのガトリング注射器から液体がファンネルに向かって撃たれる。それに気付いてファンネルは弾が当たる前にその場から離脱し、クィン・マンサの元へと戻っていく。

 

「バケモノね、アイツは……!」

「へっへっへ、はーっはっは!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「座標、確認しました。出撃は『MSN-001A1』……デルタプラス、ですね?」

《そいつが今のところ最も性能がいい。デルタプラスをカタパルトにセットするぞ》

 

プラネテューヌ地下の格納庫では肩を掴まれ吊るされたデルタプラスがカタパルトにセットされ、足を固定した。

 

《敵の情報は?》

「ありません。座標と救援要請しかありませんでしたから。逆に言えば……」

《それだけ切羽詰まってるってことだね。気を引き締めるよ》

 

シックな灰色で統一された機体。背中のウイングバインダーと流線型の盾を持ち、右手にはビームライフルを持っている。

 

「ったく、開発する度に新しい機体に乗り換えて……もったいないにも程があるわ」

 

アブネスがぶつくさ言いながら持ち場についた。

 

「いい、ミズキ!せっかく機体を貸してるんだから、戦果でもあげないとお怒りだからね!」

《了解。期待していいよ》

「極小次元ゲート、開きます」

《システム、オールグリーン。行けるぞ》

 

デルタプラスの前に虹色の穴が現れた。

デルタプラスは膝を曲げ、衝撃に備える。

 

《クスキ・ミズキ、デルタプラス!行きます!》

「発進!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ファンネルが格納された隙に3人は素早く集まる。

 

「ネプギア、動ける⁉︎」

「は、はい。あのビーム、あまり威力はないみたいです」

「でも、集中砲火を喰らえば一巻の終わりね……!」

 

クィン・マンサが大きく飛び上がった。

そして両腕を前に突き出してくる。

 

「くるわよ!」

 

クィン・マンサの両腕から放たれたビームは拡散して3人に範囲攻撃を仕掛ける。

3人は不規則に地面を焼き払うビームを避けながら壁へと身を隠した。

 

「ど、どうするですか⁉︎」

「近寄るしか、ありません!」

「それも難しいけどね……!」

 

だが、近寄らなければ死ぬのだ。たとえ可能性が低くとも、近寄らなければ勝機はない。

 

「行くわ……っ⁉︎」

 

壁から飛び出ようとしたアイエフの目の前にファンネルが降りてきた。

 

「くっ、うあうっ!」

 

反射的に身を沈めてビームを避ける。

ビームによって砕けた壁のカケラがアイエフの頭に当たるが、それに怯んでいる暇はない。

懐から取り出した自動拳銃でファンネルを撃ち落とす。

 

「突撃!行くわよ!」

 

これではっきりした、隠れても無駄だ。

一か八か、突撃しかない。

 

「牽制します!」

 

3人が一斉に別方向から飛び出てクィン・マンサに向かう。空を行くネプギアがM.P.B.Lを撃つが、やはり見えない壁のようなものに弾かれる。

 

「ビームが、効かないなんて……!」

「なら、スティレットで!」

「お注射ガトリングです!」

 

アイエフはスティレット3本を、コンパは注射器から液体をマシンガンのように高速で撃ち出す。

 

《…………》

 

しかしファンネルがクィン・マンサの前に網のようにビームを撃ち、それら全てを撃ち落としてしまう。

 

「なんて馬鹿げた機体よ!」

「バリアの内側に入り込めば、あるいは……⁉︎」

 

ファンネルが3人へと向かう。

 

「来たです!」

「ここからが正念場よ!」

 

高速で動くファンネルが何本ものビームを浴びせてくる。

クィン・マンサに搭載されているファンネルは30基。先程アイエフが1基撃墜したとは言え、1人あたり約10基のファンネルが襲っているのだ。

その弾幕は濃く、強く、逃げ場がない。

 

「うっ、あっ、やっ!」

 

ネプギアが3連続でビームを浴びせられた。

 

「ギアちゃん、あうっ!」

「この……!」

 

それに気を取られたコンパも弾幕に捕まってしまう。

2人が怯んだ隙に集中砲火を食らうかと思われたその時、空に虹色のゲートが開いてその中からデルタプラスが現れた。

 

《…………》

《馬鹿な、巨大モビルスーツ⁉︎》

 

デルタプラスに気付いたクィン・マンサが両腕を向け、拡散ビームを照射する。

 

《変形!》

 

デルタプラスは変形し、ウェイブライダー形態になる。デルタプラス最大の特徴はこの変形だ。前を向いていたデルタプラスは変形したことにより、真上に飛翔した。

 

《バカな、強力すぎる!しかも、ファンネルまで……⁉︎》

 

機械にファンネルが扱えるわけがない。あの兵器はなんだ⁉︎パイロットがいるのか⁉︎

 

デルタプラスは変形を解き、上からビームライフルを撃つ。しかしネプギアと同じようにそれも弾かれてしまった。

 

《Iフィールド……なら!》

 

デルタプラスが盾をクィン・マンサに向けるとそこからグレネードが発射される。

しかしクィン・マンサが頭部から放つ拡散ビームでそれも撃ち落とされた。

 

《くっ!》

 

ネプギアはそれを見ながら、ファンネルの動きが鈍ったのを見抜いた。

あの機体に、スミキに注意がいってるのだ。なら……!

 

「勝負を決めます!タイタス!」

 

ネプギアが地上に降りて力を振り絞った。M.P.B.Lは消え、手と足にビームを纏う。

 

「ネプギア、待ちなさい!」

「やらなきゃやられます!大丈夫です、タイタスの防御力なら!」

 

しなやかな体躯で地面を駆ける。ファンネルの反応が一瞬遅れてネプギアの突破を許してしまった。

 

《近接戦しかないか……!》

 

再度変形したデルタプラスが回り込みながらクィン・マンサへと近寄る。

 

《………!》

《うくっ⁉︎この感じ……!敵意を感じた!》

 

クィン・マンサの中にいる何者かの意識を感じた。

だが妙だ。思考が単純すぎる。とても人間のものとは思えない。まるで獣のような……本能の敵意をぶつけられている気がする。

 

《なんでもいい!倒してみせる!そして、救い出す!》

 

その敵意を跳ね返し、モビルスーツ形態へと変形する。

急停止し、モビルスーツの小回りを生かして急旋回。

シールドから飛び出たサーベルの柄をキャッチ、ビームサーベルを形成する。

 

《懐!もらった!》

 

クィン・マンサの懐に入ることに成功した。しかし、クィン・マンサもすんでのところで身を翻し、ビームサーベルは胸の部分を掠るだけで終わる。

 

《くっ……なら、次!》

 

そのまま抜けてウェイブライダーへと変形。距離を取りつつ旋回するが、その目にクィン・マンサへと走り寄るネプギアが映った。

 

《ネプギア⁉︎無茶だ!》

 

「はあああっ!」

 

クィン・マンサもネプギアに気付き、胸からメガ粒子砲を拡散させて発射する。

しかしネプギアは腕を組んでその中を強引に突破する。

 

「くっ、くっ……!無茶しなくちゃ、ダメなんです!無茶な相手を倒すには、無茶しないと!」

 

ついに懐に入り込んだネプギアがブレーキをかけて拳を握り締める。

 

「ビィィィィム、グロォォォブ!」

《…………》

 

クィン・マンサは左右の大きなバインダーのうち、右側から大型ビームサーベルを引き抜いた。

 

「ビーム・アッパァァァッ!」

《……………》

 

ネプギアの昇龍拳と縦に振り下ろすビームサーベルが激突する。

 

「うっ、ううっ……!ああっ!」

 

軍配はクィン・マンサにあがる。

それもそうだ、あの巨体からネプギアの体躯を軽く超えるほどのビームサーベルが振り下ろされたのだ。

ネプギアは地面に叩きつけられてしまう。

 

「かはっ……!くっ……」

《ネプギア、避けて!》

「はっ、きゃあっ!」

 

デルタプラスの声で上を見上げると、クィン・マンサの足がネプギアを踏み潰そうと持ち上げられているところであった。

すぐに飛び退いて躱すが、その隙を敵が逃すわけがない。

 

「あっ、離して!くぅああっ!」

 

クィン・マンサがネプギアを掴み上げ、握りしめた。

体と骨が軋む感覚にネプギアは悲鳴をあげる。

しかし苦悶に閉じる目が微かに開いた先の物に悲鳴すら忘れた。

 

「ひっ………!」

 

クィン・マンサの頭部メガ粒子砲が光り輝いている。このままネプギアの頭を吹き飛ばす気だ。

 

「や、いやあっ!」

《ネプギアを離せーーッ!》

 

デルタプラスが旋回し、ネプギアを握る手の根元、腕の部分にグレネードをぶつける。

拘束が緩み、するりと手から落ちるネプギアの手をウェイブライダー形態のまま伸ばした手で掴む。

 

《ネプギア、ノーマルに換装を!》

「は、はい……⁉︎」

 

ネプギアの手を掴みながら高速で離脱して距離を取る。名残惜しそうに当たるはずもない拡散ビーム砲を撃ってくる。

 

《あのバリアはビームを通さない……!だからと言って、実弾では決定的なダメージを与えることは難しい!》

「なら、どうやって……!」

《ゼロ距離でビーム攻撃をぶつける!突破口は僕が開くから!》

 

速度を落としたウェイブライダーに空を飛ぶネプギアが追従する。

 

《乗って!2人の推力を合わせて、突破する!迎撃は僕が全て避けてみせる!》

「そんなこと、可能なんですか……⁉︎」

《信じて!今は遠い少女とさえ、いつか隣で、笑い合って歩けるはずだから……!》

「…………!」

 

瞬間、ネプギアは脈動に似た何かを感じた。

自分の内側で心臓のようにドクンと脈動した何か。それはネプギアに確信に似た何かを感じさせる。

第六感。あるいは、勘。それが何故かはわからないがネプギアに訴えかけている。『信じろ』と。

 

「スミキさん、私……!」

《行こう!お互いの無茶は、お互いでフォローする!》

 

ネプギアがウェイブライダーに飛び乗った。

少しだけウェイブライダーは沈んだがすぐに態勢を立て直し、全速力で前進しながら旋回する。ネプギアもプロセッサユニットの出力を上げて加速させる。

 

「くううっ、うっ……!」

《突撃する!振り落とされないでよッ⁉︎》

 

クィン・マンサの正面から突撃するネプギアとデルタプラス。それにクィン・マンサは残った左手と胸、頭から拡散ビームを放つ。

 

《…………ッ!》

 

「ああもう!あいつらはまた無茶して!いっつも尻拭いは私達の役目よ!」

「あいちゃん、援護を!」

「わかってる!スティレットの特別バージョンを食らわせてやるわ!」

 

アイエフとコンパが脇から回り込む。

高台に登ったアイエフは懐からスティレットを取り出して投げつけた。

 

《………⁉︎》

「腕1本、もらっていくわ!」

 

クィン・マンサの残った左腕に突き刺さったスティレット。それはただ突き刺さるだけではなく、光り輝いて……!

 

「爆散!」

 

爆発した!

大爆発を起こしたスティレットはアイエフの宣言通り、クィン・マンサの左腕を見事に破壊してみせた。

 

「私だって、負けないですよ!」

 

コンパの注射器はさらに巨大化、キャノン砲となる。

コンパはその砲筒を段差に置き、その巨体へと照準を定めた。

 

「お水なら、防ぎようがないんです!」

 

コンパが注射器を押すと高圧の液体の弾丸が発射された。

反射的にファンネルが液体を防ごうと網目のようにビームを張るが、そこを通る僅かな液体を蒸発させるだけに終わる。

 

《⁉︎⁉︎》

 

クィン・マンサの左胸に命中。左胸のビーム砲は封じられた。

 

「このチャンス……いけます!」

《ここを活かせなかったら、男じゃない!決めるよネプギアァァッ……!》

 

残ったファンネルと右胸のメガ粒子砲、頭部のメガ粒子砲がデルタプラスを撃ち落そうとするが、それをことごとく避ける。

 

《まだ、まだだ……!》

「っ………!」

 

ビームがデルタプラスを掠めた。ほんの数瞬前までネプギアがいた場所をビームが横切る。

緊張感と安心感の調和。その不思議な感覚に身を任せた時、2人の目の前に、

 

「ぎあちゃん!」

「スミキ!」

 

ビームが迫った。




ファンネル30+Iフィールド+全方位に撃てるメガ粒子法(戦艦主砲レベルから拡散まで撃ち分け可能)+ZZのミサイルを全身に食らっても軽く動く装甲+大出力のビームサーベル。
……どうやって勝つねん!
ZZはやっぱりモビルスーツがカッコいいですよ。ジムIIIの肩にミサイルつけた装備とか下手すればZZより好きっていう。

コンパの注射器砲はイメージ陸戦型ガンダム。撃て!注射器が焼けるまで(?)撃ち続けろ!的な。
突撃イメージははい、アレです、UCのシャンブロへの突撃の時です。撃てませぇぇぇぇん!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



ファンネルがどうにかして2人の態勢を崩そうと無数にビームを放つ。

その軌道がわかっているかのようにデルタプラスは最低限の軌道でビームを避け、射線上に入ったファンネルにはビームライフルを撃ち、粉々にしていく。

風がネプギアの聴覚を奪う。それでも視界に映るファンネルをM.P.B.Lで狙う。

クィン・マンサの右腕が壊れた。弾幕が薄くなったと思った瞬間には右胸にコンパの液体が着弾してさらに弾幕が薄くなる。

 

そしてビームが2人の目の前に迫った。

デルタプラスのスピードからしてこれを避けることは不可能だ。旋回も間に合わない。自分から猛スピードでぶつかりに行っているので、当たれば防御してもタダでは済まない。

 

この時、例えば時が止まって自分の思考だけが鋭敏になったとしたら。

そう、死ぬ寸前にアドレナリンがドバドバ出て時間がゆっくりに感じる……そんな感じでいい。

目の前に問題がある。『当たったら死ぬビームがあります。避けられません。防御しても大怪我は確定です。どうすればいいでしょうか』。

常人なら頭を抱えるだろう。せめて防御してチャンスを待つか?いや、ここでダメージなど受けてはチャンスなど来ない。

 

この模範解答は、『諦める』か?

 

いや、違う。素直に問題を受け止めるなら、そうなるが。

素直に問題を受け止めるような人は、ここにはいなかった。

 

「…………!」

 

ネプギアは自分の中で脈動をさらに強く感じられた。

それは、ビームが来る前。もうその瞬間からネプギアは『危機』を感じていたのだ。

それはミズキも同じ。

だから、考える時間があった。ほんの少し、どうするか考える時間があった。問題を見て、考えて、この問題が詰みだということに気付いた。

………だったら?

 

《ネプギア!》

「わかってます!」

 

答えは、『なんとしてでも避ける』だ。

ここには問題に素直に従う人などいない。問題が理不尽なら……問題ごと吹き飛ばす。

そうでなければこんな理不尽な相手に立ち向かえやしない!

 

ネプギアがデルタプラスの機首を両足で踏んで飛び上がった。

ネプギアはそれにより慣性を維持したまま上に飛び、デルタプラスは機首が下に向いたことにより、斜め下へと滑り込む!

 

《⁉︎》

 

《こっちは、やる気が違うんだ!》

 

デルタプラスはモビルスーツ形態へと素早く変形。盾に収まったままのビームサーベルが刃を形成した。

それを勢いのままにクィン・マンサの右足へと突き刺す!

 

《くぅぅぅあっ!》

 

そのまま反転、ビームライフルを撃つと大爆発を起こして足を爆散させた。

 

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

態勢を崩したクィン・マンサが膝をつくよりも先にネプギアはクィン・マンサの胸へと肉薄した。

 

《M.P.B.Lの!》

 

精一杯逆制動をかけるくらいのスピードがちょうどいい。

それくらいのスピードなら、タックルした時に自分の身が壊れずに済む。

 

クィン・マンサの残った左胸のメガ粒子砲にM.P.B.Lを突き刺した。

両足まで使ってようやく勢いを殺しきったネプギアがM.P.B.Lの引き金に手をかけた。

 

《最大出力でぇぇぇっ!》

 

キンッ、とクィン・マンサから一瞬だけ光が迸る。

そしてネプギアが離脱するのと同時、クィン・マンサの体は爆発しながら崩れ落ちていった。

 

「やった⁉︎」

「待ってくださいです!頭が!」

 

しかしクィン・マンサの脱出ポットの役目を果たす頭部が分離して離脱しようとする。

 

《逃すか!》

 

しかしデルタプラスは急上昇してそのポッドを後ろから掴む。悪足掻きに口のあたりからビームを撃つが、後ろから掴んでいるために当たらない。

 

《確かめさせてもらう……!君が何故、ファンネルを使えるのか!》

 

地面めがけてデルタプラスが急降下する。

 

《眠ってて!》

 

ガンッ!と鈍い音を立ててクィン・マンサの頭部が床に激突する。

頭頂部の部分が衝撃で凹み、ビームも止まる。搭乗者が気絶したか、それとも……!

 

「す、スミキさん⁉︎なにやってるんですか⁉︎」

《……中身を見る。ネプギア、その武器貸して》

「え、あ、はい」

 

いつ復活してもおかしくはない。細心の注意を払ってネプギアのM.P.B.Lで頭部を溶断していく。

その間にアイエフとコンパもこちらに追いついた。

 

「何やってんのよ、アンタ」

《声が聞こえた。……ファンネルを動かせるなら、中の人間はニュータイプか、強化人間か……》

 

金属音と共に頭部に切れ込みが入っていく。

その切れ込みが中空、つまりコックピット内に入り込むと中から水が溢れ出した。

 

「きゃっ!な、なによこれは……」

「水……じゃないです。もっと別の……」

《……っ⁉︎まさかッ⁉︎》

 

デルタプラスは先程よりも乱暴に切れ目にM.P.B.Lを差し込んで掘削していく。

頭部の半分ほどを切り裂くと、デルタプラスはその割れ目に手を入れて強引に頭部を開こうとする。

 

《信じてるからね……っ⁉︎お前だって!そこまで外道じゃないって!信じさせてよッ⁉︎》

 

バキン、と音を立てて大きく頭部が割れる。

その中のものを確認したデルタプラスは反射的に後ろを振り向いた。

 

《見るなッ!》

 

しかし遅い。

3人には刺激が強すぎる。えづき出した3人は口に手を当てて涙を流し始める。

 

「なん……なのよ……お、おえっ……!」

「なん、ですか……!なんですか、それはッ!」

「決まってます……。本で見たことあるです……。その、中のものは……!」

 

人間の、脳。

それがコードで繋がれてコックピットのあちこちに繋がっている。流れ出る液体は恐らく辛うじて脳を生かしていた生命維持装置。

この脳が何処から得たものかは知らない。誰かの脳をかっさばいたのか、初めから作り出したのか。

それでも、ミズキは叫ばずにはいられなかった。

 

《この……!外道がァァァァァッ‼︎‼︎》

 

バン!と床を叩く。

水は流れ出してしまった。つまり、この脳は、もう……!

 

3人が中身に唖然としていると後ろからカランと何かを落とす音がした。

それに振り返ると、そこには鉄パイプを落としたリンダがいた。

 

「……ひ……!」

「アンタが……アンタがこれをやったのっ⁉︎」

「し、知らない!アタイは何も知らない!ホントだ、知らなかったんだよぉっ!」

「こんなの、人がすることじゃありませんよっ!」

「ち、違う!アタイは、ただ上からの指示に従って……!あの機械を取り付ければ、無限大の兵隊が作れるって、それで……!」

《無限大……だって……⁉︎》

 

デルタプラスがシェアクリスタルの方を見ると、そこには新たな巨大モビルスーツが出来始めていた。

 

「ひいいっ!知らねえんだよぉぉっ!」

「あ、待ちなさい!」

《追う暇はない!僕らも逃げなきゃ!》

「でも……!」

《こんなに強いのが、まだまだ出てくるんだよ⁉︎一旦戻って対策を練るんだ!》

「でも、下っ端さんがやったんです!人の脳を、道具みたいに!」

《違う!断じて違う!リンダは、知らないって言ってた!あんなことをする外道は、僕は1人しか知らない!》

 

ビフロンス。アイツだ。こんなことを平然としでかすのは、アイツだ。

また高笑いして!上から見上げて!絶望絶望絶望って、飽きもせず!何もかもを、奪い去ろうとするッ!

 

《ここは退くよ!2人とも乗って!》

「……っ、わかったわよ!」

「……安らかに眠ってください」

「後で、迎えにくるですから!」

 

変形したデルタプラスの背にコンパが、腹から出てきた手をアイエフが掴む。

ネプギアとデルタプラスは飛翔して出口へと向かう。

 

(許さない……!みんなを奪い、みんなの記憶を奪うだけで飽き足らず……!)

 

無関係な人を、戦いに駆り出して。

無垢な魂に、こんなことをさせて。

 

(絶対に、絶対に……!)

 

復讐してやる。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ルウィーでは何やら高速の物体が教会に向かっているのを確認していた。

その数分後には教会の前までそれは迫る。

 

「何事ですか⁉︎」

《っ、ミナ!》

 

ドアを開けたミナの目の前にネプギア、アイエフ、コンパが着地し、デルタプラスもモビルスーツ形態になって地面に立つ。

 

《話はみんなから聞いて……!とにかく、僕に補給を頼む!》

「え、補給って……一体何が⁉︎」

「シェアクリスタルのエネルギーを吸い取って巨大な兵器が生み出されてるんです。一刻も早く何とかしないと、大変なことになります!」

「……なにやら、一大事のようですね。わかりました、補給をします」

 

それを聞いたミナは教会に全員を迎え入れる。

デルタプラスは補給を受けるためにまた飛び立っていった。

 

「………そんなことが……。その、巨大モビルスーツの性能とやらは?」

「まず普通じゃ歯が立たないでしょうね。あんなのがゴロゴロいたら、国だって危ない」

「どうやら、本気でルウィーを滅ぼしに来たようですね。私の目の黒いうちはそんなことをさせる気は毛頭ありませんが……」

 

実際問題、勝てるかわからない。ルウィーの軍隊を総動員してもだ。

 

「そして何より……非人道的です。止めなきゃいけないです」

「あんなの、人がすることじゃありませんよ。あんな酷いこと……!」

「……軍隊を揃えている時間はありません。かといって近場の兵隊だけを使っても全滅は確実……」

「私達が行きます。アイツの補給が終わり次第、もう1度攻撃をしかけるわ」

「可能なのですか?いくらアナタ達でも……」

「勝機はあります。あの機体は、シェアクリスタルで動いているんですから」

 

シェアを解放する、もしくはあの機械を破壊することにより、モビルスーツへのエネルギーの供給を止めることができるかもしれない。

 

「あ!アンタ達!騒がしいと思ったら!」

「あ、ラムちゃん……」

「何しに来たのよ!やっぱりルウィーをーーー!」

「やめて、ラム」

 

詰め寄ろうとしたラムをミナが手で制した。

 

「今は大事な話をしているの。邪魔をしないで」

「で、でも私は女神よ!敵は私が倒さなきゃ!」

「……お願い、ラム。もうそんな酷いこと言わないで?」

 

ミナが懇願した。寂しそうな顔をしたミナの顔にラムも渋々ながら口を閉ざす。

すると、ネプギアがあることに気付いた。

 

「……あれ?ロムちゃんは?」

「……泣いてる。探し物が見つからないとか、なんとか……」

「………!」

 

もしや、あの助言で本当にロムは自分の身の回りを調べ始めたのだろうか。それで見つからなくて泣いているということは……。

 

「っ」

「あ、ネプギア!」

「ぎあちゃん!」

「ロムちゃんのところに、行ってきます!」

 

ネプギアが駆け出して教会の奥へと消えた。

 

「あ、ま、待ちなさいよ!」

 

ラムもそれを追いかけていく。

アイエフが伸ばした手は虚空をウロウロした後、カクンと降ろされた。

 

「はあ……またか、こういうの」

「でも、そこがぎあちゃんのいいところです」

「あの……アレは、どうすれば……」

「放っておけばいいと思います。……『もしかしたら』もあるかもしれませんし」

 

本当はちょっぴり期待している自分を抑えて、アイエフは気を引き締めた。

 

 

ーーーー

 

 

「ひくっ、ぐすっ………」

「はあっ、はあっ、ロムちゃん……」

 

ネプギアが手当たり次第開いた扉。その部屋の1つでロムは泣きじゃくっていた。

 

「はあ、はあ、ちょっと!ロムちゃんに近づかないで、よっ!はっ、はっ……」

 

ラムもようやくネプギアに追いついて文句を言う。しかしネプギアは少し気に留めただけで、部屋の中に入った。

 

「ひぅ……ネプギア、ちゃん……?」

「ごめん、ごめんね……?適当なこと言っちゃって、それで……」

「違う、違うの……。絶対、ここにあるの……!けど、見当たらないの……なんで……⁉︎」

 

ただ何かが足りないと言う焦燥だけが募っていく。それがこの小さい子にとってどれだけの不安だっただろうか。

ネプギアはロムを抱きしめて、背中をポンポンと優しく叩く。ロムはネプギアの胸の中で泣きじゃくった。

 

「うぇぇ……ふぇぇ……!」

「ごめん、ごめん……!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強いそよ風

いつまでも泣きじゃくるロムを抱きしめて慰め続ける。一体どれくらいの時間が経っただろうか。

ロムは泣き続け、ネプギアは慰めながら謝り続け、ラムは呆然と立ち続けるだけ。

その終わりのない空間を終わらせたのはラムだった。

 

「……ちょっと」

「……え?私?」

「そうよ、アンタよ。アナタも、探しなさいよ」

「探すって、何を……?」

「決まってるじゃない!ロムちゃんの失くしものよ!」

 

怒っているのか、キッと厳しい目つきでネプギアを睨みつける。

 

「違う人が探した方が見つかるかもしれないし、それに……ロムちゃんがいつまでも泣いてるのは嫌だもん」

 

ラムがプイと顔を背ける。

ネプギアが胸の中のロムに振り返ると、ロムは縋るような目でネプギアを見ていた。

 

「…………」

 

ネプギアがロムを離して立ち上がる。

部屋をくるりと見渡した。

………わからない。

 

そもそも、失くしたものが何かも知らないのだ。わかるはずがないし、見つかるわけがない。

しかし、ネプギアは確信していた。

私にはわかる、と。

クィン・マンサを相手にした時の全身を脈動するかのような力。アレのほんの一部でもあれば……。

 

「………っ!」

 

何かを感じとったネプギアがバッと振り返る。そこはロムの机の上。だいぶ探したのか、紙やペンなどが散乱している。

 

「……この、あたり」

「……わかるの?」

「……た、多分……」

「何よそれ!真剣にやってんの⁉︎」

「や、やってるよぉ。でも……あれ……?」

 

机の上に何か、違和感を感じた。おかしい何かがある。まるでこの場に不釣り合いな、雰囲気に混じれていないような、そんなものが……。

 

「これ……」

 

机の上、散乱した紙が散らばっている。机の面が見えないくらいには散らかっている。

しかし、その中に存在を主張するように1つの写真立てがあった。

私はここにいるよ、と声なき声で叫んでいるような写真。ネプギアはそっとそれを手に取った。

 

「これ、じゃない?きっと……」

 

写真に写っていたのは女神候補生4人。4人とも満面の笑みで、カメラを見つめている。私達が友達だった、何よりの証拠だ。

 

「………ネプギアちゃん?何持ってるの?」

「………え?」

 

そう言ったロムの目を見る。その目は虚ろで、何だか薄ら寒い。

 

「何って……写真だよ?ほら、これ」

「何言ってんのよ?何も持ってないじゃない!」

 

ラムまでそう言う。

 

「そ、そんなことないよ!ほら、触ってみて?」

 

ロムの手を引っ張って写真立てに触れさせる。するとロムはハッと目を開いてその写真を見た。

 

「あ、あれ……?なんで見えなかったんだろ……。本当に、写真、あるよ……?」

「ちょっと、ロムちゃんまでそう言うの⁉︎」

「ほ、ほら、こっち来て……?」

 

渋々寄っていくラムが写真立てに触れる。

写真に触れるとラムまで驚いたように目を開いた。

 

「……おかしい、よ?私達、これ、見えてなかった……」

「あれ?あれあれ?ある、よね……」

 

2人がペタペタと写真を触って確認する。まるで、誰かの手によってその写真が見つけられないようになっていたかのようだ。

意図的に盲点に入れられた写真が、今2人の手の中にある。

 

「お、おかしいわよ!私達、こんな人……人……?」

「ネプギアちゃん……と……。……ラムちゃん……!」

 

ロムが写真を持ったまま立ち上がった。そして呆然としているラムの手を取って部屋の外へと消える。

 

「ロムちゃん⁉︎ラムちゃん⁉︎」

 

ネプギアも一瞬遅れて2人を追いかけようとする。しかしドアの出入り口にアイエフが出て来て衝突しそうになり、急ブレーキをかけた。

 

「わわわっ、アイエフさん?」

「どうしたの?なんか、2人が猛スピードで走ってたけど」

「そ、それが私にもよく分からなくて……」

「……まあいいわ。行くわよ」

「え?行くって……」

「スミキの補給が済んだわ。私達はもう1度世界中の大迷宮へ向かう」

「ってことは……また、あんな大きい相手と……⁉︎」

「失敗すれば、恐らくルウィーは滅ぼされるわね」

「そんな……」

「けどあんなこと、放っておけるわけない」

 

アイエフの目は決意に満ちていた。決意の中身は、怒り。人を人とも思わぬ所業を、このまま続けさせるわけにはいかない。

 

「やるのよ、ネプギア。救世主になるんでしょ?」

「………はい」

「じゃあ、行くわよ」

 

まるで自ら死地に飛び込むようなことだ。

だが、例え私が夏の虫だったとしても火に飛び込まなければならない時もある。私の小さな羽音で火が消せるのなら、やるしかない。

ルウィーの救世主になるんだ。例え記憶をなくしても、ここはロムとラムの国。なんとしても、守りきってみせる。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「っ、はあ、はあ……これじゃない……!」

「こっちにもないわ!」

 

ロムとラムは前と同じように部屋を散らかしていた。しかし、2人の部屋ではない。今散らかしているのはーーー。

 

「………え?ちょっと、ロム、ラム!何してるの!」

 

ミナの部屋、つまりはミナの執務室だった。

ミナの部屋にはパソコンを置いた机とその後ろに本棚が数個あるのだが、その本棚の中の本が片っ端から地面に転がっていた。

 

「探してる……!探してるの……!」

「ごめんなさい、後で絶対片付けるから!」

 

2人の声が本棚の奥から聞こえる。ミナはとりあえず近くにいたラムに駆け寄った。

 

「ラム、これはどういうこと?なんで私の部屋を……」

「ミナちゃん、私達ここで倒れてたんだよね⁉︎」

「え?え、ええ、そうよ。でもそれが……って、え?」

「あのネプギアってヤツ、私達知ってるわ!けど、どんな子だったか思い出せないの!」

 

両端から本を漁っていた2人がぶつかった。

 

「知らない、違う、本じゃない……」

「じゃあ……!」

 

顔を見合わせた2人は一緒にある一点へと振り返る。

 

「ま、待って!ネプギアさんのこと、思い出したんですか⁉︎」

「今思い出そうとしてるの!」

「絶対知ってるから……!思い出さなきゃ、ダメ……!」

 

駆け出したのはミナの机。パソコンが置いてあるだけの簡素な机の引き出しを片っ端から開く。

 

「だから、2人とも!やめなさい、もう本当に怒りますよ!」

 

また記憶をなくされたらたまったものじゃない。取り戻すとしても、私みたいに2人が苦しむのはごめんだ。

もっと、もっとゆっくりでいいんだ。研究させてそれなりの方法を見つけて、楽に記憶を取り戻せたら。

 

「でも!」

「でももだってもありません!また記憶をなくしますよ!今度は誰を忘れるつもりなの⁉︎」

 

ミナが後ろから2人を抱きしめた。

怒っているのではなく、心配しているということは幼い2人にもわかる。ミナの目から零れ落ちる涙がそれを証明している。

 

「でも……!それでも……!」

「お願い!そんなことをしたら、誰かが悲しむのよ……⁉︎」

「でも……!ネプギアちゃんはずっと泣いてた……!」

 

ロムがミナの方を振り返った。その目には涙が滲んでいたが、それを零さないように必死に耐えている。

 

「話してる時、ずっと泣いてた……!笑ってるフリして、心は泣いてたんだよ……⁉︎」

「でも、それもいつかは……!」

「今……!ネプギアちゃんは、今泣いてるの……!」

「忘れてた方が幸せなんて、そんなことあるわけないもの!失くしたものは見つけなきゃ、取り戻さなきゃ!」

 

2人がミナの手を振り払い、1番下の引き出しに手をかける。

決して手荒に振りほどいたわけではない。2人の言葉に押されて、ミナの手にはもう力はこもっていなかった。

 

「………!」

「これ………!」

 

1番下の引き出しに入っていたもの。

それは何の変哲も無いメダルだった。金ピカに輝く大きなそれは、忘れていた思い出の証拠。

そうだ。遊びに行ったんだ。スーパーリテイルランドに。

お姉ちゃんは来てくれなかったけど、他のみんなと遊びに行った。教会を出て遊ぶなんて久しぶりで、しかも……隣に、友達までいて、すごく幸せだった。

 

2人の頭にそよ風が吹く。髪を揺らす程度の勢いのそれは、2人の頭の中にあった雲を吹き飛ばす。

 

「ロム、ラム………」

「思い出したよ、ミナちゃん……」

「ネプギアは、私達の友達。……酷いこと言っちゃった」

 

訴えるようにこちらを向く2人。それを見てミナは涙が溜まった目でくすりと笑う。

変なところで大人びたと思ったら、今は自分のやるべきことがわかってない。

まだまだ2人は子供で、でも………。

 

「謝りに行って来なさい?……それまで、帰って来ちゃダメ」

 

少しだけ、頼り甲斐のある子になったかもしれない。

 

「わかった……!」

「世界中の大迷宮よね?」

 

2人が変身した。

2人はまだネプギアのことを思い出しただけだ。ミズキのことは思い出してはいないだろう。しかし、それでも2人は確かに近付いた。

きっと2人なら、全て思い出して、空を覆う雲を払ってくれる。そう感じた。

 

「行って来ます……!」

「行ってくるわ!」

 

2人は窓から飛び立った。

その背中を見送って、ミナは呟く。

 

「行ってらっしゃい」

 

2人の無事を祈りながら。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ココを抜ければ、すぐです」

「準備は出来てる?」

「はい、万全です」

 

世界中の大迷宮で、4人が覚悟を決める。

この角を曲がれば、すぐに戦いだ。何が出てくるかはわからない。しかし、勝たなければならない。

 

《行くよ、みんな》

 

その4人の前に現れたのは、空に浮かぶ要塞のようなモビルアーマー。

金色の装甲を光らせ、その身から金色の粒子を放出する。全長561cmの巨体はまるで風船のように宙に漂い滑るように機首を4人に向ける。

 

《……………》

 

機体の名は、アルヴァトーレ。





金ジムー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もうたくさんだ


なんで戦艦にはGNフィールド装備しないんだって思った歌舞伎役者90の冬。嘘です90歳とかじゃないです。


 

《…………》

 

フレキシブルアームで象の鼻のようにしなやかに大型GNキャノンが4人に向けられる。

その砲口が粒子を収束し、スパークして光り輝いた。

 

《逃げてッ!》

 

ハッと我に帰った3人が蜘蛛の子を散らすようにその場から離れる。

ミズキが咄嗟に上に変形しながら飛んだ瞬間、ビーム砲が放たれた!

 

「……なっ、によ……この威力……」

 

縦に薙ぎ払われるように撃たれたビームは地面を溶かし、大きく抉る。

さらにそのビームが当たった壁はすでに原型はなく、赤熱するだけの丘になっていた。

 

《アルヴァトーレ、だって……⁉︎》

「くっ、牽制します!」

 

ネプギアのM.P.B.Lからビームが撃たれた。しかしビームが当たる寸前にアルヴァトーレをキラキラ光る金色の粒子の壁が覆った。

 

「また弾かれた……!」

「なら、お注射でいくですよ!」

 

コンパの注射器がガトリングのように液体をアルヴァトーレに向かって連射した。しかしそれも粒子の壁に弾き返されてしまう。

 

「お、お注射もダメですか⁉︎」

「拳銃、は!」

 

アイエフが数発拳銃をアルヴァトーレに向かって撃つ。それすらも粒子の壁に弾かれた。

 

「無理か……!」

《あの壁は万能のバリアだ!どの物体が透過するとかはない!》

「じゃあ、どうすれば⁉︎」

《何か絶大な威力を持つ武器をぶつけることができれば……!》

「その武器って何よ!」

《くっ……!メガ・バズーカ・ランチャーなら、あるいは……!》

 

4人は動きを止めないように左右に分散しながら一定の距離を保つ。

しかし、アルヴァトーレの側面のGNビーム砲が牽制のビームを撃つ。

 

《どちらにせよ、こんなんじゃビームを撃つ暇がない!》

「M.P.B.Lの最大出力なら、どうですか⁉︎」

《あの貫通力なら……⁉︎っ、来た!》

 

両側面で22門あるビーム砲は牽制の弾でありながらも、当たればタダでは済まない。

その上、アルヴァトーレの機体後部から6基の大型GNファングが射出された。

 

「まずは、これを撃ち落とすです!」

「っても、すばしっこいわよ!」

 

デルタプラスは変形を解除してグレネードをGNフィールドに向かって撃つが、やはり阻まれる。

デルタプラスに装備されている武器の中でモビルアーマーに効く威力を持っているのはビームライフルとグレネード弾くらい。つまり、デルタプラスは攻撃を封じられたと言ってもいい。

 

《せめて実体剣があれば……!くそ、せめてファングは!》

 

デルタプラスが自分につきまとうファングを見る。素早い動きで撹乱し、ビームを連射するがデルタプラスに見切れないスピードではない。

 

《撃ち落とす!》

 

動きを見切ったデルタプラスの見越し射撃が命中し、一撃で金色のファングは砕け散った。

気を緩めずにGNビーム砲を避け続け、もう1基のファングに狙いを定める。

 

《遠くても、このデルタプラスに詰められない距離じゃない!》

 

後退しながらビームを撃つファングを追い詰める。ビームライフルで行き先を限定し、左手でビームサーベルを掴む。

 

《落ち……ッ⁉︎》

 

斬りつけようとしたデルタプラスが悪寒を感じる。

悪寒を感じた方向ではアルヴァトーレが大型GNキャノンをこちらに向けていた。

 

《誘い出された⁉︎》

 

咄嗟に変形してファングとすれ違うように加速する。その直後、デルタプラスがいた空間をファングごと太いビームが飲み込む。

 

《くうううっ!》

 

さらに照射はそれで終わらず、デルタプラスを追いかけてビーム砲が薙ぎ払う。

 

「スミキさんっ!はああっ!」

 

しかしデルタプラスを追いかけるあまりフレキシブルアームがGNフィールドの外に出てしまっている。

それをネプギアが狙って正面から突撃した。

 

「ネプギア!」

「小さいのをお願いします!」

「ああもう!これじゃダーツ大会よ!」

 

アイエフが投げたスティレットがファングにあたる。少しスパークしたファングはじきに地面に落ちた。

 

「今しか……ッ!」

 

機体中央に配置された2門のGNビームライフルがネプギアの行く手を阻もうとビームを撃ってくる。しかしネプギアはそれをスルスルと避けていく。

 

「この攻撃をッ!ねじ込むッ!」

 

M.P.B.Lを持ったネプギアがフレキシブルアームに向かって切りつける。

 

「もらった……!あぐっ⁉︎」

《ネプギア⁉︎》

 

しかし、その剣があと少しで届くというところでクローアームがネプギアの体を挟み込んだ。

 

「そんな……武器、隠してたなんて……ううっ!」

 

ギリギリとクローアームがネプギアの体を締め付ける。

そして思いっきりネプギアを壁に向けて投げつけた。

 

「うあっ、あうっ!かはっ……!」

 

きりもみしながら壁にめり込んだネプギアの肺の空気が全て抜ける。地面に落ちるネプギアに大型GNキャノンがデルタプラスへの照射をやめて狙いを定めた。

 

「ぎあちゃんは、やらせないです!」

 

コンパが槍のように細長く尖った注射器を持つ。

 

「お注射、ジャベリンですぅっ!」

 

槍投げのように投げられた槍がアルヴァトーレへと向かう。しかし、それもクローアームが握りしめてしまう。

 

「そんな!」

「くそっ、ネプギア逃げて!」

 

アイエフが拳銃を撃つが、悪足掻きにもならない。硬い装甲に阻まれて大型GNキャノンには傷1つつかなかった。

 

「あうっ、くっ……」

《ネプギアぁ!》

 

スパークしている粒子が完全解放されれば、ネプギアはチリも残らず消え去ってしまうだろう。

しかし、そのビームが発射される寸前にデルタプラスが接近してくる何かを確認した。

 

《新手が2機⁉︎いや……!》

 

接近するのは小さな機影ではなく、人間。

 

《まさか、2人⁉︎》

 

「アンタ、ネプギアに何してんのよっ!」

「ぎったんぎったんにしてあげるから……!」

 

《⁉︎》

 

高速で接近していたのはロムとラム。アルヴァトーレもそれに気づき、咄嗟に大型GNキャノンを2人に向ける。

 

「ロムちゃん!」

「ラムちゃん……!」

 

大型GNキャノンから放たれたビームの奔流が2人を飲み込もうと空間を焼き払う。

しかし2人はビームの周りを滑るように紙一重でそれを避けた。

 

「アイス・コフィン……!」

「砕けちゃいなさい!」

 

ビームが途切れた隙に巨大な氷塊がアルヴァトーレの巨大GNキャノンに向かって飛んでいく。

アルヴァトーレはクローアームで払い避けようとするが、氷塊の質量に叩き割られる!

 

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

「やったぁ!」

「ネプギアちゃん、大丈夫……⁉︎」

「あ、ありがと……」

 

ネプギアが立ち上がるのをロムが助ける。ラムもネプギアに飛び寄ってネプギアを守るようにアルヴァトーレの前に立ちはだかった。

 

「ネプギアちゃん、私達ね……全部思い出したの……!」

「ごめん、ネプギア!酷いこと言っちゃった……ごめんっ!」

「え……?」

 

アルヴァトーレは氷塊の威力に吹き飛ばされ、地面にその体を擦り付けた。

 

《今だ!》

 

ファングが行く手を阻むが、デルタプラスにとって大した障害ではない。

すれ違い様に1基のファングを切り落とし、アルヴァトーレに肉薄した。

 

《落ちろ、落ちろ!》

 

デルタプラスがバツの形にビームサーベルで傷をつける。最後にビームサーベルで切れ込みを入れながらアルヴァトーレとすれ違った。

 

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

「まだ動けるわよアイツ!」

「おいしいところはいただくです!」

 

無茶苦茶に側面のGNビーム砲を乱射するアルヴァトーレ。それを難なく避けながらコンパが注射器を構えた。

 

「傷口は消毒するです!」

 

ジャンプしてデルタプラスが作った傷の中に注射器の針を突っ込む。

 

「普通なら針が折れちゃうですけど!」

 

そこからたっぷりと液が注入されると、傷口は煙を上げて融解し、大きく開いた。

 

「ナイスよコンパ!これを!」

 

アイエフが投げるのはダイナマイト。3本まとめた真っ赤なそれを火をつけもせずに投げる。

コンパはそれをしっかりとキャッチした。

 

「了解です!ば、爆発はまだ待ってくださいね⁉︎」

 

傷口に開いた穴にダイナマイトを挟み込ませるが、アルヴァトーレが浮遊し始めた。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

足場が揺れ、コンパは地面に落ちてしまう。

 

「チッ……!」

《逃すかァッ!》

 

GNフィールドを展開する寸前、デルタプラスのグレネードが放たれた。

ギリギリでフィールドの中に入り、装甲に命中して爆発したグレネードの爆風は……!

 

《⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎》

 

「やった!」

「いたた……お尻痛いですぅ」

 

ダイナマイトへとたどり着き、装甲を内部からバラバラに砕く!

いくら巨大なモビルアーマーと言えども内部からの爆発には耐えられず、煙で機体を包みながら地面に落下した。

 

「思い出した……って……」

「探し物、見つかったの……!ごめんね、ネプギアちゃん……。今まで忘れてた……」

「敵とか言っちゃったし、攻撃もしちゃったし……。その、ごめんなさいっ!」

「そ、そんな!忘れてたなら、仕方ないよ……!それに……」

 

ネプギアは謝る2人を抱きしめた。

 

「思い出してくれて、良かったから……!」

「ネプギアちゃん……」

「許してくれるの……?」

「うん、うん……」

 

ネプギアが2人を離す。

少し泣きそうになっている2人が、ネプギアに何か言おうと口を開いた瞬間ーーー。

 

 

「ーーーっ」

「あっーーー」

 

 

「えっ………?」

 

ドサリと倒れる。

背中からブスブスと煙を上げ、肉が焦げた匂いがネプギアの鼻を刺激する。

虚ろな瞳が状況を把握するのには、そう時間はかからなかった。

 

撃た……れた………?

 

《ロムッ、ラムゥッ‼︎》

 

ネプギアの耳をスミキの声が通り過ぎていくが、それもネプギアの頭の中までには届かない。

声もあげずに倒れた2人の親友の呻き声だけが耳を通じて頭に届いた。

 

「う……っ…………」

「ぁ…………」

 

「ロムちゃん、ラムちゃん………?」

 

《……………》

 

アルヴァトーレの中から現れたのは新たな金色のモビルスーツ、アルヴァアロン。2枚のウイングを広げた機体はアルヴァトーレの副砲を兼ねていたGNビームライフルを持ってーーー。

 

《ッ!》

《!》

 

右手のビームライフルが切断された。

神速とも言える速度で接近したデルタプラスの一太刀によるものだ。

 

《もう……もう……ッ!》

 

さらに続ける剣は避けられた。

しかし、まだ接近してもう1度。

 

《誰かを傷つけるなよッ!もう、たくさんなんだよォォッ!》

 

アルヴァアロンが引き抜いたGNビームサーベルで受けられた。

それでもデルタプラスは前に進むのをやめない。対抗するアルヴァアロンをジリジリと後退させていく。

 

《僕の前から、みんなを消して……!みんなの中から、僕を消してさぁッ!》

 

蹴飛ばしてさらに追撃。

後退するアルヴァアロンにビームライフルを乱射するが、アルヴァアロンが作り出すGNフィールドで阻まれる。

 

《もうたくさんだって、言ってるだろ⁉︎引き金を引くなァーーッ!》

 

怒りのままにビームサーベルを叩きつける。

しかし、GNフィールドはビームサーベルを通さずにデルタプラスを弾き飛ばした。

 

《くっ、そぉぉぉっ!》

 

弾き飛ばされたデルタプラスをアルヴァアロンが追う。

その横から迫る誰かを感知したアルヴァアロンが即座にGNフィールドを展開して速度を落とす。

瞬間、アルヴァアロンはGNフィールドごと殴り飛ばされた。

 

《⁉︎》

 

「はっ、はっ、はっ、はっ………」

 

ネプギアがさっきまでアルヴァアロンがいた場所にいる。

手にビームのグローブを展開して胸を大きく上下させる。

その目に涙が滲んでいた。

 

「よくも、よくも、ロムちゃんとラムちゃんを……!」

 

ネプギアが足にビームをまといながらアルヴァアロンに向けて飛翔する。

アルヴァアロンが放つビームを蹴りや突きで弾き、その眼前にまで迫る。

 

「今の私は……ッ!」

 

GNフィールドが展開されていようと関係ない。

弾かれようと阻まれようと無駄だろうとその壁に拳で何度も何度も殴りつける。

 

「女神すら凌駕する存在ですッ!」

 

その形相はとても優雅ではない。拳を叩きつけ、感情に任せて拳を振る姿は、まるで……。

 

「鬼………」

 





ブチ切れネプギアとミズキ。
ブチ切れて1番ゾワッと来たのはフリット君ですかね〜。ユリンが可愛かったし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スパロー

戦争ゲームをやりながら思います。ビームが飛び交う中ナイフ一本で戦うってアホか!

あと、ビフロンスの挿絵ができました。ヘタクソなんですけど許してヒヤシンス。


【挿絵表示】



「ふっ、ふっ、ふっ!」

 

ガキンガキンとフィールドを拳で叩く音が響く。

まるで鬼神のような戦いぶりにアルヴァアロンだけでなく、味方のアイエフやコンパまで気圧されていた。

 

「潰れちゃえ、砕けちゃえぇぇっ!」

《…………》

 

しかしアルヴァアロンはビームサーベルでネプギアを薙ぎ払ってくる。

咄嗟に離れて避けたが、ネプギアの腹にビームライフルが向けられた。

 

「あうっ、くっ!」

 

手足で弾くが、GNビームライフルの威力は凄まじく先程のように軽くはない。

 

(さっきと威力が違う……!)

 

《うらぁぁぁっ!》

《!》

 

デルタプラスがビームライフルを撃つがGNフィールドで弾かれた。

大きく距離を取ったアルヴァアロンがフィールドを解除してデルタプラスに銃口を向ける。

 

《どうして、どうして僕が欲しい明日は掴んだ端から消えていく⁉︎》

《…………》

《答えろォォォォッ!》

 

アルヴァアロンのウイングは飾りではない。GNフィールドを作り出す粒子圧縮効果を応用してGNビームライフルの威力を向上させることもできるのだ。その威力はアルヴァトーレの大型GNキャノンにも匹敵する。

 

《届かない、明日が……!高くて、遠くて、儚くて……ッ!》

 

デルタプラスはそれを避けたが、アルヴァアロンはデルタプラスにすかさず銃口を向けて2射目の準備をする。

 

《眩しくてっ、欲しくて!こんなにも願っているのにさぁ!》

 

凶悪なビームを避けてビームライフルを撃つがGNフィールドで届かない。

 

《朝焼けに包まれて!暖かい風が吹く……!そんなところで暮らして、隣にみんながいる!そんな願いは贅沢なのっ⁉︎》

《………》

 

「もうっ……奪わないでください!」

《!》

 

ネプギアが切りつけるのをビームサーベルで弾く。アルヴァアロンがネプギアを蹴飛ばした。

 

「何もかも、アナタ達は持っていく……!今取り返そうとしてるじゃないですか!笑い合おうとしてるじゃないですか!」

《…………》

 

アルヴァアロンがウイングで粒子を圧縮し、GNビームライフルを放つ。

圧倒的な出力のビームがネプギアに襲いかかるが、ネプギアはM.P.B.Lを構えた。

 

「もうやめてぇぇぇ!」

 

最大出力のM.P.B.LのビームがGNビームライフルのビームとぶつかり合う。

 

《……………》

「うっ、くっ、ううっ……!」

 

ネプギアのビームが押されている。やはりM.P.B.Lの出力ではGNビームライフルに敵わない。

 

「………っ……!」

 

完全にM.P.B.Lのビームが弾かれた。

後はネプギアがビームの暴力的な熱に飲み呑まれるだけ。

ネプギアは目を閉じることもできず、悔しさに歯をくいしばる。

その目の前のビームは……魔法陣によって防がれた。

 

「えっ……⁉︎」

 

 

ーーーー『100年の物語』

 

 

「ネプギア、ちゃん……!」

「逃げ、なさいっ!」

 

「っ、うん!」

 

ネプギアがロムとラムの魔法がビームを防いでいるうちに射線上から脱出する。

ネプギアが完全に逃げると防御魔法も砕け散ってしまった。

 

「うっ……!」

「くっ!」

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

「来ないで!行きなさいよ、バカッ!」

「今が、チャンスだから……!」

 

振り返ったネプギアにロムとラムが力を振り絞って叫ぶ。

その脇ではデルタプラスがメガ・バズーカ・ランチャーを構えていた。

 

《絶対に……落とす!》

 

《!》

 

《光になれぇぇぇッ!》

 

アルヴァアロンがGNフィールドで防御するが、あまりの威力に壁に押し付けられる!

圧倒的な光の本流はGNフィールドを突破することはできないが、確実に機体にダメージを与えてはいた。

 

《………》

 

《灼け爛れろよ!僕の願いは、たった1つなんだァァァッ!》

 

メガ・バズーカ・ランチャーの照射が終わると、そこにはスパークを散らすアルヴァアロンが壁に埋まっていた。

 

《今!トドメをッ!》

 

「っ、コンパ!」

「は、はいです!」

 

2人の鬼神のような戦いぶりを見つめていた2人が我に帰る。

デルタプラスはエネルギーを大量に消費したのか、ゆっくりと下降して地面に膝をつく。

 

《くっ……》

 

「ネプギアちゃん……!」

「アンタが行くのよ!」

「うん……!」

 

ネプギアも2人を置いてアルヴァアロンに向けて飛翔した。

 

(速く、速く……!)

 

アイツがまたバリアを展開する前に。

 

(速く、速く……!)

 

アイツが誰かを傷つける前に。

 

(もっと、速く!)

 

この刃を、届かせる!

 

ネプギアの体が矢のように一直線に飛んで行く。距離があったにもかかわらず、すぐにアイエフとコンパを追い越した。

 

「ネプギア……!」

「ぎあちゃん!」

 

「届いてぇぇぇ!」

 

「ネプギアちゃん、頑張って……!」

「行けーーっ!」

 

ネプギアのM.P.B.Lがアルヴァアロンに届く寸前、

 

《………》

 

「うくっ!」

 

GNフィールドが展開した。

ネプギアの刃はフィールドに阻まれてアルヴァアロンに届かない。

しかしネプギアは前に進むのをやめなかったし、諦めもしなかった。

 

「届いて……!届けっ!」

 

ネプギアのM.P.B.Lの刃が薄緑色に変色していく。そして段々とGNフィールドに侵入していき、ついにその刃はアルヴァアロンへと届いた!

 

《⁉︎》

 

《よし、ウイングを!》

 

ネプギアのM.P.B.Lは深々とアルヴァアロンのウイングへと突き刺さっていた。粒子圧縮効果を持つウイングを壊してしまえば、もうGNフィールドも高出力のビームも撃たれない。

 

「まだ、この程度では終わりません!」

 

ネプギアがM.P.B.Lを引き抜き、逆手に持ち替えた。

そして一瞬で離脱し、一瞬で旋回したネプギアがアルヴァアロンを切り裂いていく。

 

《⁉︎》

 

シュピッ!

 

《⁉︎》

 

シュピッ!

 

《⁉︎》

 

シュピッ!

 

アルヴァアロンが段々と細切れにされていく。ネプギアのあまりの速さにアルヴァアロンの反応が追いついていない。

気付けばネプギアの四肢には羽根のようなプロセッサユニットが生まれ、スーツもスマートになっていた。

 

「ロムちゃんを傷つけて!ラムちゃんを傷付けて!」

 

シュピッ!

 

《⁉︎》

 

「戦っているアナタも、まるで捨て駒みたいに!」

 

シュピッ!

 

《⁉︎》

 

「お姉ちゃんも傷つけて!犯罪組織……マジェコンヌ!」

 

シュピッ!

 

《⁉︎》

 

「命は……命は!」

 

 

 

「オモチャじゃないのッ‼︎」

 

 

 

ネプギアが残ったコクピットに向けてM.P.B.Lを向けた。

しかし、ネプギアの頭に脈動が走る。

 

「っ………!」

 

気付けば、アルヴァアロンの四肢は切断され、頭もなく、胴体だけの状態になっていた。

 

もはや浮遊する力すら無くしたアルヴァアロンの胴体は重力に引かれて地面に落ち、少しだけボディを凹ませる。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

ネプギアがそれを見ていると、段々と体の感覚が帰ってきた。

そして恐れも湧き上がる。

 

(もし、あの脈動が私を止めてくれなかったら……私は……)

 

ネプギアの脳裏に浮かぶのはモビルスーツの中に入れられていた脳。

怒りのままに、アレを貫いてしまうところだった。

 

「っ、はあっ……」

 

怖気にも似た悪寒が体を駆け巡る。

罪のない人を殺してしまうところだった。もし、あのまま止まれずに剣を突き立てていたなら……。

そう考えると安堵よりも先に恐怖がやってくる。

 

《ロム、ラム!》

 

「っ、は……!」

 

スミキの声でロムとラムのことを思い出す。

振り返ると2人は地面に力なく倒れていた。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

急いで2人の元に駆けつける。

息を荒く辛そうに眉をしかめている姿はお世辞にも無事とは言えない。

 

「はあ、はあ、ぅ………」

「ぁ……ぅっ………!」

「ロムちゃん、ラムちゃん!しっかりして!」

 

もともとあのビームを食らって無事なはずはないのに、無理をして防御魔法まで使ったから……。

 

(どうしよう、私のせいだ……!)

 

怒りに任せて周りが見えていなかった。そのせいで2人が死んでしまったら、私は……!

 

「コンパ、2人の容体はどう⁉︎」

「……酷いダメージです。このままじゃ、ダメかもしれないです……!」

 

コンパが駆けつけて背中の傷を見る。

懐から応急セットを取り出して治療を始めるが、素早くちゃんとした医療機関に運ばないと命が危ない。

だがこんなダンジョンの奥地に医療機関があるわけはないし、ルウィーに戻るのにも時間がかかる。

 

「八方ふさがりなの……⁉︎」

「やれるだけやるです!」

 

(私の、せいで……!)

 

祈ることしかできないのか。

絶望に呑まれそうになった時、ネプギアの耳に爆発音が届いた。

 

「えっ………?」

《……ネプギア、絶望に身を浸してはダメだ!》

 

デルタプラスがライフルを発砲したのだ。その銃口はシェアクリスタルに向いている。爆発したのはシェアをエネルギー源にしてモビルスーツを作り出す機械。

 

《絶望からは何も生まれない。絶望は悪だ。退けて、砕いて、引き千切って、叩きつけて、踏みつけるんだ。希望だけを見ればいい》

「希望、だけ………」

《シェアを解放させるんだ。そうすれば、2人の容体も回復するはず》

「は、はい!」

 

ネプギアがシェアクリスタルに向けて飛んだ。

優しくシェアクリスタルに触れると、凄まじい速度で天空へ舞い上がり、光のシャワーになって弾ける。

澄んだ光に包まれ、ネプギアは体に力が湧き上がるのを感じる。

 

「ぅ……あ……?」

「気持ち、いい……?」

 

「っ、起きた!」

「2人とも、大丈夫ですか⁉︎」

「ぅん……大丈夫……。ちょっと、背中が痛いけど……」

「いたた……。くっそ〜、よくもやってくれたわねアイツ!いたた……」

 

ラムの背中をロムが優しくさする。

無傷になるまで回復はしなかったらしいが、少なくとも命の危険は去った。

ネプギアはそれを遠目で見て安心していたが、再びネプギアを不思議な感覚が襲った。

過去2回シェアクリスタルを解放させた時と同じ感覚。頭の中の霧や靄がほんの少しだけ晴れるような感覚。

 

「うっ………⁉︎」

 

急に息苦しさを感じる。汗が吹き出て、震えが大きくなった。

とても頭がむず痒い。頭を掻くが、痒さの原因は表面にはない。その奥だ。

 

(なんで……⁉︎なんで、こんなに、不快な……!)

 

頭の中に何かが入り込んでしまったかのようだ。自分の体を抱き抱えて空中で縮こまる。そのまま震えと疼きに耐えていると、しばらくしてそれらは去っていった。

 

「はっ、はっ、はっ……!」

 

このままシェアクリスタルを集めるとどうなってしまうのだろう。少なくとも、無事では済まない気がする。とても暖かい感覚をもたらしてくれるシェアの光が今はまるで、麻薬のように見えて……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「本当に、ありがとうございました。アナタ達のおかげで、ルウィーは救われました」

「いえ、そんなこと……。ロムちゃんとラムちゃんがいなきゃ、どうなってたかわからないし」

「そのロムとラムが助かったのも……そして記憶を取り戻したことも、きっとアナタ達のおかげなのです。どうか、お礼を言わせてください」

 

ミナが深々と頭を下げた。

 

「ところで、ロムちゃんとラムちゃんは?」

「奥の方で片付けをしています。アレはだいぶ時間がかかりそうですけどね」

 

すると、言った端からロムとラムがやってきた。疲れた顔をしているのは片付けのせいだろう。

 

「早速帰ってきたわね」

「だって全然終わんないんだもん!あんなの片付くわけないわよ!」

「ラムちゃん……ずっと絵本読んで……」

「ギク。そそそそんなことないわよ?」

「騒がしいわねぇ」

 

アイエフが溜息をついた。怪我の容態を心配していたが、この様子だとあまり心配はいらないらしい。

 

「ミナちゃんも手伝ってよ!あそこにある本、題名も読めないの多いのよ!」

「はいはい、あと少ししたらね。今は皆さんを見送るから」

「え……?ネプギアちゃん、行っちゃうの……?」

「お行きになるんですよね」

「はいです。もうルウィーにいる理由もないですし」

「次はリーンボックスに向かわないといけないし。悪いけど、もうここにはあまり滞在できないわよ」

 

アイエフがネプギアを見てそう言うと、ネプギアは悲しそうな顔をしているロムを見た。

 

「ネプギアちゃん……」

「大丈夫、またすぐ会えるよ。だからそんな顔しないで、ね?」

「うん……」

「ちょっとネプギア、私には何もなし?」

「あ、いや、ううん。ラムちゃんもまた会おうね」

「何よその取って付けたようなのは!」

 

3人がじゃれあっている中、アイエフとコンパとミナが距離を自然に取った。

 

「彼女達……記憶が戻ったのよね」

「はい。本当に違和感を消していたのですね、2人は女神候補生4人の写真に気付きませんでした」

「でも、鍵を打ち破りつつあるぎあちゃんがそれを見つけて……2人もそれを見つけたですね」

「はい。そしたら2人は自分がネプギアさん達の記憶をなくした原因のものを探し始めました」

「それはスーパーリテイルランドのコインだったと……」

 

あの頃の2人の記憶は……そうか、まだミズキには会っていない。ということは2人もまた、ミズキのことを思い出してはいないのか。

 

「ところで、ミズキさんは?」

「疲れて休んでるわ。無理もない、連戦だったもの」

「それに、精神的にも疲れたと思うです。頭の中身が出てきたり、2人が撃たれちゃったり……」

 

あの時のミズキとネプギアの怒る様は鬼気迫るものがあった。というよりアレは、完全に怒りに我を忘れていた。もしかしたら、いつか暴走してしまうかもしれない。

 

「ところで、あの金ピカの中には、その、あったですか?」

「はい。現在ルウィーの科学班で解析中です。意思があると分かれば、どうにかして体を用意して然るべき教育を受けさせるつもりではいます」

「よかったです……」

 

コンパがホッと安堵の息を吐く。

そこから少し離れたところで女神候補生3人も話をしていた。

 

「ところで、何で2人とも私のこと忘れてたの?」

「わかんない……。けど、あのコインを見たら、頭が痛くなっちゃって……起きたら忘れてたの」

「コイン?」

「そうよ。ほら、スーパーリテイルランドの」

「スーパー……リテイルランド……?」

「何よ、ネプギアまで忘れたの?一緒に遊びに行ったじゃない、ルウィーで」

「遊、びに……?」

 

ーーーーザザッーー

 

「あうっ……!」

 

ネプギアは頭の奥が急に痛み、顔をしかめた。一瞬のことだったが、痛んだ部分は間違いなく、シェアクリスタルを解放した時に痒かった部分と同じだ。

 

「ネプギアちゃん……?」

「う、ううん。何でもない。少し頭がズキってしただけ」

「それ、私達と同じじゃない?」

「え?でも私、何も忘れてないよ」

「そう?ならいいけど」

「でもネプギアちゃん……。遊びに行ったことのこと、覚えてる……?」

「スーパーリテイルランドでしょ?そんなの……そんな、の……あれ?」

 

多分、行ったのだと思う。私も行った気がする。けど、そこで何をしていたかまでは思い出せない。

 

「……ネプギアちゃん、あのね?」

「う、うん。なに?」

「遊びに行った時のあたり……何したか覚えてる?」

「遊びに行った時のあたり……?」

「前後ってことよ。なんか、イマイチ不自然なのよね」

「不自然って、何が?」

 

キョトンと首をかしげるネプギア。ラムは腕を組んで目を閉じながらムムムと考え込んだ。

 

「あの時のこと、とっても思い出せるのよ。遊びに行って、コインを集めたわ。お姉ちゃんの分と、執事さんの分。そこまではカンペキに思い出せるわ」

「けど、その前と後は覚えてないの……。何で遊びに行ったかとか、その後何があったかとか……」

「執事さん?」

「ええ。執事さんは執事さんよ。あの時新しく私達の……私、達、の……ああっ!」

「ラムちゃん……?」

「待って、ロムちゃん。執事さんのことわかるわよね。凄く優しくて、面白い人よね」

「うん……。仮面被ってる……」

「ねえ、執事さんってお姉ちゃんが捕まってからの3年間見た?」

「……見て、ない……。ああっ……!」

「なんなら、スーパーリテイルランドの後からいないわ。辞めたなんてわけないわ、忘れるはずないもの!」

「……ロムちゃん、ラムちゃん。それって……」

 

そこから先は言わなくてもわかった。

だがネプギアは確認のためにそれを口に出す。

 

「まだ、忘れてる部分がある……?」

「しかも、あの写真の時と同じよ。不思議だけど、わかってたのに気付いてなかった!」

「……もしかして、ネプギアちゃんも、ユニちゃんも……?」

 

3人の目が開く。こんなの、他人が聞いたら与太話だと笑われてしまうだろう。けれど何故だか3人はそれを否定する気も起きなかったし、むしろそれが事実なのだと強く感じていた。

 

「ネプギア?もう出発するわよ」

「あ、はい!少し待ってください!」

 

帰る時間になってしまったようだ。

3人は体を引っ付けて内緒話を始める。

 

「ミナちゃんに聞いてみるわ。何かわかるかも」

「ユニちゃんにも聞いておくね……?いろいろ、調べてみる……」

「うん、わかった。ありがと、またね」

 

ネプギアが手を振ると2人も手を振り返してくれる。

最後に疑問は残ったものの、全て一件落着して良かった。

 

「あ、そうだ。その執事さんの名前って何?」

「名前?あ〜、えっと……」

 

 

「クスノキ・スミキさん……」

 

 

ネプギアの頭に電撃が走った。




ネプギアに電撃走る。
ここでルウィーはお終いなので、次は年明けに。
次の敵モビルスーツはVからの登場です。鬱とか言わない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休息の魔王

「はっ、はっ、はっ……」

 

暗く、怖く、薄気味悪く。

そこはギョウカイ墓場。マグマが吹き出て常に暗雲が立ち込め薄暗い土地をリンダは懸命に走っていた。

 

「くそ、薄気味悪い……。帰ろうかな……」

 

並大抵の怖さではないのでリンダのそう大して強くないメンタルが挫けそうになる。

しかし、その脳裏に浮かぶのはグロテスクな脳の写真だ。

 

「……っ、ダメダメ!どういうつもりであんなことしたのか、聞かねえとやってられねえ!」

 

リンダは下っ端下っ端言われるように、組織の中では低いラインに位置する。しかしシェアクリスタル奪還の任務を請け負うくらいには下っ端の中では出世している方だ。

しかし今回の任務、どこから送られてきたか知らなかった。

マジェコンヌのためと手紙と一緒に送られてきた機械を使ってみれば……あの有様だ。人の脳を切り出して使っていた。

 

「このあたりまで来れば……マジック様!マジック様〜!」

 

自分の直属の上司はマジックだ。彼女に問いたださなければ気が済まない。一体、誰があんなことをしたのかと。

悪党のリンダでも、あれは人道的に許されないことだと思う。人を傷つけたり物を壊すのとは一線を画した行為だ。

 

「……どうした?私の可愛い部下、リンダ」

「マジック様!」

 

空から音もなくマジック・ザ・ハードが舞い降りてきた。

眼帯をつけたその顔を妖艶に微笑ませ、リンダよりも遥かに高い身長で歩み寄る。

 

「あ、あの!アタイが請けた仕事……ルウィーの、シェアクリスタルの仕事なんですけど!」

「失敗したのか?だが、気に病むことはない。お前は他にも余りある仕事の成功をしている」

「あ、ありがとうございます……。けど、その、あの仕事って、誰からの仕事ですか⁉︎人の脳ミソ使ってるなんて……!」

「人の、脳を?……そんな話は聞かないな。だが仕事自体は犯罪神様直々に私が請け負った」

「犯罪神様が……⁉︎」

 

余りにもスケールが大きい話にリンダが慄く。リンダからしてみれば、バイトが大統領からの仕事を請け負っていたみたいなものなのだ。

 

「その人の脳を使っていたという話は本当か?」

「ほ、本当です!使ったらデカくて強い機械が出てきて、それは、人の脳ミソが動かしてて……!」

「……なるほど。ならば、犯罪神様に聞きに行ってみるがよい」

「あ、アタイが⁉︎犯罪神様に⁉︎」

「ああ。直々に話を聞かなければ納得しきれないだろう?安心しろ、いざとなれば私が守ってやるさ」

「そ、そうですか……。なら、安心です……」

「犯罪神様は、この先におられる。行ってこい」

「は、はい!」

 

マジックが指差す方向へと走る。

しばらく走るとリンダは地面が大きく陥没した場所にたどり着いた。

 

「う……おお……」

 

まるで隕石が落下したかのようなクレーターの下に大きく透明な筒がある。液体が詰まったそれには部分的な体が出来上がっていた。

体といってもまだまだ完成には程遠い。未完成というのもおこがましく、3割ほども出来上がっていない。

 

「こ、こりゃあ……転げ落ちたら死んじまうな……」

 

ゆっくりと気をつけながら斜面を下る。時折石が音を立てながら犯罪神の元へと転がり落ちていった。

筒の前に立ったリンダはしばらく反応を伺うが……何もリアクションがない。

 

「あ、あの〜……。犯罪神様?」

「……………」

 

よくよく見れば口はあっても喉がない。もしかすれば喋れないのではないだろうか。しかし直々に指示が出たはずだし……書面か何かで筆談するのだろうか。

 

「そ、その、あのルウィーの仕事は失敗してしまいました……。すいません!」

「…………」

「それで、犯罪神様に聞きたいことがあるんです!あの脳ミソはなんなんスか⁉︎いったいどうしてあんなこと……っ⁉︎」

 

犯罪神の閉じられていた瞳がゆっくりと開いていく。歪んだドス黒い紫の瞳がリンダを見据える。

 

「あ……あ………」

 

その口がまるで避けるように開いた。大笑いでもしているかのようだ。

しかしその顔を見たリンダは今にも腰が抜けそうになっている。

 

「ご、ご、ご、ごめ……すいませ……!」

 

謝りながら逃げようとするリンダだったが、頭の中に直接声が響いた。

 

ヒヒ……怖くないわよ……?また1つ、なくしてしまうだけ……。

 

「や、イヤだ!マジック様、助け……!」

 

アナタの心に鍵をかけましょう。……ガチャン。

 

「ひあっ………!」

 

リンダは頭の中に鎖が這うような感覚を覚えていく。そして段々と今の感情が、状況が理解できなくなっていく。

 

「イヤ、イヤだ!そんな、忘れていく……⁉︎」

 

大事なものは鍵をかけて大事にしまっておきましょう?その方が……イイでしょ?

 

「はっ……⁉︎」

 

 

 

 

 

「……帰ってきたか。どうだった、リンダ?」

「すいません、大したことなかったですよ。全部アタイの勘違いでした」

「そうか、ならばいい」

「いやぁ、迷惑かけました。すいません!」

 

リンダが苦笑いしながら頭を掻く。

マジックの横を通り抜けて帰ろうとした時、リンダがマジックに振り向く。

 

「あれ?ところでアタイ、なんでここにいるんですっけ?」

「………なに?」

 

マジックがリンダの目を見つめる。

ふざけているのかと思ったが、根が誠実なリンダがそんな火遊びのようなことをするわけがない。

 

「……犯罪神様に聞きにきたんだろう?ルウィーの仕事のことで」

「ああ、そうでした。失敗したから謝りにきたんでした。いや〜、もうボケてんのかな……」

「……………?」

 

よく観察してみるが、冗談を言っている様子はない。

 

「違うぞ、リンダ。お前はルウィーで機械に人の脳を使っていたことを知って……」

「へ?脳?なんスか、その話」

「………………」

 

嘘ではない。これは確実に言える。

これは………忘れている?

 

「いや、なんでもない。他の部下の話と間違えた。時間を取らせてすまなかったな」

「い、いえそんな!アタイもマジック様と話せて光栄ですし!」

 

リンダはそのまま頭を下げて行ってしまった。

マジックはその背中を見つめながら考え込む。

 

「この藪……突いたら何が飛び出てくるか」

 

蛇か、あるいは何も出て来ないか。

もしくは……もっともっと恐ろしい何かか。

いずれにしろ、これ以上は危険そうだ。藪は突かないに限る。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「さて、毎度お馴染み恒例の、『プラネテューヌ地下深く』のコーナー!」

《………このテンションの高さはなんだ》

「ロムさんとラムさんの写真を渡したら……」

《ああ……もういい……》

 

ジャックが額に手を当てて呆れている。

 

「ま、それもあるけどね。今回は比較的機体の損傷が少ないのよ!」

「そうなんですか?」

「各パーツの点検だけで済みそうなの。なんてお手軽なんでしょ!」

《まあ、関節総取っ替えとケミカルジェリーボムの引き剥がしなどやっていてはな……》

 

イフリート改も百式も損傷……というより整備が大変だった。それが今回は目立った整備もないということでご機嫌なのだろう。

 

「ところで、次の機体の準備は?」

「出来てるわ。光波推進システムとかいうシステムに難航してたけど……『xvt-zgc』、ギラーガ、完成よ!」

《いよいよ、機体も高性能になってきたな》

「さらにさらに!整備の手間が省けたおかげで予定よりも早くXトランスミッターが装備されているわ!褒めて!私を褒めていいのよ!」

 

『おお〜(ぱちぱちぱち)』

 

イストワールは律儀に、ジャックは瞑目しながら雑に拍手する。

ジャックは空中にギラーガの画像を映し出した。

 

《Xトランスミッターが装備されているということは……ついにビット武装が使用可能になったということだ。恐らく、ミズキの思考や反射にもついて行ってくれる》

「ま、その分負荷は大きいでしょうけどね。一応シミュレートで調整も済ませたからイフリート改みたいにはならないと思うけど」

「後はミズキさん本人に微調整をしてもらいましょう」

「そうね」

 

一安心して息を吐く。

しかし、すぐに思考はマイナスの方向へと向かっていく。

 

「ミズキ、切羽詰まってるわね……」

「あの剣幕……思わず怯えてしまいました」

《俺は何度か見たことはあるがな。大抵あんな剣幕になるのは、誰かが死んだり死にかけた時だ》

 

メガ・バズーカ・ランチャーを射出せよ、とミズキの通信が入ってきた時の話だ。

 

 

『ま、待ちなさいよ!そんな急に言われても……!』

『いいから早く!持ってきてよッ!』

 

 

「事態は深刻ってことね。シェアはどんどん回復してても、それと反比例するようにミズキは傷ついていってる」

「せめて、1人でも女神が残っていれば……」

 

アイエフとコンパの話でも、ロムとラムが傷ついた時のミズキの怒りようには鬼気迫るものがあったという。今までとは違う、邪な怒りというか……憎しみにも似た怒りだ。

 

3人が物憂げな顔をしている中、ジャックが口を開いた。

 

《……着信だ》

「着信?どなた様からですか?」

《リーンボックスの教祖チカからだな》

「チカさんから?」

 

何はともあれ電話には出た方がいいだろう。

ジャックが姿を消し、アブネスも場に相応しくないと判断したのか隅へと下がる。

 

「もしもし、チカさんでーーー」

《お姉様ッッッッッッ!》

「…………はい?」

 

今ありのまま起こったことを話すぜ。間違い電話みたいです。何を言っているか分からねえと思うが、俺もよく分からねえ。聞き間違いとか幻聴とかそんなチャチなもんじゃねえ、もっとアホみたいなモノの片鱗をーーー。

 

《聞いておりますの、イストワール!》

「え、あ、はい。これ以上ないほど聞いてますが……意味が理解できそうにないです」

《なってませんわね。私のこれまでの人生と未来を詰め込んだ『お姉様』でしたのに》

「確かに、尋常ではない『お姉様』ではありましたけどね。それで、あの、要件は?」

 

箱崎チカ。リーンボックスの教祖であり、女神であるベールを実の姉のように慕っているが……実の姉でもこんなに慕うだろうか。アブネスも端っこでドン引きしている。

 

《はっ……!そうですわ、アタクシが!お姉様のことを忘れるなんて、ああっ!妹失格ですわぁっ!》

「いや、あの、話が見えてこなーーー」

《ダメなアタクシを責めて、お姉様……!あっ、でもいない!寂しい!》

「……………」

 

イストワールも匙を投げる有様である。彼女の名誉のため弁解しておくが、いつもはこんな様子ではない。

ついに姉が……いや姉ではないし、チカは妹でも何でもないのだが。とにかく女神(特にベール)がいなくなった弊害はこんなところでも発生していたらしい。

 

「取り返しのつかないことになりました……」

「いやアレは元からでしょ」

 

アブネスが端っこからツッコム。

とにかくいやんあはんうふんと悶えるチカを遇らって無視して話半分に聞いているとようやく元の様子に近づいてきた。

 

《少しお見苦しいところをお見せしましたわね》

「(少しどころじゃないですけど)そうですね。反省してほしいと思います」

《それで、本題に入りますわね。アタクシ、これでもショックを受けているのですけれど……》

「はい」

《……アタクシがお姉様のことを忘れるなんて、あり得るのですか》

「っ………」

「ん………」

 

イストワールとアブネスがピクリと反応する。

 

《もしかして、お姉様もアタクシを忘れているのですか?だとしたら、アタクシは……》

「お、お待ちください。一体どうしてそれを?」

《愛の力にできないことなんてありませんのよ》

 

いや、経緯を聞きたいのだが。

そうジト目で見るイストワールの意思が通じたのか、チカはまた話し始める。

 

《別にそれほどのことではなくってよ。お姉様が懐かしくなりいつものように写真を眺めていただけですわ》

「いつも……。はあ、それはいいですけど」

 

ツッコミを我慢して話の続きを促す。

 

《そしたら……なんと、アタクシが覚えてない写真があるじゃない。そしたらまあ、アルバムの中間に今まで見たことない写真がザクザク見つかったわ》

「よく見つかりましたね」

《これでも苦労したわよ。んで、その写真を追ってたら頭がガンガン痛くなって……》

「はい」

《全部思い出したのですわ。で、とりあえずケイに電話をかけたらアンタに聞けって》

(丸投げされた……)

 

この借りはいつか必ず返してもらおう。ゼッタイ。

 

「それで、事情を聞きに電話をかけてきたと」

《ええ。あのムカつく女が元凶だと思うのですけれど……合ってる?》

「はい。今のところ記憶を取り戻しているのはチカさんと私を含めた教祖4人とアイエフさんとコンパさん、アブネスさん。それとミズキさんとジャックさんですね

《女神候補生達は?》

「記憶のロックは解けつつありますが、まだ思い出すには至っていません」

《何故思い出させないの?》

「彼女達を傷つけたくないからです」

《…………それ、おかしくない?》

「なぜ?」

 

チカがピクリと眉をひそめる。

 

《普通思い出させるでしょ。アンタ達もアタクシも思い出したんだから、あの子達も思い出すはずよ》

「ですが、彼女達は今までミズキさんのことを忘れていたということで傷ついて……」

《おかしいわよ。アタクシの知ってるミズキって男はそんなに臆病?》

「……………」

《まあいいわ、彼に直接聞く。もうすぐリーンボックスに来るんでしょう?》

「その予定です」

《なら、最初に教会に来るように言って。頼んだわよ》

 

プツリと通話が途切れた。

 

「ったく、自分勝手というか傍若無人というか……」

《お前が言えたことではないぞ、アブネス》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《次の行き先は……リーンボックス?》

「ええ。ラステイションから定期便が出てるから、それを使うわ」

 

「…………」

 

アイエフとコンパとスミキが話しているのを後ろから見る。

3年以上前にルウィーで執事をしていたのは、スミキさんだった。そして今ここで話しているのもスミキさん。彼は何処か遠い遠い場所にいると聞いたけど……そもそも何故だ?

お姉ちゃんのことも知ってるみたいだし、アイエフさんやコンパさんとも知り合いだし、悪い人ではないんだろうけど……でも……。

 

「ぎあちゃん?どうかしたですか?」

「え、あ、いえ!なんでもないです!」

「そうですか?」

 

顔をしかめていたらしく、コンパに心配されてしまった。

 

「今回はイストワール様から連絡が入ってるわ。リーンボックスに着いたらすぐに教会に来てだって」

《今回は楽に済むといいけどね》

「まあ無理よね。どうせ下っ端がいるでしょうし」

 

アイエフがやれやれと首を振る。

 

(あと少し、リーンボックスのシェアクリスタルがあれば……)

 

もしかすれば、女神を救えるかもしれない。

力は集いつつある。きっとその力は闇を払い、暗黒の雲を引き裂くものになる。

 

(ビフロンス、必ず……!)

 

《僕が、殺す…………》

 

小さく呟いた声は誰にも届かなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リーンボックス

「ここがリーンボックス……暖かい国……」

《南にあるからね。ルウィーの後だと尚更暖かく感じるんじゃない?》

 

ラステイションからの定期便で無事にリーンボックスに辿り着けた。

途中、連絡船が壊されていて直すための材料を集めなければならなかったが……それもせいぜい1日くらいのタイムロス。

 

「けど、誰が連絡船を壊したのかしら。船なんてそうそう壊れないわよ?」

「中世とかならいざ知らず、今の船が突然壊れるなんて聞かないですよね……」

「足止めされてた……ってことですか?」

「もしかしたらね。これが致命的なロスにならなきゃいいけど」

 

とは言いつつもアイエフもあまり足止めされていたとは思っていないようで、顔は明るい。

 

「治安は……ちょっと悪そうですけど、いい国です」

《この国には女神がいないからね。信仰も落ちてるはずだよ》

「それでも最低限の秩序を保ってる教祖は相当のやり手なのね」

《あ〜………あ〜、うん、有能だね》

「……なんで言葉を濁すのよ。私何か変なこと言った?」

《いや、何も間違ってないよ。ただ……うん、大丈夫大丈夫》

「すっっっごい気になるんだけど……」

 

(シスコンだなんて言えない……いやシスコンでもないし……)

 

シスコンとはシスターコンプレックスの略だ。女神は……ゴッデス?ゴッコン?いやむしろ合コン?語呂が悪い、ベールコンプレックス略してベルコン?ベルが好きそうだ……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「失礼しま〜す……あ」

 

ネプギアが恐る恐る教会のドアを開くとそこには薄い緑色の髪をした女の人が立っていた。

 

「もしかして、アナタがチカさんですか?」

「…………」

 

チカは呼びかけても反応しない。こっちにピクピクと引き攣る頬を向けているだけだ。

 

「あの、チカさんですよね?」

「え、あ、はいはい。私がチカですよ。すいません、ぼーっとしてて」

 

ネプギアの再度の呼びかけにチカは慌てたように応じる。

 

「あの、疲れてるとかですか?危ない時は休んだ方がいいですよ?」

「い、いやいや、ほんと、本当にぼーっとしていただけですから。心配してくださってありがとうございます」

「そうですか……。じゃあ、私を呼んだ理由はなんですか?」

「へ?ネプギアさんを呼ぶ?」

「あ、私の名前知ってるんですか?嬉しいです!」

「え、あ、いやいや、有名ですから。実は私、ネプギアさんのこと応援してるんですよ?」

「そうなんですか!ありがとうございます!えへへ……」

 

記憶がないネプギアはなんの疑いもせず接しているが、他の3人は訝しげな目でチカを見る。

 

《チカ、本当に大丈夫?なんだか調子がおかしいけど……》

「ギク。ほ、本当に大丈夫ですってよ。最近忙しいから、そのせいかと……」

「やっぱり疲れてるじゃないですか。休んだ方がいいですよ?」

「じゃあ、お言葉に甘えてネプギアさんとの話が終わったら寝させてもらうことにします」

「んで、その話の内容はなんなのよ」

「え?え〜っと、それは……そう、モンスター退治です!」

「そのためだけに、ギアちゃんを呼んだですか?」

「そ、それはその……この国には女神がいませんから。モンスター退治をするにも一苦労なんです」

 

いちいち挙動不審だ。

しかしネプギアは応援してると言われて舞い上がっているのか、ウキウキして快く依頼を引き受けてしまう。

 

「大丈夫ですよ!この私におまかせください!」

「そう言ってもらえると心強いです。お願いできますか?」

「はい!さ、そうと決まれば行きましょう!」

「あ、ちょ、こら、引っ張るな!」

「うんたら草原の敵ならそんなに強くなくて安全だと思いますよ〜!」

 

ネプギアに引っ張られてみんなが出て行ってしまう。それを見てからチカは大きく息を吐いた。

 

「は〜っ……急に来るから、心臓に悪いぜ……ったく」

 

ピンと伸ばしていた背筋を曲げてだらしなく足を広げる。カツラを外した顔は化粧がされていてもわかるほど見覚えのある、リンダの顔だ。

 

「アタイの完璧な変装にまんまと騙されやがって。単純な奴ら……うん?」

 

奴ら……って誰だ?

 

「………あ、決まってる。あの憎たらしい3人と機械のヤツ1人だ」

 

思い出した。どうやら頭がぼーっとしているようだ。気を使ったからか……?

 

「アタイの任務は、このままチカを演じ続けること……。うん、大丈夫だ、忘れてネエ」

 

大丈夫、ハッキリしている。さすがに心配のし過ぎか。

 

「……うん?なんの心配だっけか……」

 

リンダの疑問は2度と思い出されることはなかった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

リーンボックス、ガペイン草原。

そこを歩く足取りは軽い。ネプギアだけだが。

 

「ふんふふ〜ん、ふふ〜ん♪」

「あ〜あ、浮かれちゃってまあ……」

《応援されてるってのが嬉しいんだよ》

「それはわかるけど……普通あんなに浮かれる?」

「応援は嬉しいものですよ?昔折りたたみ式の携帯ゲーム機でも、応援団のゲームがあったです!」

「古過ぎるわ……。それライトになる前のソフトじゃなかった?」

《懐かしいなあ。でっていうのアイランドの難易度が高くて高くて……》

「私そんな昔のは覚えてないわね。覚えてても……『スピン』が導入された某有名ゲームのギャラクシーから」

《僕は結構古いのからわかるよ。ガンダムも出演しているスーパーなロボットの大戦の話はαやったことある》

「あるふぁ⁉︎それって……確か、出演してたのWのエンドレスワルツまでよね⁉︎」

《うん。ちなみに筆者がガンダム好きになった理由はそのゲームだよ》

「あ、ガンダムチーム組むんですよね⁉︎わかるです!」

《昔はやっぱりスーパーロボットが好きだったんだけどね。ストナァァァァァとか、バスタァァァァァとか叫んでたよ》

「古過ぎる……」

 

ゲーム話に花を咲かせていると、だいぶ街から離れた場所にまで来ていた。

 

「あ、アレじゃないですか⁉︎ほら、大きいのがいますよ!」

「本当、ね……。って、アレ結構強そうじゃない?」

「大丈夫ですよ!私に任せてください!」

「あ、ちょ、待ちなさい!」

 

目の前にはだいぶ大きいモンスター。強そうどころか間違いなく強い。

ネプギアは浮かれているのかビームソードを構えて何の躊躇もなく飛び込んでいく。

 

「えいっ!」

 

シンボルアタック!

 

「あ、あれ?」

 

空にフワフワと浮かぶクジラのようなモンスターがこちらをギロリと見る。

ネプギアのビームソードはしっかりクジラに当たったはずだが傷1つ付いていない。

さすがクジラだ!何ともないぜ!

 

「ブオオオオオオ!」

「わ、わあ!怒らせちゃいましたぁっ!」

「んもう、バカッ!」

 

クジラが咆哮を轟かせてネプギアに向き直る。

 

「ギアちゃん避けるです!」

「えっ、わあっ!」

 

クジラの尻尾が地面を叩きつける。

飛んで避けたが、地面が尻尾の形に凹んでしまっている。

 

「あわわわ……」

《僕が出た方がいい⁉︎》

「そうしてもらえると助かるけど⁉︎」

 

 

「どいてっ!」

 

 

「へっ?」

「ブオッ⁉︎」

 

クジラの顔面に弾丸がぶち当たり、その後数瞬置いて……!

 

「きゃあっ!」

 

爆発する。

 

「なぁにやってんのよネプギア!」

「ゆ、ユニちゃん!」

《ユニ……!》

「ネプギア、早く立って!逃げるわよ!」

「は、はい!」

「逃げる?……そんなこと、するまでもないわよ!」

 

変身していたユニがX.M.Bを構えた。一見形は変わっていないように見えるが、そこから発せられるエネルギーは以前の比ではない。

 

「ブオオオッ!」

「ラステイションの科学力よ!冥土に持って行きなさい!」

 

怒り狂うクジラだったが、ユニは威嚇にも怯まずにむしろその隙を狙う。

 

「ロケット弾よ!」

「ブオッ⁉︎」

 

なんと、X.M.Bからロケット弾が撃たれた。

それはクジラに命中して大爆発を起こし、ユニは怯んだクジラにさらに追撃を加える。

 

「散弾!」

 

X.M.Bから発射された弾丸から飛び散る破片がクジラの皮膚に傷をつける。

 

「貫通弾!」

 

螺旋を描く弾はクジラの硬い表皮をも穿って穴を開ける。

 

「ラスト!最大出力よ!」

 

ユニから撃たれたビームは絶大な威力で、クジラの体を焼き払い、大穴を開ける。

 

「ブオオオオ………」

 

クジラは光になって消えた。クジラの後方にはビームが当たってできた焦土が広がっていた。

 

「ふふん、どんなもんよ!」

「す、すごいよユニちゃん!」

「ふふっ、大したことないわよ。これくらいは女神として当然」

 

「あんな威力……3年前だってなかったわよね」

《ほら、ラステイションのこと覚えてる?多分、ヴァイエイトのジェネレーターの技術を使ってるんじゃないかな》

「ああ、それなら納得はいくわね。敵性技術って凄いわね〜」

「弾の種類も多かったですね」

 

どうやらパワーアップしてきたみたいだ。あんなに強そうなモンスターを軽々倒しているとなると、いつにも増して頼もしい。

 

「あ、でもどうしてここにいるの?」

「ん、それはね……」

「その前に、ネプギア」

「はい?」

「お説教ね」

「………はい」

 

やっぱりネプギアはネプギアだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女神候補生、集う

「どうしたですか、あいちゃん?」

「……久しぶりにいい気分だったのに、悪いもの見ちゃったわ」

「何を見たですか?……見たですか?」

「幽霊とかじゃないから安心して。むしろ幽霊なら除霊のしようがあって楽かも」

 

ビシッとアイエフが人の波を気にかけながらある場所を指差す。

 

「はい、行くわよ」

「わ、私達が幽霊になるですか⁉︎」

「逝くじゃないわよ」

《わ〜、アイエフったらハレンチ〜》

「そういう意味でもない!ほら、いつものアレよアレ」

 

アイエフが指差す方を見るとそこには……。

 

い つ も の 。

 

《あっ……ふ〜ん……》

「ほら、うぃ〜っと行ってしゃ〜っとしてうぇ〜するわよ」

「あいちゃんが学生のバイトみたいになってるです……」

「5回目ですし、流石に手慣れたんですね……」

 

それはみんな同じなのだが。

人の波をかき分けて進む。人がいない道にまで抜けて回り込むと、リンダは5pb.を見ながら低く笑っているところだった。

 

「へへっ……あそこに乱入しちまえば……」

「はい死刑」

「せめて逮捕して送検して裁判かけるくらいはしろよ!……ん?」

《また会ったね、リンダ》

「げっ、テメエら!これでひー、ふー、みー……4度目かよぉ!」

 

 

《………え?》

 

 

「ラステイションからわざわざリーンボックスまで追ってくるなんて、なんで執念深い野郎どもだ!」

「は?ルウィーでも会ってるじゃない。ついにモウロクした?」

「は?それはこっちのセリフだ。アタイはルウィーなんか行ってねえぞ」

「…………え?」

「そ、そんな、忘れたんですか⁉︎あんなロボット操って、脳とか、出てきて……!」

「ロボット?脳?知ったこっちゃねえな、なんだよそれ」

(これ……!まさか、記憶が消えてる⁉︎)

 

ネプギアが目を見開いた。

それはアイエフもコンパもミズキも同じだ。

 

「チッ、ま、ライブ妨害は別に命令されたわけでもねえしな……。じゃあな!」

「あっ、ちょっと待って!」

 

相変わらず逃げ足が速い。

 

あっという間にリンダは見えなくなってしまうが、4人に新たな謎が襲いかかる。

 

(あの人まで記憶が消えてる……⁉︎なんで、どういうこと⁉︎)

 

しかもピンポイントでルウィーの記憶だけ。あの酷い有様を忘れるわけがない。

やっぱり、記憶は消えてるんだ……!

 

《十中八九、ビフロンスの仕業だね》

「でしょうね。でないと、説明がつかない」

「下っ端さん、会ったんでしょうか……」

 

記憶を消せるのはビフロンスないし犯罪組織マジェコンヌくらいのものだ。3人はネプギアに聞こえないように呟く。

 

「次のナンバー!みんな、まだついて来てよ⁉︎」

 

全員が謎の中に沈む中、5pb.の声が辺り一帯に響いていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

アテもなくリーンボックスの街を歩く。

教祖チカのこと、リンダのこと。だがいくら調べても何も出て来ない。

まさかチカは気が狂ってるのですか、などと聞くわけにもいかないし記憶が消えてませんか、などと聞いたらこっちが変人扱いだ。

というわけで八方詰まりの状況だ。ええいっ、押すも引くもできないッ!

 

《そりゃ、簡単に見つかるわけないって思ってはいたけど……だいぶ堪えるね》

「ここまで何もないと、やめたくなるですよ」

「そうね。今回ばっかりは賛成だわ」

 

クエストをこなしながらプラネテューヌやリーンボックスのシェアを回復させ、さらに聞き込みを行っているが、やはり成果はない。

 

「…………」

 

ネプギアも考え込みながら歩いている。

記憶に関することを延々と考え続けている。しかし、答えは出ない。まさに、謎が謎を呼び、わからないことばかり増えていく。それは不毛とも言えたが、やめるわけにはいかない。

きっと、これはスミキという男にも深く関わっていることだから。

 

(私達を助けてくれる人だし、きっと悪い人じゃない。でも……)

 

何か大なり小なり謎があることは間違いない。それを解き明かしたい。

 

「ん〜……ん?」

 

トン、と背中が押された。

自分は最後尾にいるので、後ろには誰もいないはずだが……。

 

トン。

 

「………」

 

まさかこんな明るいうちから幽霊が出るわけないだろう。そう考えている間にも背中は叩かれ続ける。

段々とその間隔が短くなってそして………!

 

「さっさと振り向きなさいよ!」

「あうっ」

 

しまいには頭を殴られた。

涙目になりながら後ろを振り向くと、そこにはロムとラムがいた。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

「ちょっと前ぶり……」

「なんで叩いてるのに振り向かないのよっ」

「いや、その、いやぁ……」

 

適当に言葉を濁して苦笑い。

アイエフとコンパも気付いてこちらに戻って来た。

 

「リーンボックスに来るなんて、どうかしたですか?」

「そりゃあもちろん、シェアを頂きに来たのよ!」

「出来れば、マジェコンヌから奪うつもり……」

《考えることはみんな同じだね……》

 

奇しくもユニとまったく同じ理由。

 

(一応、ネプギアにも会いに来てあげたんだからね?)

(そのうち、ユニちゃんとも会うつもり……)

 

2人が耳打ちしてそっと教えてくれる。

どうやらリーンボックスに集って記憶についての話し合いをするつもりらしい。

 

「それで、アンタ達は何してんの?やっぱりシェアクリスタル集め?」

「それもありますけど、まあ、他にも色々調べてる途中です」

 

アイエフがそう言うと、ラムは食いつく。

 

「色々って?」

「ほら、ここの国が犯罪組織の規制解除したでしょ?それについて調べてるの」

「キセーカイジョ……ああ、アレね!」

「調べるも何も……教祖さんがおかしいんじゃ、ないの……?」

「それがね、スミキさんが言うには……」

《チカはそんなことする人じゃないんだ。何か理由がある。……そう思ってね》

 

ラムは少し訝しげな目になるが、すぐに腕を組んで考え始める。

 

「ん〜……じゃあ脅されてるんじゃないの?」

《それがわかれば苦労はしないんだけどね。だから、どんなことになってるか調べてるんだ》

「あ……あと、アレ……。前やったゲームの……」

「ああ。実は入れ替わってました〜ってやつよね」

《入れ替わる、か……》

 

それもあるかもしれない。

 

「その線で調べてみる?」

《いい加減直接会えないかな。一応帰ったら連絡するように職員には頼んだけど……》

「もしかしたら口止めされたかもしれないしね。誤魔化されたとか」

 

仮に帰って来たとしても「さっき会って来たから、連絡しなくて大丈夫」などと言っておけば連絡はしないだろう。

抜き打ちで会いに行ったほうがいいか……。

 

「ん、あれ?アンタ達……げ、ネプギア」

「げ⁉︎げって言われた!」

「いや、それは……うん、ゲプギア」

「ゲプギア⁉︎」

「そのほら、アレよ、あんまり気にしない方がいいわよ。ゴンザレス村内さんもそう言ってたし」

 

『あんまり気にするんじゃねえぜ、ベイビー。キラっ』

 

「誰⁉︎そのアメリカ然とした人は誰⁉︎ていうか、うわ、変なの聞こえた!やだ、聞きたくないよこの無駄にイケメンな声!」

 

『(ベイビー、好きな飯は何だい?やっぱり俺は、お袋の味噌汁だな)』

 

(こいつ、頭の中に直接………⁉︎)

 

「っていうかゴンザレス村内さん無駄に日本かぶれ⁉︎まさかの味噌汁好き⁉︎ステーキとかじゃないんですか⁉︎」

 

『違うぜベイビー。お袋の、味噌汁だ。そこを忘れちゃいけねえ。それは焼きそばにソースをかけないみたいなもんだ』

 

「塩にすればいいじゃないですか!」

 

ゴンザレス村内さんとの会話を早々に切り上げる。このまま会話を続けると、なんか、ダメな気がした。

 

「で、なんでアンタ達がいるの?」

《かくかくしかじか》

「あのね、それで伝わるわけが……」

「まるまるうまうま。……なるほどね」

「伝わった⁉︎」

「ベタなツッコミですぅ……」

「伝わらなかった……」

「それでいいのよ。それで普通なのよ。間違ってないから、私達」

 

ロムががっかりしているがラムは冷めた目で諭す。普通伝わるよねぇ、かくかくしかじか。

 

「それじゃ、善は急げってことで行きましょ?」

「どこに?」

「そりゃ、ここの教祖のところよ」

 

ユニがさっさと歩き出す。

他の人達もそれにつられてリーンボックスの教会へと向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

静かに教会のドアを開けて中に入る。

奥に進むと特徴的な長い薄い緑色の髪が見えた。アレは間違いなくチカの髪だ。

 

「失礼するわよ」

「ヒッ⁉︎あ、アナタは……?」

「ちょっとユニちゃん、そんないきなり……」

 

ユニが先陣を切ってドアをバンと開く。

中にいたチカの背筋はピーンと伸び切って頬も引きつっている。

 

「あ、ネプギアさん達も……。あの、お友達でしょうか?」

「あ、はい。友達です」

「ちょっといい?シェアクリスタルについて聞きたいんだけど」

 

アイエフがさっさと話を進める。

チカはしどろもどろになりながら話し始める。

 

「あ、あの、その件はこちらでも調査中でして……」

「まだ終わってないの?」

「も、申し訳ありません……」

《…………》

 

やっぱりおかしい。

言っては失礼だが……チカはこんなにしおらしいだろうか。言ってしまえばチカは大きい子供というイメージがミズキの中にはあった。

 

「と、ところでその、アナタ達は?」

「私はラムよ!」

「ロム……」

「ロム、ラム……。聞いたことないですわ」

「ルウィーの、女神候補生……」

「そうなんですか。あれ?アタイ本当に覚えてねえぞ……」

「何か言った?」

「い、いや何にも?」

 

チカがボソッと呟いたが、誰にも聞こえなかったようだ。

 

「それで、アナタは?」

「……忘れたの?私よ、ユニよ」

「ゆ、ユニさん?」

「ええ。2日前に会ったじゃない」

「2日前……あ、ああ、会ったような、気がします。最近物忘れがひどくて……」

「いや……3日前だったかしら?」

「3日前?そ、そんな気もしますね」

「1週間だったかしら」

「い、1週間?そうかもしれないですね……」

 

「………………」

 

アイエフが頭を抑えて深い溜息をつく。

ああ、もう、これはビンゴだ。ビンゴっていうかダウト。

 

「ごめん。私アンタに会ってないわ」

「………はい?」

「はい、偽物発見〜。取っ捕まえるわよ」

「っていうか、完全に声が下っ端じゃない……。こんなのも見破れないって、諜報部員失格よ……」

 

アイエフが勝手に凹んでいる。

その間にも他の人達はユニの号令でチカを囲むようにジリジリと動いている。

 

「な、なんのことです?私は教祖チカで……」

「観念しなさいよ。もう取り繕いようがないわよ」

「やぁっぱり偽物だったのね!」

「おとなしく、して……」

「ぐ、ぐ、くそっ!このアタイの完璧な変装を見破りやがって!」

「あ、下っ端さんです!」

「全然気づかなかった……!」

「……アンタ達バカ?」

《何も言い返せないね……》

 

「こ、こうなりゃ!」

「逃げるですか?」

「逃げるんですか?」

《逃げるの?》

「逃げるのよねぇ」

「四段活用になってんぞ!普通そこは三段活用だろうが!このゲームのアレとしては!」

《テイク2》

「逃げるんですか?」

「逃げたです」

「逃げたわよねぇ」

「じゃーーーなーーー!」

「あっ!逃げられた⁉︎アンタ達何してんのよ!」

「はっ、つい……」

「追いかけるです!」

「ったく、毎度毎度逃げるなぁぁっ!」

 

とっとと逃げ出したチカ、じゃなくてリンダを全員で追いかけた。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「ひ〜っ、ひ〜っ、ここまで来れば……!」

 

リンダがダンジョンの中で息を整える。だいぶ走ったはずだが……さすがにここまで追いついては、

 

「まぁてぇぇっ!」

「来た⁉︎」

 

しまったフラグを立てすぎた。

 

「く、くそっ!」

 

捕まるわけにもいかないのでさっさと走り出す。しかしこのままではラチがあかない。

 

「なんか時間を稼げるもの、時間を稼げるもの……!そうだ、これがあったじゃねえか!」

 

 

 

それから少し後。

 

「どこ行った⁉︎」

「………あっちから足音が聞こえる……」

「あっちね!」

「ふえぇ、もう疲れたです……」

「コンパさん、頑張ってください!」

 

十字路を左へ。

すると走っていたロムが道の途中でピタッと止まる。

 

「……………」

「ロムちゃん?どうかした?」

「……なにか、イヤな感じがする……」

「イヤな感じって……いつものアレ?」

「それとはちょっと違う……。なんていうか……すごぉくイヤなんだけど、ゾワゾワはしないの……」

「なんだっていいわよ、早く行きましょ」

 

ユニがさっさと駆け出す。

 

「あ、ああ待って!」

 

ネプギアもユニに追いつこうと駆け出した。

道の向こうの暗闇に2人が消えて、数秒後。

 

「きゃーーーーっ⁉︎」

「ねぷぎゃーーー⁉︎」

 

「ネプギア⁉︎」

「ギアちゃん⁉︎」

「ユニちゃんの声……!」

「急ぐわよ!」

 

2人の甲高い悲鳴が聞こえた。

急いで進み、アイエフが懐から懐中電灯を取り出して先を照らすと、そこには……!

 

「きゃっ、この、触るな!」

「ふぇぇ、冷たくて、ゾワゾワするぅ〜!」

 

「げっ」

「あぅ」

 

アイエフとコンパか苦虫を噛み潰したような顔になる。

あの時の再来……スライヌ、再び。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スライヌ地獄再び

アイエフが先を照らすとびっしりスライヌだった。壁、天井、床、全てにびっしりとスライヌが張り付いていてスライヌがいない場所を探す方が難しい。

 

《どうかしたの?》

「ああ、そういえばアンタは知らなかったわね……」

「前にも似たようなことがあったですよ……」

 

ちょうどミズキを追いかけていた頃、ラステイションで似たような状況になったことがある。あの時は触手モンスターが多めだったが。

忘れた人は読み直して、どうぞ。

 

「もしかして、ロムちゃんのイヤな予感ってこれ?」

「たぶん……」

「バカバカしいわね!こんな雑魚モンスター、私が簡単にうぎゃーー⁉︎」

「ロムちゃん……!」

《早いね……》

 

勝ってくるぞと勇ましく誓って国を出たラムが一瞬でスライヌの津波に飲まれた。

津波を舐めてはいけない(戒め)。

 

「あは、くは、くすぐったい……!あははは!」

「た、助けないと……!」

「やめといた方がいいですよ。多分また飲み込まれるんで」

 

経験者は語る。

 

「じゃあどうするの……?」

「今すぐ命の危険ってわけじゃないし、放っておけばいいんじゃないですか?」

「でも、下っ端さんに逃げられちゃうですよ?」

「あ〜……。でも2度とああなるのはイヤなんだけど」

「それは私もですぅ……」

「せめて遠くから数を減らしましょうか」

「う、うん……。そうする……」

 

ロムは魔法、アイエフは拳銃、コンパは液体を噴射して遠くから……本当に遠くからスライヌを駆除していく。

 

「や、ダメ、そこは〜っ!」

「こ、この、調子にのるなっ!」

「ひ〜ひひひっ、も、もう降参、ダメダメ!」

 

「2度とああはなりたくないものね」

「私も……いや……」

 

「た、助けてくださいアイエフさん!スライヌが服の中入ってきてゃん!」

「無理よ無理。ネプギアに弾が当たっちゃうもの。自分の周りのは自分で倒しなさい」

「そ、そんな〜!いや、そこはダメダメ!」

「あははははっ、ロムちゃん、助けてぇ〜っ!ぷくくくっ、うはは!」

「やだ……。ラムちゃんみたいになりたくない……」

「お、お願い、お願いだからひゃははは!」

「頑張って、ラムちゃん……」

《案外ロムって薄情だよね……》

「こ、この、いい加減にしろぉ〜っ!」

《あ、ユニがキレた》

「駆逐してやるわ!この世から、スライヌを、1匹残らずぅぅっ!」

 

キレたユニがライフルを構えて乱射し始めた。そして自分の体にまとわりついたスライヌをちぎっては投げちぎっては投げ。

 

《なんか、駆逐してやるって人によって受け取り方が違うよね》

「そうなんですか?」

《普通の人は巨人を駆逐しようとするけどさ、DMMのしもべはロリを想像するし訓練されたガンダマーならトランザムするじゃん》

「1番歴史古いのはトランザムですよね?」

《タブンネ〜》

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「ぜえっぜえっ、はあ、はあ、残りはどこだぁっ⁉︎」

《ユニがバーサーカー化してるね》

「いない、いないわね⁉︎」

「うぅ、服ベトベト……」

「はあっ、はあっ、腹筋が壊れるかと……」

「ラムちゃん、大丈夫……?」

「うん、心配してくれてありがと……って裏切り者!」

「な、なんのことかな……?ひゅー、ひゅー……」

「口笛吹けてないわよ!」

 

「だいぶ時間を稼がれちゃったです」

《多分見失ったね……》

「でしょうね。けど諦めるわけにもいかないし、先に進みましょう」

 

女神候補生がそこそこ大変なことになっているがとりあえず放っておいて先に進む。

すると舗装された……というより人の手が入ったような道が急に開けた。

 

「……蒸し暑っ」

「溶岩……です」

 

急に人の手が全く入っていない岩場が現れた。

溶岩の海の中から飛び出た岩が床を形作っていて、万が一そこから落ちれば骨も残らないだろう。

 

「ネプギア……落ちないでよ?落ちないでよ?」

「フリ⁉︎本当に押さないでね⁉︎押さないでね⁉︎」

 

別に一歩足を踏み外せば落下みたいな細い道はない。足場が崩れたりしない限り、そうそう落ちはしないだろう。

 

「ロムちゃん、何か感じる?」

「ううん……」

 

そうそう都合よくビビッとは来てくれないらしい。

しかし幸運なことにここから先は一本道だ。迷う心配はないので先へと進む。

 

「……あれ?アレって人ですか?」

「本当ね、倒れてる。……ってまさか、あの人!」

 

道の向こうに倒れた女の人がいた。アイエフは急いで駆け寄り、体を起こさせる。

かまされた猿轡と腕を後ろ手で縛っている縄を解いてぐったりとした女に呼びかけた。

 

「ちょっと、起きて下さい!無事ですか⁉︎」

「あいちゃん、私が診るです!」

「……ぅ……アナタ達は……」

 

「あ、あの、その人は……?」

 

女神候補生も追いついて女の人を見つめる。

薄い緑の髪に特徴的な服。見覚えのある姿、この人は……。

 

「チカさん、ですか?」

「ええ、多分ね」

 

「ぅ……私は、もうダメ……」

「そんな、元気出してください!」

「わかるのよ……。自分のことは自分が1番よくわかる……」

「出会ったばかりなのに、チカさん……!」

「ごめ……なさ……」

 

《はいはい、やめやめ》

 

「え?」

《悪ふざけはやめてよね、チカ……。わりかし本気で心配しちゃうからさ》

「う、嘘じゃ……」

《あ、ベールだ》

「お姉様っ⁉︎」

《はいダウト〜》

 

ベールの名前を呼んだだけでチカは飛び起きた。

周りをキョロキョロ……いや、ギョロギョロ見渡す姿はとても死にかけとは思えない。健康体そのものだ。

 

「……スミキ、これはどういうことなの」

《チカは良く仮病するんだって、昔ベールに聞いたことがあってね。本当に体は弱いらしいから全部が仮病とは限らないらしいんだけどね?》

「どっかでそんな話聞いたことあるわよ。え〜と……」

「オオカミ少年……」

「そうそうそれそれ!」

 

「アンタ、騙したの⁉︎」

《つい直前までチカが僕達を騙してたんですがそれは》

「むぐ……」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「先程は見苦しいところを見せたわね。アタクシがこのラステイションの教祖、箱崎チカよ。覚えておきなさい」

「さっきまでとは態度が全っ然違うわね」

「あんな小娘と一緒にしないで。これが本当のアタクシよ」

 

踏ん反り返って傲岸不遜というか……良い意味でも悪い意味でも偉そうで高圧的というか。それ良いニュアンスないな。

 

「あの、私を呼んだのは今の……本当のチカさんなんですよね?」

「ええ。まあ、正確に言えば呼んだのはそっちの彼の方だけど」

 

チカが目線をネプギアに向ける。

だが『彼』と言ったのだから、ネプギアに向けて言ったものではないのは確かだ。

 

「まあそれはいいわ。それよりも……」

「それよりも?」

「アナタ、ベールお姉様のことを知ってるのよね⁉︎」

「え、ええ、いや、はい……。あの、チカさん?なんか目が怖いですよ……?」

「ベールお姉様のこと、教えなさい!今すぐ今でしょホラ早く!」

「うぇ、ちょ、あの〜……!」

 

 

 

「そう、お姉様は今も犯罪組織の手に……」

「はい……」

「あらためてその話を聞くと、やっぱり不安になるわね……」

「お姉ちゃん、無事かな……?」

「き、きっと大丈夫よ!多分……!」

 

女神候補生達はそう言ってはいるものの、あの時無事だったからと言って今も無事だという保証はどこにもない。

暗示のように、そう信じたいだけだ。

 

「それで、あの、シェアクリスタルについては……」

「……それがね。もう奪われたと考えていいわ」

「ええ⁉︎」

「私が捕まってる間にあの下っ端くさいやつが言ってたわ。シェアクリスタルは確保しただのなんだの」

「そんな……」

「じゃあ、この国のシェアクリスタルは壊されたのかしら?」

 

 

《……いや、まだかもしれない》

 

 

「え?でも、普通はそんな敵の助けになるものなんて壊すですよね?」

「いや……。ルウィーのことを思い出して。あいつらはシェアクリスタルを悪用していたわよね」

「あ……。じゃあ、ここもルウィーみたいに……⁉︎」

《有り得る話だよ。すでに侵攻の準備が整ってるかもしれない。けど、準備を終わらせる前に計画を頓挫させ、さらにシェアクリスタルを取り返すことができれば……》

「私達のだいしょーり!ってわけね!」

「じゃあ、早速追いかけよう……?」

「でも、何処にいるかわからないよ……」

 

リンダは完全に姿をくらました。

スライヌで足止めされた上にチカを助けていてさらに時間を食った。

もうリンダを追う術はないと言っても……。

 

「……その、シェアクリスタルを集めることはアナタ達の力を上げることに繋がるのよね」

「え?は、はい……」

 

チカが瞑目しながら喋り出す。

 

「それはつまり……お姉様の救出のためになるのよね」

「それは……はい。それを集めれば、きっとマジェコンヌの敵だって……」

「手を尽くすわ。数時間待ちなさい」

《す、数時間って……まさか、それだけの時間でリンダを探し出すつもり⁉︎》

「愛の力に不可能はないの。あんまり教祖ナメんじゃないわよ」

 

チカが身を翻し、カツカツとビールを鳴らして奥へと向かっていく。

みんなはそれを唖然と見つめていたが、チカは思い出したようにクルリと振り返った。

 

「全部終わったら、彼と話をするわ。それじゃ」

 

ブツブツと呟きながらチカは奥へと消える。

 

「国は立て直す。お姉様は取り戻す。両方やらなきゃあいけないのが教祖の辛いところよね……」

 

「……ミナちゃんもあんなに凄かったっけ?」

「ううん……。もっとぽんこつ……」

「ぽ、ぽんこつって……。ミナさんも普通に優秀だと思うんだけど……」

「ウチのケイは優秀よね。まあ、あの性格を除けばだけど」

「そ、それはチカさんだって同じだもん!こっちのいーすんさんの方が……」

「ミナちゃん、勝てない……?」

《いや、ミナは普通に優秀だし普通に普通だから。ただ、目立たないだけで……》

「いーすんさんは人柄も能力も良いですよね⁉︎」

《イストワールは……背がね?》

「た、体格もですかっ⁉︎」

「だったらミナちゃんが1番ね!どかぁんのばるるんだもん!……ばる……るん……」

「……まだ、成長期だもん……」

「わ、私だってそうよ!ええ!」

「わ、私も……。お姉ちゃんくらいには……」

 

「なんか喧嘩してたはずなのにいつの間にか沈み込んでるですぅ……」

「…………」

「あいちゃん?」

「……なんでもない。ええ、なんでもないわよ?」

 

胸の話から逃れる。

 

「あ〜、もしもし?アンタ達?ちょっと!」

《あ、チカ?どうかしたの?》

「どうも何も……見つかったわよ。マジェコンヌの構成員」

《もう⁉︎》

「変なフードかぶった女とデカい黒鼠の目撃情報があったの。あっさりすぎて怖いくらいだけどね」

「もう隠れる気ないのかしらねあいつら。忍びなれども忍ばない的な」

 

カクレンジ○ーか、ハリケ○ジャーか。え?どっちでもない?

 

「なんでもいいわ。早くとっちめて、クリスタルを取り返すわよ!」

「急いだ方がいいですよね」

「そうね。悪いけど、今すぐ向かってくれるかしら」

《わかった。それじゃ、行こっか》

 

全員が気を引き締めて教会を出て行こうとする。その背中をチカが呼び止めた。

 

「あ、そうだ。アタクシの厚意で助っ人を1人送るわ」

《助っ人?》

「ええ。呼ぶのに時間がかかるから、先行ってていいわよ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ザンスカール帝国

「は〜、まだ肩が凝ってるぜ。慣れねえことしたからなあ……」

「そもそも。お前みたいなガサツな女に変装なんて無理だったっチュ。見てて変だったっチュ」

「うるせえ!アタイはもっと荒っぽい仕事の方が向いてるんだよ!」

「そんな単細胞だからいつまで経っても出世できないっチュ。物を壊すなんて誰だって出来るっチュ」

「テメエに言われるとほんっとに腹立つなぁ……!」

 

ワレチューとリンダは口論していた。

場所はリーンボックス地下、アンダーインヴァースの最深部。チカが捕まっていた場所よりもさらに深く、マグマの熱気も伝わってくる。

 

「このシェアクリスタルも壊していいんじゃねえの?奪われたら大ごとだしよ……」

「だぁから単細胞って言われるっチュ。こんなに効率よくエネルギーを得られるのにみすみすそれを手放すっチュか?」

「その単細胞ってのやめろ!」

「じゃあ下っ端っチュか?」

「テメエが下っ端って言うな!」

 

 

「そうね。そうやって呼んだのは私達が先なわけだし」

 

 

「そうだ!だからテメエに呼ばれる所以は……ん?」

「そうやって大声で喧嘩してたら、こっちも見つけやすくて助かるわ」

「ああっ、テメエら!」

「その、アンタの後ろにあるのがシェアクリスタルね。返してもらうわよ」

 

リンダの後ろには眩い光を放つ巨大なクリスタルがある。

女神候補生+アイエフとコンパで総勢6人が構えるが、リンダは慌てるそぶりもない。むしろ、不敵に笑っている。

 

「コンパちゅわぁん!会いに来てくれるなんて、嬉しいっチュ〜!」

「うるせえこの発情ネズミ!」

 

ワレチューは満面の笑みどころか、目がハートマークだが。

 

「気をつけて、みんな。多分また……」

「あのロボットを出してくるのよね?大丈夫よ、これだけの数に勝てるわけないわ!」

 

4人は変身して身構える。

しかし、突如ネプギアとロムの耳にとある音が響いた。

 

「え……?なに、この音……」

「鈴の……音……?」

「鈴の音?そんなの聞こえないわよ」

「ううん、聞こえる……。シャララン、シャラランって……」

「………ロムちゃん、よけて……!」

「えっ?」

「早く……!」

 

ロムがラムを押し出してその場から離れる。

その瞬間、アンダーインヴァースの天井がひび割れ、そして……!

 

「っ………!」

「ビーム……⁉︎」

 

真っ赤なビームが天からの雷のようにラムのいた場所を貫いた。

ロムがラムを押し出していなければ、今頃消し炭になっていただろう。

 

「なに、この威力は……⁉︎」

「す、スミキさん!この攻撃はなんですか⁉︎」

《わからない……!けど、僕も出る!》

 

突如空間に穴が空き、そこから真紅の機体が飛び出した。節々に緑色のクリスタルを装備した機体はギラーガ。ギラーガはギラーガスピアを持ち、シェアクリスタルへと飛ぼうとするが、

 

《鈴の音……⁉︎くっ⁉︎》

 

急停止する。

ギラーガの目の前には強烈なビームが天井を突き破って発射されていた。

 

「スミキさん!」

《大丈夫!原理はわからないけど、狙い撃たれてる……!鈴の音に気をつけて!》

「気をつけるったって、聞こえないのよ!」

《ネプギアとロムのフォローを受けて!まずは狙撃をしてくる機体を倒す!》

「させるか!」

「ごめんっチュよ、コンパちゃん。コンパちゃんのことは大好きっチュけど、仕事は裏切れないっチュ!」

 

シェアクリスタルから新たに機体がいくつも生まれる。

腕から発振したビームをまるでヘリコプターのように回して飛ぶ蜂のような色の機体、シャッコーだ。

 

「はぁ⁉︎モビルスーツってあんな飛び方すんの⁉︎」

「ヘリコプターみたいです!」

《来るよ、避けて!》

 

何機ものシャッコーが右手に持ったビームライフルを発射してくる。

 

《当たりはしない!落ちろ!》

 

ギラーガの手のひらから発射されたビームバルカンがシャッコーを落としていく。

しかし、その数は膨大だ。

 

「この程度……!っ、鈴の音!」

 

ネプギアが身を翻すとそこにビームが落ちてくる。

 

「邪魔……!アイス・コフィン……!」

「まとめて落ちちゃえ!」

 

ロムとラムが氷塊をシャッコーに向かって放つ。

しかし、その氷は横から発射されたビームに弾き飛ばされた。

 

「なに……⁉︎」

「何よ、あの真っ赤なデメキンは!」

 

背中に大型のメガビームキャノンを装備した真っ赤な機体。

その機体がメガビームキャノンを展開して腹に構え、ロムとラムに向かってビームを放つ。

 

「当たらないわよ!」

 

機体の名はゴトラタン。

ビームは外れたものの、メガビームキャノンから放たれたマイクロミサイルがロムとラムを襲う。

 

「しつこい!」

「氷の粒で……!」

 

細かく割れた雹のような氷が放たれ、ミサイルを爆破させる。

 

「あいつ、エースってことかしら⁉︎」

「やっつける……!」

 

 

「あいつ、何者⁉︎」

「援護した方が……ッ⁉︎」

 

ネプギアとユニの間にメガ・ビーム・キャノンほどではないものの、強力なビームが放たれた。

そこにいたのも真紅の機体。まるで牛のような角を持った機体はリグ・コンティオ。放ったビームは右肩のヴァリアブルビームキャノンだ。

 

「あいつも毛並みが違うわね!」

「エース機が、2機も……!」

 

リグ・コンティオの放つビームライフルを避ける。

 

「接近戦を仕掛けます!」

「援護するわ!安心して行って来なさい!」

 

ユニの援護射撃を受けながらネプギアが前に出る。

しかし、リグ・コンティオの左肩の爪のような武装が分離してユニに向かう。

 

「何よ、この爪!」

「ユニちゃん、避けて!」

 

ビーム内蔵式ショットクローだ。

無線式で動くそれはユニにビームを放つが、ユニはそれを避ける。避けられてはいるものの、邪魔をされて援護射撃ができない。

 

《…………》

「くっ、やあっ!」

 

ネプギアのM.P.B.Lとリグ・コンティオのビームサーベルが鍔迫り合う。

 

 

 

「今回は強敵ね!」

「落としても落としても、キリがないです!」

《っ、アイエフに来た!》

「了ッ、解!」

 

アイエフがその場を動くとまた天からビームが落とされた。

 

「なんで地下にいるのにこうも正確に!」

《敵の姿は感じる……!多分、また脳を使ってるんだ!君達を感知して、そこにビームを撃ちこんでる!》

「その敵はどこにいるですか⁉︎」

《上空!恐らく、成層圏レベルの高いところだ……!》

「そんな高いところ行けるの⁉︎」

《厳しい……!くっ、今はこの雑魚を!》

 

シャッコーの弾幕を避けながら、ギラーガが関節を光らせる。そこから胞子状のビームの球体がいくつも現れ、ギラーガの周りを覆う。

 

《ビット!》

 

自由自在に宙を駆けるビットがシャッコーに次々とぶつかる。

ビームシールドで防御したシャッコーには後ろからビットが突撃する。

 

「このヘリコプターみたいなやつ、増えてるわよ!」

《それを超える速度で撃ち落とす!》

 

ギラーガの胸から高威力のビームバスターが発射された。しかし、シャッコーのビームシールドに阻まれて届かない。

 

《ぐっ……!》

 

またギラーガが上から放たれるビームを感知する。

避けたものの、このままではやられるのが目に見えている。

 

《一旦退くしか……⁉︎》

 

ビームバルカンで牽制しながらビットで敵を撃ち落とす。しかし、こんなもの焼け石に水だ。

圧倒的戦力差に押し潰されそうになった時、その戦場に弦楽器の音が響いた。

 

「あん?」

「ギター……っチュか?」

 

凄まじい速度でギターが演奏され、最後にギターの音が洞窟内にこだまする。

洞窟の入り口に立っていたのは、水色の髪の女の子。

 

《5pb.……!》

「みんな、盛り上がってるかい⁉︎」

 

5pb.がギターを弾き始め、自ら歌い始める。

全員が唖然としてそれを見つめる中、ギラーガだけはその歌の力を感じていた。

 

《上の敵が、引き摺り落とされてる……⁉︎シャッコーの生産も鈍い……》

 

「なんですか、この歌……。力が、湧いてくる……!」

「体が軽い……⁉︎」

 

しかし、味方はむしろパワーアップしている。5pb.の歌にはそういう力を感じていた。まるで神の加護のように、悪を挫き、正義を助ける力を。

 

「な、なにぼーっとしてやがる!あいつを撃て!」

《っ、させない!》

 

シャッコーが5pb.にビームライフルを向ける。

すかさずギラーガが前に立ちはだかり、ギラーガスピアを回転させてビームを弾いた。

 

《もしかして、チカの言ってた助っ人って……!》

「うん、ボクだよ。ごめん、遅れちゃったね。でも……」

 

 

「力は任せたよ。想いはボクがやる、ミズキ!」

 

 

《っ、5pb.………!》

「大丈夫、覚えてるよ!さあ、次のナンバーいくからね!」

 

5pb.が次の曲を歌い始めた。

やはり、力がみなぎるのを感じる。

 

「アンタ、覚えてるの⁉︎」

 

5pb.はアイエフにウィンクして返事する。

どうして、は今聞くことではない。

 

《勝機が見えた!ビット!》

 

ビットがシャッコーを撃墜していく。

 

《5pb.、このまま地上に出るよ!》

「地上に?」

《歌いながら走れるかい⁉︎》

「任せて!しっかり守ってくれるんでしょ?なら!」

 

5pb.が反転して地上へと駆け出す。

 

《僕は上のヤツを倒す!ここは任せたよ!》

 

ギラーガも5pb.を守るように後退し始めた。

 

「させないっチュ!追うっチュよ!」

 

しかしそれを見過ごすわけもなく、シャッコーの大群が2人へと向かう。

そのシャッコーの大群は横からの射撃で数を減らされた。

 

「全滅……は無理そうだけど、数は減らすわ!」

「かかってくるです!」

 

アイエフとコンパだ。

シャッコーは一瞬判断に迷うような素振りを見せたが、おおよそ半々に分かれてギラーガ達を追う部隊とアイエフ達を倒す部隊に分かれる。

 

「私達はあの赤いのを倒せばいいのね!」

「簡単……。今の私達なら……!」

 

ロムとラムはゴトラタンを担当し、ネプギアとユニはリグ・コンティオを担当する。

 

「ひええっ!うわわっ!」

 

5pb.は逃げ回りながら地上へと向かう。

流れ弾が通路や壁に当たり、その爆発で驚いて身を竦ませたり飛び跳ねたりしている。

 

《安心して、5pb.!指一本触れさせないから!》

「わ、わかった!次、歌うよ!」

 

ギターを背負い、アカペラで歌い始める。

ギラーガは接近戦を仕掛けてきたシャッコーにギラーガスピアで対抗した。

 

《ふっ、はっ!》

 

双頭の槍のようにビームが発振してシャッコーのビームサーベルを受ける。すかさず返してシャッコーを切り裂いた。

 

《よし!》

 

シャッコーが爆発して後続のシャッコーを邪魔する。

これでだいぶ時間を稼げるはずだ。

 

「み、ミズキ!この先足場がないよ!」

《わかった、捕まって!》

 

5pb.が走ろうとしている橋は崩れ落ちてとてもジャンプでは越えられないほどだった。

ギラーガは5pb.の前に出て手を掴む。

 

《せーのっ!》

「うわわっ!」

 

そのままギラーガは空を飛び、橋を越える。

 

「ミズキ!あれ、出口だよね⁉︎」

《出ても歌い続けてね!》

「おっけー!」

 

ダンジョンから飛び出ると、そこは草原だった。

すかさずギラーガが上を見上げると、そこには巨大な円盤があった。

 

《そうか、ザンネック!もう邪魔はさせない!》

 

ギラーガが上に飛翔する。

上空から狙撃していたのはザンネック。やや大型のモビルスーツで、ザンネックベースと呼ばれる専用の円盤のようなサブフライトシステムに乗っている。

 

(鈴の音……!やはり、あいつもサイコミュを使えるのか!)

 

ザンネックの両肩の三日月型の粒子加速器が専用武器、ザンネック・キャノンを駆動させた。

それはギラーガへと向けられる。

 

《当たりはしない!》

 

ギラーガは機動性重視の機体。

ザンネック・キャノンを軽々避けてみせる。

 

《…………》

 

(やっぱり、5pb.の歌で徐々に下降している……!これなら、攻撃が届く!)

 

《ビット!》

 

ギラーガビットがザンネックベースに突撃する。

しかし、ビットはベースに当たった瞬間に弾かれてしまった。

 

《あそこはビームを防ぐのか……!》

 

ザンネックは大型と言えども、ザンネックベースのおかげで素早く動く。ギラーガでも追うのに手間取るほどだ。

 

《…………》

 

ザンネックの粒子加速器が最大駆動した。粒子が輪を描き、その形状が三日月型から円環状へと変わる。

 

《今までで1番デカいのか!》

 

流れ弾が万が一アンダーインヴァースを崩れさせては笑い話にもならない。

すかさずギラーガはザンネックよりも高度を上げる。

 

《怖くない……!5pb.が歌ってくれて、覚えてくれてるから何も怖くない!》

 

放たれたビームを軽々避ける。

ギラーガスピアの両端から槍のようにビームが発振される。

 

《はぁぁぁっ!刈り込むッ!》



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ロム&ラムvsゴトラタン

ゴトラタンがビームライフルを連射してくる。背中に背負ったメガビームキャノンのおかげで機動力が上がり、それを生かしてロムとラムへ熱線を放っている。

 

「っ、大したことないわね!」

 

ラムが展開した防御魔法はビームライフルを容易く弾いた。

それを見たゴトラタンはメガビームキャノンを腹に構える。

 

「させない……っ!」

 

しかしロムが飛ばす氷塊がそれを邪魔して、ゴトラタンは発射をやめて2人から離れる。

 

《…………》

 

「私達に勝てるわけないでしょ?」

「氷以外の魔法だって、使えるんだから……!」

 

ロムが念じるとロムの目の前に炎の球体ができた。

 

「フレイム……!」

 

《…………》

 

それはゴトラタンに命中する。

 

「やった……!」

「これでお終いかしら?」

 

しかし、ゴトラタンはやられていない。炎の中から現れたのはメガビームキャノンを構えたゴトラタンだった。

 

《………》

 

「っ、ガード!」

「私も……!」

 

ゴトラタンはビームシールドで炎を防いだのだ。

ゴトラタンは一瞬の隙をつき、メガビームキャノンを放つ。

ロムとラムは防御魔法を重ねてガードしようとするが……!

 

「は、反射した⁉︎」

「打ち消されないなんて……っ!」

 

メガビームキャノンから放たれたビームは防御魔法に弾かれたものの、その勢いは失わずに拡散するようにビームをまき散らした。

 

「きゃあっ⁉︎」

「あ、危なっ!」

 

「ごめんなさ〜い!」

「やっちゃった……」

 

拡散したビームは味方には当たらなかったようだ。当たりかけたけど。

ロムとラムはテヘペロと舌を出す。

 

「っ、ロムちゃん!もう1回来る!」

「今度は、避ける……!」

 

ゴトラタンが放つメガビームキャノンを避ける。

しかし、避けたら避けたで今度は洞窟の壁に当たり瓦礫を落としていく。

 

「あ、危ないですぅ!」

「ちょっと、危ないじゃない!」

 

「どうすりゃいいってのよ!」

「もう撃たせない……!」

「賛成!」

 

ラムが杖の先を凍らせて、打撃力を増す。

ゴトラタンは近寄らせまいとマイクロミサイルをラムに向けて放つが、ロムの雹のような氷が全て撃ち落とす。

 

「いける……」

 

硬く凍った杖の先はそれだけで武器になる。

ゴトラタンはメガビームキャノンを背中に背負い直し、ラムの攻撃に備えた。

 

「ええ〜いっ!」

 

《…………》

 

振り下ろした杖はゴトラタンには届かない。

ゴトラタンが腕のビームトンファーで受け止めたからだ。

 

「この、このっ!」

 

しかしラムは何回も杖を叩きつける。

 

「ラムちゃん、どいて……っ!」

 

ロムが杖の先に氷塊を作り出す。ラムはそれが自分に当たる寸前に避けた。

 

《!》

 

ゴトラタンは氷塊を避けられず、ビームトンファーで受け止めたものの腕が弾かれてしまう。

 

「今ね!それっ!」

 

ゴトラタンがノーガードになった隙を突き、ラムが杖で殴ろうとしたが……!

 

《…………》

 

「トサカ⁉︎きゃあっ!」

 

ゴトラタンの頭部から展開したビームカッターが油断していたラムの腹にもろに突き刺さる。

 

「ラムちゃん……!」

「だ、大丈夫!」

 

吹き飛ばされたラムをロムが受け止める。

しかし、2人はメガビームキャノンに狙われていた。

 

「しまっ……!」

「させない……!」

 

ロムが前に出る。しかしラムがそれを咎めた。

 

「ダメ!防御魔法じゃ、また……!」

「大丈夫……!ビビッと来てたから……!」

 

ロムが作り出したのは防御魔法ではなく、アイスコフィン。

メガビームキャノンほどの威力のビームがアイスコフィンに当たると、さしもの大きさな氷塊も瞬間的に沸騰して蒸気になる。

 

「んん、ん……!」

 

メガビームキャノンの照射が終わる。

2人は蒸気に覆われて完全に見えない。ゴトラタンは注意深く蒸気を見つめていた。

 

《……………!》

 

「今ねっ!」

「行くよ……!」

 

突如、蒸気の中からロムとラムが飛び出して来た。

 

「準備万端!アイス・コフィン!」

「私も、アイス・コフィン……!」

 

ロムとラムは同時に氷塊を作り出して撃ち出すが、両方ともあらぬ方向に飛んでいる。

 

《…………》

 

「やああっ!」

 

それに気を取られたゴトラタンは前から来ていたラムに一瞬反応が遅れる。

再び凍らせた杖の攻撃を危なっかしくもビームトンファーで受け止める。

 

「引っかかったわね?」

 

しかし、2人の作戦はそこで終わりではなかった。

単にアイスコフィンを使った陽動ではなかったのだ。

その証拠にゴトラタンの後方ではアイスコフィン同士がぶつかり合う鈍い音がしていた。

 

《⁉︎》

 

「当たれ〜ッ!」

 

反射したアイスコフィンがまるでピンボールのようにゴトラタンの背中に突き刺さる。

 

《!》

 

ゴトラタンはメガビームキャノンを犠牲にして上へと脱出する。

しかし、上にはロムが待機していた。

 

「逃がさないよ?」

 

ロムがゴトラタンに思いっきり氷塊を叩きつけた。

ビームシールドで受け止めたゴトラタンだったが、吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先はマグマの海だ。

 

《…………!》

 

全力でゴトラタンはマグマに沈むまいと逆制動をかける。なんとかマグマには落ちず、そのスレスレを滑空するように移動したゴトラタンだったが、ロムとラムもマグマのすぐ上を滑空して迫る。

 

「逃がさないって、言ったよ……?」

「マグマさえ凍らせる、私達の全力を焼き付けなさい!」

 

2人が滑空しながらマグマに杖をかざすとそこからマグマの表面が凍りついていく。

一瞬のうちに氷は広がってあたり一帯をスケートリンクへと変えてしまった。

 

「ロムちゃん!」

「ラムちゃん……!」

 

2人がマグマの上の氷に足をつけ、一流のスピードスケート選手のように素早く滑る。

即興の氷のリングは2人が滑った端から溶けていき、2人が滑ろうとした先に氷ができる。

 

《………!》

 

「当たらない当たらない!」

「氷の上で、私達に勝てるわけない……!」

 

ゴトラタンが後退しながら放つビームライフルは全てロムとラムに踊るように避けられる。

そして猛スピードで加速する2人はついにゴトラタンの眼前に迫った。

 

《!》

 

「遅いわ!」

「いまさら……」

 

ビームトンファーを避け、2人は凍らせた杖でゴトラタンの両腕を思いっきり殴る。

ゴトラタンの両腕はスパークして力なく垂れ下がった。

 

《……!》

 

「その手は2度と食わないってのよ!」

 

悪足掻きのビームカッターも軽く避けられる。

そしてゴトラタンの脇腹に2人の杖の先がコトリと触れた。

 

「芸術品にしてあげる……!」

 

杖の先から冷気がほとばしり、ゴトラタンの脇腹を徐々に凍りつかせていく。それに気付いた時にはもう遅い。

 

《⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎》

 

『これで……フィニッシュ!』

 

ゴトラタンは完全に氷塊に閉じ込められた。

2人は床の氷を蹴って回転しながらジャンプ。足場に小さな氷を作ってそこに着地した。

 

「氷の上じゃ……」

「無敵なんだから!」

 

2人して決めポーズを決めると凍りついたゴトラタンはマグマの海へと沈んだ。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

無線式で動くビーム内蔵式ショットクローがネプギアを襲う。

放ってくるビームを防御魔法で受け止め、挟み込もうとしてくるそれをM.P.B.Lで受け止める。

 

「くっ……!」

 

《…………》

 

「ネプギアはやらせないって言ってんのよ!」

 

そのネプギアにビームライフルを向けたリグ・コンティオだったがユニの射撃で中断せざるを得なくなる。

 

「こっちよ、牛かカニもどき!」

 

ユニが注意を引く。

リグ・コンティオはネプギアを一瞥した後ユニにビームライフルを向けた。

 

「それでいいの!当たれっ!」

 

ユニがX.M.Bを放つが軽々避けられる。

 

「こうも容易く避けられると自信無くすわね……!」

 

リグ・コンティオのビームを避けながら射撃のチャンスを伺う。

ビームが途切れた瞬間、ユニがX.M.Bをリグ・コンティオに向ける。

 

「今度こそ……!」

「ユニちゃん!そっちにいった!」

「え?くっ!」

 

ネプギアの方に目を向けるとショットクローがユニの眼前にまで迫っていた。

 

「うっ、きゃっ!」

 

ショットクローのビームを防御魔法で受けざるを得ない。しかし、ショットクローはそのまま突進してユニの右腕を挟み込んだ。

 

「うぐっ!」

 

《…………》

 

「ユニちゃん!」

 

ネプギアがM.P.B.Lでショットクローを切り裂く。

ショットクローは爆散してユニの腕を解放する。

 

「っ、ネプギア!」

「っ⁉︎」

 

しかし、リグ・コンティオがその隙を狙っていた。

ネプギアにヴァリアブルビームキャノンが向けられている。

 

「しまっ……!」

 

《………》

 

「きゃあああっ!」

 

咄嗟に防御魔法を展開したものの、あまりの威力にネプギアは防御魔法ごと吹き飛ばされてしまう。

 

《………》

 

リグ・コンティオはなおもビームサーベルを引き抜いて追撃をかけようとする。

その前にユニが立ちはだかった。

 

「ネプギアはやらせないわ!」

 

ならば、とリグ・コンティオは目標をユニに変えてビームサーベルを振り下ろす。

 

(やれるわよね、私……!)

 

ユニはX.M.Bをかざす。

すると、X.M.Bはみるみるうちに小型化していき、背中には新たなコーン型のプロセッサユニットが装着された。

 

「ビーム・ジュッテを舐めないで!」

 

X.M.Bの銃底にビーム刃が展開され、ビームサーベルを受け止めた。

 

「ぐぐぐっ……!」

 

その隙にネプギアは態勢を立て直す。

 

「ユニちゃん!」

「私は大丈夫!それよりコイツを!」

 

ネプギアがリグ・コンティオに迫ろうとするとリグ・コンティオはユニをネプギアに向けて蹴飛ばした。

 

「っ、きゃあっ!」

「ユニちゃん!」

 

ネプギアはユニを受け止めるが、それと同時にリグ・コンティオの胸が光っているのも見ていた。

 

(来る……ッ!)

 

直感で感じる。

あのビームは肩のヴァリアブルビームキャノンよりも威力は上だ。受け止めても2人揃って吹き飛ばされてしまうだろう。

 

(なら避ける!)

 

ネプギアの両手両足に羽根のようなプロセッサユニットが咄嗟に展開した。

ユニを抱えたまま、ネプギアの全てのプロセッサユニットが唸りを上げる。

 

「スパロー!」

 

ユニを抱えているとは思えないほどのスピードで急上昇したネプギアは辛うじて胸部ビーム砲を避けた。

 

「はっ、はっ、ふっ……」

「あ、ありがとネプギア。って、また増えたわね、その変なの」

「うん。この時なら私は速いから、撹乱するね」

「わかったわ!」

 

ネプギアとユニが離れる。ユニは距離を取り、ネプギアはM.P.B.Lを逆手に持って接近した。

 

《…………》

 

リグ・コンティオはネプギアにビームライフルを撃つが、ネプギアの上下左右前後に不規則に動くステップで当たらない。

 

「この動き、アナタに追いきれますか⁉︎」

「ここは、ネプギアに隙を作ってあげる……!」

 

小型化し、連射力の上がったX.M.Bで遠距離からリグ・コンティオへ射撃する。

後退を許さないかのように誘導する射撃は、徐々にネプギアとリグ・コンティオとの距離を詰めさせていた。

 

「無駄です!私の速さは、アナタを完全に上回ったんです!」

 

機敏に動くネプギアにビームライフルの銃口が追いついていない。

 

「そこっ!」

 

ネプギアが一瞬の隙を突き、急接近して斬りかかる。

リグ・コンティオのビームライフルが切り裂かれて爆発した。

 

《………》

 

「一撃、離脱の戦法なら!」

 

すぐにネプギアは反撃を食らわないようにそこから離れてまたさっきと同じようなフォーメーションを組む。

しかし、リグ・コンティオの瞳が怪しく光った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

記憶の価値は重さで決まる

(行ける……!このまま、次は体を切り裂く!)

 

慎重にタイミングを伺いながら、しかし怯えはせずに大胆な動きをする。

ユニの援護射撃も正確で気を配らなければ当たってしまうものなので、リグ・コンティオの意識は分散している。

 

「………ふうっ」

 

ユニが短く息を吐いた。

全身の筋肉に意識を張り巡らせて肉体を思考の通りにコントロールする。

 

(ここっ!)

 

リグ・コンティオとユニのビームの動きが完全に同調した。吸い込まれるか、引き寄せられるようにビームはリグ・コンティオの軌道上に完全に重なった。

 

《⁉︎》

 

咄嗟にビームシールドで受けたので致命傷にはならなかったが、大きく体勢を崩してしまう。

 

「今ですっ!はああっ!」

 

《………》

 

ネプギアがその隙をついて急接近、武器を振りかぶった。

しかしリグ・コンティオもただ止まっているわけではない。ユニのビームの衝撃を利用してネプギアからほんの数センチ距離を取る。

 

(ダメ!届かない!)

 

ネプギアはその数センチの距離のせいで刃が届ききらないことを瞬時に感じた。

 

(でも……!)

 

このチャンスを無駄には出来ない。

 

(その大砲を貰います!)

 

標的をリグ・コンティオ本体ではなく右肩のヴァリアブルビームキャノンに一瞬で変更する。

予定していた軌道をほんの少し曲げて逆手に持ったM.P.B.Lが肩に届く寸前に、

 

「っ!」

 

ヴァリアブルビームキャノンがパージされた。

ネプギアの手は宙を空振ってしまう。

 

(くっ、離脱を……!)

 

ネプギアが離れようとした瞬間、ネプギアの脳裏に脈動が走った。

 

「っ⁉︎」

 

あのパージされたヴァリアブルビームキャノン、何か危険だ。

何故かはわからないが、直感がそう告げている。

 

今、ここで後退すべきではない!

 

「まだっ!」

「ネプギア⁉︎」

 

《⁉︎》

 

ネプギアが前に出ると、ヴァリアブルビームキャノンからビームが発射された。

もしネプギアが後退していたら間違いなく直撃していただろう。

逆に不意を突かれる形になったリグ・コンティオは苦し紛れに残った最後の射撃武器である胸部のビーム砲を光らせる。

 

「くっ!」

「切り札行くわ!ネプギア、そのまま真っ直ぐよ!」

「う、うん!」

 

ユニのX.M.Bから大きなミサイルのような弾頭が発射された。

それは2人から少し離れたところで破裂し、周りにキラキラと粒子を撒き散らす。

 

「これは……⁉︎」

「ここで決めなさい、ネプギア!」

 

その粒子にビームが当たった瞬間、ビームは霧散して弾け飛んでしまった。

そう、ユニが撃ち出したのはビーム撹乱幕。これを使ってしまえばユニもネプギアも射撃をすることができなくなってしまう。

だが、ユニはここでネプギアが決めると信じて敢えてこの弾を撃ち出したのだ。

 

「その信頼……応えてみせます!はああっ!」

 

《…………!》

 

リグ・コンティオへと肉薄したネプギア。ビームサーベルを振られるが、あまりにも遅い、遅すぎる。

ネプギアは振り下ろす前からその驚異を感じていた!

 

「スパローの速さなら!」

 

リグ・コンティオのビームサーベルを持った手が手首から切断された。

 

「ミラージュ・ダンスッ!」

 

目にも留まらぬ斬撃。

それがリグ・コンティオの体を一瞬のうちに細切れにした。

 

《⁉︎⁉︎⁉︎》

 

そして大爆発を起こす。

その光を浴びながらネプギアは不敵に微笑んだ。

 

「さすがね、ネプギア。また強くなってる」

「ユニちゃんこそ、あの時の弾がなかったら私どうなってたか……」

「そうね。さあ、リベンジするわよ、ネプギア。もう1度私と……」

 

「こらぁ〜っ!」

 

「ふぁいっ⁉︎」

「あんたら何やってんのよ!こっちも手伝いなさい、よっ!オラァ!」

「危なっ⁉︎」

 

ユニのところにシャッコーの首がぶん投げられて来た。

危なく避けたが、投げた主はアイエフだ。目が赤く光っている。

 

「うざったらしいのよ、バリアでガードして……っ!」

 

アイエフがシャッコーの肩を掴んで引き裂いた。そのまま頭突きをかまして、蹴り倒す。

 

「邪魔だっつってんのよ!」

 

掴んだ肩を後ろのシャッコーにぶん投げる。

怯んだシャッコーを背負い投げしてジャイアントスイングして他のシャッコーにぶつけて……。

 

「なに、あれ。プロレス?」

「アイエフさん、目が赤くなると荒っぽくなるんだよ……。本当に大変みたいだし、とりあえずあっち援護しよう?」

「……そうね」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ギラーガとザンネックが空中で死闘を繰り広げる。

しかし、ザンネックは5pb.の歌に引き寄せられて上へ飛ぶことができない。その移動の制約は確実にザンネックの不利になっていた。

 

すると、5pb.の周りにたくさんの人が寄ってきた。

 

「……?」

 

5pb.は歌いながらその人達を振り返って見る。

まあ当然か。

空中であれだけ目立つ戦いをしててその上大人気アイドルの歌声が聞こえてきたとなれば人も寄るというもの。

 

《人が……?》

 

しかし、上空で戦っているのはわけのわからない人型の機械。しかも5pb.はこれ以上なく頑張ってこんなところで歌を歌っている。

野次馬には何が何だかわからないだろう。

 

《巻き込まないように注意しなきゃ……!射撃はやめて、接近戦で!》

 

ザンネックのミサイルを避けてギラーガスピアで切りつける。

しかし、やはりビームシールドでガードされた。

 

《さすがに強化人間……!反応が早い!》

 

2人が火花を散らす様子を野次馬達は下から見つめて歓声を漏らす。どちらが味方か、あるいは両方とも敵かもわからないが、自分達の認識を超えた戦いだというのはわかるのだろう。

 

(そうだ……!このまま!)

 

5pb.がギターを鳴らしながら野次馬へと振り返る。

 

「みんな〜!熱くなってるかい!」

 

5pb.の声に野次馬は釘付けになった。

 

「みんな!あの赤いのは敵じゃない!犯罪組織と戦ってくれる、ボク達の仲間だ!」

 

5pb.の言葉に野次馬がざわめく。それからまた空中の戦いへと目が動いた。

 

《くっ……!》

 

ザンネックキャノンがギラーガを掠めかける。掠めかけただけでもギラーガは強大な熱を感じる。

 

《まずは近寄らないことにはどうにもならない……!ビットを!》

 

ビットが射出され、ザンネックへと向かっていくがザンネックの素早い横方向への動きで避けられる。

 

《接近すれば勝ちなんだ……!一か八か!》

 

ギラーガの周りを大量のビットが周回し覆い始めた。その姿はまるで光り輝く球体だ。

 

《捨て身でいく!》

 

そのままギラーガは急接近。ザンネックが後退しながら撃つビームをひらりひらりと避けながら接近する。

しかし、距離が縮まっていくにつれてビームはだんだんとギラーガへと近づいていく。

 

《…………》

 

《くっそ……!僕は……!負けられないんだ!うわっ!》

 

ついにザンネックキャノンのビームがビットの球体を掠めた。ギラーガは少し体勢を崩しながらもすぐに立て直す。

 

《5pb.が……僕のことを覚えている!それだけで僕は、いつも以上に……!》

 

5pb.の歌声が体に震えとなって伝わる。耳でも聞こえる。心に染みる。

なら!恐れることも、負けることもない!

 

《…………》

 

ザンネックの三日月型の粒子加速器が円形に広がる。

必中の確信があるのだろう。次の射撃で僕を仕留めるつもりだ!

けれど、こちらにも必勝の確信はある!

 

《負荷はいくらかかってもいい……!ビット!》

 

ギラーガの体の節々が光り輝いて夥しい量のビットが現れる。

 

《うぐっ……!?もっと、もっと……!ここでやれなきゃ、いつやるのッ!?》

 

だがそれだけのビットを制御するミズキの脳にはとてつもない負担がかかる。激しい頭痛に苛まれながらもミズキはそれでもビットの射出をやめない。

全てのビットを機体の前面に集中させ、バリアとして張る。ギラーガの目の前はザンネックキャノンを防ぐためのビットに覆い尽くされた!

 

《…………》

 

ザンネックキャノンが唸りをあげた。

そこから放たれる真っ赤なビームは……!

 

《ンッ………ッ!》

 

ギラーガのビットへと直撃した!

もはや壁ではなく円柱ほどの厚みを持ったビットを持ってしてもザンネックキャノンの破壊力の前では劣勢に陥ってしまう。

 

(ミズキ………!)

 

5pb.が必死に歌いながら空を見る。

巨大な敵と戦うミズキに私ができることは……一か八かの賭けに出たミズキに私ができることは、歌うことだけ!

 

「っ……頑張れっ!」

 

ザンネックキャノンに当たる面のビットが次々と焼かれていく。

次第に薄くなるビットの壁をギラーガは補い続ける。

それでもビットが増えるスピードよりも減るスピードの方が早い。

 

《諦めない……!絶対に、負けられない……!そうだ!僕はァッ!》

 

瞬間、ビットの壁は破壊し尽くされた。

ギラーガの目の前に赤い閃光が瞬いた。

避ける暇も、何かを思う暇もなくザンネックキャノンのビームはギラーガへと直撃してしまう。

 

「っ……!」

 

ギラーガへとビームが当たった証の煙が空に広がる。

5pb.は声を失い、ギターを演奏する手が止まる。

一瞬シンとなった空間、ザンネックすらも命中の確信に油断した、その瞬間!

 

《みんなを……!助けるんだァァッ!》

 

《!?》

 

煙の中からギラーガが飛び出す!

ギラーガの両手には何も握られていない。

ギラーガスピアの回転と自らの腕から発生させた電磁装甲、さらにビームバスターによる相殺という3重の防御璧でギラーガは自らの身を守り切ったのだ!

 

《!?》

 

ギラーガの手から放たれたビームバルカンがザンネックキャノンへと当たり、爆散させる。

そのままビームサーベルを発生させ、切りかかる。

 

《らあッ!》

 

両手で振り下ろしたビームサーベルはザンネックが咄嗟に振り上げたビームサーベルに阻まれる。

しかし、ギラーガの武器はこれだけではない!

 

《!?》

 

ギラーガが腰を捻ってギラーガテイルをザンネックに叩きつける。

体勢を崩したザンネックにギラーガはすかさず連撃を加える。

 

《気絶、させるッ!》

 

ビームサーベルがザンネックの両腕と両足を切断する。

胴体だけになったザンネックをギラーガはひらりと飛び上がって見据える。

 

《墜ち……ッ、ろォッ!》

 

ギラーガの流星キックがザンネックに向かう。

悪あがきのミサイルもすべて流星キックの前に砕け散り、胴体へと命中する。

 

《!?!?!?!?》

 

凄まじい勢いでザンネックが吹き飛んで地面へとたたきつけられた。

 

《…………》

 

少し火花を散らしてザンネックの目の光は消えた。

 

《やった……。やった、けど……》

 

それを上から見据えるギラーガの体がよろめいた。

 

《久々だ……こんな、無茶したの……。頭が、重い……》

 

ギラーガもフラフラと空中を頼りなく浮遊し、やがて完全に落下してしまう。

 

「っ、ミズキ!」

 

砂埃をあげて地面に落ちたギラーガの元へと5pb.が駆け寄る。

事の一部始終を見ていた人達も5pb.に続く。

 

「ミズキ、大丈夫!?」

《あぁ、5pb.……。大丈夫、疲れただけだから……》

 

倒れたギラーガの枕元に5pb.がしゃがみこむ。その周りを遠巻きに民衆が囲む。

 

「また、無茶して……!」

《そうしないと、勝てなかった……。助けられない、から……》

「だからって、いつも見てる側の身にもなってよ……!」

《うん……ごめん……》

 

少し5pb.が涙ぐむ。

ギラーガはゆっくりと立ち上がろうとするが、5pb.がそれを抑える。

 

「ダメ、休まなきゃ……」

《……わかった。それじゃ、みんなが来たら伝えて……》

 

ザンネックは無力化されたこと。あれにもきっと人の脳が埋め込まれていること。疲れはしたものの、怪我はないこと。

 

「わかった……。絶対伝える」

《うん。……あ、あと最後に……》

 

ギラーガの体が光になって消えていく。半透明になった体は次第にその場から存在を隠していく。

 

《君が、思い出してくれて……覚えててくれて、本当に嬉しかったよ》

 

最後にそれだけ言い残してギラーガはその場から完全に消えた。

民衆のどよめきだけ残してその場には何も残らない。

けれど、5pb.の胸には決して消えることのない温かみが残って、締め付けた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「はあ、チカさんに教えて貰って……?」

「うん。だから、教祖様が言ってた助っ人はボク。あんまり、助けにならなかったかもしれないけど……」

 

野次馬は教会の関係者によって締め出され、静かになった草原で5pb.が事態を説明していた。

既にザンネックの体は回収され、教会で細心の注意を払った解析が行われているはずだ。

 

「なんだか、歌に磨きがかかった気がしたですよ?」

「それは……ボクもこの数年間、頑張ってたから」

「それだけ……ってわけじゃなさそうね?」

「まあ……うん。それは、教会に着いてから教祖様と話そう?」

 

頷くアイエフとコンパを女神候補生は不思議そうに見ていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホイール・オブ・フォーチュン


下に……お知らせありますぐへっ


教会に戻り、さながら重役会議のように事情を知る者だけが一室に集まった。

アイエフ、コンパ、チカ、そして5pb.。

扉にはしっかりと鍵を閉めて立ち入りを禁じている。

 

「……あ~、つまり?」

「ベールさんへの愛で記憶を取り戻したってことですか?」

「そうなるわね」

「とんでもないわね……」

 

アイエフドン引きである。

 

「……んで、そっちの子は?」

「ひうっ!?」

「……なんで机の下に隠れてるですか?」

「ううっ、見ないで~……。ボク、人見知りなんだよぉ……」

「なんで歌手なんかやってるのよ……」

「ひ、開き直っちゃえばどうにでもなるんだけど……普段はどうしても……うぅ」

 

5pb.は机の下でうずくまって涙目になっている。

 

「で、この子はどうやって?」

「アタクシが教えたのが決定打ね。でも、それ以前からアタクシと5pb.ちゃんは何かしらの違和感を感じていたから」

「それは……素直に凄いです」

「あ、あのね……?ミズキが教えてくれたことが、ずっと胸の中にあって……でも、ずっとそれが何か謎だったの……」

 

歌っている中で胸の中に残っていた何か。歌を歌って想いをたくさんの人に届けることを諦めてはいけない。そんな実感だけが胸の中に残り続けて、でもそれが誰のものかを思い出そうとすると頭痛がした。

 

「で、アタクシが記憶を取り戻して教えたの。そんで、とりあえずケイに聞いたらイストワールに聞けって流されて……アンタ達を呼んだってわけね」

「なるほど……本当なら私たちが先に付いてたはずが、連絡船の事故で足止めをくらい、その間に……」

「チカさんは連れ去られてしまったですね」

「そういうことね」

 

大したことないと思っていた足止めはとても大したものだったらしい。

アイエフとコンパは納得したようにうんうんと頷く。

その会話を聞こうとドアに張り付いている女の子が4人。

 

「…………」

「どう?聞こえる、ネプギア?」

「な、なんとなく……」

 

耳をドアに貼り付けて中の音を聞こうとしているネプギア。

やっぱり何か秘密の話……それも十中八九スミキの話を聞かないわけにはいかない。何か私達にとって重要な秘密のはずなのだ。

 

「ユニちゃんを一応……聞いてみて?」

「……まあ、いいわよ。ロムとラムが見張りはしてくれてるし」

 

ユニもネプギアの隣に座って耳をつける。

 

「ーーーだわ。ーーキの話だけどーーー」

 

(……スミキ、かしら……。ぴったりみたいね)

 

ネプギアも聞き取れたらしく、ユニと目だけ合わせる。

 

「ーーあんなに、弱かったーーら?私のーーってるーーキはもっと強ーーー」

 

(スミキさんがもっと強かった?あんなに強いのに、本当はもっと強かったんだ……)

 

「ーーないわよ。ネプ子ーーまって、自分はーーーなかったーーから」

 

(そういえば、スミキさんはお姉ちゃんを助けられなくて後悔してたって……)

 

「ーーはいいのよ。私がーーーは、腕っ節のーーじゃない」

「それじゃーーーですか?」

 

(腕っ節じゃない……?)

 

「精神的なーーーよ。以前のーーーったら、女神候補ーーにも、教えてーーーはずよ」

 

(私達に、教える……!?何を!?)

 

いよいよ真実にたどり着いたかと、耳を一層澄ます。

 

「ーーー記憶のーーと?」

 

(記憶っ!?)

 

「ええ。ーーーっと、あの子達ーーー乗り越えられーーーしょうに」

「だから、それはーーー」

「不自然ーーーよ。根拠ーーーすぎるわ。何かーーーの理由ーーーわ」

 

(っそ、なんで肝心なとこが聞き取れないのよっ!?)

 

ユニとネプギアが痺れを切らしそうになっていると、静かに肩がポンと叩かれた。

ビクッと一瞬震えたものの、振り返った先にいたのはロムとラムだった。

 

「………!」

 

2人が道の片方を指さして慌てている。

あっちから人が来ているということだろう。ここは逃げるしかないらしい。

 

(いいところで……!)

(見つかったら元も子もないよ、逃げよ……!)

 

4人は物音を立てないようにささっと扉の前から逃げる。

 

(手がかりは……少しだけど、手に入れられた……)

 

今は、逃げるだけ……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

先程の会話ーーーー。

 

「ああ、そうだわ。ミズキの話だけど」

 

チカが話題を変えた。

 

「ミズキってあんなに弱かったかしら?私の知ってるミズキはもっと強かったはずよ」

「それは……仕方ないわよ。ネプ子が捕まって、自分はその間に何も出来なかったんだから」

「そんなことはどうでもいいのよ。私が聞きたいのは腕っ節の強さじゃない」

「じゃあ……なんの強さですか?」

 

コンパが不思議がって聞く。

チカはふぅと鼻で息を吐いて続けた。

 

「精神的な強さよ。以前のミズキだったら女神候補生達にも、教えていたはずよ」

「それは……記憶のこと?」

「ええ。今のあの子達ならきっと乗り越えられるでしょうに」

「だから、それは思い出せないのが怖くて」

「不自然なのよ。根拠が弱すぎるわ。何か別の理由があるはずだわ」

 

ピクリ、とその時5pb.がドアの方を向いた。

 

「どうかした?」

「……ううん。なんだか物音がした気がして」

「そうですか?私達には特に何も聞けなかったですけど……」

「人1倍、音には敏感だから。けど……敏感になりすぎたかも」

 

気のせいだったらしく、5pb.は苦笑いして謝る。

 

「ああ、そう、話を戻すけどーーアタクシがここにアナタ達を呼んだのは記憶のことを聞きたいこともあったのだけど、そのことも気になったから」

 

だけど、とチカはアイエフとコンパを見る。

 

「その様子だとアナタ達も知らないみたいね」

「悪いわね。私達だってミズキのことを全部知ってるって訳じゃないの」

「ええ。それは当然よ。だから……それはアイツが、自分の中に押し込めてるってことよ」

 

チカは少しだけ、寂しそうな目をする。それは悲しさから来たものではあるのだろうが、何というか、それが何処に向けられた悲しみなのかわからない。

 

「もう1度言うわよ。押し込めてる。『押し込めてる』ってことは『閉じ込めてる』の。誰にも教える気がないの。自分の中で完結させてるの。いえ……完結したなら、どれだけ楽なことか」

「……何が言いたいの」

「アナタ、1度くらいはしたことない?自問自答ってやつ。多分、思春期には体験すると思うんだけど」

「……それが?」

「自問自答を知ってるならそれでいいの。自分に問うて、自分で考えて、自分で答えるのが自問自答でしょ?それで、よ。ミズキはそれを繰り返してると思わない?」

「それ……わかる、かも」

 

5pb.が前に出た。

 

「誰にも言えない悩みって、自分で解決するしかなくなるでしょ?でも……たまに解決出来ないことがあるよ」

「じゃあ、どうするんです?」

「大抵の人は流しちゃうんだよ。忘れちゃう。どうでもいいやって、そうする。だから大丈夫なんだ。でも……その内容がどうやっても忘れられないことだったとしたら……」

 

5pb.は俯く。

 

「ボクは、ミズキに見抜いてもらえたから……答えを教えてもらえて、ボクの歌は1歩先に進んだよ。けど、ミズキのことは、誰にも見抜けない……」

「女神様は彼の心の中で言われたんでしょ?助けてあげなくちゃ、いずれ彼はいつか壊れてしまうと。早いとこ見抜いてあげないと……」

 

ドスをきかせた低い声で冷徹にチカは言い放った。

 

「彼、死ぬわよ」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

真っ暗な空間、そこには何も存在しない。

地面、それと水。しかも最低限だけ。

光はなく、生命はなく、文明もない。

その中で立ちすくしていたミズキがうずくまる。

 

「ヴ……あ、ガフッ!」

 

咄嗟に口を抑えたが指の間から鮮血が垂れる。

その血は無機質な大地を赤黒く染めたが、すぐにミズキはその跡を踏みつけて消し去る。

 

赤黒い色は嫌なヤツを思い出す。世界中を絶望に包み込もうとする色だからだ。

見ているのなら別の色がいい。緑、白、黒……そして紫。

 

「クソッ……どうしたんだよ、僕の体……!」

 

口から血反吐を吐き捨てて口の周りについた血をぬぐい去る。

確かに、酷使し過ぎたかもしれない。

ここ最近の戦闘は文字通り命を削るような戦闘ばかりだ。

だが、こんな傷や疲労くらいすぐに治るはずだ。それが自分の体だからだ。

だが、ここまで尾を引くということは……治るスピードと同じ……あるいはそれ以上のスピードで自分の体が傷ついていることの証明に他ならない。

 

「だから……だからなんだって……なんだっていうんだよォッ!?」

 

誰もいない空間で叫ぶ。

誰に向けたわけでもない言葉だが……不思議と帰ってくるのは嘲笑の気がした。

 

「僕達は何と戦っている……何の、為にッ!?」

 

繰り返した自問自答の1つ。

この答えは既に出た。

 

「決まってる!みんなの為だ……!僕が、生きて!生きてみんなと、添い遂げるためだッ!」

 

叫んだミズキの口から血が飛び散る。

しかし、ミズキはそれを意に介さない。

 

「………ウウッ!」

 

けれども、ミズキは頭を抱えてしゃがみこむ。

その先に意味があるのか。みんなが生きて、それで再会できたとしても……思い出せなかったとしたら?

それは、再会できなかったことと同じで……2度と会えないのと同じなんじゃないか?

 

「ウッ、ぐえっ、げほっ、ごほっ、ヴアッ!」

 

キリキリと胸の奥が締め付けられる。

 

血を吐くのが辛いんじゃない、今もまだ彼女らに会えないことが……彼女らが未だに思い出してくれないことが、辛い!

 

「うぅ、あううっ……!」

 

締め付ける胸の痛みに耐えかねて倒れ込む。

地面についた血で自分の顔が汚れようと気にならない。

 

血でできた小さな水たまりはミズキの顔を映し出す。

随分と髪が伸びた。

随分とヒゲも伸びた。

目の周りは赤く腫れた。

目は……随分と濁った。

 

「誰か……僕を、見抜いてよ……っ」

 

弱々しい声は次元の壁など超えられるわけがない。

 

この悲痛な叫びが……後に、運命を変える歯車になってしまうことを誰もしらない。

 





すいませんでしたぁっ!
正月案外忙しく……ここで、書き溜め分が終わってしまいまして……はい……。
たくさん書くとか言ってたのはどこのどいつだよぬっころす。
そんなわけでまた少し休みです……また、1ヶ月くらいかと。
目標は……うん、頑張りゅ。ブレイブさんが出てくるまでは頑張りたいです……。
そんなわけです……ごめんなさいでした。

その間、また感想や活動報告でセリフやアイデア待ってます。アイデアなんて大層なものではなくても、私が読者さんと関わりたいので、雑談感覚で十分です。
話題に困ったら「早く書けカス」と書いていただければ即刻ソーラ・レイをぶっぱします。
以上です、ほんと、ごめんなさいでした…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章〜集う力と進化する力。マジェコンヌ四天王との決戦〜
ルウィーの危機


いやっほう書き溜めたぜぇっ!

けどテストもすぐだぜ!書けなくなるぜ!また追いつかれそうだぜ!


近代的な都市、広がる青い空はネプギア達を祝福してくれるかのようだ。

見覚えのある街と通りは心を暖かく包んでくれる。

 

そして、見覚えのある扉。ネプギアにとっての家。

 

「ただいま!いーすんさん!」

 

ネプギアはプラネテューヌに帰ってきた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ウソでしょ、なにこのシェア……」

 

リーンボックスで無事シェアクリスタルを取り戻したものの、忘れてはならないのはチカが囚われていたこと。

そのせいで犯罪組織の信仰の制限が一時的とはいえ、なくなってしまい、シェアはがくんと落ちた。

だからシェアクリスタルを取り戻した後も前と変わりないか少し上回る程度のシェアになる、としか思っていなかったのだが……予想は遥かにそれを上回り、シェアは大きく光り輝いていた。

 

「ってなわけで、何か心当たりはある?」

 

驚くべきはシェアは今もなお増え続けているということだ。

いや、増え続けるのが普通なのだが、今の増え方は異常だ。増えるスピードが早すぎる。

 

『……さあ?』

 

全員に聞いてみるも答えはこのとおり。

しかし、翌日に出た新聞で答えははっきりした。

 

「『歌姫と共に戦う真紅のロボット、犯罪組織の兵器を撃退』……なるほどね」

「あ、それってボク?」

「ニュースも見たけど、結構な騒ぎになってるわよコレ」

 

チカがテレビを付ければそこにはあらん限りの声を振り絞って必死に歌うリーンボックスの歌姫と空を翔る真紅の機体。

歌姫を守るナイトだとか歌姫の加護を受けて戦うプリンスだとかうんぬんかんぬん……。

 

「へえ~……スミキさんってこんな戦いしてたんだ……」

「やっぱり、私達よりも一枚も二枚も上手よね。そもそもが違うわ」

 

ネプギアとユニは研究熱心に戦うギラーガ……つまりスミキの戦いを見る。

 

「でも、普通の人にどっちが味方でどっちが敵かわかるの?」

「それは、ボクが赤い方は味方だって言ったからじゃないかな」

 

ラムの素朴な疑問に5pb.が答える。

つまりはこうだ。

 

 

大変!空で怖いロボットが戦ってる!我らが歌姫は赤い方が味方って言ってるぞ!

でも、あんな兵器見たことない!謎のロボットが現れたんだ!国を守るために!

犯罪組織に負けるか!ロボットが信じる国を信じる!

 

 

みたいなところだろう。シェアの上昇も合点がいった。

 

「そういえば、執事さんは……?」

「執事さん?……ああ、スミキさんのこと?」

「うん……。いない、よね?」

 

元々姿はないのだが……今日に限っては声もしない。

そもそも通信が繋がっていないのだ。

 

「また境界線が不安定みたいで……。通信力は上がってるはずなんだけど……」

「一応イストワール様は一時的なものと言ってるわ。アッチでスミキが帰ってこようと暴れてるから、不安定になる……って」

「……たぶん、わかった……」

「多分わかってないです……」

 

要するにイストワールの説明としては、通信力は上がってはいるもののそれを上回る力で境界線が歪んでいるとのこと。決して悪いことではなく、むしろ嬉しいことらしい。

 

「でも、これじゃ私達がいる意味がなくなっちゃったわね」

「せっかく、ここにシェアを取りに来たのに、ここまで信仰心が高まっちゃったらどうにもならないわ。逆に非効率よ」

 

ユニとラムが溜息をつく。

 

「……ってことは……みんな、帰っちゃうの?」

「そうね」

 

少しだけネプギアが悲しそうな顔をする。

 

「ネプギア、一応言っとくけど私達も帰るのよ?」

「え?」

「当然よ。曲がりなりにも4国全てのシェアクリスタルを集めたのよ?とりあえずは国に戻るわ。そしたら……」

「そしたら?」

「行けるわよ。ネプ子を助けに」

 

ザワッとネプギアの肌が粟立つ。

ネプテューヌを……姉を助けることが出来る。それはネプギアの心に様々な感情を植え付けた。

 

「だから、とりあえずは国に帰るわ。お互いにね」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そんなことがあって、ネプギア達は帰ってきた。

最深部に行けばイストワールが出迎えてくれる。

 

「お帰りなさい、みなさん。本当にお疲れ様でした」

「各国のシェアクリスタル、解放をしてきました。シェアは……」

「はい。随分と溜まりました。今はそのシェアを用いて新たなシェアクリスタルを精製中です」

 

イストワールの後ろにはキラキラと輝くクリスタルが今も大きくなっているところだった。

 

「これがあれば、今度こそ……」

「はい、ネプテューヌさん達を助けに行けます」

 

マジェコンヌ四天王、ジャッジ・ザ・ハード。

前に戦った時は彼が立ちはだかったが……今度は超えられるだろうか。

 

「ところで、スミキは?」

「もうじき通信は回復するかと。もし回復できたら、お知らせします」

「はい、お願いします」

「あ、じゃあ、とりあえずこれ……」

 

ネプギアがNギアを差し出した。

 

「帰ってきたから、点検してくれますか?」

「ええ。スミキさんのワープにも重要なものですから、異常があってはいけませんね。すぐに点検します」

 

イストワールはNギアを預かって奥へと持っていく。特に時間はかからないし、念を押しておいて損は無い。

 

「ん?ああ、すいません、失礼します」

 

すると携帯の着信音がした。アイエフの携帯のようで、電話に出る。

 

「うん。うん、うん……なんですって!?」

 

神妙な顔で話を聞いていたアイエフが驚愕に目を見開く。

 

「うん、ええ。わかったわ。そっちも気をつけて」

 

アイエフが慌てた様子で電話を切る。

 

「何があったですか?」

「ルウィーで犯罪組織の活動が急激に活発化。シェアが9割も奪われたらしいわ」

「9割!?」

 

全員がその数字に驚く。

せっかく回復したはずなのに、9割も奪われるなんて!?

 

「な、なんでですか!?」

「わかんないわよ!こっちもいきなりで……!」

 

軽くパニックの状態である。

 

「いーすんさん、もし、女神が9割もシェアを奪われたら……!」

「死にはしないでしょうけど、体になんらかの異常が出ることは確かです。そもそも、この事自体……」

「い、行かなきゃ!助けなきゃいけませんよ!」

「またアンタは……。って、そうも言ってられないわね」

「ええ。みすみす見捨てるわけにもいきませんし、それだけのシェアを奪われてはこちらの行動にも支障が出る可能性もあります」

「行くしかないです!」

「じゃあ、行ってきます!」

「せっかく休めると思ったのに、余計なことしてくれるわよ……!」

 

3人が飛び出して行った。

休む暇もなく駆け出す3人を見送ってからイストワールは後ろにあるシェアクリスタルを見つめた。

 

「いったい、何が……?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その少し後、ドアを開いてアブネスが現れた。

 

「はあ~……って、あれ?どうかしたの?」

「いえ、それが……」

 

振り返ったイストワールの顔になにか感じたのか、アブネスが怪訝な顔で疑問を投げかける。

イストワールは今までに起こったルウィーでのことについて話した。

 

「なるほどね……。ま、私達はどうしようもないし、あの子達に任せるしかないでしょ」

 

そう言ってアブネスは持っていた書類を乱雑に机の上に投げ置いた。

するとジャックも現れる。

 

「あ~、アンタにはすぐデータを渡すわ。少し待って」

 

次にアブネスはUSBをそこらの機会に差し込んでジャックにもデータを渡す。

その間にイストワールも書類を見た。

 

「ギラーガの戦闘結果。少しばかり機体に損傷はあったものの、小破以下。ただギラーガスピアは損失。けど、特筆すべきは書類の3枚目」

 

イストワールは3枚目をめくり、ジャックは瞑目してデータを見た。

 

《これは……!》

「そう、異常。イストワールのために4枚目に比較データがあるわ」

 

ジャックは異常に一瞬で気づいたようだが、イストワールはわからないらしく、4枚目の書類を見る。

3枚目も4枚目も表とグラフが表示されているが……。

 

「Xトランスミッター、アイツ、限界以上に使ってるわ」

「あ……!」

 

その数、ミズキの限界と思われる量の4倍近く。

 

「もちろん、100GBしか入らないパソコンに400GBの仕事させたらぶっ壊れるなんてもんじゃ済まないわよ。だから、異常。アイツがそれだけの量を使ったことも、使えたことも」

 

アブネスが冷たい目で書類を見つめる。

 

「もしかして、通信が安定しないのも……」

「それもあるかもしれないけど、確実に次元の壁が歪んでるのも確か。ま、どちらにせよ、もうビットを使う機体なんて使わせるわけにいかないわね」

 

やれやれ、といった仕草だがこれは本気で異常だ。

人間が限界以上の力を使うなんて、通常では有り得ないし起こり得ないはずなのだ。

 

《厳しいな……。せっかく、ミズキの力を十二分に引き出せる機体だと思ったのだがな》

「でも、次の機体はそういう意味では最高の機体になるんじゃないかしら?」

 

さらに書類をめくればそこにはモビルスーツのイラスト。

純白のモビルスーツであるが、背中の大きなバーニアが特徴的だ。

 

「OZ-00MS『トールギス』。ま、まだ未完成なんだけどね」

「トールギス……」

《だが……この機体、身体的な負荷は大きいぞ》

「もちろん、この機体で終わりってわけじゃない。次の機体は、そういう負荷も抑えた高性能機体に仕上がるはずよ」

「次、ですか?」

「擬似太陽炉を使った機体ね。まあ、出来てからのお楽しみってことで」

 

意地悪く笑ってアブネスはトールギスについての説明を始める。

 

「ラステイションで手に入れたガンダニュウム合金を使って作り上げた機体よ。まだ未完成だからなんともいえないけど、推力、旋回性能、装甲ともにトップクラスの性能。ミズキですら扱いこなせるか」

《おそらく、そこらのガンダム以上の力を持つ機体だな。生半可な敵では歯が立たまい》

 

イストワールが感心して資料を見る。確かに、その予測性能は今までの機体と比べても一線を画している。

 

「通信が回復したら、決して無理はしないようにって酸っぱく言って……それから引渡しね」

「でも、まだ完成もしてないんですよね?」

「うっ。……すぐ、すぐ出来るから」

 

目を逸らしたアブネスがバツが悪そうに冷や汗を垂らす。

ミズキとの通信が回復したのはこの数分後のことだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「はっ、はあっ……」

「…………ぅ……」

 

ルウィーの教会で苦しそうに寝込むロムとラム。

ミナはベッドの脇に座って2人の汗をタオルで拭いた。

 

「2人とも……」

 

予測できなかった。

犯罪組織がここまで活発になるだなんて……前の襲撃の後からそんなに間もないのに。

今は死にものぐるいでシェアを取り返そうと尽力しているものの、いったい前ほどの量を取り返すのにどれほどの時間がかかるのか。

 

「ごめんなさい……私が、もっとしっかりしていれば……」

 

窓から覗く夜空に、月が輝く。

綺麗な満月だった。

 




次回の出撃はトールギス。その次は…まあガンダム以外で擬似太陽炉使った高性能モビルスーツっていったらそうそうないですし…わかる、かも?


【挿絵表示】


あと適当な絵ですいませんけどこれを。なんとなくのイメージになれば…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トランスモビルスーツ

可変機体の出番。変形合体換装は男のロマン。


ルウィーへとたどり着いたネプギアは慌ただしく教会へ向かう。

もし、もし2人の身に何か取り返しのつかないことが起こったのだとしたら……大変だ。

ネプギアは脇目もふらず駆け出した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

教会のドアを乱暴に開くと、そこにはミナがいた。

ミナがどうしてと尋ねる暇もなくネプギアが駆け寄った。

 

「あの、2人は!?」

「え、えと、あの、その……」

「まあ落ち着きなさいってばネプギア」

 

突然のことにしどろもどろになったミナを見てアイエフがネプギアを引き剥がす。

 

「と、突然すいませんです!ルウィーのシェアが急激に下がったと聞いて……」

「そ、それは本当です……」

 

ミナは俯いて事実を認める。

 

「私の責任です……。私が、犯罪組織の活動を予見できていれば……」

「ふ、2人は!?」

 

ネプギアが聞くが、答えはすぐにわかった。

騒がしいのを聞きつけてラムがやってきたからだ。

 

「なによ……うっさいわね……」

「ら、ラムちゃん!大丈夫!?」

「大丈夫よ……。少し、怠いだけで……」

「でも、顔色悪いです……」

「お世辞にも、体調がいいとは言えないわね」

「ろ、ロムちゃんは?」

「あっちで寝てる……。大丈夫よ、こんなことで……」

 

ネプギアの眉尻が下がる。

今はまだ重い風邪を引いたような状況でもこのままシェアが奪われ続ければ……いつかは……。

 

「なんとか、しなきゃ……!」

 

ミナがラムを心配して部屋に戻しに行く。

その間にネプギアは2人を助けられる手段を考え続けた。

 

考えろ。いち早く体調が回復するようなものはなんだ。

薬が必要なわけでも栄養が足りないわけでもない。強いていえば足りないのはシェアで必要なのもシェアだ。

シェアを集めなければならない。

 

ネプギアは自分が助けられた時のことを思い出す。あの時、瀕死とも言える姿で捕まっていたネプギアはシェアクリスタルの光で回復した。

そうか、シェアクリスタル……。

 

「あの、すいませ……」

「シェアを!」

「はい?」

「私達がシェアを集めます!そうすれば、2人はすぐ……!」

「シェアを?いや、でも、すぐに犯罪組織に奪われてしまいます」

「手に入ったぶんをすぐにクリスタルにすれば、大丈夫です!」

「ですけど、アナタ方に助けてもらってばかりでは……。こちらの国にも立場というものがあります」

「立場って……!」

「私はこの国を守る義務があります。確かに申し出はありがたい……ですけど、そこに付け込まれてしまっては、国そのものがなくなってしまう」

 

ミナの気迫にネプギアが下がる。

そんなことを言っている場合か。叫びたいのをネプギアはこらえる。

ミナの言うことにも一理ある。だが決してそれは素直に受け入れられるものではない。

 

「なら……そちらの国から何かと交換、ってことならどうですか?」

 

アイエフが助け舟を出した、

 

「そ、それなら……ですが、この国に今渡せるものなんて……」

「……2人を」

「え?」

 

アイエフのウィンクでネプギアは全てを察した。

 

自分の目の前に立ちはだかる壁、犯罪組織。

その四天王、ジャッジ・ザ・ハード。そしてマジック・ザ・ハード。

ネプギアの脳裏に蘇るのはあの日の記憶。

女神達が倒され、恐怖に身をすくめて戦うことを諦めたあの日。

そして愛する姉が目の前にいたのに逃げ出すしかなかったあの日の記憶。

まだ勝てるという確信はない。けれど……。

 

「ロムちゃんとラムちゃん!あの2人を、私達のお姉ちゃんを助ける作戦に同行させてください!」

「……はい?」

「もちろん、元気になってからで構いません。それなら……」

「お、お待ちください。今、姉を……女神を助けるって」

「本気です」

 

嘘じゃない、そんな意思をネプギアは瞳に乗せて伝える。

 

「それは妥当な取引かしら……いえ、なんだかこちらにばかり利があるような……」

「ミナさん、お願いします!お姉ちゃん達を助けるためには、2人の協力が不可欠なんです!それに……」

 

ネプギアが真摯な瞳でミナを見つめる。その瞳にはーーー。

 

「2人を、失いたくないんです……!」

 

ああ、まるで。

どこかの誰かのような悲痛な目をしている。

助けたくて助けられなくて、それでも諦めなかった人のような目をしている。

そんな目をされては、断れないではないか。

 

ネプギアの後ろにミズキが立っているような錯覚をして、ミナは頭を振った。

 

「わかり、ました……」

「やったぁ!交渉成立ですね!」

 

ミナが頷いた途端、ネプギアは飛び跳ねて喜び、ドアへ向かう。

 

「アイエフさん、コンパさん、早く!」

「わ、また走るですか~っ?」

 

アイエフもコンパもその後に続いて教会を出て行く。

それを見届けてからミナは唇を噛んだ。

 

「似てます……ネプギアさん、なんだか、ミズキさんに似てきて……」

 

あの目に圧された。

了承させる以外のあの目をやめさせる方法がわからなかった。

 

「変なところばっかり……悪いところばっかり、似て……っ!」

 

珍しく吐き捨てるように悲しむミナは、拳をぎゅっと握りしめる。

あの目は、破滅しか招かないというのに。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「と、飛び出したはいいものの……」

 

アイエフとコンパ、ネプギアが一息つく。

ルウィーのギルドに設置されたベンチに3人揃って座った。

 

「はあ、疲れた……」

「でも、まだまだやらなきゃ……」

「私達が怪我しちゃ元も子もないです。少し休むですよ」

 

3人は大量のクエストをこなし、ルウィーのシェア回復に貢献していた。

確かにルウィーのシェアは向上しているものの……。

 

「でも、元を断たなくちゃ話にならない。またシェアを奪われるだけよ」

「何が起こったんでしょう?ルウィーのシェアがあんなに一気に奪われるなんて……」

 

シェアを集めても、減る原因を突き止めなければイタチごっこだ。それもこっちが圧倒的不利の。というか負けが見えている。

原因、つまり何かしらの犯罪組織の活動を突き止めて妨害しなければ。

 

「少しばかりそっちにも気を配りましょうか。人気がないところとか、そのあたりを探しましょう」

「です。もう少し、頑張るです!」

 

休憩を終えてベンチを立ち、外を歩く。

人通りが多い道をそれ、少しばかり閑散とした道へと向かった。

 

「……あら?」

 

しかし、閑散としているはずの道はそこそこの人に包まれていた。

だが妙だ。こんなに人がいるのに人と人の間が空きすぎている。女子供もいない。偏見で言わせもらえば人相が悪い人というか、いかにも怪しい人が多い。

 

「あれ?ここも人が多い……。もう1つズレますか?」

「いえ。……少し、ついていきましょう」

 

少し視線を下げつつ、人の波に従って動く。するとじきに声が大きく聞こえてくるようになり、それは道の曲がり角の向こうから発せられていた。

 

「これは……!」

 

「さあさあ、今だけっチュよ!今だけマジェコンがこんなに安くなってるっチュ!」

「やった!これでガードされてたゲームがまたプレイできるぞ!」

「よかった~、みんな持ってて俺だけ仲間外れだったんだよな~」

 

「なるほど、これが元凶だったわけね」

「こらっ!ネズミさん、やめるです!」

 

コンパがワレチューの前に出て腰に手を当てて怒る。

だがワレチューにはまったくこたえていないらしい。

 

「チュ!?これは夢っチュか!?コンパちゃんが自分からオイラに会いに来てくれるなんて……」

「そんなの売ってたらめ、です!全部没収するですよ!」

「没収!?それは困るっチュ!……うう……けど、コンパちゃんになら没収されたいと思う自分もいるっチュ……」

「ネズミさん!?」

 

ずずいっとコンパがワレチューに詰め寄る。

 

「う、う、う~……!で、でもこれはまだ製造数の少ない希少品!コンパちゃんにも渡すわけにはいかないっチュ!逃げるっチュよ!」

 

ワレチューと残りの部下が一瞬のうちにマジェコンをかっさらって逃亡した。

 

「あっ!」

「コンパ、ネプギア、追うわよ!これ以上こんなことをさせるわけにはいかない!」

「待つですよ、ネズミさ~ん!」

 

3人もそれを追って駆け出した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

街からだいぶ離れた草原でワレチューは一息つく。

持っていたマジェコンが入っている袋を置いて呼吸を整えた。

 

「ここまで来れば、いくらコンパちゃんといえども……」

「見つけました!」

「チュ!?」

 

その声にワレチューか振り返ると立っていたのはネプギア。

だが、1人だけだ。

 

(どうしよう……追ってる間にはぐれちゃった……)

 

けど、だからといってワレチューは見逃せない。たとえ1人だって……!

 

「チュ?お前1人っチュか?いらないっチュ!」

「い、いらない!?」

「どうせならコンパちゃんに会いたかったっチュ!」

「がーん……」

 

別にワレチューがどうということではないが、いらないと言われるとそこそこ傷つく。

心に無駄なダメージを受けていると、ワレチューは小さな手を上に向ける。

 

「マジェコンは渡せないっチュ!やっちまうっチュよ!」

「な……!」

 

空中から円形のUFOのような機体が現れた。

機体の下部に設置された大型ビームライフルがネプギアを狙っている。

 

《………》

 

「っ!?」

 

ビームがネプギアに撃たれ、砂埃が舞い上がる。

しかし……。

 

「えいやぁぁぁっ!」

 

《!?!?!?》

 

砂埃の中から飛び出したネプギアが変身しながら敵に向かう。

敵の名はアッシマー。

アッシマーはネプギアのM.P.B.Lの斬撃にうろたえたように見えたが。

 

「えっ!?」

 

アッシマーが一瞬で変形した。

人形へと変形したアッシマーがビームサーベルを掴んで斬撃を受け止める。

 

《………》

 

「でもっ!」

 

素早く状況を把握したネプギアはアッシマーを蹴飛ばし、銃口を向ける。

 

「これでっ!」

 

《!?!?!?》

 

M.P.B.Lに撃ち抜かれたアッシマーが大爆発する。

 

「やった……?……っ!」

 

一息ついたのも束の間、ネプギアをビームが掠める。

その瞬間、ネプギアは背筋が凍りつくのを感じた。

 

 

………完全に包囲されている。

 

 

ネプギアを囲むように銃口を向けていたのはガザC。人型のガザCはナックルバスターという大出力のメガ粒子砲の引き金を一気に引いた。

 

「っ、タイタス!」

 

苦し紛れに逃げながら防御力の高いタイタスへと換装を行う。

しかし、ナックルバスターのほとんどの射撃はネプギアに直撃した。

 

「ああああっ!」

 

ネプギアの体が煙をあげながら吹き飛ばされた。

辛うじて顔を上げたネプギアの目に映ったのは次なる射撃準備を完了させたガザC達。

 

「っ……!」

 

《………》

 

狙いは正確、完全にネプギアに当たるようにナックルバスターが放たれた。

 

(当たるわけには……いかないっ!)

 

どくん。

どくん。

 

ネプギアの頭に2度の脈動が走った瞬間、ネプギアは放たれる全てのビームの軌跡が見えた気がした。

 

どくん。

どくん。

 

そして、何よりも速く動ける気がした。

 

「ッ!」

 

高速で動き、放たれたビームとすれ違う。

 

(なっ!?)

 

その速さに驚いていたのは、ネプギア自身だった。

 

(この速さ、今までのものとは違う……!?スパローでもない、スパローよりも速く、タイタスよりも強い……!?)

 

体が勝手に動く。

まるで自分の体ではないような高揚感にネプギアの体が踊る。

ネプギアは既に手にM.P.B.Lを握りしめていた。

 

『君は、進化する……』

 

「進、化……」

 

『君は更なるステージに立つ!』

 

「更なる、ステージ……」

 

まるで、時が止まったかのようだ。

頭の中に響く声をなんの不快感もなく受け止められている。

 

『先へ、先へ、先へ!』

 

「先へ、先へ……先に!」

 

ガザCはビームサーベルを引き抜くが、遅い。

ネプギアが振るうM.P.B.Lが受け止めることさえ許さずにガザCを切り裂いた。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

ネプギアの、目の前で両断されたガザCが爆発する。

それと同時に、ネプギアの不思議な高揚感も消え去った。




噛ませアッシマー。実弾だったら生きてた。

ネプギアがミズキに似てきたらしく。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進化の時間

ゼータの機体は画期的な変形が多いですねぇ、Zも特に。あとガブスレイとか。


(なに、今の……?)

 

我に返れば不思議な力は消え去っていた。

まるで、夢から覚めたように元通り。あの時の速さも強さも声も何もかも幻だったかのようだ。

 

「進化、する……更なるステージ……先に、先に、先に……」

 

あの時の声を反芻する。

 

「私はまだ、劇的な進化を残している……?そっか、わかった、わかる……!」

 

不思議と、消えた記憶のことを理解した気がする。

記憶がなくなっていたとして……その内容は私にはわからない。けれど、確実に記憶がなくなっていたことがわかる。

 

そしてその中で私は成長していた!

私は時間と一緒に進化も失った……。けれど、それを私は取り戻しつつある!

ノーマルも、スパローも、タイタスも、私の一部分でしかない!さらに、さらに、その先はある!それを取り戻す!

 

「わかりました!私はまだ、進化する……!」

 

 

 

ーーーー『運命の先へ』

 

 

 

ネプギアがヒラリと空に舞い上がる。

それを見たガザCが思い出したようにナックルバスターを放つが、ネプギアは全てを避けてM.P.B.Lの射撃でガザCを貫く。

 

「今から、私の全ては進化します!」

 

あの時、あの一瞬で感じることのできた力……それを掴み取るまで!

 

「強く、速く、硬く、重く!」

 

ネプギアがガザCに切りかかる。ガザCはビームサーベルを引き抜いて斬撃を受け止めるが……!

 

「私は、強くなる!」

 

ビームサーベルごと押し込まれ、ガザCが切り裂かれた。

瞬間、ガザCごと撃ち抜こうと放たれたナックルバスターを避ける。

 

「感じて、感じて……!」

 

雨あられのように降り注ぐビームの合間を踊るように避け続ける。

そして、ビームを撃てるほどの小さな隙間がその雨の中に見えれば……!

 

「当たれっ!」

 

素早く引き金を2回引く。

何れもガザCに命中して爆散させていく。

 

(編隊移動をとっているんだ……!密集してるってことは攻撃が辛いってことだけど!)

 

「的が大きいってことなんですよ!」

 

再び撃たれた弾丸がガザCを貫く。

 

「まだ、まださらにその先……!やれる、私なら……!」

 

地に降りて駆け出したネプギアはタイタスへと換装する。

しなやかな獣のようにビームを避けながらネプギアは森へと向かう。

 

(戦場を利用して戦えば、勝てる!)

 

森の中に入ったネプギアへとガザCの射撃が向かうが、さっきよりも精彩を欠いている。

ネプギアは高速で動いても木々には当たらず、まるで住み慣れた土地のように木と木の間を縫うようにくぐり抜け、あるいは飛び跳ねていく。

 

「ビーム・ブーツ!」

 

ネプギアが勢いを緩めずにビームを纏った飛び蹴りを放つと抵抗もなしに大木がへし折られた。

ブレーキをかけたネプギアがその大木を抱き上げる。

 

「これを武器に出来る力を……!」

 

どくん。どくん。

 

「ていやぁっ!」

 

《!?》

 

そのまま槍のように放り投げた大木が上空のガザCへと命中する。

それに驚いたガザCにもすかさずネプギアの射撃が命中する。

 

「感じる……!アナタ達の気配を感じます!」

 

ネプギアの射撃をガザC部隊は避けて、散り散りになる。

各機モビルアーマーへと変形してネプギアを包囲するように動く。

 

「早い……!でも、早くとも!」

 

ネプギアがくるりと回ればスパローへと換装している。

変形したガザCに負けないほどのスピードでネプギアが宙を舞う。

 

蝶のように舞い蜂のように刺す。

それを体現するようにネプギアはガザCの真後ろにピッタリとついた。

 

「ふっ!」

 

一瞬のうちにX字に斬撃を叩き込み、離脱。

近くのガザCを踏み潰し、それを踏み台にして飛翔し、また別のガザCが細切れになる。

 

(もっと、見るんだ……。見て、聞いて、感覚を研ぎ澄ませて……)

 

どくん。どくん。どくん、どくん!

 

ネプギアの頭に全てのガザCの機動が見えた。

上下左右前後、全ての機体の動きを同時に把握出来たのだ。

 

「そこ……」

 

自分でも驚くほどに落ち着いている。

まるで、暖かな春の日にこぼれ落ちた花弁を手のひらで受け止めるようにネプギアはM.P.B.Lを投げた。

 

《……!?》

 

ガザCに当然のように直撃。

やすやすとガザCの薄い装甲を貫いたM.P.B.Lをネプギアが急接近して掴む。

 

「倒せて、当然……」

 

キンッ、とほんの少しだけ装甲が無駄な抵抗をする音が響いて継いで爆発音が響く。

 

「ま、まさか……も、もう9機もやられたっチュか!?」

 

さっき集中砲火を受けていたネプギアとは別人のようだ。

まだほんの数分しか経っていないのに、数10機はいたガザCは半分以下に減っている。

 

「や、ヤバいっチュよ……!ええい、なら、まだ!」

 

 

ーーーー『モビルスーツ戦』

 

 

「………?」

 

ネプギアが急接近する機体の気配を感じた。

 

「っ、来るなら!」

 

発射される黄色のビームを避ける。

そして敵の姿を視認した。

 

「紫と、茶色の機体!」

 

こちらにやってくるモビルアーマーが合計3機。

紫の機体、メッサーラと茶色の機体、ガブスレイだ。

 

(あの3機、格が違う……!)

 

メッサーラからミサイルが放たれた。

片肩9発、合計18発のミサイルがネプギアへと向かう。

 

「慎重に動かないと、やられる!」

 

後退しながら冷静にミサイルを撃ち落とす。

すると2機のガブスレイが前に躍り出た。

 

《………》

 

2門の肩部メガ粒子砲の弾幕がネプギアを襲うが、ネプギアはそれを牽制であると見抜いている。

 

「本命は食らいません!」

 

同時に放たれたフェダーインライフルを跳ねるように上に飛んで避ける。

そしてガブスレイとすれ違い、メッサーラへと向かう。

 

「落とさせてもらいます!」

 

可変機の射角外、真上から強襲をかける。

メッサーラはなんの抵抗もできずに落とされてしまうように見えた、が!

 

「っ!?」

 

その間、わずか0.5秒。

ただそれだけの時間でメッサーラは変形を終了させ、ネプギアのM.P.B.Lをビームサーベルで受け止めて見せた!

 

(やっぱり、他とは別格……!)

 

ネプギアのM.P.B.Lを強引に振り払い、距離を取る。

ネプギアにはメッサーラを大きく見せるような真っ黒いオーラが見えた気がした。

 

(これが、スミキさんが感じるものなの……!?)

 

直感で感じる。あの中、誰かがいる!

 

(これが、スミキさんの視界……スミキさんの世界!)

 

後ろからガブスレイが旋回して戻ってきた。

2機のガブスレイが連携を取りながら肩部メガ粒子砲を放ってくる。

 

「落と……くっ!」

 

逃げて距離を取ろうとするが、逃げられない。

モビルアーマーは、速すぎる!

 

「逃げられない、追えないッ!?」

 

ガブスレイAが目前に迫る。

そしてそのクローアームでネプギアの腕を握りしめた。

 

「うあああっ!?」

 

ギリギリとネプギアの腕を締め付け、骨が軋む音が聞こえた。

 

「離してっ!」

 

すかさずM.P.B.Lで切り裂いてクローを外すが、動きが止まった隙を狙われる。

 

(狙われた……!?)

 

ネプギアの後方、モビルスーツ形態へと変形したガブスレイBがフェダーインライフルを構えている。

 

(アレは……!)

 

「アレにだけは、当たれない!」

 

M.P.B.Lを構えた瞬間、フェダーインライフルが放たれた。

 

「最大出力!」

 

そしてM.P.B.Lを最大出力で発射される。

2つのビームはぶつかり合い、スパークして相殺しあった。

 

(M.P.B.Lの最大出力を受け止める威力だなんて!)

 

しかし、危機はまだ終わらない。

後ろからメッサーラが近づいている。

 

《………》

 

腕のバルカン砲を放ちながら前進される。

M.P.B.Lの刀身でバルカンをガードするが、それをクローアームで掴まれた。

 

「何を!」

 

《………》

 

メッサーラのクローアームの内側のグレネードランチャーが連続で火を吹いた。

 

「しま、きゃああっ!」

 

M.P.B.Lが粉々に砕かれてしまう。

その余波を食らってネプギアも吹き飛ばされてしまう。

 

「ああっ!」

 

ネプギアが地上に叩き落とされた。

 

「M.P.B.Lが……!でも……!」

 

M.P.B.Lがなくなったって戦える。

 

「タイタス!」

 

迫るモビルアーマー達に立ち向かうべく、タイタスへと換装する。

しかし……。

 

「えっ……!?」

 

タイタスへの換装が行われない。

 

「タイタス、タイタス!そんな……!?」

 

それどころか、変身が解けてしまう。

 

(変身が……そんな!)

 

《………》

 

「きゃああっ!」

 

メッサーラから放たれたメガ粒子砲がネプギアの足元で爆散する。

ネプギアは崩れ落ちると自分の手を握りしめた。

 

「なんで……!?どうして、変身ができないのっ!?」

 

メッサーラが迫る。

変形した。

ビームサーベルを構えている。

 

「なんで……っ!?」

 

ビームサーベルを振り下ろしてくる。

それをビームソードで受けたが、吹き飛ばされる。

 

「あうっ!」

 

先に、先に、先に。

更なるステージへ。

進化する。

 

(違うでしょ!?)

 

先に行くのは私。

更なるステージに立つのは私。

進化するのも……他でもない私!

 

「そうだ……ほんの少しだけ、理解できた気がします!」

 

あの言葉の本当の意味を!

 

砂埃だらけの服と髪を散らしながら立ち上がる。

 

「変身ッ!」

 

しかしそれでもネプギアの姿は変わらない。

それでも、それでもネプギアの瞳の光は消えていない。

 

メッサーラが腕のグレネードランチャーを向けた。

それが発射されてもネプギアの瞳は揺るがない。

 

そして……!

 

《!?!?》

 

天から眩い光の柱が降りてネプギアを覆い尽くす。

グレネードランチャーは光に遮られ、爆発する!

 

ネプギアの体が光に包まれ、通常の変身を終了させた。

しかし、変身はまだ続く。

 

ネプギアのプロセッサユニットが追加され、さらにネプギアのスーツに幾重にもスーツと装甲が厚く装着されていく。

両手にはシールドが装着され、ネプギアが空に舞い上がる。

 

「この私の名前は……フルグランサ!」

 

ネプギアのプロセッサユニットに装備された砲台が脇の下をくぐってそれぞれガブスレイを向く。

砲の名前はグラストロランチャー。

 

《!》

《!》

 

ガブスレイがそれぞれフェダーインライフルを構えた。

生半可な射撃など打ち消し、さらにそれごとネプギアをチリにしてしまうつもりだ。

 

だが、この2機の判断は誤っていた。

 

「グラストロ……ランッ、チャァァーッ!」

 

放たれたフェダーインライフルとグレネードランチャー。

それは相殺しあい、ビームを完全に消し去った。

 

《……!》

 

グラストロランチャーは通常の射撃でM.P.B.Lの最大出力と同じ威力があるのか。

瞬時に機体はネプギアへの認識を改める。

 

「逃がしません!」

 

ネプギアの背に新たに装着されたプロセッサユニットが唸りをあげる。

ガブスレイはすかさず変形してネプギアから逃げるように後退する。

 

「M.P.B.Lも進化した……!盾の機能までついてるなんて!」

 

シールドを2機のガブスレイに向けると、そこから螺旋を描くビームが発射される。

ガブスレイは互いに不規則な動きでそれを避けた。

 

「……っ、後ろ!」

 

ネプギアがメッサーラの気配を察知した。

後ろから変形して迫るメッサーラの肩からミサイルが発射される。

しかし、ネプギアはガブスレイに迫りながらメッサーラの方を向く。

すると、ネプギアの肩と膝の装甲が展開してミサイルが露出した。

 

「火力だって……上がってるんですからァッ!」

 

発射されたミサイルがメッサーラのものとぶつかり合い、消えていく。

それどころかさらに発射されたミサイルはメッサーラのミサイルの弾幕すら乗り越えてメッサーラの鼻先へと迫った。

 

《!》

 

メッサーラにミサイルが直撃する。

たまらずメッサーラは変形を解除して態勢を立て直す。

 

《!》

《……》

 

それを見たガブスレイがフェダーインライフルを構えた。しかし、その気配もネプギアに察知されている。

 

《………》

 

「当たりません!)

 

フェダーインライフルを華麗に避け、ガブスレイへと肉薄する。

そしてシールドライフルの銃口からビームサーベルを発振させた。

 

「これは……剣にだってなるんです!」

 

不意をつかれたガブスレイの左腕が肩から切り裂かれた。

もう一撃加えようとしたネプギアだったが、ガブスレイは右手で持ったフェダーインライフルを構えた。

 

「ンッ……!」

 

フェダーインライフルの後部からビームサーベルが発振してネプギアのビームサーベルを受け止めた。

剣にも銃にもなる武器を持っているのはネプギアだけではないということか。

しかし、怯んでいる暇はないのだ。

 

「無駄、ですよっ!」

 

残った片手の盾で殴りつける。

ガブスレイの首のコードがブチブチとちぎれ、吹き飛ばされた。

 

「っ!」

 

そのままグラストロランチャーを発射。ガブスレイはビームに飲み込まれ、跡形もなく消え去った。

 

《………!》

 

残ったガブスレイが激昂するようにネプギアへと迫る。

フェダーインライフルを捨て、ビームサーベルを引き抜く。

ガブスレイに装備されているビームサーベルは全部で4本。両手と両足のクローアームにそれらを握らせ、MAとMSの形態の間、中間形態とも言える姿でネプギアに切りかかった。

 

「来ないでくださいよッ!」

 

振り返ったネプギアはミサイルを一斉発射。

ガブスレイはミサイルを切り裂きながら迫るものの、限界がある。ついにガブスレイにミサイルが命中する。

 

《!》

 

「落ちたいんですか……!?」

 

シールドライフルの弾丸がガブスレイを貫いた。あっけなく、まるで砂上の楼閣が崩れるように儚くガブスレイが爆発する。

 

「チュ、チュ……?」

 

メッサーラが残ったガザCをまとめあげ、ネプギアに弾幕をはる。

ワレチューは目の前で何が起こっているのか理解しきれていない様子だ。

 

「………ふっ、はっ……」

 

後退しながら弾幕の間をくぐり抜ける。

 

「隙ができた!」

 

片方のグラストロランチャーを発射してガザC2機が消えていく。

焦るように前進しながらナックルバスターを撃つガザCの動きはもう完全にネプギアに読まれている。

 

「機械の心なんて、相手じゃないんですよ!」

 

シールドライフルを撃てばまたガザCに直撃する。

もはやただの厚い弾幕でネプギアを倒すのは“不可能”になっていた。

 

《………》

 

メッサーラもそれを悟り、変形してネプギアへと急接近をかけた。

 

「くっ!」

 

放たれる背中のメガ粒子砲を避けながら体制を整える。

しかし、メッサーラは別格だ。ネプギアには再びメッサーラを包む黒いオーラが見えた。

 

「負けられない……っ、もっと強く、速く、硬くッ!」

 

避けきれずにメガ粒子砲を盾で受けてしまう。

その衝撃で後退したネプギアをメッサーラが追い詰める。

モビルスーツへと変形しながらビームサーベルを引き抜いてネプギアの目前へと迫った。




あり?AGE2じゃない?フルグランサになっちまったよ。
カポエラーにしたかったのにサワムラーになった気持ち。
ちなみに戦艦の残骸を跡形もなく消し去るフェダーインライフルは6.6mwとか。ハイメガキャノンは50mwです。ぶっ飛んだ兵器だこと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

忍び寄る影(ただしとっても大きい)


フルグランサほんと好き。AGE2ノーマルの次に好き。


ネプギアはメガ粒子砲を盾で受けて仰け反りつつも、しっかりと開いた瞳で目の前の状況を視認していた。

目の前にいるのはメッサーラ。ビームサーベルを引き抜いてこちらに向かっている。

そしてネプギア達を包むように放たれるのはガザCのナックルバスターによる弾幕。

 

(急務……メッサーラを退ける!)

 

シールドライフルからビームサーベルが現れた。

それはメッサーラのビームサーベルと鍔迫り合い、バチバチとスパークを散らす。

 

「くううっ!」

 

《………》

 

しかし、ここではメッサーラの方が1歩上に行った。

メッサーラが咄嗟にビームサーベルを持った手の力を抜いて、タックルしてきたのだ。

 

「あうっ!」

 

(マズい!)

 

これは追撃をかけられる流れだ。

現に、メッサーラは次の攻撃体勢を整えている!

 

《………》

 

ゆっくりと……いや、実際は一瞬でメッサーラの背中のメガ粒子砲がネプギアに狙いを定める。

絶対に逃がしはしない。次の一撃で確実にネプギアを灰燼に帰すつもりだ。

ネプギアのXラウンダー能力が警鐘を鳴らす。アレに当たってはならない。アレが直撃すれば、大ダメージを受ける!

 

「………っ!」

 

けれど、避ける術はない。

ネプギアのXラウンダー能力は警鐘を鳴らすと同時に追撃が避けられないものであることも教えていた。

 

(どうする、どうする、どうする!?)

 

例え、強くとも速くとも硬くとも、賢くなければ。

大男総身に知恵が回らず、という諺が示すとおりだ。どれだけ屈強な力を持っていても、それを使いこなせなければ宝の持ち腐れに過ぎない。

ネプギアにはポテンシャルがあった。1対大多数を覆すほどのポテンシャルはあったが、それを使いこなせなかった。

このピンチはそのツケだ。

 

(…………!)

 

考えられた手段は2つ。

この失敗を取り返す、逆転の一手は2つある!

1つ、グラストロランチャーでメガ粒子砲と撃ち合う!

もう1つは……!

 

《!》

 

「くっ!」

 

ネプギアが盾で自分の前を覆い、さらにその前に防御魔法を展開した。

 

「う、う、う、うぅ………!」

 

《…………》

 

ネプギアの防御魔法がひび割れ、崩壊していく。

 

「ああああっ!」

 

メガ粒子砲は防御魔法を突き抜け、盾で受けたネプギアをその勢いのままに地面に叩きつけた。

 

「あっ………くっ……!?」

 

さらに追撃のミサイル。メガ粒子砲を撃つのと同時に放たれたミサイルは地面にめり込んだネプギアに降り注ぐ。

 

「うあああっ!」

 

迎撃も追いつかない。苦し紛れに盾で受けたネプギアだが爆風と衝撃がネプギアの体を打つ。

 

「くっ……はっ……」

 

ネプギアが大きなクレーターの中に倒れ込む。

息は荒く、身体中傷だらけで力尽きた。

 

《………》

 

だが、まだ死んでいない。息の根を止めるまでは。

メッサーラがビームサーベルを引き抜いて追撃をかける。同時にネプギアへグレネードランチャーを撃つと、ネプギアへと避けも防御もせずに直撃した。

 

「うっ!」

 

《………》

 

爆風に打ちのめされたネプギアがわずかに呻く。

そしてメッサーラがビームサーベルの間合い、その一歩手前まで迫った瞬間に………ネプギアは、笑った。

 

「ふふっ……」

 

《………!》

 

「ひっかかって……くれました。これは、賭けでした。もしかしたら、失敗するかもしれない。そうすれば私は一気に窮地に陥ってしまう……その賭けに、私は勝ちました!」

 

メッサーラのビームサーベルを持った右手が強力なビームによって撃ち抜かれた。

それも、背後。ネプギアのいない方向から。

 

《!?》

 

「グラストロランチャー……最初の射撃の時に切り離してたんですよ」

 

メッサーラの背後には切り離されたバックパックが飛行していた。

ネプギアはメガ粒子砲の射撃を受け、地面にめり込んでいた時にそのバックパックを切り離したのだ。

もしグラストロランチャーで迎撃すれば、後続のミサイルにやられて体勢を崩し、そのままビームの海にその身を沈めていたかもしれなかった。

だからこその、この作戦。敵の意表を突くことが出来る、この作戦を選んだのだ。

 

「それと、もう1つ………」

 

動けないネプギアなど脅威ではない。

残った最大の脅威であるあのバックパックを撃ち落とそうと後ろを向き、狙いを定めたメッサーラに背筋が凍るような声がした。

 

「追加装甲を……なめないで!」

 

一瞬、辛うじて後ろを見ることのできたメッサーラのセンサーに映ったのは厚い装甲とスーツのほとんどを脱ぎ捨て、身軽になったネプギアの姿。

ネプギアが移動した痕跡を残すように、まるでネプギアが脱皮して本来の姿を得たかのような、アーマーパージアタック。

まさか、効いていなかったというのか?あれだけのビームの勢いで地面に叩きつけ、さらにミサイルを撃ち込んだというのに、ダメージはネプギア本体に届いていなかったというのか?

その答えはネプギアの体が表している。

強く、強く、“是”と。

 

《!?!?!?》

 

メッサーラの左腕と左足がまとめて切られた。

抵抗しようと苦し紛れに放った右足の蹴りもネプギアに受け止められ、足を引きちぎられた。

 

《………》

 

「逃がしはしません!」

 

背中のスラスターを使って逃げようとしたメッサーラにシールドライフルを向ける。

狙いを定め、撃てと命じればいとも容易く銃口からビームが放たれる。

それはたった一撃でメッサーラの2つのスラスターを同時に貫き、爆発させた。

 

《!?!?!?!?》

 

胴体だけになったメッサーラが地面へと落下していく。

 

「残りは………」

 

くるりと後ろを振り向けばガザCの残党達。だが、ほんのこれっぽっちでネプギアが止められないことは全員が理解している。

誰もが近寄るなとでも言いたそうに銃口をネプギアに向けてそこから動かない。

しかし、突如としてガザCが爆発した。

 

《!?》

 

「これは……」

「チュ!?」

 

次々と残ったガザCが何者かに撃ち抜かれて爆発していく。

気配を感じたネプギアが援護をしてくれた方向を見ると……。

 

「アイエフさん、コンパさん!」

 

「お待たせしましたです!」

「これで、鬼に金棒ね」

 

2人の射撃が次々とガザCを撃墜していき、ついに最後の1機が撃墜された。

ふわりと地面に降り立ったネプギアが2人と合流してワレチューを見据えた。

ワレチューの足元には袋に包まれたマジェコン。

ワレチューは冷や汗を垂らして3人を見つめている。

 

「ほ、他のマジェコンはどうなったっチュか!?ま、まさか……」

「そのまさかよ」

「です」

 

アイエフが投げたのは焦げた歯車。

コンパが投げたのは一部が溶解したパーツだった。

 

「チュ、チュ〜……!」

 

「さて、後はこれをぶっ壊すだけね」

「派手に行くですよ!」

 

「チュ、やめるっチュ〜っ!」

 

ワレチューの悲痛な声が響くが、問答無用で2人はマジェコンの山に銃弾と液体をぶつける。

まるで長い間出番のなかった軍隊が骨董品の処分だと派手に旧型の武器を消費するような散財具合。

もしくは仕事が忙しくせっかく多い給料を全然使えずようやく貰えた休みにお金の使い方がわからず盛大に贅沢してしまうほどの贅沢具合だ。

 

楽しげにマジェコンを叩き壊していく2人だったが、ネプギアはそれに参加していなかった。

 

ふと、自分の胸に手を当ててみる。

あの時感じられた速さ、強さ。生まれ変わった、ヴァージョンアップとも言えるほどの強さをあの一瞬だけは手に入れることが出来た。

今手に入れたこの新しい強さ、フルグランサは確かに強い。火力、装甲、機動力、全てが底上げされていた。

だが、それでもあの時には及ばない。

 

これは完成系ではないのだ。おそらく、足下にも及ばない。もっともっと、朧気ながら見える新たな姿は圧倒的なはずなのだ。

 

だが不思議とネプギアは自分の体の限界も感じていた。これ以上はどうしようもないような、そんな行き止まりを目にしたような感覚があった。

 

AGE1フルグランサ。果たして、これがネプギアの進化の限界なのだろうか……?

 

「ぎあちゃん?ぎあちゃんも壊さないですか?」

「……あっ、はい!こ、壊します!」

 

ネプギアが放ったビームはマジェコンを貫いたものの、地面にめり込んだ後に消え去った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミナが光り輝く機械の前でシェアクリスタルを精製し始めた。

その後ではラムが早く早くと急かしている。

 

「これで、ロムちゃんも治る!?」

「ええ、大丈夫よ。だから、少し休んでなさい」

 

さらにその後ろでは3人がそれを眺めていた。

 

「マジェコンは一つ残らず壊したし、これでしばらくはシェアを奪われる心配もないわね」

「溜まったシェアでクリスタルもすぐ作れるですし……」

「これで、2人も元気になるかな……」

 

ロムはまだ寝込んでいるし、ラムの体調も芳しくない。

だからこそ、2人には早くシェアクリスタルを使って元気になってもらいたい。

2人が動けなければシェアを取り戻すことも出来ないのだから。

 

「ネズミには逃げられたけどね」

「またシェアを奪われるかも知れませんから、油断は禁物です」

 

確かに、今あるマジェコンを全て壊したと言ってもまたマジェコンを引っさげて戻ってこないとも思えない。

 

(………?)

 

その時、ネプギアの体にほんの少しの震えが走った。

手首がプルプルと震えている。

不思議に思って抑えると震えはすぐに止まった。

さして気にもならないようなことのはずだったが……ネプギアはなんだか危機が迫っているような気がして、落ち着かなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「うぅ………ぁ……」

 

自室で呻きながらロムが眠っている。

寝汗はひどく、その表情はお世辞にも安らかとは言えない。本当に苦しそうに呻いている。

その部屋の窓から颯爽と足音も立てずに1人の女が舞い降りた。

怪盗のよう、と言いたいところだが格好はまるでコソ泥なので空き巣のようだ。

 

「へへっ……侵入成功……」

 

暗闇に紛れてロムの部屋に降り立ったのはリンダ。

そして窓の外にはさらなる巨大な影が見える。

長い舌を蠢かせ、目を赤く光らせる。ジュルリと涎を垂らす姿は怖気が立つような危機を見るものに感じさせる。

 

「また……会いにきたぞ〜……アクククク」

 

夜、暗闇、輝く星々。

 

月が、出ていた。




また、会いに来ました。
プラズマダイバーミサイルはゲハバーン枠っぽい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

助けて執事さん

トリックの立ち位置が1番考えるのに苦労するんだよ!死んだ、ないし倒されたはずだろうがォォん!?


「さあ、早く、ヤツらが来ちまいますぜ」

「うむ、わかっている。だが慌てずに、だ!」

 

ラムを起こさぬように小声で会話を交わした2人。

窓の外に控えるのはふんわりぼよんぼよんな黄色の怪物。マジェコンヌ四天王が1人、トリック・ザ・ハードだ。

おぞましい顔と牙でギョロギョロと目を動かしてロムを見つめるものの、二頭身なのでいまいち威厳がない。いや、むしろそれが逆に歪な不安感を感じさせているのかもしれない。

 

とにかく、トリックは窓を潜ろうと体を窓に沈み込めるが、

 

「う、うむ?あれあれ?し、尻が……」

「あ〜……体大きいですもんね〜……。ていうか、なんでそんな体で潜入任務なんて買って出たんすか?」

「アクククク……そんなことは知れたこと……」

 

尻を窓にグイグイ入れながらトリックが意味ありげに笑う。

 

「ここに……この部屋に、幼女が眠っていると聞いたからだ!」

「……まあ、たしかに眠ってますけどね」

「なに、それは真か!?くぅ、見たい!今すぐ見たい!こんなことなら、もっと図体を小さくして蘇らせてもらえれば……!」

「蘇る?」

「ああ、いや、なんでもない。お前には関係のないことだ」

 

怪訝な表情で聞き返すリンダをあしらい、限界まで体を縮めて窓を潜ろうとするトリック。だが、まあ、上手くいくわけがない。

 

「……これ、絶対人選ミスだよな」

 

案外上層部って大したことないのかもしれない。

マジック様ならすると通り抜けられただろうし。いや、確かに他の3人は図体がデカすぎるが。トリックはまだマシな方かもしれないが。

 

「ぬぅ、こんな窓など!えぇ〜いっ!」

「え、ちょ、タンマ……!」

 

バリバリバリバリ、ドカーーーン!

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「もう〜!ミナちゃん遅い!早く早く〜!」

「あ、慌てないで……。もうできるから」

 

クリスタルは少しずつ少しずつ形になっていき、もうほとんど完成したと言ってもいい。

だが、焦って手元が狂ってしまえばそれまでのこと。慎重になって損はないのか、ミナは完成を急ぎはするものの焦りはしない。

 

 

バリバリバリバリドカーーーン!

 

 

「えっ!?」

「なんの音よ、これ……」

「壁か何かが壊れたです?」

 

3人は突如響いた音に不思議がって周りを見渡す。

まさか、教会の壁や天井がいきなり割れるなんてこともあるまい。

つまり、今の音は異常だということだ。

 

「あっちから……あっち、ロムちゃんの部屋よ!」

「まさか……ロムちゃんに何か!?」

 

ネプギアとラムの顔から血の気が引いていく。

もし、何かが起こっていれば……!

 

「ま、待ってください!……えいっ」

 

駆け出そうとした2人をミナが引き止める。

その手には精製したばかりの小さなシェアクリスタルが握られていた。

 

「ロムになにかあったら、これを」

「わ、わかったわミナちゃん!」

 

全員がロムの部屋に向かって駆け出した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「わ、ちょ、何してくれてるんすか!こんな音立てたらバレちまいますよ!」

「アクク、幼女の前の小事だ!ああ、なんと愛くるしい……。この愛くるしさが、またこの手に……うう、生きててよかった〜っ!」

「は、はあ……」

 

もうリンダはドン引きしている。

それを気にもせずにトリックは寝ていたロムを抱き上げてジロジロと舐め回すように見つめる。

 

「め、愛でちゃってもいいかな?な、舐め回しちゃっても!?」

「と、トリック様!まずは目的を果たしてからにしましょうよ!」

「おお、そうだな……。うっかり、我を忘れてしまっていた。幼女はもうこの手にあるのだから、焦ることはないのだ……」

 

トリックが深呼吸をしながらハァハァと荒かった呼吸を整える。

口が大きいので呼吸量も尋常ではなく、吐いた息がロムにかかる。

 

「ぅ、うぅ……?誰……?」

「げっ!」

 

その感触でロムが目を覚ます。

うろたえたリンダだったが、トリックはうろたえない。

 

「ぅ……!頭が……!」

「久しぶりだな、幼女よ。また会えて嬉しいぞ、アクククク!」

「だ、誰……!?」

「アクク、怖がらなくてもいい。さあ、この目を見て……じ〜っと見て……」

 

突如訪れた頭痛にロムが頭を抑える。

しかし、トリックの目が妖しく光った。ついその目を見てしまったロムは光に釘付けになっていく。

まるで、目を離したくても離せないような、そんな感覚がロムを襲った瞬間にロムの目がオレンジに染まった。

 

「ロムちゃん!」

 

その時、ラムが部屋のドアを乱暴に開いて入り込んできた。

その先には見覚えのある下っ端と、黄色い怪物。

 

「うっ、あうっ!」

「ラムちゃん!?」

 

ラムがトリックを見た瞬間、ラムも頭を抑える。

あとから入り込んできたネプギア達も部屋の中に入り込んでいる不審者に気づいた。

 

「うっ、頭が……!」

「あいつ……!」

「あの時のですか!?」

 

「ほう。だが、今はまだその時ではない!俺は姿を消すぞ!準備もあることだしな!」

「と、トリック様!?」

「後は任せたぞ、リンダ!必ず私の元へ幼女を連れてくるのだ!いいな!?」

 

トリックがぼよよーんと跳ねて壁に開いた穴から脱出する。

 

「いい人なんだけどな。……あの性格、なんとかなんねえのかな」

「くっ、ロムちゃんを返しなさいよ!」

 

リンダの元に目を虚ろにして立っているロムがラムの方を向いた。

 

「返す?……まあ、アタシは返してもいいんだけどよ。コイツが帰りたくねえみたいだぜ?」

「はあ!?そんなわけが……!」

 

「………」

 

ロムが杖を手に取り、ラムに向けた。

 

「ろ、ロムちゃん?」

「…………」

 

杖の先に氷の塊が作られる。

 

「危ない!」

 

ネプギアが咄嗟に飛び出してラムを押し飛ばす。

するとさっきまでラムがいた場所に氷の塊が投げつけられた。

氷の塊は壁にぶつかって砕け、バラバラと床へ落ちる。

 

「ろ、ロムちゃん!?」

「ロムちゃんが……私に……攻撃を……?」

 

ラムは揺れる瞳でロムを見る。

唯一無二の絆で結ばれたはずのロムが私を攻撃した?本気で?

目で訴えても帰ってくるのは無感情な冷たい視線。まるで興味がないような、路傍の石を見るような瞳。

今のだって、ロムにとっては足元のアリを踏み潰すような感覚だったのだろう。

 

「信仰がないとこうも簡単に洗脳できるなんてな……。さあ、行くぞ!アタシについてこい!」

「……はい。ご主人様」

 

ロムの体が光に包まれて変身した。

ラムを何の感情もこもっていない無機質な瞳で見つめ、執着もなく振り返ってリンダと共に夜空へと姿を消す。

 

「待ってロムちゃん!ロムちゃーーーん!」

 

「な、何事ですか!?」

 

遅れてミナが入ってきた。

そして夜空に消えていくロムを見る。

 

「っ!」

「ま、待ちなさい、ラム!」

「は、離してよ、離してミナちゃん!」

「それは、わかりますけど!今アナタが行ったってどうにもならないでしょう!?」

 

ラムの体を掴んで肩を両手で掴み、怒鳴り込む。けれど、目は真摯にラムの方を見つめて、ラムもその瞳を跳ね返せない。

 

「ど、どうすれば……!」

「そんなの、私にもわからないわよ」

 

ネプギアが狼狽えるが、誰にだって答えは出せない。

 

「……アイツ、洗脳って言ってたわよね」

「洗脳……?」

「信仰がないと簡単に洗脳できるって……だったら」

 

アイエフがさっきのことを思い出すと、リンダのつぶやきが気になる。

 

「そうです!シェアクリスタルなら……!」

「ええ。そう簡単には洗脳に屈しないはず」

「今は信仰がなくて弱ってるから、だから洗脳なんてされちゃったってことですね!」

 

幸い、今ここにはシェアクリスタルがある。

なんとかロムを見つけてシェアクリスタルの光を届ければ……!

 

「私、行く!」

「そうね、今から追いかければ間に合うかも」

「そうと決まれば、行きましょう!」

 

4人が部屋を飛び出してルウィーの街へと消えていく。

 

「あ、ラム……」

「大丈夫、絶対連れ戻してくるから!」

 

決意に満ちた目は、なんだかいつの間にか成長したことを感じさせられてミナは引き留めようとした手を下ろす。

 

……しかし、だからといってラムに全てを任せっきりという訳にはいかない。

私だって、ロムを助けたい。前線に取り戻しにいけなくても、今は……。

 

ふと、電話へと目を下ろす。

もし、もし彼に電話をすれば……きっと、大きな助けとなるはずだ。

 

受話器をとってとある番号へかける。

ほんの少しのコール音の後、受話器から声が聞こえた。

 

《はい、こちらプラネテューヌ教会ーーー》

 

「イストワールさん」

 

食い気味に声を遮る。

実際、ミナはそこにはいないイストワールへ詰め寄るような形で受話器を握っていた。

 

「頼みがあります。……ミズキさんを」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ロムが飛んでいった方向を中心に4人はロムを捜索していた。

近いうちに行動を起こすだろうし、騒ぎが起こればすぐわかる。

どうせ考えることなんてロムを操って被害を起こし、シェアを下げることだ。だったら……。

 

 

キャアアア!

 

 

「っ、あっちか!」

「ロムちゃん!」

 

悲鳴がした方向へ駆け出す。次第に物音も聞こえてきた。何かを壊す音だ。

 

「いいぞ!もっと壊して壊して壊しまくれ!」

「……はい。壊して壊して壊しまくります」

 

ロムが杖の先に作った氷が建物にぶつかり、砕け、人々を傷つけていく。看板は倒れて、木は折れ、子供が泣き叫ぶ。

 

「あっはっは、いいぞ、もっとやれ!女神が自分の国を壊してやがる、いい見世物だぜ!」

「やめなさい!」

 

そこへラム達が駆けつけた。

 

「ロムちゃんを返しなさいよ!」

「お、力尽くかあ?いいぜ、やってみろよ。ソイツがその気になったらな」

 

ロムがリンダを守るように立ちはだかった。

ラムは杖を向け、これ以上近づけば撃つの構えをとる。

 

「言われなくても、してやるわよ!」

 

ラムがポーチから取り出したのは小さなシェアクリスタル。

 

「光って!」

 

ラムがそれを掲げて叫ぶと眩く白い光がクリスタルから発せられ、その場にいる全員に降り注ぐ。

不思議なことにその光を浴びた木はみるみるうちに成長し、傷を受けたものは回復が進んで壊れた建物は元通りになっていく。

 

「お願いロムちゃん、元に戻って……!」

 

光は降り注ぎ、やがて段々とその光量は減っていく。

ラムが手を下ろした頃にはシェアクリスタルの半分ほどは薄汚れた色になってしまっていた。

 

「ロムちゃん……!」

「バカが、今更そんなもんが効くわけが……!」

「……ぅ、あ、あぅぅ……!」

 

ロムが突如頭を抱えてうなり出した。

 

「お、おい!何苦しんでやがりますか!?まさか、本当に洗脳が解けて……!」

「ぅ…………!」

「チッ!」

 

リンダが強引にロムの手を掴む。

頭を抱えるのも無視して連れ去っていく。

 

「一旦退却だ……!あいつら、洗脳を解く手段を持ってやがるなんて……!」

「あぅ、う、うぅ〜……っ」

「テメエもいつまでも唸ってないで走れ!オラ、早くしろ!」

「あ、待ちなさいよ!」

 

連れ去られてしまうロムの頭に浮かぶのは見たことのない風景。

洗脳された意識か、されていない意識か、両方がせめぎあっている中、ロムはその景色を見つめる。

 

「トリック……お姉ちゃん……ガン……ダム………!」

「ああ?何喚いてやがる!?」

「執事さん……助けて………!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《ダメだ、許せん!今ギラーガなんぞ渡せば、確実に無茶をするだろう!》

《ならデルタプラスでもいい!いいから早く助けに行かなきゃいけないだろっ!?》

 

プラネテューヌの教会は喧々諤々としていた。

ミナから受け取った連絡、助けを求める連絡には間違いないのだが、今の状態でギラーガを渡せないと揉めているのだ。

 

「お待ちください、あと少し待てば新しい機体が……」

《待てないよっ!》

《待てと言っているだろう!今そこへ行ったとて、ロムに勝てるというのか、お前が!》

《勝負する気なんてないよ!取り戻してくればいいんだろっ!?》

《ミズキにはなくともあちらにはある!敵がロムを洗脳した以上、戦いは避けられん!》

《だからって……!》

《何を焦っているお前らしくもない!少し冷静になれ!》

 

そこで2人は息を荒げ、お互いの口撃が止まる。

普段ではありえないほどに焦燥しきっているミズキは懇願するように崩れ落ちた。

 

《頼むよ……っ、もう、何も出来ないのは嫌なんだ……っ!》

 

力になれないかもしれない、まったくの足でまといになるかもしれない。けれど、行かないなんてことはあっちゃいけないのだ。

あの時と同じようなことが起これば、今度は……!

 

「あ〜、はいはい。わかったわかったわよ」

 

するとドアが開いてアブネスが現れた。

呆れたように頭をポリポリと掻いて地下を指さす。

 

「新しい機体を用意してあるわ。行ってきなさい」

《おい、アブネス!》

「リミッターはかけといたわよ。確かにその状態でもとんでもない機体であることは確かだけど、そこまで無茶な仕様にはなってないはずよ」

《助かる!地下だね!?》

《おい、待て、ミズキ!》

 

引き止めるがその場からミズキはシュンと消える。

それを見てからジャックは頭を横に振ってアブネスを見た。

 

「何よ。アイツの言うことにも一理あるでしょ?」

《俺の言うことにも一理あるはずだ》

「まあ確かにそれはそうね。普通なら私だってあんなアホみたいな機体渡さないわよ」

「なら、何故?」

「風の噂で聞いたことがあるわ。マジェコンヌ四天王の中には洗脳を得意とする者がいるって」

《マジェコンヌ四天王だと……?》

「それが本当だとしたら、普通の機体で行かせる方が危ないでしょ?」

「それは……確かに……。仮にも、女神達を圧倒した存在ですから……」

 

アブネスが地下に向けて歩き出す。直々に発進させるためだ。

 

「この戦い、辛いものになるかもしれないわね」




アニメではサクッと倒されていたトリック君はここに来て大躍進。
四天王だし、強くなきゃね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コール・フォー・ザ・ムーン


ミズキも不調な中、四天王戦へ。



「ゲホッ、ゴホ、ヴォアッ!」

 

急に噦いたミズキは地面に血を吐く。

 

「はあっ……持ってくれよ、僕の体……」

 

意識を深く沈ませていく。

新しい機体との意識のリンクを始め、次に目を開いた時、そこには格納庫が広がっている。

 

「トールギス……。アブネスは、最高の機体を作ってくれた……」

 

左肩には円形の盾、右肩には大きな銃であるドーバーガンを懸架している。

機体は真っ白で頭には赤いトサカのようなものがあり、背中には超巨大なブースターであるスーパーバーニアがある。

 

トールギスは歩き出す。

そして格納庫のカタパルトに足を載せると、目の前の空間が歪んでゲートが現れた。

 

《いい、ミズキ?決して無茶はしないこと。怪我は仕方ないかもしれないけど、自分から賭けに出るような真似はやめなさい?》

《了解、肝に銘じる》

《それと、もしかしたらマジェコンヌ四天王の誰かがそこにいるかもしれないわ。……無茶はやめなさいよね》

 

再度警告するアブネス。

もし、目の前にいたのが女神達を傷つけた存在だったとしても手出しをするな、と言いたいのだろう。

 

《了解。……撃退は、する必要があるかもしれないけど》

《その点に関してはその機体を信じなさい。私の自信作だから、引けは取らないはずよ》

《わかった》

 

トールギスが射出態勢をとる。

すると、横からアームが伸びてトールギスにとある銃を手渡す。白とピンクに包まれたその銃はバレルが長い。

 

《これは……?》

《ネプギアのM.P.B.Lが壊れたって聞いたから、予備のビームライフルを大改造したのよ。その名も、(ハイパー)-M.P.B.L!》

《ハイパー……マルチプルビームランチャー……》

《直接手渡し、頼める?》

《わかった、必ず届けるよ》

 

アームからH-M.P.B.Lを受け取る。

しっかりと右手に握りしめてトールギスは今度こそ射出態勢をとった。

 

《ルウィー上空の座標に合わせておくわ。そこから先は自分で探すことね》

《絶対に成功させる……。トールギス、クスキ・ミズキ、行きます!》

 

アブネスがボタンを殴りつけるのと同時にカタパルトは動き出し、トールギスを次元ゲートの彼方へと送り込んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「はあっ、はあっ、チクショー!」

 

ルウィーの街から離れた奥地にまで逃げてきたリンダだったが、ロムがいるのもあって振り切れない。

 

「待ちなさーい!」

「ヤベえよ、もし洗脳が解かれたりしたら……!怒られる、絶対絶対怒られる!あんなに楽しみにしてたし……!」

「あぅ、う、あぁ……!」

「くっそ、この役立たずが!」

 

殴りつけてやりたいぐらいだが、そんなことをすればすぐに追いつかれてしまう。

 

「んなっ!?」

 

しかし、広場に出るとその向こう側は崖だった。

逃げ道はなく、ロムだけなら飛んで逃げられるだろうが自分は無理だ。

 

「はあっ、はあっ、追い詰めたわよ!」

「も、もうダメか……!?」

 

「いいや、リンダ!お前はよくやったぞ!」

 

ぼよよーんと崖の下から飛び出してきたのはトリック・ザ・ハード。

広場に降り立っただけでまるで地震が起きたかのように地面が揺れる。

 

「と、トリック様!」

「洗脳が解けかけているのか?アクク、心配はいらん!さあ、こっちを向くのだ幼女よ!」

「うぅ、は、はい……!」

 

ロムが命令に従いトリックの方を向く。

するとトリックの目から光が発せられ、その光がロムを射抜く。

 

「う、あああっ!?」

「な、何をしているんですかっ!?」

「見ればわかる、洗脳のかけなおしだ!」

 

トリックの目から発せられたロムが悲鳴をあげる。せっかく解けかけた洗脳はさらに強力なロックがかけられていく。

 

「や、やめて……!もうロムちゃんを苦しめないでよっ!」

「ちょ、アンタ!」

 

アイエフの制止も聞かず、ラムが飛び出した。

トリックとロムの間に涙を流しながら立ちはだかる。しかし、ロムとトリックの間に立つということはその光を一身に浴びるということ。

 

「あああっ!?」

「ラムちゃぁんっ!」

「は、ははっ、馬鹿だぜ、コイツ!わざわざ自分から洗脳されに来るなんてよ!」

 

トリックの光が止まる。

その視線の先にはオレンジになった虚ろな瞳で立ち竦むロムとラムがいた。

 

「アククク……いいか、まず手始めにアイツラを倒すのだ!」

「……了解」

「了解、目的は殲滅」

 

機械的になってしまった口調が完全に洗脳がかけられてしまった証。

ラムが変身して戦闘態勢を取るのと同時にロムがサポート魔法をかけるのがわかった。

 

「くっ!」

「だ、ダメですアイエフさん!」

 

拳銃を構えたアイエフの手をネプギアが阻害する。

 

「だからって、このままじゃやられるわよ!どきなさい!」

「でも、2人を撃つなんて……!」

「殺す気は無いわよ、気絶してもらうだけ!」

「でも!」

「やらなきゃやられるの!」

 

「………アイス」

「コフィン」

 

「っ!」

 

お構い無しに2人が巨大な氷解を放ってくる。

3人はそれを散って避けた。

 

「覚悟を決めなさい、ネプギア!」

「っ……変身!」

 

ネプギアが変身し、すぐにフルグランサで身を包む。

 

「あいちゃん、どうするですか!?」

「どうするもこうするも、少しだけ痛いのを我慢してもらうしかないわよ!」

「おっと、幼女を傷つけようとは不届きなヤツ!」

 

ぼよんと跳ねたトリックが2人の前に立ちはだかった。

ギョロリと瞳を動かして足元の2人を睨む。

 

「アァクククク……!」

 

仮にもマジェコンヌ四天王の1角。

不気味に笑うトリックのせいで2人の背筋にぞわりと怖気が走る。

 

「年齢2桁以上はババア!死ね!」

 

「うっ、くっ!」

「きゃああっ!?」

 

トリックがまるで鞭のように舌を地面に叩きつける。

2人はなんとか避けたものの、トリックの舌が引き起こした地面の崩壊を見て冷や汗を垂らす。

 

「アイエフさん、コンパさん!」

「こっちはいいから、アンタは2人の相手をしなさい!」

「で、できれば早く来て欲しいですぅ!」

 

アイエフもコンパも強くなったといえどもマジェコンヌ四天王相手に長くは持ちこたえられまい。

ネプギアはロムとラムの2人を見据えた。

 

「お願い、2人とも元に戻って!」

「殲滅を開始します……」

「ビットの使用許可をください、ご主人様」

「ん〜?アククク、構わん!もともとそのために俺は姿を消したのだからな!」

「感謝します」

「Gビット、展開……」

 

その文言をロムが口にすると開いた次元の穴から白い装甲に身を包んだモビルスーツが大量に現れる。

背中に巨大な砲を背負った機体は、Gビットと呼ばれる無人兵器。

ビットの名を冠しながらも、人の形をした兵器だ。

 

「この感じ……人が乗ってないの!?」

 

ネプギアもその正体にいち早く気付く。

 

「Gビット、12機、展開完了」

「行きなさい、ビット……」

 

《………》

 

「ロムちゃんが動かしてる……!?なんで!?」

 

洗脳により、半ば強制的に引き出されたロムのニュータイプ能力。それがGビットを動かしているのだ。

 

「アクク……やはり、あの幼女はニュータイプのようだな!」

「アンタ、ニュータイプを知ってるの!?」

「んん?貴様らも記憶があるのか?どういう拍子に記憶を取り戻したかは知らんが……」

 

トリックが舌を伸ばして、横薙ぎに振り払う。

 

「どうせ今ここで死ぬのだ!」

「くっ、EXAMを使うわよ……!」

「援護しますです!」

 

 

ーーーEXAMシステム、スタンバイーーー

 

 

アイエフの瞳が赤く輝く。

同時にアイエフが袖口からカタールを抜いて戦闘態勢をとった。

 

「うあああああっ!」

「フン、その程度のごまかし程度!」

 

アイエフのカタールの連撃とトリックの舌がぶつかり合う。

驚くべきはトリックの舌を受け止めているアイエフか、アイエフの連撃を舌だけで受け止めているトリックか。

そして後方からはコンパが注射を3連ガトリングの形にして液体を打ち出す。

 

「き、効いてないです!?」

「そんな豆鉄砲が通るか!」

「アンタの相手は、この私よぉぉっ!」

「お前など相手にもならん!フンッ!」

「うぐっ!?」

 

トリックが少し舌に力を入れて振ればアイエフが受け止めきれずに吹き飛ばされる。

そのままコンパへとアイエフはぶつけられて木へとめり込んだ。

 

「あうっ、う……あいちゃん、大丈夫ですか……?」

「な、なんとか……ッ!」

 

アイエフがコンパの頭を掴んで下に下げさせる。するとアイエフの髪の毛をかすめた舌が槍のように通り抜け、大木を簡単に貫通しきった。

 

「チッ……このぉっ!」

 

「アイエフさん、コンパさん!」

 

《………》

 

「この、邪魔ですよ!」

 

救援に行こうとするネプギアの前にGビットが立ちはだかる。

ネプギアはシールドライフルでGビットを、狙い撃つが……

 

「えっ!?」

 

避けられた。

 

「ッ、この感じは!?」

 

頭を這い回るおぞましい寒気を感じて振り返る。

その先にはロムがいて、目と目があった。

確実に、この背筋が凍るような寒気はロムから発せられている。気温が低いとか、そういうことじゃない。心が冷める、全ての気力が勢いを失うような寒気だ。

 

「まさか……動きを、読まれてる……?」

「………」

「ロムちゃんの方が、私よりも上手なのっ!?」

 

シールドライフルの引き金を引くが、Gビットにはかすりもしない。

逆にGビット12機が一斉にライフルを構えた。

 

(っ、間違いない……!)

 

Gビットが動いた瞬間に感じたのはロムの命令だ。頭の奥に感じる脈のようなものをロムから感じた。

 

《………》

 

「ンッ……!」

 

地面を滑るように弾を避けつつ、ロムとラムの方を伺う。

2人を元に戻すにしても、まずはこの機体が邪魔だ。

 

「気勢を削ぐ……!高まって、私の脈動!」

 

ネプギアの目と、それ以外の第6感とも言えるXラウンダー能力が自分の周辺のGビットの位置を把握した。

 

「フルグランサの全ての武器を使います!」

 

グラストロランチャーとシールドライフルがGビットへ向けられた。そして、各部のミサイルポッドが展開する。

 

「当たってぇぇぇぇっ!」

 

放たれた4本の光の奔流と無数に発射されたミサイル。

その爆発がネプギアから少し離れたGビットが密集している空域で広がった。

 

「………やった……?」

 

ほんの少しの静寂。しかし、それも束の間のこと。

 

「っ!」

 

ネプギアの元へとビームが飛んでくる。咄嗟に盾で受けたので傷はなかったが、そんなことよりももっと重大なことが起こっていた。

 

「そんな……ノーダメージだなんて……!?」

 

煙が晴れた先には無傷のGビットが12機のうち1機も欠けずに浮遊していた。

あれだけの砲火を叩き込んでおいて全て避けきったなんて……!?

 

「攻撃、開始……」

 

「っ!」

 

Gビットが12機全てライフルを構え、撃ち込んできた。

 

「くっ、く……!」

 

懸命に避けながらシールドライフルを撃つ。

しかし、Gビットはいとも容易くそれを避けてしまう。

Gビットはロムが操っている。ロムが操るということはロムに対し攻撃を当てるつもりでやらなきゃいけないということだ。

しかも、洗脳によって最大限に力が引き出された状態で。

 

今のネプギアの目の前にはリミッターを解除されたロムが12人立っているのも同じこと。

 

「くっ、くっ、く……!」

 

「行って……」

 

Gビットが後退するネプギアに射撃しながら接近し始めた。

ただでさえビームが体を掠めているのに、接近戦にまで持ち込まれたら確実にやられてしまう。

 

「は、離れて!」

 

ミサイルを発射するが、難なく避けられる。

ネプギアもXラウンダー能力を最大限に光らせているものの、それでも避けられる。

 

「やっぱり上手だ……!」

 

キッとロムの方を見る。

 

「お願いロムちゃん、元に戻って!」

「………」

「ロムちゃん!」

 

ネプギアが精一杯呼びかけるか、ロムには弾かれた。今の状態ではどんな相手のどんな声でも聞くことは無い。唯一の例外はご主人様と呼ぶトリックだけだ。

 

「っ、挟まれた!?」

 

いつの間にかGビットがネプギアを挟み込んでいる。そして背中から大型のビームサーベルを引き抜いた。

 

「……やむを得ない……!」

 

ネプギアの目が引き締められた。

 

「ロムちゃんとラムちゃんが洗脳されて、2人を取り戻す方法が2人を倒すことなら……!」

 

両脇から迫るGビット。

しかし、ネプギアはまるで磔られたように両腕を広げた。

 

「倒さなきゃいけない!」

 

両手から同時にシールドライフルが放たれる。

 

《!》

 

2機ともビームサーベルで弾いて止めたが、その隙にネプギアは上へと飛んで挟み撃ちから逃れる。

 

「………!」

 

そしてグラストロランチャーをロムの方へと向ける。

怪我はしてしまうだろうけど、2人の強さなら耐えられるはず……!

 

「ごめんなさいっ!」

 

Gビットは12機いても、それを操るのはロムただ1人だ。ロムさえ倒してしまえばGビットはただのガラクタと化す。

M.P.B.Lの最大出力ほどの威力を持ったグラストロランチャーがロムに向かって放たれた。

 

「………」

「防衛行動に出ます」

 

ラムがロムの前に出た。

避けようともせず、杖をグラストロランチャーに向ける。

 

「防御魔法、展開」

 

ラムが巨大な魔法陣の壁を作り上げ、グラストロランチャーを受け止める。

 

「なら……最大出力でっ!」

 

さらにグラストロランチャーが太いビームを撃ち出し、魔法陣とぶつかって荒ぶる。

しかし、グラストロランチャーの照射が終わった後も魔法陣はそこに健在していた。

 

「そんな……!」

 

呆然とするネプギアにGビットが迫る。

急速に接近して下からビームを連射してくる。

 

「うっ……!2度は逃げられない……!」

 

再び挟み撃ちにされる。

さっきと同じようにシールドライフルを挟み込んだ2機に向けて放つが、今度は避けられてしまう。

 

「しまっ、ああっ!」

 

同時に切り伏せられ、怯んだネプギアを後ろからGビットが撃った。

 

「ま、まだ……!」

 

体勢を立て直すが、ライフルの嵐に耐えられない。

牽制なんかじゃない、全ての弾がネプギアを射抜くべく放たれている。

 

「くっ、うっ!ああっ!」

 

シールドで防ぐが、限界がある。

ネプギアの体を覆う装甲とスーツは剥がれ始めていた。

 

(勝てない……?これが、私の限界なのに……!)

 

何もかもが通じない。

弾はかすりもせず、逆に相手の弾は一撃一撃が必中だ。Xラウンダー能力で辛うじて避けているに過ぎない。

 

(こんなところで、負けてる場合じゃないのに……!)

 

「…………」

「っ!」

 

気付かなかった。

ネプギアの後ろにはいつの間にかラムが静かに佇んでいる。その杖の先は凍りつき、幼女が振っても十分に殺傷力のある鈍器となっていた。

 

「しまっ!」

「トドメ」

「ぐっ!」

 

杖はネプギアの頭を直撃し、ネプギアは叩き落とされる。

ゴッと鈍い音が響き、ラムが持った杖の先は赤く血に濡れていた。

 

「あ、あうっ、うっ……!」

 

地面に倒れたネプギアは昏倒しながらも立ち上がろうとするが、上手くいかない。

そんなネプギアの耳にアイエフとコンパの悲鳴が響く。

 

「きゃあっ!」

「アクク、うっとおしいのだ!」

「アンタぁぁぁぁっ!」

 

コンパが舌に吹き飛ばされ、倒れてしまう。

怒りのままに、EXAMシステムを受け入れてカタールを振るアイエフだったが、それですらもトリックの舌に傷一つつけられない。

 

「死ねぇぇぇっ!」

「黙れ!」

「うああっ!」

 

トリックの懇親の一撃でアイエフが木に吹き飛ばされ、めり込んだ。

 

「う、く……く……!」

 

反撃しようと拳銃を持ってトリックに向けたアイエフだったが、力尽きる。

アイエフの瞳は元の色に戻り、閉じられ、力なく手は垂れて拳銃が滑り落ちた。

 

「アイエフさん……コンパさん……」

 

「アクク……おい、トドメだ!持てる最大の力でヤツを撃つのだ!」

「了解しました」

「サテライトキャノンを、使います……」

 

ロムとラムの体が変化し、ロムの背中には巨大な砲身が背負われ、ラムの背中のプロセッサユニットは大きくX字に広がる。

 

「発射態勢……」

 

ロムの号令でGビットが横一列に並び、背中の砲身を展開してネプギアへと向けた。

 

「く、く……!」

 

そしてロムも砲身を前に向け、ラムのプロセッサユニットは銀色に光ってロムの肩を後ろから掴む。

 

「私達に、力を……」

 

月は満月。

夜空に光り輝く月から力が与えられ、ロムとラムの体がおびただしい魔力で満たされた。

 

「逃げ……なきゃ……」

 

2人の周りの気温が下がり、地面が徐々に凍りついていく。空気中の水分は氷になってキラキラと夜空を照らす。

 

「私じゃ……勝てない……っ!」

 

「サテライトキャノン……」

「発射」

 

「………っ……」

 

ネプギアをこれ以上ない無力感が苛む。

太く、強く、速く、冷たく。

ネプギアが望むようなもの全てがそのビームに包まれていた。

サテライトキャノンにロムとラムの魔力をつぎ込んだ氷属性の兵器、アイシクル・サテライトキャノン。

コロニーを1つ落とせるほどの火力がネプギア目掛けて向かう。

 

この太さの前では避けるなんて無駄だ。

この威力の前では相殺なんて無駄だ。

この強さの前では耐えるなんて無理だ。

 

もはや足掻くこともやめたネプギアの体が……突如、横からの衝撃に持っていかれた。

 





まさかの個人相手にGビット12機ボーナスのサテライトキャノン。余剰火力にも程がある。
まあ持てる最大の力でって言われてたしね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トールギス

直前にジョジョを読んで書いてました。7部。


目の前には巨大な氷柱。

いや、氷の森。氷の神殿。そう言えるほどの神々しい氷が目の前に出来上がっていた。

あらゆる物体を絶対零度に叩き落とし、全てのエネルギーを奪うようなこのビームを喰らい、無事な者などいない。

 

「ふん、死んだか……?」

「………?」

 

ロムがふと、弾かれるように上を向いた。

 

「いいえ、まだです」

「なに?」

 

トリックがそう聞き返した瞬間、Gビットが1機、突如爆発する。

 

「な、なんだ!?」

「ついていけない……」

「脅威、確認……!」

 

残るのは爆発音と肌を切るような風。

 

「発見!」

「全機、攻撃開始……」

 

ロムとラムが夜空に見つけたのは白い流れ星。

しかしその速さ、尋常ではない。

 

「目で追い切れない……」

 

ロムですら、目で追うことが難しい。ニュータイプとして敵の気配を感じることの出来るロムでさえ、目で追うのが難しいのだ。

 

Gビットの射撃は流れ星には当たらない。

ゆうゆうと逃げおおせてしまっている。

その流れ星は、またこちらに向かってきた。

 

「っ、迎撃……!」

 

Gビットはビームサーベルを引き抜いて迎撃の準備をする。

しかし、引き抜いた瞬間には胴が真っ二つに切り裂かれている。

 

「ううっ!?な、何事だ!」

 

気がつけば、倒れていたアイエフとコンパがいない。

そして今頃、ロムが後ろに気配を感じて振り返った。

 

「…………!」

 

倒れたアイエフとコンパ、そして尻餅をついたネプギアを守るように立ちはだかっていたのは、トールギス。

 

《間に……あった……うっ、ゴホッ!》

 

しかし、機械の体で咳をするように膝をつく。

 

《さすがに、殺人的な加速だ……。リミッターをかけてこれか……!》

 

「何者だ、貴様!」

《人に名前を聞く時は……まず自分から名乗るものだよ》

「ロム」

「ラム」

「うっ……フン、俺はマジェコンヌ四天王が1人、トリック・ザ・ハードだ!」

《うん、全員知ってた》

「なっ……!?」

 

立ち上がってトールギスはトリックを見つめる。

 

《僕の名前は……クスノキ・スミキ。1つ、質問だよトリック》

 

トリックの顔に指を指してトールギスが尋ねる。

 

《みんなを……女神を傷つけたのは、君かい?トリック》

「女神?残念ながら違うな、アイツらを倒したのはマジックだ」

《マジック、ね……。覚えた》

 

瞬間、トールギスから放たれるオーラが変質したのを感じ取った。それは何の才能もなくても感じられる、雰囲気と呼べるもの。

純粋な、怒り。

 

《倒したはずの君に何があったのかは知らない。みんなを傷つけたのはその、マジックってヤツなのはわかった。けど……》

 

トールギスのスーパーバーニアが展開した。

 

《みんなを傷つけて……2人を操った。そんなことをさせたのは……許せないっ!》

 

「来るっ」

 

まるで稲妻。

辛うじて今度の動きは見えたものの……速すぎる。

気がつけば、Gビットが1機、トールギスの飛び蹴りを受けて頭部を完全に破壊されていた。

 

《おおおっ!》

 

そして肩に担いだドーバーガンで胴部も完全に破壊。

即離脱した。

 

「速い……」

「圧倒的な、脅威」

「俺が相手をしよう!援護しろ!」

 

トリックが前に出て空中のトールギスへと舌を伸ばす。

 

《っ、速い……けど!》

 

トールギスがドーバーガンを両手で構えた。

狙うはトリック。

 

《たかが!たかが、マジェコンヌ四天王1人!それに、ロムとラム……!》

 

ドーバーガンが最大出力で放たれる。

 

「んなっ!?くくぐっ!?」

《僕が勝てないとでも……!?》

 

受け止めたものの、トリックは衝撃に腕の痺れを感じた。

 

「なんという威力……この俺の手を痺れさせるとは!」

「ご主人様を……撃つな」

「もうその速さには慣れた。殲滅を開始する」

 

Gビット、残り9機。

それがさっきよりも正確にトールギスを狙って射撃を行う。

 

「す、スミキさん……!」

 

ネプギアがその戦いを目で追う。

後ろには倒れたアイエフとコンパ。そして目の前には新たなM.P.B.L。

 

「これ……を……」

 

生まれ変わったM.P.B.Lを握りしめ、後ろを向いたロムとラムに向けた。

この引き金を引けば、きっと気絶してくれる。

 

(………っ、っ……!)

 

「………」

 

しかし、その気配を察知したロムが振り返った。そしてそれにつられてラムも振り返る。

 

「っ!」

「こいつ……」

「いい。いつでも殺せる。それより今は、脅威の排除」

 

しかし、冷ややかな目で2人は再びトールギスの方を振り返る。

それを見たネプギアは引き金を引くことすらできない。涙を流してM.P.B.Lを手放す。

 

「うっ、ううっ、う……!」

 

私の力は限界にまで達した。

こんな力じゃ、2人に勝つことは出来ない。

自分には何も出来ない?

 

こんなんじゃ、例えお姉ちゃんに出会えたって……っ!

 

「お願い、スミキさぁん!私、強くなりたい……!教えてください、どうすれば、強くなれますか……っ!?」

 

《っ、ネプギア……》

 

悲痛な泣き声がミズキの胸を打つ。

 

「余所見してる場合かぁっ!?」

《うるさい、黙っててよ!》

 

ドーバーガンが連続で撃ち込まれ、トリックの周りを砂埃で満たす。

 

《ネプギアの声が聞こえない……!》

 

「私、これが限界で……!でも、これじゃ、勝てない!お姉ちゃんも、助けられない……!」

 

《ネプギア……》

 

「もっと、強くなりたいっ!」

 

《っ……その言葉、確かに聞き届けた……!》

 

トールギスがドーバーガンを肩にかけ、ビームサーベルを引き抜いた。

そして急降下し、地面を滑るように迫ってくる。

 

「なっ!?」

 

すれ違い様にGビットが2機、切り裂かれた。

そして再度、ネプギアの前に立つ。

 

《まずは涙を拭いて。そして立つ。それからだ!》

「ぐすっ、スミキ、さん……」

《君の進化、step2だ!大丈夫、君はまだまだ強くなる……!》

 

トールギスがドーバーガンを動いたら撃つと言わんばかりにトリックに向ける。

 

《僕達の命の見積もりが甘かったこと、証明してみせるよ!》




短め。トールギスはいい。IIIもいい。だがII、お前はフルブーストのトラウマがあるからダメだ。IIIはまだ使いこなすのが難しいからいいけど。Ⅰはいい加減ネクストプラス以降の参戦をしてくれ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる進化


ようやく進化。前は結構雑に進化しちゃったから、今回はそこそこ考えて進化。


《君の進化、step2だ!大丈夫、君はまだまだ強くなる……!》

 

その言葉がどれほどネプギアを励ましただろうか。

限界かと思っていた自分に、さらに先があると聞いた。決して気休めで言ったわけではないことがわかる。だからこそ、勇気づけられる!

 

「スミキさん……私、どうすれば……」

《いい、ネプギア?僕の言葉を聞いて、それを胸の深い奥で受け止めるんだ……君には出来るはず!》

「胸の、深く、奥……」

 

「何をする気か知らんが……みすみすさせると思うか!?」

「好機」

 

動きの止まったトールギスを撃とうと動いたGビットが爆発した。

 

(読めない……!?)

 

ドーバーガンで狙い撃たれたのだ。

ロムでさえも動きを読みきれなかった。それはつまり、あのトールギスはロムよりもさらに上の能力持ちだということ。

 

《まず、今までの戦いを思い浮かべるんだ……君が戦ってきた全ての敵のこと!》

「思い浮かべる……」

《そして観察するんだ。長所を盗んで!自分に必要なもの、そうじゃないものを取捨選択するんだ》

 

ギョウカイ墓場、プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックス。

それぞれの場所で戦ってきた敵のことを思い出す。

 

《観察っていうのは、見ることじゃない、観る事だ。聞くんじゃなくて、聴くこと。進化のヒントは敵の中にある!》

 

「チッ、これ以上何かをさせるつもりはない!」

《くっ!》

 

トリックが伸ばした舌を避けて、そのまま空に舞い上がる。

 

「スミキさん!」

《そのまま聞いて!》

 

回転しながらドーバーガンを3連射。

それは地面に当たり、砂埃をあげて敵を怯ませる。

 

《次からが本番だ……!まず、君の進化!強さ(タイタス)速さ(スパロー)と!さらに求めた強さと速さ(フルグランサ)!その、全てを捨てて……っ!》

「え!?そんな、捨てるなんて……!」

《やるんだ!君のその進化はそこで限界……だから、新たな進化の道を探すしかない!》

「でも!」

 

《身を裂くほどの冷たい風が、時に奇跡を運んでくる!》

 

「っ!」

 

急加速、急減速。急旋回、急停止。

そんな動きにスミキも長くは耐えられない。

トールギスの動きは徐々に鈍くなってきていた。

 

「でも、私、それじゃ何もできません!何もかも失った私に、一体何が出来るっていうんです!?」

《失うものばかり、数えるなァッ!》

 

Gビット、残り6機。

未だに降り注ぐ弾幕は軽々と避け続けていられるが、動きは段々と目に見えて遅くなってきていた。

 

《うっ、ぐっ!》

「スミキさん!?」

《僕のことはいいっ!》

 

ドーバーガンからビームが連射された。

それに当たったGビットが2機、爆散する。

残り4機。

 

《思い出してっ!君が強くなりたいと思ったのはなんのためだ!強くなりたいと、そう願うだけじゃ……!》

「でも、強くなきゃ戦えませんよ!」

《その強さで、ロムとラムが助けられるのっ!?》

 

「もうこれ以上やらせるか!」

《ううっ!》

 

トリックの舌がトールギスへと向かう。

さっきまでなら難なく避けられた攻撃だが、やはり動きに冴えがない。トリックの舌は何度もトールギスを掠める。

 

「おい!アレの用意をしておけ!」

「了解」

「魔力供給申請を開始します」

 

ロムとラムがサテライトキャノンの発射準備をし始めた。

さっきと同じ、気温が急激に低くなり、急激に凍った水蒸気は氷となってキラキラとした光で2人を彩る。

 

《撃たせない……っ!》

 

薙ぎ払うドーバーガンがGビットをまた撃墜した。

 

《あと、3機……!》

「もうやらせはせん!食らえぇっ!」

《くっ、うっ、うわっ!》

 

大木をも射抜くトリックの舌がトールギスに当たる。

辛うじてシールドでガードしたが、吹き飛ばされた。

 

《傷はない、けど……っ!》

「はたきおとす!」

《うわあっ!》

「スミキさん!」

《っ、早くしてっ!》

 

叩き落とされたトールギスは地上スレスレで勢いを殺し、ビームサーベルを抜いてトリックへと接近する。

 

「甘いわっ!」

《だとしても!》

 

(どうしよう、どうしよう、どうしよう!?)

 

あのままじゃ、例えスミキさんだって負けてしまう。

そしたら、また、私は……目の前で……っ!

 

《考えて、ネプギアァッ!》

「スミキさん……っ!?」

《君が強くなりたいと願ったのはなんでだ!?ただ強さを振りかざしただけじゃ、それだけの強さしか得られないよっ!君が強さを求めた、理由を!》

「黙れぇっ!」

《ぐあっ!》

 

舌で打たれたトールギスが宙を舞う。

 

《ま……だ……っ!》

 

続く連撃を避けながら、ドーバーガンを放つ。

Gビットは数発は避けられたものの、また1機落とされる。

 

《残り、2機!まとめて!》

 

ビームサーベルを2本引き抜いてGビットへと急接近する。

しかし、その眼前にラムが立ちはだかった。

 

《っ、どいて!》

「………」

 

杖で殴るが、トールギスは盾で受ける。

しかし、それが間違いだった。動きを止めたトールギスをトリックが見逃すわけはない。

 

「今だっ!」

《しまっ、うわっ!》

 

トールギスが吹き飛ばされた。

浮いた体を、また叩き伏せられる。

 

《うぐっ、が……!》

「今だ!」

「了解」

「サテライトキャノン、魔力充填まであと3……」

 

「そんな……!」

 

このままじゃ、やられてしまう。

アレを食らっては、いくらスミキさんでも……!

 

焦燥感に身を焼いた。

何かしなきゃいけないのに、何も出来ない。

その無力感に打ちのめされかけていた時、あの時の声がネプギアの耳に響いた。

 

 

ーーー君の進化、step2だ!大丈夫、君はまだまだ強くなるーーー

 

 

瞬間、ネプギアは心の深く奥、深層でスミキの言葉を理解出来た気がした。

 

「2………」

 

時の流れがとんでもなく遅く感じる。

自分の頭がかつてないほどに素早く回る。

 

ネプギアは脳内で今まで見てきた敵との戦闘データを整理し終わった。

自分に必要なのは、あの可変機達の強さ。速さと強さを兼ね備えた、可変機構を持つモビルスーツの力!

 

そして今までのことは全て忘れる。

今まで、私は強くなりたいと思うがままにその相手に適した強さを求めた。それじゃ、ダメなんだ。だから、この力(AGE1)とはここでサヨナラだ!

このサヨナラには意味があるから……きっと、どんなサヨナラにだって意味がある!

 

「1………」

 

そして、これが私の進化の方向を決める最も重要なことだ。

あの時、私はただ強くなりたいと願った。敵を打ちのめす力が欲しいと願った。敵を倒さなきゃ、守れないから。

違う、そうじゃない。

 

ロムちゃんとラムちゃんは倒すことで守れないから。取り返せないから。

 

私は、私は、私は……!

 

スミキさんも、ロムちゃんも、ラムちゃんも、お姉ちゃんも、ゲイムギョウ界だって……!

 

 

「救いたいっ!」

 

 

「充填完了。サテライトキャノン……」

「発射」

 

その時だった。

ロムとラムで1本、それにGビットが2機で合計3本のサテライトキャノン。

それはしっかりとトールギスを狙っていた。きっと一寸の狂いもなく、トールギスを氷の城に閉じ込め、絶対零度の檻に閉じ込めてしまっていたであろう。

 

そのサテライトキャノンが、全て、両断された。

 

 

ーーーー『運命の先へ』

 

 

「っ……」

「え……っ?」

 

あるいは、それはトールギスの速度すら超えていたかもしれない。

目にも留まらぬ、とはこのことだということを全員が実感させられた。

 

《ネプ……ギア……》

 

咄嗟に、ロムが弾丸の気配を感じとる。

そして防御魔法を展開してその弾丸を受け止めた。

 

「……っ、えっ……!?」

 

細いだけの弾丸、しかしその回転は防御魔法に当たっても衰えることは無い。ギャリギャリと魔法を削るように螺旋を描くビームは、防御魔法を貫いた。

 

「うっ……!」

 

そして今度はビームが2つ。Gビットは何が起こったのかもわからないまま撃墜された。

 

「な、何事だ!?」

 

《ネプギアが、進化を果たしたんだ……》

 

「なっ、ぬっ!?」

 

トリックに弾丸が直撃する。

そして怯んだトリックの横に、新たな姿に見を包むネプギアが降り立った。

肩には特徴的な4枚の羽。

特別な防御力はなく、特別なパワーもなく。

ただその強さは以前とは別格。

ガンダムAGE2。その力を宿した女神は生まれ変わり、今、ゲイムギョウ界に降り立った。

 

《よく、頑張ったね、ネプギア……》

「スミキさんのおかげです。スミキさんがいなかったら、私、今頃は……」

《いいや、それは君の力だよ。その新しい武器も使いこなせるね?》

「はい。このM.P.B.L……凄く良く馴染みます」

 

銃身を長くし、貫通力を増したH-M.P.B.L。

その威力は通常の出力ですら、グラストロランチャーが射抜けなかった魔法を射抜く。

 

「ロムちゃんとラムちゃんをお願いします。これ、シェアクリスタルです」

《クス、こうして2人のことを託されるのはこれで2度目だ……!》

 

トールギスも立ち上がってロムとラムの方を見る。

 

「なんだぁ、お前が相手をするのか?」

「さっきまでの私とは……違いますから」

 

「殲滅します」

「アナタはもう、脅威じゃない」

《言ってくれるね……。けれど、ここで君達を助けられなきゃ、ブランに申し訳がたたない!》

 

ネプギアとトールギス。

その2機が同時に空を翔る。

1人は倒すべき敵へと。

1人は救うべき女の子へと。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプギアのH-M.P.B.Lが火を吹いた。

貫通力をさらに高めた弾丸はトリックの体を凹ませる。

 

「うぐっ、なんだ、それは!」

「流石に硬い……!でも、弱点に当たれば!」

「撃たせるものか!」

 

トリックの舌がうねりくねり、ネプギアを穿とうと向かう。

しかし、ネプギアは横へ逃げ、回り込むように高速で移動している。

 

「追いつかれは、しません……!」

 

高速で動くネプギアにトリックの舌は追いつけない。

どんどん引き離され、そしてネプギアは急激に逆制動をかける。

 

「……ッ、今だっ!」

 

反転し、トリックへと接近する。

 

「んなっ!」

「ストライダーフォームのスピードで……!」

 

瞬きする間にネプギアはトリックの眼前にまで迫っている。

 

「至近距離!」

「ぐわあっ!」

 

顔面に直接、H-M.P.B.Lの弾丸が叩き込まれた。

 

「ぐ、ぐ、貴様ぁっ!」

「アレを耐えるなんて……!」

 

しかし、トリックの顔は赤く腫れ上がる程度のダメージしか受けていない。

 

「最大出力、もしくは……!」

「もう許さん!」

「一か八か、決めてみせる!」

 

追いすがる舌を避け続ける。

Xラウンダーの能力を最大に生かしたネプギアに、完全に動きが読まれている。トリックの舌は掠りもしない。

 

「決めたんです、戦い抜くって……!強くなって、強くなって……!それで、みんなを救うんです!」

「当たれ当たれ当たれぇっ!」

「そう、救うために私はッ!」

 

ネプギアの眼前を舌が通り抜けていく。

それを読んでいたネプギアは、H-M.P.B.Lを持ち替え、舌を真っ二つに切り裂いた!

 

「あだだっ!?」

「私は、みんなを救う……女神です!」

 

急接近したネプギアは痛みに大きく口を開けたトリックの前に、再度立ちはだかる。

そしてエネルギーがスパークしているH-M.P.B.Lをトリックの口の中へと向ける。

 

「へっ?」

「H-M.P.B.L、最大出力……!」

 

螺旋するビームの最大出力。

それはどんな強固な装甲であろうと風穴を開けるほどの……!

 

「これで……ッ、倒れてぇぇぇーーーッ!」

「だ、ダメぇぇぇぇっ!」

 

トリックの喉へ、ネプギアの想いを乗せた一撃が叩き込まれた!





version up!
ネプギアがAGE2へと。武器は新たにH-M.P.B.Lへ。
変形をどう使うか悩んだ末……

特殊能力、【変形】
正面(つまりは自分の体が向いている方向)への移動時のみ、通常の3倍の加速が可能。しかし旋回能力は大幅に低下する。

みたいな。直前にfate見た。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月が出ています

ティファはガンダムヒロインの中でも屈指の可愛さ(2度目)
むしろアニメの中でも屈指の可愛さ。あれなにデレ?ツンクーヤン全てを超越しry


ネプギアのH-M.P.B.Lがトリックの口の中に照射される。

しかし、恐ろしいことにトリックは未だに倒れずそれを苦しみながらも受け止めていた。

 

「うぐ、うごごご!」

「っ、はああーーーーッ!」

 

ネプギアが照射の勢いに負け、大幅に後退した。

地面に足をつき、砂埃をあげながらブレーキをかけるがそれでも数メートル後ずさった。

目をあげたネプギアの前に映っていたのは、口から煙をブスブスと吐き出しながら立っているトリックの姿だった。

 

(倒れて……っ!)

 

「………」

 

そのまま前後に揺れたトリックは……後ろにコテン、と倒れた。

ネプギアはほっと胸をなで下ろす。

 

「スミキさんは……?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「アイス」

「コフィン」

 

《スーパーバーニアの加速なら!》

 

容赦なく発射された氷塊を上に飛び上がって避けてみせる。

左手にはネプギアから受け取ったシェアクリスタル。

これの輝きをなんとか、至近距離で当てればいい!

 

《流星になる……今だけでいいっ!》

 

遥か高く、空へと飛び立ったトールギス。夜空にはスーパーバーニアの光だけがまるで流星のように光る。

そして、そこから降り注いでくるのはビームという隕石。

 

「防御します」

 

ラムが大きな魔法陣の壁を張り、ドーバーガンの射撃を全て受け止めてみせる。

 

「っ、くっ……!」

 

しかし、魔法陣が無傷というわけではなく、ビームの衝撃にラムが顔をしかめた。

 

「考察、あのスピードには攻撃が当たらない……」

「じゃあどうする」

「消耗を狙う……」

「……恐らく、それが最も勝率が高い」

 

《うっ、ぐううっ!今だけでいい!今だけでいいんだ!》

 

確かに、トールギスのあまりのスピードにミズキの体はついていけていない。

リミッターをかけてなお、トールギスは乗り手の体を破壊しかねないスピードを出している。

 

(普段なら耐えられてるはずのスピードなんだ……!くそっ!)

 

だが、それは普通の人間の話。

体の隅から隅まで強化されし切っているミズキには苦しいものの、ここまで消耗はしないスピードでリミッターがかけられているはずなのだ。

その加速を体が砕けるほどに感じている理由は1つ。

 

(やっぱり、僕の体は……)

 

普通の肉体がこの場にあったなら、恐らく口から血を吐きながら空を飛んでいたことだろう。

今だけは、機械の体であることを感謝して……それから、覚悟を決める。

 

《……短期決戦だ。僕の体が壊れるのが先か、2人を取り戻すのが先か!》

 

 

ーーーロムとラムをお願いーーー

 

 

《あの時の約束、違えるつもりは無い!》

 

スーパーバーニアが唸りをあげた。

ドーバーガンの引き金を連続で引くと、まるで雨あられのようにビームが降り注ぐ。

 

「っ、守りきれない……!」

「私も防御する」

 

2重の魔法陣がドーバーガンの雨あられを防ぐ。

しかし、ミズキの狙いはそこにあった。

 

《ぶち抜く!》

 

2人には直撃しない場所にコースを定める。

 

《最大出力だァァーーーッ!》

 

ドーバーガンの最大出力の照射が魔法陣にぶち当たる!

 

「っ!?」

「なに、この威力……!」

 

A.C.時代の全てのモビルスーツの始祖となったモビルスーツ、トールギス。つまり、ガンダムの始祖とも言える存在。

その武器、ドーバーガンもガンダムの始祖となった武器と言っていい。

その威力は、バスターライフルにも匹敵する!

 

「きゃああっ!」

「抜かれたっ……!?」

 

全力を込めた魔法陣が粉々にひび割れ、砕け散る。

ドーバーガンのビームは2人の足元へと着弾し、床に大穴を開けた。

 

《うぐぐっ、ぐぅ……あっ!》

 

体が軋む。

今の最大出力は相当にこたえた。

元々ボロボロだった体を鞭打つような、しかし!

それでもまだ無茶をする!

 

《スゥゥパァァ、バァァニアッ!》

 

スーパーバーニアが限界まで出力をあげ、飛び出した!

 

《ーーーッ》

 

まるで流れ星のよう。

夜空に光る流れ星は一瞬光っただけで、すぐに燃え尽きて消えてしまう。

 

ミズキは、燃え尽きても構わないと思っていた。その一瞬の光が、2人を救う光になるのなら!

 

「………っ」

 

ミズキの目の前はほとんど真っ暗だった。

それでも2人の位置は痛いくらいにわかる。感じ取れる。

ミズキのその意志が、トールギスよりも、何よりも早くロムとラムにぶつかる。

 

「執事さん………?」

 

ロムはそれを感じ取った。

 

「近寄るな……!」

 

しかし、ラムには感じ取れない。

細かな氷の粒をトールギスに向けてショットガンのように叩きつける。

 

《ーーーー!》

 

声のない叫びがこだまする。

左手だけをただ目の前に伸ばし、2人の眼前で光らせることだけが役目。

いくら氷の粒が当たろうと、怯むことは無い。

 

「………」

 

ロムは立ちすくしてそれをただ見ている。

 

「っ!」

 

しかし、ラムは杖の先を凍らせた。

接近した瞬間にまるで野球のように杖を振るい、叩きつけるつもりだ。

その杖は、弾丸によって弾き飛ばされた。

 

「っ!?」

 

「邪魔……させないわよ……っ」

 

倒れていたアイエフの弾丸だ。

ロムがいたなら気付けていただろうが、何も感じ取れないラムにはアイエフの目覚めを感じ取ることが出来なかった。

 

「戻る、ですよ……」

 

《っ、ロムゥゥッ!ラァァムッ!》

 

声を振り絞ったミズキの声が、シェアクリスタルと同時に2人に届く。

シェアクリスタルが、眩い輝きを放った。

 

「うっ!」

「ああっ!」

 

輝きが、2人を包み込んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

ネプギアがその輝きに目を閉じ、光が止んでからようやく目を開けられる。

その先には変身が解かれ、倒れているロムとラム、それに地面に突っ伏したトールギスがいた。

 

「スミキさん!?」

 

様子を伺おうと足を踏み出した瞬間、ネプギアの頭に寒気が走った。

 

「っ!」

「ちいっ、外したか……」

「と、トリック様!」

 

ネプギアの体を舌が掠めた。

その方向を見れば、さっき倒したはずのトリックがなんの怪我もなく立ち上がっている。

 

「そんな、まだ耐えてるなんて!?」

「あんなもの、頭がクラクラする程度だ!効きはせん!」

「くっ……!」

「お遊びは終わりだ……貫いてやる!」

 

トリックの舌を避けながら距離を取る。

 

(今戦えるのは私だけなんだ……!)

 

みんなを、救うために。

 

(負けられない!)

 

 

「ううっ、う……」

「何が、起こったの……?」

 

ロムとラムは頭を抑えながらフラフラと立ち上がる。

 

「元に……戻ったみたいね……」

 

「え?ちょ、え!?どうしたの!?」

「どうしたも、こうしたも、ない、わよ……」

「2人は、洗脳されてたですよ……」

「洗脳……」

 

2人が状況を理解した。

同時に蘇ってくるのは洗脳されていた間の記憶。

 

「私……なんてことを……!」

「っ、執事さんは……?」

 

そして光った瞬間に目の前にいたスミキのこと。

自分達の足元を見れば不自然に地面が抉れた跡。

 

「ま、まさか……!」

 

その先を見ると、大木にぶつかっているトールギスが倒れていた。

装甲には傷はなくとも、ピクリとも動かない。

 

「し、執事さんっ……!」

「アイツ、また無茶したのね……」

「立てますか、あいちゃん……」

「なん、っとか……」

 

アイエフとコンパが互いに支え合いながら立ち上がる。

その間にロムとラムは倒れたトールギスへと駆け寄った。

 

「執事さん、執事さんっ!」

「死んでない、よね……っ!?」

 

《……勝手に、殺さないで、よ……クス……》

 

「執事さん……っ!」

「生きてた……!」

 

スピーカーからノイズ混じりの声が聞こえた。ただ、その声はとてもか細い。

 

「無事、ですか……?」

《君達よりは、怪我してないさ……。少し、クラっとしてただけ》

 

立ち上がろうとするトールギスをロムとラムが抑えた。

 

「ダメ、寝てて……!」

「今、回復するから!」

《大丈夫、必要ないよ……》

「必要ないわけ……!」

「凄く、苦しそうにしてた……」

《僕のことは後でいい!それより、今は……!》

 

トールギスが指を指す。

その先にはトリックと戦うネプギアの姿。新たな姿を持ってしてもマジェコンヌ四天王の前では苦戦を強いられているようだ。

 

《月は……出てるね?》

「えっ……?」

《月は出てるかって……聞いてるんだよ》

 

反射的にロムとラムが空を見上げる。そこに輝いているのは綺麗な満月。

 

「出てる……よ……」

《なら……もう、わかるね?》

「撃つ、のね……。アレを!」

 

2人も覚えている。

命中はしなかったものの、絶大な威力を誇るサテライトキャノンを。

それが作り出した氷の城は今も輝いているのだ。

 

「やれるの、2人に?」

《できるさ……。洗脳されてできたんだ、自分の意思でできないわけがない》

「私、やるよ、執事さん!」

「私も、やる……!やり方は、よくわからないけど……」

《撃ち方はエスコートするよ。けど……いざ照準を合わせて、撃つのは君達だ》

 

ロムとラムが変身を完了させる。

 

《……まず、強い意志を持つんだ。君達が今、したいことはなに?》

「決まってるわ。忌々しいロリコンのアイツを倒すことよ!」

《確かに、それはそうだ。けど、もっと強い意志を持って。いつでもどこでも、朝起きてから寝るまでずっと持ち続けている気持ちを、自覚するんだ》

「私の、気持ち……?」

《すぐに過ぎ去るものじゃない。それは、君達の胸の中にあって……当たり前だからこそ、気づけない事だよ》

 

2人には、機械の顔のはずのスミキが微笑んだように見えた。

 

「私の、気持ち……」

「ずっと、抱いてる気持ち……?」

 

2人がそっと手を組んだ。

ギュッとその手を握りしめると、同じだけの力で握り返してくれる。

 

「やだ……嫌だよ……!」

「離れたくない!ロムちゃんと別れるなんて、イヤ!」

 

2人の体が光り輝き始めた。

 

《その調子だよ。叫んで!》

 

「いやいやいや……!ラムちゃんと離れたくない……!ネプギアちゃんと離れたくもない……!」

「お姉ちゃんだって、離れているのはいや!ううん、みんなにここにいてもらいたい!」

「邪魔になるのは……!」

「アイツ!」

 

 

ーーーー『Dreams』

 

 

2人の体は光に包まれ、新たな姿へと変化した。それは、洗脳されサテライトキャノンを撃った姿と同じ。

しかし、輝きが違う。

2人が放つ輝きは暗い夜空を静かに照らし、まるで月のようだった。

 

「使い方、わかる……!」

「私も、わかる!」

 

ロムの背中の砲身がトリックへと向けられた。

ラムのプロセッサユニットはX字に開き、ロムの肩を両手で掴む。

 

《君達に力を与えてくれるのは、月だ。そして、月に照らされたこの世界だ!》

「お願い、私達に少しでいい、力を貸して!」

「私達に力を………!」

 

キィィィン、と星が応える音がした。

さっきとは比べ物にならない、真摯に力を求める心に世界が、星が応える。

少しずつ、少しずつ、しかし集まればそれは強大な力になる。

植物、海、大地、そして月。

全てから集められた魔力が2人の体に宿り、氷属性へと変化していく。

 

「魔力、充填完了!」

「私達が、これの引き金を、引く……!」

 

2人が踏んでいる大地がパキパキと凍っていく。

2人の周りだけに雪が降る。

キラキラと輝く2人は、重すぎる引き金に手をかけた。

 

「う、く………!」

 

だが、これは1発限り。

外してしまえば、2度はない。

慎重になる2人に、気温は低すぎるくらいなのに冷や汗が垂れた。

 

「ロムちゃん!」

「わかってる……!けど……!」

 

ブルブルと指が震える。

寒さのせいじゃない、緊張のせいだ。

その指が引き金に触れた時、ロムは不自然なほどの暖かさを感じた。

 

「えっ……?」

《ロム、肩の力を……抜いて》

 

トールギスがロムの体に触れる。

既に絶対零度にもなっているロムの体に触れるということは、その手が凍りつくということだ。

 

「だ、ダメ……!離して……!」

《いいから!肩の力を抜くんだ……》

 

トールギスの手は氷に包まれていく。

不思議と、触れられた腕から暖かさが全身に広がっていく気がした。

ロムの体から力が抜けていく。

 

《ラム、深呼吸だ。息を吸って……吐く》

 

今度はトールギスが反対の手でラムに触れる。

さっきと同じように凍りついていく手を見つめながらも、ラムは不自然な程に落ち着いた。

今更ながら乱れていた呼吸に気付き、息を整える。

 

《………撃てるね?》

「……うんっ!」

「それがみんなと、離れないためなら……!」

 

2人の体がさらに眩い輝きを放つ。

全てを飲み込む真っ白な光。

敵には全てを浄化し、凍りつかせる光に!

味方には、全てを包み込み、先を照らす光に!

 

「な、なんだ!?」

「あれは……!」

 

トリックもその光に気付いたが、もう遅い。

何の迷いもなく、引き金はロムの手に握られたのだ!

 

 

「アイシクル・サテライトキャノン!」

「発……っ、射………ぁっ!」

 

 

「んなっ!?」

 

全てを飲み込む純白のビームが放たれた。絶対零度のビームは通るだけでその場全てのものを凍らせる。

現に、射線上の空気はバキバキに凍りついて氷の彫刻を作り上げていく!

 

咄嗟に腕を組んでガードしたが、そんなもので防げるほど甘くない。

受け止めた腕は凍り始め、トリックの体を氷が包み始める。

 

「うおっ、うおっ、うおおおおっ!?」

「と、トリック様っ!?」

 

何かの冗談か、夢か、幻か。

そう思わずにはいられないほどに、氷柱が高く高く上り詰め、広く広く走っていく。

 

「ば、バカな!?これほどの威力、予想外だ!」

 

「うくく………!」

「ダメ、逸らしちゃ!」

 

当然その反動は激しく、2人で支えているのにジリジリと後退していく。

2人の髪の毛が暴れるように後ろに舞い踊り、吹き荒れる暴風に目を細める。

 

けれど、恐れることは何も無い。

2人の体にはまだ温もりが残っているのだ。

 

「………っ」

「んっ……!」

 

2人が目を見開き、前をキッと見つめた。

その体はもはや後退することはしない。それどころか、残る魔力をさらにサテライトキャノンへと注ぎ込んでいく!

 

「もう、離れたくないから……!」

「ミナちゃんから教わった禁断魔法で追撃よ!」

 

トリックの体が完全に氷の城に包まれる。しかし、それでもサテライトキャノンは終わらない。

まだまだ大きく、広く、拡大していく氷の城にロムとラムが呪文を唱える。

 

 

Paradies(パラディース)auf(アウフ)Erden(エールデン)……』

 

 

この魔法の魔力消費量は高く、2人の全魔力を使っても足りなかった。ミナ曰く、過去に唱えることが出来たのはこの呪文を編み出した女神ただ1人なのだと。

だが、星に魔力をもらった2人ならば、唱えることが出来る!

 

 

「お願い、力を貸して……」

「この敵を、倒したいから!」

 

 

「な、なに!?」

 

作られていく氷の城に唖然としていたネプギアだったが、さらにそれを包むほどの魔法陣に唖然とする。

これは、離れなければ巻き添えを食らう!

 

(星が、味方してくれる……)

 

さらに魔法陣が1枚、2枚と増えていく。

 

(スミキさんが、味方してくれる!)

 

もはや、表現しようもない。そこに広がるのは氷の世界。

そして天には巨大な氷の剣……氷剣が作り上げられた。

 

『民には歴史(Geschichte)、敵には煉獄(Fegefeuer)を!』

 

「な、なによこれ……馬鹿げてる……」

「これが、2人の力、なんですか……?」

 

声高らかに告げる、その呪文の名は。

 

 

Paradies(パラディース)auf(アウフ)Erden(エールデン)!』

 

 

天高く、塔が出来た。

それはルウィー全体に見えるほどに大きく、高く、雄々しく、美しい。

その塔の上に浮いているのは巨大な氷剣。

それが、真上から塔を穿つ。

 

形容しがたい大きな氷が砕ける音と共に、氷剣も氷塔もキラキラと砕け散った。

今までのことは幻だったと告げるように禁断魔法を唱えた痕跡は全て光の粒子となって消えていく。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……どうよ、この、変態!」

「もう、疲れた………」

 

コテン、とロムとラムが尻餅をつく。

すると2人の変身が解けてしまった。星の魔力を分けてもらったとはいえ、さすがにあれだけの魔法を使うのはほとんどの魔力を使い切ってしまったらしい。

 

「す、凄い………」

 

今更ながらネプギアが声を漏らす。

アイエフとコンパは空いた口が塞がらなかった。

 

《クス、クスクス……!こんな隠し玉、持ってたなんてね……!》

 

「と、トリック様〜っ!」

「………幼女にやられるなら、本、望……」

「良かった、まだ生きてる!」

「は、はあ!?まだ生きてるの!?アレ、とんでもない魔法のはずよ!?」

「ね、ネプギアちゃ〜ん、後は頑張って〜……」

 

ラムは驚愕したものの、ロムは疲労困憊で床に寝っ転がってしまっている。

 

「今のうちに、トドメを……!」

「さ、させるかよ!」

 

瞬く間にトリックの周りに多数のモビルスーツが現れ、力を合わせてトリックを持ち上げる。

 

「逃がしません!」

「そりゃそうかなっと!」

 

身構えたネプギアに向けてリンダが何かを投げつける。

 

「へ?」

 

咄嗟にキャッチしたネプギアだったが、そこに書かれていたのは……。

 

 

『スライヌ爆弾起爆まで、あと10秒!』

 

 

「えええっ!?」

 

ネプギアの脳裏に浮かび上がるのはスライヌ地獄。2度と味わいたくないヌルヌル!

 

「あ、あ、あっち行って!」

 

そっぽに思いっきり投げつけ、耳と目を塞ぐ。

しばらくして恐る恐る目を開くと……。

 

『ザンネンでした!』

 

「え?……ああっ!逃げられました!」

 

「あんの、バカ……」

《いや、今はみんな動かないし……ひとまず帰った方がいいよ》

「あ、あの、腕大丈夫ですか!?」

《あ、えと、感覚はないよね……》

「ええっ!?た、大変です、すぐに治療するです!」

「あ、執事さんの腕、治さなきゃ……」

「うぅ、治したいのに、動けない〜……」

《ああ、大丈夫、大丈夫。すぐに戻ってこの機体とのリンクを切ればいいから》

「それじゃ、早く切るです!」

《り、了解》

 

シュン、と一瞬でトールギスがその場から消え去った。

それからロムとラムがボソリと呟いた。

 

「あ、お礼……」

「言い忘れてた……」




適当にドイツ語をぶっこんでいくぅ。許してください詠唱がしたくなったんです(fate見ながら)
二度とやらないと思う。多分。きっと。
やっても略す。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる波乱


今度はラステイションにとんぼ返り。


「良かった……!よく無事で帰ってきましたね!」

 

ギュッと力強くミナがロムを抱きしめる。その目には少し涙が浮かんでいた。

 

「うん……ごめんなさい……」

 

ロムも安心したようにミナに力強く抱きついた。

 

「いろいろあったけど、これでルウィーの件もひと段落ね」

「ホントに、色々ありましたね……」

「前回といい今回といい、なんとお礼を言ったらいいか……」

「いえ、気にしないでください」

「それより、最初にした約束のことなんですけど……」

 

2人を助ければ、ロムとラムの旅の同行を認める。

そういう約束だったはずだ。

 

「その件なんですが、やはり、私は心配です……。2人はまだ幼すぎる……」

「む。ミナちゃんだって見たでしょ?あの、禁断魔法!」

「え?や、やっぱりアレ、2人が?」

「まずかった……?」

「マズいも何も、大ニュースよ……。ちょうど調査チームでも送ろうかと思っていたところだったわ」

「そりゃあ、あんな高い塔が建ったら事件にもなるですよ」

「あんな馬鹿げた魔法があるなんてね……」

 

伊達に禁断の名は持っていないのだろう。それでもアレはスケールが違いすぎる。同じ禁断でも多重影分身とはえらい違いだ。

 

「それに、私達決めたんだから!」

「え、なにを……?」

「決まってるわ!私達2人で、あの変態を倒すのよ!」

「うんうん……」

 

ラムの心の叫びにロムが頷いて応える。

 

「私とロムちゃんを洗脳した上、その、ぺろぺろまでして!許さないんだから!」

「へ?ぺろぺろ?」

「え?ぺろぺろ?」

「ん?ぺろぺろ?」

 

ミナとネプギアがきょとんとして、それにつられて言った本人のラムまできょとんとする。

 

「なんです、それ?」

「……なんだろう。あれ?特にそんなことされたことはなかったはず……だよね?」

「……うん。そうだと思うよ?」

 

ロムが笑顔で肯定するが、その目が一瞬ネプギアに向いた。目が合った瞬間、ロムが誰にもわからないようにウィンクする。

 

(………!)

 

(2人に、記憶が……?)

(洗脳された副作用かもしれないです)

 

アイエフとコンパも小声で会話を交わす。

2人がぺろぺろされたのは失くなった記憶の間の出来事。それが洗脳ということで無意識に現れたのだろう。

洗脳されていたことで2人が自覚していなかったサテライトキャノンも使えたのだから、それも有り得る話だ。

 

「ま、まあいいわ!とにかくあの変態を倒すの!」

「……2人が、自分で決めたの?」

「うん。それに、今まで助けてもらってばっかりだったから……今度は私達がネプギアちゃん達を助けたい……」

「ロムちゃん……」

「……それなら止めるわけにはいきませんね。ネプギアさん、2人をよろしくお願いします 」

「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」

「でも……」

「でも?」

「とりあえず……明日から……」

「もう、疲れた……寝るわね……」

 

そういえばまだ疲労困憊のままだった。

2人はがっくりとミナに倒れかかるようにもたれかかって……いや、甘えてまぶたを閉じる。

ミナはそれを見て仕方のない子達、とほんの少し微笑んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「んで、結局こうなるのか……」

 

アブネスが呆れたように溜息をついた。

 

「一体全体、何をどうしたら両腕がカッチンコチンになるのよ!」

「ロムさんとラムさんを励ます際に凍ったようですけど……」

「普通は励ましただけで凍らないのよっ!」

《まあ、それはいい。いや、良くないが、それ以外に目立った損傷はないな?》

「まあ、ちょっとはあるけど、四天王を相手にしてこれくらいだったら幸運スキルEXよ。リミッターも解除された痕跡はないし、大丈夫なんじゃない?」

《またミズキとは連絡が取れていないが?》

「そればっかりは原因不明。というか、こっちの科学力じゃ現象を解明できても原因は解明できないのよ。推測でしか」

 

やれやれとアブネスはまた溜息をはく。

 

「そもそも管轄外だし」

 

愚痴を吐きながら教会の椅子にドカッと座る。

 

「それと、報告よ。新しい機体。これで、ミズキから受け取った設計図の機体は全て作ったことになるわ」

「ということは、完成系、と?」

「まあそうね。全ての能力値で上を行き、トールギスみたいにピーキーでもないわ。ある種の完成系かもね」

《……プレゼンは任せよう》

「サンキュー。型式番号、GNX-Y901TW」

 

空中にモビルスーツの画像が浮かび上がった。

 

「機体名は『スサノオ』!」

 

黒と白の装甲で体は覆われ、手足が長く頭には大きな兜のような装飾。

 

「ようやく、擬似太陽炉を使う時が来たわ。この機体の特徴としては、切り札の……!」

 

「あ、少し待ってください」

 

熱弁し始めたアブネスがガクッと膝を折られる。

不機嫌な顔で何事かとイストワールを見る。

 

「で、電話です、電話。すいません……」

 

苦笑いして平謝りするイストワール。まあ確かに電話ならばしょうがない。勢いを削がれたものの、渋々アブネスは引き下がる。

 

「はい、もしもし。……え?あ、はい。いや、でも……え?ええっ!?」

 

(どうかしたのかしらね)

(知らん)

(アンタなら盗み聞きくらいできるでしょうに)

(プライバシーの問題だ)

 

「いや、あの、少し待ってくださると……え、嘘ですよね?え、ホントですか?ほ、ホントのホントに?」

 

「しつこいよ」

 

「ん」

《………》

 

急にドアが開いた身構えたアブネスとジャックだったが、そこに立っていたのは……。

 

「ケイ、さん……」

 

携帯を耳に当てた神宮寺ケイだった。

冷や汗を垂らしてイストワールが頬をヒクヒクさせている。

 

「な、なぜ連絡もせず?」

「もちろん、もともとは連絡する気だったさ。けれど、そうも言っていられなくなってね」

「あ〜……なるほどね。急にここに来るって聞いて焦ってたってことね」

 

アブネスが電話の内容を推し量る。

 

《どうかしたのか?》

「ん、良い報告と悪い報告がある」

《どちらが先かと?》

「そういうことになるね」

「悪い報告からお願いできる?」

「わかったよ」

「あ、あの……私抜きで話を進めるのは……その……」

 

「ユニが行方不明になった」

 

「ふ〜ん……は?」

《ユニが、だと?》

「あ、あのあの、衝撃の事実が明かされたのはわかるんですけど、せめて間を……」

「で、いい報告は?」

「女神救出の目処がたった」

《ほう》

「………くすん」

 

イストワールはちょっと拗ねた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

夢を見た。

すっごく幸せな夢だ。

振り向くとみんながいた。また振り向けば死んだみんながいた。

僕はみんなに包まれて、暖かさを感じるんだ。

それで、なにか言葉をかけられていた。内容は覚えていないけれど、表情はとても幸せそうだったことを覚えている。

そして、目が覚めた。

 

「ーーー………」

 

冷たい地面がそこに広がっているばかりで、夢で感じた暖かさなど一片もない。

それでも立ち上がって拳を握る。

力いっぱい、何も無い空間を殴りつけた。

しかし、ミズキの拳はガン、と音を立てて壁にぶつかる。それは次元の壁とも呼べるものだ。

そして、その壁がぴしっとひび割れ、欠片がこぼれ落ちた。

 

「あと少し……」

 

ミズキはほんの少しだけ微笑むことが出来た。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

翌日、ロムとラムを加え、賑やかになった一行はプラネテューヌに戻るべく、ルウィーを出たところだった。

そこでネプギアのNギアがなる。

 

「あ、電話……」

 

ちなみにこのNギア、ネプギアが持っていくのを忘れたことに気付いたイストワールが素早くメンテしてルウィーに送ったものである。宅配便で。

 

「もしもし?いーすんさん?あのですね、ロムちゃんとラムちゃんが協力してくれることになったんですよ!」

《それは良かった。まさか、あの双子が協力してくれることになるとはね》

「あ、あれ?この声……ケイさん?」

《ご名答。覚えていてくれて、嬉しいよ》

 

てっきりイストワールからかと思ったが、以外にも電話から聞こえてきたのはケイの声。

 

「あれ?えっと、てっきりいーすんさんからの電話かと思って……」

《ちょっとした事情があってね。つい先日から、プラネテューヌにお邪魔させてもらってるんだよ》

 

ホントに邪魔よ、とか、ホントに先日だな、とか電話越しに呟いていたがネプギアにはきこえない。

 

《まあ、今は僕のことは置いといて。至急君達に、ユニのことで知らせたいことがあってね》

「ユニちゃんが、どうかしたんですか?」

《端的に言うと、行方不明になった》

「ゆ、行方不明!?」

《僕も、プラネテューヌに向かう途中で聞いたことでね。留守はユニに任せっきりだったんだけど……まさか、こんなことになるとは》

「それで、ユニちゃんは!?」

《それを君達に調べてほしい。まずはラステイションの教会で詳しい説明を受けてくれ》

「わ、わかりました!」

《僕は今ここを離れることは出来ない。すまないけど、ユニのことを頼んだよ》

 

ブツっと通話が途切れた。

 

「というわけです!行きましょう!」

「あのねぇ……少しは相談しなさいよ。まあ、いいんだけどね?」

「ぎあちゃんのお人好しにも磨きがかかってきたですね」

「うっ……」

「けどほっとけない……」

「手が焼けるわよ」

 

なんだかんだ、ネプギアの意見に異を唱える人はいない。

5人は急ぎ、ラステイションへと向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ようやく、5人はラステイションにたどり着く。そこの教会に入ると、前に見た気がするような男の人が立っていた。

 

「あ、やっと来た!待ってたよ!」

「……どっかで会ったわね」

「誰でしたっけ?」

「絶対に会ったことある人なんですけど……」

「私知らないわよ?」

「誰このおじさん……」

 

「さ、散々な言われようだなあ……」

 

おじさんだとふざけんなオラァ!お兄さんだろぉ?

 

がっくりと肩を落としたおじさんもとい青年は少しばかり悲しんでいたようだが、すぐに気を取り直す。

 

「と、と。そうじゃない。今はユニ様のことだ」

 

青年は手に持っていた書類を広げてそれを読む。

 

「え?ユニちゃんのこと、知ってるんですか?」

「ああ。ケイ様から情報を集めるようにと言われていてね。さっきようやく足取りを掴めたんだ」

「アンタ、やたらとあの教祖と仲良くない?」

「え?そ、そう?」

「言っちゃアレだけど、結構イヤミじゃない?いや、別に嫌いなわけじゃないんだけど」

「そうかな?結構素直だと思うけど?」

「素直?何処が?」

「すまし顔してるけど、なんだかんだ困ってる時は困ってるって言うし、嬉しい時は嬉しいって言うじゃないか」

「そうかもしれないけど……皮肉くさくない?」

「そんなことないさ。慣れれば結構可愛く見えて……はっ、ごほんごほん!」

 

青年が我に返って咳払いをする。

アイエフが計画通りと言った顔をしているがみんなは無視した。

 

「じ、順をおって話すぞ。まず、ユニ様はケイ様に留守を預けられてから、国中に散らばるマジェコンを1人で回収していたらしい」

 

書類を見ながらその要点だけを拾い上げ、読み上げていく。

 

「だが、突然ユニ様の前に人とも言えない巨大な影が現れ……」

 

雲行きが怪しくなった。

 

「2人はひとしきり口論した後、戦いで決着をつけようと去っていったらしい。そして……それから帰ってきていない」

 

悔しげに下を見る青年。

 

「それって、もしかして……」

「た、大変じゃないですか!すぐに助けに行かないと!」

 

しかし、見上げたその瞳にはしっかりと希望が宿っていた。

 

「だから、頼む!僕達に代わって、ユニ様を探し出してくれ!」

「あんまり、猶予はないみたいね」

「アイエフさん……」

「早く行きましょう。その向かった先はどこ?」

「ミッドカンパニーだ!頼んだよ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミッドカンパニーにたどり着いた5人は、その中を歩き回ってユニを探す。

もし、もし最悪の事態になっていたら……そんな考えを振り払うようにネプギアは慌ただしく動き回る。

 

「少し落ち着きなさい、ネプギア」

「アイエフさん、でも……!」

「犬でもいれば、探しやすかったかもしれないわね」

「この中に、匂いをかげる人は……いないですね」

 

野生児だったら別だが、あいにくここにはそんな人はいない。

 

「ネプギアちゃん……なにか、感じない……?」

「ううん、何も……。ロムちゃんは?」

「私も、わからない……」

 

ニュータイプもXラウンダーも言葉を借りればエスパーではない。

もしくは、感じるものすらない、なんて話は聞きたくない。

 

「スミキさんなら……」

 

だが、スミキとは連絡が取れない。だから未だにネプギアもロムもラムもお礼を言えていない。

毎度毎度のことなのでアブネスも「地下にでもいるんじゃないの?」とさじを投げている。これでも一応心配はしているらしいが。

 

「地道に捜索するしかないわよ!捜査の基本は足よ、足!」

「仕方ない……。歩こ……?」

 

5人はまとまって奥へと歩き出す。

 

ルウィーでネプギアとロムとラムは話し合った。

ラムの口から自然に飛び出たぺろぺろという言葉。そしてロムがほんの少しだけ思い出した記憶のことだ。

ぺろぺろ、というのは過去にもあの変態に会ってぺろぺろされたことがあるのでは、という結論に落ち着いた。

ロムとラムは全身から鳥肌を立たせていたが。

そしてロムが思い出した記憶というのは、過去にも2人はスミキに助けられているという記憶。

それにスミキが漏らした言葉などを加味して3人は推理を行った。

そんなこんなで3人の中では「過去にも洗脳なり捕まったなりされたことがあって、その時にスミキに助けられたことがある」という結論が出た。

何故記憶が消えているのか、消えた記憶は本当にそれであっているのか、などという疑問は多い。

推理だって、証拠も何も無い。

けれど、3人が合意できたのは「スミキは信頼に値する」ということ。自分達のために命を賭している男を、疑うほうがおかしい。

 

では、彼は何者なのだろうか。

そこから先はまともな結論は出なかった。

やれ、白馬に乗った王子様だの別の世界の神様だの宇宙人だの幽霊だの挙句の果てには情報生命体だの。

どこかの先輩並みに説が出たところで3人は考えるのをやめた。どうせ考えてもわからないことがわかったからである。

 

一体彼が何者なのか?

それについては誰も思い出せないし、掠りもしなかった。

しかし、全員口には出さずとも感じていたことは不思議な懐かしさ。体の芯から温まるような、そんな懐かしさだ。

 

「ん?あれ……」

 

考え事をしていたネプギアはアイエフの声につられて前を見る。

その先、ほんの少し地面が黒くなっている。

 

「………まさか!」

 

あの特徴的な黒髪。忘れるはずもない。

駆け寄ったネプギアは倒れた人影を起こして顔を見る。

……ユニだった。





拗ねるいーすん可愛いよいーすん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

須佐之男

 

「ユニちゃん、ユニちゃん!?」

「ちょっと、どうしたのよ!」

「やっぱり、負けちゃったの……!?」

「ど、どいてくださいです!」

 

女神候補生が狼狽える中、コンパが前に出てユニの体を軽く診察する。

 

「………」

「コンパさん、ユニちゃんは……!」

「……大丈夫です。少し怪我はしてますけど。多分、気絶しているだけです」

「良かった……」

 

ネプギアが胸をなで下ろす。

命に別状はないみたいだ。

 

「う………」

「ユニちゃん!?」

 

ユニが呻いて目を覚ました。

力が入らないようだが、ネプギアのことはしっかりわかっているらしい。

 

「ネプギア……なんで、アンタが……」

「とりあえず、教会に運びましょう」

「わ、わかりました」

「い、いらないわよ……いたっ」

「無理しちゃダメ!今、支えるからね?」

 

ユニがネプギアの肩を借りて立ち上がる。

 

「い、いらないわよ、別に……」

「強がらないの。それより、誰の仕業?アンタを負かすなんて、とんでもない相手のはずよ」

「ま、負けてない!まだ負けてないわよ!だって私、まだ死んでない!」

「……はあ。スミキが聞いたら卒倒しそうなセリフね」

 

アイエフのその一言にユニが押し黙る。

なんだかんだユニの中でもスミキは大きい存在らしく、言い返すこともしないが負けたことを肯定もしなかった。

 

「それで、何者なの?」

「そうよ!ユニちゃんを負か……その、気絶させるなんて、そんじょそこらの相手じゃ無理よ!」

「不意打ちとか、された……?」

「……違う。ブレイブ・ザ・ハードとか、言ってたわ。マジェコンヌのクセに、やたらと正々堂々としてた」

 

つまり、ユニは正々堂々と戦って敗北したらしい。

それだけでもとんでもない相手だということがわかるが……。

 

「ブレイブ・ザ・ハード?……なんか、似たような名前のヤツを思い出して鳥肌が立つわね」

「私も、やな感じ……」

「アレはトリック・ザ・ハードですよ?名前が違うです」

「でも、名前は確かに似てるわね」

「……ギョウカイ墓場で戦った敵……その名前も確か……」

「ジャッジ・ザ・ハード……だったっけ?」

「はい」

「じゃあ、そいつもマジェコンヌ四天王の1人ってわけ!?」

「何よ、そのマジェコンヌ四天王って……」

「ジャッジは私が戦って……歯も立たなかった相手」

「でも、トリックは私達が倒したのよ!」

「ぶい……」

「私達全員でかかってようやくよ。それに、夜だったからこそでしょ」

 

浮かれている2人をしたためる。

 

「アンタ達……それを倒したの?」

「なんとかね。でも、スミキさんもボロボロになるくらいの相手だったし……」

「………そっか……」

「とにかく、街に戻って休むです。こんなところじゃ、治る傷も治らないですよ?」

「あ、そうですね。じゃあ、ユニちゃん」

「………うん」

 

ユニの心に植え付けられた敗北の傷は、なかなか大きいようだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

教会にユニを預け、コンパを除いた4人はラステイションの街を歩いていた。

教会の中にずっとお邪魔するわけにもいかないし、それに理由がもう1つあった。

 

「その、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「ありがとう……」

 

《や、そんな改まって言われても……》

 

ミズキとの通信が回復したのだ。

そういうわけでミズキは3人にお礼を言われていた。

 

「いいんじゃないの?ホントならもっと感謝されてもいいくらいよ」

《僕は大したことしてないよ。トリックを退けたのは、君達なんだし》

「いいのよ、素直に受け取っておきなさい。洗脳を解いたのもアンタだし、ネプギアを成長させたのもアンタなんだから」

《はあ……。まあ、いいけど……》

 

なんだか納得していないみたいだったが、強引に認めさせる。

 

「あの、執事さん、手は?」

《手?ああ、大丈夫だよ。……っていうか、執事さん?》

「あ、えっと、スミキさん」

《……いや、執事さんでいいよ。なんだか、呼び慣れてるでしょ?》

 

少し、スミキの声からはがっかりしたような雰囲気がした。隠してはいるものの、だ。

 

「やっぱり、昔、そうやって呼んだことある……?」

《……かなり昔ね。まだ2人が小さかった頃だから、覚えてないんじゃないかなあ》

 

アイエフとコンパからしたらその乾いた笑い声は痛々しい。わざとらしい声もだ。

 

《それで、話は少し聞いたけど……ユニが?》

「相手はマジェコンヌ四天王だって話よ」

《それは……。仕方ない、とも言えるけど、ユニはそれじゃ納得出来ないよね》

 

トリックがあれだけの魔法と武器を命中させても死にはしなかったのだ。

さらに圧倒的な実力。

ユニが負けるのも仕方ない……というより、そもそも1人で戦える相手じゃないのだ、マジェコンヌ四天王は。

でも、だからといって負けてもいいというわけじゃない。

 

「た、大変です大変です〜っ!」

「コンパ?」

《どうかしたの?》

「あ、あれ?通信、回復したんですか?」

《ああ、うん。ごめんね、心配かけて》

「いえ!良かったです!」

「……で、どうかしたの?」

「あっ、そ、そうでした!あの、私、ユニちゃんの看護してたんですけど……!」

 

コンパだけはユニを看護してもらっていたのだが……。

 

「ちょっと目を離した隙に、何処かへ行っちゃって!」

「え、ええっ!?」

《探さなきゃ、だね。まさか、また挑みに行って……なんてことはないと思うけど》

「手分けして探しましょう。私は東、コンパは西へ」

「私達は南を探すわ!」

「じゃあ、私は北に!」

《僕も機体を使って探すよ》

 

6人はそれぞれ、別の方角へと走り出した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

………もう、プラネテューヌのみんなには事情を話した。

あとは用意された機体に乗るだけ、なのだけれど………。

 

「…………止まらない」

 

手が真っ赤だ。

血でベトベト、固まった血は赤黒く固まってしまう。

しかし、それでもミズキの意思など介せずに口から血が垂れた。

 

「マジェコンヌ四天王がいるかもしれない、か……」

 

あのトリックすら、強さは恐ろしいものだった。他の四天王もトリックと同じ実力だと考えるべきだろう。

そんな相手と本気で戦闘するようなことがあれば……。

 

「死ぬ、かも」

 

吐き出した弱音は案外すんなりと音になった。

みんなに会わないまま死ねないという気持ちと……このままみんなが自分のことを思い出さないというのなら、それも別に構わないという気持ちが揺らぐ。

 

「………でも、僕のことを覚えていてくれている人がいる」

 

だから、死ねないじゃない。

だから、死んでも誰かが語り継いでくれるという方向に思考が傾いた。

 

「ただじゃ死ねない。必ず守り切って……助けて……それからだ」

 

ミズキの視界がスサノオのモニターに入れ替わっていった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「………」

 

ラステイション北、ゾーンオブエンドレス。

その奥地も奥地、そこにある段差に腰掛けているところどころに包帯や絆創膏を貼られたユニがいた。

 

私は、負けた。

みんなは勝った。

 

その事実がユニの体を押しつぶしていく。

言い訳はいくらでも出来る。けど、そんなことしても自分は許せない。

前だってネプギアに負けた。

リーンボックスで再会した時は、強くなったつもりだったのだ。新しいこともできるようになったし、自分の力が上がった気がした。

けれど、その時にはネプギアも新しい力を身につけていた。

そして、マジェコンヌ四天王を破るほどにまで。

 

「……何やってるんだろ、私……」

 

自分のしてきたことはなんだったのだろうか。それなりに努力したつもりだった。悔しくって悔しくって、強くなろうとした。

けど、私の強さはあんなヤツですら打ち砕けない。

 

「本当に、何やってたんだろ、私……あんなヤツにも、勝てないで……」

 

私が背負っているのは何?

こんなくだらない惨めさばかり。

 

ほんの少し涙が出てきた。

それが抑えられなくなりそうになった時、ユニの耳に慌ただしい足音が聞こえた。

 

「いた、ユニちゃん!」

「………ネプギア……」

 

顔を上げると、息を切らして立っているネプギアがいた。

 

「みんな心配してるよ、早く帰ろう?」

「……心配しなくてもいいのに、私のことなんて……」

「そんな、寂しい事言わないでよ」

「私なんて、いてもいなくても変わらないじゃない。同じよ、負けたヤツが何人いたって、そんなの……」

「ユニちゃん、それは……!」

 

 

「ほう?こんなところで女神候補生に出くわすとはな」

 

 

「っ、誰っ!?」

 

ネプギアが声のした方向にバッと振り向くとそこには剣を携えた巨人が立っていた。

 

「俺の名はブレイブ・ザ・ハード……」

 

背中には巨大なキャノン砲とウイング、胸には黄金の獅子。

 

「マジェコンヌ四天王の1柱だ!」

「アンタ、あの時の……!」

「ブレイブ……じゃあ、ユニちゃんが負けたって言うのは……!」

「無駄な殺生は好まぬ……尻尾をまいて逃げれば、今この場は見逃してやろう」

「逃げるわけには、いきません!ブレイブ・ザ・ハード、アナタは私達が倒します!」

「ふん、その意気は良し。だが、お前の隣の小娘はそうは思ってはいないようだぞ?」

 

「…………」

 

「ユニちゃん……!?」

「どうするつもりだ?貴様との決着は既についている。力量差もわかったはずだろう」

「………戦、う。私は……勝たなきゃ……」

「フッ、そんな抜け殻のような戦意では、足を引っ張るだけだぞ?」

「ユニちゃん……!」

 

ユニが変身をするも、その目に戦意は宿っていない。負けることがわかって戦うような、義務感だけで戦っている目だ。

 

「かかってこい。今度は怪我では済まさんぞ!」

(ユニちゃんを守らなきゃ……!)

 

ネプギアも変身し、4枚の翼を生やしたAGE2形態へと変身する。

 

「また、新しい姿に……」

「ユニちゃん、退いて!今のユニちゃんじゃ……!」

「………」

「来ないのならこちらから行くぞ。勝負は既に始まっているっ!」

 

ブレイブが背中のジェットを噴射して、ネプギアに急接近した。

 

(速いっ!)

 

「ふんっ!」

「きゃああっ!」

 

咄嗟にH-M.P.B.Lで受けたが、ブレイブの太刀は重かった。

ネプギアは受け止めきれず、吹き飛ばされてしまう。

 

「うっ、くっ!」

「戦う意志のない者は……」

「ユニちゃんっ!」

「………」

「この場に不要っ!」

 

そのままブレイブは剣を振りかぶり、ユニに狙いを定める。

しかし、ユニは動こうともせず、その剣をただ見上げているだけだ。

 

(私は……不要……)

「ブレイブ・ソードッ!」

 

「ユニちゃんっ!」

 

その瞬間、次元の扉が開いた。

 

「っ………え?」

「ぬうっ!?」

 

ユニに刀は当たっておらず、その寸前で止められている。

その太刀を受け止めていたのは……。

 

《ユニは……やらせない……っ!》

「俺の剣を、受け止めるとはっ!」

 

剣を構えたスサノオだった。

そしてスサノオの腹部と肩部の発射口が開き、目の前にビームの球体を作り出す。

 

「馬鹿なッ!?」

《食らえっ!》

 

それがゼロ距離でブレイブに発射される。

しかし、寸前で見切ったブレイブは急速に後退する。

 

「ビームの、球体か!しかし!」

 

ブレイブは球体のビームーートライパニッシャーーを一刀両断。

真っ二つに割かれたトライパニッシャーはブレイブの後方の地面にぶつかり、爆発する。

 

「……やるな」

《ふーっ、怪我はない、ユニ?》

「アンタ……なん、で……」

《なにが、なんでなの?》

「私なんて、守らなくてもいいのに!いてもいなくても、変わらないし、弱いし、負けたし……っ!」

《………》

「お姉ちゃんを越えようと、頑張ってたのに……!無理なことだったのよ、最初から!私には、何も、できない……!だから、私のことなんて守らなくてもいいのっ!」

 

こらえきれずにユニの目から涙が零れていた。

畳み掛けるように感情をぶつけるユニは、いろんな感情でごちゃ混ぜだ。

しかし、スミキは……ミズキは、その中からユニをいとも簡単に見つけ出し、すくい上げる。

 

《君がいなくなったら……ノワールが悲しむ》

「っ!」

《ノワールだけじゃない、ネプギアだって……みんなが悲しむ。僕だって悲しい》

「じゃあ……じゃあ、なんだって言うの!?役立たずの私は、どうすればいいのよ!何もせずにいるだけだなんて、私は耐えられない!」

《心配しなくても、君は戦えるよ。とても強い》

「強くなんかない、だって負けたもの!」

《今は負けても、君はいつか勝てる》

「いつかっていつよ!?」

《きっとすぐさ》

 

スサノオは右手に追加装備のH-M.P.B.Lを持っている。

腰に携えるのは強化サーベル、シラヌイとウンリュウ。

 

《僕の名前はクスノキ・スミキ。ブレイブ・ザ・ハード!僕と勝負しろ!》

「その姿……トリックを退けたというのは貴様か?」

《クス、いかにも》

「……面白い!存分に剣を振るわせてもらおう!」

 

ブレイブがスサノオに向けて踏み込んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

TRANS-AM

トランザムは使うなよ?


「はあっ!」

《たあっ!》

 

ブレイブの剣とスサノオのH-M.P.B.Lがぶつかり合う。

そしてすかさずお互いに距離をとる。

 

 

『これは……?ネプギアの、だよね?』

『予備のよ。スサノオの射撃武装は貧弱なんだし、持っていきなさい』

 

 

アブネスのサービスでスサノオは本来の装備ではないH-M.P.B.Lを装備している。

性能はネプギアのものと変わりなく、圧倒的な貫通力を持ったものになっている、が。

 

《……剣での勝負を望んでるの?》

「無論、銃を使うのは貴様の自由だ」

《……そんな期待をされてもね》

 

スサノオはH-M.P.B.Lを投げ捨てた。

そして腰のシラヌイとウンリュウを引き抜く。

 

《でも、銃を使っても僕が窮地に陥るだけみたいだ……っ!》

「よくわかっているではないか。いざ、尋常にっ!」

 

 

『勝負ッ!』

 

 

「ユニちゃん、大丈夫だった!?」

「来ないでよっ!」

 

ネプギアが駆け寄るが、ユニは涙を流したまま声だけでネプギアを立ち止まらせてしまう。

 

「来ないでよ……っ、何よ、適当なことばっかり……!」

 

結局、励ましたんだかなんだかわからないまま、言葉だけ濁して。あんなの、適当なその場しのぎじゃないか。

 

「二刀流……、貴様が使いこなせるのかっ!?」

《あんまり舐めないでよっ!》

 

スサノオの剣とブレイブの剣がぶつかり合う。

 

「口だけではないか……っ!だが!」

 

しかし、スサノオの剣が弾かれた。

 

「貴様も所詮、俺には敵わぬ!」

《うくっ!》

 

スサノオは後退しながらブレイブの剣をいなす。

しかしブレイブの一撃は重く、スサノオは反撃に出れない。

 

「どうした、否定しないのか!?」

《……っ、チャクラム!》

 

スサノオの頭部の兜の角のような部分で粒子が渦巻き、円盤を作った。

それはまるで忍者の使う円月輪のようにブレイブに向かっていく。

 

「ふん、小癪な!」

 

しかし、ブレイブが足を止めて剣を振るとチャクラムは弾かれてしまう。

 

「……なるほどな、時間稼ぎか?あの小娘が立ち直るのを待っているのか……」

《……ま、当たらずとも遠からず、かな》

 

「な………!」

 

「だが、待っても無駄だぞ?アレはもう戦えん。捻くれて、いじけて、グチャグチャだ。戦いに参加しても足でまといにしかならん」

《……君はいくつか、間違えてる》

 

スサノオが足を地につけて強化サーベルを握り直した。

 

《ユニを舐めない方がいい。近い将来、ユニは強くなるんだ。その強さは、どんな女神さえも、敵も、超える強さだ》

「ほう?まるで、未来を見てきたかのようなセリフだな。だが、その判断は誤りだ。アレを見ろ」

 

ブレイブがユニの方を指さすと、そこには下を俯くユニがいる。

 

「貴様にああ言われても、戦おうとすらしない」

《だから、なんだって言うの?》

「待つのが無駄だと言っている。貴様も命が惜しいなら、逃げた方が……」

 

《僕は、ユニの可能性に賭けてる》

 

「………」

《今は、少し転んでいるだけだ。すぐに立ち上がる》

「なぜそう言える?」

《ユニは今まで、誰よりも努力してきた……それを僕が知っているからだ》

「努力は実るとは限らん」

《でも、嘘はつかない》

「何故そうも信じられる?」

《今だって、ユニはここから立ち去っていないから……》

 

「………っ!」

 

《決して、逃げたことはないから!負けて、くじけて、倒れようとも……!ユニは絶対に逃げていないから!》

「違う、逃げられないだけだ。ヤツの翼はもうもげた。引きちぎられた。逃げることも立ち向かうこともできん」

《けど、足がある!》

「ならば、次は足も手も切り伏せてやろう!」

《翼がないから……ユニは!何かを背負えるはずなんだァッ!》

 

再びスサノオとブレイブがぶつかり合う。

スサノオの背中に装備された擬似太陽炉が唸りをあげ、ブレイブを後ろへと押し込んでいく。

 

《それと、もう1つ!》

 

スサノオがブレイブを蹴飛ばす。

ブレイブはその巨体を蹴飛ばされ、地面に足を擦り付けてブレーキをかけた。

 

「この俺を……吹き飛ばすとはっ!」

《僕は負ける気は無い……!たとえ、僕の体が朽ちても……!》

「っ、貴様は……」

《君を倒す!》

 

 

「ユニちゃん……」

「……っ、うくっ、なんでよ……!」

 

ユニは膝をついて涙を流した。

もう隠すこともせず、床を殴りつけた。

 

「何も知らないくせに!どうして……どうしてそんなに、信じられるのよっ!?」

「ユニちゃん……スミキさんが、待ってるよ?」

「わかってる!わかってるけど……!今の私に、アイツは倒せないじゃない!」

「そんなこと……!」

「勝ちたい、勝ちたいわよ!でも、勝てないのよっ!助けたいわよ、でもね、思い通りにいかないのっ!それだけのことが出来る強さが、私には……ないっ!」

 

ユニは今度は自分の無力さに涙を流す。

さっきとは違う、自分のせいで泣いていても……その原因は違う。

ユニは今、人のために、他人のために泣いていた。

 

「勝ちたいのにっ!」

 

思い通りにいかないから、泣く。

言葉だけ聞けばなんとみっともないことか。

けれど、全世界の誰もがユニの涙を笑うことなどできないだろう。

 

「アイツ………」

《それみろ、もうユニは前を向いた……!》

 

ブレイブと互角に競り合いながら、スサノオは満足気な声を漏らす。

ブレイブには鉄の仮面に隠された下の顔が微笑んだように見えた。

 

《本当に、頼りになるよ……!ユニは、ユニは……!》

「っ、ええいっ!」

《くっ!》

 

強引にスサノオがブレイブに吹き飛ばされた。

 

《はあっ、くっ、どうかした?まさか、疲れたわけじゃないよね?》

「っ、黙れ!なんだというのだ、お前は……!」

《クスクス、何が?》

 

 

「そんな、手負いの体で何をしに来たッ!?」

 

 

「手負い……!?」

「………え……?」

 

《クスクス、なんのことだか……》

「黙れ!貴様、もう立っているのも辛いだろう!?体が震えているぞ!」

《心配してる、のかな?悪いけど、僕は……》

「いいからその剣を捨てろ!手負いの敵をいたぶる趣味はない!」

《……君は、正々堂々としてるね……》

 

ネプギアとユニが注意深くスサノオを見れば、スサノオの体は小さく震えていた。

それもそうだ、トリックとの戦いからまだ2日しか経っていないのだ。

そうでなくても、連戦に次ぐ連戦。そして激闘なら、怪我は治らなくても無理はない。

 

《でも、だからこそ、君も同じことをするはずだよ》

「なに……?」

《君にも、譲れないものがあるだろ?》

「……当然だ。俺は、貧しくてゲームを買えない子供の念から生まれた……だからこそ、そんな子供を守るためならば!」

《僕も同じだ。この世界で、守りたいと決めた人達……それを守るためなら……》

 

スサノオの体が赤く輝いた。

それはまるで血を全身から噴き出したような色で、それがネプギアとユニには命を削っているように見えた。

 

「スミキさん、ダメッ!」

《安心して、ユニ。君を傷つけさせやしない……!》

 

機体各部のコンデンサーに蓄積された高濃度圧縮粒子を全面解放することによって機体の性能を3倍以上に引き上げる、切り札。

そのシステムの名は……。

 

《トランザム》

 

「これは……!」

《かかってこい、ブレイブ!僕への躊躇いは捨ててみせろォッ!》

 

スサノオが赤い残像を残し、高速でブレイブへと近付いた。

 

「ぬっ!?」

《ぐっ!?く、く……!》

 

スサノオの剣はブレイブの目の前まで迫ったものの、寸前で止められる。

しかし切った方のスサノオの方が苦しんでいる。

 

「文字通り、命を削るか!」

《うぐっ、はあああーーーッ!》

「その覚悟……応えなければ、男ではない!」

 

スサノオが離れ、ブレイブを切り抜ける。

そして目にも留まらぬ動きであらゆる方向からブレイブを切り刻んでいく。

 

《今の僕は……阿修羅すら凌駕する……!》

「認めよう!貴様は俺の好敵手に値する!」

《あああああっ!》

 

叫びながらスサノオはブレイブへと何度でも向かっていく。

全ての攻撃は剣で弾かれているものの、確実にスサノオが優勢だ。

 

「つ、強い……」

「っ、けどっ!あんなのダメよ!スミキさんが死んじゃうっ!」

 

自分のために、彼が命を賭しているのなら、そんなの耐えられない。

彼は、私より価値がある、強い。

あの人を失っちゃいけない……!

 

「行かなきゃ……!」

「ダメ、ユニちゃん!」

「だって、行かなきゃ死んじゃうじゃない!」

「そんな気持ちで行っても、何も出来ないよっ!」

「でも、スミキさんは私を待ってるんでしょ!?行かなきゃ、行かなきゃ!」

「だから、ダメだって!」

「死んじゃうのよっ!?」

 

止めに行こうとするユニとそれを止めるネプギアとで口論が始まる。

 

「ネプギアはあの人を見殺しにするっていうの!?」

「違うけど!」

「だったら!」

「でもユニちゃんに死んで欲しくないよっ!」

「いいわよ、別に、死んでも!勝てなくても、助けられなくてもいいから……助けなきゃ!」

「みんなユニちゃんが死んだら嫌だって、スミキさんが言ってた!」

「じゃあ死なないわ!絶対に死なないから、止めに……!」

 

《ユニ、良く聞けぇぇっ!》

 

「っ!」

 

いつの間にかスサノオとブレイブの力関係は逆転していた。

切り抜けていたはずのスサノオはブレイブに何度も何度も弾かれながらも向かう形になっている。

それはまるで、火に近寄る虫のようだ。

 

《知ってるよ!わかるよ!僕だって、何度も負けた!だからこそ、君の気持ちだってわかる!》

 

スサノオの渾身の一撃がブレイブの剣を弾いた。

 

《弱音を口にしたらそうなってしまいそうで……!そういう自分を、必死に自分で殺してきたんだろっ!?》

「ぬ……うっ!死力とはこのことかっ!」

《憧れは遠い方が何処か安心していられるだろっ!?たどり着けないって……心のどこかで、そう思っているから!》

 

スサノオが飛び上がり、大車輪のように回転。トランザムの加速を利用した何よりも速い兜割りがブレイブの剣を続いて弾く。

 

「スミキさん、もうやめてっ!」

《君は確かに今はまだ弱いよ……そして、それが君の全てだよっ!でも……!でも……!》

「くううあっ!」

 

ブレイブとスサノオの剣がぶつかりあった。

 

「な……!?」

 

なんと、スサノオの剣がブレイブの剣に切込みを入れている。

 

「俺の剣を切るのかっ!?」

 

《成長した自分を、ちゃんと認めてあげなきゃ!君の描いた未来は、形になるって、君が信じてあげなきゃ!》

「ぬうっ!」

《ぐっ!》

 

たまらずブレイブがスサノオを蹴飛ばして距離をとる。

 

《立ち上がれ!何よりも強い想いがあるなら!》

「スミキさん……!」

《君と、ネプギアとで!みんなで!君だけの輝きが、道を照らす!》

 

「これで終いにする……!ブレイブ・ソードッ!」

《うわああっ!》

 

ブレイブの一撃がスサノオを襲う。

今度はスサノオは受け止めきることが出来ない、ブレイブの斬撃がスサノオの兜と仮面を砕いた。

 

《くっ、君は光だ!悲しみも、悔しさも、惨めさも……!全て受け止めて、みんなの道を照らせ!》

「そんな……!死ぬ前みたいに……!死ぬ前みたいなこと、言わないでください!」

 

スサノオが2つの刀を合体させ、ソウテンにする。

そして最後の力を振り絞り、ブレイブへと立ち向かった。

 

《ああああっ!》

「………手負いでなければ……!」

 

斬撃音が鳴り響く。

切り裂かれたのは、スサノオの片腕だった。

 

《うっ………》

 

「惜しい男だ……!」

 

返す刀の一太刀。

スサノオは受け止めることはできない。

スサノオの胸は深く深く、切り裂かれた。

 

「ーーーー!」

 

ユニとネプギアの声にならない叫びがこだまする。

スサノオは地面に音を立てて倒れた。







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

別れと弔い合戦

スサノオの赤い光が消える。

 

《が………く……!》

 

「まだ生きているか……。だが、もう2度とは戦えんだろう」

 

スサノオは残った右手にソウテンを握り締めているが、機体はスパークしてしまっている。

 

「この局面で咄嗟に急所を逸らす腕……素直に賞賛に値する」

《ま……だ……!》

「もう立つな!無駄に命を散らすことないだろう!」

《捨てられないものがある……!》

 

スサノオが剣を構え、立ち上がろうと震える。

しかし、立つことは叶わず、その場でガクガクと震えるだけだ。

 

「………最後の一太刀……いや、最期の、か?」

「スミキさんっ!もういいからっ!」

《僕は死なない……!みんなに会って、もう1度……あの日々を取り戻すまでは……!》

「来いっ!」

 

スサノオの体が一瞬だけ、赤く光った。

残されたトランザムの残り時間……ワンセコンド。

その一瞬に全てを乗せて、スサノオの刃がブレイブへと向かう。

 

(速いっ!?)

 

《………後は、任せた、よ……》

 

ブレイブにはスサノオが見えなかった。

ブレイブの脇腹に深い傷口が生まれる。

 

「ぐあっ!」

 

ブレイブが傷を抑え膝をつくのと、スサノオが倒れるのは同時だった。

 

「はあっ、はあっ、恐ろしいヤツだった……。俺もまだまだだということか……」

 

今度こそスサノオは動かない。

 

「……よもや、アレを見て……立ち向かわないという選択肢はあるまいな」

 

ブレイブは傷口を抑えながらユニとネプギアの方を見る。

さっきまでの様子は欠片もなく、立派に決意を目に秘めている。

 

「……ソイツを診てやってから、かかってこい。死んだかどうかはわからんが……恐らく、長くはない」

 

ブレイブが傷を抑えながら後ろを向き、スサノオから離れる。

ネプギアとユニはスサノオへと駆け寄り、抱き抱えた。

 

「スミキさん……スミキさん……っ!」

 

ネプギアはスミキの名前を呼ぶが、応えはない。

死んでしまったのか、気絶しているのか……どちらにせよ、胸の傷は深すぎる。片腕も肩から切断されてしまっていた。

 

「……ありがとうございました」

 

ユニが目に涙を浮かべながらスミキを見る。

もう泣かないから、これが最後の涙だ。

 

「私……もう、倒れませんから……っ!負けても、くじけても……倒れません、から!」

 

顔も見たことのない男なのに、その死を狂おしいほど辛く感じる。

数度助けてもらって、ただ、それだけ。

それだけなのに、倒れた彼を見ていると胸の奥から感情が溢れ出して止まらない。

 

「………別れは済んだか」

 

ブレイブが振り向くと、ユニは小型化したX.M.Bを持って、ネプギアは自分のH-M.P.B.Lとスサノオが持ってきたH-M.P.B.Lの両方を構えていた。

 

「……ヤツならば、俺を足止めさせている間にお前達を逃がすことが可能だったはずだ」

「わかってるわよ。あの人は、1度も逃げろなんて言わなかった」

「お前が悩んでいることを知るや否や、手を差し伸べるでもなく、ただ言葉だけでお前を立ち上がらせる手助けをした」

「知ってるわよ。あの人は、何もかも、私のために……」

「立っていられぬほどの傷を負い!それを隠し、ただお前が悩んでいるというだけで命を賭けた……なんと立派なことか!」

 

ブレイブが剣を構えた。

 

「貴様らもヤツに期待されたのなら……応えてみせろ!」

「ネプギア……!」

「わかってるよ、ユニちゃん……!」

 

ブレイブが剣を振りかぶる。

 

「ぬんあっ!」

 

飛んできた斬撃を2人が飛んでかわす。

 

「許して、スミキさん……!狙撃手に感情は不要だってわかってる、けど……!」

 

ネプギアが前に出て、ユニは後方でX.M.Bを構える。

 

「今だけは、私、抑えられないっ!」

 

ユニのビームが正確無比な狙いでブレイブに向かう。

しかし、ブレイブは剣の腹でそれを受け止めてしまう。

 

「正確な狙いだ……だが、それだけに読まれやすい!」

「弾に感情を乗せる……!当たらなくても、効かなくてもいい!」

 

さらにユニが引き金を引く。

 

「届けーーッ!」

「く……!」

 

さっきと全く同じ場所、ミリ単位でもズレのない射撃にブレイブが歯を食いしばる。

 

「あの人に教えてもらったこと、伝えてもらったこと……何もかも、忘れはしません!」

「ふん、そんな付け焼き刃で!」

 

ネプギアのH-M.P.B.Lを受け止める。

 

「ヤツの戦いに影響でも受けたか!?しかし、武器が増えたからといって強くなるわけではないぞ!」

「ああっ!」

 

しかし、弾かれた。

さらに追撃しようとするブレイブの目の前をユニの弾丸が掠める。

 

「これ以上、やらせるとでも思ってんの!?」

「やるな!」

「たとえ、使いこなせなくても……!」

 

ブレイブがネプギアの方へと視線を向けると、そこにはH-M.P.B.Lを両方とも前に向けるネプギアがいた。

その銃口がスパークしている。

 

「スミキさんの……スミキさんの……っ!」

「来るか!」

「魂が、こもってるんだからァァーーーッ!」

 

H-M.P.B.L2丁の最大出力はそれ自体が螺旋を描いてブレイブへと向かっていく。

 

(受けきれぬか……!)

 

普段なら受けきれたかもしれないが……ここに来て、スミキが最後に与えた傷がズキンと痛む。

ブレイブは最大出力を高く飛んで避けた。

 

「逃がさない……ストライダーフォーム!」

 

ネプギアが4枚の羽をはためかせて翔んだ。

ブレイブを逃さず、瞬時に間合いに入り込む。

 

「ふっ!ふっ!ふっ!」

「振り回しているだけではなっ!」

「ああっ!」

 

しかし、ネプギアの剣はすべて弾かれてしまい、逆に蹴飛ばされてしまう。

 

「やはり、貴様もあの男に届かんか!?」

「くっ……!」

「落ちろ!」

「うっ!」

 

ブレイブの兜割りがネプギアを襲う。

剣で受けたものの、ネプギアは地面に叩き伏せられてしまう。

 

「まだ……!」

 

しかしネプギアはすぐに立ち上がり、ストライダーフォームでブレイブの周りを旋回し始めた。

 

「搦手に出るか!」

「………そこっ!」

「ぬ……うっ!」

 

ユニの射撃をブレイブが受ける。

ユニの射撃は完全に傷口を狙っていた。アレが当たれば……ブレイブであろうと大ダメージは避けられない。

 

「ヒットアンドアウェイで!」

「速い、が……!」

 

ネプギアはスサノオのように切り抜けては離れ、切り抜けては離れを繰り返す。

ブレイブも剣で受けるのみで反撃ができていないが……。

 

「見切った、そのストライダーフォームとやら!」

「そんな嘘を!」

 

ネプギアが背後からブレイブに真っ直ぐに向かう。

しかし、ブレイブはネプギアの剣が届く瞬間、後ろを振り向いた。

 

「なっ!」

「そこっ!」

「あああっ!」

 

予想していなかったカウンターにネプギアが吹き飛ばされ、地面に落ちた。

 

「な、なんで……!」

「貴様のストライダーフォーム……確かに速い。しかし、その速さは正面……貴様の体が向いている方向にしか動けない」

「っ!」

「ならば、貴様が方向転換をした瞬間を狙えばいいだけのこと!」

「私の……私のストライダーフォームが、そんなことだけで破られるはずが……!」

「ならば、もう1度繰り出してみるか?」

 

ブレイブの顔は自信に満ちている。

また同じ戦術に出れば、今度は首と胴は繋がっていないだろう。

 

「く……!」

「だからなんだってのよっ!」

 

横からの射撃がブレイブの気を逸らす。

 

「まさか、諦めたわけじゃないわよねネプギア!その程度で、終わるわけがないわよねっ!?」

「ユニちゃん……!」

「アンタもアンタなりに!頑張ってあの人に応えなさいよ!」

「その射撃、目障りだ……!」

 

ブレイブがユニへと向かっていく。

 

「ユニちゃん!」

 

狙撃手であるユニに接近はそれすなわち死を意味する。

だからこそユニは背中のコーン型のプロセッサユニットを使って後方に逃げる。

 

「まるでバッタかバネだな……!」

「く………!」

 

急停止と急加速を繰り返すユニは、確かに追いつき難い。

しかしそれだけの動きをしているということはそれだけのGが体にかかるということだ。

 

「この、程、度……!」

「逃げられはせん!」

 

壁に追い詰められたユニが上へと逃げる。

ブレイブも床を蹴って高く飛ぶと同時に自分の体に加速をかけた。

 

「っ!」

「これで終わりだ!」

「とでも、思ってるんでしょうね!」

 

ユニのX.M.Bの銃底からビームの刃が発振された。

 

「なっ!」

「ぐ……!」

 

ビーム・ジュッテがブレイブの剣を受け止めている。

しかしブレイブの剣が重かったのか、ユニの腕はプルプルと震え、このままでは反撃にも出れない。

 

「早く来なさいよ、ネプギアァッ!」

 

ユニの叫びがこだまする。

早く援護しようと身構えたネプギアだったが、ふとその視界に倒れたスサノオが入る。

 

「…………」

 

「所詮それも、その場しのぎの武器だ……!」

「ン、だったら……!」

 

コーンが反対方向を向き、ユニを急激に後退させる。

さらにそのまままた反対を向き、今度は急接近。

 

「どうだってんのよ!」

 

ビーム・ジュッテで切りつける。

しかしブレイブもそれを受け止めた。

 

「ぬ……!」

「勝つ、勝つんだから……見てなさい!ここからよ!」

「なに……?……ぬ!」

 

ブレイブが後ろから迫るネプギアを気配で感じ取り、ユニを押し飛ばす。

 

「くううっ!」

 

そしてすぐさま振り向いてネプギアの剣を受け止めようとするが、受けたそのままの体勢でブレイブは大きく後退させられた。

 

「うおおおっ!?この、パワーは!?」

 

ネプギアの姿がいつの間にか変わっている。

肩にあったはずの4枚の羽は消え、代わりにH-M.P.B.Lが1丁ずつ懸架されている。

そして両手に握っているのはスサノオが持っていたシラヌイとウンリュウ。

 

「この形態は……ダブルバレット!」

「肩に銃をかけたくらいで!コケ脅しをォッ!」

 

ブレイブの剣がネプギアの剣を打ち上げた。

 

「………!」

「そこだっ!」

 

ガラ空きになった脳天に振り下ろされた剣。

ネプギアの両手は弾かれて防御が間に合わない。このまま真っ二つに切られてしまうかと思いきや、そうではなかった。

 

「っ!」

 

肩のH-M.P.B.Lがクルリと回ってネプギアの前で交差する。そしてそのままブレイブの剣を受け止めた。

 

「なに!?」

「二刀流じゃありません……四刀流です!」

 

逆にガラ空きになったのはブレイブの胴。

その先にあるブレイブの傷口に向かってネプギアが狙いを定める!

 

「そこぉぉぉっ!」

「ぐ、ああああっ!?」

 

ブレイブの傷口に深くシラヌイとウンリュウが突き刺さる!

 

「ユニちゃん、今っ!」

「ネプギア……!」

「この、させるかぁっ!」

「………!」

 

ブレイブが拳を握ってネプギアに振りかぶっている。

咄嗟に腕と両肩のH-M.P.B.Lを交差してガードするが、ブレイブの懇親の一撃だったために吹き飛んでしまう。

 

「あああっ!」

 

そのまま壁にぶつかって体が逆に反り返る。

頭でもぶつけたのか、ネプギアはそのまま倒れて起き上がらない。

 

「はあっ、はあっ……!」

 

しかし、ユニはそれを気にもとめなかった。

せっかくネプギアがチャンスを作ってくれたのだ。それはネプギアが自分に託してくれたということだ。

なのに、ネプギアを助けに行ってそのチャンスを逃してどうする!?

 

「誇張じゃない……全弾撃ち尽くす!」

 

すでにユニはX.M.Bの装填を済ませていた。

 

「銃身が焼けるまで、撃ち続けるわ!」

 

ユニのラッシュが始まる。

 

「ぬっ!?」

 

ユニのX.M.Bのビームがブレイブへ一直線の動きで向かう。

ブレイブは避けきれず、剣の腹で受けるしかない。

 

「まだ、まだ!」

「ぬ……く……!」

「まだぁっ!」

 

ビームだけではない、他の弾もブレイブに向かって間髪入れず撃ち込んでいく。

散弾、ライフル弾、徹甲弾、榴弾……ありとあらゆる弾丸がブレイブに注がれる。

ユニがどれだけ急加速と急停止を繰り返そうとも弾丸が当たる位置はただ1点、ブレイブの剣のみ。

 

「く………!」

 

するとブレイブは何度も響く銃声の中にピシリと嫌な音が混じっているのを聞いた。

 

「まさか……砕けているというのか!?俺の剣が!?」

 

ブレイブの剣はスサノオに切れ込みを入れられた部分からひび割れ始めていた。

剣で受けるのをやめたかったが、それをしたら最後、弾丸の雨は直接ブレイブへと降り注ぐことになる。

 

「ぬ……う……!」

 

しかし、ユニにも限界がきていた。

1つ、また1つと弾丸が尽きていく。

残った弾数と弾種を正確に理解し、リロードを無駄なく終わらせ、そして引き金を引き続ける。

それでも弾丸に限りがあるように、ユニの体にも限界がきていた。

これだけの弾丸をこれだけの急移動を繰り返しながら撃つ、それは相当の体の負担になる。

 

(でも……!)

 

あそこに倒れている人は、この程度では!

 

「だったら私だって負けない……!少しでも、あの人に追いついてみせるの!」

 

彼の言葉が胸にこだましている。

ひたむきな心と負けん気、それを胸に抱えて……!

 

「最大出力……!今度こそ!」

 

X.M.Bを構えるとそのジェネレーターが唸りをあげ、銃身へと全エネルギーを注ぎ始める。

剣の影からユニを見るブレイブは怖気が走ったような気がした。

あんなエネルギー、小型のビームライフルから放たれるものではない。同じ銃でもネプギアのものとは威力が段違いであることが撃たれる前からわかる。

 

「でぇぇやああぁぁぁッ!」

「う、おおおおっ!?」

 

ついにX.M.Bから最大出力の熱線が放たれ、ブレイブの剣へと直撃する。

あまりの威力と衝撃にブレイブは大きく後ろへ体を押され、さらにそれだけではなく腕が痺れてビームに押し切られかけるのを感じる。

 

「しぃぃぃぃずめえぇぇぇぇッ!」

 

さらにユニはその反動を抑え込むばかりか、前進を始めた。

最大出力のビームなど抑え込むのさえ難しいのに、照射する場所はたとえ1mmだろうが動かさずに前に進む。

それはユニの背にあるコーン型のプロセッサユニットのおかげでもある。しかし、1番の要因はやはりその魂。

前へ前へ向かおうとするユニの魂が体の力を引き出し、前に進ませているのだ!

 

「届けぇぇーーーーッ!」

 

X.M.Bのエネルギー残量が凄まじい勢いで減っていく。無論、ユニだってそれを理解している。

けれど手を緩めることなどしない。

X.M.Bが、ブレイブの剣を砕いてブレイブへと届かせてくれることを信じているから!

 

「ぬううううっ!」

 

ユニが前に進むために、ブレイブの剣へと伝わる衝撃はどんどん増していく。ブレイブももう後退はせず、傷が痛むのも気にせずにそのビームを受け止めている。

こんな窮地、最初にユニと戦った時には味わえなかった!

 

(たかが1人や2人、一緒にいるだけでこれだけの力を発揮するとは……っ!)

 

ユニのX.M.Bのビームがブレイブの剣へとどんどんヒビを入れていく。

ピシ、パシとブレイブの剣へと亀裂が走った。もう芯は砕かれているのかもしれない。

あとほんの数秒の照射、それだけでブレイブの剣は砕け散っていただろう。

 

「………!」

 

しかし、無常にも訪れたのはエネルギー切れ。

ブレイブに伝わる衝撃がほんの一瞬だけゼロになる。

 

(今が好機!)

 

その瞬間、ブレイブは剣を返してユニを切り裂こうと剣を振るう。

もういつ剣が砕けてもおかしくはない。

その前にこちらが勝負を決める!

 

しかし、ユニも弾切れを予測していなかった訳では無い。

ユニだって予測していた。エネルギー残量を正確に理解していた!

だからこそ、ユニの片手には弾頭が握られていた。

 

(もう、ネプギアの時みたいに諦めたりしない……!)

 

定説を、常識を、セオリーを無視して勝つ。

銃が使えないのなら、まだその拳が残っている。そしてその拳には、ロケット弾の弾頭が握られていた!

 

(手で撃ち込む気かっ!?)

 

「あああああっ!」

 

爆風は容赦なく自分だって襲うだろう。

けれどブレイブだって襲う!

死にたいわけじゃない、捨て身なわけじゃない!

これは、勝つ、ための………!

 

『!』

 

ユニの弾頭とブレイブの剣がぶつかり合う。

その瞬間、ユニの弾頭が弾けた。

 

「ああっ!」

「ぐうっ!」

 

お互いに爆風に吹き飛ばされた。

ユニは地面に尻餅をつき、ブレイブは数歩後退する。

 

「っ!」

「むうっ!」

 

しかしそれでも2人は油断しない。

爆風の向こうの相手に向けて1人は剣を振り、1人は銃を突き付ける。

 

 

『ーーーーっ!』

 

 

………ユニの弾丸はブレイブに届かなかった。

弾切れ、そして限界まで酷使したX.M.Bは既にとんでもない熱を発しており、ユニが何度引き金を引いても弾は発射されない。

そしてすぐにX.M.Bの銃身は熱によって爆発を起こして砕け散った。

 

………ブレイブの剣もまた、ユニには届かなかった。

最後の一撃が致命傷となり、剣はユニの首に届く寸前で完全に砕け散った。

 

「…………」

「…………」

 

爆風によって飛び散った破片、そして砕けたブレイブの剣の破片がそれぞれの体にあたり、弾かれる。

それでも2人は見つめあった視線をそらさない。

 

「………引き分け、か」

「殴りあってもいいのよ」

「いや、それも構わんが……再度、対戦を期待しよう」

 

ブレイブが剣を引く。

もう柄しか残っていないが、それをまるで誇りだとでも言うかのようにユニに見せつける。

 

「未熟だった……俺は剣を鍛え直す。貴様もそれまでに用意を整えておけ」

「言われなくても」

「ヤツの遺志を継ぐつもりなら……半端な努力では許さん」

 

ブレイブが傷ついた脇腹を抑えて飛び立った。

ブレイブが視界から消えてからユニは膝と手をついて俯いた。

 

「引き分け、ですって……っ!?」

 

もう、ここにはいない人がいるのに。

 

「こんなの、負けよ……!私達の、負け……っ!」

 

スミキが万全の状態ならば勝てたかもしれない。

もしくは、2人で援護すれば無事だったかもしれない。

けれどそれが出来なかったのは私のせいだ。万全じゃない状態のスミキを引っ張り出して酷使させたのも。

 

「次は、勝つ、わ……!絶対!」

 

ユニは零れ落ちかけた涙を拭って宣言してみせた。

 




次回予告

「お姉ちゃんっ!」

ついにネプギア達は捕えられた女神を見ることが出来た。
しかし、救出を目前にして立ちはだかるのはマジェコンヌ四天王の1人、ジャッジ・ザ・ハード。

「みんなが……死んじゃう……!」

ジャッジが受けた改造手術、その圧倒的な力の前にネプギア達は窮地に陥る。

「さあ、審判の刻だ……!」

それを救うのは皆の力か、新たな進化か、それとも……。

次回、超次元ゲイムネプテューヌ第4章、『再会、審判を乗り越えて〜神の一撃〜』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4章〜再会、審判を乗り越えて。神の一撃〜
審判との戦い


ようやく、4章……!長かったゾ……


翌日の夜、ネプギア達はプラネテューヌ教会の奥に集まっていた。

 

「これが、シェアクリスタルです」

 

イストワールから渡されるシェアクリスタルは今まで受け取ったものと比べ物にならないほど大きい。

各地に残されたシェアクリスタルに及ばないが、これだけあればきっと女神を回復させることも可能だろう。

 

「これで……お姉ちゃんを……」

「準備は、万端ですね?」

 

出撃するメンバーはネプギア、ユニ、ロム、ラム、アイエフ、コンパの6人。

その6人がコクリと頷いた。

全員が決戦用の装備を整え、いつもよりも重装備だ。

 

「それでは、みなさんをギョウカイ墓場へと転送します。付いてきてください」

 

イストワールに付いていき、教会の下の下、地下に設置された部屋に行き着く。

そこは司令室となっていて、様々なコンソールが光を放っていた。

 

「スミキさんが出撃する時に使っていた場所です。みなさんはそこのドアを潜ってカタパルトに行ってください」

「これで飛び出すの?」

「ちょっと危ない……?」

「いえ、直接飛び込んでもらうことになります。そもそも、みなさんでは足をカタパルトに固定できませんし……」

 

それもそうだった。

もしカタパルトで射出しても女神候補生はまだしもコンパとアイエフは空中に投げ出されるだけになる。

 

非常口のようなドアを開けるとそこにはカタパルトが広がっていて、奥にはかつてスミキが使っていた機体が並んでいる。

その中にはボロボロになったスサノオも並んでいた。

 

「……私、頑張りますから……」

「アンタだけで行く訳じゃないの、もうちょっと肩の力を抜きなさい?」

「そうです。怪我をしたら、治してあげますから!」

 

カタパルトの先を見るが、そこにはまだ何も無い壁が広がっているだけだ。

司令室では教祖達が散らばって機器の確認を行っていた。

 

「6人をまとめて転送できるだけのエネルギー、か……。ラステイションの協力があってようやくギリギリなんてね」

 

チカが溜息をつきながらコンソールを叩いていく。

ラステイションが保有していた全ての擬似太陽炉、そしてここにある機体の全ての動力炉を使ってようやく6人と女神達の行き帰りの分のエネルギーが確保できたのだ。

 

「座標確認、次元ゲート、開きます」

 

ミナがスイッチを押すと壁の手前に虹色に輝く円形の穴が開いた。

 

「あまり時間はありませんよ。激励をするなら……」

「その必要は無いよ。もう済ませた」

「……そうですか。では」

 

イストワールがマイクを握ってカタパルトの中にいる6人に声を送る。

 

《準備は整いました。みなさんは急いでその穴に飛び込んでください》

「うぇ〜……なんか酔いそう」

「大丈夫……毎回スミキさんが通ってきた道、でしょ……?」

 

6人が穴の前に立った。

 

《それではみなさん。……幸運をお祈りしています。……行ってらっしゃい》

「……はい!行ってきます、いーすんさん!

 

ネプギアが勢いをつけて次元の穴へと飛び込んでいく。

飛び出したネプギアは虹色の穴の中に吸い込まれ、消えていった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「っ、と、と」

 

急に現れた大地にネプギアがつまずきながらも着地する。

後続の邪魔にならないようにその場からどくとネプギアがいた場所に次々とみんなが飛び降りてきた。

 

「っしょ」

「ん……おっけ……」

「っとと……」

「ん」

「あわわ、あうっ!」

 

コンパだけ尻餅をついてしまった。

全員が揃ってから改めて周りを見渡すと、そこはもう同じ星とは思えない場所だった。

 

吹き出るマグマ、体を焼く熱気と不快な湿気。地面はでこぼこしていて歩きにくく、ありもしない瘴気を感じるほどだ。

 

「ここが……ギョウカイ墓場……」

「暑い……」

「ここに、お姉ちゃんがいるのね!」

「道案内は私達がするわ」

「付いてきてくださいです!」

 

先に歩き出したアイエフとコンパに付いていく。

大きな丘を超え、凹んだ土地を抜け、ギョウカイ墓場の奥地へと進んでいく。

 

「この丘を超えると見えるはずよ」

「静かにして、様子を伺うです」

 

数年ぶりに姉の顔が見れる喜びで声を出しそうな女神候補生を抑えて、ゆっくりと音を立てないように身をかがめる。

 

「っ!」

「んっ……!」

 

その瞬間、ネプギアとロムを青い光の筋が襲った。

2人はそれを感知して避けたものの、青い光はその場にある岩を軽々と両断してしまう。

 

「なによこれ!?」

「っ、丘から離れて!」

「えっ?」

「早く!」

 

ネプギアに従って青い光を避けながら丘から走って離れる。

次の瞬間、丘は大爆発を起こす。

 

「きゃああっ!」

 

衝撃で吹き飛ばされたがダメージはない。

それより驚くべきは目の前にあった小高い丘が綺麗さっぱり消え去っていたところだ。

 

「一体何が起こってんのよ!」

「わからない、けど……!」

 

女神候補生4人の体が光り輝いた。

 

「私達はお姉ちゃんを助けに来た……!だったら、降りかかる火の粉は全部払い除けなきゃ!」

 

ネプギアが青い光をH-M.P.B.Lで受け止めると、そこには四角い刀のような物体があった。

 

そしてユニがそれに目すら向けないで銃口を突きつけ、弾丸を打ち込む。

刀のようなものは壊れはしなかったものの基部を割られてしまい、地面に落ちた。

 

「クククッ……!ク、ク、ハアッハッハッハッハァッ!」

 

大きな笑い声のする方声を見る。

そこに立っていたのは黒い巨人。足がない特殊な姿で宙に浮き、手に持つのは巨大なパルチザン。

 

「ようやく来たぜぇ……!エサに釣られてよってくる、バカどもがよぉぉぉぉっ!」

 

「ジャッジ・ザ・ハード……!」

「でも、前とは姿が違うです!」

 

胸には巨大なAのような文字が光り、目に透明なバイザーをつけ耳の横にはアンテナがついている。

 

しかし、みんなの目を引いたのはそれだけではない。ジャッジの後ろ、そこには捕えられた女神達がいた。

 

「…………」

 

「お姉ちゃんっ!」

 

「通しはしねぇっ!ここで戦って戦って戦って……そして、死ねぇぇぇっっ!」

 

ジャッジがパルチザンの柄を地面に打ち付けると、強烈な波動がネプギアとロムを襲う。

 

「うっ……!」

「な、なに……!?」

「ロムちゃんっ!?」

「ネプギア、どうかしたの!?」

「わかんない……けどっ、波動を感じる……よ!」

「あの人も……人の心を感じることが、できる……!けど、なのに……っ!」

 

 

「アハハハハハッ!殺してやるよ……!殺せ!Cファンネルッ!」

 

 

ジャッジの背からいくつもの青い光が現れた。それはCファンネルという兵器だ。

敵に接近し、切りつけたり攻撃をガードできるほどの硬さを持っている。

 

「来るわよ!」

「ネプギア!」

「うん……!やろう!やるよ、みんな!」

 

ネプギアの両肩にもH-M.P.B.Lが装備された。さらに両手にもH-M.P.B.Lを装備した姿は、ダブルバレット!

 

「準備はいいですか!?」

「当然!撃ち落とすわよ、ネプギア!」

 

ユニのX.M.Bも小型化し、背中にコーン型のプロセッサユニットが装備される。

そしてユニは肩に弾帯をかけ、X.M.Bからも弾帯がはみ出ている。

 

「贅沢に使うわよ……!落ちろ落ちろ落ちろっ!」

「最大出力の……フル、バーストッ!」

 

ネプギアの4本のH-M.P.B.Lから螺旋を描くビームが発射され、Cファンネルを範囲攻撃で巻き込む。

ユニのX.M.Bからは散弾が連続で発射され、Cファンネルの基部を手当りしだいに破壊していく。

 

「行くわよコンパ……!最初から本気で!」

 

ーーーEXAMシステム、スタンバイーーー

 

「はいです!みなさんは目の前ですから!」

 

アイエフが持っていたのはサブマシンガン。それを両手持ちにしてジャッジへと発射しながら突撃していく。

 

「なるほど、強烈な波動ね……!けど!」

 

サブマシンガンを腰にぶら下げ、コートの中からダイナマイトを取り出し投げつける。

 

「ああん?」

 

しかしそれはCファンネルにより切り裂かれてしまう。

 

「雑魚はどいてろぉっ!」

「うっ、ああっ!」

 

ジャッジが放つ波動だけでアイエフが吹っ飛んでいく。

 

「あいちゃん!」

「大丈夫!」

 

「ロムちゃん、大丈夫!?」

「大丈夫……!けど……」

 

ロムとラムが抜群のコンビネーションでCファンネルを落としていく。

 

「これじゃ、サテライトキャノンが撃てない……」

「このウザったいのを全部落とす必要があるわね!」

 

 

「ネプギア、キリがない!これ、無限に湧いてくるんじゃないの!?」

「だったら……!これの対策は、もう知ってるんです!」

 

ネプギアがジャッジに向かってストライダーフォームで駆け出した。

ユニもネプギアに続いてジャッジにビームを浴びせていく。

 

「ぬっ、ん、テメエっ!痒いンだよおぉぉぉっ!」

「当たってるって証拠よ!遠慮せずに受け取りなさい!」

「はああっ!」

 

ネプギアがH-M.P.B.Lで切りつけるとジャッジはパルチザンの柄で受ける。

 

「どけよぉぉぉっ!」

 

ジャッジがネプギア1人に強烈な波動を浴びせかけるが、ネプギアは退かない。

それどころか、ジャッジを押していた。ストライダーフォームの推力は巨体のジャッジを退けるまでのものなのだ。

 

「ぐ、ぐ……おおおっ!」

「スラッシュ……!」

 

ついにネプギアがジャッジを押し切った。

パルチザンを弾かれ、ガラ空きになった胴に向かって懇親の一撃!

 

「ウェーーッブッ!」

「ぐおおっ!」

 

ネプギアが全体重を乗せて肩のH-M.P.B.Lでジャッジの腕を切り落とす。

 

「やった!」

 

「………ふ、ハッハッハ………!ヒーヒャハハハ!学習した、学習したぜぇっ!学んだことは……生かさなきゃなぁぁぁっ!」

 

しかし、ジャッジは痛みを感じていないのか逆に大笑いする。

全員が身構える中、ジャッジの胸のAの文字が光り輝いた。

 

「AGEシステム……!さあ、進化しろっ!」

 

その瞬間、ジャッジの腕は一瞬で再生し、ジャッジの体を覆う装甲がさらに強固なものへと変わっていく。

 

「アハハハハハッ!アハハハハハハハハッ!」

 

「コケ脅しを……!」

「待ってユニちゃん!アレは、見掛け倒しなんかじゃない!」

「よくわかってんじゃねえか……。じゃあ死ねよっ!」

「っ!」

 

突撃してきたジャッジのパルチザンを4本のH-M.P.B.Lで受け止める。

しかし、今度はネプギアが押し切ることが出来ない。

 

(なんて、パワー……!)

 

「吹っ飛びなぁぁぁっ!」

「あああっ!」

 

ネプギアが吹き飛ばされ、岩に体をぶつける。

 

「ネプギア!」

「テメエも、ウザってえんだ!」

「この、的ばかりデカくて……!」

 

ジャッジは今度はユニに向かう。

ユニはX.M.Bを構え、ジャッジの振るうパルチザンに狙いを定めた。

 

「目つぶっても当たるわね!」

 

ユニのX.M.Bの最大出力がジャッジの右手に当たる。

いくら堅牢な装甲になろうと、ユニのX.M.Bは防げない。

 

「このまま砕く……!」

「ダメ、ユニちゃん!壊しちゃダメ!」

「ネプギア!?」

 

しかし時既に遅く、ユニのX.M.Bはジャッジの右腕を完全に砕いた。

 

「ハァッ……!感謝するぜぇ?また進化できるからなあっ!」

「えっ……!?」

 

またジャッジの右腕は再生し、装甲が1段と堅牢なものになる。

 

「どういうことなんですか!?」

「壊す度壊す度、アイツの体は再生して、さらに強くなるってことよ!」

「じゃあ、どうすれば……!」

「一撃で体を消し去るしかないでしょ!」

 

そしてそれができるのは……!

 

「私達ってことね!」

「援護して……!カチンコチンにしちゃうから……!」

 

「お前らよぉ……相手にして1番怖いヤツってのはどんなヤツか、知ってるか……?」

 

ジャッジが地面に落ちたパルチザンを拾い上げ、高々と掲げた。

 

「それはな……主人公だ!ヒャハハハハ!!」




ジャッジには改造手術で様々な能力が付加されました。
まずは強化人間の手術。
次にAGEシステム。これは原作のAGEシステムとは違い、食らった攻撃を単純に上回るパワーや装甲を装備させるシステムです。
そして迅速に装備させるためのミズキやビフロンスに施されたものに近い、不老不死の手術。回復速度はビフロンスを上回る程ですが、代償はあります。代償はまた後で説明。
それとミューセル。これは脳を電磁パルスで刺激してXラウンダー能力を強制的に引き出すもの。アセムが付けてたやつですね。
+NT-D。
もう全部乗せです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スペリオルアンジェラス

そんなこんなでジャッジ戦続き。好き放題やってます


ジャッジの装甲がスライドしてもともと大きかった図体がさらに大きくなる。

そしてその装甲の中身は暴力的な緑色に光り輝く。

 

「NT-D………!起動!」

 

その光を見たネプギアとロムはぞわりと背筋が凍るような恐怖に襲われる。

あのシステム、完全にこちらを殺しに来ている。それが直感で伝わる。

まるで尖ったナイフを首に突きつけられた様な恐怖。

しかし、それに怯んでいては勝てるものも勝てない。

 

「ラムちゃん、準備するよ……!」

「おっけー!私達で決めるわ!」

 

ロムとラムがサテライトキャノンの発射体勢を整え始めた。

 

「私達に……っ!?」

「チビが!失せろぉっ!」

 

ほんのわずか、一瞬目線を逸らしただけ、それなのにジャッジはその僅かな時間の間でロムの前に移動していた。

 

「きゃああっ!」

「ロムちゃん!」

「お前もだぁっ!」

「うあうっ!」

 

ロムとラムが地面に叩きつけられた。

 

「速い……!」

「大変です!2人とも!」

 

コンパがロムとラムに走り寄った瞬間、ジャッジがそれを見つけた。

 

「お前も……目障りだっ!」

 

瞬間移動と見間違えるほどのスピードでコンパの前に立つ。

 

「……!」

「死ねよ!」

 

コンパが壁に叩きつけられた。

 

「うっ、あっ……」

「ああん?まだ生きてんのか?」

 

チョバムアーマーで辛うじてガードしたものの、とんでもない勢いで壁に叩きつけられたコンパは昏倒してしまっている。

 

「待ってろよ。今その首、叩き切ってやるからよぉぉっ!」

「アンタはァァァッ!」

 

激昂したアイエフがジャッジに走り寄る。

 

「無茶です、アイエフさん!」

「ふっざけんなァァッ!ぶっ殺すッ!」

 

アイエフとは思えないほどの汚い言葉が飛び出した。

カタールを装備したアイエフの両手の連撃がジャッジを襲う。

 

「オラオラオラオラッ!」

「失せろゴミがっ!」

「ぐう、う……!」

 

なんとジャッジのパルチザンをアイエフは受け止めてしまった。

そのままアイエフの目が真っ赤に染まり、アイエフの体も真っ赤な瘴気に包まれる。

 

「あいちゃん……ダメ……!」

「フフ………アハハハハハ!」

 

アイエフが突然笑いだし、ジャッジのパルチザンを弾いた。

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ!」

「き……さまぁぁぁっ!」

 

さらにジャッジの体にカタールで切り付けていく。

しかし、アイエフのカタールではジャッジの装甲を傷つけることができずに刃こぼれが起きる。

 

「あ……?」

「効かねえ攻撃を繰り返しやがって!」

 

ジャッジのパルチザンを避けて使えなくなったカタールをジャッジに向けて投げ捨てる。

そして腰に装備したサブマシンガンを抜いた。

 

「EXAM……私を飲み込めぇぇぇっ!」

「ダメ……あいちゃん……!それに、身を任せちゃ……!」

 

アイエフはEXAMシステムに身を任せ、ただただ自分の殲滅衝動の赴くままに戦っているのだ。

しかし、その攻撃はまったくジャッジには効いていない。サブマシンガンを乱射するものの、全く効いている風には見えない。

 

「ウザってぇなぁ……!」

 

ジャッジがパルチザンの先をアイエフに向けた。パルチザンの先でエネルギーが球体状に膨らみ、スパークしていく。

 

「これで、死んどけッ!」

 

バキューーーーン!!

 

響き渡る銃声と共にパルチザンの先に凝縮されたエネルギーが解放され、アイエフの元に弾丸になって向かう。

 

「………!」

 

アイエフはそれを紙一重で避けたものの……次の瞬間にアイエフはとあることを思い出す。

 

(これは……ネプ子と同じ……!)

 

そう、ビーム・マグナム。

そしてビーム・マグナムは紙一重で避けただけでは……!

 

「あああああっ!?」

 

ビームが通った軌道にはビームサーベルと同質の紫電が飛び散り、掠っただけでも大ダメージをもたらす。

アイエフは宙に吹き飛ばされ、何回転もした後に強く体を打ち付けてしまう。

 

「ぐっ……く……」

「あいちゃん!」

「まずは1人!」

 

さらにもう1度、ジャッジのパルチザンの先でエネルギーの球体が現れる。

 

「これ以上、あいちゃんを傷つけないでくださいです!」

 

コンパが倒れたアイエフの前に立ちはだかった瞬間、ビーム・マグナムが再び発射される。

 

「ううっ……!」

 

チョバムアーマーで押さえ込もうとするが、ビームの勢いは衰えることは無い。

それどころかビームはコンパをはじき飛ばしてしまう。

 

「きゃああっ!」

 

コンパもビーム・マグナムには抗えず、宙に弾き飛ばされて回転しながら地面に体を打ち付ける。

 

「コンパさん!アイエフさん!」

「まだ……まだ死んでねえよなあ!お前らはさぁ!」

 

倒れた2人に向かってまたパルチザンの先を向けるジャッジ。

 

「アイツ、まだ!」

「もう……やめてぇぇぇっ!」

 

ネプギアがジャッジに向かって突撃する。

しかし、既にジャッジのパワーと装甲はネプギアでは傷がつけられないものになっているのだ。

 

「ああん?しゃらくせぇぇっ!」

 

ジャッジがビーム・マグナムの標的を2人からネプギアに変更した。

ネプギアに向かってビーム・マグナムが放たれるが、ネプギアはビームから距離を取ってそれを避ける。

 

「ネプギア、焦っちゃダメ!」

「でも……!」

「今は時間を稼ぐのよ!」

 

ロムとラムが立ち上がり、改めて月を見上げた。

 

「っ、大丈夫……?」

「うん、なんとか。アイツ……仕返ししてやるんだから!」

 

サテライトキャノンを展開し、2人が静かに目を閉じる。

 

「私達に、力を………」

 

月から、大地から魔力が2人の体に注がれる。星からの贈り物を2人はどんどん体に貯蔵していく。

 

「ネプギア、いける!?」

「わかった、今は……!」

「ダラダラと……そんなクソみたいな作戦に付き合う趣味はねえぞッ!」

 

ジャッジがNT-Dの超スピードでネプギアに接近した。

 

「オラァ!」

「っ……!」

 

防御は間に合ったが、吹き飛ばされる。

 

「下手にダメージは与えられない……これでも食らってなさい!」

 

ユニが発射した弾丸が正確にジャッジの頭部に向かう。そしてそれはジャッジの目の前で爆発し、轟音と閃光を発した。

 

「ぐっ……!?こしゃぁぁぁくなぁぁぁ!」

「すぐに耐性が出来るくせに……!2度は効かないわ、今がチャンスよ!」

 

ユニとネプギアがアイエフとコンパを持ち上げてその場から離脱する。

そして遠方には発射準備を整えたロムとラムがいた。

 

「もう、許さない……!」

「アンタに、お姉ちゃんと生きる未来を渡しはしない!」

 

ロムとラムの周りの地面が凍りつき、空気はキラキラと光り輝く。

2人の体が真っ白に光り輝いた。

 

「アイシクル・サテライトキャノン……!」

「発射ぁっ!」

 

2人から放たれた必殺のビームがジャッジへと一直線に向かっていく。

そのビームは背中を向けたジャッジに直撃するかに見えた、が。

 

「ははぁ……そこかぁ……!」

 

しかし目が眩んでいるはず、耳が壊れているはずのジャッジはサテライトキャノンの方向へと振り向いた。

 

(しまっ、アイツは能力持ちで……!)

「でも、アレは受け止められるはずありません!」

 

Xラウンダー能力とニュータイプ能力の重ね技で攻撃の気配を察知して見せたのだ。

そしてジャッジはパルチザンを地につけ、サテライトキャノンを受け止めるように構える。

 

「俺が……改造手術でも受けてなきゃ何も出来ないとでも思ってたのか?」

 

ジャッジの周りを光が満たしていく。

しかし、その光はただぶつかったものを影すら許さずに飲み込むほどの暴力的な光。ただ眩しいだけの光がジャッジから周りの空間に広がっていく。

 

「ふっっっ………ざけんなァァァァッ!!」

 

ついにサテライトキャノンがジャッジへと直撃した。

ジャッジはサテライトキャノンを受け止めているものの、受け止めたパルチザンから凍りついていく。

 

「このまま……!」

「カチンコチンになっちゃえーーっ!」

 

「なるほどなぁ……絶対零度のビームってことかよ……」

 

ついにジャッジの腕まで凍りついていく。

このまま氷に包まれ、敗北してしまうかに見えたジャッジは不敵に笑って見せた。

 

「学んだぜ……!さあ、審判の刻だ!」

 

ジャッジの体がいきなり霧に包まれた。

いや、違う。アレは霧じゃない。

 

「あつっ……これって……!」

「蒸気なの!?」

 

ジャッジの体温が急激に上昇していく。ジャッジの腕を登っていた氷は途中でその足取りを止め、後退していく。

 

「なに……!?」

「サテライトキャノンが、押されてるっていうの!?」

 

絶対零度のビーム、サテライトキャノン。

それに対してAGEシステムが導き出した答えは単純明快。

 

絶対零度を超えた熱量で燃やしつくせ!

 

「決まったぜ……!罪状、高慢!俺を殺せると思った……それこそが罪だ!」

 

だんだんとサテライトキャノンが押されていく。ジャッジの周りの空気が歪み、大地は溶け、まるで火山の噴火口のような熱量が発せられている。

 

「ネプギア、逃げるわよ!」

「ダメ、間に合わない!」

 

「サテライトキャノンが、通じない……!?」

「そんな、そんなことって……!」

 

 

「行先、叫喚地獄ッ!!」

 

 

「きゃあああっ!?」

「あああっ……!?」

 

ジャッジの体から発せられた熱が一気にサテライトキャノンを押し返し、辺り一帯の温度を急激にあげる。

一瞬にして大地はマグマになり、空気は歪み、4人を吹き飛ばす。

 

「きゃああああっ!」

「ううううっ!」

 

4人が吹き飛ばされ、地面に叩き落とされた。

4人は距離を取っていたために致命傷は受けていないものの、大ダメージを受けていた。

あれは、近くにいたら確実に一瞬で蒸発していた。

まるで核爆弾のような威力の熱量に周りの空気との寒暖差で暴風が吹き荒れる。

 

「ヒーーヒャハハハハ!!ハハハハハハッ!!」

 

「サテライトキャノンが、負けた……?」

「そんな、ことって……」

 

ロムとラムが驚愕に目を見開いている。

 

「アイツには……一体、何が通じるっていうのよ!」

 

ユニが地面をダンと叩いた。

しかし、ネプギアは再び立ち上がる。

未だに暴風が吹き荒れる中、果敢にネプギアは立ち上がって背中を3人に晒す。

 

 

ーーーー『運命の先へ』

 

 

「みんなの力を合わせれば……まだ……!」

 

みんな、と言ってもアイエフとコンパは戦闘不可能。

ネプギアとユニの体にもダメージが残っており、ロムとラムはさっきのサテライトキャノンで魔力を大量に消費している。

可能性は決して高いとはいえず、あるいはないかもしれない。

けれど………。

 

「諦められない、わね……!」

「残りの全力を注ぎ込むのね……!?」

「任せて……。全部、使い尽くす……!」

 

4人はまだ諦めてはいない。

 

「私とネプギアでアイツを牽制するから……!そしたら……」

「私が、残りの魔力を全部使って……サポートする……!」

「私もよ!フィニッシュは誰!?」

「……ネプギア、任せたわよ……!」

「うん……!絶対に、倒す……!」

 

ネプギアとユニが未だに高笑いしているジャッジへと向かう。

 

勝ち目はある。

だって、託された思いが……!

任された、言葉が……!

 

「やああああっ!」

 

「まぁぁぁだ生きてんのかぁっ!しぶてぇぇなぁぁぁぁっ!」

 

ネプギアのH-M.P.B.Lとジャッジのパルチザンがぶつかる。

ネプギアがまた吹き飛ばされてしまうかと思った瞬間、ジャッジの体の自由が奪われた。

 

「ぬっ……!?」

「パラライズショット……麻痺弾よ!」

 

ジャッジの装甲の合間、光り輝く部分に正確に撃ち込まれた即効性の麻痺弾がジャッジの自由を奪う。

 

「慢心しすぎよ……!だから、こんなものにひっかかるの!」

「ここから数秒間は、私達のターン!」

 

ネプギアが両肩と両手のH-M.P.B.Lで連続で斬撃を叩き込んでいく。

 

「はあああぁぁぁああっ!」

「新機能を使うわ!リミッター解除……!」

 

ユニも後方から様々な弾を発射する。

それらはすべて装甲の隙間に刺さり、確実にジャッジにダメージを与えている。

さらに、ユニのX.M.Bは銃身を展開してその内部にエネルギーを集中させる。

 

「いっっ………!」

 

ユニが引き金に手をかけた瞬間、ネプギアはそこから離れてH-M.P.B.Lを4丁全てジャッジに向けている。

意思の疎通は何もしなくてもできている、黄金のコンビネーション!

 

「けぇぇぇぇぇッ!」

「このままぁぁぁぁっ!」

 

「ぐおおおおっ!?」

 

ジャッジがその射撃の勢いに吹き飛ばされた。

しかし、ジャッジの体では高速で麻痺に対する抗体が作られている。

抗体が作られる前に、勝負を決める!

 

「今度は、私達の番!」

「後のことは、考えられない……!」

 

さらにロムとラムが作り出した大多数の氷塊がジャッジを四方八方から叩きつける。

そしてその2人の間をストライダーフォームとなったネプギアが駆け抜ける。

 

「今……!」

「任せたわよ!」

 

ほんの一瞬、それだけの時間で2人は残り全ての魔力を注ぎ込んでネプギアのステータスを底上げする。

限界を超えた力を、ネプギアは肩のH-M.P.B.L1つにすべて注ぎ込む!

 

「一……ッ!」

 

ネプギアのH-M.P.B.Lから放たれたビームはただのビームではない、それ自体が強力な螺旋の力を持ったビームサーベルだ!

今までにない自分の力をすべて注ぎ込んだH-M.P.B.Lが悪を裂く!

 

「閃ッ!」

 

「ぐおおおっ!?」

 

ジャッジの体に縦一文字の斬撃が深く刻まれた。

 

「っ……!」

「まだ終わらせんじゃないわよ、ネプギア!」

「まだ、いけるよ……!」

「粉微塵すら、残さないの!」

 

「っ、はあああぁぁぁッ!」

 

さらに、ネプギアの背に巨大なNの文字が浮かび上がる!

 

「H-M.P.B.L……限界突破(オーバードライブ)!」

 

H-M.P.B.Lの出力は限界以上にまで跳ね上がる。そしてプロセッサユニットの出力もだ。

ロムとラムのサポートがあってこそできる、装備に限界以上の性能を引き出させる荒業!

 

「私達は……!」

 

ネプギアがジャッジを4本のH-M.P.B.Lで切りつける。

さっきまでは全く通らなかった装甲、そこに切れ込みが入っていく!

 

「ううううっ………はッ!」

 

ついにネプギアがジャッジの装甲を切り裂いた。

そのままネプギアはすぐに反転して再びジャッジに向かう!

 

「ば、バカなぁっ!」

 

「この想いを……!任せられた全てのことを!未来に繋ぐの!」

 

再生すら間に合わないスピードでネプギアがジャッジに斬撃を放つ。

 

「テメエ、はあぁぁぁっ!」

「私は……私は!プラネテューヌの女神!」

 

ネプギアが4本のH-M.P.B.Lを束ねると、全てのH-M.P.B.Lのエネルギーが合体した巨大ビームサーベルができあがる。

 

「ネプギアですッ!」

 

振り下ろした巨大ビームサーベルがさっきの斬撃の傷口と重なる。

そした巨大ビームサーベルは、ジャッジを真っ二つに切り裂いた!

 

「ぐ……おおっ………!」

 

「これが……プラネティックディーバです……!」

 

切り離されたジャッジの半身にそれぞれのH-M.P.B.Lの最大出力のビームを叩き込む!

ジャッジの体は大爆発を起こし、消え去った。

 

「っ、くっ!」

 

しかし、ネプギアのH-M.P.B.Lとプロセッサユニットも限界を超えた力で酷使したせいで爆発してしまい、壊れてしまう。

 

墜落してしまうネプギアをユニが受け止めた。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

「やったわね、ネプギア……」

 

ロムとラムは魔力切れを起こしてその場から動けない、ネプギアに至っては武器と装備を全て失ったようなものだ。

本当に、本当にギリギリの勝利。

 

「でも、これで、やっと……お姉ちゃんを、助けられーーー」

 

 

 

 

「助けられるとでも?」

 

 

 

 

「っ!?きゃあっ!!」

 

「ユニちゃん!?」

「な、なに……!?」

 

ユニが何者かに叩き落とされた。

ネプギアと一緒に地面に激突してしまったユニは不意打ちだったのもあって動けないほどのダメージを負ってしまう。

 

「アン……タ……は……!」

 

「クックックッ……不用心だったんじゃねえかなぁ、女神候補生さんよぉぉぉっ!」

 

そこに立っていたのは……ジャッジだった。

しかも、完全に強化、再生してしまった状態でだ。

 

「俺を殺したいなら……細胞レベルまで消し去らないとよぉぉぉっ!」

 

「ウソ……でしょ……!」

 

「もう、手加減はしねえぜぇ?」

「そうだ、お前らは髪の毛1本たりとも残さねえ!」

 

「………っ!?」

 

4人にさらなる絶望が襲いかかる。

なんと、ジャッジが2人いる。

分身とか、幻覚とかそういうのではない。

 

「さっきの一撃で、分離して……!」

「ウソでしょ……もう、さっきので力を使い切って……」

「あんなのを2人も相手する力なんて、残ってない……!」

 

『さあ、審判の刻だ!』

 

2人のジャッジがパルチザンを地につけた。

もはや動くこともままならない女神候補生にトドメを刺すべく、ジャッジの周りにエネルギーが集中していく。

 

「決まったぜ……!お前らの罪は、懲りもせずに俺を殺そうとした高慢と!」

「女神を欲した……物欲だ!」

 

「負けられ……ない……!」

「ネプギア……!」

「お姉ちゃんを助けて……!スミキさん、に……!」

 

「大叫喚地獄でも物足りねえ……!」

「行先、焦熱地獄!」

 

2人のジャッジに熱がこもっていく。

そこから溢れる熱量は凄まじく、空気だけで火傷してしまいそうなほどだ。

 

「立たなきゃ……いけないのに……っ!」

 

『死ねェェェェェッ!!』

 

「お姉ちゃん……っ!」

 

極限の熱量が女神候補生4人を襲う。

アレに当たれば一瞬で塵も残らず蒸発してしまうだろう。

受け止めるすべもない。

 

 

しかし、それは大きく狙いを外れて空の方向へと吹っ飛んでいった。

 

 

「え………?」

 

何が起こったのか、ネプギアには理解できない。

逸らされたとか、途中で軌道がずれたわけじゃない。

最初から、発射された時から狙いが狂ったのだ。

 

「なんだ……?」

「俺は、真っ直ぐ打ち出したはずだ!」

 

その瞬間、地震が起きた。

 

「きゃあああっ!?」

 

「ぬ……なんだ……!?」

「俺が、揺れを感じるだと!?」

 

地面を大きく揺るがす地震。

しかし、その地震は地面に足をつけていないジャッジすらよろけさせている。

 

「地震じゃ、ない……?」

「大気が、揺れてるの……?」

 

ロムとラムが揺れに翻弄されながらも、その揺れの正体を見極めようとする。

 

「……!?おい、なんだ、それは……」

「え……?」

「それはなんだって、聞いてるんだよぉっ!」

 

ジャッジが女神候補生の後方を指さして狼狽えている。

その正体を確かめようと、ネプギアが、ユニが、ロムが、ラムが後ろを向く。

 

 

そこには、ヒビが入った空気があった。

 

 

「なに、これ……」

 

いや、ヒビが入っているのは空間だ。

ヒビはどんどん大きくなり、その度に揺れが激しくなる。

そこでようやく、その場にいる全員が気付く。

 

 

………揺れているのは、次元だ。

 

 

そしてこのあたりの空間がこの揺れのせいで歪んでいるのがネプギアにはわかった。

さっきの技が外れたのも、次元が歪んだせいだろう。

では、一体このヒビは何なのだ?

 

それを問おうとした瞬間、ヒビが入った空間から拳が飛び出した!

 

「っ!?」

 

全員が固唾を飲んで割れた次元の行く末を見守る。

まるでガラスのように空間の破片が飛び散り、そして消えていく。

そして、最後に特大の大きな揺れが起こった。

 

「きゃあああっ!」

「うおおおおっ!」

 

その揺れがおさまると、目の前には人が1人通れるほどの次元の穴が開いていた。その穴は虹色をしていて、次元ゲートを彷彿とさせる。

 

その穴から、人間の足が出てきた。

 

そして1歩、1歩と前に進み全身をギョウカイ墓場に晒す。

 

「何者だ……貴様ッ!」

「ただものではないようだな……」

 

2人のジャッジがその人間相手に身構える。

それと同時に、4人の女神候補生の頭に春風が吹き抜けた。

 

 

 

『ーーーーー』

 

 

 

「………遅れてごめん。みんな、よく頑張ったね」

 

 

 

「あっ、あっ、ああ………!」

「今、全部……思い出し、ました……!」

「そんな、だって、でも……!」

「執事……さん……っ!」

 

「みんな……僕が、助けに来た!」

 

4人の顔から涙が溢れ出す。

全部、全部、全部全部、何もかも思い出した。

どうして今まで思い出せなかった。

そんな後悔よりも先に感謝と喜びが溢れ出してくる!

 

「変身……もう、誰も傷つけさせやしない!」

 

そこに立っていたのは、クスキ・ミズキだった。




帰還、ミズキ!
長かったよぉぉぉぉ!
スペリオルアンジェラスは個人的に変身前の方が好き。変身後は最初のネプギアとユニが立ってるシーンが痺れる。
七つの大罪はキリスト教なのに送っているのは仏教の地獄とはこれいかに。
あとアレな、ジャッジ笑い過ぎな、死因は笑いすぎとかありそう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あの日を掴む掌

変身するガンダムは掟破りのあのガンダム。


ミズキの体が光に包まれ、変身を遂げる。

赤と青と白に包まれたガンダム。しかし、その手には何も持たず徒手空拳だ。

それでも構わない。いや、むしろそれがいいのだ。

そのガンダムにとって、拳は最大の武器だから!

 

 

ーーーー『我が心は明鏡止水〜されどこの掌は烈火の如く』

 

 

《ゴッドガンダム……変身完了!》

 

「この……お前も死にたいのかぁぁっ!?」

「死ね、Cファンネル!」

 

一瞬でファンネルがゴッドガンダムの周りを取り囲む。

 

「ミズキさんっ!」

 

四方八方からファンネルがゴッドガンダムを切りつけてくる……が、それはゴッドガンダムに掠りもしない。

全て上体だけの動きでかわしきっている。

 

(当たらねぇっ……!?気配を先取りしてんのに、それでも!?)

 

そしてゴッドガンダムは腰のゴッドスラッシュというビームソードを手に取る。

そしてその出力をあげた。

 

《ゴッドスラッシュ……タイフーンッ!》

 

ゴッドガンダムが高速で回転し、そこにはビームの竜巻が出来上がる!

そして周りのCファンネルをその竜巻に巻き込み、ネプギア達には傷一つつけられなかったCファンネルをバラバラに切り裂いていく!

 

《…………》

「やるな……!」

「それでこそ、殺し甲斐があるってもんだぜぇえっ!」

 

《……聞く!みんなを……ここまで傷つけたのは、君だな!?》

「ああん?違うぜ、傷つけるんじゃねえ……お前を殺したあと……殺すんだよ!」

《なら、女神を傷つけ、捕らえたのもお前か!?》

「それは違うな……。だが、お望みとあれば……今ここで殺してやってもいいぜ!」

《わかった、もういい……!君はここで倒す!》

「ハッハッハァッ!とんだ笑い話だ……とことん舐められてるらしいなぁっ!」

「そこのゴミ共と一緒に……まとめて殺してやるよ!」

 

ジャッジのパルチザンの先にエネルギーの球体が作られた。

しかし、それはさっきまでのビームマグナムではない。ジャッジのパルチザンの周りにはいくつものビームマグナムの球体が出来ていた。

 

「アレをいくつも……!?」

「ミズキさん、逃げて!アレは、お姉ちゃんの武器と同じ……!」

《ならば!分身殺法、ゴッドシャドー!》

 

ミズキが気を集中させた瞬間にゴッドガンダムがまるで忍者の使う影分身のように4体も現れた。

 

「なるほどなぁ……本物を見極めないとダメージはなしってことかぁ?」

「じゃあ、別にお前を狙う必要もねえ!」

 

ジャッジの標的は倒れている女神候補生へと向いた。

 

「これでも避けられるかぁっ!?」

 

高い銃声と共に4発の弾丸がそれぞれの女神候補生を狙って放たれた。

 

「っ……」

 

全員が襲いかかる衝撃に備えて目をつぶる前にゴッドガンダムがそれぞれの女神候補生の前に立ちはだかる。

 

「執事さん、やめて……!」

「あんなの食らったら、死んじゃう!」

 

ビームマグナムの弾丸が紫電を散らしながらゴッドガンダムの目前に迫った。

しかしゴッドガンダムはなんと、ビームマグナムを拳で迎え撃った!

 

《はっ!》

 

まるで、ビームマグナムは水鉄砲ほどの威力しかないと言わんばかりだった。

ビームマグナムの弾丸は風船でも破裂させたかのようにゴッドガンダムの拳に敗れ去る。

 

「う……そ……」

「こ、拳で……?」

 

「ば、バカな……」

「何を、しやがった……?」

 

驚愕しているジャッジをよそに、ゴッドガンダムが重なり合って元の1人に戻る。

そしてゴッドガンダムが静かに構えをとった。何処からでも攻撃できそうなのに、何処にも隙がない。

その構えからゴッドガンダムの構えは見たこともないものに変化していく。

 

《……流派!東方不敗が……》

 

ミズキ達の時代まで脈々と受け継がれてきた拳法、東方不敗。

たとえ文明がなくなろうと、人は残り、その技術は語り継がれてきた。

 

《最終……奥義……!》

 

朝焼けがギョウカイ墓場を照らした。

朝日はまるでゴッドガンダムを祝福するかのように眩く暖かな光を届けてくれる。

それと同時にゴッドガンダムは呼吸を整え、両手の間にエネルギーの球体を作り出していく。

 

「大地の力が、集まっていく……?」

「私達の時と、同じ!」

 

天然自然の力を集める技術はロムとラムのサテライトキャノンにも通ずるものがある。

しかし、ロムとラムを助けるのが月であるのに対し、ゴッドガンダムを助けるのは太陽!

月そのものを照らすほどの力を持った太陽!

 

《石……破ッ!!》

 

天然自然、その魔力にも似た力を両手の間に集める。

その気功砲は、どんな敵であろうと……!

 

《天驚けぇぇぇぇぇぇんッ!》

 

「な……!」

 

放たれた巨大な気功砲は拳の形になり、ジャッジへと一直線に向かう!

そして石破天驚拳はその拳を大きく開き、ジャッジを握り潰す!

 

「う、うおおおおっ!?な、なんだこれはぁぁぁっ!?」

 

圧倒的な強度を誇るはずのジャッジの鎧は熱を持ち、光り輝き消えていく。

そして石破天驚拳までもが光り輝き始めた!

 

《無限の熱量の前に焼かれていけ!これが、僕の、神としての力!》

 

「う、ウソだ!俺は、最強のはずだ!こんなヤツに、やられるわけがぁぁぁぁっ!」

 

《ばぁぁぁぁぁくはつ!!》

 

「貴様を殺してーーーー!」

 

石破天驚拳が今までに見たこともないような大爆発を起こし、ジャッジがいた場所を巨大な火球が包み込む。

 

「うおおおおっ!?」

 

もう1人のジャッジもその爆発の前に吹き飛んでしまう。

女神候補生もその爆風で危うく吹き飛びそうになってしまう。

 

「ば、バカな……!再生しない、だと……?」

 

ジャッジは火球に包まれてからもうその場に現れない。

ただただ大きなクレーターがそこに残っただけだ。それはつまり、細胞の1つすら残さずにジャッジは消え去ったということ。

 

《…………》

 

いつの間にかゴッドガンダムがさらに2機現れていて、その手には気絶したアイエフとコンパを抱えていた。

2人を優しく地面に横たわらせるとゴッドシャドーが消えた。

 

《良く、頑張ったね、みんな。遅れてごめん……。みんなを……君達のお姉ちゃんを助けられなくて……》

「そんな、私達だって……!忘れてて、思い出せないで……!」

《もう、大丈夫だ。僕の後ろにいて。そこが、1番安全だから》

 

全員を今すぐにでも抱き抱えて再会を喜びたい。

けれど、今は……目の前の敵を倒す!

 

《……かかってこい!まだ、戦う意思があるのなら!》

「……テメエ、舐めやがって……!だが、学習したぜ……!今の熱量、耐えられるように……!」

 

またジャッジの体が形を変えていく。

体躯が大きく膨らみ、装甲はさらに厚く刺々しくなっていく。

 

「クハハハハ、墓穴を掘ったな!さあ、ゆっくりと今から殺して……!」

 

ジャッジがゴッドガンダムに襲いかかろうと体を備えた瞬間、ジャッジの鼻先にゴッドガンダムはいた。

 

「な……!」

《それは驕りだ!》

「ぶべらぁっ!?」

 

ジャッジの顔面をゴッドガンダムの拳が捉えた!

ジャッジは気持ちいいくらいに吹き飛ばされ、地面を何度も転がっていく。

 

《どうした、もうおしまいか!》

「ペッ、NT-D……!」

 

ジャッジがキンッという音と共に消え去った。

いや、緑の閃光を残して移動しているのはわかるが、何処にいるのか全くわからない。素早すぎる。

 

「今の速さを学習した!これでお前は追いつけ……!」

《そしてそれも!自惚れだ!》

「ぐえぇっ!?」

 

しかし、ゴッドガンダムはジャッジよりも速度が遅いにもかかわらずジャッジの体を正確に見抜き、当てている。

またジャッジは吹き飛ばされ、岩山にその身を埋めた。

 

「くそっ、くそっ、くそぉぉぉっ!」

《……いい加減、理解しろ……!君に勝ち目はないよ!》

「そんなわけがねぇぇっ!俺は、無限に進化する存在だ!俺は、最強なんだァァァッ!」

 

再びジャッジの装甲が厚くなり、速度も上がっていく。

しかしゴッドガンダムはまるで幼子をあやす様にそれを幾度も弾き返す。

 

「ぐあっ!?ちぃっ、がぶっ!?この、がああっ!」

《………はぁーーっ……》

 

その度に衝撃が空気を歪ませ、そのすぐあとにはジャッジが地面に這いつくばる。

もうジャッジの体躯は最初の2倍ほどにも膨らんでいたし、スピードももはやネプギア達では視認できないほど速い。

しかし、ゴッドガンダムは全て見抜いているかのように完璧にカウンターしていく。

 

「何故だ……何故勝てねえっ!?俺は、俺は……!」

《君の強さは、所詮上辺だけのものだ!自分の身を痛めないで得られる強さなんて、何の役にもたちはしない!》

「そんなことはねえ!俺は、俺は常に進化しているはずだ!」

《そんな独りよがりの進化……早々に限界が見える!本当に大切なのは、仲間と寄り添い、高め合い、確かめ合うこと!》

「戯言をぉぉぉぉっ!」

 

ジャッジが今までの中で最大のスピード、最大のパワーでゴッドガンダムに突撃する。

しかし、その一撃は飛び上がったゴッドガンダムの鳩尾への一撃で遮られた。

 

「ご……ふっ………」

《はぁぁぁーーっ、はぁぁっ!》

 

浮いた体にゴッドガンダムの百裂拳が炸裂する!

腹の急所全てに叩き込まれる百裂拳は装甲ではなく、その内側にダメージを蓄積させていく。

そして最後の一撃でジャッジの巨体は宙へと吹き飛ばされる。

 

「が……!」

《超級!覇王!電影だぁぁぁん!》

 

それを追い、自身の体をエネルギーの塊としたゴッドガンダムが弾丸のように突撃する。

そしてそれはジャッジの腹へとぶつかる!

 

「ぐおおおおっ!」

《ぬううう、ああっ!》

 

ゴッドガンダムはそのままジャッジの腹を貫き、着地する。

ジャッジは腹に風穴を開けたまま地面へと叩き落とされた。

 

「な……!し、しまった……!」

《君の自己進化のコア……撃ち抜かせてもらった!》

 

ジャッジの腹にあった巨大なAの文字、それが超級覇王電影弾によってまるまる削り取られている。

このコアがなければ、もうジャッジは自己進化を行うことが出来ない。

 

《もう勝負は決まった!まだ来るか!?》

「……クク、油断していたのは、てめえの方じゃねえか!?」

 

だがまだジャッジは不気味に高笑いをする。

気配を感じたゴッドガンダムが振り返るが時すでに遅し。

 

「み、ミズキさんっ!」

 

倒れたネプギア達の首元にCファンネルが突きつけられている。

 

《お前は!》

「おっと動くな!1歩でも動けば、こいつらの首をぶった斬る!」

《外道が……!》

 

「ミズキさん、私達のことはいいから!」

「くそっ、体が動けば……!」

「執事さん……!」

「っ、力が入らない……!」

 

「ヒッ、ヒッヒッヒ……!弱くてもやり方があるってことだ!もう何も出来まい!」

 

《………フッ》

 

「ああん?」

《もう、躊躇わないよ。せめて、せめて退いてくれれば、命は助かったのに……!》

「まだ勝てる気でいんのか!?いいか、テメエはもうおしまいなんだよ!」

 

ジャッジが高笑いする中、ネプギア達が人質に取られていてもゴッドガンダムは動揺しない。

むしろ、心を落ち着けて呼吸を整える。

その心、まるで風1つない、凪いだ湖面のよう。

 

《はぁぁぁ……………》

 

水滴がその湖面に落ち、波紋を広げていく。

静かに、ただ心を落ち着ける。

今は何も考えない。

荒ぶる感情にも身を任せない。

怒りも、悲しみも、喜びも、全てを無にしてただ澄み切った鏡の如く。

あるいは、一点の曇りすらない青空のように。

 

その心に……ぴちょん、と雫が落ちた。

 

《見えた!水のひとしずく!》

 

その心意気、明鏡止水!

 

「なっ!?」

 

ゴッドガンダムの体が金色に輝き、周りを金色に染め上げる!

そしてその輝きはただの光ではなく、周りに不思議な効能をもたらす!

 

「あ、熱い!なんだ、これは……!シェアの光!?」

「か、体が……暖かい……?」

「傷が、治っていく!」

 

その光はジャッジの装甲とCファンネルを溶かし尽くし、ネプギア達を回復させていく。

 

「う……私、は……」

「なんですか、これ……」

「た、立てる……力が、湧いてくる!」

「この輝きって……シェアクリスタルに似てる……」

 

ネプギア達は立ち上がり、アイエフとコンパは目覚めていく。

しかし、ジャッジはただただ苦しむばかりだ。

 

「熱い!なんだ、これは!体が、燃えるぅぅっ!?」

 

「う………」

 

「え!?」

 

そして後ろからも小さな呻き声が聞こえた。

その声にネプギアが振り返ると、そこにはうっすらと目を開けるネプテューヌがいた。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

「う……ぅ……」

 

すぐにネプテューヌは目を閉じてしまうが、心なしかその表情が柔らかい。

 

《最後だ……!》

 

ゴッドガンダムの背部のエネルギー発生装置が展開、そこにまるで日輪のような光が浮かび上がる!

胸部の装甲が展開、内部の露出したエネルギーマルチプライヤーに刻まれるのは燃え盛る炎のマーク!

この姿の名は、ハイパーモード!

 

 

《僕のこの手が真っ赤に燃えるぅぅぅぅっ!》

 

 

ゴッドガンダムの右手が激しく熱を持ち、赤熱し始めた。

そしてプロテクターが右手を覆い隠す。

 

 

《勝利を………!》

 

 

その時、ミズキの脳裏に浮かんだのは後悔の記憶。

助けにも行けなかった、傷ついていた事実を知りもせずに!

けど……けど、もう!

そんなことはさせやしない!

 

 

《あの日を掴めと!轟き叫ぶぅぅぅぅぅっ!》

 

 

右手を大きく振りかぶったゴッドガンダムがジャッジに向かって飛び出した!

 

「くそっ、くそっ、くそっ!審判もいらねえ……即刻死刑だ!行先、大焦熱地獄!!」

 

ジャッジの体からも強烈な熱線が放たれる!

そしてそれはゴッドガンダムの体へと直撃する。

 

「死ねぇぇぇぇぇっ!」

 

《っ………!》

 

脳裏に浮かぶ、安らかな日々の記憶。

ああ、それを取り返すためならば!

 

《ばぁぁぁぁぁくねつ!ゴォォォォォッドォッ!》

 

「なっ………!」

 

ジャッジの熱線の中をゴッドガンダムがくぐり抜ける!

そしてその右手を、何もかもの感情を乗せたその手を、ジャッジへと届ける!

 

《フィンッガァァァァァァァァッ!!!!!!》

 

「ぐおおおおっ!」

 

ゴッドフィンガーから送られる熱がジャッジの体を真っ赤に染めていく。

そしてゴッドガンダムはなんと、そのまま手を上にあげてジャッジを持ち上げてしまう。

 

「があああああっ!?」

《まだだぁぁぁぁっ!掟破りの!ダブルゥッ!ゴォォォォッド・フィンガァァァァァッ!!!!!!》

 

さらに、左手のゴッドフィンガーまでもがジャッジの体に突き刺さる!

 

「バカな……ありえねえ……!俺が、負けるなんて、ことは……!」

 

《ヒィィィィィィィトォォォォッ!!!!!!》

 

ジャッジの内部から光が溢れ出す!

それは、ジャッジの体が弾け飛ぶ証!

 

 

《エンドーーーーッ!!》

 

 

「ぐああああああーーーーっ!!」

 

大爆を起こし、ジャッジがその火球の中に消えていく。

弾けたジャッジはそこにいた証を何も残さず、ただただその名残のような熱があるだけだ。

ゴッドガンダムの変身も解かれ、さっきまでの激闘がウソのように静まり返った中でネプギア達に振り返る。

 

「ミズキ、さん……!」

 

ミズキに走り寄ろうとしたネプギア達をミズキはそっとその手で押しとどめた。

 

「僕よりも、先に会う人がいるだろ?」

「でも……!」

「僕は大丈夫、もういつでも会えるから。それよりも、これを……」

 

ミズキが手を広げると、そこには超巨大なシェアクリスタルが現れた。

今まで集めてきたシェアクリスタルも相当に大きかったが、これは別格だ。

 

「みんなを今すぐ解放してあげて。これは、返すから」

 

ネプギアがそのシェアクリスタルにそっと手を触れる。

するとそのシェアクリスタルから溢れんばかりの光が溢れ出した。

 

「っ………」

 

そこから溢れ出した光が捕らわれた女神達を包み込んでいく。

そして、その拘束を解き放ち、女神達の目を開かせた。

 

「っ、あ、あ………?」

「お姉ちゃん……!」

「お姉ちゃんっ!」

 

ロムとラムがブランへと駆け寄る。

飛び込んだ2人をブランはしっかりと受け止めた。

 

「ロム、ラム……アナタ達が助けてくれたのね」

 

「お姉ちゃん、あの……」

「何よ、泣いたりして……もう、待ちわびたわよ?」

「おね、お姉、ちゃん……」

「ごめんね、ありがとう」

 

涙がこぼれかけるユニをノワールが抱きしめた。

その暖かさを感じると、もうユニは堪えられない。

 

「ネプギア……会いたかった……」

「お姉ちゃん……お姉ちゃんっ!」

 

ネプギアがネプテューヌに抱きつく。

ネプテューヌもネプギアを強く抱き締めた。

 

「ごめんね、1人にして……もう、離れはしないから……」

 

「………良かった……」

「いいの?混ざってこなくて」

「後でいいよ。姉妹の再会に、水を差しちゃいけない」

「……みずみず、泣いてるですか?」

「………少し、ね。ほんの、少しだけだよ……」

 

ミズキの目からも静かに涙がこぼれ落ちる。

ひとしきり泣いたあと、ネプギアがネプテューヌに赤くなった目のままで話しかける。

 

「あ、あのね、お姉ちゃん!ミズキさんが……!」

「ミズキ……?」

 

その言葉を聞いた女神候補生達が女神と離れて、ミズキの前に押し出す。

 

「………ああ、その……いざとなると、言葉が出ないや……。その、ごめんね、助けに来るのが……遅れた……!」

「いいえ、ありがとう。アナタも手伝ってくれたのね」

 

ネプテューヌが1歩前に出てミズキの前に手を差し出す。

しかし、次に告げた言葉は……そこにいる全ての人間を、絶望の坩堝に迷い込ませる一言だった。

 

 

 

「“初めまして”。私の名前はネプテューヌ……パープルハート。アナタは?」

 

 

 

「ーーーー」

 

全員が言葉を失う。

今、なんて言った?

 

「お、お姉ちゃん……?今、なんて……?」

「え?私何かおかしなこと言ったかしら?」

「は、初めまして……って………?」

「………?だって、申し訳ないけど……私、この人を知らないもの」

 

ネプギア達の目の前が真っ暗になった。

ノワールも、ブランも、ベールも、それを肯定するかのように何も言わない。

 

「そ、ん、な………」

「ネプギア、どうかしたの?」

 

「………いいよ、ネプギア」

 

その声にネプギアが振り返ると、ミズキは柔らかな微笑を浮かべたままだった。

 

「少し、時間がかかるだけだよ。すぐに思い出すさ」

「だ、だって……!せっかく会えたのに、こんなのって、こんなのって……!」

「もう大丈夫なんだよ。もう、一緒にいるから、だから、大丈夫なんだ。けど、今はこれだけ言わせて……」

 

ミズキが4人の女神に近づき、全員を抱きしめた。

いきなりのことに、4人の女神全員が大なり小なり狼狽えてしまう。

 

「え、えと?その……」

「……変なところ触らないでよ」

「お、おい、どうかしたのか?」

「怪我でもなさったのですか?もし、気分が悪いのなら……」

 

 

「お帰り、みんな……!」

 

 

ミズキが静かに涙を流しているのを4人の女神が悟った。

それを見た女神は狼狽えるのをやめて優しく頭や背中を撫でたり、ただされるがままにしていたり、暖かな言葉をかける。

 

優しさに包まれたその空間は、そのつながりは、もう絶たれることはないように思えた。

 

………そう、今の間だけは、誰しもがそう思っていた。




次回予告

やっと会えた。やっと救えた。
それは喜びに変わるはずが、狂った1つの歯車が全ての運命を狂わせていく。

「触らないでっ!」

あの日はもうこの手には握ることが出来ないのか、あの温もりを感じることはもう許されないのか、戦場に限界を超えたミズキの血の涙が零れ落ちる。

「ウオオオアアアアアアッ!!」

信じたい、されど信じる根拠がない。だから信じないし、信じられない。
何もかもを諦めたミズキの体は崩壊を始めていった……。

次回、超次元機動戦士ネプテューヌ、『ミズキの慟哭〜光る掌はただ砕くことしかできず〜』

「ダメエエエエッ!!」

(もう……あの日に戻れないのなら……)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5章〜ミズキの慟哭。光る掌はただ砕くことしかできず〜
迷いの中で


新章が始まったぜ!でも元通りまではまだまだだぜ!


「墓守がやられたか……」

「アククク、ヤツは四天王の中でも最弱……!」

「……確かに女神は弱い。しかし!あのミズキと名乗る人物……ヤツは強い」

「……ヤツが強かろうと弱かろうと構わん。もうこの流れは止まらない」

「アククク……犯罪神様の復活は、あと僅か」

「……本格的に動かなければならぬか……」

「すべては、犯罪神様のために」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

女神が救出されてから1週間。

1通りの体のメディカルチェックを終え、数日前にそれぞれの女神候補生と女神は各国へ戻った。

積もる話もあるだろうし、しばらく3人きり、2人きりにしてあげた方がいいだろう。

1人もいるが。まあアレはチカがいるから大丈夫だろう。というか邪魔できない。can'tで。

 

しかし、それだけの日付を重ねても、女神達の記憶は戻ることは無かった……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「おはよ、ミズキ!調子はどう?」

「うん、悪くないよ。体がなまってるくらいだ」

 

ミズキはメディカルチェックの結果、体に深刻なダメージを負っていることがわかった。

1週間経った今はほとんどの傷が回復しているものの、厳しく療養を言いつけられている。

ので、やっていることといえば簡単なトレーニングと書類仕事のみ。

 

「おはようございます、ミズキさん、お姉ちゃん」

「ん、おはようネプギア。ネプギアも、傷は大丈夫?」

「それはこっちのセリフです」

「クスクス、参ったなあ……」

 

一応、女神達には本来あるはずの記憶が無いこと、そしてミズキと一緒に成し遂げたことを話した。

それでも、そんなこと覚えていないの一点張り。

 

「ん〜、やっぱりネプギアとミズキって仲いいよね。十年来の戦友!みたいな!」

「だから、お姉ちゃん……私達、昔から知ってるんだよ。お姉ちゃんが忘れてるだけで……」

「あ、そうだった!ごめんごめん!」

「……いや、いいよ。無理に思い出そうとしなくてもいいから」

 

こんな些細なやり取りが、ミズキの心をチクリチクリと刺していく。

それから逃げるようにミズキが話題をそらす。

 

「あ、そうだ、ネプテューヌ。君とイストワールに話があるんだけど、時間ある?」

「へ?話?なになに〜、愛の告白〜?」

「そんなんじゃないよ。でも、そこそこ大切な話」

「ん〜、いいよ。どうせ暇だし」

「お仕事たくさんあるくせに」

「んぐ……」

 

ネプテューヌとミズキが寄り添いながら歩いていく。

それを後ろから見つめるネプギアには、ミズキの笑顔に陰りはないように見えた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《はああああっ!?》

《はい………?》

《あぁ〜……っと……もう1度仰ってくれます?》

「だから、新国家が誕生するんだって!いや、させたい、かな」

 

テレビモニターに驚愕する各国女神の顔が映る。

数年ぶりに再開された女神会議という名の駄弁りは再開から1回目にしてとんでもない議題になってしまった。

 

《待って、国土は?まさか、私達の国を侵略するわけじゃないわよね》

「ううん、ギョウカイ墓場を開拓する予定だって」

《それじゃ、相当の時間がかかるわね。今すぐ即興でできるわけではないのね》

「うん。あくまで、予定。というか、宣言」

《女神……というより、神はミズキ様……でしたよね?》

「そうなるね。教祖はジャックがやる予定らしいけど、まだ未定」

 

スタンドも月まで吹っ飛ぶ衝撃だったが、今すぐに何かが起こるというわけではないらしい。

大変な案件であることには変わりはないが、とりあえず深呼吸して息を整える。

 

《で、その許可を求めてるってわけ?》

「他にも、セレモニーに参加してくれ〜とか、企業の参戦をさせてくれ〜とか、色々」

《そんなに急に……?犯罪組織を壊滅させてからでも、遅くはないはず》

「何かとシェアがあった方がいいから。まず、ミズキっていう神様の存在を知らない人が……というか、覚えてない人がほとんど……らしいし」

 

記憶が戻っていないネプテューヌも、らしいとしか言えない。

いくら助けてくれたとはいえ初対面の人間をずっと前から知り合いでしたなんて素直に信じられはしない。

一応、ネプギア達も擁護しているが……。

 

《……その話、少し不可解では?》

《ベールもそう思う?というか、不可解でしかないわよね》

《私も賛成ね。というより……本音を言えば、あの人は怪しいと思ってる》

「え?急にどうしたの、みんな?」

《百歩譲って記憶操作が可能だとして……それを全世界の人間に行える?》

「……確かに、難しいかもしれないけど……」

《そんな非現実的なことよりも、ロムとラム達が洗脳されて偽りの記憶を植え込まれたっていう方が筋が通る》

「え?まさか……ミズキが裏切り者だっていうの?」

《確証があるわけではありませんわ。ですけど、ネプテューヌもあの方の行動には気を付けた方がいいと思います》

 

3人の女神全員がミズキを疑いの目で見ていた。

ネプテューヌもにわかには彼の話を信じられないものの、みんながここまで懐疑的だったのは予想外だった。

 

《……まあ、根拠のない話をしてもね。わかった、建国についての件、考えておくわ》

 

3人の女神からの通話はそれで途切れた。

 

(ミズキが……裏切り者……?)

 

そんなわけはない。

……そう思いたい。

 

ネプテューヌが部屋を出ると角を横切るミズキの背中を見た。

 

「………」

 

さっきの話もある。

足音を立てないようにネプテューヌはミズキの後を付ける。

歩きながらもネプテューヌは少しずつ罪悪感に苛まれていく。

後を付けるってことは、信じてないってことだ。あんなに泣いて、帰還を喜んでくれたミズキのことをだ。

 

嘘だと思いたくない。けど、本当だって証拠もない。

 

「………」

 

不可解なことが多すぎる。というか、不確定要素が多い。

ネプテューヌが解放されたのがほんの少し前で、それ以前の記憶をネプギア達が改竄されていたのだとしたら……もう、ここにいる誰もを信じられなくなる。

それは……嫌だ。けれど、もし本当に記憶を操作されたのなら……奪い返す必要がある。

その時は……。

 

「………あ」

 

気がついたらミズキはとある部屋に入っていくところだった。

おかしい、あそこは使われていない部屋のはずだ。無論、ネプテューヌが捕まっていた期間の中に使う機会があったのかもしれないが……。

 

(突入、しよう)

 

見つかっても周りにみんながいるわけだし、何もしていないのならそれでよし。付いてきたって言えばいい。

何かしていたのなら、即刻その場で訴える。

そして、それで、それで……。

 

「………行こう」

 

できれば、やめて欲しい。

私とミズキの問題で終わらせたい。

誰にもミズキが裏切り者だったってことを気付かせずに、味方になってほしい。

すっかり思考はミズキが裏切り者だという方向に傾いてしまっているが、ネプテューヌはミズキを擁護したがっている。

 

何故かは……特に理由はない。

けど、ミズキは誠実だ。少なくとも、今は。

 

「……………」

 

扉の前についた。

恐る恐る……けれどできるだけ自然にドアを開く。

 

「……って、あれ……?」

 

勢いよくドアを開いて部屋に入るが、その部屋にはやはり何もなく、また誰もいない。

 

「え……?」

 

身を隠す障害物は何も無い。窓もあるが、この部屋に至っては人が通れるほどの大きさではない。

 

「何処に……んむっ!?」

 

ドアの裏側に目を向けた瞬間に躍り出た人影に口を抑えられて壁に叩きつけられた。

 

「むぐっ……!」

「……あ、ネプテューヌ!」

 

口を押さえつけたのはミズキだった。

壁に体を打ち付けて苦悶の声を漏らすネプテューヌを見て、ミズキはすぐにネプテューヌの口から手を離して謝った。

 

「ごめん、ネプテューヌ。まさか、君が尾けてくるなんて思わず……」

「けほっ、けほ、ううん、大丈夫〜……」

 

力なく尻餅をつきながらネプテューヌが少し咳をする。

ミズキの顔は本当に申し訳なさそうな顔をしていて、ネプテューヌには嘘をついているように見えない。

 

「それより、なんでこんな部屋に……」

「っ、ごめん、待って、ネプテューヌ」

 

急にミズキが目を開いたかと思うと立ち上がってネプテューヌに背を向ける。

 

「……ごめん、後で説明するから。今はこの部屋を出て、お願い」

「え?な、なんで」

 

急に態度が怪しくなった。

だがミズキは自分の口に手を当てながら苦しそうな顔をネプテューヌに向けた。

 

「いい、から……。早く……!」

「ううん、ダメ!理由を聞くまでは、私はーーー!」

 

「うっ、ヴォエエッ!」

 

「え……?」

 

ミズキが目の前で膝をついて口から血を吐いた。

ネプテューヌの頬と足元にべトリとした血が飛び散った。

 

「ああ、ごめん、汚しちゃって……う、ゴホッ、ウアアッ!」

「ちょ、ちょ、ちょっと!ミズキ、大丈夫!?」

 

ネプテューヌがしゃがみこんでミズキを抱きしめる。

 

「ダメだよ、服が汚れる……」

「バカッ、いいよ、そんなの!」

 

ミズキはなおも血を吐いてネプテューヌのパーカーを血で染めていく。

ミズキは本当に苦しそうにしていて、血を吐くのも収まる気配はない。

 

「待って、今、人を呼んで……!」

「っ、ダメだ!」

 

ドアを手をかけようとしたネプテューヌの手を払い、ドアを背にして鍵を閉める。

 

「ちょ、なんで!?どいてよ!」

「ごめん、でも、今はダメなんだ……!」

 

ミズキが優しくネプテューヌを抱きしめて動きを封じる。

 

「ちょ……!」

「今、みんなの士気は上がってる……!このまま行けば、きっと犯罪組織だって倒せるはずなんだ……!だから、みんなに心配をかけられない……うっ!」

「そ、そんな理由で!」

「君にも知られたくなかった……。ただの人だったら、ここで気絶させていたけど……」

 

ミズキが誰もいない部屋に入ったのは、血を吐くのを見られたくないからだったのだ。

ネプテューヌはちくりとした罪悪感に襲われるが、今はそれを反省している時ではない。

 

「言ってくれれば……!プラネテューヌだけの秘密にもできたのに!」

「……みんなの……君の記憶の中で……僕は、いつでも笑っていて欲しかったから……」

「な、なんでよ!?会ったばかりじゃん……まだ会ってから1週間しか!」

「君の中ではそうかもしれないけど……僕は、君ととても長い時間を過ごしたんだ……」

 

ハッとしてネプテューヌがミズキの顔を見る。

その顔は……寂しげな微笑。

 

「……ごめん、知らないことを話されても嫌だよね」

 

ミズキが来ていた上着をネプテューヌに着させた。

ネプテューヌにはやはり丈が長く、ちょっとしたワンピースのようだ。

 

「このまま、できれば誰にも見つからずに部屋で着替えて。血で濡れた服も、処分してほしい」

「や、やだ。絶対、みんなに知らせる。ミズキが実は大怪我してるって!」

「……ごめんね、嘘つかせて……」

 

ミズキが優しくネプテューヌを頭を撫でる。

そしてミズキは口元の血を拭って部屋を出ていく。

ネプテューヌもその後を追うが、部屋を出た後にはもうミズキの姿はない。

 

「あ、あいちゃん!」

「ん?どうしたのよ、ネプ子。ミズキのパーカーなんて着て」

 

偶然見つけたアイエフに駆け寄る。

言うんだ、怪我してるって。血を吐いてたって。

 

 

『……ごめんね、嘘つかせて……』

 

 

「………っ」

「ネプ子?」

「う、ううん、なんでもない!寝てたらミズキがかけてくれてたみたいでさ、ミズキ知らない?」

「ミズキ?さあ、知らないわね。自室じゃないの?」

「そっか、ありがとー!」

「……?」

 

笑いながらネプテューヌはアイエフから走り去っていく。

そして曲がり角を曲がるとその勢いはだんだんと小さくなり……やがて足は止まってしまった。

 

「………どうしよう」

 

一体、どうすれば?

 

ミズキの優しげな笑顔と寂しげな笑顔が交差する。

 

「………っ!」

 

ネプテューヌはその迷いから逃げ去るようにまた走り始めた。

 




ミズキを疑う女神達、傷ついているミズキ、そしてミズキを信じきれないネプテューヌ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

別離

「あ、おはよう、お姉ちゃん」

「おはようネプギア。……ミズキは?」

「クエストだって。朝早くから偉いよね」

「クエスト……その、難しいのじゃないよね?」

「うん?多分そうだと思うよ。朝ご飯には帰ってくるから、簡単なクエストなんじゃないかなあ」

 

なら、心配はないか。

いや、ただ歩いているだけで血を吐いていたのだ……安心はできない。

 

ここ数日でミズキは簡単なクエストなら受けてもいいというお達しが出て毎日のようにクエストに行っている。

ネプテューヌはそれが心配でもあり、ついて行かせてくれるように頼んでいるのだが、ミズキはそれを遠慮して拒む。

 

「ただいま。朝ご飯、出来てる?」

「あ、はい。もうすぐですよ」

 

その時、ミズキが帰ってきた。

そしてネプギアと軽い会話を交わしてから、ネプテューヌに向けてビニール袋を手渡した。

 

「はい、ネプテューヌ」

「え?私に?何これ?」

「プリン。ネプテューヌ、プリン好きでしょ?」

「え、あ、うん……」

「あれ?反応薄いね……体調悪いの?」

「う、ううん!ありがと!」

 

体調悪いのはお前だろ……というツッコミを飲み込んで冷蔵庫にプリンを入れに行く。

しかし、忘れ物に気付いて振り返るとそこにミズキがいた。

 

「ミズキ……?」

「ん、はい、ペン。プリンに名前書くでしょ?」

 

素っ気なくミズキがペンを渡して椅子に座る。

ネプテューヌはポカンとしながらもキュッキュとプリンに名前を書いて冷蔵庫に入れる。

 

(……プリンが好きって知ってた。名前を書くってことも)

 

やっぱり、私達が忘れているだけなのだろうか。

ネプテューヌはまだ迷いの中にいた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その日の夜、ミズキはクエストで森の中にいた。

簡単なキノコの採集、これくらいどうってことない。散策のついでにやっているようなものだ。

しかし、キノコを集めているうちにだいぶ奥地に来てしまったらしく、いつの間にかミズキの周りは背の高い木々に囲まれてしまっていた。

 

「……そろそろ戻ろう」

 

カゴの中いっぱいに集まったキノコが手の中にある。

これだけあれば依頼主も満足するだろう。

 

ギルドに戻ろうと振り向いた時、空から巨大な影が舞い降りた。

 

「っ!?」

「……見つけたぞ、お前があの機体の正体だな」

「ブレイブ……!」

 

ミズキの目の前に現れたのはブレイブ・ザ・ハードだった。

すかさずミズキが戦闘態勢を整えようとするが、ブレイブは首を横に振った。

 

「今日は戦うつもりで来たわけではない。……宣戦布告だ」

「……宣戦布告……?」

「どうやら、お前は特別な体を持っているようだな……アレを食らって死なないとは」

「……凄く痛かったけどね」

 

というか、死にかけた。

なんとか立ち上がってジャッジを相手取ることが出来たのはこの次元に戻ってきてシェアを使うことが出来たからだ。

 

「俺はてっきり死んだこと思ってな……。死んでいなかったのなら、再戦を希望したい」

「……構いはしないけど」

「だが、どうやらお前の傷はまだ癒えきっていないようだな。そして俺の剣もまだ完成していない」

 

ブレイブから受け渡されたのは手紙。

ミズキ宛と……ユニ宛?

 

「それはユニに届けてくれ。……中身は、見るなよ?」

「え?う、うん」

 

とりあえず自分の手紙を開けばそこには達筆な文字で対戦を希望する旨の文が書かれている。

 

まあ、この手の文はお互いの当事者でないと読まないのが礼儀だろう。

 

「次に会った時が決闘の時だ。それまで……せいぜい体を癒して剣を磨いていろ」

 

それだけ言い残してブレイブは空へと去っていった。

ミズキは自分とユニへの手紙をポケットに入れて元来た道を帰っていく。

ブレイブが来た時は肝を冷やしたが、戦闘にならなくて良かった。

 

「……あ、そうだ、プリン」

 

報酬が貰えるだろうから、それでまたプリンを買って帰ろう。

 

「……次は、喜んでくれるといいな」

 

ほんの少し微笑して帰っていくミズキ。

そこから少し離れた草むら、そこにカメラを持った人間が息を潜めていた。

 

「……この写真を、諜報部のアドレスで送れば……くくっ、内部分裂を起こして、犯罪組織に有利になる、か……」

 

その人間はプラネテューヌにいながら犯罪組織を信仰する人間のひとり。

そいつが加工した写真のデータが送信ボタンを通じて送られた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌは夜空を見上げながらミズキの帰還を待っていた。

一応、ミズキにプリンを買ってきてもらったし、お返しをしてあげようと適当なお菓子を買ってきたのだ。

 

まあ、一緒に食べて……それで、少しでもミズキの栄養になってくれるなら。

 

まだネプテューヌは誰にも言い出せずにいた。

このまま、誰にも言えないままになるのではないかと自分でも思っている。

 

その時、ネプテューヌのパソコンからメールの着信音がした。

 

「え?」

 

送られてきたのはプラネテューヌ諜報部から。

その内容を見てネプテューヌは驚愕に目を見開く。

 

「…………!?」

 

ネプテューヌはドアを開いて部屋を、そして教会を飛び出した。

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ……!いた……!」

「あれ?ネプテューヌ?どうかしたの?」

 

ギルドからプラネテューヌの帰り道を走ってきたネプテューヌは案の定ミズキと出くわした。

息を切らして背中を曲げるネプテューヌを心配してミズキが手をかけようとする、が。

 

 

「触らないでっ!」

 

 

「ーーーー」

 

ネプテューヌがミズキの手を弾いた。

パチンと音を立ててミズキの手が弾かれる。

 

「………あ」

「………あ、ああ、ごめん。嫌だった?ごめんね」

 

マズい、と思ってミズキを見るがミズキはまた寂しそうな微笑を浮かべて謝るのみだ。

それがネプテューヌの胸を締め付けるが……今は、鬼にならなければならない。

 

「……裏切ったの?」

「え?」

「………裏切り者……!」

「……っと、ごめん、ネプテューヌ、何を言っているのか……」

「みんなを騙したんでしょ!?」

「いや、だから、何が……?」

 

ミズキは本気で事情がわからずに狼狽える。

しかし、ネプテューヌにはそれが白々しい否定に見えていた。

 

「……さっき、敵の幹部と密会してたんでしょ」

「え?……ああ、ブレイブのことね。うん、確かに会った」

「それで、情報を渡してたんでしょ」

「いや、それは違うよ。僕は果たし状を受け取っただけで……」

 

ミズキが懐からミズキ宛とユニ宛の果たし状を取り出してネプテューヌに見せる。

 

「……そうやって誤魔化してるの」

「……違うよ、ネプテューヌ。ホントに、僕は……」

 

ミズキとネプテューヌが見つめ合う。

ミズキは必死に、信じてもらいたいと、その想いを込めてネプテューヌを見るが……ネプテューヌから帰ってくるのは明らかな敵意の目だった。

 

「ネプテューヌ……」

「………本当のこと、言って」

「本当だよ、僕は本当のことしか……!」

「嘘言わないで!」

 

ネプテューヌがミズキの言葉を食って怒る。

真実を言え、と。伝えている言葉は全部この心から出た気持ちそのままなのに。

 

「ネプテューヌ、信じて。僕は本当のことしか言ってない!」

「ウソだったんでしょ、全部!私達を助けた理由は何?血を吐いたのも演技だったんだよね、違う!?」

「なーーー」

 

まるでネプテューヌじゃないみたいだ。

こんなの……こんなの、僕が知ってるネプテューヌじゃない。

 

ああ、いや、そうか。

もうネプテューヌは僕のことを知らないのだから……。

 

 

「………そっ……か……。もう、ここには……僕の居場所はないんだね……」

 

 

「……なに、はっきり言って」

「ごめんね、ネプテューヌ。……みんなにも、謝っておいて」

 

ネプテューヌが顔を見上げると、ミズキは泣いていた。

静かに静かに、けれど……心を締め付けるような涙だった。

 

「お別れ、だね……。ごめん、もう、2度と、会わない……から……」

 

ミズキが俯く。

ミズキの目からさらに涙が溢れ出てアスファルトを染めていく。

 

「せっかく、会えた、のに……!ごめん、ね……!」

 

「あ、ミズキ……!」

 

捕まえようと前に出たネプテューヌは眩い光に目がくらむ。

そして目を開いた時、その場にはもうミズキはいなかった。

 

「………あれ……?」

 

気付けばネプテューヌの目からも涙が零れ落ちていた。

地面にはミズキが持っていたビニール袋が落ちている。

その中には、朝買ってきてくれたのと同じプリンが入っている。

 

「なん、で……なんで……」

 

ネプテューヌがしゃがみこんで胸を押さえた。

 

「こんなに、辛いんだろ……」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命

「っ、お姉ちゃんのバカッ!」

 

ネプギアが変身して空へ飛んでいく。

Nギアを持っていったから、各国の女神候補生達にも探してもらうつもりなのだろう。

 

「………」

《世話が焼ける。もうお前は好きにしていろ》

 

ジャックも表情には出ていないものの、怒っているようだ。

ジャックはサイバーからミズキを探すつもりなのだろう。

 

「……確かに、メールを送ってきた諜報員はウチにいたけど……」

 

アイエフが携帯を素早くタップしてコートの中にしまいこむ。

 

「とっくに、失踪してるわね。多分、マジェコンヌに寝返ったんでしょうけど」

 

そう言ってアイエフも教会を出て行く。

 

「ねぷねぷ……その、信じにくいのは、わかりますけど……」

「………」

「……命の恩人に、その言い草はあんまりです」

 

コンパも教会を出て行ってしまった。

 

「…………みんな、騙されてるんだよ」

「ネプテューヌさん……」

「記憶を操作されてて、それで……」

 

そういう道を進んだのだ。

今更信じ直しますなんて言い出すことは出来ない。

 

「今回ばかりは、私も擁護できません。……きっと、私がこう言うのも記憶を操作されているのだと思われるのでしょうけど」

 

イストワールもその場からいなくなった。

 

「…………」

 

「はあ、前々からダメなヤツとは思ってたけど……ここまで救いようがないなんて、ビックリだわ」

「……誰」

「アブネスちゃんよ。ま、覚えてないでしょうけど」

 

アブネスがネプテューヌに歩み寄って、その胸倉をつかむ。

 

「っ……!」

「あのね。あんまり私も人の事言えないわよ?何回も何回も死地にアイツを送り出して……死なせかけたこともあるわ?けどね……」

 

そこでアブネスが特別鋭い眼光でネプテューヌを睨みつけた。

 

「アイツが死んだら、アンタのせいだからね」

「っ………」

 

その眼光はネプテューヌが恐怖するには十分だった。

アブネスが手を離すとネプテューヌはふらついて転びかける。

 

「……こんなことになるんだったら、帰ってこなくてよかったわよ」

 

それだけ吐き捨ててアブネスは部屋を出ていった。

教会に残ったのはネプテューヌ1人。

ゲイムギョウ界を揺るがすほどの大地震が起こったのは、それから数時間後のことだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「あ、ユニちゃん!ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

連絡を取り合ったネプギア達が空中で落ち合った。

 

「いた!?」

「ううん、こっちはダメ……」

「ルウィーも、ダメみたい……」

「リーンボックスにいるのかもしれないわ!」

 

この状況はいつかの時と似ている。

なんだか、ネプテューヌを切ってミズキがプラネテューヌを出た時……それと同じくらいの焦りだ。

 

「今、ジャックさんが4国の監視カメラとかの映像をチェックしてるけど……写ってないらしくて!」

「じゃあ、何処にいるのよ、ミズキさんは……!」

「あ………」

「ロムちゃん、当てがあるの!?」

 

「ギョウカイ墓場じゃない……?」

 

「ギョウカイ、墓場……」

「……ありえない話じゃないわ。多分、今は誰にも会いたがらないだろうから……」

「……探す?」

「ちょっと危険な気もするけど?」

「少しでも危なくなったら探すのをやめよう。まずは、探せるだけ探さなきゃ!」

 

ネプギア達はギョウカイ墓場へと直行した。

 

 

 

ギョウカイ墓場にたどり着いたネプギア達は息を潜めて先に進む。

道案内もいない中、先に進むのは不用心だが……多少の危険はやむを得ない。

 

ミズキさんを今すぐにでも見つけないと……見つけて、どうするの……?

 

「ネプギア、今は見つけることを考えましょ。お姉ちゃんを説得するのはいつだってできるけど……ミズキさんが、もし、見つからなかったら……」

「……うん」

 

その時、ギョウカイ墓場を、そしてゲイムギョウ界を揺るがす大地震が起こった。

 

「っ、なに!?」

「立ってられな……飛ぶわよ!」

 

全員が宙に浮いて地震の揺れから逃れる。

今回は次元の揺れでもなんでもなくただの地震らしい。

 

「……なんだったの……?」

「ただの地震……だと言いけど」

 

 

「ほう?子ネズミが迷い込んだようだな」

 

 

「っ!?」

 

空から優雅に色白の女が舞い降りた。

その姿、ネプギアには見覚えがある姿だ。

 

「はっ、はっ……!」

 

ネプギアの体から冷や汗が吹き出す。

脳裏にフラッシュバックするのはあの日の記憶。負け、捕らわれた、あの日のーーーー!

 

「マジック・ザ・ハード……!」

 

「ふん、あの時の女神候補生か。コソコソと立ち回っていたようだが……それもこれまでだ」

「マジック……じゃあ、アイツが!」

「お姉ちゃんの……カタキね!」

「お姉ちゃん、死んでないよ……?」

 

しかし、状況は悪い。

決戦仕様の兵装でさえ、ジャッジにあれだけの苦戦を強いられたのだ。実際は勝てなかったようなものだ。

 

「今は、逃げよう……!」

「ネプギア……」

「怖がってるわけじゃない。けど、コイツはみんなでかからなきゃ……!」

 

ネプギアがH-M.P.B.Lを握りしめてマジックを見つめて目を離さない。

確かに体は小柄、しかしその中にはとんでもない戦闘力が詰め込まれているに違いないのだ。

 

「ほう、賢明な判断だ。しかし……アレを見てもまだそれが言えるか?」

 

マジックが指を指す方向を見ると、遠くにあった山が崩れ、その中から人型のモビルスーツが姿を現す。

しかし、その姿……あまりに巨大だ。

 

「アレは……ガンダム……?」

「まさか、ミズキさんじゃないわよね!?」

「そうではない。だが、アイツを相手とっても引けを取らない強さであることは私が保証しよう」

 

巨大モビルスーツは歩いてある方向へと向かっていく。

あの方角は……!

 

「リーンボックスが……!」

 

「そうだな。アレを止めなければ甚大な被害が出てしまうだろうなあ……」

 

マジックがニヤリと笑う。

 

「だが……私がいる限り邪魔はさせん。この意味がわかるか?」

「……戦って、勝たないと……リーンボックスが危ない……!」

「戦うしかないってことね……くそっ、こうとわかってれば!」

「今は、私達だけが頼りだから……!」

「精一杯やるわよ!幸い、今は夜中なんだから!」

 

4人が戦闘態勢を整えて空を飛ぶ。

 

「ネプギア、やるしかないのよ!」

「わかってるよ。でも……」

「ネプギアちゃん……勝つしか、ないよ……?」

「勝つ方法、わかってるでしょ!?」

 

今のままでは、勝ち目はない。

ネプギアが1番マジックの強さをわかっているつもりだ。

だから、勝ち目がないのは目に見えてる。

 

でも、それでも、勝つしかないのなら……!

 

「進化するしか……ない!」

 

「遊んでやろう。……ドラグーン」

 

マジックのプロセッサユニットが展開し、そこから翼のようなユニットが8基分離した。

それがまるで全方位から網のように4人を付け狙う。

 

「くっ……!」

「あの時に得られた力……取り戻してやるわ!」

 

ユニがX.M.Bでドラグーンから放たれるビームを避けながらマジックを狙い撃った。

しかし、そのビームは軽く鎌で弾かれてしまう。

 

「無駄だ」

「ちっ……!」

「っ、この程度の弾幕!」

 

ネプギアがH-M.P.B.Lを発射してドラグーンを撃ち落とそうとする。

記憶を取り戻したネプギア達にはこの程度の弾幕など軽々避けられる。

 

「ほう、やはり前よりは力をつけたようだな」

「舐めないでよね!」

「倒しちゃうんだから……!」

「ならば……その思い上がりを砕いてやろう」

 

マジックの中で種が弾けた。

同時にマジックの視界は大きく広がり、遠く離れたネプギアの毛穴まで見えるほどに目も冴える。

そしてマジックの瞳から光が消え去り……SEEDを発現させる。

 

(来るっ!?)

 

「お前達は……私と戦えるほどのステージに立っていない」

 

「っ………!」

 

ネプギアの前にマジックが移動していた。

ネプギアは咄嗟にH-M.P.B.Lで防御するが、

 

「堕ちろ」

「ああっ!!」

 

蹴飛ばされた。

地面に落ちたネプギアがマジックを見上げると、その膝から脛にかけてビームサーベルが展開していた。

 

「速い……!」

「でも、油断しすぎじゃないの!?」

 

しかし後ろにラムが回り込んでいた。

ラムの杖の先端は凍りついているだけでなく、氷自体が尖った強力な武器になっていた。

 

「ええい!」

「ふん」

 

しかし、マジックは軽々とバク転して鮮やかにかわしてみせる。

ラムは逆に背後をとられてしまう。

 

「しまっ……!」

 

音もなくマジックが手に持った鎌でラムの背中が切り裂かれた。

 

「うっ……!」

「ラムちゃん……!」

 

傷は浅いが、ネプギアとラムの2人を軽々とあしらったマジックは未だに余裕の表情を浮かべている。

 

「ネプギア、動けるわね!?見せつけてやるわよ、私達の連携!」

「う、うん!」

 

ネプギアがマジックに飛び込むとユニがその真後ろに陣取って射撃を行う。

正確無比な射撃はネプギアの体をうまくすり抜けてマジックめがけて飛んでいく。

 

「ふん……」

 

マジックはビームを鎌で弾くが、ネプギアがH-M.P.B.Lを持って接近してきている。

 

「やああっ!」

「で、それがどうした?」

 

切りかかろうとしたネプギアとマジックが交差する。

その瞬間、ネプギアが体勢を崩して崩れ落ちた。

 

「う……」

「ネプギア!」

「人の心配をしている場合か?」

「くっ!」

 

マジックの鎌をビーム・ジュッテで受け止める。

 

「もう、やめて……!」

 

ロムが後ろから氷を作り出してマジックに撃ち出す。

マジックはそれを見もせずに鎌に力を入れ、ユニと体位を反転させる。

 

「えっ、きゃああっ!」

「ユニちゃん……!」

 

マジックに向けて撃たれた氷はユニに当たってしまう。

そして倒れたユニの陰から現れたマジックが指をパチンと鳴らした。

 

「え……きゃああっ!」

 

いつの間にかロムの周りを包囲していたドラグーンが集中砲火を行い、ロムの全身を焼き払った。

ロムまでもが地面に落ちてしまう。

 

「う……く……」

 

「どうした、もう終いか?」

 

(強過ぎる……!)

 

無論、まだ戦える。

しかし、ここまで軽くあしらわれてしまっては……!

 

 

「待ちなさい!」

 

 

しかし、空から3人の女神が舞い降りてマジックの前に立ちはだかる。

 

「お姉ちゃん……」

「テメエ……よくもやりやがったな!」

 

ノワール、ブラン、ベールの3人が女神候補生の援軍にやってきた。

そして少し遅れてネプテューヌもその列に加わる。

 

「お姉ちゃん……」

「………」

 

「ふっ、誰かと思えば負け犬どもか……」

「ああん?」

「あの時とは状況が違う……今度は負けないわ」

「覚悟するのは、アナタではなくて?」

 

4人が武器を構え、マジックの相対する。

 

「………まあ良い、また捕らえてもいいが……2、3人殺しても……問題はないだろう」

「舐められたものね!」

「ぶっ殺してやる……!」

 

ノワールとブランが武器を持ってマジックに向かおうとしたその瞬間、2人の前にビームが落ちてその勢いを止める。

 

「っ!?」

「何者だ!?」

 

撃ったのはマジックではない。

その、はるか後方。

 

「釣られたか……女神を傷つければ出てくると思ったぞ」

 

赤、青、白の装甲に身を包んだ機体が赤い翼を広げて向かっている。

そして背中に装備した長いビーム砲をマジックに向けた。

 

「ふんっ」

 

マジックが飛び上がるとそこをビームがなぎ払い、地面に大きな溝を作る。

そしてそこに機体は舞い降りた。

機体の名はデスティニー。デスティニーガンダム。

今、その機体はまるで血の涙を流したような顔をして……。

 

「み、ミズキさん……」

 

《……みんな、怪我はない?》

 

「は、はい……けど……」

 

《ごめんね、ネプテューヌ》

 

「………っ」

 

《もう会わないって言ったのに……ごめん》

 

「おい、待てよ。なんで邪魔したんだ?」

「私達を心配するのはわかるけど、ちょっと乱暴だったんじゃないの?」

 

ノワールとブランが突っかかる。

それは紛うことなき、不信の現れ。

けど、ミズキももう、そんな反応をされることは……予想していた。

デスティニーはそれを無視してマジックの方を向く。

 

「おい、無視すんな!」

 

 

 

《待たせたね。遅くなった。だから……もう……引っ込んでてよ》

 

 

 

「な………!」

 

ブランが絶句して言葉を失う。

言い返そうと口が開く前にミズキは畳み掛ける。

 

《邪魔なんだ、弱くて。せめて足でまといにならないで。それくらい出来るでしょ?》

「ちょっと、それはあんまりですわよ。言っていいことと悪いことが……」

 

肩を掴んだベールの手を弾いた。

 

《裏切り者とか嘘つきとか……好き勝手言って》

「っ………」

「裏切り者?いったいなんの……」

《嘘をついたのも、裏切ったのも……君達のクセに!》

 

デスティニーのアイカメラの光がベールを射抜く。

何故かその眼光にベールは何も言い返せない。

 

《やめてよ……もう、やめてよ……!みんながあの時と同じ、優しいみんなだってわかってるよ!分かってるけど!僕のことを覚えていないのは……それじゃもう、君達は……僕の知ってる君達じゃない!》

「…………」

《そんな知らぬ存ぜぬって……!……わかってたよ、そんな顔されることも……!》

 

ミズキがベールの肩を押して退けた。

ベールは少しふらついて戸惑った顔をする。

 

《もう、君達に僕は必要ないんだろ……!?あの時の約束も、誓いも、忘れる程度のものだったんだろ!?》

 

「おい、何を話している」

 

「……!」

 

気がつけばデスティニーの周りをドラグーンが女神ごと包囲していた。

しかし、デスティニーは女神を押しのけて背中の対艦刀……アロンダイトを抜いて、一閃。

 

「な………!」

 

ドラグーンは全て切り落とされた。

誰も反応できない、体の大きさほどもある大剣を目にも見えない速度でデスティニーは振り回して見せたのだ。

 

《どいてよ……僕に、近寄るつもりだったら……巻き添えを食らっても、文句言わないでよね》

 

デスティニーがアロンダイトを構え、赤い翼を広げた。

そこから虹色の光の翼膜が展開した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『ヒッ、ヒーーヒヒヒヒヒッ!!』

 

『アナタの中に植え付けられた絶望はまだ形を残している。赤黒い、私の色で!』

 

『その、絶望は……きっと壊してしまう!』

 

『耐えられるかしら?私の……絶望の罠に!ヒーーヒヒヒヒヒヒヒッ!!』





こういう役はホントデスティニーの出番。ごめんねデスティニー。でもなんかこう、デスティニーって激情が現れる感じだったからさ…シン然りね…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

身を締め付ける切なさの中で

デスティニーの光の翼が開き、その美しさが女神を魅了させる。

しかし、その翼で羽ばたく者は……あまりにも悲しい。

 

《これで叩き切る……!》

「み、ミズキさんっ!」

 

ネプギアの制止も聞かず、デスティニーが羽ばたいた。

 

「な……!」

 

すると、デスティニーが羽ばたく度に残像が残るではないか。

マジックの目にはデスティニーが何機もこちらに向かっているように見えた。

 

《はあああっ!》

「しかし……見えている!」

 

しかし、マジックにもSEEDがある。

本当のデスティニーを見極めてアロンダイトと鎌で鍔迫り合う。

 

(まんまと策にはまったか……!今や、女神とコイツの信頼関係は崩れ去った……!)

《君が、どんな小細工を弄しようと……策を練ろうと……!》

「っ、ぐうっ!?」

 

デスティニーが足でマジックを思い切り蹴飛ばす。

 

《悪いけど……八つ当たりさせてもらうよ》

 

デスティニーの背中の左側、そこに装備されているのは高エネルギー長射程ビーム砲。

そこから放たれる陽電子のビームがマジックを狙う。

 

「っ……当たりはしないが……メチャクチャだな」

 

それをマジックは地を滑るようにかわすが、マジックの逃げた痕跡を残すようにビームが地面に傷をつけていく。

 

《デスティニーなら……こういう戦い方も出来るんだ!》

 

さらにデスティニーが片手にビームライフルを構えて高エネルギー長射程ビーム砲で照射するのと同時に速射する。

 

「ふん、この程度……!」

 

マジックは避けきれないものの、ビームライフルの弾丸程度は鎌で弾いて見せる。

そして反撃すべく飛び上がってミズキと同じ高度まで飛翔した。

 

《今だ……!》

 

デスティニーは素早く武器をしまい、両肩に装備されたフラッシュエッジ2を引き抜いた。

 

《せいぜい、耐えてみせろよ……君程度、倒すのなんてわけないんだ!》

 

光の翼でマジックに接近し、ビームサーベルにしたフラッシュエッジ2で連続で斬撃を加えていく。

 

「ぬっ、くっ……!」

 

《もう傷つけさせない……!それだけは、果たす!離れても、知らなくても、それだけを果たしてみせる……それが……!》

 

フラッシュエッジ2の斬撃に押されたマジックがたまらず後退する。

そこにフラッシュエッジ2を投げつけた。

フラッシュエッジ2はビームブーメラン。高速で回転しながらフラッシュエッジ2はビームの円盤となってマジックに向かう。

 

「チッ!」

 

2つのフラッシュエッジ2を弾いたマジックだったが、次の瞬間背筋に氷柱を入れられたような感覚がマジックを襲う。

 

……デスティニーの顔が鼻先まで近付いている。

 

「なっ……!」

《それが、僕だから……!》

 

アロンダイトが容赦なく、マジックの肩に振り下ろされた。

 

「ぐああっ!」

 

マジックはそのまま地面に叩きつけられる。

 

《はっ、はっ、はっ、はっ……》

 

 

「………強い、ですわね」

「……強さは認めるがよ、あんなヤツだとは思わなかったぜ。泣いて謝るんだったら、許してやってもいいけどよ」

 

「違うよ、お姉ちゃん……!」

 

ロムとラムがフラフラしながら立ち上がって傷を抑えながらブランに駆け寄る。

 

「謝らなきゃいけないのは、私達よ!」

「……ラム?」

「ずっと忘れてたから……!謝らなきゃいけないじゃない!助けてくれたんだから、ありがとうって、言わなきゃいけないじゃない!」

「そりゃ、私達を助けてくれたのはありがたいけどよ……」

「ううっ……ひぅ……やだ、いや……!」

「ロム?」

 

ロムが崩れ落ちて頭を抑えて泣き出した。

ブランが心配して駆け寄る。

 

「どうした、痛いのか?」

「違う……悲しい、よ……!」

「悲しい?」

「泣いてるよ……!執事さん、泣いてる……!思い出してもらいたくて……でも、ひどいこと言われて……ひどいこと言い返しちゃって……!」

 

ロムの目から大粒の涙が溢れ出して止まらない。

 

「伝わるの……!胸が、痛い……痛いの……!」

「ロム……」

 

 

《まだ死んだわけないよね……?》

 

マジックが落ちた場所に呼びかけるが返事はない。

デスティニーは高エネルギー長射程ビーム砲を構えた。

 

《っ!》

 

マジックがいた場所にためらいなくビームを撃ち込むと、煙の中からマジックが飛び出した。

 

「殺す……!」

《こっちのセリフだッ!》

 

鎌とアロンダイトが再びぶつかり合う。

 

「よくも、よくも……!私を地に沈ませたな……!」

《腸が煮えくり返ってるのはこっちだ!みんなを傷つけておいて……苦しめて……!》

 

 

その瞬間、黙っていたネプテューヌの頭に不思議な感覚がした。

 

「っ、ダメ!」

「お姉、ちゃん……?」

「今すぐ、あの戦いをやめさせなきゃ!」

「どうしたのよ、ネプテューヌ。急にそんな……放っておけばいいでしょ?」

「ダメなの!嫌な予感がしたの……あのまま戦ったら!」

 

 

《許すもんかァァァァァッ!!》

 

「ダメぇぇぇっ!」

 

パリィィ………ィ……ン………!

 

ミズキのSEEDが発現した。

 

《っ!》

 

光の翼が出力をあげ、マジックを押し切る。

 

「ぐ、ぐ……!私が、押されて……!」

《アアアアッ!》

 

渾身の力でアロンダイトが下に振られ、マジックが地面に叩きつけられた。

 

「ぐ……はっ……」

 

地面にバウンドしたマジックの上にデスティニーが迫っている。

 

《はあっ!》

「ぐあっ!」

 

さらにアロンダイトを叩きつけ、まるでバスケットボールのドリブルのようにマジックを何度も何度も地面に叩きつけていく。

 

「図に……乗るなァァッ!」

 

マジックも余裕を無くし、途中でデスティニーのアロンダイトを受け止める。

 

《ふっ!》

「ぐ……!」

 

お互いに力を込めて膠着状態に陥る。

 

《ははっ、ははははっ……!僕はバカみたいだろ……?そうだろ、マジックゥッ!》

「黙れ!」

 

足にビームサーベルを展開し、マジックが蹴りかかる。

しかし、デスティニーは肘でその足を叩き落とした。

 

「ぐあっ!」

 

悶絶したマジックの顔を拳で殴りつける!

 

「ぐおおっ!」

 

マジックが地面を転がって岩にぶつかり、そこでようやく勢いが殺される。

 

《思い出してもらいたくて……!みんなの前に出れたのを、影から助けてさ……!結局みんなは、最後まで思い出さないままだった!》

「ぐ……く……!」

《ネプテューヌ達に至っては……ははっ、僕の顔を見ても、なにも思い出しやしない!》

 

マジックが鎌を杖にして立ち上がる。

 

《信じてたのに……信じてたのに!信じてた僕が、バカだったんだろ!?》

「この……!」

 

マジックの周りに火球が生まれた。

近接戦では敵わないと見て、魔法に戦略をスイッチしたのだ。

 

「死ね!」

 

いくつもの火球がとんでいく。

しかし、デスティニーはその全てをバリアを展開して裏拳で叩き落とした。

 

《………》

「あ、悪魔か……!」

《せめて、せめて……!信じられていなくても!今でも君達を信じてる、僕からの手向けだ……!》

 

アロンダイトを構えたデスティニーが再度、光の翼を展開した。

 

《もう、みんなが……戦わなくていいようにする!》

 

 

「うぅ……あぁ………!ダメ、ダメ……!お姉ちゃん、執事さんを止めて……っ!」

「けどよ、ロム……」

「私達、洗脳なんかされてないわよ!?あの人の言ってること、全部本当なの!ビフロンスってヤツが、全部悪いの!」

「それはわかって……」

「わかってないわよっ!」

 

ついにはラムまで涙を流し始めた。

 

「なんでわからないのっ!?執事さんだよ!ミズキさんなんだよ!?」

「だけど……」

「お姉ちゃんっ!」

 

「お姉ちゃん、お願い、ミズキを助けてあげて!」

「ユニ……アナタもアイツを擁護するの?」

「お姉ちゃん……!」

「この際だからはっきり言うけど、私、アイツを信じきれてないわ。だってそうじゃない、なんでアナタ達はそこまでアイツを信じられるの?」

「っ、お姉ちゃんのバカァッ!そんなお姉ちゃんなんて……お姉ちゃんなんて……!」

 

ユニが一瞬躊躇って……しかし、はっきりとその言葉を告げた。

 

 

「お姉ちゃんなんて、大ッ嫌い!」

 

 

「っ……」

 

ユニがロムとラムの手を掴んだ。

 

「私達だけでも、行くわよ!」

「ユニちゃん……」

「放っておけないでしょ!?もう、お姉ちゃんは頼りにならないんだから!」

「……うん!」

 

しかし、そんな3人の足元にビームが落ちた。

 

「っ、ミズキさん!」

《……来るな……!》

「でも……!」

《来るなって言ってるんだよ!》

 

それだけ言ってデスティニーは再びマジックへと飛翔した。

 

「………そん、な……」

 

ユニがガクリと膝をついた。

 

「もう、ダメなの……?」

「……これでわかったでしょ、ユニ。アイツとの戯言はもうやめなさい」

「違う……違うの、お姉ちゃん……!違う、のに……っ!」

 

デスティニーのフラッシュエッジ2がマジックの腕をかすめる。

 

(確かに私の手術はまだ未完成だ……!だが……!)

 

《があああっ!》

「ぐ……!」

 

(ここまで押されるものなのか……!?)

 

 

「あの方……普通ではありませんわね」

「え……?」

「そうね。ドーピングしてる。……反動があるタイプのね」

「そんな……!」

 

ネプギアがベールとノワールに駆け寄った。

 

「ど、ドーピングって……!」

「仮定の域をでないけど……十中八九、何かしらの手段で自分を強化していると、私は見ましたわ」

「じゃあ、なおさら止めなきゃいけないじゃないですか!」

「やめときなさい。撃たれたくなかったらね」

「っ……!」

 

 

そしてその考察は間違っていなかった。

 

《ぐ……!?》

 

マジックを追い詰めるデスティニーの動きが急に鈍った。

 

「っ、好機!」

《うわああっ!》

 

その一瞬を狙ってマジックの一撃がデスティニーに当たり、デスティニーが地面に叩きつけられる。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……!」

《が……!う、ぐ、ぐああっ!うぐ……!》

 

だがデスティニーはすぐに立ち上がらずに地面でのたうち回って苦しんでいる。

そしてついに変身が解けてしまった。

 

「ミズキさん……!?」

「う、ガフッ!」

 

ミズキの口からまるでバケツをひっくり返したような血が飛び出した。

 

「うえっ、がっ、ゲフッゲフッ!うご、ガアアッ!」

 

それを見て女神のみならず、マジックまでもが言葉を失う。

 

「ミズキ!アナタやっぱり、傷が治ってないじゃない!」

「お姉ちゃん、傷って……!?」

「あ……」

 

ネプテューヌがしまったというふうに口を塞ぐ。

 

「傷ってなんなの、お姉ちゃん!」

「……ミズキは、ちょっと前にも血を吐いて……検査では問題ないって言われてるけど、多分、体の中は……」

「え……っ!?」

 

《くそっ、言うこと聞けよ……!こんなんじゃ……こんなんじゃ、みんなを守れやしないだろっ!?》

 

ミズキが体を震わせながら立ち上がり、次元の向こうから注射器を取り出した。

 

《うっ……!く、く………!》

 

そして思いっきりそれを首に突き刺し、その中の液体がミズキの中に注がれていく。

 

《変、身………っ!》

 

再びミズキの体が光に包まれ、デスティニーガンダムへと姿を変える。

 

《う……!う、お、アアアアアアッ!》

 

「………!」

 

ネプギアが涙を流して口を手で塞ぐ。

もう、見てられない。

 

「このままじゃ……このままじゃ、ミズキさんが死んじゃう!」

「あっ、ネプギア!」

 

ネプギアが飛び出してデスティニーの前に立ちはだかった。

 

「ダメ、ミズキさん!もう、これ以上戦ったら……!」

《どいて、ネプギア……!もう、君達を……!》

「っ、いつまでも守られるままじゃないですよ!もう私達だって、守れるように……!」

《目に焼き付けておいて……守るってこういうことだ》

 

デスティニーが優しくネプギアの頭に手を置く。

 

《目に焼き付けておいて……!神様になるってことは、こういうことだ!》

 

デスティニーが光の翼を広げて飛び上がる。

 

「違い、ますよ、ミズキさん……!」

 

ネプギアは号泣しながら今も戦うデスティニーを見る。

 

「そんな、自分の身を犠牲にして誰かを守るなんて……間違ってますよ、ミズキさぁんっ!」

 

 

「ほう、私にも勝機が見えてきたようだな……!」

《アアアアアアアアア!!》

「一体いつまで体が持つかな……!?」

 

マジックは時間を稼ぎ、逃げ回りながらデスティニーと戦う。

 

(存在したのに、誰も覚えていない過去と……!)

 

デスティニーが必死にマジックへと追いすがる。

 

(存在しないはずなのに、生まれてしまった今と……!)

 

《どっちが、真実なんだよォォォッ!!》

 

狂ってしまった運命。

もう、この掌は……今を掴むことしかできない。過去を掴むことは、できやしない。

この掌からすり抜けてしまったから……。

 

《結局同じだよ!あの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時も………!》

 

「なっ!?」

 

さらに一段階デスティニーが加速した。

 

《どれだけ守ろうとしたって……僕の手の中からすり抜けていくじゃないか!》

 

デスティニーのアロンダイトがマジックを叩きつける。

 

「ぐうう……!」

 

《僕が守れなかったのは……あの時の、みんなだ!》

 

あの時のミズキが知っていたみんなは……もう、死んだようなものだ。

 

《せめて、せめて……残ったみんなが、幸せに、笑える、よう、に……!》

「っ、そこだ!」

 

デスティニーの動きが狂ったのをマジックは見逃さない。

 

《全てを奪われる運命なら、何を信じて前に進めばいい⁉︎》

「ぬああっ!」

 

マジックの鎌がデスティニーを吹き飛ばす。そしてアロンダイトも吹き飛ばされてしまう。

 

《崩れたこの世界の果てに何がある……何を見る、何を感じる⁉︎》

「今こそ、アポカリプス……!」

 

デスティニーはそれでもマジックに接近しようとする。

マジックは素早く必殺技の準備を整える。

 

「ノヴァァァァッ!」

《っ………!》

「ミズキっ!」

 

マジックの必殺の斬撃がデスティニーを襲う。

その瞬間、デスティニーのVPS装甲がダウンし、残る全ての電力がデスティニーの脇腹、その一点に注がれた!

 

「バカな……!」

 

マジックの鎌がVPS装甲に弾かれた。

そしてマジックは気付く。

デスティニーの掌が光っていることにーーーー!

 

キン………ッ………!

 

「ーーーー」

 

デスティニーに顔面を掴まれたマジックの両手両足が力なく垂れ下がる。

そしてマジックの鎌も地面に落ちて音を立てた。

 

《……………》

 

「勝っ……た………の……?」

 

ネプテューヌ達がデスティニーに目線を向ける。

戦いは終わった、果たして彼はどうするつもりなのか。

……いや、どうするもこうするもない。

 

まだ戦いは終わっていないのだから。

 

《…………》

「ーーーー!」

 

恐らくは気絶しているであろうマジックの顔に再びパルマフィオキーナが叩き込まれた。

さらにもう1発、2発、3発、4発……。

 

「…………ダメ……もう、執事さんが……壊れちゃう……!」

 

《………まだ死んでないだろ》

 

パルマフィオキーナが撃ち込まれる度にマジックの体が力なく揺れる。

そしたデスティニーは白目を向いて気絶したマジックを地面に放り投げた。

 

「…………」

 

《お前が生きてたらみんなを傷つけるんだ……もう、そんなことは許さない》

 

デスティニーは地面に横たわるマジックに高エネルギー長射程ビーム砲を向けた。

そして引き金を引き、ビームをもう動かないマジックへと照射する。

 

《……うっ、げほ!》

 

しかし途中でその照射をやめてデスティニーがゆっくりと地上に降下する。

そしてまたデスティニーの変身が解けた。

 

「…………まだ」

 

まるで、獣だ。

 

「ははっ……この、胸に残る痛みも、さ……」

 

ミズキがゆっくりと倒れたマジックに向かって歩き出す。

 

「みんなといた証だって……全部、受け入れて……」

 

そして次元の穴からビームサーベルを引き抜いた。

 

「また、歩き出すからさ……」

 

そしてマジックの上にまたがる。

もう呻き声すらあげないマジック。

ビームサーベルを下に向け、両手で持つ。

あとは、このまま全力でマジックの胸にビームサーベルを振り下ろすだけ。

 

「だから……だから……」

 

ミズキの目から涙がこぼれた。

 

 

「だから……なんだろう………」

 

 

ミズキが腕に力を入れた。

 

「やらせぇぇぇぇんっ!」

「っ……ぐ……あっ!」

 

ミズキが巨大な足に蹴飛ばされた。

完全に不意打ちをくらったミズキはゴロゴロと転がって女神達の近くまで転がった。

 

「み、ミズキさんっ!」

「あ……く……!」

 

女神候補生が駆け寄るが、女神は遠巻きに見るだけ。

その時、女神候補生はミズキの体を見た。

 

「………っ!」

 

腕の皮膚はバキバキにひび割れて血を吹き出している上にところどころは死んだような色をしている。壊死しているのだ。

これはサテライトキャノンの発射を助けた時の傷。

 

「これ……私達の……!?」

「やだ、執事さん……!」

 

そして胸からは血が滲み出てシャツを赤く染めていた。いや、染めるほど血液は少なくない。溢れている。大出血がミズキの胸の傷が開いて起こっている。

これはユニとネプギアを助けた時の傷。

 

「これ……ブレイブの時の……!」

「こん、な……!」

 

「ひでえ……」

「これ、は……助かるの?」

「もう、手遅れのように見えますわ……」

 

「かは……!誰、だ……」

 

「俺だ、ミズキ……」

 

そこに立っていたのはブレイブ・ザ・ハード。

そしてトリック・ザ・ハードも隣に立っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイ・ビリーブ

「こんな卑怯な作戦……俺を利用したことを問い詰めたいところだが……今はそれどころではあるまい」

 

ブレイブがマジックを守るように剣を引き抜いた。

 

「トリック、マジックを連れていけ。ここは俺に任せてもらおう!」

「そ、それは構わんが……」

「問題は無い。犯罪神様からいただいた新たな剣がある……!」

 

トリックが倒れたマジックを持ち上げて去っていく。

 

「待て……待てよ……ソイツを、殺してやらなきゃ……みんなが、傷つく……!」

「……もう、死んだ方がマシだという顔をしているな」

 

ミズキは起き上がって膝をついた。

 

「ミズキさんっ、もう動かないで!死んじゃう!」

「……死んでも、構わない……」

「っ!」

 

ミズキが新たな注射器を持ち出して、それを腕に突き刺す。

 

「う、お、お………っ!」

「………見てられん……」

「ガ、ガ、ゴオ、オオオオオオ………!」

「野獣の方がまだマシだ!」

 

ミズキの体の血管が盛り上がり、傷を強制的に塞いで治していく。しかしそんな荒療治、今現在を戦わせてくれるだけのものに過ぎない。

 

「……うっ……ううっ………!」

「ネプテューヌ?……アナタ、泣いてるの?」

 

ネプテューヌがその姿を見て涙を流し始めた。

 

「嘘泣きしたってアイツは止まらねえぞ」

「確かに、見てられないものはありますけど……」

「嘘……嘘じゃ、ないっ!自分の涙の意味がわからない!」

 

ネプテューヌが駄々をこねるように首を横に振って涙を散らす。

 

「なんで……彼の、ミズキの感情が痛いほど伝わるの!」

 

叫ぶミズキの目から血が流れ落ちた。

血管が破れ、体から血が吹き出す。

 

「苦しい……!痛い……!守りたい……!死なせない……!許さない……!許して……!」

 

ネプテューヌがミズキの感情を代弁するように言葉を吐き出していく。

 

「抱きしめて……!行かないで……!一緒にいて……!もう、何処にも行って欲しくない……!」

「ネプテューヌ……」

「っ、信じて欲しい……思い出してほしい……!」

 

「ーーーーーーーー!!」

 

ミズキがデスティニーへの変身を遂げる。

そして女神候補生の手を振りきって駆け出した。

 

「っ、バカが!」

 

しかし、ブレイブの剣に弾き飛ばされた。

ミズキは剣を振らないし銃も手に取らない。

 

もう、意識はあるのか、目は見えているのか、耳は聞こえているのか……?

 

《ネプテューヌ………》

 

しかしデスティニーはまた立ち上がる。

 

《ノワール………》

 

ミズキを動かしているのは、信じたいと思う気持ち。

 

《ブラン………》

 

守ると決めた約束。

 

《ベール……》

 

ゆっくりとデスティニーは歩き出す。

 

「お前は……!」

 

しかしまたブレイブに弾き返された。

ゴロゴロと転がったデスティニーはしかし、何度でも立ち上がる。

 

《ネプギア………》

 

1歩、また1歩。

 

《ユニ………》

 

そして手を伸ばす。

 

《ロム………》

 

また弾き返される。

 

《ラム………》

 

 

それでもミズキは立ち上がる。

もう、失わないために……守りきる為に。

 

《みんなの……声を……探していた……》

 

「ううっ、ミズキっ!」

 

ネプテューヌの声にデスティニーが足を止めて振り返る。

 

「本当に……本当に、裏切ったのっ!?」

 

ネプテューヌとデスティニーがほんの少し見つめ合う。

ネプテューヌにはデスティニーの仮面の上に微笑んだミズキの顔が重なる。

その顔は優しく、そんなわけないでしょ、と言っているようだ。

 

「おい、そろそろガチで止めに行くぞ」

「そうね、さすがに目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いわ」

「世話が焼けること」

 

3人が飛んでデスティニーの体を支える。

 

「ちょっと、もうやめなさい。いろいろ言われたのは許すからいい加減……」

《あ、あ……来てくれた、んだね……》

 

しかしデスティニーは何も無いところを見つめてまた先に足を進める。

 

《けど……大丈夫……もう、負けない、から……》

「おい、おい!聞こえてんのか!?」

 

「もう、離してやれ……」

 

ブレイブが優しい声音で女神達を諭す。

 

「お前達がコイツをこんなにさせたのだ……お前達がこの男を殺したんだぞ……」

 

《信じてたよ……僕のこと、思い出してくれるって……》

 

「もう、見えていない……聞こえていないのですか……?」

 

「気力だけだ……いや、それもとっくに尽きている……お前達を守りたいと、それだけが……コイツを動かしている……壊れた人形のようだ」

 

デスティニーの変身も解け、その場には血だらけのミズキが満足気な顔をして3人の女神に支えられていた。

 

「せめて、このまま……お前達に寄り添われていると……その幻想を抱いたまま、殺してやる」

 

ブレイブが剣を振り上げたが、誰もそれを止めようとしない。

この場には2種類の人間がいた。

間違いに気づいていない人達。

間違いに気づいて……もう、手遅れだと諦めた人達。

 

「お前との決闘がこんな形で終わるとは……思いもしなかったよ」

 

ブンとブレイブの剣がミズキに振り下ろされた。

 

 

 

 

「ただい………ま……」

 

 

 

 

 

 

 

ガン!

 

 

 

 

 

 

 

「………っ……!」

「な……!」

 

ブレイブの剣が受け止められていた。

剣を受け止めていたのはネプテューヌ。目に涙を流しながらブレイブの剣を押しとどめている。

 

「信じた………!」

「なに……?」

 

ネプテューヌがブレイブの剣を弾き飛ばす。

そして後ろを向いてミズキを抱きしめた。

 

「ごめん、ミズキ!もう何も覚えていないけど……信じる!信じるから……!」

「………」

「死なないで……っ!」

 

その時、ミズキの背中から小さな小さなシェアクリスタルが現れた。

それが小さな音を立て、割れる。

 

「ぬ………!」

 

そこから眩い光が溢れ出す。

小さく、それでも暖かい光の粒子がその場を包み込み……さらにギョウカイ墓場を包み込んでいく。

 

「な、なんだ、これは……!」

 

その場にいる全員が光の中に吸い込まれる。

その中には別世界が広がっていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『う、うわあああああっ!うぐ、うあああああっ!ううっ、うううっ!』

 

光の中にとある光景が広がる。

膝をつき、号泣するミズキだ。

 

『何してんだよ、僕は!みんなが捕まった、なんて……!僕は、僕は……っ!何をしていたんだよっ、何を!』

 

激しい後悔が身を焼く。

そしてそのまま、泣いたまま……苛まれたままミズキは立ち上がる。

 

『………待ってて、みんな……!』

 

そして拳を空間の壁に打ち付けた。

 

『助けに行くから……絶対に!』

 

 

そして光景が消えていく。

今度は後ろから声が聞こえ、それに振り向く。

 

『ネプギアが帰ってきた……んだ……!みんなも生きてる……!』

 

ミズキが涙で顔をクシャクシャにしている。

 

『こんなに……!こんなに嬉しいことは無い……!良かった、良かった……!』

 

 

そして今度は横から。

 

『良かった……助けられたんだ……助けられたんだ!もう離さない……もう、傷つけさせない!』

 

自分の部屋で嬉し涙を流すミズキ。

そしてそれからしばらくミズキの女神と再会してから今までの風景が映る。

些細なことが……教会をネプテューヌが歩いていることが、至上の喜びだった。ここにいる、そして話してくれる、それが嬉しかった。

いつか記憶を取り戻して、微笑んでくれると信じてた。

 

『触らないでっ!』

 

手を弾かれた。

また、別れの時が来た。

安らぎの時はいつも長くは続かない。

 

『……それでも、だとしても……』

 

ミズキは涙を拭う。

 

『もう、失いたくないから……』

 

そして立ち上がる。

 

『みんなが、笑って、生きて……!その輪の中に僕がいなくても……!』

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「今の、は………」

 

ブレイブは気がつけば地面に横たわっていた。光の粒子に吹き飛ばされたのか、しかし体に痛みはない。

そして、あの光景は……。

 

「……ヤツの生きる理由、か……」

 

ブレイブが目を向けた先にはしゃがみこんでミズキを抱きしめるネプテューヌ。

その目からは涙が溢れだして、ミズキの背中を優しく撫でている。

 

「ごめん、ごめんね、ミズキ……!思い出したから……!ひどい事言って、ごめん……傷付けて、ごめんね……!」

 

そしてその周りには3人の女神が目を虚ろにして立ちすくしている。

その目から涙をこぼれ落ちた。

 

「………私、私、何を!?」

 

ノワールが最初に自分の体を抱いて崩れ落ちた。その体が震えている。

 

「当たり前、当たり前じゃない……!ミズキはそうよ、大切な人で……それで……!」

 

「ウソ、だろ、おい。死んだわけじゃ、ないよな……?」

 

ブランはミズキの体を激しく揺さぶった。

 

「このままお別れなんかじゃ、ねえよなっ!?おい!?」

 

ミズキの息はある。か細く、虫のようだけれど、ある。

流れ落ちた血は地面を水たまりにしてネプテューヌの体を赤く染めるものの……ある。

 

「何故、そんな顔を……できるのですか……」

 

ベールが数歩後退りする。

 

「そんな安らかな顔を、何故……っ!?」

 

「お姉ちゃん……思い出したんだ……」

「今のが、ミズキさんの記憶……」

「……執事さん、良かった……」

「暖かい気持ちになってる……静かで、優しい気持ちに……」

 

まるで母に抱かれる子供のよう。

ミズキはそんな顔で気絶してしまっている。

 

「………何処へでもいけ」

 

ブレイブが女神達に告げる。

 

「もう、誰もが戦う気分ではあるまい。……そんなヤツの眠りを妨げるわけにはいかん」

 

そして振り返った。

 

「せいぜい、止めてみろ。……リーンボックスが危ないぞ」

 

その一言に女神候補生達が脅威を思い出す。

そうだ、巨大なモビルスーツがリーンボックスに向かっているのだ。

 

「お姉ちゃん……」

 

「……ごめんね、ネプギア……アナタに幻滅されても仕方のないことをしたわ……」

 

ネプテューヌと3人の女神が暗く沈んだ顔で宙に浮いた。

 

「必ず、命は繋げるわ。……リーンボックスをお願い」

 

ネプテューヌがミズキを抱いて空へ飛んだ。

残った3人の女神も女神候補生を見る。

 

「……女神失格ね。いや……こんなんじゃ……前と同じ、友達失格よ……姉として、最低だった」

 

ノワールがネプテューヌを追って空へ飛んだ。

 

「許してもらうつもりは無い。……それだけのことを私はした。……してしまった」

 

ブランもロムとラムの目を見れない。

同じく空へ消えていく。

 

「……ごめんなさい。それしか……言えませんわ」

 

ベールも空へ消えていった。

 

残された4人の女神候補生は目を合わせた。

 

「……私も、謝らなきゃ。ひどいこと言ったのは同じだし……」

「うん。……仕方ない、ことだし……」

「私達がするのは、国を守ることね!」

「……うん。きっと、強敵だけど……!」

 

4人の女神候補生が手を重ねた。

 

「ミズキさんの……ミズキさんが、必死に守ろうとしてくれたんだ……!」

 

たとえ忘れられても、何を言われようと、何をされようと、諦めることは最後までしなかった。

守ることを、諦めはしなかった。何をしてでも、何を引換にしてでも、守ろうとしていた!

 

「行こう、みんな……!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《まったく、世話も手も焼ける……!》

 

プラネテューヌの病院の1つ、その手術室へとジャックの意識が埋め込まれた簡単なロボットが入っていく。

無菌なら何処でもいい、ただ1番近かったのがこの病院のこの部屋だっただけだ。

 

ジャックが手術室へ入り込むとそこには慌ただしく準備をする医師達の姿があった。

 

「き、君!勝手に入っては……!」

《国家権力を乱用させてもらう。どちらにせよ、お前達には傷の判断はできても治療はできん、どけ!》

 

既にデータは裏側から見させてもらって傷は把握済みだ。

頭痛がするほどの傷の量だったが。

 

《手術を開始する……》

 

手術室の周りの空間に次元の穴が開いてそこからいくつもの機械の腕が飛び出す。

 

《荒療治になるぞ!》

 

 

 

「何が、あったのですか……?」

 

イストワールの問に4人の女神は何も答えない。

 

「……いえ、聞く必要も無いですか……大体はわかります」

 

イストワールが目を伏せる。

4人の女神はそれぞれ地震が起こった後、教祖の命を受けてギョウカイ墓場に調査に向かった。

その場で女神候補生に出くわすとは思わなかったが……これは、幸か不幸か。

 

「ごめんね、いーすん。私……」

「謝るのは……まずは、ミズキさんにですよ。私達に謝るのはそれからで構いません」

「うん……」

「どうするおつもりですか?このままリーンボックスに向かうか、ミズキさんの傍にいるか……私には選ぶ権利はありません」

 

イストワールがモニターにリーンボックスの混乱の様子を映し出す。

そこには女神候補生4人が懸命に戦っている姿が中継されていた。

 

「……私はいきますわ」

 

全員がベールを向いた。

 

「私の国ですから。……ミズキ様が目覚める前に……終わらせて、また来るつもりです」

 

ベールは部屋を出て空へと飛び立っていく。

 

「……どうしますか?」

 

イストワールの問が3人の心を揺らした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月に叢雲、花に吹雪


叢雲とかないし花もない。月と吹雪くらいしかなかったけどいいよね。なんとなくカッコいいし。


4人が歩き出した巨大モビルスーツに追いつく。

しかし、そのモビルスーツが作り出した光景に唖然とする。

 

「なによ、これ……」

 

巨大モビルスーツーー顔はガンダムーーが打ち出すビームが森を焼き払い、山火事を起こしている。

夜中だというのに炎が天を照らして昼のように思える程だ。

 

「こんなのが街についたら……!」

「大変な被害が出るわ!」

「その前に止めなきゃ!」

 

その機体の名はデストロイガンダム。

デストロイは背中の円盤状バックパックから放つネフェルテムで森に火をつけている。

ネプギア達はその中をかいくぐりながらデストロイに接近していく。

 

「どうせ、こいつもまた人間の脳かなにかで動かしてるんでしょ!?」

 

ユニが気を引こうとX.M.Bを発射する。

するとそれに気がついたデストロイが振り返り、腕のビームシールドで受け止めた。

 

「この……!」

 

ユニがさらにビームを撃ち込もうとするとデストロイがユニに向けて両手の指を向けた。

するとデストロイと胸と口、そして両手の指先がスパークし始める。

 

「な、なに!?」

「ユニちゃん、よけて!」

 

指先のビームガン、そして胸部に3門搭載されたスーパースキュラ、口に装備されたツォーンmk2が同時に火を噴く!

 

「っ、くっ!」

 

ユニがギリギリでその網の中から逃げるものの、発射されたビームはそのまま森に火をつけてしまう。

 

「避けても被害が出るって、もうっ!」

「鎮火する……?」

「氷なら、被害は押されられるかもしれないけど……!」

「キリがないよ!まずは、アイツを倒してから!」

 

ネプギアがH-M.P.B.Lを放つ。

しかしデストロイの手の甲から発振される陽電子リフレクターはそれをいともたやすく弾いてしまう。

 

「H-M.P.B.Lの貫通力でも歯が立たないなんて!」

「これならどうよ!」

「私達の魔法で……!」

 

ロムとラムが杖の先に氷塊を作り出す。

 

「アイス……」

「コフィン!」

 

しかしデストロイはアイスコフィンもツォーンで割ってしまう。

 

「なによあの火力!おかしいでしょ!」

「このままじゃ、森が焼けちゃうよ……」

「近接戦闘なら……」

 

この場で近接戦闘を行えるのはネプギアくらいのものだ。

ラムも可能ではあるが、あの弾幕を避けきれるだけの機動性がないとデストロイに近寄ることすらできない。

 

「近接戦闘に入ります!援護してください!」

「オッケー!任せなさい!」

 

ネプギアがH-M.P.B.Lを構えてデストロイへと突進していく。

するとデストロイは両手首を切り離し、シュトゥルムファウストを使った。

 

「っ、あれ自体がファンネルなの!?」

 

手首自体が独立で飛行し、ネプギアを左右から指先から出るビームの網で妨害する。

 

「この、落ちなさい!」

 

ユニがそれに向けてビームを撃つが、シュトゥルムファウストの陽電子リフレクターに弾かれてダメージがない。

 

「ネプギアちゃん、あれ……!」

「……っ、もう1機……いや、2機!?」

 

遠方から接近してくる新たなデストロイにロムが気づいた。

2機は間が離れているものの……2機ないし3機なんて同時に相手していられない!

 

「どうすんのよ、ネプギア。2通りあるけど」

「2通り?」

「そう。4人で速攻で1機ずつ叩き落としていくのと、個人個人で1機ずつ相手にするのと」

 

増援が来る前に倒すか。

ネプギア、ユニ、ロムとラムで分担してそれぞれを相手するか。

前者は1人1人がやられる危険性が少ないが、壁が破られれば街に一気に被害が出る。

後者は1人やられてしまえば一気に窮地に陥るが、適当に時間を稼ぐだけでも街を守れる。

 

どうする……!?

 

「くっ!」

 

ネプギアがシュトゥルムファウストを避けながら考える。

 

「あんまり時間はないわよ!」

「サテライトキャノンは、1回が限界だし……!」

「でも、1人で相手して大丈夫……?」

 

ネプギアの頭が高速で回転する。

 

変わりはないのは、この状況では勝ち目が薄いということ。

どちらでも負ける危険性は非常に高い。

だからこそ……!

 

「聞きたいことがあります!」

 

ネプギアがビームを避けながら3人を見る。

 

「進化、できますか……!?」

「するしかないってんなら、してやるわよ!」

「了解、お任せ!」

「レベルは、充分……!」

 

「……じゃあ、各個撃破!信じてます!」

 

ユニとロムとラムがそれぞれのデストロイガンダムへと向かっていく。

そしてネプギアはデストロイガンダムに相対する。

 

「……ミズキさんが、守ろうとしたもの……」

 

ネプギアがH-M.P.B.Lの出力を最大にまで引き上げた。

 

「アナタ達に……壊させはしません!」

 

ネプギアのH-M.P.B.Lが最大出力で放たれた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ロムとラムが戦うデストロイガンダムは変形していた。

バックパックを機体上部にまで上げ、腰部を180度回転させ足を鳥のようにしている。

 

「アイツ……」

 

ラムが軽い魔法をデストロイに向かって放つと全身を覆う陽電子リフレクターに弾かれた。

 

「……全身バリア?」

「みたいだね……。どうする?撃っちゃう……?」

「また弾かれそうじゃない?」

「……うん………」

 

最近は無敵と思っていたサテライトキャノンが弾かれたため、なんだか自信がなくなる。

するとデストロイがロムとラムを見つけたのか、バックパックに装備された特大の陽電子砲、アウフプラール・ドライツェーンを向ける。

 

「アレは防ぎきれないよ……!」

「避けるわよ!」

 

2人が離れて陽電子砲を避ける。

空中に向けて飛んでいったからダメージはないものの、ネフェルテムが常に地面を焼き払っているために被害は増えていく一方だ。

 

「やっぱり、近接戦しかないわ!」

「ラムちゃんにできる……?」

「やるわ、やってみせる!」

 

ラムが杖の先を凍らせてデストロイに向かう。

ロムもそれを追ってデストロイに肉薄しようとするが、ネフェルテムの弾幕が厚すぎる。

 

「このーっ!」

 

さらにデストロイの背中からミサイルが発射され、ラムを襲う。

 

「うっくっ、きゃあっ!」

「ラムちゃん……!」

 

肩に被弾してしまった。

勢いを緩めたラムを追撃を食らわないようにロムがフォローして後退していく。

 

「大丈夫……?」

「大丈夫、だけど……」

 

今もなおデストロイは森を火に包んでいる。

ロムとラムの視界には逃げ惑う動物や弱いモンスターが写っていた。

 

「なんて、無力なのよ……!」

 

ラムが杖をぎゅうっと握りしめる。

 

「見てるだけなんて、嫌よ!私は!止めてみせるの!」

「うん……!一緒に強くなろう……?」

 

手を繋いだ2人がまたデストロイへと向かっていく。

 

「何回失敗しても、諦めてあげないんだから!」

「執事さんと同じ……!」

 

2人が杖の先にアイスコフィンを作り出してデストロイに撃ち出す。

いともたやすくアウフプラール・ドライツェーンで破壊されてしまうが、ロムとラムはその隙にアウフプラール・ドライツェーンの射角外の足元へ向かう。

 

「ここをくぐり抜ければ!」

 

ロムとラムがネフェルテムの網をくぐり抜け、足元へとたどり着いた。

 

「食らいなさい!」

 

ラムが杖の先を凍らせてハンマーのように尖らせる。

 

「やっちゃえ……!」

 

すかさずロムがラムのパワーをあげるサポート魔法を使う。

 

「ええーーいっ!」

 

ラムが全力でデストロイの足首を叩く!

 

……しかし、デストロイには傷一つつかない。

 

「硬……過ぎ……っ!」

「っ、ラムちゃん避けて……!」

 

思いっきり叩いたせいでラムの腕が痺れた。

デストロイは悶絶しているラムの上に足を構えた。

 

「うっ!」

 

ラムが踏みつけを避ける。

しかし、すかさずデストロイの足がサッカーのように振りかぶられた。

 

「うっ!……ぐ……っ!?」

「ラムちゃん……!」

 

ラムの腹に思いっきりデストロイのサッカーキックが直撃した。

 

「きゃああっ、うっ、あううっ!」

 

とんでもない距離を吹き飛ばされたラムがいくつかの木をなぎ倒しながら地面を転がって火の海に横たわる。

 

「ラムちゃん……!」

 

ロムがラムに寄ろうとするが、それをデストロイのミサイルランチャーが追う。

 

「うっ、う……!」

 

防御魔法で受け止めるが爆風でロムの体が激しく鞭打たれる。

そしてさらにデストロイはアウフプラール・ドライツェーンの照準を定めていた。

 

「っ、きゃああっ……!あっ!」

 

ロムもそれをガードしきれずに紙屑のように吹き飛ばされ、地面に横たわる。

 

「うっ、う……!」

「痛、い……!」

 

デストロイは2人が動かないのを見て、またネフェルテムで地面をなぎ払いながら先へ進む。

 

「な、何やってんのよ……」

「う、なにしてるの……!?」

「なに、先に行こうとしてんのよ!」

「諦めないって、言ったでしょ……!」

 

ロムとラムが渾身の力を込めて魔法を唱える。

するとデストロイの足のあたりの気温が急激に低くなっていく。

 

「えいっ!」

「やあっ……!」

 

2人の氷魔法が大地ごとデストロイの足を氷漬けにする。

たまらずデストロイは転倒してしまう。

 

《…………》

 

「ロムちゃん、アイツのコックピットどこ!?」

「………コックピット、ないよ……?」

「え?」

「コックピットあるの、ネプギアちゃんのだけ……。他は気配がしない……」

 

確かに、少なくともこの機体はシュトゥルムファウストを飛ばしてこない。アレを扱うには優秀な空間認識能力が必要なはず、それは機械にはできないはずだ。

 

「っ、ロムちゃん!」

 

デストロイが氷の足止めを突破し、変形して人型になって立ち上がった。

 

「もう、ミズキさんがいなくたって……戦えなきゃいけないの……!じゃないと……じゃないと……!」

「執事さんさえ、守れない!」

 

飛び上がったロムとラムに指先のビームガンが襲いかかる。

 

「アンタなんかに……アンタなんかに!」

 

ラムがロムのサポート魔法を受けて前に出る。

デストロイはビームを撃ちながら、その手をラムに向けて突き出してきた。

 

「っ、こんなの!」

 

ラムを握り潰そうとしてきたが、ラムはその指の間をすり抜けてデストロイに肉薄する。

 

「たああああっ!」

 

腕の上を走り、肩を超え、飛び上がる。

ツォーンがラムを狙っているが、そんなことには構わずラムが杖の先を凍らせた!

 

「そこっ!」

 

ラムがツォーン発射寸前の口元にハンマーを叩き込む。

 

《………》

 

「きゃあっ!」

 

デストロイのツォーンは暴発を起こし、爆発を起こす。その爆発に巻き込まれてラムは吹き飛ばされた。

しかしデストロイも頭自体はなくなっていないものの、ツォーンを潰されてしまい、体勢を崩す。

その足元にロムが回り込んでいる。

 

「もう1回、転んじゃえ……!」

 

再びロムが魔法で足を凍らせる。

すると足が地に貼り付けられたデストロイが姿勢を保てず崩れ落ちた。

 

《………》

 

「どうよ、これが私達の底力よ!」

「これでも無視して行ける……!?」

 

しかし、根本的な足止めにはならずにデストロイは再び氷を砕いて立ちあがる。

 

「やっとダメージ1ってところね!」

「このまま、押し切っちゃおう……!」

 

デストロイは再び体の全面の全てのビーム砲をスパークさせる。

そしてロムとラムに向かってそれを照射した。

 

 

ーーーー『Resolution』

 

 

「っ……見えるよ……」

 

しかしロムとラムはそれを鮮やかにかわしていく。

 

「不思議……なんだか、目をつぶってもいい気がするの……」

「ロムちゃん……?」

「ねえ、ロムちゃん……離れたくないね……」

 

ビームの照射を避けながらロムとラムが手を繋いだ。

そう、離れたくない、一緒にいたい。その気持ちでロムとラムは新たな変身を遂げることが出来たのだ。

 

「……今は、違う………」

「ロムちゃん……そうね!一緒にいるなんてモノじゃない!一緒にいるために、私達は強くなるんじゃないの!」

 

ロムとラムが杖を交差させ、新たな魔法をデストロイにぶつける。

 

『エターナルフォースブリザード!』

 

《………》

 

デストロイの体がバキバキに凍りついていき、氷と一体化して凍りつく。

しかしその巨体は包みきれず、せいぜい拘束具のようになっているに過ぎない。デストロイは抵抗して早くもそれを脱出しようとしている。

 

「私達は、繋がっていたいの……!」

「心も、体も深く深く!通じあっていたいの!」

「それを……引き裂こうとするなら……!」

「容赦はしないわ!私達が相手よ!」

 

ロムとラムの背中のプロセッサユニットが変化していく。

2人で1つだったサテライトキャノンは1人1人が背負うようになり、新たなプロセッサユニットも2人の背中に装着される。

それが早速展開され、デストロイに砲口が向けられる。

 

「私達に、力を……!」

 

2人の体が白い魔力に包み込まれる。

月からだけではない、焼かれた木の、燃えた動物達の最期の命の煌めきがロムとラムの体を白く白く染め上げていく。

 

「これは……怒りの感情……みんなが怒ってる……でも!」

「これは、正しい怒りなの!理不尽に立ち向かう力になる、必要な怒り!」

 

1つ1つはすぐに燃え尽きてしまうほどに小さく、けれどそれが集まって強大な魔力になっていく。

森を味方につけたロムとラムの体の節々から金色の輝きが弾けた。そして2人の背中のプロセッサユニットも金色に光り輝く!

 

《…………》

 

デストロイがそれを脅威と見たのか、2人へありったけのビームを注ぎ込む。

スーパースキュラとビームガンが動かない2人に向かって照射される。

しかし、それらは2人に届く前に渦巻く魔力の風に遮られ、霧散してしまう。

 

「…………」

「…………」

 

そしてロムとラムの周りを渦巻く巨大な魔力のハリケーンが小さな小さな砲塔の中へ集中していく。

不思議なほどの静けさの後、2人の背中を月が照らす。

 

「ツイン・アイシクルサテライトキャノン!」

「発射……っ!」

 

デストロイを軽く超えるほどの太さのツイン・アイシクルサテライトキャノンが放たれた。

その威力は単純に2倍というわけではない、3倍にも4倍にもその威力は跳ね上がっている。

 

《…………》

 

デストロイは陽電子リフレクターでそれを防御するも、圧倒的超低温の嵐に耐えられるはずもない。

デストロイの腕がピキピキと凍りついていく。

 

「今の……今の私達なら……きっとみんな、心の底で繋がれるはずなの……!」

「何も言わなくても伝わる、信じられるはずなの!」

 

デストロイの全身が凍りついていき、動きを止める。

絶対零度の攻撃は周囲との温度差で嵐を巻き起こし、雪と氷と雹が森を包む。

 

『………もう、邪魔しないで』

 

氷の城はデストロイを包んだ後、それもろとも砕け散る。

バラバラに砕けた氷は周囲の火を少しずつ沈下していく。

 

「力を貸してくれて、ありがと……」

「……助けてあげられなくて、ごめんね」

 

木も動物も何も応えはしない。

ただ月が栄光を称えるように2人を照らす。

この日、2人はほんの少しだけ大人になれた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝利の果てに

デストロイの陽電子リフレクターが全身を覆う。

ビームも実弾も通さない陽電子リフレクターはユニにとって絶望的なバリアだ。

 

「成長する、言葉にすればなんて簡単なのかしらね!」

 

いざこうしてデストロイの前に立つと手がかりすら掴めない。

 

何を、どうやって、どこへ、誰に!?

 

「………ダメ、自分で見つけなきゃ」

 

デストロイが放つ指先のビームガンを避けながらユニがX.M.Bを握り直す。

 

「教えてもらっちゃ、前と同じよ、ユニ。それはダメだって、少なくともそれはわかってるじゃない!」

 

誰かに教えてもらって、手助けしてもらって、それも大切だろう。自分が知らないこと、見えていないものを教えてくれるはずだ。

 

だが、しかし、それでも、それじゃ……!

 

「イヤだもの。……ワガママかもしれないけど、そんなこと言ってる場合じゃないかもしれないけど、それじゃ、勝てないのよ!」

 

ユニがX.M.Bから貫通弾を放つが、それでも陽電子リフレクターを貫通できない。

 

「実体弾でもダメか……!じゃあもう道は1つよ!」

 

信じて、任されたのだから。

それに応えられなくてどうする!?

 

「ゼロ距離で叩き込む……それだけ!」

 

ユニがデストロイに向かって飛ぶ。

変形したデストロイのネフェルテムを避けながら接近を試みるも、やはり弾幕が厚い。

 

(くそ、お姉ちゃんがここにいたら……!)

 

きっとあの弾幕の中、恐れずに前へ飛び出してあの巨大な装甲を切り裂いてくれるはずだ。

そしてもっと精進しなさいって、そう言って……。

 

「っ、あっ!」

 

ネフェルテムがユニを掠めた。

それを機にユニは首を振って意識を集中させる。

 

「集中しなきゃ……!」

 

飛翔して弾幕を避けつつ、デストロイにビームを撃ち込んでいく。

だがそれも陽電子リフレクターに弾かれて徒労に終わる。

 

「無駄、なの……!?」

 

頭の中に影がちらつく。

あの時に振り切ったはずの影がユニの前に立ちふさがる。

 

『…………』

 

影は振り返り、愛しい顔を見せる。

しかし、ノワールの顔は無表情でユニになにか問うているようでもあり、ただユニを見つめているだけのようにも見える。

 

「お姉ちゃんに、追いつく……違う!お姉ちゃんはそういうことを私に望んでるんじゃないの!」

 

X.M.Bのビーム・ジュッテを展開してユニがデストロイの周りを旋回する。

 

「どいて……お姉ちゃん!お姉ちゃんに出来ることは、私にできないんだから!だから、だから……!」

 

デストロイが人型に変形し、ユニに向かって指のビームガンを発射する。

 

「私は、私だけの輝きで!私だけの道を歩くの!」

 

ユニのビーム・ジュッテがデストロイの指の1本を断ち切った。

しかし、ユニはそこから離脱しきれない。

 

「うっ、あうっ!」

 

デストロイに握られた。

ギリギリとデストロイがユニの体を握りしめる。

 

「あ……ああっ………!」

 

そしてデストロイは拳を振り上げ、思いっきり地面に向けてユニを叩きつけた。

 

「うっ……あっ……!」

 

ユニが地面に叩きつけられてバウンドし、地面に倒れる。

プロセッサユニットはひび割れ、ユニはピクピクと動くだけだ。

 

(何やってんのよ、私は……!)

 

ノワールと違う道を歩むとか言っておきながら、無理な接近戦を仕掛けるだなんて。それは自分がノワールの影を振り切れていない証拠じゃないか。

 

(せっかく教えてもらったこと、助けてもらったこと、何も使いこなせてない……!)

 

ミズキさんが教えてくれたこと。

みんなに助けてもらったこと。

それを返すことが何ひとつ出来ていない。まるで、それらすべては無駄だったのだと言うように。

 

デストロイが左手を握り、天高く掲げる。

 

ひたむきな心と負けん気だとか、私だけの輝きだとか、何もかもか無駄に……。

 

そしてデストロイが拳を振り下ろす。

その瞬間、ユニが息を吹き返してX.M.Bを空に向けた。

 

 

 

「ふっ……ざけないでよぉぉぉぉぉッ!」

 

 

 

ユニのX.M.Bのビームがデストロイの拳に向かって放たれる!

 

《…………》

 

「無駄に……するかどうかは、私次第なのよ!そうでしょ!?」

 

デストロイの拳がビームに射抜かれ、そのまま肘までビームが突き抜ける。デストロイの左手は爆発を起こして四散した。

 

「ああ、そうよ!全然弱いわよ!お姉ちゃんに勝てないし、それどころかこの中でも最弱かもしれないわよ!けどね!けどね……!」

 

ユニがX.M.Bをデストロイの顔に向ける。

 

「あの人の……あの人が、成そうとしたこと!やり遂げたこと……残してくれたこと!それだけは、無駄にしてたまるもんですかっ!」

 

デストロイが残った右手でX.M.Bをガードする。しかし、その勢いは片手だけでは受け止めきれず、ビームは貫通しなかったもののデストロイを後ろに倒す。

 

「今こそ、前に進むわよ……!負けられない、負けられないの!」

 

デストロイが立ち上がるのと同時にユニが飛び上がる。

そしてデストロイのスキュラとX.M.Bがぶつかり合い、相殺する。

 

「勝ちたい、勝ちたいのよ……けど、それじゃできないこともあるの!」

 

飛んできたデストロイのミサイルを散弾で撃ち落とす。

そしてビームガンを避けながらユニは息を吸った。

 

「振り切るんじゃない……見てて!これが成長した私だから……見せ付けてやる!」

 

ユニがビームの嵐の中、恐れずに飛び込んでいく。

ビームが髪を焼き、頬を掠め、視界を塞ごうとも恐れない。

 

(そうよ、この感情は……!)

 

ユニにツォーンが発射された。

ユニは防御魔法をぶつけるが防ぎきれず、体勢を崩す。それでも突進はやめず、進むユニの前でスキュラがスパークし始めた。

 

「叶えたいの!私は!夢で描いたこと、全部全部成し遂げたい!そのために、私は……強くなる!」

 

ユニに向かってスキュラが発射される。

 

「掴み取ってみせる……!私が勝つ未来も!お姉ちゃんが、ミズキさんが……みんなが笑う時間も!」

 

ユニが目の前に立つノワールの影に手を伸ばす。

少しだけノワールは微笑んだように見えた。

 

「っ!」

 

ユニの手から広がる透明なバリアのようなものがスキュラを弾いた。

まるでユニを何かの加護が守っているようにスキュラの奔流はユニを避けていく。

 

「ん、ん………!」

 

それでもユニはスキュラの勢いに後退しかける。後に退きそうになる。それでも、ユニは這いつくばるように前に進む。

 

その先のものが見えない。目の前に見えるのは赤い光の奔流だけ。

でも、別れた道を進むと決めたのだから。それは、1人で道を歩くということ。その孤独に耐えなければならないということ。

 

必死にユニが手を伸ばす。

 

掴みたい、掴みたい、掴みたい!

 

あと10cm、あと1cm、あと1mm……すぐ、そこ!目の前!

 

私の手が、道を拓く!私が望むもの、全部全部さらっていく!勝ち取る!

 

誰にも渡したりなんかしない!

 

「来なさいっ!」

 

ユニの手に、円形の盾のようなものが握られた。そこからビームを弾くバリアが発生しているように見える。

それはIフィールドジェネレーター。

ビームを弾くIフィールドで全身を包ませるための装備だ。

そしてX.M.Bは小型化したのが一転、元の大きさよりもさらに大きく巨大化していく。

そしてユニの足にはブーツ状のブースター、背中と肩に武器コンテナが装備される。

 

「はあああっ!」

 

ユニの足のブースターが唸りをあげ、スキュラを跳ね返しながら前に進む。

そしてそれはスキュラを完全に押し返し、ユニの盾がスキュラの砲口を叩く!

 

《…………》

 

スキュラが砲口でスパークしてしまい、真ん中の砲門が潰れた。

ユニはそれだけでは飽き足らず、デストロイを押し出す。

 

《…………》

 

「やああああっ!」

 

なんと、ユニがデストロイを持ち上げて空中を飛ぶ。

そのままユニはデストロイを投げ捨てた!

 

《………》

 

デストロイが地面を転がり、バックパックが煙をあげて大爆発を起こす。

それを見下すように空中に浮かぶユニは超ロングバレルになったX.M.B改め、メガビーム砲をデストロイに向けた。

 

「この……パワーなら!」

 

メガビーム砲から放たれるビームがデストロイに向かう。

デストロイは陽電子リフレクターで受けるが、腕が弾き飛ばされるほどの衝撃だ。

デストロイは素早く立ち上がり、スキュラをユニに発射する。

 

「もう、そんなもの避けるまでもないわ!」

 

ユニがIフィールドジェネレーターを稼働させるとスキュラはユニの前で偏向し、彼方へと飛んでいく。

 

「何者にだって……負けやしない!アンタの向こうに……掴みたいものが待ってるの!」

 

ユニが真っ直ぐデストロイへと突進していく。

デストロイが放つビームは全てユニには届かない。全てがIフィールドの前には無力だ。

 

《…………》

 

「てやああああああっ!」

 

ユニのメガビーム砲がデストロイの頭を射抜く。デストロイの頭は四散し、ユニがデストロイとすれ違う。

 

「次ッ!」

 

《………》

 

再びユニがデストロイへと向かう。

デストロイは無駄だとわかっていてもビームを撃つしかない。そしてそれはユニには届かない。

 

《………》

 

しかし、デストロイも簡単にやられてはくれない。

ギリギリまでユニをひきつけて拳でユニを殴りつけた。

 

「っ、あうっ、くうううあっ!」

 

だがユニは気合で体勢を立て直す。

拳の威力は高く、ユニの骨が軋んだ。メガビーム砲がひしゃげた。

それでもユニは前を向く。

 

「沈め沈め沈め、沈めぇぇぇぇっ!」

 

ユニの膝から巨大なビームサーベルが発振した。そしてデストロイの左肩にそれが突き刺さり、デストロイの左肩を切り落とす!

 

「お姉ちゃんの真似だけど!」

 

メガビーム砲を捨て、ユニの膝に挟まれたビームサーベルの柄の片方が飛び出てユニの手に握られる。

 

(バイバイ、お姉ちゃん……いや、お姉ちゃんの影!)

 

ビームサーベルと呼ぶにはあまりにも剣の部分が長い、ビームソードのようなビームサーベルが唸りをあげる。そしてもう片膝のビームサーベルは膝から展開し、デストロイを切り刻む!

 

「レイシーズ……!ダンスッ!」

 

手と足で繰り出す踊るような斬撃がデストロイの胸を切り刻み、スキュラを完全に潰しきる。

 

(もう、幻は見ない……!)

 

力尽きたのか後ろ向きにゆっくりと倒れていくデストロイから後退し、ユニが武器コンテナからミサイルを射出した。

 

「………!」

 

雨あられのようにミサイルはデストロイの下半身を激しく打ち据える。

いくらデストロイの装甲がPS装甲と言えども関節部まではそうではない。

ミサイルは関節を完全に破壊してデストロイをダルマにした。

 

「…………終わり……?」

 

デストロイはもうピクリとも動かない。動いたとしてももう武装はない。

 

「……勝ったの?」

 

ユニが自分の両手と眼下に広がる倒れたデストロイと交互に見る。

そしてそれからようやく全身の力を抜いた。

 

「勝った……勝った、勝った勝った勝った!」

 

子供のようにユニが笑って飛び跳ねる。

 

「あはっ、あははっ、やった、やった!私!勝ったよ……勝った!これで……!」

 

ユニは敵のさらに奥にあるもの、敵の向こう側にある勝利を掴むことができた。

 

「……っ、嬉しい……っ!」

 

ユニは勝利の喜びを静かに噛み締めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進化の革新


申し訳ないです、また休みのご報告です…


シュトゥルムファウストがネプギアを付け狙う。

まるで網のようにネプギアを捕らえようとビームが蠢く。

 

「最大出力で……!」

 

ネプギアがデストロイの頭に狙いを定める。

ビームガンを避けつつも隙を探して頭に照準を合わせ続ける。

 

「っ、そこっ!」

 

一瞬だけ攻撃が緩んだ隙にデストロイの頭に向けてH-M.P.B.Lの最大出力のビームが放たれた。

しかし、デストロイは場所を移動してそれをかわしてみせた。

 

「えっ!?」

 

ネプギアの脈動がデストロイの内部にいる存在を知らせてくれた。

いくら巨体で動きが鈍くても、パイロットの存在で多少はフォローしているというわけか。

というか、この波動、何処かで……?

 

「っ」

 

ネプギアが攻撃の意思を感じてその場を動くとデストロイのツォーンが発射された。

当たりはしなかったが、ある程度自分の動きを先読みされていてタチが悪い。

 

(油断すればやられる、けど……!)

 

進化しなければならない。

 

そのためには考える必要があって、するとそれは油断に繋がる。

 

「考えなきゃ……!私の中に、迷いをみつけなきゃいけない!」

 

迷いはつまり、原石のようなものだ。

そこから邪魔な石を排除し、中に潜む宝石を掴み取る。

しかしネプギアはその迷いすら見つからない。

 

「救いたいって思ってる……でもそれはいけないことなんですか……!?」

 

H-M.P.B.Lがビームガンを避けながらシュトゥルムファウストを撃ち落とそうとビームを放つ。

しかし読まれているのか、陽電子リフレクターが弾丸を嘲笑うかのように弾く。

 

「間違ってるわけない!でもそれじゃあ、進化できない……!」

 

新たな自分を見つけ出さなければならないのに。

そうでないと私は上のステージに立てない。先に進むことが出来ない。

 

「しまっ、あうっ!」

 

肩をビームガンが掠めた。

掠った獲物は逃がさない、とビームガンがさらに激しくビームを浴びせてくる。

 

「くっ!たああっ!」

 

ネプギアがその網から飛び出した。

そしてデストロイに向かって一直線に突撃していく。

 

「両手がないなら、ガードしようがありませんね!?」

 

《…………》

 

「落ちて……くださいっ!」

 

ツォーンとスキュラによる射撃を避けてネプギアがデストロイに近付いた。

そして顔に向かってH-M.P.B.Lを振りかぶる。

 

「やあっ!」

 

《…………》

 

しかし、デストロイは避けることはしない。むしろ、ネプギアに向けて頭を突き出した。

 

「うっ……くっ……!?」

 

飛び込んだネプギアの腹に頭突きが決まった。

 

「きゃああっ!」

 

不意をつかれて吹き飛ばされたネプギアにツォーンとスキュラが照準を定めている。

 

「っ、避けなきゃ……!」

 

ネプギアのXラウンダー能力が警鐘を鳴らす。

アレに当たるとマズい。

 

《…………》

 

デストロイの口と胸から強力な陽電子砲が放たれる。

ネプギアは間一髪でかわしたものの紙一重だったため、ビームの周りを渦巻く熱気に吹き飛ばされる。

 

「あああっ!」

 

体勢が崩れて姿勢が維持出来ない。

必死で錐揉み落下を止めようと尽力しているネプギアをシュトゥルムファウストが取り囲んだ。

 

「っ……!」

 

ストライダーフォームでがむしゃらに飛んでビームの網に捕まることだけは避けられる。

しかしその加速を止めきれず、ネプギアの目の前に大地が迫る。

 

「しまっ、あうっ!」

 

無理な体勢で加速したせいだ。

加速の方向を定めることができなかった。

 

ゴロゴロと地面を転がり、木々にぶつかってようやく回転が止まる。

 

「あっ……くっ……」

 

背中を抑えて呻くネプギアだったが、デストロイが待ってくれるわけもない。

シュトゥルムファウストがネプギアに狙いを定めていた。

 

「っ」

 

 

「激奏リンフォルツァンドっ!」

 

 

シュトゥルムファウストが発射したビームが横入りした誰かによって阻まれた。

ギターソロで戦闘中なのに惚れ惚れするほどの曲を引けるのは……!

 

「5pb.さん……げほっ!」

「大丈夫、ネプギアちゃん?ボクも非力だけど、手伝うよ!」

 

5pb.がギターをかき鳴らして歌う。するとギターの前には不思議と電撃の球体が出来上がった。

 

「機械の心でも、本能しかない心でも……ボクの歌を聞け!プラズマレンジ!」

 

電撃の球体は弾け、スパークを起こしてシュトゥルムファウストを退ける。

 

「今がチャンスだよ、ネプギアちゃん!……ネプギアちゃん?」

 

ネプギアは虚ろな目をして5pb.を見ていた。

一瞬5pb.はネプギアが何かやられたか、と心配したがすぐに認識を改める。

 

「……………」

 

ネプギアの頭で直感が告げた。

 

………これだ、と。

 

そうだ、簡単なことだ。みんなが言ってることじゃないか。聞き飽きるほど聞いたではないか。

目の前に……答えはあったではないか。

 

「救うだけじゃ……助けられない人がいる……」

 

ミズキさんが言っていたことではないか。

いくら救っても(掬っても)手の中からすり抜けていく、と。

そう、救っても助けられないのだ。救うだけでは、その場限りを助けるだけに過ぎない。すぐに目の前から救った存在は消えてしまう。

 

まずは、そこに迷いを見つけた。

 

ネプギアの頭が高速で回転する。この感覚は前にも味わったことがある。

 

「迷いの中から、答えを、弾き出す……」

 

強くなりたいと、そう願った時には原石を見つけたようなもの。

救いたいと、そう願った時には煌めく欠片が見えたようなもの。

今は、今こそ、宝石そのものを手に掴まなければならない。

そしてその答えは……5pb.がしてくれたこと。

世の中に溢れすぎていて、気がつけなかった。

 

「守り、たい………」

 

砂に埋もれた自分の意思が手を出した。そしてネプギアはそれを掴む。

 

「そう、救うだけじゃ消えてしまうから!守りたい、救った、助けた人を、物を……私は守りたい!」

 

「ネプギアちゃん……よし!」

 

デストロイのシュトゥルムファウストが戻ってきた。

しかし5pb.はその前に立ちはだかってギターを弾き続ける。

 

「邪魔はさせないよ。ボクのメロディーに酔いしれろ!」

 

5pb.が歌う歌とギターが叫ぶメロディはエネルギーとなり、デストロイの攻撃を弾き、退ける。

決定打にはならない威力だが、広域に広がっての攻撃でシュトゥルムファウストが思うように動けない。

 

迷いの中から答えは弾き出された。

宝石を掴み取ることが出来た。

砂に埋もれた自分を抱きしめることが出来た。

 

あとは、全ての可能性を!

 

「学習する……学習して……今までの戦いの、全てを……」

 

トリック・ザ・ハード戦。

初めてマジェコンヌ四天王とまともに戦えた。けれどトリックはタフで、口の中にH-M.P.B.Lの最大出力を当てようとサテライトキャノンを撃とうと死ぬことは無かった。

ブレイブ・ザ・ハード戦。

ユニとの珠玉のコンビネーションが功を奏したと思う。けれど途中で気絶してしまったし、ブレイブを撤退させたのはユニだ。

ジャッジ・ザ・ハード戦。

4人で戦い、全力を尽くした。敵は強力で、私達の全力を注ぎ込んでも倒すことは出来なかった。

マジック・ザ・ハード戦。

歯が立たなかった。あのまま戦っていたら、負けていたかもしれない……。

 

そう、成長の糧となるのはマジェコンヌ四天王との戦いの記憶。敵すらも進化の材料としていくのだ。

 

そして、全ての戦いに共通することがある。

全て、全てにおいてミズキさんの助けがあった。

助けがなければきっとネプギア達はここにはいない。

だから、そう、ネプギアが欲しいのは1人でも誰かを守りきれるほどの力だ。

 

「っ」

 

ネプギアが飛び上がってデストロイへと向かっていった。

 

「ネプギアちゃん!?」

 

しかしその姿に変化はない。

一時的に5pb.から攻撃が逸れ、ネプギアへとシュトゥルムファウストが向かっていく。

 

「っ、っ、ここっ」

 

ビームを避けてH-M.P.B.Lを発射した。

しかしデストロイはそれをかわして、逆にネプギアにツォーンを発射する。

 

「っ、ああっ!」

 

ネプギアにその攻撃が掠り、体勢を崩してまた地面にネプギアが着地した。

 

「ネプギアちゃん!」

「………ど……ん……」

「ネプギアちゃん……?」

「確かにスピードはあるけど、小回りもない、もっと速く動いて、パワーも足りない……」

 

ブツブツネプギアが呟いて自分の指を折っていく。折られた指の数は足りない力の数だ。

 

シュトゥルムファウストがネプギアと5pb.の周りを取り囲んだ。

そしてネプギアはXラウンダーの能力でそれを感じ取る。

 

「ネプギアちゃ……!」

「私はまだ死ねません!」

 

ネプギアが飛び込んでシュトゥルムファウストに体当たりをかます。

射線をくぐり抜けたネプギアがまたデストロイに向かうが、後ろからシュトゥルムファウストが追いかけてきている。

 

「こう、こうなの!?」

 

前後からの挟み撃ちを避けながらデストロイに向かう。しかし、後ろか放たれるはずのビームが急に途切れた。

 

「後ろっ!」

「えっ、きゃあああっ!」

 

シュトゥルムファウストがまるでロケットパンチのように飛んできてネプギアの背中を歪ませる。

 

「経験値が、足りない……何か、必要な、経験が……!」

 

力を失って宙に浮くネプギアにスキュラが狙いを定める。

 

「そんな、何かが……!」

 

スキュラがネプギアに向けて放たれた。

ネプギアは抵抗できずにもろにその射撃をくらい、地面にめり込んだ。

 

「っ、はっ……!」

「ネプギアちゃんっ!」

 

自分の肉が焼ける歪な匂いがネプギアの鼻に届いた。熱さを超えた痛みがネプギアの全身に駆け回る。

 

「し、進化するどころか……アイツに勝つ、糸口すら……み、見つけられ……ない……なん、て……」

 

ガクリとネプギアの体から力が抜け、目を閉じた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それは、いつの記憶だろうか。

まだミズキがこの次元にやって来て間もない頃の記憶。

変身ができないネプギアはミズキと一緒にクエストに来ていた。

 

『………お終い。お疲れ様、ネプギア』

 

ニコリと笑ったミズキの前にはそこそこの強さのモンスター。

今ならなんの問題もなく倒せるだろうが、昔のネプギアにとっては途方もなく強い敵だった。

 

『お疲れ様でした。でも、ごめんなさい。あんまり役に立たなくって……』

『いや、役に立ってるよ。僕がコイツの相手をしてる間にフォローもしてくれたし』

『できれば、倒せればよかったんですけどね……』

 

フォローなんて、周りの小型モンスターを狩っていただけだ。

クエストの本題であるこのモンスターを倒したのは全てミズキのお陰なのだ。

 

『どうすれば、勝てるでしょうか……』

『ん?』

『自分よりも実力が上の敵って、どうすれば勝てますか?』

 

ネプギアはそんなことを聞いた。

 

『……そうだね……まずは、状況の利用かな。先手を取れば有利だし、森に隠れれば攻撃を食らいにくい』

 

そう言ってミズキは指折り数えてアドバイスを指南していく。

 

『……でも、例えば何もない荒野で1対1の真剣勝負をしなきゃいけないってなった時はね……』

 

ミズキはネプギアをピッと指さす。

 

『発想の逆転だよ、ネプギア。そして広い目で見渡すことだ。勝利の方法は、自分の目の裏にある』

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「起きて、起きて!」

 

5pb.が必死にネプギアを揺するが、起きる気配がない。

5pb.の後ろではデストロイが一斉発射の準備を整えている。あれだけの火力が解き放たれれば5pb.であろうと防ぎようがない。

 

「ネプギアちゃんっ!」

 

ついにデストロイのスキュラ、ツォーン、ビームガンの全てが発射されてネプギアと5pb.へと向かう。

5pb.がそれを見て息を飲んだ瞬間、ネプギアの瞳がカッと開いた。

 

ネプギアから放たれた強大な波動が物理的な力となって空気を揺らす。5pb.は髪が揺れるのを感じ、森の木々は揺れ、燃え広がっていた火災はネプギアの周りだけ火が消える。

 

「わかった……足りなかった最後のピースか、揃いました!」

 

ネプギアがH-M.P.B.Lをビームに向けて構えた。

するとH-M.P.B.Lはバラバラの立方体に分解され、また新たな形に組み上がっていく。

それがネプギアの両手両肩に装備され、合計4門の砲台がビームに相対した。

それぞれは小型なものの、その威力の凄まじさをデストロイは身をもって知ることになる。

 

「収束………5pb.さん、離れてっ!」

 

ネプギアの新たな武器、M.P.S.C(マルチプルシグマシスキャノン)がスパークし、エネルギーをチャージする。

ビームが届くそれまでのほんの数瞬で5pb.はそのエネルギーのとてつもなさを感じて身を引き、M.P.S.Cはエネルギーのチャージを完了させた。

 

「いっ………っ、けえぇぇっ!」

 

4つのM.P.S.Cが同時に火を吹き、ネプギアの前で収束した。

ネプギアの体躯の何倍もある太さのビームはなんと、デストロイの一斉発射まで受け止めてしまう。

 

「っ……やああああっ!」

 

ついに一斉発射とM.P.S.Cが相殺し合って消え去った。

動揺するように、あるいは呆然とするようにデストロイはしばらくその場から動かない。

 

両手両肩から蒸気を吹き上げてその場に悠然と立つ姿はまさに移動要塞(フォートレス)

ネプギアは今、新たな進化を遂げたのだ。

 

「す、すごい……」

 

M.P.S.Cが引き起こした暴風の余波で揺れる髪を抑えながら5pb.が感嘆の声を漏らす。

 

「5pb.さん、ありがとうございました!私、大切なことに気付けて……もう、守られてばかりじゃないんです!ミズキさんだって、きっと……!」

「………」

 

ネプギアのM.P.S.Cが消え、手に超大型のライフル……いや、キャノンと呼ぶべき銃が握られた。

M.P.S.L(マルチプルシグマシスライフル)。逆手に持った超大型のライフルがデストロイに向けられる。

その時ようやくデストロイは我に返ったように変形を始め、全身に陽電子リフレクターを展開する。

 

「この距離でも届くんです!」

 

M.P.S.Lから放たれたビームがデストロイに向かう。

陽電子リフレクターはM.P.S.Lのビームすら通さない。が、しかしデストロイはそのビームの勢いに後退し始めていた。

 

《…………》

 

「これが……新しい力ですっ!」

 

なんとM.P.S.Lの勢いがデストロイを吹き飛ばした。

デストロイは地面にゴリゴリと体をこすりつけてしまう。

 

「見えます……あの中にいる人が!救い出してみせます、私と、ガンダムとで!」

 

ネプギアのプロセッサユニットとM.P.S.Lが形を変えていく。

肩には新たな大型のスラスターが追加された上にM.P.S.Lは長く平たく変化する。M.P.S.C(L)(マルチプルシグマシスロングキャノン)を逆手に構えたネプギアが全身のプロセッサユニットを唸らせて上昇した。

ネプギアが描く軌道(オービタル)から楔形のビームが何本も飛び出す。

宇宙戦、空中戦においてオービタルの右に出る者はいない。

デストロイは変形しながら後ろへ大ジャンプし、ビームをかわす。

 

《…………》

 

高機動で動くネプギアを捉えようとシュトゥルムファウストがデストロイから分離した。

ネプギアを取り囲むようにしてシュトゥルムファウストからの10本のビームがネプギアを襲う。

 

「っ、この気配は……」

 

ネプギアが遠方から近づく気配を察知した。だがそれは敵ではない。

 

「ネプギアちゃんっ!」

 

それはベールだった。

槍を構えてデストロイへとベールが向かっていく。

 

「なんてことを……!」

 

デストロイが引き起こした被害にベールが歯を食いしばる。あんなに綺麗だった森はいまや天まで焦がすほどに燃え盛っているのだ。

 

「ベールさんの援護があれば……!」

 

ネプギアがM.P.S.C(L)をシュトゥルムファウストに向けて構えた。

 

「当たれぇっ!」

 

放たれた楔形のビームがシュトゥルムファウストに向かうが、シュトゥルムファウストはその場から移動して難なく避ける。

しかし、M.P.S.C(L)から放たれたビームは突如として方向を転換してシュトゥルムファウストに突き刺さる。

 

《…………》

 

片方のシュトゥルムファウストが大爆発を起こして破壊された。M.P.S.C(L)の特徴はXラウンダーの能力を利用してビームの弾道を湾曲させられることにある。

 

「ベールさん、援護してください!」

「え………」

「ベールさんっ、出来ますね!?」

「え、ええ。お任せ下さい!」

 

ベールはいつの間にかネプギアが自分に援護を頼むほどに成長したことに驚いたが、すぐに気を取り直す。

 

「合わせますわ!」

「はいっ!」

 

ネプギアがシュトゥルムファウストの弾幕を超え、M.P.S.C(L)の銃底部でデストロイに傷をつけた。

 

「そこですわね!」

 

そしてベールがすれ違い様にデストロイを切りつける。

 

「やああっ!」

「っ、そこっ!」

 

ネプギアとベールの目にも留まらぬ動きがデストロイの装甲に傷をつけていく。

デストロイは全く抵抗することが出来ず、斬撃の嵐にただ身を晒すだけだ。

 

「高速戦闘なら!」

「私達の出番です!」

 

ベールの槍が、そしてネプギアの剣がデストロイの装甲に数え切れないほどの傷をつける。

そしてベールが装甲の薄い関節部に狙いを定め、飛翔する。

 

「ネプギアちゃん、決めてくださいまし!」

 

ベールの槍がデストロイの右膝を貫いた。

バランスが取れなくなったデストロイはゆっくりと前に倒れていく。

そこをネプギアは逃さない。

 

(見えた!ビフロンスの……絶望への罠!)

 

「やああああっ!」

 

ネプギアがXラウンダー能力を最大限に発揮して、コックピットの位置を把握した。

そこに浅くM.P.S.C(L)の剣先を埋め込む。

 

「っ、時間が無い……!」

 

そしてネプギアの装備が形を変えていく。

両肩のスラスターが消え、M.P.S.C(L)の銃身は短くなったもののそれでもやはり超巨大だ。しかも銃口はさらに大きくなっている。

 

ノーマルに換装したネプギアは先ほどM.P.S.C(L)で開いた穴に手を突っ込んだ。

 

「ベールさん、これっ!」

「えっ?」

 

ベールのもとに何やら黒い物体が投げられた。

反射的にベールがそれをキャッチすると、それはなんだか見覚えのある姿。

 

「……ワレチュー?」

「ちゅ………」

 

(っ、ノーマルの……パワーで……!)

 

動きを止めたデストロイの腹をネプギアが掴んだ。

倒れかけるデストロイはネプギアのパワーによって起き上がるどころか、持ち上げられる。

 

「な、なんてパワー……」

「これ以上、リーンボックスを焼かせるわけには……いきませんっ!」

 

ネプギアがデストロイを持ち上げてはるか空高くまで上昇していく。

それを追うようにネプギアのもとに四角いコンテナがやってくる。

 

「戦艦の主砲を使います……!」

 

ネプギアがデストロイを空高く放り投げた。

そして四角いコンテナはその中身を空中に放り投げる。

その名もブラスティアキャノン。

ネプギアはノーマル時のライフル、M.P.S.L(マルチプルシグマシスライフル)に取り付けることで威力をさらに高めることの出来るバレルだ。

 

ネプギアはそれを握りしめ、M.P.S.Lに連結させる。するとブラスティアキャノンはバレルを展開させ、その中でエネルギーをスパークさせ始めた。

 

「チャージ完了!これで……!」

 

ネプギアが落下を始めたデストロイに向けてブラスティアキャノンを向ける。

 

「ゲームオーバーですッ!」

 

ブラスティアキャノンから純白のビームが放たれた。

M.P.S.Cの4本収束ビームよりもさらに太い、地形を変えてしまうのではないかと思えるほどのビームはデストロイの巨体を問題なく飲み込む。

デストロイの厚い装甲など簡単に溶かし尽くし、そのフレームにブラスティアキャノンが届こうとした瞬間、デストロイに仕掛けられた仕組みが動く。

 

《…………!》

 

「………っ!」

 

デストロイが空中で大爆発を起こし、夜空を赤く染める。

その爆発は通常の爆発のものではない。明らかに大きすぎる。

 

「自爆装置が……積まれていたのですね……」

「もし、あのままここで倒していたら……」

 

リーンボックスの森は跡形もなく消え去ってクレーターを作り出すだけになっていただろう。

その自爆装置を見抜いたのもひとえにネプギアの成長したXラウンダーの力なのだ。

 

「もう、私だって……傷つけさせはしませんっ!」

 

ネプギアのブラスティアキャノンが赤熱して蒸気を吹き上げ排熱を始める。

 

「……………」

 

それを遠くから見ていたのは3人の女神達。

きっと、ただミズキの側にいることをミズキは良しとしないから。守れるものを守りに行ってと囁くであろうからリーンボックスと妹達を守りに行った。

そこで見たのは妹達のとてつもない成長と才能と努力だった。

驚愕に目を見開く女神達。

彼女達にも、成長の兆しは見えていた。





書き溜めていた分もなくなりましたー…。でもまだ少し残りがあるので今回は休みは二週間にします。
何度も何度もすいません、それではまた二週間後に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

そんなとある過去のこと

1mmも本編に関係ない話


きらりきらりと星が煌めいていた。

闇の中に光を散りばめた海の中を真っ白い戦艦が横切っていく。

そこには燃える炎のマークが描かれている。だからこの戦艦を見つけた者は迂闊に手を出さない。

中には……最強の子供たちがいるのだから。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

戦艦の中の通路を風呂上がりで裸のままの子供たちが横切っていく。

 

「こらこら、ストップストップ!風邪ひくよ!」

「待てと言われて待つ人はいませーん!」

「こらぁ!」

 

それを追いかけるのはバスタオルを持ったミズキ。

裸の子供たちの中には女の子もいるのだがミズキ自体そういう趣味はないし、いつもの事だから罪はない。

さすがにミズキに勝てるわけもなくそのうち捕まってバスタオルに包まれてぐしゃぐしゃに体を拭かれる。

 

「きゃー!」

「離せー!」

「離せと言われて離す人はいません。ほら、戻るよ」

 

ミズキが背中を押すと子供たちは大人しく風呂場へと戻っていく。そこを通る途中でとある部屋を横切る。

 

「………ひーーーーまーーーーー!」

 

部屋から聞こえてきたのはけたたましい雄叫び。間違えるはずもない、シルヴィアのものだ。

 

「…………」

「ミズキさん?」

「っ、しーっ!」

「ミズキ、いるんでしょっ!?」

「い、いません」

「アンタ馬鹿なの?」

 

思わず返事してしまったために冷ややかな言葉が返ってくる。

 

「あと、私のSEEDを持ってすれば部屋の外の様子くらいなんとなくならわかるから」

「無駄使い!?」

「いいから来なさい!この、私が、暇なのよ!」

「………はぁ、みんな、大人しく風呂場戻って着替えられる?」

「うん!」

「それじゃお願い」

 

願わくば何かのボードゲームくらいでシルヴィアを満足させられることを。いや無理か。やっぱ神とかいない。いたらこういう時助けてくれるもん。

 

ミズキが観念しながら部屋に入るとそこには回るタイプのイスをグルグルさせながら暇暇呟いているシルヴィアがいる。

ミズキを確認するとぴたっとイスを止めてミズキを見る。

 

「……暇!」

「いやそれはわかるんだけど」

「私の暇を何とかして紛らわせなさいよ!」

「うん、相も変わらず理不尽だね」

 

遠い目で部屋の角を見つめる。いつもの事ながら慣れない。慣れたらお終い。何がはわからないけど、とにかく何かが終わる。

 

「はい、ミズキ。今の状況はぁ?言ってみなさい」

「え?えと……まあ手当り次第に基地を潰してる最中?」

「そうね。まだ戦争してるもんね。未だにやめないもんね。バカだから。バカだから」

「2回も言わなくても……」

「でもバカでしょ?」

「……うん、バカだね」

 

少し真剣な瞳でシルヴィアがこちらを見てきたから、ミズキも苦笑いでそれに応える。ミズキの細められた目も、少し本気になっていた。

 

「で。今、私達がやっていること。もうちょっと細かく言えば?」

「難民……というか、避難民の輸送、護衛?」

「ええそうね。仕方ないわよね、ドンパチやってるところ見たらコロニーが壊れかけてて、そこの人達を保護するのはけっっっして間違ってないわよね?」

「そ、そうだね。誰がどう見ても間違ってないと思う」

 

偶然、本当に偶然その戦闘を見つけられたから良かったものの、最悪の場合はそこに住んでる住民全員が死んでいたのかもしれないのだ。冗談じゃない。

そういうわけなので両軍を撤退させてついでに出来るだけの住民を保護したわけだ。

 

「まあどことは言わないけど?さっき通信届いたけど?奪った避難民返せって来たけど?誰が奪ったのかしらねぇ?全くわからないわねぇ」

「……怒ってるの?」

「そうね!もうブチ切れ!おまけに暇だし!」

「暇なのはおまけに含めてしまうんだね……」

 

要するにアレだ、愚痴を聞いてほしいらしい?

もしくは気を紛らわして欲しいんだろう。

 

「民間人積みながら戦闘するわけにも行かないから出来るだけ安全なルートを辿って衛星軌道上に向かってる。だからよ、最近は暇で暇で……」

「仕方ないよ。迂闊に受け渡しなんかしたら裏切られてこっちが沈みかねないんだから。衛星軌道上のコロニーなら戦闘は禁じられてるからそこに預けるっていうのは、シルヴィアも賛成したじゃん」

「まさかここまで退屈だとは思わなかったわよ!ワープとかできないのこの船!ピンポイントバリアは張れないし、波動砲も撃てないし……!」

「うん、ただの戦艦にそれは求めちゃいけないね」

 

苛立ちを船にぶつけるように床をガンガンと踏みつけるシルヴィア。さすがの船もそんな理不尽な要求に応えられるわけもない。少し船が可哀想になってきた。

 

「ここら辺でなにかこう、ぱーっと!ぱーっと何かないの!?」

「ぱーっと……って言われてもなあ……ゲームでもする?」

「やり飽きたわ!何もかも!」

「嘘でしょ、アレ全部クリアしたの……?」

「あとはウザったらしいトロフィー集めとかよ。というか最近はやれ通信やれオンラインプレイとかうるさいからここじゃゲームの性能を引き出せないのよ!」

 

どこかに立ち寄る度になにかゲームとか子供たち用の娯楽品とか買って(奪って)あげてるのに……まさか全部クリアしてしまうとは。

 

「カレンとジョーは?」

「2人して見張り。どうせ乳繰り合ってるでしょうけど!」

「さすがにそれはないよ……」

 

一応ちゃんとした仕事だし、重要だし。

 

するとシルヴィアの部屋の通話機が鳴った。その音を聞いた途端にシルヴィアの顔がムンクの叫びかってくらいに歪む。

 

「チッチッチッチッチッ……!」

 

小鳥レベルに素早く舌打ちをかましながら受話器を取った。

 

「うち、テレビないんで!」

《誰がNHKの集金人だ。それより相談がある》

「なんだジョーね。次アソコから連絡来てたら核をぶち込むつもりだったわ」

《なに?》

「いえこっちの話。で?つまんない話だったらかかと落としね」

《無駄に現実的だから怖いな。いや、つまらないかもしれないが重要なことだ。食料のことでな》

「食料〜?」

 

口を歪めながらシルヴィアがモニターのボタンを押すと空中にジョーの顔が映し出される。隣にはカレンがいた。

 

「あ、カレンもいる」

「やっぱ乳繰りあってたのかしら……!?」

 

シルヴィアの声はアチラには聞こえず不機嫌なシルヴィアの顔が映っているだけだろう。なんとなく理不尽な予感がしたのか2人もやれやれと首を振るような仕草をした。

 

「んで、食料って?」

《うむ、これだけの避難民を受け入れていてはやはり食料が心許なくてな。計算上では足りるが、やはりここら辺で補給をするべきだと思う》

「……それだけじゃないわね」

《ああ。はっきり言ってしまえばアレを食いたい》

 

ジャックがコンソールを弄ると端っこに非武装の艦が映った。

 

「食料輸送艦……?」

「そんなに美味いものが積んでるわけ?」

《うむ。調べてみたがあの艦、恐らくG6コロニーからの艦だ》

「G6コロニーって、あの、大きい?」

「G6コロニーなんて、敵サマの本拠地近くじゃない」

《だからこそ食料も豊富なのだ。牛肉とかあるかもしれないぞ、牛肉》

「やっばなにそれマジ食いたい」

「うわ、釣られちゃったよ……」

《決まりだな。それでは交渉してみる》

 

プツッと通信が途切れる。

まあ、悪名高き『子供たち』だ。その名前を出せばだいたいの要求は聞いてくれるだろう。

 

「ステーキ、ステーキなの?明日の晩飯はステーキなのね!」

「ああ、えっと、腕を振るうよ……」

「頼んだわよ!ああ、今からワクワクするわ!」

 

何はともあれシルヴィアが御機嫌になってくれたようで良かった。

これ以上の長居は無用、部屋を出ようとした時にまた受話器が音を立てた。

 

「はい、ジョーかしら?」

《ああいや、私にゃ。ジョーは今、状況を確認してるにゃ》

「カレン?どうかしたの?」

《あ〜、大変残念なご報告だにゃ。まずはこちらの映像をご覧になってどうぞにゃ》

 

頭をポリポリ掻きながらカレンが宇宙の映像を映し出す。

そこにはさっきの輸送船。

それが突然大爆発を起こしてチリも残らず消え去った。

 

「なっ……!?」

「牛肉が!」

「いや牛じゃないから!」

「どこのどいつよ艦を撃ったのは!見つけ出して100分の99殺しにしてやるわ!」

「ほぼ死んでる!?」

《それを今ジョーが調べてるにゃ。あ、終わったかにゃ?》

 

カレンがジョーにマイクを受け渡す。

 

「おいコラジョーコラどこだコラ撃ったのはコラ!」

《文に執拗にコラを入れるな読みづらいし聞き取りづらい。まあなんだ、事態は最悪とだけ言っておこう》

「牛肉が灰になった以上に最悪なの!?今度は何がやけたの、子羊とか!?」

《いや、案外牛肉になるのは俺達かもしれん》

 

ピクッとその言葉に反応してシルヴィアが表情を切り替える。

 

「もう1度聞くわ、状況は?」

《艦の群れがこちらに迫っている。あの艦は警告だろう。投降を迫ってきている》

「あ、もしかしてシルヴィアがさっき怒って電話を切った……」

「え、マジ?アレ最終警告とかだった?」

《どうする、シルヴィア?まあ、聞くまでもないだろうが》

「第一種戦闘配備。と言っても4人しか戦闘員はいないけど。警告お願いね」

「出るんだね、シルヴィア」

「ええ。ミズキ、私と出るわよ。ジョーとカレンは戦艦の直衛!」

《了解した》

 

ブツっと通信が切れた。走って格納庫へと向かっていく途中で通路のサイレンが赤く光り、警告音が鳴り響き始めた。

 

《戦闘だにゃ。繰り返すにゃ、これから戦闘が始まるにゃ。傷1つ付けるつもりもにゃいけど、念のため自分の部屋に戻ってジッとしてるにゃ。すぐにシャッターを降ろすにゃ、それまでに部屋に戻るにゃ!》

「にゃーにゃーにゃーにゃー騒がしいわね。まあいいわ、私が先に蹴散らすから撃ち漏らしよろしく」

「いつものだね」

「ええ。慣れてるでしょ」

 

シルヴィアが来ていたジャケットを乱暴に脱ぎ捨てて無重力の戦艦に投げ捨てる。

ミズキもジャケットを脱いで襟元を開くと通路の曲がり角で赤ん坊を抱えた母親と出会った。下には赤ん坊の兄だろうか、小学生くらいの男の子もいる。

 

「あ、あの……」

「頑張ってね!」

「うん、ありがと。ジャケット持っててくれる?」

「うん、片付けとく!」

「ありがと」

 

ミズキが男の子にジャケットを預けて頭を撫でる。

すると何かを言いあぐねていた母親が口を開いた。

 

「あの、頑張ってください!その、まだアナタ達も子供なんですけど……」

「心配しなくてもアンタ達は無傷で夫さんのところに返すわよ。だからアンタは2人を離さないようにしときなさい」

「戦いは僕らに任せてください。得意なんです」

 

それだけ言ってシルヴィアとミズキは駆け出していく。

格納庫に着くとそこには既に変身を済ませたカレンとジョーがいた。カレンはサンドロック改、ジョーはアリオスに変身している。

 

《先譲るにゃ。格納庫、開くにゃよ〜》

「サンキュー」

 

シルヴィアは変身して青い翼を広げた。シルヴィアが変身したのはフリーダムガンダム。

ミズキも格納庫が開くのに合わせてΖガンダムに変身し、前に進んでいく。

 

《さっきの憂さ晴らしも兼ねてパーッとやるわ。出来れば武装だけ潰すけど、抵抗を続けるようなら命をとるわ》

《ねえ、あの艦……避難民達の国の軍だよね》

《難しいことは考えないの。あいつらは艦を落とす気よ。取引も何もなしに攻撃してくるのがその証拠》

《………うん》

《大丈夫よ、退ければ済む話。得意でしょ?特にアンタは》

《……わかった。全力でやる。命は奪わない、銃だけ取り上げる……!》

《オーケー、その意気。子供より子供の大人たちをぶん殴ってくるわ!シルヴィア、フリーダムで行くわ!道を開きなさい!》

 

カタパルトに乗ったフリーダムが翼を開いて羽ばたいていった。

戻ってきたカタパルトにΖが足をかける。

 

《準備はいいか?》

《うん。いつでも行ける》

《では、発射タイミングを受け渡す》

《確認した!クスキ・ミズキ、Ζガンダム!行き過ぎた玩具を取り上げてくる!》

 

カタパルトから発進したΖは変形して先に出たシルヴィアに追いつく。

後からジョーとカレンが出撃したのも見届けた。

 

《攻撃、くるよ!》

《わかってるわよ!ったく、毎度毎度問答無用に撃ってくるんだから!》

 

戦艦から発射されるビームの雨を避けながらフリーダムが全砲門を開く。

両腰のクスィフィアスレール砲、肩に担いだ翼のバラエーナプラズマビーム砲、右手のルプスビームライフルを前に向けた。

 

《女の子にすることじゃないでしょっ!》

 

フルバースト。

無数に発射されるビームと実弾が戦艦から撃たれたミサイルを全て叩き落とした。

そのまま排熱をしながらフリーダムは前に出る。モビルスーツ隊が戦艦に向かってきているからだ。

 

《ウドの大木!何を狙ってるのかアンタ知らないけど!子供を撃つのに足る理由を持ってるんでしょうね!》

《なっ!?何を!?》

《うっさいオッサン!自分の子供撃つかもって気は無いの!?》

《自分に子供はいない!》

《じゃあそこどけよ童貞!》

《ひ、ヒドい……》

 

シルヴィアのフルバーストがモビルスーツの武器や腕を撃ち抜いて爆発させていく。

シルヴィアの怒りの声を聞いた隊員もシルヴィアの理不尽の前に敗れさり、右肩を撃ち抜かれた。

 

《ば、バケモノか!》

《子供よ!》

 

しかしその網を超えて戦艦へ迫るモビルスーツもいる。それをΖが追いかけ、丁寧にコクピットを外して無力化していく。

 

《クソっ!貴様ら、子供たちを奪ってどうするつもりだ!》

《返すつもりだよ!》

《嘘をつけ!ならば何故取引に応じなかった!》

《そっちが取引するつもりがないからでしょうが!》

《なにを!》

《これだから!大人は子供よりワガママだよ!》

 

モビルスーツは簡単に無力化され、すごすごと艦に帰っていく。

戦艦から放たれるビームやミサイルも自分たちの戦艦に当たりはしない。

 

《まだやるつもりね……ミズキ、ここ任せたわよ!》

《シルヴィア!?》

《エンジン潰してくる!》

 

コンビニ行ってくるぐらいの気軽さでミズキに前線を任せてしまう。

さすがにΖ1機では抑えきれないが、そこはカレンとジョーの弾幕がカバーしてくれる。

しばらく粘っただけで戦艦のエンジンは爆散してしまい、動きが止まる。

 

《………終わった……?》

《ミズキ!ダメ、終わってない!コイツを!》

《っ!?》

 

辛うじて動くエンジンを稼働させながら敵の戦艦が向かってくる。正気じゃない、あんな状態のエンジンを稼働させたら爆発だって有り得るのに。

いや………!?

 

《爆発させるつもりかっ!?》

《特攻なんて時代遅れなのよ!このバカ、バカ、バカ!》

 

シルヴィアがありったけの火力を叩き込んでエンジンを潰しきる。

戦艦の後部は爆散してしまい、もはや戦艦は使えない。

だが、その勢いは止まらない。戦艦前部の残骸が煙をあげながら艦に向かっていく。

 

《バカなっ!?》

《む、無理無理にゃ、止められないにゃ!回避運動!》

 

アリオスとサンドロック改の武装では戦艦は砕けない。

戦艦は回頭し始めたが、遅い!

 

《このままではこちらの艦の後部が潰れるぞ!》

《艦後部って……!》

《言わなくてもわかるわよ、避難民がいるとこじゃない!》

 

フリーダムとΖが戦艦を撃ちながらアリオスとサンドロック改に合流するが、止まる気配がない。

 

《戦艦が壊れる!》

《抑えるかにゃ!?》

《止まるわけがないだろう!》

 

アリオスがトランザムして両腕のサブマシンガンを打ち続ける。

 

《無駄よ、穴が空いたところで!もっと、もっと消し去るくらいの太いビームじゃないと!》

《じゃあ撃て!》

《んな武装、私は持ってないわよ!》

《んーにゃ、バスターライフルでもこんなん無理にゃ!》

《じゃあどうする!?》

《艦が沈む………!?》

 

 

 

『頑張ってね!』

 

 

 

《ミズキ……?》

《そんなこと………艦は、やらせない……!》

 

Ζがビームライフルを艦の残骸に向けた。

するとΖの体が紫のオーラに包まれていく。

 

《うぐっ!》

《ジョー!?》

《っ、離れろ!アレが来るぞ!》

《さっすがミズキ!この土壇場で頼りになるにゃ!》

《いいから離れろ!》

《やっちゃって、ミズキ!私が許すわ!》

《僕らを……消すもの、潰すもの!消えろぉぉぉぉっ!》

 

Ζから発射されるビームは有り得ない太さで発射された。

小惑星の10や20、簡単に飲み込んでしまうほどの太さのビームは戦艦の残骸すら簡単に飲み込む。

そのビームの奔流を盾で熱さを軽減させながら3人が見つめる。

 

《ミズキ、防御!》

《っ、わああっ!》

 

戦艦の残骸は大爆発を起こして破片をまき散らす。

ミズキは盾を構えながら降り注ぐ破片に耐える。破片のいくつかは戦艦にも突き刺さった。

 

《…………っ、はあ〜……無事〜?》

《カレン、無事だにゃ〜……》

《ジョー、問題ない》

《ミズキは〜……?》

《問題ない……けど……》

《けど?》

《盾とライフル壊れちゃった……》

《……はあ、まあ全員概ね無事ってことで》

《もう、肝が冷えたにゃ、こんなのはこりごりにゃ〜!》

《敵は?》

《尻尾を巻いて逃げたわよ。ったく、理不尽だこと》

《シルヴィアにだけは言われたくないと思う……》

《全面的に同意だにゃ》

《…………》

《さて、帰ろう。艦のみんなも帰投を待っている》

《ああ、牛肉……牛、牛さん……牛さぁん……》

《そんなに欲しかったの?》

《食べたかった……》

 

4人は艦に帰っていく。

その後、無事に避難民を送り届けた『子供たち』に避難民からのお礼として大量の食料が送り届けられた。

彼の記憶の、ほんのほんの1幕の話。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚め

ネプテューヌが剣を構えた。

こちらに太刀を向けて、その場から動くなと態度で示している。

それがとても悲しくて、その場から足を動かさずに手だけを伸ばす。

 

その手が太刀で切り落とされた。

 

「来ないでっ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ううっ、はあっ、はあ……く、ううっ………!」

「ミズキ………」

 

病院のベッドでミズキが胸を抑えながらうなされている。

手術の跡が痛むのか、悪い夢でも見ているのか……恐らく、その両方だろう。夢の内容もネプテューヌには大体の察しはつく。

汗がだくだくに流れてあっという間に服やシーツがベトベトになり、ネプテューヌは冷えたタオルでミズキの額を拭く。

そして残った片手でミズキの手をひたすら強く握りしめていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『あぁ……一命は取り留めた』

 

ジャックが疲労困憊の様子で放った一言で全員の顔に笑みが戻る。

 

『まあ、今でも予断は出来ない状況なんだが……』

 

後でわかることだが、手術室は飛び散った血で真っ赤に染められていた。それだけの激しい手術であったということだ。

 

『ビフロンスとの決戦の傷、今までの戦闘の傷……確かに肉体組織は完璧に治癒しているように見えたが、その実は形だけ整えた脆いものだった』

 

安静にしていたならゆっくりではあっても治癒していただろうに、いたずらに戦闘に参加するものだから故障箇所はどんどん大きくなり手が回らなくなった。よってもともと不完全だった治癒はさらに雑なものになり、歩くだけでも傷が痛むようになったのだ。

 

『いつから自分自身で気付いていたのかは知らんが、女神達が捕らわれていたこと、記憶を失って弱くなった女神候補生達を助けなければならないことを自分自身の責任だと思って無理に戦ったんだろうな』

 

無論、2度と失いたくないという強迫観念に近い感情もあっただろうが。

 

『でも、ここに帰ってきた時には……』

『万全の戦いだったわよ?』

『あの時は一時的にこの世界とのシェアが繋がったからだ。それ以前にアイツも女神候補生達が解放したシェアのお陰で力を上げていたが、この世界とのリンクが回復したことによって一時的に万全の状態になったんだろうな』

 

その後はあの有様だ。

戦えなくなれば薬を打って狂戦士のように戦う有様。そこでついに体は瀕死の状態になってしまったのだ。

 

『しばらくは目覚めまい。それに……アイツの1番深い傷は俺にはどうにもできん』

 

胸の奥、心を深く深く切りつけられてしまったのだ。その傷を癒す者は1人しかいない。

 

『以上だ』

 

ジャックはそれだけ言ってまたいなくなったのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

さっきまでミズキはひどくうなされていたものの、今は比較的うなされることもなく静かに寝ている。

シーツと服を交換してあげたのが良かったのかもしれない。

だがその寝顔はネプテューヌにはどうしても安らかには見えない。

 

「……いつ、起きるんだろ」

 

神のみぞ知るのなら、私にだって知れていいはずなのだ。

 

ネプテューヌがそっとミズキの前髪を撫でる。

けれどミズキはそれに反応もせずに静かに寝息を立てるだけだ。

 

「失礼するわよ」

 

その時、病院のドアが静かに開いた。

 

「ノワール……」

「なによその顔。来ちゃ悪い?」

「う、ううん」

 

ノワールはネプテューヌとベッドを挟んで向こう側にある椅子に座ってミズキの寝顔を見る。

 

「……そこそこ、穏やかね」

「さっきまでうなされてたんだけどね」

「……そう」

 

ノワールがミズキの寝顔から顔を背けた。

 

「……多分、アンタだけのせいじゃないわよ」

「え?」

「アンタが引き金になったのは事実だけど……そこまでミズキを疲弊させた原因はみんなにある」

 

ノワールがネプテューヌの目をじっと見つめた。

 

「きっと、自分の国を作るって決めた時……その時にはもう、遅かれ早かれ私達と離れる決断をしてたのよ。だってそうでしょ、国を作るってことは今までみたいに毎日会えるわけじゃないし……」

「みんなとの約束も、破ることになる……」

「ええ。時には敵になる可能性だってあるんだから」

 

行きたい時に行けないし、何かしたい時に出来ないことも多くなる。

それでも国を作ると決めたのは、多分……ヤケになったのと、その方が私達にとっていいと判断したから……。

 

「怒ってたもんね……ミズキ……」

「そうね。そりゃ怒るわよ。私だって怒るか失望するか……どっちか」

 

あれだけ強い絆で結ばれていると思っていたのに、あっさりと忘れてしまっては……そりゃあ、怒って当たり前なのだ。

 

「……2度目ね」

「あの時はミズキ怒ってなかったもん。だから、今回は……どうだろうね」

 

善意でミズキを連れ帰ろうと思った時も、無意識にミズキを邪魔した。

ミズキの体と心を傷つけてしまったのはこれで2度目だ。

1回目の時は許してくれていた。

けど……今回はどうだろう。

本気で怒っていたのだろう。悲しくて、辛くて……けど、それを私達にぶつけることは絶対にしなかった。

 

「ちゃんと謝らないとね。許してくれるかどうかは……わからないわ。もしかしたら、許してくれないかもしれない」

 

ノワールが立ち上がった。

 

「でも、もう離れない。……説得力、ないでしょうけど」

「ノワール、もう帰るの?」

「ええ。暇じゃないのよ、私も。ミズキが起きたらすぐに飛んでこれるように準備してるんだから」

 

ノワールはそう言って部屋を出ていった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「く、く………私、は?」

「起きたか、マジック」

 

ギョウカイ墓場、その奥地にある犯罪組織の本拠地。

その中にある巨大な液体に包まれたガラスの筒の中でマジックは目覚めた。

 

「ブレイブ……くっ」

「動くな。治癒をしている、じっとしていろ」

 

マジックの体には無数の管が通されていて、ところどころにある傷口が目立つ。

 

「ヤツは……ヤツは何処だ!?」

「ミズキは退いた。お前以上に傷を負っている、しばらくは動けまい」

「貴様がやったのか……!?」

「違う、今までのダメージが蓄積していたのだ。それがお前との戦いで無理をして開いた」

 

憎しみにまみれた目でマジックはチッと大きな舌打ちをする。

 

「……リーンボックスは」

「女神候補生に全機落とされた。パイロットも奪われたらしい」

「チッ……!チッ、チッ、チッ……!」

 

マジックが激しく舌打ちを繰り返す。

そしてついに唇を強く噛み締めながら筒の壁をドンと叩いた。

 

「私をここから出せ……!今すぐにでも、殺しに行ってやる……!」

「やめろ。俺達の本題を忘れたか」

「……くっ、腹が煮えくり返るようだよ……!」

「犯罪神様のためと思ってこらえろ。一時の感情に流されて身を捨てるな」

 

ブレイブは後ろを向いてマジックの前から去っていく。

 

「どこへ行く……」

「新たな剣を受け取りに行く。世界を切り開くための剣をな」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「謝る、か……」

 

ネプテューヌが未だに目を覚まさないミズキの前で呟く。

 

「ごめんっ!……ううん、なんとなく誠意が足りない気がする……」

 

眠ったミズキの前で手を合わせて謝ってみるが、なんとなくこれはダメな気がする。

 

「わりわり、せんせんした〜。……これ絶対ダメだ」

 

ネプテューヌが自分で言ったことにげんなりした。

 

「申し訳ありませんでした。大変遺憾に思って……ってこれは何だか気持ちこもってないよ」

 

1週間に1回は何かしらの理由で開かれる記者会見みたいだ。

 

「ソーリー。……すまん、悪かった。……めんごめんご。……う〜ん」

 

いざとなるとなかなか言葉が出てこない。

ネプテューヌはそのテイクをひたすら繰り返していた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「来ないでっ!」

 

延々と続く悪夢。

明晰夢でもないから自分の意思では自分の気持ちすらコントロールできない。

 

終わらない悪夢の螺旋の中で、ミズキの最後の記憶が光となった。

闇の向こうに幻が見える。

最後には自分の体を支えてくれたみんなの体温が強い光になってミズキを照らす。

ミズキは知らず知らずのうちにそれに強く手を伸ばしていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ごめんなさいでした……正直すまんかった……」

「ぅ……」

 

テイクを繰り返すネプテューヌが握るミズキの手がピクリと強く握り返した。

その感触にネプテューヌは動きを止める。

 

「ぁ………」

 

ゆっくりとミズキの目が開いていく。

左手に温かな感覚を感じたままミズキは天井をただ見上げる。

 

「ミズキ……!」

 

ネプテューヌがミズキの顔をのぞき込む。

視界の中に入ったネプテューヌの顔をミズキも見つめ返す。

 

「ネプテューヌ……っ」

「み、ミズキ、動いちゃ……」

 

ゆっくりとミズキが上体を起こしていく。

ネプテューヌが静止しようとするが、ミズキは顔をしかめながらも起き上がった。

 

「っ、あ、ごめんっ」

 

ミズキがネプテューヌの手をパッと離した。

そしてネプテューヌから顔を背ける。

 

「もう、会わないって決めたのに……触って、ごめん」

「ミズキ、違っ」

「すぐ、どくから。僕なら大丈夫、こんな傷すぐ……」

「ミズキっ!」

 

畳み掛けるようにネプテューヌに謝るミズキにネプテューヌが抱きついた。

胸に顔を埋めてきつくミズキを抱きしめる。

だって悲痛だから、ただひたすらに謝るミズキなんて見たくないから。

 

「ネプテューヌ、ダメだよ、離れなきゃ」

「違うよっ!全部、全部思い出したから!だから、だから……!」

 

ネプテューヌがミズキの顔を見あげた。その顔は涙に濡れている。

その顔を見てからミズキはようやく胸が温かく湿っていることに気付いた。

 

「ごめんっ……!ひどいこと言って、ごめん!忘れててごめん!傷つけて、ごめん……!」

「ネプテューヌ……本当に……?」

「本当っ!全部覚えてるよ……!だから、ごめん!許してもらえなくてもいいっ、だから、お願い、もう……!謝らないで……!」

 

ネプテューヌの泣き顔をミズキが抱きしめた。強く強く、痛みを感じそうなくらいにネプテューヌを抱きしめた。

 

「本当、なの……っ?」

「本当、だよ……?嘘じゃない、覚えてる!ミズキが教えてくれたから……!」

 

ミズキがネプテューヌの肩に顔を埋めた。

 

「っ、本当……?」

「本当!」

 

じわりとネプテューヌの肩が湿る。

 

「本当に、本当……?」

「絶対、本当!」

 

ミズキの目から大粒の涙がこぼれた。

呼吸は荒くなり、さらに強くネプテューヌを抱きしめる。

抱きしめるほど同じくらいの力で抱き返してくれるネプテューヌの温もりが心地よい。そしてその温もりと言葉が本当だと教えてくれる。

元通りに、なったのだと。

 

「……っ、よかっ、た……っ!」

「ミズキ……ミズキぃっ……!」

 

2人が抱き合って嗚咽を零しながら泣き続けた。

まるで子供のように抱き合って泣き合う。そのまま2人は駆けつけた医者が現れても泣き続ける。

元通りになった時間は永遠に続くのだと、その涙が教えてくれるようだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6章〜ルート確定。迫る勇気と企み、迎え撃つ女神たち〜
取引〜√魔剣〜


「みなさん、本当によくやってくれました」

 

イストワールが微笑む。

その隣には他の3国の教祖であるケイ、ミナ、チカがいて、その目の前には4国全ての女神と女神候補生が集結していた。

 

「今回の作戦成功で、ようやく先が見えてきました」

 

+アイエフ、コンパ、そしてミズキ。

ミズキは松葉杖をついている状態ではあるものの、顔は笑顔で辛そうな素振りは全く見えない。

 

「あっ……あ〜……っ!肩痛い……」

「私も、若干肩が凝り気味ですわ。あんなことがあれば、仕方ないですけど……」

 

ベールは自分の肩を揉んでチカが伸びをする。

 

「あのデカいのが現れた時は何事かと思ったけど……」

「私達の手にかかれば、楽勝だったわね!」

 

ユニが胸を張る。決して無い胸とは言ってはいけないのだ。

 

「でも、油断はできないと思う。犯罪神の……ビフロンスの復活は今も進んでいるから」

「それには文句無しで同意ね。あんなのがまた現れたら、今度は何をされるかわかったものじゃない……」

「だったら復活する前に、細胞まで消しちゃえばいいのよ!」

「その方が、楽……」

「そうね。復活前に倒すのを初めとして、何かしらの対策は必要だと思う」

 

ミナがロムとラムに同意する。

次にアイツが現れようものなら、何をされるか本当にわからない。

だがまず確定しているのは、アイツを止められなければ人類は滅ぶということだけだ。

 

「それでは、協議通りに教祖達はすぐにでも自国に戻って新法の公布を行ってください」

「了解。時間はあまりないようだし、急いで行おうか」

「あぁ、また仕事が増えるのね……まあ、仕方ないけど」

 

チカの肩が女性とは思えない音でバキバキバキッ!と鳴った。これにはさすがに全員が苦笑いする。

 

「しんぽう……って、なに?いーすん」

「犯罪神の信仰を規制する法律です。具体的にはマジェコンの販売、所持の禁止……加えて違法アップロードの取り締まり。アップロードをした人には厳罰を以て対処します。オークションサイトにも監視の目を入れて、違法出品があった場合にはサイトごと……」

「ちょ、ちょっと待って」

 

ネプテューヌが手を出してイストワールを遮った。

 

「いっぺんに言われても……えと、その法律を使うとどうなるの?」

「上手く行けば、マジェコンのシェアをほとんど潰すことが出来る……」

「多少の反発はあるでしょうけど、まあ妥当な手段よね」

 

イストワールの代わりにブランとノワールが答えた。

 

「マジェコンのシェアがなくなれば犯罪組織のシェアもなくなって……戦いに有利になるし、ビフロンスの復活を遅らせることも出来る」

「なんだ、得しかないじゃん。なんで今までしなかったの?」

「女神がいない状態でこれを公布してもほぼ無意味でしょうから。ですが、みなさんが帰ってきた今、ようやく新法は意味を持ちます」

 

カードは切るべき時に切らなければ意味がないのだ。

持てる効果が最大限に発揮される時に発動してこそ。

 

「でも、それだと私達はやることないわね」

「放っておいても新法がシェアを下げてくれるでしょうし……」

「だから、君達は実働部隊として働いてもらおうと思う。実際にマジェコンの取引現場に行って取り押さえたり、とかね。そういう単純な作業の方が性にあっているだろう?」

「……なんかいちいちチクチクくる言い方ね」

 

アイエフがこめかみをピクピクさせる。

 

「いいじゃんいいじゃん!そっちの方が簡単だしさ!」

「……アンタはもう少し……いや、なんでもないわ」

 

さらに頭を抑えて首を振る。数年越しの再会からそう時間も経っていないのに相も変わらず大変そうである。

 

「それじゃあ、早速行きましょうよ!」

「マジェコン見つけて、壊すだけ……なんだよね……?」

「うん、そんなに抵抗もないはずだし。それじゃ……」

 

笑顔で踏み出そうとしたミズキの肩ががしっと掴まれた。

 

『留守番』

 

「……はい」

 

素直に受け入れてミズキは部屋に戻っていった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「思い出した……思い出したっチュよ……」

 

ワレチューが特別性の椅子に座って頭を抱えながらブツブツと呟く。

 

「な、なんてヤツにオイラは協力してたっチュか……おかげで死にかけたっチュ!」

 

犯罪神様から直々に呼び出され、ウキウキと御前に言ったのが運の尽き。

そのまま何がなにやらわからないままあのデカいガンダムの生体ユニットにされた。体は改造されてはいないようだが、未だに体に負担は残っているのかたまに頭痛がする。

 

「………それに……」

 

そして、戻ってきた記憶が本当ならば。

 

「下っ端とオバハンは………無事なんチュか……?」

 

 

 

「ったく、しょうがないわねぇ」

 

 

 

「チュ!?」

 

特別性の檻の外から声がした。

 

「だ、誰っチュか!?」

「あら、まだ忘れてるの?悲しいわぁ、昔のことは思い出したみたいなのに」

「お、お前は……!」

「手を貸しなさい?……悪い話じゃないはずよ」

 

ブラブラと鍵をチラつかせる。

 

「アナタはここから出れる、アタシは協力者を得られる、ウィン・ウィンの関係ってヤツよ」

「……簡単に信用できるわけないっチュ!」

「まあそうだけど……」

「そもそも、オイラに何の協力をさせる気っチュか!前みたいなことなら絶対にーーー!」

「悪鬼……ビフロンスを倒すための活動よ」

「な……!」

「どうする?」

 

檻の外に立つ影が鍵を地面に落とした。

ほんの少し悩んだが……ワレチューはその鍵をしっかりと掴んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキは部屋で溜息を1つ吐いた。

 

「………暇だ………」

 

ここ数日ずっと暇。動いちゃいけないっていうのは身に染みてわかっているものの、やることも書類整理しかなく……。

 

「………“コレ”も、行き詰まったし……」

 

椅子に座ったミズキがパソコンの画面を見ると、そこには設計図のようなものが描かれていた。

既にそのほとんどは完成している。すぐにでも作り始めることは可能だ。

しかし、これでは……動かない。

 

「絵に描いた餅というか、机上の空論というか……実現できないよね、これじゃ……」

 

動力炉が決まらない。というより、ない。

非常に高出力の動力炉が欲しいのだが……。

 

「ツインドライブのトランザムなら……けどそれじゃあ稼働限界時間が短いし……V2のでもいいんだけど……それだと、なあ……」

 

うーむと唸る。

結局は形のない力に頼るしかないのかもしれないが、それは危うすぎる。安定性もないし。

 

「贅沢な悩みねぇ」

「ん、アブネス。どうかした?」

「そうね、単刀直入にいえば金返せってことね」

「う………」

 

部屋に入ったアブネスが早速皮肉をぶつけてくる。

 

「返済はいつになるのかしらねえ……」

「か、必ず返すから……」

 

ミズキは目をそらしてはぐらかすことしか出来ない。

作った機体は合計6機。はてはて、合計金額はいかほどか。

 

「まあ、さすがにこんな状態のアンタを働かせる気は無いけど……これも私に作らせる気?」

「いや、自分で作るよ。予備パーツとか、壊れたパーツを再利用してね。………ま、作れるかもわからないんだけど」

 

アブネスがパソコンの画面をのぞきこんで設計図を見る。

さすがに6機も作っていれば慣れたのか、ある程度設計図を見るとアブネスはパソコンから目を離した。

 

「動力炉が未定なの?」

「というより、動かせない。いや、もちろん普通の動力炉を使えば普通に動くよ?でも……普通だから」

「普通じゃビフロンスは倒せない、と。目標出力は?」

「100万」

「は?本気で言ってるの?」

「できれば測定不能が好ましいけど」

「………測定不能って目指すものじゃないわよ……」

 

ちなみに、Ex-Sガンダムの変形時出力で12250kWである。

 

「いい?あのね?測定不能って失敗作なのよ?」

「それは予定していた出力を大幅に超えすぎたからでしょ?初めから測定不能を目標にすれば成功になる」

「なによその暴論……」

 

アブネスは頭痛が起こったように頭を抑えたが、どうやらミズキの目を見る限り本気でそんなことを考えているらしい。

 

「もちろん、復活前に倒せるのが1番いい。けど……アイツは準備してくる。最高の頭脳から作り出される、最高の機体で待ってるはずなんだ」

「それを、超えなきゃダメってことね」

「油断も妥協もできない。だから……と思ったけど、行き詰まった……」

 

ミズキが椅子に座ったまま天を仰ぐ。

 

(……私に、やれること……)

 

「ん」

 

アブネスがミズキを退けてまたパソコンを見た。

核融合炉、核反応炉、太陽炉、エイハブ・リアクター………数多の動力炉の選択肢はあれど、どうやらミズキはその中のどれもお気に召さないらしい。

 

「……むちゃくちゃガン積みするとか?」

「それも考えたけど、結果として大きくなっちゃうから」

「ん〜……」

 

アブネスは腕を組んで考える。

 

「……逆転の発想とか」

「どんな?」

「……動力炉を積まない、とか?」

「Iフィールドで動かすとかも考えたよ。サイコ・フレームとかならあるいは……と思ったけど動く確率は低いし」

「………じゃあ、割り切りましょう。そんな動力炉なんてないのよ」

「な、ないって……それじゃ勝てなくなっちゃう」

「そ、そうよね……。………ん、待って?」

 

アブネスの頭に電流走る。

そしてブツブツ呟き始めた。

 

「いや、待って、可能なの?……というより、それは本当に測定不能だし……そもそも、許されること………?」

「アブネス?」

「………動力炉の案、あるわ」

「えっ!?痛っ!?」

 

ミズキが椅子をすっ飛ばして立ち上がった。

するとズキンと傷が痛む。

 

「い、いたたた………」

「そ、そんなに慌てないで。もしかしたら、って案だから」

「ど、どういう案?」

「だから、動力炉はないのよ」

「………はい?」

「これも運命かもね。アンタ達の力を結集してもビフロンスは倒せなかったらしいけど……ここならできるかもしれない」

「も、勿体つけずに教えてよ」

「だから、動力炉はないの。……少なくともアンタ達の次元では」

 

アブネスのなぞなぞにミズキがゆっくりと椅子に座りながら答えを考える。

 

「えと……言っている意味が……」

「だから、つまり!動力は、アンタの次元になくてこの次元にあるものよ!」

「………ああっ!」

 

ミズキがまた急に立ち上がった。

 

「痛っ!?」

「……もしかしなくてもアホ?」

「え、いや、待って、それって……可能なの?いや、可能だったとして……」

「でしょ?だからこそ、測定不能。というか、未知数よ!」

「……賭けかな。いや、どうだ……確実にとんでもないエネルギーは出るし……」

 

ミズキが椅子に座り直して頭を巡らせる。

 

「…………うん、やってみよう。ありがと、アブネス」

 

長い逡巡の末にミズキはパソコンの新しいページを開いて新しい機体の設計図を描き始める。

 

「1から設計し直しだ……嬉しい悲鳴だね」

「いいの?そもそも動くかもわからない動力炉だけど……」

「……信じるしかないよ。それで、信じてもらうしかない。そうすれば……ん?」

 

パソコンが音を立ててメールが届いたことを示した。

 

「……なに、これ」

「何処から?」

「知らないアドレス。けど……」

 

見覚えのない上に意味もないような文字の羅列のアドレス。

件名はーーーー。

 

『取引』

 

「………怪しいわね」

「………誰からだ?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔剣ゲハバーン

ドッカァァァァァァァァン!!

 

昭和の特撮よろしく基地っぽい何かが大爆発を起こして消えていく。

 

「成敗………」

「え、えと……い、いいの、あれ?やり過ぎじゃ……」

「……そうね、少し暑いわね」

「そういう問題じゃないですよ!?」

「仕方ないですわよ、どうせ捕まるなら自爆してやるとか言い出したんですもの」

 

ネプギアはオロオロしているが、残りは至って平常心。

脇には逃げ遅れた構成員を抱えている。

 

「また1つ、つまらぬものを切ってしまったね」

「切ってないよ……跡形も残ってないよ……」

「にしても、まあわかってたとはいえ……地味よね」

「地味じゃないですよ!?派手すぎるくらいですけど!?」

 

精一杯ツッコムものの、哀れネプギアの言葉は届かない。

 

「もう飽きた〜!おんなじことの繰り返しでつまんな〜い!」

「まあ、確かに、キリがない感じはあるわよね」

 

ユニも疲れ果てた様子でダラダラと歩く。

 

「マジェコン1つ集めるにしたってもっとこう、元から絶たないと意味無いんじゃないの?」

 

至極真っ当な意見だ。

いくら害虫を駆除しても巣をなんとかしなければ害虫はまた増えてしまう。モグラ叩きというかなんというか、このままだと文字通り終わりがない。

 

「ん、ごめん」

 

するとアイエフの電話が鳴った。

足を止めてアイエフが電話し、何度か言葉を交わして電話を切る。

 

「どうだった、あいちゃん?」

「朗報よ。マジェコンの大規模な製造工場の1つがわかったわ」

「本当!?」

 

タイムリーな情報だ。

全員の顔が活気を取り戻す。

 

「それ、どこにあるの?」

「ラステイションよ。ここからの距離はあまりないわね」

「へえ……私の国で好き勝手やってくれるじゃない」

 

ノワールが拳をバキバキと鳴らす。

 

「そのマジェコン工場、潰すわよ!」

「おっけー!俄然やる気出てきたね!」

「久々の大仕事ね」

 

女神御一行はそのままの足でラステイションのマジェコン工場へと向かったのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキが松葉杖を突きながらゆっくりと進み、アブネスもその歩調に合わせてゆっくり歩く。

2人は少し遠出をしてプラネテューヌの外れにまで来ていた。

 

「このあたり?」

「そうね、メール通りならね」

 

指定された場所は丘の上にあり、森を少し抜けたところだ。森を抜けてはいるものの、まだ少しずつ木が生えている。

 

「いい、怪しくなったら逃げるわよ」

「わかってるよ。ネプテューヌの件もあるし、メールを信用してるわけじゃない」

 

『取引』という件名のメールには、ビフロンスを倒せるかもしれない手段がある、という文章と座標だけが記されていた。

怪しさてんこ盛り、危なっかしさしか感じないが万が一ということもある。

まあ、こんな餌に釣られたとしたならそれはそれで笑い話なのだが。

 

「このあたり……ん?」

 

アブネスが丘を越えると足を止める。ミズキもそれに追いついて下を見下ろした。

 

「………廃墟?」

 

そこにはボロボロになった建物がある。だいぶ年季が入っているようだが、見た感じそもそも建っていたのも相当な昔だろう。ボロボロというか、朽ち果てていると言った方がいい。

 

「多分、これ教会ね」

「教会?」

「女神がアイツになる前……もう相当な昔でしょうけど、その時の教会ね。話で存在自体は聞いたことはあるけど、まさかこんな場所にあるなんて、ね」

 

アブネスが緩やかな丘を下っていく。ミズキもそれを追いかける。

 

「多分、指定された場所はここでしょうね……中入る?」

「入らなきゃ始まらない」

「それじゃ、開けるわよ」

 

2人が警戒しながらドアを開く。

中を見ると、やはり瓦礫だらけの廃墟だが……。

 

「………あれ」

「どうかした?」

「あそこに行けってことかな」

 

ミズキが指さす先には瓦礫の山。天井から陽の光が差し込んでいるから、天井が砕けてできた山なのだろう。

その山が一部抜き取られて道ができており、その奥には地下に進む階段がある。

 

「………地下、ねえ」

「慎重にいこう。危なくなったらすぐ逃げてよね」

「それはコッチのセリフよ」

 

アブネスとミズキは慎重に階段を下っていく。そこそこ長い階段で天井が低い。アブネスは気をつけずとも頭をぶつける心配はないが、ミズキは頭をぶつけないように歩く。

すると暗かった階段の終わりに光が見えた。

 

「出口、かな」

「多分ね」

 

階段を下り終えればそこは真っ直ぐな通路。

明かりも何もないのに不思議とそこは緑色の光の粒子で優しく輝いている。

 

「き、れいね……」

「ホタル……じゃないよね」

 

光の正体はわからないが、ミズキが優しく光に触れると手の中に収まった。淡く手の中で輝く粒子をミズキは手放す。

 

「……行きましょうか」

「ん、そうだね。通路は1本……この先に誰かが待ってる」

 

そこそこ広い通路を歩いていく。

どこか幻想的な通路は仄かな光でミズキ達の道を照らす。

そしてミズキ達は通路の突き当たり、大きな扉の前に来る。

 

「………開くよ」

「了解」

 

ミズキがドアを押して開く。

ゆっくりと開いた扉の向こうの部屋からは据えた匂いがやってきてアブネスが少し顔をしかめる。

 

「今日は来客が多いのだな……何100年ぶりだろうか」

 

「え?」

 

「ん、おっそいわよ。何してたの?」

「っ、君は……!」

 

ミズキがどこからかの声に振り向いた途端、正面から声がした。

聞き覚えのあるこの声は、まさか……。

 

「……アノネデス……!?」

「あったり〜。おひさおひさ〜」

 

アノネデスがひらひらと手を振っている。

その足元にはローブをかぶった小さい影。

 

「ワレチュー……君達2人とも、脱獄したのか……」

「チュ。でも今は犯罪組織に属してるわけじゃないっチュ」

「アタシ達は、記憶を取り戻してる。だからこそ、アナタに取引を申し出たのよ?」

「取引、って……」

「例のビフロンスを倒す方法?」

「そ」

 

アノネデスが部屋の中の手すりに腰掛けた。

部屋は鮮やかなステンドガラスの窓と屋根の高い天井に覆われているが、地下のためか周りの景色は見えない。それでもステンドガラスが輝いて見えるのはひとえにこの部屋にも満ちている光のせいだろう。

 

「条件は3つあるっチュ。1つ、オイラ達を見逃すこと。2つ、必ずビフロンスを倒すと保証すること。そして……」

 

そこでワレチューが言葉に詰まる。

 

「っ、あのオバハンと下っ端を必ず取り返してオイラ達のところに連れてきてほしいっチュ」

「…………」

「もちろん、アタシ達もこれから罪を犯そうとは思ってないわ。もし、万が一のことがあれば捕まえてくれて大丈夫よ。あくまで見逃すのはこの場面だけ」

「それは……」

「その前に、ビフロンスを倒す方法ってのを教えて欲しいわね。まさか、努力と根性で勝てるとは言わないでしょ?」

「それは、アタシじゃなくて彼女に聞いてくれる?」

「彼女?」

 

「……私か」

 

「え?」

 

突如響いた声にアブネスが周りを見渡す。だがいくら周りを見渡しても声の主と思われる人間はいない。

 

「私を見ようとしても無理なことだ。もはや実体はないのだからな」

「思念体……しかも、とんでもなく強い……」

「ほう、お前には私を感じられるのか。有り余る才能の持ち主らしいな」

「え、え、何よ、なに?詳しく説明しなさいよ」

 

アブネスがミズキにうろたえながら説明を求める。するとミズキに代わってアノネデスが答えた。

 

「彼女はウラヌス。その昔、犯罪神と戦ってた女神よ」

「犯罪神と……!?」

「いや、待って、犯罪神はビフロンスでしょ?別次元からやってきたアイツと、その、ウラヌスが戦うわけが……」

「いや、犯罪神はもともとここに存在していた邪神だ。数100年昔のこと、私達は犯罪神を相手に戦った……」

「じゃあ、みんなが崇めてる犯罪神って、ビフロンスが成り代わったもの、ってこと……?」

「いいや、成り代わるどころではない。恐らく……飲み込んでいるな」

「っ!?」

「さらにいえば……私達は犯罪神と戦っただけだ。勝てていない……封印にこぎつけるのが精一杯だった」

 

ウラヌス達、数100年前の女神達……もちろん、4人全員でかかったのに犯罪神は倒すことが出来なかった。

それだけ強大な神の力を、ビフロンスが、吸収しているって……。

 

「……とんでもないことに、なるわね」

「完全復活より前に倒そうとは思うけど……じゃあ、ウラヌスは犯罪神を倒す方法を知っているの?」

「ああ。少なくとも犯罪神だけなら一撃で封印できるまでに弱らせることが出来た手段だ」

「じゃあ、それを教えなさいよ!」

 

アブネスが問いかけたが、ウラヌスは答えない。

 

「……え?ちょっと?」

「……………」

「な、なに?怒らせちゃった?」

「いや……そういう訳では無い」

「……どうかしたの?」

「………おい」

「わかったわよ」

 

ウラヌスがアノネデスに声をかけるとアノネデスが部屋のさらに奥へ進んでいく。

部屋の突き当たりに刺さっているのは墓標。いや、違う。これは墓標なんかじゃなく……。

 

「剣……」

「でも、ボロボロよ?」

「これが、ビフロンスを倒せる剣なの……?」

 

ミズキが進んで墓標のように地面に刺さる剣の前に立った。

錆びている上に、刃も欠けている。朽ち果てていて、今にも崩れ落ちてしまいそうな剣だ。

 

「そうだ。それが犯罪神を倒した剣だ」

「……これが?本当に?」

「その剣はね、ある条件を満たさないと力を発揮しないのよ」

「条件……?」

「そ。だから使うかどうかはアナタ次第……」

「………その、条件って何」

 

 

「………女神の血だ」

 

 

「…………!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!それって、まさか……!」

「その剣は女神を殺せば殺すほどに力を宿す。そういう力を宿した剣なのだ」

「じゃあ、アンタ、まさか……!」

「……軽蔑したか?今でもあの時の光景と感触は覚えている。その剣を使って黒と白の緑の女神の首を断ち切った。血が吹き出て……とても、悲しかったよ」

 

ウラヌスの独白に言葉を失う。

ウラヌスの言葉はリアルで、何より声だけの姿になってもその声から悲しみが伝わってくる。

 

「……なんで、そんなことができたの?」

「……女神達は私の友であった。だが……友の3人の命とこの星の全ての命。どちらかを取れ、と……。3人は自ら首を差し出してくれた」

「それで、犯罪神を……」

「全力で戦ったさ。だが……それでも封印。笑うなら笑え、友の命を3つも奪っておいて私は敵1人すら倒すことが出来なかった」

「…………」

「私の悲しみを感じるか?才能を持つ者よ」

「……そんな力なくても、君が悲しんでいるのはわかるよ」

 

ミズキが空中の1点を見つめてウラヌスに言葉をかける。ミズキには、そこにウラヌスが見えているのだろうか。

 

「君の判断は間違っているなんて言えない。でも、正しいとも言ってあげない」

「………そうか。その剣をとるのはお前の自由だ。………どうする?」

 

ミズキが朽ちた剣を見つめた。

 

「その剣の名はゲハバーン。抜いても使うか使わないかはお前次第。聞こう、汝に覚悟ありや?」

 

アブネスがミズキを心配そうに見つめる。ワレチューは表情を崩さずに、アノネデスは興味深そうにミズキを見ている。

 

そして、ミズキは。

 

 

 

 

 

その剣を………握った。

 

 

 

 

 

「…………」

 

そして、引き抜く。

 

「………保険か?」

「………」

「好きにするがいい。まだ使うと決めたわけではないのだろう?」

「……うん」

「ミズキ、アンタ……」

「……まだ、振るって決めたわけじゃない」

「………じゃあ、アンタに預けるわよ」

「………うん」

 

ミズキの手元からゲハバーンが消えていく。倉庫次元へと転送されたのだろう。

 

「契約成立ね。それじゃ、ばいばーい」

「……約束っチュよ」

 

アノネデスとワレチューはさっさと部屋から出ていく。

 

「……死なせないようにしろ」

「わかってる。……わかってるよ」

 

ミズキとアブネスもいつの間にかそこからはいなくなっていた。




デデドン!(絶望)

魔剣ルートまっしぐら!やだー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勇気の男

諜報部から送られてきた情報通りにネプテューヌ達がラステイションに向かうと、森の中の周りを木に包まれた場所に工場がそびえ立っていた。

草陰に隠れながらその工場を偵察する。

 

「よくもまあ、こんな大きい工場をバレずに作ったものね」

「ですけど、ここを潰せばマジェコンの流通は一時的に止まるです!」

 

工場の入口以外の人の流れはない。コソコソとみんなで工場の裏側へと向かう。

 

「ふ〜っ………すぅ〜……」

「ちょっと失礼するわよ?」

「え?むぐっ!?」

 

裏口で見張りでもしていたのか、タバコを吸っていた男をノワールが峰打ちで気絶させた。

 

「………大丈夫」

 

裏口をそっと開いて中を確認するが、周りには誰もいない。全員が物音を殺しながら中へと入っていく。

 

「わあ……ここが、マジェコン製造工場……見たことない機械がいっぱい……!」

「なんでちょっと嬉しそうなのよ!」

 

ネプギアが工場の中の光景に目をキラキラと輝かせてうっとりと眺める。

 

「ね〜、この工場さ〜、片っ端から壊していい〜?」

「バカ言わないの。そんなことしたら、新型マジェコンを持って逃げられるだけよ」

「一気にトップを落として、工場全体を停止させるのが最善……」

「まあ、そうですわね。できれば静かに、が望ましいですけど」

 

暗殺じゃないが、隠密に倒せるほどいいことは無い。

ここで働いている構成員が異変に気付かないほどには。

 

「トップ……って何処にいるんだろう……」

「もしかして……あれ……?」

 

ロムがピッと指を指す。

全員がそこに顔を向けるとーーーー。

 

「おらおらおら!もっとキリキリ働け!そこ、サボってんじゃねえぞーっ!」

 

「………アレはないでしょ」

「下っ端さん、トップになったんですか?下っ端さんなのに?」

「だからないと思いたいんだけど……」

「出世、ってやつね」

「へえ〜、数年前とは偉い違いだね。なんか、指示出す姿も板についてるっていうか!」

「所詮付け焼き刃でしょ。それじゃ、アイツを落としておしまいにしましょうか」

 

ノワールが溜息を吐きながらやれやれと首を振った。

そのままコソコソと全員で気付かれないように移動してリンダへの距離を詰めていく。

 

「ほらほら、もっと働け!働いて働いて、犯罪神様へのシェアを集めるんだよ!」

 

リンダの声に呼応して労働者達が『応!』と叫ぶ。

それに満足した顔をしてへへへと笑うリンダの背後にネプテューヌ達がたどり着く。

 

「ああん?なんだお前らさっさと仕事……げっ!」

「もう逃げられないわよ、観念しなさい」

「この人数に勝てるわけありませんわ」

「んなっ、卑怯だぞ!数の不利を突くなんてよ!」

「悪党に言われるセリフじゃないわね……」

「さ、どうするの?逃げる?逃げない?」

 

ネプテューヌ達がじりじりと近付くとリンダも同じ距離だけ後ろに下がる。

しかし、リンダはその足をピタリと止めた。

 

「に、逃げるわけに……いくかよ!ここは、ここだけは絶対に……!」

「ふ〜ん。じゃあ、遠慮なくやっつけちゃうね!」

 

ネプテューヌが太刀を構え、リンダが鉄パイプを持ち出した。

ネプテューヌがリンダに飛びかかろうとして腰を沈めた瞬間、工場の天井がぴしりと音を立てる。

 

「へ?ぴしっ?」

 

ネプテューヌがその音に気付いて上を見上げた。

 

「……あれ〜ネプギア?ここの工場ちょっと脆いんじゃない?普通天井って自然に割れないよね?」

「そ、そのはず……だと思うけど……」

「ノワール?大丈夫?この建物ちゃんと免震構造してる?このご時世、地震に弱いようじゃ……」

「くだらないこと言ってないで逃げなさいよ崩れるわよっ!?」

「わかってま〜すっ!うわわわっ!」

 

天井が音を立てて崩れ落ち、瓦礫がネプテューヌ達の上に降り注ぐ。

ハリウッドでもここまでやんねえぞってほどの瓦礫をネプテューヌ達は一斉に全力で後ろに走って避ける。

 

「あ、危な………!」

 

リンダとネプテューヌ達の間にうずたかく積もった瓦礫の山ができた。

そして天から天井を粉々にした主が舞い降りる。

 

「扮ッ!」

 

瓦礫の山を踏み潰し、音を立ててブレイブ・ザ・ハードが舞い降りた。

 

「ぶ、ブレイブ様!」

「お前の覚悟……見届けたぞ、リンダ!」

 

ブレイブの剣は黄金に輝いていて、傷もホコリもない豪華絢爛なものになっていた。さらにブレイブの体からは一目見てわかるほどの力が満ち溢れている。

 

「逃げろ、リンダ!ここは俺が引き受けた……!」

「そんな、ブレイブ様!アタイだって……!」

「命を無駄にするなと言っている!それとも……俺が負けるとでも思っているのか?」

「い、いえ………」

「ならば行け!なるべく遠くへな……巻き添えを食らっても知らんぞ?」

「……っ、くそっ!」

 

リンダが後ろを振り向いて逃げていく。

 

「逃げろ、お前ら!巻き添えを食らうぞ!持てる限りのマジェコンを持ってトンズラしちまえ!」

 

そして大声で声を張り上げて構成員達を逃がしていく。随分な量のマジェコンも持っていかれてしまうだろう。

 

「ブレイブ……」

「ユニか……あの手紙は読んだな?」

「ええ」

「なら、言いたいことはわかるはずだ」

「………」

 

目の前に立ちはだかるのはマジェコンヌ四天王。全員が気を引き締めて武器を構えたが、ユニが前に立って全員を遮った。

 

「待って。……コイツは私の相手よ」

「待ちなさい、ユニ。アナタだけでマジェコンヌ四天王に挑むのは危険すぎるわ。それにわかってる?アイツの強さは……」

「わかってる。けど、負けないから。……勝つから!」

 

ユニが振り返ってノワールの目を見つめ返す。

その目には確固たる意志が宿っていて、何も言わずともその目が強く強くノワールに訴えかけてくる。

 

「………」

「………」

「……はあ、わかったわよ。勝手にしなさい」

「お姉ちゃん……!」

「けど、必ず勝ってきなさい。約束よ」

「うんっ!」

 

ユニが変身してブレイブに振り返った。

そして2人は静かに見つめ合う。

 

「………空だ。こんな狭い場所ではお互いに全力を尽くせまい」

「望むところよ。私はどんな場所だって構わないけどね」

 

2人がゆっくりと開いた天井を抜けて工場の上へと向かう。そしてある程度の高さまで上った後、同じ高さで動きを止める。

 

「いいの、ノワール?」

「やりたいって言ってるんだからやらせるしかないでしょ。負けたら承知しないけどね」

「でも、あのブレイブってヤツ……」

「確かに前とは違うわね。けど、ユニだって前とは違うわよ」

 

ノワールはただ腕を組んで静かにユニを見つめる。それはユニを信じているが故だ。信じているから、ノワールはユニがどんなことになろうが手出しする気は一切なかった。

 

「なんで、マジェコンなんかばら撒くのよ。犯罪組織のクセに正々堂々と戦う男だと思ってたのに……幻滅したわ」

「マジェコンがなくなれば子供達が娯楽に飢えることを意味する。それだけは許せん」

「マジェコンがあれば、誰も新しいゲームを作り出さなくなるわ。そうすれば、ゲーム自体がこの世から消え去ってしまう!」

「違う。ゲームはこの世に生まれ続ける。何より、俺が見過ごせないのは格差だ。何もゲームに限ったことではない、財、立場、権力、力……いつも弱きものは虐げられる」

「だからってマジェコンをばらまいても、待っているのは破滅よ!」

「それも違うな。犯罪神様は平和な世界を望んでおられる……その先に破滅が待っているわけがない」

「アンタ……!アンタはっ!あのね、犯罪神の正体はっ!」

「もう黙れ。俺はお前と口喧嘩をしに来た訳では無いのだ……!」

「ブレイブっ!」

「行くぞ!」

 

ブレイブの背中のジェットが唸りをあげた。そして剣を構え、ユニを見据える。

 

「はっ!」

「っ!」

 

ブレイブが急接近して自分の間合いに瞬時に入り込む。そして強化された黄金の剣を振るう。

 

「一文字切りッ!」

「当たらないっ!」

 

しかしユニが片膝を立て、そこから発振したビームサーベルがブレイブの剣を受け止める。

ギャリギャリと音を立ててビームサーベルとブレイブソードが擦れ合った。

 

「犯罪神はね、確かに平和を望んでる!けど、それはアンタが望むような平和じゃないのよ!?」

「戦いに集中しろ!」

「きゃあっ!」

 

ユニがブレイブに押し切られ、吹き飛ばされた。

しかしユニはクルッと半回転してすぐに体勢を立て直し、肩の武器コンテナを開く。

 

「聞いてもらえないなら……!聞けるように、するまでよ!」

 

コンテナからミサイルコンテナが飛び出し、そこから無数の小型ミサイルがブレイブに向かって飛んでいく。

圧倒的な範囲攻撃を前に、ブレイブは後退しながら剣を構える。

 

「はぁ………っ、ぬうんっ!」

「っ!」

 

ユニが一瞬だけ力を溜めたブレイブを見て危機感を感じる。それは特別な能力ではない、鍛え上げられた戦士の勘と呼べるものだ。

 

それに従ってユニが背中をそらす。

ブリッジのように仰け反ったユニの顔の目の前を……ビームの剣が通り過ぎて行った。

 

「………!」

 

直後、ミサイルが爆発を起こした音がした。

ユニが視線を戻すと、ブレイブは無傷で空中に浮き、ミサイルはわずかな煙を残すだけになっていた。

 

「な、何今の!?剣が伸びたよ!?」

「一瞬……ほんの一瞬ですけど、あの剣からビームサーベルが発振されましたわね。恐らく、あの剣はビームサーベルも形成できてしまうのですわ」

 

つまり、それは間合いが遠い。ユニが射撃をする間合いでもブレイブは剣で近接攻撃を行うことが出来るのだ。

 

「……どうした、言い聞かせるのではなかったか?」

 

ブレイブがユニに剣を突きつけた。

その見てユニが体を逸らすとユニのすぐ隣にビームサーベルが突き出てくる。

 

「っ、く!」

 

まるで如意棒。ブレイブの間合いは自由自在かつ無限大なのだ。

 

「攻めなきゃ……!攻めなきゃやられる!」

 

ユニが大きく空に飛翔する。ブレイブもそれに追いつくべく、空へ駆け上がった。

 

「外しはしない……」

 

ユニが右手のメガビーム砲をブレイブに向けて構えた。それを意にも介さず真っ直ぐに向かってくるブレイブに向けて引き金を引いた。

 

「メガビーム砲っ!」

 

メガビーム砲がブレイブに向けて真っ直ぐ飛んでいく。

ブレイブは真上に跳ね上がってそれを避けたが、それを見越したビームがブレイブに向かっていた。

 

「おおっ!」

「読み勝ちね」

 

「ぬ……!」

(当たった!)

 

ブレイブの体の動きを読んで発射された2発目のメガビーム砲がブレイブに命中するかに見えた。

しかしブレイブは剣の腹でメガビーム砲を受け止めた。

 

(無理よ……アレの威力は私も見た。いくら四天王とはいえ、まともに受け止められるはずは……)

 

ノワールもそう読んでいた。

しかしブレイブが剣の腹でビームを受け止めた瞬間、ビームと剣が接した面にほんの少しの眩い閃光が迸る。

 

(っ、なにか来る!)

 

ユニがそう見切ってメガビーム砲を下げて左手のIフィールドジェネレーターを稼働させてIフィールドを展開する。

それと同時にメガビーム砲は剣から跳ね返り、ユニに向かって飛んできた。

 

「っ!?は、跳ね返された……!?」

 

「アレは……!?」

「ユニちゃんのバリア……じゃない……。じゃあアレは……!?」

 

ノワールとネプギアが驚愕する。

それもそのはず、必中のはずだったビームは減衰もせずユニに向かって“跳ね返った”のだから。

 

ユニに跳ね返ったビームはIフィールドに阻まれて弾かれた。しかし、ユニにはただビームが飛んできたよりも強力なプレッシャーがかかる。

 

「ビームを弾くなんて……!」

「これが、犯罪神様から頂いた剣の力……この剣はそういう素材で出来ているのだ!」

「っ、ビームが使えなくたって!」

 

ユニの肩のウェポンスロットの壁が開き、中からフォールディング・バズーカが2つ顔を出す。

ユニはメガビーム砲から手を離し、両肩にバズーカを担いだ。

 

「これはどうかしら!?」

 

ユニがバズーカを乱れ撃ち、さらにミサイルコンテナまで射出した弾幕がブレイブを襲う。

ブレイブは一旦後退して真上に飛び、全ての弾を避けた。

 

「一筋縄ではいかんか……!」

「聞いて、ブレイブ!犯罪神なんかいない、アイツはビフロンスよ!アイツの平和は、誰も幸せにならない平和なのよ!?」

「そんな平和があるものか!」

「だから、私達が戦ってるんじゃない!」

「この、意味のわからんことを!」

「うっさい分からず屋!」

 

ユニがバズーカを発射するが、難なく避けられてしまう。

バズーカは剣に弾かれる心配はないが、弾速が遅い。バズーカの弾頭は目標には届かず、既にブレイブは遠い場所に移動してしまっている。

 

「どうして聞かないの、ブレイブ!私達は、分かり合えるはずなのに!」

「無理な話だ……!受け入れろ、お前と俺は敵同士!」

 

ブレイブがバズーカの雨を切り抜けてユニへ接近した。

 

「争う運命なのだ!」

「うくっ……!」

「躊躇って勝てるほど、俺は弱くはないぞ!」

 

ユニのビームサーベルとブレイブの剣が火花を散らす。

 

(ブレイブ……!私、私は……!)

 

唇をかんでいたユニは歯を離し、今度は強く噛み締める。

 

勝つ。勝つんだ。

全部その後でやる。

今は……説得とか、仲間になれるだとか、そんなことはどうでもいい。

勝って、言い聞かせてやる。完膚なきまでに叩きのめして、見下して言ったやるのだ。ビフロンスがどんなに悪虐非道の女かということを。

だから……。

 

「心が………」

「え……?」

「心が、何かにとらわれれば剣は出ない……意味がわかるか?」

「っ……知らないわよ、そんなの!」

 

ユニがキッとブレイブを睨みつけて力を入れ直す。

 

「勝ってやる……勝つ!アナタに勝って、それで、教えてやるんだから!」

 

ユニの足のブースターが火を吹いた。

するとブレイブの体が徐々に後退していく。

 

(俺が、パワー負けしている……!?)

 

「調子乗ってんじゃ、ないわよーーッ!」

 

ユニの推力が完全にブレイブを上回った。ブレイブがユニに押されて物凄い速さで後退させられる。

 

「ぬうううっ!」

「ハッキリ言うわ!アナタは間違ってる!仕える相手も、世界を正すやり方も!だから、その体に直接叩き込んであげる……!」

 

ユニが両肩に担いだバズーカをブレイブの顔面に向けた。

そしてその引き金を、何度も何度も引き続ける!

 

「両手が自由なのよ!」

「ぐおおおっ!」

 

ブレイブは後退させられながら顔面に何度もバズーカの弾頭をぶつけられる。

そして最後にユニに蹴飛ばされ、工場の天井へと向かっていく。

 

「どうよ……少しは痛かったかしら!?」

 

「すごい、ユニちゃん……!」

「負けず劣らず……いえ、ユニちゃんの方が優勢ね!」

「これなら、勝てるかも……?」

 

妹達は喜んでいるが、ノワールだけは厳しい目つきを変えないままユニを見ていた。

 

(あの程度で終わるわけがないわよね……)

 

もし、自分ならばまだ油断しない。

たとえあれだけ弾頭をぶつけようとも……相手の身が砕けようとも。体が砕けようとも動く精神と信念がブレイブにはあるからだ。

 

「クク……ようやく本気になったか……」

「こんなもんじゃないわよ。私は、もっともっと強いんだから!」

「ならば俺も、奥の手だ……!太陽炉、稼働……!」

 

ブレイブの背中からコーン状の物体が2つ浮き出てきて、関節はクリアグリーンへと変わっていく。そしてブレイブの背中からは綺麗な緑色の光の粒子が吹き出て来る。

 

「アンタがどれだけ強かろうと、私は必ずその上を行くの!」

 

ユニはコンテナにフォールディングバズーカを仕舞い、別のコンテナから軽機関銃を取り出した。

 

「証明してあげる……アンタが間違ってるってこと!そして、最後には私が叶える!私の願いがアンタの上を行く!」

「ならば、俺も証明してみせよう!俺の正しさと、お前がただ夢を見ているだけの甘ちゃんだということをな!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

努力の女

ブレイブに向けてユニの軽機関銃が火を吹く。

ダダダダダと絶え間なく銃声が轟き、マズルフラッシュも絶えることはない。

ブレイブは屋根を蹴って横に移動し、鉛の雨を避け続ける。

 

「ふんっ!」

 

ブレイブが剣を伸ばしながら振るい、ユニに切りつける。しかし、ユニはマシンガンの照準をそらさずにその斬撃を避けた。

 

「くっ……おっ!」

「アンタはバカよ!そんな方法で、子供達が幸せになるわけがない!」

「そんなことはない!今まで俺は、たくさんの飢えた子供たちの笑顔を見てきた!」

 

ブレイブの機動力は向上していて、重力を感じさせないような動きで空を舞う。しかしユニはその動きを捉えて弾丸を浴びせる。

 

「お前達こそ!お前達のやり方で笑顔は見えたか!?いつまで経っても子供達は飢えたままだ……!」

「だからって、そんな行動に出ちゃあ!」

 

ユニの軽機関銃の弾が尽き、軽い音がこだまするだけになった。ユニはコンテナから新たな弾倉を持ち出してリロードする。

その隙をブレイブは逃さない。

 

「はあっ!」

「っ、寄られてたまるもんですか……!」

 

接近したブレイブからユニが背を向けて逃げる。

いくらブレイブの機動力が向上しようと、モビルアーマーの推進力には追いつけない。

何度も遠距離から剣で切りつけるが、それも避けられてしまう。

 

「うっとおしいのよ!」

 

するとユニのコンテナから後方邀撃ミサイルが発射されて追いかけるブレイブに向かっていく。

 

「チッ」

 

ブレイブが剣を振るうとミサイルは全て爆発して消えていく。しかしミサイルを撃破するために足を止めたため、ユニは既に遠くにいた。

 

「メガビーム砲……発射!」

「そんなものは効かぬ!」

「くっ……」

 

爆風でブレイブの視界が遮られた隙にメガビーム砲を撃つが、再びブレイブに弾かれてしまった。

ユニへと向かうビームはIフィールドで阻まれる。

 

「お〜、もしかして、もしかすると、勝てるんじゃない、これ!」

「……まだわからないわ」

「もう、ノワールったらどうしたの?アレはどう見てもユニちゃんが優勢じゃん」

「そうね、それはその通りよ。でも……気になるのよ。攻めが弱すぎる。防御に回ってるわ、アイツ」

「へ?そりゃあ、ユニちゃんの攻撃が凄まじいからで……」

「いいえ、違う。多分、待ってるのよ」

「何を?」

「………それは、わからないけど。でも、戦っているユニが1番わかってるはず」

 

ブレイブに軽機関銃の弾丸を叩き込むが、ほぼ無意味だ。牽制にしかならない。

そもそも顔面にバズーカを何発も当てておいてブレイブはピンピンしているのだ。軽機関銃ごときで傷がつくとは思えない。

 

(やっぱり、メガビーム砲しかない……!)

 

隙を見てメガビーム砲を急所に当てる。

早くしなければ……ブレイブの動きが妙だ。確信があるわけではないが、なにか来る。ジャッジがあれほどの馬鹿げた力だったのだ、ブレイブも同等と見ていいはず。

 

「一か八か!メガビーム砲で決めるわ!」

 

後退していたユニが逆方向にブースターを噴射してブレイブに急接近する。右手でメガビーム砲を掴み、左手で軽機関銃を連射する。

 

「っ、賭けに出たか!」

「これで……決まりよっ!」

 

ユニがブレイブの剣の間合いの内側に入った。剣で弾かれる心配のない、間合いを詰めたゼロ距離のメガビーム砲を食らわせる。

 

メガビーム砲の銃口がブレイブにぶつけられた。

そしてそのままユニが引き金を引く。それと同時にメガビーム砲から強力なビームが発射され、ブレイブの腹に風穴を開ける。

 

「っ………」

 

(やった!?)

 

「当たったよ!?」

「…………!」

 

ネプテューヌがそれを見て表情を緩ませるが、ノワールは逆に目を見開いた。

 

「ユニ、逃げなさいっ!」

 

「これは……っ!?」

 

腹を貫かれたはずのブレイブの肉体が緑色の粒子となって消えていく。まるで砂の山が風に吹かれて消えるようにブレイブの体が緑色の粒子に分解されていく。

 

「な、なにっ!?なんなの!?」

 

「ユニ、後ろよっ!」

 

「………!」

 

ユニが弾かれるように後ろを向くと、そこでは緑色の粒子が形になっていくところだった。

まるで砂時計を逆再生するように足元からブレイブの体が再生していく。

 

(わ、ワープ……!?間合いに入られた……!)

 

「これで終いだ……!」

 

ブレイブの体は赤く発光していて、体中から粒子を吹き出している。

剣を持った手を高く掲げ、黄金の剣からは山一つ切り裂けるほどのビームサーベルが出来上がった。

 

「あれっ、サーベルなのですか!?」

「ここも危ない……!」

「ゆ、ユニちゃんがっ!」

「ユニ、避けなさい!ユニっ!」

 

「トランザムライザー……!」

 

あれは砲撃ではない、斬撃。ならば、Iフィールドでも防御することが出来ない。

そしてあれを食らえば、間違いなく体は灰だろうと残らない!

 

(っ……!)

 

「ブレイブ・ソォォォォォドッ!唐竹割りッ!」

 

縦一文字に振り下ろされた斬撃が空を断ち、海を割り、地を裂く!

規格外の太さと長さを持ったブレイブ・ソードが真っ直ぐにユニに叩き落とされ、辺り一帯の地形を変えながらユニを一瞬で焼き尽くす!

 

「ユニィィィッ!」

 

ユニがいた場所に大爆発が起こり、ブレイブ・ソードのビームも消え去る。ビームサーベルがあった場所は焼け爛れ、赤く赤熱してしまっている。

地形を変えてしまうほどの威力。そしてユニがいた場所には灰1つない。

 

「…………ウソ……」

 

ネプギアが呆然と声を漏らした時、ブレイブがバッと後ろを振り向いた。

 

「そこかっ!」

 

ブレイブが咄嗟に構えた剣がビームを弾く。

ブレイブの背後には背中と肩のコンテナを切り捨て、メガビーム砲とIフィールドジェネレーター、それとビームライフルだけを持ったユニが息を切らして浮いていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝者の栄光

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…………!」

 

(し、死ぬところだった……!)

 

「ほう、よく避けたな。コンテナを切り捨て、身軽になったおかげか。しかし……ほとんどの武器を失った状態で俺に勝てるかな?」

 

もうブレイブの体は赤く発光していないものの、ユニは全身から吹き出す汗が止まらなかった。

今もユニの眼下には凄まじい熱によって蹂躙された地面が映っている。さっきまで体も心も燃え滾るように熱かったのに今は寒いほどだ。

ゾクッとした寒気がユニの体を支配し、そのくせして汗だけは全身から吹き出す。

 

(っ、恐れちゃダメ……!)

 

ユニが生唾を飲み込み、構え直す。

肩のコンテナはなくなっても足のブースターは健在だ。コンテナがあるよりもむしろ機動力は上がっているものの、武装が少ない。これで勝てるかどうか……。

 

 

『必ず勝ってきなさい。約束よ』

 

 

「っ、そうよ……落ち着いて……私は……ふぅ」

 

ノワールの言葉を思い出し、呼吸を整えた。

 

(アイツが身をもって教えてくれたじゃない……何かにとらわれれば剣は出ない)

 

恐怖にとらわれては戦うことなどできない。

あのワープにとらわれては攻撃できない。

あの切り札の巨大ビームサーベルにとらわれては焦ってしまう。

 

「……確かに、アンタは強いわ。子供達だって守れるはずだし、反対する人達も力でねじ伏せられる。その力も……必要なのかもしれない!」

「……何が言いたい?」

「その力も必要、必要だけど……!それだけじゃ、ダメなのよ!」

「お前が何を言おうと、勝たなければ意味は無い……勝たなければねじ伏せられるぞ!」

 

ブレイブが大ジャンプしてユニに切りつける。

ユニは回し蹴りの足を抱えた体勢でそれを受け止めた。

 

「っ、く……!」

「どうした、その程度か!」

 

ユニがブレイブにグググと押されかける。

しかしユニは一瞬だけ力を抜いてブレイブを受け流した。

 

「っ」

「はあっ!」

 

そのまま前に出たブレイブの顔を蹴りながらそしてブースターを噴射して距離をとる。

手に持ったビームライフルでブレイブを狙ったが、全て弾き返されてしまった。

 

「強くなきゃダメ……それは正しいわ!弱い人の言葉や意見は全部叩き潰される!だから、強くなくちゃいけないのは正しい!」

「そうだ……!そして俺は強い!子供を守れるほどにな!」

 

ユニのメガビーム砲もビームライフルも全て弾き返されてしまう。もう実弾を持っていないユニにとってこの状況は絶望的と言っていい。

 

「でもね!そうやって敵を手当り次第に倒して……排除して……!自分の手を見たことある!?」

 

ユニが加速してブレイブへと向かった。

 

「接近戦ならば、俺の独壇場だ!」

「わかってるわよ、だから……長居はしない!」

 

ユニが大型ビームサーベルでブレイブを切り抜けた。ブレイブは剣で受け止めたが、それと同時にユニはすれ違い後方に行っているので反撃ができない。

 

「アンタの手……血でベトベトよ!そんな手で、子供達を抱ける!?子供達まで血に塗れて……守りたいはずだった子供は、自分から死地に飛び込むわよ!他でもない!アンタがそうさせるの!」

「馬鹿なことを!」

「アンタが正しいって思うのよ、子供は!だから子供達も力が全てだって思う!」

「それは正しいはずだ!」

「そうよ!でも、力だけじゃ!ただ守るだけじゃ、足りない!」

「黙っていろ……!奥義、トランザム!」

「っ、来る!?」

 

ブレイブの体が赤く発光した。

同時に後退して様子を見ようとブースターで移動した瞬間、ユニの眼前にブレイブが迫っていた。

 

(速いっ!)

 

「唐竹割り!」

「ビームジュッ……ああっ!」

 

ビームライフルから発振したビームジュッテが直撃を防いだものの、勢いまでは抑えられずに下に叩き落とされる。

 

「くっ……アレは、トランザムか……!」

「遅いッ!」

「なっ、きゃああっ!」

 

さらに叩き落とされ、工場の屋根を砕いてユニが工場の中へ落ちていく。

 

「っ、かはっ……!」

「フンッ……!」

 

落ちていくユニに瞬時に追いついたブレイブが腰だめに構えて居合切りの構えをとった。

それを見たユニは足のビームサーベルで防御するものの……!

 

「居合ッ!」

「きゃああああっ!」

 

さらに吹き飛ばされた。柱を砕きながら吹っ飛んでいくユニは大きなタンクに体を埋めた。

 

「あぐ、ふっ……!」

 

「ユニちゃんっ!」

 

今までの連撃、わずか数秒で叩き込まれた。

だがユニはえずきながらも前方のブレイブから視線を逸らさない。ブレイブが大きくビームの刃を展開している姿から目を離さない。

 

「消えろ……一文字……!」

「っ、させるか!」

 

ユニがタンクにビームライフルを撃った。

するとタンクに穴が開き、そこから水が勢いよく吹き出す。それはまるでホースから吹き出したかのようにブレイブに向かった。

 

「ぬっ!」

 

剣で受け止めた。何の変哲もない水だったが、技が中断されてしまう。

 

「小細工を……!」

 

そしてユニは入り組んだ工場の柱の林の中に紛れ込む。

 

(私も小回りが利く方じゃないけど……アイツだって図体はデカい、必ずこんな場所で動き辛いはず……!)

 

タンクやらコードやらが林のようにあちらこちらに生えているから、動き辛くてたまらないはずだ。

 

「今は、時間を稼ぐしか!」

「………まんまとその手に引っかかるか!」

「っ!」

 

ユニの前方の柱からブレイブが現れた。

既に腰だめに剣を構えている居合切りの構えだ。

 

(しまっ、ワープ……!?)

 

「破ッ!」

「くっ!」

 

身を沈めて避けたが、ユニの髪がパラパラと宙に舞った。

 

「私が見えなくても、こんなに正確に追えるなんて……!」

 

ユニが後退して柱の後ろに身を隠す。

しかし、ユニの頭の数cm上の部分から周囲一帯の柱がすべて両断される。

 

「っ……なっ!」

 

ビームサーベルを伸ばして周りの柱を全て両断したのだ。いや、柱のみならず工場の壁すらも断ち切られている。

 

「工場が……!」

「崩れますわ、避けてくださいまし!」

 

ユニを追っていた女神達も上から降り注ぐ瓦礫を避けることで精一杯になっていた。

 

「ユニ……!」

 

「もはや逃げることも叶わぬ!」

「くっ……!アンタは!」

 

「秘技………!」

 

ブレイブの体が量子化して粒子と共に消えていく。

そしてその体はユニの背後で実体化し始めた。

 

「後ろ……っ!」

「はっ!」

「ん、っ!」

 

ユニもそれを見切り、膝のビームサーベルでブレイブを受け止めた。しかし、その瞬間にまたブレイブは体を粒子に変える。

 

「2回連続で……!?」

「この連撃……!」

「っ、あっ!」

「かわしきれるか!」

 

今度はユニの横に現れたブレイブが剣を振るう。ユニの対応は少し遅れ、防御するものの吹き飛ばされてしまう。

 

「っ……!3度目……なんてっ……!?」

「まだだ……まだっ!」

 

吹き飛ばされたユニの背後にブレイブが現れる。ユニはビームジュッテで防御したが、ライフルごと切られてしまった。

 

「ああっ!」

「まだ!」

「そんな……!」

 

瞬時に場所をワープによって変更するブレイブの連撃がユニを屠っていく。

そしてついにユニの防御は間に合わなくなってしまう。

 

(しまった……っ!)

 

「はあああっ!」

「きゃああああっ!」

 

ブレイブの太刀がついにユニの腹に完全に入った。しかしブレイブは1度きりの命中で満足せず、また瞬間移動をする。

 

「そこっ!」

「うっ!」

「ふんっ!」

「くああっ!」

 

ユニが吹き飛ばされた先にブレイブは瞬間移動していてまたユニを吹き飛ばす。

まるでビリヤードの玉のようにユニが吹き飛ばされ続けてしまう。

 

「ユニちゃんっ!」

 

ネプギアの声も届かない。

ユニは目を開けていながらももう気を失っていてブレイブにされるがままだ。

その体に何回も何回も剣による生傷が刻みつけられている。

 

「これでトドメにするっ!」

 

ユニがブレイブによって高く打ち上げられた。

ブレイブは何度も何度もユニの真下に瞬間移動してユニを空高く打ち上げてしまう。

 

「……………」

「これで……!俺の勝ちだ!」

 

遥か空高く、工場よりも遥かに上に打ち上げられたユニは腹を上にして空へ浮いていた。

その首にブレイブが剣を当て、落下していく。

 

「アレは……!」

「アイツ、あのまま首を叩き切る気だわ……!」

 

重力に引かれた落下によりユニとブレイブは段々と速度を上げていく。

今はまだユニの首に剣が当てられているだけだが、あの技は地面に着地した瞬間に完成してまるでギロチンのようにユニの首を真っ二つに切り裂いてしまうはずだ。

 

「ユニちゃん、逃げてっ!」

「高い……!」

「受け止めるしかないじゃない!」

 

「ふん、もう手遅れよ!どちらにせよ、ここで受け止めればコイツの首は2度と胴とは繋がらん!」

 

もう落下の速度は受け止められないほどになっていた。ブレイブの言う通り、下手に受け止めればユニの首を切ることになってしまう。

 

「……………」

「肝心のコイツは気絶している。もう勝ち目はない!」

 

ユニはただされるがままに首に剣を当てられていた。全身は脱力し、目はつぶってしまっている。

 

「そんな……!」

「ユニちゃん、起きて、起きてっ!」

 

ロムとラムが必死に呼びかけるが応答はない。ブレイブとユニは既に工場の天井近くまで落下してきていた。

 

「これで、決まりーーーー」

 

 

 

「ユニィィィィッ!!アンタ、何をやってんのよぉぉぉっ!」

 

 

 

「………おね……ちゃ………?」

 

ノワールの大声にユニがうっすらと瞳を開いた。

 

「あのね、ユニッ!私がアンタを送り出したのはね、アイツよりもアンタが強いと思ったからじゃないのよ!?」

 

「ふん、戯言を………」

 

「アンタが!アンタの!他でもない、ユニだけの魅力がブレイブとの技量の差を埋めてくれるって計算して私はアンタを送り出したのッ!」

 

「私だけの………魅力………」

 

「いい!?アンタの魅力の1つはね、前に進もうと思えることよ!私みたいなのを目標にして、そこにたどり着こうと思えること!そしてもう1つ!アナタの、最大の魅力はーっ!」

 

「何を言おうがもう終わりだ!これでッ!」

 

ブレイブとユニが地面にまで迫っていた。

全員が目を覆うか息を呑む中、ノワールだけはユニの瞳を見つめた。

 

「誰かに、自分に課したことを絶対にやり遂げる……!責任感なのよッ!」

 

「………!」

 

「ユニ!勝ちなさい!」

 

 

 

ーーーー自分に課された仕事は絶対に遂行するーーーー

 

 

 

ーーーー勝つ!

 

 

 

ーーーー『the Winner』

 

 

 

「私はまだ死ねなぁぁいっ!」

 

ユニが地面にあたる寸前に目をカッと開き、メガビーム砲とIフィールドジェネレーターを捨て、両手でブレイブの剣を白刃取りした。

 

「らあああっ!」

 

そして刃を持ち上げ、自分の首から距離を離した。

 

「馬鹿なっ!」

「っ、く!」

 

そして足のブースターで横に急加速、メガビーム砲を掴みながらブレイブの剣から逃れた。

 

「そう、それでこそよ!」

 

「あうっ、くぅ、うぁ!うく……!」

 

ブレイブの剣が工場の地面に大きく亀裂を走らせた。

ユニは地面にぶつかって転がりながらも残った最後の武器、メガビーム砲だけは手放さずに耐えきった。

 

「おのれ、今のを逃れるか!」

「っ、あくっ、う……!」

 

しかし状況が不利なのは変わらない。

ユニは落下のダメージを負ってしまったし、Iフィールドジェネレーターも、失ってしまった。しかもブレイブのトランザムは未だに持続している。

 

しかし、ユニの瞳に灯った炎は消えはしない。

前に出たユニが怯む暇も惜しいとばかりにブレイブに向かう。

 

「ビームは食らわん!」

「っ……私が、ビームを垂れ流すだけのバカだと思わないでよッ!?」

 

剣を構えたブレイブだったが、ユニはそれを飛び越えてブレイブの顔面に蹴りを押し付けた。

 

「ぬっ!?」

 

そしてブレイブの頭の角を掴んで自分の体を固定する。

 

「燃えなさい、バーナーの炎よ!」

「なああっ!?」

 

足から吹き出したブースターの炎がブレイブの顔面を焼く。

剣を使えば自分の顔に当たってしまう可能性もある、ブレイブは顔が焼けることに耐えながら手でユニを握りしめた。

 

「っ」

「おのれ、離せっ!」

「きゃああっ!」

 

投げ飛ばされたユニが地面に転がる。

しかしそれでもユニは瞳の炎は消えはしない。再び立ち上がり、ブレイブに相対する。

 

「うくっ、おのれおのれ……!」

「ざまあみなさい、ようやくダメージが入ったみたいね!」

「これで、今度こそ終わりにする……!」

 

ブレイブの体が量子化して消えた。

 

「また、あの攻撃!」

「ユニちゃん………!」

「卑怯よ、出てきなさいよ!」

「黙って見てなさい、アンタ達」

「でも、このままじゃユニちゃんは……!」

「もうアレの対策もユニはわかってるわ。後は黙って……ユニの本気を見届けるだけよ!」

 

 

「ふん、子供を守る剣士サマは随分と臆病なのね!隠れんぼが得意とは思わなかったわ!」

 

なんとでも言え……勝った者だけが全てを語れる!

 

「ええ、そうね!死人に口無し、アンタの口からはもう言葉は出ないもの!」

 

その程度の挑発に俺が乗るとでも……!?

 

「いい、ブレイブ!確かに、強くなきゃ生きれない!でも、でもね!優しくなきゃ!優しくなければ、生きる資格はないの!」

 

………!

 

「その技、もう見切ったんだから!」

 

どこからか量子化したブレイブの声が聞こえる。

その声も特定の場所から聞こえてくるようでどこからも聞こえるようでもある。

声からブレイブの場所を探ることは困難だ。

そして、視覚嗅覚触覚を駆使してもブレイブを見つけることは不可能。ニュータイプ能力もユニにはない。

だからーーーー!

 

「さあ、どこからでもかかってきなさい!」

 

ユニはタンクを背にしてメガビーム砲を構えた。

 

(あの時、トランザムしていたのにも関わらずブレイブには攻撃が通った……!)

 

つまり量子化の直後、もしくは同時に攻撃すれば実体化したブレイブを叩くことが出来る。

ならば!

 

「背中を壁にして、どこからか来る攻撃に反射神経のみで対抗してみせると……?」

「確かに無謀ね。でも……最善よ」

 

(上か、下か?正々堂々に前からか……もしくは横からか!)

 

誰も声を出さない。

さっきまで弾丸と熱線が飛び交っていたのが嘘のように静まり返っていた。

神経を研ぎ澄ます。

どこから来ても対応できるように。

 

しかし………ユニが取った策は“そういうこと”では無かった。

ユニは最善を超えた絶対を取った。

ユニが乗り越えた幾多の戦いで身につけた勘が言っている、これは絶対に成功する策だと!

 

確かに、反射神経で相手するのは妥当な手段だ。

だがブレイブの強さが命取り。的確に正確に勝ちへと突き進むブレイブの強さがあるからこそ、この策は最善を超えた絶対となった!

 

 

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

ガン!とユニが振り返って“タンクの中”にメガビーム砲の砲口を埋め込んだ。

そしてユニが引き金を引くのと同時にユニの頭スレスレをビームサーベルが掠めてタンクを両断した。

 

「バカ……な………!?」

 

タンクの中にいたブレイブの体の赤い光が消えていく。その腹には大きく風穴が開いていた。

 

「っ、まだ!」

 

ユニがブレイブを持ち上げ、天高く舞い上がる。

 

「何故……!?今のを、見切るとは……!?」

「その強さが命取りだった!アンタなら、必ず予想外の手段で来ると思った!だからこそ、だからこそよ!」

「………完全に、上を行かれた、か………!」

 

そしてユニはブレイブの腹にメガビーム砲の砲口を当てたまま落下し始める。ユニのブースターが唸りをあげ、凄まじい速度で地面に向かう。

 

「っ、何してんのよ!最後まで抵抗しなさい! アンタは、強いでしょ!?」

「む、無理を言うな……さっきの一撃で、全部、持っていかれた……もはや指1本も動かせぬ……」

「何を弱気な……!ブレイブ!戦いなさい、戦いなさいよ!私が勝ちたいって思ったアンタは、もっともっと大きかったはずよ!」

「ふっ……強さがなくては生きていけない、優しくなければ生きる資格はない……そうお前に論破された時点で、俺の負けは決まっていた……」

「しっかりしなさい!アンタの、思いは!」

「ユニ……子供達の未来……託すぞ……!俺にないものをお前は持っている……!それが、あれば、きっと……っ!」

「ブレイブっ!」

「撃て、ユニ!勝者の務めだ……!俺を撃ち抜き、勝利をその手に掴めッ!」

「っ………!メガビーム砲、最大出力……!」

 

メガビーム砲の砲口が閃光を放ち始めた。ユニがその引き金に指をかける。

 

(それでいい……)

 

 

「シューーーートッ!」

 

 

天から雷が落ちたかのような巨大な威力のビームが天から真っ逆さまに地面に撃ち落とされる。

 

「っ……!」

 

下にいた女神達はそれが地面に落ちたことによる衝撃と風に体を揺さぶられる。

工場には巨大なクレーターが出来上がり、赤熱した地面と吹き上がる蒸気がビームの激しさを物語る。

その真ん中にブレイブは胴体に風穴を開けられたまま大の字で横たわっていた。

 

「………………」

「はっ、はっ、はっ………!」

 

そしてそのブレイブの隣にユニも息を切らしながら横たわっていた。変身が解け、体中が傷だらけでも目を開いて立ち上がる。

 

「……っ、私の勝ちよ、ブレイブ………」

「………」

 

立ち上がったユニの元に全員が向かう。

みんながユニの元に辿り着く前に、ユニはもう何も答えなくなったブレイブに声をかけた。

 

「確かに託されたわ、ブレイブ……アナタの思いも連れていく……この先の未来に、連れていくから……」

 

その言葉が終わるとまるで安心したかのようにブレイブの体が光になって消えていく。何も言葉がなくとも、何も感じられなくても、ユニはただそれを見つめ続けていた。

そしてブレイブが完全に消滅したのを見届けると、ふらりとユニの足から力が抜けた。

 

「ユニ!」

 

しかし倒れる前にノワールがユニの前に回り込み、抱き抱える。

そしてゆっくりと2人でその場に座り込む。

 

「良くやったわね、ユニ……!アナタ、勝ったのよ……!」

「う、ん……ねえ、お姉ちゃん………」

「……なに、ユニ?」

 

ノワールの胸に顔を埋めたユニが静かに嗚咽を漏らした。それを見たノワールがユニを優しく包む。

 

「勝つって、嬉しいことばかりじゃ、ないんだね………っ?」

「ユニ………」

「絶対、分かり合えたのに……思いは同じだったのに……!方法が、立場が、違うってだけで……っ!」

「………そうね、悲しいわね、ユニ……」

「う、う……!お姉ちゃん……お姉ちゃん……っ!」

 

ユニがノワールに強く抱きつく。

掻き毟るように、理不尽をぶつけるかのようにノワールを抱きしめる腕は強い。

ユニは疲れ果てて眠りにつくまでずっとノワールのことを抱きしめ続けていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔剣の行方

「あ、お帰り、みんな」

「うん、ただいま〜……」

「ネプテューヌ?元気ないね……疲れた?」

「疲れた……」

 

帰ってきたみんなをミズキが出迎えた。

ネプテューヌは疲労困憊と言った様子でだら〜んとハイタッチをミズキにすると教会の椅子に座り込む。

 

「見てる方が疲れるよ〜、危なっかしくて……」

「なんの話?」

「ん〜、えとね〜?」

 

ネプテューヌがラステイションであったことを話し始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ギョウカイ墓場、その中心部にある巨大な管。

試験家のような透明なパイプの中で液体に包まれていたマジックが目を開く。

 

「………ぬんっ!」

 

次の瞬間、透明なガラスのパイプは割れてあたり1面に多数の破片と液体を撒き散らす。

そしてマジックは自分の体についたコードを強引に引きちぎっていく。

 

「お、おいおい、もういいのか?そんな乱暴に出ては、せっかく治った傷も……」

 

それをトリックが見咎めて諌める。

トリックの体はところどころが金属質の肌になっていて、光沢がある。他にも様々な体のパーツが機械のものに置き換わっていた。

 

「そんなことはどうでもいい!それよりも……ブレイブまでやられるとは……予想外だった」

「あの作戦が裏目に出たな。確かに絆を断ち切ることは成功したが、逆に更に強くヤツらの結び付きは強くなってしまった」

「次の作戦で挽回する。シェアを乱し、時間を稼ぐ……わずかでいい。そのための道具も揃っている」

「何をする気か知らないが……幼女を傷つける作戦なら降りさせてもらうぜ?」

「心配はいらない。女神候補生達はお前に任せる。好きにすればいい」

「ほ、ホントか!?」

 

突然トリックの鼻息が荒くなった。

 

「く、首輪とか、制服とか用意しちゃっていいかな!?他にも、他にも……!」

「だから、好きにしろと……」

「か、監禁とかして!傷つけないように、窒息させるのがいいな!それで、中に蝋を詰めて……人形にしよう!そうすれば、永遠に幼女の姿のままだし!」

「……なに…………?」

「アク、アクククク!綿を詰めて剥製にするのもいい!氷漬けとか、中の肉は食べてしまおう!ステーキがいいかな、いや、ハンバーグもいい!挽肉にしよう!」

 

トリックがわけのわからないことをまくし立てる。

本来、トリックは幼女趣味の変態ではある。それはわかる。しかし、この発言はトリックが言うようなことではない。

幼女を愛し、さっきも幼女を傷つけるようなら作戦を降りるとまで言っていたトリックが、わけのわからないことを言っている。

トリックが幼女を殺すわけがないのに。

トリックが、狂っている。どこか、狂っている。

マジックはその発言に不本意ながらも寒気を感じてしまった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキがラステイションで起こったことを聞いて息を飲んだ。

 

「そっか……ブレイブが……。……ユニは?ここにはいないみたいだけど……」

「怪我してたから、ラステイションで休ませてるわ。と言っても、大きな怪我はしてないから心配するはないと思う」

「そっか……良かった……」

 

ミズキがほっと胸を撫で下ろした。

 

「はあ、もう疲れた〜。早く帰って休みましょうよ〜」

「私も……疲れた……」

「先にルウィーに帰ってる?」

「うん、そうする。お姉ちゃん、後でね!」

「私も、帰って、休みたい……」

「あ、途中まで送るよ」

 

ロムとラムがだらけながら教会を出ていく。そしてネプギアがそれを追いかけて協会を出ていった。

 

するとアブネスがこそこそっとミズキのそばに寄ってきて耳打ちをする。

 

(アレ、どうするのよ!)

(……うん、話そう、とは思うけど……)

(……まあ、好きにすればいいけど!内緒ってのはダメよ?今、話しなさい!)

(わ、わかったわかった)

 

「なになに、何の話?」

「あ〜、いや……」

 

ネプテューヌがそれを不審に思って寄ってくる。

なんでもない、と言いかけたがアブネスの目線が突き刺さって言うのをやめる。

 

「……ちょっと、大事な話があって」

「大事な話?」

「重要なことなら、私達席を外すですよ?」

「いや、コンパとアイエフも……ユニもいれば良かったんだけど、今話さないとずるずる引き摺りそうだから……」

 

ミズキが次元の穴から朽ちた剣、ゲハバーンを取り出した。

女神達の目線がその魔剣に向く。

 

「なに、その剣?」

「……順を追って話すよ。まず、僕らはとあるメールを受け取ってそこに記された場所に向かったんだ。そこにいたのは……脱獄したワレチューとアノネデスだった」

「は?」

「ま、待ってノワール。気持ちはわかるけど、抑えて抑えて」

 

ノワールの顔が歪んで心底嫌そうな顔になった。今すぐにでもアノネデスを探しに行きかねないノワールをミズキが宥める。

 

「場所は昔あったプラネテューヌ教会の跡地。そこには2人の他に思念体になった過去の女神……ウラヌスがいたんだ」

「ウラヌス……ネプテューヌ、知っておりますの?」

「いや全然?」

「そこまでだと逆に清々しいわ……」

 

ブランが頭を抑える。

 

「取引の内容は……こちらがリンダとマジェコンヌを救い出し、ビフロンスを倒すことと引換に……ビフロンスを倒す手段を教えるって取引」

「ビフロンスを、倒す?もしかして、そのボロッボロの剣が?」

「うん。過去に犯罪神を封印できるようにまで追い詰めた魔剣、ゲハバーン」

「ゲハバーン……ねえ。胡散臭い話だけど。そもそも、犯罪神はビフロンスであって、昔封印したなんて嘘っぱちじゃないの?」

「いや、過去に犯罪神は存在していたよ。本当に。でも……ビフロンスは今、その力を吸収しつつあるらしい」

「私から補足させてもらうと、犯罪神単体でさえ、過去の4人の女神が束になっても歯が立たなかったらしいわ」

 

その言葉に全員が言葉を失った。

 

「バケモノがバケモノを食う……まるで蠱毒ね」

「神で蠱毒なんて、冗談じゃありませんわよ」

「でも、その剣があれば勝てるんでしょ?楽勝じゃん!」

「………その、こと、なんだけど」

 

ミズキが目を伏せた。

その様子にネプテューヌも余裕ぶった笑みを無くす。

 

「……どうかしたの、ミズキ?」

「……この剣が力を発揮するには条件がある。今は、ノワールが言った通りのボロボロの剣でしかない」

「その条件は、なんなの?」

 

ネプテューヌがミズキに詰め寄った。

ミズキは息を何度か吸った後、ゲハバーンの柄をぎゅうっと握りしめた。

 

「この剣は……っ、女神を……」

「……女神を?」

「っ、女神を殺せば殺すほど、力を増す魔剣なんだ……っ!」

 

全員が驚きにカッと目を見開いた。

真実を知っていたアブネスも目を伏せる。

 

「ちょっと待って、アンタ……ネプ子達を殺す気なの?」

「断じて違う」

 

ミズキがアイエフに即答した。

それに女神4人は少しばかり安堵する。

 

「お、驚かせないでくださいまし……はあっ……」

「でも、じゃあなんでその剣を持って帰ってきたですか?」

「……うん、それが本題」

 

ミズキは握りしめていたゲハバーンを床に落とした。カランカランと音を立ててゲハバーンが床に転がる。

 

「僕は、君達を切ることは出来ない。もちろん、倒す努力は最大限する。でも、もし、ダメだった時は……」

 

ミズキが女神達の顔を1人1人順に見ていく。

 

「誰かが……誰か……切ってほしい」

 

誰しもが言葉を失った。

しばらく誰も言葉を発することが出来ずに、ミズキの言葉を反芻しているだけだった。

 

「ま、待ってよ!だって、私達だって、そんなの………!」

「……ウラヌスは、過去の4人の女神は……天秤にかけたんだ。友達の命と……民の命。3人はダメージが少なかったウラヌスに剣を託して喜んで首を差し出した」

「だ、だって……でき、ないよ……」

「……僕だって、できない……」

 

誰も床に落ちたゲハバーンを拾い上げようとしない。

 

「せっかく、取り戻した君達を……自分の手で奪うなんて」

「私だって、私達だって!みんなを、ミズキを殺すなんて!」

 

ネプテューヌがミズキに詰め寄った。

2人とも胸に訴えかけるような悲痛な声で話す。

 

「……まだ、決まったわけじゃないのでしょう?」

「それは、そうだけど……」

 

ブランが剣を拾い上げた。

そしてそれをミズキに差し出すように前に出す。

 

「アナタに託すわ」

「……ダメだよ、僕は君達を切れない」

「ううん、そんなことはないわ。……きっと、もし、最悪の事態になった時は……泣きながらでも、私達を殺してくれるはず」

「ブラン、やめて」

「アナタは本当に無理だと思っていると思う。けど……私は信じているわ、ミズキ」

 

ブランは優しく微笑んだ。

それを理解出来ずにミズキは数歩後ずさった。

 

「あのね、ミズキ……私は、殺されるのならアナタがいい」

「………!」

「勘違いしないで。死にたいわけじゃないわ。生きていたい。けど、殺されるのならアナタがいいのよ」

 

ブランがミズキが後ずさった分だけ前に出た。

 

「やめなさい、ブラン。それはアナタが楽したいだけよ。ミズキがどれだけの重荷を背負うことになると思ってるの」

「……そうね」

 

ノワールの言うことにブランが剣を下ろした。

 

「でも、私はそう思える。もし、どうしようもなく命を絶たれるのなら……そう思う」

「……考える時間が欲しいですわ。……逃げかもしれませんけど」

 

ベールが目を伏せた。

 

「とりあえず、ミズキ、“預かって”くれる?まだ誰が切るか決まったわけじゃない、けどアナタが持ってるのが1番安全だわ」

「……わかった」

 

ミズキがブランから剣を受け取り、別次元にしまいこんだ。

 

「……私はルウィーに戻る。この件、よく考えておくわ」

「また明日……ですわね。私もチカと話し合いたいと思います」

「私も、ユニと話さなきゃいけない。ミズキも、ネプテューヌも、それでいいわね?」

「……うん」

「わかった。……まだ、決まったわけじゃないけど」

「だからって考えないわけにはいかない、よね。それじゃ」

 

3人の女神はそれぞれ変身して自分の国へと帰っていく。するとネプギアが帰ってきた。

 

「ただいま〜……?お姉ちゃん?」

「……え、ああ、いや、なんでも……ある」

「え?」

「ネプ子、とりあえずネプギアにも話しておきなさい」

「う、うん。……わかってる」

「今すぐによ。内緒にするわけにはいかないでしょ」

「わ、私……先帰ってるです」

「私も帰ってるわ。いい、各自勝手な行動はしないこと。例えそれが誰かのためになると思っていてもね」

 

アブネスとコンパは教会を出て行った。

確実に状況は良くなってきているはずなのに、教会の空気は酷く澱んでいて重く感じた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

また1つ、マジェコン製造工場が煙をあげて制圧される。

ここはラステイション、その東寄りの町外れだ。

 

「……ん、リハビリにはちょうどいいかな」

 

ミズキがマシンガンでマジェコンを破壊していく。もう彼の体から包帯は取れ、松葉杖をつくこともなくなっていた。

 

「ご冗談を。退屈〜とか、手応えがないって顔してるわよ」

「クスクス、そんなことないよ。戦いがないのが1番」

 

ノワールが呆れながらミズキの横に並んだ。

 

「これでおしまい?」

「ええ。後はウチの軍隊に任せればいいわ」

「了解。それじゃ帰ろうか」

 

工場の外に出ると、そこに全員が揃っていた。

 

「ごめん、遅れて」

「奥地に行き過ぎたわね」

「ううん、今来たとこだよ〜」

「それはどっちかと言うと彼氏側のセリフだと思うのですが……」

 

誰1人欠けることなく、また怪我もなく集合した。ユニはまだ体に絆創膏が貼られているが、まあ問題はないだろう。動きを見たが、冴えがあるどころか見違えるほどの動きだったし。

 

「それじゃ帰り……ん?」

 

ブランのポケットの中の通信機が音を立てた。

ブランはそれを取って通信を繋ぐ。

 

「もしもし?………なんですって?」

 

ブランが目を見開いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「始まる……もう誰にも止められない。どちらに転ぼうが、勝利は揺るがない」

 

マジックがギョウカイ墓場で低い笑い声をあげる。

 

「犯罪神様復活は秒読みに入った。……せいぜい、今のうちに嘆くが良い……ククッ……」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バグ

ルウィー。

白い雪が1年中国を覆う雪国。静かにしんしんと雪が積もるはずだったその都市は……悲鳴で包まれていた。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

 

幼い子供を抱いた母親が雪に覆われたレンガを蹴りながら走る。

何かから逃げるように息を切らし、火に包まれる建物の間を縫うように動く。

 

「っ、あ………!」

 

曲がり角を曲がった瞬間、目の前に浮いていたのはまるでUFOのような物体。

浮いていたひらべったい円形の物体は枠にチェーンソーを回転させている。

それは母親と子の体温と二酸化炭素を検知、真っ直ぐに突進する。

 

「ああっ……!?」

「うええぇぇん!」

 

母親は子供を庇うように身を伏せた。

円盤型のUFOが母親を切り裂く寸前、キラリと空に閃光が瞬いた。

 

「ッ………オラァッ!」

 

凄まじい速度でブランが飛来、その手に持った斧を力任せにUFOに叩きつけ、切断してしまう。

UFOのような物体は爆発を起こして粉々になってしまった。

 

「…………」

「ぶ、ブラン様!」

「教会だ!教会に向かえ!教会なら安全だ!そこで避難民の受け入れをやってる!早く!」

「は、はい!ありがとうございます!」

「もう見つかるんじゃねえぞ!」

 

母親は子供を抱いたまま立ち上がり、教会の方角へ向かっていく。それを見届けてからブランはチッと舌打ちをした。

 

「犯罪組織……ビフロンス……よりにもよって私の国で、こんなことを!許さねえぞォォッ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「教祖様、北口の被害甚大!防衛線が押されつつあります!」

「東の部隊をまわして!女神様が到着したわ、あと少しだけ堪えて!」

 

ミナが教会中心部で指示を出す。

ミナの前には広い机があり、そこにはルウィーを記した大きな地図が広げてある。

 

「っ、しまったわ……まさか、ここで反撃してくるなんて……!」

 

始まりは突然だった。

それは教会の耳に入れるまでもない些細な、しかし奇怪な事件だった。とある人が真っ二つに割かれて死んでいただけの。

しかし似たような事件がわずか数10分で急増、ついに警察に届いた通報は以下の通り。

 

『UFOだ!宇宙人が攻めてきた!』

 

警察が迅速に事態を把握したときはもう遅かった。その頃には小型の円盤状物体『バグ』は国中に飛来、国民の虐殺を始めていたーーーーー。

 

「教祖様、避難民を収容するシェルターが満員に近づいています!」

「教会の立入禁止区域を一部解放!絶対に見殺しにしないで!」

 

今はまだ教会周辺は死守できているものの、敵の攻撃は激しさを増すばかり。そして敵戦力も十分に把握出来ていない。

 

「このままじゃ……!」

「教祖様!」

「今度はなんですか!?」

「北口、突破されました!」

「っ、なんですって……!?」

 

ミナが目を見開いた。

 

「急いで東の部隊を向かわせてください!シェルターだけはなんとしてでも死守して!」

 

すると今度は電話が鳴り響く。

 

「ああもうなんですか!?私は……えっ?」

 

イライラしながら受話器を取ったミナが硬直した。

それからボールペンをとって地図に文字をサラサラと書き込んでいく。

 

「はい、はい、はい……やれないことはないです!その程度なら……わかりました!」

 

そしてミナが受話器を置いて部下の1人に指示を出す。

 

「大丈夫、北口はロムとラムが向かったわ!余裕が出来た部隊から魔導師をこちらに向かわせて!」

「は、はい!」

「反撃を始めます!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

北口、そこではルウィーの軍隊が必死に応戦しているが、空中を漂う小さな的にはなかなか攻撃が当たらない。

そしてバグは正確に軍隊の体温と二酸化炭素を検知して襲いかかってくる。

 

「うわああっ、ぎゃああっ!」

「おい、おい、しっかりしろ!」

 

ルウィーの魔法をもってしてもバグ相手には受け身にならざるを得ない。

そして部隊に開いた穴からバグが教会内に侵入していく。

 

「しまった!」

「なんとしてでも止めろ、中には避難民が!」

 

「こんのぉ!いい加減にしなさいよォッ!」

「アイスコフィン!」

 

空からやってきたラムが教会内に侵入したバグを叩き潰し、ロムが氷塊でバグをまとめて砕く。

 

「ロム様、ラム様!」

「ごめんなさい、遅れたわ!でももう大丈夫!」

「ここから、押し返すよ……?」

 

「は、はい!」

 

ロムとラムがバグをどんどん撃破していく。

それを見た兵士達も体勢を立て直し、加勢していった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

大気圏用バックパックを背負い、空を飛行するガンダムが次々にバグをビームライフルで撃ち落としていく。

Gセルフは空中を漂うバグを正確無比な射撃で撃墜していくが、その中で燃える家を見つけた。

 

《アレは……!》

 

コースを変更、燃える家に向かって急降下してその中へ壁を壊しながら突っ込む。

 

《っ、いた!》

「うぇぇぇ、えええぇん!」

《もう大丈夫、おいで!》

 

火の中で泣き叫んでいた子供を抱きしめ、外へ飛び出る。そこには燃える家を泣きながら見ていた夫婦がいた。

 

「あっ、ああっ!」

《大丈夫、怪我はないはずです!教会へ向かってください、あそこなら安全です!》

「は、はい!」

 

子供を受け渡してから空を見るとまたバグが夫婦の体温を検知して数機向かってきていた。

Gセルフはライフルを構えるが、引き金を引く前にビームによって全て撃墜される。

 

「ミズキさんっ!」

《ユニ、大丈夫!?》

「この程度、どうってことないです!けど……数が……!」

《今は少しでも数を減らす!時間はかかるけど、ルウィーの力ならバグを一気に倒せる作戦が発動できるはずなんだ!》

「でも、家の中にまで入り込んでちゃ!」

《やるしかない!1人でも多くの人を救うんだ!》

「っ、はい!」

 

ユニがまた空へ飛んでバグが比較的密集している空域を目指す。

 

「ミサイルで!」

 

そしてGセルフもまた空へと羽ばたく。

ユニとは逆方向に向かい、そのバックパックを巨大な物に交換した。

アサルトパック。長距離用の武器を多く内蔵したバックパックはGセルフをまるまる包み込むほど大きく、Gセルフのフォトン装甲を赤く染める。

 

《くそっ、くそっ、くそっ!》

 

バグを手当り次第にアサルトパックの大型ビームライフルで撃墜していく。

そして目の前に迫るバグをアサルトパックから離脱して迎え撃つ。

 

《っ……!落ちろ!》

 

そのバグは血に濡れていた。既に誰かを殺めた証拠であるそれをGセルフはビームサーベルで叩き切った。

 

《もう……殺すなぁぁっ!》

 

そしてビームサーベルを手首で高速回転させ、Gセルフから排出される二酸化炭素を検知して寄ってくるバグを次々と切り刻む。

 

《次!》

 

そしてすかさずアサルトパックを装着し直し、また飛んで行った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「状況はどうなってますか!?」

「拮抗です!押し返しはしましたが、今のところは、まだ……」

「魔導師も手を回せませんか!?」

「無理です!あのUFOの迎撃に手一杯で!」

「……っ」

 

状況は女神達が帰還したことで有利になったものの、それでも有利にまではならない。

一気にバグを消す作戦はあるが、そのためには大量の魔導師が必要だ。するとその間は部隊は減り、バグの進行を許してしまう。

 

「どうすれば……!」

「き、教祖様!」

「なんですか!?」

「に、西から……!」

「西から、なに?」

「西から軍隊です!」

「軍隊……!?」

 

ミナは兵士からその軍隊を撮った写真を受け取る。

 

「これは……!」

「はい、プラネテューヌの軍です!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「お姉ちゃん、来たよ!」

「ようやくね……ネプギア、少しの間ここを頼んだわよ!」

「うんっ!」

 

ネプギアがオービタルのM.P.S.C(L)で次々とバグを撃墜していく中、ネプテューヌが後退してプラネテューヌ軍の前に立った。

 

「いいわね!?1人でも多くの民を救い、1機でも多くのバグを倒すのよ!」

 

ネプテューヌの掛け声に軍隊は雄叫びをあげる。

 

「ここをプラネテューヌだと思いなさい!私に続いて!」

 

ネプテューヌが飛んだ後からプラネテューヌの軍隊が進んでいく。それは確実に犯罪組織側を窮地に陥れるはずの軍だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3つの進撃

「プラネテューヌ軍、教会に到達しました!」

「共同戦線を張って!それと、これだけの数なら魔導師を集められるわね!?集めて!」

 

ミナが号令をかけると兵士が魔導師を集めに階下へ下がっていく。

ミナも懐から魔導書を握りしめ、部屋をあとにする。

 

「私も……!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ロムとラムは防衛ラインの最前線でバグを落としていた。

次々と襲いかかってくるバグに途切れはなく、さすがのロムとラムも疲弊し始めていた。

 

「多すぎんのよ、この!」

「みんなは、やらせたくないんだから……!」

 

それでも2人は一騎当千の働きでバグを叩き落としていく。

すると後方から来る気配にロムがピクッと振り向いた。

 

「ロムちゃん?なにか来るの?」

「……ミナちゃん?」

「え!?」

 

「通して、通してください!」

 

「み、ミナちゃん!?危ないわよ、こんなところ!」

「今からバグを倒す作戦を始めます!援護お願いします!」

「え、え?」

「援護……?」

「敵をこっちに来させないで!みなさん、準備はよろしいですか!?」

 

ミナの後ろには何人もの魔導師がいた。

それぞれ杖や魔導書を持ち、一塊になって空を見上げる。

 

「それでは……今です!」

 

ミナが号令をかけると、空中に巨大な火の玉が出来上がる。

しかし、それは空高く浮かんでいるだけでバグに向かっていく訳では無い。

 

「これが作戦なの!?」

「確かに、すごい炎だけど……」

「ここからです!みなさん、集中して……!」

 

大多数の、しかもルウィーの魔導師が集まったからこその巨大な火の玉だ。それは見事。

しかし、それだけでは、火力があるだけではバグは倒せない。

 

だがその作戦には続きがあるらしく、魔導師達が集中して念を込めていく。

すると、火の玉は段々と小さく、温度も下がり始めた。

 

「な、何してんのよ!」

「いいから!2人は私達を守ることに集中して!」

 

そして空中の火の玉はついに消えてしまった。

ぽしゅんと音を立てて消えてしまった火の玉だが、魔導師達は集中をやめない。むしろこれからが本番だというふうにさらに集中を高める。

 

「んっ、人が多いと、バグも……!」

「近付かないで、よっ!」

 

ロムとラム、それにルウィーの部隊が魔術し達を守る。

人が一箇所に集まっているために大量のバグが引き付けられていて守るのは困難を極めた。

しかし魔術師たちはそんなこと何処吹く風、周りの状況に気を引かれることなく集中を高めていく。

 

「っ、やっ!……あれ?」

「バグが……逃げる……?」

 

すると段々とバグが魔術師達から離れていく。

未だに襲っては来るものの、数は極端に減っていて守る難易度も下がっている。

 

「……違う、逃げてない……」

「引き寄せられる……そっか、そういうことね!」

 

バグは逃げているわけではなかった。

バグは人を正確に狙う。それは人が発する体温と二酸化炭素を検知しているからだ。そのどちらかが検知された場合、バグは一直線に突進してそれを破壊する。

だから、体温と二酸化炭素を検知すればどこにでも向かっていくのだ。だからモビルスーツであるミズキにも突進していくし、車や街灯にも突進していく。

そしてそれは標的が大きければ大きいほど破壊を優先する。

ならば、取った作戦はまさに、『飛んで火に入る夏の虫』。

 

ミナ達が魔法で唱えた火球は確かに消えたが、魔法は終わった訳では無い。繊細に、慎重にその温度を下げているだけだった。

最大火力を出すのは簡単だ。全ての力を注ぎ込めばいいのだから。それは別にルウィーではなくても魔術師がいればできる。

しかし、およそ36〜40°の温度まで魔法をコントロールし、それを維持するのはルウィーの魔導師でなければ不可能。その繊細さはルウィーの魔術師しか持っていないものだ。

 

そしてそれが成された今、空中に浮かぶ人のような体温のナニカに街中のバグが引き寄せられていく。

 

「これなら……!」

「すごいわ、ミナちゃん!」

 

バグ達は幻の標的に向かって突進を繰り返し、ぶつかりあい、砕けていく。

すると大量のバグが集まりあい、密集している空域にブランがやって来た。

 

「良くやったミナぁっ!」

(まとめてやっちゃってください……!)

「砕けろ!テンツェリン・トロンべ!」

 

ブランが斧を回転させながら空域に突撃、バグの群れに突っ込んでいく。

逆にチェーンソーでバラバラにされてしまうのではないか、とロムとラムは一瞬思ったがそんな心配は必要ない。

 

ブランは何の引っかかりもなくバグの群れを飛び抜け、斧についたオイルを振り払う。

するとバグは次々と砕け、割れ、爆散する。そこにあったバグは1機残らずブランの斧の前に撃破された。

 

地上の軍隊からブランを讃える声が響き渡る。

ミナは作戦の成功にほっと息をついて集中を解いた。

 

「まだ気を抜くんじゃねえ!街中にまだバグは残ってる!1機も残すな、全部砕くぞ!」

 

ブランの号令で士気が上がった軍隊が町中へ散っていく。

プラネテューヌ軍もいる、このままならバグが全滅するのも時間の問題だろう。

ようやく勝ちが見えた、指示を出すべく教会に戻っていくミナの携帯が鳴った。

 

「はい?あ、イストワールさん、助かり……えっ!?」

「ミナちゃん?」

「え、や、それはどういう……イストワールさん?イストワールさん!返事してください!イストワールさん!」

「どうかしたの……?」

「そ、それが……!」

 

ミナが慌てて事情を説明しようとすると、空からネプテューヌとネプギアが急いでやって来た。

 

「待って!ギョウカイ墓場の方から……!」

「ルウィーのみなさん、待ってください!ここで散っちゃ……!」

 

さらに同時にベールが舞い降りてくる。

 

「急いでくださいまし!町外れの方に……!」

 

ブランがその様子を見て間に入る。

 

「お、おい、待て!お前らまず順に説明を……!」

 

「プラネテューヌの教会が占拠されました!」

「ギョウカイ墓場からEXモンスターが!」

「町外れに大きな敵モビルアーマーが!」

 

 

『………ええっ!?』

 

 

ーーーーーーーー

 

sideルウィー国境近くーーーー

 

「……EXモンスター……久しぶりね」

「私達だって成長してるけど……でも……」

「この数は、大変ですわね」

 

森を埋め尽くすほどの赤黒いモンスター達。緑と白に覆われるはずの大地は赤黒いモンスターが蠢くものになってしまっている。

 

EXモンスター担当、ノワール、ユニ、ベール。

 

と、言ってもこんな数、とてもじゃないが3人で相手するのは無理だ。

 

「……泣き言言ってる場合じゃないわ、ビビってる暇があったらすぐ始めましょう!」

「互いに潰しあっていないあたり、連携は取れていないもののある程度の制御はなさっているようで。まったく、面倒なこと……!」

「ふるいにかけるわ!ミサイルポッド!」

 

ユニが先行してミサイルポッドを2つ射出する。そこから降り注ぐ108×2、合計216発のミサイルがEXモンスターに降り注いだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

sideプラネテューヌ外れーーーー

 

プラネテューヌを担当しているのはネプテューヌ、ネプギア。

2人は慌ててルウィーからプラネテューヌに戻っているプラネテューヌ軍よりも遥か先に進み、教会を目指していた。

 

「ルウィーの援護で手薄になったところを狙われるなんて……!」

「お姉ちゃん、みんな無事かな……!?」

「きっと無事よ!急ぎましょう、プラネテューヌを渡すわけにはいかない!」

「……うん!」

 

ネプテューヌとネプギアがさらに速度を一段階上げて矢のように先に進む。

教会の上部が2人の視界に映る水平線から顔を覗かせた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

sideルウィー外れーーーー

 

「ミズキ!」

《ブラン!ロム、ラム!》

「今助けるわ!……ってなにあれ!?」

「大きい……花……?」

 

ルウィー外れ、そこから現れたのは巨大な花形のモビルアーマー、ラフレシア。

周りに大量のバグを侍らせ、ルウィーの教会に向かって浮遊している。Gセルフはそれを止めるためにラフレシアと戦っていた。

 

「コイツが元凶か!んの野郎!」

《ブラン、待って!》

「止めるな!コイツが私の国を……!許せねえ!」

 

ブランがGセルフの静止も聞かずにラフレシアに向かって突撃した。

 

「叩き割って……やるッ!」

 

立ちはだかるバグを切り捨てながらラフレシアに近づく。

するとラフレシアの花弁のような部分から触手のような武器、テンタクラーロッドが大量に現れてブランに襲いかかる。

 

「なっ!チッ、この、クソ!」

 

ブランが足を止め、テンタクラーロッドを斧で振り払うがテンタクラーロッドは距離を取ってくれない。隙あらばブランを先端のチェーンソーで切り刻む気だ。

 

「お姉ちゃん、後ろ!」

「なっ、あっ!」

 

しかし、テンタクラーロッドはブランの後ろにも迫っていた。しかもテンタクラーロッドはビームさえ撃てるのだ。

威力は低いもののビームが背中にもろにあたって体勢を崩したブランの両手両足をテンタクラーロッドが巻きついて捕らえてしまう。

 

「くっ……ぐっ!」

 

振り払おうとするが頑丈で引きちぎれない。

そのブランを花弁のうちの1枚がメガビームキャノンで狙う。

 

「………っ!」

《コピペシールド!》

 

ブランを守るようにGセルフが前に出た。

Gセルフが構えたシールドには薄い結晶のようなバリアが張られ、それがメガビームキャノンのビームを吸収していく。

気付けばGセルフのバックパックは新たなものに換装されていた。

パーフェクトパック。文字通り今までのバックパックの機能を全て集約したバックパックだ。

 

《高トルク……!》

 

ビームを吸収したのはビームを吸収して自分のエネルギーに出来るリフレクターパックの機能。

次にGセルフはラフレシアに向かいながら右足を緑色に変えていく。次のパックは高トルクパック。高出力を生かした高機動パックの効果を右足にもたらしたのだ。

 

《吹き飛べぇぇっ!》

 

Gセルフの全力の飛び蹴りを受けたラフレシアだったが、体勢を崩しただけで後退はしない。

 

《っ、重い!》

 

Gセルフは素早く離脱しながらビームサーベルでブランを捕らえるテンタクラーロッドを切断した。

 

「悪ぃ!」

《ラフレシアに死角はない、怒るのはわかるけど慎重に!》

 

Gセルフとブランがラフレシアから離脱していく。

 

《…………》

 

Gセルフの脳裏によぎったのは数週間前の出来事だった。

 

 

 

あの日、みんなと仲直りした日にジャックから告げられたことだ。

 

『さて、お前達に知っておいて欲しいことがある』

 

それはみんなの涙が乾き始めた頃だった。

 

『ミズキがあの時、限界を超えた戦いをしていたのはお前達もわかっているだろう。そのツケの話だ』

 

いくら謝っても、嘆いても、過去にあったことは消せない。まだ少しミズキとの接し方がわかっていないのもそのせいだし、そんな精神的なもの以外にもミズキには後遺症が残っていた。

 

『たとえこの先、ミズキがどれだけ体調が良くなろうと……限界を超えれば傷が開くだろうということだ』

『限……界………?』

『具体的には機体の限界以上を叩き出すシステム。もしくはパイロットが人間の限界を超えてしまう能力の発揮だ』

 

それはつまり、ニュータイプ能力の最大発揮であり、M.E.P.Eであり、明鏡止水であり、ゼロシステムであり、SEEDであり、トランザムであり、FXバーストであり、阿頼耶識システムに身を委ねること。

 

『そうすれば……どうなるかはわからんぞ』

 

ジャックは暗にそんなことのないようにしっかりと守ってやれと言っているようだった。

 

 

 

《………ラフレシア……手強い……》

 

「おい、ミズキ!バカなこと考えてんじゃねえだろうな!?」

《っ、ブラン……》

「本気でやりあえねえんだろ!?少しくらいは私達に任せろ!」

「執事さんは下がってて!援護をお願いするわ!」

「月が出てなくても……アレくらい、倒せる……!」

 

Gセルフの前にロムとラム、そしてブランが出た。

 

「執事さん、あの敵……」

《うん、いる。多分中心部……そこはダメージを与えないで》

「余裕ね!花占いするみたいに、1枚1枚取っちゃえばいいのよ!」

「いいか、絶対に教会にたどり着かせんな!何としてでもここで仕留める!」

 

背中を見せる3人の少女に不思議な安心感を覚えながらーーーーGセルフはライフルを握り直す。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSモンスター

ルウィー国境近く、侵攻してくるEXモンスターにユニのミサイルの雨あられが降り注ぐ。

赤黒かった大地は一時的にミサイルの爆炎の中に飲み込まれ、EX化しても大した強さではないモンスターは早々に光になって消えていく。

残ったモンスターの様子は様々で、もう動けない者、足を止めている者、全く効かずに未だに進んで来る者。

しかしそれを確認する前、爆炎が消えるその前からノワールとベールはモンスターの海の中に飛び込んでいた。

 

「切り裂く!」

「穿ちます!」

 

EXモンスターが2人を視認した瞬間にはその体は切れ込みが入る、もしくは穴が開いていた。

光になって消えるEXモンスターには目もくれずに次の標的に向かう。

モタモタすればお終いだ。時間が足りない云々以前に、この赤黒い海の中で足を止めれば後は飲み込まれるだけ。

水の上を走るには沈む前に足を進める必要がある。

ならばこちらも飲み込まれる前に道を切り開く、突き進む。

 

「助けなきゃ……注意を逸らす!」

 

そしてその手助けをするのはユニ。

メガビーム砲では連射が出来ない、左手にビームライフルを持って瀕死のEXモンスターを次々に撃って数を減らしていく。例え瀕死であってもEXモンスターの生命力は侮り難い、倒せる時に倒し、2人が狙うべきモンスターの数を減らすのだ。

そして2人の道の先に巨大な竜のEXモンスターを見つけたならそこへ突撃を敢行する。

できるだけ低空を飛んでEXモンスターの注意を引きつつ、メガビーム砲を構えて引き金を1度引く。

 

「もいっぱああつ!」

 

EXモンスターの腹に風穴が空いた。

動きを止めたEXモンスターの頭めがけてもう1発。急所を穿たれたドラゴンのEXモンスターは光になって一瞬で消えてしまう。

そこに開いたスペースをEXモンスターが埋める前にノワールとベールが滑り込み、ほんの一瞬息を整える。

 

「はあっ………」

「ふうっ………」

 

モンスターの波が触れる前にそれを払い除ける。

そしてまた2人は手当り次第、前に立ったEXモンスターから順に切り続け、突き続けていく。

 

「いけない!」

 

ユニがルウィーへ先行していくEXモンスターを見つけた。

すかさずそこへ向かいながらブレる銃身を抑え、メガビーム砲を撃つ。

ピッタリ、定規で測ったようにそのビームは命中してEXモンスターを光に変える。

そのままユニは敵の最前線近くを横切りながら進行を抑えるようにビームを乱射していく。

 

「このまま!食らって倒れなさい!」

 

そのユニからは白く光るワイヤーのようなものが伸びていた。ユニの軌道をなぞるようにそのワイヤーは宙に浮き、前にしか進まないEXモンスターを転倒させてしまう。

そしてユニがそのワイヤーを切り離した瞬間、ワイヤーはEXモンスターの真下で眩く光った。

 

「爆導索……弾けて!」

 

爆薬が内蔵されたワイヤー、爆導索がEXモンスターの下で爆発して前線のモンスターを薙ぎ払う。

 

これだけでもかなりの数のモンスターが倒されていた。ユニのミサイルは多数の敵を撃破したし、さっきの爆導索もバッチリ決まった。ノワールとベールもまだダメージはゼロだし、順調にモンスターを撃破しているように見える。

しかし3人は直感していた。

 

これは、無理だと。

 

ユニの弾は切れる。近接武器だっていつかは切れなくなる。

そうでなくてもノワールもベールも何かダメージを受けて少しでも怯めばそれでお終いだ。後はモンスターの波に飲まれて骨の欠片も残るまい。

ほんの細い糸、それを綱渡りしているようなものだ。それも先の見えない。それならまだいい。この渡っている糸はいつか切れることが確定している糸なのだ。

だから、無理。不可能。

 

………だとしても。

 

「はっ!」

 

ベールの槍がモンスターを貫いた。

しかし後ろのモンスターが既にベールに向けて拳を構えていた。ノワールやユニのフォローも間に合わない。

しかし、ベールは前に進みながら自分の後ろに魔法陣を展開する。

 

「シレッドスピアー!」

 

魔法陣から飛び出した巨大な太い蔦が絡まり合い、槍となって後ろのモンスターを貫く。

 

(まだ……まだ……っ!)

 

「……………!」

 

ノワールの汗が飛び散る。

力の限り剣を振るい、敵を切り捨てていく。

 

(トルネードソード……!)

 

ノワールが全力で剣を横に振ると極小の竜巻のようなものが巻き起こり、ノワールを囲む敵を吹き飛ばす。

木々を揺らし、葉を飛ばし、その風は敵を切り刻むほどに鋭い。

そしてノワールは大地を蹴って飛び上がる。

視認した景色の中で最も敵が密集している場所へとそのまま飛び降りていく。

 

(ヴォルケーノ……!)

 

すぅっと息を吸い、力のままに大剣を地面に叩きつけた。

 

「ダイブッ!」

 

地面が割れ、マグマが吹き出し、敵を飲み込んでいく。

直接ノワールの剣に触れた者はもちろん、地割れに飲み込まれマグマに落ちた者、そして吹き出したマグマを浴びた者が光になって消えていく。

 

(無理だからって……諦める理由にはならない!)

「そしてまだ、無理だと言えるほど私達は追い詰められていませんわ!」

 

限界を超えた人がいた。

体も心も傷だらけで戦った人がいた。

それに比べて私達は?

 

「清々しいほどに無傷でしょ、まだまだなのよ!」

 

EXモンスターの群れが少し恐れたかのように動きを鈍らせた。

本来ならばEXモンスターに恐れはなく、ただただ目の前の敵がなんであろうと立ち向かうだけの存在だ。

本能を鈍らせたかのように目の前の相手が格上であっても立ち向かい、そして戦いの中で死ぬ。

それが恐れる、とは。

 

女神の気迫がEXモンスターの本能を呼び覚ましたのか?

それともEXモンスターが多少なりともコントロールされているせいで本能が少し帰ってきたのか?

 

ただ1つ言えることは、今の女神は圧倒的に強いということだ。

 

「女神なめんなッ!」

「どきなさい……串刺しにしますわよ!」

 

2人の気迫にEXモンスターは今度こそ動きを止めた。

はあはあと息を切らす2人にモンスターは近付きもしない。

2人の眼光がモンスターを射抜く。

 

「お姉ちゃん……ベールさん……!」

 

ユニはEXモンスターの波を押さえながらその気迫を肌で感じていた。

自分にはとてもあんな気迫は出せない。あの鬼気迫るような気迫はどこから来たのだろう。

覚悟?後悔?焦燥?感謝?

きっとその全てであり、言葉では尽くせないほどのたくさんの感情が混ざりあっている。

それを剣に、槍に乗せて体から発散し、それがEXモンスターの恐れを呼び覚ました。

 

そしてノワールとベールが息を整え、再び武器を握りしめた。

目の前の敵から倒してやる、そう意気込んで足に力を入れた刹那、ピシリと地面が割れる音を聞いた。

 

「っ」

「くっ!?」

 

「えっ!?」

 

ユニの目の前の地面が割れ、そこから槍のようなものが突き出てモンスターの群れを次々と貫いていく。

その範囲攻撃から逃れたモンスターをユニが射撃で撃ち抜きながらその槍を見極める。

 

「触手………!?」

 

その槍は蠢いていた。

先が槍のように尖っているが、吸盤がありウネウネと蠢く姿はタコやイカの触手のようだ。

そしてユニはさらに地響きを聞いた。

 

「………ウソ……」

 

地面から顔を出していたのは高さ100mはあろうかという巨大なイカだった。

 

 

「これが……本命、ってことね……」

「………随分、無駄なことを……」

 

ベールとノワールの周りもウネウネと蠢く触手ばかりだった。

詳しい数はわからないが、今のでかなりのEXモンスターがやられたはずだ。

それでもまだまだEXモンスターは残っているし、問題はやはりこのイカ。

 

「私達と住む世界が違いますわ……クトゥルフとか、そのあたりの神なのではなくて?」

「ちょうどいいじゃない、神殺しの女神って異名がつくわよ」

「いらないからお相手を遠慮したいですわ!」

 

襲いかかってくる職種の槍を避けて飛び上がる。

上空からの景色にベールはゾワッと鳥肌が立つ。

赤黒い触手が蠢き、まるで森全体が何かの生物の体内になったかのようだ。

 

「これ森……だったんですよね?もう完全に……見る影もありませんわ」

「こんな状態でEXモンスターなんて倒せないわ。アイツを潰さなきゃ」

「お姉ちゃん、アイツ……!」

「ええ、ユニ、狙える?」

「……やってみる!」

「頼むわね。行くわよ、ベール!」

「気が進みませんけど……やるしかありませんわね!」

 

ベールとノワールがイカ本体へと向かっていき、その後ろをユニがついていく。ノワール

とベールが撹乱し、ユニが弱点を狙い撃つ作戦だ。

 

「イカイカって言ってもなんだか示しがつきませんわね……」

「じゃあクラーケンでいいんじゃないの。さあ、気を引き締めるわよ」

「了解ですわ。それでは、クラーケン退治を始めましょう!」

 

ノワールとベールがさらに加速して前に出た。

するとイカ改めクラーケンは地面から7本の巨大な触手を出し、さらに額の部分を大きく縦に割いて牙だらけの口を大きく開いた。

 

「キュロロロロロロロロ!」

 

「嫌な鳴き声だこと……さっさと海にお帰りくださいまし!」

 

そもそもベールも1度EX化したアンコウに飲み込まれたことがある。だからこそ開いた口にはもう2度と放り込まれたくないというのが本音で、できれば戦いたくない。

トラウマにも似た嫌悪感を無理矢理押し殺し、ベールが槍を構えてクラーケンに向かう。

 

「私の武器は、触手と相性が悪いですわね……!」

 

槍では触手を切れない。

しかし、やりようはいくらでもある。

 

「………っ、ふうっ……」

 

蠢く触手の槍は確かに切ることができない。

しかし、ベールは息を整え触手の先を凝視する。

 

「見切りましたわ!」

 

自分の腹を串刺しにしようと向かってくる触手に向かって槍を打つ。

槍の先と先、そこがピッタリとぶつかり合い、少しの静寂が訪れる。

その後、触手の先の槍はピキピキと割れて砕け散った。

 

「これで……なっ!?」

 

「な、なによこれはっ!」

 

遠くで触手を切り裂いたノワールも驚愕していた。

ベールの場合は触手の先、ノワールの場合は切り裂いた断面が再生し始めていた。

もしやこの生物、急所を射抜かなければ殺すことができない……!?

 

「ユニ、急いで!キリがない!」

「でも、急所がどこか……!」

「目と目の間あたりよ!多分!」

「わ、わかった!」

「ま、待ってくださいまし!確か、イカは……!」

 

ベールの制止も聞かず、ユニがメガビーム砲を発射した。

クラーケンの図体では避けることが出来ず、モロに目と目の間にビームが直撃した。

そこからまるで噴水のように血が吹き出して周りを青色に染めていく。イカの血は青色なのだ。

 

「やった……?」

「い、いえ、まだですわ!」

「えっ……!?」

「何言ってんの、あの出血量は間違いなく心臓を!」

「イカの心臓は3つあるのですわ!」

「はあっ!?えっ、きゃああっ!」

 

ノワールが鞭のように動いた触手に吹き飛ばされた。

地面に落下しかけたノワールは地面から生えている無数の触手に貫かれないように剣を振り回しながら復帰する。

 

「なによ、それ……!じゃあ……!」

 

やはりクラーケンの眉間は再生して蘇っていた。

心臓が3つあるというのは嘘ではないらしい。

 

「3つ同時に心臓を潰さなきゃいけないってこと!?」

「やるしかないですわ!」

「ああ、もう!」

 

半ばヤケクソでノワールがクラーケンへと向かっていく。

 

「ユニはともかく……!私達が近寄れない!」

「援護する、お姉ちゃん!」

 

ユニが撃つメガビーム砲が触手を切断した。

ノワールがそれを見て触手の結界の内側へと立ち入るが、後ろから迫る触手の気配を感じる。

 

「っ、くっ!」

 

剣で受けざるを得ない。

周りの触手も寄ってきたためにノワールは渋々離脱してもう1度突撃を試みる。

 

「今度こそ!」

 

ノワールがまた巨大な触手を叩き切る。

再び生え始めてくるものの、その生え始めを再び切って再生を遅らせた。

 

「今!」

 

その隙を縫ってノワールがクラーケンへと接近した。

 

「ダメ!お姉ちゃん、避けてッ!」

「え……!?」

 

ノワールがユニの声に振り向いた。

向かって来ていたのは切り裂いた触手の断面。先が槍になっていないものなど何の役にも立つまい、このまま切ってやるとノワールは大剣を振りかぶって横に切り始めた。

しかし、その触手はノワールが切れ込みを入れる寸前に横に大きく真っ二つに割れた。

 

「なっ」

 

ノワールの剣は触手の間を通り抜け、空を切る。

そしてその職種の断面は、まるで針の絨毯のように牙が生え揃っていた。

 

「っ………あああああああっ!」

「お姉ちゃぁぁん!」

 

ノワールの大剣を持った右腕が触手に噛み付かれた。

ユニがメガビーム砲で触手を切ってノワールを解放しようとした瞬間に触手はノワールを地面に投げ捨てる。

 

「っ………」

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!ダメぇぇっ!」

 

右腕から大量の血を滴らせながらノワールが地面に叩きつけられた。

それは地面から生える無数の触手の格好の餌食だ。触手は倒れるノワール目掛けて突き刺さっていき、赤黒い触手に覆われて何も見えなくなった。

 

「お姉ちゃぁぁぁぁん!」

「ノワール……!?」

 

ベールがユニの慟哭に振り返る。

しかし、すぐに自分の目の前の触手に気を取られて構え直す。

 

「助けに行かなければ……ええいっ!」

 

ベールが再び槍と槍の先を合わせて触手の槍を砕くが、触手はやはり再生し始める。

しかし、今回は再生の仕方が変わっていた。

 

「な、分裂……!?」

 

触手は枝分かれして細い2つの槍になって復活した。

片方の槍はいなしたものの、もうひとつの槍が容赦なくベールの左肩を射抜く。

 

「ううあああああっ!」

「っ、ベールさん!」

 

そしていなされた方の槍がベールの足へと絡みつく。

 

「しまっ」

 

声を上げる暇もなくベールが地面へと投げ捨てられた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SEED&Quantum

ベールがとんでもない勢いで地面へ投げ捨てられた。

左肩を貫かれて完全に体勢を崩していたためか、全く抵抗できずに投げられる。

当然叩きつけられまいと精一杯逆制動をかけるが減速する気配がない。さらに地面からは触手のうちの1本が伸びてベールを貫こうとしている。

 

「あああああっ!」

 

悲鳴をあげながら槍へと一直線に向かっていく。

このままでは背中から貫かれて………死ぬ。

 

(死、ぬ………?)

 

それを実感した瞬間に頭がサーッと冷えた。

不思議な程に冷静で、でもまるで狂っているかのように体が熱い。

どうしようもないのがわかっていた、でもそれを受け入れることなどできない。それでも死は容赦なく押し付けられる。

 

ベールの頭の中にこれまでのことが浮かんできた。

 

(走馬灯……なの、ですか……?)

 

自分もいよいよその時なのかと、そう思うと少しだけ死を受け入れる準備は出来た。

ふと、その走馬灯の景色が終わりに差し掛かる。長い時を生きてきた中での最後のほんの数年間。

その中で出会った人の顔が頭をよぎった。

 

(っ、何を馬鹿なことを!)

 

死を受け入れることなんて、やっぱり無理だ。

 

(まだ何も成していないのに!)

 

心残りしかないのに。

 

「私は……まだ……死ねません……!」

 

自分の体が空気を切る音でその声は周りには聞こえない。しかしベールはその声で戦う意思を再び奮い起こした。

 

「こん、な……こんな、ところで……っ!信頼に、応えられないまま……!」

 

ベールが瞳を開いた。

その目は……ハイライトを失っていた。

 

 

 

「死ねませんわァァッ!」

 

 

 

パリ………ィィ……ィ…………ン………!

 

 

 

「!」

 

ベールがくるりと反転し、向かってくる槍と向かい合う。そしてほんの少しだけ横に移動し、槍を避けてすれ違った。

 

「えっ……!?」

 

ユニがそれに驚愕する。そしてそれと同時に、何故かはわからないが触手が切断された。

 

(な、なにっ!?)

 

ベールの槍では不可能なはずなのに、切断されたのだ。

ユニがそれを見極められないままベールを見つめていたが、次なる脅威はベールに迫っていた。

地面を覆う触手の森。

ベールはギリギリで地面にぶつかる前に勢いを殺し、その中をまるで滑るように移動し始める。

 

「…………」

 

そしてベールを襲おうとする槍がベールにぶつかる前に自壊する。

そこでユニはようやく気付いた。

 

ベールの突きが、目に見えないほどのスピードになっている……!?

 

「まさか、あの触手!」

 

そのまさか。

槍で素早く何度も突いたがためにいくつもの穴が開き、結果切断されたように見えたのだ。

 

ベールは槍の森の中から飛び上がって離脱する。

片手にさらにもう1本の槍を掴み、二槍流になったベールが背中の翼を大きく広げた。

翼のようなプロセッサユニットは変化していて、黒い骨組みに青い翼膜が張っているような形だ。

 

「ベール……さん………?」

「動きますわよ」

「えっ、えっ?」

 

ベールが宙を蹴って舞った。

信じられないことにまるで左肩の負傷が無かったかのように動き、触手に向かって突っ込んでいく。

 

「ダメ!1人じゃ危ない!」

「じゃあついてきなさいな」

 

今までノワールとベールで二分されていた触手がベール1人に襲いかかる。

ユニも慌てて急発進するがベールは止まる気配はなく、むしろ加速して突っ込んでいく。

 

「っ!」

 

ベールの8つの青い翼膜が射出された。

ベールが最中に背負っていたのはスーパードラグーン。それはまるでファンネルのように独自に動いてベールを囲む触手を逆に囲んでしまう。

 

「ビームの、網!」

 

ベールが号令をかけるとドラグーンからビームが発射され、まるで網のように張り巡らされる。

そこを通った触手は問答無用で切り裂かれ、引き下がるしかない。

 

「来なさい、ドラグーン」

 

ベールに追随してドラグーンがクラーケン本体へと向かう。

 

「刺す、突く、穿つ!」

 

圧倒的なスピードでクラーケンの真横に回り込み、その肌をベールの槍とドラグーンが狙う。

 

「レイニー……ラトナビュラ!」

 

キンッと音が響いたのと同時に、ベールは既に離脱している。

遅れてクラーケンの肌に無数の穴が開き、僅か一瞬で数え切れないほどの槍の攻撃があったことを示した。

そして穴からは血が吹き出し、クラーケンが悶絶する。

 

「あ、あの!ベールさん!」

「ノワールのことなら放っておきなさい」

「!」

「悲しむことは後でもできますわ!」

 

ドラグーンのビームがクラーケンにぶつかるが、それはクラーケンの心臓には届かず肉を焼くだけだ。ダメージはあるが決定打にはなり得ない。

 

「今は、倒すことだけを考えなさい!」

「っ、はい……っ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

右腕が痛い。熱く燃えるような痛みが血液が送られる度に響いてくる。

ジク、ジク、ジク、ジク………。

 

「っ、く………いた……っ!」

 

意識を覚醒させたノワールが右腕の痛みに目をつぶって悶絶する。

目を薄目で開いて右腕を確認すると、そこには無数の針で刺されたような跡……がなかった。簡易ではあるが包帯が巻かれている。

 

「え……?」

「起きた?ノワールちゃん?」

「え?っ、ぎゃああああああああああっ!?」

 

声に振り返って上を見ると見覚えのあるピンクのパワードスーツの顔。

思わずノワールはとんでもない悲鳴をあげて後ずさろうとするが、右腕の怪我がそれをさせない。

 

「い……った………っ!」

「あ、ダメよ大声あげちゃ。気付かれるわよ?」

「気付かれる……って……あ、あのイカ!」

 

周りを見てみればそこは茂みの中。

そしてその茂みから少し離れたところには今でも触手が蠢いている。

 

「今は2人が戦ってるっチュ。優勢なものの、EXモンスターがルウィーに迫りつつあるって感じっチュね」

「っ……!待ってなさい、アンタ達はモンスターを片付けたらすぐに……!」

「や〜ね〜、ミズキちゃんから聞いてない?私達は味方よ、味方。それにほら、コレ」

 

アノネデスが剣の柄のようなものを差し出した。

それはバラバラに砕けていて、剣の部分はないし柄だって元の半分くらいしかないノワールの剣だった。

 

「助ける時にね?さすがに剣までは無理だったわ」

「っ、だったら……!殴ってでも止めに行くわよ!」

「その利き手で?」

「腕1本で十分よ!」

「まあ待つっチュ。何もここで指くわえて見てろって言ってるわけじゃないっチュ」

 

はやるノワールを押しとどめてワレチューが白い布に包まれた大きな何かを引っ張ってくる。

 

「んっ……しょ。ほら、コレ使うっチュよ」

「なによ、コレ」

「見ればわかるっチュ」

 

ノワールが警戒しながらその布を外していく。布を解くと、その中身に驚愕した。

 

「これは………!」

 

中に入っていたのは黄金の巨大な剣。

ブレイブ・ザ・ハードの遺品とでも言うべき、彼の愛用していた剣だ。

 

「……回収したのね」

「アナタ達、急いで帰っていったでしょ?その隙に、ね?何か役立つかと思って」

「私に、これを使えって言うの?」

「いいえ、使いこなしなさいって言うわ」

 

アノネデスはからかうようにそう言う。

しかし、ノワールは真剣にアノネデスと黄金の剣を交互に見る。

ブレイブの体躯に合わせて作られた剣はノワールでも持て余す大きさだ。

軽くノワールの何倍かの大きさがある。これでは振るどころかまともに動くことすら難しい。

 

「やってみる?」

「……やってやるわよ」

 

ノワールが剣の柄を両手で持って空中に浮かび上がった。

両刃の剣は担ぐことすらできず、ノワールはぶら下げるようにしてそれを持っている。

しかも右腕は怪我しているのだ、ここまで力を入れていては持っているだけでも右腕は悲鳴をあげる。

 

「っ……くっ」

「今度こそは助けられないっチュよ。肝に銘じるっチュ」

「わかった、わよ」

「じゃ、まったね〜、ノワールちゃん?」

「2度と会いたくないけどね……!」

 

ふらふらとノワールは危なっかしく空へ登っていく。それを見送ってからアノネデスとワレチューは姿を消した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ノワールは宙に浮かんでクラーケンをみつめた。

まだクラーケンに気付かれないほど低空で、これからどう襲うかの不意打ちの算段がたてられる。

 

(力任せに振り回しても……きっと心臓には届かない)

 

片手分の力だけで何度も何度もクラーケンを切り裂けるかと言ったら無理だ。そんな力もないし、スピードが出ない。

 

(この剣を、使いこなす、には……!)

 

ブレイブほどの巨躯が必要だ。

しかし片腕を潰されたノワールにそれは無理な話。

こうしている間にも締め続けられる筋肉が血を吹き出している。早く決めなければ、1度振る力すらなくなってしまう。

 

勝算は、ある。

 

「1度だけ……!1度だけでいい、あの、剣を使えれば……!」

 

ブレイブが1度だけ繰り出した必殺技、トランザムライザーソード。

あれなら、1振りで問題なくクラーケンの心臓を潰すことが出来る。

 

「やるしか、ない……!」

 

ノワールが居合切りのように剣を構えた。このまま、左手の力を全て使って振り抜く。

問題は、あの剣を使うことが出来るか……!

 

「っ、はああっ………!」

 

強く剣を握りしめ、魔力を剣に注ぎ込んでいく。ありったけの魔力を使うつもりで剣へ魔力を与えるが、剣は応えてくれない。

 

(なんで……!)

 

怪我をしていた右腕がプルプルと痙攣し始めた。

 

(どうして……!?)

 

足りないとでも言うのか、自分の魔力が。ビームを1mmも発射できないほどに?

 

右腕がいよいよ痺れてきた。

力を入れていても段々と右手の力が抜けて剣先が下がっていく。

 

(無理………だ……)

 

そう心の中で呟いた時、もうひとつの声が聞こえた。

それはブレイブを倒した直後のユニの声。

 

 

『絶対分かり合えたのに……想いは同じだったのに……っ!』

 

 

「ユニ……ブレイブ………」

 

ノワールの手から力が抜け、ついに構えが解かれた。しかし、それはいけないことではない。

 

「そっか……アナタ達は……出来なかった、のね……」

 

ユニも、ブレイブも、出来なかったんだ。

勝ちたい、負けたくない。

ユニは最後まで相手を倒したいけど殺したくないという感情の狭間で苦しんで、ブレイブは最初から感情を捨てて全力で戦った。

 

「道を、見つけられなかったのね……」

 

ユニは最後まで道を見つけようとしていた。

けれどブレイブは最後までそれを許さなかった。だからユニは道を見つけられず……ブレイブは探そうとしなかった。

 

「最後の最後まで……ブレイブは間違っていて、ユニは答えを見つけられなかった」

 

もう手遅れだ。

どうにもならない。

ここでノワールが新たな答えを提示したところでブレイブは帰ってこない。ユニの気晴らしにもならない。

けど、でも、それでも。

今こそ示してやろう。

ノワールが見つけ出した答えと、それを実現させるだけの力を。

 

「もう、過去は変えられないから……!」

 

せめてこの先、間違えないように!

 

 

ノワールが持った黄金の剣が形を変えていく。

剣はノワールの体躯にあった形に縮んでいき、刀身はクリアグリーンのものへと生まれ変わる。

剣の名前はGNソードV。ノワールはそれを左手で持って高く大きく飛翔した。

 

「アレは……」

「お姉ちゃん!?」

 

ベールとユニもノワールの存在に気付いた。しかしそれはクラーケンも同じ。

高く舞い上がっていくノワールをクラーケンの触手が襲う。

 

「……2人が出来なかったこと……分かり合うこと、それを今ここに……!」

 

ノワールの体からは緑色の粒子が散っていた。

 

クラーケンの触手がノワールを貫く。しかしクラーケンは肉を貫いた手応えを感じない。

ノワールの体はクラーケンが貫いた腹の部分から緑色の粒子となって消えていく。

 

「……ブレイブ………?」

 

ユニがその光景にデジャヴを覚える。

そしてノワールは少し離れた場所から砂時計を逆再生するように足元から現れた。

その背中には大きな盾が装備されていて、その背中から大量の緑色に光る粒子が放出されていた。

 

「トランザム」

 

ノワールの体が赤く光った。

そして盾から小さな剣のようなビットが分離し、ノワールを守るように円型に配置される。

ノワールの服が消え、限界まで肌を露出する。

防御力皆無、だがそれでなければ……自分から信頼を示さなければ……対話は実現しない!

 

「……クアンタムバァァァァストッ!」

 

ノワールの目が黄金に光る。

その瞬間、ノワールの体から溢れんばかりの粒子が吹き出し、辺り一帯を埋めていく。

 

「な、なに!?」

「この粒子は……!?眩しっ」

 

まるで津波のごとく、クラーケンを飲み込むばかりかルウィーの街寸前まで粒子の嵐は吹き荒れる。

やがて全てのEXモンスター、クラーケン、ベール、ユニが眩い粒子に飲み込まれる。

それに全身を覆われ、思わず目を閉じたユニが目を開くと……そこは別世界へと生まれ変わっていた。

 

「な、なに……ここ、は………?」

 

真っ白な世界、しかしとても温かくて不快感は感じない。むしろ何もかもを満たされるような多幸感を感じる。

 

「あ、あれ?私、服……」

「ここは……前と……」

「あ、ベールさん……」

 

ユニの体からは一切の身を覆うものは消え、武器も何も持っていなかった。

そしてユニは隣にベールを見つけ出す。

 

「あ、あの、ベールさん?これは一体……」

「ああ、ユニちゃんはこういうの初めてですわね。私は2度目なのですわ」

「2度目……?」

「1度目はね、マジェコンヌに捕らわれた時……ユニちゃん達が初めて変身した時、命が消えかけた時に……あの人が、助けに来てくれた時、なんですのよ」

 

ベールが懐かしむように微笑む。

不思議とユニはその気持ちを理解できるような気がした。ユニにはそういう才能はないのに、気持ちが直接伝わってくるようだ。

 

「ほら、アレを」

「お姉……ちゃん………?」

 

遠くを見るとノワールがいた。

口を開いて何かを訴えかけているが、ユニにはその言葉は聞こえない。

しかし、まるで歌っているようでもあるノワールの気持ちは伝わってくる。

 

「慈愛……?優しい……」

「何も、ノワールが特別なわけじゃありませんわ。獣だって持っている、誰かをいたわる優しさの心……ここでは、それが何の屈折もなく伝わるのです」

 

ノワールの向こうにはモンスター達。体は赤黒くなく、小さくなっている元の姿だ。

 

「聞こえますか?モンスターの気持ち、ノワールの気持ち……」

「……はい。苦しんでて、お姉ちゃんがそれを癒していく……」

「私達のように才能がない者でも分かり合える……ノワールはそれを今、体現しているのですわ」

 

ノワールがユニ達の方を向いた。

しかしノワールが見据えているのはユニではなくその後ろ。

 

「……あ、イカ」

「元々はこんな小さかったのですわね」

 

何の変哲もないただのイカだ。

しかし、それとでもノワールは意識を共有し合える。

今度はノワールの声はユニ達にも聞こえた。

 

「……そう。もう、どうしようもないのね……」

 

ノワールが悲しげに目を伏せる。

イカから伝わってくるのは苦しみ、悲しみ。

操られるのも、こんなに凶暴になってしまうのも……そしてそれが自分で抑えられないことを悔やんでいる。

 

「ごめんね。止めてあげるから……ごめん。私には、それしかできない」

 

イカから伝わってきたのは感謝の気持ち。

それを感じた途端、眩い光の空間が小さくなっていく。

 

「……終わりにするから。もう、アナタみたいなのを作り出さないように……」

 

 

 

「っ、えっ!?え、えと、ここ……は……」

「どうやら、帰ってきたようですわね」

 

自分の両手を見るとしっかり服を着ているし装備もバッチリしている。

 

「今のは……夢……?」

「いいえ、夢ではありませんわ。紛れもない、現実」

 

ベールも同じ時間と空間を共有したらしい。

気持ちがダイレクトに繋がる感じたことのない経験はどうやら夢でも幻でもないらしい。

 

「ユニ、ベール」

「ノワール」

「あ、お姉ちゃん!私、私、お姉ちゃんが死んだかと……!」

「うん、心配かけてごめんね。でも、あの子を……」

 

「キュロロロロロロロ!」

 

「……解放して、あげなきゃ」

「解放って……」

「みんなも手伝ってくれるわ」

 

ノワールが後ろを振り向く。

それに釣られてユニも後ろを振り向くと、色とりどりの波がこちらに迫ってきている。

 

「アレ、って……まさか……!」

「モンスターの、群れ。大丈夫、あの子達のEX化は解いたわ」

「と、解くって……!」

「私にはそれが出来るの。いえ、できるようになったの」

 

ノワールの体から放出されている緑色の粒子、GN粒子。

高濃度のGN粒子がEX化させる何かを浄化したのだと、ノワールはそう理解していた。

 

「でも、あの子は無理みたい。アナタも感じたでしょ?あの子の苦しみ」

「う、うん……」

 

そういえばクラーケンの体躯は随分小さくなったように思える。

それでも超巨大だが、ある程度はノワールが浄化したということなのだろうか。

 

「ユニ、ベール、出来るわね?」

「う、うん!」

「心臓の位置が、まだ分かりませんけれど?」

「多分、目の斜め上辺り。そのあたりを同時攻撃、私が責任をもってトドメを刺すわ」

「……わかった」

「了解しましたわ。やってみせます」

 

3人がクラーケンを見据える。

もし、もし今もあの子が苦しんでいるのだとしたら……もう、苦しまないようにしたい。

それは、もう、命を奪うことでしかないのだけれど。

でも、その業を背負う覚悟はある。

 

「始めるわよ!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラフレシア

ノワール、ユニ、ベールが一斉に散開して飛翔した。

クラーケンは小さくなって弱体化したものの、まだ油断はできない。少しでも油断すれば腹に風穴が開いてしまうだろう。

 

「ノワール!」

「道を開くわ!」

 

変幻自在、切っても新たな形で再生してしまう触手は攻撃の手段が読めない。

攻めあぐねるユニとベールだったが、後続のノワールが左肩に装備した盾を構えながら突進する。

 

「GNソードビット!」

 

盾から分離した6基の小型の剣型ビットがノワールの意のままに緑色の粒子を散らしながら動く。

触手を惑わすようにソードビットが機敏に動き、その隙をついて別のソードビットが触手を切断する。

それにばかり気を取られていると、今度はノワールが後ろからGNソードVで触手を真っ二つに切り裂いてしまう。

 

「今!」

 

多数の触手が引き裂かれたのをきっかけにユニとベールの2人が触手の内側に入り込む。

 

「ベールさん!」

「いつでも構いませんわ!」

 

2人が呼吸を合わせ、左右に広がる。

そしてクラーケンの横に回り込み、互いに武器を構えた。

 

「照準……合った!いっけえええっ!」

 

ユニの右手のメガビーム砲が撃たれる。

大威力のビーム砲はクラーケンの厚い肉をも簡単に貫き通して心臓に到達。

 

「キュロロロロ!?」

 

大穴を開ける。

 

「掘削しますわ……」

 

それと同時にベールが接近して槍を構えた。

さっきのレイニーラトナビュラではダメージを与えたものの、心臓に至るまでは槍が届かなった。

いくら槍のリーチがあろうと厚い肉の向こうにある心臓には穂先が届かなかった。

………だから。

 

「塵を積んで山と成しましょう!」

 

ベールの周りにドラグーンと無数の魔法陣が現れ、魔法陣からは槍の穂先が覗く。

 

「はああああっ!」

 

そして目にも留まらぬ速さで槍が打ち込まれる。

ドラグーンが放つビーム、魔法陣から無限に発射される槍、そしてベールが持つ2本の槍が無数の穴をクラーケンの表面に開ける。

そしてそれはクラーケンの再生よりも早く穿ち続けられ、クラーケンの肉は段々と掘削されていく。

 

(見えた!)

 

そして肉の合間、心臓を見つける。

 

「カタラクト・ラトナビュラァァッ!」

 

ドラグーンのビーム、魔法陣から放たれた槍、ベールの2本の槍が心臓めがけて一斉に突き刺さる。

そしてベールが離脱すると同時に心臓からは血が吹き出した。

 

「ノワール!」

 

ラストワン。

最後の心臓をこの瞬間に潰さなければならない。

 

「来て、ソードビット!」

 

ノワールのGNソードVにソードビットが集まっていく。

そしてその刀身の周りに6基のソードビットが合体、GNソードVをGNバスターソードにする。

 

「トランザム………!」

 

ノワールの体が赤く光り、体中からGN粒子が吹き出す。

そしてノワールがGNバスターソードを両手で持ち、高く天に掲げた。

 

「ライザーソード……!これで!」

 

GNバスターソードから天に向けてとんでもない長さのビームが発射された。

クラーケンなど目じゃない、その数倍数十倍もあるほどの長さだ。

しかもそれは砲撃ではなく、斬撃。ビーム砲ではなく、ビームサーベルなのだ。

 

「コレって……ブレイブの……」

「さよなら……はあああああっ!」

 

ノワールがライザーソードを振り下ろす。

天を割り、地を裂き、海を断つ。

その巨大なビームサーベルは何の抵抗もなくクラーケンを真っ二つに切り裂いた。

 

「キュロ………ロォ……」

 

「やりましたか」

 

ベールがクラーケンを見極めるが、クラーケンはすぐに光になって消えた。

地面から生えていた触手も消え、後に残ったのは荒れた地面だけだ。

 

「終わった……?守りきれた、の……?」

「いいえ、ユニ。……あの子が、守れなかった」

 

不思議とそこには達成感はなく、力不足を痛感したノワールがいた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ルウィー町外れ、そこでブラン達がラフレシアと戦っていた。

 

「近寄れ、ねえっ!」

「遠距離攻撃なら………」

 

ブランはテンタクラーロッドに阻まれて近寄れずにいる。

少し離れたところからロムとラムが氷塊を作り出す。

 

「これならどうよ!」

 

巨大な氷塊をラフレシアに向けて撃つ。

しかし、ラフレシアは急上昇して氷塊をかわしてしまった。

 

「ウソ!」

「速い……それに、反応も……」

《アサルトで!照準は、逸らさない……!》

 

Gセルフのパーフェクトパックのメガキャノンが展開し、その2つの砲口をラフレシアに向ける。

 

《っ、牽制……牽制……!》

 

砲口を向けたまま発射はせずに、手に持ったビームライフルを撃つ。

獲物を行き止まりに追い込むように、ラフレシアの動きを制限して……!

 

《そこ!》

 

メガキャノンから太い2本のビームが発射された。

1本は外れてしまったが、1本はラフレシアの進行コースにバッチリ重なる。

しかし、メガキャノンはラフレシアに当たる前にいともたやすく弾かれてしまった。

 

《Iフィールド……!くっそ!》

 

「どうしよう……当たらないよぅ……」

「近付こうにも、あのウネウネが邪魔だし!」

 

襲いかかるバグを撃破しながらラフレシアを見るが、その機敏な動きに比べて氷塊は遅すぎる。

しかし塊を小さくしてしまえばダメージにはならない。

 

「ラムちゃん、来るよ!」

「もう、邪魔くさい!」

 

2人にビームを撃ちながら突撃してくるラフレシアを散開しながら避ける。

 

「ミズキ、なんか弱点とかはねえのか!?」

《さっきも言った通り、ラフレシアには死角がない!》

「正攻法でどうにかするしかねえってことかよ!」

 

バグを破壊しながら2人が背中を合わせる。

 

《僕が気を引く、その隙に……》

「囮なんか任せられっか!」

《じゃあ、僕がトドメを……》

「んな危ねえことやらせられっか!」

《どうすればいいの!?》

 

若干支離滅裂なブランにツッコミ。

 

《気持ちは、わかるけど!》

「見てろ!私の力を見せてやる!」

 

ブランがラフレシアへと向かっていく。

ラフレシアは機敏に動きながらビームをばら蒔くが、それを避けながらブランは手のひらでいくつかの小さな氷の粒を作り出す。

 

《ダメだ、それじゃ威力は出ない!》

「試してみるか!」

 

そしてブランは斧をまるで野球のように振りかぶった。

 

「私が!斧で叩くしかできねえ近接バカとでも思ってんのか!ゲフェーアリヒシュテルン!」

 

そして全力のフルスイング。

小さくとも硬さはピカイチの氷の粒はブランの斧のフルスイングにも砕けずにラフレシアへと飛んでいく。

そしてラフレシアの装甲にあたり、貫きはしないもののその装甲を凹ませた。

 

「っしゃあ!」

《し、信じられない……》

「お姉ちゃん、凄い……」

「恋する乙女のぱわー……」

 

しかしラフレシアは崩れた体勢をすぐに立て直し、再びビームをばら蒔く。

 

「けど、こんな豆鉄砲じゃいつまで経っても倒せねえ……私達には制限時間があるんだ!」

《そうだね、教会に辿り着いたら……多くの人に被害が出る!》

「そうでなくても、ルウィーが今、コイツのせいで荒れてやがる……それが許せねえ!」

《だからって、また無遠慮に突っ込むのはやめてよね!》

「わかってる!ロム、ラム!」

 

ブランがロムとラムを呼んでラフレシアを回り込むように動いていく。

 

「わかってるな!?」

「了解、お姉ちゃん!」

「特大の、いくよ……!」

「どんとこい!」

《まさか、やれるの!?》

「やる!」

 

ラフレシアのテンタクラーロッドから放たれる無数のビームを避けてブランがラフレシアに追いすがる。

 

《近付きすぎないでよ!?》

「ミズキこそ、流れ弾に当たるんじゃねえぞ!」

 

「やるわよロムちゃん!」

「アイス……コフィン!」

 

ロムとラムが特大のアイスコフィンを発射した。

それは真っ直ぐラフレシアに向かっていくがラフレシアは難なく避けてしまう。氷塊が届く頃にはもうラフレシアは影も形もない。

しかし、その射線上にはブランがいた。

 

「ゲフェーアリヒシュテルン!アイス・コフィン……バージョン!」

 

ブランが思いっきりアイスコフィンに斧を叩き込む。

 

「くうう………くううっ!」

 

ブランはアイスコフィンを打ち返してラフレシアにぶつける気なのだ。

しかし、アイスコフィンはさっきの粒とは質量が違い過ぎる、さすがのブランもアイスコフィンを打ち返せずに逆に斧を持っていかれそうになっていた。

 

「くっ………そ……!」

 

ただのその場にあるアイスコフィンなら打ち返せたかもしれない。しかし、今回のアイスコフィンはブランに向けて放たれたものだ。

その勢いまで加わってアイスコフィンはブランでは打ち返せないほどの威力になっていたのだ。

 

「ぐ……!」

 

ブランの手から握力が抜けていく。

斧ごと吹き飛ばされそうになってしまったその時、後ろから頼もしい声が聞こえた。

 

《ブラン!1人じゃ無理なら、僕が手伝う!》

「ミズ、キ……!」

《Iフィールド・アシストマッスル!》

 

Iフィールドによって補助的な力を受けたGセルフの左腕が緑色に染まっていく。

今再び、高トルクパックのパワーを使うべき時だ。

 

《タイミング合わせて!高トルクパンチッ!》

「う、おおおおあっ!」

 

ブランが抜けかけた握力を再び入れた。

半ば諦めかけていたが……しかし、きっと、今ならば!

 

《いっぱああああつ!》

 

Gセルフの高トルクパンチがブランの斧を後押しするようにぶつけられる。

まずは1発目、そのエネルギーでアイスコフィンは動きを止め、その場に留まった。

 

「ミズキ!」

《もう、いっぱああああつ!》

 

そして再び同じ腕で2度目の高トルクパンチ。

それがぶつかるのに合わせてブランが腕に力を入れ、アイスコフィンを吹き飛ばす!

 

「うおおおおらああああっ!」

 

ついにアイスコフィンが猛烈な勢いでラフレシアに向かっていった。

ただロムとラムが打ち出すアイスコフィンよりも数倍速い。それは空気を切り、ラフレシアに思いっきり衝突した。

 

《!?!?!?》

 

ラフレシアにアイスコフィンが命中し、ラフレシアは錐揉みしながら地面に墜落する。

アイスコフィンはラフレシアにぶつかるのと同時に砕け散ってしまった。

 

《っ、ふう……やったね、ブラン》

「ああ、サンキュ」

 

自分1人の力では打ち返せず、少しばかり気恥ずかしくてそっぽを向いていたブランだったが……Gセルフが手を上げるとそれに合わせて思いっきり手を振った。

 

「ほらよ!」

《痛っ!?》

 

ハイタッチ。

それをロムとラムは顔を見合わせてクスクスと笑いながら見ていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姫と騎士

プラネテューヌ教会、そこは既に占拠され、イストワールはトリック・ザ・ハードに捕らわれていた。

 

「い、いや!離してください!」

「アク、アククク……まさか、こんな幼女が教祖とは!素晴らしい!」

 

トリックの舌で巻き付けられたイストワールが身をよじるが、逃げられるわけもない。

すると犯罪組織の構成員の1人が入ってきてトリックへ報告をする。

 

「トリック様!見つけました、次元転送装置です!」

「おお、そうかそうか、よくやった!案内しろ!」

「はっ!」

(転送装置を……!?まさか、それが狙い!?)

 

トリックは部下に案内されて転送装置の元へと向かっていく。

 

「これは使えないのか?」

「今、ロックを解除中です」

「急げ!いつ女神が帰ってくるか分からんのだからな!」

 

どうやらロックは未だに解けていないらしい。

しかし、狭いコントロールルームには溢れかえるほどの構成員が入っている。

これだけの数ならば、いくらジャックが作ったロックだろうと突破されてしまうかもしれない。

 

(そういえば、ジャックさんは……)

 

姿が見えない。

逃げるか隠れるかしていればいいが……。

最悪の事態を想像しかけてイストワールは首を振る。

 

「アククク……いいなあ、幼女……ああ、なんと愛らしい!」

「くっ、今に女神たちが助けに来ます!そうなれば、アナタだって……!」

「果たしてそうかな?幼女を人質に取れば、ヤツらは手出しができんだろう!」

「なっ!私が、人質……!?」

「そうだ!アククク……!」

 

だとすれば、女神たちは返り討ちにあってしまうことになる。と、すれば……。

 

「い、いいえ!女神たちは自分のすべきことをわかっています!いざという時は、私ごと……!」

「アクククク、その時になればわかる!いやぁ、しかし残念だ……幼女よ、人質でなければ……!」

 

トリックが口を歪めてニタァと笑う。

その顔を見たイストワールは恐怖で震えた。

 

「この……細い骨……1本1本、大切にへし折れたのになあ……どんな音するのかなあ……!?」

「な……!?い、いた……!痛い、です……!」

「いいよね?腕1本くらい……大丈夫だよね?」

 

イストワールを縛る舌の締め付けがキツくなってくる。

イストワールは痛みを訴えるが、トリックにはまるで聞こえていない。

 

「簡単に壊れちゃいそうだからなあ……気をつけないと……アクククククク……!」

「あ………苦し……!」

 

全身を襲う痛みにイストワールが顔を歪める。

意識が朦朧としてきて、骨が軋み始めていた。

やがて訪れるであろう激しい痛みに覚悟していた時、部屋にサイレン音が響き渡った。

 

「な、なんだ!?」

「わ、罠だ!しまった……!」

「説明しろ!何が起こった!」

「わ、罠が仕掛けられておりまして!何が起こるか……!」

「っ、はあっ、はあっ……!」

 

それに驚いたトリックが締め付けを緩める。肺に酸素を取り入れるイストワールが、その合間も会話を聞いて状況を把握しようと心がけた。

どうやらジャックの仕掛けたトラップに引っかかったらしい。このけたたましく鳴るサイレンはそれだろう。

そしてその直後、部屋の電気が全て消え、真っ暗な空間に閉ざされた。

 

「な、なんだ!?」

 

電源が消えた、そう思ったが部屋が真っ暗になりすぎて自分の目の前のものも見えない。

しかし、部屋にはガチャンとドアを開く音が響いた。

 

「誰だ!?」

 

トリックの声が部屋に響き渡るが、部屋に侵入した何者かは応えようとしない。

そして直後、次々と構成員達の悲鳴が聞こえてくる。

 

「ぎゃあっ!」

「いでっ!」

「わああっ!」

「な、なんだなんだ!?」

 

トリックが四方八方から響く悲鳴に恐れ戦く。

そして次の瞬間、イストワールを捕らえていた舌の締め付けが緩んだ。

 

「えっ?」

「いだああああああっ!?」

 

そして何者かに抱き抱えられて体が浮いたり沈んだりする感覚。

何者かが飛んだり跳ねたりしているのだ。

悲鳴からしてトリックの舌が切断されたのだろう。だからイストワールは解放されたのだ。

 

自分をお姫様だっこして飛び跳ねる者の正体は誰なのだろうかと顔を見ようとするが、暗闇で輪郭すら見えない。

イストワールはせめて振り落とされないように抱き抱えた主に掴まることしか出来なかった。

 

「よ、幼女が!おのれぇ!」

 

ガシャンガシャンと何かを壊す音が響く。

トリックが手当りしだいに周りを攻撃しているのだろう。

そしてそれはパソコンやコンソールを貫き、火花を散らす。

それで誤作動を起こしたのか、部屋の電気が付いていく。

 

パッ、パッ、パッと順に天井の照明に明かりが灯って点滅する。

それに照らされたトリックは机の上に立つ小さな影を見つけた。

 

「何者だ、貴様!」

 

そこでようやくイストワールは自分を抱いた主の顔を見る。

彼は中世の騎士の鎧を身につけていて、二頭身。しかし、イストワールを見つめるその大きな瞳は鋭くも温かい。

 

「あの、ありがとうございます……その、アナタは?」

《なに?……ああ、まあ、そうか。知るわけがないか》

 

イストワールを降ろして地面に立たせる。

するとイストワールがいつも座っている本がふわりとイストワールの元へと飛んできた。

 

「その、声、まさか……」

《うむ、そのまさかだ》

 

よく見れば彼もガンダム。

ミズキのものとは毛並みが違うが、その顔、装甲、紛れもなくガンダムそのものだ。

そして、それが出来る可能性があるのはここにいないミズキを除けばただ1人……!

 

「ジャック、さん……」

《遅れたな。ミズキじゃないが……助けに来たぞ》

 

そのガンダムの名は騎士(ナイト)ガンダム。

その名に違わず、騎士ガンダムは今、姫を守る騎士としてトリックの前に立ちはだかったのだ。

 

「貴様、よくも幼女を奪ったな!返せ!」

《俺のものだ、返す道理はない》

「屁理屈を!」

 

俺のもの、などというセリフにイストワールが顔を赤くする。

目をまん丸にして驚いているイストワールの前に騎士ガンダムは守るように立つ。

 

《逃げろ、イストワール。兵士はある程度倒したから、簡単なはずだ》

「え?あ、いや、でも……」

《あまり時間を稼げるとは思えん。俺もすぐに行く、早くしろ!》

 

「この、このぉぉぉぉっ!」

 

トリックが騎士ガンダムに向けて舌を伸ばしてくる。

舌は再生していて、舐めたものを回復させる力も格段に上がっているらしい。

それを騎士ガンダムは次元から盾を出して防御する。

 

《ぬ………う、おっ!》

 

舌の軌道を逸らすことに成功する。

しかし、騎士ガンダムも大幅に後退りした。軌道を逸れた舌は壁に突き刺さり、大きな穴を開ける。

 

《早くしろ!俺なら心配いらん!》

「で、でもっ!」

《俺とて子供たちの端くれ!たかがこれしきの敵ごとき!》

 

騎士ガンダムがその小さな体を生かして机の下へ潜り込み、その中を駆けてトリックを翻弄する。

トリックは適当な当たりをつけて舌を打ち込み、障害物に風穴を開けていく。

 

「そこだ!」

《!》

 

動きを読まれ、騎士ガンダムの移動先に舌が風穴を開ける。

しかし、そこには騎士ガンダムはいない。

 

「な!?」

《ぬうううあああっ!》

 

机の上から飛び上がり、小さな騎士がトリックに向かう。

ランスである電磁スピアを手に持ち、トリックの額にそれを突き刺す。

 

「いだぁ!?」

《ふんっ!ふん、ふん、ふんっ!》

 

何度も何度も突き刺すが、トリックの硬い装甲のような表皮が貫けない。

 

《くっ》

「しつこい!」

《ならば!》

 

思いっきり騎士ガンダムを叩こうとしたトリックの手を飛び上がって避けた。

勢い余って自分の顔を叩いてしまったトリックが悶絶している隙に、電磁スピアを上へと放り投げる。

 

《ナイトソード!》

 

盾に収められたナイトソードを右手で引き抜く。そして左手で落ちてきた電磁スピアを持ち、再びトリックに向かっていく。

 

「おのれ、効かない攻撃を!」

《所詮は、時間稼ぎだからな!》

「ならばその手には乗らん!貴様を殺し、幼女は俺が手に入れる!」

《渡すわけにはいかんな!》

 

飛んできた舌を飛んで躱し、その上を走ってトリックの眼前に再び迫る。

 

「んなっ!」

《連続攻撃ならば!》

 

トリックの額に電磁スピアが当たる。

肌は貫けなくてもトリックは頭を打たれて怯む。

その隙に騎士ガンダムは肩を経由してトリックのうなじに向かった。

 

《ぬっ、くっ、はあああっ!》

「いてっ、いてててっ!?」

 

うなじをナイトソードで連続で切りつける。

そこは比較的肌が薄く、騎士ガンダムの攻撃でも肌に切れ込みが入っていく。

うなじを抑えるトリックの手を避けて下へ。

今度はトリックの尻尾に電磁スピアを突き刺す。

 

「いだあっ!?」

《はっ、次!》

 

蝶のように舞い、蜂のように刺す。

それを体現する騎士ガンダムはトリックを翻弄し、手数で圧倒する。

しかし、それはダメージになっていない。

 

(このままじゃ、いつかはジャックさんが……!)

 

蚊が針をいくら刺しても巨象は倒せない。

それどころか、いつかは……!

 

「こ、このぉっ!」

《ぐっ!》

 

トリックの舌がついに騎士ガンダムを捉えた。

盾で防御したが、空中では体を支えるものがなく吹き飛ばされてしまう。

 

《ぐ………お、っ……!》

「死ね!」

《っ、うぐうううっ!》

 

舌の乱れ打ちが騎士ガンダムを襲う。

盾で受けているものの、何度も何度も舌で打たれてはそう長くは防御できない。

 

《何をしている、早く逃げろぉっ!》

「ジャックさん、でも、でも……!」

《はやぁく!》

「っ………!でも、だって……私……う……ううっ!」

 

イストワールが本に飛び乗った。

そして出口に向かって一直線に飛んでいく。

 

(それでいい……!早く、早く……!)

 

「なっ、幼女が逃げる!待て!」

《させるものか!》

 

トリックがイストワールに向かって舌を飛ばした。

しかし、騎士ガンダムが投げた電磁スピアが舌に突き刺さり、舌を壁に打ち付けてしまう。

 

「あがっ!?あ、あががっ!」

《俺の命にかえても、イストワールに触れさせはせん!》

「おご、おがががぁ〜っ!」

 

しかし、打ち付けた先から舌が伸びてしまう。

それはイストワールではなく、騎士ガンダムへと向かった。

 

《フン、怒り心頭だな!》

「うごごあっ!」

《ぐ、おっ!》

 

舌を盾で受け流す。

しかし、トリックにはバレていないものの……盾にヒビが入る音を騎士ガンダムは聞いた。

 

(マズいな……)

 

もってあと1発か……2発。

盾がない状態でトリックから逃げられるか?

 

(……いや、生き延びてみせる!)

 

腕を無くそうと、足を無くそうと、例えこの身が砕けようとも……生きて!

 

《っ、ぐぅ……!》

 

舌を再び受けてしまった盾に今度は決定的な亀裂が走る。

ビキビキと中心部から亀裂が入り、欠片が飛び散った。

 

「うごごおおっ!」

《っ、く……!》

 

次、舌を受け流した後にすぐに撤退する!

そう考えて盾を構えた騎士ガンダムだったが、直後に盾にさらに亀裂が走った。

 

(な……に……っ!?)

 

これでは受け流すことすらままならない。

受け流すことに意識を向けていて、逃げる体勢では既になくなっている。

 

(耐えられるか……!?)

 

まるで弾丸のようなトリックの舌の一撃に盾はもはや耐えられない。

自分の体は……どうだろうか。

 

考えを巡らせる騎士ガンダムに無慈悲に舌は向かう。

腕1本を覚悟して身構えていた騎士ガンダムだったが、その耳に有り得ないはずの声が響く。

 

「やめてぇぇーーーっ!」

《な!?》

「なに!?」

 

イストワールが戻ってきていた。イストワールは逃げたのではなく、助走をつけようとしていたのだ。

本に乗って猛スピードでトリックに突進していく。

それに驚いてトリックは舌の勢いが緩み、騎士ガンダムは舌を避けることに成功した。

 

「ごご、おおうおあいうがら!(おお、幼女が自ら!)」

《何を馬鹿なことを!》

「もう、これ以上、ジャックさんを……ジャックさんを!傷つけちゃダメです!」

 

イストワールの背中の羽が大きく光り輝いた。

それはまるで光の暴力。眩いだけの光の羽が大きく展開し、トリックの目をくらませる。

 

「ああおいで!あいいめてーーー(さあおいで!抱きしめてーーー)」

「光ノ……羽根!」

 

イストワールが回転し、光の羽根で風を起こす。

すると巻き起こった風は光の奔流となって竜巻となり、トリックに襲いかかる。

 

「え!?お、お、おおおおっ!?」

 

それは狭い部屋で避けようのない絶大な威力となり、トリックすらも光の暴風に吹き飛ばされ、舞い上がり、天井に体をぶつけた。ついでに打ち付けられていた舌も千切れてしまう。

 

《な、これは……》

「私だって、私だって……!守られてばっかりじゃないんです!だって、だって!」

 

イストワールの座っていた本の開いたページが光を放つ。

『史書:イストワール』。その真の力が発揮されようとしていた。

 

「う、うう、クラクラする……」

 

地面に横たわるトリックの下に大きな魔法陣が展開した。

その4方、上下左右の4方向に超巨大な魔力の球体が出現する。

 

「う、こ、これは!?」

 

燃え上がる炎、突き刺さる氷、巻き起こる風、飲み込む闇、その4つの属性魔法の球体がトリックを取り囲んだ。

歴史(イストワール)に刻まれた過去の記憶、その力を解放しているのだ。

 

「うおああああああっ!?」

 

その4つの球体から溢れ出す魔法が中心のトリックに向けて降り注ぐ。

4方から降り注ぐ魔法はトリックの肌を焼き、貫き、切り裂き、飲み込んでしまう。

 

「だって!私も!ジャックさんのこと……大好きなんですからぁぁぁぁっ!」

 

そしてイストワールが目一杯に力を込めると膨大な魔力の塊がトリックに向けて移動していく。

その魔法は全属性の攻撃を叩き込む魔法。

火、氷、風、闇、そして残る1つの光。

光になるのは……トリック自身だ。

 

「な、な、な、そんなバカなぁぁぁっ!?」

 

魔法が混ざり合い大爆発を起こす。

それに巻き込まれたトリックだったが、未だにトリックはダメージを受けたものの死んではいない。

 

《っ……今しかない!》

 

騎士ガンダムが次元から廃れた石版を取り出した。

埃まみれ、砂まみれの汚れた石版。しかし、そこには不思議な神秘感が溢れている。

それを騎士ガンダムが見ると、石版には解読できない見たこともない文字が並んでいる。

 

《石版よ……三種の神器を今ここに!》

 

かつてミズキ達が掘り起こした石版。

昔、そこに記された文字を解読した時、そしてジャックが戦う意思を示した時、その石版は応えてくれた。

今だってそうだ。

愛する女を守るためならば!

 

《オーノホ・ティムサコ・タラーキィィッ!》

 

その呪文を唱えると石版の文字が光り輝く。

同時に石版は浮き上がり、光に包まれ、騎士ガンダムと融合した。

 

《ぬうああああっ………!》

 

盾は形を変えていく。伝説の盾、力の盾に。

剣は力を纏う。伝説の剣、炎の剣へと。

そして鎧も形を変え、新たな兜をかぶる。その名は霞の鎧。

その三種の神器を装着した状態はフルアーマー騎士ガンダム!

 

《行くぞ!》

「こ、今度はなんだぁっ!?」

 

三種の神器が共鳴し、フルアーマー騎士ガンダムの体が赤い光を纏う。

そして突進し、力の盾でトリックを打ち付けると体格差がありすぎるのにも関わらず、トリックが吹っ飛んでいく。

 

「ぎゃああっ!」

《はあっ!》

 

トリックが窓ガラスを割って吹き飛び、滑走路まで飛び出していく。

それを追い地面を蹴ったフルアーマー騎士ガンダムの体は残像を残すように速い。

 

《この三種の神器の前に、敵はいない!》

 

炎が剣をまとい、圧倒的な素早さでトリックを切り刻む。

するとその斬撃を浴びた場所からも炎が吹き出し、トリックの体を焼いた。

 

「あつ、熱い!」

 

《人の恋路を邪魔する者は、皆例外なく地獄へ落ちる!》

 

フルアーマー騎士ガンダムが炎の剣をトリックの腹に突き刺す。

するとそこから炎が泉のように吹き出し、滑走路すら割り裂いて炎の海を作る。

 

《消えろ!暴虐の輩よ!》

 

「あ、あ、あつうぅぅぅぅい!」

 

ついに炎が爆発を起こしてトリックを包む。

フルアーマー騎士ガンダムは素早く離脱して管制室へと戻り、トリックを見下ろす。

 

《…………》

「ジャック、さん……あ、その……」

《………ああ、助かった、イストワール》

「や、ありがとうございます……って、そうじゃなくて!」

《わかっているわかっている。ちゃんとこの耳で聞いた》

「じ、じゃあ……その……」

《ああ、イストワール。改めて言わせてもらう。俺もーーーー》

 

 

「い、いーすん!?」

「お、お姉ちゃん!」

 

 

ネプテューヌとネプギアが部屋に飛び込んできた。

バッと振り向いたイストワールはネプテューヌを見るなり、咳払いをして服のホコリを払う。

 

「あ、その……無事?」

《………。ああ、無事だ。今ここで……ん?》

 

ふぅと息を吐いたフルアーマー騎士ガンダムだったが、トリックの方を振り返って違和感を感じる。

今も炎は燃え盛っているが……その中にトリックがいない。

 

《まさか!》

 

「う、あ、熱い……だが、動けぬほどではない!」

 

トリックは地面を這ってカタパルトの奥の壁、いつの間にか開いていた次元ゲートへと向かっている。

 

「あ、マジェコンヌ四天王が……!」

「追うわよ、ネプギア!」

「う、うん!」

《いや、追うな!部屋が崩れる!》

 

イストワールの光ノ羽根、史書イストワールの発動、そして三種の神器で暴れ回った結果、地下にあるこの部屋の壁や天井全体に亀裂が走っていて、今にも崩れ落ちる寸前だ。

 

《やり過ぎたな、イストワール》

「う……そ、そもそもあの変態が悪いんです!」

「でも、逃がすわけには……きゃっ!」

 

追おうとしたネプテューヌの目の前に瓦礫が落ちた。

 

《いよいよ限界だな……逃げるぞ!》

「でも、四天王を倒せるチャンスを!」

《生き埋めになりたいか?》

「う……」

 

渋々ネプテューヌが従って名残惜しそうに部屋を出ていく。

その時にはトリックは次元ゲートに飛び込み、その姿を消していた。

 

「仕方ないよ、お姉ちゃん。ここで生き埋めになっちゃいけないもん」

「うん……でも、口惜しいわ」

《フン、まあ、上手く逃げたと思っているだろうな。ククク……》

「え?ジャックさん、それってどういう……」

《既に座標はずらしてある。あの次元ゲート……どこへ繋がっていると思う?》

 

イストワールにニヤリと笑いかけるジャック。

その顔を見てイストワールはハッと息を飲んだ。

 

「もしかして!」

《ルウィー……生き残れるといいな、トリック。ククク………》

 

 

 

 

 

 

 

その少し後方。

 

(お姉ちゃん、聞こえてたよね!?なんで邪魔したの!?)

(だ、だって仕方ないじゃない!体がムズムズするのよ!)

(もう、せっかくいい雰囲気だったのに……)

(タイミング悪かったわね……いろんな意味で)

 

『人の恋路を邪魔するものは、皆例外なく地獄に落ちる』……らしいが。

ネプテューヌの明日はどっちだ?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絶望へと至る罠

「ん〜……せっ!」

 

ロム、ラム、ブラン、Gセルフの3人と1機でラフレシアの分解作業を行っていく。

 

「あ、割れた……」

「こっちも、おしまい、よっ!」

 

バキッと音を立ててラフレシアの花弁が引きちぎられた。

これでもう動くことは出来まい。

 

《それじゃ、後は残ったバグを撃破して……》

「コイツの保護だな。……大丈夫か?」

《た、多分。気絶してる……みたいなものなんじゃないかなあ》

 

ラフレシアはピクリとも動かないのでちゃんと脳が生きているのが心配になる。

氷も脳に直撃はしていないし、無事なはず、だけど……。

 

「痛っ!?」

 

《ん?》

 

物音と悲鳴がしてGセルフが周りを見渡す。

しかし、この中の誰が言ったわけでもない。むしろ3人もその音に周りを見渡していた。

 

《……なんの声?》

「……すごぉく、嫌な感じがしたわ。今」

「私も……。ゾワッてした……」

「そこから聞こえたな」

 

ブランが建物の影を指さす。

多分、裏に落ちたんだろう。

……っていうか、冷静に考えたら今の音ってとても人間が落ちた音じゃないぞ?もっと大きな何かが……。

 

《あの〜、大丈夫です………っえ!?》

「え?」

 

目と目が合う。

声に振り向いてGセルフと顔を突き合わせたのは……トリック・ザ・ハードだった。

 

《……………》

「………………」

 

「執事さん?どうかしたの?」

「何かいるの……?」

 

ロムとラムが動きを止めたGセルフを不審に思って横からのぞき込む。

それと同時にピタリと動きを止めて固まった。

 

《…………》

「……………」

「……………」

「……………」

 

「なにやってんだ?んな固まっ……て………」

 

ブランも顔を出す。

そして例外なく固まる……かと思いきやメラメラと燃え上がっていく。

 

「て、て、テメエ!あの時の変態!」

「ひ、ひ、ひえええっ!な、なぜここに!?無数にある座標の中で……まさか!?誘い込まれた!?」

「今度こそ遥か彼方にぶっ飛ばぁす!くらいやがれぇっ!」

 

ブランが斧を持って前に踏み込み、トリックに向けて思いっきり横に振る。

狼狽えていたトリックは避けることもガードすることもできずブランの斧をもろに腹に受けて吹き飛ばされる。

 

「うげえええっ!?」

 

《………はっ》

 

そこでようやく吾を取り戻す。

石化が解けたかのようにピクリと動いたGセルフがハアハアと息を荒らげるブランの横に立つ。

 

《や、やったの?かな?》

「殺ってねえ!」

《うん、字が物騒だよね。いや、まあ、確かに殺ってはいないけどね……》

 

殺してやりたいほど、なのはわからんでもないが……。

 

すると転がっていたトリックがごろりと起き上がる。

 

「い、痛い……」

「来やがれ!月にぶっ飛ぶまで叩きつけ続けてやる!」

(……おかしい………)

 

ブランは怒り心頭のようだが、Gセルフは冷静に状況を見極めていた。

あの一撃は会心の一撃だったはずだ。

ブランの怒りでパワーがあったのもそうだし、何よりトリック自身まったくのノーガードだった。

なのに、トリックのダメージはたかが『痛い』。

 

「うぐぐ……逃げるのも失敗したし……幼女も取り逃してしまった……」

「何をブツブツ……!」

 

 

「こうなれば……目の前の3人の幼女を綺麗に殺して!中身も肉も全て食い散らかして……肌だけにして!そして、そして、人形にしてやる!」

 

 

「……なに………?」

《ブラン避けてッ!》

 

Gセルフがドンとブランを突き飛ばす。

ブランがトリックの言葉を理解できずに突っ立っていた隙を狙われたのだ。

 

《っ、ブラン飛んで!》

 

Gセルフも間一髪で舌を避けたが、舌は折れ曲がって再び向かってくる。

Gセルフと立ち上がったブランは別々に空へ飛んで舌から逃れようとする。

 

「逃がすか!」

《っ、僕狙いか……!》

 

舌はGセルフを狙ってくる。

Gセルフは持てる限りの最高のスピードで舌から逃げようとするが舌はそれと同じかそれ以上のスピードでGセルフを追ってくる。

 

《速すぎる……くっ!》

 

盾で舌を受け流しても再び舌は折れ曲がって向かってくる。

おまけに盾で防御してしまったためにGセルフは姿勢を崩してスピードを落としてしまう。

 

《う、く!切る!》

 

盾を持った左手でビームサーベルを引き抜き、向かってくる舌を縦に切り裂きながら舌の下へすれ違う。

しかし、舌の先端は2つに分かれながらもまだ伸びてGセルフを追う。

 

《しつっ、こい!》

 

「ミズキ!くそっ、まだやられ足りねえか!?」

 

ブランがそれを見てトリックへと突進していく。

 

「舌が遠くに行き過ぎてる……!お前の身を守るものはもうなにもねえ!」

 

舌はGセルフを追ってはるか上空にある。

ならば、トリックに残っているのは短い手足とでかい図体だけ。

 

「くらいやがれ!」

「っ、お姉ちゃん、待って……!」

 

しかし、ロムが弾かれたように動いた。

悪寒を感じてブランを止めようとするが、時すでに遅し。ブランはロムの手が届かないところにいる。

 

「テンツェリン……!」

「アク……アククク……予測通りだ!」

 

ブランが斧を振りかぶり、トリックにぶつけようとしたその時だった。

トリックの口の中の暗闇、そこからもう1つの槍が飛び出す。

 

「なっ……!?」

「食らえ!」

 

トリックからもう1つの舌が飛び出していた。

それは防御のことを全く考えていなかったブランの腹にもろに命中し、ブランの体はくの字に折れ曲がる。

 

「ぐ………はっ……」

 

「お姉ちゃん!?」

 

ラムが名を呼ぶ。しかしその瞬間ブランは吹き飛ばされラムの隣を猛スピードで通り過ぎ、民家の壁に埋め込まれた。

 

「が……ぐ………」

 

《ブランッ!》

「お姉ちゃんがやられた……!」

「舌が2つあるなんて、何よそれ!」

 

「アククククク、アククククッ!全て全て予測通りだ!お前達の次のセリフすらわかる!そう、何もかも俺の掌の上!」

 

ロムがトリックの意思を感じた。

いや、意思をぶつけられた。

 

「っ、やぁっ!」

「ロムちゃん!?」

「こわ、怖い……!あの、あの、中身……どうなってるの……!?」

 

トリックに付加されたのはニュータイプ能力。

そして、もう1つの付加された能力は未来を見る力。

 

「ゼロ!見える、見えるぞ!次はここだっ!」

《なっ……!?》

 

ミズキが舌に向かってビームライフルを撃つが避けられた。

しかし、その動きは不審だ。ミズキが引き金を引くよりも……いや、銃を向ける前から回避行動に映っている。

 

(未来を見られている……!この感じ、カレンの……!)

 

ゼロシステム。

それは今までの戦闘データを分析、解析してそれを踏まえた上での勝利への道筋を伝えるシステム。

ゼロに身を委ねれば見えるのはまさに未来。

ゼロが命じるままに動けば後は定められた運命のままに戦況は動く。

 

(けど、使いこなせていない!飲み込まれている……!)

 

だがシステムが指し示すのはあくまで勝利への道。

そこには慈愛だの味方だの情けだのが介入する余地はない。

システムの未来を見て、聞き、それを取捨選択できるだけの精神力がなければ残るのは自分ただ1人のみ。

トリックはゼロシステムの未来を取捨選択できず、完全にシステムに飲み込まれていた。

 

(カレンのシステム……!敵にするとここまで厄介だと、は……!)

 

「食らえ!」

《ッ、わああああっ!》

 

舌の先端がGセルフに向かう。片方は盾で受け流したが、もう片方の先端がGセルフの右腕に突き刺さり、貫いた。

 

「執事さんっ!この、いい加減にしなさい!」

「っ、やめて……っ!」

 

ロムとラムが氷塊を作り出そうと杖を前に出す。

しかし、杖の先にできた氷塊は完成する前にトリックの2枚目の舌が貫いた。

 

「なっ……読まれてる……!?」

「大人しくしていろ!そうすれば……楽に殺してやる!」

「やられるわけには、いかないの……っ!」

 

ならば、と隙のない氷の粒を吹雪のように打ち出す。

しかし、トリックは舌を鞭のように動かして自分に当たる軌道を描く氷の粒だけを無駄なく叩き落とした。

 

「ウソ……!」

「感応も、超えてる……感じても、その先をいかれる……!」

 

《っ、く、うっ!くそっ、これなら!》

 

ゼロが導き出す答えに翻弄されつつも、辛うじてそれを避ける。

ニュータイプ能力とゼロシステムの読み合いの勝負。

片方が未来を見ればその先の未来を感じ取る。片方が未来を感じ取れば、その先の未来を予測する。

だからこそ、そんな戦いに終止符を打つためにGセルフが空中に高く舞い上がり体を大の字に開く。

 

《全方位レーザーッ!》

 

Gセルフの全身から無数の細いレーザーが大量に発射された。

それはGセルフに迫る舌に穴を開け、焼き払っていく。

ゼロがたとえ未来を読めるとしても、それはほんの一瞬先。避けられない攻撃をぶつけることが対処法の1つなのだ。

 

(ゼロに勝つには……ゼロに勝った者の真似をしなければいけない……)

 

《っ、っ、くそっ!くそ、くそっ!》

 

ゼロをゼロ以外で破ったのはただ1人。

………ビフロンス、のみ。

 

《アイツの真似をしなきゃいけないなんて……!でも、ブランのフォローもしなくちゃいけない!》

 

ブランは壁に埋まって気絶している。ここでミズキがやられてしまえばロムとラムが集中して狙われ、ブランにも注意がいく。

そうすればブランは防御の手段はない。

 

《ブランを守るために……!やらせないために……!今だけだ!今だけは……アイツの力が欲しい!》

 

悔しくて涙が出そうだ。

けれど、ブランの命には代えられない。

 

(思い出せ……!あの、最悪の日のこと……!)

 

ビフロンスと相打ちになり、ミズキの次元が消えた日のこと。

その日……カレンはどのようにしてやられた?

 

覚えている。悲しくて辛い記憶だが、忘れてはいけない記憶だ。

 

ビフロンスはどのようにしてカレンを倒した……?

どういう思考を辿った……?

アイツの身になった気分で考えるのだ。

絶望に支配された、そんな気分で………。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「1つ目の絶望の罠……戻らない記憶!」

 

その罠は乗り越えた。

危なかったが、女神は見事に寸前で記憶を取り戻した。知らない間に誰かが死ぬ未来から、女神は寸前で逃れた。

 

「2つ目の絶望の罠……善意の殺し!」

 

その罠も乗り越えた。

ワレチューごとリーンボックスが火の海になる未来を、ネプギアは見事に回避した。助けたいという善意が誰かを殺す未来を。

 

「3つ目の絶望の罠……始まる……」

 

3つ目の絶望の罠。

それはーーーーー。

 

「私の身になること。思考を共有しようとすること。拒絶していたモノを受け入れようとすること……」

 

それは下地になる。

いつか必ず、挫けそうになった時に脳裏をよぎる。そしてその正しさを嫌だからと拒絶することが出来ずに屈服する。

 

「今度も……超えられるかしら?ヒヒヒッ」

 

ビフロンスは小さく笑った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



全方位レーザーにより怯んでいた舌が再び向かってくる。

ゼロが判断したのだろう。この程度の怪我は問題ない殺せ、と。ゼロは自らの怪我すらも労わってはくれないのだ。

 

(ビフロンスの、思考を、真似して……)

 

それはまるで麻薬のよう。過剰に摂取すれば死ぬことは見えている、そのギリギリのラインまで近付かなければならない。

 

(圧倒的な力と、頭脳……ゼロすらねじ伏せるほどの……)

 

「執事さん、後ろ!」

 

《っ、ぐっ!》

 

後ろから迫った舌がGセルフを狙う。

Gセルフ本体は避けたが、メガキャノンが片方壊れてしまった。

 

《バランス、が………!》

 

そのせいでバランスが崩れ、Gセルフの動きが鈍くなる。

その隙に舌がGセルフの上でしなり、鞭のように動いてGセルフを叩き伏せる。

 

《わあああっ!》

 

強烈な一撃を食らってGセルフのバックパックが歪む。

なんとか地面には墜落しまいと必死でバランスを取ろうとするが、落ちていくGセルフにさえ舌が追いつく。

 

《っ、があああああっ!?》

 

完全に避けられない。

残った左腕までもが肩から貫かれ、切断された。

両腕を使えなくなったGセルフはあえなく墜落してしまう。

 

「執事さんっ!」

「やめて……!」

 

ロムとラムが魔法を撃つが、軽くあしらわれる。そうしている間にもGセルフに追い打ちの舌が迫っているのに。

 

《っ、く、ぐ……あっ》

「執事さんっ!」

《ッ、光子フィールド!》

 

立ち上がれないGセルフに向かう舌だったが、突如Gセルフから発した謎の光に吹き飛ばされる。

Gセルフの過剰エネルギーを全身から放出することによって舌を退けたのだ。

 

《マズい……このままじゃ!》

 

しかしそれも苦し紛れの策。その場しのぎに過ぎない。

ミズキは未だにビフロンスの思考を感じ取ることも、勝利への道を見つけ出すことも出来ずにいた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「う………く………」

 

瓦礫に埋まって気絶していたブランが目を覚ます。

しかし、目は開けない。あまりにも大きすぎるダメージのせいだ。

 

(情け……ねえ………っ、体、が……)

 

ピクリとも動かない。

全身が痛みを訴え、ブランは呻くことすら難しい。

それでもブランは目を開いて状況を視認しようとする。

 

(ミズキ、は……ロムと、ラムを………私が……!)

 

助けなければならないのに。

目を開いた先で見えたのは両腕がなくなったGセルフ、そしてトリックに簡単にあしらわれるロムとラムの姿だった。

 

「アクククク……未来を見るこのシステムに、死角などない!諦めろ!」

 

(未来を……見る、システム………だと……)

 

トリックを虚ろな瞳で見つめるとトリックもギョロリと目を動かしてブランを見た。

ブランが目覚めることはわかっていたことらしい。しかしトリックはすぐにブランから目を離す。

 

(敵じゃねえって……こと、かよ………)

 

ゼロシステム、その前に確かに敵はいない。

けれど、勝たなければならないのだ。勝てない敵すら打ち砕かねばならない。

そうでなければならないのに、ブランの体は動いてくれない。

 

(くそっ………くそ……!ゼロを破る方法は……私が1番わかってるはずだろ!)

 

かつてゼロを使っていたのなら、その弱点すらも見つけられるはず。

考えろ、体は動かなくても思考はできる。

 

(早くしろ……!誰かが……死ぬ、前に……!)

 

思考が早くなる。

ゼロシステムの仕組みと効果を理解したブランは……即時にその裏を見る。

 

 

…………見つけた。

 

 

ならば………。

 

 

 

(アイツを、殺す……!)

 

「ぐ、く、くお、あ………!」

 

「お姉ちゃん!?」

「動けるの……!?」

 

ブランが斧を杖にして立ち上がる。

しかし膝はがくがくと震えていて、前に1歩進むのも一苦労だ。

 

「コンピューターに勝てる、ぞ……私なら!かかってきやがれ!」

「アククク、威勢はいいな!ならば!」

 

ロムとラムと戦っていた舌がブランへ一直線に向かっていく。

 

「お姉ちゃん、避けてっ!」

 

咄嗟にロムとラムも動けない。

仮に避けてもそれを予測してしまうゼロシステムの前にブランは再び打ちのめされてしまう……と誰もが思った。

 

「っ………」

「あらっ!?」

 

しかし、ブランはダメージが来たのか膝からカクンと崩れ落ちる。

するとブランがしゃがみこんで避ける形になり、舌はブランの上を通り過ぎていく。

 

「あ、危ない……!」

「……今、避けられた……よね……?」

「え?」

 

「あら、あららら?予測、出来なかった……!?」

「無敵のコンピューターに勝つ方法は1つ……コンピューターを始動させないこと……!」

 

ブランが再び斧を杖にして立ち上がる。

 

《そうか!ゼロはあくまで今までのデータから相手の行動を予測するシステム!》

 

今まで、過去から今現在、相手の動きや周囲の状況、全てを分析して確実な未来を見せるのがゼロシステム。

ゼロはつまり、起こりうる可能性をパイロットに見せる。しかし、だからこそ!

 

《可能性のなかった偶然……無限に起こる偶然には対応出来ないのか!》

 

足から力が抜けるかも?転ぶかも?心臓麻痺で死ぬかも?あるいは?もしくは?もしかしたら?

そんな無限の可能性をゼロは切り捨ててしまう。考え出せばキリがない、そんな無限の可能性をゼロは考えないのだ。

 

「だが、これは偶然!そう何度も偶然が続くわけがない!ええーい!」

 

ブランに再び舌が向かう。

しかし、今度は舌よりも早くロムとラムがブランに触れていた。

 

「回復!」

「強化……!」

 

「助かる、ぜぇっ!」

 

ロムとラムの回復魔法と強化魔法を受けたブランが斧で舌を切断する。

 

「痛いっ!?な、な、なぜだあっ!?」

 

「まだまだ破る手段はあるぜ……!お次はこれだ!」

 

ブランが斧をトリックに投げ飛ばす。

軌道をゼロが予測したため、トリックは斧をはじき飛ばすが、その影からブランが迫ってきている。

 

「な、しかし武器は!」

「ミズキ!よこせ!」

《っ、わかった!》

 

Gセルフがビームサーベルの柄を蹴飛ばしてブランにパスする。

ブランはそれをキャッチするとトリックに真っ直ぐに向かっていく。

 

「ぜ、ゼロ!?どうしたというのだ!?未来を、未来はどうした!?」

「予測できねえよなあ!?なにしろ、私がこの武器を使うのは……ッ!」

 

ブランがビームサーベルをトリックの口の中に突き刺す!

 

「おごああああっ!?」

「初めてだからな……データもクソもねえ!」

 

そしてゼロの更なる弱点は、データのないことに対応出来ないこと。

だからこそ身体能力を強化されたブランの動きを予測できずに舌は切られてしまい、ビームサーベルを初めて使うブランにも対応ができなかった。

 

もし、もしゼロに頼り切っていなかったなら……まだ対応できたというのに。

 

「お、おごごご!」

「チッ、タフだな……!仕方ねえ、これだけはやりたくなかったが……!」

 

口に剣を突き刺されてもなおトリックに多くのダメージは通らない。

タフすら超えて異常なほどのスタミナと装甲に舌打ちしたブランはトリックの上顎と下顎を掴んで大きく開かせる。

 

「返してもらうぜ……!それが付加されたものだってんなら、私にも!」

 

そしてブランはなんと、自分からトリックの体内に入り込んでいった!

 

「んごっ!?」

 

「お姉ちゃん!?」

「うぇ……」

 

ロムがその感触を想像しただけで少しえずいた。

しかし、ブランは躊躇わず……いや少し、いやかなり嫌だったがトリックの中へ入り込んでいく。

 

あの時のトリックは……ロムとラムを誘拐した時のトリックはこんなシステムを使ってはいなかった。

ならばこの力は後から付加されたものだ。恐らく……ビフロンスによって。

ならばその付加されたところを叩く。

そしてシステムなど重要なものは体表には出ず、必ずその内側に収めるもの。

ならば、その口の中!勝つためなら……突っ込んでいく!

 

「うご、ごご……うえっ!」

《ブラン!》

「心配すんな!ゼロに勝てるのはゼロだけだ……!なら私が!ゼロを使いこなす!」

 

そう言い残してブランの体は完全にトリックの中へ消えた。

 

「ゴクリ。………う、うそおおおっ!?」

「ほ、ホントに……食べちゃった……」

「無茶だよぉ……」

 

《……ブラン………》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

光の届かない体内、大きく膨らんだトリックの腹の中は不快だった。

大きくはあるが決して広大ではないはずのトリックの体内は光が届かないせいでまるで無限の空間のようにも感じた。

 

しかし、その中でもブランは迷わずに進んでいく。

別に直感が告げている訳では無い。

ただ、途中で見つけた太いコードのようなものを辿っていただけだ。

 

「くせぇ……あちぃ……息苦しい……」

 

そんな三拍子に苦しめられつつもブランはコードを辿っていく。

別れていたなら太い方へ、途切れていたなら後戻りして。

 

「この中に長くいたら……多分、死んじまうな……。冗談抜きで」

 

瘴気ではないが……あまり良くないものが充満している気がする。

外にいるミズキ達のためにも、ブランは急いでコードを辿っていく。

そしてそれの終着点に、ブランは驚愕する。

 

「ん……だ、これは………」

 

コードがたどり着いた先は大きな機械の球体。

機械自体が発する光のおかげで暗い体内でも浮かび上がって見えてくれる。

ブランがそれに近づくと、機械の球体の扉が開き、その先には人1人が入れるだけの空間があった。

 

やはり、機械か。

恐らくこの扉の中の空間は点検とかそういうことをするための空間だろう。

ブランはその中へゆっくりと入っていく。

 

「………んで、どうするか……」

 

見つけるまではいいものの、見つけてからを考えていなかった。

最悪の場合この機械を壊してしまえばいいのだろうが……ブランが望むのはそれではない。

ゼロを、この手に掴む。

きっと来る、いずれ来るはずのビフロンスとの戦いのために。

 

「ゼロ……お前は、コイツを……トリックを、相応しいと思うのか?」

 

ゼロは何も答えない。

それでもブランは語りかけていく。

 

「はっきり言ってやる。トリックはお前に……ゼロに相応しくねえ!」

 

ブランの声が体内に響き渡る。

 

「私を試せ、ゼロ!もし、私を相応しい使い手だと認めたのなら……!力を貸せ!」

 

そうブランが言った瞬間、扉が閉まる。

ブランが反射的にそれに振り向いた瞬間、ブランの脳にありったけの情報が流れ込んできた。

 

「んあっ!?あ、あ、あああああっ!?」

 

ブランが激しい頭痛に悶えて頭を抑える。

しかしそれ以上に苦しいのは流れ込んでくる情報に流されないようにすること。

 

(な、んだこれは……っ!私が知ってるゼロじゃねえ……!)

 

 

目の前に敵がいる。

では味方を殺してから敵を殺せ。

勝てない。

ならば味方を殺してから敵を殺せ。

勝たせろ。

それなら味方を殺してから敵を殺せ。

 

従えば……敵を絶望に叩き落とせるぞ!

 

 

「くあっ!これは……ビフロンス、かよ……っ!いや、ちげぇ……ビフロンスに、似た……!ビフロンスを肯定したのか、ゼロ……!」

 

ゼロシステムはビフロンスを肯定していた。ゼロに身を任せるのではなく、従えるでもなく、ゼロを飲み込みその考え方すら変えてしまったのだ。

ゼロが使用者に未来を流し込むように使用者もゼロにその絶望を刻み込んだ。

 

「あ、ぐ、く………!」

 

ブランの体に暗闇がまとわりつく。赤黒い暗闇は肌から染み込むようにブランの心を侵食していく。

 

(のま、れる……!)

 

ブランの体に赤黒い斑点がポツポツと現れた。

流れ込んでくるのはあらゆる絶望の可能性。

 

みんなが万全の状態で挑んだ。みんな死んだ。

ゲハバーンを使った。みんな死んだ。

ビフロンスを復活前に倒しに行った。みんな死んだ。

 

ブランが、みんなが考えていた策も、そして望んでいた未来も全て叶わぬと叩き伏せられていく。

ブランの体の斑点が広がっていく。皮膚を侵食し、体の内部にまでビフロンスの絶望が迫ってくる。

 

「な、さけねえな……」

 

しかし、ブランはそれを理解すると笑いながら立ち上がり始めた。

 

「お前が……ゼロが!どう足掻いても絶望に落ちる未来しか見られないって言うのなら……」

 

ビフロンスがあらゆる可能性の先に絶望を見出したというのなら……見つけ出す。

ゼロにもビフロンスにも見つけられなかった、予測できない未知数の未来。それを叩きつける。

 

「私が見せつけてやる……!お前が、ビフロンスが間違っていたことを証明してやる!だから……!」

 

ブランの赤黒い斑点が引いていく。

 

「力を貸せ、ゼロ!私が望む未来を見せてみろ!」

 

ブランの背中から大きな純白の翼が4枚生えた。

ブランは翼を広げ、大きく羽ばたいた。

 

 

 

 

「うごっ!?」

 

外ではトリックが苦しみ始めていた。

腹や喉を抑えて苦しんでいる。まるで吐く寸前かのように……!

 

《ブランが、来る……!》

「く、苦しい!やめろ、出てくるな……う、うごあああああっ!」

 

トリックが口を大きく開きながら天を仰いだ。

それと同時に白い何かがトリックの中から飛び出る。

4枚の翼で全身を包み込み、ブランが天へと舞い上がる。そしてブランはその翼を大きく広げた。

 

「……………」

 

その姿はまるで天使。

翼を広げた瞬間にブランの穢れは全て吹き飛び、純白の羽を散らしながら光り輝く。

太陽の光を反射して眩しいほどの純白に輝くブランはルウィーの雪原をキラキラと照らす。

まるで天地全てがブランを祝福しているかのようにブランは明るい。

そしてその大きな翼がゆっくりと曲がっていく。

羽ばたく。

そうトリックが予測した瞬間にブランは翼を鳴らし、羽を散らしてトリックへと突撃した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゼロ

「ぬっ!」

 

トリックがゼロシステムで動きを予測してブランに舌を伸ばす。

ブランへと真っ直ぐに向かっていく舌を見てブランは左手を横に払う。すると大きな翼がその手の動きに呼応するようにしてブランの目の前を払い、舌を弾き返した。

 

「なっ!」

 

トリックは驚愕する。

未来を見ていたはずの攻撃が防御されたこと。そしてあの強烈な一撃を弾かれたこと。さらに翼には傷もついていないこと。

次に、ブランが目の前に迫っていたこと。

 

「オ、ラァ!」

「ぶべっ!?」

 

ブランの右ストレートがトリックの頬にめり込んだ。するとブランの何倍もの大きさのトリックがぐらつく。脳がぐらつく感覚さえ覚えた。

そしてブランは一回転。

その翼をビンタするかのようにトリックの頬に続けざまに叩きつける!

 

「ぶぼおっ!?」

 

トリックがついにひっくり返った。

そしてブランはまた大きく羽ばたいてトリックから大きく離脱する。

 

《ブラン……》

「ああ、大丈夫!今まだにないくらい力が漲ってるぜ!」

 

ブランが自分の体を翼で包み込む。

そしてそれを開くとブランは両手に巨大なライフルを持っていた。

ツインバスターライフル。合体させることで1つのライフルとしても扱えるライフルをブランは合体はさせずに両手に握る。

 

「ロム、ラム!」

「う、うん!行こう、お姉ちゃん!」

「サポートするね……?」

 

ゼロシステムを持たないロムとラムはトリックに攻撃を当てることが出来ない。

だからこそサポートに徹してブランを援護しようと考えていたが、ブランは2人の背中を優しく手で押した。

 

「いいや、一緒に戦うぞ」

「え?でも……当てられないし……」

「避けられない攻撃をすればいい。ゼロの破り方は私自身が見せたはず」

「試したことのない、攻撃……データで予測できないこと……」

「そっか、新技ね!わかったわ、やってみる!」

「月が出てなくたって……私達は、強い……!」

「その意気だ!やるぞ!」

 

ブランが左手に持ったツインバスターライフルの銃口をトリックに向ける。

 

(予測できない……!?ならば、防御か!)

 

「その判断は誤りだ!」

 

ツインバスターライフルの引き金がカチリと引かれるとそこから強力なオレンジのビームがトリックに向けて飛んでいく。

トリックは腕を組み、持ち前の装甲とタフさでガードしようとしていて、その腕にビームがぶつかる。

 

「ぬ、ぬおおおっ!?」

 

しかし、ツインバスターライフルの威力はビームライフルの範疇を超えていた。

銃ではなく、砲。

ツインバスターライフルは最大出力ならば戦略兵器と言っても過言ではない。

出力を絞ったとはいえ、それでもその熱と衝撃はトリックの装甲を溶かし、退けるほどだった。

 

「なん、という威力……!」

 

後退してしまったトリックが焦げ臭い匂いを放つ腕をさする。

ブランのツインバスターライフルからは膨大な熱量のビームが発射されたことを示すように煙が立ち上っている。

 

「このまま!消えちゃえばいいのよ!」

 

杖の先をモーニングハンマーのように尖らせたラムがトリックに向かう。

 

「ぬっ!」

 

しかし、その攻撃は読まれている。

トリックが伸ばす舌がラムの杖を弾いた。

 

「んっ!」

「私も……!ええ〜い……っ!」

「む!?痛いっ!?」

 

今度はロムがラムの真似をするように杖の先を凍らせてトリックを殴る。

トリックはまるで素人のようにそれを食らってしまい、いくら非力なロムの打撃と言えども脳が揺れる。

 

ゼロに完全に身を任せていたのが間違いだった。もし、ゼロにもたれかかっていなければこんな不測の事態にも簡単に対応できたはずなのに。

 

「お、のれ!幼女を手放せるか!血塗れの幼女を!愛してくれてるんだろう!?そんな顔をするな、素直じゃないなあっ!そんな顔は削り取ってやる!」

《トリック……一体何を……》

「もうアイツはゼロに飲み込まれちまった。自分の欲望がゼロと絶望に混ざってメチャクチャになっちまってる」

 

ブランは喚くトリックを冷ややかな目で見つめている。あるいはそれは憐憫なのかもしれない。

決して同情はできないし、共感も理解も納得もできない。ただ哀れだと思う。どんな意思であれ、その意思を捻じ曲げられてしまったことには。

 

「……だから殺してやる。アイツは、私が。今度こそ、完全にな」

 

きっと、そうするしか解放はできない。

だから殺す。

憎しみでもなく怒りでもなく、慈愛から来た殺意を以て殺す。

時にはそれが救済になることもある。

 

「あああああああっ!」

 

トリックの喉の奥から体液に塗れた長い砲身が出てくる。

 

「焼けろ……!」

 

「っ、来る……」

「どう来るの!?」

「上だ!飛べ!」

 

全員大地を蹴って空を飛ぶ。

その瞬間、トリックの口から生えた砲身から発射された真っ白なビームが辺りを照らしながらブランがいた場所へ飛んでいく。

ほんの一瞬だけのエネルギーの解放。にも関わらず巻き添えをくらった大地は赤く焼け爛れ、ルウィーの建物をどこまでも削っていく。

 

「っ、クソ……!」

《この、威力は……!》

 

トリックが使ったのはサテライトキャノンだった。

しかし、今は夜でもないしエネルギーをチャージした様子もない。

 

《あらかじめエネルギーを充填していたってこと!?》

「ううん、私達のサテライトキャノンは魔力で撃つ……」

《……魔力の量も段違いってことだね》

「消費を抑えるために一瞬しか撃たなかったんでしょうけど。まあ、一瞬しか撃てなかった可能性もあるわね」

 

トリックの口のサテライトキャノンは煙をあげながら沈黙している。

そしてトリックの舌がまた蠢き始めた。

 

《何をする気だ……?》

 

トリックの舌がトリック自身を守るように動く。

そしてトリックの2枚の舌はそれぞれ自らの両手に突き刺さった。

 

「な……!」

 

トリックの舌が自らの両手を切り落とす。ボトンとトリックの両手が落ち、光になって消えていく。

 

「自傷……?よりにもよってゼロが!?」

 

しかし、ブランはコレが単なる自傷ではないことを思い知らされる。

それはトリックの傷口がモコモコと盛り上がり始めていたからだ。

 

「あ、ァ、うおおオお!ぜぇロぉ!そうヵ、やっぱりソウだよなあ!?愛シて……いるかラぁ!」

 

トリックの傷口を突き破り、新たに2つの銃がその姿を見せた。

トリックの腕から生えるような形で突き出ているその銃は奇しくもブランと同じような形をしている。

 

《ツインバスターライフル……!》

 

「ああぁァぁアアあああァ!」

 

トリックのツインバスターライフルからビームが発射される。2つのビームはあらぬ方向に飛んでいくが、トリックはそのまま腕を曲げ始めた。

 

「っ、避けろ!」

 

するとビームがまるでムチのように動いてブラン達を薙ぎ払う。

ブランは身を沈めて避けたが、他は反応しきれない。

ロムとラムは避け損ねて片足や片手がビームのムチで薙ぎ払われる。

 

「きゃあっ!」

「あうっ……!」

 

そして両手を失ったGセルフも頭部をビームが掠めてしまう。

 

《うあぐっ!》

「ミズキ!ロム、ラム!テメェッ!」

 

ロムとラムは体勢を崩しながら地面に着地したが、Gセルフは墜落してしまう。

もはやGセルフは戦える状態ではない。両腕と武装の殆どを失っているのだ。

なのに、いやだからこそ、トリックの舌がGセルフへと向かっていく。

 

「だぁぁぁあァメじャナいかァぁっ!オれからヨうジョをうばっチゃああアアあっ!」

「させるか、このド変態!」

 

ブランが羽でその舌を2枚とも弾いた。

そしてブランは無骨なツインバスターライフルを合体させ、トリックに照準を向ける。

 

「ケリをつける……!これ以上長引かせねえ、ミズキはやらせねえっ!」

「アアあああははハハハはッ!だぁぁァァァアめなんだゾぉぉぉオオッ!?」

 

トリックも両手のツインバスターライフルと口のサテライトキャノンの砲口をブランに向けた。

2人の大火力兵器にエネルギーが集中していく。銃口が光り輝く。光が溢れ出す。

ブランの目には網膜の上に照準が映し出されていた。ゼロが見定める最高の照準に従い、必中の狙いを定めた。

 

ロックオン。

 

引き金を引いた。

 

「ツインバスターライフル……!最大出力ッ!」

 

2人同時に極太のビームが放たれ、2人の中心でぶつかり合う。

あまりの熱、有り余りすぎる威力。

2人のビームは灼熱の奔流を巻き起こし、相手を蒸発させようとただ真っ直ぐに進み続ける。

そのビームの近くに寄るだけでも火がつくほどの熱さ。現に大地は発火し始め、暴風を巻き起こしている。

 

 

無理だ!無理だ!無理だ!あの威力では敵わない!

 

「知ってる、んだよ……!言われなくてもッ!」

 

逃げろ!逃げろ!逃げろ!

 

「逃げ、たら……!ミズキが焼かれるだろうが!」

 

ゼロが撤退の指示を出し続けるが、ブランはそれを無視し続ける。

しかしゼロの計算は正確無比、ブランのビームは押されていた。

 

「う、く………!」

「ひゃはハぁ!」

「ッ!」

 

舌が来る!

 

「知ってる!ぐあっ!」

 

さらにビームから回り込むようにしてトリックの2枚の舌がブランに迫る。発射の姿勢を崩せないブランはそれを避けられない。

肩に舌がぶつかる。

 

「ぐ、あ……っ!」

 

何回も何回もブランに打ち付けられる舌の連撃。それがブランの翼に大穴を開けた。

 

「ぐあああっ!」

 

ガクンと崩れる姿勢を無理矢理押さえつける。

さらに容赦なく加わる連撃がブランの体にとてつもないダメージを蓄積していく。

 

逃げろ!逃げろ!

 

「う、るせぇ……ッ!」

 

逃げろ!逃げろ!……死ぬぞ!

 

「私は1人じゃねええェェェッ!」

 

ブランが叫んだ瞬間、トリックの周りに巨大な魔法陣が出来上がる。

それはトリックを完全に取り囲んでしまうほど大きく、莫大な魔力を孕んでいる。

 

 

ーーーー『WHITE REFLECTION』

 

 

「あァ?」

「お姉ちゃん直伝の……禁断魔法……!」

 

その魔法を唱えていたのはロムだ。

杖を握りしめ、ありったけの魔力を注ぎ込む。

 

「月がなくたって!夜空に輝く北斗十字……!」

 

トリックを囲む魔法陣が光り輝き始めた。

しかしトリックはそこから動く気配はない。

逃げない?いや、逃げられない。

 

逃げれば一瞬でツインバスターライフルがトリックを飲み込む。かと言って逃げなければ……!

 

「追い詰められてたのは私じゃねえ!お前だ!」

「月がなくても、星が力を貸してくれる……!ノォ………ザン……ッ!クロスっ!」

 

ロムがノーザンクロスと唱えると、魔方陣めがけて天から巨大な氷の魔力が降り注ぐ。

十字を描く巨大な5つの魔力の塊。それがトリックにぶつかって凍てつく冷気をぶつける。

 

「うおおおァあああアあアアァ!?」

 

トリックの皮膚がパキパキと凍りついていく。

だがトリックの体力と防御力は尋常ではない。

だから、まだ、終わりじゃない!

 

「まだ、まだ……!夜空に輝く南十字!」

 

その反対側、地球の裏側にある十字星までもがトリックに向かっていき、さらなる冷気がトリックを凍てつかせる。

 

「サウザンクロス!」

「あァああアアァあァああ!?」

 

トリックの体の芯まで冷気が届く。

熱を奪い尽くす極限の冷気はトリックの体を足元から凍らせ、その氷は腹にまで及んだ。

 

「っ………!」

「次は私よ!」

 

魔力が尽きて膝をつくロム。

その次に杖を握りしめたのはラムだ。

 

「冷えちゃえ、冷えちゃえ!これが私の全魔力!」

 

ラムの体を幾重の魔法陣が包んでいく。

何重にも重ねられた魔力はそれぞれの威力を何倍にも高め、その冷気をさらに鋭く尖らせる。

そして限界まで高まったその魔力をラムは一気に解放する。

 

「アブソリュート・ゼロ!」

 

絶対零度。

その名を冠した強大な氷魔法はトリックの体をさらなる冷気で包み込む。

ビームの熱すらゼロに叩き込む圧倒的な冷気はやはりトリックの体の芯まで届く。

 

「これで終わりじゃないわ……!最後!」

 

ラムの前に3重の魔法陣が出来上がった。

莫大な魔力が秘められたそれをラムは杖で叩き割る。

 

「ええーーーいッ!」

「あアああぐグあアアっ!?」

 

さらに氷はトリックの体を包み込む。

それはトリックの首まで届き、なんとツインバスターライフルを装備した腕まで凍らせる。ツインバスターライフルが生み出したビームでさえ凍てつかせ、残るはトリックの頭部のみとなる。

 

「っ、く……!」

「お姉、ちゃん……!」

 

「うあああああああっ!」

 

ブランが雄叫びを上げて手に力を込める。

残るはトリックのサテライトキャノンのみ。後はこの撃ち合いに勝つだけ。

 

「う、く、クソ……!」

 

しかし、トリックがダメージを受けたようにブランも舌によるダメージが残っている。しかも舌は今でさえブランの体を突き続けているのだ。

 

「あ、ぐあっ!」

 

ブランの翼の1枚がついにもげた。大きな翼は後ろに吹っ飛んでいく。

ブランは大きく姿勢を崩してしまい、立て直そうとするが上手くいかない。

 

「負け、られねえんだ……!」

 

しかし、ブランは不安定な姿勢のままキッとトリックを睨みつける。

 

「………殺す……っ!」

 

ツインバスターライフルのビームがサテライトキャノンを飲み込み始めた。

それは瞬く間にサテライトキャノンを飲み込んでいき、トリックの眼前に迫る。

 

「ンな……!」

「っ………!」

 

ツインバスターライフルのビームがトリックを飲み込んだ。

ロムとラムが作った氷魔法すら一瞬で溶かし尽くし、トリックの皮膚を壊していく。

急激に冷えた後に急激に熱せられることにより、トリックの体は壊れやすくなっていた。トリックの皮膚はバキバキとひび割れ、柔らかな皮膚を晒していく。

 

「うオアアあアアアっ!」

 

照射が終わる。

白目を剥いたトリックがブスブスと焦げ臭い匂いと黒煙をあげて立ち尽くしている。

しかし、まだ。

………死んでいない。

 

「ッ………!」

 

第2射。

最大出力で叩きつけられるツインバスターライフルのビームは何の減衰もなくトリックの肉を焼いていく。

燃焼しろ、融解しろ、昇華しろ。

ゼロが叫ぶ。このまま、このまま、と。

ブランはそれに従い、ただひたすら引き金を抑え続ける。

トリックが凄まじい勢いで後退し、壁に叩きつけられた。その壁すら溶けてまた後退し、壁にぶつかる。

そして照射が終わる頃には、トリックの体はもはや原型を留めていなかった。手足は灰になり、残るのは胴体のみ。

もう立つことすら出来なくなっているが、まだ!

まだ、戦える!

まだ、生きている!

まだ、まだ……倒し切っていない!

 

「ラス、ト………!」

「………ァ……ぐ……!」

 

トリックの執念は凄まじい。いや、ゼロの執念と言うべきか。

こんな状況下にあってもブランに向けて舌は飛んでくる。

 

「引き金、を……!」

 

ブランの体も限界に近かった。

大きなダメージを受けながら、さらにツインバスターライフルの反動に耐えていたのだ。

ブランの腕はガクガクと震え、持つのが限界で照準が定まらない。

 

「……ぐ………!」

 

トリックの舌が迫っている。

早く、早く引き金を引かなければ。

しかし照準が定まらない。外してはおしまいだ。ここで外しては、もう撃つ気力はない。

腕が震える。片目は開かない。体の感覚はとうにない。それでも!

 

「ツインバスターライフル……っ、ぐあっ!」

 

引き金を引く寸前、トリックの舌がブランの右腕を射抜いた。

限界以上に酷使された腕はそのダメージを受けてしまってはもう使えない。

そして今まで両手でようやく持っていたツインバスターライフルも支えることすらままならない。

 

「く、そ……!」

 

ツインバスターライフルが崩れ落ちる、その瞬間にブランに光線が当たる。

 

「っ、これは……!」

《ブラ、ン………!》

 

しかしその光線を受けてもダメージはない。

ブランの体を縛るように全身を覆うビームはGセルフから発射されていた。

Gセルフのバックパック、そのトラクターフィンから発射されるトラクタービームだ。

トラクタービームは本来、相手を金縛りにすることで動きを封じるビーム。

だが今は、ブランにそのビームをぶつけることで……!

 

(体が、固定されて……!)

 

体が固定された。

照準はトリックに向いたままビクともせず、後は指に力を込めるだけ。

 

《指に、力を!ブラン、引き金を引いてっ!》

「っ、く、ああああっ………!」

 

プルプルと震える指先が少しずつ引き金を押さえ込んでいく。

今のブランに出せる最大の力を込めて指が曲がっていく。

しかし、そんな悠長なことをトリックは許してはくれない。

トリックの舌がブランへと向かっていく。

 

「……ターゲット、ロック……!」

《ブランはやらせないッ!》

 

トラクターフィンの片方が射出され、まるでミサイルのようにトリックの舌に向かう。

それはトリックの舌を壊しはしないものの、ぶつかると同時に爆発して動きを鈍らせる。

そしてトリックの舌の動きが鈍った、そのほんの一瞬が勝負を決めた。

 

「………最後だ……!」

 

カチリ。

静かに引き金を引く音が鳴り響き、ツインバスターライフルから超弩級のビームが発射された。

それはトリックの舌を巻き込み一瞬で蒸発させる。その痛みがトリックに伝わるよりも早く、ビームはトリックへと到達した。

 

「ァーーーー」

 

まるで核爆弾でも爆発したような巨大な炎のドームが一瞬にしてトリックを包む。

大きなキノコ雲が立ち上り、トリックの体は何の欠片も残さずに電離化してしまう。

そこにトリックがいたのか……その痕跡は何処にもない。ただそこにあるのは巨大な爆炎。

 

ブランの翼がボロボロに朽ちていく。

ツインバスターライフルの反動、余波、その影響にボロボロのブランの体は耐えられなかった。

ツインバスターライフルすらもひび割れ、手放し、後ろへ反作用でふわりと飛んでいく。

目を閉じ、全ての力を使い尽くして脱力したブランは目を閉じる。

ゼロから届いた声は『終わりだ』。

安心し尽くして安らかに地面に落ちていくブランの体と地面の間に変身を解いたミズキが滑り込む。

 

「っ、ブラン………」

「……………」

 

ブランの変身が解けた。

翼は小さな羽毛の輝きとなって消え、まるで泡のよう。

ブランのクッションとなって受け止めたミズキだったが、ミズキもダメージは受けていた。

 

「……参ったな……クスクス、これじゃ腕、取りに行けないよ……」

 

幼子のように眠るブランをどけることは出来ない。したくない。

ミズキも疲れがどっと襲ってきたのか、あるいは腕から流れ出る血が意識を奪っているのか、目を閉じる。

 

……絶望の罠は、再び退けられた。





ぬあ〜書き溜め分おしまいです…
というわけでまたお休み。今回は1ヶ月…もう全然話が残ってないので…
mk2編も終わりに近づいてます
あと2回、3回の休みで終わるかと
その先のことはまだ考えてないです…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7章〜最後の四天王、近付く終焉の足音〜
深淵の向こう側


「…………ぅ」

「ん」

 

ベッドの上に横たわっていたブランが目を覚ます。

ゆっくりと目を開いたブランが首をゆっくりと回し、ミズキを見る。

 

「起きた?」

「……ええ」

「気分は?」

「………すごく、疲れたわ……」

 

深い溜息をついたブランが再び目を閉じた。

それをクスクスと笑ってからミズキは窓の外を見る。

………今ならわかる、アレはビフロンスの罠だった。

ブランが止めてくれた、あの時ブランがゼロシステムを手に入れていなければミズキは絶望という深淵を覗いてしまったかもしれない。

現にミズキは深淵の始め、大きな暗闇は見えてしまった。

しかし、けれど、だからこそ。

………何かを得られた。……気がするのだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

トリックを倒したとはいえ、まだマジェコンヌの進撃は止まっていなかった。

プラネテューヌは未だに犯罪組織に占拠されていて、今この時も軍と軍の衝突が起きている。

 

「そう……あの変態を倒したから終わりだと思っていたけど、まだ安心はできないのね」

「作戦は決まってる。中央を切り開いて、一気に指揮官を倒す。多分、指揮を執っているのは……」

「残った1人、ね。なるほど、骨が折れそうだわ……」

 

おそらくマジック・ザ・ハードが待ち構えているはずだ。

4人の女神とネプギアをたった1人で倒した相手。それが奥に待ち構えているとしたら、苦戦は必至。

 

「けど、マジックを倒せばマジェコンヌ四天王も終わる」

「……なんとか復活前に終わりそうね」

「うん。そしたらまた、前みたいに戻れる」

「………私待ちかしら?」

「いいや、みんなもブランほどじゃないけど怪我してるし疲れてる。心配しないで、ゆっくり休んで」

「そういえば、アナタ腕は?」

「くっついてるよ。この通り」

 

ミズキは両手を広げて自由に動くことを示すためにぐっぱぐっぱと手のひらや指先を動かす。

それをブランは目を細めながらじっと見ていた。

 

「大丈夫なの?」

「大丈夫」

「……ならいいわ」

 

もう嘘はついていない。

ブランは力を抜いてまたベッドに横たわる。

 

「1日待って。そしたら十分よ」

「うん、わかった。伝えておくね」

 

そう言ってブランは目を閉じた。

まるであの日のようだ。

あの時と同じ、ミズキはブランを眠るまで見つめ続けていた。

あの時と違うのは、もう離れないことだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

あの時、覗いた深淵。

ビフロンスの思考、ビフロンスの信念、ビフロンスの信条。

ビフロンスは僕らの次元を壊した。あの次元にいた大切な全てを壊していってしまったのだ。だから……憎んでいた。

 

今だってその気持ちは変わらない。親兄弟にも等しいみんなが殺されたのだ。これが憎くないわけがない。

それに、譲れないものがあった。守りたかった、結果的には次元は壊されて何一つ守れなかったけれど……でも、守り抜きたかった。

 

だからこそビフロンスもビフロンスが掲げる平和の理論も認められなかった。

今、この時初めてビフロンスの平和を理解しようと努めた気がする。けれど反論はできなかった。その理論に穴はなかった。

仮にもずば抜けた頭脳を持っているビフロンスが考え出した理論だ。ただこの世を平和にしたい。争いをなくしたいのなら、争わないようにさせる。

しかもそれを自分からしないように……穴が見つからない。そして多分、確実だ。

 

絶望に反対して対義語の希望を掲げた。きっと人は分かり合える日が来ると、そういう可能性に僕は賭けた。だからこそ、その可能性も摘み取るビフロンスは許すことが出来ない。

何より……みんなを奪われたくない。

きっと僕の考えは正しい。でも、今はビフロンスの考えも否定出来ない。

 

ただ単に意地の問題だ。きっと選びたい方を選んでいるだけだ。

希望に満ちた世界と絶望に満ちた世界。きっとどちらでも平和は得られるし、正しい。どちらも穴は見つからないからだ。

 

では、ビフロンスの掲げる平和と僕の掲げる平和。どちらが正しいんだろう?どっちの方が“良い”んだろう?

 

今は一概にビフロンスを間違っていると認められない。けれど僕が間違っているとも認められない。

 

けど、そういうものなのだろうか?

世界がよりよく……平和になる方法。きっとそれは唯一のはずなんだ。きっと人は無意識にそこへ進んで、でも未だに成し遂げられずにいる。

希望、絶望、どちらへ人類は進んできたのだろうか?

どちらへ……僕は進めばいいのだろうか。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ミズキ、入るよ〜」

「あ、うん」

 

一旦思考の海から浮き上がってドアを開くネプテューヌを迎える。

 

「なに?悩んでるの?コレについて?」

「あ、あ〜……それもあるけどね」

 

微笑んだつもりだが悩んで眉をしかめているのは隠しきれなかったみたいだ。

だがネプテューヌは悩みの原因をパソコンの画面と勘違いした。

 

「ガン……ダム?」

「うん。ようやく形にはなったかな。後は組み立てるだけ」

「……へえ〜……ライフルと、バズーカ……これ盾でしょ?」

 

画面の上の図面をめくりながらネプテューヌが武器について言及していく。

そういえば、アブネスは無事だろうか。

プラネテューヌにいたはずだが、上手く逃げているだろうか……アブネスのことだ、捕まっていないとは、思うけど。

 

「で、それだけじゃないって?」

「……うん。なんか、わからなくなっちゃって。ビフロンスの考えと僕の考え。どっちが正しいのかな……って」

「…………はあっ!?」

「ね、ネプテューヌ近い近い近い」

「大丈夫!?熱でもあるの!?」

「いや、僕はまともだから……ま、まず話を聞いて!」

 

鼻先がくっつきそうなくらいに近寄るネプテューヌを引き剥がして落ち着かせる。

 

「もちろん、ビフロンスは倒す。アイツがいたら、みんなが死ぬ。だから戦う。守るよ」

「う、うん……」

「でも、僕の戦う理由はそれだけだ。倒すことに躊躇はないよ、けど……平和って、なんだろうって思って」

 

あっちを取ればこっちが取れない。

それぞれに欠点が見つかってしまう。

 

「ビフロンスが言うことは誰かが不幸になることだ。でも僕が言うことは凄く不確かなことだ。……どっちが正しいのかな、って」

「そりゃあ、ミズキが正しいに決まってるじゃん。不確かでも、きっとあるって信じてるんでしょ?」

「でもさ。……うん、信じてる、けど」

「よくわかんないんだけど……でも、みんなが不幸せになるのは間違ってるよ」

「でも、人の幸せは食い違うよ。誰かの願いが別の誰かの願いを妨げることだって有り得る」

「う、う〜ん……」

 

ネプテューヌが腕を組んでうんうんと唸り始めてしまった。

 

「でも、でも……う〜ん、じゃあ、みんな勘違いしてたってこと?」

「え?」

「いや、ず〜っと昔の人もさ……平和ってなんだろ〜って考えて……でも、その考えは間違ってたってこと……かな?」

「…………」

 

認めたくないけど、そうかもしれない。

別に遥か古代の偉人だけじゃない、カレンもジョーもシルヴィアも……間違ってたってことなのかもしれない。それは凄く嫌だった。

 

「じゃあ、平和ってさ……今まで誰も見つけられなかったものなのかな?」

「……かも、しれない」

「でもさ、人間の歴史って長いよ?それでも見つけられなかったのかな?」

「…………」

 

あるいは、そんなものないのかな。

見たことのない、きっとあると信じてるものを探し続けて……でも、結局はそんなものなかったなんて……。

 

「きっと、あるよ。……見つけられなかっただけだと思う」

「ん〜……あ、ほらほら!なんていうか、アレ!灯台は明るい!」

「はい?」

「ち、違う違う……えと、ほら、『どこ?メガネメガネ!』だよ!」

「……メガネ………メガネ……メガネ?」

「あ、えとほら……ああ!灯台もと暗し!」

「あ、ああ。……ああ、メガネってそういう……」

 

頭の上にメガネがあるのにメガネを探すキャラの姿が浮かんだ。ああ、つまり、そういうことね。

 

「で、何の話だっけ」

「ほら、探し物ってさあ、案外身近にあるじゃん!発想の転換だよ!」

「アブネスにもそれ言われたな……考え方を逆転させるとかなんとか」

「多分、そういうことなんじゃない?山を登っている時は山の大きさはわからない的な!」

「どういうことなの……」

「ん〜と……上手く言えないけど……1+1は2じゃん?でも、今は3とか4とかになっちゃってるっていうか……だから、どうすれば2になるかを探してるっていうか……」

「………?」

「や、やめて!『何を言ってるんだこの子は……可哀想、色々と……僕が支えなきゃ!』みたいな顔はやめて!」

「いや、そこまでは考えてないけど……可哀想より前は思ってるかな」

「うぐっ!」

 

ネプテューヌの胸に深く深く矢が突き刺さりネプテューヌがうずくまる。

わあいたそう。

 

「ち、違うんだよ………1+1は2なの!どうしたって1+1は2だから……3とか4になった答えを引き算しても割り算しても意味ないんだよ!だって2だもん!」

「う、うん……」

「ちょっと息をふっと吹きかければ、ホコリが飛んで2になるかもしれないし……もしかしたら、目が悪いから3に見えてただけかもしれない。だって1+1は2だから!難しく考えたって……」

「…………」

「ううっ、理解してもらえてない……よよよ」

 

わざとらしくネプテューヌが目元を押さえる。

うん、や、その、ごめん、全然わかんないや。

ネプテューヌ語の翻訳してくれる人いないの?せいぜい僕は4級くらいだからこんな長文わからないよ。

 

「ま、まあその!難しく考えないで!そんな感じ!」

「ネプテューヌに言われると説得力あるようなないような……」

 

簡単にしか考えない人にそんな事言われるとなんかこう複雑。

 

「そういえば、なんで僕の部屋に?」

「え?ああ、その……私も?っていうか……相談があるっていうか?」

 

指を突き合わせて急にもじもじし始めた。

 

「明日のこと?」

「うん……いやあ、本当に私でいいのかな〜……って……」

 

だが赤くなっていた顔はすぐに暗くなって目を伏せる。

 

「みんなの方が……なんならネプギアの方が多分私より強いしさ〜!だから……その……サポートというか……一緒に戦えるかな、って……」

 

既に作戦は決まっていた。

僕、ネプギア、ネプテューヌの3人で中枢に突撃し、その他のみんなが敵を抑える。

プラネテューヌを救うための戦いだ、人選がどうとか誰が1番強いとか誰が戦いたいとかよりも、この人選が適切だと思える。

 

「大丈夫だよ、多分」

 

不安なのだろう。

だがあえて僕はあっけらかんと答えてみせた。

だって、ネプテューヌ自身がさっき言ったばかりだ。難しく考えたって仕方がない。

 

「多分って!」

「クスクス、大丈夫。きっと勝てるよ」

 

隣に誰かいるのなら、ネプテューヌがいるのなら……怖いもの無し。

マジックがどんなに強くたって、どんな戦法を取ったって、そんなの関係なしに勝てるような……根拠はない、けれど確信にも似た自信があった。

 

「今日、夜。月が出たら突撃」

「……うん。今日の夜……今度は、勝てる、かな……」

「きっと勝てるよ。僕がいる」

「……それ、『ノワール+ブラン+ベール<ミズキ』って自信があるの?」

「え、あ、や」

「ふ〜ん……へ〜……告げ口しとこ」

「いや、そういう意味じゃなくて!」

「ミズキくんはぁ、女神3人よりも強い自信があるんだって〜へ〜!」

「す、ストップネプテューヌ!」

 

最後の決戦の時は近い。

マジックを倒せれば、終わるんだ。

復活なんてさせはしない、穏やかな日を……取り戻したい。

だから、今は……平和とか、そういう考えは捨てる。

ただ、戦わなきゃ守れないから戦おう。この戦いは守るための戦いだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マジック・ザ・ハード

「……もうすぐ日が沈むな」

「マジック様?」

 

マジックはプラネテューヌ教会の屋上に立ちながら夕焼けを見ていた。

日は半分以上沈んでいて、空は赤く染まっている。

その横にいるのはリンダだった。

 

「それがどうかしましたか?」

「いや……リンダ、一旦ギョウカイ墓場へと戻れ」

「はい?な、なんで!?」

「別に他意はない。この箱を届けてきてほしいだけだ」

 

マジックがリンダに箱を手渡した。

箱は軽く、機械や何かが入っている様子はない。

 

「なんすか、これ?」

「書類だ。重要な書類でな、貴様に任せたい。よもや断るまいな」

「は、はい!わかりました!絶対ギョウカイ墓場に届けてみせます!」

「頼んだぞ、リンダ」

 

リンダは大仕事を任されたのが嬉しいのか、微笑みながら敬礼をしてマジックの前から去る。

それを見届けてからマジックはギョウカイ墓場の方角を見た。

 

「……失敗か……ついに犯罪神様の復活をこの目で見ることは叶わなかった……」

 

マジックは戦士だけでなく、軍師としても優秀だ。

だから彼我戦力差も完全に見えていた。

この戦、勝てる可能性は非常に低い。しかし、策はある。活路はある。そこを進む。

だが……そんな綱渡りに巻き込みたくはなかった。

 

「許せ、リンダ。……我が身は既に犯罪神様に捧げた。裏切ることは許されんのだ」

 

マジックは目を伏せた。

その時、ギョウカイ墓場とは反対方向から爆炎が上がった。

 

「来たか」

 

マジックは巨大な鎌を握りしめる。

 

「気付いたよ、リンダ。犯罪神様は私達の知る犯罪神様ではないのだな。記憶を奪われた貴様を助けてやりたかったが、その方法もわからん。だが……」

 

私が忠誠を誓ったのは犯罪神だ。ビフロンスではない。

私が欲しいのは平和などではない。ただ、犯罪神が治める世界が欲しいだけだ。

もう助けられない。ほとんど抜け殻と化した犯罪神のために……私は忠誠を尽くし続けよう。

 

「私は犯罪神様のために戦おう。残った最後の四天王として……今は亡き犯罪神様のために!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌの中心から犯罪組織のEXモンスターが襲い掛かってくる。

空を飛ぶ女神に対抗して鳥型や龍型のモンスターが目立つ。

爆炎が起こった場所はまだ遠い、空を飛ぶモンスターですら視界にすら映らなかった場所から白い閃光が瞬く。

 

その瞬間、モンスター達は一瞬にして凍って崩壊していく。

空を飛んで急行していたモンスター達はほとんど消え去り、氷漬けにされた。

 

「ツインアイシクルサテライトキャノン……」

「今よ、行って!」

 

道が開いた。

サテライトキャノンによる先制攻撃で敵の軍団の中央には大きな穴が開く。

そこを風よりも速く女神達が突き抜けていく。

 

「私は地上を援護いたしましょう」

「んじゃあ私は空の敵でも潰してる」

 

ブランが道を逸れ、ベールは下降していく。

ベールがドラグーンによる射撃と目にも留まらぬ槍さばきで犯罪組織の構成員を倒していき、ブランは横から迫ってくるモンスターの中心部に行ってツインバスターライフルを構える。

 

「お前らに未来はねえ……消えろ!」

 

両腕を広げてツインバスターライフルを構え、最大出力で発射する。

ブランの両脇の敵が消えたが、さらにブランは回転し始めた。

ローリングバスターライフル。ブランを中心にして敵モンスターは次々と灰になって消えていく。

 

しかし、敵はまだ追いついてくる。

早くも前方にモンスターが迫ってきていた。

 

「私とユニで道を開くわ」

 

ノワールの体が赤く染まった。

ユニもそれに合わせて速度をあげる。

 

「ネプギア、頑張りなさいよね!」

「ネプテューヌ、しっかりやるのよ」

 

ネプテューヌとネプギアが返事をするよりも早く2人が駆けた。

トランザムによる機動力にモビルアーマーの加速は追いつく。

信じられない速度のままにユニのミサイルポッドが射出され、ノワールもその先へ飛んでいく。

 

ユニのミサイルポッドは敵モンスターを逃げ場のない面攻撃で殲滅し、残った敵もノワールが次々と切り裂いていく。

 

みんなが開いてくれた道をネプテューヌ、ネプギア、ミズキが通っていく。

 

教会まではそう時間はかからなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

プラネテューヌ教会、屋上。

さらにその上の教会の天辺の上にマジックは立っていた。

針の先程しかない足場なのにマジックの体は揺らぐ様子すら見せない。

 

「………来たか」

 

マジックの視界に3人の影が映った。

ガンダムAGE3の力を得たネプギア、変身したネプテューヌ、そして見覚えのない……しかし見たことのあるシルエット。

 

「先制攻撃を仕掛けます……!」

「僕が追い込む!」

「私が決めるわ!」

 

ノーマル状態のネプギアがM.P.S.Lを構えた。

銃口に充填される凄まじいエネルギーが解き放たれ、ビームとなってマジックに向かっていく。

マジックはそれを足場を蹴って軽く飛んで避けた。

 

「マジック……!」

「来るか、ガンダム!」

「いっけえええええっ!」

 

ガンダムの背から4基の円錐形の物体が分離した。

さらに腰のサイドアーマーもまるで鮫のように歯を開き、マジックへと飛んでいく。

合計6基の物体はコードに繋がれたままマジックを囲むべく動く。

 

Xアストレイ。またの名をドレッドノート。

背中には4基のドラグーンがX字に装備されていて、それがこの機体の名前の由来となっている。

さらに両腰にはプリスティスビームリーマーと呼ばれる特殊なドラグーンを装備したガンダムだ。

 

それらが全てマジックに向けられた。

まずはプリスティスによるビーム。

 

「ふっ、はっ……」

 

マジックは舞うようにプリスティスの2発のビームを避ける。

しかしドラグーンがマジックに正確に銃口を合わせる。

ドラグーンの砲口は1基につき10門。4基ならば40門。

拡散し、逃げ場を奪うビームがマジックを襲った。

 

「ふん」

 

しかしマジックは自分の前面を完全に防御魔法で覆い、拡散ビームを防ぐ。

しかし拡散ビームが防御魔法に弾かれた瞬間、ネプテューヌはマジックの前にいた。

 

「たああっ!」

「っ」

 

マジックは鎌の柄で受けたがネプテューヌの勢いに押される。

三位一体、珠玉のコンビネーションだ。

 

「ふん、何をしに来た?歯も立たなかった貴様が……」

「あの時はそうかもしれなかった……でも今は違うわ!」

「同じだよ、何も変わらん!」

「どうかしら、ねっ!」

 

ネプテューヌがマジックを押すのと同時にその反作用で後退する。

それと同時にネプギアがマジックの後ろに回り込んだ。

 

「ええいっ!」

「チッ」

 

M.P.S.Lによる斬撃。

マジックは振り向きながら身を沈めて避け、2発目の斬撃は再び鎌の柄で受け止めた。

 

「歯が立たないのは、今度はアナタの方です……!」

「貴様らにかまっている時間はない。残り6人もの女神を相手しなければならないのだ」

「いつまで、その余裕が続くか!」

「スーパードラグーン……!」

 

マジックの背から8機のドラグーンが分離した。

瞬時にネプギアに狙いを定めたが、ネプギアはすぐに後退してビームから逃れる。

 

「っ」

「ドラグーンは僕が抑える!」

「もう貴様にも遅れはとらん!」

 

Xアストレイとマジックのドラグーンが射撃戦を繰り広げた。

Xアストレイのドラグーンの方が数は少ないものの、砲口の数では圧倒的にXアストレイが勝っている。

範囲攻撃でマジックのドラグーンを追い詰めようとするが、ドラグーンはビームの間を縫うように避けて攻撃が当たらない。

 

(動きが違う!)

「貰ったぁっ!」

 

マジックが溶岩球を魔法で放つ。

Xアストレイにその魔法が向かっていくが、その前にドラグーンが立ちはだかる。

 

「バリアを!」

 

Xアストレイのドラグーン4基の間にビームの膜が張られ、溶岩球を防いだ。

Xアストレイのドラグーンはバリアを張ることすら可能なのだ。

 

「そこよっ!食らいなさい!」

「甘い!」

 

後ろからネプテューヌがマジックに切りかかるが、その前にマジックの足がネプテューヌの腹にめり込んだ。

 

「っ、く……!」

 

ネプテューヌは吹き飛ばされるものの、すぐに体勢を立て直す。

そして間髪入れずに次はネプギアの攻撃。

 

「読めた……当たって!」

 

オービタルへと換装したネプギアのM.P.S.C(L)から楔型のビームが放たれた。

横に広いビームのために上に飛んで避けたマジックだったが、

 

「なっ」

 

クンッ。

 

ビームが曲がる。

マジックを追尾するように軌道を変えたビームがマジックに届いた。

 

「ぐっ!」

 

鎌で受け止めたが、後退することになる。

その隙を逃すほど3人は甘くない。

言葉を介さずとも3人はマジックを取り囲んで一斉に攻撃を仕掛けていた。

 

「ここで……!」

 

ネプテューヌが太刀で切りかかる。

 

「追撃します!」

 

ネプギアがM.P.S.C(L)の引き金に手をかける。

 

「落とすっ!」

 

Xアストレイのドラグーンがマジックを取り囲む。

 

絶体絶命、完璧に決まった連携を無傷で耐えるのは不可能。

今までのマジックならここで大ダメージを受けて戦闘不能に陥っていたところ。

しかし、マジックは……不敵に笑った。

 

「フッ……他愛ない」

 

衝撃でマジックの眼帯が外れた。

フワリと風に乗って落ちていく眼帯。開いた目の色は左目と同じ真紅の瞳。その瞳は……ハイライトを失っていた。

 

 

パリィ………ィ……ィィ………ン………ッ……!

 

 

SEED、発現。

 

「いくら策を弄しても……私はその先を行く」

 

マジックが鎌を振りかぶり、一瞬で気を漲らせた。

 

偶然。ほんの偶然だった。

この時、3人の位置は1つの平面上にあった。

 

「アポカリプス……」

 

3人がその予兆を感じるのは遅すぎた。

1番近くにいたネプテューヌはマジックの全身に漲る力を見極め、ネプギアとXアストレイはニュータイプ能力で危険を察知した。

ネプテューヌは後退を開始し、ネプギアとXアストレイも回避運動にシフトする。

 

……本当に偶然だったのだろうか。

もし、3人がこの平面上に動いたのではなく……“動かされた”のなら?

マジックは予想を遥かに超えて、恐ろしい。

 

「ノヴァ………ッ!」

 

ネプテューヌとネプギアは防御魔法、そしてXアストレイは左手に装備されたシールドでガードを試みる。

だがその威力はもはやそんな陳腐なガードでは威力を逸らしもできないほど……!

 

『……ッ!』

 

遠くの女神はその斬撃を見ることが出来ただろうか。

マジックが自分を中心に円形に振り回した鎌が斬撃を振り撒く。

綺麗な円盤状、鎌の刃の厚さほど、ほんのmmもないような厚さだった。

しかしその攻撃範囲は極大、その威力をまた、極大だった。

 

「あああああああっ!」

「きゃあああああああああ!」

《うわああああああっ!》

 

ネプテューヌ、ネプギア、Xアストレイが吹き飛ばされていく。

マジックは莫大なエネルギーの中心で口の端を歪めた。

 

「他愛ない……フッ、他愛ないな」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暴走

マジックが放ったアポカリプス・ノヴァの閃光が消えていく。

少しの熱と甚大な被害を残して他には何も無い。

 

「………ほう」

 

マジックがくるりと振り返るとそこには教会の屋上で膝をつくネプギアの姿。

Xアストレイとネプテューヌも空中でなんとか体を支えて浮かんでいた。

 

「はっ、はっ、っ……!」

「耐えたか。やはり、余波ではその程度のダメージにしかならないようだな」

 

効いた。

のっけから一気に体力を持っていかれた、体に力を入れると鋭い痛みが走って動きたくない。

 

「負ける、わけには……!」

「やれ」

 

スーパードラグーンがネプギアの元へと向かっていく。

ネプギアは体に鞭打って両肩とブースターを唸らせ、ビームの集中砲火から逃れる。

 

「この機動力なら、簡単には……!」

「逃がさんぞ!」

 

マジックも飛翔してネプギアを追う。

ネプギアはM.P.S.C(L)から楔形のビームを何発も放つが、全て避けるか弾かれる。

確かにXラウンダーの先読み能力はマジックの動く方向へ曲がる。

だがマジックの反射神経の方が上だ。SEEDによる優れた空間認識能力にかかれば向かってくるビームなどフライをキャッチするようなもの。

次第にじわじわとネプギアとの距離を詰めるマジックだったが、後ろからビームが飛んでくる。

 

「チッ、追いつかれたか」

 

《ネプギアはやらせはしない……!》

 

Xアストレイがビームライフルでマジックに牽制の射撃を行う。

それに気付いたマジックはビームを避けながら、ドラグーンにネプギアを追わせたまま、Xアストレイに向き直った。

 

「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす……もう油断はしないッ!」

 

マジックのドラグーンを射出した後のプロセッサユニットが大きく開いた。

するとプロセッサユニットから虹色の光の粒子ーー光子ーーが吹き出て、まるで翼のように展開する。

 

(バカなっ!?光の翼!?)

「PS装甲……さすがの防御力だ。だが!」

 

マジックが肩に鎌を担ぎ、加速した。

ミラージュコロイドを散布しながら飛んでいるためにマジックが何体にも残像を残して飛んでいるかのように見える。

 

マジックを打ちのめしたデスティニーガンダムの武装の1つ、光の翼。

それすらもマジックは使いこなしてーーー!

 

「させないッ!」

「っ、ふんっ!」

 

横からネプテューヌが飛び出し、マジックに切りつけた。

マジックは加速を止めて鎌で受け止め、ネプテューヌと鍔迫り合う。

 

「私もその武装は見た……!真似事が通用すると思って!?」

「見ても見切れぬだろう!」

 

マジックが鍔迫り合ったまま光の翼の推力でネプテューヌを押し飛ばす。

そしてマジックの膝から爪先、脛に被るようにビームサーベルの刃が発振された。

 

「ぬんっ!」

「くっ」

 

ビームサーベルの蹴り。

ネプテューヌは縦に太刀を構えて受け止めるが、マジックの蹴りの連撃が続く。

 

「そらそらそらっ!」

「っ、く……!この!」

 

両足でステップでも踏むように連続で蹴りをネプテューヌの太刀に打ち込んでいく。

ネプテューヌは力で足を打ち落とし、自身も蹴りをマジックに食らわせようとする。

 

「ーーー!」

 

しかし、ネプテューヌの動きが急に鈍った。

まるで気圧されたかのようにネプテューヌは蹴りを減速させ、後ろに飛び跳ねて間合いをとる。

 

「………なに……?」

「怖気付いたか?」

「っ、なにを!」

《このっ!》

「ふん、当たらんよ」

 

Xアストレイのプリスティスとビームライフルがマジックに撃ち込まれる。

マジックは体を逸らしてそれを避け、Xアストレイに向かおうとする。

 

「させませんっ!」

「っ、チッ……!」

 

しかし後ろからネプギアのビームが迫る。

自分の動きを読んで撃たれる弾にはいくらマジックといえども闇雲に避けるわけにはいかない。

軌道を見切るのは容易、しかし軌道を読まなければビームが当たることになってしまう。注意せざるを得ない。

 

(時間さえ稼げれば……!)

 

時間を稼ぐことが出来れば、みんなが追い付く。

そうすればいくらマジックといえども勝つことは出来まい。

しかしマジックもそのことは痛いほどわかっていた。

 

(ならば!)

 

マジックが急旋回、光の翼の推進力をもってネプギアへと突進した。

 

「えっ、きゃあっ!」

 

ネプギアがマジックに蹴飛ばされる。

M.P.S.C(L)で受けたためにダメージはないが、意表を突かれたためか大きく後退してしまう。

 

《ネプギア、くっ!》

 

Xアストレイにはドラグーンが牽制をかけ、近寄ることを許さない。

 

「ネプギアはやらせないわ!」

 

ネプテューヌが果敢にマジックへと向かっていく。

しかしマジックは不敵に笑い、ネプテューヌに手のひらをかざす。

 

「それをこそ待っていた!」

 

マジックが火炎の球をネプテューヌに放つ。

ネプテューヌは防御魔法で受け止めようとする。

 

(っ、なに!?)

 

ネプテューヌに何故かはわからない危機感がアラームを鳴らす。

あの時、蹴りをマジックにカウンターしようと思った時も感じた悪寒。

あの時は蹴りを止めることが出来たが、しかし今は間に合わない。

 

防御魔法に火炎球が命中した。

 

ネプテューヌは一瞬だけ思う。勢いがない、威力が低い、軽すぎる。

そして次の瞬間、目の前が真っ白になった。

 

「うっ、きゃあっ!」

 

火炎球が防御魔法に当たった瞬間に破裂し、眩い閃光を放ったのだ。

一時的に目を潰されたネプテューヌへとマジックが向かい、ネプテューヌの頭にグレネードのような物体を押し付けた。

 

「うっ!」

《ネプテューヌ!》

「感謝しろ……私が貴様を強くしてやる」

 

マジックがグレネードの栓を抜く。

その瞬間、Xアストレイとネプギアは突然後ろに吹き飛ばされた。

 

《っ、わああああああっ!》

「なにこれっ、あああっ!」

 

常人が見ればXアストレイとネプギアが勝手に吹き飛んだように見えただろう。

しかしXアストレイとネプギアにとっては膨大なエネルギーをぶつけられたのに等しいことが起こったのだ。

 

マジックがネプテューヌに押し付けているのは対ニュータイプ用グレネード。

そのグレネードは爆発もしないし、常人に全く効き目はない。

そしてそのグレネードが撒き散らすものは破片でも爆発でもなく……強大な脳波。敵意。

 

一瞬とはいえニュータイプやXラウンダーの持つ特殊な脳波を撒き散らすそのグレネードは相手が強い能力持ちであればあるほど効果を発揮する。

もしゼロ距離で食らったのがミズキやネプギアだったら良くて気絶、悪くて廃人になるレベルの勢いなのだ。

 

もちろん、それは使用者であるマジックに効果はない。

そしてそれはネプテューヌにも同じはず。

……はず、だった。

 

「あ、あ、ああああっ………!?」

《ネプテューヌ!?》

「お姉ちゃん!?」

 

「獣を目覚めさせてやる……お前の内に眠る、野獣をな」

 

ネプテューヌの体がガクガクと痙攣し始めた。

なにかに怯えるような震えは止まらず、ネプテューヌの呼吸が乱れていく。

体が思い通りに動かないのか、ネプテューヌは目だけをXアストレイに向けて震える口を必死に制御する。

 

「あーーーー」

《ネプテューヌ!?》

「み、ミズキ……ね、ネプギ、ネプ、ネプギア……!」

 

Xアストレイとネプギアが急いでマジックを退けようと近付く。

しかし、それは既に手遅れだった。

 

「助けーーーーー!」

 

ビクン、とネプテューヌの体が反り返って硬直した。

2人に向けられた言葉は完結することなく、ネプテューヌは口をぼうっと開いている。

 

そして、ネプテューヌの体に紫のラインが入っていく。

体に流れる力を視覚化したような光るラインが全身に広がり、ネプテューヌの全身を覆う。

 

「始まるか……NT-D!」

 

マジックがグレネードを投げ捨てた。

ネプテューヌは脱力して虚ろな瞳でただ宙を眺めている。

 

「お姉ちゃんに、何をしたんですかっ!」

「クク、じきにわかーーー」

 

その瞬間にネプテューヌの目が光を取り戻す。

しかし、その瞳はいつものネプテューヌの瞳ではなかった。妖しく光る紫の瞳は、完全に正気を失っている目だった。

そしてネプテューヌは太刀を握る手に力を込め、目の前……1番近くにいる相手、マジックに向けて太刀を振るった。

 

「っ、ぐあっ!?」

 

不意を突かれたマジックが吹き飛ばされた。

宙返りして態勢を立て直したマジックが驚愕に目を見開いてネプテューヌを見る。

 

「バカな……!なぜ私をっ!?」

 

「お姉、ちゃん……」

 

ネプギアがゆっくりとネプテューヌに近付いていく。

ネプテューヌはそれに気付いたのか、ネプギアに振り返った。無表情にただ見つめるだけの瞳にネプギアが少したじろぐ。

 

その時、ネプテューヌのプロセッサユニットにブースターが増設され、ビームサーベルの柄が背中に装備される。

 

「っ」

「アアアッ!」

 

ネプギアが危機感を感じた瞬間、ネプテューヌが叫んでネプギアへと向かう。

 

「お姉ちゃんっ!?」

「ウ、オアアアッ!」

《ネプギアっ!》

 

反応が遅れたネプギアの前にXアストレイが立ちはだかり、ネプテューヌの太刀を盾から発振するビームサーベルで受け止めた。

 

「ミズキさんっ!?」

《ぐ、く……!》

 

ネプテューヌの細い腕から信じられないほどの剛力が出ている。

Xアストレイは自分の手をもう片方の手で抑えなければネプテューヌの太刀を受け止め続けることができない。

 

「無差別か……予想外だな。これではもはや暴走だ……」

「これは、これはどういうことなんですかっ!?」

「NT-D……予想通りに自動的に起動……望んだ形の発動ではないが……まあ問題はあるまい」

「何を言ってるんですか、アナタはっ!ちゃんと、ちゃんとわかるように説明してください!」

「話は後で聞いてやろう。その女神を抑えられたらの話だがな」

 

マジックがドラグーンを収納し、背中を向けて逃げていく。

 

「逃げるんですかっ!?待って、待ってくださいよ!」

《ネプギア、追って!》

「ミズキさん……っ!」

《ネプテューヌは僕が抑える!だから、逃がしちゃダメだ!今、この機会を逃したら次はない!》

「わかりました!お姉ちゃんをお願いします!」

 

ネプギアがオービタルの機動性をフルに生かしてマジックを追っていく。

 

「ハァァ………ッ!」

《君は行かせない……!何が起こったのかは、わからないけどっ!》

 

Xアストレイのプリスティスがネプテューヌの方を向いた。

 

《今度こそ!君を傷つけずに君を守る!守ってみせる!》

 

Xアストレイのプリスティスが射出されてネプテューヌの腕を掴もうとする。

しかし、ネプテューヌはそれがわかっていたかのように瞬時に後退してプリスティスを避けた。

 

(速い!)

 

「ウゥ、アァッ!」

 

そしてブースターの推力を乱暴に使ってXアストレイに向かっていく。

 

《プリスティス、行けっ!》

 

プリスティスがネプテューヌを捕まえようと飛んでいく。

しかし、ネプテューヌはバレルロールをしながらXアストレイに向かい、プリスティスはネプテューヌには当たらない。

しかもネプテューヌがプリスティスとすれ違った時に太刀を振り回し、プリスティスを、両断してしまった。

 

《ぐっ!》

「ア、ァッ!」

 

プリスティスが爆発するのと同時にネプテューヌが力任せに太刀をXアストレイに振り下ろす。

まるで野生の動物のように襲いかかってくるネプテューヌはいつもとパワーが違う。しかし、逆に技術が伴っていない。

 

《っ》

 

Xアストレイがネプテューヌの太刀をいなした。

ネプテューヌは勢い余って背中をXアストレイに晒す。そこをXアストレイは飛び蹴りを叩き込もうとした、が。

 

「ゥ!」

《なっ》

 

ネプテューヌはあろうことかさらに加速。

素早く離脱してXアストレイの飛び蹴りをかわしてしまう。

 

《なに、この速さはっ!》

「ゥ……ァッ………!」

 

そのまま紫の光の奇跡を残しながらネプテューヌが舞い上がり、Xアストレイと相対する。

その時、Xアストレイは初めて静かにネプテューヌの顔を見つめることができた。

 

まるで獣。

獲物を狩るような、そんなギラギラした目つきと食いしばった歯。息は荒くなっていて構えも何処か動物的だ。

けれど、そんな状態になったネプテューヌでも獣ではない部分もあった。

 

「ゥ、アアアアッ!!」

 

威嚇するように本能のままに叫ぶネプテューヌ。その両目からは涙が零れていた。

 

《ネプテューヌ……泣い、て》

「ウォォーーッ!」

 

涙を散らしながらネプテューヌが向かってくる。

凄まじい速度で向かってくるが、Xアストレイはキッとネプテューヌを見つめ返す。

 

《あの時、ネプテューヌは言いかけていた……!》

「ゥ、ォ……!」

《『助けて』って!ならッ!》

 

Xアストレイがビームライフルを投げ捨て、真正面からネプテューヌに立ち向かう。

 

「ウォァーーー!」

《っ、おおおっ!》

 

ネプテューヌにタックル、たじろいだネプテューヌの両手首を両手で握り締めた。

 

「ゥ、ァ!」

《離さないッ!泣いて、助けを求めているのならッ!》

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リベンジ

マジックの後ろをネプギアが追いかける。

マジックの機動性は確かに高いが、ネプギアが振り落とされるほどではない。

 

「逃がしませんっ!」

 

ネプギアが風で揺れる銃身を必死に抑えながらM.P.S.C(L)を発射する。

 

「鬱陶しい……!」

 

マジックはそれをかわしながらドラグーンを射出。

光の翼の加速でネプギアを引き離しながらドラグーンによる射撃を行う。

 

「っ、くっ、逃げ、ないで……っ!」

 

複雑にネプギアをからめとろうと乱射されるドラグーンを避けながらネプギアが僅かな隙を突いてM.P.S.C(L)を放っていく。

するとマジックがいきなり凄まじい速度で後退してきた。

 

「っ!?」

 

いや、マジックは加速をやめただけだった。

いつの間にかとんでもない速度にまで加速していたネプギアは突如加速をやめたマジックを追い越してしまう。

 

「そこだっ!」

「っ、くうぅっ!」

 

背中を見せたネプギアにマジックが切りかかる。

しかしネプギアも黙ってやられるわけもなく、反転して鎌を受け止めてみせた。

 

「ぅ……!」

「ふんっ!」

 

マジックの光の翼が展開し、凄まじい推進力でネプギアを押していく。

ネプギアもスラスターを全開にして押し返すが敵わない。オービタルの推力もマジックの光の翼の前では大した抵抗にはならない。

 

「う、う、あああっ………!」

 

必死に抵抗するネプギアだったが、マジックの動きを鈍らせることすらできない。

そのまま高空にまで連れていかれ、マジックの膝蹴りがネプギアの腹にめり込む。

 

「うっ……!」

「そらっ!」

「ああっ!」

 

怯んだ隙にマジックのビームサーベルを展開した回し蹴りがネプギアの脇腹に当たる。

ネプギアは吹き飛ばされた後に必死に体を立て直して追撃に備えたが、マジックは追撃をしない。

ズキズキと痛む脇腹を手で抑えるネプギアをマジックは高飛車に見ていた。

 

「っ………?」

「なに、お前が教えろ教えろとうるさいから教えてやろうというのだ。私が女神になにをしたかをな」

 

ドラグーンがマジックの翼に収納されていく。

何か怪しい動きをしようものならすぐにM.P.S.C(L)を撃ち込もうと身構えるネプギアだったが、マジックの構えには殺気がない。

 

「あの爆弾は強力な脳波を飛ばすものだ。ちょうどニュータイプが感じるような脳波をな」

「…………」

 

だから自分やXアストレイは吹き飛ばされたのか。

しかしネプテューヌはニュータイプではないはず。何故ネプテューヌにぶつけるような形であの爆弾を使ったのか……?

 

「それこそが本質だ。私は女神にダメージを与えるためにあの爆弾を使った訳では無い」

 

ネプギアの思考を読んだかのようにマジックが喋る。そしてマジックは妖艶に唇を舌で舐めた。

 

「NT-D……聞き覚えがあるだろう?」

「……ジャッジ、の……」

「そして貴様の姉のものでもあるな。お前達が記憶と共に失った力を使っているというのなら……あの女神の中にもNT-Dが眠っているはず」

 

確かにまだネプテューヌはNT-Dを使うことができない。だがそれがなんだというのか、真意を計りかねるネプギアにマジックが説明を続ける。

 

「そしてNT-Dの発動条件はニュータイプから発せられる敵意をぶつけること……ここまで言えばわかるだろう?強力な敵意は女神の奥底のNT-Dにまで届き、強制的にそれを発動させた……」

「でもっ、NT-Dは……!」

「だからこそ、未だにコントロールもできない女神を選んだ!予想通り、ヤツはNT-Dに飲まれて暴走を始めた……!ニュータイプではない私を襲ったのは予想外だったが、ここまで離れればもう追うこともできないだろう!」

「アナタは、私達に同士討ちをさせるつもりだって言うんですか!?」

「そうだ!アイツを止められるのは誰だ!?どんな傷を負っても立ち向かい続ける女神を止めるには……殺すしかないかもしれんなあ!」

「っ、アナタはッ!なんてことをッ!」

「作戦は成功した!未熟な女神のお陰で戦力差はいくらでも翻る!爆弾のように手当り次第にアイツは殺し続けるのだ……仲間を!自分の体で!誰かに操られてな……!」

 

マジックが鎌を振り回して体を慣らし、ネプギアにその先を向けた。

 

「そんなことは起こりませんっ!ミズキさんが、きっとミズキさんが止めてくれます!」

「クハハ、無駄無駄!あの男は守るべき女神に殺され、お前もここで私に殺される!」

「お姉ちゃんはミズキさんが絶対に止めてくれる……!だから、だから私は!」

 

ネプギアがマジックにM.P.S.C(L)を発射した。

マジックはそれを鎌で真っ二つに切り裂き、ネプギアに突進してくる。

 

「ハハハハッ!」

「アナタに勝つ!前みたいに負けはしませんっ!絶望に未来は渡せない、アナタに……アナタなんかにッ!大切な命を渡しませんっ!」

 

ネプギアのM.P.S.C(L)とマジックの鎌がぶつかり合う。

お互いに渾身の力を振り絞って叩きつけた。

そしてマジックの鎌がカン、と音を立てて弾かれた。

 

(っ!)

「やああーーっ!」

 

ネプギアの拳がマジックの顎を捉えた。

マジックは殴り飛ばされ、一瞬仰け反るがすぐにネプギアに向き直し、ネプギアの顔に向けて掌底を繰り出す。

 

「っ、く!」

 

ネプギアは上体を逸らしてそれをかわす。

ネプギアの視界でマジックの掌からビームが発射されるのが見えた。

 

(隠し武器!)

 

パルマフィオキーナをかわしながらネプギアがバク宙、足でマジックの顎を下から蹴ろうとするがマジックは一歩離れて避ける。

 

「っ!」

「ぬんっ!」

 

お互いに間合いをとった2人がまたぶつかり合う。

 

「っ、ぺっ」

「うっ!」

 

マジックが口の中の血反吐をネプギアの顔に吐きかけた。

ネプギアに殴られた時の跡、その傷から吸い出した血はネプギアの目にかかって一時的に視界を封じる。

 

「食らえ!」

 

マジックがネプギアとの間合いを取り、ネプギアの傷口……マジックがビームサーベルによる蹴りを食らわせた部分にまた蹴りを叩き込む。

 

「っ、ああああっ!」

 

痛みに悶絶しながら吹き飛ぶネプギアにマジックが溶岩弾をいくつも撃ち出す。

薄目の視界で防御魔法を展開して必死に防御するが、衝撃に体が軋む。

 

「ドラグーン!」

 

ネプギアが目の血を拭った時にはマジックのドラグーンが迫っているところだった。

ネプギアが脇腹を抑えながらビームをかわすが動きに冴えがない。

 

「は、やい………!ああっ!」

 

ネプギアの足をドラグーンのビームが掠めた。

それを皮切りにネプギアにドラグーンのビームが命中し始める。出来る限り防御魔法で弾くが、ついにネプギアの背中にビームが直撃する。

 

「うっ、くっ!」

「裂いてやる!絶望に挑むのは……私だッ!」

 

マジックが光の翼を展開しながら怯んだネプギアに突進する。

そのままネプギアは肩から真っ二つに裂かれてしまうように見えた、が。

 

(今……!)

「がっ!?」

 

マジックが後ろからぶつかってきた何かに体勢を崩された。

その瞬間にマジックに生まれた空白の思考の時間を逃さずにネプギアはM.P.S.C(L)でドラグーンを1基沈める。

 

「何が……っ!?」

 

マジックにぶつかりながらすれ違ったのは大きなコンテナ。

それは真っ直ぐに飛びながらネプギアの元へと向かっていく。

 

「行かせるか!」

「コレは渡しません……!」

 

マジックがドラグーンをコンテナに向かわせ、同時にネプギアもコンテナを迎えにいく。

ドラグーンのビームがコンテナ目掛けて発射されるが、コンテナはその外壁だけをパージしてビームを防いだ。

 

「そこっ!」

 

コンテナに気を取られていたドラグーンがネプギアと射撃で1基落とされ、さらにネプギアに切りつけられて1基落ちる。

そしてコンテナの中に入っていたものーーブラスティアキャノンの砲身ーーを掴んで即座にノーマルに換装。M.P.S.Lに接続してマジックに向けた。

 

「チッ!」

「充填完了……完成版ブラスティアキャノンの!」

 

マジックが上に跳ねる、それと同時にネプギアのブラスティアキャノンから純白のビームが放たれた!

 

「くっ、おおあああっ!」

 

マジックは避けきったもののその余波で吹き飛んでしまう。

姿勢を必死に直すマジックはネプギアが砲身を動かすのを見た。

 

「薙ぎ払い、ならアァーーーッ!」

 

ネプギアのブラスティアキャノンの薙ぎ払い。逃げ遅れたドラグーンは巻き添えになってビームの中に飲み込まれていき、3基が塵も残さず消える。残りのドラグーンは2基。

 

マジックは光の翼で逃げながらネプギアに溶岩弾を撃つ。

しかしそれすらもブラスティアキャノンの射線上に重なり、溶岩よりも遥かに温度の高いビームで消え去る。

 

「くおおおっ……!ドラ、グーン!」

 

残り2基のドラグーンを動かし、ネプギアに向かわせる。

 

「っ、限界……!」

 

ネプギアはブラスティアキャノンの照射をやめてドラグーンのビームを避けた。

僅か2基になってしまったドラグーンはさっきまでと比べて格段に避けるのが容易だ。

ネプギアはドラグーンの射程距離から離れてブラスティアキャノンの再チャージを開始する。

 

「2度と撃たせはせん……!」

 

しかし、ネプギアには引っかかることがあった。

 

「アナタ、今、さっき……!」

「ミラージュコロイド散布、光子散布……光の翼ッ!」

 

マジックが何人にも分身してネプギアに突撃する。

ブラスティアキャノンをチャージしているために牽制の射撃すら行えないネプギアに近接攻撃は脅威。

 

「っ、く!」

 

だからこそネプギアは距離をとって逃げようとする。

しかし光の翼の推進力は異常、オービタルに換装できないためにノーマル状態になっているネプギアの機動力ではそう長く逃げられはしない。

それでもネプギアはほんのわずかでも時間を稼いで問い質したいことがあった。

 

「アナタはっ!絶望に挑むって……!」

「………チッ」

「どういうことなんですかっ!?」

「今ここで死にゆく貴様に、話すなど無駄だ!」

「教えてくださいっ!もしかしたら、一緒に戦えるかも……!協力できるかもしれませんっ!」

「甘いことを……ッ!」

 

ドラグーンがネプギアの背後から射撃する。

ネプギアは反射的にそれを横に動いて避けるが、その僅かな時間だけでマジックはネプギアに迫った。

 

(間合いに!?)

「言うなァァーーーーッ!」

 

マジックが目にも留まらぬスピードで鎌を振る。

次の瞬間、ネプギアのブラスティアキャノンは真っ二つに切り裂かれた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Xアストレイ

ネプテューヌの両腕を掴んだXアストレイがネプテューヌをそのまま抑える。

 

「ゥ、ァ……!」

《ネプテューヌ……!》

 

しかしネプテューヌの推進力はXアストレイを徐々に後退させていた。

 

「ワアアアアッ!!」

 

ネプテューヌが威嚇するようにXアストレイに叫ぶ。

ネプテューヌの腕に信じられない力が宿り、Xアストレイの腕も震えながら曲がっていく。

しかし、ネプテューヌの瞳から流れる涙は止まらない。それはXアストレイの胸や顔にポタポタと落ちて弾ける。

焦点が定まらずに揺れる瞳は目の前のものを捉えているのかすらわからない。

 

《ん、く、ぐうぅっ……!》

 

ネプテューヌの太刀がXアストレイの肩装甲に刺さり始めた。

PS装甲は太刀の刃など通さないが、ギャリギャリと火花が上がる。

このままでは切られるのも時間の問題だ。

 

(でも……っ!)

 

ネプテューヌは傷つけてはいけない。

けれど、自分だって傷ついてはいけない。自分が傷つけばそれはきっとネプテューヌの傷になる。またネプテューヌが悔やむことになる。

 

それだけは……許せない!

 

《ごめん……約束を、破るよ……っ!でも、それは、約束よりも大切なものを……!》

 

ミズキの中で何かが弾けた。

 

《守る、ためにっ……!》

 

 

パリィ……ィ………ィィィ……ン……ッ…!

 

 

《ネプテューヌ……!》

 

SEED発動。

ついにミズキがSEEDを発動してしまった。ジャック曰く、限界を超えるような能力を発動すればミズキの体に大きな負荷がかかる。

けれど後悔はない。全く。

 

《っ!》

「ァッ……」

 

Xアストレイは渾身の力を込め、ネプテューヌの太刀を押し返す。

グググとゆっくりと持ち上がっていくネプテューヌの太刀がついに装甲から離れた。

 

そしてXアストレイの背中からドラグーンが4基分離した。

 

《誰彼構わず襲いかかる獣は……!》

 

Xアストレイがネプテューヌの手を掴んだまま回転し始める。

段々と回転のスピードを上げていくとネプテューヌの足は遠心力で浮き上がっていき、ミスミスと空気を切る音が聞こえ始める。

 

《たああああっ!》

 

ネプテューヌの手をパッと離した。

ジャイアントスイングの要領で吹っ飛んでいくネプテューヌだったが、そこはさすがNT-Dの機動力と言うべきか、さして距離も離されずに急ブレーキがかかる。

 

「アッ………!」

 

強烈な反動に体と顔を歪ませながらネプテューヌは爆発的な加速でXアストレイに再突撃をかける。

 

しかし、そのネプテューヌをドラグーンが囲んでいた。

 

……ネプテューヌは傷つけられない。だからビームは撃てない。本当は突きとか蹴りとかの打撃攻撃だってやりたくないのだ。

さて、マジックが使うドラグーン。アレはビームを撃つことしかできない。

では、Xアストレイのドラグーンは?

マジックの物とは違って砲門はたくさん付いているものの……それは対ネプテューヌに限っては死に武装でしかない。ビームを撃てないのだから。

 

(……僕とビフロンスは違う)

 

戦うための力をビフロンスはマジックに与えた。

僕は違う。

戦うための、打ち倒すための(ドラグーン)じゃない、戦うために、誰かを何かを守るための(ドラグーン)だ。

ビフロンスの考えが正しいのかもしれない、もしかしたら違う形の平和があるのかもしれない、けれど、絶対に、僕とビフロンスは違う。

だから歩む道が違うのはきっと……必然なんだ。

 

《檻に閉じ込めるッ!》

 

ドラグーンが緑の膜を張った。

正三角錐の頂点をそれぞれのドラグーンが担当し、面を緑の膜が担当してネプテューヌを閉じ込める。

緑の膜はビームバリア。

それは暴れ狂う獣を外に逃がさぬための強固な檻になり得る!

 

「ウッ!?」

 

ネプテューヌが勢い余ったビームバリアにぶつかって弾かれる。

目の前に突如現れた緑の膜にネプテューヌが触れるが、その熱にネプテューヌは反射的に手を離した。

 

「ウッ、ワアアアアッ!」

《……しばらく、そうしてて。治す方法は見つけるから……》

 

ネプテューヌは檻の中から叫ぶが、声でビームバリアが割れるわけもない。

ミズキは早々にSEEDを解除して負担を最小限に抑えた。

 

《ンッ!……頭痛、かな。頭が重い……》

 

ズキリと一瞬だけ頭に痛みが走った。その後も頭が深い倦怠感に包まれているような感じがする。

ほんの数秒だけの使用だったが、体への負担はやはり大きいらしい。今は大したことはなさそうだが、無理はしないに限る。

 

《……満足に戦えない。それでビフロンスに勝てるのかはわからないけど……》

 

みんながいる。みんなを信じるしかない。

 

一息ついてXアストレイは後ろを振り向いた。

そこではまだ戦火が広がっているが、それはだいぶ近いように思える。みんなが来ればネプテューヌを押さえつけることだってできる、それまで待てばいい。

 

そしてまた振り返るとその視線の先にはギョウカイ墓場があった。

僕とビフロンスの歩く道は違う。全ての人の道を断とうとするビフロンスを放ってはおけない。

1つだけ再確認できた。

僕とビフロンスに共存は有り得ない。

当然のことながら、今初めて冷静にそれがわかった気がした。

 

《………っ?》

 

深く考え込んでいたXアストレイがハッと我に返る。

そのきっかけとなったのは何かバチバチと火花を散らす音。

 

(まさかっ!?)

 

Xアストレイがネプテューヌの方を振り返る。そこには自分の体が焼け付くのも厭わずにビームバリアに張り付くネプテューヌがいた。

 

「ァァァァッ!」

《うわあああっ、ネプテューヌぅぅっ!》

 

ネプテューヌの肌が焼け、火傷が広がって黒焦げていく。

 

《ば、バリア解除ッ!》

 

咄嗟にXアストレイはバリアを解除してしまう。

その瞬間に檻から解き放たれた獣は貪欲に獲物へと襲い掛かる。

 

《っ、くううあっ!》

 

太刀で突きを繰り出すネプテューヌを紙一重で避け、ネプテューヌに抱きついた。

腕を抑え、体の動きを封じるように動くXアストレイだが、ネプテューヌの推力に振り回されるばかりだ。

 

《ネプテューヌ、止まって……!》

「ァ、ウウウッ!」

《ダメ、なのかっ……!?》

 

ネプテューヌに振り回されながら宙を舞うXアストレイ。馬が背中に乗った人を振り落とすように暴れるネプテューヌにそう長くはしがみついていられなかった。

 

《っ、わあっ!》

 

ついにXアストレイが手を離してしまう。

振り落とされたXアストレイにネプテューヌは容赦ない追撃をかける。

 

「ワアアアッ!」

《うぐあっ!》

 

ネプテューヌの太刀が振り下ろされ、もろにXアストレイの腹を袈裟斬りにする。

PS装甲には傷はつかないが、衝撃は抑えられない。

斜め下に叩き落とされたXアストレイが墜落した。

 

《うぐっ、かは……!》

 

墜落した先はプラネテューヌ教会の屋上。

背中を強打したXアストレイに休みなく襲いかかり、ネプテューヌが馬乗りになった。

 

「ウッ!」

《っ!》

 

首元に突き刺してくる太刀を腕で払い除ける。

耳のすぐ横に太刀が突き刺さり、それを再び引き抜かせはしないようにXアストレイが両手で太刀を持った手を抑える。

 

「ゥ、ヴ……!」

《く、ぐ……!》

 

膠着状態。

けれどもう1度太刀を引き抜かれたら終わりだ。いくらPS装甲でも関節部は守れない、首に刺されたら問答無用で死んでしまう。

 

《ネプテューヌ、ネプテューヌ……!》

 

涙はXアストレイの顔にポタポタと降りかかる。

 

わかる、わかるんだ。ネプテューヌが苦しんでいることが。

だから助けてあげたい、救ってあげたいのに……!

 

「ハアッハアッハアッハアッ……!」

 

(ここで助けられなかったら……また、同じなんだ……っ!)

 

カレンが、ジョーが、シルヴィアが……!

守りたかったみんなが死んだ時と、消えた時と同じなんだ……!

何ひとつ守れなかったじゃないか……!でもここで色んなことを得られたんじゃないか……!

変わったんじゃないのか!?結局同じなのか!?ここにきてまた、何かを失うのか!?

 

《大切な、人……ッ!》

「ハァッ、ウッ……!」

《僕の……っ!》

 

そんなことは、させない……!

邪魔をしないで、NT-D……!

 

《ネプテューヌは渡さない……っ!》

 

ネプテューヌの太刀が深く地面に突き刺さり始めた。

しかし、Xアストレイの体は光に包まれていき、変身が解けてしまう。

 

「ネプテューヌを返して……!」

 

生身となったミズキがその頬でネプテューヌの涙を受け止める。

 

「ネプテューヌを返せ……っ!」

 

温かなその涙がミズキの頬をつたっていく。

 

「そのための力を……!」

 

涙はミズキの頬を伝い、地面へと落ちる。

その時、ミズキは新たな変身を遂げた。

 

「ガンダムッ!僕の、僕だけの……みんなのための、大事な人のためのッ!」

 

ミズキが変身を始める。

だがその変身は今までの変身とは違う。

今までは光に包まれ一瞬で変身を遂げていた。しかし、今回はミズキの体が上書きされるように体が徐々に新たな装甲に覆われていく。

フレームが剥き出し、バックパックも皆無で武器も持っていない。

そんな未完成の姿が徐々に明らかになっていく。

それでもそのガンダムは、誰かを助け得るだけの力を……!

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「うっ、ううっ、ひっく……!」

「……良かった、良かった……」

「良く、ない……!私、また、ミズキに剣を……!」

「……大丈夫、大丈夫だから。必死に抗ってたの、わかってるから」

 

ネプテューヌがミズキの胸に顔を埋めて泣いている。

それをミズキは優しく抱きしめ、幼子をあやすように優しく頭を撫でる。

 

「ごめん、ごめん、ごめん……!2度とこんなこと、したくなかったのに……っ!」

「ネプテューヌ、いいんだって」

「でもっ!」

 

顔をあげたネプテューヌの頬をミズキがさすった。

ぐしゃぐしゃになったネプテューヌの顔の涙を拭い、目と目を合わせる。

 

「僕は許してるよ」

「ミズキ……!」

「それより、僕より、ネプギアを」

 

ミズキの手がネプテューヌの頬から離れた。

するとミズキの手は力なく落ちて大の字になる。

 

「僕は力入んないや……シェアを使うと、こうなるんだね」

 

ミズキは冗談めかして笑ってみせる。

するとネプテューヌはゴシゴシと自分の目を擦って涙を拭って見せた。

 

「ネプテューヌ、目、赤いよ?」

「……行くわ、私。アナタの分まで、ネプギアを助けてみせるわ」

「ネプテューヌに任せるなら、安心だ」

「……ここに居てよ。帰ってくるから。ネプギアと一緒に」

 

ミズキは少し微笑んで返事とする。

ネプテューヌはそれを見てから立ち上がって飛び上がる。

 

「どんなに私が罪を犯しても……」

 

ネプテューヌの瞳からもう涙は流れない。

 

「私は潰されない。……許してくれるから」

 

ネプテューヌの体には今までにない力が溢れていた。

 

「許し合って許し合うほど……私は強くなる」

 

人と人の繋がりを妨げる罪の存在。

それすら、消し去れるのなら、きっと……!

 

「NT-D……もう私は罪には囚われないから……」

 

ネプテューヌの体が一瞬だけ赤く輝いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

参戦、第2R

ブラスティアキャノンが切り裂かれた。

反射的にブラスティアキャノンをパージしたネプギアだったが、間髪入れずにブラスティアキャノンは爆発し、ネプギアの体を衝撃が打ち付ける。

 

「あああっ!」

「これは戦いだ……!貴様達と、私!どちらかが生き残る!分かり合うなど……」

 

爆炎を突き抜けてマジックがネプギアの鼻先に迫る。

 

「有り得んのだァァッ!」

 

M.P.S.Lで振り下ろされた鎌を受け止めた。

しかし、ネプギアはその威力を抑えきれずに真下へ叩き落とされる。

 

「ああっ!くっ……!」

 

必死に逆制動をかけるネプギアの真上からなおもマジックが襲いかかる。

咄嗟にM.P.S.Lを構えるが、再び叩き落とされてしまう。

 

「地に落ちろ、女神!」

「うううっ……!フォートレス……っ!」

 

フォートレスに換装、地面に落ちる寸前にホバーを全力でふかして滑るように逃げる。

両手と両肩のM.P.S.Cをマジックに撃つが、その全てがマジックには当たらない。

1発1発が十分にダメージを与え得る弾丸ではあるものの、目標には掠りもせずに地面や壁を砕くだけ。

そのビームの雨を掻い潜ってマジックの溶岩弾が向かってくる。

 

「上……!オービタルっ!」

 

瞬時にオービタルに換装、真上に飛んで溶岩弾を避けきった。

 

「耐えきらなきゃ……!」

 

M.P.S.C(L)を撃ってマジックの動きを鈍らせようとするが、マジックは光の翼を展開。

楔形のビームがマジックを追尾するよりも大きくマジックは動き、ネプギアとの距離を徐々に詰めていく。

 

「ううっ、くっ……!」

 

ネプギアも不規則に軌道を変えてマジックを振り落とそうとするが、マジックはネプギアと同じ軌道をなぞるようについてくる。

 

(離れてくれない……!また切られる……っ!?)

 

「女神も大したことは無いな!これでハッキリした!絶望に挑むのは……っ!」

 

ネプギアのM.P.S.C(L)の銃口、その下にマジックがスルリと滑り込む。

 

「っ」

「私だァッ!」

 

マジックの鎌がネプギアを切り上げてくるのを何とか阻止する。

そのまま鍔迫り合い、お互いの武器で火花を散らす。

 

「なんで、なんでなんですかっ!?ビフロンスと戦うというのなら、協力を!」

「貴様の頭はどこまでお花畑だっ!」

「アナタ1人で勝てる相手じゃないんですよ!?」

「部下はいくらでもいる……!」

「頭を冷やしてっ!」

 

互いに離れてビームと溶岩弾を同時に放つ。

ぶつかり合い相殺されると爆発して弾ける。

 

「知ってるんですよね!?ビフロンスは、犯罪神じゃないって!」

「無論!私が忠誠を尽くすのは犯罪神様のみ!」

「だからビフロンスを……っ!?」

「そうだ!犯罪神様の魂を汚したヤツを許しはしない……!だから機を待った!」

「機会……!?」

「貴様を含む全女神を再び捕らえ、魔剣を振るうのさ!」

「魔剣……ゲハバーン!?」

「僅か3人の犠牲で犯罪神様を封じ込めた剣だ……9人もの犠牲があれば、あの女さえも殺してやれるだろう!」

「そんなことしなくても!きっと、力を合わせることが出来れば!」

「だから甘いと言っているのだァァァッ!」

 

再びネプギアに接近し、鎌を振るマジック。

ネプギアはそれを受け止めて間合いを離すが、直後にマジックが鎌を投げつけてきた。

 

「なっ、ああっ!」

 

まるでブーメランのように高速で回転して鎌が飛んでいく。M.P.S.C(L)で受け止めたが、あまりの勢いに弾け飛んでしまった。

戻ってきた鎌を掴み、マジックがネプギアとの間合いを詰める。

 

「魔剣の糧となれ、女神ィィッ!」

「っ!」

 

再びマジックが鎌をぶつけてくるのかと思い、M.P.S.C(L)を防御に使うネプギア。

そのM.P.S.C(L)がなんとマジックの手に握られた。

 

(素手でっ!?)

 

正気の沙汰ではない。

剣の刃の部分を素手で掴むのだ、容易に手が切れるのは赤子にでも想像できる。

現にマジックの手からは血が吹き出し、手のひらに大きな裂け目ができていた。

 

その時、ネプギアの脳裏に浮かんだ一瞬の景色があった。

 

(しまっ、マジックの手は!)

 

隠し武器。

 

パルマフィオキーナの存在がーーーー!

 

「あああああっ!?」

 

キンッ、と一瞬の閃光が瞬いて次の瞬間にネプギアのM.P.S.C(L)が爆発した。

衝撃で吹き飛ばされるネプギア。ネプギアがその手に握ったM.P.S.C(L)を見ると、

 

(私の武器が!)

 

砕けていた。

 

刃と銃身の部分がまるまる砕けていて、手元には柄と僅かな刀身が残るのみ。それさえヒビが入っていつ砕けるかわかったものではない。

しかしネプギアは思考をすぐに切り替える。

パルマフィオキーナの威力とか剣がどれだけもつか……そんなことよりも急務がある。

耐え凌ぐこと。このマジックの猛攻を!

 

(今はっ!)

 

爆炎を突っ切って何かが飛んでくる。

ネプギアは一か八か、それに拳を向けて殴ろうとする。

しかし、拳にぶつかったのは生身の感覚とは違う非常に強固な装甲。

 

(ドラグーンっ!?)

 

ネプギアの拳が痛みを伝えた瞬間にネプギアはその正体を把握した。

しまったと思う間もなくフェイントをかけたマジックが飛び出し、宙に浮いたネプギアの腕を握り締める。

 

「っ」

「とったぁっ!」

 

振り払う時間などない。

ネプギアの腕にパルマフィオキーナが撃ち込まれ、ネプギアは腕に走る激痛に顔を歪ませた。

 

「あっ……あああああっ!」

「そこも……もらったっ!」

 

そのままマジックがビームサーベルをまとった足でオーバーヘッドキック。

残った手で受け止めようとしたが耐えられるはずもなく、ネプギアは真下へ落下していく。

 

「あっ、うっ!」

「落ちろっ!」

 

さらにマジックが鎌の柄でネプギアを地面に叩きつける。

 

「はっ……」

「ククク……」

 

呻くネプギアの腹を足で踏みつけ、首元に鎌の刃を添えた。

腕を動かそうとするとマジックはネプギアの鳩尾を強く踏みつけて中断させる。

 

「ううっ……!」

「さあ質問だ。3秒待ってやるから答えろ」

「ぅ……!」

「お前が答えなければ国民1人1人を殺していく。いいか、3秒だ。それ以上は待たん」

 

ネプギアの左腕の前腕は真っ赤に腫れ上がってしまっていた。怪我の症状は詳しくわからないが、今はもう動かそうとすると激痛が走るので動かせない。

そうでなくても身じろぎ一つすれば肌を切り裂くほど密着した鎌のせいで迂闊な動きができない。

しかもM.P.S.C(L)は手の届かない場所に落ちてしまっていた。

 

「ゲハバーンはどこにある?教会跡地にはなかった、お前は知っているのだろう?」

「わ、私は……!」

「1……」

「……!」

「2……」

「げ、ゲハバーンは……!ゲハバーンはもう、ありません……っ!」

「……なに……?」

 

今はこれしか方法が……!

 

「私達が壊しました!あんなもの……私達には必要ないんです!」

 

大嘘だ、ハッタリだ。

だがこの嘘を貫くことが出来ればマジックは引き下がってくれるはずだ。

 

「……フ、フフ………ククク、ハハハハッ!」

「……っ!?」

「そうかそうか、貴様の姉か……もしくはミズキとかいう男か?隠し通すならばあの男の力が役に立つかもなぁ……」

「違っ、本当にゲハバーンは!」

「見苦しいぞ。お前の口は嘘を吐こうとも、体はその嘘を隠しきれない」

 

僅かな筋肉の動き。呼吸の乱れ。心拍の揺らぎ。所作、仕草。

SEEDによる観察はその全てを鮮明に捉えてしまう。

 

「お前はここでしばらく眠っていろ。起きた頃には全部終わっているはずだ」

 

ネプギアの目に涙が滲んだ。

任せたのに、勝つことも出来ず。あまつさえネプテューヌで手一杯のミズキのところへ敵を行かせてしまう。

 

「どうして……っ!」

「………」

「戦いなんて手段、なんで選んだんです⁉︎争わなくても世界は変わる、変えられるのに!」

「そんな悠長なことは言っていられない。それに我らが目指す世界はお前達とは相容れないものだろう?」

「どうして、目指す目標は同じのはずなのに、なんですれ違っちゃうんですかぁっ!」

「目標は違えど、道が違えば敵同士だ。だからこの世から戦乱は消えんのだ」

 

マジックが鎌を持ち上げ、柄の部分を鳩尾に向けた。

マジックが鎌の柄をネプギアに振り下ろして気絶させようと腕を上げた瞬間だった。

ネプギアはXラウンダー能力で、マジックはざわめいた空気の揺れで。

接近する何かを知覚した。

 

「ーーーッ!?」

 

マジックが振り返ると遥か遠くに紫の光が瞬いている。

空が鳴くように、空気が怯えるように震えている。それを敏感に肌で感じとってマジックは一瞬戦慄した。

 

(今だっ!)

 

ネプギアも何か来るという予兆を感じた。

しかし、ネプギアは予兆を感じながらも振り返ったマジックの一瞬の隙を見逃さなかった。

 

「ぬっ!?」

「っ……!」

 

ネプギアが自分の腹に乗ったマジックの足を払い除けた。

バランスを崩したマジックがふらつく足を着地させる前にネプギアが回転してマジックの足元から離れる。

 

「貴様ッ……!」

 

足を着地させてネプギアを睨むマジックだったが、空気のざわめきがネプギアに注目することを許してくれない。

いよいよ空気の揺れは地震でも起きたかのように大きくなり、ゴォという音を立ててマジックの鼓膜を震わす。

 

そして空気の音が一瞬だけ止む。

それと同時にマジックは再び振り返った。

目の前にいたのは見覚えのある顔。

 

(バカなっ!?)

 

こんなに近かったか?

さっきは点のように見えた光だったのに。

もうその光は人の形を取って自分の目の前にーーーー

 

「うぐあっ!?」

 

マジックが吹き飛ばされた。

宙返りして両足と片手を地面に擦り付けて必死にブレーキをかけるマジックの目の前で太刀を構えていたのは女神。

暴走させたはずの女神。

ネプテューヌはそのままマジックに反撃の時間を与えずーーーー!

 

「はっ!ふっ、たああっ!」

「がっ、ぐっ、っ!」

 

鎌で辛うじて攻撃を防ぐマジックが凄まじい勢いで後退していく。

攻撃を受け止めてはいてもその衝撃は蓄積して後退は加速していく。

そしてその連撃は加速していき、ネプテューヌの必殺剣がマジックを襲う!

 

「ビクトリィー・スラッシュ!」

 

ネプテューヌがマジックにV字の斬撃を叩き込む!

 

「があっ、ぐあっ!」

 

鎌で受けたマジックはあまりの威力に壁に吹き飛ばされ、その体を埋めた。

その直後、まるで斬撃は受け止めても衝撃は受け止められなかったかのように壁にV字の亀裂が走る。

 

「が、ぐ……っ!」

 

マジックが壁から離れ、膝をつく。

ネプテューヌは体の緊張を解き、太刀を構え直す。

 

「貴様……!」

「来なさい、マジック!アナタは私が倒す!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破滅への罠

「お姉ちゃん……!」

「ありがとう、ネプギア。1人で良く耐えきってくれたわ」

 

ネプテューヌがマジックから目を離さないまま言った。

そして背中のビームサーベルの柄をネプギアに向かって放り投げる。

ネプギアがそれを掴むとビームサーベルからビームの刃が発振した。

 

「ミズキさんは……?」

「大丈夫、無事よ。ここには来れないけど……怪我はしてない」

 

ネプギアもゆっくりと立ち上がってマジックを見る。

マジックは歯を食いしばりながらネプテューヌを見上げ、ネプテューヌはマジックを厳しく睨みつけている。

 

「何故……!?貴様は飲まれたはずだ!」

「救い出してくれたのよ」

「この……!」

 

マジックが内心で舌打ちする。

 

(裏目に出たか……!)

 

結果的にマジックはネプテューヌのNT-Dを目覚めさせることになってしまった上に、ミズキもネプテューヌも怪我をしていない。さらにネプギアを始末することすらも出来なかった。

 

(どうしたというのだ、私は……!)

 

こんなミス。普段ならありえないミスだ、作戦が予想通りに行かなくともこんな、無様な……!

 

「ネプギアは下がって。ここからは私だけで大丈夫!」

「……る…よ……」

「っ」

「舐めるなよォッ!」

 

マジックが地面を蹴ってネプテューヌに飛び込んでいく。

鎌と太刀がぶつかり合い、ネプテューヌが勢いに押され後退していく。

 

「このまま、叩き潰してやろう!」

 

マジックの光の翼が展開、さらに加速してネプテューヌを押し込んでいく。マジックの視線の先には壁。

しかし、ネプテューヌはフッと一瞬微笑んだ。

 

「今の私の加速なら……!」

 

ネプテューヌのプロセッサユニットが唸りをあげる。

ネプテューヌの背中を押すブースターがマジックの加速を緩やかにしていき、壁への接近が止まっていく。

 

「バカ、な……!」

「っ、く……!」

 

互角。

マジックの光の翼による加速とネプテューヌのNT-Dによる加速。それは全く互角で2人はお互いの加速をお互いに止め合ってしまう。

 

「マジック、アナタには……!」

「私は、私は……っ!この手で!ヤツを!」

「もう負けない!やってみせるっ!」

「殺す!殺すために!私は殺すために戦っているのだぁっ!」

 

マジックの残った2基のドラグーンがネプテューヌの背後に回る。

しかしネプテューヌは上に飛び、マジックとの鍔迫り合いから逃れながらドラグーンの射撃からも逃れる。

 

「貴様も……!剣の力となれぇぇっ!」

「剣……!?」

「魔剣は貴様か!?貴様が持っているのかっ!?」

「アナタの狙いは魔剣だって言うの!?」

「ゲハバーンはお前が持っているのかと聞いている!」

 

ドラグーンの射撃がネプテューヌを襲うが、ネプテューヌのスピードにはドラグーンは追いつけない。不規則に揺れるように動くネプテューヌにドラグーンはただ狼狽えるだけだ。

 

「アナタは女神を全員殺す気なのね……!」

「そうだ!そしてその力、犯罪神様のために使う!」

「ビフロンスのために戦うアナタには……!」

「あの悪鬼のためではない!我が主のために……!」

 

マジックが残像を残しながらネプテューヌに接近。

 

(どれが実体なの……!?)

 

「くらえよっ!」

「っ!」

 

ネプテューヌが1歩後ろに退くとそこをマジックの鎌が掠める。

ネプテューヌは背中を向けてマジックの光の翼から逃れる。

 

「貴様にも死んでもらう!貴様の次はあの女神候補生!その次は動けないミズキとやらだ!」

「アナタは……っ!」

「全ては犯罪神様のために!」

「アナタも……!ビフロンスも……!」

 

ネプテューヌが振り返ってマジックに相対する。

そしてネプテューヌの太刀とマジックの鎌がぶつかる。お互いの武器が弾かれ、またぶつかり合う。

 

「平和のためとか!信仰のためとか……!聞こえのいい言葉を隠れ蓑にして!」

「だが正しい!信じることが悪いことか!?それは貴様の力だと言うのに、それを否定できはしまい!」

「アナタのそれは確かに信仰かもしれない!でも、他人を傷つけて……!苦しめて、泣かせて、最後には叫びすら奪う!そんなものが正しくあるわけがないっ!」

「お前だって、他人を傷つけるくせして!」

「だから、私は優しくありたい!」

「そんな偽善で!」

「人は人を傷つける!だから私はそれ以上に人に優しくありたい、傷つける以上に癒し続ける存在でいたい!」

「女神が傷を容認するかぁぁぁっ!」

 

互いの武器がぶつかり合い、弾け合い、それは加速していく。決め手のないままにぶつかり続ける2人は武器と一緒に言葉もぶつけ合っていた。

 

「私は傷つけるのが許せないんじゃない!傷つけたくないと、そう思わない人が許せない!だから、だから私は!」

「傷つける自分を許したいだけの言葉だ!傷つけたくないと思っているのに傷つけてしまう、その矛盾から目を逸らすための言葉!結局貴様もあの悪鬼や私と何も変わらない!」

「だから、私は!苦しみや泣き声、悲痛な叫びを見つめ続ける!それが自分のものであっても!他人の苦しみから目を逸らしているのは、アナタの方よ!」

 

ネプテューヌが太刀で斬りかかり、マジックはそれを手のひらで迎え撃つ。

それがぶつかる瞬間、ネプテューヌの頭に再び悪寒が走る。

 

「ーーーー!」

 

この悪寒は少し前も感じていた。

この悪寒は従うべき悪寒。悪寒そのものに寒気を感じながらもネプテューヌは再び寸前でその太刀を止めた。

 

「……臆したか?」

「っ、アナタが、喋ったの……?」

「世迷言を!」

 

ネプテューヌの脇腹めがけたマジックの回し蹴りが防御した太刀とぶつかる。

ネプテューヌはその勢いを生かしながら後退して再びマジックに向かっていく。

 

「アナタを、倒す!」

「それでいい!私も貴様を殺す気だ!」

「でも、できればそんなことしたくない!」

「姉妹揃って甘いな、そんなことで戦えるのか!女神ィッ!」

 

ネプテューヌの太刀とマジックの回し蹴りがぶつかり合う。

 

「ッ」

「……!」

 

続けてマジックが鎌を振り、ネプテューヌはそれを体を沈めて避ける。

しかしその瞬間にネプテューヌの頭に再び悪寒が走る。

 

「っ、また……!」

「っああああ!」

「くっ!」

 

縦に振り下ろされる鎌を受け止めた。

そしてそのまま密着し、マジックの動きを封じる。

 

「貴様……!」

「これ、は……声っ!?」

「私は喋ってなどいないっ!」

 

むりやり押し離し、鎌と太刀をぶつける。

互角。さっきからネプテューヌとマジックの力は拮抗していて、互いにダメージを与えられない。

ならば、勝負を決めるのは……!

 

「ドラグーン!」

「っ」

 

ネプテューヌの背後に再びドラグーンが回り込む。

しかし、ネプテューヌはそれを避けることはせずに自分の背後に魔法陣を2つ光らせる。

 

「32式、エクスブレイド!」

 

シェアで作られた刃が魔法陣から飛び出し、ドラグーンに突き刺さる。

ドラグーンは爆散してしまい、それと同時にネプテューヌはマジックを蹴飛ばした。

 

(ミスを逃さぬ……!ほんの僅かな気の緩みでさえも、狙い撃つ……!)

「はっ、はっ……集中しなきゃ……!」

 

ネプテューヌがマジックから逃げるように間合いを離す。

マジックは溶岩弾でネプテューヌを狙い撃つが、ネプテューヌは軽々とそれを避ける。

 

「はあっ、はあっ……!」

「チッ、当たりはしないか……なら……!」

 

マジックが光の翼を展開した。

加速しようと構えをとった瞬間、マジックは後ろから聞こえる加速音に気付いた。

 

「たあああっ!」

「女神候補生かっ!」

 

ネプギアのビームサーベルと咄嗟にマジックがあげた足がぶつかる。

 

「片腕が使えぬ貴様などに!」

「今だって、気を引くくらいはできる!」

 

数度足とビームサーベルが火花を散らし、マジックが光の翼で素早く後退する。

その隙にネプギアはネプテューヌと合流した。

 

「お姉ちゃん、私も……!」

「ええ、ネプギア、ありがとう。……ねえ」

「どうかしたの、お姉ちゃん?」

「……いえ、なんでもないわ。行くわよ、ネプギア!」

 

突撃するネプテューヌの後ろからネプギアがついていく。

紫の軌跡を残して駆けるネプテューヌをマジックは正面から迎え撃つことはしない。そんなことをすれば後ろからすかさずネプギアが追い打ちをかけるからだ。

マジックは後退しながら溶岩弾で牽制をかける。

しかしネプテューヌはそれを切り裂いて一直線にマジックに近寄る。

 

「そこっ!」

 

ネプテューヌが太刀を振ってマジックに切りつける。しかし、マジックの姿は切り裂いた場所から霧になって消えていく。

 

(残像!)

 

「攻めに転じる!」

 

ネプテューヌが後ろを振り向くとそこにはネプギアへ向かうマジック。

 

「ネプギアが狙い!?」

「手負いの足でまといから!」

「私は、足でまといなんかじゃ!」

 

ネプギアとマジックが鍔迫り合う。

そしてマジックは間髪入れずに鎌でビームサーベルを引っ掛けた。

 

「えっ、きゃああっ!」

 

そしてネプギアを放り投げる。

 

「っ、こんな罠なんかに……!ネプギア、今行くわ!」

「お前は後で相手してやる!」

 

マジックはネプギアに向かいながらネプテューヌへ鎌を投げた。

目にも留まらぬ速度で回転する鎌がネプテューヌを質量で吹き飛ばした。

 

「うっ!」

「逃がすものかあああっ!」

「当たれない……!」

 

マジックのパルマフィオキーナがネプギアを襲う。

ネプギアはビームサーベルを上へ放り投げ、残った片手でマジックの右手首を掴んだ。

 

「っ……!」

「まだ、もう片手でっ!」

「っ、ネプギアっ!」

「ーーー!」

「ネプギア……!?」

 

ネプギアの体に脈動が走る。

自分の頭めがけて開かれた手のひらが向かってくる。

 

「はああああああっ!」

 

ネプギアが前に出た。

全身のプロセッサユニットを使って前方向に進んだネプギアは当然、マジックと衝突する。

 

「なっ」

「っ!」

 

ガチン、と鈍い音がしてネプギアの額とマジックの額がぶつかる。

同時に反作用で仰け反り、マジックのパルマフィオキーナのビームは遥か彼方、あらぬ方向へ飛んでいく。

 

「っ、か……!」

「い、ま……!」

 

ひどく悶絶しているがネプギアは逃走に、マジックは追跡に意識を切り替える。

額を抑えたマジックが帰ってきた鎌を掴み、ネプギアはマジックを見たまま後退する。

しかしネプギアが退るよりもマジックが鎌を振る方が早い。マジックが力任せに鎌を横に振った。

 

「っ、あっ!」

 

ネプギアが吹き飛ばされる。

クラクラと揺れる頭と視界にパルマフィオキーナを構えるマジックが映った。

 

「ネプギアっ!」

「お姉ちゃーーー!」

 

自分を呼ぶ声に振り返るとネプテューヌが手を伸ばしている。

ネプギアは咄嗟にビームサーベルを手放してネプテューヌへと手を伸ばす。そしてネプテューヌはその手をしっかりと握りしめる。

その時だった。

 

ネプギアから発する波動が共鳴するかのようにネプテューヌにまで伝わる。

それはネプテューヌの全身を伝わり、揺らし、体の芯まで響く。

そしてネプギアの才能とも言い換えられる強力な波動はネプテューヌの脳に達し、その最奥を最も強く震わせた。

 

「ーーーーー」

 

ネプテューヌの視界が開けていく。

ある人はそれを様々な言葉で表現した。『答えが見える』、『自分が広がる』、『盲人の目が開く』。

ネプギアのXラウンダーの波動がネプテューヌの中の取っかかりを壊し、ネプテューヌの真髄を表面へと引き出していく。

ニュータイプ。

ネプテューヌの奥底にあり、全開まで大量の時間を有するはずだった力は図らずもネプギアのXラウンダー能力により発揮された。

 

ネプテューヌがネプギアを引っ張るのと同時に前に出て場所を入れ替える。

パルマフィオキーナがネプギアからネプテューヌへと目標を変え、その銛はネプテューヌの顔面めがけて飛んでいく。

それがネプテューヌの顔を掴む刹那。あと数cmで届く距離で手のひらは止まった。

マジックの鳩尾に足がめり込んでいた。

 

「っ……は………っ!?」

 

ネプテューヌの前蹴りがマジックの鳩尾に命中したのだ。

ネプテューヌが顔をそらすとパルマフィオキーナから残滓のようなビームが発射されて虚空へと消える。

 

「私は……1人じゃダメなのね」

 

太刀が横に振られ、マジックの脇腹へと叩き込まれる!

反射的に太刀から逃れるように動くマジックだったがそれは太刀の傷を少しも浅くすることは無い。

マジックが吹き飛ばされた。

 

「がっはああっ!?」

 

このNT-Dはマジックに引き出され。

ニュータイプの力はネプギアに引き出された。

そもそもの力はミズキが分けてくれたもの。

まるで運命のよう。

敵も、味方も、ここに誰か1人でも欠けていたとしたなら……きっと私は何も守れなかった。

 

「行くわよ!ネプテューンブレイクで決める!」

 

ネプテューヌがマジックに追い打ちをかける。

マジックは顔を歪め、それでも痛みに耐えて鎌を防御に使う。

しかし、ネプテューヌはそれを読んでいたかのようにマジックの背後に回り込んだ。

 

「っ……!」

「今の私の力なら!」

 

ネプテューヌがマジックを切り抜けた。

再び完全に入った一撃。

しかしマジックがその痛みを感じた瞬間にネプテューヌは再び折り返してマジックに向かっている。

 

「があああっ!」

 

目にも留まらぬスピード。

連続で切り抜けられマジックの体には幾重にも斬撃の切り傷が浮かぶ。

 

「落ちろっ!」

「っ、貴様などにぃぃっ!」

 

ネプテューヌが真上からマジックをたたき落とす。

しかしマジックもただやられてはいない。死力を振り絞り、叩き落とされる瞬間にネプテューヌの刀に手のひらを添えた。

 

「うっ!」

 

ネプテューヌの刀が爆散した。

パルマフィオキーナはネプテューヌの刀を粉々にし、もはや使えないほどにしてしまう。

しかし、ネプテューヌは背中のビームサーベルを抜いた。

 

「往生際が、悪いのよっ!」

 

落下したマジックにまだ追い打ちをかける。

鎌を杖にして立ち上がるマジックを切り抜けた。

 

「っ、は……!」

 

マジックの鎌が両断された。

折り返すネプテューヌにネプギアがビームサーベルを投げる。

 

「お姉ちゃんっ!」

「ネプギア!」

 

それを掴み、再びマジックを背中から切り抜ける。

 

「これで……倒れなさいッ!」

 

ネプテューヌが2本のビームサーベルをマジックに振り落とし、両肩から袈裟斬りに切り裂いた。

マジックは目を見開いてゆっくりと後ろへ倒れていく。

ネプテューヌがビームサーベルを背中に収納するのと同時にマジックが背中から地面に倒れる。

ネプテューヌとネプギアの勝利だった。

 

「お姉ちゃんっ!」

「待って、ネプギア」

 

笑顔で駆け寄ってくるネプギアをネプテューヌが未だ厳しい表情で咎める。

そしてそのまま目を閉じたまま横たわるマジックへと鋭い視線を刺す。

 

「どういうことよ、アナタ」

「……フ、フフフ…………」

「諦めたわね、なんでよ」

「……これで、いいのだ……これで……」

 

ネプテューヌは最後の瞬間、マジックから諦観の念を感じた。

有り得ない。マジックに限って、あそこまで復讐の炎を滾らせていたマジックに限って諦めるなど有り得ない。

まだ何かある!

 

「勝てば……悪鬼に復讐し、私が犯罪神様の跡を継ぐことができた……まあ、それも、有り得たはずのもう1つの未来……」

「アナタは負けたわね」

「それでもいい……フフ、それでも良いのだ……!」

 

諦観の念は感じた。しかし敵意は消えない。

何か策が発動しようとしていた。マジックの命を賭け金にして発動する巨大な策が。

 

「私が死ねば……4つの器全てが犯罪神様の元へ還る……そうすれば、犯罪神様は、復活、する……!」

「な……!」

 

ジャッジ、ブレイブ、トリック、マジック。

その4人はもともと犯罪神の巨大な体の欠片に過ぎない。

 

「たとえ、悪鬼の下僕に成り果てようとも……その、魂が……欠片でも残っていれば、私は……!」

「ふざけないで!止めて、止めなさいよ!」

「私達がマジックを倒したせいで……ビフロンスだけじゃなくて、犯罪神まで……!?」

「できれば……この身のまま犯罪神様に仕え、たかっ、た……。う……!」

 

マジックが呻くのと同時に体が光となって消えていく。

 

「もう遅い……フフ、ざまあ、み……ろ………」

 

そしてマジックはそのまま完全に消え去ってしまう。

光の粒子はギョウカイ墓場へと向かっていき、2度と戻らない。止めることも出来ない。

呆然と立ち尽くすネプテューヌとネプギア。

直後、ギョウカイ墓場を震源とした巨大な地震が起こった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドスッ(鈍い音)

取り返したプラネテューヌの教会で女神たちが戦慄する。

ゲハバーンを用いても封印までしか追い込めなかった犯罪神の復活。さらにビフロンスの復活も間近に迫っている。

 

「ええ、確かに……ギョウカイ墓場の中心に巨大な敵性反応があります」

「してやられたわね……最後の最期まで!」

 

ノワールが壁をドンと叩く。

詰みだった。

ネプテューヌやネプギアが悪い訳では無い、最初の最初から4人を倒せば犯罪神が復活するという罠が仕掛けられていた。どうしようもなかったし、今だってどうすれば良かったのかすらわからない。

 

「ですが、対策も考えなければ。激戦になるのは確かですわ。けれど、前は4人。今度は9人います」

「ビフロンスと融合されかけちゃってるんでしょ?なら、前よりも弱くはなってるのかも……」

「それに、巨大な敵性反応はさっきから全く動きません。もしかしたら、動くまでまだ時間がかかるのかも……」

 

イストワールは冷静にデータを分析するが、分からないことが多すぎる。

今すぐ倒しに行くべきか、それとも準備するべきか……。

 

「私は今すぐ行ったほうがいいと思うわ。この先いくつ罠が仕掛けられてるのか、分かったものじゃないし」

「それに、犯罪神を倒すことが出来れば……もしかしたら、そのままビフロンスも……!」

 

ユニの意見にネプギアが賛同する。

確かに、犯罪神が鎮座しているのはギョウカイ墓場の中心部。ビフロンスもそこにいる可能性が高い。

その意見に反対意見もないようだ。

 

「なら、突撃は明日の夜ですね。もうすぐ日が昇ります、みなさんも休息を……っ!?」

 

イストワールが切り上げようとすると、敵性反応を映し出していたモニターが警告音を発した。

 

「なになに、どうしたのいーすん!」

「巨大な敵性反応が新たに4つ!?場所は……!?」

 

モニターが地図を拡大し、ゲイムギョウ界全てを映し出す。

そこには赤い点が5つ。

1つはギョウカイ墓場。残りはそれぞれ4国。

プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックス、それぞれに何かが侵略してきた形だ。

さらにモニターにラステイションにいるはずのケイの顔が映し出された。

 

《ノワール、ユニ!すぐラステイションに戻ってきてくれ!》

「ケイ、一体何が起こってるの!?敵性反応って、誰なの!?」

《マジェコンヌ四天王が復活した……!既に宣戦布告もしている!》

「はあっ!?」

 

復活という単語についていけない。理解が追いつかない。それは全員同じだった。

ケイはラステイションのとある箇所を映した映像を出した。

そこには赤黒く染まった体で剣を地面に刺す剣豪の姿があった。

 

「ブレイブっ!?」

 

ユニがその姿に驚愕する。

ブレイブは死んだはず、なのにここにいるということでようやくユニも復活という言葉を理解し始めた。

 

「じゃあ、他の3人も!?」

「……みたいです。今映します」

 

イストワールが各国を映し出すとそこにはそれぞれマジェコンヌ四天王が鎮座していた。

プラネテューヌ、ブレイブ。ルウィー、トリック。リーンボックス、マジック。

 

「変態が……またいるのぉ……?」

「しつこいのよ!せっかく倒したのに、生き返るっておかしいでしょ!」

「犯罪神が生き返った影響……?いや、4人は犯罪神のところへ還ったはず……」

 

ギョウカイ墓場中心で蠢いているのは間違いなく犯罪神だ。

なら、各国に居座る4人は……?

 

「幻……いえ、相手がビフロンスだというのなら……」

「コピーの可能性が有り得ますわね。ついに命を造ったということでしょうか……」

 

それではまるで、本当の神だ。

天地を創成し、あらゆる生き物を創った神のようなことをビフロンスは仕出かしたのか?

 

《彼女らの宣戦布告の内容はこうだ。『3日待つ。3日以内に無条件降伏をしない場合』……》

「攻め込んでくるってわけね。こんな露骨な時間稼ぎ……」

「マジックは……利用された、だけって事ですか……?」

「でしょうね。マジックの思惑を知ってて見殺しにして、犯罪神を復活させると同時に四天王のコピーを使った。あからさまな時間稼ぎよ」

「そんな……!」

「でも、まんまとその手に乗るわけにはいかないよね!ここはみんなで1人ずつ、パーっと倒しちゃおう!パーっと!」

「いえ、何処かの四天王が攻撃を受ければ他の四天王は即、国の破壊を始めるわ」

「なら、分散するしかないんじゃない?」

「ミズキ……」

「もう大丈夫なの?」

「こんな事態にいつまでも寝ていられないよ」

 

休んでいたミズキが戻ってきた。

どうやら今起こっていることについては把握しているようだ。

 

「3日っていうのは……多分、ビフロンス復活までのカウントダウン」

「3日経つとビフロンスが復活するということね。なら、その前に四天王を倒して、犯罪神を倒して、復活前のビフロンスを叩く……」

「無理があるよ……」

「ロムちゃんの言う通り、1日で1つのことをするのはもたない気がするわ」

「だからこそ、分散するしかない。どちらにせよ、マジェコンヌ四天王は同時に撃破するしかないし」

 

どこかに集中すればどこかに被害が出る。

ならば、戦力を振り分けるべきだ。

 

「各国の四天王を各国の女神で叩く。とりあえずはそれでいいよね?」

「ええ。でも、犯罪神は?」

「僕が行く」

 

ミズキが決意を持った目でノワールを見た。

 

「でも、犯罪神を倒すのはあくまで二の次。僕は犯罪神をすり抜けてビフロンスを探すのを最優先にする」

「……危険だけれど、仕方がないわね……」

「むしろ注意すべきなのは四天王だと思う。ビフロンスがさらなる強化を施しているはずだから」

「前よりも格段に強くなってる、ってことだよね」

 

マジックが復活させた抜け殻の犯罪神よりももしかすれば強化された四天王が強敵の可能性もありうる。

 

「それで行きましょう。しかし、仕掛けるのは何日後にしましょうか……」

「……それについては2日、いただけませんか」

 

イストワールが挙手をした。

 

「強化を施します。相手がパワーアップしているのですから、こちらもパワーアップしなければなりません」

「いーすん、それってあれ?精神と時の部屋みたいな?」

「残念ながら、それはありませんが……計画だけだったプロセッサユニット強化を施すつもりです。恐らく、他の方々も……」

「ああ。計画はあるよ。君達の新たな力に合わせて大きく路線を変えるだろうが……2日でやり遂げてみせる」

 

ラステイションにも強化プランがあるらしい。それは恐らく、ルウィーもリーンボックスも同じだ。

 

「それじゃ、とりあえず2日間は暇なのね!」

「とりあえず……ルウィーに帰ろっか……」

「そのことについても、なんですが……」

 

イストワールが待ったをかけた。

しかしさっきと違ってその顔は得意げな顔だ。

 

「少し、リラックスしましょう」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……驚いたわね……」

 

プラネテューヌ教会の裏手。そこには湯気を巻き上げて暖気を伝える露天の温泉があった。

普段は営業用の場所ではあるが、今は戦乱の後で客が来るような時ではない。

そこを貸し切って女神たちは一斉に地下から湧き出る天然の湯に身を預ける。

 

「やっほー、1番乗りー!」

「ちょっ、せっかくの温泉なんだから静かに入りなさいよ!」

「これは……いい湯ですわね……」

「……チッ」

「ブラン?どうかしましたか?」

「どうもしねえようるせえなあ!」

「いいなー、ルウィーにもこれくらいの温泉があればいいのにー」

「寒いもんね、ルウィー」

「もう、慣れてるけどね……」

「私は慣れないわ……あの寒さだけは苦手よ、私」

「コンパ、アナタまた……」

「ふぇ?アイちゃん、どうかしたです?」

「……なんでもないわ、なんでも。ええ」

 

黄色い声を柵の向こう側で聞きながらミズキは1人で風呂に入る。

 

「…………」

「寂しそうだな」

「え?いや、そんなことは……」

「あの中に混ざりたいか?クク……」

「からかわないでよ、ジャック……」

 

いや、ジャックもいた。

ミズキは桶で湯を組んで風呂に浮かべ、ジャック専用の風呂にした。

 

「……まあ、少なくともあの頃に比べたら静かだけど、ね」

「それはあいつらが勝手に男湯に入ってくるからだろう?」

「のクセして僕達が女湯に向かおうとすると叩くんだよね……」

 

昔はこんな露天風呂に入ろうものならシルヴィアとカレンが柵を壊して入り込んで来ていたものだ。その度にどぎまぎして、からかわれて。

 

「………」

「寂しそうだな」

「………ここのみんなは代わりじゃない。だから、あそこのみんながいなくなった穴は埋まらないよ」

 

少しだけ寂しげに笑ってミズキは夜空に浮かぶ月を見た。もうすぐ日が昇りそうだ。

 

「会いたいか?」

「会いたいと思わない日なんてないよ。もしかして、まだ、みんながここにいてくれたなら……」

 

脳裏からみんなの声と顔は消えることは無い。

けれど、その声と顔に新たなものは2度と刻まれないのだ。

 

「……答えも、簡単に見つかったのかな」

 

今に限ったことじゃない。

ここに来てからやってきたこと、みんながいたらもっと楽だったはずだ。もっと簡単でもっと楽しくて……誰も苦悩しなかった。

 

「お前が何を求めてるのかはしらんが」

 

ジャックの声にミズキが振り返る。

 

「あいつらでも悩んでいたはずだ。ただあいつらは少し頭が悪い」

 

冗談めかしてジャックが少し笑った。

 

「簡単なことしかできなかったんだよ、多分な。それは……クク、同じだろ?」

「……僕も、頭悪いのかな」

「当然だ。誰と一緒にいたんだ?」

「クスクス、そうだね、あの次元で1番子供だった人たちだ」

 

なんとなく、朧気だけど答えが見えた気がする。

きっと簡単なことなんだ。簡単なことしか出来なかった僕らがいつも正解していた。だから、きっと、今回だって簡単なこと。

だってそうだ、『僕』の始まりだって簡単なことだった。

戦うため、戦争のため、後世のため……違う。僕がここにいる理由はただ1つ。あの時、みんなが手を握ってくれたことがーーーー。

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

「…………」

「どうかした、ネプギア?浮かない顔してるわよ」

 

ただ空を見ていたネプギアの後ろからユニが覆いかぶさる。

ロムとラムもネプギアにすい〜とお湯をかき分けて近付いていく。

 

「ううん、なんか、今までのこと思い出しちゃって」

「たくさん、あったね……。楽しいこと、辛かったこと……」

「思い出したくない事もあるけどね。ったく、なんであの変態がよりにもよってルウィーに……」

「それでナーバスになってたっていうの?アンタは」

「あ、うん……。もうちょっとうまく出来なかったのかなって」

 

しみじみと思い出を噛み締めていたが、ネプギアはそれに感傷的になっていたわけではないらしい。

ネプギアが考えていたのは目にした2つの激戦のこと。

 

「和解出来たんじゃないかな、って。マジックだってビフロンスを倒したがってた」

「和解って言ったって、敵でしょ?」

「まあ、言いたいことはわかるわよ。ブレイブとだって私は戦わずにすんだかもしれない」

「ラステイションには……いる、けど……」

「……撃つわよ。アイツは死んだ、私が撃ったんだから。偽物は許しておけるもんですか」

 

ブレイブとマジック。

2人とは和解の余地があったはずなのだ。それを得られなかったのは間違いなのか、そもそもそんな道などなかったのか。

 

「……諦めたくない」

 

ポツリと言葉が漏れた。

 

「私は、この旅で……1度でも諦めちゃったら何も出来なかった」

 

だから今だって。

 

「私は……」

 

ネプギアの心。その声を正直に言葉にしようとした矢先、騒がしい声に我に返る。

 

「ちょっと、こら、ネプテューヌ!」

「え〜いいじゃん青春だよ〜!」

「お、お姉ちゃん!?」

 

振り返るとネプテューヌが柵をよじ登っていた。竹を縦に並べたような壁だがネプテューヌは器用にもひょいひょいと竹を束ねる縄に足を引っ掛けて上へと登っていく。

 

「青春といえば部活、恋愛、そして覗き!」

「違うわよっ!」

 

もちろんネプテューヌは素っ裸。

顔だけ覗かせるつもりなのだろうが、そういう問題ではなく。

 

「だあ〜もう!止まりなさい!」

 

制止するノワールもよじ登るわけにはいかず、かといって長い棒があるわけでもないので咄嗟に風呂桶を掴んでネプテューヌへと投げ始める。

 

「おっと、おっとぉっ!?残念そんなのに当たる私じゃないもんね〜!」

「この、無駄にすばしっこい!」

「あばよ〜とっつぁ〜ん!」

 

ネプテューヌは素早く横移動して風呂桶の雨あられを避ける。

 

「お姉ちゃん、危ないよ!?柵揺れてるし!」

「だいじょぶだいじょぶ〜!ネプテューヌ様はこの程度の障害を乗り越えて柵の向こうのバラ畑を網膜に焼き付けるのだ!」

「バラ!?」

「ベールさんも反応しないでくださいっ!」

「こういうのは無干渉に限るわ……」

「お姉ちゃん、混ざってきていい!?」

「ダメだアホ」

「即答だった……」

「この、ユニ!アンタが当てなさい!」

「わ、私が!?」

「狙撃できるなら得意でしょ!ほら、早く!」

「それとこれとは話が違う気が……う〜、ええ〜いっ!」

 

ノワールに風呂桶を渡されたユニがヤケクソでネプテューヌに向かって投げる。

綺麗な放物線を描いてネプテューヌに飛んでいく風呂桶だったが、ネプテューヌはキラリと目を光らせた。

 

「甘い!」

「叩き落とされた!?」

「ちょ、アレ、反則でしょ!?」

 

ネプテューヌが風呂桶をパンチでたたき落とす。

 

「もう私を阻むものは何も無い!さあ、前代未聞の男風呂の覗きを……!」

「僕がいるんだよなあ」

「うあいだあああああああっ!?」

 

最大の障害は覗く対象その人でした。

ネプテューヌが顔を出した瞬間に飛び上がったミズキが手だけ柵を越えさせてドスリと目突きを突き刺す。

 

「次からは静かにね……」

「ぐあああああああああ!」

 

床に落ちたネプテューヌが目を抑えながら転げ回る。

しかし今回ばかりは意見の一致。

 

『自業自得』

 

覗き、ダメ、ゼッタイ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦前夜

「ごめんなさいお姉さまっ!」

 

リーンボックスに帰ったベールを出迎えたのは教祖チカの謝罪だった。

頭が足につくんじゃないかってくらいに頭を下げるチカにベールは首を傾げる。

 

「え〜と……どうかしましたの?」

「うぅ、実は……」

「ハッ、まさか四女神オンラインのログインを忘れたと!?」

「い、いえ!ちゃんとログインしていますわ!」

「では素材周回を怠ったと!?」

「ち、ちゃんと周回しました!」

「……ではなにを謝るのですか?」

 

それを除けば謝る理由が思いつかない。いや、それはそれで問題だが。

 

「うぅ、実は……お姉さまの追加装備の完成が間に合わないかもで……」

「ああ、そのこと……。そんなに大作業なんですわね」

「張り切り過ぎてしまい……間に合うかどうか……間に合ってもテストとかそのあたりはなしのぶっつけ本番……」

「よくってよ。もし間に合わなくても、なんとかしてみせますわ」

 

確かに追加装備があれば楽だろうが、そんなものなくても戦える。

 

「ごめんなさい……あ、でも、完成すればこのチカ、戦闘の途中でも届けに行く覚悟です!」

「それが1番ありえるかもしれませんわね。そうですわ、1度その追加装備を見ても……」

「あ、はい!こちらですお姉さま!」

 

チカの先導に従ってリーンボックス教会の地下へと降りていく。

そして目的の部屋のドアを開いた時、ベールは開いた口が塞がらなかった。

 

「…………」

「これが、お姉さま専用の追加装備です」

「……確かに、これは時間がかかりますわね……」

 

まだ完成度は7割くらいか。

今日の夜には出撃だから間に合うかどうか……。

 

「きっと間に合わせます。だからお姉さまも……」

「ええ。きっとマジックを倒しますわ」

 

 

 

 

 

ルウィーではブランとロムとラムがミナに連れられて教会へと赴いていた。

 

「これが……私の、武器」

「はい。その名もメッサーツバーク」

 

机の上にはツインバスターライフルよりも少し小さいくらいの3つの銃が並んでいた。

ブランがその1つを手に取ると金属の冷たさが手に伝わった。

 

「3つあるってことは……」

「残りは私達の分ね!」

「やった〜……!」

 

ロムとラムもメッサーツバークを持ったが、そこそこの重さがあるらしく2人は顔をしかめた。

 

「私はともかく、2人は持てるの?」

「強化魔法を使えば、なんとか……」

「持てないほどじゃないわ!」

 

若干心配だが任せるしかあるまい。

 

「それにしても、ロムとラムに銃を持たせるの?2人は魔法中心のスタンスだけど……」

「実は、その武装はブランさん、アナタの専用装備なんです」

「私の?」

「メッサーツバークは1つだけでもツインバスターライフルの通常射撃に勝るとも劣らない威力を発揮します」

 

しかし、とミナが前置きしてモニターにメッサーツバークを映し出す。

 

「その3基は合体し、ドライツバークと呼ばれる形態になるんです」

 

モニターの中の3基が合体し、ドライツバークへと生まれ変わった。

 

「それを私が使うのね」

「いいえ、まだです。さらにこのドライツバークはツインバスターライフルに取り付けて威力を増大させることができます。この状態はドライツバークバスターライフル」

 

さらにドライツバークが追加の銃身のようになってツインバスターライフルに取り付けられた。

 

「この状態の威力は未知数です。恐らく、ロムとラムのツインサテライトキャノンすら超える威力だと思われます」

「……アレを、超える……」

「すごい威力……それがあればあの変態も一撃ね!」

「ですが、高すぎる威力の代償として、外せば国への甚大な被害は避けられません」

「外せないってこと……なんだ……」

「十分よ。ありがとう」

 

ドライツバーク。そしてツインサテライトキャノン。

この2つを持つルウィーは恐らく、4国の中でも火力が最大だ。他の国の追随を許さないほどに。

これなら、勝てるはず。

 

「それと、これを」

 

ミナが3つの小袋を渡した。

それは手作りのお守りだ。何も文字は書いていないから何の効果があるのかはわからないが……。

 

「きっとこのお守りが、アナタ達がピンチの時に助けてくれます」

「お守り……コレが守ってくれるの?」

「これ……魔力が入ってる……?」

「はい、正解ですよ。あらん限りの魔力を詰め込んでみました」

 

つまりお守りを使うといわゆるMPが全回復するということか。

 

「その魔力を何に使うかはアナタ達次第です。これが、私に出来る全て……」

「これだけあれば負けるわけないわね!」

「楽勝、楽勝……♪」

「あの変態は私達の手でもう1度地獄に叩き落としてやりましょう」

 

ブランとロムとラムが変身した。

ブランは背中から翼を生やし、ロムとラムは夜空に輝く満月を確認した。

 

「行ってくるぜ。すぐ終わらせてミズキの援護に行くぞ!」

 

 

 

 

「………」

「そう気を悪くしないでくれ。何度も言うが、時間がなかったんだよ」

「……にしたって……」

 

ユニが頬をふくらませて唇を尖らせた。

 

「……私だけ新しい武器、ないなんて」

「やれるだけの強化はしたさ。姿形は変わらなくても、威力は格段にあがっている」

「……かもしれないけど……」

「コンテナの中にもより様々な武器を盛り込んだ。今の君は空を飛ぶ弾薬庫と言っても差し支えない」

 

ケイがユニをなだめるが、やはり地味は地味。

だってそうだ、今目の前で新しい武器を装備しているノワールを見たらお世辞にもユニのパワーアップは地味としか言えない。

 

「……かっこいいなあ」

 

ノワールの左腰には今まで使っていたGNソードV。そして左肩にも既存のGNシールドとGNソードビットがある。

ノワールの新たな装備は右肩に装備されたGNソードIVフルセイバーだ。右肩に装備されたそれはバスターソードして使うものであるが、接続されている3つのGNガンブレイドの位置を組み替えることにより様々な武器として扱える優れものである。

全身を剣で固めた文字通りフルセイバーとなったノワール。それを見るとどうしても自分だってと思う。

 

「そもそも、もう君のプロセッサユニット自体強化ユニットみたいなものなんだ。完成形と言ってもいい」

「む〜……」

「それは君だけがマジェコンヌ四天王を1人で倒せたことからも明らかだ。君にしか出来ていない、偉業だよ」

「ま、いいじゃないユニ。単純な性能なら私よりアナタの方が上よ?」

 

ノワールが武器を装備し終えて戻ってきた。

ノワールが肩を動かすなどして装備の心地を確かめる。

 

「その装備は戦うための装備だ。対話を行いたいならフルセイバーユニットをパージする必要がある。心得てくれ」

「わかった。武装が多くて苦労しそうだけど……」

「状況に応じて使い分けてほしいな」

 

ノワールが歩く度にカチャカチャと装備が揺れる音がする。

ユニもその後についていって変身する。

 

「僕はここで君達の勝利を祈ってるよ」

「ええ。サッサと叩きのめしてくるわ」

「行ってくる」

 

ユニは胸に手を当てて息を深く吸い、吐く。

 

「大丈夫、大丈夫……。今度だって、絶対……」

「そう気負わないの。今度は私だっているんだから、大船に乗った気でいなさい」

「……うん」

 

 

 

 

「……ねえ、これホントに大丈夫?」

 

変身したネプテューヌの背中にぞくぞくと新たな装備が付け加えられていく。

背中に2つのハイパーバズーカ、その砲口にグレネードランチャーが装備。さらにバズーカ自体をプラットホームにしてミサイルポッドを1基ずつ、合計2基。さらにさらにハンドグレネードを脚部に3発×4セット、バズーカにも3発×4セットの合計24発。

背中に太刀を背負い、両腰にもさらに2本。手には主兵装、ビームマグナムを持っている。

 

「こんなんで動けるのかしら?とんでもなく重そうだけど……」

《今からブースターユニットを装備して推力を補います。小回りは効かなくなりますが、直線移動なら軽装時とほぼ同等の加速ができるはずです》

 

1通りの装備を終えたネプテューヌの背中に2基のブースターユニットが取り付けられた。

これがネプテューヌの強化兵装、フルアーマープランだ。

 

《本来ならもっとネプテューヌさんの力を生かした装備を用意したかったのですが……》

「いや、いいのよ。逆に、傷ついたプラネテューヌがよくこれだけの装備を集められたものだわ」

 

新開発の武器はネプギアのM.P.B.Lを改造したビームマグナムのみで他の装備は全て既存の兵器だ。しかし、ただ考えなしに武器を積んだわけではない。

ネプテューヌのバランス、推力も参考に入れた上で使い終わった武器はデッドウェイトにならないようにパージできるようになっている。

 

《私の協力もあったってことも忘れないでよね〜!》

「……恩着せがましいわね……」

 

ネプテューヌが武器を装備している場所はトリックによってめちゃくちゃにされたカタパルト。アブネスやイストワールがいる場所は管制室の中だ。

管制室やカタパルトはマジックが再利用でもしようとしていたのか、ある程度の復旧は済んでいてすぐに使うことが出来た。

 

「次はネプギアの番だね」

「………」

「ネプギア?」

 

管制室の中で俯いていたネプギアが思い詰めたようにミズキを見た。

 

「あの、私、おかしいでしょうか……」

「何が?」

「……あんなに倒したいと思ってたのに、今はなんだか、倒したくないと思ってる……分かり合いたいって、そう思ってるんです!」

 

キッとネプギアがミズキを見つめる。

 

「それは、おかしいことなんでしょうか……?」

「きっと、そんなことないと思うよ」

 

だからミズキも真剣な顔で言い返した。

 

「自分がしたいように、やりたいようにやってくればいい。君はもう、立派な女神なんだから」

 

出会った時のネプギアの面影など少しもない。

あの時よりもずっと強くて、頼りになって、可憐で、そして優しい。

例えこの瞬間にネプギアがネプテューヌの代わりに女神の座につこうとも、ネプギアになら国を任せられる。ネプテューヌだってそう思ってるはずだ。

 

「それじゃあネプギアさん、カタパルトへ……」

「……ごめんなさい、いーすんさん。それ、必要ありません」

 

変身したネプギアがイストワールを見た。

その姿は今までのものとは違い、武器も装備も一新されている。

全身に剣のような武器を取り付けていて、その姿はまるでハリネズミのよう。M.P.B.Lも新たな形に生まれ変わっており、M.P.S.Lよりもずっと小型化している。

 

「ネプギアさん……」

「行ってきますね、いーすんさん!私、もう誰にだって負ける気がしません!」

 

弾けるような笑顔をイストワールに向ける。

イストワールが呆気に取られるが、そのままネプギアはカタパルトへ駆け出してしまう。

 

「ネプギア……このっ」

「いたっ、いたたっ!?」

「この、土壇場で……!ったく、もう!」

「お、お姉ちゃん、いたい、あははっ、痛いってばぁっ!」

 

ネプテューヌがネプギアのこめかみをグリグリする。

痛がるネプギアだが、お互い本気でやっているわけではなくむしろ笑いあっている。

ポカンと理解が追いつかないイストワールの肩をジャックが叩いた。

 

「そういうことだ」

「あっ、えっと、はい」

 

イストワールが我に返った。

それを見てクスクスと笑ったミズキもカタパルトへと向かう。

 

「それじゃ、僕も行くね」

「死ぬんじゃないわよ」

「任せてよ」

 

アブネスに笑顔で返す。

そしてミズキは自らも姉妹のじゃれあいに突入した。

 

プラネテューヌにはジャッジ・ザ・ハード。

ラステイションにはブレイブ・ザ・ハード。

ルウィーにはトリック・ザ・ハード。

リーンボックスにはマジック・ザ・ハード。

ギョウカイ墓場には犯罪神。

 

今、戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




また休みのお知らせです
忙しくてあんまり進められず…続きはまた1ヶ月後になります
すいません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再戦


全然進んでない…やべえよやべえよ…
多分今回は最終決戦目前あたりまでですかね…(震え声)


 

「…………」

 

ここを訪れるのは3度目だ。

みんなを助け出した時、死にかけた時、そして今回。

今回はどうだろうか。

ミズキは目の前に広がる荒廃した大地を見てそう思った。

 

ギョウカイ墓場はもともと荒廃していたが、犯罪神復活の影響か多少の地殻変動が起こっている。

土砂崩れの跡や、地割れ。遠くでは火山が噴火もしている。ギョウカイ墓場を包む沈鬱な空気はさらに重く感じられた。

 

「ーーーーーー!」

 

遠くから雄叫びが聞こえる。

恐らく、犯罪神のものだ。

犯罪神がミズキに気付いて威嚇をしているのだろうか。それはわからなかったが、まず確実にビフロンスは今この瞬間もミズキを見ている。それだけはわかった。

 

ミズキは歩を進める。女神が捕まっていた場所よりもさらにさらに奥、中心部へ。

目指すのは犯罪神討伐ではなく、未だ復活を果たしていないビフロンスを倒すこと。

ギョウカイ墓場の何処かにいるはずのビフロンスを探す。地上か、地下か、秘密基地か。

 

ミズキが進んでいくと高い崖が目の前に現れた。

登るか、回り道するか、逡巡した後に飛び越えることを決意する。

しかしミズキは自分の後ろにあるプロジェクターに気付いた。

 

《は〜い!1名様ごあんな〜い!》

 

底抜けに陽気な声が響く。

プロジェクターは崖をスクリーンとして映像を映し出し、音声を響かせる。

崖に映っていたのはビフロンスだった。

 

《きっとここに来るって思ってました!信じていましたからっ!》

 

キラキラと恋する乙女のように目を輝かせるビフロンス。

いつもの見え透いたお巫山戯だ。真剣に捉えてもいけないが、油断も許されない。ミズキは音声を聞き逃さぬように映像を中止する。最も、聞き逃すほど小さな音ではないのだが。

 

《にしても〜……私の罠にはかからないクセしてマジックの罠にはかかるとか〜嫉妬しちゃうぅ!そっち系が好みなの!?》

 

きゃぴるんという擬音が聞こえてきそうなくらいにはっちゃけている。

けれどわかる。ここまで心のこもっていない演技、並の人には到底できまい。

 

《でもね、もうミズキ君は……最後の罠からは逃げられまセーン!》

「……どういう意味なの」

《世界を絶望で包み込む……けれど、決して絶望に染まらないアナタは殺すしかない。それが平和のためでしょ?》

 

目の前の空間がぐわんと歪んだ。

平衡感覚が消えたようにふらつくが、ミズキの感覚に問題がある訳では無い。

 

「しまっ……!」

 

歪んだのは次元。

恐らく、次元フィールドの応用……!

 

(何処か、連れていかれる!)

 

ミズキがいた空間と何処かの空間がピッタリと繋がる。

一瞬でミズキはギョウカイ墓場の何処かへ移動させられ、歪んでいた空間も何事も無かったかのようにそこにある。

 

「……マズい、ね……!」

 

目の前にいたのはさっきまで叫び猛っていた犯罪神。巨大な体躯と様々な獣を無理矢理合体させたキメラのような体をしている。

同じ神は神でも女神とは大違いだ。犯罪神がこんな禍々しいものだとわかっていれば、誰も復活などさせる気も起こらないほどに。

そして犯罪神ももちろん目の前にいる小さな人間の姿に気付く。

 

「ーーーーー!」

「っ……!」

 

犯罪神の咆哮がミズキを打ちつける。

ビリビリと大気を震わせるほどの声は並大抵のモンスターであれば裸足で逃げ出すほどだ。

精神的に相手を打ちのめし、戦う気力を失わせて戦闘力をも奪う威嚇。俺が今からお前を蹂躙する、と叫びで語っている。

 

《私の本体を壊す気でしょうが、そうは問屋が卸さない。ペットとでも遊んでなさい》

「世界を滅ぼす神様をペット呼ばわりか……!尚更復活させるわけにはいかないよ!」

 

魂の殆どを失い、ほぼ抜け殻の犯罪神。僅かに残った本能の部分で犯罪神はただ破壊を続けるだろう。それを許す訳にはいかない。

全盛期ならば女神4人を圧倒するほどの実力。けれど、抜け殻の犯罪神なら勝ち目もある!

 

「僕の全力で相手をさせてもらう……!変身!」

 

ミズキの体が光に包まれ、素早く高く舞い上がる。

そして光に包まれたミズキからいくつもの小さな光が分離した。それは複雑な機動で犯罪神に向かっていき、目の前で光を脱ぎ捨てる。

特殊な形状をした、ミサイル。それが犯罪神にぶつかる寸前だった。

 

《甘い》

 

ビフロンスの号令で地面からいくつかの赤黒い結晶が射出された。

擬似ファンネル。ビフロンスの代名詞とも言える武装がミサイルを撃ち落としに凄まじい速度で向かっていく。

それがミサイルを捉え、その鼻先にまで迫りミサイルを破壊する。

……とビフロンスは思った。

 

クンッ。

 

ミサイルが不可思議な機動で擬似ファンネルを避けた。

 

《ん》

 

そしてミサイルはそのまま犯罪神に当たり、爆散する。

 

「ーーー!」

 

ミサイルが当たった場所がおがくずのように崩れ落ちていく。

見た目よりもずっと簡単に砕け散った犯罪神の体からは血も流れないし、再生もしない。

 

《どうやら、図体だけみたいだね!》

《ファンネルミサイル、か》

 

今までのガンダムよりもひとまわり大きい体躯と肩から覆いかぶさるようにして装着されたミノフスキークラフト。

宇宙世紀最高の性能を誇るΞガンダムの特徴的な武器、ファンネルミサイルが擬似ファンネルを避けたのだ。

サイコミュによって自由自在に動くミサイルであり、通常のファンネルとは違いビームは撃たずに自分から突撃していく。

 

ミサイルの威力は特別大きいというわけではないが、犯罪神の体は脆く砕け散った。

本当に、見かけだけ。恐らく何もしなくても自壊していたであろうほどの体だ。

これなら、手早く相手を済ませてビフロンスの本体を探すことが出来る。

 

《撃ち抜く!》

《擬似ファンネル》

 

ライフルを構えたΞガンダムに向かってさらなる擬似ファンネルが射出されて向かっていく。

防御魔法で反射することで正確にΞガンダムへと向かっていくおびただしい数の赤い結晶は硬い金属でもやすやすと切り裂いてしまうほどの威力を持つ。

Ξガンダムは犯罪神に向けていたライフルを擬似ファンネルへと向け、距離を取りながら引き金を引く。

 

《ファンネルミサイルも!》

 

さらに全身から射出されるファンネルミサイル。

視界を覆い尽くすほどの擬似ファンネルはライフルとファンネルミサイルによる攻撃で数を減らすが、その中を多くの結晶が突っ切って向かってくる。

 

(いけるか……いける!)

 

Ξガンダムのミノフスキークラフトが展開し、後ろに半球状の透明な膜ができる。

半球状の透明な膜はビームバリアだ。このバリア自体はビームを防ぐほどの防御力はない。しかし、進行方向に展開することで空気抵抗を減らし、スピードをあげられる。

その速さは、

 

(……追いつかない)

 

超音速。

ファンネルミサイルの射出のスピードが速くても音速を超えたスピードには追いつけない。

退路を塞ぐように擬似ファンネルは機動を変えたが、それでもΞガンダムを捉えられない。

 

Ξガンダムは音速で飛行しながら擬似ファンネルを射出している場所を見つけた。

擬似ファンネルは地面や壁から次々と撃ち出されている。その発射口を潰さなければならない。

体をそこに向け、肩前面に装着された装甲が前を向く。

 

(この距離でも届くはずだ……!)

 

メガ粒子砲。

強力なビーム砲が擬似ファンネル射出口へ発射された。

 

《…………》

 

しかしビフロンスは何もしない。

メガ粒子砲は擬似ファンネル射出口を全て焼き払い、爆発させた。

 

(次元フィールドをこんなところで使えないしね……♪)

 

残った擬似ファンネルがΞガンダムに向かっていく。

しかしそれはΞガンダムに届く前にファンネルミサイルやライフルに撃ち落とされ、しかも超音速のスピードに追いつけもしない。

 

《突破する……!》

 

Ξガンダムがビームサーベルを引き抜き、擬似ファンネルを後ろに追わせながら犯罪神に向かっていく。

 

「ーーーーー!」

 

犯罪神は巨大な火球を吐き出したが、Ξガンダムは容易く避ける。

Ξガンダムの後ろの擬似ファンネルも火球を簡単に避けたが、余計な回避行動をとってしまった擬似ファンネルはさらに距離をとられてしまう。

 

《だあああっ!》

 

Ξガンダムが犯罪神の足をビームサーベルで切り裂いた。

積み木を崩すように断たれた犯罪神の足はチリとなって消え、4本のうちの1本の足を失った犯罪神はバランスを崩して体を地につけた。

その衝撃でさえ犯罪神の体は崩れ、ボロボロと砕けていく。

 

(やれる……!でも、油断はまだ……!)

 

ビフロンスがいるのだ。

なにかしてくる。まだなにか策があるはず。

 

《このまま!》

 

ライフルを犯罪神の体に雨あられのように撃ち込む。

犯罪神の体に蜂の巣のように穴が開き、その度に犯罪神が断末魔のような叫び声をあげる。

 

《ほんっとに……使えないったらありゃしない。時間稼ぎもできないの?》

 

ビフロンスが呆れたように倒れる犯罪神を見下す。

もう虫の息の犯罪神にトドメを刺すべくΞガンダムがファンネルミサイルを撃った。

 

《もういらないわ、アナタ》

 

擬似ファンネルが軌道を変えた。

Ξガンダムに向かっていた擬似ファンネルは突如として反転し、犯罪神に向かっていく。

 

《なにをっ》

 

ファンネルミサイルよりも早く、そして無慈悲に擬似ファンネルが犯罪神に突き刺さる。

 

「ーーーー」

《私が望むのは平和な世界。混沌はいらないわ》

 

後からファンネルミサイルが犯罪神に衝突し、爆散する。

しかし、トドメを刺したのはビフロンスだ。ファンネルミサイルは余計な攻撃に過ぎない。

 

《私が来た時からアナタは死んだも同然だったのよ。私の平和を邪魔するなら……神様だって殺す》

 

犯罪神がチリになって消えていく。

それをΞガンダムは唖然となって見ていた。

 

《味方、を……》

《味方じゃないわよ。世界を破壊するだけじゃ平和は訪れない。まあ、コイツ程度の存在じゃ世界が絶望もしないけど》

《……なんでもいい。邪魔がいなくなったなら、君の本体を探し出してケリをつける》

 

味方だったわけじゃない。倒すべき相手だったけれど、後味が悪い。マジックが……確かに敵だったけれど、それでも命と引換に遺したものがいとも容易く砕かれたのは、なんであろうと胸が締め付けられる。

 

《どうぞご自由に?ま、アナタの方から帰りたくなるわよ》

《どういう意ーーー!?》

 

その時、Ξガンダムは気付いた。

犯罪神の跡地、完全にチリになって消えた犯罪神がいた場所に1人の女が横たわるのを。

血色の悪い肌、黒い髪。それはマジェコンヌその人だった。

 

《マジェコンヌっ!》

 

ぐったりとしているが死んでいるわけではない。目立った外傷もない。

Ξガンダムがすぐに近寄ってマジェコンヌを抱き抱えた。

 

《マジェコンヌになにをしたっ!?》

《何もしてないわよ。こちらから返してあげようってんだから素直に受け取りなさい?》

 

すぐにマジェコンヌの体を調べるが、何かがくっつけられている様子もない。本当に、何もしていない。

だがこのマジェコンヌが偽物だったり体の内部、一見わからないところに罠が仕掛けられている可能性もある。

注意深くΞガンダムはマジェコンヌとビフロンスを視界に収め続けた。

 

《……アナタは、私を追い込むように……つまり嫌がることをしているつもりだろうけど》

 

その口がニヤリと歪んだ。

 

《それすら私の掌の上》

 

Ξガンダムを取り囲むように地面が開き、擬似ファンネルの射出口が見えた。

ビフロンスが撃てと命じればすぐに発射されるようになっている。

 

《……無駄だよ。今の僕に擬似ファンネルは追いつかない》

《ええ、そうね。大した機動力よ?人の形をしながら音を超えるなんてなかなかじゃない》

 

けど、今は?

 

《そのお荷物を抱えて音速は超えられる?》

《………!》

《音速を超えたとしてそのお荷物は耐えられる?》

《ビフ、ロンス……!》

《だから最初に言ったでしょ?私の罠からはもう逃げられないって》

 

ミズキは思案する。

発射と同時に飛翔するとしてーーー逃げられるか。マジェコンヌに負担をかけないレベルのスピードで無尽蔵の擬似ファンネルをいなし切れるか。

 

《……………》

《だから、逃げなさい。逃げることこそが罠にかかるということなのだから》

《そういう、ことか……!》

 

ビフロンスはわざと僕を逃がす気だ。

わざと逃がすことで、時間が稼げる。行って戻って来た時には恐らく、復活は完了しているーーー!

 

《っ、く……!》

《2つに1つ。その女を見捨てて私を殺すか、その女と逃げて私を見逃すか……一緒に死ぬって選択肢もあるけど?》

《わかってる、くせに……っ!》

《そうよね。アナタの性格じゃ見捨てるなんて……ヒヒッ、無理よね》

《っ、卑怯だぞぉぉぉっ!ビフロォォォンスッ!》

《あらあらやだもう、復活前に無抵抗な女の子を殺そうとする人に言われたくはないわ〜》

 

ビフロンスが片手をあげた。

下ろせば撃たれる。決断を迫られている。

 

《2秒だけ待つわ。それ以上は待たない》

《く、く……!》

《にい……いち……》

《くそぉぉぉぉっ!》

 

選択肢なんてないも同然だった。

Ξガンダムは叫びながら空を飛び、ギョウカイ墓場から逃げていく。

 

《四天王はどれだけもつかしらね……まあ、負けても勝ってもどちらでもいいわ。変わりはしない》

 

消えた犯罪神の残りカスのような魂がビフロンスに吸収された。

もう、誰も止められはしない。

ミズキが逃げたからビフロンスは復活する。ビフロンスが復活するから世界は絶望に包まれ、平和が訪れる。

そしてその未来を体現する機体も既にできている。

 

《ガンダムには、ガンダム。そしてそれを動かすのは人の夢》

 

ビフロンスの機体はビフロンス本体のすぐ近くで既にその体を晒していた。

額のセンサーは高く天に伸び、後頭部から無数の髪のようなチューブがさらさらと流れている。

二の腕と太ももは細く、しかし前腕から手と 脛から足までは太い。胸には光り輝くクリスタルのようなコアがあり、装甲は灰色をしていた。

 

《出番はもうすぐよ。ガンダムイブリース》

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジャッジ・ザ・ハード改

「………あと、何分だ……っ!?」

 

プラネテューヌの小高い丘でジャッジが唸る。

綺麗な草原だった丘はところどころ抉れて土がむき出しになっていて、痛ましい光景のように見える。

 

「早くしやがれぇぇぇぇぇっ!」

 

ジャッジがパルチザンを地面に叩きつけるとそこから凄まじい衝撃波が発生し、地面に小さなクレーターを作る。

 

「ハアッ、ハアッ……ダメだ、おさまらねえ……!ああ、止まんねえよ……!」

 

彼の体は赤黒く染まり、姿形はさらに凶悪なものへと変わっている。装甲は厚く尖っていて威圧感だけで脚がすくんでしまうようだ。

 

ジャッジはふわりと少し浮き上がり、パルチザンの剣先をプラネテューヌの住宅街へと向けた。

民間人の家々が立ち並ぶ場所ーーーもっとも今は誰もそこに残っている住人はいないが、そこをジャッジは破壊する気だ。パルチザンの先にエネルギーが集中していく。

 

「街の1つや2つくらい……ぶっ壊しても構わねえだろ……!?」

 

エネルギーは充足し、圧縮され、解放を待って暴れ出す。

ビームマグナム。撃たれれば余波だけで人を吹き飛ばす威力のあるビームの塊がプラネテューヌに目標を決めた。

 

「派手に、壊れろ!」

 

甲高い銃声と同時にビームマグナムの弾丸が街に放たれた。

凄まじいスピードで遠く離れた住宅街に向かった弾丸はしかし、別方向から放たれた全く同じビームによって弾かれた。

 

「ッ、ヒヒヒ……!来たか来たか、来たかァァァッ!」

 

ジャッジが空を見上げた先には2人の女神。

 

2人とも以前見た時とは姿が違うが……そんなことは関係ねえ。

なんでもいい、俺を楽しませろ。好きなだけ戦って、最後には俺の手で壊されればいい。殺されればいい。

願わくば、俺が飽きるくらいにはしぶとくなっていてくれよ。これだけ待って退屈するようじゃ……!

 

「この国の国民全部!俺がお前らの前で大虐殺するハメになるぜェッ!」

 

遥か遠く、風を切りながらネプテューヌとネプギアが凄まじい速度でジャッジへと向かう。

 

ネプテューヌのビームマグナムのEパックが1つ、音を立てて弾き出される。

排莢、次弾装填。

残り4発。そしてネプテューヌのプロセッサユニットに5発分の予備マガジンが2つ。合計14発。

 

「すぅっ………」

 

ネプテューヌが少し息を吸いこんでビームマグナムを構えた。フォアグリップを握って精密射撃の体勢に入る。

ブースターユニットは唸りをあげて加速を続けているが、ネプテューヌはその角度を微調整。ジャッジに向けて真っ直ぐに進むように進行方向を変えた。

 

「お姉ちゃんっ」

「まずは小手調べよ。興味をひく」

「私も、撃つ!」

 

ネプギアが新たなM.P.B.Lを構える。

M.P.S.L《マルチプル・スタングルライフル》。

ネプギアは今まで最大出力でM.P.B.Lを使用することが多かった。しかし、それではM.P.B.Lに負荷がかかりすぎる。

M.P.S.Lの新たな機能はチャージモード。バレルを展開、変形させることでエネルギーの充填を素早く行い、最大出力レベルの射撃を行うことが出来る。

 

ネプギアはチャージモードとなったM.P.S.Lのフォアグリップを握りしめ、ネプテューヌと同じようにジャッジに狙いを定める。

 

「一撃でぶち抜くわよ!」

「戦いを止めるために、私が……!」

 

2人の銃口にエネルギーがスパークする。

片や何本ものビームを束ねた槍のような威力を持つ銃。

片や弾丸ではなく奔流となって相手を溶かし流す威力を持つ銃。

 

『当たってェェェッ!』

 

引き金を引くと同時にカッ、と2人が一瞬だけ閃光を放ったようにジャッジには見えた。

 

「ぬっ!?」

 

その瞬間にはもうジャッジの胸に風穴が開いている。

ジャッジの厚い装甲すら軽く貫き、その背後の地面すらも貫き通してようやく消えたビームマグナムの弾丸。ジャッジが自分の胸を貫いた物体の正体がそれだと気付くまでに少し時間がかかった。

それほどまでにビームマグナムの弾丸は速く、神槍と言われてもおかしくはない貫通力。

 

「ヒッ……ヒヒヒ……ッ!」

 

少し遅れてビームの荒ぶる激流。

それはビームマグナムによる風穴をさらに大きく開き、ジャッジの胸を貫き続ける。そしてそのままビームは上に薙ぎ払われ、ジャッジの頭部を完全に消し炭にした。

 

「まだだよ、お姉ちゃん!」

「ええ、わかってるわ!」

 

ネプテューヌのバズーカに取り付けられたハンドグレネード12発、そして3連装ミサイルランチャーを発射。

大量のミサイルが胸から頭部にかけて削れたジャッジに命中し、爆散する。

すかさず使い切った2つの武器をパージ。さらにネプテューヌは2つのバズーカを両肩に担いでジャッジに狙いを定め、そこに装備されたグレネードランチャーと一緒にバズーカの引き金を引いた。

 

「細胞の1片も残しはしない……燃え尽きなさい!」

 

ネプテューヌの大火力がジャッジの体を襲う。

ジャッジは細胞を1つでも残せばそこから復活する化け物。だからこそ何もかもを消し去るつもりで攻撃しなければならない。

それにはネプテューヌの追加装備が適任だ。強力かつ大量の火器は範囲攻撃で細胞を殺し、生存を許さない。

ネプテューヌのグレネードランチャーとバズーカの弾丸が尽きた。新たな弾倉をそれぞれに装着してネプテューヌが背中に背負い直す。

 

「どう……!?」

「……まだだよ、お姉ちゃん!」

 

「ヒヒヒヒヒヒヒッ!」

 

爆炎を切り裂いてジャッジが顔を出した。

 

「ビットォッ!」

 

ジャッジの装甲がスライドし、その内部を晒す。そしてそこから光が満ち溢れ、無数の胞子となって複雑な軌道を描く。

ほぼ無限に射出されるビットが遠く離れたネプテューヌとネプギアを襲い始めた。

 

「アレは……!?」

 

光の胞子がネプテューヌ達を射程距離内に収め、ビームを放ってくる。

ネプテューヌとネプギアはバレルロールで勢いを殺さないままにビームを避けるが、ビットは突撃まで敢行してくる。

 

「突っ切るわネプギア!背中を頼んだわ!」

 

ネプギアはともかく小回りがきかないネプテューヌは長時間のビットの攻撃に耐えられない。

さらに一段階加速したネプテューヌは背中の太刀を引き抜き、ビームマグナムを収納する。

 

「お姉ちゃんを守る……!お願い、動いて!Cファンネル!」

 

ネプギアの体に装着されていた無数の刃が分離し、ネプテューヌに追随していく。

Cファンネルは敵に突進してその異常なまでの切れ味で敵を切り裂く使い方の他に、刃の腹を盾として使って攻撃を防ぐこともできる。

ネプテューヌのスピードに追いつくことは出来ないが、ネプギアのCファンネルはネプテューヌの背中を狙うビットのビームを防ぎ、そしてビットそのものを切り裂いていく。

 

「ふっ……はっ………!」

 

ネプギアの手の動きに呼応してCファンネルが美しい隊列移動をとり、ビットを撃墜する。

 

(すごい……!これが、ファンネル!)

 

自分の思い通りに動く武器。

まるでオーケストラの指揮でもするかのようにネプギアの指先1つでビットが消えていく。

 

「これなら!」

 

Cファンネルが同時にいくつものビットを破壊して爆発を起こす。その爆炎がネプギアを照らしていた。

 

「だあああっ!」

 

ネプテューヌはバレルロールで可能な限りのビームとビットをかわし、避けきれないビームを太刀で弾いていく。

後ろに流れて去っていくビーム。それがネプテューヌの頬を掠めた。

少し目を細めたネプテューヌは残った片手で腰に装備した太刀をさらに引き抜き、二刀流となってジャッジに接近する。

 

「ヒヒヒヒ、来たかァッ、女神ィィィッ!」

「アナタにプラネテューヌは焼かせはしない!絶対守ってみせる!」

「そんじゃ俺に勝てばいいだけの話だ!だから、戦え!俺と全力でなあああっ!」

「言われなくても……!ミズキが帰ってくる場所を、渡すことは出来ないの!」

 

ネプテューヌが腰に太刀を1本しまい、両手で残った太刀を握りしめた。

ブースターユニットの加速を最大に生かした突貫戦法。それがネプテューヌの狙いだった。

 

ネプテューヌの両足に装備されたハンドグレネードが全て発射された。

ジャッジはそれを避けもガードもせずに受け止め、不敵に笑い続ける。けれど、視界は爆炎と黒煙で曇ったはず!

ネプテューヌのハンドグレネードがパージされ、自重が減ったネプテューヌはさらに加速度を高める。

 

「食らい、なさいッ!」

「来いッ!」

 

ネプテューヌが太刀を腹に構え、ジャッジの胸に思いっきり突き刺す。勢いを少しも落とさずに、躊躇わずに突進したために太刀は厚い装甲を突き破り、深々と突き刺さる。

 

「こ、の!ままァァッ!」

 

ネプテューヌは胸に太刀を突き刺してもスピードを緩めず、ジャッジを押し切りながら前に進む。

ジャッジも1本の矢と化したネプテューヌを簡単に受け止めることは出来ずに後退している。

しかし、ジャッジがパルチザンを地面に突き刺して減速をかけた。

 

「ヒィヒヒヒ、最高だぜぇぇっ、お前ぇぇっ!」

「無駄よッ!」

 

それでもジャッジは自分の体を止められない。

パルチザンはガリガリと地面に溝を作るだけだったが、ジャッジは不敵な笑みをやめない。

 

「捻り潰してやる!ウォラァァッ!」

 

ジャッジの背中が裂け、瞬時にそこから2本の腕が生えてきた。

 

(これが、進化の真髄……!?)

 

ジャッジの両腕と比べても遜色のないほどに強固な腕がネプテューヌを横から潰そうとする。

神に祈るように合掌しようとするジャッジを見て瞬時にネプテューヌは握っていた太刀から手を離し、両腰の太刀を握りしめる。

 

(進化というより、適応ね……!)

 

一瞬で進化を済ませ、環境よりも状況に適した形をとる。腕が必要なら腕が、足が必要なら足が生えてくる。

それはもはや進化とは言えない。捻れ歪んだ進化は望むものを全て瞬時に与えてしまう。

しかし間違っているとはいえ、確かにその能力は脅威だ。こと戦いにおいてはその時の状況に素早く適応できることが必要とされる。

 

しかし、確信を持って言えることがある。

 

「間違ったものが、正しいものに勝てるわけない!」

 

ネプテューヌが引き抜いた太刀が両側から迫ってきたジャッジの両腕を切り落とした。

 

「正義は勝つ!私達が主人公よ!」

 

さらにパルチザンを持っていた両腕も切り裂いた。

ブレーキを失ったジャッジは体勢を崩しながらゴロゴロと地面を転がる。

 

「ヒヒヒ、おもしれえ、おもしれえヨォォッ!」

「いくら主人公と同じになったって!コピーなんて偽物でぇっ!」

 

ジャッジの両腕が瞬時に再生してネプテューヌに殴り掛かるが、ネプテューヌは2本の太刀で両手のパンチを切り裂いていなしてしまう。

だが切り落とされたマジックの両腕は地面に落ちずにふわりと浮き上がった。

そのままネプテューヌの背中を狙ったが、青い光にスパスパと細切れにされ、地面に落ちてしまう。

 

「背中を任されたんです!この程度は!」

 

ネプギアのCファンネルがジャッジの両腕を切り裂いたのだ。

そのままネプギアはジャッジの後ろに回り込み、M.P.S.Lを持って背中を狙う。

再生する3本目と4本目の腕を軽くかわし、背中を切り裂いて深い切れ込みを入れる。

しかしジャッジの肉は高速で再生する。ネプギアが切った端から肉がくっつき、まるで液体を切ったかのようにダメージがない。

 

(やっぱり、再生が早すぎる!)

 

「ヒヒヒヒ、強えなお前ら!けど、効かねえ効かねえ!俺は死なない!全てを殺し尽くすまで、死にやしねえンだッ!」

 

ジャッジの鎧が盛り上がる。全身で肌の下に何かが潜り込んだような膨らみを見たネプテューヌとネプギアはその能力で危険を察知する。

殺気。すぐに距離をとったネプテューヌとネプギアだったが、射程距離から逃れられない。

 

「オラァ!」

 

ジャッジの全身からハリネズミのようにトゲが生え、ネプテューヌとネプギアを襲う。

 

「くっ!」

「こんなのにっ!」

 

ネプテューヌとネプギアは無差別に飛んでくるトゲを切り裂いてガードする。

ジャッジとの間合いが離れてしまったネプテューヌとネプギアが近寄って顔を寄せた。

 

「やっぱり、一瞬で大ダメージを与えないと勝てないわ。切るっていうのは相性が悪い」

「でも、そんな火器は……」

「ブースターの燃料を使うわ。これをぶつけて、大爆発させる」

 

ネプテューヌの推力を補うブースターユニット。その中に入っている燃料は無論、莫大な量だ。なんとかそれを至近距離で爆発させることが出来れば、あるいは……。

 

「それじゃ、お姉ちゃんはまた近くに?」

「ええ。一瞬でもいい、足を止めてその隙にコレをぶつけてくるわ。そしたらネプギア、アナタがすぐに撃ち抜いて爆破しなさい」

「でも、それじゃお姉ちゃんが」

「大丈夫、逃げ切れるわ。それだけの速さが私にはある」

「……わかった。本当に、すぐ撃つからね!」

「ええ!今回も、背中は任せたわよネプギア!」

 

ネプテューヌの後に続いてネプギアがジャッジに向かっていく。

 

ジャッジはトゲを引っ込め、再生した腕でパルチザンを拾い上げた。

そしてパルチザンを地面に突き刺して体を固定し、背中に円盤状のユニットを展開する。

 

「面白くなってきやがった……!戦え、戦え!それが!お前らのッ!贖罪だァァッ!」

 

ジャッジの装甲がスライドして展開、発光するサイコフレームを露出する。

 

(サイコフレーム……!だとしても!)

「お姉ちゃん、カバーはするから!」

「ええ!躊躇はしないわ!」

 

ネプテューヌとネプギアは勢いを緩めずに突っ込んでいく。

しかし、ジャッジの背中の円盤状のユニットから結晶状の物体が展開し、仏の光輪のような光を放ち始めるとネプギアは怖気を覚えて立ち止まる。

 

「っ、ダメ!お姉ちゃん!」

「わかってる!何がする前に、止める!」

 

ネプテューヌも嫌な予感を感じていた。NT-Dから放たれる敵意を超える後戻りのできないような不安感。

ネプテューヌは全速力でジャッジに近付いて太刀をふりかぶる。

 

しかしネプテューヌが太刀の間合いに入り、腕を振り下ろそうとした瞬間。ネプテューヌは不可視の衝撃に吹き飛ばされた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジャッジ・ザ・ハード改 その2

「サァイコ……シャード……!」

 

ジャッジの背中の光輪が最大限の光を放った。

その光は空間を走る波となってプラネテューヌを覆い尽くす。

その波は意思の光。そして世界を改変する光でもある。

しかし、ネプテューヌとネプギアはそれに気付くことができない。凄まじく嫌な予感としか感じ取れていなかった。

 

ネプギアは躊躇して立ち止まった。ネプテューヌは止めようと先へ進んだ。

しかし、どちらも手遅れ。

ジャッジのサイコシェードは一瞬でプラネテューヌを覆い、その効果をもたらす。

 

「っ、ああっ!?」

 

ネプテューヌが見えない衝撃に叩き飛ばされた。

いや、違う。太刀がまるでジャッジに反発するように弾き飛ばされたのだ。

 

「な、なに!?」

 

太刀は暴れ馬のように動いてネプテューヌの制御を離れようとする。決して手を離さないネプテューヌだったが、気付かぬ間にもう片方の腰にさした太刀が抜かれた。

 

「なっ、あうっ!」

 

太刀がネプテューヌの腕を切りつけた。

そのダメージで太刀を手放したネプテューヌはさらにその太刀からも攻撃を受ける。

 

「な、なにっ!?なんなのっ!?」

 

太刀が襲いかかってくる。まるでジャッジに操られたように、だ。

離れるネプテューヌだったが、ブースターユニットまでもが異音を立てた。

 

「まさっ、か!?うっ、あああああっ!」

 

ブースターユニットがネプテューヌを地面にこすり付けている。

ネプテューヌのコントロールを離れ、凄まじい勢いで地面に埋めようとしてくるブースターユニットをネプテューヌはたまらずパージする。

 

「なに!?何が起こっているの!?」

 

「お、お姉ちゃんっ!?」

 

地面に倒れながらひとりでに動くブースターユニットと太刀に戦慄するネプテューヌ。

ネプギアが手を貸そうと近付いた時、ネプギアのM.P.S.Lが震え始めた。

 

「うそ……!」

 

ネプギアは引き金を引いていないにも関わらずM.P.S.Lがビームを乱射し始めた。しかもネプギアの手を離れようとあちらこちらへと動いている。

 

「な、なにが起こってるんですか!?武器が勝手に……!」

 

そしてネプギアの周りを取り囲むCファンネル。

息を飲んだネプギアがCファンネルをコントロールしようとしたが、上手くいかない。操作を受け付けてくれない。

 

「なん……でっ!?」

 

ネプギアがたまらずM.P.S.Lを手放してCファンネルから逃げる。

暴れ回るCファンネルはネプギアを追い、M.P.S.Lはネプギアにビームを乱射する。

 

「ジャッジは、一体何を……!?」

 

懸命に避けるネプギアにM.P.S.Lのビームがかすった。

 

「うっ!」

 

「ヒヒヒヒヒヒ、これが、サイコシェードだァァッ!」

「サイコシャードは……!?」

「これが俺の望む世界!闘争を望む俺の、俺のための世界だァァァァッ!」

 

簡潔にいえば、サイコシャードはイメージを具現化させる武器だ。

サイコフレームの共振によって起こるエネルギーを利用させることでサイコフィールドにも似たフィールドを展開。広大な範囲において使用者のイメージが様々な形で具現化する。

ジャッジは闘争を望む世界を望んでいた。それは、勝手に動く武器という形でこの世界に現れたのだ。

しかも動くのは純粋な武器だけではなく、武器となりうるものでさえも対象だ。

 

「ヒヒヒ……聞こえるかァッ、この声が!?無様に喘ぐ民衆たちの苦しみの声がよォッ!」

「民衆って……アナタ、まさか!?」

「そうだ!ほら、聞こえるだろう……怒号と悲鳴が!」

 

バッとネプテューヌとネプギアがプラネテューヌへ振り返る。するとじきに耳をすまさなくても聞こえてくる悲鳴。そして心の中に響き始める恐怖の声。そして間髪入れず爆炎をあげるプラネテューヌの街。

 

「プラネテューヌが……!」

「プラネテューヌでも、似たようなことが起こってるんですか!?」

「その通りだ!街には何がある……!?刃物、ガス、電気!」

 

この草原で戦っているネプテューヌ達よりもむしろ街の方が危険だ。

様々なものが街にはある。その物は武器となるものが大半だ。巨大な物体であるだけでそれは武器になるし、全ての家に走っているライフラインも暴走すれば大事故を巻き起こす。

 

「やめなさい!今すぐ!プラネテューヌのみんなは関係ないでしょう!?」

「ヒィヒッヒッヒ!これは篩だ!耐えられるヤツだけが俺と戦え!耐えられないヤツは呆気なく死ね!」

「この……やめなさいって!」

 

ネプテューヌがジャッジに突撃するが、太刀とブースターが行く手を阻む。真っ直ぐに、何も考え無しに向かってくる武器は獣以下だ。

 

「やめてください!本当に、このままじゃ誰かが死んじゃう!」

「それでいい!どうせビフロンス様が全て壊すんだ、少しくらい俺が壊してもいいだろ!?」

「命を、少しですって!?ふざけないで、よっ!」

 

ネプテューヌが武器の突進をくぐり抜けてジャッジに殴り掛かる。しかし、武器を持っていないネプテューヌは軽くジャッジに叩き飛ばされた。

 

「ああっ!」

「お姉ちゃん!」

「それ、耳をすませ!今にも消えそうな声が1つ、2つ……!」

「やめてくださいっ!ダメ、ダメですっ!」

「やめ、なさい……!今すぐに!」

 

2人が必死にジャッジを止めようと突撃を繰り返す。

しかし武器を持っていない状態では近寄ったところで何も出来ない。ジャッジに何度も弾き飛ばされるだけだ。

 

「あぅ!」

「くっ!」

 

2人は焦っていた。ジャッジのいうことは正しかった。2人の心の中にも今にも消えそうな声が聞こえていたのだ。

止めなきゃ、止めなきゃ、助けなきゃ。

必死に消えそうな命を救おうと手を伸ばす2人。

しかし素手でジャッジに立ち向かうことなどできない。

 

「っ」

 

焦るネプテューヌの後ろにブースターユニットが迫っていた。

ジャッジを倒すのに夢中になっていたネプテューヌは加速したブースターユニットを避けられずに背中への突撃をくらってしまう。

 

「うあああっ!」

「お姉ちゃ、きゃあっ!」

 

それに気を取られたネプギアの脇腹にもブースターユニットが当たる。

2人がブースターユニットから離れようと体を動かすが、遅すぎる。既にネプギアのCファンネルがブースターユニットに突撃していた。

カンッ、と軽い音を立ててCファンネルがブースターユニットを貫通する。

 

「ッーーー!」

「爆発ーーーー!」

 

そして、ブースターユニットが大爆発した。

 

「あっ、あああああっ!」

「やあああっ!」

 

ネプテューヌとネプギアが爆発に吹き飛ばされた。

既に大量の燃料を使用していたブースターユニットの爆発は2人の体を粉々にするほどの威力はなかったが、それでも2人を行動不能にさせるには十分なパワー。

吹き飛んだ2人が草原に落ち、ゴロゴロと転がりながら地面に横たわる。

 

「う……あ………」

「く、っ……そんな……!」

 

あまりの痛さに痺れたような感覚を味わっていた2人だったが、それよりもブースターユニットが爆発してしまったことにことを嘆いている。

ジャッジを倒す可能性のあった唯一の武器。それが消えてしまった。

 

 

 

ーーーその瞬間だった。

プツンと、何かが切れる音がした。

 

 

『ーーーーー』

 

 

「ァア?……そうか、最初の死人か」

 

「あ………あ………」

「ウソ……声が、消えて……!」

「ガキか、老人か……どちらにせよ、ドンくせえヤツだったってことだ!そんなヤツのことはどうでもいい……まだ戦えるだろ!?お前らはよォ!」

 

 

「なんっ………で……!」

 

 

「あン?」

 

ネプギアが震えながら声を絞り出す。その瞳には光るものがあった。

 

「無関係な、人を……!殺す意味が、ありましたか……!?」

「この世界から戦えねえ役立たずが1人消えたってだけだ」

「その人にも、誰にだって!親が、兄弟が、子供がいたはず、なのにっ……!」

「それがどうした?」

「っ……!」

 

ネプギアが歯を食いしばる。

その横ではネプテューヌが頭を抱えて首を振っていた。

 

「ウウッ……!なんっ、で……!私は、また……っ!」

「おいおい、悲しんでる暇はねえぜ!その悲しみも、怒りも、糧にして立ち向かってこい!踏み潰せ!全ては戦いによる興奮のためにあるんだぜェェッ!?」

「アナタ、は……一体、どこまで……!」

「どうだァ、女神候補生。カチンと来ただろ?カチンと来たよなァァァッ!ならこい!仇は俺だァッ!」

「許さない……!アナタだけは、絶対に……!」

 

ネプギアが限界を超えていく。

本来30%しか引き出せない力を100%に。有り得ないはずの200%に。それすら突き抜けた300%に。

まだ、まだ、まだまだまだ超えていく。

出力、1000%。

 

 

ーーーーFXバーストモード、発動。

 

 

「はああアアーーーーーッ!」

 

ネプギアの体が薄紫に輝き、空中へと舞い上がった。血走った瞳にはもう涙は見えず、目の前の敵への憎しみしかこもっていない。

 

「それだ、俺が望んでいたのはよォッ!その濁った瞳、最高だ!さあ、戦えェェッ!」

 

ジャッジのパルチザンの先にエネルギーがスパークし、それがネプギアに撃たれた。

掠っただけでも大ダメージを与えるビームマグナムの弾丸。それがネプギアに直撃した。

 

「ハッハァッ!…………あァ?」

 

ビームマグナムの弾丸はネプギアの腹部を貫いたものだと思った。普通のビームライフルとはわけが違う、圧倒的な貫通力を持つビームの槍なのだから。

しかし、結果は予想と真逆。

ネプギアはノーダメージ。ビームマグナムを霧散させ、全身に薄紫のオーラをまとっていた。ネプギアは動かずしてジャッジのビームマグナムを破ったのだ。

 

「ッ!」

 

その時、強化されたジャッジはネプギアのあまりにも強い意思を見た。

ネプギアが憎しみをその顔に、身体中に滾らせてジャッジを掴もうとする。そんなイメージがまるで現実にあるかのように感じた。

そしてそのイメージをなぞるようにしてネプギアがジャッジに向かってくる。

 

「逃がさ、なァァァァァいッ!」

「ぐっ!」

 

戦いを本能から望んでいたジャッジが恐れを感じるレベル。どんな闘争でも喜んで受け入れるジャッジがネプギアとの戦いに恐れをなしてパルチザンでガードした。

ネプギアが手刀を振ると薄紫のオーラはビームサーベルとなってパルチザンに打ち付けられる。

 

「うおおおっ!?」

「絶対に……絶対に……!許すもんかぁぁぁぁっ!」

 

さらにネプギアのもう片方の手から発振したビームサーベルがパルチザンに叩き落とされる。

するとパルチザンは真っ二つに切り裂かれてしまった。

 

「馬鹿なーーーー!」

「ーーーーー殺すッ!」

 

ネプギアの手刀がジャッジの腹にめり込んだ。さらにそこからビームサーベルを発振、ジャッジを貫く。

 

「うごっ……!」

「はあああっ!」

 

さらにビームサーベルにエネルギーが注ぎ込まれ、巨大化する。ネプギアの全身のオーラはまるでハリネズミのようにビームサーベルと化し、近付く者がなんであろうと貫いてしまう。

 

「飛べえええっ!」

 

そしてネプギアが信じられない力でジャッジの巨体を投げ飛ばした。

まるで野球の球を投げるようなスピードでジャッジが投げ飛ばされ、大地を転げ回る。

 

「っ、ペッ!なかなかだぜ、それでこそだ!」

「まぁぁだあああっ!」

「フンっ!」

 

ハリネズミのような姿のネプギアがジャッジに突っ込むが、怒りに任せた攻撃は安易に軌道を読まれ、殴り飛ばされた。

ジャッジの手もタダでは済まないが、すぐにジャッジの手は再生する。

 

「くうっ!」

「ヒィヒヒヒヒ、楽しいなあ……!楽しくてたまらねえ!やっぱり戦いはーーーッ!?」

 

その時、ジャッジが巨大な獣に噛み砕かれる。

 

「うおおおっ!?」

 

ーーーーように感じた。

 

しかしその感覚は全てがリアル。口の中の温い温度も肌にまとわりつく湿気も噛み砕かれる痛みも感じた。

反射的に振り返ったジャッジの視線の先には紫に発光するネプテューヌ。

 

「ユニコォォ………ンッ……!」

 

涙を捨て、まるで体の内側から光るように紫の光が迸る。

 

「ユニ………コォォォォンッ!」

 

地面を蹴って一瞬でジャッジの眼前に迫るネプテューヌ。

武器はない。なら、その身一つで戦う。ネプテューヌは手を握り締め、ジャッジを殴りつける。

 

「ッ、見えんだよッ!」

 

だがジャッジが巨大な手を出した。手のひらの大きさだけでネプテューヌが握りつぶせそうなほどの大きさでネプテューヌの拳を受け止める。

 

「………ヒヒッ」

 

ジャッジが小さく笑った刹那だった。

ネプテューヌの拳が少し淡く輝いたかと思うとジャッジの手から腕、腕から肩へ亀裂が走っていく。

 

「なあああっ!?」

 

バキバキと音を立ててジャッジの片腕が崩れ落ちていく。怪力があった訳では無い。なにか武器を持っていたわけでもない。

 

(なのにっ!?)

 

「ふっ!」

「チィィッ!」

 

もう片方の手でパンチするネプテューヌの手を今度は素手ではなく防御魔法で受け止める。

渾身の魔力を込めて作り出した魔法の障壁。それもネプテューヌの拳が触れた瞬間に音を立ててガラス細工のように砕け散る。

 

「バカ……なっ!」

「はあああっ!」

 

ネプテューヌが両手を手刀にしてジャッジの胸にめり込ませる。容易くジャッジの装甲を貫いたその両手は抉るようにジャッジの肉を削ぎとる。

 

「くううううっ!」

「挫けたりなんか……しないっ!」

「テメッ、エェッ!」

 

後ろからネプギアが急接近してきた。

振り返って叩きのめそうとジャッジが振り返った時にはネプギアの全身から吹き出すビームサーベルが脇腹を切り裂いている。

 

「ーーーーなんっ、だよっ!」

「だああああああっ!」

「あああああああっ!」

 

ネプギアがジャッジの体に無数の切れ込みを入れていく。ネプテューヌが殴りつけた場所は粉々になって崩れていく。それでも細胞は消えない。再生能力の方が上だ。

ーーーーーしかし。

 

(んだよっ!?なんだってんだよ!?)

 

何も出来ないままに肉体は再生した端から砕かれる。そして同時に襲いかかってくる思念はジャッジの精神を切り刻む。

 

(こんな、なにもできねえなんて……!)

 

何度も何度も、どこを砕かれようが切り刻まれようが再生する。それはもはや、死に続けるのと同じことではないだろうか。

 

(……イヤだ………!)

 

その恐怖、痛み、感覚全てが2人との争いを拒んだ。戦いの権化のようなジャッジが、である。

 

(死にたく、ねえっ……!)

 

戦いの権化たるジャッジにただ1つ、不要なものがあったとすれば。幾度の進化を重ねても排除できなかった、補えなかったものは……死の記憶。

誰も経験したことのない、体が焼け付いて消えていくあの感覚。

その意思をサイコシャードは拾ってしまった。

 

「ん……なっ!?な、なんだよ、おい!?俺の、体が……!?」

 

ジャッジの体が灰色になって朽ちていく。

どんな傷でさえも再生するはずのその肉体はあっけなく指先から消えていく。

 

「おい……おい、おいおいおいおい!どういうことだよ、これはっ!?俺は、まだ、まだ……っ!」

 

サイコシャードが拾ったジャッジの恐れ。このまま終わることない死を続けるくらいなら、いっそここで終わらせる……ネプテューヌとネプギアがそこまでの恐怖を与えたのだ。

ジャッジの体が完全に崩れ落ち、風に飛ばされていく。そこでようやくネプテューヌとネプギアも動きを止めた。

 

「殺し足りねえよォォォォォォォッ!」

 

ジャッジはサイコシャードごと完全に風に消えた。

その激戦の後には何も残らず……2人は大きな喪失感を味わうだけだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ELSブレイブ

 

「……ユニ、もう少しでブレイブが見えるわ」

「うん、わかってる」

「本当に?」

「……ホントだもん。ブレイブは死んだ……私が殺した。だから……偽物は許さない」

 

ノワールがユニの目を見る。

本当に振り切っているのか。今はその瞳に迷いがないように見えるが……いざと言う時は?

……その時はその時、か。

 

「わかった。信じるわ。作戦通り行くわよ!」

「うん、お姉ちゃん!」

 

1つ、大きな山を越えた。

すると巨大な遺跡があり、その1番高い塔にブレイブが立っていた。

体は赤黒く、それ以外の風貌は完全にブレイブと同じだ。

 

(それ……でもっ!)

 

もうブレイブはいない。私は託されたんだ。私に託したんだ。だから……生き返ることなんて、ないんだ!

 

「行くよ、お姉ちゃ……っ!?」

「ユニっ!」

 

ジャッジが剣を振るのが小さく見えた。

その瞬間にノワールがユニの前に出てGNソードIVを引き抜いた。

 

「っ、ん!」

 

ノワールがそれを構えるとそこに薄いビームの刃がぶつかる。火花を散らし、鍔迫り合う。

ブレイブの射程自在の黄金剣だ。

 

……油断していたわけじゃない。躊躇いは捨てたつもりだ。

だから、この一撃に反応が遅れたのは自分の問題ではない。ブレイブは確実に、以前の戦いよりも遥かに強くなっている!

 

(気を引き締めなきゃ……!)

 

ブレイブの攻撃の威力は絶大、まともに食らえば一撃で沈む。

 

「早々にケリをつける!吶喊するわ!」

 

ならば勝負の付き方はただ1つ。片方が無傷、そして片方は打ちのめされる。

無論、勝つのは……私達!

 

「Iフィールド、全ッ開!」

 

ユニが円形のシールドでIフィールドを展開、そのまま攻撃を恐れずに直進し始めた。

ブレイブは剣を一旦おさめて、背中のキャノン砲をユニに向かって放つ。

 

(遠距離攻撃……ブレイブが!?)

 

そのビームはとてつもない威力だが、Iフィールドの前では無力。見えない壁に阻まれ、散るばかりでユニには届かない。

 

(やっぱりアイツは……ブレイブじゃ、ないっ!)

 

そしてユニの後ろにノワールがつく。

ビームに対しての防御力が高いユニを先頭において攻撃を防ぎながら突進、そのまま2人同時に攻撃を叩き込む作戦。

と、2人は見せかけた。

 

「ユニ、あと3カウントで行くわ!」

 

2人のスピードは凄まじく、何にも邪魔されることのないために最短距離でブレイブに急行できる。

ビームが無駄と悟ったブレイブが剣による攻撃に出るタイミング、そしてユニがメガビーム砲の射程にブレイブを捉えるタイミング、それまでが3カウント。

3、2、1………!

 

「今よっ!」

「メガビーム砲……っく!」

 

メガビーム砲を構えるのと同時にジャッジが剣を振るのが見えた。

それに合わせてユニは片足をあげ、大型ビームサーベルでジャッジの剣を受け止めた。

 

「く……うっ!」

 

そのまま火花を散らしながらビームサーベル同士をこすらせるように前進。

メガビーム砲の照準はブレイブの頭部にロックオンされた。

 

「発射!」

 

ユニのメガビーム砲がブレイブの頭部目掛けて飛んでいく。

受け止める必要も無い、軽く首を曲げてかわそうとしているブレイブの後ろに緑の粒子が集まった。

 

「気付かなかった?ユニの陰に隠れて……私がワープしたのを見逃したようね」

 

砂時計を逆再生するように下半身からノワールの体ができていく。

フルセイバーはトランザムを使わなくとも量子化、ワープが可能でしかも遠距離の跳躍が可能だ。

ユニの影に隠れたノワールはユニがメガビーム砲を撃つと同時にワープ、前後からの挟み撃ちをかける。

これこそが、真の作戦の内容。

 

ノワールはGNソードVにソードビットを装着、攻撃力の高いバスターソードにして後ろから切りつける。

 

「はあああっ!」

(当たれ……っ!)

 

ノワールがブレイブが首を曲げる一瞬前に背中に深い切れ込みを入れ、そのために回避が遅れたブレイブの頭の半分がメガビーム砲で消し飛んだ。

硬直するブレイブは間違いなく致命傷を負った。もう戦えないはず。

 

「確かに手応えあったわ……どうやら、トランザムをする暇もなかったようね」

 

呆気なく終わったようではあるが……しかし、やはりこの勝負は無傷か死か、だ。

これくらいが当然でーーーー。

 

「……ま、そんなわけないわよね」

 

ブレイブの傷口がみるみるうちに塞がっていく。液体金属のような銀色の何かがブレイブから溶けだし、消し炭になった頭部すら新しい何かで置き換えていく。

 

「ビフロンスに何かやられたのなら、何も無いわけないんだからっ!」

 

ノワールが離脱すると同時にブレイブにビームが撃ち込まれる。ユニのメガビーム砲だ。

 

「ーーーー!」

「来るっ……!?」

 

それが当たる瞬間にブレイブが形を変えた。体の中央に大きく穴が開き、ビームはそこをすり抜けて地面に当たってしまう。

 

「えっ……!?」

 

そしてブレイブの背中から無数の小さなコーン状の物体が放たれた。いや、分離した、と言うべきか。

無限とも思えるほどの無尽蔵なコーン状の金属はまるでミサイルのようにノワールを追っていく。

 

「ミサイル……!?なんなのよこれは!」

「ーーーーー!」

「っ、く!」

 

ブレイブの声とも言えない叫び声にノワールが顔を歪めた。

そしてブレイブの足元から段々と地面が銀色の金属へと変わっていく。

 

「地面が……!?なによ、アレは!そもそも、生き物なのっ!?」

「く、うるさい……っ!撃ち落とす!」

 

ノワールがGNソードIVを持ち出し、そこに装着されているGNガンブレイドを両手で持った。

GNランチャーモード、そこから放たれるビームは普通のライフルとは比べ物にならないほど強力で、さらに連射もできる。

 

「落ちろ落ちろ落ちろ!」

 

ノワールがGNランチャーを乱射して手当りしだいに小型の金属のような何かを落としていく。

蒸発して消えてしまった金属は再生することはないが、それが焼け石に水と感じるほどには金属の数が多すぎる。

 

「お姉ちゃん避けてっ!」

 

ユニがノワールを追う金属の側面からミサイルポッドを発射する。

膨大な数のミサイルは大多数の金属すらも目に見えて減らせるはずだ。

ノワールの軌道をなぞるように単純に動く金属の動きは予測が容易、ユニのミサイルはしっかりと金属にぶつかった。

 

「……えっ!?」

 

しかしミサイルが爆発したのはほんの数発。

その他は金属がまるで吸収するかのように体内に飲み込んでしまう。

そしてミサイルを飲み込んだ金属は形を変え、ノワールに迫っていく。その形はユニのミサイルそのものだ。

 

「コピーされたっ!?ダメよユニ、ビームじゃなきゃ!」

「だったらっ!」

 

ユニがメガビーム砲を構え、発射した。

ノワールを掠める一歩手前、ギリギリノワールに当たらない場所にメガビーム砲が照射され、そこに突っ込んでいく金属はことごとく蒸発する。

 

「飛んで火に入る夏の虫ね!」

「今のうちに、本体を!」

 

ノワールがブレイブへと軌道を変えて迫る。

ブレイブは振り返り、その時にノワールは初めて変化したブレイブの顔を見る。

その顔は歪んでいた。それが言いようのない不気味さをノワールに感じさせる。人間だが、人間でないような……そんな違和感は大きく膨らんで恐怖へと変わる。

そしてジャッジの口が開いた。口裂け女のように頬まで口が開き、捕食の為ではなく殺傷のための棘だらけの口内を見せた。

そしてーーーーー叫ぶ。

 

「ーーーーー!」

「っ、ああっ!?」

「お姉ちゃんっ!?」

 

その叫び声を聞いた瞬間にノワールが頭を抑えて止まってしまった。

 

「あああっ、やめ……!私には、抑えきれな……!」

「っ!」

 

ユニが素早くノワールの元へと向かい、ノワールを抱き抱えて離脱する。

 

「ーーーーー!」

「ブレイブ……!」

 

ユニはブレイブの名を呼んだが……ユニ自身も最早アレはブレイブではないことをわかっていた。

認めよう、心のどこかで期待していた。生き返ってくれるのなら、今度こそ味方になってくれるかもしれなかったことを。

本当に、本当にそれがブレイブなのなら……歩み寄りたかった。

けど、アレはブレイブじゃない。

ブレイブの皮を被っていただけの何かだった。

そしてその存在は今、ブレイブという皮さえ脱ぎ捨てた。

 

「許さない……!」

 

許さない。ブレイブの皮を被り、その存在を貶めることだけは……私だけは……!

 

「ユ、ニ……」

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

「え、ええ。アナタは大丈夫だった?」

「うん。お姉ちゃんは何を……?」

「……聞こえなかったの?まるで、耳元で大勢の人に叫ばれているみたいだった……」

「……私には、ただの大きな叫び声にしか聞こえなかったけど……」

 

ノワールにだけ聞こえる声があったのか?

それはブレイブの声なのなら……いや、ならむしろユニに聞こえるはずだ。

 

「っ、ユニ後ろ!」

 

ノワールの声でユニが後ろを振り向くとまた膨大な量の金属のミサイルが迫っていた。

 

「っ」

 

ユニはノワールを投げ捨て、ウェポンコンテナからビームマシンガンを取り出した。

 

「お姉ちゃんには、近付けさせない!」

 

ユニのマシンガンの掃射が次々と金属を落としていく。しかし、その中をくぐり抜けた金属の槍がマシンガンにぶつかる。

 

「っ!」

 

そこから金属はマシンガンを飲み込んでいく。鉄の結晶のような物が飛び出し、マシンガンを飲み込んでいく。

それがユニの手に触れる直前、ユニはマシンガンを手放してメガビーム砲で撃ち落とす。

 

「ユニ、逃げなさい!アイツの狙いは私よ!」

「でも……っ!」

 

一旦マシンガンの掃射が止まってしまったために金属はさらなる勢いを増してノワールに迫る。そしてその軌道上にいるユニをも飲み込もうとしていた。

 

「撃ち落とし……きれないっ!」

「ユニ!」

「しまっ……!」

 

ついに金属の槍がユニのIフィールドジェネレーターにぶつかった。

金属はIフィールドジェネレーターをすぐに飲み込み、同化していく。

 

「離しなさいユニ!早くっ!」

「危なっ……!」

 

ユニがギリギリでIフィールドジェネレーターを手放す。

もし遅れていれば……ユニも金属に同化され、そして恐らく……死んでしまうだろう。

 

「物理攻撃が通用しないなんて……なんて敵!」

「ユニ!仕掛けるわ、合わせて!」

「お姉ちゃん、でもっ!」

 

ユニは抑えきれなくなった金属の槍から離れたが、ノワールは未だに追われ続けている。その状態から反撃が可能なのか?

 

「時間をかけても無駄よ!それに、今この時もラステイションは呑まれてる!」

 

ノワールの言葉にユニがブレイブの足元を見ると、確かに金属は地面の侵略を進めてラステイションの大地を我が者にしていた。

今はまだ街には同化が追いついていないものの、時間をかければラステイションの街へと追いついてしまう。

そうなってしまえば、ラステイションの何もかもがなくなってしまう。

 

「そんなこと……!」

「行くわよ、ユニ!トランザム!」

 

ノワールの体が赤く発光した。

そしてノワールからGNソードビットが射出され、ノワールの真後ろにワープゲートを作る。

 

「まずは地面の敵を根こそぎ焼き払う!」

 

ワープゲートに飛び込み、GNソードビットもワープゲートの中へ消える。

そして金属が届く寸前にワープゲートは消え、侵入を許さない。

ワープゲートは新たにブレイブの背後に開き、そこからソードビットを装着したGNバスターソードを持ったノワールが飛び出してくる。

 

「ーーーーーー!」

「っく、うるさいっ!トランザム……ライザァァァァッ!」

 

GNバスターソードから大地を割るほどのビームが発射された。戦略兵器レベルの威力でありながらその攻撃は砲撃ではなく斬撃。

しかし、ブレイブもその腕をノワールに伸ばすとパクリと腕が裂け、口のように開いてノワールを飲みこもうとする。

それでも攻撃をやめはせず、超巨大ビームサーベルをノワールは地面を焼くように横薙ぎに振り切り、一気に大地と同化した金属を焼き払う。

 

「やった!」

 

大地と同化した金属は完全に消えた。同時にノワールを飲み込もうとした手も地面とくっついていた足も焼かれ、ブレイブが地面に横たわる。

 

「このまま、叩き切るッ!」

 

ノワールは攻撃をやめはしない、そのままトランザムを維持してGNバスターソードとGNソードIVの特大剣二刀流でブレイブに襲いかかる。

そしてユニも片手にはメガビーム砲、もう片手にはウェポンコンテナから引っ張り出したビームライフルを持ってブレイブに狙いをつける。

 

「アナタが何者なのか!それはわからないけど、叫び声は聞こえてる!」

 

ノワールが切り抜け、回り込むように何度も斬撃を浴びせる。その合間にユニのビームが連続で撃ち浴びせられ、反撃の余地を与えない。

 

「バレてないとでも思った!?聞こえてんのよ、ビフロンス!アンタの耳障りな笑い声がッ!」

 

粒子残量、残りわずか。

後先のことは考えない、ここで全ての力を使い切り、絶対にこの敵を沈める!

 

「だから、アナタに聞こえるようにこの答えを解き放つ!見えている道の上を歩いてるだけじゃ、きっと望んだ世界は掴めない……!私とこの剣(フルセイバー)が、新たなる世界への道を切り開く!」

 

ボロボロになったブレイブが叫び声をノワールにぶつけた。ノワールは顔を一瞬しかめたが、それだけ。

 

「悪足掻きしてんじゃないのよッ!消えなさいッ!」

 

ノワールのX字の斬撃がブレイブに浴びせられた。しかし、その瞬間に粒子が尽きてノワールのトランザムは解除。空を浮くことすらできなくなり、地面に転がる。

 

「う、く……!ユニィッ!」

「任せて……!」

 

残り僅かな金属の残骸。アレを欠片も残さずに葬り去る。

私にはできる!メガビーム砲の最大出力なら!

 

「躊躇わないッ!」

 

ユニのメガビーム砲の最大出力が放たれた。

ありったけのエネルギーを詰め込んだビームはブレイブを飲み込むほどの大きさで勝負は決まったかに思えた。

しかし、ブレイブの眼前でそのビームは弾けて湾曲させられる。分裂し、弾けたビームは地面に当たって大爆発を起こす。

 

「ーーーーーー!」

「メガビーム砲が、曲がるっ!?」

 

ユニが照射をやめるとメガビーム砲を曲げた犯人がわかった。

ブレイブが開いた手の先には見覚えのある円盤状の盾、Iフィールドジェネレーター。

 

「Iフィールドジェネレーターまでコピーするなんて……!」

「ーーーーー!」

「なら、ゼロ距離で撃ち込むだけ!」

「ユニっ、やめなさい危険よ!」

「たああああっ!」

 

ユニが急加速してブレイブに接近する。ここで反撃を許されれば攻撃されるのは動くこともままならないノワールだ。だから、今仕留めるしかない。

 

「ーーーー!」

「っ」

 

ブレイブの体全体が口のように開いてユニを包み込もうとする。

反射的に後方に下がって飲み込まれるのは防いだが、さらにそこから触手のようにブレイブの手が伸びる。

 

「速いっ、あっ!?」

 

触手がユニのコンテナにへばりついた。1度触れれば逃げる術はない、瞬く間に金属が同化を始める。

 

「パージするのよ、ユニ!早くっ!」

 

咄嗟にコンテナをパージして切り離したユニだったが、コンテナにまとわりついた金属もただパージされるだけではなかった。

まだ同化を完全に果たしていないにもかかわらず落ちながらも触手を伸ばしてユニの足のブースターに触れた。

 

「しまっ、くっ!」

 

咄嗟にビームサーベルを使って切り離すが、ブースターにへばりついた金属から同化が進む。

このままでは、足に触れてしまう!

 

(やりたくはないけど……!)

 

金属がへばりついた足のブースターにメガビーム砲の照準を向ける。

出力を絞り、ブースターは壊しても足になるべくダメージがないように……!

 

「っ、ああああっ!」

 

歯を食いしばって引き金を引く。

ブースターは破壊されたが、足のダメージもやはり大きい。それでも火傷ですんだのは幸運と言うべきか。

落下していくユニは片足のブースターだけでなんとかバランスを取って空中に浮こうと苦心する。

しかし、やはり片足のブースター……それも大出力のブースターでは体勢を直すのは至難の技だ。

頭を下にして錐揉み落下していくユニは体勢を立て直すのをやめた。

 

「…………!」

 

落下、回転、自力で照準を合わせるのは不可能に近い。タイミングを合わせ、引き金を引くしか。

地面に落ちれば再び舞い上がるのは多分、無理だろう。今、この時に勝負を決める。

 

その時だった。

それは、ノワールがトランザムを使用したために高濃度のGN粒子が蔓延していたためだろうか。

または、ユニの覚悟に何かが応えたのだろうか。

もしくは、あの金属の中にブレイブの意志が少しでも残っていたのだろうか。

 

ユニは声を聞いた。

 

「まったく、世話が焼ける……おちおち寝てもいられん」

「ブレイ、ブ……!」

「諦めていないのだろう?なら、やり切って見せろ」

「わかってる……!私は、私には……!」

「そのための力は貸そう。さあ、撃て!俺を倒したのならできる、俺の紛い物などに遅れをとるな!」

 

迷いはない。躊躇いも超えた。

 

「私は託された!託された、責任がある!結んだ約束は、私が覚えている限り……!」

 

ーーーーブレイブカノン。

 

「消えはしない……守ってみせる!」

 

それは、弾丸と呼ぶにはあまりにもチャチなものだった。

最大出力のビームとは比べるのも烏滸がましい、まるでコルク栓が弾け飛んだかのようなビーム。

だが照準は正確、まっすぐブレイブに向かっていく。

 

無論、ブレイブはIフィールドを展開している。

Iフィールド……ビームを弾く電磁力の膜のようなもの。どんなビームであれ偏向してしまうこのバリアはビームに対して絶大な防御力を持つ。

だから、ユニのビームは呆気なく弾かれた。後は線香花火の火花のようなビームが落ちていくだけである。

 

しかし、ノワールだけはそのビームの本質を見抜いていた。

 

「っ、ソードビット!」

 

なけなしの粒子を振り絞ってソードビットを射出、前方にGNフィールドを展開して身を守る。

 

「まったく、安心して眠れもしない……」

「もう大丈夫よ、ブレイブ……ありがとう」

 

落ちていった火花が地面に当たった。

その瞬間、その火花がカッと輝く。

ブレイブショットの正体は圧縮されたエネルギー。限界寸前まで小さくなった破裂寸前のエネルギー。

それが地面に触れたという小さな刺激で解き放たれる。

Iフィールドはビームを決して通さない。しかし、それ以外の物体は通してしまう。

最も効くのは実弾だが、それはブレイブの体の性質上封じられたようなもの。

だが……!

 

「ーーーーー!」

 

地面に落ちた火花が大爆発を起こした!

まるで核爆弾でも落ちたかのような半球形の火のドームを作り、煙雲が湧き上がる。弾けたためにブレイブの周囲でその爆発が巻き起こり、膨大な熱量と衝撃がブレイブの体を砕いていく。

 

「っ、ああああっ!」

「これで……ううっ!」

 

だがノワールとユニもその爆風をもろに浴びてしまう。

ノワールはGNフィールドで飛んでくる物体を防御したが、ユニはそのまま吹き飛ばされて地面に落ちてしまう。

ゴロゴロと転がるユニはそのまま気絶してしまい、地面に横たわった。だが、その顔はとても満足気だ。

 

「ーー、ーーーーーー……」

 

爆炎が消え、黒焦げになったブレイブだけが残る。最後の悪あがきか、腕をノワールに伸ばしたが届きもせずに手先から灰になって砕けていく。そして風と共に消えていった。

 

「…………」

 

ノワールが立ち上がってコンテナが落ちた方向へ向かっていく。コンテナと同化を続ける金属をノワールはGNガンブレイドで撃ち抜いた。

 

「ミッション、コンプリート……ようやく、終わったのね……」

 

はあ、と息を吐いてノワールが尻餅をつく。

ブレイブになりすました金属……ELSは2人の手によって完全消滅した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鉄壁のトリック

ゲイムギョウ界の北も北、アイシクルホール。まるで冷凍庫の中のように冷えきったそこは壁も天井も中に入っている物資も完全に凍りきってしまっている。

そこにトリックがいることを知っていたブラン、ロム、ラムの3人は安易にそこへ突っ込むことはせず、アイシクルホールの上空にいた。

 

「何もあんな変態と顔を合わせることはないわ!倒せるなら、戦わずに倒すのが賢いんだからね!」

「いいのかなあ……?」

「速攻で倒せるならそれがいいに決まってる。そしたらミズキも助けに行けるんだ」

 

ブランが羽を散らしながらツインバスターライフルを構える。

ゼロシステムがデータを元に正確に照準を定めた。

 

「離れてろ。巻き添え食うぞ」

「やっちゃえお姉ちゃん!」

「頑張ってね……!」

 

ロムとラムは離れた場所からブランを応援する。

ブランは最大出力に引き上げたツインバスターライフルの引き金を引いた。

 

「消えろ……っ!」

 

ブランのツインバスターライフルがまるで稲妻のように放たれ、アイシクルホールの天井をいとも容易くブチ抜いた。

膨大な熱量は戦略兵器レベル、それほどの威力を持ってトリックに降り注いだはずだ。

 

「………終わりだな」

「やったわ!」

「………だめ!」

 

ロムがラムをドンと突き飛ばす。

するとラムがいた場所を極太のビームが掠めていった。

 

「………!」

「野郎ッ!」

 

ブランがすぐにビームの発射源を視認する。

そこにいたのは無傷のトリックだった。

 

「ア、ア、アヒヒヒヒヒヒッ!」

「な、なによ……無傷ってこと!?」

「怖い……笑い方が、ビフロンスと同じに……」

(確かにビームは命中したはずだ……何らかの手段で防いだか、あるいは……)

 

まともに受けてノーダメージなのか。その可能性だけは考えたくなかった。しかしゼロが導き出す可能性の中にはトリックが圧倒的な防御力を持っている可能性も示唆されている。

 

するとトリックがゴロンと寝転がって腹を上空のブラン達に向けた。

そして両手も太陽にかざすように上にあげる。

 

「なによ、ふざけてんの!?」

「……違う、来るよ……!」

 

背中から肩に2つの砲が担がれる。さらに両手に巨大なライフル。そして胸がパカッと開いてさらに砲口が向けられる。

 

「アレは、私達の!」

 

ツインサテライトキャノン、ツインバスターライフル、トリプルメガソニック砲。

さらにロムとラムの間を細く白いビームが通り過ぎていく。

 

「月が……力を……!?」

 

エネルギー、充填完了。

ゼロシステムが警鐘を鳴らし、ロムとラムは溢れる魔力を感じて冷や汗をかく。

 

「避けろォォォッ!」

 

ブランの声で蜘蛛の子を散らすように3人が散開する。

その瞬間、トリック版フルバーストが発射された。

 

「くううううっ!」

 

その熱が巻き起こす暴風だけで体が持っていかれそうになる。しかし、一旦その暴風に巻き込まれればビームの中に自ら突撃することになる。それだけは、できない。

 

永遠にも思われる照射が終わるとトリックの体が熱を排出して蒸気を放つ。

距離があったために無傷で済んだブラン達だが、トリックの火力に戦慄している。

 

これが空中に向けられて撃たれたもので心底良かった。もし、地上に向かって撃たれていたのなら……国を横断してしまうほどの威力だ。

 

「ゼロ……私はどうすればいい?」

 

ゼロが未来を導き出そうとする。

するとブランの耳に警告が走った。

 

 

『2射目が来るぞ』

 

 

「ーーーーー!」

 

ブランが駆けた。

 

「お姉ちゃん……!?」

 

真っ直ぐトリックに向かっていくブランの後ろから新たな魔力のビームがやってくる。アレがトリックに触れるような事があれば……!

 

「させない!」

「私達の力、奪わせない……!」

 

ロムとラムがそのビームを受け止めた。

ロムとラムの体が魔力を吸収し、氷属性の魔法に変えていく。

しかし、これだけではツインサテライトキャノンを封じただけに過ぎない。

 

「撃たせねえ……!その武器はお前みたいなヤツが使っていいモンじゃねえ!」

 

ブランが羽をはためかせ、さらに一弾加速した。

ビーム発射までの再チャージの時間よりも早く、ブランがトリックに天賦の一撃を叩き込む。

 

「ゲッターラヴィーネェッ!」

 

ブランが持つ巨大斧がトリックのトリプルメガソニック砲にめり込む。

その衝撃はトリックを突き抜け、工場の溶けた大地にクレーターを作り出すほどの威力だ。

 

「………ぐ、く!」

「アヒ、アヒ、アヒヒヒ……!」

「テメェ……!」

「アヒヒヒヒヒヒ!素晴らしい!ああ素晴らしい!まるで天使のような羽とスレンダーな体から放たれる一撃が信じられないほどに重く感じる!その細い腕でどうやってそんな力が出ているのか疑問だ!教えてくれ!そもそもその美しさからだ!何故こんなにも美しい!ここまで人を美しいと思うことがあるのか!?女神だからか!?違う、なんだコレはコレはコレは、この認識が狂っているとしか思えないほどに魅力的に思える原因はーーーー!」

 

べロリとトリックが唇を舐めた。

 

「ーーーー愛だ!」

 

トリックのトリプルメガソニック砲が発射される。その瞬間にブランはトリックの腹から飛び退いて強力なビームを避ける。

 

「っ、ロム、ラム!」

「お姉ちゃん、そこどいて……!」

「これが本家よ!サテライトキャノン、発射!」

 

ロムとラムのアイシクルサテライトキャノンがトリプルメガソニック砲を受け止めた。

だが、押し切れない。

圧倒的な魔力を込めた2人のサテライトキャノンでも……!

 

「う、く、そんな……!」

「え、え、ええええいっ!」

 

互角。

サテライトキャノンとトリプルメガソニック砲はお互いに打ち消し合ってしまった。

だが互角なのはビームの威力だけ。

 

「はあっ、はあっ……!」

「う、そ……」

「アヒ、アヒヒヒヒ……!」

 

消耗の違いを見ればトリックの方が有利なのは一目瞭然だ。

ゲッターラヴィーネでも傷一つ付かない防御力と、膨大な火力。

コレを倒すには……!

 

「ドライツバークしかねえ……!」

「アヒヒヒ、愛だ、愛!そうだ、俺は愛しているぞオォォッ!」

 

トリックの舌が伸び、ブランめがけて襲いかかってくる。ブランはそれを斧で弾き飛ばした。

 

「……チッ!」

 

不快感に舌打ちする。

 

「何故拒む……?受け入れろよ、愛してやるからさああああっ!」

「ほざくんじゃねえっ!」

 

ブランとトリックが舌と斧で打ち合う。

 

「お姉ちゃん……!」

「行こう、ロムちゃん!」

 

ロムとラムも寝転がったままのトリックに突撃していく。

魔力を消耗した2人は背負った新武装を手に取った。

 

「こういうときこそ!」

「メッサーツバーク……」

 

単体でもバスターライフルの通常射撃と同じ威力があるメッサーツバークをトリックめがけて撃ち込む。

だがビームは確かにぶつかったはずなのに無傷だ。

 

「なんて硬い……!」

「お姉ちゃんを、サポートする……!」

 

無駄だと悟った2人はブランの元へ向かい、サポートを試みる。2人にもトリックに攻撃を与えるにはドライツバークバスターの最大出力しかないと考えていたのだ。

だがそんな2人の目の前に2枚の舌が飛んでくる。

 

「っ、え!?」

 

ブランのところに舌が行っているはずだ。だが、目の前にベトベトにうねる舌はさらに2枚。

 

「二枚舌って知ってるか?アヒヒ……俺の舌は三枚舌だ!」

 

舌がしなった。

 

「ラムちゃ……!」

 

それを見たロムが咄嗟にラムをかばって防御魔法を展開、そこに鞭のようにしなる舌がぶつかる。

 

「きゃあああっ!」

 

防御魔法ごと吹き飛ばされたロムがコンテナにぶつかって突き抜ける。

 

「ロムちゃんっ!」

 

さらに向かってくる舌をラムはロムから離れながら避ける。

ロムに追撃はさせられない、自分が気を引くためだ。

 

「腕はダメでも、舌なら!」

 

杖の先を尖らせたハンマーが舌をボロボロにしながら吹き飛ばす。すぐに再生するが、壊れないよりマシだ。一瞬でも隙ができている。

 

(そうか、体の中からなら……!)

 

あの大口を開いているトリックの体内に攻撃できれば、多少のダメージがあるはず……!

 

「なら、あっ!?」

 

口の中を攻撃しようとしたラムの背中に鈍い衝撃が伝わった。

 

「な……に……っ!?」

 

背中から巨大な爪で握られている。だが、体はトリックの方を向いているのに、何が背中を掴んだのかラムには理解できない。

その視線の端にトリックの手が見えた。

 

「手が、伸び、て……!」

 

トリックの手が伸びている。ギリギリと万力のようにラムの手を握りしめるトリックの手からラムは自力で逃げることが出来ない。

 

「アヒ、アヒヒヒッ!」

「あっ、うううっ!」

 

地面に叩きつけられ、そのまま投げ飛ばされた。ラムもコンテナを突き抜けて氷の煙の中に消えてしまう。

 

「ロムっ、ラムっ!」

 

攻撃が通じていない。やはり、ゼロシステムを発動しているのか。

ゼロと戦えるのはゼロだけ。だが、ブランとトリックではスペックが違いすぎる!

 

「チッ、クソ、があっ!」

 

3枚舌の攻撃、さらに伸びる腕2本の攻撃にブランは次第に追い詰められていく。

 

(なんとかして2人からメッサーツバークを受け取らなきゃならねえのに……!)

 

伸びてくる舌を翼で防ぐ。貫通はしなかったが羽が舞い散り、吹き飛ばされる。

 

「んがっ……!」

 

滑りながら着地し、コンテナの迷路の中に姿を消す。

ゼロが予想する行動範囲内にトリックは次々と舌と手を打ち込んでくる。

 

「逃げなくていいんだヨ!?愛っていうのは良いモノなんダァッ!」

 

コンテナの間をブランがすり抜けていくのが見える。

ゼロが予測する全ての範囲に無差別に攻撃を繰り返すトリックの攻撃に捕まってしまうのは時間の問題だった。

 

「っ、ン……!」

 

毒づく暇もない。

コンテナは次々と破壊され、穴が開く。

そしてブランがコンテナを出た瞬間と舌がそこを射抜く瞬間が遂に一致した。

 

「………!」

「そこだネェェッ!」

 

ブランの頭にモロに舌が入った。

 

その瞬間、ブランの体はまるでガラスを割ったように砕け散る。

 

「アヒ?」

 

 

「忍法……分身の術……!」

 

 

ボロボロになったロムとラムが魔法を唱えている。

そしてその前にはメッサーツバークを合体させてドライツバークにしたブランが立ちはだかっている。

 

「ど、どうよ……!私達の、頭脳プレー!」

「以心伝心……!信じる力までは、どんなシステムでもわからない……!」

 

高純度の氷の壁。

それがまるで鏡のように機能し、反対側を動くブランの動きを映し出したのだ。

 

「アヒヒヒヒヒヒ、逃げるなよぉぉっ!愛してる!愛しているから、殺してやる!優しく、綺麗に!」

「アンタの告白なんか聞く気にならないわよ!もうアンタを倒す手立てだって立ててるんだから!」

「丈夫ってことは、痛みに鈍感ってこと……!とっくに床は氷漬け!」

 

気がつけばトリックの背中がついている地面はカチカチに凍りついている。もともと凍ってはいたが、完全に凍りついた地面はまるでスケートリンクのようだ。

 

「テメェがなんで背中を地にして戦ってたのか……!単に大地を背にして反動を抑える為でも、上にいる私達を狙っていたからってわけでもねェッ!」

 

ブランが片手で斧を持ってトリックに向かう。飛んでくる5本の変幻自在の槍を斧で受けるとそれらは後ろへ滑り飛んでいく。

斧まで氷漬けだ。

 

「オオォォ……ラァァァァッ!」

 

ブランが横から斧で殴りつける!

するとツルツルの床はトリックの体を支えることはなく、トリックは横に回転しながら滑り飛んでしまう。

 

「今度こそ……私達の意思で!」

「力を貸して……みんな……!」

 

月からの光線が2人に降り注ぎ、ツインサテライトキャノンの発射準備が整う。

そして2人が魔法を唱えるとトリックが滑っていく先にジャンプ台のような氷の彫刻ができる。

 

「と、止まらねえええっ!?」

 

そしてそのジャンプ台に乗って遥か上空まで投げられる。

そこにブランのドライツバークバスターライフルとロムとラムのツインサテライトキャノンの照準が合う。

 

「テメェが背中を地面につけてたのは!その増えすぎたビーム砲の排熱機構を備えた背中が脆弱だからじゃねえのかッ!?」

 

ツインサテライトキャノン、トリプルメガソニック砲、ツインバスターライフル、これだけの火器を搭載して生まれる熱量は想像を絶する。だからそれだけの火力と引換に巨大な排熱機構が必要になる。

 

露わになった背中は確かに、大量の排熱機構があって脆弱だった。

 

「ツインアイシクル……!」

「サテライトキャノン!」

「ドライツバークバスターライフル……!」

 

「アヒーーー」

 

 

『発射ァッ!』

 

 

トリックが光に飲まれた。

全ての魔力が注ぎ込まれたビームはトリックを飲み込み、さらに進み、宇宙へと飛び出す。

比喩ではなく、星ですら穴を開けられるビームはトリックを絶対零度と圧倒的熱量が交差する空間へと閉じ込める。

そこで一体何が生き残れるか?何が形を成していられるのか?

天変地異に等しいビームはついに照射をやめ、後に残るのは膝をついたブランとロムとラムのみ。

 

「全部……注ぎ込んだわよ……」

「もう、立たないで……!」

 

べしゃっとボロ布のようになったトリックが落ちてくる。

 

「まだ……形があるのかよ……!」

 

そこで溶け落ちたトリックの表面の装甲の中身が見えた。銀色に光る、鉄。それがトリックの体の正体だった。

 

「ロボット……?」

「……そもそも、復活なんかしてなかったってことよ」

 

結局は、紛い物。よく似せた偽物。それに過ぎなかった。

 

「……………」

 

カリッ、という音が響いた。

その音に3人は凍りついたように固まる。

ウソであって欲しい。だが、ゼロが告げる。

 

ーーーーー来るぞ!

 

 

「ア、ヒ、アヒヒヒヒ、アヒヒヒヒヒヒヒッ!アアアアアヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」

 

 

「そ、んな……!」

「アレだけのビームをぶつけたのに……!」

「も、もう……戦うだけの力が残ってねえ……っ!」

 

バチバチと紫電を散らし、関節は歪な音を立て、ポロポロとネジが外れていく、それでもトリックは動いていた。

全砲台は壊れていた。排熱機構も機能していない。

しかし、体内に残ったビーム砲がまだ1基残っていた。

口を大きく開いたトリックの喉から涎に濡れたサテライトキャノンが顔を覗かせる。

月からの魔力供給がなくとも、トリックはサテライトキャノンを発射していた。今回も例に漏れずトリックは自力でサテライトキャノンに必要なエネルギーを供給しきってしまう。

 

「サテ、ライト……キャノン……」

 

トリックの声が掠れている。機械音声であることを隠せもしない。僅かなトリックとしての意識が残っただけの機械。

 

「アヒ……俺は……アイして……!」

 

砲口が光り、無慈悲に引き金が引かれる。3人は射程の中。誰1人逃げられない。

 

 

「ーーーーーアイ!」

 

 

エネルギーが解き放たれた。

真っ白なビームは一瞬でブランの眼前に迫る。

消えるーーーーー?

 

「お姉ちゃん!」

「お姉ちゃん……っ!」

 

3人が光の中に消えた。しかし、トリックの攻撃は終わらない。体内で熱が暴走し、弾けようともやめない。

トリックはそれが愛だと本気で信じているから。

 

トリックの装甲が弾け飛んでいく。フレームすらも弾け、ゴトリと片手が外れた。それでもエネルギーが尽きるまで撃ち続ける。ゼロが十分だと言ってもやめない。

トリックはゼロに抗っていたのだ。その歪んだ愛で。

 

「アヒィッ……アヒククヒヒヒ!」

 

魔力が尽きた。

ノイズが混ざる声で高笑いするトリック。限界まで酷使したサテライトキャノンは自らの熱で壊れてしまった。

 

「コレで……ようやく、殺してやれ……殺して……」

 

トリックが灰も残らない原子になった3人を確認して、目を開く。

 

ーーーーーー殺せて、ない?

 

「………っ、く!」

「大したこと、なかった……っ!」

 

目の前には2重の巨大な魔法陣。それがサテライトキャノンを防いだことはわかった。

だが、何故?2人は間違いなく魔力を使い切ったはず、ゼロもそう言っていた。

予想外の事態にトリックの瞳が揺れている。

 

「……結局テメェの愛は愛なんかじゃねえ……!」

 

力を使い果たして今度こそ倒れるロムとラムの後ろでブランが何かを握りしめていた。

……ミナから貰ったお守り。魔力が注ぎ込まれていると言われていたそのお守りの魔力の量、規格外だった。

あんな平然な顔で渡してくれたが、きっと倒れる寸前まで魔力を込めていたはずだ。

そうだ、それが……愛だ。

 

「そんな、独りよがりなモノが愛なわけがねえんだ!」

 

ドライツバークバスターライフルを構えた。

もうトリックの体はブラン達に撃ち込まれたビームと自らが発射したビームの反動で崩壊寸前だ。もう手も舌も機能していない。

 

「なァァンでだっ!?愛しているからこそ、殺す!俺は幼女が好きだ!だから幼女を殺す!だってそうだろ⁉︎殺したらソイツのこと、1秒たりとも忘れやしないんだから!ずぅぅぅぅっと、俺の中にいるんだからさぁぁぁっ!」

 

叫ぶトリックに構いはしない、その引き金に指をかけた。

 

「テメエはただのヘンタイだッ!手を広げてもねえ女に抱きつき!手を広げた女を殴り殺すドヘンタイだッ!少なくとも私は!手を広げてくれる男に、優しく包まれてえと思ってる!」

「俺は!愛してくれるそいつを殺したいほど愛したい!」

「その歪んだ愛を、私が拒んでやる!誰もテメエを受け入れねえ!愛しやしねえ!私は……お前を殺す!

 

引き金を引いた。

再び放たれる超弩級のビームはトリックを飲み込む。

 

「なんでェェッーーーーー!」

 

トリックは今度こそ消えてしまった。

ガクリと膝をついて倒れ込んでしまうブランの隣には気絶したロムとラム。既に変身は解けていた。

ブランも変身を保つことが出来ず、光とともに変身が解けた。

 

「ごめん、ミズキ……助けに行けそうに、ない……」

 

氷のベッドは冷たくて固くて最悪の寝心地だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マジック・ザ・ハード2nd

 

「………もうすぐか」

「あ、あの〜……」

 

夜のリーンボックスでマジックが閉じていた目を開いた。

その隣にリンダが恐る恐る近付く。

 

「や、やっぱりやめましょうよ……こんなの今どき流行りませんって、ね?」

「私の意思は揺るがない。女神が私を止められなければ……皆殺しにするまでだ」

「皆っ……」

「構わんだろう。ビフロンス様が復活すればどうせ私達も殺されるのだ」

「そ、そんな!?なんで!?アタイは味方ッスよ!?て、てか、ビフロンスって……そ、それが犯罪神様の名前!?」

「ビフロンス様は犯罪神ではない。犯罪神は既に滅んだ。お前も知っているのではないか?……ヒヒッ」

「………!」

 

マジックの笑い声にリンダが背筋を凍らせた。

いつもの笑い声じゃない。不敵に、だが美しく笑うマジックの物とは似ても似つかない。

 

(誰だ……!?誰なんだ、この人……!?)

「お前も……そして無知な愚民共も、誰一人気付いてはいない。世界が本当は、裏表真逆になっていたことをな」

 

 

ヒヒヒヒ、と低く笑うマジックからリンダが後ずさっていく。

 

「どうした、何故逃げる?我が優秀な部下、リンダよ」

「う、う、うるせえっ!だ、誰なんだよお前っ!」

「私はマジック。マジック・ザ・ハードだ。ヒヒヒ、どこからどう見てもそうだろう?」

「ち、違うっ!マジック様なんかじゃねえっ!本物のマジック様を何処にやった!?」

「……ヒヒッ」

 

少しずつ迫るマジックと同じだけリンダが後ろへジリジリと下がる。しかし、足元の石につまずいて尻餅をついてしまった。

 

「あっ、う、あ……!」

「大丈夫か?私が立たせてやろう」

 

マジックがしゃがみこんでリンダの顔へと手を伸ばす。視界がマジックの手で塞がれ、その指がこめかみに触れる。目を開ききったリンダが叫び声をあげる寸前、マジックの手が弾かれた。

 

「離れるっチュ!」

「………ほう?」

「ね、ネズミ……!」

 

フードを被ったワレチューがリンダの横に立っていた。

マジックは弾かれた手を抑えてゆっくりと立ち上がり、ワレチューを高くから見下ろす。

 

「生き延びていたか……ドブネズミ風情が」

「ビフロンスの作戦に巻き込まれて死ぬなんて、願い下げだっチュ!」

「まあ……生きていようが死んでいようが別に構わん。ネズミ如きの死、誰も絶望はしまい」

 

鎌を抜いたマジックが手先だけでクルクルと舞うように鎌を回す。

 

「ネズミっ」

「お待ちなさい」

 

マジックの後ろに音もなくベールが立っていた。

槍の穂先をマジックの首に触れさせ、1歩でも動けば即槍が首を貫くようになっている。

 

「……今のうちに逃げるっチュよ!」

「あ、おい、引っ張るな!何が何だか、説明しろよっ!」

「後でするっチュ!」

 

ワレチューがその隙にリンダを引っ張ってマジックから離れていく。リンダが元のマジックの残滓を求めるように振り返ったが、微笑するマジックにもう昔の面影がないことを再確認すると涙を散らしながら振り返って駆けていく。

 

「仲間割れ、みたいですわね」

「ヒッ、惜しいヤツを失ったよ。いや、心底そう思っている。私になんの非があったのかーーー」

 

ピクリと鎌を持った手が動いたのをベールは見逃さなかった。

 

「動くな、と言ったはずですわ!」

「ぐっ!」

 

手に力を込めて槍をマジックの首に突き刺した。

貫通した槍を引き抜くとマジックの首の穴から向こう側が見える。血が吹き出すことはなく、だが確実に致命傷だ。助かる手段はない。

しかし、マジックは倒れるどころかそのまま振り返った。

 

「………!?」

「我が体は既に死を迎えた。今ここで動いているのは与えられた僅かに残された時間を謳歌しているからだ。我ら四天王はその身が活動不能になるまで自然の摂理を逆行する禁忌を犯す……」

「わかるように言ってくれると嬉しいですわね」

「つまりはゾンビだ。復活した四天王の中に首を貫かれた程度で死に至る者は1人もいない。私を倒したいのなら……」

 

マジックが地面を蹴る。それと同時にベールも槍を前に突き出した。

 

「肉体を消し去るつもりでやらねばなッ!」

「ッ……!」

 

マジックの鎌がベールの腕の皮膚を切り裂いて鮮血を散らさせる。だが、切れたのは皮1枚。大したダメージではない。

ベールの槍はマジックの心の臓を貫通していた。だが、やはり血は吹き出す気配もなく倒れる気配もない。

 

(厄介な相手ですわね……!)

「さあ来い!共に絶望の谷底に落ちることを、拒むのならば!」

「アナタなんかと一緒に落ちるなんて、ごめんですわよ!」

 

ベールがマジックを蹴飛ばしてその勢いで空へ舞い上がる。その過程でベールのプロセッサユニットからドラグーンが全基射出された。

 

「食らいなさい!逃げ場なんてありませんわよ!」

 

ドラグーンが地上のマジックに狙いを定め、さらにベールの周りに緑色の魔法陣が何個も召喚される。

 

一斉射撃(フルバースト)!」

 

シレッドスピアーとドラグーンによる範囲攻撃がマジックに向かって放たれた。

 

「……ヒヒッ」

 

だがマジックはそれでも不気味に笑う。

片手を開いてビームの雨にかざすとそこの空間が歪む。

 

「ゲシュマイディッヒパンツァー」

 

クンッ、とその空間に入ったビームの軌道が変化する。

磁場によってビームを偏向させる対ビーム技術。ドラグーンによるビームも偏向され、遥か彼方にすっ飛んでいく。

 

(ビームが……!?でも、シレッドスピアーは!)

「VPS装甲起動」

 

マジックの薄いピンクだった皮膚の色がみるみるうちに変わっていく。足元、手先から赤黒く染まっていき、全身を覆った後にその目までもが赤黒くなる。

そして開いた手に触れたシレッドスピアーは傷一つ付けられずに受け止められた。

 

「………!」

「ビームは曲がる……物理攻撃は通用しない。これがビフロンス様に授かった新たな力」

「くっ……!」

 

シレッドスピアーが消え、ドラグーンを収納する。

するとマジックは鎌を持って飛び上がった。

 

「まだまだあるぞ?お披露目と行こう」

「っ、ああっ!」

 

一瞬でベールの目の前に追いついたマジックがベールを回し蹴りで蹴飛ばす。その脛にはビームサーベルが展開している。

 

(槍で受けていなければ、胴が繋がっていたかわかりませんわ……!)

「ファトゥム」

 

マジックがバク転すると共にマジックのプロセッサユニットが分離して吹き飛ばされたベールへと向かっていく。

羽にビームサーベルを展開して凄まじい速度で迫ってくるプロセッサユニット改めファトゥムに当たれば脛のビームサーベルと同様、やはり命はない。

 

「この程度!」

 

しかしベールはファトゥムがぶつかる寸前にファトゥムの上面に手を付き、そのまま宙返りしてすれ違う。

 

「ここから!シレッドスピアー!」

 

ファトゥムがマジックに装着されていない今、マジックの機動力は大幅に低下しているはず。

ファトゥムが帰ってくる前に勝負を決めるつもりでベールはマジックの周りに多数の魔法陣を展開する。

 

「無敵の装甲と言えども、何度も攻撃を加えれば!」

「まずは当てることから始めるといい」

 

マジックはしかし、アクロバットでもするかのように射出されるシレッドスピアーを逆手に取ってサーカスのように避ける。

 

「減らず口を!」

「ドラグーン」

 

ベールが後方に目をやるとそこには幾つもの三角錐状のドラグーンがあった。

 

「ッ!」

 

横に避けるとそこからベールがいた場所にビームの束が通っていく。その軌道はマジックに重なっていたが、マジックは磁場でビームを偏向する。

 

「プロセッサユニットから射出を……!?」

「ビームスパイク」

「数が多くても!」

 

離れながらベールもドラグーンを射出、マジックのドラグーンの撃墜指令を出す。

機動力はベールの方が上だがマジックのドラグーンには1基に多数の砲口がある。それは拡散するようにしてドラグーンとベールを追い詰める。

 

「この、程度!」

 

しかしベールも正確無比な射撃でドラグーンを落としていく。ビームサーベルを展開して襲いかかるドラグーンには両手の槍を突き刺した。

 

「光の翼」

(っ、来る……!)

 

しかし、ファトゥムがマジックの背に戻っていた。展開した翼の間から光子の翼膜が現れ、マジックの周りにミラージュコロイドを撒き散らす。

 

「ここからだ」

「私も……ここからが本番!」

 

マジックとベールの何かが同時に割れた。

それはリミッターのようなものだ。新たな人類の進化を予兆する力が2人に芽生え、同時に目のハイライトが消える。

 

「………!」

「その首、切り落とす……!」

 

マジックが分身を繰り返しながらジグザグの軌道でベールに向かう。ベールはそれを二槍流で迎え撃つ。

 

「ふんっ、はっ!」

 

連続で切ってくる鎌を槍で打ち返す。

 

「手数が違う!」

「速さが違いますわッ!」

 

マジックは鎌と両足の3本、ベールは手持ちの槍2本で互角の攻防を繰り広げる。

マジックのダンスのような足での攻撃を凌ぎながらベールも槍で反撃し、マジックの髪を穿った。

 

(これなら……!)

「甘いな」

 

いける、そう思ったベールの思考はいとも容易く打ち砕かれた。

両足の攻撃を弾き、鎌での一撃を槍で受け止める。

 

「4本目だ」

 

だがマジックには残された最後の武装、パルマフィオキーナがあった。

 

「……っ!」

「砕けろ」

 

咄嗟にベールは体を動かして避けようとするが間に合わない。顔への攻撃はかわしたがそのままマジックの手はベールの右肩を掴む。

 

「撃ち込む!」

「っ、ああああああっ!」

 

ベールが悲鳴をあげて地面へと落下していく。

容赦せずに光の翼を展開して追うマジックを何とか体勢を立て直して迎え撃つベールだが、これは決定的だ。右肩が砕かれた、腕が使えないわけではないが使う度に激痛が走る。こんなもの、使えないのと同じこと。

 

「ヒヒッ、ヒーーヒヒヒヒッ!」

「こ、の……!」

 

大地を蹴ってさらに速く後方に下がりながらドラグーンを展開。

ガムシャラでもいい、マジックの攻撃を抑えるためにドラグーンを乱射する。

 

「ゲシュマイディッヒパンツァー!」

 

だがマジックが手を広げるとマジックの前面に磁場が出来てビームは曲げられてしまう。ドラグーンは無意味だ。

 

(凌ぎきれない……!)

「貴様も絶望の坩堝に落ちろォッ!」

「そうは……なりませんわッ!」

 

ベールがバク転した。するとベールの後ろの魔法陣が顕になり、不意打ちとシレッドスピアーが飛んでくる。

 

「っ」

 

鎌が届くか届かない位置にまで接近していたマジックはそれを避けられずにもろに直撃を食らう。

ダメージはゼロだが後ろに吹き飛ばされて地面に滑るように着地する。

 

「はあっ、はあっ……!」

「……ほう……だが次は凌ぎきれるか!」

「っ……!」

 

 

 

「待ちなさーーーーい!」

 

 

 

「この声は……!」

「……ふん」

 

胸を抑えたチカがここまで走ってきていた。息を切らして呼吸を整えている。

 

「チカ、下がりなさい!ここは危険ですわ!」

「いえ、お姉様!アタクシもお姉様を助けますわ!」

「………」

 

無言でマジックがチカを睨みつける。それに少し怯んだチカだったがすぐに睨み返して腕を組んで笑う。

 

「ふん、余裕ぶっこいていられるのも今のうちよ!最強のお姉様にアタクシの愛情が加われば怖いもの無しなんだから!」

「戯言を言いに来たのなら帰れ。女神の相手が終わった後で可愛がってやる」

「オーケー、なら特別に見せてあげるわ!アタクシの!アタクシによる!お姉様のための新武装!その名もミーティア!リフトオフ!」

 

チカの号令と共に夜空の向こうに警告灯を点灯した巨大な物体が現れた。

轟音を鳴らしながら近付くそれはまるで艦のような大きさ。全長9.9m、超弩級の大きさを持つ追加プロセッサユニットだ。

 

「完成……したんですわね……」

「ふん、私がみすみす装備させるとでも?」

 

マジックが光の翼の機動力でミーティアへと向かっていく。

 

「っ、お待ちなさい!」

 

ベールが後から追いかけるがマジックの機動力には敵わない。ドラグーンの射撃も簡単にかわされてしまう。

 

「こんなデカブツ!」

「すぅっ………」

 

マジックの鎌がミーティアに届く寸前にマイクによる息を吸う音が響く。マジックはその音に気付いたが構わず攻撃を繰り出す。それが仇となった。

 

 

 

「ボクの歌を聞けぇぇぇぇーーーーーーっ!」

 

 

 

「っ、なっ!?う、うおおおおっ!?」

 

国中に響いたかと思うほどの大きな声が響いたかと思うとマジックに電撃がぶつけられた。いや、マジックの周りに電撃の球が出来ている。

それは声の主……5pb.がギターを掻き鳴らせば掻き鳴らすほど大きくなり、マジックを決して逃がさない。

 

「プラズマレンジ!」

 

5pb.がそう叫ぶのと同時にマジックは電撃に吹き飛ばされ、ミーティアから大幅に離される。

 

「アレは……5pb.ちゃん!?」

「今だよ、装着を!」

「お姉様!」

「わかりましたわ!ドッキング……!」

 

ベールが背を向け、ミーティアと相対速度を合わせる。そのままプロセッサユニットを合体に適した状態にしてベールの背とミーティアが触れた。

ミーティアがベールの脇腹を固定してベールは両手で長く伸びたアームを握る。

 

「これが……ミーティア……」

「チッ、この……!小娘がァッ!」

 

ビームは当たらず、実弾は弾かれてしまう無敵のマジックにも攻撃が通っていた。

電撃。体の内部まで焼くような攻撃は装甲をすり抜けてダメージを与えたのだ。

 

「お姉様!ミーティアのビームソードなら、たとえPS装甲をまとっていても!」

「5pb.ちゃんに……近寄らせませんわ!」

 

ミーティアがブースターを唸らせて加速した。

まさに流星の如く凄まじい速度で動くミーティアはマジックのスピードすら超えてあっという間に追いついた。

 

「ッ」

「これ、でっ!」

 

アームから超巨大なビームソードが発振した。すれ違いざまにマジックの腹を切り裂こうと突進するが、マジックは上に飛んでかわした。

 

「確かに速い……が小回りはどうだ!?」

 

マジックが背を向けたベールにドラグーンを射出する。

ビームの雨で巨体のベールを捉えようとするが、ミーティアは小回りが効かないことを補って余りあるほどに速い。

そして反転したベールがミーティアの全砲門を開いてマルチロックを始めた。

 

「…………」

「ゲシュマイ……!」

「消えなさいッ!」

 

ミーティアによるフルバーストだ。

ミーティアに装備されている砲門はアームの大口径ビーム砲2門と側面のビーム砲2門、さらにミサイル発射菅が77門。

さらにベールが射出したドラグーン8基による射撃も加わって……!

 

「ドラグーンは無理か……」

 

圧倒的な範囲と同時攻撃が可能なフルバーストがドラグーンを全て撃ち落としてしまう。マジック自身はビームを湾曲させて防いでしまうが、その攻撃力には絶句するしかない。

 

「これで、私を阻む者はいませんわね!」

 

真っ直ぐマジックに突進するベール。

マジックはかわそうとするが、その空間に不思議な力場が出来る。

 

「これは……!体が、重い……!」

「ボクの、オンステージ!国中に……ううん、世界中に届けてみせる!」

 

5pb.の歌がマジックの体を縛り付けている。動きが鈍くなり、絶好の的になってしまったマジックは歯を食いしばって抵抗するが無駄だ。

 

「はああああっ!」

「チッ、ファトゥム!」

 

マジックのファトゥムが射出されてベールへと向かっていく。

しかしベールは避けることをせずにビームソードを正面に向けてファトゥムを貫いた。

 

「ヒ、ヒッ……!ああ、絶体絶命だというのに……何故こうも気分が高揚する……!?」

 

マジックが溶岩弾をベールに放つ。溶岩弾はベールの体を掠め、ミーティアの左のアームにぶつかってアームをへし折った。

 

「ヒイイィーーーーヒヒッ!」

「っ、く、負けま、せんわァァーーッ!」

 

左アームをパージ、煙をあげるミーティアが突撃する。

それがマジックにぶつかる瞬間にベールはミーティアから離脱、勢いのついたミーティアがマジックに突き刺さる。

 

「クヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒァーー!」

 

 

「サウンド・オブ・ヘヴゥゥゥーーン!」

「スーパードラグーン!」

 

ミーティアに串刺しにされながらそのままミーティアに押されてすっ飛んでいくマジックを新たな曲の衝撃が打ち付け、その体にドラグーンが密着する。

ゼロ距離のビーム攻撃ならば、偏向は不可能。

 

連続で全方位からドラグーンがビームをぶつけ続ける。

マジックの体は削れ、砕け、穴が開いた。

それでもその状況を楽しむかのようにずっと笑い続けていたマジック。その声が途切れた時、マジックの体もまた消え始めた。

 

「ヒィヒヒ……すべて、ここまでも……ビフロンス様の、手の、う……え………」

 

ビフロンスの逃れようのない絶望の罠。

四天王全滅はそれが発動する合図だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Pleas kill me

「……私は………」

 

プラネテューヌでネプギアが茫然自失で自分の手を見る。

 

『ーーーー殺す!』

 

「っ……!」

 

分かり合いたい、そう願ったはずなのに制御できなかった。自分の中で弾けた怒りをネプギアは暴走させてしまった。

後ろではネプテューヌが静かに立っていた。

ネプテューヌはすぐに涙をふいて気丈にしている。それはきっと、たくさんの理由があるはずだ。

でも、ネプギアはネプテューヌのように表面を繕うことすらできなかった。

 

朝日がプラネテューヌを照らす。夜明けだ。

国中が光に包まれ、また新たな1日が始まる。ミズキの作戦が成功していれば、ビフロンスの野望を打ち砕いた日にもなる。

 

「ミズキ……」

 

ネプテューヌがそっとその名を呟く。

その時、朝靄に包まれて誰かを抱えた人影が見えた。

 

「アレは……」

 

「…………」

 

ミズキだった。

マジェコンヌを抱えたミズキが静かにこちらへ歩いてくる。

 

「ミズキ……ミズキ!」

「ミズキさん……」

 

ネプテューヌとネプギアがミズキに歩み寄る。

その手に抱えたマジェコンヌを見て、それからミズキの顔を見た。

ビフロンスの所にいたはずのマジェコンヌを連れ帰ってきたということは、つまり……!

 

「……ごめん」

 

しかしミズキはネプテューヌとネプギアから目を逸らした。

 

「ごめん……!ビフロンスの復活が、始まってしまう……!」

「………!」

 

ギリギリと歯を食いしばるミズキ。その時、ネプテューヌとネプギアは視界が暗く澱んでいることに気付く。

 

「……煙……?」

「お姉ちゃん、これ……」

 

振り返ったネプテューヌとネプギアはその黒い靄の発生源を見た。

ジャッジが死んだ場所。そこから暗く淀んだ空気が広がっていっている。風に乗り、空気の流れに逆らわずに黒い空気は広がっていく。

まだ誰も知らないが、この瘴気は各国の四天王の死骸全てから湧いていた。まるで腐った魂が国を覆うように走る様を誰も止められない。

 

「何が始まるんだ……くそっ」

 

ミズキは吐き捨てるように文句を言うことしかできなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……ん、あぁ……」

 

巨大な試験管のようなパイプの中の全裸の女が目を覚ます。

液体に満たされながらも呼吸に苦しむ様子はなく、むしろ深い眠りから覚めたかのようにすがすがしい顔をしている。

 

「おは、よ」

 

パイプが割れ、全裸の女……ビフロンスが地に足を付ける。

 

「かつて神の子である救世主は復活したらしいけれど……時間がかかりすぎね」

 

そして粗末なボロ布を身に纏う。

 

「救世主はこうでなくっちゃ」

 

そして体の調子を確かめるように歩くビフロンスは目の前のコンソールを指先で叩き始める。

パスワードを入力。エンターキーを押すとともに絶望の未来が始まる。

 

「全世界に媒体は広がった……ついに私の計画が始まる」

 

ビフロンスの足元からふわりと何かの力場が生じてギョウカイ墓場を覆う。

 

「夢のフィールド……展開」

 

パチン、と指を鳴らすビフロンス。それが全ての終わりを告げる小さな小さなヒビの入った音だった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「ごめん……本当に、僕は……」

「謝ることはありませんわ。そのような卑劣な手……」

「ビフロンスもなりふり構っていられていない、って感じね。何が何でも、私達に勝つ気よ」

 

謎の黒い霧が全世界を包むという異常事態にプラネテューヌに全女神が集まった。

何かあった時に分散してはいけないという考えもある。恐らく今頃はビフロンスが復活している、もう世界のどこにも安全なところなどないのだから。

 

「この黒い霧、何かあるわよ。確実に」

「でも、扇風機でも何でも動かない霧だし……これじゃ手の施しようがないよ」

 

最初、この黒い霧は毒かなにかかと思っていたが人体には少なくとも今のところ無害、さらにこの霧は風に乗って動くわけではなく、むしろ自分の意思で動いているようにも感じた。

防げない。この黒い霧は退けることもなにもできていなかった。

 

「先手を打つか、待つか……」

「待つのは悪手ですわ。手遅れになった時はもう遅いですもの」

「けど、みんなは……」

 

傷だらけだ。

ミズキがパッと見ただけでも完治に数ヶ月かかるような怪我をしている者が数人いる。オマケに四天王との激戦で疲労も溜まっている。装備が壊れた者もいる。

 

「心配しなくていいのよ。万全な状態で戦えるなんて、最初から思ってなかったし」

「装備なら、今もいーすん達が頑張って直してるしね!」

 

だが、やはり疲労と怪我はどうにもならない。すぐに手を打つべきかもしれないが、ここは少しでも傷が癒えるのを待った方がーーーー。

 

「……ロム?」

「はあ、はあ………え?」

「ロム、どうかした?凄く辛そうで……」

「だい、じょうぶ……執事さん……少し、疲れた、だ……け………」

「ロムっ!?」

 

ロムがふらついて倒れた。

地面に倒れたロムをすぐに抱えたが、ひと目でわかるほどに顔色が悪い。

 

「ロム、ロム!?」

「執事さん……お、おかしいの………体に、力が……」

「いいから、楽にしてて。今運ぶから……」

「あ、あれ……?ごめん、執事さん……私、も……」

「ラム!?」

 

続いてラムもふらついて倒れた。ラムは目を覚まさない、気絶している。

 

「ロム、ラム……!?どこか怪我したの……!?」

「ち、違うの……お姉ちゃん……凄く、辛く、て……」

「ちょっと、ロ…ム……っ!?」

 

ロムに駆け寄ったブランまでも踏み出した足に力が入らずに転んでしまった。

 

「ブラン、ブラン!?」

「な、んで……立て、ない……」

 

ブランも抱えたミズキだが後ろからドサドサと倒れる音が聞こえる。

その音に背中に冷たいものが走る。

信じたくなくて恐る恐る振り向くとそこには倒れたユニとネプギア、そして座り込んだネプテューヌとノワールがいる。

 

「みんな!?」

「これは……なに、が……」

「ベール!?」

 

ベールまでもがドサッと倒れ込んだ。

 

「おかしい、よ……なに、この、感じ……」

「ネプテューヌ、安静にして!今みんなを介抱するから……!」

「た、大変ですみなさん!」

「イストワール!みんなが大変なんだ、早く!」

 

イストワールが部屋に駆け込んでその状況に絶句する。

 

「もう、遅かった……!」

「遅いって、何がっ!?」

「各国のシェアが……!急激に低下!さらに……!」

「シェアが……!?」

「なる、ほどね……!これは、シェアが消えた疲労感が……」

「ノワール、喋らないで!」

 

ミズキが倒れたみんなを壁にもたれるようにして座らせる。気絶したラムは眠らせたが、それ以外もいつ気絶するかわからないほどに衰弱している。

 

「さ、さらに……!」

「まだなにかあるって言うの!?」

「おい、ミズキ!これを見ろ!」

 

イストワールと同じように部屋に入り込んできたジャックが端末を体を使って投げ込んでくる。

それをキャッチしたミズキはそこに映っている光景を見て目を見開いた。

 

「これは……!」

 

街で泣き叫ぶ人々。悲哀に満ちた目で街を徘徊する者、発狂したように笑い続ける者、小さく隅にうずくまって啜り泣く者、様々だ。

まさに阿鼻叫喚、この世の終わりでも告げられたような世界中の人々が映し出されていた。

 

「これ……幻じゃ、ない……よね……?」

「原因は不明!だが、何かしらをされたのだ!これは全ての国の全ての場所で起こっている事案だ……夢ではない!」

 

「っ、なにを……!なにをしたァァァァッ!ビフロンスゥゥゥゥッ!」

 

ミズキが叫ぶ。

どういうことかはわからないが、国民のほとんどが絶望に包まれ、その影響でシェアが消えていっている。このままでは、待っているのは女神の死、そして絶望の未来。

 

「教えてあげましょうか?」

「ッ!」

 

ミズキが声に振り返る。

そこにはドアの入口に体を預けた……ビフロンスがいた。

 

『………!』

 

「ッ、お前ぇぇぇっ!」

 

全員が戦慄する中ミズキだけが威嚇する犬のようにビフロンスを睨みつける。

 

「いつの間に……!」

「簡単だったわよ、教祖ちゃん。ちょっとばかしセキュリティ甘いんじゃない?」

 

ジャックがイストワールの前に立ちはだかり、ミズキも動けない女神を守るように前に立つ。

 

「私の絶望の罠。その全貌、今こそ晒してあげるわ」

 

ビフロンスがニタリと笑う。

 

「まず、私はこの世界中全員の記憶制限を解除したわ。そこに生まれる強烈な違和感とその後に生まれる罪悪感は心のガードを甘くした」

 

記憶制限。

さんざんに苦しめられた数年間の記憶消去だ。ビフロンスはそれを自らの手で解除した。

 

「そしてそこにつけ込んだのは私の思考」

 

ビフロンスはトントンと頭を指さした。

 

「全世界に私の思考とそれが生み出すビジョンを強制的に見せている最中よ、今は。アナタ達は記憶制限を自力で破ったからガードが硬いけど……あれだけ心が弱くなっていれば忍び込むのは簡単」

「毎度毎度、理解の及ばないことをする……!」

「それを可能にするのがこの黒い霧というコード!そして発信源はギョウカイ墓場の……夢のフィールド!」

「夢のフィールド……!?」

「ええ!そのフィールドでは夢が叶う!思考が現実に!想いは形になる!そこに陣取った私の願いはこういう形でこの世に現れる!」

 

夢のフィールド……とやらで願ったビフロンスの絶望を伝えたいという願い。それは本来なら夢のフィールドに入った者だけに適用されるものだった。

だがその効果を広げるこの黒い霧。それがビフロンスの作った全世界の人間を閉じ込める檻だったのだ。

 

「来るなら来い……!僕が倒す!」

「まだ話は終わってないわ。絶望に呑まれた人間たちはどうするか……そう、信仰を失う。極限状態の中で人は神のことなど頭から抜ける」

「だから、シェアが……!」

「ええ。だからコレは宣戦布告というより……脅迫よ、ミズキくん?」

「……っ!」

「私が人質にとったのは全人類。救いたいのなら……ギョウカイ墓場にいらっしゃい。歓迎するわ」

 

そう言ってビフロンスは扉の向こうに消えていく。

しかし、走り出して追いかけようとするミズキの手が誰かに掴まれた。

 

「ノワール……!離して!僕は……!」

「熱くならないでッ!」

「っ!」

「はあっ、はあっ……頭を冷やしなさい、私に、考えがあるわ……」

「考え……?」

 

力を振り絞ったノワールのおかげでいくらか冷静になったミズキはしゃがみこんでノワールと目線を合わせた。

 

「この通り……私達は全くもって役に立たない……足でまとい、よ……」

「そんなこと……!」

「いいから聞きなさい。……ここまでは、悔しいけど……多分アイツの手のひらの上。でも、アイツが知っていない切り札を……私達は、持ってる。アイツの計算を狂わせる要因を……」

「切り札……?」

「そう、よ……」

 

ノワールが少し躊躇ったように目を伏せてから顔を上げてミズキの目を見る。もはや喋るだけでも苦しいノワールは言葉を絞り出して対策を伝える。

だがその考えは……到底受け入れられないものだった。

 

「私を殺しなさい……ミズキ」

「………!」

「ゲハバーン……アナタに、託した、その、剣で……」

 





とりあえずここでおしまい。次もまた一ヶ月後です…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終章〜新たな答え、これからの世界へ。きっと、平和は〜
最終決戦


「私を殺しなさい……ミズキ」

「……!」

「ゲハバーン……アナタに、託した、その、剣が……」

「できないっ!」

 

ミズキがすぐにノワールの提案を蹴った。

 

「そんなこと、できるわけがない!」

「いいから、聞きなさい……まだ、話は……」

「もう聞きたくない!その提案は、最低だ!」

「いいから……!これが、遺言になるかもしれないのよ……!?」

「遺言、なんて……!縁起でもないこと!」

「……この際、ハッキリ言っておくけど……多分、もう私……長くないわ」

「っ、もうやめてってば!どうしたんだよ、ノワール!そんな弱気になって!」

「アンタ達も……わかるでしょ……?残された時間が少ないってこと……」

 

ミズキがネプテューヌを見た。ネプテューヌは目を伏せる。

ネプギアを見た。もはやミズキの目も見れないほど衰弱している。

ユニは荒かった呼吸が弱くなってきている。

ブランは目に力がまるでない。

ロムはいつの間にか気絶していて、ラムも目を覚ます気配はない。

ベールも目が閉じようとしていた。

 

「やめて、よ……!そんな、そんな!元気出してよ!ねえ!ねえったら!」

 

ミズキがネプテューヌに駆け寄って肩を揺らした。

 

「ネプテューヌ!笑ってよ……!いつもの元気がないよ!」

「たは……ごめん、さすがの私も……今回は、ヤバい、かな……」

「………!」

「ミズキが帰ってくる頃には……多分、みんな……」

「言わないで!言わなくていい……!もういい、時間が惜しい!すぐ行ってくる!」

「……お願い……待って、ミズキ……」

「う、うぅっ……!」

 

ノワールの声が蚊の鳴くような声になってしまっていた。

ミズキはその声を振り切ることができない。ノワールに駆け寄ったミズキはその声に耳を傾ける。

 

「このまま……何もしないで死ぬよりも……アナタの助けになりたいの……迷惑しか、かけてなくて……足でまといばっかりで……今も……」

「違う!僕はノワールを足でまといだなんて、1度も!」

 

ミズキの目から涙が流れ始めた。

 

「なんで、泣くのよ……辛いのは、私、なのに……」

「ノワールが、辛いからだっ!」

「ねえ……私、最期ぐらいアナタの助けになりたい……はあっ、はあっ……私、言ったわよね……?」

 

ノワールが最後の力を振り絞ってミズキを見上げる。

ミズキはノワールに楽をさせるために顔を下にしてノワールの顔をのぞき込む。

 

「殺されるなら……アナタがいい……アナタの力になれるなら、私は……」

「ノワール……!」

「お願い……抱きしめて、そのまま……殺して……」

 

ノワールがそう言って目を閉じた。

もう気絶してしまったのか、目を閉じる力もなくなったのかわからない。

だがミズキはノワールを抱きしめて次元からゲハバーンを抜いた。

 

誰も声を出せない。

そしてその結末に手を加えることすらできない。決めるのはミズキであり、女神達だった。

 

抱きしめたノワールの唇が少しだけ動いた。その息は声にはならず、そして唇の動きは誰にも見えていなかったが、それでもノワールは最期に言いたいことがあった。

 

「好き……だっ、た……」

 

1番、この言葉を伝えたかった。1番最初に、対策なんかより先に。

どうやら遅すぎたみたいだが、言えただけ自分にしては上出来だ。

愛した人の腕の中で逝ける。だからだろうか、ノワールの心は不思議なまでに安らいでいて幸福だった。

 

ミズキはゲハバーンを右手で握りしめる。

もう音も何も聞こえない。この決意が告げる結末に誰も雑音は加えられない。

ミズキが右手を上げた。

その感触を頬で感じながらノワールは気を失った。最後までミズキの体温を感じたまま、ノワールは意識を手放したのだ。

ミズキが腕を振り下ろすまでの時間を永遠に感じる。

ジャックが、イストワールが、そして女神の中で唯一目を開いていたネプテューヌがその時間を感じていた。

 

ネプテューヌも不思議なほど冷静に自分の死を客観的に見ていた。多分、この後私もミズキに殺される。

だが、まあ、それもいいかな、なんて思っている。

ミズキの力になれる、世界も救える、嬉しいことの方が多い。きっと、みんなも同じ。

 

ーーーーああ、もうちょっとカッコいい別れ方が良かったな。言いたいこと言って、やりたいことやって……それから……。

……でも、ノワール……幸せそう……。

 

 

ミズキが右手を振り下げた。

 

 

ネプテューヌはそれに別に驚きはしなかった。当然であるかのように、それがさも望んでいたことを与えるかのようだったからだ。

だから、だろうか。ネプテューヌが驚いたのはミズキが手を振り下ろした時ではなかった。ネプテューヌが本当に意外だったのは、ノワールの命を奪おうとしていたゲハバーンが地面にぶつけられたことだった。

 

「………え…………?」

 

 

パキィィィ………ィィ………ンッ………。

 

 

軽い音を立ててゲハバーンの刀身が折れて弾け飛び、地面を滑って止まる。

もちろんノワールには傷一つ付いていないし、ゲハバーンは誰も切ってはいない。

同時に、必ずビフロンスに勝てる可能性をミズキは失ったのだ。

 

「なん……で………?」

「……これで、いいんだ。きっと、これがビフロンスの本当に最後、最後の最後の絶望の罠だった」

 

ミズキがノワールから離れて床に寝かせた。

そして手から力を抜いてゲハバーンの柄を地面に落とす。

 

「僕がここでみんなを殺して……そしてきっとビフロンスは死ぬ。けど、みんなを殺した世界で僕は……いや、誰も生きていけない。だから、緩やかに世界は絶望に包まれていくんだ」

「………」

 

ビフロンスが来た時、彼女はすぐにでも動けない女神を殺してしまうことができたはずだ。だが彼女はそうしなかった。多分、何か考えあってのこと。

 

「もう僕は間違えないよ。みんなの力が、必要なんだ」

 

ネプテューヌの視界がぼやけ始めた。もうネプテューヌも意識を保つ限界が近かったのだ。

 

「また会おう、必ず。僕がみんなを助けるよ」

「ミ……ズ………」

 

かくり、とネプテューヌの体から力が抜けた。

気絶してしまったネプテューヌの息は荒いが、多分これから段々と弱くなっていく。それまでに何か手を打たねばならない。

 

その時、開いたドアからアブネスが駆け込んできた。

 

「ミズキ、ちょっと、待ち、なさい!ふうっ……」

 

アブネスが息を整える。

 

「この状況、覆すわよ!話は聞いてたわ、もう準備は出来てる!」

「この状況を覆す、だと……?」

「ご丁寧にアイツは自分のやったことを説明したでしょ!それは多分、どうにもならないってことを理解させるためとか、そういう理由なんでしょうけど……それを逆手にとるわ!」

 

アブネスの後ろからギターを持った5pb.が飛び込んできた。

女神全員が気絶している事態に息を飲んだが、すぐにミズキに駆け寄った。

 

「ボクの力を使って。ボクも、君の助けになれるよ!」

「5pb.……」

「ボクの歌があれば、みんなの衰弱を幾らか抑えることもできる……それに、この世界のみんなに希望を思い出させるためにも!」

「ミズキ、使うわよ……あのガンダム!」

「でもアレは今の状況じゃ……」

「それを可能にするって言ってんの!いい、聞きなさい!コレがこのアブネス様が考えたプランよ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ギョウカイ墓場でビフロンスはずっとミズキを待っていた。

完全ホーム、自分に有利な場所でしかない罠と仕掛けの張り巡らされたギョウカイ墓場でこそ、自分は最大の戦いをできるはず。

 

「………」

 

自分の後ろにいる気配にビフロンスは振り向いた。

そこには決意に満ちた目をしているミズキがいる。それを見た途端にビフロンスは表情を緩めて腕を大きく開いた。

 

「いらっしゃい、ミズキくん?私はキミを歓迎するわよ」

 

目を細めて笑う。

前に1歩ずつ進んでくるミズキにビフロンスは手を突き出してそれを止める。

 

「いい、そこより前に足を踏み入れてご覧なさい?……死ねるわよ」

 

そう言った瞬間にミズキは足を前に出した。

忠告は完全に無視、しかし罠が仕掛けられていたのは本当だった。

無数のビームがミズキめがけて全方位から飛んでくる。

 

「僕は……僕達が君に見せつける……!」

 

しかし、そのビームはミズキに触れられもせず、周辺で湾曲して遥か彼方に飛んでいく。

 

「新しい、平和の答え!変身!」

 

ミズキの体が徐々に光に包まれていく。

今までの変身とは違う、ビフロンスも未知の変身。

 

ミズキの体が透明だが光り輝くクリスタルに包まれていく。パキパキと不規則にミズキの体を覆うクリスタルはさらに手、足、頭へと伸びていく。

クリスタルが全身を覆いきった時、余分なクリスタルは贅肉を切り落とすように砕けて消えていく。

そしてクリスタルに色がついていく。その色は見る角度を変えることで虹のように変わる。

ただの光であり、紫であり、黒であり、白であり、緑でもある。

そのガンダムのフレームはすべて、シェアクリスタルで出来ていた。

 

「この輝きは……なるほど、シェアね」

 

そしてフレームの上にはルナ・チタニウム合金の装甲が重ねられる。

そのガンダムは何も持っていなかった。武器も、盾も、なにも。

だが開いた次元ゲートからガンダムはライフルを握った。アタッチメントは必要ないのだ。武器はすぐ手の届くところにあるのだから。

 

「なら私も……変身」

 

ビフロンスも変身した。

一瞬で別の物に置き換わったビフロンスのガンダムはやはり異形をしている。

灰色のVPS装甲は電気を流されることにより赤黒くなった。

 

《ガンダム……アデュルト!》

《ガンダムイブリース》

 

アデュルトがライフルを構えると同時にイブリースは腕から実体剣を伸ばす。

戦いの火蓋は切って落とされた。

 

《みんなを守る!》

《平和を掴み取る!》

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

イブリース

アブネスがプラネテューヌの教会から街を見下ろす。変わることのない惨状は目を背けたくなるほどの終末を感じさせる。

それは、ミズキがビフロンスと相対する少し前のことだった。

 

「急ぐわよ、ジャック!」

「大体のセキュリティは突破した!だが、ガードの固い部分はあと少し時間がかかる!」

「そっちは後回しでいいから、とにかく繋げるだけ回線を繋いで!全世界にアブネスチャンネルを放映しなきゃいけないんだから!」

 

ジャックがハッキングでプラネテューヌと全世界の回線を繋いでいく。

誰も守護することのないシステムは脆弱で、いつもよりもだいぶ楽だがやはり固い部分はガードが固い。

 

「ミズキのガンダムアデュルトは『世界のみんなが力を合わせて戦う』ガンダムよ。シェアが多ければ多いほど力を発揮するけど、少なければ動きもしない」

「シェアクリスタルをフレームに使うだなんて……そんなこと、思いつきもしませんでした」

「だから、シェアを取り返さなきゃいけない。それは女神の救命にも繋がるし、ミズキを直接手助けすることにも繋がる!」

 

後ろを振り向けばギターの調整をしている5pb.。アブネスの視線に気付くとウィンクで準備万端と伝える。

 

「アイツは言ってたわ、弱い心に意識を流し込むのは簡単だ、って。まずは無理矢理にでも意識をこっちに向けてビフロンスの見せるビジョンを遠ざけるわ」

「それはボクの役目だね!」

 

5pb.がギターを鳴らした。

同時にアブネスが手に持ったカメラで5pb.を映す。それはジャックの手によって可能な限りのモニターに中継され、全世界に5pb.の顔が届く。

今はまだ誰もそれに気付いていない。しかし、ここからは……!

 

「いいわよ、やっちゃって!」

「うん!……すぅっ、ボクの歌を聞けぇぇぇーーーっ!」

 

5pb.の声が電波に乗って世界中に広がっていく。

5pb.が歌い始めたが教会から見るに眼下の光景が変わった様子はほとんどない。だがそれでも……だからこそ5pb.はさらに声を絞り出す。

 

(ダメ……こんなんじゃ、届かない……!)

 

その気持ちは焦りではない。

遠く遠く、遥か彼方のあの人にも声が届くように。その心の奥底まで想いが届きますように。

 

(力は……ミズキが!想いは、ボクが!)

 

この想いを伝えたい。この想いが誰かの力になることを信じている。

だからこそ、このただ1つの想いをみんなに伝えることを諦めない。この歌は絶対に届けてみせる。

 

「『My Dear』!お願い、届いて!一瞬でもいい……!届けぇぇぇぇっ!」

 

その5pb.の声は今までに聞いたことのないような声だった。

歌唱力とか、歌声の美しさとか、そういうものに魅了された訳では無い。その歌の真摯さ、気持ち、想いにハートが震えた。

不思議と、5pb.の顔はこんな時だというのに笑っていた。アブネスも、ジャックも、イストワールも笑って体が勝手にリズムを刻もうとしている。

5pb.の声は確かに届いた。そして今も届けられている。ビフロンスの見せる絶望の未来すら退け、振動は体中を伝わり、高揚する気分にみんなが正気を取り戻す。

 

「今よ!」

 

アブネスがジャックを指さすとジャックは少し我に返ったように顔を引き締め、5pb.の中継から別の映像に切り替えて映し出す。

モニター全てに映っていた5pb.に釘付けになっていた民衆達はそのまま切り替えた映像を見る。

それは数年前、過去にミズキがビフロンスと戦った時の映像だった。

 

民衆には記憶が戻っている。だからその映像は見覚えのあるものだった。

悪魔の化身と戦う英雄、ガンダム。それに力を貸したことも覚えているし、それが奇跡を起こしたことも民衆は覚えている。

 

「思い出して、みんな!まだ希望は残ってる!またミズキが戦ってる!」

 

5pb.があの時と同じようにみんなを勇気づけ、導いていく。民衆は既に自分のやるべきことに気付いていた。

 

「信じて!その想いが力になる!この黒い霧を退けるのは他でもない、みんなの力だから!」

 

人は信じることを思い出す。

ミズキを、女神を、普段の何重もの信仰……いや、信頼で支える。

それは下降していたシェアを急激に取り戻し、ミズキにも多数のシェアを与えた。黒い霧は色が変わっていき、緑色の美しいものへと変わっていく。

 

「やった……!」

 

今ここで得られたシェアがミズキがアデュルトに変身するだけのシェアとなったのだ。

 

教会から安寧を取り戻した街を見たアブネスはうんと頷いてキャリーバッグにカメラや機材を詰め込んでいく。

 

「アブネスさん?これからどうするおつもりですか?」

「どうするって……私も行くのよ、ギョウカイ墓場」

「え、ええ!?」

 

そう言って準備を整えたアブネスは腰に手を当ててふんぞり返る。

 

「私にもやれることがある!だから、やる!世界を救う戦いの中継、こんなおいしいネタを逃がすわけには行かないわ!」

「ダメです、危険過ぎますよ?下手すれば命を落とすことだって……」

「わかってるわよ、そんなこと。でも、やれることをやるわ、私も!ミズキだけが戦って、私だけ安全圏で応援だなんて性に合わないの!」

 

やれることを、やる。

みんなが力を合わせないと勝てないのなら、みんながやれることを限界までやることが大切なのだ。

今起ころうとしているミズキとビフロンスの戦い、それを世界中に伝える。そしてさらなるシェアを集める。

それがきっと、私の役目、天命。

 

「護身の手段くらい、あるんだから!」

 

そう言ってアブネスが指をパチンと鳴らすとベランダの下から6機のモビルスーツが現れた。

イフリート改、百式、デルタプラス、ギラーガ、トールギス、スサノオ。

今までミズキのために作ったモビルスーツが勢揃いだ。

 

「それじゃあね!」

「あっ、待って……!」

 

イストワールが呼び止めるがアブネスはぴょんとモビルスーツに飛び乗ってしまう。

高速でギョウカイ墓場の方へ飛んでいってしまったモビルスーツをイストワールは追うことができない。

 

「……私だって」

 

アブネスの目にも今までにない決意が宿っていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

アデュルトのライフルから発射されたビームが正確にイブリースへ飛んでいく。

腕の実体剣で全て弾き飛ばしたイブリースだったが、実体剣が刃こぼれしてしまう。

 

(ビーム……いやこの衝撃と輝きは……シェア)

 

ふわりと空に浮いたアデュルトはさらに左肩にバズーカを持つ。

引き金を引くと弾頭が真っ直ぐイブリースに飛んでいくが、イブリースの前に迫ると瞬間移動をしたように軌道が逸れ、地面にあたって爆発した。

 

(次元フィールド……!?あの時みたいな膨大なシェアはないのに!)

 

夢のフィールドによる支援があってこその次元フィールド展開だ。今のイブリースは望めば望むだけのエネルギーが補給され、決して途切れることは無い。もちろん、ビフロンスの鋼の意思があってこそ、だが。

 

《ホーミングレーザー》

(来る!)

 

イブリースの無数の髪のようなユニットからドス黒い血のようなレーザーが発射された。

次元フィールドを応用し、対象を永遠に追い続けるビーム、ホーミングレーザーだ。

 

《でも、もう対策はしてるんだ!》

 

対ビフロンスを想定したガンダムなのだ、この程度は防ぎ切る。

次元フィールドから実体盾を取り出したアデュルト。その盾にビームが当たる寸前にビームは霧散する。

 

(Iフィールド……これも稼働源はシェア……シェアのIフィールド、か)

《なら》

 

イブリースが手を上げると地面から無数の砲台が現れ、その向きをアデュルトに向ける。

 

《擬似ファンネル、向かえ!》

 

ビフロンスの得意武器、擬似ファンネルが反射を繰り返しながらアデュルトに向かっていく。

空間を埋め尽くし、1つの塊のようにアデュルトを追う擬似ファンネル。しかしアデュルトも擬似ファンネルへの対策をしていないわけではないのだ。

 

(発射口……を!)

 

ライフルを撃って擬似ファンネル発射口を次々と潰していく。

壊す度にまた新たな発射口が現れるが、数に限りがあるはず。全てを壊すまでライフルを撃つのはやめない。

しかし擬似ファンネルがアデュルトの目前に迫っている。

 

《擬似ファンネルの弱点は既にわかってるんだ……!》

 

アデュルトが力をためるように体をこわばらせ、そして宙を蹴る。

アデュルトは音速1歩手前の亜音速で宙を駆け、擬似ファンネルを引き離す。

擬似ファンネルの初速はたしかに速いが、反射を繰り返すうちに速度は大幅に落ちる。そして反射でしか対象を追えない擬似ファンネルは亜音速には絶対に追いつけない。

 

《推力までシェア頼りとは、ね》

 

ならば、とホーミングレーザーを放つ。

正面からの攻撃では盾に防がれてしまうが、後ろから回り込むように攻撃すれば装甲を貫ける。

 

しつこく目標を追いかけるレーザー。アデュルトはその網の中に盾の内側に装備されたミサイルを発射した。

 

(あのミサイル……安易に撃ち抜いてはダメね)

《でも僕が撃ち抜く!》

 

ホーミングレーザーはそのミサイルを避けるが、アデュルトがビームライフルでミサイルを撃ち抜いた。

するとそこからガス状の気体が大量に放出され、ホーミングレーザーを弾き飛ばす。

 

(やはり、錯乱膜)

《ここで決める……!デファンス!》

 

イブリースに突撃してくるアデュルトの後ろから2つの大きなファンネルが現れた。

ファンネル自体はただの機械の球体、しかしそれは光り輝く巨大なシェアクリスタルに埋め込まれている。

 

(デファンス……?シェアクリスタルの、ファンネル?アレは……)

 

見たところ武器である様子はない。

ではあの中に埋め込まれている機械は?シェアを何らかのエネルギーに変化させる装置か……あるいは……。

 

(この次元フィールドに臆せず飛び込んでくる……ならば、何かある武器ね)

 

イブリースが次元フィールドを一瞬だけ解除した。しかしそれはアデュルトにはわかっていない。

 

《ふっ》

《っ、はっ!?》

 

イブリースが急加速してアデュルトに接近する。わずか一瞬の間にアデュルトは危機を感じて体を逸らす。

 

《砕けなさい》

《……!》

 

イブリースのそれはただのパンチ。

アデュルトは咄嗟に手でパンチをすれ違いながら受け流した。

その時、一瞬だけイブリースの手を見た。ナックルガードから放射状に無数の鉄の槍が花のように咲いている。

エクスプロージョンコライダー。それがその武器の名前だった。

 

勢い余ったイブリースはそのまま減速せずに後ろの岩の壁に拳が直撃。鉄の槍は岩に突き刺さり、そのままイブリースからパージされた。

 

《ん……っと。何も亜音速戦闘が出来るのはアナタだけじゃないわよ》

(ノーモーションで亜音速か……!アレが本気なら、音速は軽く超える!)

《それと……》

 

イブリースからパージされた槍が電子音を立てる。

ピーという音が鳴った、その瞬間に槍は大爆発し、岩山を爆風で消し飛ばした。

 

《な……!》

《私の攻撃は全てが一撃必殺。不死も消し飛ぶ武器の集まりよ》

 

ナックルガードが閉じ、イブリースが手を開く。

すると地面が開き、そこから銃が飛び出してイブリースの手に握られる。それはオモチャの水鉄砲の形をしていた。

 

《僕だって、君を叩き潰すために来てる!》

《の割には武器が貧弱ね?》

《殺すためじゃない、説き伏せるためだ!》

 

アデュルトがバズーカとライフルを次元ゲートの中へ消し去り、代わりに片手に剣の柄を持った。

そこからできるのはネプテューヌの32式エクスブレイドを模倣した我流エクスブレイド。

シェアクリスタルで出来た結晶の剣だ。

 

《希望も絶望も超えて、僕がこの世界で見つけ出した答えで!》

《アナタが今更説き伏せようと、世界の終わりは変わらない。私の平和を拒むのなら、私に勝ちなさい》



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真の新たなる人類

イブリースが手に握った水鉄砲の引き金を引いた。

凄まじい水圧で不透明な黄色の粘液が飛んでくるが、避けられないスピードじゃない。

 

(受けるのは危険だ!)

 

アデュルトは粘液を避け、高く舞い上がる。

 

(なんとしても、デファンスを次元フィールドにぶつけなきゃいけない……!)

 

デファンス。対ビフロンスを象徴するような武装だ。

巨大なシェアクリスタルに包まれたそれはビフロンスを無敵とする武装、つまり次元フィールドを無効化する武器だ。

デファンスを次元フィールドのような次元の歪みにぶつければシェアエネルギーを使って歪みを正すことができる。さらにしばらくは次元の歪みを生ずることはできない。

 

対してイブリースが握っている水鉄砲はスティッキードロップと呼んでいるものだ。

イブリースの武装は不死身の肉体を殺す武装ばかりが揃えられている。爆発で肉体を一瞬で消し炭にするエクスプロージョンコライダー然り、スティッキードロップもそのための武器だ。

放たれる粘液はどんな物体であろうと溶かし尽くし、肥大化する。1度まとわりつけば離れることはないのだ。

 

(亜音速ならば、水なんかにあたりはしない……!)

《……とでも思ってるのかしらね》

 

タンク内の気圧を限界まであげる。

タンクが炸裂する限界まで空気を送り込み、粘液が飛ぶスピードを上げ続ける。

亜音速に届かないまでも、匹敵するほどの弾速で粘液が撃ち出された。

 

《っ、く……!》

 

反応し、エクスブレイドで粘液を弾いた。

しかし、エクスブレイドにまとわりついた粘液はシェアクリスタルを侵食していく。

 

《シェアクリスタルを食うのか!?》

 

素早くクリスタルの刃をシェアに還元、粘液を手放してから再び刃を展開する。

 

《強力な酸性の……!?いや、クリスタルを食うのならそれだけじゃ説明がつかない!》

 

だが、ビフロンスはその粘液を『撃って』いる。本来ならその銃ごと溶けてなくなるはずだ。

 

《夢のフィールド……!こういうところで厄介だ!》

 

有り得ない武器を、有り得ない性質を実現させている。この空間の中でビフロンスが起こすことは夢か現実か、区別がつかない。

 

(ケリを付けなきゃ……!でも、ビフロンスのスピードにデファンスは追いつけない!)

 

《エクスプロージョン……》

(来る、なら!)

 

イブリースがナックルガードを展開して地面を蹴った。

予備動作を入れたためにスピードはさっきよりも格段に速く、音を超えたイブリースは衝撃波を撒き散らす。

しかし、予備動作があるなら反応もできる。

アデュルトは盾を構え、イブリースの拳とぶつかり合う。

 

《コライダー!》

 

イブリースの拳から突き出す槍が盾を簡単に貫いた。しかし、盾の後ろにアデュルトはもういない。アデュルトは盾を捨てて囮とし、イブリースの横に回り込んでいた。

 

《もらった!》

《爆散》

《っ、ぐわあああっ!》

 

しかし槍が大爆発を起こす。

直撃はしなかったが、予想以上に広い爆発範囲にアデュルトは吹き飛ばされる。

 

《ゆっくりと……食われなさい》

 

そこにイブリースが水鉄砲を構えた。

VPS装甲によって物理ダメージを受け付けず、そして至近距離で爆風を浴びたのに衝撃に怯みもしない。

 

(さすがに、強敵……!)

 

イブリースが高速の粘液を放つ。

既に避けることはできない必中の一撃ではあるが、それでも受けることは出来る。

 

《デファンス!》

 

巨大な質量を持ったデファンスが粘液を受け止めた。粘液がクリスタルを食う寸前にクリスタルをシェアに還元、そして再びクリスタルにする。

 

(クリスタルの前じゃ……こういうのは無意味みたいね)

 

イブリースは水鉄砲を捨て、今度は両手両足のガードを展開した。

 

《今度、こそは……消し去ってあげる》

 

神速の踏み込みからの必殺の一撃。

だがそれを当てるためには次元フィールドを解除しなければならないはずだ。

 

《そこ、だァァァ!》

 

エクスブレイドが長さを増した。

射程を限界まで伸ばしたエクスブレイドを振り、イブリースを捉える。

しかし、その刃はイブリースに届かなかった。拳を打ち合わせてエクスブレイドを止め、さらにそこに爆発する槍が食いこんでいく。

 

《甘いのよね》

 

槍が炸裂し、エクスブレイドが砕けた。

 

《っ、く!》

《そもそも性能が……》

 

イブリースが大地を蹴る。

 

《段違いなのよ》

 

一瞬でアデュルトの目の前に迫るイブリース。

アデュルトは何とか反応して防御に回るが、イブリースのスピードはそれを凌駕する。

 

《ご……ほっ》

 

イブリースの膝蹴りがアデュルトの腹に当たる。

吹き飛ばされたアデュルトは体勢を崩しながらも両手両足の爆発する槍を防御しようと構える。

追いかけるイブリースが回転して蹴りを浴びせようとするが、それがアデュルトの寸前で止まった。

 

(フェイント……!)

《落ち、なさい!》

 

カカト落としがアデュルトの肩に入った。

 

《わあああっ!》

 

シェアクリスタルで出来たフレームはびくともしない。しかし、アデュルトは衝撃で吹き飛ばされる。

その真上から今度こそイブリースがエクスプロージョンコライダーを突き刺すために降下していた。

 

《っ》

アデュルトは地面に手をついてそのままバク転。そうした瞬間にイブリースは足で地面を踏み込み、槍を地面に突き刺す。

 

《エクスプロージョン》

《うわああっ!》

 

直撃は免れたが爆風に吹き飛ばされてしまう。

ゴロゴロと転がったアデュルトはすぐに膝をついてイブリースを見つめる。

 

《く……!》

《……殺気はわかっている。機体の性能差は自分の感応能力で埋める。……とか思ってるんてしょ?》

 

弾け飛んだ岩塊をゼロ距離で食らっているにもかかわらずイブリースには傷一つない。

 

《人の進化……人に、人だけに与えられた気持ち、心。それをより鋭敏に感じ、誤解をなくす人種……ニュータイプ。S.E.E.D、Xラウンダー、イノベイター……名前と形を変えてもその本質はいつも同じ。感情が、想いが力となり未来を切り開こうとしてきた》

《……なにが、言いたいの》

《けれど、人類は諦めた。人類という種は間違いに気づいたのよ。幾度となく繰り返し、終わらなかった戦いがそれを証明してる。そしてその進化の集大成、それがアナタよ》

《それが、どうしたって言うんだ……!》

《ヒヒッ、わからない?間違いの集大成、過ちの塊がアナタ。そして新たな進化の形、人類が導き出した新たな種としての答え。それが私》

 

イブリースの手から剣が飛び出した。銀色に光る剣には少し紫電が迸っている。

それを見てミズキが思い出すのは過去にビフロンスと戦った時の経験。

 

(電撃……!)

 

《感情に進化したニュータイプは失敗した!頭脳に進化した私こそが人類の未来を導ける!だってほら、現にもう人類は変わる目前よ!》

《そうはさせない!進化した人類であっても、ただ1人が人類の未来を決めることは絶対にできない!》

《私はやるわ。やれるわ。間違った道を正す。最もその先には、崖があるわけだけど》

 

イブリースが紫電を纏わせた剣をチャキと鳴らし、アデュルトに向かっていく。

アデュルトもエクスブレイドを握り直し、真っ向から立ち向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

2機のガンダムが戦っていた。

信仰の光を身に纏うガンダムと、赤黒い個人の意思に塗れたガンダム。

ミズキとビフロンス、2人の剣がぶつかった時、ミズキの剣が叩き切られる。そのまま剣はミズキを袈裟斬りにし、パックリと傷口を広げた。

そして爆炎に飲まれてミズキが消えていく。

その爆発が目の前にまで迫り、その赤い光の中に飲み込まれた瞬間に体が咄嗟に動いた。

 

「ミズキっ!」

 

バッと手を伸ばすとそこは爆炎の中でも戦場の中でもなかった。

自分が気絶するまでいたプラネテューヌの部屋。そして気絶した女神たちが横たわっていた。

 

「………え?」

 

自分の首をペタペタと触る。繋がっている。

胸にも穴が空いているわけでもなく、無傷。

立ち上がって自分の手のひらを見る。ここは死後の世界か?そう疑う。

しかし床に転がっている折れたゲハバーンを見てようやく事実がわかった。

 

「私を……殺さず、に……」

「起きた……?ノワール……」

 

目の前を見ると座っているネプテューヌが目を開いている。

力なく座っているものの、にへらと笑ってノワールを見ている。そのネプテューヌにノワールは駆け寄って胸ぐらを掴んだ。

 

「なんっ……で!1人で行かせたのっ!?」

「ノワールだって、1人で行かせる気だったじゃん……」

「それはっ……!でも、あの剣があればビフロンスを倒せてた!」

「その先は……?」

「先っ!?何の話よっ!」

「全員いなきゃ……みんなでいなきゃ、ダメなんだよ……」

 

ネプテューヌが胸を掴むノワールの手首を握った。

 

「1人じゃ、何も出来ないっ……!ビフロンスを倒したその先は!?ミズキが世界を治めるの……!?私達の血に塗れながら!?」

「でも……!だからってこのままじゃ全滅よ!」

「自分の体を見てみてよっ!動くでしょ!?さっきまで息も苦しかったのに!」

 

ネプテューヌが立ち上がる。

そして2人が言い争う声で他の女神たちも目覚め始めた。

 

「みんながシェアを取り戻してくれた、だから私達は生きてる!じゃあ、ミズキがビフロンスのところに行ったのはなんで!?」

「それは、また、1人で戦う気だから……!」

「違うよっ!ミズキは、待ってるの……!私たちを待って、信じて……!だからこそ1人でビフロンスを抑えてる!」

 

ネプテューヌが立ち上がってノワールを見つめ返した。

 

「待ってるの……!だから、行かなきゃ!でしょ!?」

「ネプテューヌ……」

「ミズキの決意を無駄にしないで……!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去の再来

 

イブリースがアデュルトに剣の切っ先を向ける。

 

《人の想いが作り上げたガンダム。ええ、見事ね。そうそうできることじゃないわ。でも、全人類の想いを集めたとて、1人の天才が作ったガンダムに敵わない》

《違う!みんなの想いは……!》

《アナタの言う希望は何なの?ただひたすら救いを信じて足掻くことなの?あるかどうかも分からないモノに縋ってひたすらに?》

《それも違う!ほんの僅かな可能性を引き寄せることが、それができる力の源が希望だ!》

《じゃあ確実な可能性を私はアナタに叩きつけてあげるわ。絶望は間違ってる?どんな些細な可能性にも、或いは確実な可能性にも存在している。アナタは絶望を否定しているようで、その実ただの感情論に過ぎない》

《っ、僕は!》

《100%の物事に対して希望は生まれない。確定したことに希望も何も無いもの。だから私は100%の絶望……つまりアナタの死を全人類にプレゼントするわ》

 

イブリースが再び膝を曲げ、突撃のポーズをとる。

 

《ビフロンス!君は間違ってたんだ!》

《正解はこの先の戦いが決めるわ》

《でも!僕も間違っていた!》

 

言葉を聞き流してイブリースがアデュルトに突撃する。身を下げてかわしたアデュルトの後ろの岩になんの抵抗もなくイブリースの剣が突き刺さる。

 

《……フゥーー……》

 

そのまま剣を下げて切りつけるのを避ける。

強靭なはずの岩はバターでも切るかのように綺麗に断面を見せていた。

 

《ビフロンス!》

《何をいまさら》

 

ビフロンスがナックルガードを展開して岩に槍を突き刺した。

そのまま持ち上げ、アデュルトに岩を向ける。

 

《っ》

《エクスプロージョン》

 

岩が爆散し、凄まじい勢いで破片がアデュルトに飛んでいく。

そしてその破片に紛れてイブリースも突撃してくる。

 

《私の理論武装を打ち破る気なら……私以上の天才を連れてくることね》

《ぐっ、ああっ!》

 

ビフロンスの回し蹴りがアデュルトの腕にめり込んだ。吹き飛ばされるアデュルトにイブリースが追いついた。

 

《ビフロンス……!》

《私が正しいわ》

《違うっ!希望も絶望も、正しくはなかったんだ!》

 

イブリースの剣がアデュルトの胸に飛んでいく。

 

《無責任、ねッ!》

 

アデュルトの胸にイブリースの剣が当たる。

しかし、その剣は一瞬しなった後にへし折れて破片が遥か彼方に飛んでいく。

 

(折れた?いや、これは何かの衝撃?)

(ここだっ!)

 

2人とも予想外の事態に一瞬思考が止まった。

だがいち早く思考を取り戻したのはミズキの方だ。拳をイブリースの頬に叩き込み、エクスブレイドで切りかかる。

 

《ん、っ!》

 

拳は顎に入ってビフロンスの思考を揺らし、エクスブレイドがイブリースの肩のVPS装甲に当たって火花を散らした。

 

《なに、よっ!》

 

イブリースがエクスブレイドを持った手を払い除け、ナックルガードを展開して胸を思いっきり叩きつける。しかし、槍は装甲を貫いてもその奥のフレームに届いていない。

 

《ぐ、っ……!》

《エクス、プロージョンッ!》

 

確かに呻いたミズキを確認してから槍を爆散させる。

胸部から腹部にかけての装甲は砕け散り、確かに焦げて吹き飛んでいく。

しかし黒煙の中から見えた輝きは未だ曇らないシェアフレームの光。

その時ビフロンスはようやく気付いた。シェアフレームの光、その輝きははじめに変身した時と比べて段違いに明るい。

 

(不死殺しの武器が通じない……!?)

《………!》

 

煙の中から光るアデュルトの目が見える。

そしてさらけ出された胸部装甲が眩い光を放ち出した。

 

《っ、目くらまし、なんてっ!》

 

一時的にシェアクリスタルの輝きは目を潰すほどになり、イブリースの視界を封じた。

どんな人であっても視界を瞬間的に封じられれば狼狽える。戦闘経験の少ないビフロンスなら尚更だ。

そして狼狽えた間にビフロンスの胸に鈍い衝撃が走る。

 

《うぐっ、チッ……!》

 

地面に背中を擦り付けられ、しかしそれでもすぐに立ち上がり、目が未だに回復しないことを悟る。

 

(……でも、ね)

 

そして次元フィールドを展開した。

無敵のフィールド、これで目が回復するまでの数秒間を凌ぐ。

視覚の代わりに聴覚を研ぎ澄まし、自分の横と後ろで爆発音を聞く。その轟音から正面からの攻撃が次元フィールドによって受け流されているのがわかった。

 

そしてイブリースの両隣から空気を切る音。

それが次元フィールドにぶつかるだろうと思われる近い距離でその音が止まった。それと同時に閉じた目に再び眩い閃光が突き刺さる。

それと同時にイブリースの胸に強い衝撃がぶつかってきた。

 

《………っ!?》

 

声も出せずに完全に油断していたイブリースが後ろへ吹き飛ばされる。

そして岩石にぶつかって背中が強制的に反らされた。

 

《な、に……っ!?》

 

完全無欠、絶対無敵の次元フィールドを乗り越えた衝撃がイブリースの胸を強かに打ち付けていたのだ。何が何だか、わからない。

しかしそれも一瞬のこと、すぐに世界最高の頭脳が次元フィールドが破られた過程を導き出そうとする。

答えは案外簡単に見つかった。

 

(あのシェアクリスタルの塊……!)

 

《ッ、デファンス!》

《たああーーーーッ!》

 

再び胸に鋭い衝撃。

ぼやけた視界で懸命に自分の胸を見下ろすとそこにはエクスブレイドの切っ先が突き刺さっていた。

 

(VPS装甲で命拾いしたか……!)

《ここで!スパァァーークッ!》

 

VPS装甲の防御力のおかげで切っ先は装甲を貫いてはいなかった。しかしエクスブレイドでさえも眩く輝いて熱を放ち始めた。

 

《熱っ》

《分子結合を強固にするPS装甲!けど、分子ごと吹き飛ばす熱量ならば!》

 

エクスブレイドがVPS装甲に飲み込まれていく。

しかしイブリースもエクスブレイドが熱を放つ前にアデュルトを吹き飛ばそうとしていたのだ。

 

《っ》

 

ガンッという音と共に金属の槍が地面に打ち込まれている。そしてそれもまた一瞬の光を放ち、同時に爆風と破片がアデュルトを吹き飛ばす。

 

《くううっ!》

《っ、チッ!何が起こったっていうの……!?》

 

突如アデュルトの体から放たれた光。

ようやく元通りになった目で前を見ると、そこにはエクスブレイドを構えるアデュルトがいる。

装甲の合間から放たれる光は以前とは比べ物にならないほど眩しく、砕けた胸の装甲からは結晶化したシェアクリスタルが成長している。

そして今も装甲を下から砕きながらシェアクリスタルが外へ出ていこうとしていた。

 

《装甲が拘束具になってるじゃない……原因は……》

 

イブリースのレーダーが1人の人影を見つけた。

 

《アイツか……!》

 

遠く離れた崖の上でカメラをこちらに向けているゴスロリ服の小さな女。

 

《アブネスっ!?》

「これよこれ……!これが私に出来ること!」

 

アブネスがカメラに収めているこの光景は全世界に中継されていた。ミズキが戦っている、そのありのままの姿を見せることで民衆から送られるシェアが倍増し、質も良くなった。

その流入の瞬間がアデュルトが光を放った瞬間だったのだ。

 

《邪魔よ、アンタ……これは私とアイツの決闘》

「っ、やば……!」

 

イブリースがアブネスの方を向いて膝を曲げ、地面を蹴る。

怯えながらもカメラは手放さないアブネスに到達するまで1秒とかからない。

だがその軌道上にアデュルトが重なる。

 

《アブネスのところには……行かせないっ!》

《じゃあアンタから焦げた肉片にしてあげるわよ!》

 

イブリースはナックルガードを展開し、アデュルトに叩きつける。

それをアデュルトは回し蹴りで受け止めた。

 

《エクス……!》

《弾けて……!》

 

槍は装甲を貫いたがフレームを貫けない。しかし直後の爆発でアデュルトは吹き飛ばせる。

 

《プロージョン!》

《シェアクリスタルっ!》

 

イブリースの爆薬が巨大な衝撃を生み出すのと同時にフレームが光り輝いてイブリースに勝るとも劣らない衝撃を発生させる。

お互いにお互いの衝撃を受け止めきれず、後ろへ大きく吹き飛んだ。

 

《チッ……!》

《うっ、く……!》

「わ、わ、ぶつかるぶつかる!」

 

猛烈な勢いで後退するアデュルトがぶつかりそうになってアブネスが目を細めるが、アデュルトはぶつかる寸前でしっかり止まってみせる。

 

《アブネス、なんて危ないことを……!》

「申し訳ないけど、心配無用よ!自分の身くらい自分で守れるから!」

 

アブネスの周りにミズキがかつて使った機体達が集結する。

 

「いいからアンタは戦いなさいよ、私が怪我しないうちにアイツを倒しちゃいなさい!」

《……!》

 

イブリースは地面に立ちながらチッと舌打ちをする。

 

《蝿が追いついたみたいね……》

 

それと同時にミズキも予感を感じる。

 

《みんなが……》

《邪魔くさい……!いまさら、どうにもならないってことがわからない女たちが!》

《そんなことはない……!みんながいれば、必ず君を倒せる!》

《だからわかってないって言ってんの!》

 

イブリースが腰からビームサーベルを引き抜く。通常では考えられないほどの高出力のビームサーベルの刃は激流のように荒れ狂っていた。

 

《全部全部まやかし。アンタの言う希望も、そうでない何かも。だって歴史が証明してる、この私が証明してる!》

《だからそれを打ち砕くんだ!僕と、みんなで!》

《人の過ち、何も出来ない神……!気に障るようなものばかり、ここにはある……!》

 

イブリースの髪のようなユニットが次々と地面に突き刺さる。乱雑なようで狙い済ましたそれはまるでコードのよう。

 

《私は見たの。戦争の中で世界を救う絶望を。その絶望で私は戦争を打ち砕くの、平和にする。誰にも邪魔させない、私はそれだけ平和が欲しい……!》

「なに、なに?なんなの?え?」

 

ピシピシと小石が揺らめき始める。イブリースの周りから空気が歪んでいく。虹色の空間が開き、それが徐々にこの世界を包んでいく。

 

《あれは、次元ゲート……!》

《この螺旋は、私が終わらせる!》

 

次元ゲートが一瞬のうちに大きく口を開き、ギョウカイ墓場を飲み込んだ。抵抗もできずに白い光の中に飲み込まれ、その先の空間へ強制的に移される。

 

《うっ……ここは……?……っ!?》

「う、ちゅう……?でも、息ができるし……わ、わ、わ」

《夢のフィールド、直結……あの時の決着をつけましょう》

 

巨大なコロニーの残骸、浮かぶ岩塊、黒い空間、輝きを放つ巨大な太陽と星。そして何よりも無重力。それが宇宙のようでもあったが、アブネスが呼吸ができるということは宇宙に転移させられたという訳では無い。

 

《この、宙域は……!忘れも、しない!》

《アナタが逃げた場所よ……特別に再現してあげたわ》

 

イブリースの髪のようなユニットが大きく伸びる。それそれが別の生き物のように蠢いてアデュルトを狙っている。

 

《死になさいよ、アンタ》



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夢の中の子供たち

ギョウカイ墓場へと飛び込んで戦いが起こっている中心部までネプテューヌ達は急いでいた。

そのネプテューヌの耳に通信音が聞こえた。

 

《ネプテューヌさん!?ネプテューヌさんですね!?》

「いーすん?どうかした?」

《どうかしたじゃないですよっ!様子を見に来たらいなくなってるし……!今どこにいますか!?まさか……!》

「そのまさかね。みんなも一緒よ」

 

ネプテューヌの後ろには女神が勢揃いしていた。そしてイストワールの大きな溜息が聞こえる。

 

《あのですね!シェアが戻ってきたとはいえ、まだ万全じゃ……!》

「それは私達もわかってるわ。でも、行かない訳にはいかないの」

《ですけど!》

「大丈夫よ、いーすん。すぐ帰るから」

《ん、んん……!もうっ!》

 

イストワールが地団駄を踏む姿が頭に浮かぶようだ。

だがいまさら止まれない。ミズキが待っているというのなら尚更だ。

 

すると中心部の方から巨大な光がカッと輝くのが見えた。

そしてそのしばらく後に白い何かがその空間を飲み込むかのように広がっていくのが見えた。

 

「なに、あれ……」

「お姉ちゃん、多分アレはミズキさんが使ってた……!」

「次元ゲート……!?でも、アレじゃまるで……!」

 

その光は止まることなくネプテューヌたちの眼前に迫る。

 

「爆弾よ……!」

 

ゴゥンという音と共にネプテューヌたちもその次元ゲートに飲み込まれた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ん……ここは……」

 

目を開けるとそこは宇宙のような世界。体を縛る重力は感じず、上下もわからない。

 

「……また、アイツが何かやったみてぇだな」

「ここ、何処なの……?」

「そもそもゲイムギョウ界なの?」

 

それすらもわからない。

ネプテューヌの耳にもホワイトノイズしか聞こえない。通信も途絶されたようだ。

 

「でも、確実にあの次元ゲートは中心部から広がっていました。ということは、ミズキ様もビフロンスも転移している可能性が高いですわ」

「そうね。何処かで戦闘の光や、音がするはずよ」

 

確実にあの2人の戦いは激戦になっているはずだ。そうであればあるほど見つけやすい。

そう考えた途端にユニが遠くでチカチカと輝く光を見つけた。目を細めてスナイパーの視力でそれを観察する。

 

「あっち、かな……。普通、あれだけの光がチカチカするのは有り得ないし……」

「大きな……なんだろう、あれ。残骸もあるし……2人の戦いの痕跡かも」

 

その方向にあるコロニーの廃墟もネプギアが見つけ出す。もっとも、コロニーの廃墟は誰にでも確認できるほど巨大なのだが。

 

「なら急ぎましょう。早くミズキをーーー」

 

 

「待てよ」

 

 

後ろから響いた声に全員が飛び退きながら振り返る。

その声に含まれた怒気、並大抵のものでは無い。だが女神たちの背中に氷柱を入れられたような冷えが走ったのはそのせいではない。

これだけの怒気が篭った声を発したのが聞き覚えのある声だったからだ。

 

「待てよ、お前ら……」

「なん、で……」

 

振り返った先にいたのは4人の男女。

そのうちの1人は……遠くで戦っているはずの、ミズキだった。

 

「逃げんなよォォーーーーッ!」

 

「っ」

 

ミズキの叫びがネプテューヌたちの鼓膜を揺らす。

その時、感受性の高い者達は気付いた。その声の中には怒りだけでなく、悲しみがある。

 

(どういうこと!?執事さんはあっちにいるんじゃないの!?)

(……違うよ、ラムちゃん。アレは、執事さんじゃない……!)

 

「許さない……許さないぞ……!よくも、みんなを、みんなを……!」

「ミズキさん?ど、どうしたの……?」

「変っ……身……!」

「え?」

「構えなさいっ、ユニ!来るわよっ!」

 

ミズキと3人の男女が光に包まれて変身する。そしてその光の中から飛び出した1機のガンダムが状況を飲み込めていないユニに向かう。

 

「っ」

「どきなさいユニ!」

 

背中からビームサーベルを引き抜いたガンダムが向かう中、ノワールがユニを押し飛ばしてGNソードIVを引き抜く。

 

《貴様ら、灰になる覚悟はできたか?》

 

両手で超高出力ビームサーベルーータキオン・スライサ一ーーを剣道の面を打つように振りかぶる。

その瞬間、タキオン・スライサーから発生したビームサーベルの長さにノワールは目を見開いた。

 

長すぎる。

高出力を示す青い刃は何度も叩き直した西洋のロングソードのように美しく、強靭。しかしその威力はこの世のどんな物体であろうとバターでも切るかのように切断してしまうだろう。

 

《くたばれ、外道……!》

「ーーーーー」

 

音もなく、GNソードIVはいとも容易く真っ二つに切り裂かれた。そのままノワールまでもが斬撃を食らい、真下に叩き落とされる。

 

「お姉ちゃんッ!」

《爆熱機構「ゼノン」……!》

 

そして光の中から飛び出した新たなガンダム。体がミズキの怒りを表すように赤く輝き、手に持った大きなライフルから分離した4基のプロテクト・ビットがガンダムの前に移動した。

 

ユニに一瞬の判断が迫られた。即ち撃つか撃たないか。

そして映るのは叩き切られたノワール。

 

……ミズキさんが、お姉ちゃんが傷つくのを許すわけがない……!

 

「うわあああっ!」

 

少し躊躇いを残したメガビーム砲の射撃がガンダムに向かう。しかし、その射撃はビットの合間に張られたバリアによって弾かれた。

 

(そんな!)

 

《シャイニング・ブレイカァァーーーッ!》

 

咄嗟に左手のIフィールドジェネレーターの盾で防御したが、それごと握りつぶされて腕を握られる。

 

「うっ、あ!」

《消えろ……!》

 

そして大爆発を起こす。

爆炎が消えた時、ユニは腕をガンダムに握られながら力なく漂っていた。

 

「ユニちゃんっ!」

「やっぱり、違う……!執事さんじゃ、ない……!」

 

ガンダムはゴミでも捨てるようにユニを放り投げた。

 

「撃とう、ロムちゃん!」

「うん、ラムちゃん……!」

 

ロムとラムの2人が背中の砲身を展開してミズキのガンダムに向ける。

 

「私達に、力を……!」

《にゃはは、あんまり冗談言わないで欲しいにゃ》

 

その2人にまた別のガンダムが巨大な砲身を向けている。ユニのメガビーム砲に勝るとも劣らない巨大な砲身は折りたたみ式の「規格外拠点攻撃兵装カルネージ・ストライカー」。

 

《テメェらが口から出すのは命乞いの言葉だけにゃ》

「……!」

「ロムちゃんっ!」

 

ラムがロムを庇うように前に出た。しかし遅い、そんなのはなんの足しにもならないのだ。

文字通り規格外のこのビームの前では庇う庇わないなど、消滅するのがコンマ何秒遅いか否かにしかならない。

 

《もっとも、許すつもりはないけどね》

 

真っ白なビームが全てを包み込む。

真っ黒な空間を照らしながら2人がそのビームに飲み込まれた。

防御など無駄、なすがままに絶大な熱量に飲み込まれた2人は照射が終わった後にボロ雑巾のように漂っていた。

 

「ロム、ラムッ!」

《ブースト》

「テメエッ!」

《"エクリプス"》

 

咄嗟にブランがツインバスターライフルをガンダムに向けて引き金を引く。

しかしそのビームはガンダムの背中に装着されたビーム砲の射撃によって掻き消された。

 

「なっーーーー」

 

「ブランっ!」

《アンタも自分の事考えた方がいいわよ》

「このっ……!」

《アリス・ファンネル》

 

大きな赤い翼を広げたガンダムから8基のファンネルが射出された。まるでガンダムを守るように周囲にふわりと展開したファンネルは白い軌道をほんの少し残して消える。

 

跳躍するこの願い(インフィニット・チェイス)!》

 

そしてまた少しの白い光の点滅と共にベールを囲むようにしてファンネルが現れた。

 

「くっ!」

 

ベールは急上昇して一斉射撃をかわしたがファンネルは瞬間移動を繰り返しながらベールに付きまとう。

 

「ううっ、この……!」

《ブースト"アイオス"!》

 

さらに6基の赤く輝くファンネルがベールの元へ瞬間移動で現れる。合計14基、それも瞬間移動によって予期せぬ場所へ移動してすぐに去っていくファンネルを目で追うことすらできない。

 

「避けきれ、ああっ!」

 

ついにベールがファンネルの包囲網に捕まった。集中砲火を全身に食らいながらそれでも後退しながら前を見るとライフルを構えた2機のガンダム。

 

《ディバインブラスタァァッ!》

円冠戴く希望の極光(ディバインシュート)!》

 

2機の後方に現れたファンネルが加速帯を形成、通常よりも遥かに威力の高い高出力のビームが向かっていく。

 

「っ、なっ……!」

 

防御魔法を構えたベールだったがまるで流星の如くキラキラとした光を散らしながら飛んでいく2条のビームは容易く防御魔法を砕く。

さらに8基のアリスファンネルが攻撃陣形を瞬時にガンダムの前で組み、強力な2本のビームをベールに向かって撃つ。

 

「っ」

呑まれる奔流の絆(ザ・アサルトフォーム)!》

 

ベールまでもが大した抵抗もできずに光の奔流に飲まれた。その勢いのままにデブリにベールが埋められてしまう。

 

「みん、なが……」

「一瞬、なんて……」

 

完全な連携だった。

息の合ったコンビネーションを3回連続で見せつけられ、さらにそれを一言の会話もなく難なくこなしている。

戦慄するネプテューヌとネプギアにゆっくりとガンダムが振り向いた。

 

《残りは、君たちだけだ……》

(わかってる!ミズキさんの偽物……だけど!)

(その強さは本物……。あの3人も予想が正しければ……)

 

恐らくジョー、カレン、シルヴィア……つまり、死んでしまったミズキの過去の仲間達。誰よりも何よりも固い絆で結ばれていた、世界を救った英雄たち。ガンダムを継いだ者達……!

 

《くたばれよ、お前ら……!》

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

そこから少し離れた戦場ではビームサーベルとエクスブレイドをぶつけ合うイブリースとアデュルトが戦っていた。

 

《理論上のみに存在する極限のガンダム……即ち、格闘、射撃、ファンネルに特化したガンダム。その名もエクストリーム》

《それを使って、みんなと戦わせてるって言うのか!?》

《アナタ達の姿と戦闘能力でね》

 

イブリースがアデュルトを蹴飛ばしていなす。

 

《みんなを弄んでるのか!?お前は!》

《別に、このフィールドが消えればすぐに消える命よ》

 

理論上のみに存在する極限のガンダムたち。理論上のみ、という言葉通りにそのガンダムたちは実現不可能なガンダムだ。

しかし、この夢のフィールドの中でだけはそのガンダムは完成して猛威を振るう。

そして夢のフィールドはビフロンスの脳内に存在する4人の子供たちの命さえも一時的に具現化させた。それも、あの4人はネプテューヌたちを仇だと思い込んでいる。

 

《ふっ、ざ、けるなあああっ!》

《私のこの手が真っ赤に燃える……勝利を掴めと轟き叫ぶ》

 

イブリースの右手が赤い光を帯びた。振り降ろされたエクスブレイドをその右手で掴み取る。

 

《っく!》

《ゴッドバンカー》

 

強烈なエネルギーがイブリースの右手で爆発を起こし、エクスブレイドを砕く。

爆風で吹き飛ばされたアデュルトだったが、すぐに体勢を立て直す。

 

「ど、どうなってんのよ、ここは……!電波が届かない!」

 

アブネスは必死に持ってきた機器を弄ってゲイムギョウ界へと電波を飛ばそうとするが繋がらない。

イストワールの通信が繋がらなくなったように、アブネスの通信もまた繋がらなくなってしまったのだ。

 

「これじゃ、ミズキへのシェアの供給は……!」

 

最悪の場合、途絶える。

そうでなくてもアブネスが戦いの光景を見せられない以上、シェアの供給は以前に戻り状況はますます不利になる。

夢のフィールドと直結して更なる力を得たビフロンスに勝つには今まで以上のシェアの供給が必要不可欠だというのに。

 

「……待って……?」

 

 

《夢のフィールド、直結……あの時の決着をつけましょう》

 

 

「あの時、アイツは直結……って言ったわよね」

 

それはリミッター解除という意味合いかもしれないし、無線から有線に切り替えたということかもしれない。

だが、ビフロンスと夢のフィールドとの繋がりが強くなったということは確かだ。

 

「この、広大な宇宙のどこかに……!」

 

夢のフィールドの発生装置があるかもしれない。

それを壊すことが出来れば……!

 

「よし、よし!探すわよ、お願い!」

 

アブネスをモビルスーツが引っ張って飛んでいく。

 

「怪しいのは……とりあえず、あそこね!あの廃墟!」

 

そしてアブネスはコロニーの廃墟へと向かっていった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

エクストリームガンダムは進化するガンダム。

膨大な戦闘データの中から経験を積むことで機体は進化し、強くなる。そして彼ら彼女らの積んだ戦闘データ、さらに今までのガンダムが積んできた経験は一気に機体を極限にまで進化させるに足るものだった。

 

格闘特化のゼノンフェース、搭乗者はジョー。

射撃特化のエクリプスフェース、搭乗者はカレン。

ファンネル特化のアイオスフェース、搭乗者はシルヴィア。

さらにそれぞれの特化し過ぎた部分を抑え、整理した完全な極限のガンダム、Type-レオスⅡVs(ヴァリアントサーフェイス)、搭乗者はミズキ。そのため、Type-ミズキと呼んだ方が適切かもしれない。

 

極限の名に相応しく、ほんの数秒で女神たちを叩きのめしたガンダム達が今、ネプテューヌとネプギアに向き直っている。

 

「……何が何だかわからないけど、誤解よ。私達は」

《みんなを殺しておいて、まだ言い訳をするのかッ!》

「違う……!だからっ」

 

この感じ、見覚えがある。

ギョウカイ墓場でミズキが怒り狂った時と同じだ。怒っているくせに、心では泣き喚いている。

ビフロンスに何やら誤解を植え付けられたのはわかるが……!

 

「戦うしか、ないの……!?」

「お姉ちゃんっ!」

 

ネプギアがネプテューヌの前に出てM.P.S.LでVsの斬撃を受け止める。

 

「っ……!」

 

考え事をしていた、確かにそうだ。だが、反応もできない速さでVsはネプテューヌにビームサーベルで切りかかっていたのだ。ネプギアがいなければ、今頃もうやられていたに違いない。

 

《どいてよ……っ!》

 

両肩にマウントされた2基のビットが分離し、ネプギアに矛先を向けた。

 

「まだ……!?」

 

ブレードビットはビームサーベルを展開して切りつけることの出来るビット。ネプギアのCファンネルの展開も間に合わない。

しかし、それがネプギアに突き刺さる寸前に2本の太刀がブレードビットを弾いた。

 

「戦うしか、ない……!」

《ファンネル……!?》

 

2本の太刀はネプテューヌが直接手を触れていないにも関わらず意思があるかのように動いてVsに切りつけにかかる。

Vsはネプギアから遠ざかって難なくかわしてみせた。

 

「戦うしか、ないのなら……!その罪は私が背負う」

 

ネプテューヌが太刀の柄を投げ捨てる。ネプテューヌが装備しているのはただ3本の太刀のみ。

そのうち1本を手に持ち、残り2本はネプテューヌを守るように宙を舞う。

 

「私達はこの夢から抜け出さなきゃいけない……!たとえ、アナタ達に意思があったとしても!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲いかかる伝説

Vsの装甲の赤い発光が落ち着いて本来の青い装甲を見せた。

リミッター解除に等しい爆熱機構「ゼノン」はいつまでも使える代物ではない。大きな負荷がかかる武装のために長く使っていては逆にパフォーマンスは悪くなる。

 

《みんな!》

《準備は出来ている》

 

ゼノンがブースターユニットを使って急速接近してきた。

そのまま回し蹴りをしてくるゼノンとネプテューヌの太刀がぶつかり合う。

 

(硬い!)

 

しかしネプテューヌの太刀と思いっきりぶつかったのにも関わらずゼノンには傷一つない。まさに体は鋼鉄、並大抵の攻撃では痛くも痒くもあるまい。

 

《ふっ……!》

 

そのまま反作用を生かしてゼノンが回転、懐から紫色のビームの鞭、レオスクロスで薙ぎ払ってくる。

それも太刀で受けるが、太刀に鞭が巻き付く。

 

「っ!」

 

太刀を持っていかれそうになったところを何とか耐える。お互いに引っ張り合うように硬直する。

 

(なんて馬鹿力……!)

 

「でも……!」

 

次の瞬間にはネプテューヌの周りにアリスファンネルが展開していた。

瞬間移動によりネプテューヌを取り囲むアリスファンネル。ゼノンがネプテューヌの動きを止めた瞬間に行われるコンビネーション。

 

「私だって1人じゃない」

「Cファンネルっ!」

 

刃をまとうCファンネルがネプテューヌの周りに現れたアリスファンネルに切りかかる。

アリスファンネルは瞬時に瞬間移動して攻撃を避けた。

 

「離し、なさいっ!」

 

2本の太刀がゼノンに向かって飛んでいく。

レオスクロスを緩めて後ろにかわしたゼノンが上に逃げるとゼノンの死角にエクリプスが隠れていた。

穴がない作戦はない。だからこそ、その穴を瞬時に埋めてしまう4人には舌を巻く。

 

《弱いヤツから順に死ぬ……って言うけどにゃ》

 

エクリプスが手に持った2丁のヴァリアブルサイコライフルを合体させた。

 

《じゃあ弱いヤツは死んでも仕方ないのかにゃ?》

 

クロスバスターモード。

貫通力と威力を高めたビームの弾丸を太刀を3本交差させて防ぎきる。

 

「うくっ……!」

 

衝撃で2本の太刀は遠くへ吹き飛んでしまう。

しかしまだ追撃は続く。上に飛んだゼノンがビームサーベルを下に向けて落下してきた。

 

「うあっ!」

 

太刀で受けたが受け止めきれずにネプテューヌが回転して吹き飛ばされる。

そのままデブリにゼノンはビームサーベルを突き刺し、粉々に砕いてしまった。

 

《ンなわけないに、決まってんでしょッ!》

 

アイオスがネプテューヌに向かっていく。

2本のビームサーベルを束ね、出力をあげた状態で切りかかっていく。

その前にネプギアが立ちはだかり、M.P.S.Lとビームサーベルがぶつかり合った。

 

「……っ!」

《だあッ!》

「ああっ!」

 

ネプギアも吹き飛ばされた。

ネプテューヌとネプギアがぶつかってしまい、2人の位置が重なった時にはエクリプスが狙いを定めている。

 

《避けきれにゃいよ》

 

空間制圧兵装エクリプスクラスターを使う。

オプションパック左側のコンテナを2発射出、そこから放たれる無数のミサイルの雨あられが2人に向かっていく。

 

「く!」

 

ネプギアがM.P.S.Lのビームを発射するが焼け石に水にもならない。

おびただしい量のミサイルの千分の一も減らせていないだろう。そしてこれだけのミサイルの空間制圧からは逃げることも間に合わない。

 

大量のミサイルを殲滅できるのは大量のミサイルのみ。

そしてそれが出来るのは……。

 

《ん》

 

横から飛んできた無数のミサイルがエクリプスクラスターのミサイルを次々と撃ち落としていく。

その爆炎の中を抜けてくるミサイルもあるが数は少ない。ネプテューヌとネプギアは難なく避けきってみせた。

 

「あの程度……軽いわよ、偽物さん」

 

ミサイルを発射した主はユニ。

口元に付いた血を腕で拭ってVsを見据えている。

 

「本物の……足下にも及ばないわね」

 

Vsがブレードビットを連結、回転させて投げつける。

ユニがすかさずメガビーム砲を命中させるが、ブレードビットは傷一つない。軌道は少し逸れたもののすぐに修正され、ユニに向かってくる。

 

そのユニの前に青白いゲートが現れた。

まず最初にソードビットが現れ、次に量子テレポートでノワールが現れる。

青白い粒子は次第に形になってノワールを形作り、GNソードⅤでソードビットを弾き飛ばす。

 

「ノワール!」

「あの程度で……っ!女神を舐めんじゃないわよ!」

 

戦闘に参加できるものの、2人のダメージはやはり大きい。満身創痍というわけではないが連戦に次ぐ連戦、癒え切らない傷も多い中、このダメージは堪える。

ユニは左腕が使えそうにない上にIフィールドジェネレーターを潰された。ノワールは右肩を押さえているし、GNソードⅣを叩き切られている。

 

Vsはブレードビットを持って両手に持ち、二刀流のように構える。

片腕しか使えないノワールとユニに向かって飛翔しようとしたVsは横から飛んでくる影に相対した。

 

《っ、君まで……!》

「アナタ達がどれだけの死線をくぐり抜けてきたか知りませんけど……!」

 

ベールだ。

槍を両手に持ち、Vsを超える突きの素早さで攻撃を叩き込む。

 

「私達はみすみす負けるつもりはありませんのっ!」

 

目にも留まらぬ突きを繰り出すベール。Vsは全て弾き切っているが、反撃を繰り出す暇などない。

すぐにエクリプスがライフルをベールに向けたが、横から迫る高エネルギー反応のために避けざるを得ない。

 

《カルネージストライカーを耐えるって……とんだバケモノだにゃ》

「はあっ、はあ、どっちが……!」

 

ブランのツインバスターライフルだ。

羽の中にツインバスターライフルを収納し、斧を持って襲いかかるブラン。

射撃進化のエクリプスの格闘武装は最小限。だからこそエクリプスを、彼女を守るためにゼノンが立ちはだかる。

 

「邪魔だ、どけぇっ!」

《カレンを倒したいのなら、俺を抜けてからだ……!》

 

ぶつかり合う斧と拳。

ダメージを負っているとはいえ、重い斧の攻撃をただの拳で難なく弾いている。

 

《フンッ!》

「がっ!」

 

ゼノンの拳がブランの鳩尾に入る。怯んだブランの腹に呼吸を整えたゼノンが百裂拳を叩き込む。

 

《はあああああああっ!》

 

腹にある人体の急所全てに何発もの拳を打ち付ける。鋼鉄の拳と鍛え上げられた肉体から繰り出される百裂拳はブランから猛烈な勢いでスタミナを奪い去る。

 

《るあああっ!》

 

アッパーで弾き飛ばしたブランに両手を向ける。

すると腕部のファイヤーバンカーが展開し、手のひらが炎をまとい始める。

 

《はッ!》

 

その火炎をブランに放射する。

しかし一瞬で体の芯まで燃やし尽くすほどの火炎はブランの前に現れた魔法陣から現れた氷塊で受け止められた。

 

「アイス……っ、コフィンっ!」

 

ブランをロムが受け止め、ラムが放ったアイスコフィンが火炎を阻みながらゼノンに飛んでいく。

 

「お姉ちゃん、今回復するね……?」

「ぐっ、ああ……助かるぜ」

 

ロムが回復魔法を使うとブランの腹に無数にあった拳のアザが消えていく。

ゼノンはアイスコフィンを拳で砕こうと身構えたが、エクリプスが前に出る。

 

《どけ、邪魔くさい》

《うるさいにゃ!ここは私の出番だにゃっ!》

 

肩部ビーム砲のブラスターカノンを2門同時に発射する。

高い貫通力を持つ青白いビームはアイスコフィンを砕き、そのままブラン達の元へ向かう。

 

「なっ、んっ!」

 

咄嗟に防御魔法で受け止めたが吹き飛ばされてしまった。

 

「ラム!」

「だ、大丈夫!」

《にゃは〜♪》

《まったく……》

 

かつてビフロンスと戦った英雄たち。敵になればここまで恐ろしいものだと思わなかった。

だが負けられない。この次元を守る者として、ここで立ち止まることは出来ない。

ミズキが何処かで待っているのだから。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「……ダメです。通信、繋がりません……」

「クソ……」

 

ジャックとイストワールはギョウカイ墓場を包み込んだ白い球体を見て唇を噛む。

次元ゲート……いや、もはやそう呼べる規模ではない。あの白い球体の内側にどんな空間が広がっているのか、想像もできない。

 

「アブネスが送ってきていた映像も途切れた、このままではシェアの供給が追いつかなくなる」

「ですが、これでは八方塞がりです……」

 

あの内側はどんなことになっているのか、観測すらできない。中を確かめるにはあの白い球体の内側に入るしかあるまい。

だからと言って中に入れば帰れる保証もなく、ビフロンスの胃袋の中に飛び込むようなものだ。

 

「……やるしか、あるまい」

「どうするつもりですか?」

「中に飛び込む。虎穴に入らずんばというヤツだ」

 

振り返って部屋を出ていこうとするジャックの肩をイストワールが掴んで引き戻した。

 

「ダメです、危険過ぎます」

「だが」

「どうしてもと言うのなら私を引きずって行ってもらいます」

「……ならば引っ張っていこう」

「え、え?」

 

ジャックがイストワールの手を掴んで引っ張っていく。

咎める顔をしていたイストワールはキョトンとした顔をした隙にあれよあれよと引っ張られてしまう。

 

「あ、あれ?あれ?そこは何とか踏みとどまるところでは……?」

「『ここを通りたかったら俺を倒してから行け』か?」

「いや戦う気は微塵も……って、あっ、もう、待ってください!」

 

ようやく調子を取り戻したイストワールがジャックの手を掴んで止める。

 

「ホントに危険です!中で何が起こっているのか、わからないんですよ!?」

「わかっている。だが……だがな……」

 

ジャックがモニターの向こうの白い球体を見る。

 

「行かなければならない気がしているのだ。みんなが行っているからとか、そういう理由じゃない。俺が行かなければならない、そんな理由があの中にある気がする」

「何を根拠に……!」

「根拠、か。それはないが……俺は直感を無駄にしないようにしている」

 

そう、直感に似たもので相互理解し合った彼ら彼女らのように。

 

「でも、ミズキさんも女神の皆さんも、アブネスさんまでいなくなって……、私1人で待つなんて」

「だから引っ張っていこうと言っている」

 

ぐいっと再びイストワールを引っ張る。

つんのめるようにして持っていかれるイストワール。座っている本が躓くように上下している。

 

「な、ちょ、ホントに連れていく気だったんですか!?」

「傷物にする気は無い」

「そういう問題じゃ……!って、その言葉のチョイスはやめてくださいっ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最初の脱落者

「Cファンネル、お願いしますっ!」

 

ネプギアのCファンネルが規則正しい隊列を組み、ネプギアが舞うように広げる手の動きに呼応して飛んでいく。

ゼノンは後退しながら突撃するCファンネルを全て拳で弾き飛ばす。

 

《ハエが止まるぞ》

 

ゼノンが足のブースターを使ってネプギアに急接近する。

 

(近付かれるのは、ダメ!)

「ネプギアに、近寄るんじゃないわよっ!」

 

横からモビルアーマーのスピードを生かして膝の大型ビームサーベルを展開したユニが突撃してくる。

 

「たあああっ!」

《お前は単調すぎる》

 

ぶつかる寸前にゼノンが体をいなして回転、ユニの勢いを殺すことなくそのままネプギアの方向に投げ飛ばす。

 

「っ、あうっ!」

「きゃあっ!」

 

ぶつかってしまうネプギアとユニ。そこにゼノンが手のひらを向ける。

 

《いくら速くてもストレートばかりではな》

 

手のひらから放たれる巨大な火球が2人に向かっていく。しかしその火球は2人の前で交差した太刀に阻まれる。

 

「ダメよ!アイツに迂闊に近寄っては!」

 

ネプテューヌが操る2本の太刀がゼノンに向かっていく。しかし天性の格闘センスと戦場の中で鍛え上げられた野生本能をフルに使って戦うジョーには通用しない。

 

「GNソードビット!」

 

ノワールが飛ばしたソードビットがVsに向かっていく。

だがVsもブレードビットを投げ飛ばす。ブレードビットは円を描くようにしてソードビットを全て弾き飛ばし、再びVsの手元に戻ってくる。

 

《君程度に、ファンネルの扱いで負けるはずがない!》

「っ、たかが2つのファンネルに……!」

「後ろが、お留守だぜぇっ!」

《もちろん、見通しているっ!》

 

後ろから斧で切りかかるブランをブレードビットで受け止め、蹴り飛ばす。

 

《にゃあははははははっ!》

「きゃああーーーー!もうーーー!」

「ドカドカ撃ちすぎだよぉ……!」

 

エクリプスは高笑いしながらミサイルと2丁のライフル、肩のブラスターカノンで弾をばら撒く。

デブリに隠れながら逃げる2人をデブリごと消しながら逃げ場を無くしていく。

射撃進化の極限であるエクリプスは決して弾が途切れることは無い。このままではロムとラムはいずれ弾幕に捕まってしまう。

 

「あまり調子に乗らないで欲しいですわねっ!」

《なぁにを勘違いしてるにゃ?》

 

後ろから迫るベール。無防備なはずのエクリプスの背後にいきなりファンネルが現れた。

 

《隙なんて何処にもにゃいよ?》

「くっ!」

 

バク転してファンネルの攻撃をかわす。

なおも瞬間移動しながら追いかけてくるファンネルを避けながらベールはドラグーンを射出した。

 

《さぁすがにそれはキツいかにゃ》

 

エクリプスはそのドラグーンの攻撃を見てようやく弾をばら撒くのをやめて回避する。

 

《シルヴィア》

《言われなくても》

 

名前を呼ぶまでもなくアイオスはロムとラムに接近してコンビネーションを決めようとしている。

 

「ラムちゃん!」

 

いち早く気づいたロムが杖の先を凍らせてビームサーベルを受け止める。氷はすぐに溶け始めたがラムが杖の先をハンマーにしてアイオスに攻撃する。

 

「てええやっ!」

《ふんっ》

 

アイオスもバク転してそれを避け、その瞬間にファンネルをラムの目の前に瞬間移動させる。

ファンネルは大型の実体剣に組み上げられ、ひとりでに動いてラムに攻撃し始める。

 

「んっ、やっ、のっ!」

 

ラムがファンネルの実体剣に何度もハンマーを叩きつける。しかし、ファンネルは繰り返し繰り返し攻撃し続けてくる。

 

「しつ、こいっ……!」

「やめてっ……!」

 

ラムがアイスコフィンを発射するとようやくアイオスは2人の元を離れてファンネルも消える。

 

「強い……!」

 

ユニが遠くからメガビーム砲を撃ちながら唇を噛む。

ゼノンは避けもせずに拳でビームを弾き、まるで問題にしていない。

 

《当然だ。守るものがある者は強い》

 

ゼノンがデブリを踏み締め、蹴り出した。そのままデブリからデブリへ勢いを増しながら飛んでいき、自分の限界以上の速度にまで迫る。

 

《そして……っ!》

「ぐっ……あっ!」

 

猛スピードで突進しながらの蹴りを膝のビームサーベルで受け止めたが吹き飛ばされる。

ユニはその勢いを殺せずに回転しながら背中をデブリに打ち付けてしまった。

 

「んっ、くっ……げほ!」

《守るものを失った者はさらに強い……!》

 

そのままビームサーベルで切りかかってくる。

凄まじい速度で迫るゼノン相手にユニはほぼ反射的に膝をあげてビームサーベルで防御した。

 

「ユニちゃん!」

 

ネプギアが向かうがゼノンはさらに手に力を込めてユニを押し切ろうとする。

 

《間に合わん……ここで仕留める!》

 

ユニのビームサーベルが押されて目の前にまで迫ってきている。このままでは自らのビームサーベルで切られてしまう。

しかし、そこから動かない。ゼノンが全力を込めているにも関わらずユニは足を震えながら受け止めていた。

 

(この小柄な女のどこにこんな力が……)

「うぐ、はっ、はっ……!アンタ、今、なんて言った……」

《なに?》

「なんて言ったかって聞いてんのよ!この……ッ!」

 

コンテナから武器が滑り落ち、ユニがそれを手に取る。取り回しの良いビームピストル、それをゼロ距離でゼノンの顔に向ける。

 

「約立たずッ!」

《っ!?》

 

ゼノンがとっさに首を曲げて攻撃を避けたがその隙にユニがゼノンをもう片足で蹴飛ばして脱出する。

 

「失った者が強いって!?バカ言ってんじゃないわよ、全ッ然そんなことない!」

 

コンテナが開いて無数のミサイルがゼノンを追いかける。

ゼノンは急速に後退しながらデブリを進路上に挟んでいく。だが雨のように降り注ぐミサイルはデブリすら砕きながらゼノンを追いかけていく。

 

《ならば……!》

 

ゼノンがデブリを強く拳で殴りつけた。するとデブリは粉々に砕け、まるで散弾銃のようにミサイルに飛んでいき、効率的にミサイルを砕く。

 

爆炎が宇宙を覆い、ゼノンの目の前は炎の壁になる。その壁を突っ切って、ユニが突貫してきた。

 

「ユニちゃんっ!?ダメッ!」

「だあああああっ!」

《………!》

 

メガビーム砲を乱射してスピードを下げる気配など一切ない。

前方に加速するために揺れる銃身を抑えながら的確に放たれるビームをゼノンは両手で弾きながら体勢を整え、自らも突撃する。

 

「っ、飛べえええっ!」

《ふんっ!》

 

2人が両手を突き合わせてぶつかった。

ギリギリと握り合う指が音を立て、一瞬だけ2人のスピードはゼロになる。

しかし、加速距離の長いユニの方が有利だった。ユニに押され、ゼノンは振り回される。

 

《ぬうううっ……!》

「なによ、全部失くしたこともないくせに……!アンタが偽物だってわかってる、わかってるけど……言わないでいられない!」

 

ユニはそのまま直線的に加速して戦域を離れていく。ユニのスピードは凄まじく、援護しようと追いかけるネプギアも距離がどんどん離されていく。

 

「ユニちゃん!待って、1人じゃ!」

「あのバカっ……!頭に血がのぼったわね!」

 

ノワールもユニを追いかけるが距離は離されていくばかりだ。しかしそれは相手も同じ。

ゼノンを援護しようとしても3人は援護できない状況になっていた。

 

「う、らあああっ!」

 

ユニがゼノンを投げ捨てる。

ゼノンは回転しながらもデブリに足をつき、勢いを殺してみせる。

 

「全部よ!全部をなくしたのよミズキさんは!その時のミズキさんは、今よりずっとずっと弱かった!」

《何を……!》

「失ったら怒るんじゃない、悲しむの!アンタは全然わかってない!」

 

メガビーム砲をゼノンが避けるとデブリに当たる。デブリは粉々に砕け、破片を撒き散らした。

 

「1人だけ行かせて……!何も託さないで、満足したふうに死んでいって!アンタ達がそうしたせいで、どれだけミズキさんが苦しんだと思ってるの!?」

《ハァッ……!》

 

ゼノンが両手の先に力を向けると巨大な火の玉が出来上がる。火の玉はその場に残り、小さく分離するようにしてたくさんの火球をユニに撃ち出した。

ユニは大きく上昇しながらそれを避け、大きく助走をつけて舞い戻ってくる。

 

「なんでミズキさんだけ行かせたのよ!?いくら可能性が低くたって、全員で行こうとしたのがアナタ達だったんじゃないの!?」

《来るか……!》

 

ゼノンも真正面から受けて立つために、デブリを蹴りながら加速してユニに突進する。

 

「役立たず、役立たず、役立たずっ!役立たずゥゥーーーーッ!」

《フゥ……ハッ!》

 

ゼノンは手のひらの先に電撃球を作り出した。それをユニに向かって投げるとユニの進路上で大きく膨らみ、進路を妨げる。

 

「こんなんで私は、止まらないッ!」

 

爆雷球の中に減速もせず自ら突っ込んでいくユニ。するとユニの全身を高圧電流が襲い、焼き焦がしていく。

 

「うあああああっ!」

「ユニっ!」

《無鉄砲な……バカか、耐えきるだけの体力があると踏んだか!》

「う、う、ああっ……!こんなので……!」

 

しかし決してユニは減速しない。電撃の中をくぐり抜け、全身を電撃と激痛が襲い、肉が焼ける匂いにむせ返りそうになっても……!

 

「こんなので、止まれないんだからァァァッ!」

 

ユニが電撃から飛び出した。

 

《勇気か!いいぞ、燃えてきた!お前の中に俺はとてつもない勇気を見たぞ……!》

 

体が上手く動かなくなった。もともと蓄積されていたダメージがここで効いている。それでも止まれない。

 

「私は、ミズキさんのところへ行くんだ……!アンタ達みたいに1人で戦わせたりしないのッ!」

《ぬうあああっ!》

 

ゼノンがユニに向かいながら火球を片手の先に作り出す。それは大きく膨らみ、まるで太陽のような輝きを持つ。

 

《これで終いだァァッ!》

 

ゼノンが全力で巨大な火球をぶん投げた。爆雷球でダメージを負ったユニにもう残っている体力などない。

 

「アンタ達は……!」

 

ユニと火球は吸い寄せられるように近付き、そしてユニにぶつかった瞬間に火球はさらに大きく大爆発を起こした。

 

「ユニッ!?」

 

宇宙を遠くまで照らし出すほどの光が一瞬放出され、爆炎はまるで太陽のように大きい。

確実にユニは倒れた。誰もがそう思っていたが、ゼノンだけは違った。

 

《俺のこの手が光って唸る……》

 

ゼノンの右手が熱と光を帯びていく。

 

《お前を倒せと輝き叫ぶ!》

 

敵であるゼノンだけは直感でわかっていた。ユニと相対して初めてわかる、この娘はこの程度でやられる女ではない!

 

「アンタ達はァァーーーッ!」

 

ユニが爆炎の中から飛び出した。

 

(やはり来たな!)

 

背中のコンテナをユニは背負っていない、ユニは咄嗟にコンテナをパージして火球にぶつけることで直撃を防いだのだ。

しかし、爆炎のダメージはユニの体にさらに深い傷を負わせた。それでもユニは止まっていない。

 

《希望の極光!シャァァァァイニングッ・バンカァァーーーーッ!》

「なんで、なんでなのよっ!なんでアンタ達は、死んだのよォォーーーッ!」

 

ユニはビームサーベルを掴んで突きの構えのまま突撃する。ゼノンも光り輝く右手を前に出してユニへと突撃していく。

そして、ぶつかる。

 

「ユニっ!」

(ジョー……?)

 

カレンがその光に振り返った。エクリプスの射撃に優れた目は遠く離れた2人の様子でさえも鮮明に映し出していた。

 

《…………》

 

ユニのビームサーベルはゼノンの左肩に突き刺さっていた。そしてゼノンの右手はユニの首にあてがわれている。

 

「なん、で……」

 

宇宙の中にこぼれ落ちた輝く水滴さえもエクリプスは捉えていた。

 

「なんで、死んじゃったのよ……バカ……!」

 

最後の抵抗でユニが手に持ったビームピストルをゼノンの顔に向けて乱射する。

何発ものビームがゼノンの顔面に当たるがゼノンはびくともせず、怯みもせずに右手の熱量を上げていく。

 

「アンタ達が、いればっ……!」

《パァァァァァァイル・ピリオドッ!》

 

(……終わりね)

 

ユニが炸裂する右手の熱と光に飲まれた。そしてユニは吹き飛んでいき、デブリにぶつかって反作用で背中を仰け反らせた。

もう戦う力の残っていないユニは目を閉じ、静かに宇宙に漂っている。そして変身が解け、ボロボロの体でユニは動かなくなった。

 

(ま、良くやったほうじゃにゃいかな)

 

ゼノンは左肩に突き刺さったビームサーベルを引き抜く。左肩は使えなくなっていたが、それ以外のダメージはない。

ユニの勇気と決意をもってしても、ゼノンの圧勝だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジョーという男/カレンという女

「ユニぃぃっ!」

 

絶叫したのはノワールだった。

ピクリとも動かなくなってしまったユニを見て激昴する。

 

「アンタぁぁぁぁ!」

 

ノワールがトランザムを使ってゼノンに急接近する。

しかし、その眼前にファンネルが立ちはだかる。

 

「ッ!」

《行かせないわよ、アンタもっ!》

 

ノワールの前にアイオスがいた。

ビームサーベルを両手に持ち、通す気は全くない。

 

「どきなさいよッ!」

《行かせないって言ってんのよ!》

 

ノワールがアイオスに切りかかる。

受けて立つアイオスだったが、そのアイオスの目の前でノワールは粒子になって消える。

 

(消えたっ!?)

 

ビームサーベルは宙を切り、後ろを振り向くとそこには形になっていく緑色の粒子。

 

《ジョー、抜かれた!》

《……お前も来るか!》

 

アイオスがノワールを追いかけようとしたが、その前に今度はビームが飛んでくる。

 

「ノワールさんの邪魔はさせません……!」

《じゃあアンタを瞬殺してから行くわよ!》

 

ネプギアがアイオスを食い止める。

その隙にノワールはトランザムのスピードでゼノンの眼前にいた。

 

「叩き切るッ!」

《受けて立つッ!》

 

ノワールのGNソードⅤとゼノンのビームソードが何度もぶつかり合う。

何度も、何度も、何度もぶつかる中でノワールのスピードは高まっていく。

 

(この、粒子量は……!)

「ここで……終わらせる!」

 

さらにソードビットまで射出される。

しかし、ゼノンは恐ろしいことにソードビットとノワールの攻撃を片手でいなし続けていた。

 

「私が終わらせるッ!」

 

ノワールのGNソードⅤにソードビットが連結し、バスターライフルになる。

そしてそこに粒子を集中させ、ゼノンに砲口を向けた。

 

「夢なんかに負けてたまるかァァッ!」

《ぬうっ!》

「トランザムライザァァーーーーッ!」

 

クアンタの膨大な粒子量から放たれるビームの奔流がゼノンに向かう。

 

《この程度の斬撃ッ!》

 

ゼノンはビームソードの出力を最大にし、それをいなしてしまう。いなされた斬撃がデブリをいくつも焼き払って溶かし尽くしてしまう。

 

《ちょ、ジョー!アンタ!》

《離れていろ!》

「だあああっ!」

《はあああっ!》

 

超ド級の斬撃同士がぶつかり合い、弾かれ合う。

掠るだけでも飲み込まれて消えてしまうほどの嵐のようなビームサーベルと職人が作ったように薄く鋭いビームソードはお互いに折れもしないし負けもしない。

 

しかしそれだけの剣を作り出すのには膨大なエネルギーを必要とする。最初にそのエネルギーが切れかけたのはノワールの方だった。

 

「っ、のっ!」

《どうした……そこまでか!》

 

もう残り数秒と粒子がもたない。

ならばノワールに許されるのは捨て身の攻撃のみ。

 

「こんな悪夢なんかにっ!今のミズキに、アンタ達の夢は必要ないのよォォッ!」

《受けて立ァつ!》

 

横薙ぎに剣を振るノワール。もしゼノンが受け止めようともそれごと切り裂くつもりの文字通り全力を込めた斬撃だ。

 

「はああああっ!」

《身を捨ててこそ、生き残れる勝負も……あるッ!》

 

捨て身には捨て身。

ゼノンも防御をかなぐり捨てて剣をまっすぐノワールに向け、突進する。

ゼノンが先か、ノワールが先か。

 

しかしノワールの斬撃がゼノンの左腕を焼き始めた途端にその斬撃が止まる。ゼノンの突きはノワールの腹に深々と突き刺さっていたのだ。

 

「ノワァァァル!」

「ーーーー!」

《ぬううううあっ!》

 

腕が蒸発しようとも突進をやめないゼノン。ノワールはそのままデブリに叩きつけられ、その瞬間にトランザムも終わった。変身は解けていないが、GNバスターソードを手放してしまっている。

 

「逃げなさい!ノワール、ノワールっ!」

《これで終いだ……!》

 

ゼノンがビームサーベルをしまい、デブリに叩きつけられたノワールにさらなる連撃を加えていく。

旋風脚による回りながらの連撃。体の全身を痛めつけられ、玩具のように吹き飛ばされるノワールがかかと落としでデブリに叩きつけられた。

 

《俺のこの手が光って唸る……お前を倒せと輝き叫ぶ!》

 

もうノワールに抵抗する力はない。辛うじて変身を保っているだけのノワールはゼノンに首を掴まれた。

 

《シャァァァイニングゥゥッ!バンカァァーーーーッ!》

 

ノワールの至近距離でゼノンのシャイニングバンカーが叩き込まれる寸前だった。

 

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ……」

《っ、ぐっ!?》

 

ノワールの指先がクイッと曲がる。

それと同時にゼノンの背中から腹に抜ける衝撃。

 

「肉を切らせて骨を断つってことよ……!」

《きさ、ま……っ!》

 

ゼノンの腹に突き刺さっていたのはノワールが手放したはずのGNバスターソード。

GNソードだけでは操作できなかった、GNビットが装着されていたことによって遠隔操作が可能になっていたGNバスターソードだからこそ出来たのだ。

 

《ッ、パァァァァイルッ!》

「させるかっての……っ!」

 

ノワールがグッと手を握って力を込めるとGNバスターソードにまとわりついていたGNソードビットが炸裂するように分離する。

 

《がっ……!》

 

腹からビットが分離したせいでゼノンの体が真っ二つに切り裂かれる。

 

《貴様の……!覚悟が上をいったか……!》

「ふふっ、ざまあ、み、な……さ………」

 

ゼノンは沈黙したが、ノワールもまた目を閉じる。ノワールの変身が解け、今度こそノワールも戦闘不能となってしまう。

 

《ッ………!》

 

そしてそれを見ていたエクリプスが絶句する。

 

《ジョォォォーーーーーッ!》

 

エクリプスは半分パニックになって真っ二つになったゼノンの元へと向かう。

 

(まだ、まだ間に合う……!真っ二つになった程度でジョーが死ぬわけない……死ぬもんか!)

 

しかしそのエクリプスをドラグーンが取り囲む。ビームの雨あられを避け、それを発射した主を見てギリリと歯軋りした。

 

《邪魔を……!》

 

エクリプスが両手のヴァリアブルサイコライフル、肩のブラスターカノン、そしてカルネージストライカーを一気に展開する。

 

《しないでぇぇぇっ!》

 

エクリプスのフルバースト。

それはベールだけでなくそばにいたロムとラム、ブランまで巻き込むほどに範囲が大きい。

 

「っ、ぶねぇっ!」

「適当に撃ちすぎだよぉ……!」

「っ、もう、馬鹿みたいに!」

「油断しないで!すぐ来ますわよ!」

 

さらにその照射が終わった後に膨大な量のミサイル。それを発射するやいなやエクリプスはすぐ逃げるようにゼノンの元へと向かう。

 

「私が食い止めますわ!ブラン達は攻撃の準備を!」

 

ベールの中で何かが弾け、SEEDを発現する。

襲いかかるミサイルがスローモーションに見えるほどの集中力でドラグーンの狙いをつけ、さらに魔法陣から顔を覗かせる無数のシレッドスピアー。

 

「こちらも!フルバーストッ!」

 

効率的にミサイルが爆発して霧散していく。

そしてベールのビームと槍がミサイルに届くまでにブランは羽をはためかせて羽ばたき、ロムとラムは集中を始めていた。

 

「私たちに……力を……」

「お願い……夢の中でも、届かせて……」

 

夢のフィールドの中の世界であっても魔力は届き、2人の周囲の温度を下げていく。そして2人はサテライトキャノンを構え、エクリプスに狙いを定めた。

 

《ジョー、ジョー……!お願い、死なないで……!》

 

エクリプスがゼノンの近くへと迫っている。

 

《ジョーが死んだら、私……!》

 

しかしその寸前で後ろからの反応。

 

《まだッ!?》

「余所見してんじゃ、ねえッ!」

 

咄嗟にエクリプスはライフルを捨ててビームサーベルを引き抜き、ブランの斧と鍔迫り合う。

 

《っ、邪魔って言ってんのがわかんないのっ!?》

「口調も素になって、随分余裕がねえなァッ!」

 

何度もビームサーベルと斧がぶつかり合うが、さすがにエクリプスがパワー負けしている。

 

《ジョー、フォロー!……っ……!》

 

無意識にジョーにフォローを求めてしまっている。射撃と格闘、二位一体のコンビネーションが乱されてしまい、そしてそれが回復する見込みももうない。

 

「お姉ちゃん、そこをどいてっ!」

「動きを止めて……!撃つよ……っ!」

《……!》

 

サテライトキャノンの砲口が自分に向いている。あの高エネルギー反応はカルネージストライカーに匹敵するレベルだ。

 

「よし!」

《させない……っ!》

 

ブランが離脱しようとするのを両手首を掴んで引き止める。ブランが近くにいれば、あの2人は撃つことはできないはずだ。

 

「てめえっ、離しやがれっ!」

《……っ、ジョー……!》

 

しかしこのままではいずれ振り払われてそこを狙い撃ちされる。

アイオスはネプギア、Vsはネプテューヌの相手をしていてこちらに来るにも時間がかかる。

 

《ジョー……ジョー……っ!》

「ん、のっ!」

 

ブランの斧を持った手が振り払われ、そのまま斧が肩に振り降ろされた。片方のブラスターカノンが潰れ、鎖骨のあたりまで斧がめり込む。

 

《あああっ!》

 

絶望的状況。その時カレンが助けを求めたのはシルヴィアでもミズキでもなく……それでもジョーだった。

 

《助けて……助けてよっ、ジョォォッ!》

《…………》

《お願い、立って!足がなくたって、そばに来て!でないと……ジョーがいないと、私……!》

《なぁぁぁにやってんだ、この、朴念仁ッ!》

 

その時、アイオスも叫んだ。腹の底から声を響かせ、ゼノンにひたすら呼びかける。

 

《アンタの彼女がピンチでしょうがッ!助けに行かずに、男を名乗ってられんのッ!?》

《ジョー、起きて!この程度で負ける君じゃないはずだ!》

 

たった3人の声援。すぐにでもかき消されそうで、でもどこまでも響くその声は確かに、ゼノンの……ジョーの胸を揺らした。

 

《カレ、ン………ッ!》

《それでこそよ、ジョー!》

《頑張れ、ジョー!》

《お願い、ジョー!私ごとでいいッ!》

「なっ、アイツ……!」

 

ブランが腰から下がなくなりながらも動き始めたゼノンに戦慄する。離れようとしたブランにエクリプスは投射式ジャミングシステムをぶつけた。

 

「うおああああっ!?」

 

ブランに闇色の球体がぶつかるのと同時にそれが爆発するように広がり、ブランの動きを止めてしまう。体がまるで痺れたように制御が利かなくなってしまっているのだ。

しかし至近距離でそれをぶつけたエクリプスもその影響を受けてしまう。エクリプスでさえもジャミングシステムに蝕まれ、動きが止まる。

 

《お願いジョー!立て!飛べ!》

 

ゼノンが引き抜くビームソードに再び最大出力のエネルギーが注ぎ込まれ、超極大の刀となる。

 

《切れーーーーーーッ!》

《があああああっ!》

 

全力で振り下ろしたビームソードがエクリプスごとブランを切り裂いた。

 

「が………っ!」

「お姉ちゃぁぁん!」

「味方ごと、なんて……!」

 

これは覚悟だった。

味方ごと撃てなかったためにロムとラムはエクリプスを倒せず、味方ごと切ったためにゼノンはブランを仕留めたのだ。

 

ブランは羽がちぎれ、デブリに倒れる。エクリプスも装甲が粉々に砕けながらブランとは別のデブリに倒れた。

 

(ありがと、ジョー……私を守って……)

 

エクリプスはそのまま動かなくなる。しかし、ゼノンはまるでカレンから元気を受け取ったかのように叫び出す。

 

《うおあああああっ!》

《ジョー、もう逃げなさい!後は私たちが……!》

《ジョー!?ジョー、何処へ行くつもりなのっ!》

 

ゼノンは背中のブースターだけで真っ直ぐに飛び、ロムとラムの所へと向かっていく。姿勢はぶれ、時折デブリにぶつかって転がりながらも死力を尽くして向かっていく。

 

「お姉ちゃんの仇……!」

「今度こそ私たちがトドメを刺すわ!」

 

しかしサテライトキャノンの発射までには間に合わない。狙いが定められ、引き金が引かれた。

 

「ツイン・アイシクルサテライトキャノン!」

「発射っ……!」

 

ゼノンを眩い絶対零度のビームが包み込む。宇宙空間を凍りつかせるほどのビームの前ではどんな装甲であろうと無力、それがボロボロのゼノンであれば耐えきるはずもなかった。

 

《ジョぉぉぉっ!》

 

しかしロムとラムは違和感を感じていた。いつも感じる敵がビームの奔流に飲み込まれていく感覚、それがない。

その原因はビームから飛び出した手によるものだ。

 

「えっ……!?」

 

サテライトキャノンから抜け出した手がロムとラムの砲台を掴んで握り潰す。

照射が消えた空間から出てきたのは全身が凍りついたゼノンだった。

 

《カレ、ンの……!》

 

動かないはずの左手すら動かしてロムとラムの胴体を握りしめる。

 

「な、なんなのよコイツ!?不死身なのっ!?」

「離して、離して……っ!」

 

ロムとラムが暴れるが、ちっとも手の力は緩まない。胴体が音を立てて締め付けられるほどだ。

 

「っ、離しなさいな!」

 

しかしベールがゼノンに向かい、その背中に槍を構える。

 

(……ん〜……ジョーはこれで5人……私は、ゼロか……)

 

だが移動するベールに静かに照準を向けている機体があった。

 

(それは、シャク、だよね……あの世で何言われるかわかったもんじゃない、し……)

 

カルネージストライカーがベールにロックオンした。

 

(ああ、あの世なんてあるか、分からないし……ほら、死ぬ時は……決めてた、言葉、が……)

「なっ……!まさか!」

 

ベールがそれに気付いて咄嗟に槍を投げる。エクリプスがカルネージストライカーを発射するよりも早くベールの槍がエクリプスの左胸を貫いた。

しかし怯まない。

ベールへの照準を微塵も逸らさずに、そして呻き声も上げずに引き金を引いた。

 

(愛してる……愛してるよ、ジョー……聞こえてる、かな……?)

「バカな……!」

 

ベールがカルネージストライカーの光に包まれて消えていく。しかしエクリプスも発射の衝撃に耐えられずに体が瓦解し始めた。

 

(すぐ、会いに来てね……)

 

そしてエクリプスはボロボロに破壊され、2度と動かなくなる。その目の光さえも消えた。

 

それに気付いたのか、気付いていないのか。ただその手だけは燃えてエネルギーを収束させる。そしてそのまま溜め込んだエネルギーを放出させずに爆散させた。

 

《命だけは……守り切る、と……誓ったァッ!》

「……!」

「そんなっ」

 

そのまま腕部ごと大爆発を起こす。

エネルギーの放出よりも暴発と言った方が正しい。しかしその分エネルギーは限界以上に注ぎ込まれ、そしてそれは爆発に変わってロムとラムの体を打つ。

ロムとラムは爆炎が消えた時には変身が解け、漂っていた。

そして腕部が爆散して腰から下はなくなり、全身が凍りついたゼノンもようやく動かなくなる。

その鉄仮面の上からはジョーとカレンの表情はわからない。

だが2人はその鉄仮面の下で笑っていた。偽物だろうと、夢の中だけの存在であろうと残ってる安らぎの記憶の笑顔そのままで。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界を輝かせた女

《ジョー……カレン………?》

 

ミズキが動きを止めてそれだけの言葉を絞り出す。

ネプギアもネプテューヌも動きを止めていた。

呆然としていた。目の前の現実が受け入れられない……だが次の瞬間にはもう、胸の中に業火のように湧き上がる感情があった。

 

《アンタ達はァァァァァァッ!》

《うわあああああああっ!》

 

アイオスとVsが感情を体現するが如く熱く燃え上がっていく。

 

《極限進化ァッ!》

 

アイオスの形が変わっていく。

機動力と防御力が優秀なゼノンのボディにアイオスの翼、そして肩にはエクリプスのブラスターカノンと両手にヴァリアブルサイコライフル。

全部乗せ、カレンとジョーの力を受け継ぐフェースの名はE(Eclipse)X(Xenon)A(Ayios)フェース。

 

《ブースト"ゼノン"!》

 

Vsも体の節々が赤くなり、再び極限状態へと進化する。

 

だが、体の奥から湧き上がる怒りを抑えきれないのはネプギアも同じだった。

 

「なんで……アナタ達も……ッ!」

 

出力1000%。

 

〈FX burst mode operation〉

 

「うおあああああああっ!」

 

ネプギアの体が青く輝き、全身からビームサーベルを吹き出す。怒りが振り切れたように血走った目でEXAを睨みつけるネプギア。

EXAも少しも目をそらさずにネプギアを睨みつけ、宙を蹴って飛び出した。

 

対してネプテューヌは激戦の代償を目にし、有り余るほどの怒りと憎しみと悲しみをぶつけられても怯まなかった。

ただ決意を持った目でVsを見つめ、視線をぶつける訳でも睨みつけるでもなく……ただ、受け止める。

 

「私が……背負うから」

《ああああああっ!》

「みんなで……背負うから……!」

 

 

《当たれ当たれ当たれ当たれ、砕け散れぇぇっ!》

「るああああっ!」

 

EXAのブラスターカノンをビームサーベルで弾きながら突進して切りかかる。

EXAは咄嗟にヴァリアブルサイコライフルを連結、余った手でビームソードを引き抜いてネプギアと鍔迫り合う。

 

「許さない、偽物の分際でッ!」

《アンタ1人の力でッ!私達4人に……!》

 

ネプギアがEXAに蹴飛ばされ、間合いが開く。その瞬間にEXAのビームサーベルは最大出力になり、その長さでネプギアに叩きつけられる。

 

《勝てるわけがないの、よォッ!》

「う、アアアッ!」

 

ネプギアはビームサーベルで受けるが弾き飛ばされる。だがすぐに体勢を直し、愚直なまでに突進して立ち向かう。

 

「アナタ達が傷つけてェッ!」

《違う!アンタ達が先に傷つけたッ!》

 

火花を散らすビームサーベル。再び間合いが離れ、ネプギアにクロスバスターモードの銃口が向けられる。

強力な弾頭はしかしネプギアの動きについていけずに宇宙空間に消えていく。

 

《私達が、アンタらにいつ何をしたッ!?》

「どっちがッ!植え付けられたような薄い記憶でッ!」

 

ネプギアをアリスファンネルが包囲するが、ネプギアの近くにもCファンネルがいた。

Cファンネルがアリスファンネルに突撃するが、アリスファンネルはワープを多用して次々とかわす。

 

《私は、アンタが憎いッ!》

「私も、アナタを殺したいッ!」

 

弾き合い、ぶつかり合う2人。それはまるで、決して包み合うことのない2人の感情や言葉のようだった。

 

「アナタが憎くて憎くて……!だからッ!」

《私はアンタを殺す……!殺す殺す、殺してやるーーーーッ!》

 

ぶつかり合うネプギアとEXA。

しかしそれと同時にーー常人には見えていないがーー2人の思念もぶつかり合っていた。

 

「容赦はしない……ッ!」

《噛み付いてでも、アンタだけはァッ!》

 

2人の手と手が組み合う。そして2人の思念も手を組みあってぶつかり合った。

EXAの膝蹴りがネプギアの腹にめり込む。そして怯んだネプギアの顔面にパンチをすると、思念もそれをなぞるようにネプギアの顔面にパンチする。

 

「だああああっ!」

《うがああああっ!》

 

ネプギアのビームサーベルでの突きがEXAの顔を掠める。アンテナの突き出た部分が消え、顔の半分が焼け焦げる。

だがEXAも代償にネプギアの肩にビームソードを突き刺した。

額と額を付き合わせて睨み合う2人。そのせいか、お互いはお互いの顔が良く見えた。

 

《なに、泣いてんのよ……!泣きたいのはこっちよォッ!》

「アナタだって、泣いてるくせにッ!」

 

ネプギアの目からは涙が滲み出ていた。EXAの鉄仮面からは涙は流れないが、思念は宝石のような涙を散らしている。

 

《2人が……やられたらっ!そりゃあ泣くわよ、私達は人間だッ!》

「アナタ達が先に仕掛けたからでしょうっ!?」

《アンタ達よ、先に仕掛けたのはッ!》

「アナタが、みんなを傷つけて……!こんな理不尽っ!こんな理不尽と戦って、傷ついて……!だから泣く!」

《もう後戻りは出来ない……!アンタと私に何の誤解があろうと、分かり合える可能性があっても!私はアンタが許せないッ!》

「私は、私はッ!」

 

ああ……やっぱり、偽物だ。この人達は。

きっとミズキさんなら今ここで許せていたんだ。悔やんで、涙を流して、傷ついて……それでも今ここで誤解があることに気付いたなら謝れたんだ。

きっとミズキさんの仲間も同じはず。だってミズキさんと一緒に生きて、ミズキの大切なところを作った人達なのだから。

 

でも、偽物だとしても……そこに心があるのなら。心なんてあるのかどうかすら分からないけれど、今ここで怒って、悲しんで……その感情がある人がここにいるのなら。

私は……私は………。

 

「私はそれでも、許したいっ!取り返しのつかない状況なんてない、どんな時だって私は……!この夢を、願いを、諦められないッ!」

《こんな、もう今更ぁぁぁっ!》

「憎しみの連鎖は、ここで終わらせます……!アナタも、解放するッ!」

《私は……!私はそれでも、アナタを殺したいッ!》

 

EXAのブラスターカノンがネプギアに向けられる。

 

《カレェェェンッ!》

「っ、わあああっ!」

 

胸にブラスターカノンを食らったネプギア。だが吹き飛びはせず、両手のビームサーベルをブラスターカノンに突き刺す。

 

《っ、ジョォォォッ!》

「うわああああっ!」

 

離れてビームソードを振るが、ネプギアは今度は弾き飛ばす。EXAの手からビームソードの柄が離れていく。

 

「私は、憎しみも怒りも悲しみも!全部全部超えていく!」

《勝手に1人で納得してるんじゃないわよ!仲間の傷を、死を、そんな簡単に受け入れられるわけがないッ!》

「それでも!人は人に優しくできるはずなんですッ!」

《出来ないわよそんなことっ!現に私が出来ない!私はアンタが殺したくて仕方ないッ!》

「だから私が示すんです!例え、どんな相手でも許せるって……!分かり合えるんだって……!」

《何よりも大切な人達を傷つけた女の言うことかァァァッ!》

「傷つけただけじゃない!今までたくさん傷ついたからこそのッ!」

 

ネプギアのビームサーベルにEXAは拳で応戦する。ゼノンのボディを基部にしたEXAはビームサーベルが当たったくらいでは壊れない。

 

《アンタは、目の前で大切な人が死んでも同じことが言えんの!?》

 

EXAがネプギアを殴り飛ばす。吹き飛んだネプギアにアリスファンネルが追撃のビームをぶつけていく。

 

「んっ、くっ……!」

《アンタだって、目の前で人が死んだらそんなこと言えなくなるのよッ!》

 

ファンネルが照射形態になり、太いビームを浴びせてくる。ネプギアはそれを避けながらデブリをビームサーベルで突き刺し、アイオスに投げつけた。

 

《所詮、子供の夢よ!出来もしないことを叫ぶ子供とおんなじ!この痛みも知らないでッ!》

 

EXAは拳でデブリを砕いてしまう。しかしその背後からネプギアが迫っていた。

 

「痛みは……嫌という程感じた……!」

 

たくさん傷ついて、生きているのか死んでいるのかわからない時もあって、失いかけた時も、忘れていた時もあった。

 

「出来もしないって、何度も何度も思い知らされた……!」

 

何度も負けて、1人では勝てなかった時もあって、世界は自分の思い通りには決してなってくれない。

 

「それでも……私はそれでも……!」

 

再びネプギアとEXAがぶつかり合う。しかし今度はEXAの腕が高熱で溶け始めていた。

 

「もう私は迷わないからッ!」

 

ネプギアがEXAを蹴飛ばす。

そしてネプギアの体から吹き出るビームサーベルがさらに勢いを増した。

 

「はあああああああっ!」

《アンタは間違ってないかもしれない、けど……!》

 

EXAの両手が熱く燃え上がる。超高熱の溢れる炎を封じ込めた両手はさらに眩く輝き始めた。

 

《でもッ!私はアンタを認めない……!認められないッ!みんなのために、私のためにッ!》

限界突破(オーバードライブ)……!ここでケリをつけますッ!」

《私のこの手が真っ赤に燃えるゥゥゥッ!》

 

ネプギアは1000%の出力からさらに出力を上げていく。全身から吹き出すビームサーベルであっても体への負荷は抑えられず、ネプギアの体に大きなダメージが蓄積していく。

対してEXAも両腕に込められた熱量はいくら頑強なゼノンの装甲であっても耐えきれるものではなくなっていた。ひび割れ、いつ瓦解するかわからない。

 

《勝利を掴めと、轟き叫ぶゥゥゥッ!》

「はああああああっ!」

 

ネプギアが羽ばたくように両手で勢いをつけてEXAへと真っ直ぐに手を伸ばして突進。EXAも両腕を前に出してネプギアへぶつかる。

 

(お願い……ジョー、カレン……!私に力を貸して……!)

 

そして2人は正面衝突。

互いに体を壊しながらも先へ進み、互いを飲み込もうとする。

ネプギアのビームサーベルがEXAの手に押され始めた。EXAの壊れ始めた腕はそれでも真っ直ぐに進み、ネプギアの目の前で想いを爆発させるべく進む。

 

《この手は私だけの手じゃない……!ジョーとカレンも!》

「私は、もう誰も泣かないためにッ!」

 

だがネプギアのビームサーベルもまた勢いを増す。もう腕が痺れ、感覚がなくなっても……!

 

《私はアンタを倒すッ!》

「私は、アナタもこの先へ連れていく!」

《ッ!》

 

EXAの手が砕けた。そのままネプギアのビームサーベルは腕さえも砕き始めていく。

 

「私が、私がアナタに未来を見せる!」

 

そしてそのビームサーベルは腕を貫き、肩までも突き刺した。

 

「未来を見ることの出来なかった、未来のために託した、アナタ達のために!」

《アンタは……っ!》

「一緒に見届けるんです……みんなで作る、未来を……!」

 

その瞬間にEXAの両腕に込められていたエネルギーが暴発した。抑え込められ、制御すら不可能となった膨大なエネルギーはネプギアもEXAも巻き込んだ大爆発を起こし、まるで1つの星のように光り輝いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去の希望

 

《よくも!みんなを!》

「……っ!」

《許すもんかぁぁぁっ!》

 

Vsが連続で叩きつけてくるビームサーベルを受けながら後退する。

距離を取れば飛んでくるファンネルを避け、ビームサーベルには太刀で応戦する。

 

《なんで傷つけた!なんで!》

「んっ、く!」

 

"エクリプス"を避けて自由自在に動く太刀ーーーソードファンネルーーでVsを牽制する。

しかし堅牢な装甲に守られたVsはソードファンネルなど手で弾き飛ばし、真っ直ぐ向かってくる。

 

《どうして傷つかなきゃいけなかった!》

「あっ!」

 

Vsのタックルがネプテューヌに当たり、ネプテューヌが吹き飛ばされる。そのネプテューヌにファンネルが狙いをつけた。

 

《なんか言えよぉぉぉぉぉぉっ!》

 

連続でファンネルがネプテューヌに集中砲火を浴びせる。

しかし、着弾の煙が晴れるとそこには3本の太刀を交差させてファンネルの攻撃を全て防いだネプテューヌがいた。

 

「っ、く……!」

《なんで、なんで黙ったまんまなんだよ……!》

「…………」

《腹立つんだ、そういう態度ッ!》

 

ビームサーベルと太刀でぶつかり合う。ギャリギャリと火花を散らしながら互いに見つめ合う。

Vsが見るネプテューヌの目は退くつもりのない目をしていた。強い決意に満ちている目、決して負けるつもりはない目。そのくせして、敵意のない目……!

 

《なんで、なんでそんな目が出来るんだ!?》

「………!」

《なんなんだよ、君はァッ!》

「……私は………」

 

Vsのビームサーベルが弾かれた。

 

《………!》

「私はアナタを受け止めたい……!」

 

ネプテューヌの太刀がVsの胸に浴びせられる。

しかしVsは吹き飛んだものの、装甲は断ち切れない。

 

《ブレードビット!》

「ファンネルっ!」

 

ブレードビットとソードファンネルがぶつかり合う。

その合間を抜けてネプテューヌがVsに向かっていった。

 

「怒る理由は、わかる……!」

 

ネプテューヌの太刀とVsのビームサーベルは幾度となくぶつかり合い、その度に鍔迫り合う。

 

「でもアナタが、怒る以上に悲しんでいるから!」

《っ、わかったふうな口をきくなああああっ!》

 

Vsが強引にネプテューヌを吹き飛ばす。

 

《悲しんで何が悪い!?》

「悲しみに悲しみでぶつかったってしょうがない!だから私はアナタを受け止めたいの!」

《違う!僕は君を悲しんでなんていない!僕は君に怒ってるんだッ!燃え上がるほどにィィッ!》

 

ネプテューヌに無数のファンネルが飛んでいく。ネプテューヌは全てをかわし、再びVsに向かっていく。

 

「でも、私は!」

《何が受け止めたいだ!僕は君にそんなこと少しも望んでいないッ!》

「だって!アナタの悲しみが胸を打つの!この締め付けるような悲しみは……アナタのものでしょ!?」

《ああそうさ!けど、君は怒りも感じられるはずだッ!》

 

ネプテューヌの太刀が届く前にVsの拳が腹にめり込んだ。怯んだネプテューヌにビームサーベルが振り下ろされる。

 

「っ、く!」

 

寸前にソードファンネルが割り込み、斬撃を防ぐ。そしてネプテューヌは蹴りで間合いを取り、また近付いていく。

 

「感じる……感じるわよ、全部……!胸が痛いから……わかってる……!」

《なら!もう近付くなよォッ!》

「でも!」

 

ネプテューヌとVsがまたぶつかり合う。

今度はネプテューヌがぶつかった瞬間に反作用で間合いを取り、Vsの腕を蹴りあげる。

 

《ンッ!》

「お願いよ、ミズキ!」

 

そのままネプテューヌがVsに密着する。それはまるで抱きつくようでもあり、寄り添うようでもあった。

 

《離せぇぇっ!》

「っ、ああああっ!」

 

ネプテューヌの肩にビームサーベルが突き刺さる。しかしネプテューヌはその突き刺した手の上にそっと手のひらを重ねた。

 

「お願い、ミズキ……感じて……!」

《誰が、君の想いなんて!》

「そうやって目を閉じてちゃ……!耳を塞いでちゃ気付けないことがたくさんある……!」

《今更新しく知ることなんてないッ!君が、君達が!みんなを、傷つけた!それで十分なんだッ!》

「お願い、ミズキ……!」

《うるさいッ!》

「ああああっ!」

 

さらに深くビームサーベルがねじ込まれ、ネプテューヌの肩が焼け爛れる。

 

《僕は!君達を叩き潰さなきゃ気が済まないんだッ!》

「私は……!そんなことない……!」

 

ネプテューヌの体の節々の赤いラインが緑に輝く。それだけでなくさらに輝きを増し、緑のラインはまるで血管のように枝分かれして体中に広がる。

 

「どれだけ傷つけられたって……!」

《なんで、なんでッ!訳が分からないッ!君はさっきから、僕の質問に全然答えてくれないッ!》

「ずっと、答えてるわよ……ミズキ……」

 

ネプテューヌを中心にして緑の光が2人を包み込む。

ミズキを包む鋼鉄の装甲は消え、お互い裸で心と心をさらけ出す。ミズキが見たネプテューヌの顔には涙が浮かんでいた。

 

「君……も……悲しんで……」

「やっぱり……アナタも泣いていたのね、ミズキ……」

「こんなっ……こんな、回りくどいことしなくたって!」

「私、これまでで学んだことがたくさんあるわ」

 

ネプテューヌがそっと自分の胸に手を当てる。

 

「言葉って意外と不便で……頼りないわ。アナタになにか伝えたくても……多分、時間が足りなくなっちゃう」

「でも、心で想うだけじゃ伝わらない……だから……!」

「きっと、伝わるようにしたかったのね。限りある時間の中で……人は全部伝えたかった」

 

今度はネプテューヌはミズキの胸に触れる。そして静かに目をつぶった。

 

「私の気持ち、伝わるでしょう?本当は何もかも誤解で……戦いたくなんてない」

「………」

「でもアナタの気持ちも伝わるわ。やっぱり、許せないわよね」

 

ネプテューヌが少し力を込めてミズキの胸を押すと2人の距離は段々と離れていく。

 

「僕は……僕は偽物なんかじゃない!確かにここにいて、みんなと共にいた!」

「ええ、わかるわ。だから抑えられない怒りも、悲しみも……全部私が受け止める。アナタの罪も……私が背負うわ」

 

緑色の空間が消えた頃には2人の距離は離れていた。

ネプテューヌのスーツは緑色のラインが入った部分からまるで侵食するかのように結晶のようなものがはみ出ている。そのままネプテューヌは太刀を持って微笑みながらミズキを見据える。

 

「さあ、ミズキ。気が済むまで」

《……違う……!君がしたいことはそんなことじゃないッ!》

 

Vsはビームサーベルを引き抜いてネプテューヌを睨みつけた。

 

《この先に!僕の先に、待っている僕がいるんだろ!?なら、来てよ!君は僕を何としてでも倒さなきゃいけないはずだ!》

「ミズキ……」

《自分の業は自分で背負う……!君は君の業を背負えばいいんだ!》

「……わかった」

 

ネプテューヌは太刀を構え直した。

 

《ここから先は、僕と君の感情のぶつかり合いだ!どうやっても交わることない、僕と君の……!》

「……どうしようもない、仕方ない、のね……」

《僕は死んでいったみんなのために!君はみんなを死なせないために……!》

「なら、手加減はなしよ。全力でアナタを叩きのめす!」

《望むところだっ!》

 

ネプテューヌとVsがぶつかり合う。

互いにファンネルはもう使わず、剣と剣とのぶつかり合い。しかしその勝負はVsに分があった。

 

「っ、はああああっ!」

《だああああっ!》

 

ネプテューヌは肩を傷つけられ、さらに太刀ではもろに当たってもVsの装甲を貫くことが出来ない。対してVsの斬撃は当たれば確実にネプテューヌの体力を奪う。

しかし、ネプテューヌにも意地がある。

 

「だあああっ!」

《ぐ、うあっ!》

 

さっき斬撃を食らわしたところに寸分違わずに攻撃を与え、フレームにまで太刀を届かせる。

しかしそこまで踏み込んだネプテューヌは引ききれず、ビームサーベルの斬撃を浴びる。

 

《はああああっ!》

「く、ああああっ!」

 

怪我をした方の肩を必死に動かし、腕でビームサーベルを受け止める。そしてVsの首のすぐ横に太刀を突き刺した。

 

《ぐうううっ!》

「はあっ、はあっ、負けられない……!」

 

互いに間合いを取った2人がぶつかり合い、また離れる。そのうち2人は示し合わせたように大きく距離を取った。

泣いても笑っても、このすれ違いで勝負がつく。

最後まですれ違うしかなかった2人は最後までぶつかること無くお互いに向かっていく。

 

《勝つのは、僕だァァァッ!》

「ゲイムギョウ界の……ミズキのためにッ!」

 

2人の距離は一瞬で詰まる。お互いに腹を切り抜けるつもりで……相打ちでも、仕留めるつもりで。

2人がすれ違う瞬間だった。

 

「ミズキっ!?」

《………!》

「たあああああっ!」

 

2度斬撃が加えられた傷口にまたネプテューヌの太刀がめり込み、袈裟斬りにVsが切り裂かれる。

ほんの一瞬だけ残された意識の中でミズキは静かに目をつぶって魂を手放した。

 

「っ、はっ!はっ、はあっ!くっ……!」

「どういう、ことだ……これは……」

 

Vsの視線があった場所にいたのはジャックとイストワールだった。

Vsの記憶ではジャックは死んだはず、すれ違いざまの一瞬で自分の記憶とこの世界との矛盾を知り、Vsの刃は揺らいだ。

 

「どういう事だ!?アレは、確かにミズキだ!」

「……全部、全部夢だったのよ……」

 

機体の残骸は未だに消えない。だがそこに残る魂はもうなかった。

 

「でも、夢の中の4人にも……魂は、あった……!」

 

ネプテューヌがボロボロと涙を流す。

本当なら戦いたくなかった。でも相手が戦いを望んでいて、だとするならば倒すしかなかった。

彼ら彼女らから見れば……自分は、完全に悪だった……!

 

「ネプテューヌさん……」

「……いーすん、ジャック、みんなを起こして……最低限でいい、回復させてあげて」

 

全員重症だ。

動けるのはネプテューヌだけ、しかしもう戦えるだけの力は残っていない。それでも、いく必要がある。

死んでいった彼らの魂のためにも、行かなければならない。

 

「ミズキのところへ……あのコロニーへ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

繋いだ希望、消えゆく命

《ぷっ、ヒィーヒヒヒヒヒヒッ!》

《何がおかしいッ!》

《いや、アナタにとっては嬉しいお知らせよ?女神たちは見事に罠を退けたらしいわ》

 

イブリースが大笑いしている。アデュルトの装甲は破壊されていないものの、かすり傷でいっぱいだった。

 

《あの次元の希望の光……あの子達はそれを退けてしまった。即ち彼女らは希望を退ける絶望に違いない》

《違う!この次元の希望がお前の幻想を乗り越えただけだ!》

《じゃあアナタは?アナタまで退けたのよ、あの子達は!アナタは用済みなんじゃない?》

《それも違う!》

《違う違う違うって……ワガママだこと》

 

イブリースの髪から放たれる無数のビームを避けながらエクスブレイドの長さを伸ばす。

 

《だああありゃあっ!》

《ふんっ》

 

イブリースは軽くバク宙して避け、アデュルトへと接近する。

 

《まだわからない?人はいずれ終わるのよ》

《けど、その時はまだ来ない!》

 

イブリースの拳とアデュルトのエクスブレイドがぶつかり合う。しかしアデュルトは拳の威力に吹き飛ばされた。

 

《くっ……!》

《でも、このまま人はゆったりとした絶望の最中に消えていくことは確定してる》

 

吹き飛ばされたアデュルトにイブリースの追撃の蹴りが決まる。

さらに吹き飛ばされたアデュルトはデブリ帯の中に入って距離をとる。

 

《私は平和が見たい。だから今終わらせるのよ》

 

イブリースの胸から発射された高出力のビームがデブリ帯を焼き払っていく。

 

(性能が落ちてきている……!くっ)

 

アデュルトは逃げながらコロニーへと逃げ込む。コロニーとしては小さめだが隠れるには十分な大きさだ。

通路に入って入り組んだ道の中に体を隠した。

 

《はっ、はっ……くっ》

 

自分の手のひらを見るとシェアの輝きが鈍っていることがわかった。供給が滞っている訳では無い、ただ戦闘の様子が途切れたことに対する不安だろう。

 

(外に通信が繋がっていないのか……この夢のフィールドを壊すことができれば……)

 

しかし望みは薄い。

このフィールドの仕組みなど何もわかっていない、何もかもが未知の空間だからだ。

 

(もうすぐ、ネプテューヌたちが来れば……きっと……)

 

今は時間を稼ぐ時……このまま、ビフロンスが探すのに手間取ってくれれば、まだ……。

 

(……なに……?)

 

唐突な虚脱感……いや脱力感がアデュルトを襲う。ビフロンスの新たな攻撃か、と警戒するミズキだったがそうではない。

自分の手を再び見ると輝きが段々と鈍り始め、ところどころの装甲が消えてフレームがむき出しになり始めていた。

 

《シェアの供給が……!》

 

その瞬間、アデュルトの隣の壁が音を立てて粉砕される。

 

(まさか、この最悪のタイミングで……!)

《やっと見つけた……もう逃がさないわよ》

《くっ!》

 

狭い場所に逃げ込んだのが仇になった、この狭い道ではうまくイブリースの攻撃を避けることが出来ない。

後退しながら防御態勢を取るアデュルトにイブリースが肉薄した。

 

《ゴッド……!》

《ぐっ!》

《ブレイカァァァッ!》

 

腕を組んだアデュルトにイブリースの拳が直撃した。まだ装甲が残っていた部分で受けたが、あまりの威力に装甲は砕け、壁をぶち抜いてアデュルトは飛んでいってしまう。

 

《うわあああっ!》

《ヒヒヒッ、絶体絶命ね》

 

アデュルトが開いた穴を超え、イブリースが迫ってくる。

しかし、イブリースはそこで横にいる人影に気付いた。

 

《……アナタ……》

「やば、見つかった……!」

 

そこにいたのはアブネス。

ノートパソコンを持ち、コロニー内に潜伏していた様子だ。

 

《静かだと思ったら……こんなところに逃げ込んでたとはね!》

「っ、逃げるわよ!防御!」

 

機動力に優れたトールギスがアブネスを連れていき、残りのモビルスーツが道を塞ぐ。

 

《やめろ、ビフロンス!お前の相手は僕だ!》

《ヒヒッ……ここであの子を殺したら……アナタどうする?》

《なっ……!》

《最ッ高に……絶望しない?》

《っ、やめろぉぉっ!》

 

飛びかかるアデュルトだがスピードがない。逆にカウンターでボディアッパーを食らってしまう。

 

《うぐ……!》

《子供はおねんねしてなさい》

 

吹き飛んだアデュルトは天井に当たって壁を壊しながら消えてしまう。

そのままイブリースは襲いかかるモビルスーツ達に向き直る。

 

《ヒヒヒッ、何秒もつかしら!?》

 

 

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバい……!」

 

狭い迷路のような通路を縫うようにして進む。しかしそれは決してデタラメではなく、元来た道を戻ってきただけのこと。

 

「こんな狭いところじゃ加速性能も活かせないのよ……!トールギス、広いところへ!」

 

そして最後に光の射す出口を抜ければそこはコロニー内部。人が住むための宇宙の小島の内部は多少瓦礫が浮いているものの、基本的には広大な空間だ。ここでなら、トールギスの性能が活かせる。

 

「とにかく、コロニーを抜けてアイツから離れなきゃ……!トールギス!」

 

トールギスはアブネスの命令でコロニーを抜けるために出口へと駆け出し始める。

安堵の笑顔を浮かべたアブネスだったが、その笑顔は壁を壊す音で砕ける。

 

「まさか……!」

《ヒヒッ、逃がさないわよ……》

 

アブネスが差し向けたモビルスーツ達は無惨な残骸となってしまっていた。イブリースは持っていたスサノオの頭部を握り潰し、トールギスに迫ってくる。

 

「何よこのスピード!?逃げきれないじゃない!」

《アナタは……そうね、腕だけは残してあげるわ》

「殺されてたまるもんですか……!」

 

コロニーを抜けたトールギスがイブリースに向けて手持ちのロケット砲を向けた。それはイブリースの目の前で弾け、花火のように閃光を撒き散らす。

 

《んっ……なるほど》

 

再びイブリースが前を見るとそこにトールギスとアブネスはいなくなっていて、デブリが広がっているのみだ。

 

《鬼ごっこの次はかくれんぼ、ってことね》

 

イブリースがゆっくりと動いてデブリの裏側を1つ1つ確認していく。虱潰しに、そして徹底的に探すつもりだ。

 

(諦めなさいよバカああああっ!)

 

アブネスはとあるデブリの後ろに隠れて息を殺していた。微動だにすればビフロンスに見つかり、確実に殺される。

だがこのまま待っていてもやがて殺されるだけだ。

せめて、助けが来れば……!

 

(ミズキも来ない……このままじゃ……!)

《あっ、見つけたわよ》

「!」

《……な〜んて冗談♪》

(か、カマかけたわね……!)

 

危うく声を出さずに済んだがビクついて声を出していたら見つかっていた。やはり、このままじゃいずれ殺されてしまう。

 

(その前に、なんとしても……!)

 

アブネスが大事に抱えるパソコン。その中には夢のフィールドを制御していると思われる場所から抜き取ったシステムが記録されていた。

夢のフィールドの仕組みはわからなくとも、それを制御することはできる。そしてそのシステムの分析と書き換えはジャックとイストワールが適任だ。

 

(夢のフィールドを抜け出すことができれば……!)

 

夢のフィールドからは抜け出せるのかわからないが……とにかくプラネテューヌにいる2人にデータを渡さなければ。そうすれば2人は管制室に行ってシステムの書き換えが可能になる。

 

だが逃げることも戦うことも無理だ。ミズキが来るまで、今は隠れているしか……。

 

「………!」

 

 

その時、アブネスはデブリの向こうからやって来る人影を見た。

 

(アレは……!女神たちじゃない!ジャックたちもいる!よっし!)

 

心の中でガッツポーズを決めたアブネス。だがアブネスは女神たちの様子を見て訝しんだ。

 

(なに、あれ……ボロボロじゃない……)

 

辛うじて変身を保てているような者ばかりだ。ここでビフロンスに女神たちが見つかれば、一瞬で全滅させられてしまうほどの。

 

「…………」

 

文字通り、命を賭けて戦って、命を賭けてここまでたどり着いたのだ。そしてまた彼女らは命を賭けようとしている。

 

(……ここであいつらが見つかっちゃいけない)

 

ビフロンスの目標は、私だ。

 

(私も、希望を繋ぐために……!)

 

《……ここでもない……アブネスちゃんは隠れんぼがお上手ねえ》

 

直径がイブリースの2倍ほどもあるデブリを軽々と動かして後ろを覗く。

その背中にイブリースは熱源を感じた。

 

《んっ、効かないわよ》

「トールギス!」

 

トールギスがデブリ越しにドーバーガンを最大出力で発射した。しかしその照射ビームもイブリースの剣に弾かれ、ダメージには至らない。

それを見ても少しも狼狽えないアブネスはトールギスにしがみつき、撤退を命じる。

 

「私に構わなくていいわ……!限界まで動きなさい!」

《…………!》

 

中に人が乗っていないからこそ使えるトールギスの加速性能をフルに活かした戦い。トールギスを無人機にした時からアブネスはそうやってトールギスを戦わせる気だった。

だがトールギスはアブネスを抱えている。無論その状態で最大性能を発揮すれば……!

 

「ああああああっ!」

 

アブネスの体は耐えきれない。

 

(たかが……!数秒しかもたないなら!)

 

だがそれを使ってもイブリースのスピードに勝ることは無い。そのこともアブネスは分かっていた。

もって数秒、ならばその数秒間くらい気力で堪えてみせる。これくらい、命を賭けて戦っている人達に比べれば……!

 

 

「あの光は……戦闘!」

 

そして女神たちはトールギスが発射したドーバーガンの光で戦闘の存在を知る。

そしてアデュルトもまたコロニーの壁を突き破って戦線に復帰した。

 

《アレは……!》

 

 

(よし……!ミズキもいるのなら大ラッキー!後は……!)

《アナタ……》

「っ!」

《ただの小娘ちゃんかと思いきや、なかなかいい覚悟してるわね。私の背中を撃とうとするなんて》

「……ぐ、ぐ……!」

《喋る余裕もない?解放してあげるわ》

 

イブリースの蹴りがトールギスのブースターにクリーンヒットする。

トールギスはアブネスを手放してしまい、トールギスのスピードの源であるブースターも使えなくなってしまう。

 

「きゃあああっ!」

 

猛烈なスピードで投げ出されたアブネスを誰かが受け止める。振り返るとそこにはおぞましいイブリースの顔があった。

 

「っ……!」

《捕まえたわよ、お姫様?》

《アブネスを離せぇぇっ!》

《………!》

 

アデュルトとブースターを潰されたトールギスが必死にイブリースに向かっていく。

 

《ヒヒヒ、最高ね!よぉく見てなさいミズキ!》

 

先に到着したトールギスに蹴りを食らわせるとトールギスの堅牢な装甲は簡単に砕け、腹に穴が開く。

そのままイブリースはトールギスの残骸をアデュルトに蹴り飛ばした。

 

《うぐ、わっ!》

《さて、遺言くらいは……》

「うっさいオバハン……!」

 

向き直ったイブリースが再び閃光で目眩しされる。それはアブネスが肌身離さず持っていたカメラのものだった。

フラッシュを連続でたくのと同時にアブネスは隠し持っていた拳銃を引き抜き、イブリースを蹴った反動で距離を取りながら乱射する。

 

「アレは、アブネス……!?」

 

女神たちもようやく追いついてきたようだ。アデュルトもトールギスを払い除け、こちらに向かってきている。

 

《アンタ……》

 

イブリースにぶつかる弾丸はすべて音と火花を散らしながら弾かれてしまう。

 

《あまり……私を怒らせない方がいいわよ》

 

アブネスは確信した。多分……間に合わない。女神やアデュルトがこれから全速力で向かったって私を庇うことすらできやしない。

ならば……私に出来ることは……!

 

「だああらっしゃああああ!」

 

アブネスが全身を使ってパソコンを女神の方へ放り投げる。その瞬間だった。

 

《エクスプロージョン……》

「うぐっ……!」

《コライダー》

「っ、ガボッ……!」

 

アブネスの腹に拳が打ち込まれ、内臓が破裂し骨が砕ける。続いて撃ち込まれた槍がアブネスを貫いた。アブネスの口から血が吐き出されてイブリースの顔を濡らす。一瞬にして致命傷を食らったアブネスの両手からカメラと拳銃が滑り落ちていく。

 

《っ、アブネェェェェェスッ!》

「か………が……」

《言い残すことはある?》

「み…ミ……ズ………」

《はーいざーんねーん》

 

 

次の瞬間に槍は大爆発を起こす。

 

 

アブネスの体はチリも残らず消え去り、残った小さな肉片も炎に包まれて消えた。

アブネスがそこにいたという痕跡を残すものは全て消え去り、残るのは虚無の空間だけ。

 

《あ………!》

 

アデュルトが伸ばした手はついにアブネスに届くことはなかった。

 

 

《うわああああああああっ!!!アァァァァブネェェェェェス!!!》

 

 

《ヒ、ヒ、ヒィーーヒヒヒヒヒッ!ミミズ!ミミズですって!最期の言葉はミ、ミ、ズ!ヒヒヒヒヒヒヒッ!》

「あ、アブネス……?」

 

女神たちも呆然とする。

あの憎まれ口を叩いていて、少し腹立つこともあって、でも協力をしてくれていた……あのアブネスが、死んだ……?

 

呆然としているネプテューヌの胸にパソコンが届いた。命を捨ててまでアブネスが届けたパソコン。ネプテューヌがそれを開くとそこには無数の文字の羅列があった。

 

「これは俺達の案件だ、貸せ」

「あ、アブネス……は……」

「……貸せ」

「アブネスは!?どこに行ったってのよ!?」

「いいから貸せェッ!」

 

ミズキの頭をよぎるのは今まで守りきることの出来なかった人達。

笑顔で見送ってくれた女の子。いつかまた会うと約束した青年。巻き込まれただけなのに応援して励ましてくれた母親。何も言わずに笑顔で見守ってくれたお爺さん。

そしてジョー、カレン、シルヴィア。

最後に……アブネスの死に様が目に焼き付いた。

 

《ッ………!》

 

 

絶対にーーーーー許さないッ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死してなお遺るもの、死してまだできること

呆然としていたミズキの後ろに暖かな感覚があった。

 

「別に……そんな泣くほどのことじゃないでしょ」

 

目の前で起こったことを受け入れることが出来ない。そんな最中に後ろから聞こえる声に振り向くことも出来ない。

 

「私は正直……悔しいけど、アイツらに比べれば優先順位低いし。アンタの助けになったって実感もない」

 

涙が溢れ出る中、その温もりが離れていく。行かないで、とさえ言えない。

 

「でも、まあ……私も最期に希望を繋いだわけだし。後悔はしてないわ。これであの女に一泡吹かせられると思うと、むしろやりきったーって感じ」

 

その温もりは指先だけになる。

 

「まあ……あと、なにかしら。可愛い私からありがたいアドバイス。あんまり熱くなって周りのこと見失っちゃダメよ。アンタ時々そういうところあるし」

 

そしてその温もりはミズキの背から完全に離れてしまう。

 

「私もアンタを見守ってるわ。あ、あと子供たちの写真!アレはツケだからね、責任もって世界中にたくさんの子供の笑顔をつくること!」

 

謝りたい、謝りたいのに口は動かない。

違うじゃないか、君がいなくなっちゃ……もう笑顔は見せられないじゃないか。君が欲しがっていた笑顔はこの戦いが終わった後に嫌という程見るんだ。だから、こんなところでいなくなっちゃダメじゃないか。

 

「……永遠の別れじゃないわよ。アナタにはわからないだけ。私は……いえ、私もそばにいるわよ」

 

呼び止めたい、呼び止めたい、このまま、このままここに……!

 

「アブネス……っ!」

「私が繋いだ火、絶やすんじゃないわよ!じゃあね!」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《許さ……ない………ッ!》

《ヒヒヒヒッ、怒った?そう、それでいい。これでアナタも本気の本気ね》

《っく、ぐっ………ッ、アブ、ネスを……!》

 

アデュルトの背後からデファンスが現れる。次元フィールドを消したことで役割を終えたはずの2基のシェアクリスタルのファンネルは粉々に砕けてアデュルトの後ろに集まっていく。

まるで輪のように小さな結晶が集まり、円形に展開。そしてアデュルトの体は真っ白な光を放ち始める。

 

《返せェェェェェェッ!!!》

《ヒヒヒッ♪》

 

イブリースに向かっていくアデュルト。だがやはりスピードは優れず、イブリースにいなされてデブリにぶつかる。

 

《うっ、ああああああああっ!》

《ヒヒヒ、絶望した?まだしない?じゃあ次は誰を殺してやろうかしらね!?》

《お前ぇぇぇぇっ!》

 

 

「システムと……地図。この場所で抜き取ったシステムか……」

 

中身を確認したジャックはデータを全て自分の中で保存して地図が示す場所へ向かおうとする。

 

「イストワール」

「…………」

「イストワール!」

「あ、えと、あ、その……」

「ショックなのはわかる。だが今はアイツが遺したものを最後まで繋げなければならない」

「でも、だって、アブネスさんは……!」

「泣いてる暇はない!俺達は後でいつでも泣けるんだ……!」

 

強引にジャックがイストワールを引っ張ってコロニー内部へと向かっていく。戦域を避け、慎重すぎるほど遠回りをして2人はいなくなる。

残された女神たちは各々アブネスの死を感じながら2人の戦いを眺めるのみ。あの中に割って入れるほどの力はもうなかった。

 

《ふっ、うウッ!》

《へえっ、それでぇっ!?》

 

組み合ったアデュルトだったが膝蹴りを何発も貰ってしまう。それでも意地で手を離さないアデュルトだったが、イブリースの胸が光る。

ビームは食らえない、手を離してすんでのところで避けたアデュルトが再び殴り掛かる。

 

《アブネスは、アブネスはッ!》

《大切だった?大事だった!?そうでしょうね、アナタにとっちゃさぞ大切で大事な女の子だったでしょうねぇっ!》

 

カウンターの蹴りを食らって吹き飛ぶアデュルトにイブリースの髪から放たれるレーザーが襲いかかる。

 

《ぐう、う、ううっ……っ!》

《そうでしょう?こうやって命が消える……悲しいわ、ええとても。悲しくて悲しくて……ふふっ、予想通りの悲しみに笑いが出てくるわ!》

《アブネスを、アブネスを……っ!どこまで侮辱するつもりだァァッ!》

 

腕のシェアクリスタルの装甲はレーザーの直撃にも耐え切った。作り出したシェアの刃をイブリースに投げつける。

 

《悲しいからこそ、この悲しみは残り1度で終わらせるべきだと思わない?》

《だからこそ、2度とさせないべきなんだろ!?》

《違う違う。アナタが言うべきは、べきだったのに、よ》

 

容易く弾き、今度はイブリースが擬似ファンネルを手で掴む。そのまま全力投球して来た擬似ファンネルをアデュルトは掴んで握り潰した。

 

《未完成な愛と信念を振りかざして……その犠牲にあの子はなったんじゃないの?》

《違うっ!お前さえ……お前さえいなければ!》

《それは私のセリフよ。アナタがいなければ、アナタの次元で平和は訪れてこの次元まで悲劇は広がらなかったわ》

《平和は悲劇じゃない……!涙の上に成り立つものはッ!》

《平和は悲劇よ。でも平和じゃない世界はもっと悲しいわ》

 

まるで聖職者のように胸に手を当てるイブリース。その髪だけは自在に動いてレーザーを発射してくる。

 

《っ、く……そぉっ!》

《絶望の中にある安らぎ……私はそれを見た。何も見ていないアナタとは違うの》

《僕だって……僕だって見たんだ!暖かな光……何度も、何度も!》

《その光は人に力を与えてしまうわ。戦いをするための力を、ね》

《違う!戦うための力じゃない、その力の使い方は間違っている!》

《現にアナタもその力を使って戦ってきたクセに》

 

デブリの中を縫うようにして動いてレーザーを避け続ける。レーザーはデブリに遮られてしまうが、イブリースは時折胸からビームを発射してデブリごとアデュルトを焼き払おうとする。

 

《かかってきなさいよ。アナタの掲げる希望を信じる根拠は何?1つ1つ、芽を摘むように潰してあげるわ》

《僕は……!》

《結局アナタのしたことは間違いだらけ。人の過ちの塊だけあるわ、あっちへウロウロこっちへウロウロ。その寄り道回り道のせいで何人の人が無駄死にしたの?》

 

イブリースが動き出した。アデュルトの進行方向に向かい、デブリの影から現れてアデュルトを殴りつける。

 

《ぐっ!》

《ヒヒッ、アナタの希望は人を殺すのよ》

 

そしてアデュルトの首に手を当ててデブリに叩きつける。そして首を掴んでアデュルトを片手で投げ飛ばす。

 

《アンタには失望しっぱなし》

 

イブリースの髪から放たれるレーザーがアデュルトの装甲を焼いていく。堅牢なシェアクリスタルも何度もレーザーに焼かれれば砕けてしまう。

 

《アンタを見ていたのはアンタが強かったから。理論じゃない、感情で迫るアナタ達は強かったわね》

 

イブリースが持つ大量の擬似ファンネルがアデュルトに投げつけられ、その装甲に突き刺さる。

 

《でもアンタは随分弱くなった……もう眼中に無いわ、ミズキくん?》

《う、ああああっ!》

 

前に突き進んだアデュルトがいなされ、再びデブリにぶつかる。振り返った瞬間にイブリースが拳を顔面に叩きつけてくる。

 

《ぐっ、ああっ!》

《これで私の目に映るのは平和だけ……》

 

そしてナックルガードが展開し、槍が撃ち込まれる。槍はアデュルトの片目を貫通し、頬や額を掠る。

 

《ぐあああああああっ!?》

《バイバイ、疫病神さん。アナタもあの子と同じ死に方がいい?》

 

そして槍の中の爆薬に火がつく。

 

《答えは聞かないけどね》

 

閃光がアデュルトの頭蓋の中で弾ける。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

アレは昔……本当に昔のこと。

ふと、シルヴィアに聞いたことがある。

 

「人って、死んだら何処に行くんだろうね?」

「天国か地獄じゃないの?」

 

特に気をかけた様子もなくシルヴィアは携帯ゲーム機を弄って即答した。

そんなことは分かりきっているけど、でも僕は納得出来なかったんだ。

 

「だって、死んだら幽霊になるんでしょ?」

「未練があればなるんじゃないの」

「じゃあ僕がここで突然死んだとしたらさ」

 

そこでシルヴィアはようやく携帯ゲーム機をスリープモードにしてこちらに振り向いてきた。

 

「凄い未練が残ってるから、幽霊になるのかな」

「アンタって霊感ある?」

「いや、多分ないけど」

「じゃあ確かめようがないじゃない」

 

素っ気なく言ってシルヴィアは冷蔵庫からジュースを取り出してきた。キャップを開けると炭酸が抜ける音がする。

 

「んっ、んっ……ぷはぁ。あ、でも……なんで幽霊は女湯に出てこないのかって話はあるわね」

「女湯?なんで?」

「覗き放題じゃない。裸」

 

苦笑いしか出来なかった。そこそこ疑問なんだけどな……いや、面倒臭い質問なのかもしれないけどさ。

 

「じゃあシルヴィアは死んだら男湯に入り浸るつもり?」

「嫌よそんなの。女湯にいた方がマシだわ」

 

うげぇみたいな顔をされた。

一応聞くけどその理論言い出したのシルヴィアだよね?

 

「まあ、性欲より大切なものはあるでしょう。そこに幽霊さんはいらっしゃるんじゃないの?」

「んん……」

 

でも、そうだとすると……。

 

「夫が早死にした妻がさ。お婆ちゃんになって死んだとするじゃん?」

「そうね」

「普通は夫と妻が揃ったから2人揃って天国に行くだろうけど……普通は子供が心配じゃん」

「そうかもしれないわね」

「だから2人は子供を見守る幽霊であり続ける……でも、その子供も孫が心配で残り続けると思うんだ」

「ん〜」

 

いつの間にかシルヴィアが冷蔵庫から新しく引っ張り出したお菓子を齧っていた。

 

「……真剣に聞いてる?」

「聞いてるわよ〜。いいから続けなさい」

「む……。……まあ、それでさ。その連鎖は永遠に続くから……結局天国とか地獄に行く人はいないんじゃないかな?これまでも、これからも」

「そんじゃ……私のパパとママも私を見守ってるってことになる?」

 

シルヴィアがこちらを見つめてきていた。

……シルヴィアの両親はシルヴィアが拉致される時に死んだ。その時の事はあまり話さないし、聞く気もないけど……。

 

「そうじゃないかな。僕なら見守るよ」

「……ふ〜ん」

 

シルヴィアはお菓子の袋を閉じた。

 

「じゃ、私が死んだらアンタが死ぬまで見守ってあげるわよ」

 

そしてニヤッと笑った。

 

「アンタにはママもパパもいないんだから、見守ってる人が少ないでしょうしね」

 

そしてシルヴィアはお菓子とジュースを冷蔵庫に戻しに行った。

その時僕はシルヴィアの背中にこう答えたんだ。

 

「母親も父親もいないけど……家族はいるよ」

「義兄弟ってヤツ?盃でも飲み交わす?」

 

茶化してシルヴィアはそう答えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

《………あら?》

 

イブリースの槍はいつまでたっても爆発しない。夢のフィールドをフルに使った世界で不発はありえない。故障もありえない。

アデュルトが寸前になにかしたか……そう思った時、アデュルトの後ろに出来ていた小さなシェアクリスタルの環が強く光り輝き始めた。

 

《希望、じゃない……ましてや、絶望でも……ない……!》

 

アデュルトの後ろのデブリが消えていく。

イブリースが異常に気付いて離れようとするが、動きは鈍い。

この異状は……夢のフィールドのものか!?

 

《ッ、誰が!》

《人と人が手を繋ぐ、温もり……それが、きっと……!》

 

アデュルトの後ろにシェアクリスタルの薄い膜のようなものができる。それはまるで蝶の羽のような形で、そこから放たれた推進力でアデュルトは一瞬でアデュルトに迫る。

 

《世界から、戦いを失くすんだァァッ!》



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暴走

「これが……」

 

ジャックとイストワールは夢のフィールドを作り出す装置をコントロールする部屋にいた。

少し開いていた差し込み口がついさっきまでアブネスがいた事実を告げていて、胸が痛む。

 

「移動までの間にシステムは参照した……ウイルスは既に作ってある」

「ですが、もしまたあの人が抵抗したら……」

 

前回はあまりの熱にジャックの体が燃え尽きてしまっていた。だから今回は直接ビフロンスとサイバー上での戦いは行わない。

 

「波状攻撃だ。ウイルスを防げばまたウイルスを注ぎ込む。無論ヤツは抵抗するだろうが……」

 

ジャックが振り返った先には強固なガラスの先に見える球体の機械。妖しく光り輝き、今も不気味な駆動音を鳴らしている。

 

「それと同時にこれも壊す。俺のウイルスと装置のバックアップ……それをミズキと戦いながらこなすのは流石に難しいはずだ」

 

ジャックが端子差し込み口に手を入れる。

 

「アレを壊してくれるか、イストワール」

「え、私ですか!?」

「粉々にしろというわけじゃない、深い傷をつけてくれれば十分だ」

 

イストワールが不安げにガラスの向こうの機械を見つめる。ガラスにはアブネスとモビルスーツ達が放ったであろうビームや武器の焦げ跡が付いていた。それでもガラスには傷一つついていないが、イストワールの魔法ならガラスの向こうに攻撃を行うことが出来る。

 

(………私も……!)

 

「分かりました、やってみます」

「その意気だ。始めるぞ……!」

 

ジャックがウイルスを流し込むのと同時にイストワールが力を集中してガラスの向こうに魔法陣を作り出す。

四属性全ての属性を同時に叩きつける奥義。それは魔法の1つの完成形とも言える。

 

「先代の力の一部を解放します」

 

史書、その名の通りイストワールは歴史そのもの。そして歴史は力。積み重ねられた人の進歩そのもの。

その身に収められた歴史、しかしイストワールは歴史だけを収められた本なのではない。その権限をもって自身の歴史すら書き換え、現れるのは存在するはずの無かった力。

 

「光となって、消えてください」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

《夢のフィールドが……ッ!》

 

デブリが消え始め、真っ暗だった空間に白い穴が開いていく。ビフロンスが作り出した夢のフィールドが消え始めていたのだ。

 

《夢が……私の夢が!っ、がっ》

 

イブリースが体を抱き抱えるようにする。

夢のフィールドの効果のおかげで形を保っていたイブリースはその効果が消えた時点で自壊し始めてしまうのだ。

 

(それだけは……!なめん、なよ……?)

 

ビフロンスが髪のユニットを使って直結していた夢のフィールドから立て直しを行う。

 

《システムと機器の同時破壊……!?誰がッ!?見つけたのは……あの女かァァッ!》

 

今更ながらアブネスが繋いだ火がどれだけ大きかったか気付くビフロンス。今やその火は炎となって自分を燃やし尽くそうとしている……!

 

(システムを弄るなんてことは出来るのはジャック……!システムについては問題なく対処できるが、機器は……クソッ!予備ルートを使う調整を、システムの相手と同時に……ッ!)

 

ここまでの思考を一瞬で終わらせてビフロンスは舌打ちをする暇もなくシステムの復旧に挑む。

せめてイブリースの体だけは保たなければならない、そこを最低ラインとしてシステムとの戦いを始めたビフロンスの目にアデュルトの拳が映った。

 

《っ、がっ……!》

 

イブリースがアデュルトに殴り飛ばされる。

吹き飛ばされたイブリースが姿勢を直そうとするが、宙返りしようとしたイブリースの背にすぐ地面があった。

 

《っぐ、チッ……!》

 

地面に倒れたイブリースは素早く立ち上がる。

 

《今はアンタに構っている時間は……!》

 

手を強く握りしめ、飛び出したイブリースだったがその体の重さに自分自身が驚いてしまう。

 

(ここまで遅いか……!)

《る、ああああっ!》

 

アデュルトのカウンターを貰い、逆に弾き飛ばされてしまう。そのまま背中にあった崖を蹴って上に飛び、イブリースはアデュルトとの距離をとる。

 

(このままじゃイブリースがもたない……もたせる方法は!?わかってるただ1つ……それを私が許容できるか!?)

《待てぇぇぇぇっ!》

《やるしかない……!》

 

このままでは勝負以前の問題だ。

時間が無い、限られた時間でイブリースをもたせるほどの夢のフィールドを作り出す残された道は1つ、夢のフィールドを暴走させること。

 

《一か八か……っ》

《だあああああっ!》

 

イブリースに追いついたアデュルトの両手にエクスブレイドが握られる。そのままエクスブレイドはイブリースの両肩に振り降ろされ、VPS装甲とぶつかって火花を散らす。

 

《舐め、ないで欲しいわねッ!》

 

夢のフィールド暴走開始。

切れかかっていたバッテリーに再び電気が走ってVPS装甲を相転移させて強固にする。実体なら何者も……例えエクスブレイドであっても通さない。

 

《ふんッ!》

 

イブリースが顎にアッパーを打ち込み、それが当たったと思った。そうイブリースには見えたが拳は宙を切り、1歩離れたところにアデュルトがいた。

 

(なに……?)

 

そこでイブリースは違和感に気付いた。このギョウカイ墓場全域に降り注ぐキラキラとした雪のような、塵のような何かに。

 

《僕の声を聞け……っ》

 

アデュルトがイブリースに背を向け、急加速する。

逃げたのではない、助走をつけるためだ。

しかしその背に浮かぶ蝶の羽がイブリースの目に信じられない光景を映す。

 

《僕の気持ちを知れェェェェッ!!》

《シェアクリスタルの……柱……!?》

 

アデュルトの蝶の羽が通った場所からクリスタルの柱が生まれていき、それが一定の長さになると消えていく。

アデュルトの軌道をなぞるシェアクリスタルの柱は各国のシェア保有量を合計してもまるで足りないほどの量を持つ。

 

(何が起こっている……!?降り注ぐ塵はシェアクリスタルか!?それをミズキがなぞると……膨張している!?)

 

夢のフィールドの暴走はイブリースの形を留めるという意味では成功したと言える。だが暴走は更なる予期せぬ事態を引き起こした。

 

「これは……傷が……?」

 

ネプテューヌ達の怪我がみるみるうちに治っていく。それどころか今までにないほど力が湧き、体から薄いオーラが見えるほどだ。

 

「この暖かい雨……ミズキさんの涙だよ……」

「雨に触れると力が湧くわ。これ……小さなシェアクリスタル?」

「……そうらしいな。何がどうしたか分からねえが……」

 

降り注ぐシェアクリスタルの雨は女神の傷を癒し、力を与える。

 

夢のフィールドの暴走。未だ誰もその意味を理解していなかったが……それにより夢のフィールドは星を包み込み、強い想いがあれば誰しも夢を叶えることが可能となった。

ミズキの想いと夢のフィールドは呼応し、世界中にミズキの気持ちを伝えるシェアクリスタルの雨を降らした。

だが……。

 

「でも、お姉ちゃん……涙が、止まらないよ……?」

「……悲しいから……ミズキが悲しんでるから、伝えたい想いも悲痛なのよ」

 

全世界が同時に涙を流す。

ミズキの悲しみに影響され集められる強い悲しみのシェアはミズキに集まってシェアクリスタルの柱を作り出し、それがミズキに還元されその想いに影響されたさらに強い悲しみが世界に降り注ぐ。

ある種の悪循環。しかしその悲しみは愛。

 

《アブネスが!なんで死ななきゃいけなかった!?》

《言ったでしょ……!それがこの世の運命!》

 

2人の手が組み合った。

イブリースが頭突きをアデュルトに食らわすが、弾かれたのは頭突きを仕掛けたイブリースだった。

アデュルトは微動だにせず頭突きを弾き返し、イブリースに頭突きをし返す。

 

《うっ、がっ!っ、アンタがどれだけ叫ぼうが!世界の理は変わらないのよッ!》

《じゃあッ!僕は1人の人のために、世界だって壊せるッ!》

《巫山戯んなッ!アンタだって、結局悲しみでしか世界を動かせないクセにッ!》

 

ビフロンスもシェアの影響を受け、ミズキの心の叫びを直接感じていた。

だからこそ、ビフロンスはミズキの叫びに逆らって反発する。

 

《みんなが、僕の目の前でッ!消えていって、死んでいって……!》

《なんでたかが数百人への感情で動くッ!》

 

アデュルトが動けば動くほどシェアは増え、性能は上がっていく。

理論上、無限の力。それほどの悲しみにミズキが耐えられれば、だが。

 

《僕の目の前で……死ぬなァァァァァッ!》

《暴走してるアンタなんかにィィッ!》

 

「いけませんわ、あのままでは……」

 

ベールが危惧した時にはもう遅い、ミズキは全世界の悲しみをその身で感じていた。

 

《1人の人が世界中の感情を受け入れられるわけないでしょッ!ましてや肉人形のアンタにッ!》

《ああああああああッ!》

 

悲しい、悲しい、悲しい。

どう頑張っても人は死ぬ……消えていく。突然に、必然的に、ゆっくり、あっさり、あっけなく。でもそれだけは許せない。

体中から悲しみを発散してそれを力にしているくせに、悲しみを否定しながらミズキは戦う。

自分を、世界を自分の力で変えておきながら自分でそれを否定する。

矛盾の塊はビフロンスと組み合ったまま体をシェアクリスタルの塊に変えていく。

 

《飲み、込まれる……ッ!?》

 

イブリースの腕がアデュルトの腕から伸びていくシェアクリスタルに飲まれていく。強固なシェアクリスタルは不完全な性能のイブリースでは破れず、腕から胴へ、胴から足へ、イブリースはシェアクリスタルに飲み込まれていく。

 

《お、前はァァァッ!クソッ、離せッ!》

 

だがアデュルトも……いや、ミズキもシェアクリスタルに飲み込まれていく。もはや原型を留めないほどに肥大化したシェアクリスタルはイブリースもアデュルトも飲み込んで巨大な球体となる。

 

《なに、を……する、気……ダ……!》

《…………ウウッ……!》

 

「ミズキッ!」

「何をしてるの……!?ミズキさんは何をしてるのよっ!?」

 

巨大なシェアクリスタル、それは強い悲しみというエネルギーに包まれた牢獄となる。そのエネルギーは膨大なものとなり……2人の体から魂を切り離した。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「うっ……ひぐっ、ぐすっ……うえぇ……」

「…………」

 

目の前がクリスタルで何も見えなくなったと思った瞬間、ビフロンスは真っ白な空間にいた。

目の前では背中を向けてしゃがみ込んだ男の子が泣きじゃくっている。

 

「………呆れた。一皮剥けばアンタはガキだったってわけ?」

「寂しい、よぉ……なんで、いなくなるの……?」

 

白い部屋にホログラムのように景色が映し出される。

白い機体、ガンダムが現れて緑色のモビルアーマーを撃墜した。そして次、また次のガンダム……歴史は繰り返し、また別のガンダムが現れ……最後に電源を切ったように映像は消えた。

 

「……ダイジェスト?私が消した次元ね、今のは」

 

そして次に現れたのは液体越しに眺める白衣の男。女の子、女の子、男の子。ミズキの人生の始まり、そのダイジェストだった。

 

「そう、アナタってこういう目線してたのね」

 

最後に現れたのは高笑いするビフロンス。そして次元の向こうに自分だけが送り込まれる映像だ。

 

「あら、これ私?やだ、張り切ってるわね。相当アガってたからねえ、あの時は」

 

そして始まるゲイムギョウ界での生活。平穏な日常はすぐに崩れ、戦いに明け暮れることになる。

 

「………僕は」

「ん」

 

ビフロンスが振り向くとそこには立ち上がった男の子がいた。目は赤く腫れているが、涙は止まっていた。

 

「世界を平和にしたい」

「私と同じよ」

「僕はみんながみんなの手を掴むことができれば、そうなれると信じてる」

「私はそう思わない」

 

白い部屋には無数の顔が映し出されていた。不気味とも思えるが、それは人それぞれの純粋な願いを喋っていた。

世界平和を願う者から永遠の命が欲しい者、果てには彼女が欲しいとかお金が欲しいとか……ただの純粋な願いたち。

 

「アナタはこれを聞き遂げる気なの?」

「……みんなの願いが叶えば、人は争わなくなる」

「人が全人類の願いを聞けると思って?」

「………」

「それが出来るのは正真正銘の神よ。アナタはそれになる気?」

「……今の僕ならなれる」

「かもね。私もそうなりたいわ。あ〜羨ましい」

 

ビフロンスは茶化すように言っているが、それは本心だった。神のように世界を変えられるならそうしている、力のない人の身だからこそ様々な方法が生まれ、そしてこうして対立しているのだ。

 

「ねえ、アンタ。そこの座、譲る気は無い?」

「無いよ。今度こそ、僕が誰も悲しまない世界にしたい」

 

莫大に得られるシェアのエネルギーを使って世界を変える。そうできれば、どれだけ良いことか。

 

「でも……」

「でも?」

「クス……無理みたいだ」

 

笑ったミズキの顔は清々しくて、諦めなど微塵もない顔だった。

 

「僕を呼んでる人がいる。……僕を見守る人がいる」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平和への道は

ーーーー僕を呼んでる人がいる。

 

 

「ノワール、ブラン!」

「わかってらあ……!勢い余ってミズキに当てんなよ!」

「こっちのセリフよ!ブランこそ、足引っ張んないでよね!」

 

ノワールはGNバスターライフル、ブランはツインバスターライフルを構えた。

今も尚大きくなり続けるシェアクリスタルの牢獄に向かって、2人は同時に引き金を引く。

 

「帰ってこい、ミズキぃっ!」

「アンタが死ぬにはまだ早いのよッ!」

 

超大火力のビームがシェアクリスタルの牢獄に直撃した。2人のビームは使いようによっては国がひとつ潰せるレベルのものだが、それもシェアクリスタルに風穴を開けるには至らない。ただ、凹みは出来た。

 

「チッ、エネルギー再装填……!」

「粒子供給……早く……!」

 

その凹みの中にもシェアクリスタルは発生し、せっかく縮めた距離をまた大きくしてしまう。

ノワールとブランの射撃の間に間髪入れずにロムとラムが躍り出る。

 

「執事さんのためなら、何回でも……!」

「クリスタルなんて、割れちゃえぇぇぇっ!」

 

ツインアイシクルサテライトキャノンがノワールとブランが開いた凹みに撃ち込まれる。絶対零度の嵐はさらに凹みを大きくしたものの、ミズキにはまだ手が届かない。

 

「次、お願い……!」

「私が行くわ!」

 

ユニがメガビーム砲を連射して凹みの中心、もっとも深い部分をさらに深く掘り進める。

そこへ撃ち込まれては消えていくビームと槍の嵐。ベールが1点に標的を絞ってフルバーストを当てている。

 

「このために、私達がいたというわけですわね……!」

「クリスタルは壊します!ミズキさんは、“こっち”なんですッ!」

 

ネプギアがバーストモードとなってみんなが開いた窪みにビームサーベルを突き刺す。再生よりも早くシェアクリスタルが削れ、少しずつ、少しずつではあるがアデュルトの本体に近づく。

だがそれでも未だアデュルトへは遠い。さらに一点に集中したせいで周りは再生が進み、出口が塞がってきてしまっている。

 

「くっ……!」

「ネプギア、私が行くわ!」

 

ネプギアがビームサーベルを突き刺した場所に3本の太刀が突き刺さる。ネプギアが離れた瞬間にネプテューヌが手を伸ばし、自らクリスタルの中に飛び込んだ。

 

「お姉ちゃんっ!」

「ミズキを、呼び戻す!この夢の中なら、それが叶うはずなの!」

 

夢のフィールドの力は何もミズキやビフロンスだけに及ぶものでは無い。この空間の中ならば、信じられないほどの強い想いがあるだけで誰だって夢が叶う。

 

「ねえ、ミズキっ!こんなのがアナタの夢なわけがないでしょっ!?」

 

こんな世界は、ミズキが望むものではなかったはずだ。誰もが泣き喚いた先にある平和なんてミズキが求めたものではなかったはずだ。

8人の女神の想いが1つとなる。

巨大なシェアクリスタルにはヒビが入っていき、降り注ぐシェアの雨が止んだ。

だがそれは外側からだけの力。シェアクリスタルを割る内側からの力……見守ることしか出来なかった魂が歪んだ願いの形を砕いていく。

 

《な、んで……ッ!?今のアンタが手放さなきゃ……私を納得させることも、アンタが望むものも、失ったものも、全部全部手に入れられたのに……ッ!》

《みんなが……呼んでいた……!そして僕はただ失ったわけじゃない……そのことに、今!気付いたッ!》

 

シェアクリスタルは粉々に砕け散る。

弾かれるように吹き飛んだ2人は地面にゴロゴロと転がり、お互いに変身が解けた。

 

「っ、は……!ぐっ!」

「うっ、はあっ、はあっ、チッ……!」

「ミズキ!」

 

女神達が倒れたミズキに駆け寄る。しかしミズキは立ち上がって女神達を腕で抑える。

 

「ありがとう……けど、まだ、終わってない……!」

「ヒヒッ、アンタは今たくさんの人を殺したわ……今まで死んだ人、これから死ぬ人……!神になるチャンスを逃したせいで!」

「だからと言って、僕はこの世界を否定する気は無い……!」

 

2人が夢のフィールドから得られる力を得て変身した。

夢のフィールドの恩恵を受けている状態ならば意思があるだけで倒れることは無い。ならば、勝負を決めるのはお互いの意思。どちらかが先に負けを認めるかどうか、互いの想いのぶつかり合いだ。

 

「争いが生まれる世界も……誰かが悲しんで、例え死んだとしても……!ここが!僕の、僕達の次元なんだ!」

「人が積んだものが争いと死なのなら!壊さなくちゃいけないでしょう!」

「それでも!人が平和を求めて積んできた時間は間違いなんかじゃない!」

 

アデュルトがビームサーベルを持ち、イブリースもビームサーベルを握った。

 

「人が持ち続けた希望も……いつも背中にいる絶望も!人が重ねた未来を決めるものじゃない!」

「絶望を知りもしないアンタがッ!」

「人は、手を繋ぐ人のために戦う!そこから悲劇が生まれたとしても底にあるのはいつも同じ、愛だった!」

 

2人の剣がぶつかり合う。

弾き合い、叩き合い、ぶつかり合う。

 

「違う!誰かを愛することで戦いが起こるなら、愛なんて消えればいいのッ!誰かを愛する余裕なんてなくなるのが絶望!」

「でも、君の根底にも愛がある!」

「何を……ッ!」

 

イブリースがアデュルトの腹に蹴りを入れる。後退したアデュルトにビームサーベルが振り下ろされる。

 

「もらったァッ!」

「怯むな!受け止めろ!」

「う、あああっ!」

 

アデュルトはすんでのところでイブリースのビームサーベルを受け止めた。

 

(今の声は……!ウソよ、私が殺したはずッ!)

「今の声……ついさっき聞いた……ばっかりの……」

「あの、男の人の声……」

 

ノワールとユニが周りを見渡すが、人影はない。

 

「終わらせたいんだろ!?人が争って悲しむこの世界を!だったらそれは紛れもない、愛だ!」

「違う!人に感情など存在しない!感情を武器にするアンタ達と私は違うッ!」

 

アデュルトがビームサーベルを跳ね返し、イブリースに切りかかる。

 

「そこにゃ、終わらせてやるにゃぁっ!」

「っ、くうううっ!」

 

間一髪でイブリースは身を沈めて避けたが、掠った装甲がほんの少し融けた。

 

「何やってんの!次は決めるわよ!」

「うおおおっ!」

「聞いた声ばかり……でも、あの人たちは死んだはずですわ」

「偽物さんたち……?ううん、違う……」

「でも、確かに声は聞こえるわ!ハッキリと!」

「……何が起こってやがる」

 

ビームサーベル同士が何度もぶつかり合うが、押されているのはイブリースだった。

 

「アンタ、なんなのよ……!」

 

アデュルトは1人なのに、この感覚は……!

 

「アンタは誰と一緒に戦ってんのよっ!?」

 

アデュルトの後ろに無数の人を感じる。それは特別な才能などなくても感じられるほどの巨大な、しかし1つ1つは微細なもの。

 

「違う、違う違う!生の始まりは化学反応に過ぎない、人間存在はただの記憶情報の影に過ぎない、魂は存在しない、精神は神経細胞の火花に過ぎない、神のいない無慈悲な世界で人はたった1人で生きなきゃいけないッ!」

「それでも……!」

「罪も咎も憂いもない世界を私が作る!罪がない世界は苛まれない世界!咎がない世界は怯えない世界!憂いがない世界は恐れない世界!そう、たとえその数瞬先に死があろうとも!」

 

イブリースが強くビームサーベルを叩きつけるとそれを受けたアデュルトが数歩後退する。

 

「君は!初めて絶望を見た時、絶望に見惚れただけではなかったんじゃないのかっ!」

「勝手に買いかぶらないで!私はあの時、絶望に憧れた!何もかも終わらせる圧倒的な力に!」

「でも、絶望に苛まれた人たちを解放してあげたいとも、そうは思わなかったのかっ!?」

「思わないッ!」

 

イブリースがアデュルトにビームサーベルを叩きつけていく。後退するアデュルトとイブリースで鍔迫り合った。

 

「ええ全く、強がりも何もなく心の底から何も思わないわ!」

「どうやらホントみたいね。やっぱ相当ネジ飛んでるわ、この女」

「うるさい!死人は黙ってなさいよっ!」

「この歪み……もうどうにもならない。ならば、どうするか?」

「アンタは不幸だっただけにゃ。下手したら私達がこうにゃってたかもしれにゃいしね」

「私が不幸!?何処が!?むしろ幸運よ、世界を救いたいと思った女は救える手段を偶然にも手に入れた!」

「……隣に、誰か1人でも……!」

「なに……!?」

「君が、手を繋いでいる人が1人でもいれば!それだけで良かったのに!」

「何をッ!」

 

アデュルトがビームサーベルを弾き返した。

 

「ッ……!」

「アナタの奥底にも愛がある、でもそれは独りよがりですわ!勝手な善意の押しつけ、絶望を強いてくることからもわかります!」

「愛じゃない!私は、私のために……!」

「それも愛だよ……!自分から自分に注がれる、愛……!」

「それにアンタは絶望絶望言いながら、自分1人だけは本気で絶望に浸かろうとしたことなんてなかった!自分が良いと思った絶望を自分だけじゃなく世界に広めようと思っていた!」

「戯言をッ!私は平和が見たいだけ、その手段として人の絶望を選んだだけのこと!」

 

アデュルトとイブリースのビームサーベルが弾かれ合い、その隙にお互いが拳を顔に叩きつける。

数歩下がった2人は怯まずすぐに前に進む。

 

「なんてことないわよ、アンタもやっぱり人だったってわけ!周りに人がいないだけの、ただの人よ!」

「大切な人が1人でもいれば、アナタはそのために平和を目指したはず!大切な人が苦しむ平和なんて選択肢はなくなったはず!」

「はず!?架空の話はやめなさいよ、有りもしない可能性をつらつらと!大切なのは結果、私はこういう私なの!」

 

頭をお互いにぶつけ合い、反動で仰け反りながらもビームサーベルをぶつけ合う。

 

「人は人と手を繋いで平和を目指していました!例え絶望に飲まれても、手の温もりが希望を思い出させてくれる!絶望だけでも、希望だけでもないんです、人が紡ぐ未来はそれだけじゃないんです!」

「それで!?じゃあアンタ達はいつ平和にできるのよ!?何年何月何日何時何秒!?そしてそれはどれだけ続く!?また争いの歴史、また繰り返す、同じ同じ戦いを!」

「いつか、人がみんなと手を繋げた時……分かり合えた時!その手が繋がれている限り、人は争いなんて起こさない!何もかも許しあって、理解し合えるの!」

「そんなの私は待てないッ!私は、私は待ちきれない!今すぐ、この私の手のひらに欲しいの!出来ないでしょ、でも私にはできる!」

「僕は成す……!どれだけ時間がかかっても!」

 

アデュルトの後ろに一瞬、無数の人影が見えた。あの次元も、この次元も、ミズキを知った人であれば全員が。死んでいても、生きていても、意志の力が力となるこのフィールドの中で存在を示している。

全員が、ミズキの背中を押す。

 

「ーーーーー!」

 

イブリースのビームサーベルが手から離れ、クルクルと宙を舞う。

 

「ーーーー私の意思がッ……!」

「ッ!」

「アナタに劣ったって言うのッ!?」

「でりゃあああああッ!」

 

アデュルトのビームサーベルがイブリースの胸を切り裂く。

深く深い傷をイブリースは負って、決着がついた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

果てなく続いた空の果てには

深い裂傷がイブリースの胸に刻まれる。そこからスパークを散らし、イブリースが膝をつく。

 

「うっ、ぐ!が、あああっ!」

 

イブリースの胸が大爆発を起こし、変身が解けながらビフロンスが吹き飛んでいく。転がったビフロンスは背中に強く岩を打ち付けて呻き声をあげる。

 

「ぐっ、あ、あっ……くっ……」

「はあっ、はあっ、はあっ……!」

 

そしてアデュルトの変身も解ける。戦いの疲労で今にも倒れそうなミズキはゆっくり歩いて少し離れた場所に落ちている拳銃を手に取った。

 

「ぐっ……まだ、まだ終わってない……まだ……!」

「……っ、はあっ……」

 

アブネスの拳銃だ。

弾倉を引き抜いて弾丸を全て捨てると地面に落ちた弾丸が軽い音を立てる。ミズキがそこに1つの弾丸を込め、弾倉を入れ直した。

その間にビフロンスは岩に背中を預けて座り、その隣からマシンガンが音を立てて落ちる。まだ次元の扉を開いて武器を取り出す余力はあるのだ。

 

「負け、るか……!負けて、たまるか……!」

 

ビフロンスが両手でマシンガンを構えてミズキに乱射する。

しかしミズキは避けもせずにゆっくりと真っ直ぐビフロンスに歩み寄る。

 

………不思議な光景だった。

 

ビフロンスも疲労が溜まって銃を構える手がぶれているのか、視界がぶれているのか、弾丸が1つもミズキに当たっていなかった。

頬を掠める弾丸、後ろに流れて去っていく景色。

まるで、そう、何かに守られているかのように。

 

「はあっ、はあっ、くそ、くそ、くそっ……!」

 

ビフロンスは引き金を抑え続けるが、やがてマシンガンは発砲音を響かせなくなった。

諦めたようにビフロンスがマシンガンを降ろすとマシンガンも光となって消える。

ふとビフロンスが上を見上げるとこちらに拳銃を構えるミズキの顔があった。

 

「っ」

 

ダァン、と銃声が響いた。

それと同時にビフロンスの胸と同時に1発の弾丸が撃ち込まれる。シェアクリスタルの弾丸、それがビフロンスの体の中に沈んでいた。

 

「………負け、た」

「僕の勝ちだ。でも……殺さない」

 

2つの次元を跨ぎ、長い時間を超え、多くの犠牲を生んだ戦い……それがようやく終焉を迎えた。

 

ビフロンスの胸から膨張するシェアクリスタルがはみ出て、胸に開いた穴からシェアクリスタルがビフロンスを覆っていく。

 

「どういう、つもりよ……」

「君を、封印する」

 

喋る間もシェアクリスタルはパキパキと音を立ててビフロンスを包んでいく。

 

「いつか君が自力でこのクリスタルを破って……外に出てきた時。その時には僕が世界を平和にしてみせる」

「……出来るわけないわ。私はアンタを認めない……」

「だからだ。実物を見せつけてやる。本当の平和……戦いなんて起こらない世界を見せて、君を納得させてやるんだ」

「……なるほど、このクリスタルはそれまでのタイムリミットってわけね」

 

クリスタルがビフロンスを完全に包み始めていた。そのまま残すは頭部だけになる。

 

「私は……この終わらない螺旋から、降りる。ただ自分のために生きて誰かを傷つけてしまう、そんな悲しい螺旋から……。期間限定だけどね」

 

しかしビフロンスは最後にヒヒッと笑った。

 

「置き土産よ。私はアナタを認めない、その証……。悔し紛れのヤケクソ。せいぜい、破ってみなさい……」

 

そう言ってビフロンスは目を閉じ、クリスタルに完全に包まれた。

 

「……終わったか」

「ジャック、いーすん……」

「ひとまずは、お疲れ様でした」

「……ええ」

 

女神全員が変身を解いた。

 

「……あ〜あ、なんかどっと疲れでちゃった!帰ってプリンでも食〜べよっと!」

「そんな力もないわよ……はあ……」

 

ネプテューヌがドタっと地面に尻餅をついて座る。

だらしなく足をぶらぶらさせているが、正直咎める力もない。それどころか許されれば今すぐ寝てしまいたいくらいだ。

 

「帰ろ、ミズキ!」

 

ネプテューヌがミズキに向かって手を伸ばす。

振り返ったミズキはクスリと笑ってネプテューヌにゆっくりと近付いて手を握る。

 

「……まだ終わってないよ?」

「………はい?」

 

その瞬間、強い揺れがギョウカイ墓場を襲った。

 

「わ、わ、わ!?なになに!?今のはもう終わりの雰囲気だったじゃん!」

「ほら、立って」

 

ミズキがネプテューヌを引っ張ってむりやり立ち上がらせる。

 

「何が起こっている……!?」

「ビフロンスの置き土産……まあロクなものじゃないよね」

 

ミズキが空を見上げる。するとそこには……。

 

「ちょっと……冗談よね……?」

 

ノワールが戦慄する。

誰でもそうなる、空にあったのは今にもこの星に落ちそうな……隕石だった。

 

「ぎゃあああ〜〜〜〜っ!」

「ホントにロクでもないものを遺していきましたわね!?」

「あんなのが落ちたら……この星が割れるわよ……!?」

 

既に地割れが始まり、台風のような風がギョウカイ墓場を襲っている。衝突まで幾ばくかもない、このままでは平和もクソもなくこの星が終わってしまう。

 

「あんなの止まんないよぉ……!」

「今更壊しても仕方ないし!」

「ど、どうすれば……!」

 

「……止めるよ」

 

ミズキの自信に溢れる言葉にみんなが振り向いた。

 

「止まるよ。みんなここにいる……何も出来ないことなんてないさ」

 

ミズキがスッと手をかざす。

するとミズキの手のひらのすぐ先で隕石が止まった。

夢のフィールド……意志を力にするフィールド。それは巨大な隕石すら受け止めるほどの力を生み出していた。

 

女神たちは隕石を受け止めたミズキを見た後、少し微笑んで同じように手を伸ばす。さらに強い想いの力が隕石を受け止める。

 

隕石は徐々に押し戻され、ゆっくりではあるが宇宙へ帰っていく。

だが地上に与える影響は凄まじい。地割れはさらに激しくなり、風は大嵐のように吹き荒れた。

 

「っ、きゃあああっ!」

「イストワール!?む、ぐぅ……っ!」

 

体の小さいジャックとイストワールが暴風に吹き飛ばされた。2人は砂嵐の中へ消えていってしまう。

 

「いーすんさん、ジャックさん!?きゃっ!」

 

続いて地割れも激しくなる。堪らず膝をついたネプギア、その目の前の大地に亀裂が走った。

 

「っ、お姉ちゃ、わあっ!」

 

妹たちと姉たちの間に大きな地割れが走った。

それに影響されたかのように妹たちが立つ大地は亀裂が次々と走って壊れていく。段々とネプギアたちの足場はなくなり、姉たちから離れる一方だ。

 

「お姉ちゃん、っ、お姉ちゃんっ!」

「大丈夫よ、ユニ!アナタ達の想いは届く……遠く離れててもね!」

「アナタ達は少し離れてなさい。ここは私達の見せ場よ」

「でも……っ、だって……!」

「危ないよ、お姉ちゃんっ!」

 

姉たちの所にも亀裂が走っていた。一歩間違えれば地割れに飲み込まれ、2度と帰ってはこれない。

 

「安心しなさいな。絶対すぐに帰りますから」

「そうだよネプギア!せっかくこれからだってのに、私達が死んでどうするの!」

「お姉ちゃん……っ、絶対帰ってきてね!絶対、絶対……きゃあっ!」

 

ついにネプギア達が立つ大地が崩れ始めた。

隕石に引き寄せられるように浮き上がる瓦礫の中を縫うように走る。

しかし、ネプギアの目の前で大地がパックリと裂け目を晒した。

 

「っ」

 

がくんと足場がない感覚。

 

「ネプギアっ」

 

ユニが振り返った時にはもう遅い、ネプギアの体が崖下に落ちそうになった……その時に手が握られた。

 

「うっ……」

 

宙ぶらりんになったネプギアは下を見た。真下は底の見えない真っ暗な空間。

それから上を見ると、ネプギアの手を握っていた人の顔が見えた。

 

「アナタは……!」

「いいから逃げっぞ!……これで借りは返したからな!」

 

手を握っていたのはリンダだった。

ネプギアを引き上げたリンダは座り込むネプギアを睨みつける。

 

「言っておくが、マジック様を倒したお前達を私は許さねえからな!仲間になったとか、そういう風に考えんじゃねえぞ!じゃあな!」

 

それだけ言ってリンダは砂嵐の中に消えていく。ぽかんとする妹たちは轟音に我に返って後ろを振り向いた。

 

巨大な隕石、それが光を放って消え始めていた。

まるで太陽のような激しい光を発する隕石、それはミズキと女神たちの力で消え去っていく。

 

「きゃあっ!」

 

隕石が受け止められた場所を中心にして激しい風が吹きこみ、砂嵐が晴れた。それと同時に光が降り注ぎ、地面が再生していく。

地割れを起こしてヒビ割れだらけだった大地は癒えていき、硬い岩だらけの大地は柔らかい砂となって豊かな草が生え始めた。

草は育ち、花を咲かせ、つい数分前まで戦場だった場所は楽園のような花畑となった。

 

「………お姉、ちゃん……?」

 

はっきりと晴れた視界。なのに、隕石が落ちた場所に姉はいない。

 

「ミズキ、さんは……?」

「ウソ、ウソよそんなの!」

「……声が……聞こえない……」

 

大きな花畑、豊かな大地へと変貌したギョウカイ墓場。だが残ってほしいものはそこには残っていなかった。

 

「お姉ちゃん、ミズキさん……!ウソ、ウソ……!うわああぁぁぁっ!」

 

アブネスが遺したカメラがからりと音を立てて転がった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平和へ

 

時は少し流れ……数日後。

 

ビフロンスを失った犯罪組織は壊滅……というより、誰ももう自分から犯罪組織に関わろうとはしませんでした。

当たり前です、一般人には彼女は世界を滅ぼそうとした悪魔にしか見えなかったでしょうから。

残ったマジェコンも動かなくなり、そのことに少し不満を持っている人もいましたが……ビフロンスの力となっていたことをわかってくれれば、もう2度と使うことはないでしょう。

 

そして、お姉ちゃん達は……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ほら、もう、動かないの」

「うう、キツいですぅ〜……」

 

アイエフがコンパのドレスを着付けている。胴のヒモをきつく締めているが、コンパは苦しそうだ。

 

「世界中に姿が映るのよ?少しくらい我慢しなさい」

「うぅ〜……」

「ネプギアも、それで大丈夫?」

「あ、最後にチェックお願いします……」

 

ドレスを着込んだネプギアが背筋を伸ばしてピンと立つ。アイエフが360°回る間は居づらそうにソワソワしている。

 

「……うん、オーケー。バッチリ。文句ナシね」

「よ、良かったあ……」

 

ホッとネプギアが胸をなで下ろす。

 

「……あ、そろそろ出番ですよ、ぎあちゃん」

「ほ、ホントですか!?え〜っと……」

 

入口を少し開いて外の様子を垣間見る。

外には大勢の人が集まっていて、目がくらむ程だ。

 

「……うぅ、緊張するなあ……」

「これだけの大きな式なんて、講和条約以来ね」

「ですです。あの時はぎあちゃんに出番はありませんでしたけど……」

「だ、大丈夫です。頑張ります。手に入の文字を3回書いて飲み込む……」

「人ね」

「はわっ!?」

 

そうこうしているうちに予定の時間になった。ゴクリと唾を飲み込んだネプギアは息をゆっくりと吐いて表情を引き締める。

 

 

なんて言ったって今日は……新国家誕生の日なのだから。

 

 

「ネプギア」

「あ、お姉ちゃん……」

「準備はいいかしら?」

「……うん!」

「ネプテューヌさん、ネプギアさん、頑張ってくださいね。ミズキさんのためにも、ヘマは出来ませんよ」

「もう、わざわざ緊張するようなこと言わないでよ」

 

ネプテューヌが肩を竦める。

そうだ、今日はミズキさんの国が生まれる日。まだ開拓が必要だから、正確には建国するという宣言だけ。

でもあの時に花畑になった大地を開拓するのにそう時間はかからないように思える。

 

ミズキさんがプラネテューヌからいなくなってしまうのは寂しい。ミズキさんも一緒にいるという約束を破ってしまう、と謝ってくれた。

でも、ビフロンスにも誓ったんだ。絶対平和にしてみせるって。

もしかしたらその時が来たら……全ての国が1つになる日も来るかもしれない。

 

ネプテューヌとネプギアが開かれた扉から式場へ入っていく。2人の姿が見えると監修から大歓声が上がり、その中をネプテューヌは堂々と歩いていく。ネプギアもその後を続いてついていくと、もうそこには各国の女神と女神候補生、そしてミズキが揃っていた。

ネプテューヌはマイクに近付き、そして口を開く。

 

「ーーーーーまずは」

 

新たな世界の始まり。

きっとその先にはーーーー。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「…………」

 

カツンカツンとノワールが指先で机を叩く。

書類の束をあっちへこっちへ歩くユニはそれを横目で見ながら冷や汗を垂らした。

 

(見るからにイライラしてる……)

 

書類を片付けるどころか頬杖をついてペンすら握っていない。

 

「………どうしたの?」

 

意を決してユニが質問した。ちょっと後悔した。聞かなきゃ良かった。地雷踏んだらどうしよう……いや踏みに行ったのか?

冷や汗を垂らすユニにノワールが不機嫌そうに応じた。

 

「……会議。ウチの企業融資の話あったでしょ。アレに来れなくなったって」

(ああ……ドタキャン……)

「代わりに使いをよこすって。はあ……チッ」

(ひっ!)

 

ノワールの舌打ちにビクンと震える。

 

「断ってやろうかしら……」

 

恐ろしいことを言っている。しかも私怨で。

すると壁に立てかけてある内線の受話器が音を立てた。ユニがこの空気から逃げるように受話器を手に取る。

 

「は、はい、何かしら!?うん、用事!?用事かしら!?用事よね!?」

 

一刻も早く逃げ出したいユニは用事以外受け付けませんという空気を体中と口から発して応じた。

しかし受話器から告げられる言葉は無慈悲だった。

 

「……なによ」

「使いの人……来たって。今エレベーターに乗ってる、って……」

「……ふ〜ん」

 

これはアレだ、八つ当たりされるヤツだ。胃に穴があくヤツだ。知ってる。ユニ賢いもん。

 

チーンと間抜けな音を立ててエレベーターが到着した。あまりに隙のない到着にユニは部屋から逃げることも出来ない。このままだと自分の胃にも穴が開く……胃薬はあったかと考えたらユニの目に映ったのはちんまりとした女の子だった。

 

「んんっ、こんにちは!」

「……はい?」

 

着物を着た女の子は背が小さく、ユニよりも少し小さいくらいだ。書類を胸の前で大事そうに抱えて背筋をピンと正して立っている。

 

着物を着た女の子はユニの顔をマジマジと見つめる。

 

「アナタがノワールさんですか?」

「う、ううん!あっち!あっちがお姉ちゃんです!」

 

ユニがノワールを指さす。

すると女の子はハッとした顔をして頭を下げた。

 

「これは失礼しました!一応、黒髪の美人さんって聞いてたんですけど……」

 

すたたたと女の子は机に座るノワールの正面に向かっていく。ポカンとしているノワールにこれまた礼儀正しく頭を下げた。

 

「こんにちは。今日は、企業融資の件で代わりに来ました!……ノワールさん……ですよね?」

「え、あ、う、うん!そう!私がノワールよ。そう、ノワール」

 

我に返ったノワールが慌てて居住まいを正す。

それから女の子をじっと見て女の子が首を傾げたのをきっかけに椅子から立ち上がり、女の子のそばに行く。

 

「なんでしょう……?」

(かわいい)

(かわいい)

 

ノワールとユニの思考が一致した。

 

「あの、お名前は……?」

「あ、えっと、私の名前はーーーー」

 

女の子が名前を告げようとした瞬間、ベランダの窓が大きな音を立てて割られた。

 

「っ」

 

ガラスの破片が飛び散るが、大きな部屋のためにノワール達へは届かない。

身構えたノワール達がガラスを割った主へ向き直る。

 

「ちょっとアンタ……っ!?」

「……ねえ、聞きたいことがあるんだけど」

 

ノワールが戦慄して数歩後ずさる。

ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。これは、無理だ。立ち向かえない。立ち向かえば……死より辛いものが待っている!

 

「ミズキはどこ?」

「し、知らない……です……」

 

敬語になるノワール。

それを聞いた窓を割った犯人はユニの方を向いた。

 

「知ってる?」

「し、知りません……」

「ふぅん……アナタは?」

「え、わ、私ですか?し、知りません……あ、でもプラネテューヌに行けばジャックさんがいるので何かわかるかも……」

「ふぅん……」

「な、なんでここにアンタが………」

「ベールちゃんが教えてくれたのよぉ?もしかしたらここにいるかも……ってぇ」

 

『ほ、保証はしませんわ。小耳に挟んだだけですので。ええ』

 

(脅したんでしょ!?)

 

「……フフ、それじゃ」

 

窓ガラスを割った主はそれを聞くとプラネテューヌへと飛んでいく。ノワールはヘナヘナと腰が抜けてその場にへたりこんでしまった。

 

 

 

「ねえ、いーすん……働きたくないでござる……」

「働いてください」

「うぅ、ミズキがいなくなってから仕事が辛い……」

「プリンも用意してありますから」

「えぇ〜、ほんとにござるかぁ〜?」

「……カチンと来たのであげません」

「わああごめんごめんごぉ〜!」

 

ネプテューヌがイストワールに泣きついている。

それを脇からジャックとネプギアが見ていた。

 

「案外、変わらんな」

「はい。少し寂しそうにしてる時もありますけど……基本的にはいつも通りです」

 

ネプギアが微笑む。

 

「そういえば、今日はミズキさんは?」

「ん?そうだな、この時間からは……確かルウィーで魔法を習うと」

 

「へえ?ルウィーにいるの?」

 

「なに?……なっ、お前は……!?」

「え?う、ウソ……!」

 

ネプギアがガクガクと震えて後ずさる。

異常に気付いたネプテューヌとイストワールが窓の外を見るとそこにはニヤリと微笑んでいる女。

 

「え、え、ええええっ!?」

「そんな……何故……!?」

 

「フフ……待ってなさい……」

 

女はそれだけ聞くとルウィーへと飛んでいく。プラネテューヌで4人はしばらく言葉を失っていた。

 

 

 

「次は召喚魔術です」

「召喚魔術とな」

「ええ。そこそこ高位の魔法です、1つの高い壁と捉えてもいいでしょう」

 

ミズキは庭でミナに魔法の手ほどきを受けていた。

それをブランとロムとラムが眺めている。

 

「まずは魔法陣を書いて」

「うん」

「集中して、イメージ。魔法の基本ですよ」

「うん……むむっ」

 

ミズキが目をつぶって魔法陣に手を向けて集中する。

その魔法陣の上にあの女が降り立った。

 

「っ……!」

 

全員が声を抑えて戦慄する。というより、驚きに声も出ない。

ただミズキだけは目の前の現実に気づかずに呑気に集中している。

 

「むむっ……ん、ん〜……」

「…………」

「どうかな、ミナ……正直、よくわかんないんだけ……ど……」

 

ミズキが目を開くとそこにいたのは……。

 

「……む〜!」

 

頬をふくらませてご立腹な様子の……。

 

「……プルルート?」

「もぉ〜、バカぁ〜っ!」

 

ほんの少し涙を滲ませてプルルートがミズキに抱きついてきた。

 

「連絡は取れなくなるしぃ!次元の歪みとかなんとかわけわかんないこと言ってぇ!やっと、やっと〜……!」

「え、え〜と……ごめん?」

「むぅ〜!もう怒ったからぁ〜!」

(そういえばプルルートと連絡つかなかったんだ……次元の歪みもようやく元通りになったんだ)

 

プルルートはポカポカとミズキのお腹を叩きながら抱きついて離れない。

そのポカポカが段々と……あれ……強く……ん……?

これポカポカ?既にドスンドスンというか、ボゴッボゴッ、ドゴォンドゴォン、バキィ。

 

「僕の骨が折れた!?」

「もう離さないんだからね〜っ!」

「い、いや離してくれないと、その、骨が……ぐへっ」

「し、執事さん!?」

「執事さんが血を吐いて倒れたぁ……!」

「………真の敵はまだいたという事ね」

「……平和には程遠そうですね」

 

ミナがはあと息を吐いて呆れる。

 

………まあ、なんにせよ、これで全部元通り。……とはいかないけれど。

ミズキの部屋に置いてあるカメラのレンズがキラリと光る。

まだ道は程遠く、その先に何があるかも分からない。けれど、ただ歩き続けるだけ。

自分が信じる方へ、平和を求めてーーーー。






終わり!
次にやるなら…まあVよりVⅡですけど…VⅡよくわかんないのでとりあえずはお休みです、期間は決まってません
そもそもプレイしてないので…小説をたまに手直ししてるのでそれで生存確認してください…


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。