十五夜に影は蠢く (スフィンクス)
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【注意】
一話目ということで文章がヒッチャカメッチャカになっています。
早めに物語に入りたいということで無理矢理感が出ていますのでそういうのが嫌いな方はブラウザバック推奨です。


 

 

 

 

「おいっ! あっちで馬鹿強ぇのが暴れてるって話だぞ!」

 

「はぁ? なに言ってんだよ。ここは竜兵さんの縄張りだぞ」

 

「そうだろ、こんなとこで暴れたら雑巾にされて終わりだろ」

 

——親不孝通り

 

通称でもなければ、愛称でもない。

そこは元々の地名を‘‘親不孝通り’’と名付けられた。

当時、何故マイナスのイメージを持つ通り名にされたのかは分からないが、現在のそこは名前通り親に不孝を働いてしまう場所であり、不良やヤンキーと言った社会の掃き溜めが集う場所だった。

親に不孝と言うとイメージが湧きにくいが、簡単に説明すると自分が‘‘容疑者’’になるか‘‘犠牲者’’になるかの二つである。

 

「でも何十人もヤられたらしいぜ?」

 

「信じられねぇが見に行くしかねえな」

 

「はっ、嘘だったら晩飯奢りな」

 

コンクリートで舗装された道を三人はゲラゲラと笑いながら歩いて行く。

彼ら三人もこの親不孝通りに入ってから数年経つ、少し顔が効くと言ったところだ。親不孝通りで頻繁に行われる縄張り争いにもよっぽどの事がない限り参加し、場数も踏んできた。

しかし、この瞬間。

 

——自分が犠牲者になることも知らずに

 

彼らは歩いて行く。

 

 

 

 

 

○ ○

 

 

 

 

 

『——ニュースをお伝えします。昨夜未明、神奈川県にある親不孝通りで不良同士による大規模抗争が行われ四十人以上の重軽傷者が出ました。通報をしたのは通りの近くに住む住人で、いつもより大きな声、騒音がすると警察に通報すると駆け付けた警察官十数人が既に重軽傷を追っていた男たちを発見。直ぐに救急に連絡したとのことです』

 

「自業自得だ……」

 

ニュースを呟きながらそう言った男は朝食であるご飯と味噌汁を適当に流し込んだ。

ご飯は自炊し、味噌汁はレトルトと言った些か無愛想なものである。ご飯を自炊するならば味噌汁も作れよと思うが、ここには彼を指摘するのは誰も居ない。

 

『この手の問題について詳しい——さん。ご意見をお聞かせ下さい』

 

テレビの中の名も知らないコメンテーターが専門家と呼ばれた男に話を振る。

それと同時に食べ終わった味噌汁のカップをゴミ箱に投げ入れ、箸を置いた。

 

『そうですねぇ、この親不孝通りと言うのは非常にアウトローな奴らがかなり集まってるのでこのような騒動は表には出てないでしょうけど頻繁にあるんじゃないですかね。何年か前はあそこも小さな商店街だったんですが、時代の並に押されて——』

 

そこまで聞いてテレビの電源を切る。

専門家と呼ばれた男に少し苛立ちを覚えたからだ。

専門家と自称するならば不良やヤンキーと言った奴らの行動を研究するのではなく、そいつらを潰せる方法を考えれば良いものを。人の世は堕ちる奴は堕ちる、じゃあそいつらをどうするかが問題だろう。

 

ご飯がまだ何粒か付いている食器を水に漬ける。

洗い物は寝る前にやれば良いだろう、どうせ二食しか家では食わない。

着ていた白い制服に汚れがないか確認すると首元のボタンを止める。

机の上に置いていた鍵を取ると玄関へと向かった。

 

「……はぁ。行ってきます」

 

靴を履き、誰も居ない家内にそう言うと外に出た。

 

 

 

 

 

登校中、目の前で歩いている何人かが楽しそうに笑っている。

それが心からなのか、一緒に居るために上辺だけ笑っているのかは分からないが。

 

「見て、今日のトラブルんかなり際どいよ」

 

「うわっ、相変わらずエロいなぁ」

 

どうでも良い光景に退屈した俺は気晴らしに塀の先を見ると、黒猫が一匹で器用に寝ていた。

強めの風が吹けば落ちるんじゃないかと思うバランス力だ。

すれ違い越しにシュッと一撫でしてやると気持ち良さそうに耳を揺らした。目を瞑っているのでまだ夢の中のようだ。猫にしては注意力散漫なのかもしれない。

 

「それにしても主人公よく誘惑に耐えるよね」

 

「ほんとそうだよな、確か同棲始めて一年経ってるだろ?」

 

「それくらいだろうね」

 

しまった、思えば昨日夜に買った昼飯を忘れてきてしまった。

注意力散漫なのは俺の方だったようだ。

今から取りに帰っても良いが時間が勿体無いので今日は食堂で食べるとしよう。

 

「マジすごいわ、俺様だったら同棲の時点で多少嫌われても無理矢理組み付してるかもしれねぇ」

 

「——ッ」

 

耳に入った言葉を聞いて頭がチカチカとする。

手にも力が入り、歯がギシギシと鳴っている。

 

「——うぉっ!? 何だ今の!」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、なんか……モモ先輩が怒った時みたいな感覚が……」

 

「そう? 僕は感じないから勘違いじゃない? それにモモ先輩なら前で大和弄ってご機嫌良さそうだし」

 

「だよなぁ……何だったんだよ……」

 

眼を伏せながら歩く。

酷い眼になっているだろう。

何度か深呼吸して心を落ち着かせる。

 

「……く……はぁ……」

 

頭がクリアになっていく。

思考が真っ白、と言った状態だ。

過去がフィードバックされて、頭を抱えそうになるくらい辛かった。

 

「楽しくなさそうだ、何もかも」

 

誰にも聞かれないようにそう言った

 

 

 

 

 

「なぁ、昨日のテレビどうだった? ——君カッコよかったよね!」

 

「分かる! 私あの人すごい大好きでね」

 

 

「心ー、新しい紙芝居作ったから見てー」

 

「嫌じゃ、どうせお主が作った紙芝居なんてバッドエンドばかりではないか」

 

 

「フハハ! 今日も皆の衆は元気なようだな」

 

「はいっ! これも英雄様のお陰だと思いますぅ☆」

 

 

「弁慶、明日の休み暇なら水族館に行かないか? ペンギンショーが限定でやるみたいなんだ」

 

「うーんペンギンを見てはしゃぐ主も見たいが休日をだらだら過ごす私も見てみたい……どっちにすれば」

 

 

教室の扉を開ければそんな声が聞こえてくる。

まだ八時十分過ぎだと言うのに集合率は中々のものだろう。

 

「と、弁慶が渋るだろうと思って予め駅前で義経は明日のチケットを二枚買ったんだ」

 

「え——!」

 

しかし俺は話す友人も居ないためまっすぐ自分の席を目指す。

一番後ろから三列目の窓際だ、その前が柔道部だったか身体が随分と大きいので睡眠には助かっている。

 

「じゃーん、見てくれ」

 

「何もここで出さないでも……」

 

「家で出したら出したで弁慶は何処からともなく理由を出して行かないだろう? だから敢えて義経は何もない学校で誘ってみた」

 

「くっ、主が学んでるっ!」

 

「ふふん、義経もやれば出来る子なんだ……あ」

 

「あ……」

 

別段と聞き耳を立てていたわけじゃないがいきなり会話が止まったのを聞いて訝しげに思う。

視界にヒラヒラとしたものが入ったと思うと無意識に脚が動いていた。

 

「——気を付けろよ」

 

「え、あ、うん……ありがとう」

 

「すご」

 

ヒラヒラとしたものはどうやらチケットだったらしい。

‘‘七浜水族館日帰り券’’と書いていた。それを後ろ足を引くように、尚且つ汚れないように狙って蹴るとヒラヒラと自分を義経と呼んだ少女の手中に収まった。

礼を言われたが特に返さずに自分の席に向かう。

席に着いてから俺が何をするのかと言うと、唯顔を伏せて寝るだけだ。

 

「——はーいお前ら席に着け、出席取るぞ」

 

三十分くらい経つとクラス担任が入ってくる。

灰色の長髪に無精髭、如何にもおじさんと言ったところだろうか。

 

このクラスの出席の取り方は返事をする必要もなく、先生が空いてる席がないか確認する簡単なものだ。

 

「ほい、今日も皆んな出勤ご苦労さん。暑いのによく来るわ、ほんと……おじさんなんか最近朝起きにくくなってきてねえ……元気ないというか……萎え気味というかッ!?」

 

「——コラっ、可愛い生徒の前でそんなこと言っちゃダメですよぉ〜☆」

 

「よ、容赦ねぇ」

 

「よいあずみ。宇佐美教師も疲労した身体を顧みず労働にいそんしでいるのだ。愚痴のはけ口ぐらい、我らがなってやろうぞ!」

 

「さすがです英雄様ぁ!」

 

「愚痴のはけ口になってくれるのは嬉しいんだけど今日は臨時の集会があるから今から並ぶぞ〜」

 

面倒くさい、臨時臨時と言いながら生徒にとって臨時じゃない集会には何の意味があるのかと考えたのは数知れない。

それでも行かなければならないのだから迷惑この上ない。

 

「何でしょうね、この前も臨時集会で義経たちがやって来ましたけど……」

 

「さすがに二連続で転校生はないだろ」

 

どうやらクラスは臨時集会に対する文句ではなく内容に興味があるらしい。

まあ、前回の集会で源義経や、武蔵坊弁慶と言った英雄のクローンが来たのだ。今回も少し期待するのは仕方ないのだろう。

 

教室から出て階段を降りる、そしてグラウンドに入ると既に他クラスは集まっており少しざわめいている。

 

「全員居るなー? 学園長が出てきたら静かにするように」

 

一言だけ告げると他の先生も並んでいるところに歩いて行った。

数秒もすると先ほどまでざわついていた雰囲気が一変し、全員が前を見る。どうやら学園長が集会台に上がってきたらしい。

既に立ち退きをしてしまった頭部に、腕並みの髭、暑そうな和装は初老を過ぎ去った学園長を更に深める効果を齎している。

年齢とは意に沿わない立ち振る舞いで集会台を上がると口を開いた。

 

「皆の者、おはよう」

 

嗄れた声音だが確かに全員に届き、挨拶を返す。

 

「今月は二回目の臨時集会ということで儂の長々しい話は抜きにして、いきなり本題に入りたいと思う」

 

学園長がそう言うと幾つからか安堵の声が上がる。

他校の学園長と話の長さは比べたことはないが、やはり若者にとって老人の話しは退屈なものが多い。

 

「六月ももうすっかり終わりを迎えようとして、梅雨も過ぎ去っていきよる。今月は源義経ら九鬼紋白を含む六人が転校して来てこの学園も更に賑やかになった」

 

まあその熱も徐々に冷めつつあるが。

 

「そして更に、今日より新しい仲間が増える」

 

学園長の言葉に始めより生徒が声を上げる。

「どんな奴だ」「可愛い娘が良い!」「イケメン希望!」と言ったのもちらほら耳に入る。

 

「落ち着けい。今より紹介する。五人とも前に出ませい」

 

出てきたのは旗袍を纏った少女が五人。

左から……

 

「随分物騒だな」

 

思わず声が漏れる。

改めて左から幼女、赤髪、杖、青龍刀、槍と言ったところだろうか。

 

「五人とも中国にある梁山泊から留学生として今日より川神学園の生徒となる。中々の強者じゃ、本人たちの了承を経て決闘を挑んでみるのも良いじゃろう。五人とも、自己紹介を」

 

「天間星の公孫勝。天才だからよろしくー」

 

「——くぉっ!? 俺には紋様という方がぁ!」

 

「天傷星武松、よろしく」

 

「天微星の史進だ、よろしくなっ!」

 

「天暗星の楊志、よろしくお願いします」

 

「最後に天雄星の林冲だ。この四人共に今日からお世話になる。よろしく」

 

まあ、転校生が来たとしても俺には関係ない。

自分から関わるつもりもなく、無いとは思うが相手から関わって来ても深いりするつもりはない。

事実、源義経らが転校してきて周りが騒いでいても俺はどうということはなかった。

 

所詮、他人同士が集まっただけなのだから。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

なんてことを考えていた朝。

 

「俺なんかフラグ立てたかなぁ……」

 

「……? なんの話だ?」

 

逢う魔が時、夕刻である。

丸々と大きな夕日は川神の街を照らしている。

 

その日差しの下、二人の男女が立っていた。

 

「——虜俊義の捕獲を命じられたが、思いの外血濡れた奴が紛れ込んでるじゃないか」

 

「誰だよお前、そんな危ないもん引っさげて……鬼かなんかのコスプレか?」

 

「くっくっく、私相手にそんな口を聞けるほどの実力があるようだな……良いぞ、川神に入って少し退屈してたとこだ! 相手になってやろう!」

 

「いや、誰も相手になれなんか言ってねぇよ」

 

物語は淡々と進み始める。

一人の青年の時間は停止したまま……

 

 

 

 

 




最近マジ恋のssが増えてきたが、どっからのラノベの主を引っ張ってくるとかいうよくわからないもんが増えたような気がするので書いてみます。



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既朔

冷めないうちにどんどん投稿。


 

 

「——まあ固いこと言うなよッ!」

 

地面が凹むほどの勢いで相手は踏み込んでくる。

 

ああ、何でこんなことになったんだ……唐突なバトル展開。

非常に——怠い。

寄り道と思って人通りの少ない工場裏を通ったのが悪いのだ。

 

「ほら、棒立ちか!」

 

目の前まで迫った‘‘敵’’と目が合う。

獣毛のようなものが靡く軽鎧に、金棒。当たればひとたまりもない。

 

しかし、俺はタイミングを合わせて右足を引き、頭を下げて避けた。

 

「はっはーっ! やるじゃないか! だが二撃目はどうだ!」

 

敵は金棒の一撃を急停止し、そのまま振り被る。

完全に体勢を崩した俺を撲殺する気だ。

 

「ほっ」

 

が、それはごめんと地面に転んで避ける。

 

「またか……」

 

四、五度転んで距離をとってから立ち上がる。

まだ二撃だが、こいつは間違いなく強い。

 

「一旦落ち着こう、お前は何だ?」

 

取り敢えず相手の詮索を始める。

初対面で会っただけで、何も情報を得られないかもしれないが名前だけでも敵がどんな存在かは分かるかもしれない。

 

「まあいきなり殴りかかったのは私だからな。名前くらい教えてやろう……私の名前は‘‘史文恭’’」

 

「史文恭……?」

 

敵は史文恭と名乗った。

 

何処かで聞いたような見たような……史文恭……

 

「その様子、私の名は聞いたことがあるようだな」

 

——中国にある梁山泊から留学生として

 

留学生……違う、

 

「——梁山泊か」

 

「ほう、それなりの知識はあるようだな」

 

待て、だとすれば何だ。

 

「お前は梁山泊と争いに来たのか? 態々川神で?」

 

「あまり情報は漏らせないがそれについては違うと言っておこう。私たちの目的はあくまでも違うところにある」

 

面倒くさい、面倒くさい。

間が悪過ぎるだろう。偶々通った道で川神で暗躍してる組織の幹部に会いました、尚且つ目をつけられましたなんて。

 

「史文恭、聞くがお前は無抵抗な人々に害なしたことがあるのか?」

 

俺からのその問いに、史文恭は訝しげに眉をひそめる。

意図を考えているのか少しの間沈黙が続く。

 

「……私たち曹一族は傭兵集団だ。残念だが完全に白な人間を殺したことはない」

 

だが、と史文恭は続ける。

 

「——戦場では気が昂ぶってしまう。無意識に刺し違えることくらいあるかもしれない」

 

刺し違えるかもしれない、つまり殺した。

完全な挑発だが、声音から本心だと伺える。

 

なら、

 

「——お前みたいな糞野郎を、俺は許さない」

 

瞬歩と呼ばれる古武術の歩法で史文恭へ肉薄する。

 

「やっと本気になったかッ! ——ハァ!」

 

一閃、金棒が凪られる。

生身で受けるには重すぎる一撃だ。

 

「——鬱陶しい」

 

そう呟きながら腰辺りに手を回す。

 

「——!? 何処から……!」

 

鈍い金属音が辺りに響く。

工場裏だからこそ目立ちはしないが、市街地では人が集まってくるレベルだろう。

 

そしてその音の正体はかち合った二本の武器。

一つは史文恭の金棒、もう一つは史文恭に相対する一メートルを越すくらいの茶焦げた武器。

 

「——‘‘マクアフィテル’’。短めに言えば‘‘マカナ’’と言ったか?」

 

「それなりの知識はあるようだな」

 

先ほどの意趣返しのつもりでそう答えた。

鍔迫り合いになった2つの武器は微動だにせず、二人の間に止まっている。

 

(パワー系の私と全く同じ? いや……これは合わせられているな……)

 

「私も実際に使用者を見るのは初めてだ」

 

「お前の初めてになれて光栄だな。どうでも良いが」

 

「私の初めてになったんだ、もっと楽しませて貰うぞっ!」

 

金棒が動いたかと思うと、少しずらされて体勢が崩れる。

見た目は華奢な腕で大きく押されると二、三歩下がってしまう。

 

「はあぁぁ!」

 

「——く」

 

獅子の爪のように繰り出される連撃に一つ一つ的確に対処していく。

 

横薙ぎに振るわれれば相殺し、縦に降り下ろされればギリギリのとこで避ける。

先ほどから風圧のせいか耳元でヒュンヒュンと鳴っている。

 

「ちょこまかと! 更に上げるぞ!」

 

もう一段階速さが上がり、攻撃は苛烈していく。

常人では目で追えない速さに到達しており、今更ながら史文恭の実力の高さが伺える。

 

「——取ったぁ!」

 

そう言ったの史文恭であった。

相殺するか回避しか出来ない状態を作り出し、隙を見て金棒に気を取られている脇腹を爪先で蹴った。

 

「ぐっ……」

 

「ふんっ!」

 

振るわれた一撃に、地面が砕ける。

空中で無理矢理足を動かし回避したが、掠ったのか視界の端で血が飛んだのを確認した。

だがその程度怯むほどの柔な心構えはとうの昔に捨てた、振り下ろしながらもこちらを凝視している史文恭を横目にマカナを持っていない左手で何かを手繰るように引いた。

 

(何だ、あの動き……?)

 

——龍眼

 

そう呼ばれる眼を持つ彼女はその動きが克明に見えていた。

龍眼とは即ち——人間が幾ら鍛えようとも超えられない線を超えた瞳。圧倒的動体視力視界の良さにある。

動体視力とは言い換えれば、運動における脳の理解の速さであり武人にとって必要不可欠な部分である。壁を超えた者達も初めは動体視力を鍛えるが、慣れてくるにつれそれは反射神経に作用されて鍛錬は疎かになる。

 

(何かを握るような……引っ張っているのか)

 

しかし、史文恭は違う。

龍眼と呼ばれるものを開眼した時点で常人、並大抵の達人よりも闘いにおける脳の処理速度は大いに上回っており、故に先手でどんな必殺を撃たれようが後攻から反撃することが出来る。

 

「——糸かっ!」

 

「なっ!?」

 

秒にすら満たない刻の中で史文恭が導き出した答えは‘‘糸’’だった。

その結論が出るやいなや、身体を大きく屈めた。

 

「まさか躱されるとはな……」

 

史文恭と同じ刻の中でひっそりと攻撃に転じた俺は史文恭に躱されたそれを掴み取る。

掴み取ったそれは、右手に持つマカナと対局したかのように全く同じものだった。

 

「二本目か、厄介な」

 

「どうやって避けたんだ? 正直今のには完全に虚を突けたと自信があった」

 

「手品が得意なのはお互い様だろう? 今のは私でなければ躱せていなかっただろうが」

 

改めて距離を置いて武器を構える。

 

(隙が無い、かなりの場数を踏んでるな……)

 

龍眼によって僅かな隙を探すが、マカナを八の字に構える姿には隙は見えない。

 

「…………史文恭、今こっちに来てるのはお前の仲間か!」

 

「……?」

 

今まで闘っていた男にそう言われると史文恭は一度意識を逸らして気配を探る。

 

「っち、梁山泊か……もう嗅ぎつけてくるとはな……」

 

「あいつらか」

 

「今日はここまでだ、次に会う時はもっと楽しもう」

 

金棒を背中に背負うと、史文恭は一飛びで工場裏から抜け出し見えなくなる。

 

「何なんだよ、一体」

 

いきなり現れて去って行った史文恭の背中に吐き捨てるようにそう言った。

そしてマカナを持った手を最初のように腰に持って行くと、いつの間にかマカナは消失したかのように消えていた。

 

考えたいことも言いたいこともあるが、取り敢えず今はこっちに向かって来ている梁山泊に見つからないように帰ろう。

 

夕日によって赤くなっていたコンクリートは少しずつ影が多くなって来ている。

もうすぐ完全に日が暮れることを示唆しており、何となく遣る瀬無い気持ちになった。

 

「ほんと、間が悪いわ……」

 

一言そう呟くと、男の姿は既に消えていた。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

「リン、戦闘があったのはこの辺りだ」

 

「ああ。ほんの少しだけ史文恭の気が感じ取れる……」

 

「そんなこと出来るのはリンだけだろうな」

 

史文恭達が去った後、夜に紛れて現れたのは二人の少女だった。

 

一人は腰丈まで伸びた黒髪に槍を持っており、もう一人は炎のように赤い髪をポニーテールにした手甲を付けた少女だ。

 

「慎重を期すタイプの史文恭が、私達以外に戦闘を行うとは思えない」

 

史文恭は卓越した戦闘能力を持つがその姿の裏腹、合理的な判断を下して任務を遂行する頭脳派とも言える。

この考えは予想や解析などではなく今まで何度も闘ってきた彼女達だからこそ確信を持って言えるのだ。

 

「それに史文恭すらも攻めあぐねる相手だ……もしかしたら川神一族が相手だったのかもしれない」

 

「それは無いだろう。さすがの史文恭でも川神一族相手に馬鹿正直に立ち回らないはずだ。例え私達と同世代だとしても、悔しいが私よりも圧倒的に強い」

 

「だが川神一族以外に史文恭相手に優位に立ち回れる奴が居るのか?」

 

「分からない、だが——」

 

二人は先ほどから数刻前の戦闘を見たかのように話している。

勿論二人はその時居らず、完全に当事者二人だけが知る内容だった。なら、一体何を見て話しているのか……

 

「——ここは武の都とも言われている地だ。松永や黛……それ以外にも隠れた武道家は数知れず居るのだろう」

 

二人の視界にはコンクリートに現れた幾多もの傷が見えていた。

それは見間違えることなく史文恭の金棒によるもので、攻撃は躱されたか流されたと予想するには簡単である。

 

「すんすん……史文恭以外にもまだ匂いがする。人通りが少なそうな場所だ、多分その者の匂いだ」

 

「武松はその匂いを一応覚えておいてくれ。私は居ないと思うが周りを見てくる」

 

「分かった。痕跡はどうする? 私の炎で溶かして慣らしておくか?」

 

「ああ、その方が良いだろう。頼んだ」

 

武松の手から炎が放出される。

コンクリートが表面のみ溶けるように調整され放たれた。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

「筋肉痛だ……」

 

翌日、学園の敷地に入ってからそう呟く。

思い出すのは昨日の出来事、史文恭と名乗る女だ。

 

適当に迎撃したけど次会えば容赦はしない。

いきなり現れて殴りかかってきたと思えば、傭兵で刺し違えたこともあるという。

容赦しない理由は後者だけで十分だが、自分から探すようなことはしない。

 

昔から行動する時は自分の視界に入った時だけと決めており、見えないとこまで手を伸ばす必要は無い。

 

靴を室内用に履き替えると、教室がある三階へと向かう。

何故学校というものは高学年なほど上の階に上がっていくのだろうか。歳取っていくのだから階を下げるパターンに改善して欲しい。

 

だらだらと心中で文句を吐きながら階段を上がって行くとSのクラス標識が見える。

 

「……」

 

「……」

 

扉を開ける時、同じタイミング出てきた青髪と目が合う。

 

「失礼」

 

「ああ」

 

開けられたままの扉をくぐるとクラスの中では昨日やって来た武松を中心に数人の集まりが出来ている。

集まっている者たちはクラス内でも実力的に上位の者だ。

 

「……ん?」

 

「どうかしたのか、武松さん」

 

「何か考えているような表情ですね」

 

「源義経、道を開けてくれるだろうか」

 

Sクラスは頭の良い奴が集まる場所だが、割合的には武道も両立した文武両道型が多く。寧ろ学力的にもそっちの方が頭が良かったりする。

因みに俺は学力的には中の中で、上位を狙う気もさらさら無い。

 

「——少し良いか」

 

「——!?」

 

考え事をしているといつの間にか今や時の人である武松が立っていた。

何かと思い立ち止まると、両肩を掴まれ武松へと寄せられた。

 

「すんすん…………やはり……だが」

 

「——放せよ」

 

掴んでいる腕を払うようにして後ろに下がる。

 

棘の入った言葉にクラスの何人かが睨んでくるのが分かる。

 

「あ、すまない。いきなり……」

 

本当に悪気があったのか、語尾が小さくなりつつも頭を下げてくる。

 

「いや、もう良い」

 

止めて欲しい。

何が目的かはわからないが目立つようなことは。

 

「待ってくれ、君の名前だけでも教えてくれ!」

 

クラスに注目されている状況だ、名前まだ言わないとなれば悪目立ちし過ぎるだろう。

 

「——蓬莱山(ほうらいざん) 十七夜(かなき)だ」

 

「ほうらいざん……?」

 

どうやら漢字が分からないらしい。

 

「彼の名前は蓬莱山と言ったのか」

 

「主も知りたかったの?」

 

「あの時のお礼を改めてしようと思って」

 

頭を使っている武松を尻目に横から抜けて自分の席へと戻る。

と、耳に源義経の声が入ってくる。

 

「——あ、武松さんもう直ぐ宇佐美先生が来るぞ」

 

「分かった。でも少しお手当洗いに行くだけだから」

 

「す、すまない……」

 

「ううん、教えてくれてありがとう」

 

武松はそう言うとクラスを出て行った。

 

向かうのはお手当洗いではなく、林冲がいるFクラスである。

 

 

 

 

 

 








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三日月

話の進み方が他の小説に比べて早くなっております。

鬱系主人公、怠惰系主人公は基本帰っても家かコンビニに行ってるだけ(偏見)なんで物語進めないと絡み辛いです。申し訳ないです。


朝一番に武松との一件があってから、その日の昼休みは少し面倒くさい奴に絡まれた。

普段は自分の席で作ってきたか持ってきている昼飯を食べて寝るか、適当に散歩するかなのだがその日常に今日は例外が入る。

 

「——お弁当、一緒に食べないか?」

 

「……」

 

何だこいつは、いきなり。

人が好んで一人で食べているのに、対した会話もしたことが無いのにも関わらず弁当を一緒に食えなんて。

 

「それは手作りの弁当なのか? 少し机を借りても良いだろうか?」

 

俺の返事も聞かずに話を進める彼女に少しの苛立ちを覚えるが、それを表に出すことはしない。

彼女との関係が悪化すれば、先ほどのようにクラスから悪目立ちするだろう。

 

つまり、今俺がすべきは適当な理由を付けて彼女から離れること。

 

「悪いな、今日は腹が減ってなくて食べるつもりは無いんだ」

 

弁当を出してるくせに何を言ってるんだと思うが、そこを突かれた時の補足説明は後で付け加えれば良い。

 

「そうなのか、残念だ……じゃあ少しお話をしないか?」

 

こいつは、頭は大丈夫なのか……

弁当を出してる状態で昼飯は食わないと言ってるんだ、普通は避けられてると考えるだろう。

 

「悪いな、頭が痛いから保健室に行くんだ」

 

頭に浮かんだ理由を咄嗟に言った。

 

「大丈夫かっ!? 義経も付き添いとして……」

 

「あー、別に良いよ。そこまでじゃないから……じゃ」

 

本気で心配してくれているのだろう。手をわなわなさせてこちらを見てくる。

しかし、別段と関わるつもりも無いので俺は逃げるように教室から出た。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

「あ、う。行ってしまった……」

 

「あちゃー、あれは完全に避けられてるだろうね」

 

先ほどまで十七夜と関わろうとしていた少女——源義経は家臣である武蔵坊弁慶の言葉を聞いて更に肩を落とした。

 

「義経は何か悪いことをしただろうか……?」

 

「悪いことまで行かないだろうけど、ちょっとずかずか入り過ぎたのかもしれないね。お弁当置いた時あいつは返事してなかったし」

 

「次は気を付ける……」

 

しゅんと子犬のように項垂れる義経を見て弁慶は心中で可愛い可愛いと連呼しまくる。

それと同時に気になるのは義経が接触を試みようとした青年、蓬莱山 十七夜のことである。

 

「あらあら、彼は義経でも関わるのは難しいですか」

 

「……葵君か」

 

「ふふ、今の落ち込んでいる義経なら慰めるついでに——おっと、冗談ですよ弁慶。怖いからその殺気は抑えて下さい」

 

主の身に不穏な気配を感じ取った弁慶はその主である葵冬馬に殺気を当てた。

 

「そのお詫びとして、彼のことを少し話しましょうか。と言っても私が知っているのはこの学園にいた一年と少しの間だけですけど……」

 

「葵君、話してくれ。義経は十七夜君がどんな人か気になるんだ!」

 

「そうですねぇ、じゃあ——

 

 

 

彼の名前は蓬莱山 十七夜。十七夜で‘‘かなき’’と読むのも彼だけしか居ないと言えるほど珍しいですが、もっと目立つのはその苗字——蓬莱山でしょう。この学園には学園長の趣味なのか様々な生徒が集まってきます。その中でも一番多いのは武将の血を引いた名前です。このクラスにも何人か居ますが特別有名ではありません。まあその点義経の‘‘源’’や弁慶の‘‘武蔵坊’’は目を引く方です。Fクラスには大和君の‘‘直江’’や‘‘椎名’’、‘‘島津’’に‘‘甘粕’’、さらに義経と同じ忠勝君の‘‘源’’。そしてこれだけの有名どころを並べても尚目立つのは彼の名前です。本人が男となれば私は更に興味が湧きました」

 

「……?」

 

「義経は知らなくとも良い世界だから気にしちゃダメ」

 

「入学式から接点も無く、周りの環境に合わせていくのに必死でしたから当初は彼のことを把握出来ませんけど一年の体育祭が来ると改めて彼のことに注意を向けました」

 

「——トーマー、何の話してるのー?」

 

「ユキ、蓬莱山君のことですよ」

 

「ああ、かなっきーのことか」

 

「話を戻しますが、彼は人との接触を避けているのではないのかと思ったのは体育祭とそれが終わってからです。体育祭が終わってクラスに纏まりが出来、初めの友人から更に輪を広げようとまだ知らない人に話しかけようとする時期に、何人かの生徒が蓬莱山君に目を付けたのです。名前も目立ちますから仲良くしようと思ったのでしょうね……ですが結果よろしくなく、蓬莱山君が面倒くさそうに対処してそれ以上は何もありませんでした」

 

「あ、トーマこれお弁当持ってきたよ」

 

「ありがとうございます。続きはお昼ご飯を食べながらでも話しましょう」

 

冬馬がそう言うと義経の席を中心に周りの椅子を幾つか借りてきて囲む。

途中まで聞いたからなのだろうか、あまり他人に興味を持たない弁慶も同席していた。

 

「私も何度か話したんですけど結果は似たようなものでして……。それで彼が人を避けていると疑念から確信に変わったのは二年の初めにあった遠足の目的地が日光に決まった時です。彼は遠足中見かけると必ず一人で居ました」

 

「そりゃあ一人で居たい奴なんだから普通じゃないの?」

 

「そうですね。普通ならばそう考えますが私が医者の息子と言う視点から考えればまた違ってきます。高校の遠足とは小中学とは違い、殆どの場合は全く知らない地に行きます。旅行などで行ったことがある場合もありますが、その地で単独行動出来るほど慣れていないでしょう。予め一人で行けば関係無いですが、人間の心理上知識の無い地に放り出されれば、仲良くなくても顔馴染みが居る場所に一人きりの時は寄って行ってしまうものです」

 

私が考えすぎなんでしょうけど、と付け加えると冬馬は続ける。

 

「ですが確信だと思っていた疑念も先ほどの様子で改めて確信になりましたね。義経があそこまでアピールして避けるのは、彼が一人で居たいよっぽどの理由があるのでしょう」

 

「うーん……」

 

冬馬の話を聞いて義経は頭を傾げながら唸る。

九鬼と言う財閥によって生まれた義経は常に那須与一と武蔵坊弁慶、一つ上の葉桜清楚と一緒に暮らしていた。清楚の方は教育カリキュラムが若干違うと言うこともあり偶に時間が合わない時もあったが、それでも弁慶達二人が居た。

そんな恵まれた環境だからこそ、義経は‘‘一人で居たい’’と言う考えは真の意味で理解出来なかった。

 

「一人で居たい、などと言う気持ちは大抵の場合過去に何かあったことが多いです。だから彼も、何かを抱えているのでしょうね」

 

「それってボクみたいな?」

 

「ユキは少し特殊ですからね…….」

 

「でもねー、かなっきーからもボクと同じような匂いがするんだー」

 

二人が話すのを義経と弁慶は眺めている。

特殊と聞いて何だろうと思い、声に出そうとしたがそれは不躾なため止めた。ただ、二人の様子から少し人と違っているのは予想出来た。

 

「一人で居たいと思う時もあるかもしれないが、義経はずっとそれじゃあダメだと思うんだ」

 

「人は一人で生きていくことはまず不可能ですからね」

 

「だから義経は十七夜君と仲良くなれるように頑張りたいと思う」

 

両手を握り締めながら決意する。

 

その様子を見ながら弁慶はふと思う。

 

(義経が人のためを思って動くことはあるけど、ここまでは初めてだねぇ……。それに最初から名前呼びだし)

 

クローンである二人は、それを肯定としない者達に狙われる。

実際に狙われたことは——九鬼が対処しているため——無いが、保護者であるマープルからは学校に行くにあたって仲良くする人物は選べ。感情移入し過ぎないために最初から名前呼びではなく、苗字から呼んで見定めろと言われた。

 

(偶々かなぁ、義経が忘れてるだけって可能性もあるけど)

 

「——葵君! 教えてくれてありがとう!」

 

(杞憂に終われば良いけど……)

 

「ただ……一度だけ、彼の名前をどこかで見た気もするんですよね」

 

冬馬の言葉を弁慶はぼんやりと聞いていた。

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

「蓬莱山か……聞いたことはあるか?」

 

「わっちは聞いたこと無いな」

 

「同じく」

 

「蓬莱山とかスゲーカッコ良い名前だな。西方プロジェクトかよ」

 

川神学園の校舎裏、と表すのが正しいのかは分からないが余り人目に付かない場所で武松含む梁山泊五人は昼食を取っていた。

 

「あいつが昨日史文恭と闘ってた奴かは分からないが、兎に角同じ匂いがしたんだ」

 

「武松の鼻は何だかんだ言って頼りになるからな」

 

任務リーダーである林冲は、一度箸を置いて考える。

 

今回の任務はあくまでも虜俊義の可能性がある‘‘直江 大和’’の護衛。

曹一族の任務も人員確保による直江 大和の誘拐だ。だが、昨日史文恭は目的ではなく武松と同じクラスの男子生徒を襲った。

これから考えられることは二つ、梁山泊が掴んでいた曹一族の情報が嘘で最初からそちらが目的の場合。次に史文恭は直江 大和と共にそっちにも目を付けたと言う可能性だ。

曹一族の目的が直江 大和の誘拐ではなく、人員確保だったら二人とも狙われる可能性は高くなる……。でも、それだと川神市民の殆どに該当するぞ……?

 

「取り敢えず私は同じクラスだ。監視をしておく」

 

「分かった。来週辺りから史文恭も本格的に動くと内偵者から連絡があった。各々しっかり働くようにしてくれ。それと武松の監視は気を付けてくれ。史文恭相手でも引けを取らない相手だ、監視されているのがバレたら警戒されてこちらに何かしてくるかもしれない」

 

「了解だ」

 

梁山泊は思案に暮れ、曹一族は動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

源義経から逃げ出すように教室を出た十七夜は人知れず屋上へと行った。

今時屋上が解放されている学校も珍しいが、太陽が照りつける中態々屋上に来る者も居らず一人きりである。

 

そんな中、十七夜は貯水槽によって影が差しているベンチで項垂れていた。

 

「腹減った、弁当食べたい」

 

育ち盛りの男子高校生だ、一番栄養補給出来る昼を抜いてしまえば中々代償としては大きい。

まあ、それも俺が人と関わるのが苦手——ではなく嫌い、嫌と言った考え方だから仕方が無い。既に自分では治せない部分まで来てしまっている。

 

「取りに帰ってまた会うのも面倒くさいし……」

 

夏の日陰場は周りの温度差もあって心地良い。そのため眠くなってくる。

 

「てか何で源義経が話しかけてきたんだろ」

 

無意識に寝ようとしている頭を動かすように考える。

 

どうでも良いか……

関係無いし、怠い。

 

蓬莱山 十七夜は昨日と今日の出来事を忘却するために眠る。

次起きたらいつも通りの生活に、誰とも関わらない日常があると信じて。

 

 

 

 

 

 




ギャルゲーが原作の二次小説って難しいですよね。
ギャルゲーは背景があるから多少早くても十分理解できるけど、小説の場合は背景描写+その他多数って感じで文字数が増えて……
私はうまくバランスを取れてるか分かりませんけど、他の作者さんは凄いと思います。



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夕月

今話からなるべく主観的な描写を無くしました。そのため作風が変わったと思われるかもしれません。
一から三の改編についてはまた折り合いがつけば直します。





十七夜→かなき

改めて。


 

 

——深夜

 

一人の男が歩いていた。

身長は百八十に届いたところで髪は眉にかかる程度。外から見て筋肉があるのかと問われればそれは不明だが、素人目から見てもある程度動けるのだろうと理解出来る。

そして何より、彼を見て特徴があるとするのならばそれは眼——三白眼だった。

 

「——おっとニイちゃん、ここを通るなら交通量くれよ」

 

「分かるだろ? 小遣いだよ小遣い」

 

男が歩いていた場所は目立つほど治安が悪い場所ではない。

しかし、良く町のチンピラが居ることで有名で自分から近づく者が居ないのも事実だった。

 

路地裏から出てくるように道を遮ったチンピラ二人は男を囲むように移動する。

一人は比較的長身の彼の肩に腕を回して威圧する、もう一人は目の前で金を寄越せと恐喝した。

 

一般人ならばその恐怖から、焦って金を出しただろう。

 

だが、彼は違う。

そんな事に怯えるほどヤワではない。

 

「あぁ? 何処に行こうってんだ?」

 

男は肩に回された腕を適当にふりほどきながら歩みを進める。

先程チンピラ二人が出てきたとこにである。

 

「——へへっ、態々人目につかないとこで渡すなんてわかってんじゃねえか」

 

下卑た笑みを浮かべながら搾取しようとする。

 

が、今現在彼ら二人が見たのは日本紙幣や貨幣と言った金ではなく黒色だった。

詳しく説明すると、‘‘見た’’のではなく‘‘それしか無い’’という状況だ。

 

「——ほんと、お前らみたいな奴は嫌いだ」

 

そう言ったのが誰かは分からない。

チンピラが言ったのか、それとも絡まれていた男が発したのか……はたまた見知らぬ第三者かも知れない。

 

しかし、これだけは断言出来る。

 

夜、月と太陽によって作り出された——影の世界で彼を捉えられる者は誰も居ない。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

武松が蓬莱山の監視と真実の見極めを始め、義経が十七夜と友人になると決めてから一週間ほどが過ぎた。既に六月は過ぎ去り、夏が迫って来たのか川神学園生は夏服へと変化している。

そんな中、二人の成果は著しく無かった。

 

「この前弁慶と水族館に行ったんだ。ペンギンくんがとても可愛くてな」

 

 

「すまない蓬莱山。授業でここが分からなかったんだが……」

 

と、話しかけても十七夜は「ああ」「うん」「俺以外にも賢い奴はいる」などとはぐらかして席を立って何処かに行くと言ったものだ。

 

そんな二人を尻目に十七夜は何処に行くのかと言うともっぱら屋上だった。

夏も近づいて来て流石に日向は暑いが日陰は現役で、このままだと気温が上がっても熱中症になる心配は無いだろう。

 

しかし、うとうと寝ようかと思っていた十七夜は屋上への来客に気付き、座り直した。

流石に他人の前で寝顔は見られたく無いのだろうか、或いは別の考えがあったのかも知れない。

 

「……」

 

「……」

 

扉の方に反射的ではなく意図的に眼を向けると視線が交差する。

 

一瞬の内にそれが知らない人物だと把握すると十七夜は目を逸らし、僅かに吹く風を感じた。

 

さしもの来客者は、そんな十七夜を眺めながら目の前のベンチに座った。

‘‘彼女’’が何故、態々十七夜の目の前のベンチに座ったのかは分からない。近かったからなのか、空を眺める十七夜を観察するためなのか。

 

「…………。よくここに来るのかしら?」

 

沈黙の中、彼女の方が口を開く。

 

「たまに」

 

それに対して十七夜が答える。

大した話も続けられない雰囲気が続くと思ったが、それを良しとしなかった彼女が言葉を発した。

 

「ここは良いわね。誰も居なくて、花がある。風も吹いていることもあれば、太陽が見えて空が広がっている。山育ちの私にとっては物足りないけれど落ち着くわ」

 

「空が好きなのか? 好きなんですか?」

 

不器用に敬語を使おうとした十七夜に彼女はクスリと笑みを浮かべた。

 

「別に無理して敬語を使おうとしなくてもいいわ。寧ろ、変な敬語だとこっちも疲れるから」

 

「そうか。ありがとう」

 

無愛想な返事に彼女は面白そうな人だと興味を持つ。

そして、先程十七夜に聞かれた質問に答える。

 

「空って、なんか曖昧でしょう? 海と空の境界が地平線なんて言われてるけれど、その地平線は触れれるわけではない。何処から何処までが空なのか、何処から空が始まっているのか。始まりと終わりがはっきりしていなくて、何故存在しているのかも理解出来ない。だから曖昧」

 

「……」

 

若干俯きながら語った彼女はふと前を向く。

すると、今改めて十七夜と眼があった。

よくみると、その眼は三白眼で倒した半月のようになっている。色は真っ黒、そこに‘‘空洞’’があるのではないかと思うほどだった。

 

それを意識した彼女は心臓が跳ね上がるのを感じた。

トクトクと拍動し、血流が激しくなるのが分かる。

暑さのせいか、とも考えるが今居るのは日陰で日向との寒暖の差で何十分と居たら寒いと感じるほどだ。なら、この胸の高鳴りは何なのか。

 

そして高鳴りを感じさせたその眼は同時に話の催促をしているようにも感じた。

 

「……それに、空は不思議。太陽が赤色に輝いているのに蒼い。何処までも果てしなく蒼が続いていて……。——自由に見える」

 

自由、そう言った彼女の言葉は一番の感情が篭っていた。

 

「昼間の、太陽が昇っている空は紛い物だ——」

 

彼女の話を聞いていた十七夜は口を開く。

 

太陽(ひかり)が本当の空の色を奪っていて真実を見せようとしない。蒼い空には何も詰まっていないし、広がるのは虚。見れば見れば吸い込まれるような感覚だけ。それに対して夜空は詰まっている。嘘を語ろうとせずに、初めから中身を見せてくれる」

 

中身を知らないモノには初めから関わらない方が良い、最後にそう付け加えると十七夜は立ち上がった。

 

「俺はもう帰る」

 

「最後に名前を教えてくれるかしら。私の名前は‘‘最上 旭’’。三年S組、評議会議長をしているわ」

 

「蓬莱山 十七夜、二年のSだ」

 

十七夜はそう言うと屋上から出て行った。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

——私は夜は好きですよ? だって、お月様やお星様が見えてとても綺麗じゃないですか。それに、昼間の空と違って中身が見えますからね。

 

屋上から教室に戻る途中、十七夜は幼い頃を思い出していた。

産まれた時から一緒に居た彼女は変な名前の十七夜を疑問に思うことなく受け入れてくれた。

 

彼女は今、どうしているのだろうか。

あの十五夜から見ていない。

 

「おわっと!? すまねぇ、ぶつかるとこだった」

 

廊下の角を曲がる時に一人の男子学生が走って来た。

唐突な事で硬直するかと思われたがお互いに余裕を持って避けた。

 

誰だこいつ——まぁ良いか

 

直ぐに自問と自答を終わらせると会釈をし、歩いて行く。

 

「何だあいつ? 変な奴っぽそうだけど面白そうだな……っと、こんな事しとてる場合じゃねえ!」

 

十七夜にぶつかりそうになったバンダナの男子生徒は直ぐに切り替えて階段を降りて行った。

 

今の出来事に対して十七夜が棘を吐くことも、舌打ちをすることもない。

誰からに聞かれているかもしれないなどという考えではなくただ、‘‘どうでも良い’’‘‘間が悪かった’’と思うだけだ。

教室の戸を開ける。

一瞬何人かがこちらを向くが十七夜と分かるや否や視線を戻した。

 

自分の机へと歩いて行く数メートル、今日は珍しく武松や義経以外に絡まれる。

 

「——ちょっと待てよ」

 

「——止まれ」

 

あゝ、面倒臭い。そう思った。

チンピラなのかは分からないが十七夜は昨日もこんなことがあったなと思い返しながら相手を見据える。

 

「最近ちょっと義経ちゃんに話しかけられて調子に乗りやがって」

 

「武松に話しかけられても適当に返事して、どっかに行ってさ」

 

成る程、と十七夜は考える。

要するに彼らは嫉妬しているのだ。こちらが望んでいないにも関わらずに話しかけられている状況に。

しかし、態々最初から核心を突いて相手を怒らせるような真似を十七夜はしない。まず初めにこの二人に言うのは——

 

「お前らが誰かは知らんが、早く教室に戻れよ。もう直ぐチャイムが鳴るぞ」

 

逆撫でをするような言葉である。

Sにいる生徒たちは基本的に、一部を除いて自分が偉いと思っている。事実、九鬼英雄や天才である葵冬馬。軍人として結果を残しているマルギッテ・エーベルバッハのような実際に偉いと呼べる人間が居るのだから、その集団の中で一緒に居るだけで自分も偉いと驕ってしまうのは仕方ないことなのかもしれない。

 

「お、まえ! 俺はこのクラスだ!」

 

「ばかにしやがってぇ!」

 

「そうかどうでも良いけど。あと、源義経や武松に話しかけられて俺が適当に返事をしてるって文句を言ってくるが、それの何が悪いんだ?」

 

この質問を問う中、十七夜は一体どんな回答をして来るのか予想し、その回答全てに合う反論を考え出している。

 

「可哀想だろ! 態々お前みたいな友達が居ない奴に話しかけてやってるんだぞ!」

 

「お前みたいな奴にも声をかけてやらなければならない二人の気持ちを考えろよ!」

 

支離滅裂とはこのことだろう。

彼ら二人は当たり前のことを言っていると思っているのだが、第三者が居れば理解不能なことを口走っていると解釈するのは容易である。

だが、先程と同じく核心を矢鱈滅多ら突いていく十七夜ではない。

 

「別に頼んでなければお願いもしていない。俺は「——どうしたんだ?」……」

 

徐々に外堀を埋めて核心を突こうと十七夜が思っていると背後から声がする。

この一週間よく聞き続けた声音だ。

 

「……あぁ、武松ちゃん。別に何もないよ」

 

「う、うん。僕たちはただ話し合っていたんだ」

 

絡んで来た二人は動揺するが何事も無かったかのように取り繕う。

が、それを見逃すほど十七夜は甘く無かった。

 

「俺がお前によく話しかけられていることが気に食わないらしくて、文句を言ってきた」

 

「なっ!?」

 

「お前!」

 

十七夜にそう言われた武松は言葉全体について理解するよりも‘‘話かけられている’’という点に反応した。

 

(はぁ、良かった……一応私に話しかけられていると思われているのだな)

 

この一週間、武松は十七夜に何度も何度も話しかけた。その数は自分に話しかけてくるクラスメイトよりも多い。最初のうちはそのうち話してくれるだろうと思っていたが二、三日経ってもぼんやりとした返事ばかり。Fクラスで好きでもない男を好きだと宣言した豹子頭を考えると真面目な武松は躍起になった。

 

つまるところ、武松にとって蓬莱山 十七夜に話しかけるのは既に‘‘日常’’と化していたのだ。

 

だが、ここ最近は不安に思っていた。

幾ら何でも返事が適当過ぎないか、と。こっちが単語を詰めて文章を送っても、質問をしても最高三単語が帰ってきたくらいだ。それが昨日の出来事なのだが昨晩密かに胸の前で拳を握ったのは内緒である。

そして、まさか今文章となって話しかけられるとは武松は思わなかった。

 

「あ、ああ。そう思ってくれるのは嬉しいが……。十七夜に話しかけているのは私が話したいから話しかけているんだ。心配しないでくれ」

 

と、十七夜より前に出て行った。

 

「なんで……」

 

「あいつの何処が」

 

名前も知らない二人はどうでも良い、今やるべきことは話を切り上げて十七夜と更に話の輪を広げるだけだ。

一応十七夜がどんな内容に反応を見せやすいかはこの一週間の苦労で何となく分かった。

 

「——十七夜、昨日の……あれ?」

 

背後にいるはずの十七夜は居ない。

何処に行ったのだろうと前を向くと既に当人は机に頭を伏せていた。

 

「はぁ……」

 

また一からやり直しか。少し成果が出たかと期待した武松だったがそうはいかなかった。

蓬莱山 十七夜が心を許して話せる人物は未だに現れない。

 

 






頑張れ武松。


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弓張月

描写が変わって雰囲気がだいぶ変わりましたが、本来私が書きたかったのはこんな感じのものなので慣れてくれるとありがたいです。


 

 

「それで、昨日リンが野菜炒めを作ってくれたんだがそれに公孫勝が悪戯をしてな。史進が怒って——」

 

日常であったことを楽しそうに話す武松を見て最近のことを思い返す。

何故、武松がいきなりよく話しかけてくるようになったのか。それは恐らく一週間以上前に史文恭と闘った辺りからだろう。

闘った翌日に武松が見せて反応、匂いを嗅ぐ様子から鼻が良いのだと予測できる。梁山泊は一人一人が‘‘異能’’と呼ばれる鍛錬や修行だけでは身に付けられない者たちが集う場所だと有名だ。武松のそれも地味過ぎるが異能、またはそれに付随するものなのだろう。または単に鼻が良いだけか。

 

真実は案外後者だったりするのだが、武松の異能を知らない十七夜はそれを知るのはもう少し先になるかもしれない。

 

「楽しそうだな」

 

「っ! だろう? その時の史進の反応が面白かったんだ」

 

珍しく感想を述べた十七夜に内心驚きつつも出さないように返す。

 

「良いな。俺もお前たちみたいな友達が……欲しかった」

 

不自然な過去形に武松は考える。

ここの返答次第では先が危ぶまれる、ここまで来たのに全てが水の泡になるかも知れないと警告を鳴らされているような気もした。

 

まず不自然な物言いの理由を探る。

欲しかった、つまり今は欲しくないと言うことだ。欲しかった状況から欲しくない状況に変わった理由があるはずだ。虐め、虐待、暴力……考えられることは多数ある。ただ単に彼が一人で居るのが好きだと言う選択肢もある。

 

だがその可能性は少ないと直感する。

幾ら何でも人間関係に無頓着、達観し過ぎている。

 

十七夜の人生は既に主観的なものではなくなっており、彼自身が中心ではなくなっている。

 

それに、

 

(私と同じような感じがする)

 

武松は思い返す。

幼かった日々を。

 

人体自然発火現象と言う不可思議な現象に苦しめられ、やがて梁山泊に引き取られたときの日々を。それまで武道など全くもって体験したことがないにも関わらず死に物狂いで己を鍛え上げ。やがて他人や親しい人に災いを伴った現象を完全に操り壁を超えた者となった。

 

そして、その過程に好敵手、親しき友の残酷で悲しい‘‘死’’があったことを。

 

それが理由で武松は虎殺しなどと異名が付くのだがそれは望まぬもので、寧ろ要らない。

 

そこまで考えて十七夜を見つめる。

彼の眼は昔の私と同じだ。

親友を亡くして、一心不乱に何かを追い求めた自分。その先で自分は林冲や公孫勝、梁山泊の皆んなに支えられるのだがそんな人間は彼の周りには居ない。何処か、黒いものを見て完全に投げてしまったような感覚。人間という生き物に……絶望?……失望?……落胆してしまったような有様だ。

 

勿論、こんなものは全て武松の考えだ。

実は十七夜は凄い剽軽な奴かもしれない。

 

それでも武松は蓬莱山 十七夜を見極めることは止めない。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

——がっ!

 

——なんだおまっっ!

 

——や、やめてくでぇ!

 

——ぎゃぁぁあ!

 

死に至るほどでは無いが悲惨だと形容出来る状況に史文恭は顔を歪める。

嫌に思ったのではない、やはり似たような人間だと笑ったのだ。

 

「お前も私と同じじゃないか」

 

「こいつらは不良だ。人に害を為す」

 

「私の眼にはお前が害を為しているように見えるが?」

 

「この国では人に害を為す者は人じゃない」

 

「ふぅん……やっぱり面白い奴だったんだな」

 

このまま行けば押し問答が続くだろうと理解した史文恭は適当に相槌を打つ。

 

今夜は満月、建物のいつもより濃い影で顔は見えないがその人物を史文恭は知っている。この一週間と少し、また会えないかと度々梁山泊にバレないように出歩いたほどだ。

 

「——この前は逃げられたからな」

 

兀々と靴音が聞こえる。影の中の人物だ。

 

「この前よりも、随分と好戦的だな」

 

暗闇の中から一人の男が出てくる。

服装は一般的な服装で目立つところはない。

しかし、来ていた半袖は何か英語が書かれていると一緒に返り血が付着していた。

 

「マクアフィテル、それを持ってる時点でお前は異質だ。武道家でも無ければ殺人犯でも無い」

 

やがて、影から出てくる。

真っ白に輝く満月に照らされた人物、それは——蓬莱山 十七夜だ。

 

「それはアメリカ大陸付近に住み着いていた部族のものだ。我が強い当時の人間は己の力を示すために素早く殺すよりも如何に、派手に殺せるかを競った」

 

「知ってるか、ここは日本の法律が通用しない場所なんだ。つまり、その辺で血を流した人間が居ても誰もどうとも思わない。精々考えるのは「またか」と言った感想だ」

 

「くっくっく、面白い。面白いなお前! なぁ、お前曹一族に来ないか? ……いや、私のところに来ないか? お前なら私の純潔を捧げても良い!」

 

「興味無い。お前の純潔なんてその辺の犬にでも捧げたらどうだ? 少なくとも人殺しのお前には丁度良い」

 

「ふふっ、ならば無理矢理襲ってやるッ!」

 

「それが一番嫌いなんだよ」

 

鈍い音が響く。

その音は一週間前に工場地帯で聞こえたものと同じだ。

 

「血が湧き、心躍る。やはり闘いというものはこうでなければなッ!」

 

「そんなことは知らないが、お前を潰そうと心が躍っているのは同じだ」

 

何度も何度も金棒とマカナがぶつかり合う。

十七夜は先日のように一本ではなく、最初から二本だ。

 

その状況下、史文恭は考える。

 

(太刀筋がこの前より殺しに特化している、フェイントをかけることも無ければ首筋を狙う感覚だけ。……私と我慢比べをしようというのか)

 

「はぁぁあ!」

 

金棒を横に凪ぎる。

十七夜は後転で避けるがそれは史文恭も予想して居たものだ。

 

「今のお前と一週間前のお前、どちらが本物なんだ?」

 

史文恭は十七夜に投げかける。

今と一週間前、十七夜は一人だけなのに的を経た問いだ。

 

「強いて言えばこっちだ。むしろ最初から俺はこっちしか居ない」

 

「そうか……」

 

やはり欲しい。どうにかして彼奴をこっちに引き込めないだろうか。

 

(私がそっちに行くと言う手もあるが……)

 

彼女は首を振る、自分は曹一族だ。一時の感情に左右されてはいけない。

だが、それほど十七夜が愛おしくなったというのも事実なのである。

 

「殴って連れて行くぞ!」

 

「面倒臭い……」

 

舌打ちをして十七夜は吐き棄てる。

マカナの先を地面に向けて同じく走り出し。

 

「はぁっ!」

 

「ふっ」

 

十七夜を葬ろうとした金棒を片手で受け止める、そのまま右手のマカナで容赦なく史文恭の肋骨を狙った。

勿論史文恭もそれでヤラレるような存在ではなく、受け止められた金棒を起点に上へと飛んだ。十七夜は直ぐに左手の力を抜くと頭から落ちてくる史文恭に頭突きを当てた。

 

「くっ」

 

「痛……」

 

石と石が反対方向からぶつかったような音がするとお互いに声を漏らす。

その隙を逃さないように史文恭の金棒を持った右手首を掴み首に熊手を入れる。

 

「あっ、ぶないじゃないか!」

 

しかし熊手は容易く掴まれ、史文恭は上手く体を捻って腕を逸らす。

右手は未だ掴まれたままだが気にせずに片手で首締めに行った。

 

「ぐっ」

 

首に手が回った瞬間十七夜は両手で思い切り投げた。

 

「やはりそう簡単に取らせてはくれないか」

 

着地した後史文恭は右手首を回すように動作不良が無いか確認する。

 

(何て握力だ、もう鬱血してるのか……)

 

若干痺れが残っているが無理矢理動かせば支障は無い。

だが金棒を持っては変えたほうが良いだろう。いや、むしろ手放して肉弾戦に持ち込んだ方が良いかも知れない。

 

沈黙が続く中、史文恭は十七夜を見遣りながら変化に気付く。

 

それには十七夜も気付いているだろうが、念の為そちらの方に視線を向けると不動を貫き通した。

 

(今回は本気で仕留めに来てるってところだな)

 

「——居たぞ! 史文恭だ!」

 

「——相手は誰だ?」

 

親不孝通りは警察の介入が無いように入り組んだ道筋にされている。

その為素早く目的地に来るならば屋根を飛んでくるのが一番だ。

 

灰色の三階の建物の屋上、そこに旗袍を纏った二人が現れた。

 

一人は長髪に槍、もう一人は赤髪のポニーテール……そして幻で無ければその手には炎が浮かんでいる。

 

「林冲に武松か、遅かったじゃないか!」

 

「史文恭! お前が一般人に危害を加えようとするのならば私は容赦しないぞ!」

 

「やはり、お前だったんだな……蓬莱山 十七夜」

 

武松が十七夜を見据えながら言う。

顔だけ武松の方を見た十七夜の三白眼は満月に照らされていつもより独特に見える。

 

「だが残念だったな。お生憎様私は今お前たち梁山泊には興味が無い。今私が興味があるのはこの男だ……蓬莱山 十七夜? だったか」

 

武松の言葉を拾ったのだろう。

史文恭がそう聞くと十七夜は是と答えた。

 

「手を出すなよ二人とも、今私は求婚中だッ!」

 

姿勢は低くく、前傾に走る。

その姿は身に付けた毛皮も相まってさながら狼のようだった。

 

「はあぁぁぁぁぁあ!」

 

唸るように吠え、金棒を振り上げる。

右手首は痺れている為、問題無いと言ったが一撃を加えるにはバランスが悪い為振り上げときののみに使い振り下ろしのタイミングでは添えるだけだ。

 

——しかし

 

その振り下ろしが十七夜に当たることはなかった。

 

「鎖ッッッ!?」

 

金棒から突如、藪より飛び出す蛇のように銀色が走る。

 

龍眼を持ってしても誰も予想しなかった事態に史文恭の反応は遅れ、右腕へと絡まった。

一瞬の出来事に処理が追いつかない史文恭であるが、それを見逃さないかのように今度は地面から鎖が映えるように現れて縛り上げた。

 

「何だこれは……! くっ!」

 

鎖は身体を一周して巻き付いている。

何度か捻ってみるが擦れる様子は無い。

 

地面に縫い付けるように縛ってくるそれに膝を屈してしまう。

 

途端、辺りが暗くなる。

先程までの明りは何処に行ったのかと夜空を見上げると、白く輝く満月は風に流される雲によって隠されていた。

 

そしてその時、その場に居た林冲と武松含む三人は眼を疑った。

 

光源が無い暗闇の中、今まで無かったものが確かに存在している。

 

それは全て違う形で、一つとして同じものは無い。

 

錆びた剣、チャクラム、ハンマー、戦斧、日本刀、コピシュ、長槍、大弓に弓矢、双剣……そしていつの間にかマカナもその中にあった。それらは全て、地面や壁から……いや、‘‘影’’から生えていた。

 

「くく、くはははははっ! 何だ! 突いてみれば蛇じゃない! 龍どころか、かなり異質なモノが出てきたじゃないかッ!」

 

その言葉に十七夜が反応を示すことは無い。

 

「私を縛り上げてどうする? 殴るか? 蹴るか? それともこのまま犯すのか?」

 

犯すと言った瞬間眉根が動いたのを史文恭は見逃さなかった。

 

「……」

 

ゆっくりと史文恭に歩いて行く。

やがて見下ろせる位置まで来ると、額に手をやった。

 

何をするつもりだと史文恭は怪訝な顔を向けた。

 

額に当てられた十七夜の掌が離れていく。

すると、史文恭の額から周りの武器と同じように金属武器が出てきた。

 

「ジャマダハル。変な武器ばかり使うな」

 

「別に良いだろ?」

 

「くく、違いない」

 

十七夜はジャマダハルを持ちながら手を引く。

尖った穂先は鎖によって固定された史文恭の腹に向けられている。

 

「——じゃあな」

 

一言、そう呟くと肉を突いた。

 

 

 






鎖プレイ史文恭……イケる。

jk史文恭……イケる。


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宵月

チラシ裏って生きやすいですよね


 

 

「——駄目だそれ以上は、本当に戻れなくなるぞ」

 

ジャマダハルを持った十七夜の手を止めるように槍が差し込まれる。それは槍だけではなく、腕も掴まれており、掴んでいる手の平は温かった。

 

「邪魔をするな」

 

感情が込められていないのか、機械的に十七夜はそう言った。

 

それを聞いた武松は思う——やはり、どこか狂っていたのか、と。

普段見せる態度とは違う十七夜に最初は戸惑ったが、それを無理矢理抑え込める。恐らく後でその反動が来るだろうと予想するが無視して質問を投げかけた。

 

「一週間前、工場付近で史文恭と闘ったのもお前だな?」

 

その質問に十七夜は頭を縦に振った。

 

「お前が史文恭に致命的ダメージ以上の攻撃を加えるのならばここからは私たちが相手をする」

 

「これは元々、我々梁山泊と曹一族の問題。これ以上入り込むのは止してもらいたい」

 

武松と林冲の物言いに十七夜は苛立った。

 

別に自分から関わったつもりは毛頭無い。

むしろ、最初から伝えられていれば避けて通ったほどだ。

 

「興が冷めた。もういい。そいつを殺そうが逃がそうが、好きにしろ」

 

十七夜はそう言うとジャマダハルから手を放す。重力に従って落ちていったジャマダハルは音を立てることなく影に吸い込まれていった。

面倒くさそうにそのまま背を向けると二人に言った。

 

「せめて、この一週間が何だったのか説明してくれ」

 

「勿論だ、巻き込んでしまった手前それは義務であると承知している」

 

林冲のその言葉を聞いて十七夜は歩き出す。

視線だけ夜空へと向けると、月を隠していた雲はもうじき消え去って行きそうだった。

 

 

 

 

 

と、事態は収束しようと見られたが——

 

 

 

 

 

「——まだだ、蓬莱山 十七夜ィィ!!」

 

「なっ!?」

 

「この気の量は!」

 

後方からパキンッと音が響く。

 

そして辺り一面に諦観していた史文恭の膨大な気が漂った。

 

「——ッ」

 

急いで振り向くと林冲と武松の驚いた顔が見えると共に、史文恭の手が顔を掴もうと伸びてきているが分かる。更に後方にははち切れるように千切られた鎖が転がっており、気の爆発で無理矢理逃げてきたのが容易に理解出来た。

 

「アァァァァァアア!」

 

慟哭のように叫び声を上げる史文恭に、十七夜は一歩たりとも動くことは出来なかった。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

結局、事態は誰の犠牲も無く終わりを迎えた。

 

満月はの夜から四日後、それまで梁山泊のメンバーは一度中国に戻って捉えた史文恭の身柄をどうするか天魅星‘‘宋江’’に指示を仰ぎに行った。

 

そうして帰って来たのが今日、十七夜は昼休みに学舎裏へと来るように呼ばれている。

今回の騒動の説明をしてくれるらしい。

 

四校時の授業が終わり、いつも通りの武松と時間差で教室から出る。その際、源義経から昼食を一緒に取ろうと誘われたが断った。

草花が茂る学舎裏に来ると、石で出来たベンチに腰掛けていた梁山泊全員が見える。

 

学舎の壁に凭れかかると目を向けた。

 

それに気付いた林冲が口を開く。

 

「この際前置きは無い。事の真相だけ語らせて貰う」

 

それから語られたのは十七夜にとって、最初から本当に関係無いことばかりだった。

 

事の始まりは、曹一族と梁山泊共に同じで‘‘M’’と言う人物からの情報提供らしい。

それが誰かは分からないが、確かな証拠と核心を持って語られた内容に戦力を常に求める両者に疑いはあれど、行動しない理由は無かった。

その二つの組織の目的は二年F組に所属する——直江 大和の誘拐と護衛、本人の了承があれば組織に組み込むというものだ。

味方になってくれれば有難いが、それ以上に曹一族の戦力となってしまうことを恐れた梁山泊は護衛を優先したとのこと。

 

「因みに、史文恭の身柄だが曹一族へと引き渡した。私たちとあいつは何度か矛を交えてはいるが、最近は表面下ばかりで両主共に争いが起こらないように手を回し始めている。今回の一件で、更にそれが深くなった」

 

興味が無いとばかりに十七夜は欠伸をした。昨晩寝られなかったのか、夏の陽気に諭されたのかはわからないが。

そんな十七夜の様子を見て掴みどころが無い奴だと林冲は思う。

 

自分が護衛していた直江 大和は目の前に居る男子生徒とは違い、自分から仲良くしようと歩み寄って来てくれた。始めて史文恭に襲われた日には動揺していたが、簡略的に説明すると聡明な頭脳から大体読み取ってくれ、むしろ協力してくれた。

 

だが、目の前に居る男は違う。

 

度々武松が蓬莱山 十七夜について話してくれたがその内容から判断出来ないほどの協調性の無さ、何を考えているのか分からない。それは自分は強いから大丈夫だと余裕を持っているのか、それとも危機感が無いだけなのか……

 

しかし、そこまで考えて林冲は首を振る。

 

事は全て終わり、結果的に無関係の彼を巻き込んでしまった。

大事には至らなかったが、彼を悪く思うのは御門違いというものだ。

 

隣に座っている武松を横目で見ていると様子は変わらない。

他人に興味さえ持たない楊志ですら値踏みするかのような視線を向けているのに武松はそれが普通だとばかりに座っていた。

 

(こんな人物を武松一人に任せていたのか……。大変だったろうな武松……)

 

心中を察するかのように武松に合掌する。

脳裏には全然話してくれないと愚痴を零す姿と、やっと文章を話してくれたと喜んでいた武松の姿が浮かんでいる。

 

「んん。兎に角、この度は本当にすまなかった。無関係の君を巻き込んでしまったのは完全にこちらの過失。私たちに出来ることがあれば何でも言って欲しい」

 

今何でもするって言ったな? みたいな反応が十七夜には無い。

十七夜の三白眼が捉えるのは頭を下げる林冲だけだ。

 

「ああ、別にそういうのはいい。お前らの様子から故意に俺と史文恭を合わせたみたいなのも無いし……間が悪かったんだよ」

 

投げるように言った十七夜の言葉に林冲は安堵する。

死ねと言われれば命を投げ出すほどの覚悟は無いが、身体を捧げることくらいは覚悟をしていた。その場合は何とか全員じゃなく自分だけに抑えて貰うつもりだったがそれは杞憂に終わった。

 

「話はこれで終わりか? 用がなければ立ち去るが」

 

「あ、ああ」

 

そうか、とだけ言うと十七夜は背を向けて歩いて行く。今は昼食時だ、教室に戻るのだろう。

 

「あ……」

 

そこまで考えて林冲は思い出す。

 

「私たちのことだが、取り敢えず卒業まではこっちに残ることになった。もし何かあったら頼ってくれ!」

 

その言葉に十七夜は片手を上げて返事をした。

 

「変な奴だろう?」

 

完全に十七夜が見えなくなると武松が言った。

 

「うん」

 

それに対して林冲は正直に答える。

 

「本当にあいつが史文恭の野郎をボコボコにしたのか?」

 

「そんな感じはしなかった……」

 

史進と楊志にそう言われると林冲は何度目かになるかは分からないが史文恭と蓬莱山 十七夜が闘っていた夜を思い出す。

親不孝通りのコンクリートの中、二人は自分の武器を何度も振って相手を殺そうと闘っていた。今見た十七夜とは全く違うが、あの夜は戦場のような緊張感があった。

 

「闘いになると変わるタイプなのかもしれない。島津寮にも似たような黛 由紀江が居るだろう?」

 

「成る程なぁ……」

 

「でもさぁ、それでも蓬莱山が史文恭と闘えるには見えないんだよねえ」

 

「隠形が上手いのかな? 多少なりとも強者の雰囲気がある筈」

 

「だが蓬莱山が史文恭を追い詰めていたのも事実だ。私たちが止めなければあのまま止めを刺していただろう」

 

「影? って奴は?」

 

「あれに関しては本当に分からなかった。見たこともない術だ、鍛錬だけでは得られない力だろう」

 

「……異能?」

 

「多分」

 

「——それに、その時の史文恭は‘‘野性’’を解放していた。私が今まで見た中であの史文恭が一番強かった。‘‘未来視’’が出来る状態でもあの史文恭を倒すのは難しいだろう」

 

圧倒的な動体視力を誇る龍眼と、超えた者がその先で会得することがある特性。史文恭が持っていたのは知っていたがそれを見るのは初めてだった。

縛られているにも関わらず気を放出して引き千切り、無理矢理動いた。

あれが史文恭の本気だと考えると今も少し身体が震える。

 

生憎、それまでの闘いの疲労があったのか十七夜の顔を掴むことなく凭れかかるように倒れたのだが、あのまま二人が闘えば下がる他なかっただろう。

「カワカミって怖いとこだね」

 

武松の膝に寝転がったままの公孫勝か言った。

 

「うん。あながち間違ってないな……」

 

ここに来る前に言われた宋江の言葉を思い出す。

 

——武の聖地‘‘川神’’。あそこは川神一家を含め様々な者が集まる所。私も何度か足を運んだことがあるがまだ名の知れぬ強者たちが数多いる。林冲、おんしは強いがまだ梁山泊の中に居る籠の鳥だと言うことを努忘れるなよ、

 

と。

確かに今、痛感した。

島津寮や川神学園には確かに武人は居た。だがそれも自分には及ばない者が大半で、明確な差を見せられているのはやはり川神一家だと。

 

自分は少し、侮っていた。

 

今日から改めて頑張ろう。

林冲の握る槍に、更なる力が加わるのは必然であった。

 

 

 

 

 

〄 ◯

 

 

 

 

 

時間は遡り、十七夜が史文恭と闘った翌夜。

少し欠けた月で三人の大人が月見酒を愉しんでいた。

 

「鉄心、今年の夏は何か催すのか?」

 

「そうじゃのう……去年まで武道大会を開いていたのじゃが、今年は林冲ちゃんたち梁山泊や義経ちゃんらが来て面白くなったから思考を凝らしてみようかとの」

 

「それはそれは、どのようなもので?」

 

「ふむ、まだ決めてはおらぬのだが。次世代の獅子を決めるタッグ式トーナメントと久しく模擬戦のどちらかを考えておる」

 

「ほう。それはまた面白そうだな」

 

獅子を彷彿とさせる外見をしている男はそう言うと川神水と書かれた瓶を傾け杯に注ぐ。

彼の名は‘‘ヒューム・ヘルシング’’。川神百代さえも差し置いて世界最強である。過去に隣に座る川神 鉄心と闘ったことが何度もあり、好敵手である。しかし、最近は自分よりも若者の指導を中心とした鉄心に嘆いている。

 

「どちらにしても九鬼は噛ませて貰いましょう。祭り事は帝様も楽しみになられていますからね」

 

ヒュームに反して柔和な笑みを浮かべるのは‘‘クラウディオ・ネエロ’’。戦闘における才能は余りないが、従者としての才能は世界でも指折りだ。ミスター・パーフェクトと呼ばれる彼に隙はなく。才能が無いと言いながらも実力は壁の上に立っている。

 

「ほっほっほ。助かるのぅ……して二人とも、結局昨晩のアレは何か分かったのかの?」

 

「ああ。やはり俺たちの予想通り梁山泊と史文恭だった」

 

「やはりのう、あやつらが何をしに来たのかは分かっておるのか?」

 

「次代盧俊義の素質を秘めた直江 大和の前者は護衛で後者は誘拐だ。もっとも、曹一族の方は失敗して史文恭は昨晩捉えられたらしい。今代の史文恭は良い眼をしていた、あの赤子共が倒せるとは思わなかったのだがな」

 

「流石にあの異能の数では叶わなかったのじゃろう。因みに史文恭ちゃんじゃが梁山泊と停戦しだい学園に入ってくるようじゃ。一応高校は過ぎているようじゃが梁山泊と同じく二年、S組所望じゃった」

 

「ふっ、それはまた面白くなりそうだな……時間があれば手合わせ願おう」

 

「随分とヒュームは史文恭を評価しているのですね」

 

「当たり前だ。龍眼は俺が闘った中でも五本に入る曲者だった。単純だからこそあの眼は強い。恐らく本気を出せば川神百代並みに強くはなるだろうな。そう意味では合理的考えが出来る奴は赤子を脱している」

 

他人を自分基準で過小評価するヒュームにしてはかなりの褒め言葉だと二人は感心する。

世界最強故に他人の認めることをしないヒュームはあの現武神である川神 百代さえ赤子と評価する。そのヒュームに本人知らずに認められている史文恭はどれだけ凄いのか、だがその史文恭を梁山泊の人海戦術ではなく一人で抑え込んだ者が居ると当事者たち以外は誰も知らない。

 

「これまた、面白くなってきそうじゃの」

 

鉄心の言葉に二人は静かに頷いた。

 

 

 

 

 






jk史文恭絶対可愛いよ、パッケージ版史文恭ルート入れてクレェ(^ω^)


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九夜月

地の文は語り手みたいなものだと思って下さい。
「キャラクター」

解説役みたいな?

オリ話というか、伏線を無理やり作るための話なんでめちゃくちゃです。許せ。


 

 

「依頼……?」

 

「ああ。川神学園には幾つか他の学園と違うところがあって、その一つに‘‘依頼システム’’と言うのがあるんだ。依頼主は生徒から教師、時折学園長なんかも出す。報酬はこの学園で使える食券だったり、商店街で使えるサービス券。現金以外のもの」

 

「それを、何で義経に頼むんだ?」

 

「今回俺たちが受けた依頼が親不孝通りに関係することだから、姉さんが居るけど少しでも戦力が多い方が良いと思って。本当なら梁山泊にも頼むつもりだったんだけど……色々と世話になったから今回は遠慮しようと。それに義経たちも経験した方が良いと思って」

 

「成る程。誘ってくれてありがとう、勿論協力させて貰う……ただ、弁慶は連れてこれるかは自信がないぞ?」

 

「まああんな性格だしね。出来たらで良いよ、出来たらで」

 

「分かった。詳しい日時は今夜にでもメールしてくれるとありがたい」

 

「一応日付だけは明後日の休みだよ。じゃあ俺はこの後用事あるからもう行くよ」

 

「うん、ばいばい」

 

義経はそう言うと歩いて行った大和を見送る。

 

今居る場所は川神学園二年の階層、普段から生活している場所だ。

 

(依頼……この学校にはまだまだ面白いものがあるんだな)

 

毎日毎日面白い学校だが、新しいことが見つかって義経の学園生活は更に色が付く。

諸島で暮らしていた時とは大違いで、イベントが絶えない毎日である。

 

そして、依頼の内容にあった親不孝通りを思い返す。

 

親不孝通りと言えば何日か前に不審な気が感じとられた場所だ。

どんな場所かは自分の目で見てないから分からないが、マープルやクラウ爺からできるだけ行ってはいけないと言われている場所だ。先日の夜も気になって行こうか迷っているとステイシーさんと李さんから任せておけと遠回しに関わるなと感じ取れた。

 

(夕食前にマープルに頼まなければならないな)

 

この数日間、川神を賑やかすような騒動があったことを源義経は何も知らない。

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

学校が休みの日、十七夜は昼過ぎから出掛ける準備をしていた。

服装はいつかの白い布地に英単語が書かれた半袖、青みがかったジーンズだ。

 

「……行くか」

 

十七夜以外は誰も居ない家で呟くと、下駄箱上の鍵を取って靴を履く。

地面を爪先で叩くと、扉を開けて外に出た。

 

天気は快晴、太陽が爛々と輝いており日差しが刺すように降っている。

これなら最近男性も日傘を差しているのが多くなっているとニュースで言っていたのも頷ける。

だが十七夜はそんなこと関係無いとばかりに歩道へ出ると目的地に向かう。

 

二十分ほど炎天下の中歩くと、そこには‘‘川神商店街’’と書かれた看板が。七夕の名残がまだ残っているのか少し笹の葉が見える。短冊に書かれた願い事などに興味はなく、目移りすることなく十七夜が入ったのは店の外に向日葵が見える花屋だった。

 

「カスミソウとユリを詰めて下さい」

 

「リボンは何色でしょうか?」

 

「薄い青で……それと小さな鉢に白色の月見草をお願いします」

 

「かしこまりました、 少々お待ち下さい」

 

‘‘月に一度’’は来る花屋だ。

今月は色々あったため少し遅れたが。

 

「カスミソウにユリ。月見草の合わせて千七百円になります」

 

店員に二千円渡して三百円を貰う。

花束と月見草を分けて入れられた袋を貰って外に出た。

 

そのまま川神商店街を抜けると少し簡素な住宅街に出る。

山沿いにあるその道は自然と重なり合って心地良さそうな環境だ。

 

しかし、その先にあるのは雰囲気とは違い不良や札付きが集まる——親不孝通りだ。

 

人を拒むように敷かれているチェーンを跨ぐと、整備されていた道路からぼろぼろになったコンクリートに出る。時折刺青をした者や、顔に傷が付いた者が見てくるが全くの無視だ。

 

「おい、さっき制服が着た奴ら居たよな?」

 

「ああ。先頭に居た奴が武神らしいぜ」

 

「良い体してんだから俺たちもあやかりてぇな」

 

「バカ言っちゃいけねぇよ。お前は外から来たから知らねえだろうが昔から武神には仲間がやられてるんだ。絶対手を出すな」

 

「はぁ? 報復しねえのかよ」

 

「出来ないんだよ。昔から七浜にあった暴走族devil tailも武神に喧嘩売って壊滅させたって話だ」

 

「マジかよ! devil tailって暴走族の発祥だろ? そんなやべぇのかよ……」

 

「お前もこの街に住んでたらいずれ分かるだろうよ」

 

そんな話が耳に入ってくる。何が目的かは分からないが武神とその仲間たちが来ているようだ。

よく耳を澄ますと聞き込みのようなものをしているとも聞こえる。

まあ、そんなこと別段関わりが無い十七夜は無視して歩いた。

 

そして辿り着いたのはとある建造物。

灰色がさらに汚れたのか黒っぽくなっており、外壁はラッカースプレーやペンキで独特なアートが描かれている。しかし、それよりもここで目立つのは警視庁 立ち入り禁止と書かれた黄色い朽ちたテープだった。

 

鉄製の扉を開けると、中は比較的綺麗になっているが生活臭はしない。

入り口のテープが人避けになっていることが伺える。

 

多少の砂屑を踏み鳴らしながら歩いて行くとそこには鉄製の机、会社等にある一人用だ。よく見るとそこには若干の血液らしきものが付着している。

 

十七夜は積もっている埃を手で軽く払うと花束を——弔い花を優しく置いた。

 

「少し遅くなった。ごめんな……」

 

月見草は割れた窓から射し込む光に当たるように置く。元々夕方から朝方にかけて花開く種類だからだ。

 

「六月の終わりから、今日までは色んなことがあったよ」

 

十七夜はそう言うと机に座り込む。

 

思い返すのは梁山泊や史文恭との一件である。

 

「聞いてくれ、この数日間面倒臭いことがあってな——」

 

 

 

 

 

◯ ◯

 

 

 

 

 

「俺たちが今日することは親不孝通りの状況調査。宇佐見先生によると最近そこの不良どもの様子がおかしいから見てきてくれって内容だ」

 

「様子がおかしいとは、どういう事なんだ?」

 

義経が大和にそう聞くと、隣で歩いていた風間ファミリーのキャップこと翔一が答える。

 

「何でもここいらの不良たちが随分と静からしくてさ。何か良からぬことでもあるんじゃないかって」

 

「静かにしてるんだったら良いのではないか?」

 

「ダメダメ、ここに居る奴は悪いことしてなんぼって奴しかいねえからな。静かだとむしろ怖いんだよ」

 

成る程と、義経は考える。

大和から依頼の手伝いを受けた日に義経は保護者であるマープルに今回の件について話した。九鬼家と言う名目上参加するのは難しいかと思われたが案外あっさりで、こっちに来たのであれば‘‘そう言う世界’’も見ておいた方が良いだろうと言われた。但し、油断はするなと。幾ら源義経が武人として強いだろうが、裏世界には実力だけではない強さがある。人海戦術、銃火器、罠、毒物や人質。如何に源義経であろうと痺れガスなどが散布された場所では一般人と同じだ。因みに弁慶と与一には逃げられた。

 

「そうか。何事も無ければ良いんだが……」

 

「ま、大丈夫でしょ。あっちにまず姉さんがいるから確実として、こっちにも義経や京。それにキャップ居るし。クリスが用事で来れなかったのは痛手だったけど」

 

大和が言ったあっちとは、今回の依頼に当たって効率良く回るために二班に分けたもう一つの班である。

義経が居る方は義経を含め大和、翔一、岳人、一子——肉棒を与えられて静かにしている——だ。こっちは入り口から回って向こうは奥から回る作戦だ。

 

「もう直ぐ姉さんたちと合流するだろうから、今日は終わりかな」

 

と、大和が言うと予想通り百代達が立っているのが見える。

 

「おーいモモ先輩。全部終わったのか?」

 

「一応な……ただ」

 

「ただ?」

 

「はい、先ほど私たちが歩いている時建物があったのですが……」

 

黛 由紀江から語られたのはこうだ。

 

奥の方まで取り敢えず言った百代達は適当にぶらぶらしながら不自然な部分を探した。毎日見ている訳ではないため違いなんて分からないのだが、噂よりも人間が少ないと感じたらしい。適当に居た不良を適当に脅……適当に話を聞くと去年辺りからこの親不孝通りで度々無作為に暴れては不良を蹴散らしている奴がいるらしい。その者の実力はここに住んでいる不良でも触れることすら叶わず、一夜暴れると数十から数百の被害が出ているらしい。

興味を持った百代が情報集めと人を探しているうちにとある建物が目に付いた。

親不孝通りでは珍しい‘‘警視庁のテープ’’があり、半開きになっている扉からは奥に誰かが見えたと。

 

そう言われた大和は顎に手をやって考える。

 

(親不孝通りに警察……よっぽどの事件が無いと寄って来すらしないのに内部にテープなんか張るか?)

 

「見に行ってみよう。相手が変な奴でも姉さん達が居れば大丈夫だろ」

 

「よっしゃ、弟ならそう言ってくれると思ったゾ」

 

結論が決まると行動は早い。

百代を先導として目的の建物は直ぐに着いた。

 

「みんな、静かに」

 

扉から中の様子を見る。

柱が上手く影になっていて中の人は上手く見えない。

しかし、耳を澄ませば声がする。

 

『それで——泊の仕事とやらに巻——まれてな。史——と二回——うことに———』

 

聞こえてくる声音はそれほど歳は取っていない、大和達と同じくらいだろう。

 

『意外と——てな。直ぐそ—だったん——、見て——た—な?』

 

僅かに聞き取れる内容から二人いるようだ。

 

「ん….…?」

 

その声を聞いて義経は疑問に思う。

この声は何処かで聞いたことが無いだろうか、と。

 

「人が多過ぎると警戒させるだろうから。最初は俺と姉さんだけで行く。合図したら入って来てくれ、合図しなかったらそのまま待機」

 

仲間の返事を聞くと大和は鉄製の扉を開く。

錆び付いているのかギィと大きく音を立てた。

 

「——ッ!」

 

「あ、え。えーと警戒しないでくれ。俺たちは用事があってここに来ただけで、偶々この建物が目に付いただけなんだ」

 

中に入ってみると思ったより綺麗だ。

掃除さえすれば生活出来るだろうと言う部屋の奥、そこには鉄製の机の上に座る三白眼の男が居た。

 

「なら入るな。偶々目に付いた所に入るような教育を受けたのかお前は?」

 

「それを言うならお前だってそうだろ〜。不法侵入じゃないのか?」

 

「俺は理由があってここに来たんだ。お前らみたいに意味も無く来たんじゃない」

 

「むぅ。私達だって意味無く「——姉さん、出て行こう」……」

 

大和は百代と謎の男が言い合っている間に理解した。

男が座っている横にある花束、あれは種類から見て弔い花だ。それはさっきあったテープと辻褄があって、ここで誰かが被害にあったと確信出来る。

 

「不躾だった。本当にすまない」

 

大和とて人を失い悲しみは知っている。

自分はまだ失ったことはないが、小さい頃一子のお婆ちゃんが亡くなった時を見て痛感しているのだ。

 

「行こう姉さん」

 

「分かったよ」

 

親不孝通りでは大なり小なり殆ど毎日様々な事件が起きている。

そんな親不孝通りに警察が介入するほどだ、さぞ‘‘陰惨’’な事件だったのだろうと大和は思う。

 

「みんな。中に居た人は特に問題は無かった。帰ろう」

 

「えー、俺たちは入れねえのかよ大和ぉ」

 

「そうよ。何があったのかくらい教えなさいよ!」

 

「兎に角今は戻ろう、話はそれからだ」

 

大和は不満を漏らすファミリーを宥める。

さっきはおとなしく引いてくれたが姉さんにも説明は必要だろうと。

 

「どうしたんだ? 義経」

 

「い、いや。何でもないんだ……何でも」

 

考え事をする義経を尻目にファミリーに帰宅を催促する。

 

『大丈夫だ。また静かになった』

 

近くで声を聞いて聞き取りやすくなったのかそんな言葉が大和の耳に入った。周りを見てみるに気付いていないようだ。或いは百代だけは気付いているのかもしれない。

 

そんなことを一人で思いながら風間ファミリー+αは帰路へと付いた。

 

 

 

 






書いていませんがモロも不参加です。

義経も武松とのヒロインにしようと思ったけど無理だったお。
書いていくうちに史文恭の可愛さに気付いたお。

義経ごめんね、降板だ。

義経「え、ええっ!?」


明日明後日は投稿できませんかもしれぬ。
りゆう? 31だからぁ。えれえろぉ〜〜


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