東方古神録 (しおさば)
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閑話・作者権限らしい
閑話/それぞれが望む未来らしい


※コチラは番外編となります。次の章から本編が始まりますので、先ずはそちらをお読み下さい。



霞「あれ?作者?どこ行った?」






霞「え?他の奴らもいないの?!この状況俺だけにすんの?!」





作「はい、どーも。本文には初登場。創造神の創造神、しおさばさんです」

「「いぇ〜い!!」」

気が付くと辺り一面真っ白な世界。かなり昔だが、俺が転生する際にあの世界の神と出会った空間に似ている場所にいた。

声の方に振り向くと、そこにはバカ作者と愉快な仲間達が盛り上がっている。おい、主人公はほっとくのか。

作「さて、皆様にお集まり頂いたのは他でもない!!あの超絶チート野郎を好き勝手やってやろうぜ!!」

「「うぉぉぉおおおおっ!!」」

何を盛り上がっているのか知らないが、その超絶チート野郎ってのはこれから大変な目に遭うんだろうな。

作「んで、アソコに居るのが、今回自分にどんな事が起きるか全く理解していない、アホな超絶チート野郎でーす!」

……まぁ、あらかた理解はしてたよ?チート野郎ってのが俺だって。

つーか、一々セリフの前に『作』って付けるな、鬱陶しい。

作「だってそうしないと君と区別つかなくなるから」

知るかよ。メタいんだよ。

作「んじゃ、早速作者権限発動!!」

そう言うと、俺の意識はまた暗闇に飲まれていった。

 

 

 

「んで、どういう状況なんだコレは」

俺は今、何処かの街にいる。理解出来ないのは、ココが俺の、転生する前のの元いた世界と同じ時間だと言うこと。

「今回は番外編だそうです」

隣にいつの間にかいた紫が説明してくれた。……うん。紫だよな?

「おかしいですか?」

「うん。おかしいよね。いつの間にか成長した?」

俺の知ってる紫は、まだまだ小学生レベルの大きさだったはずだが、隣のソレは俺よりも少し低い身長と育ちきった身体をしていた。

「だから、番外編なのです」

……なんでもアリか。

「なら俺は何をすればいいんだ?」

「……それなんですが」

なんだ?急にモジモジし始めて。

「今日は、私とデートしてくださいっ!!」

「だが断るっ!!」

 

 

 

--part1・紫の場合

 

「さ、師匠。この世界の事は私、知らないんですから。案内してくださいよ」

俺の襟首を掴み引きずるように歩く紫。くそぅ。デカくなったから抵抗しにくいし。何故か能力とか使えないし。

これもあれか、作者権限と言うやつか。

「わかった!わかったから離せ!!」

「……師匠は能力使えなくても、私は使えますからね?」

あ、逃げ道塞がれた。

「……たく。なんで俺がこんな目に」

 

 

 

最初に案内されたのは、服の店のよう。

師匠曰く、私の服装はかなり目立つそう。

これ、気に入ってるんだけどなぁ。

「ほら、選んでこい」

「……師匠が選んでくれません?」

「は?」

こんな時じゃなければ、存分に甘えられないのだから、一生分は甘えよう。

「……いいんだな?俺が選んだ服なら着るんだな?」

……なんか凄く嫌な予感がするけど。

「……私が決めますけどね」

 

 

 

師匠が選んだのは白いシャツと薄い紫色のパーカーといった着物。紺色の硬い生地のジーパンという履物だった。

これがこの世界の普通なのかな?

「俺にセンスを求めるなよ?」

「??扇子ならもう持ってますよ?」

「お約束なボケだな」

そんなやり取りをしつつ、店を後にすると師匠のお腹がなった。

師匠からそんな音が聞こえるのは初めてだった。

「何時もなら霊力や神力で補えるし、死なないから腹も減らないんだよ」

「ではこの世界では?」

お腹を押さえている師匠は、少し可愛い。

「まぁ、能力も使えないし霊力もないから、普通に普通な人間だから、簡単に死ぬだろうな」

「……」

つまり、今の師匠はなにか起きたら私を頼るしかない、と。

「……なに考えてるか知らないけど、この世界は基本平和だからな?」

 

 

 

「……で、結局ラーメンなんですね」

「なにか不満でも?」

「普通デートならもうちょっと可愛らしい物を食べるって、作者も言ってましたよ!!」

あの作者のことだから、何処まで信用していいのかわからないけど。

小ぢんまりとした店の暖簾を潜り、手馴れた要領で注文していた。

運ばれてきたラーメンを美味しそうに啜る師匠は、やはり懐かしいのだろうか、見るからに嬉しそうだった。

「やはり、この世界は懐かしいですか」

「んぁ?なに言ってんだ?」

「……何処か嬉しそうな顔をしていますから」

箸を止めて私を見る師匠は、不思議な生き物を見るような目をしていた。やめて、その目は癖になりそう。

「確かに俺の育った世界だから、懐かしいと言えばそうなんだが。あっちでの時間の方が圧倒的に長いからな。20年程と数億年だったら、意味が違うだろ」

「……でも、戻れるならば……戻りたい……ですか?」

「いや、それはない」

意外にもアッサリとした答えだった。

「だって、この世界には紫はいないんだから」

その言葉に、私は驚いた。

「今更お前達がいない生活なんて、考えられんよ」

……胸の奥が熱くなるのを感じた。それはきっと食べたラーメンのせいに違いない。

 

 

 

店を出て、見慣れない懐かしい風景を眺めながら歩いていると、観覧車が見えた。……何処だよココは。

横浜か?横浜なのか?!いくら作者の地元とは言え、安直すぎるぞ!!

観覧車に近づくにつれ、人が多くなる。意識しないと紫を見失いそうになる程だ。

「ほら、逸れるぞ」

手を差し出す。それに驚いたのか、急に紫の顔が赤くなった。あ、子供の時と同じ感覚だったのだが、恥ずかしいのか?

おずおずと、俺の手を握る紫は、とうとう俯いてしまった。まぁ、人混みを抜けるまでの辛抱をしてくれ。

「次はどこに行く?」

「何処でも……良いです」

 

 

 

急に取られた手をしっかりと繋ぐと、師匠は私を引っ張って歩き出す。小さな頃も大きかったが、成長したこの身体でも、師匠の手はやはり大きく感じた。

それからはよく覚えてないのだけれど、色々と見て回った気がする。ふと気づくと海を見ながら長椅子に座っていた。

「ほれ、喉乾いたろ」

ふと、頬に冷たい何かが触れた。

筒状の冷たい何かを受け取る。何だろうコレ。

師匠は黒い色をした似たような物を口にしている。飲み物なのかな。

「んで、どうだった?」

「どうとは?」

要領を得ない質問。まだ頭が働いてないのだろうか。

「紫が望んだんだろ?今回のデートは」

「……えぇ」

思い出せば、今日1日はまるで夢のようだった。師匠を独り占めして、見知らぬ街を歩く。これがデートと言うものならば、何度でも味わいたい。

「……楽しかった、です」

「そっか。そりゃ良かった」

師匠は笑顔で言ってくれた。はじめは無理やりだったかもしれないけれど、この笑顔が見れたのならば、師匠も楽しんでくれたのだろう。

「その……師匠?」

夕日の沈む海。辺りには人影はなく、この空間に私と師匠の2人だけのようだ。ならば、言うのは今だろう。今ならば勇気を出せる気がする。今ならば言える気がする。

「ん?」

「私……私……師匠の事が……」

いつもの自分じゃないのはわかっている。言葉を紡ぐのに、こんなにも苦労するのは初めてのことだ。

唇が乾く。脚が震える。命を奪われるかもしれない恐怖とは違う、心臓がその鼓動を速くしているのがわかる。両手を握り締めないと、直ぐにでも勇気が消え去ってしまいそうになる。でも言うんだ。この気持ちを、この想いを。

「私!師匠の事がっ!!」

作「はいどーもー!!お楽しみいただけましたかー?」

頭の中に不快な音声が流れる。

「お?なんだ?」

作「名残惜しいかも知れませんが、お時間で〜す!!」

その言葉と共に、私の司会は黒い靄に包まれたように奪われていった。

 

 

 

いつか、あの作者、殺す……。

そう決意を固めながら。




作「はい、番外編第1弾!」

霞「なにこれ。需要あんの?」

作「何を言ってるんだい?……これは息抜きだよ?主に僕の」

霞「お前のかよ。…………ちょっと待て、第1弾って言ったか?!」

作「さぁ!次は誰だろうねぇ!!」

霞「おいコラ、バカ作者!!」




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閑話2/自己紹介がしたいらしい

作「そう言えば、それぞれの細かな設定を書いてなかった事に気が付いた!!」

霞「今更だよな」

作「そんな事言わんといて」



 

 

【挿絵表示】

 

名前:神条 霞(かみじょう かすみ)

 

性別:♂

 

年齢:22歳(転生前)

 

容姿:一般男性よりかは多少高い身長に、整った顔立ち。黒髪を短く切りそろえている。

裾が白で幾何学模様が染め抜きされた青の着物に、白の羽織を着流している。腰には1振りの太刀、『夜月』を差す。

基本、旅をしている間は人間状態で、霊力しか扱えない。

創造神としての力を使う場合は『神様モード』となり、霊力ではなく神力を扱う。

 

能力:能力自体は幾つか存在するが、人間状態と神様モードで使用方法が多少違う。主に人間状態では両手を合わせる動作をしないと能力を上手く発動出来ない。さらに細かい集中力を必要とする場合は、神様モードでも両手を合わせる事がある。

 

①『ありとあらゆるものを創造し操る能力』

創造神として転生した当初から所有している能力。具体的抽象的、生物無機物に関わらず、自分が想像したモノを具現化出来る。

 

②『空間を操る程度の能力』

空間に亀裂を創り、別の場所と繋げたり、穴を固定し空間を創り出す事が出来る。繋げる能力の有効範囲は人間状態で日本国内ならば何処でも。神様モードの場合は距離に関わらず、またやろうと思えば時間も超えることが出来る。

 

③『概念を付加する程度の能力』

既存の物に後付けで概念、能力を付加する事が出来る。ただし、生物と形の無いものには不可。

 

④『理を断ち切る程度の能力』

夜月が無ければ使用出来ない能力。夜月の刃が触れた所の理を断ち切り、現象を変更出来る。また、この能力の影響で霊力、若しくは神力を纏った夜月は破壊不能となる。ただし、力を纏っていない夜月は一般的な太刀となんら変わらない。

 

力の総量:人間状態の場合。普通の人間の霊力を1とすると、制限を全て開放すれば1万。

神様モードの場合、300万。

※それぞれ紫によって封印される前の計算。封印されている場合はそれぞれ半分となる。

比較対象として、天照は120万。姫咲は170万。

うん、桁違いだね!

 

 

 

「こんなもんか?」

俺は久しぶりに出会った烏天狗のアゲハに頼まれ、プロフィールを書かれている。どうやら、種族に関わらず主要な人物の細かいプロフィールをまとめているようだ。どうしてそんな事をしているのかはわからないけど。

「いや〜、相変わらず規格外ですね〜。主に力の総量」

「言うな。自分でもわかってるんだから。だからこそ、普段は制限をかけてるんだし」

俺は懐からタバコを取り出して火をつける。吐き出した煙が一瞬空を白く染めて、直ぐに消えていった。

「では、ご協力ありがとうございました!また何かあれば宜しくお願いします!!」

「あ〜。ま、へんな事につかうなよ〜」

そう言うと、アゲハは黒い翼を広げて飛び立っていった。瞬く間にその姿は小さくなり、見えなくなる。随分とスピード出してるな。

「……なんか、後々面倒臭い事が起きる気がする」

そんな感想を呟きながら、俺は立ち上がり、弟子+αが待つテントへと潜っていった。

今日の晩飯は何にしようかな……。




作「ってなわけで、今回は霞君のプロフィール公開!!」

霞「こんなんでいいのか?」

作「……まぁ、後はなんとかしてくれるでしょ」

霞「??なんて?」

作「いやいや、なんでもないよ!!今は気にしないで」

霞「……なんだろ、近々何か起きるような……」



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閑話3/昼間のガールズトークらしい

霞「…………おい、コラボ回はどうした」

作「その前に姫咲と夢乃のプロフィールを書こうかなって」

姫「あら、わたし?」

夢「私もですか?!」

作「色々と設定を書いとかないと、後々のストーリー的に面倒臭いので」

霞「……いや、だからコラボは?」


「なんか、暇ね」

私は縁側で湯呑みに注がれたものを啜りながら溜息を吐く。昔を思えば、余りにも呑気な生活を送っている。

名のある大妖怪から弱小妖怪、果ては人間の国まで1人で潰して回ったあの頃。遥か昔に出会った霞との戦いを忘れられず、またあの興奮を味わいたくて大陸まで足を伸ばしたってのに、今では長らく血を浴びていない。元より、この身体では満足な戦闘なんて無理なのだけど。霞はまた戦ってくれないかしら。

朝食を済ませた後は、特にやることも無く、ごく稀に美鈴の修行の相手をしてあげる程度。今日は霞が直接相手をしているから、まったくやることも無い。

空になった湯呑みに再び注いで、一気に飲み干す。

「……あの〜。姫咲さん?湯呑みでお酒を飲むのはどうかと思いますよ?」

白と赤の巫女服を着た少女がいつの間にか隣に立っていた。この神社の巫女である彼女は、いつもなら霞に霊力の使い方やら色々と教わっていて忙しい筈だが。

「今日はお休みの日なんです」

「……あ、そ」

まぁ、特に興味もないけど。

「お隣、いいですか?」

「そう言いながら座るあたり、流石博麗神社の巫女ね。霞にソックリだわ」

別に褒めたつもりはないのだけど、巫女--博麗夢乃は照れた表情をしている。

「これでも、一応鬼の頂点なんだけどね」

「……うーん。失礼かも知れませんが、そうは見えないですね」

それは容姿的な意味でかしら。だとしたら、アンタの師であり、神の頂点の霞に文句を言うのだけど。まぁ、いくら言ったところで変化があるわけじゃないけど。

それに、この姿になった原因の封印をしたのは彼の弟子。となれば、それを解くのも彼ではなく弟子の役目でしょう。

あれ?つまりは結局霞の責任じゃない?

「そうだ!姫咲さんの事を聞かせて下さい!!」

「……はぁ?」

私の事ってなによ。

「そうですね。例えば能力の事とか、どれくらい強いのかとか」

「面倒臭いわね」

……最近、霞の口癖がうつったような気がする。

 

昔の私、と言っても霞にボロボロに負けた後。私は人間が暮らしていた大きな集落--霞が言うには『都市』--がいきなり爆発するのを地下で凌いだ。アレだけの爆発だと、流石の私でも無事では済まなかっただろうし。そもそも、それよりも前から地下で暮らしていたから余り変わらないけど。

ともかく、地上に再び出てきた時には見慣れた風景はどこにも無くて、一面が更地になっていた。

そんな中、私は霞の姿を探したわ。なんせ私が生涯初めて負けた男だもの、再び戦って貰うまで死んでしまっては困る。でも、いくら探しても霞は居なくて、それどころか生き物自体、なにもなかった。

あの爆発で多くの同胞も死んでしまったし、その後の食料がない状況でまた多くの妖怪が死んでいった。

私はその頃から、自分に能力があることに気がついたわ。

 

『感情を力に変える程度の能力』

 

負であれ正であれ、私自身の感情を力と呼ばれるものに変換できる。そのお陰であの食料のない状況でも私は生き延びれたし、今の力を得たと思ってる。

数億年かしら、それくらい経った頃の私は再び地上に出たのだけれど、その頃には漸く人間と呼ばれる生物が再び現れて、私はまた霞の姿を探した。まぁ、あの頃はまだ霞を人間だと思ってたから、既に死んでしまったと諦めてはいたけれど。

そんな中、何度か私の力を見誤った妖怪と戦うことがあったの。それがキッカケと言えばそうなるのかしら、昔以上に好戦的になったわね。能力の影響もあるのだろうけど。

そこから数千年。あらかたこの国での妖怪の底が見えた頃、私は大陸に渡った。なんせ大陸には私の知らない妖怪や力を使う人間が多くいたのだもの。

……え?この着物?

ふふ、そうよ。霞を真似て作ったの。最初は霞と同じ青の着物にしようと思ったんだけどね。上手くいかなくて、結局赤にしたのよ。どうせ紅く染まるのだし、いいかなって。

そんなわけで大陸で遊んでいたら、運命かしらね。霞に出会う事が出来たのよ。あの時は自分でもわからないくらいに興奮したわ。もう、あの時に死んでも後悔しないくらいに。わかるかしら?心の底から会いたくて会いたくて、恋焦がれる乙女のような気持ちよ。

……まぁ、結果はこの身体と今の状況でわかるでしょうけど。

 

でも、まだ諦めたわけじゃないわよ?

いつか必ず、元の姿に戻ってもう一度霞には戦って貰うわ。

それが、私の生涯をかけた願いだもの。

 

 

 

 

「なんとも、内容はともかく恋する乙女ですね、姫咲さんって」

鬼の頂点と霞さんに教えられた少女の話は、私がまだ幼いからなのか殆ど理解の範疇を超えているけど。それでもわかるのは、霞さんを想っているということだけだった。

「まぁ、そんな風に思われてもしょうがないわ」

まだ十数年しか生きていないけれど、いつか私もこれだけ想えるような相手に巡り会えるのだろうか。

「さぁね。もしかすると貴女が気付いてないだけで、もう既に出会ってるかもしれないわよ?」

そうだろうか?よくわからないけど。

物心ついた、と言うか私の記憶がある頃から今まで、出会った男の人はそんなに多くはない。なんせこの神社と人里とを往復するくらいしかないし、その結果出会うのは里の男の人だけ。そんな数年で大幅に人が入れ替わるわけもなくて、見知った顔しかいない。

そもそも、人里には男の人が少ない気がする。他の所を見たことは無いけど、大体が女の人だった様な。……偶に女の人の様な男の人もいるけど。多分気のせいだろうし。

 

私には小さい頃の記憶がない。1番古い記憶と言われれば、雨の降る神社で差し伸べられた長老さんの暖かい掌だと思う。

長老さんが言うには、どこから来たのかわからない、小さな私が神社の中で雨宿りをしながら泣いていたそうだ。

私は長老さんに里へと連れてこられたけれど、何故か私には人里が居心地悪かった。まるで妖怪でも見るような目に晒されて、今でもそれを時たま感じる。

親に捨てられた私は、小さな里では奇妙に見られたのかな。

それからは、長老さんに勧められたけど人里には住まずに、この神社で雨風を凌いでいた。

偶に里に下りて、食料を恵んでもらうくらい。

何故かこの神社を離れちゃいけない気がしたんだもん。いつか、私を迎えに誰かが来てくれるような。そんな曖昧な予想がしてた。

まぁ、そのお陰で霞さんと出会えたし。晴れてこの神社に住むことを許されたんだけど。

だからココはもう私の家だし、霞さんと姫咲さんと美鈴さんは、私の家族だと思う。私の勝手かも知れないけど。

優しいお父さんの霞さん。身体は小さいし料理とか出来ないけど、頼りになるお母さんの姫咲さん。いつもどこかしらで居眠りしてるけど、楽しくて明るいお姉さんの美鈴さん。

まだ短い人生しか生きてないけど、多分1番今が楽しくて、そんな家族に囲まれた生活が嬉しい。

「……ふーん。ま、貴女がどう思おうと自由だけどね」

「!そうです、霞さんを祀るこの神社の巫女なんですから!私も自由に思っていいんですよね!!」

そうね、と言った姫咲さんの顔は、少し紅い気がしました。

 

 

 

「なに話してたんだ?」

美鈴との手合わせを終えると、縁側で姫咲と夢乃が並んで座っていた。この2人の組み合わせは珍しいわけじゃないが、それでも多いわけじゃない。なにより、顔を紅くしている姫咲ってが珍しい。

「女の子の秘密です!」

「そ、そうね」

よくわからんが、所謂ガールズトークってやつか?

「女の子の秘密なら私も入れてください!!」

さっきまで疲れ果てていた筈の美鈴が、2人の間に飛び込む。お前はそろそろ精神的にも成長して貰えんかね?

「そ、それより!私、お腹が空いたわ。お昼にしましょ」

「お、おぅ」

「今回は私も手伝うわよ!!」

「ごめんなさい。それだけは勘弁してください」

俺は光よりも速く土下座を決める。

「……姫咲さんは大人しく私と一緒に待ってましょうよ」

とうとうあの美鈴ですら苦笑いしかしなくなったか。引きつった笑顔を向ける美鈴に姫咲が襲いかかるのを見ていると、夢乃が俺の隣にしゃがみこんで。

「さ、あのお2人が遊んでいる間に準備しちゃいましょ?」

「そうだな」

俺は夢乃に手を引かれ、台所へと向かう。

「なんか嬉しそうだな」

「えへへ。そうですか?」

基本的に明るい夢乃だが、どこか今日は何時もよりも機嫌が良い気がする。

「まぁまぁ、気にしないでくださいよ。お父さん」

「……はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ?……お父さん?」




作「先生の事をお母さん(お父さん)って言っちゃう子いましたよね」

霞「…………お前、経験あるだろ」

作「ば!ばばば馬鹿な!!そんな事ないし!!」

霞「あー。はいはい」

姫「なんか、凄く疲れた気がする」

夢「そうですか?」


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閑話…………閑話か?

「はいどーも!幼女はやっぱり太ももだよね!!……しおさばです。」

 

「いや、気持ち悪いこと言うなよ。そんなんだからロリコンとか言われるんだろ……」

 

「??ワタクシ、ロリコンですよ?」

 

「………………そんな話をしに来たんじゃないだろ?」

 

「おぉ!そうでしたそうでした!!実は今回は皆様にご報告があるのです」

 

「……」

 

「なにか?」

 

「いや、ちょっとそのテンションについていけないだけだ」

 

「そうですか?まぁ、いいですけど。……そんでご報告と言うのがですね……」

 

「……」

 

「なんと!kan(kai)さんの『幻想郷をふらふらと』とコラボ作品を書かせていただくことになりました!!」

ワーパチパチー!!

「……」

 

「なんか反応が薄いですね」

 

「いや、お前、ここより先に『活動報告』でコラボの事告知したじゃないか」

 

「……それでは『幻想郷をふらふらと』のご説明をば」

 

『……逃げやがったな』

 

「アチラの主人公であるユウさんは、霞君と同じく神様なんですよ。そんな(ちっこい)神様が『歩く問題製造機』なんかに振り回されたりされなかったり、更には戦闘もなかなか読み応えがありますよ!あちらの神様は霞君みたく、規格外チートではなくて、ちゃんと弱点のあるチートですし、なにより紫ちゃんの扱い方が…………嫌いじゃぁない!!」

 

「最後はお前の感想じゃないか。……あとから気がついたんだが、自分と同じ日に投稿した作者さんなんだよな」

 

「いやはや、そんな方とコラボを出来るとは。なんとも不思議なもんですねぇ」

 

「何言ってんだよ。お前からコラボを申し込んだんだろ?」

 

「当たり前でしょ!!面白い作品とその作者様、あと幼女には敬意を払う!!」

 

 

「しれっとロリコン発言を織り込むなよ」

 

「いやー。小説の中ならばロリコン発言をしても誰にも怒られない!!なんて素晴らしいんだ!!」

 

「(……もう放っておこう)で、コラボと言うからには失礼のないようにしなければならないが…………考えてはいるんだろうな?」

 

「もろち…………もちろん!!既にプロットは完成しております!!」

 

「あれだよな。夏休みのスケジュールを作るのに力を注ぎすぎた小学生、みたいな事になりそうだよな」

 

「例えが長い!そんで長い割にわかりやすくない!!」

 

「とりあえず、次回はコラボ回。東方古神録と共に、『幻想郷をふらふらと』をよろしくお願いいたします!!」

 

「よろしくです!!」

 

 

 

 

 

……サァー作者ヨ、オ前ニハ死以上ノ苦シミヲ……

 

なに?!なんでそんな片言なの?!

なんでそんなに気持ち悪い笑顔なの?!

 

……天誅!!

ぎゃぁぁああああっ!!



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閑話/Collaboration~神様はふらふらしてるらしい~

作「ってなわけでコラボ!!」

霞「今回はkan(kai)さんの『幻想郷をふらふらと』とコラボだ」

美「こんな作者で大丈夫ですか?」

作「大丈夫だ。問題………………ない」

霞「なんだよ、今の間は」



神無月も過ぎて、早いもんでもう師走。

初めは巫女の仕事に右往左往していた夢乃も、なんとか慣れてきたようだ。

それでも、未だに能力は上手く扱えないようで、偶にその後処理をしている。こないだも、安易にフラグなんて立てたもんだから人里に大妖怪レベルが襲ってきたけっけ。

まぁ、毎日夢乃は修行をこなしているから、そのうち制御できるようになるだろう。

 

 

「霞様の能力って、何が出来るんですか?」

ある日、境内の掃除をしている夢乃を、ボーっと観察していると訊かれた。

「……なんでも出来る」

「そんな漠然と……」

だけど間違いじゃない。今の俺に出来ないならば、出来る能力を『造ればいい』だけだからな。

しかしながら、改めて考えると相変わらず規格外な能力だと思う。他の能力をあんまり知らないが、大体が『程度』と付くのに対して、俺にはそれがない。それだけでもおかしい事は明白だし。

「良く使うのは別の場所とを繋ぐ能力だな。意外と便利なんだ」

「何度か見せてもらいましたけど、凄いですよね」

夢乃が言うのはその利便性ではなくて、穴の中身の見た目だろう。1度人里まで買い物に行く夢乃を、ワームホールで簡単に連れていこうとしたら、幾何学模様が気持ち悪いと言って2度と使わなくなった。

「何処でも繋げられるなら、例えば別の時間にも繋げる事は出来るのですか?」

「やろうと思えばな。でも疲れるからやらない」

「……えぇー。未来が見えるなら、将来の私とか見てみたいのに」

そんな事に俺の能力を使おうと思うなよ。

だけど未来の日本、ってのも気になるな。このまま時代が流れると、将来的に『俺』は生まれるのだろうか。それとも、別の世界なのだから生まれないのか?

「……ちょっとやってみるかな」

「ふぇ?」

俺は立ち上がると、神力を開放する。流石に時までも繋ぐとなると、霊力だけだと足りない。

開放した神力に反応したのか、神社の奥でノンビリしていた姫咲と、修行中だった美鈴が現れた。俺は説明すると、自分達も見てみたいと言う。

「夢乃はどうする?」

「……んー。でも、今回は辞めときます。この後人里に行かないといけませんので」

時間を繋ぐのだから、予定なんて気にしなくてもいいのだが、多分遠まわしにこの穴に入りたくないのだろう。

「それにしても、時を超えるなんて、大丈夫ですかね?」

「初めてやるけど、俺がやるんだ。大丈夫だろ」

よくわからない自信のセリフを吐いて、穴へと足を踏み入れようとする。1歩穴に足が入った瞬間、後ろから予期せぬ言葉が聞こえた。

 

「大丈夫ですよ!霞様ですから、異世界に迷い込むなんて有り得ません!!」

 

 

 

 

 

夢乃の奴、言っちゃったよ。なんであんな場面でフラグを立てるかな。流石に俺でも、夢乃の能力を無効にはできない。アイツのは俺を対象にしているわけじゃなく。事象自体に関与するから、結果が強制的に書き換えられる。行程ならば後からでも俺が細工できるが、どんなに頑張っても夢乃の能力で『予想を超えた結果』が導き出されるのだ。

と、冷静に考えているが、現状はそんな所じゃない。なんでって?

「落ちてるぅうううううううっ?!!」

隣で叫ぶ美鈴と姫咲。あぁ、2人とも飛べないのか。

穴を抜けると、本来ならば地面と平行に開かれる筈の穴が、はるか上空で開けられた。もちろん、俺がやったわけじゃない。

支えのない空中で手足をバタバタさせている姫咲と、既に諦めて涙を流している美鈴。お前ら、一応俺がついているのを忘れてないか?

俺は落下地点に穴を開こうとするが……。

「あ、間に合わないかも」

目の前にはいつの間にか近づいた瓦屋根が。

「……ごめんなさい」

俺は誰にともわからないが、とりあえず謝ることにした。

次の瞬間、3人は屋根に穴を開けながら突っ込み、畳に突き刺さる格好で漸く止まることができた。

 

 

 

俺達の意識が戻ると、その家(?)の住人であるのだろう少女は速攻で庭に引きずり出し、正座させられた。

黒髪を赤いリボンで頭の後ろに結んでいる、不機嫌な表情でなければ所謂美少女と言われるであろう彼女は、腕組みをしながら俺達を睨んでいる。

「んで、アンタ達は何者?この状況をどうしてくれるの?」

「あ、どうも。神条霞です。家は即、直させていただきます」

これでもかってくらいの綺麗な土下座をかましながら、不機嫌にしている姫咲とまだ涙目の美鈴も頭を下げさせる。今回ばかりは2人は完璧に被害者でしかないのだが。

「そう、なら早く直してね」

「あ、はい」

俺は立ち上がり、庭から家(?)の全体を望む。あれ?どっかで見たことあるような建物だな。

「道具とかはアッチの蔵にあるから」

「んぁ?いらないよ」

「……は?」

言うと、両手に霊力を通わせる。幸いにも一階建てなので、屋根と居間の畳と床を直せば事は済む。

両手を合わせれば光が漏れだし、その光が壊れた箇所へと飛んでいく。光に包まれると、一瞬で直っている。

「はい、これでいいかな?」

「……あんた、何者なの」

なんか、久しぶりに訊かれたような気がする。ここの所、俺の事を知っているやつにしか会っていなかったから。

「今使ったのって霊力?でもアンタからは微かに神力を感じるわ。霊力と神力を両方持っているなんて、現人神なの?」

「なかなか鋭いね」

正座をさせられ、足が痺れている姫咲と美鈴に手を貸してやりながら答える。1発で俺の神力を察したのはこの子が初めてだ。

「でも、それを話しても良いんだけど。それには隠れている奴にも出てきてもらわないと」

そう言って庭の反対側に目線をやる。なんか懐かしい気配を感じるが。

「あらあら、驚いたわ。私に気がつくなんて」

突如空間に亀裂が入り、両端には何故かリボンが結ばれる。……やっぱり見たことあるヤツだ。

「「紫!……え?!」」

「…………な、何故私の名前を知っているのかしら」

 

 

 

 

出されたお茶を飲みながら、俺達はちゃぶ台を囲んでいる。向かいには少女--博麗霊夢と紫、その式だと説明された八雲藍が座っている。藍と名乗った女性は、どうやら九尾の狐なようで、金色に輝く美しい尻尾が揺れている。

「それじゃあ、説明してもらえるかしら。貴方が何者で、どうして私の名前を知っているのか」

口火を切ったのは紫だった。俺の知っている紫とは見違えるほど綺麗に成長した姿を見ると、少し嬉しくもなる。コレが成長した娘を見る父親の気分なのだろうか。

「あー。なんとも説明し辛いのだが。先ずは今の時代とココが何処なのか教えて貰えないか?」

なにせ、夢乃の能力の結果、俺でも予期せぬ場所に飛ばされている可能性もある。先ずは確認をしなければ。

「……ココは夢と現実の入り交じる、『幻想郷』と呼ばれる地よ。時代は……外の世界で言えば平成ね」

「…………平成?!」

どう見てもこの家には平成らしさはないのだが?

「言ったでしょ。ココは幻想郷なの。外では文明が進んでいるかも知れないけど、ここはその流れとは別よ」

ふむ。なんとなくわかった。それで結構強力な結界が張られているのか。

「あー。俺の説明か。俺はさっきも言ったけど神条霞。……所謂創造神ってヤツだ」

「…………はい?」

「んで、紫の名前をなんで知ってるのかって話だけど、俺が名付けたから。でも、その反応だと、君はどうやら違うらしいな」

「え、えぇ。悪いけど、貴方とは初対面よ」

なんとも、面倒臭い事になってきたぞ。

「君は『博麗』と言ったね。つまりココは博麗神社かい?」

「えぇ、そうよ」

やはり見覚えがあるはずだ。所々違うが、面影がある。まぁ、違いは俺が手を加えた部分だけど。

「師匠。どういう事ですか?」

「……そうだな。簡単に言えば、夢乃の能力だ」

そう言うと2人は納得する。なんとも、それで納得されるとは。

「コチラにもちゃんと説明してもらえるかしら」

「……いいけど、その胡散臭いかんじ、なんとかならんのか?」

さっきから扇子で口元を隠し、少しでもリスクを少なく、コチラの情報を得ようとしているのは見え見えだ。

「……つまり、俺は時間だけじゃなく、時空を越えてしまったと言うことだよ」

「……なるほど」

おぉ、それで理解してくれるとは。コッチの紫も頭は良かったが、この紫も回転は速いみたいだ。

「で、戻れるのかしら?」

「うーん。今は難しいかな。なんせ今回は俺の意思でココに来たわけじゃない。不可抗力が働いた結果だから」

簡単に言えば、座標を確定しなけりゃいけない。

今いる時空と、元の時空の場所。しかもそれがどれだけ離れているかもわからないし、俺の神力が足りるかもわからない。

まったく、夢乃も余計な一言をくれたもんだ。

「ま、難しいだけで、戻れないわけじゃない。時間はかかるが。その間はこの幻想郷に厄介になるよ」

「……ま、面倒事を起こさないなら構わないわ」

そう言ったのは霊夢だった。どうやら霊夢はこの幻想郷の面倒事や異変と呼ばれる事件を解決するのが仕事のようだ。夢乃にはとても任せそうにもない仕事だ。

「……なら、ここの神様にも挨拶しないとな」

「あぁ。なら連れてくるわね」

そう言うと、紫はスキマに両手を突っ込む。

……なに?そんなんでいいの?ここの神様は猫か何かなの?

スキマから姿を現したのは、小さな子供だった。……いや、確かに神力は感じるけど……子供?

紫はそのまま少年を膝の上に降ろし抱きかかえている。しかしながら、少年は物凄く不機嫌な表情をしている。……それ、嫌がってない?

「紫、どういう状況か説明しろ。あと、離せ」

「コチラにいるのは別世界の神様、神条霞さんよ。どうやら事故にあってしまってコチラに来てしまったの。あと、もう少し良いじゃなぐふぁっ!!」

紫は下から顎に頭突きを食らって、ノックダウンしてしまった。なんか俺の知っている紫とは違う…………のか?

「まったく。何度言っても止めないなお前は」

よく良く探ってみると、なるほどかなり上位の神のようだ。俺が知らないのはココが別世界だからか。

「あ、どうも。別世界の神です」

「あ、どうも。この世界の神です」

 

こうして、俺達はユウ達と出会い、少しの間幻想郷に滞在する事になった。

 




霞「コラボ第1話でした」

姫「まったく、夢乃には困ったものね」

美「姫咲さんが慌てるなんて、珍しいですよね」

姫「……美鈴?今すぐ黙らないと捻るわよ」

美「…………」

霞「ま、まぁ。次回もお楽しみに」

美「姫咲さんはやっぱり怖い……」


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閑話/Collaboration2~レッツゴー幻想郷らしい~

作「はい、コラボ第2話ですよー」

霞「まったく。アチラさんに迷惑かけるなよ?」

作「なんと!そんな事はない…………はず」

霞「自信はないのか」


「ちょっ、これ洒落にならんがな!!ゆ、ユウさ〜ん!!た〜すけて〜!!」

俺は今、絶賛命の危機に瀕している。紅いカーペットが敷かれた廊下を全速力で走り抜けるが、一向に撒ける気配がない。振り返ればすぐそこに追手が迫っているような。

 

どうしてこんな状況になったかって?

それは1時間程前の事だ……。

 

 

 

「ってなわけで、この『幻想郷』ってのを見て回ろうと思うんだが」

1通り自分達の事を説明し終えると立ち上がり、背伸びをする。博麗神社でノンビリ過ごすってのも良いが、それだと元の世界と何ら変わらないしな。

「まずは何処か珍しい場所はないかね?」

「珍しいって、どんなんだよ」

相変わらず紫に抱きかかえられているユウは頭を抑える。え?そんなに変なこと言ったか?

「まず、霞の世界がどんなんだか知らないんだから、何が珍しいなんて決められないだろ」

それもそうか。俺からしたらこの世界自体珍しいが、ユウ達からしたら日常そのものなんだ。

「んー。そうだなぁ。例えば面白い奴のいる場所とか?」

「面白い、ねぇ……」

小さいなりで考えるユウは、確かに母性本能を擽るのだろう。隣の美鈴が面白い物を見るように笑顔だ。

「なら紅魔館がいいんじゃないかしら」

「おぉ、そうだな。アソコなら面白いもんが見れるぞ」

コーマカン?初めて聞く単語だ。

「そこに住んでる奴らも面白いが、特に美鈴ちゃんは驚くだろうな」

急に話を振られた美鈴は驚く。

何故に美鈴なんだ?

「まぁ、行けばわかるさ」

 

 

博麗神社を後にして、俺達はユウの案内で紅魔館を目指す。空の飛べない姫咲と美鈴は俺が抱えている。

「神様って、全員飛べるものなんですか?」

「まぁ、基本的にはな。だけど訓練次第で美鈴ちゃんや姫咲ちゃんも飛べるようになるさ」

だそうだ。元から飛べた俺としては、どうやって飛ぶのかなんて教えにくい。だって感覚で飛んでるんだから。

暫くすると、大きな湖が見えてきた。と、同時に視界に靄がかかる。

「ここが霧の湖。紅魔館はすぐそこだ」

「神秘的ね。夏場は涼しそう」

何をいうか。夏はクーラーの真下から動かない姫咲はよくわからない事を言う。なんだ?知らない人の前だとお淑やかになるのか?

「……殴るわよ」

「殴ってから言うなよ」

そんな会話をしていると、目の前に大きな影が見えてきた。それは洋風の館で、全身真っ赤に染められていた。なんとも、目に悪い色だ。こんな物がうちの世界にもあるってんなら、問答無用で白に塗り直すぞ。

「ここが紅魔館。吸血鬼の住む館だぞ」

なんか最後に聞きなれない単語があった気がする。

「吸血鬼?」

「あぁ、レミリア・スカーレットと言う幼じ……少女が主を務めているんだ」

ほう。吸血鬼なんて初めてだ。これはこの世界に飛ばされた甲斐があったってもんだな。……夢乃には帰ってからお仕置きするけど。

 

俺達は門の前に降り立つ。姫咲と美鈴を下ろすと、ぼんやりと門のところに誰かが居るのが見えた。

長身に緑のチャイナ服、長く綺麗な赤い髪が目立つ。何処かで見たことあるような女性は、門に寄りかかって眠っているようだ。器用なことで。

「おい、起きろ」

ユウが女性に話しかける。何度か揺すっているが、それでも一向に起きる気配はない。

つーか、あの人ってもしかして……。

「はぁ……流石にこんなんじゃ起きないか」

そう言うとユウは大きく息を吸い込む。

「咲夜ぁ!!」

思わず耳を塞ぎたくなるような大声で誰かを呼ぶ。こんな大声を近くで出されてもこの子は起きないのか。

「ユウ様、妹様がお休み中でございます。お静かに願います」

気がつくと1人のメイドがユウの隣に立っていた。いつの間に現れた?なんとなく時間の流れが乱れたと思ったらイキナリだ。

「おぉ、悪い悪い。実は客人を案内しててな、もし良かったら中を見せて貰えないだろうか」

「はぁ、一応お嬢様に確認させていただきますが、宜しいでしょうか」

銀髪のメイドは凛々しい表情でコチラを一目見ると、再び姿を消そうとした。しかし門の前で寝ている女性を見ると、大きな溜息を吐いて何処から取り出したのかナイフを構える。なかなかに手入れの行き届いた、まるで調度品の様なナイフはメイドの手を離れ、次々に女性へと刺さっていく。うわぁ、痛そう。

「いったぁぁああっ!!」

「だろうな」

「…………あ!寝てませんよ咲夜さん!?これはその……瞑想していたんです!!」

いや、その言い訳はどうなんだ?

これだけ周りが騒がしいってのに、身動き一つしなかったじゃないか。

「……はぁ、とりあえずお説教は後よ。私はお嬢様に知らせて来るから、美鈴はユウ様をご案内して」

「ユウさん?……あれ?ユウさん、どうしたんですか?」

突き刺さったナイフを引っこ抜きながら、漸くユウの存在に気がついたのか不思議そうな顔をしている。うん、さっき呼ばれてたし、確定だろうな。

「なに、異世界の神を案内しててな。コチラが創造神の神条霞、鬼の姫咲ちゃん。そんで……」

「……」

どうやら美鈴(幼女の方)も気がついたようで、驚きのあまり声が出ていない。

「……コチラは紅美鈴ちゃんだ」

「…………な、なんですとーーーっ?!」

美鈴(大)と美鈴(小)の出会いだった。

 

 

 

「いやー。私にもこんな時期があったんですねー」

「いやー。私も将来はバインバインになるんですねー」

ほぼ同じ声質がステレオで聞こえてくる。美鈴(大)が美鈴(小)を肩車しているのだ。

「確かに、これは面白いわね」

姫咲は大と小を交互に見る。アレがコウなるのね、と小さく呟いていた。

「挨拶された時に気がついたけど、やっぱり美鈴の幼い頃なんだな」

「まぁ、そちらの霞さんとは初対面ですけど」

それは紫の時に確認済みだ。いくら同一人物がいたとしても、ここは異世界。所謂平行世界なのだから、俺が存在しなくても不思議ではない。むしろ、この世界の俺は今頃、平穏に生きているんじゃないか?

「……ユウ様、お嬢様がお呼びです」

再びいきなり現れたメイドが俺達を案内する。さっきから、この登場の仕方じゃないとダメなんだろうか。

俺はともかく、姫咲と美鈴には心臓に悪いと思うが。

 

 

 

「貴方が兄様の言っていた異世界の神ね」

「あぁ、神条霞だ。よろしく」

俺の数段上から、豪華な椅子にどっかりと座った幼女--レミリア・スカーレットは威厳タップリに語りかける。

「それで、この館を見せて欲しいと?」

「まぁ、そういう事だな」

ピンクの服にドアノブカバーの様な帽子を被り、背中には一対のコウモリのような翼が生えている。小さな口からは小さいながらも鋭い牙が見え隠れして、確かに吸血鬼なのだと認識できた。

「ま、兄様の紹介なのだから無碍にはできないわね。自由に見て構わないわよ」

「おぉ、ありがとう」

俺は礼を言うと深く頭を下げ、部屋を出ようとする。

「……無事でいられるといいわね」

そんなレミリアのセリフは、奇しくも俺に届かなかったが。

 

 

 

「で、なんで俺は1人でこんな所にいるんだ?」

俺は皆とはぐれ、紅く染められたドアの前にいた。多分、さっきの部屋からそんなに離れてないと思うが、つまりはぐるっと一周して戻ってきたのか。皆、迷子だな?これだからお子様達は……。

「と、そんなしょうもないこと置いといて、ホントに何処だよ」

とりあえず、目の前のドアを開けてみるか。

鍵のかかっていないドアは何の苦もなく開かれた。中を覗くと館と同じように赤で統一された内装に、所々壊れた玩具や無残に千切れたぬいぐるみが散乱していた。

部屋の隅には大きな、所謂お姫様ベッドが置かれている。

「……おじゃましま〜す」

なんとなしに小声になってしまう。

内装からしてこの部屋の主は女の子なのだろう。あまり長居はできないが、少し疲れたから休ませてもらおう。

天蓋付きのベッドに腰掛けると何か柔らかい感触がした。なるほど、こんなベッドは初めてだが柔らかい感触なのだな。

「……ふにゃ」

「ふにゃ?」

おいおい、このベッドは音声も出るのか?そんな機能が必要とは思えないけど。

「…………痛い」

「……」

うん。音声機能だよな?音声機能だと言ってくれ。このちっこい人形の膨らみは、多分ぬいぐるみか何かだよな?!

「いった〜い!!!」

 

 

 

「ぎゃぁああああ!!」

「殺すっ!!」

結果、現在幼女に追っかけられる創造神の図が出来上がった。

何この子!寝起き超悪いよ!?言い訳とか全然出来なかったんだけど!!確かに、気付かずに踏んでしまった俺が悪いんだけどね?!

「何事だ?」

少し先のドアが開いて、中からユウが顔を出した。助かった!この子なんとかして!!

「霞?何を……」

そう言って俺の後ろを見ると、いきなり顔色を悪くして無言のまま中に引っ込んでしまう。

「なんで?!」

「……つ〜かま〜えた〜」

突然肩にかかる手、振り返ると悪魔の様な笑顔の幼女が紅い目を光らせていた。

 

……そこから、俺の意識は暗闇へと落ちていった。

後々聞いた話だと、窓を突き破り門の外まで吹き飛んで、地面に頭から突き刺さっていたらしい……。




霞「酷い目にあった……」

作「フランちゃんの寝起きは、ユウさんでも勝てないらしいですからね」

姫「アレはちょっと……私でも相手をしたくないわ」

霞「姫咲がそんな事言うとわ……」

作「んじゃ、次回もお楽しみに!!」



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閑話/Collaboration3~綺麗な花には棘があるらしい~

作「と言うことでコラボ3話目です!」

霞「今回はあのキャラが出るのか……」

作「本編でもまだ出てないのに、これこそコラボだからこそ出来る事ですね」

霞「そんなもんか?」

作「というか、あちらさんのキャラと違わないか不安で不安で……」

作「……なら最初からコラボとか言うなよな」


「だ、大丈夫ですか?師匠」

身体の至るところを包帯でグルグル巻にされている俺を見て、美鈴は心配そうに聞いてくる。

先程紹介されたレミリアの妹、フランドール・スカーレットにコテンパンにされた後、俺は回収され治療を受けた。珍しく死を覚悟したぞ。死なないけど、痛いものは痛いんだから。

「もう!レディの部屋に勝手に入るなんて失礼だよ!!」

そう言うのは俺を吹き飛ばしたフランドール。

俺達はあの後、メイド--咲夜が入れてくれた紅茶で寛いでいる。ちょうど日陰が作られるバルコニーに並べられたテーブルには、色とりどりのケーキやクッキーといい匂いがする紅茶が並べられている。

「レミリア、霞が襲われるのわかってたろ」

「えぇ、そうなる運命だったのよ」

「いや、なら教えてくれよ」

まったく、このロリっ子は。

威厳を出したいのだろうが、最初に挨拶した時とは打って変わって、今は全くないからね。なんせユウの頭の上に乗ってるんだもん。

「……ユウ、良いのか?」

「……もう諦めてる」

なんか、天照と俺を見ているような感覚だ。俺はここまで小さくないけど。

「……霞、今なんか失礼なこと考えなかったか?」

「イエイエ、ソンナコトナイデスヨー」

俺は目を逸らし、口笛を吹く。

「……いや、吹けてないからな」

「なんと!?」

「これ、美味しいですね!!」

「あぁ、ほらほら。汚れちゃってますよ」

口の周りをクリームだらけにしている美鈴(小)を、まるで妹を見る様な目をしている美鈴(大)。

「これが紅茶と言うものなのね。何時もはお茶かこーひーしか飲まないから初めてだわ。美味しい」

「ありがとうございます」

1歩下がった所で待機している咲夜は恭しく頭を下げる。うむ、メイドってのもいいもんだな。ウチでも雇うか?

「流石に咲夜ほどのメイドは何処にもいないんじゃないか?」

「……なら創る?」

「おい、さらっと人体錬成するみたいな事言うなよ」

これだけの完璧メイドを錬成するなら、代価はいくらになるんだかね。

「それで、次はどこに行こうか」

ユウは頭の上のレミリアを落とさないように、器用に紅茶を口にしている。……慣れてるなぁ。

「そうだな。レミリア、なにかオススメは?」

「……私を呼び捨てにしているのは不快だけど、しょうがないわね。なら『太陽の畑』なんてどうかしら」

「太陽の畑?」

その単語を聞いて真っ先に想像したのは、1面の畑から足首まで土に埋まった天照が、大量に生えている所。その全てが何故か俺に飛びかかろうとしたところで俺は現実に戻ってくる。

「なにそれ、怖いんだけど」

「?どんな想像したのかわからないが、1面花が咲きほこる綺麗なところだぞ?」

あぁ、なんだ。まさかアイツがこの世界にまで来ないよな。……来ないよな?

「ただ、そこの植物を傷つけると厄介な事になるから、それだけは気をつけないといけないが」

「ふむ?それくらいなら大丈夫だろ」

流石に姫咲も、態々花を折るような事はしないだろうし。美鈴ならウッカリって事もあり得るが、そこは俺が注意していれば済む話だ。

「なら、その太陽の畑ってのに行ってみようか」

 

 

 

紅魔館を後にして、少し飛んでいると遠くで大地が黄色く染められているのが見えた。

近づけばそれが大量の向日葵だと気付き、溢れかえる花の香りが心を落ち着かせるようだった。

「壮観だな。これだけの向日葵は、元の世界でも見たことないぞ」

「ここを管理している妖怪が、花の世話をちゃんとしているからな」

なるほど。これだけ手入れの行き届かせるのは並大抵の事では無いはずで、それだけその妖怪が花を好きなのだとわかる。

「綺麗ですね」

「向こうにはこの花以外にも咲いているわよ」

広い畑には向日葵以外の花も咲き誇り、ココだけ空気が違うようだ。

「……あら、ユウじゃない。どうしたの?」

ふと、1人の女性が花畑の間から姿を見せ、コチラに気付いた。

日傘をさしたその女性は、緑色の髪を短めに揃え、その姿は何処かのご令嬢のようだった。さっきのレミリアより威厳があるんじゃないか?

「幽香か。実はココにいる客人を案内していてな。少し見せて貰っても良いかな」

「あら、そうなの?……花を傷つけないなら構わないわよ」

「ありがとう。俺は異世界の神をしている、神条霞だ。アソコでワチャワチャしているのが俺の連れで、姫咲と美鈴という」

「……気を付けてね」

既に俺から離れ、好き勝手に花を愛でている2人に、些か不安はあるが、なんとかなるだろう。

「それにしても、これだけの花を手入れするのは大変なんじゃないか?」

「そうでもないわよ。毎日少しずつ、ちゃんとお世話をすれば花達は綺麗に咲いてくれるわ」

花の話をする時の幽香は、本当に嬉しそうな笑顔で語る。

これは、戻ったら同じようなものを作ってもいいかもしれないな。

「……所で、霞って言ったわね?」

「んぁ?そうだが?」

呼ばれた幽香を見ると、確かに同じ笑顔なはずなのに、何故か先程と違った、妖艶な笑みに変わっていた。

「……貴方、かなり強いでしょ」

「…………それは『酒が』とか、『ジャンケンが』とかじゃないよな?」

「当たり前じゃない。……さっきから貴方からとてつもなく大きな力を感じるのよ」

この笑顔は見たことがある。封印される前の姫咲と同じだ。この子もジャンキーなんですか。そ〜ですか。

「少し、遊んでいかない?」

「うわぁ、内容が違うなら即答なお誘いなのに、全然嬉しくないなぁ……」

ふと、ユウの方を見ると目線を逸らす。……こうなる事をわかってたろ。

「……ご愁傷さま」

このお子様は……。やってもいいが、タダでは済まさん。

 

 

 

「目に悪い空間ね」

「言うなよ。傷つくぞ」

周りの花を傷つけないように、異空間の中へと移動する。

俺が好きでこの柄にしてるわけじゃないし、壁紙みたく好き勝手に変えられるわけでもないんだ。

「じゃ、どうやって勝負を決める?」

「相手が死ぬまで、では?」

「…………それだと俺に負けはないよ?だって俺、死なないし」

「……巫山戯た能力ね」

ご尤も。でもそうじゃなきゃ創造神なんてやってられないわ。

「ならどちらかが降参するか、気絶するまででいい?」

「ま、しょうがないわね」

そう言うと幽香は日傘を閉じてコチラに先を向ける。

「まずは挨拶よ」

次の瞬間、傘の先端から太い光が放たれた。なにそれ、レーザー?!

俺は霊力を込めた右手で正面からレーザーを殴る。

「だっらぁ!!」

殴られた光は軌道を変えて彼方で爆発を起こす。うっわ、なんつー威力だよ。

「それを殴る貴方の方が異常だと思うわよ」

いやいや、かなり力を込めたからね?若干手が痺れてるからね?

「普通ならアレで消し飛んでるわよ」

そう言いつつ、今度は傘を刀のように振りかぶる。俺はバックステップで避けると、霊力弾をばら撒く。

幽香は再び傘を振るって霊力弾を撃ち落とすと、地を蹴って一気に距離を詰めてきた。なるほど、この子は近距離戦が得意なようだ。

突き刺しにかかる傘の先端を掌で横から叩き、ワームホールを通って距離をとる。

「まったく、あのスキマ妖怪みたいな事をして」

「それって、褒めてる?貶してる?」

「想像に任せるわ」

 

 

私と美鈴は、この世界の神であるユウと3人で霞の戦いを観戦していた。

「やっぱり、霞って強いんだな」

何を言ってるのかしら。貴方だって霞に負けないほどの神力を持ってるくせに。

「いやいや。流石に霞に力押しで来られたら負けるよ?」

確かに、今までの霞はその殆どを有り余る霊力や神力で、相手を押しつぶす事で勝利してきた。霞には技術よりも力押しの戦術の方が向いているみたいね。

「師匠は大丈夫でしょうか?」

「いやー。流石に幽香じゃ霞には勝てないだろ」

「そうなんですか?」

まぁ、私もそう思う。2人とも同じ様な系統の戦い方をする分、単純な力量の差が勝敗の差になる。そういう意味では力押しで勝てる相手なんて、居ないんじゃないかしら。

「ほら、そろそろ決着もつきそうだぞ」

「あら、案外早かったわね」

あの幽香って妖怪も、なかなか楽しそうな相手だけれども、霞の相手じゃなかったみたいね。まだまだ霞も本気を出していないもの。

「あれでどれくらいだ?」

「……そうねぇ。『今の状態で』7割くらいじゃないかしら」

「……へぇ」

流石に霊力だけじゃもたないのか、いつの間にか神力を使っているけど。

 

 

 

「いやー。強いな」

「慰めは不要よ。貴方に一撃もマトモに入れられないのだから」

少しばかり危ういのが何度かあった為に、しょうがなく神力を使ったが、今度は力を使いすぎたのか幽香を圧倒し出してしまった。やっぱり力加減ってのが難しい。

「……そろそろ限界みたいだから、次が最後よ」

「んぁ。なら真正面から受けてやろう」

俺は腰を落とし、右手に神力を込める。

幽香は傘の切っ先をコチラに向けて妖力を込める。最初に打ったものよりも、その込められた妖力は倍以上違う。正真正銘全力のようだ。ならばそれを避けるなんて、無粋な事は出来ないな。

「行くわよ!!元祖・マスタースパーク!!!」

放たれた特大のレーザーは、その反動からか幽香も吹っ飛んでしまう。

「お見事!!」

目の前に迫る光は俺の視界を埋め尽くすほど大きく、純粋な力の塊だからか、素直に綺麗だと感心してしまう。

俺は神力を込めた右手で迎え撃つ。純粋な力と力はぶつかり、眩い光を放って爆発を起こした。

 

 

そして静寂が訪れ、最後に立っていたのは…………。




霞「また変なとこで切ったな」

作「次回が気になるように?」

霞「……お前、kan(kai)さんのやり方をパクったな?」

作「失礼な!!パクリじゃなく、リスペクトです!!」

霞「ものは言いようだな」



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閑話/Collaboration4~さよなら前夜らしい~

作「はい、コラボ4回目」

霞「あと何話くらいなんだ?」

作「一応、次回で終わりですね」

霞「長いようで短かったな」



 

「……」

どうも、異世界を旅行中の創造神。霞です。

迷い込んだ世界の神であるユウに案内されて、現在『太陽の畑』と呼ばれる場所に来ています。

んでもって、そこを管理している妖怪とちょっとじゃれあったのだけど……。

「……ここまで綺麗な土下座は久しぶりに見たな」

「師匠、流石にやりすぎちゃいましたものね」

「力加減が下手なのよ」

もったくもって反論できない。

最後の最後、幽香が全力の一撃を繰り出してそれを迎え撃つのに、ちょっとだけ力が入ってしまったようで。

幽香の一撃をいとも簡単に打ち破った俺は、その勢いのまま普通に殴ってしまった。まぁ、簡単に結果だけ言えば幽香は気を失い、寝込んでいる。

「言い訳できねぇ……」

「ま、まぁ幽香自体が勝負を仕掛けたんだし、その結果がどうであれ、文句は無いはずさ」

そうであれば良いんだが。

 

目が覚めた幽香は、俺に負けた事が悔しいのか、最初は苦虫を潰したような顔をしていた。が、俺の十八番でもある土下座を目にして、目を丸くしていた。

「気にしてないわよ。私が貴方より弱かった、ただそれだけの事でしょう」

「そうか?」

ならば肩の荷が降りるってもんだ。

「それにしても、流石に強すぎない?」

「……そりゃそうだろ。幽香が相手にしていたのは別世界とはいえ、創造神なんだから」

「……はい?」

なんだよその反応。らしくないってか?

「そりゃそうでしょ。……まぁそれに関してはユウもあんまり人の事は言えないけど。神様ってもっと恭しいものだと思ってたわ」

んな堅苦しくなんてしても、なんも良い事なんてないだろ。

それに、俺は自由を司る神だしな。

「いや、霞はもうちょい威厳とか出した方がいいと思うぞ?」

「そうか?」

なるほど。威厳ね。

……んなもんどうやりゃいいんだろ。

 

 

 

太陽の畑を後にした俺達は、いきなりスキマから顔を出した紫の勧めで、夕食をご馳走になる為紫の家に向かっていた。

「良いのか?お邪魔しちゃって」

「構わないわ。そちらの世界の話も聞きたいし」

まぁ、そんなことで良ければ幾らでも。

……しかしながら、改めて思う。

コチラの紫と俺の知っている紫が同じとは言わないが、こんなふうに成長するのかと思うと感慨深いものがある。

暫く会っていないが元気でやっているのだろうか。頼りがないのは……ってやつか?

「さ、早く帰りましょ。今日はユウの好きなマグロの赤身も用意してあるわよ」

「なんだと?!……霞、急ぐぞ」

好物なのだろう赤身という単語を聞いたユウは、あからさまにそのスピードを上げる。いや、そんなに急がれても俺は着いていけるが、紫は無理じゃないか?

「……お子様だな」

「そこが可愛いのよ!!」

あぁ、これはこの反応を見たくて言ったな。

「タダでさえ可愛くて抱き心地抜群で、その上強いってのにあんな子供心も持ち合わせているなんて!最高じゃない!!」

「……あぁ、はいはい」

まったく、やっぱりどんな世界でも紫は紫のようだ。

 

 

 

八雲家に着くと紫の式の藍が迎えてくれた。

昼間にあった時とは違い、今は割烹着に身を包んでいて。何処か高級料亭の女将のような容姿に、落ち着ける田舎の宿の雰囲気を纏った、なんとも不釣り合いな出で立ちな筈なのに凄く似合っていた。

「お食事の用意は出来ております。どうぞ居間の方へ」

「……ほぉ、流石九尾の狐。こういった持て成しも様になっているな」

褒められて嬉しいのか、金色に輝く尻尾が少し揺れている。

 

「で、どうなんだ?帰れそうなのか?」

「んぁ?」

用意された夕食に舌鼓を打ち、もてなされるだけでは心苦しいのでコチラも御神酒を振舞っていると、ユウが切り出した。

「そうだな。そろそろ計算も終わりそうだし、明日には帰れるだろう」

「おぉ、そうか」

昼間からずっと、薄く神力を張り巡らせこの世界の情報を集めていた。他の生物に影響を与えないように、探知できなほどの薄さでの操作は、他の作業が疎かになるから嫌なのだが。

大凡の計算は終えたので、後は誤差の出ないようにするだけ。また異世界に飛ばされるなんてまっぴらゴメンだからな。

 

 

 

食事も終え、一夜の宿を提供してもらい、姫咲と美鈴は既に床についていた。

俺は屋根の上に上り、月を眺めつつ酒を飲んでいた。

「……なんだ。こんなところに居たのか」

「ん?ユウか」

「何してるんだ?」

空を飛んで屋根まで上ったユウは、俺の隣に腰を下ろす。俺はもう一つ杯を創り差し出すと、酒を注いでやった。

「ただの月見酒だよ」

「ふーん。なんとも風流だな」

雲一つない空に浮かんだ月は、遮るものがないからか綺麗に酒に映る。

「……少しばかりだったが、楽しかったよ」

「……そりゃ良かった」

多分、俺の世界の紫が夢見るのは、こういった人間も妖怪もそれ以外も、同じ空気を吸って、いがみ合いながらも許し合い、相反しながらもその境界を有耶無耶にする様な、そんな世界なんだと思う。

もし同じような世界を作れたとしたら、これほど素晴らしい事は無いだろう。

「……できるさ。なんせ霞の弟子なんだろう?俺の弟子でも出来たんだ」

「……そうだな」

それはなんの根拠もない言葉ではあったが、お互いに確信に近い物を胸に感じていた。

 

 

その後は二人とも多くを語らず、ただ酒を酌み交わし続けた。

 




美「お土産は何しましょうか?」

姫「この何も入ってない賽銭箱でいいんじゃない?」

霞「やめてさしあげて!!」


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閑話/Collaboration5~光の日らしい~

作「はい、どーも!保存の効くナマモノ、しおさばです!!」

霞「……向こうの作品の前書きに出演させてもらったようだな?」

作「いやー!なんかオリジナルのスペカも作っていただいちゃって、ワタクシ感無量であります!!」

霞「実際のコイツは、タダのロリコンでしかないからな」

作「霞さん?そんな褒めても何も出ませんよ?」

霞「何処をどう聞いたら褒められてると思うんだよ」

作「さて、そんな事はさておき、コラボ最終話です!!」

霞「アチラはまだ何話かあるようだから、コッチを読んだら……いや、読まずにアチラさんを読んでくれ」

作「何故に読者を減らそうとするっ?!」


「グッモーニン!エブリワン!!」

意味不明な掛け声と共に、紫がスキマから顔を出していた。

昨日はあの後、二人ともいい気分で床についたのだが、一気に頭が頭痛で痛くなる。

うちの紫も将来はこうなるのだろうか。

「ってか、何故に顔だけ出してるんだ」

「……お布団の中って、気持ちいいわよね」

つまり自分は布団の中にいながらも、俺達を無理矢理に起こしたのか。

「朝から五月蝿いわね」

「………………ぐぅ」

おい美鈴。綺麗に二度寝をかますな。

「朝食の準備は出来ているわ!準備が出来たら居間へゴーよ!!」

なんでこの紫はこんなにも元気なのだろうか。

 

その理由は紫を起こしに行った藍の声が響き渡ることで理解出来た。

どうやら夜中にユウを自分の布団へとスキマで移動させ、モフモフしていたらしい。

どうせモフモフするなら藍の尻尾の方がいいと思うんだが。

「何を言ってるの!藍の尻尾とは比べ物にならないくらいユウは抱き心地抜群なのよ!?これを一度知ってしまったら、尻尾程度じゃ満足出来ないわ!!」

「知らねぇよ……」

それよりも、いい加減ユウを離してやれよ。ユウも諦めた表情してんなよ。

「朝からこの状態の紫に何を言っても無駄なんだよ」

うわぁ、マジで諦めてやがる。

 

 

 

朝食を済ませた俺達は庭へと下りていた。

漸く座標の計算も終わり、元いた世界へと帰ることができるようになったからだ。

ただ、普通に帰っても面白くない気がする。なんか土産話になるような事でも1つ無いものか。

「そう言えば、今更なんだけど。霞とユウってどっちが強いの?」

そう言い出したのは姫咲だった。

何を急に言うかなこの子は。神としての性質自体が違うんだから、どっちが強いとか関係ないだろ。

「そんなの、うちのユウに決まってるじゃない!!」

紫は自分のことのように胸を張りながら答えた。……あと姫咲、恨めしそうに紫の揺れる何かを睨むな。

「そ、そんなことありませんよ!!師匠の方が強いに決まってます!!」

はい、美鈴。お前は何を張り合ってるんだ。当の本人達は困惑の極みなんだが?

「あ〜ら、何を言ってるのかしらこのちびっ子は。ユウにかかれば幾ら創造神と言えども敵じゃないわ!!」

「そんなことないです!!師匠は一番偉い創造神様なんですから!どんな神様であろうと負けるはずがありません!!」

「お、おい……お前ら落ち着……」

「貴方(師匠)は黙ってて(下さい)!!」

「あ、はい」

「弱っ!もう少し頑張れよ霞!!」

いや、だってこうなった美鈴は俺の言う事聞かないし。そっちの紫だって火がついちゃってるじゃないか。

「……そう。どうしても認めないと言うのね……」

「当たり前です。私の師匠がこんなちっちゃい神様に負けるわけがありません!」

おいおい。幾ら自分の方が僅かに高いからと言って、それは言い過ぎじゃないか?

「ならば……ユウ!そちらの霞と勝負して!!」

「師匠!師匠の実力を見せつけてやってください!!」

お前らは何を当人抜きで言っているんだ。

「お、おいユウ。これ止めなくていいのか?」

「……ここまで暴走したら無理だろう。それに正直、どっちが強いのか気にならないと言えば嘘になる」

えー。異世界とは言え神と手合わせなんて、面倒臭いことこの上ないんだが。

「……まぁ、しょうがない……か」

全くもって、最後の最後に面倒事起こしやがって。

 

 

 

「掌握」

一応、神と神が勝負をするのだから、周りに被害が出ないわけがない。予め空間掌握の能力を発動し、周りを保護する。

「勝負は1回。どちらかが相手にクリーンヒットさせるまで、でどうだ?」

「……まぁ、それなら」

そう言って俺は夜月を美鈴に預ける。ユウが手ぶらで武器を何も持たないのに、俺だけが夜月を使うのはなんとも心苦しい。

「……へぇ、余裕なんだな」

「それなりに場数は踏んでるからな」

俺とユウは少し間をとって向かい合う。

流れる空気は澄み切っていて、静かに草木が揺れた。観戦している者達も、その空気に飲まれ言葉を発せずにいた。

「……なら、行くぞ」

「遊んでやるからかかって来い」

俺は最初から神様モードになる。幾ら余裕な発言をしたとはいえ、相手は俺と同等の神。手加減をしていれば俺がやられる。

「神様モード!神力、3割開放」

溢れる神力を身体に纏う。ユウの能力がどんなものだか知らないが、今までの感じからして近接戦を仕掛けてくるだろう。

ならば防御を固めなければ一撃で終わる、なんて事もありえるからな。

「流石創造神様だな。ここまで純粋で澄み切った神力は久しぶりに見たよ」

「それはどーも」

そう言ってユウは地を蹴る。一気に間合いを詰めると、拳に神力を乗せ殴る。

俺はギリギリまで引き付けて、身体を捻ることで躱すが、どうやら掠ってしまったようで、頬から血が流れた。

血を拭うこともせずに、捻った回転の勢いを殺さず、そのまま力いっぱい背中を蹴る。

しかしながら、俺の足は空を蹴り、見るとユウは再び間をとっていた。

「なるほど。強いな」

「冗談言うな。今のでその程度の傷しか付けられないんだぞ」

どうせ本気でやってないくせに。

それは俺も同じか。

「……なら今度はこっちの番だ。見様見真似!マスタースパーク!!」

昨日の幽香が繰り出した、極太のレーザービームを放つ。真っ直ぐに向かうビームを、ユウは横に飛ぶことで避けようとする。が、そんな事はわかりきっている。俺は力任せにレーザーの方向を捻じ曲げた。

「なっ!?」

レーザーが直撃すると同時に爆発が起こり、辺りは土煙で見えなくなった。

「……どうせ無傷なんだろ?」

煙が晴れると、そこには涼しい顔をしたユウが立っていた。

「まさか、少し擦りむいたわ」

おいおい。どんだけ硬いんだよ。

全力とは言わないが、それなりに力を込めたつもりなんだけど。

「……まったく。面白い奴だ」

「そりゃコッチの台詞だよ」

 

 

 

「……ねぇ、私達が言い出した事だからアレだけど。もしかしてとんでもないことになるんじゃない?」

「当たり前じゃない。お互いに全力じゃないにしても、神と神が勝負をしているのよ?霞が辺りと一緒に私達を保護してくれてなけりゃ、今頃皆まとめてあの世行きよ」

今更ながらに気がついたのか、この世界の紫は顔色を悪くしている。

「だって!まさかユウと渡り合えるなんて思わなかったんだもの!!」

それはコッチも同じよ。数ある神の頂点である霞と、いい勝負が出来るのは私くらいだと思っていたけど、今の霞なら私でも苦労しそうだわ。

しかし、あのユウって神もなかなかやるわね。霞が封印されてるとは言え、神力を3割も使って倒せないなんて。

「アレで3割なの?しかも封印って何よ!?」

「今の霞は本来の力の半分も出せないのよ。その半分の3割。封印されていなければ1割弱ってとこかしら?」

「……規格外な強さね」

まぁ、その原因は私なんだけど。余計な事は言わないでおこう。

「それを言うなら、ユウだってまだ能力を使ってないでしょ」

「まぁね。霞が力の総量で異常なら、ユウは扱える力の質で異常なのよ」

 

 

「さて、そろそろお遊びは終いにしようか?」

「そうだな。これ以上続けると世界そのものに影響が出かねない」

流石に俺の空間掌握があっても、それを超えた力が加われば制御出来ないからな。小さいが、至るところに空間のヒビが走っている。

「そんじゃ、最後に全力で行きますかね」

「そうだな」

俺は両手を合わせる。

「神力、全開!!」

封印されて以来初めてかもしれない、神力の全開。纏うオーラはその青さを増していき、空間を飲み込む。

「すげぇな」

そう言ったユウも、どうやら能力を発動したのだろう。纏う神力が段違いに膨れ上がっていた。

その量で言えば明らかに俺の方が多いのだが、どうも質と言うのか、扱う力の源が違うのか、ユウから感じる力には雄大な自然を感じられた。

「ユウ、お前と会えたことに感謝しよう」

「一体誰に感謝するんだよ」

「……そりゃ……神?」

「お前も俺も神だろが」

ご尤もで。

俺とユウは力の全てを右手に込める。お互いに狙うのは同じようだ。

重心を低くし、相手に意識を集中させる。多分、勝負は一瞬だろう。だからこそ、全力を尽くす。

木の葉が舞い落ちる。世界も空気を読んだのか、風すらも息を飲んだかのようにその動きを止めている。

1枚の葉が地面と接した、その瞬間、お互いは動き出す。

 

2人の拳が触れ合うと同時に、お互いの力は反発しながらも混じり合い、それは世界を包み込むほどの光を発しながら2人を中心に広がっていく。

「うぉおおおおっ!!」

「でりゃあああっ!!」

 

後に『光の日』と呼ばれる、2人の勝負は眩い光の中で決着を迎えた。

 

 

 

 

「んじゃ!これでサヨナラだな」

「そうだな。もう会うことも無いのかもな」

今回、この世界に来れたのは偶然の産物であって、狙って来たわけじゃない。それに度々俺が異世界へと足を運ぶのは、元の世界にとっても、この世界にとっても宜しくは無いだろう。

「もし、万が一……いや億が一また会えたら、今度はゆっくりと酒でも飲もうじゃないか」

「そうだな。その方がよっぽどいい」

お互い、アレだけの勝負は二度とゴメンだ。なんせ疲労感が半端ないからな。

かく言う今も、美鈴と姫咲に支えられて、ようやっと穴を開くことが出来たのだから。

「……ん」

「?……あぁ」

差し出した右手とユウの右手が繋がる。これだけで十分だ。二度と会えないかもしれないが、俺達は確かに出会って、そして友達になれたのだから。

「ありがとう。この世界の神よ」

「さようなら。異世界の神よ」

 

こうして、俺達の異世界での短い旅は、幕を閉じた。

 

異世界の神、ユウ。その名を俺は決して忘れる事は無いだろう。




作「はい、最終話でした!」

霞「今回、コラボをしていただいたkan(kai)さんには圧倒的な感謝を」

作「コチラとしてもいい勉強になりました」

霞「感想でも『コラボが面白い』と言っていただけたりと、嬉しい限りだな」

作「今後とも、当作品と「幻想郷をふらふらと」を宜しくお願いします!!」





kanさ〜ん!!ありがと〜!!


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閑話/Collaboration6~ふらふらと裏話~

しおさば=し
kan(kai)さん=k
ユウさん=ユ
かすみん……霞=……霞でいいじゃねぇか!!

そんな感じです。
わからない?

細かいことは気にするな!禿げるぞ!!


霞「いや、タイトル長ぇし!!前書き意味わかんねぇし!!」

 

し「初っ端から元気ですね、かすみん」

 

霞「誰が『かすみん』だ!!」

 

し「チミだよ?」

 

霞「……よしわかった。どうやらアッチで勝手にスペル発動してkanさんを地獄送りにしたらしいし、お前も直行でいいよな?……答えは聞いてない」

 

し「いや、聞いて?!」

 

k「あのー。お呼ばれしたのはありがたいのですが、企画始めませんか?」

 

霞「あぁ、kanさんか。ちょっと待っててくれ。コイツを文章では表現出来ない様にするから」

 

し「……確定事項?」

 

霞「オフコース」

 

ユ「バリバリの日本語発音だな」

 

霞「細かいことは気にするな!」

 

-----少々お待ちください。

 

 

 

 

 

 

し「はい、という訳で座談会という名のコラボ裏話〜♪」

 

霞「わー(棒読み)」

 

k・ユ「なんであの状態から復活してるんだろ」

 

し「さてさて、お互いにコラボも無事全話投稿を終えたわけですが、如何でしたか?」

 

霞「コチラとしては、初めてのコラボだったし、ましてやコッチからお願いしたコラボだからな。失礼が無いかと常にヒヤヒヤしていたよ」

 

ユ「まぁ、それに関してはコッチも好き勝手にやっていたから、同じだと思うが」

 

し「何をおっしゃいますか!!十分に霞……かすみんのキャラクターを活かしていただいておりましたよ」

 

k「そう言って貰えると嬉しいですけど」

 

し「正直、コラボをお願いする段階で、何度メッセージ送信ボタンを押すの躊躇したことか」

 

霞「まぁ、その結果読者に喜んで貰えれば良いんだが」

 

--企画へ--

 

し「さて、無駄話もそこそこに、企画を進めろとカンペも出ましたので」

 

ユ「あれ誰だ?」

 

霞「あぁ、何時ぞや真苗の為に創った守矢の狛犬。『阿』と『吽』だよ」

 

ユ「あれ?居たっけ?」

 

し「多分人見知りしたんですよ」

 

霞「シャイなんだ」

 

k「それで良いのかな」

 

ユ「いや、お前が書かなかったのが問題なんだろ?」

 

し「まぁまぁ。特に阿吽に関しては登場させなくても問題ありませんし。これから先もそんなに出ませんし」

 

霞「あ、そうなの?」

 

k『ってか企画進めなくて良いのかな……』

 

 

 

 

し「では企画ひとつめ。裏話的なヤツ〜」

 

霞「なんかアバウトだな」

 

し「その方が色々と喋れるでしょ?」

 

ユ「コッチの裏話はコッチでも喋るから、出来たら『古神録』の裏話が聞きたいんだが」

 

k「そうですね。なんかないですか?」

 

霞「ふむ。そうだな……」

 

し「強いていえば、投稿ペースですかね」

 

k「あ……やっぱり遅かったですか?」

 

し「いやいや、そうではなくてですね。実はコラボの話が決まった後、2、3日でプロットを作っちゃったんですよ」

 

ユ「は、早くないか?」

 

し「他の作者さんがどれ位で作り上げるのかわからないですけど。……そんでプロットの段階では、ソチラの話数と揃えるつもりだったんですけど、楽しくなって一気に書いてしまって……」

 

霞「kanさんの事とかスポーンと抜けてガンガン書いちゃったと」

 

し「いやー。kanさんには変なプレッシャーになってはイケナイと思いつつ。結果的に焦らせてしまったようで、申し訳ございません」

 

k「あ、あぁ……いえいえ」

 

ユ「うちのも筆が遅くて申し訳ない」

 

し「いえいえ。面白い作品を作っていただけたので。kanさんの作品の一読者として楽しかったですよ」

 

霞「そっちで俺が初登場する場面とか、ニヤけてたよな」

 

し「だって自分が作ったキャラクターが、別の作品で喋ったり騒いだりしてるんですよ?嬉しいに決まってます!!」

 

ユ「そんなもんなのかね」

 

霞「よくわからんが」

 

し「まったく。これだからチートは……」

 

霞「チート関係なくね?!」

 

--CMです--

 

 

し「はい、それでは続いての裏話ですが」

 

霞「これは作品とは関係無いんだが、うちの駄作者とkanさんが、最近よくTwitterでやり取りをしているようだな」

 

し「おぉ!そうですね。kanさんにはよく『いいね』をしてもらってます」

 

霞「あんな意味の無い呟きにまでしてくれるとは…………暇なの?」

 

し「こら!かすみん!!そんな失礼な事いっちゃ、めっ!!」

 

霞「……」

 

し「まぁ、Twitterで色々とやり取りをして、作品の事とか、他愛もない事とか話してたりしますね」

 

ユ「そうなのか?」

 

し「詳しくは……多分アッチで書きますよ」

 

霞「投げやがった」

 

し「こうやってコラボがキッカケに他の作者さんと繋がれるって凄いことですよね」

 

k「確かに。こんな事が無ければココでメッセージのやり取りをするだけだったかもです」

 

し「こうやっていろんな作者さんと繋がっていきたいですね」

 

霞「なんかいい話で締めようとしてないか?」

 

し「余計な事言わないの!」

 

 

 

し「今回の苦労話でもしますか?」

 

霞「なんかあるのか?」

 

し「そりゃありますよ!ユウさんをどうやったらカッコよく表現できるか、とか常に考えてましたよ?」

 

k「そうなんですか?」

 

し「そりゃぁもう。考えすぎて夜しか寝られないくらい」

 

霞「充分だろ。ってか夜も寝てないじゃないか」

 

ユ「そういや投稿するのは夜が多いよな」

 

し「なにぶん夜型人間なもので」

 

k「それでも夜中の2時とかには流石に寝ましょうよ」

 

し「だが断る!!」

 

霞「さて、アホな作者は置いといて。」

 

し「アホとはなんだ!!せめて駄作者と言え!!」

 

ユ・k『駄作者はいいんだ……』

 

霞「そちらでもコラボ後の座談会という体で1本あげてくれたみたいだな」

 

k「えぇ、投稿しましたよ」

 

霞「さっき読ませて貰ったけれど、なんかうちの駄作者が無理に1ヶ所追加させてしまったみたいで、申し訳ない」

 

k「いえいえ。どうやらコチラの作品で伏線に使うみたいで……」

 

し「ひょーーーーーいっ!!kanさん?それは言っちゃダメですよー!!」

 

霞「伏線?なんかあったか?」

 

ユ「よく覚えてないんだが」

 

k「そりゃそうですよ。だって紫さんが……」

 

し「ぬっぷぅあっーーーー!!だからダメですってーー!!」

 

霞「うるせぇな。どうせその伏線も回収出来ずに終わるんだろ?」

 

し「……?何言ってるんですか?既に最終話までの大まかなプロットは完成してますよ?」

 

霞「……は?」

 

k「それ、Twitterでのやり取りでも聞きましたけど、マジですか?」

 

し「え?変?」

 

ユ「うちのはその時その時で頭抱えてるからな。羨ましいんだろ」

 

し「いや、私も毎回悩んでますよ?」

 

k「それでも目指す方向が出来てるのと出来てないのとでは話が違いますよ」

 

霞「……大丈夫。きっとそのプロット通りにはいかないから」

 

し「そうなるでしょうね」

 

ユ「それって意味あるのか?」

 

し「あんまり無い!!」

 

k「自信タップリに言うセリフじゃないですよ?!」

 

 

 

 

 

--エンディング--

 

し「はい、というわけでエンディングです」

 

霞「こんなんで良いのか?」

 

し「なんかkanさんも前編と後編に分けるようなので、コチラもそうしようかと」

 

霞「なるほど、パクリか」

 

し「リスペクトだ!!」

 

霞「知らんがな」

 

し「さて、今回はコラボ座談会前編と言うことで、ゲストにkanさんとユウさんに来ていただきました」

 

k「……しおさばさんってこんなキャラでした?」

 

し「普段は猫被ってます!!」

 

ユ「……うちでのしおさばさんも相当だったが、本物は違うな」

 

し「なんならph7をかけましょうか?」

 

霞「……?水なんてかけてどうするんだ?」

 

k「やめて!!人の黒歴史掘り起こさないで!!」

 

し「kanさんは本当に面白い方ですねー」

 

霞「お前、他所の作者さんで遊ぶな!!」

 

し「……え?かすみん?……なんでそんなに怒ってるのかな?」

 

霞「よくよく考えてみたら、お前アッチで派手に遊びすぎだろ……」

 

し「ふ、不可抗力!!」

 

霞「却下」

 

し「慈悲は?」

 

霞「無い」

 

し「……痛くしないでね?」

 

霞「善処しよう」

 

イャァァァアアアアッ!!

 

 

 

 

k「……え?あ、締め?私がしちゃっていいんですか?」

 

ユ「……いいんじゃないか?」

 

k「な、なら。これからも『幻想郷をふらふらと』を宜しくお願いします」

 

ユ「次回も登場するから、よろしく」

 

 

 

 

 

--この番組は、『幻想郷をふらふらと』と、読者の皆様のお陰でお送りしました--



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閑話/Collaboration~ふらふらと裏話②~

し「はい、kanさんが後編を投稿したのでコチラも後編!!」

 

霞「あ、はい」

 

k「え?そんな理由?!」

 

霞「kanさん。気にしちゃいけない」

 

し「アチラでの裏話を読んでいただけるとわかりますが、結構な裏話をしてましたね」

 

ユ「コッチではどんな話をするんだ?」

 

し「そうですね……。コチラの制作秘話、とでも言いましょうか」

 

霞「そんなもんあるのか?」

 

し「ありますよ〜」

 

 

--制作時の話--

 

し「今回、『ふらふらと』の世界にお邪魔したのは霞さん、姫咲さん、めーーーーりーーーーん!!だったわけですが」

 

霞「美鈴だけおかしいのは無視してくれ」

 

k「あ、はい」

 

し「アチラの裏話でも言っていましたが、実は最初、行くのは美鈴では無く夢乃ちゃんにするつもりだったのですよ」

 

霞「そういやそんな事を言ってたな」

 

ゆ「なんで変わったんだ?」

 

し「それには深い深い事情があるのです……」

 

霞『あ、これは下らない理由だな』

 

k「そ、それはいったい?!」

 

し「kanさん。今回のような相手の世界にお邪魔するコラボでの、ポイントになるのってなんだと思います?」

 

k「??……なんでしょう」

 

し「それは『同じ人物なのに作品でキャラクターが違う』って事ですよ!!」

 

ユ「あ〜。確かに、紫なんかは全く違うキャラだったな」

 

し「読者の皆様にとっては違和感があったりするかも知れませんが。作者としたら、『こういった見え方なのか』と思うわけです」

 

k「そうですね。うちではあんな問題児の紫も、コチラでは淑女に育つ可能性が見えましたから」

 

霞「ここで敢えて『可能性』と言うのはどうなんだろうな……」

 

ユ「深くは聞くまい」

 

し「つまり、作者それぞれのキャラクターへの見え方が知れる。また、自分では気がつけなかったキャラクターの個性が見えるのです」

 

霞「それが美鈴が登場した理由に?」

 

し「そうです。まぁ、せっかくコチラではまだ出来ていない幻想郷に行くので、成長した美鈴を書きたかった、というのもありますが」

 

霞「なら、それこそ紫でも良かったんじゃないか?」

 

し「……残念ながら、あの時には紫さんは卒業した後でしたから。実際、本編では『幻想郷が出来たらまた会おう』と言ってますから、出しにくかったのです」

 

k「あ……。それなのに紫βを出しちゃって申し訳ない」

 

し「いえいえ。それは良いのです。夢乃と紫が顔を合わせていないから、この先の展開にはなんも影響無いので」

 

霞「……それ、この先のネタバレにならないか?」

 

し「細かい事は気にするな!禿げるぞ!?」

 

ユ「ま、まぁ。しおさばさんの言う通り、同じキャラクターなのに違う目線で見る、いい機会にはなったな」

 

k「コチラでは美鈴はまだ出てませんけどね」

 

し「しょうがないのです。さっきも言いましたが、紫さんは出せません。となると、オリキャラ以外で出せるのは美鈴だけですから」

 

霞「そういやそうか」

 

k「何も考えてないようで、意外と考えてるんですね」

 

ユ「おい失礼だろ」

 

霞「いやいや、良いんだよ。コイツはプロットが出来てるのに、書いてる途中で話をガラリと変えるような奴だから。勢いだけで書いてる時もあるんだ」

 

し「勢いって、大事」

 

 

 

--制作時の話②--

 

し「制作時の話でもう一つ。kanさんは投稿するまでの3日の間、2日をネットに使っていた、とアチラの裏話で言っていましたよね」

 

k「それに関しては申し訳ない」

 

霞「……お前、それは責められないよな?」

 

ユ「どういう事だ?」

 

し「前回でも言いましたが、今回のコラボのプロットは、最初の時点で既に完成しております!!」

 

霞「って事は、1日置きどころか、下手すりゃ1日で全話書くことも出来たんだよ」

 

k「つまり、私の投稿を待ってくれていたと?」

 

霞「違うな。多少の手直しには確かに時間を使っていたけれど、それ以上に時間を使っていたのは……酒だ」

 

ユ「酒?」

 

霞「コイツ、投稿が終わればその度に酒を飲んでいたんだ。その結果、次の日は二日酔いしてるし、その次の日はグダグダとダラケてるし」

 

ユ「ダメ人間だな」

 

し「だってお酒が好きなんだもん!!」

 

k「受験生の身としてはわからないですけどね」

※『受験生』という単語から、勝手に未成年だと判断しております……。

 

し「でもでも、飲んだ後は色んなアイディアが浮かぶんですよ?」

 

霞「知らん」

 

し「冷たい!!」

 

霞「まぁ、そんな理由であのペースでの投稿になったんだ」

 

ユ「コチラも強くは責められないな」

 

k「や〜い!ダメ人間〜♪」

 

し「ダメ人間っていう方がダメ人間なんだぞ〜!!」

 

霞・ユ「子供か!!」

 

 

 

--どうして?--

 

ユ「そう言えば、どうしてコラボをしようと思ったんだ?」

 

霞「……確かに。今回、お前からお願いをしたんだろ。なんでこのタイミングでコラボだったんだ?」

 

k「確かに気になりますね」

 

し「あ、気になる?気になっちゃいます?」

 

霞「うぜぇ」

 

し「お答えしましょう!!今回、コラボに踏み切った理由を!!」

 

霞「……」

 

し「なにか?」

 

霞「いや。続けて、どうぞ」

 

し「ふむ。今回、コラボをお願いしたのはですね。kanさんがいつも感想を書いてくれていたってのが大きいですね」

 

k「感想、ですか?」

 

ユ「そういや結構書いてるな」

 

し「いつもありがとうございます」

 

k「いえいえ。こちらこそ」

 

し「そんでもって、kanさんの作品を読んで、この主人公を自分が書くとしたら、どんな話に出来るだろうか。と思いまして」

 

霞「たんなる好奇心か?」

 

し「そう言ってしまえば終わりですが。立ち位置的にも似ているじゃないですか、オリキャラだし、強い神様だし」

 

霞「ふむ」

 

ユ「似てるか?」

 

k「きっとしおさばさんの中ではそうなんですよ」

 

し「でも気になるからこそ、二次創作なんて作っているんだと思いますよ?原作の世界にこんなキャラクターがいたらどうだろう、とか自分だったらこの事件でこういった立ち回りをするのに、とか思うからこそ、二次創作でそれを実現させていると」

 

k「それは否定出来ませんね」

 

し「それがたまたま同じ原作の作品で、別の二次創作だったってだけです」

 

霞「まともな理由だった……」

 

k「普段どんな目で見られてるのか、わかるな」

 

し「そんな趣味はないですよ?」

 

ユ「……この人、よくわからん」

 

--大団円--

 

霞「エンディングでいいだろ?!」

 

し「さて、長々と続きましたコラボ回ではございますが、これにて本当に終わり!!」

 

霞「告知回も含めれば、コラボだけで8話も書いたのか」

 

し「いや〜、いい勉強になりました!」

 

k「こちらこそ、勉強させていただきました」

 

ユ「いい思い出になったよ」

 

霞「それじゃ、kanさんとユウさんには一言いただきましょうか」

 

k「そうですね。偶然の産物ではありますが、この様なコラボをする事が出来て、とても楽しかったです」

 

ユ「これがそれぞれの作品に活かされて、より面白くなることを、俺達登場人物もだが、読者の皆も望んでいると思う」

 

k「その期待に答えられるよう頑張りますので、これからも『幻想郷をふらふらと』をよろしくお願いします!!」

 

し「んじゃ、コチラは代表でかすみん!」

 

霞「まだその呼び方するんだな……。あー。突然のコラボって事で、色々と迷惑をかけたかもしれないが、良い機会だったと思う。これからkanさんの作品は一つの事件を迎えるわけだし、コチラも転換期に突入した。今回のコラボでより良い物になるよう、作者と俺達も頑張るので、読者の皆様には変わらず暖かい目で見守って欲しい」

 

し「ってなわけで、『Collaboration』は終了です。これからも『幻想郷をふらふらと』と『東方古神録』をよろしくお願いします!!」

 

し・k・ユ・霞「「「「ありがとうございました〜!!」」」」



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閑話4/風邪薬は苦いらしい

作「閑話〜!!」

霞「今回は誰だ?」

作「んなもん見てればわかる!!」

霞「よく分からんが、なんでそんなテンションなんだよ」


「はい、ってなわけで第2回作者権限!!」

「「「いぇ〜い!!」」」

 

どうしてこうなったのか、落ち着いて思い出していこうと思う。

確か、昨日は紫と藍と、一緒に飲みに行っていた。馴染みの飲み屋に行って、凡そ1樽程の酒を飲んだのは覚えている。

問題はそこからの記憶がないということだ。

本来、俺が酔うなんてことはまずない。鬼と飲んでも、飲み勝つ自信はあるし、実際勝っている。

それが記憶を失う?ありえない。なんなら樽をあと二つ程飲んでも、ビクともしないはずなのに。

「……やられたな」

つまりは俺の意識を混濁させるような、薬か若しくは術が掛けられていたのだろう。

そんな事を出来るのは、紫か永琳くらいか。

 

「そんじゃ早速行ってみよー!!」

おい、俺の回想とか無視すんなや。

 

-------------------

 

「んで、今回は永琳か」

「あら、不満かしら?」

一瞬の意識の喪失の後、俺の隣には永琳が立っていた。

いつもの如く、赤と青のツートンカラーな服を着て、何故か不敵に笑っている。

「ってか、お前酒に何かしただろ」

「わかった?流石に貴方を眠らせる薬なんて、作るの大変だったのよ」

そんな苦労をしながら、なんでココまでするかな。

若干呆れつつも、俺は現在位置を確認する。確か、前回は現代の横浜に居たはず。今回は……。

「……人里……か?」

「えぇ」

そこは見慣れた建物が並ぶ人里だった。

「んで、ココで何がしたいんだ?」

「……そうね。特には決めてないわ」

「はい?」

 

 

 

-------------------

 

「おや、霞さん。今日はまた別の別嬪さんとご一緒で」

「あら、お上手ね」

人里を歩くと顔見知りが多いのか、霞は良く声をかけられる。さっきは団子屋の女将に、今度は魚屋の主人。寺子屋の子供たちにまで懐かれているのは多少驚いた。

「今度またいい魚を仕入れておきますんで、また宜しくお願いしますよ」

「あぁ、まぁその時には寄らせてもらうよ」

 

「意外と人気なのね」

「一応、これでも神様だからな」

だとしたら、逆に馴れ馴れしさを覚えるのだけれど。

普通ならば神とは人に崇められる存在。こんな人里を平気で歩き回るような事はしないと思うのだけれども、そこは霞だから、で納得するしかない。

遥か昔から、霞はそうだ。何ものにも縛られず、何ものをも受け入れる。いつか『自由を司る神』と教えられた時も、なるほどと納得してしまったし。

 

私と霞の関係は、多分人間では1番長いのではないだろうか。まだ月の民が地上に生きていた頃からの知り合いだし、何より私の命の恩人でもある。

霞と出会ったあの日、怪我をした私の前に颯爽と現れ、妖怪から助けてくれた。あの時は、不覚にもトキメイてしまったものだ。

「少し疲れたわね。アソコで休みましょう?」

「んぁ?わかった」

まさか私を助けたのが、この世界の創造神だなんて思いもしなかったけれど。

それは今も時々思う。本当に創造神なのだろうかと、疑問に思わされてしまう。それくらい、私の知っている神と言う存在と霞はかけ離れていた。

こうやって私と並んで、人里を目的もなく歩きたい、なんて怒られても仕方ないような願いも、霞は嫌な顔一つせず叶えてくれる。

 

「もうちょい他にやりたい事とか無いのか?」

「やりたい事?」

そう言われて悩む。本当は今回だって、あの作者に言われてから悩み抜いて決めたことだし。

何時もならば、研究室に籠って新薬の開発など、机に向かっていることが多い日常で、突然『1日自由にしていい(霞付き)』と言われても、何をしていいのかわからない。姫様には『偶には外で遊んできなさいよ』と、逆に私が言いたくなるような台詞を言われたし、てゐには『師匠の逢引。……これは売れる!!』とか不穏な事を言われるし。

年頃の娘ならばわかるが、少しばかり(?)歳をとってしまった私には、何をすればいいのかなんてわかりもしない。

「よくわかんないわ。普通はこういう時って何をするの?」

「あ、それを俺に聞いちゃうんだ」

「だって、都市にいた頃も貴方が無理矢理外に連れ出してたじゃない」

「そうしないと飯も食わずに、1日平気で部屋に閉じこもってたからだろ」

否定は出来ない。そう考えると、今も昔もあまり変わっていないようね。

 

-------------------

 

何をしていいのかわからない、と言う永琳を連れて、俺達は人里を歩く。

特に目的は無いが、偶には外の空気も吸わせないと。

「そう言えば、輝夜は元気か?」

「えぇ、元気に引きこもっているわ」

「どっちなんだ?アグレッシブなニートとか、意味わからんのだが」

ふと頭の中に浮かんだのは、キーボードクラッシャーと化した輝夜の姿。いやいや、この時代にパソコンはないし。

「そんなこと言うなら、偶にはウチにも来なさいよ」

「悪いな。至って健康なもんで、病院には無縁なんだ」

それは残念、と皮肉を言う永琳をよそに、色々な店を見て回る。

……こんなんでいいのか?

 

-------------------

 

「お、お疲れ様でした。満足していただけました?」

「いや、なんでそんなにボロボロなんだ作者」

日も暮れてきた頃、俺たちの前に作者が現れた。どうやらそろそろ終わりのようだ。

「いや〜、あの姫様の相手と兎のイタズラは、流石に作者をでも手に終えませんね」

「お、おぅ……」

その顔から察するに、余程酷い扱いを受けたらしい。そんなん見せられたら、益々永遠亭への足は遠退くばかりだ。

「久しぶりに気分転換が出来たわ。ありがとう」

「そいつは良かったよ」

こんなんで良ければ、いくらでも付き合うのに。

「それじゃ、次は姫様やてゐも一緒に」

「あぁ、そうだな」

と言うか、そうしないと輝夜は不貞腐れるだろうな。あの我が儘娘は。

 

「また何かあったら、何時でもいらっしゃい」

そのセリフと共に、永琳は竹林の中へと消えていく。

そんな頻繁に病院の世話にはなりたくないもんだが。まぁ、これからは顔を出すくらいはしてやるか。

そうしないと永琳も輝夜も、一生外に出ない生活とかしそうだもんな。

 

こうして、永琳との1日はノンビリとした空気の中、終わりを告げた。

偶にはこんな1日も、良いんじゃないかな。




作「作者なのに死にかけた!」

霞「なんで?」

作「あの兎っ子……」

霞「あぁ、察したわ」



感想お待ちしております
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どうやら神様を始めたらしい・・・
0話/拒否権はないらしい・・・


どうやら拒否権はないようです。


小さな頃から、人生の目標は『無難に生きる』と決めていた。

それは両親の影響が大きいが、それはそれ。今は特別語るようなことでもない。

そんな俺、神条霞は仕事を終え、駅から家までを、疲れきった足を引き摺りながら歩いていた。

「あ〜、免許取るかな〜」

そんな事を考えながら、途中で寄ったコンビニでコーヒーを買い、飲みながら空を見上げる。

ここ数年、意識して見ることもなかったが、今夜は月が綺麗だ。

そんな風にボーっとしながら歩いていると、どうやら家を大分過ぎてしまったらしい。大分疲れているのだろうか。

いかんいかんと頭を小さく振って意識を戻す。

この辺りは、昔ながらの家が多い、すこし寂れた地域。子供たちが良く肝試しに来るような廃屋があるくらいだ。

ほら、そんな話をしたからか、その建物が見えてきた。

「昔は立派な建物だったろうに」

大きな門の前で足を止める。

聞いた話だと、いつからココに建っているのかも分からないほど古く、今では所有者もどこにいるのかわからない。洋風の、所謂、館と言うやつだ。

しかし、皆から気味悪がられるこの館も、俺からすると何処か懐かしい気持ちになる。

何故だろう。

 

そんな事を考えていると、遠くで車の音がした。

 

『こんな時間に、この通りを車?』

と思いながらも、端に寄る。

車のライトが近づいてきた。

 

 

 

 

 

「………………え?!」

気がつくと、知らない天井。

 

あれ?俺は?え?

 

身体を起こして辺りを見回す。

上も下も、右も左も真っ白な空間。

真っ白だから、どこまで広いのかもわからない。

 

「え〜と……ここは何処だ」

え、なに?俺は誘拐されたのか?アレだぞ?俺の両親はそんな事をしても身代金なんか1円たりとも出さないぞ?

「そんな事は百も承知だ」

突然背後から声がした。驚きつつも振り返ると、白い着物の青年(俺より少し年上か?)が立っていた。

「気分はどうかな?神条霞よ」

「……良いか悪いかで言えば、悪いな」

そう言いながらこの男を観察する。顔立ちは……ムカツクがイケメンってヤツだろう。俗に言う10人中12人が振り返る程の。

「カッカッカッ。だろうな」

笑いながらその場に腰を下ろした。

「で?あんたは誰で、此処は何処だ」

俺も男と少し間を置きながらも腰を下ろす。

「まぁそうなるだろうな。まず、儂が誰かと言うならば、お主らの言う『神』と言うやつじゃ」

「は?神?」

コイツ、頭おかしいのか。普通自分で神と名乗る事はないだろ。

「……いや、そんな目で見るでない」

「どっかの新興宗教の勧誘なら間に合ってます」

「違うわっ!」

そう言うと(自称)神様は床に指で丸く円を描いた。

「信じる信じないはお主次第じゃ。だが、ここからは儂が神として話を進めるからの」

「は、はぁ」

見ると描いていた円の中が蒼く光っている。

「此処が何処かという質問ならば、あの世とこの世の狭間、とでも言うべきかの」

「は?あの世?!なら俺は死んだのか?!」

「まぁ落ち着きなさい」

(自称)神様は両手で抑えるように宥める。

俺は馬か。

「お主は確かにこの世では死んだ。だが本来ならばまだあの世に行くべき時では無いのだ」

「は?」

「これを見よ」

先程の蒼い円の中に俺の情報が浮かび上がる。なんだこれ、3Dマッピングとか言うやつか?

「お主は本来、103歳まで生きて老衰で死ぬ予定だった。しかしこちらの手違いでの、この日に死なせてしまったのだ」

「うわぁ、長生き〜。って、ちょっと待て、手違いってなんだ!」

「いや、ちょっとコーラを零しちゃって」

俺は人生でこれ程までに腹の立つ『テヘペロ』を見たことがない。

「なのでお主には今一度人生を送ってもらおうと思っての」

「なら俺は生き返れるのか?」

「いや、そうではない。お主の生きていた『この世』にはお主の人生は残されておらん。別の世界に転生してもらうことになる」

転生って、なんかめんどくさいことになって来たな。

「あ、ちなみに拒否権はないからの」

「ないのかよ!!」




ってなわけで初投稿でした。
誤字脱字はお許しください!!

ご意見ご感想お待ちしております!


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1話/転生したらしい

あと何話か一気に投稿したいとほんのり考えています。

あ、ほんのりですよ?


どーも。霞です。

前回のあらすじ?

死にました。

 

「さて、早速だが始めようか」

(自称)神様が立ち上がる。

「いやいやいや、ちょっと待てや。俺は納得してねぇよ!」

「なにを言うか、お主が納得しようがしなかろうが、もうこれは決まったことだ」

「うわぁ、オーボーだ」

いつか絶対この神殴ってやる。

「痛くしないでね?」

「気持ち悪い」

ってかコイツ今、普通に心読んだな。

「当たり前だ、だって神だからな」

「はぁ……わかった。んで、転生ってどんな世界に行くんだ?」

「ふむ。東方projectというゲームの世界だ」

「ゲーム?」

「そうだ。そこには神も人間も妖怪もいる。所謂ファンタジーの世界だな」

そんな世界に行ったら一週間と生きている自信はないぞ。

「大丈夫。今回の転生はこちらの手違いだからな、特典、というかお主に有利になるようしてある」

「そりゃありがたいこって」

なんとも有難い特典だが、そうなった原因もコイツだから素直に喜べない。

「さてさて、では転生を始める。一応、後で取り扱い説明書を送っておくから読んでおくといい」

「取説?!なんの?!」

「行けばわかるさ迷わず逝けよ!しゅっぱ〜つ!!」

「ちょっと待て!今、字が違ったろ!!お〜いっ!」

 

 

 

再び気がつくと、今度は一転して真っ黒な空間。

ただ、違うのは上も下もないこと。俺は今、立っているのか?横になっているのか?

コレ、このままいけば発狂するんじゃないか?

そうこうしてると何処からともなく、1冊の本が浮かんできた。

タイトルは『これで安心!東方projectへの転生!!』

これはあれか?俺をバカにしてるのか?どうせあの神のセンスで造られたものだろうし。

 

読み進めるとすご〜く気になる一文があった。

読み進めると、というかモロに出だしだったが

『この世界はまだ宇宙すら誕生していないから、そこから宜しく!』

………………は?

宇宙誕生以前とかなに言ってんだ、あのバカ神は。

『次のページから宇宙の作り方書いてあるから』

あぁそうですか。

いやいやいや。納得するな俺よ。

つまりなんだ?俺は神様にでもなるのか?創造神か?

というか、どうやって作るんだよ。小学生の図工じゃねぇんだぞ。

 

はい、ありました。次のページにはこんな一文。

『君には転生するにあたって1つ特典をあげました。それは能力と言われるもので、まぁぶっちゃけチートな能力。『ありとあらゆるものを創造し操る能力』ってやつを。まずは宇宙を想像して創造してみましょう!れっつとらい!!』

どうしてこうも俺をイライラさせるのだろうか。

しかもなんだよ能力って。中二病か?

……まぁ嫌いじゃないけど。

 

さて、やってみますか。

読み終えた取説をその辺に放り投げ、目を瞑る。

意識を集中して何処ぞの錬金術師よろしく手を合わせる。

はい、できました。

いや、俺の知ってる宇宙誕生とは違いすぎません?

ビックバンだっけ?とかはどうした?

気がついたら太陽とかいくつかの星が出来てるし。

あ、でもまだ地球は無いのね。

まぁ、何億年かしたら出来るだろう。

 

 

……ちょっと待て、億年?

いや死ぬがな。

億ってどんだけだよ。

……あ、自分の寿命を操ればいいのか?

うん?できない?あれ?

 

あれ?紙が飛んできた。

あぁ、アイツか。

『あ、寿命に関してだけど、この世界の地球が、君の死ぬはずだった年まで経たないと死ぬことも老いることも出来ないから安心しなさい。』

うわぁ、余計なお世話だぁ。

俺は普通に生きて普通に死にたかったのに。これじゃ何年生きることになるんだよ。

 

早く地球出来ねぇかな




はい、というわけで主人公のチート能力でしたね。
まぁ、これから色々と詰め込みますが。味付け濃すぎないように善処します!!


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2話/神様は大変らしい

はい、3話目ですね。

夜中に寝れないからって、俺は何やってるんだかね。

あ、それじゃどうぞ。


あ、どーも。

この世界の創造神。霞です。

 

前回からどれくらい経ったか?

知らん。一々数えてらんないし。

こっちは暇を持て余して、色んなものを作ったり作らなかったり。

で、待ちきれずに地球を誕生させました。

 

それからどんくらい経ったか、いつの間にか1人の少女が隣に立ってた。うん。誰?

「はじめまして、私は龍神と申します」

「あ、これはどうもご提供に、神条霞と言います」

お互いにペコリと頭を下げる。

「存じておりますよ。なにせ私のお父上ではないですか」

はい?

俺はいつの間にリア充になったのだ。こちとら年齢イコール彼女いない歴を絶賛更新中だというのに。

「私は本来ならばあの星の創造神として生まれる予定でした。ですが、お父上があの星を創造されたので、私は後から生まれてしまったのです」

あー。もしかして俺は余計なことをしてしまったのかね。

「ならこっから先はアンタに任せるわ。えーと……龍神?」

「はい。かしこまりました」

 

それからは幾らか楽だったね。なにが?

いや、ずっと1人で居るよりは、喋る相手がいるだけでも違うだろうに。

 

さて、数千年経った頃、どうやら地上に人間らしき生物が生まれたらしい。いや、早いだろ。

まぁ、もうこの世界で何が起きようと気にしないけど。

更には何柱かの神も龍神が生み出した。

伊邪那岐と伊邪那美?天照?月夜見?よぅわからんが。

何より、全員俺を父と呼ぶな。

「さて。俺は地上に降りてみるよ」

「……あの、お父様。失礼ですが寝言は寝て言ってくださいな。そんなお目目パッチり開いて言われると不気味です」

と、月夜見。なんと失礼な。

「なに、ダメか?」

「ダメに決まってます」

今度は天照だ。

「一応訊きますけど、何用で?」

「いや、今の人類ってどんな感じかな〜って」

「何処の世界に、人間の前に姿を現す創造神がいるんですか!」

「ここ」

あ、天照が頭を抱えたぞ。

「いや、だってね、俺もなりたくて創造神なんぞになったわけではないから。普通に普通な生活を送りたいわけよ」

と、創造神の俺が言ったら何とも言えなくなるだろう。

「まぁ、お父上はそういう方ですから。どうぞ後の些事はお任せ下さい」

そんなこんなで、皆に快く(?)見送られ、俺は地上へと向かうのでした。

 

 

 

 

 

 

「さて。どうしましょうか」

私は気の影に隠れながら頭をフル回転させる。

幾らかの策は出せるが、どれも到底不可能。

「なんせこの足じゃぁね……」

先程の戦闘で、どうやら足を切ってしまったようだ。

傷自体は深くないが、戦闘は不可能だろう。

都市からかなり離れてしまった為に、助けを呼ぶことも出来ない。

「どうやら……ここまでのようね」

まだまだやりたい事は数え切れないほど有るっていうのに。

ふと、諦めの溜息を漏らした。その時。

 

 

 

 

「あー。もしかしてもしかすると、助けた方がいい?」

 




ってなわけで、誰かさん登場ですね。
誰かな〜気になるな〜。


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3話/人助けしたらしい

はい、どーも。しおさばです。

あ、今回の内容?



タイトル通りですっ!!


あ、どうも。霞です。

 

なんとか無事に地上に降り立つ事ができました。

まぁ何度か死にかけたけど。

 

あ、俺死なないのか。

 

それはさておき。

何処からなにやら不穏な空気が感じられる。

ここからそう遠くない。

ん?なぜそんな事がわかるかって?

 

宇宙を作ってからどんだけ暇だったと思ってるんだ。

最初に読んだあの取説にも書いてあったしな。

おかげでどうやら神力はえげつない量を所有しているらしい。

いや、天照に訊いただけなんだが。

 

さて、どうするか。

ここは普通ならばカッコよく助けに行って、ヒーロー路線まっしぐらなんだろうけど。

俺は目立ちたくない。

というか、神ですらいたくない。

 

ふむ。どうするか。

 

 

 

 

 

この青年は誰なのだろう。

見たことは無い。

蒼い着物に白い羽織。艶のある黒髪と整った顔立ち。

一度見たら忘れるはずはない、つまりは都市の人間ではないのかしら。

だとしたら、この異常な光景も納得がいく。

都市の兵士でさえ、用もなく外に出ることを嫌がる。理由は簡単。穢れである妖怪が存在するからだ。

人間は余りにも弱い。非力だ。

その為人は知恵を持った。自分の身を守るために。

しかし最近の妖怪はそれすらも嘲笑うかのように、人間を捕食していく。

 

そのはずなのに。

 

 

 

はぁ、結局助けに入ってしまった。

まぁ、気付いてて助けないってのも、余りに寝覚めが悪いかな。

「さてと。どうするか」

前を見る。数は……と。ざっと20程。

「ってか、これが妖怪か初めて見るな」

パッと見、気持ち悪い容姿のヤツらばっかりだ。

基本的に爬虫類を元にしたような。

「まぁ、面倒だから纏めてかかってこい」

 

 

 

結果は一瞬だった。

創造した1振りの刀で横に薙ぎ払う。

それだけで辺りの妖怪は下半身と上半身は別れた。

いやー。やりすぎた?

まだ不慣れな『霊力』だから扱いが難しくて。

 

「あ、ありがとう」

助けた女性がお礼を言ってきた。

「いえいえ、どういたしまして」

よくよく見ると綺麗な人だな。

「俺は神条霞。怪我はない?」

「え、えぇ。私は八意××。言いにくかったら永琳でいいわ」

「え、永琳ね。うん、わかった」

立ち上がろうとする永琳は、どうやら足を怪我しているようで、上手く立てないようだ。

「まずはその怪我を治そうか」

「え?」

俺はその場に跪き、怪我の部分に手を翳す。すると温かい光が掌から溢れ出る。まぁ、やってる事は永琳自身の治癒力を高めているだけなのだが。

「な、なにをしたの?」

「え?あー…」

しまった、何も考えてなかった。そりゃ普通に考えりゃ、手を翳しただけで怪我が治れば気味が悪いだろう。

「まさか、貴方も能力を持っているの?」

「はい?」

お?能力?貴方も?

という事は、この人も能力を持ってるって事だろうか。なら話は早い。なにやら勘違いしてくれそうだから、そのまま話を持っていくまでだ。

「も、ってことは永琳も?」

「えぇ、私は『ありとあらゆる薬を作る程度の能力』よ」

「なるほどね。俺は……『治癒力を高める程度の能力』」

ってか、程度ってなんだ?

「ありがとう。もう大丈夫よ」

永琳は爪先をトントンと突いて調子を見る。

「それで、貴方はこれからどうするの?」

「ん?俺は唯の旅人だからな。別に何処か目的地がある訳じゃないし」

「なら一度都市に来ない?改めてお礼もしたいし」

「都市……か」

なんかめんどくさい事になる気がするが気のせいだろうか。

「ま、まぁ時間もあるし、お邪魔しようかな」

「えぇ、案内するわ」

 

こうして、俺は永琳と出会い都市へと案内されるのだった。




って事であっさりした戦闘シーンでしたね。

イメージとしては、主人公は東方を知らずに、また自分がどれだけ異常なのかを理解していない。って感じです。

ま、次回も生暖かい目で見てやってください。


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4話/はじめましてではないらしい

はい、どーも。しおさばです。

昨日初投稿して1日……

( ゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシ
 
(;゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚) …!

お気に入り……4……だと?!

ありがとうございます……ありがとうございます!!

期待に添えるよう頑張ります!!


どーも。霞です。

 

先程助けた永琳という女性と、都市へ向かっています。

 

道中色々と話を聞いてみると、彼女はどうやら都市では重要な位置にいる人物のようで。

……というか、さっきから凄い気になっていたんだが。

 

なんでこの時代にこんなちゃんとした服が有るの?

あれ?まだ地球が誕生してからそんなに経ってないよね?

オーバーテクノロジー?

 

「いやいやいや……」

どうやら着いたようです。

はい、おかしいね。なに?このドーム状のバカデカイの。

一度後ろを振り返ってみる。うん、間違いなくあの森から出てきた。途中でタイムマシンなんかに乗ったりもしてないし。いやあるのかわからんが。

 

「八意様!!ご無事ですか!!」

門番であろう大男が急ぎ永琳に駆け寄る。

「え、えぇ。大丈夫よ」

「軍部から妖怪共に襲われたと聞いて、肝が冷えましたぞ」

と、永琳の無事を喜んでいる。

「それで、そちらの方は?」

大男が俺の方を値踏みする様に見る。いや、男にそんなジロジロ見られても嬉しくないんだが。

「彼は神条霞。妖怪共から私を救ってくれた恩人よ」

「おぉ!左様でしたか!!神条殿、八意様を救っていただき感謝致しますぞ」

まぁ、悪いやつではないみたいだな。

「いえいえ。運良く駆け付ける事が出来て良かったですよ」

「それで、彼にお礼がしたいから中に連れて行きたいのだけれど」

「はっ、かしこまりました」

男がタブレットの様なものを操作すると、鉄製の大きな門は鈍い音を響かせながらゆっくり開いていった。

 

 

 

「まぁ、外があれなんだから、中も時代錯誤だよねー」

この場合、時代錯誤という言葉が正しいのかどうかわからないけど。

「何か言ったかしら?」

「いや、なんでもないよ」

俺と永琳はとりあえずこの都市のトップに無事帰ったことを報告、そして俺の事を説明する為に、1番デカイビルのような建物に向かっていた。

「この都市のトップってどんなやつなんだ?」

「あら、知らないの?ここは神様が治めているのよ」

……?神様?

あ、なんか嫌な予感。

「神様って?」

「名前は月夜見様」

はい、アウトー。

いや、感覚的にはさっきバイバイした奴にまた直ぐ会うって、物凄い気まずいんだが。

「あー。永琳さん?それって俺も行かないとダメ?」

「え?まぁ、貴方の説明をするのに貴方自身が居なければ、意味は無いわよね」

「ですよねー」

うわぁ、今すぐ逃げ出してー。

だって、月夜見だよ?

あの中だと1番融通の効かない神だったんだから。

「どうすっかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

大きく取られた窓から外を眺める。

先程、外に出ていた八意永琳が無事に帰ってきたと報告があった。どうやら、旅人に助けられたらしい。

ふむ、永琳の事だからそのまま一度、ココに報告に来るだろうから、その時に旅人を見てみるとしよう。

もし心身共にちゃんとした人間ならば、都市に残ってもらう様、頼むのもアリかもしれない。なにせ妖怪に勝てるような人間は極稀なのだから。

 

そんな事を考えているとドアがノックされた。

「月夜見様、八意です」

「はい。どうぞ」

さて、どんな人間なのでしょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼致します」

永琳がドアを開ける。

あー。もう逃げられない。

どんなに考えてもいい案が浮かばない。

……こうなったら後は出たとこ勝負で行くしかない。

「月夜見様、ただ今戻りました」

「えぇ、おかえりなさい。無事で何よりです」

はい、やっぱりあの月夜見ですねー。

「はい。彼に助けられました」

永琳がコチラを振り向きながら紹介しようとする。とうとう来てしまったか。

「……」

「……」

「……」

「……あ、どうも神条霞です」

「あ、どうも月夜見です」

この間、 約3秒。

その間には。

『霞様!?何してるんですか!!』

『何してるもなにも、人助けしたらお礼がしたいって言われたんだよ!』

『ついさっきお別れしたのに!!』

『んなもんコッチだってわかっとるわ!』

『っていうか、アレ?永琳を助けたのは人間だって……』

『人間にイキナリ、どうも創造神です。って挨拶するのか?!』

『……あぁ、なるほど』

『とりあえず、この場は初対面って事で済ませろ!』

『あ、はい』

というやり取りがアイコンタクトのみで行われていた。

どうやら永琳には気が付かれなかったようだが。

「あー。永琳?この方と少しお話がしたいので、席を外してもらってもよろしいですか?」

「え?はぁ」

永琳が部屋を出ていこうとする。

すれ違う時、永琳が「貴方、なにかしたの?」と聞いてきたが、答えないことにした。

ドアが閉められたのを確認し、月夜見が遮音の結界を張る。これでどうやっても外に俺達の声は聞こえない。

「で?何してるんですか、霞様」

「だから、地上に降りたらどうやら人間が襲われてると。んでそのまま見捨てるのも寝覚めが悪いから、ちょっと助けた結果がコレだよ」

俺は懐から煙草を取り出す。まぁこんな文明を築いているんだから、煙草くらいあるだろう。吸ってもいいよな?

「まぁ、あの者を助けていただきありがとうございます」

「なに。単なる気まぐれさ」

 

「それで、これからどうされるのですか?」

「んー?そうだなー。この都市も面白そうな所だし、少し観て回るってのも良いかなって思ってる」

「観光ですか」

「迷惑か?」

「主に私の精神的に」

なんて正直なんだ月夜見よ。

 

まぁ、そんなこんなでしばらくの間、この都市で暮らすことに決まったようです。




と、いうわけで、月夜見とのやり取り回でした。

てか、もしかしてコレ短いのかな?
よくわかんないや。


まぁ、次回も生暖かい目で見てやってください


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5話/NEETではないらしい

はい、どーも。しおさばです。

なるべく書ける時に一気に書く!
がモットーです!


あれから数日が経った。

あ、どうも、霞です。

 

この数日間、何をしていたかというと。

 

まぁ特筆するような事はなにも……。

 

偶に頼まれて外の妖怪討伐について行ったり。

偶に永琳の新薬実験体になったり。

 

特に永琳のは困った。

何度か能力が、使えなくなった事があったから。時間が経つと戻るけど。

 

まぁ、そんな極々平和な日常を送っていたある日。

 

「鬼?」

「そ、鬼」

俺は永琳に呼ばれ昼食をとっていた。

「どうやらここ数日、巨大な妖力の塊が外で何度か確認されているのよ」

「ふーん」

俺はラーメンを啜りながら話を聞く。ここのラーメンは特にお気に入りだ。

「いや、ふーんじゃなくて。その調査及び討伐を貴方にも手伝って欲しいのよ」

「だが断る」

俺は二枚目のチャーシューを口に運ぶ。ここはチャーシューぎ特に美味しい。店主もこだわっているらしく、すっかり意気投合した俺と店主はもはや盟友と言っても過言ではない。

そんな盟友は、俺が来る度にサービスでチャーシューを1枚多くしてくれる。

「まぁ、そうよね。いくら強くても鬼が相手だとね」

「そーゆーこと。まぁ余程強い鬼でなければ月夜見……様の力でなんとかなるんじゃないか?」

あーうめぇ。

「まぁ、この件に関してはもしかすると直々に月夜見様から依頼があるかもしれないから」

「は?なん……」

その時、地面が大きく揺れた。

どうやらどっかの妖怪共が侵入して来たらしい。なかなか珍しい。ま、軍の兵士に任せれば大丈夫だ……。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁああっ!!!」

そこには無残にも机から落ち、器の割れた愛しのラーメンがあった。もちろん、中身が無事な訳がない。

「最後の……最後の1枚が……」

最後に食べようと残しておいたのに。

 

 

 

「…………許さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ数日、ウチらの同胞を殺しまくっている人間がいるのは、たしかここのはず。

手下の妖怪に確認させたから間違いないのだが、どうも人間は全部おんなじに見える。

「あー。面倒臭い。向こうから出てきてもらうか?」

そう考えて、手当たり次第に暴れてみる。というか、人間はなんでこんなに脆い家に住めるのだろうか。もっと頑丈な家に住む方が良いのに。建て方を知らないのかい?

真四角でどうも頼りない。指で弾けば直ぐに崩れるし。

「早く出てこないかねぇ」

すると遠くから声が聞こえてくる。

「……………………ぁぁぁぁぁあああああ!!」

「?!」

その声はだんだん近づいてきているようだ。

「ごらぁぁぁぁぁああああああ!!」

なんだアイツは。物凄い勢いでコッチに走ってきてるんだが。

「だっしゃぁぁあっ!!」

「ごぱぁぁあっ?!」

あ、手下が吹っ飛んだ。

「テメェが犯人かぁ!!」

「え?……え?」

何を言ってるんだコイツ。犯人?ま、まぁ確かに人間からしたらこの騒動の犯人だけど。

「チャーシューの怨み……晴らさでおくべきか!!」

「はぁ?チャーシュー??」

その言葉を最後に、周りの手下がドンドン吹っ飛んでいく。どうやら噂の人間ってのはコイツみたいだ。

「ま、どうであれ結果的には誘い出すことは成功だね」

そう言うと、暴れている男に向かって私は走り出した。

 

 

 

 

 

あ、どうも八意永琳です。

 

先程お昼を霞と食べていた時に、どうやら都市へ妖怪の侵入を許してしまったようで。

それに気がついたのか、霞は物凄い形相で走って出ていきました。

なんだかんだ言いつつも、皆を守る為に奔走してくれる様です。

「チャーシューの怨み……晴らさでおくべきか!!」

……はい。どうやら違ったみたいです。

チャーシュー?さっきの?一体どんだけ好きなのよ……。

ただ、そこからの霞は凄かった。

私の目でも追いつけないほどの速度で移動し続け、手当たり次第に妖怪共を殴りつけている。え?殴ってるの?

でも、そんな中で1体、様子が違う妖怪がいる。霞を見て喜んでいるようにも見える。

「もしかして……あれが」

鬼というやつなのかしら。

 

 

 

 

 

 

ラーメンにおいて、最後のチャーシューとは、何物にも替え難い、人類の至宝とも言えるべき食物。

それを奪われるとは、許すべきか?否!!

「ゆるすまじぃぃい!」

俺は拳に霊力を溜め込み、そのまま殴る。霊力の細かい操作を必要としない分、単純な威力だけで言えば強力だ。

ドンドン下級妖怪共が吹き飛んでいく。

そんな中、少し異色な妖力を感じた。

有象無象な妖怪の中にあって、その量だけで見ても異質。

また、その濃さとでも言うのだろうか。

強いていえば、そう『色』が違うような。

今までの妖怪の色が薄い紫だとするならば、コイツはオレンジに近い。それもとびきりに濃いオレンジ。

「あんた、強いんだね」

「そりゃどうも」

うわぁ、話しかけてきたよ。なんだよこの妖怪。今までそんな奴居なかったじゃん。

「ウチはコイツらを纏めている鬼だ。あんた、ちょいと勝負しようじゃないか」

「いや、断りたいんですが」

だって面倒臭そうなんだもん。

「そんな事言うな…………よっ!」

そう言いつつ鬼は右手で殴りかかってきた。

俺はソレを首を傾げる事で避けると、後ろに少し飛び間を取る。

「いきなりだな」

「イイねぇ。今のを避けるかい」

まぁ、止まって見えるんだから、避けるだろ。

「なかなか楽しめそうだ」

「なかなか面倒くさそうだ」

俺と鬼は同時にそう呟いた。




はい!
やっとちゃんとした戦闘シーンを書けそうです!
そして、戦闘シーンは苦手です!!

まぁ、次回も生暖かい目で見てやってください。


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6話/チャーシューの神様になりたいらしい

はい、どーも。しおさばです。

今回は戦闘回!

さ、張り切って行きましょー!!


あ、どうも。霞です。

 

今ですか?

 

鬼がじゃれてきてるので、適当にあしらってます。

というか、この鬼の拳に当たったら痛いじゃ済まないだろうなぁ(人間は)。

「いい加減、一発喰らってくれないかい?」

「いや、痛いの嫌なんで」

そう言いながら、鬼の蹴りを仰け反る事で避ける。

鬼はそのまま勢いを殺さず、一回転しながら今度は殴ってくる。

今度は腕を払うように軌道をずらす。

「いいねぇ。人間でここまでやれるとは思わなかったよ」

「そりゃどーも」

だがいい加減飽きてきた。

「ただ、どうしてそっちからはなにもしてこないんだい?」

「は?だって面倒臭いし」

「え?」

そう言うと足に霊力を溜め、腰を僅かに落とす。

「ほら、もう少し遊んでやるから本気でかかってこいよ」

「舐めたまねしてくれるねぇ」

どうやら鬼に火をつけたらしい。まぁ、あんまり変わらんが。

「三歩必殺!!」

お、なんか必殺技っぽい。

「いちっ!」

一歩目。踏み込んだ瞬間に右手へと妖力が込められていくのが、目に見えてわかる。

「にぃっ!」

二歩目。おーおー。込められた力に耐えきれず、地面がめくれ上がっている。

「さんっ!!」

そして最後。最早その込められた妖力は、そんじょそこらの人間や妖怪ならば、跡形も無く消え去るだろう。

「これ、避けたら不味いよね……」

少なからず都市への被害が出るだろう。

「しょうがない」

俺は両足に込めた霊力を右脚に集中する。

そのまま右脚を振り抜き、鬼の拳を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

どうなったのだろう。霞と鬼が途轍もない霊力、妖力をぶつけ合った瞬間に眩い光が辺りを包み込んだ。

「か、霞?」

私は恐る恐る目を開く。

「んぁ?呼んだ?」

何故か背後で声がする。

「いや〜流石鬼だわ。すげぇ吹っ飛んだ」

そう言われて見ると、霞の背後に大きなクレーターの様な穴があった。

なら、あの鬼は?!

振り返るとようやっと土煙が晴れていく。

そこには大きなクレーターがぽっかりと開けられていた。が、鬼の姿はない。

「え?ど、何処に?」

「ん?あぁ、鬼ならほら、あっち」

霞が指差す方を見ると遥か先まで続く深い溝が伸びていた。

丸で巨大な鉄球が辺りの建物ごと、吹き飛ばしながら転がったかのように。

「あー。とりあえず人間に怪我人はいないから」

そう言うと霞は首を鳴らしつつ家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

「痛っ……」

気がつくと辺りは木に囲まれていた。

起き上がろうとすると上手くできない。どうやら両腕の骨が折れてるみたいだ。

「参ったね。完敗だよ」

ここはどう考えても人間の都市ではない。という事はここまであの時、吹き飛ばされたと言うことになる。

なんとも。かなわないねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜。疲れた〜」

「いや、それで、ココに来るのもどうかと思いますが」

俺は今、月夜見の執務室にいる。

「え?ダメなの?」

「いや、一応これでも仕事してるんですよ?私」

「おう、頑張れ」

そう言いつつ、俺は革張りのソファーに深く腰を下ろす。

「今回は俺がやっちゃったけど、今後こうやって妖怪が都市に入り込むことも考えとかないと」

「そうですね」

月夜見は書類から目を離さず答える。

「……まぁ、霞様には先に申し上げますが、今、月に移住するべきではないかと言う者が出てきているのですよ」

「月に?」

おやおや、またとんでもないことを言い出す奴もいるもんだ。まぁ、この都市の技術力ならば不可能ではないだろうけど。

「ふーん。で、お前はどう思ってるんだ?」

「そうですね。最近の穢れの進行具合から考えても、我々が地上に住み続けることは、長くは続かないと思います」

まぁ、今回の鬼の事に関しても言えるが、最近の妖怪は確実に強くなってきている。それもただ単純な力だけじゃなく、知恵も付けてきているのだ。

「面倒くさそうだ」

「最近、そのセリフ言えば良いと思ってません?」

「おい、メタい事言うな」




と、いうわけで鬼との戦闘シーンでした。

うん。不慣れだなって。
つくづく思います。

ご意見ご感想、お待ちしております。


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7話/アリさんマークではないらしい

はい、どーも。しおさばです。

お仕事の合間にプロット考えて、
結果、仕事が疎かになるというね。

本末転倒ですな(笑)


どうも。超絶暇な神様、霞です。

 

鬼と戦ってから数年経ちました。

え?イキナリすぎるって?

 

気にするな、禿げるぞ?

 

 

さて、あれから結局、月移住は可決され、計画は着々と進んでおります。

まぁ、天才の永琳が携わっているんだから、当然と言えば当然なんだが。

 

そして計画はいよいよ、数日後のロケット発射を待つまでになりました。

 

俺?今、月夜見に呼ばれて執務室に来ております。

「霞様、何をボーっとしておられるのですか?」

「……最近、月夜見が俺に対して冷たくなったなぁ、って考えてた」

「もうちょっと神としての振る舞いをして頂ければ、私もそれ相応の態度を取ると思いますが」

「それ、自分で言うか?」

俺は革張りのソファーに腰掛け、出された茶菓子を口へ放り込む。うむ。旨い。

「で?今日は何の用だ?」

「はぁ、今の話を無かったことにするのですね。……実は先日、不穏な噂を耳にしましたので、ご報告をと思いまして」

「不穏な噂?」

月夜見が点てた抹茶を流し込む。

実は抹茶なんて転生してから初めて飲んだのだが。意外と美味いんだな。

「ここ最近、妖怪達の動きがおかしい、とのことです」

「どんな風に?」

「以前迄ならば、隙あらば人間を襲うために門、若しくは外壁周辺に妖力の反応が点在していたのですが、ここ最近は周辺での妖力反応がパッタリと消えたのです」

「ふむ」

確かに、ここ最近は妖怪討伐の依頼も来なくなった。

それどころか、人間が襲われたという話も聞かない。

「これが単に偶然ならば気にすることもないのですが、なにせあの計画の最終段階。最早引き返せない所まで来ています」

「なるほど。妖怪達が何か企んでいるんじゃないかと?」

「えぇ」

最近の妖怪は知恵を付けてきていますので。

と、月夜見は付け加えた。

「ふーん」

「いや、ふーんって。もうちょっと真剣に考えてくださいよ」

月夜見は頬を膨らませて怒っている。いや、お前のその反応は神様としてどうなんだ?

「お前も、もうちょいと考えてもいいんじゃないかな?」

「え?」

「いや、いくら妖怪が知恵を付けたからと言って、コチラの計画が理解出来ると思うか?」

ロケットの開発は地下の格納庫で進められている。更には月夜見の結界付きだ。いくら妖怪の眼でも、中で何が行われているかわかる訳では無い。

「って事はだぜ?考えられる事は2つ。1つは都市内に妖怪が紛れ込み、尚且つお前や俺にすら気付かれる事なく潜伏して、外の妖怪に情報を漏らしている」

まぁ、妖怪がそんな回りくどいことするとは思えないが。俺や月夜見にすら気付かれない程の実力を持った妖怪ならば、そのまま気付かれることなく人間を襲っているだろう。

「確かに」

「そして2つ目。こっちの方が面倒くさいが。『人間』が妖怪に情報を漏らしているってことだ」

「人間が?そんな馬鹿な。そんな事をする必要が何処にあるのですか」

「理由?そんなもん知るか」

考えられない事では無いが。

例えば、月に行く事をよく思っていない、とか。

月に行くよりも、地上にいる事で何か得るものがある、とか。

「……」

「別にそれが正解だとは言わないが、そういう事も考えられるってのを覚えとけ」

「……はい」

そう言うと、月夜見は何処か悲しそうな表情で外を眺めた。

 

 

 

 

 

数ヶ月前に『月移住計画』が発表された。

地上の穢れが最早、看過できないまでになっている為、月へと移り住むとか。

それだけならば良い。いや、むしろ賛成だ。あんな穢れの塊である妖怪に、いつ襲われるかわからない、常に怯えて暮らす位なら月でも何処でも行ってやろう。

しかし、月へ移ったとしても、俺の生活が変わる訳では無い。一般市民の内の1人として、これからの人生を終える?そんなの真っ平御免だ。

ならば、この機を利用するほかない。

例えば、ロケット発射の日に妖怪共に襲わせる。

何とかして発射順の早いロケットに乗り込めば、生き残れる。だが最後の方のロケットは……生き残れないだろう。

そして、最後のロケットには、軍の兵士達が乗り込む予定。つまり、月には戦える兵士は居ないということだ。

そんななか、俺の能力を使えばそれなりの地位、いやもしかすると軍の司令官なんてのも夢じゃない。

そう、月での英雄に、俺は成れるのだ。

「英雄の誕生には、多少の犠牲は必要不可欠……だよな」

そう言い、俺はにやけるのを抑えきれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「引越しの準備だぁ〜!!」

「……叫んでないでさっさと働いて頂戴」

俺は今、永琳の引越し準備を手伝いに来ている。

何せ永琳の荷物は、一般人が触れるには危険な物が多いからな。……てか、この薬は何なんだ。

「あ、それ触れたら……いや、なんでもないわ」

「いやなんだよ!怖ぇーよ!!」

と、とにかく、治癒力を高める能力(と永琳は思っている)の俺位しか手伝えないとの事だ。あれ?俺なら良いの?

「つーか、この量の薬と本、全部持っていくのか?」

「まさか。本の内容は粗方頭に入っているから、貴重な物以外は処分するわよ」

なんとも、勿体ないって言えばいいのか、永琳の頭の良さに驚けばいいのか。

「良ければ持っていく?」

「いや、いらん。こんな本読んだら三秒で寝るぞ」

「もう少し粘りなさいよ」

そんな事言ったってしょうがないじょないか……(・ε・` )

と、脳内で世間を渡る鬼のモノマネをした所で、ふと気がついた。

外壁の外に、上手く隠しているが妖力の反応。

「……あー。永琳さん?ちょいとお花を摘みに行ってもよろしいか?」

「普通にトイレに行くって言いなさいよ」

 

俺はトイレに入るとあるものを創造した。任意の空間を繋げ、自分が許可したものを通す、所謂ワームホール。を創り出す能力にしとこう。なんか汎用性ありそうだし。

「で、この辺りのはずだが?」

「……やはり気がついたわね」

ワームホールを出ると外壁の外。森林がギリギリまで迫っているため、昼間でも薄暗く不気味だ。ただ、今回はそれだけが理由ではないようだが。

「君は誰かな?」

「私はルーミア。常闇の妖怪よ」

薄暗い森からその姿を現したのは、金髪の少女。黒と白の服を着込み、怪しげな笑みを顔に貼り付けている。

「そうかい。俺は神条霞だ」

名乗られたならコチラも名乗る。それが礼儀ってヤツだ。それが妖怪相手でもね。

「あら、御丁寧にどうも」

「で?ここで何をしてるのかな?」

「別に。最近、人間が何か企んでるって噂を聞いたから、確かめに来ただけよ」

そう言いながらも、何処から出したのか両刃の大剣を肩に担ぐ。

「いや、んなもん出して見学ですって言われても、信憑性皆無だから」

「あら、そうかしら?」

先程から、ルーミアの表情は変わらない。何処か、楽しそうな雰囲気も感じられる。あぁ、コイツも鬼と同じような性格なのか。

「それで?」

「妖怪が人間を見つけて、そのまま返すと思う?」

ルーミアがゆっくりと大剣を構える。目の高さに構えた剣は、鋒をこちらに向け、今にも一突きで心臓を抉ろうとしている。

いや、俺としてはバトルジャンキーに構ってる暇は無いのだが。早く帰らないと永琳に怒られる。

「はぁ……」

俺は小さく溜息を吐くと、霊力の制限を百分の一開放する。それだけでも月夜見なら漏らしかねない力量なのだが。

「……やるっての?」

「……」

見ると、ルーミアの構えた大剣は小刻みに震えていた。

「……止めとくわ。どう足掻いても勝てそうにないもの」

「わかってくれてありがとう」

「ただ、これだけは言っておくわよ。貴方達人間が何を企んでいるか知らないけど、妖怪を利用してタダで済むと思わないことね」

ん?何のことだ?

「それだけ言いたかっただけよ」

そう言うと、ルーミアはクルリと踵を返し、森へと消えていった。

妖怪を利用する?

人間が?

「……」

俺は、嫌な予感を胸にしまいながら、ルーミアご消えていった森を眺めていた。




はい、という訳で人妖対戦の少し前まで進みました。

ただ、普通に『人間』VS『妖怪』じゃ面白くないって事で、ちょっとひと手間加えてみました。

どーなるんでしょーか。

どーなるんでしょーねー。

あ、今回は
霞視点→??視点→霞視点でお送りしてますよ。


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8話/ロケット花火は人に向けてはイケナイらしい

はい、どーも。しおさばです。

古代編はあと2、3話で終わりです。




諏訪子とか神奈子とか、どうやって出すかなぁ。


どうも、1日5食ラーメンでも構わない、霞です。

 

いよいよロケット発射当日になりもうした!

 

昨日は地上最後ということで、いつものラーメン屋の親父と呑んだり、チャーシューについて熱く語ったり。

非常に有意義な時間を過ごした。うん。永琳には冷たい目で見られたけど。やめろよー、新たな扉を開きそうになるだろー。

 

そんなこんなで順にロケットに乗り込み作業を進めています。

月夜見が考えていた妖怪共も、どうやら近くにはいないのか、気配を感じないし。

これなら無事にお月様まで行けそうですな。

 

「御免なさいね、一緒のロケットに乗せたかったのだけど」

永琳が申し訳なさそうに言う。どうやら、都市の要人は最初のロケットに乗るらしいが、俺は(一応)一般市民なので最後のロケットに割り振られた。これに関しては月夜見も強くは言えなかったようだ。

「別に構わないさ。どうせ行先は同じなんだから、早いか遅いかだけだろ?」

「そうだけど」

「ほら、兵士が呼んでるから、さっさと乗り込んじゃいな」

さっきから向こうで永琳を、呼ぶ声がする。

「また後でね」

「おうよ」

そう言って永琳はロケットへと乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

さて、ココまでは計画通りに進んでいる。

大金を叩いて3順目のロケットに乗る予定だった貴族と、順番を変わってもらった。まぁ、貴族と言っても下級だから金をチラつかせれば簡単だ。

お陰で一文無しだが、後のことを考えれば安いもんだ。

後は妖怪共が計画通りに動けば良いのだが。

おっと、そろそろ能力を使っておくか。

俺の能力は『壁を崩す程度の能力』。

額面通りに受取れば、ただ、塀や壁を壊すだけの能力だが、コレには別の力もある。

相手と俺との実力の『壁』を『崩す』ことが出来る。つまり、俺に対してどんな実力者も、差が無くなるという事だ。

まぁ、今回は額面通りの方を使うのだが。

月夜見様が張った結界の壁を崩し、外壁もついでに崩す。その瞬間妖怪共が都市へとなだれ込んでくる。

外は阿鼻叫喚の地獄絵図になるだろう。

さて、計画の最終段階だ。

 

 

 

 

 

「うん。どうもおかしいよね」

さっきから結界に綻びがあるように感じる。月夜見が離れるからか?

いやいや、アイツが最後の最後でそんな単純なミスをするとは思えない。

「なんだろ。嫌な……いや面倒臭い気がする」

 

 

 

 

 

霞と別れて私はロケットに乗り込む。最初のロケットは要人のみが乗るため、既に発射準備は出来ている。

後はスイッチを、押すだけで自動操縦だ。

「月夜見様、よろしいですか?」

「えぇ、お願いします」

月夜見様が頷いたのを確認して、私はスイッチを押した。

ロケットが点火され、地鳴りと共に浮遊感が訪れる。

打ち上げは成功のようだ。

「た、大変です!!」

その時、月夜見様の護衛兵が叫んだ。

「と、都市のおよそ3キロの所に突如妖怪の大群が!!その数、およそ100万!!」

「!?」

 

 

 

 

 

あー。やっぱりなぁ〜。

イキナリ大量の妖力を遠くに感じた。

どうやら妖怪にも結界を張る事が出来る個体も居るようだ。

だが、問題はそこじゃない。問題は、さっきから感じる結界の綻び側に妖怪が現れた事だ。

偶然?まさか。

ならばコレは仕組まれていると考えて良いだろう。

誰が、なんて今考えても意味は無い。

今は一刻も早く市民をロケットに乗せ、発射させなければ。

だが、搭乗は全体の半分も終わっていない。

乗せ終わったロケットから順次発射していくが、どうやっても間に合わないだろう。

「……はぁ、月夜見と永琳に怒られるな」

 

 

 

 

 

どうやら計画は成功したようだ。少し気付かれるのが早かった気もするが、まぁ良い。

既に俺の乗ったロケットは空へと打ち出された。

俺は密かににやけるのを抑えた。

 

 

 

 

 

「倒そうと思うな!!少しでいい!少しでいいから時間を稼げ!!ロケットに全員乗り込む時間を!!」

妖怪の最前線とぶつかった兵士達から叫び声が聞こえる。

それは1人でも多くの市民を守ろうと戦う男、いや、漢の叫びにも聞こえる。

ん?気障っぽいかな?

「テメェら人間を逃がしてなるものかぁっ!!」

妖怪も妖怪で叫ぶ。まぁ、そりゃそうだな。

人間を食わなきゃ生きていけない妖怪だっているんだから、死にものぐるいだ。

「だが、悪いが、今回は人間の味方をするよ。俺は」

何時ぞや、永琳を助けた際に創り出した一振りの刀。あれ以来ずっと腰に差していたが、使う機会がなかった。

久しぶりに使うことにしよう。

 

 

 

 

 

「つ、月夜見様!どうにかなりませんか!!」

私は月夜見様にすがりつくように叫んだ。アソコにはまだ、沢山の市民が、霞がいるのに!

「……無理です。ココまで離れては私の力も届かない」

私は絶望に打ちひしがれた。ようやっと出来た友人を、こんな理由で無くすなんて。

「……でも、希望が無いわけでは……」

「え?!」

 

 

 

 

 

「テメェら!邪魔だからサッサと下がれ!!」

向かってくる妖怪の首を横薙ぎに切り落としながら、俺は叫んだ。

正直、本当に邪魔だ。人間が居るだけで全力……ではないにしろ制限を外せない。霊力にアテられて、その場に倒れられても困る。

「あ、あんたは!?」

「いいから!サッサと退け!!」

「わ、わかった!!」

兵士達が少しずつさがっていく。

現在の搭乗率は80%と言ったところか。あと少し。

「テメェ……1人でこの量のの俺達とやり合おうってのか?」

妖怪が下卑た笑みを浮かべる。嫌だなぁ、こういう顔、嫌いだなぁ。

「ん〜。そうだって言ったら?」

「カッカッカッ!人間ってのはドンだけ馬鹿なんだ?多少は腕が立つようだが、この数に勝てるわけがねぇだろっ!!」

すると周りの妖怪共も釣られて笑い出す。

「あの人間にしてもそうだ。俺達を利用したつもりでいるようだが、俺達がタダで利用される訳がないだろぅに」

「あ〜。やっぱり手引きした人間が居るのね」

まぁ、予想はしてたよ?

ただ、神様としては一応人間を信じたいじゃない。だって、(元)人間だもの。

 

 

 

 

 

「どうなってるんだ……」

多少、兵士達の数は減っているようだが、あんなもの物の数じゃない。俺の計画には圧倒的に足りていない。

「ま、まぁいい。この計画が失敗したとしても、この能力を使えば、いくらでも!!」

「……あら、どんな能力なのかしら」

……後ろから声がした。

いや、それは別に不思議な事じゃない。このロケットには俺以外だって乗っているんだ。

だが、問題は、この声に聞き覚えが無いということだ。

俺はゆっくりと振り返る。

「まぁ、どんな能力でも、使う前に死んじゃったら意味無いけどね?」

俺が最後に見たのは、美しく輝く金色の髪が靡いた姿だった。

 

 

 

 

 

「ご報告します!3順目のロケットに妖怪が乗り込んでいたようです!!」

「なんですって!?」

「現在、通信を試みていますが、返事がありません!!」

しまった。最初から妖怪がロケットの内部に潜んでいたとは……。あのロケットの中にいた人間はもはや……。

悔しさから私は唇を噛む。鉄の味がした。

「そのロケットの動力部分を破壊しなさい。このままでは妖怪も月に来てしまう」

月夜見様の声が冷たく響く。

「り、了解しました……」

 

 

 

 

 

 

ん?なんか上の方で爆発が起きたな。いや、大気圏外なんだけど。

「さて、どうやら人間は全員乗り込んで発射したようだし。俺の勝ちかな?」

「て、テメェ……」

妖怪共に勝ち誇る。多分、ドヤ顔してるんじゃないかな。

「……なんてな。俺達が何も手を打ってないわけないだろ?既に俺達の仲間がロケットに潜んでいるさ。地上には人間が居なくなっちまったが、何処に行っても逃がしはしねぇ!皆殺しにしてやる!!」

「あ?」

つまりなんだ。あのままだと妖怪を、乗せたロケットが月に行っちまうってことか。

「それはマズイな」

なら、やる事は一つじゃないか。

「とりあえず、お前ら全員、ぶった斬る!後の事はそれからだ」

 

 

 

 

 

 

 

「アチャー。これ、完全に止まってるよね。ってか落ちてるよね?」

丸い窓から外を見ると、青い大きな玉が見えた。アレが今まで私のいた地上ってヤツなの?ずいぶんキレイじゃない。

この筒みたいな。ロケット?に乗ってた人間はとりあえず全員殺しちゃったんだけど、コレってとてつもなくヤバい状況じゃない?

「どうしよ」

「あー。助けて欲しいかね?お嬢さん」

 

 

 

 

 

地上にいた、大量の妖怪共を、文字通り『瞬殺』して、妖怪が乗っているロケットを探す。

まぁ、簡単に見つかったんだけどね。だって一つだけ落ちてきてるんだもん。

こないだ創ったワームホールでロケット内部へ。

そこにいたのは先日の、ルーミア?とか言ったっけ?

「どうしよ」

まぁ、そうなるよね。俺ですらこのロケットの操縦方法は知らないし。ってか知ってても壊れてるから意味無いが。

……うん。可哀想になってきた。助ける?でもなぁ〜。

辺りを見回せば死体だらけ。どう考えてもルーミアが、殺ったでしょ。

……まぁ心の広い神様ってのを見せなきゃね。

「あー。助けて欲しいかね?お嬢さん」




はい、ってなわけで人妖大戦です。

んで、さも意味ありげに登場した謎の人物!
特に見せ場もなく死んじゃいました!

いや、一応色々と考えてますよ?

うん。ホントに







ホントだよ?


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9話/ギャグ補正は望めないらしい

はい、どーも。しおさばです。

さて、いつの間にかお気に入りが9に増えていました。

間違えてない?大丈夫?

夜、寝る前に考えたプロットをノートに書き込んで。
頭の中で整理して、書いてるんですけど。

見返すと、
『あれ?これなんて書いたの?』
ってな感じの象形文字が……。




眠い時は寝ようね!


突然、背後から声が聞こえた。

何時ぞや聞いた、あの男の声だ。

確か、このロケット?に乗っている人間は皆殺しにしたはずなのに……。

 

まぁ、この男ならどうにかして乗り込むこともしそうだけど……。

「あら、久しぶりね。神条霞」

「君は確か……ルーミアだったっけ?」

やっぱり。この蒼い着物に白い羽織。見間違えるわけがない。私が初めて恐怖した人間。

「どうやってココに来たのかしら?」

「その説明をしてもいいけど、そんな暇があるのかな?」

そう言ってこの男は窓を指さす。外はいつの間にか赤く光っている。

「このまま行くと、地上に真っ逆さま。いくら強い妖怪でも、ひとたまりもないんじゃないかな?」

「どうやらその様ね」

良くわからないけど、決して良い状況ではないってのはわかる。

「で?もう1度訊くけど、助けて欲しいかね?」

「貴方ならそれが出来るの?」

「もちろん」

あ、ちょっとイラッとする笑顔だ。コイツじゃなければ捻り殺してる。

「なら、助けてちょうだい」

「……ま、まぁ。お願いする態度じゃないけど、いっか」

そう言うと、男は両手を合わせた。何?神頼みでもするの?

「あながち間違いじゃないね」

瞬間、私は落ちた。勿論、物理的にね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。到着」

ルーミアの足元に穴を空け、落とした後自分も落ちる。穴の先は都市から離れた森に繋げておいた。

俺は勿論、綺麗に着地した。体操ならば金メダル間違いなしな位に綺麗な着地だ。ルーミア?頭が地面にめり込んでるよ。

「……いつか絶対殺す」

地面の中から恐ろしい言葉が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

「最初の一言はなんだろうなぁ〜」

ゆっくりと起き上がったルーミアは、しかし顳かみに血管を浮き立たせながらも、

「一応、ありがとう」

と、言えた。

「うむうむ。苦しゅうない」

「これが貴方の能力なのかしら?」

ルーミアは未だに開いたままの穴を見上げながら尋ねてきた。

「う〜ん。まぁ、当たらずとも遠からず」

「……なんでこんなにも腹が立つのかしら」

カルシウム足りてないのか?小魚食う?

俺はまた両手を合わせて穴を閉じる。穴は1度開けると、俺が閉じない限りずっとそのまま開きっぱなしになる。

「さて、世間話をもう少ししてもいいけど、それはココから離れてからにしないか?」

「あら、なんで?」

俺はルーミアに手を伸ばし立たせる。

「もうすぐあの都市は爆発するからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だいぶ地上から離れた。今ではどちらかというなら月の方が距離は近いだろう。

「ロケットは無事、全て発射されたようです」

護衛兵の報告を聞き、私は少し安心した。

全てのロケットが発射されたと言うなら、霞はそのどれかに乗り込んでいるだろう。

「……良かった」

安心したからか、その場にへたりこんでしまった。

「それにしても、地上で感知された膨大な霊力は何だったのでしょうか」

「さ、さぁ?何でしょうかね」

どうやら月夜見様にもわからないらしい。

まぁ、何にしても、多少のトラブルがあったけれど人類を救えて良かった。

「……そろそろですね」

「あっ、そうですね」

そう。全てのロケットが発射された後、都市の技術を妖怪達が悪用しないように、核で跡形もなく破壊するのだ。

今まで住んでいた都市、慣れ親しんだ街を破壊してしまうのは忍びないけれど、残して後々私達に不利益になるのであれば、破壊してしまうしかない。

「これで本当に、地上とお別れです」

月夜見様が窓の外を覗く。青く丸い星が目の前に広がる。

「この計画の為に犠牲になった方々へ、祈りを捧げましょう」

月夜見様は目を瞑り、黙祷を捧げた。

私はそれに習い、目を瞑った。

その瞬間、地上で小さな光が発せられた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にげるんだよぉぉおおおお!!」

「ちょっ、下ろしなさい!!」

俺はルーミアを肩に担いで森を走り抜ける。

永琳から聞いた話ではかなりの範囲を破壊すると言っていたし。

ってかどんだけ逃げれば良いのかわからねぇ。

「な、なにあれ!!」

すると頭の横でルーミアが叫んだ。足を止めて振り返ると、遠くで光の柱が天まで伸びていた。

「いやぁ……永琳、やりすぎでしょ」

あの威力の爆発ってことは……。

「ここでもやばくね?」

そう言うと、ルーミアをその場に下ろし、即興で能力を創る。ワームホールの能力を基盤に、繋げるのではなく、留める。異空間を作り出す能力。

「とりあえず、こん中入れ!」

「ちょ、ちょっと!!」

俺はルーミアを異空間に放り込んで自分も入る。

空間の中は全体が青く、黒い線で幾何学模様が書き込まれている。

「うわぁ、目に優しくない」

「貴方の能力でしょ?!」

そんな事を言っていると、外で爆風が起こった。どうやら衝撃波がやってきたようだ。

急いで入口を閉じる。まぁ、この中にいる限りは安全だろう。

「……貴方、ほんと何でもアリね」

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

 

 

 

 

 

 

「で、私はいつまでココにいればいいの?」

ルーミアが訊いてきた。

アレから数日が経った。

「いや、出たいなら出てもいいけど?」

「なら出たい」

「ん」

俺は入口を開けてやると、ルーミアは顔を外に出してみる。

そこに広がるのは不毛の大地。草木すらなく、勿論生物など存在すらしない。まぁ数千年はこのままだろうな。

「な、なにこれ」

「ん?こないだの爆発の結果。勿論、人間どころか生き物すらいないからね?」

「はい?!」

お、いい反応だ。

「なら、どうすんのよ!私もそうだけど、貴方だって飲まず食わずで生きてはいけないでしょ?!」

いや、俺は生きてける。ってか死ねないんだけどね。

「あー。そうだねー。困ったねー(棒)」

「なんか腹立つ」

するとルーミアは空間内に戻り、俺に剣を突きつけた。

「貴方が私を助けた。ならび責任を持って最後まで面倒見なさい」

「そんなセリフは剣を突きつけながら言うもんじゃないよ」

でも、確かにそうだな。最後まで責任を持つか。

 




細麺以外の豚骨ラーメンは認めない!!


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10話/初めては優しくするらしい

気がついたら空が明るくなっていた。なんて事、よくあるよね!

はい、どーも。しおさばです。

これはアレだね、オリンピック効果って、やつだね。


「ルーミア、君には2つの選択肢がある」

「はい?」

ルーミアは小首をかしげる。あ、ちょっと可愛い。

俺は握った右手の人差し指を上に伸ばす。

「一つはここで俺と別れて外で勝手に生きていく」

まぁ、さっきも外を見ただろうが、外には草木も生物もない。生き抜く可能性は限りなくゼロに近いだろう。ってかゼロだ。

「そんなの無理に決まってるでしょ」

「ふむ。んで、二つめだが……」

俺は右手の中指を伸ばす。

「俺の式になること」

「式?」

「そ。まぁ、平たく言えば俺の召使いかな」

「はぁ?なんでそんなもんにならなきゃ…………いや、貴方の事だから、何かあるんでしょ?」

「ご明答。俺の式になる特典は幾つかある。そのうちの一つが妖力だ」

俺は1枚の紙を想像する。ソレは特殊な回路を組み込んだお札で、俺特製のものだ。

「式になると、この札を着けてもらうんだが、コレには一つ特殊な効果があってな。俺からのチカラを妖力に変換してお前に与え続ける事が出来る」

「……なにそれ。ふざけてるわね」

まぁ、自分でも思うよ。

「それに、メシに関しても、まぁなんとかしよう」

腹が減ったら食いもんを創造すれば良いだけだし。

あ、ならラーメン作れんじゃん!!

「……それ、実質選択の余地は無いわよね」

「さて、どうする?」

ルーミアは小さく溜息を吐いた。小声で、どうして私がこんな目に……、とか言ってたけど、気にしない。

「わかったわ。式でも何でもなるわよ」

「おっけー。契約成立な」

そう言って右手を差し出す。

「なに?」

「何って、握手だよ」

コレからは仲間であり家族なんだから。

「ほんと、変なヤツね」

「それも褒め言葉として受け取っておこう」

こうして、ルーミアは俺の式になったとさ。

ただ、札をキョンシーみたいに顔につけるわけにもいかないから、リボンみたいに髪に結んでやった。

「これ、自分で取れるの?」

「いや、お前には触れないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーミアを式にして、数千年……いや億か?経った。外では恐竜が滅んだり、ようやっと猿が人間っぽくなったりしてたけど、そんな中でも異空間の中でのんびり過ごしていた。人間っぽいのが出てきたあたりでルーミアが涎垂らしてたけど、俺は見てないぞ!

そういえば、一応ルーミアには俺の事を話しておいた。いや、転生の事は言わないよ?

それ以降、創造神だって事と、俺のちゃんとした能力の事。それを聞いても「貴方なら驚きはしないわ」だって。なんかリアクション期待してたのに……。

 

そして、いよいよ、人間が人間らしく生活しだした頃。俺は外に出ることにした。

「いや、なんでよ」

「え?だってようやく人間が出できたんだよ?見たくない?」

「襲っていいなら」

はい、ルーミア何を言ってるのかな?

「ほら、いいから!行くぞ」

このまま異空間にいるのも良いんだけどね。快適空間に改造したし。ゲームもあるし飲み食いは自由。漫画も大体揃ってる。……どこの漫喫だよ。

 

いやいや、NEETになるから。

 

そんな事を考えながらも、俺とルーミアは外へと出ていったのでした。




と、いうことで古代編はこれで終了です。

次回からは諏訪大戦編ですね。





えぇ、ルーミア好きですけど、なにか?

でも、ヒロインじゃないんです。


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神様が戦争をするらしい……
11話/蛙の子はオタマジャクシらしい


はい、どーも。しおさばです。

今日はお仕事がお休みなので、出来うる限り投稿していきまっせー!!







とりあえず寝るかな


あ、どうも。霞です。

ただ今ルーミアを連れて旅をしております。

 

「……」

「はい、すいません」

現在、ルーミアに無言で睨まれています。何故って?

 

「ここ、何処よ」

「……さぁ?」

絶賛迷子中です。はい。

いや、この森に入ってから道がなくなったんだもん。

前に寄った村で聞いた話だと、この森を抜けた先に洩矢の国があるって聞いたんだもん。

「で?」

あ、ルーミアに『だもん』とか言ってもダメだわ。

「と、とりあえず暗くなってきたから、この辺で休もう」

特に大きな森とは感じなかったが、どうやら同じ場所をグルグル回っていたらしく、気がつくと少し開けた場所に何度も出てきた。

「はぁ……。ほんと、こんな主人で大丈夫なのかしら」

あ、止めて。本気でへこむから。

俺は辺りの薪を拾って火をつけた。

あの異空間の中で、余りにも暇だった俺は、霊力、そして神力の更なる利用法を考えた。

それは力の性質を変換させること。

まぁ、単純にいえば霊力で火を起こしたり、飲み水を湧かせたり。

普通にライターやミネラルウォーターを創造するのは簡単だけど、余りにも時代にそぐわない事は外でしないようにしている。

外では、ね。

火を起こしている間に、ルーミアは辺りの動物達を狩ってきたようだ。うん。いいけど、熊は止めようよ。俺、捌き方とか知らないよ?

「とりあえず切って焼けば食べれるわよ」

「さすが常闇の妖怪」

ルーミアにしてみれば焼かなくてもいいんだろうけど。

ちなみに、あの異空間で、ルーミアにラーメンの素晴らしさを徹底的に叩き込んだ。

特にチャーシューの素晴らしさ。

結果としてルーミアも気に入ってくれたようだが。

「というか、貴方一応神様でしょ?この森くらい直ぐに抜けられるんじゃないの?」

「ん〜?出来るけどさ、それじゃつまらないじゃないか」

 

空が黒く染められた頃、ルーミアは木の上で寝ている。器用な奴だな、あんな枝に寝転がって。寝返りうったら落ちないか?

 

少し前に訪れた村、そこで聞いた話は洩矢の国に居る神と大和の神が近々戦争を起こすであろうと、噂になっていた。

それが本当であれば、それは前世でいうところの「国譲り」ってやつだ。是非とも見てみたい。

「そのためにはこの森を抜けなきゃ行けないんだけどなぁ……」

所々に感じる、薄い妖力が原因なのだろうか。

 

「ってなわけで、今日こそこの森を抜けるぞー!」

「なにが『ってなわけで』よ」

昨日1日考えてみたが、さっぱり原因がわからなかったので、とりあえずまた進んでみよう。

やはりというか、また妖力を感じる。今までの妖怪のような、禍々しい感じじゃない。例えるなら、子供のような?

「……」

あぁ、やっとわかった。そういうことか。

「ルーミア、頼みがある」

「ふぇ?」

お?まだ寝ぼけてるのか?

 

 

 

 

 

結果としては、やはり妖精のいたずらだった。

というか、こんな時代でも妖精がいるんだな。びっくりだ。

いたずらをしていた妖精3人組には、ちょっとお仕置きを(ルーミアが)して、離してあげた。

まったく、妖精のいたずら好きも困ったもんだ。

「いや、仮にも神が妖精のいたずらなんかに引っかからないでよ」

 

 

 

 

 

ようやっと森を抜けることが出来た。

なんか無駄に疲れたな。

「その洩矢の国ってココから近いの?」

「あぁ、ココからでも少し神力を感じるからな。もう迷わないぞ!」

「そう願うわ」

だから、その呆れ顔はやめてくれって。

 

 

 

 

 

 

 

うん。そういえば、洩矢の『国』なんだよね。

村、とか、集落、じゃなくて。国、なんだよ。

「結構大きいわね」

かなり高い壁で覆われた洩矢の国。少し離れた小高い丘から眺めると、なかなかに大きい。

「あぁ、そうだ。ルーミア、お前は妖力を隠さないとな」

流石に式とはいえ、妖怪が入り込んで問題が起きないわけがない。

「隠すってどうやって?」

俺は一つの指輪を創造する。これは着けたものから感じるチカラを全て霊力に変換するもの。まぁ平たく言えばフィルターだ。これを着けている限り、周りには妖力は感じられず、霊力になる。

「これでおっけー」

さて、こんな大きな国を治める神様とやらに会いに行こうじゃないか。




はい、新章です。
諏訪大戦ですねー。

次回からはあの子……あの方が登場しますねー。



あと、途中で出てきた妖精。わかると思いますが光の3妖精です。


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12話/ちっちゃくても神様らしい

いや、寝るよりも書くのが楽しくなってきたぁっ!!



はい、どうも。霞です。

 

今、ちょっと困ってます。

何故って?

それは数時間前に遡るんだが……。

 

 

 

 

 

「それにしてもデカイな」

そびえ立つ様に建つ土壁。それはこの国をぐるりと回っている。

当然、外壁に囲まれているんだから門があり、門があるのだから門番がいる。

「そこの者、待て!」

厳つい顔をしたオッサンにいきなり怒鳴られた。

どうでもいいけど、この近距離でデカイ声出すなよ。ちゃんと聞こえてるって。

「ここは土着神が頂点、諏訪子様が治める国、得体の知れぬ者を入れるわけにはいかん!!」

「あー。我々は旅の途中でして、常々耳にしていた諏訪子様の治める国をこの目で見たいと思い、ここまで来た次第です」

俺、意外と芝居の才能あるんじゃないか?

「何も怪しいものなどございませんので、どうか入れてもらうわけには行きませんでしょうか?」

「ふむ……」

そう言うと、オッサンは俺とルーミアをそれぞれ見回した。

「ならばこの場にて不審な物を持っておらぬか検査を行う」

……あ、このオッサン急に鼻の下伸びた。

「まずはそこの女からだ。服を脱ぎ、怪しくないと証明して見せろ」

ふと見ると、ルーミアはイラついている。

こういう男はいつの時代にもいるんだねぇ……。流石に、ルーミアを脱がせるわけにもいかない(この小説のR的な意味でも)ので、俺は少し力を使うことにした。

力と言っても、別にオッサンを傷付けたわけじゃない。ただ、少しの間夢を見てもらっただけだ。

俺の左手で触れた者に、任意の夢を見せることが出来る。その夢の中では、多分だけどルーミアが脱いでるんじゃないか?俺が見せたのはオッサンにとって『都合の良い夢』と指定しただけだし。

この能力、面倒臭いのが細かく指定しない限り、必ずしも良い夢を見るというわけじゃない。偶に悪夢を見せることがあり、その場合は物凄い魘されることになる。そして、俺にはどんな夢を見ているかわからないのも問題だ。

「さて、行くよルーミア」

こうして、俺達は洩矢の国へと足を踏み入れた。

 

 

 

「ここの神様って土着神の頂点なのよね?」

「んー?そうだよ?」

「その割にはこの国は和やかね」

確かに、祟で人を縛る土着神がいる国としては、人々には活気が溢れている。

「まぁ、それらも会ってみればわかるさ」

俺達は参道を歩きながら、この国の様子を眺めていた。

そしてまっすぐ進んだ先、一際目立つ建物があった。道行く人に聞いてみると、アレが洩矢神社らしい。

 

「二拝二拍手一拝だぞ?」

「それ、私もやらなきゃダメ?」

俺は懐から巾着を出し、賽銭を投げ入れる。

一応俺も神だが、他所の神には礼儀を尽くす。

「へぇ、あんた、若いのにちゃんとしてるんだね」

ふと、背後から声がする。

ルーミアが少し驚いている。まぁ、気配がしなかったのだから、当然だろう。

「これでも信心深いんでね」

「それはそれは、良いことだよ」

ゆっくりと振り向くとそこには1人の少女、というか幼女が立っていた。

「なんか失礼な事考えてない?」

まさか、ゼーンゼン。

「まぁ、いいや。あんた、この国の人間じゃないね?」

「おや、わかるかい?」

「わかるさ」

そう言うと、幼女は懐から鉄の輪を取り出した。

チャクラムたかあう武器のように見える。

「アンタみたいな、体から血の匂いをさせてるやつは、この国にはいないからね」

……あちゃー。妖力は隠せても血の匂いまでは気が回らなかった。ってか、そんなにするかな?

「あんた、うまく妖力を隠してるけど、妖怪だろ?この国に何しに来た!」

そう訊く幼女は、しかしどんな答えを出してもその殺気を抑えてはくれなさそうだ。

ルーミアも大剣こそは出していないが、いつでも飛びかかれるように重心を低くしている。

「まぁまぁ、とりあえず話を聞いてくれないかな?」

まずはこの幼女を落ち着かせるのを先にしよう。

「俺達はただの旅人だ。別にこの国になにかしようとしてるわけじゃない」

「嘘だ!妖怪なんかと一緒に居るような奴の言う事を、どうして信じられる!!」

まぁ、確かにそうだな。

「こういう、話を聞かないような子供は一度痛い目にあわせた方がいいんじゃないかしら?」

ルーミアの方も、臨戦態勢をとっている。

まったく。血の気の多い奴らだ。

「ルーミア、やめなさい」

「あら、貴方は私が負けるとでも思ってるのかしら?」

別にそんなこと言ってるわけじゃないんだが……。

はぁ……。

「もう一度言う。ルーミア、やめろ」

俺は千分の一、霊力の制限を開放し言葉に載せる。

それだけで、石畳の参道はめくれ上がり、大気は震えた。

「?!」

「!!……は、はい」

お、ルーミアと一緒に幼女も落ち着いたようだ。

「とりあえず、自己紹介をしよう。俺は神条霞。コイツは俺の式のルーミアだ」

「し、式って?」

やりすぎたかな?今にも漏らさんばかりに震えている。

「簡単に言えば、俺の召使いみたいなもんだ。だから俺の命令がなければコイツは人に危害を加えない」

「ほ、本当かい?」

「あぁ。まぁ、こればっかりは信じてもらうしかないがな」

言葉でなんと言おうとも、それを証明する手立てはない。

「わ、わかった。信じる、よ」

「良かった。ありがとう」

「だから、その……霊力を抑えてくれないかい?」

……どうやらさっきから垂れ流しにしていたようだ。

そりゃ、ビビって漏らす手前までなるわな。

 

 

 

 

「改めて、私はこの国の祭神であり王でもある、洩矢諏訪子だよ」

「……」

「……」

俺とルーミアは同時に言葉を失った。

神社の中に招かれ、茶を出されたのだが。改めての挨拶に俺は驚いた。コイツが土着神の頂点だと?

「な、なにさ」

「いや……なんでも」

あ、少し膨れてる。

「で?アンタらは何しにココに来たのさ」

「ん?だから言ったろ?俺達は旅をしてるんだ。所々でこの国の噂を聞いてね、ちょっと気になったから見に来た」

「え?本気で観光してただけなのかい?!」

最初からそう言ってるのに。あれ?言ってなかったか?

「いや〜。まさか土着神の頂点がこんなチンチクリンだとはね」

「チンチクリンって言うな!これでもアンタより歳上なんだぞ!」

いや、それはありえないだろ。

「そんな事はさておき、聞いていた噂ってのは本当なのか?」

「大和の国の噂だろ?本当さ。どうやらアイツら、次はこの国を狙っているらしくてね」

諏訪子はお茶で口を湿らす。

「恐らく、近々向こうから使者でも来て、宣戦布告でもするんじゃないかな?」

「なるほどね」

どうやら本当だったようだ。しかもまだ使者が来てない、という事は、向こうの神にも会える可能性も出てきた。

「なぁ、諏訪子。少しの間ココに住まわせてもらえないだろうか?」

「ん?ここにかい?別にいいけど」

よし!当分の宿ゲット!!

まぁ、ダメだった場合は異空間で寝るだけだったんだが。

「なら礼と言ってはなんだが、うまい酒を飲ませてやろう」

「お、いいねぇ!なら今夜は宴会だね!」

 

 

 

 

 

 

 

そして、それが今の悲劇のキッカケだった。

 

 

 

 

 

 

 

だって、諏訪子がこんなに酒癖悪いとは思わなかったんだも〜ん。ついでにいうとルーミアも。

おい諏訪子、なんでお前はさっきから俺の脇腹を殴っているんだ。霊力で固めなきゃ、一般人は死んでるぞ?

そんでルーミア、お前は何故に背後から抱きついてくる。当たってるんだよ。いや、何がとは言わないよ?言わないけど。

あぁ、諏訪子には無理だから諦めなさい。……グフっ?!なんだ今の一撃は!?

かなり重たいパンチだったぞ!!

 

 

そんな地獄の様な有様で、夜は更けていくのであった……。




はい、ケロちゃ……諏訪子様登場です!

そして瞼が重くなってきた!!




感想、お待ちしております。


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13話/久しぶりの再会らしい

(´-ω-`)))コックリコックリ。。


どうも、脇腹が痛い霞です。

 

昨日の事は……うん。忘れよう。

残りの2人?爆睡中だよ。

 

俺は縁側に腰を下ろし、お茶を飲む。

あ、久しぶりにコーヒーが飲みたくなってきたな。

今度創るか。

 

そんな事を考えていると、2人がのっそりと起きてきた。

「おはよう霞」

「おう、おはよう」

「あ〜う〜。頭痛いよ〜」

そりゃあんだけ飲めばそうなるだろ。

ルーミアは……あ、まだほぼ寝てるわ。

俺は諏訪子の分もお茶を淹れてやると手渡した。

 

 

 

俺とルーミアは今、市街地とでも言える賑わった道を歩いている。散歩がてら見て回るつもりだからだ。

「おや、お兄さんここらじゃ見ない顔だね」

八百屋であろう店の恰幅のいい女将が、話しかけてくる。

「あぁ、俺達は旅をしてるんだ。途中でこの国に立ち寄ってな、少し滞在させて貰ってる」

「そうかいそうかい。神社にはもう行ったかい?この国は諏訪子様のおかげで成り立っているようなもんだからね。一度行ってみるといいよ」

まぁ、俺らはそこから来たんだけどな。

「ほんと、祟り神が治める国とは思えないわね」

「そうだな」

道を歩く度に話しかけられ、その度に諏訪子の素晴らしさを説かれる。もう聞き飽きたわ。

「だからとでも言うべきか、諏訪子の力自体は相当強いぞ?」

神の力は信仰の量で決まる。信仰されればされるだけ、神は力を蓄える。

あれ?なら俺は?

「貴方は規格外でしょう」

そんな一言で済ませないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

神社に滞在して、一週間程過ぎた頃、ようやく大和から使者が訪れた。

対応したのは諏訪子だけなので、どんなやりとりをしたのかわからないが、使者が帰った後の諏訪子は、目に見えて恐怖していた。

「か、霞。どうしょぅ……」

俺の姿を見るなり、諏訪子は裾をつかんですがりついてきた。

「なんだ?どうした?」

「や、大和からの使者が来たんだけど」

「みたいだな」

その小さな手に握り締められたのは、どうやら大和からの手紙のようだ。

「読んでもいいか?」

俺は諏訪子から受け取ると開いてみた。

……まぁ、簡単に言えば国を明け渡せ。明け渡さなければ、大和の神軍が洩矢を襲う。との事だ。

いや、余りにも頭のおかしい内容だな。向こうは八百万の神。こちらは一柱の神とごく普通の人間達。勝負になるわけが無い。せめて、ちゃんとした勝負の元、やり取りをするのならまだしも。これはただの脅迫だ。

「どうしよう。民が……民を犠牲にはできないよ……」

「ふむ」

まったく。アイツらは何をやってるんだか。

……これは少し説教をせねばならんな。

「諏訪子、少し時間をくれるか?」

「え?」

「大和にちょっと話をしてくる」

「はい?!」

おぅ。そんなに驚くことか?

「いやいや。何処に行こうとしてるかわかってるのかい?相手の総本山だよ?下手すりゃ生きて帰ってこれないよ?!」

「んー。かも知れんが、そうならんかも知れんだろ?」

諏訪子の頭をポンポンと撫でてやりながら、落ち着かせるよう努めた。

「それに、この国には使者として向こうに行ける奴なんかいないだろ?俺が少しやり方を変えてもらうようにしてくるから」

「霞……」

俺はそう言うとルーミアへと向けて。

「少し出てくるが、なにかあったらこの国を守ってやれ。……人間は食うなよ?」

「わかってるわよ。貴方もちゃんと帰ってきなさいよね」

「お?なに?俺の心配してくれんのか?」

やっとルーミアもデレてくれたのか?

「バカ言わないで。貴方が死んだら、誰がラーメンを作るのよ」

おい。せめて嘘でも心配しろよ。

「?ラーメン?」

「おう。うまい食い物の事だ、今回の事が片付いたら諏訪子にも食わしてやるよ」

「……わかった。約束だよ?」

ちっちゃい子との約束は死んでも守らんと。まぁ、死なないんだが。

「じゃぁ少し行ってくるわ」

そう言って俺は神社を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

はい、というわけで。今、私は大和に来ております!

まぁ、ワームホールを通れば一瞬だからね。楽だね。

んで、やっぱりコチラにも門番がいるのか。

「あのー、すいませーん」

「ん?貴様、何者だ」

いつも思うんだが、門番ってのは厳ついオッサンしかいないのだろうか。

「わたくし、洩矢の使者として参ったものなのですが」

「む。洩矢の?」

すると門番は俺の身形を確認するように睨みつける。

「わかった。今、伝えてくる、ここでしばし待て」

 

暫くして中へ通されると、宮殿のような屋敷があった。

アイツら、結構いい所に住んでるんだな。

「この部屋にいらっしゃるのが三貴神様と軍神さまだ。くれぐれも失礼の無いように」

するとゆっくりと戸が開かれる。

かなり広い座敷の中に、四人(?)の姿があった。

二人は知ってるが、あとは誰だ?

俺は一応使者なので、深々と頭を下げる。どうやら二人は気がついていないようだ。

「お前が洩矢の使者か?」

「はい、そうです」

「して、何用で参った?」

一番端にいた女性が話し始めた。

「此度の手紙での内容、今一度検討し直して頂きたく、参った次第です」

「なに?」

お?怒った?

「何を呆けた事を吐かすか。これは戦争ぞ。そちらに手心を加えるつもりは毛頭ないわ」

「……ふーん」

あら。取り尽くしまもなし?

ならしょうがないよね。

「……貴様、誰を前にしてその様な態度を取っているか、わかっているのか?!」

「テメェこそ、俺を誰だと思っていやがる」

俺はゆっくりと顔を上げた。俺の顔を見た瞬間、顔を知っている二人は、一気に凍りついた。

「久しぶりだな、天照、月夜見」

「き、貴様!誰の名を呼んでいるのかわかっているのか!!」

天照の隣にいた男が腰の剣に手を掛ける。

「黙れ、貴様に喋りかけた覚えはない」

瞬間、俺は久しぶりに神力を使う。使うと言ってもただ身に纏うように漏れ出させるだけだが。それでも四人には圧倒的な力の差がわかったようだ。

「お、お久しぶりでございます。父上様」

絞り出したかの様に天照が頭を下げる。

「あ、姉上?!」

「天照様?!」

端にいた女と、男は驚いている。そりゃそうだ。大和神話の最高神が頭を下げているのだから。

「控えなさい、素戔嗚、神奈子。この方は我々の父なる方、創造神様ですよ」

気付けば月夜見も頭を下げている。

「そ、創造神?!」

「おい、せめて様ぐらいつけろや」

俺は男に対して、神力を強めた。純粋な力量の差を感じてなのか、呼吸もままならないようだ。

「も、申し訳ございません」

神奈子と呼ばれた女は深々と謝罪した。

素戔嗚もなんとか頭を下げる。

それを見届け、漏れ出させていた神力を引っ込める。意外と便利だな。自分で言うのもなんだが。

「天照、まずはそこの二人は何者だ?」

「はい、右に居りますのが、我が弟素戔嗚尊にございます」

へー。コイツが素戔嗚尊ね。ならもうひとりは?

「私は八坂神奈子と申します」

ってことは、コッチが軍神って奴か。

「ふむ。俺は神条霞。天照が言っていたが、創造神だ」

八坂神奈子と素戔嗚尊は小さく震え、冷や汗をかいている。

そんなに怖い?

「それで、父上様。何故洩矢の使者などされているのですか」

天照が顔を上げる。まぁ、この中だったらまだ天照は平気な方か。

「なに、お前達から受け取った手紙の内容が余りにも酷いものだったので、ちょっと話をしに来ただけだ」

「では、お父上は洩矢の味方をすると?!」

いや、そうなったら今度は俺一人で事が済んじゃうだろ。

「そうではない。ってか、この手紙は誰が書いたものなんだ?」

そう言って手紙を四人の前に投げ出す。

「これは下級の神に書かせ、洩矢に持っていかせたものです」

なんともまぁ、無責任にも程があるだろ。読んでみろ、と言い天照は恐る恐る開いてみた。すると見る見るうちに表情が青ざめていく。

読み終えると、天照は再び深く頭を下げた。

「知らぬ事とは言え、我らが目の行き届かぬばかりに、父上様には大変失礼な事をいたしました。申し訳ございません」

「いや、わかればいい」

他の神も手紙を読んで、それぞれ反応をしている。

「そんで、ものは相談なんだが」

俺は意識して砕けた話し方をした。どうも堅苦しいのが続くのは嫌いだ。

「お前らの中で……そうだな。八坂神奈子と言ったな、お前と洩矢の神との一騎打ちで勝負を決めようじゃないか。他の神は一切手出し無用。それを守るのであれば、俺も今回は手出ししない。ってのはどうだ?」

「わ、私がですか?!」

神奈子は驚いたようだ。

「うん。この中だとお前がちょうど諏訪子……洩矢の神と釣り合いが取れていると思うんだよ」

「それを守れば、お父上は手を出されないと?」

「本来ならガキ共の喧嘩に、一々俺が首を突っ込むってのも、場違いだろ?」

天照も月夜見も、俺からすればまだまだガキだからな。

「わかりました。しかし、勝負の行く末を見守るために我々は赴かせていただきます」

「おぅ、来い来い。終わったら宴会やるから」

「……お父上は相変わらずですね」

月夜見はジト目で俺を見ている。なんだ?最近俺の扱いが酷くないか?

「では勝負は三日後、場所は洩矢と大和の中間。良いな?」

「はい、畏まりました」

こうして、諏訪子VS神奈子の勝負が決められた。早く帰ってこの事を伝えなきゃな。

「んじゃ、俺は帰るぞ」

「え?もうですか?!」

驚いたのは天照だ。何を驚いている。

「……だって、月夜見はしばらくの間父上様のお側に居たのでしょう?」

……あぁ、確かに都市にいた時はしょっちゅう会っていたな。というか、俺が月夜見の所に遊びに行っていたんだが。

「狡いです」

「……は?」

「月夜見だけ狡いです!私だって父上様ともっとお話したいです!!」

お前はファザコンか。そんで一応大和の最高神なんだから、他の奴がいる前で俺に甘えるんじゃない。

「あ、姉上?」

ほらみろ、素戔嗚なんて若干……いや、かなり引いてるじゃないか。

というか、裾を掴むな。

「わかったから!全部終わったら構ってやるから!!今は離せ!」

「絶対ですよ?!約束ですからね?!神は約束を破ったらダメなんですよ!?」

えぇい、執拗い。

何処で教育を間違えたんだろうか。……あ、教育なんてほとんどしてねぇや。




はい。神奈子様登場です。

ってか天照のキャラが濃くなりすぎて、神奈子の影が薄い気が………………。



気のせいか。


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14話/精神と時の部屋なんて便利なものはないらしい

ひと眠りしてスッキリ爽快!
はい、どーも。しおさばです。

昼寝出来るって、最高の幸せだよね。


どうも、霞です。

あれから神社に戻り、諏訪子に報告した。

「よ、良くそんな条件にしてこれたね」

「おう。すげーだろ。もっと褒めろ」

「幾ら賄賂に贈ったの?」

おいルーミア、それは余りにも失礼じゃないか?

「ってなわけで、早速だが諏訪子の実力を知りたいんだが」

「え?なんで?」

コイツは本気で阿呆か。

「幾ら諏訪子と力が釣り合うであろう相手を選んだとしても、相手は軍神だぞ?そんな相手になんの策も無しに勝てるのか?」

「あー。そうだね……」

いや、いきなり不安になるなよ。

「ほら、だから俺が手伝ってやるから」

「う、うん!頼むよ!」

 

 

 

 

「さて、まずは諏訪子がどれくらい戦えるか見るか」

そう言うと俺は諏訪子と向かい合う。

「んー。とりあえず手加減してやるから、俺に一撃いれてみろ」

「え?そんなんでいいの?」

コイツ、初めて会った時の事を忘れてるんじゃなかろうか。俺の霊力にあてられて、ビビってたくせに。

「あー。うん、いいから、ほら来い」

「んじゃ、遠慮なくっ!!」

そう言って諏訪子は地を蹴った。

一息に距離を詰めるその脚力はなかなかのもんだ。

「でりゃっ!!」

掛け声と共に体重をかけた拳を振るう。俺はその腕を掴むと、一本背負いの要領でなげとばした。

「くぅっ」

受け身なんて知らない諏訪子は思い切り背中から落ちた。

うわぁ、痛そう。

「くそー」

起き上がると諏訪子はいつぞやの、鉄の輪を取り出す。

「でりゃ!!」

バカ正直に真っ直ぐ殴り掛かる諏訪子を、距離を一定に取りつつ最低限の動きで避ける。

「はぁ……はぁ……」

暫らくすると諏訪子は肩で息をしだした。

必要以上に大振りな動きは、避けやすく、また体力を大幅に奪っていく。

「このぉっ!!」

地面に両手を着くと、神力を込めだした。今度は何をするつもりだ?

「でりゃ!!」

すると地響きが起き、地面が割れだした。急な足場の変化に、俺に少しの隙が出来る。諏訪子はその一瞬を逃さず、大きく振りかぶって殴り掛かる。

「ふむ。惜しいな」

俺は霊力で空中に足場を作り、着地する。諏訪子の攻撃は虚しくも空を切ってしまった。

「空飛ぶなんて狡いよ!!」

「馬鹿か。相手も神だぞ?空ぐらい飛べるだろうが。あと俺は空を飛んでるんじゃない、空中に立ってるんだ!!」

「そういうのを屁理屈って言うんだよ!!」

負けじと空を飛ぶ諏訪子。

「ってかなんだよこの地面。お前がやったのか?」

「そうだよ。これが私の能力。『坤を創造する程度の能力』さ」

「なるほどね」

……いや、坤って何?多分地面に関する事だろうけど。

「まだできそうか?」

「まだまだ余裕だね……」

いや、強がってるのバレバレだから。

「まぁいいか。なら来いっ」

「……おりゃぁっ!!」

今度は鉄の輪を投げ出した。え、それって投げても良いの?

まぁ、真っ直ぐ飛んでくる物に当たってやるほど優しくはない。上半身を捻って避ける。諏訪子の方に向き直ると、そこには既に目の前まで迫る諏訪子がいた。

おぉ!

だが、今度はバックステップで避けようとする。『避けようとする』ってことは出来なかったわけで。

「な、いつの間に?!」

いつの間にか背後には土で出来た壁がそり立っていた。

これでは後ろに下がれない。

「とりゃぁぁあっ!!」

諏訪子の拳は見事に俺の鳩尾へとめり込んだ。

……いや、諏訪子さん。正直かなり痛いっす……。

「へへっ。当たったぁ……」

そう言うと諏訪子は、力を使いすぎたのか俺に凭れるように、気を失ってしまった。

「……まったく」

俺は諏訪子を抱き抱えると、ゆっくりと降りていく。

 

「で、何か策は浮かんだのかい?」

暫らくして目を覚ました諏訪子は、目を輝かせて訊いてきた。

「んー。というか、まずは策云々よりも戦闘経験を少しでも積むのがいいような気がするんだよね」

「へ?」

俺はビシッと諏訪子を、指差し。

「お前に足りていないのは、圧倒的に経験だ!!」

「……うん。わかってるよ?」

……あ、うん。ですよね。

まぁ正直、神力の使い方や動きなど、改善点はいくらでも有るのだが。一朝一夕で出来ることじゃない。

ならば少しでも多くの経験を積ませるのに専念した方がいい。

「てなわけで、ルーミア、出番だぞ」

「はい?私?」

横で我関せずな表情をしていたルーミア。無論、お前にも手伝ってもらう。

「貴方がやれば良いじゃない」

「いやいや。俺だと甘やかしそうで」

なんとも小さい子供を痛めつけるのは気が引けるし。

「拒否権は?」

「あると思う?」

そう言って、俺はちょっと広めの異空間を作り出す。

「この中だったら、幾ら力を使っても枯渇することは無いし、怪我もすぐさま治る様にしてある。多少本気でやってもビクともしないから思う存分やりたまへ」

「……はぁ。わかったわよ」

そう言うとルーミアは異空間に入っていった。

「ほら、諏訪子も入って」

何故か諏訪子は驚いた顔でコチラを見ている。

「霞、アンタも能力持ちだったんだね」

アレ?言ってなかったか?




さぁ、修行だ修行だぁっ!!


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15話/諏訪大戦(前編)

ワッショイワッショイ!!


あ、どうも、霞です。

 

あれから2日経ちました。いよいよ神奈子との対決の日です。

諏訪子はどうなったかって?

まぁ、ある程度成長はしましたよ?

 

でもまぁ、付け焼刃もいいとこで。結果は神のみぞ知るってとこかな。ルーミア以外、全員神だけど。

 

ここは洩矢と大和の中間。小高い山に囲まれた、開けた平原。

「とうとうこの日が来たね」

「そうだな。体調はどうだ?」

諏訪子は肩をグルングルン回している。

「絶好調だよ。今ならルーミアにだって勝てそうさ」

「あら、なら今から殺ってもいいのよ?」

「い、いやいや。冗談だよ……」

慌てて首を振る諏訪子。コラコラ、あんまりからかうなよ。あとルーミア、字が違ったろ。

「さて、アチラさんも来たみたいだな」

ふと見ると、神々しい光を纏いながら、大和の神々が平原に降り立った。

「じゃぁ俺達は離れて見るから。悔いのないようにな」

「うん。バッチリアイツを倒すから、見ててよ!」

そう言って諏訪子は歩き出した。俺とルーミアは平原を見下ろす山の一つ、頂上に登った。

すると三貴神がコチラにやってくる。

「父上様、お待たせしました」

「ん」

ちゃっかり俺の隣に座る天照。ドンだけファザコンなんだ、お前は。

「あら、父上様。そちらの方は?」

天照がルーミアに気付き訊いてくる。

「俺の式のルーミアだ」

「どうも」

ルーミアは少し引きつったような笑みを浮かべている。

まぁ、妖怪からしたら神なんて天敵もいいとこだからな。その中でも最高神なんて、一緒にいるだけでも辛いだろう。

「天照。神力を抑えろ」

「あ、はい」

こういう時、天照は素直に言う事を聞くから楽だ。

「ルーミアと言えば妖怪の中でも『大妖怪』に位置する一角じゃないですか。最近噂を聞かないから死んだとばかり思っていたら」

と、月夜見。そういや都市にいた頃、そんな噂を聞いたような気がするな。

「お前、意外と有名だったんだな」

「えぇ、そうみたいね」

そう言いつつも、満更でもないようだ。嬉しそうな顔を隠しきれてないぞ。

「そう言えば月夜見、月に行った連中は元気か?」

「えぇ、1人を除いて」

ん?1人?誰だ?

「永琳ですよ。あの日月に到着したロケットのどれにも貴方が居ないとわかるやいなや、泣き崩れてしまいましてね。慰めるのに骨が折れました」

「なんでだよ」

泣かれるほどの事をした覚えはないんだがな。

「まぁ、親しい友人が死んだと思ったら、そうなるんじゃないですか?」

「あぁ、なるほどね」

……というか、天照、くっつくな。

 

 

 

 

 

 

「お前が洩矢の神か」

「あぁ、洩矢を、治める祭神であり王。洩矢諏訪子だ」

諏訪子はない胸を張って、精一杯偉そうにした。いや、そんなことしても笑われるだけだぞ?

「ぷふっ……わ、私は大和の神が一柱、軍神の八坂神奈子だ」

ほら見ろ、笑うの必死で耐えてるじゃないか。

「今回はこちらの要望を飲んでくれて、ありがとう」

「……なに。コチラも我が部下が勝手にした事とは言え、礼儀を欠いた事をした」

それに、飲まなかったら多分生きてないだろうし。と最後に小さく呟いた。どうやら諏訪子には聞こえなかったようだが。

「だが、それはそれ。ここからは本気でいかけてもらうよ!」

「勿論だ!軍神の名が伊達ではない事、思い知らせてやろう!!」

そう言うと、2人の間に冷たい風が吹いた。

 

 

 

 

「父上様はどちらが勝つと思いますか?」

隣の天照が甘えながら問いかける。どうでもいいが離れてくれないかなぁ……。

「力量の差ってのはそんなにないんだがな。多分、勝つのは神奈子だよ」

 

 

 

神奈子は細かい神力の弾を無数に放つ。細かく空きのない様に放たれた弾は、しかし諏訪子の作り出す土壁によって防がれる。

土壁によって一瞬でも諏訪子から目を離すと、突然地割れが起こる。突如として地面を失った神奈子は咄嗟に御柱を取り出し、その上に飛び乗る。

しかし諏訪子の攻撃はそれでは終わらず、割れた地面の隙間から、吹き出すように幾つもの弾が吹き出してくる。

神奈子は御柱から飛び、自ら飛ぶことにした。

吹き出る弾は、数こそ多いが決して避けられない訳ではない。

「こんなものかい?!洩矢神!!」

煽るように叫ぶ。しかし相手からの返事は聞こえない。

そんな空気に、悪寒がした神奈子は咄嗟に止まり、半歩分下がる。

すると目の前に突然光の柱が現れた。

天まで届くその光は、神奈子がそのまま進んでいれば、その身すべてを覆いつくし、跡形もなく消し飛ばすほどの神力が込められていた。

「アチャー。外しちゃったか」

すると諏訪子は途切れた光の柱の根本。地面の中からヒョッコリ姿を現した。

「今のはなかなか、肝が冷えたよ」

「そのまま当たってくれれば良かったのに」

お互いに軽口を叩いてはいるが、そろそろ体力、神力共に限界が近い。

「そろそろ終わりにするかい?」

「そうだね……次が最後だ」

 

 

 

 

 

「そろそろ終わるぞ」

俺がそう呟く。

先程まではお互いに隙を作らず、隙を作らせる為に動いていたが、どうやらそれも終わったようだ。限界が近いのだろう。

「結果がどうなっても、怨みっこなしだぞ?」

「えぇ、勿論心得ております」

天照は真剣な表情で神奈子を見守る。

「……いい加減離れない?」

「それはお断りします」

 

 

 

 

「はぁぁぁあああっ!!」

「でぇゃぁあああっ!!」

神奈子は幾本もの御柱を、取り出しそれぞれに神力を込める。

諏訪子は手に持つ鉄の輪に神力を込め、一撃に備える。

それぞれがこの一瞬、最後の時に全てを賭ける。

『くらぇええっ!!』

ふたりが叫び、それぞれの一撃が放たれた。

二つの神力は空中で押し合い、激しくぶつかる。

そして、どちらにも届くこともなくその場で弾けてしまった。

「なっ!?」

全ての力を込めた最後の攻撃は、相手に届かなかった。その心理的なショックに、諏訪子は膝から崩れ落ちた。

「……引き分け?」

「ではないよ」

その声に、諏訪子は顔を上げる。そこには未だに立っている神奈子がいた。

「とは言っても、アタシももう殆ど残ってないけどね」

そう言いながら、諏訪子へと手を伸ばす。

殺られるっ。そう覚悟した諏訪子が目をきつく瞑る。

しかし訪れたのは額に感じる微かな痛みだけだった。

「……へ?」

「これくらいしか、もう出来ないさ」

神奈子の最後の攻撃はデコピンという、なんとも小さなものだった。

 

 

 

 

 

 

「終わりましたね」

「あぁ。神奈子の勝ちだよ」

最後の最後。動くことも出来なかった諏訪子に対して、デコピンとは言え、最後まで立っていた神奈子。これがもし、命を奪う武器を持っていたとしたら、諏訪子は今ので死んでいただろう。

「まぁ、これからが面倒臭いんだがな」

俺達、観戦者は立ち上がると倒れている二柱の神へと近づいていった。




ぜんぺんぜんぺ〜ん!!


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16話/諏訪大戦(後編)

えぇ、勿論賢者タイムですよ?


どうも、霞です。

 

前回で諏訪子と神奈子の勝負は、神奈子の勝利で幕を閉じました。

うん。『勝負は』ね。

大和の神達はこれで洩矢の信仰も得られると思っているのだろう。安堵の溜息を吐いている。

俺は未だに起き上がれない諏訪子を担ぐと、一旦洩矢の神社へと向かうことを勧めた。

こんな地面がバッキバキに割れて、馬鹿でかいクレーターのある(元)平原でお話も何もないだろう。

素戔嗚に肩を貸してもらっている神奈子他、三貴神は俺の後に続き洩矢へと向かった。

途中、諏訪子が小さい声で「ごめん、負けちゃった……」と呟いていたが、何も言わず、ただ頭を撫でるだけに留めた。

 

 

 

まぁ、問題はこれからなんだけどね!

 

 

 

 

「信仰が得られない?!」

デカイ声で驚いているのは八坂神奈子だ。

「デケェ声出すなや」

「いや、しかし一体どういう事ですか?!」

「どうもこうも。いきなり現れた神に、『今日から我々を信じろ!』なんて言われて、はいそうですか。ってなるか?」

こんな時代じゃなくても胡散臭さ爆発だろ。

「まぁ、原因は他にもある。ってかそっちの方が主な理由なんだが」

「なんですか?それは」

月夜見もやはり気が付いていないのか。

「一応、こんなチンチクリンでも諏訪子は土着神の頂点だぞ?みんな報復の祟りを恐れるに決まってんだろ」

「…………あ〜」

どうやら納得してくれたようだ。

「だが、このままってわけにもいかないだろ」

隣に座る諏訪子の頭をポンポンと叩く。

「ってな理由で、新たな神をたてて貰います」

「「「「はい?!」」」」

「なに、簡単な事だ。実質的な事は神奈子が執り行うが、裏では諏訪子が執り行う」

そうすりゃ諏訪子への信仰も神奈子への信仰も集まるって寸法だ。

「ドヤァ」

「最後の表情が無性に腹立たしい以外は、是非もないですね」

月夜見は納得したかのように頷いている。素戔嗚は……あ、理解してないってか諦めてる顔をしてる。

「ってな事で、消えてなくなる、なんて事はなくなったぞ諏訪子」

横で惚けている諏訪子に話しかける。

「あ、えーと……」

「ん?」

「ちょっと色々理解が追いついてないんだけど、一つだけいい?」

「お?なんだ」

 

 

 

 

 

「霞の背中にくっついてるのって、なに?」

「………………自称大和の最高神」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、てめぇら!!今日は宴だぁ!!思う存分飲みつくせぇっ!!」

俺の開会の音頭(?)で厳か(?)に始まった宴会は、大和から集まった八百万の神達によって、もはや戦場とほぼ同義だった。

「……てかさ〜。なんで霞も神様だって教えてくれなかったのさぁ〜」

「そ、れはすまっ、なかったなっ……」

だからなんで諏訪子は酒を飲むと俺の脇腹を殴ってくるの?

「しかも創造神様だってぇ〜?どんだけ偉いんだよぉ〜」

えーと、一番ですが。

それよりも、諏訪子の行動に周りの神達は気が気じゃないらしいぞ。特に月夜見。

注がれた酒を一口で飲み干すと、どこからともなく手が伸びてきて酒を新たに注いでくる。まぁ、背中にくっついてる天照なんだが。

「お前はいい加減離れなさい」

「言われてますよ、洩矢諏訪子」

「いやお前だよ」

なに、この世の終わりみたいな顔してるんだよ。

「ほら、こっち来て呑め」

そう言って隣をトントンと叩く。背中にいつまでもくっつかれてるよりはマシだ。

「父上様がそこまで……どーーーしてもと言うのならば」

「そこまでは言ってない」

「ならココから動きません」

「お前は俺を脅すのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな宴会も、終わりを告げ。また、新しい朝が訪れる。

そろそろ旅を再開するかね。




今更だけど、素戔嗚がくうきだったなぁ……


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神様と言葉と星の降る夜、らしい
17話/神様は方向音痴らしい


はい、新章ですね。
どーも、しおさばです。

この章は原作ではなく、オリジナルストーリーでいこうと思います。


「え?旅を再開する?!」

諏訪子は驚きの声を上げた。

 

八百万の神が集まったあの宴会から、数日経ったある日。

俺は諏訪子と神奈子に旅に出ることを告げた。

いい加減、他のところも見てみたいし。そろそろ脇腹を殴られるのもお断りしたいのですよ。

それに、この時代でなければ見たり聞いたりできない事を、俺は感じたいし。

「えー。もうちょっとここにいなよー」

「いや、もうちょっとって……。具体的には?」

「ざっと千年くらい……」

アホかコイツは。

「まぁまぁ。霞様は創造神でありながらも、自由を司る神でもあるんだから」

間に入って諏訪子を宥める神奈子。ってかなんだよ『自由を司る神』て。

「え?知らなかったんですか?霞様は、その性格から『自由』の神として崇められているのですよ」

誰だそんな事を決めたの「龍神様と天照様です」……うん。もういいや。

「と、とりあえず。そんな創造神様に何を言っても、その身を留めて置くなど無理ですよね」

「まぁな。これは既に決めたことだから。悪いな」

「……しょうがない、か。霞だもんね」

それで納得されるのも嫌だがな。

「それで、いつ起たれるのですか?」

「ん?今日」

「「自由すぎだよ(でしょ)!!」」

 

 

 

 

洩矢にいる間、世話になった酒屋とか飲み屋とか居酒屋に挨拶をしていたら、すっかり遅くなってしまった。

今、俺とルーミアは森を抜け、北へと向かっている。………………多分。

「ちょっと、今無視出来ないこと考えてなかった?」

「キノセイデスヨ、ウン」

森を流れる川沿いに、太陽の位置を確認しながら進んできたから大丈夫だと思うけど。

月明かりが照らす、少し開けた場所にテントを設営する。

え?どこから出したって?創造しましたよ?

ちょっとした機能を加えて。

「貴方、ほんとなんでもありよね」

「褒めてる?呆れてる?」

「半々……いえ、3対7で呆れてる」

はい、こちらのテント。入口のジッパーを下げるとそのまま異空間に繋がっています。しかもタダの異空間じゃなく、現代風の内装完備!バストイレ別!!

「何これ、どうやって使うの?ってか、何につかうの?」

ルーミアはトイレのフタを開け閉めしながら、興奮気味に訊ねてきた。

いや、それ厠だからね?

「ほら、とりあえずこっち来い。飯食うぞ」

「あ、うん。わかったわ」

さて、キッチンに入ると冷蔵庫を、開ける。この中もまた幾らか仕掛けを施した。まぁ、言っても急速冷凍を可能にするのと、食材の自動補充機能なだけだが。

「んで、何が食いた「ラーメン」……うん。俺に責任があるんだが、そこまでか?」

まぁ、作るけどね。

今日は時間が無いから麺は手打ちじゃなく、創造した物を使う。あとスープも。

しかし!チャーシューだけは譲れない!!

これだけは俺が丹精込めて作った、特製のタレに漬け込んだ豚肉を焼く所から始める。

 

 

 

 

食事を終え、交代で風呂に入って一息つく。こないだ創ったコーヒーを啜ると、懐かしい苦味が口に広がった。

このテントは表面に薄くとも強力な結界を張ってある。視認撹乱、探知索敵を自動でしてくれる。テントを中心に半径300メートル内に入った生物を探知し、映像をインターホンの画面に表示してくれる。

なんでそんな話をしたかって?

さっきからインターホンに1人の人間が映し出されているからだ。

「あら、人間ね」

風呂あがり、頬を上気させたルーミアが、髪をタオルで拭きながらのぞき込む。

「みたいだな。あ、倒れた」

さっきからフラフラと、覚束無い動きだったから、多分行き倒れが、妖怪にでも襲われたか。

後者ならば残念。早速次の妖怪に狙われているようだ。

「どうするの?助けるの?」

「……まぁ、しょうがないか」

「私は嫌よ。今、外に出たら風邪をひくもの」

妖怪でも風邪をひくのか、些か疑問だが。しょうがない。

俺は数千年ぶりに刀を取り出し、腰に差す。

 

 

 

 

 

「ってな理由で妖怪諸君!とりあえず俺は今、風呂上りのコーヒーを飲みながらの優雅な一時を邪魔されて、ひじょーーーーーに機嫌が悪い!なので俺の新しい能力の実験台になってもらう!!」

勿論、異論は認めない。

鞘から抜かれた刀を、右手で握りゆっくりと歩き出す。

そう言えば戦闘なんてどれくらいぶりだろう。一時期ルーミアと異空間でお遊びをした事はあったが。それ以外だと……人妖大戦以来か?

目の前に並ぶのは10体ほどの妖怪の群れ。ちょっとテストには物足りないが、まぁいいか。

コチラに向かって、その爪で引き裂こうとした妖怪を、躱しながら、刀で撫でるように斬る。しかし斬られた部分には傷が付かない。斬られたはずの妖怪も不思議そうにそこを確認している。

その瞬間。妖怪は砂のように崩れ、文字通り跡形もなく消え去った。

とりあえず、上手くいったようだ。

「……さ、次は誰かな?」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、さっきの何よ」

テントに戻るとルーミアが開口一番訊いてきた。

いや、その前にコイツをどうにかしたいんだが。

俺は肩に担いで連れてきた、行き倒れ(?)の人間をリビングのソファーに降ろす。

「ふむ。パッと見外傷はなし」

内蔵やらも……大丈夫のようだ。

黒い着物を着た……男……か?

中性的な顔立ちの男を観察する。

白髪なのか、もとから白いのか、髪を肩まで伸ばし、その手には大事そうに扇子を握りしめている。

「ねぇ……さっきのなんなのよ……」

ルーミア、うっさい。

 

どうにも気になるこの男。しかし詳しく調べるのはコイツが目を覚ましてからになりそうだ。

 

こうして、テントでの1日めは過ぎていった。




はい、オリジナルストーリーです。

そしてオリキャラです。

そして主人公の新しい能力(?)です。


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18話/男はみんな厨二病……らしい

台風が来ています。

外に出たくねー。


 朝。セットした時刻よりも早くに目が覚めた。

 目覚まし時計の前で正座待機し、ベルが鳴ると同時にスイッチを押す。どうだ、お前の仕事を奪ってやったぞ。

 歯を磨き、服を着替えると朝食の準備。うちの式に食事を作らせると、肉をただ焼いただけの物が出てくるか、最悪生肉を出される。

 いい加減、家事くらいは覚えて欲しいんだが。

 

 冷蔵庫にあった鮭の切り身を焼いたものと納豆、白米に豆腐の味噌汁といった、the朝食を用意してルーミアを起こしに行く。あれ?本来なら立場逆じゃね?

 

 3人分用意した朝食をテーブルに並べ、昨日保護した男の様子を見ると。安らかな寝息を立てていた。

 こりゃ自然に起きるまで待つしかないな。

 

 2人で朝食を済ませ、ルーミアにこの辺りに村や集落がないか調べに出てもらう。どこからこの男が来たのかわからないが、近くの人間がいる所まで連れていけばなんとかなるだろう。

 それに、気になる事もある。コイツから微かに、それも気が付かない程小さなこの力は……。

 

 

 

 

「まったく、妖怪遣いが荒いわ」

 せっかく美味しい朝食を食べて、あの黒い『こぅひぃ』とか言うのを飲もうと思ってたら「この辺で人間がいる所を探して来い」だもの。

 というか、一応これでも『常闇の妖怪』として恐れられた大妖怪である私が、こんな下女みたいな事を……。

 小さく不満を呟く。あの人のことだから、もしかすると何処かで聞いてるかもしれない。頭に着けられたリボン型の札の力で、コチラの考えとかも伝わっているかもしれない。それだけ馬鹿げたことを、平気でしてくるから困る。

 

 暫く飛んでいると、ようやく小さいが人間の村らしいものを見つけた。が、なんだろう。何処と無く雰囲気がおかしい。

 近づきたくない。

 咄嗟に思ってしまった。なんというか、本能がそう告げているような。

 最初は結界かとも思ったが、違うようだ。神力や霊力を感じない。勿論妖力も。

直感が告げている。『この村に関わるな』と。

……これは、どうやらあの人に報告した方が良さそうだわ。

 

 

 

 

 

 

 

「……んっ」

リビングから微かに声がした。どうやらあの男が意識を戻したようだ。

「……ここは」

「ここは俺の……まぁ家だ。んで俺は神条霞」

「僕は……水斑律」

律と名乗った男は、痛むのか頭を抑える。

1杯の水を差し出すと、喉が渇いていたのだろう一気に飲み干した。

「昨日の事は覚えているか?」

「……昨日?」

「お前はこの近くで倒れていたんだ。そこを通りかかった俺が、連れてきた。まぁ余計なお世話だったかもしれんがな」

「いえ、ありがとうございます」

ふむ。受け答えはちゃんと出来ている。昨日の事を覚えていないのは、おそらく一時的なものだろう。

「そんで、早速だが幾つか聞きたいことがあるんだが」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

「お前、なにもんだ?」




さてさて、これからどうなるんでしょうねぇ


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19話/どうやら雨が降るらしい

酒が飲みてぇ!


目を覚ますと、僕は見知らぬ天井を見上げていた。

今まで見たことも触ったことも無いくらい、柔らかな感触の布団(?)に横たわっていたようだ。

というか、ここは何処だろう。

「ここは俺の……まぁ家だ。んで俺は神条霞」

見知らぬ男性が顔を覗かせる。この家の主だそうだ。あ、名乗られたのだから名乗り返さなきゃ。

「僕は……水斑律」

男性……神条さんは僕の返事に満足したのか頷いて、水を差し出してくれた。とても綺麗な透明の器に注がれた水は、冬場の井戸水のように冷たかった。

そらから幾つか質問をされた。

それで漸く気づく。なんで僕はココにいるんだろう。神条さんの話だと行き倒れの様に倒れていたらしいけど。

それに……僕はなにものなんだろう。

 

 

 

 

 

「んで、コッチにそのおかしな村があると?」

俺達はルーミアの見つけた村へと向かっている。

「えぇ」

ルーミアはく短く、どこかイラついた様に答えた。

「無性に腹が立つのよ。そこに行けるのに、行けない。出来るのにそれをさせようとしない自分がいることに」

まるで目に見えない鎖で拘束されているかのような。

しかも結界を感じず、神力霊力もなかったという。

「なんとも不思議な村、ねぇ」

なんとも陳腐な感想だが、その通りなのだろう。

暫く歩くと、件の村は直ぐに見つかった。小さいが長閑な印象を受けるその村は、凡そ『不思議』というセリフが似合いそうにもない。

俺には何も感じないけど?

振り返るとルーミアはかなり遠い所で立っている。

「どうした?」

「なんか、この先には進みたくないのよ」

これがルーミアの言う『不思議』なのだろうか。

「ふむ。もしかすると妖怪にだけ効く結界か?」

それならばルーミアが近づけないのも頷ける。が、力を感じないのには違和感がある。

「まぁ、行ってみればわかるか」

そう言って、ルーミアに異空間へ入るよう告げる。

 

 

 

「おや、見慣れぬ顔じゃのぉ」

村に入ると1人の老人が声をかけてきた。

「あぁ、俺は旅をしている者で、途中でココを見かけたから寄ってみたんだが」

「そうかそうか。まぁ、何もない村だがゆっくりして行きなさい」

どうやらこの村は雰囲気だけじゃなく、人まで穏やかなようだ。

「して、そちらは……おや、お久しぶりですな」

後ろにいた律に老人は挨拶をする。顔見知りなのか?

「随分昔にいらしてから、月日は経ちましたがな」

「え、えーと……」

「あぁ、どうやらコイツは記憶を失っているようでな」

「なんと!?それはそれは……」

 

 

 

「で?なにか思い出せそうか?」

「……いえ」

キョロキョロと辺りを見回していた律に訪ねたが、状況は芳しくないようだ。

期せずして律と関わりのある村へと来ることが出来たのだが、なにも得られないのだろうか。

「しかし、この村は平和だな。妖怪も襲ってこないのか?」

「えぇ、そうですな。ここ数年妖怪は近づいてすらいませんな」

「……近づいて……いない?」

どういう事だ?ルーミアの言う、不思議な結界のせいなのだろうか。

「なにか結界でも張っているのか?」

「いえいえ、そんな力のある者はこの村にはおりませんよ」

「そう、ソチラの方がいらした時に襲われたのが最後ですな」

 

 

 

 

 

 

「どう思う?」

異空間に閉じこもっているルーミアに訊いてみた。先程の老人……この村の長との会話をルーミアは聞いていただろう。

「まぁ、十中八九過去の妖怪襲撃がキッカケでしょ」

「だよなぁ」

それ以降妖怪に襲われていない、って事から簡単に想像がつく。しかし誰が、どうやって、何をしたのかがわからない。

特に『何をしたのか』わからないことが一番問題だ。

そして……。

縁側で星空を眺めている律。その後ろ姿を見やる。

記憶を失った彼は、今何を考えているのだろうか。

「律もこの件に関係しているのだろうか」

 

 

 

 

星を眺めると、落ち着くような気がした。

何処か懐かしいような、煌めく一つ一つの星が全て僕に向けて光を指しているかのような、錯覚すら覚える。手を伸ばせばその一つに届きそうで。

「『この手に光を』」

そう無意識に呟いてしまった。なんか恥ずかしい。

その瞬間に、伸ばした右手が淡く輝いた。

驚いて手を開くと、その光は蛍のように空中を彷徨い、空へと登っていった。今のは……何だったのだろう。

 

 

 

「……」

今のはなんだ。

律が空へ手を伸ばし、なにか呟くと、右手が輝き出した。

いや、問題は律がなにか呟いた時に溢れ出した『神力』だ。

コイツは人間じゃないのか?

ごく普通の、一般的な量しか感じられない霊力と違い。先程の神力は、そんじょそこらの神より、ヘタをすれば天照よりも多かった。

直ぐに消えてしまった力の波は、まるでそれが幻であったかのように感じられない。

「……ほんと、なんなんだ」

 

 

 

その日、月夜見から聞いた話だと、一つの星が消え去ったという。




さぁ、まだまだ続くぜ!!


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20話/創った神様と操る神様らしい

暑い日は冷たいビールだよね?
異論は認め……る


ヤバイ。どんだけヤバイかって?

神力で補っているけど、内臓とかかなり無くなってる。

なくなる度に創造してるけど、痛いもんは痛いんだぞ!

この口の中の鉄の味も、不快すぎる。

 

まったく、これ程めんどくさい奴は初めてだ……。

 

 

 

 

「律、お前今、何をした」

「え?」

右手の異変に気がついた時、咄嗟に口に出てしまった。

あれは明らかに神力の行使。

振り向いた律は、自分の身に起きたことに怯えながらも、ゆっくりと首を横に振った。

「いま、お前から感じたのは間違いなく神力。神の力だ」

「神の……力」

「そうだ。それを何故扱える」

見ると律の眼から光が消えていた。

「……そうか。そうだった……」

呟いた言葉は聞き取りずらかったが、俺の耳には届いた。

「霞さん。思い出しましたよ。僕は僕だ」

「……お前、何を言ってる」

嫌な予感がする。とてつもなく。

「そうだよ。久しぶりの感覚ですね」

「もう一度言うぞ……お前は、なにものだ」

薄く、まるで気味の悪い笑みを仮面としているかのような。作られた表情を俺に向けてくる。

「僕は、水斑律。神を殺せる者ですよ」

「神を殺せるだと?」

「そう。ですがこれ以上は、今は話すつもりはありません」

そう言うと立ち上がり、俺に向かって歩いてくる。

「だから、ここは失礼します」

「待てよ。簡単に逃がすと思ってんのか?」

「思いますよ。だって『何者にも気付かれず、この場から居なくなる』のですから」

また神力を感知した瞬間。律の姿は消えていた。

「は?」

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。アイツは」

慌てて外に飛び出すが、やはりというか律を見つけることは出来なかった。

 

翌日、村を後にした俺は小だかい山の頂上から空へ向けて声をかけた。アイツなら普通に呼んでも聞こえているだろう。

「天照」

「お呼びでしょうか父上様」

その声と共に背後には眩い光と共に天照が現れた。

いや、読んでから来るまでが早いわ。

「いかがなさいました?」

「いや、うん。……お前に聞きたいことがあるんだが」

「私のスリーサイズですか?いくら父上様でま恥ずかしいですわ」

「んなもの訊くか」

軽くチョップをかまし、暴走を止める。

「聞きたい事は、『神を殺せる』と言い放った男のことなんだが。なにか知らないか?」

「神を殺せる、ですか?そんな事可能なのでしょうか」

「それは俺も思う」

そう、アイツは『消滅』ではなく『殺す』と言ったのだ。信仰を無くした神ならば、その身は消滅、つまり消え去ってしまうが、アイツのいう「殺す」は意味が違う。信仰のある神を、力をもって消し去るのだろう。

つまり、神を超えた力を持っている、という事だ。

「そんな人間がいると?」

「おそらくハッタリでは無いだろうな」

あの時感じた神力は、俺ですら対処するのに苦労しそうだ。

「う〜ん。そんな事が、神を超えることが出来るとするならば……」

天照が一つの可能性を示した。そして多分、それは正解だろう。そんなヤツがいるとは思いたくなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

満天の星空。

その一つ一つが美しく輝き、夜だというのに辺りを明るくしてくれる。

僕には力があった。

なんでも希望を叶えられる力。

不可能を可能にする力。

僕はただ、希望を言葉にするだけで良かった。

僕の能力は『言葉を現実にする程度の能力』。いわゆる言霊を操る能力。

この力を使えば、神ですら太刀打ちできないだろう。

まぁ、多少のリスクはあるが。そんな事は些細な問題だ。

「そう思いませんか?霞さん」

物音も気配も感じなかったけど、確かにそこにあの人はいる。

「何のことだかわからないが、そうは思わないね」

そこにいた霞さんは、昨日までとは違い目付きが鋭くなっている。

「怖いなぁ。そんな目で睨まないで下さいよ」

「そうだな。お前が何を企んでいるのか教えてくれたら考えるわ」

「企む?何を言ってるんですか、僕はごく普通の人間ですよ?」

僕は笑っているのだろう。顔を見た霞さんの目が一層怖く感じた。

「ただ、この世界が大嫌いなだけですよ」




はい、オリキャラの能力です。

ぶっちゃけ言霊を使えるって、相当強くない?


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21話/言葉は人を殺せるらしい

はい、どーも。しおさばです。

霞「この章ってあとどんくらい続くんだ?」

んー。あと3、4話ってとこかな?

霞「長い……のか?」

ほら、早く他のキャラとかも出したいし。

霞「ならこんな話書いてないで本筋進めろよ」

だが断る!!


光り輝く星空の下、俺と律は向かい合っていた。

昨日まで、記憶を無くしていた男とは思えない程、その表情は晴々としていて。その分悪意に満ちていた。

「この世界が大嫌い?」

律は確かにそう言った。

この世界が、彼に対して何をしたのか。それはわからないが、これだけの悪意を見せる彼は、心の底から嫌悪感を持っているのだろう。

 

「僕はね、ほとほと嫌気がさしたんですよ」

 

 

 

 

 

僕は物心ついた頃から自分の力を理解していた。

自分が望んだこと、言葉にしたことが全て現実になる。

最初は理解していたとしても、その制御をする事が難しく、周りに気味悪がられた。それはそうだ。僕の一言で周りが幸せにも不幸にもなるのだから。

しかし、それでも僕の両親だけは、僕の味方をしてくれた。僕にはそれだけが心の支えだった。

力強く、尊敬する父と優しくなんでも包み込んでくれる母。

お世辞にも裕福とは言えなかったが、それでも確かに幸せだった。

 

あの日までは。

 

その日、僕は人間の醜さを目の当たりにした。

山をひとつ越えたとなり村の人間が、僕の噂を聞きつけ、戦を仕掛けてきたのだ。

勿論、僕の両親は必死に僕の存在を隠した。

 

『同じ村の人間が、裏切らなければ』

 

村ハズレにある洞窟に隠れていた僕は、簡単に見つかってしまう。

暗い洞窟の中、見覚えのない人間が入ってくるのがわかった。

その瞬間、僕にはわかった。僕は村の人間に裏切られたと。僕はこの村にとって疫病神でしかないと。

「この餓鬼がそうか?」

「あぁ、アイツらが言ってたんだ。間違いねぇ」

鉄製の剣を携えた男2人は、僕を乱暴に引きずり出した。

その時、初めて村の現状を確認した。

 

所々で立ち上る黒い煙、遠くからでもわかる血に濡れた人だったものの姿。そして、村の中央で吊るし首にされていた……。

 

 

僕の両親。

 

 

 

「さ、さぁ!本当の事を話したんだ!俺は逃がしてくれ!!」

そう言ったのは、いつも僕ら家族と仲良くしてくれていた、隣の家の主人だった。

「あぁ。確かに餓鬼はいたが、本当にコイツが『神の奇跡』なのか確認しなきゃなぁ?」

僕を引きずっていた男は、卑しい笑みを浮かべていた。

「おい、餓鬼。お前の力でコイツを殺してみろ!」

 

あぁ、人間って、なんて汚いんだろう。

この世界は、なんて歪んでいるんだろう。

 

なんで僕はこんな力を手に入れてしまったのだろう。

 

僕は願った。最初で最後の神への願い。いや、ホントはその神すらも、僕は嫌悪していたのかもしれない。

でも良いんだ。

 

僕はこの日、全てを失う代わりに、全てを壊す決意を固めた。

 

「お前ら『死ね』」

 

 

 

 

 

「僕には、何もない代わりに、力がある。こんな汚く歪んで、醜い世界を壊せるだけの力が」

向かい合った律の目は、希望を失い、絶望の中で生きている。そんな目をしていた。

「……あ、そう」

だが、そんな事は俺には関係ない。律の過去に何があろうと。俺はこの世界の創造主として、守らなくてはイケナイ。

「たとえお前に世界を壊せるだけの力があろうと、全てを壊せる訳じゃない。その事を証明してやるよ」

「どうして邪魔をするんですか、霞さん」

俺は鞘から刀を抜く。月明かりに照らされたその刃は、幻想的に美しく見えた。

「『俺の世界』を壊されたくないからだよ」




重い……かな?


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22話/断ち切る刀らしい

どーも、しおさばです。

前回は、本当ならもうちょい思い感じになる予定でした。

でも、途中で気がついた!!

「あ、これ以上はアカン!!」と


「僕を殺すんですか?」

--いや、殺さない。

「僕を救ってくれるんですか?」

--いや、救えない。

「僕に何をしてくれるんですか?」

 

 

「お前を断ち切ってやるよ」

 

 

いつの間にか異空間から姿を現していたルーミアは、大剣を構え、律を睨む。

「お前は自分で言う程、この世界を、人間を嫌いになっちゃいないんだよ」

「……何を言うかと思えば」

律は嘲笑うかの様に俺を見据える。その目には一瞬だが、確かに苛立ちが見えた。

「僕は人間が嫌いだ。人間である僕自身も大嫌いだ。だから、この地上ごと消えてなくなりたいんですよ」

「それで?その為にお前は何をするんだ?」

 

 

「霞さん。頭上に輝くあの星は、その実体が巨大な岩の塊だって言ったら、信じますか?」

「は?」

いや、それは知ってるが。

「まぁ、僕もある人に教えて貰うまでは信じられなかったんですがね。でも、至って真実なんですよ」

「それが?」

嫌な予感がする。

「もし、その星達がこの地上に降ってきたら、どうなりますかね?」

あぁ、碌でもないこと考えてやがる。

そりゃ隕石が降ってくるだけでも、今の時代なら大惨事になるだろう。ましてや、それが幾つもの星ならばこの地球は、その形を保ってはいないだろう。

「ふーん。なら止めなきゃなぁ」

「どうやってですか?」

律は両手を広げ、余裕の姿を見せている。余程自分の能力に自信があるのだろう。

どんな能力か、知らないが。

「まさか、その連れている妖怪に僕を襲わせるんですか?」

「形振りかまってられないならそうするがね」

「やだなぁ、『そんな小さな子』にそんなことさせないでくださいよ……」

また、あの神力が溢れる。

「な、なんなのかー!?」

振り返るとそこにいたはずのルーミアが姿を消していた。

代わりにそこにいたのは……。

「はい?」

黒白の服を着た、金髪の幼女だった。

「お前、ルーミアか?」

「そうなのかー」

いや、俺が聞いてる側だから、そこで納得されても困るんだが。

「……お前がやったのか?」

「さぁ、どうでしょうね」

まぁ、馬鹿正直に答えるわけがないか。

「それに、そんな小さい子にはこの場は相応しくないですね。『何処か遠くに行って』貰いましょうか」

一瞬だ。それこそ瞬きをした瞬間に、ルーミアは姿を消した。

「……なるほど」

ある程度能力の全容がわかってきた。

アイツは考えていること、若しくは言葉にした事を現実にする能力。言わば言霊遣いってヤツか。

「なんとも、厄介なことこの上ないな」

「そうですか?」

確かに、この能力ならば神を殺すことができる。ただ、相手に『死ね』と言うだけでいいのだから。

「まぁ、それでも俺は殺せないけどな」

「……何を言ってるんですか?貴方だって例外じゃありませんよ」

俺の発言に、少し苛立ったのか、見るからに不機嫌になる。

「僕もあまり時間をかけたくないんですよ。だから……霞さん…………『死ね』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。俺、不老不死だから」

そもそも、『死』の概念が今のところ無い俺には、言霊ですら俺を殺す事はできない。

「……なんなんですか、貴方は」

「何って言われてもねぇ」

ただの旅する創造神様だよ?

「……死なないんですね。貴方も化け物じみてますね」

「一応、褒め言葉として受け取っておくよ」

「でも、痛みは感じるんでしょう?」

「さぁ?どうだろうね」

いや、多分痛いのは痛いと思うが。

「所で霞さん。『折れた右腕』は大丈夫ですか?」

「!?」

律が言葉を発した瞬間、右腕に激痛が走る。見ればありえない方向に曲げられた右腕がぶら下がっている。刀を握る手にも力が入らず、思わず落としてしまった。

「ぐぁああっ!!」

「おやおや、死なないとはいえ痛みは感じるようですね」

「当たり前だろが。俺は死なない、普通の人間だっての!!」

「そうですか。でもそんなに叫んで大丈夫ですか?『肺が潰れている』のに」

「!?」

身体の内部で、唐突に喪失感があった。逆流する血液。口内に広がる鉄の味。

「苦しいですよね?肺も、『胃も無くなって』いるのに」

「ごぱぁっ……!!」

クソ、今度は胃かよ?!

「これだけしても死なないんですね」

突然の激痛に崩れ落ちてしまった俺を、律は見下ろす。

いくら死なないとはいえ、流石にヤバイ。何故って?無くなったものは再生する訳では無いからだ。俺はただ、『死なない』だけで、『傷が再生する』わけじゃない。だからこそ、傷は常に霊力や神力で癒していたんだが。

『ヤベェな。このままは……』

ならば。

 

「……じゃぁ、そのままこの地上が消えていくのを見ていてください」

律はもう、決着がついたと思ったのか、俺に背を向けた。

まったく、面倒臭い。

俺は力の入らない右手に左手を合わせる。

「……おいおい。どこ行くつもりだよ」

「?!」

振り返る律は、目の前に迫る刀の切っ先を辛うじて避ける。

「な、なんで!?」

「……お前の能力じゃ、俺を殺すことも、ましてや俺を倒すこともできねぇよ」

「た、確かに肺と胃を潰した筈なのに!!」

俺は口の中の血を吐き出す。

「お前だけが特別じゃないんだよ」

「……『脚の腱が切れた』状態で言われてもね」

おうっ、またかよ。

今度は脚に激痛が走り、言葉通り崩れ落ちた。

「何度も何度も!!」

手を合わせる。そして、切れた腱の代わりに新しく腱を『創造』する。

「……そろそろ、俺も攻めないとな」

「!!」

明らかに、律の表情が変わる。それは恐怖なのか、焦りなのか。

 

落としたままの刀を拾い、構える。

「そんな刀!『折れろ』!!」

しかし、一向に折れる気配すらない刀に、また律は驚く。

「な、なんで!?」

「……それは、この刀がこの世の理から『断ち切られて』いるからだよ」




さぁ、何時ぞやの霞の能力、その内容を次回明らかに!!


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23話/星降る夜と断ち切る絶望……らしい

なんかドラクエっぽいタイトルになっちゃったなぁ……


右手で握る刀に、神力を注ぎ込む。青白く光りだした刀は、神秘的に見えた。

「……なんなんですか。その刀は」

「この世の理から『断ち切られて』いるからな」

そう。俺は先日、この刀にある能力を付加させた。

『森羅万象を断ち切る程度の能力』

この刀で斬られたモノは、この世の理から『断ち切られる』。

それは物体を形作る原子の結合であり、絆であり、能力であり。

この刀に断ち切れないものはない。

「そろそろコイツにも名前を付けてもいいかな」

俺は刀を夜空に掲げた。月明かりに照らされた刀を振り払う。

「そうだな。『夜月』にしようか」

「この世の理から断ち切られている?何を言ってるんですか!!」

見るからに苛立っている律は、敵意を剥き出しにして俺を睨む。

「……そんな刀……『折れろ』『折れろ』『折れろぉおおおっ!!』」

「無駄だよ」

律がいくら能力を、使って叫ぼうが、刃こぼれ一つしない夜月。

「……その刀で僕を斬るんですか?」

「いや、俺はお前を斬らないよ」

俺は夜月を一度鞘に収める。そして腰を低く落とす。

「俺が斬るのは、お前の繋がりだよ」

 

 

 

居合斬りの構えを取った俺は、律を見据える。勝負は一瞬。律が言葉を発するのが先か、俺が斬るのが先か。

「……僕は……ただ、復讐したかっただけなんだ……」

「んなこと知るか。お前の狭い了見で、お前と同じ人間を作ろうとしてんじゃねぇよ」

「!?」

「お前の過去に何があったかなんて知らねぇし、知ろうとも思わねぇ。たが、お前の望みは次のお前を作るだけだ」

「……なら!どうすれば良かったんですか!!」

夜風が俺達の間を吹き抜ける。それは律の心に吹き続ける、冷たい風のように思えた。

「言ったろ?知るかよ。甘えてんじゃねぇ。……ただ、その苦しみを誰かに打ち明けてれば、まだ違ったかもな」

「……」

「そろそろ、終わりだ」

俺は一息に地面を蹴る。霊力を込めた脚力は、容易に地面を割り、風を置き去りにして駆け抜ける。

「『星よ……!!』」

「断ち切れ!夜月!!」

斜め下から逆袈裟に切り上げる。その刃は律の肉体を傷つけることはなく、振り抜いた。

俺が断ち切ったのは律の心の迷い。過去の記憶の闇の部分。

「…………」

「お前が欲しいものはあげられない。だから、その心は……ココに置いていけ」

「……か、霞……さん」

ふと、律の頬が濡れた。気がつくと空は雨雲で覆われ、雨が降り出した。

「…………ごめんなさい。霞さん『僕に』……」

「?律?!」

律の頬を濡らしたのは雨なのか、それとも……。

「『落ちろっ』」

「?!」

 

 

 

 

溢れ出した神力は、律の言葉に乗り、天へと登っていく。

空へと消えた言霊は、雲を割り、星空へと届いてしまった。

そして、律の望みどおり、星が一つ、落ちてきた。

律をめがけて。

「律っ!!」

「ごめんなさい。霞さん。そして、ありがとう」

大気圏で赤く燃えた星は、その大きさをだいぶ小さくしていた。しかし、その形を失うことなく真っ直ぐ律へと向かう。

「クソが!断ち切れ!夜月!!」

俺は落ちてくる星、小さな隕石目掛けて夜月を振り抜く。

しかし、一度神の力で引き寄せられた隕石は、もはや繋がりではなく、まるで意志があるかのように律へと落ちてきた。

「やめっ……!!」

そして無残に無情に、無慈悲に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

律を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで、星が降ったことすら無かったかのように、辺りは静寂に包まれた。

「……律」

既に息絶え、俺の言葉に反応しなくなった律は、何処か満足そうに、安心したように、眠るように横たわっていた。

「別に、死ぬ必要なんか……なかったのにな」

俺は夜月を振り、納刀する。

収めらた夜月の音は、暗い夜の闇の中に響いて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな丘の大きな桜の樹の下に、小さいが墓を作ってやった。石には小さく『律』と一文字だけ彫り込んだ。

墓の前で屈み、手を合わせる。

「お前は自分で言う程、人間を嫌いじゃなかったんだよ」

誰に聞かせるでもなく、呟くように語る。

「お前が本当に、心の底から人間が憎いなら、あの村に言霊の結界なんて貼らなかっただろ」

律の能力は言葉に神力を乗せて、事象を引き起こす。その為、引き起こされた事象、結果には神力や霊力が感じられなかったのだ。

「……お前ともう少し早く会えていれば。違ったかもな」

そんな今更なことを、心にもなく思い、口にしてしまう。

「……また、時間が出来たら来てやるよ」

そして俺は、立ち上がり振り返ることなくその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「ココはどこなのかー?!」




はい、と言うことでオリジナルストーリーでした。
そんでルーミアと離れ離れになっちゃいましたねー。

計画通りっ……!!( ̄▽ ̄)ニヤリッ


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一万円札だったらしい
24話/ステレオとモノラルの違いって良くわからない……らしい


はい、どーも。しおさばです。

そんじゃやっと原作(?)に戻りますよー。


あ、どうも。霞です。

 

ルーミア(小)と離れ離れになってしまいました。

まぁ、ルーミアに付けた札がまだ働いているから、無事だとは思うけど。大丈夫かな。

 

と、ルーミアを探して旅を続けて数年(?)。途中で耳に入った噂が気になった。

「聖徳太子?」

「えぇ、噂では10人の話を1度に聞き分けられるみたいだね」

道の途中、立ち寄った団子屋の女将が話してくれた。

うむ。団子が旨い。

「その都って、どっちに行けばいいんだ?」

「都かい?それならこの道をまっすぐ行けばいいよ。だいたい3日程で着くと思うよ?」

「おぉ、そうなのか、なら見物してみるか」

俺は最後の団子を口に含み、勘定を払う。

夜月を、腰に差し直して背伸びをする。ここから3日なら、飛ばして半日くらいかな?

とりあえず、日が暮れるまでには都に着きたいが。

 

 

 

屋敷の廊下を歩いていると、空が橙色に染まっているのに気がついた。最近は集中し過ぎて時間が経つのが早く感じます。

まぁ、それでも時間は足りないくらいなのですが。

縁側に腰掛け、沈みゆく夕日を眺めると、人の一生のように儚く、瞬く間に終わってしまう命のように感じます。

「ん?」

夕日を眺めていると、遠くに小さな影が飛んでいるように見えます。まさか妖の類いでしょうか。

「と、言うかどんどん近づいてますよね」

最初は黒い、小さな点だった影は、その大きさを少しずつ大きくしていく。

そして、それは飛ぶようにこちらへ近づく人の影だと分かるまで大きくなる。

「え?え?!」

そしてそれは、屋根から屋根へ飛び跳ねるように京都の中を駆けていく。こちらへまっすぐに。

「--え?!」

「……あ!!」

その人影は、私の目の前。庭に着地すると、目が合いました。黒い髪を靡かせ、青の着物と白い羽織。その姿は優雅で、不覚にも見とれてしまいました。

それは一瞬のことだったはずなのに、私にはとても長く、永く感じました。

「……やっべ!」

そう言い残して、彼は再び飛んでいってしまいました。

---何だったのでしょう。彼はいったい……。

 

「いやぁ……やっべぇ。まさか人に気づかれるとは思わなかった」

団子屋から脚力に物言わせて走って(飛んで?)来たは良いけど、途中から調子乗っちゃったもんなぁ。

ま、もうあの子に会うことも無いだろうし。

とりあえずは今夜の宿を決めないと。

 

 

 

「おや、お兄さん旅の人かい?」

「ん?わかるか?」

都の中で露店が並ぶ通りを散歩がてら歩いていると、ゴザに野菜を並べていた女性が話しかけてきた。

「そりゃわかるさー。ここいらじゃ見ない顔だし。腰にそんなもの差してたらね」

「あー。まぁそりゃそうか」

俺は屈みこみ、並べられた野菜を見る。これは……葱か?

「どうだい?1つ買っていくかい?」

「ふむ。なら1つ」

俺は懐から巾着を取り出す。

葱一つ分の代金を払って受けとる。

「そういえば、聖徳太子の噂を聞いてココに来たんだが、どうすれば会えるかな?」

「太子様にかい?そりゃ、無理ってもんだ。なんせ相手は摂政様だよ?」

「あー。確かに……」

相手はこの国のトップ。ただの旅人が会えるような人物じゃないか。

どうしようかな。

 

 

 

「太子様〜」

廊下を駆けながら大きな声で呼ばれる。

何度言ってもあの子は……。

「布都、あまり大声で呼ばないでください」

「おぉ!太子様、ココにいらっしゃったのですか!!」

襖を勢い良く開け放った布都は、転げるように部屋に入ってくる。

「布都、もう少し落ち着けませんか?」

「?我はいつでも落ち着いておりますぞ?」

いや、世間一般では貴方は落ち着いていない部類ですよ?

「それで?どうしたのです?」

「お?…………おぉ!実はですな、我の風水によって占いましたところ、ここ数日に妖共の大規模な行動が出たのです!!」

「妖の大規模な?」

「はい」

ふむ。布都の風水は信憑性がありますから。ほぼ確実に妖共は何かしらを企んでいるのでしょう。

「さて、どうしましょうか」

「どうしましょうかねぇ」

気がつくと壁から上半身を出した、霍青娥がいた。

「青娥、盗み聞きとは感心しませんよ」

「あら、細かい事は気にしない方がいいですよ?」

細かいのでしょうかね。

「それより、妖の件ですが、私にいい考えがあります」

 

 

 

 

「いやー。この時代の団子は旨いなぁ」

基本俺は辛党なんだが、どうしてか最近は甘いものが無性に食べたくなる。あれか?転生したからか?

「うむうむ。……おや?あの人集りは?」

通りを歩いていると途中で人集りを見つけた。なんだ?高札か?

「え〜。なになに?『来れ!妖討伐軍!!貴方の手で都の平和を守りましょう!!』?」

なんだこれ、つまりは義勇軍を募集してるってことか?

「どうする?かなり給金は良いが、妖の相手をするとなると……」

「流石に死にたくはねぇよな」

お、これって勅令か。なら聖徳太子に会えるかな?




霞「そういえば、作者って歴史の成績悪かったよな?」
作「それが何か?」
霞「大丈夫なのか?この先のストーリー」
作「なんとかなるさ!!」
霞『絶対どっかしらで矛盾が出てくるな……』


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25話/ヘッドホンよりイヤホンらしい

はい、どーも。しおさばです。
基本、この時間に投稿する事が多い気がする。

夜更かししちゃダメよ〜?


あ、どうも。霞です。

 

先日、大通りで見かけた高札の内容。妖怪退治の義勇兵を募集していたため、参加することに決めました。

いや、特にどうしても妖怪を倒したいって訳じゃないし。基本、妖怪退治はその時代の人間に任せることにしている。一々神様がでしゃばっちゃダメでしょ。

まぁ、今回は特別。

「あの〜。青娥?貴方の提案で高札を出しましたが、聞くところ1人しか来なかったみたいですけど」

「あれ〜?おかしいなぁ……」

案内された部屋の奥、襖を1枚挟んだ向こう側の部屋で、誰かの話し声が聞こえる。

「ま、まぁ、とりあえず、せっかく来てくれたのですから、会ってみましょう」

お?ようやっと誰か来るのか?

俺は出されていたお茶で口を潤す。まぁ、いきなり聖徳太子とご対面、ってことはないだろうが、かなり近づいたと思う。

「お待たせしました」

襖を開け、2人の少女が姿を現した。

ってか、片方の子、すごい髪型だな……。

「はじめまして、私は旅をしております神条霞と申します」

俺はとりあえず挨拶をした。いくらなんでも此処で無礼があれば、聖徳太子に会うことすら難しくなるだろう。

「面を上げなさい。私は厩戸皇子。またの名を豊聡耳神子と申します」

……ん?厩戸皇子ってどっかで聞いたな……。どこだっけ?

「ん?」

「ん?」

顔を上げた俺は、目の前にいる少女に見覚えがあった。

どうやら相手も同じようで、似た反応をしている。

「「……あぁーーー!!!!」」

「貴方は!あの時の天狗!!」

「誰が天狗か!普通の人間じゃ!!」

「普通の人間は屋根の上を飛んだりしません!!」

「なら俺が化け物だとでも言うんかい!!」

「だから天狗です!!」

そんなやり取りを、もう1人の少女は呆けた顔で見ていた。

「……ほぉ、俺を天狗呼ばわりとは失礼な」

「貴方こそ、誰を目の前にして話しているかわかっているのですか!?」

誰って厩戸皇子なんだろ?……ん?厩戸皇子?

………………聖徳太子かっ!!!

「アンタが聖徳太子か?!」

え?聖徳太子って男じゃなかった?あれ?歴史の教科書でみたあの絵は女だった?

いや、髭とか描いてあったよな?

「……この失礼な男、即刻処刑してやりましょうか」

あ、聖徳太子が怒ってる。

「まぁまぁ、まずは落ち着いて」

何処からか現れた女性に聖徳太子が宥められている。

ん?この感じ。仙人か?

「……あら、貴方は驚かないのですね」

「どうせその頭の鑿を使ったんだろ?」

そう言うと青い髪をしたこの女性は驚いた表情をした。

「驚きです、知ったいたのですか?」

「いや、アンタからはこの国では感じない、大陸で言う仙人のような力を感じたし、その鑿からも特別な力を感じる」

すると女性は驚きながらも、嬉しそうに俺を見た。なんだ?変な事言ったか?

「神子、この方はどうやら只者ではないようですよ」

「それはわかってますよ、だって天狗なのですから」

まだ言ってるよ。

「いえいえ、この方は人間ですよ?この方からはまったく、妖気を感じませんし」

「……本当ですか?」

「さっきから言ってるでしょうに」

そうは言ってもまだ疑っているらしく、目つきが変わらない。

 

 

 

「では改めて。私は厩戸皇子。まぁ、豊聡耳神子です」

「どっちで呼べば?」

「……神子です」

「私は霍青娥。仙人ですわ」

「我は物部布都じゃ」

なんとも、この世界の聖徳太子は女だったってか。

俺が作ったせいで本来の歴史と変わったのか?

「で、貴方は本当に何者ですか」

「だから、ただの旅人。神条霞だって」

「……神条霞とな?」

今度は物部布都が反応をしめした。なんだ、アンタも俺を天狗って言うのか?

「いや、そうではなくてな。その名を何処かで聞いたような気がしての」

「気のせいだろ」

俺はそこまで有名になるほど目立ってはいないはず。

……多分。

「まぁ、本題にはいりましょう」

神子はお茶を啜って一息つく。

「貴方にはこの都を守る為に妖退治に行ってもらいます」

「……1人で?」

……おい、全員黙るなよ。

「……ほら、だから言ったじゃないですか」

「いやいや、本来ならもっと沢山の方が集まって、妖退治に行ってもらえる筈だったのですよ」

と、神子と青娥がなにやら言い合っている。布都は未だに頭を抱えているし。

「……まぁ、1人でも良いけど。妖はどれくらいの量なんだ?」

「それが、ハッキリとした数はわからないのです」

「場所は?」

「……それも」

おい、聖徳太子ってアホなのか?

「で、ですが近々妖共の大規模な行動が、布都の占いで出たのですよ!」

「判断基準が占いねぇ……」

まぁ、あながち間違いじゃないんだろう。遠くの山で妖力を微かにだが感じる。

「はぁ、わかった。それじゃその何処にどれくらいのいるかわからない妖共を退治すればいいんだな?」

「……そ、そういう事です」

言葉にすると、なんて曖昧な勅令なんだろうか。

 

 

 

目の前にいる男性は本当に何者なのでしょうか。

冷静に考えてみれば、こちらはなんともあやふやな命令をしているというのに、了承しました。

というよりも、先日の光景が未だに頭から離れません。あの時、確かに天狗の様に現れ、颯爽と去っていったあの姿。不覚にも見とれてしまったというのに。同じ人なのでしょうか。もしかしたら別人?

「どう思いますか?青娥」

私は隣に座っている仙人、霍青娥に聞いてみました。

「なんとも言い辛いですねぇ、私にもあの人の底は計り知れません」

なんと、あの仙人である青娥でもわからないとは。本当に不思議な人です。

「ですが、悪い人ではないようですが?」

「まぁ、それはわかります」

こんなトンデモナイ依頼を引き受けてくれるのですから。

「ん〜。どこであったか……。何かの書物であったような」

青娥とは逆隣の布都は、未だに首を捻っています。そこまでされると、私も気になってしまいます。

 

 

 

 

とりあえず、目的は簡単に達成してしまった。

まさか聖徳太子が女の子になってるとは思わなかったが。

ま、頼まれたことはやりますけどね。

俺は神子にあてがわれた部屋で、沈みゆく夕日を見ながら、明日の計画を考えていた。

 

なんか面倒臭い事になりそうな気がしながら……。




霞「なぁ、神子ってこんなキャラだっけ?」

作「……ほら、タグにもついてるでしょ?『キャラ崩壊』って」

霞「それしとえば何をしても良いってわけじゃねぇぞ?」


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26話/そこはかとない不安……らしい

眠く……ないっ!!


「それで、貴方はこれから何処に行こうとしてるのですか?」

朝食を済ませた後、昨日妖力を感じた山に行こうと準備をしているところ、神子に話しかけられた。

まぁ、準備と言っても着替えて刀を腰に差すだけなのだが。

「ん〜?とりあえず近くの妖力を虱潰しに」

俺としては早く外に出たいのだが。少なくとも、都の中では煙草が吸えないから。

「そうですか。ですが1人で?」

「……まぁ、昔は連れがいたんだがな。今は1人だししょうがないだろ」

ほんと、ルーミアは今頃何をしてるんだか。少なくとも札がちゃんと機能しているようだから、無事だとは思うが。

「き、気をつけて下さいね」

「え?あ、うん」

 

都を離れて少し歩くと、山の麓に着く。昨日はこの山から妖力を感じた。が、今はそれがない。

咥えていた煙草を踏み消すと、俺は山登りを始めた。ってか、なかなかに大きな山だから、かなりキツそうだ。

緑が生い茂った森を進む。深い森の匂いが鼻をつく。

特に整備されているわけもない山道を、かき分けるように進むと、川にぶつかった。その川沿いを、登っていくと途中で滝を見つけた。

なんとも、マイナスイオンをこれでもかって程浴びてるなぁ。

少し高い滝を駆け登る。するとそこには1人の少女が岩に座って釣りをしていた。

こんな所に女の子?

青いつなぎのような服を着た少女は、かなり大きな麻袋に紐を通して、リュックの様に背負っている。微かにだが妖力も感じるし。妖怪か?

「……え〜と。はろー?」

「ひ、ひゅいっ?!」

声をかけると驚いたのか、釣竿を川に落としてしまった。

「あ〜ぁ」

「あ、アンタ誰?!」

いつの間にか少女は腰掛けていた岩の後ろに隠れて、こちらを覗くようにしている。そこまで怖いか?俺。

「いや、普通に旅をしている人間なんだが、君は妖怪か?」

「そ、そうだよ。私は河童の河城のとり」

おぉ、河童か。初めて見た。

「そうか、河童か。俺は神条霞。よろしくな」

と、自己紹介しても、やはり警戒しているのか姿を見せてくれない。

ふむ。なら河童といえばアレだな。

俺は両手を合わせてある野菜を創造する。少なくともこの時代には見た事がないが、何処かで作られているのだろうか?

「これ、食うか?」

俺はそう言ってキュウリを差し出す。うむ、ついでにキンキンに冷やした状態にしてあるから、普通に美味そうだ。

「な、なに?それ」

「コレはキュウリって言ってな。旨い野菜なんだ」

些か不安なのだろう。俺はもう一本創造して、食べるところを見せてやる。

「な?別に怪しい物じゃないから」

そう言ってザルに何本か出し、地面に置いて少し離れる。

俺が離れたのを確認して、のとりは漸く姿を見せてくれた。恐る恐るキュウリに手を伸ばし、1口齧ってみた。

その瞬間、のとりは驚くほど輝いた目をしてキュウリを一心不乱に齧り出した。そんなに美味かったか?

「これ!美味しい!!」

「そ、そうか。気に入ってもらえて良かった」

 

「んで、ここにはのとりしか居ないのか?」

キュウリですっかり気を許してくれたのとりは、今では俺の隣に腰を下ろしてキュウリを食べている。

「そんなことないよ盟友。ここは妖怪の山って言われている所だからね、他にも色々な妖怪がいるよ?」

盟友?

「そうなのか。他にはどんな妖怪がいるんだ?」

「ん〜。天狗とか、鬼とか」

うわぁ!面倒臭い種族を聞いちゃったよ。

「お!鬼がココにはいるのか?」

「うん。だからこの先には行かない方がいいよ?」

まぁ、そうも言ってられないのだが。

「そうか、ありがとう。でも、俺はこの先にいる妖怪に用があるんだ」

「そうなのかい?」

うん。せめて会話してる時くらい食べるの止めようか?

「この山を下りて少しした所に、人間が沢山いる場所があるだろう?出来ればそこには近付かないで欲しいんだ」

「人間?なんで?」

「妖怪と人間は相容れない存在だろ?不要な争いは避けるべきさ」

「……なるほどね」

 

 

 

のとりと別れて再び登山を開始した。

なんとか河童には都に近付かないと約束をして貰ったが、他の妖怪はこの様に簡単に済むとは思えない。

特に鬼。

今から既に気が滅入ってしまう。

 

 

暫く歩くと、何処からか声をかけられた。

『ここは我ら妖怪が治める地。人間は即刻立ち去れ』

エコーのかかったような声に頭が痛くなりそうになる。

「そうは言っても、俺もこの先に用がある、というか妖怪に用があるんだ。良ければ姿を見せてくれないか?」

『人間如きが、我らに何用だ!!』

なんとも、喧嘩腰な発言だな。聞く耳持たないって感じ。

「この近くにある人間の治める地に、近付かない、ただその約束をして欲しいだけだ」

『舐めるな!人間如き貧弱な存在が、我ら妖怪に命令するつもりか!!』

こいつ、話を聞いているのか?

「命令をしているんじゃない!約束をして欲しいだけだ!!そうすれば、我々もこの山には近付かない事を約束しよう!!」

『巫山戯るな!貴様ら人間の言う事を何故信用できる!!』

……あー。コイツは何を言っても平行線のままだな。

というか、いい加減俺も腹立ってきた。

「……姿を現せ」

夜月を抜き、横薙ぎに振り抜く。

半径10mの木々を断ち切ったため、とても見晴らしの良い空間ができた。

そうしてると空から誰かが落ちてきた。

親方!空から(ry

「痛たたっ」

「やっと出てきたな、このヤロウ」

「ひ、ひぃっ!!」

抜き身の刀を手に、暗い笑みを浮かべながら近付く俺は、嘸かし恐ろしいだろう。

「ど、どうか!命だけは!!」

「……はぁ」

と、脅したは良いが。流石に相手が女の子ならば、これはやり過ぎた。

「とりあえず、俺はアンタらに何かするつもりはないから、安心してくれ」

「ほ、本当ですか?」

アレ?さっきと口調が違うような。

「さっきのは、人間を山から追い出すように怖がらせるためのヤツですから」

「あ〜。なるほど?」

 

 

 

「俺は神条霞。ただの旅人だ」

「私は烏天狗の黒羽アゲハです」

何故か正座しているアゲハは、未だに少し怯えている。

そんなに人間って恐ろしいのか?

「いえ、人間って言うよりも。あ、貴方が……」

「俺?」

「……だって、刀の一振りでコレだけの木を一気に斬ってしまうのですよ?」

……確かに怖いわ。

「す、済まなかった」

これは自業自得ってやつか。

「でだ、さっき言ってた事。考えてくれないか?」

「先程……。あの人間の地に近付かない、というやつですか?」

「そー」

「うーん。我々は別にそれでも良いんですが。何せ我々天狗は鬼には頭が上がらないので」

「鬼?」

「えぇ、鬼に命令されたならば、従わなくては……後が怖いですから」

なんだその上下関係。

「なら、鬼と約束出来ればいいってわけか?」

「ま、まぁ。それが可能ならば」

なんど、ある意味簡単じゃないか。

鬼を説得してしまえば、この山は人間にとって驚異ではなくなる。まぁ、この約束を人間が守れば、だけど。

「ほ、本気で鬼と会うのですか?」

「ん?そのつもりだけど」

「……死にますよ?」

いや、死なない。ってか死ねないし。

「大丈夫。鬼には1度勝ったことあるし」

「はい?!」




妖怪の山って、1度でいいから行ってみたい。


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27話/新たな出会いと懐かしい再開らしい

そういえば、この作品の中では一切季節の描写をしてない事に気がつく。


山登りの途中。腹が減ったので木陰に腰を下ろし、ラーメンを創造する。

うん。外で食うラーメンも旨い。

「いい匂いさせてるねぇ」

何処からか声がする。辺りを見回すが、どこにも気配はない。いや逆か、そこら中から気配がする。たった1人の気配がそこかしこから。

「ズズっ。食うか?」

何処ともなく話しかける。

「え?いいの?!」

 

「これ、なんていうの?」

姿を現した幼女は、俺の隣に座って同じくラーメンを啜っている。

「よくぞ聞いた!これはこの世界を創りたもうた『ラーメン』という神聖な食物なのだ!!」

「おぉ!!そうなのか!!」

幼女は目を輝かせラーメンを啜る。

「……とくに、この肉が旨いね」

「!!……わかってくれるか、同士よ!」

俺は感動に打ち震える。このチャーシューへの思いをわかってくれるヤツがいるとは。

いずれ、この感動を共感してくれる同士達を集め、新たな宗教としても何ら問題はない気がする。

「この肉……チャーシュー?は酒のツマミにもなりそうだね」

「うむ。その場合は、この様なトロトロに煮るのではなく、焼いた状態にすると良いだろう」

もっと熱く語っていたいが、なにぶん先を急がなければ。非常に残念だが。

「……」

「……」

そういえば。

「お前、誰?」

「んぁ?」

チャーシューを咥えた幼女は、今更ながらにも妖力を感じる。それもそんじょそこらの妖怪より遥かに大きな。

「……ごくん。ウチは伊吹萃香。この山を治める四天王の1人だよ」

「四天王?」

なにそれ厨二病?初めて会ったけど、お前は最弱なの?

「四天王ってのは鬼の中でも強いヤツ4人の事さ」

「へ〜」

ん?鬼?鬼って言った?この幼女。

「うん。ほら」

幼女は頭を指差す。チャーシュー教(今名前を決めた)の第二信者としてしか見ていなかったが、確かに幼女の頭の横から2本の角が伸びていた。

あ、第一信者はルーミアね。

「……驚かないのかい?」

「ん〜。特には」

「……へぇ」

幼女は驚いたように目を見開く。驚いてはいるが、何処か嬉しそうだ。

「鬼と向かい合って驚きも、ましてや恐怖すらしないとはね」

「まぁ、初めて見たわけじゃないし」

 

 

 

 

霧になって山を散歩(?)している途中。いい匂いがしたから、その方向に向かうと、この辺りでは見慣れない人間が座っていた。

よくわからないが、大きな器に茶色い汁が満たされ、糸……よりは太いかな?紐のような物を食べている。初めて見た食い物だ。

余りにも気になったので、不用意にも声を出してしちゃったけど。

男は何処からか出したのかわからないけど、もう一つ、同じ物をウチに差し出した。

見た目はお世辞にも良いとは言えないけど、その匂いに我慢出来ず箸を取った。

「う、うまいっ!!」

なんか背後で『テーレッテレー』って音がした気がするけど、今は無視する。

男を見ると、夢中で食べているウチを嬉しそうに見ている。優しい笑顔。

整った顔に高い身長。艶のある黒髪が風に揺れている。青と白の出で立ちは、見慣れない服装だが、よく似合ってた。

というか、今更だけどこの男からとんでもない大きさの霊力と、微かに神力を感じる。神力の方はなんか隠してるっぽいけど。

「俺は神条霞。ただの旅人さ」

 

 

 

「んで、霞は何しにこの山に来たの?」

幼女は腰に下げていた瓢箪に口をつけて飲んでいる。匂いからして酒だろうが。いいのか?こんな幼女が酒なんか飲んで。

「この山を下りたところに人間の住む都ってのがあるだろ?そこに近付かないでくれ、って言いに来たんだ」

「……なんで?」

そう言う幼女から突如妖力が吹き出る。辺りの木々が妖力にあてられミシミシと悲鳴をあげている。

「不要な争いは避けるべきだろ?」

「不要かどうかはわからないさ。特にアンタみたいな人間がいるんなら、ウチらは是非とも喧嘩してみたいね」

幼女はそう言って立ち上がる。

「ウチら鬼は酒と喧嘩が大好きなのさ」

「俺は好きじゃないんだが?」

「それは知らないさ。この山に不用意に立ち入って、ウチの前に現れちゃったんだから」

いや、それは理不尽だろ。まぁ、妖怪なんて理不尽の塊だが。

「どうしても?」

「どうしても!」

幼女は心底楽しそうに笑う。これが今から喧嘩しようって話じゃなければ可愛いのに……。

「はぁ……わかったよ。ここでやんのか?」

俺は立ち上がり、背伸びをする。

「そうだね。此処で良いだろう?」

まぁ、俺は何処でも構わないけど。

「その前に……」

「んぁ?」

「私のこと、さっきから失礼な呼び方してないかい?」

「……キノセイダ」

 

 

 

辺りの木々を巻き込みながらも、幼j……萃香の攻撃を回避する。後ろに飛び退くと、前髪に萃香の拳が触れたようだ。

「ほー。凄いな」

「余裕で避けてるくせに、嬉しくないねッ」

繰り出された左拳を、右手で払い起動を変える。その瞬間、萃香の姿が霧のように消えた。

「?」

気がつくと、背後に現れた萃香は頭を狙って回し蹴りをしてきた。

咄嗟に左手で防ぎ、そのまま足を取る。流石に地面に叩きつけるわけにもいかないから、そのまま放り投げた。

「霞、アンタ本気じゃないね?」

「……いやいや、鬼を相手に力を隠せるとでも?」

全力も全力だ。『制限をかけた状態で』の全力。

「んー。なんかまだ隠してる気がするんだよね」

お、鋭いね。

「ま、その隠してる物も全部出させてやるけどね!」

 

 

 

幾ら殴っても、幾ら蹴っても、この男--霞には当たらない。間一髪で避けているように見えるが、表情はまだまだ余裕を含んでいる。

ウチも全力じゃないけど、普通の人間ならとっくに肉塊になってる位の力は込めているし。ほんと、底が見えない程強いとは、ゾクゾクするね。

「なぁ、幼j……萃香。アイツらはお前の仲間か?」

また幼女って……。

振り返るとそこには仲間の鬼達が酒を飲みながら見物している。いつの間に集まったんだか。

まぁ、これだけの妖力と霊力がぶつかっていれば、目立つか。

「まぁ、そうだね」

そう言って向き直ると、霞は少し照れた様な表情を見せた。

「……見られるのは慣れてないんだよ」

ちょっと可愛いと思っちゃったね。




霞「お酒は20歳になってから!」

萃香「……20歳なんかとっくに過ぎてるからね?」

霞「なん……だと……?!」

萃香「イラッ」

バキッ!

作「?!なんで俺が殴られんの?!」


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28話/宴と書いて『喧嘩』と読むらしい

つけ麺よりもラーメン


何個目かのクレーターを作った萃香は、不満気に俺を睨む。そろそろ我慢の限界らしい。

「そろそろ本気、出してくれないかなぁ」

大分苛立っているようだ。

周りからははやし立てる様な野次が飛び交う。

「そうは言ってもなぁ」

俺が本気を出したら、せっかく作ったこの世界があっけなく消え去ってしまうし。

「なら、少し……ほんの少しだけ本気になるかね」

「全力できなっ!!」

そう言って、力の限り殴ってくる。

純粋な妖力ならば、ルーミアと並ぶ。そういやアイツも一応大妖怪の部類だったな。

妖力の込められた拳を難なく受け止める。

「1万分の1だ」

そう言って、制限をほんの少し解く。地面が揺れ、地割れが起きた。あれ?以前より霊力が増えてない?

「……くっ!!」

霊力にあてられて、萃香は少しぐらつく。

「どうする?続ける?」

この状態で殺さないように加減するのは結構難しいのだが。

「……いいねぇ」

萃香の呟きはハッキリとは聞こえなかったが、表情は喜んでいるようだった。

「どう考えても、私以上。ってか殆どの鬼以上の力じゃないか」

「それ、褒めてる?」

「流石に勝てそうにはないね。でも、そんなヤツと喧嘩出来るなんて、嬉しくてしょうがないよ!!」

……これだからバトルジャンキーは。

負けるって解ってる相手と喧嘩して、嬉しいとは如何なものか。

「妖怪の山、四天王が1人!酒呑童子、全力で相手をさせてもらうよ!!」

萃香はありったけの妖力を吹き出させ、その身に纏う。

小さな身体とは思えないほど、膨大な量の妖力は、遠目に見ている他の鬼も恐怖で顔が引きつっている。

「それは光栄だね」

俺は右手を萃香に向けて差し出し、手のひらに霊力を溜め、球体状に集められた霊力を握る。

「掌握」

その瞬間、砕けるように辺りに散りばめられた俺の霊力は、世界を青く染めていく。

「な、なんだい?これは」

俺と萃香、2人はいつの間にか見慣れない空間に立っていた。

「俺の能力さ。この場を俺の空間と入れ替えて掌握した」

いつも使っている異空間を創り出す能力の応用。

アレは俺が認めたモノだけが『入れる(はいれる)』空間で、今回使ったのは強制的に俺の空間に『入れる(いれる)』。この場、この時間、全てを俺が掌握し支配する。

「ここなら山にはこれ以上被害が及ばないだろ」

「なるほど、化物じみた能力だって事は理解した」

まぁ、この力を使えば、どんなヤツでも殺せるし、消すことすらも出来る。この空間で、俺に出来ない事は無い。

「さ、来いよ萃香」

「……遠慮なく!!」

駆け出した萃香を、正面で迎え撃つ。

「三歩壊廃!!」

あれ?どっかで聞いたことある様な。

-1歩目。

纏っていた妖力が、俺の霊力と接触し、火花が散る。

-2歩目。

拡散した妖力を1点に集中し始めた。俺の空間である筈なのに、今の状態ではその妖力を抑え込むことが出来ない。

-3歩目。

集中された妖力の塊は、まるで小さな太陽のように輝き、萃香の頭上に存在した。そして萃香が両手を振り下ろすと同時に、太陽は俺を目掛けて落ちてくる。

「諸共吹っ飛べ!!」

 

 

「なるほど、いい攻撃だ」

普通ならばこんなモノ避けきる事も出来ず、その身に受ければ跡形もなく消滅してしまうだろう。下級の神なら抗えない程の妖力だ。

「でも、まだまだだな」

俺は腰に差した夜月に手をかける。

「断ち切れ、『夜月』」

鞘走りをしながら抜き放たれた夜月は妖力の塊を目掛けて、斬撃を飛ばす。

「なっ!?」

斬撃に触れた太陽は、霧のようにその形を崩れさせて消えてしまう。

「こいつで断ち切れないもんはないよ。それが妖力でもね」

そう言うと刀を振り、鞘に納めた。

見ると萃香は力を使い果たしたのか、仰向けに大の字に倒れている。

「いやぁ〜!負けた負けた!!」

その言葉とは裏腹に、顔は清々しいほどの笑顔だった。

「アンタ、ホントに何者なんだい?」

近付いた俺に目だけを向けて問いかける。

「言ったろ?神条霞、ただの旅人だよ」

 

 

 

 

 

 

 

誰か今の状況を説明して欲しい。

いつの間にか辺りは鬼だらけ。隣には萃香が座り、俺が持つ杯に酒を注いでくる。

ってかこんだけの鬼、何処から湧いて出た。

「お前、強ぇんだな!あの萃香姐さんに勝っちまうなんて!!」

誰かからそう言われた。萃香、お前姐さんなんて呼ばれてるのか。

鬼達は先ほどの、俺と萃香の喧嘩を肴に酒を飲み、好き勝手に騒いでいる。

「ウチらは鬼だからね!楽しい喧嘩をしたならば、楽しい宴を開くものなのさ!」

「お、おう……」

俺は注がれた酒を飲み干し、見回す。確か、この山を登る時には感じなかったコレだけの妖力。どうやって隠していたのだろうか。

「なんかこの山はウチらには都合が良くてね。勝手にウチらの妖力を隠してくれるみたいなんだよ」

「山が隠している?」

意味がわからん。特にこの山からは霊力も神力も感じないが。

「なんか、昔に人間の男がココを訪ねて以来、そんな事が起こるようになってね」

ん?

「不思議な男だったね。最初は喧嘩を売ろうと思ったのに、結果としてはそんな気が失せちゃったんだよ」

萃香は酒を飲み、懐かしそうに話す。

「……そう、アイツがなんか言ったら喧嘩したくなくなったんだよ」

……あぁ、律のことか。アイツ、こんなところまで来てたのか。

アイツの能力ならばこの山の事も納得がいく。

そんな話をしていると、1人の鬼が近づいてきた。萃香と同じく、女の鬼だった。まぁ、萃香より色っぽい大人の女だが。

「なんか失礼な事考えてた気がする」

「キノセイダ」

「……あんた、萃香に、勝ったんだってね」

あ、これなんか面倒臭い気がする。




萃香「ウチは幼女じゃない!」

霞「……飴舐める?」

萃香「舐めるー!!」

霞、作「……」


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29話/残念だな……トリックだよ……らしい

霞「あ、前書きにも登場するのか?」

作「もうそろそろネタがなくなりそうだから」

霞「別にココを面白くする必要はないんじゃないか?」


「いやぁ、なかなか面白い喧嘩だったね!」

近づいてきた女の鬼--星熊勇儀と名乗った--は俺の背中をバシバシ叩いて杯を酒で満たす。

いや、結構痛いんですが。

「是非とも私とも喧嘩して欲しいね」

「うむ。だが断る」

注がれた酒を飲み干し、1度振るってから勇儀に差し出す。

受け取った勇儀に、今度は酒を注いでやる。

「ありゃ、それは残念だ」

ちっとも残念に思えない笑みを浮かべながら、酒をあおる勇儀からは、隣で既に酔っ払っている萃香と同等の妖力を感じる。

「それに、鬼とこんだけ酒を汲み交わせる人間なんて、初めて見るしね」

さっきから普通に飲んでいるが、確かに人間が飲むには度が強い。ってか、普通なら1口呑んだら卒倒するレベルの酒だぞ?

「あれだけ強いとは、その昔母様を倒したっていう人間みたいだね」

「母様?」

酒のせいなのか、上機嫌な勇儀が口にした母様という単語。本来、妖怪は人間の畏れや恐怖から生まれるのが普通だが。妖怪が繁殖するとは知らなかった。

「いや、母様と言っても血のつながりがあるって訳じゃないんだけどね」

ん?どうやらなにか理由がある様だ。

「その……母様ってのは何処に?」

「ん〜。今は何処かの山に隠居してる筈だけどね。聞いた話だと、かなり昔に……それこそ気が遠くなるほど昔に、1度死にかけたらしいけど、その時地底に穴を掘って難を逃れて以来、あんまり表には出なくなったんだよ」

「母様はものすご〜く強いんだよ〜」

酔っ払っている萃香は顔を赤くしているが、しっかりとした口調で自慢げに話す。

「そんな母様が若い頃、1度だけ喧嘩に負けたんだって」

誇らしげに語る萃香と勇儀。この2人がコレだけの言うのだから、その『母様』ってのは相当強いのだろう。そしてその『母様』に勝ったという人間は、それ以上の化物なのだろう。

「なんか、昔は今よりも人間は知恵があったようでね。面白い力を使っていたのさ」

「なんか光を出す筒とか、切り裂く光とか。今とは比べ物にならないくらい強かったらしいよ」

うん?光る筒?切り裂く光?

「今よりも高い建物とかもあったみたいだけど。なんか、ある日突然大きな光と共に、町ごと一瞬で消え去ったみたいでね」

……なんだろう。どっかで聞いたことが……ってか体験した事がある様な。

「そんな遥か昔のたった1人の人間に、母様は負けたんだって」

「まぁ、よくわからないこと言ってたみたいだけどね。なんか『ちゃーしゅー』がどうとか。なんだろねちゃーしゅーって」

「……」

……うん。俺だわ。流石にチャーシューと叫びながら妖怪を倒すような人間は、史上俺くらいしかいないだろう。

「そ、そうなのか……」

「もしかすると、アンタはその人間の子孫なのかもね!」

「ハッハッハ、あながちそうなのかもね」

子孫ってか、本人です。

そうか、あの時の鬼は今も生きているのか。

……会いたくはないけどね。

 

 

すっかり暗くなった夜の山。

未だにその熱を失わない鬼の宴は、終わりが見えなかった。

「そうだ、喧嘩をする前に言っていたこと、考えてはくれないだろうか?」

「んあ?」

視線の覚束無い萃香が、顔だけはこちらに向ける。ってか話聞いてる?

「……なんだっけ?」

「……はぁ。この山の近く。都と言われる人間の住む地に、近付かないでくれって話だよ。それを約束してくれたなら、こちらも山に近付かないことを約束しよう」

「あぁ、そんな事も言っていたね。いいよ?」

「そうか、こちらとしてもこれ以上は…………はい?」

「ん?だからいいよって」

「いいの?」

「うん。別にここにいる妖怪は、どうしても人間を襲わなきゃいけないって、わけでもないし。最悪、その都っての以外なら……その、いいんだろ?」

勇儀は俺が人間だからか、若干言い辛そうにしていたが。

「まぁ、俺が言うのもなんだが。妖怪だって生きていかなきゃいけないんだ」

人間だって、生きていくために動物を殺すのに、自分達だけがその摂理から外れていると思うのは烏滸がましい事だ。

だが、人間だって、知恵を持ち妖怪に抗う。ただ襲われるのを待っているだけではないさ。

「ま、そう言うならこの山の妖怪は、ウチら鬼の名にかけて、約束をしようじゃないか」

そう言って、勇儀は右手を差し出し、俺もそれに答えて握手した。

 

 

 

 

日が登ったころ、俺は山を下りていた。

ほぼ寝ずに飲み続けたため、若干頭が痛い。

これが二日酔いってやつか?

ともかく、この山から感じた妖力もわかったし、少なくともここの妖怪達は都に近付かないと約束してくれた。

鬼が都に攻めてこないとわかっただけでも、十分な成果と言えるだろう。

とりあえず、早く都に帰って布団に潜り込みたい。

俺は結界を貼り、人間や妖怪から認識出来ないようにしてから、空を駆けた。また神子に見つかって天狗扱いされても面倒臭いからな。

 

 

 

 

「あぁぁぁぁああああっ!!」

屋敷中に布都の声が響く。朝から大声を出さないで欲しいものです。

「た、たたた、太子様!!」

大きな足音をさせて、勢いよく私の部屋に飛び込んできた布都は、息を切らせながら一冊の書物を胸に抱えていました。

「……はぁ、朝からなんですか。騒々しい」

私はお茶を啜りながら布都を一瞥する。何度言っても改善されない布都の騒々しさは、もはや一生モノなのでしょう。

「わ、わかったのですよ!あの男の正体が!!」

あの男?あぁ、天狗……じゃなかった、神条殿の事ですね。

「で、正体と言いましたか?……やはり天狗でしたか?!」

「いやいやいやいや!!それどころじゃありませんよ!!」

いつもならもうそろそろ落ち着き出す布都は、興奮冷めやらぬ状態が続く。天狗どころじゃないとは一体どういうことでしょう。

「こ、コレを見てください!!」

差し出されたのはかなり古びた書物。どうやら日本の神々の系譜や、その逸話が記されたもののようです。

「?これが?」

布都はそのなかで、一箇所開いて見せた。神の系譜が記された項のようですね。

「ここを見てください!!」

……どうでもいいですが、耳元でそんな大きな声を出さないでください。

布都が指さしたのはその系譜の中でも最上段。最上位に存在する神の名でした。その神は『この世を創りたもうた神』であり、また『自由を司る神』でもあると書かれている。そんな神が存在するとは、初めて知りました。この書物も見たことがありませんでしたし。

「……え?!」

その最上位。創造神の名は。

 

 

『神条……霞?!!』




萃香「あれ?霞はどこ行った?」

勇儀「いや、帰ったよ?」

萃香「えぇ〜!?これから二次会を始めるってのにかい?!」

勇儀「日付跨いだ二次会って、どうなのさ」


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30話/神様はさっさと眠りたい……らしい

霞「なんでこんな夜中に投稿してんの?」

作「夜型の人間なんで」

霞「は?」

作「それよりも!今回はオリキャラ出るよ!!」

霞「え?!なにその自分からしていくネタバレ」


どうも、この世界の創造神、霞です。

 

もう一度言います。

これでも、この世界の『創造神』です。

 

そんな俺ですが、絶賛正座中です。

なんでって?

 

それは俺の正面に仁王立ちしてる人が、有無を言わせず強制的に正座をさせたからです。

「聞いてるんですか!!」

「あぁ、はいはい。聞いてますって」

「では、何故に貴方の名前がこの書物に書かれているのですかっ!!」

どうやら、神子の手にある本には俺の名前が書かれているようで。それが神々の系譜について書かれていたようで。

「……キット偶然デスヨ」

「……『その者、青き衣と白き羽織にて、腰に鉄の刃を差す。』って容姿もバッチリ同じ偶然がありますか!!」

……ってか誰だ、んなモン書いたのは。

「かの天照様に神託を受けた、有名な方の著書です」

あのバカ娘め、余計なことを……。

「さぁ!認めますね?認めますよね?ってか認めろコンチクショー!!こちとら、本人だとしたらこんな無礼なことしちゃって大丈夫なのかな?大丈夫じゃない、大問題だ。とか考えちゃって頭の中が大変なんですよ!!ってか、え?本人なんですか?だとしたら今こうやって正座させているのって物凄くまずいんですか?やばいよやばいよ、なんですか?!」

「落ち着け神子!!」

まったく。

 

 

「この度は、大変無礼な事をしてしまい、申し訳ございませんでした」

あれから三十分。なんとか神子を落ち着かせて、茶を啜る。

「……まぁ、気にするな。俺も努めて気にしない……ようにできたら良いよね」

「それって実質めちゃくちゃ気にしてますよね?」

青娥が横からツッコミを入れる。とりあえずそこに触れるな。

「とりあえず、その本に書かれている通り、俺は神様。創造神だよ」

「……!!」

「んで?どうする?俺を祀るのか?」

「え?…………そりゃそうですよ!!だって創造神様ですよ?!この都に一番の社を建てさせ「だが断る!!」……せめて最後まで言わせてください」

「俺は自由を司る神様だぞ?神社なんて建てられてみろ。窮屈でしょうがない」

「そ、そうかもしれませんが」

俺は足を崩し、本気で嫌な顔をする。

「それに、俺はこの世界を創造しただけ。なんのご利益もないよ」

「十分凄いことを、片手間にやった、みたいに言わないで下さいよ」

それ以降、神子は俺の神社を建てる話はしなかった。無論、本音を言えば神社だろうが屋敷だろうが、何を建てようが『自由』だ。相手が聖徳太子でなければ。これからこの国に仏教を広めるっていう人物なのに、神の最高位を祀る神社なんて建てたら、これから先、やりにくいだろう。

「……では、これからなんとお呼びす「霞で」あ、選ばせては貰えないのですね」

「霞殿、神とはどんな生き方をするのですか?」

今度は青娥が興味を持ったらしい。

「どんなって?」

「たとえば、今までどんな事をしたのか、どんな生活を送っているのか」

「ふむ。ちょ〜〜〜〜〜っと長くなるよ?」

「それ、絶対ちょっとじゃないですよね」

 

 

 

 

 

暗い森の中。生き物の呼吸すら感じないほど、静寂に包まれ、自分の歩く足音がより煩く聞こえる。

「どうやら彼は失敗したみたいだね」

誰に言うでもなく、独り言を呟く。最近、独り言が増えた気がする。

「あれだけ稀有な能力を持っていても、創造神には勝てないのかぁ」

『言霊』なんて、次に同じ能力を持つ者が現れるのは何年後か、はたまた何百年後か。もしかすると、もう現れないかもしれない。とても惜しいことをした気になってきた。

「先に『貰って』おけば良かったなぁ」

でも、そうすると彼に会うのが早くなる。まだまだ彼には会いたくない。今はまだ、足りないのだから。

「それに、せっかく準備したこの喜劇も、無駄になっちゃうしね」

そんな独り言を続けていると、森が途切れた。空を見上げると雲にその姿を半分隠した月が浮かんでいた。

「次は月にでも行ってみるかなぁ」

そう言って、再び歩き出すと、暗闇に姿を溶け込ませいつしか見えなくなった。

 

無残な姿の幾つもの妖怪の死体を残して。

 

 

 

 

 

「そこのアホ。何をしているか」

「……?霞殿、誰に話かけているのだ?」

お前だ物部布都。

「我は尸解仙になる為の準備ですぞ」

尸解仙?

「なんだそれ」

「おや、ご存知ないのか?」

布都が言うには、死を恐れた神子は大陸から来た青娥に尸解仙、仙人の事を教えられた。そして仙人になる為に1度死に、復活を遂げる方法をとることにした、という。

んで、そんな中布都が準備してるものってのが。

「……なんだそれ」

「これは尸解仙の修行である、煉丹術で使用する丹ですな」

「丹?」

いや、どう見ても怪しい色してんだけど。だって銀色だよ?

ん?煉丹術って……どっかで聞いたことがあるな。

「それ、どうするんだ?」

「コレを服用するんですが?」

いや、明らかに人体に影響あります!!って色じゃん。

「まったく。神子はどこにいる」

「太子様はあの仙人と共に出掛けておりますぞ」

これは1度アイツら説教してやらねばならんな。

 

そしてこの日は、神子にとって1番永い1日となる。




霞「なぁ、途中で出てきたのがオリキャラか?」

作「そー」

霞「なんかいろんなフラグが立ってるんだけど。大丈夫?」

作「大丈夫だ。問題ない」


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31話/永い一日らしい

霞「そう言えば、このタイトルってなんて読むんだ?」

作「東方古神録(とうほうこじんろく)」

霞「その古い神ってのは俺のこと?」

作「……さぁ?」

霞『あ、これなんか伏線なのか?』


どうも、霞です。

 

ぶっちゃけ大変な事が起きてます。

 

 

 

「なんだ、この妖怪の量は!」

都の兵士達が右往左往しながらも、襲い来る妖怪達に一太刀浴びせんと向かっていく。

しかしながら余りにも多勢に無勢。凡そ人間の兵士の数は1000人程、逆に妖怪の数は……。

「3万くらいかな」

「なに呑気に構えてるんですか!!」

神子が隣で叫んでいるが、お前は逆に落ち着け。

都を取り囲むように、突然現れた妖怪達。コチラが感知するまもなく、文字通り突然現れた。

「今、襲ってきているのは殆どが下級妖怪だ。その後ろには中級以上の妖怪が構えてるんだぞ。今、慌てても拉致があかない」

「な、ならば余計に、早急に対処しなければ!!」

「まぁ、落ち着け。俺がいるんだから」

この地に俺がいる以上、この戦いに負けはない。いざとなったら妖怪共を異空間にぶち込めば良いだけだし。

問題は、『俺にすら気付かれずに』来た事だ。1匹2匹ならば、俺の手違いという事もあるし、大妖怪レベルならば自らの妖力を隠すことも出来るだろう。しかし、3万もの数の妖怪に気が付かないってのは、おかしい。

「なにか……面倒臭い事になる気がする」

 

 

まぁ、当然の如く俺の予感は的中したわけですが。

なんせ襲ってきている妖怪共の様子がおかしい。いくら妖怪と言えども、感情はあるわけで、それなのに斬られても無言のまま。表情一つ変えずに倒れていくわけで。

「どう考えてもおかしいだろ」

都を守る四つの門にはそれぞれ神子や青娥、布都が向かった。俺も任された門で戦っているのだが、正直不気味だ。

何なんだろ。なにかに操られているとか?だとしたら、コイツらを相手にしても埒が明かない。

「とりあえず、断ち切ってみるか」

俺は夜月を抜き、1番手前にいた妖怪を横薙ぎに払う。もちろん、斬るのは肉体ではなく、繋がり。

「……うぉっ?!」

斬られた妖怪は目に光を取り戻し、自分の置かれた状況に驚く。

なるほど、やはり誰かに操られていたようだ。

なんとも面倒臭い。

「だが、対処方がわかっただけでも良しとするか」

コレだけの妖怪の数を一々相手にしていたら、コチラがジリ貧になってしまう。

「ってなわけで、お前ら退け!」

兵士達に叫ぶと、夜月に霊力を込める。薄く光りだした夜月を構え、一気に払う。制限を外していない状態だと、断ち切る範囲はだいたい半径30メートルが限度。つまりは何度か能力を使わなければならない。

「……霊力もつかな……」

 

 

 

北側の門に駆けつけると、そこは筆舌に尽くし難い状況だった。霞様、青娥、布都はそれぞれ別の門に向かっているため、この門は私が指揮を取らなくてはいけないのだが、見渡す限り人間の死体の山が築かれていた。

それでも、妖怪が都の中に入り込んでいないのは僥倖と言えるだろう。

「た、太子様!ここは危のうございます!!中へお早く!!」

兵の部隊長である若い男性が私を中へと勧める。しかし、今の状況で私が退くわけにもいきません。

「1度兵を退げなさい。門の外では妖に囲まれて、多勢に無勢です。門の内側で守る範囲を狭めるのです!」

門の内部まで退がれば、妖共の行動範囲を幾らか狭めることが出来る。これ以上、被害を大きくするわけにはいかない。

「わ、わかりました!!皆のもの!1度退け!!門の内側で守りに入るぞ!!」

少しずつ下がり始めた兵を見て、私も中へと戻る。懐から1枚のお札を出すと、使用する機会を見計らいます。これは先程霞様から頂いた、結界を張ってくれるというお札。悪意を持って範囲に入った者を、滅却してくれるという。

全ての兵が内部に退がり、門を閉めたところで封印の様に札を貼り付ける。淡く青い光を札が放つと、門を叩いていた音が急に聞こえなくなる。どうやら効果があったようです。しかし、霞様が言うにはこのお札でもその場凌ぎにしかならないと言います。

「これでどれだけ時間が稼げるでしょうか」

 

 

 

「あらあら、大変ですわねぇ」

私が任された西側の門。到着した時には殆どの兵が無残な姿を晒していました。人の死というのに慣れているつもりではいましたが、これはとても見るに耐えない状況ですね。

「さすがに、この門から都に入るのは御遠慮願いたいですわね」

私は霊力の弾をばら撒いて妖の足止めをしつつ、生き残った兵の皆さんを門の内側までさがるように指示を出します。霞様に頂いたお札を使えば数刻でも時間を稼げるようですし。

「まぁ、それでも数を減らすに越した事はありませんねぇ」

門の屋根に登り、迫り来る妖を見下ろす。とても醜い有様ですわ。

「美しくないなら、私好みに変えて差し上げます」

物言わぬ、屍へと。

 

 

 

「な、なんじゃこれわぁああっ!!」

東門に走って来たは良いが、目に見える範囲殆どが妖共で埋め尽くされているではないか!

「ど、どどどどうすれば良いのだ?!」

「ふ、布都さま?!」

おおおおおち、落ち着かなければばばばっ!!

「そ、そうだ!霞殿にもらったこの札で!!」

よく解らぬが、この札で妖共を抑えられるらしいし。

「え、えーと、霞殿が言うには……どうするんだっけ?」

「布都様?!」

えぇい、そんな不安そうな目で見るでない!!

そ、そうだ!この札をアイツらに投げつければ良いのではないか?

「えぇい!喰らえぇい!」

勢いよく振りかぶり、妖共に向けて投げつけた。が、なんか様子がおかしい。

確かに、札が張り付いた妖はその場で消え去ってしまったが……それ以外は?

「……布都様?」

「……やってしもうたかもしれん」

「布都様ぁぁあああっ?!」

 

 

 

さて、第一段階は順調だね。

上手く向こうの戦力が分断された様だ。あの創造神のいる方向は流石に守りが硬いけど。それ以外は時間の問題。どうやら創造神がなにか入れ知恵をしたみたいだけど、そんなもの数で上回ってしまえば意味はないし。

……なんか東側は創造神の知恵も使われてないみたいだし。

もうそろそろ第二段階に行こうかな。

「ねぇ、スキマ妖怪さん?」




作「えらく大事になってきたね」

布都「と、言うより我の扱いが酷くないか?!幾ら何でもあんな事はせんぞ!!」

霞「って言ってるけど、どう思う?神子さんよ」

神子「……いつも通りの布都ですね」

布都「太子様?!」


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32話/神様はそういうの嫌い……らしい

作「作品中の都は、完全に想像で書いているので、実際の造りとは違うと思います。ってか絶対違うでしょ」

霞「少しくらい調べたのか?」

作「そんなこと、すると思う?」

霞「……あぁ、そうね」


南側の門は粗方繋がりを斬った妖怪達で溢れていた。いきなり訳の分からない場所にいて、目の前には武器を構えた人間達。数は明らかに妖怪の方が上だが、突然の状況に混乱している為、若干だが人間に歩がある。

これなら後はなんとか妖怪達を追い返すだけで済みそうだ。そう楽観した瞬間。今までとは比べ物にならないほどの妖力を感じた。どうやら大妖怪レベルが現れたようだ。しかし問題はそこじゃない。

「な、なんで……」

『都の中に』妖力を感じたのだ。

それも突然に。

何処かの門が破られた訳ではない。それぞれの門は、一部を除いて俺が渡した札もちゃんと機能している。ってか、布都は何をしているんだ。

「いやいや、んなことより。どうするこの状況」

確かに、この場は既に離れても大丈夫だろう。しかし他の門はそうは言えない。早急に駆けつけなければ、被害が増えるだろう。それも、内部に妖怪が現れるまでの話。

中には戦うことも出来ない女子供、老人が多くいる。そちらを放っておくわけにもいかない。

 

「……もう、しょうがないか」

 

札を貼り付けて数刻。

なんとか持ち堪えていた門も、札に罅が入り出してきた。

「た、太子様。門が持ちそうにありません!」

「……門が破られる瞬間に、一斉に矢を放ちなさい。あと油を持ってきて、門の手前に火を放ち時間を稼ぐのです!!」

流石に焼け石に水でしょうが。やらないよりはマシなはず。

霞様も言っていました。『俺が駆けつけるまで時間を稼げ』と。

「……霞様」

縋るような思いであの方の名前を呼んでしまいます。先日会ったばかり、凡そ想像していた神とは程遠い人間らしい神様。

その時、門から大きな音が響き渡り、札が破れ力尽きたのように塵となって消えていきました。

あぁ、もうこれまでのようです。少しずつ開かれていく門から、覗いてくる絶望。

「……霞様ぁ!!」

 

 

 

 

「呼んだ?」

 

 

 

 

築き上げた妖の骸。その数を、三百まで数えて諦めた。幾ら殺しても湯水のように湧き出てくる妖共は、まるで屍に群がる羽虫のように、何処から飛んでくるのか。

「……まったく。しつこいですね。女性に嫌われますよ?」

軽口を叩いてみるけれど、その言葉とは裏腹に私は肩で息をしているようですね。霊力もほぼ底を着きそうだというのに。

「これまで……ですかね」

どうせならもう少しあの方とお話をしてみたかった。

昔いた大陸でも聞いたことのない、自由な神様。

出来るなら、最後にもう一度。

「……会いたいですわ。霞様」

 

 

 

「諦めるのか?」

 

 

 

 

まずいまずいまずい!

どうやらあの札の使い方を間違えてしまったようだ。

地面に力なく落ちた札は、なんの反応もなく只の紙切れと成り果てている。

霞殿ももうちょっとわかりやすく説明してくれても良いものを……。

門の手前で妖共の猛攻を、辛うじて抑えている我等だが。もはや幾ばくも持ちそうにない。

心残りがあるとすれば、太子様のお側におれぬ事。

太子様ならばよもや妖などに遅れはとられぬだろうが。

「太子様。どうかご無事で……!!」

 

 

 

 

「アホめ。そんなもの自分の目で確かめろ」

 

 

 

 

しょうがない。しょうがないよ。

この状況で俺に出来る事は限られる。

ならばその限られた事を全力ですればいい。

 

たとえ、世界に歪みが生まれようとも。

 

 

「神力開放」

 

 

呟くと、身体から溢れんばかりの神力が漏れ出す。

青い光を纏った俺は、どれくらいぶりになるか分からないが、人間から神へと戻る。

どうやら、周りの人間と妖怪は、俺の神力に当てられて意識を手放しているらしい。

「まずは神子から」

そう言うと、ワームホールを開く。人間の時は両手を合わせなければ開かなかった穴も、この状態ならば意識するだけで良い。

脚に力を込めて大地を蹴ると、爆風を巻き上げながら穴を潜る。

瞬きをする間に、目の前には神子の姿を捉えた。どうやら俺の札がちょうど破られた所のようだ。神子が俺の名を叫ぶ。

「呼んだ?」

できうる限り軽く言葉を投げかける。

振り返った神子の目には薄らと涙が見えた。

全く、何時もは強気なくせに。

俺は神子と周りにいる人間。つまりはこの辺り全ての『人間』を指定して穴へと落とす。

妖怪は後回しだ。

異空間の中にいれば、ひとまず安全だから。

「さて、次は青娥か」

再び穴を開く。

飛び込めば風景は変わり、西側の門。

屋根の上に立つ青娥と、山になった妖怪の屍に驚く。

何故か俺に会いたいと言いながらも、諦めたように呟く青娥。

「諦めるのか?」

神子と同じように異空間へと落とし、安全を確認する。

最後は布都。あのアホは俺の札を使わずに何をしているのやら。

穴を通って東門に現れると、そこには札も使わずに弓矢と剣で戦う兵士達の姿。

布都は額に汗しながらも、なんとか妖怪達を押さえ込んでいた。

しかも、こんな状況でも神子の事を心配しているらしい。

「アホめ。そんなもの自分の目で確かめろ」

異空間に落ちていく布都達は、悲痛な叫びを上げている。いや、そんなに驚くか?……驚くか。

こうして『兵士達』を異空間へ避難させた俺は、次に都の中心地へと向かう。

いくら兵士達を避難させようと、未だに非戦闘民は残っているのだから。

「こればっかりは、少し本気を出さないとな」

両手を強く合わせ、神力の波を起こす。この都に残っている人間を探知するためだ。

俺を中心に波状に広がる神力は、人間を一人残らず探知してその位置を把握する。コレだけの情報が頭の中に入ってくるのだから、脳味噌がパンクしそうだ。

「クソがっ……!!」

少なからず、内部に侵入した大妖怪の犠牲になった者もいるようだ。

しかし、もう少し遅ければ、これ以上の被害が出ていただろう。

「多量転移」

把握した人間を一人残らず異空間へと落とし込む。これでこの都には『人間』は1人もいないことになる。

物音がしなくなった都は、ゴーストタウンの様に静まり返っていた。

「さて、俺としてはこれ以上の犠牲は出したくないんだよ」

無言で睨む妖怪達の前に立ちはだかる。それぞれが大妖怪と言われる妖力を保有し、人間を襲うことのみ考え行動している。

「だから、お前達も『救ってやる』」

抜き放たれた夜月は、神力を込められ、ハッキリと青く染められていた。

こんな茶番劇、もう沢山だ。

「断ち切れ!夜月!!」

 

「」




作「この章ものこり数話ですね。長くなっちゃった」

霞「この状況って、都は大丈夫なのか?」

作「それについても次回わかるよ」

霞「……これ、伏線全部拾えるんだろうな?」

作「………………善処します」





感想、お待ちしております!!


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33話/神様を怒らせたらいけないらしい

霞「よし、今回は暴れていいんだよな?」

作「え?あ、うん……」

霞「やるぜー!ちょーやるぜー!!」

作『あれ?コイツこんなキャラだったっけ?』


「おらぁ!次ぃっ!!」

妖怪達の間を駆け抜け、手当たり次第に繋がりを断ち切っていく。人間状態では霊力の量に不安があったが、神に戻ればなんてことは無い。

俺の霊力の量は、一般的な人間の霊力の凡そ一万倍。しかし、本来使うはずの力ではない為か、物凄く燃費が悪い。自分の能力を使うにも、両手を合わせるという『行為』に術式を組み込んで補わなければいけない。まぁ、燃費が悪い代わりに回復も早いのだが。

逆に神力は、その霊力の更に三百倍。今、現在は。

神力は信仰によってその量が増減するし、回復量もそれに比例する。

まぁ、俺への信仰はその殆どが神からのものなのだが。神からの信仰されるって、どんなだよ。

その俺が、神力を開放し、制限を『一割』解いたのならば、この世界で勝てる者はまず居ない。特殊な能力でもない限り。

そんな俺が走り、刀を振るえばその姿を捉えられない。妖怪達の間を抜けつつ、横薙ぎに振るえば、操らる為の術が断ち切られ意識を失いその場に崩れ落ちる。

そんなことを続けていたが、そろそろ飽きてきた。

立ち止まり、夜月を納刀する。

「ざっと半分ってとこか?」

だいたい30分程斬っていたが、それでも半分か。

そろそろ門の所にいた奴らも気になるからな。

「神力二割『開放』。断ち切れ、夜月」

開放した神力をそのまま夜月に込めて、抜刀する。居合斬りの要領で放たれた衝撃波は、北門へと向かって伸びていく。

「そら!もういっちょ!!」

勢いを殺さず、方向転換をしながら、今度は南門へ。

西門、東門へと波を起こす。

「ふぅ……」

夜月を振り、鞘に納めると一息つく。

その瞬間に感知できる範囲の妖怪は、全てが崩れ落ちた。後はコイツらを何処か都から離れたところに戻すだけ。

……全てが終われば、だが。

 

 

 

振り返ると、俺のワームホールのような穴が空いていた。その中は俺のものとは違い、幾つもの目がコチラを見ている。うわぁ、気味悪い。

その穴から出てきたのは……幼女?

紫色のドレスに身を包んだ幼女は、やはりというか目に光がない。

「こんな幼い子も利用するってのかよ」

なんとも、胸糞悪い。

「何処の誰だか知らねぇが。見つけ出してぶっ飛ばす」

俺にしては珍しく、苛立ちをぶつける。

そして、その幼女の後ろにいるのは。

「勇儀?萃香?」

先日、盛大な喧嘩をし、盛大な宴会をした鬼の姿があった。

虚ろな目をしながら、コチラに向かってくる2人。おいおい、この2人相手とかかなり面倒臭いんだが。

「ほんと、ふざけやがって」

夜月を握る手も自然と力む。

こんな茶番はさっさと終わらせるに限る。あの穴を見るからに、あの幼女の能力で妖怪達が移動出来たようだし、あの子を断ち切ればこれ以上妖怪達は現れないだろう。

「さぁ、来いよ。俺と喧嘩、したかったんだろ?」

こんな状況では無いだろうがね。

 

 

萃香の拳を紙一重で避けると、そこを見計らったかのように勇儀の蹴りが来る。

勇儀の蹴りを躱せば、今度は萃香の妖力弾が飛んでくる。

見事なまでの連携に、見とれてしまいそうになるが、今はそんな場合じゃない。

妖怪弾を払うとと、そのまま萃香を断ち切ろうとする。

萃香に刃が触れる瞬間、勇儀が萃香の襟首を掴み、投げ飛ばす。おいおい、そんなことしていいのか?

投げ飛ばされた萃香は、空中で妖力を放ち、その姿をドンドン大きくしていく。

見上げるほどに巨大になった萃香がそのまま重力に従い落ちてくる。

「うぉぉいっ!そんなのアリか?!」

地面を転げるように避けると、目の前には勇儀の拳。あ、これは痛い。

咄嗟に左腕を上げることで防ぐが、鬼の全力で殴られれば流石に痛い。数メートル吹っ飛ばされ、土煙を上げて止まると今度は萃香が俺を踏み潰そうと足を下ろしている。

左手で止めようとするが違和感。あ、折れてるわ。

全力の鬼2人を相手に、片腕のハンデとか洒落にならんぞ。

回復させようにも、2人を相手にしながらは流石に集中しなきゃいけない作業は不可能だ。

「くそっ」

萃香の踏み下ろす脚に蹴りを入れ、軌道をずらす。バランスを崩した萃香は、なんとか踏みとどまるが、隙が出来る。

俺は神力で足場を造り、一気に萃香の眼前まで迫ると夜月で断ち切る。

気を失ったのか、萃香は大きさを戻し地面に倒れ込む。

「これで後は1人!!」

 

2人を相手にするよりは、幾らか楽になったとはいえ、流石に鬼が相手では骨が折れる。……いや、実際折れてるけど。

 

勇儀の戦法は、どうやら小細工を使わない、力のみの、悪くいえば脳筋の戦い方だ。

「そんなら俺もお前に合わせてやろう」

俺は夜月を納めて右手のみ構えをとる。

折れた左腕が痛みの信号を頭に送るが、俺は強制的に遮断する。どうやって?んなもん気合だ。

「ほら、手加減してやるから全力で来いよ」

「……」

無言の勇儀は、右手に妖力を溜め始める。

これはコイツらの言う『母様』が使った技と同じか。

たしか『三歩必殺』だったっけ?

それを見て、俺も右手に神力を溜める。勇儀からは紫の、俺からは青のオーラが立ち込め、空気が一気に冷たくなったように感じた。

最初に動いたのは勇儀だった。

一歩、二歩とその妖力は膨れ上がり、地面が悲鳴をあげ割れていく。

それに合わせて俺も歩を進め、もはや2人の間合いは触れ合う寸前まで近づいた。

振りかぶり、最後の一歩を同時に踏むと、お互いの力は爆発を起こしてぶつかった。

 

 

 

 

 

土煙が晴れると、立っていたのは俺だけだった。

勇儀を見れば、無残にも右手が砕け、血だらけになっている。

まぁ、俺も折れてるんだけどね。

「……」

勇儀は無表情だが、しかし目は悔しそうに俺を睨む。

俺は折れた両手を合わせて、自らの治癒力を高める。

なんとか右手のみ治すと、夜月を抜く。

「痛くはないから安心しろ」

そう言って勇儀に刀を振り下ろした。

倒れ込んだ勇儀を確認すると、傷を癒すことに集中する。

霊力ではなく、神力を使えば、通常よりは早く治る。

「んで、お前は見てるだけなのか」

振り向くと、紫ドレスの幼女はただ黙って俺を見ていた。

その目は虚ろだが、何処か悲しみを抱えているように見えた。まるで、こんな事をしたくはないと訴えるかのように。

「まぁいい。後はお前だけだぞ」

「『いやはや、流石創造神様だね』」

幼女から聞こえてきたのは、凡そ似つかわしくない男の声だった。

「誰だ……お前は」

「『これはこれは、御挨拶が遅れました。ワタクシ、無明と申します』」

無明と名乗る男は、幼女の身体を通して俺に語りかける。

「『いかがでしたか?ワタクシの用意した喜劇は』」

「……胸糞悪いな」

「『おやおや。それはそれは』」

胡散臭い喋り方に苛立ちを覚える。コイツ、何が目的なんだ。

「『この喜劇。貴方はお気に召さなかったようですね』」

「……いい加減、姿を現したらどうだ」

「『ワタクシ、どうも人前に出るのは苦手でしてね』」

ほぼ治った両手を確認すると、夜月に手をかける。

「『まぁ、今回は目的も達成しましたし。これで失礼致しますよ。……またいつか、お会いする日まで』」

そう言うと幼女の身体から、一筋の煙が立ち込めた。

「『……御機嫌よう。創造神、神条霞』」

 

 

 

こうして、都を襲った事件はその終わりを誰の目にも触れることなく幕を閉じた。

 




作「次でこの章は終わり!」

霞「なんか他のよりも長くなったな」

作「このあたりから色々な原作キャラが出てくるからね」

霞「この章だけでも神子、布都、青娥、萃香、勇儀と5人か」

作「あと、本当は屠自古も出すつもりだったんだけど。布都ちゃん大活躍よりも前の時間に出会ったって事で」

霞「?よくわからんが」

作「まぁ、後々出てくるから」





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34話/ヒーローは人知れず去る、らしい

霞「なぁ、前回出てきた幼女ってさ……」

作「言うな!!」

霞「いや、でも……」

作「奴に……見られているぞっ!!」

霞「な!?」

作「ならば言う事は一つ!!」

霞・作「きさま!見ているなっ!!」


さて、どうしようか。

 

鬼と全力で戦ったせいで、ものの見事に辺りは無残な状況になっている。

うーん。異空間に入ってもらってる人間も、そのままにするわけにはいかないし。

「……はぁ、めんどくせぇ」

 

いや、都を元に戻すのは簡単だよ?

普段なら両手を合わせればポンッと出来るし、今は所謂『神様モード』だから、手を合わせる必要もない。

だから、既に修復作業は終わっている。

問題は中にいる人間達だ。

非常事態とは言え、強制的に異空間に入れてしまった。人質に取られたりしたら面倒だったからね。

流石に、記憶を操作する能力はないし。

 

……あ、ないなら造ればいいのか。

 

 

 

 

「んっ……」

目を覚ますと見知らぬ町並みが見えた。ここは何処だ?

「お、起きたか勇儀」

「アンタは……霞?」

声がした方を向くと、先日萃香と喧嘩をして、珍しく勝った人間の霞がいた。いたんだが……。

「あんた、ホントに霞かい?」

この前あった時は、間違いなく人間だったはずだが。今はどういう訳か霊力を感じない。しかも霊力を感じない代わりに馬鹿でかい神力を感じる。え?なに?神様なのかい?

「あー。そういや言ってなかったな」

霞は私に近づくと右腕を取る。ってか、なんで私の腕は折れてるんだ?

「俺は……所謂神様って奴だ。それも1番最初の神。創造神だな」

「は?」

霞の手に力が込められると、瞬く間に私の腕が治っていく。

「……どうやら、本当らしいね」

萃香に勝った時よりも、はるかに超える力を目の当たりにすれば、信じざるを得ない。

「……そう言えば、ココは?」

「ん?あぁ、此処は都さ」

「都?いったいなんでそんな所に……」

そう言って、私は思い出した。

そうだ、私は……。

 

 

 

 

山に再び誰かがやって来たのを天狗が知らせてきた。

霞が来たのかと最初は思ったが、天狗が言うには別の人間だということ。

妖怪の山には入ってこないという約束の筈なのに、霞は何をやっているんだ?

いや、もしかするとこの人間はその約束を知らない、通りすがりの奴なのかもしれない。

「とりあえず山を下りるように言ってやりな」

その時は、それで終わる筈だった。

異変に気がついたのは、一向に天狗が帰ってこないのに気がついた頃。

天狗は性格が生真面目だから、その後の報告もキチンとする。それが無いって事はなにかあったのだろう。

手下の鬼に、見に行く様に言うと、何か言い知れぬ冷たい予感が頭を過ぎった。

静かなのだ。森も川も、この山すべてが。

聞こえてくるのは、周りにいる仲間の鬼達からの音だけ。

そう言えば、今日は萃香の姿も見ていない。

 

草影から出てきたのは、天狗でも手下の鬼でも、ましてや萃香でもなかった。

布で出来た蓑笠の様な物を羽織って、顔はよく見えないが。見た目からすると多分男だろう。

「アンタ、誰だい……」

必要以上に警戒する。それもそうだろう。男の背後には、先ほどの天狗と手下の鬼が控えていたのだから。

2人の目は光を無くし、虚ろになっている。

「お前達、何をしているんだ」

後ろの2人に声を掛けても反応は帰ってこない。

「どうも初めまして。ワタクシ、無明と申します」

「そうかい、私は星熊勇儀。鬼の四天王が一人さ」

「えぇ、存じ上げております」

つまり、此処に鬼がいるってわかってて入ってきたと。

「で?なんの用だい?」

すると男はコチラに右手を向けた。

「いえ、大層な用など無いのですが。そう、ごく簡単な事なのですよ。私にとっては」

……要領を得ない。回りくどい言い方は嫌いなんだが。

「そう、ほんの一瞬ですよ」

そう言った瞬間、私の身体は私の物ではなくなった。

『な!なんだこれ!?』

「おや、まだ意識はあるのですね。流石鬼の四天王だ」

『てめぇ、何をした!!』

身体を動かそうとするが、ビクともしない。辛うじて動くのは目ぐらいか。

「ワタクシの能力です。なぁに、取り立てて特別な能力ではありませんよ。ただ、アナタの『身体の支配権』を『頂いた』だけですから」

そう言いつつ私に近づく男。コイツ、ヤバイ。

「そして、今度はアナタの『意識』も『頂く』事にしましょう」

 

 

 

 

「そっから先は……良く覚えてないんだ」

勇儀から聞かされた話は、凡そ俺が考えていた内容と同じだった。あの幼女から聞こえてきた男の声。あれが今回の事件の黒幕なのだろう。そして、話の内容から察するに、アイツの目的はどうやら俺のようだ。

「とりあえず、妖怪達を山に返すから、手伝ってくれないか?」

「え?あ、あぁ」

俺はワームホールを開くと次々に妖怪達を投げ込む。

別に外傷はないんだから、妖怪なら平気だろう。

「んじゃ、私は萃香を連れていくかな」

勇儀は倒れている萃香を担ぎあげる。

「それならそこにいる幼女も…………アレ?」

紫色のドレスを着た幼女の姿が消えていた。いつの間に?

「……アンタ、そーゆー趣味なのかい?」

気のせいかな、勇儀が担いでいる萃香を遠ざけたような気がするのは。

「アホか」

そう言って俺は勇儀の足元に穴を作ってやった。

 

 

 

さて、問題は人間の方だ。

一々説明するのも面倒臭いし。

あー。後の事は全部神子に任せよう!!

俺は名案(?)を閃き、手紙を書く。

『後の事はすべて任せた!宜しく』

とだけ残し、都の外まで出る。

後は人間を元いた場所に戻すだけ。

神力を少し開放し、異空間にいる人間を吐き出す。

ちゃんと元の場所ですよ?

「んじゃ、お別れだな」

神様モードを解除し、人間に戻ると飛び立つ。どうせ、神子は何を言っても尸解仙に成るのを諦めないだろうし、いつかまた会えるだろう。

また会える日まで、少しばかり旅に戻るとしよう。

名残惜しい(主に団子屋)が、俺は都を離れ空へと消えるように飛んでいった。

 

 

 

 

気がつくと、見慣れぬ風景にいた。

見知らぬ男性と、倒れている2人の鬼。状況から考えてこの男性が鬼を倒したらしい。だって、有り得ないくらいの神力を纏っているんだもん。

辛うじて動く身体を、気付かれないように起こし、『スキマ』を開く。

なにが起きているのかわからないけれど、多分このまま此処にいても良くない気がする。

スキマに潜り込み、男性を観察する。見た目は20代くらいだろうか。黒髪に青い着物、白い羽織。何処かで聞いたことがある様な容姿だけど。

あ、鬼の1人が起きた。死んでなかったのか。

「俺は……所謂神様って奴だ。それも1番最初の神。創造神だな」

やっぱり神様なのね。…………え?!創造神?!

思わず声に出しそうになるのを必死に抑える。昔聞いたことがある。その姿は確かに聞いていた創造神と同じだ。

まさか創造神様を、この目で見れるとは。

…………私の目的の為力を貸してもらえないだろうか。

私が夢見る、幻の様な理想郷の為に。

 

そう考え、私はスキマの中で彼を観察する事に決めたのだった。




作「はい、って事でこの章は終わり!!」

霞「なんか最後の方投げやりだな」

作「なら残って後処理する?」

霞「絶対ヤダ」

作「子供か」



作「あと、あの子も出ましたね」

霞「……いや、うん。そうだけどさ。すっげぇ見られてるんだが」

紫「じーーーーーーー……」

霞「しかも口で『じー』とか言っちゃってるんだけど。アホなの?」

作「ほら、だってまだ紫さんは子供だから」

霞「これからバインバインになるのか……」

紫「神様は巨乳好き……と」

霞「変な事メモしてんじゃねぇ!!」


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恋する乙女と古い友人らしい
35話/夢見がちな幼女らしい


霞「竹取物語と聖徳太子って、どっちが先なんだろうな」

作「さぁ?」

霞「……んな曖昧なので良いのか?」


都を離れてから数年。

相も変わらず日本をブラブラしている霞です。

 

ところで、最近気になることがあるのです。えぇ、そりゃどうしょうもないくらい。

だってさ、四六時中見られてたら、嫌じゃない?

いや、別に外を歩いてる時なら良いんだけどね。

流石にトイレや風呂まで覗くのはどうかと思うわけよ。

ここ数日、ずっと見られてる。

まぁ、俺に危害を加えるつもりがないみたいだし、放置してたんだけど。

うん。そろそろ我慢の限界。

「あー。というわけで、出てきてくれない?」

そう言うが、反応はなし。分かってはいたけど。

流石に無反応は嫌だなぁ。なんか俺が痛いヤツみたいじゃん。

「無視ですか。そーですか」

そんな事するなら、神様起こっちゃうぞ。

両手を合わせる。どうやら、俺の異空間と似た能力の様だから、繋げるのは造作無い。

ワームホールを相手の空間に繋げると、手を突っ込み相手の襟首を掴む。こら、暴れるな。

穴から引っこ抜くと、首を銜えられた子猫のようにぶら下がった幼女が現れた。

アレ?この子は。

「……どっかで会ったよね?」

そう紫色の幼女に呟いた。

 

 

「んで?なんで俺を付け回してた?」

俺は近場の岩に腰掛け、幼女と向かい合う。

さっきから幼女は目線を合わせようとしない。

「いや、ついてくるのはいいんだけどさ。流石にトイレとかは止めようよ」

「……」

んー。なんでこの子は無視を決め込んでるんだ?

アレか、黙秘権か。

「……はぁ。だんまりか」

それならばしょうがない。

「こんな小さい子を斬るのは忍びないけど、これも俺の安心安全な生活の為だ。主に精神衛生面でのな」

そう言って夜月に手をかける。少しばかり霊力を込めてみると、幼女からは明らかに焦っている雰囲気が見えた。

「ま、ままま待ってぇ!!」

「お、やっと喋った」

絞り出すように声を出した幼女は、青い顔をしながら若干涙目。ってか、ほぼ泣きそうになっている。やめろ!俺が虐めたみたいだろ!!

「みたいと言うか、虐めです。それだけの霊力を出されたら」

「お、おぅ……」

それはすまなかった。

「んで、お前は誰で、俺に何の用だ」

そう言うと幼女は諦めたように話し始めた。

「……お願いが……あったので」

「お願い?」

幼女は姿勢を正し、頭を下げた。

「どうか、私を弟子にして下さい」

「ん。断る」

 

 

 

 

「……いや、即答で断らないで下さいよ!」

私は彼の軽い返答にツッコミを入れてしまう。普通、幼い子に頭を下げられたら、こんなにも即答は出来ないと思うのだが。

「……あー。なるほど、俺に断られたとき用に、何か俺の弱みを握ろうとしてたのか」

図星を突かれた。結局、何も掴めなかったけど。

「何故ですか?!」

「んー。先ずは君が誰だか知らないし。いや、知ろうと思えばすぐなんだけどね。名前も知らないのに弟子にすると思う?」

「うっ…………」

「次に、その手段も気に入らない。普通にお願いすれば良かったのに、変に俺の弱みを握ろうとするから」

何も言い返せない。

「……」

「まぁ、何かしら理由が有るんだろうけどさ。いきなり君のお願いを聞くほど、俺は寛容ではないよ?」

あ、ヤバイ。また泣きそうだ。

次々に投げられる彼の言葉は、正論過ぎて反論できない。余りにも無礼で不躾な事をしているのはコチラなのだから。

「……私の……名前は……」

 

 

 

 

 

「名前が無い?」

「……はい」

今にも泣き出しそうな幼女は、両手を握りしめて俯いている。

「なんだ、生まれたばかりなのか?」

「……」

妖怪は人間の恐から生まれる。怖いという感情の元生まれるのだから、本来ならば名前が無くても当然だ。

「私は、生まれてすぐにある妖怪の元で奴隷の様に使われていました。もちろん、奴隷なのですから名前など着けてくれる訳もなく、ただひたすらにその日を生き抜くために媚びへつらう毎日でした」

おぉう。いきなりヘビーだな。

「そんな中、ある人間が支配していた妖怪を殺してしまったのです」

良かったじゃないか。

「ですが、私はそれ以降誰にも守られず、毎日を隠れて過ごすしかなくなったのです」

あー。まぁ、弱い妖怪にはよくあることだな。強い妖怪に使われることで、自分の身を守ってもらうと。

「そんなある日、私は何者かに操られてしまい、何年か前の都襲撃事件を起こすハメになりました」

……あぁ、あの時の幼女だったのか!どうりで何処かで見たとおもった。

「あの事件を解決された創造神様なら、私の夢を叶えるのに、お力を借りれるのではと思って……」

「夢?」

「…………人間と妖怪が共存出来る世界」

ん?なんて?

「人間と妖怪が共存?」

「はい」

「なんで?」

妖怪は人間を食料としか見てないだろうし、人間は妖怪を恐れの象徴としか見てないだろう。

「……笑われるかも知れませんが……………私は人間が好きなんです」

「はい?」

人間が……好き?

「妖怪よりも力が弱いにも関わらず、それに知恵と仲間との絆をもって果敢にも向かう姿を見て、素晴らしい種族だと思いました」

「あー。うん。それは俺も思うよ?」

「ですが、私はどうやっても妖怪です。ならば、彼らからは退治する対象でしかありません。ならばいっその事、共存出来る世界を作ってしまえばいいのではと」

なるほど。突拍子もない夢だ。うん。

「それには私は余りにも弱すぎる。もっと力をつけたいのです。ですので、お願いします!私を弟子にして下さい!!」

今度は土下座までしてきた。妖怪に土下座されるとか、初めての体験だ。

「ん、いいよ」

「そうですか。それならもう、私の身体を差し出すくらいしか…………今、なんて?」

「え?いいよって」

「いいんですか?!」

余りにも驚いたのか、俺の胸ぐらを掴んでくる。

「お、おう。ちゃんと理由とか話してくれりゃ、別に断る事はしないよ。それがまともな理由ならね」

「……本当ですか!本当ですよね?!後になってやっぱ無し、とか言いませんよね?!」

「い、言わないから」

だから俺の身体をグワングワン揺らすのを止めろ。

「ならとりあえず、名前を付けてやらないとな」

そう言うと幼女の手が止まる。

「名前、ですか?」

「そ、いつまでも幼じ……お前とか言うのも嫌じゃん?」

「名前…………私だけの、名前!」

嬉しいのか、目を輝かせている幼女。

ヤバイ、これだけ期待されるとプレッシャーがハンパない。ちゃんとした名前を付けてあげないと。

「んー。そうだなぁ」

幼女……金髪……ドレス……紫色……紫?

「むら……ゆかり……紫なんてどうだ?」

「紫、ですか?」

「そ、紫って字、一字でゆかり」

俺はその辺に落ちていた木の棒で地面に漢字を書いてやる。やべぇ、安易だったかな。

「これが……ゆかり。私の……唯一の名前」

幼女……紫は自分も木の棒を握りしめ、俺が書いた字の隣に不器用ながらも書いてみている。

「ゆかり……紫……!!」

何度も何度も呟いて、名前を自らに馴染ませるように、染み込ませるように大事に唱えた。

「…………ありがとう……ございます」

どうやら、今度こそ泣かせてしまったようだ。

 

 

 

「でも、なんで名前だけなのですか?」

漸く泣き止んだ紫は、恥ずかしいのか少し強がりながら訊いてきた。

「んー?まぁ、俺が苗字を考えるのが苦手ってのが一番かな」

「……そうなんですか」

おいこら、あからさまに落ち込むな。なんだ、苗字も欲しかったのか?この欲張りさんめ。

「い、いえ!決して『どうせなら苗字も付けてくれればいいのに』とか、思ってないですよ!?」

「……思ってたんだな」

とりあえず、アイアンクローの刑な。

「いたっ、いだだだだっ!!痛いっ痛いです師匠!!」

「今度からお仕置きはコレな」

「一応、見た目は幼女ですよ?!幼女虐待になりますよ!?」

自分から幼女とか言うなや。

これからは一応師匠と弟子だから?やるべき事はキチンとやらないとね。

「……とは言え、どうするか」

俺からすれば目的のない旅だったのが、今は紫を強くするって言う目的が出来た。

……てか、どれくらい強くするか。

「いっその事、大妖怪までなっちゃうか?」

「そんな簡単に言ってもいいんですか?」

 




霞「作者はロリコンなのか?」

作「どうしてその結果になった?!」

紫「作者はロリコン、っと」

作「紫ちゃん?!そのメモは破りすてようか!」

霞「あ、作者が幼女を襲ってる」

作「やめてぇぇえええ!!風評被害ぃっ!!!」


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36話/キャラ崩壊がハンパないらしい

霞「そう言えばさ、この小説って感想書かれないよね」

紫「……面白くないからでは?」

霞「なるほど!」

作「え?心折れるよ?」

霞・紫「一向に構わない」

作「いや、もうちょい作者に優しくしてよ」


師匠に弟子入りをしてから早くも100年程経った頃。

私達は日本を離れ、大陸に来ていました。

師匠曰く、『日本見飽きた』そうです。

「だってさ〜、日本を何周したと思ってんの?」

いや、知りませんけど。そりゃ創造神様なんですから、この星よりも長生きなんですから。

そんな旅の途中でも、師匠はちゃんと私を強くすることを考えてくれていました。その方法はとんでもないですけど。

だって、普通に考えて、能力位しか取り柄のない下級妖怪の私に、自分以上の妖怪へ喧嘩を売れなんて、おかしいです。

「いやいや、紫の能力はチートなんだから、後は使い方を覚えれば殆どの妖怪には勝てるぞ?」

ちーと、って言うのは良くわからないけれど。多分凄いって意味なんだと思う。

っというか、そのちーとな能力と同じものを持ってますよね?それでいて他にも能力を作れますよね?

どっちかと言うと、師匠の方がちーとだと思います。

「だからこそ、修行がやりやすいんだろ?」

まぁ、だとは思いますが。

 

確かに、師匠に教えてもらった能力の使い方は、今までの私では考えられなかった利用方法だった。今までは逃げるか隠れるかしか使い道が無いと思ってたこの能力も、不意打ちや自分の得意な戦場に強制的に相手を連れ込むなど、使い方次第だと気付かされた。

「それで、師匠。何故大陸に?」

「いや、都にいた時に大陸から来た仙人と会ったからさ。こっちの文化的なのも見たくなって」

ほんと、師匠は自由な人です。人じゃないけど……。

「さて、とりあえず飯でも食うか!」

「はぁ」

まぁ、振り回されるのにも慣れましたけど。

 

 

 

「いや〜、やっぱり本場の飯は違うわ〜」

「本場?」

うむ。細かい事は気にするな。

俺はとある村の飯屋に居る。本場のラーメンを食べるためだ。

……あれ?なんでこの時代にラーメンがあるんだ?

「アンタら見慣れない格好してるね」

「ん?そうかい?」

飯屋の女将さんが話しかけてくる。これだけ旨いラーメンを作る店の人だ、悪い人である訳がない。それならば、コチラも失礼のないようにしなければ。

「俺達は海を渡ってこの地に来たんだ」

「おや、そうなのかい?」

「そそ。ところで、この辺りでなにか面白い話とかないかな?」

紫はテーブルの向かいで美味しそうにラーメンを啜っている。どうでも良いけど箸はちゃんと持ちなさい。

「面白いかどうかわからないけど、最近では妖怪を殺す妖怪がいるって言うよ?」

「妖怪を殺す妖怪?」

なんだそれ、縄張り争いか?

「それが噂では色んな所を転々としているみたいでね。まるで退治屋みたいだよ」

「へぇ。そんなのがいるんだ」

それはそれは、是非とも会ってみたいものだ。

俺は人知れずニヤけると、それに気が付いたのは紫だけだった。

 

 

 

「で、会いに行くんですか」

「え?だって見たくない?」

真面目な顔して師匠は何を言っているんですかね。一応これでも私も妖怪なんですけど。妖怪を殺す妖怪なんて、会いたいわけないじゃないですか。

「大丈夫。今の紫ならそんじょそこらの妖怪には負けないから」

しかも相手をするのは私なんですね。

「さ、行くぞー!」

張り切って歩き出す師匠の後ろを、ため息を吐きながら付いていく私。

慣れたと思ったけど。前言撤回しようかな。

 

 

 

夜。月が上ると私は寝床にしていた気の上から飛び降りて、辺りの気配を探る。

私の能力が『気を操る程度の能力』だからなのか、気配には敏感で、こうやって相手を探す時には便利だ。

今日は相手が見つかると良いが。ココ最近は私の噂が流れているのか、誰もが妖力をギリギリまで隠しているようだ。

「……はぁ。今日もいないのかな」

諦めかけた時、遠くで微かな妖力と霊力を感じた。かなり遠いが、ここでも感じ取れるという事はそれなりに強いのだろう。久しぶりに腕がなる。

私はいてもたったもいられず、その気配に向かって走り出した。これくらいの距離ならそんなに時間はかからないだろう。

 

 

 

師匠が『てんと』の準備をしていると、突然手が止まった。顔を見るとニヤけている。あぁ、また何か良からぬことが起きるんだ。主に私にとって。でも、眠いんだけどなぁ……。

「なるほど、なかなか強い妖怪だな」

師匠は呟くと遥か彼方の地平線を見ている。アッチに何かあるのかな?

「……紫、お前はもう少し探知の範囲を広げた方が良いな」

「師匠並に広くとなると、私の妖力では無理ですよ」

師匠の馬鹿げた量の霊力で私を考えないで欲しい。

本気でやれば大陸どころか、この星全部を探知出来るのだから。

面倒臭いって言ってやらないみたいだけど。

「……あっちから物凄い勢いで妖怪が走ってくる。これだけの速度って事は、それなりの脚力を持つんだろう」

うわぁ、そんなのと相手したくない。

……あ、遠くで土煙が見える。

「さて、どんな奴なんだ……か?」

師匠が言葉に詰まっている。珍しい。

私も同じ方向を見ると、走ってくる相手がボンヤリとだが見えてきた。……え?

「俺は幼女を引き寄せる能力でも持ってたのか?」

「それって私も入ってますよね?」

土煙を上げているのは、私より幼いであろう小さな女の子の妖怪だった。

……これでも、この100年で成長しましたからね?

バインバインですからね?

 

 

 

走って近づいているのだが、距離が近づくにつれ相手の力の大きさが嫌というほどわかってくる。

だってこれだけの距離でも私が気づくくらいだし。

妖力は今まで私が会ったどの妖怪よりも強いものだし、霊力の方は……なんかもう規格外。昔、面白半分で空の太陽の力を調べてみたことがあるけど、どう足掻いても勝てない、壊せない力の差を見せつけられた。それに近いものを感じる。ってか太陽以上だと思う。

考えただけでもゾクゾクする。太陽と戦えるなんて。

気を抜けば止まってしまいそうな脚を、気力で奮い立たせ走る。こんな機会は今を逃せば2度と来ない。

「この相手に勝てれば、私はもっと強くなれる!!」

私は意図せずこぼれる笑顔に気が付かなかった。




紫「バインバインですよ〜」

霞「あ、うん」

紫「……え?それだけ?!」

霞「え?」

紫「師匠はロリコン?!」

霞「どうなったらその結論になるんだよ」



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37話/妖怪の成長は早いらしい

作「そう言えば、気が付いたらお気に入り50を超えてた」

霞「うぇっ?!見間違いじゃないか?」

作「いやいや、流石にそれはない」

霞「……もしくは間違えてお気に入りを押しちゃったとか?」

作「それは……ありえる」

紫「もうちょっと自信を持ったら?」


遥か地平線の向こうから現れたのは、緑のチャイナ服を着た、幼女でした。

うん。自分で言ってて何のことがわからん。

 

だって明らかに人間のスピードじゃないもん。

いや、妖怪だけど。

さらに言えば、いくら妖怪でも子供に出せるスピードじゃなかったよ?

「し、師匠?なんですか、あれ」

「……俺にもわからん」

つーか、あの勢いで突っ込んできて、止まれるのか?

……うん。無理だろ。物理法則を完璧無視する以外。

まぁ、妖怪どもはそれができるからなぁ。

一応、夜月に手をかけておく。紫も、いつでもスキマを開けるようにしているようだ。

そして、とうとうすぐそこまで幼女ほ走ってきた。いや、ほんと走ってきた。ギャグ漫画かなにかか?ア〇レちゃんみたいな登場の仕方だな。

「……でりゃぁあああっ!!!」

幼女は勢いを殺すため、左脚で踏ん張りブレーキをかける。しかしそれでも止まれずに、右拳を地面に突き立てて無理やり止まろうとしている。

土埃を巻き上げ、幼女の姿は見えなくなった。ってか、アレで止まったの?!

「……師匠、アイツ怖い」

言うなよ。俺だってわけ分かんなくて怖いんだから。

「あなた達ですね!バカみたいな霊力をはなっていたのは!!」

んでテンション高ぇな。

「つーか、バカみたいとか言うな」

「そんじょそこらの神様以上の霊力出しといて、何を言うんですか!!」

え?そうなの?

最近、神に会ってないからわからん。

「なぁ、紫。そんなに俺の霊力ってデカイの?」

「ご自分で気づいてなかったのですか?多分、霊力だけでも天照を超えてますよ?」

いや、それは知ってる。でも、それが霊力に制限をかけている状態で?

うわぁ、それはまずいなぁ。

「いや、いまは凹まないで下さい」

「……あの〜。話を続けても?」

チャイナ幼女は困惑している。まぁ、今気にしてもしょうがないか。

幼女を見ると、緑のチャイナ服に赤い髪、子供っぽい可愛げのある顔立ちをしている。あと頭にちょこんと乗っている帽子には龍の文字が書かれた星型の……あれなんだ?

「私は紅美鈴!訳あって強い人と手合わせをしてもらっています!!是非とも、お手合わせ願います!!」

「……ですって、師匠」

明らかに格闘してます!って感じの幼女は、構えをとる。確かに構えを見る限りは、堂に入っている。

「でも、流石に俺が相手をするのはまずくないか?」

「……最初、私を斬ろうとしてた人が何を言ってるんですか」

コイツ、まだ根に持ってるのか。もう100年くらいたってるだろうに。

「あー。紅さん?」

「美鈴でいいですよ!!」

あ、はい。

「なら美鈴?流石に今日は夜も更けている事だし、また明日にしないかい?」

「……なるほど、そうですね!!」

おぉう。なかなか素直。

そう言うと、その場で座り込む。え?なに、そこで寝るの?

「これでも妖怪ですし、多少は腕に覚えがありますから!」

いや、そういう意味じゃないんだけど。

さすがにこんな幼い子を野宿させるのは気が咎めるのだが。

「……良かったら、入る?」

「入るって、その中にですか?」

そのとおり。

「まぁ、中は多分、想像以上に広いから」

「はぁ……それじゃぁお言葉に甘えて」

……そんで、なんで紫は怒ってるんだ?

「別に。何でもないです」

 

 

 

布製の小屋のような物に招かれて、入ってみると明らかに広さが違う事に驚いた。外で見たときは、人が二人入れば目一杯の大きさしか無かったはずなのに、中は立派なお屋敷位の大きさがあった。

「なんですか、これ!え?靴脱ぐんですか?!」

「あ、あぁ。そこで脱いでくれ」

板張りの廊下を進むと扉があり、開けば広い居間になる。台所と居間が一体になったような造りで、ちょっとした料亭のようだった。

「……なんなんですか、これは」

思わず漏れてしまったのは驚きとも呆れとも言えない言葉でした。

だってこんなのおかしいでしょ!!

「一応、これが俺の能力の1部なんだよ」

「ほぇ〜。凄いですね〜」

こんな広い空間を創り出す能力とは、一体どんなものなのか。余計にこの人と戦ってみたくなりましたよ。

「とりあえず、俺達はこれから食事をするんだが。美鈴は食べるか?」

「いいんですか?!」

そう言えば、最後にマトモな食事をしたのはいつの事でしょう。

「お願いします!!」

私は誠心誠意込めてお願いしました。

 

 

 

さて、幼女にお願いをされたら断るわけにはいかないのが男ってものでしょう?

久しぶりに全力で作りましたよ。

大陸……中国にいるからと言って、中華を食べ続けることもないわけで。本日のメニューは、the和食でございます。

鯖の塩焼きと肉じゃが、ナスと胡瓜の漬物にもやしの味噌汁と白米。調理時間は凡そ3分。ん?時間的に不可能?創造神様に不可能は無いんだよ。

テーブルの上に並べられた料理を前に、紫と美鈴は目を輝かせた。というか、減るの早いよ……。

「うまっ!なんですかこれ!!うんまっ!!」

「当然でしょ!私の師匠なんだから!!」

うん。紫よ、何を張り合っている?

「あなたは本当に何者ですか!?」

「ただの旅する人間だよ。……あと美鈴、毎回そんな叫ばないとダメなの?」

「え?普通に喋ってますよね?!」

さっきから近距離なのにデカイ声で喋られるから、耳がキーンってなってるんだよ。

 

食事を終え、食器を洗っていると紫が俺の隣に近寄ってくる。

つーか、弟子ならこれくらい手伝え。

「師匠、お風呂が用意出来ました」

あぁ、そっちを準備してたのね。

水を止め食器をしまうと、美鈴に声をかける。

「風呂の準備が出来たから、入って来い」

「お風呂、ですか?」

さっきからソファーの上で飛び跳ねていた美鈴は、俺の言葉に振り返る。

「ですが、流石にそこまでしてもらうのは……」

「気にするな。どんな目的であろうと、この部屋に入ったヤツは俺にとって客だ。ちゃんと饗すさ」

タオルを取り出し、美鈴に渡すと風呂場へと案内する。

「ほら、入った入った」

……流石に、一緒に入るとかそんな展開、ないよ?




作「驚異の幼女率!!」

霞「お前、それ気に入っただろ」

紫「やっぱり作者はロリコンなんですね」

作「いや違うよ!?」

霞「お前にとっては、生きにくい世の中だよな……」

作「やめて!!そんな目でみないでぇ!!!」


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38話/成長期はあっけなく過ぎるらしい

紫「師匠は他に能力を作らないのですか?」

霞「俺に必要だと思う?」

作「これ以上は本気でチートだよね」

霞「ただでさえ霊力と神力、二つ持ってるし」

作「しかもその二つとも、数ある神々以上だっていうね」

紫「…………」

霞「あ、呆れて何も言えなくなってる」


どうも、霞です。

なんかこの挨拶も久しぶりな気がする。

 

さて、今の現状だけど。

 

簡単に言えば真夜中ですね。

紫と美鈴は既に夢の中。で、俺は何をしているかって言うと。

「夜更しは肌に悪いから、もう寝たいんだけどなぁ」

テントの周りを妖怪共に囲まれています。見た所、都の時のように操られている訳ではないみたいだが。

つーか、ツッコミが無いってのは少し寂しいな。

「さて、この中にはお子様達が寝てるんだ。あんまり騒がしくしないでおくれよ?」

「そんなら大人しく俺らに食われるんだなぁ!!」

それは御免こうむる。俺はあいにくドMじゃないんでね。

夜月を抜き、隙を態と作ってやる。あからさまなソレは、紫ならば引っかからないが、どうやらコイツらは単j……素直らしい。

「死ねぇぇえええっ!!」

爪を振り上げ切り裂こうとするのを、身体を捻りながら躱し、回転しながら横に薙ぎ払う。今回は、夜月の能力を使わないバージョンだ。

「切り裂け、夜月」

その様子を見ていた妖怪共は、一瞬たじろいだが、直ぐに纏まって襲いかかってきた。

……今回ばかりは、手加減しないぞ?

 

 

 

丑三つ時。催したので起きた私は、師匠がてんとの中に居ないことに気が付いた。師匠が自由なのは今に始まったことじゃないが、それでも私に一言もなく居なくなる事はなかった。

師匠の異空間な為、外の気配を探ることも出来ない。

「どこに行ったの?」

何か胸騒ぎを覚えた私は、服を着替え外に出てみることにした。

 

 

 

「ぎゃぁああっ!!」

叫びながら血を吹き出し、妖怪は倒れる。後は3匹。

「な、なんだよコイツ!こんな強ぇなんて聞いてねぇよ!!」

そりゃ、誰も言わないだろ。お前らが相手に選んだのは、創造神様だぞ?

「に、にげろぉ!!」

「こらこら、逃げるな」

踵を返し走り出した妖怪。次の瞬間には、俺は隣まで追いつく。

居合抜きの容量で身体を捻り、腹を真一文字に薙ぐ。上半身と下半身が離れ、絶命している妖怪を一瞥すると、残りを見る。

「さて、後悔はしたか?……あぁ、反省はしなくていい。どうせ意味は無い。……次は無いんだからな」

そう言い終わる頃には、2匹は地面に伏していた。切り口から血を垂れ流しながら。

 

 

 

師匠の戦闘は久しぶりに見た。いつも一方的な勝負をする師匠だが、どこか今回は違う気がした。

「し、師匠?」

赤く染まった夜月を払い、納めると私に気付いた師匠。その目は何故かイラついているようにも見えた。

血の海に立っていた師匠は、その状況の異様さと相まって、神秘的な妖艶さを纏っているように見えた。

久しぶりに、師匠を本当に恐ろしいと思ってしまう。

恐れから生まれた妖怪が恐れる。それは相手が神だから、とか力の差が大きいから、とかではない。純粋な畏怖。100年程一緒にいた私ですら、その目に見られると、喉元に抜き身の刃を突きつけられている様な、命の危険を感じてしまう。

「ど、どうしたのですか。師匠」

「んー。お前は気にしなくていいよ」

……基本的に師匠は私の事を『お前』とは言わない。いつも『紫』と呼んでくれるのに、それだけでも師匠がイラついているのがわかる。

しかし、これ以上踏み込んだ事は聞けなかった。そして、聞かなくても理解した。師匠が何に怒っていて、何故この状況になったのか。

「村が……燃えている」

 

 

 

ベッドで寝ていて、異変に気が付いたのは、大量に人間の命が消えていくのを感じたからだ。

昼間に立ち寄った村からそう離れていない為か、外に出るとその様子が見えてしまった。

泣き叫ぶ子供の声と、命乞いをする女性の声。そしてそれが聞こえなくなると、命がすべて消えてしまったのを理解した。命のやり取りは、生命の営みとしてしょうがないと思う。人間だって命を繋ぐため、動物を殺すし、食す。それは妖怪にだって同じ事だ。妖怪と言えども生きているのだ。ならば人間だけが食物連鎖の輪から外れる事は出来ない。

ただ、それは生きるためならばだ。

「おっしゃあ!今回は俺の勝ちだな!!」

「クソッ、たったの5匹しか殺せなかった……」

「へっ、俺は8匹だぜ」

奴らにとって、これは遊びなのだ。

幾つ殺せるか。仲間内でのゲームでしかないのだ。

「あー。火付けちまったから人間食えねぇな。腹減っちまった」

気がつくと、手を握りしめていた。強く、強く。血が滲み、地面を点々と染めるくらいに。

そして俺は妖怪共を、俺の手前まで異空間で運び、殺すことにした。

湧き上がる怒りを、殺意に変えて。

 

 

 

師匠は妖怪の骸を消し去り、村の上空に雨雲を創り出す。

降り出した雨は村の火を消していき。残ったのは人間の焼ける匂いと、昼に見た時とは全く違う姿になった村だけだった。

「紫、お前はコレを見ても『人間と妖怪の共存』なんて言えるのか?」

「……」

私は言葉を無くしてしまう。今回は一部の妖怪の悪意だと、言うことが出来なかった。どこまで行こうと、私は妖怪で、人間とは違う生き物なのだから。

「お前の夢は、この人達の怨みを全て背負い込む事になるんだぞ。自分とは関係ない、自分は違う。そんな言葉をこの亡骸の前で言えるのか。今日のことを忘れて、お前は夢の為に生きていくのか?」

師匠の言葉は小さかったけれど、私にはハッキリと聞こえて。その分、心臓を抉られるように、深く突き刺さった気がした。

……でも。

「無関係だなんて言いません。忘れるなんて言いません。私が望む理想の為に、この胸にこの光景を焼き付けます!!」

「……そうか」

そう言うと、師匠はそれ以降黙って、人間を弔うために穴を掘り出しました。

私もこれ以上、語るべきではないと、口を噤み。服が汚れるのも厭わずに、師匠の隣で亡骸を丁重に弔いました。

 

 

 

 

布の入口を潜ると、血の海と、争った形成があり。その光景は酷いを通り越して、吐き気を催しました。妖怪にしろ人間にしろ、これだけの血が流れる為には1人2人ではなく、かなりの数がここで死んだことを表しています。

微かに残る霊力の残りは、あの男性--霞さんの物で、彼がこの状況を作ったと想像するのは簡単でした。

「い、一体なにが?!」

震える脚を何とか抑え、辺りの気配を探ると、どうやら近くの村にあの妖怪の女性と霞さんは居るようです。

何が起きて、どうして2人は彼処に居るのかわかりませんが。残っていた霞さんの霊力からは、何故か悲しみに似た気配を感じてしまいます。

それと同時に、あの人にはどう足掻いても勝てないと、本能が理解してしまう。

「……」

 

 

 

日が昇り、数時間の睡眠しか取れなかった頭をコーヒーを飲むことで無理やり起こして、朝食を作る。

昨日(?)は久しぶりにキレてしまった為か、キツい言い方を紫にしてしまった。落ち込んでないと良いが。

完成した朝食をテーブルに並べ、2人を起こしに行く。最近はすっかり成長した(つもりでいる)紫の部屋には入らずに、外から声を掛けることにしている。……部屋に入って起こした瞬間に、『夜這ですか!?嬉しいですが、気持ちの準備と言うものが……!!』とか抜かしやがったからな。

「おーい。紫?起きろー」

本当はもう少し寝かせても良いのだが。アイツは生活リズムを崩すと、そのままグダグダとだらしない生活を送りそうだから。

「起きてますよ」

「……」

出てきた紫の顔は、酷いものだった。目の下隈が出来てるぞ。

「寝なかったのか」

「どちらかと言うと、寝れなかったです」

本当に済まないことをした。

「……朝食の用意は出来ているから、無理じゃなければ用意して来い」

「はい」

 

「んで、こっちか」

ここも勝手に入るわけにはいかない。身内とも言える紫ですら気を使うのに、泊めた客の部屋に入るなんて、紳士な俺には無理だ。

「美鈴〜?起きてるか〜?」

「はい!」

こっちは元気な声が聞こえ、開かれた扉の向こうには昨日と同じ元気な顔の美鈴がいた。

「おぉ。朝食が出来ているから、用意しておいで」

「はい!ありがとうございます!!」

……相変わらず、声が大きい。朝からその声なのか。

 

そして、この日。俺と紫と美鈴にとって、特に俺にとって、面倒臭い事が起きるのだが。

この時にはまだ、知らずにいた。




作「アレ?こんな重い話になるはずじゃなかったのに」

霞「いや、知らんがな」

紫「師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い」

霞「おい馬鹿作者!うちの弟子が怯えてんじゃねぇか!!」

作「その原因は君だってわかってる?」

美「いや〜、霞さんは怖い人ですね〜」

霞「美鈴もそんな事言うの?!」


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39話/欲望とお願い、らしい

霞「ほんと、夜中に更新するのやめた方がいいんじゃね?」

作「だってこの時間しか余裕が無いんだもん」

紫「作者が『だもん』とか言っても可愛くないですよ?」

作「……ふ〜ん。紫ちゃん、そんな事言うんだ〜」

紫「え?!」

作「思い知れ!作者の権限を!!」


「さぁさぁ!早速始めましょう!!」

朝食を終えたからか、寝起きよりも元気さ2.5倍(当社比)な美鈴。いや、うるせぇよ。お前のチンチクリンな身体の何処からそんな声が出るんだ。

「??普通に喉からに決まってるじゃないですか」

いや、普通に有り得ねぇよ。

「そんなことより!手合わせ!手合わせですよ!!」

「……だそうだよ、紫」

「あ、やっぱり私なんですね」

そりゃそうだ。俺がやったらホントに子供と大人のケンカになっちまう。見た目的にも、実力的にも。

「私だって!もう大人ですよ!?」

……あー。はいはい。

一応言っとくが、最初にあった時は幼稚園児位で、今は頑張っても小学生高学年って体型だからな?幼女から少女になったくらいだから。

「頭の中だけ成長しちゃったんだな……」

「……師匠ですけど、張っ倒しますよ?」

 

 

 

「さぁ始まりました!血湧き肉躍る、空前絶後の幼女対少女の壮絶キャットファイトー!!」

「……師匠。なにしてるんですか?」

ん?今回は俺の出番これくらいで終わりそうだから、後は自由にしようかと。

「メタいです。師匠」

気にするな、禿げるぞ?

「女性に向かって言うセリフじゃないですよね?!」

……と、言うことで少女はヤル気マンマンだー!

「話をそらさないでくださいっ!!」

そして対する幼女は〜?!

「なんか良くわかりませんが!うおぉぉおおおっ!!」

「なんでそんなヤル気なの?!」

 

 

 

毎度のことながら、師匠の自由さには呆れ果てる。

まぁ、それはそれとして。美鈴と手合わせをするからには、弟子として恥じない戦いをしなければ。

「それで、どうやって勝負を決めるの?」

「そうですね、相手が降参するか気絶するまで、ではどうでしょうか」

なんとも、噂になる程の妖怪とは思えないような。

「そう。それじゃ始めましょう」

「そうですね!よろしくお願いします!!」

そう言うと、美鈴は腰を落として構える。師匠が言っていたけど、堂に入っている。

彼女は見た目通り、近接戦闘を主としているようだ。ならば近づくのは愚策と言える。

私は掌大の妖力弾を放つ。

一直線に飛んでいくと、美鈴は左手で弾く。なるほど、妖力を纏って攻撃だけでなく、防御にも使うようだ。弾いた左手には傷一つない。

「硬いわね」

「えぇ、痛いですよ」

彼女の身体能力は、幼いにも関わらず下級妖怪のそれとは一線を画す。

そんな彼女が脚に妖力を纏い、地を蹴れば、殆どの生き物は反応すら出来ないだろう。でも……。

「来る方向がわかっていれば!」

真っ直ぐなにも考えずに突っ込んでくる美鈴を、スキマを使って強制的に方向転換させる。

「あれ?」

「馬鹿正直に突っ込んで、勝てると思わないで欲しいわ」

「……おぉ!まるで霞さんのようですね!!」

確かに師匠の能力と私のは似ている。と言うよりも、ほぼ同じだと言っていい。

だけど明らかに違う部分もある……。だから、師匠の真似事は出来ても、根本的には別物。

弟子としては、悔しいけれど。

「なるほど、真っ直ぐは駄目ですか」

少し考える素振りをした美鈴は、なにか思いついたようで。

「なら回り道をしましょう!!」

再び地面を蹴った。なにか思いついた様だったが、変わらず真っ直ぐ突っ込んでくる。

美鈴の正面にスキマを開けて待ち構えるが、通った気配がない。

「真っ直ぐな回り道!!」

声に反応すると、そこには空中を前転の要領で回転しながら飛ぶ美鈴の姿。そのままの勢いで踵を落としてくる。

咄嗟に両手を引き上げ、顔の前で構えると妖力を込める。

「でりゃぁあっ!!」

声と共に振り下ろされた脚を防ぐ。なんて威力をしているのよ。結構妖力を込めたつもりなのに、それでも骨までシビれるような重い一撃。

「いった〜い!」

これでも嫁入り前の身体なのに!傷ついたら責任取ってくださいね、師匠!!

「だが、断る」

「なんで考えてることにツッコミ入れるんですか!!ってか断らないでくださいよ!!」

「いいじゃないか。暇なんだもの」

なら少し位応援してくれても……。

「ふむ。確かにな。ならば美鈴に勝ったら何かご褒美を……」

「全力で行くわよ!!」

私は美鈴に妖力弾をばら撒く。

別に、コレが当たるとは思っていない。むしろ、美鈴の動きならばどんなに速度を上げたとしても難なく躱すだろうし。

案の定、弾幕を避けていく美鈴。ばら撒く弾もそれぞれ緩急を付け、避け難くしているはずなんだけど。

でも、それでいい。避ける事に意識してくれている方がいい。

だから……。

「後ろを振り返らないでね」

「なっ!?」

美鈴の後方に開けた数々のスキマに入っていく弾幕。それは別に開いたスキマから再び現れる。美鈴を囲うように配置された、『全方位』のスキマから。

全方位から迫る緩急の付いた弾幕は、いくら身体能力の高い彼女でも避ける事は出来ないらしく。1つ被弾したのをキッカケに、次々と当たっていった。

 

 

 

「いや〜!負けちゃいました!!」

何故か負けたというのに清々しい笑顔の美鈴。なに?この子。

「流石、霞さんの弟子なだけありますね!!」

「あ、当たり前でしょ!師匠の前で無様な姿は見せられないもの!」

だけど真っ直ぐに褒められるのは照れくさい。

「ま、アナタも上には上がいるってわかったなら、更に精進する事ね」

「えぇ!そうですね!!」

うんうん。なんとも、可愛らしい妹のような反応だ。妹なんて居ないけど。

「そうそう!更に精進をしたいのですよ!!」

ん?だから、それは今私が言ったわよ?

「ですが今回、私は紫さんに敗れてわかったことがあります!!」

あれ?なんだろう、嫌な予感がする。

この純粋な美鈴の目に、私は焦りを覚える。え?なに?

「やはり、1人で幾ら修行をしてもたかが知れていると!!」

あ、これはまずいわ。やめて、そこで止まって?お願い、この後でご飯奢るから。……お金ないけど。

「なので霞さん!お願いします!!」

やめて!師匠との『2人の時間』を奪わないでぇ〜!!

「私も弟子にして下さい!!」

言った〜!この子言っちゃった〜!!

予感的中だし!悪い予感が的中しちゃったし!!

……あ、でも師匠の事だから、即答で『だが断る』って言うはず!!その後、私も強めに言えば諦めてくれるか「いいよ」はいそんな事無かった〜!なんで?!私の時は即断ったのに!!

「え?だって、ちゃんとお願いしてきたから」

私のはちゃんとしてなかったと?!……まぁ、してなかった気もしないでも……。

「本当ですか!?ありがとうございます!!」

 

こうして、私に弟弟子が出来てしまいました。




紫「……」

霞「良かったな!弟弟子だぞ!あれ?この場合は妹弟子か?」

作「むっふっふっふっ。どうだ思い知ったか!」

紫「……師匠、作者さんとお話があるのですが、離れても宜しいですか?」

霞「ん?いいぞ?」

作「え?!」

紫「さ、作者さん。少しお話をしましょう?」

作「ゆ、紫ちゃん?それは笑顔じゃないよ?目が笑ってないよ?!ってか、ヤンデレっぽいよぉっ?!!」


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40話/ラーメンには炒飯よりも白飯らしい

紫「師匠!なんと1話から3話がUA1000回を超えたらしいですよ!!」

霞「あ、うん。そうみたいだね」

紫「こんなどうしょうもない、ロリコンの書くものを読んでもらえるなんて、なんて心の広い方たちなんでしょうかね!」

霞「……いや、あのね?」

紫「どうしました?師匠!!」

霞「そのロリコン作者はどこ行った?」

紫「…………星って……綺麗ですよね……」

霞「とうとうヤったか」


「美鈴!師匠の背中を流すのは私がするわっ!!」

「いえいえ!お世話になっている身ですので、これくらい私がさせていただきます!!」

どうも、先日から弟子が増えた創造神の霞です。感想でチート過ぎると言われ、若干凹んでおります。

……メタい?知るか。

「それに私は恥ずかしながら料理は不得意です。主に身長的に。なのでそちらをお願いしたいのですが」

「むしろ身長的にアナタが師匠と入るのがマズイのよ!!」

いや、それは紫もだからね?

曇ガラスの向こう側ではちっちゃい人影と、それよりもちっちゃい人影がなにか言い争いをしている。まぁ、ほぼ紫が叫んでいるだけだが。

つーか、出たいんだけど。お前達の言っている『背中を流す』って行為は、とっくに終わってるからね?なんなら湯船に浸かったから。上せるくらいだからね?

「食事の準備なんてとっくに終わってるわよ!!」

「おぉ!流石ですね!!」

「え?なに?!私がおかしいの?!私が変なの?!でも構わない!!師匠の裸を見るのは私だぁっ!!!」

おい、本音が漏れてるぞ。

「裸なんて見たいんですか?私の見ます?」

「誰が見るかっ!!」

「お前らうるせぇぇええっ!!」

 

 

 

「あのな?美鈴の気持ちは嬉しいのだが、幼女と一緒に風呂に入った時点で俺(と作者)の世間体と言うか、命が危険で危ないわけ。だから今後は違う形で恩返しをしてくれ」

「師匠が言うならばそうします!!」

うん。基本、美鈴は素直だから、ちゃんと話せばわかってくれる。問題は次。

「んで、紫だが……。次に同じ事したら、アイアンクロー3時間の刑な」

「私だけ扱いが酷い!!」

ガックリと崩れ、落ち込んでいる紫をそのままに食事をとる。

最近は家事を覚えてきた紫。なかなかの腕前で、結構旨い。

「美味しいですよ!紫さん!!」

ほら、美鈴も喜んでるじゃないか。だからいい加減、気を取り直してこっち来い。

「……ぐすん」

泣くほどの事か……。

「そう言えば、師匠はなんでこの国に来たんですか?」

「んー?ただの見物」

お、この肉じゃが旨い。

「なるほど!旅をして見聞を広げているのですね!!」

「まぁ、そんな感じだ。んで、途中で美鈴の噂を聞いたわけさ」

「あぁ、あの噂ですか!」

……うん、いいんだけど、届かないからって脚をブラブラさせないで?机に当たって揺れるから。

「参っちゃいますよねー。『ちっちゃい妖怪がじゃれて来て鬱陶しい』だなんて」

「ん?」

なにそれ。そんな話は知らないんだけど。

「あれ?違ってました?」

「うーん。違うっちゃ違うんだけど。合ってるって言えば、合ってる?」

見方によれば間違いじゃ無いんだけど、美鈴の実力でじゃれて来たら、下手すりゃ殺しちまうからな。

でも、気になる違和感。もしかして、俺が聞いた噂は違うヤツの事なのか?

「どう思う?紫」

「……一緒にお風呂……」

まだ引きずってんのかよ。

「あ!そうだ、ご褒美!!ご褒美で『一緒にお風呂』!!」

「ご褒美に修行100割増にするか?」

「それって単純に11倍ですよね!?」

 

 

 

この国の夜は冷える。昼間の肌を焦がすような暑さとは打って変わって、静寂に包まれ、身も心も凍らせるような冷たい風が吹き抜けている。

こんな寒い夜は、身体を動かして温まるにかぎる。

「あ〜。気持ちいいねぇ〜」

朱色に染まった身体が月明かりに照らし出される。血飛沫を浴びるだけで、興奮を覚える。断末魔を耳にするだけで、心が軽くなる。

あぁ、この世は実によく出来ている。こんなにも『玩具』が溢れかえる地が存在するなんて。あんなちっぽけな国から、態々海を渡ったかいがある。

……でも、足りない。あの興奮には、まだまだ程遠い。

もう2度と出会えないであろう。はるか昔に出会った、1人の人間とのあの時間。アレに比べれば、こんなものただの虚しい自慰と同じだ。

「また会いたいなぁ……」

地中深くから出てきて、まるで恋焦がれる乙女の様な感情に、苦笑しつつ。それでも今は、この興奮に身を委ねようと、思考を停止させていった。

 

 

 

「んじゃ、紫は妖力操作の応用。対象の行動、及び能力の使用を抑える、簡単に言えば封印と結界の練し……修行な」

「なんで今、言い直したんですか?!」

確かに『練習』だと子供っぽい気がするけど。

「そんで美鈴は、俺が創造したこの『塩鯖君弐号機』で組手の練習な。思いっきりやっていいから。本気でやっちゃっていいから!!」

「な、なんか師匠、コレに嫌な思い出でもあるんですか?」

「いや、全くないが。本能が殺れと言っている」

……今の絶対字が違った。

 

私が言われたのは結界と封印の修行。これは私が師匠と似た能力だから思いついたようだけど、つまりは私の『境界を操る程度の能力』を使えば出来ると言うことなのだろうか。

私は頭の中で妖力の回路を組み上げる。目の前にある『塩鯖君初号機』は、絶えず霊力を吹き出し、気持ち悪い動きをしている。なんだろアレ。なんであんなにクネクネしてるの?……気持ち悪い。

組み上げた回路を、妖力に乗せて放つ。当てられた初号機の周りに頭の中で描いた回路が幾何学模様の陣として浮かび上がる。陣はその大きさを少しづつ小さくしていき、初号機を縛りあげようとしていた。

「集中するのは良いことだ、が」

ふと、後ろから師匠の声が聞こえた。驚いて振り向くと、同時に陣は霧のように消えてしまった。

「自分の周りにも気を配らないと。相手が1人とは限らないぞ?」

「……はい」

師匠の声に気を取られ、集中を解いてしまうとは。私はまだまだの様だ。

 

 

 

体格差のある相手と対峙する場合、よっぽどの力量差が無いと覆すのは難しい。と師匠に教えて貰った。

いま、正面にいるのほ『塩鯖君弐号機』。体格的には師匠よりも大きい。つまり私は見上げる形になる。しかしそれだけなら、今まで幾らでも相手をしてきた。そいつ等と違うのは、動きが師匠と似ていること。師匠よりは遅く、師匠よりは軽く、師匠よりは弱いのだが。それでも、比較対象が師匠なわけで。結局、並の妖怪よりはよっぽど強い。

「はぁああっ!!」

回し蹴りを繰り出すが簡単に止められ、掴まれる。そのまま放り投げられると、背中から落ちてしまった。一瞬呼吸が止まる。しかしそれで動きを止めてくれるわけでもなく、弐号機はコチラに向かって大量の霊力弾を撃つ。

咄嗟に跳ね起き、脚に力を込めて弾幕の隙間を縫うように走り抜けた。

「はい、アウト1回目」

目の前を覆うような弾幕を抜けると、そこには弐号機の姿があり、拳を振りかぶっていた。

師匠の声で動きを止めた弐号機だが、それがなかったら確実に吹き飛ばされていただろう。

「美鈴はもう少し考えて行動しようか。さっきの弾幕の隙間。もし態と作られたものだとしたら、今の状況になるって事を考えなさい」

「はい!わかりました!!」

 

そんな修行が数日間続けられた。

また、今回も俺の出番少なかったな。

「だから、メタいですよ師匠」




霞「なんかキャラ崩壊がスゲェんだけど」

紫「そうですか?」

美「そんなことないですよ?」

霞「どっちかと言うと、紫のキャラが問題なんだが?」

紫・美「いつも通りです!!」

霞「作者ぁぁあ!早く帰ってきてー!!」


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41話/重すぎる愛らしい

作「復活!!」

紫「……ちっ」

作「紫ちゃん?露骨過ぎますよ?」

霞「紫に何をされたかは聞かないが、良く無事だったな」

作「今度、番外編を書く事になりました」

霞「番外編?」

紫「今はまだ、知らなくても良いんですよ」

霞「なにそれ怖い」


相変わらず中国大陸にいる霞です。

 

なかなかに二人とも成長したようで、美鈴は俺が相手をする様になり、紫は独自の結界や封印術を編み出すまでに至った。

 

そんな平和な日常を過ごしていた俺達だったが、最近頻繁によろしくない噂を耳にする。

「妖怪殺しが人間を襲い出している?」

「えぇ、そのようです」

リビングでコーヒーを飲んでいると、紫が立ち寄った村での噂を話し出した。

「以前耳にしていた『妖怪を殺す妖怪』が、今度は人間を襲っているらしいです」

「なんだそれ。普通順番が逆だろ?」

本来なら人間を襲う妖怪。勢いを増した妖怪は、縄張りを広げるために他の妖怪を襲い出す。

「本来ならば。ですが、この妖怪は色々と違うようで」

「色々と違うって?」

「……まずは、いま師匠が仰ったように、順番。次にその目的ですね。その妖怪は食事の為に襲っているわけでは無いみたいです」

「喰うためじゃないのか?」

「んぁ?」

ドーナッツを齧っている美鈴が驚く。ほら、食べカスが落ちてるぞ。

「その証拠に、骸には喰われた形跡がないのです。妖怪にも、人間にも」

「なんだそれ」

また、ゲーム感覚で襲っているヤツの仕業なのか。

「そうか……」

「あと、1つ」

「まだあんの?!」

コーヒーを吹き出しそうになる。コッチとしてはもうお腹いっぱいなんだが。

「最大の特異点は、その妖怪がたった1人だと言うことです」

 

 

 

夜風を浴びながら月を見上げると、あと数日で満ちる月が浮かぶ。紫から妖怪の噂を聞いた日から、辺りの妖力を探知している。

ここ数日は目立った妖力の動きは感じられないが、むしろそれが何か良くない空気を纏っているようで、不気味に思える。

「師匠」

見るとテントから紫が顔を出していた。いや、顔だけって。

「寒いですから」

「そーですか」

「……なにか気になることでも?」

俺は懐からタバコを取り出し咥える。火をつけて煙を吐き出すと、空へ消えていった。

「紫はどう思う」

「どう、とは?」

「この状況さ。まるで……月が満ちるのを待っているような」

「……確かに、妖怪にとって満月というのは特別なものです。ですが、今までアレだけ暴れていたのに、今更満月を待つというのは、不気味ですね」

「だよなぁ……」

今度、月のアイツに言って、満月の光をどうにかしてもらうかな。出来るかわからないけど。

「つまり、次の満月。何かが起こる……のか」

「確証はありませんが、恐らく」

出来うるならば、この予想が外れることを祈るばかりだ。

なにせ、今までで1番面倒臭いことになる気がするから。

 

 

 

紫と美鈴の修行をしつつ、旅を続けた俺達はとある村にたどり着いた。

「静かな所ですねぇ〜」

「いや、美鈴?これは静かとは言わないよ?」

なんせ人っ子1人居ないのだから。

「これもあの妖怪の仕業でしょうか」

「多分な」

襲われた形跡の残る村。破壊され、所々に煙が立ち上っている。

「生き残っている人は?」

「どうやらいないようだ」

無残にも転がる人間の死体の数は、おびただしい量になる。

「まだ近くにいるかもしれないから、油断するなよ?」

「はい」

「了解です!!」

 

 

 

「酷い状態ですね。これだけの事をたった1人で起こすとわ、どんな妖怪なんですかね」

師匠や紫さんと別れて、生きている人間の方がいないか探す。破壊された家屋を覗くけれど、どこもかしこも血の海。惨たらしい死体はもはや原型を留めていません。

「師匠も怖い人ですが、この妖怪も恐ろしいです」

「そんな事言うなよ……」

ふと背後から声が聞こえました、が誰でしょうね。勿論師匠や紫さんではありません。聞き間違えるわけがないので。それに人間でもないようです。先程から気配を探っているにも関わらず、私の背後に立てるような人はいませんから。

「何方ですか?」

私はゆっくりと振り返ると、1人の女性が立っていました。赤色に染められた服は、元の色すらも分からないくらいに血に染められています。

とても友好的な表情ではないのが一目でわかると、咄嗟に飛び退き間を広げようとしますが、相手はなんの反応も示していません。

「いいわね。貴方、なかなか強そうじゃない」

「貴女は……とてつもないですね」

その隙のない立ち姿から相手の実力が、否応なくわかってしまう。自らの妖力を完璧に隠しているのもさることながら、底の見えない井戸のような、深い暗い眼は、合わせるだけで身体が凍ってしまいそうになるほど冷たいです。

「貴女は何発まで耐えられるの?」

その言葉を最後に、彼女は私の視界から消えてしまいました。

 

 

 

探索を続けていると、近くに突然大きな妖力を感知して、壊れかけの家屋から飛び出すと同時に、けたたましい爆音が響き渡る。

「美鈴?!」

私は叫び、煙と共に地面を転がる美鈴の名を叫ぶ。

壁にぶつかり勢いが止まった美鈴は、見るからに傷だらけで、血を垂れ流している。

「ゆ、紫さん!援護をお願いしますっ!!」

「め、美鈴?!」

口元の血を拭いながら叫ぶ美鈴は、目線を土煙から離さない。

少しづつおさまる煙の中に立っていたのは1人の女性。どことなく師匠と同じような服装だが、それが地のものか血で染められたのか分からないほど、赤黒い。

「こ、このぉっ!!」

大量の妖力弾を放つと隙間を同時に展開し、全方位から狙う。いつぞや美鈴を倒した技だ。

相手は避ける素振りも見せず、全てが音をたてて着弾する。

音が聞こえなくなるが、女性は無傷でそこに立っていた。

「妖力で守ってすらいないのに!!」

「今のは貴女?」

ようやっと、コチラに意識を向けた女の眼は、怒っている時の師匠に似ている。冷たい刃そのものの視線に晒されると、身体がこの場から逃げ出したくなる。

「でやぁぁぁああっ!!」

ふと、美鈴が目にも止まらぬ勢いで連打を叩き込む。さすが体術だけなら師匠の相手を出来るだけはある。

まぁ、師匠にとってはお遊び感覚なんだろうけど。

「……そろそろ、全力でやってくれないかな?」

しかし女は美鈴の拳すら、まるで当たっていないかのような。反応すらせずにいる。

「……化け物!!」

美鈴に当たらないように、ありったけの妖力を込めて弾幕をはる。

「なんか痛そうね」

そう言うと、殴っていた美鈴の拳を受け止め、掴むとそのまま振り回す。

「危ない!!」

女は振り回した美鈴で弾幕を防いだ。無論、私の弾幕をまともに食 喰らった美鈴は、腕を離されるとその場で倒れてしまった。

幼い割には丈夫な美鈴でも、流石にあれだけの量を受けるのは無理がある。

「あら、終わっちゃった。なら次は貴方かしら?」

女がコチラに向かって歩いてくる。マズイ。私は美鈴と正反対の遠距離型。近づかれるのは苦手だ。

「くっ!!」

スキマを開いて距離をとろうとする。

飛び退いて距離とったはず、はずなのに。

「面白い能力ね」

女は目の前にいた。スキマを女が通ったわけじゃない。ただの脚力で、一瞬にして間を詰めたのだ。

そんな考えが頭の中を過ぎるが、見上げると女は腕を振りかぶっていた。

殺られる!?

咄嗟に思ってしまった。

 

「俺の弟子に何してんだコラ」

 

さっきの子供は久々に面白い相手だった。私の攻撃を紙一重で交わし続けていたが、少し力を込めて動きの速度を上げると、やはり付いてこれなかったけど。

次に出てきたのはさっきよりは弱そうだった。でも妖力を使った面白い戦い方をする。まさか全部の方向から弾を当ててくるとは思わなかった。でも、私が近づこうとすると逃げるあたり、さっきの娘みたいに単純な力は弱いのかも。

まぁ、二人とも面白かったけど、そこらの妖怪よりも『ちょっと強い』くらい。私に快感を与えてくれる相手じゃなかった。現にこうやって距離を詰めて、殴ろうとすると涙目になって逃げようとしている。

「……師匠!!」

咄嗟に少女が誰かを呼んだ。師匠?この子たちの師匠?ならもう少し楽しめるのかしら。

そんな淡い期待を持ってしまう。

「俺の弟子に何してんだコラ」

いつの間にか腕を掴まれていた。今の私でも振り解けないなんて、面白いわ。

振り返ると同時に、そいつの顔を殴る。でもその拳すら受け止められる。あら、ほんとに何者かしら。私を2度も止めるなんて。

「……お前が噂の『妖怪殺し』か」

私はこの時、初めて相手の顔を見た。そして自分の目を疑った。なぜ?どうして?なんで貴方がここに居るの?なんで貴方が生きているの?!

私に最高の快感をくれた人。

私に初めて、いや唯一勝った人間。

「……会いたかったわ。貴方に……」

「俺は会いたくなかったよ、チクショウ」

 

 

 

「久しぶり、と言うべきか?」

「そうね、何千年、何億年ぶりかしら。よく覚えてないけど」

師匠と女は腕を掴んだ状態で話している。え、師匠は会ったことがあるの?!

「あの時は自己紹介も出来なかったな。俺は神条霞」

「鬼ヶ原姫咲、鬼子母神なんて呼ばれてるわ」

腕を離すと同時に2人わ距離をとる。鬼ヶ原と名乗った女の目には、もう既に私の事なんか映っていなかった。

「……師匠」

 

 

 

夜月を抜くと霊力の制限を3割程開放する。相手があの時の鬼ならば、長い年月と共にその力は以前とは別物にまでなっているだろう。

油断は出来ない。なんせ近くには紫と美鈴がいるのだから。

「あぁ、本当に、本当に本当に!!どれだけ望んだことか。もう既に死んだと思っていた貴方が、今私の目の前にいる!どうしてとか、どうやってとか、そんな事はどうだっていい!!また、私と戦ってくれる!!私の渇きを潤してくれる!!それが堪らなく気持ちいい!!」

「とんだ変態になったんだな」

前にあった時はこんな奴だったか?

かなり昔だからよく覚えてないが。

「いくよ!!」

姫咲は地を蹴る。本来なら反応できない速度を、霊力探知で無理矢理反応させる。身体を咄嗟に捻る事で拳を躱すと、夜月を振り下ろす。しかし。

「ほんと、化け物だな」

「褒めてる?ねぇ、褒めてる?嬉しいわぁ、貴方ともう1度会うために、誰にも負けないくらい鍛えたんだもの」

振り下ろした刃は簡単に指で止められ、引き抜く事も出来ない程の力で抑えられる。

片手で霊力を溜めて放つと今度は左手ではじかれる。

「楽しい、楽しいわ!!」

「俺は楽しくねぇよ」

姫咲の腹を蹴り上げ、ようやく夜月が自由になった。

「痛いわねぇ」

「ならもっと痛がれ」

全くと言っていいほどダメージのない姫咲は、笑顔を見せる。怖いから、その笑顔。なに?ヤンデレ?!

「でも、本気でやってはくれないのね?」

「本気になって欲しいのかよ」

「当たり前じゃない。だって……」

その瞬間、姫咲から妖力が溢れ出る。今まで妖力使ってなかったの?

「私の本気を受け止めてくれるのは、貴方だけなんだもの」

どす黒い妖力は、周りの建物を吹き飛ばし更地へと変えていく。紫美鈴は紫が張った結界でなんとか耐えたようだ。

「早く本気になってね?私も本気になりたいんだから」

あれ?まだこれ以上があるの?

これはちょっと……まずいかな……。




霞「あれ?これはヤバイの?ピンチなの?」

作「どうかな?」

美「わたし、活躍出来ませんでした」

紫「同じく」

作「ほら、コイツが規格外だから」

霞「俺を化物扱いするなよ」

作「でも次回は紫ちゃん大活躍だよ?」

霞・紫「え?!」

美「羨ましいです」


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42話/さよなら師匠。こんにちは師匠。らしい

霞「おい、なんだこのタイトルは」

作「ノーコメントで」

紫「私が大活躍なのと関係が?」

作「ノーコメントで」

美「私の活躍は?」

作「ありません」

美「私の時だけなんか違うっ?!」


姫咲の纏う妖力は、霊力を3割開放している俺ですら、圧倒される程だった。いやいや、俺よりってかなり異常だぞ?これでも創造神だからね?

「おいおい。お前1人でこの大陸消し飛ばすつもりか?」

「貴方が本気になってくれるなら、それもいいわね」

是非とも遠慮したいんだけど。

夜月を握り直し、構える。

「とりあえず、半分か」

「……言ったでしょ?」

すると視界から姫咲の姿が消える。張り巡らしている霊力の網が姫咲を捉えた瞬間には、目の前に拳が迫っていた。

「……本気でやってって」

殴られると同時に訪れる浮遊感。吹き飛ばされた俺は、かなりの距離を飛び、地面に落ちてもその勢いは止まらなかった。

漸く止まると、何年ぶりかに口の中に鉄の味がした。クソが。

「やっぱり、貴方は最高ね。今ので死なないんだもの」

「普通なら死んでるわ」

霊力での防御も間に合わなかった。咄嗟に後ろに飛んで威力を殺すくらいしか出来ない。

つーか、制限くらい外すの待ってろよ。

「……霊力開放……5割」

俺の周りに漂う霊力が、より濃い色になり、輝き出す。

ここまでの霊力は流石に最近使っていない。

「おら、来いよ」

口の中の血を吐き出すと、強がってみせる。本当は今にも紫と美鈴を抱えて逃げ出したいのよ?

でも、コイツは逃げても追いかけてきそうだし、ってか逃げきれなさそうだし。

「いいわ……いいわよ!!もっと!もっと私を楽しませて!!」

それからは、二人とも言葉を交わすことがなくなった。

俺からすればそんな余裕は無いからだ。5割も開放しているのに、それと同等の力を持っているのだから。

夜月を振るうとそれを避けられ、拳が迫ればそれを受け止める。

「だりゃぁっ!」

避けきれず、蹴りを腹に食らってしまう。うっわ……腹の中身全部出ちまいそう。

込み上げる吐き気を無理矢理抑え込み、両足で踏ん張ってその場に留まる。

「くそがぁっ!!」

夜月を横に振り抜くと、姫咲の肌を切り裂き血が滴る。夜月で斬れないってどういう事だよ。コイツで斬れない物があるとは思わなかったわ。

「……何年ぶりかしら……血を流すなんて」

指で血を拭うと、恍惚とした表情でそれを舐めとる。

「もう少し、力を出してもいいかしら」

「……」

若干、5割でも足りないと思ってたのに、これ以上本気にならないでくれないかな……。

「貴方が半分なら、私も半分ね」

はい?今までどんくらいでやってたんだよ。

「いくわよ?」

もう、滅茶苦茶だよ。これ以上コイツに本気になられたら、マジで大陸が消し飛ぶぞ。

妖力を更に吹き出し、とうとう俺の網にすら感知できない様になった。

気がつくと俺は吹き飛び、直ぐに脇腹に激痛が走る。どうやら殴られたらしい。

「し、師匠!!」

吹き飛ばされながら、紫が叫んでいるのが聞こえた。そんな泣きそうな声を出すなよ。

「……がっ!!」

骨を何本か折ったらしく、呼吸がままならない。

飛ばされた時に夜月も手放したようで、遠くに突き刺さっている。

なんとか立ち上がると、腕も上がらない。あぁ、そりゃそうか。

「師匠!!う、腕が!!」

さっきのは腕を殴られたらしい。その結果、腕は無残にもはじけ飛んだようだ。左腕の肘から先がなくなっていた。くそ、痛くて今にも意識を手放してしまいそうだ。

「あら、あらあら、大丈夫?まだ続けられるわよね?」

「なんて答えようと止めないくせに」

額からは冷汗が噴きでる。単純に考えて、霊力を全開しても、姫咲の全力に勝てないという事なのだが。どうするか。

「……これ、かなりマズイな」

小さく呟くと、とりあえず腕を霊力で止血する。

なんせ、腕が無いから今すぐには創造することが出来ない。両手を合わせる事が出来ないからな。

「……紫、頼みがある」

あんまりやりたくは無いのだが。

俺に駆け寄った紫に耳打ちする。流石にこれ以上、アイツの好き勝手にさせるわけにはいかない。

「俺が今からヤツの動きを止めるから、アイツの力を封印する術を組み上げろ」

「わ、私がですか?!無理です!アレだけの妖力を私1人では抑え込めません!!」

「んなこた解ってる。俺が今から神力で抑えるから」

「なら師匠がやった方が……」

「アホ。アイツの妖力と俺の神力がぶつかったら、お前達所かこの大陸すら原型留めてないわ」

だから俺は神様モードになれないのだ。神様モードの俺と渡り合えるだけの力を持つ者なんて、本来ならいる訳が無いのだが、どういう事か姫咲は持っている。そんな力と力がぶつかれば、この星に多大な影響を及ぼすのは火を見るより明らか。

「……やれるな?」

「……そんな……わ、私には」

不安そうに俯く紫。いつもなら元気よく『やれますっ!』と根拠の無い返事をするくせに。

俺は残っている右手で紫の頭をポンポンと撫でてやる。

「お前は誰の弟子だ?俺の弟子だろう?なら大丈夫だ」

出来うる限りの笑顔を作り見せてやる。

本当はそんな余裕はないのだが、今回ばかりは紫に頑張って貰わないと困る。

「俺は紫を信じてるよ」

 

「さて、お望み通りの全力だ」

「あら、やっと本気になってくれるのね」

姫咲は冷たい眼をしながらも、嬉しそうに笑う。

「後悔すんなよ?」

「ここで本気になってくれなきゃ、そっちの方が後悔するわ」

「あぁ、そうかい。神力開放、1割。『神様モード』」

そう言うと俺の力の質が変わる。霊力から神力に変換されると空気が震える。

「……素晴らしいわ。貴方の正体とかどうでも良くなるくらいに」

「……無駄口叩いてねぇで、遊んでやるからかかって来いや」

次の瞬間には眼前に迫る姫咲の蹴りを、仰け反って避けながら背中を蹴り飛ばす。

「かっ……!!」

肺の空気が吐き出され、吹き飛んでいく姫咲。しかし身体を捻って着地をすると、再び地を蹴って今度は拳の連打を繰り出す。

俺は神力で壁を作り出し、防ごうとするがその威力に耐えきれず、脆くも崩れさる。

しかしそれで良かった。一瞬でも間があれば、神力を溜められる。

掌大の弾を腹に叩き込むと、爆風が至近距離で起こり、視界が遮られる。

そろそろ、俺も準備をしなきゃな。

 

 

 

師匠に頼まれたのは、あの馬鹿げている妖力を抑え込む封印。本来ならそんなもの、今の私では不可能なのだが、師匠の言葉を信じるならばやるしかない。

確かに、師匠が霊力から神力へと力の質を変えると、先程とは打って変わって、鬼ヶ原を圧倒し出した。

もはや私には、その動きの全てを見る事は出来ないけれど、師匠に傷が増えていないことから、一方的な展開になっているのだろう。しかし、鬼ヶ原も未だに半分の力を残していると言う。これは早く術式を組み上げるべきだろう。

私は両手を合わせる。以前、師匠が能力を行使する際に両手を合わせているのを見てから、私も真似をする様になった。気分の問題かも知れないが、こうすることによって力の巡りが良い気がする。

アレだけの妖力を封印するには、私自身も莫大な妖力を必要とする。今の私ではギリギリ足りるかどうかだ。

『俺は紫を信じてるよ』

師匠が私を信じてくれているなら、私も私を信じる。

 

 

 

徐々に妖力の出力を上げ出す姫咲。

そろそろ、神力1割でもキツくなってくる。

紫はまだなのだろうか。

「もっと!もっと上があるでしょう?!」

「ふざけんな。お前如きに本気になんてなるか!」

流石に片腕のハンデは大きい。左側の防御があからさまに薄いのだから。

そろそろ2割にまで上げないと行けないか?と思い始めた頃、後ろから紫の声が聞こえた。

「師匠!出来ました!!」

その声に振り返りそうになるのを必死に抑える。今度は俺の番だ。弟子の努力を師匠の俺が無駄にするわけにはいかない。

俺は一気に神力を3割開放する。

一瞬、姫咲は俺の力に驚いた表情をするが、直ぐにまた笑みを浮かべた。

「やっぱり、貴方は最高ね!!」

んなセリフもこれで終わりだ。

俺は神力を操作することなく、姫咲へとぶつける。純粋な力の圧を受けて、姫咲は動きを止める。とうとう膝から崩れ、地に手を着いてしまう。

「がっ……く!!」

俺は神力で押さえ込みながら、姫咲から溢れる妖力を掻き消す。これならば紫の妖力でもコイツに術式が届く。

「今だ!打ち込め!!」

「で、でも師匠!そこに居たら師匠も封印に……!!」

んなもん構うな。今はそんな事を言ってる場合じゃない。

「いいから!!早く!!」

少しづつだが、抵抗する力が増してきている。

「早くっ!!」

「くっ……!!」

迫る紫の術式。それは俺と姫咲を包み込み、陣が力を抑え込む感覚に陥った。

 

 

 

こうして、姫咲は力の大半を封印された。

 

 

俺の神力、霊力と共に。

 




紫「……」

霞「お、おい!紫!!いきなり土下座なんかしてんな!!」

紫「だ、だって師匠も一緒に封印を!」

霞「あ〜。気にするな。それも含めてバカ作者は考えてるんだろ」

作「それに、大半を封印されても、規格外は規格外だからね?」

霞「まぁ、言い方はアレだけど。気にすんな」

紫「師匠……」




美「誰か私の心配もしてくれませんかね?」


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43話/新たなる幼女らしい

霞「また増えるのか……」

作「読者様は期待しておられる!!」

美「そうなのですか?」

霞「俺に聞くなよ……」


どうも、前回どっかのヤンデレ鬼と死闘を繰り広げた創造神、霞です。

 

現在は翌日。とりあえず、俺の腕とか美鈴とか回復させなきゃいけないので、話し合いは次の日にしようとなりました。

 

ん?俺の腕?治しましたよ?

ちょうど神様モードだったので。

人間状態ならば両手を合わせる、という行為が必要になるけれど、神様モードならそれも必要ないのです。まぁ、代わりに身体を治すとか、繊細な作業は集中を必要とするから、戦闘中とか出来ないんだけど。

 

まぁ、閑話休題。

あれからどうなったか。

結論から言うと、紫の封印は無事に成功して姫咲の妖力はかなり減った状態です。まぁ、それでもそこいらの妖怪よりはかなり多いんだけど。

……そう、『妖力は』減ったんです。

なにが問題かって?タイトル見ろよ。

「……どうしてくれるの?この身体」

ちんまい幼女が俺の目の前に座っております。

彼女の名前は鬼ヶ原姫咲。あ、これで『きさき』って読むからね?

紫の封印で妖力と共に、何故か身体もちっちゃくなった様です。お前は何処ぞのバーローだ。

「どうしてこうなったのか、教えてくれない?」

姫咲がめっちゃ睨んでくる。

「どうしても何も、お前を封印する必要があったわけで。その副産物として、身体が縮んでしまったのよ」

「……それで納得しろと?」

ご尤もで。

ただ、俺だってお前と一緒に霊力を半分封印されて、なおかつ神力も結構失ってるからな?

今の俺なら、萃香でもワンパンで倒せるぞ。

「そう。もう戻らないの?」

「……どうだかね。そのへんは紫に聞いてみないと」

かく言う紫と美鈴は姫咲が怖いのか、キッチンの方でコチラをうかがっている。

少なくとも、美鈴はトラウマものだろうな。

「それで?私をどうするつもり?」

「どうって……何が?」

「こうやって封印したんでしょ?殺すの?」

いや、そんな幼女の姿で殺すとか物騒なこと言うなよ。

身長は美鈴より少し小さいくらい、金色の髪が腰まで伸びて、赤い着物を着ている幼女。

「さて、どうするかね。昔なら式にでもして悪さしないように見張っとくんだが」

「……こんな状態じゃ今までみたいな事出来ないわ」

そりゃそうだ。

「その式?ってのにはしないの?」

「したくても今は俺の神力が足りないの」

札を作成しようにも、相手を上回る力がなきゃいけない。神力は言わずもがな足りないし、霊力に至っては逆立ちしようが足元にも及ばない。

「ふーん。なら今の貴方なら私でも殺せる?」

「その時は他の神を呼んでお前を止めるよ」

つーか、日本の太陽神が黙ってないだろうし。ぶっちゃけ今も見られてるんじゃないかってハラハラしてんだから。

「……そ。わかったわ」

「逆にお前はどうしたいんだ」

「私?私は貴方とちゃんと決着をつけたいのよ」

どこまでバトルジャンキーなんだ。

「でも、そうね……。今の貴方は戦う価値もないし」

あ、ちょっと傷つく。

「……貴方が力を取り戻すまで、側にいる事にするわ」

……ん?コイツ、今なんて言った?

「貴方、旅をしてるんでしょ?ならそれに付いて行くって言ったのよ」

「俺に拒否権は?」

「どうぞ?ご自由に」

その返しは余計に怖いな。

まぁ、コイツを見張っていられるという点で見ても、良いのか?

後ろの2人が気になるけど。

「それに日本にも帰るんでしょ?娘達にも会いたいわ」

「あぁ、萃香と勇儀か」

あの2人もなかなかのジャンキーだったからなぁ。親は子に似るってか?

「……まぁ、それでいいか」

「なら決まりね。これから宜しく」

最後の宜しくは後ろの2人に言ったらしい。背後で『ひぃっ』て声が聞こえた。

……はぁ、やっぱり面倒臭いことになった。

 

 

 

とりあえず、アイツには報告しなきゃダメかな、と思い。天気の良い日に空を見上げる。

雲一つない青空の元、覚悟を決める。どうして娘に会うのに覚悟が必要なんだ……。

「あ〜まて〜らす〜!!」

「はい、お呼びですか?」

だから呼んでから来るのが早いんだよ。ずっと背後に居たんじゃないかって思うぞ。

「あれ?父上様?どうされたんですか?」

俺から霊力と神力がなくなっていることに気がついたようだ。

「……何があったのです?」

「いや、とりあえず落ち着いて話を聞きなさい」

あからさまに機嫌が悪くなる天照。だこらお前はどんだけファザコンなんだ。

俺は天照に、大体の事情を説明する。後ろでは紫と美鈴が天照に怯え、姫咲は我関せずといった風にソッポを向いていた。

「つまり、あの妖怪のせいで父上様は力を失ったと?」

「まぁ……簡単に言えばそうなんだが」

「わかりました父上様。直ぐに神軍を全て呼び出し、その者に生まれてきたことを後悔させてやります」

やめて!そんなことしたらコイツは喜んじゃうから!!

「あら、面白そうね」

「……その減らず口、2度と叩けなくさせてやります」

姫咲は姫咲で楽しそうにするし、天照は光を失った目で睨んでるし。俺は胃が痛いし。胃薬でも創ろうかな。

「落ち着け天照。コイツは俺が見張っておくから。だからこの事を龍神に伝えて欲しいんだ」

「母上様にですか?」

「そー。なにかあった場合、アイツを頼る事になるかもだろ」

そう言うと、天照は落ち込む。まぁ、天照1人では姫咲に勝てないってのがわかっているんだろう。

そうなると、俺の次は龍神だ。アイツならばこの星を壊さずに姫咲を止められるんじゃないか?

……つーか、今思ったが、俺が父で龍神が母なのか?

いつの間に俺はアイツと夫婦になったんだ。

「まぁ、そういう事だから。宜しく頼むよ」

「……父上様がそう言うならば、仕方ないですね」

そう言って俺の腰に抱きつく天照。暑苦しいから離れろ。

「何をしているのかな?天照」

「父上様エネルギーを充電しております」

なにその効率悪そうなエネルギー。

「大体2時間程で無くなってしまいますが」

「んなもの永久に枯渇してしまえ」

 

 

 

こうして、旅の仲間がまた1人、増えたのでした。

ほんと、驚異の幼女率だよ……。




霞「……」

紫「……」

美「……」

姫「なにか言いなさいよ」

霞「とりあえず作者、姫咲は幼女にするつもりなかったろ?」

作「なぜバレた?!」

霞「このロリコンがっ!!」



作「ってなわけで、今回でこの章は終わり!」

霞「次は……あの姫が出るのか」

姫「私?」

霞「いや、違うから」


感想、お待ちしております。


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数億年の再開らしい
44話/学習能力がないらしい


作「はい、新章!!」

霞「この集団で街中歩くのか?!」

美「師匠!アレってなんですか?!」

紫「あちらに茶店がありましたよ!少し休みましょう!!」

姫「……あなた、何を見ているのよ。殺すわよ?」

作「……後は頼んだっ!!」

霞「あっ、逃げるなバカ作者ぁ!!」


百数十年ぶりに日本に戻ってくると、どことなく懐かしい安心感がある。

美鈴にしては初めての日本。姫咲には久しぶりの日本。

 

「師匠!これはなんですか?!」

「……それはただの団子屋だよ。大陸にもあっただろ」

「ならあっちは?!」

「……それは牛車。乗り物だ」

一々に興奮し、指差して俺に尋ねる美鈴は子供のようだ。うん、子供だった。

「霞、疲れたわ。何処か茶屋にでも入りましょ?」

「……嘘つけ、何処に疲れる要素がある」

姫咲の声が俺の頭の上から聞こえる。俺の頭を足で挟むように肩に座る、いわゆる肩車状態。

「あら、私の足に触らるのよ?嬉しいでしょ?」

「お前みたいなチンチクリンの足なんぞ、微塵も嬉しくないわ」

俺はどっかの誰かとは違うんだ。

都に入った瞬間、コイツらのテンションはダダ上がり。まるで夏の祭りに来た子供のようなはしゃぎ様だった。

「まったく。少しは落ち着きなさい、美鈴」

「ほら、紫みたいに落ち着い………………紫、その手の物はなんだ?」

「お団子ですよ?」

いつの間に買ってきたのか、両手に団子を何本も持っている。

「あぁ!!姫咲さん!なんて羨ま……違くて、師匠から降りてください!!迷惑してるじゃないですか!!」

「あら、そうなの?」

「うん。そうなの」

「そうでも無いみたいよ?」

お前、人の話聞いてる?

「ぐぬぬぬぅっ。けしか……羨ましいっ!」

「言い切ったわね」

「……はぁ」

俺は大きなタメ息を吐いてしまった。

もう少し、のんびり旅を続けたいんだけど……。

「師匠!!あれは?あれはなんですか?!」

 

 

 

 

「かぐや?今日も沢山の人がお前を一目見たいと、足を運んでくれたよ」

「そうですか。でも、私は何方ともお会いしたくないのです」

お爺さんが今日も、私に贈られた大量の貢物を見せる。

そんな物、いくら持ってきても私には興味が無い。

ここのところ、毎日の様に足を運ぶ貴族達は、何度来ても姿を見せない私を、そろそろ諦めても良いと思うんだけど。

「私が欲しいのは……なんでも話せる友人が欲しいです」

そう。私の身体を目的にしない。ただ楽しく色んな話をしてくれる友人が。

縁側から庭を眺めるが、変化のないいつもの風景に、見飽きてしまった。こんな小さな世界だけじゃなく、もっと広い、私の知らない世界を見てみたい。

その為にこの地に来たと言うのに。これじゃあの頃と何も変わらないじゃない。

「かぐや?」

「……少し、1人にして頂けますか?」

そう言うと、お爺さんは悲しそうな表情をしながらも、席を外してくれた。

雲のない青空は、何処までも広がっているようで、この塀から先を見る事が出来ない私には、何処までも続こうがこの数歩で届いてしまう距離が、私の世界でしかない。

「師匠!次はあっちに行って見ましょうよ!!」

「こら、美鈴!師匠を引っ張らないの!!」

「団子よりもお酒が欲しいんだけど」

ふと、塀の外側から大きな声が聞こえてきた。どうやら子供たちのようだ。楽しそうにはしゃいでいる声は、少し羨ましい。

「はいはい。あと姫咲、その姿で酒とか言うな」

1人、男の声が聞こえた。保護者だろうか。

「ほら、こんな屋敷街に来てもしょうがないんだから。戻るぞ?」

……確かに、こんな所に子供が喜ぶような物は無いだろうけど。一応ここ、かぐや姫の屋敷よ?

「周りに人もいないから、今のうちだ行くぞ?」

次の瞬間、塀から少女の姿が現れた。え?

その姿は徐々に全体を出してきて、足の間に男の頭が見えた。

肩車をしつつ、両腕で2人の少女を抱えた男の姿が、塀の上に現れた。

「飛んでる?!」

思わず声が漏れてしまった。咄嗟に口を塞ぐが、聞こえてしまったようで4人の目線がコチラに向いていた。

「……あ」

「アチャー」

「……口封じ……する?」

それぞれ少女達が反応をしている。というか、最後の子は余りにも物騒過ぎない?!

「……とりあえず。逃げろ!!」

そう言うと、とてつもない速さで男は飛んでいき、直ぐに姿が見えなくなってしまった。

「……何だったのかしら。今の」

私はとりあえず訪れた安堵に、胸をなでおろした。

 

 

 

 

「いやー。見つかっちゃいましたね!」

なんで楽しそうなんだ、美鈴。

「し、師匠に肩車して貰っているのを……見られた」

今更な事を言うな、紫。

「殺さなくて良かったの?」

物騒過ぎるから、姫咲。

またやってしまった。神子と初めてあった時も同じ様な事になったのに、気が緩んでいたのだろうか。

「とりあえず、一旦都を離れるぞ。外ならテントを貼れるから」

かなりの高度をたもちながら、都の外へと向かった。




美「ところで、師匠の肩車はどうでした?」

姫「なかなか眺めが良かったわよ」

紫「師匠の頭なんて、こういう時しか触れないし」

美「良いですね。こんど私もしてもらいましょう!!」

霞「あれ?俺に拒否権がないぞ?」


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45話/花より男子らしい

作「Twitter始めたよ!!」

霞「活動報告から作るまでが早ぇよ」

作「基本、この小説の事しか呟かないつもりだけどね」



ココ最近、雨が降り続いていた。

都の外に貼られたテントから、出るタイミングを逃してしまい、完全に引きこもり生活を送ってしまう。

「暇ですね〜。外に出たいです」

美鈴も余りのやる事の無さに、床に寝転んでグダーっとしている。

「噂で聞いた、かぐや姫とやらを見に行きたいんだがな」

「絶世の美女と有名みたいですね」

紫もリビングで優雅にお茶を飲んでいた。

かぐや姫と言えば、月に行った永琳や月夜見と暫く会っていない事を思い出す。まぁ、永琳に会ってしまえば色々と面倒な事になるのだろうけど。

今更ながらに、前の人生で読んだ神話の神々と知り合いとは、どうも不思議な感覚だ。

かぐや姫が実在していた事にも驚いたが。

「霞〜!このお酒飲んでもいい〜?」

キッチンの戸棚に隠しておいた酒を器用にも見つけ出した姫咲は、見た目幼女には似つかわしくない一升瓶を抱えている。

それは料理用に残しておいたんだから、止めてくれ。

「あ、私も飲みたいです」

こうして、俺の願いも虚しく幼女達の酒盛りがここ毎日のように行われるのであった。

 

 

 

何日ぶりかの雲一つない晴天。ずっと引きこもって鈍ってしまった身体を伸ばすように、都へと足を運んだ。

久しぶりに雨が降らないからなのか、いつも以上に市場は人で賑わっていた。幼女達を引き連れ、露店をひやかしていると、否応にも周りの人の会話が耳に入る。

「かぐや姫が月に帰ってしまうらしいぞ」

「何だって?!俺、まだ1度もその姿を見たことないのに!」

そんな話がそこかしこで聞こえてくる。

どうやら、俺の知っているかぐや姫の話で言えば、物語は終盤のようだ。

これはノンビリしている場合じゃない。

「早速、かぐや姫に会いに行こう」

俺はそこらに居る人にかぐや姫の屋敷の場所を聞き出して、向かうことにした。

 

 

 

 

月から手紙が届いて、既に数日が経った。

内容は簡単に言えば迎えにくるというもの。私を地上に追放したくせに、なんとも自分勝手な連中だこと。

しかしながら、ここで抵抗したところでお爺さんに迷惑がかかってしまう。私は素直に月の迎えを待つことにした。当然、お世話になったお爺さんには話をしたし、私に求婚してきた帝にも迎えの事は伝えた。何故か、帝は迎え撃つ気でいるのだが。

地上の技術で月の武力に勝てるわけが無いのに。

「……はぁ」

もう何度目かのタメ息を吐いてしまう。

本音を言えば帰りたくない。何の為に地上に降りてきたと思っているのだか。

しかも月に帰れば、昔の様な、いや人としての生活なんて送れないだろう。

人体実験のモルモットとしか、月の連中は見ていないだろうし。

だとすれば、どうにかして地上に残りたいのだけれど、余りにも可能性は低い。

希望があるとすれば、迎えに来る人員の中に永琳が居ることだろうか。彼女なら話せば解ってくれるだろうし、彼女の実力ならば多少は逃げ切れる可能性が上がる。まぁ、ホントに多少。雀の涙ほどの可能性だけど。

「……私も空を飛べれば……」

先日、偶然にも目にしてしまった光景が、頭から離れなかった。3人の子供を抱えながら、空を走るように飛んでいった男性。青い着物と白い羽織を纏った姿が、目に焼きついてしまったようだ。

私もあんな風に飛べたのならば、今すぐにでも逃げてしまいたい。自由にこの国を見て回って、死なないこの身で人の行く末というのを見てみたい。

そんな絵空事を思い浮かべて、再びタメ息を吐いてしまった。

久しぶりに雲に遮られない青空を見上げると、数羽の鳥が気持ち良さそうに風を切っていった。

「なんだ、絶世の美女って聞いたんだが、なんだか不幸のどん底みたいな顔してるんだな」

 

声に驚いて、その方向を見ると、塀の上に男と3人の少女が座ってコチラを見ていた。

「……!?」

余りに突然の事に声が出ない。何?誰なの?!

太陽を背にしているから、顔が良く見えない。声からして男だとはわかるし、隣に居るのが少女だと影の形から判断できるけど。

「だ、誰?!」

「はじめまして、って言うべきかな?どうもかぐや姫様」

そう言って男は庭に降り立った。

「俺の名前は神条霞。ただの旅人だよ」

漸く目が慣れてきて男の顔が見えた。黒髪を短く揃えて居る、この辺りでは見ない顔だった。まぁ、見たことのある男なんてそんなに数は多くないけど。

そこで気付く。さっき思い出していた、先日の男だと。

「……大声出すわよ」

「う〜ん。それは困るなぁ」

余り困った素振りを見せないで白々しく言うと、腰に差していた刀を、地面に投げ捨てた。

「……これで少しは話を聞いてくれるかな?」

どうやら私に危害を加えるつもりはないみたい。それでも完全に信用するわけじゃないけど。

「何が目的なの?」

「目的は幾つかあるけれど、一つは君を見てみたかっただけだよ」

そう言って私を指指す。なんか失礼な男だ。

今まで会ったことのないタイプの男に、何処か気が抜けそうになるのを抑えて、何時でも大声を出せるようにする。一応、外には何人か護衛の兵士が居るはずだし。

「で、私が噂のかぐやだけど」

「うむ。噂通り、いやそれ以上だね」

隣にいた少女達は私と男の会話には興味が無いのか、庭の作りに目を輝かせている。

「他にも目的があるみたいだけど?」

私は男を見据える。いくら刀を投げ捨てたとは言え、男の力には流石に勝てないし。用心するに越したことは無い。

「……月に知り合いが居てね、そいつの事を知らないかと思って」

「月に知り合い?!貴方も月の民なの?」

男から聞き捨てならない言葉が聞こえた。月の知り合いだなんて、この地上に月の民の事を知っているのは私しかいない筈なのに。

「俺は月の民ではないよ。ただ知り合いが居るだけさ。八意永琳、と言う名を知っているかい?」

「……!!永琳を知っているの?!」

この男は、私を何度驚かせれば気が済むのだろうか。

 

 

 

「やっぱり知ってるか。アイツ有名だったからなぁ」

ふと、地上に永琳達がいた頃を思い出す。良いようにこき使われたり、人体実験に使われたり、あれ?ろくな想い出が無いな……。

「知ってるも何も、永琳は私の家庭教師よ」

「おぉ、そうなのか」

あいつ、なんでも出来るんだな。

「……貴方、本当に何者なの」

「何処にでもいるただの旅人だよ」

そのセリフに紫達が呆れた表情をしたのは、見なかったことにしよう。

「ただの旅人は空を飛ばないと思うけど?」

「……やっぱ覚えてたか」

塀の上でかぐや姫の事を覗いた時に、気が付いていた。この前空を飛んでいるところを見られた少女だと。

まぁ、覚えていてくれたのなら結果オーライだけどね。

「その辺も話したいんだが、庭で話すような内容じゃないんだよね」

「……まぁ、そうね。上がりなさい、お茶くらい出すわよ」

かぐや姫は立ち上がり、部屋へと案内する。

 

 

 

「で、どうして永琳の事を知っているの?」

「俺が永琳の命の恩人だから」

隠すこともなく男--霞は話し始めた。森で襲われそうになっていた永琳を霞が助けたのが出会いらしい。そう言えば、月にいた頃何度か永琳は昔の話を私にしてくれた。その中でもとある男性が何度か出てくることがあった。おそらく、霞がそうなのだろう。

「俺の話をしてたのか?」

「えぇ。でもその人は月に移住する際に死んだって聞いてたけど」

月に移住するロケットを無事に飛ばす為に残った英雄だと、永琳は誇らしげに語っていた。

その英雄が、今私の目の前にいる。普通なら胡散臭いことこの上ないが、何故か霞ならば有り得ると思ってしまうから不思議だ。

「私は余り外に出なかったから見たことないけど、街には貴方の銅像もあるみたいよ」

「うわ、何それ。恥ずかしいんだけど」

……自分が銅像になっているところを想像してみる。うん、恥ずかしい。

街中の広場、噴水なんかのど真ん中にカッコつけたポーズの自分が立っているのは、外に出たくなくなる程だ。

「まぁ、思い出話を延々とするのもいいんだけど。本題を話してもいいかな?」

「貴方が空を飛んでいた理由でも話すの?」

「いや、それはいつか暇な時に。それよりも、月から迎えが来るってのは本当かい?」

「あら、知ってたの?」

どうやら都では大変な噂になっているらしく、その話を聞いて私のところを訪れたようだ。

「なんか帝は君を返さないように躍起になってるけど、どう考えても地上の人間が勝てるわけないだろ?」

「貴方もそう思うわよね」

月の技術力を知っているものならば、その結果は火を見るよりも明らかだし。そもそも抗おうとも思わない。

「素直に帰るのか?」

「……本当は帰りたくないけど、こればっかりはしょうがないから」

私のせいで多くの人間が血を流す所なんて、見たいわけがない。だからできうる限り穏便に事を済ませたい。永琳ならば、それが可能だろうか。

「……なるほどね。なら手伝ってあげようか?」

「はい?」

何を言っているんだろう、一瞬自分の耳を疑った。月の力を知っているはずなのに、自ら死にに行くような事を言う。

「君だって、永琳から俺の話は聞いてるんだろ?」

確かに、永琳が話す英雄ははるか昔の妖怪や兵士でも太刀打ちが出来なかったと言うし。

もしそれが本当ならば、可能性はかなり上がる。藁にも縋りたい今ならば、お願いするのも吝かではないかな。

「その子達はどうするの?」

出された茶菓子を美味しそうに頬張っていた子供たちは、急に自分達の話をしだしたので驚いたのか、喉に詰まらせている。

「コイツらも、そんじょそこらの妖怪よりははるかに強いよ」

……そうは見えないけど。

「まぁ、貴方がそこまで言うなら……お願いできるかしら」

それでも、私は月に帰らなくていい可能性が少しでもある方に、賭けることにした。

「任しとけ」

そう言う霞は、笑顔で答えてくれた。




かぐや「ってか、なんで霞は私を見ても平然としてるの?!」

紫「師匠はロリコンですから」

霞「おい、バカ弟子」

かぐや「……うわぁ、引くわー」




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46話/石橋を叩いて砕くらしい

作「最近、完璧に夜型人間になってしまった」

霞「いや、寝ろよ」

紫「むしろ、2度と起きなくても……」

作「流石に言い過ぎじゃ?」



輝夜に警護を任された翌日、俺はテントの中で頭を抱えていた。なんせ今度の相手は月の民。しかも、俺が知っている頃よりも技術は発展しているだろう。封印される前の俺ならば、いくら攻めてこようが物の数ではないが、今回ばかりはそうはいかない。

それに紫達の事もある。姫咲は良いとしても、紫と美鈴は月の民と勝負にすらならないだろう。なんせ、向こうは妖怪を相手にするプロなのだから。

輝夜の話によれば、迎えには永琳も来るという。ならば永琳もこちら側についてくれるだろう。

 

 

 

「で、何も思いつかなかったの?」

「相手の戦力がわからない以上、考えても無駄だろ?」

輝夜の屋敷に上がり込み、爺さんが出してくれた茶を啜る。

爺さんには輝夜が話してくれた様で、顔パスで屋敷に入れるようになった。

部屋に案内される際に『どうか、宜しくお願いします』と言われたからには、是非とも頑張らなくてはいけないのだが。

「まぁ、全く考えてないわけじゃないさ。それでも、不確定要素が多すぎるから、本番で臨機応変に対応するしかないさ」

「なんとも、不安になるわ」

言うなよ、俺だってそうなんだから。

 

 

 

空を見上げると、小望月が浮かんでいた。とうとう明日は月からの迎えが来る日となった。縁側に腰を下ろし、静かな夜の風を肌で感じる。

「寝れないのか、輝夜」

何処からか霞の声が聞こえる。声の出処を探すが、その姿が見えない。

「上だ、上」

その声の通りに庭から見上げると、酒瓶を片手に屋根に上った霞がいた。夜風を浴びて月明かりに照らされた霞の姿は、どこか神々しくて不覚にも綺麗だと思ってしまった。

「輝夜も飲むか?」

「……ご相伴に与ろうかしら」

そう言うと、霞は一息で庭に飛び降り私の腰に手を回す。「舌を噛むなよ?」と一言呟くと、再び私ごと屋根へと飛び上がった。

「もうちょっと優しく出来ないの?」

「これ以上ないくらい優しかっただろ」

何処からか出したのか、もう一つ盃を取り出すと私に差し出す。受け取ったそれに酒が注がれると、月が写り込み小さく波打つ。

「これでも、帝も惑わすかぐや姫なんだけど」

「何が姫だか。俺からすれば普通の女の子ってとこだよ」

その答えは予想していなかった。地上に降り立ってから今まで、自慢じゃないが私を普通の女の子として見てくれた人はいなかった。誰もが私の身体か財産を目的としていた。私に求婚してきた人達も、誰もが『私』を見てくれなかった。

「……あなた、変わってるわね」

「褒め言葉として受け取っておく」

霞の横顔を眺めていると、気がついたのか視線が合う。何故か咄嗟に顔を背けてしまう。顔が熱い、動悸が激しくなっているような気がする。

「明日、私の事ちゃんと守ってよね」

ついキツイ言い方をしてしまう。いつもの私ってこんな感じだったかしら。

「輝夜は神様を信じるか?」

「……何よ急に。……まぁ、藁にも縋りたいからね。神でも死神でも、今度ばかりは信じるわよ」

「……なら大丈夫だ」

そう言うと、霞は笑っていた。

 

 

 

昼の鐘が遠くの寺で鳴った頃、私の屋敷には帝から多くの兵士が送られた。屋敷の中だけじゃなく、外も囲うように配備された兵士は物々しい装備をしている。まぁ、月の技術には到底及ばないものだけど。

「まったく、無駄に命を落とすことないのに」

私はさっきから庭を警備する兵士達を見ながら、タメ息を吐いた。

「そう言うなよ。帝だって輝夜の事が心配なのさ」

「どうかしらね」

結界を張って、私以外にはその姿を見えなくした霞が隣で答える。

だって私を見る目付き、いやらしかったんだもの。

何万の言葉を紡ごうが、山程の宝を貢がれようが、あの目をする人間は信用ならない。あの手の人間は、自身に危険が及ぶと判れば、何においても保身に走る。この場に帝が居ないのが良い証拠だ。

「貴方は裏切らないでね」

 

そらからは時間が経つのが早く感じた。

夜の帳が降りて、庭に松明が焚かれると空気は一気に緊張感に包まれる。

空は雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうで、不気味だ。

「そろそろかしらね」

部屋の中で座っていると、外が騒がしくなってきた。

「そう言えば、あの子達はどうしたの?」

「ん?それぞれ隠れてるよ」

昼間から気配を感じないのだけれど、流石妖怪と言うべきなのかな。

「アイツらも、これから起こる血の匂いを感じてるんだよ。そう言う部分だと、俺よりも鋭いからな」

まったく、妖怪ってのは油断ならないわね。

「それでも、ここにいる兵士達よりは頼りになるさ」

まぁ、霞がそう言うならば信じるけどね。

そんな会話をしていると、外から大きな声が聞こえてきた。

「な、なんだあれは!!」

「えぇい、狼狽えるな!かぐや姫をお守りするのだ!!」

……どうやら、とうとう迎えが来たようね。

 

 

 

師匠から言われたのは、人間の兵士と月の兵士達との争いには絶対に手を出さないこと。落ち着くまでは私のスキマの中で静かにしていること。

1番不安なのは姫咲なんだけど、それに関しては私がスキマを開かなければ外には出ていけないだろうし、大丈夫かな。

「!……あれが月の民?」

空を覆っていた雲が急に晴れていき、その合間から牛車に似た物が空を飛んでコチラに降りてきていた。

何処か優雅に見えるそれは、ゆっくりと、しかし確実に近づいていた。

「弓矢!打てぇっ!!」

兵士達は牛車目掛けて幾つもの矢を放つけれど、届いていないのか動きを止めた気配はない。

「……なんて力なの」

結界に似た壁に遮られ、全ての矢は消え去っていく。師匠や私の能力に似ているけど、あれは何処かに移しているのではなくて、ただ単純に消し去っているようね。

そうして、とうとう牛車は庭に降り立ってしまった。

こうなると、この庭の中で矢を撃つわけにもいかない。他の兵士に当たる可能性があるのだから。

それぞれが腰の刀を抜き、構えている。

牛車は音もなく簾が上がり、中から数人の男が出てきた。見たことの無い着物に身を包んだ月の民は、その手に長く細い筒の様なものを持っている。なんだろう、あれは。

「き、貴様らが月よりの迎えか!!」

「……そうですね。大人しく蓬莱山輝夜を差し出しなさい」

抑揚のない言葉は、人間っぽくない雰囲気。だけれども彼等から感じるのは紛れもなく霊力だから、人間なのだろう。

「我らが帝の命である!命が惜しくば早々に立ち去れ!!」

「……」

月の民はまるで猿か何かを相手にしているとでも言うような表情をしていた。

「あなたがたの様な野蛮で、我々の足元にも及ばない知能の、凡そ獣と同等の者達に話す言葉は持ち合わせていない」

そう言うと、細い筒を向ける。あれは武器かなにかかしら。

「早々に死になさい」

次の瞬間、筒から眩い光が放たれて、私には一筋の線のように見えた。それは兵士に触れても止まることなく、身体を貫いていた。

「?!」

光が当たった兵士の腹には、大きな空洞が開けられている。あの光の結果と見て間違いないだろう。

触れた部分を焼きながら貫通する。私達妖怪にも難しい事を平然とやってのけた月の民。しかもそれと同じ物を全員が装備しているようで、無残にも息絶えた者を見た兵士達はたじろいでいた。

それはそうでしょうね。あんな物、私でも相手をするのは嫌だ。

 

そこからは一方的だった。

月の民は近づくこともなく、ただ光を放つだけ。一直線に伸びる光に触れた者から、次々に倒れていき、庭に立っている兵士はいなくなってしまった。

「これが月の技術……」

スキマから覗いていた私は、その光景に恐怖しながらも、その優れている力に魅せられてしまった。

「いつか、あの力を手に入れてみたい……」

そんな欲望とも言える呟きを吐きながら。




霞「いや、戦力差ありすぎだろ」

作「うそっ!……地上の兵士……弱すぎ?!」

霞「うるせぇ」

美「あんなのと戦うんですか?怖いなぁ……」

姫「あんなのと戦えるの?楽しみねぇ……」

霞「この2人、性格が正反対……なのか?」

作「多分、似たもの同士だと思うよ?」




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47話/命は無駄にしちゃいけないらしい

作「Daysが面白い!」

霞「何を突然」

作「ほら、ああいう青春スポーツ物……なんかえぇやん?」

紫「せめて小説の話をしなさいよ……」


空に開けられた雲の穴から月が覗きこんでいる。

月明かりが差し込む広めに造られた庭は、何時ものそれよりも凄惨な光景にされた。

自らは一滴も流すことなく、血の海を作り上げた月の民はまるで、何事も無かったかのように輝夜へと歩み寄る。

久しぶりに月の力を目にしたが、俺がいた頃よりも随分と科学が発展したようだ。

「八意様、掃除は終わりました」

牛車に向かってそう言うと、月の兵士は道を開けた。

ゆっくりと庭に降り立った人物の姿を見ると、時間は進んでいないような錯覚を覚える。まったく、変わらないんだな。

月明かりに映える銀色の髪を靡かせて、彼女は一切の老いを感じさない。

「……永琳」

「お久しぶりですね、姫様」

言葉を交わした彼女達は、再会を確かめ合う。

2人の間は、その空間だけは誰にも邪魔をしちゃいけないし、……俺がさせない。

 

 

 

何年ぶりだろう、久しぶりに会った永琳は、昔と変わらない優しい表情をしていた。でも、その目だけは、なにか追い詰められたような、覚悟を決めた目をしていた。

「姫様、お迎えに上がりました」

その言葉は重く、永琳の本心が見えなくなる。

「永琳…………お願い」

それでも、彼女なら私を理解してくれる。私の一番の理解者でいてくれる。その思いを胸に私は言葉を紡ぐ。恐怖はない。断られるならば、それまでだ。またあの月に戻り、人としての生き方ができなくなるだけ。

覚悟を決めなさい。

「……私を……助けて」

私から離れていった言の葉は、夜風に乗って彼女に届いただろうか。

長い一瞬の後、彼女の表情はやっと、私の見たかった本当の笑顔になった。

「畏まりました。姫様」

 

 

 

「……なんのおつもりですか?八意様」

「あら、貴方の眼は節穴なのかしら?それとも、この状況がわからないほど愚かなのかしら」

迷っていた。上層部から通達されたのは、地上に追放された姫様の奪還。自分達で追放しておいて『奪還』なんて、おかしな表現だと思ったけれど。

兵士たちの中に私が組み込まれたのは、およそその方が姫様は従うだろうと言う、浅はかな考えのもとだろうけれど。どうやら、私が姫様の願いを叶えるとは思わなかったらしい。

「つまりは命令に背くと」

そう言って兵士は銃を構える。向けられた銃口には一切の迷いがない。彼らにとって、上からの命令は絶対であり、今や私は彼らの敵と認識された。

「ならば手足をもいで連れていくだけ」

「……出来るならばしてみなさい」

彼女の願いを叶えるならば、この命を賭けるだけの価値がある。あの表情を見れば尚更。

 

 

 

次々と放たれた光線を間一髪で避けていく。銃口の向きと指の動きを注視して、先読みをすれば躱す事は難しくない。だけど問題は私の体力が持たないこと。

迎え撃つように放たれる矢は、確実に相手の数を減らしていくが、流石に1人で相手をするには無理がある。

そんな事を考えていると、脚に光が掠る。

「くっ!」

「永琳!!」

まったく、油断してしまった。機動力の落ちた状態では、あの光線を避けるのは一層難しくなる。

……ふと、はるか昔の事を思い出してしまう。

あの時も脚に怪我をしてしまい、動けなくなった私は彼に命を助けられた。

白い羽織をはためかせて、颯爽と私の前に現れた彼は、優しい笑顔を向けてくれた。かつて月への移住の際になくしてしまった、私の唯一と言ってもいい友人。きっと、彼ならばまた私に笑顔を向けてくれる。「よく頑張ったな」って言ってくれるはず。

転んでしまった私の眉間に、銃口が突きつけられた。これで終わりなのだろうか。私は、姫様の願いも叶えられず、ここで息絶えてしまうのだろうか。

自分の非力さに悔しくなる。

今は亡き、友人の名を呼びたくなる。

せめて、姫様を……。

「……助けて!霞!!」

その言葉は私ではなく、姫様から発せられた。

友人と同じ名を。

 

 

 

「あー。もしかしてもしかすると、助けた方がいい?」

 

 

 

輝夜の声が庭に響き渡った。

血を流す永琳は頭に銃を突きつけられ、輝夜はその後ろ。

俺?一応輝夜に結界を張っていましたよ。永琳を相手にしていた兵士が、輝夜を傷つけないとは言いきれないし。下手すれば人質に取られる可能性もある。

俺は銃を夜月で叩き斬り、間に割って入る。

「……か……すみ?」

「久しぶりだな永琳。元気だったか?」

俺を見上げる永琳は、驚きのあまり頭が回らないようだ。おぉ、こんな永琳初めて見た。

「生きて……いたの?!」

「まぁ、なんとかね。でもその話は後でいいか?」

突然現れた俺に驚いていた兵士は、落ち着きを取り戻し今度はサーベルの様なものを構える。その刃は光を放つ。多分、銃と同じ原理の光だろう。

「さて、怪我したくないやつは大人しく帰ってくれないか」

「……貴方が何者かは知りませんが、我々に刃向かうのならば、そこに転がる骸と同じ道を辿って貰うのみです」

予想はしていたけれど、話が通じる相手ではないようだ。

俺は夜月を構えなおすと霊力を開放する。とは言っても、今の俺は封印されている状態。夜月もその力を十分には発揮できないかもしれない。

「断ち切れ、夜月」

それでも、やらなきゃならんでしょう。

夜月を払いある理を断ち切ると、視界を遮る黒い壁が現れる。

「……何をしたのかわかりませんが。そんな壁、無意味です」

恐らく壁の向こう側で銃を構えているのだろう。レーザーが放たれる音がした。

しかし光は届くことなく壁の中に吸い込まれるように消えていった。

「……何をした」

「なに、光を通さない空間を作っただけだよ」

可視不可視共に光はその厚さ数センチの空間の中では進まない。もちろん、光が届かないのだから、何も見えない暗闇と化すが。

「光が届かないならば、届くまで近づくのみ」

「そりゃそうだ」

壁とはいえ、物理的にそこにあるのではない為、なんの抵抗もなくすり抜けてしまう。黒い壁をくぐり抜けサーベルで切かかる者を夜月で受けると、その手が微かに震えるのがわかる。

「なんだこれ」

「超振動よ。刀身自体を震わせることで切れ味を増しているの」

背後で永琳が解説してくれた。なるほど、電動歯ブラシの様なものか。あれ?違う?

「だけど、俺の刀は壊せない」

サーベルを押し返すと、左手で霊力弾を放つ。直撃を喰らった兵士は勢いよく吹き飛び、倒れて静かになった。

「肩こりに良さそうだな」

「……その考えはなかった」

永琳は肩凝りとか酷そうだもんな。何故かは言わないけど。なんせ周りには永琳並のヤツがいないから。何がとは言わないけど。

「……紫!2人を連れてこの場を離れろ」

そう言うと輝夜たちの側に紫のスキマが開かれる。何度見てもあの見た目は不気味だ。

「2人ともその中に入れ、後は俺の弟子が案内する」

「え……この中にはいるの?」

うん。俺も前ならば断るだろう。だが今はそんな事を言ってる場合じゃない。

「美鈴は2人の警護を頼む」

「了解です!」

姿は見えないが元気のいい返事が何処からか聞こえてきた。多分、いい笑顔で敬礼でもしてるんだろう。見えないけど。

 

2人がスキマに入り、閉じられたのを確認すると、黒壁を消し去る。

「さて、そろそろ手を出しても良いぞ」

「……?何を言っているのです」

そう言った兵士の後ろで轟音と共に別の兵士が吹き飛ぶ。

「やっとね。我慢の限界よ」

土煙の中から血だらけの兵士を引きずって現れたのは姫咲だった。

「半分は貰って良いのよね」

「お好きにどうぞ」

そう言うと2人は走り出し、その後には兵士達の悲鳴だけが残った。

 

 

 

「……気味悪いわね。どうなってるの、この空間」

霞に言われてなんか気持ちの悪い空間の裂け目に入ったけど、幾つもの目が浮かびそれぞれこちらを見ている。

「……姫様は、霞とお知り合いだったのですか」

「つい最近ね。最初は驚いたけど」

永琳の脚を手当していると、何処からか霞と一緒にいた少女が出てきた。

「手当が終わり次第、場所を移しますわ」

「……これはアナタの能力なの?」

「……場所は『迷いの竹林』と言われる、身を隠すには持ってこいの土地です」

「せめて会話をしなさいよ」

 




作「この章も残り僅か」

霞「永琳は変わらないなぁ」

永「あら、これでもまた成長したのよ?」(ポヨン)

輝「……」

紫「……」

霞「あえて何も聞かない」

美「大きいのはいい事ですね」

姫「私だってこんな事にならなければ……」

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48話/蛍の光らしい

霞「輝夜の話、これで終わり?」

作「そうですよ」

霞「あのキャラ出てなくね?」

作「後々出る予定ですよ」

霞「無駄に伏線張って回収出来ないとか無いよな?」

作「……」


「茶がうめぇ」

縁側に座り、お茶を啜る。

アレから数日。事後処理に多少時間が掛かったが、なんとか落ち着いた。

辺りを竹林に囲まれたココは、風に揺れる葉の音が聞こえるだけで、都のような喧騒がない。賑やかなのも良いが、偶にはノンビリ過ごすのもまた良いもんだ。

「いや、なに落ち着きはらってんのよ」

俺の隣には輝夜がいる。お前もノンビリ茶を飲んでるじゃないか。

「後ろを見てみろ。あんな中で落ち着けるとでも?」

後ろの部屋では永琳が弟子+αに俺の過去を話しているようだ。たまに『師匠は昔から規格外なんですね』とか、『そんな事もあったわねぇ』とか聞こえる。

「それにしても、貴方が神様だったとわね」

「そうだぞ。謹んで敬え」

「丁重にお断りするわ」

それもそれでどうかと思うが、まぁ気にしない。第一、俺にご利益が有るのかすら自分でわかっていないんだから。

たしか、昔に『自由を司る神』とか神奈子が言っていた気がするけど。自由を司るって何すりゃ良いんだよ。

「……まさか創造神様と会えるとは思ってなかったうさ」

「そうかい、俺も素兎と会うとわね」

輝夜とは逆隣に、黒髪で頭に兎のタレ耳を生やした少女が座っていた。

「んで、うさ子。お前はあの中に入らないのか」

「……出来れば『うさ子』ではなくて『てゐ』って呼んでくれないうさ?」

因幡てゐ。かの有名(かどうかわからないが)な因幡の素兎だ。まさか妖怪だとは思わなかったが。

「できうる限り善処しよう」

「それ、『断る』の代名詞よね」

余計なことを言うなよ輝夜。

「それよりも、月の民はもう襲ってこないのかしら」

「ん?まぁ当分は大丈夫だろ」

「当分なの?」

態々月に出向いて月夜見と話したのだから、それくらいは抑えてもらわなきゃ困る。今回の事だって、月の上層部が暴走した結果起きたことなのだから。軽く説教したら、上層部の大規模な入れ替えがあったのは別の話。

「師匠〜!どんだけ自由な人……いや神様なんですか〜!!」

そんな事を話していると後ろから美鈴が飛びついてきた。お前は子供か。……あ、子供だ。

「こら!美鈴!!そんな羨ま……いや、羨ましいことを!」

「言い切るのね」

なんかゾロゾロと部屋を出てきてるし。

「ちょっ、まて紫!頭にしがみつくな!折れる、折れるって!首が変な方向に折れるって!!」

 

 

 

「今日からココを『永遠亭』とする!!」

高らかに輝夜が宣言する。まぁキャンプ地じゃないだけ良いか。

「だから偶には遊びに来なさいよね、霞」

「おう。次に会うのはいつになるかわからんが。死なないならばまた会えるだろ」

永琳まで蓬莱の薬ってのを飲んで不老不死になるとは思わなかったが。これで何時でも友人に会えるってもんだ。

今まで出会った人間は、どう頑張っても寿命を迎えてしまうからな。

「貴方なら特別料金で治療してあげるわよ」

「……うん。俺、自分で治せるから」

「大国主に会ったらよろしくうさ〜」

「覚えてたらな」

そう言えば、神の集まりとか1度も参加してないけど、良いのかな?

偶にはアイツらにも会わないと……。

「んじゃ、行くか」

こうして、一番古い友人との再会は、一つの物語として完成されて終わった。

 

 

 

 

「んー」

輝夜が居なくなったことで都は一時騒然となっていた。帝は躍起になって輝夜を探そうとしているし、お爺さんは悲しみにくれていた。

そんな中、俺はある事を考えている。

そろそろ、頃合いなんじゃないかな。

「師匠、どうしました?」

紫が俺の顔を覗く。

「んー。紫のことを考えてた」

「!?そ、そんな!私の事が頭から離れないなんて!!」

そんなこと言ってない。

俺はアイアンクローをかましながら、ぶら下がっている紫を見る。頭から離れない、は言い過ぎにしても紫の事を考えているのは事実だし。

「痛い!痛いです師匠!!」

頭を話してやると紫はコメカミを押さえている。

「よし、決めた」

「……な、何をです?」

涙目でコチラを伺う。

「紫。お前、独り立ち」

「はい?!」

突然の宣告に紫は目を見開いて驚いている。

少し前から考えていたことだった。既に紫は大妖怪と言ってもいいくらいに成長したし、結界や封印術ならば俺と差し支えない。仮にも俺と姫咲の力を封印出来るくらいなのだから。

「そんな!ま、まだ私は師匠に教えて欲しい事がたくさんあります!!」

「んなもん、これから先自分で覚えろ。これ以上、俺の元に居ても成長はしないし。お前には夢があるんだろ?」

人間と妖怪が共存する世界。夢幻とも言える理想郷。

俺が手伝えば簡単に造ることが出来るだろうが、それじゃ意味がない。紫の夢は紫だけのものなのだから。

「紫が夢を現実にした時、もう一度会おう。それまで一人で頑張ってみろ」

「……師匠」

美鈴と姫咲は口を挟まなかった。これは俺と紫の問題。

「……わかりました。私、必ず夢を叶えます!そしてその時には師匠を案内いたします!」

「うむ。楽しみに待っているからな」

そう言って紫の頭を撫でてやる。初めてあった時よりも成長し、高くなった頭の位置は、これまでの短くも長い年月を感じられた。

「……そうだ。最後に良いものをやろう」

「いいもの、ですか?」

そう言って1本の扇子を創造する。薄い紫色に白で花が描かれた物。開くと端に文字が書かれている。

「八雲……紫?」

「お前に苗字を授ける。八雲の様に幾重にも思慮を重ね、八雲の様に何者にも縛られる事の無い者となれ」

いつまでも名前だけなのは可愛そうだしな。

「……ありがとう……ございます」

頬を濡らしながら、それでも紫は笑顔を見せてくれた。あぁ、良かった。最後に紫の笑顔が見れて。

「独り立ちしようが、お前が俺の弟子だったことに変わりはない。自信を持て、お前は俺が認めた最初の弟子なんだから」

「はい!!」

そう言ってふわりと浮かび上がる紫。

「紫さん!またいつか、お会いしましょう!!」

「まぁ、私は霞とずっと一緒にいるから、いずれまた会うでしょ」

「ふふっ、そうね」

別れを済ませた紫は、空へとその姿を消していった。

長く一緒にいた弟子が、こうして一人俺の元を自らの夢の為巣立っていった。

彼女の名は八雲紫。俺の最初にして最高の弟子。

 

「あの〜。感動の場面のところスンマセン」

ふと、背後から声をかけられた。どこか関西訛りのあるしゃべり方に振り返るが、誰の姿もない。一羽の烏がいるだけだ。

「神条霞さまでっか?」

「……俺は疲れてるのか?烏が喋ってるように見えるんだけど」

「多分、紫さんとのお別れが辛かったんですよ。だって私にも聞こえますもん」

「……烏って焼き鳥にしても美味しいのかしら」

うん。一人感想がおかしいのは置いといて。

「怖っ。ねぇさん怖いこと言わんといて下さいよ〜」

「……あぁ、やっぱりお前が喋ってたのか」

「そうでっせ。ワイは八咫烏いいます。よろしゅう」

おぉ、コレが八咫烏か。確かに脚が3本あるわ。

烏は俺の肩に留まる。

「天照様から伝言があって来たんですわ」

天照から?あいつの事だ、自分で言いに来そうなものだが。

「まぁ、色々とあるんですわ。そんで伝言ってのが、『そろそろいい加減、出雲大社に顔を出してください』だそうです」

「出雲大社?」

「えぇ、もうすぐ神無月ですさかい」

あぁ、そんな時期なのか。こんな生活をしていると、今が何月なのかとか無頓着になるからな。

「流石に最高神様に起こしいただかないと、天照様がまた天岩戸に隠れますがな」

「え、俺のせいなの?」

俺の知ってる日本神話とは違うような。

父親がかまってくれないから引きこもるって、どんなメンタルしてんだよアイツは。

「……しょうがない。今回は顔を出そう」

「おおきに。ほな早速行きましょうか」

「あ、その前に、ちょっと寄りたい所があるんだが」

そう言って美鈴と姫咲の方を振り返る。今までの会話に付いてこれないのか、眠そうな顔をしている美鈴と、興味が無い姫咲。

「流石にこの2人を置いていくわけにはいかないから。知り合いの所に行きたいんだ」

「ほなまずはそこに行きましょか」

うん。あの2人にも久しぶりに会わないと、後々文句を言われそうだし。

「さ、行こうか。守矢神社に」




霞「卒業証書、授与!!」

作・美・姫「ほた〜るの〜ひ〜か〜り、ま〜どのゆ〜ぅ〜きぃ〜♪」

紫「……」

霞「あれ?気に入らない?」

美「やっぱり翼をくださいの方が良かったのでわ?」

作「そっちだったか!!」

紫「感動が台無しよ!!」


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いつの間にか祀られたらしい
49話/神様がいっぱいらしい


作「……大変な事が今起こっている」

霞「な、なんだよ……」

美「良くないことですか?」

作「……実は……この作品のサブタイトル。もうそろそろネタが無くなる」

霞「お前が考えもなしに『らしい』縛りをしたからだろ!!」



数百年ぶり、……いやもっとか?

久しぶりに洩矢の地に降り立った。

昔と違い、ある程度文明は進んだらしいが、何処か懐かしい気もする。

相変わらず目立つ、馬鹿でかい神社を目指すと懐かしい神力を感じる。

「大きな神社ですね〜」

呑気な感想を零している美鈴は境内を見回しながら、そのどれもが物珍しいのかはしゃいでいる。こら、走ると転ぶぞ。

「おい、烏。ここの神も出雲に行くんだろ?」

「そりゃそうですがな。来てないんは創造神様だけでっせ?」

なら一緒に連れていくか。

「お〜い!神奈子〜!!ケロ子〜!!」

俺は大声で二人の名を叫ぶ。ちょっと張り切り過ぎたかな。建物自体が少し揺れていた。

「うるさぁあいっ!!」

「げふぅっ!!」

予想していた返事と、予想していない痛みが襲ってきた。久しぶりに脇腹を殴られたわ。

「……あれ?霞じゃないか!」

「お……おう、久しぶりだな」

俺は脇腹を抑えながら立ち上がると、いつまで経ってもちっこいままの諏訪子に挨拶する。ってか、その帽子はなんだ?昔はそんなの被ってなかったろ。

「久しぶりだね!なに?どうしたの?」

「いや、そろそろ出雲に行く時期なんだろ?俺も今回は顔を出そうと思ってな」

「…………あぁ!そう言えば、創造神だったね!!」

え?忘れられてるの?そんなに俺のキャラ薄い?

「んー。逆にその他が濃いから、薄れてくる」

「どういう意味だよ」

まったく。同じ神でも俺に対してこんな扱いをするのは諏訪子くらいだ。堅苦しくないから俺は楽だけど。

「……あれ?霞様?!」

そんな会話を諏訪子としていると、奥から神奈子も姿を現した。こっちはいつまで経っても堅苦しい言葉遣いが抜けないようだ。

「おー。神奈子も久しぶりだな」

「お久しぶりです」

まぁ、諏訪大戦の時にちょっとやらかしちゃったからな。その時のトラウマがあるんだろう。

「霞も出雲に行くんだって!」

「そうなのですか?」

「あぁ。それで少し頼みがあってな」

俺は会話に参加していない幼女2人を指さす。

「あの2人を帰ってくるまでここに置いて欲しいんだわ」

「……あの2人?妖怪ですよね」

流石に神奈子たちにはバレるか。

「アレでも俺の弟子と……なんだ、古い友人なんだ」

「妖怪の弟子とか……相変わらず自由だね」

そんなもんだろうか?別に神が妖怪を育てちゃいけない理由はないだろう。それが人を襲うためってんなら違うが。

「まぁ、ウチらもあの子1人は不安だったからね。ちょうど良いかも」

「あの子?」

 

 

 

 

「ど、どうも。東風谷真苗と申します」

緑色を基調とした巫女服の少女は、緊張しながらも丁寧に挨拶をした。

ってか、これは巫女服なの?パックリ脇が開いてるけど。

「……あ、あの。なにか失礼な事をしましたでしょうか?」

「ん?あぁ。いや、大丈夫だよ」

反応をしなかったのが、俺の怒りに触れたと思ったのか、若干青くなった顔で俺の方を伺う。そこまで怖いか?

「……神奈子様から神条様は恐ろしい方だと伺っていたもので……」

「こ、こら!真苗!!」

ほぅ、お前のせいか神奈子。

「だってあの時、本気で殺されると思ったんですよ!?霞様の神力はどうやっても太刀打ちできるものじゃないですし!!」

「まぁ、今はその力も少なくなったんだけどな」

「??どういう事?」

「コイツを封印する時に一悶着あってな。俺も巻き込まれた結果、神力をガッツリ持っていかれたんだ。霊力も半分になっちまうし」

「なら今の霞なら私でも勝てる?」

諏訪子は少し調子に乗っているようだ。

「出来ると思うならどうぞ?」

「……やっぱ辞めとく」

 

 

 

「そんじゃ、2人とも留守番よろしく。真苗ちゃんも、悪いが2人のこと頼むよ」

「はい!頑張りますっ!!」

なんか鼻息荒く、気合の入りすぎた返事だけど。余計に不安なのは俺だけか?

「姫咲、俺がいないからって暴れるなよ?」

「そんなことしないわよ。あなた以外とやってもつまんないし」

他人が聞けば良からぬ誤解を生みそうな答えに、苦笑いを返すしかない。

「それじゃ行きましょか。こっからなら3日もあれば着きますやろ」

どこに行っていたのか八咫烏が肩に降りてきた。

「3日?何言ってんだ?」

そう言うと俺は両手を合わせる。別にのんびり歩いていっても良いんだが、さっさと済ませたいからな。

「久しぶりに見た。霞のとんでも能力」

「なにそれ」

「こんな移動の仕方、霞位しか出来ないよ?」

あ、そうなの?弟子に同じような能力を持った奴が居たから、普通だと思ってたわ。

「さて、そんじゃ行こうか」

俺達3人と1羽はワームホールをくぐり抜けた。

 

 

 

くぐり抜けた瞬間。俺は出雲に来たことを後悔した。

「父上様〜!!」

「げふぅっ!!」

本日2度目の脇腹への激痛。もちろん、突っ込んできたのは天照なのだが。誰もこの奇行を止めないのか!?

「誰も止められませんよ」

あ、月夜見。ついこないだぶり!

「んー。父上様の匂いですー!!」

おい、匂いを嗅ぐな。こそばゆい。

そんで呆れた目で見てないで、コイツをひっぺがすのを手伝ってくれ、月夜見よ。

「申し訳ありませんが、それは出来ません」

「なんで?!」

「……先日、お父上は月にいらっしゃいましたよね?その事が天照に知られてしまいまして。何故か激怒されたんですよ」

「……はい?」

「だって!月夜見ばかりずるいじゃないですか!」

月夜見ばかり構ってもらって、自分は蔑ろにされていると?それで月夜見を怒ったと?

逆恨みも甚だしいな。

「それで、こんどお父上に会う際は、私は口出しをしないと約束をしてしまいまして」

「それって俺抜きでする約束?!」

つーかいい加減離れてくれ天照。

「いま、父上様エネルギーを補給中です」

「だから、そんなエネルギー枯渇してしまえ!!」




霞「俺、この章の間ずっとこんな扱い?」

天「嫌なんですか?」

霞「少なくとも離れては欲しい」

天「……やっぱり月夜見の方が良いんですね……」

霞「何この子怖い」

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50話/おいでませ出雲大社

霞「とうとう『らしい』をつけなくなったな」

作「……やむを得ず」

諏「誰も期待してないよ」

か「そうだね」

作「あまりにも辛辣じゃない?!」


「集まりは悪いですが、実際はまだ集まるには早い時期ですから」

数人(この場合は数柱か?)しかいない広間に入ると、月夜見が言い訳するように言ってきた。一応最高神がこんな早くに来ていて、他の神が来ていないのを気まずく思ったのだろう。

「別に気にはしないさ。俺が早かっただけだろう?」

「そう言っていただけると助かります。なにせ、お父上の事ですから今回も来ていただけないと思ってましたし」

それは余りにも正直すぎる。

確かに、今までこういった集まりには不参加を決め込んでいたのは俺だが。ってか、案内とかも来なかったのだけど?

今回は八咫烏が来たから顔を出すことにしたわけだし、なんで誰も俺を呼ばなかったんだ?

「……お父上は決まったところに居ませんから」

「……その。なんだ、スマン」

日本どころか大陸まで足を運んでいたからなぁ。そりゃ使いの者も探すのに苦労するわな。

……あれ?でも天照は呼んだら直ぐに来たような。

「天照は別ですよ。お父上愛が異常ですから」

なにそれ、コイツには俺専用のレーダーでも付いてるの?標準装備なの?

ってか、それならコイツに居場所を聞けば良かっただろうに。

「私以外の者が父上様をお呼びする?そんな事を許すとでも?」

「それは権威的な意味でだよな?下級の神が俺に会うのを良しとしない。って意味だよな?!」

ほんと、ちょっと見ない間にこの子悪化してない?

「でも今回は烏を遣いに出したじゃないか」

「あぁ、ワイは天照様の直属の部下やからやないですか?それに見たとおり烏やし」

「うん。烏だからって理由は聞きたくない」

人形の神ならダメなの?

 

「やっぱり霞って凄い神様なんだね」

少し離れた場所で霞のやり取りを聞いていると、改めて感じてしまう。あの天照様や月夜見様と普通に会話してるし。むしろ2人の方が敬語を使う相手なんだと、驚く。

昔に霞の正体を聞いた時は半信半疑だったけれど、こうして見ると正真正銘創造神様なんだ。

「そりゃそうさ。なんたって創造神様なんだから」

隣の神奈子も呆れ半分で様子を見ている。あの御二方に、まるで友達、いや家族の様に接しているとは。今更だけどやっぱり敬語で話した方がいいのかな?

「お〜い、諏訪子、神奈子もこっち来いよ」

霞が私達を手招きしている。本来ならあの場に近づく事も畏れ多いのに。

でも、最高神の霞が呼んでいるんだから、逆に行かないと失礼?なんか色々と考え過ぎて頭痛くなりそう。

「……ほら、覚悟を決めて行くよ」

「え?あ、待ってよ!」

先に歩き出した神奈子を追って私も霞の元へ近寄る。うわぁ、この神力の中にはあんまり長く居たくないなぁ。

「久しぶりですね八坂神奈子、洩矢諏訪子も」

天照様が話しかけてくれた。いつもならウチらが話しかけてもらえるような立場じゃないのに。

……でも、いくら天照様でも、霞の腰に抱きついた状態で話すのはどうかと思いますよ?

「お久しぶりです」

「ど、どうもです」

「とりあえず、腹減ったからなんか食い物ないの?」

霞……、もうちょい空気を読んでくれないかな。一応厳かに挨拶をする感じだったのに。

「それならば直ぐにでも食事を用意をさせます!」

「いや、態々手間かけなくてもいいけど。外で食うとか」

「……お父上様。普通の神ならば、人間の地で人間の食物は口にしませんよ?」

「「え?そうなの?!」」

思わず霞と言葉が被ってしまう。え?だってウチ、普通に下町でご飯食べるよ?

「……洩矢諏訪子」

「ひっ……ゴメンナサイ」

「まぁまぁ、良いじゃないか。それだけ民に親しまれているんだから」

月夜見様に睨まれると生きた心地がしないよ。ここに霞が居なければ直ぐにでも逃げ出していたね。

「あぁ、いいや。俺が作ろう。いや、創ろう」

「なんで言い直したの?」

気にするなと霞は言うと、両手を合わせる。

次の瞬間出てきたのは、昔食べさせてもらったことのある『らぁめん』という料理だった。

あの時は霞が乗っている肉の説明に力が入っていて怖いって感想しかなかったんだけど、今思い出せばとても美味しかったような。

「ホントにお父上様はラーメンが好きですね」

「うむ。俺への奉納はラーメンで是非」

どうやってこれを納めればいいんだろ。出来上がったのを器に入れて?

人数分用意されたらぁめんを受け取ると、汁を啜ってみる。あ、やっぱり美味しい。

「父上様、あーん」

「……ナルトでも食ってろ」

「そんなの酷いってばよ!!」

天照様、楽しそうだなぁ。

 

 

 

「そう言えば、神社にはお戻りにならないのですか?」

ラーメンを食べ終わった頃、月夜見が聞いてきた。……俺?

「なにそれ。神社?」

「はい、お父上様が祀られている社です」

え?聞いてない。いつの間にオレの事祀ってんの?え?なにそれ。

「……もしかして、ご存知ないのですか?」

「……うん。全然知らない」

月夜見が話すには、数百年前、時の帝が社を建てたという。しかし、当時は仏教が一般的になっていた時で、都には建てられず、少し離れた場所に建てられているという。名前は……。

「博麗神社?」

「はい」

数百年前って言えば、俺が神子達とあった頃か?

…………アイツら勝手に祀ったな?!

せっかく仏教を広め易いように俺を祀るなと言ったのに。

「……その神社は何処にあるんだ?」

「あ、ならば私がご案内いたしま「天照!!」……なんですか、月夜見」

「貴女にはまだまだ仕事が残っているのですよ!?そんな暇はありません」

おぉ、月夜見が母親のようだ。むしろ龍神よりも見た目は母親なんじゃないか?

……そう言えば、転生してから初めて見たのは龍神だったな。

なんか今の幼女が集まる原因がそこにもある気がしてきた。

「八咫烏、神在月が終わったらご案内して差し上げて」

「了解ですわ」

器用に片羽を頭の位置に持っていき敬礼のポーズをとる烏。コイツ、見世物にしたら儲かるんじゃね?

 

そんな事を考えながら、出雲大社の最初の夜は更けていった。




作「いやー。天照は流石のファザコンだねー」

諏「ウチらもちょっと、反応に困るんだよね」

か「見ちゃいけないもの見てる気分だよ」

霞「それなら助けろ」

諏・か「それは無理(です)」




か「というか、なんで私だけセリフの前が『か』なんだい?」

作「だって、ここに居るの全員神様だから……」

か「……あぁ」





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51話/酔っ払いどもの長い夜……らしい

霞「いや、らしいを付けるのか付けないのか、ハッキリしろよ」

作「出来うる限り付けたい!!」

霞「知らんがな!!」



数日経ち、とうとう神無月。ここでは神在月か、に至った。

集まった神々は広間に集められ、凡そ全員入るとは思えなかった広さの空間が天照によって無理矢理広げられていた。

「やるな天照」

「むふー。もっと褒めてください」

……ちょっと褒めるとすぐコレだ。

広間に顔を出した神は、天照を見つけると真っ先に挨拶に来るが、その横に座る俺の姿を見れば訝しむ。まぁ、今まで顔を見せていなかったのだから、俺の事を知らなくても当然だろう。

「そう言えば、ココに集まって何をするんだ?」

至極当然な疑問。こんだけの神を集めて、いったい何をしようというのか。

「あれ?ご存知ないのですか?ただお酒を飲んだり、日頃の苦労を語り合ったり。まぁ懇親会のようなものです」

「……なんだ。騒ぎたいだけかよ」

「有り体に言えば」

まぁ、神と言えども苦労はするし、愚痴も言いたくなるだろうから、そこはとやかく言わないが。

「天照様、そちらの方は?」

そんな会話をしていると、1柱の神が近づいてきた。見た目ひょろっちぃ男、いじめられっ子っぽいな。

「コチラは創造神様。神条霞さまですよ」

「おぉ、これはご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。ワタクシ、大穴牟遅神。またの名を大国主命と申します」

ん?大国主命?どっかで聞いたな。どこだっけ?

「ん。大国主命ね。よろしく」

……あぁ、そうだ。あのうさ子が言っていた名前だ。

「因幡てゐという兎が宜しくと言っていたよ」

「あの素兎にお会いになられたのですか?」

そうだ、大国主命ってそんな話だったな。

って事は、コイツはリア充か!!

「爆発すればいいのに……」

「へっ?!」

「いや、何でもない」

 

 

 

「そう言えば、素戔嗚尊はどうした?」

姿の見えない、俺が唯一知っている神を探す。あの時は影が薄くて、印象に残らなかったが。

「……」

「え、なに?」

急に天照の表情が暗くなる。

「素戔嗚は高天原を追放されました」

「……はい?なんで?」

「根の国に行ってしまわれた伊邪那美様に会いたいと、駄々をこねまして」

なんだその理由。

「その結果、天照も天岩戸に引きこもったのですよ」

「……うん。意味がわからない」

なんで素戔嗚が追放されると天照が引きこもるの?普通、素戔嗚が引きこもらない?

「……私はあの子を甘やかしてしまうので」

「そういう所は月夜見と正反対なんだな」

「何故私を引き合いに出すのです」

んなもん、俺の知っている中で1番頭が硬いからだ。とは言わない。

いつの間にか用意された御神酒に口を着けると、その飲みやすさに驚く。なんだこれ!今まで飲んでたのがすげぇ安もんに思えるわ。安もんだけどさ。

「それよりも父上様。高天原にお住みになるつもりは……」

「無い」

キッパリと答える。そんなところに居たら、自由の神の名折れだ。自由の神が何するのか知らんけど。

「そうだ、俺って『自由を司る神』なんだよな?」

「何を今更なことを」

だから、そんな冷たい目をするなよ月夜見。その趣向の人には堪らない位に冷たいぞ。

「……なにすりゃいいの?」

「……はい?」

この呆れた様な返事は意外にも天照からだった。ってか、父上様エネルギーはまだ溜まらないのか?

「自由を司るのですから、その意味から考えて虐げられている民や、しがらみに縛られている民を救えば良いのでは?」

「そんなもんなの?」

なんとも、神様の仕事は曖昧なようだ。

「神と言っても、全能では…………お父上様以外は全能ではないので。全ての民を救えるわけではありませんし」

そりゃそうだが、なんで態々俺以外って言い直したの?

「ふにゃー」

そんな話をしていると、俺の腰あたりで猫のような鳴き声が聞こえた。なんだ、猫でもいるのか?

俺は無類の猫好きだぞ?可愛がってやるぞ?悶え死ぬ位撫でまわすぞ?

「猫ではなく、天照ですよ?」

「わかってるよ。現実逃避くらいさせろや」

たった1杯の酒で出来上がってしまっている天照。お前、前回も悪酔いしてたよな?

天照が酔うと、ただでさえまとわりついてくるのに、一層艶かしくなる。絶妙に肌ける着物に、不必要なまでに押し付けられる二つのお山。口から漏れるのはどれも扇情的なセリフとなる。どうしてこんな子に育ったの?お父さん悲しい。

「お父上さまぁ〜ん。もっと飲みましょ〜?」

「うるせぇ。いい加減離れて大人しくしてろ」

「あぁ〜ん、そんなぁ〜。お父上様のい・け・ず♡」

お前、どうやって♡なんて発音したんだ?!

「毎年、父上様がいらっしゃらないので、その役目は私が引き受けていましたが、今回はゆっくりできますね」

「俺を生贄にする気か」

「むしろご褒美なのでは?」

どこの世界に娘に言い寄られて喜ぶ父親がいるか。……いないよね?

後ろを振り返ると、我先にと酒樽に突っ込む神々の姿がある。人間が信仰し敬う対象の神が、こんな痴態を晒すとは、なんとも嘆かわしいと思っていたが。1番近い所に1番厄介なのがいた事に気付く。むしろ、コイツが元凶なんじゃないか?

「は〜い、飲んで〜」

「おい、零すな」

覚束無い手元で酒を注ぐ天照。その大半は俺の着物の染みとなった。

「父上様〜!!」

「えぇい!抱きつくなぁ!!」

 

 

 

時間は流れて、夜。月が顔を出し庭を明るく照らし出す。

広間では未だに宴が続き、早々に逃げ出した俺は屋根の上に登って1人、月見酒と洒落込んでいた。

思えば今まで、長い事この世界を旅していたように思う。最初は突然言い渡された前世での死。そこから拒否権のない転生をして、永琳と出会った。

長い年月を重ね、様々な出会いと別れ。死のないこの体を不幸とは思わないが、先逝く人を見届けたことも何度もあり、その度に胸が締め付けられた。

それでも、俺は生きていくしかないし、今ある繋がりを疎かにするつもりもない。

盃に満たされた酒に映る月を一気に飲み干すと、喉が焼けた。その度に、俺は生きていることを実感する。

せめて、生かされたこの第2の人生を、誰に恥じることのないよう、面白おかしく生き抜いてやろうじゃないか。

「父上様〜?!天照が、天照が〜!!」

下から聞こえる俺を呼ぶ声に苦笑しながらも、俺はまだ長い人生の終端を夢見て生きていくことを改めて決意した。




天「お父上様ぁ〜!!」←ダイビングボディプレス

霞「だが甘いっ!!」

天「ぐふぅっ!?」

月「別に避けなくても」

霞「精神衛生上よろしくない」

天「そ、そんなお父上様も……ステキ……」

霞「コイツ、無敵か!?」


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52話/投げっぱなしジャーマンスープレックスらしい

作「今回の霞君は、結構酷いと思う」

霞「全部お前の匙加減じゃないか」

作「ほら、よく言うじゃない?『作品の中でキャラが生きている』って」

霞「こんな時にそのセリフを使うなよ」


一夜明けて翌日。昨日は途中から天照の猛攻を躱すことに全力をそそいだためか、あまり酒の残っていない身体を伸ばしながら部屋を出る。

いつ眠ったのかは覚えていないけれど、しっかりと布団で寝ていたし、天照が一緒に寝ていた、なんて展開も無い。

「おはようございます」

出雲大社の巫女が朝餉の用意に忙しないながらも、俺に挨拶をしてくる。いや、態々立ち止まらなくてもいいよ?

「天照達は何処に?」

「天照様は既に広間にいらっしゃいますよ」

あいつ、あんだけ酔っ払ってたのにちゃんと朝は起きるのな。少し感心した。

長い廊下を歩いていると、途中で諏訪子に出会う。コイツは二日酔いなのか頭を抱え、足取りが覚束無い。

「あ〜う〜。頭痛いよ〜」

「アレだけ飲むからだ」

諏訪子の後ろには神奈子もいた。つーか朝からその背中の注連縄着けるの?重くない?邪魔じゃない?

「あ、おはようございます霞様」

「うぇっ?あ、おはよ〜」

「おう、おはよう。大丈夫か?」

「私は平気なのですが……」

「頭が頭痛で痛いよ〜」

その日本語は明らかに間違ってるぞ。

 

 

「おはようございます、お父上様」

「おはよう。月夜見は流石に二日酔いとかなってないんだな」

「自制していますので」

鋭い目で諏訪子を睨む。あぁ、ココに俺が居なかったら長時間の説教だったろうな。最短で2時間ものだ。

んで、さっきから気になっているのだが、その隣で机に突っ伏しているのは誰だ?

「おあようごじゃいますぅ〜」

「それは挨拶なのか」

二日酔いで死にそうな顔をしている天照。だから大人しくしとけと言ったのに……。

声を出すことも辛そうな天照は、顔をチラッと上げて直ぐにまた倒れ込む。普段ならばここで俺に抱きついてきそうなものだが、余程余裕がないのだろう。

「これ、今日もまた飲むのか?」

「……そうです」

いくら神酒と言えど、飲み過ぎは良くないんじゃないか?昨日だって、俺が覚えている範囲でも空になった酒樽が積み上げられて山になっていたろ。あんな量、鬼でも飲まないぞ。……多分

 

その後、俺達は朝食を済ませ、庭でのんびりとしていた。どうせこの後も酒飲んで騒ぐだけなのだから、暫くはゆっくりしても罰は当たらないだろう。……俺に罰を当てる事が出来るやつなんて居ないけど。

それよりも、こんなどんちゃん騒ぎが1ヶ月も続くと思うと頭が痛くなる。毎日のように俺は天照に絡まれて、毎日のように諏訪子に脇腹を殴られるのか?

「……よし、逃げよう」

とりあえず顔は出したのだし、当初の目的は達成されているわけだ。こんな面倒な集まりと知っていれば、多分来なかっただろうし。

そんなわけで、俺は庭の木に留まっていた八咫烏に声をかける。

ココから出ていって、先ずは自分が祀られているっていう神社に行ってみよう。

なに、俺がいなくなっても大丈夫だろう。何せ俺は自由の神だからな。

「……絶対に後で月夜見様に怒られまっせ?」

「月夜見が怖くて創造神なぞやってられるか」

まぁ、アイツの説教は御免こうむるがな。

「まぁ、ワイも暇やからえぇですけど。怒られても知りませんで?」

……よし、バレた時用に一筆書いておくか。

 

 

 

「で、戻ってきたの?」

ワームホールを潜って守矢神社に戻ると、珍しく姫咲が迎えてくれた。……実際には、多分たまたま外に出ていた時に俺のワームホールを見つけただけだろうけど。

「姫咲ならあの空間は楽しめるだろうけど、アレが続くと思うと俺には耐えられないから」

そう、とだけ言うと姫咲は神社へと戻る。コイツ、何しに外に出たんだ?

 

 

 

言えない。霞が帰ってくる気がしたから外に出ていたなんて、恥ずかしくて言えたもんじゃないわ。まるで寂しくて帰りを待つ小娘のようじゃない。見た目は子供だけど。

「で、今度はどこに行くの?」

私は思考を切り替えるために話題を変える。どうせ霞はなにも気にしてはいないだろうけど、この心内は読まれたくはない。

「なんか、俺の事を勝手に祀っている神社があるらしいから、それを見に行こうかと思ってる」

……神様って勝手に祀っていいものなのかしら。よくわからないけど。まぁ、神の一般常識は霞に当てはまらない、って事で無理矢理納得させる。

『だって霞だもの』の一言で、大凡の事は済ませそうだし。

「ならさっさと行きましょう。一応コレでも妖怪なんだから、いつまでも神社なんて所には居たくないわ」

「これから行くのも神社だぞ?」

「貴方を祀っている神社でしょ?それならココよりはマシよ」

どういう判断だ、という霞の言葉は無視をして。神社の屋根の上で昼寝をしている美鈴を呼び起こす。あの子、何処でも寝るわね。こないだなんて、柱に寄りかかって、立ったまま寝ていたし。ある種の才能かもしれないわ。全く羨ましくないけど。

「……あれ?師匠。どうしたんですか?忘れ物ですか」

寝ぼけ眼で屋根から飛び降りてきた美鈴は、やはり寝惚けたことを言う。この子には体術の修行よりも、おつむの方をなんとかしたら?

そんな考えを察したのか、霞は苦笑いしながら「美鈴はこれで良いんだよ」とだけ言った。

「旅を再開するのよ」

「……そうなのですか?では準備をしてきますね」

「うん。俺も真苗ちゃんにお礼を言わないとな」

そう言って2人は社の中へと消えていった。残された私は、別段荷物なんかもないし、人間の小娘なんぞに礼を言うのも癪に触る。特に世話になった覚えもないし、所詮は妖怪と人間だもの。

ついこないだ別れた紫とか言う小娘は、人間と妖怪が共存出来る世界、なんてものを夢見てた様だけど。所詮は絵空事。どこまで行っても妖怪と人間は相容れない存在なのよ。

 

 

 

「……神奈子様と諏訪子様を置いてきたんですか」

「結果的にそうなるな」

一通り説明すると、最初に出てきた言葉がそれだった。なんとも、2人を大事にしているいい子じゃないか。

「まぁ、神無月が終わる頃に迎えに行くから心配するな」

「はぁ」

それでも、一抹の不安を覚えているのか、どこか暗い表情だ。

「1人が不安ならば、誰か付けようか?」

「あのお2人のどちらか、ですか?」

それもまた不安な様子。僅かな間にどんな生活を送ってたんだ、アイツらは。

「……しょうがない。あんまりしたくはないが、神様の力を見せてやろう」

そう言って神様モードになる。一応、神力はかなり抑えて。流石に神と同居しているとはいえ、いきなり俺並みの神力に当てられたら、気を失ってしまうだろうし。

神様モードで両手を合わせる。初めての試みだから、隠しているが自分でも成功するか不安だし。

創造したのは二対の狛犬型の式神、『阿』と『吽』。赤い色に染められた小さな注連縄を背負っているのが阿で、紫色の前掛けを着けているのが吽。サイズ的には柴犬だが、中級妖怪程度ならば圧倒できる様にしてある。

「ふぅ、なんとか出来た」

式神とは言え、生物を創造するのは初めてのことだったから、上手くいくか不安だったが。

「わぁ、可愛いですね」

早速真苗に懐いたのか、二匹(と言っていいのかわからんが

)は擦り寄っている。真苗も満更ではないらしく、漸く笑顔になった。

「コイツらなら多少の妖怪は退治できるし、真苗の言う事をよく聞くようにしてある。何かあればコイツらを通して俺に伝わるようにしてあるから、連絡するといい」

「はい、わかりました」

本来ならばここまで甘やかす事もないのだが。ま、出雲に2人を置いてきた手前、これくらいは良いか。

「それじゃあ、俺達は行くぞ?」

「あ、はい!お気を付けて」

真苗に見送られ、俺達は俺が祀られている博麗神社へと向かうことにした。




作「ここで1つネタバレを……」

霞「は?」

作「なんとこの章は戦闘がありません!!」

霞「それで喜ぶの、お前だけじゃないか」

作「……なんとも、どんだけ経っても戦闘シーンほ苦手なもんで」

霞「いい加減慣れろよ」






天「父上様〜?何処ですか〜?!」




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53話/烏と少女と神様らしい

霞「……あれ?感想欄の返信で書いてたタイトルと違うよな」

作「そうかな?」

霞「…………なるほど、タイトルは毎回適当につけてるからか」

作「バラさないで!!」


まいど!八咫烏ですわ。

守矢神社を出て数日。創造神の霞様に案内せぇ言われて、山を越えている途中。

ワイは初めて会おた創造神様御一行をよう見とったんです。今まで天照様の手伝いで、ぎょうさん神ってもんを見てきたつもりやったけど、こんな神様は初めてですわ。なんせ妖怪と一緒に旅するなんて、普通はありえへんやろ。

この国で、いやこの世界でいっちゃん偉いんちゃいますの?

そんなお方やのに、なんで月夜見様を恐れてはるんや?確かに、あの方も恐ろしいで?1週間正座させられてお説教するっちゅう噂まであるくらいやし。

そんでも、なんぼなんでも創造神様までさせられへんやろ。

「……そう思うだろ?アイツは父と呼ぶ俺ですら、なんの躊躇いもなく説教するからな」

「ホンマでっか?!」

ほんなら月夜見様は、言うたら最強ちゃいます?

「……アイツに1週間説教させられたくらいだしな」

あ、噂の本人目の前にいたわ。

ほんま、神様らしくないわ。でも『自由の神様』ならえぇのか?

 

お日さんも空の天辺に登った頃に、姫咲言う妖怪のお子様が昼飯にしようって言ってきましたわ。

これでも一応は神として数えられますから、必ずメシ食わなアカンわけやないけど、せっかく用意してくれるんやったら勿体ないしなぁ。

「んじゃ、なに食べたい?」

……え?霞様が作るん?

あれ?ほんまにこの方、最高神様やろか。

「……だってコイツらはマトモに料理ができないんだから、しょうがないだろ」

「あら、私はやらないだけで、やれないなんて言ってないわよ?」

……なんやろ。ワイの本能が、この子には作らしたらアカン言うてますわ。

「……その目は信じてないわね?……いいわ、今日のお昼は私が作ってあげる」

と言うより、こんな山奥で何を作るつもりなんや?

普通に木の実とか持ってきてくれた方がえぇんとちゃいます?

「見てなさい!私が本気を出したら、アンタらなんて卒倒するから!!」

卒倒したらアカンのとちゃいます?

捨て台詞みたいなん残して森ん中に消えて行きましたけど、アレ大丈夫なんですか?

「……知らん」

 

んで、アッチの少女はいつの間にか寝てはるし。

器用にも木に寄っかかって、立ったまま寝るんは逆に疲れへんのやろか。

「ほら、美鈴起きろ」

「……んぁ?」

いくらちっこい言うても、女の子が涎垂らすんは見てられへんな。

「……あれ?姫咲さんは?」

「姫咲は昼飯の準備をしてるよ」

霞様は師匠言うよりも、父親みたいや。

 

ここ数日を通してワイが素直に思ったんは、この3人は旅する仲間っちゅうか、何処か家族みたいな繋がりを感じますわ。ただの人間同士ですらそんなんになるんは難しいっちゅうのに、この人達は同じ種族ですらない。神と妖怪なんて、相反する存在なはずやのになんでなんやろ。

「……楽しそうですわ。ほんまに」

「なんだ、急に」

「なんか、霞様を見てると種族とかの枠組みがアホらしなります」

多分、これが『自由を司る神』の力なんちゃうかな。何かを語るわけでもなし、ただ自分が生きたいように生きることで、人も環境も変えてしまうやろな。

流石、創造神様や。

「面白い方やなぁ」

 

 

 

「んで、博麗神社までは後どれくらいなんだ?」

昼飯を済ませると、ちょっとした食休みを挟んで再び歩き出す。既に守矢神社を出てから数日が経ち、かなりの距離を歩いた気がする。八咫烏は空飛んでるけど。

「もうそろそろやとは思います。この山を越えたあたりで神社近くの人里は見えるやないかな」

そんなに近づいていたのか。でもそんな気配が一切しないんだが。神や、それに関係するものに近づくと、多少なりともそこには神力を感じる。少なくとも、神主や巫女の力を察知出来るはずなのだが。

それに、今回向かっているのは曲がりなりにも俺を祀っている神社だ。俺が自分の神力を間違えるわけがない。

「あぁ、そりゃそうですわ。なんせ神主も巫女もまだいやしませんもの」

「……はい?」

今なんて言った?

神主も巫女も、居ない?

普通、神社を建てたらソコを管理する人間が必要なんじゃないの?

「なんでも、建てはった方が霞様が来るのを予想してはったみたいで、霞様に選んでいただくみたいでっせ」

「うわぁ、めんどくせー」

まぁ、あの事件の後処理を放り出して来たからな……。それくらいはしょうがないと諦めるか。

しかし、管理を任せる人間となると……半端な覚悟でやられても困るし、少なからず霊力を操れないお話にならない。

そんな人物の知り合いなんて、いないんだがなぁ。

「慌てて決める必要はあらへん思いますけど、そないに時間もかけられません」

「だよなぁ」

 

 

 

すっかり暗くなっちゃった。

今日は里で何も貰えなかったから、しょうがなく山でキノコでも採ろうと思ってたのに。

山に入ったのは昼もすっかり過ぎて、太陽が沈み始めた頃だった。私の考えではさっさとキノコを籠いっぱいにして、今頃はキノコづくしの夕食にありついていたのに。全く予想が外れちゃった。

「なんでこんなにキノコが生えてないんだろ。動物が食べちゃったのかな?」

この山には狸とか狐とか、そう言えば長老さんが熊もいるって言ってたから、みんなお腹が空いてたんだね。

でも、熊かぁ。熊なんか出てきたら大変だけど、大丈夫だよね。

そんな予想をしながらも木の根元を探していると、何処かで草木を掻き分ける音がした。

「……えぇ〜」

音がした方を振り返ると、そこには狸よりも鋭い牙と、狐よりも長い尻尾。熊よりも大きな体の妖怪がコチラを睨んでた。

「……アナタも、キノコを探しに?」

「んなもんよりも旨そうな食い物を見つけたがな」

まぁ大きな口。でもそんなに涎を垂らしてたら汚いよ?

「……じゃぁ、私は邪魔しないように向こうに行きますね」

そそくさとその場を立ち去ろうとする。だって食事の邪魔はしちゃいけないでしょ?すぐに視界に入らないようにしますから……だからそんなに私を睨まないで貰えます?

「食い物が、何処に行くんだよ」

「……やっぱりそうですよねー」

……私、きっと美味しくないと思いますよ?だってまだまだ背は大きくないし、里のお姉さんみたいに胸も大きくない。多分、骨と皮ばっかりじゃないかな。

「……」

逃げる!!

私は走り出した。だって食べられたくないもの。

どんどん暗い森の中に駆けていくけど、どんなに走っても後ろから着いてくる音は途切れない。むしろドンドン近づいているような気がする。

多分、気を抜けば直ぐに追いつかれちゃう距離なんじゃないかな。必死に走りながら後ろを振り返ると、私の目に映ったのは熊よりも太い腕だけだった。

「きゃぁあああっ!!」

咄嗟に屈むと、頭の上ギリギリを掠める。危なかった!あんな腕で打たれたら、私なんて呆気なく死んじゃうよ!!

それで終われば良かったのに、妖怪は再び腕を振り上げてる。立ち上がって逃げようとするけど、さっきので腰が抜けちゃったのか上手く立てない。

…………あぁ、死んじゃった。

頭の中には私が血だらけになり、この妖怪に食べられている姿が浮かんできた。

……どうせならもうちょっと長く生きていたかったなぁ。

そんな淡い期待もこれでお終い。私は、ここで短い人生が終わるんだ。

「でりゃぁあああっ!!!」

「ぎゃぁあああ!!」

強く目を瞑ってしまうと、大きな声と何かがぶつかる音が近くで聞こえた。二つ目の叫び声は妖怪の声に似てたけど。

恐る恐る目を開けると、そこにはさっきと打って変わって綺麗な青が視界いっぱいに広がってた。それが布で、目の前に立っている人の着物だと気がつくのには時間は掛からなかった。あれ?ならさっきの妖怪は?

辺りを見回すと妖怪は遠くの木にぶつかって、気絶してるのか静かになっている。

……この人が助けてくれたのかな?でも、妖怪を倒すって本当に人間?

もしかして、人間の姿をした妖怪よりも恐ろしい何かなんじゃ。

そんな考えが頭の中をグルグル回っていると、その人はゆっくりと振り返って腰を低く落とす。私の目線と同じになると笑顔を向けてくれた。

「大丈夫か?」

……また予想が外れちゃった。だってこの人はこんなに優しい笑顔ができるんだもん。

 




作「この章も次で終わりだね」

霞「珍しく大規模な戦闘とかなかったな」

作「戦いたいの?」

霞「御免被る」


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54話/重い話と軽い提案らしい

作「あー。前回の後書きで、この章は次で最後とか言ったけど……無理だわ」

霞「計画性無いな」

姫「今まで計画性があったの?」

霞「あれば姫咲は幼女になってないよ」

作「実際にそうだから何も言い返せない!!」


博麗神社を目指して山道を歩く。

すっかり空は黒く染められて、綺麗な月が登ってしまった。八咫烏が言うには、もうすぐ博麗神社に着くと言っていたが。

「ま、無理して山道を急がなくてもいいか」

「そうでっか?ほんならここいらで休みましょか」

少し開けた木々の間にテントを出して設置する。最近は美鈴も手伝ってくれる。姫咲は全くだが。

夕食を終えてリビングで寛いでいると、風呂上りの姫咲と美鈴が牛乳を片手に、腰に手を当て一気飲みしている。

美鈴はただ単に好きで飲んでいる様だけど、姫咲は……いや、何も言うまい。姫咲、頑張れ。

「霞様、近くに妖怪の気配がしますけど、どないします?」

確かに、さっきから小さな妖力を感じる。特にコチラに敵意を向けている訳では無いし、そもそもこのテントには結界が張ってあるから下級妖怪程度では気付かれない。

「どうも人間の子供を襲ってるみたいですわ」

「あー。みたいだな。なら八咫烏、ちょっと行ってきてよ」

俺は既にリラックスモードだ、今日は外に出たくない。

「いや、行きたいんはやまやまなんですわ。でも、ワイって太陽神様の使いやないですか。太陽がないと上手く力を使えんのですわ」

つまり夜は無能になると。

「そこまでは言ってませんがな」

「……なら美鈴」

そう言うと美鈴からは返事がなかった。なんだ?珍しく俺を無視するのか?

「……この子、立ったまま寝てるわよ」

ついさっきまで起きて牛乳飲んでたのに?!

姫咲は美鈴の顔の前で何度か手を振るが、全く反応しない。この時間に寝てしまった美鈴は、何をしようとも起きないからな。

「……姫さ「嫌よ」……まだ何も言ってないだろ!!」

「この状況で私に話を振って、全く違う内容だと?」

「…………はぁ」

どうやら俺が行くしかないみたいだ。気分としては夜中に母親に頼まれてコンビニに行く子供のそれ。まったくもって面倒臭い。

ま、そうも言ってられないか。子供の命には替えられないしな。

「ほんじゃ、行ってきますよ」

そう言って、俺は思い腰を上げざるを得なかった。

 

 

 

ワームホールを抜けるとちょうど妖怪の横に出た。妖怪は腕を振り上げ、へたりこんでいる子供を今にも殴ろうとしている。大人だってそんな太い腕で殴られたら無事じゃ済まないのに、子供だったら原型を留めないぞ。

考えるよりも早く、身体を動かす。妖力から下級妖怪だとわかっていたので、今回は夜月をテントに置いてきた。つまり肉弾戦しか選択肢がない。

「でりゃぁあああっ!!!」

「ぎゃぁあああ!!」

とりあえず、挨拶替わりの蹴りを、横顔に叩き込む。

呆気ないほど簡単に吹っ飛んで行った妖怪は、大木にぶつかって気絶したようだ。

なんだよ、これなら八咫烏でも良かったんじゃないか?

俺は少しの後悔を覚えつつ、振り返って座り込んでいる子供と目線を合わせる。

「大丈夫か?」

声をかけるが、死を覚悟していたからか、声がうまく出せないようで口をパクパクしている。鯉みたいだな。

「あ……ありがとう……ございます」

なんとか絞り出した言葉は俺への礼だった。

よく見ると服はボロボロで、それは妖怪に襲われたからじゃなく、元々粗末な服を着ていたようだ。

「こんな夜になんでこの山に入ったんだ?」

「……あ……その」

その時、子供から可愛らしい音が聞こえてきた。少しは安心したらしく、忘れていた空腹が今になって主張しだしたようだ。

俺は吹き出しそうになるのを抑えて立ち上がると、子供に手を差し伸べる。

「腹減ってるんだろ?とりあえず飯食わせてやるよ」

 

 

 

私を助けてくれた男の人は私に手を伸ばしてくれた。お腹がなって恥ずかしい思いをしたけれど、そのおかげでご飯が食べれるなら我慢しよ。

私が手を取って立ち上がると、男の人は私を抱き抱えた。いくらご飯の為でも、流石にこれは恥ずかしいなぁ。

「少し急ぐから、しっかり捕まってろよ?」

「……え?」

多分、私の声は聞こえてなかったんだと思う。だって風よりも早く森を駆けて行ったんだもん。

そんな中、ここのところちゃんとご飯を食べてない私が平気でいられるわけもなくて。直ぐに私の意識は真っ暗になっていった。

 

気がつくと凄く明るい光が見えた。朝になったのかな。

でもその光は太陽なんかじゃなくて、天井につけられた良くわからない物が光っているだけだった。あんなに明るいのは太陽以外見たことない。

「あ、気がついたわよ」

「……あの」

ふと、私の顔をのぞき込んできたのは、私より少し年下くらいの女の子。金色の綺麗な髪が、太陽モドキに照らされてキラキラ光ってる。

「おぅ、気分はどうだ?」

「……悪いです」

私は身体を起こすと薄めの布が落ちた。……私は何に寝てたんだろ、ふかふかと柔らかいけど、しっかりとした骨組みがあるような、布団とも言えない物に横になっていたみたい。

「だろうな。ほら、お粥を作ったから食べな」

その手には小さな鍋があり、凄く良い匂いがする。暫くご飯を食べてないからなんでも、いい匂いに感じることがあるけど。

「ありがとう……ございます」

「なに、気にするな」

蓋を開けると暖かい湯気が顔を撫でていき、次いで綺麗な白米が見えた。白米なんて、初めて食べるわ。

「誰も取らないから、ゆっくり食べなさい」

男の人は、まるで『お父さん』と言われる人のように優しい顔をしてた。

 

 

 

目を覚ました少女--体型から男の子だと思ってたけど、どうやら女の子の様で。あ、ちゃんと姫咲が気が付いて確認してくれましたよ?--はがっつく様にお粥をかき込む。火傷するなよ?

「んで、少し話をしよう」

食事を終えて落ち着いたのを見計らって話をする。

「どうしてこんな時間に山にいたんだ?」

凡そ予想は出来るけど。

「……お腹が空いて。何も食べるものが無かったから。山でキノコとか採ろうって思って」

だと思ったよ。

「……親は何してるんだ?」

「……」

お、なんか地雷を踏んだっぽい。言葉を無くした少女はとうとう俯いてしまった。

「……私、お父さんもお母さんも、いないんです」

「……それは……死んだってことか?」

「いえ、違くて。知らないんです」

おっと。かなり重い内容になりそうだ。

「私、何も覚えてないんです。両親の事も、自分の事も。……長老さんが言うには、私は何年か前に神社に1人で居たんです。でも、どうしてそこにはいたのか、どうやってそこに来たのか、何も覚えてなくて」

なるほど、記憶喪失ってやつか。

「長老さんも良くはしてくれるんですけど、それでも1人では生きていけなくて」

流石に、安易に相槌を打てない。話している途中で、少女はいつの間にか涙を流していた。俺が想像するよりも、はるかに辛い事を、この幼い少女は数年で経験したのだろう。

「私にあるのは『夢乃』という名前だけです」

「……そうか」

夢乃と名乗った少女は手の甲で涙を拭うと、頑張って作った笑顔を見せる。それは誰が見てもわかるくらいの悲しい笑顔だった。

「よし、わかった。暫く面倒を見てやろう」

「……はい?」

俺の一言があまりに予想外だったのか、気の抜けた返事が返ってきた。

「俺の名は神条霞。んでそこに居るのは居候の鬼ヶ原姫咲。もう一人、俺の弟子がいるんだが、今はもう寝ちゃってるからまた明日挨拶させるよ。んで、面倒を見るってのは、君……夢乃が1人で生きていけるようになるまで」

「な、なんで……そこまで」

んなもん簡単な答えだろ。

「困ってる人を助けたい……神様の様な男なんだよ、俺は」




霞「そろそろ神社に着きたいんだが」

八「次で着きますやろ」

夢「……!!シャァベッタァァァァァァァ!!!」


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55話/博麗の巫女、爆誕!!らしい

作「今回でこの章は最後!」

霞「本当だろうな」

夢「なんか、私にとんでもない事が起きる予感」

作・霞「気にするなっ!!」


人里から少し離れた所にある、長い石造りの階段を登ると、それは厳かに建っている。

長い間手入れをされていないのか、雑草が伸びきっている境内には、所々廃れた箇所がある。

「ここが博麗神社です」

うん。わかってたけど、改めて言われると受け入れたくないなぁ。だって、一応コレが俺の社なんだよ?

神主や巫女の不在ってのは、こうも荒れ果てる結果となるのか。

「……私は、ここで見つけられました」

「なるほどね」

今では夢乃が雨宿りをするくらいにしか使われない神社。

なにはともあれ、まずはこの廃れ放題なのをなんとかしなきゃな。

「?なんでですか?」

夢乃は心底不思議そうに言う。そう言いつつも早速雑草を抜いているから、真面目ないい子だよ。

「んー?だって暫くはココに住むからな」

「ココに住むんですか?」

え?ダメなの?俺を祀ってるのに俺が住んじゃいけないの?

「ココに住むだなんて、まるでこの神社の神様みたいですね」

「え?そうだけど」

「……え?」

あれ?言ってなかった?

 

 

 

朝に到着したのに、手分けして雑草を処理し終わると、既に日は高い位置に登っていた。

「よし、境内はこれでいいだろ。あとは社をなんとかしなきゃなんだが……」

こればっかりは1日では修繕できない。なんせ木は所々腐っているし、床なんてまともに残っている部分の方が少ない。もう、建て直した方が早くないか?

ま、それも『人間が』やるなら時間がかかるってだけなんだが。

「そんじゃ、ちょいと神様らしい所を見せてやろうかね」

「ふぇ?」

俺は神力を1割開放して両手を合わせる。想像するのはこの廃れた神社の元々の姿。……内装は少し変えるか?

多少はいいんじゃ……ないか?知らんが。

「創造」

小さく呟いた瞬間、目の前が光で埋め尽くされる。

「きゃっ!」

なんとも可愛らしい叫び声が聞こえたが、多分夢乃だよな?声質が姫咲みたいだったけど、気のせいだよな。

光が晴れると、そこには新築と変わらない神社があった。

「……」

夢乃は開いた口が閉じないようで。なかなかに面白い顔をしている。ついでに言うと、何故か姫咲が顔を紅くしているが、そこには触れないでおこう。

「……ホントに神様なんですね」

「そうです。私がココの神様です」

とりあえず、神社に関しては住める環境を整えた。これで少なくとも管理する人間を見つけるだけになった。

「さて、少し遅いが昼飯にしよう」

既に神社の中を見て回っている美鈴と姫咲を呼んで、準備を始める。

驚いた事に夢乃は手先が器用で、特に料理の腕は弟子+αとは比べ物にならない。……特に姫咲のは酷かったからなぁ。俺が胃薬を創造してやらなきゃ、みんな2、3日トイレから離れられない結果になってた。思い出すだけでも腹が痛くなりそうだ。

「昔からなんです。いっつも考えた通りにならなくて、こうやって料理したら考えてた以上の出来になったり」

「は?」

なんだ自慢か?その自慢は姫咲にしか通用しないぞ?

でも、料理をしている途中で微かに夢乃から霊力を感じたから、もしかすると何か能力を持っているのかもしれない。

 

 

 

夢乃の頭に手を乗せて、夢乃の奥底をのぞき込むイメージをもつ。

深い海の中にゆっくりと沈み込んで行くと、どうも靄が掛かったようにハッキリ見えない部分がある。どうやらコレが夢乃の失われた記憶の部分なのだろう。俺は他人の心を読む能力なんて造ってないから、この靄を晴らす事はできない。

更に深く、10センチ先も見えないほどの暗闇まで潜ると、小さな灯りがフワフワと浮かんでは消えてを繰り返していた。まるで海を漂うクラゲのように1箇所に留まらず、掴みどころのない光だが、しっかりと主張するようにオレンジ色の光を灯している。

多分、コレが夢乃の能力の正体なんだろう。俺は両手で優しく捕まえると、脳裏にある一文が浮かぶ。

 

『予想を超える程度の能力』

 

……なんとも、巫山戯た能力だ。

これはそんじょそこらの神でも相手をするのは手こずるぞ。なんせ、相手の力をしっかりと把握さえしてしまえば、それを苦もなく超えてしまうのだから。

だが、良い事だけども言えない。戦闘中なんかに自分の勝ちを確信した瞬間、それを超えた結果が導き出されるのだから。簡単に言えば、へし折れないフラグを立てるわけだ。

夢乃が『やったか!?』なんて言おうものなら、無傷の敵が目の前に現れる事になる。

「……ふぅ」

俺は夢乃の海から浮かび上がると手を離す。

「どうでした?」

「んー。どうやら俺でも夢乃の記憶は取り戻せないようだ」

「……そうですか」

あからさまにガッカリした表情の夢乃。

そうだ、俺は夢乃の記憶を見るために潜ったんだった。途中で能力なんか見つけたからすっかり忘れてたが。

「でも、夢乃の能力がわかったぞ」

「私の能力ですか?」

 

 

 

それから数日、俺達は博麗神社でノンビリしていたが、そろそろ諏訪子達を迎えに行かなければ。

「でも、夢乃を1人にするのは不安だな」

いつかの真苗を残した諏訪子達の気持ちがよくわかる。

見た目中学生くらいの夢乃だが、中身はもう少し幼い。と言うよりも若干天然っぽいから、不安しかないんだよ。

「私だって留守番くらいできますよ!!」

あ、フラグが立った。

「どうせこの辺りは平和そのものですから、妖怪も来ませんし」

まだフラグ立てるの?

「なにも起こりませんよ」

はい、もうお腹いっぱいです。こんだけフラグビンビンにされたら、むしろ何も起こらない方が不思議だわ。

「……しょうがない。と、言うよりもこの方が効率が良いからな」

そう言って俺は、神力を開放し神様モードになる。

纏った神力は神社を囲み、厳かな空気になる。

「我、創造神としてこの者に言い渡す」

どうせコレも形式上の儀式なのだから、簡単に済ませよう。

「今日、この日をもって夢乃を博麗神社の巫女に任命する」

「……へ?」

はい、終了。どうせ暫くはココの住むつもりだったし、夢乃の面倒を見る事を考えたら、巫女にするのが手っ取り早い。これでも鍛えれば霊力もちゃんと扱えるだろうし。

「私が……巫女、ですか?」

「おぉ!おめでとうございます!!」

美鈴は嬉しそうに拍手なんかしている。一応言っとくけど、本来なら妖怪の天敵だからな?

「私が……巫女」

「なんだ、不安か?」

「いえ、そんなことは……」

夢乃はどこか考え込んでいる。

まぁ、いきなり『この神社の巫女になれ』って言われても、何をしたらいいのかとか、わからない事だらけだろうけど。その点は俺がサポートすりゃいいし。元よりココは自由の神の神社だ。妙なしきたりとか、枠に囚われずにやればいいさ。

そんな事を考えていたらが、どうやら夢乃は別だったようで。

「この神社の巫女、という事は……。これからはお賽銭で毎日ご飯が食べれるのですね!!」

どうやら不安よりも食欲の方が上らしい。

 

 

こうして、我が博麗神社に初代巫女、『博麗』夢乃が誕生したのだった。




霞「なんか最後、無理矢理まとめた感が半端ないな」

作「しょうがないのです。この後の予定がありますから」

夢「予定?」

作「多分、次回は閑話になりますね」

霞「……おい、さっき渡されたこの台本だけど、お前……」

作「それでは皆様!次回もお楽しみに!!」

霞「……ホントにこれ大丈夫なのか?」




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復讐の始まりと届かない光らしい
56話/暗い光らしい


作「ではでは、今回は少し本編を進めましょうか」

霞「コラボは良いのか?」

作「あまりアチラの投稿ペースもありますし。コチラだけ何本もあげてはご迷惑になりますよ?」

霞「そういうもんか?」




夢乃が博麗神社の巫女になってから、早くも10年程が過ぎた。

夢乃もすっかり大きくなって、今では見た目は俺と大差ないくらいだ。

未だに能力の制御には一抹の不安があるが……。

成長したと言えば、美鈴も成長した。コッチは身体だけじゃなくその力も向上し、今では俺ですら人間状態だと危うい事もある。

「ってな理由で、美鈴の卒業試験〜!」

「……はい?」

相変わらず何処でも寝ることが出来る美鈴は、屋根の上で寝ていた。俺は側で腰を下ろす。

「そろそろ美鈴も独り立ちしても良いかなって思ってな」

「うぇっ?!で、でも……」

美鈴は不安な顔をしている。思えば長い事一緒に居たのだ、急に卒業と言われても不安にもなるか。

「美鈴にはもっと広い世界を見て欲しいんだよ。力や技術なんかじゃなくて、もっと知らなきゃいけないことがあるだろう?それは俺の元に居続けて知れることじゃない」

「……そう、ですね」

意外と美鈴は聡い子だ。ちゃんと話せばコチラの真意を理解してくれるし、汲んでくれる。

だからこそ、外にも目を向けて欲しい。この世界は俺だけじゃなく、もっと沢山の意思や心に溢れているんだから。

「わかりました。私、頑張ってみます!!」

「よし、なら試験といこうか」

 

 

 

「勝負は簡単、霊力しか使わないから、この俺に一撃いれてみろ」

「わかりました!!」

神社の庭に降りると、俺と美鈴は向かい合う。卒業試験として手合わせをするためだ。手合わせと言っても、今回ばかりは俺も本気で行く。別に卒業させたくない訳では無い、美鈴にしっかりと今の自分の実力を解ってもらうためだ。

「んじゃ、先ずは……」

俺日両手を合わせる。霊力を込めた球体を掌に創ると、それを握り潰す。昔、萃香と喧嘩をした時に使った能力を発動するためだ。

「掌握」

空間掌握。周りの木々や建造物の形はそのままに、破壊不能にしたり、その空間内のあらゆる制限を俺が握る能力。まぁ、今回はただ単に神社を守る為だけど。

「それじゃ、始めるか」

「……よろしくお願いします!!」

元気よく一礼する美鈴。

顔を上げると、俺の拳が視界を埋め尽くしていただろう。

「ぐふっ!?」

「なにを馬鹿正直に礼なんかしてるんだ。これからお前は誰にも守られない、1人の力で生きていくことになるんだ。礼を尽くすのは悪くは無いが、それが通用するか考えろ」

吹き飛んだ美鈴は、空中で咄嗟に体制を立て直し、着地する。

「……確かに、私が余裕を見せていい相手ではありませんね」

「ほら、本気でやってやるからかかって来い」

俺は挑発する。まぁ、美鈴はこんな挑発に引っ掛かりはしないが。

美鈴は重心を低くし、構える。両手両足にはかなりの量の妖力が込められ、その一撃は簡単に大岩を砕くほどの力がある。

人間状態で喰らえば、死なないがかなりの重傷を負うだろう。

「!!」

ふと、美鈴の姿が消える。あまりの速さに目が追いつかない。

流石は美鈴。体術ならば多分、鬼とタメを張れるんじゃないか?

「……だが甘い!!」

いくら速かろうが、俺の探知範囲に入れば意味は無い。姫咲くらいの速さならば別だが。

振り向きざまに回し蹴りを繰り出す。美鈴はそれをギリギリで躱すが、俺が右手で練り込んだ霊力弾は避けられず、被弾する。

しかし美鈴もそれで終わらず、被弾しつつもそのまま突っ込み、俺に組み付こうとしている。

俺はバックステップで距離を取りつつ、次の手を考える。

「いい根性だ!!」

「師匠の弟子ですから!!」

 

 

 

「あわわわ。だ、大丈夫でしょうか、美鈴さんは」

「心配いらないわよ。あれでも一応は妖怪。アレくらいの傷なら1日もしないで治るわ」

私と夢乃は縁側に腰掛け、2人の勝負を見守っている。

夢乃が心配で見守りたいと言い出し、流れ弾が当たっても困るので私がお守りをしているのだ。

しかしながら、美鈴はよく成長したと思う。昔ならば一瞬でケリが付いたであろう本気の霞との勝負も、今ではこんなにも食らいついている。今の彼女ならば、戦っても面白そうだ。

「美鈴さんには頑張って欲しいですけど……なんとも不思議な気持ちです」

「そんなもんかしらね。でも、霞の言うこともわかるでしょ?」

霞は決して厄介払いのつもりじゃない。純粋に美鈴の成長を喜び、門出を祝いたいのだ。

「ま、今は美鈴の応援でもしてあげなさい」

「……そうですね」

 

 

 

「おら、もう限界か?」

「……ま、まだです!」

強がって見せても体力の限界なのはバレバレで。身体中ボロボロになっていた。

「なら根性見せてみろ」

「言われずとも!!」

美鈴は力を振り絞り、駆ける。最初よりはスピードは落ちているが、それでもそんじょそこらの妖怪よりは何倍も速い。そんな中、美鈴はどうやら右手に妖力を溜めているようだった。いつもの美鈴からしたら、おそらくこれが最後の一撃になるだろう。

少しガッカリしてしまう。やはり卒業させるにはまだ早かったのだろうか。

俺は美鈴の最後の一撃に備え、構える。これが最後ならば、真正面から受けてやるのが礼儀だろう。

「こい!美鈴!!」

「うぉおおおおっ!!」

美鈴は『右足』を踏み込む。繰り出された拳に合わせ、俺も右拳を出した。

 

……待て、『右足』?

 

右手を出すのに右足で踏み込む?

 

「でやぁああああっ!!」

美鈴の左手は俺の拳とぶつかるが、それは元より覚悟の上で、骨が砕けた音がしても気にしない。本命はこれから。

あっけなく拳が振り抜かれたことで体制を崩してしまうと、隙が出来る。美鈴はそれを見逃さず、身体を無理やり捻り右手を繰り出した。

「!なろっ!!」

俺はなんとか距離を取ろうと無理な体制で地を蹴る。なんとか美鈴の拳が届く範囲から離れたが、その直後小さな衝撃が脇腹を襲った。

 

「……これで……勝ちです……!!」

 

美鈴の手は開かれ、少し煙が立ち込めている。なるほど、妖力弾か。

今まで体術主体だったから、正直油断したな。

俺の脇腹には着物が破れ、少し赤くなった身体が見えた。

 

「……お見事」

 

そう言ってやるが、声が届くまもなく美鈴は意識を手放してその場に倒れ込む。

まったく、締まらないなぁ。

 

 

 

「んじゃ卒業を祝して、かんぱ〜い!!」

「……いや、なんか軽くないですか?!」

あの後、美鈴の治療を終えて意識が戻るのを待ち、今は小さいながらも宴会を開いている。

机の上には夢乃が腕によりをかけて作った料理が並び、姫咲はいつの間に隠していたのか、秘蔵の酒を持ち出していた。

「いやはや、まさか最後の最後にあんな事を思いつくとはな」

「む、夢中でしたので」

美鈴は少し照れくさい様に顔を赤くしている。

「ま、これで俺も安心してお前を送り出せるな」

普段はあまり酒を飲まない美鈴も、今回ばかりは飲んでいる。

「で、これからどうするんだ?」

「……そうですね。少し、世界を見て回ろうかと」

「ほぅ」

まぁ、これで一生会えないわけじゃないし。何時ぞやの異世界で出会った、成長した美鈴の様に、誰かに仕えているかもしれないが、俺は不死で美鈴は妖怪だ。また会えるさ。

しかし……。

「多分、私はこれでお別れですよね……」

夢乃は見るからに落ち込む。確かに、人間である夢乃には寿命がある。いくら長生きをした所で、あと80年くらいってところか。流石に妖怪との時間感覚とは大きな差がある。

「……そう……ですね。でも、私は一生夢乃さんのことを忘れませんよ!」

「わ、私もです!!」

「……あら、私は忘れられるのかしら」

「い、いや、そんなことありませんよ!!」

全く。姫咲もホントは寂しい癖に、素直じゃねぇなぁ。

 

こうして、美鈴との宴は夜遅くまで続いていった……。

 

 

-------------------

 

 

 

暗い森の中、男は一人、草木を踏み分け歩いていた。月明かりすら届かない暗闇の中、しかしながら男の足取りは止まることもなく進む。

広く伸びた枝のせいで、やはり明かりの届かない、すこし開けた空間に出ると、男はやっと足を止めた。

見れば1人の少女が木の根元に力なく横たわっていた。

その姿は妖怪に襲われたのか、既にボロボロで、死んだように眠っていた。

しかし男の気配に気が付いたのか、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

視線が男とぶつかると、あからさまな敵意を向け、睨みつける。

「おやおや。そんなに睨まないでおくれよ」

男はゆっくりと少女に近づく。その姿は構えるわけでもないのに、隙を一切見せないものだった。

「……君はいい眼をしているね。深い闇のような、ドブ底のような。この世の全てを憎んでいる、とてもキレイな眼だよ」

男は薄ら笑いを浮かべ、近づく。

その笑みはお世辞にも友好的とは言えず、まるで爬虫類が舌なめずりをしている姿を連想させるもので、もし少女が余力を残している状態であれば、すぐさま攻撃を加えていただろう。

しかし少女の体力は限界を迎えていて、腕を上げるのすら億劫な程だった。

「この世界は嫌いかい?ならこの世界を創った本人に復讐しようよ」

すぐ側まで歩み寄った男はしゃがみこみ、少女と目線を合わせる。その目は暗闇の中にあっても怪しく光り、1度眼を合わせれば離すことが出来なかった。まるで蛇に睨まれた蛙のように。

 

 

 

「……さぁ、君の心を頂こうか」




霞「このお〜ぞら〜に〜、つ〜ばさをひろ〜げ〜♪」

美「あ、私『蛍の光』の方が良いです」

霞「あ、そうなの?」

姫「とうとう美鈴も卒業なのね」

作「なんとか美鈴がカッコよく書けてれば良いんですけどね……」


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57話/いろんな世界があるらしい

作「今回はTwitterでご意見があったので、あの子が登場します」

霞「え?どいつ?」

作「読めばわかるさ!迷わず読めよ!!」

姫「いくぞー!!いーち!にー!さーん!」

作・姫「ダー!!」

霞「……あ、本編どうぞ」


美鈴が旅立った翌日。俺達は少し静かになった神社の中で、それぞれ口数がやはり減っていた。

美鈴は俺達にとってムードメーカーだったようだ。居なくなってから気付くとは、なんとも師匠失格だな。

「霞様、お茶のお代わりは?」

「おぉ、貰おうかな」

すっかり巫女としての立ち居振る舞いが板に付いた夢乃。

苦労して育てた甲斐があるってもんだ。

 

「ごめんくださーい」

 

そんな事を思っていると、玄関から来訪を告げる声が聞こえてきた。

なんか聞き覚えのある声だった気がするが、多分空耳だろう。アイツがこんな所に来るわけがない。何より、月夜見がそれを許さないだろう。ってか許すな。

「あのー、霞様?お客様なのですが」

「……俺にか?」

いや、きっと違う。アイツなわけがない。

この神力は知っているヤツのソレだが、多分違う。

違って欲しい。…………違うといいなぁ。

「ちーちうーえさまーーー!!」

「ごふぁっ!!」

戸を開くと同時に得体の知れない物体が俺の腰辺りに飛び付いてきた。

その勢いのまま庭へと吹っ飛ぶ。

「……あれ?父上様?」

「えーと……アチラで伸びてますが」

「なんと!!一体何が?!……まさか敵襲!!」

「んなわけあるかぁああああっ!!」

盛大な音ともに、天照の頭に拳骨が落とされた。俺の手によって。

 

 

 

「んで、何しに来た」

頭の上に器用に氷嚢を乗せながら、天照は俺の腰に抱きつきながらも答える。

「主に父上様エネルギーの補充です!」

「だとしたらさっさと帰れ」

「存外に手厳しい!!……でも嫌いじゃないです」

なんだコイツ。ちょっと見ない間に進化……いや、悪化してないか?

「……あと、少しお耳に入れておきたい事がありまして」

「そっちが本題だろ」

だが、考えれば天照が直接出向くとは、それなりに面倒な事だと予想がつく。

そうでなければ月夜見が天照の暴走を許すわけがない。そして、月夜見ではなく天照が来たという事は、今の高天原では対処出来ないと言うことだ。

「……実はここ最近で未確認の生物が、人間を襲うという事件が起きているのです」

「未確認の生物?」

なんだそれ。この世を管理して見守っている神々でも、わからないってことか?

「その通りです。……正確に言えば、未確認というよりは未知の生物、と言うべきですかね」

「違いは?」

「これらの生物がどうやって出来たのか、わからないのです」

ふむ。それぞれ生物の進化を見てきた神が、その起源がわからないと言うのならば、れっきとした未知の生物だろう。途中で俺が創造したものならば話は別だが。

「多分、違うだろうなぁ」

「ですね。逐一父上様の動向を見守っている私が知らないのですから、その線は有り得ません」

「おいコラ、なにさらっとトンデモ発言してんだ」

普通にストーカー行為じゃねぇか。俺はもう太陽の下を歩けないのか?

「まぁ、冗談は置いといて。我々で調べたところ、どうやら異界の存在が感知されまして」

「異界、ねぇ」

なんとも、俺の能力のようだな。若しくは紫か?

でも紫ならば理想の世界を造ったと、真っ先に俺に報告しに来るだろうし。

「んで?その異界を調べて欲しいと?」

「まぁ、簡潔に言いますと」

まったく。面倒臭い事になってきたもんだ。

 

 

 

「さて、異界ってのに向かうのに穴を開く必要があるのだが、なんとも境内で開くには危険要素が多すぎるわけで」

「誰に言っているの?」

「んぁ?……気にするな。禿げるぞ?」

「はいはい」

さて、俺と姫咲は現在博麗神社の裏手にある山に来ている。ワームホールを開いて、その結果この世界に悪影響があっても困るので、人に見られる心配のない薄暗い洞窟で開くことにした。

「んじゃ、行きますかね」

神様モードになると両手を合わせる。この世界でならば創造神として絶対の地位を確立している俺だが、これから行くのは別世界。もしかすると俺の能力すら使えない可能性もある。最初から警戒しておくに越したことは無い。

「……ふむ。確かに俺の知らない世界が存在するな」

そこから感じ取れる力は、霊力とも神力とも、ましてや妖力とも言えない、今まで感じたことのない力だ。

「もう見つけたの?」

「まぁな」

別に見つけるだけならば難しいことじゃない。この世界は俺が作ったのだから、俺の手が加わっていない部分を探せばいいだけ。結果、直ぐに見つかった。

「さて、早速行くか」

俺はその異界へと繋がるワームホールを開く。なんとも不思議な感覚だ。

「……何があるのかしらね」

姫咲は何故か楽しそうな表情をしていた。

 

 

 

「……んで、何事もなく着いちまったな」

「拍子抜けね」

穴を抜けている間は、異界からの攻撃に備えていたが、何の事はなく簡単に到着してしまった。

足を踏み入れた異界は、あまり外の世界と変わらない。空が黒く染まっているくらいの違いしかないんじゃないか?

そこは森の中だった。視界を塞ぐほどの鬱蒼と茂った草木には、それぞれ不思議な力が巡っていた。

「なんだこれ」

「妖力……じゃないわね」

草木自体が力を保有しているとは、面白い世界だな。

「んじゃ、ちょっくら調べてみますかね」

 

森を進んでいると、抜けたところで街が見えてきた。

洋風な造りの街並みは、今の俺達の姿では場違いに見える。

「見たことのない着物ね」

「姫咲にはそうだろうな」

俺としては多少は見慣れた格好だ。幾分古いが。

石畳の道を歩きながら、街並みを見て回る。

人影はないが、閑散としているわけでもなく、まるでさっきまで活気ある街だったにも関わらず、一瞬にして人々が消えてしまったような。

「誰もいないのか?」

「この得体の知れない力を辿っていけば?」

ふむ。そうするか。

草木から感じた力とはまた違う、異質な力を辿って歩くと、一際大きな館へと辿り着く。まるで王宮と見間違うほどの大きさの館はその見た目とは裏腹に、門前には誰も立っておらず、門も開かれていた。

「……これ、確実に誘われてるよな?」

「でしょうね」

どうやらこの館の主は俺達がこの世界に来たことを既に知っていて、招き入れているようだ。

「ま、虎穴に入らずんばってヤツだな」

「中にいるのが虎子ならば良いけどね」

おいおい。なんでそんな不安になるようなこと言うかな。

そう言いつつも、俺達は館の敷地へと足を踏み入れていった。

 

 

 

「お客様がいらっしゃったみたいね」

私は館の敷地へと入ってくる、この世界とは違った二つの力を感じ取る。どちらも異常な程の力量を保有しているようだ。

「まったく。お迎えする準備も出来ていないのに……」

お茶くらいは用意するべきかしらね。

そう思いつき、私は部屋を出る。

まずはお客様をお迎えしないとね……。

 

この魔界の創造主として、失礼の無いように……。




作「ってなわけであの方です」

霞「あ、うん……」

作「どうしました?」

霞「いや、結局誰なんだよ」

作「わかる人にはわかります。だから良いんですよ」

霞「そーなのかー」


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58話/創造神と創造神らしい

作「はい、ってなわけで久しぶりの投稿!」

霞「なんか間が空いたな」

作「……実をいうと、この章はとても難しいのです」

霞「は?」

作「だって旧作とか、やってないし!!」

霞「なら書かなきゃいいだろ」

作「ふっ、甘いな。そんな妥協をして、私が満足するとでも?」

霞「いや、お前の満足感なんて知るかよ」


 

どうも。現在、異界で見つけた洋館を探索中の霞です。

赤い絨毯が敷かれた廊下を歩いているが、これだけ広かっただろうか。外観からはそんなに大きく見えなかったのだが、中に入ると廊下は何処までも続く。

「……これって、何かの術?」

「だろうな」

館内に入った瞬間から感じる、得体の知れない力はこの館全体に漂っていた。

クラシックな調度品に囲まれた館内は、清潔に保たれているようだが、その薄暗さから古びた雰囲気を醸し出していた。

「……厄介ね。壊す?」

「……面倒臭いしな」

かれこれ1時間程は歩いているぞ。もうそろそろ俺も姫咲も限界だ。……我慢のね。

姫咲は拳に妖力を溜める。辺りに漂う力を押しのけ、姫咲の力が空間を埋め尽くすと、亀裂が入り出した。

「ま、待って待って〜!壊さないで〜!!」

すると何処からか声が響いてきた。声質から女性の様だが、どこか幼いような。

「いい加減出てきなさい。コッチは歩き回ってイライラしてるのよ」

それは余りにも勝手な言い分だけどな。勝手に館に侵入して、勝手に疲れて、勝手に館を壊そうとする。うん、普通に考えたら理不尽の極みだ。

「わ、わかったわよ……」

そう言うと空間に光が走り、硝子のように砕け散る。おぉ、あんまり変わった感じはしないが、なるほど廊下の先が見えることから、どうやら変な術は解いたらしい。

「まったく。いきなり壊そうとしないでよね」

すると俺達の背後から先程の声が聞こえた。

「それはすまなか……あれ?」

振り返るがそこには誰もいない。また何かしてるのか?

「……もうちょい下」

「んぁ?…………おぉ!!」

言われたとおり目線を下げると、そこには1人の少女が立っていた。

不思議な模様の描かれた3対の紫色の羽をもち、水色の髪を頭の上で結んでいる。そこで結んでいるとアホ毛っぽく見えるぞ。

「で、貴方達は何者?一応、この館は私のものなんだけど」

「……そうか。俺は神条霞。コッチは鬼ヶ原姫咲。理由あってこの世界を調べていてな、あからさまに他とココが違うから、少し話を聞きたくて侵入した」

「……せめてもう少し申し訳なさそうにできないの?」

反省も後悔もしていない表情を向けると、ため息を吐かれる。

「まぁ良いわ。……どうせ貴方には何を言っても無駄なんでしょうし」

「あら、よくわかったわね」

「おいコラ姫咲。どういう意味だ」

どうやら自分の都合の悪いことは聞こえない耳をお持ちのようで、姫咲は顔を逸らしてしまう。

ほう、ならそんな耳は必要ないな。

「いたたたたっ!ご、ゴメンなさいって!!」

「……あのー、人の家でイチャつかないでくれる?」

 

 

 

「んで、君は何者でここはなんて世界で、なんで人が居ないんだ?」

俺達は応接室に通され、紅茶を振る舞われた。どうやら俺達が侵入して来たのを察知した少女が用意していたらしい。ならさっさと姿を見せてくれれば良いのに。

「私の名は『神綺』。一応この世界の神よ」

「……へぇ」

「あら、驚かないのね」

いやいや、十分驚いてるからね?こんな少女--と言うよりも幼女が神とは。

「見た目の事じゃなくて……。貴方の目の前にいるのは神よ?」

「別に、神様見るのは初めてじゃないしな」

なんせ毎日、鏡を覗けばそこには見慣れすぎた自分という神様の顔があるんだし。

「……なんなのよ、貴方達は」

「鬼です」

「創造神です」

「…………は?」

おや、どうやら鬼を見るのは初めてのようだ。

「……鬼ってそんなに珍しいかしら」

「どうだろう。この世界だとそうなんじゃないか?」

「いやいやいや、違くて。え、貴方が創造神なの?」

驚いたのは俺の方か。まぁ、いきなり創造神なんて言われても信じられないだろうけど。

「信じるわよ。そんな異常なまでの霊力をしてたら」

「あ、そう?」

「……一応これでも神ですから」

そんなもんだろうか。諏訪子や神奈子は霊力だけでは俺を神と感じなかったみたいだが。

「この世界にはない力だもの」

「……そう言えば、さっきから嫌という程感じるこの意味不明な力はなんだ?」

「あぁ、これ?これは『魔力』よ」

魔力とな?つまり魔法が使えるのか?なんと中二心を擽る響きなんだ。

「つまり、ここは魔界とでも?」

「あら、知ってたの?」

「……神綺はこの世界の神なんだよな?」

「えぇ。私はこの世界の創造神よ」

あ、それはそれは。創造神に出会うのは初めてだ。

「私もよ。貴方とは規模が違うけどね」

ん?ならなんでココには誰も居ないんだ?

姿はともかく、神の住む館に使用人の1人もいないってのは、明らかにおかしいだろう。

「…………のよ」

「え?」

「誰も私の言う事を聞かないのよ!」

……いや、そんな涙目で言われても。

「なんでなのよー。なんか勝手に外に出ちゃうし。よくわからない奴に魔界人達が連れていかれるし……」

集団誘拐か?

「なんか違うのよ。みんな『自分の意思』でついて行ったのよね。……私ってそんなに威厳無いかなぁ……」

少なくとも、泣きそうになっている今の姿には、威厳の『い』の字も無いがな。

「なるほど。外で暴れてるのは魔界人なんだな」

「え?外で暴れてる?」

俺は天照か、聞いた話をそのまま伝える。

外で魔界人が暴れていること、得体の知れない力を使う為に、外の人間ではまだ対処が難しいということ。海外では少なからず魔力を自分のモノにしている奴も居るみたいだが。

「なんか……ごめんなさいね」

「いや、まぁ。得体がしれないからどう対処すれば良いかわからなかっただけで、それが知れただけでも十分さ」

ってか、そうでも言わないと、この子ホントに泣くぞ。

俺には女の子を泣かせて喜ぶ趣味はないからな。…………うん、無い筈。

魔力に対抗する手段は、今後人間が考えるだろうし。俺としては、外の世界にどんな力が影響しているのか知れるだけで良かったし。

「今頃あの父親大好きな太陽神がなんとかしてるんじゃないかしら」

「……なにその聞き捨てならない神様」

 

 

-------------------

 

 

「さて、なんこあっという間に戻って来たわけだが」

「これって、私がついて行く必要あったのかしら」

魔界から戻り、数時間ぶりの空気を肺いっぱいに吸い込む。今更ながらに、魔界には瘴気が充満していたから、俺や姫咲くらいじゃないと恐らく無事では済まなかっただろう。

「それにしても、神社の裏山にはそんなに来ないが、随分好き勝手にされてるな」

「……なにが?」

今、帰ってきたばかりだが、ついでにもう1ヶ所寄る必要が出来た。

裏山にある小さな湖、そこから魔界と同じように異質な空間を感じる。どうやらアソコにもなにかあるようだ。

「ってなわけで、行きますかね」

「……だから、私が行く必要はあるの?」

 

 

 

澄んだ水面が優しく揺れる湖に着くと、流れる雲と溢れんばかりに注ぐ太陽の光が、眠気を誘うほど長閑な風景で、一瞬目的を忘れそうになる。

今度夢乃を連れてピクニックにでも来るか。

「……さて、入口は何処だろうかね」

「……ねぇ、何この格好」

俺の後ろでは肩を震わせ声色は怒っているのに、その表情は紅く染まり涙目になっている姫咲がいる。

「だって、湖の中に入るから。濡れても平気な服を造ってやったのだよ」

「普通に考えれば、いつもの服に保護を掛ければいいだけじゃない?!」

紺色のスクール水着に身を包んだ姫咲は、その体型からどう見ても小学生にしか見えない。

「なんなのよこの服!動きやすいけど布地は少ないし!なんか恥ずかしいんだけど!?」

「気にするな。似合ってるぞ」

「笑いながら言うな!!」

 

 

湖の中心辺りまで進むと、ちょうど真下に空間の切れ目が見て取れた。どうやらこれが入口らしい。

「ほら、潜らないとダメだろう?」

「……もう、どうでもいい」

からかいすぎたか?姫咲の目が死んだ魚のようになっている。

「はいはい。行くぞー」

「物言わぬ貝になりたい」

ならどちらにしろ水の中に潜らなきゃな。

水に身を沈めると、澄み切っているお陰で底まで見える。

そんな事を思っていたら、空間の切れ目が目の前に迫る。

普通ならここまで来る人間も居ないだろうし、特に結界も張られていないようだ。

足を踏み入れると、湖の中だった筈なのに、そこには大地が広がり、花が咲き誇っていた。

「あら、綺麗なところね」

復活した姫咲は一面の花畑を目にして、素直な感想を漏らす。

色とりどりの花に埋め尽くされ、間にある1本の歩道を進むと様々な花の香りが漂ってきた。

「……そんで、また洋館か」

「もう見飽きたわ」

辺りの雰囲気からしたら異様な造りの洋館が、歩道の先にあった。魔界の神綺が住む館とはまた違って、今度はちゃんと人が住んでいるようだ。

現に、門の前には誰か立ってるし。

「あら、珍しい。迷い込んだのかしら?」

金髪に大きな鎌を担いだ少女が話しかけてきた。どうやら門番らしい。

「いや、この世界に興味があってね。ちょっとおじゃましているよ」

「ならそろそろ帰った方がいいわよ?怪我はしたくないでしょ?」

「ふむ。確かに怪我はしたくないな」

「あら、なら簡単な事じゃない」

珍しく姫咲が会話に入ってくる。こういった駆け引き的な会話には、普段から関わらないようにしているのに。

「怪我なんてしないほど圧倒的に倒せば良いだけよ」

……うん。イライラが限界なようだね。魔界でも暴れられると思っていたのに期待はずれで、更にはスク水なんて着させられて、ココでも進まない会話を聞かされる。そりゃ怒るわ。

「原因の一つは貴方よ?」

「反省も後悔もしていない」

「……あ、あのー。それで帰るの?帰らないの?」

大鎌の少女はコチラの空気にすっかり飲まれてしまっていた。もっとしっかりしないと、門番は務まらないぞ?

「それを貴方が言うのね……」

そう言いつつも鎌を構える。……ダジャレじゃないぞ?

「……なら俺は先に行ってるから、終わったら来いよ?」

「え、ちょっと!!」

「構わないわ。1分で終わらせるから」

 

「いや、だから!勝手に入るなー!!」

 




作「ってなわけで神綺ちゃん登場でした」

霞「神綺って、幼女だったっけ?」

作「そこは……ほら、二次創作なので」

霞「それで良いのか……」



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59話/無駄足と遅い足らしい

作「今回は急にシリアス展開になるので注意ですよー」

霞「お前にシリアスとか書けるのか?」

作「失礼な!シリアスと思えばシリアスになるんですよ!!」

霞「気分の問題かよ」


どうも、神様らしくない神様、霞です。

 

門前に姫咲を残し、俺1人館内へとやってきたわけなんだが。

重い扉を開くと、だだっ広いエントラスで、やはりこの洋館も人の気配が薄い。

掃除は行き届いているが、どうも使われた感じがしないのだ。

「誰か〜!居ませんか〜!!」

大声で呼ぶが、声は帰ってこない。

調度品や至るところに飾られた花たちを眺めつつ奥へと進む。どうでも良いのだが、普通飾るなら切り花じゃないか?室内に鉢植えを置くなんて、珍しいな。いや、観葉植物だと言われたらそれまでなんだが。

とりあえず、手当り次第に扉をノックして中を覗く。どれも綺麗にされているが、使われている形跡がない。

この館に住んでいるのは門番のあの子だけなのか?

いや、だとしたら門なんかで立ってないで中に居るか。

「そういや、門番の子の名前、聞いてなかったな」

後で聞いてみるか。生きていたらだけど。

「ただいま」

ふと、背後から姫咲の声がした。どうやら終わったらしい。

「おかえり。あの子は生きてるか?」

「えぇ……多分」

なんとも、不安の残る答えだ。

「それにしても、この館も人の気配が無いわね」

「そうだな」

そろそろ面倒臭いので、この館周辺を探知するとしよう。

俺は両手を合わせ、霊力の波を発生させる。範囲はこの館がすっぽり入る半径100mくらいか。

「ふむ。やはりこの館には誰も居ないようだ。……あ、あの子ギリギリ生きてる」

なんだ、生きてたの。と姫咲から聞き捨てならないセリフが聞こえたが、今回は聞かなかったことにしよう。

「誰も居ないんじゃここにいてもしょうが無いか」

「それもそうね」

そう言って俺達は一旦外で倒れている少女を介抱する為に外に出た。

……なんで俺は中に入ったんだよ。

 

 

 

「ほんと!ほんっっっっっとに殺されるかと思った!!」

傷を治した少女は、目を覚まし姫咲の姿を見ると一気に表情を青くして俺に抱きついてきた。

姫咲、どんだけやったんだよ。

俺が見つけた時には全部の関節があらぬ方向に向いてたし、少女の持っていた鎌は原型を留めていなかったぞ。

「……手加減はしたわよ?」

「あれで?!」

多分、本当だろうな。そこまで大きな妖力を感じなかったし。

「んで、まぁ今更なんだが、君の名前は?」

「ふぇ?」

ほんと、どんだけやったんだよ。ガチ泣きじゃないか。

「……わ、私はエリー。この館の門番よ」

「門番……ねぇ。でもこの館には誰も住んでなかったぞ?」

「昔は住んでたのよ」

ほう、なにか理由がありそうだ。

「この館は『夢幻館』。大妖怪『風見幽香』の住む館よ」

「風見幽香?」

はて、聞いたことのない名前だが。

「あら、知らない?」

「聞いたことは……ないか?姫咲はどうだ?」

「私もないわ。ってか、余り他の妖怪と交流しなかったし」

だろうな。

「むー」

いや、そんな膨れられても。

「幽香ちゃんは凄く強いのよ!!それこそ、貴方なんか直ぐに殺されるんだから!!」

「「ふーん」」

「いや、ふーん。じゃなくて!」

だって俺は死なないし、姫咲だって多分現妖怪でなら最強だろうし。それに匹敵する妖怪ならば少なからず俺の耳にも聞こえてくる筈なんだが。

「……貴方、何者なのよ」

「ん?外の世界で1番偉い神様」

 

 

 

『とにかく!今日は見逃してあげるからさっさと帰ってよね!!』

と、エリーに追い出されてしまった俺達は、仕方なく神社へと戻ってきた。なんか今日は無駄足が多かった気がする。

「もう少し調べてからにしなさいよね」

「へいへい」

神社の中へと入ると、机に突っ伏す。この後は天照に魔界の事を報告しなきゃいけないし、エリーの言っていた『風見幽香』って妖怪も気になる。魔界の消えた奴らもどうなったのか調べないとな。

……そう言えば、神社の中が静かだ。普段なら夢乃が慌ただしく家事をしたり、境内の掃除なんかをしているはずなんだが。

「あいつ、どこ行った?」

「……さぁ」

 

--------------------

 

 

霞様が出ていかれてから直ぐに人里の方が神社に駆け込んできました。汗だくになりながら息を切らせてきた事から、あまり良くない事が起きているのだと理解できます。

「ど、どうしたんですか?」

「さ、里が!里が襲われているんだ!!」

見ればこの方も所々怪我をしているようで、血を流していました。

「わかりました!直ぐに向かいます」

そう言って私は準備もそこそこに人里へと向かいました。

今考えれば、この時に少し思慮深くなっていればこの事件の異質さに気付いたはずなのに。

 

人里は阿鼻叫喚の地獄絵図でした。辺りからは火の手が上がり、逃げ惑う人々ど混乱しています。

「うわぁぁあああ!!」

「た、たすけてぇっ!!」

私はいてもたってもいられず駆け出します。1人でも多くの方を助けなければ。

角を曲がると、ちょうど里人の喉元に何者かの鋭い爪が立てられたところでした。喉から大量の血を吹き出し、事切れた人は、投げ捨てられ、今度は標的を私に変えたようです。

私は初めて見る人の死に、頭の中が真っ白になっていくのを感じました。呆気なく人は死ぬ。私の能力でも、きっとあの人は生き返らない。既に終わってしまった結果には、干渉できないからだ。

 

私がもっと早く来ていればあの人は助かった?

 

そうかもしれない。

 

でも、もう遅い。コイツがコロシタ……。

 

コイツ、コロシタ……。

 

ナラ………………コロス。

 

 

もう何も考えなくていい。

コイツが誰かとか、

何が目的なのかとか、

そんな事はどうでもいい。

 

私がするのは簡単なこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツらを許さない事。




霞「おい、これ大丈夫なのか?」

作「夢乃ちゃん大変!!」

夢「うわぁ、私ってこんなキャラなんですか?」

作「まだまだこんなもんじゃないよ?」

霞・夢「「え?」」



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60話/予想を超えるらしい

作「今回は夢乃ちゃん大暴れ!」

夢「お恥ずかしい限りです」

霞「俺は?」

作「…………出番があるといいね」


事切れた人間が鈍い音をたてて血の海へと落とされた。

私は自分の中に蠢いていく黒い影を抑えることもせずに、声にならない声を叫んだ気がする。

 

あぁ、最初からこうすれば良かったんだ。

 

コイツらは明確な敵。

何も遠慮することは無い。

目に映る全ての敵を、跡形もなく消してしまえばいい。

 

相手が何を考えていても関係ない。

だって、私はその予想を超えるのだから。

深く考えなくてもいい。

 

地を蹴って駆け出すと、明らかに私が出せる以上の動きで相手との間を詰めた。

懐から数枚のお札を取り出すと、霊力を込める。それだけで札は硬化し、刃物と同等の切れ味を持つ。

それを相手の首に投げるだけ。そうすれば勝手に相手は油断をし、油断すればするほど、その予想を超えた結果が生み出される。

1人が断末魔をあげて倒れれば、他の敵も私の方を見る。そうだ、全部私に来い。

これ以上、里の人に手を出すな。

 

1人が私へと向かって走ってくる。しかしその動きは、私には止まって見えるほど遅い。

「うぉおおおおおっ!!」

私は再び叫ぶ。

この身体がどうなろうと、もはやどうでもいい。

ありったけの霊力を込めて、また私は地を蹴った。

 

 

 

----------------------

 

あの人が神社に居ると風の噂で聞いたのは、数週間前のことだった。

何時ぞやの男のせいで別れてしまったけれど、頭に付けられた札が未だにその効果を発揮していることから、どうやら死んでいないのは確かだ。

ある日を境に、私へと送られる力が少なくなったのは気になるけど。

それも会って確かめれば良い。

私は小さな身体で森の中を飛ぶ。長い事会っていないけど、私のことを忘れてはいないだろうか。あの人のことだから、そればかりは不安だ。

 

能力を発動しようにも、どうもこの身体では以前のように上手く扱えないし。

少なくとも、この呪いとも言える身体をどうにかしてもらわないと。

 

何となく軽くなる足取り。心のどこかであの人に会えるのを楽しみにしているのかしら。

だとしたらなんとも、甲斐甲斐しいものね。

式なんかに収まるような私じゃないけど。

 

「待ってろなのかー」

 

そう言って私、常闇の妖怪はその速度を上げていった。

 

 

---------------------

 

辺りが静寂に包まれた頃には、私の姿は血に染まっていて。元々紅い巫女服は、より黒い赤になっていた。

 

「へぇ、君は面白い能力を持っているんですね」

 

ふと、声をかけられる。そちらを向けば1人の男が立っていた。誰だろう、見覚えがないからこの里の人じゃないみたい。

「……貴方も……敵?」

「そうですね。少なくとも貴女の味方では無いですね」

そうか。なら殺さなきゃ。

目に見える敵は全部、根絶やしにしなきゃいけないんだから。

懐から幣を取り出すと、霊力で硬化させ一振りの刀と同じにする。

首を狙って横に薙ぎ払うと、相手は血を吹き出す。呆気なくも終わりのようだ。

「ふむ。驚きましたね。ワタクシに傷を付けるなんて」

「……」

不気味なことに、この男は血を垂れ流しながらも平気な顔をしている。

「あぁ、気にしなくてもいいですよ。どうせ死なないですから」

「なら死ぬまで殺す」

それが何百、何千とかかろうとも。

 

「……そうですね。『どうやったらワタクシは死ぬと思います?』」

男はそう言い放つ。知れたこと、人間であろうと妖怪であろうと、頭を砕けば死ぬだろう。

私は霊力を右手に込めると男の首をつかむ。この男がどんな能力を持っていようと関係ない。発動する前に殺す。

 

 

 

 

「残念ですよ。あの男に教えられているってのに。この程度ですか」

 

 

 

なんでだろう。

なんで私の拳は当たらないのだろう。

なんで私は地に伏せっているのだろう。

 

何故、私は血を流しているのだろう。

 

 

「さて、そろそろ貴女の能力をいただきましょうか」

そう言って、男は私へと手を伸ばす。何故だろう、この手に触れてはイケナイ気がする。

しかし身体が動かない。何をされたのかわからないけど、上から押さえつけられているような。指の1本も動かせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、妙な気配を感じたから来てみたら。もう終わりなのかしら?」

その声に、やっとの事で顔を向けると1人の女性が立っていました。

その女性は短めの髪を風に靡かせ、見慣れない服装をしていた。赤い格子柄の服。その出で立ちは、強者だという雰囲気が滲み出ている。

「……何方です?」

「恥ずべき無知ね。私を知らないなんて」

それほ私もなのだが、口を開くことが出来ない私は無言でいるしかない。

「その子にはなんの興味も無いけど、貴方は面白そうね」

「……うーん。今、見ての通り忙しいんですが」

「何をするつもりか知らないけど、終わるまで待っててあげるわよ」

そう言うと、崩れた屋台から手頃な木の台を持ってくると、女性は腰をかけた。ホントに私には興味が無いんだろうな。目は男から一切離れていない。

「貴女の相手をしている時間はないのですが」

「知らないわ」

 

その会話を最後に、男の手は私に触れた。頭の上に置かれた手は、まるで死んだ人間のように冷たく、霞様とは正反対の悪意に満ちた手に思えた。

 

「いただきます」

 

何をされたのかわからない。

なにか私の中から抜けていったような。

喪失感はないけれど、明らかに私から『何か』が奪われた。

 

「……さて、貴女にはもう用はないのですが。『死にたいですか』?」

何を言っているんだろう。どこに自ら死を選ぶ人間が居るのだ。

私はお前を殺して、生きる。

それ以外の選択肢なんてあるわけがない。

 

 

 

「考えましたね?『生き残る自分の姿』を」




霞「……おい、バカ作者!!」

作「はい?」

霞「なんだこの展開は」

作「……しょうがないのです。最終回に向けて、避けては通れぬ道なのです」

夢「……なんか大変です!!」

霞「なんか、もどかしいな……」


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※感想にて指摘がありましたので、途中で出てきた人物のセリフを修正致しました。内容に変更はありません。ご迷惑おかけします。



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61話/花と暗闇と殺気らしい

作「今回は余計な前置き抜きで本編です!!」


 

胸騒ぎがした。

 

何か、俺の知らないところで取り返しのつかない事が起きているような。

今まで色々と事件に巻き込まれたりしたが、今度のそれは違う。確信とも言える予感に、俺は神社へと続く階段を駆け下りる。

 

さっきから、人里の気配が『異様』なのだ。

別に結界が張られているわけでもない。

注意しなければ気付かない程度の、ほんの小さな違和感。

だが気付いてしまえば、それはあからさまな程に異質のものとして認識してしまう。

それが夢乃の不在と関係が無いとは言えない。この状況下でそこまで楽観視出来ない。

 

俺は両手を合わせ、穴を開く。スピードを落とさずにその中へと飛び込んでいった。

 

 

 

目の前に広がるのは異様な光景だった。

あたり一面血の海と化し、至るところに人間やそれ以外の死体が転がる。

漂う力の残留から、それが魔力だと気付くのに時間はかからなかった。

なんでコレだけの事が起こっていて、俺は気が付かなかった。

 

いや、今はそんな事を考えている時じゃない。

多分、ココに夢乃は居るのだろう。探さなくては。

 

 

 

その目的はすぐに果たせた。

 

血を垂れ流し、地に伏せる夢乃の姿を捉える。

「……おい、夢乃?なにそんな所で寝てるんだ、起きろよ」

微動だにしない夢乃からは返事がない。いくら呼びかけても、あの明るい声は聞こえてこない。

視界が暗くなる。

「予定外ですよ。まだ貴方に会う時では無かったのに」

ふと、傍らに立っていた男が話しかけてきた。

見た目は俺と大差ない年齢に見える。コイツか?

コイツが夢乃をこんな目にあわせたのか?

「何処の誰だか知らないけれど、私の邪魔はしないでよね」

傷だらけの女性が、崩れた瓦礫の中から現れる。誰だ。

「うーん。流石にお二人を相手にするのは部が悪いですね」

「……貴方の相手は私よ!!」

女性は日傘を刀のように振るい、殴る。

そこいらの妖怪よりかよっぽど速いその動きを、男は簡単に躱す。

すれ違いざまに背中に手が触れると、女性は弾けるように吹き飛んでいった。

「……貴女には興味は無いのですよ」

「……くそっ!」

 

色々な事が頭の中を駆け巡る。

そのどれもが、頭の中で処理をしきれず抜け落ちていくようで。いつの間にか握りしめられていた拳は血が滴っていた。

「しょうがないですね。計画より少々早いですが、貴方の力を頂きましょうか」

頭の中がグチャグチャだ。

男の言葉なんて、耳に入っても意味を理解出来ない。でもそんなことを気にしていられない。

込み上げる怒りをどうすればいい?

「……あー。もうどうでもいいや」

俺は思考を放棄して、両手を合わせる。

「神力、解放」

瞬間、俺の身体から溢れ出る力の奔流は、辺りを吹き飛ばす。

「……おやおや、そんなにこの子が殺されたのがショックですか?」

男は薄ら笑いを浮かべる。気味の悪い顔だ。表情を貼り付けたような、感情の見えない笑み。

「……コイツは……私の獲物よ!!」

背後から先ほどの女性が殴りかかってきた。

どうやらこの男と勝負をしていた様だが、全く相手になっていなかったのを気付いていないのだろうか。

「黙れよ」

俺は振り返り、視線を合わせると四文字の言葉に神力を乗せる。

それだけで彼女は膝から崩れ落ち、額から汗が吹き出す。

「……かっ……?!」

あぁ、呼吸が出来ないのか。

直ぐに終わらせるから、そこで待ってろ。

 

--------------------

 

突然現れた青い着物の男から放たれた言葉は、この私でも震え上がるほど、殺気に溢れていた。

もし一言でも喋ればその命は無い、そう宣告されたかのような錯覚に陥ってしまうほど、男の言葉は重く響いた。

なんなの、コイツらは。

片や私を赤子のように相手をし、片や私を言葉だけでひれ伏せさせる。

青い着物の男からは神力を感じるから、どうやら神だと推測出来るけれど。これだけの量の神力は、長く生きた中でも初めてだ。

男からの圧力で、呼吸もままならない私は、辛うじて手放さない意識の中、自分の身すら守ることも出来ずにただその場に崩れ落ちているしかなかった。

 

「さて、初めまして、と言うべきなのでしょうかね」

「お前みたいな奴は知らねぇよ」

男達の会話は、その一言一言に殺気が込められ、その度に私からは汗が吹き出る。

「おや、お忘れの様で。ワタクシ、1度ご挨拶はさせていただいたんですが」

「……これから死ぬやつの名前を覚えてられるほど、俺の頭には空きは無いんだよ」

青い着物の男はどこから出したのか、一振りの刀を取り出す。抜き放たれた刃には神力が行き渡り、その身を青く光らせている。その純粋までに研ぎ澄まされた殺意と神力で、不覚にも美しいと思ってしまった。

「では改めて。ワタクシ、無明と申します」

男達は1歩ずつその距離を詰めていく。

「お前を殺す神だ」

「おやおや。創造神様ともあろうお方が、たかが小娘一人にそこまでお怒りになられるとわ」

「……お前、もう喋るな」

二人の距離は伸ばせば触れられるほど近づいた。無明と名乗った男からは、なんの力も感じないのに、何故あの神力の圧の中平気でいられるの?

「それでは、いただきます」

「全力で遊んでやるからかかってこい」

 

その言葉を残して、二人の男の姿は私の視界から消えてしまった。

 

 

-------------------

 

突然走り出した霞を追いかけて、人里へとやって来た私は、一歩踏み入れた瞬間に霞のものであろう神力の渦に飲み込まれた。

「な、何よこれ!?」

なんで霞は神力使ってんのよ。

しかもかなりの量を解放しているし。

なによりも、わからないのは『人里に入るまで』霞の力に気付かなかった事。

妖力や霊力、ましてや神力も感じない。何も感じないのに、一枚薄い膜がかけられているような。

「と、とりあえず霞!!」

 

そうして私は再び駆けて行った。




作「次回、初めて霞さんが本気になりますよ」

夢「あれ?私、死んじゃったんですか?」

霞「いや、だとしたらココに出てきちゃマズイだろ」

作「まぁ、その辺も次回あたりわかりますよ」



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62話/Kill or Die

作「はい、酒を飲みながら書いてます」

霞「大丈夫なのか?」

作「とりあえず、友人は1発殴りましたよ?」

霞「そんな心配してねぇよ」


鋭い金属音が辺りに響き渡る。

神力を纏った夜月を振るって、何度も斬りつけているはずなのに、男はその度に何事も無かったかのように起き上がり、右手をコチラに伸ばす。

どうやら何か能力と関係あるのか、執拗に右手で俺に触れようとする。

そんな見え透いた策に態々乗ってやる必要は無い。

要は右手に触れなければいい。常に相手の左側へと移動し、触れそうになれば穴を開いて躱す。そんな事を続けて早くも10分程が経っただろうか。この状態にまでなっているのに、コレだけ時間がかかったのは初めてだ。

「うーん。そろそろ時間もありませんし、終わらせましょうか」

「ならさっさと死ね」

俺は夜月を両手で構える。なりふり構ってられるか。

この辺り一体ごとコイツを断ち切ってやる。

「断ち切れ!夜づ……」

「遅いですよ」

突然、男は俺の視界から消えた。

今の俺が視認出来ないなんて、本来ならば有り得ない。

しかしその有り得ない事が、現実として目の前で起こっているのだ。

そして俺の肩に手が置かれた。

「マズはその有り得ない程の神力をいただきます」

そう言うと、俺の身体から神力が抜けていく。何だ?何をした?!

俺は無理矢理身体を捻り、男の手を振りほどく。辛うじて飛び退き間を取るが、全身を襲う倦怠感に似た疲れから、思うように動けない。

「……流石ですね。まさか1度では全てを奪えないとは」

「……それが、お前の能力か……」

夜月を杖のように突き刺し、身体を支えると、男を睨む。コイツの能力は『相手の力を奪う』能力の様だ。

 

そう、奪われたのだ。俺の神力を。

なら奪われた力はどうなる?

 

「これが神の力ですか。なるほど、これなら妖怪や人間が太刀打ち出来るはずもありませんね」

男から溢れる青く光る神力。

「……テメェ。何が目的だ」

「ふむ。目的……ですか」

そう言うと男--無明と言ったか--は顎に手を当て考える。

「特にありませんよ」

「……ない、だと?」

なんの目的も無く、こんな事を起こせるのか。無残にも人を殺せるというのか。

「目的も目標も野望も、夢も希望もありません。しかし何も無いからこそ、挫折も絶望も味わうことが無い。それでいいじゃないですか」

「テメェが良かろうが、それを他人に押し付けるな」

神力を奪われ、神様モードを維持出来なくなった俺は、遂には人間へと戻ってしまう。

「私は押し付けてなどいませんよ。周りが勝手に挫折し、勝手に絶望しているのです」

それを押し付けと言うんだよ。

残った霊力は、この男と対峙するには余りにも心許ない。恐らく、数分と持たずに、残りの力も奪われてしまうだろう。

長く生きて、神力と霊力が無くなってしまう状況などなったことは無いが、多分無事では済まないだろう。

それに、力を失った俺を生かしておく必要が、コイツにあるとは思えない。

少なくとも、死にはしないが。

 

出来れば夢乃だけでも場所を移動させたいんだが。そんな隙を見逃してはくれないだろう。

なら、多少傷を受けたとしても穴を開くべきか。

 

そんな事を考えている時だった。

 

 

 

「霞!!」

 

俺を呼ぶ声がした。

振り返らなくてもわかる声の主。その声は、俺にとって僅かながらに安心感を与えてくれた。

「姫咲!!夢乃を頼む!!」

俺は辛うじて両手を合わせる。隙なんかいくらでも突けばいい。いくらでも俺から力を奪えばいい。

「行けぇっ!!」

「わ、わかった!!」

 

 

 

「まったく。油断してしまいましたよ」

心にもないようなセリフを吐く。いけ好かない野郎だ。

でもこれで、心なしか気分は軽くなる。

依然余裕なんか微塵もない状況だが、それでも覚悟を決める隙間は心に出来た。

「さて、残りも頂きましょ……?!」

多分、俺は笑っていたんだろう。男の目には不可解なモノを見るような色が映った。

「何が……可笑しいのですか?」

「……可笑しい?いや、全く。今にもぶっ倒れそうで、死ぬ程疲れてるよ。でも……」

残りカスの様な霊力を全身へと巡らせる。やっとの事で背筋を伸ばすと、空を見上げた。今になって気が付いたが、今日は雨が降りそうな、厚い雲に覆われた空だったんだな。

「覚悟は……決まった」

夜月を構える。神力を失った夜月は、その能力すら発動できない。恐らく強力な一撃を加えられれば、簡単に折れてしまうだろう。

「遊んでやるから……かかってこい」

「減らず口を」

そう言って迫る右手。どうせこの体力では躱すことなど出来ないのだから、くらう覚悟を決める。

「欲しけりゃくれてやる!!」

顔に触れた右手を意に介さず、俺は夜月を横に薙ぐ。

腹に触れた刃は、微かな抵抗もなく光の軌跡を残して、振り抜かれた。

 

 

 

 

 

「と、最後の一撃も虚しく終わりましたね」

全ての力を奪われた俺は、動く事も出来ない身体を横たえ、俺は無明を見上げる。

確かに胴を両断した筈なのに。何故、コイツは生きているんだ。

何故、傷一つ無いんだ。

「さて、これでやっと貴方の能力をいただけますね」

「……な、に?!」

力だけでなく、能力まで奪えるのか?!

……なるほど、夢乃の能力を奪ったわけだ。だから、俺の『予想を上回る』結果に辿り着くはずだ。どんなに無心で戦おうとも、少なからず予測をたててしまう。そして夢乃の能力はその予想や予想を確実に超えてくる。ならばコイツが無傷なのも納得がいく。

「……いただきます」

無明の手が俺へと伸びる。

俺の能力。『あらゆるモノを創造し操る能力』を奪うつもりだったのか。

だが、こんな奴に奪われてしまえば、この世界は一体どうなってしまうのだろうか。考えられる最悪の結末が、一瞬にして頭の中を駆け巡った。

 

 

 

眩い光が辺りを照らす。

まるで太陽そのものが目の前に降り立ったような、目を開いていられないほどの光は、俺と無明の間を遮るように降り注ぐ。

「これ以上、父上様に手出しはさせません」

……最初は天照かと思った。コレだけの暖かい光と神々しさは、俺の知っている中でも多くはいない。

「……これはこれは。まさか貴女様がお出でになるとは予想外です」

しかし俺の予想は大きく外れた。

何億年ぶりだろう、コイツに会うのは。

あの頃からちっとも成長していないその姿は、懐かしく思う。

「……龍……神?」

「大丈夫ですか?父上様」

真っ白な着物を身にまとった姿を見ると、俺なんかよりもよっぽど神様らしい。

「遅くなってしまい、申し訳ございません。何分、準備に手間取ってしまいまして」

「お次は貴女がお相手をしていただけるので?」

龍神からは感情が読みにくい。元々表情豊かとは言えない龍神は、よりその感情に蓋をしているようだった。

「……いくら私といえ、父上様をここまで追い込んだ相手に勝てると自惚れるつもりは、毛頭ありませんよ」

「……そうですか。ならば貴女も…「そう、『一人で勝てる』とは思っていませんよ」……?!」

突如里を覆う大量の神力。無数に点在する星が全てココに落ちてきたのかと思うほどの、眩い光と共に舞い降りる者達。

「ですから、『この世界の神々』全てが、お相手を致します」

「な……!?」

そこに現れたのは日本だけに限らず、まだ見ぬ神々の姿。

西洋やアジア、邪教と言われる神まで降り立っていた。

「なるほど。全ての神ですか」

「当然です。この世界の創造神が命の危機に瀕しているのに、立ち上がらぬ神などおりません」

コレだけの神が俺のために集うとは、創造神をやっていて良かったと初めて思った。

「父上様!!」「霞!!」「霞様!!」

聞き慣れた声に、持ち上がらない頭を恨みながら目線だけ向けると、俺に駆け寄る天照と諏訪子、神奈子の姿が見えた。

「い、今神力を注ぎます!!」

天照は俺に両手を翳し、ありったけの神力を注ぎ込む。

暖かい光が全身に行き渡るようだ。

「龍神よ、この者が創造神たる霞様をここまで追い込んだと?」

「えぇ、そうですよゼウス」

おいおい。ギリシャ神話の最高神まで居るのか。

「どうやら創造神様の力を奪ったようだな」

下半身が蛇の女性までいる。何処の神だろう。

「あの方は大陸の女神、女媧様ですよ」

うわぁ。中国の神様なの?なんで蛇なの?

「……流石にコレだけの数の神を相手にするのは、骨が折れますね」

「お主に逃げ場はないぞ。この世に生きる限り、全ての神からその身は見張られ、逃れることなど叶わぬ」

流石ゼウス。その口調は威厳が感じられる。

「そうですね。ならば『この世』から逃げさせて貰います」

そう言うと無明は何も無い空中で手を払う。すると空間は裂け、何処かで見たことのあるような異空間が見えた。

「な……なんで……」

漸く身体を起こせるまでに回復した俺は、諏訪子と神奈子に支えられ、無明の開いたスキマに驚く。

「なんでお前がその能力を使える!!」

「……おや、本当にお忘れなのですね。過去に貴方とお会いした時のことを」

「過去に……会っただと?!」

いつだ。いつ、コイツに会った。

「ふふ。思い出せると良いですね。……それでは皆様、またお会い出来る時を楽しみにしていますよ」

そう言って無明はスキマへと足を踏み入れた。

徐々に閉じられていくスキマ。俺は必死に手を伸ばすが、届くはずもなく。無情にも俺の手は空を切るしか無かった。

「ふざけんな……ふざけんな!!」

 

 

 

 

そこで俺は、緊張の糸が切れてしまったのか。辛うじて繋いでいた意識を手放してしまった。

薄れていく意識の中で、最後に見たものは、『安心してください』と口の形で理解出来た龍神の優しい笑顔だった。




作「はい、次回でこの章は終わりです!」

霞「なんかこの章の始まりと比べると、一気にシリアスになったな」

作「狙い通りです」

霞「酒の入った頭で良く書けたな」

作「いや、流石にガッツリは飲んでませんから」

夢「あのー。誰か私の心配してくれませんか?」




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63話/声の届く限り……らしい

今回でこの章は終わり!



霞が開いた穴を抜けると、そこは見覚えのある竹林だった。

私が駆けつけた時には、あんなに追い込まれていたっていうのに、良くもまぁ咄嗟にココを思いついたわね。

私は傷だらけの夢乃を担ぎ直すと、迷いそうになりながらも竹林を走る。いくらあの女でも、早く向かわなければ治るものも治らないでしょう。

この子がまだ助かるなら、の話だけど。

「……まったく。世話が焼けるわ」

 

 

 

「あの者は……何者なんです?」

意識を失った霞様を一先ず神社へと運び、天照様が治療を続けている。私は治癒術や神力の細かい作業は苦手な為、この場合は戦力になれない。

「それは父上様が目を覚ましてからお話しますよ。八坂神」

初めて目にする龍神という神。天照様が言うには、霞様からこの星を管理するよう言い渡された、つまりは霞様の次に位置する神だという。

そんな方と言葉を交わすことすら、本来ならば私如きでは出来ないのだが。

それに、世界各地の神々ともこうやって相見える事も無いだろう。改めて、霞様がこの世界の最高神だと感じさせられる。

 

だが、逆に言えば、あの男はその最高神をここまで追い込んだという事だ。私1人では凡そ勝つどころか傷一つ付けることも出来ないだろう。

圧倒的なまでの神力を持ち、不可能な事すら無いと思っていた霞様。

その霞様が神力を奪われ、自らの社の巫女すら守れないとなると、あの男の異常さ、異様さが際立つ。

「……母上様、父上様がお目覚めになられました」

と、奥の間から天照様が姿を現した。よほど神力を使ったのだろう、その顔からは疲れが見えた。

「そうですか。では我々も奥の間に」

そう言って、龍神様は立ち上がり、歩を進めた。

一体、この世界に何が起きているのだろう。

私や諏訪子ですら抗えない、畝りに似た運命とも言える流れが、急激に変わったような気がした。

 

 

 

布団の上で目が覚めると、そこには疲れきった顔の天照と、今にも泣きそうな諏訪子がいた。

その奥に見えるのは見覚えのある天井。どうやら此処は博麗神社らしい。

目が覚めたのに気が付いた天照は、突然抱きつき、涙を流す。

いや、苦しいんだが。

そんで諏訪子、お前はガチ泣きしてんなよ。

 

漸く落ち着いた天照は、向こうの部屋に龍神がいると教えてくれた。その言葉で、俺は気が付く。

そうだ、俺は負けたのだ。死のない身体で死を覚悟し、それでも足りず力を奪われた。

それに、夢乃も。

あの時、まだ夢乃に息があったかどうかもわからない。それでも何も出来ないよりは、と思って姫咲に頼み永琳の下へと送ったのだが。どうなったのだろうか。

「お久しぶりです。父上様」

「龍神か……」

襖を開き、現れたのは龍神と神奈子。長い間会っていなかったが、変わらないその姿に、何故か安心感を覚えた。

「すまなかったな。今回は……助かったよ」

「いえ。もっと早くに来ることが出来れば良かったのですが……」

多分、世界中の神に招集をかけたために遅くなったと後悔しているのだろう。確かに、アレだけの神が居ても、状況が好転したとは思えないが。それでも俺が助かったのは事実だ。

「龍神は、あの男を知っているのか?」

「……申し訳ございません。詳しくは私でも解りかねます」

俺の次に位置する龍神ですらわからないとは、それだけで気味が悪い。

「ただ、父上様はあの男に1度会って……アレを会うと言っていいのかわかりませんが。お会いしているのですよ」

「アイツに……会っているのか?」

そんな覚えは無いのだが。コレだけ俺を圧倒する様な奴だ、1度会えば忘れるわけがないし、何より俺以上の人間など存在すらしないはずだ。

「その昔、都に大量の妖怪が押し寄せた事件を覚えていらっしゃいますか?」

「……」

都には何度か訪れた事はある。

だが、都に妖怪が押し寄せるとなると、多分アレだろう。

「神子と出会った、あの時か」

「はい。豊聡耳神子と呼ばれる人間とお会いになられた時です。その時の事件の首謀者があの男のようです」

…………思い出した。

確かに俺はアイツと言葉を交わしている。

「紫達を操っていた奴か」

「……はい」

なるほど。ならばあの時、紫から能力を奪ったのだろう。だからアイツはスキマを使えたのだ。

なら何故紫は生きていた。能力を奪われたら死ぬんじゃないのか?それとも奪われた能力は、本人からは失われないのだろうか。

「詳しくはわかりません。ですが、あの男は各地で幾つもの能力を奪っているようです」

「……何が目的なんだ」

奴は言っていた。目的など無いと。だが、何もなく能力を奪う事などしないだろう。

「……くそっ」

考えてもわからない。頭の中はグルグルと同じ疑問と回答が回る。

今回、奪われたのは夢乃の能力。そして俺の神力。

その2つだけでも、その気があれば世界は崩壊してしまう。だいたい、アレだけの神を簡単に殺せるであろう男が、あの場から逃げたのも解せない。

「……今はお休みになられるべきです。些事は我々にお任せください」

俺は身を起こす。流石に天照たちに回復してもらったとは言え、まだ多少は傷が痛むし、倦怠感が抜けない。

それでも……。

「まだ俺にとって今回の事件は終わってないんだよ」

 

そう言って、俺は両手を合わせた。

 

 

 

 

「驚いたわ。あの子がいきなり女の子を担いでくるんだもの」

俺を迎えてくれたのは、この世界での一番古い友人である永琳だった。

ここは永遠亭。姫咲に向かうように穴を開いた先にある。

「すまなかった。……それで、あの子は?」

「こっちよ」

俺は奥へと案内される。鼻をさす薬の匂いが部屋中に充満している。

幾つかの部屋をすぎると、永琳は足を止めた。

「一応、やれるだけのことはやったわ」

 

襖を開けると1組の布団が敷かれていた。そこには神妙な顔の姫咲と、眠るように目を瞑る夢乃がいた。

「霞……」

夢乃からは生気が感じられなかった。

だが死んでいるわけではない。能力が関係しているのだろう。

夢乃と無明の『予想を超える程度の能力』が反発し合い、死んでもいないが生きてもいない状態になっているのだ。

「身体の方は完璧に処置した」

「ありがとう」

永琳に礼を言うと、俺は夢乃の側へと近寄った。

夢乃は安らかな息をしつつも、その眉間には皺がより、苦しそうな表情をしている。

「……ここからは俺がやる」

「できるの?今の貴方に」

どうやら、完璧に回復していないことは永琳にも、姫咲にもわかっているようだ。でもそんな事を言っている場合じゃない。

夢乃がこうなったのは、結果的に見れば俺のせいでもあるのだから。

「できるか、じゃない。やるんだよ」

そう言って俺は両手を翳す。

天照に分けてもらった神力を、直ぐに使い切ってしまいそうだが、今は時間が惜しい。俺の回復を待っているなんて、出来ない。

「……帰ってこい。夢乃……!!」

 

--------------------

 

暗い海の中を漂っている。そんな気分でした。

上も下もわからない、何も無い世界で。私は抗うことも出来ず、流れに身を任せて、このまま『死』が私を迎えに来るのを待つしかありません。

流れは右に流れたと思えば、今度は左へと戻され。一向に沈みゆくこともなく、それでも浮かび上がることもない、宙に浮かんだまま、その場に留まっていて。

私は次第に何も考えられなくなっていました。

思い出されるのは霞様や姫咲さんとの楽しい思い出。多分、これが走馬灯と言われるものなんでしょう。

「……霞……様」

辛うじて動かせた右腕を伸ばしても、そこはやはり暗闇で、なにも触れる事なく空を切ります。

……あぁ。もう少し。もう少しだけ、あの日常の中で生きていたかった。

出来ることなら、もう一度だけ、霞様にお会いしたかった。

 

「迎えに来たぞ。夢乃」

 

懐かしい声が聞こえた気がしました。暖かい光のような、私を包み込むその温もりは、間違うはずもないあの方のもので。

「……霞様……?」

「……俺を信じろ」

そう言って、霞様は腰に差す刀を抜き放ち、私に向けました。

何をするつもりなのかわかりません。でも、何をするのだろうと、私は霞様を信じています。

「……すまなかった」

何故か霞様は悲しそうな顔をしています。何故謝るのですか?

寧ろ私は感謝をしなければならないのに。

幼い私を救っていただき、ましてや大切な巫女という大役まで任せていただきました。

私の人生は、霞様と出会ってから一変したのです。

世界はこんなにも明るいのだと、教えてくれたのは霞様なのです。

だから……。

 

「だから……泣かないでください」

 

そう言った私の身体を、刃は通り抜け、その瞬間に視界は光で埋め尽くされていきました。

 

 

 

--------------------

 

「何をしたの?」

夢乃は漸く生気を取り戻し、今度こそ安らかに眠っている。その顔は先程のように苦しげな表情をしていない。

「……全ての能力を断ち切った」

あの男から受けた影響も、夢乃自身の影響も。

その結果、夢乃を縛っていた反発し合う能力は消え去り、また夢乃からもその力は失われた。

「……そんな事をして、大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないさ。魂自体に絡みついた鎖を無理やり切ったようなもんだ、最悪の場合、夢乃はその命になにか変化を起こしてしまっているかもしれない」

例えば、強制的な不老不死。

命を縛る鎖を切るのだから、その可能性は十分にある。

「……それ以外、無かったの?」

姫咲の表情は険しいものだった。

「俺には、それしか出来なかった」

 

俺がこの世界に降り立った時から決めている事がある。

それは人の寿命には絶対に手を加えないこと。

俺が助けるのは、まだ死ぬ時ではない場合。それ以外は決して命や寿命には手を出さなかった。

それなのに今回、俺は自ら決めた戒めを破った。それが夢乃の為だとしても、許される事じゃない。

「……まったく。神様失格だな」

 

あの時。神子と出会ったあの都で、あの男を倒していれば今回のような事は起きなかっただろう。

あの時、全てを終わらせていれば、夢乃を危険に晒すことも無く、今も縁側で並びお茶を飲みながら、他愛もない話をしていただろう。

何が創造神だ。

結局、救えた命なんてほんのひと握りで、失ったものの方が余りに大きいじゃないか。

 

 

 

 

 

こうして、俺と姫咲は夢乃の前から姿を消した。

後の治療は永琳に任せ、俺達は再び旅に出た。

 

もう、夢乃に会うことも無いだろう……。

そう決意をしながら。




作「はい。シリアスで終わり!」

霞「いや、後書きで一気に空気が変わりすぎだろ」

夢「私、生きてたんですね!!」

作「……生きてますけど。不老不死になっちゃいましたよ?」

霞「……」

夢「?ダメですか?」

作「……まぁ、不老不死なんてなるもんじゃないですよ。親しい人の死を見続けて、自分は老いることも死ぬことも出来ない。そんなの辛すぎますよ?」

霞「俺は夢乃をそんな目に合わせたくなかったのに……」

作「あぁ!!ほら!そんな落ち込まないで。次からは少し、他の目線での話になりますよー!」



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幻の理想郷らしい
64話/後悔と決意


はい、新章!!


いつか、あの人が言っていた。

後悔しない生き方は理想だけど、理想は得てして実現不可能だ。

確かに、私の人生は後悔しっぱなしだった。

自分を過信して、そのくせあの人を頼って、挙句には全てを失った。

戻れるならばあの日に戻りたいと、何度思っただろう。

幾年月流れて、その思いは強くなるばかりで。

しかし、幾ら願おうとも叶えられるわけもなくて。自分の無力さに辟易する。

 

「いやぁ、こんな鉄の塊が動くなんて、驚きだわ」

すれ違う見物人達は、目の前に広がる景色に浮き足立った感想を述べている。

汽車と呼ばれる鉄の塊は、ここ新橋から横浜へと走るらしい。

私はこれに乗って、もう何度目かの横浜へと向かう。

席に座ると少ない手荷物を抱えて、窓の外を見る。どれだけ時代が変わろうとも、人間という生き物の根本は変わらない。一目鉄道というものを見ようと押し寄せた人並み。見慣れないもの、不可解なものに、人は興味を惹かれる。しかしながら、その全てが受け入れられる訳じゃなく、その大半は拒絶されるものだ。

それが長年生きてきた私の持論であり、この世の真理だと思う。

 

「お隣、よろしいですか?」

走り出した車窓を眺めていると、突然声をかけられた。紫色の綺麗な洋服を着た女性。外国の人だろうか、金色の髪がとても綺麗。

「……えぇ、どうぞ」

「ありがとう」

優雅なその出で立ちに、思わず見とれそうになるのを抑えて、私は席を譲る。

「横浜へは旅行か何かですか?」

「……いえ。人を……探していて」

何故か口から零れたセリフに、自分で驚く。なんで私は初対面のこの人に喋ってしまったのだろう。

「なるほど。どうやらその人はとても大切な方の様ですね」

「そうですね……とても、大切な恩人です」

あの日、私の目の前から忽然と消えてしまったあの人。あの人が居なければ、今の私はいないと断言出来る。

「良ければ、聞かせてもらえませんか?」

「え?」

女性は、何処から出したのか小さな蜜柑を一つ、私に手渡す。

「時間はありますから、思い出話を一つ」

「……そう、ですね」

どれ位かかるのかわからないけれど、思い出話をする位には猶予もあるんじゃないだろうか。

握られた蜜柑からは甘い香りが漂って、どこか懐かしいような気がした。

 

 

「……そう。その人はとても凄い方なのね」

「えぇ。私には出来ないような事を平気でして、とても自由な人でした」

少しずつ、私から語られる思い出は、色褪せていた私の世界に色を取り戻していくような。そんな気分になれた。

「とても、楽しそうにお話になるわ」

「そう……ですか?」

「えぇ。お話をしている間、ずっと笑顔でいたもの」

そうなのだろうか。自分でも気付かなかった。

そう言えば、最後に心から笑ったのはいつだったろう。

いつしか固くなっていた筋肉は、久しぶりに使われたからか少し痛い。

「さて、そろそろ着く頃かしら」

どうやら長く話していたようで、景色は変わり、潮の香りが鼻をつく。

港町である横浜に近づいたみたい。

「そうみたいですね。……あっという間でした」

「ふふ。では貴女の大切な思い出を聞かせてもらえたお礼をしなくてわ」

そう言うと、女性は綺麗な顔を近づけてきた。うっすらといい匂いがする。香水、というものだろうか。

「貴女の探し物、きっとこの街で見つかるわ」

「え?」

耳元で告げられた、予言とも言える言葉に私は驚く。この人は何を言っているのだろう。

 

そもそも、なんで私はこんなにもこの人に話してしまったのだろう。見ず知らずの、ほんの数時間前に出会ったばかりの人に。

「貴女は……いったい」

女性は姿勢を戻し、取り出した扇子を広げた。薄い紫色に染められた綺麗な扇子で口元を隠すその姿は、何処かの絵のように様になっていた。

「私の名前は……」

その瞬間、突然の風が汽車の中を吹き抜けた。

いきなりのことに驚いて目を瞑ってしまい、瞼を開けるとそこに女性の姿は無かった。

余りの出来事に、まさに開いた口が塞がらない状態の私に、何処かから声が聞こえた気がした。

『八雲紫』と。

 

----------------

 

 

「さて、あとはあの人を見つけるだけね」

汽車から下りた私は、近くで待っていた式の藍と合流した。流石九尾の狐、言われた仕事を完璧にこなす。

「ですが紫様。本当にその方はココにいるのでしょうか」

「勿論。どれだけ霊力を隠そうとも、どれだけ神力を隠そうとも、私が見つけられないわけ無いじゃない」

実際は凄く苦労したけれど、式の前では少しくらい強がってみる。

ホントに、あの人が本気で隠れようとしたならば、恐らく普通の方法では見つけられないだろう。なんせ不可能を可能にするのだから。

あの人との約束が、もうすぐ果たせるところまで来た時、日本の何処にもあの人の気配がしない事に気が付いた。

今までならば、何処にいてもあの人の居所は直ぐにわかったし、むしろ探さなくても嫌という程目立つその力は、さすがと言わざるを得ない。

それがプッツリと断たれてしまった。まるで最初から存在しなかったかのように。

胸騒ぎがした私は、必死になってあの人を探したわ。だって、約束は守ってもらわなきゃ。この私を残して居なくなるなんて、絶対に許さない。

方々に手を伸ばし、あらゆる手段を用いて探した結果、どうやらこの横浜にいるとわかったのは、つい先日のこと。

「……ほんとは?」

「……かなり苦労したわ。だってあの天照ですら分からないって言うのよ?!」

あの父親大好きな娘が見失うなんて、本来ならば有り得ないはなし。

そこまでして、あの人は何がしたいのだろう。

「ま、会ってみればわかる事ね」

まったく、人騒がせな師匠だわ。これは会って一言言ってあげないと。

「あの子の為にもね」

 

 

-------------------

 

「……いつまで寝てるつもりよ」

心地よい眠りの世界は、頭にくらった1発で見事に崩壊して、俺は現実へと強制的に連れ戻された。

「……んぁ。おはよう」

「……もう昼よ」

どうやら寝過ごしたらしい。窓の外は眩いばかりの光に溢れていた。見れば柱に架けられた時計は昼の1時を指している。

「お昼、作ってあるわよ」

「……お前が作ったのか?」

「何か文句が?」

不機嫌に睨まれるが、目覚めにあの飯は御免こうむる。

「あー。そうだ、ちょいと用事があったんだ。出かけてくるよ」

「……食べていくわよね?」

がっしりと掴まれた肩は、有無を言わせないと物語っている。どうやら拒否権は無いらしい。

「胃薬用意してからでも……いい?」

「無理矢理流し込まれたいなら」

自分が作ったくせに、その扱いでいいのか?

「……幾らなんでも、こんだけ生きていれば自分の腕位理解出来るわよ」

「それでも作ったのは、つまりは嫌がらせか?」

「あら、よくわかったわね」

長い時間は、どうやら性格を捻じ曲げてしまうらしい。目の前にいるコイツがいい例だ。

「……はぁ。いつもの所で用意してもらってるから、早く行くわよ、霞」

「はいはい」

先を行く姫咲を追って、俺は部屋を出る。

なんとも、今日は厄日な気がしてきた。

 

「早くしてよ、お腹すいてるんだから!」

 




紫「師匠〜!?何処ですか〜!!」

藍「ちょ、紫様。そうやって叫びながら探すんですか?!」


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65話/闇夜と予感らしい

作「さぁ、新章2話目」

紫「ほら、作者!さっさと師匠が何処にいるか喋りなさい!!」

作「や、やめて!!死んじゃうから!!」

紫「アンタよりも師匠の方が大事!!」

作「……ぐふっ!!」

紫「あっ…………」


磯の香りを感じながら、港町を抜けていく。

時代は明治になり、この辺りは昔に比べたら随分と様変わりしたが、まだまだ古い町並みのままな部分も残っていた。

「さて、あの予言を信じるならココに居るんだけど」

汽車の中で出会った女性から告げられた予言。探しているあの人は、この地にいる。

幾度となく繰り返される疑問が胸に込み上げる。私はあの人に会ってどうしたいのだろう。

傷つけてしまったことを謝りたい?

突然居なくなったことを怒りたい?

それとも--

答えの出ない問はグルグルと頭の中を巡り、結局は会ってから考えようと、同じところに落ち着く。

 

どうして居なくなってしまったのだろう。

 

「とりあえず、先ずは聞き込みね」

そう言って、私は手近な茶店に入る。

必ず見つけ出すんだから。

 

 

 

-------------------

 

「はぁー。食った食った」

いつも世話になっている定食屋から出ると、春の日差しが明るく照らす。雲一つない空は、渡り鳥が気持ち良く飛んでいた。

「今日もやるの?」

「んぁ?当たり前だろ」

この街にやってきた理由。それは奴を探すため。

あの日以来、姿を消したあの男を見つけ出し、この手でケジメをつけるために、俺は態々アイツらから姿を消したんだ。

これ以上、誰も傷つけない様に。何も失わないように。

「でも、長い事ココに居るけど、なんの手掛かりも見つからないわね」

長く生きた割に、身体が成長しない姫咲は言う。確かに、横浜に来てからもう何年経っただろうか。そろそろ、周囲の人間に怪しまれるかもしれない。どれだけ経っても老いることのない2人として。

「まぁな。そろそろココも離れないといけないかもな」

今度は何処に行こうか。港町と言うことで、色々と情報が集まるだろうとここに来たが、アテが外れてしまった。

 

それにしても、今日は何故か面倒臭い事が起きるような気がする。

この感覚は久しく感じなかったが、何が起こるというのだろう。

 

 

-----------------

 

「師匠〜。何処ですか〜?」

今、私の目の前を歩くのは、私が最も尊敬する主。八雲紫、その人のはず。恐らく……きっと。

「ん〜。ここ?」

そう言って開いたのはゴミ箱の蓋。いや、貴女の師匠はそんな所にいるんですか?むしろ居たとしたら幻滅ものですけど。

 

紫様の式となってから、どれ位経ったかわからないけれど、こんな紫様は初めて見た。確かに、その師匠と呼ぶ方の事になると、紫様は異常なまでに執着していたし、その語り口から唯ならぬ想いを持っていると、容易に推測できる。出来るが……。

「ほら、藍!貴女もちゃんと探しなさいな」

「いや、紫様……。私はその神条様を知らないのですが」

私の知る神条という男の情報は、紫様から語られるモノだけで、その外見すらわからない。知っているのは青い着物と白い羽織。それ位だ。

「……ここか?!」

「紫様。紫様の師匠はそんな肥溜めに居るんですか?」

「……可能性は……あるわね」

どんな人物なのだろう。悪い意味でも凄く気になってきた。

 

------------------

 

海風を浴びながら、懐からタバコを取り出し火をつける。

大小様々な船が並ぶ港を眺めながら、ふと昔を思い出していた。

ルーミアに紫、美鈴や夢乃。諏訪子や神奈子など、沢山の出会いと、それらとの繋がりを断ち切った俺。

今頃彼女らはどうしているのだろうか。

ルーミアは元気にしているのだろうか。

紫は今も夢を叶えるために頑張っているのか。

美鈴は今頃何処かを旅しているのか。

そして……。

「夢乃は俺を恨んでいるんだろうな」

「……さぁ。あの子の事だから、恨んでないかもね」

姫咲は気にもしていないような素振りを見せる。

「そんなに気になるなら、会ってあげればいいのに」

「……そうはいかんだろ。俺はあの子の人生を変えてしまったんだから」

俺のせいで、夢乃は不死になってしまった。不死とは、聞こえはいいかもしれないが、なってみれば分かる。なるべきものじゃないと。

親しい者の死を常に見続けなければならない孤独、それは想像を絶する苦しみだ。同じ不死である俺がそうだから。

「……そう。でもそれは私に言うべきじゃないわね」

「わかってるさ。姫咲に言っても、ただの言い訳にしかならない。いつか、アイツに会って自分の口で話すさ」

何時になるかわからないけれど。

 

「でも、その前にやるべき事をやらないとな」

次第に暗くなり、世界は夜を迎えた。

辺りは静まり、人ならざるものの世界へとその姿を変えていく。

最近では、めっきり少なくなった妖怪達も、しかしながら滅んだわけでもなく、確かに存在していた。

そこかしこにあるより深い暗闇からは、微量ではあるが妖気が感じられ、今にも人間を襲おうと息を潜めている。

「まったく、時代は変わっても妖怪は変わらないか」

「当たり前でしょ。人間が変わらないんだけら」

流石、妖怪の頂点とも言える姫咲が言うと説得力がある。

「さぁ、遊んでやるからかかってこいよ」

そう言って、俺と姫咲は深い闇へと潜っていった。

 

------------------

 

「紫様、どうやらこの近くで妖怪の気配がどんどん消えていってます」

「そうみたいね」

もしかすると師匠だろうか。でも霊力も神力も感じられない。

どちらも使うことなく妖怪を相手することが、果たして出来るのか疑問だけれど、なんとなく師匠ならば出来てしまう気がしてならない。

「とりあえず行ってみましょうか」

「かしこまりました」

私は微かな期待を胸に、暗い夜道を音も立てずに駆けていく。

師匠、待っていてください……。

 

-------------------

 

「この気配は?」

宿を見つけ、一息ついていた頃、辺りから消えていく妖気に気が付いた。それらはあまりにも小さく、いつもならば気にもとめなかったけれど、ここはあの人が居るという横浜。もしかするとあの人が関わっているのかもしれない。

それに、消えていく妖気とは逆に、余りにも大きな妖力が二つ、この街を駆け抜けていた。

 

いったい、この街で何が起きているのだろう。

良くない予感と、あの人がいるかもしれないという期待は、私の身体を動かすには十分だった。

 

「霞様……!」

 

 

 

------------------

 

「どうやら、面白くなりそうですね……」




藍「………………あ、どうも。紫様の式、八雲藍だ」

作「いやー、死にかけた!」

紫「ちっ……」

藍「紫様?そんな扱いで良いのですか?」

紫「いいのよ、どうせ死んでも復活するし」

作「流石に泣きますよ?」

藍「……なんか不憫な扱いなのに、不思議と同情出来ない」


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66話/師匠と弟子

作「どうも!ナマモノ代表しおさばです」

霞「こんな奴がナマモノ代表とか、世も末だな」

作「なにを?!」

霞「いっそのこと焼いちまおうか?」

作「やめて!ただの美味しい焼き魚になっちゃう!!」

霞「定食のおかずめ」

作「定食?!ご飯と味噌汁つきなの?!ご飯おかわり自由なの?!」


「おら、次!」

向かってくる妖怪を蹴り飛ばし、次を迎える。光の届かない、暗い路地裏で俺と姫咲は戦っていた。

文明開化以来、少しずつ弱体化しつつある妖怪は、その数を減らしていた。

だが、その代わりに妖怪達は生き残るため、より凶暴に人間を襲うようになった。

俺たちは、各地を巡り、あの男の情報を集めると同時に、こうやって妖怪共を討伐していた。

 

「……ねぇ。霞」

「んぁ?なんだ?」

俺の背後で戦っていた姫咲と背中合わせになる。

「なんか今日、多くない?」

「……あ、やっぱり?」

どうも今日は様子がおかしい。

いつもならば多くて10匹程だと言うのに、今日に限ってその数を増やし、ざっと見た限りは100をゆうに超えているのではないだろうか。

「なんだ?今日は出血大サービスってやつか?」

「なに余裕ぶってんのよ。アンタのおかげでコッチは満足に戦えないってのに」

俺達は今、霊力も妖力も、その一切の能力を使っていない。

俺達が力を使えば、必ずと言っていいほど天照や紫達に探知される。それではアイツらから離れた意味がない。

だから、能力無しの純粋な体力のみで戦わざるを得ない。

姫咲はそれでも十分に強いから、下級妖怪程度ならば問題は無いだろう。

問題は俺だった。霊力も、ましてや神力も使わないとなると、至って普通の人間と変わらない。

なんとかやってこれたのは、これまでの経験と不死の身体故だろう。

「今更文句言うなよ」

「まったく」

 

その時、俺達は油断していたんだと思う。

いつもならば躱すことすらなんの問題もない、ただの妖力弾。

気付けばそれは目の前まで迫っていた。力の弱くなった妖怪とは言え、今の俺は普通の人間なのだから、まともに喰らえば死ぬ事は無いが、大怪我をするのは目に見えていた。だからこそ、油断も慢心もすること無くここまで来ていたのだが、

「くそっ!」

俺は夜月を振り抜き、その刀身で受けるが、体制を崩してしまう。

妖怪がその隙を見逃すわけもなく、一斉に飛び掛る。

世界がスローモーションに見えていた。

それぞれの牙や爪を鋭く光らせ、俺を喰いちぎらんと目を血走らせている。

『間に合わない?!』

刀を弾かれ、大きく崩した体制は容易に戻せなかった。しょうがない、腕の1本位はくれてやるか。

そう覚悟した。

 

 

 

その覚悟は、思いもよらず無駄に終わった。

 

「狐火!!」

無数の火の玉が、襲い来る妖怪達に確実に着弾し、燃え上がる。

「霞!?」

「お、おぅ?」

一瞬。何が起きたのかわからなかった。何処からか放たれた攻撃によって、俺は助かったようだ。

辺りを見回すが、黒く焦げた妖怪の死体の他、暗くて良く見えない。

「……まさか、私が助ける側になるとは思いもよりませんでした」

……そして気付いた。なんでこれだけ近づくまで気が付かなかったのか。明らかに周りの下級妖怪とは異質な雰囲気を纏った人物の接近に。

「……ゆ、かり」

「お久しぶりです。師匠」

ゆっくりとその姿を見せたのは、遥か昔に別れた弟子だった。

傍らには妖獣だろうか、金色に輝く尻尾を優雅に揺らす女性が立っている。

「なんで……」

「今はそれよりも、この場を収めましょう」

見ればまた数を増やした妖怪に、周りを囲まれている。

さっきから討っても討っても一向に数が減っている気がしない。

「へぇ、あの子供だった紫がねぇ」

「姫咲さんは未だにツルペタなんですね」

「殺すわよ!?」

なんとも懐かしいような、そんなやり取りが聞こえてきた。何故か、それだけで俺の気持ちは少し余裕を取り戻した気がした。

「それに、そろそろあの子も来ると思いますし」

「あの子?」

紫は優雅に手に持った扇子を振ると、無数の隙間を展開し、それぞれから妖力弾を放つ。

随分と見ない間に成長したようだ。

「師匠のよく知る子です」

 

-------------------

 

親しげに紫様と話す男を、私は備に観察していた。

どこからどう見ても普通の人間にしか見えない。多少は戦闘の心得があるようだが、それでも霊力すら使えないのはどういう事だ。

紫様が語る『師匠』と呼ぶ人物と、その容姿は一致するが。なんとも納得のいかない、疑惑の念が浮かび上がる。

この人間は、本当に紫様の恩人たる人物なのだろうか。

こうやって見ていても、何度か危うい場面があるくらいだ。

「どこを見ている!!」

珍しく言語を解する下級妖怪が、余所見をしていた私にその爪を立てようと迫っていた。なんとも舐められたものだ。この妖力の差がわからないのか。

「ひれ伏せ。我は九尾の妖狐。八雲紫様の式、八雲藍だ!」

 

--------------------

 

「ふむ。紫と狐さんが来たってのに、なんでこうも数が減らない?」

「どうやら暗闇から次々に生み出されているようですね」

元々いた妖怪の妖気に釣られて、集まってきたのかと思っていたが、どうも違うようだ。『何か』の影響なのか、それとも……。

「なんにしろ、その発生源を叩くしかないか」

俺は夜月を再び構える。まったく、予感的中で面倒臭い事になったもんだ。

 

 

俺は妖怪の群れに向かって駆けようとした。

……そう、駆けようとしたんだ。

あの声を聞くまでは。

 

 

 

 

 

 

『封印!!』

 

 

 

 

 




作「次回、ようやく落ち着くかな?」

霞「俺としては不穏なんだが?」

作「あ、落ち着くってのは作者的になんで、気にしないでください」

霞「……やっぱりコイツ焼いちまうか」



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67話/神様と涙

作「焼き魚だけじゃなくて、味噌煮もいいよね」

霞「いきなり何の話だ」

紫「自分の性癖では?」

霞「……お前、焼かれずに煮てほしいのか」

作「なにその新しいプレイ」


 

人の気配もない、寝静まった夜の道を駆けた。

予感がした。確証のない、ただの勘でしかないけれど、きっとあの人が居ると。

私の目の前から消えてしまった、私の大切な家族。

血の繋がりなんてないけれど、それでも私にとってかけがえのない絆がそこにはあった。

逸る気持ちを抑えられず、途中何度も転びそうになりながらも、より深い暗闇へと走っていった。

 

 

 

あの人を探す旅の途中で出会った妖怪のお陰か、闇の中でも私の目はちゃんと見えていたし、何よりも見間違うはずはない。

なんで力を使っていないのかわからないけれど、そんな事は思考の隅に追いやって。ただあの人の戦う姿を目に焼き付けた。

靡く白い羽織、闇にも染められない青い着物、月のように白く輝く刀、そのどれもが今になっては懐かしく思えた。

間違いない。あの人だ。

何年も何年も探し続けた、私の家族。

すぐにでも大声で呼びたくなる。でも、今それをしたら、間違いなく邪魔になる。

力を使わないあの人は、普通の人間と同じだと昔聞いた覚えがある。ならば怪我をしてしまうと言うことだ。

私のせいで、もう二度と血を流して欲しくない。

だから、今は我慢。大丈夫。あの人が……『お父さん』が負けるはずなんてないんだから。

 

しばらく気配を殺し見守っていたけれど、どうも様子がおかしい。さっきから妖怪の数が一向に減らない。

夜目の効く私は辺りを見回すと、どうやら暗闇の中から次々と下級妖怪が生まれでているようだ。

それは終わりの見えない戦いで。いくらあの人でも、いや今のあの人だからこそ、次第に消耗していく。

そう言えば、近くにいるのは汽車で会った女性では?

妖怪だったのか。あの時は気が付かなかった。

あれほどの妖気を発する妖怪でも、この状況を覆せないのだろうか。

 

もう、我慢の限界だった。

お父さんが刀を構え直し、闇を睨んでいる。

それよりも早く、私は動いていた。

懐から1枚の札を取り出し、投げる。

札は真っ直ぐに闇へと消えていき、狙い通り妖怪の発生源へ張り付いた。

霊力をありったけ込めると、札は光り出す。たった1枚の札だけれど、今の私ならば十分。

そして私は叫んだ。あの人を呼ぶ代わりに、私はココに居ると教える代わりに。

「封印!!」

 

 

-------------------

 

声が聞こえた。

懐かしい、あの子の声が。俺のせいで人生を狂わせ、人としての生き方を出来なくさせてしまった。

一緒にいた時間は短いけれど、少なくとも俺は『家族』の様に思っていた、あの子。

「……夢……乃?」

声の主を探すと、それはあっけなく見つかった。闇の中でもはっきりとわかる、夢乃の輪郭。あの日、あの時と全く変わらない。

「やっと。やっと見つけました」

思考はメチャクチャだった。

なんで夢乃がココに居る?

紫だけにとどまらず、夢乃にまで見つかってしまった。それも一晩で。

何がどうなっているんだ。

それでも、妖怪は俺が落ち着くのを待ってはくれない。

どうやら夢乃が封印をしたおかげで、これ以上増えることは無いようだが、未だに多くの妖怪は残っていた。

「……師匠。これでもう、力を使わない理由はありませんね」

「……」

その通りだった。

誰にも見つからず、誰にも知られず。全てを終わらせるつもりだったのに。その為に、霊力も神力もあの日以降使わずにいたのに。

こうやって見つかってしまえば、もう意味は無い。

「そう……だな」

 

なら覚悟を決めろ。

 

「……しょうが……ないか」

 

後悔は後でいい。

 

「……紫、夢乃」

 

反省は心に留めておけ。

 

「すまなかったな」

 

俺は両手を合わせる。

何年ぶりだろうか。体の隅々まで力が流れて行くのがわかる。

あぁ、久しぶりだ。

 

「神力解放!神様モード!!」

俺は叫んだ。

今までの時間を取り戻すように、吹き出された神力は辺りを包み込み、世界を青く染めていく。

「久しぶりで手加減出来んが。遊んでやるからかかってこい」

 

-------------------

 

 

一瞬の出来事だった。

あの男が両手を合わせたと思ったら、その身から私でさえ怯んでしまいそうなほどの神力が溢れ出てくる。

紫様に聞いた限りでは、アレでも半分の力を封印されているという。つまり、単純にこの倍が本来の力なのか。

流石に『創造神』と言うだけはある。

「これ程とは……」

思わず口から零れた台詞。紫様には届いてしまったようで。

「アレでも恐らく1割も使ってないわよ?」

「はい?」

再び驚いた。アレで1割?

どれだけ規格外なのだ。

青く染められた神力は、竦んでしまう程膨大で、見蕩れてしまうほど純粋に美しかった。

 

 

-------------------

 

終わりは呆気なかった。

アレだけの数がいたにも関わらず、5分も経ってはいないだろう。

「霞……」

ゆっくりとこちらへ近づく姫咲。

「アンタだけ狡いわよ!!私だって暴れたかった!!」

「えぇ……」

もうちょい違う台詞を吐けないのか。

この場には夢乃と紫、あと紫の従者っぽい妖獣まで居るってのに。

「問答無用!とりあえず殴らせろ!!」

「だが断る!!」

今はそんな事をしている場合じゃないだろう。

振り返れば、微笑んでいる紫と、今にも泣き出しそうな顔の夢乃が立っている。

「……その……なんだ。久しぶりだなお前ら」

物凄く心苦しい。どう言い訳するべきか頭をフル回転させても、妙案は出てこない。

「そうですね。お久しぶりです。師匠」

「すっかり成長したんだな紫は」

俺の隣で脇腹をポコポコ叩いている、妖怪の頂点とは違う。

凡そ女性としては高い身長に、育ちきった身体。あの頃の面影を残しつつも、妖艶な大人へと変わった顔立ち。

これがまさか、俺の風呂に突入しようとしたあの紫とは思えない程だ。

「……その一言多い感じ。相変わらずですね」

「褒め言葉として受け取っておく」

薄らと涙を浮かべた紫は、扇子を広げ、顔を隠してしまう。

「まだ使ってたのか、それ」

紫の独り立ちの日、俺が創り餞別として渡した紫色の扇子。

「えぇ。私の宝物です」

なんとも、気恥しい限りだ。

「そんで、隣の彼女は?」

「あぁ、私の式。藍です」

そう紹介されると、九尾の妖獣--藍はペコリと頭を下げる。

「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。私、紫様の式を務めさせて頂いております、八雲藍と申します」

「おう。俺は神条霞。聞いているだろうが、紫の師匠をやっていた者だ」

よく見れば藍の額には微かに汗が見えた。

「恐れ多くも、創造神様とこうやってお話をさせて頂くのは初めてなもので」

「あ〜。別に畏まらなくてもいいから」

どうせ神としての責務は放棄しているし、この数百年間は神としても生きていなかったのだから。

 

「……んで」

その隣に顔を向ける。既に泣き出してしまっている夢乃。

不老不死となった為に、あの日と全く変わらない。老いることも、死ぬ事も出来ない身体の夢乃が、今目の前に立っていた。

「……夢乃」

「霞s……お父さん」

「お父さん!?」

おいおい。いつの間に俺は父親になったんだ。確かに家族のように暮らしていたし、思ってはいたが。

そんな事を考えていると、胸に軽くぶつかった感触が起きた。

見れば夢乃が俺に抱きついている。

「……夢乃」

「もう……何処にも行かないでください!!」

夢乃の言葉は涙混じりで、俺の胸を強く締め付け、濡らしていた。

俺は何も返すことが出来ず、ただ夢乃の頭を撫で続けるだけだった。

 




夢「お父さ〜ん!」

作「呼んでますよ?」

霞「……まぁ、夢乃なら良いんだけど。ほら、俺を父と呼ぶ奴が多くて」

天「父上様〜」

月「お父上〜」

龍「父上様〜」

作「……大家族やね」

霞「誰の所為だよ……」


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68話/助力と不死鳥

作「今回は幾つかの伏線を回収しようかと」

霞「それって自分から言っていいのか?」

作「まぁ、大丈夫でしょう」

霞「それなら良いが」

作「あと、紫ちゃんがキャラ崩壊」

紫「?!」


「帰らない?!」

私はあまりの衝撃発言に、驚いて声を荒らげてしまった。

折角ここまでやって来て、漸く師匠を見つけ出したというのに。

 

私達は今、案内されて師匠の家へと来ている。

まだまだ見慣れない、新しい洋館に師匠は住んでいた。

中心街からは外れている為、ひっそりとした佇まい。

そんな中で、師匠と姫咲さん、夢乃は呑気にお茶を啜っていた。

「何故ですか?!」

「なんでって……、まだ目的を果たしてないし」

師匠が言うには、ある人物を探していると。その男は夢乃の能力を奪い、師匠を瀕死の状況まで追い詰めたらしい。そんな男が存在するとは到底思えないけど。

「それで、貴女はなんでそんなに落ち着いてるのよ!!」

横で我関せずを決め込んでいる夢乃。さっきまで号泣しながら師匠の裾を離さなかったくせに。

「私はお父……霞様に付いていくだけですから」

「貴女、キャラクターがブレブレね」

しかし、その男を見つけない限りは師匠は神社へと帰ることはないのか。

「紫様、ここはその人物の捜索をお手伝いするべきでは?」

私の隣に座っていた藍が言う。確かに、師匠の手助けならば喜んでするのだが。今の私にはまだやるべき事がある。

「幻想郷の管理は誰がするのよ」

「紫様ならば両立する事もできると思いますが?」

この狐は無茶なことを……。そもそもこうやって師匠の元に来ることだって、かなり強引に時間を作ったというのに。

「私も微力ながら手伝わせていただきますし」

「……しょうがないわね」

「あのー。無理して手伝わなくても……」

「師匠は黙ってて!!」

全く。師匠に関係することは、全てが計画通りに行かない。

「師匠、その男の特徴を教えてください」

 

 

 

--------------------

 

 

全く、嫌になる。

この生活に慣れてしまっている自分自身に。

かつては鬼の母として恐れられ、日本だけでなく大陸までその名を轟かせたというのに。

皆が寝静まった夜。月に照らされながら、私は屋根に登った。

涼しい風が頬を撫でた。ふむ、気持ちがいい。

 

封印され、この身体になってから長い月日が経った。

この身体になった当初は、やはりその違いから普段の生活にすら不便だった。

それが今はどうだ。この身体にも、この生活にも順応してしまっている。

それを人は成長、もしくは適応と言うのだろうけれど。私はそう思わない。

これは『弱く』なったんだ。身体じゃない、心が。

あの日の思いを、あの男に対する純粋なまでの対抗心を、私はいつの間にか忘れてしまったのだろうか。

 

それでも良いと、思ってしまう私自身が、嫌いでありつつも、どこか心地よく感じていた。

俗に言う、丸くなった、と言うやつか。

「ふふ。あの鬼子母神がね……」

「えぇ、がっかりだね」

ふと、声が響いた。辺りには人の気配が無かったはずなのに。

見上げると、月を背に、炎で輝く翼を広げながらコチラを見下ろしている人影があった。

それはどことなく、不死鳥と呼ばれるそれの様に見えた。

「これが妖怪の頂点なんて、笑えないね」

「……誰だ」

感じ取れるのは霊力。つまりは人間なのだろう。しかしながら、知らない霊力だ。

「あの人が言うから様子を見に来たけど、つまんないね」

「どうやら人間のくせに、言葉が理解出来ないようね」

私は妖力を込め、一息に飛び上がる。一気に高度を上げて、相手と同じ目線まで上ると相手を観察する。見た目はまだまだ少女と言えるような歳に、何処か貴族と言われる人間達のような雰囲気を纏う。その言葉遣いは粗暴で、凡そ雅な出だとは思えないけれど。

「アンタさ、あの男と一緒に居て満足なのかい?」

「……何が言いたい」

「あの男と居る目的は何なんだよ。仲良く家族ごっこをすることか?」

そう言うと少女は手を差し伸べる。

「違うだろ?あの男を倒すのが目的だろ?忘れるなよ、見失うなよ。アンタは其処でのうのうと生きている器じゃ無いだろう」

「ふん。知ったような口を」

「あぁ、知っているさ」

煩い奴ね。今日は機嫌が悪いんだから、さっさと寝てしまいたいのだけれど。

私は拳に妖力を込め、息の根を止めようと間合いを詰める。

この程度の人間ならば、この一撃で十分。漸く霞が力を使い、これで私も存分に戦えるのだが。最初がこんな訳の分からない女だとは、興ざめだけど。

私の拳が触れる、その瞬間だった。

 

「その封印、解いてあげるよ」

 

 

 

------------------

 

久しぶりに気分の良い朝を迎えることが出来た。

きっと久しぶりに力を使った為に、程よい疲労感(疲れなんて全く無かったが)で良く眠れたんだろう。

すると何処からかいい匂いが漂ってきた。

部屋を出て、食堂へと向かうと、途中で紫と藍に出会った。

「……ちっ……おはようございます、師匠」

「おい、何故に舌打ちをした」

「紫様は霞様を起こしに行こうとしていました」

「藍?!なんで言っちゃうの?!」

どうも、成長したのは身体だけのようだ。昨日の感動を返してほしい。

「……紫、後でお仕置きな」

「アレですか?アレなんですか?!」

その発言はあらぬ誤解を生むから控えようか。

「あ、おはようござ……何してるんですか?」

見てわからない?アイアンクローだよ。

紫へのお仕置きといえば、コイツだからな。

「痛い痛い!!久しぶりだから余計に痛い!!」

「なんかいい匂いがするけど、朝飯を用意してくれてたのか?」

「え?あ、はい」

「手伝いもせず、申し訳ない」

「いえいえ、お2人はお客様ですから」

夢乃はすっかりこの家の住人気分のようだな。

この家には無かったはずの割烹着まで着込んで、この屋敷には不似合いな出で立ちでいる。

「あれ?無視ですか?無視なんですか?!」

「それじゃ冷めないうちにいただくとしようか」

「ご飯食べるんですよね?なら離してくれてもいいんじゃ……なんで?!なんで強くなるの?!!」

 

 

そういや姫咲の姿が見えないな。まだ寝てるのか?




霞「アイアンクローなんて久しぶりにしたわ」

紫「まだ顳かみが痛いです」

藍「自業自得と言う言葉をご存知ですか?」

紫「藍がなんか冷たい!!」

作「うちの藍さんはクーデレタイプです」

藍「??」

霞「……褒め言葉だよ」

藍「そうなのですか?ならありがとうございます」


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69話/不死鳥と裏切り

作「お待たせしました、続きです」

霞「待ってる人なんて居るのか?」

作「……居てくれると良いなぁ」


不死鳥と言うのを知っているだろうか。

俺は勿論、見たことなんかある訳ないが、その名前だけならば知っている。

有名どころで言えば、漫画にもなっているくらいの、想像上の生物だ。

まぁ、この世界では違うのだろうが。なんせ神話の神が普通に存在する世界なのだから、不死鳥ぐらいいるんじゃないだろうか。

 

なんてでこんな話をするかって?

目の前にいる人物の姿が、それを連想させたからだ。背中から生えた炎の翼は、容易に不死鳥を思わせる。さらに付け加えれば、その特徴も酷似していた。

まったく、不死とはやりにくい。

白く染まった長い髪、赤いモンペに白いシャツ。見た目は夢乃と大差ないように思えるが、実際は幾つなのだろう。

「さすが創造神ってだけはあるね」

何度目かの復活を遂げて、少女は再び翼を広げる。

炎の中から立ち上がる姿は、正しく不死鳥に見えた。

「んぁ?俺を知っているのか」

「当たり前だろ。アンタはこの世界の創造神。だからこそ、私はアンタが嫌いだ」

俺はこの娘に恨まれるような事をしたのだろうか。今まで長く生きてきたが、ここまで恨まれるのは初めてだ。

「……んで、それは姫咲がそこに居るのと関係あるのか?」

少女の隣には、見慣れた姿。赤い着物の姫咲が立っていた。その眼は暗く沈み、大陸であった頃のモノに似ていた。

「別に、深い意味はないわ。ただ、貴方と一緒にいるのに飽きたのよ」

「……え、なにこの空気。なんか俺がフラれたみたい」

おどけて見せるが、なんの反応もない。寧ろその方が堪えるな。

「ふむ。別に、俺と居るのが苦痛なら無理に引き止めはしないよ」

そう言って夜月を抜き放つ。月に照らされた刀身は、何故か悲しそうに見えた。

「ただ、その結果で誰かが不幸になるなら、見過ごせはしない」

「……そう」

「なにカッコつけてるんだよ。アンタの相手は私だろ!」

そう言いつつ、少女は俺に向けて炎の渦をぶつける。周囲を囲まれると、一気に渦の中から酸素がなくなっていく。流石に死にはしないと言え、苦しいのは苦しい。

「水の生成。『水柱』」

俺は両手を合わせる。すると足元から水が湧き出てきて、それは数本の柱となる。炎の渦と相殺された水は蒸発し、霧となって消えた。

「その能力は厄介だね」

「そっくりそのまま返すよ」

そう言えば、不死と戦うのは初めて……か?

 

まったく。なんでこんな事になったんだか。

 

 

-----------------

 

昼を過ぎ、日が落ち始めても姫咲は姿を見せなかった。

こんな事は初めてで、俺と夢乃は暫くの間街中を探し回ったりもした。

夜の帳が降りて、しょうがなく今日の捜索を打ち切ったのは数時間前。俺達は1人欠けてしまった食卓を囲み、静かな夕食を取ることにした。

良く考えれば、俺と一緒にいた期間が1番長いのが姫咲だった。長い事行動を共にしていたからか、1日でもその姿を見ないとなると、何故か無性に不安になった。

「大丈夫ですよ。あの姫咲さんですから、きっと明日には帰ってきます」

と、夢乃の言葉には素直に頷くことが出来ない。何故だろう、あの日と同じ、夢乃を不死にしてしまった日と同じ様な気味の悪さが胸を襲っている。いつまでも飲み下せないこの不安は、ずっと喉元に刃を突き立てられているような、焦燥感を覚える。

 

夕食を終えた俺は外に出た。もう今日何度目かの、妖力を探してみる。範囲はとりあえずこの日本全域。これだけ探しても見つからないのだから、この周辺には居ないのだろう。

「……神力解放。神様モード」

俺は両手を合わせ、神力を解放する。

俺を中心に広がっていく神力の波。波は光よりも速く広がり、返す波のように戻ってくる。

「……」

その結果、日本の何処にも姫咲の妖力を感じることは出来なかった。

いったい何処に行ったのだ。再び大陸にでも行ったのだろうか。もしくは妖力を封じられ、身動きできないとか?

様々な憶測が頭の中を駆け巡っていった。

しかし、そのどれもが姫咲を知っているのならば、ありえない事だと結論付ける。

アイツを封じることが出来るヤツなど、この世に何人も居ないだろうし、ましてや俺に一言もなく大陸に渡るなど無いと思う。

 

そして、その全てが正しかったと裏付けされることになる。

 

 

突如轟音とも言えるような爆発音とともに、炎が俺を襲った。

咄嗟のことだったからか、避けきれず俺は右足を火傷してしまう。

「あっちぃ!!」

未だに燻っている着物の残り火を手で払うと、炎の出処を探る。

「本当なら『熱い』程度で済まないんだけど。流石だね」

「……誰だ?」

闇の中から出てきたのは、1人の少女だった。

「どうも初めまして。アンタを殺しに来たよ」

どうも最近の人間は常識が無いらしいな。いきなり現れて『殺す』と言われるとは。神様悲しくなるぞ。

 

そんな呑気なことを考えていられたのは一瞬で。少女の後ろから出てきた人物を見て、一気に頭の中は混乱を極めた。

「……姫咲?」

 

--------------------

 

「霞様!!」

「……おや、誰かと思えば出来損ないの巫女じゃないか」

アレだけ暴れたら気がつくだろう。夢乃が館から飛び出してきた。

その夢乃を見た少女は、まるで夢乃を知っているかのように毒を吐く。

「……お前、ホントに何者だ」

流石に仲間を悪く言われて気分が良い訳もなく。俺は語気を強めた。

「ふふ。余所見してて良いのかい?」

そう言って少女は指を伸ばす。その先には姫咲が夢乃に襲いかかる姿があった。

「!?夢乃!!」

咄嗟に俺は辺りを『掌握』する。

これによって姫咲の拳は夢乃に当たることなく空を切った。

「姫咲、なんのつもりだ」

「……なんのつもり?忘れたの?私は妖怪よ?人間を襲うのに理由が必要かしら」

「……お前」

言っていることは至極当然の事なのだが、それを姫咲が吐いた台詞だと思いたくはなかった。

俺と共に夢乃とだって短い付き合いじゃない。そんな相手をなんの躊躇もなく襲うとは、思いたくなかったのだ。

 

「そろそろ時間かな」

突然少女が言った。

振り返ると少女は頭上に巨大な火球を作り出していた。

その大きさは優に館を飲み込むほどの大きさで、落ちれば死なないとは言え、俺も無傷では済まないだろう。

幸いと言えるのは、掌握しているから夢乃やこの周辺への被害は無いと言うことだ。

「どうせ死なないんだろ?」

「死ななくても痛いものは痛いんだよ!!」

俺が少女に向けて飛び上がると同時に、少女は両手を勢いよく下ろし、火球はその高度を落としていった。

徐々に大きくなる炎の塊は、目の前まで迫ると視界を埋め尽くす。

「断ち切れ、夜月!」

夜月を振り抜き、火球を斬りつけるとソレは霧のように消えていく。

「だと思った!!」

火球の後ろから少女が現れ、刀を振り抜き隙の出来た俺の腹に衝撃が走る。

「ぐっ!!」

俺は勢いを殺すことが出来ず、そのまま地面へと落ちた。

「アンタの戦い方は知ってるよ。嫌というほど()()()に教えて貰ったからね」

「……あの人?」

いったい誰の事だ、と聞こうとした瞬間。そいつは現れた。長年探し続けた男。夢乃の人生を変えた男。

「喋りすぎですよ、妹紅」

 

 

 

「……無明!!」




作「次回でこの章は終わり!」

霞「この章で状況がグルングルン変わっていって、俺でも追いついてないんだが」

作「主人公がそれ言っちゃダメでしょ」


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70話/サヨナラとオカエリ

作「いやー。スランプって言うんですかね?なんも思いつかなかった」

霞「なら辞めちまえよ」

作「なにを!待ってくれている人がいましたから!!」

霞「なら書けよ」

作「……冷たっ!!」


「父上様〜!!」

久しぶりの地を踏んだと同時に、胸襲ったのは俺でも耐えきれないほどの衝撃が訪れた。

「ぐふぅぁっ!?」

「し、師匠?!」

出迎えとしては少々(・・)熱烈な歓迎を受けて、俺は数百年ぶりに博麗神社へと訪れることになった。

「……」

「夢乃殿?何故そんなに神条様を睨んでいるのだ?」

とりあえず、離れてくれ天照。なんか知らんが夢乃の目から光が消えて、何かブツブツ言っているから。あれは流石に放置したら不味い気がする。

 

長い事留守にしていた筈なのに、神社はあの日と変わらず俺を迎え入れてくれる。

しかし、巫女である夢乃も俺を探すために、何年も不在だったにも関わらず、どうしてこうも管理が行き届いているんだ?俺は最初にここに来た時のように、荒れ果てた状態を覚悟していたのだが。

「あぁ、それならば代替わりした巫女が管理しているのだと」

「代替わり?」

「……流石に不老不死の巫女がいる神社なんて、信仰が集まるわけないですから」

なるほど。

つまり、今はまた別の巫女がここを管理していると。

ならばその巫女にも挨拶をしなきゃだな。

「なによ騒がしいな……。また紫なのか?」

社の奥から出てきたのは、夢乃に似た巫女服を着た、1人の少女だった。腰あたりまで伸ばした黒髪をリボンで結んでいる。

「またってなによ、またって」

「毎度毎度、『この神社の神は戻ってきた?!』って大騒ぎしてたのは何処の誰だ?」

流石に、言葉遣いは少女らしさを感じないが。と言うか、原因は俺だが、結構迷惑をかけてたみたいだな。主に紫が。

「一応言っておくが、その神様は戻ってきてないぞ」

「あら、そんなことないわよ」

そう言うと、紫は俺へと視線を移す。

「ほら、ここに」

「あ、どうも神です」

「あ、どうも巫女です」

お互いに頭を下げる。

言葉遣いはアレだが、礼儀は人並みには知っているようだ。

「……え、それで終わり?!」

 

 

「改めまして、当代の巫女です」

茶の間に案内され、それぞれ一息ついた頃、改めて挨拶をされた。

「この神社の神(仮)、神条霞だ。よろしく」

「……そのカッコカリとは?」

「気にしなくて良いわよ」

確かにそうだが、なんで紫が言うんだ。

「それで、どうして急に神社に戻るなんて言い出したんですか?」

お茶で喉を潤すと、紫は今朝から気になっていたのだろう事を聞いてきた。

 

俺が博麗神社へと戻ることにしたのは、今朝のこた。

 

-------------------

 

「お久しぶりですね、創造神」

「無明!!」

スキマから現れたのは、俺の探し続けた男だった。

その姿を目にした瞬間から、俺の身体中を怒りで力が駆け巡る。夜月を握る手にも血が滴るほどに、俺は力を込めてしまっていた。

「何しに来たんだよ」

「貴女が余りにも遅いので、迎えに来たのですよ」

どうやらこの少女と無明は仲間のようだ。まぁ、今となっては関係ないが。

この場でコイツを倒す。それが少なくとも俺に課した責任だ。

俺は一息に飛び上がり、無明の腹を目掛けて夜月を突き出す。

しかし、その一突きは躱され、隣にいた少女に蹴りを入れられてしまう。

「アンタの相手は私だって言ったろ」

「……うるせぇな。お前とは後で遊んでやるよ」

怒りからか、俺の言葉遣いも荒くなってしまう。どうも頭に血が上ると理性が働かなくなってしまう。

「ふむ。貴方とは遊んでいる暇はないのですよ」

「知るか。お前の時間はここで終わりなんだよ」

月に照らされた夜月の刃が、俺の神力を纏って青く輝く。

辺りはすっかり静寂に包まれ、時折木々が風に揺れて、葉擦れの音が聞こえるだけだ。

地上では夢乃と姫咲がただ黙って俺達のやり取りを見ていた。掌握で手出しすら出来ない夢乃は、どこか歯痒い表情をしている。

「創造!千本刃!!」

俺は背後の空間から、無数の刃を創造する。夜月に似た幾千もの刃は、全てが無明へと向かい放たれる。雨のように降り注ぐ刃を、無明は微動だにせず眺めているだけ。

それを防いだのは、余りにも予想外の人物だった。

「三歩必殺」

次々に砕かれていく刃の先には、拳を突き出した姫咲が居た。赤く染まった妖力を纏い、妖怪の頂点らしい禍々しさを兼ね備えている。

「姫咲……どうして……」

「……飽きたのよ、貴方と一緒に居ることに。どうせ貴方と私は妖怪と神。相容れぬ存在ならば、私は私の生きたいように生きるわ」

その言葉は無明に操られているわけでもなく、紛れもなく姫咲の意志を持って紡がれていた。

「そう。妖怪と神、人間と神。それらは決して互いを理解することなどできないのです」

そう高らかに無明は語る。

「ですが、私は違う。私は人間という『壁』を超えた存在。貴方のような神ではなく、私が全てをやり直す」

無明は言い放つと両手を空へと掲げた。

その先には大きなスキマが開かれ、中には大量の眼がこちらを睨んで光っていた。

「……さて、そろそろ時間です。名残惜しいですが、失礼させていただきます」

大量の眼が蠢くスキマに、無明と少女、そして姫咲は足を踏み入れていく。

「また逃げるのか!!」

「逃げる?面白い冗談です。その命をあと僅かばかり、お預けするだけですよ」

振り返り、気味の悪い笑みを貼り付けた表情を向ける。

「……そう言えば、あのスキマ妖怪が理想郷なぞを作ったそうですね。そんな儚い夢の様な世界なんて、私が壊して差し上げます」

「な……なに?!」

「ふふ。次は理想郷でお会いしましょう。この世界の創造神よ」

その言葉を残し、スキマは閉ざされていった。あの笑みが何時までも瞼の裏に残されたまま。

 

 

----------------------

 

「と、言うことは。その男は次にこの地にやってくると」

一通り話し終えた頃には、紫以外は言葉を失っていた。

そりゃそうだ。創造神の俺が敵わず、ましてや逃がしてしまうなんて、本来ならば想像すら出来ないことだ。

「恐らくそうだろうな。だから紫にその理想郷へ案内を頼んだんだが、まさか博麗神社が入っているとは思わなかったよ」

紫の作った理想郷は、この神社だけでなく麓の人里や、天狗達のいた妖怪の山も入っているらしい。どうやって離れたところの山を移動させたのかは教えてくれなかったが。

「いつ頃来ると思いますか」

「わからん。今日かもしれないし、百年後かもしれん」

つまり早急に対策を練らないといけない。生半可な結界など、姫咲の前では無駄だろうし、何より無明は紫のスキマを使うことが出来る。

「わかりました。結界に関しては任せてください」

「済まないが、頼む」

この地に関しては、今では紫の方が熟知しているだろう。成長し、その力も向上した紫ならば或いは何か策を思いつくかもしれない。

「私も微力ながらお手伝い致します」

藍も尻尾を揺らし、決意を固めた表情をしていた。

「……私は、どうもお役に立てそうにないな」

そんな中、今代の巫女が呟いた。

俺は既に気がついていた。この子には霊力が無いのだ。

今まで()が不在だった為に、言葉は悪いが、神事などは真似事だけで済んでいた。しかしながら今回の件に関しては、それでは戦力には数えられず、また結界にも関与することは難しい。

「なに、心配すんな。この件に巻き込むわけにはいかないさ」

「……」

そう言ってやるが、やはり何処か悔しそうにしている。

全く、博麗の巫女は強情なのが務めるのか?

 

 

こうして、俺は再び博麗神社へと戻り、紫の作った理想郷--幻想郷へとその住まいを移すこととなった。




作「はい、この章は終わり!!」

霞「やっと幻想郷か」

作「正直、今回までの話でプロットの大幅な変更をしてしまいました」

霞「??」

作「なんせ『無明』が扱いにくくて……」

霞「いや、知らんがな……」


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赤い館の少女らしい
71話/巫女と魔法使い


どうも、最近仕事で夜勤が続き、昼間に眠気マックスを迎えるしおさばです。

今回から新章、そしてあの子達が登場です。

……漸くココまで来たよ……


 

空の天辺に昇った太陽は、容赦なく大地を照りつけて、比較的涼しいはずの服装なのにジンワリと汗が吹き出る。

時折吹き抜ける風が唯一の救いと言わんばかりに、私の体の熱をほんの少しだけ奪ってくれた。

そんな、普通ならば一刻も早く日陰の中に入り込みたい状況だけど、日課の掃除が終わらない以上それも出来ない。まぁ、誰も来ないのだから掃除なんてしなくてもいいと思うのだけど。逆に言えば、『掃除くらいしかすることが無い』と言うことでもある。

蒸し暑い中、何もすることなくダラダラと過ごすのは、ある意味苦行だと私は思う。ならば少しでも体を動かして、その後にお風呂でも入るのが一番だ。

そんな事を考えながら、一向に弱まることのない直射日光を浴びつつ、私は掃除を続ける。

せめて参拝者の1人でも来れば、やる気も出るってものなんだけど。

 

一通りの掃除を終えると、私は以前友人から貰った茶菓子とお茶を用意する。

それらを縁側へと持っていき、腰を下ろすと心地よい風が頬を撫ぜた。これで今日の予定は終了。残りの時間は何もすることは無い。まぁ、こんな暑い中では何もする気は起きないけど。

茶菓子の饅頭を口に放り込む。人里では有名な菓子店の、薄皮饅頭らしい。なるほど、これはそんじょそこらの饅頭よりも格別に美味しい。

私が良い友人を持ったと考えていると、空から大きな声で誰かに呼ばれた。いや、読んでいる相手はわかっている。この饅頭をくれたのとは別の……友人とはとても言いにくいような、そんな相手だった。

そいつは庭に降り立つと、いつも通りの賑やかな話し方で勝手に縁側へと座る。その流れで遠慮なく饅頭にまで手を伸ばすものだから質が悪い。せめて私に許可を貰ってから食べなさいよ。聞かれても答えは決まっているけど。

ま、少なくとも暇つぶしの話し相手にはなるかしらね。その駄賃と考えれば、お茶くらいは用意してやらなくもないか。

そんな事、口が裂けても言えないけれど。

 

相変わらず、男性のような話し方の友人は、話のネタに事欠かないのか、何時でも何かしらの話を持ってくる。

先日は確か、家の近くの森で珍しいキノコを食べたら三日間笑いが止まらなかったとか。普通に考えれば、そんなキノコを食べる方がおかしいのだけれども。

そして今日は、ここから少し離れた所にある湖の近くに、見慣れない大きな館が出来たそうだ。どうやらその館は全体を赤く染めており、昼間は全くと言っていいほど人の気配が無いそうだ。なんとも、人里の子供たちが好みそうな噂話だ。そう考えれば、この友人も何処か子供っぽいところがある。

そんな他愛もない話を続けていた、そんな時事件は起こった。最初に気がついたのは友人だった。辺りから感じる空気が異様なものになったと告げる。言われて見れば、どうも薄らとだが紅い霧のようなものが辺りを埋めている。

それは次第に濃くなり、少しすれば日光をも遮るほどに濃い霧が空を覆っていた。

これはどう考えても自然現象なんかじゃ無い。明らかに人為的に起こされた、つまりは『異変』だろう。

……まったく。いくら暇だからと言っても、異変までは起こされたくわなかったわ。

私は最後の饅頭を口に入れると立ち上がる。友人も同時に腰を上げた。どうやら一緒に付いてくるつもりらしい。これは私の仕事で、彼女は本来関係ないはずなのだが。多分いくら言っても無駄だろうし、ここは口を噤んでおこう。

 

さて、夕飯までには終わらせたいんだけどな。

「行こうぜ!霊夢」

「はいはい、わかったわよ魔理沙」

 

こうして、夏のある日に起こった、後に『紅霧異変』と呼ばれる異変の解決に私たちは乗り出した。

まさか、幻想郷全体を危機に陥れる事件へと繋がっているとは、露とも知らずに。

 

 

-------------------

 

「……そろそろ、帰っても宜しいでしょうか」

「ダメに決まっているでしょう」

書類で埋め尽くされた机を挟んで対面に座る女性は、一切視線を外すことなく俺を睨み続けている。

まぁ、月夜見なのだが。

「お父上様が長年ふらついていたお陰で、溜まりに溜まった書類たちです。いい加減処理していただかなければ」

俺は今、高天原に居る。居ると言うか、強制的に連れてこられたのだが。

あれは数十年前に遡る。

いつも通り博麗神社でノンビリと過ごしていた時の事だ。

いくら無明がいつ攻めて来るかわからないとは言え、常時気を張り詰めているわけにもいかない。

そんなある日、俺の目の前に突然天照と月夜見が降り立った。天照は申し訳なさそうに、月夜見は無表情で。俺は咄嗟に察した、月夜見が無表情な場合、かなり怒っている証拠だ。そしてその原因の大半は天照か俺ということになる。

「な、何か用かな?」

「えぇ、お父上様には高天原に来ていただきます」

「えーと……拒否権は?」

そう言うと、その日初めて月夜見は笑ったと天照は後に教えてくれた。

あの笑顔はヤバイ。どれ位ヤバイかって言うと、その笑顔だけで少なくとも下級妖怪はあまりの恐怖に爆発四散するだろう。それぐらいの威圧感と恐怖があった。

「もし宜しければお試しになってみてわ?」

「遠慮しときます」

その後、強制連行される際に、どうしても付いていくと駄々をこねた夢乃を連れて、俺達は高天原へと赴いた。

その理由は先程も月夜見が言ったように、俺が今まで神として処理しなければいけなかった事案等。溜まりまくった書類の山だった。

「お父上様が行方不明になられた時からたの分です。これ位ならば数十年で終わるでしょう」

俺は耳を疑ったわ。書類仕事で数十年って。普通ならば過労死してしまうわ。

「お父上様は普通じゃないので大丈夫です」

そう言うと、机の向かいに座る月夜見。どうやら監視をするつもりらしい。

 

「でも、今まではこれだけの仕事を誰がやってくれていたんだ?」

「なんですか急に。天照ですよ」

あぁ、あのファザコン娘か。何となく納得してしまった。

「しかし、お父上様が行方不明になられると、自分の仕事も放っておいて、捜索に精を出しましてね」

どうも月夜見の怒りの原因はココらしい。

「つまりお父上様と天照と自分の分の仕事を、私は行っていたのですよ」

「大変申し訳ございませんでした」

コレばっかりは素直に謝らざるを得ない。なんせ仕事を放棄したのは俺なのだから。

 

そんな書類仕事も、のこり僅かと言ったところまで減ってきた頃。突然別室に滞在していた夢乃が執務室に駆け込んできた。

「霞様!幻想郷で異変が起きています!!」

「あー。うん。博麗の巫女に任せておきな〜」

それが巫女の仕事なのだから。異変と呼ばれる事件の解決、及び人間に不必要に危害を加える妖怪の排除、それらが博麗の巫女の仕事だ。どうも『自由を司る神』の巫女とは思えない内容だが、こればかりは俺が決めたことじゃない。

「異変の方は多分それで大丈夫だと思いますが、なにやら不穏な気配が」

「不穏?」

「えぇ……まるであの男(・・・)とあった時のような……」

あの男。その単語を聞いた瞬間に、俺の身体は動いていた。

遂に攻めてきた。そう思った。

 

今度こそ、逃がさない。

俺は部屋を飛び出し、ワームホールを開く。誰も傷付けないように、誰も悲しむことのないように。俺は再び、幻想郷へと向かう。

こうして、俺と無明の戦争が静かに始まっていくのだった。




ってなわけで幻想郷です。
ココから原作基準で進みますよー!!


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72話/3の二乗と居眠り門番

作「はい、どうも!最近は中国版艦これに、なんだかんだハマっているしおさばです!!」

霞「別に何にハマろうとも構わないが、コッチを疎かにするなよ?」

作「善処します!!」

霞「確約しろ」


忘れ去られたもの達が集まる最後の楽園。幻想郷。

何年か前に、賢者と呼ばれる妖怪の手によって結界が貼られ、ココには外の世界で忘れられた物や者しか入ることが出来なくなった。

その結界の管理も任されているのが私、博麗の巫女である博麗霊夢。

巫女の仕事としては、結界の管理もそうだけど、どちらかといえば幻想郷内で起こる、異変と呼ばれる事件の解決が主だと思う。

今回も、突然現れた紅い霧によって、昼間だというのに日光が刺さない、薄暗い空を飛んでいた。

まったく、面倒な事をしてくれたものね。

「そんなボヤくなよ霊夢。老けるぜ?」

「うるさいわね」

隣を飛ぶのは友人と言って良いのか判断に困る知人その1、霧雨魔理沙。彼女はよく自己紹介の際に『普通の魔法使い』と言っているが、魔法使いの時点で普通じゃないし。普通じゃない魔法使いとはどんなものなのか、よく分からない。

まぁ、普通と名乗るだけはあって、服装は何処からどう見ても魔女、魔法使いのそれだ。寧ろ、あからさますぎてコスプレ感が否めない。

「いやいや、それを言ったらお前の巫女服だって変だぜ?なんで脇が開いてるんだよ」

「知らないわよ。あのスキマ妖怪に渡されたのがこれなんだもの」

初めて巫女服を渡された時、私も疑問に思った。当然訊いてみたが、答えは『代々脇を開けていたの』だそうだ。今では慣れてしまって、違和感を覚えないけれど。周りから見たらやっぱり変なのだろうか。

 

「さて、どうする?」

霧の発生源であろう紅く染められた館まであと少しというところ、霧の湖と呼ばれる場所で私たちは足止めをくらった。

「アンタに任せるわ」

「おいおい、私だってアイツの相手は嫌だぜ」

本来の白い霧と異変の紅い霧が混じった、なんとも目に優しくない状況で。私たちはどうするかの話し合い(擦り付けあい)を行う。だって目の前にいるのは……。

「アタイったらサイキョーねっ!!」

1人(?)の妖精(バカ)なのだから。勝っても負けても面倒臭いことこの上ない。

「この湖はアタイのナバワリなんだから!通りたかったらツーコーリョーを払いな!!」

「縄張りでしょ……」

「やっぱりバカだぜ……」

妖精と言えば、幼稚なイタズラが大好きで、ことある事に突っかかって来るような生き物だけど、このチルノは群を抜いている。なまじ妖精の中では力がある方な為に、手に負えない。

「私、先に行ってるわね」

「あ、おいコラ霊夢!!」

私はチルノの相手を魔理沙に任せて先を急ぐ。なんとか今日中にこの異変を解決したいのだから。

大丈夫、魔理沙ならきっと直ぐに追いついてくるはず。私はそう信じてる。

 

 

 

湖を抜けると、霧の中から紅い建物が見えてきた。どうやらこれが件の館だろう。壁から屋根に至るまで、全てが紅い。この館を作ったやつは相当趣味が悪いか、美的センスがアレか。そのどっちかだと思う。

門の前に降り立つと、1人の女性が立っていた。緑の服に身を包んだ長身の女性。確か、チャイナ服とか言ったかしら。赤い髪の毛が長く、一見すれば美人と言われる部類だろう。ただし、起きていれば、の話だ。

「門の前に立ってるって事は、門番よね?なんで寝てんのよ」

女性は器用にも門柱に寄りかかりながら、目を閉じていた。最初は瞑想でもしているのかと思ったけど、鼻から大きな提灯を膨らませているのを見れば、明らかに寝ているのだろう。

「むにゃ……ダメですよ師匠……」

よくわからない寝言も呟いてるし。

多分だけど、その師匠ってのも『ダメなのはお前だ』と言うと思うわよ。

「……ちょっと、アンタ起きなさいよ」

私はとりあえず起こすことにした。よく見れば館の中心から霧が発生しているようだし、この異変の犯人はこの館の関係者で間違いないだろう。ならば、さっさと首謀者をコテンパンにのして、帰りたいのだが。

「……んぁ?」

「起きた?」

「アレ?咲夜さん?ちっちゃくなりました?」

「……寝惚けてんのね。私はその、咲夜?ってのじゃないわよ」

普通、門番が寝てるなんて有り得るのかしら。こんなんじゃ『どうぞ自由に入ってください』と言っているようなものじゃない。

「……えーと。何方ですか?」

「私は博麗霊夢。博麗の巫女よ。この霧を出してるヤツに用があるんだけど」

空を指さす。先程よりもよりその濃さを増している霧は、すっかり空を覆っていた。

「……あぁ、当代の巫女さんでしたか。これはこれはどうも」

私の姿をジロジロと眺めると、納得いったのか1人で頷いている。この女性からは妖気を感じるから、恐らく妖怪なのだろう。ならば私を『当代』と言ったのも分かるが、その口振りからして先代の巫女を知っているのかしら。

「ワタクシ、紅魔館の門番を務めます紅美鈴と申します。ホン・メイリンですよ?ミスズではありませんからね?」

「知らないわよ。んで?この霧を出してるヤツに会わせて貰えるのかしら?」

妙な所にこだわるわね。だいたい、口頭で言われても漢字なんかわからないんだから、違いなんて知らないわよ。

「本日はお嬢様より、何者も通すなと仰せつかっておりますので、お引き取り下さい」

そう言った美鈴は、礼儀正しくお辞儀をするが、その身から溢れるのはあからさまな殺気。

「あらそう。ならしょうがないわね、無理矢理通らせて貰うわ」

「そうですか。それはしょうがないですね」

ニコやかな顔なのに、身震いしてしまいそうな程の威圧感を感じる。門番でコレならば、館の主となると一体いかほどなのだろうか。早くも面倒くささに溜息を漏らしてしまう。

「確か、巫女は食べてもいい人類だと言い伝えが……」

「言い伝えるな!!」




美「私、久しぶりの登場!!」

霞「なんだろう。原作よりも強そうな雰囲気出てないか?」

作「大丈夫、だって美鈴ですよ?」

美「なにその扱い!!」



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73話/門番は頑張るらしい

作「どうも、最近タバコの量が増えてきた、ヘビースモーカーのしおさばです」

霞「恐らく肺は真っ黒だろうな」

作「……それでも止められないのです」

霞「……どうしょうもないな」


 

目が覚めると、やはりいつもと同じ天井が目に入る。

もう、この部屋でどれだけの時間を過ごしたのか、100年を超えたあたりから数えるのを辞めてしまったからわからない。

いつも通りにパジャマから着替えて、食事が運ばれてくるのを待つ。あーあ、また今日も退屈でつまらない1日が始まるのか。

紅く染められた部屋で、私はお気に入りのヌイグルミを抱く。何度も壊してしまったから所々継ぎ接ぎだらけだけど、これだけは捨てられない。だって、お姉様が初めて私にくれた大切なヌイグルミなんだもの。

それ以外のオモチャは壊れたら興味がなくなる。だって面白くないんだもん。なんであんなに簡単に壊れるの?

部屋の隅で山積みになった、オモチャだったものには目もくれず、私の頭の中には今日はどんなオモチャが与えられるのかでいっぱいだった。

この部屋には時計もないから、今が何時なのかもわからないけれど、普段ならばもうそろそろ妖精メイドがドアをノックするはずなのに、今日はそれが遅い。

もう。遅いメイドにはお仕置きしなきゃね。

 

いくら待っても、メイドは姿を表さなかった。

どう考えてもおかしい。普段は時間に遅れることなんてないのに。

鍵の掛けられた、重い鉄の扉に耳を当てる。ヒンヤリとした感触が頬を冷やす。この部屋は地下にあるから、物音なんて全く聞こえないし、もし仮に地下じゃなかったとしても、この扉は音を通さないほどに厚い。それでも私は毎日こうやって外の音が聞こえないか耳を当てる。少しでも外の世界を感じたくて。少しでも、私以外の音を感じたくて。

そして毎回気付かされる。

 

私は独りなのだと……。

 

 

-------------------

 

「ひぇー!」

「あ、こら避けるな!」

さっきとは打って変わって、全くと言っていいほど威厳のない戦い方をする門番を、私は弾幕を放ちながら追いかける。既に門の外は穴だらけで、これを修繕するのは骨が折れるだろう。まぁ、私には関係ないけど。

「避けないと当たっちゃうじゃないですか!!」

「だからさっさと当たれっての!!」

「痛いから嫌でーす!!」

なんとも。ほんとにさっきの門番と同一人物なのかしら。

さっきは私の知る限りでも、妖怪としては相当上の実力者に見えたのだけれど。こうやって逃げる様は、お世辞にも『強そう』とは思えない。

「アンタ、ホントに何なのよ!!」

「ただの門番ですよー!!」

叫びながらも、間一髪で弾幕を避けていく。

……そう言えば、かれこれ数十分は逃げ回っているのに、この門番は息切れ1つしていない。

そして何よりも、私の弾幕が1度も当たっていない。

まさか余裕が無い振りをしている?だとしたら何故?何の為に?

「……しまった!!」

そういう事か。完全に策にハマってしまった。コイツは最初から私と戦うつもりなんて無かったんだ。この門番の目的は屋敷の中に私を入れないこと、私を倒すことなんかじゃなかった。

それはそうだ。だって『門番』なのだから。

「アレ?気がついちゃいました?」

「アンタ……見た目の割に頭良いのね」

「ふふ。褒め言葉として受け取っておきます」

まったく。これじゃあの(チルノ)を魔理沙に押し付けた意味がないじゃない。

私は空中で動きを止め、方向転換する。こいつの目的はわかった。ならば私だってコイツに構ってられない。私の目的はこの異変を解決することなのだから。

「おや、もう終わりですか?」

「ふん。アンタがこの異変の犯人ならばいくらでも相手してやるけど、違うんでしょ」

「まぁ、そうですね」

呆気なくも正直に答えた門番は、腰に手を当てため息を吐いた。

「本当はもう少し貴女の実力を見たかったのですが。しょうがないです、ねっ!」

そう言うと、一気に壁をかけ登る。ってかどんな身体能力よ。普通、壁を助走なしで垂直に登る?!

そんな事を考えていると、門番は私のいる高さまで飛んだ。しまった。余計なことを考えていたから反応が少し遅れてしまった。

「これならまだ、夢乃さんの方が強いですよ」

空中で身体を捻り、回し蹴りを繰り出す。私は咄嗟に両腕を引き上げることで、なんとかガードするが、その身体からは想像出来ないほどの威力に数メートル吹き飛ばされた。

「ったく。さっさと帰りたいのに!」

 

-------------------

 

最近、頭の中で誰かの声がする様になってきた。その声は甘く、優しく、私の心の隙間を埋めてくれるような、私の望む声で私の望む台詞を呟く。

最初は独り言だった。

私がそれに反応すると、その声は喜んだ。きっとこの声の主も寂しいんだと思う。

いつしか声と会話をするようになった。

だからもう、寂しくはなかった。私には姿も見えないけれど、それでも私に優しい声があるのだから。

だから、寂しくはない。淋しくはない。悲しくはない。

 

 

それでも。1番聞きたい声は、遥か昔に聞いたきり、この扉を開けてはくれない。

一言でいい。私の名前を呼んでくれるだけでいい。私はここに居ると、その声で証明してくれるだけでいい。

 

きっと、私が悪い子だから。悪い子だから、お姉様は扉を開けてくれないんだ。

私が悪い子だから、私はずっと見慣れたこの部屋から出られないんだ。

そうでしょ?声の主さん。

 

 

 

『アナタは悪くない。』

「嘘よ。だってお姉様は1度だって顔を見せてもくれないんだもの」

『アナタは悪くない。』

「嘘よ。悪い子だから、私は何年も何年も、ココから出られないの」

『アナタは悪くない。……悪いのはこの世界』

「……この世界?」

『アナタは悪くない。悪いのはアナタを閉じ込めたこの世界と、この世界を造った神様』

「神様?」

『そう。アナタは悪くない。だから、悪いこの世界を壊しましょう』

「……そう。そうなんだ。悪いのはこの世界なんだ」

『この世界を守ろうとする奴らも悪い』

「……なら壊さなきゃ」

『そう。壊しなさい。アナタならそれが出来る』

「私には、それが出来る」

『さぁ、先ずはアナタを閉じ込める、この悪い扉を壊しなさい。そうすれば、アナタは自由』

「わかったわ。私、この世界を壊す」

『アナタならそれが出来る。さぁ、自由になりなさい、フランドール(・・・・・・)

 

 

「私が、この世界を壊してやるわ。見ててね、無明(・・)




作「感想で『無明嫌い』と言われました。作者としては狙い通りで嬉しい限りですね」

霞「敵だけど、好きなやつってのもいるだろ?」

作「そうですが、私としては無明はトコトン嫌われて欲しいのです」

霞「歪んだ愛情だな」



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74話/「いらっしゃいませお嬢様」と「むきゅー」らしい

作「どうも、前回からかなり間が空いてしまいました」

霞「何してたんだよ」

作「主に仕事が忙しくて……」

霞「本当は?」

作「中国版艦これにハマってました」



「痛たた……」

 

ズタボロになるまで弾幕を撃たれた私は、傷ついた身体をなんとか引き摺って門に寄りかかる。単純な肉弾戦ならば、多少の相手ならば負ける気はしないけれど、こと弾幕ごっことなると話は変わってくる。なんせ、私はそう言った妖力の扱いが下手なのだ。

こんな事ならば、師匠にもっと教わっておけば良かったと後悔する。

こう言った弾幕や能力を使った勝負は、どちらかと言えば紫さんの得意分野だ。

先日、この幻想郷に館ごと移動した際に、久しぶりに再会したが、あの頃の面影を残した、素敵な女性になっていた。流石姉弟子と言ったところか。

「さて、侵入を許してしまいましたが。きっと後で咲夜さんにお説教されるんでしょうね……」

そう考えると、自然と涙が出そうです。

こんなになるまで頑張ったんだけどなぁ。

 

そんな事を考えていると、ふと遠くで小さいながらも懐かしい気配を感じる。

その気配は次第に大きくなり、確実にこちらへと近付いていた。

「え?ちょっ、なんで?!」

ココが紫さんの造った幻想郷と考えれば、あの人(・・・)が居るのは何も不思議では無いけれど、探ってみればどうも怒っているような。

もしかして、この異変に対して怒っているのかな。だとしたら、咲夜さんのお説教どころの騒ぎじゃない。

下手をすれば再起不能になるまでお仕置きされる。

今から逃げようにも、もう既にその気配は近くまで来ていて、私の足では逃げる暇などない。このボロボロの身体ならば尚更だ。

「……あぁ、今日は厄日なんですね」

私は諦めの言葉を呟く。

暫くして、その気配の主は目の前に現れた。懐かしくも、1日たりとて忘れたことのない、私の憧れとも目標とも言える人。

 

「お久しぶりです」

 

-------------------

 

弾幕ごっこになった途端、さっきまでの精細な動きを失った門番を、多少の恨みを込めて完膚なきまでに叩きのめした後、私は館の中へと入った。

外観もそうだったが、中身も全面紅一色。この空間に居続けたら、きっと目を悪くすることだろう。そうなる前に異変を解決して帰りたいものだ。

玄関と言うべきなのだろうか、重い扉を開いた先には、2階まで吹き抜けの、広い空間があった。正面には階段があり、突き当たると左右にわかれ、それぞれ廊下へと続いている。

どちらに進むべきか悩んでいると、何処からか声が聞こえてきた。

広い空間にその声は響き渡り、その発生源が何処なのかわからなくなる。

「……まったく、あの門番はまた居眠りでもしているのかしら」

「門番?まぁ、確かに寝てたけど」

聞こえてくる声に返事をする。するといつの間にか階段の先に1人の女性が現れた。私が瞬きをした、その一瞬で現れたように思う。

まるであのスキマ妖怪みたいに、神出鬼没なようだ。

「アンタがこの館の主人かしら?」

「まさか。私はお嬢様にお仕えするメイド」

メイド、と言うのがどんなものか知らないけれど、少なくとも心優しく道案内をしてくれるようには見えない。

私は、今日何度目かのため息を吐く。なんでこうもすんなり異変解決させてくらないのかしら。

「外のアレ、あなた達がやってるんでしょ。迷惑なのよ、今すぐやめなさい」

「それはお嬢様に言ってちょうだい」

ふむ。つまりその『お嬢様』が主犯で間違いないようだ。

「なら案内しなさいよ」

「お嬢様を危険に晒すようなこと、するわけないじゃない」

そう言いながら、メイドは階段をゆっくりと降りてくる。その歩き方は、女の私から見ても上品で優雅だった。白い前掛けなんて着けてなければ、コイツが主人と言われてもなんの疑問も持たなかっただろう。

「しょうがない。無理矢理にでも案内させるか」

「出来るならばどうぞ?」

メイドは何処からか数本のナイフを取り出し、両手で構える。

「でも、あなたはお嬢様には会えない」

その瞬間、メイドは私の視界から姿を消す。なんの気配もなく、予備動作もなく、いきなり消えた。

私の勘が伏せろと告げる。その勘に従い、咄嗟に身体を伏せると、頭の上をナイフが通り過ぎた。一体どこから、いつ投げられたのかわからなかった。

「それこそ、時間を止めてでも時間稼ぎが出来るから」

「アンタ、手品師とか向いてそうね」

 

----------------

 

妖精1匹を倒すのに、予想以上に時間をくってしまった。なんせアイツはバカな癖に、執拗いからな。

箒に跨り、湖を抜けると件の館が見えてきた。

「うへぇ。趣味の悪い色だぜ」

何処を見ても紅一色とは、どうやらこの館の人間とは美的感覚が違いすぎるようだ。

館を取り囲む塀。その1箇所には大きな門が作られていた。アソコが入口らしい。ま、バカ正直に門から入る気は無いが、門番なんかが居ないか、スピードを落として警戒する。

「誰も……居ないのか?」

これだけ大きな館で、これだけ大きな門なのに、門番すらいないとは、不用心にも程がある。

今回に限っては好都合だが。

私は塀の上を通り過ぎ、手近な窓から中を覗く。そこはどうやら書庫のようで、窓から見えるだけでもかなりの書物が揃えられていた。パッと見ただけでも、なかなかに珍しい本が並んでいて、魔法使いとしては興味が唆られる。

私は窓をそっと開け、中へと入り込む。外からは考えられないほどの広さを有する書庫は、どちらかと言えば図書館のようだ。天井まで届きそうなほど高い棚には、凡そ1日では読み切れないほどの量が並ぶ。その棚が片手では数え切れないほどあるのだから、驚きだ。

「これだけあるんだから、少し貰って……借りて行ってもバレないよな?」

そう思い、ポケットから1枚の風呂敷を取り出す。

目に入る背表紙を見ながら、気になった本を取り出し、風呂敷で包む。

こんないい場所に出会えるとは、なんとも今日はいい日だぜ。

そんな事を考えていたら、図書館の中心に机を見つけた。上には何冊もの本が高く積まれている。

その時、ふと声がした。

「アンタ誰?」

高く積まれた本の隙間から、紫色が顔を出す。一見するとパジャマのような格好をした、見た目は私とそんなに変わらない少女。

「私は普通の魔法使い、霧雨魔理沙だぜ」

「魔法使い?泥棒の間違いじゃないの」

私が担いでいた風呂敷を指さして、この紫は失礼なことを言う。

「泥棒じゃない。借りていくだけだぜ、死ぬまでな」

「それを世間一般では泥棒って言うのよ」

失礼な紫は立ち上がると、1冊の本を取り出す。どうやら魔力によって浮遊させているようで、空中で動きを止め、勝手にページが捲られた。

「どうせ勝手に入ってきたんでしょ。忙しいんだから、さっさと帰ってよね」

「そうは行かないぜ。なんせこの異変を解決して、もっと本を貰って……借りて行きたいからな!」




美「あれ?私の出番、これで終わりですか?」

作「いやいや。流石にこれだけじゃないですよ?」

霞「でも、戦闘シーンとかは無さそうだな」

作「……」

美「……え?ホントに?!」



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75話/弾幕ごっこと博麗の巫女らしい

作「今回は霊夢大活躍!!」

霞「ってか、俺の出番はまだか?」

作「……恐らく……次回あたりには……」


いきなり現れた目の前のナイフを、勘だけを頼りに避けていく。

博麗の巫女である私は、よく『天才』等と呼ばれることがあるが、その実態は殆どがこの勘によるものだと思っている。それだけこの勘には自信があるし、今までの実績もある。なんせ今も、この勘のおかげで無傷だ。

一体何処にそれだけ隠していたのか、辺り一面は投げられ放置されたナイフで埋め尽くされた。

「アンタ、ホントに人間?」

「えぇ、もちろん」

一瞬で消えたり現れたりする『人間』なんて、見たことも聞いたこともないのだけれど。

咄嗟に地を蹴り、後ろへと飛ぶ。直後、地面へと深く突き刺さるナイフを視界の端に捉えながら、それでも余裕を見せるメイドから目を離さない。

コイツが姿を消す度に、妙な違和感を感じる。何か能力を使っているのだろうけど、自然の流れを狂わせられているような。まぁ、能力を使っている時点で、自然もくそもないのだけれど。

それ以上に違和感というか、一瞬だけ、そうほんの一瞬だけ、世界が止まってしまうかのような。勘とは言えないような、曖昧であやふやな感覚。

しかし、このまま無駄に時間を浪費してもしょうがない。

ならばこの勘とも言えないような、あやふやな感覚に任せてみるのも悪くは無い。

「……あら、もう諦めたの?」

動きを止めた私を訝しむメイド。諦める?面倒くさがる事はあっても、やり始めたことを諦めたことなんて、一度たりともない。

「あんまり、博麗の巫女を舐めないでよね」

そう言って、私は1枚の札を取り出す。

感覚を信じるならば、この1枚で事足りるはず。

 

「しょうがないから、遊んであげるわ」

 

-------------------

 

「うぉっ!あっぶな!!」

顔の横スレスレを流れた弾幕。ずり落ちそうになる帽子を抑えながら、広い図書館の中を箒で飛ぶと、紫もやしは動くことすらなく色とりどりの弾幕を放ち続けた。

流石は『魔女』だけはあるぜ。見たこともないような魔法陣を描き、見たこともないような魔法を放つ。

「……ちょこまかと、鬱陶しいわね」

「スピードには、ちょいと自身があるんだ、ぜ!!」

そう言って、箒に魔力を込めスピードを上げる。景色はその速度を増して、一気に後方へと流れた。

紫もやしへと距離を詰めると、ポケットから取り出した八卦炉を構える。もらった、そう確信を込めて弾幕を放つ。

「甘いわよ、泥棒」

放たれた弾幕は、見えない壁にぶち当たり、霧となって消える。

「なんだそれ!ずっりぃ!!」

「これが実力の差よ」

私に向かられた指先から、魔力が放出された。

一瞬にして視界を埋め尽くす、光。

「く、そぉぉおおっ!!」

 

-------------------

 

「さっきから、避けてばかりじゃない」

投げつけたナイフを避けられる。もう何本投げた事だろうか、数えるのも億劫になる。

それ程に加えられた攻撃も、1度として巫女に当たることなく、そこらじゅうの壁や地面に突き刺さっていた。

今まで、これだけの攻撃を無傷で避けられたことなど無かったのに。流石は『博麗の巫女』と言ったところだろうか。

けれども、私の攻撃が当たらないのと同じく、巫女からの攻撃も、私の能力がある限り当たることは有り得ない。

代わりに私は、勝てなくてもいい(・・・・・・・・)

この巫女がお嬢様に辿り着かなければ、それは私の勝ちなのだから。

しかし、こうも避けられ、壁を穴だらけにするのはいただけない。後々修繕する事を考えれば、被害は最小限に抑えるべきだ。ならばいっその事、回避できない状況に追い込むか。

私は懐中時計を取り出す。別に、これが無くても能力は発動できるけれど、これが有ればより正確な時間操作ができる。

私は時間を止めた。世界は色をなくし、モノクロの海へと姿を変える。

この世界の中では私以外は、その動きを全て止める。呼吸も鼓動も、この世界では全てが息を潜め、再び動き出すのを待っている。

追い込むための布石を放つ。投げられたナイフを避ければ、その先には行き止まりの角。次の攻撃は、どうやっても避けられない。

「時よ…動き出せ」

再び色を取り戻した世界。

巫女の目の前には、ナイフが迫る。

アナタはそれを避けるでしょう。でもそれでイイ。

避けることで、自分の首を締めるとも知らずに。

「チェックメイトよ」

そして再び時を止めようとした。

 

 

 

 

「そうね、アナタはもう詰みよ」

 

 

 

-------------------

 

私は1枚の札を取り出す。

もし、仮にこの感覚を信じるならば、どれだけの攻撃を加えようとも、文字通りメイドには止まって見えているはず。

動きが速いとか、先読みが出来るとか、そんな話じゃない。

ならば答えは簡単だ。

そしてこの札ならば、それらを解決できる。本来ならば普通の人間相手に使うような代物じゃないけど。残念なことに目の前のメイドは普通ではないらしい。なら何も躊躇う必要は無いか。

私は攻撃用の札に混ぜて、この札を投げる。

「無駄ね。お札の無駄遣いって知ってるかしら?」

難なく躱された札は、その全てが地面へと突き刺さる。

「どっかの妖精じゃないんだから、言葉も意味も、使い方も知ってるわよ」

細工は終了。後は上手く掛かってくれれば。

そう思っていると、メイドはふとポケットから何かを取り出した。よく見れば銀色に光る、鎖が付けられた時計のようなもの。

それを見ていたかと思えば、再びあの感覚が私を襲い、目の前にナイフが現れた。

空を飛び、避けると背中に軽い衝撃を受けた。咄嗟に背後からの攻撃かと思ったが、どうやら違い、そこには壁が立ちはだかる。

なるほど、追い詰められたわけだ。

「チェックメイトよ」

なるほど。これでは次の攻撃は避けられない。上手く追い込まれた。

でもそれはコチラも同じ。

メイドが1歩、歩み寄った。その足元すら確認することなく。

そこに、私が投げた札が有るとも知らずに。

「そうね、アナタはもう詰みよ」

札に足が乗せられる。その瞬間に札は効果を発動し始める。

予め込められた霊力が、札から流れ出すと、札が札を口寄せし、鎖のように連なる。それらは一気に天井付近まで登ると、まるで蛇か何かのようにメイドへと絡みついていく。メイドも危険を察知したのか、ナイフで札を切り裂くが、切られる度にまた新たな札が現れ、絡みつく。

「なっ!?」

「無駄よ。博麗の巫女が、生半可な封印術を使うわけないでしょ」

言葉通り、札は絡みつき続け、やがてメイドは指1本動かすことも出来ないほどに雁字搦めとなった。

 

「さて、これでアンタは終わりだけど、どうする?」

「こ、これは『弾幕ごっこ』でしょ?!し、死ぬような攻撃はダメなのよね?!」

確かに、『弾幕ごっこ』とは人間と妖怪との実力の差を埋めるためのルールであり、誰も死ぬ事のないように作られた。というか、私が考えた。だからこそ、私がそのルールを破るわけにはいかない。

「そうね、死ぬような攻撃はダメよ」

「な、なら……」

「でも……死ぬ程痛い攻撃は……アリなのよ」

「……え?」

 

 

 

 

 

「霊符『夢想封印』」




咲「あの巫女、鬼かなにか?!」

作「鬼巫女……そう言うのもあるのか……」

美「あの人、ホントに人間なんですかね」



霊「何か悪口を言われてる気がする」

魔「気のせいだろ」



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76話/吸血鬼の姉らしい

 

今日は朝から親友が何か企んでいたようで、館の中はメイドたちが慌ただしく動いていた。

喧騒を嫌う私は、朝食を済ませるといつもの様に図書館へと引きこもり、魔法の研究の為、魔導書を読み耽る。

今日は使い魔の小悪魔も、私が諸用を頼んだので朝から居ない。棚から何冊もの本を持って机まで運ぶのすら、少し息が切れた。

こんな事ならば、普段から少しは運動をすれば良かった。と、意味の無い後悔をしつつ、お昼頃に咲夜が持ってきた紅茶で喉を潤しながら、本を捲る。

小悪魔もなかなか美味しい紅茶を淹れてくれるが、流石は『完全で瀟洒なメイド』。本当に同じ茶葉を使っているのかと疑いたくなるような紅茶を淹れる。

昼を過ぎて、私1人の図書館は耳が痛くなるような静けさに包まれていた。聞こえてくるのは私自身の呼吸音と、ページを捲る音だけ。

私はこの静けさが好きだった。もちろん、小悪魔が五月蝿いという訳では無いが、これだけ静寂だと研究に集中できる。

ふと、窓から外を見れば、空が紅く染まっていた。どうやら、これが親友の企んでいたことらしい。確か、数日前に霧を出す魔法を教えた気がするが、こんな使い方をするとは。何が目的かは聞かなくても分かるけれど、それにしてもやりすぎではないかと、少し思ってしまう。まぁ、私に被害が及ばないのであれば、彼女が何をしようと良いのだが。

 

そんな中、突然何処かの窓が開く音がした。最初は気のせいだと思ったが、明らかに私以外の人間の気配が、この図書館の中に入ってきていた。

ソイツは私に気が付いていないのか、堂々と棚から本を抜き出して、風呂敷の中へと放り込んでいく。まったく、門番は何をしているのかしら。

堂々とした泥棒に声をかけると、どうやら魔法使いらしい。確かに、コイツからは魔力が感じられる。と言うか、見た目からして魔法使いなのだが。一見すれば仮装かと思われるような格好の泥棒は、自身たっぷりに私を指差し、まだ本を盗んでいくと宣言する。

 

ホント、普段からもう少し運動をしておけば良かった。

 

-------------------

 

目の前に迫る光を見ながら、私は敗北を覚悟した。これだけの至近距離、どうやったって避けられるはずもなく、咄嗟に目を瞑り来るべき衝撃を待った。

 

しかし、いくら待っても痛みが訪れることは無く、恐る恐る目を開くと、そこには何故か苦しそうに倒れ込む紫もやしがいた。

術者自身が力を維持出来なかったからか、魔法は途中で無効化され、消え去ってしまったらしい。

私は一応、罠の可能性も考えつつ。もやしの側へと降り立つ。

見れば胸を抑え、苦しそうに息をしつつ咳をしていた。

おいおい、なんだよ。私の弾幕は1発すら当たっていないんだから、考えられるのは元々の持病か、もしくは魔力の枯渇による体へのフィードバックか。

さっきまでの様子から、恐らくは前者だろう。だって見た目、健康そうな感じじゃないし。

「おい、大丈夫か?」

「ゴホッ……大丈夫…に……見える?」

少なくとも悪態を付くくらいには元気そうだけど。

そんな事を考えていると、もやしはさっきまで座っていた机を指さす。

「あ……あそこに……ゲホッ……薬が……」

「お、おう。薬だな!?」

 

薬を飲ませると、幾らか楽になったのか、もやし……パチュリーの顔は血色が良くなった。

流石にこの後、また弾幕ごっこを続ける気にもなれずに、手持ち無沙汰でいると、図書館の外から叫び声と共に爆発音が響いた。館全体を揺らすほどの爆発は、どうやら地下で起こったらしい。なんだよ、霊夢のやつが暴れてるのか?

すると、息を整えたパチュリーが何とか身体を起こす。

「……今日は厄日ね。アナタ、さっさと逃げなさい。まだ死にたくはないでしょう」

「いやいや、どう考えても死にそうなのはお前だろ?それに私は異変を解決しに来たんだぜ?まだ帰るわけにはいかない」

「そんな事を言っている場合じゃないのよ。どうやら、あの子が……悪魔の妹が出てきたらしいわ」

 

-------------------

 

突然揺れた赤い館。その持ち主である、目の前の小さな吸血鬼は、明らかに動揺していた。

長い廊下を抜けて、他の部屋とは造りの違うドアを見つけると、私の勘がこの部屋だと告げ、ノックもせずに問答無用で突入したのがほんの数十分前。

部屋に入れば、廊下などの装飾とは比べ物にならないほどの、より高級そうな調度品で揃えられた空間だった。しかしながら、外の霧のせいもあり、光の刺さない部屋は薄暗く、所々に灯るロウソクだけが怪しく揺れていた。

そして1番偉そうな椅子に、偉そうに座っている少女。

見た目はまだ年端もいかないくらいだと思うけれど、反して醸し出される雰囲気は、充分大妖怪と言える。

そんな吸血鬼、レミリア・スカーレットと相見えた私は、この異変を止めるべく、弾幕ごっこを繰り広げた。

死闘とも言えるような、長く苦しい戦いの末、何とか勝利した私だったが。どうやら、今回の異変はこれで終わらないらしい。

「……これもアンタの仕業なのかしら?」

そう訊いてみたが、当の本人すらも予想外の出来事らしく、その表情は明らかに焦っていた。

「ま、まさか。あの扉を破ったというの……」

 

館を揺らす爆発音は、徐々にこの部屋へと近づいていた。

まるで一つ一つ扉を壊して、中を確かめるように。

私と吸血鬼は扉から外へ飛び出す。すると、最後の爆発の煙が消えようとしている所で、その惨状は言葉では言い表しにくいほどに、無残なものだった。

散らばる瓦礫の中、いくつものメイドの格好をした妖精が倒れている。妖精ならば時間が経てば復活するはずで、しかしそこに倒れている妖精はそんな気配を微塵も感じさせなかった。

煙の中から現れたのは、傷一つないこの爆発の主犯。

赤い洋服を血で濡らし、幼い身体をまるで蛇のように重たく這いずるように歩く。

表情は帽子に隠れて見えないけれど、どう考えても正常とは言えない。

「……なによ、アイツ」

「……私の妹。フランドール・スカーレット」

なるほど、吸血鬼の妹か。

確かに、羽とは言いにくいけど背中には宝石のように輝く物が見える。

見比べてみれば、隣の吸血鬼と似ているし。

「まったく。アンタ達は次から次へと問題を起こすわね」

そう言いながら、一枚の札を取り出す。先程までの連戦で、幾らか疲労はあるけれど、あの吸血鬼を止めなければこの異変は終わらないらしい。ならば身体にムチを打ってでも終わらせなきゃ。

「やめておけ、お前ではあの子に勝つことは不可能だ」

「何言ってんのよ。アンタに勝ったのは私よ?アンタの妹なら楽勝でしょ」

 

そう思っていた。

 

今思えば油断していた。なんせレミリアの妹なのだから、姉よりも強いとは思わなかった。

そして何よりも。

『弾幕ごっこ』のルールを知らないとは思わなかった。

 

フランドールから放たれる弾幕は、そのどれもが当たれば致命傷となるようなものばかり。

お世辞にも『ごっこ』で済むような代物ではなく。ましてやあの能力は反則だ。

 

「お姉様。フランと遊びましょ?」

「……部屋に戻りなさい、フラン。まだアナタが出る時ではないわ」

私とレミリアは、当たれば致命傷となる攻撃を、紙一重で躱していた。

しかし完全に避けきれるはずもなく、身体の至るところに傷が作られた、血が流れる。

「……何を起こっているの?お姉様。フランは悪くないわ。悪いのはこの世界なのでしょう?だからフランはこの世界を壊すの。そうすれば、私は自由になれるの」

言っている意味がよく分からないけれど。少なくとも普通の考えではないことは確かだった。

こんなの、どうやって止めろっていうのよ。こんな事なら、紫を無理矢理にでも連れてくるんだった。

 

「さぁ、お姉様。先ずはお姉様から」

そう言って妹は掌をコチラに向ける。あの手だ、あの手が握られると同時に、爆発は起きる。

 

握られる手を見ながら、私は死を覚悟した。

短い人生だったと、走馬灯が流れるようだった。

何処の誰か分からない、声が聞こえるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに遊びたいか?なら俺が代わろう。遊んでやるからかかってきな」




次回は早くても今週中にあげる予定です。




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77話/自由と本音らしい

久しぶりに霞さんのチートっぷり大爆発!!



「さて、どうしたもんかね」

予め美鈴から能力を聞いていなければ、とっくに五体満足とはいかない状況になっていた事だろう。

「お兄さん、一体何者?なんで壊れないの?」

「お、なんか久しぶりに正体を聴かれた気がする」

妹から放たれる弾幕。その一つ一つが当たれば致命傷となりうるもので、そんなものを避け続けている限り、辺りへの被害は甚大なものとなる。

結論から言えば、紅い館は跡形もなく崩れ去っていた。

これって、後々弁償しろとか言われないよな?

「そうだな、簡単に言うならば」

そして俺は指を伸ばす。指さされた妹は、突然のことに面食らった表情を見せる。

「君の嫌いな神様だ」

 

 

 

しかしながら、どうするべきか。流石にこれだけ幼い子を殺すのも気が引けるし、何よりもこの子の本心を聞いていない。

1歩後ろへと下がる。すると俺が立っていた場所に、大きなクレーターが出来上がり、土煙が舞い上がった。

「……なんで……なんで壊れないの!?」

「君の能力はとても恐ろしい。例え俺でも、壊されてしまえば治すのには時間がかかるだろう」

霊力を足に込める。少し力加減を誤ったか、地面がヒビ割れ捲れ上がった。

「でもね、だからと言って対処できない訳じゃない」

「壊れろ!!」

少女は掌を向けた。本来ならば気がつくはずもない、『目』と呼ばれる破壊点が、俺の身体から掌へと移された。

それを握られ、壊されてしまえば、『目』の元である身体は正体の分からない肉塊へと成り果てる。

「そんな事させないけどね」

移動させられたのならば、奪われたのならば奪い返すまで。

「……また、壊れてない」

 

 

------------------

 

「ぷはっ!……死ぬかと思ったぜ」

パチュリーを抱えながら、いきなり崩れた瓦礫の中から這い出でると、今まで居たはずの館は跡形もなくなっていた。アレ?コレは何かの魔法か?

「一体何者なんだ……アイツは」

「知らないわよ」

すると聞き慣れた声がしてきた。見れば霊夢が少女と話していた。

どうやら異変の首謀者らしく、事件は解決したらしい。らしいのだが。

「何が起こっているんだぜ」

「あら、魔理沙。生きてたの」

勝手に殺すな。

 

「んで、アイツは何者なんだ」

「そんなの私が聞きたいわよ。いきなり現れたアイツと、そこの吸血鬼の妹がドンパチ始めたんだから」

その結果が後ろの館だったもの(・・・・・)か。

あの妹の能力ってのも厄介だが、それを交わし続けているあの男も、相当異常だと思う。

まるで、こんな命のやり取りを何度もこなしているかのような。

必要最小限の動きだけで、無駄なく躱し続けて。

何よりも表情にはまだまだ余裕がある。

「あの〜。宜しいでしょうか?」

すると何処からか、緑のチャイナ服を着た女が現れた。

「美鈴。何か知っているのか」

偉そうな少女に呼ばれた女。ってか、コイツは偉そうにし過ぎじゃないか?

「えぇ、一応私の知り合いと言うか……恩人と言うか」

「要領を得ないわね、一体何者なのよ」

 

 

 

「私の師匠で、この世界の創造神様です、はい」

 

 

 

---------------------

 

足に込めた霊力で筋力の底上げをし、一気に間合いを詰める。どうやら種族は吸血鬼のようだし、多少は手荒に扱っても平気だろう。

腹に手を当て、掌底を叩き込む。衝撃波と共に吹き飛ぶ妹は、空中で何とか勢いを殺し静止した。

「なんで、なんで壊れないの……」

「そうだな。一つ種明かしをしようか」

俺は足元に転がる小石を拾う。

掌に収まるサイズの小石に、能力である施しをする。

「君の能力。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は、破壊対象の『目』が無ければ発動できない。そしてその『目』を君は自分の元へと移動することが出来るね」

本来ならば移動させられた『目』は、取り返すことすら不可能だろう。

「でも、俺の能力は『ありとあらゆるものを創造し操る能力』。破壊の『目』であろうと、俺が操れない訳がないだろう」

今まで、創造する事だけに使ってきた能力だご、こういった使い方もある。この世に存在するものは、小石から目に見えない概念ですら、操ることが可能だ。例外と言えば、あの男くらいか。

「さて、君の能力は俺には効かないことが分かったかな?」

「……なら能力を使わなければいい!!」

そう言って、少女は1振りの剣を取り出す。炎を纏った両刃の大剣。その見た目は少女には不釣り合いだった。

「それも無駄なんだけどなぁ……」

俺は指を鳴らす。すると少女の手に握られていた剣は、霧となって消えていく。

「すべての元を辿れば、俺が創り出したものになる。君が生み出したと思っている剣ですら、操ることは可能さ」

流石創造神。チート過ぎる能力だ。自分で言うのもなんだが。

「これで終わりかな?んじゃ、これだけの事をした君にはお仕置きが必要だな」

俺は1歩ずつ少女へと近づく。どう足掻いても勝てないと察してしまったのか、少女の表情は恐怖に染まっていた。

俺の1歩に合わせて少女も1歩退る。

次第に少女の顔には涙が流れ出した。

「なんで?!なんでよ!!私はただ、自由になりたかっただけなのに!!」

「自由を履き違えるなよ。全ての責任と、その代償を負うこともせずに、自由は有り得ない」

俺は夜月へと手をかける。抜き放たれた夜月は、霊力を纏い、青く輝き出した。

「自由になって……その後君は何をしたかったんだ?それは君の言う『自由』にならなければできない事だったのか?」

「私は……私は……」

 

 

 

「お姉様と一緒にいたかっただけなのに……」




霞「え、これってマズくないか?」

作「いやー!霞さんは相変わらずチートですねー」

美「流石師匠です!!」

霞「いや、あの子死んじゃうの?!」

作「ロリコンの私がそんな事をするとでも?」



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78話/寒いけれど、夏のお話らしい……

寒っ!さ〜むっ!!


「神力解放。神様モード」

両手を合わせて、制限を外す。身の内から溢れる力を制御し、能力の行使に充てる。

「えーと……元はどんな形だったっけ?」

確か、全体的に紅くて……。そういや中を見て回るなんて事をしてなかったな。内装が全くわからん。

「……適当でいっか」

「し、師匠。出来れば過度な改装はしないで欲しいのですが……」

隣に立つ美鈴は、久しぶりに俺の神力を受けたからか、額に汗をかいていた。

「……善処しよう」

 

空を覆っていた紅い霧が晴れた頃には、すっかりと日は沈み、太陽の代わりに丸い月が浮かんでいた。

妹が暴れた結果、無残な姿となった館では、一夜を過ごすこともままならない為、全壊の責任の一端がある俺が直すこととなった。

後ろでは吸血鬼姉妹と博麗の巫女、パジャマの様な格好をした少女とメイド姿の女性が心配そうに見ている。

ってか、こんなにいたのか。

「……しょうがない。暴れた責任もあるし、頑張るか」

合わせた両手から、瓦礫の山へと神力を注ぎ込む。瓦礫の一つ一つに行き渡ると、淡く光だし、空中へと浮かんだ。

「……俺、こういうパズルみたいなのって苦手なんだよな」

それぞれの瓦礫を組み合わせ、元の形へと修復する。

まったく別の形にするならば、俺の想像に任せて好き勝手に出来るが、今回は出来る限り元の形に戻すのが目的。

詳しく見ていない中までは、俺の想像が行き届かない。そうすると、壊れた破片を繋ぎ合わせて、元のパーツから全体の形を予想するしかない。

「……面倒臭」

「あの……私も……手伝う……」

ふと後ろから声がかけられた。振り返れば涙で目元赤く腫らしま幼女が立っている。

先程まで、溜まっていた鬱憤を晴らすように泣き濡らした吸血鬼の妹。それが今は、俺に若干の怯えを見せつつも、憑き物が落ちたような、スッキリとした顔をしていた。

「……そうか、なら手伝って貰おうかな」

俺は妹の頭に手を置く。

一瞬表情を硬くしたが、その手が傷つけるものではないと知ると、身を任せた。

 

-------------------

 

「お姉様と一緒にいたかっただけなのに……」

 

その一言は、私の胸を抉るように響いた。

彼女は、私の妹はたったそれだけの願いで、自由になろうとしていたのか。

そして私は、そんな小さな願いすら、知らなかったのか。

数百年ぶりに姿を見せた我が妹。その心は狂気に蝕まれ、破壊衝動を抑えられずにいるはずだった。現に、彼女はこれだけの被害をもたらしている。

それを抑えるために、私は地下室へと監禁することを選んだ。それが彼女の為になると信じていた。

 

「だそうだ、吸血鬼姉」

 

「……」

言葉が出なかった。こんな見ず知らずの男に、気付かされるなんて。

妹は涙を流し、恐怖で竦んでいる。今、妹を救えるのは私しかいない。震える足を奮い立たせ、私は1歩踏み出す。

妹を疎ましく思う姉が何処にいる。家族を見捨てる者が何処にいる。

「……私の……私の妹に手を出すな!!」

その言葉は心からの叫び。吸血鬼としての威厳とか、プライドとか、そんなものはどうでもいい。妹を、フランを守れなくして、何が紅い悪魔(スカーレットデビル)だ。

「お……姉様……」

「私の家族に、妹にこれ以上なにかしてみろ!!生まれてきたことを後悔させてやる!!」

気がつけば涙が溢れていた。それは恐怖からなのか、妹への後悔からなのか、今となっては分からないけれど。

「それがお前の答えか?」

男はゆっくりと振り返る。その目は、今まで生きてきた中で、見たことがないくらいに鋭く。吸血鬼である私ですら、身の竦むような殺意に充ちていた。しかしここで退くわけにはいかない。

「……」

男は無言で刀を振り上げる。有り得ないほどの霊力を纏った1振りの刀は、妖しくも美しく光っていた。

 

 

 

 

「まったく。その一言を何でもっと早く言ってやらないかね」

 

 

 

気が付くと、男は刀を鞘に収め、先程までの殺気はなりを潜めていた。

その表情は穏やかなものとなり、まるで子供を窘める父親のそれに近いと思う。

「吸血鬼妹、お前の望むものは、何かを壊して手に入れられるようなもんじゃない。壊すだけが解決策じゃない。もっと自分の姉を信じてみろ」

しゃがみこみ、フランと目線を同じくした男が優しく語りかける。

「そんで、吸血鬼姉。お前には能力より、力よりも強力な物を持っているじゃないか。言葉とは、相手を傷つけるだけじゃない。こうやって、大切なものを守ることも出来るんだ。大切なものを守るためなら、プライドや矜持なんてなんの役にも立たんぞ」

返す言葉がない。私の一言で、フランは驚きながらもより一層涙を流していた。それは先程までの恐怖ではなく、もっと別の、私には美しいものに見えた。

 

「さて、そんじゃ最後の仕上げといきますか」

男はフランへと近づく。その姿には、妹を傷つける不安は感じられず、まるで癒す為かのような雰囲気だった。

「出てこいよ、無明。いるんだろ」

何者かの名前を呼ぶと、フランから黒いモヤのような物が立ち込めた。

モヤは次第に人の形へと変わっていき、朧気ながらもまた別の男が現れる。

「気が付いていましたか、流石創造神」

「黙れ。良くもまぁこれだけの事をしてくれたな」

黒いモヤの男は、薄っぺらい笑みを浮かべ、その全てが胡散臭く、また悪意に充ちているようだ。

「……まぁ、今回はこれで退きましょう。いずれまた、お会いすることでしょうし」

そう言い残し、モヤは再び空へと上り消えていった。

 

 

 

 

 

-------------------

 

「よし!こんなもんか?」

暫くすると、紅い館は来た時と同じ姿を取り戻していた。

まるでここでの争いなど、初めからなかったかの様に。

「流石師匠。すっかり元通りですね」

「神様舐めんなよー」

軽快に笑い飛ばす男、門番が言うにはこの世界の創造神だと言う。確かに、館を直す際に見せた神力ほ、私の知る限りではとてつもない神々しさを放っていた。

しかしながら、油断するわけにもいかない。こんな奴が幻想郷にいたなんて、私は知らなかったのだから。

「……もういいかしら?アンタ一体何者なの?」

私は男に近づき、問いかける。あれだけの戦闘の中、男の姿には一切の汚れも、ましてや疲労も見られない。

「んぁ?美鈴から聞いてないのか?」

そう言って隣の門番の頭をポンポンと叩く。

「さっきも言ったろ?俺はこの世界の創造神。そんでコイツの師匠。神条霞だ、以後よろしく」

「……それを信じろと?」

「寧ろ信じられないと?」

確かに、目の前で瞬く間に修復されていく館を見れば、疑いようは無い。そして門番から放たれた凄まじいまでの殺気を思い出せば、信じざるを得ない。

「……そんじゃ、そろそろ帰るかな」

「ちょ、まだ話は終わってないわよ!!」

帰ろうとする男を呼び止める。

「あー。詳しいことは後で話してやるからさ、今は帰らせてくれ博麗の巫女」

「……」

後でっていつよ!

そう怒鳴ってやりたかったが、なんとなく私の勘がその機会はすぐに訪れると告げていた。

「んじゃな、吸血鬼姉妹とその他諸々。……今度はケンカすんなよ?」

 

そう言って、男は飛び上がり、空へと消えていった。

本当に、あの男は何者なのだろう。

私の胸には、疑問だけが留まっていた。

 

「なんか、私達空気だぜ」

「お嬢様、とりあえずお夕食に致します」

「ゴホッゴホッ……死ぬかと思った」

 

 

 

 

 

再び会える、その勘は予想よりも早く実現することとなった。

「おう、おかえり当代の巫女」

「なんでアンタがココにいるのよ!!」




作「最後の方は、ほんと魔理沙とか空気だったなぁ」

魔「扱いの改善をよーきゅーするぜ!」

作「だが断る!!」

小悪魔「……なんか私のいない間に話が終わっちゃったんですけど……」

作・魔「あっ……」


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79話/祭神は『祭り』の『神様』って意味じゃないらしい

宴じゃ〜!!


「師匠!お酌します!!」

隣に座る美鈴が、酒に酔っていることもありいつもより数倍は大きな声で、それも耳元で喋る。流石の神様も、鼓膜は丈夫じゃないんだけどな。

 

あの異変から数日が経ち、今は神社の境内で宴会が開かれていた。どうやら異変の後には、その首謀者が主催で毎回開かれるらしい。

多分、紫が外から持ってきたのであろうブルーシートが、至るところに敷かれ、人間から妖怪まで、結構な数が集まっていた。

「ちょっと美鈴!その役目は私がするわ!!」

「紫さんも飲みますか?お酌しますよ?」

「いや、そうじゃなくて……あぁ!ちょっと零さないでよ!!」

俺を挟んで反対側に座るのは、一番弟子である紫。なんでこうも静かに飲めないんだろうか。

すっかり暗くなった境内には、酒の匂いが充満し、その空気だけで良いそうになる。

ま、皆楽しそうだから良いけどな。

 

「なぁ、ホントにアンタは神様なのか?」

ふと、魔女っ子のような格好をした少女に話しかけられる。そう言えば、あの異変の時にもいたような気がする。

「そうだが……えーと」

「あぁ、私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ」

「……普通じゃない魔法使いってどんなんだ?」

「……多分、あそこにいる紫もやしみたいなのだと思う」

それは余りにも失礼な気がするが。紫色のパジャマを着た女性。どうやらあの紅い館--紅魔館の住人らしく、この場にも来ていた。

……今更ながらに思い出した。そう言えば、1度紅魔館には行ったことがあるんだった。あれは随分昔だが、俺と美鈴と姫咲で異世界に飛ばされたことがあった。その時に訪れたのが紅魔館だったはず。

「そうなんですよ!あの時の館に、私も務めているんです!!」

「何その話。私、知らないんですけど!!」

「だぁっ!耳元で騒ぐな!!」

どうにかして左右の騒音を止めて欲しいものだ。

 

--------------------

 

 

「んで、詳しく聞かせて欲しいんだぜ」

紫と門番が取っ組み合いのケンカをし始め、それを霞さんが収めた後、魔理沙は詳しい説明を求めた。多分、紅魔館の連中も同じ気持ちだろう。

私だって、あの日に聞いていなければ気になってしょうがない。

「詳しくも何も。何から話せと?」

「そうだな……。まずはアンタの素性とか」

「創造神」

そんな一言で済まされても、誰も納得なんかしないわよ。

あからさまに疑っている魔理沙の表情を無視して、霞さんは続ける。

「ここにいる、紫と美鈴の師匠もしてた」

「紫の師匠なのか?!」

これはきっと、誰もが驚くことだろう。少なくとも、この幻想郷で知らぬ者はいない、妖怪の賢者と呼ばれる人物。その師匠となれば、実力はそれ以上。ましてやあの日、吸血鬼の妹との戦いを目の当たりにしている私たちならば、疑う余地はない。

「……私も初耳なんだが」

吸血鬼の姉。レミリアは流石に不機嫌になりながら言った。

自分の部下が、創造神の弟子だったと言うことよりも、それを知らなかったことの方が、よっぽど気に食わないらしい。

「あ〜、その〜。創造神様の弟子と言って、過度な期待をされると困りますので……」

「……なら居眠りばかりしてないで、ちゃんと働いて欲しいものね」

「……お前、何処でも寝る癖は治ってないのか」

どうやら昔からの様だ。確かに、あの日も私が起こすまで門に寄りかかりながら寝ていたし。

「んで、他に聞きたいことは?」

「なら、なんでこの博麗神社に居座っているの?」

それはレミリアからだった。

 

「だって、ココの祭神だから」

 

それはあの日、私に言ったのと同じセリフだった。

 

----------------------

 

「はぁ?アンタがこの神社の祭神?!」

一足先に神社へと帰っていた俺を見るなり、当代の巫女--博麗霊夢は怒鳴り散らした。

何故ここにいるのか。

ココは私の家だ、と。

確かに、ココは博麗神社であり、霊夢は巫女なのだから、ココは霊夢の家だろう。でもその前に、俺を祀る社でもある。

それを説明すれば、驚きを隠せないでいた。

どうやら、紫からはなにも説明されておらず、ずっとこの社の神を知らずにいたらしい。

「……じ、じゃぁ何よ。ココは創造神を祀っていたの!?信じられないわ!!」

「ふむ。それもそうか」

確かに、いきなり現れた男に、『神様です、どうぞ宜しく』と言われても、胡散臭いことこの上ない。

ならばちゃんと説明出来る人物に登場してもらう他ない。そう思い、俺はワームホールを開く。片手を差し込み、目的の人物の襟首を掴むと、一気に引っ張りあげた。

「……あの〜、扱われ方に些か不満が有るのですが」

「……少なくとも無関係じゃないんだ。ちゃんと話しておかなかった責任は取ってもらう」

襟首を掴まれ、宙ぶらりんな状態の紫。それだけでも異様な光景だろう、霊夢は目を丸くしていた。

「紫とも知り合いなの?!」

「……その説明もしなきゃいけないわね」

 

そして語られたのは、俺と紫の出会いから、今までの大まかな話。

はるか昔に出会い、俺に弟子入りした紫と美鈴。そしていつの間にか建てられた博麗神社。幻想郷を創り、俺を迎え入れ、そして今日まで高天原で月夜見に書類仕事をさせられていたこと。

話し終えた頃には、真夜中を過ぎ、空が白んでいた。

「……なんかいきなり過ぎて頭が追いつかないんだけど。とりあえず、アナタが神様だってことはわかったわ」

「おう。それ位の認識で十分だ」

「師匠、流石に自分の社の巫女に舐められたらマズイですよ……」

そんなもんだろうか?

少なくとも俺は気にしないのだが。

「霊夢、今目の前にいるのは、本来ならば話をすることすら烏滸がましいほどの相手なのよ?わかってる?」

「……分かってるわよ。アンタが珍しく、この人……霞さんの言動に一々細心の注意を払っている位には、敬わなければいけないってことわ」

別にそんなことは望んでないんだがな。俺としては、特になにかする訳じゃないし。霊夢が一緒に住みたくないってんなら、別の場所に家を建てるだけだし。

「そうはいきません!師匠にはこの社に居て頂かないと」

「あ、はい」

「……まぁ、分かっていたことだけど、私には聞かないのね」

 

こうして当代の巫女との共同生活か始まり、翌日には再び現れた紫から、俺の紹介も兼ねた宴会を開くと教えられた。

 

---------------------

 

「なるほど。つまり正真正銘、一番偉い神様で、このボロっちい神社の神様なわけだな」

そう言って、魔理沙は納得していた。ホントに理解しているのかは疑わしいけど。

私は紫の隣に座り、1通りの話を聞き流しながらお酒を飲む。

未だに信じ難い部分はある。けれど、この数日の霞さんを見ていれば、何となくだけどあの紫と門番の師匠だってのは納得できた。

私以上にこの幻想郷を知り、私以上に『博麗の巫女』を知っている。そりゃそうだ……なんせ。

「霞様、料理が出来ました」

「おう、ありがとう。夢乃もそろそろ座って飲んだらどうだ?」

初代博麗の巫女がいるんだもの。




作「昨日今日と、連続投稿し過ぎた……」

霞「ホント、計画性が無いな」

作「なんか、書ける時は一気に書きたくなるんですよ」

霞「書けない時はとことん書けないのにな」

作「それを言わないで」



一応、次回でこの章は終わり。
次は……日常回でも書こうかな?

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80話/数千年ぶりの式らしい

あの子、登場


 

少しの酒の匂いと、陽気な連中の雰囲気を乗せて、柔らかい風が頬を撫でていく。

久しぶりに、気分の良い酒が飲めた。

皆が異変など無かったかのように、楽しく騒げる。それだけでも、紫の成した事には意味があるんじゃないかと思えてきた。

ココでは人間も妖怪も、種族の垣根なんて初めから存在しない。同じ時、同じ場所に集って、こうやって酒が飲める。そんな仲間がいるだけだった。

 

「はーい!創造神様の力ってのを見てみたいぜ!!」

しみじみとこの場の空気を楽しんでいたところに、魔理沙が意味のわからないことを提案してきた。

「実際、創造神様ってのは何が出来るんだぜ?」

「……何でも出来る」

なんか昔にも聞かれたことのある質問だ。そして聞かれる度に、俺自身の能力のチートさを改めて感じる。

「いや、そんな大雑把な答えじゃなくて」

これ以上無いくらいに的確な答えなんだがな。

それでも魔理沙は納得しないらしい。最近のお子様は少しワガママじゃないか?

「……しょうがない。魔理沙、手を出してみな」

「ん?こうか?」

差し出された魔理沙の両手に、俺は手を翳す。柔らかな光が立ち込め、仄かに暖かくなる。

光が小さくなりやがて消えると、魔理沙の両手には溢れんばかりの液体が注がれていた。

「おわっ!なんだこれ!!」

「飲んでみな」

無色透明な液体に、興味を惹かれつつも怪しむ魔理沙。恐る恐る口に運ぶと、それを舐めるように少量口に入れる。

「……う、うまい!!」

「そうだろう。なんせ俺の知りうる最高の酒を創造したからな」

なんて能力の無駄使いだ。自分でやって呆れてくる。きっと月夜見がこの場に居たならば、俺はお説教(3時間コース)確定だろうな。

「……飲み終わっちまった」

「早ぇよ……」

「えー。師匠、私も飲みたいです!!」

はいはい、そう言うと思ってたよ。

俺は両手を合わせる。どうせだ、全員に行き渡るだけの量を造っちまえ。

突如現れる無数の樽。それは魔理沙にあげた酒と同じものが入った、『無くならない』酒樽。ほんと、創造神様大盤振る舞い。

「そんじ2回目の乾杯だー!!」

「「「「おー!!」」」」

 

--------------------

 

「……なんか、『神様』ってののイメージが崩れさる音が聞こえたわ」

騒がしい連中から離れ、私は今日は(・・・)中身の入っていない賽銭箱の前に腰を下ろす。

遠目に見るのはこの神社の祭神。

……ホントに神様なの?

1人で持ち上げるのすら大変であろう酒樽を、水か何かのように勢いよく飲んでいるけど。

「紛うことなき創造神様ですよ」

そう声をかけてきたのは、何故生きているのかわからない初代博麗の巫女、夢乃さん。見た目は20歳を過ぎたくらいなのに、実年齢は……。一応女性だから伏せておこう。

「あの方がいなければ、博麗神社どころか、この世界すら無かったのですから」

「未だに信じられないわ」

普段は社でゴロゴロして、気が向けば人里まで遊びに出かけ、神様ってのは皆こんなもんなの?

「霞様は特別ですよ。なんせ創造神であり、自由を司る神様なのですから」

「自由ねぇ……」

確かに、自由奔放って言葉がピッタリだわ。

ご利益があるのかどうか疑わしいけど。

「それよりも、私としてはアナタに興味があるわ」

「私にですか?」

夢乃さんは驚いた表情を見せる。

「……なんせ先代の巫女に会うのは初めてだから」

前任の巫女は突然居なくなった。幻想郷を守る結界の管理者としても存在する博麗の巫女。その不在はこの世界の存亡も危ぶまれるとして、紫は私をこの幻想郷に連れてきたらしい。それ以前の記憶がない私には、今となってはどうでもいい事だけど。

先代の巫女は、とても強かったらしい。それは戦闘に限らず、その心のあり方までも。誰もが羨むような美しさを持ちながら、こと戦闘になれば鬼神のごとく戦う。『博麗の巫女』が妖怪のみならず、人間からも恐れられているのは、多分そのせいでもあると思う。

「あの門番も言ってたわ。私よりあなたの方が強いって」

自慢ではないが、これでも戦闘には自信があった。並の妖怪ならば負けることはないし、弾幕ごっこならば今まで負けたことは無い。それは私の能力も関係してるけど、大きな要因は恐らくこの『巫女の勘』だろう。

今回の異変も、このお陰で何度救われたことか。それだけ、私はこの勘を信じていた。

 

それでも、あの吸血鬼の妹--フランドールには勝てるとは思えなかった。

勝てる未来が想像出来なかった。もし、あそこで霞さんが現れなかったら、きっと今頃、私は死んでいたかもしれない。

あの日、全てが終わり布団に潜り込んだ時、その事に気がついてしまった。

弾幕ごっこなら勝てた?

それは『幻想郷』の中だから。もし、弾幕ごっこのルールを知らない妖怪が現れたら?

もし、賢者たる紫ですら勝てない相手が現れたら?

私はどうすれば良いのだろうか。

そんな事を考える度に、私の手は小さく震える。

「別に誰かの為とか、そんな大層な目的なんて無いけど。それでも、負けっぱなしは趣味じゃないの」

「……なるほど」

そう言って、夢乃さんは優しく微笑んだ。優しく、一度見たら忘れられないような、そんな笑み。

「なら霞様に弟子入りしてみては?」

「……はい?」

神様に弟子入り?そんな事出来るの?

「そりゃそうですよ。なんせ、紫さんや美鈴さんは、霞様の弟子だったんですよ?」

……確かに、妖怪が神様に弟子入りとか、普通に考えればおかしな話だ。何となく、霞さんなら納得してしまうけれど。

「一度、お話してみてはどうでしょう」

「……考えとくわ」

 

神様に弟子入り……ねぇ。

 

---------------------

 

酒樽を何度か飲み干す。飲み干す度に、樽は再び酒で満たされていく。

俺の霊力が無くならない限り、この樽は自動的に酒を造り続け、渇れることはない。

周りを見れば、もう既に何人かが酔い潰れその場で眠り込んでいた。

やはり、俺と飲み比べ出来るのは同じく神か、鬼くらいなものか。

そんな事を考えながら、樽をその場に置き。気持ちいい夜風を浴びながら、空を眺めていると、突然俺の背中に衝撃が走った。

俺は余りにも予期せぬ事に、受け身も取れず数メートル吹き飛ばされた。

何?!敵襲?!

そんな見当違いな予想とは裏腹に、衝撃の原因たる人物は、堂々と俺の目の前に立つ。

その姿は見覚えがあった。

黒い洋服に金色の髪。赤いリボンのような札を結ぶ、コイツは……。

「やっと見つけたのかー!!」

「ル、ルーミア?!」




霞「やっとルーミアを回収か」

作「長かったですねー」

ル「久しぶりなのかー」

霞「そのバカっぽい喋り方はなんともならなかったのね」



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古い神様の物語らしい
81話/つかの間の平和だったらしい


ってなわけで最終章!!


どうも、霞です。

この挨拶も久しぶりだな。

紅い霧の異変が終わって数週間、幻想郷は今日も平和だ。

空を見上げれば気持ちよさそうに流れる雲。これでもかと照りつける太陽。時折吹く風は、程よく涼しい。

そして、視線を下に移す。

ポッカリと、まるで穴が空いたように黒い球体が空中をさまよう。

 

……うん。平和だ。

「いや、霞さん?!アレ、アナタの式何でしょ?掃除の邪魔なんだけど!!」

箒を片手に怒鳴り散らす霊夢。見れば黒い球体は、霊夢が掃き集めた塵にぶつかり、見事なまでに散らかしている。

「……しょうがないね、自由の神()の式だから」

「その理屈は納得いかないわ!」

言うまでもなく、球体の正体はルーミア。宴会の日に再び出会うことが出来た我が式である。

いつぞやの言霊遣いに身体を小さくされ、数千年もの間俺を探して旅をしていたらしい。

あんな小さな身体でも、元は大妖怪。さらに言えば、俺の札の効果もあり生きながらえていたらしい。

「さっさと身体を戻して欲しいのかー」

ルーミアは開口一番、俺にそう願った。

まぁ、俺ならばルーミアを元に戻すのは簡単だ。頭につけたリボン型の札を外せば、ルーミア自身の妖力で身体は元に戻るだろう。

他にも、俺が言霊の能力を創れば良い。

そう考えれば、元に戻す事など容易いことだ。しかし。

「だが断る」

コイツから札を外すとろくな事にならない気がする。なんせルーミアは人喰い妖怪。俺の制御下に無ければ何をしでかすか。

「人聞きが悪いのかー」

「……お前、真っ先に俺を殺しに掛かるだろ」

「……」

何故黙る、ルーミアよ。

 

霊夢の掃除も何とか終わり、夢乃を加えて4人でお茶を啜る。

このまま、何事もなく今日という1日が終わればいいと思っていた。

 

「た、大変だぜー!!」

 

空から声が降ってくるまでは。

声の主は猛スピードのまま、境内へと突っ込む。アレ、大丈夫なのか?

「心配いらないわ。いつもの事よ」

半ば諦めたように呟く霊夢。

土煙をかき分けながら、出てきた魔理沙には目もくれない。

「た、大変なんだぜ!!」

「どうしました?魔理沙さん」

対応に出たのは夢乃。本来ならば霊夢が出るべきなんじゃないか?

「い、異変だぜ!至るところで妖怪やら魔族やらが暴れてるんだ!!」

はい?魔族?そんな気配は微塵もしないが。

「それが特殊な結界でも張ってるのか、全く気配もなく現れたんだ!!」

 

 

--------------------

 

「藍、アナタは人里へ向かいなさい。これだけの量、自警団だけでは対処出来ないわ」

「かしこまりました」

広げたスキマに藍は飛び込む。突如として現れた大量の妖怪と魔族。その数は未だに増え続け、私でもハッキリと把握は出来ずにいた。

幻想郷の各地で現れた敵は、人だけに限らず、妖怪や妖精までも襲い始める。

ただの妖怪ならばいくら数を増やそうとも、問題は無い。しかし、今回は違った。

私の能力が効かない。

いや、効かないと言うよりは、発動できないのだ。

大量の敵をスキマ送りにし、幻想郷の外へと放り出せれば事は終わるはずなのに。何故か敵が現れた場所にはスキマが開かなかった。

こんな事は初めてだ。

長年生きてきたが、能力が使えない等と、考えたこともない。

「一体、何が起こっているの……」

 

-----------------------

 

「姫様、中へ入っていてください」

私は弓を構えながら告げる。突然現れた未知の敵。その集団は妖怪だけに限らず、知らない種族も混じっていた。

私は近づく敵を片っ端から射抜く。先程から続けているため、本来ならばその数は既に減っていてもおかしくないのだが、逆に増えているように思う。

「師匠!援護します!!」

隣に立つブレザー姿の少女。月から逃げてきた優曇華も、果敢に戦っていた。

「な、なんで……なんで能力がつかえないの?!」

さっきから試しているのだろう、優曇華は眼を赤くしていた。

しかし何が原因なのか、その効果を発動出来ないらしい。私の能力は戦闘向きではないから関係ないけれど。

「全く、面倒臭いわね!!」

 

----------------------

 

「五十八!!」

「アナタ、さっきから数えてるの?」

ナイフを投げながら、隣で戦っていた門番の言動を訝しむ。

「えぇ、なんせこれだけの数と戦うのは初めてですから!」

まったく無駄なことを。どうせ数え切れずに途中で諦めるに違いない。さっきから数が減っていないんだもの。

お嬢様に紅茶を淹れていると、外が騒がしくなった。また門番が居眠りでもしているのかと思えば、聞こえてくるのは爆発音。どうも只事ではないと様子を見に外に出れば、地平を埋め尽くすほどの数の敵。異形の者や、外見だけは人間の様なもの。様々な種族で構成された部隊とでも言えばいいのだろうか。それが門前にまで迫っていた。

私は考えるまでもなく排除へと行動する。

時を止めればわけもないが、何故か発動できない。これは敵の妨害にあっていると考えるのが妥当だろう。ならば厄介なことこの上ない。言うまでもなく、私は人間だ。

これだけの数を相手にしていれば、そのうち体力の限界が訪れるだろう。そうなれば、頼りにしなくてはいけないのはこの門番。

先日の創造神様の弟子だと初めて知ったが、それだけの実力があるという事だ。非常に悔しいが、美鈴の援護にまわる他ない。

「美鈴!何があってもこの門は死守するのよ!!」

「勿論です!!」

そう言って、美鈴は敵の中へと突っ込む。

この時ばかりは、美鈴が頼もしく思えた。

 

--------------------

 

光の届かない暗闇の中、男は笑っていた。それはいつも見る貼り付けた笑みで、他人から見れば薄気味悪い、何を考えているかわからない不快なものだった。

 

男は長年待ち続けた。

あの日、浅はかな自らの策略を崩され、その身を一度滅ぼしながらも、再起を誓っていた。

いつぞや、創造神に話した、『目的など何も無い』の台詞。あれは真っ赤な嘘だ。男には明確なまでの目的があり、その為ならば何を犠牲にしても良いとまで思っていた。

 

「さぁ、これで終わりですよ。創造神」

 

いつの間にか声を上げて笑っていた男は、初めて人間らしい笑を零した。

それは邪悪なまでの、狂気に満ちた笑いだった。




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82話/幻想大異変-紅魔館①

門番は頑張る!!


「さんびゃくっ!!」

 

突如として現れた異形の者達を、手当り次第に片っ端から倒し続けてどれ位経っただろうか。

一向に数の減らない敵の集団は、言葉を発することも無く、ただ機械的にコチラを襲ってきているようにも思えた。

 

ふと、隣を見れば既に息も絶え絶えの咲夜さんが、それでもナイフを投げ続けていた。この人の能力があれば、本来敵など物の数ではない。

こうやって体力を回復させることも出来ない所から、咲夜さんも能力を使うことが出来ないのが解る。

つまり、今現在のマトモな戦力は私だけ。

無論、私だって疲れはするけれど、そこは妖怪。人間のそれとは違う。

まだまだやれる。

 

そう、思っていた。

 

 

------

 

 

「……外の騒ぎはまだ片付かないの?」

余りの騒がしさに目が覚めて、酷く気分が悪い中、私は小悪魔が淹れてくれた紅茶を飲みながら、忌々しく光が降り注ぐ窓を見た。

少なくとも私が起きてから、既に2時間は経っている。あの門番だけならばまだしも、咲夜も対応しているというのに、これだけの時間がかかるのは異常だ。

まぁ、能力が使えない時点で異常なのだが。

「知らないわ。興味が無いもの」

「……」

私の向かいに座るパチェは、本から目線を逸らさずに答えた。

まったく、我が紅魔館を襲撃するなんていい度胸だ。これで日が出ていなければ私が直々に手を下してやるものを。

今は門番と咲夜に任せるしかない。なんとも口惜しい。

「……日が落ちるまで、あと4時間はかかるわよ」

私の思考を読み取ったパチェは、時計を見ることもなく告げる。

「それまでには終わるわ」

「あら、能力が使えないのに分かるのかしら」

そこで初めて、パチェは本から目を離し私を見た。

「当たり前じゃない」

紅茶を口に含む。仄かな茶葉の香りが口に広がり、喉を通っていった。小悪魔もなかなか悪くは無いが、やはり咲夜のそれと比べたら悪いかしら。

「だって、あの子達は紅魔館の一員なのよ」

 

------

 

「よんひゃくじゅうにっ!!」

だんだん数えるのも億劫になってきました。一体何時になったら終わることやら。

そろそろ体力が心許なくなってきて、攻撃を躱し続けるのも難しい。所々に出来たかすり傷程度の物が目立ってきた。

なんせ後ろにいる咲夜さんを庇いながらだから。

 

「め、美鈴。私はまだ戦えるわ……」

「なに強がってるんですか!明らかに無理でしょう!?」

見れば膝をつき、息を切らした咲夜さん。それでも敵を睨み、ナイフを投げ続ける。

「大丈夫!私の後ろには誰一人通しはしません!!」

普段は格好つかない姿ばかり見せてしまっているのだから、こんな時くらい踏ん張らなくては。

敵の血で紅く染まった拳を握りしめ、地を蹴る。手近な所にいた敵の懐に潜り込むと、腹をめがけて拳を突き出す。妖力を込めた拳は、腹に大きな穴を穿ち、吹き飛ばしていく。

右から振り下ろされた長い爪を躱し、勢いをそのまま載せて回し蹴り。反対側にいた敵へとぶつけ、バランスを崩した所へ今度は踵落とし。

しかし、仲間が倒されていくのに、顔色一つ変えない集団は、見ていて気分のいいものじゃない。

私は少し間をとって、再び構える。

「……流石に、師匠と違って妖力には限界があるんですけどねぇ」

小さく呟くが、今はそんな泣き言を言ってる場合じゃないと頭を振る。

前を見ろ、目を逸らすな、息を整えろ。少しずつ疲労が溜まっていく体にムチを打つ。

「きゃぁあっ!!」

突然悲鳴が聞こえた。

振り返ると私の隙を縫って咲夜さんへと近づいた奴がいた。辛うじて避けたのだろうが、咲夜さんの腕からは血が流れていた。

「くっ!……このぉっ!!」

私はすぐさま間合いを詰め、頭へと蹴りを叩き込む。首から上を吹き飛ばし、その場へと崩れた敵を尻目に咲夜さんに駆け寄る。

「大丈夫ですか?!」

「……心配ないわ、ただのかすり傷よ」

そう言いながらも、流れ続ける血は止まる気配がない。

「……」

私は袖口を破き、咲夜さんの腕に巻き付けて取り敢えずの止血を試みる。この腕ではもう戦うことは無理だろう。

「咲夜さん。中へと戻ってください」

「!何を言っているの!これだけの数、貴女だけじゃ無理でしょう!!」

叱られてしまいました。でも、いつもの様な迫力もなく、その言葉には力がありません。

「大丈夫。ここは私に任せてください」

「でも……!」

私はできうる限り笑顔で告げる。上手く笑えているか心配だけれども。

「ここは紅魔館。そして私はその門番。ならば私の仕事はこの門を、館を、住人を守ること」

私は立ち上がる。

その言葉は咲夜さんに向けて発したものだけど、どこか自分自身へと言いつけるようにも思えた。

「だから、私の仕事を奪わないでください」

「……」

ジリジリと間合いを詰めてくる集団を睨みつけ、私は1歩踏み出す。

「……早く終わらせなさい。貴女がこれまでに飲んだことのないような最高の紅茶を淹れてあげるわ」

「おぉ!それは楽しみです!!」

これは尚更負けるわけにはいかなくなりました。

 

門の中へと入っていった咲夜さんを見届けると、私は大きく息を吐く。

「私、約束を破るのは嫌いなんですよね」

肩から力が抜けていった気がした。

余計な力みがなくなり、少し身体が軽くなった気分がします。

「……だから、こんな面倒ごとは早く終わらせます」

先ほどとは違い、今なら負ける気がしません。

 

 

 

「さぁ、遊んであげますからかかって来なさい!!」




あ、あけましておめでとうございます。

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83話/幻想大異変-人里①

長らくお待たせしました。

プライベートで忙しくなってしまい、やっと更新です。


紫様の命令で、人里へと向かった私は、その現状に言葉をなくすしかなかった。

至るところに飛び散った血溜まり。

凡そ誰か判別すらできなくなった人間の死骸。

燃え盛る家屋。

悲鳴とも嗚咽とも区別がつかない、阿鼻叫喚。

いつの間にか握られた私の拳には血が滴っていた。

 

 

 

遥か昔。

 

紫様の式となる前。

 

1人の男と私は出会った。

あの日の事は、きっと忘れることは無い。

 

当時の私は、鳥羽上皇に愛され、何不自由なく暮らしていた。

それまでに出会った男共とは違い、鳥羽上皇は私の身体ではなく、心を愛してくれた。

それまで、ただの慰みものとしか見られていなかった私にとって、それは余りにも甘美で、暖かい日向の様な愛だった。

 

しかし、当然ながら私は妖怪。

幾ら抑えようと、その身から溢れる妖気に当てられ続ければ、人間の身には毒にしかならない。

 

私は、彼を守るために『敢えて』正体を明かし、逃げるように都を去るしかなかった。

 

逃げた私を討伐にやって来たのは、何度かその名を聞いたことのある、安倍晴明と言う陰陽師。

 

私の命もここまでか。と半ば諦めた。

 

「何か言い残すことはあるかい」

 

そう問われる。

 

ないわけが無い。

私が去って、彼の容態はどうなったのか。

彼は悲しんでくれているのか。

数多の言葉が私の頭の中を駆け巡った。

 

しかし、私の口から出たのはたった一言。

 

「上皇に……私は幸せでしたと……」

 

 

 

 

 

殺生石にされ、そこから紫様に救われるまで、長い年月が流れた。

もはや彼は既に亡くなっただろう。

私の心の甘えが、彼を苦しめたのだと、長く長く自分を責めた。

 

たまたま紫様に助けられた私は、その目的を聞いて驚いた。

『人間と妖怪が共存出来る世界』

 

そんな物が出来るわけがない。

妖怪は、どこまで行っても妖怪でしかない。

生きているだけで、人間を苦しめる存在でしかない。

 

「妖怪と人間の違いってなんだと思う?」

 

紫様に問われたあの日を、今でもハッキリと覚えている。

 

妖怪とは、人間に対する毒だ。

その身の全ては毒にしかならない。

 

「なら簡単な話よ」

 

 

 

 

 

「毒を持って、人間に仇なす毒を制しなさい」

 

 

 

それが人間への、彼への恩返しに成るならば。私は猛毒となろう。

もはや、人間に愛されることは無理だろう。

それでいい。それでもいい。

 

愛とは無償だと、彼に教わった。

見返りのない、見返りを望まないのが愛だと。

 

「それに毒は使い方によっては薬になるのよ」

 

-----------

 

瓦礫の山と化した家屋を分け進む。

どうやら、まだ無事な人里の住人は1箇所に集まり、最後の抵抗をしているようだ。

 

まだ間に合う。

 

それがわかった瞬間、私の身体は何も考えずに動いていた。

例えこの後、人間から恐れられようとも。

私は一向に構わない。一つでも多くの命を救うことが、私の恩返しであり、愛なのだから。

 

だから、紫様しか知らないこの姿になろうとも、もはや後悔はない。

 

 

 

「我が主の命により、貴様らをくらいつくす!恐怖し、命乞いも最早意味の無いものとしれ!!」

 

私の本来の姿、白面金毛九尾の狐。

見上げるほどに大きく、美しく輝く金毛の尾を振り、鋭い爪を剥き出しに、私は人間達の前に降り立つ。その背に多くの命を背負えることが、今はただ誇らしく、嬉しく。目の前の敵が何であろうと、猛毒と化した私は一切の躊躇なく屠り去る。

 

「我は九尾!!貴様ら如きが我が猛毒に適う事はない!!」

 




と、言うわけでちょっと短めですが。

今回は藍様の過去を少し書いてみました。
基本、橙が絡まなければ藍様はカッコイイ系女子だと思うんです。


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84話/幻想郷大異変-永遠亭①

お久しぶりです!

前回からまたまた間が開いてしまいましたが……。
私は元気です!!


普段でも薄暗い竹林は、日が落ちることでより深い闇に覆われた。

辺りを漂う静けさに、耳が痛くなる。

「それなら取ったらどうだうさ?」

呑気に隣で人参を齧っている素兎を無視し、より一層警戒を強める。

 

昼間、あれだけの攻勢を見せていた異形の化物たちも、暗くなった途端に、まるで消え失せたかのように動きを見せなくなった。

ただ、動かなくなっただけで、まだ確かに存在する。呑気に見えるてゐだって、こう見えても辺りへの警戒を解いてはいない。

「ねぇ、それ私にも1本頂戴」

「あ、これが最後だったうさ」

そう言って、口の中へ人参を放り込む。1発くらいなら誤射で許されるかな……。

 

「ウドンゲ、てゐ、状況は?」

後ろから声を掛けられる。振り返れば弓を片手にした師匠がいた。

「日が落ちてから動きが急に無くなりました」

「……不愉快ね。まるで何時でも私達を殺せると言っているみたい」

数メートル先に広がる暗闇を睨みながら、師匠はその苛立ちを隠そうともしなかった。

「師匠、能力が使えない理由は分かりましたか?」

師匠から放たれる空気にいたたまれず、私は話題を変えようとする。これだけ怒った師匠を見るのは久しぶりだ。最後に見たのは……、てゐの落とし穴に引っかかった時だろうか。

「えぇ、どうやらこの永遠亭を中心にドーム状の結界が貼られているわ」

「結界、ですか?」

師匠曰く、並の妖怪では感知することも不可能なほどの、薄く、それでいて神ですら破るのに骨が折れるであろう強固な結界。

そんな物がここだけでなく、この幻想郷の主要な場所に貼られているらしい。

「これは流石に私でも破れないわ」

師匠にこうも言わせる結界に、私は寒気がした。そんなものを誰にも気付かれず、また同時多発的に発生させるなんて。この異変の首謀者はどれだけ恐ろしい相手なのだろうか。

「どうにもならないうさ?」

「……方法はあるけれど、かなり難しいわね」

師匠が表情を曇らせる。

「霞に助けを求めるのよ。この敵が蠢く竹林を抜けて」

 

-------

 

 

どれだけの月日が経っただろうと、雲に覆われた空を見上げ記憶を遡る。

あの日、不老不死になる薬を口にしてから、どれだけこの日を待ち望んだか。

今日、やっと悲願を達成できると思うと、自然とニヤけてしまう。早くアイツをなぶり殺したいと疼く身体を、何とか抑えながら、藤原妹紅は暗闇の中息を潜めていた。

遥か昔。無明と名乗る男と出会い、妹紅の中の復讐の焔は熱く燃えたぎった。

輝夜でもいい、創造神でもいい。この怒りを、この恨みをぶつけられるならば。どうせあの男も、最終的には利用するだけして、捨て駒にするのだろう。一時でもこの心の焔が行き先を見つけてくれるのならば、利用されてやろうと考えていた。

そして今日、焔はやっと箍を外し燃えさかれる。

「待ってろ……蓬莱山輝夜」

思わず口に出た言葉は、暗闇の竹林へと飲まれ、消えていく。

妹紅の背後に控える異形の軍勢は、言語を解さないのか、なんの反応もなくただ命令を待つだけだった。

 

-------

 

「……あぁ、あの霞うさ?」

暫く考え込んでいたてゐが、ようやく思い出す。

「……えっと、誰ですか?」

会ったことのないウドンゲは首をかしげていた。

そう言えば、最後にあったのはどれ位昔だっただろう。確かあの博麗の巫女を担ぎこんできた時だろうか。

それ以来となれば、もう数十年は会っていないことになる。

「一言で言えば、一番偉い神様よ」

「神様に見えない神様だうさ」

私とてゐの言葉に、余計に想像するのが難しくなったのか、更に首を傾げるウドンゲ。

彼ならば、これ位の結界など容易く破れるだろう。

「よく分かりませんが、その神様に助けてもらいましょうよ」

考えるのを諦めたウドンゲの提案に、私は首を振るしか無かった。

腐っても創造神である彼が、この異変に気付かない筈がない。結界のことだって既に分かっているだろう。しかし、一向に動きを見せないということは、何かしら問題があるという事だ。

今現在、彼も戦っているか、若しくはこの結界自体に二重の罠が仕掛けられているか。

前者ならば時間の問題だが、もし後者なら。この結界を破ることによって、二次的に私達、若しくは幻想郷自体に被害が及ぶのであれば、彼も安易には動けない。

そして、この予想は遠からず当たっているだろう。

ならば助けを求めても、好転するとは思えない。

この異変の大本をどうにかしなければ。

 

「まったく。何をサボっているのかしらね」




少なくとも、夏までには終わらせたい……と考えております。はい。


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85話/幻想郷大異変-博麗神社①

今回は独自解釈が多分に含まれます。
ご了承ください。


side 霞

 

-時間は遡ること数時間前。

 

 

幻想郷を突如として襲った、異形の軍勢による襲撃。

俺にすら気取られず張られた結界によって、対処が遅れた為に、後手にまわらざるを得なかった。

「とにかく、魔理沙は人里へと向かってくれ」

「わ、わかったぜ!!」

そう言って箒に跨り空へと飛び立つ魔理沙を見送り、俺は次の手を考える。

「私はどうすればいい?」

隣に立つ霊夢は、今までにない異変に珍しく多少の狼狽えを見せた。

いくら今までに数多くの異変を解決したと言っても、これだけの規模となれば話は別なのだろう。

 

そこで俺はふと気が付く。

 

「……おかしくないか」

この異変の首謀者が誰かは分からないが、少なくとも幻想郷において博麗神社(ココ)以上に重要な場所はない。

現実と幻想の境目。その結界の要はココだ。

ならば必然的に博麗神社を狙うべきだ。それなのに、俺達は能力が使える。

現にルーミアは未だに黒い球体になって辺りをフワフワと飛んでいるし、魔理沙も『魔法』を使って空を飛んでいった。

つまりはこの周辺には結界が貼られていないということ。

それは博麗の巫女を侮っているのか。それとも目的は別にあるのか。

「随分と舐められたものね」

「……もしかして怒ってる?」

「当たり前でしょ!」

 

暫くして、慌てた表情の紫がやって来た。

紫にとっても予想外の出来事らしく、珍しく困惑の色を見せていた。

「何故博麗神社では能力が使えるのでしょうか」

「そればっかりは分からん。だが、今後ココが狙われないと言いきれない以上、少なくとも霊夢はココを移動するべきでは無いな」

紫は頷きながらも、思考を巡らせているようだった。

「仕方ない。俺が行って、結界を破ってこよう」

いざと言う時に対処できるように、あまり動きたくはないんだけどな。

空を見上げると、さっきまで晴れ渡っていた筈なのに、雲行きは怪しく、分厚い雲が空を多い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それはオススメしませんよ、創造神」

 

 

 

 

声が聞こえた。

この時ばかりは一番聞きたくなかった声。

なるほど、コイツならば全て合点が行く。

つまりは他の者に手出しをされたくなかったんだ。

だから時間稼ぎとも思える手段で、態々回りくどい事をしたんだ。

「そうだろう。無明」

 

「さて、それはどうでしょう」

 

神社の屋根に登り、俺達を見下ろす無明。

貼り付けられた笑みは、より一層不気味に見えた。

「……師匠。結界は私が」

「まぁ、無理だと思いますよ」

無明の動きを警戒しつつも、行動しようとした紫を一言で制する。

 

「いま、各所に張っている結界は少し特殊な細工を施してあります。あなた如きの妖力では傷一つ付けられません」

「……あら、そんなことやって見なくては分からないじゃない」

口元を扇子で隠し、相手にコチラの真意を悟らせない。そんな紫のやり口は、無明には通用しなかった。

「まぁ、万が一。結界を破壊できたとしても、私が何も考えていないわけがないじゃないですか」

フワリと屋根から飛び上がると、無明はそのまま人里の方向を指さした。

 

「もし、結界が破られたならば、その瞬間この博麗大結界に大穴を空ける術式が発動します」

「……何を言っているの」

「おや、分かりませんか?現実と幻想の境界を無くしてしまう、と言っているんです」

博麗大結界。それがこの幻想郷にとってどれだけ重要なものか。もし、奴の言う通り、境界が無くなってしまえば、危うい均衡で保たれていたこの世界の住人は、その存在すらも保てなくなる。

外の世界で忘れ去られた存在が、ココで生きていけるのは、博麗大結界によって守られているからだ。身体、心、それらを大結界は外から隠しこの世界に留める為にある。

「そんなことになれば、いくら創造神でも手の打ちようがないのでわ?」

「何が望みだ」

こんな回りくどい方法を取り、幻想郷の住人まで人質にして。

俺は無明を睨みつける。

 

 

 

 

 

「世界の再構築ですよ」




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86話/幻想大異変-博麗神社②

佳境に差し掛かって来ましたよー


side 霞

 

青い神力と黒い霊力がぶつかる。

力と力が接する部分からは火花が散り、互いに押し合い、拮抗する。

いくら封印されているとはいえ、俺の神力と同等の力を放つ自体、異様な光景と言える。

 

「さぁ、足掻いてみせて下さい、創造神」

 

俺は夜月を抜く。無造作に放たれていた神力が、その瞬間に夜月へと吸い込まれた。

青く耀く夜月を構えると、俺は飛び上がり、無明へと斬りかかった。

袈裟に軌道を描く鋒は、無明の手によって止められる。

「こんなものですか?」

「……もう、喋るな!」

 

身体を反転させ、腹を蹴った。バックステップで避けられるが、同時に夜月から手を離され自由になる。

「創造!」

手を翳し、無明の足元から黒い棒が無数に生える。それらは互いに絡み合い、瞬く間に鳥籠の形へと変わった。

「……それは、『予想通り』ですよ」

そう言った瞬間、籠は脆く崩れ去る。

それならそれで、使い道はある。

崩れた籠の破片を再び操り、形を変えそれぞれを針状にする。それらは無明へ狙いを定め、同時に飛んでいく。

無数の針は集まり黒い塊となるが、そこからは血の一滴も流れてはいない。

ふと、背後から殺気を感じ、咄嗟に屈む。頭の上を右手が空振る。

見れば何処かで見たことのあるような、空間の裂け目から腕だけが伸びていた。

「……私の能力?!」

下で見守る紫が、驚きのあまり声を漏らす。

「あぁ、そう言えば貴女から貰ったものでしたね」

悪びれもせず、身体全体を現した無明。左手には黒く押し固められた霊力が禍々しく球体を作っていた。

「全ては闇の中へと消え去る」

空へと放たれた球体。それは一気に数100倍は大きくなる。

よく見れば、球体の中で霊力自体が高速で回転し、渦をまいている。

「『球暗曳(きゅうあんえい)』」

風が吹く。木の葉が舞う。

木の葉は抵抗することなく黒い球体へと飲まれていった。

風はどんどん強くなり、やがて大の大人が立っていられないほどの強さとなる。

「ちっ……断ち切れ、夜月!!」

横に薙ぎ、空間ごと切り裂くと、球体は黒い霧へと変わった。

「なるほど、一つだと対処出来ますか」

そう言う無明は、自分の周囲に無数の球体を作り出す。

「幾つまで対処出来ますか?」

その全てが再び大きさを変え、辺りを吸い込み出す。

全くもって面倒臭いことを。

 

 

 

-------

 

side 美鈴

 

夜になっているのも気付かずに戦い続け、私の足元には自分のか敵のか分からないほどの血が流れていました。

比喩でも何でもなく、倒した敵が山となっているにも関わらず、その数は減る気配を見せません。

流石に、そろそろ終わってほしいのですがね。

それでも、一向に攻撃の手は休まることはなく、捌ききれずに被弾する事も多くなり、私はあえなく膝をつきかけそうになる。

 

「あら美鈴。珍しく起きてるじゃない」

 

そんな声が聞こえました。

たった数時間の事ですが、その声は君主足り得る堂々としたもので、振り返ることなくその声の主が優雅に立っているのが想像できます。その小さな身体をふんぞり返しているのも含めて。あ、これはオフレコですよ?

「……何か悪意のあることを考えてなかった?」

「き、気のせいですお嬢様」

「……来月の給料なしね」

死刑宣告にも似た決定事項に、今度こそ膝をついてしまいます。

「さて、我が安眠を妨げた有象無象ども、歓迎しよう」

尊大な態度のお嬢様は、バルコニーからコチラを見下ろす。

「我ら、紅魔館のやり方でな!!」

 

 

 

そこからは本当に一方的でした。

いつの間にかいたパチュリー様や、小悪魔さん。回復した咲夜さんまで外に出ての戦闘。圧倒的とも言える戦力に、敵の数は明らかに減っていきます。

私は後方へと退げられ、妹様に治療の手伝いをしてもらいました。

私が応急処置を終えた頃には、地平を埋め尽くすほどいた軍勢は、1握りにまで減っていました。

 

「ふん。他愛ないわね。こんなのに苦戦するなんて、腕が鈍ったんじゃない?」

「いや、流石に多勢に無勢ですよ……」

そんな軽口を叩けるまでには、私も回復していた時、私は気が付きました。

もう何年も感じたことのない、圧倒的な力。

お嬢様ですら、珍しく頬に汗を流すほどの威圧感。

遥か昔、目の当たりにした肺をも圧迫する力の塊を。

「……久しぶりね、美鈴」

 

この時ばかりは、私も死を覚悟しました。

最後に見た姿ではなく、初めて見た時のあの姿。

「赤」ではなく、どす黒い「赫」と表現したくなる着物。

どんな生き物だろうと、絶対に対峙してはイケナイ。

勝負することすらなく、蹂躙されることを想像してしまう妖力の大きさ。

「……その姿はでは会いたくなかったですね」

 

「姫咲さん……」

 

 

-------

 

side 永琳

 

動きを止めていた敵は、突如として再び動き出した。

私とウドンゲは片っ端から敵を排除し、てゐは無数に仕掛けたトラップを発動させていく。

それでも時間稼ぎにしかならず、圧されているのは目に見えて明らかだった。

最悪の場合、永遠亭を捨て、霞のところに姫様だけでも逃がさなくては。

そんなことを考えている時だった。

 

「し、師匠!永遠亭が燃えています!!」

 

ウドンゲからの報告に、耳を疑いたくなった。

永遠亭が燃えている?

この防衛線を抜け、アソコまで辿り着いたと?

周囲への警戒は密にしていたし、竹林の中にはてゐのトラップもある。私ですら竹林の中を抜けるのは至難の技だというのに。

そんな事を考えている場合ではないと、自分を叱咤し冷静に考える。

今、何をするべきで、何が出来るか。

 

「ウドンゲ、てゐ、此処は任せるわ」

「は、はい!!」

私は道を引き返し、永遠亭へと走った。

永遠亭の上空には黒い煙が立ち上っている。

「姫様……!!」

 

私は走る速度を上げた。

 




久しぶりに姫咲さん登場。


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87話/幻想大異変-紅魔館②

今回は美鈴大活躍。
あとあの子も登場。


side 美鈴

 

「お久しぶりですね、姫咲さん」

目の前に立つ最強の鬼に、私は逃げ出したくなる身体を必死に押さえつける。

本来ならば再会を喜ぶべきなのだろうけれども、今は状況が違う。

先日の博麗神社での宴会の際に師匠から聞かされた、姫咲さんの裏切り。その情報がなければ、私はここまで警戒をしなかった。

まぁ、それがなくともここまで白地な殺気を放っていれば、警戒はするかな。

現に周りを見れば、あのお嬢様ですら、冷や汗をかいている。

「……美鈴、アイツは何者だ」

姫咲さんから目を逸らさず、その一挙手一投足わ注視するお嬢様は、若干震えながらも聞いてきます。

「……師匠が辛うじて封印をした、地上最強の妖怪、所謂鬼子母神です」

「あの創造神が倒さずに封印した?それだけでも冗談だと思いたいな」

ゆっくりと歩を進める姫咲さん。ふと立ち止まると、辺りを見回す。

「邪魔なのが多いわね」

そう言って右手に妖力を込め、無造作に振るう。

それだけの動作なのに、まるで嵐のような突風が吹き荒れ、周囲にいた異形の軍勢は跡形もなく吹き飛んでいました。

「うん。これで邪魔は居なくなった。さぁ、遊び(殺し合い)ましょ」

不敵に笑むその顔は、初めて目にした時と同じく、純粋な殺意が込められ、並の妖怪ならば泡を吹いて気を失ってしまいますよ。

「悪い冗談だと思いたかったですけどね」

「あら、私は鬼よ?鬼は嘘を吐かないわ」

そう言って、動き出した姫咲さんを、私は既に見失っていました。

 

 

 

side 咲夜

 

突如として現れた1人の女性。どう贔屓目に見ても、友好的とは思えない程の殺気を放ちながら、私達の目の前に立つ。

右手を振るうだけで、辺りを一蹴した力を見れば、今までの軍勢などまるで玩具でしか無かったと言わんばかりで。

久しく感じなかった、『死』の恐怖を私は骨身に染み込ませていた。

喉が渇く、身体が震える。今、一言でも喋れば抜き身の刃の様な殺意は私を貫き、簡単に殺されるだろう。

こんな圧倒的な戦力差を感じながらも、相手と話し続ける美鈴。それだけでも、私には真似の出来ない事だ。

その美鈴ですら、冷や汗をかき身体を震わせ、逃げ出さないよう耐えている。

「……あぁ、そう言えば能力が使えないんだったわね」

一言一言に乗せられ、飛んでくる圧力。

「……なら私も、能力は使わない(・・・・・・・)でいてあげる」

動き出したのほいつだったのか。私の目には見えなかった。もし仮に、私の能力が使えたとしても、勝てる未来が想像出来ない。この場から逃げることも、ましてや立ち向かうことも出来ない。そんな無力さを感じていた。

一瞬にして吹き飛ぶ美鈴。

いつ攻撃を受けたのか、どうやって吹き飛んだのか、それすらも私には見えなかった。

「……ゴフッ!?」

壁にぶつかり、崩れ落ちる美鈴。

「あら、意外と頑丈な壁ね。突き破るつもりだったんだけど」

「美鈴?!」

漸く自体を理解した私は咄嗟に叫ぶ。能力が使えない現状、彼女が唯一の戦力と言っても過言ではない。先程までの有象無象ならば、お嬢様の力を持ってすれば造作もなく倒し切れる。だが、ここまでの戦力差はあの創造神の弟子である彼女に頼らざるを得ない。それでも勝ち目がないことに変わりはないが。

「……さ、流石に容赦ないですね……」

「あ、生きてた?」

驚いた素振りもなく、まるで乱暴に扱った玩具がまだ壊れていないことに安堵したかのような、そんな表情を見せる。

「やっぱり頑丈ね美鈴。昔からそうだったけど」

口から血を垂れ流す美鈴を見て、嬉しそうに語る鬼。

「……貴女の相手は私がします」

「当たり前じゃない。そこいらのガキ共となんて遊ぶつもりは無いわよ」

 

そこからは一方的に嬲られる美鈴を、ただ見ているしかなかった。

 

 

 

side 美鈴

 

目が霞む。

腕が上がらない。

流れ出る血の量が、明らかに生命活動が困難だと語る。

それでも私は立ち続ける。

姫咲さんの相手は私だ。

紅魔館の皆を傷つけさせるわけにはいかない。

正直、自分でも立っていることが不思議でしょうがない。

倒れてしまえば、どれだけ楽か。

それでも、立ち続けるのは、門番としての誇りなのか、それとも……。

 

力任せに腹を殴られる。

バットで殴られたような衝撃に、何処にこれだけあったのかと思うくらい、血を吐き出す。

 

 

 

「頑張れ!美鈴!!」

 

 

 

微かに聞こえたのは、私を呼ぶ幼い声。

ここ数日。そう、師匠がこの紅魔館を訪れたあの異変以来、地下室から解放され、自由となったあの少女。

あれから、ちょくちょく私のいる門まで顔を見せてくれる。

こんな私でも、あの子の役にたてると思わせてくれる。あの笑顔のためならば、何でも出来ると思わせてくれる。

 

妹様が、バルコニーから私を心配そうに見守っていた。

その表情は今にも泣きそうで、それでも手摺を握りしめ、ともすれば逃げ出しそうになる身体を押さえつけ、一時も目を逸らさぬようしっかりとした目で私を見つめる。

 

「美鈴!そんな奴、やっつけろ!!」

 

純粋な力だけなら、私より遥かに上なのに、まったく無茶を言います。

思わず零れる笑み。

満身創痍な身体に鞭を打つ、そんな言葉な筈なのに、心の底から湧き出る力。

 

 

 

背筋を伸ばせ。

 

前を見ろ。

 

呼吸を整え。

 

口の中の不快な液体を吐き出し、私は精一杯の笑顔で言うんだ。

 

「任せてください。妹様」

 

 

 

 

到底敵わないのは分かっている。

倒せるなんて思わない。

でも、やるんだ。

応援してくれている人が1人でもいるなら、私は頑張れる。

「お待たせしました、姫咲さん」

私の覚悟が決まるまで待ってくれていた姫咲さん。

この人は根は優しいんだ。

そう思いたい。

「紅魔館の門番、紅美鈴。ここで死ぬわけにはいきません」

「……いいわ。ここからは本気で相手をしてあげる」

いつの間にか止まっていた震え。

四肢に力を込めて、必死に見栄を張る。

 

 

「遊んであげますから、かかって来なさい」

 

 

爆風と共に視界から消えた姫咲さん。今の私では、その姿を捉える事なんて不可能。ならば最初から見ようと思わない。

攻撃の当たる一瞬。そこに全ての神経を集中させる。

瞬間、頬に当たる衝撃。それを左足を軸に回転することで往なす。

そのままの勢いで回し蹴りを放つと、初めて攻撃が当たった。

頬は切れ、無傷とは言えないけれど、今までに比べればかすり傷のようなもの。

怯むことなく再び腹部へと加わる圧力に、力いっぱい後ろへと飛ぶことで和らげる。

「……へぇ」

楽しそうに笑う姫咲さんは、見れば口元から血を流していた。きっと先ほどの回し蹴りが当たったのだろう。

「それがいつまで続くのか、見せてみなさい」

「言われずとも!!」

 

 

 




フランちゃんから応援とか、羨ましい限りですな。

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88話/幻想大異変-永遠亭②

今回はグロ要素があります。ご注意を!!

あと、妹紅ファンの方々。
先に言っときます、ごめんなさい!!


 

 

side 永琳

 

火の粉が踊る竹林を走り抜け、私は永遠亭へと辿り着いた。

どうやらここが火元のようで、元の姿を想像出来ない程に崩れ落ちていた。

私は炎を掻き分け、中へと飛び込む。

すると元は中庭だった場所に二つの影が見えた。

一つは膝をつく姫様。もう一つは見知らぬ少女。

一先ず姫様の無事を確認し安堵する。しかしながら、辺りに漂う不穏な空気に、私の神経は再び張り詰めた。

 

想像でしかないが、恐らくこの少女がこの火災の犯人なのだろう。だとすれば、今回の敵襲と無関係とは思えない。

慎重な対応が必要だ。

 

そんな中、姫様の悲痛な叫びが……。

 

「私のピカ〇ュウがぁっ!?」

 

……元い、頭を抱えたくなるような戯言が聞こえた。

この状況下で真っ先に言うのがそのセリフ?

他に言うことは無かったのかしら。

 

「ちょっとアンタ!私のゲーム〇ーイどうしてくれるのよ!!」

そう言いつつ少女に躙り寄る姫様。しかし少女は一向に言葉を発しない。

次の瞬間。炎はより一層燃え上がり、渦を巻いて姫様を襲う。咄嗟に後ろへ飛ぶことで避けることは出来たが、明らかに殺意を持った攻撃に、姫様も態度を改めた。

「……貴女、どなた?そこまで恨まれるような事したかしら?」

すると少女は漸く口を開く。

「私は藤原妹紅。お前を殺すためにここまで来た!!」

再び炎は踊り、形を変えていく。

傍観している場合ではないと、弓矢を構える。真っ直ぐに放たれた矢は、私の狙い通り妹紅の脚を貫いた。

「姫様!無事ですか!」

射抜かれた脚で、まだ動こうとする妹紅に、私は矢を番えながら近寄る。

「……そうか、アンタが八意永琳か」

その言葉に私は寒気がした。何故私の事を知っているのか。地上の人間で、私の存在を知っている人物は少ない。霞の周りの人間くらいだ。そしてそこから情報が漏れるとは思いにくい。

「悪いがアンタは邪魔だ……」

そう言うと掌を向ける。私は妹紅がなにかする前に二の矢を放った。最早この少女が何処の誰で、何が目的かは知らないが、姫様に危害が及ぶのならば排除しなくてわ。

しかし放たれた矢は、今度は妹紅に当たる事もなく、舞い上がった炎に飲まれた。

そのまま炎は私を取り囲み、檻へと姿を変える。

「そこで大人しくしてな」

 

 

side 輝夜

 

永琳が不甲斐なくもアイツの炎に閉じ込められ、身動きが取れなくなった。

こうなると私がやるしかないじゃない。

こういった肉体労働は私には似合わないんだけど。

まぁ、少なくとも永琳の矢で脚は潰したから、後は軽いものでしょうけど。

 

そんな私の考えは、次の瞬間には消え去った。

炎を纏ったアイツ--藤原妹紅だっけ?はそれが払われると、全くの無傷でそこに立っていた。

「……」

そう、まるで不死鳥が炎の中から再び甦るように。

「なるほど、アンタも不死なのね」

「そういう事だ。けどお前はここで殺す」

野蛮な言葉を使うわね。私みたいに上品に喋れないのかしら。

私は蓬莱の珠の枝を取り出す。

つい先日、あのスキマ妖怪が話した『弾幕ごっこ』とかいうルールは、どうせ通用しないんだろうし。不本意だけど久方ぶりに本気で相手をしなきゃいけないわね。

「お互い不死ならば、気兼ねなく殺せ(あそべ)るわね」

 

そこからはお互い被弾を気にすることのない、決してお世辞にも優雅とは言えない戦い。

私の弾幕が妹紅の腕を吹き飛ばせば、妹紅の炎が私の顔を焼き焦がす。次の瞬間には傷など無かったかのように、元に戻っている。

そう言えば、不死の相手との戦闘は初めてね。どうやって決着を着ければいいのかしら。

そんな事を考えていると、迫る拳を避けきれず吹き飛ばされた。

炎の海と化した永遠亭の中を、私は転がる。

「いっっったいわね!私、これでも姫なのよ!?」

聞こえるはずもない外の相手に叫ぶ。自分で「これでも」とか言ってるあたり、虚しくなっちゃうけど。

 

ふと考える。アイツは確か藤原と名乗った。私の記憶にある「藤原」と言えば、不比等くらい。つまりその関係者?

あの事が原因で私を恨んでるなら、これ以上無いくらい面倒臭いわ。

 

そこで思い出す。あの五人に課した難題を。

そしてそれぞれの持ち帰ったものを。

「……そう言えば、アレ(・・)って使えるじゃない」

どうせこの炎の中でも無事なんだろうし、使えるものは使わなきゃ。

都合のいい事に、ここは私の部屋だった場所。ならばこの辺りに……。

 

 

side 永琳

 

姫様が屋敷の中へと吹き飛ばされ、しばらく経った。不死の身体故に、この炎の中でも無事だとは思うのだけど。

行く手を遮る炎に、辛酸を舐めさせられる思いでいる中、瓦礫の山から姫様が姿を現した。

「ちっ、生きてたか」

「お姫様は準備に時間がかかるのよ」

そう言った姫様は、朱色に染められた1枚の衣を羽織っている。

確か、昔に聞いたことがある。あの衣は……。

「いい加減、死ぬまで焼き尽くしてやるよ!!」

再び炎を纏う妹紅。炎は形を変え、妹紅の背中から吹き出す。その姿はまるで不死鳥の様で、こんな状況でなければ、素直に美しいと思ったことだろう。

「まったく。能力が使えないのは厄介ね」

言葉を紡ぐ姫様。当然ながら、生粋の姫であるからこそ、その一つ一つの動きは雅さを感じさせる。

「でもね、私を殺したいのなら『能力』を封じた程度じゃ足りないわ」

姫様を囲むように浮かぶ光の弾。それらは高速で回り、やがて1本の輪となる。

「霞くらいじゃなきゃ私は殺せないわよ」

光の輪はその大きさを大きくしていき、触れたものをまるでチェーンソーの様に切り裂いていく。

しかし妹紅はそれすらも気にせず、姫様へと駆ける。

やがて輪に触れた妹紅。その上半身と下半身は別れ、地面へと崩れ落ちた。

しかし予想通りに炎は舞い上がり、その身体を元に戻そうとしている。

「まだまだ!」

輪となっていた光は途中で途切れ、太い縄の様な、ムチのように撓る形状へと変わる。

それを操り、更に細かく切り刻む。

ムチの動きが止まった頃には、妹紅はその原型を留めていなかった。

「ま、ここまでしても復活するのは分かってるけどね」

そう言いつつ近づく姫様。

羽織っていた衣を、妹紅だった物に放り投げると、光のムチで縛り上げる。

「これは火ネズミの羽衣と言ってね、決して燃えないのよ」

つまり炎の中から復活する妹紅は、衣に包まれた状態で、死ぬことも、元に戻ることも出来ない状況下に陥った。

 

これだけの惨状を生んだ少女との戦闘は、こうして呆気なくも幕を閉じることとなった。

 

 

「またいつでも来なさい。その度に殺して(遊んで)あげるわ」




ホントはもっと時間を掛けてこの2人は戦わせたかった。
でもこれ以上、長引かせるよりは、スパッと終わらせる。
断腸の思い、わかって欲しい!!

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89話/幻想大異変-博麗神社③

残りあと5話!!

そんでお待たせしました、あの子が復活!!


side 霞

 

何度も力と力がぶつかり合い、その度に嵐のような突風が吹き荒れ、大地が揺れる。

数えるのも面倒な程に、俺は斬りかかり、その全てを無明は避けるか防いだ。

乱れる呼吸を落ち着かせ、頭を働かせる。さっきから感じる、妙な違和感。確かに、無明に傷を負わせる事が今のところ出来ていない。しかし、それはアイツも同じ事だ。俺が対処出来ない様な攻撃をしてこない。余裕を見せているつもりなのだろうか。

 

俺は最初、無明の能力についてある予想を立てていた。それは「対象を超える」力を得る能力。それならば、俺を追い込んだのも頷けた。しかし、今はどうだ。

夢乃の能力を考慮した戦いをすれば、先の戦い程の苦戦を強いられない。確かに、今の状態で常に全力を出さなければいけないが、それでも俺に優位を取れないことから、この予想は外れていると言うことか。可能性は2つ。予想通りで未だに力の全てを使っていない。もしくは、予想自体が違い、別の能力がある。そのどちらか。

 

「そろそろ気が付きましたか。私の能力に」

 

ふと、無明が語り出す。

その姿は尊大で、少なくとも神の前で見せるものではないな。

「私の能力は『壁を崩す程度の能力』。それは物理的な壁に限らず、封印や概念などの壁すらも、私には意味をなさない」

「……」

そう語った無明。そこで俺は気が付く。

壁を崩す(・・)

超えるではなく?

そうか。そういう事だったのか。

「だから夢乃の能力が必要だったのか」

「……そうです。壁を崩す能力と、予想を超える能力。その二つがあれば、私に敵はない」

壁を崩し(・・)、同等の力を得ただけでは俺には勝てない。俺の予想を超える結果をもたらすために、夢乃の能力を奪ったのだ。

壁を超えない以上、それは=でしかないのだ。

「……なんだよ……その程度だったのかよ……」

「……?」

俺は肩を落とす。ホント、無駄に考え過ぎて頭が痛いわ。

これでいつかの「言霊使い」の様な能力だったら厄介だったが。その能力が分かればなんてことは無い。俺と同じ力を使う奴が居るだけだ。

「もう少しさぁ、早めに言ってくんね?コッチは無駄にシリアスな感じで疲れるんだわ」

「……何を言っているんです」

俺は懐から1枚の札を取り出す。それを下にいる人物に届くよう投げる。

「あのな?これでも俺は最古の神様。創造神な訳よ」

俺の札から意図を汲み取った人物は、行動を起こす。それを妖力の動きから感知し、後は任せた。

アイツなら、何とかなるだろ。

 

俺は再び夜月を構える。それは今までの力任せな構えじゃなく、慣れた型。

「どうせ、その能力で紫の封印もこじ開けたんだろ?」

「……勿論。彼女(・・)には本来の力で暴れてもらわなくては」

ンなこったろうと思ったよ。結界で幕が掛けられているにも関わらず、この距離でも感じる圧倒的な妖力。間違いなくあの姫咲が封印を解いている。

今現在、この幻想郷でアイツを対処出来るのは多くない。紫や美鈴でも、1人では難しいだろう。

俺もこの場を離れる事が出来ない。

ならば不本意だけどしょうがない。背に腹は変えられないというやつだ。

「お前が『最強の妖怪』を手駒として使うならば、俺も切り札を出すしかないよな」

そう言って下を見る。俺を不安げに見守る紫と霊夢の顔が見えた。んな顔見せんな。

「……最強の式神(・・・・・)ってやつを」

 

side 紫

 

何度目かの衝撃の後、2人は間を開け話し出した。話はココからでは聞こえないけど、途中で師匠が咋に肩を落としていた。あの師匠が諦めたと思えないけど、何が起こっているのか分からないのは口惜しい。

「……ねぇ、紫」

隣に立つ霊夢は、先程からの圧倒的な力の波に、辛うじて立っているような様子だった。

「……霞さんは……大丈夫なの?」

「当たり前でしょ。誰の師匠だと思ってるのよ」

それは自分に言い聞かせるようなセリフだった。こうやって信じて見ているしかない。自分の無力さを改めて思い知る。それは霊夢も同じようで、震えながらも握る拳には力が入っていた。

そんな中、師匠が何かをコチラに投げた。それは一直線に飛び、近づいくと1枚の札だと気が付く。師匠からの何らかのメッセージだと思い手を伸ばすが、それは私でも、ましてや霊夢でもなく、庭を飛んでいた一つの球体に飲み込まれる。

この状況下で私を頼ってくれないのは寂しいが、文句は言えない。あの宴会の際に聞かされた話が本当ならば、この場合頼れるのは彼女だけなのだから。

遠くで感じる妖力に、唯一対抗出来るのは師匠か彼女。ならば私はそれをサポートすればいいんだ。

メッセージを受け取った球体は、暫くなんの反応も示さなかったが、突如としてその形を霧に変えた。

なるほど。これだけの妖力を感じるのは久しぶりだ。恐らくあの姫咲さんと同じかそれ以上。なにせ、この世で最初の式なのだから。

「お初にお目にかかります、常闇さん」

黒い霧の中から現れたのは、元の姿からは想像もできないほど成長した女性。いや、本来の姿がコチラなのか。

とうとう耐えきれなくなったのか、霊夢はストンと尻餅をついてしまった。

「……あー、やっとこの姿に戻れたわ」

不敵に笑みを浮かべると、上空の師匠を一瞥し、何処から取り出したのか大剣を担ぐ。

「悪いけど、アッチは手が離せないみたいだから、道を繋いでくれる?」

「かしこまりました」

今回は味方だからよかった。これで少しでも不始末を起こせば、もはやコチラに勝ち目はない。

「まったく。式使いが荒いわよね、ホント」

そう言って、彼女--ルーミアはスキマへと潜り込んで行った。

 

どうやら、決着はもう直ぐ着くような気がした。




霞「復活早々、愚痴とは偉くなったなオイ」

ル「アンタが不甲斐ないからいけないんでしょ」

紫「……流石にこんなやり取りは私でも出来ない……」

霊「羨ましいの?」



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90話/幻想大異変-紅魔館③

書いてるものが一気に消えた!!



side 咲夜

 

その惨状を、どう表現すれば良いのか。私には筆舌にし難い、目の前の現実を未だに受け入れられなかった。

私は勿論。お嬢様やパチュリー様ですら、恐怖によって動けずにいる。純粋なまでの力の差を見せつけられた時、生き物は全てを諦めるのかもしれない。

 

血の海に沈む、動かなくなった美鈴を見ながら、私たちはなす術なく立ち尽くしていた。

もはや、能力が使えるとかそういった次元の話じゃない。

生まれたての赤子が、大の大人に敵うわけがないのと同じく。正しく最強の妖怪に、ましてや人間である私が太刀打ちできるわけもなく。

「さて、次は誰かしら?」

そう言いながら、俯せの美鈴の頭を踏む。そこには勝者と敗者しかない。

 

-殺される。

 

そんな言葉が頭をよぎった時、背後から声が聞こえた。

それは言葉と言うには暴力的で、雄叫びと呼ぶには感情的なもの。

「がぁあああっ!!」

 

妹様の暴走。

咄嗟に理解出来たのは、その事実。

眼を赤く光らせ、鋭く牙を剥き、全身から妖力を滾らせる妹様。

私の知る、『吸血鬼』という種族から掛け離れた、獣じみた様相を見せる。

「よぐも!美鈴をっ!!」

力がこもり過ぎて、かろうじて聞こえたのはその部分だけ。

次の瞬間には、妹様の姿は私の視界から消えていた。

「っ!?止めなさいフラン!!」

お嬢様の言葉にすら、妹様は見向きもしない。

振るわれた爪は鬼の腕の皮を裂いた。

流れる血に、初めて驚きの表情を見せる。しかしそれも束の間。直ぐにそれは笑みと変わり、身震いするほどの殺意と変わる。

「良いわ。次はあなたね」

腕が消えたのかと見間違えるほどの速さで殴る。妹様は避けることなく、額で受けた。遅れて走る突風。

「殺スっ!!」

そこからは、二人の間に言葉はなかった。

 

妹様は顕現させたレーヴァテインで斬りかかり、鬼は回し蹴りで軌道をずらす。体制を崩すことなく、妹様はそのまま回転し、横に再び薙ぎ払った。

今度はそれを避け、再び間合いを詰め拳による連撃。

辛うじて見ることのできたのはそれ位。

気が付けば、当然と言わんばかりに妹様は血を流し、鬼は余裕を持って立っていた。

 

「吸血鬼ってのはこんなものなの?」

その表情は、もはや興味をなくしている。

自分以外の血によって染まった着物は、赤黒く。恐怖を感じる。

「しょうがないか。そろそろ遊ぶのも飽きてきたし、さっさとアイツの所に行かないと」

そう言った鬼は、右拳を握る。込められていく妖力は、今までのそれとは桁違いの濃さを放つ。

「三歩必殺」

周囲の空間すらも歪めそうなほどの力が、私たちに迫る。

もはや、逃げることすらもできない。

もっと早くに、お嬢様と妹様だけでも逃がしておけばよかった。そんな後悔をした。

 

振るわれる拳。

死を覚悟した。

目の前に迫る力の嵐。

 

ふと、誰かが目の前にたった気がした。

 

それは黒い姿。

闇よりも深い黒に染められた、金色の髪の女性の姿。

 

 

 

「面倒臭いけど、アイツの命令だから。助けてあげるわ」

 

 

 

side ルーミア

 

まったく、面倒臭いにも程がある。

幾ら私でも、鬼とやり合うなんて、神と戦う事の次に御免だもの。

それでも、一応は主人だから命令には従うけれど。いつか絶対にこの札を外させてやるんだから。

 

必殺技っぽいのを剣で受け止めると、鬼は明らかに動揺していた。

「アナタ、何者?」

鬼が問う。

「分かりきった答えを聞くなんて、無駄じゃない?」

私の力の半分以上は、霞からの神力を妖力に変換したものだ。大本が同じなのだから、気付かないはずが無い。

「……そう。アイツは来ないのね」

「あら、ふられて寂しいの?」

軽口を叩きながらも、飛び交う殺気と妖力。

長らく感じていなかった、命のやり取り。

 

さぁ、始めましょう。

常闇と鬼の、力のぶつかり合いを。

 

「遊んであげる。かかって来なさい」

 




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91話/幻想大異変-紅魔館④

紅魔館編、これにて終了!!


side ルーミア

 

荒れ狂う二つの力の奔流は、ぶつかり、受け流し、溶け合いながら周囲を包み込んでいく。

もう、お互い語ることはなく。

いいわね。こういう雰囲気、嫌いじゃないわ。

霞みたく、余計な事をグダグダと喋って、相手のペースを乱すなんて、私の性にあわない。

肩に担いだ大剣を、高く持ち上げ、そのまま振り下ろす。

私の妖力を吸った斬撃は、真っ直ぐに鬼へとその矛先を向けた。

それを片手で受け止めると、握り、砕ける。

視界から消えた鬼は、一瞬にして背後へ回り、渾身の力を込めた拳が振り返った私の目の前に迫った。

屈んで避けつつ、体を捻り胴を薙ぐ。切り裂かれた腹部から、赤い血が勢いよく流れた。なんだ、鬼と言っても流れるのは赤い血なのね。

しかし傷口に妖力が込められたかと思えば、見る見るうちに塞がっていく。なるほど、不死ではないけど、「死ににくい」という訳か。

バックステップで間合いを開ける鬼。その表情は、傷を付けられたにも関わらず、何処か楽しそうだ。多分、私も似たような顔をしていると思う。

 

きっと、私とコイツは似たもの同士。

今まで自分を傷付ける存在など、皆無だったはず。そこに来て、やっとマトモに戦える相手が見つかったのだから。嬉しいに決まってる。

私は駆ける。一気に間合いを詰め、下から斜めに切り上げた。

妖力を込めた右手に止められるが、そのまま握る手を離し、空いた拳を叩き込んだ。

咄嗟の事に反応出来なかった鬼は、数十メートル吹き飛んだが、どうせ無傷みたいなものだろう。

なら、畳み掛ける。

大剣を右手に引き戻し、切っ先を土煙に隠れた鬼へと向けたまま、真っ直ぐに突っ込む。

煙を割って出てきた鬼は、切っ先を避けながら、私の顔面を掴む。そのまま地面へと叩きつけられ、私は数千年ぶりの血を吐き出した。

地面は窪み、ひび割れる。

ったく。痛いじゃない。

 

剣を杖がわりに起き上がる。

拳で口元を拭い、不快な鉄の味を吐き出した。

単純な力は鬼の方が上。速さで言えば私の方が上。

能力が使えない以上、短期で決めるべきなのだろうけれど、それには余りにも不利な状況。

まったく。これが地上最強の鬼なのね。

厄介なことこの上ない。

元々、鬼に殴り合いを挑むこと自体、間違ってるとしか言えないけれど。

アイツに頼まれた事もあるし。しょうがない、全力で行くしかないわね。

私はポケットから霞に渡された札を取り出す。それは見たことのある札。私としては二度と見たくもないし、触りたくもなかったけど。

「そろそろ終わりにしましょ、鬼の頂点」

そう言って私は大剣をしまう。次の一撃は、大剣での大振りなものではダメだ。確実に当てるためには、拳に限る。

腕をダラリと下げ、余計な力を抜く。必要なのは一瞬の最大出力。

「えぇ、私が勝って、それで終わりよ」

鬼は重心を低く構える。割って入った時の必殺技っぽいのを、また繰り出すつもりらしい。

 

一瞬の静寂。

 

何を合図にお互い動き出したのかは、今となっては分からないけど。2人は同時に動いた。

後ろに爆音を響かせながら、互いの距離は詰まり。

鬼の拳は正確に私の顔面を捉えようとしていた。世界が間延びした様に、ゆっくりと見える。

私はもっと低く、地面スレスレまで潜り込む。

頭上を過ぎる拳。私は今出せる、全ての妖力を右手に集中させた。

妖力を固くするだけじゃない。

鋭く、研ぎ澄ます。

 

私の抜き手は鬼の胸を貫いた。

 

時間は再び流れ出し、私の右手を血で濡らす。

右手を抜くと、鬼の傷口からは血が溢れ出した。

これだけの傷ならば、もはや妖力だけでは治癒出来ないだろう。

膝から崩れ落ちた鬼は、そのままゆっくりと倒れ、仰向けに寝転んだ。

「……私の……負け?」

見上げる鬼と、見下ろす私。この勝負の結果を物語る。

「そうね。私の……私たち(・・・)の勝ちよ」

会話をしている間も流れ続ける血は、その勢いを止めようとはしない。

「今度ばかりは助かりそうにないわね」

「さぁ、どうかしらね。鬼って意外としぶといから、その傷でも生きていられるんじゃない?」

嘘だ。自分で負わせた傷くらい、分かっている。

急所を外した(・・・・・・)とは言え、このままでは息絶えるのも時間の問題。

「……出来れば、もう一度アイツに会いたかったんだけどね」

あんなヤツの何処がいいんだか。

流石にこの状況下でそんな事は言えないけれど。

「……死にたくない……」

 

 

 

 

まったく。こんな回りくどいやり方をしなきゃいけないなんて。ホント、あの創造神は性格悪いわ。

私は鬼の目の前に札をチラつかせる。

「……アンタには二つの選択肢があるわ」

 

遥か昔。私があの神に出された選択肢。

「このまま死ぬ」か「どうなってでも生きる」か。

どっちにしろ、ろくな目に合わないのは分かってるけどね。

私の頭に付けられた、リボンの様に結んだ札と同じものを、見せながら私は言う。

「アイツの式は、少なくとも退屈しないわよ」

 




来週中には最終話まで書き切る予定です、はい。

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92話/幻想大異変-博麗神社④

さぁ!!泣いても笑っても最後の戦い!!
いっちょやってやれ!!


side 霞

 

さて。どうするか。

無明の能力の正体は分かった。

壁を崩すだなんて、応用が効くようで、そうでもない能力だとは思わなかったが。

俺は腕を組みながら、考える。

ルーミアを姫咲へと向かわせた以上、向こうは心配要らないだろう。……アイツが不要なまでに暴れていなければ、だが。

「随分と余裕ですね、創造神」

「そりゃそうだ。常に全力を出していれば少なくとも、お前は俺に勝てないんだからな」

まぁ、それだけのスタミナがある事が前提の話だが。

常に全力など、普通の人間ならば不可能だ。体力にしても、必ず減っていく。

俺?俺は神だし。力の源は信仰。しかもその対象は神だからな。神から信仰を得る神。言葉にしてみれば、なんとも意味不明な事だ。

そもそも、神が他の神を信仰すること自体、有り得ない。特に、それぞれの神話の最高神ともなれば、尚更。大体の神話の最高神は、ほぼ俺と同一視されることがある。やら宇宙を創造したやら、やれこの地を作られたやら。

つまり、俺の存在を知っている者以外からは、俺は信仰を得られない。俺の存在を知っているのは、その殆どが神なのだから、しょうがない話ではある。

そして人間からの信仰よりも、神からの信仰の方が力を得やすいのは当たり前だ。

だってそうだろ?

普通の人間ならば、例えばお賽銭に多くても千円が限度なところ、神は当たり前のように全財産を注ぎ込んでくる。それ位の差が出るのは当たり前である。

つまり、何が言いたいかと言うと。

 

「俺、最大出力って出したことないや」

 

今の「全力」とは、この星や世界に影響を与えない程度の範囲で出せる全力(・・)であって、俺の出せる全てではない。

まぁ、俺が何も考えずに全てをさらけ出したら、下にいる紫や霊夢。ましてやこの世界ごと壊してしまうだろう。

無明が常に俺と同等の力を得続けた場合、いずれはその域まで力を使わなければならなくなる。

 

そこで最初に戻る。

さて、どうするか。

 

飛んでくる黒い弾幕を、夜月で薙ぎ払う。

いくつか斬り漏らしたモノは、ワームホールを開き飲み込ませた。

まったく、ゆっくりと考え事もさせてくれないのか。

「ふざけているんですか」

「ぶっちゃけ、シリアス展開に飽きてきたんだよ」

もうこの章だけで何話使うつもりだよ。

と、メタい事を思いつつも頭を働かせる。

コイツには封印も意味がない。

封印(カベ)を崩して解いてしまうからな。

殺すことも不可能。人間としての限界(カベ)を崩している以上、死という概念が無くなっている。

封印もダメ、殺すのもダメとなると、どうするか。

 

そもそも、俺には何が出来るんだ?

いや、基本何でも出来るし、そう言っているんだけど。

俺自身の能力を再確認。

先ずはありとあらゆるものを創造し操る能力。

俺は両手を合わせる。

その瞬間に無明の周囲を無数の刃が覆う。その全てが一斉に無明へと飛び掛るが、スキマへと逃げ込んだ無明は無傷で再び姿を現す。

次に空間を操る程度の能力。

空間に裂け目を造り、中へと弾幕を打ち込む。

空間は無明の背後へと繋がり、そこから弾幕が流れ出る。しかしそれらも無明は、黒い球体を作り出し吸い込ませた。

後は概念を付加する程度の能力と、夜月の理を断ち切る程度の能力か。

これはさっきからやっているが、無明に傷を付けられないでいる。理というカベも、崩しているのだろう。

 

さて、どうしたものか。

時空を遡り、無明が産まれる前にまで戻ることも出来るが。その隙を与えてはくれないだろう。

これから能力を作り出しても良いのだが……。

 

ふと、一つ思い出す。

もう一つあったじゃないか。

まず使うことのなかった俺の能力。

最後に使ったのはいつの事か、俺自身も覚えていなかったが。

この能力ならば、カベは関係ない。

なんだ。簡単じゃないか。

 

「さて、お前への対処方が決まったところで、タイミングはバッチリだな」

どうやら紅魔館へと向かわせたルーミアは、万事上手くいったようだ。

何にせよ、一瞬でも無明よりも上にならなければ意味が無い。その為には姫咲の封印が邪魔だった。幾らカベを崩されたとは言え、封印自体は残っていた。イメージ的には壁に穴を開けたって感じかな。その穴からは姫咲自身の力が取り出せたが、俺の力は戻ってこない。俺の力を戻すためには封印を完璧に解く必要があった。

「紫!姫咲の封印、解除だ!!」

「えっ!?あ、はい!!」

余計な説明をしている暇はない。

手短に伝えると、紫は術式を発動する。

紫の足元に広がる陣。それが砕けるように消え去ると、途端に俺の身体に神力が漲る。懐かしい俺の一部が帰ってきたような。欠けていたパズルのピースが埋まっていく感覚。

「……さて、無明。これでお前に勝ち目はなくなった」

「……何を言っているんです。いくら貴方が力を取り戻そうとも、私はそれを超える!!」

どうやらコイツは自分の能力を完璧に把握はしていないようだ。俺を超えると言っている時点で、間違いなのだから。

ならばやってみろ。この世界を作り出した神として、世界を壊そうとする奴を放っておけはしない。

俺は右手を広げ伸ばす。掌には青い球体が作られた。

それを握る。砕け散った球体は、霧となり周囲を囲んでいく。

「掌握」

これも気休め程度。無明の能力ならばこの空間にも意味は無い。それでも、少なくとも俺の全力によって世界が壊れることは防げるだろう。

両手を合わせる。まるで全てに祈りを捧げるように。

「神力全解放。創造神モード(・・・・・・)!!」

 

全てを創造し、全てを司る。全ての根源であり、原初。そんな俺の力が掌握した空間に流れ込み、青く輝いていく。

「……これが……創造神」

見れば初めて無明の表情に焦りが見えた。頬を伝う汗を拭うが、体の震えは抑えられないようだ。

「その力を手に入れれば!!」

「お前に出来るわけがないだろう」

空を蹴る。俺の動きが見えなかったのか、視線を彷徨わせた無明。俺に気が付いたのは、背後に周り左手による力いっぱいの拳を食らわせた瞬間だろう。

吹き飛び、周囲の木々を叩き折りながら森へと転がっていく。

「……くそっ!!」

能力なんて使わせない。そんな暇は与えない。

一瞬で目の前に移動し、掌底を腹に叩き込む。

腹の内容物を吐き出しながら苦しみ藻掻く。

「これが創造神の力だ。分かったかコノヤロウ!!」

見れば俺へと右手を伸ばす無明。なるほど、まだ俺の力を奪おうとしているのか。

「その右手が能力を奪う鍵となるなら……」

その右手を落とさせてもらう。

俺は夜月を右手に引き寄せる。

今の夜月ならば、切れないものは無い。理も概念も、現象も思考も、森羅万象を切り裂く。

夜月を振るう。その軌跡は目で追うことすら出来ず、切られたことにすら気が付かない。

「……?!がぁっ!!」

切り口から血が吹き出す。

「これでお前は能力を奪えない」

「……余裕を見せるな……創造神!!」

無明の口調が変わる。もしかするとこれが無明の素なのかもしれない。

「例え力を奪えなくとも!お前との壁を崩せば良いだけだ!!」

醜く歪んだ顔。剥き出しなされた敵意。漸く人間らしさを垣間見た気がした。

「俺とお前に差などない!!」

そう叫ぶと、無明から感じられる力が段違いに上がる。どうやら能力を発動したらしい。

「くくくっ。これで、これで俺はお前と同等となった!!」

「そう、俺と同じだけの力を得たな……」

創造神(・・・)と同じだけの力を手に入れた。

それがどういう意味なのか、分かっていない。

「はははは!!これが創造神の力か!!これだけの力がっ……?!」

普通の人間ですら、余る力は身を滅ぼす。幾ら人間を超えたといえ、創造神の力がその身に収まるはずもない。

 

無明の身体は暴走を始めた。溢れ出る力を抑えられず、膨れ上がり、歪み、捻じれ、壊れていく。

「それがお前の望んだ姿だ」

「そ……んな……馬鹿……な」

俺は夜月を納める。

「…………くそっ!くそぉっ!!こんな……終わり方を認めるか!!全てを破壊してやる!!この力、全てを暴走させてやる!!」

そう言うと無明だったものはより大きく膨らんでいく。

暴走した力は凝縮し、一塊の爆弾となる。もしこれが爆発すれば、幻想郷どころかこの星、宇宙すら存在が危うくなる。

「やれるものならやってみろ」

しかし、俺が何も考えていないわけがないだろう。

 

「いい夢を見ろよ、無明」

そのセリフを最後に、無明は爆発を起こした。

全ては一瞬にして光に包まれ、その後、闇へと消えていった……。

 




霊「あれ?これ私たち死んだ?!」

紫「し、師匠?!」

霞「あ、ちょっと用事あるんで、これで」

魔「逃げたぞ!!追え〜!!」


次回、東方古神録最終回!!

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最終話/古い神様のお話らしい

無事、最終回。

なんとかここまで漕ぎ着けた!!


side 霞

 

澄み渡る空を、何羽かの鳥が気持ちよさそうに飛んでいく。

夏が過ぎ、風が涼しく感じられてきた今日。

俺はいつもの如く縁側に腰掛け、湯呑みに注がれた茶を飲んでいた。

あれから早くも三ヶ月が過ぎようとしていた。

ボロボロだった人里も復興(能力による修復)が進み、最近ではもう商売を再開している所もあるくらいだ。

 

「いや、お父上様?呑気にお茶なんか飲んでないで、説明をして欲しいのですが」

俺の後ろ、茶の間には月夜見が姿勢正しく座っている。

そう言う月夜見だって、茶を飲んでるじゃないか。

「……あれから結構時間は経ちましたよ?いい加減事の顛末を教えて欲しいのですが」

月夜見が知りたがっているのは無明との戦いの後のことだ。

正直、思い出したくもないんだけど。

しかし、そろそろはぐらかすのも無理が出てくる。最悪の場合、月夜見のお説教(2時間コース)になりかねない。

はぁ、面倒臭い。

 

 

 

あの日、俺は姫咲の妖力と共に封じられていた、俺自身の神力を取り戻すことで、創造神モードとなる事が出来た。

さて、どうやって倒したかと聞かれていたな。

「俺、『倒した』なんて言ってないぞ?」

「……はい?」

珍しく月夜見から間抜けな声が聞こえた。

見れば目を見開き驚きを隠せない表情。なかなかに面白い。

「倒してないって、どういう事ですか?!」

詰め寄る月夜見。

しょうがないだろう。相手は『死』の概念を崩していたんだから。殺すことが出来ない、封印も出来ないなんて、反則にも程がある。

「で、では一体……」

俺は思い出す。あの日のことを。

「創造神様の特別大サービスってとこだな」

 

 

-------

 

自分自身の事ってのは、意外とわからないものだ。

幾ら数億年程生きているとは言え。むしろ長く生きるほどに分からなくなることがある。

例えば記憶なんかがそうだ。長く生きることで、その記憶は曖昧になるし、不確実で、自分に都合のいいものに変換される。

何が言いたいかって言うと、

自分の能力を忘れていてもしょうがないよね。って事だ。

ましてやその能力を今までに数回しか使用していないならば尚更。

自分で自分を納得させる。しょうがないしょうがない。

「……し、師匠?何をしているのですか?」

1人頷く俺を訝しみながらも、動きの止まった俺に近づく紫。やだ、少し恥ずかしい。

殴った瞬間に動かなくなった(・・・・・・・)無明に警戒しつつも、その異様さに口を挟まずにはいられなかったようだ。

「いや、記憶ってのは不確かなものだと思ってたところだ」

「……この緊急事態に、ですか」

俺は夜月を納める。コイツの能力が通用しない相手ってのも、初めての経験だった。

コイツの能力単体でも、世界が崩壊しかねない程。無明相手にはタダの切れ味抜群な刀でしかなかったが。

 

無明は今、眠っている(・・・・-)

俺が左手で触れた相手には、夢を見せることが出来る。細かく指定しなければ見る夢はランダムで、良い夢を見ることもあれば悪夢を見せられることもある。

今回、俺は無明にとって悪夢を見せている。

内容は分からないが、恐らく俺にコテンパンに伸されているんじゃないか?

「夢、ですか」

「そ。自分でもこの能力を忘れてたからな」

最後に使ったのは、確か洩矢の国へと旅した時じゃないか?それ以来使っていないとすれば、忘れていてもおかしくはないだろう。

「さて、紫は少し離れてろ」

最後の仕上げとかかろうか。

夢はいつか覚める。ここからは時間をあまりかけられない。

 

俺は両手を合わせる。

創造神としての力を目一杯使い、あるものを創造する。

今までの人生……神生か?において、2番目にデカイ創造。

俺は別世界(・・・)を創造する。

無明だけの、無明の為の世界。創造神様、大盤振る舞いだ。

その世界へとワームホールを開き、無明を放り込むと自分も潜る。

 

世界は何も存在しない、闇よりも深い黒に染められていた。

何も存在しない、完全な無。上下左右も無く、その中に俺と無明は漂っていた。

さて、そろそろ起きてもらおうか。俺は指を鳴らす。

能力から解放された無明は、ゆっくりと目を開いた。

「おう、起きたか無明」

空気なんかも存在しないのだから、音が伝わるわけもなく。頭の中に直接語りかける。……ファ〇チキ食べたくなってきた。

「ここはお前の為に創造した世界。何も存在せず、何も起こらない。完璧な無の世界だ」

恨めしそうな表情を作ろうとした無明は気が付く。身体が動かないどころか、表情一つ変えられない事に。

「気が付いたようだな。言ったろ、ここは完璧な『無』の世界だと」

何も存在しない。何も存在出来ない。

そこには生命だけでなく、()ですら、存在しない。

それは能力は勿論、『力』と名のつくもの全て。つまり、筋力もだ。

表情筋も含めて、無明は指一本動かすことは出来ない。

「ま、何か言いたいだろうが、この世界じゃ言葉すら存在しないからな。諦めろ」

あぁ、やっと終われる。

長く続いた無明との因縁。その終止符が今打たれる。

「お前はこの世界から出ることも出来ず、死ぬことも出来ない。永遠の時間の中で、苦しみ続けろ」

言葉を幾ら紡ごうが、コイツの心には届かない。

神は赦す存在だとか、都合のいいことは言わせない。

コイツのせいで流れた涙がある。失われた命がある。それを赦す事など、俺には出来ない。

力に溺れ、力を欲した無明への俺からの天罰だ。

 

-------

 

「これが、無明との顛末だ」

「つまり、異世界へと封印したのですか」

まぁ、簡単に言えば。

「力」が存在しないあの世界では、そこから出てくることも不可能。他の者が入ることも、俺しか知らない世界なので無理だ。

幻想郷へと戻った俺は、すぐさま各地の復興を始めた。

先ずは各地に蔓延っていた魔界人。まぁ、簡単にワームホールを開いて魔界へとお帰りいただいた。後は向こうが何とかするだろう。必要となれば俺も話をしに行くし。

次に失われた命。これが意外と大変だった。そこらじゅうに漂い続ける魂たちのもと運命を読み取り、今失われるべきではない命だけは、俺の力を持ってして救い続けた。

まぁ、これについては後々冥界やら地獄やらから月夜見を通して抗議を受けたが。

それらが一段落着いたのは、つい先日の事だった。何がそんなに長くかかったかって?月夜見の説教だよ。

 

「それではそろそろ帰りますね」

月夜見は立ち上がる。あまり長い事月を不在にするのは不味いのだろう。また月の連中がよからぬ事を企んでも面白くないし。

「…………帰りますよ。天照」

「そうですか。ではお見送りに」

……俺の腰に抱きついていた天照は、笑顔である。

コイツ、異変が終わるとすぐ様駆けつけ、ずっと腰に抱きついていた。いい加減帰れ。

「お父様は私に死ねと?!」

「お前の生命活動はどうなっているんだ」

ここ数年で悪化してないか?

そんなの事を思っていると、気配が変わる。あぁ、俺は知らんぞ。

「……天照?三度は言いません。帰りますよ(・・・・・)

そこには見事なまでに笑顔な月夜見がいた。

俺ですら身震いしてしまいそうな笑顔の背後には、鬼子母神以上の鬼が見える。

 

首根っこを捕まれ、引き摺られる様に帰っていった神二柱を見送ると、今度は神社の境内が騒がしい。

「あ、霞さん!ちょっとこれどうにかしてよ!!」

様子を見に出れば、怒り狂う霊夢がいた。

その手には竹箒を握りしめ、掃除の途中だとわかる。

「どうしたんだよ」

視線を送れば、黒い球体を追いかけ回す角の生えた幼女。周りが見えていないのだろう、せっかく掃いていた落ち葉も、再び舞い上がる。

「あんた!私の団子食べたでしょ!!」

「そーなのかー」

俺の式が2人(・・)、元気に走り回る。

目出度く俺の式となり、幼女の姿へと戻った鬼ヶ原姫咲。地上最強の鬼。

目出度く幼女の身体に戻された(・・・・)ルーミア。常闇の妖怪。

2人は常人から見れば子供がじゃれ合うように駆け回る。しかしながら、その力は人間どころか並の妖怪でも太刀打ちできない。そんな2人がじゃれ合えば……。

「境内が穴だらけになるのは当然だよな」

「達観してないで止めなさいよ!!」

霊夢に怒鳴られる。

年端もいかない少女に怒られる創造神。字面にすると異様さ半端ないな。

「世は並べて事も無し。この日常を謳歌しなさい霊夢」

「こんな日常、受け入れられるか!!」

 

 

 

 

 

遥か昔、一柱の神様がおりました。

自由奔放を極めた神様は、何者にも縛られず、妖怪も人も神も、全てを包み込み、この世界を見守り続けています。

これまでも、そしてこれからも。

 

これは一番古い神様の長い長いお話……。

物語はまだまだ続く……。




ご愛読ありがとうございました!!

霞「終わりか?」

作「続けたい?」

霞「それ、俺に聞くんだな……」



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