摩訶不思議アドベンチャーな世界に転生したかと思ったら一繋ぎの世界にトリップした件について (ミカヅキ)
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プロローグ

妄想こじらせ過ぎて遂に初投稿してみました。いざ書いてみると切実に文章力がほしいです…。誤字脱字等あったらそっと直すことがあると思います。


 ドラゴンボールという国民的漫画がある。

 幼い頃は年の離れた兄と一緒にかめはめ波を真剣に練習したし、自分はできないだけで舞空術ができる人間はいると思っていた。もちろん小学校に上がる前には現実を知ったのだが。

 成長してなんだかんだと他の漫画にハマるようになっても、ドラゴンボールはずっと好きだったし、社会人になってからもう無いと思っていた2度の映画化にも興奮してきっちり映画館まで見に行ったものである。

 単行本は完全版を集めたし、「神と神」と「復活のF」のDvDは初回限定版を買った。

 ネット小説や夢小説にハマってからは、もしドラゴンボールの世界に行ったら~という妄想も幾度となく脳内で繰り広げたものである。

 だがしかし、

「これはよそうしてなかった……。」

 ベッドの上で目覚め、天井を見上げながら呟く。

 まだ涙でチカチカする視界の中、部屋を見回すと額に置いてあった濡れタオルがズレ落ちた。

 ガチャ…

 まるで図ったようなタイミングでドアが開く。

 寝ている(と思っている)自分を起こさないようにだろう、音を立てないようにそっと入ってきた父親が目を覚ましている自分に気づいて声をかけてきた。

「ジャスミン!目が覚めたのか?」

 洗面器を床に置いてベッドの枕元に座り、額に手を当ててくる。

「まだ熱いな…。何か食べるか?おかゆ作ったぞ。」

「うん…。おなかすいた」

 話しながら父親がズレ落ちたタオルを洗面器の中に入れると、水音と一緒にカラコロという音がする。どうやら氷水で冷やしてくれるらしい。

 タオルを絞ってから額に乗せ直してくれると、冷たくて気持ちが良かった。

「気持ちいいか?」

「うん。」

「お父さん、おかゆあっためてくるからな。ちょっと待っててくれよ。」

 そういって父親が再び部屋を出ていくのを見送りながら、おかゆを待っている間に熱と記憶を取り戻したことで混乱している頭を整理することにした。

 

 さて、思い出したのは私が21世紀の日本でОLをしていた時の記憶である。

 死んだ時の記憶は無いものの、昔の名前や両親や友人の名前も曖昧な上、こちらの世界で幼少を過ごした記憶はばっちり残っている為、憑依ではなく転生で間違いない。

 たぶん、日本から転生してドラゴンボール世界に生まれ、記憶が無いまま今まで過ごしていたのだと思う。

 記憶を取り戻したきっかけは恐らく、今も引かない熱だろう。

 基本的なところは日本とさほど変わらない為、病気などの種類もほぼ一緒である。

 とは言え、別に重篤な病気を発症した訳ではない。学校で流行っているインフルエンザに罷っただけのことである。

 しかし、これまでこれといった病気に罹ったことの無い体には負担が大きかったようで、なかなか熱が下がらず2日程40℃近い高熱に浮かされることになったのだ。

 他に理由も思い当たらないので、発熱がきっかけでいわゆる前世の記憶が戻ったに違いない。

 

 そこまでつらつらと考えていると、再びドアが開いて父親が戻ってきた。

 手には小さい土鍋と小鉢の乗ったお盆がある。

「持ってきたぞ。起き上がれるか?」

「うん…。」

 額のタオルを持ちながらのそのそと起き上がると、洗面器の近くにお盆を置いて小鉢におかゆをよそってくれる。

「ほら。熱いから気をつけてな。」

「いただきます。」

 差し出された小鉢を、同じく渡されたレンゲでかき回し、1口分のおかゆに息を吹きかけつつそっと父親を見た。

「ん?どうしたジャスミン?」

「なんでもない。」

 程良く冷めたおかゆをほうばりつつ答える。

 

 申し遅れた。自分の今の名前はジャスミン(7歳)。ドラゴンボール無印時代からのレギュラーキャラ、ヤムチャの娘として転生した元一般人である。

 



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第1話 狼牙真拳炸裂!勝ち残れ、天下一武道会

すいません、いきなり年数が飛びます。原作でいう最終話です。ちょっと変えていきます。まだワンピースの世界にトリップしません。たぶん次かその次の話でトリップする予定です。
ここでプロローグでは触れなかった主人公の容姿とプロフィールについて説明します。
名前:ジャスミン
※ジャスミン茶から命名
年齢:14歳(学年的には悟天の2つ下で、エイジ770年に誕生)
容姿:腰まで伸ばした黒髪に緑色の瞳。黒髪はヤムチャ譲りで、目の色は母親似。特別美少女という程でもないが、顔立ちは整っており普通にかわいいタイプ。グラマーではないが、貧乳という程でもなく、Cカップはあり鍛えているので均整のとれた体付き。
身長:160cm
体重:53kg
来歴:セルゲーム後にドラゴンボールを使った際に、ヤムチャがネックレスをプレゼントしようとしていた彼女との間に生まれた。しかし、その時既に母親とヤムチャは別れており、母親にも別の彼氏がいた為、ヤムチャに押し付けられる。以来、ヤムチャがシングルファーザーとしてジャスミンを育てた。
魔人ブウとの戦いの時は4歳。既に舞空術やカメハメ波は体得していたものの、前世の記憶はまだ無かった為、目立った活躍はせず。天下一武道会にもヤムチャが許さずに参加していない。
7歳の時にインフルエンザによる高熱で前世の記憶を取り戻した。その後、せっかくドラゴンボール世界に転生したんだから限界に挑戦したい、と半ばミーハーな気持ちで修行に励む。


 さて、私が前世の記憶を取り戻して約8年、私も14歳である。

 ん……?展開が早い?修行と学校、時折遊びの毎日で特筆することが無かったのだ。そこは目をつぶってほしい。

 今日は第28回天下一武道会。そう、ドラゴンボールファンならピンとくるだろう。

 今日はドラゴンボールの漫画としての最終回、悟空がウーブと一緒に修行に出たあの大会である。

 前世の記憶を取り戻して以降、この日の為に(ヤムチャ)だけでなく、たまにクリリンや悟空にも時折修行をつけてもらっていた。

 その甲斐あってか、悟空曰く既に(ヤムチャ)を超えているらしい。

 因みになぜクリリンや悟空なのかと言えば、(ヤムチャ)が仕事で長期家を空けざるをえなかった場合、良くクリリン宅や孫家に預けられていた為である。CP(カプセルコーポレーション)に預けられることもあったものの、さすがにベジータに修行をつけてもらうのは怖かった為、ベジータに相手をしてもらったことは無い。

 余談だが、ヤムチャの職業は現在はアクション映画などのスタントマンである。撮影が長期に入る場合では、その分長い期間預けられていた為、修行に励むことができた。

 

 難なく予選を通過し、本選のくじを引く為に出場者が集まっていた時のことだった。

「ねぇねぇジャスミンちゃん。」

「ん?」

 振り返ると悟天とトランクスがいる。

「どうかした?悟天くん。」

「ジャスミンちゃんさー、なんで天下一武道会に出ようと思ったの?」

「そうそう。オレたちなんて、出るつもりなんて無かったのにさ。」

 因みにこの2人、ジャスミンが頻繁に孫家やCPに預けられていたこともあり、幼馴染のような間柄である。特に悟天とは、悟空に修行をつけてもらっていた際には良く組手に付き合ってもらっていた。

「お父さんたちが出た大会だから出てみたかったんだよね。ほら、10年前は私参加できなかったしさ。」

「あ~…。そういやヤムチャさん、あん時は許してくれなかったんだっけ?」

 思い出したようにトランクスが呟く。

「そ。ほら、少年の部があることわかんなかったからさ。」

「なるほどね~。」

 悟天が納得したように頷いた。

「2人こそなんで?出たくなかったんでしょ?」

「ボクはお父さんに無理やり。今日、デートの約束してたのにさ。」

「オレもパパに命令されてさ~…。出なきゃこづかい半分だって言われたんだよ。」

 溜息を吐きつつうなだれる2人。

「それもそれでたいへんだね。」

(そういえばそんな話だっけ?)

 なにぶん、最後に原作を読んだのは10数年前の話なのではっきりしない。

 

「えー、それではくじ引きで順番を決めますので、予選を通過された選手のみなさん集まってくださーい。」

 天下一武道会ではおなじみの審判に呼ばれ、出場者が集まった。

「名前を呼ばれた方から順番にくじを引いてください。」

 それぞれトランクスが9番、悟天が8番を引く。

「次はジャスミンさん」

 引いたくじは10番。初戦からトランクスである。

「何番ですか?」

「…10番です。」

「い?!」

「最初っからトランクスくんとジャスミンちゃんか~。」

 まさかの結果にトランクスが驚き、悟天は他人事と思ってか「楽しみだな~。」と気楽な声を出している。

「負けないからね!」

 そうそう勝てるとは思えないが、自分の実力がどこまでサイヤ人(トランクス)に通じるのか試してみたい気持ちの方が強かった。

「マジかよ・・・。」

 対するトランクスは、女の子(ジャスミン)相手に手荒なことをしたくない思いと、無様な試合をすればベジータに怒られるという思いで複雑だった。

 

 そこから先は原作通りにパンが第1試合を勝ち残り、第2試合は悟空がウーブを連れて会場を飛び出し無効。

 第3試合もキャプテン・チキンが悟空とウーブの試合に恐れをなして逃亡した為試合放棄でキラーノの不戦勝。

 第4試合では悟天が修行不足は否めずブウに敗退。

 そして遂に第5試合・・・

「続きまして、第5試合。トランクス選手対ジャスミン選手の試合です!トランクス選手は、10年前に天下一武道会の少年の部で他を圧倒する強さを見せ、初出場で見事優勝しています!!対するジャスミン選手は、トランクス選手とは親同士の付き合いで幼馴染のような間柄とのこと。お父さんのヤムチャさんは青年時代に3度天下一武道会本選に出場したことのある武道家であります!そして何より、幼少の頃から先程激戦を魅せてくれた孫悟空選手に修行をつけてもらっていた実力者です!現在着ている道着も、お父さん方がかつて着ていた亀仙流の道着であります!」

 審判の解説の間に武舞台に上がり、お互いに向かい合わせに立つ。

 左の拳を右の手のひらに当て、胸の前で一礼し、トランクスも同様の礼を返す。

「それでは、第5試合トランクス対ジャスミン、試合開始!!」

 試合開始と同時に右足で思い切り踏み込み、気合と同時に拳を突き出し、間髪つかせず連打する。

「りゃああああ!」

「くっ!」

 拳と蹴りの激しい応戦に会場が沸いた。

「おおー!これは激しい攻防です!わたしにはその動きがかすかにしか見えませんー!」

 審判の解説にも熱が入る。

「せい!」

 気合と共に胸に放たれたジャスミンの蹴りをトランクスも腕をクロスさせて防ぐが、勢いを殺しきれずに数歩たたらを踏む。

「りゃあ!」

 好機を逃さずに追撃するが、さすがに一筋縄ではいかずに今度は完璧に防がれてしまった。しかも一瞬体勢が崩れた隙をつき、トランクスの拳が突き出される。

「ちっ!」

 ギリギリのところで身を引いて避け、そのまま飛びのいて一旦距離を取る。

「さすが強いね。」

「・・・お前こそ。」

「すっ、すっ、すごいすごい!近年稀に見る凄まじい試合です!」

 手強い相手との試合を楽しんでいるジャスミンに比べ、トランクスはやりにくそうだった。

 純粋な戦闘力で言えばジャスミンがトランクスに敵う筈も無いのだが、トランクスはここ最近ほとんど修行をしておらず、また相手が幼い頃から良く知る女の子という点がそれを鈍らせていた。

 対してジャスミンは、相手がトランクスという時点で負けてもともと、実力試しのつもりで挑んでいる為、全く気負う必要が無くのびのび戦うことができていた。

「もっと本気できてよ。さすがに(スーパー)サイヤ人になられたら絶対敵わないけどさ。」

「そんなこと言ったってさ・・・。」

「だったら・・・。」

 セリフと同時にある構えを取る。拳を開いて腰を落とし、やや体をひねる。右手を顔の上にやや突き出し、左手を胸の前で構えた。

「その構えは・・・。」

「こっちから行くよ!」

 言い終わると同時に飛び出し、先程の攻防の比ではない激しい連打をトランクスにあびせていく。

「りゃああああああ!」

「ぐっ…!」

「こっ、これはジャスミンさんのお父さん、ヤムチャさんの狼牙風々拳!親子2代で同じ技を使う!これぞ、長い歴史を誇る天下一武道会の醍醐味です!」

「違うよ!」

 言葉と同時に拳だけでなく、蹴りも追加された。

「うえ?!」

 両の拳だけでなく、その合間を縫って襲う凄まじい蹴りに徐々にトランクスの余裕が削られていく。

「なんと、ジャスミン選手!お父さんの技を進化させています!!トランクス選手、防戦一方か――――!?」

「狼牙真拳!」

 恐るべきはそのスピードと卓越したバランス感覚である。もちろん、トランクスもやられてばかりではない。

 その反撃を全て受け流し、あるいは紙一重で避け、ジャスミンがトランクスをおしていく。

「やべっ!」

「ハァッ!!」

 トランクスが激しい応酬に耐え兼ね、一瞬だけバランスを崩した隙を見逃さず、ジャスミンの放った蹴りがトランクスの顎を捉えた。

 トランクスの体が後方に弾き飛ばされ、ジャスミンが勝利を確信して気を抜きかけた瞬間、そのままの勢いでバク転の要領でバランスを立て直したトランクスが、逆立ちのままカポエイラの如く蹴りでジャスミンの足を払う。

「あぁっ!」

「はああっ!」

 体勢を立て直す暇さえ与えず、そのままトランクスが掌底を放ち、ジャスミンが観客席の壁まで吹っ飛ばされた。

「ぎゃんっ!」

 受け身を取れずに激突してしまった為、思わず変な声が出てしまう。

 そのまま壁をずり落ち、地面に尻もちをついた。

「ジャ、ジャスミン選手場外―――――!トランクス選手の勝利です!」

「ジャスミン、大丈夫か!?」

 駆け下りてきたトランクスが差し出した手を取り、起こしてもらう。

「ちょっと痛いけど大丈夫。・・・やっぱり強いね。勝てないや。」

「お前も強くなってて焦ったよ。もうちょっとで(スーパー)サイヤ人になるとこだったぜ。」

 ワアァァァ――――――――!!!

 会場の拍手と歓声に見送られ、2人は武舞台を後にした。

 




終わった…。すいません、バトル描写がめちゃくちゃです。後々手直しするかも…。脳内の妄想をそのまま文章化してくれる機械があればいいのに…。
そして、クロスオーバー作品なのにまだクロスオーバーしません。次かその次には必ず…!

※ジャスミンの年齢を訂正しました。誕生日を12月にしてしまったので、誕生日前に15歳にしてしまうと「悟天の2つ下」という前提が崩れてしまうことに気付きまして…。天下一武道会の時点で中学3年生(14歳)とします……!


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第2話 ブルマの提案

すいません、今回やたら長いうえにまだワンピースの世界にトリップしてません…。次こそは必ず…!
そしてこの小説、ドラゴンボールの原作知らない人には不親切ですね…。ご存知無い方は後書きに軽く登場人物と用語の解説を書いておくのでご参照ください。
8月23日、加筆修正しました。

夏休みではなく、GWに変更しました……!


「第28回、天下一武道会優勝はミスター・サタン!!!」

 ワアァァァ―――――――!!!

「あーあ、終わっちゃった…。1回戦くらいは勝ちたかったんだけどなー。」

 トランクスに負けたジャスミンは、その後すぐに普段着に着替え、特別席で観戦している(ヤムチャ)たちのもとへと合流していた。

「相手が悪かったな。トランクス相手じゃ仕方ないさ。結果はどうあれ、試合は凄かったぞ。また強くなったな。」

 ぽんぽんと隣にいる(ヤムチャ)が頭を撫でてくれるが、あの時油断しなければ勝負は違っていたかもしれない。

「そーよー。純粋な地球人なのに大したもんだわ。それにジャスミンちゃんの方がトランクスより3つも年下じゃない。私トランクスが負けるかと思ってちょっとハラハラしちゃった。」

 ブルマがあっけらかんと言う。

「そうそう。サイヤ人にあれだけ戦えれば十分さ。今日はお父さんと何かうまいものを食いに行こうか。」

「…うん。私、中華がいーなー。」

「よし。今日は奮発するからな!」

 父娘(おやこ)のほのぼのとしたやり取りをぶった切るように、ブルマが提案する。

「あら。じゃあ、みんなでウチにいらっしゃいよ。集まったのも久しぶりだし、ウチでパーティーしましょ。ね、そうしなさいよジャスミンちゃん。とびっきりおいしい中華ももちろん用意するわよ。」

 その言葉に(ヤムチャ)と2人で顔を見合わせる。

「どうする?お父さんはどっちでも良いぞ。久しぶりに父娘(おやこ)水入らずも良いし、みんなで集まるのも久しぶりだしな。」

「私もどっちでも良いけど…。」

「じゃ、決まりね!」

 嬉々としてブルマが端末を操り、食材やら酒類の手配をした後、「はいはいちゅうもーく!」とパンパンと手を叩きながらみんなに呼び掛けた。

「今日はこのままウチでパーティーよ!みんなでパーッと騒ぎましょ!!」

 ブルマの言葉に喜ぶ者半数、しょうがないなブルマさんはと言いたげな顔をしている者半数だった(かと言って反対という訳ではないようで、久しぶりに集まった仲間と騒げるのが嬉しい様子だったが)。

 

 所変わってCP(カプセルコーポレーション)の中庭。大人たちは酒も入って話が弾み、酒が飲めない子供たちは固まってジュース片手に談笑していた。ピッコロやデンデも一緒に会話を楽しんでいるようだ(グラスの中身は水だが)。因みに、パンとブラのお子様コンビはお腹いっぱいになったら眠くなったらしく、現在はブラの部屋で一緒に寝ている。

「ねー、ジャスミンちゃん。」

「どしたのマーロン?」

 不意にマーロンがジャスミンのパーカーの裾を引っ張ってきた。

 クリリンと18号の娘のマーロンは、良くクリリン宅にも預けられていたジャスミンにとっては妹の様なものである。マーロンもジャスミンを姉のように慕っており、些細なお願いごとをしたり甘えたりすることは珍しいことではない。

「ジャスミンちゃんってドラゴンボール見たことある?」

「?あるよ。急にどしたの?」

「この前、パパたちの昔の写真を見たの。そしたら、私ドラゴンボールってちゃんと見たことないなと思って。」

「そっか。魔人ブウの時はマーロンまだ小さかったもんね。」

 まだ幼かったマーロンの記憶には残っていないのだろう。状況が状況だけにあまりまじまじと見る時間も無かったし。そういう自分も、前世の記憶を取り戻してから集めるような機会も無く、いまいちドラゴンボールを見たという実感が無い。

「オレたちなんてドラゴンボール探ししたこともあるぜ。」

「ねー。」

 そのやり取りを見ながら自慢してくるのがトランクスと悟天である。体は大きくなっても、そういうところはまだ子供らしい。

「ずるーい!私もドラゴンボール集めたい!」

「マーロンには無理だよ。空飛べないだろ?」

 トランクスが宥めるように言うが、1度自慢した張本人なのでその効果は薄かった。

「じゃあ、私が代わりに集めて見せてあげようか?」

 折衷案(せっちゅうあん)として提案するとマーロンが「ほんと?!」と食いついてきた。

「私もドラゴンボール探しってしたことないし、1度やってみたかったんだよね。」

「やったー!ありがとう、ジャスミンちゃん!」

「良かったねーマーロンちゃん。」

 無邪気に喜ぶマーロンを微笑ましそうに悟天がほやほやと見ている。

「良いのかジャスミン?」

「うん。私もまじまじとドラゴンボール見たことないし。トランクスくん、ドラゴンレーダー貸してくれる?」

 ドラゴンレーダー無しにはドラゴンボール探しはままならない。そして、仲間内でドラゴンレーダーを所持しているのはブルマのみである。

「それなら、一緒にママのところに行こうぜ。その方が早いだろ。」

「うん。」

 

 ブルマは(ヤムチャ)やクリリン、チチや18号らと飲んでほろ酔いでご機嫌のようだった。悟飯やビーデルも珍しく飲んでいるらしいが、ベジータの姿は無い。騒がしい場所はあまり好まないようだから、既に部屋に戻っているのだろう。

「ママ。」

「あらトランクス。ジャスミンちゃんも。どしたの?2人で。」

「ブルマさん、ドラゴンレーダーを貸してもらえませんか?」

「ドラゴンレーダー?それは構わないけど。ドラゴンボールを探すの?」

「はい。」

「マーロンがドラゴンボール見たいらしくて、代わりに集めてやるんだってさ。」

「マーロンが?」

 それに反応したのがクリリンと18号である。

「クリリンさんたちの昔の写真を見て、ドラゴンボールが見たくなったみたいです。私も小さい時に見ただけだし、1度ドラゴンボール探ししてみたくて。良いでしょ?お父さん。GW(ゴールデンウィーク)が始まったばっかりでしばらく学校もないしさ。」

「ドラゴンボールを集めるのは構わないが…。もし海底に沈んでたりしたらどうするんだ?」

「あっ、そっか。そういうこともあるんだ。」

 失念していた。確かに原作では幾度となくそういった場面があった。

「それなら、私もついでにお願いしたいことがあるの。ドラゴンボール探しにも役に立つ筈よ。」

 父娘(おやこ)のやり取りを見て、ブルマが思い出したように提案する。

「ママ、お願いって何?」

「ちょっと待っててね!」

 言うやいなや部屋に走っていってしまった。

「なんだろ?」

 トランクスに聞くが、

「さあ?」

 予想は全くつかないようだった。

「悪いねジャスミン。マーロンがまた我儘言ったみたいで。」

「代わりに集めるっていうのは私から提案したんですよ。私もドラゴンボール探ししたことなかったから、ほんとに1度はやってみたかったので。」

 18号とそんな会話をしている間にブルマが戻ってきた。

「お待たせ~。これよ、これ。これのモニターをお願いしたかったの!」

 そう言って取り出したホイポイカプセルを投げる。

 ボンッ!!

 煙が晴れるなり出てきたのは、3~4人乗りの小型の潜水飛行艇だった。全体的に鮮やかな青いボディで、白い塗料でCP(カプセルコーポレーション)のマークがペイントされている。

「これって最近できたばっかりの最新モデルじゃん。」

 トランクスが感心したように呟く。

「そ。飛行モードなら最高速度マッハ2、潜水モードなら深海2万Мまで潜れるわ。ロケット弾とレーザー砲も完備。海底調査も可能なように作ったから、マジックハンドで重さ200kgくらいの物体なら回収可能!ジャスミンちゃん、ドラゴンボール集めるつもりなら、これモニターしてくれない?もちろん、バイト代も弾むわよ~。」

「えっ、良いんですか?」

「お願いしてるんだもん、当然よ。」

「それにしても、ずいぶん物騒な装備がついてるな。」

 (ヤムチャ)が呆れたように呟いた。

「元々、軍から依頼されて作ったんだけど、ちょっと機能にこりすぎちゃってウチのスタッフじゃ試運転が限界だったのよね。」

 確かに、ろくに訓練も受けていない人間がいきなりマッハ2なんて超スピードは出せまい。

「その点、ジャスミンちゃんなら鍛えてるし、舞空術も使えるからある程度のスピードも平気でしょ?」

「さすがにマッハ2はちょっと…。」

 サイヤ人と一緒にされても困るのだが。

「そういうことなら、トランクスくんの方がこういうことに慣れてるんじゃないですか?」

「もちろん、すぐに最高速度出してほしいなんて言わないわ。機能的な確認もしてほしいんだけど、ほら、サイヤ人ってちょっとやそっとのことじゃビクともしないでしょ?この子が平気でも他の人間には耐えられない負荷が無いかとか、実際の乗り心地とかそういうのを知りたいのよ。その為にはトランクスはもちろん、悟天くんじゃダメなのよ。ほしいのは地球人が乗った時のデータだもの。」

「なるほど…。」

「モニターと言っても別に複雑なことはしなくて良いわ。これに乗ってもらえば、自動で私とCP(カプセルコーポレーション)の研究室にそのデータが送信されるようになってるの。ジャスミンちゃんはただこれに乗ってくれればいいのよ。もちろん、乗り心地なんかは後で教えてもらうけど。」

 そういうことならこの申し出は渡りに船である。

「わかりました。ぜひ引き受けさせてください。」

「ありがとう、助かるわ~。で、バイト代なんだけど…。そうね、まだ試作段階のモニターだし、これからも協力お願いしたいし…。日当10万ゼニーでどう?」

「高っ!そんなにもらえません!」

「何言ってるのよ。危険手当も含んでるんだし、新製品のモニターなんてそんなもんよ。」

 そうは言われてもドラゴンボール探しに何日かかるのかはっきりとわからない以上、引き受け辛い。たかだ中学生が受け取るにはその金額は高過ぎる。

「現金がダメなら、そうね。現物支給ならどう?」

「現物?」

「そうよ。ドラゴンボール探しならどんなに早くても2~3日はかかるでしょう?泊まる場所が必要よ。カプセルハウスをバイト代代わりにするのはどう?」

「むしろ高くなってませんか!?」

 確かに比較的安価なカプセルハウスも存在するが、それでも最低10万ゼニーはするのだ。まして、ブルマが渡してくるものである。絶対にそれ以上高いと確信できた。

「大丈夫よ。ウチで商品化した商品の試作段階のものだから。もう既に商品化されてるから、試作品なんて誰も使わないもの。一応残しているけど、試作段階のデータは全て別に保管してるから、何か調べる時は現物を引っ張り出すよりそっちの方が早いの。このままだといくらカプセルに保管してても倉庫がいっぱいになりそうな勢いなのよね。ただ廃棄するのももったいないし、自由に好きなの持って行ってちょうだい。」

「え?廃棄しちゃうんですか!?」

「そうよ~。いくらカプセルにしててもさすがに何年もメンテナンス無しじゃ保たないし。数が膨大過ぎてメンテナンスの手も回らないのよ。ウチは色々と年に数10作品と開発してるから、数年に1回そういう試作品を全部廃棄して倉庫を整理してるんだけどすぐにいっぱいになっちゃうのよね~。ちょうどそろそろ倉庫整理しようと思ってたから、カプセルハウスだけじゃなくてほしいものがあったら好きに持って行ってもらって構わないわよ。どうせなら使ってもらった方がこっちも嬉しいしね。」

 さすが世界に名だたる大企業の社長は太っ腹である。いくら廃棄予定とは言え、高価なカプセルをそうもポンポンと出すとは。

「そういうことなら、遠慮無くもらうと良い。」

「そうそう。どうせ誰も使わないんだしさ。好きなの持ってけよ。」

 (ヤムチャ)とトランクスがそれに同調した。

「じゃあ、遠慮無くいただきます。」

「よし!それじゃ、モニターよろしくね。ついでにこれもあげるわ。」

 潜水飛行艇をカプセルにしまい、それをジャスミンに渡しながらブルマがさらに太っ腹なところを見せる。

「良いんですか?」

「良いの良いの。これからモニターとして使ってもらうんだし、その後はまた倉庫行きになっちゃうもの。好きに使って。ついでに今倉庫を見て好きなカプセルを見繕ってくるといいわ。トランクス、案内してあげて。」

「OK。」

「ありがとうございます。」

「サンキューな、ブルマ。」

「気にしないで。こっちもモニターお願いしてるんだし、正当なバイト代よ。」

 (ヤムチャ)とブルマのやり取りを聞きつつ、トランクスとその場を後にした。

 

 

 

 




用語解説
・孫悟空…「ドラゴンボール」の主人公。サイヤ人という宇宙最強の戦闘民族の生き残り。
・ベジータ…ブルマの夫でトランクス・ブラ兄妹の父親。悟空の永遠のライバルで元はサイヤ人の王子だった。
・ブルマ…世界に名だたる大企業「カプセルコーポレーション」現社長で地球でも指折りの天才科学者。悟空の少年時代からの仲間。
・トランクス…ベジータとブルマの息子。18歳。悟天の親友で、サイヤ人ハーフ。今作品では主人公と幼馴染。
・ブラ…トランクスの妹。3歳。ブルマそっくりのおしゃまな女の子。
・ヤムチャ…悟空の少年時代からの仲間で主人公の父親。ブルマの元彼氏だが、浮気性が原因で別れた。今作品ではその女癖のせいでシングルファーザーとなる。主人公のことはかわいがっており、親子仲は至って良好。
・チチ…悟空の妻で元武道家。孫悟飯・悟天兄弟の母でパンの祖母。
・孫悟飯・・・悟空の長男でビーデルの夫。以前は悟空より強かったが、現在では武道から遠ざかり学者の道一本。
・ビーデル…悟飯の元同級生で妻。ミスター・サタンの一人娘で、自身も武道家。
・パン…悟飯とビーデルの1人娘。4歳の天才武道家。
・孫悟天…悟空とチチの次男で悟飯の弟。17歳。父・悟空そっくりの顔立ちで、幼い頃は髪型も一緒だった。トランクスとは親友で幼馴染。今作品では主人公の幼馴染で、良く組手の相手になっていた。
・ミスター・サタン…ビーデルの父親で現世界チャンピオン。昔は悟空たちの功績を自分のものにしているなどちゃっかりしたところが目立ったが、現在では悟空たちと良好な関係を抱いている。娘のビーデルと孫のパンを溺愛。
・デンデ…ナメック星人と呼ばれる宇宙人で、地球の神を務める。この人が死ぬとドラゴンボールもただの石になる。
・ピッコロ…ナメック星人の戦士。元々は悟空たちの敵だったが、現在は仲間に。悟飯の師匠。
・クリリン…悟空の少年時代からの仲間で親友。18号と結婚して一人娘・マーロンを設けた。
・18号…スレンダーな金髪美人。Dr.ゲロという科学者に無理やり改造されたサイボーグで、悟空の敵だったがクリリンと結婚して性格も若干丸くなった。
・マーロン…クリリンと18号の娘。今作品では主人公の妹分。彼女の些細な我儘が主人公の運命を大きく変えることになる。
・天下一武道会…3年に1度開かれる武道の祭典。この大会に出場することは武道家にとって最高の栄誉。
・ドラゴンボール…7つ集めるとどんな願いも2つだけ叶えてくれる不思議な玉。
・ドラゴンレーダー…ドラゴンボールの放つ特殊な電波をキャッチするレーダー。ドラゴンボールはこれ無しには探せない。
・カプセルコーポレーション…ブルマが社長を務める大企業。または、彼女たちの自宅そのものを総称。
・ホイポイカプセル…ブルマの父・ブリーフ博士が作った発明品。家やバイク、飛行機などをこの中にしまって手軽に持ち歩くことができる。


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第3話 異常事態発生!探せ、ドラゴンボール!!

こんばんは。感想いただけて歓喜しているミカヅキです。お気に入りに入れてくださった方もいつのまにか2桁に…。嬉しくてリアルに変な声出ました。
さて、主人公の強さですが、DB世界ではうまくいけばギリでクリリンに勝てるくらいです。しかし、戦闘力が高くてもいかんせん経験不足の為、楽には勝てません。修行不足のトランクスや悟天なら超化しなければ勝てるかも?くらいです。ワンピースの世界では、悪魔の実の能力もある為一概には言えませんが、グランドライン前半では敵がいないのではないかな、と思います。純粋な体術だけでなく、気功波なども使えるので…。ただ、海千山千の大海賊たちや海軍将校相手ではさすがにどうなるかわかりません。前述したように、主人公は実戦をほとんど経験していないので…。
そして、トランクスのブルマへの呼び方ですが、原作517話で悟飯との会話の中でベジータとブルマのことを「パパたち」と表現している為、「ママ」とさせていただきました(未来から来たトランクスは生い立ちが全く違う為、ある意味で別人なので…)。GTでは「父さん」「母さん」ですが、その場合トランクスも既に社長に就任している良い大人なので…。原作終了後~GTの間くらいに呼び方が変わったのではないかな、と推測しています。


 ピッピッピッ………

(たぶんこの辺の筈なんだけどな~。)

 ガサガサと草木をかき分け、ジャングルを探していく。

 1度立ち止まってレーダーを確認すると、ちょうど自分が持っているドラゴンボールの位置と目当てのドラゴンボールの位置がほとんど重なっているのが分かった。

「ん?てことは・・・。」

 付近を見てもそれらしきものは一切見当たらない。残る可能性は地中か木の上ということになる。

 上を仰ぎみると、首が痛くなる程高い木々の枝の間に光るものがあった。

「あ。」

 軽く地面を蹴ってそのまま浮き上がる。

 地上15m程だろうか。鳥の巣の中に、鮮やかな青い羽毛に紛れて3つの赤い星が光る、澄んだオレンジ色の野球ボール程の大きさの玉を見つけた。

「あった!三星球(サンシンチュウ)だ!」

 ジャスミンが手に取ると、一瞬強く光る。

 三星球(サンシンチュウ)を手に地面に降り、ウェストポーチの中からカプセルケースを取り出す。

 その中から1と書かれたカプセルを取り、上部のボタンを押して軽く放り投げた。

 ボンッ!!

 煙と共に出てきたのはジェルラミンのアタッシュケースである。

 ガチャ・・・

 ケースを開くと、7つ穴の開いた衝撃吸収の為の緩衝材が敷かれている。

 穴の1つには5つ星の光るドラゴンボール、五星球(ウーシンチュウ)が納められている。その開いた残りの穴に新たに見つけた三星球(サンシンチュウ)を納めると、2つのドラゴンボールが共鳴して断続的に強い光を放ち始めた。

(やっと2つかぁ………。)

 溜息をつきながらケースの蓋を閉め、ケースの横についたボタンを押す。

 ボンッ!

 出てきた時と同じく煙が上がり、今度は逆にカプセルに戻った。

「残りのドラゴンボールは…っと。」

 ドラゴンレーダーを取り出して上部のスイッチを押すと、ピッという音と共に画面が明るくなり、画面上にいくつかの点が表示された。

「1番近いのはこっから北東に約1,200kmか…。」

 天候にもよるが、急げば1~2時間で着く。

「急いで残りのドラゴンボールを集めないと…。」

 ギュンッ!!!

 凄まじいスピードで飛び上がり、北東に向かって飛ぶ。

 飛びながらジャスミンは半日前の出来事を思い返していた。

 

 ~半日前~

 ブルマから引き受けたモニターのバイトも兼ね、ジャスミンはドラゴンボール集めの為に世界中を回っていた。

 3日程かかって7つ全てのドラゴンボールを手に入れた直後のことだった。

 最後の1つは骨董品店で5,000ゼニーで売られていた。

 他にも色々と目を引くものがあったので、ドラゴンボールを購入した後に色々と店内を見て回っていたのが今考えると良くなかったのだろう。

 そして、最後の1つをしまったアタッシュケースをカプセルに戻さず、手に持ったままだったのがさらに良くなかったに違いない。

 色々と怪しげな骨董品を見つつ、年老いた店主からその謂れ(いわ)を説明されていた時のことだった。

「おい、そこのガキ。」

「え?」

 後ろから突然話しかけられ、振り返った時のことだった。

 いかにもマフィアといった服装の黒スーツの男たちに詰め寄られたのは。

「…私に何か用ですか?」

「用があるのはお前じゃなく、お前が集めたドラゴンボールの方だ。」

「………?!」

「ドラゴンボールの存在を知るのはお前だけじゃない。ケガをしたくなかったらとっと

 とそれを寄越せ。」

 そう言って取り出したのは、こう言ってはなんだがテンプレの拳銃である。

「ひ、ひえぇぇぇ………。」

 自分の後ろで店主が腰を抜かしたのが分かった。

(ヤバイな~・・・。ここじゃおじいさん巻き込んじゃうし……。)

 例え撃たれたところで、自分1人なら避けることも弾を受け止めることもできるが、もしも店主を狙われたら厄介なことになる。

 かと言って、大人しく渡したところでこいつらがそのまま帰るとも限らないのだ。

「さっさと渡せ!」

 動かないジャスミンに焦れたのか、最初に話しかけてきたリーダー格の男ではなく、恐らく部下なのだろう、後ろに控えていた男の1人が発砲したのである。

 ガァン!

 本人は威嚇のつもりだったのだろう、ジャスミン本人や店主ではなく、店内の骨董品目がけて放たれた弾丸はそのうちの1つを撃ち抜いた。

 それが、全ての元凶だった。

 撃ち抜かれたそれは、ちょうど男たちが乱入してくる直前にジャスミンが店主から解説を受けていた骨董品だった。

 大昔の海賊の航海日誌、と解説されていたそれは、鍵が壊れていて開かずの本だったにも関わらず、男の放った弾丸がちょうど鍵を破壊したらしい。

 パタン…。パララララ……!

 誰も触れていないのに、自然と表紙が開かれ、ページがまくれていくのに気付いた者はその場にはいなかった。

 気付いた時には全てが遅かった。

 カッ………………!!!

 真ん中のページで動きを止めた航海日誌は、突然眩い光を放ち始めた。

「なにこれ?!」

「なんだ一体!?」

 目が開けられない程の眩しい光が収まった時、ジャスミンは1人で砂浜に倒れていた。

 傍らには、蓋の開いた空のアタッシュケースと五星球(ウーシンチュウ)だけがあった。7つあったドラゴンボールのうち、6つが無くなっていた上、全く知らない場所に移動させられていたのである。

 幸い、身に着けていたウェストポーチは無事であり、カプセルケースや財布、肝心のドラゴンレーダーも手元にあった。

「どこ?ここ………。」

 場所を確認する為に一旦空に浮き上がる。

 高度500m程上昇すると、周囲がすっかり見渡せるようになった。

 尤も(もっと)、それも問題の解決には至らなかったのだが。

「いや、ほんとにどこ?!」

 周囲は見渡す限りの水平線。少なくとも目視で確認できる距離に陸地は無く、ジャスミンがいたのは完全なる孤島だったのである。

 

 幸い、その後でドラゴンレーダーを確認したところドラゴンボールを確認できた為、こうして再び集め直しているのだが。ドラゴンボールさえあれば、最終手段として神龍(シェンロン)に頼めば家に帰ることはできるだろう。

 しかし、気になることが1つある。ドラゴンレーダーで確認した周囲の地形が、明らかに半日前まで目にしていたレーダーの画面とは異なっていた、という点である。まるでここが()()()()()()みたいに。

(なんかすごいヤな予感がする………。)

 そして、その予感はわずか数10分後に現実のものとなった。

 大海原に突如出現した、巨大なマングローブの木々の上に栄えた諸島を発見したことによって。

「ウソでしょ………?まさか、ここってワンピースの世界?!」

 

 

 

 




やっとトリップしました!ようやくこれで原作タグが生かせる…。最初に絡むキャラを誰にしようかちょっと悩んでます。さて、明日で3連休が終わる為、その前に後1話か2話アップしたいと考えています。その後はかなりゆっくりになると思いますが、どうか気長にお待ちください。
最後に今回出てきたドラゴンボール用語の解説を置いておきますので、ドラゴンボールご存知ない方はご参照ください。
・ゼニー…ドラゴンボールにおけるお金の単位。公式設定で1ゼニー=1円換算だとか。
・ドラゴンボールの共鳴…ドラゴンボールは、近くに2つ以上ある時、お互い共鳴して強く光る。
・神龍…ドラゴンボールを7つ集めて、呪文を唱えると出てくる。巨大な緑色の東洋風の姿の龍。ドラゴンボールを集めると願いが叶う、というのは神龍が叶えてくれる。


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第4話 冥王との出逢い。伝説との邂逅!

いつのまにかお気に入り登録が20人を超えていました!こんなブレッブレな散文を読んでいただけて感無量です!
さて、今回はいよいよキャラと絡みます。話の展開上、微妙なところで切りましてが、次話ではもっと絡む筈…。……たぶん。


 人気の少ない場所を探し、そっと上陸する。

 ドラゴンレーダーを確認すると、この場所から1km圏内にドラゴンボールの反応があった。

 周囲を見回すと、人気は全く無いが足元から絶えず巨大なシャボン玉が浮き上がってきている。

 そしてこの地面は巨大なマングローブの上に乗っており、何10本とマングローブが集合して島のようになっているのがわかった。

「ここって確か「ワンピース」に出てくる島だったよね………?」

 前世でハマった漫画の1つに確かに出てきていた。少なくとも15年は昔の話なので作品の詳細を覚えている訳ではない。しかし、主要キャラクターや印象的な場所はまだ覚えている。

(まさか……。)

 急速に自分の中で嫌な予感が膨らんでいくが、冷静になろうと努める。

「…気を探れば良いんじゃん!」

 しばらく深呼吸しているうちに思いつく。(ヤムチャ)や仲間たちの気を探り、それをたどって帰れば良い。

 むしろなぜ半日も思い至らなかったのか。自分で思っていたよりもどうやら焦っていたらしい。

 意識を集中させ、最も馴染んでいる(ヤムチャ)の気を探すが見つけられない。それだけでなく、悟空やベジータ、クリリンらの気も全く掴むことができなかった。

「ウソ……。」

 ずるずるとへたり込む。

 確かに皆、普段は気を抑えて暮らしているが、戦闘中でもないのに0にするまで隠すことは無かったし、どれだけ距離があっても親しい相手の気なら見つけることができていた。

 だが、今はそれができない。すなわち、探している相手が地上にも天界にも存在しないことを示していた。

(トリップしちゃった…?)

 転生したと思ったら今度はトリップするとは。自分の人生、ちょっと波乱に満ち過ぎてはいないだろうか。

「落ち着け……。大丈夫、ドラゴンボールがある。必ず帰れる……!まずしなきゃいけないのは、お金を稼ぐこと。それから、なるべく早くドラゴンボールを集めること…!!」

 やるべきことを口に出し、深呼吸していくうちに徐々に落ち着くことができた。

 できるだけ早くドラゴンボールを集めたいところだが、この世界は危険が多い。それに、基本的な戦闘力はドラゴンボールの世界よりも高いだろう。少し気を探っただけでも一定以上の強さの人間がゴロゴロしている。

(たぶんこれが海賊とか海兵なんだろうな………。)

 もしかしたら賞金稼ぎも含まれているかもしれない。

 しかも、ワンピースの世界は確か世界情勢も不安定だった気がする。場所によってはドラゴンボールを見つけてもすぐに手に入れることができない可能性も高い。それに、骨董品屋に売られていたように既に誰かが所有してしまっている可能性もあるのだ。お金はあるに越したことは無い。

 その為には、ある程度資金を稼いでこの世界の紙幣を手に入れる必要があった。

 

「よし!」

 気合を入れ直して立ち上がる。まずは近くにあるドラゴンボールを回収するのが先決である。

 近くのマングローブを見上げると「12GR」の文字が書いてある。ドラゴンボールの反応はその先からのようだった。

(それにしても……。)

「荒れてるな~、この辺。」

 はて、漫画では主人公たちが土産物屋などで遊んでいたような記憶があるのだが…。

(こんなところも出てきたんだっけ?)

 やはり記憶が薄い。15年以上前のことなので無理もないが。

 そんなことをつらつらと考えているうち、ふとあちこちに散らばっていた周辺の人間が集まり始めているのに気付いた。

(6人…?違うな、7人だ。)

 囲まれている。つかず離れずの距離を保ちつつ、徐々にジャスミンを包囲していた。

 この諸島の中でもそこそこの強さのようだったが、あくまでもドラゴンボールの世界の一般人に比べればの話である。

(海賊かな?)

 撒くのも倒すのも簡単だが、他に仲間がいても厄介なので取りあえず相手側が行動を起こすまで知らぬ顔をしておく。

 ざっ……!

 前に3人、後ろに4人それぞれ厳つい男たちが姿を現した。

「嬢ちゃん、こんなところ1人で歩いてちゃ危ないぜ?」

「そうそう。売り飛ばしてくださいって言ってるようなもんだ。」

 前に立った3人のうち2人がニヤニヤとしながら話し出す。どうやら人攫いの方だったらしい。

(テンプレ過ぎてどんなリアクションをすれば良いのやら…。)

 こういう如何にもなセリフを言って反応を見るのが楽しいんだろうなぁ、と思わず思ってしまった。

「……急いでるので、そこ通してもらえませんか?」

 何かもう、反応を返すのもめんどくさかったが、無視もどうかと思ったので取りあえず正論で返してみる。

「お前状況わかってんのか?!ああ!!?」

「なめてんのかゴラァ!!!」

 何というか、セリフとリアクション全てがテンプレ過ぎて逆に面白くなってきたが、こちらがわざわざ付き合ってやる義理は無い。

「まぁ、良いや。通してくれる気無いんですよね?」

 軽く手足を回して柔軟を行いつつ一応尋ねてみる。

「当たり前だろうが!!」

「大人しく捕まった方がケガしなくて済むぜ?」

「…ああ、うん。そこまでテンプレでこられるとこっちも遠慮無く抵抗できます。」

「あ?何言ってんだコイツ?」

「先に仕掛けてきたのはそっちなので…。正当防衛ですから。恨まないでくださいね!」

 言い終わると同時に踏み込み、前に立つ男たちのうち真ん中の鳩尾に正拳突きを、その右隣の男の顎に掌底を叩き込み、振り向きざまに左隣の男の側頭部に後ろ回し蹴りを食らわせた。

 その間、時間にしてわずか0.7秒。そして、間髪入れずに後ろに立っていた残りの4人も、それぞれ全員纏めて1秒かからず沈められる。

 何が起こったのか理解する暇も無かっただろう。

「よし。……さあ、行こ。」

 男たちをそのまま放置して再度歩き出す。

 

 ピッピッピッ……。

(レーダーだとこの辺りの筈なんだけどなぁ。)

 先程の「12GR」と書かれていたエリアから移動して、現在は「13GR」である。

 辺りを見回していると、不意に上から人間が降ってきた。

「わっ!」

 軽く後ろに跳んで避けると、立て続けに3人降ってきた。全員がステレオタイプの海賊といった格好をしている。

 そこそこボロボロにやられているが、命に別状は無いようだった。

 ちょうど「13GR」と書いてあるマングローブの根に階段が作られており、そこを転がり落ちてきたようである。

「なんでこんなところから…。」

 まじまじと見ていると、階段の途中に光るものを見つけた。

「あった!一星球(イーシンチュウ)!」

 拾い上げカプセルから出したケースにしまい込む。ケースをカプセルに戻しつつ、階段から上を仰ぎ見る。

 下にいた時には気付かなかったが、どうやらマングローブの根っこの上に家が建っており、先程の男たちはここから落ちてきたらしい。

 気を探ってみると、先程ジャスミンを襲ってきた人攫いたちよりもよほど大きな気が1つ。

(襲おうとして返り討ちにされたってところかな。)

 そう結論付けると、ジャスミンは気をより多く感じる方向へ歩みを進めた。実際には男たちの方こそ法外な金額をぼったくられて襲われた被害者であるのだが、ジャスミンにとっては知る由もないことだった。

 彼女にとっては2度と会うことも無いだろう海賊よりも、人通りの多いところで情報収集を行うことが最優先だったからである。

 

「17GR」、後少しで観覧車の見えるエリアに辿りつこうとしていたところで、ジャスミンは再び襲われた。今度は先程よりも大人数で、20人弱はいるだろう。

「ここ、ほんとに治安悪いなぁ、もう!」

 文句を言いつつ、流れるような動きで襲ってくる男の攻撃を受け流し、手刀と鳩尾への1撃で次々と沈めていく。

(誰か見てるけど…。)

 特に悪意は感じないが、確かに視線を感じる。どちらかと言えば面白がっているような感じだろうか?

 この諸島の誰よりも強い、また静かな気である。

(強いなこの人。)

 戦闘力の高さで言ったら自分の方が上だろうが、この気は数々の実戦を潜り抜けてきた戦士の気である。仮に戦っても、経験で翻弄させられた挙句に遊ばれそうな予感がする。

「はっ!」

 最後の1人を蹴り飛ばし、他に仲間がいないことを確認してから視線の感じる方向へと目を向けた。

「何か用ですか?」

「おや。これはこれは、気付かれていたとは…。」

 そう言ってマングローブの根の影から出てきたのは、肩までの長さの白髪をオールバックにした、屈強な老人だった。

「予想以上に見どころのある娘さんのようだ……。」

 

 

 




読んでいただいてありがとうございます。ついでに評価をいただけたりしたら、小躍りして喜びます。
さて、主人公の服装について一切説明していなかったので、この場で軽く説明させていただきます。
基本的にボーイッシュです。パーカーが好きで、だいたい普段着はパーカーにジーンズ、ハイカットのスニーカー(イメージはコン○ース)です。
髪は邪魔にならないようにだいたいはポニーテール、たまに三つ編みにしてます。トリップ当時はポニーテールなので、表記が無い限りポニーテールだと思ってください。
そして次は用語解説です。ドラゴンボールご存知の方は見なくても大丈夫です!
次回更新は、うまくいけば今夜にでもアップします!それが無理だったら少し間が空くと思いますので、どうか気長にお待ちください。

・気…ワンピース世界における「覇気」の概念とほぼ同じ。主人公が良くしている「気を探る」というのはワンピースでいうところの「見聞色の覇気」のようなものだと考えていただければ大丈夫です。
・天界…デンデやピッコロらが暮らす神殿のことを指す。


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閑話 冥王の興味

こんにちは。いつの間にかお気に入り登録が35件になっていて軽くビビッているミカヅキです。感想もありがとうございます!
今回は本編ではなく、第4話のレイさんサイドです。閑話なので今回は短めになります。軽くネタバレすると、主人公を隠れて見ていたのは深い意味はありません。人攫いに襲われている主人公を見つけ、助けてあげようと思ったら自分で撃退しているのを見て面白がっていただけです。本人曰く、「若い娘さんが大好き」らしいので。
今後も関わってくるかどうかは、どこまで主人公が彼の興味を引くかにかかっています。


 レイリーがその少女を見付けたのは単なる偶然に過ぎなかった。しかし、後に彼はこの邂逅を思い返し、世界を巻き込み、運命が大きく動き出したことを感じ取るのだった。

 

 レイリーがそのルートを通ったのは、久しぶりにシャボンディパークに行こうとしていたからである。

 博打で勝ち、懐も温かった彼は機嫌良く歩いていた。

(ん…?)

 荒々しく騒がしい気配が20弱と、やや離れたところに小さな気配が1つ。

「またか……。」

 この無法地帯では珍しいことではないが、また人攫いか海賊が民間人を襲おうとしているのだろう。これが海賊同士の小競り合いや、襲われている相手が海兵ならばわざわざ関わろうとはしない。

 レイリーが気になったのは、襲われようとしているのがまだ年若い少女だったからである。見れば海賊にも賞金稼ぎにも見えない、小柄な少女だった。

 服装からして地元の人間ではなさそうだし、観光客が無法地帯に紛れ込んでしまったのだろうと考えたのだ。

 見ればなかなか可愛らしい顔立ちをしているし、綺麗な黒髪も良く手入れされているのがわかった。このままでは、ヒューマンショップで売り飛ばされ、悲惨な運命を辿ることになるだろう。

 若い身空(みそら)でそれはあまりに気の毒だった。

(やれやれ…。)

 ここは老骨(ろうこつ)(むち)打とうかとした瞬間である。

 襲われていた筈の少女が無駄の一切無い、流れるような動きで襲いかかってきた人攫いたちを次々に沈めていったのだ。

(ほう……。)

 先程までは確かに一般的な、同じ年頃の少女たちと変わらない身のこなしだったのにも関わらず、今披露している無駄の無い流れるような体捌き(たいさば)は鍛え抜かれた武道家のものである。

(海軍のものとも違うが、あの動きは我流では身につかん。わざわざ隠していたのか?一体何故……。)

 些細な疑問もあったが、それよりも見ているうちに徐々にその動きに惹き込まれている自分がいることに気付く。

(面白い。あの若さであれだけの強さを身に付けるとは…。)

 しかも、あの動きに荒々しさは欠片も見当たらない。実戦的に磨かれたのではなく、あくまでも鍛錬の一環として身に付けたものに間違い無い。

 そんなことを考えているうちに、いつの間にか最後の1人も片付いたようだ。

(いらぬお節介だったか。)

 そのままそっと(きびす)を返そうとした時だった。

「私に何か用ですか?」

(気付かれていたとは……。)

 老いたとは言え、すぐに気配を悟られる程衰えたつもりは無い。つまり、それだけ目の前の少女が手練れであることを示している。

 もう少しこの少女と話をしてみたい。その欲求のままに、レイリーは少女の前に姿を現した。

 

 

 

 

 

 




実際に書いてみたら、予想以上にレイさんが主人公に興味深々になりました。今後どうなるのか、作者にもちょっとわかりません(汗)


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第5話 賞金稼ぎと仮の宿

こんばんは。いつの間にかお気に入り登録が40人を超えていて、信じられなくてちょっとプルプルしてるミカヅキです。今日で3連休も終わりの為、明日からの更新はゆっくりになると思いますが気長にお待ちください。
今回、場面がコロコロ飛んでますが、全部書くと書きたいシーンに辿り着くまでに1ヵ月くらいかかりそうなのでちょいちょい飛ばしました。落ち着いたら番外編で詳しく書くかもしれません。


 根っこの影から出てきた老人にはどこか見覚えがあった。たぶん、というかほぼ確実に原作に出てきた人間だと思うのだが…。いかんせん、15年以上前のことなのでキャラクターに至っては主人公たちしか覚えていない。

 これが“ドラゴンボール”ならある程度の脇キャラでも覚えているのだが………。

「あの、あなたは?」

「何、ただのしがないコーティング屋のジジィだよ。君を助けようと思ったのだが…。余計なお節介だったようだね。」

「コーティング屋?」

「知らないかい?まぁ、一般的には馴染みの無い職業だからね。コーティングというのは、シャボンディ諸島や魚人島で不可欠な技術で、シャボンの膜で船全体を包み込み、深海での航海を可能にできるんだよ。」

「え?船ごと深海に行けるんですか?」

 そう言われると、漫画で深海を進む様子を見た気もする。

「そうだとも。コーティング無しに魚人島へ行くことはできない。娘さん、シャボンディ諸島に来るのは初めてのようだね。」

「はい、今日着いたばかりなもので…。」

 ウソは言っていない。来た手段を教えていないだけである。

「そうか。この辺は無法地帯でね。この諸島は広いから、どうしても海軍の目の届かないところがある。1番から29番GR(グローブ)は完全な無法地帯だ。海賊の出入りや人攫いも多い。君程の実力があれば遅れは取らないだろうが、面倒ごとを避けたければ近付かないことだ。」

GR(グローブ)?」

「そう。そこにも書いてあるだろう?」

 そう言って老人が指差したのが、巨大なマングローブに書いてある数字と記号だった。

「ここは12番GR(グローブ)。シャボンディ諸島は全部で79本の巨大なマングローブ、「ヤルキマン・マングローブ」の集まりなのさ。1本1本に町や施設があるが、だいたい数字の10番ごとに特色があってね。1番から29番は無法地帯だが、その他はそれぞれ10番ごとに観光客向けのホテル街や土産物屋、造船所などがある。詳しく知りたいなら、70番がホテル街、30番はショッピングモールと遊園地、40番が土産物屋が集まるエリアだから観光客向けの分布図ももらえる筈だ。行ってみると良い。このまま真っ直ぐ進めば30番GR(グローブ)に出る。」

「ありがとうございます。30番ですね?」

「そう。その辺りなら治安も悪くない。ゆっくり観光を楽しむと良い。」

「ありがとうございます。早速行ってみます。」

「構わんよ。良いものを見せてもらったお礼だ。縁があったらまた会おう。」

「はい。」

 

 そう言って去る老人を見送り、その姿が見えなくなった後、ジャスミンが大きく息をつく。

「っは~……。緊張した………。」

 何かもう、穏やかな語り口にも関わらず終始探るような目で見られていて気疲れした。おまけに、あからさまでこそないがひしひしとした威圧感を無茶苦茶感じた。

「結局、あの人誰なんだろ…?」

 怪しまれている、というよりは試されているような印象が強い。

 緊張感に耐えた甲斐あってこの島の情報が手に入ったのは良かったが。

「取りあえず町に行ってバイト探そ・・・・・・・。」

 後数時間もすれば日が暮れる。下手に移動して閉鎖的な島に当たるより、絶えず不特定多数の人間が立ち寄るこの島で資金を稼ぎ、残りのドラゴンボールは明日以降に探した方が良い。

 

 ~レイリーside~

「ふふふ…。何者かはわからんが、悪い人間ではなさそうだ。勘も良く、度胸もある……。」

 様子見として調整して放った覇王色の覇気にも全く動じることなく、気付かないフリすらしていた。

「今度はもっと腰を据えて話してみたいものだ。」

 シャボンディパークはまた今度にして、シャッキーに土産話として話してやろう、と13番GR(グローブ)へと向かった。

 

 ━30番GR(グローブ)・ショッピングモール━

 ショッピングモールの入り口でちょうど分布図を配っていた為、1枚もらう。

「へぇ~。結構細かく分かれてるんだ?」

 それにしても、60番エリア周辺が海軍の駐屯地と政府出入り口にも関わらず、すぐ隣の0番付近のエリアが無法地帯なのは一体どういうことなのか。

「お嬢ちゃん、シャボンディ諸島は初めてかい?」

「はい。今日着いたばかりで…。」

 まじまじと分布図を眺めているのを見てか、分布図を配っていた中年の男が愛想良く声をかけてくる。

「0番から29番は無法地帯だ。遠回りになっても道を迂回することを勧めるよ。」

「そんなに危ないんですか?」

 いや、実際に襲われたから知ってはいるけども。会話の流れとしては聞いた方が自然だろう。

「もちろん。人攫いや海賊だけでなく、海賊を狙う賞金稼ぎもゴロゴロしてるからな。」

「賞金稼ぎもいるんですか?」

「そりゃそうさ。この島は偉大なる航路(グランドライン)前半の最終地点。当然、ここまで辿り着く海賊たちは猛者ばかり。それに応じて懸賞金も高額の奴らが集まる。それを狙ってくる賞金稼ぎたちもそこらの海兵なんかじゃ足元にも及ばねぇ程強い奴らだ。もし巻き込まれたら、ケガなんかじゃすまねぇよ。」

 この男、気が良いようでジャスミンの疑問にも笑顔で答えてくれる。まぁ、観光客に聞かれるのに慣れているだけかもしれないが。

「賞金稼ぎってそんなに多いんですか?」

「まあな。分布図を見てみな。60番付近は海軍の駐屯地がある。海軍本部も目と鼻の先だから、その分他の換金所よりも金の支払いもスムーズなんだ。懸賞金がすぐに支払われるもんだから、この付近の島の賞金稼ぎはみんなこの諸島に集まるのさ。」

「賞金稼ぎってそんな簡単になれるものなんですか?何か資格が必要とか?」

「そんなもんは無いさ。腕っ節に自信のあって手っ取り早く稼ぎたい奴らはたいてい賞金稼ぎになる。まあ、1年以上それで食っていける奴は極一部だがね。」

「へぇ……。」

「おいおい、まさか賞金稼ぎに興味があるのか?やめとけ、やめとけ。お嬢ちゃんみたいな小さい娘ができるような職業じゃねぇよ。」

「あはは・・。これでも腕には自信があるんですよ。ところで、この辺りで手配書が手に入る場所はありませんか?」

「手配書なら海軍の駐屯地に行きゃあ、いくらでももらえるが、おいおいほんとに賞金稼ぎになるつもりかい?」

「まあ、それはおいおい…。それより、1人でも気軽に泊まれる宿ってあります?」

「ああ、宿なら全部一括で70番エリアに集中してるよ。宿の(ランク)も様々だから、ちょうど良いのを探すといい。」

「70番ですね。色々ありがとうございました。参考になりました。」

「あ、ああ…。まぁ、楽しんでくれ!」

 礼を言って来た道を戻る。取りあえずの行動が決まった。

 目指すは60番グローブの海軍の駐屯地。手配書を手に入れなければならない。

 まずは少額でも構わないから海賊を捕まえ、生活資金を手に入れたい。先立つものが無くては食事もできないし、野宿はさすがに避けたい事態である。

 カプセルハウスは持っているが、この島では人目が多過ぎて目立つ為、できるだけカプセルは見せない方が良いだろう。

「人を売り飛ばすみたいで気は引けるけど……。背に腹は代えられないもんね…。」

 できるだけ凶悪な奴を狙えば治安維持にも繋がるし、他の一般人の為にもなる筈である。

 

 ━海軍の駐屯地・懸賞金換金所━

「お疲れさん、これがあんたの捕らえた海賊たちの懸賞金の合計だ。全部で2,800万ベリーある。確認してくれ。」

「はい。」

 受付の海兵が用意した札束を確認する。100枚ずつ紙幣が纏められた札束が全部で28個あった。

「大丈夫です。」

「よし、じゃあこの書類にサインしてくれ。それで手続きは終了だ。」

「はい。」

 サインしながら海兵に尋ねる。

「すみません、袋か何か貸してもらえませんか?」

「ん?持ってないのかい?」

「うっかり忘れてきてしまって…。」

「じゃあ、バッグに入れてやるから、次に換金にきた時にでも返してくれ。他の奴にも伝えとくから、受付に渡してもらえば良い。」

 そう言いながらボストンバックに札束を詰めてくれた。それにしても、そうしたバックがすんなり出てくるあたり、もしかしたらこういうことは珍しくないのかもしれない。

「ありがとうございます。」

「ああ。また頼むよ。」

 金を受け取って換金所を後にする。

「さて…、後は宿かな。」

 ホテル街のある70番エリアはすぐ隣の為、そこまでの距離は無い。

 5分程歩けばすぐに70番GR(グローブ)に到着した。

 適当に歩き、高過ぎず安過ぎない宿を探し、取りあえず3泊でチェックインする。こういうところは高過ぎてもカモにされるし、安過ぎるとセキュリティー上の心配がある為だ。

 2階の角部屋で、広さは無いが清潔で日当たりが良かった。

(適当に決めた割に当たりだったな。)

「あ~、疲れた……。」

 何かもう、かなり濃い1日だった。カーテンを閉めてからカプセルを取り出し、当座の生活費として財布に10万ベリーだけしまって残りはカプセルにしまう。

 もうすぐ日が暮れるが、食事に行くのも面倒だった。気疲れしているせいか空腹感も感じない。

 明日からまたドラゴンボールを探さなくてはいけないし、早く家に帰りたかった。

 カプセルから着替えを取り出し、明日からの予定を確認しながらシャワーを浴びることにした。

 シャワーだけ浴びてすぐ寝よう。取りあえず休みたい。頭の中はもはやそれで一杯だったので。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回、思ったよりもレイさんが暴走しました。おかしいな、当初の予定ではすぐに別れる予定だったのに…。最初に意図していた方向とは別の方向に行きました。意味深なこと言ってますが、今後再登場するかどうかはちょっとわかりません。


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主人公設定(第5話現在)

本編でなくてすみません。1度ここらへんで主人公の設定をはっきりさせたいと思います。多少加筆していますが、第1話の前書きで書いた内容とほぼ一緒なので、別段見なくとも本編に影響は無いと思います。
明日は休みなので、第6話は明日中にアップしたいと考えています。

※ジャスミンの年齢を訂正しました。


 主人公

 名前:ジャスミン

 現代日本からドラゴンボール世界に転生した転生者。元ОLで、ドラゴンボールファン、ワンピースも既読だが、既に原作知識は曖昧。

 年齢:14歳(中学3年生)

 ※12月25日生まれ。セルゲーム直後にドラゴンボールを使用した際、ヤムチャがネックレスをプレゼントしようとした彼女との間に生まれた。

 ただし、その時既にヤムチャとは破局しており、別の彼氏がいた母親によってヤムチャに押し付けられた。

 容姿:腰まで伸ばした黒髪に、澄んだ緑色の瞳。公式美形であるヤムチャの娘なので、ジャスミン自身も整った顔立ち。ただし、特別に目を惹く美少女という程でもなく、中の上ないしは上の下くらい。胸はそれ程大きくない(一応Cカップ)が、鍛えてあるので均整の取れた体つき。

 身長:160cm

 体重:53kg

 血液型:0型→F型(ワンピース世界ではドラゴンボール世界と血液型を現す記号が違う)

 流派:亀仙流(ただし、基礎を教えたのはヤムチャである為、完全な亀仙流門下生という訳ではない)

 ※現在本人が公言している師匠は、ヤムチャの他に悟空とクリリン。

 技(作中で披露、あるいは公言されているもの):狼牙真拳(ヤムチャの「狼牙風々拳」を進化させたもの)、かめはめ波、舞空術

 所持品:ドラゴンレーダー、ホイポイカプセル(詳細は後々)、財布、ケータイ(スマホタイプ)

 ※全てウェストポーチに収納。

 服装:パーカーにジーンズ、スニーカー、髪はだいたいポニーテールにしており、時々三つ編みにしている。

 ※レイリー曰く、地元の人間には見えない服装。

 性格:ボケかツッコミで例えればツッコミ。精神年齢は高く、そういった意味では思慮深いが、肉体に引きずられているのか、(ヤムチャ)に対してはやや甘えを見せることもあり、本質は寂しがり屋。

 趣味:ロードバイクでのツーリング、舞空術での空中散歩、ぬいぐるみ集め

 特技:家事全般(幼い頃から母親がいない家庭で育った為)

 好きな食べ物:フカヒレスープ、青椒肉絲(チンジャオロースー)、マンゴープリン

 好きな乗り物:ロードバイク、潜水艇

 嫌いなもの:煙草の匂い、寂しいこと

 備考:転生者だが、当初は前世の記憶は持たず、7歳の時にインフルエンザに罹って2日程40℃近い高熱にうなされたことがきっかけで記憶が戻った。本人は、高熱が長時間続いたことで、脳に何らかのダメージがあったのでは、と推察している様子。因みに、前世の記憶と言っても昔の名前や両親や友人など、個人的なことはほとんど覚えていない。昔はOLでドラゴンボールファンだった、くらいの認識。

 

 

 



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第6話 暗躍する悪とジャスミンの懸念

いつの間にかお気に入り登録が100人を超えている…だと……?一瞬状況が把握できなかったミカヅキです!感想もありがとうございます。
さて、お待たせしました本編第6話です。今後の展開がどうなるのか、作者もちょっとわかりません。気長に更新を待ってやってください。


 ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!

「ん~……。」

 枕元から響くアラームに、目を瞑ったままベッドボードを探る。

 ピピピッ!ピピピッ!ピッ…。

「ふぁ…。……眠い…。」

 アラームをセットしていたスマホを止め、ベッドの中で伸びをする。

 昔から朝に弱く、そのままだと2度寝してしまうことが良くある為、だいたいいつも起きてすぐにシャワーを浴びることにしており、怠い体を無理やり起こしてタオルを持ってシャワー室に入る。

 ザァァァァ―――…!

 ザァァァァ―――…!

 ザァァァァ―――…!

 ザァァァァ―――…!

 ザァァァァ―――…!

 無言で熱めのシャワーを浴びること約5分。やっと頭が冴えてきた。

「あ~…。お腹空いた…。」

 良く考えると、昨夜は夕食を摂らずに寝てしまった為、意識した途端に空腹感が襲ってきた。

 疲れ(主に精神的な)で18時頃には就寝し、現在は朝の6:30。単純計算でも12時間以上は寝たことになる。

(そりゃ、お腹も空く訳だ。)

 生憎、この宿は素泊まり専用の為、食事をする場合は外でしなくてはならないのだが、外には軽食が食べられるカフェや比較的リーズナブルなレストランも多かった為、モーニングをやっている店も探せばあるだろう。

(取りあえず、着替えたら歯を磨いてー、ご飯食べに行ってー、レーダーチェックしないとなー。)

 寝起きと低血糖が重なってまだ頭がぽやぽやするが、一応これからの予定を立てていく。

 キュッ…!

 シャワーを止め、まずは朝食にありつくべく、身支度を整える為にタオルを手に取った。

 

 ━AМ7:15、カフェテリアにて━

 温かい紅茶を飲みつつ、ニュース・クーと呼ばれているらしいカモメから購入した新聞に目を通す。

 特に目ぼしいニュースは無かったが、新聞を見ればだいたいの世界情勢は把握できる。

 この世界にとっての常識をまず知ること、漫画の記憶もほとんど残っていない為、まずは少しでも世界について知る必要があった。しかし、人に安易に聞くことはできない。内容によっては、子供でも知っている筈のことを知らないのだ。変に人目を引いたり、妙な印象を残すことは避けたかった。

 本来はジャスミンのような子供が賞金稼ぎになることも人目につくだろうが、幸いこの世界には悪魔の実と呼ばれるアイテムが存在する。特にこのシャボンディ諸島は、新世界の入り口と呼ばれるだけあって、老若男女問わず来島者が多く、様々な能力者も揃っていた。

 それはジャスミンにとっても好都合であり、珍妙な能力を持つ者たちに紛れればジャスミンの強さもそう目立たずに済む。

 できれば、ここを拠点にしつつ残りのドラゴンボールを全て集められればベストだった。

 1度集めた時は海底に沈んでいたり、活火山の火口付近ぎりぎりに引っかかっていたりなど面倒な場所にあった上に、ブルマから頼まれていたモニターの仕事もあった為、特に急ぐことも無く旅行がてらゆっくり集めたが、本来ならば、舞空術を使えば休み休み飛んだとしても3~4時間程もあれば地球を1周できる。どんなに面倒な場所にあったとしても、本気で集めようと思えば1日もあれば集めることはできるのだ。()()()()()()、の話だが。

 問題は、この世界が地球より遥かに広いということである。

(この世界、たぶん地球の4~5倍はあるよね……。)

 ドラゴンレーダーを確認した際、ドラゴンボールの位置を表示するのにかなり縮小しないと表示されなかったことと、同時に表示された距離がそれを示している。

 もしかしたら太陽や月も1つではないかもしれない。先程の新聞で仕入れ、また昔漫画で見た偉大なる航路(グランドライン)の異常な気象。それが複数ある太陽や月の引力によるものだとしたら、理屈では測れない異常気象も説明がつく。

 地球では考えられないそんな異常気象の中、おまけに海軍や海賊たちに目を付けられないように秘密裏に行動できるかどうか。それが要となるだろう。

 しかも、この世界は海が大部分を占めている。大陸は1つしかなく、海を2分するようにぐるりと1周するように大地が横断するのみだ。人の目から見れば巨大だが、惑星として全体を見ればかなり小さいものでしかない。現在ジャスミンが手に入れている3つのドラゴンボールは、運良く島に落ちていたが、残りのボールは海に落ちている可能性も高い。

 幸い、ブルマからモニターを頼まれた潜水飛行艇がある。

 海中のドラゴンボールを回収するのはそう難しいことでは無いが、その最中に海賊に遭遇する可能性も高い。いや、海賊なら口止めも兼ねて海軍に突き出せば良いが、もし海軍に見付かったら面倒なことになるのは間違い無いのだ。

 ホイポイカプセルの技術力や舞空術の使用、何よりも心配なのはドラゴンボールの存在が海賊や世界政府に知られることである。もし、自分と同じように地球から飛ばされてきた人間がいたら…。

 ()()()()()()()()()()()()、とんでもないことになるのは間違い無かった。

 そんなことを考えながらジャスミンがホットサンドを頬張っていた時、彼女の想定していた最悪の事態が起ころうとしていたことなど、彼女には知る由も無かったのである。

 

 ━同じ頃、偉大なる航路(グランドライン)・前半、魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)

「キシシシシシシシ!本当だろうな!?何でも願いが叶う?!!」

 奇妙な笑い声を立てるのは、巨人かとも見紛う巨大な人影。

「は、はいそうです。7つ集めればどんな願いでも……。過去には王になることを願った者や、死者を生き返らせた者もいたと聞きます…!」

 その人影に跪き、へりくだるのは、地球でジャスミンを襲った男たちの先頭にいた男だった。あの時の傲岸不遜な様子は見る影も無く、人影の機嫌を損ねぬように自らの持つ全ての情報を開示している。

「キシ!キシシシシシシシシ!!!そりゃあ、良い!オレのもんだ。ドラゴンボールは全てオレが手に入れる!!」

「ド、ドラゴンボールはレーダー無くしては集められません!どうぞこれをお使いください…!!」

 そういって男が人影に差し出したのは、アタッシュケースに直接はめ込まれたドラゴンレーダーだった。ブルマの作ったものよりも大型で、細かい位置までは特定できないようだったが、確かにドラゴンボールの位置が表示されている。

「んん~…?既に3つ集まってるじゃねぇか。」

「お、恐らくあのジャスミンとかいうガキもこの世界に来てるんだと……!」

「なるほど、なるほど…。なら、最初にそのガキに他の6つを集めさせた方が都合が良い……!おい、そのジャスミンとかいうガキもレーダーを持ってるのか?」

「恐らく持っている筈です。ドラゴンボールはレーダー無しには集められません……!」

「なら、そのガキが他のドラゴンボールを集めるまで、このボールを隠しとかねぇとなぁ…。レーダーに映らないようにできねぇのか!?」

「ほ、方法は2つあります…!ドラゴンボールから出ている特殊な電波は、生物の体内にあると遮られてレーダーでは感知できなくなります!それと、電波を通さない特殊なケースがあれば………。」

「生物の体内~……?死体でも良いのか?」

「たぶん、可能かと…。」

「キシシシシシシシシシシッ!!それなら話は簡単だ。ゾンビ兵の誰かにボールを隠せば良い……!キシシシシシシシ!もうすぐだ…!もうすぐオレは王になる……!!!」

「は、はい…。」

「お前はもう少し生かしておいてやる…。ゾンビにしたら記憶も徐々に消えちまうからな。せいぜい、オレの役に立て…!キシシシシシシシ!」

「あ、ありがとうございます!」

 震えながら頭を下げる男の周辺には、物言わぬ(むくろ)と成り果てたかつての部下たちの成れの果てが転がっていた…。

 

 ━AМ8:00、ジャスミンが借りているホテルの一室━

「さてと…。残りのボールはっと。」

 そう言って起動させたドラゴンレーダーに表示されたドラゴンボールは、2つ。

「あれ?」

 ジャスミンが所持しているボールは3つ。残りのドラゴンボールは4つある筈だった。

 2つ、何らかの原因でレーダーに映らないドラゴンボールがあることになる………。

 

 




という訳で、原作キャラ2人目の登場です。もう6話なのに、麦わらの一味と一向に接触しません。…おかしいな。最初の予定では、もう接触している筈だったのに…。ルフィたちと絡むのはもう少々お待ちください。
なんか、ワンピース世界が地球よりでかいとか太陽と月が複数あるとかねつ造もいいところですが、二次創作ということでご容赦ください。


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第7話 出逢いへの序章!そして運命は動き出す

第7話更新しました!明日以降しばらく更新ができない状態になりそうなので、急ピッチでアップです。次回更新は早くて1週間後くらいかと…。



 それから3日後、ジャスミンはレーダーで感知できた2つのドラゴンボールを集めることに成功した。

 予想通り、その2つのドラゴンボールは海底に沈んでおり、ジャスミンはブルマにモニターを頼まれていた潜水飛行艇でそれを回収した。海獣に襲われたり海王類に食べられかけたり碌な目に遭わなかったのだが……。

「まさかレーザー砲を活用する機会がくるとは思わなかったな~…。」

 5つ目のドラゴンボールを回収した南の海(サウスブルー)で適当な無人島を見付け、カプセルハウスを出して落ち着く。寝室のベッドに寝転がって独り()ちつつ、今回回収した5つ目のドラゴンボールに思いを馳せた。最初にモニターを頼まれた時には無用の長物とばかり思っていたものの…。

「人生って何が必要になるかわかんないな…。」

 しかし、無事に5つのドラゴンボールを回収できたものの、残り2つの在処(ありか)(よう)として知れないままである。ドラゴンレーダーにドラゴンボールが映らない以上、これ以上できることが無いのが辛いところだ。

 恐らく海王類か何かが呑み込んでしまったのだろう。いくら巨大な海王類と言えども、しばらく待てば消化されることの無いドラゴンボールは自然に体外に排出される筈である。

 それまで何をして過ごせば良いのやら……。

 3日間のドラゴンボール探しの間、成り行きで海賊を海軍に突き出したこともあった為、既に2,800万ベリーだった所持金は7,000万ベリーまで増えていた。

 旅費としては十分過ぎるくらいであり、これ以上積極的に賞金稼ぎとして動くと変に目立つ危険も増える為、ジャスミンとしては自衛手段以外で海賊に関わるつもりは無かった。

 そうなると、本格的にやることが無くなってくるのだ。この世界を見て回りたい気持ちはあるが、下手に動き回ると海軍及び世界政府にも目を付けられる可能性がある。一般的に正義の象徴とされている海軍だが、ここ3日の間に実際に世界を見て回り自身の目や他の人間からの印象を聞くと、海軍も決して完全な善とは言えない。

 もちろん、組織として多くの人間を抱えている以上、様々な思想が交錯するのは至極当然のことであるが、それだけでなく組織全体としてグレーな部分も多いのだ。

 天竜人の横暴なふるまいを全て許容し、人身売買を黙認するなど倫理的に信用できない部分が多過ぎる。

 その為、できる限り目を付けられるような事態は避けたかった。

 ドラゴンボールが再び感知できるようになるまで、どれくらいかかるかは想像が付かないが、自然排出されるまではどんなに長くとも半年以上かかることは無いと考えられる。

 幸い、資金なら十分蓄えることができた。この無人島でこのまま隠れ住み、日用品は近くの島に夜になってから舞空術で飛んで買いに行けば良い。

 そうなると日中は暇になるが、この際仕方が無い。1度己を鍛え直すのにも良い機会だと考えた。

(試したい技もあるし……。)

 

 

 ~それから半年後~

 ジャスミンは舞空術で宙に浮きながら座禅を組み、既に日課となっている瞑想を行っていた。心を静め無にし、己の精神を研ぎ澄ませているのである。この半年間、定期的にドラゴンレーダーを確認していたが、残り2つのドラゴンボールの在処(ありか)はわからないままだった。最初の頃は1日に2度、朝と就寝前にレーダーを見ていたにも関わらず、次第にその頻度は少なくなり、半年経った今では1週間に1度確認する程度である。

 別に地球に帰ることを諦めた訳ではない。むしろその逆である。日が経つにつれ、ジャスミンの郷愁(きょうしゅう)の念は強くなっていった。

 だからこそ、レーダーを見る頻度を自ら下げたのである。1度気にしてしまえばそれ以外のことを考えられなくなってしまうことを恐れたのだ。ジャスミンは自分の精神的な未熟さを良く理解している。

 ドラゴンレーダーを確認する度に期待し、そして裏切られる。その行為はジャスミンの心にその都度傷を残した。

 だからこそ意図的にレーダーに触れる時間を減らし、その分の時間を瞑想に当てていたのだ。

 ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!

 突然響き渡ったアラームにジャスミンは目を開け、座禅を崩してゆっくり着地する。

 ピピピッ!ピピピッ!ピピッ………!

 ポケットからスマホを取り出してアラームを止める。瞑想開始から3時間が経過し、設定した時間を知らせた為である。

「ふう…。」

 休憩がてらカプセルハウスに戻り、寝室のベッドボードに置いてあったドラゴンレーダーを確認する。今日は1週間に1度の確認の日であったのだ。

 カチッ!

 ピッピッピッ!

 スイッチを入れ、画面が明るくなると同時に電子音が響き、ゆっくりと移動しているドラゴンボールが表示された。

「ウソ…!やっと見付けた……。6つ目だ!」

 距離はここからおよそ数1000km。この方角は偉大なる航路(グランドライン)の前半で間違い無い。

 (はや)る気持ちを抑えつつ、夜まで体を休め準備の時間にあてることに決める。日中の舞空術の使用は危険過ぎる。人目に付かないようにするには、夜に紛れて少しずつ距離を詰める必要があった。

 おまけに、移動しているということは誰か人間が見付けて運んでいる可能性が高い。いきなり船の上でエンカウントするより、まずは距離を取ってどんな人間が所有しているのか確認した後、どこかの島に上陸したのを見計らって接触した方が無難だった。

 もちろん、鳥か何かが運んでいるならその場で手に入れられるし、仮に悪名高い海賊だった場合は遠慮無く奪うが、客船か何かの一般人が手に入れた可能性も否定できない為である。

 取りあえず、夜になったらレーダーを頼りに近付き、その後どうやって手に入れるか方向性を決める必要があった。

「よしっ!準備しよっと。」

 必ずドラゴンボールを揃えて地球に帰る、決意も新たにジャスミンも準備を始めた。

 

 ~その少し前、空島はスカイピア・神の島(アッパーヤード)「シャンドラの遺跡」~

「見ろ!!!こんなに!!!」

 海賊王を目指す少年、モンキー・D・ルフィとその仲間たちは(ゴッド)・エネルとの死闘を終え、宴を終えた後に「空の主」と呼ばれる巨大なウワバミ・ノラの胃の中にいた。闘いの最中にルフィがノラに呑まれた際、偶然見付けた宝の数々を回収する為である。

「すごーい!!」

 航海士・ナミは拾い上げた王冠に頬ずりし、

「キレーだな!!サルの家で見たヤツと同じだ~!!」

 船医のトナカイ、トニー・トニー・チョッパーは鐘形の黄金のインゴットを見付けて歓声を上げた。

「コリャ本物だぜ!!このヘビなに食ってんだ…。」

 コックのサンジは黄金の十字架を担ぎ、周囲の宝を見回してノラが体内に宝をため込んでいたことに呆れている。

 彼らは手分けして宝をノラの胃の中から運び出し、その後ちょっとした行き違いと勘違いによりスカイピアの者たちが差し出した黄金の柱を受け取ること無く自分たちの船・ゴーイングメリー号へと引き上げた。

 そして実に高度7000mの高さから船ごと落下し、空島名物のタコバルーンの力を借りて偉大なる航路(グランドライン)へと生還を果たしたのである。彼らの冒険は、いずれ世界に語り継がれることだろう。

 ただ、彼らは知らなかった。ノラの胃袋から運び出し、持ち帰った宝の中に赤い星を秘めた澄んだオレンジ色の玉があったことを。

 そして彼らはまだ知る由も無かった。その玉を持ち帰ったことで、これから出逢うことになる1人の少女の存在を。

 

 これはこれから紡がれる、1人の少女と世界を動かす海賊(モンキー・D・ルフィ)とその仲間たちの出逢いと始まりの序章に過ぎない。

 

 これからどのような物語が紡がれていくのか、それはまだ誰も知らない。

 

 ただ1つ言えること。今この時、確かに世界の運命の輪は大きく動き始めた。

 

 それは当初この世界が辿る筈だった道をなぞりつつ、しかし違った軌跡を残して進んでいく。

 

 

 




今回書きたかったこと。主人公の精神面の弱さ。ノラの胃袋家探しするルフィたち。ノラの胃袋にドラゴンボールを隠すのは連載当初から決めてました。書きたかったシーンが書けて満足です。
そして、終盤作者の厨二っぷりが明らかになってますが生温かく見守ってやってください。不治の病なんです……。


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第8話 水の都とジャスミンの思惑

こんばんは。第8話更新です。思っていたよりも早く時間が取れたので書き始めたのですが、途中でパソコンが不具合を起こして1度中盤以降の文が全部消えて頭が真っ白になりました。
一気にルフィたちと接触させたかったのですが、一気に持ってくと展開的に無理があったので、まずは前ふりです。次回かその次にはいよいよ接触する筈!


 6つ目のドラゴンボールを感知してから6日目の夜、ジャスミンはドラゴンボールの反応を追って偉大なる航路(グランドライン)にて1隻の海賊船を発見した。本来ならもっと早く追いつけた筈だったが、偉大なる航路(グランドライン)の気まぐれな天候に振り回され、途中の島で5日間足止めを食らったのである。

 ただ、今のジャスミンにとっての問題はそこではなかった。

 見張りに気取られぬよう、上空700m程の高さを保ちつつ前へと回り込んで旗印と帆を確認する。

 その印は麦わら帽子を被ったドクロ。

「まさか……。…こんなことってあるの?」

 この世界(ワンピース)の主人公-モンキー・D・ルフィの船で間違い無い。

 麦わらの一味が名を挙げてきているのは新聞や手配書で把握していたが、まさかここにきて麦わらのルフィ(主人公)と接触することになるとは思ってもいなかった。

 もう1度ドラゴンレーダーを確認する。確かに6つ目のドラゴンボールは、麦わらの一味の船の船にあった。

「……どうしようかな。」

 空中で一定の距離を保ったまま思案する。

 これが極悪非道の海賊だったなら、夜のうちに奇襲をかけて全員叩きのめした後にゆっくりドラゴンボールを探したのだが、相手が麦わらのルフィ(主人公)となるとそういう力技は使えない。

 別に彼らと敵対している訳では無いのだし。万が一原作には無い(予定外の)ケガでもさせてしまったら、今後原作(彼らの冒険)にどんな影響が出るかわからないのだ。

 そこまで考えたところで思い付いた。

 確か、このまま進んだ先の島は偉大なる航路(グランドライン)でも有名な造船の街―「水の都」とも呼ばれる水上都市、ウォーターセブン。

 ワンピースの原作は既にうろ覚えだが、その中でもウォーターセブンの話は印象に残っている。

(確か、世界政府からのスパイがいて、そいつらにロビンが捕まって…。助けに行って世界政府に宣戦布告するんだっけ?)

 時系列は覚えていないが、その前に船のことでルフィとウソップが喧嘩してウソップが一味を抜ける、ということがあった筈だ。その時に引き金になったのが、ウソップが町のチンピラ(後に仲間になる、フランキーの部下だった気がする)に金を奪われたことだったと思う。

 結構な大金で、その金はその前の冒険で手に入れた宝を換金したものだったのは覚えている。

 そう、宝を持っている以上それを換金する筈。

「ウォーターセブンに先回りした方が良いかな…。」

 彼ら(麦わらの一味)よりも先回りし、ウォーターセブンで準備をする必要があった。

「よし。」

 ウォーターセブンに先回りする為、麦わらの一味の船(ゴーイングメリー号)に背を向け、舞空術のスピードを上げる。

 

 ウォーターセブンを眼下に見付け、人気の無い海岸を探してそこに降り立つ。

 既に時刻は深夜。

 島は歓楽街を除いて静まり返り、ジャスミンの降りた海岸はおろか周囲1km程にわたって人の気配は全く無かった。

 カチッ!

 ボンッ………!!!

 カプセルハウスを出す。麦わらの一味の船がこの島(ウォーターセブン)に到着するのは、恐らく明日の午前中。

「さて、と・・・・。寝よ。」

 それまで体を休めておくことに決めた。

 明日の朝一番で換金所に向かう。

 ジャスミンなりの考えが、あった。

 

 ~翌朝~

 カチッ!

 ボンッ……!!!

 カプセルハウスをホイポイカプセルに戻し、ケースにしまう。

「あふ…。」

 あくびを噛み殺しつつ、ボストンバックを持って町の入り口へと向かった。

 海岸から橋を渡った先、必ず通らなければ町に入れないルートに妙な店があった。

「“貸しブル屋”?」

 疑問を持ちつつ、中に入る。

「いらっしゃい。」

 やけに小さい眼鏡をかけた中年の男が出迎える。

「1人かい?じゃあ、“ヤガラ”1匹で十分だね。」

「“ヤガラ”?あの、貸しブル屋と書いてありましたが、“ブル”が何なのかわからなくて…。」

「あんた、旅行者かい?ブルを知らないってことはウォーターセブンは初めてだね?あれがブルさ。」

 そう言って町の中を指差す。

 水路の中に、小さいゴンドラのような船を背中に乗せた大型の魚の姿があった。背中の船に人や荷物を載せて運んでいる。

「“ヤガラブル”って言ってね。頭を出して泳ぐ“ヤガラ”って魚がこの辺にゃいるのさ。ウォーターセブンは「水の都」と呼ばれる程水路の多い町だ。歩道より水路の方が多いくらいでね。住民にとっては生活に欠かせない乗り物さ。この島を観光するのも同じだよ。」

「へぇ~。」

「2人乗りのヤガラブル、1匹1,000ベリーだよ。」

「意外と安いんですね……。」

 もっと高いのかと思った。

「そこの生簀(いけす)から好きなのを1匹選ぶと良い。」

 馬のような顔の魚がニーニーと鳴きながら生簀(いけす)を悠々と泳ぎ回っている。

 レンタルされているだけあってずいぶん人に慣れているらしく、ジャスミンが近付くとニーニーと鳴きながら何匹か近寄ってきた。

「人懐っこいなぁ。」

 寄ってきたうちの1匹を撫でながらジャスミンが呟くと、

「こいつらも客には慣れてるからな。そいつに気に入られたようだ。そいつにすると良い。」

「じゃあ、この子でお願いします。」

「あいよ。」

 貸出の手続きを行っている間にこの島について尋ねる。

「そうだ。この島で1番大きい換金所はどこにありますか?」

「換金所ならこの辺にもあるが、1番大きいとなると造船島の中心街だろうな。」

「造船島?」

「そうさ。まずは商店街に出て水門エレベーターに乗るんだ。その先が造船工場とウォーターセブンの中心街だ。」

 地図を見せながら説明してくれた。

「換金所の近くに宿屋はありますか?」

「ああ。何件かある筈さ。」

 レンタルの客にはサービスとして配っているらしく、その地図ももらう。

「んじゃ、まいどあり。気をつけてな。」

「ありがとうございました。」

「ニー!」

 ブルに乗り込み、商店街を目指して走らせる。

「さて・・・・。商店街に行くには…。」

 地図に目をやりながらブルを走らせていると、

「ニ――――――!!」

 ジャスミンが指示を出す前に勝手にブルが坂を上り、水路を進んでいく。

「もしかして道わかるの?」

「ニー♪」

 ブルに尋ねている間に商店街に着いてしまう。

「すごい。頭良いね。」

「ニ――――――!」

 頭を撫でてやると喜んだ。

「じゃあ、水門エレベーターに乗ってくれる?中心街に行きたいんだけど。宿を探したいんだ。」

「ニーニー!」

 この際なので、ブルに道案内を任せることにする。

 

 ~ウォーターセブン“造船島”中心街・換金所~

「いらっしゃいませ。」

「換金をお願いします。」

「こちらへどうぞ。」

 店員に個室へと通される。

「それで、本日は何を換金いたしましょう?」

「これを。」

 そう言って持っていたボストンバックをテーブルの上に乗せる。ファスナーを開けると、入っていたのは布に包まれた包みが5つと、革張りの平べったいケースが1つ。

 その全てをテーブルの上に出し、包みの1つを開いて見せる。

「こ、これは……!」

 それまで、小娘相手とどこか侮っていた店員の顔色が変わった。

 包みから出てきたのは、眩いばかりの輝きを放つ黄金のゴブレットである。精緻な紋様が刻まれており、歴史的な価値も感じさせるものだった。

「同じ物が他に4つあります。」

 そう言って残りの包みも開いていく。

 全く同じ作りのゴブレットが5つ。恐らくは5つで1セットなのだろう。

「それと、これも……。」

 残ったケースを開くと、ビロードが敷き詰められた台座の中に大粒のエメラルドがあしらわれた黄金のペンダントが輝いていた。

「お、お客様、少々お待ちください…!ここじゃなんですから、どうぞ奥の部屋に……!」

 店員が慌てて電伝虫でどこかに連絡を入れ、ジャスミンをVIPルームへと通す。

「少々お待ちくださいませ!」

 店員が出ていくと同時に、別の店員らしい男がコーヒーを運んできた。

 どうやら上客と見て慌てて対応を変えたらしい。

 コンコン!

「お待たせいたしました。私が鑑定を承ります。」

 先程より数倍丁寧な対応で、責任者か恐らくそれに準ずる立場らしいかっちりした格好の初老の男が入ってきた。

「よろしくお願いします。」

「承りました。」

 手袋を嵌め、ゴブレットを1つ1つ手に取り、レンズを使って鑑定していく。

「う~む…。」

 次にペンダントを手に取った。

「これは…。」

 ほう、と溜息を1つついて丁寧にペンダントをケースに戻した。

「どうですか?」

「素晴らしい……!このゴブレットは恐らく5つで1組の物…。それが揃っているとなると価値も跳ね上がります。純度も申し分無い!そしてこのペンダント。メインのエメラルドには傷1つ無く、これだけの大粒となると……。」

「いくらになりますか?」

「このゴブレットだけで5,000万出しましょう!ペンダントは7,000万…、いや1億出します!ぜひウチで売っていただきたい!」

「全部で1億5,000万ベリーという訳ですか?」

「ご不満でしょうか?」

「いえ。十分です。それでお願いします。」

「では早速換金の用意を…!」

 こっちの気が変わらないうちに、と言わんばかりに急ごうとする男を制止する。

「ちょっと待ってください。」

「やはりご不満が…?」

 男が顔色を変える。

「ああ、いえ。そうではなくて。ちょっとお伺いしたいことがあるんです。」

「なんでしょう。」

「この換金所で、これと同じ物を買い取ったことはありませんか?」

 そう言ってウェストポーチを探る。取り出したのは、1つのドラゴンボールだった。

「これは…?」

「私は旅をしながらこれを探しているんです。その宝も、これを探している途中で手に入れました。」

 ウソではない。実際にその宝は、4つ目のドラゴンボールが沈んでいた海底で見付け、一緒に回収したものである。

「手に取っても?」

「どうぞ。」

「これはこれまで見たことがありませんな…。水晶?いや、樹脂を磨いたものでしょうか?」

 ドラゴンボールをジャスミンに返しつつ、男が尋ねる。

「さあ…。何でも全部集めると願いが叶うとか。」

「それはそれは…。」

 笑いながら言うと、男が微笑ましそうな目を返してくる。

「私の故郷で昔から伝わっている伝説なんです。どうせ伝説は伝説なんでしょうが、同じ物が複数あるのは本当のようでして。他に4つ見付けました。ここまでくると全部集めてみたいと思いまして、それを目的の1つに旅をしているんです。」

「さようでございますか。」

 虚実を織り交ぜて話すのがポイントである。男は夢見る金持ち少女の道楽とでも思ったのか、先程よりもずっと親しげな目を向けてきた。

「この換金所はこの島で最も大きいと聞いたので、もしかしてこれまでに持ち込んだ人がいるのではないかと思ったんですが…。」

 もちろん、そんなことがある筈が無いのはジャスミン自身が1番知っている。

「いや、私はここに30年務めていますが初めて見ましたな。」

「そうですか…。それじゃあ、私はこの島に1週間滞在するつもりでいます。無いとは思いますが、もしその間にこれと同じ物を持ち込んだ人がいたらこの宿に連絡をくれませんか?1つ200万ベリーで買い取らせていただきます。」

 そう言って宿の名前と部屋番号を書いたメモを渡す。

 この時、あまり安値では連絡はもらえない。ただし、高値過ぎても欲を抱かせることになる。一般的に見れば十分高価だが、先程ジャスミンが持ち込んだ宝の前では霞む。このくらいのラインがちょうど良いのだ。

「わかりました。もし持ち込んだお客様がいらっしゃいましたらご連絡いたしましょう。」

 案の定、男は笑って快諾した。一見して価値の見出せない石1つで200万手に入るのなら、と軽い小遣い稼ぎくらいの感覚を抱かせるくらいがちょうど良い。

 中心街に換金所はここだけである。実際に主人公たち(麦わらの一味)が手に入れた宝がどのくらいの価値だったか、など既に覚えていないが、間違い無く億を超える額だったのは記憶している。

 億を超える額の換金が可能なのは、この島ではこの換金所のみ。

 必ず彼らはこの換金所を利用する筈だった。

 直接交渉すれば怪しまれる可能性が高い。それより、宝が持ち込まれるだろう換金所にツテを作った方が確実だった。

 もし、結果的に彼らがドラゴンボールを売らなかったとしても、その価値を知る為に1度は換金所に持ち込む筈である。

(確かナミって宝とかお金に目が無い性格だったと思うし…。)

 彼女の性格上、宝の価値は知りたい筈。

 例え換金所で売らなくても、それをこっちに教えてくれれば自分で交渉できる。

 何故自分たちが持っているのを知っているのか、という最大の疑問が解消される為だ。

「それでは、こちらが1億5,000万ベリーになります。」

「ありがとうございます。それじゃ、もしさっきの玉と同じ物が持ち込まれたら…。」

「必ずお客様にご連絡させていただきます。」

「よろしくお願いします。」

「ありがとうございました。」

 最敬礼で見送られ、換金所を後にする。

 大口の上客、さらに言えばもしかしたら今後も贔屓にしてくれそうな客の頼みである。

 ああいう業界は信用第一。必ず連絡が来るだろう。

 ジャスミンはベリーの入った鞄を両手に持ち、待たせてあったブルのところに戻った。

 

 ジャスミンと主人公たち(麦わらの一味)との邂逅まで、あと少し……。

 




今回長めでした。精神的には一応大人なので色々考えているジャスミンです。


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第9話 遭遇!麦わらの一味とジャスミンの告白

お待たせしました。第9話更新です。今回やたら難産でして、書いては消し、書いては消し…。長くなりそうだったのである程度のところで切っています。
次回は1週間経たないうちに更新できると良いな…←願望


 換金所を訪ねてからおよそ3時間後。換金所から宿に電伝虫で連絡が入った。

 取り次がれた通信を受け、驚愕しつつも窓から確認を取る。

「この展開は予想して無かったな……。」

 窓の外に立っていたのは、主人公たち(麦わらの一味)だった。

 

「あんたがジャスミン?」

 顔を合わせるなりそう聞いてきたのは、麦わらの一味の航海士‐ナミ。

「そうですけど…。」

「あたしはナミ。こっちはルフィとウソップ。換金所であんたがお宝を買ってくれるって聞いてきたんだけど。」

「赤い星の入ったオレンジ色の玉のことですか?」

「ええ、そうよ。換金所の鑑定士に紹介されたの。」

 ナミが満面の笑みで頷く。

 どうやら鑑定士は仲介のみを行うつもりのようだ。いや、泥棒猫(ナミ)相手に金儲けの話を隠し切れなかっただけかもしれないが。

「紹介されたっつか、紹介させたの間違いだろ…。」

 ウソップが小声で突っ込む。

 ………やっぱり隠し切れなかったらしい。

「なあ、見せてくれよ!お前もおんなじ玉持ってるんだろ?」

 ルフィが目を輝かせてジャスミンに話しかけてきた。

「それは構わないんですが、あなたたちの持っている玉を確認させてもらえませんか?」

「そうね。場所を変えましょ?落ち着いて話がしたいもの。」

「じゃあ、この隣のカフェで待っていてください。今部屋から取ってくるので。」

「OK。じゃ、先に行って待ってるわ。行きましょ、2人とも。」

「おう!」

「へいへい。」

 ナミが仕切り、ルフィとウソップもそれに続く。仮にも船長を差し置いて仕切って良いのだろうか…。

 本人(ルフィ)的には気にしていないのだろうけども。

 そんなことをつらつらと考えつつ、ジャスミンも一旦部屋に戻る。ドラゴンボールの入ったカプセルは常に持っているが、何も知らない人間の前でホイポイカプセルを使うことはできないからである。

 

 ホイポイカプセルからアタッシュケースを取り出し、中身を確認する。半年前に集めた5つのドラゴンボールが全て揃っているのを確認してからケースを閉める。

 さらに別のカプセルから、この世界に来てから手に入れたベリーを纏めた別のアタッシュケースを取り出し、500万ベリーを取って再びカプセルに戻した。

 200万ベリーで話を通していたものの、相手はあの泥棒猫(ナミ)である。こちらのペースで話を進められるとは限らない。

 まあ、地球に戻ったら手に入れたベリーもただの紙屑同然の為、相手が望む金額を出しても構わないのだが。

 この半年で食料や日用品など細々したものは手に入れていたものの、賞金稼ぎとして手に入れた金は大部分が手付かずであったし、つい3時間前に1億5,000万ベリーを稼いだばかりである。また、ドラゴンボール探しの最中に海底から引き揚げた財宝もまだ残っている為、金には困っていない。

 とは言え、泥棒猫(ナミ)相手にそんな素振りを見せようものなら徹底的に(むし)られそうな気もするので、隠しておくに越したことは無いだろう。

 腐る訳でもないし、あって困る訳でもないのだから。

 ただ1つの懸念は、換金所でルフィたちがどこまで聞いてきたか、である。

 漫画で読んだのみの印象だが、「願い事が叶う伝説」というのは主人公(ルフィ)の好奇心を著しく刺激してもおかしくない。何か常人とは異なる感性を持っていそうだし。

 一抹の不安を抱えつつ、アタッシュケースを手にジャスミンは待ち合わせ場所のカフェへと向かった…。

 

 ~中心街・カフェ~

 ルフィたちがどこにいるかは、カフェに入ってすぐに明らかになった。

 カフェ中の食料を食い尽くす勢いで食事をする人間がいるテーブルがあったからである。

(場所のチョイス誤ったかな……?)

 もしかしてここの食事代も自分が払うのだろうか。……いや、懐には余裕があるのだが、何となく釈然としない。

「………お待たせしました。」

 色々な感想を飲み込みつつ、ルフィたちが座るテーブルに近付く。

「ほう!いはいほはあかっかあ!(おう!意外と早かったな!)」

「……飲み込んでから喋ってくれると助かるんですけど…。」

 もの凄い勢いでパスタやオムレツ、グラタンやパンを詰め込んでいるルフィに力無く突っ込む。

「ったく、行儀悪いわね!」

 その様子を見てナミも突っ込んだ。

「まあ、座れよ。」

 ルフィの勢いにやや押されているジャスミンを見かね、ウソップが出した助け船に乗って開いていたナミの隣に座る。向かい側には窓際にウソップ、通路側にルフィが並んでいた。

「じゃ、まどろっこしい話は抜きにして本題に入りましょ。あんた…、ジャスミンで良い?ジャスミンの探していたのって、これで間違い無いかしら?」

 そう言ってナミが取り出したのは、間違い無くドラゴンボール‐七星球(チーシンチュウ)だった。

「……間違い無いみたいですね。」

 高まる気持ちを抑えつつ肯定する。

「じゃ、決まりね。200万ベリーで良いのよね?」

「はい。」

 頷き、ウェストポーチからさっき寄り分けておいた200万ベリーの入った封筒を取り出し、ルフィへと差し出す。

「ん?あんあおえ?(ん?なんだそれ?)」

「約束の200万ベリーです。あなたが船長さんでしょう?」

「あたしたちのこと知ってたの?」

 ナミが驚いたように声を上げた。

「あなたたち、麦わらの一味でしょう?手配書を見たので。詳しいメンバーの顔までは知りませんでしたが、そちらの船長さん‐麦わらのルフィは偉大なる航路(グランドライン)でも最近有名なルーキーの1人。それにそちらの人は、船長さんの手配書に後ろ姿が載ってましたよね?」

「おれたちもずいぶん有名になったなあ!」

「おう!」

 ウソップが嬉しそうにルフィの肩を組み、ルフィもウソップの肩に手を回した。

「それより、約束の200万ベリーです。お譲りいただけますか?」

「おう!良いぞ!それより他のを見せてくれよ!」

「わかりました。」

 頷き、アタッシュケースを抱え、胸の前で開いて見せた。本当はテーブルに乗せたかったが、大量の皿で置く場所が無かったのだ。

 中には5つのドラゴンボールが納められ、断続的に金色に輝いている。

「おお~!なんかすっっげえぇぇ~~!!!」

「きれーい!」

「すげー!」

 その光に呼応し、七星球(チーシンチュウ)も光り始める。

「こっちも光ってる!」

 それにいち早く反応したのが、流石と言おうかナミだった。

「これは、お互いの存在を感じ取ると光るんです。」

 そう言いながら、七星球(チーシンチュウ)も中に納め、ケースを閉める。

「あ――――――!もっと見せてくれよ!」

 途端にルフィからブーイングが上がった。

「おい、その辺にしとけよルフィ。そいつ困ってるじゃねぇか。」

 常識人(ウソップ)が宥めるが、自由人(ルフィ)はそれだけでは止まらなかった。

「もっと見せてくれって!」

 手を伸ばされ(比喩で無く)、アタッシュケースを盗られた。

「やっぱすっげー!」

「返してください!とても大切なものなんです!それが無いと……!」

 咄嗟にそこまで叫び、はっとして口を(つぐ)んだ。

「ん?無いとどうなるんだ?」

 ルフィが真っ直ぐにジャスミンを見詰める。その真っ直ぐ過ぎる視線に、ルフィの黒い瞳の奥に光る強さに、ジャスミンは気圧された。そして、ある程度の事情を打ち明ける覚悟を決める。

「……それが無いと、私は家に帰れないんです。」

「どういう意味だ?」

 ルフィだけでなく、ナミやウソップも腑に落ちない顔をしている。

「……ここじゃ人目が多過ぎる。場所を変えましょう。私の部屋にどうぞ。」

 立ち上がり、ルフィからアタッシュケースを再度取り返し、先導する。

「おう!」

 迷わず着いて行くルフィに、他の2人もそれに従った。

 

 ~宿屋・ジャスミンが借りた部屋~

「適当に座ってください。」

 シングルが空いていなかった為、ツインを借りていたのが幸いだった。片方のベッドに腰を下ろし、向かい側のベッドを示す。

「それで?何でまた、こんなところまでわざわざ連れて来たのよ?」

「この玉についてと、何故私がこれを集めているのか、全部お話します。初めに言っておきますが、別に信じていただかなくても構いません。ただ、全てお話する代わりに私の邪魔をしないと約束してください。」

「ん!わかった。」

 ルフィが頷く。

「ちょっと、ルフィ!どんな話かもまだ聞いて無いのに!」

「別にコイツが何をしようが、おれらには関係ねぇだろ?良いじゃねぇか別に。」

「それはそうだけど…。」

「だろ?あ、でもお前がもしおれらの冒険の邪魔をするってんなら、話は別だぞ。女だろうが関係ねぇ!そん時は全力でぶっ飛ばす!!」

「あなたたちの邪魔をするつもりも、敵になるつもりもありません。……私はただ家に帰りたいだけです。」

「なら良い!」

 ルフィが満面の笑みで頷いた。

 それを受け、ジャスミンが再度アタッシュケースを開き、ドラゴンボールを見せながら説明する。

「…この玉の名前はドラゴンボール。私の故郷では、別名を願い玉とも言い、7つ集めればどんな願いも叶うと言われています。」

「どんな願いでも?!」

「すっげー!不思議玉か!!」

 まずナミが食い付き、ルフィも歓声を上げた。

「おいおいおい。そんなの迷信に決まってるだろ?だいたい、偉大なる航路(グランドライン)でも聞いたことねぇぞ。」

 自身もウソつきと称するだけあって、ウソップは眉唾ものだと思っているようだ。

「私は……、この世界のどこでも無い、別の世界から来ました。」

 

 

 

 




本来、ドラゴンボールについてルフィたちにぶっちゃける予定はありませんでした。しかし、ルフィは興味を持ったことに関しては引かないだろうな、と思ったのでジャスミンにぶっちゃけてもらいました。
今後どうなるのか、原作には絡むのか、どうかお楽しみに!


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第10話 新たな友

こんばんは。まさか1日に2本更新できるとは全く思っていなかったミカヅキです。今回、さほど進展してませんが次話につなぐ為の導入なのでご勘弁を…。


「別の世界…?」

「おいおい!また突拍子もねぇな!でもあんた、なかなかウソの才能あるぜ!」

 ナミが呟き、ウソップが笑い飛ばす。

 しかし、ルフィだけは静かにジャスミンを見詰めていた。

「それで?」

「はい?」

「どうやってこの世界に来たんだ?お前の世界の奴らってのは、自由に色んな世界に行けるのか?」

「ルフィ?」

「おい、信じるのかよルフィ?」

「コイツはウソついてねぇよ。だろ?」

 そう確認してくるルフィの目を見て、ジャスミンは苦笑した。

「……信じてくれるんですね。」

「だってホントなんだろ?お前の目は、覚悟決めた奴の目だ。」

 ニッと笑いながらルフィがジャスミンに告げる。

「覚悟って…。」

 ナミが戸惑ったような声を上げるが、ジャスミンは構わず話を続けた。

「私がこの世界に来た理由はわかりません。ただの事故だったと思います。ドラゴンボールは世界中、色々な場所に散らばっているので、私はそれを集めていたんです。この世界に来たあの日、全てのドラゴンボールを手に入れたんですけど、ドラゴンボールを狙ってきた奴らがいて……。襲われかけたところで光に包まれたと思ったら、いつの間にか無人島で倒れていて、目が覚めた後には、集めた筈のドラゴンボールも1つだけになっていました。」

「ちょっと待って!その話が本当だとして、どうやってその、ドラゴンボール?の場所を知ったの?世界中に散らばってたんでしょ?」

「ドラゴンレーダーと言って、ドラゴンボールの放つ特殊な電波をキャッチできる機械があるんです。」

 ナミの上げた疑問に答え、そのまま話を続ける。

「それが半年前のことです。それから情報収集をしていくうちに、ここが私のいた世界‐地球でないことに気付きました。取りあえず、ドラゴンボールを集めれば元の世界に帰れると思って、もう1度ドラゴンボールを探すことにしたんです。他の5つのドラゴンボールは集め始めてすぐに見付けたんですが、残りの2つがレーダーに映らなくて…。ずっと残りのドラゴンボールを探していたんです。」

「?レーダーに映らないってどういうことだ?」

 今度はウソップが尋ねた。

「ドラゴンボールの放つ電波は、通常なら途切れることは無いんですが、電波を遮る特殊なケースに入っていたり、何か生命体の体内にあったりするとレーダーで感知できなくなるんです。」

「そうか!私たちの持っていたドラゴンボールはあの蛇の胃の中にあったから……!」

「蛇の胃の中ですか?てっきり海王類か何かが呑み込んでしまったのかと…。だから、私はこの半年、ドラゴンボールが体外に排出されるのを待っていたんです。」

「体外に排出ってどういうことだ?」

 ルフィが首を傾げる。

「ドラゴンボールは胃液などで溶かされることは無いので、胃で溶かされることなく腸に運ばれます。なので、形を保ったまま排泄物と一緒に体外に出てくる筈なんです。」

「つまり、ウンコと一緒に出てくるってことか!」

「まぁ、そういうことです…。」

 ああ!と言わんばかりに納得したルフィを見つつ、ちょっと脱力しながら肯定する。

「ん?ってことは、もしかして…。」

「どうした、ナミ?」

 ウソップの疑問に答えること無く、ナミがジャスミンに尋ねる。

「ジャスミン、あんたもしかして最初っからあたしたちがドラゴンボールを持ってるって知ってたんじゃないの?いえ、あたしたちだとは知らなくても、近いうちにこのウォーターセブンにドラゴンボールが運ばれてくることは知っていた。それで、怪しまれること無くドラゴンボールを手に入れる為に、それ目的で換金所で手を回してたんじゃ……?」

「鋭いですね…。」

 ここまできたら隠しておく意味も無い。

「ナミさんの言うとおり、私はあなたたちが残りのドラゴンボールの1つを持っていることを知っていました。7日前、それまでレーダーに映らなかったドラゴンボールのうちの1つが突然映って、急いでその反応を追ったんです。それで昨夜、あなたたちの船に追い付いて、次の目的地がこのウォーターセブンだと当たりを付けました。どういう状況でドラゴンボールを手に入れたかまではわかりませんでしたが、海賊がある程度大きな島に上陸した以上、換金所に宝を持ち込んで換金する可能性が高いと踏んで、手持ちの宝を換金した後で鑑定士に話を持ち掛けたんです。」

「ちょっと待って!昨夜あたしたちの船に追い付いたですって?」

「昨夜船なんて影も形も無かったぞ?!」

 昨夜不寝番だったウソップが叫ぶ。

「船じゃありません。空からです。」

「「「空ぁ!?」」」

「やっぱり、この世界に飛べる人間はいないんですか?」

「いや、普通人間は飛べねぇよ!」

 ジャスミンの疑問にツッコミで答えたのは、やはりと言おうかウソップだった。

「てゆうか、あんた飛べるの?!」

「はい。」

「すっげー!!なあ、飛んで見せてくれよ!」

「おい、ルフィ…!」

「良いですけど。」

「おめぇも良いのかよ!」

 ルフィとジャスミンのやり取りにウソップがさらに突っ込む。

 ウソップをさておき、ジャスミンは立ち上がり、舞空術で天井付近まで上昇する。

「ほ、本当に飛んでる…!」

「まじかよ!」

「すっっっげ――――――――――――!!!」

 他2人のリアクションとは対照的に、ルフィの目は輝きに満ちていた。

「今はただ浮いているだけですが、その気になればもっと速く移動できます。天候に左右されなければ、南の海(サウスブルー)からこの島まで1日かからないで飛べるので。」

「本当に船じゃなくて飛んで移動してるのね…。」

「すげぇな。さっき、「この世界に飛べる人間はいないのか」って聞いてたけど、その口ぶりだとお前の世界の奴らって、みんな飛べるのか?」

「え!そうなのか!?」

 ウソップの仮説に、さらにルフィの目が輝いた。

「いえ。向こうの世界でも普通の人間は飛べません。」

「「「飛べねぇ(ない)のかよ!」」」

「ただ…。」

「ただ?」

 ツッコミを入れた後に続けられた言葉にウソップが真っ先に反応する。さすがにツッコミ属性は違う。

「私を含めた一部の人間は空を飛ぶ(すべ)を体得しています。」

「一部の人間?」

「はい。元々これは「舞空術」と呼ばれる武術の技の1つなんです。優れた武道家なら体得はそれ程難しいものではありません。ただ、一般的にはあまり認知されていないので、私や他の仲間たちも滅多に人前では使わないんですが…。」

「じゃあ、さっき何で聞いたんだよ!お前が隠してんなら、この世界でも隠してる奴がいるかもしれねぇだろ!」

 ウソップ(ツッコミ)の技がそろそろ冴え渡り始めた。

「いや、この世界では「悪魔の実」でしたっけ?変な能力を持っている人がたくさんいるので、もしかして他にも似た技を使って飛べる人がいるかな、と。」

「そう言われたらそうね。中には鳥とかに変身して飛べる人もいるし…。案外、あたしたちが知らないだけで他にもいるのかしら?」

 ジャスミンにつられ、ナミの思考も明後日の方向に飛び始めた。

 その場にいた全員が本題を忘れかけたところで、満面の笑みを浮かべたルフィによって爆弾が落とされた。

「なあ!ジャスミン、お前おれの仲間になれよ!」

「仲間…?」

「おう!一緒に冒険しよう!」

 率直に誘ってくるルフィに、一瞬楽しそう、と思ったが、そのすぐ後にはっとする。

「ごめんなさい。」

「え―――――――!何でだよ!海賊は楽しいんだぞ?」

「私、家に帰りたいから。お父さんも心配してるだろうし…。」

「そっか…。こっちの世界に来たのは事故みたいなものって言ってたものね。家族はジャスミンがここにいるって知らないのね?」

「はい。」

「家族が待ってんのか…。んじゃ、仕方ねぇもんな…。」

 ルフィも渋々納得したようだった。

「だったら!おれはお前と友達になりてぇ!」

「友達……?」

「おう!おめぇ、すげぇ奴だからな。空飛べるだけじゃねぇ。たった1人で半年もがんばってんだろ?おれは1人はキライだ。だから、おめぇはすげぇ!」

 真っ直ぐなその言葉が嬉しかった。裏表の無いその目が、心からそう思っていることを教えてくれる。

 ジャスミンもルフィの言葉に、笑顔で頷いた。

「それなら喜んで。まだ最後の1つは見つからないから、それまでだったら一緒にいられます。」

「よし!んじゃ、敬語も無しだ!」

「…わかった。ルフィくんって呼んでも良い?」

「おう!おれもジャスミンって呼ぶからな。」

「全くルフィは…。すーぐ友達作っちゃうんだから!」

「それがルフィだけどな。」

 ナミとウソップが呆れたような声を上げる。

「でも、まぁ。ジャスミン、あたしとも友達になってくれる?あんたの世界のこと、もっと聞かせて。他の世界の話を聞けるなんて機会、滅多に無いもの。」

「おれも。代わりに、おれたちの冒険の数々を話してやろう!」

「じゃあ、ナミちゃんとウソップくんで良い?」

「もちろん。」

「おう!」

 

 その後はしばし、地球の話や麦わらの一味の冒険譚で時間が過ぎていく。

 

 2時間程して、船の修理の手配の為、造船所に行かなくてはいけない彼らとは一旦別れたが、次の日の昼に再び会う約束を交わした。

 

 トリップして以降、ずっと1人で過ごしていたジャスミンにとって、その時間は久しぶりに心から楽しいと思えたかけがえの無いものだった。

 

 しかし、その約束を交わすにはしばしの猶予が必要となることは、この時は誰も思いもつかなかった。

 

 主人公(ジャスミン)主人公(ルフィ)、2人の道が遂に交わる時が来た。

 

 ジャスミンもまた、これから運命の輪(原作)に巻き込まれていくことになる。




ということで、ジャスミンの原作突入ルートが解禁しました!どうしてこうなった(震え声)……。おかしいな。最初の予定ではちょっと原作にかする程度だったのに…。いつの間にかがっつり絡むことになってる…。


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第11話 波乱の幕開け

お待たせしました!第11話ようやく更新です。今週、思ったよりも時間が無く、まとまってパソコンに向かう時間が取れませんでした(汗)今回、それ程キャラとの絡みは多くありませんが、次回以降はもっと増えていく予定です。


 ~ルフィたちと別れてから数時間後~

「ウソップくん……?」

 突然、大きな気の乱れと複数の殺気を感じ、新聞をめくっていた手を一旦止めた。

 ウソップが誰かに襲われている。

 ガタッ……!

 立ち上がった衝撃で椅子が倒れたが、助けに行く為に構わずに部屋を出ようとした時、不意に「原作」を思い出した。

(そうか…!ここがターニングポイントなんだ……。)

 記憶が確かなら、ウソップを襲っているのはフランキーの手下だろう。

 そして、船を修繕する為の金が奪われ、それがきっかけの1つになって1度ウソップは一味から離反する。

 しかし、奪った金でフランキーが新たな船を造るのだ。

 そして、1度起こった離反が一味の絆をより強固なものへと変える。

 言わば、これは予定調和である。起こるべくして起こる、避けられない運命。

 ここで部外者(ジャスミン)が余計な手を出して流れを変えることは、未来そのものを変えてしまうことになりかねない。

 彼らが新しい船を手に入れないと、今後の彼らの旅にも支障が出るだろう。

(サニー号?だかじゃないと、逃げられなかったり危なかったこともあった筈だし……。)

 確か、新しい船がやたらハイテクでそれで一味がずいぶん助かっていた筈だった。

(余計なことしない方が良いみたいだな~…。)

 落ち着かないが、ある程度事態が進展するまで彼らと接触しない方が良さそうだ。

 

 その後、夜も更けてルフィとウソップが戦っているのだろう、気のぶつかり合いを探りながら、ジャスミンは焦れながらも宿の部屋で時が過ぎるのを待っていた。

 

 部屋で勝負の行方を確認した後、就寝したジャスミンだったが、深夜、不意に気の大きな乱れを感じ取った。

「………!?」

 ガバッ…!

 同時に激しい胸騒ぎを覚え、飛び起きる。

「今のは…。」

 意識を集中させると、感じ取った気が少しずつ弱々しくなり、どうやら誰かに襲われたらしいことが分かる。

 すぐに命に関わる程では無いが、このまま朝まで放っておけば確実に死ぬだろう。

 助けに行くか、とベッドから出ようとしたところで、襲われたらしい方の気の持ち主のところに複数の人間が近付いていくのを感じた。

 急激に気が入れ替っているようで、人の行き来が激しくなってきたようだった。

 どうやら誰か第三者に発見されたらしく、弱々しく揺れていた気が弱いながらも安定していく。

(大丈夫そうだけど…。一体誰が?)

 襲われたらしい気の乱れは感じ取れたが、加害者の殺気といったものは一切感じ取れなかった。

(私が気付かなかった?まさか。)

 確かにこの世界は争いごとに満ちている。この島でも、あらゆる場所で争いが起きている。

 その全てを感じ取れる訳ではもちろん無い。意識すれば造作も無いが、一々些細な小競り合いを感じ取るのはキリが無く、ジャスミン自身も疲れてしまう。

 普段はそこまで感知能力を働かせていないが、それでも大きな気や殺気まで感じなくなる程感覚を鈍らせた覚えは無いのだ。

 なのに、さっきは襲った側の殺気は全く感じ取れなかった。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこまで考えてハッとする。

「殺す気が無かった…?目的は殺すことじゃなくて、何か別のことだった?」

(ちょっと待ってよ…。この島で麦わらの一味の離反の他に起こったのは……。)

 既に朧気となっている原作知識を必死に探る。

「あ。」

(市長さんが襲われたんだ。)

 となれば、殺気を感じなかったのも頷ける。

 確か彼を襲ったのは政府の組織だった筈だから、目的は命ではなく別のことにあったのだろう。

 敢えて死なない程度の傷しか負わせなかったに違いない。

(何で襲われたんだっけ?)

 肝心なところを全く覚えていない。

 さらに言うなら、何故ロビンが政府に捕まったのかという理由も覚えていなかった。

 市長が襲われたことと関係があった筈、という程度の知識しか残っていないのが辛い。

(朝になったら調べてみようかな・・・・。)

 朝になれば恐らく島中の人間の知るところとなる。

 相手が政府の組織なら情報操作をしてくるだろうが、それならそれで何が目的なのかわかりやすくなるだろう。

 早朝に動き出すことに決め、その場は寝直すことにした。…すぐに眠れるかどうかは疑問だったが。

 

 ~翌朝、造船所1番ドッグ入口~

 ヒュオオォォォ……

 強い風が絶えず吹き付け、ジャスミンの髪を揺らしていた。

「何かコメントを!!」

「犯人は何者なんですか!!?」

「最新の情報をお願いします!!」

「第1発見者は誰ですか!!?質問させて下さい!!!」

「フランキーハウス壊滅と何かつながりが!!?」

 昨夜気の乱れを感じた現場に行こうとしたのは良いが、場所はガレーラカンパニー本社内だったらしく、入口である1番ドックの前には野次馬と記者でごった返していた。中には関係者か特定の記者しか入れないようになっているらしく、とても様子を窺えそうに無い。

 舞空術でなら簡単に入れるだろうが、さすがに誰にも見つからずに情報収集ができるか、と言われれば穏便に済ませられる自信は無い。見つかる前に全員気絶させるというなら話は別だが・・・・。

 遠目にドックの入口を窺いつつ、号外に目を通す。

(どうしよっかな…。)

 新聞社も情報を掴みかねているらしく、発行された号外も市長‐アイスバーグが襲われた、という以上のことは書いていない。犯人の目的も侵入経路もいまのところ掴めてはいないらしい。

 取り敢えず事態が進展するまでは様子見か、と一旦宿に戻ろうとした時だった。

 ウゥゥ――――――ッ…ウゥゥ―――――ッ

『お知らせいたします―…』

『こちらはウォーターセブン気象予報局―…』

『只今―…島全域に“アクア・ラグナ”警報が発令されました』

『繰り返します。只今―…』

「アクア・ラグナ?」

 何だったっけ?何か響きは聞いたことあるんだけど…。などと思っていると、今の放送を聞いた周囲がにわかに騒ぎ出した。

「アクア・ラグナが来るぞー!」

「避難の準備をしろ――――!!」

「アクア・ラグナが来る!」

 アイスバーグの容体を知ろうと騒ぎ立てていた野次馬たちも、記者を残して皆散って行く。

「あの、アクア・ラグナって何ですか?」

 そのうちの中年の主婦らしき女を呼び止め、尋ねる。

「あら、あなた観光に来た人?タイミングが悪かったようね。今から高潮が来るのよ。アクア・ラグナっていうのは、毎年この時期にウォーターセブンに来る高潮のこと。」

「高潮が?」

「ええ。ちゃんと高いところに避難しないと…。裏町の辺りは完全に海に沈んでしまうくらいなの。」

「海に沈むくらい!?」

「そう。この辺りまで波が来ることは滅多に無いんだけど…。年々規模が大きくなっててね。あなたも荷物を纏めて避難した方が良いわよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

 そう言って足早に去って行く女を見送り、宿に戻ろうとした時だった。

「あ!!おーい、ジャスミン!!!」

「え?」

 振り向くと、ヤガラブルに乗ったルフィとナミが水路からジャスミンに向かって手を振っている。

「ルフィくん?ナミちゃん?」

「ジャスミ―――ン!!」

「お前も来てたのか━━━!」

「ちょっと待ってて、今そっちに行くから――――――!」

 急いで待たせていた自分のヤガラブルに乗り込み、2人の元に向かう。

「2人も来たんだね。」

「ええ。私たち、昨日あれからアイスバーグさんのところに船の修繕を頼みに行ったのよ。それで心配になって…。」

「どの道、もっかい遭わなきゃなんねェんだけど…。アイスのおっさんには。」

「本社には行けないみたい。1番ドックの中から入るらしいんだけど、門の中には関係者か特定の記者しか入れないって。ここに集まってるのは、入れないことは知っててもそれでも何か情報が聞けないかどうか心配で集まった人たちらしくて……。」

 話しながらドッグの入口に集う野次馬に目をやる。

「……すごい人望…。近付けそうに無いわね。」

「…………。」

 ジャスミンとナミのやり取りをルフィは無言のまま見ている。それに気付き、ナミが宥めるように声をかけた。

「そのうち新聞ででも安否はわかるわよ。」

「ルフィくん…?」

 ジャスミンもルフィの様子を伺う。

 怖いくらい硬い表情で黙ったままのルフィに、どう声をかけたら良いものか、と思っていた時、どこからともなく妙に軽快なリズムが聞こえてきた。

 ズン♪ズン♪ズズズン♪

 ザワッ…!

「何だ!」

「!!?」

 周囲がそれを受けて突然ざわつき始めた。

 ズン♪ズン♪ズズズン♪

 ズン♪ズン♪ズズズン♪

「うわあ!!こ・・・、このリズムは!!!」

「まさか!!そんなバカな!!!」

「「「?」」」

 いっそ過剰にまで反応している周囲に、ルフィやナミと顔を見合わせる。

「ヘイお前たち。おれの名を今呼んだのか?」

「?誰の声?」

 たぶん、この音楽を流しているらしい男の声が聞こえるが、それにしてもこの周囲の反応はやや過剰である。

「呼んでねぇよ!!!どっかいけー!!」

「どこにいるんだ!!!どこだ!!?」

「あ!!!」

 ズン♪ズン♪ズズズン♪

「いた――――――!!!あそこだ―――――――!!!」

「出た―――――――――――!!!」

「リズムに乗ってる――――――!!!」

 1人が指差した方向を見ると、橋の向こうの屋根にスクリーンのようなものが張られている。スクリーンの裏側でリズムに合わせて踊っている3人組の影が、スクリーンに映っていた。

 どうやら、中央の男が声の主のようで、時々アウ!!と合いの手を入れつつリズムに乗っている。

 ズン♪ズン♪ズズズン♪

「恥ずかしがらずに聞いてみな!!おれの名を!!!」

「聞きたくね――――――!!消えろ――――――!!!」

「アイスバーグさんを襲ったのはお前だろ―――――――――――!!!」

「ええ!?あいつが!!?」

「そうに決まってる!!」

「この島から出ていけ――――――!!」

「しばり首だ――――――!!!」

「このチンピラ―――――――――!!」

 ズン♪ズン♪ズーズーズーン♪

「アー、うるせェハエ共め。ここに麦わらのルフィってのがいる筈だ!!出て来い!!!」

 思わずバッとルフィを振り返る。

「?」

「え!?」

 肝心のルフィもナミも心当たりは全く無いようだったが。

「おれはこの島一のスーパーな男!!ウォーターセブンの裏の顔!!!」

 言葉と同時にバサァッ・・・・!!とスクリーンが後ろに放られた。

「そうだ、おれは人呼んでワァオ!!!ん――――――――――!!!フランキ―――――――――!!!!」

 ドドォン!!!とポーズを付けた海パン姿の大男と、四角い髪型の両サイドの女性の姿が明らかになる。

「うわああ!!!ここで暴れ出すぞ――――――!!!逃げろー!!!」

 わーわーと周囲の人間が慌てて避難しようとしている。

「出て来い“麦わらァ”!!!」

 サングラスを親指で押し上げたフランキーが叫ぶ。

「……何だあの変態…。」

 あのルフィですら“変態”呼ばわりする変態っぷりである。

(実際に見てみると、色々予想以上・・・・・。)

 ジャスミンも思わず引いた。

「……!フランキーって…言わなかった!!?」

「……!!?あいつが……!!!」

 ナミの言葉にルフィが激昂する。

(そう言えば、最初はウソップくんのことがあったから敵対してたんだっけ?)

「おい!!!海水パンツ!!!」

「ルフィ!!」

「あン!!?」

「おれがルフィだ」

 ナミの制止も間に合わず、ドン!!!と2人がお互い睨み合う。

 ザワ・・・

 隣から感じるルフィの気迫に思わず皮膚が粟立つのを感じる。

 一波乱だけでは済みそうになかった……。

 

 



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第12話 激突!ルフィvsフランキー

お待たせしました!第12話更新です。さて、今回予想してくださった方もいたように、ジャスミンが見事に巻き込まれます。長くなったので途中で切りましたが、次話では他のキャラにも接触予定です。


「お前かァ…。“麦わらのルフィ”ってのァ!!!人の留守中に、えらく大暴れしてくれたじゃないのお兄ちゃん…!!!」

 距離にしておよそ30m。屋根と水路、それぞれに2人の男が睨み合う。

「帰って来て目を疑ったぜおれァ……。いやいや、見事に原形無いんだもんなァおれの(ウチ)がよ!!!子分共もまァ、ヒドイ目にあわせてくれやがってェ…。もォ~ダメだおれ。今週のおれはもうホントに止められねェ。何言ってもおめェをボロ雑巾の様にするまでは!!!この怒りは収まらねェ~~~っ!!!」

「ちょっと!!!あんた私たちのお金どうしたの!!?2億ベリー!!!」

「あァ!?そんなもん……。使っちまってもうカラッケツよォ!!!どこぞで奪ってきた金を偉そうに守ろうとすんじゃねェ海賊がァ!!!」

「そんなのはいい。とにかくおれはお前を!!ブッ飛ばさねェと気がすまねェ!!!」

「気が済まねェのはこっちだバカ野郎!!!」

 もはや一触即発、いつぶつかり合ってもおかしくなかった。

「フランキーが暴れ出すぞ――――――!!」

「うわァ避難しろォ!!!」

 周囲の人間が一斉に避難を始める。

 すううぅぅぅ…

 フランキーがのけ反りながら大きく息を吸う。

「おい!!こっちへ下りて来い!!!」

「何してんの、あれ。」

「ナミちゃん、避難した方が…。」

 ジャスミンの忠告も間に合わなかった。

 ボォウッ!!!

 フランキーが口から火の塊を吐いたからである。

「うわぁっ!!!」

 ジュワァッ!!!

 水路に落ちた火は周囲の水を蒸発させ、近くにいた人間は慌てて避難する。

 ジャスミンとナミも、慌ててヤガラブルを後退させた。

「火ィ吹いた!!!」

「何!!?あいつ!!!」

 ルフィとナミが驚愕し、ジャスミンも一瞬目を見開いた。

「さっきの“溜め”はその為の……!」

「火ィ吹くのが珍しいか……?」

 口から炎の余韻を吐き出しながら、フランキーが不敵な笑みを浮かべる。

「能力者かも…!!!」

「何の実だ!?」

 ルフィたちが叫ぶが、その隙にフランキーはそれまで立っていた屋根から飛び降りていた。

 ドッボォン!!ブクブク…

「水に突っ込んだぞ!!悪魔の実食ってたら溺れて終わりだ!」

「きっと滑って落ちたのよ!!火吹く“能力者”よあいつ!!」

「いや、下に……!」

 結果的にその忠告は若干遅かった。

「どうりゃあァ!!!」

 ドッゴォン!!!

 ルフィたちの船の下に泳いで潜り込んでいたフランキーが、船底から船を破壊したのだ。

「わっ!!!」

 ルフィとナミが宙に放り出される。

「泳げんのかっ!!!」

「いや~~~~っ!!」

「悪魔の実なんざ食っちゃいねぇっ!!!」

 ルフィは空中で体勢を立て直したが、ナミはそのまま頭から水路に落ちていく。

「ナミちゃん!」

 咄嗟にジャスミンがヤガラブルの背から跳び上がり、ナミを横抱きにして1番ドックの入口の前に着地した。

「あ、ありがとうジャスミン…!」

「どういたしまして。」

 ドゴン!!!

「何!?」

 目を離した間に、ルフィがフランキーの攻撃をまともに食らって1番ドックの扉に叩き付けられた。

「あの腕…。」

 フランキーの腕が飛び出し、フランキーの体と鎖で繋がっている。ガシン…と金属音を立て、腕が元に戻った。

「何今の!!」

「ロボット…?いや、サイボーグ?」

 生憎、フランキーのイメージが海パンということしか残っておらず、ジャスミンもナミと一緒に困惑する。

「……あァ、知らなかったのかい…。お姉ちゃんたち。じゃあ教えとこうか…。」

 フランキーが水路から上がり、ルフィへと距離を詰めていく。

「おれは“改造人間”(サイボーグ)だ!!!」

 ジャラ…

 そう言って右手を外し、鎖を見せ付ける。

「人間を改造するなんて、一体誰が…。」

(Dr.ゲロみたいなヤツがこの世界にもいるってこと?それとも…)

「ルフィ――――――!!ブッ飛ばすのよ!!そんな海水パンツ!!!」

「あ。」

 ジャスミンが思わず思考に沈みかけている間に、ルフィとフランキーの戦いは激しさを増していた。

「とにかくお前は…、ブッ飛ばしてやるからな!」

「うははは!!やってみろ。お前の攻撃なんざ効きゃあしねェ!!!“ウェポンズ(レフト)”!!!」

 ボウン!!!

 フランキーの左手首がまるで蓋のように開き、手のひらの照準器で左腕からバズーカのようなものが放たれた。

「あんなものまでって……?!」

 ハッとして視線を脇にずらす。

「ゴムゴムの…“鞭”!!!」

 ジャスミンが視線を向けたのとほぼ同時、ルフィが放った蹴りをフランキーが受け止めようとした時だった。

「!!?」

「ん!?」

 一拍置いて2人も気付くが、結果的には遅かった。

「うわ!」

 ガシャアン!!

「ウォッぷ!」

 ドカァン!!!

 予想だにしていなかった真横からの攻撃に2人とも積まれていた木材などに突っ込んだからである。

「誰だァ!!!」

「あ。」

「あの人たちって、確か…。」

「くだらねェマネしてくれたな。お前の狙いは何だ…!!!麦わらァ!!!!」

 ガレーラカンパニーが誇る、1番ドックの5人の職長たちだった。

 そのうちの2人、鳩を肩に乗せた男と鼻の長い男‐ルッチとカク‐を見付け、ジャスミンの目がわずかに、他人には分からない程度に鋭くなる。

(あの2人……。他の3人に比べて明らかに戦い慣れしてる。気の大きさも一般人とは比べ物にならないし…。たぶん、あの2人が政府からのスパイかな。それに他の人たちもこの張り詰めた空気…。)

「昨日の船大工の人たち…!!こりゃこっちの味方ね!!」

「ナミちゃん、逃げる準備した方が良いかも。」

「?何言ってんのよジャスミン!大丈夫よ。あたしたち、昨日あの人たちと知り合いになったの。」

「…言いにくいんだけど、たぶん違うと思うよ。」

「?どうゆうこと?」

「昨夜のアイスバーグさんの暗殺未遂事件…。ただの強盗や怨恨じゃないと思う。」

「?!ジャスミン、何か知ってるの!?」

「昨日言ったかどうかは忘れたけど、私気配で人の位置とかざっくりした体調とか分かるの・・・。昨夜、アイスバーグさんが襲われた時、アイスバーグさんの気配は分かったけど襲った相手の殺気は全く感じなくて。」

「殺気を感じなかったって…。」

「たぶん、襲った相手は最初からアイスバーグさんを殺すつもりは無かった…。アイスバーグさんが動けない間に何かしたかったのか、「襲撃」自体が目的だったのか、それは分からないけど…。」

「ちょっと待って!その考えが当たってたとしても、それとあの船大工の人たちとどんな関係があるの?!」

「そこまではまだわからない……。でも、あの人たちのあの空気…。とても友好的には見えないし。むしろ、ルフィくんに対して殺気立ってる。」

「そんな、まさか…。」

 ジャスミンとナミがそんなやり取りをしている間に、ルフィたちの間でも話は進んでいたらしい。

「なんもしてねェよ!!」

 突然のルフィの叫びに、ジャスミンとナミがそちらに目を向ける。

「とぼけるんなら・・・・、締め上げるまでだっ!!!R(ロープ)A(アクション)“ハーフノット”!!!」

 シュルルルル!!!

 キュッ!!!

 5人の真ん中に立っていた、葉巻を(くわ)えた男‐パウリーが袖口から出したロープでルフィを拘束する。

「ウェェッ!!!苦しィ…苦…!!!ア``…」

「ルフィくん!!」

「“エア・ドライブ”!!!」

「………!!!」

 ギュオオオオ!!

 ドゴォン!!

「ぶへ!!!」

 そのまま引き付けられ、木材の山に叩き付けられた。

「この野郎ども!!!邪魔すんなっつったのがわかんねェのか!!!そいつに恨みがあんのはおれだァ!!!」

 フランキーが吠えるが、他の4人もそれぞれ武器を取り出し、または肩を鳴らすなど準備をしている。

「やっちまえ―――――――――!!ガレーラカンパニー!!!」

「社内最強の5人のケンカだっ!!!」

「ウソでしょ?!ホントに船大工もみんな敵なの!?」

「ほらぁ……。言わんこっちゃない…。」

「ジャスミン、これって一体どういうことよ!!?」

「だから、くわしいことは私も知らないってば…。分かるのは、さっきからあの船大工の人たちがやけに殺気立ってることだけ。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいにね。」

「あたしたちが?!」

「私がそう思ってる訳じゃないし、あの人たちが本当にそう思ってるかは分かんないよ?」

 そんなことを話している間にも、ルフィvs5人の船大工の戦いは激しさを増していく。

 ドガシャァン!!

「……!!ホントに強ェなこいつら。くそォ――――――!!!何なんだ理由くらい言えェ!!!」

 ボコォン!!

 突き飛ばされた先の木材を弾き飛ばしながら、ルフィが叫ぶ。

「理由を知りてェのはおれたちのの方だ…!!!昨夜、本社に侵入してアイスバーグさんを襲撃した犯人は、お前らだろうが!!!!」

 葉巻の男(パウリー)が叫んだ一言に、周囲がざわつく。

「な、何それ…。」

「…何でそんな勘違いを…。」

「バカ言え!!!何でおれたちがそんなことするんだ!!!」

「“犯人”を2人覚えていると、目を覚ましたアイスバーグさんが証言したんだ。政府に聞きゃあお前らの仲間だと言うじゃねェか…。「ニコ・ロビン」って賞金首はよ!!!」

「ロビン!!?」

「………!!」

 ルフィは叫び、ナミは驚愕のあまり声も出ないようだった。

「ナミちゃん、大丈夫?」

「何でロビンが…?」

「それはわからないけど、もしかしてニコ・ロビンさん本人じゃなくて、誰かの変装かもしれないし…。悪魔の実の能力者だったら、例えばニコ・ロビンさんの偽物を作ったり、そっくりに変身出来る人もいるかも…。」

「そう、そうよね!ロビンがそんなことする筈無いもの!」

「仮にニコ・ロビンさんだったとしても、誰かに脅されてる可能性もあるし…。ニコ・ロビンさん本人に会って確かめた方が良いよ。」

「ロビンを探すわ。ロビンは犯人なんかじゃないってはっきりさせなきゃ……!」

 ナミが落ち着きを取り戻した直後だった。

「お前らロビンを知らねェくせに、勝手なこと言うなァ!!!!」

「ルフィ。」

「ルフィくん。」

「アイスのおっさんに会わせてくれ!!!見間違いだそんなの!!ロビンな訳ねェ!!!」

「今度もまた何するかわからねェ奴を、アイスバーグさんに近付けられるか!!!」

 上半身に刺青を入れた男が吐き捨てると、周囲に集まった野次馬もそれに煽られた。

「そうだ!!!」

「この町の英雄を殺そうとした奴らだ!!!」

「首切ったって構わねェ!!!」

 集団の恐ろしさと言うべきか、1人の賛同に次々と発想が物騒な方向へと進んでいく。

(このままここにいちゃマズイな……。)

「コノ!」

 ガッ!

 ギリ…!

「何をするつもりですか?」

 ナミを後ろから羽交い締めにしようとした男の腕を逆に捻り上げる。

「いででででで!離せ!お前も麦わらの仲間だな!?」

「麦わらの仲間?!絶対に逃がすな!」

「捕まえろ!」

「ったく!」

 ドンッ!

「うぉ…!」

 腕を捻り上げていた男を突き飛ばし、次々捕まえようと襲ってくる男たちを時に足を引っかけ、時に突き飛ばしながら転ばせていく。

 ヒョイ

 ガッ!

 ドサァ……!

 ドンッ!

 ドテッ!

「ジャスミン!」

「ナミちゃん、私から離れないでね。」

 相手は一般人なのでそうそう手荒な真似は出来ない。ナミを庇いながらどこまでいけるか。

「ナミ!!!ジャスミン!!」

「観念しろ!!!情報はすぐ町中に広がる。逃げ場はねェぞ。一味全員、おれたちが仕留めてやる!!!」

 

 

 




用語解説
Dr.ゲロ…ドラゴンボールの主人公・孫悟空が子どもの時に壊滅させた悪の組織・レッドリボン軍お抱えのマッドサイエンティスト。性格はともかく頭は良く、科学者としては一流らしい。人間を非合法に攫い、無理やり改造してサイボーグにしていた。クリリンの妻・18号も被害者の1人。最終的に自身もサイボーグとなるが、Dr.ゲロを恨んでいた17号(18号の双子の弟で同じくサイボーグ)に首を刎ね飛ばされた後、頭を踏みつぶされるというショッキングな方法で殺される、という当時チビッコだった読者に結構なトラウマを与える。


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第13話 疑惑と仮説

すいません、今回他のキャラと絡ませる予定でしたが、意外と長くなってしまったので一旦切ります(汗)次は必ず絡ませる予定なので…!
因みに月曜からしばらく忙しくなりそうなので、更新は早くて来週になるかもしれません。


 わあああああああああ!

「捕まえろォ!!!」

「暗殺者どもを逃がすなァ~~~~!!!」

 ガッ!

 ドカッ!

 ドスッ!

 ドサッ!

「ケガはさせたくないんです。この場は引いてもらえませんか?」

 さすがに転ばせるだけでは凌ぎきれず、ナミを後ろに庇いながら出来るだけケガをさせないように襲ってくる住人たちを当て身と手刀で次々に気絶させていく。

「クソッ!この女強ェ…!」

「さすが1億の賞金首のクルー…!」

「いや、私はクルーじゃないんですが…。」

 完全にジャスミンを麦わらの一味と勘違いしているらしい。最も、船長であるルフィの他には海賊狩り(ロロノア・ゾロ)悪魔の子(ニコ・ロビン)しか顔が知られておらず、人数構成も知られていない為、無理の無いことかもしれないが……。

「あたしたちが一体何したっていうのよ!!」

「とぼけるな暗殺者の一味め!!!よくもアイスバーグさんを撃ちやがったな!!!逃がさんぞ!!!」

「くそォ!!おい!!やめろお前らァ!!!おれたちはなんもしてねェ!!!」

「そうよ!!だいたいロビンにだってアイスバーグさんを狙う理由が無いもの!!!」

 ルフィやナミが弁解するが、既に暗殺者は麦わらの一味、と思い込んでいる島の人間には通じなかった。

「いつまでも言い張ってるが良い。とにかく、お前ら3()()はここまでだ。あの人に害を与えるということは、おれたちガレーラカンパニーを敵に回すということ。――――――そしてこの都市、ウォーターセブンを敵に回すということだと思い知れ!!!」

 葉巻の男(パウリー)が吐き捨てる。

「このォ!!!何でそんなありもしねェこと……!!アイスのおっさんと話をさせろォ!!!」

「観念しろ。海賊。」

 最早、誰が何を言っても聞き入れる気は無いらしい。

「ぶっ潰せ!!ガレーラカンパニー!!!」

 その叫びが契機となった。

 葉巻の男(パウリー)がロープでルフィを拘束し、鼻の長い男(カク)がのこぎりを投げる。決定打は避けているルフィだが、未だにロープの拘束を外せずにいるようだ。反撃も出来ずにダメージは蓄積する一方である。

「どうした。受けるばっかりで良いのか?」

「だからおれは!!お前らと戦う理由がねェんだって!!!」

 ガチャガチャン!!!

(ピストル)はもう効かねェとわかった。」

 銃を放り投げ、残りの3人もそれぞれバズーカや大型ののこぎりを武器に構えている。

「くっそォ、やる気満々かあいつら!!」

 ズム!!!

 ボッカァン!!!

「うわあ!!!」

 5人の中で最も巨漢‐タイルストンがバズーカをルフィ目がけてぶっ放す。

「うおおっ!!!」

「直撃だァ!!!」

 住民から歓声が上がるが、ジャスミンの目はルフィが寸前でロープを引き千切ってクレーンで釣り上げられた木材の上に逃げるのを捉えていた。

「……いや、逃げた。」

 葉巻の男(パウリー)も引き千切れたロープに気付く。

「危ねェ」

 ヒュッ!!

 ズバン!!

「わっ。」

 鳩の男(ルッチ)が持っていたのこぎりでルフィの乗っていた木材を釣っていたロープを切る。

 ガラガラガシャア…ン!!

「うお!!!」

 落下する木材に巻き込まれることなく着地したルフィだったが、間髪入れずに刺青を入れた男(ルル)が両手に構えたのこぎりでルフィを追い詰める。

「ハア!ハー!」

 ガカカッ!!!

 壁際に追い詰められたと同時に、投擲されたのこぎりで服を縫い止められてしまう。

 ドウン!!

「!!?う…、あ!しまった、動けねェ!」

 その隙を逃すこと無く放たれたバズーカに、ルフィも焦りを見せた。

 ドッゴオオ…ン!!

「ルフィ!!」

「よっしゃ、仕留めたぞォ!!」

 ルフィがいた辺りに爆炎が立ち上り、(はた)から見ればルフィに直撃したように見える。

「いえ――――――い!!アッハッハッハッハッハ!!」

「気分爽快だわいな!」

「そうそうあんな奴ァ吹き飛ばしちまえば良いんだ!!」

 いつの間にかちゃぶ台と湯呑を持ち出し、一服しているフランキーと部下?の四角い髪型の女性たちがガレーラカンパニー側についたような会話をしている。

(どっから持ってきたんだろ……。)

「さすがはおれたちの誇り!!!“ガレーラカンパニー”!!!いやいやいやしかし、お前。その麦わらのチビは()がフランキー一家の憎っくき仇でよ!まずこのケンカの先客はおれだったんだよ!そこへ来てお前らおれの獲物を横取りするようなマネをすんなと………、何度言わすんじゃ、クラァ~~~~~~!!!!」

 ご丁寧に「おんどりゃああ!!!」と気合を入れながらガシャァーン!!と盛大な音を立ててちゃぶ台をひっくり返す。

(それがやりたかったのか…。)

 相変わらず襲い掛かってくる住人たちを捌きながら、軽く感心しながら横目で様子を伺う。

「ガレーラァ~~~~~!!!!」

「少し待っていろ。お前の相手はあいつを完全に捕えてからじゃ。」

「だから…!!何でおれの獲物をお前らが捕えるんだ……!!!いや、もういい。口で言ってもわからねェ様だ……。」

 ウガァア、と吠えるフランキーを全く相手にせず、鼻の長い男(カク)(たしな)めるが、当然ながらフランキーは全く納得しなかった。

「パウリー危ない!!!」

「ガレーラ逃げろー!!!」

「フランキーが!!ヤベェ攻撃に出るぞー!!!」

「コネクターセット……。」

 ガチッ、ガチッ

 腕と腕をT字型のパイプのような器具で繋いでいる。

()()でさっき巨大クレーンを倒したんだ!!」

「クレーンを…?」

「逃げろガレーラァ~~~~!!」

「大砲か?」

「……あのクレーン、いつの間に倒れたんだろうと思ったら…。」

「あんた、見て無かったの?!」

「つい考えごとしてて…。」

 という会話をしている間に、フランキーの準備が完了したらしい。さっき装着したパイプを両手で包み込むように構えている。

「砲弾なんざ飛ばさねェよ。飛んでくのは…“空気の弾”。ただし…、速度は風の領域を超える。」

「空気?」

「危険だ、逃げろ~~~!!!」

「アァア~~~~~~~~~っ!!!」

 気合と共にフランキーの両腕が大きく膨らんでいく。

「“風来砲(クー・ド・ヴァン)”!!!!」

 ベコォン!!!

 ドカン!!!

「うああァ~っ!!!」

 標的になった5人の船大工たちだけでなく、その後ろのドックにまで被害が及ぶ。

()…っ!!!何だ…!!?“風圧”に激突されたみてェな…!!!」

「うわァ!!!またクレーンが倒れるぞ――――――!!!」

「逃げろー、こっちまで届いちまう!!!」

「アッハッハッハ!オウ、潰れちまえ!!こんな造船ドックなんざ、潰れちまえ~っ!!!」

 ズズズゥン…!!!

 クレーンが倒壊し、辺り一帯に土埃が舞う。

「造りかけのガレオンごと……!!]

「1番ドックが崩壊したァ~~~~っ!!!」

 フランキーの攻撃によって1番ドックは半壊し、見る影も無い。

 辺りは巻き込まれないように逃げ出す者、その様子に視線が釘付けになる者と様々だったが、幸いそのおかげでジャスミンたちに襲い掛かってきていた住人たちも、おおよそそちらに意識が向いていた。

「ナミちゃん、ケガは?」

「大丈夫。それにしても、“改造人間(サイボーグ)”なんて…。どこにそんな技術が……!!!何なの!?アイツ!!今の変な大砲も何!?」

「ナミ!!!ジャスミン!!走れ!!」

 言葉と同時にルフィが走り寄ってくる。やはり、直撃は上手く避けたらしい。

「ルフィ!!あんた大丈夫!?」

「ルフィくん、ケガは?」

「おれがあれくらいでやられるか!!とにかく意味がわからねェ、何とかしてアイスのおっさんとこ行こう!!!」

 荒く息をつきながらも、この場を逃げ出す算段を付ける。

「賛成。このままここに居ても、リンチ以外の未来が見えないし。」

「えェ!?行くの!?無理よ、この騒ぎの中っ!!」

「おい見ろ!!“麦わら”が逃げるぞ!!!」

「やべェ。」

「しっかり捕まってろ!!」

 がし!!

 ナミと纏めて右腕で抱えられる。

「わ!!待って!」

「ルフィくん、私自分で飛べ……!」

 びゅ!!ぴょーん!

 最後まで喋ることが出来ないまま、勢い良く上に引き上げられた。

 

 ~ガレーラカンパニー本社向かいの屋根の上~

「うぇ、ちょっと酔った・・・・。」

 ジャスミンが屋根の上に片膝を立てて座り込み、自身の膝に()()す。

 自分で飛んでいる時はスピードをいくら出しても平気なのだが。

 引き上げられる時の浮き上がるような感じが苦手らしい。エレベーターに乗った時の数10倍内臓が浮き上がるような感覚がした。

「ちょっと大丈夫?」

「何とか…。」

 ナミに背中を擦ってもらいながら、返事を返す。

「なっさけねェな~、お前。」

 ルフィが小指で鼻をほじりながら呆れたような声を出す。

「内臓がヒュンッてなったよ…。私、飛べるから自分で移動出来るのに…。」

「そういや、そうだったな!」

 あっけらかんと笑われ、ジャスミンは気が抜けるのを感じた。

「…もう、良いよ……。」

「それどころじゃないわよ!ロビンのことだけじゃなく、色々とやばい状況なんだから!!」

「やばい?…何がやばいんだ。」

「この島の“地形”と“気候”よ。これだけ風が吹いて気圧が落ちてくれば、今夜島を台風が通るかもしれない。“水の都”と(めい)うつ町も、裏を返せば水害を招き(やす)いという弱点になる。」

「それがどうした。」

「んー。まあ、気になるから後で調べてみる。―――――――――それより()()がそうよ。…下見て!記者みたいな人たちが押しかけてる。1番ドックから繋がってるし…。アイスバーグさんがあの屋敷にいるんだわ!」

「ルフィくん、どうやってアイスバーグさんに会う気?」

「そうよ!問題はそれ!だいたい、本気で行くの!?」

「当たり前だ。アイスのおっさんが何でロビンを犯人だと言ったのか、直接聞いてくる。」

「言っとくけど、私たちも島中から追われてる身だってこと、忘れないでね。ちゃんとどこがアイスバーグさんの部屋か見当つけて上手く隙をついて慎重に……。」

「ルフィくん、話聞いてる?」

「?」

「じゃ、行って来る。」

「え…。」

 ぐいー…ん

 いつの間にか、ガレーラカンパニー本社目がけてルフィが腕を伸ばしていた。

「ちょっ………!!!」

 ナミが止めようとするが既に遅かった。

 バリィン!!!

 次の瞬間には、ゴムの反発力を利用したルフィが本社に飛び込んでいたからである。

「“麦わらのルフィ”が本社に侵入したぞ――――――――っ!!!」

「赤いベストに麦わら帽子だ!!!」

「アイスバーグさんを守れー!!」

 当然だが、途端に本社が騒がしくなった。

「あーあ、行っちゃった…。」

「………。」

 ナミは最早声も出せないでいる。

「いっつもあんな感じ?」

「あんな感じ…。」

 ズー……ン、とした効果音が聞こえそうな程がっくりしているナミに、少し迷ったが言葉を続ける。

「ナミちゃん、さっきの気圧の話だけど、もしかして警報聞いて無いの?」

「警報?」

「アクア・ラグナの警報。」

「……ねぇ、ジャスミン。すっごく嫌な予感がするのよ。質問しても良い?」

「たぶん間違って無いと思うけど、どうぞ。」

「“気圧”と“警報”って聞いただけで良い予感はしないけど……。“アクア・ラグナ”って名称が不安を掻き立てるわ。はっきり聞くけど、アクア・ラグナってもしかして水害か何か?」

「ピンポーン。……さっきの騒動の前に地元の人に聞いたら、場合によっては町1つ沈めちゃう程の高潮だって。予報では夜半過ぎに襲来するらしいよ。」

「町1つ沈める程の高潮ォ!?」

「……やっぱりそういうリアクションになるよね・・・。」

 ガーンッ!!

 と背後に文字を背負っていそうな表情をしている。「絶望」というタイトルを付けたらピッタリかもしれない。

「地元の人たちはみんな避難するって。裏町の辺りは完全に沈んじゃうくらいだって話だし、私たちも避難しないとマズイと思うんだけど…。」

「問題は、島中の人間が敵になったこの状況でどうするかってことね…。」

「そ。それに、もしかしてナミちゃんたちみたいに、他の“麦わらの一味”の人たちも警報聞いて無い人がいるかもしれないし。最初に他の仲間と合流して、これからどうするか決めた方が良いんじゃないかな?」

「そうね。それにしてもあいつら一体どこにいるんだか……!」

「そういえば…。アイスバーグさんの件だけど……。」

「?何か思いついたの?」

「アイスバーグさんの所に、世界政府の人間が定期的に訪ねてるらしいんだよね。」

「そういえば……!昨日、あたしたちが造船所を訪ねた時に見たわ!」

「そうなんだ?じゃあ、世界政府の人間はアイスバーグさんの持っている“何か”を譲ってもらおうとして来てるって噂を知ってる?さっき、1番ドックの前で地元の人が話してたんだよ。もしかして、“CP9(シーピーナイン)”が動いてるんじゃないかってね。」

「“CP9(シーピーナイン)”?」

「本来存在しない筈の政府の暗躍機関らしいけど、あくまでも噂だしね。でも、本来は正義(・・)である筈の世界政府にまつわる黒い噂だから、誰が聞いてるかもわからない場所では大っぴらには話せない…。だからそれ以上のことは聞けなかったし、下手に口にしても厄介なことになりそうだったからさっきは黙ってたけど…。」

 それは本当である。1番ドックでルフィやナミに会う前に、確かにそんな噂を話す男たちがいた。人目を気にしてか、すぐに話題は変わってしまったが…。

 その話を聞いて、うろ覚えだった原作知識に引っかかるものがあったのだ。

「アイスバーグさんを襲ったのは世界政府かもしれないってこと?じゃあ、ロビンを見たっていう話は?」

「そこはまだ何とも…。でも、さっき私が話した仮説を覚えてる?」

「え~と…。アイスバーグさんを襲ったのは、殺すことが目的じゃなかったって話?」

「そう。仮に、そのアイスバーグさんが持っている“何か”が欲しかったんだとしたら?私だったら、何度来られても譲りたく無いものだったらどこかに隠してる。その隠し場所を知る為にアイスバーグさんを殺せなかったのだとしたらどう?」

「……話の辻褄(つじつま)は合うわね。」

「でしょ?ニコ・ロビンさんがそれにどう関係してくるのかはわからないけど…。捜査を攪乱(かくらん)させる為に、世界政府が仕掛けたミス・リードだったとしたら?悪魔の実の能力者を使って偽物を用意したとか、いくらでも可能性はあると思う。ルフィくんは1億の賞金首だし、ネームバリューも十分。1番ドックでニア・ミスしたんだったら、ちょうど良くスケープゴートにされてもおかしくないんじゃないかな?」

「そう…。そうね。可能性はあるわ!」

 仲間(ロビン)が関わっている可能性がわずかでも消えた為か、ナミの顔が明るくなった。

 ドォン…!!!

「銃声?!」

「ルフィ!?」

 ダンッ!

 ガレーラカンパニー本社から銃声が聞こえてきたのとほぼ同時に、ルフィが屋根に飛び移ってくる。

 しかし、その表情は硬い。

「………もしかして、話せたの?アイスバーグさんと?」

「本当にロビンを見たって……。」

 ストン、と屋根に座りながら硬い声でルフィが告げる。

「――――――そんな。……どうしてロビンがそんなこと…。」

「おれは信じねェ!!!!」

「そうね。私も信じないわ!」

「ナミ。」

 力強いナミの声にルフィがナミを見詰める。

「さっきちょうどジャスミンとそんな話をしてたの。それはロビン本人じゃなくて、ロビンの偽物かもしれない。仮にロビン本人だったとしても、何か理由があるに決まってるわ!!」

「にししっ!そうだな!!」

「じゃ、これからどうする?」

 話がまとまったところで、ジャスミンが今後の予定を尋ねる。

「取りあえず、他のみんなを探しましょ。出来れば宿に戻って荷物を取りに行きたいところだけど…。」

「それは難しいかもね。島中が敵の状態だし…。宿はもう抑えられてると思う。」

「そういや、ジャスミンお前も一緒に来るのか?」

「ここに連れて来たのルフィくんだと思うんだけど……。まぁ、さっきの騒動で私も麦わらの一味だと思われてるみたいだし、しばらく一緒に行動させて。」

「おう!良いぞ。」

「あんたのせいでしょうが!!」

 ガンッ!

 シュウウゥ…!

 ナミの拳骨でルフィの頭にぷっくりとタンコブが出来る。

(凄い…。怒りのあまり一瞬だけど“気”を拳に纏わせてる……。)

「ゴメンねジャスミン、巻き込んで・・・・。あたしもうっかりしてたわ。」

「気にしないで。友達の為に何かするのは特別なことじゃないでしょ?」

 こうなれば、毒を食わらば皿まで、の心境である。

 笑って言ったジャスミンに、ナミもほっとしたような笑顔を見せた。

 

 

 

 




ナミがルフィに拳骨を落とす時に気を無意識に使っている、というのは作者の都合の良い解釈によるものです。


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第14話 嵐の前の小休止

お待たせしました!第14話更新です、があまり内容的に進んでいません。今週も割と詰まっている為、次回更新も来週くらいになりそうな気がします…。


「どこへ行った!!!」

「どっかの屋根に登ってねェか!?」

「くまなく探せ!!!」

「路地はどうだ!?」

「くそ!!まかれたか!!?」

「確かにこっちに逃げたぞ!」

 島中の男たちが集まり、険しい顔で周囲をくまなく探し回っている。屋根を1つ1つ確認し、狭い路地も覗き込み、ねずみ1匹逃がさない体制である。

 ガレーラカンパニー本社から少し離れた水路の橋の下、ジャスミンはルフィたちと一緒にそこにいた。

「向こう行ってみよう。」

「どの辺りで消えた!?」

 プルプルプル……

『……もう、良いか?』

『まだだ。』

『ルフィくん、もうちょっとだからがんばって。』

『………!!!』

 橋のアーチの真下に、ルフィがそのゴムの体を生かし、精一杯手足を伸ばして自身の体をハンモックのようにしてゾロを支えていた。

 (ちな)みにジャスミンは舞空術で自分で宙に浮き、ナミはジャスミンに抱き着く形でしがみついている(もちろん、ジャスミンもナミを抱きかかえる形で支えているのだが)。ルフィの負担を考えて、体重の軽いナミはジャスミンが引き受けたのだが、まともに掴めるところの無いレンガ作りの橋を不安定な体勢、しかも手足の握力のみでしがみついて自身とゾロの体を支えているルフィは、さすがにそろそろ限界を迎えようとしていた。手足はプルプルと震えており、いつ落ちてもおかしく無い、

『誰か来た…。』

 ジャスミンが小声で告げる。

 一瞬緊張が走るが、『でも、人間じゃないっぽい。』と続けるジャスミンに、ナミの脳裏に麦わらの一味が誇る船医の姿が浮かぶ。

 が、それを口に出す前に橋の上から覗き込んできた人影によって、ルフィが「うお!!!」と短い悲鳴を上げて水路に落ちる。

 バシャアン!

「ぶあ!!!」当然、ルフィに座る形になっていたゾロを道連れにして。

「…やっぱりチョッパーだったのね。」

「麦わらの一味の人?」

「そ。船医なの。」

「へぇ~。」

「後で紹介するわ。それよりまず、場所を変えないと・・・・。」

 水路であっぷあっぷしているルフィと、それを引っ掴んで歩道に戻ろうとするゾロを見ながらナミがため息を()く。

 

 ~裏町のとある屋根の上~

「チョッパー、お前良くここが分かったな。」

「におい。」

「ああ。」

「ふう…。落ち着いたか…。」

「落ち着いたかって…!!あんたがあんな大勢の船大工に追われてたから、私たちまで巻き込まれたんでしょ!?」

 ゾロの一言にナミが嚙み付く。

「仕方ねェだろ。あんな数の人間相手に見付からねェ方がおかしいぞ。」

「あんったねェ!」

「まあまあ。今、それどころじゃないでしょ?」

 青筋を立てるナミをジャスミンが宥める。

 その様子を見て、ゾロが思い出したように切り出した。

「そう言えば、さっきから気になってたんだが、お前誰だ?」

「あ、おれも聞こうと思ってたんだ。お前、味方なのか?」

「ああ、私は」

「こいつはジャスミン!昨日友達になったんだ!!」

 ジャスミンの言葉を途中で遮り、ルフィがざっくり説明した。

「友達だぁ?」

「おう!こいつすっっっげェ~んだぞ!空飛べるんだ!」

「そう言われれば、さっき浮いてたか……?」

「あんた、気が付いて無かったワケ?」

「それどころじゃなかっただろうが。」

「すげェ!空飛べんのか!?」

 チョッパーだけは目を輝かせて食い付いていたが。

「成り行きで私も麦わらの一味と勘違いされてしまって…。この際なので、出来る限りの協力はさせてもらいます。」

 ジャスミンが軽く補足する。

「そりゃ、災難だったな。」

「改めて。ジャスミンと言います。あなたはロロノア・ゾロさんですね?海賊狩りの。」

「ああ。」

「それから船医の…。お名前を聞いても?」

「おれはトニー・トニー・チョッパーだ!何でおれが船医って知ってるんだ?」

「さっきナミちゃんに聞いたんです。チョッパーくんって呼んでも良いですか?」

「おう、良いぞ!ジャスミンはおれのこと見ても驚かないのか?」

「?何か驚くようなことがありましたっけ?」

「?!だって、おれはトナカイだし、青っ鼻だ!!トナカイは普通喋んねェし、鼻だって青くねェ!」

 どうやらジャスミンのリアクションが予想外だったらしく、驚きも気持ち悪がりもしないのが彼にとってはあり得ないことだったらしい。

「私の故郷では、チョッパーくんみたいな人はいっぱいいましたよ。父の古い知り合いには喋るウミガメも豚もいますし、喋るネコと一緒に住んでました。」

「ウ、ウミガメや豚が喋るのか!?」

「はい。喋るだけじゃないですよ。ウミガメさんは違いますけど、それ以外はチョッパーくんと同じように二足歩行で歩きますし、豚やネコなんかは色んなものに変身出来るんです。」

 亀仙人のところのウミガメや、ウーロンを思い出す。それから、ずっと家族として暮らしていたプーアルを思い出してジャスミンはちょっとしんみりした。

(昔は、良くプーアルにねだって色んなものに変身して見せてもらったっけ……。)

 まだ舞空術が使えない頃は、空飛ぶ絨毯に変身してもらって空中散歩に連れて行ってもらったこともある。まあ、安全を考えて必ず(ヤムチャ)も一緒だったし、せいぜい飛んでも2階くらいの高さだったのだが。

 あの時はまだ、前世のことを思い出して無かったんだっけ、とつらつらと考えていたところで、チョッパーが俯いたまま静かになっていることに気付く。

「チョッパーくん?」

「おれ、おかしく無いか?」

 ともすれば風の音でかき消されそうな程小さな声でチョッパーが問う。

「ちっとも。」

「そっか。エッエッエッエッ!」

 ジャスミンがきっぱりと否定すると、嬉しそうに笑い出す。

 その姿を見て、2人のやり取りを見守るだけだった他の3人もそれぞれ笑みを浮かべていた。

 

「おい。そうだ、サンジは?」

 思い出したようにルフィがチョッパーに聞くが、チョッパーは「それが…。」と話しづらそうに切り出す。

 チョッパーによると、町の中で渦中の人物であるロビンに会ったのだと言う。

 だが、そこで伝えられたのは別離の言葉だった。

 追いかけたが追い付けず、チョッパーはそこでサンジとは別行動となり、今のやり取りをルフィたちに一言一句漏らさずに伝えるように言われたとのことだった。

「本当に言ったのか!!?ロビンがそんなこと!!!」

 ルフィの叫びにチョッパーが無言で頷く。

 全員、言葉が見付からず沈黙が続く中でゾロが切り出した。

「全員…。覚悟はあった筈だ……。」

 カツン、と鞘に納めたままの刀で床を軽く叩く。

「仮にも…、“敵”として現れたロビンを船に乗せた。――――――それが急に怖くなったって逃げ出したんじゃ締まらねェ。()()()()付ける時が来たんじゃねェのか?あの女は、“敵”か“仲間”か…。『事態はもっと悪化する。今日限りでもう会うことは無い』…ロビンは、確かにそう言ったんだな?チョッパー。」

「うん。」

「今日限りでもう会うことはねェってんだから、今日中に何かまた事態を悪化させるようなことをするって、宣言してるようにも聞こえる。市長暗殺()()でこれだけ騒ぎになったこの町で…。事態をさらに悪化させられるとすれば…、その方法は1つだ…。」

「今度こそ…、“市長暗殺”。」

 ゾロの言葉をナミが引き継ぐ。

「そう考えるのが自然だな。――――ただし、わざとおれたちに罪を被せてると分かった以上、これはおれたちを現場へ(おび)き寄せる“罠”ともとれる…。今夜また決行される暗殺の現場におれたちがいたら、そりゃ“罪”は簡単に降りかかる。」

「ちょっと!!それじゃあ、もう本当にロビンが敵だって言ってるみたいじゃない!!」

「可能性の話をしてるんだ。別におれはどっち側にも揺れちゃいねェ。信じるも疑うも…。どっちかに頭を傾けてたら…、真相がその逆だった時、次の瞬間の出足が鈍っちまうからな。ことが起こるとすりゃ今夜だ。“現場”へは?」

 ゾロがルフィへと目を向ける。

「行く。」

 即答だった。

「行くのは構わないけど…。問題があるのよね。サンジくんはロビンが誰かと歩いているのを見たと言ってたでしょ。アイスバーグさんも…、同じ証言をしてるの。“仮面を被った誰か”って。それはあたしたちの誰でも無い。急にロビンが豹変(ひょうへん)したのはそいつが原因なのよ!!」

「そいつに悪いことさせられてるんじゃないか!?ロビンは!!」

 ナミの意見にチョッパーも賛同する。

「その考え方が“吉”。そいつとロビンが()()()()()ってのが“凶”だ。」

 どこまでも冷静にゾロが続けた。

「――――――かと言って“仮面の誰か”じゃなんの手がかりにもならない。あたしたちの目的は何?」

「ロビンを捕まえるんだ!!!じゃなきゃ、何もわかんねェよ。」

 立ち上がり、ルフィが断言する。

「確かに…。考えるだけ時間の無駄だな。……だが、――――確か…。世界政府が20年…、あの女を捕まえようとして未だ無理なんだっけな…。」

「でも、真相を知るにはそれしか無いわね。」

「よし!おれも頑張るぞ!」

「じゃあ、行こう。」

 4人が立ち上がる。

「話は纏まったみたいだね。」

 それまで口を噤んでいたジャスミンが口を開く。

「おう。ロビンに会わなきゃなんねェ。」

「じゃあ、ここからは別行動にしようか。」

「え!?ジャスミンは来ないのか!?」

 チョッパーがジャスミンに詰め寄る。

「ルフィくんたちはニコ・ロビンさんを第一の目標にするんでしょ?なら、私は“仮面の誰か”を探すよ。」

「探すって言ったってどうする気?」

 ナミが尋ねる。

「今夜、ルフィくんたちとは違う場所でガレーラカンパニー本社を見張るよ。ニコ・ロビンさんが現れたなら、たぶんその“仮面の誰か”も現れる。でも、ルフィくんたちがそこにいるのに最初から最後までずっと一緒に行動するとは限らない。むしろ、二手に分かれる可能性の方が高いと思う。それにその“仮面の誰か”が1人だけとは限らないでしょ?」

「他にも仲間がいるってこと?」

「うん。さっきも言ったでしょ?黒幕は世界政府かもしれない。」

「あ……!」

「世界政府が何だって市長暗殺なんか…。」

 先程の話を知らないゾロが眉を寄せる。

「後で説明したげるわ。ジャスミン、続けて。」

「それが当たっているなら、必ず相手は()()()()()動いている筈。政府じゃなくても、ここまで騒動を起こすなら相手は個人じゃなくて何らかの組織に所属してる可能性が高いと思う。相手の目的がわからない以上、仮にニコ・ロビンさんが脅されて従っているにしても、(ある)いは実は敵だったにしても、対処の仕様が無いでしょ?状況次第じゃ、この場は凌げたとしても大本を絶たないと同じことの繰り返しになる可能性だってある。」

「それはそうだけど…。」

「お前なら突き止められるってのか?」

 言葉に詰まったナミに変わり、ゾロがジャスミンに尋ねる。

「少なくとも私のことをニコ・ロビンさんは知りません。ルフィくんたちと行動していたのも、さっき1番ドックでが初めてなので、気取(けど)られる心配は無いと思います。私1人だったら人目もどうにでも出来ますし…。」

「なるほどな。」

「ただ、私は仮にアイスバークさんが再び襲われても手を出すつもりはありません。必ず守ってください。」

「?どういう意味だ?」

 ルフィが首を傾げる。

「この騒ぎを引き起こした相手の正体と、その目的を知りたいの。もし、相手が私が考えているように世界政府だったら、小手先だけの防衛は意味が無い。もし、その目的がはっきりしないまま相手の良いように踊らされちゃったら、全員罪人として捕まる可能性だってあるからね。」

「良くわかんねェよ。」

「つまり、相手のことを調べる為に私は出来るだけ手を出さないってこと。本当にルフィくんたちが危なくなったら手を出すかもしれないけど、よっぽどのことが無い限り一切手は出さないつもりだから。相手に知られちゃったら調べられなくなっちゃうし・・・・。」

「おう!わかった。」

「っつーかお前、そんなに強ェのか?」

「まあ、偉大なる航路(グランドライン)を1人で旅しても困らない程度には強いつもりです。」

「お前そんなに強いのか!?」

 ゾロの疑問に答えたジャスミンを見て、チョッパーがちょっとのけ反る。

「数ヵ月前までは賞金稼ぎみたいなこともしてたので…。」

「あんたそんなことしてたの!?」

「ある程度旅の資金が必要だったから…。資金が貯まってからは、襲われた時だけ返り討ちにしてたの。」

「そう言われると、さっき町の人たちに襲われた時も全員一撃で気絶させてたわね……。」

「へェ。」

 ゾロがわずかに興味を持ったらしく、面白そうな顔をする。

「まあ、それは置いといて…。ここからは別行動ってことで良い?」

「おう!良いぞ!」

「じゃ、後でね。」

 バッ!ヒュウゥゥ…

 ルフィの許可を得て、日が暮れるまで身を隠すべく、屋上から飛び降りる。

「ちょ…!」

「落ちたぁぁぁぁぁ?!」

 タンッ!トッ!タンッ!

 ナミとチョッパーが慌てて下を確認すると、ジャスミンが屋根を次々と跳躍し、中心街へと向かって行くところだった。

「やっぱスッッッゲェなぁ~、アイツ。」

「やるじゃねェか。」

 ナミとチョッパーが呆然と見送る中、ルフィとゾロが楽しそうにジャスミンを見送る。

 

「さて、と…。日が暮れるまでどっかで休んどかないと……。」

 シャッ!シャッ!

 ある程度ルフィたちから離れたところでスピードを上げる。常人の目には捉えられない程に。

 島の中心に(そび)える“水の都”を主張する巨大な噴水の近くに身を隠す。

 さっきルフィたちに告げたことは本心だった。ジャスミンは、この島では手を出すつもりは無い。

 相手は世界政府。今この場を何とかしたとしても、手を変え品を変え同じことをしてくるだろう。

 それを防ぐ為には、1度完膚無きまでに大本を叩くしか無い。

 今回最善なのは、本来の流れの通りに世界政府に宣戦布告した(のち)、相手の戦力を削ぐことである。

 実際に政府の目的をはっきりさせたかったのも本心だが、それ以上に目の前でルフィたちが攻撃されるのを黙って見ていられる自信は無い。

 もし、この場で政府からのスパイ(相手は恐らく噂の通りCP9(シーピーナイン)だろうが)を全滅させてしまったら、本来の流れとは違った道を進み、結果的にルフィたちを危険に晒す危険があった。

 その代わり、宣戦布告した際には暴れてやるつもりだったが。

 この世界に来て半年。ジャスミンも世界政府のやり方は気に入らないのだ。

 10数年前に読んだ漫画の内容は既にほとんど覚えていないが、実際にこの半年間見聞きして世界政府の掲げる“正義”には疑問を抱いていた。無論、ちゃんと一般人のことを考えている誠実な海兵もいたが、それ以上に私欲を肥やす海兵を見て来た。

(それに、うろ覚えだけど今回の敵役ってかなり下種(ゲス)な役人だった気がするし…。)

 別に“正義”を気取る訳では無いが、実際にルフィたちと知り合い、友達になったことで、力になりたいとすら考えるようになっていたのである。

 




用語解説
喋るウミガメ…ドラゴンボールの主人公・孫悟空の師匠である亀仙人と一緒に住んでいるウミガメ。亀仙人がわりかし適当な性格をしているからか、真面目な性格。

喋る豚…悟空の少年時代からの仲間で名前はウーロン。変身能力があるが、3分間しか保たない上に例えば怪獣に変身しても強さは元のまま。ドスケベだが、そのドスケベが世界を救ったことがある。実は作中で1番最初にドラゴンボールで願い事を叶えたのはコイツ。

喋るネコ…名前はプーアル。変身能力を持つ。見かけはふよふよと空を飛ぶネコだが、鳥山先生曰くネコでは無く、ネコっぽい生き物とのこと。ジャスミンの父・ヤムチャを「ヤムチャ様」と呼び慕っており、この小説ではジャスミンのことも様付けで呼んでいる。ウーロンとは異なり、変身しても時間制限は無い。
昔からジャスミンのことを可愛がり、良く遊んでやっていた。が、まだ未登場。ミカヅキはプーアルを早く本編に出したくて仕方が無い。


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第15話 役者が揃う時

こんばんは。お待たせしました!第15話更新です。今回、ちょっと短めです。もっと書こうかとも思ったんですが、変に長くなりそうだったので、キリの良いところで一旦切らせていただきました!
そしていつの間にかお気に入り登録が300件を超えていて「ウソやろ…。」とガチでプルプルしているミカヅキです。感想もありがとうございます!今後のネタバレになる可能性もある為、思ったような返信が出来ませんが、嬉しくてニヤニヤしながら見ております。
そんな訳で15話へどうぞ!16話は1週間経たないうちに更新出来ると良いな…。←願望


 ヒュオオオォオォオ…

 ビュオオォオォオオォォ…

(風が強くなってきたな…。)

 既に日は暮れ、ガレーラカンパニー本社の周囲は船大工たちが警備を固めている。

 ジャスミンは本社敷地内に植えてある木のうち、1本に完全に気を消して身を隠していた。

 少し離れた所からルフィたちの気も感じる。

 いつ動きがあるか、と少し焦れ始めた頃だった。

 ドォン!!!

(!来た…!)

 本社の入口近くで爆発が起き、その周辺を固めていた船大工が何人かその衝撃で吹っ飛ぶ。

「何だ!!?」

「砲撃か!!?」

 途端に敷地内に詰めていた船大工たちが騒ぎ出す。

 そして間も無く、頭をすっぽりと覆う仮装用の仮面を被った人物が現れる。

「人影が見えた!!!」

「仮装してるぞ!!!捕まえろ!!!」

 入口付近の船大工たちを引き付けるように動き、鞭を操って屋上に飛び移る。

(囮か……。)

「こっちからは2人だ!!!」

「逃がすな!!!」

 そして、最初に現れた人物とは別の、熊の仮面を被った人間と細身の人間が2人、別の方向に走っている。

(たぶん、あっちの細身の人がニコ・ロビンさんかな。)

 シャッ!シャッ!シャッ!

 船大工たちは仮面の人物たちを追うのに気を取られているが、念の為気付かれないように常人の目には捉えられない程度のスピードで移動し、別の木の上に身を隠す。

「追い詰めたぞ海賊共ォ!!!」

「逃げられねェさ!!観念しろォ!!!」

「良くもこの数の護衛の中に堂々と現れやがったもんだ!!」

「素顔を見せろ!!!」

 ジャキキン!!

 各々(おのおの)銃を構え、壁際に追い詰めた船大工たちだったが、客観的に見ていたジャスミンからは、2人が敢えてそこに船大工たちを誘い込んだようにも見えた。

 ス・・・!

 熊の仮面を被った方が懐に手を入れ、船大工たちが殺気立つ。

「何かする気だ!!!」

「撃て!!!」

 ばさっ!!!

 銃撃が始まる一瞬前に、熊の仮面を被った方がマントを(ひるがえ)し、2人の姿を隠す。

 ドドドドドドドォン!!!

 船大工たちが一斉に銃を発射する。

 シュウウウ…

 パサ…

 10数発の弾丸がマントをボロボロにしていくが、後に残ったのはマントの残骸のみだった。

「!!?」

「……消えた…。」

(今、空間に穴が開いた?)

 船大工たちのように正面では無く、少し斜めから見ていたジャスミンには、銃撃が始まる直前に2人が背にした壁の手前に穴のようなものが出来たのが見えていた。

 銃撃とほぼ同時に2人はその穴に飛び込み、すぐに穴が塞がった。船大工たちから見れば2人が突然消えたように見えただろう。

 穴に入った直後は気を感じ取ることが出来なかったが、それからすぐにガレーラカンパニー本社の中に2人の気が現れる。

(悪魔の実かな?)

 恐らく、空間移動系の能力を持つ能力者なのだろう。

 もう1人の“鞭使い”の方は派手に暴れているようで、船大工たちはそっちへの応援と消えた2人組の探索に人数を割いている。

 ただ、問題なのは“鞭使い”があちこち移動しながら暴れているせいで、本社内に侵入するのが難しい、という点である。

 その気になれば気取られない程度のスピードで侵入することも不可能では無いだろうが、入口付近は常に何人かが固めている上に絶えずうろうろと移動している為、下手すればぶつかる可能性もある。

 そんなに間抜けではない、と自分を信じたいところだが、常人よりもかなり大柄な男たちに入口を固められてしまうと通り抜けるスペースが心配なのだ。

 しかも、本社の窓は見える範囲では全て()(ごろ)しになっているようで、外から侵入するには昼間のルフィのように窓をぶち破るしか無い。侵入出来ても注目を集めてしまったら意味が無いのだ。

(この場合仕方無いか…。)

 ブウゥ…ン!

 手のひらを上にして気を集中させ、球体状の気弾を作り出す。

(繰気弾(そうきだん)!)

 ギュンッ!

 船大工たちに見付からないように1度頭上高く打ち上げ、人差し指と中指を立てて気弾を操り、本社の屋上の上空30mくらいのところに移動させた。

(はっ!)

 ドッゴォン…!

 そのまま気弾を一気に下降させ、屋上に着弾させる。

「何だ!?」

「屋上が爆発したぞ!!」

(よし!)

 入口付近に固まっていた船大工たちが屋上を見上げる。

 シュッ!

 その隙を見逃さず、一気に加速して本社内に侵入する。そのままスピードを緩めず、気の少ない方へと移動した。

 船大工たちはせいぜい風を感じた程度だっただろうが、今日はアクア・ラグナの接近で絶えず強風が吹き荒れている。気にする者はいなかっただろう。

(さて、さっきの2人組は・・・、と。)

 どうやら既にアイスバーグと接触してしまっているらしい。アイスバーグの気が乱れ始めている。

 それと同時に、3階で次々と船大工たちの気が弱くなっているのが分かった。一定のところから小さくなることは無い為、どうやら気絶しているらしい。

(この気はさっきの熊男?かな。)

 しかも、船大工たちを襲っているのは1人では無い。あと2人、次々と船大工を沈めている者がいる。

(昼間のスパイか…!)

 1番ドックで会った船大工、鳩の男(ルッチ)鼻の長い男(カク)に間違い無い。

 既に2階以上に動いている船大工はいなかった。

(ん?)

「ルフィくん?」

 何故かその2人のスパイがいるところにルフィが外から勢い良く突っ込んでいったのがわかった。

 が、別に交戦している訳では無いようで、2人がすぐに部屋を出て行ったのに対し、ルフィはその場所に留まっている。特に気が弱まっている訳では無く、どうやら足止めされているらしい。

(あれ?もう1人いるな…。)

 よくよく気を探ると、ルフィの他にももう1人いる。

「葉巻の人?」

 昼間1番ドックにいた、葉巻の男(パウリー)に間違い無い。ある程度弱っているが、命に別状は無いようだった。さっきの2人に敗れたのだろう。

 様子を見てから行こうとも思ったが、既にアイスバーグのところにさっきの2人が向かいつつある。

(元気みたいだし、ルフィくんなら大丈夫かな。)

 ここはアイスバーグのところに向かった方が得策だろう。

(確か漫画では殺されなかった筈だけど…。)

 しかし、ここには自分(ジャスミン)がいる。何かがきっかけで原作(本来)とは違う運命を辿ってしまったなら…。

 もし、流れが変わりそうになったなら助けなければいけない。

 ジャスミンはスピードを上げた。

 

(見付けた……!あの部屋!)

 大きな扉の前に5つの椅子が並び、その前の廊下にはそれまでの比ではない数の船大工たちが倒れている。

(全員生きてはいるみたいだけど…。)

 気を消したまま扉の前に張り付き、中の様子を伺う。

『お前ら…、政府の人間だったのか………!!』

『そう…。潜伏することなど我々には造作も無い任務。……しかし、あなたの思慮深さには呆れて物も言えない…!!!古代兵器プルトンの設計図。――――――その在処(ありか)…、多くの犠牲者を出す前にお話しください。』

 恐らくアイスバーグだろう声と、聴いたことの無い男の声が聞こえる。

(古代兵器プルトン?設計図ってことは、世界政府の狙いはそれだったのか…。でも、何でまたニコ・ロビンさんまで一緒に……?)

 聞き耳を立てているジャスミンが色々と推測しているうちに、信じられない情報が耳に飛び込んでくる。

『我々は…、政府に対して非協力な“市民”への“殺し”を許可されている。』

(殺しを許可?!一部の人間の暴走じゃなくて、組織全体でそれを許可するなんて……。そこまで腐ってるとは思わなかったな…。)

 この展開はまずい。設計図の隠し場所がわかったら、すぐにでも彼らはアイスバーグを殺すだろう。

 しかも、中のやり取りを聞く限り彼らは既に設計図の在処(ありか)に見当を付けているらしい。

(まずいな・・・。アイスバーグさんが危ない。踏み込んだ方が良いかな…。)

『トムのもう1人の弟子、「カティ・フラム」は生きている……。今もこの町に…。「フランキー」と名を換えて!!!』

(!フランキーがアイスバーグさんと兄弟弟子?!そうか、だからさっきまであんなに強気だったんだ…。生きていることすら知られていなかった相手に、既に肝心の物は託していたんだから!)

 これ以上はまずい。彼らは何のためらいも無くアイスバーグを殺すだろう。

 ニコ・ロビンが彼らに加担している理由までは探れなかったが、人命には代えられない。

(行こう……!)

 ジャスミンが室内に踏み込もうと拳を構えた時、ダダダダダダ!と廊下を走る音が聞こえて来る。

「この気は…!」

「あそこ!!あの扉で間違い無いわって、ジャスミン!!!」

「ナミちゃん!」

 気が小さ過ぎたのと、話に夢中になっていたのが合わさり、全く気が付かなかった。

「人がいっぱい倒れてるぞ!!」

「アイスバーグさんが危ない!!世界政府の奴ら、完全にアイスバーグさんを殺す気なんだ!」

「ゾロ!扉斬って突進よ!!!」

「おれに命令すんな!!」

 文句を言いながらもゾロが扉を両断した。

 ピキ……!!!ドッカァン!!!

 ゾロが扉を両断したのとほぼ同時に、ルフィが隣の部屋から壁をぶち破って来た。

「ロビンはどこだ~~~~~~!!!!」

「やっぱりルフィくんだったのか…。」

 ガラガラ……

 ズズゥ…ン

 扉や壁の残骸が崩れる中、ドオォ…ン!!!と遂にCP9と主人公(ルフィ)、そして主人公(ジャスミン)が揃う。

 

 本来加わる筈も無かった原作(運命)の流れの中、主人公(ジャスミン)はどんな足跡を残すのか。

 それはまだ、誰も知らない。

 彼女自身でさえも……。

 

 

 

 

 

 




用語解説
・繰気弾…元々はジャスミンの父・ヤムチャの技。気を手のひらで集中させて気弾を作り、それを指で自由自在に操る技。ただの気功波とは異なり、放ってからも自由に軌道を変えることが出来る為、ミカヅキとしては実に汎用性に長ける技だと考える。連載当初から早く使わせたくて仕方なかった技の1つ。


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第16話 友の裏切り!世界政府の闇

お待たせしました!第16話更新です。さて、今回は大まかな流れはそのままに若干展開を変えています。そのまま原作なぞっても面白く無いので、ちょこちょこ二次創作らしく変更させていただきました。


「ロビン!!!!やっと見付けたぞ――――――!!!」

「…………!!」

 ルフィの叫びに、ロビンは声を詰まらせた。

「おい!!ルフィ!!!てめェ一体どこに居やがったんだ!!!」

「………!!ちょっと待って。この状況何!?」

「やれやれ……。」

 ゾロとナミの叫びに、鳩を肩に乗せた男が呟く。

(!さっきの声、あの鳩男だったんんだ・・・。)

「麦わら……。パウリー……………!!!」

 ベッドの脇に倒れたアイスバーグが掠れた声を出す。

 ジャスミンがその傍に駆け寄って傷の具合を見る。

「左肩に銃創(じゅうそう)が一発…。幸い、弾丸は貫通してる……。顔面にも一発食らったみたいですけど、顎は大丈夫みたいですね…。眩暈(めまい)や吐き気はありますか?」

「多少視界が揺れるが問題ねェ…。」

「軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしてるみたいですね…。しばらくは起き上がらずにこのまま安静にしてください。」

 肩の傷の止血をしながらアイスバーグに告げる。

「あァ…。ところであんたも麦わらの一味か?」

「いや、私は……。」

「アイスバーグさん……。こりゃ、一体何がどうなってるんですか!!!」

 ジャスミンが否定しようするが、それに被せるようにパウリーが叫んだ。

「………!!…パウリーてめェ、なぜ逃げねェ!!!」

「何なんですか…!!!まるでこいつらが…………!!!あなたの命を狙った犯人みてェに……………!!!お前ら何でそんな恰好してんだ………!!!」

「………。」

「………。」

「おい!!カリファ!!ブルーノ!!カク!!!ルッチ!!!冗談やめろよ、てめェら!!!」

 パウリーの叫びに、CP9は一切答えない。

「……………そうだ!!あいつらお前と一緒にいた船大工だ!!鳩の奴だ!!」

「そういや、あの四角っ(ぱな)知ってるぞ!」

「……まさか、“暗殺犯”が内部にいたってこと!?」

「パウリー……。実は、おれ達は世界政府の諜報部員だ。まァ、謝ったら許してくれるよな……?共に日々…、船造りに明け暮れた仲間だおれたちは…。突然で信じられねェなら、アイスバーグの顔でも……、踏んで見せようか………!!」

「……!!!ふざけんな…、もう充分だ!!!…ハァ…。()()()()()()“牛仮面”の声が…、お前の声と一致するからな!畜生…!!!…てめェ……!!!ちゃんと喋れんじゃねェかよ!!!バカにしやがって!!!」

「やめろパウリー!!!」

 激情のままにルッチに挑もうとしたパウリーをアイスバーグが止めようとするが、遅かった。

「“パイプ・ヒッチ・ナイブス”!!!」

 ドヒュン!!

 ジャラララララ!!!

 懐から取り出した、ナイフが括り付けられたロープがルッチに向かうが、それは空を切った。

 ビュッ!!!

 シャッ!!

指銃(シガン)

 シュンッ!

 ガシッ!!

「危ないな…。」

 ルッチの一撃がパウリーの体を貫く、筈だった…。

 しかし、その一瞬早くジャスミンがルッチの手首を掴んでそれを阻止する。

「何!?」

「一般人相手に手段を選ばないなんて……。世界政府は随分余裕が無いらしいね。…あなたはアイスバーグさんの傍にいてください。」

 後半をパウリーに向かって告げる。

「あ、ああ…!」

 パウリーがアイスバーグの傍に膝を付いたのを確認し、ルッチに向き直る。

 その間も、ルッチを拘束する手は全く緩まない。

「…!」

「ルッチの一撃を…?!」

「ジャスミン!?」

「今、動きが見えなかったぞ!?」

 一瞬でアイスバーグの傍から移動したジャスミンにナミとチョッパーが驚愕し、CP9の警戒が一気に高まるのが分かった。

「貴様……!何者だ……!!!」

「どんな答えを聞けば納得する?」

 ドン!

 唸るようなルッチの問いに、ジャスミンは答えをはぐらかしながらルッチを突き飛ばした。

「ふざけるな!おれ達はCP9。幼少期より人界(じんかい)を超える技を体得している。人体を武器に匹敵させる武術“六式(ろくしき)”、これを極めた1人の強度は百人力に匹敵する!おれの“(ソル)”の速度を上回り、“指銃(シガン)”を止めるなどという芸当が普通の人間、それも貴様のような小娘に出来るものか!!」

「修行が足りないんじゃないの?」

「何だと・・・・!」

 飄々(ひょうひょう)と返すジャスミンに、ルッチを始めとしたCP9の警戒は一層強くなる。

 直接ジャスミンと相対したルッチは何かを感じ取ったのか、わずかにジャスミンから距離を取った。

「お前ら!一緒に船大工やってたんじゃねェのかよ!!!」

「―――――さっきまでな…。もう違う……。」

 ルフィの叫びに頭が冷えたのか、ルッチが先程までの冷徹さを取り戻した。

 それを見て、ジャスミンも評価を改める。

(流石にプロ…。簡単にこっちのペースには持っていけないか…。)

 やはり、一筋縄ではいかない。上手くいけば標的をジャスミン(こちら)に移せるかもしれない、とも考えたが一時の感情に支配される程甘くは無いらしい。

(やっぱり、その辺の海賊と同じようにはいかないみたいだ。)

 原作通り、世界政府相手にケンカを売るのが1番確実な方法の様だ。

 

「本当に裏切り者か!!!じゃ、良いよ!とにかく、おれはコイツと一緒に!!アイスのおっさんを殺そうとしてる奴らをブチのめそうと約束したんだ!!!」

「…何故、お前がパウリーに味方するんじゃ…。」

「おれもお前らに用があるからだよ!!!おい、ロビン!!!何でお前がこんな奴らと一緒にいるんだ!!!出て行きたきゃちゃんと理由を言え!!!」

「そうよ!!こいつら政府の人間だって言うじゃない!!どうして!!?」

 ルフィの叫びにナミも賛同する。

「……聞き分けが悪いのね。…コックさんとと船医さんにお別れは言った筈よ…。伝えてくれなかったの?」

「……!!伝えたよ!!だけどおれだって納得できねェ!!何でだ!!?ロビン!!!」

「私の願いを叶える為よ!!!あなたたちと一緒にいても決して叶わない願いを!!!……それを()()げる為ならば私は、どんな犠牲も(いと)わない!!!」

「―――――それで…、平気で仲間を暗殺犯に仕立て上げたのか?願いってのは何だ!!」

「話す必要が無いわ。」

 チョッパーの叫びやゾロの問いかけにも、ロビンは冷たく返す。

 ただ、それはこれ以上踏み込んで欲しくない、という懇願のようにも見えた。

「正気の沙汰(さた)じゃねェ…!!その女は……!!気は確かかニコ・ロビン!!!」

「あなたにはもう…、何も言う権利は無い筈よ。」

 ロビンが口を挟んだアイスバーグを睨み付ける。

「黙っていなさい!!!」

 グキッ!!

「ぐあァ!!!」

「アイスバーグさん!!」

 ロビンが能力を使ってアイスバーグの腕を捻り上げた。

「誰にも邪魔はさせない!!!!」

「おいロビン!!何やってんだ!!?お前本気かよ!!!」

「ロビンどうしちゃったんだ!?本当にもう…、敵なのか!!?ロビ――――ン!!!」

 ルフィとチョッパーの悲痛な叫びにも、ロビンは応えない。

「悪いがそこまでにして貰おう…。我々はこれから“重要人物”を探さなきゃならないんだ。急いでいる。この屋敷にも、もう用は無いし……。…君らにももう完全に用が無い。カリファ、後どれくらいだ?」

「……2分よ。」

 ルッチの問いにカリファが答える。

(CP9のリーダーはこの男か…。)

「突然だが…。後2分で、この屋敷は炎に包まれることになっている。」

「何だと!!?」

「色々な証拠を消すのに炎は有効な手段だ。…君たちも焼け死にたくなければ、速やかに屋敷を出ることだ。まァもちろん…、それが()()()()の話だが。」

 ルッチの言葉に応えて、ルッチ以外のCP9の3人が並び立った。

「―――――どうやらおれたちを消す気らしいな。「ニコ・ロビン」も向こうにいたいようだが…。ルフィ、お前ロビンの下船(げせん)にゃ納得出来たのか?」

 刀に手をかけながら、ゾロが船長たるルフィに問いかける。

「出来るかァ!!!!」

 

「1階のいくつかの部屋から、(じき)に火の手が上がる…。まァ、犯人は海賊なんだ……。そんなこともあるだろう。」

 先程ブルーノと呼ばれていた男が口を開く。

「人の仮面を被って好き放題なんて趣味悪いわね!!」

「元々汚れた仮面に不都合も無かろう。」

 ナミが吐き捨てるが、CP9たち(彼ら)は一向に意に介さない。

「さっきから聞いてれば、随分と好き勝手に言ってくれるね。こっちこそ、そう簡単にここから逃がすとでも?」

 ジャスミンが1歩踏み出すと、CP9が全員戦闘態勢に入る。

 さっきルッチの一撃を止めたことで、自分(ジャスミン)の存在を警戒しているらしい。

「ブルーノ!お前はニコ・ロビンを連れて先に行け!」

「!わかった。」

 ルッチに応えてブルーノが瞬時に動き、まるでドアのように空間を開く。

 ガチャ…

「入れ。」

「――――じゃ、私は先に行かせてもらうわ。」

「待て!!!ロビン!!!認めねェぞ!!!」

「さようなら…。」

 パタン…

 ルフィの叫びにも振り返ること無く、ロビンはブルーノと共に空間に出来たドアの中に消えて行った。

「ウソ……!」

「消えたァ?!」

 ナミとチョッパーが驚愕の声を上げる。

「悪魔の実…。空間移動系の能力者みたいだね。」

「その通り。ブルーノは“ドアドアの実”の能力者。その真骨頂(しんこっちょう)空気開扉(エアドア)”によって先にこの場から離脱させてもらった。」

「…真っ先にニコ・ロビンさんを離脱させるなんて……。仲間意識からとは思えないけど。目的は?」

「貴様らに答える義理は無い!!」

「そう。でも、何か目的があってニコ・ロビンさんを連れて行ったのはわかったよ。……意外とウソが吐けないタイプだったりする?」

「貴様……!」

「目的、ですって……?!」

 ジャスミンの挑発に乗ったルッチにナミが反応した。

「そんなもん、どうだって良い!ロビンはどこだァ!!!」

 ガン!!

 言葉と同時にルフィがルッチに殴りかかるが、ルッチの体はビクともしない。

「……!!何でコイツらこんなに体硬ェんだ!!?」

「鍛え上げた我らの肉体は“鉄の甲殻(こうかく)”にまで硬度を高められる。」

「どこだって言ってんだ!!!

 ビュビュビュビュビュビュビュッ!!!

「“紙絵(カミエ)”。――――――しかし、受けるばかりが能じゃなく。」

「うわ!!全然当たらねェ!!」

「まるで紙みたいにヒラヒラと……!!」

「この・・・!!!“ゴムゴムの”…!!“銃弾(ブレット)”!!!」

「“(ソル)”」

 ヒュン!!!

 スカッ!!

「また消えた!!」

 ルフィの目には消えたように見えただろうが、ジャスミンの目にはしっかりとその動きが見えていた。

「後ろだ!」

「―――――消えたように見える程の爆発的な脚力があれば…。」

「にゃろ!!!」

「“月歩(ゲッポウ)”」

 スカッ!!

(くう)を蹴り、浮くことも出来る。」

 ジャスミンの言葉に反応し、すぐに後ろを殴るルフィだったが、それより早くルッチが空中に逃れる。

「飛んでる!!!」

(へぇ。純粋な脚力のみで空気を蹴り付けて反動で跳び上がってる。)

 チョッパーの目が驚きで飛び出そうになっているが、ジャスミンは冷静に分析していた。

「「更に」」

 カリファとカクがルフィの隙をついて背後に迫る。

「「“嵐脚(ランキャク)”!!」」

 ガッ!

 正確にルフィの腹部を狙っていた2人の蹴りを、瞬時に割り込みルフィを突き飛ばしたジャスミンが右脚で受け止め、その勢いで弾き飛ばすと同時に叫ぶ。

「伏せろ!」

 唯一その警告の意味を理解したのはゾロ唯1人だった。

 キィ――――――…ン!!!

 耳鳴りのような甲高い音が響く。

(斬撃か!!?)

「お前ら伏せろ!!!」

 理解すると同時にナミとチョッパーに叫んだ。

「何で!?」

 ズバン!!!

「きゃあ!」

「わー!!!」

 間一髪で身を伏せるが、背後の壁は真一文字に斬り裂かれた。

「うあう!!」

 ドサァ!

 突き飛ばされた勢いでルフィが床に叩き付けられるが、そのお陰で斬撃の軌道からは外れていた。

「ルフィ!!」

「蹴りで壁が斬れたの!?今!」

「“鎌風(かまかぜ)”を呼び起こす速度があれば可能…。それが“嵐脚(ランキャク)”。」

 後方に跳んで勢いを殺し、難無く着地したカリファがナミの疑問に答えた。

「ロロノアさん!ダメだ!」

「……!!」

 ドビュ!!!

 ジャスミンの警告を聞かず、ゾロが間髪入れずにカクに迫る。

「!」

 ギィン!!!

 ゾロの一撃を、カクものこぎりで受け止めた。

「ルフィくんも下がって!」

「このォ!!!」

 ガッ!

 ルフィもルッチに向かって行くが、顔面を掴まれ動けないでいる。

「ルフィが簡単に捕まった…!!」

 ドドドッ!!!

「ゾロ!!!」

「ロロノアさん!」

「“指銃(シガン)”」

 カクの指がゾロの体を撃ち抜き、ゾロが床に倒れ込む。

 ドサッ…!!!

「人体を撃ち抜くのに、弾丸なんぞいらん。」

 ヒュッ!!

 ドゴォン!!!

 ルッチが捕まえていたルフィを壁に叩き付けた。

「ルフィ!!」

「ゾロ!!!」

「………何なの…?あいつらの強さ…!!!」

「何者なんだ。てめぇら…!」

 ナミが呆然と呟き、パウリーもアイスバークの傍らでルッチたちに向かって問いかける。

「……環境が違う……!!我々“CP9”は物心付いた頃より、世界政府の為に命を使う覚悟と、“人体の限界”を超える為の訓練を受けてきた……。そして得た力が6つの超人的体技(たいぎ)六式(ろくしき)”。良く身に染みた筈だ。世界政府の重要任務を任される我々4人と…、たかだか(いち)海賊団のお前たちとの、桁違いの戦闘力の差が…!!!―――――この一件は世界的機密事項。お前たち(ごと)きが手を触れて良いヤマではない!!」

 言い切ったルッチに、実際にルフィやゾロが歯も立たなかったのを目の当たりにしたナミやチョッパーは声も出ない。

 ルフィやゾロも、身を起こしはしたもののダメージは大きかった。

「ルッチ、発火装置も作動の時間よ。私たちも急がなくては…。」

「あァ。」

 カリファの声にルッチが頷く。

 そのまま、(とど)めを刺す必要は無い、と言わんばかりにCP9が立ち去ろうとした時だった。

「超人的体技(たいぎ)、ね……。その程度の()()なら、私にだって出来るよ。」

 場違いな程に(すず)()な声が響いたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘シーンは時間があったら手直しがあるかもしれないです…。


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第17話 VSルッチ 

お待たせしました!第17話更新です!今回もやや戦闘シーンがありますが、相変わらず微妙な仕上がりとなっております……。


「曲芸、だと…!?」

 ジャスミンの挑発にルッチが唸るような声を上げた。

「曲芸じゃないなら大道芸かな?この程度の体術、出来る人間なんてゴロゴロしてるよ。実際、さっき攻撃の手を止められたのは誰だったっけ?」

 肩を(すく)めながらジャスミンが続ける。

「あれが、おれの本気だとでも?」

「へぇ、だったら見せてよ。その本気ってヤツをさ……。」

 ジャスミンにしては珍しく挑発を続けているのは、別にルフィたちの為では無かった。

 いや、最初は確かにルフィたちからジャスミン(自分)に標的を移せないか、と(あお)っていたのだが、段々とルッチたちの態度が鼻に付いて来たのが原因である。

 元々ジャスミンは前世の記憶を取り戻す前から武道に親しみ、鍛錬を積むと同時に礼節を学んできた。

 その中には、意味も無く力をひけらかしてはいけない、というものや、破壊の為に用いてはいけない、という教えも含まれていた。

 (ちな)みに、そうした心得を最初にジャスミンに教えたのは、何を隠そう亀仙人である。かつては武天老師とも呼ばれたその人は、普段はドスケベで割としょうもないお爺ちゃんだが、そうした武道に関しては真摯(しんし)な姿を見せるのだ。だからこそ、直弟子(じきでし)たる悟空やクリリンだけでなく、(ヤムチャ)や天津飯も今尚(いまなお)慕い、尊敬しているのだが。

 

 閑話休題

 

 つまるところ、武道とは力の誇示では無く、誰かを守る為にこそある、とも教えられたジャスミンにとって、殺しの為だけに腕を磨き、尚且つ人を見下した態度を節々に出すルッチたちCP9、及びその大本である世界政府は既に嫌悪の対象に成りつつなっていたのだ。

「ジャ、ジャスミン!あんた何挑発してんのよ?!」

 ナミが小声で訴えるが、わずかに遅かった。

「――――――そんなに言うなら、せっかくだ。最期(さいご)に…、面白いものを見せようか…。」

 ルッチが言うと同時に、その身体(からだ)がミシミシと音を立てながら大きくなっていく。

 メキメキ……!

「………!?」

「え………!??」

「うわあああああ!!!」

 体躯は3倍近い大きさに膨れ上がり、天井に迫る。腕や顔は毛皮で覆われ、爪は獣のそれと化した。

「ルッチ…!!!てめェは一体……!!!」

「“悪魔の実”……!!!」

「何の実だ!!?」

「“ネコネコの実”モデル“(レオパルド)”」

「……!!“ヒョウ人間”か…。」

「でけェ!」

「……!!!ヤバイ…。“肉食”の動物(ゾオン)(けい)は凶暴性も増すんだ!!」

 ゾロやルフィも呆然とし、チョッパーが震えながら叫ぶ。

「“自然系(ロギア)”“動物系(ゾオン)”“超人系(パラミシア)”。特異な能力は数々あれど…、自らの身体能力が純粋に強化されるのは“動物(ゾオン)(けい)”の特性…!!鍛えれば鍛える程に“力”は増幅する。迫撃(はくげき)において“動物(ゾオン)(けい)”こそが最強の(しゅ)だ!!!」

「何だ…、この姿…!!!」

 パウリーが呆然と呟いた時だった。

 微かに人の声が聞こえてきたのは。

(!まずいな。人が上がってきた……!)

 恐らく、火が回り始めたことで外にいた職人たちが中の異常に気付き、アイスバークの安否を確かめに来たのだろう。

「ルッチ、職人たちが上がって来るわ!」

「なァに、来れやしない…。“嵐脚(ランキャク)”。」

 ビュッ!!

 カリファの言葉に応えるや否や、ルッチが壁に向かって嵐脚(ランキャク)を放つ。

 パキ…!!

「え!?」

 ルッチの嵐脚(ランキャク)によって、壁一面に亀裂が走った。

「ちっ!」

 ぐいっ!

「きゃ!」

「うわ!」

 思わず舌打ち、壁の近くにいたナミとチョッパーを回収する。

 ドゴゴゴゴォ…ン!!!

 バキバキ!

 がラララ…!!

 ドス―――――ン……!!!

 直後までナミたちが立っていた場所を崩れた瓦礫(がれき)が圧し潰した。

「助かった…。」

「あ、危なかった…!ありがとう、ジャスミン…。じゃない!あんた何挑発してくれてんのよ!?」

 助かったことを理解するなり、ナミが涙目でジャスミンに嚙み付く。

「文句なら後で聞くよ。それより、早くアイスバーグさんたちを連れて逃げた方が良い。あっちは私が引き受けるから。チョッパーくん、アイスバーグさんを乗せて運べる?」

「お、おう!任せろ!」

「パウリーさん、2人と一緒にアイスバーグさんを早く安全な所に…。誘導をお願いします。」

 チョッパーとナミをアイスバーグたちの方に押しやり、パウリーを促す。

「ああ…。」

 パウリーも頷き、チョッパーの背にアイスバーグを乗せる。

 さっきの瓦礫で入口が塞がってしまった為、ルフィが開けた隣の部屋に続く穴を目指す。

 ドン!!

「お止めなさい、パウリー。」

 それを(はば)むべく、CP9が立ち塞がる。

「お前ら……!…おれは少なくとも……!!今までお前らを本当に“仲間”だと思ってた!!!」

「……。お前だけだ……。」

 パウリーの涙ながらの叫びは、CP9には届かない。

 ルッチの爪がパウリーを引き裂こうとしたその時……。

 ガシッ!

「あなたたちの相手は私が引き受ける。そう言った筈だけど?」

 その腕をジャスミンが止める。

「小娘が……!」

 忌々しそうにルッチが唸った。

 

「早く避難を…!」

 ルッチの腕を捕えたまま、首だけナミたちの方を振り返り、ジャスミンが再度促す。

「あんたたちも早く来てね!?」

「わかってるよ。」

 ナミたちを見送り、ギリ・・・、とわずかにルッチを掴む腕を強くした時のことだった。

「ハトのやつ~~~~~~~!!!」

「!!」

 ドカァン!!!

 叫びと共に伸びたルフィの拳がルッチの顔面を殴り飛ばす。

「ルフィくん?!」

 咄嗟に掴んでいた腕を離したのでジャスミンまで吹っ飛ぶことは無かったものの、思わずたたらを踏む。

 結果的に、それがジャスミンの反応を遅らせることになる。

 数m吹っ飛んだルッチをルフィが追撃するが、それよりもルッチが体勢を立て直す方が早かった。

「“指銃(シガン)”!!」

 ドキュン!!

 ルッチの指銃(シガン)がルフィを貫く。

「……!!!ウ…、オ……!」

 ルフィの腹部から血がボタボタと滴り落ちる。

「ルフィ!!!」

「しまった…!」

「ハァ…!」

 ガッ!!

 ルッチが再びルフィの顔面を掴む。

「ルフィくん!」

「島の外まで……、飛べ!!!!」

 ボコォン!!!

 ギュン!!

「ゔわあぁ~~~!…」

 そのまま壁に叩き付けられ、勢いもそのままに外に飛ばされる。

「てめェ!!!」

「!ダメだロロノアさん!!」

「“鉄塊(テッカイ)”」

 ギィン!!!

 ジャスミンの制止も届かず、ルッチに斬りかかったゾロの刀は鉄塊(テッカイ)によって防がれた。

 シュッ!!!

 ドゴォン!!!

 避ける間も無く、ルッチの蹴りがゾロを襲い、さっきのルフィと同じようにそのまま壁を突き破り、空へと飛ばされる。

「ロロノアさん!!!」

「次はお前だ…!」

 ルッチを始め、カリファやカクもジャスミンを囲い込む。

 

 パチパチ…

 ガララ…

 ボオオォ…

 次第に火の勢いが増し、建物が崩れる音が響き始める。

 ジャスミンたちのいるアイスバークの寝室にも煙が立ち込めていた。

 立っているのは2人。

 対峙するのはジャスミンとルッチのみで、カリファとカクは既にジャスミンの一撃をそれぞれまともに食らい、昏倒している。

「ぐうぅ…!」

「まだやるつもり?」

 ルッチが腹部を押さえ、微かに(うめ)いた。

「さすがに“動物(ゾオン)(けい)”の能力者……。随分タフだね…。」

「貴様……!どうやってこれ程の力を…!?」

「日々修行。武道とは日々の積み重ねこそがものを言う。そっちこそ、言ってる割に動きが鈍いみたいだけど・・・・。船大工の仕事にかまけて修行不足なんじゃないの?いっそ、本当に船大工に転職しちゃえば?」

「ほざけ!」

 言うや否や踏み込み、仕掛けてくる指銃(シガン)を上に跳んで避け、そのままルッチの腕に着地する。

「鬼さんこちら♪」

「この!」

 次いで襲い来る嵐脚(ランキャク)をバク転で避け、3m程後方に着地する。

「手の鳴る方へ♪」

「どこまでも人を馬鹿に……!」

 ガシャン!!

 ガラガラガラ…!

「!」

 ちょうどルッチたちとジャスミンたちを隔てるように天井が落ち始める。

 ゴオオオオォォ……!

「もうここまで火が…!」

 途中からルッチをおちょくるのが若干楽しくなっていた為、失念していた。

 既に壁や天井にまで炎が回り、ジャスミンたちに迫っている。

「これまでか……。」

 ルッチもその様子を目の当たりにして頭が冷えたらしく、気を失っているカリファとカクを担ぎ上げる。

「!逃げる気?」

「ふん…。もうその手には乗らん。お前のお陰でだいぶ時間を無駄にした。」

「さすがプロ。そう何度も安い挑発には乗ってくれないか……。」

「……直にこの部屋も焼け落ちる。死にたくなければ、とっとと逃げることだ。……決着は、いずれ着けさせてもらう!」

 ダッ!

 言い置いて、仲間を抱えたルッチが窓から飛び出し、月歩(ゲッポウ)で夜の街へと消えて行く。

 ガラガラガラ…!

 ドシャ…!

「おっと!私もさっさと逃げないと……。!」

 取り敢えず、ルフィたちのケガを最小限に抑えつつ、ナミたちを離脱させ、ある程度足止めをすることには成功した。

 この辺が引き際かな、と自分も後に続こうとした時、ふと呼びかけてくるような妙な気を感じ取る。

 その方向に目を向けると、あるものを見付けた。

「これは……!」

 

 ゴオオオオォォ……!

 ゴオオオオォォ……!!

 ガシャアァ……ン!!!

「また崩れたぞ!?」

「ルフィ――――――――――!ゾロ――――――!!ジャスミ――――――――ン!!」

 崩れゆくガレーラカンパニーを見て、チョッパーとナミが叫ぶ。

「アイスバーグさん!これは一体?!」

「麦わらの一味が犯人だったんじゃあ?」

「パウリーさん!どういうことですか??!」

 その近くではアイスバーグとパウリーの周りをガレーラカンパニーの船大工たちが囲んでいた。

 アイスバーグとパウリーはそれぞれ手当を受けつつ、“暗殺の実行犯”と確定されていた麦わらの一味と一緒に本社の中から出てきたことに衝撃を隠せない船大工たちから質問攻めに遭っている。

「ンマー、こいつらは無実だ。…逆に助けられた…。」

「無実!?麦わらの一味が??!」

「ああ。どうも、こいつらもハメられたらしい。おれもすっかり騙された。」

「じゃ、じゃあ…。こいつらは逆に恩人ってことに……?」

「ああ、そうなるな。…麦わらの一味には迷惑をかけた。」

 アイスバークが周囲の船大工たちに麦わらの一味の誤解を解いていた時だった。

 ガッシャアァアァア…ンン!!

 シュッ!

 一際大きな音を立ててアイスバークの寝室の壁が崩れ、そこから人影が飛び出して来る。

 ダァ……ン!

 骨にまで響きそうな音を立てながら着地したのは、1本の刀-ゾロの“3代鬼徹(きてつ)”を携えたジャスミンだった。

 

 

 

 

 




用語解説
亀仙人…ドラゴンボールの主人公・孫悟空の師匠で、かつては世界一と謳われた武道家で“武天老師”の異名を持つ。常に背負った亀の甲羅がトレードマークで、それが亀仙人の呼び名の由来。御年354歳(ジャスミントリップ時)。ドスケベだが、武道に対しては真面目で意外にも人望も厚い人格者。この人の放った元祖かめはめ破は当時の読者に多大な影響を与え、数多くのパロディーが存在する程。


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第18話 アクア・ラグナ到達!出るか?かめはめ波!!

お待たせしました!第18話更新です。明日からまた時間が取りにくくなっているので、急ピッチで上げました。
そして、まだエニエス・ロビーまで進みません。次かその次くらいにはいける…んですかね?←聞くなよ…


「「ジャスミン!!!」」

 飛び降りて来たジャスミンに、ナミとチョッパーが駆け寄る。

「ジャスミン、ケガは!?」

「ルフィとゾロは?!」

「ケガは無いよ。あいつら逃げちゃって……。ルフィくんとロロノアさんは…。ゴメン、CP9に外まで吹っ飛ばされちゃって…。生きてるとは思うけど……。」

「「吹っ飛ばされた!?」」

「うん。止める間も無く突っ込んで行っちゃって・・・。」

「「ああ~…。」」

 ジャスミンの説明に、ナミとチョッパーが納得したような声を上げる。

「そう言えば、その刀…。」

「ああ、CP9が逃げた…。というか、引際を心得てたって言うのかな、あの場合…。まァ、とにかく引き上げた後で私もナミちゃんたちを追っかけようとしたら()()()()ね……。吹っ飛ばされた時にロロノアさんが落としたみたい。置いてかれたくなかったんじゃないかな?」

「呼ばれたって…。」

「この刀、妖刀でしょ?」

「そう言えばゾロがそう言ってた気もするけど…。」

()()()()()()取り敢えず、ロロノアさんに返すまで私が持ってるよ。」

 そんな会話をしていた時だった。

 ザッ…!

「ちょっと良いか?」

 アイスバーグがそこに立っていた。

 

「まずは…、ンマー…。申し訳無かった…。お前たちに妙な濡れ衣を着せた。誤解は解いておいたが…。」

「「……。」」

 ナミとチョッパーは無言で、ジャスミンには答えようが無かった。

「話はニコ・ロビンのことだ…。」

「!何か知ってるの?」

 ナミが真っ先にその言葉に反応する。

 それからアイスバーグにより語られたのは、ニコ・ロビンが麦わらの一味に突き付けた決別の言葉に秘められた真相だった。

 仲間の命を救うために、自分の命を捨てようとしている彼女の行動に、ジャスミンも言葉を失う。

 アイスバーグが全ての真相を語り終えた時、ナミとチョッパーの体が崩れ落ちる。

 バタッ…

 コテッ…

「おい、どうした!!」

「大丈夫?」

「良かった…。ロビンはじゃあ…、あたしたちを裏切ったんじゃないんだ……!!!」

「ロビンはおれたちを助けようとして……!!」

「……良かったね。」

「良し!そうと分かれば…!」

 ガバッ!

「ナミちゃん?」

「早くみんなを集めて知らせなきゃ!!ありがと、アイスバーグさん!!」

「待て!!麦わらたちもやられちまって、今更何をしようってんだ!!そこのお嬢ちゃんだって奴らにゃ逃げられちまったんだろう?!」

 勢い良く立ち上がり、拳を振り上げるナミをアイスバーグが制止する。

「今更ですって?()()()よ!!!ルフィたちなら大丈夫。あれくらいじゃやられない!!これからロビンを奪い返すのよ!!!助けて良いんだと分かった時のあいつらの強さに限度なんて無いんだからっ!!!!」

 言い切ったナミの目に、既に迷いは存在しなかった。

「行くわよ!チョッパー!!」

「おう!分かった!」

「私も手伝うよ。だいたいの距離と方角は分かるから。」

 ジャスミンも2人に並ぶ。

「そう言えば、ジャスミンあんた気配が分かるって言ってたっけ……?」

「うん。特に強い人だと気配…、私たちは“気”って呼んでるんだけど、気も強いから。おおよその場所なら分かるよ。」

「良し!それなら話は早いわ!!場所はどこ?!」

「待て、お前ら……。」

 すぐにでもルフィたちを探そうとしたジャスミンたちだったが、アイスバーグによって呼び止められる。

「ニコ・ロビンを追うのは勝手だが…。今夜11時に政府関係者の移動便で“海列車”が出航する。ンマー、恐らくだが…。あいつら、これに乗る可能性が高い。――――――つまり、ニコ・ロビンも一緒にだ。それを最終に“海列車”は一時、運行停止になる。もうすぐ“高潮(アクア・ラグナ)”が来るからな。」

「うっかりしてた…。今日はアクア・ラグナが到来するんだっけ…。」

「――――じゃあ、――――ってことは・・・!?」

「その便を(のが)すと当然、船も出せねェし、この島から出る(すべ)は無くなるんだ。」

「うそ…!大変っ!!!今何時!?」

「10時半だ。」

「後30分!!?ねェ、何とかならないの!?海列車ちょっと止めてよ!!」

 ナミが悲鳴のような声を上げ、アイスバーグに詰め寄る。

「ンマー、目的地のエニエス・ロビーってのは政府の人間以外立ち入り禁止の島だ。機関士(きかんし)も政府の人間。おれが言っても聞かねェ。」

「そんな!!じゃあ…!!!何とかあたしが駅に行ってロビンを直接説得するしか…!!!チョッパー!!ジャスミン!!2人一緒にルフィとゾロを探して!!」

「うん良し、わかった!!」

「OK。」

 役割をそれぞれ決めたところで、パウリーが他の船大工たちを連れて来る。

「待ってくれ。おれたちも手伝う。」

「パウリーさん?」

「どうして?」

 ジャスミンとナミが疑問の声を上げた。

()(ぎぬ)着せちまった詫びだ……。アイスバーグさんやおれの命があるのも、お前らのお陰…。オイ、お前ら!!!このお嬢ちゃんたちに手ェ貸して差し上げろ!!」

「はい職長!!」

「色々すまなかったなお前ら!」

「指示をくれ、手ェ貸すぞ!!」

 ガレーラカンパニー本社の職長の言葉に、船大工たちが一斉に声を上げる。

「おい、ハレンチ女、駅に行くんだろ!案内する。」

「ちょっとその呼び方…!まぁ、今は良いわ。お願い!!」

 

「じゃ、行こう。」

「ええ!」

「おう!」

 それぞれの役割を果たすために、走り出す。

 

 ビュオオォオォオオォォ!

「ルフィ―――――!!」

「麦わら――――――!どこだ――――――――――!!」

「ルフィく―――――――――――ん!!」

 ザァアアア…!

「とうとう降ってきた……!」

「ただでさえ強風で鼻が利かないのに・・・!!ジャスミン、本当にこの辺か?!」

「うん。細かい場所はわからないけど、確かにこの辺の筈なんだけど…。」

 ルフィの気の大きさでは、これだけの人間が雑多にいるところでは細かい位置まで特定出来ないのだ。

「ジャスミン!二手に分かれよう!!おれはゾロを探す、ジャスミンはこのままルフィを探してくれ!!」

「分かった。じゃあ、チョッパーくんこれも……。」

 チョッパーにゾロの“3代鬼徹(きてつ)”を託し、ゾロの気配を感じる場所を伝える。

「じゃあ、後で!!」

「気を付けてね!!」

 ビュゴオォオオオオオオ!!

 ザアァアアアア……!!

 雨風はますます強くなっていく。

「大変だァ~~~~!!!海を見ろォ!!!」

 高町の階段近くで1人の船大工が声を上げる。

 ザザザザザザザザ…!!!

「おい、どうした!!」

「あ!パウリーさん!!見て下さい!!!潮の引き方が尋常じゃないんです!!!」

 ザザザザ……!

 ザザザザザザザザ…!!

「水路の水が一気に…!アクア・ラグナってこんなにすごいの?!」

「いや、こんなのは今まで見たことがねェ…!」

「……ここまで潮が引くもんなのか……!!?」

 ジャスミンが思わず呟いた言葉に、船大工たちが反応する。

 水路の水はおろか、ウォーターセブンの浅瀬だった海も潮が全て引き、すっかり干上がってしまっている。

 ビュルルルル…

 ザアァアアアア…!

「海の音が止んだ……。」

「この嵐の中、波の音が全然聞こえないなんて…。」

「どれだけでけェ波が来るってんだよ…!!!」

「裏町は完全にのまれるな……!!!」

「裏町には誰もいねェだろうな!!?いたら即死だぞ!!!」

 

 ゴオォオオオオオ…!!!

「大変だ、海賊女が………!!!階段を下りてった!!!」

「おい戻れェ――――――!!!低い場所へ行くな―――――!!」

「ナミちゃん!?」

「ゾロォ!!!」

「こら待て!!!トナカイお前まで!!!」

「チョッパーくんも!?」

 それぞれの向かう先に目をやり、気付く。

「ルフィくんとロロノアさん?!何でそんな所に…!?」

 ルフィは裏町の家と家の間、ゾロは何故か煙突に刺さっている。

「追うな!!!お前ら!!!大勢行きゃあ助かるってもんじゃねェ!!!相手は海だぞ…!!!道連れになるだけだ!何かあったらおれだけが動く!!お前ら手ェ出すな!!!」

 慌てて後を追おうとした船大工たちをパウリーが一喝(いっかつ)する。

 ズズズズズズ……!!

 地鳴りのような音と共に、アクア・ラグナがもう、すぐそこまで迫ってきていた。

「見ろ!!!あの波を!!!」

「何だ、ありゃ……!!やっぱりいつもの数倍でけェ!!!」

 ナミとチョッパーが向かった先は、アクア・ラグナから見てそれぞれ右と左。

 ナミとチョッパーのどちらかを回収しながらルフィとゾロのどちらかを回収している間に、どちらの組は波にのまれてしまう。

「仕方無いか……!」

 バッ!!

 ジャスミンが裏町と造船島を繋ぐ大橋まで飛び降りる。

「おい!?」

「大丈夫です!これ以上は降りませんから!!」

 パウリーに怒鳴り返し、アクア・ラグナを正面に、一歩右脚を引いて腰を落とす。

「か―――――――――――…!」

 両手首を付けるようにして手のひらを内側に構え、前方に突き出す。

「め―――――――――――…!」

 発声と同時に突き出した両手を右の腰まで引いた。

「は―――――――――――…!」

 ギュイィイイイ…

 ジャスミンの両手がゆっくりと光り出した。

「何だ!?」

「手が光ってやがる…!」

「め―――――――――――……!」

 より腕を後ろに引き、気を高めていく。

「ああ…!!もうダメだ、間に合わねェ!!!」

「高い場所へ登れ――――!!!もっと高い場所へ―――――!!!」

「のまれちまうぞ~~~~~!!!」

 船大工たちが悲鳴に近い声を上げながらナミとチョッパーに叫ぶ。

「アクア・ラグナだァ~~~~~~!!!!」

 ゴオオオオォォッ!

 大波が裏町をのみ込もうとした、その時だった。

()ァ――――――――――――!!!」

 ギュオォオオオオオ……!!!!!!

 ジャスミンが前方に突き出した両手から、巨大なレーザー砲のようなエネルギー波が放たれた。

 カッ!!!

 ドッゴォオオオォオンンッ!!!!

 ザッパァアアン!!

 ジャスミンの放った技がアクア・ラグナに着弾した瞬間、凄まじい爆発音と共に裏町をのみ込もうとしていたアクア・ラグナが四散し、波が海へと押し戻された。

「「「「「ええぇええええぇええええええぇ!!!!!?」」」」」

 ガボ――――――ン!

 それを目の当たりにした船大工たちの顔から、某神のごとく色々と飛び出した。

 ジャスミンがアクア・ラグナを相殺した直後、ルフィとゾロもそれぞれ自身を解放するべく、最後の踏ん張りを見せる。

 メキ・・・メキメキ・・・!

 ピシッ!!

「ウゥゥ!」

 バキバキバキ…!

「「「ええ!!?」」」

「ああああああああ!!!!」

 ボゴォォン!!!

「うおおおァ!!!町壊しやがったァ!!!」

 最初にルフィが自身が挟まっていた建物を倒壊させ、

「“三十六煩悩(ポンド)(ほう)”!!!!」

 ズバァン!!!

 ゾロが自身が刺さっていた煙突ごと建物を縦に両断する。

「うわああああァ~~~~!!」

「何だあいつらァ~~~~!!!」

 スタンッ!

 ばっ!!

 ルフィとゾロがそれぞれナミとチョッパーを連れ、ジャスミンのいる大橋まで一気に登ってきた。

「早く造船島に!そのうち第2波が来る!!」

 言い置いてジャスミンもパウリーたちのところまで一気に跳び上がる。

「おう!」

「ああ!」

 

 ザァアアア!

 ビュオオォオォオオォォ!!

 ゴゴゴゴオォォ…!!!

「潮がまた引いてく!!」

「まだまだ続くぞ。第2波、第3波と今みてェなのが!!」

「ここは造船島だぞ…!!!ここにいてもヤバそうだ…!!」

「おれたちも内陸へ避難しよう!」

 既にジャスミンの相殺した大波も潮が引き始め、間も無く先程と同じレベルの波が襲ってくるだろう。

「あれがアクア・ラグナ……。想像してたのよりずっと凄い……!!!」

「………これが毎年来てたら、この島はとっくに無くなってるよ。今年のは特別だ………!!!」

 ジャスミンの呟きにパウリーが答える。

「それより…。おい、そこのポニーテール。」

「私ですか?」

「他に同じ髪型のヤツァいねェだろう。」

「そりゃそうですけど…。」

 ナミの“ハレンチ女”よりはマシだろうが、もっと他に呼び方は無かったのか……。

「さっきのアレは何だ?」

「アレ?」

 パウリーの疑問に首を傾げた時、ルフィとチョッパーが目を輝かせてジャスミンに詰め寄る。

「そうだよ!ジャスミン、お前ビーム出せんのか?!」

「凄かったなアレ!もっかい見せてくれよ!!」

「アレって、ああ…。“かめはめ()”のこと?」

「かめかめ()?」

「かめはめ()!!」

 “かめかめ()”だったら悟天が昔間違って天下一武道会で撃った方である。

「そうそれ!かめはめ()って何だ!!?ビームじゃねェのか??」

「アレは“気功波(きこうは)”だよ。自分の“気”を手のひらに凝縮させて一気に放出する技で、他にも色々種類があるけど……。」

「“気”ってのァ、あれか?良く気配とかそういう風に呼ぶヤツか?」

 “気”という単語が引っかかったらしく、ゾロが口を挟む。

「そうです。まァ、生命エネルギーとかオーラと呼ばれることもあります。修行すればこれを使いこなせるようになって、応用次第で人の気配を強く感じ取ったり、さっきみたいな技を使えたり、空を飛べたりします。」

「要するに、“悪魔の実”の能力じゃねェってことか?」

 パウリーが尋ねる。

「“悪魔の実”の能力とは全くの別物です。訓練すればある程度誰でも使いこなせるものですから。」

 ジャスミンがざっくり説明していた時だった。

「ホントに呆れたね。おめェら良く助かったもんら!!」

 酒瓶片手に現れたのは、不思議な(なま)りで話す老婆と、小さな少女、それとネコだかウサギだか良く分からない小動物だった。

 

 




用語解説
かめはめ波…ドラゴンボール知らない人でもこれは知ってる、という人がいる程有名な技。たぶんドラゴンボールファンならみんな1度は出せないかどうか練習した筈…!因みにミカヅキは小学校1年生くらいまで真面目に練習してました。
元々は亀仙流の始祖・亀仙人の技で、言わば亀仙流のお家芸。かなり初期の登場だったにも関わらず、物語の終盤まで主人公・孫悟空の決め技であり続けた。
ニュージーランドでは毎年「かめはめ波大会」が行われているらしい。


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第19話 嵐の中の出立!エニエス・ロビーへ!!

お待たせしました!第19話更新です。今回、えっらい難産でした…。そして書いてる本人が1番思ってますが、エニエス・ロビーへ行くまで長い道のりですね!果たして次の話でそこまで行けるのか…。
何はともあれ、お付き合いください!


「あ!怪獣のばーさん!!この島にいたのか!」

「当たり前ら!あんな海の真ん中にいたら溺れて死んじまうわね。んががががが!!」

「あの人たち知り合い?」

 ルフィと老婆のやり取りを見つつ、何で怪獣?と思いながらナミに尋ねる。

「ああ、海列車のシフト(ステーション)駅長のココロさんよ。それとその孫のチムニーと、そっちは確かゴンべ。ウォーターセブンに来る前に知り合って、その縁でアイスバーグさんを紹介してもらったの。」

「へぇ~。」

 

「煙突に刺さってたってお前っ!!!あっはっはっはっはっ!ゾロはマヌケだな~。どうやったらそんなことに!」

「人を笑える立場か、あんたが!!!どっちも大マヌケよ!!!」

 ジャスミンとナミが話している間に、ゾロが煙突に刺さっていたことを知ったルフィが大うけしており、ナミに叱責され、顔が変形する程思いっ切り(つね)られていた。

 まぁ、ルフィも家の間に挟まっていたのだから、確かに人のことは言えない。

「あ……、じゃあサンジとウ………、サンジは!?」

(ウソップくんのことを口に出さないのは、ルフィくんなりのケジメなんだろうな……。)

 1度口にしかけたが、言い直したルフィを見て思う。

(それはそれとして…、何であんなに思いっ切り顔引っ張られたまま正確な発音が出来るんだろう……?)

 割と衝撃的な光景に思わず思考が明後日(あさって)の方に向かう。

「そうね。話すことは色々あるわ。2人共聞いて。」

 ナミが、先程のロビンの一件を知らないルフィとゾロに真相を説明する。

 さらに、海列車は既に発射してしまい、ロビンだけでなくウソップとフランキー、さらにそれを追って一味のコック・サンジまでもエニエス・ロビーに向かったことが告げられた。

 

「考えることは何もねェじゃねェか。すぐ船出して追いかけよう!!!」

「―――――それ以外ねェな。」

 真相を聞いたことでルフィとゾロからも迷いは消えたらしい。

(良い目だ。)

 目は口程に物を言う、とは良く言ったものだ。ルフィもそうだが、ゾロも一船の船長を担えるだけの器の持ち主なのだろう。

「おい!ロープのヤツ、船貸してくれよ!!いや、船より“海列車”はもう出ねェのか!?」

 ルフィがパウリーに問う。

「………“海列車”ってのはこの世にパッフィング・トム1台きりだ。かつていた伝説の船大工のチームが力を合わせてこそ、完成したあれは奇跡の船なんだ。」

「じゃ、船貸してくれ。この町で1番強くて速ェ船!!」

「良い加減にしろ、てめェら!!!たった今海で何を見た!!?例年来るアクア・ラグナでさえ、それを越えた船はいねェんだ。さっきの大波を見ただろう。そこのポニーテールがいなきゃ、間違い無く裏町は崩壊していた。お前らもお陀仏だったろうよ。今、船を出せば最大のガレオンで挑んでも1発で粉々にされるだろうな。死ぬと分かって船を出させる訳にはいかねェ!!!」

 パウリーの言葉には、長年アクア・ラグナを見続け、尚且つ船大工として培ってきた重みがあった。

「朝まで待て。嵐が過ぎたら船くらい貸してやる。―――――おい、お前らも避難所にでも行ってろ。もう人探しは終わったんだ。」

 船大工たちを促し、話を切り上げようとしたパウリーを引き戻したのは、ナミだった。

「――もし、朝まで待ったとして、あたしたちの目的は果たされるの!?エニエス・ロビーってあたし…、知ってるわ。政府の島だと聞いて思い出したの。そこは“正義の門”がある場所じゃないの!?」

「?」

「何だそりゃァ。」

 ルフィとゾロは全くピンと来ていないようだが、ナミが続ける。

「政府所有の“司法の島”エニエス・ロビー。そこにあるのは名ばかりの裁判所…!!!エニエス・ロビーへ連行されることそのものが罪人の証とされ、罪人はただその誰もいない裁判所を素通りして、やがて冷たく巨大な鋼鉄の扉に辿り着く。それは“正義の門”と呼ばれ、罪ある者がくぐればもう2度と日の光を見ることは出来ない絶望の扉。何故なら、その先にある港から海へ出て到達出来る場所は2つしかないから。1つは世界中の“正義の戦力”の最高峰“海軍本部”。もう1つは、拷問室と死刑台が立ち並び、世界中で暴れ回っていた凶悪な囚人たちが幽閉される、深海の大監獄“インペルダウン”。エニエス・ロビーは罪人に何の慈悲も与えず、ただそこへ送り込むだけの形だけの裁判機関!!そうでしょう!?賞金首のロビンにとってはどこへ運ばれようとその先は地獄よ!!!こうしている間もロビンは刻々と“正義の門”へ近付いて行ってるのに!!!朝までなんて待てる訳ないじゃないっ!!!」

 ナミの叫びが周囲に木霊(こだま)する。一瞬沈黙が下りたそこに、ポツリ、と静かな声が響いた。

「―――――行く方法なら、無いことも無いよ。」

「えっ…!?」

「ホントか!?ジャスミン!!!」

 途端にルフィの目が輝く。

「私の持ってる船なら海中を進める。海の中なら、アクア・ラグナは凌げるし、流れもそこまでじゃない筈だよ。」

「潜水艦ってこと?」

「うん。ただ……。」

「ただ?」

「4人乗りなんだ。だから、操縦する私を除いて後3人が限界かな…。」

「3人か……。」

「あたしたちの中から、2人ロビンの救出には行けないってことね?」

「うん。だけど、行く前に…。――――――ルフィくん、失礼を承知で聞くよ。エニエス・ロビーに乗り込むって意味を本当に分かってる?」

「そのポニーテールの言う通りだ。例え行く手段があろうが、そこへ行くべきじゃねぇ。お前ら自身海賊だってことを忘れるな。」

 ジャスミンの言葉にパウリーが続ける。

「エニエス・ロビーは“世界政府”の中枢に繋がる玄関だ。当然、それに相当する戦線が敷いてある。――――――どんな海賊も、あの島へ連行された仲間を取り返そうなんて考えねェ…。どうなるか分かるからだ……。お前ら“世界政府”の中枢にケンカでも売る気か!!!」

「そうだぞお前ら!!もう止めとけ!!」

「追いかけても殺されちまう!!」

「お前らこそ助かる可能性0だぞ!!!」

 パウリーの言葉に、周囲の船大工たちが同意する。

「そんなの関係ねェ!!!」

 ドパァァン!!!

 ルフィの叫びに呼応するかのように、裏町に打ち付けた巨大な波が飛沫(しぶき)を上げた。

「な……!」

「波まで怒った…。」

「仲間が待ってんだ!!!!邪魔すんなァ!!!!」

「良いぜ。相手になってやる。」

 シュルル!!

 パウリーがルフィの叫びに、自身の得物(えもの)である縄を構え、一歩前に出る。

 それに応えて、麦わらの一味のそれぞれ臨戦態勢となった。

「待ちなおめェらァ!!!」

「ココロさん。」

 一触触発だった空気をココロが断ち切る。

(わり)ィのはおめェら、麦わらァ。パウリーの言う通りらバカたれ…。」

「うるせェな!ばーさんには…!」

「“関係ねェ”な、あァ…。まァ聞きな…。まったく、おめェら放っときゃ死ぬ気らね。……死ぬ覚悟があるんなら…。着いてきな。出してやるよ“海列車”」

「“海列車”は1台しか無いんじゃ…?」

 ココロの言葉にジャスミンが尋ねる。原作でどんな方法でエニエス・ロビーに行ったのか覚えていないからこそ、自身が所持している潜水飛行艇で乗り込むことを提案したのだが……。

「んががががが!!!着いて来れば分かることら…。」

 

 -ウォーターセブン、ゴミ処理場裏・レンガ倉庫—

 ナミを除く麦わらの一味とジャスミン、そしてそれを伴ってきたココロと着いてきたチムニーらがそこにいた。

 ギイィ…

 “No2”と記された倉庫の扉をココロが開く。

「この倉庫も8年は放置されてる。“海列車”に至っちゃ12年以上手付かずら。もう動かねェかも知れねェな。んががが。」

「おい、それじゃ困るぞ!!!」

「…8年も放置されてたって言う割に、奥に誰かいるみたいですね。」

 ジャスミンが倉庫の奥から気を感じ取る。

(それにこの気は……。)

「そんな筈は無いら。正面の扉にも鍵がかかって…、ん?何ら開いてるねェ。」

 ドドドド…!

 ジャスミンとココロの会話を聞くことも無く、既にルフィやチョッパーは奥の扉に向かって走っている。

「うおー!!!……!!あった!!!かっこいいぞ――――――!!!」

「言っとくがまともなモンじゃねェよ!こいつの名は“ロケットマン”とても客など乗せられねェ、“暴走海列車”ら。」

 先行したルフィの興奮した叫びにココロが答え、続いて扉をくぐったジャスミンの目にもその“暴走海列車”の姿が明らかになった。

 そこにあったのは、所々苔むしたもう1台の海列車。パッフィング・トムとは異なり、ヘッド部分が尖っており何故かサメを模したらしい厳つい顔が着いている。

 ココロ曰く、「サメのヘッドは洒落でつけてある」らしい。

「速そ~~~~!!!」

 ルフィとチョッパーの顔がこれ以上無く輝き、チムニーやゴンべらと一緒にはしゃいでいる中、“ロケットマン”の中からトランクを手にした1人の男が出て来る。

「あれ!?アイスのおっさん!!!」

(やっぱりアイスバーグさんだったんだ。)

 ジャスミンが先程感じ取った気は間違い無かったらしい。

「麦わら…、良く無事だったな……。海賊娘の言った通りだ……。ココロさんが連れてきたのか。」

「命はあったようらね、アイスバーグ。おめー、ここで何してんらい…?」

「……ここにいるってことは…、あんたと同じことを考えたのさ。――――――バカは放っとけねェもんだ。」

「んががが。」

 笑みを浮かべなら返したアイスバーグに、ココロも声を立てて笑う。

「使え。整備はすんだ・・・。水も石炭も積んで、今蒸気を溜めてる。」

 倉庫内に放置されていた木箱に座り込んだアイスバーグが、ルフィに向かって告げる。

「おっさん、準備しててくれたのかー。」

「喜ぶのは生きられてからにしろ。この“ロケットマン”は“パッフィング・トム”の完成以前の“失敗作”だ。どう調整しても蒸気機関がスピードを抑えられず暴走するんだ。命の保証などできねェ。」

「ああ!!!ありがとう、アイスのおっさん!!!よ――――――し!!行くぞ、お前ら乗れー!!ばーさん、ナミが来たらすぐ出してくれ!!!」

 たん!

 と勢い良く“ロケットマン”に飛び乗るルフィだったが、急にふらりと足を(もつ)れさせ、ガクンと片膝を着いてしまう。

「ルフィ、大丈夫か!?さっきから足元ふらふらしてるぞ。」

「血を流し過ぎたんだろ。」

「エニエス・ロビーに着くまで、横になってた方が良いんじゃない?」

 チョッパー、ゾロ、ジャスミンの順で声をかける。

「あァ、ちょっとうまく力が出ねェ…。肉でもあれば……。」

「いや、肉を食べたからってすぐに血肉になる訳じゃないでしょ…?サイヤ人じゃあるまいし…。」

 声まで力を無くしているルフィにジャスミンが突っ込む。後半は小声だったので、ルフィたちには聞き取れ無かっただろうが。

 そんなやり取りをしている中、ジャスミンはナミと他に2人の気が近付いているのに気付く。

 ガラガラガラ…

 何やら、重い荷物を荷車か何かで運んでいるような音と共に、次第にナミの声も聞こえてきた。

「急いで、こっち!!」

「この辺で食べたら良いじゃないか。」

「あたしがそんなに食べるか!!!」

 ガラガラガラガラガラ…!!!

「ゴメン、遅くなった!!」

 ナミが荷車を引いた2人の男を引き連れ、入口に姿を現す。

「ナミ!!おい、何やってんだお前!!早く乗れバカヤロー!!!」

 ルフィがナミに怒鳴る。

「わっ、すごい。これも“海列車”!!?」

「……いやあ、こんな所にもう1隻あったとは。」

「驚いた。」

 荷車を引いていた男たちが驚嘆している。

「ナミちゃん、その人たちは?」

「“海列車”の(ステーション)の駅長さんたちよ。ちょっと協力してもらったの。」

 荷車から荷物を下ろしながら言うナミを手伝い、一緒に“ロケットマン”に詰め込む。

「よいしょ。」

「随分大きいけど、中身は?」

「どこ行ってたんだ!!時間がねェっつったの誰だよ!!その荷物なんだ!?」

「肉とお酒。」

 怒鳴り付けるルフィに対してナミは平然と返している。

 更に、ルフィも「文句言ってごめんなさい!!!」と即座に態度を変えてナミの持ってきた食料を手当たり次第に口に突っ込んでいる。

 実に見事な手のひら返しである。

「さすが…。ルフィくんたちのことは知り尽くしてるね…。」

 とてもこれから敵の本拠地に乗り込むとは思えない、実に呑気な光景が広がっていた。

 ゾロでさえ、一緒に持ち込まれた酒を物色している。

 その間、ココロとアイスバーグの大人組はこれからの動きについて確認していた。

 どうやら、動けるようになったとは言え重傷のアイスバーグは待機となり、ココロが運転手を引き受けてくれるらしい。

「ん……?」

「どうしたの?」

「誰か来るね。…1人や2人じゃないよ。7~8人はいる。」

 ジャスミンが告げた時だった。

「麦わらァ~~~!!!」

 ザッ……!!

 全身に包帯を巻いた、妙な防具を着けたチンピラたちとフランキーと一緒にいた女性たちが入口に現れる。

「フランキー一家!」

「この忙しい時に…。」

 ゾロが溜め息を()いた直後、チンピラたちの中心に立っていた男—ザンバイが叫ぶ。

「頼む!!!おれたちも連れてってくれェ!!!!エニエス・ロビーに行くってガレーラの奴らに聞いた!!!アニキが政府に連行されちまったんだ!!!追いかけてェけど…、アクア・ラグナを越えられねェ!!!!」

「相手は世界政府らよ。」

「誰だろうと構うかァ!!!」

「アニキを取り返すんだ!!!」

「あたしらアニキの為なら、命だって惜しく無いわいな!!!」

「お願いだよ!」

 フランキーは随分と慕われているらしい。

 少なくとも、目の前で涙と流しながら頭を下げる彼らに、二心(ふたごころ)など欠片も無かった。

「冗談じゃないわ!!!あんたたちが今まであたしたちに何をしたか分かってんの!!?」

 しかし、船の修繕に必要な金を盗み、あまつさえ大事な仲間(ウソップ)の離反の原因となった彼らに対して、すぐにじゃあ一緒に行こう、という気持ちには当然ならないのだろう。ナミは頑として拒否している。

「恥を忍んで頼んでる!!アニキを助けてェんだ!!!」

 だが、彼らの真っ直ぐな涙は確かに届いていた。

「乗れ!!!!急げ!!!!」

 ルフィの叫びが彼らを“ロケットマン”へと促す。

「………!!!麦わらァ……!!!」

「ちょっとルフィ!!!」

「ま、良いよ。」

 ナミが抗議するが、一味の(ちょう)が本気で決めたことには逆らえないのだろう。それ以上何かを言うことは無かった。

「すまねェっ!!!恩に着る!!!!でも、その車両じゃなくて良いんだ!!おれたちァ、おめェらに合わせて“キングブル”で海へ飛び出すからよ!!車両の後ろに掴まらせてくれれば良いんだ!!!よろしく頼む!!!じゃ、後で!!!」

 ガン!!!っと派手な音を立てて頭を床に打ち付け礼をした代表の男—ザンバイが、他の仲間を引き連れて入口へ取って返す。「アニキ救出に行けるぞー!!!」と歓声を上げながら。

「んがががが。ほいじゃ、行こうか。」

 ガコン…

 ココロが“ロケットマン”を始動させ、シュッシュッシュッ!と独特の蒸気音を上げながら動き出した。

 シュッシュッシュッシュッ…!

 シュッシュッシュッシュッ…!

 シュッシュッシュッシュッ…!

「さァ海賊共、ふり落とされんじゃらいよ!!!ウォーターセブン発、エニエス・ロビー行き“暴走海列車・ロケットマン”!!」

「よし!!!出航!!!行くぞォ!!!全部奪い返しに!!!!」

 ポッポ―――――――――――!!!

 ココロの言葉に、ルフィの号令が続く。

 

 ()くして、今後世界を大きく揺るがすこととなる歴史の第一歩が刻まれようとしていた。

 

 これから、ジャスミンがどのようにして歴史を紡いでいくのか、それはまだ本人でさえも知らない……。



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第20話 突き進め!同志たちと共に

もう20話なのに、まだエニエス・ロビーに到達していない、だと……?!すいません、マジで次の話では到達する予定ですんでご勘弁ください…。
という訳で、第20話更新です!!!


「水路を出るよ!!!“ロケットマン”!!!全員覚悟決めなァ―――――!!!」

 バシュン!!!

 ココロの叫びと同時に、“ロケットマン”が水路から荒れ狂う海へと飛び出す。

「うお――――――!!!」

「飛び出た~~~~!!!」

 ルフィとチョッパーの叫びが列車内に木霊(こだま)する。

 その直後、後を追うように水路から何かが飛び出してきた。

「バヒィ~~~~~~ン!!」

「何?この鳴き声?」

 ジャスミンの声に被せるようにルフィが叫ぶ。

「何だありゃ!!?何か飛んできた~~~~!!!」

 その声に、ジャスミンも窓から身を乗り出し、後方を確認する。

「麦わらさーん!!!フランキー一家総勢50名!!お世話になりま~~~~す!!!」

「バヒヒ~~~ン!!!」

「バルルルァ~~~!!!」

「何あれ?!」

 バカでかいヤガラブルが2匹、家のように巨大なゴンドラ(もはや船だろうか?)を曳いている。

「うは―――――!!でっけ―――ヤガラブルだァ!!!」

「キングブルさ!!荒波も走る最上ランクの“ブル”ら!!」

「“連結砲”撃てー!!!」

「ッヤバイ、何かに掴まっ・・・!」

 ドゥン!!!

 ドゴオォォン!!

 ジャスミンの警告も間に合わず、(かぎ)状の(もり)が“ロケットマン”に2箇所撃ち込まれ、凄まじい衝撃が“ロケットマン”を襲った。

「……っ!!」

「うわあ―――――っ!!」

「畜生、あのヤロー共……!!!」

 それぞれ衝撃で尻もちを着いたり、壁にぶつかったりなどの被害を受けた。

「「「よろしく!!!」」」

「無茶すなー!!!」

 受けた被害の割にあまりにも軽いフランキー一家の挨拶に、ゾロが窓から顔を出して怒鳴り付ける。

『運転室より緊急連絡!!これから線路を掴むと急激に速度が上がるよ!!軽傷で済むようにしっかりしがみ付いてな!!!』

「取り敢えずケガはするんだ…。」

「ヤバッ!」

 ナミのツッコミにジャスミンがハッとなる。

 直後に窓から身を(おど)らせ、車外に飛び出した。

「ジャスミン?!」

 ナミが慌てて窓から確認すると、ジャスミンは舞空術でヘッド部分に急いでいるところだった。

 《同じ頃、運転室周辺》

 ザザザザザザザザ…!

 ギギギ…!!!

 間も無く“ロケットマン”が間も無く線路に到達する。

「もう少し!!ばーちゃん、もう少し右~~~!!」

「ニャーニャー!」

「チムニー!!!ゴンベ!!おめーら、着いてきてたのかい!!?」

 そう。車外にはココロに無断で着いてきていた、チムニーとゴンベがいたのだ。

「何てこった、早く中へ入んなァ!!!吹き飛んじまうよ!!!」

 運転室の窓から身を乗り出し、叫ぶココロだったが、その直後にガシィッ!という音と共に“ロケットマン”の車輪が線路を掴む。

 ガクン・・・、グン!!

 刹那(せつな)、ズゴォオン!!と轟音と共に“ロケットマン”が一気に加速した。

「うわっ!」

「ニャッ!」

 ゴロンッ!

 加速に耐え切れず、チムニーとゴンベが荒れ狂う海へと投げ出される。

「チムニー!ゴンベ!」

 シュシュシュシュシュシュ…!

 ボヒュン!!!

 そのスピードにより、ココロの叫びがすぐに遥か前方へと運ばれていく。

 2人の体が海に叩き付けられる寸前、ガシィ!と2人の体を掴む者がいた。

「良かった…。間に合った。」

「ポニーテールのねーちゃん!」

「ニャニャー!」

「しっかり捕まっててね。」

 ギュン!

 2人を抱え直し、そう言うや否や、ジャスミンもまた既に豆粒程の大きさになりつつある“ロケットマン”に戻る為、舞空術のスピードを上げた。

「すごーーーい!!」

「ニャッニャー!」

 

 シュシュシュシュシュシュ……!

 ザザザザザザザザザザザザザザザザ!

「チムニー!ゴンベ!」

「ばーちゃん!」

「ニャニャー!」

 “ロケットマン”の車内に戻り、ココロに合流した。

「良かった。良かった……!もうダメらと思ったら……!!」

 ガシッと2人を抱き締め、ココロが安堵の声を漏らす。

「ありがとうら……!あんた、名前は何ていったらァね?」

「ジャスミンです。」

「この恩は忘れらいらよ…!本当にありがとうら……!!」

「いえ。間に合って良かった。」

「成る程…。あの時慌てて飛び出していったのは、この子たちがいることに気付いてたからなのね?」

「まぁね。」

 ナミの言葉に頷く。

「それにしても、ものすげー加速だ…!!」

「腰打った…。」

「いやいや、びびった!!」

「んがが!!加速でなく暴走らよ。」

 ぼやく男たちにすっかり立ち直ったココロが答える。

「あそこは特等席じゃねェな…。吹っ飛ぶかと思ったぞ。」

 チムニーたち同様、ヘッドに陣取っていたルフィが荒い息を吐きながら呟く。

 まぁ、ルフィなら大丈夫だろう、と放っておいたのはジャスミンなのだが。

「……ちょっと待て。この車両におかしな奴らがいるぞ。」

 不意にゾロが切り出す。

「「おい、そりゃ誰だ。」」

「お前らだよ!!!」

「おめェもだろ!!!」

(何のコント?)

 パウリーとルル、タイルストンらガレーラの職長たちが“ロケットマン”に乗り込んでいることを知らなかったらしいゾロとのやり取りを見て、ジャスミンが胸中で呟いた。

「お前らの仲間を連れ去った“敵”は、アイスバーグさんの命を狙った“犯人”でもあるんだ!!――――――どうせお前ら止めても止まらねェんなら…、おれも参戦する!!あくまでもガレーラとは関係ねェおれの単独行動としてな……!!!」

「がははは、パウリー!!!おれたちはお前にくっ付いて来りゃあアイスバーグさんの(かたき)に会えると踏んで、一緒に炭水車に隠れてたんだ!!!」

「――――――案の定…、そういうことらしいな…この戦い。おれたちも加えて貰うぞ。」

 パウリーの言葉に、タイルストンとルルが続ける。

「さらにその“(かたき)”ってのは当然、フランキーのアニキを連れ去った奴らでもある……!!!」

「そうだわいな!!あたしらそいつが誰なのかもはっきりと知ってるんだわいな!!」

「やい、ガレーラ!!あんたらアニキに何かあったらどう責任取るんだわいな!!!」

「黙れ!!1番辛いのはアイスバーグさんだ!!!」

「パウリー!!おれたちにまず説明しろ!!!」

「知ってんだろ…、真犯人。お前の口から言ってみな。おれたちもそうそう鈍くねェ…。大方の見当は付いてる。別に…、驚きゃしねェよ…。」

 ザンバイたちもそれぞれ自分の意見を主張し出し、場の収集が付かなくなり始めたところでルルが静かに切り出す。

「……まァ、急に意味も無く姿を消せば察しも付くか…。じゃあ、はっきり言う。仮面の奴らの正体は…、ルッチ・カク・カリファ……。それに酒場のブルーノ。――――――あの4人が政府の諜報部員(ちょうほうぶいん)だったんだ・・・・。あいつらがアイスバーグさんを殺そうとした………!!!」

 その後のルルとタイルストンの顔が凄かった。

 効果音を付けるなら“ガボ―――――――――ン!!!”だろうか。

「想像だにして無かったのか!!!一体誰だと思ってたんだよ!!!」

 このパウリーの叫びが全てを物語っている。

「裏町の“マイケル”と“ホイケル”?」

「そうそう。」

「誰だよ!!!」

(本当に想像して無かったんだ…。)

 まぁ、裏を返せばそれだけCP9がウォーターセブンで信頼を得ていた、ということなのだろうが。

「じゃあ、まー………!!」

 先程からずっと肉を食べ続け、腹ごしらえしていたルフィが立ち上がりながら切り出す。

「フランキー一家とも、ガレーラの船大工たちとも、町じゃゴタゴタあったけどこの先はここにいる全員の“敵”は同じだ!!これから戦う中で1番強ェのは特にあの“ハトの奴”だ!!あいつは必ずおれがぶっ飛ばす!!!良いな?!ジャスミン!!」

「了解。」

 ルフィの視線を受け、ジャスミンも頷く。

(ルフィくんが許すならこのまま私が引き受けるつもりだったけど……。)

 やっぱり譲るつもりは無いらしい。

「――――――そうだな。この戦いは()られたモンを()()4()()から奪い返す戦いだ。あいつらへ到達しなきゃ、何も終われねェ。」

 ゾロが続ける。

 車内が神妙な空気に包まれた時、不意に窓の外を見ていたココロが声を上げる。

「…………お!?」

「ばーちゃん、ばーちゃん!高潮(アクア・ラグナ)だー!!!」

「ニャー!」

 チムニーとゴンベの一言もあり、一気に緊張感が走る。

「そういえばココロさん!!運転室から離れて良いの!?」

「そう言われれば……。」

 ナミのツッコミにジャスミンもココロへ目を向ける。

「んががが、言ったろ!“ロケットマン”は“暴走海列車”。あたしの仕事は列車を線路に乗せるまで!!運転しようにもスロットルが効きゃしねぇんら。したがって列車は常にフルスロットル!!!もう誰にも止められねェんら!!!」

「げ。」

「ウソ!!?」

 ココロの言葉にジャスミンが呻き、ナミが叫ぶ。

「ルフィ!!列車が大波にぶつかっちゃうわ!!ルフィ!!」

 ナミの叫びも耳に入らない様子で、ルフィがパウリーやザンバイらと向き合う。

「————せっかく同じ方向向いてるモンが、バラバラに戦っちゃ意味がねェ。」

 スッと2人に向かって手を差し出す。

「良いか。おれたちは同志だ!!!」

 ガシッ!!

 ルフィ、パウリー、ザンバイ。

 麦わらの一味、ガレーラカンパニー職長、フランキー一家、3つの集団の(ちょう)が文字通り手を組み合った。

「先に出た“海列車”には、おれたちの仲間も乗り込んでる!!!戦力はまだ上がる!!!大波なんかにやられんな!!!全員目的を果たすんだ!!!行くぞォ~!!!!」

「「「ウオオオ―――――――――――ッ!!!」」」

 ルフィの号令に合わせ、男たちの雄叫(おたけ)びが上がる。

「んがががが。さーおめェら、この波何とかしてみせなァ!!!」

 全員の心が1つに纏まったところで、ココロの声が響く。

「フランキー一家!!波に怯むな!」

「大砲用意!!!」

 バタバタとフランキー一家がアクア・ラグナを越える為の準備をしているのを見つつ、ジャスミンもソファーから立ち上がる。

「さて……。まずはアクア・ラグナを何とかしないとね。」

「そっか!もう1度さっきの何とか波で……!!」

「かめはめ波ね。ちょっと行って来る。」

 そう言い置いてジャスミンも再度窓から車外に飛び出した。

 

「“デミ・キャノン”!!!」

 ボウン!!!

 屋根の上からタイルストンやフランキー一家が迫り来るアクア・ラグナに大砲を撃つが、波は全く崩れる様子が無い。

 ゴゴゴゴゴゴゴ…

「……穴も開かねェ…。当然か……!!」

「うおおお!!」

 ドゥン!!

 ドォン!!

 ドゥン!!!

 立て続けに大砲が放たれるが、全てスパン、と波に呑まれるばかりで一向に効き目は無い。

「だめだ、だめだそんなんじゃあ―――――っ!!!」

 ゴォオオオオ

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 後ろからフランキー一家のゴンドラから、巨大な大砲がアクア・ラグナを狙う。

「下げってろ!!フランキー一家、特製大砲に任せとけー!!!」

「目標、アクア・ラグナ!」

「撃て―――――――――――っ!!!“スーパー解体(スクラップ)(ほう)”!!!」

 ズドォン!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴ…

 スパァン!

「怯むなァ!!!どんどん撃ち込め――――っ!!!」

 ドゥン!!

 ドォン!!

 ボウン!!

 ドゥン!!!

 ドドン!!!

 だが、全く効果は見られない。

 スタッ!

「よいしょっと……。」

 そこにジャスミンが降り立つ。

「!おい、嬢ちゃん危ねェぞ!!中に入れ!!!」

 タイルストンが叫ぶが、パウリーは「そうか…!お前がいたか!」と幾分か安堵した顔を見せていた。

「危ないですから、中に入っていた方が良いですよ。」

 言い置いて腰を落とし、構えを取る。

「何を……!」

「早く危ねェから中に…!」

「おい!おめェら、邪魔になる!一旦この嬢ちゃんに任せて下がれ!!」

 ジャスミンを知らないタイルストンやフランキー一家が反論する中、()()()()()()を知るパウリーだけが他の男たちを促している。

「か――――――……、め―――――……!」

 呼吸を整え、気を高めていく。

 ゴゴゴゴオォォ……!!!

 その間にも、アクア・ラグナは目前に迫っていた。

「うおおお~~~~っ!!!ぶつかるぞォ!!!」

「やべェ!!!死ぬ―――――!!」

「死んじまう―――――っ!!」

「泣きごと言う暇あったら撃てェ!!!」

「活路を開けーっ!!!」

「は―――――……、め―――――……!」

 ギュオォオオオオオ………!!

 ジャスミンの気の高まりに呼応し、手のひらの輝きが強くなっていくが、余裕の無い男たちの目には入らないらしい。

 スタン!

 ストッ!

 とルフィとゾロも屋根の上に登って来た。

「んよっ!」

「おい、お前らちょっと後ろに下がってろ!コイツの邪魔になる。」

「お前ら何しに来たんだ!!!」

「しししっ!さっきは良く見れなかったからな。見物に来た!!」

「同じく。」

 パウリーの問いにルフィとゾロが返した直後だった。

「波――――――――――――――――――!!!!」

 極限にまで高まった気が、巨大なかめはめ波となって目前に迫ったアクア・ラグナに叩き込まれた。

 カッ!!!

 ドッグァアアアアアアンンッ!!!!

 ザッパァアアン!!

 シュウゥウウウウウ…!!

「「「「「えええぇえええぇええぇえええ!!!??」」」」」

 ジャスミンの放った渾身(こんしん)のかめはめ波が、巨大なアクア・ラグナを粉砕し、更にかめはめ波が直撃した付近の海水が蒸発する。

 それを初めて目の当たりにした男たちの、某神の(ごと)きリアクション再びである。

「すっっっっげ――――――なァ――――――――――!!!!」

「へェ……。」

 間近で改めてそれを見たルフィのテンションはだだ上がりで、ゾロでさえちょっと目を輝かせている。

「ア、アクア・ラグナが………。」

「…消えたァ………!!!」

「し、死ぬかと思ったァ~~~~~っ!!!」

「アクア・ラグナが消えたぞ~~~~~~~!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




ココロさんの喋り方めっちゃ難しいです…。


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第21話 激突!2人の剣豪

すいません、エニエス・ロビーまで行きませんでした……。次こそは必ず!!


 ジャスミンたちが中に戻ると、すぐさまナミがルフィを呼ぶ。どうやら、先行した海列車に密航していたサンジからナミに通信が入ったらしい。

 フランキー一家がジャスミンを見て軽くざわざわしていたものの、ジャスミンがナミたちの近くに寄るのを見て、通信の邪魔をしないようにか直接話しかけてくる者はいなかった。

 まぁ、この世界には悪魔の実の能力者がいる為、奇特な力にも多少耐性があるのだろう。

「サンジ――――――っ!!そっちどうだ!?ロビンは!?」

 ナミから子電伝虫を受け取り、ルフィが通信に出る。

『ロビンちゃんは……。まだ捕まったままだ。ナミさんから今、事情を聞いたとこだ。…全部聞いた…。』

 子電伝虫の口からサンジの声が聞こえてくる。

 ……いつも思うが、巨大なカタツムリが喋るというのはかなりシュールな光景である。

 通信の邪魔にならないように傍らで静かにしながら、ジャスミンの思考が明後日(あさって)の方向に逸れる。カタツムリ型の機械、というのならまだ理解出来るのだが、生きているカタツムリというのが不気味だ。

 しかも、個体によっては受話器を取り付けられるなど多少の改造を受けていたりしているのだから、動物愛護的な意味でアウトな気もするのだが……。

 プッ!ツー、ツー…

「終わったの?」

 通信が切れ、眠り始めた子電伝虫を見ながら尋ねる。

「おう!ばーさん、列車もっとスピード出してくれ!!」

「もっと!!?安心しな。…もう既に船の限界速度を超えてるよ!!もう自力じゃ止まれねェ程にね!!んがががが!」

 サンジに暴れて良いと許可を下したルフィが、ココロに更なる加速を要求していた。

「大丈夫かしら、サンジくん…。」

 ナミが眠った子電伝虫を手に呟く。

「私はそのサンジさんって人を直接は知らないけど……。海列車に密航したり、連絡手段の子電伝虫を残していくくらいだから、きっと頭の回転が速い人なんでしょ?上手く立ち回れるんじゃないかな?」

「……そうね。」

 ジャスミンの言葉に頷いたナミだったが、納得してたというよりも自分に言い聞かせているように見える。

「このスピードで行けば、エニエス・ロビーに着く前に追い付けるかもしれない。戦闘に備えておこうよ。」

「ええ。」

 ナミが半ば無理やりに自分を納得させる。

「ん?」

 不意にジャスミンが前方に目をやった。

「どうしたのよ?」

「ん~…。ちょっと屋根にいるね。」

 そう言い置いてジャスミンが再び窓から車外に出る。

 雨風が激しく吹き付けるなか、“ロケットマン”のヘッド部分、鼻先にあたる部分に降り立ち、意識を前方に集中させた。

「戦闘中・・・・かな?」

 まだ多少の距離があるが、一定の速度で前方に進んでいるのにも関わらず気を高ぶらせている集団を感じ取る。

 たぶんこれが先行している“パッフィング・トム”だろう。

「?分かれた?……列車が分断したかな?」

 集団が2分されたのを感じ取る。

 一方は相変わらず前進しているが、もう一方は徐々にそのスピードを落としていた。

 進んでいる方も速度が先程よりも上がっているので、車両を分断させてスピードを上げたのかもしれない。

「まずいな……。このままのスピードで進まれると、追い付くより先に向こうの方が着いちゃうだろうし。」

 何より、置き去りにされた方の列車と衝突することになる。

 “ロケットマン”もかなりのスピードで進んでいるのだから。

 自分が飛んで行って線路から残った方の車両をどかすべきだろうか。

「いや、でもそれだと船と違って列車だから沈んじゃうしな……。」

 どかすのは自分でも出来るが、さすがに持ち上げてどこかに運ぶのはキツい。

 一般的な同年代の女子に比べれば鍛えているが、ジャスミンは純粋な地球人である。いくら鍛えていても、純粋な腕力は、一般的な成人男性と大して変わらないのだ。

 打撃などの場合は、瞬間的に威力を上げることは出来るが、持ち上げるなど持久力が必要な事態においては目立った活躍は出来ない。

 そもそも、ジャスミンが得意とするのはそのスピードでもって相手を翻弄し、的確に急所を狙うという戦闘スタイルである。天下一武道会で一時(いっとき)でもトランクスを圧倒出来たのは、トランクスが持ち直す前に自分のペースに持っていったことにある。

 典型的な短期決戦型だが、腕力や持久力の不足を自身が理解しているからこそ得意なスピードに磨きを上げたのだ。

 少しでも欠点を解消しようとはしているが、元々筋力が付き難い体質ということもあってなかなか上手くいっていないのが現状である。

 

 閑話休題

 

 さてどうしようか、とどんどんと近付く“パッフィング・トム”の車両と“ロケットマン”に頭を悩ませている時だった。

「いよっと!」

 したんっ!と音を立ててルフィがジャスミンのすぐ後ろに着地した。

「あれ?ルフィくん?」

「おー!ジャスミン。何やってんだ?」

「いや、それはこっちのセリフだけど・・・・。」

「おれは“バッシング・トム”がまだか見に来たんだ!!」

「“パッフィング・トム”だよ。あれ?服着替えたの?」

「おう!戦闘準備だ!!」

「へぇって、それどころじゃない。このまま進むと切り離された車両とぶつかっちゃうんだよ!」

「切り離された車両?何で分かんだ?」

「気配で分かるんだってば!それより、後2~3分でぶつかるけど、どうする?!50人くらい乗ってるみたいだから、さっきみたく吹き飛ばそうにも出来なくて……。」

 呑気なルフィにジャスミンも声を荒げる。

「サンジはいるか?」

「私はサンジさんに会ったこと無いから分かんない。でも、“パッフィング・トム”で戦ってる人たちが何人かいるけど、動いている方に乗ってるみたいだよ。」

 そんなことを話していた時だった。前方に、波に翻弄されている海列車の車両を発見する。

「おい、おめェら!!前に列車が見えた!!!」

「え!!?」

 ルフィの叫びに、(にわ)かに“ロケットマン”の中が騒がしくなる。

「中身確認して来る!!“ゴムゴムの”……!!」

「ちょっとルフィくん!?」

「“ロケット”!!!」

 ドギュゥン!!!

 止める間も無くルフィが前方の車両に突っ込んだ。

 車両を確認するべく、ゾロやタイルストンたち、ザンバイらも出て来た。

「麦わらさんは!?」

「…今さっき、前の車両に突っ込んで行きました……。」

 溜息を()きながら前方の車両を指差し、ザンバイの質問に答える。

 そしてそんな話をしている間に前方の車両が何やら騒がしくなってきた。

「!麦わらさんが出て来たぞ!!」

 何やら頭の上で腕をバツ印に交差させている。

「…サンジさんたちはいないってことかな?」

「誰もいねェって撃たれながら!!」

 ザンバイが後方に向かって叫ぶ。

「ということは、あの人影は全部政府の人間ってことか。……どうします?あの車両どかさないと、私たちもただじゃ済まないと思いますよ。」

「よし!じゃあ、おれたちがぶつかる寸前で解体してやる!!」

「よォし!!おれたちも乗った!!!」

 ザンバイの叫びにタイルストンが同意する。

「おーい、ゾロ~~~~~~!!!」

「ロロノアさん!!ルフィくんが呼んでます!」

 もはや目前に迫りつつある車両を前に、ジャスミンがゾロを呼ぶ。

「斬れ。邪魔。」

「ああ。」

 端的なルフィの要求にゾロが応じる。

「斬るったって…。」

「――――――荒廃(こうはい)の世の自我(エゴ)。」

 腰に(たずさ)えた刀の鯉口(こいくち)を切る。

「斬り裂けり。二刀流“居合(いあい)”。“羅生門(らしょうもん)”!!!!」

 ザン!!!

 言うや否や、瞬時に抜刀した2本の刀で追い付き様に車両を斬り裂く。

「「「「「!!!?え~~~~~~っ!!?」」」」」

 某神のごときリアクション、3度目である。

 一方ジャスミンはと言えば、

「凄い…。これだけ綺麗に斬ってるのに、1人も殺してない……!!」

 誰1人として斬り捨てること無く、車両を分断してのけたゾロを感嘆の眼差しで見詰めていた。

 これだけの人数が乗っている車両を、正確に人と人の間を()うようにして両断するとは…。

 ただ斬り裂くだけなら、名のある剣豪なら可能だろう。

 だが、1人も傷付けること無くやってのけるのは並大抵の技量ではない。剣のことなど欠片も分からないジャスミンだが、彼女とて武道家の端くれである。例え畑違いであっても、その技量の凄まじさだけは見ていて分かった。

「よ!」

 トン!

 と、ルフィが“ロケットマン”に戻って来るのとほぼ同時にゾロの刀が(さや)に納められた。

 ザザァァ…ン!!!

 同時に両断された車両が、それぞれ着水する。幸い、分断された車両が船のように浮いている為、乗っていた海兵や政府の人間たちも全員が無事のようである。

「あのなお前ら、そういうことやるんなら前もって一言くらい!」

「聞こえたろ。“斬れ”って。」

「斬れると思わねェしよ!!」

「あんな怪物でも一味の(かしら)じゃねェのか……。」

 ルルがルフィに食ってかかり、ザンバイが半ば放心状態で呟いているのを聞きつつ、ジャスミンが前方に目をやる。

 どうやらゾロも気が付いているようで、前を見据えて目を離さない。

「……おい、お前ら!!まだだ……!!!」

 腕に巻いていた黒い手ぬぐいを頭に巻き直しながらゾロが唸るように言う。

「……相手もまた、無類の剣士みたいだね…!」

「え?ウゲ!前見てみろ!!!」

「か…海王類が真っ二つ!!この列車の5倍はあるぞ!!」

 線路を中心に、斬り裂かれた巨大な海王類の死体が海を漂う。

 そして、荒れ狂う波間を漂う線路の上に1人の人影が見えた。

「誰かいるぞ!!」

「あァ!!!ありゃ“船斬(ふねき)り”だァ!!!」

「?ふねきり!?」

 ザンバイが叫ぶ。

「あいつは“海軍本部”の大佐“船斬(ふねき)りTボーン”!!!海賊船をステーキみてェに斬りオロしちまう男だ!!一体何でこんな所に!!?」

「……詳しいですね。」

 この視界の悪さの中、良く見知った相手ならともかく噂程度にしか知らないだろう相手を誰だか判別するとは。

「まぁな!ってそれどころじゃねェ!!野郎共!!!砲撃準備!!!」

「「「うおお―――――!!!」」」

「待て!!!」

 すぐさま砲撃に移ろうとしたフランキー一家をルフィが制止する。

「何すか!!急がねェと、この海列車スパッといかれちまいまっスよ!!?」

「お前さっき何見てたんだよ。ゾロに任せろ。邪魔すんな!!」

「既にロロノアさんはそのつもりみたいですよ。」

 そう。ゾロは既にあの海兵を自身の相手とみなしている。

「1度だけ言うぞ!!!道を開けろ!!!」

「ここは正義の起因(おこり)へと続く道なり!!!」

 ゾロの警告に、海兵が叫び返す。

「私は“海軍本部”大佐!!!生き恥など(さら)さぬ!!!貴様らなど真っ二つにして止めてくれる!!!」

「そうもいかねェ!おれたちの目指す場所はお前のいるその先にあるからな!!!」

「来い!!!」

「あの海兵も強いね…。」

 それも、確固たる“正義”を秘めている。見せかけだけでなく、本当に民間人のことを考えている人間なのだろう。

 その叫びからは、絶対にここで足止めをする、そんな強い意志がひしひしと感じられた。

 恐らく勝負は一瞬。

「曲がった太刀筋(たちすじ)大嫌い!!直角飛鳥(ひちょう)…“ボーン”……!!」

「“三刀流”“牛鬼(ぎゅうき)”。」

「“大鳥(オオドリー)”!!!!」

 ビュオ!!!

 ギキン!!!

 海兵の放った斬撃が直角に曲がりゾロを襲うが、それはゾロによって弾かれる。

 刹那―――――、

「“勇爪(ゆうづめ)”!!!!」

 ドン!!

 ゾロの斬撃が海兵を線路から弾き飛ばした。

 ザバァ…ン!!

 海兵が海に落ちる。幸い、傷は致命傷には至っていないが、このまま大荒れの海を漂っていては命はあるまい。そもそも、意識があるかどうかも怪しい。

「うお―――――!!!」

「“船斬(ふねき)り”に勝った~~~~~~っ!!!」

「……ルフィくん。私ちょっと外すね。」

 ザンバイらが喜びに沸く中、ジャスミンがルフィに告げる。

「んあ?どこ行くんだ?」

「あの海兵拾って、さっきの車両の人たちの所に置いてくるよ。」

「おいおい!相手は海兵だぞ!?」

「わざわざ捕まりに行くようなもんだ!!!」

 ザンバイらが途端騒ぎ出すが、ジャスミンはルフィの目を真っ直ぐに見据えていた。

「―――――相手は海兵だぞ?」

「私は海賊じゃない。――――もちろん、向こうがそんな理屈を聞いてくれるとは思わないけどね。でも、ここで彼を見捨てるのは私の武道家としての主義に反するんだ。」

「勝負の結果だ。向こうは怒るんじゃねェか?生き恥だどうこうって叫んでたしな。」

「だろうね。――――でも、彼はこんな所で死んで良い人間じゃない。この大海賊時代、腐り切った名ばかりの“正義”が横行している中、彼が掲げる“正義”は本物だ。純真、と言い換えても良い。ルフィくん、私は彼のような真っ直ぐで気持ちの良い“正義”を掲げる海兵を初めて見たよ。彼は本当に民間人のことを考えている人だ。」

「そっか。うし、分かった!」

 同じくジャスミンの目を真っ直ぐに見ていたルフィは、彼女の思いを汲み取り頷いた。

「応急手当して送り届けたらすぐに追いかけるよ。」

「おう!後でな!!」

 手を上げて応じるルフィに手を振り返し、ジャスミンは先程の海兵を拾うべく、舞空術で“ロケットマン”から飛び立った。

 

 

 

 




ジャスミンは実戦に出たのはワンピース世界が初めてな上、ドラゴンボール世界ではただ武道の心得があるだけの中学生だったので人の死に直面するような戦いに慣れていません。ワンピース世界にきて半年経っている為、“男のメンツ”や“プライド”、それぞれの考えなどに対しては多少の理解がありますが、殺し合いはちょっと…、という感じです。
これがよっぽどの悪党や人間的に屑だったら、もしかして助けなかったかもしれませんが、今回はたまたま立場的に敵対関係になってしまっただけの善良な海兵だった為、死ぬかもしれないのを見過ごせませんでした。
たまたまお互いの主張がすれ違っただけで、仲間を助けたいルフィたちも、民間人を守る為に“海賊”を見逃せない、というTボーンもどちらも間違ってはいません。“弱者の為”というTボーンの“正義”を、“守る”為の強さを求めるジャスミンは武道家として共感してもいます。ジャスミンは“海賊”ではなく、“友人”としてルフィたちに加勢している為、そこの主義は曲げませんでした。仮に海賊になっても曲げない気はしますが…。
長くなりましたが、そんな考えの下、ジャスミンはTボーンを助けに行きました。


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第22話 突入!エニエス・ロビー

お待たせしました!第22話更新です。すいません、まとまった時間がなかなか取れなかった上に季節の変わり目で見事に風邪を引きました(汗)。幸い、仕事に支障は出なかったんですが、執筆にあてる程の気力が無く…。たいへんお待たせしてすみません…。


「よっ、と……。」

 ザパッ……!

 “ロケットマン”から飛び立った後、先程の場所まで戻り気を失っている海兵‐Tボーンを海から引き揚げる。

「意外と傷が深いな…。」

 一旦線路の上に乗せる形で傷を確かめながら呟く。

 揺れる線路の上では手当することも出来ない。また、出来れば雨風の及ばない場所で海水に浸かってしまった傷口を清められればベストなのだが。

「逆方向になっちゃうけど、一旦ウォーターセブンまで戻った方が良いかな…。」

 エニエス・ロビーの方が距離的には近いが、敵の本拠地でのんびり傷の手当が出来るとも思えない。

 いっそわざと人目の付く場所へ下り、手当を任せて置いてきた方が良いか、ともチラッと考えたが、罠だと警戒されるのがオチだろうし手当が遅れては手遅れになる危険もあった。

 となれば多少距離があってもウォーターセブンで手当し、その後で先程の切り離された車両の海兵たちに預けた方が良いだろう。

 実際にこの海兵‐Tボーンを知る者ならば話も通じ易い。現場の人間の方が話が通し易いものなのだ。

「急ごう。」

 Tボーンを背中に担ぎ上げ、フワリ、と舞空術で宙に浮き上がる。

 ギュン!

 ウォーターセブンを目指し飛び立った。

 

 ━同じ頃、“ロケットマン”内━

「さっきの車両はきっとサンジくんたちの仕業(しわざ)よ。」

 ナミが先程の車両について断言する。

「じゃ、もうすぐか!!よ――――――し!!!行け――――――――――“ロケットマン”!!!敵は近いぞ―――――!!!ハトの奴をぶっ飛ばすぞ―――――っ!!!」

「ウオオオ~っ!!!」

 ルフィの号令に男たちが声を上げた。

「あれ?ルフィ、そういえばジャスミンはどこに行ったの?」

「ああ。さっきゾロが斬った海兵助けに行った。」

「ハアアァ???!!」

「海兵をか!!?」

 ルフィの言葉にナミとチョッパーが驚愕の声を上げる。

 海賊である彼らにとって、敵対した相手、それも海兵を助けに行くというのがある意味衝撃だったのだろう。

 そして、一切それらに気付かず、ゾロは1人熟睡していた。

「アイツは海賊じゃねェからな。」

「あ……。」

「そういえばそうか。」

 その言葉にナミとチョッパーは一瞬納得してしまった。

 すっかり仲間のようなノリでいたが、ジャスミンは単に“友達”として手を貸してくれていただけだったのだ。

「アイツにはアイツなりの“信念”があるんだ。しししっ!アイツやっぱり仲間になんねェかな~!」

 殊更(ことさら)ルフィが嬉しそうに笑った。

 この一件が終わった後、再度ジャスミンはルフィの強烈な勧誘の嵐に遭うのだが、それはまだ先の話である。

 

 ━その直後、ウォーターセブン“造船島”中心街━

「へくしっ!」

 いくつかあるホテルの屋根の上でTボーンの手当をしながら、ジャスミンが不意にくしゃみをした。

「?…風邪引いたかな?」

 そんなやわな鍛え方はしていないつもりだが、この雨風で体調でも崩したか?と思案しつつも、手当の手は止めない。

 巻いている先から包帯がぐっしょりと濡れていく。

 激しく吹き付ける雨風と、押し寄せるアクア・ラグナを防ぐ為に建物の窓は全て塞がれており、中に入ることは出来なかった。

 当然、入口も全て塞がれている為、止む無く雨ざらしの中で屋根の上で手当していたのだ。

「良し。…この場所じゃ、これが限界か……。」

 一通りの傷を消毒し、ガーゼと包帯で止血する。

「早くルフィくんたちと合流しないと・・・・。」

 再びTボーンを背中に担ぎ上げ、海へと飛ぶ。

 キィイ―――――――――――――――――ン……!!!

 背中のTボーンを落とさないようにある程度スピードは抑えているものの、その速度は“ロケットマン”を遥かに上回る。

 5分程飛んだところで、先程ゾロが両断した車両が見えてきた。

 乗っている海兵や政府関係者が、木材の端切れのようなもので懸命に海を()いでいる。

「いた…!」

 トッ!!

 風を切って車両の1つに降り立つ。

「なっ……!!」

「誰だ貴様!!!」

 突如(とつじょ)空から降り立ったジャスミンの姿に、海兵たちが殺気立つ。

「争う気は無いよ。あなたたちの上官を送り届けに来ただけだ。」

 武器を構える海兵たちを片手で制止しつつ、出来るだけ傷に(さわ)らないようにTボーンを横たえた。

「Tボーン大佐!!!」

「一体何をした貴様!!」

「大佐から離れろ!」

 ジャキキキッ!!!!

 一斉に海兵たちの武器がジャスミンへと向けられる。

「だから争う気は無いって言ってるのに…。こんな所で死んで良い人間じゃないと思ったから拾って連れて来たんだ。応急手当はしたけど、傷は深い。早めに医者に診せた方が良いよ。」

「手当だと……?」

「貴様、海賊じゃないのか?何故大佐を助ける!?」

「私自身は海賊になった覚えは無いよ。――――Tボーン大佐だっけ?彼はこんな所で死んで良い人間じゃない。彼が掲げる“正義”のその先を私は見てみたい。」

 それは偽らざる本音だった。上に行けば行く程、海軍という組織は闇に染まっている。どこまでTボーンが自分を貫けるのか。世界政府の闇を知って(なお)、真っ直ぐに“正義”を通せるか。それを見てみたいと思った。

 目を()らすこと無く言い切ったジャスミンに、海兵たちが動揺する。

 敵では無いのか?という空気が漂うが、その間にジャスミンは再び宙へと浮き上がる。

「う、浮いてる…!」

「悪魔の実の能力者か!?」

「じゃあ、後の手当は任せるよ。」

 ギュン!

 そう言い置くと、海兵たちに構うこと無くジャスミンが空へと飛びあがった。

「急ぐか…。」

 キイィ―――――――――――――――――ン!!!!

 ルフィたちに追い付くべく、全力でエニエス・ロビーへと飛ぶ。

 そのスピードは先程の比では無い。2~3分も飛べば、エニエス・ロビーの正門が見えてきた。

 “ロケットマン”とフランキー一家の船も見える。

「間に合った……!」

 タン!

 “ロケットマン”の屋根に手を付き、そのまま窓から車内へ滑り込む。

「ただいま。」

 ストン、と着地しながら告げたジャスミンに真っ先に反応したのはナミでもルフィでも無く、いつの間にかルフィたちと合流していたらしい男‐サンジだった。

「おぉう!?窓から急にレディが!!ここで会ったのも運命。初めまして、あなたのコック‐サンジです!!」

 喋ると同時にジャスミンの前に(ひざまづ)き、胸に手を当ててキラキラとした決め顔を向ける。

 予想していなかったところからの激しい反応に、ジャスミンが思わずビクッと体を震わせ、「止めんか!!」とナミがサンジをどついた。

 それを見てルフィが爆笑する、というちょっとしたカオスな状況が繰り広げられた。

 

 その後、落ち着いてからちょっとした自己紹介が行われる。

「改めまして、ジャスミンといいます。ルフィくんたちとはウォーターセブンで友達になって・・・・。成り行きでお手伝いすることになりました。」

 サンジたちに向かってペコリ、とお辞儀(じぎ)しつつも、ジャスミンの目はサンジの隣の仮面の人物に注がれていた。

 そう、狙撃の王様“そげキング”である。

 頭から爪先までとっくりと見詰め、うん、と1人頷く。

(ウソップくん……。意外とケガも大丈夫そうだ。)

 何しろ、フランキー一家にかなり手酷くやられたようだったので(いささ)か心配していたのだが。

「ジャスミンちゃんって言うのか。いやぁ、それにしたってこの先はレディには危険だ。今から帰るのは難しいが、そこのレディたちと一緒に海列車の中に隠れてた方が良い。」

 女性至上主義のラブコックらしく、サンジがジャスミンとフランキー一家の2人‐モズとキウイに前線から引くように促した。

「ジャスミンならたぶん大丈夫よ。そんなに心配しなくても。」

「ナミさん?どういう意味だい?」

「だってジャスミン強いもの。」

「凄いんだぞ!ビーム出せるんだ!!」

「ビーム!!??」

「ビームじゃなくて気功波(きこうは)だって……。それより、エニエス・ロビーはもう目の前だけど、これからどうするの?」

 チョッパーの言葉を苦笑しながら訂正しつつも、話を本題に戻す。

「どうするってハトの奴らをぶっ飛ばしてロビンを助けんだよ!!」

「いや、私が聞きたいのは作戦をどうするかって話。」

 それによってジャスミンがどう動くかが決まってくる。

「そうね。ただ闇雲に突っ込めばどうなるか…。」

「せめて地形が分かりゃ作戦の1つも立てられるかもしれねェが…。」

 ジャスミンの言葉に、麦わらの一味の中でも頭脳派のナミとサンジが同意する。

「お前らちょっとコレ見ろ。」

 不意にパウリーがルフィたちを呼んだ。

 傍に寄ると、エニエス・ロビーの地図が広げられていた。

「前に1度線路の整備で来たことがあって…。おれがうろ覚えで描いたんだが、エニエス・ロビーのだいたいの地形だ。」

 パウリーが地図を指しながら、“正門”“本島前門”“裁判所”“司法の塔”“正義の門”とざっくりと説明をしてくれる。現在地は正門の手前だが、エニエス・ロビー全体を鉄柵がぐるりと囲っていた。

「“正義の門”ってのは島の裏手にあって“司法の塔”からのみ行けるようだ。」

「何だコリャ。黒いの何だ?」

 ルフィが地図に記された本島の周りを囲む黒い円を指して疑問の声を上げる。

「黒いのは滝だ。まあ、門を(くぐ)れば分かる。とにかく、“正門”から“正義の門”までのこの直線でニコ・ロビンとフランキーを取り返せなきゃ、おれたちの負けだ!!!とは言え、全員で雪崩(なだれ)込んでも、“CP9(シーピーナイン)”に出くわして実際勝つことが出来るのはお前らだけだ。一緒に列車に乗ってきてその強さが良く分かった。だからお前らは海でこのまま5分待って、“正門”からこの“ロケットマン”で本島まで突っ込んで来い!!!」

 パウリーがルフィを真っ直ぐに見る。

「おれたちァ、それまでに先行して列車が通れるように“正門”と“本島前門”をこじ開ける!!!その後もおれたちが例え何人倒れようとも構わず前へ進んで欲しいんだ!!」

 その後をザンバイが続けた。

「こっちはたかだか60数人。敵は2千3千じゃ収まらねェ筈。麦わらさんたちはとにかく!!無駄な戦いを避けて“CP9(シーピーナイン)”だけを追ってくれ!!!」

「ああ!!!分かった!!!」

 ザンバイの言葉にルフィが力強く頷く。

「それなら“正門”と“本島前門”は私が引き受けるよ。わざわざ敵中に入り込んでから開けるのはリスクが高い。

 私なら、この距離からでも門を吹っ飛ばせる。」

 ザンバイたちの(おとり)とも呼べる作戦を聞いてジャスミンがルフィに提案した。

「おお!さっきのビームか!!」

「ならその後は、ポニーテールも麦わらたちと一緒に行動してくれ。他の海兵の相手はおれたちがする。お前らは一刻も早くニコ・ロビンたちを救出するんだ。ルッチたちの足止めをしてくれたお前なら、充分過ぎる戦力だからな…。」

「え!?ジャスミンちゃん、そんなに強いの?!」

 パウリーの言葉に、合流したばかりでジャスミンのことを一切知らないサンジが思わず、といった(てい)でジャスミンを振り返った。

 実際に“パッフィング・トム”の中で彼らと対峙したサンジにとって、(にわ)かには信じられなかったのだろう。

「ええ、まあ…。」

「ウソだろ!?あ、もしかして悪魔の実の能力者なのか?それなら…。」

「サンジくん!後で説明したげるから話の腰折らないで頂戴(ちょうだい)!!!」

「ハァ~イ、ナミすわん!!!」

 ナミに対して目をハートにし、身体をくねんくねんにし始めたサンジに、またもやジャスミンがビクッとする。

「気にするな。サンジのアレは病気なんだ。おれも治せねェ。」

「あ、うん…。」

 チョッパーの言葉に思わず頷く。

 

 閑話休題

 

 結局、ジャスミンが正門を破壊した後で“ロケットマン”ごと本島に乗り込み、その後で再びジャスミンが“本島前門”を破壊して道を作る。というシンプルな作戦に纏まった。

 途中で海兵に会った場合はパウリーたちが引き受け、ジャスミンはルフィたちと一緒にCP9(シーピーナイン)を相手取ることとなる。

「さァ、おめェら島の正面らよ!!!エニエス・ロビーの後ろの空をよ━━くごらん!!!アレが“正義の門”ら……!!!」

 ココロの言葉に窓から外を見る。今まで(もや)に隠れて良く見え無かったが、近付いたことでその姿を(あら)わにしていた。

「うおああああ~~~~~~~~っ!!」

「でけ~~~~~~~~~~~~!!!」

「全開になることはまずねェ。罪人が通過する時、あの扉はほんの少しだけ開く。そして扉の向こうには“偉大なる航路(グランドライン)”を(はさ)む“カームベルト”のような大型の海王類の巣が広がって普通の船じゃ入り込めねェ。どうやるのか知らねェが…。海軍はそこを安全に通過する手段を持っているんら…。――――――つまり、海賊娘の言った通り……。連行された罪人を盗り返してェなら、あの門を通過するまでが制限時間(リミット)ってことら!!ぐずぐずしてる暇は無いよっ!!!」

「じゃ、門を吹っ飛ばそうか。」

 そう言い置いて、ジャスミンが窓から屋根へと上がる。

「吹っ飛ばすったってどうやって…。」

「大砲でも撃つ気か?」

 唯一ジャスミンの技を知らないサンジとそげキング(ウソップ)が顔を見合わせる。

「まァ、見てろ。」

「すっげ――――ぞ!」

 ゾロとルフィが楽し気な笑みを浮かべる。

 その頃、ジャスミンは屋根の上に立っていた。

「さて…。出来るだけ人は巻き込まないようにしないと…。」

 いっそ全力でぶっ放した方が楽なのだが、それをしたら最後、救出対象であるロビンやフランキーは(おろ)か、島ごと吹っ飛ばしてしまう。

「か――――…!め――――…!は――――…!め――――…!」

 まずは正門を狙う。

「波――――――――――!!!!!!」

 ドッゴォオオオォオンン!!!

 狙い通り、正面の鉄柵ごと正門の扉のみが吹っ飛ぶ。

「よし!上手くいった。」

 本音を言うと力加減を誤って本島の前門まで吹っ飛ばしはしないかと不安だったのだが。

 一旦車内に戻ろうとした時だった。

 窓から、ルフィが飛び出して行くのが見えたのは。

「ルフィくん!!?」

 何で1人で先に乗り込もうとしているのか。

「何やってんだ、あいつは勝手に――――――――――っ!!!」

「あの人作戦全然分かってねェ~~~~~~~~っ!!!」

 パウリーとザンバイの叫びが聞こえてくる。

「まぁ、ルフィくんが大人しく作戦通りに動くとは思って無かったけどさぁ…。」

 ジャスミンが脱力している間に、既にルフィはエニエス・ロビー本島へ突っ込み、正門の異常を確認に来た海兵たちを次々と吹っ飛ばしていた。

「おめェら、準備は良いかい!!?“ロケットマン”、突撃するよ!!!」

 ココロの言葉に、ジャスミンも車内に戻る。ふと、ザンバイらの姿が見えないことに気が付いた。しかし、それを確認するより先に再度ココロの声が響く。

「突っ込むよ!全員どこかに掴まりなァ!!!」

 ポッポ――――――――――!!!

 ゴオオオオオオオ…!!

 ぐん、と一瞬身体が浮くような感覚の後、

 ドッゴォオオオォ……オンン!!!

 ガガガガガガガガガ……!!

 ガクンッ!!

「ぐ……!」

「くぅ…!」

「きゃ!」

 凄まじい着地の衝撃が襲った後も進んだのが分かったが、その後すぐに“ロケットマン”が停車する。

「止まった…?」

「何で急に…。」

 その答えは、窓の外を見ればすぐに分かった。

「ふァ~~~…。まだ寝足りねェなァ…。こんなモンで突っ込んでくるとは思わなかったが、早ェトコ追っ払ってまた寝るぞ。」

「オイも。」

「巨人族ですって!!?」

「この2人が止めたのか……!」

 2人の巨人族が、正門を越えたところで“ロケットマン”を強引に止めてしまったのである。

「さすが“世界政府”の玄関と言われるだけあるね…。人材が豊富。」

「感心してる場合じゃ無いでしょうが!!!」

 ジャスミンの言葉にナミが突っ込んだ。

 




今回書きたかったこと
1.ジャスミンが正門破壊
2.オイモとカーシーが“ロケットマン”を止める
この2つはわりかし早い段階で入れたいと思ってました。取りあえず書きたいところは書けたので満足です。
追記:見直して初めてヨコズナの存在を忘れてたことに気付きました…。スイマセン、これから唐突に登場するかもしれません…。


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第23話 司法の島での戦い

お待たせしました!第23話更新です。なかなか纏まった時間が取れず…。ようやくエニエス・ロビー編突入です。
これ、年内にエニエス・ロビー編終わるんだろうか…。


「おめェらこんなトコに何しに来たかは知らねェが、潰れる前に帰った方がええぞ。なァ、オイモ。」

「ああ、カーシー。オイも同感。骨の(ずい)までペチャンコにしちまうぞ!!!」

 目の前の2人の巨人‐どうやらオイモとカーシーというらしい‐が、体中に響くような声で言い放つ。

 せっかく正門を破壊したのに、結果的にすぐに止められてしまった。

 ギリギリのところで正門を通過出来たのは不幸中の幸いだったが、“本島前門”まではまだ距離がある。

「仕方無い。ここは私が引き受けるからみんなは早く本島に…。」

 ジャスミンが降りようとした時だった。

「いや、お前はコイツらと一緒に麦わらを追いかけろ。」

 パウリーがナミたちを指しながらジャスミンを制止する。

 ガレーラの職長たちと、ザンバイやモズたち以外のフランキー一家もそれに応じるように立ち上がった。

「いや、でも…。」

「作戦を思い出せ!!」

「巨人たちは任せろ!!」

「あんたらはアニキを頼む!!」

 言い置いて次々と車外に飛び出していく。

「ジャスミン、あたしたちも行きましょう!」

「この場は奴らに任せろ!!」

「……分かった!」

 車外に飛び出しながら促すナミとゾロの言葉に頷き、その後に続く。

「ここはお願いします!!」

「おう!任せろ!!」

 ナミたちと一緒に“本島前門”に向かって真っ直ぐ走り抜ける。

 前門が見えるにつれ、その異常が明らかとなった。

「?警備兵たちが全員やられてる…。」

「おおかた、ルフィにやられたんだろう。」

「…もうちょっと隠密行動ってものを覚えてほしいと思うのは私だけですかね?」

「安心しろ。おれら全員が思ってるよ。」

「「「いや、まったく。」」」

 ゾロの言葉に、ナミ・サンジ・チョッパーが深く頷いた。が、1人足りない。

「あれ?ウソ、じゃない“そげキング”さんは?」

「「「「あ。」」」」

 ジャスミン以外の人間が声を(そろ)える。

「仕方ねェ。戻ってる時間が惜しい。」

「そのうち顔出すだろ。」

「はぁ…。」

 サンジとゾロが判断する。確かにその通りではあるが、それで良いのだろうか?

(まぁ、確かに今優先しなきゃいけないのはこっちだけど。)

 一刻も早く本島に入らなくては。

「じゃ、やりますか。」

 ザッ…!

 “本島前門”から100m程の距離でジャスミンが足を止める。

「私の後ろに下がってください。」

 ナミたちに告げながら、腰を落として構えた。

「ジャスミン、お願いね!」

「またアレをするのか?!」

「もしかして、さっきのヤツをもう1度するのか…?」

 チョッパーがジャスミンを見詰める目がキラキラと輝くのを見て、サンジがハッとなる。

「か…め…は…め…。」

 ギュイィイイイ・・・・

 ジャスミンの両手がゆっくりと光り出した。

 高まった気の放流により、ジャスミンの髪や服が揺らぐ。

「波ァ――――――――――――――――っ!!!!!」

 ギュオォオオオオオ………!!!!!!

 カッッッ!!!!

 ドッゴォオオオォオンン……!!!!!

 “本島前門”が跡形も無く粉砕した。

「スッゲ――――――――――――!!!」

「マジかよ…。」

 チョッパーの瞳の輝きが増し、サンジの口から煙草が落ちる。

「じゃ、行きましょう。」

 

 ━エニエス・ロビー本島前門前━

「侵入者だァ――――――――――――――!!!」

「これ以上の侵入を許すな!」

「捕えろ!!!」

 ドドドドドドッ!!

 ズバッ!ザシュッ!

 バリバリバリッ!!!

 ドゴォ!!

 次々に現れる海兵たちは、サンジに蹴り飛ばされ、ゾロに斬られ、ナミの雷によって焦がされ、トナカイに戻ったチョッパーによって弾かれる。

 ドサササササ……!

 そしてジャスミンは、ゾロたちでさえ(とら)えられない速さで海兵たちを一撃で気絶させていた。

 やられた者たちでさえ、何が起こったのか気付けなかっただろう。

 辺りには、既に100人近い海兵たちが倒れている。

「ナミちゃん、凄いねその武器。」

「あんたも充分凄いわよ…。」

 ナミの完全版(パーフェクト)天候棒(クリマ・タクト)”を見てジャスミンが感嘆(かんたん)すると、ナミが疲れたように返す。

「そこまでだお前らァ!!!」

 周囲の海兵が一通り片付いた頃、新たに増援が現れた。

「我々は“法番隊(ほうばんたい)”!!!裁判長バスカビルの(めい)により、ここで貴様らを裁き討つ!!!」

「“法番隊(ほうばんたい)”?」

 100人はいるだろうか。何故か犬に(またが)った変な恰好の海兵たちが殺意満々で現れた。

「何で犬?」

「変な恰好。」

「やかましいわ!!!」

 単刀直入な女子2人の感想に1番手前にいるリーダー格の男が叫ぶ。

「このエニエス・ロビーの本島、海賊風情(ふぜい)が騒ぎ立ておって………許さん!!」

「そこ、どいてくれませんか?出来るだけ手荒な真似はしたく無い。」

 ジャスミンが1歩前に出る。

「ほざけ!!!」

「はぁ・…。」

 ジャスミンの言葉を一蹴(いっしゅう)し、飛びかかって来ようとした、その瞬間だった。

 溜息を()いたジャスミンが、彼らを(にら)み付ける。

 ブワッ!

 一瞬ジャスミンの髪がなびいた。

 ゾクッ……!

 ゾロとサンジ、そして元は野生で生きてきた経験を持つチョッパーの背筋に寒気が走る。

「キャンッ…!」

「クゥン……!」

「ワゥウ……!」

 そして鋭敏(えいびん)な感覚を持つ犬たちが一斉に(おのの)いた。

 耳を伏せ、ジャスミンから目を離さないが決して視線を合わせない。そして尻尾は足の間に(はさ)み込まれている。

「お、おい!」

「どうしたお前ら!」

「さっさと動け!」

 “法番隊(ほうばんたい)”と名乗った海兵たちが犬をけしかけようとするが、全く動かない。

 ザリッ…!

 ビクッ!

 ジャスミンが更に距離を詰めると犬たちが一斉に震えた。

退()け。」

「キャウン……!」

「アォン……!」

「キャンキャン…!」

「ま、待て!」

「止まれお前ら!」

 ジャスミンが放った“命令”により、犬たちが一斉に逃げ出す。“法番隊(ほうばんたい)”の中には慌てて犬から降りようとしてそのまま引きずられていくものもいた。

 100人近くいた兵たちは、そのほとんどが犬の逃走によって一緒に姿を消し、辛うじて犬から降りた10人程度が残るばかりとなっている。

「な、何今の…。ジャスミン、あんた何したの?」

「こっちが“上”だって教えただけだよ。動物相手は()()が楽で良いよね。」

 普段は常人程度にまで抑えている“気”を一瞬だけ解放し、実力を見せ付けたのである。

 ナミが何とも無かったのに対し、他の3人が反応したのはそれだけ感覚が優れている為だ。

「後は……。」

 ジャスミンが残った“法番隊(ほうばんたい)”に目を向けたと思った直後、その姿が()き消える。

「き、消え、が……。」

「ぐ…。」

「うぐっ……。」

 ドサササササッ!

 次の瞬間、“法番隊(ほうばんたい)”が全員倒れ、その後ろにジャスミンの姿が現れる。

「クソマリモ。お前、見えたか?」

「いや……。」

 1度ガレーラカンパニー本社でその実力を目の当たりにしているゾロはともかく、サンジの驚愕は凄まじい。

「さて……。早くルフィくんと合流しましょう。」

 ナミたちを振り返り、ジャスミンが促す。

「ったく、先に突っ走りやがって…。どこにいやがるんだ、()()()()。」

「さァ。この島も狭くはないから、探すとなると…。」

 ゾロが吐き捨て、ナミが呟いた時だった。

 ボカァ…ン!!

 島の中心近くで爆発が起きる。

「「「「「絶対あそこだ!!!」」」」」

 思わずジャスミンの声も揃う。

「それじゃ…、追いかけるか。」

 ゾロの一言にそれぞれ頷いた時だった。

「いたぞ!!」

「絶対に逃がすな!!!」

 新手の海兵たちがジャスミンたちの周囲を囲う。

「ったく、もう……。次から次へと……。」

「もう!敵多過ぎ!!」

 ジャスミンが溜息を()き、ナミが頭を抱えた時だった。

「ん?」

 不意にジャスミンが後方を振り返る。

「どうかしたのか?」

「パウリーさんたちがさっきの巨人たちを倒したみたいだ。すぐにこっちに来るよ。」

 チョッパーの言葉に答えているうちに、チョッパーの耳が人間の耳には聞こえない音を(とら)える。

「何だ?この音・・・?」

 …………………ゴォオ!

 ゴオオオオオオオ!!!

「バヒヒヒ―――――――――――ン!!!」

「キングブルが陸を走ってる……!」

 フランキー一家のキングブル‐ソドムとゴモラが(ひれ)にキャタピラを付けて滑走(かっそう)してきた。

「こっちへ乗れェ!お前ら!!!」

「バヒヒヒヒ――――――――――ン!!!」

 ソドムの背からパウリーが叫ぶ。

「ここへ来た本分(ほんぶん)を忘れるな!!お前らの暴れる場所はここじゃねェ!!!ロープを掴め!!今は前へ進むんだ!!!」

 言葉と同時にパウリーのロープが何本も投げられた。

「敵が逃げるぞ!!」

 ジャスミンもナミたちに続いてロープを掴み、ソドムの背へと登る。

「バヒヒヒ――――――ン!!」

「衛兵、離れろ!!」

「ウォーターセブンの“キングブル”だァ―――――――――っ!!!」

「うわああ―――――――――っ!!!」

「大砲を用意するんだ!」

 予想だにしなかった逃走方法に海兵たちがパニック状態に(おちい)った。

 

「バルルルルルァ―――――――――――――――!!!」

「バヒヒヒ―――――――――――――――ン!!!」

「うわあああああ!!!」

「ぎゃあああ!!」

 ソドムとゴモラが次々と海兵たちを吹っ飛ばしながら、凄まじい速さで滑走していく。

「撃ちまくれェ!!!」

「おらおらァ~~~~!!!」

 ドォン!!

 ドドォン!!

 ズドン!!!

 ゴモラの背からフランキー一家がライフルで海兵たちを狙い撃つ。

「くそ!!こいつらが本島の門を破ったのか!!」

 ドウン!

 ガン!

 ドッカァン!!!

「海賊たちを止めろ!!」

 ドウン!!

 ボッ!

 ドッカァン!!!

 海兵たちも負けじと大砲を撃つが、その全てがゾロに叩き落されるか、ジャスミンの気功波によって空中で爆発させられてしまう。

「ジャスミン!ルフィが今どの辺にいるのか分かる!?」

「裁判所の上!CP9(シーピーナイン)の…、えーとブルーノって人と戦ってるみたい!!」

「裁判所か…。ジャスミン、悪いんだけどあんた先に行ってルフィと合流してくれない?それで絶対にそっから動くなって言って!!アイツがこれ以上暴走する前に早いトコ合流しないと…!」

「なるほど…。OK!じゃ、先に行ってるね。」

「お願いね!」

 ナミの言葉に承諾し、舞空術で一足先に裁判所に向かう。

 

 ━裁判所屋上・ルフィvsブルーノ━

 ドゴォン!!!

 ガラガラガラ…ガシャアン……!

「世界がどうとか、政府が何だとか!!そんなもん勝手にやってろ。おれたちはロビンを奪い返しに来ただけだ!!!」

 ジャスミンが屋上に到着した時、ちょうどルフィがブルーノを屋上のポール目がけて叩き付けたところだった。

 スタッ!

 屋上に降り立ってルフィの(そば)に駆け寄る。

「ルフィくん!」

「ジャスミン、何か用か?」

「いや、何か用かじゃないよ…。作戦無視して1人で勝手に飛び出すの止めてくれないかな…。もうすぐナミちゃんたちが来るから、それまで絶対にここから動かないで、だって。」

 ルフィの問いに思わず脱力しながら答える。

「何言ってんだ!早ェトコロビンを助けねェと……!」

「だから!ニコ・ロビンさんを助ける為には、みんなと合流して動くのが1番なんだってば!!」

 ジャスミンがルフィを()()せようとした時だった。

 ガラララ…

 瓦礫(がれき)の中からブルーノが立ち上がる。

「ナメていた。まさか“(ソル)”のスピードについてくるとは…。」

「ナメンな!!!」

「その上、仲間が来るとはな…。」

 ブルーノが、ルフィの(かたわ)らに立つジャスミンに目を向ける。その目つきは鋭く、ガレーラカンパニー本社でのこともあり、かなり警戒しているようだった。

「ジャスミン、お前手ェ出すなよ。」

 それを受け、ルフィがブルーノと対峙したままジャスミンに告げる。

「分かってるよ。手は出さない。だけどルフィくん、もし君が殺されそうになったら割り込ませてもらうからね?」

「おう。」

「まぁ、今のルフィくんなら大丈夫だろうけど。」

 肩を(すく)めながらルフィたちから距離を取り、屋上の柵にもたれかかった。

「まずはお前か……。」

「お前ェはおれがぶっ倒す!!」

 

 ―――――(つい)CP9(シーピーナイン)との戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第24話 麦わら一味VSCP9

お待たせしました!!第24話更新です。次話からちょっと場面が飛んでいくと思います。なかなか進みませんが、いよいよ山場に入っていきます。
追記 さっき気付きましたが、いつの間にかお気に入り登録が500人を超えてました!ありがとうございます!これからも頑張ります!!


 ━エニエス・ロビー本島、裁判所屋上━

「“嵐脚(ランキャク)”」

 ズバッ!!!

「うおっ!!」

 ドォン!!

 麦わら一味船長‐モンキー・D・ルフィと、世界政府直下暗躍(あんやく)諜報(ちょうほう)機関“CP9(シーピーナイン)”諜報員‐ブルーノが相対している。

 流石(さすが)に唯一“殺し”を“許可”されている部隊なだけあって、一筋縄(ひとすじなわ)ではいかないようで、ひとまずルフィも防戦一方のように見える。

 ブルーノの“ドアドアの実”の能力をフル活用され、翻弄(ほんろう)されている。床をドアに変えて姿を消したかと思えば、ルフィの足元をドアに変えて落とし穴のようにし、挙句(あげく)ルフィの頭を“回転ドア”に変えられ、目だけがグルグルと回っていた。

(悪魔の実の能力ってホントに何でもありだな……。)

 その様子を屋上の端まで下がり、柵にもたれかかったジャスミンが見物していた。

 一見するとルフィが押されているようだが、その(じつ)ルフィはブルーノの動きを全て見切っている。決定打になりそうな攻撃は全て無駄無く(かわ)しており、明らかにガレーラカンパニーでの動きとは違う。

(精神状態がここまで動きに影響を与える人間も珍しい……。)

 元々ムラっ気があって気分に左右されるタイプなのだろう。

 ガレーラカンパニーではロビンの裏切り疑惑によって精彩(せいさい)を欠いていたのに対し、今は真実を知ったことによって動きの1つ1つに見られていた迷いが完全に晴れている。

 ジャスミンが思わず呟く。

「単純と言おうか、はたまた純粋と言おうか…。」

 判断に悩むところだ。

 ドゴォン…!!!

 ルフィによって軌道を変えられたブルーノの“嵐脚(ランキャク)”によって屋上の柵が一部破壊される。

「ダメだ。」

 不意にルフィがにい、と笑いながら呟く。

「……おれはこんなんじゃダメだ…。」

 ルフィが静かな口調で続ける。

「………“青キジ”に()けた時、おれは思ったんだ…。この先の海にまたこんなに強ェ奴が現れるんなら、おれはもっと強くならなくちゃ仲間を守れねェ……!!」

「ルフィくん…。」

 その“覚悟”に一瞬圧倒される。

 自分と大して年齢(トシ)も変わらないのに、その意志は揺るぎ無い。

 おまけに…。

(今、“青キジ”って言った……?)

 確か“青キジ”とは海軍大将の異名だったと思うのだが……。

「…おれには強くなんかなくったって、一緒にいて欲しい仲間がいるから………!!おれが誰よりも強くならなきゃ、そいつらをみんな失っちまう!!!」

「では…。どうする?」

 ルフィの叫びにブルーノが問う。

「力いっぱい戦う方法を考えた…。誰も失わねェように………!!」

 ルフィが前かがみになり、自身の両膝に手を置いた時、足首が不意に波打ち、膨らんだ。

「誰も遠くへ行かねェように…。」

 ギュポン…

 ドクン…!

 足首の膨らみが膝の付近に移動し、ルフィの身体が一瞬脈打(みゃくう)つ。

 シュッ…、シュッ…、シュッ…

「煙?いや、水蒸気……?一体何を…。」

 まるで海列車のような音と共に、ルフィの身体から蒸気が立ち上っていく。

「お前はもう…、おれについて来れねェぞ…。」

「何!?」

「おれの技はみんな…。一段階進化する。“ギア(セカンド)”。」

「“ギア”?技が進化する…?」

 ブルーノが疑問の声を上げる。

「身体から蒸気を()いて…。蒸気機関の真似事(まねごと)でもしているのか。――――何のハッタリだ。」

「おれは、お前らとここで会って良かった。“ゴムゴムの”……。」

 ギリギリとルフィがブルーノに向かって拳を構える。

「…狙い撃ちする気か…。()ける(すき)を与えるだけだ。……フン…………良く狙って当ててみろ……………!!」

「いや、違う…。」

 ブルーノはルフィを()め切っているようだったが、この場でルフィがそんなハッタリを見せるとは思えなかった。

「“(ソル)”。」

 ビュッ!

 ブルーノがルフィを翻弄(ほんろう)するつもりだったのか、動いた瞬間だった。

「“JET(ジェット)(ピストル)”!!!!」

 ドンッ!!!

「!!!?」

 ルフィの、遥かにスピードを増した一撃がブルーノを(とら)える。

「速い…!今までとは段違い……!!」

 ドゴオオ…ン!!!

「…く!!」

 吹っ飛んだブルーノが体勢を立て直した時には、既にルフィはそこにいない。

 ドカン!!

「オウ!!!?」

 後ろからブルーノを吹っ飛ばし、

「“スタンプ”!!!」

 ガン!!!

 間髪(かんぱつ)入れずにルフィが上から踏み付け、ブルーノは床に叩き付けられた。

「……!!!」

 ブルーノの受けた衝撃は大きいだろう。

 あの様子だと、ブルーノはルフィの動きを目で追うことすら出来ていない。

 自分がスピードで翻弄(ほんろう)していた相手に逆に翻弄(ほんろう)される。

 信じがたい現実に違いない。

「ルフィくん、良くここまで…。」

 どうやってか、身体能力そのものが劇的にパワーアップしている。

 先程までは変わっていなかったから、あの“ギア(セカンド)”という技が原因なのだろうが…。

(原理が分かんないな…。“気”は確かに大きくなったけど、あくまでも身体能力が上がったことで一緒に大きくなった感じだし……。自分で“気を高めた”って感じじゃなかった。)

「“空気開扉(エアドア)”!!」

 ブルーノが一時的に能力で離脱する。

「消えた……。」

(いや、“移動”はしてない。)

 確かに姿は消えたが、ブルーノの“気”は移動していない。

 しかし、何かに(さえぎ)られているかのようにぼやけて感じる。ともすれば見過ごしてしまいそうな程。

(空間移動系…。亜空間に留まることも出来るなら、説明もつくかな…。)

 フッ…!!

 ルフィの背後にブルーノが現れる。

「“ドアドア”。」

 そのまま掴みかかろうとするが、その両手は(くう)を切った。

 ヒュッ

 そしてルフィはさらにその背後に現れる。

「お前らが……、消えるように動くとき。一瞬に地面を10回以上蹴って移動してんのが見えた。コツもわかったし、そういう移動技があるのを知れて良かった。」

(そういう無駄な動きを入れてるから、一定以上からスピードが上がらないんだよなぁ…。)

 まぁ、純粋な脚力(きゃくりょく)によるものと違ってコツさえ掴めばルフィが真似て見せたように模倣(もほう)容易(ようい)であるので、軍として全体の戦力を底上げすると考えれば効率は良いのだろうが。

「“ゴムゴムの”!!!」

 シュンッ!!!

 ルフィの両手が後方目がけて思い切り伸びる。

「“鉄塊(テッカイ)”“(ゴウ)”!!!」

「受けて立つ気か…。バカだな。」

「“JET(ジェット)バズーカ”!!!!」

 ズドン!!!

 ルフィの渾身(こんしん)の一撃が炸裂(さくれつ)した。

「……ホンットに頑丈(がんじょう)な奴だな…。」

 受けてなお、倒れないブルーノにルフィが半ば感心したように呟く。

「……ほんじゃあ、もっと面白ェもん見せてやるよ。」

 ぐっ、とルフィが右手の親指を()むが、歩み寄ったジャスミンがそれを制止する。

「必要無いよ。ルフィくん。」

「あ?」

「もう気絶してる。」

 その言葉と同時に、ブルーノの身体が揺らぎ、倒れ込んだ。

「すげェ疲れた…。」

 荒い息を()きながらルフィが呟く。

「どうやったの?アレ。だいぶ消耗(しょうもう)してるみたいだけど…。」

 ふらついているルフィを見てジャスミンが(たず)ねる。

内緒(ないしょ)だ。」

「……あんまり無茶しないようにね。船長だからって全部背負う必要は無いでしょ?仲間に頼っても良いんじゃないかな?」

「おう。だけどおれは、仲間がいねェと何も出来ねェ。だから、仲間はおれが守るんだ!」

「……そう。」

 詳細を語らないのは自分が“仲間”ではないからだろう、と納得してその場は引いたジャスミンだったが、まさか体に負担をかけるのを自覚していながらも平気で無茶をやらかす人間だ、とはまだルフィのことを理解しきれていなかった。

 (のち)に、あの時無理やりにでも問い詰めて説教しておくんだった、と後悔することになるのだが、それはまだ少し先の話である。

 

 閑話休題

 

「うし!」

 ルフィが気合と共に屋上の柵、その1段高い柱に登る。

「ルフィくん?何を…。」

 もし飛び出そうとするなら力づくでも止めなくては、と思ったものの次の瞬間に聞いた叫びで自身も柵に登る。

「ロ~~~~~~ビ~~~~~~~~ン!!!迎えに来たぞォ~~~~~~~~~!!!!」

 裁判所の屋上から、目の前の司法の塔に向かって叫んだ。

「ロ~~~~~~ビ~~~~~~~~・・・ン~~~~~~~!!!!

「まぁ、ここまで暴れちゃったら忍び込むも何も無いから良いか……。」

 溜息を()きつつ、ルフィが登る柱にもたれかかり、腕を組みながらナミたちを待つ。

 ぐぎゅるるるるるる…!!

「ん?」

「だいぶ暴れたからなァ………!!腹減った…。こんな時の為の…べ~~~~~んと~~~!!!」

 ()(あお)ぐとルフィが両手に骨付き肉を持って頬張(ほおば)っていた。

「いや、それどっから出したの……?」

 思わず突っ込むが、肉に夢中なルフィは全く聞いていない。

「うめェ、うめェ。」

 ムシャムシャと肉を頬張(ほおば)るルフィを取りあえず放っておき、司法の塔を見やる。

(ニコ・ロビンさんとフランキーさんはあの中か…。)

 このまま自分が特攻(とっこう)をかけた方が早いだろうが、それではロビンが抱えた“闇”は晴れないだろう。

 それに、ルフィがここでCP9(シーピーナイン)との戦いを経験しておかないと後々どんな弊害(へいがい)が起こるか分からない。

「おし!!元気(パワー)復活だ!!」

「あ、食べ終わったんだ?」

「ううおおおおォ~~~~~~!!!お――――――――――い!!!誰かいねェのか――――――!?出て来――――い!!!」

「……ルフィくんてホント真っ直ぐだね…。」

 何かもう、他にコメントの仕様(しよう)が無い。

 ルフィの叫びを何とも言えない気持ちで(なが)めていた時のことだった。

 ズドォォン!!!

「!」

 ガシャァン!!!

「ぐおお!!!」

 ギギギギギ…

 ガラガラ…

 何かが爆発したような音が響いた直後、何かが司法の塔から飛び出し、目の前のフェンスにぶち当たる。

「!」

「あれは……。」

 ニコ・ロビンとフランキーが何故か司法の塔から飛び出してきたのだ。

 が、勢い余ってフェンスに突っ込んでしまったらしく、外れてしまったフェンスに支えられる形で宙ぶらりんとなった。

「スーパ~~~~~!!!」

 フランキーがおなじみの掛け声と同時にフェンスを蹴った反動でベランダ部分に戻ったようだが、拘束はまだ外れていないらしい。

「お―――――――――っ!!!ロビ―――――ン!!!良かった!!まだそこにいたのかァ!!!」

 ロビンもルフィに気付いた様子で、真っ直ぐにルフィを見詰めていた。

「“ウエポンズ(レフト)”!!!」

 ドドドドドゴォン!!

 フランキーが2人を追ってきた海兵たちを狙い撃つ。

「フランキーもいるみてェだな。良し!!そこで待ってろ!!!遠いけど飛んでみる!!!」

 言い置いてルフィが柱から飛び降り、ゴム人間ならではの反動を利用して司法の塔へ飛び移ろうとしている。

「ちょっ・・・!ルフィくん?!ナミちゃんたちが来るまで待ってって…!」

「“ゴムゴムの”ォ~!!」

「待って!!!!」

 いざ、ルフィが飛び移ろうとした時、ロビンの叫びが木霊(こだま)する。

「何度も言ったわ。私は……!!あなたたちの(もと)へは戻らない!!!帰って!!!!私はもう、あなたたちの顔も見たく無いのに!!!!どうして助けに来たりするの!!?私がいつそうしてと頼んだの!!?私はもう…、死にたいのよ!!!!」

 悲痛な叫びだった。

 その叫びを聞いたフランキーがロビンに突っかかろうとしたようだが、後ろから現れたCP9(シーピーナイン)のカクに蹴り飛ばされている。

 また、CP9(シーピーナイン)では無さそうだが、海兵にも見えない男が何やら騒いでいるが、さすがに距離がある上、風の音でかき消されて何を言っているのかは聞き取れない。

 そして、ベランダ部分より下にある窓から残りのCP9(シーピーナイン)たちも飛び出し、“月歩(ゲッポウ)”でベランダに降り立つ。

 その中にルッチ、カク、カリファのガレーラカンパニーで対峙(たいじ)した3人も含まれている。

(何でドヤ顔?)

 思わず冷めた目で見てしまう。

 まあ、あれだけ大口を叩いていた割にたかだか10代の小娘にあっさり負け、本人を前にしてもその屈辱(くつじょく)を顔に出さないという点においては、素晴らしいポーカーフェイスだが。

 いや、それともジャスミンに気付いていないのだろうか?

 

 閑話休題

 

「死にてェ!!?」

「そうよ!!!」

 ジャスミンがわずかに気を()らした間も、驚愕から立ち直ったルフィとロビンのやり取りは続いている。

「ロビ――――――――ン!!!死ぬなんて、何言ってんだァ!!?お前!!!」

「鼻ほじんなくても…。」

「あのなァ!!ロビンっ!!!おれたち、もうここまで来ちまったから!!!」

 ボッカァァ・・ン!!

 ルフィが呼びかける後ろで、屋上の床が突然()ぜ、穴が開く。

「とにかく助けるからよ!!!そんでなァ、それでも・・・まだお前死にたかったら、そしたらその時死ね!!」

「いやいやいや…。」

 思わずルフィを見上げて突っ込むジャスミンの後ろで、穴からの爆風により巻き上げられた瓦礫(がれき)と一緒に、ナミとチョッパーが落ちて来る。

 ナミは綺麗に着地したが、チョッパーは背中から落ちてしまったようだ。

 続いてゾロとサンジも到着し、間を置かずに何故かウソップ、もといそげキングが下から飛んできた。

 自分の意志では無かったらしく、着地に失敗していたが。

(どうやって飛んできたんだろ…。)

「頼むからよ!!ロビン…!!!死ぬとか何とか…、何言っても構わねェからよ!!!そういうことはお前…。おれたちの側で言え!!!!」

「そうだぞロビンちゃん!!!」

「ロビン帰って来―――――い!!!」

 ルフィの呼びかけに同意しながら、同じく柵の上、その1段高い柱に麦わら一味が並ぶ。

「後はおれたちに任せろ!!!」

 

 麦わら一味が遂に揃った。

 

 

 

 

 

 



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第25話 宣戦布告!ルフィの叫びとロビンの涙

お待たせしました!第25話更新です。今回もえらい難産でした…。うまく切り上げるのが難しかったので、今回はやや短めです。
※某紫パンダさんを盛大にディスるシーンが多めに存在する為、ファンの方はご注意ください。


 ゴォオオオオ…

 屋上だけあって風が強く、服がはためき髪が舞い上がる。

()(ばし)?」

「ああ。今、フランキー一家が奮闘中(ふんとうちゅう)だ。」

「お前が先走ってこんな屋上にいやがるから、おれたちもここに集合するしかねェだろ。」

 1番肝心なところを聞いていなかったルフィの為に、ゾロとサンジがこれからの作戦を説明している。一足先にルフィと合流したジャスミンも知らなかったが、どうやら裁判所の両脇の塔のレバーを操作し、()(ばし)をかけないと“司法の塔”へは行けない仕組みらしい。

「ロビン…。」

 一向に助けを求めようともしないロビンを見て、ナミが呟く。

 それを見てジャスミンが口を開こうとした時だった。

「ワッ―――――ハッハッハッハッハッハッ!!!」

 品性の感じられない笑い声が響いた。

「このタコ海賊集団!!お前らが(いき)がったところで、結局何も変わらねェと思い知れ!!!この殺し屋集団“CP9(シーピーナイン)”の強さ(しか)り!!人の力じゃ開かねェ“正義の門”の重み(しか)り!!!何より、今のおれにはこの“ゴールデン電伝虫”を使い、“バスターコール”をかける権限がある!!!」

「…権力を持たせちゃいけない人間の見本みたいな人だな……。」

 唐突(とうとつ)に喋りだした、顔にベルトのようにも見える黒い仮面のようなものを付けた下品な男を見てジャスミンが呟く。

 台詞(セリフ)に全く正義感が感じられない上に、権力に執着する小物臭(こものくさ)さが(にじ)み出ている。

 言っている内容からして指揮官のようだが、良くそこまで出世出来たと感心する程だった。

(あのプライドの高そうな連中が大人しく従う程の器量(きりょう)があるとは思えないけど…。)

 よっぽどバックにいる人間に影響力があるのだろうか。

 それよりも気になるのは、ロビンが男の言葉に反応を見せたことである。

(“バスターコール”って何だっけ……?)

 ジャスミンが記憶を探っている間にも、男がロビンに対して聞くに()えない脅しを並べ立てていく。

 20年前に“バスターコール”によってロビンの故郷“オハラ”が消えた、という言葉に対し、サンジやチョッパーも怒りの言葉を発していた。

「やめて!!!それだけはっ!!!」

 (つい)に言葉を荒げるロビンを嘲笑(あざわら)いながら、男は言葉を止めない。

「ウ~~~ウ、良い反応だぜゾクゾクする。何だァ!?そりゃ、この“バスターコール”発動スイッチを押せって意味か?えっ!?おい…!!」

「それを押せば、何が起こるか分かってるの!!?」

「ロビン。」

「ロビンちゃん…。」

 悲痛(ひつう)(いろ)すら(にじ)ませるロビンの叫びに、麦わら一味やジャスミンも彼女の“恐れ”の一端(いったん)を感じ取るが、あの下衆(仮面の男)にはそれすらも娯楽(ごらく)となるらしい。

 いや、それともそれを感じ取れるだけの感性すら持たないのか…。

「分かるとも…!!!海賊たちがこの島から出られる確率が“0(ゼロ)”になるんだ!!この“ゴールデン電伝虫”のボタン1つでな・・・!!!何か思い出すことでもあるか?ワハハハハハハ!!!」

「そんな簡単なことじゃ済まないわ!!!やめなさいっ!!!」

「………んん?生意気(なまいき)な口を()くじゃねェかァ……!!!」

 ロビンの一喝(いっかつ)に、男が怒りで声を(ふる)わせる。

()()()()“オハラ”が消えたって言ったわね…!!地図の上から人間が確認出来る?あなたたちが世界をそんな目で見てるから、あんな非道(ひどう)なことが出来るのよ……!!!今ここで“バスターコール”をかければ、このエニエス・ロビーと一緒にあなたたちも消し飛ぶわよ…!!!」

「何をバカな!!味方の攻撃で消されてたまるかっ!!何言ってんだてめェはァ!!!」

「20年前……、私から全てを奪い大勢の人の人生を狂わせた……たった1度の攻撃が“バスターコール”…!!!」

 (つい)にへたり込んでしまったロビンが震える声で続ける。

「その攻撃が…、やっと出会えた気を許せる仲間たちに向けられた。私があなたたちと一緒にいたいと望めば望む程、私の運命があなたたちに牙を()く!!!私には海をどこまで進んでも、振り払えない巨大な敵がいる!!!私の敵は…、“世界”とその“闇”だから!!!」

 再び立ち上がり、真っ直ぐに麦わら一味を見詰めてロビンが叫ぶ。

「青キジの時も!!今回のことも…!!もう2度もあなたたちを巻き込んだ…!!!これが永遠に続けばどんなに気の良いあなたたちだって……!!いつか重荷(おもに)に思う!!!!いつか私を裏切って、捨てるに決まってる!!!それが1番恐いの!!!………だから、助けに来て欲しくも無かった!!!いつか落とす命なら、私は今ここで死にたい!!!」

 強い“思い”と“覚悟”が込められた叫びに、ジャスミンは言葉が見付からない。

「ロビン。」

「ロビンちゃん…。」

「そういうことか……。」

 麦わら一味たちは、何故(かたく)ななまでにロビンが彼らを(こば)んできたのかを知り、その“思い”に胸を()かれた者、理由を知って納得した者と反応は様々である。

「ワハハハハハハハ!!成る程なァ…、まさに正論だ!!」

 その空気をぶち壊す下品な笑い声が響く。

「そりゃそうだ!!お前を抱えて邪魔だと思わねェ馬鹿はいねーね!!ワハハハハ!!」

「……あの下衆(ゲス)、そろそろぶっ飛ばしても良いかな?」

 ()い加減、あの下品な笑い声と軽薄(けいはく)そうな顔を見るのもウンザリしてきたところである。

 いっそのこと、このまま感情のままに気功波(きこうは)をぶっ放したい、という衝動をジャスミンがどうにか抑え込もうとしている間にも、下衆(仮面)の言葉は止まらず、自らの頭上にはためく(はた)を指す。

「あの象徴(バッヂ)を見ろ、海賊どもォ―――――――――!!!あのマークは4つの海と“偉大なる航路(グランドライン)”にある1()7()0()()()()の加盟国の“結束(けっそく)”を示すもの……!!!これが世界だ!!!!盾突(たてつ)くにはお前らがどれ程ちっぽけな存在だかわかったか!!!この女がどれ程巨大な組織に追われて来たか分かったかァ!!!」

 (とら)()を借りる(きつね)ってこういう奴のことを言うんだろうな、とジャスミンがそろそろ我慢の限界に来た頃だった。

「ロビンの敵は良く分かった!」

 それまで口を閉ざしていたルフィが不意に呟く。

「そげキング。」

「ん。」

(あれ?これって確か……。)

 ジャスミンが朧気(おぼろげ)原作知識(記憶)を探り、ルフィの次の言葉を予測する。

「あの(はた)、撃ち抜け。」

「了解!!」

(あ、やっぱり。)

「!!?は?」

 仮面の男に構うこと無く、ウソップ(そげキング)が自らの得物(えもの)を構える。

「新兵器、巨大パチンコ。名を“カブト”!その威力とくと見よ!!!必殺…、“火の鳥(ファイアーバード)(スター)”!!!」

 ボオォウ!!!

 放たれた弾は瞬時に燃え上がり、その名の通りに“火の鳥”の姿を(かたち)()る。

 ドゥン!!

 そして、その狙いは外れること無く、世界政府を象徴する(はた)を真っ直ぐに撃ち抜く。

「さすが。パチンコであんなに正確に狙い撃つなんて……。」

「………!!!」

「………まさか。」

 感嘆の声を漏らすジャスミンとは対照的に、仮面の男は動揺のあまり言葉にならず、ロビンでさえ目を疑っていた。

「あ……、ああ!!………あいつらやりやがった…!!(はた)への攻撃の意味分かってんのか……!!?」

「やりやがったァ~~~~!!!!」

「海賊たちが…!!!“世界政府”に宣戦布告しやがったァ~~~~~!!!!」

 その所業(しょぎょう)に、“裁判所”や“司法の塔”を囲っている海兵たちも叫ぶ。

「正気か貴様らァ!!!全世界を敵に回して生きてられると思うなよォ!!!!」

「望むところだァ―――――――――――っ!!!!」

 予想外の出来事にテンパりながら叫ぶ仮面の男に、ルフィが凄まじい気迫でもって叫び返す。

 その瞬間、膨れ上がったルフィの気に、ジャスミンは一瞬ピリッと肌が粟立(あわだ)つのを感じた。

 まだまだ粗削(あらけず)りであり、自身には遠く及ばないが、それでも人を圧倒させる“気”の放流に器の違いを見る。

(これから“化ける”だろうな、ルフィくん…。)

 何だかそれがとても(まぶ)しいものにも見えて、ジャスミンは思わず目を細めてルフィを見詰めた。

「ロビン!!!まだ、お前の口から聞いてねェ!「生きたい」と言えェ!!!!」

「…ロビン!」

「ロビンっ!!!」

 ルフィの叫びを受け、麦わら一味が固唾(かたず)()んでロビンの返答を待つ。

「生ぎたいっ!!!!…!!!私も一緒に、海へ連れてって!!!」

 そして、ロビンもそれに(こた)え、(つい)に本音を吐露(とろ)する。

 その答えに、ルフィが不敵な笑みを浮かべたのが見えた。

 その時だった。

 ガコン…

 ゴゴゴゴゴゴ…

 重々しい音と共に、()(ばし)がゆっくりと下り始める。

()(ばし)が下りるぞ!!」

「あいつら、上手くいったみてェだな。」

「あまり無茶して、ケガして無ければ良いんですけど…。」

 チョッパーとサンジに続き、フランキー一家を思い浮かべながらジャスミンが呟く。

「ム…。武者震(むしゃぶる)いが…。」

 ガタガタと震えながら()せ我慢を呟く者、

「早く下ろせ。」

「悪そうな顔…!!」

 完全な悪人顔で戦いを待ちわびる者、そしてそれを呆れたように見詰める者など、良くも悪くも個性的な面々である。

「ぎゃあああ、来んなー!!!」

「……ルフィくん、あの下衆(ゲス)は私がぶっ飛ばすから。」

 情けない悲鳴を上げる仮面の男を見て、ジャスミンが指を鳴らした。

「おう。行くぞ!!!!」

 ボキボキ、とルフィもまた好戦的な笑みを浮かべ指を鳴らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第26話 フクロウ驚愕!ジャスミンの真価

お待たせしました!第26話更新です!!すみません、仕事でバタバタしてまして、なかなか執筆の時間が取れず…。今後も年末年始に向け、更新がゆっくりになると思います。ご了承ください……。
今回も、紫パンダさんのファンの方はご注意ください。


()(ばし)が下りるぞ――――――――――っ!!!!」

 予想外の事態(じたい)(あせ)る海兵の声が木霊(こだま)する。

「ロビン!!!必ず助ける!!!」

「来んな――――っ!!!」

 それぞれの(ちょう)の姿はまるで対照的だが、麦わら一味(+1名)とCP9がそれぞれ闘志(とうし)を燃やす。

 特に、ルッチ、カク、カリファ、直接ジャスミンと相対した者たちの彼女に対する視線は鋭い。

 ルッチの視線には殺気も多分に含まれていたが、ジャスミンにとってそれは脅威となりえない。

 一部から突き刺さる視線を全く気に留めること無く、さて、あの仮面の男(ゲス)をどう料理してやろうか、とジャスミンが考えを巡らせていた時だった。

 ズドォォォン!!!

 ギギ……!!

 爆発音と共に()(ばし)が止まる。

「!!!()(ばし)が止まった!!!」

「スパンダム長官っ!!!“司法の塔”から避難を!!」

 サンジの叫びに被せるように、“裁判所”の下の方から誰かが叫ぶ。

「邪魔しやがって…!!!何だチキショ―――!!誰だァ―――――――――っ!!!」

「上に立つヤツが無能だと、部下が有能にならざるを得ないもんね…。そう簡単にはいかないか。」

 ルフィの怒りを(なだ)めつつ、ジャスミンが嘆息(たんそく)した。

「誰が無能だクラァッ!!!って、それどころじゃなかった……!!良し!!!良くやった!!!あいつらがやって来る前に“正義の門”へ……!!!来い!!!ニコ・ロビン!!!」

「あっ…!」

 いっそ情けない程動揺(どうよう)していた仮面の男(ゲス)だったが、部下の機転に多少持ち直したようで、ジャスミンに対してツッコミを入れつつ意識を戻す。

 ロビンの腕を(つか)み、フランキーを連行するようにCP9に叫んだ。

「ロビン!!!」

「…真っ先にこの場から逃げようとするあたり、ホントびっくりするくらい下衆(ゲス)だね。あの男……。」

 重要人物の護送(ごそう)だからこそトップが行う、と言われればそうかもしれないが、先程から散々(さら)していた醜態(しゅうたい)からしてそうではないと分かる。

 ただ、自分が助かりたいだけだ、あの男……。

「だから誰が下衆(ゲス)だァッ!!フン……!!取るに足らん、あんな海賊……!!こっちにゃ、暗殺集団CP9がいるんだ!!!兵器復活を目論(もくろ)んだ学者の島の生き残り“ニコ・ロビン”と、その兵器の設計図を受け継いだ男“カティ・フラム”!この大権力を握るチャンスをみすみす(のが)してたまるか!!!ワハハハハハハハ…!!!!」

 耳障(みみざわ)りな哄笑(こうしょう)が周囲に響く。

 スッ…。

 いい加減我慢も限界に達したジャスミンが気功波をぶっ放すべく、右手を構えた瞬間だった。

「!!?ぬおっ!!!カティ・フラム!!!」

 フランキーが仮面の男(ゲス)の前に立ち(ふさ)がる。

「ん?」

 仮面の男(ゲス)がフランキーが目の前に突き出した紙の束に反応する。

「それは…、お前まさか……!!!古代兵器プルトンの設計図!!?」

「……本物だ。信じるか?ルッチ…、カク…、お前ら分かるよな。」

 フランキーは本物だと証明するように、ガレーラカンパニー本社で職長を務めていた2人にパラパラと軽く中身をめくって見せた。

「!…。」

「まさかとは思うたが……。貴様、それを自分の体に隠し持っておったのか。」

「ほ…、本物か!?本物なのか!?寄越(よこ)せ!!!そいつを寄越(よこ)せ!!おれの念願の設計図!!!」

 ルッチとカクの反応に本物と確信したらしい仮面の男(ゲス)が食い付く。

(この場でそれを取り出して何を……?取引でもするつもりなの…?)

「ニコ・ロビン。」

 ジャスミンがフランキーの意志を(はか)りかねていると、不意にフランキーがロビンの名を呼ぶ。

「お前が世間(せけん)(うわさ)通り、兵器を悪用しようとする“悪魔”じゃねェと分かった。…何も、ウォーターセブンの船大工が代々受け継いできたものは、“兵器の造り方”なんかじゃねェんだ!!!なァ、スパンダ…。」

「早く寄越(よこ)せ!!」

「トムさんやアイスバーグが命懸(いのちが)けで守ってきたものは、もし…!!古代兵器がお前みてェなバカの手に渡り、暴れ出した時…。もう1つ兵器を生み出し、その独走を阻止してくれという“設計者の願い”だ!!!」

 フランキーが、代々受け継がれた設計図と、それを巡る船大工たちの想いを語る。

「ニコ・ロビンを利用出来れば確かに兵器を呼び起こせる!!危険な女だ!だが、こいつにはその身を守ってくれる仲間がいる!!!だからおれァ、“()け”をする。」

「!?」

「“()け”……?」

 CP9たちがその言葉に反応し、ジャスミンもまた疑問として呟く。

「おれが今、この状況で“設計者”たちの想いを()んでやれる方法があるとすりゃあ、1つだ。」

「ぐだぐだ言ってねェで早く渡せ!!!それはおれのもんだ!!」

 仮面の男(ゲス)が道理の通らないことを品無く叫んだ後のことだ。

 ボォオッ!!!

「!!?」

「あァ!!!」

 フランキーが、手にした設計図を自ら吐き出した炎で燃やしたのである。

「うわああああ――――――――――っ!!!てめェ!!!何をする―――――っ!!!畜生(ちくしょう)、てめェ殺してやる!!!」

「私たちの5年間の任務を……。」

 仮面の男(ゲス)(わめ)き、カリファもやるせない気持ちを吐き出すように呟く。

「“抵抗勢力”を造る為に残された設計図が、お前ら政府に狙われた………!!本来、こんなもんは人知れずある物で、明るみに出た時点で消さなきゃならねェんだ!!!――――だが、これで“兵器”に対抗する力は失くなった!!ニコ・ロビンがこのままお前らの手に落ちれば“()()”だ!!!そして麦わらたちが勝てば!!お前らに残されるもんは何1つねェってことだ!!!おれはあいつらの勝利に()けた!!!」

「フザケたマネを…!!てめェも、今ここで死にてェらしいな!!!」

 フランキーの叫びに、仮面の男(ゲス)ががなり立てた時だった。

「アニキ―――――!!!フランキーのアニキ―――!!」

 ザンバイたちが裁判所の下の階で叫んでいる。

「おい、司法の塔にアニキが!!」

「良かった、無事か!!」

「アニキ助けに来たわいな――――!!」

「ケガは無いですか――――――!?」

「て……、てめェら……。」

 次々にフランキーに向かって叫ぶ自身の部下たちの声に、まさか来ているとは思わなかったのだろう。フランキーの顔は驚愕(きょうがく)のあまり(ほう)けている。

「てめェらコノヤロ―――――、誰が助けに来いなんて…来いなんて…、だドンダンダデュ――――――ウ(頼んだんだよ――――!!!)!!!!

 そして次の瞬間、状況を理解したフランキーの顔が涙と鼻水で思い切り崩れる。

(凄い顔………。)

「ア――――――ニキ―――――――――――ッ!!!」

「バカヤロ―――――、コノヤロ――――――。泣いてねェぞ――――――――――!」

「うるせェ、お前らァ――――っ!!!」

 感動的な再会のやり取りを、ルフィがバッサリと切って捨てた。

「いやいやいや…。」

「「いや、鬼かっ!!!」」

 あまりのバッサリ具合(ぐあい)にジャスミンだけでなく、ナミとゾロまで突っ込みを入れる。

 が、

「ロビンが待ってんだ、早く橋をかけろ!!!」

「あァ、そうだな。さっさとしろてめェら!!!」

「そうよね!!あんたら急ぎなさいよ。ブッ飛ばすわよ!!」

「そんな取りとめの無いナミさんも好きだ―――!!!」

「いやいやいやいや…………。」

 続けたルフィの言葉にすかさず手のひらを返した面々に、再度ジャスミンが突っ込む。

 ザンバイだけは「ですよね…。」と呟いていたが。

「麦わらァ!!!」

 不意にフランキーがルフィに向かって叫ぶ。

「子分たちが世話んなった様だな…。今度は棟梁(とうりょう)の、このフランキー様がスーパーな大戦力となってやる!!!」

「勝手にしろォ!!!おれはまだウソップのこと根に持ってんだからな!!!」

「……いや、横にいるだろ…。」

「ご(もっと)も。」

 ルフィとフランキーの会話に、思わずジャスミンも頷く。

 まぁ、そげキング=ウソップだと(いま)だ知らないルフィにとっては仕方の無いことなのだろうが。

 しかし、声を変えている訳でも無し、ましてや彼の最大の特徴である“鼻”はそのままなのに、何故気付かないのだろうか……。

 つらつらとジャスミンがそんなことを考えていた時のことだ。

「うわァ―――――っアニキ―――!!!」

「アニキが(たき)へ落ちる――――っ!!!」

「うおお!!」

 仮面の男(ゲス)に突き落とされたらしいフランキーが下へと落ちて行く。

「あ~あ。しょうがないな、と…。」

 フランキーを回収すべく、ジャスミンも柵の上から飛び降りた。

 ヒュウウゥゥゥ……!

 ガシィ!!!!

「!!(おっも)いなぁ、もう………!!!」

 両手でフランキーの腕を(つか)み、その場に滞空(たいくう)する。

「うおぉおお!!?何でお前飛べんだ??!」

「暴れないでください、重い……。」

 何せ2mを優に超える巨漢である。100kg以上あるのは間違い無い。しかも、落下する勢いも加わったから猶更(なおさら)だった。

 ジャスミン自身も降下しながらだった為、多少緩和されたものの、そうでなかったら肩が外れてもおかしくない程の衝撃だった。

 フランキーを落とさないように腕をしっかり(つか)み、裁判所に戻ろうかそれともこのまま司法の塔に乗り込むべきか一瞬迷ったときだった。

 ポッポ――――――――――!!!

「?汽笛(きてき)の音?」

 何故かすぐ近くから海列車の汽笛(きてき)が響く。

「行くぞ!!!ジャスミンも来い!!!」

「へ?」

 腕を伸ばし、仲間たちを()(つか)んだルフィが(たき)に向かって落ちて来る。

「まだ走れるよ“ロケットマン”は!!伝説の造船会社・トムズワーカーズをナメンじゃらいよォ―――――っ!!!」

 その直後、ココロの叫びと共に、何故か裁判所の中から半分だけかかった()(ばし)を通り、“ロケットマン”が突っ込んで来た。

「は!??」

「……!!“ロケットマン”…!?」

 ポッポ―――――――――――ッ!!!

「!?ヤバッ…!!!」

 助走の勢いそのままに司法の塔に突っ込む“ロケットマン”を(すん)でのところで(かわ)す。

「「「「「「うわああああぁぁぁぁ――――――――――――…………………!!!」」」」」」

「き…、来やがった――――――――――!!!!」

 麦わらの一味の悲鳴が遠ざかっていき、合わせて仮面の男(ゲス)の悲鳴も響いた。

 ズドォ…ン!!!

「「えええぇええええ……。」」

 司法の塔に突っ込んだ“ロケットマン”に、思わずジャスミンとフランキーの声が被る。

「おいおいおい、大丈夫かあいつら?!。それに、見間違いじゃなきゃココロのババアもいなかったか、今!?」

「た、確かに…。ルフィくんたちは大丈夫そうだけど、ココロさんは一般人……!」

 想定外の事態に一瞬ボケっとしてしまったが、フランキーの言葉にジャスミンもハッとそれに思い当たる。

 流石(さすが)に不安になり、フランキーを落とさないように気を付けつつ、舞空術でヨロヨロと司法の塔を目指す。

 

 ━司法の塔内━

 “ロケットマン”は横倒しになり、辺りには瓦礫(がれき)散乱(さんらん)している。

「…おい!!大丈夫か!!?ココロのババア!!チビ共っ!!何でこんなトコにいんだよ!!!」

「ココロさん!チムニー!ゴンベ!大丈夫ですか!?」

 “ロケットマン”の側に倒れているココロたちの所にすぐに駆け寄る。

「“ロケットマン”なんて危なっかしいモン引っ張り出してきて!!なァ、おいババア!!しっかりしろ!!!おい、頼むから…!!死ぬなよ!!死ぬなァ――――――!!!」

「ココロさん…!」

 全く反応を見せないココロらに、もしや見当たらないだけでケガでもしたのかとそっと抱き起そうとした時だった。

「「鼻血出た!!」」

「ニャ―――――!!」

 不意にココロたちがむくっと起き上がり、ケロっとした姿を見せる。

「鼻血で済むのはおかしいだろうがよ!!!」

「じょ、丈夫(じょうぶ)ですね……。」

 フランキーが力の限りツッコミを入れ、ジャスミンも他にコメントの仕様が無くその様子を生温(なまぬる)く見守る。

 フランキーのツッコミがやけに激しいが、その分心配していた現れだろう。

「さて、ココロさんたちは無事だったし、ルフィくんたちは……。」

 ボコオォン!!

「よっっしゃ―――、着いた――――――っ!!!」

「麦わら。」

「ルフィくん。」

 瓦礫(がれき)()まっていたらしい、ルフィが瓦礫(がれき)(はじ)き飛ばして出て来る。

怪獣(かいじゅう)のバーさん、ありがとう!!おい、てめェらさっさと立ち上がれ!!こんなもん平気だろうが!!」

 同じく、実は()まっていたらしい仲間たちにルフィが叫ぶ。良く見ると誰かの手が瓦礫(がれき)隙間(すきま)から出ている。

「ゴ…、ゴムのお前と一緒にすんじゃねェ…。…生身(なまみ)の人間………、こんな突入させられて……!!無事でいられるわけ…。」

「「「「「あるかァ━━っ!!!!」」」」」

 ドカァ――――ン!!!

「全員無事だ。」

 他の仲間も、大したケガも無く勢い良く瓦礫(がれき)から飛び出てきた。

「うん。特に心配はして無かった。」

 ジャスミンが呟きながら頷き、

「お前らも大概(たいがい)オカしいからなっ。一応言っとくけども。」

 フランキーが冷たく突っ込んだ。

「さて…。“正義の門”に行かれる前にニコ・ロビンさんを助けないとねって…。」

 ジャスミンがそれなりの速さで近付いてくる気配に気付く。

「あそこに階段がある!!早くロビンとこ行くぞ!!」

 ルフィはまだ気配を感じ取るのは苦手なようで、気付いた様子は無い。

 他の面々は、ルフィの後を追おうとしたところでかけられた声で気が付いた。

「待て。」

 壁に張り付いた、寸胴(ずんどう)の男だった。何故か口がチャックになっている。

(ハンプティダンプティみたいだな…。)

 ずんぐりと全体的に丸っこい男を見て、ジャスミンが胸中で呟く。

「チャパパパパ…!!侵入されてしまった―――――!さっきの部屋へ行っても、もうニコ・ロビンはいないぞ――――。ルッチが“正義の門”へ連れてったからな。」

「え!?」

「あ…、あと長官もな。今向かってるところだが行き方も教えないし、おれたち“CP9”がそれをさせない。お前たちを抹殺(まっさつ)する指令(しれい)が下っている!!チャパパ!お前たちは、おれたちを倒さなければニコ・ロビンを解放することは出来ないのだ。これを見ろ。」

 そう言いながら見せたのは1本の鍵だった。

「鍵!?」

「何のだ。」

「ニコ・ロビンを捕えている海楼石(かいろうせき)手錠(てじょう)の鍵だ!」

「カイロウセキ??」

「能力者の悪魔の力を無効にする石よ!あんたたちが海に落ちるのと同じ効力らしいわ。」

 疑問の声を上げたチョッパーにナミが答えた。

「それでロビンは今も大人しくしてるのか。本当は強いのに!!悔しいだろうな!!」

「お前たちが万が一ニコ・ロビンを救い出すことがあっても、海楼石(かいろうせき)はダイヤのように硬いので、その手錠(てじょう)は永遠に外れることは無い。それでも良ければこのままニコ・ロビンを助けに行け。チャパパ!」

「じゃ、寄越(よこ)せ!!!」

 ヒュッ!

 ドゴォン!!!

 ルフィのパンチが迫るが、一瞬早く男が避ける。

「……あいつもあの技使えるみてェだ。」

(…ここでダイヤはハンマーで簡単に壊せるって言ったら、流石(さすが)に空気読んで無いみたいだよね…。まぁ、鍵は手に入れたけど……。)

 男が避けた瞬間にスリ盗った鍵を、手の中で(もてあそ)びながら、ジャスミンが関係の無いことに意識を飛ばす。スピードならジャスミンの方が(はる)かに上なのだ。

(あわ)てるなァ――――――…!!まだこの鍵が本物だとも言って無いぞって、アレ?鍵どこにいった??!」

「探してるのってコレ?」

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

 鍵が無いことに気付いたらしい男にジャスミンが鍵を(かか)げて見せる。

「お、お前いつの間に!!?」

「さっきルフィくんの攻撃を避けてた時にちょっとね…。大事な物スられても気付かないなんて、諜報員(ちょうほういん)失格なんじゃないの?」

「良くやったわ、ジャスミン!」

 予想外の事態に一瞬(ほう)けたものの、状況を把握(はあく)したナミがすぐさまジャスミンを()める。

「そ、それは別の手錠(てじょう)の鍵かもしれないぞ!!この塔の中におれを入れて“CP9”は5人!それぞれが1つ鍵を持ってお前たちを待っている!!どれが本物かはおれたちも知らない!!!」

 鍵を盗られるという失態に、何とか再び上位に立とうとしてか、男が言葉を続ける。

「じゃあ、お前らを仕留めて鍵を奪い、ロビンの手錠(てじょう)で試してみるまで本物かどうかもわからねェってことか。」

「くだらねェ時間(かせ)ぎを……!!そうこうしている間にロビンちゃんを“正義の門”へ連行しようってんだろ!!」

「――――――でも、ロビンの方がことを急ぐわ!」

 ゾロとサンジにナミが続ける。

「まず確実にロビンを奪い返して、鍵はその後で良い!!あんなの放っといて急ぎましょ!!」

「チャパパパ、お前頭良いな。――――でも、そんなことしたら、そんな鍵なんか海へ捨てちゃうぞ!!チャパパパ!おれたちはチャンスを…、ぐへェ!!!」

 ベシャ!

 “月歩(ゲッポウ)”で宙に浮いていた男を、いつの間にか距離を詰めていたジャスミンが叩き落したのだ。

「ジャスミン!!?」

「動きが見えねェ……!」

 ナミとゾロが彼女を注視(ちゅうし)する中、ジャスミンが男に詰め寄る。

「で?」

「チャパッ…?!」

「他のCP9はどこにいて、“正義の門”へはどうやって行くの?」

「教える訳ないだろ!!!」

「じゃあ、良いや。……ちょっと邪魔だからさ。しばらく寝ててもらえないかな?」

 ジャスミンが拳を構える。

「おれたちは“CP9”だぞ!やれるもんなら・・・・!おぐぅっ!!!」

 男が迎え討とうとした時には、瞬時に距離を詰めたジャスミンの拳が的確に鳩尾(みぞおち)に叩き込まれていた。

「バ…、バカな…。道力(ドウリキ)、さ…36万……!?け…、(けた)がちが、う……。」

 ドサァ………!

「まずは1人目。」

 

 いよいよ、ジャスミンの真価(しんか)発揮(はっき)される―――――…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・ジャスミンの道力について
ジャスミンのの道力や戦闘力について気にされていた方がいらっしゃいましたので、今回悩みましたが決めてみました。
道力=戦闘力ではありません。道力は武器を持った衛兵が10、と武器込みの数え方らしいので、ややこしかったので勝手に成人男性の道力が10と解釈しました。それを戦闘力に換算すると一般的な成人男性で5(ドラゴンボールで銃を持った男の戦闘力が5だったので)です。ジャスミンの戦闘力はギニュー特戦隊以上、ナメック星時の悟空以下と考えて地球人の枠を出ない線を考慮しつつ18万とし、それを倍にして道力として換算して36万です。
賛否両論あるでしょうが、二次創作ということでご了承ください。

追記:ジャスミンがフランキーをキャッチした場面で、いくら何でも戦闘力の割にジャスミンの力が弱過ぎると違和感を覚えられている方が多数いらっしゃいましたので、説明させていただきます。
仮にフランキーの体重を100kgと仮定して説明しますが、この場合立っているフランキーを持ち上げたのではなく、落ちて来るフランキーを途中でキャッチした、というのがミソです。この場合、落下した勢いとスピードがプラスされているので、そのまま100kgの負担がかかった訳では無く、単純計算で10倍くらいの負担がジャスミンの両肩に一気にかかったことになります。一説によると大人1人が1mの高さから落下した時の衝撃は1トンちょっととのことなので、推定5~6mを落下した時のフランキーをキャッチした衝撃はそれ以上です。
※本来はもっと詳しく説明したいのですが、計算式が複雑すぎて根っからの文系かつ数学に関しては赤点ぎりぎりだった作者には理解出来ませんでした・・・・・。
また、同じ10kgの荷物を持ってもリュックで背負った時と、買い物袋で持った時では重さの感じ方と負担のかかり方が違うので、そういった意味もありました。
つまり、普通に担ぎ上げるならジャスミンも鍛えているので100kgくらいなら平気です。ただ、今回のケースでは落下の衝撃と持ち方の問題であんなにヘロヘロになっていた訳です。詳しく文章に入れようとすると本題からどんどんズレていく自信があったので、省略させてもらった結果分かりづらくなってしまいました。


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第27話 新たなCP9登場!!!迫る影の脅威

お待たせしました!第27話更新です。お待たせした割にあんまり進んでないです、すいません…。年内にもう1話更新を考えています!
いつの間にかお気に入り登録が600人を越えました!ありがとうございます!!


「まずは1人目。」

 静かに、しかし一瞬で男‐フクロウを沈めたジャスミンが呟く。

「い、一撃……!?ウソだろ、オイ。あいつもCP9の1人、決して弱くはねェ筈だ…。しかも、動きが全く見えねェ…!」

「確かにびっくりしたけど、ジャスミンだもの。」

「スッゲェな~~~!ジャスミン!!」

 その様子を見ていたフランキーが己の目を疑い、ナミとチョッパーに至っては一周回って“ジャスミンなら何でもあり”と受け取っていた。

 だが、ゾロとサンジはジャスミンの実力に警戒してか、探るような目を向けている。

 ジャスミンももちろんそれに気が付いてはいたが、突然現れた自分を警戒するのは当然、と甘んじて受け入れていた。

 (もっと)も、ルフィだけは一瞬面白そうな顔をした後は彼女に注意を払うことなく、既に意識をこれからの戦いに移していたが。

「おっしゃあ!行くぞお前ら!!!」

「おい、待て!!!!」

 そう言うなり走り出そうとしたルフィを、寸でのところでゾロが捕まえる。

「ほがががが!!!」

 …掴んだのが顔だったせいで、ルフィの顔があり得ない程伸びていたが。

「ふんごがががが!!!放せくらァ!!!」

「止まれ!!もうちょっとだけだ!!これからの各自の動きを確認するまで待て!!!」

(人間の顔ってあんなに伸びるものだっけ………?)

 ああ、ゴムだからか…。

 ジャスミンが自問自答しつつ、ルフィたちの側に歩み寄る。

「で。これからどう動くんですか?」

 本来、指揮を()るべき船長(ルフィ)が独走しようとして止められている真っ最中の為(まぁ、こういう指揮は苦手そうだが)、とりあえず一味の中の年長者であるサンジに問いかける(ゾロはルフィを止めるのに忙しく、フランキーはまだ一味に加入していないので)。

「その前に確認したいんだが、“ルッチ”ってのはあの(ハト)男の事かい?」

「そうです。」

 一先(ひとま)ず、この場では味方であるジャスミンに対する警戒より、仲間(ロビン)の救出を優先させたらしいサンジの問いに頷く。

「……そいつとロビンちゃんが一緒にいるんだったら、ルフィだけでも先に行かせよう。ルフィ!お前はとにかく(ハト)男をブッ飛ばせ!!ルフィを除いておれたちは7人。――――ここに後4人いるらしい“CP9”からロビンちゃんの手錠の鍵、残る4本を手に入れ、ルフィを追う!!!」

「ロビンくんが門を(くぐ)れば全て終わる。何もかも、時間との勝負だな。」

 サンジの言葉にそげキング(ウソップ)が続き、

「では、ルフィくん以外はまずは鍵を揃えることが第一、ということで。」

 ジャスミンが頷く。

「ふぎぎぎ!!!」

()けは時間のロス。全員死んでも勝て!!!」

 進むことしか考えていない船長(ルフィ)に代わり、ゾロが気合を入れた。

「「「「「「おう!!!」」」」」」

 そして、それぞればらけ、司法の塔を駆け上がる。

 ただ、ジャスミンだけはまだその場に残っていた。

「?あんたは行からいろかい?」

「もちろん、行きます。でも、ココロさんたちはどうするんですか?」

 どう見ても非戦闘員の老人と子ども、ペットを残して行くには不安が残る。

 ジャスミンの性格上、彼女たちの安全を確保していないうちに動くのは不可能なのだ。

「んがががが!!心配いららいら(いらないさ)!あたしらは一応()()ってことになってるかられえ!!伊達(だて)に年はとっちゃいらいさ。いざとなったら海兵を丸め込むなんて簡単らさね!!!だから気にせず暴れておいれ!!!!」

「おねーちゃん、頑張って!!」

「ニャッニャ――――!」

「…わかりました。気を付けて。」

 わずかに逡巡(しゅんじゅん)したジャスミンだったが、このままここにいて海兵たちに既に敵と見られているジャスミンがココロたちと一緒にいるのを目撃されるよりも離れた方が安全かもしれない。

 そう思い直し、ジャスミンもまた司法の塔内へと走った。

 

 ━司法の塔・4階「狼の間」━

 タタタタタタッ!

 ザッ………!!!

 ジャスミンがそこに辿(たど)り着いた、ちょうどその時だった。

 ドカァン!!!

 ドサ…

 CP9の1人の、ナマズのようなヒゲを生やした男‐ジャブラによってそげキング(ウソップ)が殴り飛ばされる。

「ウソ、そげキングさん!!」

「あぁ?」

 ジャスミンの叫びに(ジャブラ)が振り返った。

「お前は…。そうか、お前がルッチの野郎が言ってた女か。」

「そげキングさん!大丈夫ですか?」

 (ジャブラ)には目もくれず、そげキング(ウソップ)に走り寄って抱き起す。

「ゲホッ……!……ね…、寝起きの一発の威力か、これが…!!」

 (むせ)ながらも身を起こすそげキング(ウソップ)を支える。

「はは…!ぎゃははは!!お前らが来たか。政府の(はた)を撃ち抜いた野郎と、ルッチの野郎が珍しく忠告してきやがった女…。」

 グビッ…

 そう言って酒瓶を(あお)(ジャブラ)を、ジャスミンが振り返る。

「忠告?」

「ああ。あの野郎、珍しくおれたち全員に忠告してきやがった。もし、黒髪のポニーテールの女と対峙(たいじ)した時にゃ、最初から全力で殺せってな。」

「全員に忠告、ね……。その割に、あの口がチャックの男は人のことを随分(ずいぶん)見縊(みくび)ってくれてたみたいだけど?」

 挑発するようにジャスミンが(ジャブラ)に言い放つ。

「口がチャックの男ってのは、もしかしなくてもフクロウか。………そういやあ、あの野郎は新しい噂を仕入れるだのなんだの言っていなかったかもしれねェなァ。」

「へぇ…。じゃあ、あなたは違うって?」

 挑発しながら立ち上がり、そげキング(ウソップ)を後ろに(かば)う。

「ああ。お望み通り最初から全力で相手してやるよ。安心しろ……。」

 そう言いながらネクタイを外す(ジャブラ)の姿が、徐々に4~5倍にまで膨らんでいく。

 腕や顔が毛皮で覆われ、爪が数倍に伸び、口元からは鋭い牙が覗いた。

「え!!?」

「やっぱり能力者…。それも肉食の“動物(ゾオン)系”。」

「見た目と違って…、いたぶる趣味はねェからよ。」

「あ…、“悪魔の実”!!?」

「“イヌイヌの実”モデル“(ウルフ)”!!!」

 そげキング(ウソップ)の悲鳴に(ジャブラ)が被せる。

喉笛(のどぶえ)引き()いて…、それで終わりよ。死ぬのにわざわざ苦しむことァねェ……。そうだろ?」

「……!!(おおかみ)…。」

 そげキング(ウソップ)が後ろで(かす)かに後退(あとずさ)るのを感じる。

「く……、くそォ…!!!」

 ばっ!!

「ウ、じゃないそげキング(ウソップ)さん?」

「何だ…、()る気か?強そうには見えねェが…。」

「何だろうがやるんだうるせェ!!!…おれはロビンを助けに来たんだ!!!」

そげキング(ウソップ)さん…。」

 その“覚悟”に、ジャスミンの口元に笑みが浮かぶ。

 なら、自分は今回はそげキング(ウソップ)のフォローに(てっ)することにしようか、とそう考えた時だった。

 パラ…パラ…

 不意に上から何かが落ちてくる。

「ん?」

「まさか…!」

 (ジャブラ)とジャスミンが上を(あお)ぎ、そげキング(ウソップ)もそれに(なら)う。

 バキバキ!

 ピキ、ピキキ…!!

 見れば、天井一面に大きな亀裂(きれつ)がいくつも走っている。

「うわ!!天井が!!」

「……手抜き工事?」

「いや、(ちげ)ェだろ!!!!」

 思わず呟いたジャスミンの微妙にズレた発言に、そげキング(ウソップ)が突っ込む。

 そんなことをやっている間に、次第に落ちてくる破片も大きくなっていった。

「…逃げた方が良さそうだね。」

「崩れる!!!」

 そげキング(ウソップ)が叫ぶと同時に、ジャスミンがそげキング(ウソップ)の腕を()(つか)んで大きく飛び退()く。

 その直後だった。

 ボコォン!!!

 天井の決壊と共に、

「うわあ!!」

 ゾロと

「うおっ!!いかん!!」

「キリ――――――――――ン!!?」

 ……何故かキリンが落ちてきた。

「“人獣(じんじゅう)型”で止めるつもりが…、キリンになってしもうた!!」

「キリンが喋りながら落ちてきた―――――――――っ!!!」

 ……そげキング(ウソップ)のツッコミが冴えわたる。

「ぎゃ~~~~っはははは!!!カク!!!お前のその能力サイコーだ!!!」

(おおかみ)!!?何だ…、ここは動物園かァ――――――!!?」

「……何てカオス。」

 落下しながら叫ぶゾロの声を聞きつつ、ジャスミンが呟いた。

 

 ━その頃、偉大なる航路(グランドライン)前半、魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)

「遅い!!!!」

 部屋中に、妙に甲高(かんだか)(かす)れた男の声が響く。

「ドラゴンボールはもう6つ集まってるじゃねェか!!!そのジャスミンとかい言うガキは、一体いつここに来やがるんだ!!!!」

 ガァンッ!!!

「ひいぃっ…!!」

 そう言って投げ付けられた宝箱が、目の前の床で跳ね上がり、音が部屋中に響いた。

 それを()当たりにし、引き()った悲鳴を上げるのは、あの日ジャスミンからドラゴンボールを奪おうとしたマフィアである。

 どうやら、ジャスミンが6つのドラゴンボールを集めたことは既に彼らのドラゴンレーダーを通して明らかになっているらしい。

「な、7つ目のドラゴンボールはここにあります…!!奴は必ずここに現れる筈……!!!どうか、もうしばらくお待ちを!!!」

 平伏(へいふく)しながら必死で声の主を(なだ)める男は、あの日と同じスーツ姿だが、以前に比べて身体からは肉が落ち、顔もやつれて目の下にはくっきりと(くま)が浮かんでいる。

「ちっ………!!!まァ、そうだな。最後のドラゴンボールはここだ。もうすぐおれ様の願いが叶うんだ。焦ることもねェか……。」

 一先(ひとま)ず自身を納得させたらしい声の主‐巨人かとも見紛う巨大な人影が目線をやった先には、1つの宝箱があった。

 現在は(ふた)が閉められ、中を見ることは出来ないが、その中には4つの星が光るドラゴンボール‐四星球(スーシンチュウ)が納められていた。

 

 ジャスミン自身も知らぬ間に、新たな脅威(きょうい)(せま)っていた――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第28話 鍵はどこに!?繋がれた2人と華麗なる手のひら返し

お待たせしました!第28話更新です。今回、導入的な話になるのでさほど場面は進んでいません。次回バトル予定です。
思っていたよりも早めに更新出来たので、年内にもう1回更新を目指します!


 ━司法の塔・(おおかみ)の間━

 ガラガラガラ…

 日本庭園を()したようにも見えた(フロア)は、上の階から落ちてきた瓦礫(がれき)で見る影も無い。

「“ウシウシの実”モデル麒麟(ジラフ)!ぎゃ~~~ははは!!お前も不憫(ふびん)な奴だ。一生キリン人間とは……!!」

「キリンの何がおかしいんじゃ!わしは気に入ってると言うとろうが!!」

 目の前でキリンと(おおかみ)が言い争っている。

 地球には動物型(どうぶつがた)の人間(所謂(いわゆる)獣人(じゅうじん)である)も多くいた為、別に喋る動物が珍しい訳ではない。

 が、目の前の敵を放置したまましなければならない会話には思えない。

(状況分かってんのかな、この人たち……。)

 思わずゾロの隣で沈黙してしまう。

「……あのハトの野郎は“(ひょう)”だったな。他に2人も動物に化ける能力者がいたとは…。“CP9”ってのはそういう集団なのか………!?」

「たぶん、政府か“CP9”のトップからか支給されたんだと思いますよ。まぁ、単に“悪魔の実”として支給したのか、動物縛りを狙ったのかは分かりませんけど。」

 ゾロの呟きを拾い、ジャスミンが答える。

「あぁ?何で分かる?」

「…そこのキリンの人は、さっき『“人獣(じんじゅう)型”で止めるつもりがキリンになった』って言ってましたよね?つまり、自分で自分の能力をコントロール出来ていない……。でも、仮にも世界政府直下の組織の人間が未熟なまま務まるとは思えない。ということは、能力を得てから間も無い、と考えられる。ガレーラカンパニーでは変身しようとする様子は無かったし、その時既に能力者だったのならとっくに披露(ひろう)している筈。でなきゃ、今になって未熟な姿を(さら)すというのも考えにくい。となれば、能力者になったのはたぶんその後。でも、最低でも1億強の価値のアイテムを個人がそう易々(やすやす)と手に入れられるとも思えない…。そうなると、組織から戦力強化の為に支給された、という可能性が高い。」

成程(なるほど)?つまり、他にも能力者がいる可能性が(たけ)ェってことか。」

「そういうことです。」

 つらつらと自身の推察を話すジャスミンに、ゾロが納得したように頷く。

「それはそれとして…。」

「あん?」

 ジャスミンが不意に目線を前に戻す。

「いつまでやってるんでしょうね?あの人たち……。」

「…………。」

 未だ言い争いを続けるCP9の2人を見やって呟くジャスミンに、ゾロも思わず無言になった。

「そろそろ意識をこっちに戻してくれないと、身構えて無い相手に攻撃するのも()りづらいし…。」

「面倒くせェな…。」

 チャキ…

 そう言うなり、ゾロが既に抜いていた刀を構え直す。

「オイ、キリン…。いつまでそこで言い争ってんだ。おれには時間がねェと言った筈だぞ!!そのままで良いんなら、そのまま斬らせてもらうぞ。」

(おろ)かな…!!キリンの持つ底知れぬ破壊力を甘く見るな。変型(へんけい)…!!!“人獣(じんじゅう)型”…!!!」

 その言葉と共に、カクの姿が変化していく。

「見せてやる……。生まれ変わったわしのパワー!!」

 が、いざ変わったその姿を見て

「ぷっ………!!!」

 ジャスミンは耐え切れずに()き出し、

「かっこ悪っ!!!」

 ゾロも思わず突っ込んだ。

貴様(きさま)……今!!」

「ぎゃ~~~~~~~っはっはっはっはっひ~~~~~~~い!!!」

 ガビ――――――――――ン!!という文字を背負ったようなショックを受けたカクを(ジャブラ)が馬鹿にしたように笑っている。

 カクの“人獣(じんじゅう)型”にそれ程インパクトがあったのだ。

 何というか、全体的に四角い。

 仮に効果音を付けるなら“の――――――ん!!”だろうか。

 キリンだから首が長くなるのは仕方無いのだが、体が人間だとアンバランスさが余計に引き立つ上、人間の姿の特徴である“四角い鼻”が体全体に反映(はんえい)されている為、全体的に“かくかくしている”のである。

「ぎゃ――――――はっはっはっ!!!」

「いつまで(わろ)うとるんじゃ、ジャブラ!!!」

(ああ、あっちの人ってジャブラっていうんだ・・・・・。)

 再び始まったCP9の2人のやり取りに、思わず思考が明後日(あさって)の方角に向かう。

 その時だった。

「!」

 ジャスミンが気付いたのとほぼ同時に、

 ヒュウン!!

 ガチャン!!

「わっ!!」

 何かが風を切って飛んできて、ゾロの手首に音を立てて()まった。

「……!?何だ、この手錠(てじょう)は!」

「ぎゃ――――――!!しまった!!すまない、ゾロくん!!」

 後ろからそげキング(ウソップ)が叫ぶ。

「…そげキング(ウソップ)さん、いないと思ったら……。」

「オイ、何の真似(まね)だてめェ!!!」

「そいつは!!たぶん、例の海楼石(かいろうせき)手錠(てじょう)なんだ!!敵は2人とも能力者だから、手錠(てじょう)()めてやれば弱ると思って!!」

「それを何でおれに()めてんだ、バカ野郎!!」

「だ……、だってよ!!キリンの顔がおかしくって……、つい手元が狂って!!」

「…おのれ、どいつもこいつも……!!」

 言い訳しながらカクを指刺して笑うそげキング(ウソップ)に、再度頭に来たらしいカクが(うな)るような声を上げる。

 そして怒りのままに両手を床に付け、カポエイラのように長い首ごと体を回転させ始める。

「“嵐脚(ランキャク)”…。」

「お!」

「うお―――――!!!何だ?!何か来るぞ――――――――――!!!」

 そのカクの様子に、ジャブラ(先程、ようやく名前が発覚した)が声を上げ、何かを感じ取ったそげキング(ウソップ)も悲鳴を上げる。

「んん…、“周断(あまねだち)”!!!!」

 ドウッ!!!

 カクを中心に、そこから円形状に凄まじい風が巻き起こった。

「こりゃ、いかん!!」

 ジャブラは直後にその場を離脱し、

「伏せろ!!ウソップ!!」

「うおお!!」

 ゾロがそげキング(ウソップ)を抱えてその場に伏せる。

 そしてジャスミンもまた、ゾロたちが上手く回避(かいひ)したのを見届けた後に、自身もその場に身を伏せた。

 その一瞬後、

 ズドオォ……オン!!!

 ズズズ…!!!

 凄まじい轟音(ごうおん)(フロア)に響き渡る。

「くっ……!」

「うわああああ――――――――――っ!!」

 巻き起こる風から顔を腕で(かば)いつつ、()()るジャスミンの耳に、爆風で吹っ飛ばされたらしいそげキング(ウソップ)の悲鳴が聞こえた。

 少し経った後、風が収まり身を起こす。

 ガラ…

 ドス…!

 カラン…

 あちこちから瓦礫(がれき)が落下する。

成程(なるほど)。“長さ(リーチ)”か…。遠心力にあの巨体からのパワーも手伝って、斬れ味がより深く鋭くなってやがる。」

 少し離れたところからゾロが批評しているのが聞こえた。

「……な、何だァ!?おい…、何も壊れてねェじゃねェか……。」

「天井見てみてください。」

 拍子抜けしたような声を出すそげキング(ウソップ)に、ジャスミンが天井を指刺して見せる。

「?あれ?あんな所から空が見える………!!?うおお!!まさか!!!この“司法の塔”が斬れてズレてんのかァ!!?オイオイオイオイ、危ねェよォっ!!!」

「周囲全てに広がる斬撃(ざんげき)・・・・・。確かに強力ですけど、()けるのはそう難しくはないし、味方にも無差別……。技としては2流だと思いますよ?」

 驚愕も(あら)わなそげキング(ウソップ)だが、ジャスミンはしれっと辛口のコメントを行う。

「フン!みっともねェ。戦闘で感情(さら)け出しやがって。」

 タン!

 と避難していたジャブラが、カクの後ろにどこからともなく着地した。

「やかましい!わしはキリン気に入っとるんじゃ!キリン大好きじゃ。」

「あー、わかったわかった。」

「どうでも良いけど、さっさと始めてくれないかな?生憎(あいにく)こっちは急いでるんだけど「何やってんだてめェはァア!!!」って……。」

 放っておくと、再び言い争いに発展しそうなCP9たちにジャスミンが(くぎ)を刺していると、不意にゾロの絶叫が聞こえ、後ろを振り返る。

「おれのせいじゃないでしょ――――がァ!!!」

 そげキング(ウソップ)も泣きながら絶叫しており、見れば、ゾロの右手に()まっていた手錠(てじょう)そげキング(ウソップ)の左手に()まってしまったらしい。

「おめ―――――がおれに突進してきたからこうなったんだろ!!」

「そりゃ、さっきの攻撃でお前がボ―――――ッと突っ立ってやがるから……!!良いから、外せ早くこの手錠(てじょう)!!!」

「鍵なんかねェよ~~~~~~~!!!」

「何――――――――――っ!!?」

「あ~、さっきの攻撃を()けた時か……。」

 ゾロとそげキング(ウソップ)の言い争いを見ながら、原因を回想する。

「何やっとんじゃ、あいつら。」

「それ、言える立場だと思ってる?」

 しゅるる・・・、と音を立てて人間に戻ったカクが突っ込むが、それにさらにジャスミンが突っ込む。

 全くその通りな状況ではあるが、さっき似たようなことをしていた人間には1番言われたくないセリフである。

簡潔(かんけつ)に説明すると……!!これはロビンと()()()()になったってことだ…。」

「!!……じゃ、鍵は…!!」

「“CP9”の誰かが持ってる…。倒して手に入れるしかない。」

「無茶言うな!こんな状況で戦えるか!!!」

 そげキング(ウソップ)が状況を整理するが、手詰(てづ)まりなことを再確認するだけで終わったようだ。

「針金か何かで開きませんか?」

 言い争っていても進展しない為、取り()えず2人に近寄って提案するだけしてみる。

「針金ったって……。急に言われたって持ってねェよ。」

「ヘアピンならあるんですけど…。」

 髪を留めていたヘアピンを1本引き抜いて見せる。

「悪ィ!貸してくれってか、ダメにしちまうから1本くれ!!」

「どうぞ。」

 ヘアピンをそげキング(ウソップ)に渡す。

 針金状に広げ、四苦八苦しながらなんとか手錠(てじょう)を外そうとするものの、なかなか上手くいかないようだ。

「おい、お前たちっ!!!」

手錠(てじょう)の番号を言え!!」

「番号!?」

 カクとジャブラの唐突(とうとつ)(うなが)しに、そげキング(ウソップ)が聞き返す。

「どの鍵がどの手錠(てじょう)のものか分かるように、手錠(てじょう)と鍵にはそれぞれ番号がふってあるんじゃ。わしら2人の持つ鍵で開く手錠(てじょう)なら、すぐに外してやる。」

「え!?本当か!!?」

「え~っと…。あった!これか!」

 カクの言葉を受けてジャスミンが手錠(てじょう)の番号を探す。

「良し!何番だ!??」

「2番ですね。」

「2番だ!!!開けてくれ―――――――――!!!」

 そげキング(ウソップ)の叫びに、カクとジャブラがそれぞれ自分が持っている鍵を確かめる。

 が、

「外れだ。」

「わしもじゃ。残念。」

「何だよ、期待持たせやがって!!」

「じゃあ、他の2人の“CP9”の持ってる鍵ってことか…、ってオイ!ジャスミン!!お前が持ってる鍵は!!?」

「あ。」

 完全に忘れていた。

 (あわ)ててジーンズのポケットを探る。

「え――――と…。」

「頼むぞ…!今となっちゃ、それが最後の希望だ!!!」

「4番。」

「だああああ!!」

「お前も外れかよ!!チクショ―――――!」

「………なんか、すいません?」

 思わず謝ってしまった。

「仕方ねェ。先に……!」

 ドッ!ドウ!

 チッ!

 ジュッ!

 ドッガァアアン……!!!

「『先に殺した方が勝ち』、とでも言うつもりならこっちも一切容赦(ようしゃ)しないので、そのつもりで。」

 ジャブラが唐突(とうとつ)に切り出した、次の瞬間だった。

 カクとジャブラ、それぞれにジャスミンの気功波が放たれる。

 放たれた気功波は、それぞれカクの帽子を(かす)り、またジャブラのヒゲを片方焦がして向かいの壁を破壊した。

「「…………。」」

 カクとジャブラはお互い顔を見合わせた後に後ろを振り返り、ジャスミンが開けた壁の大穴を確認して再びジャスミンを振り返る。

「あ――――…。先にそのヘアピンで手錠(てじょう)外しちまえ。」

「そうじゃな。それくらいは待ってやるわい。」

 何て華麗な手のひら返しなんだ。

 ゾロとそげキング(ウソップ)の胸にそんな言葉がよぎる。

 そして、その様子を見たそげキング(ウソップ)は内心思った。

 コイツ1人いれば十分じゃねェかな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第29話 怒りの矛先

お待たせしました!第29話更新です!
ハッピーバースデー、ジャスミン!!!
今回が恐らく年内最後の更新になると思います。
ちょっと本編ネタバレすると、ジャスミンはガチで怒ると口調が変わる人です(笑)。
それではみなさま、良いお年をお迎えください!!
来年もよろしくお願いします!!!


 ━そげキング(ウソップ)がヘアピンで手錠(てじょう)と格闘すること10数分━

 ガチャガチャ…!

 ガチャッガチャッ…!

 ガチャッ……!ガチン!!!

「あ、開いた……!」

 ドサッ!

「良し!」

「お――――!!」

 パチパチパチ……!

 そげキング(ウソップ)の言葉にゾロが歓声を上げ、ジャスミンが思わず拍手をする。

「思ったんだけどよ……。」

「?どうしました?」

 ポツリ、と呟いたそげキング(ウソップ)にジャスミンが尋ねる。

「これ、わざわざ鍵集めなくても、ロビンの手錠(てじょう)外せるんじゃねェか?」

「確かに…!」

 思わずハッとする。

 それならば、わざわざ鍵を集めて回るなんてリスキーなことをしなくても良いではないか、と思い至った時だった。

『プルプルプルプル…』

『プルプルプルプル…』

「ん?」

 不意に、誰かが口でプルプル言っている声が聞こえ、音のした方に目をやる。

 見れば、カクがポケットから子電伝虫を取り出しているところだった。

『ガチャ。』

畜生(ちくしょう)、しまった!こっちだ、子電伝虫は!!何てことを!!ウッカリした!!よりにもよってゴールデン電伝虫を押しちまった!!!よりによって、“バスターコール”をかけちまったァ~~~~っ!!!』

「は?」

 ドンッ!!!!!

 例の仮面の下衆(ゲス)長官の声で子電伝虫が不穏(ふおん)な言葉を喋り、それを聞いたジャスミンから凄まじい“気”が放たれた。

 ここに来ての下衆(ゲス)長官の所業(しょぎょう)に彼女の苛立ちも最高潮に達し、うっかり今まで抑えていた気を解放してしまったのである。

「う……!」

「ぐぉ…!」

「ひっ…!」

「くっ…!」

 直接自分に向けられたものでは無いが、それをまともに受けてしまった4人の背筋に冷たいものが走った。

 それは、太古の昔より生き物に刻み付けられてきた本能。圧倒的な強者を前にした、生物としての本能が彼らに警鐘(けいしょう)を鳴らしていた。

 (ねずみ)が猫を(おそ)れるように、立ち向かったところで(かな)う筈も無い、という本能的な恐怖。

 例え猫に襲う気は無くとも、圧倒的な強者というのは時に存在自体が恐怖となり得る。

 かつて、Z戦士(ゼットせんし)たちがフリーザに(おそ)(おのの)いたように。

 しかし、いくら怒りに気を取られたからと言ってジャスミンがここまで気のコントロールを失うことも珍しい。

 いや、珍しいどころか初めてのことだった。

 慣れない環境での生活と不安が、本人も自覚の無いままにストレスとなっていたのだ。わずかな感情の乱れが、既に呼吸にも等しい気のコントロールを一時(いっとき)でも失わせる程に。

 しかも、ジャスミン本人は未だにそれに気が付いていない。子電伝虫から語られる、下衆(ゲス)長官とロビンのやり取りに怒りを抑えるのに必死だった。

『・・・・・奪い去ろうとするバカどもを、より確実に(ほうむ)り去る為ならば例え兵士が()()()死のうとも・・・・・!!()えある未来の為、仕方のねェ犠牲(ぎせい)と言える!!何よりおれの出世もかかってるしなァ!!!』

「へぇ………。」

 ズンッ……!!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!!

「うぐっ!」

「ぐぁっ!」

「ひぃっ!」

「くぅっ!」

 とことん自分本位な考えしか持たない下衆(ゲス)長官に、ジャスミンの呟きが一段と低くなる。それに伴って、ジャスミンの気がより一層高まり、圧迫感として4人に重くのしかかると同時に司法の塔ごと大地を揺らした。

「あっ。」

 しかし、4人が再度()らした悲鳴により、ジャスミンが己の失態に気付き、(あわ)てて気を抑える。

 ガクンッ!

 ドサッ!

「はぁっ…!」

「はっはっ…!」

「な、何だったんだ?今の…。」

「ちっ・・・・・!」

 不意に消えた圧迫感に、4人はそれぞれ膝を付き、または尻餅を付いた。

 地鳴りと共に揺れていた塔も、パラパラと細かい瓦礫(がれき)が天井から落ちてくるものの、既に揺れは収まっている。

『…島を離れて!!!エニエス・ロビーに“バスターコール”がかかった!!!島にいたら助からないわ!!!』

『余計なこと言ってんじゃねェよ!!!』

 子電伝虫も怯えてはいたが、途切(とぎ)れること無く音声を伝え続けている。

 ロビンの避難を(うなが)す叫びの後に、罵声(ばせい)と共に下衆(ゲス)長官がロビンを殴り飛ばしたらしい音が響き、その後ですぐに通信が切れてしまった為、ロビンの身が案じられた。

「……あの下衆(ゲス)が。」

 既に落ち着きを取り戻してはいるものの、先程よりも一層低い声でジャスミンが呟く。

「“バスターコール”が……、かかったらしいわい…。」

「何をしとるんだ()()()は………。」

 カクとジャブラが仕切り直すように呟くが、内心では自身たちの長官に対し、考えつくだけの罵声(ばせい)を浴びせていた。

 眠っていた獅子を叩き起こしただけでなく、わざわざ尾を渾身(こんしん)の力で踏み付け、無駄に挑発(ちょうはつ)したようなものである。

 先程、ジャスミンの本来の気の奔流(ほんりゅう)(さら)された2人は、彼女が自分たちよりも(はる)か高みにいる達人ということがわかっていた。なまじ、動物(ゾオン)系の能力者として鋭い感性を持つが(ゆえ)に、その規格外さを思い知らされた2人にとって、長官であるスパンダムの言動は余計なものでしか無い。

 ただでさえ勝てない相手が、怒りによってさらにその闘志を燃やしているのだ。例え100回(ののし)っても足りるものでは無かった。

「おれたちもグズグズしちゃおれんぞ。」

「さっさと片付けて“正義の門”へ急がにゃあな………。」

 相手(ジャスミン)がそれを許してくれるかどうかは(はなは)だ疑問なところではあるが。

 カクとジャブラが、この場をいかに切り抜け、任務を遂行(すいこう)するかを思案していた時だった。

「……ブオオォオオォオ…!!!」

 …ドカァン!!!

 突然何かの生き物が()える声と、大きなものが叩き付けられたような破壊音が響く。

「な、何だ!?」

「この気は……?まさか?!」

 そげキング(ウソップ)狼狽(ろうばい)した声を上げたのとほぼ同時に、ジャスミンがその正体に気が付いた。

「……ブオオォオオォオ…!!!」

 徐々にジャスミンたちがいる部屋に近付いて来ているのがわかる。

「一体何じゃ…?」

 ズドォオオ…ン!!!!!

「ブオオォオオォオオオオ!!!!!」

 壁をぶち破り、5~6mはある“怪物”が部屋に飛び込んできた。

 ……チョッパーの帽子を被った“怪物”が。

「チョッパーくん……!!!」

「「何ィ!!!?」」

 ジャスミンの叫びに、そげキング(ウソップ)とゾロが驚愕の声を上げる。

「あれがチョッパーだと?!」

「うううわァ――――――!!!やめろ―――――――――っ!!!」

「ブオオォオオオオ!!」

 ズドオォン!!!

 我を忘れたように襲いかかる、チョッパーらしき“怪物”の爪をかいくぐりながらゾロがジャスミンに叫び返し、そげキング(ウソップ)が悲鳴を上げる。

「おい!!アレが本当にチョッパーか!?何でおれたちがわからねェ!!!」

「わかりません!!!でもあの帽子と角!それにこの気は間違い無くチョッパーくんです!!でも、あの姿は一体……?!」

 ジャスミンも叫び返しながら、襲って来るチョッパーの爪を()ける。

「…様子がおかしいぞ…!!死にそうなのは…、あいつの方じゃねェのか………!!?」

「ブオオ…オオ……!」

 見れば、先程飛び込んできた時よりも荒い息を()いているのが分かる。

 何よりも、どんどんとチョッパーの気が弱くなっていくのが感じ取れた。

「気が、どんどん弱く……!」

「どど…、どういうことだ?」

「あの姿でいることがとてつもねェエネルギーを食っちまうとか……!!放っておくと今にも力尽きそうだ…!!」

 ゾロのその推測は、恐らく間違ってはいない。

 こうしている間にも、チョッパーの気がみるみるうちに(けず)られていくのを肌で感じる。

 最早(もはや)、一刻の猶予(ゆうよ)も無かった。

「仕方無い……!」

 他に方法を考えている時間は無かった。グズグズしていれば、チョッパーの命が危ない。

 ジャスミンは真っ先に思い付いた手段に()ける。

 ガッ!

 ジャスミンがチョッパーから目を離さないまま、足元に転がっていたある物を蹴り上げ、右手でキャッチする。

「おい!お前何を……!!!」

「色々考えている時間はありません!(イチ)(バチ)かですけど……!!」

 フッ…!

 言うや否や、持っていたそれ━先程そげキング(ウソップ)が苦労して外したばかりの海楼石(かいろうせき)手錠(てじょう)を手に、ジャスミンの姿が掻き消える。

「ブオ…?!」

 見失った獲物(ジャスミン)にチョッパーがわずかに気を取られた瞬間――――――。

 ガチャン…!

 巨大化したチョッパーの角に、海楼石(かいろうせき)手錠(てじょう)が音を立てて()まった。

「ブオ!?」

 ドクン…!

 ドクン…!

 ズズ…、ズズズズズズズ…!!!

 チョッパーの体が数回跳ねた直後、ビデオの逆再生を見ているようにチョッパーの体がみるみるうちに縮んでいく。

 コテン…!

 そして、普段の2頭身に戻り、そのまま倒れた。

「チョッパーくん!」

「チョッパー!」

「チョッパー!おいおい、まさか死んでんじゃねェだろうな……!」

 すぐさま駆け寄ったジャスミンがチョッパーを抱き起す。

「大丈夫……!傷は酷いけど、気絶してるだけです……!!!!」

 海楼石(かいろうせき)手錠(てじょう)()めてしまった為、目が覚めてもまともに動けないだろうが、強制的に休ませるにはちょうど良い。

「まったく…。身内(みうち)同士でバタバタと…。何をやっておるんじゃ、お前らは。」

 カクの、(あざけ)りを多分(たぶん)に含んだ声が不意に響く。

 少しでも戦いを有利に進めようとしているのか、会話の主導権を握ろうとしているのだろう。

「ふん……。笑ってねェで後悔しろよ………。…もう2度と来ねェぞ。今みてェな、おれを討ち取る好機(チャンス)はよ。“世界政府”!!!ずいぶんと…、無駄な時間を過ごしちまった…。」

「ならば、続きといくとしようかの……。“嵐脚(ランキャク)(せん)”!!!」

 ガギギギィ!!!!

 言葉と同時に放たれた“嵐脚(ランキャク)”を、ゾロが自らの刀で防ぐ。

「その長ェ首…!!」

 たたんっ!!

 カクが体勢を戻す前にゾロが前に踏み込む。

「弱点にならねェと良いな。」

「その心配は無いわい!!!」

 ビュッ!!!

 言うが早いか振り抜かれた刀を、その長い首を生かし、場所は全く移動しないまま首だけのけ反り(かわ)す。

「首を自在に操るだけの筋力(きんりょく)も得た!!弾丸もじゃ!!」

 (かわ)した反動を利用し、カクが思い切り頭を後方に引く。

 ほぼ同時に、ゾロが3本目の刀を(くわ)えた。

 ビュッ!!!

「“鼻銃(ビガン)”!!!」

 ドゴォン!!!

 カクの鼻と、ゾロの3本の刀が激しくぶつかり合う。

 ブォッ!!!

 ビリ…ビリ…!

「うおっ!!!…何だ、側にいるだけでこの衝撃!!」

「鼻先で指銃(シガン)を撃つとはね…。」

 その衝撃に空気が震えているのが分かる。

「おら!!!」

 ギィン!!!

 ボォ――――――――――…ン!!!

 ゾロが力任(ちからまか)せに(はじ)いたカクの鼻が、近くに転がっていた岩に突っ込む。

「あ、凄い。岩に四角い穴が開いた。」

「ひいぃいっ!!!何だ、あの鼻!!!っつうか、ジャスミン!お前注目するのがそこかよ!!」

「割らずに穴だけ開けるのって結構難しいんですよ?私も出来るようになるのに時間かかったし。鼻では流石(さすが)に無理ですね。」

 見事に鼻先が貫通(かんつう)し、四角にくり()かれた岩に感嘆した声を上げるジャスミンにそげキング(ウソップ)が突っ込む。

「いや、しかし。なかなか能力をものにしてるな、カクの奴。」

 ゾロとカクの、緊迫したやり取りとはまるで無縁のような顔でジャブラがそこに加わる。

 実際のところ、カクがまんまとゾロと1vs1(タイマン)に持ち込んでしまった為、自分1人でジャスミンの相手をすることになってしまい、内心焦りに焦っていたのだが、それを全く(おくび)にも出さずにポーカーフェイスを保っているあたり、流石(さすが)プロの諜報員(ちょうほういん)である。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「お…、(おおかみ)っ!!!お…、お前の相手はこの私だっ!!!」

 巨大パチンコを構え、そげキング(ウソップ)が必死で虚勢(きょせい)を張る。

「ん?………そう(いき)り立つな。お前ら…、仲間を助けてェんだろ?」

「そ!!そうだ!!お前の鍵は私がいただく!!!」

 チャリン…!!

 そげキング(ウソップ)奪取(だっしゅ)宣言を()(かい)すること無く、静かに返したジャブラが唐突(とうとつ)に鍵を投げて寄こす。

「さっさと持ってけ…。そして…、ニコ・ロビンを…救ってやれ。」

「……え?お…、お前一体…。」

「どういうつもり?」

「おれは本当は、人殺しなど…したくはねェんだ……。血が嫌でよ…。」

 静かな声でジャブラがジャスミンとそげキング(ウソップ)に告げる。

「そ…、そんじゃ一応鍵は(もら)って行くぜ。」

「…そうですね。わざわざ無用な戦いをする必要はありませんし。」

 そげキング(ウソップ)に同意したジャスミンが抱えていたチョッパーを彼に預け、鍵を拾う為に身を(かが)める。

 その瞬間だった。

 ジャスミンに向かって舌なめずりをしたジャブラに、そげキング(ウソップ)が気付く。

「ダメだ、ジャスミン!!危ねェ!!!」

「ぎゃはは!!」

 ジャスミンがそげキング(ウソップ)の声に反応するより早く、ジャブラが両手首を付けて手のひらを内側に向け、爪を立てるようにして構える。

「“十指銃(ジュッシガン)”!!!」

 そして、ジャスミンが顔を上げた瞬間、10本全ての指から“指銃(シガン)”を繰り出した。

「!!!」

 ジャスミンの体が、大きく前のめりになる。

「ジャ、ジャスミ―――――――――ン!!!」

「気を許すな。おれァ“(おおかみ)”!!!油断させて……食い殺す。」

 そげキング(ウソップ)も、いや攻撃を仕掛けた側であるジャブラでさえ、ジャスミンが重症を負ったと思い込んでいた。

 しかし、確かにジャブラの10本の爪が食い込んでいた筈のジャスミンの体が、不意に揺らぎ次第に陽炎(かげろう)のように掻き消える。

「え!?」

「何!!?」

 そげキング(ウソップ)とジャブラが自らの目を疑った瞬間、

「そんなことだろうと思った。」

 全くの無傷のジャスミンが、ジャブラの後ろで静かに彼を(にら)み付けていた。

「お、お前!!一体いつの間に…!!どうやって消えやがった!!!!」

「“残像拳(ざんぞうけん)”。私はただ攻撃を高速で()けただけ。あなたが攻撃したのは、私が残した残像(ざんぞう)。仮にも“(おおかみ)”を自称する割に獲物(えもの)の姿を見失うなんて、恥ずかしくない?」

「あんだと?」

 ジャスミンの挑発(ちょうはつ)にジャブラが(まゆ)を上げる。

「あなたは2つ間違いを犯した……。1つ、仮にも武を(おさ)めた者でありながら、恥知らずにも下劣(げれつ)な手段をこうも堂々とやってのけたこと。そしてもう1つ、私の前で“(おおかみ)”を不当に(おと)しめたこと……。私は、貴様(きさま)のような下衆(ゲス)が1番嫌いなんだ…。」

 ざり…

 ジャスミンが静かに1歩、距離を詰める。

 その淡々(たんたん)とした語りが逆に怖い。

 そげキング(ウソップ)が思わず1歩後退(あとずさ)った。

 ジャスミンとはジャブラを(はさ)んで反対方向にいた為、彼女の顔が見えなかったことはそげキング(ウソップ)にとって幸いだったかもしれない。

 笑顔だが目が全く笑っていない、徐々に殺気すら(にじ)ませているジャスミンに、ジャブラは既に若干腰が引けている。

「来いよ、下衆(ゲス)。本物の、“(おおかみ)”の武を見せてやる。」

 ジャスミンがジャブラに向かって構えるが、その構えはこれまで見せていたものとは大きく異なる。

 拳を開いて腰を落とし、やや体をひねって右手を顔の上にやや突き出し、左手を胸の前に構えていた。

 既に口調まで変わっている。

(ヤバイ、チョー怖いんですけど…。)

 全く関係の無いそげキング(ウソップ)だが、額には汗が(にじ)む。

 ………とんだとばっちりである。

 

 

 

 

 

 




‐用語解説‐
・フリーザ…ドラゴンボールにおいてのかつてのラスボスの1人。宇宙の地上げ屋で、ベジータの元上司。サイヤ人の故郷、惑星・ベジータを滅ぼしたのはコイツ。かの名台詞「わたしの戦闘力は53万です。」は、かつて日本中の読者を絶望に叩き落した。連載が進むにつれ、ドラゴンボール名物の戦闘力のインフレからは完全に置いていかれることとなったが、まさかの劇場版とドラゴンボール超によって華麗なる復活を果たした。原作での最期があまりにあっけなかったので時折雑魚扱い、完全なる過去の人扱いされることもあるが、仮にジャスミンが戦ったらワンパンで殺される。それぐらいの強敵。
・Z戦士…ドラゴンボール(主にアニメ・ドラゴンボールZ)においての主人公とその仲間たち、特に戦士たちの総称。
・残像拳…高速で動いて残像を残し、敵を翻弄する技。なんとなく「分身の術」的な技を想像してもらえれば大丈夫。


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第30話 ジャブラ撃破!ロビンの奪還と反撃へのカウントダウン

明けましておめでとうございます!
お待たせしました!第30話更新です。
いつの間にか、お気に入り登録が800人目前に…。
こんな亀更新の駄文にありがとうございます!
感想もみなさん、ありがとうございます!
今年もがんばって更新したいと思います。
目指せ、年内の完結!!←年が明けたばっかですけど…(汗)

さて、今回も某ナマズヒゲさんと紫パンダさんをディスるシーンが多めなので、ファンの方はご注意ください。
※1月10日、加筆修正しました。……チョッパーの存在を途中からすっかり忘れておりまして……。


 ザッ……!

 これまで、ほとんど秒殺で相手を倒していたジャスミンが、構えらしい構えを彼らの前で見せるのは初めてだった。

「“本物の(おおかみ)の武”だとぉ……?!」

 ジャスミンの挑発(ちょうはつ)を受け、ジャブラが(うな)るような声を上げる。

「ああ。来い、下衆(ゲス)野郎。薄汚(うすぎたな)真似(まね)しかできない“負け犬”が、“(おおかみ)”を語るな。」

(怖ぇ……!)

 何の罪も無いそげキング(ウソップ)を恐怖に突き落としつつ、ジャスミンの挑発(ちょうはつ)は続く。

「なら見せてやる!!“鉄塊(テッカイ)拳法”!!“(おおかみ)(ハジキ)”!!!」

 ダッ…!

 再度ジャスミンが吐き捨てた挑発(ちょうはつ)に、焦りもあり冷静な判断を見失ったジャブラが両手の甲を胸の前に構え、ジャスミンに向かって飛び出す。

 ガッ!!!

 ジャブラの両手を、ジャスミンが左腕で受け止めた。

「クソがぁっ!!!」

「その程度?」

「っ……!!!“嵐脚(ランキャク)孤狼(ころう)”!!!」

 ビュッ!!!

 ガシィッ!

 間髪入れずに放たれた“嵐脚(ランキャク)”を、今度は右手で受け止める。

「………(おおかみ)(おとし)めるのは許さない、と何度言わせる?」

 ギリ……!

「ぐあぁ!!」

 (つか)んだジャブラの左足に力を込めながら、低い声で再度忠告する。

「す、すげぇ……!!」

 見ているしか無いそげキング(ウソップ)が、チョッパーを抱えて安全(けん)に避難しつつ、ジャブラを圧倒するジャスミンに感嘆した。

「チ、ックショウ……!!チクショウ、チクショウ、チクショウ……!!クソがぁ―――――――――――っ!!!!」

「!」

「な、何だ…………!!!?」

 ジャブラの気が一気に(ふく)れ上がり、ジャスミンが咄嗟(とっさ)に後ろへ下がる。腐っても世界政府直下の暗殺機関。火事場のなんとやら、といったところか。追い詰められ、潜在能力がわずかに開花したらしい。

「“鉄塊(テッカイ)拳法・狼芭(ろうば)の構え”!!!」

 ジャブラが人獣(じんじゅう)型のまま、獣の構えを取る。

 ビュン!!

 ビュン!!

 ビュン!!

 その構えのまま、ジャスミンの周囲を駆け回った。

「“狼狩(ろうかる)”!!!“エリア・ネットワーク”!!!」

 ヒュッ!

 駆け回りながら()り出される爪を受けようとするが、(うなじ)産毛(うぶげ)が逆立つような感覚を覚え、直感に従い上に跳ぶ。

「…っと!」

 ギギイィン!!!

 一瞬前までジャスミンが立っていた場所が、芝生(しばふ)ごと床が(えぐ)れ、爪の形に引き裂かれた。

「斬撃か…!」

「“鉄塊(テッカイ)拳法・重歩狼(ドン・ポー・ロウ)”!!!」

 ドッ…!!!

 ジャスミンが着地するより早く、ジャブラの(こぶし)が襲う。

「くっ……!」

 ボコォ……ン!!!

 攻撃は受け止めたものの、空中では踏ん張りが効かずに壁に吹っ飛ばされ、辺りに破片が飛び散る。

「ジャ、ジャスミン!おい、大丈夫か?!」

「ぎゃははは!!!どうだ!!おれの“鉄塊(テッカイ)拳法”は!?全身に“鉄塊(テッカイ)”をかけたまま動けるのは“六式(ろくしき)使い”の中でもおれ1人!!!」

 そげキング(ウソップ)の叫びが響く中、ジャブラが(たかぶ)った感情のままに高笑いする。

 ガラララ…

「全く…。大した決定打も与えていないのにベラベラと……。」

 瓦礫(がれき)の中からジャスミンが立ち上がる。

「っ…!?テメェ、まだ生きて……!!!!」

「ジャスミン!!!!」

 多少パーカーやジーンズが汚れているものの、外傷(がいしょう)はほとんど無く、せいぜい瓦礫(がれき)で頬を()()いた程度である。

「時間が無いんだ。悪いけどとっとと終わらせてもらう。見せてあげるよ。“狼牙真拳(ろうがしんけん)”、本物の(おおかみ)の武をね!!!」

 再度ジャスミンが構えた、次の瞬間だった。

 ビュッ!!!

「!??」

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 ドドドドドドドドッ!!!!!

「へぶっ・・・・・・・・!!!!!!」

 一瞬で距離を詰めたジャスミンの、激しい(こぶし)膝蹴(ひざげ)りの連打がジャブラを襲う。

 “狼牙真拳(ろうがしんけん)”、ジャスミンの父・ヤムチャの技“狼牙風々拳(ろうがふうふうけん)”を進化させたものだ。

 本来の“狼牙風々拳(ろうがふうふうけん)”は1秒間におよそ5発の打撃を放つものであり、それを改良した“新狼牙風々拳(しんろうがふうふうけん)”も1秒間におよそ10発。

 ジャスミンの“狼牙真拳(ろうがしんけん)”は、(こぶし)だけでなく蹴りも取り入れることで、1秒間におよそ30発の打撃を放つことを可能としている。

 あまりの速さに、もはや残像(ざんぞう)でしかその動きを(とら)えることが出来ない。

「何だ、一体・・・・!」

 (はた)で見ているそげキング(ウソップ)には、ジャブラが(またた)く間にボコボコになっているようにしか見えなかった。

「はぁっ!!!」

 ドゴオォン!!!

「げふっ…。」

 とどめに放たれた蹴りが、ジャブラを反対側の壁まで吹っ飛ばし、壁にめり込ませる。

 わずか数秒間の攻撃にも関わらず、壁に叩き付けられめり込んだジャブラの姿はボロボロと呼ぶに相応(ふさわ)しい姿となってしまった。

 ピクピクと微かに痙攣(けいれん)しているところを見ると、意識は無いが、生きてはいるようだ。………(かろ)うじて、と言った方が良いようだが。

(おおかみ)よりも“負け犬”の方がお似合いだね。」

(……あそこまでいくと、いっそ相手が気の毒になるのはおれだけなんだろうか…。)

 冷めた声で吐き捨てたジャスミンを見ながら、そげキング(ウソップ)が内心で力無く突っ込む。

 

「さて…。先を急ぎましょうか。」

 そげキング(ウソップ)たちのところまで戻ってきたジャスミンが、先程拾い損ねたジャブラの鍵を拾い上げる。

「お、おお…!ってゾロはどうするんだ?」

 頷いた後でハッと気付いたそげキング(ウソップ)が尋ねる。

「いや、何と言うかロロノアさんの場合は下手に横槍(よこやり)を入れたら怒られそうなので…。」

「た、確かに…!」

 神妙(しんみょう)な顔で呟くジャスミンに、ゾロの性格を知り尽くしているそげキング(ウソップ)が同意する。

「取り敢えずニコ・ロビンさんのところに急ぎましょう。この2本で開けばそれに越したことは無いですけど、最悪開かなくてもそげキング(ウソップ)さんならヘアピンで開けられます。」

「そ、そうだな…。まずはロビンくんの救出が第一だ。」

「そうと決まれば…。ロロノアさ―――――――――ん!!先に行ってます!後から追いかけて来てください!!!」

「すまんがゾロくん!!!そのキリンの相手は頼んだ!!!!」

「分かったから早く行け!!!!」

 ジャスミンとそげキング(ウソップ)の呼びかけに、視線はカクから外さないものの、ゾロが答える。

「行きましょう、そげキング(ウソップ)さん!」

「ああ!」

 日本庭園を模した(フロア)を飛び出す。

 タンタンタンタンタンッ……!

「お、おい!こっちで良いのか!?」

 下に降りるのかと思いきや、迷わずに階段を駆け上がり始めたジャスミンに、手を引かれてつられて駆け上がるそげキング(ウソップ)(あわ)てて声をかける。

 右手をジャスミンの左手に引かれているが、左手で意識の無いチョッパーを抱え、自身の巨大パチンコを持っている為、うっかりするとどちらかを落としそうになる。

「“正義の門”への行き方知ってるんですか?!」

「そりゃ、知らねェけど………!」

「私も知りません!でも、下に降りて悠長(ゆうちょう)に道を探してる時間は無いんです!海兵たちの相手をしてる時間も惜しい!それよりも、屋上からニコ・ロビンさんたちを探した方が早い!そげキング(ウソップ)さん1人くらいなら背負って飛べますから!」

「な、なるほど…!」

 振り返らないまま答えるジャスミンの言い分に、そげキング(ウソップ)も納得する。

 確かに、下にはまだ海兵たちが()いて捨てる程いるだろう。それをいちいち相手にしながら道を探している時間は、(いくらジャスミンが強かろうが)無い。

 途中、カクの一撃のせいで階段がズレているところがあったが、走りを止めること無く飛び越えた。

 タンタンタンタンタンタンタンタンタンッ…!!!

 バンッ!!

「着いた!」

 ゴオオオォオオオォオ……!

 屋上への扉を開けた瞬間、強い風が吹き付ける。

 バサバサバサッ…!

 髪や服が、風を(はら)んではためいた。

「!“正義の門”が、完全に開いてる…!」

「おい!ジャスミン、あれを見ろ!!」

「え?!」

「ロビンだ!!!」

 ここからでは(あり)程度の大きさにしか見えないが、確かにロビンと下衆長官(スパンダム)が“正義の門”を(くぐ)ろうとしているところだった。

「・・・!まずい、もう門を(くぐ)る!!」

「行かせるかぁ……!!!」

 言うや否や、そげキング(ウソップ)が抱えていたチョッパーをジャスミンに預け、自身の得物(えもの)である巨大パチンコを構える。

 ギリリリ…!

「いっけぇえ!!!」

 ビュッ!!!

 ドゥン!!

「やった!」

 そげキング(ウソップ)の放った弾が、確かに下衆長官(スパンダム)に当たり、吹っ飛ばしたのが見えた。

「おりゃ!」

 ビュッ!!!

 ボボボボォン!!!

 続けて放たれた弾も、途中で分裂してロビンの近くに立つ海兵たちに続けざまに命中する。

「この距離で、しかもパチンコでさすが・・・!」

 ジャスミンが感嘆しつつ、そげキング(ウソップ)を振り返った時だった。

「……何でポーズ付けてるんですか?」

狙撃(そげき)~の島~で~……♪」

「いや、何で歌うの?!」

 巨大パチンコを肩に担ぎ、左手で空を指してポーズを付け、何故か歌うそげキング(ウソップ)がいた。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「って、こんなことしてる場合じゃない…!そげキング(ウソップ)さん、乗ってください!!ニコ・ロビンさんのところまで飛びます!」

 再度チョッパーをそげキング(ウソップ)に預け、彼らに背中を向ける形でしゃがむ。

「お、おう!」

 自分に比べてかなり華奢(きゃしゃ)なジャスミンの背中に、恐る恐るそげキング(ウソップ)()ぶさり、落ちないようにチョッパーを胸に抱え込んだ。

「お、重くないかね!?」

「それなりに!」

「どっちだそれ、はぁあ!!!?」

 そげキング(ウソップ)がツッコミを入れ終わる前にジャスミンが飛び上がる。

 ギュン!!

「うぼぼあぼぼぼぼ……!!!!」

我慢(がまん)してください!!!」

 そのままロビンを目指して飛ぶジャスミンの背中で、そげキング(ウソップ)が風圧に耐え切れないのか悲惨(ひさん)な声を上げているが、生憎(あいにく)それに構っている暇は無かった。

 が、チョッパーを落とさないようにしっかり抱えているあたりはさすがである。

 ズザザッ……!!

 ものの10秒足らずでロビンがいる“ためらいの橋”に到着する。…着地の勢いが強過ぎて橋の石畳(いしだたみ)若干(じゃっかん)焦げてしまったが。ジャスミンのスニーカーも底が焦げてしまったのか、ゴムが溶けたような臭いが微かに風に流れる。

「な、何だお前たちは…!!」

「一体どこから来た…?!」

 海兵たちには、速過ぎてジャスミンたちが急に現れたように見えたらしい。動揺のあまり、銃を構えることすら忘れている様子だった。

「ロビンくん!!!」

 そげキング(ウソップ)がチョッパーを抱えたままジャスミンの背中から飛び降り、ロビンに駆け寄る。

長鼻(ながはな)くん!!!船医さん!!…それに、さっき裁判所でみんなと一緒だった…。」

「私のことは気にしないでください。単なるルフィくんたちの友達です。」

「友達……?」

 ジャスミンのことを知らないロビンが疑問の声を上げるが、今は細かい説明をしている暇は無い。

そげキング(ウソップ)さん。こっちは私が引き受けますから、まずはニコ・ロビンさんの手錠(てじょう)を外してください。」

(まか)せたまえ!」

 手に入れた鍵2本と、念の為に新しいヘアピンを1本抜いて振り向かないままそげキング(ウソップ)に手渡す。

「さて…。あなたたちの相手は私がします。……特にそこの下衆(ゲス)長官は容赦しないのでそのつもりで。」

 ザッ………!

 構えて告げるジャスミンの物騒(ぶっそう)な笑みに、下衆長官(スパンダム)は「ひいいぃい……!」と声にならない悲鳴を上げて腰を抜かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うまくいけば、次かその次でエニエス・ロビー編は終わりです!ドラゴンボール集めもいよいよクライマックス!!
気長に更新をお待ちください!


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第31話 非情なる攻撃!バスターコールとジャスミン怒りの覚醒

お待たせしました!第31話更新です!!
毎回、タイトル考えるのが大変で、タイトルで半分以上ネタバレしてしまいます…。文才が欲しい…。
前回、お気に入り登録がもうすぐ800人、と書かせていただいたんですが、気が付けばアレ、もうすぐ900人…?(震え声)
嬉しいです、ありがとうございます!感想・評価も励みになります!
これからも頑張ります!!!



「ひいぃいいぃ…!」

 情けなくも腰を抜かした下衆長官(スパンダム)に、ジャスミンが冷たい眼差(まなざ)しを送る。

「…お前みたいな、権力を(かさ)に着て人を簡単に()(にじ)るようなヤツがトップに立っているような組織はいっそ潰した方が良い、そう思わない?」

 冷めた声で語るジャスミンに、下衆長官(スパンダム)は自身の危機を悟る。

「う、()()て!!、()ち殺せぇ!!!」

 ドドドドドドンッ!!!!!

 下衆長官(スパンダム)が海兵たちに悲鳴のような声で命令した直後、一斉に銃弾がジャスミンに向かって放たれる。

 一瞬、勝利を確信した下衆長官(スパンダム)だったが、次の瞬間思わず自身の目を疑うことになる。

 シャシャシャシャッ!

 ジャスミンの両手が残像を残す程高速に動き、全ての銃弾を(つか)み取った。

「……悪いけど、銃は無駄だよ。こんなもの、いくらでも止められる。」

 言葉と同時に、両手を突き出し、握っていた(こぶし)を開いて見せる。

 バラララララ……

「だ、弾丸を素手(すで)で全て受け止めただと…!?」

「バケモンだ………!!!」

 ジャスミンの両手落ちた10近い弾丸銃撃した海兵たちが(おのの)く。

「この程度出来る人間なんてゴロゴロいるよ。…私のいたところではね。」

 後半は小声だった為、風の強い橋の上では海兵たちには届かなかっただろうが。

「彼女、一体何者なの…?」

「さっき彼女自身も言っていただろう?ルフィくんの友達さ。」

 その様子を見ていたロビンが、驚愕も(あら)わにそげキング(ウソップ)に尋ねる。

 ヘアピンで手錠(てじょう)と格闘(鍵は2本とも外れだったらしい)していたそげキング(ウソップ)が、ロビンに答えた。

 その声音(こわね)には、短い時間ではあるが一緒に行動していたジャスミンへの信頼が確かに現れていた。

「ルフィの…。」

 それを受け、再びジャスミンを見つめるロビンの目には、先程とは違う光が宿っていた…。

 

 ザリッ……!

「ひっ……!何なんだお前ェ?!何で銃が効かねェんだよ…?!」

 1歩、前に出たジャスミンに(おび)えた下衆長官(スパンダム)が、腰を抜かしたままジリジリと後退(あとずさ)る。

「当たらなければどうってこと無いんだよ、あんなもの。…それより、覚悟は出来てるんだろうね?」

「か、覚悟だと…?!」

「別に海賊に対して残虐(ざんぎゃく)なのは別に良いんだ。いや、まぁ個人的にはムカつくけど仮にも世界政府の役人で、相手が世間一般には悪党と言われている海賊相手となれば別におかしいことじゃないからね。……だけど問題は、“正義”を背負う立場でありながら一般人の安全を全く考慮してないところだ。“過程”を全く無視して結果のみ重視して…、何の罪も無い人間を容易(たやす)犠牲(ぎせい)にしてみせるその腐り切った根性が気に入らない!おまけに、さっきの“バスターコール”の放送……。兵士なんて死んでも構わない?自分の出世を第一に考えるその小物臭さも見ていて不快だ。お前みたいなのがトップにいるから、下にも同じような人間が集まるんだよ。…いっそのこと、ここで散れ下衆(ゲス)が。」

 喋っているうちに怒りが再熱したジャスミンの口調が徐々に荒れていく。

 かろうじて“気”を抑えるだけの理性は残ってはいたが。

「だから、誰が下衆(ゲス)だァ!!」

「良し!外れた!!!」

 ガチャンッ!!

 下衆長官(スパンダム)の声に、そげキング(ウソップ)歓喜(かんき)の声が(かぶ)さった。

「バカなっ!!へ、ヘアピンで手錠(てじょう)が外れただとォ!!?」

 ロビンが自由を取り戻した自身の手を見つめる。

長鼻(ながはな)くん、…ありがとう!!それに、あなたも。」

 ロビンがそげキング(ウソップ)とジャスミンを交互に見つめる。

「礼なら全てが済んでから、必死に戦った者たちに言いたまえ。君は(まぎ)れも無くルフィくんたちの仲間だ!!もう思うままに動けば良い!!」

「同感です。…取り敢えず、この場はお譲りします。」

 ジャスミンも一先(ひとま)ず怒りを抑え、ロビンに道を譲る。

「……ええ。」

 くるりと振り返りながらロビンが頷く。

「“六輪咲き(セイスフルール)”」

 ロビンが胸の前で軽く手をクロスさせると同時に、下衆長官(スパンダム)の胸元あたりから6本の腕が生える。

「え!?何だ!!?」

「“スラップ”!!!」

 ズパン!パパパン!!

「ホゲぶ!!!」

 ロビンの掛け声と同時に6本の腕が一斉に下衆長官(スパンダム)に連続でビンタを()らわせる。

「存分に・・・!!やらせてもらうわ。」

 やはりロビンも鬱憤(うっぷん)が溜まっていたようで、ビンタが止まる気配が無い。みるみるうちに下衆長官(スパンダム)の顔が()れ上がっていく。

「は!ザマァ。」

 …ジャスミンもだいぶ鬱憤(うっぷん)が溜まっていたらしく、そろそろキャラが崩れ始めた。

(……コイツらだけは怒らせねェようにしよう…。)

 それを見て若干(じゃっかん)引いていたそげキング(ウソップ)だったが、不意に何かを感じ取る。

「!ん?今、何か聞こえた。」

 ボカァ…ン!!!

 しかし、それを確かめる前に、“正義の門”のすぐ側の防御(ぼうぎょ)(さく)が砲撃によって一部吹き飛ぶ。

「え…!?」

「!?さっきまでの“渦潮(うずしお)”が消えてる……!」

「“正義の門”が全開になっているせいよ…!あの“渦潮(うずしお)”は、巨大な門に(はば)まれた海流(かいりゅう)が生み出していたんだわ!!」

 ジャスミンの叫びにロビンが続けた。

 ドォン!!!

「!“司法の塔”が!!!」

 ガラララララ!!

 続けられた砲撃により、司法の塔が半分崩れ落ちる。

「!!まずいぞ、まだみんなが塔の中に……!」

「大丈夫。塔からは移動してるみたいです。こっちに向かってる…。」

 そげキング(ウソップ)が悲鳴に近い声を上げるが、ジャスミンは麦わら一味の“気”が塔からは微妙に外れた場所にあるのに気が付いていた。そしてそれが徐々にだがこの“ためらいの橋”に近付いてきているのにも。

「砲撃が始まった…!」

「まずいぞ、ここも危ない!!」

 それを受け、(にわ)かに海兵たちが騒ぎ始めた。

「急げ兵士共、砲撃が本格化する前に!!!」

「はっ!!!」

 ジャキキン!

 既にロビンによってボコボコにされている下衆長官(スパンダム)の命令により、一斉に海兵たちが銃を構える。

「・・・・砲撃が本格化する前にさっさと脱出したいところですね。」

「橋の向こうの“護送船”、あれを奪う他に助かる道は無さそうね。」

援護(えんご)は任せたまえ!」

 ジャスミン、ロビンに続いてそげキング(ウソップ)がチョッパーを抱えてやや離れたところから叫ぶ。

「かかれェ~~~~!!!」

 ドゴォッ!!

 バキッ!!

 ドンッ!

 ドンッ!

 下衆長官(スパンダム)の号令で、海兵たちがジャスミンたちに銃の照準(しょうじゅん)を合わせるが、それより一瞬早くジャスミンがその海兵たちを蹴り飛ばす。

 構えていた銃はそれぞれ狙いが外れ、明後日(あさって)の方向へと放たれた。

 ボンッ!

 ボカァンッ!

「ぐお!」

「ぎゃあぁ!」

 そげキング(ウソップ)がやや後方から的確に海兵たちを狙い撃ち、

「“クラッチ”!」

 バキボキベキッ……!

「ぐぁっ………!」

「ぎゃあああ………!」

「あがっ………!」

 ロビンが能力で生やした腕によって次々と絞め落とされ、

「はぁっ!」

 ドンッ!!!

「!」

「!?」

「?!」

 ボチャン!

 バシャアッ!!

 ジャスミンの発頸(はっけい)(この場合は掌底のようなアレ)によって橋から吹っ飛ばされ、海へと落とされた。

 足場が狭くロビンやそげキング(ウソップ)が近くにいる為、万が一巻き込んでしまった場合のことを考え、大技を使うことが出来ない上、先程“残像拳”を使った時のように高速で動くのも巻き込みそうで不安だった。

 まぁ、本人にとってはだいぶスピードを抑えてはいるものの、周りから見れば目で追うのがやっとだったのだが。

「急げっ!!!ニコ・ロビンを捕まえて護送船に乗せるだけだ!グズグズするな、軍艦が来るぞ!!!」

 口だけしか出さない下衆長官(スパンダム)が、あっさりと蹴散らされている海兵たちを怒鳴り付ける。

 “バスターコール”が本格化する前に方を付けろ、と言わんばかりにせっつくが、結果としては間に合わなかったようだ。

「ちょ、長官…。もう…、手遅れのようで…。」

「あ!?」

 1人の海兵の言葉に、下衆長官(スパンダム)が振り返る。

「あ…………!!!」

 そして、忌まわしい記憶を持つロビンもまた、()()に気付いた。

「うわああああ!!!」

「霧の向こうに――――――――――!!」

「お!!お前ら、逃げるな待て!!!」

「影が見える!!」

 霧の向こうから姿を現した軍艦を皮切りに、海兵たちがパニックを起こす。中には、その場から逃亡を図ろうとする者さえいた。

「……………!!!」

 下衆長官(スパンダム)に至っては、恐怖から言葉にならずにただただ震えている。

「バスターコールが始まるぞ―――――っ!!!!」

「軍艦の艦隊だ!!!」

 目の前に迫る軍艦は10隻はある。

「思ってたより早かったな…。」

 

『“バスターコール”発動!!!標的、海賊“麦わらのルフィ”とその一味、約60名!!!―――(なお)、大将“青(キジ)”との内約(ないやく)により、“ためらいの橋”に確認済みの罪人・ニコ・ロビンのみ標的外とする!!現状(げんじょう)把握(はあく)不要(ふよう)!!“司法の島”エニエス・ロビー、その全てを破壊せよ!!!』

 電伝虫で流しているらしい命令の間にも砲撃が止むことは無い。

『全艦配置(はいち)に向かえ!!』

「おい、見ろお前ら!!逃げるんじゃねェ!!ホラ、この橋は軍艦も素通りだ!ワハハ、おれ様がいるからさ!!そうさ、親父(おやじ)も言ってた!!「無差別の砲撃もおれだけは避けた」と!!

『罪人・ニコ・ロビンのいる“橋”は一時対象外とする!!』

「おい、見ろお前ら!ここは安全だ!!おれが“CP9”長官だからだ!!」

 軍艦からの命令が響く中で、耳障(みみざわ)りな下衆長官(スパンダム)の声が響いた。

「親子揃ってバスターコールを発動させたわけ?つくづく下衆(ゲス)(きわ)みだね。」

 侮蔑(ぶべつ)の目を下衆長官(スパンダム)に向けるが、不意にロビンの様子がおかしいことに気付く。

「ニコさん?どうしました?」

 自身を抱き締め、膝を付き震えている。

「…震えが止まらない…!!」

 始まった“バスターコール”に、精神的外傷(トラウマ)が刺激されてしまったようだ。

 何と声をかければ良いのか、ジャスミンが思わず逡巡(しゅんじゅん)した瞬間だった。

 ボコォン!!!

「腕!?」

 巨大な“腕”が“ためらいの橋”の支柱を内部から破壊する。

 そして、ジャスミンの目はその腕に吹っ飛ばされ、軍艦の1つに落ちた人影を確かに(とら)えていた。

「今のは、CP9の(ひょう)男……。」

「“ゴムゴムのォ、ロケットォ――――っ”!!!」

 ボコォン!!

「ルフィくん?!」

 今度は風船のように膨らんだルフィが飛び出してくる。

 そしてそのまま舞台を軍艦の上に移し、ルッチとルフィの激しい攻防が繰り広げられる。

 ズドォン!!!

 ボキボキキ!!!

 ズバァン!!!

 甲板(かんぱん)がへこんで歪み、マストは纏めてへし折られ、さらに外板(がいはん)に切れ込みが入った。

「私も人のこと言えないけど、なんて人間離れした戦い……。」

 ドラゴンボール世界とはまた別の意味合いで、この世界もチートの集まりである。

 瞬く間にボロボロになっていく軍艦に、やや呆れながらジャスミンが呟いた瞬間だった。

『砲撃』

 ドドドォ…ン!!!

「な!!?」

 ルフィたちが戦っていた軍艦が、他の軍艦の砲撃を受け沈められたのだ。

 ルフィは砲撃の瞬間に再び支柱に向かって飛ばされ、ルッチもまた上手く逃れたようだが、ほんの一瞬で1000人近い“気”が消えたのが分かる。

 中には海に投げ出され、生き残った者もいるようだが、それでも30人にも満たない。

「ワハハハハハハ!!おい!!見たか!?たった今軍艦で暴れてた麦わらが!!木端微塵(こっぱみじん)だ!!ワハハ、ザマァ見ろ!!お前らの船長は死んだ!!!」

「味方ごと……!?正気の沙汰(さた)じゃない…!!!」

「これが!!()()()()()()()“バスターコール”の力!!これが正義だ!!さァ!!ニコ・ロビンをこっちへ引き渡せ!!」

 シャキィ…ン!!!

 哄笑(こうしょう)しながら、下衆長官(スパンダム)が背中の剣を抜く。

象剣(ぞうけん)“ファンクフリード”を抜いた!!」

「アレは強ェぞ!!」

 下衆長官(スパンダム)耳障(みみざわ)りな叫びと、海兵たちが騒ぐ声を聞きながら、ジャスミンは頭のどこかで何かが切れるような音を聞いた。

「喰らえ!!!“エレファント・チョ~…”!!!」

 下衆長官(スパンダム)が剣を振りかぶった瞬間だった。

 ドンッ!!!!!!!

 ゴォオオオオォオ!!!

 ジャスミンを中心に、激しい風が巻き起こった。

「パォ!!?」

 剣から飛び出したように見えた象が、その動きを止め、ジャスミンを注視(ちゅうし)する。

 ゾクッ………!!!

 その場に居合わせた者たちの背中に、例外無く冷たいものが走った。

 バチッ!バチチッ!!

 シュン…シュン……シュン…………!!!

 ジャスミンの体を青白い炎のようなものが包み、ところどころで激しくスパークしている。

「な、何だ、一体!!!??」

 下衆長官(スパンダム)が震える声を上げるが、彼本人も得体の知れない恐怖を覚えていた。

 彼がもう少し武に長けていたか鋭い感性を持っていたなら、それが生存本能が鳴らす警鐘(けいしょう)であることに気付けただろう。

 ――――――(もっと)も、気付いていたところで既に遅かったが。

 

 怒りによって膨れ上がり、解放されたジャスミンの“気”が具象(ぐしょう)化している。

 “司法の塔”と時とは異なり、ジャスミン自ら解放した為に大地を揺らすことは無かったが、その分はっきりとした姿で(とら)えることが出来ていた。

「あの時と同じ?!いや、もっとスゲェ………!!!」

「あの時……?」

 そげキング(ウソップ)の呟きにロビンが反応した瞬間だった。

「…「これが正義」だって………?味方すら無差別に殺す、この攻撃が?」

 激しい怒りを覚えながらも、ジャスミンは冷静だった。“司法の塔”の時とは異なり、ただ感情に囚われた訳では無い。

 人の命を簡単に奪う攻撃への怒り、それを命令した海軍への怒り、元凶である世界政府への怒り、そして防ぐことの出来なかった自分自身への怒りと殺された海兵たちへの哀悼(あいとう)が複雑に混ざり合う。

 一刻も早くこの攻撃を終わらせる。

 これ以上犠牲者を出す前に。

 その為には―――――、

「こんなの、許せる訳が無い…。さっさと終わらせてもらう!!!」

 ドゴォッ!!!

「っ……!!!!」

「パオォ!!?」

 バシャアッ……ン!!

 宣言と同時にジャスミンに蹴り飛ばされた下衆長官(スパンダム)が声も無く宙を舞い、ファンクフリードごと海へと落とされる。

「な、何!?」

「長官殿ォ!!?」

 ドガガガガガガッ!!!

「!」

「がっ…!」

「?!」

 海兵たちが事態を把握(はあく)するより早く、当て身や手刀で意識が刈り取られていく。

 “ためらいの橋”にいた海兵を全て片付け、そのまま“護送船”へと飛び移る。

 それまで“原作”から大きく外れた道を辿(たど)らないように、ある程度自重(じちょう)していたジャスミンだったが、目の前で多くの命を失ったことで自らの傲慢(ごうまん)さを痛感した。

 誰も傷付けないで事態を収拾(しゅうしゅう)させることなど出来はしない。そんなことは分かっている。

 しかし、少なくとも被害を少なくすることは出来た筈だった。

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 ドドドドドドドドッ!

「ぐっ!」

「がっ!」

「がはっ!」

 バシャン!

 ボチャン!

 バシャッ!

そげキング(ウソップ)さん!ニコさん!早くこっちに!こんな攻撃、許しちゃいけない!!ルフィくんたちが来る前に、さっさと終わらせる!!!」

 橋へと振り返り、ジャスミンが叫ぶ。

 その圧倒的な実力に、半ば呆気(あっけ)に取られていた2人だったが、ジャスミンからの呼びかけに我に返る。

「ロビン!!!」

「ええ…。もう、大丈夫。オハラとは…、あの時とは違うもの……!!私はもう1人じゃない、怖がることなんて何もないわ…。ルフィたちの為にも、私にも出来ることをしなくちゃ……!!!!」

 その瞳には、既に迷いや恐れは欠片(かけら)も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジャスミン、激おこの巻でした。
きっとサイヤ人の血を引いていたら、間違いなく超サイヤ人に覚醒していた程の怒りです。
上手くいけば次話でエニエス・ロビー編が完結です。
………後1話で終わればですが…。


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第32話 VSバスターコール!遂に決着、ルフィとルッチ

たいへんお待たせしました!第32話更新です!!
今回、諸事情によりちょっと短めとなっております。さらに、やっぱりまだエニエス・ロビー編完結しておりません(汗)
次かその次には必ず………!

今回、遂に“あの技”が登場します!!!

追伸、お気に入り登録900人超え+感想+評価、みなさんありがとうございます!
ご指摘を受けたのでちょっと文章の形式を全話手直しさせていただきました。
今後ともよろしくお願いします!!


「すみませんが、ここはお願いします。もうすぐナミちゃんたちが来る筈なので……。」

 “護送船”を占拠(せんきょ)した後、そげキング(ウソップ)とロビンに向かってジャスミンが告げる。

 炎のような“気”の放流は収まっているが、“気”そのものを抑えている訳ではない為、威圧感は消えてはいない。

「?どこに行く気だね?」

「軍艦を何とかしないと……。島に残っているガレーラやフランキー一家の皆さんが危ない。」

 ギュン!

 そげキング(ウソップ)に告げ、舞空術(ぶくうじゅつ)で飛び上がる。

「一体何を………?」

「分からん。だが、ここは彼女に任せよう。いつ、他のみんなが来ても良いようにすぐに船を動かせるように準備をしておこう!」

 ジャスミンが舞空術(ぶくうじゅつ)で“正門前”に移動し、上空から軍艦を見下ろし、狙いを付ける。

 3隻の軍艦が“正門”に近付いているのを確認し、手のひらを上に向けるように右手を構えた。

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 ブゥ……ン…!!!

 気合と共に、ジャスミンの手のひらに“気”が集まっていく。

 フォン…!フォン……!フォン………!

 ギュイィイイイン…………!

 それは高速で回転を加えられることで、(うな)るような音を立てながら円盤(えんばん)状に(うす)く引き伸ばされていった。

気円斬(きえんざん)………!!!はっ!!」

 ギャンッ!!!

 ズバババァ………………ン!!!

 気合と同時に放たれた円盤(えんばん)状の“気”のカッターが、“正門”に向かっている3隻の軍艦のうち、1隻に向かう。そして船首から船尾まで一瞬で飛び、マストを4本全て斬り飛ばした。

 バッシャアァアァァ………ン!!!

 ザッパアァアア…………ン!!!

「な、何だ!!?」

「何ごとだ!!??」

「マ、マストがありません!!」

「何ィ!?」

 (はち)の巣を(つつ)いたような騒ぎを見下ろしつつ、再度構える。

 ブゥ……ン…!!!

「もういっちょ!」

 ギャンッ!!!

 ズバババァ…………ン!!!

 もう1隻の軍艦のマストも全て斬り落とす。

 バッシャアァアァァ………ン!!!

 ザッパアァアア……ン!!!

「うわああああ!!!」

「マストが折れたァ!?」

「誰だ一体!?」

(かじ)が取れません!!」

 この世界の船はほとんどが帆船(はんせん)である。その為、風を受けるマストさえ奪ってしまえば、その後の操舵(そうだ)は不可能。

 最初は大砲を気功波で爆破させようかとも思ったが、砲弾の火薬に引火してしまわない保証は無い。

 それよりも、船の機動力さえ奪ってしまえば一気にこちらのペースに持っていくことが出来る。

 実際、海兵たちは砲撃を続けるよりもマストに気を取られていてそれどころでは無い様子だった。

「一体どうなっている!?」

 バスターコールによって招集された、5人の中将の1人であるやたらと上に長い頭の男・ストロベリーが叫ぶ。

「ス、ストロベリー中将、あれを!!」

 混乱の中、状況の把握(はあく)だけで精一杯だった海兵たちだったが、1人の海兵が、(つい)に上空のジャスミンに気が付いた。

「!この威圧感は貴様か?!貴様も“麦わら一味”の一味か!!?」

「浮いている……!能力者でしょうか………?!」

「さすがに見付かっちゃったか…。悪いけど、こんな馬鹿げた攻撃、続けさせる訳にはいかないんで、ね!!」

 ブゥ……ン…!!!

 ストロベリーの問いに答えること無く、再度気円斬(きえんざん)を右手に作り出す。

「な、何だ!?」

「はぁっ!!」

 ギャンッ!!!

 ズバババァ……………ン!!!

「うわああああ!!!」

「ま、マストが……!!!」

「貴様、何をする!?」

「これで3隻!」

 残る軍艦は6隻だが、さすがにこれ以上黙って見ているつもりは無いようだ。

『北西“正門前”より全艦に報告!“麦わら一味”の1人と思われる女を上空に発見!それにより、軍艦3隻が操舵(そうだ)不能!!悪魔の実の能力者と思われるが詳細は不明!全艦砲手(ほうしゅ)照準(しょうじゅん)を合わせろ!7秒後に一斉砲撃!!』

「人間1人に対してやる?普通……。」

 嫌悪に顔を歪めながら、顔の前に腕を交差させるように構え、衝撃に備える。下手に避けるとエニエス・ロビーに当たってしまう為だ。

『砲撃!』

 ドドドドドドドドドォ………ン

「……………!!!!」

 9隻の軍艦から一斉に砲撃され、ジャスミンの姿が爆炎と煙に包まれる。

「やったか?!」

「この砲撃だ。さすがに生きてはいられないでしょう。」

 

「ジャスミ――――――――――ンっ!!!」

「そんな……!」

「ウソ………?!」

 “ためらいの橋”の側の“護送船”でその様子を見ていたそげキング(ウソップ)の叫びが木霊(こだま)する。ロビンや、ココロのおかげで合流出来たナミもその様子を見て目を疑っていた。

 彼らが絶望を抱きかけた時、

 シュウウウゥウウゥ………!

 潮風に…よって煙が晴れる。

 ヴヴゥ……ン!!!

「お、おい!見ろ、アレ!!」

「ジャスミン!!!」

「無事だったのね……!」

 そこには、自らの“気”で張ったバリアーにより身を守っていたジャスミンの姿があった。

 

「ス、ストロベリー中将!!!」

「バカな……!あれだけの砲撃を受けて全くの無傷だと…!?」

 海兵たちが、自らの目を疑う。

「つくづく見下げ果てた奴らだな………!たった1人の人間相手に島ごと巻き込む集中砲火とはね……!後ろにはまだお前たちの味方が山程いるんだぞ……!?」

 ヴ………ン……!

 バリアーを解除しながらジャスミンが吐き捨てる。

「何の罪も無い人間を、自分たちの味方をこうも簡単に見捨てて切り捨てる……!そのやり方が気に入らないんだ……!」

 ドウッ……!

 ジャスミンから、再び青白い炎のような激しいオーラ(あふ)れ出した。

 ブオォ…………!

「ぐぅ……!」

「くっ………!」

「うぉっ…………!」

 ジャスミンを中心に巻き起こった風が軍艦を揺らす。

 それに伴い、発せられる威圧感もさらに増した。

『ぜ、全艦に通達(つうたつ)!!標的は無傷!!再度一斉砲撃を……!』

「良い加減、鬱陶(うっとう)しいな・・・・・!」

 慌てふためく海兵たちを見下ろしつつ、胸の前で右手を構える。手のひらを上に向け、指を開いて“気”を集中させ、左手で手首を支えた。

繰気弾(そうきだん)!!!」

 ボッ!!

 直径20cmに満たない程の青白い球体が手のひらから飛び出した。

「はっ!」

 ズギュンッ!!

 投げ付けられた気弾(きだん)が高速で軍艦へと迫る。

「な、何だアレは!?」

「光るボール…!?」

 ドォオオ……………ン!!!

「しゅ、主砲が…!」

「ストロベリー中将!!」

「何とか(かわ)せ!!」

「む、無理です!マストが無いので操舵(そうだ)出来ません…!!」

 ビッ!ビッ!ビッ!シャシャシャッ!!

 ドォオオ…………ン!!!

 ズドォオオ…………ン!!!

 ジャスミンの指の動きに合わせ、放たれた気弾(きだん)は自由自在に宙を舞った。

 そして目の前に並ぶ軍艦の3つの主砲、その“砲筒(ほうづつ)”を的確に破壊していく。

 主砲そのものではなく、“砲筒(ほうづつ)”を狙うことで砲弾への引火を避け、使用不能にしたのだ。

「クソォ……!」

「う、撃て撃て……!撃ち殺せ!!」

 ドォン!

 ドドドドォン!

 ドドン!

「ちっ……!」

 シュン!

 立て続けに放たれる弾丸を上空に移動することで(かわ)す。掴み取ることも可能だが、それをすると繰気弾(そうきだん)のコントロールが(おろそ)かになり、消えてしまう可能性があった為だ。

鬱陶(うっとう)しいって言ってる…!!!」

 ズドドドドドドドドドドドドォオオ…………ン!!!

 残りの8隻の軍艦の主砲も全て破壊する。

『ぜ、全艦に通達(つうたつ)!こちら6号艦、主砲が破壊され砲撃不可能!!7号艦、8号艦も同じく!!!』

『こちら5号艦、同じく主砲での砲撃不能!』

『1号艦、2号艦、3号艦も砲撃不能!!』

 

「何モンだ、あのオネーチャン。軍艦を次々無力化してやがる……!」

 “ためらいの橋”からその様子を見ていたフランキーが呆然と呟く。

 目線の先では、ジャスミンが再び光る円盤(えんばん)状のカッターのような技(気円斬(きえんざん))で残りの軍艦のマストを次々と斬り倒している。

「おい、ここまできて何だが、あの女は本当に信用出来るんだろうな?」

「何だね、突然!?」

 ゾロの唐突な1言にそげキング(ウソップ)がぎょっとして振り返る。

「もし、あの女がおれたちの敵になるようなことがあれば……。例えここを無事に突破出来たとしても、すぐに全滅だ。悔しいが、今のおれたちじゃアイツには敵わねェ!」

「何よその言い方……………!ジャスミンはそんなことしないわよ!!」

「悪いが、おれはお前ら程あの女のことを信用出来ねェ。第一、お前らだって何でそこまであの女のことを信じられる!?もし、アイツが海軍やCP9からのスパイだったとしたら?」

「?!そんな訳無いでしょ!?」

「現に、ウォーターセブンの奴らはCP9の連中に何年も(だま)されてたんだぜ?今までのあの女の言動が全ておれたちを(だま)す演技だったとしたら?CP9の連中と一芝居打ってたって可能性も0じゃねェ。」

 ナミが抗議するが、それはゾロの態度を(かたく)なにするだけだった。

「悪いがナミさん、おれもゾロに賛成だ。レディを疑いたくは無いが、ジャスミンちゃんとはウォーターセブンで初めて会ったんだろう?言っちゃあ何だが、タイミングが良過ぎる……。」

「ジャスミンは違うわよ!!ウォーターセブンにいたのだって別の理由があってのことだし、最初にあの子を巻き込んだのはルフィの方よ!?」

 同意するサンジに対し、ナミが説明するが、疑惑を完全に晴らすことは出来なかった。

 ホテルで郷愁(きょうしゅう)の念を吐露(とろ)していたジャスミンを思い出し、歯痒(はがゆ)い思いをしながら尚も言葉を重ねようとするナミだったが、突如(とつじょ)と響いた轟音に意識が()れる。

 ボコォ…ン!!!

「…!!!」

「第一支柱が!!!」

 内側から破壊された第一支柱に、海兵たちがざわつくのが聞こえる。

「ルフィ!!?」

「ルフィ…!!」

 そげキング(ウソップ)とロビンが支柱を注視した。

 ジャスミンも、放とうとしていた気円斬《きえんざん》を思わず消し、第一支柱を見詰める。

「ルフィくん……!?」

 “麦わらの一味”やフランキー、ココロたちだけで無く軍艦の上の海兵たちでさえ固唾(かたず)()んでいた。

「一緒に帰るぞォ!!!ロビ~~~~~~~~ン!!!!」

『ぜ、全艦へ報告!!!“CP9”ロブ・ルッチ氏が、たった今……!!海賊“麦わらのルフィ”に!!!(やぶ)れましたァ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




追記
気円斬…“気”を円盤状のカッターに練り上げ、物体を切断するクリリンの必殺技。この技をルフィ(の中の人)の声で叫ばれると、ドラゴンボールファンのテンションが30は上がる。
ジャスミンはヤムチャの仕事の都合でクリリン宅に預けられることも多かった為、教えてもらったという設定です。


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第33話 決着!取り戻した仲間たち

お待たせしました!第33話更新です!!
いつの間にか、お気に入り登録が1000人超えに……。
本当にありがとうございます!感想もなかなか返信出来ませんが、全て読んでいます!!
これからもよろしくお願いします!!


「何だとォ!!?」

「………そんなバカな…!!」

「サイファーポール史上最強と言われる現在の“CP9”の……。そのリーダー、ロブ・ルッチ氏までもが海賊に(やぶ)れるなんて・・・!!!」

 どよどよと海兵たちが動揺している様子が、上空にいるジャスミンにまで伝わってくる。

「ウ…、ウゥ……。ルフィが………、ルフィが勝ったァ―――――――――!!!」

 ウソップの歓喜の声が響き渡る。

「ヒヤヒヤさせやがって。」

(つい)にやったか!!麦わらァ!!!」

 ゾロが息を()き、フランキーが()える。

「全員、早く脱出船へ!!!船を出すわよ!!!」

 ナミがその場の全員に指示を出すが、結果としてそれはわずかに遅かった。

 

『全艦へ通達(つうたつ)!!第一支柱に“麦わらのルフィ”、“ためらいの橋”にニコ・ロビン、“海賊狩りのゾロ”を含む海賊9名を確認!各艦の操舵(そうだ)は不可能にて、“大佐”及び“中佐”のみ白兵戦にて出陣!!“少佐”以下は出陣不要。精鋭200名により、始末(しまつ)せよ!』

 電伝虫を通した伝達が、上空にいるジャスミンにも届く。

 ジャスミンが軍艦を無力化させたことにより、砲撃や操舵(そうだ)は不可能となったが、各艦の海兵たちはまだピンピンしている。

「さすがに数が多いな……………。」

 上空に待機しながら、軍艦の上に並び立つ海兵たちを見下ろす。

 砲撃を完全に無効化してしまうジャスミンより、“ためらいの橋”にいる“麦わらの一味”に狙いを定めたのかと思ったが、下の軍艦から複数の強い視線を感じる。

 5人の中将たちが、眼光(がんこう)鋭くジャスミンを(にら)み付けていた。

「なるほど……。随分(ずいぶん)警戒されてる………。」

 ジャスミンが(ひと)()ち、迎撃する為に上空30mくらいまで下降する。

 その直後、

『ニコ・ロビンを奪還(だっかん)せよ!!!』

「「「「「おおぉおおぉおおおお!!!!!」」」」」

 号令と共に、一斉に(とき)の声が響く。

 軍艦から次々と将校(しょうこう)が飛び降り、それぞれ月歩(ゲッポウ)で“ためらいの橋”へと向かって行った。

 そして、

「死ねェ!海賊!!!」

 月歩(ゲッポウ)(ソル)駆使(くし)し、ジャスミンのところまで一気に駆け上がった中将たちがそれぞれ剣を(たずさ)えて一斉にジャスミンに襲い掛かる。

 ヒュッ……!

 ガキィン!!!

 ジャスミンが空中で身を()()らせた瞬間、左から斬りかかった頭の長い男(ストロベリー中将)と右側から斬りかかった側頭部を刈り上げた男(モモンガ中将)の剣が交差する。

「ちっ………!」

「むぅ……………!」

 2人が更に追撃するより速く。

「はっ!!」

 ガッ!

 ドッ!

「!?」

「がっ……!」

 ()()った反動を利用し蹴り上げた両足で、ジャスミンが2人の側頭部を蹴り付けた。

 ドボボォオ………ン!!

「!ヤバッ………!」

 軍艦に落とすつもりだったが誤って海へと落としてしまい、ジャスミンが焦る。万が一、悪魔の実の能力者だったら死活問題である。

「貴様、よくも……………!」

 しかし、安否を確認するより先に長い房の付いた兜の男(オニグモ中将)葉巻を咥えた男(ヤマカジ中将)と一緒に突っ込んでくる。

「おっと……………!」

 剣士相手に戦ったことなど無いので間合(まあ)いを詰め辛い上に、月歩(ゲッポウ)でホバリングしつつ、(ソル)の速度で連携を取られると後手(ごて)に回らざるを得ない。

 シャシャシャシャシャシャシャシャッ!

「わったっとっはっなっちょっ……………!!」

 長い房の付いた兜の男(オニグモ中将)の髪の毛がまるで腕のようになり、6つに分かれてそれぞれが1本ずつ剣を握っている。それに更に両腕の剣がプラスされる為、高速で襲い掛かる計8本の剣を(かわ)さなければならないのだ。

 おまけに、(かわ)した先から他の2人が連携して追撃してくるのである。

 はっきり言って剣士とほとんど戦ったことの無いジャスミンが、体術で反撃するのは難しい。

「………っ!だったら…………………!!!」

 ギュン!

 一旦後方に飛んで距離を取り、両手の中指と人差し指を立てて額に当てる。

「逃がすか!!」

 身体傷だらけの男(ストロベリー中将)が更に距離を詰めようとした瞬間━━━、

太陽拳(たいようけん)!!!」

 カッ!!!!!

「ぐぉ……………!!」

「うぐっ………!!」

「目がぁっ…………!!」

 ジャスミンの叫びと共に、ジャスミン自身から激しい閃光(せんこう)が放たれた。

 強烈な光は網膜を焼き、視神経を刺激して激しい痛みを与える。

 予測していなかった攻撃方法に、3人の中将がわずかに(ひる)み、思わず動きが止まった。

 相手も百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の中将たちである。時間にすればほんの一瞬の(すき)だったが、ジャスミンにとっては、充分だった。

「せい!」

 ドゴォッ!

 ドガァッン!

 ドゴォンッ!

「ぐっあ!!」

「がっ………!!」

「!?ゔ………!」

 一気に距離を詰め、3人(まと)めて軍艦目がけて蹴り飛ばす。

 ドッガアァ………………ン!!!

「良し。後はルフィくんを回収して脱出船に…………。」

 狙い通り軍艦に落ちたのを確認し、ルフィたちの所に向かおうとした瞬間だった。

 ドッゴォオオオォオンン!!!

 突然、脱出用に奪った“護送船”から轟音(ごうおん)が響く。

「!しまった…!!船を………!!」

 見れば、船体に穴を開けられたらしい“護送船”がゆっくりと傾き、沈んでいくところだった。

 ジャスミンがそうしたように、船自体を狙って強制的に足止めをする気らしい。

「っこうなったら、海軍全員倒して“ロケットマン”の所に戻るしか無いか……!」

 その間にも、海兵たちの猛攻は止まらない。

 既にルッチとの戦いでを死力(しりょく)を尽くし、倒れ込んでいるルフィにも、容赦無く海兵が襲い掛かる。今のところ、ロビンが自身の能力を駆使(くし)してフォローし、何とか(しの)いでいるようだが、このままではロビンの身も危うい。

 ギュン!!

 取り敢えず、ルフィを保護した後でナミと合流する為に、第一支柱へと向かう。

 

「海へ飛べ――――――!!!!海へ――――!!!」

 ジャスミンがルフィの(もと)に着くより早く、ウソップ(いつの間にか仮面を取っていたらしい)の叫びが木霊(こだま)した。

「ウソップくん……?一体、何を…。」

 思わず空中で止まり、海へと視線を落とした時だった。

「―――――そうか!()()()()()()()()…………!!」

 ジャスミンが()()に気付いたのとほぼ同時に、他の“麦わら一味”も気付き、次々海へと飛び込んでいく。

 ルフィも、ロビンの能力でいち早く離脱したらしい。

「だったら、フォローに回った方が良いか。」

 スタン!

 そのまま、ジャスミンは“ためらいの橋”へと降り立つ。

「メリー号に!!!乗り込め―――――!!!!」

 ドカッ!

 バキィッ!

 ドスッ!!!

 ドサドサドサッ!!

 ウソップの叫びを背中に、追撃しようとする海兵たちを次々と沈めていく。

 残る海兵はおよそ100名弱。しかし、周囲に巻き込む人間がいないのなら、スピードを抑える必要は無い。トップスピードを維持させることが出来る。

「悪いけど、ここは通さないから。文句がある人は自力で頑張って。……手加減はしてあげるからさ。」

 ニッ、と浮かべられた不敵な笑みに海兵たちの間に動揺が走った。

「ひ、(ひる)むな!!かかれ!!」

「「「おおぉおおおおお!!!」」」

 半ば以上自棄(やけ)になっている海兵たちが突っ込んで来ようとするが、まぁ通用する訳が無かった。

「はあああああああっ!!!」

 ドスッ!

 ドッ!

 ゴッ!

 ベキッ!

 ドカッ!

 ドサササササ……!!!

 手刀と鳩尾(みぞおち)への一撃で“ためらいの橋”に降りていた海兵たちを全て気絶させるまで、およそ30秒。

 その間に、“麦わら一味”は航海士であるナミを中心に、既に出航の準備を整えていた。

「ジャスミン!あんたも早く!!」

「先に行ってて!!パウリーさんたちと一緒に追いかけるから!!!」

 ドギュン!

 ナミに叫び返すや否や、舞空術で再びエニエス・ロビー本島へと向かったジャスミンを見送り、ナミがクルーたちに指示を出す。

「ガレーラとフランキー一家のことはジャスミンに任せるわ!!今のうちにとっとと逃げるわよ!!!」

「「「「「「「おう!!!」」」」」」」

 

 エニエス・ロビー本島に着くと、パウリーたちが正門前で海兵たちを縛り上げ、“パッフィングトム”を出立させるべく蒸気を溜めているところだった。

スタッ!

「何だ。様子を見に来るまでも無かったみたいですね。」

「!ポニーテールか!!」

陣頭指揮を()っていたパウリーとザンバイの前に降り立った。

「ニコ・ロビンさんとフランキーさんは、ルフィくんたちと無事に出航しました。後はあなたたちだけです。」

「よっしゃあ!!アニキが無事に脱出出来たんなら、おれたちもさっさとズラかろうぜ!!」

 ジャスミンの言葉に、ザンバイが歓声を上げる。

「よし…!こっちもいつでも出発出来る。海軍本部から応援が来る前に行くぞ!!」

「いえ。私はちょっと会っておきたい人がいるので、先に行っていてもらえますか?すぐに追い付くので……。」

 パウリーの(うなが)しに返す。

「あ?会っておきたい人だ?」

「こんな時に、一体誰と……?」

「この騒動の中、高みの見物をしていた“誰かさん”にですよ。」

 パウリーとザンバイの疑問に、舞空術で浮き上がりながらはぐらかした。

 

「5人の中将及び、“ためらいの橋”に降りた精鋭200名が全て戦闘不能に!!!」

 ポッポ――――――――――!!!

「海列車が!奴らが逃げます!!」

「“麦わら一味”の乗った船も、もうあそこまで!!」

「至急、本部に応援を…………!!!」

「待て。」

 想像だにしていなかった事態に狼狽(うろた)える海兵たちに、後ろから制止をかける者がいた。

「あ、あなたは………!?た、大将・青雉(あおキジ)!!?」

「い……、いらしていたとは!!」

 海兵を制止したのは、海軍本部の最高戦力・3大将の1人、“青雉(あおキジ)”クザン。麦わら一味とはウォーターセブンに至る前の島、ロングリングロングランドで接触済みであり、そのうちの1人、ニコ・ロビンと浅からぬ縁があった。

「…もう良い。」

 静かに告げる青雉(クザン)に、海兵たちの間に動揺が走る。

「………この艦隊と、倒された海兵たちを見れば、最早(もはや)一目瞭然(いちもくりょうぜん)……。―――――この一件は……、我々の完敗だ。」

 大将からもたらされた敗北宣言に、その場にいた海兵たちが悄然(しょうぜん)項垂(うなだ)れる。

 その時だった。

「それを聞いて安心しました。これ以上無駄な争いをするのは、こっちとしても本意では無いので。」

「な!?」

「お、お前は?!」

 突如(とつじょ)と頭上からかかった涼し気な声に、その場にい合わせた海兵たちが一斉に視線を向けた。

「“麦わら一味”、じゃねェようだな……。お嬢ちゃんの顔は見たことがねェ。あんた、何者だい?」

 青雉(クザン)のその能力を表すかのような、()()えとした視線を真っ向から受けつつも、声の持ち主‐ジャスミンは全く動じること無く、笑みを浮かべていた。

「初めまして、大将“青雉(あおキジ)”。“お願い”があるんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




疑われている時に、余計に怪しい行動を取ってそれに拍車をかける主人公……。

追記
太陽拳…悟空たちの仲間、三つ目の武道家・天津飯の技。頭部から強烈な光と変えた気を放つことで、相手の目をくらませる。サングラスなどで防げるが、裸眼だと眩しいを通り越して痛いような描写多数。“それほど難しい技じゃない”らしく、意外と使われているが、使う人間によってポーズが多少異なる。
ジャスミンはクリリンを通じて教えてもらった為、ポーズはほぼクリリンと一緒。ただ、目は開けている設定。


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閑話2 海軍大将との邂逅!青雉との交渉

すみません、今回は閑話になります。本編に入れるとぐっだぐだになりそうだったので…。
そして、前々回の更新で“あと1~2話くらいでエニエス・ロビー編終了”、と書いてまだ終わらせられなかったのは私です……。
もうちょっと続きます。どうかご了承ください……。


「“お願い”?」

「はい。まあ、“お願い”というか“確約(かくやく)”というか“言質(げんち)”が欲しくて。」

 (いぶか)し気な声を上げる青雉(クザン)補足(ほそく)する。

「まぁ、内容次第じゃ聞いてやらないことも無いが……、その前にこっちの質問には答えちゃくれないのかい?………あんたが何者なのか。」

 淡々と返す青雉(クザン)だが、その目だけは油断すること無くジャスミンを注視(ちゅうし)しているのがわかる。

「あ、すみません。申し遅れました。ジャスミンといいます。何者か、と言われればそうですね……。ルフィくん、“麦わらのルフィ”の友達です。」

 ジャスミンもそれを分かっているからこそ、笑みを絶やすことなく静かに続けた。

「友達………?クルーじゃないのかい?」

「海賊になった覚えはありませんし、これからもなるつもりもありません。……まあ、今回の一件で賞金首になるのは確実でしょうけど………。」

 ジャスミンが肩を(すく)める。

「どうも()せねェな…。海賊じゃない、なるつもりもねェってのに何だってこんなとこで大暴れしてんだい?」

「友達に協力するのが、そんなにおかしいですか?」

 海賊ではない、と言い切ったジャスミンに対し、わずかに青雉(クザン)が目を(すが)めたのが分かる。―――まるで狙いを定めるかのように。

「まぁ、でも………。例えばこれが、ルフィくんたちが一般人に対して甚大(じんだい)な被害を与えていて、それが原因で捕まった仲間を助けたい、とかいうなら助けませんでしたけどね。今回のことは彼らに非は無い。―――――全ては、あるかどうかも分からない“古代兵器”に欲をかいたバカな役人と、それに便乗(びんじょう)した世界政府の陰謀(いんぼう)、でしょう?」

 言い切って、挑戦的にも見える目で青雉(クザン)を見詰めた。

 青雉(クザン)とジャスミンの、黒と緑の双眸(そうぼう)が交差する。

「友達の為、ねェ………。まぁ、何だ…。例え海賊じゃなかろうが、いやだからこそか…。放っておく訳にもいかねェか……。」

 パキ…パキパキ……

 青雉(クザン)の足元が、少しずつ凍り付いていく。

「ク、クザン大将……!」

 急激に下がり始めた気温に、海兵たちの間にも同様が走った。

「そちらがその気なら、こっちも容赦しませんが………。」

 そして、ジャスミンもまた、1度は抑えた“気”を少しずつ解放する。

「2人共…、何て殺気だ…!!」

 クザンを中心に少しずつ下がる気温と、徐々に強くなっていくジャスミンから放たれるビリビリとしたプレッシャーに、周囲の海兵たちが息を()む。

 まさに一触即発(いっしょくそくはつ)、ふとしたことがきっかけとなって爆発してもおかしく無い。

 周囲の緊張が最高潮に達した時――――、

「まぁ、ここで争うつもりはありませんけどね。」

 ふっ、と不意にジャスミンから放たれていたプレッシャーが消え、害意は無い、というように両手を肩の高さまで上げて見せる。

「はぁ?」

 肩透(かたす)かしを食らい、青雉(クザン)が気の抜けた声を上げた。

 同時に、徐々に広がっていた足元の氷が止まる。

「“言質(げんち)”を取りに来た、って言ったじゃないですか。」

「あ――…、そういや言ってたな……。」

 すっかり緩んだ空気に脱力しながら、青雉(クザン)が頭を()く。

「で?“言質(げんち)”だって?先に言っとくが、自分に懸賞金をかけないでくれ、とか“麦わらの一味”を追うな、とかいうのは聞けないからな。」

「それは分かってます。まぁ、犯罪者に懸賞金をかけたり、海賊を追うのは海軍の仕事ですから、それに関しては文句を言うつもりはありません。私がお願いしたいのは、()()()を巻き込むようなことをしないでほしい、ということです。………特に、今回の“バスターコール”のような、ね……。」

「海賊が、民間人の心配をすんのかい?」

 ジャスミンの言葉に、青雉(クザン)が意外そうに眉を動かす。

「私は海賊じゃないので。」

「ああ、そうだったな…。」

 肩を(すく)めながら再度断言するジャスミンに、青雉(クザン)が苦笑する。

「私がお願いしたいのは、“少なくともウォーターセブンをバスターコールの対象としない”、そして“民間人を巻き込まない”こと。この2つを約束してほしいんです。」

「……本当にそんなことで良いのか?」

「はい。それだけです。……まぁ、今度そんなことが目の前で起こったら、今度こそ自分を抑える自信は無いんですけどね。」

 一瞬だけジャスミンの目が不穏(ふおん)な光を()びるが、すぐに()き消えた。

「……分かった。まぁ、おれたち海軍としても民間人を巻き込むことは本意じゃない。そんなことは決して無い、と言っておく。…ただ、それと追手をかけないことは話が別だ。民間人に被害が出ない範囲で、海軍としての本分(ほんぶん)を果たさせてもらう。」

 溜息を()きながら青雉(クザン)が確約する。

「それに関しては、どうぞ存分(ぞんぶん)に。………あぁ、そう言えば今回の一件で、世界政府の下衆(ゲス)な役人のせいで()()()()()()()()()()()()()()が多数いましたが、まさか彼らを裁くような真似(まね)はしませんよね?」

 試すような言葉と共に、ジャスミンの視線が青雉(クザン)を射抜く。

 ゾク…!

 それに(ともな)って、ジャスミンから再び発せられたプレッシャーに、その場にいた人間たちの背筋に等しく冷たいものが走る。

「私が手配されるのは別に構わないんですよ……。世界政府に宣戦布告したのは私も一緒ですから。ただ……、彼らは違う。」

 徐々に放たれるプレッシャーが強くなっていく。

「……もし、それは出来ないって言ったら、どうするんだい?」

 少しずつ強くなる圧迫感に、息苦しささえ感じながら青雉(クザン)が尋ねた。

 スッ……………!

 不意にジャスミンの左手が上がる。

 カッ!!!!!

 ドォンッ!!!

「な?!」

 ジャスミンの左手が光ったと同時に響いた破壊音に、青雉(クザン)が思わずジャスミンから視線を外し、轟音の方向へ振り返る。

 ガラガラガラッ……!!!!

 バシャアァ……ン!!!

 “ためらいの橋”が中心から破壊され、崩れていくところだった。

「“ためらいの橋”が…!」

「い、一瞬で?!」

 取り乱す海兵たちを尻目に青雉(クザン)の視線が鋭さを増す。

「……どういうつもりだ?」

「言った(はず)です。“民間人を巻き込む”ところを見たら、自分を抑える自信が無い、と。」

「脅しのつもりか……?」

「………そう聞こえたなら、そう取ってもらっても構いませんが、あなたも先程言っていませんでしたか?“民間人を巻き込むことは本意じゃない”、と。」

 お互い、しばし(にら)み合う。

 しかし、今度は青雉(クザン)が溜息と共にそれを外した。

「はぁ~…。分かったよ……。世界政府のやり方にも非はあった……。ガレーラの職人や、島のゴロツキたちに関してはおれが上手く取り計らおう。」

「大将殿(どの)!!?」

「ただし、」

 海兵の声を無視して青雉(クザン)が続ける。

「お嬢ちゃんやカティ・フラムに関しては別だ。」

「でしょうね。さっきも言いましたが、世界政府に宣戦布告したのは私も一緒ですし、フランキーさんも覚悟はしてるでしょうから、それに関しては何も言いません。大将さんが話の通じる人で助かりました。」

「……半ば以上脅しだった(くせ)に、良く言うもんだ……。」

 呆れたような青雉(クザン)に、ジャスミンが「ふふ…!」と笑みを(こぼ)す。

「それじゃ、もう会わないことを願ってます。……お互いに。」

 ヒュンッ!

 言い置いて、ウォーターセブンの方向に飛び立ったジャスミンを見送り、青雉(クザン)がその場に座り込む。

「あ――――…。まぁ、取り敢えず何だ、このままじゃ軍艦も動かねェし、本部に連絡して迎えに来てもらえ。」

「は、はい!!」

 青雉(クザン)の言葉に、海兵たちが(あわ)ただしく動き始める。

「とんでもねェお嬢ちゃんだったな………。さて、センゴクさんに何て報告しようかねェ……。」

 呟きながら、青雉(クザン)が空を(あお)ぐ。

「ジャスミン、ね……。とんだバケモンが現れたもんだ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第34話 遂に探知!最後のドラゴンボール

お待たせしました!第34話更新です!!
なんか、まだ週中なのに閲覧数がえらいことになっているんですが…。
何より、2月7日付けでのランキング11位に驚愕しました。リアルにチューハイ噴きだしそうになって、気管に入ってめちゃめちゃ苦しかったです(苦笑)
あれ、ランキングに入った時って何か告知的なものがあるかと思ったんですが無いんですね…。
サイトさん巻き込んだ盛大なドッキリか何かかと思いました…。
しかし!とても嬉しいです!!
いつの間にかお気に入り登録も1300件を超えていました!
評価、感想もありがとうございます!
これからも頑張ります!

さて、今回ジャスミンの精神的な不安定さが明らかになります!
いよいよ、次回からスリラーバーク編です!
ここまで長かった…。
もう少しお付き合いください!!


 ━世界を揺るがした、エニエス・ロビーの一件の翌日━

 ジャスミンは、自身が取っていたホテルを引き払い、ガレーラカンパニーの仮設本社、その屋上にいた。

 マスコミが押しかけてはゆっくり体を休めることも出来ないだろう、とのアイスバーグの厚意(こうい)で“麦わらの一味”と一緒に仮設本社内の『特別海賊ルーム』に泊まらせてもらえたのだが、“麦わらの一味”はまだルフィを筆頭に疲れ切って眠っている為、普段通り目が覚めたジャスミンは彼らの睡眠を邪魔しないように一旦部屋を出たのである。

 パラ……

「まだ()って無い、か……。」

 屋根の上に座り込み、ニュース・クーから購入した新聞に目を通しながら、呟く。

「はぁ……。」

 パサッ…!

 新聞を軽く(たた)んで(かたわ)らに放り、ドサ、とそのまま後ろに倒れ込んだ。

 青雉(クザン)言質(げんち)は取ったものの、海軍本部も一枚岩では無い。他の大将や元帥の命令でもし、また“バスターコール”が発動されるようなことになったら、そう考えると落ち着かなかった。

 本来の歴史(原作)でそんな描写は無かった(はず)だが、自分(ジャスミン)という異分子がいる以上、どう転ぶかは分からない。事態が悪化する前に、ウォーターセブンを離れた方が島の人間やルフィたちにとっても良いのかもしれない、そう思い始めた。

「ダメだ……。どんどん思考が暗くなる………。」

 右腕を額に乗せて呟く。

 考えがどんどん悪い方へ流されていくのが分かる。

 しかも、武道家としてはあるまじきことに、自分でもどうしようも出来ない感情の乱れそのままに“武”を暴力として(ふる)ってしまった。

 青雉(クザン)との交渉に関してもそうだ。あそこまで挑発する必要は無かったのだから。結果的に青雉(クザン)が折れてくれたから良かったが、あそこでもし青雉(クザン)自分(ジャスミン)を警戒するあまり、ウォーターセブンへの“バスターコール”を選択していたら、と思うとぞっとする。

 ジャスミンは、元々自身が精神的に強くないことを自覚していた。そもそも慣れない環境と孤独感によるホームシックで、それなりに精神的に追い詰められていたところに今回の一件である。

 慣れない環境での鬱憤(うっぷん)を晴らす形で暴力に走った挙句(あげく)に、それに()ったような醜態(しゅうたい)(さら)してしまった。

 実戦に出たことが無かったにも関わらず、身の程知らずにも大きな事件の渦中(かちゅう)飛び込んだ中、自身の甘えた考えのせいで1000人近くの人間が死んだ。

 それはジャスミンにとって大きなショックだった。

 頭のどこかで自惚(うぬぼ)れていたのだ。この世界に、自分に勝てる人間などいない、と。

 確かに脅威となり得る相手などいなかった。しかし、その慢心(まんしん)が油断を呼び、出遅れてしまった。失わなくて良かった(はず)数多(あまた)の命が消えてしまったのだ。

 最早(もはや)ジャスミンに、この世界(ワンピース)の原作知識などほとんど残っていない。精々(せいぜい)、ルフィたち主人公と、ざっくりとした展開くらいである。

 ジャスミンには、エニエス・ロビーで死んだ海兵たちの元々の運命など分からない。ただ、もし元々死ぬ(はず)だったとしても、ジャスミンが気を付けていたならあの砲撃を防げた(はず)だったのだ。

「っ………!」

 カタカタカタ……

 額に乗せていた手が、自分の意志ではどうにも出来ず震えているのが分かる。

 もしかして、自分が関わったことで死んでしまったのでは…、そう思うと震えが止まらなかった。

「早く7つ目のドラゴンボールを集めないと……。」

 ドラゴンボールで叶う願いは2つ。ジャスミンも、2つの願いを決める。

 1つは、ジャスミン自身と7つのドラゴンボールを元の世界(地球)帰還(きかん)させること。 

 そしてもう1つで、エニエス・ロビーで死なせてしまった海兵たちを生き返らせよう、そう決めた。

「一応レーダー確認しておこうかな…。」

 震えを無理やり抑え付けるように、(ひと)()ちながら身を起こす。

 腰に付けていたウェストポーチを探り、ドラゴンレーダーを取り出してスイッチを押した。

 カチッ!

 ピッピッピッ…!

 スイッチを入れ、画面が明るくなると同時に響いた電子音、そして画面で点滅する丸いマークに、ジャスミンは一瞬己の目を疑った。

「まさか…!」

 半年間、全く行方(ゆくえ)(つか)めなかった、7つ目のドラゴンボールが(つい)にレーダー上に現れた。

 

 ━その夜・特別海賊ルーム━

 カチャ…

 まだ眠っている者たちを起こさないように、出来るだけ音を立てないよう、そっとドアを開けて中に(すべ)り込む。

「ジャスミン!」

「!あなたはあの時助けてくれた……!」

 テーブルでお茶を飲んでいたらしいナミとロビンが、ジャスミンに気付く。

「おはよう、ナミちゃん。ニコさんもおはようございます。」

 両腕に紙袋を抱えたまま、ナミたちの方に歩み寄る。

 スッ、とロビンが立ち上がりジャスミンの前まで出てきた。

「あの時はありがとう。おかげで生き延びられたわ。」

「ああ…!いえ。友達の手伝いをしただけですから…。」

 笑顔で礼を言ってくるロビンに、ジャスミンが首を振る。

「改めて。ニコ・ロビンよ。」

「こちらこそ。ジャスミンです。」

 ジャスミンの素性(すじょう)も気になってはいるのだろうが、“ルフィの友達”という点で一定の信頼を置いているのだろう、余計な詮索(せんさく)をしないロビンにジャスミンも救われる思いだった。

 今のジャスミンにとっては。

「ジャスミン、あんたどこ行ってたの?」

「ちょっと買い物にね。そろそろ起きる頃かな、と思って。差し入れ。」

 ナミの疑問に答えつつ、抱えていた紙袋をテーブルに置く。

「差し入れ?」

「うん。ウォーターセブン名物、水水肉(みずみずにく)のローストサンド。それとミックスジュース。取り敢えず、軽くお腹に入れられるものを、と思って。」

 説明しながら中身を並べていく。

 現在の時刻は夜の7時ちょっと前。丸1日以上寝ていた計算になるが、いきなりがっつりしたものを食べるのも胃に悪いだろう。

 軽過ぎても食べた気がしないだろうが、ローストした水水肉(みずみずにく)が挟んであるサンドイッチは、適度にボリュームがありつつもさっぱりしたソースで仕上げてあるので食べやすい。

「わ――――!おいしそう…!」

「ホントね。」

「酒はねェのか?」

 不意に割り込んできた声に、全員振り返る。

 目を覚ましたらしいゾロが、ボリボリと頭を()きながら身を起こすところだった。

「ロロノアさん…。」

「あんた起きたの?」

「おはよう。良く眠っていたわね。」

 欠伸(あくび)をしながらテーブルに近寄ってきたゾロが、テーブルに並べられた差し入れを見ながら舌打ちする。

「ジュースしかねェのかよ…。」

「ちょっと!せっかく差し入れてもらったのに、そういう言い方しか出来ない訳?!」

「まぁまぁ…。すみません、さすがにお酒は年齢的な問題で売ってくれなくて…。」

 ナミが怒るのを、横から(なだ)めつつ、ゾロに謝罪する。

「そういえば、あなたいくつ?」

 ふと気になったようで、ロビンが尋ねてくる。

「私ですか?もうすぐ15歳です。」

 天下一武道会が開催(かいさい)されたのがGW(ゴールデンウィーク)であり、この世界(ワンピース)でも(こよみ)は変わらない。偉大なる航路(グランドライン)では季節などほとんど関係無いが、現在は11月の半ばである。

「え。」

「え?」

「は?」

「「「え(はぁ)~~~~~~~~~~!!?」

「うお!?」

「な、何だ何だ?」

 ナミたちの絶叫に、サンジやチョッパーも飛び起きる。

「ちょ、ちょっと待って!ジャスミン、あんたもうすぐ15歳ってことは、今14歳……?」

「そ、そうだけど…。」

 詰め寄ってきたナミの剣幕に、思わず一歩後退(あとずさ)る。

「てっきりルフィと同じか少し年上かと思っていたけど…。随分大人っぽいわね。」

「あたしも。てっきり同い年くらいかと思ってたわ。」

 まだ子供と言っても良いくらいの年齢と知ったのは、随分と衝撃的だったらしい。

 ロビンとナミは早くも衝撃から立ち直り、ジャスミンをしげしげと見詰めているが、訳が分からないのは、突然の絶叫で叩き起こされたサンジとチョッパーである。

「おい、クソマリモ。何なんだ一体?」

「すっげェ声だったな。おれ、びっくりしたぞ。」

 が、問われたゾロはといえば、未だ衝撃から立ち直れずに「まだガキじゃねェか…。そんなガキにおれはあんなに警戒…。」と何やらブツブツと(つぶや)いている。

「っておい!聞いてんのかこのクソ剣士が!!」

「っさっきからうるせェんだよ!このエロコック!!」

「ケンカすんなよ2人共!!!お前らも怪我人なんだぞ!!」

 (つい)にケンカを始めたゾロとサンジに、チョッパーのドクターストップがかかる。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 何とか収拾(しゅうしゅう)が付いた後、テーブルにはジャスミンの差し入れとサンジがキッチンスペースで作り上げた夕食が並んだ。

 ジャスミンもナミやサンジに誘われ、一緒にテーブルに付いていた。

 どうやらジャスミンの年齢が明らかになったことで、世界政府からのスパイ疑惑も多少和らいだらしい。

「え!?ジャスミン、もう行っちゃうの?」

「うん。今すぐって訳じゃないけど、今回の件で世界政府がどう出たか分かったらね。私がいたら余計危ないかもしれないし、万が一にも民間人が巻き込まれることが無いようにしないと…。」

 ナミの疑問に頷きながら答える。エニエス・ロビーでの今回の一件、世界政府がどう出るか。それを見届けた後、ウォーターセブンを出るつもりだ。

「次はどこに行くんだ?」

 チョッパーが好奇心に(あふ)れた目で問いかけてくる。

「どんな所かはまだ分からないの。場所なら分かるんだけど…。」

「?どういう意味?」

 ジャスミンの分かり辛い返しに今度はナミが問い返す。

「7つ目のドラゴンボールが見付かったの。レーダーで場所は分かったけど、実際に行ってみないとどんな所かは分からないから…。」

「ああ。そういうこと…。でも良かったじゃない!もうすぐ家に帰れるってことでしょ?」

「うん!」

 ナミに笑顔で頷く。

 もうすぐ帰れる。その思いがジャスミンの心に余裕を持たせていた。

「ドラゴンボール?」

「あ、えーっと…。」

 ナミがロビンの声に反応しながらジャスミンの方を見る。

「みんなにも話しても良い?」

「うん。」

 余計な疑惑を持たれたままよりは、いっそ秘密を暴露(ばくろ)してしまった方が良い。そう思いながらナミに頷く。

 

 その後は、夕食を食べながらナミによってジャスミンのことが“麦わらの一味”に話され、ジャスミンが質問に答えながら静かに夜が()けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回、ジャスミンの年齢と天下一武道会の開催時期をちょっと訂正させていただきました。うっかりしてまして、悟天の2つ下だと高校生だと年齢が合わないんですよね…(汗)。
そんな訳で、現在中学3年生で作中で誕生日がきたら15歳とします(汗)
今まで散々高校生と言ってきたんですが、すみません中学生でお願いします!!!

それに伴い、作中で勝手に11月にしてしまいましたが、二次創作ということでご容赦ください……!


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第35話 遂に賞金首!さよならウォーターセブン

お待たせしました!第35話更新です!
お気に入り登録1600人越え、感想・評価などありがとうございます!
なんだか、閲覧数がえらいことになっていてちょっと怖いですが嬉しいです!!
さて、次回からいよいよスリラーバーク編です!

今週ちょっとばたばたしてまして、少し更新が遅れるかもしれませんが、どうか気長にお待ちください!


 ━翌日、特設海賊ルーム━

 ドカァ…ン!!!

「ふぁっ!!?」

 不意に響いた破壊音に、ガバッと身を起こす。

 そこで初めて、ジャスミンは自分がそれまでベッドに寝かされていたことに気が付いた。

「何だ……!!!」

「誰だァ!!!」

 サンジやフランキーたちが騒いでいるのが分かるが、今の今まで眠った記憶も無く寝ていたらしいので、そもそもの状況が理解出来ない。

「え?え?」

 思わず周りをキョロキョロと見回すが、周りの人間もいまいち状況を把握(はあく)出来ていないらしいので、誰も説明してくれる者はいなかった。

「お前らか……。“麦わらの一味”とは…。」

 そう言いながら壁に開いた穴から、犬を模した帽子を被った老人がゆっくりと入ってくる。

「モンキー・D・ルフィに会わせたい男たちがおるんじゃが……。」

「海軍……!!!」

 警戒するサンジたちの声で、その人物が海軍ということに気付くが、寝起きでは相変わらず回転の悪い頭ではその次の行動を見送るしか無かった。まぁ、殺気や敵意は一切感じられなかったというのも大きいが、第一に

「起きんかァ~!!!」

 ドカァン!!!

「い!?痛ェ――――――!!!」

 いくら賞金首相手とは言え、出会(であ)(がしら)唐突(とうとつ)に殴り付けるような海兵がいるとは思わず、ルフィもまた大人しく殴られるとは思っていなかったので。

 それにしても、いきなりテーブルごと床をぶち破るようなパンチを繰り出すとは…。しかも、今の一撃は敵意が無いながらも強い“気”が込められていた。

「痛ェ!?何言ってんだ、パンチだぞ今の!!ゴムに効く訳……!」

「今、一瞬(こぶし)が“気”を(まと)って…。」

 サンジが驚愕のあまり叫んだのを受け、まだ眠気が取れずにボケっとしているジャスミンが呟くが、“ゴム人間”が打撃に痛がっている、という衝撃的な事実が大き過ぎて誰も気が付かなかった。

「愛ある(こぶし)は防ぐ(すべ)無し!!随分(ずいぶん)暴れとるようじゃのう。ルフィ!!」

 そう言いながら帽子を外した老人の顔を見て、ルフィが叫ぶ。

「げェ!!!じ…、じいちゃん!!!!」

「「「「えェ!!?じいちゃん!!?」」」」

「どーりでルフィくんと“気”が似てると思った………。」

 周りが驚愕に叫ぶ中、ジャスミンのぽやっとした声が間延(まの)びした様子で響く。

 

「ルフィ、お前。わしに謝らにゃならん事があるんじゃないか!?」

 仁王立(におうだ)ちして言い放つ老人(ガープ)に、若干(じゃっかん)ルフィが萎縮(いしゅく)しているのを感じるが、敵意も害意も感じない為、下手に関わらないことに決めた。

 何より、家族間のことに他人が口を出すものでは無いので。

 それに、目の前にいる海軍の英雄(ルフィの家族)よりも優先しなければならない相手が他にいるようだ。

 それにしても、海軍の英雄がルフィの祖父だったとは、すっかり頭から抜けていた。名前と存在はこちらの世界では有名だった為、(うわさ)程度に聞いたことはあったが…。

(言われてみれば、名字(みょうじ)が一緒だった……。)

 まだボーっとしている頭で考えながら、ベッドの下に(そろ)えてあったスニーカーを()く。

「うぁ…っとっと…!」

 立ち上がった途端(とたん)、激しい眩暈(めまい)と頭の内側から打ち付けるような頭痛がジャスミンを襲う。

 バフンッ!

「あれ?」

 (かたむ)いた自分の体を支え切れずに、ベッドに尻餅(しりもち)を着く。

「あら、起きたのね。」

 かけられた涼し気な声に顔を上げる。

「ニコさん…。」

「おはよう。良く眠っていたわね。」

 見れば、ロビンがジャスミンに気付いて近付いてくるところだった。他の者たちはルフィと老人(ガープ)のやり取りに意識がいっているのか、こちらには気付いていない。

「おはようございます。…あの私、昨日一体いつ寝たんでしょうか?」

 フラフラする頭に手をやりながらロビンに尋ねる。

「時間的には夜の10時くらいかしら。覚えてる?昨日、あなたのことを色々聞いているうちに、ジュースと間違えて私とナミ用だったカクテルを飲んじゃったのよ。グラスに半分くらいだったからそれ程量は飲んでいないし、度数も大したことは無い(はず)だけど、お酒に弱かったのね。それお酒よ、って声をかけようとした時にはもうコテン、と寝ちゃってたからベッドに寝かせたの。」

「そ、それは大変なご迷惑を……。」

 笑いながら告げられた言葉に、思わず顔が赤くなるのを感じる。

 これで頭痛と眩暈(めまい)の原因が分かった。明確な二日酔いである。

 それにしても、いくら何でも酒とジュースを取り違えるとは、帰れる目途(めど)が立ったことで気が緩んでいたのだろうか…。

「気分はどう?頭は痛くない?」

「頭痛と眩暈(めまい)が少し…。でも、大したことはありません。」

「立派な二日酔いね。ちょっと待ってて、お水持って来てあげるわ。」

 クスクスと笑いながらロビンが一旦その場を離れる。

 身動きするとガンガンとした痛みが頭を襲う為、こめかみをゆっくりと()みながら周囲に目をやる。

「うわぁ…。」

 ルフィと老人(ガープ)のやり取りを見れば、何故か説教の最中に眠ってしまったらしいルフィが老人(ガープ)にしこたま殴られているところだった。

「そもそも“赤髪”って男がどれ程の海賊なのか解っとるのか!?お前は!!」

「………!?シャンクス!?シャンクスたちは元気なのか!?どこにいるんだ!?」

「あれ、“赤髪”って確か“四皇(よんこう)”の1人じゃ………?」

 ルフィの麦わら帽子が“預かり物”ということは覚えていたが、まさか相手が“四皇(よんこう)”だったとは覚えていなかった。

 “赤髪のシャンクス”と言えば、“新世界”に君臨(くんりん)する4人の大海賊のうちの1人。まさか、ルフィとその大海賊に繋がりがあったとは……。

 いやまぁ、仮にも主人公なのだからそんな過去があってもおかしくは無いのだが。

 ジャスミンがそんなことをつらつらと考えている間にも、老人(ガープ)の話は進んでいく。

「この“四皇(よんこう)”を食い止める力として“海軍本部”、そして“王下七武海(おうかしちぶかい)”が並ぶ!!この“三大勢力”がバランスを失うと世界の平穏(へいおん)は崩れるという程の巨大な力…。」

「良く分かんねェけど、元気なら良いや。(なつ)かしいな――――――…。」

「か、軽い……。」

 ルフィの大雑把(おおざっぱ)さにジャスミンが思わず呟く。

 何だろう、この軽さは。何だか、(すご)く身近なところでこういう人を1人知っている。

(悟空さんにそっくり…。ジャンプの主人公ってみんなこうなの?)

 血の繋がりは一切無い(はず)なのだが。

「まさか、ルフィの麦わら帽子があの“赤髪”から預かっているものとは知らなかったわ。」

 いつの間にか戻ってきていたロビンが呟く。

「その(すご)さを全く理解していない辺りがルフィくん、って感じですけどね…。」

 差し出されたミネラルウォーターのボトルを、礼を言って受け取りながらジャスミンも同意した。

 1口、2口と水で(のど)(うるお)していくうちに、自覚は無いまでもかなり(のど)が乾いていたことを知る。気が付けばボトルの半分をゴクゴクと一気に飲んでしまっていた。

「ぷはっ…!」

「少しは気分が良くなったかしら?」

 息継(いきつ)ぎの為、ボトルから一旦口を離したのを、見計(みはか)らいロビンがジャスミンへと声をかける。

「お陰様(かげさま)で、大分良くなりました。」

 どうやら二日酔いだけでなく、軽い脱水症状も起こしていたようだ。水を補給したことで、身動きする度に襲っていた頭痛と眩暈(めまい)も大分マシになってきた。

「それは良かったわ。」

 クスクスと笑うロビンに軽く頷き、残りの水を(あお)った。

 わーわー…!

 ガキィ…ン!!!

 キィ…ン!!

「ん?」

「?なにかしら?」

 壁から開いた穴から、外の騒ぎが伝わってくる。

「ロロノアさんが外で暴れてるみたいですね。」

「ゾロが?」

「はい。まぁ、ロロノアさんを何とか出来るような実力者はいないみたいですし、ルフィくんのお祖父さんもこの場で捕まえようとしている訳じゃないみたいなので、私もちょっと私用(しよう)で出かけて来ますね。」

 水を飲み干し、今度こそ立ち上がる。

「早めに戻って来た方が良いわよ。今日はバーベキューですって。もちろん、あなたの分もあるわ。」

「それは楽しみです。」

 悪戯(いたずら)っぽく笑ったロビンに微笑(ほほえ)み返し、ルフィやゾロが暴れているのを尻目(しりめ)に海賊ルームを後にした。

 

 ━造船島・1番ドック入口━

 仮設本社の周囲には海兵が隙間(すきま)無く囲っていたが(まるで砂糖(さとう)(たか)(あり)のようだった)、まだ正式に手配されていないジャスミンは、多少の視線を集めながらも基本的にスルーされた為、何の障害も無く出てくることが出来た。

「さて、と…。わざわざ差し向けられた追手がルフィくんのお祖父さん、ってことはあの時の“約束”を守っていただいた、と思って良いんですよね?」

 辺りにいるのは海兵たちのみ。少し前までドック入口前を固めていた島民たちは、海兵たちによって家へと帰されたようだ。

 そんな中、突然“誰か”に向かって喋り出したジャスミンに、周囲の海兵たちが何事かと視線を向けるが、すぐに驚愕に目を見開く事となった。

「ああ。男が1度口にした事だ。センゴクさん、元帥には上手く言っといたよ。まぁ、ガープ中将が来たのは別におれが何かした訳じゃなくて、あの爺さんが勝手に来たんだけどな。」

 カツリ、と革靴を鳴らして現れた男に、周囲にいた海兵たちが(どよめ)く。

「た、大将・青雉(あおキジ)!?」

「何故ここに??!」

 周囲の激しい動揺を全く()(かい)する事無くジャスミンに歩み寄った青雉(クザン)に、ジャスミンもまた向き直る。

「ところで、何故わざわざ大将さんがここに?」

「“麦わらの一味”のニコ・ロビンとは多少の因縁(いんねん)があってな…。ちょっと直接確かめたいことがあったのよ。」

「…この場でどうこうしよう、って訳でも無いみたいですね。」

「ああ。この島で仕掛ける気はねェよ。おれが暴れちゃ、他の島民に迷惑がかかる…。“約束”通り、この島の奴らにゃ手を出さん。」

 ダルそうに頭を()きながら断言した青雉(クザン)微笑(ほほえ)む。

「それを聞いて安心しました。」

「良く言う…。“島民に手を出すな”ってのは、最初からそれも狙っていたんだろ?」

「さぁ?どうでしょう?」

 呆れたような青雉(クザン)に、ふふっ、と笑いながら返す。

「それじゃ、今度こそ2度と会わないことを願ってます。」

「ああ。お互いの為に、な……。」

 (きびす)を返し、その場を離れようとしたジャスミンの背中に、思い出したような青雉(クザン)の声がかかる。

「!ああ、そうそう…。明日の新聞には今回の一件が()(はず)だ。手配書を、楽しみにしてると良い。」

 

 どこか楽し気にも聞こえる声で告げられた言葉の本当の意味を、ジャスミンが悟ったのはその更に翌日のこと。

 夜通し行われたバーベキューパーティーを存分に楽しんだ翌朝のことだった。

「あの言葉はこういう意味か……。」

 予想はしていたが、予想以上の額に呆れた声を()らした。

DEAD(デッド) OR(オア) ALIVE(アライブ)・“中将(ごろ)し”ジャスミン。懸賞金(けんしょうきん)3億8,000万B(ベリー)

「“中将(ごろ)し”って…。殺して無いってのに……。」

 初頭手配で億超え、しかも3億を超えたとなると異例中の異例と言える。

 新聞によると、“麦わらの一味”では無いが一味の共犯者であり、“バスターコール”の艦隊をほぼ1人で壊滅させ、5人の中将と100人の精鋭を相手取った、とある。

 (おおむ)ね間違ってはいないが、新聞ではジャスミンをかなり好戦的な危険人物として扱っており、詳細(しょうさい)は不明だが“悪魔の実の能力者”として紹介していた。

 「まぁ、そこらへんは勘違いされても仕方無いけど……。それにしても、我ながら悪そうな顔で写ってるなぁ……。」

 一体いつの間に撮られていたのか、挑発的な笑みを浮かべるジャスミンの顔が真正面から写されていた。恐らく青雉(クザン)と交渉している時に撮られたと思われるが、かなりの遠距離で撮られたのだろう。全く気付かなかった。

「ま、良いか。」

 青雉(クザン)は言葉通りにきちんと“約束”を守ってくれたようで、パウリーたちガレーラカンパニーの人間やフランキー一家の事は一切書かれていなかった。

 それが分かった以上、これ以上ウォーターセブンに留まる理由は無い。

 

 それから1時間と経たずに、ジャスミンはココロに言伝(ことづて)を頼んでウォーターセブンを後にした。最後のドラゴンボールを見付けたら、帰る前にルフィたちに挨拶(あいさつ)すれば良い。

 そう考えての行動だったが、再会の時はジャスミンが考えていたよりもずっと早く訪れる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第36話 ジャスミン敗れる!!戦慄のスリラーバーク

お待たせしました!第36話更新です!
お気に入り登録1700人越え、感想もありがとうございます!

今回、ジャスミンがかなり追い詰められます。
これまで予告していたとおり、某幽霊娘の能力はかなり相性が悪いようです。

追記:あまりにもあっさりゴーストの一撃を食らったことに違和感を覚えられた方が多数いらっしゃいましたので、多少手直しをさせていただきました。
今後の展開上必要だったので、どうかご容赦ください。


 ギュオオォオオオ……!

「霧が濃くなってきたな……。レーダーによるとこの辺の(はず)なんだけど……。」

 舞空術(ぶくうじゅつ)で上空300m程の高さを滑空(かっくう)しながらドラゴンレーダーを確認する。

 ピッピッピッピッ……!

 レーダーによると後1kmも無いが、霧が深過ぎて島影のようなものは一切確認出来ない。

「やっぱり、また海底かな……?」

 半年以上もレーダーに映らなかったのだから、やはり海王類か何かが飲み込んでいて今になって排泄(はいせつ)された可能性が高い。

 いっそ、海面近くまで下りて潜水飛行艇のカプセルを出そうか、と高度を下げていた矢先だった。

「!?島……?!」

 ()()は、深い霧の中から唐突(とうとつ)に現れた。

 島の中央に城のように巨大な屋敷が見えるが、塀は崩れ外壁もどこか薄汚れた印象を与えており、まるで廃墟(はいきょ)のようだった。

 その島を囲むように海に外壁がぐるりと一周しているのかと思ったが、よく見ると屋敷の更に奥に巨大な塔があり、そこに髑髏(どくろ)(かか)げた()があった。

「いや、島じゃない…。船?!」

 おまけに、あの海賊旗のマークはどこかで見た覚えがある。既にうろ覚えとなっている原作知識ではなく、こちらの世界に来てからの記憶の(はず)だ。一時期賞金稼ぎのようなことをしていたこともあり、変に大物の海賊団に手を出して目立たたないように、目ぼしい海賊団のマークはある程度頭に入れていた。その中に確かあった(はず)なのだが…。

「誰のマークだっけ…?!それに、このシチュエーション確か漫画で見たんだけど……!」

 必死に記憶を探るが、全く出て来ない。

 良い予感は全くしないが、確かにドラゴンボールの反応はこの船、しかも位置的に屋敷のど真ん中にある。

「い、嫌な予感しかしない……。」

 思わず顔を引き()らせながら、島のようになっている土地部分に降りるべく更に高度を下げる。すると、(とりで)の一部が門となっており、見るとアーチ部分に『THRILLER BARK』と刻まれているのが分かった。

「“スリラーバーク”…?ちょっと待ってよ…。(すご)い聞き覚えある……。」

 改めて記憶を高速で(さら)っていくうちに、不意に引っかかるものがあった。

「お…、思い出した……。」

 ゾンビだ。確か七武海(しちぶかい)の影を操る能力者のせいで、ルフィの影が巨人のゾンビに入れられて大変なことになる(はず)だ。

 原作で他にどんなキャラクターが出ていたか、というのは全く覚えていない上、その七武海(しちぶかい)が誰だったのかすらも覚えていないが、影を操る、ということは恐らくはゲッコー・モリアで間違い無いだろう。

「話し合いに応じてくれるような相手だと良いんだけどなぁ……。」

 たぶん無理だろうな、と思いつつも一縷(いちる)の望みを残して“スリラーバーク”へと足を踏み入れる。

 出来るだけ相手を刺激しないように、舞空術(ぶくうじゅつ)ではなく徒歩(とほ)で屋敷を目指す。

 ――――――それが、ジャスミンのその後の命運(めいうん)を左右することとなった。

 

 門を(くぐ)るとすぐ左手に現れたのは長い下り階段である。

「それにしても暗いな…。霧のせいか…。」

 周囲は薄暗く、まだ午前中にも関わらず夕方のようだった。

 この海域一帯を取り囲んでいる濃霧のせいで、日光が(さえぎ)られているのだろう。階段を下りるにつれて(わず)かに届いていた光も及ばなくなったのだろう、それが顕著(けんちょ)となった。既に自身の手を見る事すら叶わない。

流石(さすが)にこのまま進むのは無理か…。」

 一旦足を止め、ウェストポーチを探る。

「あれ?確かこの辺に……。あ、あった。」

 見えない為、完全に手探りで時間がかかったが、お目当てのペンライトを探し出す。

 カチッ!

 パァッ……!

 スイッチを入れ、ペンライトの光が前方を照らし出した瞬間、ジャスミンが息を()む。

「骨!?」

 階段を下りきるまで後3m程。その先には(ほり)となっていたが、その(ほり)の中にはびっしりと敷き詰めるように人骨(じんこつ)が落ちていたのだ。いや、捨てられていたと言った方が良いだろうか。

 (ほり)の上から投げ込まれた死体がそのまま()ちていった――――――…。

 思わず(ほり)の上を見上げながらそんな想像をしてしまい、背筋が寒くなる。

 恐る恐る残りの階段を下り、ペンライトで人骨(じんこつ)を照らす。

 近付くと、(かす)かに鼻を刺激する悪臭(あくしゅう)(ただよ)う。

「っ……!この死臭(ししゅう)、本物………?!」

 バッと鼻ごと口元を(おお)い、込み上げてくる()()を我慢する。

 これだけの数の人骨(じんこつ)、100人や200人では到底(とうてい)足りない。

 少なくとも数千、いやもしかしたら万…。そのおぞましさに震えが止まらない。

 とてもこの人骨(じんこつ)を踏み越えて行く気にはなれない。

 何とか震えを抑え、舞空術(ぶくうじゅつ)で1m程浮き上がる。

「行くしかない、か……。」

 先へ進もうとした矢先、

「グルルルル…!」

 パキパキ…!バキキ……!!

 (けもの)(うな)り声と共に、何かが砕けるような音が(ほり)に響く。

「!あれは…!」

 ペンライトで照らし出されたのは、()()ぎだらけの体の(とら)。その体からは腐臭(ふしゅう)(ただよ)い、全く生気を感じない。

「ゾンビか…!」

 多分、記憶が正しければこの(とら)のゾンビにも誰かの影が入れられている(はず)だが、“気”は全く感じない。影は本体ではないから“気”が無いのだろう。入れられているゾンビの方も、死体だから“気”がある(はず)も無い。

『ガルルル……!』

「こんな姿にされてまで……。かわいそうに…。」

 本来、土に(かえ)(はず)の体を無理やり酷使(こくし)されるとは。

『ガルルァ!!!』

「っと!」

 バキィッ!

 襲い掛かってきたゾンビを()け、上空へ逃れる。

「もう眠れ…!」

 額の前で両手の手のひらを重ね、構える。

魔閃光(ませんこう)――――――――――!!!」

 ズオ!!

 叫びと同時に突き出された手から、閃光(せんこう)状の気功波(きこうは)が放たれる。

 ドォン!

『ギャウ…!』

 ボオォ!!

 魔閃光(ませんこう)が当たった瞬間、(とら)のゾンビは燃え上がる。

『ギャウゥウウ……!』

 バキバキベキ…!!

 ズ…ズズ……!

 燃えながらゾンビが(もだ)えるが、徐々にその動きが(にぶ)くなり始めた。ゾンビの体が炭化(たんか)していき、その体から少しずつ黒いものが抜け始める。

「ガアァア!!」

 ズズズズズズッ!!!

 そして、(つい)断末魔(だんまつま)雄叫(おたけ)びと共に、ゾンビから影が抜け出し、その体が完全に燃え尽きる。

 ヒュ―――――…ン!!

「影が飛んでいく…!持ち主のところに帰るのか…。」

 抜け出た影がどこかへ飛び立つのを見送り、燃え尽きたゾンビの成れの果てに手を合わせ、先へと進む。

 

 進んだ先にあったのは、登りの階段。それを上がった先には門があり、森へと続いていた。

 カチッ!

 ピッピッピッピッ……!

 ウェストポーチから取り出したドラゴンレーダーを確認する。

「レーダーがこっちをを示してるって事は……。やっぱりドラゴンボールはあの屋敷の中かな……。」

 ドラゴンレーダーを手に奥へと進むジャスミンだったが、不意に異様な“気”を感じ取る。

 (ひど)くぼやけていて感じ(にく)いが、全く同じ“気”が複数。それも、増えたり減ったり安定しない。

「?!何だ…?この“気”……?」

 咄嗟(とっさ)に足を止め、意識を集中させる。

 その時だった。

『ネガティブ♪ネガティブ♪』

 フィ―――――…ン

「な……!?」

 白い、幽霊(ゆうれい)だった。全く同じ姿をした幽霊が全部で5体、いつの間にか(みょう)な掛け声と共にジャスミンを取り囲んでいる。

『ネガティブ♪ネガティブ♪』

「こいつら、いつの間に……!?」

 別に、幽霊(ゆうれい)を見るのが初めてとは言わない。1~2度しか会った事は無いが、占いババ様の館で案内役の幽霊(ゆうれい)と会った事もある(まぁ、彼を普通の幽霊(ゆうれい)と一緒にして良いのかは分からないが)。

 しかし、彼とは決定的に()()が違った。全く同じ“気”が複数ある、というだけでも異様なのに、このともするとすぐに見失ってしまいそうな希薄(きはく)さは何だ。

 ()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そこまで考えてハッとする。

「あなたたち、能力者……!?」

 だが、それは致命的(ちめいてき)(すき)となってしまった。

『ネガティブ♪ネガティブ♪』

『ホロロロロロ…』

 スィ――――…

「!」

 幽霊(ゆうれい)が向かって来るのを1度は(かわ)したジャスミンだったが、風船のようなふわふわとした動きを(とら)え切れない。“気”で探ろうにも、これだけ希薄(きはく)だと咄嗟(とっさ)の判断が難しい。

『ホロホロホロホロ…!』

「う………!?」

 (つい)にその幽霊(ゆうれい)のうちの1体が、笑いながらジャスミンの体を通り抜けた瞬間、目の前が真っ暗になったのかと錯覚(さっかく)する程の絶望が()き上がる。

 とても立っていられずに、思わずその場に膝を付いた。

「う…、あぁあ……!」

 もう2度と地球に帰れないのではないか、父にもう会えないのでは、そんな心の奥底にあった不安が(またた)く間に増殖する。

 言いようの無い不安感がジャスミンを襲い、涙が(あふ)れた。

「お父さん……!いやあぁああぁあ………!!!」

『ホロホロホロ…!』

 スィ――――…

 精神の均衡(きんこう)(たも)つのに精一杯で、新たな攻撃に気付かなかったジャスミンの体を、再び幽霊(ゆうれい)が通り過ぎる。

「あぁぁ………。」

 度重なる精神的衝撃と負荷(ふか)に、脳のキャパシティーを超えたのか意識が遠のくのが分かった。

 しかし、既に自分ではそれを繋ぎ留める事は出来ず、ジャスミンの体が(かし)いでいくと同時に、意識がゆっくりと沈んでいく。

 ドサッ……!

『ホロロロロロ…』

『ネガティブ♪ネガティブ♪』

 ―――――(つい)に倒れ込んだジャスミンの周りを、幽霊(ゆうれい)たちが(おど)るように(ただよ)いながら取り囲んでいた。

 

 ━ジャスミンが“スリラーバーク”に足を踏み入れた2日後━

『急げ!!急げ!!始まるぞ!!始まるぞ!!』

『“夜討(よう)ち”の時間だ!!』

『午前0時を回る!!』

 ドタドタバタバタと屋敷を駆け回るのは、珍妙(ちんみょう)な姿をした3体の生ける(しかばね)たち。()()ぎだらけのその姿は、(ひど)くおぞましい。

『ご主人様―――――!!』

『モリア様―――――!!』

起床(きしょう)の時間です!!!』

 バン!!

 3体のゾンビたちが開け放った(とびら)の中には、部屋いっぱいの巨大な寝台(ベッド)とその周囲に並べられたガラクタたち……。

 そして、

「ぐおおぉおお……。」

 寝台(ベッド)高鼾(たかいびき)で眠る、巨人とも見紛(みまご)う大男…。世界政府公認の海賊“王下七武海(おうかしちぶかい)”の1人‐ゲッコー・モリア。

「ぐお―――――…。ごが―――――…。」

『そいやっ!!』

 ヒュッ!

 パァン!!

 ゾンビの1体が放った矢が、モリアの鼻提灯(はなちょうちん)割る。

「ふごっ!!?ご…!!ん??………ああ…。」

 その衝撃でモリアの目が覚めた。

『ご主人様―――!!』

「あ―――――――。悪ィ夢を見た。」

『サイコーですねご主人様っ!!』

 ゾンビの呼びかけで完全にモリアの意識が覚醒(かくせい)する。

『前回の“夜討(よう)ち”から約4日経っておりまして、その間モリア様はずっと寝ておられましたので、4日分のお食事は用意済みです!!』

『今回の獲物(えもの)は骨がありますよ!!先日エニエス・ロビーを落とし、話題沸騰(ふっとう)中の一味です!!必ずやモリア様のお役に立つでしょう!!!』

『ご主人様がずっとお待ちになっていた、ジャスミンとかいう娘も2日前にここに!!』

「何?!ジャスミンがここに来たのか!?」

 ガバッ!

 1人のゾンビの言葉に、モリアが勢い良く身を起こす。

『はい!ペローナ様が捕え、ご主人様がずっとお求めになっていた宝の在処(ありか)を吐かせる為に拷問(ごうもん)にかけておりますが、なかなか口を割らず…。』

「キシシシシシッ!!そうか、ペローナがやったか……!!良くやった!!!そいつの所へ案内しろ!!メシはその後だ!!」

 立ち上がったモリアの目は爛々(らんらん)とした光を宿していた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足:ホロホロの実は原作では“人をネガティブにさせる”、という能力で出てきますが、今回は「鋼のような精神力のルフィやゾロがネガティブになるなら、障子紙のような破れやすい精神力のジャスミンならどうなるんだろうか」「アレ、SAN値ピンチ…?」という発想で思い付いた展開な為、作者独自の解釈が多分に含まれております。
二次創作、ということで何とぞご了承ください。

・魔閃光…悟飯がピッコロから教わったらしい技。かめはめ波より早く撃てる分威力は低め。原作では1度きりしか使われていないが、アニメでは度々使われている。ジャスミンは悟飯から教わった。本編に出てくるかどうかは分からないが、まだ前世の記憶が戻る前にかめはめ波が使えなくてベソをかいていた時に見かねた悟飯が教えてくれた、という裏設定がある(時間軸的には、魔人ブウ編の少し前あたり)。
・占いババ…亀仙人の実の姉で、彼より200歳以上年上。必ず当たる凄腕の占い師だが、金にがめつく法外な報酬を要求する。あの世とこの世を行き来出来る力を持ち、死者を24時間だけ呼び戻すなど不思議な力を持つ。地球人が全滅したことがあるドラゴンボール世界において1度も死んだことが無い、という偉業の持ち主。
・案内役の幽霊…占いババの部下。占いババの宮殿で客の案内役をしており、とぼけたような顔をしている。




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第37話 ゲッコー・モリア登場!奪われたドラゴンボール

お待たせしました!第37話更新です!
お気に入り登録1800人越え、評価もありがとうございます!

さて、今回の副題は“ジャスミンSAN値ピンチ”です。
今回も、話の展開上主人公が追い詰められてますが、どうかご了承ください。
彼女の受難はまだ続きます…。


 ━“マストの屋敷”内、ゲッコー・モリアのダンスホール━

 ジャスミンは鎖で拘束され、尋問(じんもん)されていた。

「とっとと吐けっ!!」

 ドゴッ!

「グッ……!ゲホッ!ゲホッ………!!」

 黒スーツの男の放った蹴りが、拘束されたまま転がされたジャスミンの鳩尾(みぞおち)へと食い込む。

何故(なぜ)、ドラゴンボールが使えない!?」

「…しらないっていってるだろ……!!」

 ジャスミンを尋問(じんもん)しているのは、地球でジャスミンからドラゴンボールを奪おうとした、恐らくマフィアの男。

 半年前と比べて見る影も無く(やつ)れ、目だけがギラギラとした光を宿していた。

 この2日間の男の言動から推察するに、この男はどうやら命と引き換えにモリアに従っているらしい。

 そして、モリアがジャスミン(自分)の存在に気付く前にドラゴンボールを横取りしようとしたようだ。

 だが、男にとっては不運な、ジャスミンにとっては幸運なことに男はドラゴンボールの使い方を知らなかった。神龍(シェンロン)の存在を知らなかったのだ。当然、()び出す為の呪文も知らず、男がドラゴンボールを使うことは出来なかった。

 2日に及ぶ暴行により、ジャスミンの顔も()れ上がり、全身(あざ)だらけだった。体中に走る激しい痛みは、どこかの骨に(ひび)でも入ったのかもしれない。頭からは血が流れ、呼吸には喘鳴(ぜんめい)が混ざり、既に息も()()えだった。

 何より、一睡(いっすい)も許されずに暴行を受け続け、気絶しても水を張ったバケツに顔を沈められ強制的に目覚めさせられていた為、体力も限界を()うに超えている。

 痛みと疲労で飛びそうな意識を、気力のみで何とか保っている状態だったが、悪人にドラゴンボールを使わせる訳にはいかない、という決意のみで口を(つぐ)んでいるのだ。

 更に、暴力だけでなくあの幽霊(ゆうれい)による精神攻撃を受け続けた為、精神的にももうギリギリの状態だったが、もう少し耐えたらきっとルフィたちがここに来る、そのわずかな原作知識だけを支えに自分を保っていたのだ。

 そして、つい2~3時間前にジャスミンは途切れそうになる意識を()たせながら、“麦わらの一味”たちの“気”を感じ取っていた。

 後少し耐えれば、ルフィが親玉(モリア)を打ち倒してくれる。あるいは、彼らが暴れてくれれば逃げる為の(すき)が生まれるかもしれない。

 そんな希望を胸に抱き、激しい暴力を(ともな)った尋問(じんもん)にひたすら耐えていたジャスミンだったが、それを打ち砕くかのように響く声があった。

「キシシシシシッ!!」

「っひ……!」

 ()()が部屋に響いた途端(とたん)、感情のままにジャスミンを(なぶ)っていた男が引き()った声を上げる。

 そして、ズンズンと部屋全体に響くような重たげな足音を立ててホールに入ってきた大男を見て、男があからさまに怯え出した。

「モ、モリア様……!!」

 そしてジャスミンもまた、朦朧(もうろう)とする意識の中、わずかに瞠目(どうもく)する。

(コイツがゲッコー・モリア………?)

 デカい。それが最初の印象だった。

 巨人と見紛(みまご)う程の巨体は、7~8mはあるだろうか。(とが)った耳に額から伸びた角、何よりも額と喉元(のどもと)に走る()()ぎのような()い傷は、人間というよりも悪魔を思わせる。また、そのゴシック調の服装がその印象に拍車をかけていた。

 海賊というよりも、お化け屋敷のキャストと言われた方がしっくりくる。

「キシシシシシッ!ドラゴンボールが全て集まったらしいな。」

 変に甲高(かんだか)い声で笑いながら告げたモリアの言葉に、黒スーツの男の顔色は一層悪くなる。

「は、はい!!こちらにご用意してございます!」

「キーシッシッシッシッシッ!!!やっとか!!(つい)におれが海賊王になる時がやってきた!!」

 (かたわ)らに置かれていたアタッシュケースを開き、平伏(へいふく)しながら告げる男の言葉に、モリアの笑い声が高らかに響き渡った。

「今までご苦労だったな…。お前のお(かげ)でおれの夢が叶う……!褒美(ほうび)をやろうじゃねェか。」

「も、勿体無(もったいな)いお言葉…!」

(まさか……!)

 モリアの言葉に不穏(ふおん)な気配を感じ取り、何とか身を起こそうとするが、鎖に拘束された上に既に体力・気力共に限界を迎えようとしている体ではそれも叶わない。

「遠慮はいらねェさ…。受け取れ……!」

「やめっ…………!!」

 ドシュッ!!!

 殺気を込めたモリアの言葉に、ジャスミンが制止するより早く、モリアがその腕を標的(黒スーツの男)目がけて()ぎ払う。

「ぁ……?」

 何が起こったのか分からない、そんな顔をして()()()()()()()()()()()()

 ブシャァアアアアアッ………!!!

(あかい、あめ………。)

 部屋に赤い、(あか)い“雨”が降る。

 ズシャッ…!

 数拍の間を置いて男の体が床に倒れ込んだ。

「あ、あぁああ……………!」

 男の血飛沫(ちしぶき)を浴びながら、ジャスミンが(あえ)ぐような声を()らす。

「キーシッシッシッシッシッシッシッ!!!()()()()()()してやったんだ!お前が最も欲しがっていたモンだろう?!」

「な、何て事を……。」

 例え相手が悪人とは言え、何も出来ず、目の前で殺させてしまった事に、ジャスミンに無力感がのしかかった。

「さて…。ドラゴンボールが全ておれの手に入った以上、もうお前にも用はねェが…。一応、お前も億超えの賞金首だ。その影ももらっておくとしようか。」

「ぐっ……!」

 言葉と同時に、その巨大な手でモリアがジャスミンの頭を鷲掴(わしづか)み、彼女を持ち上げる。

 全体重が首にかかり、ジャスミンが苦痛で微かに(うめ)いた。

 ベリベリベリ…!

 ジャキン!!

「!?」

 何かを無理矢理()がすような音の直後に、(はさみ)の音が響いたと思った途端(とたん)、ジャスミンの意識が途切れる。

 

 ━“サウザンドサニー号”医療室━

「………アアにィ…イ!!!?……ノーレー!!」

 ふっ、と意識が浮上するのを感じる。まず復活したのは聴覚。

(さんじさんのこえ……?おこってる…………?)

「…れ以上刺激…やるな…。何かに…しそう…。」

(ぞろさんも、いる……。)

 次第に、徐々に感覚が戻り、近くにナミ以外の“麦わらの一味”がいることに気が付いた。

 ただ、1人を(のぞ)いて多少距離があるようで、何を話しているのかははっきりと聞き取れない。

 (うっす)らと目を開くと、微かに視界の端でちらつく小さな影が見える。

(この“気”は…。)

「ちょっぱーくん…?」

 まだ頭がはっきりとしていない為か、変に舌足(したた)らずになってしまったが、その声は届いたようだ。

「ジャスミン!目が覚めたのか!?」

「ここは…?っ…!!?」

 周囲を確認しようと首をわずかに動かした途端(とたん)、全身に痛みが走る。

「まだ動いちゃダメだ!!治療はまだ途中だからな。アバラが3本も折れていたんだぞ?鎖骨(さこつ)と左腕にも(ひび)が入ってたし、脱水症状を起こしてたせいで体力の消耗(しょうもう)も激しいんだ。安心しろ。ここは“サウザンドサニー号”。おれたちの船の医療室だよ。」

 チョッパーがジャスミンを安心させるように語りかかる。

 その言葉に、身動(みじろ)ぎする(たび)(おそ)う痛みに、思わず顔を(ゆが)めつつ、ジャスミンは自身の状況を確認した。

 ジャスミンが寝かされているのは、どうやら医療室のベッドのようで、右腕には点滴(てんてき)が刺さっている。アバラと鎖骨(さこつ)はコルセットで、左腕もまたギプスでガッチリ固定されていた。また、徐々に意識がはっきりして気が付いたが、額から右目にかけても包帯が巻かれ、視界が半分(さえぎ)られている。その他にも体中包帯だらけで、チョッパーが巻いてくれているところだった。

 そこまで認識して、はたと気付く。包帯が見える、ということは…

「私の服…?」

 辛うじて下着は付けているが、それ以外は包帯とコルセットで隠れているものの人前に出られる姿ではなかった。

 チョッパーは厳密には人間ではないし、治療目的だと分かっているので別に脱がされていたことに抵抗がある訳では無いが、もし治療の際に(はさみ)か何かで切られていたのだとしたら、着替えが全く無いのだ。

 何しろ、所持していたカプセルは全てウェストポーチごと奪われてしまったのだから。

 ジャスミンの問いかけに、チョッパーが申し訳無さそうな顔をしたのが見える。

「ゴメン…。ジャスミンの服は、その、血だらけでとても着れる状態じゃなかったから、悪いとは思ったんだけど…。」

「あ―――…、やっぱり…。」

 薄々(うすうす)察してはいたが、やはり捨てられていたか、とジャスミンが溜め息を()く。

 そして、その原因を思い出し悲痛な面持(おもも)ちとなる。

「っ……!」

 込み上げてくる涙を(こら)え、(くちびる)()()めるジャスミンを、チョッパーが不安気な顔で見詰めた。

「ジャスミン…?何があったんだ…?」

「…目の前で、人が殺されました。……助けられなかった…………!!」

 チョッパーの柔らかな声に、これまで必死で抑えていたものが涙と共に(せき)を切って(あふ)れ出す。

「お前の体中に鎖の(あと)が付いてた。縛られてたんだろ?それにこの怪我じゃ、無理もねェよ…。お前のせいじゃない。」

「でも…!」

 嗚咽(おえつ)()らしながら泣きじゃくるジャスミンを落ち着かせようと、チョッパーが手を握りながらゆっくりと言い聞かせるように語りかける。

「とにかく、今はゆっくり体を休めるんだ。もう少し眠ると良いよ。」

 点滴(てんてき)睡眠(すいみん)導入剤(どうにゅうざい)を注射し、チョッパーがジャスミンに毛布をかけ、(かたわ)らの椅子(いす)に腰を下ろした。

 それを涙で(にじ)む視界で(とら)えながら、ジャスミンは徐々に眠気に(おそ)われ始める。意識を何とか保とうとするものの、疲弊(ひへい)し切った彼女に、そんな余力は残されてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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閑話3 希望か、それとも絶望か…。目覚めたゾンビは敵?味方?

お待たせしました!
今回は閑話となります。
ジャスミンの影を入れられたゾンビについて、みなさま考察されているようですが、詳細は本編で……。
ちょっと日曜日から仕事が立て込んでまして、次回更新はちょっと遅れるかもしれません。
どうか気長にお待ちください。

追伸、お気に入り登録&評価、ありがとうございます!

※脱字訂正しました。


 時はわずかに(さかのぼ)る…。

 ゲッコー・モリアに影を奪われたジャスミンは、動物(ワイルド)ゾンビのうちの1体、丸っこい体つきのパンダのようなゾンビに(たわら)(かつ)ぎにされ運ばれていた。最初にジャスミンが降り立った門、そこにゾンビはやってきたのだが、それには理由がある。

 今までに影を奪われた犠牲者たちと同じく、ジャスミン(本体)の目が覚めないうちに島の外に出す必要があったからだ。その為に、海へ流すべく船があるだろう入口へとやってきたのだが…。

『おかしいな、船がねェ…。』

 パンダもどきゾンビが首を、いや丸っこい体付きで首が無いので体を(かし)げる。

 本来影を奪われた人間を海に流す際には、その人間が乗ってきた船に乗せてそのまま海へと流すのだが、その船が無く戸惑(とまど)っているようだ。

 それも当然だった。そもそも、ジャスミンが“スリラーバーク”に来た際には舞空術(ぶくうじゅつ)による単体飛行だったのだから。元々、ジャスミンはこの世界において一般的な交通手段である船を所持してはいない。まあ、例え唯一持っている潜水飛行艇を使っていたとしても、停泊(ていはく)してはいなかっただろうが。ホイポイカプセルに慣れている地球の現代っ子にとって、わざわざ適当な場所を見付けて停泊(ていはく)する、という意識は最初から無い。使わない時はカプセルに戻せば良いのだから。

 しかし、そんな事をホイポイカプセルの存在自体を知らないゾンビが知っている(はず)も無い。

(まい)ったな…。このまま海に落としたら死んじまうし、そんな事したらご主人様がお怒りになるだろうし…。』

 本体が死んでしまっては、せっかく奪った影も消えてしまう。

 ジャスミンを(かつ)いだまま、パンダもどきゾンビが(しば)思案(しあん)する。

 そして、顔を上げてふと目に入った船があった。“麦わらの一味”の船、“サウザンドサニー号”である。

『まあ、あそこでも良いか。』

 そして、(かつ)いでいたジャスミンを思い切り振りかぶる。

『よいせっ!!!』

 ヒュンッ!

 ドサッ……!!!

 投げ付けられたジャスミンは、サニー号の甲板(かんぱん)に叩き付けられる。しかし、その衝撃でも目覚める事無く、昏々(こんこん)と眠り続けていた。

 そして、それから数10分後、ジャスミンは一旦サニー号に戻ってきたチョッパーたちに発見される事となる。

 

 ━━━━その、ほぼ同時刻。

 ゲッコー・モリアが、ジャスミンの影を()()ぎだらけのウサギの死体‐“没人形(マリオ)”に入れる。

 そして、ジャスミンの影を入れられたウサギの“没人形(マリオ)”が動物(ワイルド)ゾンビとして目覚めた。

 この時、モリアがたった1つ犯した、しかし致命的(ちめいてき)失敗(ミス)があった。モリアは新聞の記事を鵜吞(うの)みにし、ジャスミンの事を悪魔の実の能力者と思い込んでいたのである。悪魔の実の力はあくまでも本体に宿るものであり、影には宿らない。

 そして、影単体では大した戦力にはなるまい、と考え“過去消去”の契約を結ばなかったのだ。モリアの意のままに動かすには必要不可欠な、“過去消去”の契約。これを行わない、という事はかつての人気女優‐ビクトリア・シンドリーに入れられた影と同じく、本体の性格や嗜好(しこう)の影響を強く受けることとなる。

 ゾンビである以上、モリアの能力である“影の支配”からは(のが)れられず、モリアに服従(ふくじゅう)せざるを得ない。

 しかし、“過去消去”の契約が結ばれていない以上、主人であるモリアの“命令”が無い限り、ジャスミンの影を入れられたゾンビは自身の意志のままに行動する。ジャスミン(本体)の記憶は無くとも、彼女が(つちか)った倫理観(りんりかん)や正義感はそのままに。

 まして、奪われたばかりの影には本体の影響が色濃く残っている。

 ジャスミンの影を入れられたウサギのゾンビは、目覚めるなり(おのれ)の意志に従った。モリアの命令が下る前に、彼の前から逃亡を図ったのである。

 脚力の強い、ウサギの“没人形(マリオ)”に入れられた事がそれを後押しした。力強く床を踏みしめ、一瞬でその姿が()き消える。ジャスミン(本体)には(およ)ばないまでも、長年の運動不足で(おとろ)えたモリアの体では到底(とうてい)追い付けないスピードで。

 



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第38話 遭遇!もう1人の七武海

お待たせしました!第38話更新です!
今回は導入部分の為、次回バトル勃発の予定です。

ご感想、お気に入り登録、評価どうもありがとうございます!


 ━“サウザンドサニー号”医療室━

(……この“気”………?確か………。)

 医療室のベッドの中、夢現(ゆめうつつ)にジャスミンは覚えのある“気”を感じ取った。

 以前感じた時には、酷く希薄(きはく)で感じ(にく)かった()()

(間違い無い……。この“気”は…。)

「あの、ゆうれい……。」

 パチ、と目を開きジャスミンが(つぶや)く。

 まだ意識がどこかぼんやりとしているものの、深く眠れた事で体力が回復したのか、先程目が覚めた時よりも気分がスッキリとしている。更に、チョッパーが点滴(てんてき)鎮痛剤(ちんつうざい)を入れてくれていたのか、体中の痛みも大分(だいぶ)(やわ)らいでいた。確かに、痛いと言えば痛い。今は鎮痛剤(ちんつうざい)()いているだけであって、怪我そのものが完治した訳では無いのだから当然(とうぜん)だ。

 実はジャスミンはそれ程痛みへの耐性が無い。これ程にボロボロになる事などほとんど経験が無かったし、時折修行中に怪我をしたとしてもある程度酷いものだったなら、すぐに神殿(しんでん)を訪ねてデンデに治してもらっていたからだ(例えジャスミンが自ら行かなくても、意外と過保護な父によって連れて行かれる事も多かった)。

 しかし、今は呑気(のんき)に寝ている場合では無い。

「っつ………!」

 ゆっくりと身を起こし、右手を何度か開閉させて自身の体調を確かめる。

「これ位なら、いける。」

 だが、ジャスミンとて伊達(だて)に鍛えている訳では無い。体力・気力共に万全(ばんぜん)の状態だったなら、例え常人(じょうじん)なら絶対安静の重傷だとしても、戦えるだけの打たれ強さは備わっている。

 それよりも気になるのは、あの幽霊(ゆうれい)と同じ“気”を持つ誰か‐恐らくはあの幽霊(ゆうれい)を操っていた能力者本人が、この近くをうろついている事だ。

この船(サニー号)の中にいる…。」

 いくら睡眠(すいみん)導入剤(どうにゅうざい)投与(とうよ)されていたとしても、ここまでの接近をみすみす許すとは我ながら情けない失態(しったい)を犯したものである。

 内心で自身に舌打ちながら、周囲を見回す。体力・気力共に戦える程度には回復したが、生憎(あいにく)服が無い。

 その原因を思い出し、再び気分が沈みそうになったものの、今はそれどころでは無い、と自らを(りっ)する。

「ん?」

 ベッド(わき)の回転椅子の上に、何か布とメモが置かれているのに気付く。

「私(あて)?」

 チョッパーからジャスミンに()てた手紙だった。

[ジャスミンへ。体の具合はどうだ?おれたちは、今から(さら)われたナミとルフィたちの影を取り戻してくる。夜明けまでには戻るつもりだ。もし、それまでにお前が起きた時の為に一応メモと、服を置いておく。だけどお前はまだ絶対安静だからな!絶対にフラフラ出歩かないように。トニートニー・チョッパー]

 メモが乗っていた布を広げる。見れば、甚平(じんべい)型の病衣(びょうい)だった。良く病院で入院患者(かんじゃ)が着ているアレだ。

「助かる…!ありがとう、チョッパーくん…!!」

 この際、着られれば何でも良い。ベッドから下り、病衣(びょうい)(まと)う。スニーカーはどうやら処分する程酷く汚れた訳では無かったようで、ベッドの下に(そろ)えてあったのが幸いした。

 スニーカーを()き、1歩足を踏み出した直後。

「……!」

 これまでに感じたことの無い“気”の何者かが突然現れ、その直後にあの幽霊を操っていたらしい能力者が(すさ)まじい速さで“スリラーバーク”から遠ざかっていく。

「っまずいかも…!」

 何があったのかは知らないが、その何者かの近くにナミがいる。この“気”が“麦わらの一味”のもので無い以上、敵である可能性も高い。

 ナミの所へ急ぐ必要があった。

 

 ━その少し前、“スリラーバーク”内ペローナの“不思議の庭(ワンダーガーデン)”━

『出て来ォ―――――――い!!!麦わらの一味ィ―――――――――――!!!!』

 壁をぶち破って城から飛び出し、割れ(がね)のような大声で叫んだのは、およそ40mはあろうかという巨大な鬼のようなゾンビ。巨人族と比べても3倍近く大きく、牛のような巨大な角は歪曲(わいきょく)している為分かり辛いが、5~6mはあるだろうか。

 この世界(ワンピース)において、唯一“魔人(まじん)”の異名(いみょう)を持つ伝説の巨人。“国引(くにひ)き伝説”のオーズ。

 ルフィの影を入れられ、500年の時を()て再び(よみがえ)った狂戦士(きょうせんし)が、“麦わらの一味”に牙を()く。

『“ゴ―ム―ゴ―ム―の~…”』

 オーズがサンジにターゲットを(しぼ)り、オーズが右手を振り上げる。

「ルフィの技だっ!!」

「まさか伸びるのか!?」

「あいつもゴム人間になったのか!?」

 チョッパーとウソップ、ゾロがそれに注視(ちゅうし)する。

『“(かま)”!!!』

 ボゴォン!!!

「うお!!」

 ()り出されたオーズの右手が、サンジの立っていた瓦礫(がれき)(えぐ)り、寸でのところでサンジが()ける。

「の…伸びはしなかった!!…けど!」

「あんだけリーチと破壊力があったら関係ね――――――――っ!!!」

 その破壊力に、チョッパーとウソップの目は飛び出さんばかりである。

「“首肉(コリエ)フリッ…”」

『ふんっ!!!』

 ガン!!!

 サンジが反撃の為、オーズの(あご)()り上げようとするが、それをオーズが頭突(ずつ)きで迎え撃つ。

 ガァンッ!!

「うっ!」

 サンジの体は容易(たやす)()ね飛ばされ、瓦礫(がれき)に突っ込んだ。

 ドゴォンッ!!!

「ぐァ!!!」

 間髪(かんぱつ)入れずにオーズが追撃(ついげき)し、サンジが壁に叩き付けられる。

「あの巨体で何て速さ!!!」

 フランキーが思わず叫ぶが、その(かん)にもオーズがサンジに(せま)る。

 ガララ…

 壁に叩き付けられたサンジが、崩れ落ちた瓦礫(がれき)と共に落下していく。

 オーズの巨大な手がサンジを(つか)み取ろうとした、その時だった―――――――…。

 バキィッ!!

『うおっ!?』

 オーズの手を()り付け、

 ガシッ!

 落下するサンジを地面に叩き付けられる前に(かつ)ぎ、

 ダン!

 着地したのは――――、

「「「「「「「ウサギ!?」」」」」」」

 ジャスミンの影が入れられた、動物(ワイルド)ゾンビだった。

『私が相手になるよ。かかって来いよ、木偶(デク)(ぼう)…!』

『何だァ?お前…!』

 最強(ジャスミンの影)伝説(オーズの体)の戦いが始まろうとしていた。

 

 ━同じ頃、“サウザンドサニー号”━

(くさ)れ怖ェ!!!逃げろ――――――――っ!!!』

『どわあぁああぁあ!!!』

 ゾンビたちが恐れをなして逃げ出すのは、聖書を抱えた7m近い大男。

 “スリラーバーク”の(あるじ)、ゲッコー・モリアと同列(どうれつ)の男。世界政府公認の海賊“王下(おうか)七武海(しちぶかい)”の1人、“暴君(ぼうくん)”バーソロミュー・くま。

「驚いたな…。まさか、こんな短期間にもう1人“七武海(しちぶかい)”と会う事になるとは思わなかったよ。」

「!」

 バッと、くまが振り返った先に、ジャスミンが(たたず)んでいた。

「お前は…、“中将(ちゅうじょう)(ころ)し”のジャスミン……?!」

「別に1人も殺してないけど…。不本意だな、その異名(いみょう)。」

 むっすりとした顔でジャスミンが否定する。

何故(なぜ)、お前がここに?お前自身は“麦わらの一味”では無いと聞いているが…。おまけに、随分(ずいぶん)ボロボロのようだが……。」

 矢継(やつ)(ばや)に投げかけられた問いと、包帯だらけの病衣(びょうい)姿にスニーカーという格好(かっこう)揶揄(やゆ)するかのような言葉に、ジャスミンが渋面(じゅうめん)を作る。

「別に………。それより、それはこっちのセリフなんだけどね。何で、“七武海(しちぶかい)”がこんな所に?ここはゲッコー・モリアの船の(はず)…。」

「お前には、関係の無い事だ…。」

「そう…。なら、こっちもノーコメントにさせてもらうよ。」

 お互い、腹の探り合いだった。こころなしか、周囲の気温が2~3℃下がったような気がする。

「それよりも…。“泥棒猫(どろぼうねこ)”だな…。そこにいるのは。」

 不意にくまがジャスミンから目を()らし、“スリラーバーク”の門の上、(とりで)にいたナミに目を向ける。

「えっ!」

 突然注目され、狼狽(ろうばい)するナミを余所(よそ)にくまが言葉を続ける。

「モンキー・D・ルフィに兄がいるというのは、本当か。」

「い、いるわよ。エースでしょ?……それが何?」

成程(なるほど)…。本当だったか。」

「何なの!?ルフィに用!?目的は何!?本当に“七武海(しちぶかい)”!?」

「何をしようと、おれの自由。」

 聞きたいことを聞くなり、スタスタと歩き出すくまの背中に、ジャスミンが(くぎ)()す。

「あなたがどこで、誰と、何をしようと自由だけど…。ルフィくんたちや私の邪魔をする気なら、容赦(ようしゃ)しないよ。」

 一瞬立ち止まり、くまが(つぶや)く。

「覚えておこう。」

 そして、瞬間的に移動する。

「い、一瞬で…!?」

 ナミが驚愕しているのが分かる。一般人には到底(とうてい)(とら)えられなかっただろうが、ジャスミンの目はしっかり()()を映していた。

「やっぱり能力者だったか……。」

 まぁ、今の問題は()()では無い。何を考えているのか、全く読めないくまの言葉に若干(じゃっかん)違和感(いわかん)を覚えつつ、それどころでは無い、と意識を切り替える。

 ルフィたちの影は原作でも大丈夫だったので何とかなるだろうが、ジャスミン自身も影を奪われてしまったのだ。一刻も早く奪い返さなくては。

 夜明けは、近い。

 

 

 

 




某幽霊娘が不在と分かっているので、ちょっと余裕のあるジャスミン(笑)


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第39話 VS伝説の魔人

お待たせしました!第39話更新です。
今回、一部感想でもご指摘のあったくまについて、ジャスミンが考察しています。
本編で詳しく語るのはもう少し先でしょうか…。

お気に入り登録、ご感想などどうもありがとうございます!


 ━ジャスミンがくまと接触する少し前━

 ガァンッ!!!

 ウサギゾンビの蹴りと、オーズの(こぶし)がぶつかり合う。その衝撃は、突風となって周囲の人間に届く。

「うおっ……!!?」

「ひいぃぃ……!!」

「っ何て衝撃波(しょうげきは)だ!!」

 サンジが思わず1歩身を引き、ウソップが悲鳴を上げ、ゾロが(うな)る。

『ぅわっ!』

 ドコォン!

 しかし、その後の()り合いに押し負け、ウサギゾンビが瓦礫(がれき)へと突っ込む。

「!ウサギの方が押し負けたぞ!!」

「パワーはオーズ(ルフィ)の方が上のようね…。」

 しかし、その直後ウサギゾンビが瓦礫(がれき)の中から飛び出す。

『…あんまり調子に乗るなよ………!』

 ベキィッ!!

 お返し、と言わんばかりにウサギゾンビが飛び出した反動を利用し、オーズの頭を蹴り付ける。

『うぉっ!!?』

 蹴られた衝撃でバランスを崩したオーズの(すき)をウサギゾンビが見逃す訳も無く、『でりゃあっ!』と(いさ)ましい掛け声と共に(あご)を蹴り上げた。

 ズズゥウウ…………ン!!!

 オーズが倒れた事で、まるで地響きのように船全体が揺れる。

「あの巨体を蹴り飛ばしやがった…!」

「っつ―――――か、あの口調どっかで聞いた事があんだよな…。」

 思わず感嘆(かんたん)の声を上げるフランキーを余所(よそ)に、ウソップが記憶を手繰(たぐ)り寄せる。

 そして、思い出した。

「あ―――――――――――!!!!」

「あんだよ、ウッセーな!!?」

「どうした?」

 突然上がったウソップの叫びに、サンジが耳を抑えて怒鳴(どな)り、フランキーがウソップに目をやる。

「アイツ、あのウサギ!ジャスミンだ!!この口調は絶対(ぜってー)そうだ!!」

 ウサギゾンビを指差しながら叫ぶウソップに、

「はぁ!?」

「何だと!?」

「アレがジャスミンちゃん!?ホントか、それ?!」

 中でもサンジの驚きは激しかった。ウソップの肩を(つか)みガクガクと揺さぶりながら問い詰める。

「うぇ…!止めろ、()う………!!ま、間違いねェよ…!CP9と戦った時に、あんな口調だった…!!!」

「あのお(じょう)ちゃん、戦う時は口調が変わるのか?」

 普段のジャスミンの口調を思い出しつつ、フランキーが問う。彼はさほどジャスミンと関わる機会は無かったが、戦えそうも無い外見の割に強い、という印象もあり記憶に残り易かった。

「おう。特にあの(おおかみ)野郎と戦った時は凄かったぜ!?(こえ)ェったらねェよ!!」

「へェ。人は見かけによらねェもんだ。っつーか、あのお(じょう)ちゃん影盗られてたのか?」

「怪我の方に目がいってしまって気付かなかったけど、そう言われれば無かったかもしれないわ。」

 ロビンが2体のゾンビの戦いから目を離さないまま応じる。

「何にしたって、これなら何とかなるかもしれねェぞ…!」

「ああ!希望が見えてきた………!!」

 フランキーとサンジの声がわずかに明るくなる。

 その視線の先では、ウサギゾンビがその体格差をものともせず、オーズ相手に互角の戦いを繰り広げていた。

 本来、ジャスミン自身の腕力や脚力は、Z戦士の中では最弱である。それは経験値の違いだけで無く、性差(せいさ)によるものだ。確かに、ジャスミンは一般的な同年代の女子とは比べ物にならない程に鍛えている。鍛えているだけあって、成人男性より少し上位のパワーは備えているが、ジャスミンは純粋な地球人であり、それには限界がある。サイヤ人の血を引くパンやブラのようにはいかないのだ(現に、既にパワーではこの2人に負けている)。

 普段、パワーが格上の相手とも渡り合う事が出来ているのは、攻撃の際には瞬間的に“気”を込めて威力を底上げしている為だ。元々筋力が付き難い体質、という事もあり仮に“気”を封じられてしまった場合、一気に攻撃力が落ちてしまう。

 そのジャスミンの影を入れられている以上、ウサギゾンビも本来その体が有している以上のパワーを引き出す事は出来ない。体格差が人間と山程もあるオーズと戦えているのは、(ひとえ)にウサギ特有の脚力によるものであり、(こぶし)でなく蹴りで応酬(おうしゅう)した事が大きいのだ。

 ウサギ、と一言で言っても普通のウサギでは無い。原作の記憶がほぼ怪しいジャスミンは勿論、麦わらの一味でさえ知る(よし)も無いが、新世界はゾウの国出身のウサギのミンク族のゾンビである。ミンク族はその全員が生まれながらの戦士とも言われる種族。しかも、例によってドクトル・ホグバックの手によって改造を受け、その脚力は生前よりも数段上がっていた。

 その脚力と、ジャスミンの影を入れられる事で得たスピードでオーズを翻弄(ほんろう)し、パワーでこそ劣るものの互角に渡り合う事が出来ているのだ。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

『せいっ!!』

 ゲシィッ!!!

 ウサギゾンビが仕掛けた足払いに、オーズが『ぉおっ?!』と叫びながらバランスを崩す。

『りゃあっ!!』

 大きく体が(かたむ)いたところを追撃され、腹部を思い切り蹴り上げられる。

 そしてそのままオーズの体が180°回転し、

 ボコォン!!!

『うォあがっ!!!』

 頭から地面に叩き付けられた。

『はっ!ザマァ…!』

 良い気味だ、とでも言わんばかりの表情でウサギゾンビがオーズを鼻で笑う。

 

 ━ウサギゾンビがオーズを見事に蹴り飛ばしていた頃━

 ルフィはモリアを倒す為に、逃げるモリアを追いかけ、森の中をひたすら走っていた。

「捕まえたぞ――――――――――っ!!!モリア~~~~~~~~!!!」

 がしぃっ!!と後ろからモリアに飛びつき、地面に押し倒す。

「ゼー…!ゼー…!ハー…!ハー…!も………!!もう逃がさねェぞ、コノヤロー!!さァ、おれと戦え!!!みんなの影を返せ!!!」

 息を切らせ、モリアに言い放ったルフィだが、確かに捕まえた(はず)のモリアの様子がおかしい。

 くるり、とルフィを振り向いたその顔は真っ黒だった。

「!……カゲ?」

 一瞬(ほう)けたルフィだったが、モリアの能力によって操られた影に(だま)されていた事に気付き、次の瞬間、ルフィの叫びが森の中に木霊(こだま)する。

「っしまった―――――――――――!!!ダマされてた―――――――――――!!!ここ、どこだ――――――――!!?」

 

 ―――――――――影を盗られた者たちへのタイムリミットである夜明けまで、残り時間およそ30分。

 

 ━その、ほぼ同時刻━

 ナミと再会したジャスミンは、互いが持つ情報を交換していた。

 スリラーバークを支配する四怪人とそれぞれの能力を聞き、ジャスミンが得心(とくしん)する。

「あの幽霊(ゆうれい)、やっぱり能力者だったんだ…。」

「それよりジャスミン、あんたどうしてそんな格好(かっこう)してんのよ?」

「話せば長いんだけど…。その幽霊(ゆうれい)を操る能力者にやられちゃってね…。ドラゴンボールと影を盗られちゃった。」

「影を盗られたァ?!しかも、ドラゴンボールってあの願いを叶えるっていうアレでしょ!?!」

「我ながら失態(しったい)だったと思うよ…。」

 頭を抱えながら思い口調で話すジャスミンに、ナミも何かしら(さと)ったのだろう。それ以上突っ込んで聞こうとはしなかった。

「!そういえば、ナミちゃんに確認したい事があったんだけど…。」

「何?」

 ふと思い出したように、ジャスミンが顔を上げる。

「ウォーターセブンでフランキーさんと初めて会った時、フランキーさん確か自分で“改造人間(サイボーグ)”って言ってたよね?」

「?ええ、そうよ。どうしたのよ、突然…?」

「“(だれ)が”フランキーさんを改造したのか、って知ってる?」

「ああ、それなら仲間になった時に聞いた事あるわ。確か、海列車に()ねられて死にかけた時に自分で自分を改造したって…。」

「!自分で自分を……?!」

「ええ。だから、体の前半分しか改造出来なくて、背中側の後ろ半分は生身(なまみ)なんだって。」

「体の前半分だけ…。だからか…。」

 ナミの説明を聞いて考え込むジャスミンを、ナミが(いぶか)()に見つめる。

「それがどうかしたの?」

「さっきの“七武海(しちぶかい)”…。バーソロミュー・くま、たぶん…、ううん。ほぼ間違い無くアイツも“改造人間(サイボーグ)”だと思うよ。」

 その時だった。

 ズズゥ…ン!!!

 突如(とつじょ)轟音(ごうおん)と共に船全体が大きく()れる。

「何よ一体!?」

「?!空が……!」

 ナミを(かば)いながら、ジャスミンが周囲の異変に気付く。先程までスリラーバーク全体を包んでいた霧が完全に晴れ、夜明け間近の空が広がっている。

 “魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”を抜けたのだろう。

「両方共早いトコ取り返さないと…。取り敢えず、優先順位は影かな。夜明けが近い……。」

 白んできた空を見上げ、ジャスミンが呟く。

「でも、ドラゴンボールが盗られちゃったなら、もうモリアが自分の願いを叶えちゃったんじゃ……?」

「それは無いと思うよ。アイツら、願いを叶える為に必要不可欠な呪文を知らない(はず)だから。」

 ニッ、といたずらっぽく微笑(ほほえ)んだジャスミンに、ナミが一瞬呆気(あっけ)にとられる。

「呪文?」

「そう。私、先に行ってるね!たぶん、夜明けまで30分も無い…!」

 ダンッ!

 言い置いて勢い良く跳躍(ちょうやく)し、そのまま舞空術(ぶくうじゅつ)で飛び上がる。

「ちょっと!ジャスミン!!さっきの話って……!」

 ナミが呼び止めようとするが、(すで)にその姿は見えなくなっていた。

「あの“七武海(しちぶかい)”が“改造人間(サイボーグ)”って、どういう事…?」

 しかし、夜明けまで時間が無いのは確かだった。ナミはジャスミンの言葉を気にしながらも、ウェディングドレスを着替えるべくサニー号へと走る。

 




ワノ国からリューマの死体が盗まれているくらいなので、同じく新世界からミンク族を入れてみました。ゾウの国からでなく、生前は奴隷だった、という裏設定があるのですが、いずれ本編で入れる時がきましたら詳しく説明したいと思います。


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第40話 モリアinオーズ!遂にジャスミン参戦

お待たせしました!第40話更新です。
今回、本来はもっと進む筈だったのですが、グダグダになってしまったので止む無く削り、大幅に手直しました。
今回、ジャスミンのトラウマがちょっとだけ明らかになります。

※タイトル微変更しました。モリアにオーズは入れないですよね、すみません…!


 ━ジャスミンとナミと別れた、数分前━

『よくもやりやがったな…!!』

 オーズが悪態(あくたい)()きながら起き上がるが、それに(かま)っている余裕は無かった。

 “魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”を抜けてしまったせいで、夜明け間近の空が(あら)わになってしまったからである。

「……!!最悪だ……!!夜明けまで後30分もねェってのに…!!」

 フランキーが白んできた空を見上げながら吐き捨てる。

「一体、(だれ)策略(さくりゃく)でこのタイミングで(きり)が晴れるんだ!!これじゃ、朝日はストレートに()してきちまう…!」

『マズいな…。このまま朝になったら私も消滅しちゃうじゃないか…!』

 サンジとウサギゾンビが危惧(きぐ)するが、それよりも更に厄介(やっかい)な事になろうとしていた。

「キシシシシ…!!(はか)らずも清々(すがすが)しい夜空…。もう夜明けも近いが…、ぐずぐずしてて良いのか?貴様ら…。」

 不意にモリアの声が辺りに響く。

「…モ…、モリア!!!モリアだ!!!何でここに!!?ルフィは!?」

「おい、待てウソップ。モリアがどこにいるってんだよ!!」

 ウソップが声を上げるが、サンジたちには見付けられない。

「いるじゃねェか!!あそこ見ろ!!腹だ!!オーズの腹ん中!!」

「腹の中??」

 ウソップの言葉に、フランキーが目を()らす。

 見れば、オーズの腹部に窓のような穴があり、その中に小さな部屋がある。その部屋に、モリアはいた。

「い…、いた!!!じゃ、ルフィは!?(あん)(じょう)スカされたのか…!?」

「あるいは…!!」

「やられやしねェよルフィは!!」

 サンジの叫びにフランキーが最悪の事態を危惧(きぐ)するが、すぐさまチョッパーが否定した。

『マ、マズい…!ご主人様が来るなんて…!!』

 彼らを尻目(しりめ)にウサギゾンビが1人(あわ)てる。それに、モリアも気付いた。

「キシシシッ!お前はあん時逃げやがったゾンビだな…?オーズの邪魔をしてやがったみたいだが、まぁ良い。命令だ。そこで(だま)って見てやがれ!」

『は、はい!!』

 下された命令に、ウサギゾンビが直立不動になる。ゾンビである以上、主人であるモリアの命令には逆らえない。モリアがオーズとウサギゾンビの戦いを直接見ていなかった事は、“麦わらの一味”たちにとってはこの上無い幸運だった。

 もし、モリアがウサギゾンビに向かって「“麦わらの一味”を殺せ」とでも命令していたなら、その瞬間にでも彼らの命は無かっただろう。

『おお――!!コクピット!?何だ、おれの腹コクピットなのか!!?スッゲー、イカス!!おれロボみてェじゃん!!テンション上がるな―――!!!』

「キシシシシ…!」

 何故かやたらとテンションの上がっているオーズを余所(よそ)に、モリアが言葉を続ける。

「キシシシ!!さァ、お前ら。おれと戦うチャンスをやろう。おれを倒せば全ての影を解放出来る。全員でかかって来い!!!――――――ただし、オーズを倒さねばこのおれは引きずり出せねェがな…!!」

「………!!あのヤロー汚ねェぞ!!」

「モリアを倒さなきゃオーズを浄化(じょうか)出来ねェのに、そのモリアがオーズの中に入っちまった!!!」

 自身の身を守りつつ、あくまでも他力本願(たりきほんがん)で事を片付けようとするモリアに、ウソップとチョッパーが非難の声を上げる。

「―――――かえってスッキリしたじゃねェか。標的がよ。」

「やるしかねェ!!!」

 サンジとゾロは既に戦闘態勢(たいせい)を整えていた。

「ウソップ!!おれたちが何とか(すき)を作る!お前はタイミングを見計らって塩を食わせてやれ!!オーズはそれで浄化するしかねェ!!」

「良し!!分かった!!」

 ゾロの指示にウソップが頷いた直後だった。

「キシシシシシッ!!!やらせねェよ!オーズ!!あの長っ鼻をぶっ(つぶ)せ!!!」

『はい、ご主人様。』

「マズい………!!」

「逃げろ!!!」

 モリアの命令に従い、(こぶし)を振り上げたオーズに、サンジやフランキーが叫ぶが、間に合わない。

 グォッ………!!!

 ボコォ…ン!!!

「しまった!!!ウソップ―――――――――――!!!」

 オーズの(こぶし)が、周囲の瓦礫(がれき)ごとウソップを圧し潰したかのように見え、サンジの叫びが木霊(こだま)する。

 “麦わらの一味”たちが、最悪の事態を想定して青褪(あおざ)めた時だった。

「ご無事ですっ!!!」

 ウソップを(たわら)(かつ)ぎにして、瓦礫(がれき)に着地した者がいた。

「遅くなって申し訳ありません!!!大量に塩が必要かと思い!!集めていました!!!」

 大きな麻袋(あさぶくろ)いっぱいに塩を詰め込み、ウソップを(かつ)ぎ上げたアフロヘアの骸骨(がいこつ)‐ブルックがそこにいた。

「上手く()けやがったようだが、そう何度も上手くいくか……!オーズ!もう1発お見舞いしてやれ!!!」

 グォッ………!!!

 ブルックが体勢を立て直すより早く、オーズの追撃がウソップたちに襲い掛かる。今度こそ()けられず、直撃するかと思われた瞬間だった。

気円斬(きえんざん)!!!」

 ズバァッン……!!

 ウソップたちの手前で、オーズの腕が(ひじ)の辺りで斬り飛ばされ、宙に舞う。

 ズ…ズゥ……ン…!!!

 斬り飛ばされた腕は、屋敷の壁を一部破壊しながら、2人がいる場所スレスレに落ちる。

「この技は……!!」

「まさか!?」

 ()()に見覚えのあったロビンとフランキーが、()()が飛んできた方向に目を向ける。

「何なんだ一体!?」

 彼らにつられたのか、モリアもその方向に目をやった。

「その巨人がルフィくんの影が入ってるっていうゾンビですか?話には聞いてたけど、随分(ずいぶん)大きいですね。」

 ペローナの“不思議の庭(ワンダーガーデン)”、橋を利用したその庭の欄干(らんかん)。そこに、ジャスミンが立っていた。

 

「ジャスミンちゃん!!?」

「良かった。思ったよりも元気そうね。」

 サンジが叫び、ロビンがその姿を見て安堵(あんど)の息を吐く。しかし、ジャスミンを見て1人目くじらを立てていたのがチョッパーである。

「お前は―――!絶対安静って書いておいただろ?!」

 チョッパーからの叱責(しっせき)に身を縮めつつ、「だって…。」とジャスミンがチョッパーから微妙に目を()らす。

「“だって”じゃねェ!!!」

「おいおい、チョッパー。今はそれどころじゃねェだろ?!」

 更に怒鳴るチョッパーを、ブルックに下ろしてもらったウソップが(なだ)める。

 そう、目の前にいる敵が待っていてくれる(はず)も無く。

「オーズの腕を斬り落としやがっただと……?!何の能力だ?」

 ジャスミンを悪魔の実の能力者と思い込んでいるモリアが首を(ひね)る。

「何でも良いだろう。そんな事より、私の影はどのゾンビに入れた?」

 怒っているチョッパーを視界に入れないようにしつつ、ジャスミンがモリアを(にら)み付ける。

「そこのウサギだ!!間違いねェ!!!」

「ウサギ?」

 ウソップの叫びに、ジャスミンがそちらに目を向ける。見れば、その言葉通りにロビンたちの側にウサギのゾンビが(たたず)んでいた。

「…そう。悪いけど、その影、返してもらうよ。」

『………それが一番良い方法なのは分かってる。でも、私も死にたく無い…。…だから、戦わせてもらう……!』

 ジャスミンがウサギに向き直るが、ウサギゾンビもジャスミンを(にら)み付ける。

 互いに(にら)み合い、周囲にビリビリとしたプレッシャーが伝わる。モリアでさえ、場の空気に()まれたのか口を出そうとしない。

 片や、異世界の英雄にもその実力を認められた武道家。片や、生まれながらの戦闘種族であり歴戦の戦士。

 その2人の放つプレッシャーが頂点に達した時、ゴクリ、と誰かが(つば)()む音が響く。

 その瞬間――――、

 ドォンッ!!

 ウサギゾンビがジャスミン目がけて跳躍(ちょうやく)し、(すさ)まじいスピードで彼女に(せま)る。その蹴りがジャスミンを(とら)えた、かに見えたが刹那(せつな)、その姿がブレて不意に掻き消えた。

『え……?』

「………ゴメンね…。」

 “残像拳(ざんぞうけん)”。一瞬のうちに背後に回り込んだジャスミンが、ウサギゾンビに向かって右手を構える。

 ボッ………!!!

 ウサギゾンビが背後のジャスミンに気付く前に、ジャスミンの手から放たれた気功波(きこうは)がウサギゾンビを灰に変えた―――――――――。

 

 ズズズズズズ………!!!

 ヒュ―――――…ン

 燃え尽きたウサギゾンビから飛び出た影がジャスミンへと戻ってくる。

「影が戻った…!」

「一撃で……!!」

 ロビンがジャスミンの足元を注視し、フランキーが感嘆(かんたん)の声を上げる。

「キシシシシシッ!!!やるじゃねェか…!たった一撃でおれのゾンビを倒すとは…。確かに、体を燃やされちまったら影は本体に戻る。さすがに億超えの賞金首だな。」

 意外にも水を差す事無く勝負を見ていたモリアが、感心したような声を上げる。

「だが、オーズには勝てねェ…!コイツは伝説の魔人だ……!!!キ――シッシッシッシッシッ!!!」

「………伝説の魔人、ねぇ。それにしては、さっきから()()()()攻撃しかしてないね。もっと強くてもっと怖い、絶望を植え付けた魔人を知ってるよ。」

 オーズの腹部に入り込んだままのモリアを見上げ、ジャスミンが挑発するように言い放つ。

 そう。かつて、地球を丸ごと破壊してのけた桃色の魔人。当時はまだ前世の記憶が戻っていなかったジャスミンもトラウマを植え付けられた。おかげで未だにチョコレートが食べられない。()()に比べれば、オーズなどまるで怖くない。

「もっと強くて怖い魔人、だと……?!」

 何をバカな事を、そう言いたげにモリアが吐き捨てるが、ジャスミンが続ける。

「まぁ、信じたくなければそれでも良いけど…。お前は許さないよ?」

(やべェ。怖ェ………!)

 笑顔を浮かべつつも、しかし目だけが怒りを(たた)えた表情で告げるジャスミンに、以前彼女の怒りを目の当たりにしていたウソップだけが顔を青褪(あおざ)めさせていた。

 




※本来、ウサギゾンビはもうちょっと活躍させるつもりだったのですが、タイミングを間違えるとモリアがジャスミンの影も吸収してしまう為、ちょっと収集が付かなくなりそうなので退場してもらいました。
もし時間と需要があれば、ifで吸収されたVerも書きたいと思います。

・桃色の魔人…ドラゴンボール原作において最後のラスボス・魔人ブウのこと。邪悪な魔導師によって生み出せれた魔人で、戦闘センスが突き抜けている上に魔術が使え、尚且つ再生能力があるチート。ベジータ捨て身の自爆攻撃でさえ全く効かなかった。実は地味に色々な形態があり、微妙に性格なども異なっている。最終的には2人に分裂し、悪とそうでも無い方に分かれた。悪の方は悟空に倒され、残った方はミスターサタンの尽力によって改心し、現在はミスターブウと名を変えている。
・ジャスミンのトラウマ…魔人ブウは魔術で人間などをお菓子に変えることが出来、ジャスミンも1度そのせいで死んでいる。ジャスミンはヤムチャが目の前でチョコレートに姿を変えられ、食べられるのを目の当たりにした為、トラウマで板チョコが食べられない。
※実際に原作ではその描写はありませんでしたが、魔人ブウが「チョコレートにする」的なことを言っていたのでその設定にしました。


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第41話 決着!?倒されたモリア

大変お待たせしました…!第41話更新です。
本当はもっと早くに更新したかったんですが、年度が替わってバタバタしてまして、なかなか時間が取れませんでした。
夏まで不定期更新になると思われます。

そして、いつの間にかお気に入り登録が1900人を超えていました…!感想、評価も合わせてどうもありがとうございます!これからもがんばらせていただきます!!


「許さない、だァ?何を許さないってェ?」

 ジャスミンを(あざけ)るようにニヤニヤとした笑いを崩さないモリアと、同じく笑みを浮かべながらも目だけが冷ややかなジャスミン。

 周囲にいる“麦わらの一味”が何となく気圧(けお)されている中、ただ1人、以前“司法の塔”で目の当たりにしていたウソップだけは、モリアの言動がこれ以上ジャスミンの怒りを(あお)りやしないかとハラハラと見守っていた。

「1つ。自分の(ろく)でも無い目的の為に死者を冒涜(ぼうとく)した。」

 不意にジャスミンがモリアから視線を外し、軽く(うつむ)きながらザリッ、と足元の瓦礫(がれき)を踏み付け、オーズへと1歩近付く。

「あァ?」

 何を言ってるんだコイツは、とでも言いたげなモリアの視線を無視し、更に近付いていく。

「2つ。100歩譲って海賊相手の略奪(りゃくだつ)ならまだしも、何の罪も無い一般人相手に、遺族から遺体を奪いさった。」

 更に距離が近付く。

「何が言いてェんだ。」

「3つ。私の()()に、手を出した。」

 ザッ…!

 オーズの3m程手前でジャスミンが足を止め、ゆっくりと顔を上げる。

「良い加減にしろよ…?この下衆(ゲス)が。」

 モリアを(にら)み付けるジャスミンからは、既に笑みは消え去り、その(みどり)色の双眸(そうぼう)には燃えるような怒りが宿っている。

「ふん。何とでも言え。()()()()()ってのは、手段なんぞ選ばねェ!!!」

 キシシシシシッ!!!と耳障(みみざわ)りな笑い声を上げるモリアに構わず、ジャスミンがオーズへと目を向ける。

「オーズ。あんたはそれで良いの?今のままじゃ、あんたは一生モリアの操り人形だ。一生太陽に怯え、自由も無い、ただ使われるだけの日々。」

 少しでも自我が残っているならばあるいは、と一縷(いちる)の可能性を確かめる。自身の影が入れられていたゾンビを見て、その可能性がほとんど無い事には気付いてはいたが、戦いを望んでいない者を踏みにじるような真似(まね)はしたく無かった。

『おれはご主人様に従う。』

「そう…。」

 きっぱりと言い放ったオーズに、ジャスミンもそれ以上は何も言わなかった。

 その代わりに、行動で示す。

「だったら、悪いけどここで退()()してもらうよ。」

 ズオッ………!!!

『あ゛……?!』

 言葉と同時に、ジャスミンが右手のみで放った気功波(きこうは)がオーズの頭に直撃し、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「オーズ?!おいっ!!」

 ズズズズズズ…!

 モリアが異常に気付き、オーズの体内の小部屋から飛び出すが、既にオーズの体からは影が抜け出初めていた。

 頭ごと脳を吹っ飛ばされたのだ。人の体は、例外無く脳からの指令によって動く。意識的にであろうと、無意識にであろうとも。外部からの刺激による反射行動だけならば、脊髄(せきずい)損傷(そんしょう)さえ無ければ起こりうるが、自発行動は脳が無くてはあり得ない。モリアの作り出したゾンビも、例外では無い。ただの操り人形だったならば話は違ったが、あくまでもモリアが作り出すゾンビは影の戦闘力を引き継ぎ、肉体によってそれを最大限生かしている分、それぞれ自立した“個”を持っている。

 1体1体がそれぞれモリアが操る傀儡(くぐつ)だったならば最初に遭遇(そうぐう)した(とら)のゾンビのように跡形も無く燃やすしか無かったが、自発行動を重視させているならば頭さえ吹っ飛ばせば無力化は可能だと判断した。

 前世で有名になったゾンビパニック映画をヒントにしたが、判断としては正しかったようだ。

 ヒュ―――…ン!

「影が…!クソ!オーズが一撃だと……?!」

 (つい)にオーズの体から完全にルフィの影が抜け出し、森の方向へと飛んでいく。

「ルフィの影が…!」

「やった…!スゲェぞジャスミン!!」

 チョッパーが抜け出た影を目で追い、ウソップが興奮した叫びを上げる。

 ドッオォオオ…………ン……!!!

 一拍置いて、オーズの体が周囲の瓦礫(がれき)を巻き込みながら倒れ込む。

「テメェ…!よくもオーズを()りやがったな。アイツはおれの最強の部下になる(はず)だった…!」

 苛立ちも(あら)わにモリアが吐き捨てる。

「こうなりゃ、もう1度テメェの影を利用させてもらうぜ。オーズを一撃で倒した程だ。相応(ふさわ)しい死体が現れるまで、適当なヤツに入れる事になるがな…!」

「言ってろ…。」

 いよいよ自ら戦う気になったモリアに対し、ジャスミンも構えを取る。

 ――――――――夜明けまでおよそ20分。最後の戦いの火蓋(ひぶた)が切って落とされようとしていた。

 

 ━少し前、スリラーバーク内の森の中━

 モリアによって(だま)され、見事に森へと誘導(ゆうどう)されたルフィは、同じくモリアによって影を奪われ森を彷徨(さまよ)っていた海賊たち、“ローリング海賊団”の面々と対面していた。

「お前、モリアの“現在地”知ってっか!!?腹の中よ!!あのバケモノ(オーズ)の腹の中~~~~っ!!!」

「ええ~!?食われたのか!?」

 ローリング海賊団の一員、リスキー兄弟がルフィに状況を説明している。

「そうじゃねェっ!!つまり、お前の影の入った特別(スペシャル)ゾンビを倒さなきゃ、モリアに手が出せなくなっちまってんだよ!!今、屋敷の中庭でおめェの仲間らと戦ってる!!!」

「そこにいるのか、チキショ~~~~!!!」

 ルフィがモリアの現在の居場所を聞いた直後だった。

 ヒュ――――――……!

 ()()が樹々の隙間(すきま)からルフィへと飛んで来るのを、ローリング海賊団の中の1人が発見する。

「お、おい!アレ……!!」

「え?!」

 ヒュ―――……ン!

「うおっ?!何だ!!」

 飛んできた()()がルフィにぶつかったようにも見えたが、()()はルフィの足元へと収まる。

「お、おれの影?」

「あの特別(スペシャル)ゾンビを浄化したのか?!」

 ジャスミンがオーズを戦闘不能にした事により、解放されたルフィの影が()るべき場所へと戻ったのである。

「良し!じゃ、おれホント急ぐから…!」

「待てっつってんでしょ!!って出口はそっちじゃないわよ?!」

 “ローリング海賊団”船長“求婚のローラ”の制止も最後まで聞く事無く、ルフィは中庭を目指す。が、逆方向へと走り去っていった。

 

 ━ルフィが中庭を目指したのとほぼ同時刻━

「“欠片蝙蝠(ブリックバット)”!!!」

 ズズズ…

 ポコ…!ポコ…!

 ポポポポポポポポッ…!!!

 モリアの“影”が立体となり、それが蝙蝠(こうもり)の形に分裂し、ジャスミンへと襲いかかる。

「ちっ…!邪魔だ!!」

 ドドドドドドドドドッ!!!

 マシンガンの(ごと)く放たれた気功波(きこうは)が、蝙蝠(こうもり)の1匹1匹を撃ち落とす。

「キシシシシシッ!やっぱり小手先(こてさき)の技は通用しねェようだ。それでこそ、影も奪う価値がある…!」

 撃ち落とされた蝙蝠(こうもり)は、再びモリアの影に戻っていく。本体であるモリアにダメージが返るような事も無いようだ。

(長引けばこっちが不利…。となれば、一気に(かた)を付けるしか無い。)

 痛み止めが切れたのか、再び痛みが強くなり始めたのを感じる。呼吸の度にズキズキと肋骨(ろっこつ)(うず)く。本格的に動けなくなる前に終わらせるべきだった。

(だったら…。)

 オーズが追撃するより早く、ジャスミンが構えを変える。

「げっ……!あ、あの構えは………?!」

「ウソップ?」

 片手である為、以前見た時とは多少異なるものの、1人、その構えに見覚えのあったウソップが(うめ)くように(つぶや)いたのをチョッパーが疑問の声を上げるが、生憎(あいにく)ウソップにそれに構っている暇は無かった。

「悪いけど…。これで終わりにさせてもらう!!」

 言うや否や、瞬間的にジャスミンの姿が()き消え、モリアの目の前に現れる。

「な?!」

 モリアとジャスミンの身長差は、大人と子どもを(はる)かに上回る。足元を攻撃するよりも、頭や胸元を狙った方が急所に入れ易い。その為に、モリアの目の前に現れるように調節して跳躍(ちょうやく)したのだ。

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 ドドドドドドドドッ!!!!!

「がっあぁぁ・・・・・・・・!!!!!!」

 モリアがジャスミンに反応するよりも早く、ジャスミンの激しい(こぶし)()りの連打がモリアを襲う。

 やはり体格差と片手のハンデは大きく、モリアの頭と精々胸元までしかジャスミンの攻撃は通らない。しかし、一撃一撃が確実に急所を(とら)えていた。

「は、速ェ……!!」

「動きが見えねェ!!」

 ジャスミン自身、決して浅くは無い傷を負っている為、その動きは(つね)よりも精彩(せいさい)を欠いている。しかし、一般的な視点から見れば充分な速さを保っていた。

 (はた)で見ている分には、残像(ざんぞう)でしか(とら)える事が出来ない。

「でりゃぁああっ!!!」

 ガォン!!!

「がっ…!」

 とどめに放たれた()りが、鈍い音を立ててモリアの側頭部を(とら)え、モリアを10m近く吹っ飛ばした。

 ズッシャアァアアアッ!!!

 モリアの体は瓦礫(がれき)へと突っ込み、2~3度バウンドして止まる。

「ハァッ…ハァッ………!!」

 ストッと地面に降り立ったジャスミンが荒い息を()く。

 一旦は回復したとは言え、負傷し疲弊(ひへい)し切っていた体は未だ全快とは言い(がた)い。既にチョッパーに処方されていた痛み止めは完全に切れ、全身の激しい痛みがジャスミンを襲っていた。

「や…、やったのか…!?」

「モリアを倒した…?」

 フランキーが、ロビンが(つぶや)く。

「ハァ…、正確には、まだ終わって無い…。」

 荒い呼吸を繰り返しつつ、吹っ飛ばしたモリアへと近付きながらジャスミンが答える。

「まだって…。」

「まだ、“影”は解放されて無い…。ハァ…!」

 ザリッ…!

「ただ能力者(モリア)を倒しただけじゃ、“影”の支配は解けないみたいですね…。」

 完全に意識を飛ばしているモリアを見下ろすが、ジャスミンが不意にその襟元(えりもと)(つか)んで引き()り始める。

「おい?!何する気だ…?」

 ゾロが無言でモリアを引き()るジャスミンに尋ねる。

「能力者本人が意識を失っても能力が解けないなら、それだけその力が強力という事…。でも、完全にその能力自体を封じてしまえば、無効化されるんじゃないかと思ったんです。」

 一旦足を止め、ジャスミンがゾロを振り向く。

「完全に能力を封じるったって、一体どうやって…。」

 今度はサンジが疑問の声を上げる。

「本当は海楼石(かいろうせき)でもあれば良かったんですけどね。」

「いや、だから何をどうやるってんだよ?」

 溜息を()きながら(つぶや)くジャスミンに、ウソップが突っ込みを入れる。

「海に突き落とします。」

 サラッと落とされた物騒(ぶっそう)な発言に、

「「「「え?」」」」

「「「は?」」」

 一拍置いて

「「「「「「「マジか!?」」」」」」」

 その場にいた“麦わらの一味”+1名のツッコミが響いた。

「な、何!?何事!!?」

 ちょうどタイミング良くその場に到着したナミが、急なツッコミにビビる。

 ――――――――夜明けまで、およそ15分。あれだけ緊迫(きんぱく)した空気が、妙に緩んだ瞬間だった。

 

 

 




今回、ゾンビが頭吹っ飛ばせば攻略OK、みたいな書き方をさせていただきましたが、二次創作という事でご了承ください。
因みに、能力者を海に落としたら能力解除、というのも二次創作という事で…。

追記:モリアの能力については、原作でローラが気絶したモリアを前にして「モリアの口から“本来の主人の元へ帰れ”と命令しなければ影は戻らない」と明言していた為、このような展開にさせていただきました。
同じ超人系でも、シュガーのホビホビの能力は気絶すれば能力解除だったのに対し、カゲカゲは解除されない、というのはそれだけモリアの執念が強かったのかな?と推察しました。基本的にドフラミンゴの指示で能力を使っていたシュガーとは異なり、モリアには確固たる野望があったからではないか、と勝手に考えています。腐っても七武海、戦ったら確実にシュガーより強いでしょうし…。
以上、ミカヅキの勝手な推察でした。


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第42話 一難去ってまた一難!?

お待たせしました!第42話更新です。
本来はバトルになる筈だったんですが、どうしてこうなった…。そして、サブタイトルが何か初代プ○キュアっぽくなりましたが、作者はおジ○魔女世代です。

次回、いよいよ神龍を喚び出します!ジャスミンが何を願うのか、どうかお楽しみに!!


 ━“偉大なる航路(グランドライン)”とある海賊船━

「船長――――――――――!!!甲板(かんぱん)に来てください船長ォ!!」

 朝日が(まぶ)しく水平線を照らす中、1(せき)の海賊船が(にわか)に騒がしくなる。この海賊船の乗員たちは皆、ゲッコー・モリアによって影を奪われ、日の光を避けて昼夜逆転の生活を送っていた。本来ならば、朝日が昇る前に皆就寝している(はず)だったのだが…。

「バカ言ってねェで寝ろ!!朝日で消滅しちまうぞ!!モリアに影を奪われて2年…、おれたちァ…。」

 ドタバタと音を立てて船長室に駆け込んできた船員に、ベッドに入ろうとしていた船長が怒鳴り付ける。

「それが船長…!!足元をご(らん)に!!」

「あァ?」

 船員の言葉に、自らの足元に目をやり、一瞬動きを止める。

「影が、ある!!!」

 ()()を認識した瞬間、船長は甲板(かんぱん)へと飛び出していた。

 バンッ!!!

 甲板(かんぱん)に到着し、(つど)っていた船員たちの顔を見詰め叫んだ。

「影がある―――――――――――――っ!!!」

「全員です船長ォ!!全員の影が戻りましたァ!!!」

 ワアァアアアアアアアアア―――――――――――!!!!!!

 全員が歓喜(かんき)の叫びを上げ、喜びに(むせ)び泣く。

 再び太陽の(もと)を歩く事が出来る、もう2度と消滅の危機に怯える事は無い。長きに(わた)るモリアの支配から解放された海賊たちの興奮は冷めやらず、喜びの雄叫(おたけ)びは(しば)しの間続いた。

 彼らの他にも、“偉大なる航路(グランドライン)”及び“西の海(ウェストブルー)”各所で、喜びの声が上がり同時に歓喜(かんき)の涙が流れたが、影が解放された理由を知る者はいない―――――――。

 

 ━“スリラーバーク”中庭・メインマスト前━

「朝日だ――――――――!!」

「朝日もう恐くねェ~~~~~~!!」

 モリアを海に沈め(もちろんちゃんと引き上げた為、まだ生きている)、全ての影を解放したジャスミンがモリアを引き()りながら“麦わらの一味”の所に戻ると、先程まで激闘が繰り広げられていた中庭も朝日が差し込み、影を取り戻したらしい海賊たち‐“ローリング海賊団”が歓喜(かんき)の声を上げていた。

 見たことの無い海賊団に内心首を(かし)げつつも、ジャスミンが歩み寄るといち早くチョッパーが気付いて駆け寄ってくる。

「ジャスミン!!お前、怪我は?!()せてみろ!!」

「ヤバッ……!」

 チョッパーの顔が怖い。ドクターストップを無視して無茶をやらかした自覚はあるが、仮にも医者が患者にしてはいけないような顔をしている。

 反射的に身を引こうとしたものの、

 ガシッ!

「へっ…?」

 ()()に両足を(つか)まれ、その場から動けない。

 急いで足元を確認すると、()()()()()()()()()()()がジャスミンの足を(つか)んでいた。

「こ、この腕は…!ニコさん?!」

 ロビンを振り返ると、悪戯(いたずら)っぽい笑みを浮かべたロビンが、能力を発動させている(あかし)に胸の前で腕を交差させていた。

「ダメよジャスミン。ドクターの言う事は聞かないと。」

「げっ……!」

 ジャスミンが顔を引き()らせた瞬間、チョッパーに捕まる。

「逃げるな――――――――!!!」

「ご、ごめんなさい!!」

 その後、診察を受けつつも正座させられ、延々(えんえん)説教(せっきょう)される事になる。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「んじゃ、結局モリアはジャスミンが倒しちまったのか?!」

 ようやっと中庭に辿(たど)り着いたらしいルフィが憤懣(ふんまん)やるかた無い、といったように鼻息荒く吐き捨てる。

「おいおい…。ジャスミンがモリアを倒して影を解放してくれたお陰で、お前もゾロもサンジも無事なんだぜ?まぁ、自分で倒したかったんだろうが、お前を待ってたら今頃影を盗られた(やつ)らは全員お陀仏(だぶつ)だったよ。」

 ウソップが(なだ)めるが、暴れ(そこ)なったフラストレーションが()まっているらしく、ふんっ!と荒い鼻息を()いて「分かってるよ!」とその場にどっかりと座り込んだ。

「あんたたち…!!礼が遅れたわね!!」

 そこに、“ローリング海賊団”船長‐“求婚のローラ”が口火(くちび)を切る。

 それを受けて、“ローリング海賊団”の船員たちも船長であるローラも元へと集まった。

「おれたちも心底感謝してるぜ!!お陰でまた太陽の下に出られた…!」

「ああ、全部あんたたちのお陰だ!!」

 船員が集まったのを見計らい、ローラがその場に平伏(へいふく)した。

「ありがとうあんたたち!!!スリラーバーク被害者の会一同………!!この恩は決して忘れないわ!!!」

「「「「「「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」」」」」」

 船長に(なら)い、船員たちも皆頭を下げる。

「お礼に私を(よめ)にあげる!!!」

「「「「「いらん。」」」」」

 ローラの求婚には、即座に麦わらボーイズ(ただし、ジャスミンを診察中のチョッパーを除く)が拒否したが。

「そう言わずに!!!」

「………礼を言われてもな。おれたちは正直(しょうじき)何もしちゃいねェ。結局のところ片付けたのはジャスミン(あのガキ)だしな。」

「特にあんた!!結婚しない!?」

「お前らついでに助かっただけだ。」

 食い気味で発せられた指名式の求婚をスルーしつつ、ゾロが続ける。

 その様子をやや離れた所で、チョッパーの診察を受けながら観察していたジャスミンだったが、不意に感じ取った“気”に()()()を思い出してハッとする。

「あ。」

「どうしたんだ?」

 取り()えずその場で出来るだけの診察を終えたチョッパーが何事かとジャスミンに目を向ける。

「ドタバタしてたんですっかり忘れてました。まだ終わってなかった…。」

 言うなり立ち上がったジャスミンが屋敷の屋根を見上げる。

「…そうだ私……!!…大変な事忘れてた………!!!」

 そのジャスミンの目線を何気無く追ったナミも、そこにいた人影を見て思い出したようだ。

「どうしたの?」

 ロビンが彼女らの様子に気付き、ナミに問いかける。

「それが!!大変なの………!!」

『成程な。』

 ナミが仲間に教えようとした時だった。不意に、知らない男の声がそれを(さえぎ)る。

 バッと、ローリング海賊団を含めたその場の全員がその方向‐屋敷の屋根を見上げた。

『悪い予感が的中したという訳か。』

「―――――――そのようで………!!」

「「「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」」」

 手の中の電伝虫で会話する()()()の姿に、ナミが強張(こわば)った表情で荒い息を()く。

「落ち着いて聞いてよ………!!?言いそびれてたんだけど、この島には…もう1人…!!いたの……!!!“七武海(しちぶかい)”が……!!!」

「!!?」

「…な………!!」

「今…、何て!!?」

「あれが、“七武海(しちぶかい)”!!?」

 再び、その場にいた者たちの視線が()()()へと向けられた。

「アイツもあのデカらっきょやクロコダイルと同じってことか!?」

 想定外の相手に、ルフィでさえ叫ぶ。

『やっとクロコダイルの後任(こうにん)が決まったところだと言うのに、また1つ“七武海(しちぶかい)”に穴を開けるのはマズい。まだ、微かにでも息はあるのか?』

「さァ…。」

『生きてさえいれば…、回復を待ち一先(ひとま)ず“七武海(しちぶかい)”の続投を願いたいところ。措置(そち)についてはその後だ。――――――そう簡単に落ちてもらっては、“七武海(しちぶかい)”の名が威厳(いげん)を失う。この情報は世間(せけん)に流すべきでは無い。全く困った奴らだ。』

「……そうだわ。あのモリアにも(おと)らないあの巨体(きょたい)。“暴君(ぼうくん)”と呼ばれてたあの海賊…、バーソロミュー・くま!!!」

「あいつが!?“暴君(ぼうくん)”くま!?」

 こちらに構う事無く通話を続ける男の正体に、ローラが気付いた。そして、その場にいた者たちへ驚愕が広がっていく。

「マズいな…。」

 ポツリ、とジャスミンが洩らした呟きは、その驚愕の(ざわ)めきに(まぎ)れ、誰にも届く事は無かった。

 

『私の言っている意味は分かるな?モリアの敗北に目撃者がいてはならない。』

「ちっ……!」

 バッ……!!

 不意に電伝虫が吐き出した不穏(ふおん)台詞(セリフ)に、ジャスミンが舌打ち舞空術(ぶくうじゅつ)で飛び出す。

『世界政府より特命(とくめい)(くだ)す。“中将殺(ちゅうじょうごろ)し”のジャスミン、並びに“麦わらの一味”を含む、その島に残る者たち全員を抹殺(まっさつ)せよ…。』

「た(やす)い…。」

「させないよ。」

 残酷(ざんこく)な命令が下されたその瞬間、舞空術(ぶくうじゅつ)で接近したジャスミンが割って入る。

「“中将殺(ちゅうじょうごろ)し”のジャスミン…?!」

『何!?』

「この場の全員を殺す?そんな事を私がみすみす許すと思う?」

 ズオッ………!!!

 言い放つと同時に、“気”を解放する。

「ぐっ…!」

 エニエス・ロビーの時とは異なり、的確にバーソロミュー・くまにのみ向けられた()()は、彼にのみ圧迫感となって襲い掛かった。

『くま?!何があった!?』

「1つ言っておく。その電伝虫の向こうにいるのが誰かは知らないけど、今この場で強硬手段に出るというならもう1人“七武海(しちぶかい)”を落とされる覚悟をしておくんだね…。」

『何だと?!』

 ジャスミンに気圧(けお)され、反応出来ないバーソロミュー・くまに代わって告げられたジャスミンの言葉に、通話の相手が気色(けしき)ばむのが分かる。

「取引しない?今この場にいる全員を見逃すというなら、私もバーソロミュー・くまに手は出さない。モリアの件にも口を(つぐ)もう。下手に自分の悪名(あくみょう)を広げたいとも思わないしね。――――――でも、それでも強硬手段に出るなら、こっちも遠慮はしない。この場でバーソロミュー・くまを“七武海(しちぶかい)”から引き()り落とす。」

『小娘が一端(いっぱし)の口を……!!』

「まぁ、私も今は本調子じゃない。今戦ったら私も相当の痛手を負うだろうけど、そんな状態で上手く手加減出来るかどうかは自信無いんだ。バーソロミュー・くまも無事じゃ済まないだろうね。――――――1日で天下の“七武海(しちぶかい)”を2人も落とされた、なんて不名誉を世間(せけん)に積極的に流したい、って言うなら別に良いけどね。」

『小娘がァ……!!!』

「………。」

 いきり立つ通話相手とは対照的に、バーソロミュー・くまはジャスミンから目を離さないまま、沈黙を保っていた。

 一方ジャスミンとしても、取引と言いつつも世界政府が()()に応じる可能性は低いと考えていた。流石(さすが)に世界政府が、自分で言っては何だがこんな小娘の良いようにされる事を良しとするとは思わない。

 ()えて挑発(ちょうはつ)するような言葉を選んだのも、最初の標的を自分にする事さえ出来ればこの場を(しの)げると考えての事だ。

 先程の邂逅(かいこう)垣間(かいま)見たバーソロミュー・くまの能力と移動速度は(あなど)れない。ただの能力者相手ならばまだしも、見たところ身のこなしにも(すき)が無く、能力を差し引いても相当な実力者である事が分かる。モリアのように自身の能力を過信しているような相手ならばまだしも、バーソロミュー・くまはそういうタイプでは無いだろう。

 全快しているならともかく、今の自分のコンディションではかなり苦戦させられる事は間違い無いが、負けるとは思わない。能力にさえ気を付ければ勝てない相手では無い。唯一の懸念(けねん)は、自分(ジャスミン)以外の人間が狙われる事である。

 特に、今回さしてダメージを負わなかった“麦わらの一味”は率先して戦おうとするだろう。

(彼らが戦うのは、まだ早い…。)

 “麦わらの一味(彼ら)”とバーソロミュー・くまとぶつかったなら、間違い無く負ける。今の段階で“麦わらの一味(彼ら)”が勝てる確率など万に一つも無い。事実、原作でもシャボンディ諸島で戦った際には()(すべ)も無かった。

 シャボンディ諸島の際には能力で“麦わらの一味(彼ら)”を逃がしていたくらいだから、今回ももしかしたら逃がすつもりなのかもしれないが、そうとは限らない。今後の流れも考えた場合、一味を離反させるなら原作(本来)の流れに沿わせるのが最も良いだろう。

 この場で“麦わらの一味(彼ら)”に手を出させる訳にはいかなかった。可能ならば、この場でバーソロミュー・くまを足止めし、倒してしまうのが1番良い。

 ジャスミンが内心で思いを巡らせつつ、相手側の出方を(うかが)っていたのは、時間にしておよそ数秒程度。ジャスミンだけでなく、バーソロミュー・くまも通話相手を(うかが)うように手にした電伝虫を注視していた。

『………良いだろう…!だが、もしお前たちの口からモリアの敗北を洩らす者がいたならば、その時は覚悟しておくが良い!!ブツッ…!』

「「!」」

 (うな)るような声で言い放たれ、そのまま切れた通信にジャスミンとバーソロミュー・くまが目を(みは)る。

(自分で持ち掛けといてなんだけど、乗るんだ…。)

 数秒間の熟考(じゅっこう)の間にどんな葛藤(かっとう)があったのかは知らないが、予想外に乗った通話相手にジャスミンが思わず内心で突っ込む。

 バーソロミュー・くまでさえ一瞬微妙な顔をした。

「…じゃあ、さっさとここから立ち去って欲しいな。もう用は無いんだろう?」

「…そのようだ。」

 何となく微妙なままの空気の中、水を向けたジャスミンに手持ち無沙汰(ぶさた)になってしまったバーソロミュー・くまも反論する事無く頷く。

 そしてそのまま自身の能力でパッとその場を後にした。

「……戦わずに済んだのは助かったけど、何だかなぁ…。」

 何となく拍子(ひょうし)抜けしてしまったジャスミンの呟きが、やけに周囲に響き、消えた。

 



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閑話4 世界政府の要!“五老星”の意志

お待たせしました!
本編でなくてすみません…。
世界政府サイドの話を入れようとしたら以外と長くなってしまった為、分けました。本編はもう少しお待ちください…。

お気に入り登録、ご感想などいつもありがとうございます!


 ――――――――時はわずかに(さかのぼ)る。

 “赤土の大陸(レッドライン)”は聖地マリージョアに位置する、世界政府本部。その中で最も奥の、1番の広さを持つ部屋に5人の老人がいた。老いてこそいるものの、未だ眼光鋭く他者を威圧させる雰囲気を持つ彼らこそ、世界政府の最高権力“五老星(ごろうせい)”である。

『プルプルプルプル…!プルプルプルプル…!プル、ガチャッ……!』

 中心に置かれたテーブルの上の電伝虫が鳴り響き、その中の1人である頭に(あざ)のある白いひげの男が受話器を取る。

『こちら、くま。』

 物静かを通り越し、むしろ感情の起伏(きふく)(とぼ)しい男の声が響く。

『報告する。ゲッコー・モリアが落ちた。』

「何?!」

「何だと…!?」

「まさかモリアが…。」

「悪い予感が的中したという訳か。」

 通話相手、“七武海(しちぶかい)”の1人‐バーソロミュー・くまからの報告に、受話器を取った(あざ)の男以外にもその場にいた全員が(にわ)かに騒然とする。

『―――――そのようで……!!』

 苦々しく顔を歪めながら、バーソロミュー・くまにその場に居合わせた海賊たちの始末を命令した直後だった、その声が響いたのは。

『させないよ。』

「誰だ?」

「女の声?」

 突然電伝虫が吐き出した、若い女の声に“五老星(ごろうせい)”たちの中にわずかに動揺が走ったが、直後のバーソロミュー・くまの発言でその正体はすぐに明らかとなった。

『“中将殺(ちゅうじょうごろ)し”のジャスミン…?!』

「何!?」

「こいつが…?!」

『この場の全員を殺す?そんな事を私がみすみす許すと思う?』

『ぐっ…!』

「くま?!何があった!?」

 ジャスミンの声の直後に、苦し気に(うめ)いたバーソロミュー・くまに“五老星(ごろうせい)”の間に緊張が走った。今の一瞬でバーソロミュー・くままでも落とされたのか、と。

『1つ言っておく。その電伝虫の向こうにいるのが誰かは知らないけど、今この場で強硬手段に出るというならもう1人“七武海(しちぶかい)”を落とされる覚悟をしておくんだね…。』

「何だと?!」

 放たれた挑発に、“五老星(ごろうせい)”の中で最も短気な(あざ)の男が気色(けしき)ばむ。

『取引しない?今この場にいる全員を見逃すというなら、私もバーソロミュー・くまに手は出さない。モリアの件にも口を(つぐ)もう。下手に自分の悪名(あくみょう)を広げたいとも思わないしね。――――――でも、それでも強硬手段に出るなら、こっちも遠慮はしない。この場でバーソロミュー・くまを“七武海(しちぶかい)”から引き()り落とす。』

「小娘が一端(いっぱし)の口を……!!」

『まぁ、私も今は本調子じゃない。今戦ったら私も相当の痛手を負うだろうけど、そんな状態で上手く手加減出来るかどうかは自信無いんだ。バーソロミュー・くまも無事じゃ済まないだろうね。――――――1日で天下の“七武海(しちぶかい)”を2人も落とされた、なんて不名誉を世間(せけん)に積極的に流したい、って言うなら別に良いけどね。』

「小娘がァ……!!!」

 いきり立つ(あざ)の男から受話器を取り上げ、長い白髪の男が口を開いた。

「………良いだろう…!だが、もしお前たちの口からモリアの敗北を洩らす者がいたならば、その時は覚悟しておくが良い!!」

 そう言い放って通話を切った白髪の男に、(あざ)の男が食ってかかる。

「どういうつもりだ!?」

「…もし、バーソロミュー・くまも落とされてしまったなら、それこそ世界政府の失態。辛うじて保てている三大勢力の均衡(きんこう)は崩れ、海賊共への抑止力は地に()ちるだろう。そうなれば、どうなるか…。ましてや、今は1()()()()()()()()()()()()なのだ。それが減る可能性がわずかにでもあるのならば、今は目の前の些事(さじ)に構っている場合では無い。」

「その通りだ。今は多少のプライドを曲げてでも戦力を維持しなくては。」

 白髪の男の説明に、金髪の男も同意する。

「それよりも今考えねばならんのは、モリアの処分をどうするかだろう。仮にあのジャスミンという娘や、他の者たちが漏らさなくともそうした情報はいつかは漏れてしまうもの…。1度落とされた者に、既に抑止力は望めまい…。()が終わったなら、モリアを解任し別の適任者を引き込んだ方が良いのではないか?」

「うむ…。抑止力を失った“七武海(しちぶかい)”など不要。それに、()もこのまま我を通すようなら解任せざるを得まい。いっその事、そのジャスミンをこちら側に引き込んではどうだ?モリアを下したと言うなら、資格も充分だろう。」

 黒い帽子を被った巻き毛の男が議題を変えれば、眼鏡をかけた着物の男が続ける。

 彼らの議論はその後も続いた。

 何故、彼らが戦力を必要としているのか、それは今後明らかにされていくだろう。

 

 

 



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第43話 ジャスミンの考察

お待たせしました!第43話更新です。
今回、やたら長いです。
伏線回収しようとしたら、異様に長くなりまして…。
何はともあれ、お付き合いください。

ご感想、お気に入り登録などありがとうございます!!


 ━バーソロミュー・くまの撤退から半日後━

 あちこちが崩れ、中もめちゃくちゃになっているメインマストの屋敷内を、ジャスミンが()()()を探して各部屋を(しらみ)(つぶ)しに回っていた。

 “麦わらの一味”は一旦自分たちの船に戻り、“ローリング海賊団”は中庭で日光浴をしつつ数年ぶりの太陽を満喫(まんきつ)していたが、一先(ひとま)ずの騒動が終結した以上、ジャスミンには何を置いても優先しなければならない事があったのである((ちな)みにジャスミンも一旦サニー号でチョッパーの治療を受けた)。

「どこに隠したんだろ…?」

 (ひと)()ちつつモリアの部屋やダンスホールを家探(やさが)しするものの、なかなか目的の物が見付からない。

 あのマフィアの男に奪われたドラゴンボールとウェストポーチが、どこを探しても見付からないのだ。モリアのような性格ならば、大事な物は自分のテリトリーに隠しているものとばかり思っていたのだが…。

「ここに無いって事は、宝物庫(ほうもつこ)かどこかに移した…?」

 こんな事なら、モリアを叩き起こしてドラゴンボールの在処(ありか)を吐かせるんだった、とジャスミンが溜息を()く。

 既にモリアは気絶したまま部下2人の手によって別の船に乗せられ、スリラーバークを出航している。目を覚ましても面倒なので、モリアをこそこそと運び出す部下たちを黙って見逃がしたジャスミンだったが、今となっては早計(そうけい)だったかもしれない。

 今からでも追いかけた方が良いだろうか、とジャスミンが思案していた時の事だ。

「ジャスミ――――ン…!どこ――――…?」

 不意に中庭の方からナミが呼ぶ声が響く。

「な―――――に――――――?ナミちゃ――――ん?!」

 呼び声に応じ、ジャスミンもテラスから顔を出す。

「あ!いたいた。ジャスミン!!これ、あんたのでしょ――――?!」

 見ればナミが中庭から手を振っているが、その足元には見覚えのあるアタッシュケースと、手には愛用のウェストポーチが握られていた。

「それ!?」

 目にするなり自身の物に間違い無い事に気付く。

 バッと、そのままテラスから身を(おど)らせ、中庭へと着地する。

「それ!どこにあったの?!」

 着地したその勢いのまま、ナミへと駆け寄る。

「やっぱりあんたのだったのね?誰の仕業(しわざ)かは知らないけど、あたしたちの船に他のお宝と一緒に積んであったのよ。ドラゴンボールは全部(そろ)ってるみたいだけど、一応無くなってる物が無いかどうか確認した方が良いと思うわ。」

「ありがとう…!」

 ウェストポーチを受け取り、足元のアタッシュケースを開けた。ドラゴンボールが確かに7つ全て(そろ)っているのを確認した後、ウェストポーチの中を確認する。

 左手が使えないのでもどかしいが、何とかファスナーを開け、地面に中身を並べていく。

「えっとペンライトにケータイ、財布にドラゴンレーダーとカプセルケース…。」

 カプセルケースも中身を確認するが、全てのカプセルがそのまま残されていた。念の為にドラゴンレーダーを起動させるが、故障している様子も無く、正確にドラゴンボールの位置を示しているのが分かる。

 ついでに財布の中身も確認するが、ゼニー札の他にこちらの世界で手に入れたベリー札も抜かれている様子は無かった。あのマフィアの男も、ジャスミンから荷物を取り上げたもののドラゴンボール以外には注意を払わなかったようだ。モリアにしてみても、取り()えずドラゴンボールが手に入れば他の物などどうでも良かったのだろう。

「良かった、全部あるし壊れた物も無いみたい…。」

 無事に見付かった事に安堵(あんど)し、中身を再びウェストポーチに詰め直す。

「良かったじゃない!じゃあ、これで元の世界に帰れるってことね?」

「うん。長かった…。」

 これまでの半年間を思い出し、軽く溜息を()く。

「ところで、いつ帰るつもりなの?もしかして、今日これから…?」

「ううん。ナミちゃんたちはともかく、あまりドラゴンボールを使うところを人目に(さら)したく無いから、適当な無人島でも見付けるつもり。取り()えず、夜になるのを待とうかと思って。」

「だったら、一緒にご飯食べましょ。このままはい、サヨウナラ、じゃあんまりだわ。それに、バーソロミュー・くまがサイボーグだって話、まだ詳しく聞いて無いもの。」

「それは私も気になるわ。」

 ナミの言葉に被せるように、その後ろからロビンが現れる。

「私には分からなかったけど、どこで()()だと判断したのかしら?」

 感情の読めない笑顔を浮かべつつ、ロビンがジャスミンを見詰める。

「ああ、それは…。」

 ジャスミンがそれに答えようとした時だった。

「お―――――い!ナミさん!ロビンちゃん!それとジャスミンちゃん!メシの準備が出来たよ―――――!!」

 ナミたちの後ろから、サンジが呼びかける。それを受け、ジャスミンの腹部がキュルルル…、と切なげな音を立てた。

「あ…。」

 右手で腹部を押さえつつ、恥ずかし気に(ほお)を染めて(うつむ)くジャスミンに、ロビンが思わず(ほお)を緩める。

「ふふっ。続きは食べながらにしましょうか。」

「そうね。特にジャスミンはウォーターセブンを出てから何も食べて無いんでしょ?まずは腹ごしらえね。」

「…はい。」

 (ほお)を染めつつ、ジャスミンがナミたちの後に続く。

 

「「「「「いただきま―――――――す!!!」」」」」

「んんんめ~~~~~!!!」

「こんなうめェ料理食った事ねェ!!!」

「まともなメシすら何年振りだよおれたちァ~~~~!!」

「生きてて良かったァ~~~~~!!」

 晴天の下、並べられたサンジ手製の料理を“ローリング海賊団”や骸骨紳士‐ブルックが嬉々として(むさぼ)っている。無論、“麦わらの一味”も負けじと食べているが、長年まともなものを食べていなかった彼らの勢いはそれほど凄まじかった。

 丸2日に渡って強制的な絶食状態だったジャスミンも、サンジが別メニューとして出してくれたスープをゆっくりと(すす)っていた。ジャスミンを再度診察したチョッパーにより、しばらくは消化の良いものを食べさせた方が良い、と診断された為だ。

 ジャスミン自身が考えているよりも、丸2日に渡る絶食と暴行は彼女の体に負担をかけていたのである。自覚するよりも先に点滴と睡眠である程度回復してしまったのが悪かったらしく、戦闘時のアドレナリンも手伝い本人も気付かなかったのだが、バーソロミュー・くまを追い返した後で気が抜けたのか貧血を起こして再度点滴された程だった(そんな状態で無茶をやらかしていたからこそ、チョッパーがあれ程怒ったのだが)。

 温かいスープを(すす)りながら、ほっと息を()く。空腹を自覚した途端(とたん)どっと疲労が押し寄せていたのだが、温かいものを飲んだ事で体も温まり、それだけでも体が()えるようだった。

「ふぁ…あふ……。」

 しかし、体が温まってきた事で急激に睡魔が襲ってくる。未だ回復し切っていない体は休息を欲しているらしい。

 眠い目を(こす)りつつ、完全に意識が落ちる前に、と話を切り出す。

「それで、ばーそろみゅー・くまのはなしでしたっけ…?」

 ……眠気で頭がフラフラと揺れている上に、かなり舌っ足らずになってしまったが。

「ジャスミン、あんた眠いなら寝ても良いのよ?」

「うふふっ…。」

 律儀(りちぎ)に説明しようとするジャスミンにナミが呆れたような声を出し、ロビンは微笑(ほほえ)まし気に笑う。

「だいじょうぶ…。ふぁ…。私が人の気配で位置とかざっくりとした体調が分かるっていうのは、ナミちゃんは知ってるよね?」

 もう1度大きな欠伸(あくび)をすると、先程よりも幾分(いくぶん)かはっきりとした口調となったジャスミンが続ける。

「ええ、聞いたわ。」

「細かい説明するとややこしい上に長くなるから(はぶ)くけど、私たちはそれを“気”って呼んでる。」

「“気”?」

「はい。気配、オーラ、生命エネルギー…。呼び方は様々ですけど、大元は一緒です。それは生き物なら必ず持っているもの。私の故郷では、極一部の優れた武道家はそれを自在に操る(すべ)を持っています。」

 以前ナミには簡単に説明していたが、本題に入る前に再度ロビンにも説明しておく。

「例えば、“気”を圧縮して体外に撃ち出す“気功波(きこうは)”。体内の“気”をコントロールしつつ放出し、自由に空を飛ぶ“舞空術(ぶくうじゅつ)”。他にも離れた場所にいる相手の“気”を感じ取って瞬時にその場所に移動したり、他人の傷を(いや)したり…。人によって活用方法は様々ですけど、この技術の応用の1つに、特定の相手の居場所を感じ取ったり、敵の強さを測るものがあるんです。本題に入る前に、取り()えずそれを前提として覚えていてください。」

「今わざわざそれを説明するって事は、バーソロミュー・くまの話と関係があるって事なんでしょ?」

「うん。それを説明する為にもう1つ説明しなきゃいけないんだけど…。」

 ナミの質問に同意しつつ、話を続ける。

「実は、私の知り合い…。正確に言うと父の友人の奥さんなんだけど、()()()()()()()()()なんだよね。」

「「え?」」

 ジャスミンの衝撃な発言に、思わず2人も一瞬言葉を失う。

「その人は昔ある科学者に無理やり改造されてサイボーグになったんだけど、その時に体のほとんどを改造されたからか、その人には()()()()()()んだ。いや、正確に言うと()()()()()()()()()()、って言った方が正しいかな?」

「さっき、生き物には必ず“気”がある、と言っていたと思ったけど、その人には無いというのはどういう事かしら?」

 真剣な顔付きになったロビンが姿勢を正す。

「ここからは私の仮説が入るんですけど…。“気”とはあくまでも肉体に宿るもの。サイボーグとして改造された時点で、その人の肉体のほとんどは生来のものでは無く、人工的な生体パーツに代わっています。自我はそのままらしいですし、日常生活も全く問題無く送れていますが、体のほとんどは人工物なんです。主要の脳や内臓のいくつかはそのままらしいですけど、生身の肉体がそれだけじゃ他者が感じ取れる程の“気”を発していない…。極論になりますけど、つまり()()()()()()()()()()()()()()から、“気”を感じ取れない、という事じゃないでしょうか。以前、体内にエネルギーを作る装置が埋め込まれているから、本当は食事をしなくても大丈夫という話を本人から聞きました。お腹は空くけど、別に食べなくても死なないんだって…。だから、だと思います。…すみません、上手く説明出来ないや…。」

「いいえ。何となくだけど分かったわ。今の話を踏まえると、バーソロミュー・くまにも()()()()()()()()のかしら?」

 肩を落とすジャスミンにロビンが軽く微笑(ほほえ)みかける。

「いえ。正確に言えば“気”はありました。でも、()()()()()()()んです。……フランキーさんと同じように。」

「フランキーと同じ?」

「そういえば、あんたフランキーの事聞いてきたもんね?誰が改造したのか、とか…。」

 ナミが思い出したように呟く。

「もし、この世界にサイボーグ技術が普及しているなら厄介な事になるな、と思って。フランキーさんと初めて会った時も思ったんだけど、“気”は大きいのに()()()()()から、(とら)えにくくて…。」

「大きいけど薄いって良く分かんないんだけど?」

「何て言えば良いかな…?感覚的なものだから説明し辛いんだけど、フランキーさんも体の半分は機械で生身じゃないんでしょ?半分機械な分何て言うのかな、大きさの割に密度が少ない、って言ったら分かる?本来なら、フランキーさん位“気”が大きいならもっと力強く感じる(はず)なんだけど、変に弱々しいというか…。」

「良く分かんないけど、サイボーグの“気”?が特徴的、っていうのは分かったわ。」

 …自身の感じた感覚を何とか言語化しようと試みるジャスミンだったが、ナミには通じなかったようだ。

「うん、まぁそこが分かってもらえれば良いや…。」

 完全に理解出来るのは、ジャスミン同様に“気”を感じ取れる者だけだろうと思っていたので、取り()えず肝心なところが通じれば良いや、と途中で説明を諦め、欠伸(あくび)を噛み殺す。

 説明し終わった達成感もあり、いつの間にか始まった大合唱をBGMに、ジャスミンの意識が徐々に遠退(とおの)いていく。何とか意識を繋ぎ留めようとはするものの、既に緊張感の切れた状態では不可能だった。

 

 ふっ、と意識が浮上する。

「あれ…?」

 目の前に広がる天井に、ここどこだっけ…?とまだポヤッとしている頭を必死に働かせるが、自力で答えに辿(たど)り着く前にほぼ答えの声が響く。

「ジャスミン!起きたのか?」

 とてててっと可愛らしく走り寄ってきたのは、“麦わらの一味”が誇る船医‐チョッパーだった。

「ちょっぱーくんがいるってことは…、ここはルフィくんのふね……?」

「おう!お前体力が限界だったみたいで寝ちゃったんだよ!!放っとく訳にもいかないからサニー号に運んだんだ。」

「うわ―――――――。ご迷惑おかけしました…。」

 身を起こしつつ頭を下げる。どうやら再び医療室に寝かされていたようだ。

「私どれ位寝てた?」

 やけに頭が重く、体の節々が痛い。丸1日寝てた、というオチじゃ…、と恐る恐るチョッパーに尋ねる。

「3日だ。」

「……………………ごめん、もう1回。」

「だから3日だって。」

「………マジ?」

「マジ。」

 重々しく頷かれ、事実と悟る。

「だから言っただろ。それだけ体に負担がかかってたんだぞ!!」

「ごめんなさい。」

 再び説教が始まりそうだった為、すぐ様謝る。

「まぁ、分かってるなら良いけど…。それより腹減ってないか?サンジが、いつジャスミンが起きても良いようにスープ作ってくれてるぞ!!」

 キュルルル…!

「…減ってる。」

 現金なもので、スープと聞いた途端(とたん)に自己主張する腹部を押さえ、頬を染めつつ頷く。

「良し!じゃ、用意してもらって来るから待ってろ。そうだ。待ってる間に風呂入るか?」

「え?お風呂あるの?」

 ぜひ入りたい。ウォーターセブンを出てから入れていない為、髪もベタベタで臭いも気になる。

「おう!サニーの風呂は広いぞ!!」

「迷惑じゃなければぜひ。」

「じゃ、ロビンかナミに用意してもらって来るから待ってろよ!!」

「うん。」

 その後、数分で戻ってきたチョッパーに案内され、汗を流す事が出来た。さすがに起きたばかりの為、浴槽に入る事は許されずシャワーだけだったが、生き返る心地だった。

 そして。

「色々とご迷惑をおかけしたみたいで…。すみません、ありがとうございました。」

 食堂にて勢揃いした“麦わらの一味”に謝罪する。

「おう!気にすんな!!」

「こっちこそ助かったからな。」

「色々助けてもらったからお返しよ。」

 ルフィ、ウソップ、ナミを始めにそれぞれ好意的に返してくれた。

「気にする事ねェよ。それより、腹減ったろ?座ってくれ。」

 サンジもジャスミンに椅子を勧め、スープをよそってくれる。

「アウ!まずは食えよ。3日も寝っぱなしじゃ腹減ってるだろ。」

「まずは食べましょう。若いお嬢さんが食べないままは体に悪いですから。ヨホホ!!!」

「うふふ。」

 年長組(フランキー、ブルック、ロビン)の気遣いに恐縮しつつ席に着く。(ちな)みに、ブルックとはバーソロミュー・くまを追い返した後に自己紹介し合っている。

 チョッパーはニコニコとジャスミンを見守っているし、ゾロもウォーターセブンで見せていた警戒は取り去ったようで、好意的とまではいかないが険の無い眼差しをジャスミンに送っていた。

 

 どことなく気恥ずかしい思いをしつつ、食事をいただいた1時間後。

 ジャスミンと“麦わらの一味”は甲板に出ていた。

「じゃ、始めるね。」

「おう!!わっくわくすんな!!!」

 “麦わらの一味”からやや離れた所に立ったジャスミンが、手にしたアタッシュケースを開き、ルフィに断る。ルフィを始め、“麦わらの一味”の興奮もピークに達していた。

(やっと帰れる…。)

 ジャスミンも興奮を抑え、口を開く。

()でよ神龍(シェンロン)!!!そして願いを叶えたまえ!!!!!」

 カッ!!!!

 アタッシュケースに納められた7つのドラゴンボールが(まばゆ)く光り、昼間にも関わらず空が暗く(かげ)った。

 神龍(シェンロン)が、現れる―――――――――。

 

 

 




用語解説
・18号…以前も紹介した、クリリンの妻でマーロンの母。永久エネルギー炉を持つ人造人間(サイボーグ)で、クリリンより強い。

作中のサイボーグ及び18号についての解釈について
・ドラゴンボール世界において、“人造人間(サイボーグ)”は“気”が無い、と明言されている為、ワンピース世界とつり合いを取らせる為に独自に解釈しております。また、それを強調する為に原作では描写の無い「18号は永久エネルギー炉により、本来食事を必要としない」というねつ造設定を付けさせていただきました。
ドラゴンボール世界の正史(未来トランクスの世界)において、17号と18号が食事をしている描写が無いこと。+破壊にも遠慮が無い為、食料などの心配を一切していない(食品工場や生産する人間に気を使うような描写が無い)という点から解釈させていただきました。
賛否両論あると思いますが、二次創作という事でご了承くださいませ。


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第44話 神龍降臨!ジャスミンの願いの行方

お待たせしました!
第44話更新です。
お気に入り登録、ご感想ありがとうございます!

それでは本編へどうぞ!


()でよ神龍(シェンロン)!!!そして願いを叶えたまえ!!!!!」

 カッ!!!!

 ジャスミン叫びを受け、アタッシュケースに納められた7つのドラゴンボールが(まばゆ)く光り、昼間にも関わらず空が暗く(かげ)った。

「空が暗くなった!?」

「しまった…。夜になるのを待つべきだった……。」

 ウソップの叫びに、ジャスミンが自身の失態を悟る。実際に神龍(シェンロン)()び出したのを見たのは10年近く前だった為、すっかり失念していた。

 が、もう遅い。

 バシュ―――――――――――ッ!!!

 ドラゴンボールから一筋の光が放たれ、空へと伸びていくのに、“麦わらの一味”が息を()む。

 バチバチッ!!!

 バチッ!!

 空に伸びた光は、激しくスパークしながら徐々にその姿を変えていく。

「あ…!あぁ……!!」

「りゅ、龍!?」

「ス、スッッッゲ――――――――ェ―――――!!!」

 ズオォオオオ……!!!

 完全に姿を現し、空一面を覆いつくすようにうねり、蜷局(とぐろ)を巻く龍の姿を目の当たりにし、チョッパーが思わず後退(あとずさ)りナミの声が裏返る。一方で、ルフィのテンションは(うなぎ)登りである。

『さあ、願いを言え。どんな願いも3つ叶えてやろう…。』

 神龍(シェンロン)威厳(いげん)に満ちた声が周囲に響く。

「3つ!?叶う願いは2つじゃ…?」

『地球の神が代替わりした当初はそうだったが、(のち)に強化され3つとなった。』

 記憶と異なる神龍(シェンロン)台詞(せりふ)にジャスミンが声を上げるが、それは神龍(シェンロン)自身によって訂正された。

 しかし、ジャスミンのその認識もあながち記憶違いでなかった事が、次の神龍(シェンロン)の言葉で明らかとなる。

『だが、1つ目の願いで多くの人間を生き返らせた場合は、叶えられる願いは2つに減少する。』

「あ~…、そういう事だったのか…。」

 前回、ジャスミンが神龍(シェンロン)を見たのは、およそ10年前。天下一武道会の会場でベジータに殺された者たちを生き返らせた時だ。それが半端に記憶に残っていた事で勘違いしたらしい。

「じゃあ、まずは私がこの世界に来た日から今日までに死んだ、極悪人以外の人たちを生き返らせてその人たちが安全に生活出来る場所に送ってください!!」

老衰(ろうすい)(やまい)で死んだ者は、それがその者の寿命(じゅみょう)…。その者たちは生き返らせる事は出来んぞ…?』

承知(しょうち)しています!」

『それならば可能だが、数が多いので時間がかかる。少し待っていろ…。』

「お願いします!」

容易(たやす)い事だ。』

 カッ……!

 神龍(シェンロン)の深紅の目が一瞬光を放ち、1つ目の願いを叶えるべく力を集中させていく。

「ちょ、ちょっと待って…!今、死んだ人間を生き返らせるって言った?!」

 ジャスミンが願った1つ目の願いに、ナミがジャスミンへと詰め寄る。

「うん。バスターコールで助けられなかった人たちや、スリラーバークで助けられなかった人たちがいるから…。」

「そうじゃなくて!!!ド、ドラゴンボールって死んだ人間も生き返らせる事が出来るの?!」

「ッホントかよ?!」

 ナミの矢継ぎ早の質問に、ウソップも食い付く。他の、それぞれ大切な人間を失った者たちも目の色を変える。

「色々制限はあるんだけどね…。」

 ジャスミンも、それを察し、言い辛そうにしつつも説明する。

「ドラゴンボールで生き返らせる事が出来るのは、過去1年以内に死んだ場合のみなの。1年を超えると生き返らせる事は出来ないし、自然死、さっき神龍(シェンロン)も言ったように老衰(ろうすい)や病気で死んだ人間も生き返れない。」

「そう、なんだ…。」

 ジャスミンの説明を聞き、彼女の肩を(つか)んでいたナミの手から力が抜けた。

「もし、ナミちゃんたちの大切な人が亡くなったんなら、過去1年以内だったら今の私の願いで生き返る(はず)。でも、それ以上前に亡くなってれば、神龍(シェンロン)の力も及ばないから…。」

「あ、良いの良いの!気にしないで。」

 手を振りながら笑顔を作るナミだったが、その笑顔はやはりぎこちない。

 無駄に期待させてしまった事に多少の罪悪感を覚えつつ、何と言っていいものかも考えあぐねていたジャスミンだったが、不意に響いた神龍(シェンロン)の言葉に意識を戻す。

『1つ目の願いは叶えてやった。先程も言ったように、多くの人間を生き返らせた場合は、叶えられる願いは2つに減少する。最後の願いを言うが良い。』

 その言葉を受け、“麦わらの一味”へと向き直る。

「それじゃ、色々とお世話になりました…!」

「おう!元気でな!」

 ジャスミンの別れの言葉に、真っ先に反応したのはルフィだった。

「ルフィくんたちも、皆さんもお元気で。航海の無事を祈ってます。」

 一味を見渡しながら告げたジャスミンに、他の者たちも各々(おのおの)別れの言葉を告げる。

「お前も元気でな。」

「早くお父さんと会えると良いわね。」

「あんまり無茶するんじゃねェぞ!」

 ウソップ、ナミ、チョッパーが笑顔で告げ、

「まぁ、何だ…。色々悪かった。」

「おれもだ。疑ってゴメンな…。」

 ゾロが決まり悪そうに目を()らしながら謝罪し、サンジも苦笑する。

「もっとあなたの世界の話を聞きたかったわ。」

「早ェトコ父ちゃんを安心させてやれよ!」

「ヨホホホ!無事にご家族と再会出来る事をお祈りしますよ。」

 ロビン、フランキー、ブルックもそれぞれ笑顔で見送る。

「皆さんも色々とお気を付けて。」

 再度別れを告げたジャスミンが、再び神龍(シェンロン)に向き直る。

「それでは最後の願いを!私とドラゴンボール、そしてもし生き返ったのならあの男たち…!地球からこの世界に来た存在全てを地球の元いた場所に戻してください!!!」

 (ようや)く地球に帰る事が出来る、期待に胸を弾ませていたジャスミンだったが、次の瞬間絶望を味わう事となる。

『それは叶えられない願いだ。』

 

「え……?」

 神龍(シェンロン)が放った言葉を一瞬理解出来ず、二の句が継げないジャスミンに代わり、神龍(シェンロン)に食ってかかったのはナミだった。

「ちょっとどういう事よ!?どんな願いも叶えてくれるんじゃなかったの?!」

『私は地球の神によって創られた。よって創造主である神の力を超える願いを叶える事は出来ない。』

「そんな…。」

 絶望から脱力し、ジャスミンが膝から崩れ落ちる。

『しかし、叶えられるようにする方法はある。』

「え!?」

 ガバリ、と神龍(シェンロン)の言葉にジャスミンが顔を上げる。

『異なる世界同士の移動は容易(ようい)では無いが、本来ならば不可能では無い。しかし、今回は事情が異なる。』

「事情?」

『この世界そのものの時空間(じくうかん)が何者かによって歪められている。その原因を取り除く事が出来なければ2つの世界を行き来する事は出来ない。現に、私がドラゴンボールの中で眠っている間、ナメック星のポルンガの力を何度か感じている。』

「ナメック星の、って事はまさかお父さんたちが…?!」

『恐らく、お前と私を地球に()び戻そうとしての事だろう。しかし、ポルンガでさえ時空間が歪められた状態では完全にこちらの世界に干渉する事は出来なかったようだ。』

 父たちも自分の為に動いてくれている、その事実がジャスミンの心を軽くし、表情がわずかに明るくなる。

[ナメック星って何だ?]

[ジャスミン大丈夫かな…?]

[じくーかんって何だ?]

[しっ!静かに…。邪魔しちゃダメよ…。]

 背後でウソップ、チョッパー、ルフィが小声で話しているのが分かるが、ジャスミンに答える余裕が無いのが分かったのか、ロビンが(たしな)めてくれた。

 その間に、ジャスミンは帰る方法を見付ける為に知恵を絞る。

「では、その原因を取り除いてもらう事は出来ますか!?」

『それも出来ない。私の力ではその者たちには及ばない。その者たちがどこにいるのか、何人いるのか、時空間(じくうかん)を歪めた方法も分からない。分かっているのは、原因を作った者たちは複数いる事、そして私やお前と同じ世界から来た、という事だけだ。』

「私たちと同じ世界から…?」

『地球では無いようだが、同じ第7宇宙の存在である事は間違い無い。』

 神龍(シェンロン)の言葉に、ジャスミンに決して小さくない動揺が走る。

 神龍(シェンロン)の力が及ばない程の存在、それなのにジャスミンはこの半年間全くそれらしい気配を(つか)めなかったのだ。

時空間(じくうかん)を歪めた者たちを突き止め、その原因を取り除けば2つの世界への行き来は再び可能となる。』

 相手の目的も、人数も、強さも居場所すら分からない手探りの状況に思わず眩暈(めまい)がしそうだが、帰る為に何をすれば良いのか、という事が分かっただけでも重畳(ちょうじょう)と言っても良いだろう。

『それ以外の願いは無いのか?無いならば、消えさせてもらおう。』

「それなら…。仙豆(せんず)をください!」

 取り()えず体調を万全に戻さなくては。

容易(たやす)い事だ…。』

 再び神龍(シェンロン)の目が一瞬光り、直径20cm程の(つぼ)がゆっくりとジャスミンの(もと)へと下りてくる。

「あれ?こんなに?」

 てっきり1(つか)み位かと思ったのに、カポッと(ふた)を開けてみれば(つぼ)にぎっしりと仙豆(せんず)が詰まっている。およそ1000粒近く入っているだろう。確か仙豆(せんず)は1度に収穫出来る量に極端に限りがあり、かなり貴重な物だった(はず)なのだが…。

『サービスだ。…願いは叶えてやった。では、さらばだ…!!』

 カッ…!

 一瞬の強い光と共に、神龍(シェンロン)の姿が消える。

 ヒュ―――――――――――!!

 直後にアタッシュケースに納められていたドラゴンボールが空高く浮かび上がっていく。

 ヒュンッ!

 ヒュヒュンッ!

 ヒュンッ!

 浮かび上がったドラゴンボールは、それぞれ別の方向へと飛び去っていき、それと同時に空も元通りに明るくなる。

「……これからどうしようかなぁ。」

 静寂の下りた甲板に途方(とほう)に暮れたようなジャスミンの呟きが嫌に響いた。

 

 




用語解説
・ナメック星…デンデやピッコロの出身星。
・ポルンガ…ナメック語で“夢の神”を意味する、ナメック星の神龍。地球の神龍とはだいぶ違う姿をしており、数倍デカい。地球の神龍とは多少異なり、ポルンガの方が力が強いような描写あり。願いを叶える際にはナメック語で願いを伝える必要がある。
・仙豆…食べれば瞬時に体力回復、どんな怪我も治してくれる不思議な豆。1粒食べれば10日間は何も食べなくても大丈夫、と言われる程栄養豊富。
・時空間…時間と空間を混ぜた造語。はっきり言って語感で付けたので、ふわっと読んでもらって大丈夫です。

ドラゴンボールを使うと空が暗くなる為、名台詞「空が暗くなった!?」を言わせたいが為に昼間に使ったという裏設定あり(笑)。

ドラゴンボールで叶えられる願いの数については、アニメや映画などだとコロコロ変わるので、原作の設定を採用しました。
時空間を歪めてる奴らの正体と目的については、今後明らかにさせていただきます。

追記:大勢の人間を生き返らせる願いを叶えた事で、奴隷として死んだ人間のその後の安否を心配されている方がいらっしゃいましたので、生き返らせる時の条件に“その人たちが安全に生活出来る場所に送る”という一文を付けたさせていただきました。元奴隷たちのその後に関しては、そのうち閑話かどこかで紹介させていただきます。


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第45話 新世界への入口!シャボンディ諸島に向けて

お待たせしました!第45話更新です。
ドラゴンボールを使用した事について、様々なご意見をいただいていますが、それについてのジャスミンとワンピース世界の住人との意識の違いが明らかになります。
次回、あの人が再び登場予定です、がそこまで行けると良いな…。

お気に入り登録が2000人を超えました!どうもありがとうございます!
ご感想もありがとうございます!なかなか返信出来ませんが、全て読んでいます。
今後もよろしくお願いします!!


「ジャスミン。お前、これからどうすんだ?」

 肩を落としたジャスミンを気遣ってか、ウソップやチョッパーが、後ろでこそこそとどちらが最初に話しかけるかを押し付け合っている中、()えて空気を読む事をしないルフィがド直球にジャスミンに尋ねる。

[おいバカ、ルフィ!!]

[あんたちょっとは気を使いなさいよ!]

 後ろで見ているウソップやナミの方がハラハラしながら小声で怒鳴り付けるが、短い付き合いながらルフィの性格を徐々に理解し始めたジャスミンは苦笑しただけだった。

「取り()えずは情報収集かな。この半年の間に現れた、身元不明の人間がいないかどうか…。雲を(つか)むような話だってのは分かってるけど、やらないよりはマシだろうし…。」

 あまりの手がかりの無さに、いっそ笑いが込み上げてきそうだ。

 思ったよりも大丈夫そうなジャスミンの様子に、チョッパーがおずおずと尋ねる。

「ジャスミン、あの龍に何をもらったんだ?」

「あぁ!これ?」

 仙豆(せんず)の入った(つぼ)を見せる。

「ちょうど良かった。神龍(シェンロン)がサービスしてくれたから、チョッパーくんにも分けてあげるよ。」

 カポッと(ふた)を取り、ジャスミンが中身をチョッパーに見せる。

「豆?」

 (つぼ)一杯に詰まっていた豆を見てチョッパーが首を(かし)げる。

「枝豆みたいに見えるけど、これ何なんだ?」

 その様子に、ナミやウソップ、ルフィたちも興味を()かれたのか周りからジャスミンの手元を(のぞ)きだす。

「これは仙豆(せんず)って言って、私の故郷ではカリン様っていう仙猫(せんびょう)様、つまり猫の仙人様が作っているありがたい豆なんだ。1粒食べれば、一瞬で体力を回復させてどんな怪我でも治してくれる薬なんだよ。病気には効かないのが難点だけど、怪我なら例え死にかけていたって全快出来る位にね。」

「ホントかそれ?!」

「ホント。」

 やはり医者の(さが)か食い付いたチョッパーに、実際に1粒食べて見せる。

 ポリポリと仙豆(せんず)を嚙み砕き、飲み込んだジャスミンが胸の前で釣っていた左腕を三角巾から外し、右手に“気”を込めて左腕のギプスを破壊する。

 ベキィッ!

 バラバラと砕けて甲板に落ちるギプスに、チョッパーが叫んだ。

「お前何やってんだよ!?」

「もう治ったんだよ。ほら見てみてよ。」

 そう言って差し出されたジャスミンの左腕に、チョッパーが異常が無いかを詳しく診察する。

「嘘だろ!?完全に腫れが引いてる…!」

「ね?」

「マジか、それ!?」

「嘘でしょ!?」

 ウソップとナミも驚愕するが、医師として医学に精通しているチョッパーの驚愕はもっと大きかった。

「な!?どェええええ!??どうなってんだこの豆?!」

「チョッパーくんに“麦わらの一味”全員分の仙豆(せんず)分けてあげるよ。万が一誰かに盗られたら困るし、まずは1人3粒位でどう?」

 1人あたり3粒の仙豆(せんず)をハンカチに(くる)み、チョッパーに差し出す。

「あ、ありがとう…。っじゃなくて!!」

「仕組みは私も一切知らないけどね。仙猫(せんびょう)様が作った仙薬(せんやく)だから、深く考えても分からないよ。」

 苦笑しながら言うジャスミンに、ルフィが「なるほど、不思議(ぐすり)だな!」と説明を一切理解しないまま完結させた。

「まぁ、それで納得してもらった方が簡単だと思う。」

 取り()えず納得してもらえたのならば良いか、とジャスミンがそれ以上の説明を諦める。

「ところで、それうめぇのか?」

「まずくは無いけど、そんなにおいしくもないよ。豆だから。」

「なんだ、んじゃ良いや。」

(もし、おいしかったら食べる気だったな…。)

 目をキラキラさせていたものの、すぐさま興味を無くしたように目を()らすルフィに苦笑する。

「それより聞きたいのだけれど、良いかしら?」

 不意に歩み寄ってきたロビンが切り出した。

「何でしょう?」

「1つ目の願いでこの1年で死んだ人間を生き返らせたのは何故?」

「…最初は“バスターコール”で死んだ海兵たちだけを生き返らせようとしたんです。彼らをみすみす死なせてしまったのは私のミスですから。でも、そうすれば()()()()()()()()()()()()()()()に利用される可能性がある。万が一にもそんな事をさせる訳にはいかなかったし、その願い方ではスリラーバークでモリアに殺された男たちは生き返れない。だから…。」

()えて世界中の人間に範囲を広げて、目を()らさせた?」

「そうです。世界中で同じ事が起こったなら、それは一種の()()に変わる。それに加えて、保険もかけましたから…。」

「“その人たちが安全に生活出来る場所に送る”事?」

「そうです。こっちの都合(つごう)で生き返ってもらった人たちを危険な目に遭わせる訳にはいきませんから。」

「……もう1つ聞いても良いかしら?」

「?他に何か?」

 神妙(しんみょう)な顔で続けるロビンに、ジャスミンが首を(かし)げる。

「スリラーバークでモリアに殺された男たちって事は、あなたを捕まえて拷問(ごうもん)にかけた奴らでしょう?その人たちまで生き返らせたのは何故?」

「ああ…。正確に言えば、彼らが本当に生き返ったかどうかは知りません。私が願ったのは、“私がこの世界に来てから死んだ、極悪人以外の人間の蘇生(そせい)”です。彼らにまだ更生の余地があるなら生き返ったでしょうし、骨の髄まで腐った悪人なら生き返れなかった(はず)です。もし、神龍(シェンロン)が彼らを生き返らせたなら私も彼らを許そうと思いました。彼らもモリアのテリトリーで生き残ろうと必死だったみたいですし…。それに、私の主観ですけど、少なくともリーダー格の男は殺される程の事はしていないように見えたので。」

「そう…。」

「っつ――――か、本当に生き返ったのか?」

「大丈夫だと思いますよ。ただ、心配なのは世界政府や裏社会の人間がどの程度()ぎつけるか、何ですよね…。うっかりドラゴンボールを昼間に使ってしまったので、神龍(シェンロン)が誰にも目撃されていなければ良いんですが…。」

 既に意識を“死者の蘇生”では無く、“世界政府と裏社会の動向”に移しているジャスミンを見て、ロビンとフランキー、ブルックの年長組は、ある種の危うさを感じ取っていた。

 自分がどれ程大変な事をしでかしたのかを全く理解していない、そう思ったのだ。

 その認識はあながち間違ったものでも無かったと言える。

 ジャスミンにとっては、自分のせいで死んだ人間がいるのならば生き返らせなければ、という認識しか無かったからだ。それがどんな混乱を巻き起こすのか、それを本当の意味で理解してはいなかった。

 幼い頃からドラゴンボールの奇跡を目の当たりにしていたジャスミンにとって、死者の蘇生は特別な事では無い。特にZ戦士たちにとっては、自らが関わった事件においての死者の蘇生とはある意味で義務のようなものでもあったからである。

 何故、元々は“常識的な考えを持つ日本人女性”だった(はず)のジャスミンが、世界中を巻き込むような騒動を起こしたのか、それは転生してから身を置いていた環境の影響が大きかった。

 ジャスミンも無論、頭では本来ならばあり得ない事である事は理解してはいた。しかし、自身もドラゴンボールによって生き返るという異例の経歴を持つが(ゆえ)。そして前世の記憶を取り戻す前から、父たちからその“奇跡”を繰り返し聞かされていた事により、いつしか自然の摂理とも言うべき部分が、本人も意識しないうちにその辺りの感覚が麻痺(まひ)していたのである。

 染まっていた、と言い換えても良い。

 いくら前世の記憶を持つ、と言ってもそれは既に朧気(おぼろけ)なもの。“知識”としては一定のものは残っているものの、実際に“経験”した、という認識は既に薄い。

 例えるならば、大人が幼少期の遠い記憶を(さかのぼ)るようなもの。“こんなことをした”“こんなことを思った”という事を覚えていても、その時の考えや感情を鮮明に思い出す事は困難である。

 記憶とは、常に新しいものへと塗り替えられていき、古いもの程消えていくもの。ジャスミンも、“ドラゴンボール世界”で生きるうちに、“かつての日本人女性”ではなく“ヤムチャの娘”としての意識が強くなっているのだ。もちろん、基本的な思考回路など、前世での影響を全く受けていない、とは言わない。しかし、それは既に“過去”として処理されており、一般的な人間が幼少期に受けた影響が性格に反映されているのと同じ(くく)りにある。

 そもそも、死者の蘇生自体がドラゴンボール世界では“世界7不思議”の1つに挙げられる程周知されている。ドラゴンボールによるものである事を知るのは極少数だが、(まれ)に起こり()る奇跡として世界中の人間に知られているのだ。15年近く非常識な人間や出来事に囲まれていれば、自身の常識もやや(かたよ)ってしまうのも必然と言えた。

 

 この意識のズレが、後にジャスミン本人に()()として回ってくる事になるのだが、本人は未だ知る(よし)も無かったのである。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「話は戻るけど、ジャスミン、あんた魚人島への行き方なんて知らないわよね?」

「?知ってるよ?」

 駄目元(だめもと)、というように尋ねるナミに、何を今更(いまさら)、とでも言いたげなジャスミンが答える。

「え!?」

「ん?」

 バッとジャスミンを振り返ったナミに首を(かし)げるが、次の瞬間ガシィッと肩を(つか)まれ、思わず身を(すく)ませる。

「わっ!」

「どうやって行くの?!」

「ま、まずはシャボンディ諸島で船をコーティングしてもらわないと…。」

 ナミの勢いに思わず気圧されつつ、自身が知る知識を教える。

「コーティング?」

「私も実物を見た事がある訳じゃないから詳しくはしらないけど、海底での航海を可能にする技術みたいだよ。魚人島は海底1万mの深海…。普通の船が行ける訳ないけど、コーティング船だけは行き来出来るって聞いた事あるから…。」

「シャボンディ諸島って?」

「“ヤルキマン・マングローブ”の樹の集まりで出来た諸島の事。その1本1本に町や色んな施設があって、“新世界”に行く人たちが集まる島だよ。」

「そこでコーティングってやつをするのね?でも、魚人島へのログが書き換えられちゃう事は無いの?」

「大丈夫。諸島って言ってもあくまでも樹の集まりだから、磁力は無いみたい。」

「なるほどね。ありがと、ジャスミン!お陰で進むべき道が分かったわ!」

「それは良かった。」

 生き生きとし始めたナミに苦笑しつつ、提案する。

「良かったら、先にシャボンディ諸島に行って、コーティング職人を探しておこうか?」

「コーティング職人って何だ?」

 ナミとの会話を聞いていたウソップが尋ねてくる。

「船をコーティングする職人さんだよ。コーティングっていうのは船全体をシャボン玉で包む特殊な技術らしくて、腕の良い職人じゃないと海底で航海してる最中にシャボン玉が割れちゃう事もあるんだってさ。」

「わ、割れたらどうなるんだよ?!」

「そのまま沈んじゃうみたい。」

「マジでか?!」

 途端(とたん)(すく)み上がったウソップに、ジャスミンが続ける。

「だから、コーティング職人選びが重要になってくるんだよ。腕の悪い職人に当たって途中で沈んじゃった船も星の数程いるらしいし…。大金が手に入る仕事だから、(ろく)な技術も無いままに真似事だけしてる悪質なコーティング職人もいるみたい。ほとんどの場合、失敗しても相手は海底でそのまま沈んじゃうから発覚しないだけらしいし。」

「「こ、怖ェ~!!」」

「ゾッとしないわね…。」

 ウソップとチョッパーが震え上がり、ロビンの顔も険しい。

「しかも、海軍本部が近いし、賞金稼ぎの数も尋常じゃないから、短期間ならともかく長期間の滞在は向かないんだよ。だから、コーティング職人探しで時間を取られちゃうとその分動きが後手に回る事になるしね。」

「そうか、そういう問題もあるのね…。」

「そう。だから、スムーズにコーティングを済ませられるように、職人を探しておこうか?」

「それは助かるけど…。こっからシャボンディ諸島までどれ位あるの?」

「だいたい船で1日半ってトコかな?」

「その間、あんた1人で大丈夫?」

「平気。船で行くより、1人で空を飛んでいった方が目立たないし、髪型や服装変えれば手配書が出回ってても意外と気付かれなかったりするもんだよ?」

「それならお願いしようかしら。島で会いましょ。」

「OK!じゃ、決まりね。」

 ナミとの話が纏まり、ジャスミンが立ち上がる。

 ジャスミンとしても、今後について少し1人で考える時間が欲しかったところであるし、反面何かしていた方が気が(まぎ)れるので都合(つごう)が良かったのだ。

「じゃ、シャボンディで会おうね!」

 ドシュッ………!

 言い置いて、勢い良く舞空術(ぶくうじゅつ)で飛び出す。

 コーティング職人に1人、心当たりが、あった。

 

 

 




用語解説
・カリン様…カリン塔と呼ばれる塔に住む仙猫。800年以上生きており、武術の達人。仙豆の栽培・管理をしており、悟空たちもたびたび世話になっている。


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第46話 集い来るルーキーたち

お待たせしました!第46話更新です。
さて、前回何となく予感していた通り、再会まで持っていけませんでした…(汗)
“最悪の世代”との絡みを期待している方々がいらっしゃいましたので、ちょっとニアミスさせてみました!
最後に登場した人物がわかる方はいらっしゃるでしょうか?一応ヒントは入れたので、そんなに難しくないとは思いますが、ぜひ予想してみてください!!


 ━シャボンディ諸島53番GR(グローブ)

 “サウザンドサニー号”から飛び立つ事およそ3時間。ジャスミンは夕闇に(まぎ)れ、シャボンディ諸島に上陸していた。以前手に入れた分布(ぶんぷ)図を参考に、コーティング職人を探す為である。

 コーティング職人の中で、最も腕の良い職人を探すべく、造船所やコーティング工場(こうば)の多いエリアに降りたのだが、間の悪い事に現在連日新聞を(にぎ)わせている海賊たちが多く上陸しているのに気付き、“ヤルキマン・マングローブ”の枝の間から下を見下ろしていた。

(何だってこんなに同時期に…。)

 上陸する前に上空から見下ろした際、やけに海賊船が停泊しているのを見て咄嗟(とっさ)に地面では無く樹の上に降りてそのまま身を隠したのだが、眼下に群れを成す海賊たちの姿に(まゆ)(ひそ)める。

 その中でも、コーティング職人らしき男を脅し付ける赤い髪の男の姿がジャスミンの目に留まった。“ルーキー”と呼ばれる海賊たちの中でも特に悪名(あくみょう)高い“キッド海賊団”船長ユースタス・“キャプテン”キッドに間違い無かった。

((うわさ)通りの粗暴(そぼう)さ…。下手に顔を合わせると厄介な事になりそう…。)

 無駄に(いさか)いを起こして海軍の目を惹くのは避けたい。このまま彼らが去るまで、樹の上でやり過ごそうと考えていた時だった。

「ん?」

(?!)

 “キャプテン”キッドの隣に立っていた仮面の男‐“殺戮(さつりく)武人(ぶじん)”キラーが、突然ジャスミンの隠れている枝を見上げ、ジャスミンが慌てて彼らの死角に入る。

「あ゛?どうした、キラー。」

 ドサリ、と胸倉を(つか)んでいたコーティング職人を離し、“キャプテン”キッドが(かたわ)らのキラーに問う。

「いや、誰かに見られているような気がしてな…。」

「何ィ?」

(ヤバッ…!)

 バッとキラーの視線を追った“キャプテン”キッドに、ジャスミンが内心焦る。

 別に争いとなっても負ける気はしないが、仮にもルフィよりも懸賞金が上の大物“ルーキー”である。大事になって海軍の目を惹くのは本意では無い。

「確かめるか…!」

 “キャプテン”キッドがジャスミンが隠れている辺りに向かって右手を突き出した。

(何をする気…?)

 ジャスミンが疑問に思ったその瞬間、バチィッと“キャプテン”キッドの右手が、何かが()ぜたような音を放つ。

 ジ…ジジ……!

 その途端(とたん)、左手の腕時計が微かなノイズを放ち、画面に乱れが生じた。製品の性能と保証にかけては世界一と(うた)われるカプセルコーポレーション製のデジタルウォッチである。去年の誕生日にもらったばかり、おまけに送り主であるトランクスが修行中でも着けていられるように、と特別頑丈(がんじょう)に改造してくれたものだ。何もしていないのに壊れる(はず)が無い。

 (いぶか)し気に時計を見つめていると、不意にその腕時計と腰に着けているウェストポーチがグイッと()()に引っ張られる。

「え…?!」

 よろけかけた体を咄嗟(とっさ)に踏ん張りながら、思わず声を上げてしまい、はっと口を(おさ)えた。

「!本当にいやがったか…!コソコソと()ぎ回りやがって、引き()り出してやるよ…!!」

 バチバチッ…!

 再び何かが()ぜたような音が響き、次の瞬間、グンッと引っ張られる力が急激に強くなる。

(マズい……!)

 不安定な足場では踏ん張るのも限界がある。左手ごと腕時計を引っ張られているだけでもバランスを保つのに精一杯なのに対し、ウェストポーチを引っ張られているせいで腰までもっていかれそうだった。

 何とか足を踏ん張り、右手で目の前の枝に抱き着いて耐えているが、引っ張る力はどんどん強くなっていく。

 舞空術(ぶくうじゅつ)で逃げようにも、引っ張る力が強過ぎる。体を浮かせようとした瞬間に、力負けして“キャプテン”キッドへと引き寄せられてしまうだろう。

(仕方無い…!)

 バシュッ…!

 右手で枝に力一杯抱き着いたまま、引っ張られている左手で何とか狙いを定め、気功波(きこうは)を放つ。

 ドゴッ!

「!何だ?!」

 放たれた気功波(きこうは)が“キャプテン”キッドの足元が(えぐ)れ小さなクレーターを作り、それに気を取られたのか引っ張られていた力が一瞬消えた。

 その瞬間、

(今だ……!)

 ドシュンッ………!!!

 ジャスミンがその(すき)を見逃す(はず)も無く、一気にスピードを上げた舞空術(ぶくうじゅつ)で上空へと逃れる。

 キイィイ………ン……!!

「ふう…。ここまでくれば大丈夫か……。」

 超高速で上空2000m程まで一気に上昇したので、“キャプテン”キッドたちにはジャスミンを目視する事は出来なかっただろう。

(それにしても、“気”は完璧に消してた(はず)なのに…。)

 流石(さすが)は億超え、と言ったところか。

 腕時計に目を落とせば、ノイズはすっかり収まり画面も元に戻っていた。ウェストポーチを確認すると、スマホがさっきの腕時計同様にノイズを発し、画面も一部がバグが発生したようにおかしい。

「げ…!まさか壊れた?!」

 慌てて音声認識のガイドアプリを起動させようとするが、応答は無く画面にタッチしても全く反応しない。一縷(いちる)の望みをかけて再起動をかけると、通常通りのホーム画面が現れる。

 先程とは異なり操作にも反応するが、念の為に機種の状態をセルフチェックするアプリを起動させ、本当に問題が無いかを確かめる。

 ピンポーン…!

『強力な磁気(じき)を感知しました。その影響で、一時システムに異常が発生しましたが、現在は全ての機能が復旧しています。』

 セルフチェック終了と同時にガイドアプリも復旧したらしく、音声で報告があった。

磁気(じき)?!そうか、だから時計とウェストポーチに入れてたスマホが引き寄せられて…。」

『発生の原因は不明。先程の磁気(じき)を解析し、システム保護の為のアプリを作成しました。』

「システム保護アプリ?」

『次にその磁気(じき)を感知した場合、データバックアップとシステム保護の為に自動的にシャットダウンします。』

「そのアプリが起動するまでの猶予(ゆうよ)は?」

磁気(じき)が発生してからおよそ0.07秒。磁気(じき)の影響範囲は半径200m以内と推定。』

「そのアプリが起動しても故障する可能性は?」

『半径100m以内の接近で14.9%。半径50m以内の接近で36.7%。半径2m以内の接近で56.3%。』

「…なるほど、近付き過ぎると危ないって事ね……。」

 出来るだけ“キャプテン”キッドには近付かない方が良さそうだ、と判断したところでガイドアプリを終了してウェストポーチに戻す。

 さて、これからどうするかと意識をコーティング職人探しに移した。

 今すぐにさっきの場所に戻る訳にはいかない。50番代のGR(グローブ)はシャボンディ諸島で最も造船所やコーティング工場(こうば)の多いエリアだが、今となっては違う番号のGR(グローブ)に行くのも危険だろう。“キッド海賊団”の人間がジャスミンを探している可能性が高い。

(と、なると…。もう1つの可能性に賭けるしか無い訳だけど………。)

 半年前に遭遇した老人を思い出す。

(出来ればあの人には会いたくないな……。)

 悪印象を持っている訳では無いが、あのテの()()()()タイプは正直(しょうじき)なところ苦手なのだ。おちょくられそうで。

「…そんな事言ってる場合じゃない、か……。」

 原作でサニー号をコーティングしたのがどんなコーティング職人だったかは覚えていないが、彼らがバーソロミュー・くまと交戦し、能力であちこちに飛ばしたのは覚えている。確かルフィだけが()()()()大暴れしていたのも。

(何でルフィくんだけあんなに大暴れしてたんだっけ?)

 何か、とても大事な事を忘れている気がするのだが。…正直(しょうじき)ワンピースの“原作”に関してはエニエス・ロビーの一件以降に関してはインパクトのある場面(シーン)を所々覚えているだけで、時系列や詳しい内容はほぼ覚えていないのだ。

 これがドラゴンボールに関する事なら、多少マイナーな初期の話も事細かに覚えているのだが…。

 何だろう、何か…

「何かやらかしてる気がする………。」

 何を失敗したのかは全く思い当たらないが、確実に何かをやらかした気がひしひしとする。

 それが自分が忘れている“原作”に関してなのか、何なのか…。

 ひとまず嫌な予感に目を(つむ)り、半年前に()った老人の“気”を探る事に専念する事にした。

 

 ━21番GR(グローブ)(無法地帯)━

(この辺の(はず)なんだけど…。)

 無法地帯だけあって、周囲が荒れているが、賭場(とば)や酒場などでそれなりに栄えている。土地柄海賊たちが多く集まるようで、手配書で見た顔がチラホラとジャスミンを(うかが)っているのが分かる。

 が、流石(さすが)にここまで辿(たど)り着ける海賊となると慎重な者が多いらしく、値踏みするような視線を送るものの直接ジャスミンに対しケンカを売るような真似(まね)をするような者はいなかった。

(あぁ、ここだ。…でも、ここって………)

 目当ての老人の“気”を探り当てたのは良いものの、よりにもよって賭場(とば)とは………。

(100%カモにされる未来しか見えない…。)

 出て来るのを近くで待っていた方が身の為のようだ。

 こと戦闘においてならそう簡単に遅れを取るつもりは無いが、ああいった場は独自のルールを有している場合が多く、賭け事などした事も無いジャスミンにとってはアウェイ過ぎる。

 一歩中に足を踏み入れればルールに従わざるを得ないが、懸賞金は高いとは言え強面(こわおもて)な訳でも特別体格が良い訳でも無い、まだ10代のジャスミンなど格好のカモだろう。

 これがナミのようにある程度場数を踏んでいるならともかく、ジャスミン自身中に入れば気圧されない自信は無い。“お(のぼ)りさん”よろしくカモにされるのはゴメンである。最悪の場合は身売りする羽目になるかもしれないのだから。

(仕方無いからどっかで時間潰そう…。)

 長丁場(ながちょうば)になるかもしれないから、先に近くのGR(グローブ)で宿を取った方が良いかもしれない、と一旦その場を離れようと(きびす)を返した時だった。

「なるほど…。“出逢(であ)うべき相手”というのはお前だったか。“中将殺し”。」

 不意に、ジャスミンの目の前に立ちはだかった男がいた。

 

 

 




用語解説
・スマホのガイドアプリ…お察しの通り、モデルはsi〇i。しかし、作者はi〇h〇neどころかスマホすら所持していないガラケー愛用者の為、ざっくりしたイメージのみで書いていますので、様々な矛盾にはスルーでお願いします。
カプセルコーポレーション製なら現代の科学では不可能な事が可能に違い無い、という作者の希望的観測により、ドラゴンボール世界のケータイには1台1台簡易的な人工知能が内臓してある設定にしました。ケータイというより、電話の出来るパソコンのイメージ。


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第47話 動き出す脅威

お待たせしました!第47話更新です。
前回のクイズ?でみなさん正解されていたので、そこが通じた事がとても嬉しかったミカヅキです。
さて、今回いよいよ“黒幕”についてチラッと出てきます。ある程度ヒントは出しましたが、前回よりも難易度は高いので正解される方はいらっしゃるでしょうか?
※オリキャラでは無く、既存のキャラクターをゲストとして登場させるつもりで話をさせております。ぜひ推理してみてください。


「はぁ?」

 急に目の前で意味の分からない事を言い出した男に、思わずジャスミンが素頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。

 無法地帯を歩くのだから、下手に変装して絡まれるよりも自分が“中将殺し”と分かった方が抑止力になるだろう、と()えてナミに告げていた前言(ぜんげん)を撤回し、変装も何もしていなかったジャスミンだったが、こんな“電波系”に絡まれるんだったらやっぱり髪型と服装だけでも変えるべきだっただろうか、と一瞬悩んだ。

 しかし、“電波系”かとも思ったその男に見覚えがある事に気付き、記憶を(さら)う。

「あなたは確か…。“魔術師”バジル・ホーキンス……!」

 長い金髪と独特の風貌(ふうぼう)。“北の海(ノースブルー)”出身の“ルーキー”、懸賞金2億4,900万B“魔術師”バジル・ホーキンスに間違い無かった。

「おれを知っていたか。」

「連日新聞を(にぎ)わせている“ルーキー”を知らない方がおかしいと思いますけど。」

()められている気はしないが…。」

 お前が言うな、とでも言いたげな顔をしたホーキンスだったが、溜め息を1つ()いて本題に入る。

「……“尋ね人の相”が出ているな。それも、お前自身も誰を探せば良いのか分からない。」

「!?………何を知ってる?」

 警戒を(あら)わにするジャスミンを(なだ)めるように、ホーキンスが殊更(ことさら)ゆっくりと言葉を(つむ)いだ。

「落ち着け…。おれはお前の“相”を読み取っただけだ。ここに来たのも、お前がいると分かっていたからでなく、おれの運勢を占った時に“出逢(であ)うべき相手”がいると気付き、導き出された方向へと出向いてみただけの事。」

「……さっきも言ってましたね。“出逢(であ)うべき相手”というのは?」

「ここでお前の“探し物”を見付ければ、近いうちおれはお前に命を救われるらしい。」

「……つまり、その“占い”で私の探している相手を探す代わりに、自分を助けて欲しいと?仮にも“億越え”の“ルーキー”の割に随分(ずいぶん)と弱気ですね。」

「これは“運命(さだめ)”だ。おれの占いは外れない。…何より、実際に対峙(たいじ)すれば分かる。お前がおれよりも(はる)かに強いのは明白(めいはく)。」

 大真面目に不可思議な事を主張するホーキンスに、(いぶか)し気な視線を送っていたジャスミンだったが、不意に目の前の男の二つ名を思い出す。“魔術師”。てっきり能力を指してのものと思っていたが、あながちそうでも無いのかもしれない。

 ホーキンスは(いた)って真面目に言葉を(つむ)ぎ、ジャスミンを真っ直ぐに見詰めている。

 何よりも、ジャスミンが人を探している事、実際に誰を探せば良いのか探しあぐねている事まで知っている事を考えると、信用に(あたい)するだろう。

「……なら、実際に占ってみてくれませんか?私は誰を探してどこに行けば良いのか。あなたを助けるかどうかは分かりませんけど、占いの内容次第では善処(ぜんしょ)します。」

「ふむ。何よりだ。…ここでは店の邪魔になるな。場所を変えよう。そこで良い。」

 5m程離れたオープンカフェのテーブルを指し、ホーキンスが先導する。

 無法地帯の割に意外と店の種類が豊富だよな、と割とどうでも良い事を考えながら後に着いて行く。

 

「で、どうやって占うんですか?」

 何も頼まずに席だけ陣取るのも営業妨害(はなは)だしいので、取り()えず商魂(たくま)しく注文を取りに来た店員にアイスティーを注文し、ホーキンスに問う((ちな)みにホーキンスは、店員を一瞥(いちべつ)する事すらしなかった)。

「これだ。」

 そう言って取り出したのは、トランプよりも1回り大きなカード。

「カード?」

 タロットに似ているが、占いにはさほど詳しく無いので違いが良く分からない。

「おれはこれを使って占う。」

 手袋を()めたまま器用にカードをシャッフルし、体から伸びた(わら)のようなものに、1枚1枚貼り付けていく。

((わら)…?ホーキンスは“超人(パラミシア)系”の能力者……?)

 ジャスミンの意識が一瞬(それ)るが、今は気にする事でもないか、とすぐに意識をカードに戻す。

 カードの絵柄の部分は表、つまりホーキンス側に向けられている為、ジャスミンからはその絵柄は読み取れない。最も、絵柄が見えていたとしてもはっきり言ってジャスミンにはその意味が全く分からないのだが。

「ふむ…。場所は…、“新世界”。誰の物でも無い島だ。」

「“新世界”…!?」

 1枚1枚貼り付けながら呟いていくホーキンスの、確信を持って(つむ)がれた言葉に、思わず聞き返す。

「ああ。お前の“尋ね人”は“新世界”の、“誰の物でも無い島”にいる。」

「“誰の物でも無い島”…?無人島?いや、場所が“新世界”なら誰の縄張りでも無いって事かな…?もっと詳しく分かりませんか?」

「おれが実際に行った事のある場所ならば特定も可能だが、全くの手探りならばこれが限界だ。」

「それなら、相手の人数や目的は?」

「それならば分かる。」

 頷きながら、ホーキンスが残っているカードを貼り付けながら読み解いていく。

「3人。1人は女、1人は男。残る1人は男のようだが、そうではない。ふむ、妙だな…。コイツらは本当に人間か?」

「どういう意味です?」

「カードの示し方がおかしい。酷く読み取り辛いが、人間のようであってそうでない、男女の2人組と良く分からん奴が1人…。女と男は存在がはっきりしているが、最後の1人は酷く希薄(きはく)だ。……なるほど、それだけ弱っている状態、という事か。追手から逃れてその島に辿(たど)り着き、身を(ひそ)めているのか……。なるほど、目的は3人目の“蘇生”…いや、“復活”だな…。」

「つまり?」

 カードを貼り付けながら1人で納得したように呟くホーキンスに()れたジャスミンが()かす。

「お前が探している相手は男女の2人組。しかし、人間であってそうではない。追手から逃げてその島にいる。3人目の死にかけている仲間を何とかしようとしているらしいな。」

「“復活”…。人間であってそうでない…。」

 その言葉に、神龍(シェンロン)台詞(せりふ)を思い出す。

『地球では無いようだが、同じ第7宇宙の存在である事は間違い無い。』

(宇宙人って事…?)

「具体的に何をどうやって3人目を“復活”させようと?」

「…何をしているかまでは知らんが、男の方が戦いの場に出現しているようだ。今から10日後に動く、と出ている。」

「10日後?何か大きな戦争でも起こるんですか?」

「“世界を動かす争い”と出ている。闇雲(やみくも)に“新世界”を探し回るよりも、それを待った方が確実だろう。」

 (いささ)抽象的(ちゅうしょうてき)だが、先程までの完全な手探りに比べれば道が(ひら)けたのは喜ばしい。

 しかし、“復活”と“追手”。その言葉に加えて、“気”を全く(つか)む事の出来ていないという事実。相手が善か悪かも分からないが、先程まで感じていた嫌な予感が増している。

(胸騒ぎがする……。)

 背筋が(あわ)()つような感覚を一先(ひとま)ず無視し、ホーキンスに向き直った。

「…参考になりました。少なくとも3日はシャボンディ諸島に滞在する予定ですから、その間にあなたが危ない状況にあるのに遭遇したら、お礼に手助け位はします。」

「近いうちに再び()う事になる。それが運命だ。」

 そう言い置いて早々に立ち去るホーキンスを見送る。ほぼ同時に先程注文したアイスティーが運ばれてきた。もっと長く話し込んでいた気がしていたが、実際にはものの5分にも満たない短い時間だったらしい。

 取り()えずストローを(くわ)えて(のど)(うるお)しながら、まずは目先の課題であるコーティング職人探しに意識を戻す事にした。

 

 ━2時間後、43番GR(グローブ)ショッピング・モール━

 あの後、改めて宿を取ったジャスミンは例のコーティング職人の老人の“気”を時折探りつつも、暇を潰すべくショッピング・モールをぶらついていた。

 (いま)だに目当ての老人は賭場(とば)を離れる気配が無く、ずっと宿に(こも)っているのも退屈(たいくつ)で仕方が無かったからである。

 今回は無法地帯では無い為、無駄に人目を()かない為にも簡単な変装をしていた。

 特徴的なポニーテールは止め、シニヨンを作ったツインテールにして白い髪(ひも)で飾っている。

 服も、ワンピース(この)世界ではあまり流通していないらしいパーカーにジーンズでは無い。ジャスミンの花の刺繍(ししゅう)がアクセントのミントグリーンのチャイナ風ワンピースを(まと)い、同じくジャスミンの花が刺繍(ししゅう)された同色の布靴。

 バッグも普段のウェストポーチでなく、髪(ひも)と同じく白いポシェットである。

 余談だが、ドラゴンボール世界でも“チャイナ服”や“チャイナ風~”といった言葉は存在する。主に東地区の一部で使われているものだが、中国という国が存在している訳では無いので、その語源は定かでは無い。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 服装に合わせて派手では無いが軽く化粧をしている為、良家の子女にも見える。

 本来ならもっとラフな格好をしたかったところではあるが、如何(いかん)せん地球で購入した服は当然ながら向こうの流行(はやり)を取り入れている為、こちらの世界では完全に浮いてしまう。使っている生地(きじ)やボタンなどもこちらの世界では存在しない物もあり、多少そういった事に詳しい物ならば分かってしまうだろう。おまけにここはショッピング・モールであり、そこかしこに服屋がある。

 チャイナ風ワンピースも同じような物ではあるが、似たようなデザインや生地(きじ)の服ならばこちらの世界にも存在している為、若干マシなのだ。おまけにここは“新世界”の入口たるシャボンディ諸島。多種多様な服装の人間がこの場所に(つど)っている為、ジャスミンの服装もさほど目立ってはいない。

 かと言って、いつまでも余所(よそ)行きの格好(去年の誕生日プレゼントに、とチチが()ってくれたものだ)をしているのも落ち着かないので、手頃な服屋に入って新しい服を購入したいところである。

(さて、ティーン向けの服屋は、と…。)

 ジャスミンが周囲を見回している時だった。

 ―――――ゾクッ……!!!

 ほんの一瞬だけだったが、(すさ)まじいまでに強い、邪悪な“気”を感じ取る。

「なっ……!!?」

 バッと、思わずその方向を振り向くが、既にその“気”は感じ取れなくなっており、細かい位置どころかおおよその距離すら測る事が出来なかった。

 分かったのは方角のみ。

「今のは…、まさか………!」

 これまでに感じた事の無い、邪悪な“気”。もしや、今のが“時空間(じくうかん)を歪めている元凶(げんきょう)”だろうか。

 一瞬。たった一瞬で、全身に鳥肌(とりはだ)が立った。

(あんなの、今まで1度も感じた事なんて……。)

 あまりの脅威にそこまで考えたところで、ふと頭に引っかかるものがある。

(1度も…?いや、昔似たような“気”を感じた事があったような……?)

 本当に昔、まだジャスミンが幼かった頃に1度だけ、先程感じた“気”に良く似た“気”を感じた事があった(はず)だ。

 (いま)鳥肌(とりはだ)の治まらない腕を(さす)りながら記憶を探る。

 しかし、ある程度平和な時代に生まれたジャスミンは、そこまでの脅威に(さら)された事はほとんど無い。例外は魔人ブウの一件くらいだが、魔人ブウの“気”はこんなものでは無かった。そうなると、心当たりは本当に無くなってしまうのだが……。

(!そうか、もう1人いた……!()()()にそっくりなんだ………!)

 それに思い当たると同時にゾッとする。

 あんな()()()と同格の相手を何とかしなくてはいけないのか、と。

 ホーキンスの予知した“世界を動かす争い”まで後10日。

呑気(のんき)に服なんか買ってる場合じゃない、か……。」

 蟀谷(こめかみ)に冷や汗が伝うのを感じつつ、完全に意識を切り替える。

 ルフィたちにも悪いが、コーティング職人に構っている場合でも無くなった。ルフィたちがシャボンディ諸島に着いた頃に1度釈明(しゃくめい)に来るが、近くの無人島でしばらく鍛え直さなくては。

 今はルフィたちの所まで飛んでいく時間も惜しい。

 一旦借りた宿まで荷物を取りに行くべく、(きびす)を返し、ジャスミンが走り出す。

 

 




用語解説
・シニヨンを作ったツインテール…わかりやすく言うとセーラー〇ーンヘア。
・ジャスミンのワンピース…チチさんお手製。特に孫家とは家族ぐるみの付き合いなので、ジャスミンの私服にはチチさんお手製のものが多数。

追記:確率の出し方がおかしいとのご指摘を受けた為、訂正しました。
追記2:ルフィたちがシャボンディ諸島に来るまでの日数を換算し忘れていた為、8日後から10日後に修正しました。


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第48話 超新星、揃う

お待たせしました!第48話更新です。
今回、黒幕本人はまだ出ませんが、ジャスミンが連想した相手が明らかになります。
正解されたみなさん、おめでとうございます!
まともに戦ったら絶対勝てない相手なのでジャスミンも涙目です(笑)
さすがに無理ゲーなので、助っ人を登場させるつもりですが、まだ影も形も出てきておりません。たぶん、黒幕の正体が明らかになれば必然的にお分かりになるかと思いますので、少々お待ちくださいませ。


 ━2日後、シャボンディ諸島13番GR(グローブ)

 無事シャボンディ諸島に上陸した“麦わら一味”は、途中出逢った人魚のケイミーとヒトデのパッパグ、そして奇妙な縁で再会したタコの魚人・ハチと共に、コーティング職人を求めてハチのツテを頼っていた。

「なぁ。わざわざタコッぱちに紹介してもらわなくても、ジャスミンが探してくれてんだろ?コーティング職人。だったら別に良いんじゃねェか?」

 “ボンチャリ”と呼ばれるシャボンディ諸島特有(魚人島でも一応使用出来るらしいが)の自転車に乗っていたルフィが、ふと思い出したように同行していたブルックとチョッパーに問う。

「それはそうですが、私たちが上陸してから1時間は経ちます。その間、ジャスミンさんから接触が無いのも妙な話。単に私たちに気付かなかった、というなら良いんですが、何かトラブルがあったのかもしれません…。しかし、コーティングには少なくとも3日はかかるという話ですから、まずはコーティングの話を付けてからジャスミンさんを探した方が良いでしょう。ここは海軍本部も近いですから、一刻も早く船を使えるようにしておかなければ。」

「そんなもんか?」

 ブルックの説得にルフィが首を傾げる。

「そんなもんです。」

「ジャスミン大丈夫かなぁ…。」

「ジャスミンさんなら大抵の事は突破出来るでしょうから、たぶん心配はいらないでしょう。もし、ジャスミンさんが職人を見付けてくださっていたら、その時は素直に謝れば良いんです。きっと苦笑しながら許してくださいますよ。」

 連絡の取れないジャスミンを心配し、顔を(くも)らせるチョッパーを(なだ)めるブルックに、チョッパーも「そっか…。そうだな!」と頷く。

「ニュ~~~。今は海賊たちがいつになく集まってるみたいだから、なかなか空いている職人が見付からないのかもしれないぞ。ちゃんとした職人は滅多にいないからな――――…。」

「へぇ――。やっぱりジャスミンの言ってた通りだったんだな。」

 ハチの説明にチョッパーも納得したように頷く。

 その後しばし歩いた後、不意にハチが立ち止まる。

「さァ着いたぞ―――――!!」

「やっと着いた―――――!!」

 “ボンチャリ”から降りながら、ルフィが大きく伸びをする。

「あの根っこの上にある店がそうだ。…店やってるかな。10年ぶりだ。」

 “ヤルキマン・マングローブ”の根っこを指差しながら、ハチが先導する。

「コーティング職人も魚人か?ま、会えば分かるか!」

「あ、私とパッパグは面識(めんしき)無いの。凄い人だって話は聞いてるけど。」

「!そうなのか。」

 ルフィが自己完結するが、実際に知り合いなのはハチだけらしく、ケイミーがルフィに断りを入れる。

「ニュ~~~~。おれが子どもの頃からの付き合いなんだ。」

 ハチが説明しながら階段を(のぼ)るが、(のぼ)りきったそこにあったのは、“シャッキー'SぼったくりBAR”の看板だった。

「この店、ぼったくる気が全面に押し出されてんだが…、ハチ…。すげ――――、凶暴なんじゃ…。」

「大丈夫だ。良い人間たちだ。」

 正直過ぎる看板にパッパグがドン引くが、ハチは慣れているらしく全く意に(かい)しない。

 カランカラン…… 

「レイリー、シャッキー、いるか―――?」

 ハチがドアを開けたものの、次の瞬間一同の目に入ったのは衝撃の瞬間だった。

「払いまず……。」

 目も当てられない程にボッコボコにされ、絞り出すような声で支払いを訴える(あわ)れな海賊と、

「いらっしゃい。何にする?……あら。」

 その胸倉(むなぐら)をがっしりと(つか)んだ、華奢(きゃしゃ)にも見える女主人だった。

「はっちゃ―――――――ん!!?」

「ニュ~~~~~、ご無沙汰(ぶさた)してんなシャッキー。」

「そうよ、もう10年ぶり位!?」

 再会を喜びあったのも(つか)の間、

「座ってまってて。今、この子たちから法外(ほうがい)なお代をぼったくってたところなの。」

 見れば、胸倉(むなぐら)(つか)まれている男以外にも、彼女たちの足元には同じくボロボロになった男たちが無造作に転がされている。

「ニュ~~~~。ゆっくりで良いぞ。」

「「「…………。」」」

 ドン引いているチョッパー・ケイミー・パッパグとは異なり、全く気にしないハチとそれに笑顔で着いていくルフィ、そして全く動じないブルックがちょっと怖い。そう思った3人だった。

 

「そう……。海賊辞めたの。それが良いわよ。カタギが1番!」

 ぼったくった海賊たちを階段下まで投げ捨てた後、女主人‐シャクヤク(通称シャッキー)とハチが旧交を温めている頃、ルフィとブルックは無断で店の冷蔵庫を(あさ)っていた。

「あ……、そうだ。キミたちに飲み物………。」

 シャッキーがルフィたちの存在を思い出した時には、既に2人共勝手に冷蔵庫の中身を食い(あさ)り始めた後だった。

「冷蔵庫(あさ)っとる―――――――!!自分()か!!!」

 パッパグのツッコミが炸裂(さくれつ)した。

「アハハハ……。ええ、好きにやって。」

 シャッキーは全く気にしていないようだが。先程海賊たちから遠慮無くぼったくり、階段下に投げ捨てた人間とは思えない。

「ルフィ、ブルック!!お前らぼったくられるぞ――――――――!!」

「はっちゃんのお友達からお代はもらわないわよ。はい、君にはこれね。」

 焦るチョッパーを(なだ)め、チョッパーの好物であるわたあめを差し出す太っ腹っぷりである。

「わたあめ~~~~!!!」

 うひょ――――!!っと喜ぶチョッパーを見て、ルフィがシャッキーに尋ねる。

「オバハン、何でチョッパーの好物知ってんだ?」

「キミたち、モンキーちゃん一味でしょ?」

「おれの事知ってんのか!?」

「もちろんよ。話題の一味だもの。私は情報通だし。」

 聞けばシャッキーも昔は海賊であり、今はルフィたちのようなルーキーを応援する側なのだという。40年程前に、ルフィの祖父であるガープに追いかけられた事がある、という逸話(いつわ)があるという程だから、一体今いくつなのか…。どう高く見積もっても40歳より上には見えない美貌とプロポーションである。あのルフィでさえ「オバハン、いくつだ?」とツッコンだ程だ。

「――――ところで、シャッキー。」

「ああ、言わないで。分かってる。全部分かってる。」

 本題に入ろうとしたハチの言葉をシャッキーが(さえぎ)る。

「はっちゃんたちやケイミーちゃんがわざわざ陸のルートを通って来たのは、船をコーティングしたいモンキーちゃんたちを案内する為でしょ?――――つまり、レイリーにコーティングの依頼ね?」

「ニュ~~~~。そうなんだ。」

「――――だけど彼、ここにいないのよ。」

「え―――!?職人いないのか!?おれたち、魚人島に行きてェんだ!!」

 まさかの返答にルフィが叫ぶ。

「まぁ、でもこの諸島から出る訳は無いから…。どこかの酒場か賭博(とばく)場か探してみたら?」

「待ってたら帰って来るだろ?」

「そうね、いつかは…。もう半年は帰って来てないけど。」

「「「半年!?」」」

 (けた)違いの期間に、ルフィ・ブルック・チョッパーの声が(そろ)う。

「その辺に女作って寝泊りはしてると思うから、体の心配はして無いけど。1度飛び出すと長く帰らないのは海賊の(さが)かしら。」

「職人のおっさんも海賊だったのか!」

「弱りましたね……。じゃあ、探すしか無いですね。おおよそ見当(けんとう)は付きますか?」

「そうね…。1番から29番にはいるんじゃないかしら。彼も札付(ふだつき)、海軍の監視下では(くつろ)げないから。」

 ブルックの問いにシャッキーが心当たりを上げていく。

「あと、そうね…。その範囲外では…“シャボンディパーク”も好きね…。」

「遊園地か!!!そこ探すぞ――――――――!!!」

「わ―――い!!遊園地―――――――!!!」

「コラ!!ケイミー!!」

 ひゃっほ―――――う!!と歓声を上げるルフィたちに便乗(びんじょう)したケイミーをパッパグが叱責(しっせき)する。

「どこを探すにしても…、とにかく気を付けて。私の情報網によると…。キミたちが上陸した事で、現在このシャボンディ諸島には…12人!!“億”を超える賞金首がいるわ。」

「そんなにィ――――――!?」

 チョッパーが驚愕のあまりに鼻水を()いた。

「モンキーちゃんとロロノアちゃんを除いても10人!!キミたちは“偉大なる航路(グランドライン)”に入った時………、入口で7本ある航路の内の1本を選んで、その記録(ログ)に従って進んで来た(はず)。」

「うん。」

 ルフィがシャッキーの言葉に頷く。

「だったら、当然他の6本を辿(たど)り、キミたちと同じような困難を乗り越えて()()に来た者たちがいる。どのルートを通っても“赤い土の大陸(レッドライン)”に突き当たるから……、その壁を越える為みんながこの諸島に集結する。分かる?ここまで世界のルーキーたちが同時期に顔を(そろ)える事も、そうそうあるもんじゃないけどね…。“キッド”・“ルフィ”・“ホーキンス”・“ドレーク”・“ロー”。この名前は頻繁(ひんぱん)に新聞を(にぎ)わせていたわ。」

「新聞読まね――もん。」

 他人の事など全く気にしないルフィに、シャッキーがアドバイスする。

「ウフフフ…。情報は武器よ。ライバルたちの名前くらい知っておいたら?懸賞金で言えば…、その中でキミはNo.(ナンバー)3よ。」

「ルフィより上がいんのか!?この島に…!?」

 ルフィの強さを日々目の当たりにしているチョッパーが、更に上の存在に驚愕する。

「ええ。“西の海(ウェストブルー)”出身、ファイアタンク海賊団船長‐カポネ・“ギャング”ベッジ、懸賞金1億3,800万B(ベリー)。“南の海(サウスブルー)”出身、ボニー海賊団船長‐“大喰らい”ジュエリー・ボニー、懸賞金1億4,000万B(ベリー)。“北の海(ノースブルー)”出身、ホーキンス海賊団船長‐“魔術師”バジル・ホーキンス、懸賞金2億4,900万B(ベリー)。“南の海(サウスブルー)”出身、キッド海賊団船長‐ユースタス・“キャプテン”キッド、懸賞金3億1,500万B(ベリー)。同じくキッド海賊団‐戦闘員“殺戮(さつりく)武人”キラー、懸賞金1億6,200万B(ベリー)。“GL(グランドライン)”出身、[手長族]オンエア海賊団船長‐“海鳴り”スクラップメン・アプー、懸賞金1億9,800万B(ベリー)。“北の海(ノースブルー)”出身、ドレーク海賊団船長‐“赤旗(あかはた)X(ディエス)・ドレーク、懸賞金2億2,200万B(ベリー)。“空島”出身、破戒僧(はかいそう)海賊団船長‐“怪僧(かいそう)”ウルージ、懸賞金1億800万B(ベリー)。“北の海(ノースブルー)”出身、ハートの海賊団船長‐“死の外科医”トラファルガー・ロー、懸賞金2億B(ベリー)。そして最後の1人…、出身地不明、唯一海賊でなく目的も正体も不明…、“中将殺し”ジャスミン、懸賞金3億8,000万B(ベリー)。」

「そうか…!そう言えばジャスミンはルフィより懸賞金が上だったんだ!!」

「その様子だと、キミたちがエニエス・ロビーで“中将殺し”と組んでいたのは本当みたいね?」

 チョッパーがハッとしたのを見て、シャッキーがルフィに尋ねる。

「おう!色々助けてもらったんだ!友達だ!!」

「そうなの…。モンキーちゃんがそう言うなら、ジャスミンちゃんもイイコみたいね。」

 ルフィの満面の笑みを見て、シャッキーがどこか安心したように呟く。

 他のルーキーたちに比べ、ジャスミンの情報は極端に少ない。情報通の彼女も流石(さすが)に図りかねていたのだ。

 

 ━その頃、シャボンディ諸島から10数kmの無人島━

「はぁああああああっ!!!」

 ブゥ………ン!!!

 腰の位置で軽く両手の拳を握り、自然体で立っているジャスミンの全身を赤いオーラが包み込む。

 一見するとただ立ち、“気”を放出しているだけにも見えるが、その顔は(ゆが)み、(ひたい)からは滝のような汗が流れているのが分かる。

「ハアアアッ!!」

 それを押し殺すように更に気合を入れるとオーラは一瞬大きくなったものの、ジャスミンが構えを取ろうとすると、まるで張り詰めていた糸が切れてしまったかのようにシュウゥ…!と掻き消えてしまった。

 直後、ジャスミンが崩れ落ちるように地面に膝を付く。

「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ………!」

 肩で息をしながら、両膝を付いて地面に突っ()すようにしながら呼吸を整える。

「後ちょっと…!後ちょっとなのに……!!!」

 なかなか思うように進まない修行に苛立つが、こればかりは焦ってもどうしようも無い。

 宇宙レベルで見てもそこそこの戦士であり、Z戦士たちからもその実力と才能を認められているジャスミンがこれほどまでに苦戦している理由。

 それは、ある技を体得しようとしての事だった。

 “界王拳(かいおうけん)”。

 自身の戦闘力を一時的に何倍にも増幅させる技である。

 かつて、孫悟空が“北の界王”から伝授された奥義の1つ。上手くいけば通常の数倍の力を発揮する事が出来るが、反面リスクが高く体に負担がかかる。

 発動させるにはかなり精密な“気”のコントロールが不可欠だが、それが難しい。静止している状態ならまだしも、少しでも身動きすれば高めた“気”が瞬時に霧散(むさん)してしまう。しかも、やはり相当の負担がかかっているようで、まだまともに発動出来ていない状態にも関わらず既に体中がガタガタだった。筋肉が(きし)むような激痛が全身に走っている。

「やっぱりまだ無理って事……?」

 人並外れた才能を持つ悟空でさえ、体得までにはその前段階も合わせて1年近い時間がかかっている。体得した後も、発動させるには相当の負担がかかったとも聞いている。

 実際、悟空に頼み込んで原理は教えてもらえたものの、実際に試すにはまだ早い、とも忠告されていたのだ。絶対に自分のいない所では試すな、とも。成長期の体には負担がかかり過ぎるから、自分が許可を出すまでは絶対に禁止とまで言っていたのだ。あの、普段はこちらが心配になる程に楽天的な悟空が。

 しかし、無理でも何でも界王拳(かいおうけん)を体得しなければ生き残れない。そんな確信がジャスミンにはあった。

 あの時にシャボンディ諸島で感じた“気”。実際の正体はまだ不明だが、それに良く似た“気”の持ち主を自身は知っている。

 “暗黒魔界の王”ダーブラ。

 “気”を感じ取ったのみで、まだ幼かったジャスミンは直接対峙(たいじ)した訳ではないが、あのピッコロやクリリンでさえ戦闘不能にした程の実力者。

 当時はまだ幼く、“気”を感じ取っただけのジャスミンも恐怖に(おのの)いた事を覚えている。なまじ幼いながらも、“気”を感じ取る事が出来る程に武術に通じていた事が災いした。

 あの恐怖は魔人ブウへのトラウマと共に、心に刻み込まれている。

 あのダーブラと同格の“気”の持ち主。今のままのジャスミンでは…。否、界王拳(かいおうけん)を体得した後でさえ到底(とうてい)(かな)わないだろう。

 だが、もし界王拳(かいおうけん)を体得出来ないままだったなら、もし戦闘になれば一瞬で殺されるに違いない。少しでも生存率を上げるには、界王拳(かいおうけん)の体得が必要不可欠なのだ。

「クソッ……!時間が無いっていうのに………!!」

 ダンッと地面を殴り付け、苛立ちを(あら)わにジャスミンが(うな)るが、そこに苛立ったところで修行が上手くいく訳ではない。

「~~~っっっ!!!」

 ギシギシと(きし)むような痛みを(こら)えて身を起こし、カプセルケースから1つのカプセルを取り出す。

 カチッ!

 ボンッ………!!

 投げ付けたカプセルから現れたのは、神龍(シェンロン)がくれた仙豆(せんず)(つぼ)

「った~~~!!」

 痛みに(うめ)きながら()()り、(つぼ)から仙豆(せんず)を取り出す。

 カリッポリッ……!

 1粒口に含んで()み砕き、飲み込んだ途端(とたん)に痛みが消えていく。

「あ――――…。痛かった……。」

 痛みのあまりに(にじ)んだ涙を(ぬぐ)いながら呟き、立ち上がる。

「2日かけてあの程度か…。方向性変えた方が良いかな……?」

 なかなか進まない界王拳(かいおうけん)体得に溜息を()くが、そこでハッとする。

「2日…?ヤバッ…!ルフィくんたちもう着いてるよね……!?」

 (あわ)てて“気”を探ると、シャボンディ諸島に“麦わら一味”が到着している事が分かる。

 修行に夢中ですっかり忘れていた。コーティング職人を探せていない事を報告しなくては。

 修行中だった為、着ていた亀仙流の道着は(ほこり)だらけで全身汗だくだが、生憎(あいにく)シャワーどころか着替えている余裕は無い。

 (あわ)ただしく仙豆(せんず)をカプセルに戻し、この2日の生活の拠点にしていたカプセルハウスもしまう。

「急がないと…!」

 




用語解説
・北の界王…たぶん宇宙で3番目か4番目くらいには偉い神様。悟空に修行をつけた師匠でもあり、凄い人だが印象としてはオヤジギャグの好きな人。哀しい程に笑いの沸点が低い。作者個人としては結構な癒しキャラ。実は悟空の自爆に巻き込まれ死人になってしまったという不遇さ。
・界王拳…わかりやすく言うとマ〇オがスターを取った状態に近い状態になれる技。ただし使用者への負担がかなり大きい。


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閑話5 その頃地球は…

お待たせしました!更新です。
本編でなくてすみません。
今回はジャスミンがトリップした直後の地球sideです。


 ――――――時はしばし(さかのぼ)る。ジャスミンが異なる世界へと跳ばされたまさにその時、父であるヤムチャは激しい胸騒(むなさわ)ぎを感じていた。

 長い撮影期間が(ようや)く終わり、次の作品がクランク・インするまでの1ヵ月間、(つか)の間の休暇を楽しんでいたヤムチャは、その日(めずら)しくも自宅のリビングにいた。

 ソファで(くつろ)ぎながら、ちょうどテレビで放送していたプロ野球の、贔屓(ひいき)チームのデイゲームを観戦しながらビールを飲んでいたヤムチャだったが、不意に(うなじ)産毛(うぶげ)が逆立つような感覚と共に激しい胸騒(むなさわ)ぎを感じ取る。

「………!」

 ゴトン…!

 (にぶ)い音を立ててジョッキが倒れ、(こぼ)れたビールがツマミのサラミを()らすが、生憎(あいにく)それに構っている余裕は無かった。

「わ?!何してるんです、ヤムチャ様!!」

 隣で同じくデイゲームを観戦していたプーアルが、ジョッキの倒れる音でテーブル中をびしょびしょにしているビールに気付き、(あわ)てて布巾(ふきん)で床に(こぼ)れるのを防ぐ。

 しかし、普段ならすぐに自分も片付けようと動く主人(ヤムチャ)が全く動こうとしないのに(いぶか)し気に振り返る。

「ヤムチャ様?ど、どうしたんですか?!」

 見れば、青白い顔で虚空(こくう)を見詰め、呆然(ぼうぜん)としているようだ。

「ジャスミン…?」

 何かを確かめるように呟かれたのは、主人(ヤムチャ)の愛娘の名前である。

「ジャスミン様がどうかなさったんですか?」

 この様子は只事(ただごと)では無い。

 プーアルの言葉に、ヤムチャが(はじ)かれたようにポケットを探ってスマホを手に取る。

 そして、ジャスミンの番号を呼び出し始めた。

『お呼びした番号に応答がありません。電波の入らない所にいるか、電話機本体が故障していると考えられます。』

 呼び出しを始めた(わず)か数秒後に、ガイドアプリのアナウンスが流れる。

「え?」

 それを聞いたプーアルが首を(かし)げた。この科学が発達した世の中、電波の全く入らない場所など地球上にほぼ存在しない。何しろ、アンテナは人工衛星として打ち上げられているのだから。例外は海や湖などの水中ぐらいだろうが、ほんの10分程前にジャスミン自身からヤムチャに連絡が入っている。最後のドラゴンボールを手に入れたからもうすぐ帰る、と。今更水中にいる意味が分からない。

「最後まで潜水飛行艇のモニターをされながらお帰りになるつもりなんでしょうか?」

 律儀(りちぎ)なジャスミンならその可能性もある、とプーアルがヤムチャに話しかけるが、ヤムチャが(なか)呆然(ぼうぜん)としたまま(かぶり)を振る。

「いや、違う…。」

「違うって…。まさか、スマホを壊してしまったという事ですか?」

 確かあれは、去年のジャスミンの誕生日にヤムチャが贈った最新モデルで、ブルマの改造によってかなりタフな仕上がりになっている(はず)だが…。

 (なお)首を(かし)げるプーアルをよそに、ヤムチャが更にスマホを操作する。

『GPSを起動。追跡対象者の現在地を探知します。』

 西の都の17歳以下の子どもは、GPS機能付きの携帯電話の所持・携帯が条例によって義務付けられている。大都市であるが故に犯罪も多く、未成年者がそれに巻き込まれる事例が多発した事から、10年程前に制定された。親の目が離れやすくなる就学から、高校2年生までのおよそ10年間は例外無くその条例の対象となり、保護者は常に子どもの居場所を把握しておくのが義務となっているのである。17歳以下の子どもに限り、15分置きに自身の居場所を発信させる特殊なアプリのダウンロードが義務付けられている。保護者はそのアプリと連動している探知アプリをダウンロードしており、それによって保護者はいつでも自身の子どもがどこにいるのかを把握する事が出来るのだ。

 それはジャスミンも例外では無い。仮にスマホ本体が壊れてしまっていたとしても、その直前にどこにいたのかは記録されている。

『追跡対象者を探知出来ませんでした。7分前の位置情報を表示します。』

 ものの10秒程で表示されたのは、先程電話でジャスミン自身の口から伝えられていた骨董品(こっとうひん)店。場所は東の都からおよそ20kmの小さな町だった。どんなに急いでも1時間はかかってしまう。

 (はや)る気持ちのままに、ソファから立ち上がり、プーアルに呼びかける。

「プーアル!出かけるぞ!!」

 鬼気(きき)(せま)る表情のヤムチャにぎょっとしつつ、プーアルが尋ねる。

「えっ?ど、どこにですか?」

「ジャスミンの所だ!!」

「ま、待ってください、ヤムチャ様!!!」

 上着を引っ(つか)みながら叫んだヤムチャが窓から飛び出してしまい、プーアルも(あわ)てて追いかけようとするが、既にヤムチャの姿は無かった。

 

 ━東の都から10km地点の町━

「っここか……!!」

 スマホを見ながら店を探していたヤムチャが、スタッ!と店の前に降り立つ。

「ジャスミン!どこだ?!」

 バンッ!

 勢いのあまり扉がけたたましい音を立てる。本来なら店中の人間の注目を集めて当然の行動だったが、そうはならなかった。

「っこれは…!」

 店内には商品だったらしい品物が散乱し、人1人存在しなかったからである。

 まるで店内で大風が吹き荒れたように棚の中身は全て落ち、陶器やガラス類は全て壊れている。

 そしてその中、散乱する骨董品(こっとうひん)の中に(まぎ)れるように落ちていた物…。

「ジャスミンの髪紐(かみひも)の……。」

 2つに割れてしまった、直径2cm程の翡翠(ひすい)(たま)だった。ジャスミンが気に入り、良く使っていたそれは、チチが娘時代に使っていたのを譲ってもらったもので、髪紐(かみひも)の両端に小さいが上等の翡翠(ひすい)が飾りとして使われていたものだ。

 翡翠(ひすい)自体に細やかな蝶の彫刻が(ほどこ)された()()は、ジャスミンの使っていた髪紐(かみひも)のものに間違い無かった。

 

 ━カプセルコーポレーション本社兼自宅━

 スタッ…!!

 ブルマが社長を務めるカプセルコーポレーションの本社前に降り立ったヤムチャは、その勢いのまま受付に詰め寄る。

「至急、ブルマ社長をお願いします!急ぎの要件です!!」

「ア、アポイントメントはおありでしょうか…?」

 ヤムチャのあまりの勢いに若干気圧(けお)されながらも受付嬢が職務を全うする為に確認を取る。

「いや、約束はしてないが、ヤムチャが来たと言ってもらえれば分かる(はず)です!!」

「は、はぁ…。しかし、アポイントメントの無い方は規定上お繋ぎ出来ないようになっておりまして…。」

「娘が危ないかもしれないんだ!早くブルマと連絡を取らないと……!!」

「そ、そう言われましても………。」

 狼狽(ろうばい)し切った受付嬢がフロアの(すみ)(ひか)えていた警備員に目配せしようとした時だった。

「あれ?ヤムチャさん?どうしたんですか?」

「!」

「ト、トランクス(ぼっ)ちゃま!」

 カプセルコーポレーションの御曹司(おんぞうし)、ヤムチャも彼が赤ん坊の時から良く知っている青年‐トランクスだった。

 次期社長として既にブルマの仕事を手伝っている彼は、長期休みの時には日中はほぼ本社に入り(びた)りとなる。この日も例外では無く、朝から本社の研究室に詰めており、休憩して軽食でも買いに行こうと入口まで降りてきたのである。

 来てみれば何やら受付付近が騒がしく、よくよく見てみれば幼い頃から良く見知っている相手(ヤムチャ)だった、という訳だ。

「頼む、トランクス!至急ブルマに繋いでくれ!!」

「はい?」

 渡りに船、と言わんばかりに自分に詰め寄ってきたヤムチャに、思わずトランクスが()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

「ドラゴンレーダーがもう1つ必要なんだ!頼む……!!」

「ドラゴンレーダーが必要って…。確かジャスミンが持ってる(はず)ですよね?」

 突然のヤムチャの申し出に、トランクスが困惑した様子を見せるが、次のヤムチャの一言で全てが吹っ飛んだ。

「ジャスミンが行方(ゆくえ)不明なんだ……!!!」

行方(ゆくえ)不明…?どういう事ですか……?」

 ただならぬ様子に、トランクスの顔つきも変わる。

「連絡が取れない…。それだけじゃない、GPSでも探知出来ないようになっているし、何よりあの子(ジャスミン)の“気”を全く感じないんだ………!!!」

「!!」

 その言葉に、トランクスも意識を集中させてジャスミンの“気”を探す。普段なら、いくら一般人程度まで抑えていたとしてもすぐに発見出来る程に馴染(なじ)んでいる(はず)の“気”が全く感じられない。

「っ確かに…!何でも無いのにアイツが“気”を消すなんてこれまで無かったし…。連絡も取れないとなると……。」

 妹分(ジャスミン)の性格上、悪戯(いたずら)に周囲を心配させるような真似(まね)は絶対にしない。例えスマホの電源を落としていたとしても、GPSの探知システムに支障は無い(はず)である。

「さっきから、嫌な予感がするんだ…!2度とあの子(ジャスミン)()えないような、そんな予感が……!!」

 ヤムチャの顔色は青を通り越して白い。

「ジャスミンはドラゴンボールを集めていた…。最後の1つを見付けたから、今日中に帰ると言っていたんだ…!頼む、ドラゴンレーダーでジャスミンを見付けてくれ!!」

「っわかりました!ママなら、今の時間は社長室で書類に目を通している(はず)です。すぐに行きましょう。」

 必死の嘆願(たんがん)に、否応(いやおう)無しに事の深刻さが伝わってくる。事態を把握(はあく)したトランクスの行動は素早かった。

 すぐさま(きびす)を返し、今さっき自身が降りてきたばかりの役員専用エレベーターにヤムチャを(いざな)ったのである。

 

 それからは()()()()()()の1日となった。あれからブルマにドラゴンレーダーの予備があるか尋ねたものの、特殊な部品を使っているが(ゆえ)に現存するのはジャスミンが借り受けている1台きり。また、その部品の希少さもあってすぐに代わりを用意出来る(はず)も無く。

 ならば、とジャスミンのスマホの現在地を何とか突き止めようとしたものの、カプセルコーポレーションの技術をもってしても、ジャスミンの行方(ゆくえ)を探す事は出来なかった。

 そして、行き詰まった彼らは最後の切り札に頼る事となる。

 最後の切り札、(すなわ)ち―――――。

 “困った時の占いババ”、彼女の力に頼ったのだ。

 しかし、100発100中の彼女の占いを持ってしても、ジャスミンの行方(ゆくえ)を正確に(つか)む事は出来なかった。

 唯一(ゆいいつ)分かったのは、ジャスミンは天文学的な確率で発生する“時空乱流(じくうらんりゅう)”に巻き込まれ、ここでは無い世界に跳ばされた可能性がある事。恐らくはドラゴンボールも一緒だろう、という事だけだった。

 ただし、どこに跳ばされたのか、別の惑星かはたまた全く異なる宇宙なのか、それは全くの不明。また、運が悪ければ出口に辿(たど)り着く事は出来ず、永遠に“亜空間(あくうかん)”を彷徨(さまよ)う事になる、とまで言われヤムチャはショックのあまりに卒倒(そっとう)してしまった程だった。

「ヤムチャさん!?しっかり!!!」

 同行していたトランクスが(あわ)てて崩れ落ちたヤムチャの体を支える。

「だ、大丈夫かの?」

 説明した張本人である占いババも思わず心配する程のショックの受け方だった。

 同じく同行し占いババの話を聞いていたブルマも、幼い頃から娘同然に可愛がっていた少女に起こった事態に思わず気が遠くなったが、地球一の才媛(さいえん)流石(さすが)に冷静だった。

「トランクス!一旦帰るわよ!!」

 入口に向けて(きびす)を返しながら、トランクスに指示を出す。

「え?!わ、分かった。」

 自身も動揺(どうよう)を隠せないトランクスがヤムチャを(かつ)ぎ上げながらブルマに答える。

「これからどうするつもりだい?頼みの綱のドラゴンボールも無いんじゃ、探しようが無かろう?」

 占いババの言葉に、ブルマがピタリと足を止めた。

「ドラゴンボールならあるわよ。…ナメック星のがね!!」

 自信たっぷりに言い放たれたブルマの言葉に、トランクスと占いババも(きょ)()かれたように動きを止める。

「あ!」

「おぉ!その手があったか…!」

 感心したように納得する占いババに、ブルマも頷いてみせた。

「そういう事。という訳でトランクス!さっさと帰るわよ!!…それから、あんたはヤムチャを部屋に寝かせたら急いで(そん)くんを探して連れて来てちょうだい!!」

「え?悟空さんを?何で?」

「バカね。ナメック星に行くには(そん)くんの瞬間移動しか無いでしょ?ナメック星の座標(ざひょう)何か知らないわよ。それに、もし知っていたとしてもこれからすぐに使える宇宙船を準備するのは時間がかかるわ。一刻も早くジャスミンちゃんを保護しないと…。」

「た、確かに…。」

 一瞬疑問に思ったものの、説明されればなるほど(もっと)もである。

「分かったらとっととダッシュ!ジャスミンちゃんが危ないかもしれないのよ!!」

「はいっ!!!」

 ブルマの号令に、(あわ)ててヤムチャを(かつ)いだままトランクスが走った。

 

 ――――――――その後、悟空を探し当てたトランクスが(いま)だ意識を失ったままのヤムチャの代わりにナメック星へと同行し、ナメック星人たちの協力を得てポルンガを()び出したものの、その結果は求めていたものにはならなかった。

 ナメック星のポルンガの力を持ってしても、ジャスミンと地球のドラゴンボールを()び戻す事は叶わなかったからである。

 しかし、全く収穫が無かった訳では無かった。ポルンガによって、ジャスミンが“亜空間(あくうかん)”では無く、別の世界に無事辿(たど)り着けていた事が発覚したからである。

 最悪の状況は回避出来た事に胸を()で下ろしたヤムチャとブルマ、トランクスだったが((ちな)みに、悟空は“亜空間(あくうかん)云々(うんぬん)といった小難しい話は理解しておらず、ジャスミンの行方(ゆくえ)が分からないという事だけ把握(はあく)していた)、()び戻す方法が全く分からずに手詰まりになってしまった。

「良く分かんねぇけど、ポルンガでもダメだったんだからオラ界王(かいおう)様にも聞いてみるよ。もし、界王(かいおう)様がダメでも界王神(かいおうしん)様か界王神(かいおうしん)のじっちゃんならどうにかする方法知ってるかもしんねぇし。」

 悟空の提案により、界王(かいおう)界王神(かいおうしん)の知恵を借りる事となったが、それから半年経った現在も、明確な解決方法は見付かってはいない――――――――。

 

 

 

 

 




今回書きたかった事
・父親の勘でジャスミンの危機を感じ取るヤムチャ
・軽くパシられるトランクス

何気に初登場のプーアルと悟空でした。


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第49話 ケイミーを救え!シャボンディ諸島の闇

お待たせしました!第49話更新です。
次話から原作と多少違う展開になる予定です。
今回はあくまでも導入部分なので、さほど進んでいません(汗)
次回更新はいつになる事やら…(汗)

追記:お気に入り登録が2300人を超えました!!感想・評価もありがとうございます!



 ―――――――――第7宇宙。ジャスミンの出身星である地球を始め、多種多様の生命が息衝(いきづ)惑星(わくせい)が数多く存在する。

 その中でも(ぞく)に“あの世”と呼ばれている場所に、()()は存在した。

 “界王星(かいおうせい)”。

 一般的に()()呼ばれる惑星(わくせい)は1つの宇宙に4つ。しかし、ジャスミンを含める地球の戦士たちにとっては、“界王星(かいおうせい)”とは“北の界王(かいおう)”が住まう“北の界王星(かいおうせい)”を指す。

 小さな、地球から見れば本当に小さな惑星(わくせい)の上には1(けん)の家と赤いスポーツカー、そして良く手入れされている事が(うかが)える芝生(しばふ)と、それを2分するように惑星(わくせい)縦断(じゅうだん)した道。

 その家の前に置かれたテーブルとイス。そこに座り、分厚(ぶあつ)い本でひたすら調べ物をしている者こそが、この惑星(わくせい)の主、“北の界王(かいおう)”だった。

「う―――――――む………。」

 青い肌の為に(はた)から見れば分かり辛いが、その顔色は良くない。

界王(かいおう)様、まだ分かんねぇのか?ジャスミンのいるとこ。」

 同じくテーブルに付き、頬杖(ほおづえ)を付いてその様子を見ているのは悟空だった。

「ちょっと黙っておれ!時空乱流(じくうらんりゅう)何て、滅多(めった)に起こるもんじゃ無いんじゃ!これまで起こったのは、いずれも歴史の動乱(どうらん)や星の変生(へんせい)など何か大きなエネルギーが発生し、時空間(じくうかん)に影響を及ぼした時じゃ。何故、あんな変哲(へんてつ)も無い骨董品(こっとうひん)屋で発生などしたのか……。まずはそこを解明せん事には、1人の人間が流された世界など特定出来んわ!!」

「うぉっ!?」

 くわっ!と怒鳴り付けてくる界王(かいおう)に、悟空が思わず()()った。

「わ、分かったよ。でも、そんなに難しいんか?特定すんの。」

「当ったり前じゃ!!この宇宙以外にも世界は星の数程あるんじゃぞ?!その中から何の手掛かりも無しに見付けようなんぞ、不可能じゃ!例えるなら、海の中に落としたたった1つの小石を見付けようとするようなもんじゃぞ!!!」

「そ、そんなにかぁ?!」

「分かったら静かにしておれ。この界王(かいおう)(ろく)には、この広大な宇宙が誕生してからの、全ての事柄(ことがら)が記されておる。きっと原因が見付かる(はず)じゃ。原因さえ分かれば、時空乱流(じくうらんりゅう)の“出口”もきっと突き止める事が出来る。そうすれば、今度は意図的にその世界への“入口”を創る事も出来る(はず)じゃ。」

「“入口”を創る?」

然様(さよう)。ジャスミンという娘が流されてしまった世界と地球を一時的にトンネルのように繋ぐのじゃよ。ポルンガは確か、“自分の力では見付けられない”と言ったんじゃったな?」

「ああ。確かそうだ。」

 界王(かいおう)の言葉に、悟空が半年前の記憶を手繰(たぐ)る。

「さっきも説明したが、この宇宙以外にも世界は星の数程存在する。その中から何の手掛かりも無しにたった1人の娘を見付け出す事は不可能。ポルンガとて同じ事じゃ。しかし、原因を解明し“出口”を突き止める事が出来ればその世界の“座標(ざひょう)”を知る事が出来る。それさえ分かれば、ポルンガが“入口”を創ってくれる。」

「よ、良く分かんねぇけど分かった。」

「分かったら静かにしておれ!気が散るわ!!」

 ただでさえ大仕事なんだから邪魔するな、と再び本に目を落とした界王(かいおう)の横に積まれているのはこれまでに目を通した界王(かいおう)(ろく)の山。その数478冊。そしてその反対側に積まれているのは、まだ目を通していない界王(かいおう)(ろく)の山。その数531冊。

 界王(かいおう)が現在目を通しているのは界王(かいおう)(ろく)の479巻。

 界王(かいおう)(ろく)は全1010巻。

 半年かかってまだ折り返せていない。

 …………道のりは長かった。

 

 ━シャボンディ諸島22番GR(グローブ)人間(ヒューマン)(ショップ)

「誰も人魚売りに来てねェか!!?」

 シャボンディ諸島の至る所に点在する、奴隷(どれい)たちが()()に売買される人間(ヒューマン)ショップ、その1つにルフィはいた。

「き、来てねェよ!!」

「おい麦わら、騒ぎになると探しづらくなるぞ!!」

 店員の胸倉(むなぐら)(つか)み、締め上げるルフィをハチが制止する。

「どうだ、タコッパチ!!パッパグ!!」

 ぜーぜーと荒い息を()きながらハチとパッパグに問いかける。

「いねェな店内には。」

 ハチが店内を見回し、目に付く(おり)の中を探すが、目的の人物はいなかった。

「ウチは倉庫ねェから出てる商品で全部だ。」

 ルフィの締め上げから解放された店員が、ルフィたちを(なだ)めるように話す。

 何故(なぜ)ルフィたちがここまで焦っているのか、誰を探しているのか、それを明らかにするには少々時間を(さかのぼ)らなくてはならない。

 少し前まで、ルフィたちはシャボンディ諸島の名物とも言える観光スポット、“シャボンディパーク”で遊んでいた。これまで遊園地など行った事の無い彼らは、少々羽目(はめ)を外してしまった。それは、この諸島の()()()熟知(じゅくち)している(はず)のハチやケイミーも例外では無く。

 ケイミーから目を離してしまった。

 奴隷(どれい)の売買が()()()されているこの諸島では、魚人や人魚は格好の()()となる。特に若い女の人魚は(けた)外れの値段が付く事もあり、人攫(ひとさら)いを生業(なりわい)とする者たちにとっては、(のど)から手が出る程に手に入れたい()()となる。

 それは魚人や人魚にとっては、誰しもが知っている事だったが、あまりにも楽しい、夢のような時間を過ごすうちに失念(しつねん)してしまった。

 アイスクリームを選ぶ為に、歩けないケイミーを1人ベンチに待たせ、彼らはその場を離れてしまった。

 ………彼らが戻ってきた時、ケイミーは(さら)われてしまっていた。

 ルフィたちは2手に分かれ、ケイミーを捜索する組と他の仲間たちと合流する組に分かれたのである。

 一旦人間(ヒューマン)(ショップ)を出、ルフィたちが周囲を見回す。

「ニュー!!まだ売られてるとは限らねェし、せめて(さら)ったチームが分かればな。」

「お――――――い!!!ケイミ――――――――!!!」

「ペイ…、ペイビ――――――――イ!!!どこだ――――!!?」

 ルフィが声の限り叫び、パッパグは号泣(ごうきゅう)している。

 その様子に、周囲の人間も“麦わらのルフィ”に気付き、ざわつき始めたが、ルフィたちにそれに構っている暇は無かった。

畜生(ちくしょ)ォ…!!おれが悪いんだァ~。遊園地は人攫(ひとさら)いにとって絶好(ぜっこう)誘拐(ゆうかい)スポット。奴らが“人魚”をそれ程欲しがっているか、知っていながら…。」

 パッパグが泣きながらケイミーと交わした最後の会話を思い出す。

「あ…、あァ…、あれがケイミーとの最後の会話なんて嫌だァ――――――!!!おれが(わり)ィんだ!!おれが!!!遊園地なんか……。」

「何か知らねェけど、あんなに喜んでたんだ!!遊園地に行った事は良いじゃねェか!!」

「…良かねェよ!!本当は…、魚人や人魚がこの島に入る事さえ良かねェんだ!!――――――だけど、ハチはどうしてもお前らの役に立ちてェって言うから…。」

「………パッパグ!!それ以上言うな!!」

「何で良くねェんだよ!!タコッパチ!」

 ハチがパッパグを制止しようとするが、ルフィがそれに疑問の声を上げる。

「ケイミーとハチの敵は…、何も人攫(ひとさら)いだけじゃねェ。この諸島に住む“人間”たち全員が敵なのさ。」

「!?」

 パッパグが続けた言葉に、ルフィが一瞬言葉を失う。

 そして、パッパグから人魚や魚人たちが受けてきた迫害の歴史と、今尚(いまなお)続く差別を知らされる。

「差別…。」

「ここは、()()()()()だと割り切らなきゃバカを見るのはこっちの方なんだよ!!!だからおれは!!鬼になってもケイミーを止めなきゃならながっだ!!!ゲイビ――――――――ィ!!」

 パッパグはルフィに説明しながらも自らを責め続ける。

「ニュ~。悪い、麦わら。お前らの手助けをするつもりが迷惑を…。」

「何言ってんだお前ら!お前らが悪いと思う事なんて、1つもねェじゃねェか!!お前ら3人共、もうおれたちの友達なんだ!!例えどんな事したってケイミーは必ず助け出すから!!!もう泣くな!!!」

「!!!……ムギ………、お前……!!」

 パッパグの涙が思わず止まった、その瞬間だった。

 そこに、もう1人が()()()()()

 

「どうしたの?ルフィくん。」

 そう、ルフィに声をかけたのは。

「ジャスミン!?」

「遅くなってゴメンね。ちょっと訳があって…。ナミちゃんたちは?」

 かけられた声にルフィがその場に視線を向けると、そこには本来上陸直後に合流予定だった少女‐ジャスミンがいた。

「訳?って、それどころじゃねェんだ!大変なんだよ!!」

「何があったの?この人たちは?」

「話は後だ!ケイミーが、友達の人魚が(さら)われたんだ!!早いトコ見付けねェと……!」

「!そのケイミーさんって名前からして女の人だよね?いくつくらい?若いのかそれとも、ある程度の年齢なのか分かれば……。」

 ルフィの言葉に、ジャスミンが半年程前に仕入れた情報を手繰(たぐ)る。

「たぶん、おれたちとそう変わんねェ年齢(トシ)だと思うけど、ホントに分かんのか?!」

「なら、十中八九1番GR(グローブ)人間(ヒューマン)オークション会場だと思うよ。」

「ほ、本当かそれ!?」

 言い切ったジャスミンの肩をハチが(つか)み、詰め寄る。

「あのオークション会場はシャボンディ諸島でも最大の規模…。若い女の人魚を欲しがる好事家(こうずか)なんていくらでもいるから、普通に人間(ヒューマン)(ショップ)でに売り払うよりも、オークションで金額を跳ね上げさせた方が見返りは大きい。それにあそこは確か天竜人(てんりゅうびと)御用達(ごようたし)だった(はず)…。」

「て、天竜人(てんりゅうびと)だって…?!」

「マズいぞ、それ……!!」

 恐れていた事態を彷彿(ほうふつ)とさせる言葉に、ハチとパッパグの顔が一気に青くなる。

「今日は1日だから…。マズいな、今日がそのオークションが開催される日…。開始時間は確か16時。今ならまだ間に合います。」

 ジャスミンが時計で日時を確認する。現在は15時39分。急げばまだ間に合う。

「なら急いで行こう!!」

「待ってルフィくん!!!」

 すぐにでも駆け出しかねないルフィをジャスミンが制止する。

「ケイミーさんを助けには私が行く!ルフィくんは、この人たちと一緒にオークション会場の裏口付近に隠れて待っててくれない?」

「何でだよ!?おれも行く!!」

「ルフィくん、絶対隠密(おんみつ)行動とか出来ないでしょ?エニエス・ロビーでの事、まだ忘れて無いよこっちは!!もしかしたら天竜人(てんりゅうびと)がいるかもしれない所で派手に暴れられると迷惑なの!!下手すれば“大将”が軍艦引き連れて攻めて来るんだから!!!」

 ただでさえ“予言”された日まで時間が無い。負ける気はさらさら無いが、大将の相手をしている暇など無いのだ。

「私なら、客に気付かれないでオークション会場に忍び込める。必ずケイミーさんを連れて行くから、裏口で待ってて!」

「わ、分かった…。」

 ジャスミンの剣幕(けんまく)に押されたルフィが頷く。

「じゃ、先に行ってるから。」

「お、おう…!」

 バシュッ!と飛び立ったジャスミンを見送りながら、ポツリとハチとパッパグが呟く。

「ニュ~。アイツ、“中将殺し”だろ?意外と優しいんだな…。」

「新聞だとかなり極悪非道に書かれてたけどな…。」

「アイツは良い奴だ!おれたちも行こう!!」

 言い置いて、ルフィも走り出した。

 




界王さま登場~。
・界王録…一応原作にも出て来るが、実際には何冊あるのかは不明。宇宙が始まってからの全ての事が書いてあるなら、1冊じゃ済まないよな、と巻数はねつ造。


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第50話 忍び寄る悪

お待たせしました!第50話更新です。
50話までいっても大して山場に持っていけない自分の文才の無さにちょっと落ち込みつつ、これからも更新を頑張らせていただきます!

さて、今回いよいよ“黒幕”たちがちょっとだけ登場します。これで分かる方ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんね。
“助っ人”は次回かその次まで少々お待ちくださいませ。


 ━1番GR(グローブ)人間(ヒューマン)オークション会場━

 ――――15時42分、オークション会場舞台裏‐()()保管庫。

 ジャスミンは既に()()に潜り込んでいた。数か所設置されているカーテンの影に隠れ、天井から様子を(うかが)っていたのだ。

(何でこんなトコにいるんだろ、()()()…。)

 ()()()()()()がいる事に疑問を感じつつも、“気”を完全に消して天井に張り付く。

(!あれか…。)

 そんな中、目的の人物に気付く。

「放してよ!!痛いっ!!あんたたちなんか!!はっちんがぶっ飛ばしに来ちゃうんだからね!!」

 趣味の悪い服装の男たちに2人がかりで運ばれているのが、人魚のケイミーだろう。

 そこに、従業員たちとは違う服装(これも趣味が悪い)の責任者らしき男が近付いていく。

「おほっ!!コリャ高く売れそうだ珍しい!!イキも良い!!ハリもある!!」

(下衆(ゲス)野郎…。)

 ケイミーの顔を(つか)み、ジロジロと値踏(ねぶ)みする男に上から見下ろしながら嫌悪感を抱きつつ、ジャスミンが自身を抑える。

「出品者は?」

「“ハウンドペッツ”で。」

「ピーターマンか。良い仕事しやがる。トビウオライダーズは今回何も出して来ねェってのに。」

 (なお)値踏(ねぶ)みを続ける男に、不意にケイミーが舌を出した。

「べ――――っ!!」

 その瞬間、それまで笑みを浮かべていた男が豹変(ひょうへん)する。

 パン!!

「きゃあ!!」

「コノヤロー、魚の(くせ)に!!!」

 思い切りケイミーを平手で殴り付け、倒れたところを蹴り付けようとして部下たちが慌てて男を抑えた。

「ちょっと、ディスコさん!!大事な商品ですよ!!!」

「傷付けたら値が下がる!!蹴るんならせめて服で隠せる腹とか…。」

「ケッ!!」

 部下の言葉に吐き捨てる男‐ディスコに、ケイミーが泣きながら叫ぶ。

「お前だって!!………!!はっちんがやっつけてくれるんだからね!!!」

「まだ口答(くちごた)えを…。」

 (なお)もケイミーを蹴り付けようとする男に、思わずジャスミンがポケットを探った時だった、

 ゾクッ………!

 不意に圧迫(あっぱく)するような殺気がディスコに向かって放たれたのを感じ取る。

 ドサッ!

「!?え!?…ディスコさん!?」

「おい、どうしたディスコさん!?」

 そのまま気絶したディスコに、保管庫にいた部下たちが全員駆け寄ったのを確認し、ジャスミンが動いた。

 ドッ!

 ドドッ!

 ドンッ!!

 ポケットから瞬時に(つか)み出した()()で、一瞬のうちに3人の男たちを狙い撃った。

 ()()寸分(すんぶん)(たが)わずに、男たちの急所を狙い撃ち、男たちが声も無く崩れ落ちる。

 ドサッ!

 ドタンッ!

 バタッ!

「え!?」

「な、何だ!?」

「どうしたの?!」

 ディスコが倒れた事にも不思議そうな顔をしていたケイミーが、疑問の声を上げ、それに反応した他の()()たちも一瞬騒然(そうぜん)とする中、近くに他の従業員の“気”が無い事を確認し、ジャスミンが飛び降りる。

 スタンッ!

「あなたがケイミーさんですね?」

「え?あ、あなた誰?!」

 突然現れたジャスミンにケイミーが目を白黒させた。

「話は後です。外でルフィくんたちが待ってますから、早く逃げましょう。」

「ルフィちんたちが!?」

 ルフィの名に、ケイミーの顔が明るくなる。

「裏口で待ってます。その前に…。」

 ケイミーに答えながらジャスミンがディスコのポケットを探る。

「あった!」

 チャリ…!

 取り出されたのは、鍵の束。そして今回オークションに出品される(はず)だった()()のリストだった。

「ちょっと待っててくださいね。」

 ガチャン…!

 (ろう)の鍵を外し、不運にも()()となってしまった者たちに向き直る。

「これから皆さんの首輪を外します!裏口までの安全は保障しますが、それから先は自力で逃げてもらいます!既に表の会場には客が大勢入っています。中には天竜人(てんりゅうびと)もいるようです!また捕まりたくない人は絶対に騒がず、静かに付いて来てください!!」

 そう言うなり、急いで全ての者たちの首輪と手枷(てかせ)を外して回る。皆助かりたい気持ちは同じなようで、(はや)る気持ちを抑えて大人しく待っていた。

「ありがとう…!ありがとう…!」

「助かった…!もうダメかと思った…!!」

 奴隷の証である首輪から解放された途端(とたん)、皆涙さえ浮かべながら小声で礼を言う。

「この恩は絶対忘れない…!いつか必ず礼をする!!」

 特に巨人の男は、ジャスミンにそう(ちか)った程だった。

 そして、最後の1人―――――――――。

「ふふふ……。(みょう)な所で再会するな…。」

「ええ、全く。元々私は、あなたを探してこの島に来たんですけどね…。」

 半年前に出逢(であ)い、そしてコーティングを依頼する為に探していた老人の言葉に頷きながら首輪と手枷(てかせ)を外す。

「おや?私を探していたのかい?」

「ええ。コーティングを依頼したくて。でも、話は後です。オークション開始まで後10分。そろそろ他の従業員が顔を出してもおかしく無い。急ぎましょう!!」

 そう言うなり、ケイミーを抱えて足早に裏口を目指す。

「なら、殿(しんがり)は私が務めよう。君たちは先に行くと良い。」

 コーティング職人の老人の言葉に、解放された者たちが頷き足早にジャスミンの後に続く。

「おや?君は行かないのかね?」

 他の者たちが次々と部屋を出て行く中、動こうとしない巨人に向かって老人が問う。

「行くさ。せっかく自由にしてもらったんだ。ただ、じいさんあんた何者だ……!?さっきの覇気(はき)只者(ただもの)じゃねぇ。」

「ふふ…。ただのコーティング屋をやってるジジイだ。わしは若い娘さんが大好きでねェ…。それに、あんなものは多少()()のある者ならそう難しくも無い。それよりも()()()()()()()容易(たやす)くやってのけた娘さんがいる…。」

 そう言いながら老人が倒れた男たちの(そば)に落ちていたある物を拾い上げた。

「何だそれ?」

「コイン…。100B(ベリー)硬貨か。」

「コイン?それがどうした?」

「ああ。君じゃ視線が高過ぎて見えなかったのか。このコインが、この男たちを気絶させたのさ…。」

「コインで?能力者か?」

「いや。このコインを指で弾いて、弾丸のように撃ち出したのさ。…全く大した腕だ。」

 そう。あの時、ジャスミンがポケットから取り出し、撃ち出したのは3枚の100B(ベリー)硬貨。“指弾(しだん)”、もしくは“如意珠(にょいしゅ)”と呼ばれる技の一種である。本来ならば人間を昏倒(こんとう)させる程の威力は出せないが、“気”の扱いに()けた戦士がその気になれば造作(ぞうさ)も無い事だった。

「そんな芸当が本当に可能なのか?」

「現にこの男たちは気絶している。さて、他の連中は皆逃げられたようだ。わしらもそろそろ行こう。本当に従業員が来てしまう。」

 言い置いて裏口を目指して歩き出す老人に、半信半疑ながらも巨人の男も付いていく。

 

 最初に気付いたのはルフィだった。

「来た!ジャスミンだ!!」

「ケイミー!!」

「ペイビ―――――――ィ!!!」

 ジャスミンがケイミーを抱えて裏口を潜り抜けた途端(とたん)、ルフィたちもまたジャスミンたちを見付けたのだ。

「はっちん!!パッパグ!!」

 喜色満面(きしょくまんめん)に走り寄るハチ、号泣しながら走るパッパグに、ケイミーもまた目に涙を浮かべて名を呼ぶ。

「そ、外だ…!助かった…!!」

「自由だ…!!」

「ありがとう…!あんたのお陰だ……!!」

 ジャスミンによって奴隷の危機から解放された者たちも、次々と裏口から外に出て来る。

 ケイミーをハチへと渡し、ジャスミンも彼らへと向き直った。

「どういたしまして。言い方はなんですけどついででしたから。それより、早くここから離れてください。2度と捕まらないように。」

 ジャスミンの言葉に、皆口々に礼を言いながら方々(ほうぼう)へと駆けて行く。

 他の者たちが全員逃げ出した後、最後に巨人の男とコーティング職人の老人が出て来た。

「ん?そこにいるのは…。おぉ!!?ハチじゃないか!?そうだな!!?久しぶりだ!―――――何をしとるこんな所で!!」

「レ、レイリー!!?」

「ん?あ~、いやいや言わんで良いぞ。――――成程、その人魚の娘さんはお前の連れだったか。」

「……お知り合いだったんですね。」

 まさか自身の探していたコーティング職人と、ルフィの連れが知り合いだとは思わなかった、とジャスミンが内心呟く。

「?このおっさんがコーティング職人なのか?」

「!ルフィくんたちもこの人を探してたの?」

 ルフィの問いかけに反応したのはジャスミンだった。

「みたいだな!お(めェ)が探してたコーティング職人もこのおっさんだったのか?」

「まぁね…。それより場所を移動しよう。他に捕まってた人たちは粗方(あらかた)逃げられたみたいだけど、人魚を連れていつまでもここに(とど)まるのもマズい。それに、もう16時を過ぎてる…。オークションが始まらないのにそろそろ客が気付く頃だから…。」

「なら、シャッキーのバーへ行こう。あそこならそう簡単に見付からん。」

「まだみんな来てねェんだ。おっさんとタコッパチたち、ケイミー連れて先に行っててくれよ。後でみんなと一緒に行く。」

 ルフィが提案し、ルフィ1人残して行くのも不安だったジャスミンがそれに付き添ってハチらを見送る。コーティング職人の老人‐レイリーがいるなら何かが起こっても大丈夫だと判断しての事だ。

「ルフィくん、私“麦わら一味”が全員(そろ)ったら本格的に別行動取らせてもらうね。」

「?これからどうするか決めたのか?」

「後8日…、実質的には7日かな。元の世界に帰る手掛かりが(つか)めそうなんだけど、その為にちょっと本腰(ほんごし)入れて修行しなくちゃいけなくなってね…。」

「あぁ!だからそんな恰好(かっこう)してんのか。」

 ジャスミンが(まと)う、山吹(やまぶき)色の道着を指してルフィが納得した声を出す。ジャスミンにしては珍しい恰好(かっこう)だとは思っていたらしい。

「そ。形振(なりふ)り構ってる場合じゃなくて…。」

 取り()えずルフィに改めて別行動を取る事を伝えていた時だった。

「お――――い!ルフィ―――――!!」

「ルフィ――――――――!!」

 サンジとナミ、ロビン、フランキー、ウソップが到着する。

「ジャスミン!あんたもいたのね。ルフィ!それで、ケイミーは?!」

「ケイミーは大丈夫なのか!?」

「大丈夫だ。もうジャスミンが助けてくれたからな!今はタコッパチたちと一緒にオバハンの店に先に行ってる。」

 ナミとウソップが立て続けに問い(ただ)すのに、ルフィが答える。その瞬間、他の者たちもほっとした表情を見せた。

「後はチョッパーくんとブルックさん、それにロロノアさんですね?」

「ああ。それにしても(おせェ)な、アイツら。あの迷子マリモはともかく、チョッパーやブルックまで…。」

 ジャスミンの言葉にサンジが同意した直後。

「ん?」

 不意にジャスミンが上空を(あお)ぐ。

「何だ?」

「まさか…。」

「何か嫌な予感が…。」

 それに釣られてルフィ、サンジ、ナミも同様に上を見上げた時だった。

 ヒュンッ!

 ヒュヒュンッ!

 ヒュンッ!!

「うわぁああああっ!!!?」

「ヨホ――――――――ッ!!!」

「ぅおっ!?」

 ドッカアァアアアア……………ン!!!!!

 チョッパー、ブルック、ゾロを乗せた巨大トビウオが会場へと突っ込む。

「うぉおおおい?!チョッパ――――――――!?ブルック、ゾロ―――――!!?」

「おぉ!?お前ら大丈夫か――――――!?」

 ウソップとルフィが慌てて会場へと走って行くのを思わず見送り、他のメンバーは重い溜息を()いた。

「「「「「あぁ――――あ………」」」」」

 誰もがやっぱり一騒動起こるのか、と悟る。

「あ、ヤバイ。中に天竜人(てんりゅうびと)がいるかもしれない…。」

「何ですって!?」

「マズイわね…。」

 思い出したように呟かれたジャスミンの1言に、真っ先にナミとロビンが反応する。そして、これ以上何か面倒事(めんどうごと)を起こす前に、と一同はトラブルメーカー(ルフィ)の回収に向かった。

 

 ━同時刻、新世界のとある島━

「ちっ……!集まりが遅い…。やはり、この世界では()()()程良質なエネルギーはなかなか無いようね…。」

 自身たちの存在を感知(かんち)されないよう、幾重(いくえ)にも張り巡らされた結界(けっかい)の中で、そう吐き捨てる女がいた。(かたわ)らには、(あや)し気な仮面を着けた1人の男。

 2人の視線の先には、ガラスのような球体が取り付けられた巨大な装置。その中には、手足が千切(ちぎ)れた人間らしき影が、球体を満たした透明な液体の中に浮いていた。

「…()()()()()為にも、まずは()()()蘇生(そせい)させなくてはならないのに…。その為にわざわざこんな世界に来たっていうのに、こんなところで(つまず)くなんて………!」

 爪を()みながら苛立ちを(あら)わにする女に対し、(かたわ)らの男は狼狽(うろた)えるでも(なだ)めるでも無く、1言も発しない。

 

 彼女たちの正体は一体何者なのか。それが明らかになるまで後8日――――――。

 



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第51話 天竜人の激昂!迫る海軍大将

お待たせしました!第51話更新です。
本来もっと進む筈でしたが、意外と長くなった為一旦切りました。
来週から割と忙しくなる為、急いであげましたが、次回更新はいつになるやら…。


 何となく入る前から嫌な予感はしていたのだ。100人以上を収容する(はず)のオークション会場から、全く物音がしなかったので。

 ジャスミンたちが会場の中へと入った時、そこは静まり返っていた。

「悪いお前ら……。()()()()殴ったら、海軍の“大将”が軍艦引っ張って来んだって……。」

 パキポキと拳を鳴らすルフィから、その周辺に倒れた2()()天竜人(てんりゅうびと)に目を移す。

 そして血だらけでゾロに抱えられているチョッパーを見付けた。

「チョッパーくん?!」

「チョッパー?!」

「おいチョッパー!一体どうしたってんだよ!」

 慌てて駆け寄るジャスミンと、それに続くナミとウソップ。

 一体この短時間で何があったというのか。

 

 ――――――その、わずか3分前。

 会場内は、16時を過ぎてもオークションが始まらない事にざわついていた。

「一体、いつまで待たせるアマス!もうとっくに時間は過ぎているアマス!!」

 天竜人(てんりゅうびと)の1人、シャルリア(ぐう)金切(かなき)り声が響く。

「も、申し訳ありません!ただいま確認に行っておりますので、もう少々だけお待ちを……!」

 その目の前で、膝を付いて床に頭を()りつけて許しを()うているのは、従業員の1人だった。本来ならば彼の仕事は司会が登場するまでの前座(ぜんざ)に過ぎないのだが、予定の時刻を過ぎても一向に司会のディスコが現れず、客の不満を一身(いっしん)に受ける羽目(はめ)になったのだ。

 最初は演出かと思ったものの、何の連絡も受けておらず他の従業員も姿を現さない。慌てて会場内にいた衛兵に目配せして確認に行かせているところだった。

 このオークション会場で働き始めて数年経つが、こんなアクシデントに見舞(みま)われた事など(つい)ぞ無い。一刻も早くオークションを開始しなければ、自分の身が危うい。

 冷や汗をかきながら、男がひたすら平伏(へいふく)していた時だった。

 ドッカアァアアアア……………ン!!!!!

「ぐふぇっ!?」

 音を立てて、天井が崩れ落ちたのは。

「いったい、何事だえ!?」

 突然の出来事に、それまでは男の言い訳を(さげす)んだ目で見ていたシャルリア(ぐう)の父・ロズワード聖が立ち上がる。

「…?!チャルロス!!」

 そして見たのは、ちょうど会場に入ってきた、自身の息子であるチャルロス聖が天井から落ちて来た()()によって押し潰されている光景だった。

「チャルロス兄様――――――!!」

 シャルリア(ぐう)絶叫(ぜっきょう)によって、落ちた拍子(ひょうし)に一瞬気絶していたらしいその()()が起き上がる。

「いてててて…。うぉっ!?大丈夫かお前!?医者――――――!!っておれだ―――――!!」

 自身が誰かを下敷きにしていたらしい事に気付いて、慌てて()けるチョッパーだったが、それが天竜人(てんりゅうびと)であるという事にはまだ気付いていないようだった。

「イタタタ…。イヤ―――、死ぬかと思いました。……って私、もう死んでますけど。ヨホホホホッ!!」

「ったく、いきなりなんなんだよ…!」

 ガラガラと瓦礫(がれき)の中から起き上がるブルックとゾロもまだ事態の大きさに気付いてはいない。

 怒りの余りロズワード聖とシャルリア(ぐう)が震えている中、周囲は恐怖に(おのの)き一部の海賊たちは面白そうにただ傍観(ぼうかん)している。

「チョッパ―――――!ブルック、ゾロ―――!!」

 そんな中ステージから響き渡った声。

「!」

「…あれが“麦わら”。」

 ステージ(わき)から現れた“麦わらのルフィ”の姿に、同じくルーキーの1人、ユースタス・“キャプテン”キッドと“死の外科医”トラファルガー・ローが微かに目を(みは)った。

「お!いたいた!お前ら無事だったか―――!!」

 仲間を見付けた事で、笑顔で歩み寄るルフィだったが、それを阻止するかのように一発の銃声が響き渡る。

 ドォンッ!!!

「え‶………?」

 わたわたとチャルロス聖の応急手当をしていたチョッパーの体が(かし)ぐ。

「おい?チョッパー?」

 最初に異変に気付いたのはゾロだった。

 ドサリッと倒れ込んだその小さな体に立ち上がって駆け寄ろうとするが、それよりも早く続け様に放たれた弾丸にそれは(はば)まれる。

 ドンッ!

 ドドンッ!!

 その(たび)にチョッパーの体が()ね、その茶色の毛並みを“(あか)”に染めていった。

「チョッパ――――――ッ!!!」

「チョッパー!!?」

 ルフィが叫び、ゾロがその体を抱き起す。

下々(しもじも)の身分で良くも息子を…!!貴様ら全員剥製(はくせい)にしてやる!!」

 撃ったのはロズワード聖。天竜人(てんりゅうびと)として生を受けた彼にとって、これ程の屈辱(くつじょく)は生まれて初めての事だった。

「テメェッ!!?」

 急いで止血を(ほどこ)しながら殺気立つゾロだったが、船長(ルフィ)が動いた事で一旦()()を抑える。

 ゆっくりとロズワード聖に向かうルフィの姿に、ゾロの次にその意図を悟ったのは、見物していた海賊たちだった。

「麦わら屋…?まさか…。」

「本気か!?」

 トラファルガー・ローと“キャプテン”キッドが瞠目(どうもく)する。

 そして、次第に他の客たちの中にも徐々にそれに気付き始めた。

「何する気なんだ、あいつ…!?」

「冗談だろう…!?」

 察しの良い人間が(おのの)く中、ロズワード聖の仕込み銃がルフィへと向けられる。

「すぐに“海軍大将”と“軍艦”を呼べ!!!この世界の創造主の末裔(まつえい)である我々に手を出せばどうなるか、目にもの見せてくれるわ!!」

 ドンッ!!

 ドンッ!!

 再び放たれた弾丸は、真っ直ぐにルフィへと向かうが、それが当たる前にルフィの姿が()き消える。

 そして次の瞬間――――――、

 ドゴォン!!!

 瞬時にロズワード聖の目の前に現れたルフィの拳が、的確にロズワード聖の左(ほお)を打ち抜いていた。

 そしてその直後、ジャスミンたちが駆け付けたのである。

 

「お、お父上様まで…!!!お前たち!何をグズグズしているアマス!さっさと奴らを捕えるアマス!!!」

「は、はい!!!」

 怒りに顔を(ゆが)めたシャルリア(ぐう)が付き人たちに金切(かなき)り声で命じ、それを受けて会場に()()()()

天竜人(てんりゅうびと)を怒らせたァ――――――!!!」

「逃げろ外へ!!!」

「キャ―――――――――!!!」

 (はち)の巣を(つつ)いたような騒ぎが、一気に会場中に広まり、出入り口に人が殺到(さっとう)する。

「貴様ら、生きてここから出られると思うな!!」

「海賊共を逃がすな!!」

 オークション会場内にいた衛兵たちと、天竜人(てんりゅうびと)付きの私兵(しへい)たちが一斉に“海賊”捕縛の為に動き出す。

 迎撃(げいげき)すべく、ゾロがナミにチョッパーを(たく)した。

「ナミ、コイツを頼んだ。」

「一体何があったってのよ!?」

「おい!それより早いトコ医者に()せねェとヤベェんじゃねェのか?!」

 ナミとウソップが慌てる中、重傷ではあるが(たま)が全て急所(きゅうしょ)を外している事を確認したジャスミンがナミたちに背を向ける。

「見たとこ急所は外してる。今すぐ容体が悪化する事は無いだろうけど、あんまり動かさないであげてね。」

 言い置いてジャスミンが出入り口へと歩みを進める。

「お、おい!ジャスミン?!どこ行くんだよ!!?」

「海兵に囲まれたら厄介(やっかい)な事になるからね。ここはルフィくんたちだけで充分だろうから、先に行って“道”作っとくよ。」

 ウソップの問いかけにも振り返る事無く、手だけ振って答える。

 

 ━その頃、聖地マリージョア━

 海軍本部の1室で、頭を抱える男がいた。

 アフロヘアに無理やり被った何故か上にカモメを乗せた“МARINE(海軍)”のキャップ、そして胸元まで伸ばした(ひげ)を三つ編みに編んだ特徴的な出で立ち。

 現海軍“元帥(げんすい)”センゴク。“智将(ちしょう)”とも(うた)われる程の頭脳を持ち、常にその知力でもって最善の一手を見出してきた彼だったが、ここにきて“ルーキー”たちが起こした事件や(なぞ)の“龍”の目撃情報、世界各地で報告された“死者の蘇生(そせい)”、そして今回の“天竜人(てんりゅうびと)襲撃事件”など頻繁(ひんぱん)に頭を悩ませられる事となっていた。

「……またあの小僧(こぞう)たちか………!!次から次へと…!!“龍”の件や“死者の蘇生(そせい)”だけでも頭が痛いというのに…!あの一族の血はどうなっとるんだ………!!!おまけに…、おい!“中将殺し”の素性(すじょう)はまだ分からんのか?!!」

「はっ!“東の海(イーストブルー)”と“西の海(ウェストブルー)”、並びに“北の海(ノースブルー)”及び“南の海(サウスブルー)”に該当(がいとう)する娘はおりません!!偉大なる航路(グランドライン)でも今のところ有力な情報は上がっておらず、“九蛇(くじゃ)”の“海賊女帝”も関わりを否定!少なくとも世界政府加盟国の出身では無いと思われます!!」

 センゴクの怒声に、後ろに(ひか)えていた海兵が敬礼(けいれい)と共に答える。

「あれ程の実力者が何故あんな小僧(こぞう)共とつるんどるんだ…!目的が一切分からん上に、足取りが全く(つか)めん……!!おまけに今度は天竜人(てんりゅうびと)の襲撃だと?!私の胃を殺す気か?!!」

 胃の辺りを抑えて悲痛な声で叫ぶセンゴクに、後ろに(ひか)える海兵が半ば同情の眼差しで見詰めている。この2週間程でセンゴクはすっかり(やつ)れ、目の下にくっきりと表れた(くま)(あわ)れみを誘う。

 しかし、職務を(まっと)うすべく再び口を開く。

「情報では“麦わらの一味”と“中将殺し”に加え、海賊ユースタス・キッドと仲間数名、更にトラファルガー・ローとその仲間数名。賞金首は14名まで確認。――――内6名は“億超え”のルーキーです。主犯格(しゅはんかく)は当然、“天竜人(てんりゅうびと)”に危害を加えたモンキー・D・ルフィと見られています。“人間屋(ヒューマンショッ)”…あ、いや“職業安定所”の衛兵たちとも連絡が断たれ、全員やられてしまっているのではと……。」

 表向きは公認していると公言出来ない“人間屋(ヒューマンショップ)”を言い換えるが、それこそが海軍に蔓延(はびこ)る“闇”そのものとも言えた。

 因みに、“人間屋(ヒューマンショップ)”の衛兵たちのほとんどを戦闘不能にしたのは他ならぬジャスミンである。ケイミー救出の為に忍び込んだ際、目に付いた衛兵を全て気絶させ、いくつか空いていた部屋に放り込んでおいたのだ。

 その為、残っていたのは会場内にいた衛兵たちのみで、彼らも既にルフィたちによって片付けられている。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「――――とにかく、天竜人(てんりゅうびと)3名を人質にとった前代未聞(ぜんだいみもん)凶悪(きょうあく)事件と判断しております。」

「――――何か要求はあるのか?」

「いえ、今の所は…………!!」

 取り()えず意識を“天竜人(てんりゅうびと)襲撃事件”に戻したらしいセンゴクが問いかけるが、元々そんなものがある訳が無い。(もっと)も、海軍側がそれを知らないのは当然である為、仕方の無い事ではあるが…。

「――――何がどうあれ、世界貴族に手を出されて我々が動かん訳にはいかんでしょう。センゴクさん…………。」

 そんな中、それまで同じ部屋にいながらも口を出さなかった男が、ソファから立ち上がりながら口を開いた。

黄猿(きざる)……。」

「わっしが出ましょう。すぐ戻ります。ご安心なすって。」

 3m近い長身にストライプ模様の派手なスーツにサングラス。お世辞(せじ)にも人相が良いとは言えないが、海軍本部最高戦力たる“大将”の1人である、“黄猿(きざる)”ことボルサリーノ。

 本来ならば、海賊たちの検挙(けんきょ)へと送り出した所で彼をどうこう出来るだけの実力者などそうそういる訳も無く、心配などするだけ無駄と言うものだが、今回は少々状況が異なる。

「気を抜くんじゃないぞ。青雉(あおきじ)でさえ、本気でかかっても勝てるかどうか分からんと言っていたくらいだからな。」

「…(きも)に命じておきましょう。青雉(アイツ)がそこまで言うなら、あっしも最初から本気でかからなけりゃ危なそうだ。」

 真剣に忠告してくるセンゴクに、黄猿(きざる)もまた普段の飄々(ひょうひょう)とした様子は消え、真剣に頷く。

 普段(つか)み所の無い男が真剣な顔をしていると、それだけで何やら恐ろしい。

 歴戦の将校(しょうこう)たちが(かも)し出す物々(ものもの)しい雰囲気(ふんいき)に、後ろに(ひか)えた海兵が思わず息を()んだ―――――――――。

 

 

 




ケイミー救出済みでハチが撃たれるフラグも折れているので、ルフィがそれだけ怒る理由を模索したところ、チョッパーがかわいそうな事態に…(汗)
作者はチョッパーが大好きです!!!ゴメンね、チョッパー!!


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第52話 迫り来る悪意…!

お待たせしました!第52話更新です。
ようやっと次回、黒幕と本格的に絡みます。
そして、助っ人は次回かその次には必ず登場させますので…!


「チョッパー?しっかりしなさい、チョッパー!!」

 急所は外れているが未だ出血が止まらない様子のチョッパーに、ナミとウソップの呼びかけが続くが、完全に意識が()ちており全く反応が無い。

「おい!しっかりしろって……!!」

 焦るウソップがチョッパーを()()ろうとした時、それを制止する者がいた。

()せ。」

 バッとナミとウソップが振り返った先には、1人の男。

「あ、あんた……!!」

「知ってるのか?ナミ!」

「新聞位読みなさい!コイツはトラファルガー・ロー!!懸賞金(けんしょうきん)2億の、“北の海(ノースブルー)”のルーキー!!!」

「2億ゥ!!?」

 コントのようなやり取りを黙殺(もくさつ)し、男‐“死の外科医”の異名を持つ海賊、トラファルガー・ローがチョッパーの(そば)(かが)み込む。

「…確かに急所は外れちゃいるが、それにしちゃ出血が多いな……。“ROOМ(ルーム)”。」

 ローの言葉と同時に、チョッパーの体をサークル状の青い(まく)が包む。

「ちょっと!あんた何してんのよ!?」

「チョ、チョッパーに何してんだよ!!?」

「黙ってろ。…“スキャン”。」

 青いサークルに包まれたままのチョッパーの体、その撃たれた傷口の周辺が一瞬キラキラとした光を放つ。

「!何?今、チョッパーの中で何か光った!」

「……どうやら、弾丸の破片(はへん)が傷口周辺に散らばって食い込んでるようだな。」

 ナミの声にローが静かに答える。

「弾丸の破片(はへん)!?」

(たま)そのものは貫通(かんつう)してるが、その過程で弾丸の一部が体内で(くだ)け散る仕組みになっているようだな…。普通の(たま)に比べて段違いに殺傷力(さっしょうりょく)が高ェ。……全く、良い趣味してやがるぜ。」

 言葉とは裏腹(うらはら)に吐き捨てるように告げられた言葉に、ナミとウソップが息を()む。

「下手に動かせば、食い込んだ破片(はへん)が神経にまで(さわ)る可能性がある。そうなりゃ、一生後遺症(こういしょう)が残る事になる。こんだけ複数箇所(かしょ)に散らばってりゃ、並みの医者じゃあ、完全に摘出(てきしゅつ)する事はまず不可能だ。………だが、おれの“能力”ならそれが可能。どうする?……麦わら屋。」

 ハッとナミとウソップが顔を上げると、そこには衛兵たちを全て片付けた仲間たちがいた。

 あれだけ(わめ)いていたシャルリア(ぐう)も、いつの間にか昏倒(こんとう)している。

「助けてくれんのか?」

「……おれは医者だ。助かる患者を見殺しにするのも寝覚(ねざ)めが(ワリ)ィ。()()()()()も見せてもらったからな。1つ貸しにしといてやるよ。」

 真っ直ぐに(おのれ)を見詰める、漆黒(しっこく)眼差(まなざ)しから(のが)れるように、ローが帽子(ぼうし)目深(まぶか)に被り直した。

 

 ━━その少し前、オークション会場前━━

『犯人は(すみ)やかにロズワード一家を解放しなさい!!(じき)、“大将”が到着する!早々(そうそう)降伏(こうふく)する事を(すす)める!!どうなっても知らんぞ!!!ルーキー共!!』

 それぞれ迫撃砲(はくげきほう)やライフルを構えた海兵たちが、オークション会場の前をぐるりと囲っている。いつ海賊たちが出てきても良いように戦闘準備を整えていた彼らだったが、今回は相手が悪かったとしか良いようが無い。

 ギイィィイイ……!

「出て来たぞ!!」

「構えろ!!」

 オークション会場の扉が開き、姿を現したのは

「あれは“中将殺し”……!!!」

先陣(せんじん)切って出てきやがった!!!」

「あれが3億8,000万の首……!!!」

 ゆっくりと出入り口の階段を降りた“中将殺し”ことジャスミンが、周囲を囲った海兵たちに目をやる。

「…全く、仕事が早い事で…。」

『警告する!!』

 ジャスミンがその数にうんざり()め息を()いた時だった。この場に集まって海兵たちを指揮しているらしい男が再び拡声器で声を上げる。

『もうすぐ“大将”黄猿(きざる)が到着される!抵抗すれば無事では済まんぞ!!とっとと人質を解放して降伏(こうふく)しろ!!』

「…ならこっちも警告する。余計な怪我をしたくなかったら、さっさと退()け!」

『!?何だと……!』

 ジャスミンが放った言葉に、海兵たちがどよめき指揮官が気色(けしき)ばむ。

『小娘が生意気(なまいき)な口を……!!迫撃砲(はくげきほう)用意!……っ撃てェ!!!』

 ドン!!

 ドン!!

 ドォン!!

「だから人間1人にやる?普通…。」

 ()め息を()きながらジャスミンが迎撃(げいげき)すべく気功波(きこうは)を放つ。

 ボボボ……ン!!

『な!?』

 迫撃砲(はくげきほう)で放たれた全ての砲弾を気功波(きこうは)で撃ち落としたジャスミンが、間髪(かんぱつ)いれずに両手を前に突き出す形で構えた。

「悪いけど1人1人構ってる(ひま)無いんだ。…手加減はするけどさ!!」

 ズォッ!!!!!

 両手から放たれた巨大な気功波(きこうは)が海兵たちに(せま)る。

『た、退避(たいひ)!!退避(たいひ)――――――――――――!!!』

 指揮官が(あわ)てて指示を出すが、それは結果として全くの無駄だった。

「はっ!!」

 放たれた気功波(きこうは)が海兵たちへと直撃する寸前、ジャスミンが構えていた両手をグンッと上に引き上げる。その動きに合わせるように、海兵たちへと直撃するかと思われた気功波(きこうは)は、上空に向けて軌道(きどう)を変えた。

「せいっ!!!」

 気合(きあい)と共に、ジャスミンが引き上げた両手を再びバッと下に引き落した直後、

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォ…………………ンンンン!!!!!!!

 無数(むすう)に分裂した気功波(きこうは)が、オークション会場を取り囲んだ海兵たちへと撃ち落とされた。

 “拡散弾(かくさんだん)”。クリリンから教わった技である。

「が…!」

「!?」

「ぐっ!」

 一瞬。

 一瞬にしてオークション会場を囲んでいた100人近い海兵たち、全員の意識が()り取られた。

 宣言通りきちんと手加減をした為、全員死んではおらず大した怪我もしていない。しかし、衝撃はかなりのものだったようで、完全に意識が()ち、既に戦闘は不可能である。

 周囲を見渡しつつ“気”を探り、取りこぼしが無い事を確認すると、会場内に戻るべくジャスミンが(きびす)を返す。

「…何か用?」

 邪魔な海兵たちは全て一掃(いっそう)してやったのだから、とっとと逃げれば良いものを。

 そんな思いを視線に込めつつ、ジャスミンが先程から自分を観察していたらしい男‐ユースタス・“キャプテン”キッドを見詰める。

「……成程。3億8,000万は伊達(だて)じゃねェようだな。テメェも能力者か。」

「…答える義理は無いね。この近くの海兵たちはそこに転がってる連中だけみたいだから、第2陣が来る前にさっさと逃げた方が良いんじゃないの?」

 普段、敵対関係にある場合を除き年上相手には基本的に敬語を使うジャスミンだったが、“キャプテン”キッドには最初からタメ口、それも若干のケンカ腰である。ジャスミンにとっては珍しかったが、元々“キャプテン”キッドは悪名(あくみょう)高い上に2日前に()()を受けたばかり。おまけに現在進行形で値踏(ねぶ)みするような、挑発的な視線を受け続けていればそれも無理は無かった。

 視線を振り切るように足を進めるジャスミンだったが、“キャプテン”キッドが放った言葉に一瞬足を止める。

()()()おれたちを見てやがったのはテメェだな?」

()()()?」

(とぼ)けるんじゃねェ。さっきの技は、おれたちを足止めしやがった技だろう。」

 ()()()気功波(きこうは)で逃れたのは失敗だったか、と嘆息(たんそく)しながら“キャプテン”キッドに向き直る。

「……だったらどうするの?」

「…()めた真似(まね)しやがって…!覚悟(かくご)は出来てんだろうな……?」

 ザリ…!

 凶悪な顔で笑う“キャプテン”キッドに追従(ついじゅう)するように、ジャスミンの背後、オークション会場の出入り口を“キッド海賊団”が固める。

「…別にここで()り合ったって良いけど、逃げなくても良い訳?もうすぐ海軍大将がこの島に来る。もたもたしてたら逃げ遅れるんじゃない?まぁ、大将なんてどうでも良いって言うなら付き合ってあげても良いけどね。」

「ッテメェ……!!!」

 挑発(ちょうはつ)的なジャスミンの台詞(せりふ)に、“キャプテン”キッドが見事(みごと)(あお)られる。

「落ち着けキッド!気持ちは分かるがそいつの言う事も(もっと)もだ。まだ大将と(はち)合わせるのはマズい。この場は退()いて一刻も早く出航すべきだ!!」

 右腕である“殺戮(さつりく)武人(ぶじん)”キラーが叫ぶ。フルフェイスマスクという奇抜(きばつ)な出で立ちの割に、(いた)って常識的()つ冷静に物事を判断出来るらしい。

「ちっ!この場は退()いてやる…!!次に()()わした時は容赦(ようしゃ)しねェ……!!」

 苛立ちも(あら)わにしつつも、この場は腹心(ふくしん)の意見を聞き入れる事にしたらしく、そのまま“キャプテン”キッドが(きびす)を返した。

「行くぞお前らァ!!!」

「「「「「「「おう!!!」」」」」」」

 “キッド海賊団”の面々も、それぞれジャスミンを(にら)み付けながらその後に続いた。彼らの姿が完全に見えなくなったのを確認した後、ジャスミンもまたオークション会場へと戻る。

 

「取り()えず、破片(はへん)は全部摘出(てきしゅつ)してやった。後は傷口が(ふさ)がるまで、精々(せいぜい)安静にさせてやるんだな。」

「分かった。ありがとう!!」

 ジャスミンが会場へと戻った時、何故(なぜ)か“北の海(ノースブルー)”のルーキー、トラファルガー・ローがチョッパーの(そば)から立ち上がり、ルフィに向かって何事かを告げるところだった。

「“中将屋”が戻って来たって事は、ひとまず海兵たちは片付いたんだろう?おれたちは先に行かせてもらうぜ。」

 チラリ、とタイミング良く入ってきたジャスミンを一瞥(いちべつ)して会場を出ようとするローに、ルフィが満面の笑みで答える。

「おう!ホントにありがとな!!」

「…別に。貸しはそのうち返してもらうぜ。行くぜ、お前ら。」

 振り返る事無く仲間たちを呼び寄せ、ローもまた会場を後にする。

 何となく口を(はさ)めず、黙って見送ってしまったジャスミンだったが、内心は突っ込みたくて仕方なかった。

(“中将屋”って何…?)

 しかし、今はそんな事を気にしている場合では無い。

「取り()えず、外を囲んでた海兵たちは全員片付けたよ。20~30分は(かせ)げると思うけど、今のうちにここから離れた方が良い。」

 ルフィたちに伝えながら何気(なにげ)無く会場を見渡した時、ふと見付けた()()に、ちょっとした悪戯(いたずら)を思い付く。

「…ついでに私ちょっと“悪戯(いたずら)”思い付いたんですけど、誰か手伝ってくれません?」

「な、何を思い付いたってんだよ…。」

 ニヤリ、と珍しくあくどい顔で笑ったジャスミンにウソップが引く。

 しかし、そこで伝えられた“悪戯(いたずら)”に、誰よりも乗ったのもウソップである。

「良し!乗った!!フランキーとロビン!お前らも手伝ってくれよ!!」

「ええ。良いわよ。」

「アウ!スーパー!任せろ!!」

 黒い笑顔で頷くロビンと、いつものポーズを決めるフランキーと誰よりも乗り気なウソップ、発案者であるジャスミンを残し、他の者たちはチョッパーを連れて先にシャッキーのバーへと向かう。

 ――――――そして10分後、ジャスミンたちもまた悪戯(いたずら)を完了させてその場を後にしていた。

 そして更に15分後、(もぬけ)(から)となったオークション会場に、増援(ぞうえん)の海兵たちが到着する。

 しかし、天竜人(てんりゅうびと)を救出すべく会場内に乗り込んだ彼らが見たのは、誰1人としていないオークション会場。そして、まるで()()のように首輪に繋がれ、(おり)に入れられた3人の天竜人(てんりゅうびと)と衛兵たちの姿だった。

 特に天竜人(てんりゅうびと)たちはわざわざ天竜人(てんりゅうびと)に証とも言える特徴的なマスクと服まで脱がされ、普通の服に着替えさせられていた為、最初は逃げられなかった()()と思ったくらいである。髪型はそのままだった為、そのおかげで気付けたようなものだが、それも想定の範囲内だったのだろう。

「な、何て事をしてくれたんだ、あのルーキー共……!!」

 これから先の展開を考え、海兵たちが(うめ)く。

 保護対象である天竜人(てんりゅうびと)の首には、しっかりと爆弾付きの首輪。そしてその足元には、その鍵がご丁寧にバラバラに砕かれてこれみよがしに放置されていた。

 

 ━同時刻、新世界のとある島━

「!これは……!!」

 手元の水晶玉を(のぞ)き、驚愕に目を見開く女がいた。

 青い肌に(とが)った耳、美しい銀色の髪を持つ魔族の女‐トワ。

 彼女こそ、時空間を(ゆが)めた張本人である。彼女はとある目的の為に時空を超えてこの世界に辿(たど)り着き、強い戦士を配下(はいか)の者に襲わせる事でそのエネルギーを集めていた。

 そして、彼女は知ってしまった。

 この世界の誰よりも強い戦士の存在を。

「うふっ。うふふふふ…。これだけのエネルギーが手に入れば、きっと…。」

 トワが(のぞ)いていた水晶玉に(うつ)していたのは、艶やかな黒髪を高く結い上げた1人の少女。

 ジャスミンの姿だった―――――――――。

 

 




用語解説
・拡散弾…連載当初から早く出したくて仕方なかった技。巨大な気功波を放った、と見せかけて上にあげて分裂させてから落とす。1対多人数で大きな効力を発揮する。
・ジャスミンの悪戯…たまには奴隷の気分を味わえ、というお茶目()。ウソップもチョッパーへの所業に怒っていましたが、まだ現段階では正面切っての戦闘には参加できなかった為、この場で鬱憤晴らし。ロビン、フランキーも似たようなもの。
他のメンバーは率先して参加する程ではないけど、止めもしなかった。
・トワ…ジャスミンが帰れない元凶。見た目はボンキュッボンの綺麗なお姉さんだが、暗黒魔界と呼ばれる世界の出身。ドラゴンボールからのゲストキャラだが、原作にはもちろんアニメにも登場していない、完全なゲームのみのキャラクター。冷酷な科学者であり、目的の為には手段を選ばない。



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第53話 現れた“希望”とVS海軍大将

お待たせしました!第53話更新です。
いよいよ助っ人たちがチラッと登場しました!
そして今回、やけに長いです。キリの良いところまで何とか書こうとした結果…。
月曜日からちょっと忙しいので、少し次話は遅くなるかもしれません…。




 ━第7宇宙地球・“西の都”カプセルコーポレーション━

 ドガッ!

 ガッ!

 ドシュッ…!!

 重力コントロール室の中で、2つの人影が激しく組み合い、(こぶし)をぶつけ合う。

 傍目(はため)には拮抗(きっこう)しているように見えるが、徐々(じょじょ)に片方が押され始めた。

「!っ…!!」

 一瞬体勢が崩れた瞬間、

 ドゴッ……!!!

 鳩尾(みぞおち)に蹴りがまともに入る。

「ぐっ………!!!」

 ガァンッ!!!

 そのままの勢いで壁へと叩き付けられ、蹴られた青年‐トランクスが(うめ)く。

「何をしている、トランクス!さっさと立て!!」

 組手の相手‐ベジータがそんな息子を叱咤(しった)する。

「ゲホッゲホッ……!!ちょ、ちょっと待って…!モロに入った……!!」

「ちっ……!軟弱(なんじゃく)なヤツだ……。!?」

 ()き込みながら呼吸を整える息子に軽く舌打ちしたベジータだったが、不意に()()した“気”に驚愕(きょうがく)する。

「この“気”は、まさか……!?」

「…?どうしたのさ、パパ。」

 それを見咎(みとが)めたトランクスが父に尋ねるが、ベジータは足早(あしばや)に重力コントロール室を出て行く。

「ちょ、ちょっと、パパ?!」

「良いから黙ってついて来い!!!」

 扉を開けるなり全力で走り出した父の背中を見送る形となり、父の(めずら)しい様子に内心首を(かし)げつつも、トランクスも後を追った。

 

「パパ!一体、どうしっ………?!」

 やっと追い付いたのは庭に出てから。そこで初めて、トランクスは父が反応した“異様な気”に気付く。

 父の(そば)に立っていたのは、良く見知った青年に瓜二(うりふた)つの“気”と容貌(ようぼう)の持ち主と、もう1人。

 全くの()()であったが為に、逆に気付くのが遅れてしまった“気”の持ち主。

「オ、オレ………?!」

 毎朝鏡に(うつ)る自分の顔と、そっくりの青年がそこにいた。

 

 ━13番GR(グローブ)、“シャッキー’SぼったくりBAR”━

 中にいるのは、“麦わら一味”と店の主・シャッキー、そして探し求めていたコーティング職人・レイリー。ケイミーたちは先程の騒動を受け、用心(ようじん)の為に一足先に魚人島に戻る事となり、ハチもまたケイミーとパッパグを魚人島まで送り届けている。

 そこで、レイリーがかつて“海賊王”の右腕とも呼ばれた大海賊であった事を知らされ、“麦わら一味”だけでなくジャスミンもまた驚いていた。

 “海賊王”処刑の裏側、“歴史の全て”を知る者の言葉の重み、そして何よりも強い“信念”を持って生きた男の話に半ば圧倒(あっとう)される。

 “麦わら一味”が“新世界”への期待と不安を各々(おのおの)胸に刻み込んだのを見届け、ジャスミンが(いとま)を告げようと席を立った瞬間だった。

「ちょっと良いかしら?」

 ロビンに呼び止められたのは。

「これを見てもらえる?」

「新聞?げっ……!」

 そのまま店の(すみ)に引き寄せられ、ロビンから手渡された新聞を目にしたジャスミンが(うめ)く。

[世界中で奇怪(きかい)現象!!!(よみがえ)る死者たち!!!!!]

[(はか)から()い出る死人(しびと)。健康状態に全く異常無し。能力者の仕業(しわざ)か?!]

[“集団蘇生事件”の原因を突き止めた者に賞金あり?世界政府が調査へ。]

[伝説の怪物か?!“魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”に“龍”が出現!!!]

[“龍”に懸賞金!!!生きて捕獲した者には2億B(ベリー)!]

 1面どころか、ほぼ全ての記事が“死者の蘇生(そせい)”と“龍”こと“神龍(シェンロン)”の事で()められている。

(何か嫌な予感がしてたのはコレだったのか……。)

「自分がどれ程大変な事をしたのか、理解出来たかしら?」

 (たしな)めるようなロビンの言葉に、ジャスミンも遅蒔(おそま)きながら事の重大さを理解した。

「こんな大事(おおごと)になっているとは思いませんでした……。」

 若干(じゃっかん)顔を青褪(あおざ)めながら呟くジャスミンに、ロビンと同じくジャスミンに説教(せっきょう)するつもりでロビンの隣に並んでいたフランキーとブルックも顔を見合わせる。

 短い付き合いであり、それ程親しく話した事は無いものの、ジャスミンがそこまで考え無しだとは思っていたかったからである。

「人は死んだらそれまでだ。…まぁ、ブルックみてェな一部の例外はいるようだがな。ちょっと考えれば、どんな騒ぎになるかくらいは分かっただろうよ?」

「短い付き合いですが、あなたが思慮(しりょ)深い人である事は分かります。確かに、死者が生き返れば、それは誰しもが1度は考える事です。そんな“奇跡(きせき)”が起きれば…、とね。私自身何度も思いました。私自身ももしそんな事が可能であれば、迷い無く仲間たちを生き返らせる事を選んだでしょう。しかし、世の中には善人ばかりとも限りません。あれだけの“奇跡(きせき)の力”が(よこしま)な考えを持つ者に知られてしまったらどうなるかは分かり切った事…。何故(なぜ)あんな無茶な真似(まね)をしたんです?」

 (あき)れたようなフランキーと、切々(せつせつ)()くブルックに、ジャスミンはもはや()(たま)れなさのあまり顔を上げる事が出来ない。

「私の故郷(こきょう)は……。」

 一向(いっこう)に顔を上げようとしないジャスミンだったが、不意に顔を上げないまま口を開いた。

「私の故郷(こきょう)は、基本的には平和なんですが、これまでに何度か強大な“悪”に狙われた事があります。」

 突然の告白に“年長組”3人が顔を見合わせるが、ロビンが静かに続きを(うなが)す。

「ええ。それで?」

「その(たび)に立ち上がり、戦う戦士たちがいました。でも、時には犠牲(ぎせい)が出てしまう事もありました。それは戦った戦士であったり、戦う力を持たない人間だったり…。都市1つが丸ごと(ほろ)びてしまった事もありました。もっと(ひど)い時には惑星(わくせい)がそのものが消されてしまった事も……。そして、その“悪”が倒された後は、決まってドラゴンボールに頼りました。殺された人間を生き返らせて欲しい、壊れてしまった(まち)を直して欲しい、荒れてしまった自然を元に戻して欲しい、と………。」

 静かに、自分自身で整理するように淡々(たんたん)と語るジャスミンに、少し離れた所に座っていたナミたちもいつしか注目していた。

「ドラゴンボールは探す事こそ困難ですが、伝説そのものを知っている人間は皆無(かいむ)じゃありませんし、生き返った人間も死んだ時の記憶は残っていますから…。誰の仕業(しわざ)かを知っているかどうかはともかく、地球(向こう)では“死者の蘇生(そせい)”とは決してあり得ない事じゃなく、(まれ)に起こり()奇跡(きせき)なんです……。私自身も10年位前に1度死んで生き返っている位なので…。もちろん、本来ならば死者が生き返る何て事はありませんし、私たちもそうポンポンとドラゴンボールを乱用していた訳じゃありませんけど、大きな戦いの後は犠牲(ぎせい)になった人たちを生き返らせる事が義務のようになっていたので………。何と言うかこう、感覚が麻痺(まひ)していたと言うか……。」

 説明していくうちに、自分でも感覚が麻痺(まひ)していた事に気付き、(うつむ)いたままジャスミンが頭を抱える。

 その告白に、聞いていた全員が何とも言えない顔になった。

「ちょっと待ってジャスミン…。色々ツッコミたい所はあるんだけど、何よりもまず…。」

 微妙な沈黙の下りる中、ナミが口火(くちび)を切る。

「お(めェ)も死んだのかよ!?」

 ウソップのツッコミが、()しくも全員の胸中(きょうちゅう)を代弁した形となった…。

 

「取り()えず、話を元に戻すぞ。」

 一通りジャスミンを質問責めにした後、フランキーが軌道(きどう)修正を(はか)る。

「事情は分かったわ。幼い頃からそんな環境に身を置いていたなら感覚が麻痺(まひ)してしまうのも無理は無いけれど、もうこんな事は止めた方が良いと思うわ。」

(きも)に命じておきます…。」

 意気消沈(いきしょうちん)したジャスミンが、ロビンの忠告に重く頷く。

「さて…。そろそろ良いかね?」

 話が一段落したのを見て取ったレイリーが静かに(たず)ねる。ジャスミンたちの話に大いに興味を()かれた様子ではあったが、同時に無闇(むやみ)に踏み込むべきではない、とも悟ったのだろう。これまでの話には全く口を(はさ)む事無く、話題を転換(てんかん)して見せた心遣(こころづか)いに目礼(もくれい)する。

「すみません、長々(ながなが)と…。」

「何。構わないよ。それより、コーティングの間君たちどうするかね?島にもう“大将”が来ているかもしれんが…。」

「まだ上陸はしていませんが、すぐそこまで来てますね。遅くとも後20分位で上陸出来る位置です。」

 レイリーの言葉に同調するようにジャスミンが“気”を探った。

 沖合(おきあい)に一定以上の強さの“気”が少なくとも1000人、その中でも一際(ひときわ)大きな“気”を感じる。

「後20分……!」

「だ、誰が来てんだ?!また青雉(あおきじ)か!?」

 ナミが息を()み、ウソップが震える。

「いや……、青雉(あおきじ)の“気”なら知ってるけど、別人だね。…この感じだとたぶん黄猿(きざる)の方じゃないかな?」

「あ?…会った事もねェのに、何で分かるんだよ?」

 ジャスミンの推測に真っ先に反応したのがゾロである。

「感覚的なものですから、言葉だと説明し辛いんですけど…。この“気”の感じはそこまで攻撃的じゃない…。聞いた話だと赤犬(あかいぬ)は並外れた海賊嫌いで時には一般人も巻き込む事もあるって話ですから、来ているのが赤犬(あかいぬ)だとしたらこの距離でも相当殺気立っている(はず)ですが、それは感じません。青雉(あおきじ)でも赤犬(あかいぬ)でもないなら、消去法で黄猿(きざる)しかいません。」

「ほう?そこまで分かるのかね?」

「ええ、まぁ…。」

 面白そうに見てきたレイリーに曖昧(あいまい)に頷きつつ、話を戻す。

「こう言っちゃなんだけど、今のルフィくんたちじゃまだ“大将”と戦うには早いと思う。1番良いのは、コーティングが終わるまで諸島の中を隠れるか逃げるかしながら時間を(かせ)いで、コーティングが終わり次第出航する事だけど…。」

「そうだな。おれたちが一緒にいたらそこに追手(おって)が来るかも知れねェ。スムーズに作業して(もら)う為には、おれたちは町で逃げ回ってた方が良い…。」

 ジャスミンの言葉にフランキーも同意する。

「じゃあ、おれたちァ適当にバラけて仕上がりの時間にそこへ集合で良いだろ。」

「計画的に()()とかてめェ…、どの口が言うんだ。」

 ソファに()()り返りながら提案するゾロに、お前が言うなとばかりにサンジが突っ込む。

 これからの“麦わら一味”の方向性が決まりつつあった(ころ)だった。

 ピクリ、とジャスミンが何かに反応したように外を見やる。

「来たみたいですね。」

「「「「え!?」」」」

 チョッパー、ウソップ、ナミ、ブルックがそれに若干(じゃっかん)引き()った声を上げた。

「この方向は……、たぶん26番GR(グローブ)から28番GR(グローブ)の間くらいかな?」

「どどどど、どうすんだよ?!どの方向に逃げる??!」

 (あわ)てふためくウソップを尻目(しりめ)に、ジャスミンが席を立った。

「早めにここから離れた方が良いよ。ルフィくん、私もそろそろ行くね?」

「おう!色々ありがとな!!」

 さっぱりと笑顔で見送るルフィに対し、それに焦ったのはナミとウソップである。

「ちょ、ちょっと待ってジャスミン!あんたどこ行くの?!」

「おおおお前がいなかったら、誰が“大将”と戦うんだよ?!!」

 何だかんだでジャスミンを戦力として大いに(あて)にしていた2人だったが、ここにきてのまさかの完全離脱宣言に取り乱す。

「何言ってんだお前ら。ジャスミンにだって色々やらなきゃならねェ事があんだぞ?」

「それに今まで助けてくれていたのは彼女の善意。それを(あて)にして縛り付けてしまうのはどうかと思うわ。」

「うっ……。」

「た、確かに…。」

 ルフィとロビンの言葉に、ナミとウソップも反省したように項垂(うなだ)れる。

「ごめんね。私もちょっと時間無くて……。」

「ううん!良いの、良いの!!あたしたちもちょっと甘え過ぎてたわ!」

「おおおおうよ!“大将”なんかどうって事ねェさ!!」

 苦笑しながら謝るジャスミンに、ナミとウソップが否定した。

「それじゃ、ホントに行くけど気を付けてね。」

「ええ!色々ありがとう。」

「またな――――!!」

 ナミと手を振るチョッパーに答え、舞空術(ぶくうじゅつ)で上空へと上がる。

 再び例の無人島に戻ろうとしたが、“大将”と戦闘中の“気”に気付いた。

(この“気”は…。)

「…行かなきゃダメか。」

 修行を再開する前に、借りを返さなくてはいけないらしい。

 

 ━24番GR(グローブ)

 半ば崩壊(ほうかい)しかけた街並みの中、立っているのは海軍大将・黄猿(きざる)と、“ホーキンス海賊団”船長‐“魔術師”バジル・ホーキンス。

 ざわざわざわ……

 ホーキンスの端整(たんせい)な顔が次第に(わら)のようなものに包まれていく。

「“降魔(ごうま)の相”」

 そして、その(わら)がホーキンスの全身を包み、その体が2倍以上に大きくなっていく。

「!!?」

 そして、黄猿(きざる)が自身が蹴り飛ばした海賊‐“怪僧(かいそう)”ウルージの方を(うかが)っている間に、ホーキンスがその真後ろに(せま)る。

「どいつもこいつも…。“億”を超えるような(やから)は、化け物じみていてコワイね――――…。」

 ズバズバン!!!

 ズバン!!

 黄猿(きざる)が呟くとほぼ同時に、ホーキンスが手に持った太い(くい)のような武器で襲いかかるが、その瞬間に黄猿(きざる)の姿が()き消える。

「!!」

 気付いたホーキンスが周囲を見回そうとしたが、それよりも早く再び目の前に現れた黄猿(きざる)が行動を起こした。

 ピカッ!!

「おわァァァァ―――———っ!!!目が!!見えない………!!!」

「ホーキンス船長—————っ!!!!」

 ホーキンスの目の前で黄猿(きざる)の手が激しく光る。

 視神経を()き切るかのような(すさ)まじい光に、痛みに()えかねたホーキンスが絶叫した。

 視界を完全に(つぶ)され、身動きの取れないホーキンスに更に黄猿(きざる)の追い打ちがかけられた。

 ピュンピュン!

 ズバッズバッ!!

「ウッ!!!」

 完全に(わら)と化したホーキンスの体を黄猿(きざる)のビームが(つらぬ)く。

「何の能力か知らねェけども…。“実体”はあるなァ…。“自然(ロギア)系”じゃなさそうだ。」

「船長―――――――っ!!」

「まずいぞダメージの限界を超える!!本当に死んじまう!!」

 “ホーキンス海賊団”の悲痛な叫びが響く。

「まずは1人目…。ここまでの長い航海、ご苦労だったねェ――――――…。」

 黄猿(きざる)がホーキンスへ(とど)めを刺すべく、足を光らせて蹴り上げようとした瞬間―――――――、

 黄猿(きざる)の姿が()き消えた。

 ドガァアンッ…!!!

 一拍(いっぱく)置いて破壊音が響く。

 ストンッ!

()()()()()()()()って事は、()()()()自体も信用して良いみたいですね。」

 (すず)やかな声と共にその場に降り立ったのは―――――、

「ありゃぁ…!“中将殺し”じゃねェか……!!オイオイ、“大将”を蹴り飛ばすってどんだけだよ?!」

 予想だにしなかった人物の登場に驚き、目を(みは)るのは、物陰(ものかげ)からホーキンスたちの戦いを見物していた海賊‐“海鳴(うみな)り”スクラッチメン・アプー。ホーキンスが()られそうになっているのを見て、黄猿(きざる)にちょっかいを出そうとしていたが、ジャスミンの登場により出るタイミングを見失ったのである。

「言った(はず)だ。おれの占いは外れん…。」

 まだ視力は回復しないものの、声によって誰に助けられたのか理解したホーキンスが、安堵(あんど)の息を()らしながら断言した。

「まぁ、それは置いておいて…。死にたくなかったらとっとと逃げた方が良いですよ?…()()()に当たっても良いなら別ですけどね。」

 既にジャスミンはホーキンスを見ていなかった。

 その視線の先にいたのは、

「オォ―————…。痛いじゃないかァ…。蹴られるなんて、何10年ぶりだろうねェ…。」

 ガラガラと体から瓦礫(がれき)を落としながら、黄猿(きざる)が立ち上がる。

「“中将殺し”…。話に聞いていた通りとんだ“化け物”だねェ―――…。」

「…“光人間”に言われるのは心外だな。()()()()()にだけは言われたくないね。」

 間違い無く、この世界(ワンピース)でも10指に入る実力者との戦い。その火蓋(ひぶた)が、切って落とされようとしていた。

 

 




さあ!現れた助っ人たちは誰でしょう?!

書き上げてから気付いた。アプーの唯一の見せ場が完全に消失…。ゴメンよ、アプー…。


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閑話6 その頃、彼らは…

お待たせしました!
こちらの連載は久々の更新です。が、本編でなくてすみません…。
今回は、ジャスミンが“悪戯中”のチョッパーsideで、本編の補足になります。
VS黄猿はもう少々お待ちくださいませ。


 ―――――――――これは、ジャスミンがウソップたちと一緒に“悪戯”をしている間に起こった出来事である。

 “シャッキー'S ぼったくりBAR”に避難した“麦わらの一味”は、チョッパーを長椅子に寝かせ、目が覚めるのを待っていた。

 仲間たちがじりじりと待つ中、徐々にチョッパーの意識が浮上する。

 痛い、チョッパーが意識を取り戻し、まず感じた感覚はそれだった。

 何でこんなに全身が痛いんだ?そんな事を思いながらチョッパーが目を開ける。

「うっ…。いててて……!!」

 起き上がろうとするが、あまりの痛みにそれが出来ない。

「チョッパー!起きたのね?!」

「ナミ?おれ、一体どうしたんだ?」

 周りを見れば、一様(いちよう)にほっとした様子を隠さない仲間たちの姿があった。

「おお、目が覚めたようだな。」

「誰だ?あの爺さん。」

 痛みを(こら)えて声の方へ目を向けると、カウンターに座り酒を飲んでいる1人の老人と目が合った。ニコリ、と微笑みを返してくる老人にチョッパーが不思議そうにナミに尋ねる。見れば、自分が横になっているのは、“シャッキー’S ぼったくりBAR”の店内である。

「ああ、ハチの知り合いのコーティング職人の“レイさん”よ。取り()えずレイさんの勧めでこのバーに避難してきたの。」

「あ!そ、そう言えばケイミーは?!無事なのか??!」

 思い出したように叫ぶチョッパーに、ナミが(なだ)めるように教えてやる。

「無事よ。というより、あんたたちが会場に突っ込んだ時にはもうジャスミンが助けてくれてたの。今はパッパグも一緒にハチが“魚人島”まで送っていってるわ。」

「そ、そっか…。良かった。」

 その知らせに安堵(あんど)したチョッパーだったが、不意に先程の疑問を思い出す。

「なぁ、ナミ。なんでおれ寝てたんだ?」

「覚えてないの?あんた天竜人に撃たれたのよ。特殊な弾だったみたいで、もしかしたら後遺症が残るかもしれないって言われたくらいだったんだから!」

「え?!」

「でも、もう弾は完全に取ってもらったから大丈夫よ。後はしばらく安静にしてれば大丈夫ですって。」

「取ってもらったって…?」

「何だっけな…。トラ、トラフォ…?トラ男だ!!」

 誰が自分を治療してくれたのか、と尋ねるチョッパーに適当な事を言うルフィの後頭部をスパン!とナミがブッ叩く。

「トラファルガー・ロー!!!自分のライバルになる海賊の名前くらいちゃんと覚えなさい!!」

「え!?海賊が助けてくれたのか?」

「海賊で医者だとか言ってたな…。“面白ェもん”を見せてくれたから貸しだとよ。」

 ナミの言葉に驚愕するチョッパーに、サンジが補足する。

「“面白ェもん”って?」

「ルフィが天竜人を殴り飛ばしたんだ。間も無くこの諸島に海軍大将が来る。」

「大将ォ??!!」

 ゾロの簡潔な説明に、チョッパーが目を()く。

「オークション会場を囲んでいた海兵たちはジャスミンが片付けてくれたけど、問題はこれからなのよね…。チョッパーも怪我が治った訳じゃないし…。」

「そういや、チョッパー。お前ジャスミンから“不思議豆”もらってなかったか?」

 ナミの言葉で思い出したように、ルフィがチョッパーに目を向ける。

「あ。」

「そう言えば…。」

 チョッパーとナミがハッとなり、サンジとゾロ、ブルックもその言葉で思い出した。

「ある!もらったぞ、みんなの分も!!おれのリュックの中に入ってる!!!」

 その言葉に、ナミが急いでチョッパーのリュックを(あさ)る。

「えっと…、あった!これね?!」

 3粒ずつ小瓶に小分けにされた緑色の豆‐ジャスミンがくれた“仙豆(せんず)”だった。

「確か1粒で凄い効果があったわよね…?」

 ナミが小瓶から1粒だけ取り出し、チョッパーに食べさせる。

 ポリッコリッ……!

 ゴクン、と飲み込んだ直後、チョッパーがガバリと身を起こす。

「わ!びっくりした…!!」

「ス、スッゲェ―――――――――――――!!!治ってる―――――――――!!!!」

 あまりの勢いに若干引いたナミを尻目に、チョッパーが全快した事をアピールするように店中を飛び跳ねる。

「これは一体……?」

「さっきまで重傷だったわよね…?」

 流石(さすが)に理解が追い付かなかったのか、“レイさん”と呼ばれた老人とシャッキーが唖然(あぜん)としている。

「ヨホホホホッ!流石(さすが)に“偉大なる航路(グランドライン)”、不思議なものが溢れてますねェ。」

「…なるほど。」

「…そうね。」

 ブルックの咄嗟(とっさ)のフォローで、“聞いてはいけない事”と悟った2人が特に追及する事無く引いてくれたのは僥倖(ぎょうこう)だった。

 やれやれ、と内心胸を撫で下ろしつつ、ブルックはロビンとフランキーの年長組が戻り次第、ジャスミンを説教しようと心に決める。

 “仙豆(せんず)”のお陰でチョッパーの傷は癒えたが、どうもあの少女には危機感というものが足りない。それを教えてやるのも年長者の務めであり、恩返しの一環とも言えるだろう。

 はしゃぐチョッパーとそれに乗っかる我らが船長を眺めながら、ブルックは小さく溜息を()いた。

 

 



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第54話 VS黄猿!そして現れる謎の男!!!

お待たせしました!第54話更新です!!
ようやっと物語が動き出した、という感じです。
さぁ、これからどうなるのか、どうかお楽しみに!!


 ガッ!

 ドッ!

 ゴッ!

 拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり合う。

 パワーでは劣るジャスミンだったが、スピードでは黄猿に勝っていた。“ピカピカの実”の能力の特性を発揮されていれば分からなかったが、ジャスミンのスピードは黄猿にその余裕を与えなかった。

 しかし、海軍最高戦力の呼び声は伊達(だて)では無く、黄猿も見聞色(けんぶんしょく)と“(ソル)”を駆使(くし)して直撃を防ぎ、勝っているパワーで相殺(そうさい)(しの)いでおり、お互いに決定打はまだ与えられていない。

 ピュン!

 ジャスミンの猛攻(もうこう)の中、その合間を()って黄猿のレーザーがジャスミンに(せま)る。

 バシッ!

 が、事も無げに手で払い()けたジャスミンが、逆に黄猿へと間合いを一瞬で詰めた。

「!何…?!」

 瞬時に肉薄(にくはく)してきたジャスミンに黄猿が思わず息を()む。

「悪いけど、」

 カッ…………!!!

 言葉と同時に黄猿の目前に(かざ)された手のひらから、気功波(きこうは)が放たれた。

 ドォオ………ン……!!!

「あなたの能力じゃ、私には勝てない。」

「ぐっ……!」

「おいおい、マジかよ…?」

 いとも容易(たやす)く海軍大将を吹っ飛ばしたジャスミンと、吹っ飛ばされた海軍大将の姿に、息を()んでその攻防を見守るしか無かった“海鳴り”ことスクラッチメン・アプーが唖然(あぜん)とした声を洩らす。

 ジャスミンも黄猿も当然、“見物人(アプー)”の存在には気が付いていたが、大した相手では無いと捨て置いていたのだ。

「大したダメージじゃないでしょ?立ちなよ?」

 ザッザッザ…

 ゆっくりと距離を詰めながらジャスミンが黄猿を挑発(ちょうはつ)する。

 放たれた気功波(きこうは)は黄猿のみを的確に(とら)え、建物を始めとした周囲への被害は全く無かった。

 しかし、決して殺さないよう、そして周囲に被害を与えないようにそれなりに手加減されていたとはいえ、ジャスミンの気功波(きこうは)をまともに喰らった黄猿のダメージは大きい。

「こりゃあ…、参ったねェ……!」

 30m程吹っ飛ばされた黄猿だが、海軍大将としての意地とでも言うべきか、直撃を喰らった頭を(かば)いつつもゆっくりと身を起こす。

 黄猿こと、海軍大将ボルサリーノは“ピカピカの実”の“光人間”。その体は“光”そのものであるが(ゆえ)に、同系統の技である気功波(きこうは)とは本来相性が良く、相殺(そうさい)する事が可能である。

 だが、同じような性質を持つと言っても、気功波(きこうは)はただのレーザーとは異なり、その名の通り体外に撃ち出された“気”そのもの。活用方法が多少異なるものの能力者の弱点となり得る“覇気”と、その根本(こんぽん)は全く同じ。

 “光”であるが(ゆえ)に熱光線は通じずとも、“気”による衝撃そのものを打ち消す事は出来ない。仮に、黄猿が持つ“気”がジャスミンと同程度かもしくは上回っていたならば、完全にその攻撃を無効化する事も(ある)いは可能であっただろうが、ワンピース(この)世界では“悪魔の実”の存在(ゆえ)にか、“気”を操る技術がドラゴンボール世界(地球)に比べて発展していない。ドラゴンボール世界(地球)ではそこそこの実力者として認められているジャスミンの攻撃を()なす事は出来なかったのだろう。

「話には聞いちゃいたが…、ここまでの“化け物”だったとはねェ……。」

「…さっきも言ったけど、“光人間”には言われたくない台詞(せりふ)だね。」

「……これだけの力を持っていながら、何でまたァ“麦わら”たちとつるんでるんだい…?」

 フラフラとよろめく体を何とか平行に保とうと努力しつつ、黄猿がジャスミンに問う。

「別につるんでるって訳じゃない。友達の助けになる事は別に不思議でも何でも無いでしょ?………そんな事より、」

 淡々と答えていたジャスミンが、不意に振り返らないまま左手を後ろに向けた。

 ズオッ………!!!

 ドガァンッ………!!!!!

 後ろを振り返る事無く唐突(とうとつ)に放たれた気功波(きこうは)が、後ろに忍び寄っていたバーソロミュー・くまそっくりの人間兵器“パシフィスタ”を直撃する。

「くだらない会話で気を引いている間に後ろから襲うのが海軍のやり方?」

 ドガッ!!

 バチッ…!

 バチバチッ…!!

 背後で小さな爆破を繰り返し、火花を散らしている“パシフィスタ”に構う事無く、ジャスミンが黄猿を(なじ)った。

「…正攻法じゃ(かな)わねェ相手にゃァ、汚い手使ってでも任務を成功させるのが海兵ってヤツだよォ。」

 流石(さすが)に年の(こう)と言うべきか、全く顔色を変える事無くしれっと答える辺り(つら)の皮が(あつ)い。

 そのやり取りに、見物に回らざるを得なくなった周囲の方が背筋が寒くなる。

 空気を読んでとっとと撤退した“ホーキンス海賊団”の面々はともかく、出て行くタイミングを完全に逃したアプーや、黄猿がジャスミンに(けしか)けるまで“パシフィスタ”と交戦していた“赤旗(あかはた)”ことX(ディエス)・ドレークも、引き上げるタイミングを逃してしまいその様子を見守るしかない。

「“中将殺し”ジャスミンか…。何て強さだ。あの“パシフィスタ”をああもあっさりと……!」

 特に(わず)かでも()()を知るドレークが受けた衝撃は大きかった。自身も先程までの交戦で決して浅くは無い傷を負っていれば尚更(なおさら)である。

「…1つ聞きたいんだけど。」

「オォ~、何だい?あっしが答えられる事なら答えてあげるよォ~。」

 (いま)だダメージの抜け切らない黄猿が、少しでも回復までの時間を(かせ)ぐべくジャスミンの申し出に頷く。

「あの“兵器”…。“元”はどうやって手に入れたの?」

「……どういう意味だァい?」

 ジャスミンの発言が完全に予想外だった、と言わんばかりの表情で黄猿が目を細める。

()()、完全な“アンドロイド”って訳じゃないよね?自我は完全に()()()たけど、あれは“サイボーグ”だ。完全に改造されたらしい今となっちゃ()()()()も同然だけど、“元”は普通の人間だった(はず)…。仮にも“正義”を(かか)げる機関が人体実験何てして良い訳?」

「………。」

 侮蔑(ぶべつ)(あら)わに問いかけてくるジャスミンに、黄猿が無言で返す。

「どういう意味だ、ありゃ…?人体実験?人間を改造ってオイ………!」

 妙な緊張感が(ただよ)い、異様な沈黙の走るそこに、1人話についていけていないアプーの呟きが嫌に響いた。

 少なからず()()を知るドレークは、沈黙を保ったまま目を伏せる。

「顔だけバーソロミュー・くまそっくりに整形したっていう線はまず無い。体格までそっくり同じっていうのは考えられないし、何よりいちいちそんな無駄な事をする理由も分からない。次に、バーソロミュー・くまそっくりの兄弟を改造したっていうのも考え難い。くまに兄弟がいるって話は聞かないし、仮に兄弟だったならくまに負けず劣らず戦闘経験が豊富でもおかしく無いのに、さっきの()()はとてもそうは思えない…。1番可能性が高いのは、さっきの()()はくまの“複製(クローン)”じゃないかという事。本来なら“複製(クローン)”と言っても姿形までオリジナルとそっくりになる事は無いけど、あれだけの改造技術があるなら、“複製(クローン)”を創り出す段階でオリジナルとそっくりに調()()出来てもおかしく無いもの。違う?」

「オォ~。残念だねェ…。それはあっしには答えられねェ質問だよォ~…。」

 確信を持って問いかけるジャスミンに、黄猿は答えをはぐらかす。

「…そう。じゃあ、良いや。取り()えず私も色々忙しいからさ、しばらく寝ててくれない?」

 そう言って、ジャスミンが再び気功波(きこうは)を放つべく右手を構えた瞬間――――――――、

「!」

 ジャスミンが何かに気付いたようにハッと顔を上げ、構えを取った。

 ガキィッ!!!!

 瞬時に目の前に現れた男が、ジャスミンに襲い掛かる。迷い無く顔面を狙ってきた拳を、(すん)での所で両腕をクロスさせてガードした。

()っつ………!」

 “気”でガードしているにも関わらず、骨まで響くような激痛がジャスミンの両腕に走る。

 しかし、ジャスミンが距離を取るよりも早く、男がそのまま逆の手でジャスミンの鳩尾(みぞおち)を打つ。

 ドゴォッ…!!!

「ぐっぅ……!!!!」

 衝撃で息が詰まり、ジャスミンの体がくの字に曲がる。

 ガッ…!

 そのまま倒れ込みそうになったジャスミンを、男がその前髪を(つか)む事で引き上げる。足が覚束(おぼつか)無い中、前髪を(つか)まれているせいで無理やり体を支えられた。

「ガホッ…!ゲホッ……!!」

 咳き込みと共に嘔吐(えず)きながらも、呼吸を整えようとするが衝撃で肺を痛めたのかなかなか思うように上手くいかない。吐き出した胃液には血が混ざっていた。

「こっの……!!!」

 ズォッ……!!!

 痛みを(こら)えながら気功波(きこうは)で男の顔を狙う。

「!」

 気功波(きこうは)が放たれるより一瞬早く男がジャスミンを離し、大きく上に跳躍する事でそれを避けた。

「何者だァい…?海軍じゃァねェが、海賊にも見えないねェ…。」

 ジャスミンが襲われた瞬間、“ピカピカの実”の能力で距離を取っていた黄猿が呟く。

 そしてアプーやドレークも、突然の乱入者に驚きを隠せなかった。海軍大将を相手に一方的に勝負を進めていたジャスミンが手も足も出ない相手。

 そして何よりも、

「う、浮いてやがる……!」

 そして、ジャスミンもまた驚愕していた。

舞空術(ぶくうじゅつ)…?!それに、この“気”はまさか…!!?」

 ジャスミンの視線の先、彼女の前方上空100m程の所に()()()()()()のは、奇妙な模様の仮面を着けた1人の男。

 顔は仮面で分からないが、その出で立ちには見覚えがあった。

 そして何よりもその“気”。自身が()()()()()()と良く似た“気”。

 

 

 

 ――――――――――――(つい)に、ジャスミンにトワからの刺客(しかく)が放たれる!!!

 



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第55話 明かされた真実…!消えたジャスミンの謎

お待たせしました!第55話更新です。
今回、主人公全く出てきません(汗)ジャスミンが戦っている間の地球sideです。
閑話でも良いかと思いましたが、本編にがっつり関わる内容なので閑話でなく本編とします。
次回はジャスミンsideに戻る予定です。


 ━第7宇宙地球・“西の都”カプセルコーポレーション━

 そのリビングに、ある種異様な緊張感が(ただよ)っていた。

 いや、緊張しているのは1人。世界に名立たる大企業・カプセルコーポレーションの跡取り息子・トランクスである。

 彼は最も(くつろ)げる(はず)の自宅で、何とも居心地(いごこち)の悪い思いを味わっていた。

 その原因(と言っては人聞きが悪いが)は、自身とテーブルを挟んで向かいに座っている1人の青年にあった。目の前に座っているのは、自分そっくりの姿の青年。

 しかし、それも当然の事であった。

 トランクスの目の前に座っているのもまた、トランクス。未来の世界からタイムマシンに乗ってやってきた、()()()()()()()()()()()()()()()()()青年である。

 目の前で自分と同じ顔の青年が、自分の両親と再会を喜び合う、というのは何とも言えない気持ちである。まして、“未来の世界から来た自分”の事は幼い頃から良く聞いていた。まだ赤ん坊だった頃の自分と一緒に写っている写真さえある。

 幼い頃は、良くその写真を見せられながら“未来の世界から来た自分”の話を聞かされたものだった。

 (いわ)く、戦士の死に絶えた未来で1人で戦い続けた英雄、そして危機を知らせてくれた救世主として。

 特に、母やその仲間たちが何の気無しに自分と“未来の世界から来た自分”を比較するのは、幼い頃は面白くなかったものである。

 今考えれば、それは嫉妬(しっと)だったのだろう。皆に認められている“自分では無い、未来の自分”への。

 まぁ、それも幼い頃の話である。今となっては素直に“凄い”と思えるが、こうして目の前にすると複雑な事に変わりは無い。まして、自分1人を置いてけぼりにして会話が盛り上がっている時の居心地(いごこち)の悪さと言えば、何とも形容(けいよう)し難いものがある。

「そう…。やっぱり、そっちの世界でも魔人ブウが現れたのね?」

「はい。話せば長くなるんですが、結果的に老界王神様のお陰で悟飯さんを生き返らせる事が出来たので、2人で力を合わせて何とか…。」

 そして、未来から来たトランクスが自身の隣に座っていたもう1人の青年に目を向ける。

 トランクス(未来)の師匠でもある、未来の世界の孫悟飯だった。トランクス(未来)が少年の頃に死んでしまったが、こちらの世界の悟空のように老界王神の命を譲り受けて生き返ったらしい。

 こちらの世界の悟飯は学者として忙しい日々を送っている為、戦士としては既に引退したも等しい。しかし、未来の世界の悟飯は未だ現役らしく、こちらの世界の悟飯に比べても格段に(たくま)しい体付きで、眼光も鋭い為かどこか顔付きも違って見える。何より、顔の左側を斜めに縦断(じゅうだん)する傷と、肩の辺りから失われた左腕が2人の違いを明らかにしていた。

「そう、そっちでは悟飯くんが生き返ったのね。良かったわ…。」

 別の未来の息子(トランクス)が味わってきた、これまでの孤独と苦労を良く知るブルマが思わず涙を浮かべる。

「こっちでは、という事はこちらの世界でも誰か老界王神様の命を頂いた人がいるんですか?」

 ブルマの言い回しに疑問を感じたらしい悟飯(未来)が不思議そうな顔で尋ねる。

「孫くんよ。」

「え?」

「悟空さんが?!」

「ええ、そうよ。こっちでは孫くんが生き返って、最後は元気玉(げんきだま)で魔人ブウを倒したの。」

 驚いた様子の2人に、ブルマが頷く。

「そうですか、父さんが…。」

「ええ、そうよ。」

「凄いですね悟空さん…。オレたちは1人ずつどころか、2人一緒に戦っても魔人ブウには勝てなかったのに。」

 感じ入ったように頷くトランクス(未来)に、ブルマが苦笑する。

「と言っても、孫くんもただ戦っただけじゃ勝てなくて、最終的には地球人皆の“気”を集めた“元気玉(げんきだま)”で何とか勝てたのよ。」

「地球人皆の…?!」

「それは相当凄かったんでしょうね。」

 素直に驚愕してくれる聞き手の未来コンビに、ブルマもより饒舌(じょうぜつ)になる。

「私も直接見た訳じゃないけど、すんっっっごく!!!大きかったらしいわ。ね、ベジータ?」

「ああ。」

 こうなると止めても無駄と良く良く理解している(ベジータ)も、(ブルマ)に反論する事無く頷く。

 それを見たトランクス(未来)が、「父さん…。すっかり丸くなって……!」と感動していた。

「それよりトランクス。」

「「はい。」」

「…未来の方だ。」

 (おもむろ)に名前を呼ぶベジータに、同じ名前の青年2人が即座に反応する。

「何ですか?父さん。」

「お前、さっき2人一緒に戦っても勝てなかったと言っていたが、どうやって魔人ブウを倒したんだ?」

「あ、それオレも気になる。」

 改めて未来の息子(トランクス)に問いかけたベジータに、トランクス(現代)も興味深そうに未来から来た2人を見詰める。

「あ、界王神様からポタラという特別な道具をお借りしまして…。見た目はただのイヤリングなんですが、2人の戦士がそれぞれ右耳と左耳に着けると合体して1人の戦士になれるんです。オレたちも合体してなんとか…。」

「!ポタラを使ったのか?!」

「ご存知でしたか?」

 驚愕するベジータに、トランクス(未来)も驚く。

「ああ。不本意だが、オレとカカロットも1度使った…。オレたちは偶然元に戻ったが、あれは1度使えば2度と元には戻れないと聞いていたが…?」

「ああ、それは神同士が使った場合だそうです。神以外の者が使うと1時間で解けてしまうそうで…。」

(もっと)も、オレたちが使った時は超サイヤ人になったのでエネルギー消費が激しくて30分位で解けてしまったんですが…。」

 トランクス(未来)の説明に悟飯(未来)が補足する。

「そうか…。」

 10年越しに知る真実に、あの時の葛藤(かっとう)は一体何だったのか、と一瞬ベジータが遠い目をした。ポタラを着ける直前に2度と元に戻れない、と知らされ一瞬のうちに内心様々な事が頭を(よぎ)ったものである。

「ねぇねぇ!合体した時の名前は何て言うの?」

「名前、ですか?」

 突然何を言い出すのか、とトランクス(未来)が過去の母(ブルマ)を困惑したように見返す。

「そ、名前。あんたたちが合体した時には無かったの?こっちのトランクスが悟天くんとフュージョンした時には“ゴテンクス”になるの。」

「フュージョン?」

「悟天…?」

 初めて聞く単語に、未来から来た2人が首を傾げる。

「フュージョンはポタラみたいに2人が1人に合体する技よ。30分しか保たないけどね。それより、そっか…。そっちの世界には悟天くんはいないんだったわね……。」

 それ(ゆえ)に未来の息子(トランクス)は孤独だったのだ、とブルマがしんみりする。

「悟天はオレの親友で、悟空さんの息子。悟飯さんの弟だよ。」

「え?!」

「オレの、弟……?」

「セルとの戦いで孫くんは死んじゃったけど、その時既にチチさんのお腹には悟天くんがいたの。トランクスとは1歳差で、小さい頃からの親友なのよ。」

 未来ではいない存在の話を聞かされ、半ば呆然としている未来の2人にブルマが補足した。

「そうですか…。こっちのオレには弟がいるんですね…。」

 感慨(かんがい)深い様子で悟飯(未来)が目を細める。

「ええ。小さい頃の孫くんそっくりでね。物心付いた頃からジャスミンちゃんも含めて、兄妹みたいに育ったのよ。」

「ジャスミン?」

 また知らない名前が、とばかりにトランクス(未来)がブルマに聞き返す。

「あぁ、そっか…。ジャスミンちゃんはヤムチャの娘よ。こっちのトランクスと悟天くんにとっては妹みたいなものね。」

「ヤ、ヤムチャさんご結婚されたんですか?!」

 予想外の事実にトランクス(未来)が目を()く。

「ううん。シングルファーザーってヤツね。結婚したのはクリリンの方よ。奥さんの名前聞いたら、あんたたち驚くわよ――――?」

「だ、誰ですか?」

 ブルマの含み笑いに、トランクス(未来)が恐々と尋ねる。

「18号よ。」

「な?!」

「18号ってまさか!!?」

 ブルマの言葉にトランクス(未来)がソファから腰を浮かせ、悟飯(未来)が完全に立ち上がった。

「そう。人造人間18号。でも大丈夫よ。未来が変わったせいか、こっちの世界の18号は話に聞いてたあんたたちの世界の人造人間とは違って悪い奴じゃないのよ。今はクリリンと結婚して専業主婦をしてるし、マーロンちゃんっていう娘もいるわ。」

「そ、そうですか…。」

「………随分(ずいぶん)違うんですね…。」

 安心させるように微笑みながら断言するブルマに、トランクス(未来)は気が抜けたように座り込み、悟飯(未来)もまた警戒を解いて座り直す。

「……()ってみたいですね。オレたちの時代とは違う18号や、こっちの世界の弟やそのジャスミンちゃんやマーロンちゃんたちに。」

 どこか複雑な笑みを浮かべて話す悟飯(未来)に、それまで笑顔を浮かべていたブルマや、興味深そうに話を聞いていたトランクス(現代)の顔が(くも)る。ベジータでさえ、眉間(みけん)(しわ)が深くなっていた。

「?どうしたんですか?」

「そうね…。()わせられたら良かったんだけど…。」

 (ただ)ならぬ雰囲気(ふんいき)に、トランクス(未来)が怪訝(けげん)そうに尋ねる。

「実は、半年前からジャスミンちゃんが行方(ゆくえ)不明なのよ。」

行方(ゆくえ)不明?!」

「ええ。“時空乱流(じくうらんりゅう)”っていう時空間の(ひず)みに巻き込まれたらしくて、」

「!その話、(くわ)しく()かせてください!!!」

 

「!どうしたのよ、突然…。」

 説明の途中で急に身を乗り出してきたトランクス(未来)と悟飯(未来)に、ブルマが驚く。その言葉に、未来から来た2人が姿勢を正した。

「実は、オレたちが今日この時代に来たのは“タイムパトロール”としての仕事なんです。」

「“タイムパトロール”?何よそれ?」

 トランクス(未来)の言葉に、ブルマが首を傾げる。どうやら知らなかったのは自分だけではないらしい、と気付いたトランクスも隣で首を傾げた。

「“時の界王神様”によって組織された、“歴史の改変”を防ぐ為の部隊です。実は、魔人ブウを倒した後で“時の界王神様”からお叱りを受けまして…。」

「お叱りって?」

「実は、タイムマシンでの時間移動は宇宙でも重罪らしいんです。“歴史の改変”や“時空移動”は少し間違えると宇宙そのものが滅んでしまう事がある程危険な行為(こうい)らしくて…。その(つぐな)いとして、今度は“歴史の改変”を狙う者たちからそれを防ぐ為の仕事をしているんです。悟飯さんもそれに付き合ってくれてまして…。」

「トランクスが過去に行く事になったのも、元を辿(たど)れば人造人間たちを倒す為ですから、オレにも責任がありますから…。」

 “タイムパトロール”について、トランクス(未来)と悟飯(未来)が交互に説明していく。

「前置きは良い。その禁止されている(はず)の“時空移動”を使って、お前たちがわざわざこの時代に来たのは何故(なぜ)だ?」

 早く本題に入れ、と言わんばかりにベジータが急かす。

「半年前、オレたちは“タイムパトロール”として“歴史の改変”を(たくら)む奴らと戦いました。その中の1人が、どうもこの時代に逃げ込んだらしいんです。」

「でも、この時代にいる(はず)の奴がどうしても見付からなくて…。“時の界王神様”から、直接この時代に来て調べるようにと指示を受けたんです。本来なら、奴が移動してきただろう時間軸に直接来たかったんですが、“時の界王神様”(いわ)くその前後の時間軸の時空間の乱れが激しく、無理に跳べば他の時代にも影響が出る恐れがあると…。」

 トランクス(未来)が口火(くちび)を切り、悟飯(未来)が補足する。

 そして、その話にブルマが身を乗り出した。

「!!!まさか、その時間軸の乱れって……?!」

「母さんたちの話を聞いて確信しました。恐らく、半年前に起こった“時空乱流(じくうらんりゅう)”の原因は、この時代に逃げ込んだ暗黒魔界の魔族・トワでしょう…。無理な“時空移動”が原因で時空間に(ひず)みが生まれて“時空乱流(じくうらんりゅう)”が発生した…。たぶん、そのジャスミンという女の子もそれに巻き込まれたんだと思います。」

 

 




用語解説
・トランクス(未来)…たぶん、ドラゴンボール世界一ヘビーな過去の持ち主。本来なら彼の住む未来が正史だったが、彼がタイムマシンで過去に跳び、未来を変えた事により歴史が大きく変化。パラレルワールドが生まれた。トランクス(未来)の生きる世界では、人造人間17号と18号という敵の手により都市は壊滅状態で、戦士たちもトランクス(未来)以外は殺されてしまった。現在は“タイムパトロール”の一員(ゲーム参照)。
・悟飯(未来)…トランクス(未来)の師匠で、左腕を失っている。トランクス(未来)を庇って殺されたが、この小説では生き返った(1部ゲームのルートでは生き返るシナリオも存在し、その設定を借りてきた)。
・時の界王神…ゲームからのゲストキャラで、上記2人の上司。後々出てきたら詳しく解説します。
・ポタラ…界王神と呼ばれる宇宙全体を統べる神やその付き人らが耳に着けている、丸い珠の付いたイヤリング。2人の神(人間でも可)がそれぞれ右耳と左耳に分けて着けると合体し、1つの存在になり、超パワーアップする。神同士、あるいは神+人間の合体だと2度と元の2人に戻れないが、人間同士で使用した場合のみ時間が経つと元に戻る。
・フュージョン…メタモル星人と呼ばれる宇宙人のお家芸。2人の、強さや体のサイズなどの条件を満たした戦士が左右対称にコミカルなポーズ(ダンス?)を取ると合体し、超強力な戦士となる。ただし、30分しか保たない上に合体に必要なポーズ(ダンス?)を取っている間は隙だらけ。技としては強力だが、ポーズ(ダンス?)がダサすぎると不評であり、ベジータは原作でそれを理由にフュージョンを拒否した程。


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第56話 仮面の男との戦い 足掻くジャスミンとの死闘!

お待たせしました!第56話更新です。
さて、いよいよ事態が大きく動き出しました!!
今後の展開にご期待ください!


「はあぁああああああ!!!!!」

 ドドドドドドドドドッ!!!!!!!!

 最初から全力の“狼牙真拳(ろうがしんけん)”。既にギャラリーと化している周囲の海賊たちには残像しか(とら)えられないが、()()に相対する仮面の男は全ての攻撃を受け止め、または受け流して(さば)き切っている。

 ガッ!

「っち………!!」

 ジャスミンの攻撃の合間を()って仮面の男の蹴りが放たれるが、ジャスミンもそれを防ぐ。

 カッ!!!

「!“魔閃光(ませんこう)”!!!」

 ズオッ!!!

 蹴りを防ぐ為に、ジャスミンが体勢を崩した(すき)を狙って放たれた気功波を“魔閃光(ませんこう)”で迎え撃つ。

 ドッゴォオオオォオンン!!!!

「うぉお?!」

「くっ?!」

 2つの気功波がぶつかり合い、凄まじい爆風がギャラリー(海賊たち)にまで届いた。

 巻き上がった土埃(つちぼこり)が、一瞬視界を(ふさ)ぐ。

「!」

 ゴッ!!

 視界が(ふさ)がれた一瞬の(すき)、それを見逃す事無く放たれた拳がジャスミンを襲う。

 ガシャッ…ァン!!!

「がっは………!!!」

(速い……!!!!)

 ジャスミンとて当然警戒はしていた。攻撃の瞬間の“気”の揺らぎも感知する事が出来た。

 しかし、ジャスミンの反応速度よりも尚、仮面の男の速さが上だった。

 気が付いた時には、仮面の男の拳がジャスミンの腹部を強打していたのである。

「ゲホッ…!強い……!!!」

 10m程吹っ飛ばされ、レストランへと突っ込んだが、間一髪で急所を外す事に成功し、何とか意識を飛ばす事だけは回避(かいひ)出来た。

「この“気”に強さ、それにあの恰好(かっこう)…。やっぱりサイヤ人か………!!」

 実際に相対すると良く分かる。悟空や悟飯、悟天と良く似た“気”。恐らくはサイヤ人。それも、悟空らと近しい血縁関係にあると考えられる。

(でもサイヤ人は悟空さんたち以外には残っていない(はず)…。)

 確かに映画やアニメオリジナルでは他にも生き残りが出て来る事はあった。しかし、それらは実際にジャスミンが生まれた世界軸でも敵として現れ、皆悟空たちに倒されたと聞いている。

(唯一の例外はターブルさん位だと思ってたけど…。)

 しかも、悟空の血縁となると原作に登場したのは2人。うち1人、悟空の実兄(じっけい)‐ラディッツはジャスミンの生きる地球でもピッコロによって殺された。

 残るは、

「まさか……?」

 悟空の父親‐バーダック。彼ならば可能性がある。

 原作でも明確な死亡シーンが描かれたわけでは無く、確かアニメオリジナルの続編が作られていた(はず)だ。

 しかし、仮にあの仮面の男が本当にバーダックだったとして、何故(なぜ)この世界にいるのかは分からない。

 ザリッ…!

 思考に沈む間も無く、仮面の男がゆっくりと距離を詰めてくる。

「考える時間もくれないって事か…。」

 ジャスミンが考え込んでいたのは、せいぜい数秒。その程度のインターバルもくれないらしい。

 ゼイゼイと荒い息を()きながら、痛む腹部を(かば)いつつ立ち上がる。

(さて、どうしようかな……。)

 まともに戦っても勝ち目はゼロ。既にボロボロのこの体では、次の攻撃を(かわ)せるかどうかも怪しい。

(一か八か…。試してみようか……!)

 ただ死んでなどやるものか。

最期(さいご)まで足掻(あが)いてやる………!!!」

 パァン!

 両の手の平を合わせ、“気”を集中させていく。

「はぁああ………!!!」

 バチィッ…!

 バチチチッ……!!!

 ジャスミンの手の平から、光が溢れ次第にスパークしていく。

(後10m…。8、6、今!!!)

 仮面の男とジャスミンの距離が5mを切る。その瞬間、ジャスミンが両手を仮面の男目がけて突き出した。

「“萬國驚天掌(ばんこくびっくりしょう)”――――――――――――――っ!!!!!!!」

「ッ!?ガァアアアアアッ!!!!」

 ババババババババッ…!!!!

 叫びと共にジャスミンの手から放たれた、青白い電流が仮面の男を襲う。

 “萬國驚天掌(ばんこくびっくりしょう)”。体内に流れる微弱な電流を“気”でもって増幅させ、更にその電流で相手を宙に浮かせて動きを完全に封じ感電させる、亀仙流の秘技(ひぎ)である。

 破壊力では奥義である“かめはめ波”に劣るが、対人においてならば恐らくは亀仙流の技でも最強クラスの技。その危険性(ゆえ)に、祖である亀仙人も滅多に使用しない、言わば禁じ手の1つ。

 ジャスミン自身、実戦で使用するのはこれが初めてであったが、相手がサイヤ人ならばこの程度で死ぬ(はず)が無いという確信もあった。何より、禁じ手でも何でも躊躇(ためら)えば確実に自分は死ぬ。手加減している余裕などある(はず)も無かった。

「はあああああああっ!!!!」

「グァアアア…………!!!!」

 バチバチバチバチバチバチッ!!!!

(良し…!効いてる…!!)

 どこまで効果があるかは分からないが、先程までとは異なり、確かに手応(てごた)えを感じる。

 出来る事ならば、このまま気絶してくれればありがたい。

「はっ!」

 バチチチィッ!!!

 そんな思いを抱きながら、更に出力を上げた時だった。

 ピシッ…!

 男の仮面に、わずかに(ひび)が入る。

「グッ…?ガァアアッ!!!!」

 仮面に(ひび)が入った瞬間、突然男が苦しみ出す。

「グアアアアアアア―――――――――――――――っ!!!!」

「!?きゃあああああああ―――――――――――!!!」

 グオッ!!!!

 叫びと共に、仮面の男から放たれた爆発的な“気”にジャスミンも巻き込まれ、弾き飛ばされた。

 “萬國驚天掌(ばんこくびっくりしょう)”も解けてしまう。

 ズサァッ…!

「くっ…!一体、何が…?」

 思い切り背中から地面に叩き付けられ、一瞬息が詰まるが、すぐに身を起こす。

「グォオオ………!!!」

 見れば、仮面の男が地面に膝を付き、頭を抱え苦しんでいるのが分かった。

「………!まさか……?!」

 仮面に(ひび)が入った途端に苦しみ出した。それに思い至った瞬間、ジャスミンがある仮説を立てる。

「あの仮面を壊せば………!!!」

 原作でダーブラがバビディに洗脳されていたように、あの仮面の男もまたダーブラそっくりの“気”の持ち主によって操られているのかもしれない。仮面に(ひび)が入った事で苦しみ出したという事は、仮面こそがその媒介(ばいかい)となっている可能性がある。

 あの仮面を壊せば、希望が見えてくるかもしれない。

 そんな思いと共に、立ち上がったジャスミンだったが、直後に目の前に現れた仮面の男に成すすべ無く捕まってしまう。

「あぐっ……!!!」

 ギリギリと首を絞め上げられ、呼吸すらままならない。

「ギギィ…!」

 まだ苦し気に(うめ)きながらも、仮面の力が再び強まったのか、目の前のジャスミンを殺す事に集中し始めたらしい。

「がっ……ぁっ…!!!」

 足をバタつかせて何とか逃れようとするものの、完全に首を絞められながら吊り上げられていては踏ん張る事も出来ない。

「ぐぅ……!」

 徐々に意識が遠のき、視界が黒く染まっていくのが分かる。

(ヤバイ…!このままじゃ、本当に死ぬ………!!)

 バシッ…。

 ドンッ…。

 男に蹴りを入れ、足掻(あが)くものの、ほぼ窒息(ちっそく)状態では力など入る(はず)も無い。

(お父さん……!)

 ほぼ意識が堕ちかけた時、不意に超高速で近付いて来る“気”を感じ取った。

(だれ……?知ってる“気”……。)

 知っている(はず)だが、既に脳に酸素が回っていない状態では分からない。

 消えかけた意識の中、首への圧迫感が突然消える。

 ドサッ!

「ひゅっ………!ゲホッ、ゲホッ………!!!」

「大丈夫かい?!」

 衝撃が全身に走った直後、急激に気道に流れ込んできた空気に咳き込むジャスミンの背を()でる手があった。

「だ、れ……?」

(この、声は………。)

 朦朧(もうろう)とした意識の中、その声と手の持ち主にジャスミンが問いかけるが、首を圧迫され続けていた為か、(かす)れた声は届かなかったらしい。ジャスミンの呼吸が多少落ち着いたのを見てか、背を()でていた手がその体を抱き上げるのを感じる。

 横抱きにされた事で、自身を助けてくれた人物を見る事が出来た。

 (かす)む視界の中、ジャスミンが見たのは――――――――、

「…ら、くす、く………?」

(トランクスくん……?)

 淡い藤色の髪に、鋭い目付きの、幼馴染(おさななじみ)とそっくりの青年だった。

 だけど、その“気”も顔立ちも、自身の知る彼とはどこか違う。

「もう大丈夫。助けに来たよ。」

 そんな、幼馴染(おさななじみ)に良く似た、しかしやはり違う大人びた笑みを見ながら、自分でも不思議な程の安心感と共にジャスミンの意識が途切れた――――――――。

 




用語解説
・ターブル…ベジータの弟で、サイヤ人王家の生き残り。トランクスやブラにとっては叔父にあたる。サイヤ人には珍しく戦闘向きな性格では無かったらしく、辺境の星に追放処分を受けていたが、それによって生き残る事が出来た。グレという異星人の妻がいる。1度ベジータを頼って地球に来たが、現在どこの星に住んでいるのかはベジータも知らない。ジャスミンが住む世界軸でも、地球を来訪後、自分たちの星に戻っている。
・ラディッツ…悟空の正真正銘の実兄。原作で初めてサイヤ人について暴露した人物。当時4歳の悟飯を人質にとって弟を勧誘する、という下衆な行為のせいで殺される。初登場時は強敵として書かれていたが、後にサイヤ人の中でも雑魚だったとベジータらによって暴露された。
・バーダック…悟空とラディッツの父親。悟空そっくりの容姿だが、クールでワイルド。頬に十字型の傷がある。フリーザの企みを知り、彼を倒そうとして返り討ちに遭ったと思われていたが…。仮面の男の正体?
・萬國驚天掌…原作では1度しか使われていなかった幻の技。最近、アニメで再び使われ始めた為、作者は嬉しくて仕方が無い。余談だが、原作で使われた1度も、亀仙人の姿では無く変装中の“ジャッキー・チュン”として使われていた為、悟空やクリリンも長らく亀仙流の技とは認識していなかった可能性もある。…実際のところはどうなんだろうか。



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第57話 “スカウター”

お待たせしました!第57話更新です。
い、一ヶ月ぶり…(汗)
他連載に浮気していて更新が滞っておりました…。

そして、あんまり進んでおりません。
今後の展開を書いていたメモを誤って消してしまい、何を書こうとしていたのか忘れてしまった事が原因です(汗)

たぶん、次話で助っ人たちと本格的に絡む筈です。


 ――――――――時は(わず)かに(さかのぼ)る。

 自分たちが追う、歴史改変を企む魔族‐トワの行方(ゆくえ)と、消息(しょうそく)不明の少女‐ジャスミンの居場所が同じ世界であると当たりを付けたトランクス(未来)と悟飯(未来)は、上司である“時の界王神”の判断を仰いでいた。

『トワがその時代に到着した影響で“時空乱流(じくうらんりゅう)”が起こったですって?!確かなのね?』

「はい。更に、この時代の女の子が1人、その“時空乱流(じくうらんりゅう)”に巻き込まれてしまったようで…。」

『“時空乱流(じくうらんりゅう)”の発生した場所を正確に特定する事は出来る?』

「それは大丈夫です。その女の子が直前にいた場所が、GPSで探知されています。」

『なら、急いでその場所に移動して!ちょっと無理矢理になるけど、強制的に時空間に“トンネル”を創って半年前に発生した“時空乱流(じくうらんりゅう)”の出口に繋げるわ。あんたと悟飯をトワのいる世界へ送る!!』

「!?そんな事が可能なんですか?!」

伊達(だて)に“時の界王神”を務めている訳じゃないわ!本来なら、時空間への強制的な干渉(かんしょう)は許されない事だけど、今回ばかりは事情が違う。トワをこのまま放っておいたら、宇宙そのものが滅びかねない……!良い?!今回あんたたちに言い渡す任務は、トワの企みを阻止し、巻き込まれた女の子をその時代に無事に返す事よ!!』

「はい!」

『“時空乱流(じくうらんりゅう)”の発生した場所に移動したらまた連絡を寄越しなさい。良いわね?』

「分かりました。」

 プツリッ……!と通信が途絶える。

 直前まで通信機器として使用していた()()を顔から外しながら、トランクス(未来)がブルマらの方へ向き直る。

「“時の界王神”様の指示で、おれたちはこれからジャスミンちゃんが消えた場所へ向かいます。“時の界王神”様が“トンネル”を創り、それを通ってトワの企みを阻止する為に。ジャスミンちゃんも必ず連れて帰りますから…!」

「本当に出来るの?ポルンガでさえ出来なかったのに…?」

 トランクス(未来)の言葉に、ブルマが心配そうに尋ねる。

「はい。“時の界王神”様はその名の通り“時間”を司る神様ですから。しかし、本来なら時空間への干渉(かんしょう)は、“時の界王神”様でさえ許されてはいない程危うい事らしいのですが、今回は特例だと…。」

「それだけヤバイ事態になってるって事ね…。」

「そのようです…。」

 トランクス(未来)とブルマのやり取りを黙って見詰めていたベジータが、(おもむろ)に口を開く。

「トランクス。」

「「はい。」」

「……この時代の方だ。」

「何?パパ。」

「ヤムチャに知らせてやれ。ジャスミンがもうすぐ帰って来るとな…。」

「!うん…!!!」

 父の言葉に表情を明るくしたトランクス(現代)が、ヤムチャに連絡を入れるべく慌ただしくリビングを出て行く。…携帯で連絡を入れる、という手段が思い浮かばないあたり、彼も慌てているらしい。

 それを横目で見やりながら、ベジータが今度は未来の息子へと尋ねた。

「…さっきから気になっていたが、()()はもしや“スカウター”か?」

 トランクス(未来)が通信機として使用していた機械に目をやる。

「はい。おれたちがタイムパトロールとなった時に、母さん…、未来の母さんが戦闘中でも壊れないようなタフな通信機が必要だ、と言って昔改造した“スカウター”をモデルに新しく作ったものなんです。」

「本来の主要機能だった戦闘力の測定機能は外されているんですが、通信機能と個人の識別機能、サーモグラフィーなどが付けられたので、性能自体は上がっていると思います。」

 トランクス(未来)の説明に、悟飯(未来)も補足する。

「個人の識別機能って?」

 流石は未来の私、とばかりに聞いていたブルマがトランクスに尋ねる。

「事前に生体情報を登録しておいた相手に限るんですが、例え“気”を消していても正確な位置を割り出す事が出来るんです。」

「へぇ…。便利ね。」

「それでなんですが、ブルマさん。」

 ついでに、と言わんばかりに悟飯(未来)が切り出す。

「おれたちはそのジャスミンちゃんの“気”を知らないので、その個人識別機能を使って彼女を探す事になります。」

「ああ、そうか。会った事も無いんだもん、探すのも大変よね…。」

「ええ。それで、生体情報を登録するのに、出来れば1年以内に写した写真とジャスミンちゃんのDNAが検出出来るものがあると助かるんですが…。」

「DNAを検出出来るもの?」

「はい。髪の毛や爪、あるいは(へそ)の尾とかがあれば確実に…。」

「写真ならすぐに用意出来るけど、DNAってなるとねぇ…。」

 悟飯(未来)の言葉に、ブルマが首を捻る。

 半年前に行方不明になるまでは、比較的頻繁(ひんぱん)CP(カプセルコーポレーション)に出入りしており、寝泊りする事も多かったジャスミンだが、流石に半年前となると厳しい。ジャスミンが滞在する度に使っている部屋も3日に1度はハウスクリーニング・ロボットによって清掃されているし、髪の毛1つ見付からないだろう。

 ヤムチャの自宅の、ジャスミンの自室ならばどうかとも思ったが、そこは綺麗好きで普段からしっかりしているジャスミンだ。自身が不在中は(ほこり)が溜まらないように、同じくハウスクリーニング・ロボットに任せている、という会話をした事があるのを思い出した。

「やっぱり難しいですか?」

 本来、仲間の情報を目の前で登録する事を想定していた機能だけに、こうした場合は予測していなかった。悟飯(未来)がやはり最初にトワを探し出すべきか、と考えたところで、ブルマが「あ!」と声を上げる。

「もしかしたら、だけど…。あるかもしれないわ、DNA!!」

「ホントですか?!」

「良かった…!それなら登録出来ます!!」

「ちょっと待ってて!今持って来るから…!」

 そう言い置いて、ブルマは自身の研究室へと走る。

「えっと…、確かここにしまったままになってた(はず)……!!」

 ガタゴト、ガサゴソと片っ端から引き出しをひっくり返すブルマが、(つい)にお目当ての物を見付けた。

「あった…!!」

 ()()を手に、再びリビングへと戻った。

「あった…!あったわ!これよ……!!」

 ブルマが持っていたのは、1つのホイポイカプセル。

「一体、何を持って来たんだ。」

 ブルマの持つカプセルに全く心当たりの無いベジータが尋ねる。

「まぁ、見てて。」

 カチッ!

 ボンッ……!!

 ブルマが投げたホイポイカプセルから現れた物を見て、トランクス(未来)と悟飯(未来)が思わず目を丸くする。

「これは…?」

「食洗器……?」

 カプセルから出てきたのは、どこから見てもただの食洗器だったからである。

「そう、ただの食洗器よ。だけど、これ壊れてるの。」

「その、壊れたただの食洗器と、ジャスミンちゃんと何の関係が…?」

 何でこんな物を、とでも言いたげなトランクス(未来)に、ブルマが説明する。

「ここを見て。ちょっと黒ずんでる所があるでしょ?」

 ブルマが指差す箇所をよくよく見てみれば、確かに食洗器の一部が欠けており、その欠けた部分に何か黒いものが付着している。

「これは…、まさか血ですか?」

 はっと、悟飯(未来)が気付いたように呟く。

「ピンポーン!これ、ジャスミンちゃんの血なのよ。」

「ジャスミンちゃんの…?!」

「確かに、これならDNAも取れますが、何でこんな物があるんですか?」

 悟飯(未来)の(もっと)もな疑問に、ブルマが苦笑する。

「実はこれ、半年前にジャスミンちゃんに修理を頼まれてたのよ。あんな事があったから、すっかり頭から抜けちゃってたんだけど…。確か、キッチンの掃除をしてる時に場所を移動させようとして落としちゃって、その時に壊れた所に引っかけちゃって怪我をしたって言ってたから、もしかしたらと思ったんだけど残ってて良かったわ。一応拭き取ったとは聞いてたけど、洗い流した訳じゃないからそれが幸いしたわね。」

 

 ――――――――――数時間後、トランクス(未来)はその会話を思い出していた。

 あの時、ブルマが食洗器の存在を思い出さなかったら、間に合わなかったかもしれない。悟飯(未来)と一緒にスカウターで探知したジャスミンの居場所へと向かっている途中で、急にジャスミンの“気”が膨れ上がるのと同時に得体の知れない“気”を感じ取った。

 慌ててスピードを上げた事で何とか間に合う事が出来たが、スカウターが無かったら恐らく間に合わなかった。

 間一髪のところで救い出した少女を抱えながら安堵(あんど)する。

『…ら、くす、く………?』

 自分を過去の自分と見間違えた少女は、地球人の、しかもこの年頃の少女にしては信じられない程の実力を備えているのは一目で分かった。しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

「トランクス、その()を連れて下がっているんだ!まずはその()を安全な場所に…!」

「はい!」

 悟飯(未来)の指示に従い、200m程離れた建物の屋上へと避難する。

 助け出した少女‐ジャスミンが相対していた男は、間違い無くトワの手の者だろう。自分や悟飯(未来)に敵う程の相手では無いだろうが、万が一にもジャスミンがこれ以上傷付くような事は避けたい。

 ―――――――もう1人の自分の妹分。運命が1つでもズレていたなら、もしかしたら、自分にとってもそうだったかもしれない、歴史の変革の象徴。

 タイムパトロールとしてだけでなく、トランクス(未来)個人が気に掛けるには、充分な理由だった。

 絶対に守り、無事に元の世界に帰すと改めて自分自身に誓い、その華奢(きゃしゃ)な体を抱え直す。

 ざっと見たところは今すぐに命に関わるような怪我はしていないようだが、その細い首にくっきりと付いた手形は痛々しい。呼吸もどこか苦し気である為、もしかしたら肋骨も損傷しているかもしれない。一刻も早く治療してやりたいが、この世界の事をいまいち把握出来ていない自分では、下手に動く訳にもいかなかった。

 気を失ったのは怪我が原因では無く、緊張が解けた事によるもののようだから、今は安全な場所で彼女の意識が戻るのを待つしか無い。

 ジャスミンの意識が回復するのをじりじりと待ちながら、トランクス(未来)は師と仮面の男の戦いを見守る。

 

 




用語解説
・時の界王神…見た目は幼女()。神だが割と軽い性格。しかし、時の界王神としての責務はしっかり果たす。界王神と正式になる前の名前はクロノアと言うらしい。
・スカウター…“ドラゴンボール”に出て来る、相手の戦闘力を数値化し、調べる事が出来る機械の事。戦闘力だけでなく、その居場所も表示され、仲間との通信機も兼ねている。見た目は片目のヘッドマウントディスプレイ。片耳に嵌める感じで顔にくっついているが、原理は不明。原作者のT山先生曰く、「吸盤のようになっていると思う。」というふわっとさ。


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第58話 仮面の下

お、お待たせしました…!
ここまで間を開けるつもりは無かったのですが、なかなかパソコンに向き合う時間が取れず…。
4月半ば頃まで執筆する時間がなかなか取れない事が続くと思います。ご了承くださいませ…。


 ――――――――――大地を激しく揺るがす、凄まじい2つの気の奔流(ほんりゅう)に意識を引き戻された。

「っ()っつ……!」

 身じろぐと同時に、全身を(さいな)む激しい痛みに思わず(うめ)く。

「!気が付いたかい?」

 声をかけられて初めて、自分が誰かに抱えられている事に気が付いた。

 記憶を刺激する声に疑問を感じながらも、痛みに思わず再び遠退(とおの)きかけた意識を手繰(たぐ)り寄せ、そっと目を開ける。

「っ……!」

 (まぶ)しさに目を(しばたた)かせながら、傷に響かないようにそっと頭上を振り(あお)いだ。

「トランクスくん………?!」

 自身を抱えている青年を目にした途端(とたん)、気を失う直前の事を思い出した。

「初めまして。ジャスミンちゃんだね?君の知っている“トランクス”とは違うけど、オレも“トランクス”だよ。君とは違う時代から来た、ね…。」

 苦笑しながら告げられた言葉に、まじまじと青年を観察する。

 自身(ジャスミン)の良く知る“トランクス”よりも大人びた、シャープな顔付き。髪も長く、淡い藤色の髪を(うなじ)の辺りで軽く(くく)っている。そして“トランクス”よりも体つきもしっかりしているのが分かる。抱えられている為はっきりとは分からないが、恐らく背も高いだろう。また、その背に背負われた、RPGにでも出て来そうな長剣はジャスミンの知る“トランクス”は所持していない。

 そう、ジャスミンはこの青年を良く知っていた。(ヤムチャ)の持つアルバムの中で、何よりも“原作”の中の知識として。そして、それを肯定するような言葉を、彼自身も先程告げていた。

「まさか…、未来から来たもう1人の………?!」

「そう。オレの事を知っていたんだね。お父さん、ヤムチャさんから聞いたのかい?」

 衝撃のあまり無言で頷きを返しながらも、頭の中は何故(なぜ)未来の世界(より正確に言えば平行世界)に帰った(はず)の青年が目の前にいるのか、という疑問でいっぱいだった。

「な、なんで貴方(あなた)がここに……?」

 そして、何故(なぜ)自分を助けてくれたのか。

 取り()えず抱えられたままでは気まずい事この上無い。恐らく肋骨(ろっこつ)が折れただろう胸元はシクシクとした痛みを発し、少し息苦しいがスリラーバークでの心身共に追い詰められた時に比べればまだマシである。

 下ろしてもらえるように頼もうと、口を開いた瞬間だった。

 ズォオオッ……!!!

 激しい攻防の末に弾かれた気功波(きこうは)が、流れ弾の(ごと)くジャスミンたちを襲う。

「おっと…!!!」

「!わっ……!?」

 当然、不意を突かれたとは言え簡単に直撃を喰らう程、トランクスは(やわ)な鍛え方はしてはいない。

 直撃を喰らう瞬間、ジャスミンを抱えたまま上空へと逃れる。

 しかし、抱えられていたジャスミンは予想外の動きに思わずトランクスにしがみ付いた。

「ゴメン、ゴメン。大丈夫かい?」

「あ、いえこちらこそ、すいません……。」

 苦笑するトランクスに気恥ずかしさを感じながら、そっと身を離す。

「あ、あの…。私自分で飛べるので……。」

「でも、怪我は大丈夫かい?」

「これくらいなら問題無いです……。」

 自身(ジャスミン)の良く知る“トランクス(現代)”と同じ顔で同じ声の(はず)だが、まだ高校生の“トランクス(現代)”とは異なり、未来から来た目の前のトランクスは大人の包容力(ほうようりょく)(あふ)れていて、思わず頬が熱くなる。

 元々ファザコン気味のジャスミンは“大人の男”に弱い。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 下ろしてもらったジャスミンがそのまま舞空術(ぶくうじゅつ)でトランクスの隣に並ぶ。そうしてやっと人心地(ひとごこち)付いたジャスミンは、眼下で繰り広げられている激闘に唖然(あぜん)とさせられた。

「ところで、あそこで戦っているのはもしかして……。」

「ああ。オレの時代の悟飯さんだよ。」

「やっぱり…。」

 ジャスミンが散々苦戦していたあの“仮面の男”を圧倒している。分かってはいたが、ここまで実力差を見せ付けられると(いささ)か落ち込む。しかし、()()悟飯相手に未だに決定打を避け続けているあたり、やはりあの“仮面(かめん)の男”も只者(ただもの)では無いのだと再認識出来た。

「それにしても、あの男一体何者なんだ…?サイヤ人のようにも見えるが…。」

(くわ)しい事は何も…。私もいきなり襲われたので……。ただ、あの仮面で操られているようです。」

「操られている?」

「はい。さっき、仮面に(ひび)が入った時に苦しんでいたようなので、恐らく…。」

「なるほど……。」

 ジャスミンの説明に頷いたトランクス(未来)が声を張り上げる。

「悟飯さ――――――――ん!!!仮面です!!!仮面を壊してください!!!!!!」

 ――――――――――――そこからの悟飯の反応が早かった。

「分かった!!」

 トランクスの助言に瞬時に活路を悟り、相手の攻撃を弾くと同時に男の顔を仮面ごと(わし)(づか)む。

 ビキビキッ…ビシッ………!!!

「グッ?!」

 悟飯の常人離れした握力で仮面に次々と(ひび)が入った。そして、亀裂(きれつ)が広がっていくにつれて、男が苦し気に(うめ)き出した。

「ガァアアアアッ……!!!」

「っさせるか…!」

 悟飯の腕を引き()がそうと男がその腕を(つか)み、抵抗する。

 しかし、男が悟飯の腕を引き()がすより早く、悟飯が男の仮面を完全に砕く方が先だった。

 パリィッ……イン…!!!

「ガッ?!………うおおおおおおおっ!!!!」

 仮面が砕け散った瞬間、頭を抱えて苦し気に()()っていた男が、気合と共に凄まじい“気”を発した。

「「「っ……?!」」」

 それを見守っていた3人の戦士が、思わず身構える程。

「あ――――――…。」

 男が上空を向いていた顔をゆっくりと戻しながら、気が抜けたように息を()く。

「やっと頭がすっきりしたぜ…。」

 顔を(おお)っていた手を外し、前に向き直った男の姿に、悟飯とトランクスが驚愕する。そして、半ばその姿を予想していたジャスミンでさえも目を(みは)った。

「と、父さん……!?」

「悟空さん?!」

 彼らの良く知る英雄‐孫悟空と瓜二つの男の姿に。

 

 




次回、仮面の男の正体が遂に明らかに?!←まぁ、皆さんお分かりのあの人です。


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閑話7 その宝の名は…。

本編でなくてすみません。
ケータイが壊れて、書き溜めていた展開が全ておじゃんになりました…。
思い出しながらポチポチ打ってますが、本編の更新はいつになる事やら…。

本編の展開に行き詰ったので、自分的な息抜きで閑話を上げときます……。


 ―――――――それは、ほんの少し昔の物語。

 

 

 ヤムチャは自分の目を疑った。バイトから戻ってきたばかりのアパートの、自分の部屋の前に放置されていたベビーカーと、その中で眠っている赤ん坊に。

「オレの部屋だよな……?」

 思わず表札を確かめるが、間違い無く自分の部屋である。

 このご時世(じせい)、しかもお世辞(せじ)にも治安が良いとは言えない地区で、無力な赤ん坊が1人放置されているなど、通常ではあり得ない。何でこんな所に赤ん坊が、と犯罪に巻き込まれた場合も視野に入れながら、辺りの気を探るが、平日の昼間という事もあり、人気(ひとけ)は無かった。

 取り()えず、警察に連絡した方が良いかとベビーカーの赤ん坊をそっと覗き込んだ時、ふと赤ん坊が(くる)まるタオルケットの上に置かれた手紙に気が付いた。

 “ヤムチャ様”

 その宛名(あてな)にドクリ、と心臓が嫌な音を立てたのが分かった。

 嫌な予感をひしひしと感じつつ、ぐっすりと眠っている赤ん坊を起こさないようにそっと手紙を掴み取って開いた。

 “ハァイ、ヤムチャ。

 久しぶりね。覚えてるかしら?ナタリーよ。

 この手紙を読んでる時点で察しは付いてると思うけど、その赤ちゃんはあなたの子よ。

 (ちな)みに女の子。名前は無いわ。好きに呼んでちょうだい。

 その子の事よろしくね。あなたの娘なんだもの、育ててくれるわよね?

 もし()らないって言うなら、父親として責任持って施設にでも預けてちょうだい。

 私ももう、付き合ってる人がいるの。結婚の話も出てるの。他の男の子どもなんて育てられないわ。

 だからよろしくね。別にその子の事が憎い訳じゃないけど、私は()らないんだもの。

 P.S.今の彼はその子の事知らないの。だから連絡も止めてね。もしバレたら一生恨むから。”

「オレの子………?!嘘だろ…!?」

 ほんの1年前に付き合っていた元カノの手紙に愕然(がくぜん)とする。自分の子ども、という点でも青天(せいてん)霹靂(へきれき)だったが、何よりもその内容にも驚いた。

「名前も無いだって……?()らなかったら施設って、動物じゃないんだぞ………?!」

 こんな、自分の子どもを物のように扱う女と一時(いっとき)でも付き合っていたのか、と思うと吐き気がした。

 しかし、これからどうすれば良いのか。赤ん坊の扱いなどまるで分からない。ヤムチャが手紙が片手に途方(とほう)に暮れていた時だった。

「っ………あ‶ぅゔ~………。」

 それまで静かに眠っていた赤ん坊が不意に愚図(ぐず)り始めた。

「げっ!起きたのか……?!」

「ゔぁあ‶あ‶あ‶あ‶――――――――――っ!!!!」

 ヤムチャの声が引鉄(ひきがね)となったのか、火が付いたように泣き出した赤ん坊を前に右往左往(うおうさおう)しつつ、取り()えずベビーカーを揺らし、あやし始める。

「ほ、ほ~らほら泣くな泣くな~!ほら、べろべろべ~♪」

 赤ん坊を覗き込んで精一杯の変顔を決めるが、当然泣き止む(はず)も無い。

「は、腹が減ったのか?!それともオムツか?!ああああああ!どうすりゃ良いんだ!!!」

 35歳独身、育児経験無し。

 当然、赤ん坊の扱いなど分かる(はず)も無く、頭を抱えていたヤムチャだったが、不意に何とか出来そうな人物を思い付く。

「っそうだ!ブルマ……!!!」

 1児の母である彼女ならが、赤ん坊の扱いなどお手の物だろう。

 善は急げ、とばかりにベビーカーを(わし)(づか)み、舞空術(ぶくうじゅつ)CP(カプセルコーポレーション)を目指した。

 

 

 ――――――20分後。

 あれだけ泣き(わめ)いていた赤ん坊は、CP(カプセルコーポレーション)のリビングでブルマの母・パンチ―に抱かれ、一心不乱に哺乳瓶(ほにゅうびん)からミルクを飲んでいた。

「あらあら、ホントにお腹が空いてたのねぇ~。」

 ころころと柔らかく笑いながらミルクを与えるパンチ―は、常日頃のふわふわした様子からは想像出来ない程に頼りになった。

 血相(けっそう)を変えて中庭から飛び込んできたヤムチャに、最初こそすわ何事かと驚いていたパンチ―だったが、その腕に抱えられたベビーカーで大泣きする赤ん坊を見た途端(とたん)に自分のすべき事を瞬時に理解したらしく、普段からは想像出来ない速さで動いた。

 夫・ブリーフの秘書に連絡を入れて大至急粉ミルクを買いに行かせ、倉庫からトランクスの使っていた哺乳瓶(ほにゅうびん)を引っ張り出して消毒を始める。その間にクッキングロボットにお湯を沸かしておくように言い付けるのも忘れない。

 そしてダッシュでミルクを届けに来た秘書に追加でベビー服一式とオムツを手配させ、消毒の終わった哺乳瓶(ほにゅうびん)とある程度冷めて適温になったお湯でちゃっちゃか粉ミルクを作り、泣いている赤ん坊をそっと抱き上げてその口元に哺乳瓶(ほにゅうびん)(あて)がった。

 その間およそ15分。ヤムチャが事情を説明している(ひま)も無かった。

「それにしても、久しぶりねぇヤムチャちゃん。いつの間に結婚なさったの?」

 ミルクを飲み終わった赤ん坊を抱え直して背中を(さす)りつつ、ゲップを(うなが)しながらパンチ―がおっとりと尋ねる。

「どうもご無沙汰(ぶさた)してまして…。結婚はしていないんですが、その………。」

 口ごもりながら事情を説明し始めたヤムチャに、パンチ―は目を丸くした。

「あらまぁ…。それじゃあ、ヤムチャちゃんこの赤ちゃんどうするつもりなの?」

「どうする、って…。」

「自分で育てるのか、施設に預けるのか…。ヤムチャちゃんはどうしたいのかしら?」

 普段は開いているのかいないのか分からない程に細い目を見開いて、パンチ―がヤムチャを見詰める。

「おれが、どうしたいのか……?」

「赤ちゃんを育てるってたいへんよ。自分の事は全部後回しになっちゃうわ。私の時はパパやメイド達が手伝ってくれたから随分(ずいぶん)楽だったとは思うけど、それでもノイローゼになりかけた位だもの。男手1つとなったらその比じゃないでしょう?もちろん、私たちも出来る限りの事は手伝うし、ヤムチャちゃんが本気でこの子を育てるつもりなら、何だったらウチに住んでもらっても良いわ。ヤムチャちゃんはもう息子同然だもの。」

「パンチ―さん…。」

 心からそう言ってくれていると分かるパンチ―の眼差しに、思わずヤムチャの胸が熱くなった。

 昔、ブルマと付き合い始めたばかりの頃、最初に家庭の温かさを教えてくれたのは目の前のこの人だった。ヤムチャ自身も実の母のように慕っていた。いずれは義母になるのかもしれない、と淡い夢を抱いていた時もあったが、今でも息子同然だと言ってくれるその心が嬉しかった。

「でも、もしヤムチャちゃんがこの子を施設に預ける、と言っても私は責めないわ。急に自分の子どもって言われても良く分からないだろうとは思うもの。女は自分のお腹で子どもを育てるけど、男の人はそういう事が無いから生まれるまでずっと見ていてもなかなか実感が沸かないんですって。パパもそうだったわ。」

「ブリーフ博士がですか?」

「ええ。ある程度ブルマが大きくなって、人の顔を判別出来るようになった頃、私やパパを見付けると良く笑うようになったの。そこからだったわ。それまで私を気遣ってはくれてもどこか育児に他人事だったパパが手伝ってくれるようになったのは。」

「そんな事が……。」

「まして、いきなりあなたの子どもって言われたら実感も何も無いわよねぇ。急に言われても困るっていうのが正直なところだとは思うけど、今日中に決めた方が良いわよ。」

「今日中?!」

 それは急過ぎやしないか。

 そんな思いと共にパンチ―を見詰める。

「長い時間一緒にいたら情が沸くわ。悪い事ではもちろん無いけど、そんな状態でなぁなぁに引き取られたんじゃこの子が可哀想…。お互いの為にも良くないわ。責任だとかそういうのを無しにして、ヤムチャちゃんが心からこの子を育てたいと思わないと……。」

「……そんな事急に言われても、正直なところ本当にオレの子かも分からないですし…。」

「そう…。やっぱり難しいわよねぇ……。」

「ゲポッ……!」

 首を支えるようにして縦抱きにされ、会話しながらも背中を(さす)られていた赤ん坊が、不意にゲップと共に少量のミルクを嘔吐(おうと)した。

「あらあら…。」

「あっ!す、すみません服が……!!!」

 パンチ―のブラウスの左肩が、吐き戻されたミルクで汚れシミを作る。鮮やかなレモンイエローの仕立ての良いブラウスだったが、早く着替えなくてはシミが残るだろう。

 この人の事だから普段着でもかなり高い、とヤムチャが慌てる。

「大丈夫よ。洗濯すればすぐに落ちるし、赤ちゃんには珍しく無いのよ~。」

 ころころと(ほが)らかに笑うパンチ―にほっとしつつ、ヤムチャが手を伸ばす。

「すみません、任せっぱなしで…。代わりますから着替えてきてください。」

「あら…。」

 何の気負いも無く手を伸ばしたヤムチャを見詰め、パンチ―が目を丸くした。

「ふふっ…!そうね。それじゃ、お願いしようかしら。」

 笑みをこぼしながら抱えていた赤ん坊をそっとヤムチャに(たく)した。

「左手1本で支える感じで…、右手は添えるだけよ。…そう、上手じゃない。」

「ゔ~…。」

 相手が変わって居心地が悪かったのか、うごうごと良いポジションを探すように動いていた赤ん坊だったが、しばらくすると落ち着いたのか動きが止まる。

「つ、(つぶ)しそうで怖いんですけど…。」

 何でこんなにふにゃふにゃとしているのか。それに、思っていたよりも暖かい。抱えているとやや暑い位である。

「大丈夫、上手よ。それじゃ、ちょっと着替えに行かせてもらうわね。」

 クスクスと笑いながらパンチ―がリビングを後にする。

 その姿を目で追っていたヤムチャだが、完全に見えなくなって腕の中の赤ん坊に目を移した。

「これからどうするかなぁ…。なぁ、お前はどうしたいんだ?」

 返事が返って来る訳も無いのは百も承知だが、つい赤ん坊に問いかけた。

 もちろん、返事を返す(はず)も無いが、赤ん坊がじっと見詰めている事にヤムチャが気付く。

「ん?どうした?」

 ヤムチャがつい、腕の中の赤ん坊を覗き込んだ瞬間だった。

 にこぉっ…!と赤ん坊が微笑んだ。

 “生理的微笑反射”。生後2ヵ月程までの新生児は、本能的に“自分が笑うことで周囲が優しくしてくれる”という、自己防衛で微笑む事がある。

 しかし、当然ヤムチャはそんな事知る(はず)も無い。その為、純粋に“赤ん坊が自分に微笑んだ”という事に胸を突かれた。

 そして、理解すると同時にじわじわと愛しさが(つの)っていく。

 そうしているうちにミルクを飲んで満腹になった事で眠くなったのだろう。赤ん坊がうとうとし始めたのが分かる。

 ヤムチャは、無意識のうちに赤ん坊を抱えたままゆらゆらと体を揺らし始めた。

 満腹状態で抱かれ、揺らされていれば結果は分かり切っている。数分後には、赤ん坊は完全に寝入っていた。

「寝ちまった…。」

 眠った途端(とたん)にずっしりと重くなった赤ん坊を抱くヤムチャの胸に、愛しさが広がっていく。

 血が繋がっているかどうかはもう良い。それ以上に、この子と家族になりたい、という想いだった。

 元より天涯孤独だったヤムチャである。プーアルと出逢ってからは独りではなくなったが、“家族”に対する(あこが)れは常にあった。

 ブルマと別れてからは一層華やかになった女性関係も、元を(ただ)せば家族が欲しかったからである。

「名前を決めないとな……。女の子だから花の名前が良い。ジャスミン……。お前の名前はジャスミンだ。」

 赤ん坊を育てる事がたいへんだ、というのは想像する事位は出来る。今まで通りの生活はもう出来ない。それでも、ヤムチャは“父親”になりたいと思ったのだ。

 

 

 ――――――そして、ジャスミンと名付けられたその赤ん坊は、ヤムチャの生涯の宝となった。

 

 



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第59話 仮面の男の正体!時を超えた戦士

たいへんお待たせいたしました…!

最後に更新したのいつだコレ…。


 ──────砕かれた仮面の下から現れたその顔に、3人の戦士が驚愕に目を見開いた。

「と、父さん…?!」

「ご、悟空さん?!!」

「悟空おじさんにそっくり……。」

 その正体を半ば予見していたジャスミンでさえ、思わず呟く程に()()()は地球の英雄・孫悟空に瓜二つだった。

 違うのは鋭い目付きと、左頬に刻まれた十字型の傷痕のみ。

 

 因みに、全くの余談だがジャスミンは悟空やクリリンの事を幼い頃は"〇〇おじさん"と呼んでいた。中学に進学してからは名前で呼ぶようになったものの、ほんの2年程前までは亀仙人でさえ"亀のおじいちゃん"呼びだったので、今でもうっかりすると昔の呼び方が出てしまう。

 また、悟空は何を考えているのかいまいちな読めないものの、クリリンや亀仙人などは呼び方が変わった事が寂しいらしく、事あるごとに「おじさんで良いぞ」だの「もうおじいちゃんとは呼んでくれんのか?」だのとジャスミンに訴える事もしばしばだった。

 

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 

「おかげで頭がスッキリしたぜ……。」

 額に手を当てたまま、頭をはっきりさせるように軽く首を振る男を、3人が凝視する。

「あ、あなたは一体…?サイヤ人、ですよね………?」

 以前にも悟空にそっくりなサイヤ人、ターレスから"下級戦士はタイプが少ない"と聞かされていた悟飯がいち早く衝撃から立ち直り、男に尋ねた。

 その問いに、男は悟飯へと向き直り、トランクス、そしてジャスミンへと目を向けた。

「………カカロットの息子か…。"王子"の息子もいやがるとはな………。そっちのガキは知らねぇが…。」

 その言葉に、悟飯とトランクスがわずかに身構え、ジャスミンも驚愕に目を(またた)いた。

(この2人を知ってる、って事はやっぱりこの人は………。)

「オレの名はバーダック。………カカロットの父親だ。」

「「え?」」

(やっぱり……。)

 

「と、父さんの父親………?!」

「ま、まさか…。サイヤ人はわずかな生き残りを残して全滅した(はず)…。そ、それに悟空さんの父親というには若過ぎます……!」

 男、バーダックからの予想外の台詞(セリフ)に、悟飯が目を()き、トランクスが真っ向から否定する。

「あの、」

 ジャスミンが口を開いた瞬間、3人の視線が一斉に向けられ、思わずジャスミンがビクついた。

「ベ、ベジータさんからサイヤ人は戦闘民族だから、戦う為に若い期間が長いと聞いた事があります…。悟空さんもベジータさんも、もう50歳近くていらっしゃるのに私が生まれる前とほとんど外見変わっておられませんし…。」

 まぁ、厳密に言えば悟空は7年間死んでいたので肉体年齢は実年齢(-7歳)なのだが。

「た、確かに…。先程お会いしたベジータさんもほとんど昔のままだったし…。」

「で、ではどうやってフリーザから(のが)れて……?いや、それよりも何故オレたちの事を知っているんです?」

 ジャスミンの言葉に悟飯が一応納得した様子を見せるものの、トランクスが新たな疑問を口にする。

「……正確に言やぁ、オレはフリーザに殺される()()だった…。今ここにいるのは、あのトワって女に連れて来られたからだ。」

「そ、そうか…!トワが過去を改変して本来死ぬ(はず)だったあなたを洗脳して手駒に……!!」

「オレとトランクスの事も、トワから聞いたんですか?」

 これでバーダックとトワが繋がった。

 再度尋ねた悟飯に、バーダックが首を振った。

「いや、詳細は(はぶ)くが、オレは未来を一部だけだが()()事が出来る。(もっと)も、自分でコントロールする事は出来ねぇから知らねぇ事も多いがな……。現に、そのガキの事も知らねぇ。」

 ジャスミンに目をやりながら説明するバーダックに、悟飯とトランクスが納得している一方で、ジャスミンは情報を整理していた。

("未来視"の力があるという事は、この人はアニメ寄りの世界から来たという事…?)

 最初に発表されたアニメオリジナルVer.と、後に書き下ろされた公式コミックスVer.では設定に若干の差があるのだ。

「……と、いう事はつまりあなたはオレの祖父という事ですね?」

 恐る恐る確認する悟飯に、バーダックが頷いた。

「オメェがオレのガキのガキ、っつう以上はそうなるだろうな。」

(この人と悟空さんと12~13歳位の悟天くんを3人並べてみたい…。)

 複雑な初対面を果たす祖父と孫を尻目に、ジャスミンの思考が思わず明後日(あさって)の方に跳んだ。

 

 因みに、何故現在ではなく12~13歳の悟天かというと、中二位で身長がグンと伸び始めた悟天が父である悟空と間違えられる回数が格段に上がり、業を煮やして強引にヘアスタイルを変えた為、若干そっくり度が下がったからである。

 

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 

 どこか妙な緊張感の漂う祖父と孫に、どう声をかければ良いか戸惑うトランクスとジャスミンだったが、その空気に割り込む声があった。

「見付けたぞ!"中将殺し"!!!」

「あ。」

 ドヤドヤと周囲を取り囲む海兵たちに、ジャスミンが状況を思い出した。

 それどころじゃなかった為、頭からすっかり抜けていたが、良く見れば黄猿もいない。

 "気"を探ってもシャボンディ諸島内に"麦わらの一味"の"気"が感じられない為、どうやら自分(ジャスミン)がバーダックと交戦している間に()()は進んでいたらしい。

「"中将殺し"?」

 物騒な呼び名に、悟飯は怪訝そうな顔を見せる。

「あぁ~…、私の事です。一応言っておきますが、誰も殺してません。ちょっと諸事情あってこの世界の軍隊みたいなのに追われてまして……。」

「ど、どんな事情があってそうなったんだい?」

 保護した少女(ジャスミン)がそんな事態に巻き込まれているとは想像もしていなかったトランクスが思わず顔を引き攣らせる。

「ざっくり言うと、犯罪らしい犯罪は犯していない海賊と友達になって、その海賊が世界規模の陰謀に巻き込まれているのを手助けしたら指名手配されまして………。」

「指名手配?!」

 予想外の言葉に、トランクスの声がひっくり返った。悟飯も目を見開いている。

「………取り敢えず、場所を変えましょう。ここじゃ、落ち着いて情報をすり合わせる事も出来ませんし…。」

「その方が良いだろうね…。」

 色々聞きたい事はあれど、一旦は飲み込んだ悟飯がジャスミンに同意する。

「近くに私が修行に使っていた無人島があります。一旦上空に上がってから()()に行けば、取り敢えずは誤魔化(ごまか)せるかと…。」

「分かった。それじゃ、行こうか。……バーダックさん、でしたっけ?あなたも一旦オレたちと一緒に来てもらえませんか?」

「…ああ。」

 バーダックが頷いたのを確認し、ジャスミンは舞空術(ぶくうじゅつ)で上空へと体を浮き上がらせる。悟飯とトランクス、バーダックもそれに続いた。

「んな?!待て、"中将殺し"!!」

 ガン無視される形となった海兵たちががなり立て、発砲するが、既に空高く飛び上がった彼らに届く(はず)も無い。

 4人の戦士たちは既に視認するのも難しい程の上空から、いずこかへと飛び去っていた。

 

 

 ────────―とある無人島。

 海兵たちから姿を(くら)まし、無人島へと身を隠したジャスミンたちは、一先(ひとま)ずジャスミンの出したカプセルハウスで一息()いていた。

 取り敢えず、と仙豆(せんず)を食べて回復を図った後にソファに座る3人にお茶を出す。

「すいません、紅茶しか無いんですけど…。」

 来客用のティーカップなども無い為、生憎(あいにく)紙コップだが。

「ありがとう。」

 悟飯がジャスミンに微笑み、トランクスが目礼する。バーダックはチラリ、と目の前に置かれた紙コップに目を走らせはしたが、それ以上の反応は無かった。

 自身も自分の分の紅茶を持ってソファに座り、おずおずと話を切り出す。

「え、と…。お2人は未来の世界から来られた、という事で良いんですよね?」

 いまいち状況が把握出来ていないジャスミンが、情報を整理すべく悟飯とトランクスに尋ねる。

「そうだよ。直接会った事は無いだろうけど、ここにいるトランクスが昔タイムマシンで過去の世界に行った事は知ってるかい?」

「はい。お父さ…、父たちから聞いた事がありますし、カプセルコーポレーションで写真を見せてもらった事もあります。」

 悟飯がジャスミンの問いに頷き、まずはジャスミンがトランクス(未来)の存在を知っているかどうかを確認した。

「オレたちがこの世界に来たのは、第一に君を保護する為だ。」

「私を…?」

 悟飯から言われた言葉に、一瞬ポカンとしたジャスミンだったが、じわじわと期待がその顔に浮かんでいった。

「地球に帰れるんですか?!」

「勿論。オレたちが絶対に君を地球に連れて帰るよ。」

 悟飯の断言に、ジャスミンの目に涙が浮かぶ。

 ジワリと滲む涙を拭い、「良かった…。」と心からの笑みを浮かべるジャスミンを微笑まし気に見詰めながら、わずかに顔を引き締めた悟飯が続けた。

「まずは、君がこの世界に来てしまった原因を話さなくちゃいけない…。」

 そして語られたのは、"タイムパトロール"の存在と歴史改変を目論(もくろ)む魔族・トワの存在。

「じゃあ、あのダーブラそっくりの禍々(まがまが)しい"気"は………。」

「トワのものだろう。アイツはダーブラの実の妹だからね…。」

 納得したように頷くジャスミンに、悟飯も頷く。

 そこで、ジャスミンの脳裏にとある情報が(よぎ)った。

「そうだ…。そのトワでしたっけ?その魔族に仲間、あるいは部下がいませんか?」

「…アイツは、主にその時代にいる人間を操って歴史を改変しようとするんだが、確かに腹心と呼べる部下が1人いたよ。ミラ、トワが作り出した人造人間だ。」

「だけど、ミラは既にオレたちが倒している。バーダックさんという部下も失った今、最も警戒すべきは誰かこの世界の住人が洗脳されないかという点だけど……。アイツがこの世界に来た理由も分からないし……。」

 悟飯に続き、トランクスが補足するが、ジャスミンにはとある情報があった。

「いえ…。恐らく、トワの目的はミラの復活です。」

 そう、"魔術師"バジル・ホーキンスからの情報が。

 "人間のようであってそうでない、男女の2人組が追手から逃れて来て3人目の仲間を復活させようとしている。"

 ここにきて提示された、新たな情報に悟飯とトランクスが目を見開いた。

「その情報、どこまで信用出来るんだい?」

「少なくとも、"人間のようであってそうでない"という部分は魔族とサイヤ人という宇宙人という点で符号します。そして、"追手から逃れて来て"という点も合致する……。」

 悟飯の問いに、ジャスミンが根拠と考える点を挙げていく。

 そんな中、それまで沈黙を保っていたバーダックが口を開いた。

「…そのガキの推測はおおよそ当たってやがるぜ……。」

 バッと3人の視線がバーダックへと集まった。

「操られてた間の事はあんまり覚えちゃいねぇが、朧気(おぼろげ)に記憶に残ってる…。そのミラとかいう奴かは知らねぇが、青い肌の男を復活させる為とか言ってたからな…。その為に必要なエネルギーを集める為、とか言ってあちこちの戦場に顔を出してたぜ。オレにそのガキを襲わせたのも、"キリ"とか何とかそのエネルギーを集めるって言ってたな………。」

 バーダックの言葉に、悟飯とトランクスが一気に顔を険しくさせた。

「青い肌の男…。間違い無い、ミラです。」

「ミラが復活、となると厄介ですね……。」

「バーダックさん、トワが今潜伏している場所を覚えていますか?」

 流石(さすが)に"おじいちゃん"とは呼べないらしい悟飯が、若干呼び難そうにバーダックへと尋ねる。

「だいたいの場所なら分かるが、いくつかの島が連なってる所だったからな…。細かい場所までは覚えてねぇ。それに、あの女"結界"とか言って周囲から見えなくするバリアみたいなモン張ってやがった。出入りもあの女の許可無しには出来なかったからな……。」

「そうですか…。」

「どうやって奴の居場所を特定しましょうか?」

 険しい表情を見合わせる悟飯とトランクスに、再度ジャスミンの記憶が刺激される。

(そう言えば………。)

「…あの、バーダックさん。」

「ああ?」

 おもむろに話しかけてきたジャスミンに、バーダックが器用に片眉を上げて反応する。

「"あちこちの戦場に顔を出していた"という事は、その"キリ"は戦闘時に発生されるものなんですか?」

「そうらしいな。オレも詳しくは知らねぇが……。」

「そして、私と戦ったのもそのエネルギーを集める為……。」

「そう言ってんだろ。」

 確認するように呟くジャスミンに、バーダックが吐き捨てる。

「…具体的に今どれ位のエネルギーが集まっているのか分かりますか?」

 その問いに、悟飯とトランクスも2人へと視線を向け、バーダックが記憶を辿(たど)る。

「テメェと戦ってどれ位集まったかは知らねぇが、オレがテメェの所に行くまでは5分の1も集まって無かった(はず)だぜ。エネルギーの集まりが悪いってイライラしてやがったからな…。」

「という事は、まだそのミラの復活までには間があると考えても良いですね……。であれば、次にトワに現れるのは恐らく7日後です。」

 

『…何をしているかまでは知らんが、男の方が戦いの場に出現しているようだ。今から10日後に動く、と出ている。』

『10日後?何か大きな戦争でも起こるんですか?』

『“世界を動かす争い”と出ている。闇雲(やみくも)に“新世界”を探し回るよりも、それを待った方が確実だろう。』

 

 ほんの3日前にバジル・ホーキンスと交わした会話がジャスミンの脳裏に蘇る。

 "7日後"。

 そう断言したジャスミンに、悟飯とトランクスの顔が引き締まり、バーダックが好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 ────────7日後に何が起こるのか。

 未だ、ジャスミンは知らない。

 

 

 

 



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