やはり俺の夢の世界は間違っている。 (コウT)
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1話

春。

それは終わりが訪れ出会いが訪れる季節でもある。

ゆえにこの季節が俺は嫌いだ。ようやく仲良くもない連中と別れることが

できたのに結局また同じようなやつらと会わなきゃならない。

なんで同じことを繰り返さなければならないのか、

どうせもう会うことないのになぜ別れに涙を流すのか

どうせ一年間しか同じクラスで勉強することなんてしないのに

なぜ出会いを喜び笑顔を見せるのか

と考えつつ俺は教室の窓から雲を眺めていた。

 

 

 

あの3人でのデートの一件以来奉仕部には特にこれといった依頼はこなかった。

 

依頼がないのはいいことだがこの時の俺達は却って困っていた。

 

原因はわかっている、あの一件以来俺達奉仕部を取り巻く状況は

 

少しずつ変わっていた。

 

 

由比ヶ浜は相変わらずのように優しく笑顔を振りまいているが

どこかぎこちない雰囲気を感じる。

 

 

雪ノ下もいつも通り部長としてあの部屋で依頼人を待つ。

しかし昔みたいにずっと本を読むことをせず

じっと何かを考えるような顔を見せることが多くなった。

最も俺の勘違いかもしれないがなぜか勘違いだと思えない・・

 

 

一方で俺はというと・・・・

 

 

 

逃げているのだ。

 

俺はあの場で知ってしまった。

 

由比ヶ浜の本当の気持ちと雪ノ下が解決しなければならない問題。

 

そして俺が求めている本物は決して3人が笑顔でいることができないことに

 

なる形になるかもしれない。

 

それでも俺はあの場で・・・・・・ああいうしかなかった。

俺達は楽しみながら時には悩み、時には対立し、時には涙を流した。

 

だからこそだ。俺はあいまいな答えや馴れ合いの関係を嫌い

悩みつづけ、もがいて、それでも答えを見つけるために

必死に何回も同じことを続ける・・

 

 

それで出た答えが俺が求めていた本物だと思う。

俺は少なくともそう感じている

そしてそれはあの場にいた二人にも分かち合えたと俺は思っている。

 

そしてあれから俺達奉仕部には特にこれといった依頼は来なかった。

まあそれでも材木座がメールでいつも通り泣きついてくるのだが

それはスルーしていいだろ・・・いやめんどくさいから返すべきか・・・

 

 

やっぱスルーしよ。

 

そしてあっという間に終業式が来て春休みがきた。

由比ヶ浜が「2年生終わった記念にパーティーやろうよ!」と

いつも通り企画しようとしたのだが

雪ノ下は家の用事で春休み中は東京に行くことになり

俺はというと予備校があるので今回は流れることになったが

「じゃあ新学期!3年生になったら必ずやるよ!」と

俺と雪ノ下に突きつけるように告げる。

いつもの由比ヶ浜なら“そっかー・・しょうがないよね・・”と

諦めるはずだ。けど彼女は引かなかった。

それは彼女なりの気遣いでもありそして彼女のわがままでもあるのだ・・

 

 

 

 

ピンポーン、ピンポーン

 

さっきから由比ヶ浜がイライラしながらインターホンを連打する。

いやさすがにそんなに連打すると壊れそうな気がするのですが・・

 

「もういいだろ。こんだけ押しても反応ないならいねぇんだよ」

 

「そうなのかな・・」

 

またこの顔だ。由比ヶ浜の不安そうな顔はどうもいつもと違う。

今までもこの顔を見てきたことはあるがでも今日は違う。

少なくとも俺の直感がそれを感じている。

 

「でも家にいないってことはでかけてるってことだよね?」

と言いながらケータイを取り出す由比ヶ浜。

慣れた手つきで操作し、雪ノ下に電話をかける。

 

「いやケータイにも出ねえだろ。恐らくだけど・・」

 

「わかんないじゃん・・それに・・」

 

彼女はふとケータイを耳元から下ろす。

 

どうした、いつもの由比ヶ浜結衣はこんなに歯切りが悪くない。

確かにあの日から俺達はぎこちない感じだった。

それでも由比ヶ浜だけは変わらなかった。いつも通り馬鹿みたいな話を

雪ノ下に話して少しでも雰囲気を崩さないように

自分なりの努力をしていた。

 

しかし今のこいつは違う。

というより今日気になる点がある。

さっきの学校だって雪ノ下の家に行こうとした時だって慌てるかのように

俺を引っ張った。

 

ここはさぐってみるか。

 

「なあ・・もしかしてお前何かあったのか?」

 

「え?いや・・別に・・」

 

由比ヶ浜はふと目を逸らす。

こいつは知らないのか、人が嘘をつくときは相手の目を正面から見ることができないことを。

 

「そういう嘘はいいから話してみろ。なんか思うところがあるんだろ・・」

 

「・・やっぱヒッキーがすごいね。そういうのわかっちゃうんだ・・」

 

とずるずるとその場にしゃがみこむ。

そして寂しそうな笑顔を見せながら語り始めた。

 

「・・春休みの間、ずっと考えてたんだ。あのデートで私達が今後どうするかは

決まった。でも実際あれから特になにかするわけでもないし・・

雰囲気もなんかね・・あたし空気を読むことが取り柄だからそういうの

わかっちゃうっていうかさ・・ははは・・」

 

彼女の乾いた笑いは俺の何かに刺激した。

その何かを俺は具体的に言葉に表すことはできない・・・いやしたくない。

それを言葉に出すことは俺達がまた逃げ続けていることを

意味しているのだから。

 

「・・考えすぎだ。お前はそういう空気を少しでも変えようとがんばってた。

俺達が何もできないのに対してそういうことができたのは・・その

・・助かったっていうか・・なんつーか・・」

 

 

そして雪ノ下のマンションの訪問から

数日後に由比ヶ浜が失踪した。

由比ヶ浜のママさん曰く書置きの手紙で

 

「「ゆきのんを探してくる!すぐ帰ってくるから心配しないで!」」

 

と書かれていたそうだ。しかもケータイを置いて行っている。

普通ならばありえない。あいつがケータイを手放すなんて

それこそ千葉が崩壊するよりも怖い話だ・・・

いやまあ・・それはないか、うん。

 

 

そして今この現状である。

つまり雪ノ下が消えて由比ヶ浜がそれを探しに消えた。

ミイラ取りがミイラになったともいうべきか、最もそんな冗談を

笑えるような状況ではないが。

 

「・・とりあえず俺の方も探りいれてみますよ」

 

「探り?何か知ってそうな人を知っているのか?」

 

「いるじゃないですか・・俺達のことを何でも見通せる人が」

 

 

そう、事の発端が雪ノ下の失踪なら当然それについて知ってる人がいる。

それは俺達奉仕部の今の現状を作った張本人でもあり元凶ともいうべき人

 

 

雪ノ下陽乃。

彼女ならば何かを知っている、俺はなんとか連絡を取り今日会うことに

なっている。最も電話したとき彼女はまるで俺が電話してくるのを

予想したかのような口ぶりだった。

相変わらずだよ・・・本当に。あの人に今、頼るのは不本意だが

それでも頼らずにはいられない。

 

「・・比企谷。君の事だから心配はいらない、ただ今回の件はこれまでと違って

色々とまずい気がする。だから・・用心するように」

 

平塚先生はそういって煙草をもみ消す。

そして腕を組みながらこちらをじっと見つめる。

 

「わかってますよ・・あの人と会うときはいつも警戒してるんで」

 

「そうか」

 

俺はそのまま立ち上がりその場をあとにする。

そうだ、雪ノ下陽乃がどんな人かを知っている。

だからこそあの人に対して警戒を怠らないということはない。

これまで通りでいい、俺が何かをすることはない。

警戒しつつ話を聞けばいいのだ。

 

 

 

 

待ち合わせは奉仕部部室。

鍵はすでにあけているため俺は扉を開ける。

そこには雪ノ下の席に座りながらケータイをいじる雪ノ下陽乃がいた。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず・・久しぶりだね」

 

「お久しぶりですね、雪ノ下さん」

 

こんな感じの会話で始まりが雪ノ下さんと俺だ。

お互いある程度の距離感を保ちつつの会話。

もうわかっているから余計な前振りなどもいらない。本題に入ろう。

 

 

「それじゃあ・・さっそく聞いていいですか?」

 

「んーせっかちだな。そんなに雪乃ちゃんのことが気になる?」

 

「・・やっぱ何か知ってるんですね」

 

「まあね・・けど今回に関しては比企谷君に簡単に教えるわけにはいかないかな」

 

言葉一つ一つが冷たい。以前の陽乃さんなら俺を遊ぶかのように楽しみ

それでこそここまで冷たさを感じはしない。けれど今は違う。

俺のことを・・・敵視している?

 

「・・ならどうしたら教えてくれるんですか?」

 

「なんでですか?とか聞かない辺りさすが比企谷君だね。そういうとこ

お姉さんは好きだよ。でもこれは正直君に教えられない・・

いや教えたくない」

 

雪ノ下さんはそういって頬杖をつきながらこっちを見つめる。

 

教えたくない?

なんとなくその先の意味を必死に俺は考えていた。

 

「教えたくないならなぜここにきたんですか?それこそ時間の無駄だと思いますが」

 

「お姉さんが比企谷君に会いたかったから・・じゃだめ?」

と首を軽くかしげる。そういうとこはさすが姉妹とだけあって

雪ノ下雪乃と似ているところがある。

けれど・・

 

「悪いですけどこっちはこれでも必死なんです。雪ノ下だけじゃない。

由比ヶ浜もいなくなった、二人の安否もわからない状況ですから

真面目に頼みます」

 

思わず強い口調で言ってしまった。

しかし雪ノ下さんはニヤっと笑い、

「ふーん・・そんなにあの二人が心配なんだ。

まあ教えてあげないこともないけどその代り条件がある」

 

「条件?」

 

「うん。まず比企谷君は今日ここで聞いた話を誰にも口外しないこと

もちろん静ちゃんにもだよ」

 

誰にも口外しない。つまりそれは誰の協力も借りれない。

辛いことかもしれんが俺は一人で行動してきた人間だ、今更なんだというんだ。

 

「わかりました」

 

「うん。それともう一つ」

 

雪ノ下さんは少しためらいつつもはっきりとした口調で告げた。

 

 

 

 

「もしこれから先私がいなくなっても絶対に私のことを探さないで。

もし探してしまったらもっと被害がでるから」

 

被害が出る。

その言葉に俺は少し動揺を隠すことが出来なかった。

しかしそんな俺を横目に雪ノ下さんは話を続ける。

 

 

「まず事の始まりは数週間前。春休み最後の日、雪乃ちゃんに会いに行こうと

思ってマンションに行ったの。そしたら鍵は開いていて中には誰もいなかった。

最初は鍵の閉め忘れと思ったけどケータイも置きっぱなしで

何より一番驚いたのは書き置きがおいてあったの」

 

「書置き?」

 

「そう」

そういいながら机の上のケータイを操作し、これが書置きだよと俺にケータイをシュっと

スライドさせてきた。

俺はうまくキャッチしその画面を見るとそこには

雪ノ下が字で書かれた書置きが映っていた。

 

 

「「恐らく最初にこれを見るのは姉さんだと予測しているわ。

だから単刀直入に言います。

私は雪ノ下家と縁を切ります、そしてもうあなた達の前には

現れません。

雪ノ下家だけでなく総武高校の友人にも会いません。

一応言っておきます、探さないでください」」

 

 

「最初は雪乃ちゃんは雪ノ下家と縁を切るために

わざわざこんなことしたのかなと思った。

だから家の力を使って全面的に捜索した」

 

「・・・それで?見つかったんですか?」

 

 

 

「うん・・一応ね」

 

 

俺はこの時何か妙だと気付く。

この話の本質は雪ノ下が家との縁を切るために失踪した・・ように

見えるがでも雪ノ下さんを見ている限りどうにもそんな気はしない。

むしろ妹である雪ノ下が見つかったのに

なぜあんなに寂しい顔をしているのか。

 

「・・無事・・なんですよね・・?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「黙らないでくださいよ。無事なんですよね?」

 

焦りを感じていないはずがない。今だって手に汗が溜まってきてる。

やがて雪ノ下さんは諦めたかのように小さな笑みを浮かべ俺の問いに

答えた。

 

 

 

 

「無事・・・・なのかな。

雪乃ちゃんを見つけたのは東京のビジネスホテル。

チェックアウトの時間になってもこないから

ホテルの人が部屋まで確認したらベットで寝てる雪乃ちゃんを

見つけたらしい。すぐにその情報は雪ノ下家に届いて私達は迎えにいった。

雪乃ちゃんに外傷はなく、起きたら話を聞こうと家に連れ帰ったまでは

よかったんだ・・

 

 

 

けど・・もう3日も目覚めない」

 

 

陽乃さんの声は響いた。誰もいないせいか最後の言葉だけが

俺の頭の中にずっと響いている。

 

 

 

 

 

 

目覚めない?

雪ノ下が?

寝坊なんてしたことがないような女だぞ?

そんな雪ノ下が寝たきり?

 

「もちろん医者にも見せたけど何もわからない。

至って健康。だから原因がわからずどうしていいかわからない状況なんだ」

 

そういって雪ノ下さんははあ・・とため息をつく。

この人もこの数日で色んなことがあり精神的にも少し疲れた部分があるのだろう。

 

「・・わかりました。でも・・なんでそれを俺に言いたくなかったんですか?」

 

「うん・・ここからが本題かな。

家で寝ている雪乃ちゃんに付き添ってた時、雪乃ちゃんが何回か寝言いったの」

 

「寝言?」

 

「うん・・ちょっとケータイの画像フォルダ見てもらえる?

その中の音声メッセージに入ってるから」

 

俺はつかさず雪ノ下さんのスマホの画像ファイルを開く。

その中にある音声メッセージと書かれたファイルが

3つあった。

 

「・・その音声メッセージ聞けば何かわかるかもしれない。

けど・・・比企谷君にとってはちょっと酷な内容かもしれない。

それでも聞く?」

 

「はい」

 

即答だ、決まっている。

酷な内容?罵声を浴びせ続けられて育ったような俺だ。

今更そんなのなんだというんだ。

 

 

 

 

 

俺は一つ目のメッセージを開く。

 

 

「「「・・・お願い・・もういや・・・・・もう・・・やめて」」」

 

 

 

これだけだった。

このメッセージがどんな意味を持つかはまだわからない。

けど何かに怯えているのか。声が震えている。

 

 

二つ目のメッセージも開いてみる。

 

 

 

「・・なんで・・きたの・・・由比ヶ浜さん・・あなたのこと・・・・いで・・・

わたし・・・・」

 

 

ここにきて由比ヶ浜の名前が出てくる。

どうやら雪ノ下が寝ていることと由比ヶ浜が失踪した件は何か関係しているに

違いない。

 

「ガハマちゃんの名前出てきたときは驚いたよ。

雪乃ちゃん探して失踪したことは知ってたけどね」

 

 

とうとう最後の3つ目である。

これには重要な手がかりが残されているのか、

それとも意味のない手がかりなのか。

どちらにせよ今まで何もつかめなかった現状から少しは前進した。

何かに恐怖している雪ノ下

由比ヶ浜との関連性

この二つは雪ノ下が必死に残してくれたメッセージだ。

となるとこの3つ目も恐らく何かのてがかりには違いないだろう。

 

俺は思いっきり3つ目のメッセージを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

え・・・え・・・え・・・

 

 

「・・やっぱり君には聞かせるべきじゃなかったか」

 

 

 

 

 

何が起こったかわからない。けど俺は唖然としている。

もう一度だ、もう一度冷静に聞いてみよう。

何かの間違いかもしれない。

 

俺は再び再生ボタンを押す。

 

 

 

 

「「「・・・なんで・・・助けてくれなかったの・・比企谷君・・

あなた・・・の・・ど・・て・・

 

 

 

 

 

 

 

私を見捨てたの」」」

 

 

 

 

 

見捨てた・・・俺が雪ノ下を?

見捨てたなんて・・嘘だ。俺はいつだってあいつを見捨てたことなんかない、

 

戸塚のテニスの時や川崎の件、千葉村や文化祭、体育祭、修学旅行や生徒会選挙、クリスマスイベントだって俺は奉仕部の為・・あいつのためだと思ってやってきた・・はずだ。

 

 

「・・・比企谷君」

 

茫然としている俺に雪ノ下さんは語りかける。

 

 

「君は恐らく今回の事件に何も関係ない、

でも雪乃ちゃんが起きない原因はちょっとは君が関係しているのはないかと思う」

 

「俺が・・なんで・・?」

 

雪ノ下さんは立ち上がり俺に近づきながら言い放つ。

 

「なんで?それは君がわかっているでしょ?

君がガハマちゃんと雪乃ちゃんと3人でデートいって

雪乃ちゃんの依頼を聞いた。

その依頼がどういうものかは私は知らないけど

あの後雪乃ちゃんが私に今後どうしたいかを真剣に語ってくれた。

私はその勢いに負けちゃって家に戻ることにした。

お母さんからは色々言われたけど雪乃ちゃんのあんな言葉を聞いたらね・・」

 

そして俺の目の前にたどり着く。

俺は見上げるとそこにはさっきまで小さな笑みも消え

冷たい視線でじっと見つめる雪ノ下陽乃がそこにいた。

 

 

「けど・・比企谷君達は何もしなかった。結局雪乃ちゃんが

行動という行動を起こしたのはこれだけでそれからずっと

ぎこちない感じが続いていたのは知ってる。

ガハマちゃんもだよ、あの子もわかっていて何もしないんだから

同罪だよ」

 

「いや・・でも雪ノ下の問題はあいつが自分で解決するべきで・・」

 

「本当にそう思ってた?」

 

 

返す言葉が出てこない。

 

心の中で俺はまたあいつを助けようとしてたのかもしれない。

あいつがどこかで助けを求めるサインを出していたのに気づき

俺はどうにかしてあいつを救おうとしていた。

そのことに関しては否定はできない。

 

「比企谷君なら少なくとも何かを変えることはできたのかもしれない。

けど結局何もしなかった比企谷君は結局は雪乃ちゃんを

見捨てたってことになるよね」

 

「いや・・俺は・・」

 

 

「いいよ、言い訳とか聞きたくないし。

私も少しは比企谷君に期待したからちょっとがっかりしただけだし」

 

そういって雪ノ下さんはドアのほうへと歩いていき、

 

「じゃあね比企谷君。

あ、ちゃんと約束通り誰にも他言しないことと

私が消えても探さないでね」

 

 

「ちょ・待ってください!」

 

 

そうだ、もう一つ肝心なことをここで聞き忘れるわけにはいかない。

 

 

「雪ノ下さんが消えるって・・どういうことですか?」

 

 

「・・・・それは言えないな。

言えば君も同じことすると思うから」

 

「同じこと・・?」

 

「これ以上はもう無理。

じゃあね比企谷君」

 

そういって部屋から出ていき教室のドアが閉まった音がする。

 

 

 

 

 

 

雪ノ下・・・

俺が・・お前を見捨てる・・

俺が・・助けなかったのが原因なのか。

確かに前に彼女はこういった。

 

 

 

いつか、私を助けてね。

 

 

今でもあの時の雪ノ下の顔を鮮明に思い出せる。

あの薄い笑みで雪ノ下が俺に言った願い。

しかし俺はそれを叶えることができなかったのか。

もう叶えてあげることができないのか。

 

ただ茫然とすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰るなり俺はすぐさま部屋に行きベットに蹲る。

もう何を考えても無駄だ。

ずっとあの言葉が俺の頭の中で響き続ける。

 

比企谷君・・比企谷君・・・・比企谷君・・

 

 

 

 

 

 

 

何で見捨てたの?

 

 

 

「うるせぇ!!」

 

 

俺は思わず叫んでいた。

はっと我に戻ると全身汗をかいていて気持ち悪い。

 

「はは・・何やってんだろ・・」

 

俺は体を起こしてベットに座りこみ頭を抱える。

わからないことが多すぎて結局俺の中で残っているのは

俺のせいで雪ノ下は目が覚めないという事実である。

そしてこれを誰にも口外することができず、俺はその事実を

背負ってこれから生きていかなければならない。

 

その時ガチャっと部屋のドアが開いた。

 

「お兄ちゃん・・どしたの?」

 

我が愛する妹小町が心配そうな顔でこちらを見つめてくる。

どうやらさっきの声が下にも聞こえたらしい。

「別に・・なんでもねぇよ」

 

「・・なんでもなくはないでしょ」

 

 

反射的に投げやりな言葉しか出てこない。

俺はまた同じことを繰り返そうとしている。けどもうどうでもいい。

 

「・・いいからほっといてくれ。今は誰とも話したくない」

 

何かを察したのか小町はそっとドアを閉め下に降りていく。

何かぶつぶつ言っていたようだが俺の耳には聞こえなかった。

 

 

ふとケータイを覗くと着信がきていた。

平塚先生だろうか、と言っても雪ノ下さんとの約束を

破るわけにはいかないから何も言えないが

と思いながら着信履歴を開いた俺はそこに映る名前に衝撃を隠せなかった。

 

 

確かにそこには書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜結衣と。

 

 

 

 

俺は何も考えてなかった。

考えるより先にすぐに由比ヶ浜に電話をかけた。

こういうときの行動の速さをいつも活かせばいいとは思うが

まあそううまくいかないのが俺だ。

 

 

 

 

 

 

・・・出ない。

 

そりゃあ簡単に出れば苦労はしてない。

勘違いだったのか。

 

 

 

ガチャ

 

 

「・・・もしもし・・?」

 

 

「!!」

 

驚きの余り声が出ない。

こういう時に冷静になるしかない。

よし一度深呼吸・・・・・・・・・よし!

 

 

「由比ヶ浜!!無事だったのか!?」

 

「うん・・てかヒッキー声でかいよ、耳痛い」

 

「あ、ごめん・・」

 

全然冷静になってなかった。

でも俺は心の中でどこか嬉しかったのかもしれない。

俺が・・・会いたいと思っていた人の声が聴けた。

 

 

 

「由比ヶ浜・・お前今どこにいるんだ?」

 

「説明するとすごいわかりにくいんだけど・・」

 

 

由比ヶ浜は一呼吸おいてはっきりとした口調で確かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、夢の中にいるの」

 



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一色いろははここに宣告する

由比ヶ浜からの電話を頼りに千葉駅にきた比企谷だったがそこで
偶然にも一色と会ってしまう・・


 

 

 

まだ肌寒い気温で太陽も出ているが全然暖かくならない。

そんな中俺は千葉駅にいる。

相変わらずの活気で正直うっとおしい。

てか毎回みんな千葉駅集合ね!っていうけど

千葉に千葉駅っていったら京成千葉駅、西千葉、東千葉・・

いやもうこの辺りでやめておこう。

 

 

 

 

今日、俺がここに来たのは昨日の由比ヶ浜で電話からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・夢の中?」

 

 

 

「うん!夢の中」

 

 

 

はっきりとした口調でそう告げる由比ヶ浜だが

全く信じられん。いくらなんでもそうか!夢にいたのか!と俺の周りで信じられるやつ

は少なくとも・・・こいつしかいない。

 

 

 

「えーと・・つまりこれは全部夢だったということか、そうか」

 

 

「違うよ!本当に夢の中な」

と言いかけたところで急に大きなノイズ音が響く。

 

 

「ご・・め・・・ん、もうつなげ・・・ヒッ・・、千葉駅の・・・・ロッ・・」

 

ブツッ

 

 

由比ヶ浜が残した重要なメッセージ。

だがここで手に入れた手がかりはあいつが無事だということである。

そして手に入れた謎はあいつの発言である。

夢?・・夢の中にいるといったが現実そんなことできるのか?

夢の中に入る・・・うーんどういう状況かわからんが

それこそムンナを捕まえてみてもらうしか・・

 

 

そーいえば最後にあいつがいったメッセージ

 

千葉駅とロッ・・?いや・・ロッカーか。

由比ヶ浜があのひどいノイズ音の中必死に伝えてくれた手がかり。

 

 

千葉駅のロッカー。

とにかくそこにいくしか今はなさそうだ。

 

 

 

 

 

という状況だ。

てなわけで千葉駅についたがまず千葉駅の周りにはコインロッカーが複数ある。

これらを全て探すとなると面倒だ。

とりあえず一か所目の改札前のコインロッカーに着き、一つ一つは開けては閉めるを

繰り返している。

が何が辛いってこれ周りの人から不審な目で見られる。

いや確かに人と会うとき目が合うとすぐ避けられるよ!こんな濁った眼だし!

あとまあ色々ね!・・・・自分で言うと涙出てくるなこれ。

そんなやつがロッカーを開け閉めしているし何より改札前だから人たくさん通るし

そりゃあもう目につくこと。

 

 

とにかく早いところ終わらせないと警察やら駅員やら来られたら動けない。

と思った矢先、誰か近づいてくる。

おいおいまじかよ・・しかも見た感じ女の子じゃん・・あんな亜麻色の髪色で

ちょっとゆるふわっぽい感じでくりっとした瞳で。

なんだろこんな感じのやつを俺は見覚えがあるような気がする。

ていうかあの制服、うちの学校のじゃん・・・・うちの学校?

 

 

 

 

「不審者がいるって聞こえたから見に来てみたら・・先輩、とうとうそこまで

堕ちてしまいましたか・・」

 

 

まるでゴミを見るような目でため息をした一色いろはは俺の真後ろに立った。

 

「俺だって好きでこんなことしてるわけじゃない」

 

 

「じゃあなんでしてるんですか?」

 

 

「それはだな・・・」

 

 

 

まあ言えるはずもない。

一色も雪ノ下達の件は知っているが極力巻き込まないように

俺は配慮している。俺にもそんな優しさは持ち合わせているのだ、はは。

2P

 

 

「・・とりあえず」

といって一色は俺の右側のロッカーに行き空いているロッカーを開け始めた。

 

「お前何してるんだよ?」

 

「何って見てわかりません?先輩一人がそんなことしてたら時間かかるじゃないですか。

二人でやればすぐ終わるし周りの目も気にせずに済むでしょ?」

 

一色は会話をしながらも手を動くスピードは速くすでに7つめのロッカーだった。

 

「・・・こんなことをしている理由なんて大体予想はつきますけど

先輩一人でやったら通報されちゃうんでこういうとき私を頼ってください・・」

 

一色はしょぼんとした表情で今にも涙を流しそうに目をうるうるさせている。

 

「・・悪い」

 

「まあとりあえず私にこんなことさせるんですから

あとできちんとお話とあと何かおごってくださいね」

 

 

結局一色いろはは変わらなかった。

うん、まあわかってたけどね。

そうやって笑顔でニコッと作り笑顔するくらい表情を変えられるのは

あざとさとかではない気もするがまあ・・今回はね・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで結局一か所目のロッカーには何もなく二か所目もはずれ。

そして三か所目でもう残り3つというところまできていた。

 

 

 

「そろそろ何探してるか教えてくれてもいいじゃないですか・・」

 

一色は不満そうにつぶやく。

がそれには関しては俺も答えがわからない。探してる物がわかるなら

なんとなく予想はつくんだがうーん・・

なんせ千葉駅のロッカーというキーワードだけだ。

それで探すというのも困難なものだ。

 

 

「・・疲れたし休むか」

 

「ですね・・」

 

一色も少し疲れた顔をしている。

ずっと付き合わせてしまっているのだから申し訳ない。

 

「・・そろそろ教えてくれませんか?」

 

「・・何を?」

 

「とぼけないでください。雪ノ下先輩達のことですよ・・」

 

 

一色はちらっとこちらの様子を伺うように見つめてくる。

いつものあざとい様子とは違い少しためらいながらも

どこか不安げのある表情を隠せてない。

 

 

「・・・教えるも何も雪ノ下も由比ヶ浜もどこにいるかわからないし」

 

「じゃあなんでこんなことしてるんですか?

何か知っているからこんなことしてるんですよね?」

 

 

うーん・・

ここにきて俺の中で葛藤が始まっている。

ここで一色に昨日のことを話していいものかどうか。

一色を全く信頼してないわけではない、けど今ここで下手に情報を流すのは

得策ではないし万が一どこかに流れたらそれこそ面倒なことになる。

 

 

「・・いや・・だからこれは」

 

「どうして・・」

 

ふと一色を見ると目から溢れんばかりの涙を流しその声は涙の泣き声と混同している。

 

「どうしていつも・・私を頼ってくれないんですか・・?」

 

 

一色はそのままを涙を隠すかのように下を向いてしまう。しかし泣き声だけは

俺の心に静かに響いている。

 

 

 

思えばこいつはもう奉仕部の一員なんだ。

生徒会選挙がありクリスマスイベント、それ以外にもたくさんのイベントを

手伝い、いつしか奉仕部にも何度も顔を出し一色がいることが馴染みの風景にも

なっていた。

今回の件だってこいつなりに悲しんでくれていたし心配してくれていたのだろう。

 

3P

「一色・・・・すまん」

 

「謝るくらいには教えてくださいよ・・ばか」

 

 

 

どうしようもない空気がその場を包む。

ずっと泣いている一色、それを茫然と見つめることしかできない俺。

さっきからは通りすがる人が不思議そうにこっちを見る。

そりゃそうだ、周りからみれば俺みたいなやつが女の子を

泣かせているように見える、俺はどこまでいっても悪者にしかならない。

まあ今の状況は俺が泣かせているといっても間違いではない・・かな。

 

 

「えーと・・比企谷君?」

 

 

とりあえず何とかして一色を慰めて泣くのをやめてもらおう。

さすがにこれ以上晒し者にされるのはごめんだ。

 

「比企谷君?」

 

 

今は財布の懐がさびしいがここは一つどーんと奢ろう。

やだ、八幡太っ腹!・・・・・いや少し安いものにしてもらおう。

下手すれば今月残り3桁の所持金で過ごすことになる。

 

 

「比―企―谷―君!」

 

「うわっ!」

 

気付いたら後ろに人がいた。しかも女性!

ん?・・あれ、この人どこかでと思えば

 

相変わらずのピンで止めた前髪・・あ、ピンがちょっと可愛いのに変わっている

そんでおさげ頭にふわりとしたほんわか笑顔。

うん、完全にめぐ☆りんだね!、これ。

 

「もうさっきからずっと呼んでいるのに気づかないんだから・・」

 

とちょっと頬を膨らませているめぐりんこと城廻めぐり先輩。

大学生になって今日は黒のワンピースを見事に着こなしている、しかも

ちょっぴり肌の露出もあるので少しばかり大人なセクシーな感じが漂う。

 

がしかし、

「でも比企谷君に久しぶりに会えてよかった」

とニコっと笑うと相変わらずのめぐりん効果。ちなみに効果は

主にヒーリングとリラクゼー・・

 

「ところでどうして一色さん泣いてるの?」

 

俺が解説をしようとしたところでこの人はこの現場の痛いところをつく。

いやまあでもそりゃあ泣いてたら女の子なら心配するよね、うん。

ましてや元生徒会長ということもあり生徒会直属の後輩でもある。

ん?・・てことは俺、まずくないか?そんな後輩を泣かせた男を

懲らしめにめぐりん先輩はわざわざきたのか?え?

 

 

「ぐす・・先輩に傷物にされました」

 

「ちょっとー誤解しか生まないからやめろ」

 

めぐり先輩は何とも言えない感じであははと笑っている。

なんだろう、このやりきれない感じ。絶対誤解している。

 

「はは・・相変わらず仲いいね」

 

「いつも通りですよ・・てか先輩なんでここに?」

 

「あ、そうそう」

と鞄に手をやりごそごそと何かを探している様子。

 

「えーとえーと・・・あった」

と鞄から黒い袋を取り出す。え、先輩とうとうドラックに手を・・

 

「いやさっきそこでね、これをそこのロッカーの前にいる人に渡してほしいって

言われてそれで来てみたら比企谷君達がいたんだよね」

 

よかった!めぐり先輩がドラックに手を出して堕ちていくとか・・

なんか想像したらちょっと・・うん、悪くない。いやいや!違う違う!

決してそうなってほしいわけじゃないからね!うん!

 

ふと気づくと一色が泣きやんでおりへーと興味深そうに袋を見つめている。

 

「何入ってるんでしょうね?」

 

「さあ・・ていうか普通に考えてまともなもの入ってないだろ」

 

「とりあえず中見てみましょう、怪しいものじゃないかもしれませんし」

 

ひとまず先輩から袋を受け取り中身を取り出す。

 

「・・なんですかこれ?」

 

「いや俺に聞かれても・・」

 

一色もめぐり先輩も不思議そうに中に入ってた物を見つめる。

それはウォークマンくらいの大きさの薄い端末のようなものでイヤホンも刺さっている。

しかし特に操作するようなボタンがあるわけではなくただの端末のようなものとしか

言えない。

んでもって・・

 

「比企谷君・・・今なら間に合うからやめよう?」

 

めぐり先輩が袋から取り出したもう一つの物を見て今にも泣きそうな目で訴えてくる。

いや先輩、そんな顔しないでください、俺は違います。そんなドラックに頼らなきゃ

ならないくらい追い詰められてませんから。

 

そう、端末みたいなものともう一つ入っていたものは

小さく白いケースに入っておりキラリと先端を光らせて

数多くの子供を泣かせてきた凶器・・名を注射器と言う。

 

 

 

 

 

「先輩・・さすがにそれは私も止めざるを得ませんよ。今ならまだ間に合います

一緒に警察には行きますから」

 

「だから違うっての」

 

もはやドラックを頼んだやつに思われてしまい困惑している。

いやさすがに犯罪には手を染めないよ?

ちなみに日本では高校生のドラック所持で少年鑑別所送りとなる。

まあ所持しただけで俺の将来に傷がつく、うん。

ドラックダメ、ゼッタイ!

 

「てかこれ渡してきた人どういう人だったんですか?」

 

「あ・・なんか黒いスーツを着た男の人だったよ。

あ、そうそう。比企谷君宛てに手紙もあずかってる」

 

「手紙?」

 

そういってめぐり先輩はごそごそと鞄に手をやり白いメモみたいなのを

取り出す。

 

「はい、これ」

 

「どうも」

 

俺は受け取りつかさずペラっとめくる。

「「由比ヶ浜結衣様の代理人様

 

 

この度は当店の商品をお買い上げ頂き誠にありがとうございます。

本商品を使用する場合におきましていくつか注意事項がございます。

詳しくは注射器の入ったケースの中に同封しておりますので

ご確認ください。

またこの手紙はお読みになったら処分頂きますようお願い致します。

それではまた何かご利用の機会がございましたら

ぜひお願い致します」」

 

 

「先輩、やっぱり・・」

 

気付いたら隣で一色がじっと手紙を見つめている。

そして反対側にはめぐり先輩も。

いや近いですよ、君達・・いやそうではなくて。

 

「だから違うから・・大体こんなもん注文した覚えないし」

 

「確かに・・最初のほうに由比ヶ浜結衣様の代理人様って書いてあるから

これを最初に注文したのは由比ヶ浜さんかな?」

 

めぐり先輩が首をかしげながらつぶやく。

 

「・・先輩、もしかしてこれを探してたんですか?」

 

「え・・いや・・」

 

「はあ・・・ていうかもしかして先輩探してる物がこれだって

わからなかったんですか?」

 

一色がじーっとこちらを見つめる。

さっきの泣き顔はどこへやら。目の腫れも少し引いてるし

いろはす怖いよ・・

 

と一人だけ?マークを上に浮かべてるめぐり先輩。

何の話かわかっていないようだ。

 

「えーと・・」

 

何とか会話の切り込みをしようとするも、

「先輩、こういう危険物を一人で探してもし先輩が所持して

警察とかに声かけられたら間違いなく逮捕ですよ、逮捕」

 

「いやまだ俺、未成年だからせいぜい鑑別所行き・・」

 

「それでも!先輩一人でやるなんて危険すぎます!」

 

さっきと違って一色は結構怒っている。

うーん・・さっきの分のやつあたりのようなものも含めると

なかなか八幡へのダメージはでかい、

こうかはばつぐんだ!

 

「あの・・話が読めないんだけど・・」

 

ここでようやく会話の切り込みに成功しためぐり先輩に気づく。

一色はすぐにベラベラと説明し始めた。

まあなんていうかこれでまたあいつらを心配してくれる人が一人増えた。

それは正直言うなら悪いことだと考えている。

こういう問題は大事にせず極力広まらないうちに解決すべきなのだ。

ましてやめぐり先輩はすでに卒業している。無関係といってもいい。

 

「・・そっか・・雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが・・」

 

事情を把握しためぐり先輩の表情が暗くなる。

まあそりゃあそうなるわな。

 

「比企谷君・・その・・大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ、俺は」

 

そう答えるしかできない。

結局のところ苦しんでいるのは雪ノ下と由比ヶ浜だ。

俺ではない。そんな二人の苦しみを理解することなど

到底できはしない。

 

 

 

 

あれからめぐり先輩と別れ俺は一色に探してくれたお礼に

いつぞやに行ったカフェまで連れてかれた。

まあこの子はとりあえず高そうなものを頼むことやら・・

 

「・・先輩」

 

「ん?」

 

「これから・・どうするんですか?」

 

「あー・・一応この袋の中身調べようかなと」

 

すると一色はスプーンを止めじっとこちらを見つめてきた。

 

「・・危ないことしませんよね?先輩までいなくなったりしません・・よね?」

 

ほら。またそういう顔になってる。

女の子がする寂しそうな顔に俺が弱いって知ってるだろ。

無視しようにもできないんだよ、俺は。

 

「・・大丈夫だから。そう簡単にいなくなったりしねぇよ」

 

と俺は一色の頭を撫でる。こういうことに関しては年下の妹がいる分

少しばかりは得意。一色も撫でられて嫌な表情はしてないし

ここは熟年のスキルが役立った、うむ。

 

「・・信じますよ?」

 

「信じろ。俺が今まで嘘ついたことあったか?」

 

「それは否定できるような・・」

 

うーん、そんなに俺一色に嘘ついたことあったか。

嘘と欺瞞が少しばかり得意だがあくまで人の不幸には

させてないはずだ。・・多分。

 

「それと先輩にもう一つ聞きたいことと言いたいことあるんですよ」

 

「一つじゃねえじゃん・・なんだ、まず聞きたいことを言ってみろ」

 

一色はちょっとためらったあとで何かを決意したかのように

目を見開いて、

「先輩、雪ノ下先輩と結衣先輩どっち選ぶんですか?」

 

「ぐっ・・」

 

やめてくれ、その攻撃は俺に効く。

神威も最初はサスケやイタチの万華鏡と比べてれば

ショボいと思ってたけど戦争中で一気に開花したよな、あれ。

やっぱ両目揃ってないと本来の力は発揮できないということか。

 

「余計なこと考えなくていいですから教えてください。どっち選ぶんですか?」

 

どうやら逃がす気はないようです。

ここはうまくかわさねば。

 

「選ぶも何も・・別に変わんねえよ。特に何か言われたわけじゃないだろうし」

 

「・・先輩まさか気づいてないとかは言いませんよね?」

 

 

そりゃあまあ・・・

由比ヶ浜にいたっては言葉にしないもののある程度は理解できた。

雪ノ下はまだわからないしここで俺が思い込むのも単なる自惚れに過ぎない。

「でも・・そういうのに期待して違った時のダメージはでかいだろ?」

 

「でも先輩はいずれどちらか選ぶ必要があるってことですよ。

それが先輩が望んだ本物というものですよね?」

 

「まあな・・・」

 

「正直2月後半からなんとなくぎこちない感じの空気が流れてたのは知ってましたし・・。

てかそうだ。そのことで私、雪ノ下先輩と結衣先輩に聞いたんですよね」

 

「え?」

 

「確か3月の始めだったかな・・部活終わりで

先輩が用事あって早く帰った日ですよ」

 

 

 

 

「今日はこの辺にしときましょうか」

 

「うん・・そうだね」

 

 

先輩達は帰る支度をしている・・

今、行くしかないよね・・。はあ・・。

 

ガラッ

 

 

「こんにちわーよかったーまだ先輩達残ってた」

 

「ちょうど今帰ろうとしたのだけれど・・」

 

雪ノ下先輩ははあと小さいため息をつく。まあいつも通りというかなんというか。

 

 

「どしたの?いろはちゃん」

 

「・・今日は・・先輩いませんよね?」

 

「ヒッキーなら家の用事があるって言ってお休みだよ」

 

「なら好都合です。お二人にお聞きしたいことあったので」

 

「聞きたいこと・・?」

 

結衣先輩は不思議そうに見つめてくる。

雪ノ下さんはすでに帰り支度を終えて鞄を抱えていた。

 

「・・手短に頼むわ」

 

「はい・・じゃあ単刀直入に聞きますけど先輩のことどう思ってますか?」

 

「「え?」」

 

先輩達の声が重なり響く。

まあ最初はこんなところですかね。

 

「知ってますよ、雪ノ下先輩と結衣先輩が先輩のこと好きなの。

でも本当に好きなのかなって思うくらい最近の奉仕部ってぎこちない感じ

じゃないですか?だから・・一応聞いときたくて」

 

雪ノ下先輩も結衣先輩も私に目を合わせようとせずそっぽを向いている。

がしかし先に口を開いたのは雪ノ下先輩だった。

 

「仮にそうだとして何故あなたに教える必要があるのかしら?」

 

「そ、そうだよ。これは奉仕部の問題なんだからいろはちゃんには関係ないでしょ・・」

 

 

雪ノ下先輩はともかく結衣先輩までそれ言っちゃうか・・

ちょっと傷つくなあ・・

 

 

 

 

 

 

 

まあ仕方ない、爆弾投下しますかね。

 

 

「いえ・・お二人が何もしないなら私が先輩もらおうかなって思ってたんで」

 

「え・・」

 

ここでようやく先輩達があたしのほうを向いてくれた。

やっと話をする気になってくれたかな。

 

「先輩は正直悩んでると思いますよ。雪ノ下先輩の問題を助けていいのかとか

結衣先輩の気持ちにどう答えようとか。

正直先輩苦しんでるように見えます・・もうそんな先輩を見たくないですし

救ってあげたいんです・・それに・・私だって先輩のこと好きですから!!」

 

 

あーあ言っちゃった・・

でもこれで先輩達に少しは近づいたかな。

嘘は言ってないし別にいいよね?

 

 

「そっか・・いろはちゃんもヒッキーのこと・・・

うん、そうだね。わたしも・・ヒッキーのこと好きだよ」

 

「・・あなたの気持ちはわかったわ。

それに・・・わたしも比企谷君のことが好きだから」

 

「やっと言ってくれましたね・・その一言聞けただけでも

打ち明けたかいはありましたよ」

 

少しは楽になった気分だ。

と思いきや結衣先輩がここで対抗してきた。

 

「わたしも・・いつも優しくて私達を助けてくれて・・

他の人には褒められたやり方はできないかもしれないけど

少しずつ変わっていってそれでもあたしたちを見てくれて・・

その中でもちゃんと答えを選ぼうとしているヒッキーが・・すき」

 

 

結衣先輩の顔は少し赤くなっていた。夕日も出てきたので少しわかりづらいけど

でも結衣先輩はちゃんと言葉にしてくれた。

 

「・・彼はいつだってそうだった。人に憎まれるようなやり方しかできず

時には対立したときもあった。でも少しずつ変わっていった。

私自身が変わることができない時彼は助けようとしてくれた。

私は・・・そんな彼のことが・・比企谷君が・・すき」

 

雪ノ下先輩も負けじと対抗してくる。

その顔には小さい笑みがありこちらをしっかりとみている。

雪ノ下先輩は付け加えるように会話を続けた。

 

「彼は確かに言った。私の問題は私自身が解決すべきと。その通りだと思うし

間違ってはいない。でも・・私は彼の存在に頼り切っていた。

私の中で彼がいることが当たり前になっていた。だから・・」

 

雪ノ下先輩からは笑みがきえた。そして鞄がぼすんと落ち

結衣先輩とあたしのことを見つめ告げた。

 

 

「・・比企谷君を・・・・誰にも渡したくない・・」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「てなわけでこの話はここでおしまい」

 

そう言って一色は鞄をもって立ち上がり、

「先輩、必ず雪ノ下先輩と結衣先輩を見つけて一緒に戻ってきてくださいね。

抜け駆けはしませんからちゃんとお二人が戻ってきてから・・私も

先輩に伝えますから」

 

そう言って一色は出口に向かっていき去って行った。

その姿を俺はぽかーんと見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして家に無事帰宅し俺は袋の中を取り出す。

端末のようなものと注射器。

一体なんなのかさっぱり予想つかない。

ひとまず俺は注射器の入ったケースを開ける。

まず注射器入ってるケースをまじまじと見ると注射器が収められている小さい箱のようなものが取れるようになっているのでそれを取ると

白い紙がでてきた。

これが注意事項ね・・。

 

とりあえずざっくばらんに読むことにした。

正直書いていることは如何にもドラックの取り扱い注意みたいなものだったが

色々とヒントになりそうなことが書いてあった。

 

 

 

さてと・・改めてこれをどう使うか。

注意事項を読んでわかったことは一つある。

 

 

これを使えば夢の世界に行ける、つまり由比ヶ浜の元に行くことができる。

 

 

がしかしリスクも多い。

そのリスクを背負ってまだ二人を助けに行かねばなるまい。

もうこの時の俺に助けに行かないという選択肢はない。

 

 

けど・・

 

俺の頭の中で一色の言葉が思い浮かぶ。

もし帰ってこれなければ彼女は悲しむだろう。

彼女だけじゃない・・戸塚や小町や平塚先生やあと材木座とか・・悲しむかなあいつ。

あとあれだ・・川・・・・川なんとかさんとか。

あれそう思うとそんなに人がいない・・てか両親が最初に出てこない辺り

日頃どれだけ愛されてないかわかるな、うん。

 

 

まあとにかくだ。

今はこれに頼るしかない、けれど必ず帰ってくる保証はできない。

さてもう一度自分に自問自答始める。

 

 

 

俺は雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣を助けにいきたいか?

 

ああ

 

なぜ助けに行く?

 

大切な部員だから

 

雪ノ下に至っては友達ですらないのに?

 

それでもだ。俺はあいつがいない世界を認めたくない。

 

自分も目を覚まさなくなるかもしれない、それでもか?

 

ああ。今助けに行けるはおそらくおれしか・・

 

 

とここで俺の自問自答は止まる。

今助けに行けるのは俺しかいない・・本当にそうか?

 

 

 

 

違う。

一人いるはずだ。

 

 

 

「もしこれから先私がいなくなっても絶対に私のことを探さないで。

もし探してしまったらもっと被害がでるから」

 

 

あの時の陽乃さんの言葉・・

つまり陽乃さんはこれについて知っていて

あの人自身も夢の中に行こうとしたのはないのか・・?

そしてもっと被害がでる、それはつまり自分を探して

夢の世界にまた来たら帰れなくなる人が増える・・

 

 

 

 

 

 

相変わらずなんでも知っている人だよ・・

まああの人に怒られる覚悟はできてるけど

元々俺が人の言うことをはいそうですかと

聞くような人じゃないことも知っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず行くか。

 

 

 



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こうして夢の世界はスタートしてしまう

こうして夢の世界へ来た比企谷八幡だったが
そこは予想外の現実だった・・・








というわけでまえがきで初めて挨拶します。
Pixivだけだったんですがユーザーさんからこっちでも
書いてくださいと希望あったので書くことにしました。
慣れてない部分やお見苦しいとこありますが
よろしくです。


さて夢の世界に向かうにあたって色々と準備が必要なため

すぐにいくというわけにはいかない。

 

 

まずどこでこれを使うかだ。

 

 

 

家で使うとしたら

万が一起きなかった場合すぐに誰かが気づく。

最も安全面を考慮するならば一番家が安心する。

 

ホテルの場合誰にも邪魔はされないが

これはおすすめができない、お金もかかる上に

起きない場合事件に繋がりかねない。

 

 

うーんまあ..家だよな、どう考えても。

 

 

次に書置きだ。

万が一俺が起きれない場合

今回の件について俺が知っていることをまとめておく。

俺はB4サイズのノートを1枚破り

そこに知っていることを書き残すことにした。

書き忘れがないように何度も何度も見直し

俺は机の上においた。

 

さて次の問題は俺の体の問題である。

 

 

 

ここで先ほどの薬の注意事項をもう一度振り返る。

 

 

 

 

注意事項

 

1、 この商品はお客様を夢の世界へと疑似体験させるための薬です。

実際に睡眠状態に入って頂く必要があるので

手順通りに行い正しい使い方で使用してください。

 

2、 本製品では薬を一度に多用した場合睡眠状態から目覚めない場合等の恐れが

ありますので薬は必ず決まった分量で行ってください。

 

3、 万が一夢の世界から抜け出す場合は必ず手順通りに行ってください。

強制的に抜けようとすると脳に影響をもたらし死の危険性もありますので

ご注意ください。

 

 

 

すでにここまでの説明でかなり怖い。

いやもうドラック以上にやばいでしょ、これ。

一体こんなもの使えって由比ヶ浜はどういうことなんだ。

ていうかこれを由比ヶ浜も使ってるとしたら・・

そう考えたら益々急がなければならなくなるがここは冷静に。

 

そして最後の注意事項を読む。

 

 

 

他人の夢に干渉することだけは絶対にやめてください。万が一干渉してしまうと

あなた自身が他人の夢の世界から出れなくなってしまいます。

絶対におやめください。

 

 

 

他人の夢の干渉。

これが最大のキーワードになると俺は感じていた。

もし雪ノ下が夢の世界にいるとしたら

由比ヶ浜はそれに気づき雪ノ下を助けにあいつの夢の中にいったとすれば

強引な形だがつじつまが合ってくる。

だとすれば今、由比ヶ浜は雪ノ下の夢の世界から出れなくなっているはず。

 

 

ここでまたしても問題が浮かぶ。

雪ノ下の夢に行きあいつらを助けに行く。

が行くのは簡単だ、これを使えばいい。

問題は帰りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今あいつらは夢の世界から帰れなくなって起きることがない状態だとすれば

俺が助けにいってもそれは変わらない。

つまり何もすることができない・・

 

これが恐らくだが雪ノ下さんのいってた被害ということだろう。

確かにこれじゃ助けるどころか自分も帰れなくなり問題が増えるだけだ。

ただ唯一疑問なのはそれを知っていてあの雪ノ下さんが

ただ夢の世界に行くとは思えない。

つまりあの人は何か解決策を知った上で夢の世界へ行こうとしている。

そういうことではないのか。

 

 

 

しかしまあなんだ。これ以上俺が考えてもしょうがない。

俺はベッドに横たわり手順通りに進めることにした。

 

 

 

手順の紙、紙..

なんか色々紙があるんだが..

とりあえず手順方法と書いてあるのがこれで

他は夢の中の説明と端末と薬の詳しい説明書...

注意事項は読んだし手順通り。

 

説明書はあとで読むか。

 

書いてあった手順は

まず端末についているイヤホンをつけ端末についているボタンをオンにする。

オンにすると音楽が流れるため30分間その音楽を聞いている。

この時点でイヤホンを外してはいけないとのことだ。

何でもイヤホンを通して夢の世界を読み取るとのこと。

ただのイヤホンにしか見えないが今は疑うことを控えることに。

次に音楽が鳴り終えたらそのままイヤホンを外さずに

注射器を取り出し白いケースの中に薬が入っているビンがあるので

それを注射器に注入し左右どちらの腕でも構わないので注射する。

ここで重要なのは注射する前に薬を入れるのだが薬の分量がきちんと

決まっておりこれを間違えると先ほどの注意事項にあった通り

決まった分量で行うことが重要だ。

注射すればあとはただ眠るだけ。

次に目覚めた時そこは夢の世界が広がっている・・とのことだ。

 

 

 

とりあえず音楽を聞きぼーっとしていることに。

何にせよ今家に誰もいないのは好都合なのと今日は土曜日だ。

万が一今日中に起きなくても明日までに起きることができれば

公にはならない。

 

ここで俺は単純な疑問を思ってしまう。

夢の世界に行くというか俺は雪ノ下の夢の世界に行くことばかり考えていて

実際にどう行けばいいかわからない。

それにまず今夢を読み取られているということは最初に行くのは自分自身の夢の中だ。

俺の夢....専業主夫だよな...

そりゃあ将来の夢は専業主夫だからそんな感じの夢を見せてくれればいいけど..

いやてか俺が専業主夫の夢とか楽しいかそれ?ただ家で家事をやっているだけだぞ..

あ、でももしそうなら俺誰かと結婚してるのか。それはまあ見てみたいかもしれん。

 

 

とここで音楽が鳴り終えた。

さていよいよだ。ここで実は驚きなのが比企谷八幡が特に注射が嫌いじゃないことだ。

別にちょっと痛いがすぐ終わる、そう考えてるうちにいつの間にか終わってたのだから

 

まあしかし・・自分でやるとなるとなかなかの緊張だ。

ひとまず気を付けて薬を入れて・・よし、分量通りだ。

 

 

 

さてそれじゃあ・・

俺は部屋の中をきょろきょろする。

時刻は午後1時。家には誰もいない、小町は友達と遊びに行くと言って

おそらく夜まで帰ってこない。

却って好都合だ。

 

現時点でははっきりいって不安要素しかない。

帰ってこられる保証もないし二人を助け出す手段もわからない。

しかし何もせず待つことなんてできやしない。

いつだって誰かから褒められるやり方をしてきた覚えはない。

俺のやり方はいつも誰かから非難され自分を傷つける。

今回だって恐らくそうなる。

そのやり方を彼女達は嫌い俺はそのやり方を変えようとしていた。

 

けど今回は彼女達を救うためにやるのだ。

周りからどう思われようと俺の本心が彼女達を救いたいと思っている。

俺自身が・・比企谷八幡が彼女達がいない世界を否定している。

 

だから助けに行く。

自分がどうなろうと知ったことではない、誰かが悲しむかもしれないが

そんなことは知らない。

それでも俺は・・・彼女達を助けて・・きちんと向き合いたい。

 

 

俺は覚悟を決め注射器を腕に刺した。薬が注入されてくのが実感できるが

多少の痛みもある。

薬は全て注入し終わり俺は注射器を机の上において横になる。

 

 

さてと・・・それじゃあ行きますかね。

 

 

由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃。

彼女達を助けに行く比企谷八幡の冒険が今、始まる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すごいかっこいい感じになってるけど

帰れないかもしれないんだよなあ・・・

 

 

意識がどんどん薄れていく・・・

 

 

 

 

 

まあ・・・

 

最後に唯一小町の笑顔を見れなかったのが残念だが・・

 

 

 

 

 

 

それは帰ってきてからにしよう。

 

 

 

 

 

よしここで一つ・・

 

 

 

 

 

 

 

俺、この眠りから覚めたら小町と結婚するんだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・いやもうそんな死亡フラグ立ててもねえ・・

 

 

 

 

どこかで小町がそんなことを言ってるような気がしながら

俺は完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん・・

 

 

「・・て」

 

 

 

どこかで誰かが叫んでいる声が聞こえる。

うーんまだ眠ってからそんなに時間経ってないが

もしかしてもう小町に見つかった?

 

 

「・・・・きて!・・ちゃん」

 

 

あーなんか本格的に小町の声が聞こえてきた。

うん、完全に夢の世界に入れなかったやつだな、これ。

 

 

「起きて!お兄ちゃん!!」

 

 

俺の予想通り

俺の目の前に俺を起こそうとする比企谷小町がいた。

相変わらずの可愛さ・・てかもう総武高校の制服着るようになってからは

お兄ちゃん心配だよ、だってうちの学校で戸塚と同レベルの可愛い子が

現れたんだぜ。そりゃあ大騒ぎにも・・・・・まあ俺だけがなってるな、うん。

 

てかこの子よく見たら総武高校じゃなくて中学校の制服じゃん。

そのセーラー服はもう懐かしく思えてきた。

小町が無事に総武高校に合格してからそのセーラー服を見る機会もない。

まあ中3って受験終わると卒業式まで暇だし・・てか俺も今年受験だから

終わったら暇になるのか・・てか学校こなくていいのね、よし。

 

とまあ少し路線ずれたけど何でこの子セーラー服着てるの?え?

 

 

「えーと・・小町ちゃん?一つ質問していい?」

 

「・・少なくともまず布団から出たら考える」

 

俺はすぐさまベッドから飛び起きるかのように逃げる。

さよなら、布団よ・・・

いやまてまて。まずは

 

「えーと・・どうして中学の制服着てるの?着なきゃいけないのは高校の制服だよ?」

 

「はあ?・・お兄ちゃん・・まだ寝ぼけてるの?」

 

 

ん?寝ぼけてる?

てかこいつ俺が薬を使ったこと普通に怒ってなさそうだし

もしかして気づいてない?

 

「小町が総武高校の制服着るの4月からだよ?何いってるの?

てか今日が小町の卒業式なんだからいちいち起こしにこさせないでよね」

 

と言って小町はつかつかと歩き部屋を出て行ってしまった。

いやまあ朝だから少しイライラするよね・・よくわかる。

俺も朝はイラつくから朝人と話すと不思議と敵意もった言葉を

言っちゃう時ある。

まあ主に材木座とかに。

 

 

ん?ちょっとまて。

もう一度振り返ろう。

さっき小町はこう言っていた。

 

小町が総武高校の制服着るの4月からだよ?何いってるの?

てか今日が小町の卒業式なんだからいちいち起こしにこさせないでよね

 

 

4月からだよ?てか今日が小町の卒業式?

 

 

 

 

俺はとりあえずベットの下で充電ケーブルに突き刺さっているスマホを見る。

そこには確かにちゃんと映ってましたよ、ええ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月15日と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず部屋を色々探索していくつかわかったことがある。

 

まず今日が3月15日。

つまりまだ俺は3年生になっていないし小町も総武高校には入学していない。

ましてや小町は今日が卒業式だ、つまり中学最後の日だ。

そーいえば確かこの日は友達と卒業式の打ち上げとかで

俺の夕飯がなかった記憶がある。

 

次に3月15日は俺達総武高校の終業式だ。

総武高校は終業式が他の学校と比べて少し早い。

まあ卒業式も早かったしそんなもんか、うん。

 

 

そして今日が終業式なら奉仕部の集まりがある。

今日は2年生最後の集まりだ。

記憶が正しければここで由比ヶ浜がパーティーやろうよ!と言いだす。

 

 

 

 

そして最後にわかったこと。

 

 

 

 

 

それは机の上においた書置きもないし部屋を探しても注射器や端末がない。

となると俺は本当に夢の世界に入ったことになる・・・のか。

正直現実とあんまり変わらなくて実感がわかないけど。

いや正直夢なのか現実なのかわからないくらい。

五感情報全てが完全に夢の世界に入ったとしたらもうあの薬正規の発明品だろ・・

いやまあでもあれだな、SAOの世界ってこんな感じなんだな。

こりゃあの茅場晶彦もびっくりだ。

 

 

 

にしても

最初のスタート地点がここってどういうことなんだ。

この3月15日に何かあったっけ。

雪ノ下と由比ヶ浜といつも通り話したぐらいの記憶しかない。

このあとだって春休みはずっと予備校だし・・

 

 

「お兄ちゃん!いい加減早く起きて朝ごはん食べて!」

 

下から小町の怒鳴り声が聞こえてくる。

そういえば現実の3月15日もこうして怒られた気がする。

そして下にいくとお袋と親父がすでに学校に向かってて

小町も俺がテーブルに着いたのを確認したら大急ぎで学校に

向かって行ったな。

 

 

とりあえず今はもう一度3月15日行うとしよう。

もしかしたらこの夢の世界が色々わかってくるかもしれない。

 

 

 

 

「じゃあ・・・は・・よろ・・します」

 

ん?なんか聞こえるぞ。

小町が誰かと話してるのか。

今家には俺とカマクラぐらいしかいないはずなんだが

もしかして中学の同級生とかか。

確かあいつの同級生というと・・・・

 

 

 

だめだ・・えーと川なんとかさん・・の弟。

 

そうだ!思い出した。

川なんとか大志。ずうずうしく奉仕部に入ろうとして

俺が止めたのに雪ノ下が許可したから帰り道に俺が小町と

二人きりで帰れなくなった原因のあの野郎。

 

 

 

 

 

え、まじでいるの。

それならいますぐ八つ裂きにするか火破りにするしかない。

 

俺は部屋から出てリビングに向かう。

 

 

「じゃあお兄ちゃん行ってくるから!」

 

 

といってバタンと玄関のドアが閉まる音が聞こえる。

相変わらずどたばたしてるな、高校になったら少しは落ち着いて

行動しなさいと教えてあげないと。

 

 

 

「あら、あなたも落ち着いて行動できない時があるから

そこは変わらないわよ、慌て谷君」

 

「おいまて。冷静さがないやつみたいにいうな。俺みたいに

クールで・・」

 

いつものように返すがちょっと待て。

いや待ってくれ。

とりあえず目を一回擦ろう、ごしごし。

 

「どうしたの?まだ寝ぼけてるなら顔洗ってきなさい」

 

 

俺は夢でも見ているのか・・

いやまあ夢の世界来てるんだからもちろん夢なのかもしれないけど。

俺の目の前にはキッチンでエプロン姿で小さな笑みでこっちに微笑んでる

雪ノ下雪乃がいた。

 

 

 

 

 

 

 

「えーと・・雪ノ下?」

 

 

「・・雪乃」

 

 

「え?」

 

 

「なんで前と同じ呼び方になってるの?雪乃って呼んでくれるって約束したじゃない」

と満面の笑みで微笑み始めた雪ノ下。

てかようやく会えた。

3月の部活以来もう2ヶ月近くになる。

なのに数年も会ってないような久しぶりな感じがする。

 

「雪ノ下...無事だったのか...」

 

「えーと...だから雪乃と呼んでほしいのだけれども...」

 

雪ノ下は何が起こってるかわからず不思議そうな顔でこちらを見ている。

...あれ?雪ノ下だよな?

なんで久しぶりに会ったのにこんなに違和感感じるんだ?

 

 

 

 

え、待って。

まず状況が色々追いついてない。

とりあえずなんですか、その満面の笑みの雪ノ下さん・・

まあはっきりいってめっちゃ可愛いんですけど・・

 

 

「えーと・・とりあえずだ雪ノ下」

 

 

「雪乃」

 

 

「えーと・・・雪乃。ひとまず聞きたいことがある。

なんでお前家にいるんだ?」

 

 

すると首を小さくかしげながら

「えーと・・なんでって昨日八幡が明日は小町さんの卒業式で

バタバタして恐らく朝ごはん作れないから代わりに作ってきてくれって・・」

 

 

え、なにそれ。俺そんなこと雪ノ下にお願いしてたの。

いや最悪だな俺。朝飯ぐらい自分で作れるし。

てかよく雪ノ下もきてくれたな、普通なら「何で私が朝からあなたのために

動かなきゃならないのかしら?私に何のメリットがあって?」

と言いそうなぐらいだし。

 

 

 

 

 

 

ん?また少し外れたけど

こいつ今俺の事を八幡って呼んだよな・・

俺の周りで八幡って呼ぶの戸塚と・・・・・誰だっけあと。

 

 

 

 

 

「えーと雪乃さん?・・ちょっとお伺いしてもいいですか?」

 

 

「何?八幡?」

 

 

いやそんな笑顔でこっち見ないでくれ。

普段の雪ノ下からは考えられないほどの笑顔。

ていうかなんでエプロン姿なんだよ、前々から少し思ったけど

似合うんだよ、ちくしょう。

 

 

 

「えーと・・俺とお前って・・・どういう関係?」

 

 

「・・・本当に寝ぼけてるのかそれともわざといってるの?」

 

 

あ、やべ。笑顔が消えた。

そしてこの寒い感覚には覚えがあるぞ。雪ノ下の目は氷山の一角を削り落としたかのように鋭く、目を合わせるだけで冷気に満ちたような目をしていて・・

 

 

 

なんだこの説明わかりにくい。

そんでもっていきなり腕を組み始めた。

あ、この感じはあれだわ。雪ノ下マジキレモードですわ。

 

「・・もしわざとなら今すぐこの場で自害してもらうけれど」

 

「いや待ってくれ。すまん、ちょっとさっき頭を打って記憶がな」

 

なんてわかりやすい嘘なんだろう。

もう少し考えてから

「え!?八幡大丈夫なの?けがしてない?」

 

えぇ・・・

雪ノ下は俺のもとに来て心配そうな顔で見る。

その上目使いやめて!身長的に君が上を見るとそんな感じになるのは

わかってたけど雪ノ下が上目使いするとか考えたこともない。

いや・・ほんとうに・・あの・・

 

 

 

「ま、まあそういうことだからすまないが教えてくれるか?」

 

 

「そういうことなら仕方ないわね・・」

 

ほっ。

ようやく上目使いをやめてくれた。

ふー

 

 

「私と八幡は1か月前から付き合い始めた恋人関係よ」

 

 

俺はめまいと頭痛が同時にきて

その場にしゃがみこんでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡!大丈夫?」

 

 

 

俺の顔を覗くように見てくる雪ノ下。

いや顔近いっていうか・・

 

 

「えーと・・雪乃さん?いったい何の冗談なんだ?

俺と・・付き合っている?」

 

「・・本当に忘れてしまったの?

打ち所が悪かったのかしら・・」

 

雪ノ下は不安そうにこちらを見つめる。

うーん・・いつもの雪ノ下なら考えられないことだ。

 

 

「いや・・なんつーか少し記憶が曖昧化してるんだ・・

だからあの・・その・・告白した経緯とか教えてくれると・・助かる」

 

 

 

はあと雪ノ下はため息をついた後、

「わかったわ。じゃあとりあえず朝ごはん食べながら話しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の目の前には味噌汁とご飯と漬物、それに焼き魚にサラダ

まあ一般的な朝ごはんだな、これは。

そんな中でいつもと違うのは俺の目の前に雪ノ下がいるということだ。

俺が食べている様子を楽しそうに見ている。

 

「えーと・・雪ノし・・雪乃は食べないのか?」

 

いけないいけない、気を抜くとつい言ってしまう。

 

「ああ、もう食べたわ。八幡が起きる前にね」

と言ってニコっと笑う。

 

いやもうなんなんですか、この雪乃さん。

可愛すぎでしょ。

 

「まあなんだ・・とりあえず教えてくれないか。その俺達が

・・えーと・・付き合った経緯」

 

「・・本当に覚えてないのね。

まあ仕方ない、ちゃんと教えてあげる」

 

雪ノ下は少し一呼吸つけてから語り始めた。

 

「事の始まりは由比ヶ浜さんと私とあなたの3人の水族館のデート。

あれで私達の中で今後どうしていくかを協議しなければならなくなった。

その中で先に動いたのは由比ヶ浜さんよ」

 

「先に動いた?」

 

「・・もしかしてそのことも覚えてないの?」

 

「えーとすまない・覚えてないんだ」

 

はあとため息つく雪ノ下。

どうやら呆れ始めたようだ。悪いね、何も覚えてなくて。

 

 

 

 

 

「・・・・・・由比ヶ浜さんがあなたに告白したのよ」

 

 

 

 

 

どうやら俺のHPが0になりかけている。

やめて!もう八幡のライフは0よ!

 

 

「由比ヶ浜さんはあなたに告白する前に

私に相談してきたのよ。

比企谷君と今後どうしたいかと。

そして私の本当の気持ちをちゃんと聞いてきた。

私はこの時逃げようとしていたのかもしれない。

けど由比ヶ浜さんは私を逃がそうとはしなかった。

ちゃんと私の気持ちを聞くまであなたに告白するのを

待ってくれた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下は微笑みながらどこか遠くを眺めていた。

その横顔は本当に素敵としかいいようがない。

 

 

 

 

「えーと・・」

 

 

「・・・さてと。とりあえずここから先は学校に行きながら話しましょう」

 

 

といって雪ノ下は椅子から立ち上がりソファーにおいてある鞄に手を伸ばした。

 

 

「八幡もはやくたべて、いくわよ」

 

 

「お、おう」

 

 

まあ恋人同士だから一緒にいくのは当然か。

 

 

 

 

 

ん?ちょっとまて。

一緒に学校に行くということは

他の奴らにそれが見られるということだ。

つまり俺と雪ノ下が付き合っているということが

バレてしまうかもしれん・・

 

んていうかどうなってるんだ、そこのとこ

 

 

 

「な、なあ雪乃」

 

 

「何?八幡」

 

 

「一緒に学校行ったら他の奴に付き合ってることが

バレるんじゃないのか?」

 

 

 

すると雪ノ下は不思議そうな顔しながら

「何言ってるの?

学校の直前までで生徒が多くなれば

別々に行くに決まってるじゃない。

そんなことも忘れてしまったの?」

 

 

あ、なるほど。そんな感じなのね。

まあ雪ノ下も自分から付き合ってるアピールなんてしないだろ

むしろそういうリア充みたいなことを

嫌ってるからな。

 

 

「それとあなた今日遅くなるから今日の夜は電話は控えたほうがいいわよね」

 

 

え、何。

夜に電話とかしてくれるのこの雪ノ下は。

いつもは早めに寝てそうだから電話しても・・・

いやまずその前に連絡先を知っているのか。

聞いても教えてくれなかったのに・・

まあそれは置いといて。

 

「えーと・・なんで電話がだめなんだ?」

 

するとまたもや雪ノ下から俺にとどめ刺す一撃が放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって今日は由比ヶ浜さんとデートでしょ?」

 

 



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比企谷八幡はどうにもこの事実を受け止められない

続きです。
いつも通り温かい目でお守りください。

pixivと並行してやっておりますので
こちらの投稿が少し遅れる場合がありますので
よろしくお願いします。


総武高校までの道のりは至って単純だ。

家から曲がり角が多少はあるもののほとんど道なりに進めばいいだけだ。

その為いつもは多少遅れていっても間に合う、ましてや自転車だからな。

が今日はその自転車に少々重い荷物がついている。

いや重い荷物というかなんというか

 

「あら、私の事をそんなふうに思ってたなんて心外だわ」

 

 

 

だから心読むのやめて!

後ろの荷台に座ってる雪ノ下は俺の腰に手を回してギュっとくっついている。

いやしかしなんだろう・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず何も感じない。

本人も気にするよ、これ。

 

「次にそんなこと考えたらどうなるかわかってるでしょうね?」

 

後ろから雪ノ下が小さくつぶやいてるのが聞こえた。

いやもうやめて!何君そんなことできたの?

とうとう氷タイプだけでなくエスパータイプにもなったの!?

 

 

 

まあそんなこんなしてるうちに学校が見えてきた。

自転車を止めて後ろを振り返ると雪ノ下はこっちを見ていた。

 

 

いやだからその上目使いは・・・

 

「・・な、なあ雪ノし・・雪乃」

 

「まだその癖なおらないのね。何?」

 

「話の続きをしてくれるってことだけど

由比ヶ浜が俺に告白してそれからどうなったんだ?」

 

 

「そーね・・教えようと思ったけれども

自分から由比ヶ浜さんに聞きなさい」

 

「いやあのそれは・・」

 

「私のことをなかなか雪乃って呼べない罰よ」

 

とフフっと笑う雪ノ下。

楽しそうだなあ本当に。

 

 

はあと俺は青空を見上げながら大きくため息をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下とはあのまま別々に別れ俺は自転車を置いた後教室へ向かった。

教室の雰囲気は相変わらずで特にこれといった変化はなさそうに見えた。

 

「あ、八幡!おはよう!」

 

教室に入ってきた俺を見つけた天使が近づいてきた。

天使という名の戸塚彩加は俺の目の前に立ちニコっと笑う。

 

「もう学校サボって一緒に駆け落ちしよう」

 

「え?八幡なんか言った?」

 

 

いかんいかん。つい本音が・・

 

 

「今日で二年生も終わりだね・・三年も八幡と同じクラスならいいな」

 

「安心しろ。同じクラス以外ありえん」

 

うむ。だって同じクラスにしなかったら反乱起こすまである。

八幡の乱である。みんなテストに出るから覚えといてね!

最も俺一人しか反乱しないけど。

 

 

 

 

 

 

 

俺は自分の席に着いて鞄を下ろす。

と後ろから何かがぶつかってきた衝撃が走った。

 

「えへへ・・ヒッキー!」

 

その声、その笑顔、そしてこの包容感あるもの。

いやちゃんと言葉にしたら何か俺がそこしか見てないように思えるじゃん。

まあ嫌でも目につくし自分から見てるときのあるから何とも言えないんですけどね。

ほら街中とかでそういうポスターみたら嫌でも目に入るじゃん?

つまり法則としてはあれと同じなんだよ。

人は見たくなくても嫌でも目に入ると見つめてしまうというかね。

まあそんなことを説明したいわけではないんだ。

 

そう、俺がこの世界で会いたかったもう一人の女の子。

えへへと俺の顔を見て笑っている由比ヶ浜結衣にようやく出会えた。

 

 

 

「ヒッキー、おはよ」

 

「おう、おはよう・・」

 

久しぶり過ぎてどうやって挨拶していたか忘れた。

こんな感じでよかったんだよね?由比ヶ浜との会話って。

由比ヶ浜との会話のテンプレが俺の頭の中でいつの間にか消去していたようだ。

 

「ヒッキー今日終業式終わったら一回部活行くでしょ?」

 

「まあそりゃあ部活だからな・・」

 

「じゃあそれ終わってからだね!えへへ」

と由比ヶ浜は笑顔を隠せないのかずっと笑っている。

まあ女の子が会話している中で笑顔っていいものだよ。

 

 

これは俺の友達の友達の話なんだが

中学の頃、そいつが女の子に話しかけにいくと

ひきつった顔で苦笑いしてる顔か真顔かあからさまに嫌そうな顔しか

されなかったらしい。

つまり高校に入るまでこんなまぶしい笑顔を会話している中で

見たことないらしいぞ、そいつ。

可哀想だな、きっと辛い日々送ってきたんだ。

思いだしたら可哀想になったからやめよ、うん。

 

「じゃあまた後でね」

と由比ヶ浜は三浦達の元へ戻って再び会話をスタートしたようだ。

何だよ、三浦達もいるのかよ。

グループも三浦に海老名さんに葉山に戸部に大岡、大和とまあ何も変化もない・・

本当に俺、夢の中に来たのか?これひょっとして時間が戻ったとか・・

あ!もしかしてこれが今、噂になっている死に戻りか。

ついに俺もそんな能力を手にしてしまったか、俺の異世界生活がスタートするのか

ここから・・・・・・・・・・・

 

 

うん、ねえな。

大体あれの主人公とは正反対で普通にどんな運命でも受け入れようとしちゃうし

まず何回も死ぬとかごめんだわ、痛いし。

 

そんなことを考えてるうちにチャイムが鳴っておりHRが始まろうとしていた。

まあそんなこんなで再び二年生のやり直しが始まるのだった。

二年生終わりだけどね今日で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけであっという間の終業式。

帰りのHRも特に伝達事項しかなく俺はさっさと支度をして部室へ向かおうとする。

「今、大丈夫か?」

と後ろから肩をたたかれる。

振り返るとそこには葉山が立っていた。相変わらずの爽やかさはこの世界でも健在で

おまけにちょっと身長が高いように見える。

いや別に気にしてないよ、本当に!

 

「なんだ?これから部活だから手短に頼む」

 

「手短というのは難しいかもな・・ちょっと屋上に行かないか」

 

 

屋上ねえ・・また屋上だよ。

どうして屋上で俺はいつも何かしらのイベントをこなさなきゃならないんだ。

屋上ってそんな重要スポットだっけ?

 

「・・・断っても駄目なんだろ。ならさっさといくぞ」

 

「ありがとう」

 

 

 

さて懐かしの屋上である。

相模との一件が一番イベントとしては重大であるが

ここはそれ以外にも人と話すにはうってつけの場所なので

たまに依頼人と内密な話をするときがある。

 

「んで?なんだ?」

 

「・・・雪ノ下さんのことと結衣のことで聞きたいことがある」

 

 

 

出た。

雪ノ下が俺と付き合ってると言った時に全く思わなかったわけじゃない。

もし俺が雪ノ下と付き合ってることを葉山が知ったらどういう反応をするのか。

少なくともこいつは雪ノ下のことを多少なり好意を寄せている。

まあ過去に何があったかはプライバシーの問題でもあるし

興味もないからいいけれどそれでも雪ノ下に彼氏ができたとなれば話は別だ。

 

 

 

「・・・何のことだ?」

 

ここはとぼけて反応を見てみるが

「誤魔化しても無駄だ。雪ノ下さんと結衣が君と付き合ってることは知っている」

 

 

いやちょっと待て。

前者はともかく後者は今俺初めて聞いたぞ。

 

ふと葉山を見ると意外そうな顔をしている。ああ、俺が驚いた反応してるからか。

 

「・・・それがなんだ」

 

「・・君がそんな選択をするとは思わなかったよ。正直意外だ。

けどその選択は間違っている。それに君自身だってそれを望んではいないはずだ」

 

望む望まない関係なくもはや起きてしまってるんだから

そんなの俺が変えようもできない。

しかし葉山は相変わらずキッとこっちをにらみつけるような表情で話を続ける。

 

「もし君が二股しているという噂が流れその相手が奉仕部だとわかれば

奉仕部のイメージダウンになり何よりあの二人だって何されるかわからない。

何かが起こってからじゃ遅いんだ、比企谷」

 

 

ここでふと葉山に関して気づいたことがある。

いつもの葉山なら怒りで満ちていても焦りを出すことはない。

しかし今日の葉山はどこか焦りを感じているように見える。

言葉も話す速さがいつもより早い。

 

「・・なるほど。で言いたいことはそれだけか?」

 

「・・・・ああ。さてそれじゃあ君の答えを聞こうか」

 

答え?何を勘違いしているんだ、こいつは。

 

「・・・お前の言いたいことはよくわかるが今すぐ変えろというのはできない」

 

「なぜだ?」

 

「・・・俺がその事実について何もわかっちゃいないからな」

 

 

ここで葉山が少し驚きの顔を見せる。

まあそりゃあ言っていることがわからないだろうな、そりゃあ。

 

「どういう意味かわからない。説明してくれないか?」

 

「悪いが説明することもできない。それにできたとしても

俺がお前に言うと思うか?」

 

「・・・ふざけるのもいい加減にしろ!わからないのか!?

お前がそういうことをすることで彼女達を傷つけているということを!」

 

 

 

 

 

は?

その言葉しか出てこない。

傷つける?俺があいつらを?

 

「・・・何もわかってねえやつが偉そうに言うんじゃねえよ」

 

「何だと?」

 

「葉山。お前は何もわかってねえんだよ、

由比ヶ浜が俺達をどう思ってるか。雪ノ下が今どういう問題を抱えているか」

 

 

あとから俺は口を滑らせたと思うがこの時そんなことを考える余裕は一切なかった。

久々に八幡マジギレモードデス!

 

 

「お前はいつだってわかったふりをしてどんなことに関しても本質を解決しようとはせず

上辺だけを解決してきた。結局お前はそういうことをして問題を解決しなきゃと

焦ってきた自分を自分で救ってきたんだ」

 

葉山は相変わらず俺をにらみつける。それで俺の防御力が下がると思ってるなら

大間違いだ。

 

「あいつらだって今どういうふうに思ってるのか、何がしたいのかなんて

俺にもわかんねえよ。でも・・」

 

 

ここから先の事が出てこなかった。

俺自身がその先の事についてわからないからだ。

由比ヶ浜の思いや雪ノ下の問題。

それを解決するのが奉仕部としての最後の依頼であり

俺が求める本物の答えのはずだ。

 

 

けれどその答えを見つめることを俺はもしかしたら避けていたのかもしれない。

答えを見つければ三人が三人でいられなくなるかもしれない。

それがどうしても怖かったのかもしれない。

雪ノ下も由比ヶ浜もそれぞれがそれぞれ出そうとしている答えは

もう見つけていたのかもしれないけれどその答えを面と向かって聞くことを

俺は怖がっていた。

 

俺は・・

あの二人を・・・あの奉仕部の空間が・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壊れるのが怖かったのだ。

 

 

 

 

はあとため息をつきながら廊下を歩く。

ちょっと俺も熱くなってしまい少しは反省している。

葉山はあれから何もいわずに屋上から去ってしまった。

あいつも何か思うところがあったのだと思う。

 

 

 

 

 

さて先ほどの葉山との話でまたわかったことがある。

まあ大体の予想は今朝の雪ノ下の発言でついていた。

 

 

 

雪ノ下雪乃だけでなく由比ヶ浜結衣とも付き合っている。

 

 

いや・・・ねえ・・

まさか俺がそんな決断をしていると。

この世界の八幡ってプレイボーイなんですかね。

 

けれど笑える話でもない。

さっきの葉山の言ってた通り

もしこれが周りに知れ渡り学校中の噂になれば奉仕部のイメージダウンだけでなく

彼女達自身にも何かがあってもおかしくない。

俺がそういうことされるのは過去の経験上慣れてるといえば

慣れてるが彼女達を巻き込むのはまずい。

 

 

 

 

でも待て。

これは夢の中だ。

別にどうなろうが夢の中なのだから現実に起こることではないのだから

関係ないんじゃないか。

うーん・・・

 

 

まあ考えてるうちに奉仕部部室前までたどり着いた。

とりあえずこの話は一度おいとくとしよう。

 

「うーす」

 

「あ、ヒッキー」

 

「こんにちは」

 

いつもの席に座っている由比ヶ浜と雪ノ下。

二人で紅茶を飲みながらお菓子を食べている。

俺もいつもの指定席へと座る。

 

「さて・・揃ったことだし今学期最後の部活を始めますか」

 

「うん!」

 

「・・てか最後といっても具体的には何をするんだ?」

 

 

雪ノ下はカップを置き、

「春休みの部活活動と新学期以降の活動についてよ」

と淡々と話す。

 

「春休みねーゆきのんとヒッキーはどうするの?」

 

「私は家の用事があり。実家に帰るからこっちにはいないことが多いわ」

 

「俺は予備校だな。朝から晩まである」

 

 

うん、間違いない、デジャブに思ってしまうが記憶はちゃんと残ってる。

俺は由比ヶ浜と雪ノ下にこのセリフを一度言っている。

雪ノ下と由比ヶ浜も同じことだ。

つまり今俺の知っている3月15日をもう一度やり直しているということになる。

んでもって恐らく次は由比ヶ浜が

「じゃあさ!ゆきのんが行っちゃう前にさ、みんなでパーティーやろうよ!

二年生お疲れ様パーティー!:

 

 

うん、全く同じだ。

由比ヶ浜がここでこの発言をすることも予測できる。

となると次は雪ノ下と俺だ。

まず雪ノ下が

「ごめんなさい。今日の部活終わったら迎えが来るからすぐ行かなければならないの」

そしてそれを聞いた俺が

「まあ・・雪ノ下来ないなら今回はなしでもいいんじゃないか?」

と言う。

これでこの話は終わりで由比ヶ浜が少し不満そうになる。

 

 

 

「そうね、まだ家にいくまで時間あるしこの一年間色々あったから

そういうのもいいかもね」

 

「やったー!ゆきのん、ありがと」

と由比ヶ浜が雪ノ下に抱き着く。

近いし熱いから離れてと雪ノ下が呟いてるのが聞こえるが

離そうとしない。うん、百合百合さは相変わらず・・・

 

 

 

ってまて。

おいおい、違ってるぞ雪ノ下。

台本見直してこい、そこはそんなセリフじゃないだろ。

俺のこのあとのセリフと繋がらないだろ。

 

 

 

 

「えーと・・雪ノ下。ちなみにいつ実家に帰るんだ?」

 

すると俺の発言に気づいた雪ノ下が一度由比ヶ浜から離れて

「春休みの終盤だから3月の30日から4月2日までよ」と答える。

 

 

ちなみに総武高校の春休みは地味に長く3月16日からなんと4月10日まである。

最も入学式が4月5日なので部活動の勧誘とかで始業式前にくる生徒は多いそうだが

まあ俺には無縁の話だな。

 

いやいやまあそれは置いとくとしよう。

 

「じゃあ春休み長いしいっぱい遊べるね!みんなで旅行でもいく?」

 

「えーと・・あなたそんなことしてる場合じゃないのかしら・・」

 

「う・・」

痛いところをつく雪ノ下だがまあ由比ヶ浜の学力を見ればね・・

俺も数学克服のために春休みは予備校いってたわけだし・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいや待て待て待て待て。

おかしいだろ!俺は予備校!雪ノ下が家の用事で帰省。

そういうはずだろ!

 

「えーと・・その俺忙しいから」

春休み明けてからにしようと言おうとしたところで

 

「ヒッキー?何も用事ないよね?」

と由比ヶ浜が笑顔で言う。てか近!

いつの間に俺の真横に・・・

何、お前瞬歩とか使えるようにでもなったの?

 

 

「あなたに予定なんてあるはずないじゃない」

雪ノ下も由比ヶ浜の肩を持つようだ。

 

「いやあの・・小町とか戸塚と」

 

 

「小町さんはともかく戸塚くんは春休み中に大会あるからそれの練習で

遊べないはずよ?嘘谷君?」

 

「短くするのはやめろ」

 

やれやれやはり通用しないか。

まあ雪ノ下との会話じゃ勝てることなんてありゃしない。

 

 

 

 

 

しかしまあ懐かしいな。

雪ノ下と由比ヶ浜とこうした感じの会話は。

ずっとぎこちない雰囲気の奉仕部は居心地悪すぎた。

やっぱこうでないと。

由比ヶ浜と雪ノ下が笑いながら話しそれを俺が本を読みながらたまに

様子を見つめたりする。

そんな光景こそが奉仕部の本来の姿なのだ。

 

 

 

 

 

「さてと・・とりあえず春休みの部活動は

平塚先生からの連絡がない限り動かないということでいいかしら?」

 

「私はいーよ」

 

「俺も問題ねぇ。まあどーせ一色辺りが問題を投げてくるから

やる羽目になるんだろうけど・・」

 

俺は小さくため息をついた。

がここで二つの視線に気づく。

雪ノ下も由比ヶ浜も驚いた顔でこっちを見ていたからだ。

 

「なんだ?なんかまずいことでも言ったか?」

 

「いや・・あの・・その」

 

 

「・・比企谷君。もう生徒会からの依頼なんてこないわ。

安心しなさい」

 

 

「え?」

 

 

「さてじゃあ続いて新学期からの活動なのだけれども」

 

雪ノ下は淡々と話を進めていく。

疑問を抱いている俺をおいて話はどんどん進んでいった。

 

 

 

 

思えば既にこの時点で夢の世界のとある出来事が起きていたことを

あとになって気づくがまあそれは置いておこう。

 

 

「・・という形でいいかしら?」

 

「うん!大丈夫」

 

「まあそんなところだろ」

 

 

考え事してる間にどうやら新学期の方針も固まったようだ。

といっても3年になるので特に勧誘活動は行わず

今まで通りとのこと。ただ受験生な為空いた時間等は主に部室で勉強を

するとのことだ。

まあ妥当な判断だし問題ないだろ。

 

「さて・・それじゃあ今日はこの辺にしましょう。

私は鍵を返すから二人共先にいっていいわよ」

 

「わかった!じゃあヒッキーいこ!」

 

えへへと笑って俺の腕を掴む由比ヶ浜。

え、何これ。

 

「えーと・・行くってどこに?」

 

「え?今日はだって私とでしょ?」

 

 

私と?わ・た・し・と?

どゆことどゆこと。

ハチマン、何もワカラナイ。

 

「えーと・・どういうことだ?」

 

「由比ヶ浜さん、その男はふざけてるのかわからないけれども

今朝頭を打って記憶を一部失っているようだから説明してあげたほうがいいわよ」

「え!?ヒッキー大丈夫なの?」

 

 

いや雪ノ下。お前今朝めっちゃ心配してくれたじゃん・・

何あの雪ノ下ってもしかして他人には見せないの?

あっちのほうが好感度あがるぜ、多分。

 

「大丈夫だけどそのまあ・・すまんが教えてくれないか?」

 

「そっか・・忘れちゃったんだ・・」

としょんぼりする由比ヶ浜。

 

まあ俺が悪いけどでも俺のせいじゃないよ!

 

 

いやもう意味わかんねえから考えんのやめよ。

 

「すまん・・」

 

「・・いや仕方ないよ。ぶつけちゃったんだから・・

じゃあ・・どこから説明すればいい?」

 

「・・一応わかる範囲全部教えてくれれば」

 

「わかった!じゃあ歩きながらいこっか」

といって鞄を肩にかけぐいぐいと俺の腕を引っ張る。

 

積極的になりましたね、ガハマさん・・

いやなんていうかちょっと感心してしまう。

 

「じゃあゆきのん、また夜に電話するからちゃんと出てね!」

 

「出るわよ。あなた出るまで電話かけ続けるじゃない」

と雪ノ下はため息をつきながら紅茶のカップを片づけている。

 

「じゃあねーゆきのん」

「ええ、くれぐれも気を付けてね。隣にいる比企谷菌が何かしたら

すぐに電話しなさい」

 

「色々とつっこみたいがもういいや・・」

と俺もため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

「うーんとりあえずどこから言おうかな・・」

 

由比ヶ浜と並びながら俺は駐輪場に向かっていた。

まあなんだ・・本当に今日が終業式でよかった。

いつもなら部活動なので授業終わっても残っている生徒が多いのだが

今日は終業式で休みな部活が多く人が少ない。

まあ俺なんかといるのを人に見られたらこいつが何言われるかたまったもんじゃないからな。

 

 

「・・ヒッキーは私が告白したことも・・忘れちゃった?」

 

「・・すまない。忘れたというかなんというか・・」

 

 

由比ヶ浜は寂しい顔をするが、

「そっか・・じゃあそこから説明するね」

と説明が始まった。

 

 

 

 

「まず私がヒッキーを屋上に呼び出してそこで告白したんだ・・

最初はヒッキー、ちゃんと答えが出せずずっと悩んでいたけど

その間にゆきのんが告白をして」

 

「ちょちょっと待ってくれ。ゆ、雪ノ下が告白した?」

 

動揺を隠せない俺を見て

「そうだよー」

とちょっと小走りして俺のほうをクルッと見る由比ヶ浜。

 

相変わらず笑顔で俺を見て会話を続ける。

 

「それでね。私とゆきのんで話し合って提案したんだ。

二人とも好きならどうせなら両方とも付き合っちゃえばいいんだって!」

 

 

 

 

いやいやいや

その提案はどう考えてもおかしいだろ。

そんなの乗るわけない。

 

「ヒッキーも最初は悩んでたけど最後は納得してくれて

今は三人仲良く付き合ってる状態なんだ」

 

 

乗っちゃったのかよ俺・・

あんだけ葉山に言ったくせに俺最悪じゃん最低じゃん・・

ごみいちゃんって呼ばれるのがまだ優しいレベル。

 

「それでね、ゆきのんとも話し合ったけど

お互い予定被らないように決めてデートとかも調整したりしてるんだ」

 

「へえー(棒読み)」

 

 

もうなんか俺の想像色々超えてやっちゃったのね、俺。

我ながらびっくりだよ。もうびっくり超えて失神しそうだよ、八幡。

 

 

ふと気づくとすでに駐輪場まで着いていた。

周りには自転車もなく俺の自転車がぽつんと置かれていた。

 

「・・んでどこ行けばいいんだ?」

 

「んーそーいえば考えてなかったね。ヒッキー行きたいとこある?」

 

「家」

 

「帰る気満々だ!?」

 

当たり前だ。一度家に帰って整理しないと無理だろ、これ。

と考えてるうちに荷台が揺れた。

振り返ると由比ヶ浜が座っている。

 

「ほら、ヒッキー行くよ」

 

「いや・・あの・・」

 

「?どしたの?何か忘れ物?」

 

「いや・・まだここ学校だから・・」

 

「?それが?」

 

いやあのですね、本来二人乗りは禁止ですよ。

少女漫画や青春ドラマが二人乗りをいかにもと見せつけるから

日本に男女の二人乗りという悪しき風習ができたのだ。

まあ風習かどうかはさておき本来禁止されているのだから

警察も注意だけでなくもう刑罰とかしないとなくならないよ。

 

 

 

しかしまあもう降りる気はなさそうなので諦めよう。

「・・んじゃとりあえずどこ向かえばいいんだ?」

 

「私が後ろから指示するからその通り進んで!」

 

「あいよ」

 

 

俺もサドルに乗るペダルを回し始める。

そのまま校門に向かい学校の外に出る。

 

 

 

さて今朝の雪ノ下から始まり

学校では葉山と言い争ったり二年最後の部活をしたりと

まあ色々あるがようやく今日のメインイベントともいえるものに

たどり着いた。

いやたどりついてよかったのかこれ。

 

 

まあとりあえず今はデートでもなんでもいい。

由比ヶ浜と会うことができたんだ。

俺も意地を張らずにここは楽しむとしよう。

ちょっと後ろを見ると由比ヶ浜はガッチリと両腕と俺の腹の下を組み

まあ・・・今朝の雪ノ下と比べると・・

 

 

 

 

感じないどころじゃない。いやもう当たりすぎてやばいレベル。

とりあえず・・・・・しばらくこのまんまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てなわけで四章です。

このまままとめて投稿します。

 



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彼女と俺のデートはまだ慣れない(由比ヶ浜結衣)

続きです。

まとめて投稿してます。


 

 

 

由比ヶ浜と二人乗りしながら自転車を漕ぐこと数十分。

てなわけで着きました。

千葉の某アウトレットパーク。

もっと大きくいうと海浜幕張です。

まあ幕張○ッセとかで有名ですよね、ええ。

ちなみに近くの幕張のショッピングセンターでは

よく声優のイベントをやったりしているので

ちょくちょく見に行ったりしている。

てかああいうイベントってショッピングセンターの中にある

グラン○モールと呼ばれるところでやったりするのだが

まあ何せ周りから晒されるかのようなステージ。

何よりそのあとに握手会とかがあるともう何もしていないのに

周囲から晒されクスクスと笑われる始末。

いや決して俺の話じゃないぞ、断じて違うからな。

 

「あ、そこに駐輪場あるから止めようよ」

 

「そうだな」

 

と由比ヶ浜をおろし俺は自転車を止める。

 

「ヒッキーと買い物なんてお正月以来だね!」

 

「あーそーいやそうだっけ」

 

「そうだよ!だって・・デート行こうっていってもヒッキーあんまり

私と一緒にいるところ人に見られるの嫌がるし・・」

 

由比ヶ浜がまたしょんぼりしてしまった。

あーこういうときはそうだな・・よしこの一手でいこう。

 

「まあ・・そのなんだ・・悪かったな。これからはちゃんと・・行くようにするからさ」

 

「ほんと!?約束だよ!」

 

えへへと笑う由比ヶ浜。

どうやら最善の一手だったようだ。

 

とりあえずアウトレットを適当にぶらぶらすることにした俺達は

由比ヶ浜が服を見たいということなので適当に店に入ったりしていた。

 

「ヒッキーこれなんかどう?」

 

「おー・・・おー」

 

「何その気の抜けた返事・・」

 

と俺の顔を見ながら呆れた顔をする由比ヶ浜。

ちなみに今は由比ヶ浜が服を選んでおりいちいち見せにくるので

俺が評価している。

ちなみにさっきのおーは点数で荒らすと50点で100点だとお、おう・・と

驚いた感じになる。

まあそんな風に言い表さなければならないほどきわどい服を選ぶことは・・・ないよね?

 

 

「もーいーや」

と由比ヶ浜は持っていた服をそのまま戻した。

 

「いいのか?」

 

「だってヒッキー、つまんなそーだし。

せっかく一緒にいるのにつまんないのは嫌だし」

 

「うーん・・まあ基本服とか悩まずに買ってるからなぁ」

 

俺くらいになると店行かなくても

ネットでポチっと注文してるから家から出なくてももんだいない。

便利だよね、本当。

 

「じゃあ・・次どこいくか?」

 

「んーそうだね・・ゲーセンいこ!ゲーセン」

 

「りょ。じゃあいくか」

 

と並んで歩き始める。

 

「・・ヒッキーは何で今日デート行こうと思ったの?」

 

「んーまあ・・・なんとなくかな」

 

 

そりゃあそう答えるしかないだろ。

デートの予定を今日知ったのだから。

 

「私は・・ヒッキーとデートしたいってずっと思ってたけど

ヒッキーが行きたくないっていうから我慢してたからさ・・」

 

「・・悪いな、ほんとに」

 

「・・べ、別に謝らなくていいよ!

でも・・・・・・やっぱ一緒にいると楽しいよ、私」

と由比ヶ浜は俺の手をぎゅっと繋いできた。

 

いきなりこういうことされると心臓に悪いよ、ほんと。

心の準備ってものがあるじゃん、ね?

 

 

 

 

 

「一応付き合うことになったからさ・・

こういうふうにヒッキーと一緒に遊んで色んな思い出を

作っていきたいなって。

もうあと一年したら卒業だし」

 

由比ヶ浜がその言葉を言うまで俺は今まで気にしなかったことを

久しぶりに意識した。

 

 

卒業ねぇ・・

まあほとんど意識してなかったけど

もう一年切ってるんだよな。冷静に考えれば

青春の高校生活とやらももう終わりだ。

なんだかんだ人が思うような青春は味わってはいないけれど

すでにこの二年の一年間でなんだかんだ色々な経験をした。

最もそれは決して青春ではないと言える。

 

「ヒッキーは・・やっぱ東京の大学とかにいくの?」

 

「いや・・まだ何も考えてない。一応学力相応の大学行こうかなと」

 

「そっか・・あたしもヒッキーと同じとこいこうかな・・」

 

「そうか。数年後に待ってるぞ」

 

「浪人確定だ!?」

 

 

いやだってお前二年の期末の結果チラっと見たけど

相当ヤバイぞ・・Fランの大学に行けるかどうかも怪しいレベル。

 

雪ノ下とかはおそらく国立とかに行くのだろうか。

まあ家柄とかも気にするのであれば行かなきゃならないだろうし

何より国立行けるだけの学力もある。

 

「とりあえずついた・・・が」

 

ゲーセン前で俺は唖然とした。

なぜならそこにはでかでかと

「カップル様限定!UFOキャッチャー!」

と書かれたポスターや

「カップル限定シューティングゲーム!」等

ゲーセン内の至るところにカップル限定の文字が見える。

 

「お前・・まさかこれを知ってて・・」

 

「いや、ほんとに知らないよ!ほんとに!」

 

えー

ほんとにー

俺いないとこで雪ノ下とこそこそ話してたんじゃないのー

 

「・・ヒッキーはこういうのいや?」

 

「いや・・別に」

 

そりゃあ嫌とは言えませんよ。

そんなうるうるした目で上目使いで嫌って言える男は

俺の知る限りいない。

相当三次元を諦めてるやつじゃないと・・

 

 

 

あ、材木座とかかな。

 

てかゲーセン内を見渡すと

ほとんどカップルしかいないじゃん。

音ゲーとかのコーナーにいるやつらもいないし

アーケードのとこも全然いねえ。

ていうかカップルしかいないから空気が完全にぼっちを拒絶している。

 

「とりあえず・・」

と言って由比ヶ浜はきょろきょろとUFOキャッチャーの台を

1台1台見渡し、

「あった!これこれ!」

と俺の腕を引っ張り一つの筐体の前まで引きずられる。

 

 

 

「・・・・・」

 

「・・やっぱりこういうのヒッキーは嫌?」

 

 

その筐体の中には

銀色と金色のネックレスがいかにも高そうな箱に入ってるのが見本品としておいており

筐体には「カップルの幸運を祝って!ペアネックレス!」と書いてある。

まあこういうのに女の子は弱いだろう。

漫画でもあるようになんかこう・・お揃いのものを揃えたがるんだよね。

二人の絆とか信頼の証とか言っていざ別れるとまるで黒歴史のように

タンスの奥にしまいこんだりする。

そしてまた新しい彼氏ができるたびに作る。

いやもうそんなんなら別れた時に返してもらって

また新しい彼氏できたら渡せよ、お金の無駄よ、無駄。

 

 

 

「・・・ヒッキー」

 

ふいに呼ばれて横を向くと由比ヶ浜がニコニコ笑っている。

ああ、はいはい。おっけーおっけ。

 

「わかったからちょっと待ってろ」

「ありがと!えへへ」

 

まあこういうのはもう流れみたいなもんだからな。

俺はさっそく財布から百円玉を取り出し入れる。

 

さてこういうUFOキャッチャーではまず取るまでにお金がかかる。

今回このペアネックレスは紺色のケースに入っており

それを持ち上げて運ぶだけ。

聞くだけだとすごい簡単なんだが

実際アームが全然働いてくれない。

まあ簡単に取れたら面白みないからな。

頑張ってお金かけて取るのがUFOキャッチャーの

楽しみの醍醐味でもある。

 

とりあえずまずは持ち上げて・・・・全然上がらないな。

 

 

「うーん・・やっぱこういうのってなかなか取れないもんだね」

 

「まあな、簡単に取れたら商売にならんだろうし」

 

と俺は続けて百円を投下する。

とりあえず持ち上げるのが無理なら引きずって落とすしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで取れました。

取るまでの経緯は説明するとなかなか時間かかるので

一言で表すと引きずって引きずって落ちた。

え?俺の人生に似ている?ははは、冗談が聞こえるな。

いくら使ったかは聞かないでほしいが

すでに俺の財布は凄く軽くなっている。

しばらく本は買えないな・・

 

 

 

まあでも

 

「ヒッキーありがと!どう似合う・・・かな?」

 

と顔を赤くさせながら取ったばかりの金色のネックレスをつけて

俺に見せてくる。

 

「まあ・・・いいんじゃねえの?」

ふいに顔を直視できずそっぽ向いたまま答えてしまった。

 

「・・ヒッキーはつけないの?」

 

「ん?ああ、あとでつける」

 

「えー今つけようよー。私がつけてあげるから」

 

と言って箱からネックレスを取り出して両腕を俺の首元に回し始めた。

 

「いや自分でつけれるからいいって」

 

「ご褒美だよ!ヒッキー頑張ってくれたから!」

4P

 

カチリ。

ネックレスがうまくはまった音がして由比ヶ浜の手から解放される。

首元には銀色のネックレスが輝いているが

・・・・・まあ・・・その・・

 

 

「・・ヒッキーあんまり似合わないね」

 

「お前がつけたんだろうが・・」

 

 

そう、俺は基本こういうアクセサリーは似合わない。

よって自分からつけたりすることがない。

まあこういうのって似合う似合わないだし

無理してつける必要はないとは思う。

 

 

「・・・でも外しちゃ駄目だよ」

 

「なんでだよ?」

 

「だってせっかくのペアネックレスだよ!どーせなら一緒に

つけていたいじゃん」

 

「・・まあ・・そういうなら」

 

 

どうやら俺もずいぶん甘くなったようだ。

昔なら事あるごとに否定から入ってたが今となっちゃ

肯定することも悪くないと思い始めた。

最もそんな風に考えるようになった原因は・・・・

 

「どしたの?なんか顔についてる?」

と由比ヶ浜は手で顔をさわさわと主にほっぺの部分を触る。

 

「・・なんでもねえよ。次いくぞ」

 

「あ、待ってよ!」

 

 

 

 

やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しかった時間もあっという間。

なんというと某夢の国のショーのセリフっぽく聞こえる。

あれから由比ヶ浜と適当にぶらつきゲーセンで遊び買い物をしたり

適当にクレープとか食べたりとまあ高校生の帰り道で遊ぶ例みたいな

ことを続けていた。

 

が由比ヶ浜が

「もういいかな。ヒッキー!行きたいとこあるんだ」

と言うので再び由比ヶ浜を乗せて自転車を漕いでいる。

 

「あ、次そこ右ね!」

 

「おう。しかしずいぶんと潮の香りがするっていうか・・

学校の近くでもここまでしないぞ」

 

「海近いからね、この辺」

 

「由比ヶ浜、来たことあるのか?」

 

「うん!ていうか・・今日の下見でね」

と笑う由比ヶ浜さん。

いや可愛いです、何その楽しみにしてましたアピール。

彼女のそういう仕草は多くの男性の心を一気に掴む、まあ単純だからな男って。

 

「あとそこの角曲がって!そしたらもう見えるから」

 

「はいよ」

 

由比ヶ浜の指示通り俺は角を曲がる。

 

「おお・・」

 

「わあ・・」

 

思わず二人共声がこぼれてしまう。

曲がった先には東京湾が広がっていた。普段は見渡す限りの青い海だが

今はちょうど夕日が沈もうとしていた海がちょっぴりオレンジ色に輝いていた。

 

「・・綺麗だね」

 

「ああ」

 

 

俺は自転車を止めた。

止めるなり由比ヶ浜が下りて砂浜へと走り出す。

子供ように目をキラキラとさせながら夕日を眺めるその姿に

俺はおもわず笑みをこぼしていた。

 

 

「・・・この光景覚えてる?」

 

「・・・ああ」

 

 

 

忘れるはずもない。

この光景には見覚えがある。

あの時は雪が降っていたがそれでもこの夕日と東京湾の碧い海は忘れていない。

あの日、あの時、あの場所で。

俺達三人が話し合った場所。

これからどうするかを決めた時。

 

「・・あの時さ、私本当にずるい子だなって今でも思うんだ・・」

 

「あん時は仕方ない。お前は何も悪いことしてないよ」

 

「ううん。あの時の私は言葉にするのが怖くて避けてたんだ。

私達の関係が壊れるのが怖くて・・でも私は自分に嘘をつくのが嫌で・・」

 

俺は由比ヶ浜の顔を見る。

彼女は夕日をじっとみながら目から涙を流していてそれでも嬉しそうな顔を

していた。

「でもね・・私は決めたの。

もう自分から行くって。だからヒッキーにちゃんと

思いをぶつけることにしたんだ」

 

「・・そっか」

 

「本当は結構こわかったんだよ?

もしヒッキーにフラれたらどうしようかなって。

ヒッキーがゆきのんを選んだら

私はもうあの場所で三人で笑うことは

もうできないんじゃないかって」

 

言い終えるとはあと深呼吸して再び語り始める。

 

「でもゆきのんには言っておきたかった。

私は知ってたもん。ゆきのんもヒッキーのことが好きだって。

だからちゃんとゆきのんにも話した上でヒッキーに伝えた。

そしたらゆきのんもヒッキーに告白したからビックリしたよ」

とはははと笑う。その笑いには寂しさとか苦しさとか

言葉には表せない感情があるような気がした。

 

「でも・・やっぱり三人で仲良くしたかった。

私はヒッキーが好き、それにゆきのんも好き。

二人共好きだから奉仕部としてこれからもずっといたかった。

だから・・今の関係に私は満足してるよ。

誰が何と言おうと私はヒッキーが私とゆきのんの彼氏でいてくれることが

本当にうれしいんだ!」

と言って由比ヶ浜が抱き着いてきた。

いやもうよけるとかじゃなくて急だから俺も驚いた顔をするしかない。

それでも俺は彼女のことを思うと抱きしめずにはいられなかった。

 

 

「・・由比ヶ浜、ゴメンな。俺のために色々と苦しい思いを

してくれたんだよな・・」

 

「ううん。私は・・ヒッキーが好きだから。

ちゃんと答えを出してくれたヒッキーには感謝してるよ」

 

俺達は一度離れた。顔を見合わせるとどうにも笑みが出てきて笑わずには

いられなかった。

 

 

 

「ヒッキー」

 

「ん?」

 

「お願いがあるんだ」

 

その時ちょうど夕日の光が由比ヶ浜の顔を照らす。

そこには満面の笑みを俺に向け語りかけようとする

由比ヶ浜結衣がいた。

 

 

「私のこと・・・名前で呼んでくれる?」

 

 

「・・わかったよ、結衣」

 

「・・ありがとね・・・八幡」

 

 

ともう一度抱きしめる。

彼女が俺のことが好きでどういう風に考えていたのか

それを言葉にすればきっとやりきれない気持ちにもなるかもしれない。

けど由比ヶ浜結衣が求めたあの関係は無事に壊れることなく

今も続いている。

そして今はあの時以上に理想の関係になってるとしたら

それは喜ばしいことではないのか。

 

「あ、ヒッキー、星が見えるよ」

と由比ヶ浜が指をさした。

「え?どこ?」

と俺は顔を上にやる、その直後に

 

 

ん?

頬になんだか触れられたような・・いやていうか・・

唇が触れた?

 

「えへへ」

 

「おい・・」

 

 

まあざっくりいうとキスされました。

えへへ・・てかハチマンキスされたの生まれて初めて。

小町にもされたことないよ。

あ、でも頬にだよ!わかりやすく言うとほっぺにチューだよ。

 

 

自分で言うとこれ気持ち悪いな、うん。

 

 

「まだ・・唇にはできないからこれで我慢して・・ね?」

とウインクしてくる。

うーん・・一色並みにあざといぞ、今のは。

 

「まあ・・別に」

 

「・・でもあれだよ!本来は男の人からするんだから

楽しちゃ駄目だよ!自分からしないと」

と顔を赤らめながら俺に責めてくる。

いや恥ずかしがるなら言わなきゃいいじゃんとは

思うけどこいつの言うことも一理はある。

とはいえ人生でそういう経験が皆無な俺に期待をよせられても

なかなかうまく行動できない。

もちろん知識ぐらいなら豊富だぞ。知識だけは。

 

 

「・・でもすぐじゃなくていいよ。

あたし達のペースでゆっくり進んでいこう」

 

「・・・ありがとな」

 

「えへへ、どういたしまして」

 

 

俺達は改めて顔を見合わせる。

比企谷八幡は由比ヶ浜結衣の顔を見て笑みを浮かべ

由比ヶ浜結衣は比企谷八幡の顔を見て笑顔を見せる。

 

 

少なくとも俺は思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

これが本物なのかと。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ヒッキー」

 

「なんだ」

 

「大好き」

 

 

「・・・・俺もだ」

 

 

 

 

夕日が落ちて辺り暗くなり

ビルの明かりや飲み屋の明かりなどが目立つ時間帯となる。

俺は由比ヶ浜を家まで送るため自転車を漕いでいる。

由比ヶ浜は疲れてしまったのか俺の背中に頭を預けてすやすやと寝ている。

よく眠れるなあと感心しつつも少しでも段差とかで起こさないようにするべく

なるべく舗装されている道を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

まあとりあえず夢の世界初日。

正直今日一日過ごして夢の世界と実感した部分はごくわずか。

何故ならこの世界は現実そのものと勘違いするくらいのリアリティがある。

本当にこれが夢だとしたら目を覚ました時の俺の絶望は

半端ないんだろうなあと・・

ゲートと比にならないくらいの絶望だよ、ファントム生み出せるかもしれん。

 

 

 

「・・・ん・・」

 

「お、起きたか」

 

「あ、もしかして寝ちゃってた?」

 

「ああ・・まあ疲れてたならしゃーないわ。

もうすぐ家だからもう少し待ってくれ」

 

すでに大型マンションが立ち並んでるのが見える。

由比ヶ浜のマンションも見えているので

もうさほど時間はかからないだろう。

 

「あ、そーいえば今日の事ゆきのんに報告した?」

 

「報告?」

 

「そうだよ!忘れちゃったの?」

 

「・・・すまん。頭打ったからな」

 

 

忘れてるかもしれないけど一応頭打ってる設定だよ!

台本きちんと読んだからちゃんと覚えている。

てか台本無視して俳優とかがアドリブでセリフいって

そのセリフが素晴らしいからそのまま使うってやつ。

あれは違う、逃げてるだけだ。

声優なんかどんな長いセリフや噛みそうなセリフでも

すらすらいえるからな。

一番すごいのは八九寺の声優の・・

 

「ヒッキー?話聞いてる?」

 

「え?ああ、すまん。なんだっけ?」

 

どうやらまた話が脱線してしまったようだ。

 

「報告についてだよ。一応付き合う時に

三人でデートの時は何があったか報告するって

決めたこと」

 

「え?何それ」

 

そんな束縛みたいなことさせられてんの?

いやもうメンヘラ気質の女がやることじゃねえか、それ。

 

 

「一応その・・もしかしたら

その場のノリとかあるかもしれないから

そうなった時はゆきのんと私は知っといたほうがいいだろうし・・」

 

「その場のノリ?何があるんだ?」

 

「もう!言わせないでよ!」

と後ろからぽかぽかと俺の頭を叩いてくる。痛い痛い。

 

「意味わかんねえし・・・てか着いたぞ」

 

「あ、もう着いたんだ」

 

「ああ、まあここまで来たからもう平気だけど気を付けてな」

 

「うん!ヒッキーもね!」

 

「そんじゃ」

 

と俺は再び自転車を走らせる。

すると後ろから由比ヶ浜の声が聞こえる。

 

「明日のゆきのんとのデートは

ちゃんと報告してねー!待ってるからねー!」

 

 

 

どうやら俺はまだまだ未知なる体験をすることになりそうです。

 

 

 

 

このまま続きます。

 



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彼女と俺のデートはまだ慣れない(雪ノ下雪乃)

続きです。


 

 

 

鳥が鳴く声が聞こえ日差しが窓から入り目を覚める。

重い体を起こしてベットから立ち上がる。

体を伸ばして両腕をあげる。

 

昨日は家から帰った後雪ノ下から電話があった。

 

 

 

「今日はずいぶんと楽しいデートだったようね」

 

電話口から雪ノ下の微笑む声が聞こえるが

その様子は電話口からでも冷気を感じるかのような声だった。

 

「もう聞いたのか」

 

「あら報告については由比ヶ浜さんから聞いているはずだと思うけど」

 

「聞いたよ。何かよくわからないけど」

 

「まああなたはそういうところ適当そうだから気にしなくていいわ」

 

「そう言われると余計気になるんだが・・」

 

俺が呆れ顔していると電話口からはコホンと咳払いする音が

聞こえ、雪ノ下が会話を続ける。

 

 

「さて・・明日の私とのデートのことなんだけれども」

 

「ああ・・なんか由比ヶ浜から聞いたけど何、毎日デートしてるの?」

 

「毎日じゃないわ。あなたみたいに暇じゃないのよ、私達は」

 

いや俺も暇じゃないよ。

本読んだりアニメ見たり小町と会話したりと

ほら、忙しい。

 

「はいはい・・で明日はどうすればいいんだ?」

 

「私の家に来なさい。12時にね」

 

「どこか行くんじゃないのか?」

 

「まあどこか行ってもいいけれどもどこ行くかも決めてないし

一度私の家で話し合ってからでいいでしょう」

 

「そうだな、そのほうが俺も楽で助かる」

 

「あら、私とのデートをそんなに楽に済ませたいのかしら?

由比ヶ浜さんには頑張ってネックレスを取ったらしいじゃない、

UFO谷君?」

 

「芸人っぽいからやめろ。大体・・」

 

 

 

 

 

とまあこんな感じで話し合いを続けていたら朝4時になっており

寝たのは5時だった。

んで今の時間は11時。

んーちょっと間に合うかわからん。

俺は起きてから目が覚めるまで最低一時間はかかる。

とりあえず二度寝・・

 

 

 

「あー!お兄ちゃん、まだ寝てる!」

 

ドアがバタンと開かれると我が最愛の妹小町が入ってくる。

そしてずかずかと俺のベットの前に向かってくる。

 

 

「お兄ちゃん!起きろ!朝だぞ!」

 

と俺のベットの上に乗ってくる。

ああ・・阿良々木君って朝からこんなご褒美を受けていたのか。

しかも二人の妹から。

おまけに自分にも最高に可愛い吸血鬼いるんだから

もう三人いるようなもんだよな、羨ましい。

 

 

「ほらー早くー」

 

と俺から布団をはぎ取る、寒い。

仕方なく再び体を起こす。

 

「ふわあ・・・なんだ小町。俺は今から眠りに入るのだ、

邪魔をしてはならない」

 

「お兄ちゃん、永遠の眠りにつかせてあげようか?」

と笑顔で言う妹。すぐに目が覚めた。

何、その技?雪ノ下から伝授でもしたの?

 

 

「とりあえず雪乃さんとデートなんだからおしゃれしなきゃ!

ほら、もうコーディネートの準備できたからとりあえず顔洗ってきて!」

 

「へいへい」

 

と言われるがままに俺は洗面所に向かう。

洗面所の鏡見るといつも通り濁った眼とピョンとアホ毛がはねている。

うん、いつも通りだな、今日もいい感じ。

ちなみに俺はアイロンとかワックスとか使わない。

あれ使うとハゲるらしいぜ、今からでもハゲ対策は遅くないっていうし。

べ、別に気にしているわけじゃないんだからね!

 

「お兄ちゃーん、早くー」

上から妹が俺を呼ぶ声が聞こえタオルで顔を拭き再び部屋に戻る。

 

それでは今日も一日がんばるぞい。

 

 

 

自転車を颯爽と漕ぎ、雪ノ下のマンション前につく。

相変わらずのタワーマンションは見上げるとほえ~と言葉がこぼれる。

さて時間は11時50分でギリギリだがまあ大丈夫だろ。

俺はエントランスへ行きベルを鳴らす。

すると鳴らして1秒も経たずにスピーカーから声が聞こえる。

 

「ずいぶん遅いじゃない、早く上がってきなさい」

と声と共に入口の自動ドアが開き俺は部屋へと進む。

そのままエレベーターに乗り雪ノ下の部屋へと向かう。

 

 

いやまあなんか緊張してきた・・

前に行ったときは由比ヶ浜がいたけど今回は一人だからな。

緊張を隠しきれないっていうのがある。

とまあ考えるうちに家の前ついたのでインターホンを鳴らす。

するとガチャという音と共にひょこっと雪ノ下が顔を出す。

 

「とりあえず入って」

「おう、お邪魔します・・」

 

玄関に案内されそのままリビングへと進む。

 

リビングに入るとおいしそうな匂いがし、テーブルの上には

カレーライスが置かれている。

 

「とりあえず座って。食べながら話しましょう」

 

「あ、ああ・・てか作ってくれたんだ、ありがとな」

 

「ふふ・・大したことないわよ」

と雪ノ下は微笑む。

うん、今日はこっちの雪ノ下なのね。デレノ下さんのほうが

俺は好きだぞ、千葉も好きやぞ。

 

「じゃあいただきます」

 

「いただきます」

とスプーンを手にとり食事が始まる。

 

おお・・

俺好みのいい感じの中辛。

甘いのが好きな俺だがカレーは甘口だとあまり食欲がわかない。

だからこそ辛口過ぎない中辛がいいのだ。

ちなみに具はジャガイモ、豚肉、ニンジン

それにまさかのあさりである。

 

「・・カレーにあさりってなかなかないな」

 

「こうすると海鮮の風味が出て味がでるのよ」

 

 

確かに。あさり入れるだけで少し海っぽさというか

海鮮系な味がする。

なるほど、これが意外である。

よくココイチとかでトッピングで見るたびにあさりはいーやと

思ってたけど馬鹿にできんな。

 

 

 

「さてと・・とりあえずまずはこんにちは、八幡」

 

「おう、こんちわ」

 

 

雪ノ下はじっと俺を見つめてくる。な、何でしょう・・

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「名前」

 

「え?」

 

「また名前で呼んでくれない・・」

と雪ノ下は不服そうな顔をした。

あれ・・これまさか雪ノ下さん拗ねてる?

あの雪ノ下が拗ねてる?

これはレアだぞ、SSレアだぞ。

 

「・・・ごめんな、雪乃」

とちょっと声を低めにニヒルな感じで言ってみる。

どうだ!俺の渾身の一撃。

 

「・・・ありがとう」

 

雪ノ下はニコっと笑い俺に微笑み返す。

はい、渾身の一撃来ました。大ダメージです。

 

「・・昨日は電話長引いて悪かったな。

あんまり寝られなかったろ」

 

「ううん・・八幡と電話できたしよかった・・

あんまり学校ではああいう話できないから」

 

「いや学校でもあんな感じで罵倒してるような・・」

 

「あら?罵倒してほしいのかしら?やはりあなたはそういう・・」

 

「違うから違うから」

 

そういう方向に持っていこうとするな。

雪ノ下さんはいーつもそうする。

 

「何かいったかしら?」

 

「いや何も」

 

スプーンを動く手をどんどん早める。

うん、おいしいおいしいおいしいな。

 

「由比ヶ浜さんから大方のことは聞いたから

大体の事情は理解できたと思うけど

まだわからないことがある?」

 

「うーん・・それを一つ一つあげたらきりがない気もするからいいよ。

まあ強いて一番気になるのはよく俺が二人と付き合うことを

容認したな」

 

「あら?プレイボーイ気取りさせたほうがいいかなと思ったのよ。

二股谷君」

 

「その言葉を頑張って避けてるんだから言うな」

 

「冗談よ」

とフフと笑う雪ノ下。楽しそうですねえ・・

 

「私は最初は反対しようと思ったのよ。

でも由比ヶ浜さんがこの関係を壊したくないっていう気持ちが伝わり

私が折れてその提案に乗ったのよ。

まあ比企谷君も不本意そうだけどちゃんと認めてくれたし」

言い終えると雪ノ下は立ち上がり

「今、紅茶を入れるわ」

とキッチンに向かう。

 

「・・このことについて知ってるのは?」

 

「奉仕部の三人と小町さんだけよ。

他の人に知られたら何言われるかわからないしね」

 

「・・本当にそれだけか?」

 

「・・何か思い当たる節があるようね」

 

紅茶を持ってきた雪ノ下が帰ってきた。

俺のもとに紅茶を置いて椅子に座る。

 

「・・昨日葉山に説教されたんだよ。

俺が二人と付き合っていることがバレたら

奉仕部とお前達のイメージ悪くなるから別れろみたいなことを」

 

「はあ・・」

雪ノ下は深くため息をついた。顔も笑顔から一気に深刻そうに変わる。

 

「あの男はまだそんなことを・・というよりどこで私達が

付き合っているという情報を手に入れたのかしら」

 

「まあどっかから聞いたんだろ、一色とか」

 

「一色さんはこのことについて知らないはずよ、ありえないわ」

 

「そうなると・・あとは誰かいるか?」

 

「わからないわ。いずれにせよ何も知らない癖にそういうことを

言われるのは不愉快だわ。私が彼に文句を言っておくから

安心しなさい、八幡」

4P

 

 

「いや俺もその時は一緒にいくわ。そのほうがいいだろ」

 

「八幡・・」

 

そんな嬉しそうな顔で見つめるな、照れる。

 

「ま、葉山のことは置いとこうぜ。あいつも自ら噂を流して

俺達の立場を悪くさせるなんてことはしないはずだ」

 

「そうね、あの男は簡単に軽率な行動はとらないわ」

 

「そうだな・・」

と俺はバルコニーから見える景色を眺める。

 

 

葉山がどういう考えなのかは知らないが

少なくともあの男は雪ノ下と由比ヶ浜を傷つけるようなことはしないはず。

どちらかというと俺に対しては何かやってきそうだが。

まあそういうときはその時だ。

 

 

 

 

 

 

 

葉山なあ・・

そう考えると邪魔だな、あいつ。

 

 

 

 

 

 

 

「それより今日はこのあとどうする?」

 

「そうね・・正直どこか行く気が起きないわね。

家でのんびりするっていうのもいいのじゃないかしら」

 

「さんせーい」

 

「賛成の声だけすごい嬉しそうな気がするのは気のせいかしら・・」

 

仕方ない。

アウトドア派な人間ではないのだから。

インドアな人間は休みの日は家から一歩も出ずにただ体を休めることを

しなければならないのだ。

 

 

「んじゃ何する?」

 

「映画でも見ましょう」

と言って雪ノ下は立ち上がりテレビの隣にある本棚に向かう。

本棚には本の他にもDVDが並んでるのが見えるが・・

 

「・・心なしか並んでいるDVDが全てパンさんに見えるのは気のせいか」

 

「あら?せっかくの休みだもの。

一緒に見てより理解度を深めてもらうのにいい機会だと思って」

 

「え、待て待て。もしかしてこれからずっとパンさん見るの?」

 

「そうね・・今日一日だと時間的に三本か四本ぐらいだけど

十分に理解度は深まるはずだわ」

 

 

いやいや。

理解度深めたいなら帰ってから調べるから。

Wikiに載ってるから大丈夫だから。

 

 

「・・その・・違うやつとか見ないか?」

 

「たとえば?」

 

「えーと・・」

 

 

そう言われるといまいち見たい作品が浮かばない。

雪ノ下と俺が一緒に見れそうな作品ね・・

まあアニメは問題ないだろ。

問題はそのあとだ。俺が見るようなアニメを見ても

つまらないと思うしかと言ってパンさんをこれから

何時間も見続けるのは辛い。

 

 

「・・・・そうだ、ジブリにしよう」

 

京都行こうみたいなノリで俺は告げる。

 

「・・・どんなのがあるの?」

 

「うーんそうだな・・例えばだけど」

 

 

 

 

ちなみに俺はジブリではナウシカである。

単純な理由だ。

小さいころ見てあの歌が忘れられないと。

てかあれを小さいころ見るとトラウマになるだろあのシーン。

らんらんらららんらんらーん

 

 

 

 

 

 

「ん・・」

 

 

俺はソファーで寝てしまったようだ。

気付けば時刻は夜八時を回っている。

隣を見るとすーすーと雪ノ下が寝息を立てながら寝ている。

やれやれ・・結局あのあとナウシカを借りにいって

見たはいいが途中で寝てしまったのね。

ま、せっかくの休みだから体を休めたということで

いいのではないでしょうか。

 

「んっ・・」

と雪ノ下も起きたようで目を擦っている。

 

「おはよう、雪乃」

 

「おはよう・・もう夜?」

 

「ああ、どうやら寝てたようだな」

 

「そう・・せっかくのデートなのに」

 

しょぼんとする雪ノ下。

可愛い!写真にとって記録に残しておきたい!

 

「さて・・雪乃も起きたしそろそろ帰るわ」

 

「待ちなさい」

と後ろから静止の声が聞こえる。

 

「何だ?」

 

「その・・ご飯を食べていきな・・いえ食べてってくれないかしら?」

 

「いいのか?」

 

「簡単なものだけど今から作るからちょっと待って」

とキッチンへ向かう。

 

「俺も手伝うよ」

 

「あなたはお客様でしょ、座ってなさい」

 

「お客様じゃなくて彼氏だろ」

 

「はう・・」

 

 

どうやら雪ノ下にクリーンヒットしたらしいです。

顔を赤らめながらもじもじしている。

てか俺もこんなセリフを平然と言えるってどうしたの。

何か悪い物でも食べた?

 

「それじゃあ・・そこの野菜を切ってちょうだい」

 

「はいよ」

と俺は包丁を取り作業を始める。

 

 

二人で並びながら料理。

まあこういう夫婦みたいな絵も悪くないだろう。

由比ヶ浜の時が少しはしゃぎすぎた反面

雪ノ下はこういう落ち着いた感じのデート。

お互い性格が出たようなデートだけれども

二人らしさが出てるからこれはこれでよしだと思う。

 

 

 

 

 

 

さて出来上がりだ。

簡単に野菜を切って

麺をゆでて炒めて完成―!

簡単クッキング過ぎて由比ヶ浜でもできるぞ。

今回は家にあるものということで

パスタを作ることになり

とりあえずホウレンソウとベーコンがあるので

クリームパスタを作ることにした。

 

 

「じゃあ・・いただきます」

 

「召し上がれ」

と雪ノ下は俺を眺めて頬杖をついて微笑んでいる。

 

「おいしい?」

 

「ああ・・うまい」

 

 

 

「よかった。ゆっくり食べてね」

 

「ああ、まあもうなくなりそうだけど」

 

「おかわりは?」

 

「いや大丈夫だ。もういい時間帯だし帰るよ」

 

俺は最後の一口を食べ終えて席を立ち荷物を取る。

 

 

 

すると後ろから何かが引っ張られた。

振り向くと雪ノ下が俺の服の裾を引っ張っている。

 

「雪乃?」

 

「・・・明日は・・ひま?」

 

「まあ・・何も予定はないと思うが・・」

 

 

すると雪ノ下はいきなり俺のもと抱き着いてきた。

え?あれ?ゆ、雪乃さん!?

 

 

「えーと・・その」

 

「・・お願い。今日は泊まっていって」

雪乃は俺の俺の服に顔を埋め、よく見ると涙を流しているようだ。

まあここは八幡スキルの一つであるお兄ちゃん特性を発動してみよう。

俺は雪乃の頭を撫で始める。

すると雪乃が顔をあげ俺のことを見つめる。

目は泣いたおかげで腫れていた。

「・・・わかったよ。今日は泊まるよ」

 

「・・ありがと・・」

 

そういってお互い抱きしめあう。

昨日は由比ヶ浜とこうしたこともあるため

少し罪悪感を感じないわけではないが

それでも目の前で泣いている女の子を放置はできない。

 

 

「・・寂しかった・・一人で・・いつも部活が終わると

寂しくなるから辛くて・・家帰っても一人で・・」

 

「そうか」

と俺は雪乃の頭を撫で続ける。

雪乃はうれしいのか抱きしめる力が強くなる。

考えてみれば雪ノ下雪乃も一人の女の子だ。

そして彼女も由比ヶ浜同様奉仕部の関係が壊れることを

恐れていたに違いない。

そしてさっきの発言でわかったことがある・・

 

 

 

彼女は寂しかったのだ。

母親からも姉からも愛情というものきちんともらったことがなく

ずっと一人で生きてきた彼女が誰かを好きになったことはない。

だから俺という恋人ができて初めて愛情をあげたりもらったりすることが

できるようになったのだ。

それを知ってしまったらもう何も言うまい。

 

 

 

「ねえ、八幡」

 

「なんだ?雪乃」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好き」

 

 

「俺もだよ」

 

 

 

俺達はそのまま顔を近づけ唇が触れ合った。

 

 

 

やれやれ・・

雪乃だけに贔屓するわけにはいかないから

ちゃんと結衣にも・自分からいかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ

 

「たーでまー」

 

 

あー疲れた。

ほんとは友達の家にお泊りの予定だったけど

まさか彼氏と遊ぶからって・・

うーん小町的にちょっとなぁ・・

 

 

 

てかお兄ちゃんいるじゃん。

遊びいこーっと。

 

「お兄ちゃーん、愛しの小町が帰ってきましたよー」

 

 

私は兄の部屋の扉をいつも通り開ける。

そこには兄がいつも通り寝ているはずだった。

もしくはパソコンでアニメを見ているはずだった。

 

 

 

けれどそこに映った光景はイヤホンをつけたまま寝ている兄。

そして机の上にキラリと注射器と白い紙が置いてあるのが見える。

 

 

「お兄ちゃん・・?」

 

恐る恐る近づく。

兄は寝ているようだった。

音楽を聞いているかと思えばイヤホンが刺さった先は小さい箱みたいなものだった。

何も表示されていない・・

 

 

そして机の上を見ると注射器がおいてありその隣に白い紙がおいてある。

 

 

そして紙の一番上にこうかかれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小町へ

恐らく俺を最初に見つけるのはお前だと思う。

だからこそ最初に言わせてくれ・・・ごめん。

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は読むことができず力が抜けその場に座り込んでしまった。

 

 

そして比企谷小町が唖然としている中比企谷八幡がつけているイヤホンの先の端末が

小さく光り5という数字が表示されたがそれはすぐに消えた。

 

 

そのことを比企谷小町が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

このまま続きます



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奉仕部の依頼はなかなか始まらない

続きです。

まとめてなので色々と読みにくさなど
あるかもしれませんので
何かあればご意見お願いします。


 

 

春休みとはいいものだ。

一年の終わりでクラスのやつと

会うこともないし連絡することも

なくなる。

ぼっちに優しい長期休みと言っても

過言ではない。

 

 

「お兄ちゃんさ・・別れを惜しんだことある?」

 

「ははは、小町よ。教えてやろう。

別れを惜しむには相手が必要なんだ」

 

「ごめん、もういいや」

 

 

朝ごはんを食べながら今日も比企谷兄弟の一日が

始まっていた。

春休みが始まり一週間が経ち

俺は相変わらずの日々を送っている。

 

 

 

あれから

雪乃や結衣とは出かけることが

何度かあり

その度にまあ・・・恋人っぽいことを

やったりしている、慣れないねあれ。

 

しかしながら

デートが終わると二人共

すぐさまラインで連絡が

来るためなかなか一人の時間が

取れない。

おまけに結衣は電話もしてくるので相手するのに

一苦労だ。

「とーこーろで」

 

そしてなかなかめんどくさい問題が

ここにきて浮上してきている。

 

 

「雪乃さんと結衣さんと

両方付き合ってるというのは本当でしょうか?」

 

小町ちゃん?何で敬語?

いつもみたいでいいんだよ?

千葉の兄弟ってそういうものでしょ。

兄は弱いけど妹は強い。

けど妹は兄に勝てない、それが千葉の兄弟である。

本当かどうか知らんけどね。

 

「えーとそれはですね・・」

 

「小町的にかなりポイント低いよ・・」

 

幻滅した顔で小町は俺を見つめている。

まあそうなる気持ちもわからなくはない。

だって俺が第三者の立場なら

ポイントが0になるどころか

マイナスだよ。もう戻らないよ。

 

 

「お兄ちゃんが最近やけにこそこそしてるかと

思ったら二股してたとは・・。

比企谷家過去最大の問題だよ」

 

「そんなにうちって問題起きてたか?」

 

例であげるなら親が放任主義。

親父が妹に甘い。

俺は家でも肩身狭い。

あれ意外とあるな・・

 

「そもそもお前それどこから聞いたんだよ?」

 

「結衣さんだよー。お兄ちゃんが結衣さんと

デート行った日に電話したらなんか

教えてくれた」

 

結衣には今度会う時に

なんでもかんでも話さないようにすることを

教えてやらんと。

でないと将来詐欺にでも引っかかるぞ、あいつ。

 

「でもこればかりは本当に

妹としておすすめできないよ。

二股って男がやる最低最悪の行為だよ?」

 

「一応自覚はしている」

 

「じゃあ早くやめなよ。

どちらか決めるのは苦しい決断かも

しれないけどそうしないと

どんどんこの関係から抜け出せなくなるよ」

 

 

 

 

 

 

というわけで

小町うるさいので逃げてきました。

こういう時妹ってうるさいよね、やっぱ千葉の兄弟って

いろいろめんどうだわ。

さて今日は特にデートの予定もないので

本屋に向かっている。

この世界に来てから一人の時間が少ない為

こうした時間があってもいいような気がする。

 

 

さてこの自分の夢でおかしな点がまだ一つある。

それは雪ノ下が最後の部活で発した言葉。

生徒会からはもう依頼がこない。

その言葉の意味を少しだけ理解した。

なぜなら一色いろはという人物が

生徒会長ではないということだ。

そして一色自身もすでに総武高校には

いないことになっている。

何がなんだかわからんが

まあ春休みだしわざわざ探す必要はないだろ。

 

 

 

今はこの夢の中で

思うように過ごして満足したら

現実の雪乃と結衣を探しに行けばいいだろ。

 

 

 

ブーン、ブーン。

スマホのバイブ音が鳴り振動が響く。

着信がとどいたようだ。

取り出すと雪乃と表示されており

通話ボタンを押してスマホを耳につける。

 

『もしもし?』

 

『あ、ヒッキー?今、大丈夫?』

 

『大丈夫だけどどうした?』

 

『さっきゆきのんから電話あって

家に来てほしいって!

平塚先生から依頼がきたらしいよ』

 

『よし、じゃあ俺は今から

体調不良になるから伝えといてくれ』

 

『サボる気満々だ!?』

 

 

 

何でこの世界まできて

依頼をしなきゃならねえんだよ。

これじゃ現実と変わらねえじゃねえか。

まあ今はこれが現実なんだけど。

何か考えるとすごいややこしく感じるな。

 

『でもヒッキー来なかったらゆきのん怒るよ?』

 

『俺いなくても奉仕部は回るようにできてる』

 

『・・・ヒッキー?』

凄い低い声がスマホから聞こえる。

雪乃程ではないけど結衣もそういうことが

できるようになりつつあるのね。

 

『・・・・・何分後にいけばいいんだ?』

 

『ありがと!じゃあ一緒に行こうよ!』

 

『いや待ち合わせするのめんどくさいしいいだろ』

 

「大丈夫!!」

と電話口ではなく後ろから結衣の声がして

そのまま何かに抱き着かれるような衝撃が来る。

振り返ると結衣がニコッと笑っていた。

 

「やっはろー!」

 

「お、おう。おはよ。

てか後ろにいたのかよ」

 

「偶然見つけただけだよ」

 

本当か?

あとをつけてたんじゃないのか?

もしくは発信機とか。

俺レベルのぼっちだと

発信機ないと見つけられない

可能性あるからな。

ポケモン図鑑の分布機能使っても

見つからないだろう。

 

「じゃあ行こっか」

 

「ああ、じゃあな」

 

「かーえーるーな」

と腕を掴んで離さない結衣。

はーなーせと引き離そうとするが

なかなか力強いな、こいつ。

 

「なんでここでも依頼しなきゃ

いけないんだよ。休ませろ。

俺は社畜じゃねえんだ」

 

「ここでも?」

 

 

おっといけないいけない。

と言ってもここが夢なんて言っても

信じないだろうしね。

 

 

 

「とーにーかーく早くいくよ!」

 

「わかったから引っ張るな引っ張るな」

 

 

まいったまいった。

こんな一目がつく場所で

そんな騒がれたら

もうどんなふうに転んでも

俺が悪者だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ゆっきのーん!遊びに来たよー!」

 

「うす」

 

「あらちゃんときたのね。こないかと思ってたわ」

 

「会うなり否定から入る癖を

そろそろやめてくれないか」

 

 

 

付き合ってもそういうところは

変わらないんですよね、雪乃さんは。

 

 

「とりあえず入りなさい」

と雪乃はそのまま背を向いて

リビングのほうに向かう。

そのまま俺達も案内されがままに

リビングに通され

いつものソファーに座り込む。

 

 

「えーと・・」

 

「何?比企谷君」

 

「どしたの?ヒッキー」

 

 

ソファーを座った途端に

左に結衣が座り、

右に雪乃が座ってきて

思いっきりくっついてきた。

うーん・・

両手に華とはこのことだろうけど・・

 

「・・暑いから少し離れてくれないか?」

 

「「いや」」

 

二人の声が見事合わさり

俺ははあとため息をつく。

 

 

「とりあえず今日は部活動なんだから・・な?」

 

「・・そうね、仕方ないわね」

 

「だね・・」

と残念そうに離れる二人。

ようやく解放された、ふー。

 

「んで?とりあえず依頼内容教えてくれよ」

 

「ええ。とりあえず来たメールを

みんなに転送するわね」

とケータイを手にとりボタンを打ち始めた。

するとすぐに俺のスマホが鳴り

メール画面を開く。

・・・・・・うわあ・・

 

「前置きがどう考えても

どうでもいいと思うのは俺だけか?」

「いや・・今回はただ長いだけではなく愚痴も

入ってるわね」

 

 

「何々・・合コンの相手が・・・はりひ?」

由比ヶ浜その言い方だと張り手みたいに

聞こえるし半濁点忘れてるぞ。

 

 

「パリピね・・どういう意味かしら?」

 

「簡単に言うなら結衣の仲間」

 

「ん???私の仲間??」

 

「なるほど・・」

 

「なんか納得されてる!?」

 

「お前も大学生になれば

そんな感じになる」

 

まさに結衣はパリピの名に恥じないような

大学生になるだろう。

あ、もうおわかりだと思うけど

俺は大っ嫌いである。

当たり前だ、無理矢理遊ぶのを強要するような連中で

一人じゃ何もできやしない。

自立性を養え。

 

 

 

 

「まあ前半飛ばして・・本文はここからだな」

前半部分をスライドで飛ばし本文に目をやる。

 

 

「「「さて、私の愚痴はここまでにして

実は君達に頼みたいことがある。

この春休み期間に私の元に電話がきて

何でもある人物を調査してほしいとのことだ。

理由に関しては言えないが

探偵とは依頼内容を他人に口外しないものだ・・

ではその人物の詳細なデータを送るので

くれぐれもデータの流失だけは気を付けて

それから」」」

というところでメールは切られていた。

文字数がなくなるほど書くって

前半がどれだけ無駄な内容かを物語っている。

 

「というか俺達探偵じゃないし」

 

「・・でも一応依頼なのだから」

と雪乃はできたばかりの紅茶が入ったカップを

俺と結衣のもとに差し出す。

 

「ありがと。・・んーでもつまりは浮気調査?」

浮気してる前提なのかよ・・

結衣はんーとした顔でメールを見てるが

多分謎のメッセージとかないと思うぞ。

 

 

「けど問題なのはその後なのよね。

先生は奉仕部全員に話したら送るってメールで来て

誰を調査してほしいか聞いてないのよ」

 

「なんだそりゃ・・あの人も焦らすなあ・・」

 

「んー・・とりあえず先生に送ってみる?

ヒッキーも私も今知ったわけだし」

 

「そうね。とりあえずメールしてみるわ」

雪乃はメールを作成しているようで

ボタンをピっピと操作する音が聞こえる。

やがて送信ボタンを押し終えるとパタンと

ケータイを閉じ紅茶を飲み始めた。

 

「誰の調査なんだろうね?」

と結衣はさっき雪乃が紅茶と一緒に出した

クッキーを食べながら話す。

破片が落ちてる、落ちてる。

 

「まあどーせまた素行不良な生徒とか

前半の文面からして戸部みたいなパリピっぽいやつとか

じゃないのか?」

 

「まあそんなところじゃないかしら」

 

俺達がだらーとくつろいでる時

俺のスマホのバイブ音が鳴っているのが聞こえる。

手に取りメール画面を開くと・・

 

 

「う・・」

 

「ヒッキーどうかしたの?」

 

「いや・・なんでもない。

ちょっと小町から電話きたから一旦話してくるわ」

 

「・・そう」

 

俺は逃げるかのように玄関に向かい外に出て

平塚先生に電話をかけた。

 

『もしもし?』

 

『おー比企谷。久しぶりだな、元気か?』

 

『元気でしたよ・・さっきまでは』

 

『どうした?何かあったのか?』

 

『さっきのメールはなんですか・・

何で調査対象の人間が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は息を吸い込み少しでも先生に響くような声で

なおかつ雪乃達には聞こえない声で叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺なんですか!?』

 

 

 

 

『・・いやまあ・・そうきたのだから』

 

『誰からですか?』

 

『探偵は依頼人を秘密を守るのが義務だ』

 

小五郎みたいなこと言ってんじゃねえよ。

毎回警部にバラしてるくせに。

 

『とにかく俺のことを知りたいやつが

誰かわからない限り俺は動きませんし

あいつらだって動きませんよ』

 

『ほう・・それでは

こちらも強硬手段に出るといこうか』

 

電話口からも先生の微笑する声が聞こえてくる。

嫌な予感しかしない。

 

 

 

『比企谷、

さっき君は俺は動きませんし

あいつらだって動きませんよと

言ったな』

 

『・・それがどうかしたんですか?』

 

『なぜあいつらは動かないんだ?

動かない理由でもあるのか?』

 

しまった。

こういうことに感づくのが得意な人だと

いうことをすっかり忘れていた。

 

『・・まあ回りくどい話はいいだろう。

率直に言うと比企谷が調査対象だと

彼女達にバレるのがめんどうくさい

と言ったろころか』

 

『・・素晴らしい推理ですね』

 

この人はどこまで知っているのだろうか。

俺が雪乃と結衣と付き合っていることを

もし知っているのだとしたら

色々とめんどうだが少なくともそれを

誰かに口外するような人ではない。

しかし俺なんかを調査対象にする人は

恐らくそのことに関してだろう。

 

 

 

 

 

 

 

葉山か?

 

 

俺は恐る恐る聞いてみることにした。

『・・・葉山ですか?』

 

『なぜそう思う?』

まるで俺がそう聞くのを

知っていたかのような返答だ。

 

『なんとなくですよ。

あいつは俺の事好きなんで』

 

 

自分で言ってて気持ち悪いし

後ろから海老名さんが興奮しているような声が

聞こえる。ははは、俺の耳も腐り始めたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

いないよね?

 

 

 

『・・・まあ結論を言うと葉山ではないが

その葉山のおかげで今忙しいのは確かだな』

 

『何でですか?』

 

 

 

先生から返ってきた返答は思いもよげない一言で

驚きはした。けれども俺はその返答を聞いて

特に何も思わず

とりあえずこの依頼受けるかどうかは

もう少し考えさせてください

と言って切り俺は雪乃の家に戻った。

 

やれやれ

正直どうでもいい、あいつのことなんか。

それよりも今は依頼を

どうするかを考えないと。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、つい長引い」

てを言おうとしたところで俺は部屋にいる

二人の視線に気づく。

雪乃も結衣も

微笑みながら俺の顔をじーっと見ていた。

 

「な、なにか・・?」

 

「いやあ・・まあヒッキーいつものことだからね・・」

 

「・・それで?一体先生の電話はどんな内容だったの?」

 

 

あれおかしいな・・

この部屋こんな寒いっけ・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局のところ

俺は雪乃と結衣に洗いざらい全部話して

どうするかを相談することにした。

 

「・・あの男以外に私達の事を

知っている人がいるかもしれないとはね・・」

 

「そうだね・・なんか怖い・・」

結衣は寂しそうな顔で目線を下に向ける。

ここで不安そうにさせるのは

状況が変わらないな。

 

「まあ・・なんだ。

とりあえずはこの件は保留でいいだろう。

誰かわからない状態で動くのは

あれだし」

 

「そうだね・・」

 

よし結衣も納得したし

雪乃も問題ないと思ってるはずだし

これでこの件は終わりと。

 

 

「いえ・・ならこっちが

調べましょう」

と雪乃は静かに呟いた。

 

 

「調べる?誰を?」

 

「決まってるじゃない。

八幡を調べようとする輩をよ」

 

今、輩って言ったよね。

完全に敵視してるよ雪乃さん・・

 

「誰かわからないけれども

どこぞの馬の骨だが知らないような人に

八幡のことを知られるのは

我慢ならないわ」

 

なかなかお怒りですね、雪乃さん。

雪乃さんも怒ると髪型が金色に

なるんですかね・・

 

 

 

雪乃の金髪ってすげえ想像できねえ・・

一方で・・

「馬の骨・・?」

と結衣が首をかしげていた。

お前は頭よくなるようにイワシの骨を

今度あげよう。

 

 

「別にいいだろ。

どーせ俺の事よりお前らのことが

気になって俺のことを調べようと

してたのかもしれないし」

 

「だとしても

何故私達が付き合ってるのかを

知っているのかを知る必要があるわ」

 

「左様でございますか・・」

 

 

諦めよう。

サレンダーも大事だ。

舞さんだってしたし。

 

 

7P

 

 

 

と結衣のスマホが鳴る。

「あ、ちょっとごめんね」

とスマホを取りリビングから出ていった。

もしもし?姫菜と言ってた辺りからして

相手は海老名さんだろう。

 

 

 

「・・具体的には何をするんだ?」

 

「・・そうね。まずは平塚先生のとこへ行き

合コンのお誘いを理由に相手の情報を

少しでも聞き出すことかしら」

 

 

そんなんで先生釣られちゃうと思われてるのか・・

悲しいな・・

 

「まあなんだ・・

俺の事はどうでもいいけど

万が一お前らになんかあったら

嫌だから・・・あんまり危ないことするなよ」

 

「八幡・・」

と雪乃は俺の膝元まで寄り添ってきた。

近い近い・・

 

「・・今日は結衣いるからやめよう」

 

「・・でも・・もう2日もデートしてないし」

 

雪乃さん?

2日前ってそんなに前ですか?

 

俺はもう毎日のように君達とデートしたので

財布がすっからかんよ。

親父に頭を何度下げたことか・・

最も小町が親父に彼女いることを

公言しておいてくれたのか

親父は渋ることなく出してくれた。

サンキュー、親父。

しかし渡す時に

雪乃と結衣の写真をよこせと

言ったのはドン引きだぜ!

見せろならまだしもね・・

 

「・・・春休み二人で旅行行きましょう」

 

「へ?」

 

「旅行よ。

デートだけだと物足りないしそろそろ・・」

と雪乃は照れた顔でチラっとこっちを見てくる。

ふはははは。

全国の雪ノ下雪乃のファンの諸君。

こんな顔のデレノ下さんを俺だけが

独占してすまないな。

近々SSレアで実装予定だから

楽しみに待ってろよ!

 

 

 

「ごめんねー電話長引いちゃった・・って

何やってるのー!?」

どうやら間の悪い時に結衣が帰ってきた。

俺は焦り顔で結衣を見るが雪乃はふふと笑いながら

「あ、ごめんねさい由比ヶ浜さん。

八幡がどうしてもというから・・」

「はあ!?え?ちょ」

 

「ヒッキー!マジキモい!!キモい!キモい!」

 

ちょっとー

キモいがいつもより多いよ。

ちなみに男性がキモいと言われるよりきつい言葉は

くさいらしい。

べ、別に俺は匂わないよ!ちゃんとスプレーしてるし

口臭も平気だよ!

 

 

 

「・・てかもうそろそろ夕方だね」

 

「そうだな、そろそろ帰るか」

 

「あの・・もし二人が大丈夫なら・・

ご飯・・食べてかないかしら?」

 

「ゆきのんいいの!?」

 

「ええ、どーせ私一人だし

二人がいたほうがにぎやかで楽しいわ」

 

「わーい」

と雪乃に抱き着く結衣。いいねいいね・・

 

 

「あ、そしたら私、家に電話してくるから

ちょっとまっててー」

 

「あ、俺も小町に電話するわ」

 

「ええ」

 

と俺と結衣はそのまま外に出る。

外に出るともう夕日が沈みかけており

外はすっかり真っ暗になりつつある。

 

「・・あ、そうだヒッキー聞いた?」

 

「なにが?」

 

「あのね」

 

 

 

 

なんだ。

さっきの海老名さんからの電話は

それだったのか。

平塚先生から事前に聞いていたから

まあ驚きはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葉山が転校することになったなんてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま続きます。



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平塚静とはどうにも分かり合えない

続きです。




雪乃の家でご飯を食べた後結衣は

そのまま泊まり俺は家に帰宅し

帰宅後小町の質問攻めを

うまく避けそのまま寝てしまった。

 

 

 

 

そして今日は雪乃と先生のところに行くべく

俺は先に学校へ行き教室に行き

ぼーっとしていた。

もうこの教室で学ぶことは

ないけれどもなんだかんだ

色々あったからな、この一年は。

 

 

 

 

そしてこのクラスの中枢メンバーとも言える

葉山グループ・・いやもう葉山がいないのだから

そう呼べないか。

葉山隼人が転校したことで

あのグループがどうなったかは知らない。

戸部、三浦、海老名さん、結衣

あとはまあ大岡に大和か。

 

 

 

 

 

 

 

うーん

イマイチ心配することでもない。

正直あいつらがどうなろうが

今の俺には特に問題も

ないことだし

むしろあいつがいないことで

奉仕部の関係が

バレることがなくなるので

好都合だ。

 

 

「・・・何をしているのかしら?」

 

後ろから声がするので振り返ると

雪乃が立っている。

学校なので制服姿であるが

この一週間私服ばかり

見ていたせいかちょっと

懐かしく感じる。

 

「別に。なんとなくいただけか」

 

「てっきり由比ヶ浜さんの机から私物を

盗ってるのかと思ったわ、泥棒谷君?」

 

「盗むならもう少し

うまくやるわ・・」

 

まあマニアには

高くうれそうだけど

あんなやつに

そんなコアなマニアなんか

いるのかね・・

 

 

「さてと・・それじゃあ行くわよ」

 

「おう」

 

先生はすでに職員室にいるはずだ。

まあ合コンで釣るのは現実的に

考えても無理なので

ここは大人の話し合いと

行こうじゃないか・・

 

ガラっと職員室のドアを

開けると職員室には

静かでただ一人平塚先生が

自分の机に座っていた。

 

 

 

「先生。お疲れ様です」

 

「おお、来たか。まあ立ち話もなんだ」

と先生はいつもの応接スペースに案内し

ソファに座るとタバコ取り出し火をつける。

俺達も向かい側のソファに座り

じっと先生を見つめる。

 

「さて・・どうだね、調査のほうは?」

 

「そのことについてなんですが

調査するにあたって色々と不明な点が

多く、奉仕部としてこの依頼を

受けることができません」

雪乃はきっぱりと告げる。

まあ昨日の口ぶりからして

ちょっと怒ってたりするのかね・・・

 

 

 

 

「ほう・・不明な点とは?」

 

「依頼人と今回の調査依頼の目的についてです。

依頼人がどういう人物なのかを

知る必要はあると思いますし

何故調査することが必要なのかを

知る権利があると思います」

 

「ふむ・・」

平塚先生は腕を組みじっとこちらを見つめる。

 

 

先生は奉仕部の顧問だ。

だけどこの人は俺達を

助けることはない。

奉仕部の見本のように

ヒントを与え、俺達が自分で

答えを見つけ解決していく流れを

作り出してくれる。

だからこそ今回の件もヒントをくれるだろう

そう俺はたかをくくっていた。

 

「雪ノ下がそういうことを言うということは

比企谷。彼女達に教えたのか?」

 

俺は先生の問いにこくんと頷いた。

その反応みた先生は天井に向けて煙を勢いよく

吐きだし再び俺らのもとをじっち見つめて

会話を続けた。

「・・依頼人については悪いが

教えることはできない、そういう約束なんだ。

ただ目的に関しては

心当たりがあるんじゃないのか?」

 

俺達の心に問いかけるかのように

先生の目は鋭く全てを見透かしたのような声だった。

 

 

「・・すみませんが意味がわかりません」

 

「とぼけるのもいい加減にしたまえ、雪ノ下。

君と由比ヶ浜が比企谷と付き合っていることは

知っている」

 

「・・・誰からですか?」

 

「・・私の勘だよ」

 

先生はたばこを灰皿にもみ消し脚を組む。

 

「君はこうなることを予想しなかったのかね?

今やこの学校で奉仕部のことを知ってる人間は

多くその部員の存在も知れ渡っている。

普通なら男が一人に女二人の部活だから

色々と根も葉もない噂が出ることだろう。

けどそういう噂が出なかったのは・・」

 

そう言うと先生は俺のほうに視線を変える。

雪乃も不安そうに俺のほうに視線を変えてきた。

正直見つめられると照れる・・

なんて考えている時ではなさそうだ。

 

 

「・・まあ比企谷だから

彼女達に手を出すようなことは

しないだろうと私も思ってたし

奉仕部に関わってきた誰もが

そう思っていたのだろう。

だから私は極力君達の問題には

干渉することなく

君達自身の自主性に託すことにしたんだ」

 

「・・つまり先生はこう言いたいのですか?

比企谷君が私達二人と付き合っていることが

問題だと・・」

 

「簡単に言えばそうだ。

まさか君がそんな答えを出すなんてな」

 

じっと見つめてくる視線に

俺はただ目を逸らすことしかできず

情けなく感じる。

そんな俺を見たのか雪乃は強気な姿勢を

代えず引き下がろうとはしなかった。

 

「何が問題なのか聞いてもいいですか?

あくまで比企谷君が私達二人と

付き合っていることは三人とも同意の上での

判断です。

それを他人に口出しされる筋合いはないと

思いますが」

 

「変わったな、雪ノ下。

君は本当に変わったよ。

 

 

 

悪い意味で」

 

 

 

もはや空気は重くすぐに逃げ出したい。

雪乃も平塚先生も一歩も引かない様子だし

何より先ほどの先生の発言で

雪乃は頭にきてる。

 

「・・私は元々こういう性格ですが」

 

「ほう・・

君はこの世界を変えると言っていたが

どうたら自分が変わったことにすら

気付かないようだな。

悲しい話だ」

 

「先生みたいに永遠孤独で変わらない人生を

送り続けるよりかはましだと思いますが」

 

 

雪乃は吐き捨てるかのようにそのセリフを

告げてしまった。

あかん、あかんよこれは。

いくら女の子には手を出さなくても

この空気で言われたとなれば

いくらなんでも・・

 

「好きに言うがいい。

君の言うとおり

私は永遠孤独な人生かもしれないしな」

フフっと平塚先生は笑っていた。

あれ?静ちゃん?

あなた本当に平塚静さん?

コピーロボット?

もしくは影分身?

いずれにせよこの平塚先生は

いつもと違い手ごわいぞ・・

何かを悟り諦めて強くなったのかもしれん。

 

 

「比企谷、お前にはあとで

パワーアップした私の技を

披露してやろう」

 

どうやら話し合いが終わった瞬間に

加速装置を使う必要があるようです。

 

「いずれにしても

先生に何か言われる筋合いは

ありませんし

私達はこの関係を変えません」

 

「本当にその選択が正しいと思うのか?

今はいいかもしれんがいずれ

どちらかを選ばなきゃならない時が

くるかもしれない。

その時お前は自分が選ばれなければ

どうするつもりだ?」

 

「いや・・ちょっと待ってください」

 

ここは口を挟まずにはいられなかった。

確かに先生の言うこともわかるし

それが正論だと認める。でも

「今はこの関係でいいじゃないですか。

俺達がこの高校に在学している間は

この関係を続ける。

卒業したらその時また考えればいい。

俺達が消えたら

先生ももう関わる必要がなくなるんだし

いいじゃないですか」

 

 

俺は自分の考えを自信に満ちた声で告げた。

欺瞞も傲慢も曖昧さも嘘も一切ない答え。

由比ヶ浜結衣、雪ノ下雪乃、比企谷八幡。

彼等が考えてることを

俺は先生にぶつけた。

きっとわかってもらえる。

そう考えていた。

 

 

 

 

しかし俺の発言を聞いた先生は

寂しそうにそして残念そうな表情に変わった。

「・・そうか。

比企谷、お前にとって

私はその程度の存在ということか」

 

 

その程度。どの程度?

俺にはあなたの言う程度が

わからない。

 

 

 

 

 

 

「・・どうやら無駄な時間だったようだ。

悪いが依頼人は教えることが出来ない。

わかったら出てってくれ」

 

「先生、話はまだ」

 

「出てってくれ!!!」

 

 

先生の怒鳴る声に

雪乃は怖気づいたのか震えているのが

見えた。

俺はつかさずそばに行って支え

そのまま出入口のドアへと誘導する。

 

 

「・・・・・失礼しました」

 

俺は返ってくることがないと思っても

その一言を言わなければ

この場を去ることができなかった。

ドアを閉める時

先生が窓を見ているのが見え

その泣きじゃくった顔は

とても可愛さもかっこよさも

微塵も感じられない顔で

俺は何かを言えない気持ちのまま

職員室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

「ええ・・」

 

 

雪乃を休ませるために

奉仕部の部室で俺達は

休んでいた。

向かってから気付いたのだが

先生から鍵を借りるのを

忘れて閉まっていると

思ってたのだが

部室前に着くと開いているドアが

目に入った。

元々開けておいてくれていたのか。

いずれにせよ今はお礼を言うこともできない。

 

「・・悪いな。

俺があんなこと言わなければ

先生が怒らなかっただろうし・・」

 

「あなたのせいではないわ。

私達の考えをわかってくれない

先生が悪いのよ・・・」

 

雪乃は泣きそうな声で呟いた。

俺は頭を撫でてやることしかできないが

それに満足したのかを

雪乃はそのまま俺の胸に

トンと頭を預けて

ギュっと俺の服を掴む。

 

「私達の関係は・・いけないことなのかしら?」

 

「・・世間一般から見れば非難される考えだろうな。

でも普通なことができないから

俺達はこういう関係になったんじゃないか。

その関係にお前は満足してないのか?」

 

「・・してないわけないわ。

あなたと付き合えて

由比ヶ浜さんと友達でいることができて

彼女を泣かせることなく

三人でこのまま変わらず

過ごしていく。

私は今・・幸せだわ」

 

服を掴む力が強くなるのを感じる。

どうやら少しは落ち着いたようだ。

 

 

「さてと・・これからどうする?」

 

「そうね・・先生の力を

借りれない以上私達だけで

探すしかないわね。

まずは先生に依頼をしそうな人物に

心辺りはないか考えましょう」

 

そう言って鞄から

無地のノートを一冊取り出し

ぺらっと開くと

雪乃はペンを取り出し何やら書き始めた。

覗くとどうやら名前を書いているようで

三浦優美子、海老名姫菜、川崎紗希、戸部翔

城廻めぐり、戸塚彩加、折本かおり等

俺達が今まで関わったことがある名前が

ずらりと並んでいた。

 

「こんなところかしらね」

 

「そうだな・・ん?」

 

 

なんだ・・

この得体の知れない違和感は。

何で俺はこの名前を見て

違和感を感じるんだ・・

誰か欠けているわけでもないのに

なんで・・

 

 

「どうしたの?」

 

「いや何でもない」

 

今は雪乃が心配するし後で考えよう。

ここは集中しないと。

真面目スイッチオンにせねば。

 

「にしても

こいつらが俺達のことに

ついて聞くとは思えないな・・」

 

「そうね・・

そんなに私達の関係について

知りたいと思っているような

人物はいなさそうだし

学校内の人間の可能性は

低そうね・・」

 

 

雪乃の言うとおりだ。

一人一人考えても俺達の事を

知りたいと思うやつはいない。

三浦は葉山が関わらなければ動かないだろうし

海老名さんもこういうことに

首を突っ込むとは思えない。

戸部はありえんし、川崎も違う。

戸塚は・・・・うん、どちらと

言うと俺の事を知りたいってことで

調査依頼を出してほしいな。

遠慮なく全部晒け出してやろう。

まあ折本もめぐり先輩も

そもそも奉仕部については

そこまで知らないだろうし

やはり学校内の人間ではないのか・・

 

 

「・・ねえ」

 

「ん?どした?」

 

「今日・・この後暇?」

 

「ああ・・別に大丈夫だけど」

 

「なら・・」

と言って雪乃はノートを閉じて鞄に仕舞い

立ち上がるとニコっと笑って

「もう今日は終わりにして

私と今からデートに行ってくれないかしら?」

と告げる。

 

 

 

俺はその問いに喜んで以外の

解答を見つけることができなかった・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでなんと今回のデート先は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何々・・

ほう・・比企谷と書かれた表札。

 

はい、もうめんどうなので

簡単言うと我が家です。

比企谷ハウスです。

ショッピングモールで買い物とか映画とかを

提案したけれども

雪乃さんはどうやら我が家に来たいということで

無事我が家までのエスコートを

先ほど完了致しました。

 

 

「とりあえず先に部屋にあがっといてくれ」

 

「わかったわ」

 

とりあえず飲み物とお菓子と・・

家が静かなところを見ると小町は

いないようだな・・

 

 

 

「ほい、持ってきた・・」

 

「あ、その・・ごめんなさい」

 

 

部屋の扉を開けた瞬間

目に飛び込んできたのは

俺のベットでごろごろと

している雪乃だった。

ははーん・・

 

 

「まあ・・別に休みたいなら

そのままでいいぞ・・」

 

「そ、そう・・ありがとう」

 

「今日一日色々あったし

休む時間は必要だろうしな」

 

よっこっらせと俺もベットのそばに

座るがぐいと服の袖が引っ張られる。

 

「・・その・・」

 

「・・?」

 

「私一人でこうして

ベットの上で寝ているのは理不尽だと

思うからその・・」

 

「・・さすがにそれは小町に見られたら

誤解されかねない」

 

「大丈夫よ、小町さんが帰ってくる前に

起きればいいのだから」

 

「はあ・・」

俺は頭を搔きながら雪乃の横に

寝そべった。

 

 

やべえ・・すげえ緊張する。

お互いの顔の距離が一気に

近くなったのでめっちゃ心臓鳴るし

手汗とかかいてそうで怖いし

えーと・・その・・

 

「・・ねえ」

 

「・・ん?なんだ?」

 

「私達の関係はやはり誰からも認めてもらえないのかしら」

 

「まあ認めてもらうのは難しいだろうな。

けどさっきもいったけど

俺はこの関係で満足してるし

お前達も満足してる。

それじゃだめか?」

 

「ううん・・私はこの関係が大好きで・・

だからこそ誰かに文句言われたり壊されたりすることが

怖い・・八幡・・私、怖いの・・・」

 

俺は怯え震えている雪乃を

抱きしめいつも通り頭を撫でてやる。

人は悪い考えを持つと

その考えにのめりこんでしまう傾向が

あるらしく今の雪乃は

まさしくその状態だと思う。

 

 

 

 

「なあ雪乃。

そんなに不安ならもう探すのやめにしないか?

俺はお前達が信用してくれるならそれでいいんだ。

誰かが何をしようとそん時は

俺がお前達を守る・・・・多分」

 

「そこははっきりいってほしかったわ」

 

雪乃の微笑する声が聞こえた。

まあきっぱりとちゃんと言えなかったり

するのも俺の悪い癖の一つだな。

でもハチマンウソツカナイ。

 

「・・そうね。

けど私だけでは決められないわ。

ちゃんと今日の事を由比ヶ浜さんにも

相談して・・三人で話しましょう。

私達は同じ部員なのだから」

 

「そうだな・・

仲間外れはよくないからな・・」

 

 

 

まただ。

またこの違和感だ。

仲間外れという言葉を発した瞬間に

心臓から湧き出るように出てきた。

何で出てくるんだ・・

俺はこの違和感の正体を

なぜわからない・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とかここまできた。

まさか比企谷君もきてるなんてな・・

あれだけ釘を刺しておいたのに。

まあ彼の性格上雪乃ちゃん達を

助けに行こうとするのは当たり前か。

 

 

さてと・・

これ以上は待ってられない。

比企谷君には申し訳ないけど

そろそろ現実に帰ってきてもらわなきゃ。

うーんそうだな・・

ゲームに例えるなら

ようやくここでプロローグが終わるところかな。

 

 

そろそろこの夢の世界から現実の世界へと

戻ってきてもらわないとね。

 

 

 

 

 

 

 

だって全部夢なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続きます。



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こうして物語はようやく始まる

pixiv投稿のやつをまとめてこちらでも
投稿してます。


続きになります。


 

 

 

 

3月も下旬。

気温も少しずつ高くなり寒さから温かさが

目立つ季節となる。

同時に桜の花が咲き

お花見の季節となる。

そんな中俺はベットで布団に包まりながら

起きることを拒んでいた。

 

うーん手足を動かすのがだるい。

スマホのアラームが鳴りラインが来ているのを

現すバイブ音がずっと鳴っているが

もはやスマホに手を伸ばすのもだるい・・

 

 

 

 

 

まあ正確に言うと

起きることを拒むのではなく

起きれないのだ。

なぜかというと

俺の横には雪乃が小さい寝息をたてながら

気持ちよさそうに寝ているのである。

どうやら昨日あのまま寝てしまったようだ、やれやれ。

 

 

 

 

てことは・・

 

「おはよう、お兄ちゃん」

 

声のする方を見ると

そこには愛する妹小町が笑顔でこちらを

見ていた。

ふえぇ・・怖いよ・・・

 

 

「さてそれじゃあ

説明してもらおうか?」

 

「えーと・・

これはだな・・」

 

「それともここで死ぬ?」

 

小町ちゃん?

そんな危ない言葉を兄に向けて

言うものじゃありませんよ?

 

「まあその・・

昨日雪乃を家に連れて来たら

そのまま疲れて寝てしまって・・」

 

「知ってるよ。

帰ってきたら雪乃さんの靴があるから

部屋を見に行ったら仲よさそうに

寝てるから邪魔しないであげたんだ」

 

自慢げに笑顔で語る我が妹だが

その言葉の裏腹には

「家に連れ込むとはどういうことなのかな?

もしかしてそういうことなのかな?」

と別の意味の言葉に聞こえる・・

 

「とりあえず寝てしまったことは謝る・・」

 

「何で?

別に謝る必要はないじゃん。

そりゃあこ・い・び・と同士ですもんね~」

 

やたらその部分を強調してきますね・・

まあ俺が答えをださないことに

少しイライラしてたのだろう。

 

「あ、そーだ。

お兄ちゃんが寝ている間に

電話しておいてあげたから」

 

「電話?誰に?」

 

「結衣さんに」

 

ぎくり。

別に結衣にこの事を知られたことで

問題はない・・はずだけど

どうしても動揺を隠しきれん。

 

「結衣さんに

雪乃さんとお兄ちゃんが

仲良く寝てますよーと

写真付きで送ったら

わかったー、ありがとねと

返ってきたよ・・絵文字も顔文字もなしで」

 

「まずいつの間に写真を

撮ったんだ・・」

 

「昨日の夜だよっ」

 

妹はしてやったりと

寝ている様子の写真をこちらに

見せてくる。

・・・いやこれまずいね。

手繋いでるし距離めっちゃ近いし・・

こんなことしてたの俺。

ラノベの主人公感出て来てるよ、多分。

 

「もうそろそろ来るんじゃないかな」

と小町が言い終えると

ピンポーンと下からインターホンが

鳴る音がする。

どうやら来てしまったようだ。

 

「はいはーい、今行きますよー」

と小町は下に降りて玄関に

向かって行く。

朝から元気だな、あいつ・・

何かいいことでもあったのかな・・

 

 

 

 

 

いや待て。

冷静にこの状況まずい。

俺の隣にはまだ雪乃が寝ている。

とりあえず服は着ているな・・よし。

まずはベットから出て、

「ふーん・・へえ・・」

 

「あ」

 

時すでに遅しと言ったところだ。

ベットから起きようとしたら

すでにドアの前に結衣が立っているのが

視界に入ってきた。

後ろには小町がニヤニヤしながら

こちらを見ている。

 

 

「ではごゆっくりー

恋人同士の会話を

お邪魔しちゃいけませんので」

と微笑みながら小町は下に降りていく。

ああ・・我が妹よ。

お前は兄をどうしたいのか。

 

 

「さてと・・ヒッキー」

 

「は、ははいい・・」

 

「私達が付き合う時の

決まり事って覚えているかな?」

 

「えーと・・報告でしたっけ?」

 

「そうだよ」

 

ニコニコと笑いながらこちらを見る結衣だが

その笑顔には闇よりも深い黒い物が

宿っているのが見えた・・・気がする。

多分そのうち

「闇の炎に抱かれて消えろ」とか言っちゃう

かもしれない。

 

「どうして私に報告してくれなかったのかな?」

 

「いやあ・・昨日は疲れてまして」

 

「言い訳?」

 

「はい・・」

 

白旗をあげるのに一分もかからない会話だった。

俺の特技の一つ言い訳を使わせないとは・・

結衣はため息をつくと視線を雪乃に移した。

「とりあえずまだゆきのん寝てるし

昨日何があったか詳しく教えて」

 

「ああ、わかった」

 

俺はベットから起き上がる。

その日は春一番の温かさらしいが

天気予報によると夕方から雨が降るらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか・・

先生は味方になってくれないんだ・・」

 

結衣は残念そうな顔で落ち込んでいた。

まあ妥当な反応だな、これが。

 

「とりあえず今は今後どうするかを

三人で話そうと思うんだけど・・」

 

チラっと横で寝ている雪乃を見るが

とても気持ちよさそうに寝ていて

とても起きそうにない。

ここは起こさない方がよさそうだ・・

 

「まあもう少しで起きるだろうから

今は寝かせといてやろう」

 

「そうだね・・ねえヒッキー」

 

「なんだ?」

 

「ヒッキーは・・・どうしたいの?」

 

「・・・どうもしたくない」

 

この答えが今は妥当だと思う。

この関係が嫌いなわけでもないし

壊したくはない。

なら続けられるまでずっとこの関係を

続けていけばいいのだ。

 

 

「結衣はどうしたいんだ?」

 

「わたしは・・前にも言ったけど

私は今の関係に満足しているから

誰が何と言っても自信持っていうよ・・

私はヒッキーが大好き。

そしてヒッキーは私とゆきのんのことが好き。

それでいいの・・

この関係が他の人から見ておかしくても

あたし達が満足ならそれでいいの・・」

 

いつの間にか結衣は落ち込んだ顔から少しずつ笑顔に

戻っていた。結衣の中でもどうやら結論は

決まっていたようだ。

 

「だから・・私はヒッキーの意見に賛成だよ。

別に誰が何というと関係ないから

探さなくてもいいんじゃないかな・・

依頼人が誰でもどうでもいいし・・」

 

なんだろう・・この感じ。

前にも味わったことがある・・

この結衣の小さく微笑む笑顔は・・

修学旅行の最後・・そうだ・・

海老名さんが見せてきた笑顔に似てる・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ・・修学旅行って・・何したっけ・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、ちょっと外出てくるから

雪乃を見といてくれ」

 

「どこいくの?」

 

「軽い散歩だ。

まだ少し眠いしな・・」

 

俺は結衣を雪乃を見守ってるのを確認すると

そのまま部屋を出て玄関に向かう。

小町はリビングでテレビを見ているので

気付いていないためそのまま靴を履き外に出る。

夕方から雨とは聞いていたがすでに雲行きが怪しい。

 

 

 

 

とりあえず家の周辺でぐるぐると回るだけでいい。

散歩と言いながら今は一人で考える時間が必要だった。

 

 

 

さてと・・おかしいことが二つある。

一つは昨日の違和感だ。

雪乃がノートに名前を書いた時と

雪乃が仲間外れという言葉を発した時だ。

何なんだ、あの違和感は。

凄く気持ち悪いし・・むかむかするし・・

なんで仲間外れという言葉でそんなに・・

俺が誰かをのけ者にでもしてるとでも

いうのか・・

そして二つ目はさっきの結衣の笑顔・・

あの笑顔を最初に見たのは

修学旅行で海老名さんが見せた時だ。

でもあの時とは状況が違うし

結衣の言ってることに特に深い意味はないはずだ。

あーもやもやする。

なんなんだ、一体。

 

 

本当にイラつく。

なんでもかんでも俺の思い通りにいかなくて・・

俺の思い通りに動いてくれるのは

雪乃と結衣だけだ。

あいつら以外の人間はみんな・・みんな・・

みんな邪魔してくる。

そうだよな、考えてみれば別に

あの二人がいればいいんだから

それ以外の人間なんかいなくてもいいんだよな・・

 

 

 

 

 

 

俺は全く気付いてなかった。

いつの間にか空が赤くなっており

さっきまで通っていた通行人が消え

何の音もしてないことに。

 

 

 

 

 

 

 

ああ・・

ようやく静かになった。

あいつら以外の人間がいるから

おかしくなるんだよ。

俺の思い通りにいかないやつなんて

始めからいなきゃいいんだ。

邪魔でしかない。

雪乃と結衣はその点俺の事を愛してくれて

俺の思い通りに動いてくれる・・

 

 

そーいえば前に小町が言ってたな。

どちらが決めないとこの関係から抜け出せなくなるって。

なら決めなきゃいい。

この関係から抜け出そうとするから苦しくなるんだ。

苦しい思いをしてまでして答えなんか出す必要なんて

ないだろ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ・・

 

 

 

 

これが俺の求めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

本物・・・・・

「それは違うと思うな、比企谷君」

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂な世界は一言で崩された。

俺はその一言が発された方向を向くと

そこにはベージュのトレンチコートを羽織り

コートの中から黒いカーディガンが見え

首元におなじみの金鎖のネックレス。

黒い瞳と微笑しているその顔に

俺はどこかで見覚えがある気がしていた・・

 

 

 

 

えと・・誰だっけこの人?

 

 

 

 

「・・・えーと・・私の事わからない?」

 

「はあ・・すみません」

 

その人は俺の質問に対して

そっかと呟くと

再び俺の方を見つめてくる。

 

 

「それじゃあまず質問させてもらいます。

君は比企谷八幡君であってますか?」

 

「は、はい・・比企谷です・・」

 

「おけ。じゃあ次なんだけど・・」

 

 

その人はさっきよりも微笑んだ顔で

俺にその一言をぶつけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はこっちの世界の比企谷君?

それともあっち?」

 

「・・は?」

 

 

こっちの世界?あっちの世界?

何を言っているんだ、この人は。

異世界から来たのか?

 

 

 

「うーん・・その反応を見る限り

どっちかも忘れてしまったか・・

多分あっちの比企谷君であってるはず

なんだよね・・」

 

 

その人は何かを考えるかのように顎を触り

うーんと唸っている。

一体なんだこの人は・・

 

「その・・何かわからないですけど

俺を探しているんですか?」

 

「うん。君を探しにガハマちゃんの夢から

わざわざこっちの世界に来たんだよ。

もう本当にめんどくさかったんだから・・」

 

「はあ、すいません・・」

 

俺が謝る必要はないのだが

どうにもこの人の態度を見て

つい謝ってしまった。

てかガハマちゃんって誰?

まさかと思うが・・

 

 

「その・・ガハマちゃんって結衣のことですか?」

 

「ほう・・こっちの世界ではガハマちゃんも

君の彼女設定だから名前呼びですか。へえ・・」

 

何だろう・・俺の第六感が口を滑らせたと認識している。

どうやら言ったらまずいことだったらしい・・・

 

 

 

でも変だな。

この人初対面のはずなのに

なんでこんなに俺が警戒をしているんだろう..

いやまあ初めての人だから警戒するのは当たり前だけど

なんかそういう警戒とは違うような..

 

 

 

 

 

 

「あの..結衣の夢から来たってどういうことですか?」

 

「うーん..今の君にはまだわからないから

まずは君を本当の比企谷君に戻そうか」

 

「はい?言ってることがさっぱりわからないのですが..」

 

「簡単だよ。

ねえ、比企谷君。

君はこの世界に何しにきたの?」

 

「何しに来たって・・別に俺は元々」

と言いかけたところで俺は何かがおかしいと感じていた。

来た?世界?・・・・・・世界?

 

「そもそも君はここがどこだがわかる?」

 

その人が発する言葉の一言一言はなぜか

心が締め付けられるような気がして

どうにもいい気分になれない。

 

 

「比企谷八幡君。

もう一度思い出して。

君はどこから来て何をしようとしたのか」

 

 

 

 

俺は頭を抱えていた。

さっきの違和感どころじゃない。

脳が壊れそうだ、頭痛とかそんなレベルじゃない。

 

何しに来たって・・俺は元々この世界に・・・いた?

本当にいたのか・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う。

この現実の世界は何か違う。

俺は・・・

 

 

 

 

「「「・・・なんで・・・助けてくれなかったの・・比企谷君・・

 

あなた・・・の・・ど・・て・・

 

 

 

私を見捨てたの」」」

 

 

 

 

そうだ。

思い出した。雪乃・・違う、雪ノ下のこの言葉で

俺はこの世界に来ようとしたのだ。

この世界は現実じゃない。

何もかもが嘘で固められ全てが都合いいように

出来ている。

 

俺が一番理解してたはずだ。

そんな関係を一番嫌っていたはずだ。

なのに・・俺はその関係を

現実を・・受け止めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実なんかじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはそう・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の世界だ。

 

 

 

 

「どうやら少しは思い出したようね」

 

俺の様子を見て察したのかその女性は

ニコリと笑った。

 

「じゃあ改めて聞くよ。

君はこっちの世界の比企谷君?

それとも・・」

 

俺はその問いに自信満々で答える。

そうだ、俺は・・

 

「あっちの世界・・

あなたの世界から来た比企谷八幡ですよ。

雪ノ下さん」

 

「・・私の事も思い出してくれたのね。

さすが比企谷君」

 

 

 

そうだ。

この人は雪ノ下陽乃。

雪ノ下雪乃の姉であり

雪ノ下と由比ヶ浜を救うために

夢の世界に行った人物。

そして雪乃達を救う方法を

知っている人物だ。

何かも思い出した。

俺はあいつらを救うために変な薬を注射して

夢の世界に来たのだ。

何をやっていたんだ今まで。自分の夢に

自惚れるなんて・・

 

「どうやら色々ご迷惑おかけしたようですね」

 

「まあその辺はあとでお説教してあげるよ。

とりあえず・・」

 

雪ノ下さんは辺りをチラチラと見て何かを確認すると

再び視線を俺の方に戻した。

 

「場所を変えようか。

少なくとももう君の夢の世界は限界のようだ」

 

「限界?」

 

「いいから黙ってついてきて」

 

そう言って雪ノ下さんはコートのポケットから

リモコンのような端末を取り出すと

そこにあるボタンをポチっと押した。

ポチっとな!

すると目の前に白い光の扉のようなものが現れる。

えーと・・何これ。

闇の回廊よりはかは安全そうにみえるけど・・

 

 

「さあさあ入った入った」

と雪ノ下さんは俺の腕を引っ張り

そのまま扉の中に連れ込む。

俺は言われるがままにそのまま引っ張られることにした。

今は色々と反省の面も込めてこの人には

逆らわない方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて到着」

 

「ここは・・・部室?」

 

目を擦りもう一度確認する。

間違いない、ここは奉仕部の部室だ。

 

「ここは私が一時的に他人の夢に行くときの

中間地点として作った場所なんだ。

ここから色んな人の夢の中にいけるように

してる」

 

「へえ・・すごいもの作れるんですね・・」

 

「でしょ・・・さてと」

 

クルっと俺の方を向いた雪ノ下さんは

いつもの笑顔は消え隠すことがない

怒りをあらわにしていた。

 

 

「ねえ比企谷君、私は君になんていったか覚えてる?」

 

「えーと・・私が消えても探さないでですか?」

 

「そう。というより君はどうやってこの夢の世界のことを

知ったのかな?少なくともこの事を知っているのは

雪ノ下の人間だけなはずだと思うんだけど・・」

 

「由比ヶ浜から電話がきたんですよ。夢の世界から」

 

「ふーん・・なるほど」

 

どうやら雪ノ下さんには何が起きてるのかが

わかってるらしく怒った表情が少し微笑した表情へと変わった。

 

 

 

「確かに言いつけを守らず雪ノ下さんと同じように

来てしまったのは謝りますけど・・でもここで俺は

引き返すことなんてしませんよ」

 

「ああ、それは大丈夫。というより引き返せないから」

 

「え?」

 

「君を強制的に夢から覚ます方法はいくつかあるけど

それだと後遺症残る可能性あるから雪乃ちゃんとガハマちゃんを

助けたあとでみんなで仲良く戻りましょう」

 

「はあ・・」

 

「とりあえず君には色々説明しなきゃいけないから

まずは座りましょう」

そう言って雪ノ下さんはいつも雪ノ下が座っている椅子に

座り俺も自分の椅子に座る。

 

「またそこなんだ・・まあいいけど」

 

「ここが気に入ってるんで」

 

「さてと・・・まず一つ目はここが夢の世界であることは

もう知ってると思うけど単純に夢の世界って

どういうものを意識する?」

 

「・・自分が見ている夢を再現するとかじゃないですか?」

 

「まあおおよそ合ってるかもね。

けど正確にいうとみている夢ではなく

見たい夢を再現しているんだよね、ここは」

 

「見たい夢ですか?」

 

「そう、だって」

 

 

 

 

部屋の外は夕暮れで夕日が窓から差し込んでいる。

奉仕部のこの景色はいつも変わらないが

どうやら夢の世界はここで一気に変わりそうだ。

 

 

 

 

 

「この世界は自分が望んでいることを

夢として再現する世界だから」

 

 

 

 

 

 

今回もここまでお読み頂きありがとうございました。

物語スタート地点です。

 

続きます。

 



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雪ノ下陽乃は静かに語る。

続きです。



 

見慣れた奉仕部の景色は時が止まったかのように

音もせず何も動かない。

その中で俺は雪ノ下陽乃と再び面と向かって

話している。

魔王討伐再戦といったところだろうが

今回は敵ではない。

 

 

さて話を続けよう。

 

 

「えーと・・自分が望んでいること?」

 

「そう。

そもそも根本的に言うと

これは君が睡眠状態で見ている一種の幻覚

みたいなものなんだよ。説明書にも

疑似体験って書いてあったはずだよ」

 

「幻覚・・」

 

 

考えもしなかった。

夢の世界に行けるってことだけを考えて

実際にどういう構造になっているのか。

恐らくそれがわかっていれば色々と対処する方法も

あったのだろうがあの時の俺はそんなことを

考える時間すらなかった。

というより説明書も流し読みしてたので

ちゃんと読んですらいない。

まあ説明書とか読むのめんどいんだよね・・

 

「説明書はちゃんと読まなきゃだめだぞ」

 

雪ノ下さんもそういえばエスパー使いでしたね・・

雪ノ下妹だけだと思ってた、危ない危ない。

 

 

「説明書に書いてあったと思うけど

音楽を聞いて君の脳から夢を読み取り

そのまま薬を注射して眠る・・

音楽自体は正直ダミーで君の脳の脳波から

君の夢を読み取る。

でまあ薬自体はちょっと強い睡眠薬みたいな

ものかな・・」

 

「でも・・一つわからないんですけど

脳から夢を読み取るってありますけど

そもそも俺はあの自分の世界の夢を

見たことなんて一度もないですよ?」

 

「まあそうだろうね・・

比企谷君はさっき私がいったこと覚えてる?」

 

まあ数分前ですから。

自分が望んでいることを夢として再現する

であってるよな。

 

 

ん?望んでいること?

 

 

「どうやらその顔は少しずつわかってきたって顔だね。

順序よく説明していこうか。

まずこの夢の世界は脳波で読み取るっていったよね?」

 

「はい・・」

「その時に読み取っている人の感情とかも一緒に

読み取るんだ。その感情とかもう考慮した上で

出来る世界がさっきまでいた夢の世界さ」

 

うーん・・どうにもしっくりこない。

あの世界が俺の脳波や感情から出た結果なのか・・

 

「恐らく君が心の中であの二人とあのような関係に

なりたいとどこかで願っていた。それが脳から

伝わったのか感情から伝わったのかわからないけど

夢の世界に組み込まれることとなった」

 

「でも待ってください。

俺はそんなこと思ったことなんて1回も・・」

 

「ないだろうね。

比企谷君があの二人と二股してまで

付き合うなんて選択肢はないはずだもん」

 

雪ノ下さんは笑いながらこっちを

チラっと見てくる。

まあ確かに・・俺が二股とか

そんなプレイボーイみたいなことは

似合わないし・・

てかそんな最低なことしませんよ・・

小町に嫌われたくないし。

 

「でもここは夢だ。

何が起こっても不思議ではない。

君があの世界を願わなくても

最終的にはあのような世界に

偶然にもなってしまったと言うべきかな・・」

 

 

 

 

 

 

「はあ・・」

 

「まあ夢の世界なんて正直今の科学じゃ

解明できないことが多いわけだし。

そもそも夢の世界に行くなんていう発想が

今まで非科学的だったからね」

 

 

確かにその通りである。

夢の世界に行くなんてそんなファンタジーな話が

ニュースにならないわけがない。

人間が求めてた一種の夢みたいなものでもある。

 

「だからこそこの夢の世界を知っている人は

本当に最小限に留めておきたい。

夢の世界は色々と非常識だ。そんなリスクが

高い場所にうち以外の人間を巻き込むなんて

ことはしたくなかったけどねえ・・」

 

う・・雪ノ下さんの視線が痛い。

しばらくはこの人に逆らうのは無理そうだ・・

 

 

「そもそもあの端末と薬は

雪ノ下建設の知り合いの研究機関が独自に

開発を重ねててうちもかなりの額を出資してるから

今回試作品としてもらったんだけど

まさか雪乃ちゃんがそれを使っていたとはね・・」

 

「え。そうなんですか?」

 

「あ、比企谷君にはまだそのこと説明してないか。

その辺も説明するね。

私が夢の世界に行く前に色々と調べたんだ。

どうやって雪乃ちゃんとガハマちゃんが

夢の世界のことを知って端末と薬を入手できたのか・・

そしたら雪乃ちゃんは春休みに入った直後に家の用事と

言って実家に帰ってきてる。

恐らくその時に夢の世界のことを知って端末と薬をどこかから

手に入れた。

けどどんなに調べてもガハマちゃんが

どこであの端末と薬を手に入れたのかは

わからないんだ」

 

雪ノ下さんが頬杖をついてはあをため息する。

なるほど、だから春休み以降全く連絡が

取れなくなったのか。

ん?待てよ

 

「てことは雪ノ下さん」

 

「そろそろお姉さんとか陽乃とか呼んでくれない?

さっきまで雪乃ちゃんのことを雪乃って

呼んでたんだし」

 

「う・・じゃあ陽乃さんでいいですか?」

 

「うーんさん付けか・・まあよしとしよう」

 

 

今はそれでご納得ください・・

俺もさっきまで自分があいつらのことを

下の名前で呼んでたとか信じられないんだから。

 

「えーとそれじゃあ陽乃さん。

由比ヶ浜が薬と端末を入手したのは

わからないってことはあいつが

夢の世界を知った理由はわかったって

ことですか?」

 

「うん。それはさっき君が説明してくれた」

 

「説明?」

 

「君はこの夢の世界を何で知った?」

 

「何って由比ヶ浜からの電話・・・あ」

 

なるほど。

つまり由比ヶ浜も夢の世界から電話を受けたのか。

当然その電話の相手は雪ノ下だろう。

つまりそこからあいつは情報を入手したのか。

 

「さてそれじゃあお話を続けようか。

この夢の世界だけどさっきも言った通り

リスクが高い。夢の中だから何が起こるかわからないし

自分が思うがままになるため夢に依存して

夢から覚めなくなってしまう可能性もある」

 

「・・つまりそれが雪ノ下と由比ヶ浜が

起きない理由ですか?」

 

「察しがいいね。けどおしいな。

雪乃ちゃんは恐らくそうだと思うけど

ガハマちゃんは違うよ」

 

「どういうことですか?」

 

 

 

 

 

気付けば止まっていたはずの外の景色は

急激に動き暗くなる。

そこには星空と月が浮かび

部室の窓からは夕日の光から月明かりが

入ってくるようになった。

そんな中陽乃さんはニヤっと笑い

俺に痛恨の一撃を与えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハマちゃんは自分の夢の世界が

壊れたから目覚めないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「夢の世界が壊れる・・?」

 

「比企谷君だって壊そうとしたんだよ?」

 

 

思い返せば俺はあの時陽乃さんが言葉を

発するまで何をしようとしていたのだろう。

雪ノ下と由比ヶ浜以外の世界を認めず

何もかも壊そうとした・・

 

「というより簡単な話だよ。

よくファンタジーな小説でも

夢の世界とかって出てくると思うけど

夢なんだから変わったり壊れたりするのは

当たり前でしょ?」

 

「いやいや・・でもおかしくないですか?

そんな夢の世界が壊れたら

意識が戻るんじゃないですか?」

 

「うーん・・まあそうなるはずなんだよね」

 

「違うんですか?」

 

「さっきもいったけど試作品なんだよ、これ。

つまりどういう問題がでるかわからないってこと」

 

 

ここまで言えばどういうことが起きてるのかはわかる。

要約すれば本来ならば夢の世界に何か異常があれば

目が覚めるシステムだったのだろう。

ところが恐らく何かしらの問題が起きてしまったのだろう。

そのせいでまだ由比ヶ浜が目を覚めることはない。

 

「さーて比企谷君。

ここで問題なんだけど夢を壊すことに

必要な条件はなんだと思う?」

 

「えーと・・自分の思い通りに

行かなかったり自分に不都合が起きることですか?」

 

まあ俺がそうだったからな。

夢なんだから全て思い通りにいかないと

おかしすぎる。

 

 

「答えはない」

 

「え?」

 

「ないんだよ。

だって別に夢を壊すのに

必要な条件なんて人によっては

様々なんだから。

比企谷君の時は思い通りに行かなかったから

壊れそうになっただけ」

 

陽乃さんはそういって立ち上がり

一歩また一歩とこちらに忍ぶように近づいてきた。

 

「しかしその理由を他人が知るのって

なかなか難しくてね・・

だからこそ比企谷君が今はほし・・必要かな」

 

言い直す必要ないですよ、もう。

しかも今は一色みたいなあざとさがない分

ちょっと恐怖を感じる。

 

「どういう意味ですか?」

 

「あの二人のことを最も知っているのは

比企谷君でしょ?

だからこそ君が必要なんだ。

ガハマちゃんの夢が壊れた理由もわかるかもしれないし」

 

「はあ・・」

 

確かにあの二人については

陽乃さんに比べれば知っているつもりだ。

けど陽乃さんだってある程度はどこかで

聞いたのだろう。

さらにこの人は雪ノ下の問題について

大きく関わっている。

ここでもう一度冷静に考えてみよう。

雪ノ下雪乃が持っていた現状の問題は

家庭の事情や俺や由比ヶ浜に対する奉仕部への

向き合い方。

前者はともかく後者に関しては由比ヶ浜も俺も

知っていた。

そしてその問題は俺や由比ヶ浜も一緒に

持っていたのだ。

そしてその問題を解決することができないまま

彼女達は夢の世界がへと行ってしまった。

 

 

 

 

 

俺は自分の夢の世界のことしか知らないが

夢の世界というのは陽乃さんも言ってた通り

自分が本当に望んでいることを具現化した

ような世界で自分に不都合なことを

なくすことができる。

ということはだ。

もし由比ヶ浜の世界も同じメカニズムだとしたら

あいつが望んでいることを陽乃さんに

知られてしまうのではないか。

 

もっというなら雪ノ下の世界にこの人を

つれていくことはあいつの内面的な部分を

この人に知られることになる。

それを雪ノ下は望んではいないとは思う。

そもそも内面的な部分なのだから

雪ノ下も由比ヶ浜も誰かにそのことを

干渉されたくはないはずだ。

ましてやあの二人は陽乃さんだけじゃない。

俺に知られることも嫌悪してる可能性だってある。

 

 

「比企谷君

君が今何を考えているかはわからないけど

私はあの二人の世界に行くよ。

私はあの二人の世界に行く手段を知っている。

さて今この状況を考えてみようか。

私はあの二人の世界に行けてさらにあの二人を

助けてこの夢から覚める方法も知っている。

けど君はここで何ができるのかな?」

 

雪ノ下陽乃は俺を虫を見るかのような目で

じっと見下ろしていた。

彼女はわからせたいのだ。

今、自分がどういう立場で彼女に逆らうことが

何を意味するのか。

もっと言えば俺は彼女に助けられている。

つまり彼女に反抗することを

考えること自体がこの場ではタブーである。

 

 

「君はわかってるから言わなくていいだろうけど

でもここでは私の指示なしで動いたところで

君は何もできない。

だから君はここでは私の命令だけに動いて。

わかった?」

 

 

これは質問ですらない。

質問にはYESかNOかの二択の選択肢がある。

けれどこの場合はYESしかない。

なぜならYES以外の返事をしたところで

何も状況を変えることはできないからだ。

 

 

「わかりました・・

ここでは全てあなたに従いますよ」

 

「よろしい。今はそれでいいんだよ」

 

陽乃さんは俺の顔を見て何かを確かめたのか

自分の席に戻っていった。

 

「さてとそれでは今後のことについて話そうか。

君と私はこのあとガハマちゃんの世界に行くんだけど

今あの子の世界に行ってもあの子が私達のことを

思い出してくれるかどうかわからない」

 

「・・どういうことですか?」

 

「君も同じことしてたじゃない。

自分の夢なんだから全部思い通りにすることができる。

つまり望めば自分がいらないと思った人を

夢の中から消すことが出来る」

 

なるほどね。

つまりは夢を見ている人自身が望めば

夢に出てくる人を消すこともできる。

ましてやそれが邪魔な人ならば尚更だ。

 

「・・ならどうやっていくんですか?」

 

「別にいくこと自体は問題ない。

問題なのは行ったところで彼女が私達を

比企谷八幡と雪ノ下陽乃として向かい入れて

くれるかどうか。

そして私達を邪魔と判断した時、

どういうことになるのか」

 

 

 

 

 

 

「まあ確かに・・

けれど行かないことには何も解決しないでしょう」

 

「お。さすが比企谷君。大好きなガハマちゃんの為なら

例え火の中水の中」

 

 

さすがにスカートの中までいったら死んでしまうけどね♪

まあそれは置いとくとしよう。

 

「んであいつを俺みたいに夢の世界から現実に戻したら

いよいよ雪ノ下の世界ですか・・」

 

「そうだね。

あとはとりあえずもう一人探して終わりかな・・」

 

「もう一人?」

 

俺以外にも夢の中に行ったやつがいるのか?

というより雪ノ下の家の人間しか知らないんじゃないのか?

 

 

「比企谷君は夢の世界に行くときに

端末と薬を手に入れたと思うけど

そもそもそれをどうやって手に入れたのかな?」

 

「どうって・・俺は千葉駅いってその時に

めぐりさんから・・」

 

あ。

ということは・・

 

「めぐり先輩が・・きてるんですか?」

「うーん・・おしいね。

あの場にもう一人いたよね・・」

 

言葉が出てこなかった。

そうだ。

いたじゃないか、あの時。

俺の為に由比ヶ浜からの手がかりを探そうと

一緒に探してくれて・・

俺があの二人同様に大事にしたいと

思っている・・

 

 

 

 

「一色ですか?」

 

「そう。

彼女もやはりどこからか手に入れて

夢の世界にきたらしいんだけど

全くといっていいほど手がかりが掴めない。

自分の夢の世界にいるなら

比企谷君みたいに私が会いに行けるんだけど

どうやらいないみたいだ」

 

「その口ぶりからして・・

もう確認したということですか?」

 

「うん。けど見つからないということは

彼女は自ら夢の世界を渡る方法を見つけて

なんとか他の世界にいった・・」

 

「じゃあどちらかの世界にいけば

一色も助けれるということですか?」

 

「うーん・・わからない。

もし二人が一色ちゃんを邪魔だと

思えば・・」

 

 

そこから先は言わなかった。

正確に言うとどう表現すればいいか

わからないのだろう。

俺が一色のことを大事に思っていることは

この人にはバレている。

 

「まあとりあえず行きましょうか」

 

「そうですね・・」

 

 

 

俺はふーとため息をつく。

なんか色々と信じられんことが多すぎて

正直納得いかない。

でもこれ夢だからの一言で全て解決してしまうのだから

本当にもやもやする。てか気持ち悪い。

 

「あ、それと比企谷君。

説明書を読んでないということは

夢から現実に戻る正規の方法は

わからないんだよね?」

 

「あ、そうです」

 

「んーまあ今はいっか。

説明すると長くなるからあとで教えるね」

 

「そこ一番重要なんですけど....」

 

それがわからなきゃ俺一生夢の中だよ?

帰りたいよ、マイハウス。

 

「・・・ねえ比企谷君。

あなたは夢の世界を一通り味わったわけだけど

どっちがよかった?」

 

「どっちがって・・」

 

「だって夢の世界なら

雪乃ちゃんやガハマちゃんと気まずいことに

なることもなく何の問題も起きることが

なく全てが思い通りの幸せな日々。

なのにわざわざ夢から覚まさせて

再び嫌な現実に引き戻すって酷な話じゃない?」

 

 

そりゃあそうだ。

だって俺があの夢の世界で

自分を見失ったんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えればわかることだ。

現実なんて辛くて苦しくてめんどうくさくて

正直言って思い通りになるなら

夢の世界でもいいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と考えてもどうせ俺の答えなんか決まってるんだ。

 

「残念ですが俺は現実のほうがいいですね」

 

「なんで?」

 

「だって・・・俺は捻くれてるんで」

 

「は?」

 

陽乃さんは気の抜けたような声で返した。

まあそういう反応になりますよね、ええ。

 

「いやだから捻くれてるんで。

だから夢の世界でも都合いいことばかり

じゃいかなくなるんで。

だったら現実のほうがまだ夢と違って・・

生きてるって感覚するじゃないですか?」

 

「・・・・いやあそういう考えはね・・

だって夢だよ?どんな願いでもかなえることが

できるんだよ?」

 

「夢なんて所詮嘘じゃないですか。

自分に嘘を続けたところで最後には逃げ道が

なくなるんです」

 

 

かつての俺のように。

けど周りの人が逃げ道ではなく

向き合うことを教えてくれた。

だから俺は今までやってこれたのかもしれん・・

 

 

「・・比企谷君みたいなぼっちでも

夢ならたくさんの友達がいるんだよ?」

 

「あいにく友達はいませんよ。

だって友達ができないからぼっちなんですから。

俺は夢だろうが結局は孤独になるんです」

 

そうだ。

さっきだって雪ノ下と由比ヶ浜以外の人を

消そうとしたのかもしれない。

けどそのあとはどうする?

もしかしたら嫌になって二人のことも

消してしまうかもしれない。

 

 

結局どこいっても俺は変わらないんだよ。

元々夢なんかみたところで

何も変えることがない。

現実の世界で向き合ってこそ俺が求めていた本物を

見つけることができる。

 

俺は拳を握り陽乃さんのほうを見て

すぅーっと息を吸い込み自信を込めた声で告げる。

 

 

「現実の世界じゃなきゃやれないことがあるでしょ。

夢なんて嘘をずっと見続けてちゃ彼女達が可哀想なんで

目を覚ましに行きましょう」

 

「・・・はははは。

相変わらず・・じゃないね。

君は少し変わったよ」

 

陽乃さんの笑顔は今までみたいに

嘘で固めたものではなく

正直な顔で笑った笑顔だった。

 

「じゃあ・・・行こうか」

 

陽乃さんは立ち上がりスイッチを再び押す。

白い扉が現れその光で部室内は白く光で

明るく照らされる。

 

 

「なんか冒険みたいでわくわくしない?」

 

「いや全然」

 

俺達は歩きながら扉に入っていく。

やっぱり雪ノ下陽乃は

どこいっても変わらないんだな・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えーと・・

どうやら先輩達いっちゃいましたか・・

 

 

誰もいなくなった部室に

すうっと扉が現れガチャっと開かれる。

 

 

「はあ・・」

 

思わず声に出してしまった。

だって先輩の世界がいきなり壊れるとは

思わないしね・・

 

 

にしても・・

本当にあれにはムカつきましたよ、先輩。

夢の中で私のことを消してたなんて・・

学校いっても私、転校したことになってて

びっくりされたし・・

もう生徒会長でもないしなあ・・

 

 

さてと・・

私も先輩達に合流しますか。

色々と先輩に

教えなきゃならないことも

ありますしね。

 

再び部室に扉が現れ少女は中にすうっと入っていき

扉は消えた。

 

 

 

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

少し更新遅れました。

 

仕事が忙しい為今後もこのくらいのペースかもしれないので

よろしくお願いします。

 

 

 

 

 



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彼女の夢は謎しかない。

続きになります。
引き続き温かい目で見守って頂ければ幸いです。





一色いろはを一言で表すならばあざといだと思うけど

はたしてそれが彼女の本当の姿なのだろうか。

もしかしたら本当の自分を隠さなければ友人や愛する人と

うまくやっていくことができないから偽りの自分を

演じているのかもしれない。

まあなんにせよ一色がこの世界に来ているということならば

早いとこ現実の世界に返してあげるに越したことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと・・やっぱりガハマちゃんの世界もここから始まるのね」

 

陽乃さんの言葉で気づいた俺は周りを見渡した。

いつの間にか扉を抜けて由比ヶ浜の世界にたどり着いていた。

見渡す限り目の前にあるのは懐かしの総武高校。

いや全然懐かしくねえな、自分の夢の世界で学校に一度行ってたし。

 

「とりあえず比企谷君には学校に潜入してもらいます」

 

「潜入?」

 

「だって君はここの生徒なんだから情報を集めるのには

ちょうどいいじゃない」

 

まあ潜入も何もここの生徒なんだから普通に行けばいいと

思うが…

 

「とりあえずこの夢の世界で君にやってもらいたいことは一つ。

ガハマちゃんを現実に引き戻すこと。

つまり今は夢の世界で彷徨っている彼女を

君が知っているガハマちゃんに戻せばいいの」

 

「はあ・・てか色々と聞きたいんですけど…」

 

「手短に頼むね」

 

「さっき由比ヶ浜の夢は壊れたって言いましたよね?

でも壊れたとしたらこの夢の世界も俺の世界みたいに

不安定な状態のはずじゃ…」

 

「夢の世界はイレギュラーなんだよ、比企谷君」

 

陽乃さんはニコっと笑いながら総武高校の校舎に

目線を変え話を続けた。

 

「必ずしも君の世界みたいに不安定な状態に

なることが夢の世界の崩壊とは限らない。

予想がつかないことが起きるのが夢なんだもん」

 

「えっと..どういうことですか?」

 

「うーん….説明が凄い難しいんだけど

ガハマちゃんの世界が壊れたって先に

言ったよね?」

 

「はい.」

 

「しかし君の言うとおりこの世界はまるで

変わってないよね?

でもこの世界は壊れている」

 

「えーと何か矛盾してません?」

 

「してないよ、だってほら」

と陽乃さんは学校のある方向に向けて指を指した。

俺はその方向に目線を向けると掲示板があり

1枚の紙が貼ってあるのが見える。

 

そーいえばこの掲示板に掲示物があるのなんて珍しいな。

いつも何も貼ってないからスルーしてたし….

いやまあたとえここのとこ以外でもほとんどスルー

してたけどね。

だって興味ないし、関係ないし。

 

 

 

「なになに….」

そこにあった文章に驚きを隠せなかったが

ひとまず瞬きしてもう一度見る。

 

 

 

 

 

そこに書いてあったのは退学者の報告についての掲示で

二人書いてあった。

 

 

一つは葉山隼人。

 

 

ほう….葉山がね…

まああいつがいようがいないが関係ないが…

しかしその次の名前に衝撃を隠すのは

難しかった。

 

俺はこの掲示物に指を指した人をもう一度見る。

この人はわかっていたのか?

自分の妹がこの世界ではすでにこの学校から

消えていることに。

 

 

 

「この事を知ってたんですか?」

 

「まあね…でもここまで。

あとは比企谷君、お願いね」

 

「え?」

 

「私は何とかこのことについて調べようと

したんだけど雪乃ちゃんはマンションにもいないし

学校のほうには入ろうとしたら捕まりそうになるし

なにより…」

 

ここで陽乃さんは急に言いづらそうな表情で俺から

目線を逸らした。

額に汗が流れてるところを見ると…ははーん。

「言い訳とか嘘いいんで正直に言ってください」

 

「…実はこの世界では私、親から勘当されてまして..その..」

 

陽乃さんはあははと笑いながらこっちを見ている。

あー…つまりは今までは雪ノ下家の力を使っていたけど

親の力を使えなくなり何もできなくなってしまったと…

 

「ま、まあ比企谷君なら何とかできるよね…?」

 

もはや魔王の面影はなく強化外骨格みたいな外面もなく

そこにあった素の表情を見てただただため息しか

出てこない。

俺達はこんな人を恐れていたのか….

 

「まあそんなこんなであとよろしくね、

私も色々と調べてみるから、じゃ」

 

「え、ちょ、え?」

 

反応をする暇も与えず陽乃さんはどこかへ消えてしまった。

うーんいろいろ聞きたいけどまあいいか..

ひとまず校舎に入ることにしよう。

 

 

 

 

昇降口には誰もいないし周りも静かなことから

今の時間帯は恐らく授業中だろう。

どこかに時計でもあればいいのだがなぜか見つからない。

まあ夢だから時間帯とかは関係ないのかもしれんな。

 

 

 

 

 

 

にしてもなんか違和感感じるな。

いつもの学校とはなんか違う…

 

 

「比企谷!?」

 

「ん?あれ」

 

聞き覚えにある声の主は我らが顧問平塚静先生だったが

その顔は驚きと同時に俺がいることに焦りを感じている

ようだった。

 

「何してるんだ!?とにかくこい!」

 

「え?は?」

 

「いいから!また痛い目にあいたいのか!?」

 

「へ?」

 

俺は言われるがままについていくしかなかったが

どうやらさっそく異変を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部室なら大丈夫だろう..」

 

「えーと..すいません。どういうことですか?」

 

「はあ!?何いってるんだ?」

 

「あの..なんていうか..ちょっとここ最近の記憶が

なくなってて…」

 

「…病院紹介してやろうか?」

 

この人にここまで心配された顔されたの初めてだな。

ていうか本来なら今までも心配するような素振りを

見せてくれてもよかったのだが…

 

 

「とりあえず..先生の知っているここ最近のこと

教えてください。

どうして雪ノ下と葉山が転校したんですか?

何で俺が学校にいると痛い目に会うんですか?」

 

「….本当に君は比企谷か?」

 

「どこからどう見てもそうですよ」

 

 

別の世界のだけどね!

 

 

 

 

「…わかった。正直漠然としないが

君がそんなに知りたいのなら教える。

ただし何を聞いても後悔だけはするなよ、いいな」

 

その問いに俺は頷く。

さてさて..あいつの夢をじっくり聞かせてもらおうか。

 

「私の知る限りでは奉仕部は2年生の終わりまで

雪ノ下、由比ヶ浜、そして君の三人で仲良くしていた」

 

ふむふむ。

 

「これは君が知っていることなんだが…

まあいい。けど二年が終わりとある事件が起きた」

 

「事件ですか?」

 

「….雪ノ下が葉山と付き合い始めた」

 

雪ノ下と葉山が付き合う?

うーん..いくら夢とわかった上でも

さすがにイライラするな、それは。

というよりあいつは何してるんだ?

三浦とかが黙ってないだろう。

 

「これで雪ノ下は部活には来なくなり

校内でも葉山と一緒にいることが多く

周囲から根も葉もない噂なども広まっていった。

これによって部活は休止状態になったが

その…本当に覚えてないのか?」

 

「すいません…」

 

「..休止状態になった後

君は精神的に色々と追い込まれ

雪ノ下と葉山をこの学校から

追い出そうとしたんだ。

そしてそれには由比ヶ浜も加担した。

雪ノ下がいなくなった後

君達二人は心の拠り所を互いに

求めるかのように付き合い始めた。

結果として君は雪ノ下と葉山を

追い出す一歩手前までいったところで

雪ノ下が君にある提案をしてきた」

 

「提案ですか?」

 

「そうだ..自分と付き合わないかと..」

 

 

うーん..まあ何ていうか

そろそろ読めてきた。

 

「それで俺はどうしたんですか?」

 

「君は雪ノ下だけを救ったんだ。

葉山を学校から追い出し

雪ノ下と付き合おうとしたが

由比ヶ浜がそれを知ってしまった。

それからもう何日が経つやら…

彼女はいなくなってしまい

雪ノ下も突然転校するといって

消えてしまう。

さらに君が葉山を追い出したことや

雪ノ下を追い出そうとしたことが

バレて、君は学校中から目の敵にされている。

この間も登校しただけでいきなり殴られ

怪我したばっかじゃないか..」

 

 

なるほどな。

要するにこれが由比ヶ浜の夢が壊れたという

ことなのだろう。

 

「全部君が私にしてくれた話だぞ?」

 

「ははは..まあ色々あって忘れたみたいで..」

 

「比企谷。

君は由比ヶ浜がどこにいるのか知ってるのか?」

 

「…わかりませんよ。けど探します。

ここで俺がやってしまったことはどうにもひどいことの

ようなので」

 

「…君自身がそれを自覚してないわけないか。

わかった。ならばファーストブリットは控えておこう。

私はまだ君が由比ヶ浜を裏切り雪ノ下と付き合おうとした

ことを許してないからな」

 

「勘弁してくださいよ..夢の世界ぐらい..」

 

「ん?何かいったか?」

 

「いえいえ。こちらの話です」

 

 

さーて大体情報は集まった。

由比ヶ浜を探せばここでやることも終わりだな。

まだまだ不自然な点は多いが

今はこれだけ聞けただけでも十分だ。

 

 

 

「いくのか?」

椅子から立ち上がった俺に先生は

微笑しながら語りかける。

 

 

「ええ。由比ヶ浜を探さないと..」

 

「そうか..なあ比企谷。

君はどうして由比ヶ浜じゃなくて雪ノ下を

選ぼうとしたんだ?」

 

「正直わからないですよ..でもまあ少なくとも

その時の俺はただのバカだってことはわかりますよ..

先生にも迷惑かけましたね、本当にすいません」

そのセリフだけを残して俺は教室から出て行った。

先生と前に会ったのは確か俺の夢の世界だったが

俺はあの人にひどいことしてしまった。

いくら夢の中とはいえ許されることではない。

だからこそ最後の謝罪には色んな意味を込めた。

さてと..とりあえず陽乃さんに連絡しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?雪ノ下をもう見つけたんですか?」

 

「まあねー雪乃ちゃんが行きそうなところなんて

現実でも夢でも一緒だしね」

 

先ほどの発言は前言撤回しとこう。

やはりこの人は雪ノ下の姉だ。

 

「ただ問題があってね..」

 

「問題?」

 

「そう。雪乃ちゃんが今いるのはうちが借りている

別のマンションの一室なんだけどどうやら

雪乃ちゃん以外にも誰かいるようなんだ」

 

「….由比ヶ浜ですか?」

 

「その可能性はあると思うよ。

最も彼女達がなんでそこにいるのかは

わからないけど」

 

「とりあえずそこに行きましょう。

話せば色々と解決策が見えてきそうですし」

 

「そうだね。それにしてもさすがだよ比企谷君。

ちゃんとこの世界の問題点を見つけてくれるとはね」

 

「ははは..」

 

乾いた笑いをこぼすのももはやめんどうだ。

一刻も早くあの二人に会わなきゃいけない俺は

陽乃さんを連れてすぐに向かうことにした。

心配なのもそうだけど何より色々と気がかりなことが

ありそれがいつあいつの刺激になるかもわからない。

さすがの由比ヶ浜でも…いや由比ヶ浜だからこそ

どんなことを思うかわからない。

夢というのは自分以外の人にとってはある意味

恐ろしい場所だと思わされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、この部屋だよ」

 

着いてから陽乃さんに案内されてマンションの

一室までやってきた。表札はなく

人が住んでいる様子も感じられない。

 

「本当にここにいるんですか?」

 

「多分..」

 

「多分!?」

 

「いやその..実はちゃんと確認したわけじゃなくてさ..

多分雪乃ちゃんならここかなーと」

 

この人は俺の反応みて楽しんでいるのか。

他人の夢の中に慣れているのか危機感を感じていないのだろうか。

 

「まあなんでもいいです..それで?どうやってこの部屋に

入るんですか?」

 

「あ、合鍵あるから大丈夫」

 

そういって鍵を取り出して差し込みガチャっとドアを開ける。

いや躊躇ないなーそういうのもっと慎重にやるもんでしょ..

 

 

「そんじゃいくよー雪乃ちゃーん、迎えにきったよー」

 

「そのセリフはアウトな気もするんですが..」

 

ため息をつきながらも渋々中に入る。

玄関から廊下には物一つなく玄関に靴が一足ポツンと置いてあるだけ

だった。廊下を歩いてリビングに行くがソファーとテレビが

あるだけで殺風景な部屋だった。

しかしその部屋の片隅に何かがいるのが見えた。

その何かは体育座りで顔を埋めて見えなかったが

なんとなく俺は感じ取った。

 

「…雪乃ちゃんだよね?」

 

「…雪ノ下」

 

声をかけるも反応がない。

というより生きているのか?

 

「…雪ノ下。大丈夫か?」

 

俺は雪ノ下と思われる何かに近づき俺は

顔を覗かせた。

 

「…..ひ…きがや….くん?」

 

「ああ、そうだ。生きてるか?」

 

「なんで..ここに..?」

 

「お前が転校するはずないと思ってな。

とりあえず話したいことはあるがここから出るぞ」

 

「..だめ..出れない」

 

「は?何言って.」

と言いかけたところで俺は雪ノ下の腕に

何かがつけられているのが見えた。

 

「これ..手錠?」

 

「ええ..私は..この家から出られないの」

 

「誰がこんなことしたんだ?」

 

「…それは言えない。

とにかく早く帰って。あの人がきたら

あなた達にどんな危害を加えるか..」

 

「あの人?」

 

俺は悩もうとしたがすぐ後ろで

その解答が発言された。

 

「….隼人ね」

 

「….姉さんは知ってたんじゃないの?」

 

「知らないよ。いくらなんでも

実の妹が監禁状態にあってたら

知った瞬間に隼人をぶっこ…

抹殺しにくし」

 

いや言い直したほうがひどくなってますよそれ。

とはいえさすがにこれはやりすぎだと思う。

ただ葉山がここまでするのか?

 

「まあでもこんなこともあろうかと

色々と準備してきてよかった」

「準備?」

 

「うん、とりあえず比企谷君下がってね」

 

俺は不安を感じつつもひとまず雪ノ下から距離を置くと、

「雪乃ちゃんはじっとしててね。動くと怪我するよー」

と右手に持っている何かを振りかざした。

ガン!という音が部屋に響くがどうやら手錠は壊れなかったようだ。

 

「ありゃ駄目?」

 

「ていうか何ですか?それ」

 

「見てわからない?ハンマーだよ」

 

「何でそんなもん持ってるんですか..」

 

「秘密よ、秘密」

 

ベルモットみたいに秘密をたくさんもってそうだもんな、この人。

黒の組織いても似合いそうだし..

 

「まあ何度もためしてみるか、えいやっ!」

 

陽乃さんは諦めずにガンガンとハンマーを振り下ろす。

雪ノ下は怖くて見れないのか目をつぶっている。

いやまあ少しでもズレたら手に直撃ですからね..

 

 

 

パキッ

 

「あ!いけそうかも、えいやっ!」

 

バキッ!と明らかに破壊された音が響く。

手錠を見ると二つに割れており雪ノ下の腕がそこからするりと

落ちていく。

 

「とりあえずここから離れましょう」

 

「そうですね..行くぞ雪ノ下」

 

「…」

 

「どうした?」

 

「…比企谷君は..どうして私を助けてくれるの?

私は..あなたにひどいことした..

あの人と私を追い詰めたことを学校中にバラしたり

由比ヶ浜さんとうまくいったあなた達の関係を

引き裂いた…なのになんで..」

 

「色々と説明はあとでいいから。

今はとっとといくぞ」

 

そそ。こんなところにいて葉山にでも出くわしたら面倒だし。

まあでも陽乃さんいるからこっちは問題ないか。

 

 

「..でもごめんなさい。ここを離れるわけにはいかないの」

 

「…理由は?」

 

「…ここにきているのはあの男だけじゃないからよ」

 

 

 

協力者がいたのか。

でも葉山の協力者というと…

いやさすがに由比ヶ浜はこんなことに協力する

はずがない。

 

「雪乃ちゃん。何があるかわからないけど

ここから出ないことには何も解決しないよ?」

 

「…姉さんは何で私に協力してくれるの?

私があの男と付き合った時私を

見放したのに..」

 

「ありゃそんなことしてたのね、私。

まあでも面白くないしそれに隼人と雪乃ちゃんなら

確かにね…」

 

 

おいおい。

ここでそういう話は勘弁してくれ。

ただでさえ早く出なきゃならんのに

長引くことになる。

 

「というかそもそも誰が来るんだ?この部屋に」

 

「それは…ごめんなさい。言えないの」

 

「言えない?どういうことだ?」

 

「約束…したから。

ここにいたほうが安全だって」

 

「安全なわけないだろ。

監禁されてたんだぞ」

 

「でも..私が外にいると

色々とまずいって…」

 

まずい?

どういう意味だ?全然理解ができない..

 

「もうめんどくさい。てなわけで」

と陽乃さんは痺れを切らしたのか雪ノ下の腕をひっぱり

いきなりお姫様抱っこして抱え始めた。

 

「比企谷君が本来するべきなんだけど

何かめんどうくさいからいいよね?」

 

「いや俺もしませんけど..」

 

「ちょ..降ろして!」

 

「だーめ。さあいくよ」

とスタスタとリビングから玄関に行き俺達は家を出た。

雪ノ下は最後まで嫌がりじたばたしてたが

陽乃さんに押さえつけられたようだ。

姉妹にしろ兄弟にしろやはり上が一番強いんですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず近くの公園で一休みしている。

雪ノ下も観念したのか今は大人しく

さっき買った紅茶を飲んでいる。

午後ティーでごめんね、いつものより

味が悪いかもしれんがまあそこまで

落ちぶれではないはずだ。

俺、飲んだことないけど。

 

 

「さてと..落ち着いたか?」

 

「ええ..色々とありがとう」

 

「気にすんな。

その代り色々と聞きたいんだけどな」

 

「…何を知りたいの?」

 

「あ、私ちょっとお手洗い行ってくるね」

 

何かを察したのか陽乃さんはどこかに消えてしまった。

まあ雪ノ下も姉がいると話しづらいことも

あるだろう。

 

 

「まず…何で葉山と付き合ったんだ?」

 

「..この話をまた掘り返すのね..」

 

「悪い。けどもう一度教えてほしい」

 

「…いいわ。何故かわからないけど

あなたにこの事を言ってなかったような気がするから..」

 

え、バレた?

雪ノ下だからさすがに俺がここの比企谷八幡でないことも

お見通し?

 

「まあ簡単に説明すると…よくわからないの。

あなたが由比ヶ浜さんと仲良くしているのを見て

正直…..どこかで嫉妬していて…

そんな時あの人が来て私の悩みを聞いてくれたの。

始めは相談するのも馬鹿らしくて一言も発さなかったけど

毎日のように私を心配してきてくれる彼に

少し心を許してしまいいつの間にか付き合っていることに

なってしまった..」

 

「つまりお前の意思じゃないんだな?」

 

「…その質問には明確な回答は出せないわ」

 

「そうか..じゃあ次なんだが

由比ヶ浜が今どこにいるか知っているか?」

 

「..わからないわ。

やはりあなたは彼女のこと..」

 

「勘違いすんな。

今は部員として心配なだけだ」

 

「そう..ごめんなさい。

私もわからないわ」

 

「わかった..」

 

まあ予想はしていた。

そう簡単にあいつが見つかるはずが

ないからな。

「ねえ..一つ聞いてもいいかしら?」

 

「なんだ?」

 

「今日のあなたは…さっきも感じたのだけど

別人のように見える…」

 

やっぱバレてるかなぁ..

いや自白はまだ早い。

推理タイムが終わってから自白というのが

お決まりだ。

 

「前に由比ヶ浜さんもこんな感じだった。

いきなり感じが変わったというか...」

 

「どういうことだ?」

 

「今のあなたみたいということよ。

まるで別人のようなのだけど

姿も顔も彼女そっくり。

でも私の顔を見るなりいきなり泣き始めたわ。

無事でいてよかったとか…」

 

「それいつの話だ!?」

 

「どうしたの急に..」

 

「いいから!いつの話だ?」

 

「…確かあなたが私とあの人を追い込む直前の話だから..

1ヶ月くらい前よ」

 

どうやら確認はできた。

間違いない、ここにいる由比ヶ浜結衣は

俺達の世界の由比ヶ浜だ。

あいつのことだから雪ノ下を見た安心感で

泣いたんだろう。

でもだったらどうして由比ヶ浜は消えたんだ?

 

 

「その…詳しく聞きたいんだ。

由比ヶ浜が消えた数日前に何があったか。

俺がお前と付き合おうとしたそれを由比ヶ浜が

知ってしまったということくらいしか

知らないんだ」

 

「….そう。わかったわ..

でもそれを知ればあなたは彼女を助けにいけなく

なるかもしれないけどそれでもいいの?」

 

「どんな内容でも問題ない。

今までありえないほどの事実を

目の当りにしてるからな」

 

「わかったわ..」

 

 

どうにも由比ヶ浜の夢の中には

まだまだ謎が多い。

どうやら俺の予想を超えることが

あることは覚悟せねばならんらしい…

 

 

 

 

 

 





はい。
すいません、長い間投稿遅れてしまい。
色々と忙しく時間がかかりましたが完成です。
今後も時間かかりそうですがよろしくお願いします。


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彼女はなぜか理解してくれない

続きになります。
お見苦しい部分があると思いますが
温かい目でお守りください。



「…一応事実確認しときたいのだけれども

あなたは私が付き合おうと言ったの覚えてる?」

 

「ああ」

 

そりゃあ雪ノ下から付き合ってくださいと言われた日なんか

一生忘れることないだろう。

生涯の俺の歴史の中でも重大な日として語られることとなるだろう..

 

 

「そう。そこまでわかってるなら話は早いわ。

…その..話をする前に一つ聞きたいことが

あるんだけどいいかしら?」

 

雪ノ下は少し顔を赤くしながら問いただしてきた。

なんだ?そんなに言いづらいことか?

 

「その..私の告白の返事を貰ってないのだけれども..」

 

「へ?」

 

「だから..私の告白の返事を聞きたいと言ってるのよ..」

 

雪ノ下は恥ずかしさの余りそのままそっぽを向いてしまった。

ていうか…え?

何?どゆこと?

先生の話とちょっと食い違ってない?

俺、雪ノ下と付き合おうとしてたんじゃないの?

 

「その..待ってくれ。雪ノ下。俺は..その告白の返事を

したんじゃないのか?」

「….何を言ってるのかしら。

私はまだその告白の返事をあなたの口から聞いてないわよ..」

 

 

うーん..ここで考えられるのは

先生は俺から今回の件について

聞いたと言っていたからつまりは

その説明のどこかで食い違いがあったと

考えるのが妥当か。

 

「その..その返事はもう少し待ってくれ。ちゃんと考えるから..」

 

今はそう答えるしかない。

何しろ状況をうまく読み込めないのだ、下手なこと言って

状況を変えるのはまずい。

 

 

「そう..わかったわ。

ごめんなさいね、話を遮ってしまって。

それじゃあ元の話に戻すわね」

 

そう言うと雪ノ下は近くのベンチに座りゆっくりと視線を

俺の方に向けた。

 

「まずあなたが葉山君と私を退学寸前まで

追い詰めた時、私はあなたに今まで思っていた思いを伝えた。

あなたはその時は返事をくれなかったけれど

ちゃんと答えを出すって言ってくれたから私は

それを信じて待ってたの..」

 

「そうか..なんか..待たせて悪かったな..」

 

「平気よ..むしろあなたがそこまで真剣に考えてくれるということ

なんだから私は嬉しいわ」

 

そう言いながら微笑む雪ノ下の顔を俺は直視できずつい目を逸らしてしまった。

うーん..俺が恥ずかしい..こんな可愛い子でしたっけ..

 

 

「ごめんなさい、話を戻しましょう。

私があなたに告白してから数日経った日のことよ。

由比ヶ浜さんが私に会いにきたの」

 

「由比ヶ浜が?」

 

「ええ..私が告白したことをあなたから聞いたみたいで

そのことについて話したいとのことだったわ」

 

「俺が言ったのか…」

 

「……話を続けるわ。

彼女はずっと悲しそうな顔をしてたわ。

今思うと..なんであの表情をしてたか

わかるかもしれない..」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

「由比ヶ浜さん…」

 

「ゆきのん、ごめんね。

いきなり呼び出して..」

 

 

「…なんかこうやって部室で話すのも久しぶりだね..」

 

「そうね..ここ最近は色々あったから..」

 

「…由比ヶ浜さん、その..」

 

「聞いたよ。全部。ゆきのんがここでどういう状況になってるか

知ってるし正直私がそのことに関してヒッキーと一緒にゆきのんと隼人君に

対してひどいことしたと思ってる..

その事については..ごめんなさい」

 

「別に..気にすることじゃないわ..」

 

「..ゆきのんは..ずっと好きだったの?」

 

「..最初はそういう気持ちではなかったけれど

彼とこの一年近く過ごして彼のいいところも悪いところも

知ったつもりでいる。

それを知った上で..私は彼をもっと色んな部分も知りたい..

彼と一緒にいたいと思って..いつの間にか..好きってことに

なっていたわ..」

 

「そっか..だよね。ゆきのんはずっとヒッキーのこと

好きだったもんね」

 

「べ、別にずっとって程では..」

 

「嘘ついてもわかるよ。

ヒッキーとゆきのんの一番近くにいたのは

私だもん」

 

「由比ヶ浜さん..」

 

 

「…なんでうまくいかないのかな..」

 

「え?」

 

「私は..ここだったらゆきのんともヒッキーとも

うまくやっていけると思ってたんだ..

ゆきのんを助けるつもりで来たのに

思ってた以上にここっていい場所で私は

この世界が好きになっていったんだ。

ここなら全てがうまくいくと思った。

けどいつの間にかゆきのんともおかしくなって..

ヒッキーも..どこか行っちゃう..」

 

「由比ヶ浜さん..」

 

「ははは…ごめんね。意味わかんないよね。

やっぱ私はどこ行っても変わることが

できなかった..」

 

「…どういうことか詳しく説明してくれないかしら?」

 

「ごめん…それはできないや」

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

「そして彼女は部室から出て行って

その後から行方がわからなくなってしまったのよ..」

 

「そうか..」

 

話を終えた雪ノ下はひどく悲しそうな表情だった。

今にも泣きそうな顔に言葉をかけずにはいられないが

下手に何か言うのは逆効果の恐れもある。

 

「由比ヶ浜結衣か..」

 

「どうしたの?いきなりフルネームで呼ぶなんて」

「なんとなく呼びたくなっただけだ」

 

その理由は自分にもわからないけれど

なぜか由比ヶ浜の名前をふとつぶやきたくなった。

 

 

 

それにしてもなぜだろう。

ここは由比ヶ浜の夢の中だ。つまりあいつの

思い通りの世界になるはずなのに

どうして自らが悲しむような展開になっているのか..

俺の時とは状況が違っているのか?

夢の世界はイレギュラーなことだらけだとすれば

俺の夢の中が思い通りになるということが

まず間違っているのか?

考えれば考えるほど

謎しか増えてこない。

 

「うーん…」

 

「大丈夫?そんな難しそうな顔をして?」

俺の様子を怪しく思ったのか

雪ノ下が語りかけてきた。

 

「まあ…色々とな。

教えてくれてありがとう」

 

「いえ..比企谷君」

 

「ん?」

 

「彼女を…助けてくれないかしら?」

 

その問いにNOと言う選択肢が

あるわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を終えて陽乃さんがタイミングを見計らったように

返ってきた。恐らくどこかで見てたんだろう。

とりあえず話を一通り説明すると納得したかのように

頷き、「じゃあまた別行動ってことで」

と言ってどこかに行ってしまった。

俺はとりあえずあてもないし雪ノ下をこのまま

公園に放置するわけにもいかないので

家まで送っているところだ。

 

 

「….」

 

雪ノ下は終始無言で歩いている。

こういう空気の時ってどうすればいいんだっけ..

 

「な、なあ雪ノ下」

 

「何かしら?比企谷君」

 

お、反応はしてくれたか。

 

「その…もう一つ聞きたいことがあったんだけど

聞いてもいいか?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

「その..一色って今何してる?」

 

「一色さん?」

 

 

すでに忘れかけていたが

あいつも夢の世界に来ているのだ。

雪ノ下か由比ヶ浜の世界に来ている

可能性もあるので情報があれば

集めといて損はない。

 

「彼女のことに関してはあなたのほうが

詳しいのではなくて?」

 

「は?何でだよ?」

 

「だって…いつも一緒にいたり

部室に来るのもあなたに会いたくてきたり

してるじゃない..」

 

そう言われてしまえば言い返せないのが痛いところだ。

 

「そうだけど..」

 

「…..あ、そういえば」

 

「何か思い出したのか?」

 

「ええ。確か彼女も由比ヶ浜さんを探すといって

学校に来てないと聞いてるわ..」

 

何そのミイラ取りがミイラ状態。

ミイラがどんどん続いてそのうち包帯が品切れに

なるんじゃないの?

小学生の時、ハロウィンでミイラ男のコスプレしたら

同じクラスの高城に本物のおばけと間違えられて

石を投げられたなあ…

あんだけ違う違う!言ったのに信じられず

頭からは血が出て顔は血まみれになるし..

家帰ったら俺の顔みて小町が泣いた記憶を

思い出す、許すまじ高城。

てか高城どういう顔だっけ。

 

 

 

とまあ話がズレたので戻そう。

考えてみれば一色がここに来る目的は

雪ノ下と由比ヶ浜を救うことだとすれば

ここに来た目的は由比ヶ浜を探すことだ。

決しておかしくはない。

そんな考え事をしてる間にどうやら雪ノ下のマンション下まで

ついたよようだ。

 

「ここでいいわ…ありがとう、送ってくれて」

 

「いや気にすんな。

こっちこそ色々とありがとな..」

 

「いえ..その..比企谷君」

 

「何だ?」

 

「…彼女のことお願いね」

 

「ああ」

 

雪ノ下は俺の返事を確認するとマンションの中に

入っていった。

さてと..次に行きますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考え事をしながら俺は再び雪ノ下が監禁されていた

マンションに戻った。

恐らく次の手がかりがあるとすれば

間違いなくここにある可能性が高い。

さっきは雪ノ下を助けるつもりで

落ち着いて周りを見る時間はなかったが

恐らく何かはある。多分。

まあ考えてもしょうがない。

俺は再び部屋の扉の前に行き息をすうっと吸った。

よし!いける!いやまて!いけない!

なんなんだよ、一人でこのやり取り。

誰かが見てたら間違えて通報されるレベル。

まあ考えても仕方ないので開けることに、

「待ってたよ、ヒキタニ君」

した…。

俺が扉を開ける前に扉は開いてくれた。

それは外側ではなく内側から誰かが開けたもので

開いた扉から現れたのは

もう懐かしい修学旅行騒動で奉仕部の重大事件の

当事者の一人でもある海老名姫菜が

笑いながら俺の方に笑顔を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーさすがだね。ヒキタニ君。

ここに気付くとは思わなかったよ」

 

「ははは..少なくともそんな簡単な嘘は

俺以外の前でもしないほうがいいぜ」

 

「あ、嘘だってわかるんだ。さすがだね」

さすがに扉の前では少々話しにくいのもあるので

リビングに通された。

ソファーに座らされた俺は部屋をきょろきょろと見渡す。

相変わらずの殺風景な部屋で片隅には

先ほど陽乃さんが壊した手錠の破片が散らばっている。

 

「それにしても壊すなんてひどいなーこれ高いんだよ?」

と先ほど破壊した手錠の一部を俺に提示するかのように

見せてきた。

まあ壊したのは俺ではないですが黙認したのは確かです。

 

「…普通なら監禁してる女の子を助けるために

強硬手段を使うのは当たり前だと思うけどね」

 

「ふーん..まあでも私が困るわけじゃないからいいか」

 

「そうか..それじゃ色々とお話して頂こうかな」

 

もうこの状況についていくのに

頭が回らない。

ここにきて海老名さんが登場するのは

はっきり言って予想してなかった。

葉山の協力者だとしたら三浦か戸部だと考えたが

当然あの二人でもこんなことに協力するほど

馬鹿ではないはずだ。

それがよりにもよって海老名さんが協力したとなれば

驚くのも無理はない。

彼女は奉仕部について多少なりとも理解してると

思っていたからだ。

 

「いいよ」

そう言ってよっこらしょっとと言いながら

俺の隣に座ってきた。

 

「…何で葉山に協力したんだ?」

 

「うーん..言えないかな」

 

「何?」

 

「私だってこんなことを好きでやったわけじゃないよ。

でも葉山君との約束だもん」

 

「約束?」

 

ていうか葉山君?

確か隼人君じゃなかったっけ?

それとも改名して隼人葉山にでもなったか?

あ、つまんねえ。

 

「約束は簡単に人に言うものじゃないよ」

 

「なんだそれ..

じゃあ次。由比ヶ浜について

何か知っているか?」

 

「うん」

 

そういった彼女はまるでその問いを

待っていたかのように笑っていた。

 

「ヒキタニ君は絶対そのこと聞いてくると思ってた。

でもこれはレアな情報だからなー

君にただで教えるわけにはいかないな..」

 

「…どういう意味だ?」

 

「やだなーそんな怖い顔しないでよ。

そのまんまの意味だよ。

こちらの情報の代わりに君も何かしらの提示を

求める」

 

さっきからまるで誘導尋問のように海老名さんのペースに

乗せられている。

駄目だ、話の主導権を握られては情報は何も聞き出せん。

 

「..それじゃ次だ。

何で俺がここに来るとわかった?」

 

「単純な勘だよーなんとなく来そうな気がしてね」

 

「….そろそろ真面目に話しませんか?海老名姫菜さん」

 

いい加減怒りが限界を超えそうだ。

俺も金髪にはならないが怒りが限界を超えると

超千葉人となり戦闘力8アップする。

まあ元々がマイナスなので8上がってもマイナスだ。

ちなみに痛いの嫌いなので戦わない。

日本は平和主義国家だからね、仕方ない。

まあそこまでいかなくてもさっきから真面目に答える気がない

この海老名さんの態度に苛々してるのは確かだ。

 

「…やれやれ..もう少しここに留めればいいと思ったんだけど

間に合いそうだしいいか」

 

「は?」

 

そう言った途端ガチャと玄関の扉が開く音と

人が入ってくる音が聞こえた。それも一人ではなく

何人もの靴の足跡が響きリビングにスーツ姿の男達が

ズラっと現れた。

俺は立ち上がって警戒するがすでに時遅しと言ったところだ。

左右、正面に男達が囲むように並んでいた。

 

「ゲームオーバーだよ、ヒキタニ君」

 

「どういうつもりだ…?」

 

「ここで君を足止めするのが

私の役目だよ」

 

そう言ってパチンと指を鳴らすと

玄関の方から足音を立てて

やってきたのは総武高校の制服を着た女の子。

そしてそのピングがかった茶髪にお団子頭。

残念ながらいつもの挨拶とまぶしい笑顔はなく

暗い表情でこちらをじっと見つめる

由比ヶ浜結衣がそこにいた。

 

「由比ヶ浜…」

 

「ヒッキー…」

 

「ごめんね、二人共。

けど結衣。恨むならヒキタニ君を恨んでね。

ヒキタニ君が葉山君を追い出さなければ

こうはならなかったんだから」

 

「どういう意味だ…」

 

俺はキッと海老名さんを睨みつけるが

ひるむことなく睨み返された。

 

「だってヒキタニ君が葉山君と雪ノ下さんを

追い出そうとしたのが原因だよ。

二人が付き合うことになってうまくいってたのに

結衣と二人で邪魔しようとしたんだから」

 

「つまり逆恨みってことか?」

 

「まあここまでだよ、じゃあね、ヒキタニ君。

楽しかったよ、君との学校生活は」

 

待てと言おうとしたところで俺は後ろから衝撃に襲われ

視界が真っ暗になった。何かで殴られたのか..

寝るな..意識を…

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッキー!ヒッキー!返事をして!ねえ!」

 

「結衣、ごめんね。でもヒキタニ君にこれ以上好き勝手に

させるわけにはいかないの。

彼は一線超えてしまったんだから」

 

「姫菜..何で..何でこんなことするの..?」

 

「さあて..何ででしょうねえ…」

 

結衣は泣きながら倒れているヒキタニ君を見て

名前を叫び続けている。

本当にごめんね。でもこれが私と葉山君との約束だから。

 

 

 

 

 

 

 

「….ちなみに」

 

彼女のほうをじっと見つめると

それに気づいたようで泣き止んだ。

私は彼女が私に対して怯えているのがわかっている。

だからニコっと笑った。

少しでも恐怖を減らすためにね。

 

 

 

「ここは結衣の夢の中だけど結衣の自由にはできないよ」

 

「え…?」

 

「おっと。おしゃべりが過ぎたかな。じゃあつれてって」

 

「まって!何で..」

 

結衣は連れていながらも何かを叫んでいるが

聞こえないね、うん。

 

 

「…本当に私って屑だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

言葉が出ない。

けど視界はぼんやりと見えてきた。

目に映った光景はコンクリートの天井。

重い体は…なんとか起こせる。

周りにはどこかで見たような鉄格子。

そして向かい側には同じように鉄格子が

並んだ空間がある。牢屋だ。

 

「ぶちこまれたのか..くそ!」

 

やられた。ここであんな不意打ちキャラが出てくるとは

いきなりハードモードだろ、由比ヶ浜の夢。

しかも海老名さんという馴染みある相手が

いきなり豹変して敵となるとは…

敵という単語で一人怒りが抑えきれない程

その思いをぶつけたい相手を思い出した。

しかし葉山に会うことはできず、更にいうなら

俺はこの世界でどうやってあいつを追い詰めたのかを

知らない。

あいつと対峙した時にこちらが主導権を握るのは難しいのではないか..

考えることしかできないがいくら考えても

結果は出てこない。

どうすればいいんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そう。わかったわ」

 

「理解が早くて助かるよ。

あなたには早くあの部屋に

戻ってもらわないとね。

幸い葉山君はまだこの事実を知らないから

隠しておけばバレることないし」

 

「そうね..ごめんなさい。

勝手なことをして..」

 

「悪いのはヒキタニ君達だから仕方ないよ。

じゃあいこうか」

 

 

ごめんなさい、比企谷君。

助けてもらったけれどどうやらあなたも

失敗したようね。

やはり運命なんて初めから決まってたのだから

抵抗するだけ無駄だったようね..

 

「おっと待ってもらおうか。

私の大事な妹をどうする気かな?」

 

「おや…」

 

玄関の方から声が聞こえ顔を上げると

そこには先ほど別れたはずの姉、雪ノ下陽乃がいた。

 

「比企谷君に用事があると思い来てみれば

何やら物騒な話を聞いちゃったな、お姉さん」

 

「そこをどいて頂けますか?」

 

「人が話してる時は話を聞かなきゃ駄目って

教わらなかった?」

 

顔は笑っているのに二人共腹の探り合いをしてるかのように

お互いを見つめ合っていた。

私はただ..後ろで怯えてみていることしかできなかった。

 

 

「とにかく雪乃ちゃんをあそこに戻しはしないよ」

 

「あなたに何ができるんですか?この世界では

あなたは雪ノ下家の力を使えないただの女子大生ですよ?」

 

「ふーん..何か色々知ってそうだね。益々君とお話したいな」

 

「そーいえば自己紹介まだでしたね、海老名姫菜です」

 

「これはこれはご丁寧に。雪ノ下陽乃です」

 

 

もはや二人の会話のせいで部屋の空気はピリピリしている。

この空気の中でじっと見つめているのは正直苦しい。

一刻も早くここから逃げたい。

 

「君は..こちらの人?それともあちらの人?」

 

最初に口を開いたのは姉だった。

しかし言ってる意味がわからない。

こちら?あちら?どういうことだろう。

 

 

「あなたはなかなかのキレ者だと葉山君から聞いているので

下手に嘘はつけませんね…察しの通りと言いたいですが

私はこちらの人間ですよ」

 

「ふーん..じゃあなんでこちらの人間が

夢の事について知ってるのかな?」

 

姉はさっきから何を言ってるんだ?

夢の事?意味が理解できない..

 

 

「その辺も含めて一度お話したいのですが

一刻も早く雪ノ下さ..失礼しました。

雪乃さんをあの部屋に戻さないといけないのです」

 

「…どういう意味?」

 

「私を信じるつもりがあるなら

ついてきてもらえませんか?」

 

姉と海老名さんの会話に私は取り残された気分だ。

私の知らないところで…いったい何が起きてるの?

 

 

 

 

 





はい。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
今回は長くなってしまいました。
これを書いてる間に色々とイベントありましたね..
MADOGATARI展や電撃文庫秋の祭典2016等
何か色々と時間作って遊んでます、はい笑


さて今後もどうなるのか
お楽しみいただければと思います。


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海老名姫菜の語りは受け止めきれない

続きです。

よろしくお願いします。


「にしても頑丈な扉だな」

と鉄格子をまじまじと見つめる。

というよりそれしかやることがない。

どこぞのサトシみたいに鉄格子を突き破れないよ、俺。

マサラ人と千葉人じゃさすがに

比べるのもあれだしね。

 

そんな考え事してる中牢屋の外側の扉が開き

海老名さんがニコニコしながら入ってきた。

 

「あ、ヒキタニ君起きたのね。おはよ」

「ああ、目覚めが悪くて頭痛いぜ」

 

「ごめんねーあいにく今ここしか開いて無くて..」

 

白々しい態度を取る海老名さんはいつもとはまるで別人のようだ。

まあ由比ヶ浜の夢の中だから別人なんですけどね。

 

「さて..ちょっと私とお話ししようか」

 

「俺は話すことなんて何もない」

 

「ふーん..聞きたくないの?

どうして私がああいうことしたのかとか」

 

「だからどうでも」

 

「結衣の夢が今どうなってるのか」

 

 

海老名さんから発せられたその言葉に俺は唖然とした。

夢?今確かにこの人夢っていったよな?

言い間違えとかじゃなくて..

 

「ずいぶん驚いてるようだね。

その辺もきっちり話すから

聞いてくれないかな?」

 

海老名さんからは以前にも感じた冷たい視線。

それでいて口元は笑っている。

本質的なのかはわからないが少なくとも

俺が知っているもう一つの彼女の姿だ。

 

「ああ、わかったよ」

 

「ありがと」

 

そう言って近くのパイプ椅子を組み立て俺の牢屋に前に置いて

彼女は足を組みながら座った。

いやその位置だとギリ見えそうなんですけ..

 

「期待しても見えないよ」

 

「う!」

 

この人もどうやら例の技を使えるようです..

まあそれは置いとこう。

 

「それじゃあまず私について話そうか」

 

「いや知ってるし..」

 

「改めてだよ。私はこの世界の海老名姫菜。

ヒキタニ君の知ってる私もこんな感じなのかな」

 

「まあおおよそ..てかこの世界ってことはやっぱり」

 

俺の回答を待ってましたと言わんばかりに海老名さんは、

「うん。知ってるよ。ここが結衣の夢の世界ってことも。

私は結衣の夢の中の登場人物の一人ってことにね」

 

「..どうして気付いたんだ?」

 

「気付いたというより教えてもらったんだ」

 

「誰にだ?」

 

「んー葉山君」

 

 

 

 

 

ここではあ!?と言うのが三流でやはりなというのが二流。

黙って見つめるのが一流だと思うのだが

残念なことに俺はその全てに当てはまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…..え?」

 

 

 

 

 

「あれいまいち驚かないんだね」

 

「いや十分驚いてるよ」

 

もっとも俺は驚いても顔に出ないらしく

よく勘違いされる。

多分顔に出るとしたら小町に彼氏ができたとか

それくらいのニュースレベル。

驚く通り越して発狂するな、うん。

 

「もう数週間前の話かな..

葉山君が学校の廊下で倒れているから

慌てて様子を見に行ったら怪我とかは

なかったけど何かいつもと様子が違うから

おかしいなって..

そしたら葉山君のほうから話してくれたよ」

 

「それで夢の事を..」

 

「そう。まあ私が知ってる隼人君がいなくなったから

ちょっと残念だけど事情はわかったからさ..

あ、ちなみに隼人君のことを葉山君と呼んでるのは

私が知ってる隼人君と区別つけるためだよ」

 

「はあ..」

 

あんまりその情報はどうでもいいかな..

それはさておき話を続けよう。

 

「そして葉山君が来てすぐにそっちの世界の結衣がきたんだ。

結衣もまたちょっとおかしい感じだったから葉山君が言ってたことを

少しは信じられるようになったんだ」

 

「..少しはってのは?」

 

「ヒキタニ君せっかちだなーその辺も説明するから。

結衣が来てから葉山君は焦り始めてたよ。

時間が無いって…」

 

「時間が無い?」

 

「そう。何でも夢の世界って

本来ならば時間制限があるらしくて

そのタイムリミットがもうすぐ来てしまうって

言ってたよ」

 

 

知らんかった…

ん?ちょっと待て。

そしたらおかしいはずだ。

タイムリミットあるなら

雪ノ下も由比ヶ浜も陽乃さんもどこかにいる一色も

そして俺も…すでに夢から覚めているはずじゃ

ないのか?

 

 

「どしたの?」

 

「いや..何でもない」

 

さすがにそれを聞いても無駄か..

 

「まあ確かにタイムリミットあるなら

ヒキタニ君達はもう目を覚めなきゃおかしいよね?」

 

あ、バレてたわ。

やっぱ驚かないけど考えてることとか

顔に出るタイプなのかね、俺。

 

「その辺も葉山君説明してくれたよ。

何でも夢の世界って色々イレギュラーらしく

正直未完成だから何が起こっても不思議じゃないって。

ただヒキタニ君達が夢から覚めないのは

ルールを破ったからじゃないかな?」

 

「ルール?」

 

「そう。最初にこの世界に行くときに

端末と…薬かな。私は見たことないけど

ヒキタニ君は覚えてるよね?」

 

あーすっかり忘れてたけどそういえばそんなのあったな。

というか今思うとあれが夢の世界に行く装置って

小さすぎだし単純過ぎだろ..

もっと疑えよ、俺…

 

 

「その時説明書読まなかった?」

 

「説明書?」

 

 

思い返してみるとそういえばそんなのがあった気する。

確か手順通り正しく使えとか薬は分量通りとか

夢から抜け出す際は手順通りやれとか。

てか最後の抜け出すって俺聞いてねえよ。

 

 

ん?いや違う。

もう一つあったぞ。

 

「あ」

 

何かを思いついた俺の顔を見て

海老名さんは察したようにあの注意事項を言った。

 

「他人の夢に干渉することだけは絶対にやめてください。万が一干渉してしまうと

あなた自身が他人の夢の世界から出れなくなってしまいます。

絶対におやめください」

 

 

 

 

 

「どう思い出してくれたかな?」

 

「思い出した..そーいやそんなのあったな」

 

なるほど。

俺が抜けれない理由はそういうことね。

 

「まあでもこれだけだとヒキタニ君と..雪ノ下陽乃さんぐらいしか

目が覚めない理由にしかならない」

 

「まあ..そうだよな」

 

「その辺も葉山君は自分なりの推理を

私に教えてくれたよ。

まず結衣だけど結衣はこの夢の中で一度

この世界を壊している。

それが原因で本来は抜けれるはずなのに

抜けれなくなってしまったと..」

 

「ちょっと待ってくれ。

陽乃さんも言ってたがこの夢が壊れたって

どこも壊れているようには見えないんだけど..」

 

「そりゃ表面上はね。

今のとこ夢を壊す最大のきっかけの一歩手前まで

状態らしくてさっきの言い方を訂正すると

夢が壊れかけていると言った方がいいか」

 

「壊れかけている..?何でそんな..?

 

「….それは君が一番知ってるはずだよ、ヒキタニ君」

 

ふと冷たい眼差しを向け小さい微笑を浮かべた海老名さんは

小さく呟いた。

彼女の言葉を考えれば正直何で?なんて言葉はいらない。

この世界で俺がしてきたこと..それが本当ならば

由比ヶ浜の精神は崩壊しかけてもおかしくない。

 

「どうやらわかってるようだね。

それじゃ話を続けようか。

結衣が自分の夢を壊すきっかけ、それは間違いなくヒキタニ君と

雪ノ下さんが付き合ったことだよね?

それにより彼女の精神が安定しなくなって

夢の世界にも崩壊の兆しが見えてきた」

 

「でも..ここあいつの夢の世界だろ?

何でそんなことになるんだ?

自分の夢なら思い通りに出来るじゃないか」

 

「そう、それだよ」

 

「え?」

 

「ヒキタニ君も雪ノ下陽乃さんも間違っているはそこだよ。

自分の夢なら何でも思い通りになるって」

 

「どういうことだ?」

 

「ヒキタニ君って夢ってよく見る?」

 

「うーんまあそこそこ..」

 

俺の答えに足を組み替えて頬杖をつきながら

海老名さんは問い返す。

 

「それじゃまた聞くけど

夢って本当にいつも自分が望むような夢なのかな?」

 

「それってどういう…」

 

待て。

これはそのままの意味じゃないのか。

確かに夢なんて自分が見たいと思った夢を

見れることなんてない。

自分が考えたことも無いことを見れるから

夢なんじゃないのか。

俺はそもそも夢の定義から勘違いしていた。

それは陽乃さんも同じだ。

自分の思い通りに行くって部分ではあの人も

勘違いしていた。

 

「つまり..この夢の世界はあいつが

望んだ世界ではなく本当に見ている

夢の世界ってことか?」

 

「そう、ヒキタニ君みたいに

自分が望んでいるものを作っている世界

じゃないんだ、ここは」

 

なるほどと頷く。

しかしこうなると陽乃さんが言ってたことに

疑問が出てくる。

あの人が間違えていたというのは

あまり考えにくい。

 

 

 

 

「話を続けようか。

恐らく君は雪ノ下陽乃さんから

端末で脳波や感情を読み取って

夢の世界が出来るって聞いたよね?

そこは間違ってないよ」

 

「つまり..望んだことの通りに

いかないってことか?」

 

「うん。そこだね、少なくとも葉山君は

この夢の世界はあくまで脳波や感情で出来る世界

だから結局自分がどう望んでいても

そうはならないって」

 

「なるほど..」

 

でも俺の場合は..いやあれを心の底から

本当に望んでいたのか?

あんな関係で俺は満足していたのか..

 

 

「まあまだまだ聞きたいことあると思うけど

夢の世界の構造部分については私が聞いてるのは

ここまでかな。あとはそっちに戻って葉山君から

聞いてよ」

 

「いや教えてくんねえだろ..

てかそっちってこの世界にもう葉山いねえの?」

 

「うん。いないよ。タイムリミットが来て帰っちゃった。

恐らくそっちの結衣がこの夢から覚めれば私の知ってる隼人君や結衣は

戻ってくると思うけど夢から覚めない限り隼人君は

返ってこない..らしいよ」

 

最後にちょっとだけ空いた間は一瞬だが彼女が寂しい表情に

なっていることを俺は見逃さなかった。

それにしても色々驚きだ。

いくら解明されてない部分が多いとはいえ根本的な部分で

間違ってたなら色々と考えることが増えていく。

 

「それじゃあ最後にどうして君を監禁したかについて

お話ししようか」

 

「あ、ああ..」

 

もはやそっちについては結構どうでもいい感じなんだけどね..

まあでも俺自由に動けないし理由くらいは聞いとこうか。

 

「さっきも言ったけど結衣の夢はもう崩壊寸前なの。

そしておそらくそれはヒキタニ君と雪ノ下が一緒に

いること、もしくはその二人に結衣が会ってしまうということ」

 

「..つまり俺を雪ノ下と由比ヶ浜に会わせないように

するために俺を監禁させたのか」

 

「そうだよ、雪ノ下さんも今は納得しておとなしく別の場所で

監禁させて頂いてるし」

 

さすがに聞いていていいものではないな。

監禁なんて物騒な話は漫画や小説だけの話だと思ったが

自分がされると何もできなくなる。

てかこんなとこいたら自我が崩壊する。

 

「雪ノ下陽乃さんも納得してくれたようで

今は大人しく雪ノ下..あ、また間違えた。

雪乃さんと一緒にいるよ」

 

「そうか…それで?いつまで俺はここにいればいいんだ?」

 

「…少なくとも結衣の夢が覚めれば

雪ノ下陽乃さんとヒキタニ君は強制的に夢の世界から

抜け出されるらしいから夢が覚めるまではこうしてもらうよ」

 

それではいそうですかと納得いけばいい話だが

残念ながらそうはいかない。

とはいえ今、この場で俺が出来ることは何もない。

 

「ごめんね、こんなことして。

ただ結衣の夢が崩壊すれば

みんないなくなっちゃうんだ..だからお願い」

 

 

海老名さんのお願いはどうにも否定することができない。

夢なんだから俺が知ってる海老名姫菜とは関係が無い。

それでも目の前の彼女を見捨てることはできない。

 

 

 

「さてもう行こうかな。

雪ノ下さんの様子見てこなきゃ」

 

立ち上がった海老名さんは扉に向かい、

「じゃあね、またあとでくるからね」

と扉の向こうへ消えていった。

 

 

さてここからどうするか。

海老名さんの言うとおり俺と雪ノ下のせいで

由比ヶ浜の夢が崩壊すればすべてが終わりだ。

海老名さん達元の住人も含め

俺達もどうなるかわからない。

かといってこのまま黙って見過ごしていいのだろうか。

そもそもこの夢の世界が自然に崩壊することも

ありえるんじゃないのか?

陽乃さんが知らないこともあるわけだ。

何が起こってもおかしくない状況まで来ている。

俺はようやく夢の怖さを知った気がしたが

結局何を考えても打開策は思いつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…イ!」

 

何だろう、いつの間にか寝ていたようだ。

何か声がする..

 

「..パイ!!」

 

 

うるさいな..

少し寝かせ

「起きろー!!!」

 

「うわ!」

 

ええ、もう飛び上がりました。

それはもう牢屋の鉄格子に頭をぶつけるぐらいに。

 

「もう!どうして起きないんですか!?

てか寝ている場合ですか!?」

 

「いてて…ん?」

 

どこから聞いた声。

そしてどこかで見た顔。

その見知った顔の持ち主と

この聞き覚えのある声と口調。

間違いない、我が生徒会長様だ。

まあつまり…一色いろはだ。

 

「…え?」

 

目を擦ってもう一度見る。

いや確かに一色だ。うん、一色だ。

「寝ぼけてるんですか?とにかくここではあれなんで

今すぐきてください」

と鍵を取り出し牢屋を開けた。

一色は扉を開けて俺の手をとるとすぐさま牢屋から連れ出し

外の扉を開けてそのまま俺はなすがままに連れ出されていった。

 

「とりあえずここはまずいので一度外に出ましょう」

 

「えーと..状況が読めない」

 

「その辺も説明しますからいいから早く!見つかったら終わりですよ!」

 

そんな大きい声出してるお前のほうが見つかりそうな気もするんですけど..

しかし今は感謝しなければ。

まさかの打開策により俺はあの牢屋から抜け出すことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと..」

 

一色に連れられ外に出されたが

まずいろいろおかしい。

なぜなら誰もいない。

人がいる気配もなく猫や犬、虫など

まるで俺達以外の生物が全て消えたかのようだ。

 

「あー遅かったですか。もう時間ないですよ..」

 

「どういうことだ?これ」

 

「んーと多分ですけど結衣先輩がキレかけてるんじゃないですか?

キレてこうなるのあいつ..

まあつまりは由比ヶ浜に限界が来てるということか。

 

「とにかく!先輩は結衣先輩に会いにいってください!」

 

「え?いや俺があいつと会ったら..」

 

「気持ちに気付いてるなら答えを出してあげないと結衣先輩が可哀想ですよ!

てかこうなったのも先輩のせいですからね!」

 

そういって俺の背中を思いっきり叩いた。

いや痛いよ、君。なかなか力あるよいろはす。

 

 

「それでその..ちゃんと結衣先輩も雪ノ下先輩とも全部終わったら

今度は私ですからね..」

 

「へ?」

 

赤らめながら言う一色は間違いなく俺がこの夢の中に来る直前に

見た表情の一色だ。

 

「言いましたよね..抜け駆けはしないって..だからまずは結衣先輩を

救ってきてください!」

 

「…なんかよくわかんねえけどわかった!」

 

一色の言うとおりだ。

とりあえずここでやることは一つ。

由比ヶ浜を救うことだけだ。

 

「…で?あいつ今どこいんの?」

 

「えぇ…」

 

 

がっかりした顔でこちら見る一色。

いやだってわかんないよ、あいつの場所。

しかもそこに海老名さんいるだろうし。

 

 

「恐らくですけどはるさん先輩が知っているはずなんで

連絡してみます」

 

「連絡?」

 

そう言ってスマホを取り出した一色は電話をかけ始めた。

すぐにもしもし?という声が聞こえ会話が始まってるところを

見るとどうやらつながったようだ。

一色は場所を聞いたようで電話を切ってこちらを見つめ直した。

 

「さていきますか」

 

「てかお前何でケータイ持ってんの?」

 

「あー私の初期装備みたいなもんです。

先輩達とは違って私のは少し最新型のなんで」

 

「最新型?」

 

「後で話しますよー」

と一色は俺の手を引いて

そのままどこかへ走り出してしまう。

さてと..とりあえずやれるだけ

やってみますか..

 

 

 




遅れました。

Pixivでは次話の話がUPされているので
よろしくければご覧ください。


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由比ヶ浜結衣の涙の理由とは

続きです。
色々あり更新遅れました。
pixivでは最新話を投稿しておりますので
よろしければそちらのほうもぜひご覧ください。


よろしくお願いいたします。


そんなこんなで一色に連れられてやってきたのは

先ほどの公園である。

いや別に他の場所がなかったとかいうわけじゃないと思うよ..多分。

公園に着くとすでに陽乃さんがいて俺達に気付くなり

手を振ってきた。いや状況わかってるんですかねえ…

しかも陽乃さんだけではない。

 

「…えーとなんで雪ノ下がここにいるんですか?」

 

「何でって普通に連れ出したんだよ?」

 

連れ出したって平気で言うがそもそも監禁させられてたんじゃなかったのか..

てかほんとに監禁だったのかすら怪しく思えてくる。

 

「そんなに引かないでよー

元々初めから雪乃ちゃんを連れ出すつもりだったんだから。

ただあの子が色々教えてくれるってことだから

話に乗ったふりをしてたってわけ」

 

「はあ..」

 

もはや唖然とすることしかできない。

しかし連れ出された雪ノ下本人は何やら元気がない。

いや元気がないというより様子がおかしい。

落ち込んでいるといういうよりかはその暗い表情は

絶望という言葉がふさわしいと言える。

 

「…雪ノ下?」

 

「….」

 

 

返事がない、ただの屍のようだ。

が残念なことに生きているんだよな…生きてるよね?

 

「その..雪ノ下はどうしたんですか?」

 

「あーその..さっきの海老名ちゃん?あの子の話を聞いて

ちょっと落ち込んでるの。自分がガハマちゃんを精神的に

追い詰めたことをひどく悔んでるみたい」

 

まあ確かに海老名さんの話が本当ならば

由比ヶ浜の夢の崩壊に関与してるのは間違いなく俺達だ。

それに対して責任を感じない雪ノ下ではない。

由比ヶ浜相手ならなおさらだろう。

 

「その..雪ノ下」

 

 

再度声をかけるが返答はない。

まあわかりきっていたけど

それでもこれから由比ヶ浜と

会うのならばある程度は

話をしとかなければ

実際に会った時にパニックになることも

ありえるかもしれん。

 

「色々と聞いて混乱してどうしていいか

わからないかもしれんけど聞いてほしいことが

あるんだ。だからちょっと話さないか?」

俺の問いに雪ノ下は小さく頷いた。

それを見た一色と陽乃さんは

じゃあ終わったら呼んでねとその場から

距離をとった。

 

こんな時に気を使わせることをするのは

癪だが今はありがたくこの好意を受け取ろう。

 

「まあ…その…悪いな」

 

「比企谷君…なんであなたが謝るの…?」

 

謝罪の言葉を聞いた雪ノ下はようやく俺の方を

見てくれた。彼女の声はひどく乾いていた。

 

「色々と隠してて。

簡単には信じてもらえないとは思ってたから

言わない方が色々と都合がよかったけど

聞いちまったからにはちゃんと話すしかねえか..」

 

黙って俺の話を聞く雪ノ下は

不安そうな表情を変えなかった。

なんでだろうな..そんな顔をさせちまったのも

全部俺のせいなんだよな..

 

 

「お前ももうある程度話を聞いたと思うし正直に言う。

俺はお前が知っている比企谷八幡じゃない。

だからお前が知っている俺がここで何をしたかは

他人の口から聞いたことしか俺は知らない。

でも…ここで俺がしたことは決して許されることじゃない」

 

 

馬鹿だよな。

俺がこんな風に誰かに話すなんて昔なら考えられなかった。

けど昔とは違う。俺は自分で欲するものを見つけ

そして守りたいものを見つけたはずだ。

それがどういうものかは正直言葉にするのも苦しい。

なぜなら俺は欲しい物が何もしないでも

手に入るものだといつの間にか勘違いしていたのだ。

結局現実でも夢でも俺は俺なのだ。

夢の自分がやったことだから関係ないはずがない。

今、目の前にいる雪ノ下が例え夢の中の人物で

俺が現実で会っている雪ノ下とは違う。

でもそれがなんだ。自分の知ってる雪ノ下じゃないから

どうなってもいいはずがない。

俺は由比ヶ浜を救うためにこの世界に来たはずだ。

 

でも由比ヶ浜を救えればそれで解決なはずがないんだ。

由比ヶ浜の夢の住人も助けなければ意味がないんだ。

それが俺の大切な人ならば尚更だ。

 

 

「….私には信じられないわ。

あなたが違う世界の比企谷君で

ここが由比ヶ浜さんの夢の中の世界ってことも。

けど…比企谷君も由比ヶ浜さんも私が知っている

二人ではないってことは….理解してたわ」

 

ようやく口を開いた雪ノ下の言葉は

今の状況を受け止める覚悟ができたと

見ていいだろう。

心なしか声も少しは戻ってきてる。

 

「…その..お前には正直ここから先は

関わってほしくないし危険な目に会わせたくない。

だから..」

 

「それ以上は言わなくて大丈夫よ。

わかってるから…」

 

「雪ノ下..」

 

 

俺の夢にいた雪ノ下雪乃。由比ヶ浜の夢の雪ノ下雪乃。

どれも同じ雪ノ下雪乃なのにこんなにも違うのかというくらい

目の前の雪ノ下雪乃は辛い表情をしていた。

 

自分だけが何も知らなかった。

彼女にとってそれが一番辛いことなのはわかってるけど

これ以上ここの雪ノ下を傷つけるわけにはいかない。

由比ヶ浜を助けた後も由比ヶ浜の夢の中には

いてほしいと俺はそう願っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お話は終わったようね。

それじゃあ雪乃ちゃんはここでお別れだね。

一色ちゃんに頼んだしまあ大丈夫でしょ」

 

「それで?ここからどうするんですか?」

 

陽乃さんと再び合流し一色に雪ノ下の護衛?を

任せた後俺達はどことなく市街地を歩いていた。

先ほどのマンションの近くなので海老名さんや

その仲間達がいないか警戒もしている。

てか仲間ってあれだよね確か。黒服A、黒服Bみたいな。

けどいちいちアルファベットごとに分けるのめんどいし

もうロケット団の下っ端でいいよ、全員。

勝負をしかけてきたら一目散に逃げるけど。

あ、でも陽乃さんいるから戦ってもらって

勝ったらお金だけもらって、

 

「あんまり変なこと考えると怒るよー」

 

「すみません..」

 

なぜ正直に謝ってしまったのか。

自白したのも当然ではないか。

 

 

「とりあえず比企谷君には

ガハマちゃんに会ってもらいます」

 

「はあ..まあそれはわかってますが

具体的には?」

 

「さっきの監禁場所に戻って探す」

 

いやいやいや。

なぜ再び敵陣へ突っ込もうとしてんだ、この人。

どこぞのお兄様みたいに壊滅はできんぞ。

同じお兄様でも基本スペックが桁違い過ぎなんだよなぁ…

 

「まあ私が囮になって連中は引きつけるから

比企谷君がその隙に探しに行けばいいよ」

 

「うーん..それしかないですかね..」

 

「そ。たまにはかっこいいとこ見してよ」

と俺の背中をバンと叩く。うーん..

じっと陽乃さんのほうを見るが笑顔でこちらを見つめている。

まあつまりは拒否権はないということだ。

仕方ない。こうなりゃどうにでもなれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…誰もいませんね」

 

「うーん..まあそのうち出てくるでしょ」

 

というわけであっという間に先ほどの監禁場所です。

わかりやすくていいでしょ!

改めてみると監禁場所はビルで三階建てのようだった。

先ほど俺が監禁されてた場所は窓は見当たらないことも

考えると地下もあると考えられる。

まあ監禁場所というのはあれなのでロケット団のアジトっぽい

建物だしロケット団アジトと命名しよう。

そんなアジトだがてっきり警戒されてると思いきや

周りには誰もいない。

海老名さんも黒服スーツじゃなくて下っ端達も見当たらない。

建物内にいるのだろうか?

 

「んじゃあとは任せていい?」

 

「まあいいですけどどうするつもりなんですか?」

 

「んーととりあえず正面突破かな」

 

「へ?」

 

そう言って陽乃さんはいきなりアジトの入口というか

ビルのエントランスに入っていった。

 

正面突破ってそのまんまじゃん..

 

まあしかしこれで連中が陽乃さんに集中するかもしれん。

お得意のステルスヒッキーを発動してこそこそと俺は

ビルの周辺をぐるっと一周することにした。

まあこういうのは決まってどこかに隠し扉があるもの…

がビルをようやく一周し終えたところで気づく。

ただのビルだ、これ。

別に違法建築とかもしてない何も仕掛けもないただのビルだった..

 

「いや..もう少し何かあるだろ」

 

何もないためひとり言を言ってしまう。

誰も見てないからいいよね、教室とかじゃないし。

とひとり言を言い終えたところでふと思い出した。

一色とここを出るときに非常口から出たはず。

あそこからならもう一度入り直せるはず。

 

俺はもう一度ビルの周辺をぐるっと歩き出すと

非常口を見つけた。

鍵がかかっているか心配だったが先ほど出た時に

内側のドアノブから開けたのでそのままのようだった。

中に入っていくとそのまま地下に続くと思われる階段があり

先ほど出た時の記憶を頼りに進んでいく。

とりあえず無事地下室まで降りれたが誰もいない。

周辺を見渡すが会議室と書かれた部屋に

そのまま奥にまっすぐ進むと再び道が左右に分かれている。

右は恐らくだが先ほど俺が捕まってた監禁部屋だ。

てか普通のビルに監禁部屋って...。

うーんさすがに会議室には誰もいなさそうだし

そのまま奥に進み監禁部屋とは反対の左の方に

進むことにした。

 

すると先ほどとは別の階段を見つけた。

まあここが正規の階段だろう。

だってさっきの非常口だったから非常用階段だろうし。

とりあえず誰もいないことを確認し慎重に登っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、三階まで着きました。

まさか誰にも会わずに最上階につけるとは思いませんでした。

いくらなんでもこういうとこって誰かしら配置しとくものじゃ

ないんですかねぇ…

まあ好都合なのでこのまま階段を登り切り三階に到着。

 

先に目に入ったのは恐らく事務所スペースと呼ばれる場所だろう。

 

オフィスデスクが並んでおり他にも会議室やらシアタールーム…

ってこれただの会社の間取り紹介じゃねえか。

 

つか誰もいねえし。

 

とりあえず進んでみるが事務所スペースには誰もいないようで

続いて会議室の扉を開けてみるが…いない。

 

残るはシアタールーム。そろそろ誰かいてほしくなってきたが

会っても何もできないのでやっぱ出るな。

そう思いながら扉を開けると残念なことに誰もいない。

がシアタールームの長机に白い紙が置いてあるのが目に入った。

 

俺は中に入りその紙を取る。

 

「「ごめんね」」

 

その一言だけだったが誰が書いたかは検討がつく。

彼女に違いない。

しかしもう部屋には誰もいない。もうどこかへ行ってしまったようだ。

その紙を俺は手に取りじっと見つめた。

 

思えばいつからだっけ・・あいつのことをそういうふうに思ったの。

あの事故で初めて会ってそのあと奉仕部で会ってそれからもう

何か月も楽しい日々を共に過ごしてきた。

 

三人で様々なことしたり時にはぶつかったり、時には泣いたり・・

まあなんか語ってしんみりするのは合わないので先を急ごう。

とりあえずシアタールームを出て階段に戻り一階に向かうことにした。

 

もしかしたらすでに制圧して余裕の顔で

「あ、なんかしんないけど勝った」とか

言いそうだし。

 

がしかし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

一階につくとそこには誰もいなかった。

陽乃さんだけじゃない。誰一人もいない。

つまりこのビルには誰もいない。

 

いやビルだけか…?

 

不安になった俺は一度外に出ることにした。

けれど特に変化はない。

一体何が起きてる?

 

と思った矢先急にビルの方から何かが鳴っている音が聞こえてきた。

ビルに戻ると応接用のテーブルの上に携帯電話がありそこから聞こえていた。

 

誰かの忘れ物かと思うが不自然すぎるので

俺は携帯電話に近づいてパカっと開ける。

そこには非通知電話と表示されていた。

出るかどうか悩むがここは出ておいた方がよさそうだ。

 

「もしもし?」

 

「あ、、、えーと..」

 

その声の主は一言聞いただけでわかった。

間違えようもない。

 

「…由比ヶ浜か?」

 

「..うん。ヒッキー無事だったんだ..よかった」

 

心配をかけていたようだった。

まあ正直こっちのほうがもっと心配でしたよ、ええ。

由比ヶ浜消えてからは色々と言われたりもして

俺にも謎の疑いかけられて…おっとこれ以上はやめとこう。

 

「お前今どこだ?」

 

「…」

 

「答えろ。どこにいる?」

 

「…来てほしくない」

 

 

うーん出ました。きてほしくない。

彼女と彼氏が仲直りするときに彼氏側から無理に会いに

家に行こうとした時に出るセリフ4位らしい。

(ヘブンなんとかという雑誌参照)

 

てか来てほしくないって言われたならはいそうですかで

引き下がればいいのではと

思うが何故男はそれでも無理に会おうとするのか…

が今回ばかりは無理にでも会ってもらわねば困る。

 

「その..勝手にお前の夢の中に来たことなら謝る。

だから会ってくれないか?」

 

「…今ヒッキーのいるビルから少し歩いたとこにある公園にきて」

 

その一言を発した後電話は切れプープーと空しい音が響く。

携帯電話を耳から離して閉じた後テーブルの上に置いた。

とりあえず次の策は決まったので行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの周辺グルグルと探してようやく由比ヶ浜のいる公園を見つけた。

てか公園ありすぎだろ。何でこの周辺だけで3つもあるんだよ。

由比ヶ浜の夢の公園率高すぎて近頃問題視されている子供達の

遊ぶ場所がないとか公園の遊具問題等は解決だな。

由比ヶ浜の夢は大きな社会貢献になってるのかもしれん、夢だけど。

そして俺は3つ目の公園に着きブランコに乗りながら小さく揺れている

由比ヶ浜を見つけた。

 

 

一歩ずつ一歩ずつ慎重に近づく。慎重になる必要性はないのだけれども。

 

「…由比ヶ浜」

 

「…ははは、やっぱ私の知っているヒッキーだね。結衣って呼んでくれないもん」

 

結衣ねぇ..この世界の俺と由比ヶ浜は恋人関係ならば名前で呼び合うのは当たり前だし

 

俺の夢でもお互い名前で呼び合ってた。

けれどここにいるのは現実の俺と由比ヶ浜だ。

 

ならばいつも通りの呼び方が当たり前だ。

 

「..ごめんね。あたしのせいでヒッキーに迷惑かけて」

 

「ああ、全くだと言いたいが俺も夢に溺れかけたから

あんまり強く言えねえわ」

 

「…そうなんだ..よく私の夢の中にこれたね」

 

「俺だけじゃ来れなかった。陽乃さんや一色もここにきてる」

 

「そっか…」

 

 

いつもの由比ヶ浜結衣の元気な声は聞こえてこない。

原因なんか聞く必要はない。全てわかっているはずだ。

 

「ごめんねって…俺に謝ったのか?」

 

「あ、見たんだ…姫菜に捕まってからやることなくてさ..

けどもしヒッキーに手紙とか渡せるならと思ったんだけど

何書けばいいかわからなくて..ごめんって言葉しか浮かばなくてさ..」

悲しげな表情の彼女はもう精神的にきついのだろう。

一言一言がその寂しさを語っていた。

 

 

 

 

 

ふと思ってしまった。

これまでの全てが夢であってほしいと。

今までのこと、このあとのこと。何もかもが夢で

この世界も全部夢ならいいなと。

けれど世の中はうまくいかない。

 

目の前にいる由比ヶ浜は今にも泣きそうな表情でこっちをじっと見つめている。

その表情から顔を反らせばすべてが終わってしまう気しかしなくて

俺も彼女の顔を見つめ返す。

 

「..ヒッキーはどうやって助かったの?姫菜に捕まって監視されたたんじゃ..」

 

「それを言うならお前もだろ」

 

 

 

「私は...もうわからない。何が起きてるのかもどうしたらいいのかも。

 

ただもう何もかもが嫌で..そしたらいつのまにか姫菜がいなくなって

外に出ても誰にも会わなくてもうここにいるのはあたしだけかと思ってた」

 

彼女は言い終えると一歩一歩足を踏み出し少しずつ俺に近づいてきた。

その間に彼女は俺の顔を反らすことなく俺の前に立ち止まると

ニコっといつもの笑顔を見せた。

 

「ヒッキー。私は・・ヒッキーが好きだよ。

きっとこの世界にはもう私とヒッキーしかいないんだから

二人仲良く一緒に暮らそ?」

 

彼女の笑顔は正直な笑顔ではなくそれが無理矢理作っているものだと

すぐにわかった。嘘が本当に下手だな・・お前。

 

「..悪い。俺はお前とは暮らせない。

俺はお前を現実に戻すためにここにきたんだ」

 

「...そっか。ヒッキーはやっぱりそういうと思ってたよ」

 

「ああ」

 

「….どう?私の夢。酷いでしょ?」

 

笑顔で言うその問いに答えは出せなかった。

目の前の彼女との距離は近いのになぜか遠く感じる。

何を言えばいいのかわからない。

言葉で説得?何を言えばいいんだ。

どうやって俺はここにいる由比ヶ浜を現実に戻ろうとする気にさせられるのか。

 

 

 

 

 

 

「ゆきのんから電話来たときは驚いたよ。

今までどこに行ってたのかって聞いたら夢の中っていうからさ。

初めは驚いたけど実際に来てみるとほんとに夢の世界なんてあるんだなって。

でも思ってたのと全然違った。ここにいるヒッキーやゆきのん、他のみんなは

私の知っているみんなじゃなかった。ヒッキーと付き合えたのは嬉しかったよ。

ずっとそういうふうになりたいと思ってたから..

でもゆきのんと隼人君を学校から追い出すことになった時あたしは止めることが出来ず、むしろヒッキーに協力して追い出そうとしていた。

バカだよね・・ゆきのんを助けにきたのにゆきのんに酷いことして..」

 

言葉を発しながら彼女の目からぽろぽろと涙が流れていた。

俺も同じだとは言えなかった。俺は自分の夢に溺れそのまま夢の中に依存しようとしていたのだから。

本心がどうかはさておきどんないい形であれ夢は夢だ。

そこにあるのは全て偽物でしかない。だからこそ俺は夢がどういうものかを知っているつもりだ。

対して由比ヶ浜は最初からここが偽物だと気付いていた。だからこそ違和感に合わせようとして本来の自分を隠して俺の馬鹿な行動に加担させてしまった。

 

「だから罰があたったんだよ。

ここのヒッキーが私を捨ててゆきのんを選んだのもきっと正しい選択なんだよ。

私じゃ..ヒッキーの隣にいる資格はないよ」

 

「..それこそお前の勘違いだろ。

お前はここにいる俺が違うやつだと気付いてた。

だから..そのなんだ。お前が知っている俺じゃ」

 

「じゃあなんで!!なんでゆきのんを選んだの!?

本当は夢でも現実でもゆきのんのこと好きなんでしょ!?

私よりも大好きなんでしょ!!」

 

溜めていた爆弾が急に爆発したかのように彼女の言葉に衝撃を受けた。

誰かを好きになる。それは正直過去に捨てたことだ。

自分が傷つくことだけのことで何の意味ももたない。

ましてや奉仕部の二人は俺がこの一年近くで手に入れた

 

唯一の信頼できる二人だ。

だからこそ好きになることなんてありえないと思ってた。

ましてや向こうから好きになってくれるなんてもっての他だ。

 

「ねえどうして..?どうしてゆきのんのこと選んだの?

私じゃ..私じゃダメなの?ゆきのんより前から好きだったよ?

ゆきのんや他のみんなよりも...大好きだよ..なんで?」

 

「..すまん。

俺はその問いには答えられない。

 

雪ノ下のことが好きかどうかもお前のことが好きかどうかも

本心ではどっちが好きなのかもわからないんだ」

そういうと由比ヶ浜はそのまますがりつくかのように俺の服を掴み

なんで..なんで..と呟いていた。

 

それにしてもなんだ。嘘という言葉が今の俺にはあまりにも似合う。

本当はどっちかが消えるのが怖いから出せないだけだ。

雪ノ下も由比ヶ浜もどっちかと付き合えば

どっちかがいなくなってしまう。

それが怖いから答えを出したくないだけだ。

まったくいつまで経っても成長しないな..

 

「…姫菜が言ったけど夢って壊れたらもう二度と目が覚めないんだよね..」

 

泣いていた由比ヶ浜がふとつぶやいた。

 

その言葉が何を意味するのかはもう十分理解できる。

 

「..そんなことしても何も変わんねえよ」

 

「変わるよ..だってヒッキーと一緒にいられるもん。

ゆきのんに取られることもないし大好きなヒッキーと

ずっと暮らせるんだよ..」

 

彼女の切実な願いを叶える方法はある。

すでに壊れかけているこの夢は彼女の精神状態と同期しているとすれば

このまま負の感情が爆発すれば

すぐにでも夢は崩壊するだろう。

そうなれば由比ヶ浜も俺も永遠に閉じ込められたままだ。

 

「あ、そーだ。やり直せばいいんだよ。

私とヒッキーで奉仕部を作り直して

彩ちゃんやあと…メガネの人とか。

それでいて隼人君とか優美子とか

他にもとべっちや姫菜ともみんな仲良くして…

それにいろはちゃんや平塚先生とも協力して

依頼を解決して…」

 

「由比ヶ浜」

 

由比ヶ浜が語り続ける理想には

雪ノ下の名前がない。

雪ノ下雪乃を嫌悪している由比ヶ浜結衣。

そんなのはあってはならない。

そんなもの見たくもない。

由比ヶ浜が好きといって抱きしめ嫌々ながらも照れる雪ノ下。

その光景が当たり前なのだ。

 

「…雪ノ下を嫌いになったのか?」

 

「…なれれば楽だよ。ゆきのんのことを嫌いになれれば

すぐにでも消えてほしいと思えるよ!でも!…ゆきのんだよ…

無理に決まってるじゃん…」

 

再び顔を下に向けて涙を流し始めた。

本人もわかっている。わかってはいるけど言葉に出さないと

やり切れないと言ったところだろうか。

 

「ヒッキーは知ってる?私がこの世界を一度壊したって話」

 

「ああ、海老名さんに聞いた」

 

「…本当は一度じゃないんだ」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

「私ね…もうこの世界を味わうの六回目なんだ」

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜の言葉はその場の空気を一変させた。

六回?一回壊してるどころの話じゃないぞ。

てか夢って壊れたらすぐ再生すんの?

 

「もうヒッキーと付き合って隼人君とゆきのんを一緒に追い詰めて

ゆきのんにヒッキーを盗られて…いつの間にかまた一からやり直し」

顔をこちらに向けず由比ヶ浜は語り続ける。

俺はただただその言葉を聞くしかできなかった。

 

 

「そして六回目の今回。

現実の隼人君がこっちに来たのを知ったのは

隼人君が私に言いにきたんだ。

なんか現実では奉仕部が三人とも行方不明って

ことで大騒ぎになっててさ…隼人君は私を連れ帰った後はゆきのん、そしてヒッキーを助けるつもりだったんだけど

私はどうしていいかわからなくてさ..

隼人君に色々話しちゃって..

そしたら隼人君はゆきのんと私が接触することが

夢が壊れる原因って決めつけて姫菜にゆきのんを監禁するよう指示して…

私はゆきのんを助けようとしたんだけどなんか..助けたいのにどうしても

嫌な気持ちになっちゃって..ゆきのんが監禁されている部屋の前までいったのにドアの目の前でどうしても先に進めなくて..

そしたら姫菜に見つかってさ。

捕まっちゃった。姫菜に捕まってから今日になるまでずっと暇だったけど

姫菜が急に「見せたいものがあるんだ」と言って連れてこられたら

ヒッキーが部屋にいたからびっくりしたよ..」

 

涙ぐみながら話す由比ヶ浜が知る事実。

その一言一言が重すぎる。

由比ヶ浜がこんなにも辛いことを六回も経験していたことも驚きだし

葉山が現実からきて何とか解決しようとしたのも驚きだ。

最もあいつらしくないやり方をとったのは無理にでも由比ヶ浜を現実に

戻したかったのだろう。そう考えるのが妥当だ。

 

 

さてここで一度話を整理し直してみる。

由比ヶ浜は自分の夢に来てから俺と付き合って

付き合い始めた雪ノ下と葉山を

退学寸前にまで追い詰めたが俺が雪ノ下に告白され俺が由比ヶ浜を捨て

雪ノ下と付き合う。それが原因で夢が壊れる。そしてまた一から始まり

すでに六回目のループ状態というわけだ。

ただ六回目の今回は今までとは違い現実の葉山が来ていた。

由比ヶ浜から今まであったことを聞いた葉山は手段を選んでいる

余裕がなく雪ノ下を俺や由比ヶ浜に会わせないように監禁した。

そしてそれを救おうとした由比ヶ浜も海老名さんに見つかり監禁されていたと。

あとは知っての通りといったところか。

由比ヶ浜が葉山に言って葉山がそれを海老名さんに伝えた。

そうすれば色々とつじつまが合う部分が出てくる。

 

 

 

思った以上に由比ヶ浜の夢は酷すぎる。

由比ヶ浜が俺の事を好きだということが事実ならば

彼女にとってこれほど苦痛なことはないはずだ。

由比ヶ浜だって雪ノ下を救うために夢の世界にきたはずだ。

なのに何故こんなに辛い思いをしなければならないのだろう。

彼女が何か悪いことをしたのだろうか?

彼女がここまでの仕打ちを受けなければならない理由はなんだ?

少なくともその答えを俺には出すことが難しかった。

由比ヶ浜はさっき本心を言った。さっきまでの言葉が嘘だと証明するかのように思っていたことを全てぶつけてきた。

ではおれはどうする。もう逃げたりすることをやめるんじゃないのか?

彼女が直面した問題が重いから解決できないと?

この場を乗り切りたいが為にまた傲慢や嘘に逃げ出すのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて初めから答えは決まっている。

深く考えるだけでこんなの無駄だ。

一色にも言われたしな。

由比ヶ浜を救ってくれって。

 

 

「由比ヶ浜。そろそろ泣き止んだか?」

 

「…バカ。まだ泣いてるよ.てか顔ひどいから見ないで..」

 

「じゃあそのままでいいから聞いてくれ。

今年の二月さ..俺と雪ノ下と水族館に行ったこと覚えているか?」

 

「…うん。覚えてるよ」

 

「お前はあの時言ったよな。

全てもらうって…。

全部ほしいって言ったよな」

 

「..うん、言ったよ。今でもそう思ってるよ..」

 

由比ヶ浜が俺達にぶつけた本音。

そしてそれに対して三人は悩み続け

それでも答えを見つけるためにもがいた。

けれどいまだに答えは見つからない。

そんな現実に嫌気が指して雪ノ下は逃げた。

そして由比ヶ浜はそんな彼女を救おうとした。

いや違う。

彼女に自分自身の問題から逃げてほしくなかったのだ。

もしかすると由比ヶ浜が自分自身に依頼したのかもしれない。

奉仕部として雪ノ下を連れ戻したいと。

その気持ちを彼女は自分自身の夢で忘れようとしていた。

いや忘れるほどに苦しい思いをしていた。

ならば俺も自分自身に今依頼をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜結衣を救いたい。

 

 

 

 

 

 

「お前の言ってることは具体的な言葉じゃなくて

正直..わからないこともあった。

でもわかることもあった。

だから俺達は自分自身の問題に対して向き合う覚悟を決めた。

俺達自身が奉仕部として自分の依頼を解決するって」

 

「…でも何も進んでないよ。

ヒッキーもゆきのんも…あたしだって..」

 

「ああ…でも本当は俺達わかってるんだろ。

わかってるけどそれをわかってしまえば

何かが壊れてしまうのではないかと不安だった。

だから答えを出すことをためらってきた」

 

思えば始めからそうだった。

雪ノ下の問題。

俺の依頼。

由比ヶ浜だって

奉仕部での例の勝負に勝ちたいと思っていた。

欲しい物を手に入れるために。

 

 

「だからこそ夢に逃げた雪ノ下を

お前はいち早く連れ戻したかったんじゃないのか?」

 

「…」

 

沈黙は肯定とみなすとはよく言ったものだ。

さああとはもう思ってることを

そのまま伝えるだけだ。

別に難しいことなんかじゃない。

ただ伝えるだけでいい。

 

 

「だから一緒に雪ノ下を救おう。

こんなわけわからん夢から抜け出して..

現実と向き合おう。

まあなんだ。俺がこういうこというのは

性に合わないってのはわかってるが..

やっぱ言葉にしなきゃ伝わらないものって

あるからな…」

 

そういえば由比ヶ浜だっけ。

いつの日か言わなきゃわからないことがあるって

言ってたの。

あの日だったよな..俺がお前達に本音を言ったのは。

てか今更思えばほんとに恥ずかしいけど

もうこの夢で十分恥ずかしいこと言ってる気しか

しないんでいいです、はい。

 

「でも..もし..もし」

 

「もしとかは言うな。

思うような結果にならないからこその人生だろ。

まあ..なるようになる」

 

 

 

 

由比ヶ浜がようやく顔をあげた。

 

もう泣いてはいないが頬と目の縁に泣いた痕跡がまだ残っているし

目も腫れている。

それでも俺の言葉に耳を傾けてくれたのだろう。

さっきとは違いすこし落ち着いて心配そうな顔でじっと俺の顔を

見つめている。

ちゃんと最後までいうからそんな顔すんなって。

 

 

「だからその…約束する。

ちゃんと..言うから。

考えて…答え言うから一緒に戻ろう?」

 

そう言って俺は由比ヶ浜に向けて手を差し伸べた。

由比ヶ浜を少しだけ微笑んで頷くとその手を掴んだ。

俺もほんの少しだけ微笑むと彼女は潤んだ瞳から再びぽろぽろと

涙がこぼれ両手を俺の肩に回してきた。俺はそのまま抱きしめると

彼女は再び泣き始めその泣き声は公園に大きく響いた。

自分の夢の中にいた由比ヶ浜とのデートで俺は思ってしまった。

本物がこういうものだと。

でも所詮夢なのだ。夢は結局夢でしかない。

それを現実にすることで本物が完成する。

それが多分俺が欲している本物なんじゃないかと

抱きしめる彼女の温かさと泣き声を聞きながら

俺は考えていた。

 

 

 

 

 

もう大丈夫か?」

 

「うん..ありがと」

 

ようやく泣き止んだ由比ヶ浜は俺から両手を離した。

顔をあげて笑顔を見せた由比ヶ浜はいつもの由比ヶ浜だ。

やれやれ..ようやく由比ヶ浜の夢もクリアといったところだ。

 

「でも..どうやってこの夢から

抜ければいいの?」

 

「え?お前知らないの?」

「えーと...説明書とか読んでなくて...」

 

 

おいおい取説は必ず読まないと。

契約書とかもちゃんと読まないといつ詐欺の罠があるかわからんぞ。

人のこと言えないけども。

てか由比ヶ浜も俺も夢の世界から抜け出す方法ないんじゃないの?

 

陽乃さん具体的な方法いってないよね?

何が長いからあとで教えるだよ。

肝心なことを後回しにしやがって....

 

 

 

「あ、ようやく終わった」

 

「先輩達ほんとにながーい」

 

聞き覚えのある声が公園の入口から聞こえてきたので

振り向くと陽乃さんと一色がこちらに向かって歩いてきていた。

 

「どこいってたんですか..」

 

「あーごめんごめん。いやさーいざビルに入ったら誰もいなくてー

比企谷君に伝えようと思ったんだけどなんか見つからなくて。

そしたら比企谷君が走ってどこかにいくの見つけたから

あとつけたらってわけ」

 

「はあ…」

 

要するに途中から面白半分ですよね、ええ。

呆れる通り越してもはや何も突っ込まんぞ。

 

「てなわけでガハマちゃん、おひさー」

 

「結衣先輩、お久しぶりです!」

 

「ひ、久しぶりです..」

 

気軽に挨拶する陽乃さんと

びしっと敬礼してあざとく挨拶する一色。

何か深い意味ありそうで怖い怖い..

牽制でもしてるんかね?

 

 

「あ、そうだ。それで陽乃さんに聞きたいんですけど」

 

「何々?お姉さんのことならなんでも答えちゃうよー」

 

「いえ、そういうことでは..」

 

と返すもいつの間にか目の前に立たれ頬をつつかれる。

ん?と笑顔で聞き返してくるがいつも通り手で払うと

えーと残念そうな顔みしてため息をつかれる。

なんで俺が悪いみたいになってんの..

 

「せーんーぱーい」

 

「ヒッキー..」

 

んで横を見たら一色が頬を膨らませながらこちらを見て

由比ヶ浜もあははと小さく笑うの心配そうに見ていた。

いや集団でいじめはよくないよ..

喧嘩は1対1って先生に教わったよね?

最もいじめと喧嘩って根本的な問題からずれてる気するが

議論したら朝まで語れる自信あるんで..べ、別にいじめられてなんかねえよ!

 

 

まあそんなやり取りをしつつ

陽乃さんに今回のことを細かく説明した。

 

「ふーん..私が知らないこともあるもんだ」

 

「それが意外だったんですよね..」

 

「私が何でも知ってるように見える?」

 

 

うん。だってどこぞの何でも知っているお姉さんに

キャラ似てるもん。どちらにしても恐怖感はあるけど。

 

「さて...どうしよっか。

ガハマちゃんは自分の夢だから問題なく

出れるけど他人の夢の中だから

私と比企谷君、一色ちゃんはアウトなんだよねー」

 

「え?どういうことですか?」

 

「あー言い忘れたけど

自分の夢の中からじゃないと

現実に戻れないんだよね」

 

どうしてこの人はそういう大事なことを今更言うのか。

もっと早くいえよ、この状況だから言うけど。

声に出せないのがあれだが。

 

 

しっかしまじでどうすんのー

ほんとに帰れないよ俺...

 

 

こんな感じで頭を悩ませていると

あのーと言いながら一色が手をあげた。

 

「別に帰れますよ?」

 

「へ?」

 

「だから自分の夢の中じゃなくても

別に帰れますよ?」

 

「いやだからどうやって..」

 

「これを使えば」

 

と言いながら一色はごぞごぞとスカートのポケットから

薬瓶を取り出した。え、何それ?毒薬?

ドラえもんのポケットから道具出すときの音楽みたいに

テッテレーとした感じの雰囲気とまるで合わない。

 

「まあこれ飲んで寝ればなんか夢との接続が切れて

自動的に目が覚めるらしいです」

 

「ほえー」

 

由比ヶ浜珍しそうに薬瓶を見ている。

陽乃さんも指で顎に触れつつ不思議そうに見ていた。

 

「てか一色ちゃん、これどこで手に入れたの?」

 

「持ってきたというより初期装備ですね、これとかもですけど」

 

と言ってアイフォンをとりだした。

しかも最新型の7じゃないですか。俺アイフォンじゃないけど。

 

「私が使ってる端末は主に現実との干渉を強くするために

夢の中でも現実と電話できるようにしたり

すぐに夢から戻れるように

色々とアイテムがあるらしいです」

ほう…さすがだね。

夢が壊れても問題ないというわけか。

そう、アイフォンならね!

 

「んー信じられないな。

てかその端末どこで手に入れたの?

君がどうやってここまできたのかも

お姉さん気になるなー」

 

うわー出ましたよ女性相手によく使われる

雪ノ下陽乃の特性の作り笑顔。

当然その笑顔の裏の心理を知った一色はひっと

怯え俺の裏に隠れてしまった。

 

「おい俺を盾に使うな」

 

「いやまあだって..」

 

 

「比企谷くーん。わかってるよね?」

 

 

当然俺もこの人に逆らえる状況ではないので

まあここはね..仲介役ということで。

 

「まあ俺もそこは気になるから話してくれないか」

 

「んーまあ先輩なら..えーとですねそもそも私が手に入れたというより

学校に届いたんです」

 

「届いた?」

 

「それも奉仕部の部室にです」

 

部室?今あの部室は新学期始まって以来誰も使ってないはずだ。

最後に使ったのは俺と陽乃さんが二人で話し合いをしたときくらいなはず。

 

「部室の前に小さい小包がおいてあって差出人不明です。

まあ落し物ということで生徒会で回収して気になるんで開けてみたら..

っていうわけです」

 

いや勝手に開けたらまずいでしょ。

落し物は交番に届けろといっただろ。ちなみに最近は

財布を届けても持ち主から「十万入ってたのにない!お前が盗ったな!」

と疑いをかけられ裁判沙汰になるとかならないとか。

怖い。見つけてもそっとわかりやすい位置に移動するだけにしようかな。

まあ多分届けるけど。

しかし陽乃さんは何かわかったらしく

 

「ふむふむ..なるほどなるほど」

と小さく頷いていた。

 

「何かわかったんですか?」

 

「まあ推測だけど。なんとなくはね」

さすがは何でも知ってるお姉さんカテゴリーの一人だ。

正直あげてみてもそのカテゴリー十人も満たないけど。

 

「で?とりあえずどうすればいいですか?」

 

「そうね..一色ちゃん。それ見してくれる?」

 

「あ、はい」

 

と薬瓶を陽乃さんに渡す。

陽乃さんはそれを受け取り珍しそうに眺めた後

「とりあえず今は信じるとしますか。

詳しくは帰ってから色々と調べるとして」

 

「はあ..で雪ノ下は?」

 

「一度帰ってからだよ。

 

ガハマちゃんも連れて行きたいけど..」

チラっと陽乃さんの視線は由比ヶ浜のほうにむけられ

うう..と小さくうなっている彼女を見た後、

 

「比企谷君はどうしたい?」

 

「..俺は連れて行きたいです。さっきもそういうふうに決めたんで」

 

「ヒッキー..」

 

「まあそりゃそっか」

 

ここで由比ヶ浜を連れて行かなければならないのは

俺の中では決定事項だ。

今更引き下がれと言われても簡単には引き下がらないだろうし。

 

 

 

「とりあえずまずはガハマちゃんの夢から出ようか」

 

「そうですね..あ、結衣先輩。電話番号教えてもらっていいですか?

念の為交換しといたほうがいいと思いますし」

 

「あ、そうだね。ちょっと待ってね」

 

と由比ヶ浜も胸ポケットから携帯を取り出して

二人仲良くキャッキャッとはしゃぐ声が聞こえる。

ん、まて。何故俺には携帯がないんだ?

 

「えーともしかして皆さん携帯をお持ちで?」

 

「「「うん」」」

 

と三人同時で返答が帰ってきた。

ええ..何で俺だけないの?いじめ?

夢でもそんな扱い?

 

いや待て。

確か自分の夢の中にはスマホがあったけど

もしかしてあれがそう?

え?わかりづらいよ。普通に夢の中の付属品だと思ってた。

 

「もしかして先輩ないんですか?」

 

「誠に遺憾ながら..」

 

 

全然遺憾と思わないが不公平なのは気に食わない。

 

 

「あー比企谷君のは多分何らかの事故で

元からないんでしょ。普通はついてくるはずなんだけどねぇ..」

 

事故じゃないんだよなぁ...

何かと難しくて気が滅入りそうだ。

 

「まあ先輩は携帯持ってても私ぐらいしか電話する相手いないんで

いいじゃないすか」

 

と由比ヶ浜と番号を交換し終えた一色が俺の目の前に来て

ニコっと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

いや歴史は動いてねえよ。

けど異常事態だった。

いきなり周り一体が黒くなり

由比ヶ浜や陽乃さんが急に消えた。

いるのは目の前にいる一色だけだ。

 

「な、なんだこれ!?」

 

「とにかくやばいですよこれ..」

 

一色は俺の腕をつかみ震えている。

いやまじで何が起こったこれ..

 

「陽乃さーん…由比ヶ浜―」

 

呼んでみるが何の返事もない。

 

もしかして由比ヶ浜の夢が壊れたか?

 

いやそんなはずはない。

だってその危機的状況は回避したはずだ。

じゃあこの状況をなんといえば..

 

 

「あ!先輩!あれ!」

と一色が指差す先に白い光が見える。

 

「行きますよ!ほら!」

 

と一色に手を引かれながら

そのままついていく。

白い光もだんだん小さくなっていくのが見えたため

急ぐ。

もうどうにでもなれ!と

俺達は消える寸前の白い光に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷君

 

 

 

 

ヒッキー!

 

 

 

 

先輩!

 

 

 

 

 

 

聞き覚えのある三人の声が聞こえる。

 

そしていつもと変わらない奉仕部の風景も見える。

 

もう一度四人で楽しく笑いたいな..

 

 

 

 

 

 

こうして最後の舞台へ向かうことになるが

 

これが雪ノ下と俺にとって何を意味することになるのか

 

この時何も考えてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、今回はかなり長い為

ここまで読んでくださりありがとうございます!

結衣編完結です。

さて色々と今回は複雑な点がありますので

説明させて頂きたいと思います。

今回の話ですが当初では7Pで区切り二つに分けての

投稿予定でしたが

あまりにも完成するのが遅いので時間をかけて

大幅な一つの増刊号みたいにしました。

たまにはあってもいいよね…?

そして今回セリフが本当に長いです。

説明的な部分でセリフが長いということもありますが

普通に考えればこういうのはあまりよくないと思ってます。

ですが読んでる方にわかりやすさとそして現状の理解を

少しでもして頂こうと思いこんなふうに書きました。

こういう形になってしまったのはやはり自分の文章力不足だと

考えています。

今後はもう少し考えていきたいと思います。

さて色々ありますがここまでの統括もしつつ今後のお話をすると

そもそもピクシブやハーメルン以外にもなろうとかでオリジナル小説を

投稿していますが
今年中にはこの夢の世界編を完結予定です。
私自身色んな作家さんと最近知り合い色々勉強させて
頂いてもらってる上で色んな作品を書いてます。
特にイベントに向けて作ったりとか
どこかのサークルに入ってるとかではないですが
とにかくやるのが好きな人なので..

俺ガイル自体本当に好きな作品なので今回非日常設定で
どこかとクロスオーバーするわけでもない作品なので
読者の方からみたら?って思う部分もあると思い
大変申し訳ないと思ってます。

一応結末はすでに決めておりそれにどう繋げていくかも
構成はできているのであとは文章力の問題です。
さて長くなりましたがいよいよ後半です。

最後まで素人作者を温かく見守って頂ければと思います。





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