女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている (通りすがりの魔術師)
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【番外編】
比企谷八幡は動けないでいる。


阪神淡路大震災の日に突然の番外編


感想欄や友人Kに番外編などもやってみたら?と言われて
『もしも、八幡がNEW GAME!ヒロインと学園生活を送ったら!?』
という発想から生まれました。

ちなみに作者は風邪を引いていたので今まで執筆できなかったのだ。だからストックはない。ついでに言うとダンまちにハマってる。原作買ったからそれの二次小説書きたい。



とりあえずはっじまるよー!(八幡は高校1年生状態です)



 

 

青い空、白い雲、桜は散り草木が生い茂る季節。

それは春と夏にある季節。名付けるなら…中春中夏という安直なネーミングだろう。

 

 

春は別れと出会いの季節、夏は遊びと運動の季節。それならば桜が散った後の季節は新たなる出会いをさらに広げる季節といえる。

 

 

それは普通の高校生達の話。この俺、比企谷八幡は違う。

 

 

始まりというのものは、希望に満ちていて素晴らしいものであると俺は思っていた。だが、現実は非情だ。

 

 

学校にしても恋にしても、何事も始まりが肝心。人間というのは顔とか雰囲気でその人をランク付けする。顔も雰囲気もあまり宜しくない俺は挨拶や世間話やらで自分の印象を変えてみることにした。そのために買ったばかりの携帯にアラームを設定し、鏡の前でおはよう!おはよう!と連呼する様はまさに甘い蜂蜜系音楽の主人公そのものだっただろう。入学式の1時間前に家を出て、俺は新しい高校生活に胸を馳せた。

 

 

 

のだが。

 

 

 

もし、仏様や神様がいるのだとしたら。多分、俺は恐ろしい程に嫌われている。そう思ってしまった。

 

 

合格発表を受けてから道に迷わないように春休みに4回も往復した道を進む中、会社に向かう人、俺と同じく学校に向かう人、ジョギング中の人、犬の散歩をしている人。

 

 

そんな人達とすれ違ったりしながら、前を進んでいくと女の子が大きな声で誰かの名前を呼んだ。その方向を見れば向かい側の歩道から犬が飛び出していた。それを見た時、俺の目はもう一つある物を捉えていた。アニメや漫画でよく金持ちが乗り回している送迎車、黒い車体に長いボディ、リムジンだ。それが飛び出した犬に反応できずに耳をつんざくようなクラクションを鳴らした。

 

 

そして、その後だ。体は自然に動いていた。自転車を乗り捨てて、ガードレールを乗り越えると一気に走り込む。犬を抱き抱えてリムジンの来ていない車道に出た時に俺は安堵を覚えた。しかし、ここで体をローリングでもさせておけばよかったのだろうか、飛び込んで宙に浮いた足はリムジンに大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

その一撃で俺の意識は刈り取られたが、朦朧とした意識の中見えたのはキャンキャンとまるで俺を心配してくれるかのような声を上げていた怪我一つない犬の姿だけだった。

 

 

目が覚めた時には知らない天井の下にいた。俺が目を開けて周りを見ればそこにはスーツ姿の両親と学生服の妹が目に涙を浮かべていた。そこからあとのことは多く語ることでもないが、おそらく二度と体験しないであろうことであった。

 

 

弁護士の先生は来るわ、俺を轢いたリムジンを運転した運転士やそれに乗っていた娘の母親もペコペコと頭を下げていた。どうやら、入院費やらその他もろもろのお金ももらったらしく、松葉杖をついて歩けるくらいに回復して家に帰れば風呂が広くなっていた。

 

 

それから1週間。俺は何事もなかったかのように学校生活を送っている……わけがない。俺の友達を作ろう!大作戦は見事に撃沈。むしろ、逆に入学ぼっち確定ゾーンに入っていた。

 

 

新しい仲間と友情を育むオリエンテーションなどはとっくに終わっていて、クラス内にはいくつかのグループが出来ていた。その中に俺のような怪我人が入れるわけもなく、教師達から渡されたプリントやらの提出に追われていてそれどころでもなくなっていた。

 

 

この一連の出来事から学んだことがある。

 

 

 

この世界には神も仏もいない。

 

 

 

それが俺の出した結論である。

 

 

 

 

高校デビューに見事に失敗どころかチャレンジすらできなかった俺は今日も1人で松葉杖をついて階段を上って、廊下を渡って自分の教室へと向かう。

 

 

教室の扉は開いていてホームルーム前に来れば朝練がある者以外はたいてい揃っている。入学ぼっち確定コースの俺だが、まだ部活に入って友達をゲットするという手段もあるが、運動部に入ったとしてもこの足ではしばらく何も出来ないし、文化部に入ったとしても長続きしない。というか、人と上手く付き合えないのに部活に入っても爆死するだけだ。

 

 

自分の席につくと松葉杖をロッカーに寄りかからせる。幸い俺の席は一番後ろでロッカーの前と荷物が非常に取りやすい。椅子を少し動かせばロッカーから荷物を取れるのだからこれほど楽なことは無い。それに最後尾というのは俺のような者にはベストプレイスでしかない。これで端っことかなら大助かりなんだがな。

 

 

しかし、それもホームルーム教室での授業だけ。英語や数学の授業は少人数制であり、それぞれ別の教室に移動しなければならない。朝のホームルームが終わり委員長が挨拶をすると教室は騒がしくなる。次の授業ダルいだの、提出課題が終わってないだの。

 

 

あの程度の低い会話をするのが友達なのだろうか?あれくらいなら電柱や鏡とでもできるだろうに。俺なら自分で聞いて自分で答えたりしてるぞ。こういうのを自問自答という。

 

 

松葉杖を手に取って席から立ち上がる。あ、やべ。松葉杖を両手で持っちゃったら英語の用意持てないじゃん。小生一生の不覚でござる。やっぱり、完治してから来るべきだったかなと軽く後悔したが別に松葉杖一本でも大丈夫か。ほら、一本の矢でも二本なら……あれ?使い方違うくない?違うな。これが自問自答である。

 

 

よくよく考えればこういう時は誰かが助けてくれるもんだろう。まぁ、俺は親しくなきゃ助けないし、下心でもないと助けない。俺が助けるくらいだから、他の人でも助けるだろう。そんな考えで生きていたのにどうしてあの時犬を助けたのだろうか。周りに俺以外いなかったからか、それとも俺なら無傷で助けれると思い上がってしまったからか。

 

 

思い出したら恥ずかしくなってきた。チャイムが鳴る前にさっさと移動してしまおう。今の俺は早さが圧倒的に足りないのだから。そう思って英語の用意を手に持とうとした時は「あの」と声をかけられる。

 

 

ゆっくり振り向いてみればそこにいたのは薄く紫がかったツインテールに中学生に見える可愛らしい童顔とそれに見合った華奢で小さな女の子がいた。

 

 

「それ、持とうか?」

 

 

 

それ、とはこれのことであろうか。俺は僅かに触れているノートに一瞬、視線を落とすとすぐに目の前にいる女子に戻す。

 

 

「…いいのか?」

 

 

遠慮がちに尋ねるとその女子は明るい声音で返す。

 

 

「うん、足、怪我してるんでしょ?だから持つよ」

 

 

相手がそう言ってくれるのなら遠慮なくそうさせてもらおう。ほら、人の善意はありがたく受け取っておけというし、ありがたくお願いしよう。

 

 

「悪いな……え、えっと」

 

 

名前を呼ぼうと思ったが全く出てこない。そりゃそうだ。俺だけクラス表見てないし、プリントで配られたけど課題で目を通す暇もなかった。覚えたとしても顔と名前が一致するとも限らないし。御託を並べて自分を誤魔化していると、女子が「あ」と声を上げる。すると、胸元のリボンを直して笑顔を向ける。

 

 

「涼風青葉。よろしくね、ヒキタニくん!」

 

 

訂正する気も起きず、俺は「お、おう」と引きつった顔で言うと、両手に松葉杖を持って英語教室へと向かった。

もちろん、それが俺の新しい高校生活の二度目のトラウマとなったのは言うまでもなかった。

 

 

 

###

 

 

 

あれからしばらく、英語の移動教室の時は涼風に荷物を持ってもらって移動していたが、ゴールデンウィークが明ければ包帯も松葉杖も取れて何の不自由もなく日常生活を送れるようになっていた。

 

 

これであとは失われた体力の回復と体育のスポーツテストをすれば本当にいつも通りである。

 

 

そう思っている俺もいました。

 

 

 

「ヒキタニくん、ご飯食べよ!」

 

 

 

4限目の授業が終わって昼休みになり、足が自由になった俺はこの学校で安心して平穏に昼食をとれる場所を探しに行こうとしていたのだが、突然、涼風にランチのお誘いを受けた。答えはNO!と言いたいところなのだが、こいつには今まで荷物を持ってもらった恩義がある。それを裏切るほど人間までは腐っていない。目は腐ってるけど。

 

 

俺が席につくとそれを承諾の意図と取ってくれたのか涼風は他のクラスか食堂か知らないが席主のいない、俺の前の椅子を引っ張り出すとそこに座る。

 

 

「いやー今日いつも一緒に食べてる友達が休みでさ、1人で昼ごはんって寂しいから。ヒキタニくんがいて助かったよ」

 

 

別に聞いてもいないのに、説明してくれてありがとう。おかげで「こいつ、まさか俺のことが好きで一緒にご飯を……!?」とか思わなくて済んだ。ありがとう。でも、泣いていいかな?

 

 

「まぁ、そりゃよかった」

 

 

俺が適当に返すと涼風は笑顔でタコさんウインナーを口に運ぶ。どうでも良くない話、涼風は可愛い。おそらく、クラス女子の中でもトップFIVEに入る可愛さではある。だが、ジャンルが少し特殊でダントツで幼い可愛さなのだ。いわゆる、合法ロリというヤツである。たまに聞く男子の会話では、女子達について話している者達が幼すぎて涼風の話になると自分が犯罪を犯そうとしているのではないかという錯覚を起こすくらいである。

 

 

無論、本人はそんなこと気付いているはずもなく、俺の前で美味しそうに家族か自分で作ったお弁当を頬張っていた。もしかしたら、これはチャンスなのではないだろうか。高校デビューに失敗した俺への救済なのではないだろうか。ここで女の子と仲良くなることでラブコメイベント発生率を高めるという…。

 

 

そんなわけがない。そんな期待は身を滅ぼすだけだと中学時代に学んだばかりじゃないか。もし、涼風に告白してそれがクラス連中に知られれば俺はもう家から一歩も出れなくなってしまう。

 

 

 

「そういえばさ、ヒキタニくんはいつもご飯どうしてるの?」

 

 

軽くトラウマスイッチを押しにかかっていたところで涼風が止めるように俺に尋ねてきた。

 

 

「いちいち動くのも面倒だからここで食ってた」

 

 

「あ、そうなんだ。じゃあ、一緒に食べる人とかは?」

 

 

「いない」

 

 

「……ごめん」

 

 

 

謝るなら聞かないでくれませんかね。でも、別に1人で食べる方が気が楽でいい。誰かと一緒に食べてると先に食い終わったりしてると何したらいいかわかんねぇし。逆に待ってもらうのも嫌だしな。そういうことからやっぱり孤独のグルメって最高ですよね。

 

 

「あ、じゃあさ!これから私と今日休んでる友達と食べない?ほら、いっぱいいた方が楽しいし」

 

 

確かに涼風は楽しいかもしれないが、その今日休んでる友達というのは困惑しないだろうか。1日ぶりに学校に来たら知らない人と一緒にご飯を食べることになってるとか、なんなんだそれ。俺がその友達ならもちろん嫌だね。しかも、異性なら尚更だ。それでイチャイチャされたら椅子を投げつける自信があるくらいにな。

 

 

「いや、それは遠慮しとくわ」

 

 

「え?なんで?」

 

 

「あー、まぁ、ほら、その友達は涼風と2人で食べたいかもしれないだろ?なのに知らないやつが来ても困るしいい気分はしないだろ?」

 

 

俺が言うと涼風は首を傾げて「…うーん、ねねっちってそういうの気にするかなぁ…?」とブツブツ何か言っていた。

 

 

「それに俺は1人で食べる方が楽だしな。だから、気持ちだけ受け取っとく」

 

 

「あ、そうなんだ。……じゃあ、私と食べるのも迷惑だった…?」

 

 

うぐっ、その申し訳なさそうな顔を向けられるとなんか何にも悪いことしてないのに罪悪感やらが芽生えてしまう。これが合法ロリの実力か……。

 

 

 

「いや、そんなことない。何回も荷物持ってもらったしな」

 

 

「そっかあ…よかった」

 

 

涼風が安堵したように肩を撫で下ろすと、携帯を取り出してそれを机に置く。

 

 

 

「あのさ、LINE交換しよ!」

 

 

LINE……?ナンデスカソレハ?あれか?線のことか?線を交換するって何?俺が持ってる線って前立腺しか知らないんだけど?大量にハテナを浮かべているとそれが顔に出ていたのか涼風が「えっ」という顔をする。

 

 

 

「もしかして、知らない?」

 

 

Yes, I am!と言わんばかりに頷くと涼風が1からレクチャーしてくれた。どうやら、簡単なメッセージ送信アプリのことらしく、文字による意思伝達の他、スタンプという表情や文字を簡単に伝える機能やタイムラインと呼ばれる今日の出来事を友達に開示するということもできるらしい。

 

 

「なるほど、だいたいわかった」

 

 

俺はそう言うと携帯を取り出して開くと涼風に渡したが、渡された方はかなり戸惑っていた。

 

 

「あ、やり方とか色々わかんねぇからやってもらえると助かるんだが」

 

 

 

「あ、了解!」

 

 

そう言うと目にも留まらぬ速さで作業を済ませる。あれだな、あれくらいタイピング早ければ箱の中の魔術師とかになれるんだろうな。とか思っているとアプリのダウンロードが済んだらしい。電話番号と名前とIDの入力は俺がやらなければいけないらしく、それだけ済ませて携帯を返すと残りの設定を終わらせて再び俺の手元に携帯が戻ってくる。

 

 

 

「これで友達登録も完了だよ」

 

 

「おう、サンキュな」

 

 

お礼の言葉を述べると昼休み終了のチャイムが鳴る。手元に目を落とすと携帯の画面には友達(1人)、【青葉♣️】と表示されていた。

 

 

「またLINEするね、ヒキタニくん」

 

 

もし、こいつと、涼風青葉と友達になるのなら。ここではっきりさせておかねばならないことがある。

 

 

 

「なぁ、涼風」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

この純粋な子にこの真実は伝えづらい。でも、言っておかねば。もしかしたらこれから通る道なのかもしれない。だけど、早めに教えておかないと。後悔するのはお互い様なのだから。

 

 

「俺の名前……」

 

 

 

「……うん」

 

 

 

「ヒキタニじゃなくて比企谷(ひきがや)なんだ」

 

 

頬を掻きながら少し目を逸らしながら言って、チラリと顔を見れば辱めを受けたかのようにその顔はりんごのように真っ赤に染まっていた。

 

 

 

真実がいつも残酷だというのなら、嘘は優しいのだろう。俺は心からそう思った。半月ほどの付き合いだったが俺は涼風に何度も間違った苗字で呼ばれた。しかし、始めに訂正しなかったからそれは変わらず。どうせ足が治れば終わる関係だと思っていた。だが、友達になった。ならば、本当の苗字の呼び方を伝えるのは当然だろう。

 

 

 

その後とその日の夜、俺がひたすら謝られたのはどうでもいい話だ。

 

 




青葉は八幡に「俺の名前……」と言われた時、「呼んでくれないか?」と言われると思ったがまさかの苗字間違いというダブルアタックを受けて悶絶したいくらいに恥ずかしくなってました。


【ホントのあとがき】

ほんとはひふみ先輩と同学年で同じ学校だったら……というのを書くつもりだったんだ。嘘じゃあないんだ……。

まぁ、NEW GAME!のメインキャラだし!本編では八幡と同い年だし!いいよね!
一応、5話構成です。どちらを先にやるかは特に決めてませんが書けたら出します。(今のところストック0)



なので適当にポチポチ書いて出します。
もしかしたらダンまちのやつにシフトチェンジしちゃうかもしれませんが番外編は完結させます。多分、そのうち、気が向いたら……


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イーグルジャンプお料理対決 ~はじめの1歩は甘くお好みで!~


1周年記念の1発目。というか、この話が延々と続きます。
ストックできてからやろうと思ったんですが、そうもいきそうにありません。

理由としてはアニメよりも早く進みすぎてるかもしれないからです。なので、しばらく番外編で繋ぎます。番外編なので時系列は特に気にしてませんのでご注意を。


それと、新キャラ(紅葉、ツバメ)メイン回が多かったからという理由もあります。今回は出てこないけど、全ヒロイン出るので!お楽しみに!投稿頻度は今月中に終わればいいなーのレベルです。



料理対決の概要とキャストの方は本文見てください。



では!


 

 

とある日の朝、俺は突然起こされるなり、目隠しをされた。理解が追いつかぬまま背後に銃口と思わしき物を突きつけられ、そのまま車に乗せられる。僅か数分しか経っていなかったであろう走行時間は目隠しのせいもあって俺には何時間にも感じられた。ついに目的の場所に着いたのか、車から降ろされ歩くこと数秒、目隠しを解かれたそこに広がっていたのは…

 

 

 

 

「パンパカパーン!イーグルジャンプお料理対決~」

 

 

 

見事な厨房に野菜やお肉、さらには魚などの豊富な食材にそれを調理するためのフライパンやまな板、包丁、ボウル他……そして味を整えるための調味料が数多く揃えられていた。

 

 

 

「今日の司会進行は比企谷八幡の世界でたった1人の妹、比企谷小町が努めさせていただきます!」

 

 

おもちゃのマイクを持ってテンション高々な表情を見せる我が妹に俺は目頭を押さえる。

 

 

 

「小町ちゃん、これは何?」

 

 

 

「イーグルジャンプ主催のお料理対決だよ?」

 

 

 

それはさっき聞いたからわかる……いや全然分かってないんだけど。言葉では分かってても脳が理解に追いついてないんだ。

 

 

 

「まぁ、細かいことは抜きにしてちゃちゃっとやっちゃおう!」

 

 

いつの間にか降りてきていたスクリーンにプロジェクターから発せられる光で今回のイベントの概要が映し出される。

 

 

1、イーグルジャンプ社内で一番料理が上手いのは誰だ!?ということで決まりました。主催者の名は伏せさせていただきます。

 

 

2、料理対決とか言ってますけど、特に順番を付けたりしません。が、やっぱり1位の人は決めたいと思います。

 

 

3、この場はアピールのチャンス!頑張ってくださいね☆

 

 

 

 

料理対決だけど、順番はつけない。ただし、1位は決める。ということは把握はしたが、最後の一行は小町の書いたやつで間違いないな。

てか、ここどこだよ。それとお前なんで制服で来てるんだよ。3年生だろ、受験あるだろ?こんなことしてる場合じゃないだろ。ほんとに誰だよこんなこと企画したやつ。

 

 

 

「それでは今回の対決の審査員をご紹介しましょう!」

 

 

俺の疑問もお構いナッシングと、小町がゴングを鳴らすと部屋が急に暗くなり俺の座ってる席がライトアップされる。

 

 

「まずは比企谷八幡!来年で20歳です!小町的には早くガールフレンドの1人でも紹介して欲しいですねー」

 

 

バカやめろ、そんな目で俺を見るな。いいんだよ、彼女なんて。べ、別に欲しくなんかねぇーし!そろそろ、あのもう1人の僕を旅立たせたいし?いや、そんなことないんだからねッ!ガールフレンドはいつだって俺の胸の中に……ラブプラス最高!

 

 

 

「次に葉月しずくさん!初めましてで成り行きで頼んだら快くOKしてくれました!兄がいつもお世話になっております」

 

 

「いやいや、こんな楽しそうなイベント参加しない手はないからね。私、料理は作るより作ってもらう派だから。それと比企谷くんにはどちらかと言うとこちらがお世話になってるよ」

 

 

 

ペコペコ頭を下げる小町に気にしなくていいよと手を振る葉月さん。てっきり、この人主催かと思ったんだけど、どうやら違うらしい。次に葉月さんの隣の人物が指をさされる。

 

 

「ついでに材………?あ、材木座義輝先輩にお越しいただきました!」

 

 

「我の紹介だけあっさりしすぎてない!?不敬!不敬であるぞ、八幡!」

 

 

えぇ…俺に言われても困るわ。てか、お前何様だよ。完全にイーグルジャンプ関係ないじゃん。ちょっとクリスマスに顔見せして迅雷が如くされてやられてたじゃん?なんだ、シナリオライターにでも売り込みに来たのか。

 

 

「ええと、材木座先輩は戸塚さんが来れなかったので代理です」

 

 

 

あ、そういうこと。そういえば、戸塚は埼玉の大学だもんな。今頃、じゃがいも小僧にナンパされてるかもしれないな。ほら、戸塚可愛いし。

 

 

それにしても、材木座っていうチョイスはおかしいと思うぞ。他にいたろ。ほら、バイトで来てたじゃん?かわ、川越?だっけ?僕と君以外の全人類を抗う間もなく盛り付けてくるやついたろ。いい加減に覚えないと怒られるかなぁ。

 

 

「それでは早速やって参りましょう!エントリーナンバー1番!『名前がはじめだから一番最初に出すことにしました!』篠田はじめさんです!」

 

 

「そんな単純な……」

 

 

 

 

呟くと、ぶしゅゅゅ!!と白い煙がスポットライトが照らすドアから吹き出し、そこから堂々とした顔ではじめさんが現れる。後ろにはエキストラなのか、何者なのか。とりあえず黒服のが台車でボウルで覆われたはじめさんの作った料理を運んでくる。

 

 

「え、調理済みなの?あそこの素材やら道具はなんなの?ねぇ?」

 

 

「まぁまぁ比企谷くん。そういうのは気にしなくていいじゃないか」

 

 

「うむ!この場において重要なのは料理であり、食材は二の次だ!」

 

 

いや、料理作るのに食材が一番重要だろ。何言ってんだよあんたら。あそこの食材どうすんだよ?冷蔵しないと腐るよ?

 

 

 

「では、はじめさん。料理をどうぞ!」

 

 

「うん!私のはこれだぁー!!」

 

 

勢いよく開かれたボウルから湯気が立ち上り、そこからもくもくとゆっくり料理が形を表していく。

 

 

 

「む、カレーか」

 

 

材木座が言うとはじめさんはうんと頷く。

 

 

 

「私の料理は、カレー!甘口だよ!」

 

 

甘口か。基本甘党な俺だが、カレーは中辛派なんだよな。あの身体を芯から温めてくれる感じと程よい辛さが鼻腔や味覚を刺激してくれる。

 

 

 

別に構わないのだが欲を言えば、福神漬けとからっきょうも欲しいところだな。なんであんなに調味料があってそれらがないのか不思議だ。

 

 

 

「というか、はじめさん料理できたんですね」

 

 

 

「それくらいできるよ!!」

 

 

 

「うわー相変わらずお兄ちゃんはダメだなー」

 

 

仕方ないじゃん、この前の形が不揃いのおにぎり見たらそこまで上手いとは思えんだろ。いや、でも、やっぱり料理は気持ちだよな。戸塚ならそう言うと思うんだ俺。

 

 

 

 

 

「とりあえず、せっかく出された料理なんだからちゃんと食べようじゃないか」

 

 

 

やはり、ここは一番大人な葉月さんがそう言うと、俺と材木座は頷き合ってスプーンを手に取り、カレーを一口ほど掬う。そして。

 

 

「あ、これ昔食ったことあるわ」

 

 

「我もポケモンカレーの味に似てるのを思い出した」

 

 

 

そうそう、確かポケモンシール欲しさに買ったわ。でも、パンのやつと違って紙のシールだったからガッカリしたな。しかも、あれ貼るとそう簡単に剥がれないんだよ。跡が残って気持ち悪い。

 

 

 

「うん、やっぱり女の子の作る手料理はいいね。愛くるしさが味に染みてる気がする」

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

もう食べ終えて口周りを綺麗に拭きとりながら葉月さんが言うと、はじめさんはやったぁと笑顔を浮かべる。

 

 

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃん、はじめさんのお料理どう?美味しい?」

 

 

「美味い。でも、小町の作ったやつの方が……むぐごご?」

 

 

 

「そういうのは2人きりのときにしましょーね!」

 

 

せっかく褒めてあげようと思ったら、怖い笑顔で迫ってきてバナナを口に放り込んできたから上手く最後まで喋れなかったぜ。カレーとバナナって合うんだな。多分、甘口なのが影響してるんだろうけど。

 

 

 

「ここははじめさんの料理を褒めないと」

 

 

 

そう言われてもなぁ。美味しいといえば美味しいのだが、味付けとか肉とか野菜の煮込み具合は小町がナンバーワンでオンリーワンだし。そこは曲げたくないんだよな。口の中に入っていたバナナをすべて胃の中に入れて水を飲む。バナナうんめぇ~。

 

 

 

「ほら、早く褒めてもらいたくてモジモジしてるじゃん。早く早く!」

 

 

 

気のせいかもしれないけど、小町ちゃんなんだかアホっぽいよね。アホガールにでもなったんですか?ってくらいに。

 

 

 

小町の言う通りモジモジしてるはじめさんに目を向けると、お盆を体に押し付けてはじめさんにたわわに実った健康な果実を強調させていた。どこでそんな芸当に学んだんだと思ったら忘年会の場所決めの時に葉月さんが教えてたな。

 

 

 

「ま、まぁ、その、食べられないことはないです……」

 

 

 

「そ、そっか……はじめて作ったけど思ったより上手くいったみたいでよかった……」

 

 

 

ほっと一息ついて、右手を胸に当てて撫で下ろすはじめさん。名前の通りはじめにやって初めての料理を見事に成功させたようだ。

 

 

「じゃあ、次に参りましょう!エントリーナンバー2番!『はじめが1番ならうち2番行くわ』飯島ゆんさんです!」

 

 

おい、急だな。ちょっといい空気になってんだからもうちょっと待てよ。ガラガラと台車の車輪が転がる音が聞こえたと思うと、台車の上に置かれたゆん先輩の料理が現れる。さっきから引いてるその黒服の人は何者なの?あれ?金は命より重いって言ってる人の側近の1人か何か?

 

 

 

「えーでは、ゆんさん。料理名をどうぞ!」

 

 

 

「ほな、いくで、そりゃ!」

 

 

 

勢いよく皿を閉じていたボウルが外されて、ゆん先輩の作った料理がその正体を表す。水に溶いた小麦粉を生地として、野菜、肉類、魚介類など好みの材料を使用し、鉄板の上で焼き上げ、ソース・マヨネーズ・青のり等の調味料をつけて食する。

 

 

焼き方や具材は地域によって差が見られ、「関西風お好み焼き」「広島風お好み焼き」など、様々な様式のお好み焼きが存在している。今回、ゆん先輩作のは豚肉ベースにソース、マヨネーズ、鰹節をトッピングした関西人の究極人智、お好み焼きである。

 

 

 

「ほな、召し上がれ」

 

 

 

ジェントルマンのようなお辞儀でそう言うゆん先輩に俺は手を合わせて「いただきます」と口にしてから、箸をとる。

 

 

こういうのは千葉県民である俺には馴染みのない料理ではあるが、もんじゃ焼きとかの鉄板焼きで作る料理にはある程度の寛容がある。

 

 

「1枚を3人でわけるのか」

 

 

 

「そのようだな。で、誰がやる?」

 

 

 

「私がやろう。何か切るものはないかな?」

 

 

 

 

さっきのカレーのこともあり、俺に関しては追加でバナナもあったから1人1枚だとキツかったのでこれはありがたい。そもそも、イーグルジャンプ主催ということはこの後も料理出てくるんでしょ?KMAPビストロみたいな感じでチームで出してくれた方がよかった気がする。俺の腹は無限に入るわけじゃないから。

 

 

一番歳上で上司である葉月さんに分けてもらうのは何とも部下としてどうなのかと思ったけど、俺は直属してるわけじゃないからいい気がしてきた。ダメなんだけど。でも、プライベートな場だし俺分けるの苦手だからこれが最善だと思うんだ。ほら、俺と材木座って飯行く友達とかいないから切り分けたりする必要ないじゃん?だから、必然的にそういうスキルが無いわけですよ。

 

 

 

「はい、比企谷くん。それと君も食べたまえ」

 

 

2人で感謝の気持ちを込めて頭を下げる。その時に材木座がメガネを落としたのだが、気にしないでおこう。箸でお好み焼きを一口サイズにしてそれを放り込む。キャベツのシャキッという噛み心地のよさとカリッと焼かれた豚肉のジューシーさ、それらをソースやマヨが包み込むことによって素晴らしいハーモニーを奏でるようだった。

 

 

 

「ご飯が欲しくなる理由がわかった気がする」

 

 

 

「せやろ?」

 

 

 

お好み焼きは主材に小麦粉を使ってるので米と同じく炭水化物なのだが、これはご飯があった方が箸が進むだろう。ずっと、炭水化物のオンパレードを食べる関西人のことおかしいと思ってたけどこれは……アリだ。

 

 

 

「すげー美味いっすね」

 

 

 

「…ま、まぁ、おとんとおかんの代わりに作ったりしてたからな」

 

 

 

「まじで美味いです。店出しましょうよ」

 

 

 

「いや…出して誰が来んねん」

 

 

 

若干照れたと思ったらジト目になるゆん先輩。静かに咀嚼して食べる葉月さんにもう食べ終わったのか爪楊枝で歯に挟まったネギや鰹節を取っている材木座。なんだかシュールだな。

 

 

 

「で、誰が来んの?」

 

 

 

「え?俺がいきますよ」

 

 

 

絶対とは言わないがたまにくらいなら。それくらいなら食べてもいいかもしれない。それに俺以外にも来てくれる人は大勢いるだろう。はじめさんとか涼風とか。残りのお好み焼きもパクパクと食べていると、ゆん先輩は髪をクルクルと指で回しながらそっぽを向く。

 

 

 

「ほ、褒め言葉として…受け取っとくわ…」

 

 

 

そう言って入って来たドアから部屋を出るゆん先輩の後ろ姿を見送って、興奮したような感じで小町がマイクを握る。

 

 

 

「うん、ナイスお兄ちゃん!この調子で次もいきましょーー!」

 

 

 

 

 

……これいつまで続くんだ?

 

 

 

 

そんな俺の心の呟きは、これから次から次へと現れる料理の前に消え去るのだろうと思いつつ、なんだかんだこの場を楽しんでいる自分がいた。







まずは最近出番の少ない同期組の2人でした。はじめさんもゆん先輩も可愛いんだよ。はじめさんは一緒に遊んでると常に童心の心でいれそうだし、ゆん先輩は可愛くあろうとしてくれることがすごく愛おしく感じれると思う。あくまで、作者の見解なのであくまでそういう考え方もありか、くらいでお願いしますね!






さて、主催者誰だよって?そりゃ俺だよ。



Q、どこがお金出してるの?
A、特別編だからと僕が魔術で作った金で出してます。
違法なので絶対ダメです。良い子悪い子は真似しないでね!できないって?そりゃそうか。





オマケ


料理を作る前の意気込み



はじめさん「あんまり、料理は得意じゃないんだ~。基本的にインスタントとかレトルトで済ませてるし、ゆんのお家で食べさせて貰うこともあるから。自分で作れるのは簡単な炒め物くらいなんだけど……ちょっと頑張ってみようかなって!」


小町「そういうのすごくいいと思います!それで、誰に一番たべてもらいたいですか!?」


はじめさん「えっ!?……あー、うん、それはノーコメントで…」




ゆん「うちは久しぶりにお好み焼き作ってみるわ。関東の人ってあんまり食べへんやろうから、美味しさを知って欲しいな」


小町「うんうん、兄とか私は鉄板モノはもんじゃしか食べたことないのでどういう反応するか楽しみです!」



after 楽屋的なところにて。



はじめ「八幡甘いの好きだから喜ぶと思ったんだけどな…。あんまり喜んでなかったなー……。よし!くよくよしてても仕方ない!次からもっと美味しくできるように頑張ろうー!おーー!」



ゆん「もし、会社クビになったらお好み焼き屋でも始めてみよかな……なーんてな。……ほんま、作って、よかったわ…」




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イーグルジャンプお料理対決 ~春と夏って感じ~

タイトルは無理矢理です。感想返してないけど読んでるよ。メガネ八幡の予定はないです。


ネロ祭楽しんでますか?僕はそんなことないです。ダビィンチちゃんで詰みました。ボックスガチャも18箱くらいしか開けてないです(泣)でも、ネロ2枚、ブライド1枚は美味しいです。でも、先にレオニダスとゲオルギオス育ててます。まぁ、多少はね?


今回の組み合わせは桜と海=春と夏みたいな感じです。
久しぶりに書いたからもう地の文とかわかんねぇな。淫夢バース面白くてシャドバにハマりました。それでネロ祭回れてないですよね(笑)勝率はお察し。





 

休みの日に連れ出されて辿り着いた先で待っていたのは煮てよし焼いてよしのイーグルジャンプお料理対決。久しぶりに誰かの手料理が食べれるというのは嬉しいが、そこに小町が含まれてないあたり八幡的にポイント低い。あと、どうして料理で対決することになったのかが正直訳が分からない。

 

 

他に無かったのか。ゲーム会社なんだから、自作ゲームで勝負!とならなかったのか。勝負でも色々あるじゃない。平和的にじゃんけんでもいいし、デュエルでもいいでしょ。デュエル開始の合図をしろとか言われたら俺するよ?

 

 

 

それに人間得意不得意があるじゃないですか。絵が上手くても料理は……みたいな人いそうじゃないですか。誰とは言いませんけど。

 

 

 

そんなこんなで始まった料理対決。あと何人控えてるかはさておき、1日中こうしているというのならかなりお腹に溜まってきそうである。

 

 

 

 

「では、次やって参りましょー!エントリーナンバー3番!『炭水化物ばっかりだと疲れるよね!』桜ねねさんです!」

 

 

俺の脂肪やストレスが溜まることなんて知らないですと言わんばかりに小町が楽しそうにマイクを取る。にしても、次そいつか。もう嫌な予感しかしねぇわ。呼ばれて出てきた桜は鼻歌混じりに台車を押してやってくる。黒服の人仕事取られてて可哀想なんだけど。

 

 

「さてさて、ねねさんは何をつくってくれたんですか?」

 

 

「桜餅!」

 

 

葉っぱに包まれた桃色の丸い餅。それを人は桜餅と呼ぶらしい。確か似たようなので福山雅治の曲の桜坂ってのがあったな。関係ないな。脳内で言うと誰も返してくれないから嫌なんだよな。

 

 

「ふむん、桜にちなんだ和菓子か。桜の葉で餅菓子を包んだ、雛菓子のひとつ……興味深い!」

 

 

 

「春の季語にもなってるらしいね」

 

 

材木座と葉月さんが桜餅についての知識を披露する中、俺はある一つのことに疑問を抱いていた。桜が桜餅を作ってきたのは、まぁ、名前と引っ掛けたものなんだろうとすぐに分かる。しかし、お餅を作る材料は確か餅米。つまり……

 

 

「結局、炭水化物じゃねぇか」

 

 

 

「んふー、作ってから気づいちゃった!てへ!」

 

 

いや、気づくの遅すぎだろ。なんだよてへっとベロ出したそのミルキースマイル。状況が違えば多少は可愛く見えたかもしれんが、炭水化物3連発はシャレにならんぞ。

 

 

「にしても、よく作れたな。餅って作るの大変なんだろ?」

 

 

よく分かんないけどぺったんぺったんするのに叩く人と水入れる人いるじゃん?あれって1人だと無理なんじゃないか。特に俺とか絶対無理だわ。それに和菓子って職人技なイメージあるからな。おじいちゃん、おばあちゃんが作った方がうまい説とかあるし。

 

 

「まぁねー!でも、遠山さんに手伝ってもらったからすんなりいったよー」

 

 

まさかの遠山さん万能説。あの人確かに性癖?はあれだけど料理の腕は確かだからな。多分、好きな人の胃袋から捕まえていくタイプ。それで逃さない感じの人。何故か寒気が。というか、イーグルジャンプ主催ってことはいるんだよなあの人。楽しみなようで、怖いような。1歩間違えれば死!そんな気がする。

 

 

 

「よし、実食といこうではないか」

 

 

葉月さんが桜餅をとり口に運ぶ。俺も同じように手に取ってしげしげと眺める。桜の葉に包まれた桃色の餅。こういう和菓子は修学旅行で本場であろう京都に行ったときに食べなかったな。あれは由比ヶ浜が後先考えずに買い食いしたり、俺がお金を使うのを渋ったからだったりするのだが。ひとまず、そんなことは置いといて食べるとしよう。

 

 

「む、これはなかなか」

 

 

「塩漬けしたのか…いいね」

 

 

パクリと一口で丸呑みした材木座と、少しだけ食べて目を輝かせる葉月さん。

 

 

 

「ねぇ、ハッチーどうどう?」

 

 

そして、まだ食べてないのに感想を求められる俺。早く食えということだろう。後ろで小町が腕をぐっと握って「ファイトだよっ!」とか口パクで言ってる。何を頑張れと言うのだろうか。

 

 

急かされるように俺は餅を口に入れる。葉月さんの言う通り、桜の葉からはうっすらと塩の味が感じられる。餅の中身はこし餡か。いいチョイスだ。嫌いじゃない。

 

 

 

「まぁ、うまいな。桜が料理できるのは…意外だったが」

 

 

「……ふ、ふふん!そりゃ私は天才ですから!」

 

 

 

どこの赤髪バスケットマンだよとツッコミたくなったが、おそらく分かってもらえないから口にするのはよしておこう。

 

 

「ほんとに美味いな。また今度、京都にでも行って食ってみるか…」

 

 

「え、桜餅は関東でも売ってるよ?」

 

 

な、なんだってー!そんな馬鹿な。こんなふつくしい餅が関東でも作られてるなんて信じられない。雪見だいふくが夏に売られてるくらいのショックだ。

 

 

「発祥は近江八幡市らしいけどね。……ハッチーって関西の人!?」

 

 

 

「いや、生まれも育ちも千葉生まれですから」

 

 

『八幡』って地名は割と色んなところにあるから。もしかして、俺有名人?お前超有名人じゃんとか言われる人もそう遠くないかもしれない。

 

 

にしても、近江ってことは滋賀県か。中部地方挟んでるからかなり距離があるのに関東まで伝わってくるものなのか。

 

 

「関東と関西で形って違うものなのか?」

 

 

「関東はクレープっぽくて、関西は普通にお餅って感じだね」

 

 

俺の問いに小町が答える。どうやら、俺と違ってちゃんと修学旅行で食してきたらしい。お土産を期待したけど、そんなものなかったよ。

 

 

「よし、じゃあハッチーまた今度食べに行こうね!」

 

 

 

「えぇ………ま、まぁそのうちな」

 

 

 

ちなみにこういう返し方は行けたら行くみたいな感じで絶対行かないやつの返しであるが、それもこの自由奔放ガールの前では無意味なのかもしれない。絶対なんてないからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デザートも楽しんだところで次に参りましょー!エントリーナンバー4!『そろそろ、野菜をとるべきです』阿波根うみこさんです!」

 

 

 

「どうも」

 

 

 

ハイテンションに反してのこのローテンション。隣で材木座が絶望的にかっこいいぜ!とか言ってるけど、大丈夫だろうか。そういえば、この2人が会うのは初めてなのか。

 

 

「お、うみこくんの料理かこれは楽しみだ」

 

 

にまりとイタズラな笑みを浮かべて言う葉月さんは無言で真顔のまま、台車から料理を運んで持ってくる。今までのようにボウルで蓋をしてるのではなく、サランラップなのは演出かなにかなのだろうか。中身丸見えで料理名はわかってるんだが、言わない方がいいのだろうか。

 

 

「では、うみこさん。料理名をどうぞ!」

 

 

「シンプルにチャンプルーです」

 

 

チャンプルー?あれ?ゴーヤはどこに?そんな考えが顔に出てたのかうみこさんは俺を見て口を開く。

 

 

「チャンプルーというのは沖縄の方言で『混ぜこぜにしたもの』という意味です。ゴーヤチャンプルはゴーヤを主軸にした時にそう言います」

 

 

「じゃ、今回はゴーヤ主軸じゃないんですか?」

 

 

一応、チラホラそれっぽいのが見えるのだが。他にも豆腐、キャベツ、もやし、人参、薄切りの豚肉やらが入れられているが、パッと見野菜炒めと相違はない。

 

 

「入ってはいますが、別にそう呼ばなくてもいいと思いましたので」

 

 

ドライだな。もっとツヴァイな感じで話してほしい。どんな感じかは俺にもわからないけど、きっとお兄ちゃんに甘えてきたり魔法少女になったりするんじゃないか。うみこさんがそんなことになったら誰が甘えられるんだ……羨ま……なんかあの黒服興奮してるけど大丈夫か。

 

 

 

「うん、まぁ、そこは地元の人の言うことだから任せるとして私達は食べるとしよう」

 

 

 

「うむ!レッツ!テイスティングタイム!」

 

 

ラップを開いて箸で野菜やら肉やらを食べていく。味付けはなんだ。塩胡椒だろうか、ほんのり甘い気がするが砂糖か?

 

 

 

「うみこさん、ゴーヤチャンプルに砂糖って入れるんですか?」

 

 

 

「えぇ。関東の人にはゴーヤは苦いかと思ったので砂糖を加えて甘く感じるようにしたのですが……お口に合いますでしょうか」

 

 

 

少し心配そうな顔を浮かべるうみこさんに俺は問題ないと伝えようとすると横から葉月さんが口出しをする。

 

 

 

「うーん、いい感じなんだけどね。個人的にはもっと絡みが欲しいかな……なんてね」

 

 

「では、これをどうぞ」

 

 

「おいおい、うみこくんタバスコはシャレにならないよ」

 

 

「辛味が欲しいと言ってたではありませんか」

 

 

「そっちの『辛味』じゃないよ!」

 

 

泣き顔で不服そうに訴えかける葉月さんを無視してうみこさんはこちらに顔を向ける。

 

 

「で、比企谷さん。お口に合いますか?」

 

 

一瞬俺の方にも入れられるのかと思ったがそういうことではないようだ。さて、苦いものは嫌いじゃない。なんなら、たまにそういうのが無性に食べたくなる時がある。逆に甘いものはどうかというとそれはいつも飲んでるアレを考えればお察しである。

 

 

「とても美味しいです。ゴーヤの苦味もそこまで気にならない絶妙な甘さですよ」

 

 

「……! そうですか。それはよかったです」

 

 

 

野菜はいいね、身体の調子を整えてくれる。これでヤクルトとかあると生きたままの乳酸菌シロタ株が入ってくるからとってもグーな気がする。

 

 

 

「比企谷さんさえ良ければまた沖縄料理を振る舞いましょう」

 

 

振る舞ってくれるというのならもらっておこう。貰えるものは病気以外は貰うからな俺は。

 

 

「楽しみにしてます」

 

 

俺が言うと、うみこさんは退場しようと出口に向かおうとするが、その途中で回り込んだ葉月さんはタバスコを入れられた仕返しをしたかったのか連写でうみこさんの顔カメラマンに収めると歓喜の声を上げる。

 

 

「んー!これはなかなかにレアな表情だね!比企谷くんにも送っておくとして、あとは待ち受けに……おい!うみこくんやめて!ケータイ返して!折ろうとしないで!折れないと分かってても折りそうで怖いから!」

 

 

恍惚な顔をしていた葉月さんも今では怒り100%なうみこさんの前にアワアワと慌てるばかりで、空気と化した材木座は爪楊枝で歯の間に挟まったもやしやらを取り除いていた。

 

 

一応のことを思ってスマホを開くと、ホントにうみこさんの写真が送られてきていた。何かいいことでもあったのか、それともこれからあるのかはさておき、珍しく頬を染めて薄く笑っている。確かにレアな表情だ。俺はそれをバレないようにこっそり保存する。

 

 

 

 

桜餅の後に野菜を食べたからかお腹はあまり苦しくはない。その前にカレーとお好み焼きも食べているのだが、量が少量だから腹を満たされた感覚はなくても、一生懸命に料理を使ってくれてるのは伝わってきて非常にいいものだ。桜餅は春を表すのなら、うみこさんの作ったチャンプルーは沖縄料理だし夏っぽい感じだな。秋冬の料理も食べたくなるが今の季節だとそれは難しいか。

 

 

 




ちなみに黒服の人はもう一人の僕です。


本編ですが八神さんendっぽくなったのですが、個人的にはハーレムルートよりもオンリーエンド(CLANNADの杏end、渚end、智代end……みたいな)の方が好きなんですよね。


ということで、本編とは別に八神さんend出します。(ダメですとかの意見無ければ)
ほかのヒロインの個人ルートも作りたい。(強い願望)


本編は原作のストーリーに八幡を自然にぶち込んだ感じにします。アニメが思ったより進んでなかったから結構余裕がある。まぁ、オリジナルストーリーとかやってるとそうなるよね。こっちもやってるからおあいこで。




一応、この番外編のもう一つの目的は「そのヒロインとのフラグを確実にする」というものです。もうしなくてもいい人もいるけど、できてない人もいるから多少はね。



あと、カラオケ行きたい




オマケ

作者のエネルギーがほとんど無いので2人の料理後の心中だけ


ねね(ちゃんと家で練習してしてよかった……変じゃなかったよね?形も今までで一番良かったし…味も遠山さんのお墨付きだし…やっぱり私天才……? それより、ハッチーと職人さんの作ったの食べに行くの楽しみだなー……)



うみこ(沖縄料理を食べてもらうとなると、沖縄に来てもらった方がこちらとしては材料やらが揃ってるので便利ですし、採れたて野菜の味も楽しんでもらえるのでいいのですが……。付き合ってるわけでもないのにそこまでする必要はないですよね…。また今度サバゲーする時に簡単なものから作ってあげましょうか)


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イーグルジャンプお料理対決〜日本人といえば和食〜

iPhoneバージョンアップしてから使いにくくなった感すごい。
画面録画とか使わんし、なんかヌルってしてる。他のアプリに切り替える時、なんか嫌!





さてさて、忙しい日常から抜け出せたのでようやく書けました。
約2週間ぶりでNEW GAME!!キャラの口調を忘れていたり、稚拙な文章がより酷くなってしまいました。さらにネタをびっしり詰め込んでおりますので、Twitterをしているか、ニコ動見てる人はだいたいわかると思います。(絶対わかるとは言ってない)
わからない人はこれを機に分かってみるといいかもしれません。


繰り返しますが、久しぶりに書いたのでただでさえない文才は無く、語彙力も低下しており、文章が見るに堪えないことになっており、
「なんだよこのクソ小説、くっだらね。お気に入り外そ」
となるかもしれませんが、それでも良ければお読みいただけたらと思います。



 

 

 

もはや、どう切り出せばいいか分からなくなってしまったが、まだまだイーグルジャンプ主催お料理対決は続いている。

流石にここまで続くと俺のお腹もそろそろ限界に近い。後になればなるほど、食べれる量は減り、味覚はどんなに美味しくても飽きが来てしまうだろう。

これなら、日にちを分けるか人数制限を設けた方が堅実的だったのではないだろうか。ほら、イーグルジャンプ料理対決七番勝負みたいな感じに7人とかに絞れば良かったんだよ。

 

 

1本目。

専業主夫志望 比企谷八幡 VS 心は少年 血潮は女性 篠田はじめ

 

 

2本目。

社畜になりました 比企谷八幡 VS 関西風ゴスロリ 飯島ゆん

 

3本目。

目は相変わらず 比企谷八幡 VS 悪いことしたら叱ってくれますか? 桜ねね

 

4本目。

もうそろそろしんどい 比企谷八幡 VS 沖縄のアーチャー 阿波根うみこ

 

 

みたいな。でも残り人数を考えると7人超えるんだよな。あと、何品出てくるんだろ。炭水化物類はもう流石に勘弁して欲しい。もし、出てきたら前に食べたものが出てきそうだ。というか、俺は食べる義務があるのだろうか?出された以上は食べるのが礼儀だし、先輩や同期に拳で抵抗するのは気が引ける。

 

 

頑張って八幡!八幡が食べなきゃ材木座くんが全部食べちゃう!ひふみ先輩のを食べればもう戦う必要はないんだから!次回『八幡、死す!』マナーを守って楽しくイーティング(eating)(CV:戸塚彩加)

 

 

 

よし、もうおまじないしたから大丈夫……って、俺死んでるじゃねぇか。だけど、きっと希望の花が咲いて何度でも立ち上がるだろう。ひふみ先輩の料理を食べるまでは止まらないから。

 

 

 

 

「はーい、それでは次の方!えーっと、お、この人は小町は初対面ですね。エントリーナンバー5!鳴海ツバメさんどうぞ!」

 

 

 

小町もいい加減に飽きてきたのか、それとも鳴海が何もくれなかったのか一言コメント的なのが無くなったな。

 

 

「どもども!」

 

 

「……」

 

 

陽気な挨拶で出てきた鳴海と後ろに続いて望月が無言で入ってくる。もしかして、2連戦というオチ?と思ったらそうでもないらしく、望月は俺の隣に椅子を持ってくるとそこに腰掛ける。

 

 

「なんだお前は作らないのか」

 

 

「は、はい…私は食べる専門なので」

 

 

それは全然いいんだけど、なんで俺の隣なの?まぁ、材木座の隣じゃないのは分かるよ?でも、葉月さんの隣とか小町の隣とか空いてんじゃん。俺の必要がありますかね……?

 

 

「それではツバメさん!お料理の方を!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

俺が思考の海に潜っている間に小町は鳴海との挨拶を終え、料理を出すように促していた。望月とも挨拶して。それでここから引き裂いて!隣で材木座が望月を凝視して「で、でかァ…」とか気持ち悪いこと言ってるから!幸いなのは、俺が壁になってるおかげで材木座が視界に入らないことだろう。

 

 

「私の料理はこれ!秋刀魚の塩焼きです」

 

 

ボウルがどけられて姿を現したのは日本の秋を代表する食材、それは秋刀魚である。名前に「秋」が入ってるから旬ってわけでもないらしいが、そんなの美味しければどうでもいい。

 

 

「七輪でサクッと焼いてその後に軽く塩を振って出来上がりです!」

 

 

お手軽3分クッキングかよ。ここで私はオリーブ・オイルとかあったら一興だったかもしれない。しかし、七輪を使った料理を食うとか何気に初めてかもしれないな。釣りの趣味もなければ、親が料理人というわけでもなかったから。なんなら、友達にもそんなのはいなかった。いや、友達がいなかっただろとかそういう野暮なことはやめて欲しい。

 

 

 

「なるの作った秋刀魚……あ、す、すみません!!」

 

 

じゅるりと横で涎を垂らす望月。が、はしたないと思ったのかすぐに拭き取り静かに黙り込む。なんだか食いしん坊キャラが板についてきたな。

 

 

「では、いただくとしよう!……もぐもぐ……ぬっ!こ、これは!!」

 

 

秋刀魚に大根おろしとポン酢をかけてそれを米と共に口に含んだ材木座は目を見開く。

 

 

「程よく焼かれて表面がパリッとなった秋刀魚だが、噛み砕くこどにぷりぷりに脂の乗った脂肪が大根おろしと共に弾けてデンジャラス!これはまさに味の革命!」

 

 

「もぐもぐ……んっ!……うん、やっぱりなるの作ったご飯は美味しい…」

 

 

まるでどっかの料理漫画の審査委員みたいな真似をしているようでそんなに上手くない材木座と幸せそうな顔で秋刀魚を色っぽい声を出して頬張る望月に挟まれる俺は1人黙々と魚の骨を取り除いていく。いつもは小町にやってもらっているのだが、今日は自分でやれと目で訴えられたので仕方なくそうしている。

 

 

焼き魚を食べる時に魚の骨を口の中で取り除いてぺっとするタイプの人間とあまり気にせず食べるタイプ、身をとってからいちいち取るタイプ、そして俺のように一気に全部取るタイプとで分かれるのだが皆はどうだろうか。材木座は気にしない派で、葉月さんと望月は食べる際にいちいち取るタイプらしい。これ血液型で変わるもんなのかな。

 

 

「あ!この骨太い!」

 

 

気にせず食べるタイプの材木座の喉に骨が突き刺さったタイミングで俺の秋刀魚の骨抜きが完了する。周りよりも少し遅い実食タイムである。

 

 

まずは一口、焼き目のついた皮とともにいただく。次に身だけをじっくりと味わい、ポン酢につけ、さらに大根おろしもかけて酸味をつける。

 

 

「……はぁ、美味い」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

流石、秋の王様だ。いや、長年続く旅館の娘が作ったからなのか?どちらにせよ、美味いという事実は変わらない。これで味噌汁もありゃ完璧なんだがな。

 

 

「あ、ちなみに秋刀魚も大根も北海道の知り合いから送ってもらったものなんですよ」

 

 

「わざわざか?」

 

 

「はい!やっぱり、食べてもらうなら美味しいものを出したいじゃないですか」

 

 

なるほど、新鮮野菜と魚のコンビネーションがこの美味さを鳴海の七輪焼きで極限まで引き出したわけか。多分、ここが食戟を行うような世界なら俺や材木座の服が弾け飛んでいたことであろう。いや、誰得なんだよ。断然、葉月さんとか望月の方が見栄えもいいだろうに。

 

 

 

「にしても、今回のためにそんなことをするなんて鳴海はいい嫁さんになれる」

 

 

うんうんと頷いていると、鳴海は背を向けて声を荒らげる。

 

 

「そ、そんなこと言っても何もありませんよ!!」

 

 

何故か怒って飛び出していく鳴海に首を傾げていると、横から妙に痛い視線を感じる。

 

 

「どうした望月」

 

 

「いえ、別に」

 

 

なんだよ言いたいことあるならはっきり言ってくれなきゃ困るぞ。勝手に色々と被害妄想しちゃうから。あれかな、後輩とはいえ少し気持ち悪いことを言ってしまっただろうか…と思案していると望月はふくれっ面のまま立ち上がる。

 

 

「また今度私も何か作るのでその時は食べてください」

 

 

「えぇ?あぁ、うん、お、おう」

 

 

「絶対ですよ」

 

 

顔をずいっと近づけて念を押すように言うと、すぐに顔を赤らめてそっぽを向く。恥ずかしいなら別に言わなきゃいいのに。嬉しくないと言えば嘘になるが、ほらそういうのは好きな人に言うべきですよ。……あ、そっかこいつ俺じゃなくてレラジェが好きなのか、そうかそうか。あーなるほどね、完全に理解した。

 

 

「お兄ちゃんが小町の知らない間にまた女の子をたらしこんでる……これで何人目……」

 

 

「おいこら小町、たらしこんでないからそういうこと言わない。だから、指を数えるんじゃない」

 

 

「…………はぁ、ほんっと、ごみぃちゃんだな……」

 

 

なんでそんなに怒るんだ。材木座も材木座でイラッとした顔をむき出しだし。葉月さんはニコニコしてるが……。

 

 

 

 

「まぁ、気を取り直してさぁお次は!2人同時に登場!なんでかって?作った料理が同じだからです!それではエントリーナンバー6、7!『朝食べたい味噌汁はどっちだ!』滝本ひふみさん!遠山りんさんです!」

 

 

 

下がっていたテンションを無理やり上げて小町は高らかに言い放つと置くから茶色のお椀をもって2人の女性が現れる。

片方は麗しき貴婦人のような雰囲気を纏わせた遠山さん。そして、花柄のワンピースの上にエプロンと新妻感を醸し出しているひふみ先輩。

2人は俺の前まで来るとほぼ同時にお椀を机に置く。

 

 

 

「さて、実食です!!」

 

 

 

「……あれ?我の分は?」

 

 

 

「あっ、これはもしかして……」

 

 

 

笑顔でマイクを回しながら鼻歌を歌う小町と箸を構えていたのに自分の前に料理がないという状況を理解できていない材木座、何かを察して空気になろうとしている葉月さん。俺も材木座と同じく状況が理解出来ておらず、瞬きを繰り返して2人にその心を聞こうと訴えかける。

 

 

「早く食べないと冷めるわよ、比企谷君」

 

 

「は、早く食べて……」

 

 

 

ダメだ話が通じない。いや、話してないんだけど。やっぱり人間、言葉を使わないコミュニケーションには無理があるか。ノンバーバルコミュニケーション難しい。

 

 

一切、材木座や葉月さんの味噌汁がない理由を開示されないし、それを小町も了解してるあたり、これは仕組まれていたに違いない。どういうことはさっぱりわからないが。

 

 

「えー!八幡だけずるいぞ!俺も美少女の作った味噌汁飲みたい!」

 

 

気持ち悪さに拍車がかかってより不快というかもう素が出てて哀れになってくるんだが。確かに美少女の作った味噌汁なんて食える機会なんてそうそう無いだろうが、お前は声優さんと結婚するんだろ。だったら、その人に作ってもらえばいいだろ。ほら、今時の声優さんは声もよければ顔もいいんだから。

 

 

 

「厨二先輩は小町からあげます」

 

 

未だに駄々に捏ねる材木座にゴミを見るような目を向ける遠山さんとびくびくと怯えるひふみ先輩。そんな材木座に手を差し伸べる小町。この際、材木座を黙らせるためならしょうがないか。でも、やっぱり俺以外の男に小町の味噌汁食べさせるのは嫌だな。

 

 

「はい、沢庵です」

 

 

「…………oh」

 

 

味噌汁じゃないからいいや……。材木座、また今度美味いラーメン屋連れてってやるよ(奢るとは言わない)

 

 

 

「……さぁ、比企谷君」

 

 

「八幡……」

 

 

「じ、じゃあ……」

 

 

2人の言葉で憐れみの感情から帰ってきて現実へと戻ってくる。少しきついかもしれないが、これくらいの量の味噌汁2杯くらいどうにかなるか。

 

 

よし、まずは、ひふみ先輩のものだ。具材は玉ねぎに油揚げと豆腐か。シンプルといえばシンプルだろうが、まぁ、味噌汁は和食の基本にして定番。この料理一つでその人の家事能力が推し量れるというもの。

丁寧丁寧に味わって食べる。カツオのだしと味噌が上手く絡み合って味が染み込んだ油揚げと豆腐、そしてそれらをさらに強く結びつける玉ねぎの風味。

 

 

次に遠山さんの作った味噌汁。具材は玉ねぎ、さつまいも、わかめ、白菜と健康的だ。味はというと、少し濃いめで味噌の味が強く感じる。しかし、それのおかげか厚めのさつまいもも柔らかくしっかりした出汁の感触を感じる。

 

 

 

汁を一気に飲むと「はぁ」と大きく息を吐き出す。

あーダメだこれ。どっちも美味いわ。味はひふみ先輩の方が好みだけど、遠山さんのも充分美味しい。だが、これは俺のために作られたものではない。

 

 

「遠山さんに一つ聞きたいことがあるんですが」

 

 

「……何かしら」

 

 

「八神さんって、濃い症ですか?」

 

 

俺の質問に遠山さんは眉根を寄せて「それがどうかしたの?」と問うてくる。

 

 

「この味噌汁っていつも八神さんに食べさせてる味噌汁じゃありませんか?」

 

 

 

世の中にたくさんの人がおり、人の味覚は人によって違う。だから、薄い味が好きな人もいれば、濃い味が好きな人もいる。恐らくというか十中八九、八神さんは濃い味が好きな濃い症だ。理由としては、苦いコーヒーを飲む時であれば無糖を、甘いコーヒーを飲む時はMAXコーヒーを飲んでいる。つまり、何にしても濃い味が好きなのだ。そこから導き出される答えは、八神さんは濃い症ということである。

 

 

「だから、それがどうしたのよ。…確かにコウちゃんは濃い味が好きよ?……あれ?もしかして比企谷君は薄い方が好きだった……?」

 

 

「そうですね、味噌汁はもう少し薄い方が…」

 

 

別に濃くてもいいんだけど、この野菜主体の味噌汁だと濃くしちゃうと野菜の旨味が活かせてない気がする。料理は小学生レベルで止まってるからよく分からんけど。でも、不味くはないし美味しかったです。そう伝えようと思ったが、手を胸の前でギュッと握ったひふみ先輩に遮られる。

 

 

「は、八幡、わ、私のはどうだった……?」

 

 

「……素直に感謝です」

 

 

ひふみ先輩のは言葉の通りであり、かなり美味しかった。それ以外に言葉が見つからない。他に言葉を使うなら、ぽっかぽかにあったまってやがる!ありがてえありがてえと感謝の気持ちを述べながらがぶ飲みしたいくらいに美味しかった。一体、何をしたらあんなに美味しくなるのだろうか。

 

 

 

毎朝作ってもらいたいが、あんなの毎日食ってたら幸せすぎて死んでしまいます。というか、毎日食ってたらあれに慣れて他の味噌汁飲んだら「なんだよこのしょぼくれた朝飯はァ!!?」とか激おこぷんぷん丸になる可能性があるからやめておこう。あと、無理に最近の若者に合わせた言葉を使うのもやめておこう。え、遅れてる?まっさかー!

 

 

「お兄ちゃんと厨二さんが結構やばい感じなので、10分ほど休憩しましょうか。ではでは」

 

 

そう言って、裏方へと消えていった小町を俺はただ机に項垂れて見ることしか出来なかった。




(裏方)

「やっぱり愛が足りなかったのかしら……!」


「素直に感謝です……?美味しかった……ってことかな?」


「お兄ちゃんのせいでめんどくさい事になってる……」



なお、八幡はひふみ先輩の味噌汁を食べれたので止まった模様。






読み返してて思ったのですが、この小説面白いですか?
作者は書きたいように書いてるのでどうとも言えませんが。
ネタには走るわ、誤字は多いわ、ハーレム展開全然ないわで。
まぁ、作者がハーレム嫌いだというのが大きいのですが。


とりあえず、これ(お料理対決)を終わらせてもう一本の小説や他の番外編も書きたいです。それまではよォ、止まんねぇからよ……だからよ止まるんじゃねぇぞ……(作者は鉄オル大好きです)



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イーグルジャンプお料理対決〜ギャップ萌えに騙されるな〜


お久しぶりです。「通りすがり」のが抜けて魔術師さんと呼ばれてる通りすがりの魔術師です。それだと、投影とか五属性全部操ったりすると勘違いされるから、とある団長の影響を受けて「通りすがりの団長」になろうかと思っております。え、やめとけって?それだと止まれなくなる?なんで??



とまぁ、冗談は置いといて。
FGOのミッション及びチャレンジクエスト?的なのも終わらせましたので、やっと書けました。三連休の間に完結させたかったけどー八神さんがねー可愛いんだなー。最近は八神さんとうみこさんのカップリングを推しています。


おっと、話が長くなりましたね。では、どうぞ。



 

休憩挟むこと数分、数多くの異なる料理を食べたせいか胃腸は荒れ狂い、決壊したダムのようにそれは溢れ出た。出されたものはゴミ以外は食べねばならんと、あの量を全て完食した俺と材木座は絶賛トイレに引きこもり中である。

 

 

幸いなのは、あれらの料理が衛生面や健康面を考えられて作られたことだろう。おかげで溢れ出てくるアレらは健康的な形と色をしていた。食後にこれらが溢れ出るのは仕方ないのだが、よくよく考えればあと2人残っているのだ。俺がいろんな意味で危惧している涼風と八神さんである。

あの2人、俺よりも結構ガサツなところがあるからまともな料理ができるのかと不安になるが、遠山さんがいれば多少は大丈夫だろうか。あ、そう考えるとなんだかお腹も楽になってきた。

 

 

 

ビックベンの鐘を鳴らし終えて、個室の扉を開き、闘いを終え穢れた手を洗浄する。言い方を少し変えて良い感じにしてるけど、その実はアレを終えた後の始末のことである。

 

 

「さて、行くか」

 

 

 

エアで手に付いた水滴を吹き飛ばし、最後の戦いに挑む。逃げ出そうとも思ったが、ここまで来てそうするというのも2人に酷い話だ。でも、胃薬を買いに行くくらいはいいよね!

 

 

「じゃ、材木座先行ってるぞ」

 

 

「おぉぉぉうぅぅ……逝ってくるがいいぃぃぃぃ」

 

 

 

お前の方が逝きそうなんだけど、大丈夫?やっぱり胃腸薬いる?けど、もう材木座には遅い気がする。まぁいいか。あいつは逝っていいやつだし。

 

 

 

小町らが待つ部屋の扉の前に立ち、一つ深呼吸をする。ここから先で待つ料理は天国か地獄か。どちらにせよ、俺に残されてる選択肢は食べることしかない。それがどんなに恐ろしいものでも、この世のものとは思えなかろうと俺はそれを食べなければならないのだ。

 

 

 

ーーーーー覚悟はできた。

ドアノブをぐっと握り、下ろしながら扉をゆっくり押して進む。俺、この戦いが終わったら小町の飯を食べるんだ。

 

 

 

 

###

 

 

壮大な死亡フラグを立てた俺だが、まだ死んではいない。そう、まだである。 材木座が戻ってくるまで待つという慈悲はなく、脱落者にはそのままトイレにこもってもらおうと小町は無慈悲に呟いた。いつからこんな恐ろしい子になったのかしら。

 

 

「さて、ではでは大詰め!もう言葉はいりません!八神コウさん!どうぞ!」

 

 

 

ついにエントリーナンバーコールは無くなり、ドライアイスも底を尽きたのかブシューという煙も立たなくなった。構成やら段取りガバガバ過ぎないかと小町を睨んでいると、突然現れた美少女の姿に俺は目を奪われた。

 

 

 

ボサボサの髪はどこへ行ったか、整えられたその髪は艶めかしく眩い光を放ち、可愛らしくポニーテールに纏められている。そして、何より目を引くのは純白のワンピースの上に着ているハート型でピンク色のエプロンであろう。なんだよ、この可愛さ。尊い。

 

 

「じ、じろじろ見るなぁ…」

 

 

見るなと言われても、自然と目が引き寄せられてしまう。バカな、万乳引力の法則は八神さんでは働かないはず…!!…え、嘘ん、あの美少女八神さんなの……?私服とエプロン姿でここまで印象が変わるとは。やっぱりギャップ萌えって反則だと思います。

 

 

「うわぁ、この前見た時と全然違う…。えっ、アレほんとに八神さん……?ウッソダー」

 

 

どうやら、男でなくても八神さんの可愛さには女もやられるらしい。葉月さんは嬉嬉としてスマホのカメラのシャッターをきり、初めて目にした小町は言語能力が崩壊してた。聞き流してるけど、兄の上司を「アレ」呼ばわりとか普通にしちゃだめだからね!!

 

 

 

「あ、そだ、もう時間ないんだ。そ、それでは八神さん?料理をどうぞ!!」

 

 

なんで疑問形なんだよ。少しメイクして衣装チェンジしただけでそんな変わらないだろ。って、八神さんはめちゃくちゃ変わりますね。ウェディングドレス着た時の平塚先生くらい変わってる。

 

 

「……うぅ…はぁ……よし!」

 

 

 

悶えてため息はいて喝入れたりと忙しない八神さんは黒服から皿を受け取ると俺と葉月さんのところに持ってくる。

 

 

「ど、どうぞ召し上がり下さい……だ、旦那様……」

 

 

お盆で顔を隠し、後ろにサッと身を引く八神さん。葉月さんは非常に満足そうに「わかったよハニー!」と笑顔で蓋を開ける。が、すぐさまその表情が曇る。

 

 

「は、ハニー…これは…?」

 

 

「お粥ですけど?」

 

 

「こ、これがお粥……?」

 

 

あまり大したことでは驚かないイメージのある葉月さんが驚くって一体どんなお粥なのかと俺も蓋をどけて皿の中身を覗いてみる。すると、そこに広がっていたのはまさにアメイジングワールド。驚きの世界である。

 

 

「……これなんだ?」

 

 

「あ、それ三つ葉」

 

 

「これは?」

 

 

「多分……りんご?」

 

 

「なんでりんご!?」

 

 

何故か入っているりんごに葉月さんも困惑の声を出す。

 

 

「身体にいいかと思って」

 

 

まぁ、分からなくもないけど、普通すり潰すでしょ。俺も俺で緑色のはずの三つ葉がこんなに茶色い理由が気になる。どう作ったらこうなるんだろ。米は辛うじて原型を留めてはいるが……。

 

 

「じゃあ、実食いってみましょー!」

 

 

他人事だからと悲惨なことになっているお粥には目もくれずに小町は高らかに言う。……死なないかなこれ。

 

 

どうしたものかと思案していると、ついに葉月さんが動いた。青い顔をしながらそれを口に入れると、目をカッと見開き、さしてを置いて親指を立てながら俺の方を見る。

 

「……うん、これは……愛があれば……美味しい……かも…………」

 

 

そう言ってドサッと座っていたから椅子から床に落ちた葉月さんは綺麗な顔をしながら目を閉じた。

 

 

「葉月さぁぁぁぁん!!??」

 

 

まさかそんな殺人的な味だなんて……。俺よりも八神さんと接してる時間が長い葉月さんでも無理とか、どういう味してんだよ。

 

 

 

手をつけるどころか、匙を取ろうとしない俺をじーっと、潤んだような目で見つめてくる八神さん。そんな目で見られても困る。ほら、葉月さんが逝ったのを見るとね、その俺もこうなったらすごく申し訳ないじゃん?そう思ってたら、今まで視線をこちらに向けていた八神さんが俯きながら顔を逸らす。

 

 

「……べ、別に無理しなくてもいいから。……ほ、ほら、残ったら、じ、自分で食べるし」

 

 

そんな無理して作ったような笑顔で言われたら

 

 

「ち、ちょ、八幡!?」

 

 

 

 

食べるしかねぇじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごはっ!?な、なんだこれ……しゃかなのだべれないところみたいなあひがする……こまち、おちゃ……」

 

 

 

「あわわ、お兄ちゃんの呂律が大変なことに!は、はいお茶!」

 

 

 

「あ、ありがとう…」

 

 

湯呑みを受け取って中身を一気に飲み干すと、意識を保つため丁寧丁寧に息を整えていく。

 

 

2杯目のお茶を飲んで、湯呑みを置く。

確かにこれは愛がなきゃ食べられない味だわ。

覚悟なきゃ失神する味だ。米は微妙に火が通ってなくて、砂みたい食感したし、茶色くなった三つ葉はりんごと混ざって変な味がしたし、てか米よりもりんごの方が大きさ的に多く感じる。まじでなんですり潰さなかったの…。

 

 

「ど、どうだった?」

 

 

恐る恐る覗き込むように聞いてきた八神さんに答えるために俺は立ち上がって大きく息を吸い込む。

 

 

 

「りんごばっかりじゃないか!!!」

 

 

匙を叩きつけながら、俺は激怒した。

 

 

「身体にもいいし、か、隠し味にいいかなぁ……って」

 

 

数歩引いてからあはは、と誤魔化すように笑う八神さんに俺は正論をぶつける。

 

 

 

「隠し味にりんごはいれません」

 

 

クッキングパパはもちろん、ソーマでもやんねぇよ。小町もウンウンって頷いてるし。

 

 

「そ、そっか……また失敗しちゃったか…」

 

 

また?首を傾げると八神さんは頬を掻きながら話し始める。

 

 

「ほら、りんが熱出して早退した時あったじゃん?その時にも作ったんだけど、りんは笑って食べてくれたんだけど後から自分で食べたらすっごく不味くてさ。だから、今度は美味しくなるようにって、頑張って作ったんだけど…」

 

 

 

熱出てる人にこれ食わせたのか。話だけ聞くと感動的だな。だが味を知ってしまった故に無意味だ。りんご入れたら美味しくなるとかそんな法則、田舎にもないよ。

 

 

「でも、まぁ、次からは上手く出来るんじゃないですか。こんだけ失敗したんですし」

 

 

人間誰でも失敗は付き物だし、得意不得意もあって当たり前である。てか、なんでも出来るとか完璧超人は近くで見ててあんまりいい気分ではない。それにりんごは身体にはいいのだ。俺も小町が風邪を患った時はよくすり潰して食べさせたものだ。そうやって、身体を気遣ってくれる精神というのも男の子的には嬉しかったりする。

 

 

「……ごちそうさまでした」

 

 

今まででてきた料理のなかで一番時間をかけて食べ終えたお粥は量は少なかったが、味のせいですごく腹に入った感じがする。またトイレ行かなきゃなぁ。そういや、材木座いつまで入ってんだろ。

 

 

腹を擦りながら還らぬ男を心配していると八神さんが目の前に立つ。表情は俺の気分があまり優れないから顔を挙げれず窺い知れない。が、小さく鼻をすする音が聞こえた。

 

 

 

「そ、その、ありがと」

 

 

それだけ言うと踵を返して、結んでいたゴムを解いてエプロンを脱ぎながら奥へと消えていく。

 

 

ありがとう。それは感謝を表す言葉であり、人間生きてれば1度以上は口にしたり、されたりしたことはあるだろう。その言葉には感謝の意を表すといってもたくさんの意味がある。

 

 

遊んでくれてありがとう。

生きててくれてありがとう。とか。

挙げればキリがない。

 

 

おそらく、八神さんの言った意味であれば、食べてくれてありがとう。が正解であろう。

こちらも、こんな変な企画のためにわざわざ頑張ってくれてありがとう、とそう伝えるべきだっただろう。

 

 

「さて、このながーーい、対決も次で最後!最後は涼風青葉さんです!!」

 

 

うっぷ、と出てきそうなお粥を抑え込むように茶を飲み下し、やっと終わりを迎えようとしていることに安堵しつつも、涼風の料理の腕が多少はマシであることを祈りつつ、俺はその扉に目を向けた。





お粥にりんごを入れるというのは思ったよりやってる人がいるそうです(地元)でも、まるごとそのままというのはないそうです。(当たり前)


それと感想いつもありがとうございます。もう多忙期は終わったので見たらなるべく返させていただきます。返さない時は死んだと思ってください。(Twitterはバリバリ活動しますが)

そして、12月ですが、行きたくもない沖縄に行くので!!!うわぁぁぁ!!!!ってしてきます。行きたくないと言いつつ、うみこさんの故郷でしょ?なんだよ……結構行きてぇじゃねえか……!!


あと、アズールレーンなるシューティングゲーム?始めました。
ベルファストちゃん可愛い。結婚した。
それより三日月実装はよ。早く俺に「ミカぁ!!!」って叫ばせて。
暁はいるんだけどね……悲しいな。


他には…まぁ、追々。聞かれれば答えます。あはっ




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イーグルジャンプお料理対決〜ごちそうさまでした〜

やっと終わります。
多忙期だけど、そろそろ書かねぇとやべぇなと思って書きました。
近況報告したいけどできない。強いて一つ挙げるならごちうさの映画見たけど『ココアを吉良吉影が吹き替えたようです』のせいでココアの声に違和感しか無かったことですかね。

FGOについては結構前に武蔵ちゃん、アーチャーインフェルノをお迎えしました。クリスマスはマルタさんとすり抜けでデオンくんちゃん、マリーでした。刑部姫かわいい。


アズレンはいいぞ
宝石の国、うまるちゃん、いもさえ、ブレンドSはいいぞ


 

 

始まりがあれば終わりがあるのはこの世の常である。それは、物語とか戦争などにも言えることである。

終わらない戦争とか終わらない物語なんて存在しない。人類史もいずれは終わりを迎えるだろう。ハッピーエンドかバッドエンドかは知ったことではないが。

 

 

「さて、このながーーい、対決も次で最後!最後は涼風青葉さんです!!」

 

 

 

壮大な話になってしまったが、つまりはそういうことである。

この長く終始意味不明であった戦いの幕がようやく下ろされる時が来たのだ。閉め切られた窓から部屋を照らしていた太陽は水平線の彼方へと沈み、かわりに街灯らしき光がガラス越しに映る。2人の犠牲者を出し、ついにあと1人を残してこの料理対決とやらは終わるのだ。こんなに嬉しいことはない。

 

 

一つ、その最後の料理が涼風青葉であることを除けば。

 

 

「……大丈夫、大丈夫…多分、大丈夫…」

 

 

もう後ろ姿だけでもとからあった不安がより掻き立てられる。

何が不安なのかというと、あいつに女子力という家事力を感じられないのだ。聞いたことがある話ではあいつは実家暮らしのはずだ。食事は親が作っているものを食べているのだろう。それに外食をする際はいちいち、家に電話してる姿を見かけた。

 

 

これらの事を踏まえるに、涼風青葉はまともに料理をしたことがない。彼氏がいたことがある女子であれば、バレンタインデーに手作りチョコを渡したりするからそこで技術は磨かれるのだが。残念なことに涼風には、彼氏どころか好きな男すらいなかったらしい。もしいれば俺がここまで不安になることはなかっただろうに…。

 

 

「それでは、青葉さん。料理をどーぞ!」

 

 

「よし!涼風青葉行きます!」

 

 

 

行くってどこに。

行ってくれるならそれで構わない。早くお家に帰りたい。

 

 

「どうぞ!」

 

 

意識が他界しかけてた俺を連れ戻すためなのか、普通に置いた方がいい皿を叩きつけるように置いた涼風はにっこりと笑う。のだが、なぜか目が笑っていない。

 

 

「おい、どうした。顔怖いぞ」

 

 

「別に?ほら、早く食べなよ」

 

 

問うてもはぐらかされてしまった。

……これは何言ってもまともに答えてくれないパターンのやつだと察して、俺は皿に覆い被せられたボールを取る。

 

 

「……へぇ」

 

 

出てきたものがあまりに意外だったものでそんな感嘆符を漏らす。小町も同じく意外に思ったのか、近くに寄ってきた。

 

 

「苺のショートケーキ…だね」

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

おそらく、俺に向けられて放たれた言葉なのだろうが、涼風が首肯して答える。

ショートケーキといえば、ケーキの代表格ともいえるものだ。クリスマスからお誕生日、何かの記念日にも引っ張りだこなケーキである。しかし、最近はガトーショコラだとかブッシュ・ド・ノエルやアイスケーキなどに活躍を譲ることも珍しくなくなってきた。

が、ケーキの王道というのは相もかわらず、季節問わずして食べられているケーキであることには変わりないだろう。

 

 

「最後の〆には持ってこいだな」

 

 

炭水化物、和菓子、郷土料理、一般家庭料理、愛がないと難しい料理と続いてここでラーメンとか来られたら死ぬところだったので、このようなデザートは非常にありがたい。

 

 

 

 

これで味も良ければ万々歳なのだが…。

見た目はいい。おそらく、ラップを使って形を整えたのであろう。土台であるスポンジはしっかりしてるし、なんならスポンジとスポンジの間に生クリームと細かく切られた苺が入っている。これは期待できそうだが、悲しいことに期待を裏切るのが人間である。

 

 

 

でも、それは期待する方が悪いので俺は期待せずに由比ヶ浜の焼いた木炭クッキーを食べる気持ちで一口目を頂こうとすると生クリームを掬おうとしたはずのスプーンが空を切った。見れば、皿は涼風が高々と持ち上げていた。

 

 

「なんで?」

 

 

これはおかしい。一口も食べてないのにお預けだなんて。これが人のやることかよ!文句有り気な目で涼風を睨んだが

 

 

「……」

 

 

 

逆にゴミを見るような目を向けられてしまった。すごく怖い。予想通り、聞いても答えは返ってこないし、まだ何も感想を言ってないのに不機嫌になられている。何故だ。

 

 

「ねぇ、八幡。ケーキを見てなにか思うことはない?」

 

 

「は?」

 

 

口を開いたと思ったら、質問を質問で返された。桜も質問したら質問し返してくるから、涼風たちの高校は疑問文に疑問文で返すように教えていたらしい。

 

 

さて、そんなことを言ったら顔面がケーキまみれになるかもしれないから真面目に考えるとしよう。ケーキを見て思うことか。

 

 

「形は整ってるな」

 

 

「他には?」

 

 

……他?そうだな……。

 

 

「スポンジとスポンジの間に生クリームと苺が…」

 

 

「そうじゃなくて、ケーキを見て何か思うことはない?って」

 

 

ん?どうやら、涼風のケーキではなく、ケーキを見て何を連想するか。ということらしい。

そりゃ、イベントとか祝い事じゃね?けど、この感じだとなにか違いそうだな。ぐぬぬ。

 

 

「わからん」

 

 

「はぁ、やっぱりかぁ」

 

 

遠山さんの気持ちがわかった気がする、とよくわからないことを言うと、涼風は空いた左手で人差し指を立てる。

 

 

「それでは、問題です。八幡が初給料で買ったものなーんだ?」

 

 

「え、えっと……たしか……」

 

 

あれ、何買ったけ。一年前だよな。初給料。

ゲームの最新ソフトだっけ。それともソシャゲの課金に回したんだっけか。新刊を買った覚えもないし…。小町に贈り物……はしてねぇな。あいつもきょとんとこっち見てるし。

 

 

「……もしかして、忘れたの?」

 

 

圧で攻め込んでくるような視線にうっと息を詰まらせると、俺は正直に項垂れて分からないという意思を示す。

 

 

「……はぁ、そっか」

 

 

俺の反応に涼風はがくっと肩を落とすと、皿を机にゆっくり置いてそのまま部屋から出ようとする。

 

 

「ちょちょちょ!どうしたんですか青葉さん!」

 

 

「え、いや、もういいかなって」

 

 

 

「えぇ……、あぁ、もう仕方ないですね!小町が話聞きますから!順番に話してみてください」

 

 

年下に慰められてる……。まぁ、小町だからできることか。それより、ケーキは食べていいのだろうか。さっさと食べて帰りたいし、食べてしまおう。そう思ってスプーンをケーキに向けたが、そこにケーキはなく、小町の手の上にあった。

 

 

「……またか」

 

 

もうやだこの展開。食べればいいのか、食べなくていいのか、はっきりして欲しい。

 

 

「なぁ、小町、俺はいつになったら帰れるんだ?」

 

 

「……お兄ちゃんがこのケーキの意味に気付くまでかな」

 

 

意味?……ヒントは初給料。そういえば、遠山さんと八神さんは日帰りで温泉に行ったが、それを八神さんが忘れてて遠山さんがめちゃくちゃ不機嫌になってたな。そうそう、今の涼風みたいに。

 

 

 

「……あ、あぁ……あ〜……」

 

 

「思い出したの?」

 

 

うん、思い出したよ。思い出して、つい、「あ」を4回も使ったよ。感嘆符ってすごく便利よね。これ英語でも言えること。

 

 

初給料で涼風とケーキを食ったことは思い出したが、それがそのケーキとどういう関係があるのかさっぱりわからんな。

 

 

「まぁ、思い出したが…それがこれと何の関係があるのかわからんな」

 

 

しかも、その時食ったケーキはショートケーキじゃなくてガトーショコラだしな。なかなかに美味かった。

 

 

「……はぁ、いいか。思い出してくれただけ。小町ちゃん、もう降ろしていいよ」

 

 

ドア付近でしょげてた涼風がため息を吐きながら言うと、小町もため息吐きつつ皿を置く。

 

 

「じゃ、食べていいよ。お兄ちゃん」

 

 

やっとですか。いつまでこのクイズが続くのかとヒヤヒヤしたわ。それにもし間違えてたらどうなっていたかと想像したら嫌な気分になってきた。さっさと、食って帰ろ。

 

 

「はむ……ん、ん…」

 

 

口の中に広がる苺の風味と生クリームの甘さ。それを程よく抑えつけるかのようにスポンジの柔らかい甘みがやってくる。思ってたよりは悪くない味だ。

 

 

「ど、どうかな」

 

 

「……いや、想定外の味だ」

 

 

「それってどういう意味!?」

 

 

だって、ここまでまともな味だとは思わないだろ。下手したらセミのぬけがらとか入ってると思ったもん。ジャイアンシチューかよ。比叡でもいれねぇぞ。

 

 

俺の中では料理下手の人は余計なもんを入れる法則があると由比ヶ浜に教わったからな。それは八神さんにも当てはまったことだ。あの人の場合は入れ方が悪かったってのもあるのだが。

 

 

「多分、不味いと思って身構えてたら美味しかったんじゃないですかね」

 

 

さすが、小町。伊達に何十年も一緒にいるだけある。まぁ、それも昨年までの話。悲しいなぁ。家に帰ったら灯りがついておらず、中に入って一人で飯を食う……あれ、何故か目から塩が……。

 

 

「そっか、良かった。練習した甲斐があったよ」

 

 

 

「練習?」

 

 

「うん、みんなでご飯作ろうってなって、それで葉月さんの知り合いに連絡したらここを貸してくれたんだ」

 

 

どうしてそうなったのか。あと、あの黒服は葉月さんの知り合いなのか。とても、接点があるようには見えないが。

一つ聞いてもいいかと前置きしてから尋ねる。

 

 

「どうして俺が呼ばれた」

 

 

呼ばれた、というよりは強制連行だったのだが。

別に料理するだけなら、誰かの家に集まるか、ここのような場所を借りて女の子だけでキャッキャッしていればいい。その硝子の花園に俺が必要なわけないだろう。

 

 

「え、だって八幡呼ばなかったら拗ねるじゃん」

 

 

『そうそう』

 

 

複数の同意の声が聞こえ、急いで声の方に振り向くと八神さん、遠山さん、うみこさん……イーグルジャンプオールスターが立っていた。

 

 

「比企谷さんはこういう催しはお呼びしても来ないと妹さんが言うので」

 

 

「だから、うみこさんとはじめに二人で車ではこんできてもらったんや」

 

 

「久しぶりに運転したから疲れたぁ…けど、料理は楽しかったよ!」

 

 

いつの間に会社の人間に俺の妹の連絡先が回ってるんですかね。昨年のクリスマスの時か?その時か?マジで知らなかったんですけど。てか、はじめさん免許持ってたんですね。

 

 

「それはいいんですよ。いや、ちっともよくないけど」

 

 

「よくないんだ…」

 

 

桜よ、そう肩を落とすな。強制連行されたことに関しては、怒ってないから。貴重な休みを邪魔されたことに関しては少しあるが。

 

 

「俺はこういう催しは知らなきゃ呼ばれなくても平気ですよ」

 

 

「それってこの催しを知ったら平気じゃないってこと……ですよね?」

 

 

なかなかどうして鳴海はそう鋭いところをついてくるのかな。思わず「そうだよ」って言いそうになったじゃねぇか。

 

 

「めんどくさい性格してるなぁ」

 

 

「なんでだろ、八神さんだけには言われたくない気がする」

 

 

「確かにコウちゃんが言える立場じゃないわね」

 

 

「おいコラどういう意味だそれ」

 

 

俺の言葉に遠山さんが同意するといつも通りの服装になっている八神さんが笑顔を引き攣らせていた。うっすら青筋も出てる。カルシウムとりましょカルシウム。

 

 

「ん?八神さんが言える立場じゃないって言うのは……」

 

 

「えっと、八神さんが『八幡がいないと嫌だー!つまらん!』って……むごごご!!?」

 

 

「余計なことを言うのはこのお口かなぁ?」

 

 

独り言に反応してくれた望月は八神さんにモチモチしてそうな頬を延ばされてしまった。望月、お前の死は無駄にはしない。

 

 

「来てくれて……ほんとに、よかった…」

 

 

あぁ、相変わらずひふみ先輩の笑顔が眩しい。なんだか、これだけ見ると来てよかったと思えるよね。俺も、すごく、安心した。

 

 

「では、団欒も済んだところで結果発表といきましょー!!」

 

 

団欒って。他に言葉あっただろ。それにあともう少しひふみ先輩と話させろよ。

 

 

「皆さんにはそれぞれ異なるお料理を作っていただいたわけですが、どれが一番美味しかったか審査員の方々に判定していただきましょう!」

 

 

 

終始そのテンションで疲れない?と心配になってしまいそうなくらい興奮してる小町は審査員席へと目を向ける。すると、そこには青い顔をして椅子の足元に転がっている材木座。

『探さないでください』と書かれたナプキンの置かれた葉月さんの机。……思い返せば、八神さんのご飯?食べてから葉月さんのこと放ったらかしだったな。

 

 

 

「……」

 

 

『……』

 

 

どうすんだよこの空気。審査員俺以外全滅じゃねぇか。困ったようにオロオロする小町に「審査員一人に講評は出来ないだろ」と現実のナイフを突きつけるとガクっと項垂れる。

が、すぐに顔を上げて笑顔を取り戻す。

 

 

「まぁ、今回のイベントはお兄ちゃんにご飯を食べてもらうことだったし、オッケー!うん!お料理対決そんなのなかった!」

 

 

小町の無理矢理な締めに唖然とするイーグルジャンプオールスター。

すみませんね、俺の妹が迷惑かけまして。

 

 

 

「それはそれとして」

 

 

ん?どうしました、うみこさん。

 

 

「やっぱり知りたいわよね」

 

 

何がですか、遠山さん。

 

 

「まぁ、むりかもしれないけど……気にはなるよね」

 

 

「そら……なぁ?」

 

 

何が気になるのかについては触れず、はじめさんとゆん先輩は目を合わせる。

 

 

「私も気になるなー頑張ったし」

 

 

「私、なんにもしてないけど聞いていいのかな」

 

 

頬をうっすら朱に染め鳴海は頭のシュシュを軽く抑え、望月は毛先を手で梳かしながらそんなことを言う。

 

 

「わ、私も、き、聞きたい……」

 

 

なんでも聞いてください、ひふみ先輩。でも、何について聞きたいのか言ってくれないと答えれませんが。

 

 

「やっぱりみんな気になるんだね」

 

 

「じゃ、聞いてみよっか」

 

 

桜と涼風が並んで立つ。そして、それに合わせるかのように二人を中心にするように俺を囲む円を作る。

 

 

「よし、みんな、せーのでいくよ」

 

 

 

その円で俺の真正面に位置する八神さんが、全員の顔を見回して声を出す。すると、倒れている材木座、いなくなった葉月さん、小町と俺を除くメンバーが揃えて同じ質問を投げかけてくる。

 

 

 

『私の作った料理をまた食べてくれますかー!?』

 

 

 

 

気になること、というのはそういうことか。

それくらいお安いごようだ。なんなら、一人については俺が一緒に作ってやりたいくらいだ。いや、出来れば一緒に作らせてほしい。愛がないと食えない料理はやっぱり美味しく食べたいしな。

 

 

 

食事、それは一人で食べても美味い料理は美味い。けど、誰かと食べる料理はもっと美味しいのだ。それを俺は知っている。

家族と、妹と、学校の部活仲間と、会社の人達と。

多くの人で机を囲んで、料理を肴にしながら和気あいあいと過ごす。

俺はそんな一時に僅かながら幸福を感じる。たとえ微量であっても、それが幸せであることには変わりない。だから、俺の答えはただ一つ。

 

 

 

「……まぁ、機会があれば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにこの答えに賛否両論の『否』しかなかったのは別の話だ。

 






やっと、終わった。疲れた。寝るりあん。



昔の読み返してると、昔の方が八幡らしさが出てたと思います。
だから、お気に入りユーザーが減っていくのは話がつまらなくなってるのと八幡らしさが無くなってきているからなんじゃないかと推察します。



多忙期終わったらひふみ先輩とブレンドSのカフェに行く話でも書けたらいいですね。(書くとは言ってない)個別ルートは7巻出るまでに一人はやってきたいですね。


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【本編】
初出勤初出社は心躍るものである。


他の小説のネタが浮かばないくせにこっちは浮かんだので書いてしまいました。

友人の勧めでみた「NEW GAME!」となかなか最新巻のでない「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」とのクロスオーバーでございます。

感想、評価などお待ちしております。


『春』

 

それは出会いと別れの季節だという。

理由はおそらく、卒業式、入学式があるからだろう。

卒業式で今までの友達と別れ、入学式で新たな出会いが待っている。

そんなのはほんの限られた人間だけだ。そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜結衣、雪ノ下雪乃。

 

容姿も性格も全く違う2人の女性と俺は出会った。

偶然同じ高校になり、偶然あの事故があった。今ならそこから俺達の関係は始まっていたと言える。

その事故から1年経って俺達は奉仕部という部活で互いの存在を認識した。

そして、そこで俺は本物を見た。

まるで木から落ちそうな枯葉のように潰れてしまいそうなものだが、少し手を伸ばせば手が届きそうな関係が。

自分が本当に欲しいと願ったものを。

例えあれが本物であってもなくても、あの日々は決して無駄とは思わない。

 

 

誰かのために考え行動した時を。

思考を理解し感情を理解せずに導き出した答えも。

後悔と挫折を繰り返して生まれた思考も。

本物を手に入れようと惨めな自分を出したことも。

 

 

今では無駄ではないと思う。

でも、失敗したと思う事はある。

 

 

 

何故、大卒ではなく高卒で就職したのかと。

 

 

 

###

 

 

 

春です。

高校を卒業して今日からゲーム会社で働くことになっています比企谷八幡です。

桜が咲いています。それで風が吹けば桜は地に落ちていく。

普通の人なら新学期頑張りますとかなるのかもしれない。

いや、ないな。少なくても俺はなかった。ただ、嫌で嫌で仕方がなかった。

 

 

身だしなみをチェックして家を出る。

新社会人だし、オフィスでの仕事ということでスーツを着ているのだが、愛しの妹からは似合わないと言われてしまった。

ま、まぁ、俺もそう思ってるからいいんだけどさ。……でも、あんなに言うことはないと思うんだ。

 

 

気持ちを切り替え、高校卒業と共に買い換えたこの八幡スペシャル(自転車)に乗って今日から働くことになっている会社に向かう。

だが、すれ違う学生達が眩しいッ!なんであいつらあんなにキラキラしてるの!?そんなウキウキしてると突然犬が道路に飛び出して入学ぼっちが確定しちゃうぞ!

 

 

何度もキラキラした学生や新社会人を見てもう俺のライフが危ない。

とか言いつつ俺もかなりウキウキしている。

しかし、こんな気持ちでいるとまたろくでもないことがありそうだ。

足の骨折の次は全身骨折かな……。

 

 

 

 

とか、心配していたがどうってことなかったぜ!

 

 

 

 

入社説明会の時に使った会社の駐輪場に自転車をとめて、社内に入ろうと足を進める。そして、俺は立ち止まった。

 

 

「よし!……涼風青葉です。よろしくお願いします。涼風……って本当に入っていいのかな」

 

 

薄く紫がかった髪をツインテールに束ねた学生服を着た女子中学生くらいの子供が会社の入り口でオロオロしてた。

どうする?まぁ、普通に声かければいいか。

 

 

そう思って1歩歩き出したがすぐに足を止める。

これは事案なんじゃないのか?

出社初日に女子中学生に声をかける目の腐った高卒社会人。

うん、間違いなく事案だ。ここはなるべくスルーだ。

声をかけないでね、かけないでねと心で念じたのだが、それが不幸にもフラグになってしまった。

 

 

「あ、あの!」

 

俺に気付いたのかその女子は俺に声をかけていた。

めちゃくちゃ目が合ってしまっているが、ここは聞こえなかったフリをしてやり過ごそう。

 

 

「こら!」

 

「ひゃっ!」

 

「ひゃい!?」

 

 

そう思ってると、なぜか怒られてしまった。

振り向けば少し赤っぽい髪色をしたショートボブの女性が立っていた。諌めるような表情をしていたがすぐにふふっと柔和な表情になる。

 

「な〜んてふふ、ここは会社だから子供は入っちゃだめよ」

 

あ、どうやら後ろの中学生に言ってるらしい。安心して俺は会社に入ろうとすると、腕を掴まれてしまう。

 

「あと、君もよ。ここは眼科じゃないわよ」

 

 

 

おぅふ

 

 

###

 

 

「あら、2人とも新入社員さんだったのね。ごめんなさい私ったら」

 

「わ、わたしこそごめんなさい!」

 

どうやら犯罪未遂犯であることがわかってもらえてよかった。

てか、そこの中学生も俺と同じ新入社員かよ。あれかな大卒かな?

だったら、ものすごくロリ……いや、なんでもないです。

 

「えっと、比企谷八幡です」

 

「す、涼風青葉といいます。入社するって聞いてますか……?」

 

「比企谷君に……涼風…あ、聞いてます。2人とも一緒のチームだわ」

 

「ほんと!?」

 

マジかよ。って事は俺の上司か。

 

「私はADの遠山りんです。よろしくね」

 

AD…って言っても確かアートディレクターだっけか?

主にビジュアルの指示とか出すんじゃなかったけ?よくわからんけど。

 

「あ、あのADって大変ですよね! テレビでよく見ますけど雑用ばかりで大変なイメージだし」

 

ソーナノカー。

しかし、この中学生改め涼風ってやつグイグイいくな。

というか、こいつの言ってるADって。

 

「涼風の言ってるのってアシスタントディレクターなんじゃ……」

 

「比企谷君の言うとおり、私のADはアートディレクターよ。だからすべてのグラフィックの管理が仕事なの」

 

俺と遠山先輩が言うと涼風はポカーンと真顔になった後、弱々しい声で「申し訳ありませんでした…」と社内のエレベーター前で土下座するのだった。

 

 

 

###

 

 

 

「ここがオフィスよ。皆時間ギリギリにくるからまだ誰もいないけど」

 

涼風の土下座が終わり、エレベーターってオフィスルームに入った俺はまず、周りを見渡す。たくさんのカラーボックスがあり、中には様々なファイルやグラフィック制作に関する本などが陳列されている。

次にデスク。それぞれ個性豊かなものがあり、その中にただパソコンだけが置かれたデスクが2つあった。

 

「右が涼風さんの席、左が比企谷君の席。そうだ、なにか飲む?」

 

お、その提案はありがたい。朝飯食って、会社に入ってから水分を摂ってないからな。でも、こんなところにマッカンなんてあるはずがない。まぁここは紅茶かな。

 

「じゃ、お言葉に甘えて俺は紅茶で」

 

「それじゃあ私はオレンジ……ブラックコーヒーで」

 

なんだその飲み物。え、オレンジを入れたブラックコーヒーなの?

いや、普通にブラックコーヒーか?あれか子供っぽいって言われたからちょいと大人っぽいところを見せようとしてるのか?

……あんまりブラックにこだわるなよ弱く見えるぞ。

 

 

###

 

 

「はぁ、優しそうな人で良かった〜……ね、比企谷君」

 

「あ、あぁ、そうだな」

 

何コイツ……いきなり喋りかけるなよ。童貞なんだからいきなり喋りかけられたら声が上擦っちゃうんだから。

 

「これで今日から働くんだ……!」

 

ちょっと、それだけかよ。他にないの?これからよろしくね的なの。

あ、こんなにはないですよね。知ってました。

さて、これが俺専用のパソコンとペンタブレットか。

なんか専用色に塗りたいな。てか、キーボードなんだな。珍しい。

 

「う〜ん、つかれたぁ、もうやだぁ」

 

なんだこの声は…女性っぽいが…恐る恐る声のする方を見れば……白くて綺麗な生足が……って

 

「「ぎゃー!」」

 

 

 

###

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!おれは『女性の生足を見たと思ったら、パンツと寝巻きらしきものをきた女性がデスクの下で寝ていた』

 

何言ってるんだろ俺は。

 

「あら、おきてたの?」

 

「りん〜この2人誰〜?」

 

飲み物を持ってきてくれた遠山さんが声をかけるという事はこの人も先輩なのだろうか。なんというかありがとうございます。

 

「今日から入社した涼風さんと比企谷君よ。あ、これ私のだけど飲む?」

 

未だにパンツ姿の先輩は遠山さんの差し出すブラックコーヒーを「サンキュー」と受け取り、「へ〜どこの班に…」と言いながら啜ると

 

「ゲホゲホ!これ砂糖入ってないじゃん!」

 

「あ!逆だったわ!ごめんなさい!」

 

どうやら、この人はブラックが苦手なようだ。

 

ちなみに涼風も無理だった。

 

###

 

パンツ先輩と涼風がブラックが飲めないことがわかり、遠山さんが残りのブラックを飲んでいるとパンツ先輩が尋ねてきた。

 

「年はいくつなの?」

 

「18っす」

 

「18です!」

 

 

まさかの同い年かよ。いや、年上には見えなかったけどさ。

 

「へぇ!高卒できたの!?珍しい! でも、2人とも高校生には見えないな。はっはっはっ」

 

あれかな、俺はちょっと上に見えるのかな?

大人の男感があるのかな?

あ、今のは俺にしてはなかなかポジティブなんじゃないかな?

 

「あ、あなたこそおいくつなんですか!」

 

あ、おいバカ。女性に年齢の話はしちゃいけないんだぞ!

したら、鉄拳制裁と傷がついたとか言って変な部活に入れられるからな。

そんな昔を思い出していたら、涼風の質問に対してパンツ先輩は腕を組んでドヤ顔で言った。

 

「いくつに見える?」

 

意外にノリノリというかこの人、結構サバサバしてるんだな。

 

涼風は話を逸らすためか、「フェアリーズストーリー」のポスターに目を向ける。

 

「あ、知ってるんだ。私が初めて携わったゲームなんだ〜」

 

「え!?小学生の頃にすっごいハマったんですよ!それでこの会社を知って……」

 

「まさかみそ……」

 

俺が最後の一文字を言う前にズボンを履いた先輩は大声で言う。

 

「そんなにいってないわい! 」

 

###

 

 

「25だよ、私も高卒で入ったの」

 

ジト目で不満げに言う先輩に俺と涼風は「あああああのごめんなさい」とオドオドするが遠山先輩は「気にしなくていい」とふふと笑う。しかし、その笑いに卑屈な意味はなく、「私はいくつに見えるかな?」と質問をぶつけてくる。

 

先ほどのこともあったので俺達は慎重に数字を選び、お互いに23歳くらいという答えを出したが

 

「同い年だよ!」

 

とパンツ先輩に結局怒られてしまった。

 

 

###

 

 

「で、でも感動です!子供の頃に好きだったゲームを作ってた人が目の前にいるなんて! 私、あのゲームでキャラクターデザイナーになりたいって思ったんです!」

 

 

すごいな涼風は夢に向かって努力してきたのか。

努力は自分を裏切らないとはよく言ったものだ。なんか昔に努力を肯定しつつ否定することも言った気もするが、まぁいいか。

 

「あら、ならここにいる八神コウがそのキャラデザだったのよ」

 

パンツ先輩が八神…コウ……さんだと?

パンツ姿で社内で寝てたこの先輩があの2ちゃんで神に近いキャラクターデザイナーと謳われた……?

 

「「八神先生だったんですか!?」」

 

「こいつら急に態度変わったな」

 

###

 

 

「ちなみに今日から八神が涼風さんの上司だから2人とも仲良くね」

 

「が、がんばりまシュッ!」

 

涼風が噛んだことにより笑いが生まれ、こうして俺のゲーム会社での初日が始まったのだ。

 

 

 

「あの、俺の上司は?」

 

「まだ来てないかな。まぁ、挨拶する時には来るから」

 

遠山先輩でも八神さんでもないということはわかりました。

そして、未だに同性の人がいない……。いや、出社来てないだけだよね?

もし、仮に女性しかいなかったら俺は大丈夫なのだろうか……。



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人間個性があるので変人がいても不思議ではない

桜スキップもNow Loading!!!!も良曲過ぎませんかねぇ……

お気に入り、感想、評価ありがとうございます!

えっと原作5巻まで買いましたが……どいつもこいつも可愛すぎかよ!
なんで彼氏いねぇんだよ!全員俺が貰っちまうぞ!
って感じの感想です。

では、2話、原作1巻の「変わった先輩」どうぞ!


 

 

十人十色

 

考えや性質が人によって違うことを表す四字熟語である。

漢字どおりに言えば、10人の人がいたら10色の色がある。

そんな感じの意味だ。

 

人間誰しも同じではないという不条理、理不尽を表し、「みんな違ってみんないい」を表した四字熟語とも言える。

 

人間全て同じなら顔や性格で揉めることは無い。なぜならみんな同じなのだから。

 

しかし、人それぞれの個性があり、全員が違う意見を持つ人という生き物は時に反発しあい、それぞれの意見の違いから離別するケースもある。また、それが原因で権力を持つ者たちの利害の不一致により、戦争に発展することもある。

 

つまり、人間違いがあるから争いが起こるのだ。

だが、それでも分かり合えるのが人間である。

 

何が言いたいのかと言うと……

 

このオフィス、俺以外全員女性だけどみんな違ってみんないいよね!

 

ってことである。

 

 

 

 

俺と涼風は早々に挨拶を済ませ、各々のデスクにつく。

今年の新入社員は俺と涼風だけらしく、別に寂しくもなく、どうせいても喋れないし、どうでもいいか状態である。

あの、涼風でさえあれから喋りかけてこないし…いや、別に喋りかけて欲しくないよ。ホントだよ?

 

で、俺はキャラ班かモーション班のはずなのだが特に何も言われてない。

あれかな?仕事しなくても給料がもらえるっていう素晴らしいシステムかな?

 

そんなことないんですけどね。

 

俺の上司も八神さんらしいのだが、八神さんは主人公やゲームの中核を担うキャラなどの担当らしく、俺はモンスター担当らしい。

それでそのモンスターのキャラデザが担当が……

 

見つめるのはパソコンの上がかなりホラーというか中二病チックというか、とりあえず俺の直感が言っている。

 

この人はやばいと。

 

 

「うちは飯島ゆん キャラデザ班で主にモンスターとか動物の担当や。まぁ、よろしくな」

 

 

「…よ、よろしくです」

 

 

「そんな緊張せんでもええで?」

 

緊張はしてないっす。ただ、やっぱり机の上がなかなかホラーじゃないかなぁ……って。すみません、嘘です。緊張してます。

だって、関西人の女の人って初めてだから。…まぁ、多分女の人じゃなくても緊張してるな。

 

 

だが、この18年間培われてきた対人スキルのおかげで俺も進化してるのだ!

 

「いや、大丈夫です……で、俺は何をすればいいんでしょうか?」

 

「そうやなぁ…」

 

そういいながらデスクを一旦離れ、本棚から何か本を取ってきて、俺に「ほい」と渡してきたのは八神さんが涼風に渡してやつと同じだった。

 

「それがキャラデザやる登竜門みたいもんやから頑張ってな」

 

「は、はぁ…」

 

パラパラと捲ってみて、大丈夫だろうと思いパソコンに目を向けたのだが……うん、楽勝かと思ったが早速詰んだな。

 

 

飯島さんに聞こうにもお花でも摘みにいったのかいねぇ。

横は俺と同じく初心者の涼風だし。

後ろをチラリと見ると西洋の剣らしきものをブンブン振っている少し肌の焼けたショートへアの巨乳の人がいる。机の上は見たことのある戦隊モノやヒーローのフィギュアでいっぱいでラックには剣やビームサーベルらしきものがある。

 

多分、モーション班とか言われてた人だな。なんでここにいるのかわからんけど、おそらくあの人に聞いてもわからないかもしれない。

いや、モーション担当ならモデリングくらいわかるだろうけど、何故か聞く気にはならない。なんか聞いたらあの剣で刺されそうだ。

 

そういや、そんなに特徴のない机がもう1個あったな。

あの席誰もいなかったけど今日は休みなのか?

一応、左後ろを見る。

 

 

茶色っぽい髪をポニーテールにまとめあげた落ち着いた感じの人がいた。

 

……挨拶しとくか。

 

 

「あの〜」

 

「……!!?」

 

「!!!?」

 

え、何。俺なんか間違った挨拶した?

あ、そうかいつも女子しかいないオフィスに男がいるから驚いてるだけだよな。じゃなきゃ死ぬ。

 

『え、何このキモ男!なんでこのオフィスにいるの!?キモ!』

 

とか思われてたら死んじゃう!

 

「えっと、今日から入社した比企谷八幡って言います。同じキャラ班なのでよろしくです」

 

「……滝本ひふみ。よろしく……ね……」

 

……わかったぞ、この人。

コミュ障だ!!(経験者だからわかること)

 

 

###

 

 

社内メッセージでわかったことだが、滝本先輩はキャラ班の中では八神さんの次に歳上……と言ってもまだ20代だが。

わからないことがあったら聞いていいと言われたから聞いているのだが、迷惑じゃないだろうか。

 

【あの、さっきから質問ばっかりしてすみません】

 

【全然大丈夫だよ。わからないことはわからないままにするのが一番ダメだからね】

 

コミュ障かと思ったらなんだただの女神か。

まぁ、コミュ障なんだろうけど。しかし、涼風の画面をたまたま偶然運悪くチラ見した時にみた文面とはだいぶ違うような…。

具体的にいうと俺に対して顔文字を1度も使ってこない。

別にいいんだが…気になるな。

 

【そう言ってもらえると助かります】

 

【いえいえ〜また何かあったら聞いてね】

 

 

 

【じゃ、なんで俺には顔文字とか使わないんですか?】

 

ガタッと椅子から誰かが立ち上がる音がした。

振り向けば滝本さんがわなわなと申し訳なさそうに顔を赤くして何か言いたそうにしてるが…ってみんながこっち見てる!

 

「比企谷君…ひふみ先輩に何したの」

 

おい、まて涼風。最後疑問形じゃない当たり俺が何かした前提で話すのやめろよ。なぁ、落ち着けよ、そのまずはそのペン置けよ?な?

 

「え、ちょ比企谷君、セクハラでもしたん?」

 

「してませんよ! ただ、俺には顔文字とか使わないんですか?って聞いただけですよ」

 

事実だけを述べるとなんか俺が自分だけ疎外されて反発してるやつみたいだな。別に使わなくてもいいんだが、なんか気になるじゃん?

自分だけスタンプとかじゃなくて丁寧語でメールとかされたら嫌じゃん?

 

「……えっと、比企谷君、男の子だから…顔文字とか嫌かな……って」

 

なんだやはりただの女神か(ただしコミュ障)

 

 

 

###

 

 

滝本先輩とのいざこざも解決し、俺も顔文字を使ってもらえるようになった。しかし、なんだかただのスパムメールに近いものに見えたきたのは気のせいだろうか。いや、文面まじめだし大丈夫だけど。

 

その後、滝本先輩にメッセージで色々聞きながらテキストの課題的なのをこなしていると八神さんに社員証の写真を撮ると言われたのでそっちの方に…

 

「ねぇ、一応服装は自由なんだけどさ、なんで学生服なの?」

 

「やだなぁ、学生服じゃなくてスーツですよこれ。社会人の基本じゃないですか」

 

涼風のあれって本当にスーツだったのか。やっぱりどう見ても学生服ですごめんなさい。てか、服装自由なのか。

じゃ、明日から私服で来よう。

 

「せめて、スーツの正しい着方くらい覚えようぜ」

 

そう言いながら、八神さんは涼風のリボンを取り、シャツのボタンを二つほど開ける。

 

しかし、それでも涼風は童顔のせいでスーツが似合わないというか、中学生にしか見えなかった。

 

 

ちなみに俺は目が怖いだの腐ってるだの言われたがすぐ終わった。

 

###

 

 

写真を撮り終わり、八神さんが「完成を待つべし」と言って去っていった後、さっき剣を振り回してた人が喋りかけてくる。

 

「涼風さんと比企谷君だっけ?」

 

「は、はい」

 

「挨拶が遅れたけど私は篠田はじめ よろしく……お願いします」

 

うん、お願いしますが小さかったの何故だ。

 

答え

 

「あああ!だめだ!後輩って初めてなんだよ!それに初対面だし!」

 

なんだこの人、ヒーローオタクで恥ずかしがり屋……というかなんなんだ?その大きな胸に書かれた「必殺」って。

 

そんな俺の疑問も誰かが答えてくれるはずもなく、涼風は篠田先輩のフォローに入る。

 

「きにしなくていいですよ。先輩なんですから篠田先輩!」

 

「うわ!先輩!? なんか背中が痒くなるから《はじめ》でいいよ!」

 

「じゃあはじめさんで。私も青葉でいいですよ」

 

「ああ よろしく 青葉…さん いや、おかしいか ははは」

 

なるほど、天然なのか。それとも部活とかに今まで入ってなくて先輩後輩とかの感覚があんまり掴めてないのかな?

 

「あ、比企……八幡もはじめって呼んでくれたらいいから」

 

ちょっと言いかけて下の名前で呼ぶのは反則でしょ……

てか、初対面で男子の名前呼ぶって結構サバサバした性格なのか。

 

「じゃ、私の名前も青葉って呼んでよ」

 

「あー気が向いたらな」

 

「なんで!?」

 

いや、なんか照れくさいというか背中が痒いというか、そうかはじめさんの感じてたのはこういうことか。

 

「なんや楽しそうやなぁ、丁度ええからおやつにしとく?」

 

###

 

 

飯島先輩の提案でおやつタイムに。

まぁ、こんな可愛い女子に混ざっていいのかと思いすこし離れていたがはじめ先輩に「八幡も来なよ!」と言われたので厚意に甘えていさせてもらっている。

 

滝本先輩が高そうなクッキーを持ってきたため、それを食べながら談笑中である。

 

「青葉ちゃんも比企谷君も今は3Dの勉強中やんな?」

 

「はい 早く覚えて働きたいと思ってます!」

 

飯島先輩の問いかけに涼風が答えてくれたので俺は安心してクッキーを摘める。うん、ただで食うクッキーおいちぃ。

 

「すぐだよ。私だって覚えられたんだから!」

 

「でも、はじめったら字読むと眠ってまうから先輩がつきっきりやったんやで」

 

「ちょ! ゆんなんてパソコンの使い方からだったじゃん!」

 

「そないな昔のこと忘れたわ」

 

さすが同期……俺も涼風とこれくらい言い合えるくらい仲良く…うん、ないな。

 

 

###

 

 

「今作ってるゲームっていつ発売なんすか?」

 

俺も何か話題を出さねばと思い、聞いてみた。

 

「いつやったっけ?」

 

「半年後だよ。噂ではそろそろ恐ろしく忙しい時期が来るんだって〜…」

 

そんな嫌な笑顔で言わなくても。しかし、忙しい時期というのはどこの会社でもあるものだろう。だから、決して帰れなくなるとか労働基準法無視とかはないだろう。

 

「……なるよ?」

 

「「「「え?」」」」

 

滝本先輩の薄暗い声に生唾を飲む。そして、滝本先輩はくらい表情のまま「……家に……帰れなく……なるよ……」とシャレにならない喋り方だった。まさかのブラック説。

 

 

「でも、八神さんはもう泊まってましたよね? やっぱりリーダーだから?」

 

「あの人は会社に住んでるって言った方が正しいんじゃないかな。すごいよ数人分の仕事してるし」

 

まさに仕事優先、一騎当千って感じの人なんだな。あとこれで綺麗好きのスキルつけたらどこの調査兵団の兵長だよ。

 

「ま、性格はあれだけど。わはははは」

 

その後、八神さんからはじめ先輩に雷撃か落ちたのは言うまでもない。




八幡は自分から可能性を閉ざしてるから童貞な気がした

【追記】
引き続き感想、評価、お気に入りよろしくです


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やはり、ただで食う飯は美味い




鈴村健一さんの「初恋の絵本 another story」が素晴らしくいいです
もし、お暇があれば聞いてみてください

え、前書きってなんか前座みたいなことして読者の心を鷲掴みィ!
にするためのものなんじゃ……え?鷲掴みできてないって?
アハハ……


では、どうぞ(無理矢理)


 

 

 

 

『拝啓、お母様、親父、親愛なる妹小町へ

 

私がゲーム会社に勤めてもう2週間ほどになりますが、そちらはいかがお過ごしでしょうか?

こちらはというと労働基準法どおりの勤務時間、お休みを頂いています。』

 

休憩時間を使いそこまでペンを走らせていると意外な人物に声をかけられた。同期の涼風青葉である。

 

「どうしたらいいのかなぁ……」

 

「いや、俺に言われてもな…」

 

ことの次第は1週間前。

今回作ってるゲーム、名称は一応決まってるらしいがまだ未発表ということで俺達には明かされていない。まぁ、明かされてるけどあくまで仮だ。もし、ゲームの出来が悪ければ白紙に戻るケースもある。そういうことも含めての(仮)ってやつだ。

 

しかし、ガールフレンドはいつまでたっても(仮)で俺の携帯から飛び出して来てくれないので難儀である。

 

話は逸れたがそのゲームでの主人公が街で動いている姿を見せてもらった時のことだ。

その主人公が動いている街に村人がいなかったのだ。

それでその村人達を涼風が作ることになったのだが……

 

なかなか八神さんにOKを貰えず困っていて俺に相談に来たというわけだ。

 

ちなみに村人とか直接操作しないキャラのことをNPC、つまりノンプレイヤーキャラって言うんだ。逆に操作できるキャラはPC

これテストに出るから覚えとけよ。

あと、猫町っていうとこの村人はすべて完成してるらしく、制作は滝本先輩らしい。さすが女神。

 

「だって、比企谷君もキャラ作ってるんでしょ?」

 

「まぁな」

 

といっても、敵モンスターとか山賊とかのやられ役だが。

 

「何体くらい作ってるの?」

 

「そうだな、今作ってるので2体目くらいだ」

 

「もうそんなに!?」

 

「驚くことないだろ。……まぁ、そっちは八神さんだし少し手厳しいのかもしれんが」

 

飯島先輩は意味不明だけどな。一体目の時、『ちゃうねんて、こいつはもっとどひゃーって!感じでばあーって!感じやねん』とか言われたからな。どういうことだよ、擬音語で説明するなよ!って思ったけどやりましたよ!必死に!その結果があれなんですよ!

 

『ん〜まぁ、いいんちゃう?気になるとこはウチが手直ししとくわ』

 

線画も!色塗りも頑張ったのに!その結果が『手直ししとくわ』だってさ!

 

あと、エラーコードのこと注意されました。はい。

それでプログラムの人達に怒られるから気をつけや……ってもっと早く言って欲しかった。

 

さて、珍しく俺が、しかも同期で女子に相談されてるわけだ。

可哀想に俺以外に相談するヤツいなかったんだな…って思ったらはじめ先輩とか飯島先輩にも相談していたようだ。

なるほど、俺は一番最後か。知ってた。

 

「参考になるかわからんが、とりあえず今作ってる村人見せてもらっていいか?」

 

俺が聞くと涼風は「うん!」と嬉しそうな顔をした後、キャラの制作画面を見せる。

 

「見た感じ悪くなさそうだが……」

 

そう、見た感じだ。よく観れば、気になる点は意外に多い。

 

「そうだな、これでダメならもっと細かいとこにこだわってみるしかないな」

 

「細かいところ……?」

 

「あぁ、例えば服のシワとかカバンと靴のデザイン、髪の光の当たり方…くらいか」

 

俺が言い終えると涼風はじーっと俺を見つめ、その目線をパソコンの画面に移すとタッチペンを取ると俺に笑顔で

 

「うん……よし、頑張ってみるよ!」

 

俺はその言葉に頷き、自分の席に戻った。

戻ったら俺の机に追加でキャラの設定集やらが置かれ、その上に『追加分よろしくな〜』と書かれていた。

 

うん、人のことしてる場合じゃなかった。

 

 

###

 

あれから数日後、涼風のキャラは無事完成したらしく、俺と同じく3日で1人(俺は1体だが)作れと言われたそうだ。

せめて、4日に?無理に決まってるだろ。そんなに現実は甘くないんだよ……!!でも、最終的に1日1体と聞かされた時は泣きたかった。

 

そして……

 

 

「それではちょっと遅くなっちゃいましたが涼風青葉ちゃん、比企谷八幡くんの新人歓迎会を行いたいと思います……乾杯!」

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 

 

遠山先輩の音頭で全員のグラスがカンっと音を立て乾杯のアレをする。その後、俺はコーラをグイッと飲み干し目の前でグツグツ煮え立っている鍋に目を向ける。

 

「今日は会社のおごりだから、みんな好きなだけ飲んで食べてね!よっしゃー!食うぜー!」

 

八神さんはビールを少し飲み、箸を素早く掴み肉を何枚も一気に持っていく。それに不満があったのは俺だけではなく、はじめ先輩が

「あ!そんなに肉を持ってかないでくださいよ!」

と言いながら俺の狙ってた鶏肉を持っていったことは絶対に忘れないだろう。

 

###

 

 

男は俺1人と傍から見れば羨ましいのかもしれないが童貞の俺にはかなり厳しく、俺は端の方で肉や野菜をバランスよく食べつつ、炭酸飲料で喉を潤していると滝本先輩が気になったのか、心配になったのか小さな声で話しかけてきた。

 

「比企谷君はこういう飲み会は初めて……?」

 

「そうすっね…昔、高校の文化祭の後に知り合いとお好み焼き屋さんに行ったことがあって……」

 

まぁ、あれは飲み会じゃなくて後夜祭、打ち上げとかいうやつか。

しかも、前回は男子が俺以外に2人いたしな……戸塚どうしてるかな……

 

「そうなんだ…じゃ…な、慣れてるの?」

 

「まぁ……微妙って感じですね」

 

俺がそう言うと滝本先輩は「そ、そうなんだ……」と苦笑いを浮かべる。ごめんなさい、そういうのに全く誘われない質でして。

 

「まぁ、これから慣れたらいいんだよ…私もまだ慣れてないし…」

 

この時俺は思い知った。

滝本先輩の慈愛に

お姉さんの素晴らしさに

まるでめぐめぐりっしゅ先輩のような和らぎ安心慈愛に触れた俺は滝本先輩のことを心の中でひふみ先輩と呼ぶことにした。

 

 

###

 

 

酔っ払った歳上の女性ほどめんどくさい人はいないんじゃないかと思う。母親しかり、平塚先生もそうだ。酒を飲んで酔っ払うと面倒な絡み方をされてたまらない。

 

だが、ここの人は意外に酒に強いのか今のところ酔い潰れているのは飯島先輩だけらしく、ひふみ先輩は日本酒を度々俺に頼むように頼んでは美味しそうに飲んでいる。どうやら、ひふみ先輩はお酒にかなり強いようだ。

 

しかし、今、酔っ払った八神さんが涼風いじりに飽きたのか俺にターゲットをつけた。

 

「なんだよ〜青葉はいないのか〜。じゃ、比企谷君は?」

 

「……何がですか?」

 

「きまってんじゃーん、彼女だよ!彼女!いたことないのー?」

 

「……俺にいると思います?」

 

俺が遠い目をして言うと八神さんは申し訳なさそうに「な、なんかごめんね。あ、なにか飲む?」と同情したようになったのでお返しに「そういう八神さんはどうなんですか?」と言ったらめちゃくちゃ照れていたので写真に収めたかった。

 

 

###

 

 

新人歓迎会も時間が経ち、遠山さんも強い酒を飲んだのかぐったりしており飯島先輩と共にダウンしてしまったようだ。それに対して八神さん、はじめさんはワイワイしていた。てか、なんでモーション班のはじめさんがいるのはなぜかと考えたが、まぁ、仲良くしてもらってるしいいかとなった。

 

涼風は俺のいない間にひふみ先輩に日本酒を頼むように言われたのか飲み方(ロックか水割りかソーダ割り)について聞かれて戸惑ってしまったという話をされて、そん時の涼風が可愛かったので心のメモリーに閉じ込めておいた。

 

てか、この会社の女の人って可愛いと思うんだよな。なんで、彼氏いないんだろ。

 

とりあえず、俺は会社から金が出るということもあっていつもは頼まないような肉とかサイドメニューを食べていた。

 

だって、端っこの方にいるから何頼んでも気付かれないんだよな。

まぁ、ひふみ先輩はたまに「……これもらっていい……?」って聞いてくるから一緒に食べたりしてたんだぜ! 最高かよ

 

 

そんなこんなでラストオーダーになりましたとさ。

 

 

 

 

 

「えーそれではもうお開きみたいなんですが、二次会くる人!」

 

 

と八神さんに聞かれたが俺はすぐにひふみ先輩を送るから断ろうとしたら…

あれ?ひふみ先輩いないじゃん。

 

行こうとしたら、もう八神さん、遠山さんと涼風が3人でどっか行ってたし、はじめ先輩と飯島先輩はもう帰ってたので俺はゆっくりと帰路につくのであった。

 

 

 



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社畜になってから初めてのおつかい

多分、八幡って奉仕部のおかげでかなり女慣れしてるよね
年下キラーだし、年上キラーだし。なんなら、たらしだし。
では、どうぞ。

あとお久しぶりです。


俺と涼風の歓迎会も終わり、早くも数日が経過した。

先月までは桜色だった木々も今ではすっかり緑色で季節の変わり目を感じさせる。

しかし、季節が変わっても時間が経っても、仕事というのは終わらず、一つのことを終わらせると次から次へと仕事がやってくるものである。

 

「あー学生時代に戻りたい」

 

そうボヤいてみたが、学生に戻ったところで好きになった女子に振られ吊るし上げられ、部活に強制入部させられたり、木炭クッキー食わせられたりする絵しか見えなかった。唯一の救いは戸塚だけである。

あぁ…戸塚、君は今埼玉の大学にいるのかい?野原家には会えたかい?ひろしは妙にイケボになってて、豚は浩史じゃないかい?

 

って、人の心配してる場合じゃねぇな。というか、誰も俺のボヤキに反応してくれないとか。いや、知ってたけどね。慣れっこだけどね。

それにスカラシップでお金免除してもらって全部俺のもの計画を白紙にしてまで社畜になったのだ。

周りが女子ばっかりでも気にしないドラゲナイ。いじめとかない分、全然マシだよ。本当にマジで。

 

気分転換がてらマッカンのフタを開けて、喉に突っ込む。疲れた身体と心にMAXコーヒーの甘さと糖分が流れ込んでくる。やっぱ、マッカンはすげぇな、最後までコーヒーたっぷりなんだから。

 

「それ、青葉ちゃんのモデル?」

 

マッカンに安らぎを感じているその後ろで涼風のキャラクターにモーションをつけているはじめ先輩。それを覗き見る飯島先輩。さらにそれにピクッと反応し恥ずかしさそうに身をよじる涼風。KAWAII。

 

「こないな感じ?」

 

「ちょっと媚びすぎじゃない?……?」

 

涼風のキャラが可愛い感じだからきゃるるんって感じをだそうと飯島先輩がやってみせるのだが、はじめ先輩にはあまり効果がないようだ。はじめ先輩は涼風の視線に気付いたようで、逆に涼風もはじめ先輩に気付かれ「わ!」と声を上げてパソコンに向き直る。

それを見て動揺したのか「え、なに!?」と悲鳴のような声をあげているはじめ先輩。すると、飯島先輩がはじめ先輩のパソコン画面を指さす。

 

「これが気になるんやない?」

 

はい、正解です。おっと、いけない思わず親指を立ててしまった。あれだな、俺も仕事仕事…。っと思っていたのだが、不意に飯島先輩の悪いいたずらじみた笑顔が視界に入った。

 

「へーこれが会話モーションなんやーへーこれが歩行モーションなんやーへーこれ…」

 

「意地悪しないでください!!」

 

なるほど、そういう事ね。

これはパワハラに入るのだろうか。いや、はいらないよな。

パワハラっていうのは「メモ取らなくてもいいの?」「わかんないことあったら聞いてね」「それくらい自分で考えて欲しかったなー」「ねぇ、なんで勝手にやっちゃうの?」それでできたら陰口叩かれるんだぜ?何その理不尽。てか、平塚先生が上司に言われて嫌だった言葉ランキングのやつばっかりだな。しかし、俺は今のところ言われてない。

なんなら、ひふみ先輩に「わからないことあったらいつでも聞いてね!└(^p^┘)┘」「あーそれはね~……って感じだよ!( ´ ▽ ` )」って顔文字付きで教えてくれるんだぜ!

 

結論入らない(俺調べ+ひふみん先輩補正、効果はリザレクション精神的ダメージの無効化、相手は死ぬ)

 

「ごめんな〜青葉ちゃん、素直やからつい」

 

ケラケラ笑いながら言う様子を見ればあまり反省していないようだが、涼風もあまり気にしてないようだ。そして、涼風ははじめ先輩に画面を見せてもらって歓喜しているようだ。そりゃそうだ。自分の作ったキャラに命が吹き込まれているようなものだからな。

 

……ところではじめ先輩の「青春」って書かれた服はどこで貰えるんですかね。

 

###

 

 

遠山先輩のタブペン(タブレットペンの略)が反応しなくなったらしく、八神さんに頼まれて俺と涼風、はじめ先輩とでトコトコお買い物である。

 

3人一緒といっても3列横並びで歩くとなるとかなり邪魔になるので、はじめ先輩と涼風が2人で並びその後ろに俺という配置である。

遠目から見ればストーカーと思われるかもしれんが「千葉love」というシャツを着てストーカーするやつなんていないだろう。むしろ、ストーカーではなく不審者に近いが千葉を愛する者に悪い奴はいない。

なので、俺はグレーゾーンである。って、グレーゾーンなのかよ。

 

「おつかいって頻繁にあるんですか?」

 

「ううん、たまにあるくらいだよ」

 

ずっと2人で会話していて俺が入る隙間がないどころか俺も一緒にいるということを忘れられているのだろうか。別に悲しくない。ホントダヨ、ハチマンウソツカナイ。

 

「でも、次からは青葉ちゃんか八幡のどっちかが1人でいかされると思うから。レシートとか捨てないようにね」

 

「は、はい!気を付けます!」「…うす」

 

あれですよね、忘れられてると思ったらちゃんと振り向いて言ってもらえると嬉しいよね。でも、はじめ先輩も嬉しそうな表情なのはなぜなんでしょうか。

 

店に入ってからエスカレーターを上がりPC関連コーナーに向かう。

ペンタブってPC関連に入るんだな…と思ったらタブレットコーナーと隣接してた。まぁ、PCもタブレットも最近じゃそんな変わらんくなってきたし。最近では薄さ軽さ速さを求めるようになってるようだ。それなら低コス、(攻撃も死ぬのも)速いクイックブレーダーってのをおすすめするぞ。速さが足んねぇか?

 

「タブレットペンって太いのや細いのもあるんだよね、どれがいいんだろ?」

 

あれ?タメ語ということは俺に話しかけてますか?そういう時は肩を軽く叩く、「ねぇ、八幡」と一声かけるべきですよ。すみません、そんなことされたら死んでしまいます。

 

「よく分からんけど、普通のでいいんじゃねぇか」

 

太すぎもせず、細すぎもせず、普通のボールペンくらいの太さのものを渡すと涼風ははじめ先輩にこれでいいか確認のために尋ね、レジに持っていこうとするのだが「……あ」と何か思い出したような声を出すと恥ずかしがりながらこちらを向く。

 

「すみません、お財布を会社に忘れてきちゃいました…」

 

「ドジだなぁ…今度から注意するんだよ…?」

 

笑いながらポケットを漁っていたはじめ先輩の顔が曇る。

まさか…

 

「はじめ先輩もないんですか?」

 

「いや、落とした…っぽい…」

 

「「え!?」」

 

###

 

とりあえず、ペンタブは俺が購入し領収書をもらってからはじめ先輩のところに合流する。どうやら、サービスカウンターには届いていなかったらしく、涼風は来た道を探しに行ったそうだ。

 

「あぁ、私はなんて情けない先輩なんだ!でも、青葉ちゃんはしっかりしてるなぁ…。それにいい子だし、可愛いし。しかも10代…なんてケシカランだ!」

 

まだ21歳の人が何を言っているんだ。

 

「ほら、人間財布落とすことくらいありますよ。どっかの主婦だって買い物行こうと街まで出かけたら財布を忘れたってのもありますし」

 

俺がフォローするように言うとはじめ先輩は苦笑する。

 

「それってサザエさんじゃん…」

 

あれ、あんまりウケてない感じ?おかしいな…折本なら「なにそれ、ウケない」とか言ってくれそうなのに。あら、折本にもウケてないじゃない。

 

「…それにはじめ先輩だって可愛いじゃないですか。なんというか、そのシャツとパーカーも似合ってますし」

 

言うと、今度は俯いていて何も言ってくれない。…あれだな、冴えないキモイ男子に顔可愛いとか服いいねとか言われてもキモイだけだよね!

 

俺がなんとも言えない感情に押しつぶされそうになっているとはじめ先輩の財布を持った涼風がやってきた!そして、財布は会社のデスクに置きっぱなしだった!

 

なんだよ、どっちもどっちじゃねぇか。

帰り道、来た時と同じように俺が2人の後ろに付く形で進んでいく。

さっきのはじめ先輩の反応が気になりすぎて、よくよく考えれば有名人をボディガードしてるSPのようでなんか俺カッコイイんじゃね?という現実逃避に至っている。

 

「はぁ…おっちょこちょいな先輩でごめんね」

 

「そんな!私もおっちょこちょいだからちょっと安心します……ってこんなこと言ったら怒られちゃいますね」

 

2人とも可愛いなチクショー!!なぜ、彼氏がいないんでしょうかね。

 

「青葉ちゃんはそれでも可愛いし…」

 

「へ!?はじめさんだって可愛いですよ!!」

 

「……そう?…なのかな?」

 

はじめ先輩はチラッと俺を見ると手を猫の手にして「ど、どうかにゃ?」と、キラッとした感じのポーズをとる。

 

「え…あー、まぁ、可愛いんじゃないですかね」

 

「いや、やっぱ照れるな、ははは」

 

「ははは!」

 

おい涼風、はじめ先輩が喜んでるんだからその乾いた笑いはやめろ。

褒めた俺が悲しくなっちゃうだろ。

 

###

(会社に帰った後のはじめ先輩 語り 比企谷八幡)

 

 

はじめ先輩はなははんとした笑顔で会社のエレベーターに乗り、フロアについてもその笑顔が崩れることはなく、ペンタブの入った袋をクルクル回しながら、八神さんのデスクに向かう。

 

「八神さん、買ってきましたあ!」

 

はじめ先輩の陽気な声を聞き、八神さんは手を止めてはじめ先輩の方に身体を向ける。

 

「おお、お疲れ」

 

「どうぞ!!」

 

ペンタブを渡され、満面の純粋な笑顔を向けられた八神さんは「……あ ああ……ありがとう……」と何があったのかと言いたげな目ではじめ先輩を見るが本人に気にする素振りはなしということで、とうとう口にすることにしたらしい。

 

「ど、どうしたの?」

 

「ほへ?何がですか?」

 

ほへ……ってあんた。可愛いけど…八神さんめっちゃこっち見てくるんだけど。どうやら、何があったのかを俺たちに聞いているようだ。涼風は全力で首をブンブン振り、俺は笑ってごまかす。

 

「あはは、はじめったら自分のキャラ間違えてんで」

 

飯島先輩からはじめ先輩に言葉という爆弾が投下され、それをまともに受けた先輩は「わ、わかってたよチクショー!!」と言ってトイレへ駆け込んでいった。

 

 

 

今日も会社は平和なようだ。




なぜ、彼氏がいないんでしょうかね

まんがタイムきららキャラットだからですね

活動報告では書かないと言ったな
あれは多分だ…

とりあえずいくつか作品に関しての連絡を

・ヒロインはおそらく全員。何かしらフラグを立てていきますが、八幡が全部折っちゃうのでしょう。

・とりあえず原作1巻が終わるまでは書きたいと思います
(応援よろしくぅ!)

・ひふみ先輩の顔文字は種類豊富だろうと思い、可愛い系から謎なやつまで用意

・八幡が高卒で就職したのは3年生になってからの出来事がきっかけ
(詳しくは決めてません。決まり次第、余裕があれば書こうと思います)

・卒業後、連絡を取ってる(取ってくる)のは由比ヶ浜、材木座、戸塚、一色、 葉山、平塚先生のみ。雪乃は連絡先を交換してなかったと思うし、あの2人は連絡先交換してたらなんか嫌なので。

今のところはこんな感じです。他になにか聞きたいことなどあれば感想とともに送ってほしいです。では!


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寝坊しても定時に行けば万事大丈夫


新作全くかいてない


 

非常に気持ちのいい朝だ。

この比企谷八幡が風にも負けず雨にも負けず、ましてや布団の誘惑などに負けるはずがない。高校時代もそうだっただろう?いや、バリバリ、布団の誘惑に負けて遅刻してたな。遅刻しすぎて先生に待ち伏せされてるレベル。しかし、おかげで黒のレースを見れたこともあった。つまり、遅起きは一文の損と一文の得ということだろうか。

 

さて、今日が休みと思って昨日夜更かししてたわけだが……。

就職するに当たって俺は実家を離れている。家賃は安く比較的綺麗なアパートを借りており、会社まで自転車で15分程度。なので、寝坊してもさして問題はない。というか、寝坊しても大丈夫なんじゃない?だって、寝坊しても出社時間に会社にいればいいんでしょ?

 

携帯の時計を見れば今は8分45分だ。朝飯を抜いて、自転車で信号を完全無視してめちゃくちゃ飛ばせばギリギリつく。

流石に入社して半年も経ってないのに遅刻するわけにはいかない。

遅刻してやる気がないとか思われたら終わりだ。というか、怒られたくないし絶対遠山先輩の説教怖いし。

 

ということで……見せてやるぜ!俺のトップギア…!!

 

###

 

自転車をフルスピードで漕ぎながら、遅刻の言い訳とか考えていた。

しかし、さほど遅れもせず18秒も余裕を持って出社することが出来た。ブースにははじめ先輩しかいないのでちょっと前からいたみたいな感じを出しておく。

入り口手前で涼風とか飯島先輩、ひふみ先輩がなんか拾っていたがまぁ、俺には関係の無い話だ。誰かよりも自分優先なのが人間の深層心理である。

 

「あれ~今日はずいぶんと寂しいな」

 

デスクにつき、パソコンの電源をいれていると八神さんがコーヒーを片手にこちらへやってくる。

 

「比企谷、何か知らない?」

 

「いや、何にも…」

 

俺もさっき来たばかりですし、下にいましたよとか言ったら遅刻ギリギリだったのがバレちゃうからね。しかし、俺のことは苗字呼びの呼び捨てなのか。久しぶりだな。呼び捨てにされたの。

 

「…うーん、3人も遅刻なんて気が緩んでるのかな…ちょっと厳格な態度で接すべきかな」

 

八神さんの説教はできれば遠慮したい。だって、涼風のキャラも通すの全然OKでなかったらしいし。おそらく、仕事とか約束とかには厳しいタイプの人だな。

俺も時間や約束事にはうるさいぞ。寝坊に関しては仕方ない。眠かったし、あれはオフトゥンが悪い。俺は悪くない。

 

「できるんですか?」

 

「できるよ!失敬な!!」

 

はじめ先輩がからかうように言うと、八神さんは怪訝そうな顔をして言った。

多分、できるんだとは思うがそういうのは遠山さんの方がなれていそうだな。ほら、あの人八神さんが誰かと仲良くしてると目怖いし。

パソコンが立ち上がり、パスコードを入力しているとブースに遅刻組が現れる。

 

「「「おはようございます」」」

 

飯島先輩とひふみ先輩は汗とかかいてないけど、涼風は鼻が赤く汗が額から下へと流れている。なんかエロいな。

 

「おいおい、遅刻だってのにずいぶんのんびりしてるね。自覚はあるの?」

 

そうだぞ、俺なんか寝坊したから信号全部無視って来たんだぞ?

あ、こっちの方がダメか。

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「特に青葉!まだ入社1ヶ月も経ってないのに学生気分じゃ困るよ!」

 

「はい……!」

 

その言動からいくと1ヶ月経てば「別にいいんじゃね?」とかなっちゃうんですが。まぁ、休日前で気が緩んでしまうのはよくあることだ。ソースは俺。

涼風が萎縮して可哀想だし何があったのか色々気になるから助け舟くらいは出してやろう。

 

「八神さん、とりあえず遅刻理由聞いた方がいいんじゃないんですか?」

 

「……ん?」

 

飯島先輩に目配せすると意図を理解してくれたらしく飯島先輩が口を開く。

 

「会社の前で青葉ちゃんが転んでしもて鞄の中身を拾うてたら遅くなってしもたんです」

 

「……え?ちょっとこけたって大丈夫なの?」

 

聞かれた涼風は涙目だった顔から一転し「へ?」と素っ頓狂な声を上げる。

 

「それで鼻が赤かったのか…そ、それならそうと早く言ってよ!勘違い…しちゃったんじゃん…」

 

鼻が赤くても事情がわからんとどうにも判別できないし仕方ないと思う。ほら、なんかぶつけたとか風邪とか色々あるだろうし。

 

「青葉はいつも頑張ってるし学生気分だとは思ってないよ。一応上司だし……とはいえひどいこと言って…ごめん」

 

確かに言いたくなくても言わなきゃならないことはある。

言わなきゃわかってくれないし、言ってもわかってもくれないかもしれない。しかし、言わなくては言葉にしなくては伝わらないことはある。それに八神さんは俺たちの中で上に立つ存在だ。遅刻してきたという事実だけを見ればそう強く言ってしまうのは当然だろう。だからこそ、間違っていたら誠意を持って謝るべきなのだ。それができる八神さんは人間が出来ている。というよりは理想の上司に近いのかもしれない。

 

「今日のところは遅刻じゃないことにしといてあげるけど3人とも遅刻届は出すように!」

 

そう言って自分のデスクに帰っていた八神さんだが遠山さんに「慣れないことして失敗した…」と可愛い声を漏らしていた。

 

ちなみにひふみ先輩が遅刻してきたのは朝ごはんが美味しかったかららしい。だよね、朝ごはん美味しいよね!

 

###

 

3人の遅刻理由のおかげでブースの雰囲気は悪くなく、仕事もまあまあ順調といえる。しかし、キーボードと音とペンタブがタブレットを叩いたり滑ったりする音しかしない空間というのは未だに慣れない。

人間、新しい環境に放り込まれると慣れるのに2週間はかかると言うがそんなすぐに慣れるわけがないし、そもそも人間関係の形成が苦手な俺なら尚更かもしれない。

 

「皆さん休日って何してるんですか?」

 

どうやら、働いてるのは俺だけらしく他の人達はティーブレイクなうのようだ。おかしいな。結構期限迫ってきてるはずなのに。高校時代に締め切りという言葉に苦しめられていた俺はいかに最後に楽するかを考えて結果、結局さっさと終わらせてしまえばいいという結論に至ったのだ。いや、今までもそう思ってたけどなかなかできるもんじゃないよな。

 

「内緒や」

 

「え 即答?」

 

飯島先輩のことだから、おそらく服屋とかショッピングにでも行ってそうだが。それくらい言っても良さそうだがな。

 

「なにか言えない理由でも~?」

 

「内緒なもんは内緒なの!」

 

はじめ先輩って人煽ったりからかったりするの好きなのだろう。Sっ気があるというか、本人にそのつもりがなさそうなあたりS。なので、はじめ先輩のパソコンもS。

 

「はじめさんは?」

 

「わたしは…いや、私も内緒にしとく」

 

あんたはどうせ特撮鑑賞とかフィギュアショップめぐりだろ。

そう心の中で突っ込んでいると天使の声が聞こえる。

 

「比企谷くんは…?」

 

「…読書とか家で寝てるか…ですかね」

 

「そっか…」

 

俺の休日を気にしてくれるということはひふみ先輩もしかして……!?

とか、そんな有りもしない妄想をしていたが、長年の経験から言ってあれは俺を気遣ってくれての質問だろう。そのお礼というか、ひふみ先輩はどうなのかと聞いてみる。

 

「ひふみ先輩は休日何をされてるんですか?」

 

聞くとひふみ先輩はたじろぎ、恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「……動物の可愛い動画観たりしてる…かな」

 

それを見てるひふみ先輩を見たいと思ったのは俺だけですか。

人それぞれの休日の過ごし方があるわけだが、ひふみ先輩がそれをしてるのを知るとなんかいいよな。そういえば、休みの日に猫の動画を漁ってるやつがいたような…。

 

……あ、雪ノ下か。

元気にしてるだろうか。あいつ、結構無理するとこあるからな。

海外の大学に行ったという話を聞いたがいじめにはあっていないだろうか。

って俺は保護者かよ。

というか、あいつなら大丈夫か。サバンナでも強く生きていけそうだし。

 

結論、ひふみ先輩は可愛い

 

 



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お金の使い方なんて使うか貯金か博打


テスト終わりました(悲壮)
早めに帰れる生活からクソみたいな部活をしてからの帰宅の生活に戻ります。死にたいとは言いませんがやめたい。

やっと新作書けます(歓喜)
正直、テスト期間中にかけましたがこれやほかの2本で手一杯でした
自分の技術不足が恨めしい

新作の内容(ネタバレはしない)
モンハンです。多重クロスの。ほら、XXが出るかモンスターハンター多重クロスっていうのがあってもいいよねみたいな
モンハンに俺ガイル、鉄血のオルフェンズという謎の組み合わせです
まぁ、あくまで予定です。

日曜日からバイト(働くって青春だ)




 

お金は労働の対価、拾う、ギャンブル、強盗など様々な方法で手に入れることができるが、どれもこれも手に入れるのにはしたくないことをしなきゃいけないものである。

生きていくうえではお金の存在が絶対不可欠であるという事は、万人が理解するところであろう。無ければ路頭に迷い公園暮らしのアリエッティになる可能性がある。……あの手の人はお金を手に入れたらどうするのであろうか、という一筋の疑問がわいてきたが触れてはいけない気がするから置いておこう。

 

ある人は言った

 

「人の価値はお金の使い方で決まる」

 

お金の使い方は人それぞれで、貯金する人もいれば欲しいものを買うのに使う、更なる高みを目指し企業投資する人もいれば人生ワンチャンあるでしょと大博打に挑む人もいるだろう。

 

では、俺は。社会人として、1人の大人となった比企谷八幡は。

この初給料を何に使うのだろうか。

 

 

 

時は遡ること2時間前__

 

「比企谷君、はいこれ」

 

そう言われて渡されたのは高校時代に2、3回だけ見た封筒。

それは俺が夏休みに資金不足でバイトをした時だったか…仕事を覚えるのが早すぎて「可愛くないやつ」とか言われて上司というか先輩が鬱陶しかったからバックれたんだったけか。

そのことから紐解くにどうやらこれは給与明細ということらしい。

 

「…ありがとうございます」

 

こういうのって会社でも手渡されるものなんだな…。

てっきり、今日給料日だから銀行いけよみたいな感じだと思ってた。

中身を確認してみるとそこそこの額だ。俺の働きが正当に評価されているのだとしたら、これは少し多いような気もする。

そんな疑問を持ちながら渡してくれた遠山さんを見ると最後の涼風に渡し終えて、こちらを振り向きつつ言う。

 

「青葉ちゃんと比企谷君は初給料ね」

 

「はい!バイトもしたことないのでホントに初です!」

 

涼風は初給料が嬉しいのかそうハツラツと答えると、俺の方を見る。

 

「比企谷君は?」

 

「…高校の時に少しだけバイトしてたから給料を貰うのは初めてではないな」

 

言うと涼風は「凄い…」と感嘆の声を口にするが、本当はもう少しお金が欲しかったが先輩が嫌でバックれたことを知ればどういう反応になるのだろうか。いや、やめておこう。

 

「でも振込だとやっぱりこういう明細書だけなんですね」

 

「ん?」

 

涼風は給与明細の封筒を透かすようにしてみながら、彼女の妄想を話し始める。

 

「だって、お給料といえば封筒の厚みで『おっ、今月は多いな!』とか『少ないな…』って一喜一憂するものかと」

 

お前はいつの時代の人間だ…。そう思ったのは俺だけないらしく、遠山さんは苦笑いの表情を浮かべている。

 

「青葉ちゃんホントに10代?」

 

多分俺と同い年ならそうなんじゃないですかね。でも、まだ歳下と言われても信じちゃうけどね。

俺も苦笑いを浮かべていると涼風は表情を曇らせる。

 

「で、でも貰っていいんですかね…まだこれしか作ってないのに…しかも残業代まで」

 

彼女の目にはパソコンに映る2体のキャラクターが。

確かにそれは俺も疑問だった。俺は4体だが、残業というほど残業はしてないし、なんなら定時に帰っている日の方が多かった。だから、この額が多いのかはわからんが俺に合っているのか不安だ。

そんな不安をよぎらせているとはじめ先輩の「そう!」で現実に戻される。

 

「だから青葉ちゃんは早く会社に貢献できるように頑張らないとね!そして会社から評価されれば〜お給料も上がるわけですよ!」

 

あーどうやら今回ではじめ先輩のお給料はレベルアップしたらしい。

そのことを涼風が尋ねると、少しだけ、上がったそうだ。

 

「どうせデスクのおもちゃに消えるんやろ」

 

ジト目でそう言うゆん先輩にはじめ先輩はすこし怒りながら言う。

どうでもいい話だが、飯島先輩と呼んでいたら「そろそろ下の名前で呼んでくれてもええんちゃう?」と言われてしまいゆん先輩呼びにチェンジした。まぁ、本人に言ったことはないが。

 

「いいだろ別に!それに資料にもなってるし。現に八神さんがよく持ってくし」

 

デスクに並べられてフィギュアを眺めるとはじめ先輩はガシッと光る剣を掴む。

 

「特にこれ!」

 

その言葉と共に持ち手の側面についているスイッチがカチッ。

そして、暗く透明だった剣は徐々に光を帯びていく。さらにはじめ先輩が振り回すとブゥン、ブゥゥンという効果音が鳴る。なにその機能。

 

「これがあるだけで仕事が捗るんだ」

 

そう言って振り回す姿はすごく楽しそうだし、なんか中二心を燻られる。……くっ!どうやら第2の俺が魔剣を欲しがっているようだぜ…!!……ってこれじゃどこぞのザザ虫みたいじゃねぇか…。

 

「ついでに西洋の剣もあります」

 

なんだよ、ジャパネットはじめかよ。しかし、チャキって音が鳴ったけど大丈夫なのかそれ。

 

「はい、八幡」

 

ニコニコしながらしかも名指しで渡されてしまったとなれば受け取る他ない。一度剣を納刀しなおし、俺はここで過去の記憶を呼び覚ます。中学時代、遊ぶ相手もいなかった俺だが1人でチャンバラに明け暮れたあの日々を。音も立てずに剣を抜刀していくと全ての神経が研ぎ澄まされていくようだった。

あぁ、もし俺が剣の時代に生まれていれば有名な剣豪になれていたのではないかという錯覚に陥るほどの境地。まさに阿修羅すら凌駕する存在!!

 

俺の覇気に触発されたのかはじめ先輩は違う剣を抜き構える。互いに見合うがどちらも指一つ動かさず相手の出方を伺っている。

室内はそこまで暑くなく、お互いに服装は涼し気なのに妙な汗が出てくる。このブースだけ異様な空間に包まれる。__そして次の瞬間

 

「はい、お2人ともストップです」

 

涼風が手で制すと互いに剣を納刀。そして握手を交える。

今日の敵は明日の友とかなんとか。戦ってもないのに友達になっちゃったぜ!!

 

###

 

一部始終を見終えた遠山さんは俺とはじめ先輩が席につくと先ほど止まっていた給料について話す。

 

「お給料の査定は年に1回だから、2人とも来年には昇給してるといいわね」

 

つまり、会社が不況に陥らない限りは俺の給料はこのままということか。特別ボーナスも出るかはわからんが少しは期待してもいいかもしれない。気になることがあったのか涼風はあることを口にする。

 

「評価っていい仕事をしていれば上がるものなんですか?」

 

「2人はまだ与えられた仕事をこなしてくれればそれでいいわね。でも目の前の仕事以外にもどれだけチームに貢献できたかも大事よ。ちなみに青葉ちゃんと比企谷君、キャラ班はキャラリーダーのコウちゃんとADの私が評価して社長に報告するの」

 

じゃ、ボーナスはないのか。サラリーマンじゃないんだし当たり前か。しかし、貢献か……難しいな。ただでさえ役に立ててるのかわからんのに。

 

「…そうね、でも比企谷君と青葉ちゃんはいいと思ったことをまずはやってみてね」

 

どうやら、俺の独り言は少しだけ口に出ていたらしく遠山さんはそれを俺の悩みと受け取ったのだろう。

 

「八神さんって仕事には厳しいし、大変だよねキャラ班」

 

そう言うのは先ほど戦友となったモーション班のはじめ先輩だ。

あ?そういえば……

 

「そういえばはじめ先輩ってモーション班なのになんでこっちに?」

 

俺のその疑問がはじめ先輩にはグサッと刺さったのか声のトーンが一気に下がる。

 

「ごめんね……私もね。モーション班のブースにいたいんだけどね……ごめんね……」

 

2回も謝らなくても…涼風も同じことを聞こうと思っていたのかすごく気まずそうな顔をしている。

 

「モーション班の席が余ってなくてね。それに隣だし」

 

遠山さんがフォローするように言うがあまり効果が無いらしく、はじめ先輩はまだ拗ねている。しかし、俺の顔を見ると微笑み、顔を逸らしてデスクに向き直ると誰に向けたのか小さな声で「……まぁ、別にこっちの方がたのしいからいいんだけどね」と、俺の耳には届いてきた。

 

 

###

 

「初給料は何に使うか決めてる?」

 

……と遠山さんに聞かれてからだ。俺がここまで悩んでいるのは。

いや、全く考えていなかった。それは涼風も同じだったらしく。隣で「どうしようかな…」と呟いている。よかった…悩んでいるのは俺だけじゃないらしい。

 

参考までに他の人に聞くとゆん先輩は服。はじめ先輩はフィギュア。

八神さんと遠山さんは八神さんは忘れていたが日帰り温泉に行ったらしい。

で、ひふみ先輩はコスプレ衣装らしいんですが写真ないんですか?なんなら、もう久しぶりにTwitter開いて見つけちゃうよ!!

 

「比企谷君は何に使うの?」

 

涼風に問いかけられ手を止める。高卒とはいえ社会人になって初の給料だ。自分の時間をこの会社のために使い働きそれで得たものだ。だから、自分に使うのが妥当なところだろう。だが、特に欲しいものもないし食べたいものもない。

 

「……特に何も考えてねぇな」

 

「そっか…比企谷君もか…」

 

お互いに手も口も動かず、画面ではなくどこを見ているのかわからない。遠山さんは言っていた。

 

「貯金もいいけど、なにか思い出に残ることをしておくのもいいと思うわよ」

 

しかし、貯金という選択肢はなかった。それは涼風も同じらしく。自分のスーツの襟を優しく触っている。涼風は「よし、決めた」というと俺の方を見る。

 

「会社おわった後、少し…いいかな?」

 

###

 

特にすることもなく、お金の使い道も決まっていなかったので涼風の誘いを断る理由はなかった。どこに行って何をするのかはわからないがもしかしたら涼風の用に付き合えば何か見えてくるものがあるらしい。

 

定時時間になるとはじめ先輩がパソコンの電源を落とし、席から立ち上がる。

 

「よしっ!新しいフィギュア買いに行くぞぉ〜!」

 

そう言うとはじめ先輩は元気よく「お疲れ様でしたー!」というとブースから出ていく。

それを苦笑いしながら見ていたゆん先輩も電源を落として「うちも今日は服買いに行こかな」と言い、社内をあとにする。

 

そして

 

「じゃ、行こっか」

 

帰宅準備万端になった涼風は俺の横に少し顔を赤らめて立っている。

待たせては悪いので俺も速やかに帰り支度を済ませる。

カバンを持ち、涼風に一声かける。

 

「よし…行くか」

 

「……うん」

 

なんで顔赤らめてんだよ…なんかむず痒いな。

そんな俺達を見てどこからか「付き合い立てのカップルかよ」とそんな声が奥の方で聞こえた。

 

 

会社を出ると外はすっかり夜の街だ。俺は自転車を取りに行き、愛車を手押ししながら涼風のところに向かう。

そのまま無言のまま道を進むと、涼風が口を開く。

 

「私さ、同い年の男の子と一緒に帰るのって初めてなんだよね」

 

お、おう…。なにその素敵な告白みたいなの。

ちょっと勘違いしちゃうじゃない?まぁ、したところで意味は無いしする必要性がない。本当にないからこそ言ったのだろう。それなら少し緊張して顔を赤らめているのも頷ける。

 

「だからさ、なんだろ少しドキドキする」

 

「まぁ、人間初めてのことは何かしら心の高鳴りとかあるらしいからな」

 

「比企谷君も初めてじゃないの?」

 

普通なんじゃねぇの、と続けようとしたが涼風に遮られてしまう。

そのニュアンスだと俺に今までそういうことがなかったみたいな言い方だな。

 

「まぁ、妹がいるからな。まだマシなほうだ」

 

うん、ホントに。小町万々歳である。

 

「で、どこに行くんだ?」

 

まさか、まさかとは思うけど本当にまさかホテルとかじゃないよね。まだ18歳だよ?ちょっと早すぎるんじゃない?しかも、こんな合法ロリみたいなのと…

 

「ケーキ屋さんだよ」

 

あ、ですよね。……ん?

 

「ケーキ?」

 

「うん。このスーツさ、高いのにお母さんとお父さんが買ってくれてさ。だから、2人に何か買ってあげたいなって思って」

 

それでケーキか。なるほど、涼風らしいというか…

涼風らしい?まだ1ヶ月も一緒にいないのに勝手にわかった気になっている。俺の悪いクセだな。しかし、まぁ、家族に贈り物か。

 

「いいんじゃねぇの。多分、喜んでくれるだろ」

 

俺が言うと涼風は笑顔でケーキ屋の前で立ち止まる。

 

「だよね!…だからさ、一緒にお母さんとお父さんのケーキ選んでよ!それでさちょっとだけここでケーキ食べようよ。私たちの初給料でさ」

 

そう言う涼風はとても楽しそうで幸せそうな顔していた。

人のお金の使い方は人それぞれだ。使うか貯金か博打。

正しいお金の使い方があるかはわからない。でも、誰かのために贈り物をすることは悪くないことだろう。

俺には誰かにケーキを送るほど、親しい人間などいない。家族にも大学受験せずに就職したから半ば追い出されたようなもんだからな。

それに自分で稼いだ給料だ。自分のために使うのも悪くないだろう。

 

「そうだな。食うか…」

 

もし、お金の使い方で悩んでいる人がいるのなら。

お金があるけど使い道がないのなら。

たまには自分や誰かにご褒美をあげてもいいんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 

###

 

おまけ(という名の後日談)

 

 

「まんがタイムきららキャラット!!」

 

青葉「比企谷君、ケーキ美味しかったね!」

 

八幡「そうだな…悪くなかった」

 

青葉「…素直に美味しいっていえばいいのに」

 

八幡「いや、悪くなかったって言ってるじゃん…」

 

青葉「うーん、まぁ、いっか。比企谷君だし」

 

八幡「え、それってどういう…」

 

青葉「まんがタイムきららキャラット!毎月28日発売!芳文社!」

 

八幡「えっちょ、だからどういう……」

 

ひふみ『私も行きたいな……(><)』

 

 

 




がはまさん(とか雪乃とかいろはすと帰ったことあるのになんか「妹以外はお前が初めてだよ」みたいな言い方する八幡
あざとい。

最後に一度入れてみたいやつをやってみました!反応次第で続けるし、消します(震え声)

次はいつになるかな…(遠い目)



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比企谷八幡の苦悩と煩悩

タイトルに深い意味は無い


 

新しい朝が来た。

と言っても、希望には満ちていない。

 

いつものように朝だけ騒がしい目覚ましを止めて、顔を洗う。

俺の携帯が朝だけ騒がしいというのは着信とかLINEが来ないからとかではない。着信に関しては高校卒業後、小町からしか来ないし、後者に関してはLINEやってないし。

 

ただ、1件着信とメールが来ていた。それも目覚ましが鳴る5分前だ。

…誰だよこんな朝っぱらから。高校の知り合いではないだろう。おそらくこの時期は大学のテスト前当たりだ。高卒の社会人に聞くことなんてあるまい。でも、テストが終われば夏休みなんだよな……俺に夏休みはあるのだろうか。

 

知り合いは無し、ということは必然的に小町であろう。

なんだろう…いじめにでもあったのだろうか。

それともゴミ虫に言い寄られてるとかだったら会社を休んで駆除しに行かねばならない。

 

先に電話の方を確認すると見慣れない名前だが、最近知った聞けばわかる名前。昨日、初給料でケーキを食べた同期の名前だ。

 

【涼風青葉】

 

そういえば、昨日帰り際に登録させられたんだっけか。

じゃ、メールも涼風か。そう思って開いてみればAmazonからだった。

 

 

……久しぶりに携帯を地面に投げつけたくなった。

 

 

###

 

帰りたーい、帰っりたーいー

あったかハイムが待っている。

 

親や妹がいなくても家はヒーターがあるので暖かいです。

しかし、人の温もり的な温かさはない。

お昼食べたい。この仕事が終わるまで食べてたまるかと思っていたが、もう流石に限界だ。もう爆破スイッチとか押しちゃうレベル。

 

誰かお弁当とか持ってきてくれないだろうか。そういえば、ここの人遠山さん以外食堂か、コンビニだもんなー。お弁当を作る時間が無いのか、そもそも女子力がないのだろうか。

 

あー温かいご飯を作ってくれる女の子降ってこないかなー

 

「ねぇ、なんで電話出てくれなかったの?」

 

あー女の子降ってこないなー

もう既に隣にツインテールで中学生みたいなのがいるし、なんかジト目だし。

 

「いや、寝てたし」

 

「…じゃ、しょうがないか」

 

で、何の用か言えよ。気になっちゃうだろ。

聞けばいいだけの話か。

 

「で、なんだったんだ?あんな朝から」

 

聞くとこちらには一切目もくれず、席から立ち上がると八神さんの席に向かっていく。……なんなんだ一体。

まぁ、言いたくないなら仕方がない。でも、気になるなぁ…。

気持ちを切り替えてペンを動かす。色塗り色塗り楽しいなー。

時計を見れば1時を回っており、少しばかりため息をつくとはじめ先輩とゆん先輩が立ち上がる。

 

「八幡、私達コンビニ行くけど、どうする?」

 

うーん、今買いに行くのも集中力が続きそうにないし、行ってもらうのも申し訳ないな。ここは断るのがベストだろう。

 

「後で適当に済ませるので俺はいいです」

 

いうと、ゆん先輩は俺のパソコンを見て「しかたあらへんな」という声を漏らす。すると、引き出しから黄色い箱を取り出す。

 

「せめて、これだけ食べとき。青葉ちゃんにも分けてあげ」

 

これは……カロリメイト!!どっかの傭兵あたりが食いそうなやつだな。それをまじまじと眺め、受け取ってお礼を言おうとしたらそのカロリメイトの箱は涼風の手にわたる。

 

「ありがとうございます!この御恩は必ず…!」

 

「ははは、倍返しでええよ」

 

ゆん先輩の発言に「おい」とはじめ先輩の軽いツッコミが入る。

2人がいなくなると涼風はふぅとため息をつく。その顔に疲れはなく、むしろ何か嬉しそうな顔に見えた。

 

「はい」

 

カロリメイトをわたすと席につく、涼風。そして、カロリメイトを1つもぐもぐ。それにつられて俺ももぐもぐ

 

「美味すぎる…!」

 

おっといけねぇ、つい口出してしまった。そのまま、もっと食わせろとか言いそうになっちゃったよ。

 

「そんなにかな…」

 

おいおい、そんなに引くなよ。傷ついちゃうだろ。

 

「で、ホントに朝の電話なんなの?すげー気になるんだけど」

 

2本目のカロリメイトの袋を開けながら言う。

今回はちゃんと聞いていたらしく、涼風は……何してんのこいつ?

目を細め、口をへの字にしてるんですけど?

 

「あれだよ、あれ。なんか新しく登録した電話番号に電話したくなるってことあるだろ?それだよ」

 

ねぇ……いや、あるな。中学時代に携帯買って貰ってクラスメイトの女子の電話番号教えて貰った時にしたくなる衝動はあったが、嫌われそうだからとか、神は言っているまだその時ではないと……とか思ってしなかったんだよな。

 

「…お前、そんなこと言うやつだっけ?」

 

「比企谷君の真似なんだけどなー」

 

「似てねぇよバカ」

 

「あいた!?」

 

俺が軽くデコピンすると涼風は頬を膨らませてブーブー言ってくるが知らない。今年のM-1王者がパンクブーブーじゃないとか知らない。

 

ふと、ひふみ先輩の方を見ると音楽を聴きながらペンを走らせている。一応、休憩時間内だからいいんだが…。

てか、いつ昼飯食べたんだ?

 

「!?」

 

ひふみ先輩がバッとこちらを振り向くとイヤホンがブチっとパソコンから離れてひふみ先輩の聞いていた激しい音楽が鳴り響く。

それを慌てて止めるひふみ先輩は可愛かったです。

 

「な、なにか用?」

 

「いや……ひ…滝本先輩は昼ごはんいつ食べたんですか?」

 

聞くと、先ほどの慌てた顔などなかったかのように真顔になる。

 

「もう家で食べちゃったから…」

 

あ、そうなんですか。会社とお家が近いんですかね。

 

「宗次郎と一緒に……食べたくて…」

 

「「宗次郎!!?」」

 

なんだと……?宗次郎……?

 

「か、か、か、か、か」

 

「比企谷君!?落ち着いて!」

 

な、何を言っているんだ。俺は至って冷静だぜぇ……?

すると、ひふみ先輩はスッと携帯を見せてくる。

あーこの可愛い癒し系先輩の彼氏……どんなイケメンなんだろうか…。

まさか、アレも済ましてるのではないだろうか?

おぅふ……ひふみ先輩のあんな姿を想像してしまったぜ…

 

「たわし……?」

 

は?たわし?彼氏の頭が?

とりあえず、意を決して、瞑っていた目を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリネズミかよ……

 




笑顔の話は次に回します


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笑顔とハリネズミとキャラデザと

なんの捻りもないタイトル


もう頑張らなくていいよね……?
明日は日曜日だよ……?
バイトだよ……?

とりあえず書きました
多分誤字脱字多くなります(報告ヨロシク)


 

ハリネズミ…。

昔、ゲームやら漫画やアニメにまだ興味がなかった頃、親に買い与えられた動物図鑑で見たことがある。

確か『ネズミ』がついているがネズミでは無くモグラの仲間だった気がする。

可愛らしい見た目とは裏腹に昆虫やミミズ、陸貝、両生類、爬虫類を捕食するらしい。しかし、例外もいて果物を食べるものもいる。

意外にも体内に抗毒物質があり、毒蛇も食すことが出来る。

最大の特徴といえる背中の針は、危険を感じると丸くなって全面的に防御するのに使用することから、「全身武器の塊」というキャラクターや「全方位を射撃している図」の比喩としても用いられる。

 

最後のはまぁ、某サイトの情報だ。あれだなハンターのスティンガーミサイルとか。ってこれわかる人いんのかな。

 

とりあえず、ネズミではないし音速で飛ばないし最後の切り札でスーパーハリネズミなんかになったりしない。

 

ひふみ先輩のスマートフォンの画面に映るのは『宗次郎』と名付けられたハリネズミ。あいにく、ハリネズミの種類にはあまり詳しくないのでこのハリネズミの習性などはわからんが、写真を見るに飼い主に似て引っ込み思案というか臆病な性格のようだ。努力値と覚える技によっては育てる楽しみがありそうだが…ってそれはハリマロンの話か。

まぁ、とにかく人間の男でなくてよかったのは幸いである。

……人間だったらマジでどうなってたんだろ。

 

「なんだ、宗次郎っていうからてっきり彼氏さんかと」

 

「かれ……し……?」

 

涼風の言葉に首を傾げるひふみ先輩はスマホを机に置く。

 

「男の人がいると気が休まらないから……」

 

え、そうなの?俺の疑問も他所に涼風もひふみ先輩と同意見らしく、首肯する。

 

「あ、ちょっとわかります。ちょっと緊張しますよね」

 

あーわかるわー別に好きでなくても他の異性と一緒にいるとか付き合うとかってしんどいよね。

 

「いや……想像だけど……」

 

「ごめんなさい。私も想像でした……」

 

あぁ、俺も想像だった。

 

気を取り直して宗次郎鑑賞タイムだ。

ひふみ先輩のしなやかな指がスッスッと携帯の画面を滑り、いろんな宗次郎を映し出す。

 

「可愛いですね」

 

あれだよ?ひふみ先輩も可愛いけど今回はハリネズミの宗次郎がだよ?という意味を表すように画面を指差しながら言うと

 

「でしょ」

 

とひふみ先輩がなにか自慢げに言う。まぁ、ペットは飼い主に似るらしいからね。当たり前だね!

 

「ハリネズミって懐くんですか?」

 

「ううん、いつも巣穴に……隠れてる……凄く……臆病……」

 

可愛くて臆病とかマジでひふみ先輩じゃねぇか。

まぁ、うちのカマクラも誰に似たのか小町にべったりだからな。俺にはエサしかねだりにこない。全く誰に似たんだか。親父か?

 

「でも…素手で触れるくらいには…慣らしたよ……?」

 

写るのは宗次郎の背中をつまみ上げるひふみ先輩の画像。

飼育用だから針は痛くないのだろうか。にしても、やわらかそうだな。決して、ひふみ先輩のことじゃないからな!勘違いしないでよね!

そんなことを考えていた次の瞬間である。ある美少女がハリネズミと笑顔でツーショットをしている画像が現れる。

 

「あ、ひふみ先輩が笑顔…」

 

涼風がポツリとつぶやくとひふみ先輩は顔を紅潮させポケットから財布を取り出すと英世さんを取り出す。

そして、頭を下げながら涼風に差し出すと震えた声でいう。

 

「忘れて……」

 

「お金!?」

 

「いや…だって…こんな顔…」

 

何言ってんだこの人。こんな素敵で可愛くてエレガントでスペシャルでCutie Pantherな笑顔を持っているというのに。

 

「そんな!笑顔も素敵じゃないですか!」

 

俺が言うよりも早く涼風がセリフを横取りされた上に涼風はなおも続ける。

 

「だって凄く優しそうでこれなら話しかけやすそうなのに」

 

言われたひふみ先輩は先ほどとは違った感じで顔を赤らめる。

あぁ、これはおそらく嬉しい時の赤らめ方だ。高校の時、由比ヶ浜とか雪ノ下とかが百合百合してる時となんか似てる。

 

「……比企谷君もそう思う…?」

 

「もちろん」

 

「答えるの早っ!」

 

いや、何を言っているこの中学生が。

あんな笑顔を見たら即アイドルにプロデュースしちゃうぞ!俺なら童貞を殺すアイドルとして売り込むのに…。そんなことしたらひふみ先輩逃げ出しそうだな。

 

「じゃあ……」

 

意を決したかのようなそんな声を出すと、ひふみ先輩はぎこちない笑顔をこちらに向ける。

それを見た俺の顔はどうだったのだろうか。少なくても涼風のように口を開けてポカーンとはしていないだろう。

 

「う〜〜」

 

どうやらひふみ先輩に自然な笑顔を作るのは無理そうだ。

俺も無理だし。あ、だけど愛想笑いならできるよ!それもごく自然に!ただし、する相手もいなければする機会もないという。なにこの悲しい境遇。

 

「無理…」

 

とうとう本人も口に出しちゃったよ。

無理とか言ってたらその人の周りだけ夏になる男が来ちゃいますよ。

できるできるとうるさい男が。

ウィンブルドンに夢を馳せていると涼風がうーん、うーんと女の子らしい唸り声をあげる。

 

「じゃあ……私を見ずに宗次郎君を見ましょう!スマイル〜スマイル〜」

 

「スマイル……」

 

それでもひふみ先輩には難しいらしく、涼風が頬をつりあげる。

それをたまたまやってきた八神さんに見られたのは別の話。

 

###

 

昼休みも終わり、はじめ先輩が差し入れで買ってきてくれたMAXコーヒーを飲みながら仕事を進めていく。

やはり、疲れた脳には糖分。特にMAXコーヒーが一番だぜ。

マジでこれ全国の会社と学校で販売するべきだろ。

 

「よし…」

 

八神さんに頼まれた最後の敵役の微調整を終わらせると急に力が抜けてきた。さて、俺もこれでいいか確認に行くか。ゆん先輩でもいいが、全部終わったら八神さんの所に行くように言われたからなー。

 

「うーむ……」

 

360°のあらゆる方向から俺の作った敵キャラを見る八神さんはプロの目つきそのもので俺が見られているようでなんだか緊張する。

 

「OK!じゃあ次は一体キャラデザお願いね」

 

 や っ た ぜ 

OKとかこれで俺の仕事はとりあえず終わりってことだろ。

 

……は?キャラデザ?

 

「……?」

 

俺が機能停止に陥ったように首を捻ると、八神さんも首を傾げる。

 

「今からですか?」

 

「今からだよ。はい、仕様書」

 

軽く手渡されたその紙には紙本来の薄さや軽さ白さ以外の何か感じる。あれか、この箱の中には世界の希望と絶望の両方が詰まってる的な。

 

自分の席に座るなり、そのパンドラの箱とも呼べる紙に書かれた内容をまじまじと見てみる。

要約すると敵だけどたまに味方についてくれるやつらしい。

なんだよ、めちゃくちゃ心躍るじゃねぇか。

 

「なんや、比企谷君もキャラデザやるんか?」

 

不意に声をかけられビクッとしてしまった。

あれですよ?女子の何気ない言動や行動は多くの男子を勘違いさせ、結果、死地に送り込むことになるんですよ?

「ボディタッチはしない」、「忘れ物をしても物を借りない」、「むやみに男子の席に座らない」「後ろから声をかけない」

以上のことに気をつけてくださいねゆん先輩。

 

「えぇ。……もしかしてゆん先輩もやるんですか?」

 

「いや、うちやなくて青葉ちゃんがやるんや」

 

へー。と思いながら涼風を見るとあちらはあちらで紙をじーっと見つめている。

 

「どんなキャラなの?」

 

はじめ先輩が尋ねると涼風は読み上げていく。

 

「えっと、『サーカス団に入団したばかりの18歳の女の子』『明るい色の髪のツインテールが特徴。真面目で元気だが少し天然なところがある』」

 

そこまで呼び上げると涼風は「あれ?どこかで……」とつぶやくが、聞いていた俺達3人の意見はおそらく一致している。

 

(青葉ちゃんのことやん)(青葉ちゃんのことじゃん)(お前じゃねぇか)

 

そんな思いも届かず、本人は理解せぬまま読み進める。

 

「『主人公一行を次のダンジョンへ案内する途中に…』盗賊に襲われて死んじゃうみたいです」

 

「難儀やなぁ…」

 

ホントに難儀だな…自分の作るキャラが死ぬとか。

俺も少し不安になって見てみるが…

 

「八幡のは?」

 

「え、あぁ…」

 

言ってしまっていいのだろうか…これ結構なネタバレな気がするんだが…。

 

「『主人公一行を襲う盗賊のリーダー、18歳。』『暗めの緑の髪とボサボサで真ん中にぴょこんと跳ねたくせ毛が特徴。目が細く、言動がひねくれている』……ん?誰だよこいつ」

 

「「「お前だよ」」」

 

どうやら、満場一致でこのキャラは俺らしい。おかしいな盗賊もしてないし髪も黒いのに。

 

「八幡が青葉ちゃんを襲うのか……」

 

「ほんま難儀やなぁ……」

 

あんたら先輩2人は何言ってんだ。そんなことあるわけないだろ。

涼風もこっちを遠慮がちに見るな。襲わねぇよバカ。

 

ひと段落して全員それぞれの仕事に戻る。俺はふと言わなかった設定に目を落とす。

 

『2度に渡り主人公達と戦う。1度目は主人公達を追い詰めるが2度目は強くなった主人公達に敗北する』

『3度目の対決に挑むが、ある洞窟で主人公とサーカス団の女の子を守るのに協力する』

『ルートによってこのキャラかサーカス団の女の子が死亡する』

 

……つまり、俺は踏み台ということである。

しかし、俺の戦い方によっては涼風のキャラが生きるというわけか。

まぁ、誰かのために死ねるというのならそれはそれで良いことなのであろう。

 

本当に難儀だなぁ。

 

 

###

 

コレジャナイコレジャナイ。

これは俺じゃないというのに、周りに「お前だよ」とか言われたせいで何故か妙に意識してしまう。だが、こんなところで止まっているわけにはいかないらしく。はじめ先輩曰く、時々だがコンペがあるらしくそれの練習と思って気楽にやればいいと言われたが。むしろ、プレッシャーである。

 

「……どう?」

 

ひふみ先輩が心配になったのか珍しくあちらから声をかけてくれる。

まぁ、いつもかけてくれるんだが直接は珍しいということである。

 

「まだまだですね」

 

とりあえず書いたイラストを見せるとひふみ先輩は眉を寄せる。

 

「うん、まだまだだね」

 

キッパリと言われてしまった。

 

「なんかこれだ!ってのが書けなくてですね…」

 

「……わからなくもないけど、書かなきゃダメ」

 

それはわかっている。だが、書けないのだ。手は動くし、紙もある。

そして、キャラクターとしての設定も充分にある。

 

なのに、手は思うように動かないし、インスピレーションは湧いてこない。聞けば、八神さんは俺の年でメインをやっていたという。

それに劣等感を感じてはいない。純粋にすごいと思った。あの人は才能がある。でも、ただあるだけではない。あの人はその才能を延ばしてきたのだ。おそらく、メインを張るには才能だけでなく、相当な努力が必要だろう。それに、他の先輩からの圧力もあっただろう。それでも、キャラクターを書いたのだ。メインの、ゲームのパッケージを飾るキャラクター達を。

 

そうだ、俺とあの人は違うのだ。

いつもそうだ。憧れた人はいつも俺とは違う場所にいる。

生まれた世界は同じなのに持っているものは違う。

人間は生まれながらに平等ではないのだ。

 

それでも、それでも。

 

俺は自分のキャラクターを作りたい。俺のキャラを見て誰もがかっこいいと思って良いとか嬉しい言葉を漏らしてくれるようなそんなキャラを。

 

書くんじゃない。描くんだ。

 

「えっと、ごめんね……でも」

 

「いや、大丈夫です」

 

申し訳なさそうな顔をしたひふみ先輩に俺は優しく微笑んでいた。

いつものぎこちない笑顔でもなく、愛想笑いでもない。

俺に描くきっかけを与えてくれたこの人にそんな無粋な笑顔は向けられない。

 

「このキャラができたら、また今度ご飯でも行きましょう」

 

 

###

 

 

それから俺は3日もかかってしまったが自分のキャラを完成させた。

キャラを作るにあたってどんな動きをするか、盗賊の前は何をしていたのか、など自分で勝手にキャラの想像を広げて「これだ!」と言えるものを描きあげた。

 

もし、この作品のパッケージに出ても恥ずかしくない。むしろ誇らしいものを。

 

黒に近い緑色の髪の色で寝癖のようなボサボサな髪型の真ん中にアンテナのようなこれまたくせ毛が立ち、目は腐っており口はへの字になっている。服装は青と黒をベースにアクセントカラーに靴とてぶくろに赤を加えている。

 

「うん、いいんじゃないかな。名前は考えてきた?」

 

八神さんに見せると意外にも即OKがもらえた。まぁ、ゆん先輩やひふみ先輩にも即OKをもらえたから少し期待していたが。

名前は掘り下げる時に考えはしたが。正直俺には合わない気がする。でも、こいつは俺であって俺じゃないのだ。まぁ、理想の俺ではあるが。

 

「レラジェ……ですかね」

 

「レラジェ?…ふーん」

 

八神さんは俺とレラジェを見比べ優しく微笑む。

 

「OK。じゃ、これで通しておくよ。今日はもういいから明日からモデリング作業お願いね」

 

「うっす」

 

自分の

 

レラジェ。

 

俺が好きなソロモン72柱の神の1人の名前だ。

狩人で敵を腐敗させるという伝説がある。しかし、俺のは盗賊で腐敗しているが。

八神さんは気付いたのだろうか。こいつの武器は仕様書では剣なのだが弓になっていることを。

 

 

……まぁ怖くて弓と剣の両方を持ってるんですけどね。







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残業は修学旅行でもキャンプでもない

公式が八幡の抱き枕カバー出したと聞いて、作者と中の人が驚いてて笑った。

あとランキングに時々載るようになっていて嬉しいです。
まぁ、だから書いたんですよね(すぐ調子に乗る)

イオクサママジデシネ


あと1話で原作1巻分の話は終わるんですよね〜
ここまで長かった…次でラスト…なわけない。ちゃんとアニメ終了分までは書きますよ(多分1年跨ぐけど)




動物は自分達の生きる環境に適応するために進化の過程で様々な形態を取ってきた。

人間なら衣服。もともとは気候の変化に合わせたものだったが今ではコーディネートしてファッションとして扱われている。

動物であれば熊やカエルは冬の寒さに耐えれないため冬を地中で過ごす。いわゆる、冬眠というやつである。

それは人間も同じかもしれない。冬というシーズンは1日を通して寒く、特に寝起きの寒い時に暖かい布団というのは天使に感じる。それから抜け出すということは、蟻が蟻地獄を抜け出すことのように難しい。

 

話は逸れたが、俺が言いたいのは人間や動物は四季の中でそれぞれ適応して生きているということである。なので、会社で一夜を過ごすのも今回が初めてだが、いずれ慣れるであろう。

 

「ねぇ…比企谷君……もう寝ちゃった……?」

 

しかしながら、これは流石に慣れそうにない。

隣に身内以外の女子に寝られるのは初めてである。

ついでに言うなら戸塚と材木座以外の他人と寝るのは久しぶりである。

 

何故、こんな状況になったのか。それは昼間の出来事である。

 

 

###

 

俺の描いた『レラジェ』のOKが出た後、俺はそれの3Dモデリングを作ることになる。まさかのレラジェはイベントにも登場することになる重要NPC扱いになるらしく、今までの敵より豪華に作らなきゃいけないらしい。

なぜかと聞くと、ゲーム画面に表示できる総データ量は決まってるから重要度に合わせて密度を調整しているらしい。

例えるなら、プレイヤーキャラ>重要NPC>NPC、ということだ。

 

俺が自分の席に戻ると入れ替わりで涼風が八神さんにツインテール娘を見せに向かった。確か『ソフィア』ちゃんだっけか。多分、あいつは気付いてないから八神さんにからかわれるんだろうな。

MAXコーヒーの缶のタブをカポっと開き、喉を潤していく。

そうしていると涼風が疑問顔で戻ってくる。

 

「会議ってなにしてるんだろうね」

 

多分意識高い系の会話じゃねぇの?ろくろ回ししたりとかそれある!とかそれアグリーとか。そういえば、彼らはまともな大学に行けたのだろうか。なんか面接で変なことを言っていそうで不安だ。

 

「確か、議事録がパソコンで見れるんじゃなかったけ?」

 

なんかそんなことをゆん先輩が言っていた気がする。見たことはないが。

ですよね?と確認するとせやでと返ってきた。

 

「へ?初耳です」

 

「まぁ、各リーダーとかディレクターが集まって問題ないか話しているんだよ」

 

はじめ先輩がこちらに体を向けて言う。

すると、涼風は顎に手を置いて?を浮かべる。

 

「問題あったらどうなるんでしょうね」

 

その言葉に先輩2人は「え……」と驚き顔になるが、俺はそのへんはよくわからない。問題なんか何も無いよ、ケッコーケッコーいけるもんね!失敗だって笑顔でさ!俺と一人!乗り越えていこう!というくだらない歌が出てきた。いや、本家は最高なんだけどね。

 

「発売……中止とか?」

 

「え!?嫌です!!」

 

「そうそうあらへんから」

 

何故か天から「あります」という言葉が聞こえたのは気のせいだろうか。

 

「じゃあ飯島君。進捗はどうだね?」

 

なんではじめ先輩は司令ポーズなんですかね。

これはあれか。俺が後ろで冬月ポーズしながら「勝ったな」とでも言っておけばいいのだろうか。

 

「なんや突然……」

 

「会議だよ。会議」

 

「……しっかり週一体ペースでモンスターを作ってます。じゃあ、篠田君は……いや自分からふるゆうことはおもんなさそうやから、ええわ」

 

「ちょ!!」

 

あーこれは女子特有というか、はじめ先輩とゆん先輩特有の夫婦漫才というやつか。

 

「涼風さんはどうなん?」

 

そして、涼風に振っていくスタイル。これにはじめ先輩は涙目。涼風は戸惑い気味。

 

「い、いや、先に篠田さんに聞いてあげたほうがいいんじゃ」

 

涼風の優しい言葉にはじめ先輩は笑顔を浮かべて嬉嬉として進捗を話すとドヤ顔を決める。

 

「はい、じゃあ涼風さんはどうなん?」

 

それを清々しい笑顔で流すゆん先輩にはじめ先輩が悲痛な叫びをあげる。

 

「ノーリアクションってそれでも関西出身か!」

 

しかし、そんな叫びは届かず……届いていたとしてもおそらくまた無視されるのだろう。ソースは俺。

 

「私はちょっと遅れちゃいましたけどキャラデザのOKが出たので今日からモデリング作業です」

 

そうだよ、俺より遅いんだよ?あれ……もしかして今の俺ってちょっとドヤ顔になってなぁい?気のせいかしら…?

 

「青葉ちゃんはきちんと遅れも報告するええ子やなぁ」

 

ゆん先輩は笑顔で優しく涼風の頭を撫でるが、撫でられている涼風の表情は苦笑いではじめ先輩からのジト目を気にしている。

 

「あ、あの篠田さんから嫉妬の目線が……」

 

「ちゃうわ」

 

違うのかよ。どうでもいいがゆん先輩の頭の撫で方…あれは長女とかが使うやつだな。長男長女検定3級の俺ならわかる。ついでにいうなら強化外骨格とかもわかる。

 

「もういい!八幡は!?」

 

えー……俺は比企谷さんとかじゃないんですか?なんか期待して損した。やっぱり、変な期待はしない。希望を持たない持ち込ませない精神は大切だな。

 

「まぁ、概ね涼風と同じですね…」

 

もうモデリング始めてるけどと付け足すと涼風は悔しそうに「ぐぬぬ」と唸り声をあげる。なにそれ可愛いな、録音していい?

 

「滝本さんはどうですか?」

 

俺たちが談笑にふけっている間にも仕事をすすめていたひふみ先輩はその瞬間一気に表情を曇らせる。

 

「……キャラ班の残りキャラ数と……残り日数が……合ってないのが……怖いです」

 

「「え!?」」

 

おお、それは怖い。怖くて声が出ないレベル。

つまり、これはあれか?残業パターンか?夜戦か?キャラ班のアイドル、那珂ちゃん降臨か?

 

 

 

キャラ班の4人でそれぞれ顔を合わせて青ざめたり、冷や汗をかいていると会議に出ていた遠山さんと八神さんがやってくる。

遠山さんは議事録と思わしき紙を置くと申し訳なさそうに手を合わせる。

 

「ごめんなさい。私の計算ミスなの。キャラ班にはお泊まりか土日どちらか来てもらうことになると思うけど…」

 

「ちなみに会社命令の休日出勤は有給が増えるのでちょっとお得です」

 

八神さんがマジでこれ豆知識な的な感じで人差し指を立てながら言う。それにゆん先輩は「んな悠長な」と呆れ顔である。

 

さて、俺はどちらにしようか。俺は今まで残業はしていない。定時に帰り、働く時は働き、休む時はしっかり休む。それが八幡流である。

しかし、お泊まりとは残業で自宅の暖かい布団では眠れないということである。さらに土日出勤とは俺の優雅な休日が潰れることになる。

 

「ほんなら私は休日に来ます」

 

「私も……」

 

先輩お2人は休日出勤を選択したらしい。まぁ、そりゃ女の子だし1回家に帰ってお風呂入りたいよな。

 

「青葉は?」

 

八神さんが尋ねると涼風はキョトンとしながら言う。

 

「……有給ってなんですか」

 

「「そこからかよ」」

 

俺と八神さんがシンクロした奇跡の瞬間である。

 

「もし風邪ひいたとか家族が事故にあったとか……とりあえず休まざる負えない時に使える休みだ。会社に行かなくても給料が貰える素晴らしいシステムだ」

 

ついでにいうと有給は使わないと会社に使うように言われるので年末や決算前に積極的に使うのがおすすめらしい。ソースは両親。

でも、だいたいその頃は忙しいのでしたことないらしい。だいたい小町の入学式、運動会、卒業式とかに使っている。まぁ、俺の時も使ってくれてはいるが。

 

「へー……じゃあ!」

 

 

###

 

 

まさかの両方ですか…しかも俺も強制的にお泊まり休日出勤コースである。

まぁ、土曜日は特にすることがないからいいんだけどな。

それで早速寝袋を買いに行った涼風。俺は会社から仮眠用のタオルケットを借りることにした。無駄な出費は避けたいからね!

 

「買ってきました!寝袋!」

 

「青葉はやる気だなぁ…泊まりも休日出勤もだなんて」

 

で、八神さんはなんで俺を憐れみの目で見てるんですかね。あれですか?涼風に強引に押し切られて断れなかった俺がかわいそうだからとかですか?

まぁ、良い方に考えると有給も増えるし残業代も貰えるからお得です。という感じだ。……やっぱり休める時に休みたかったなぁ…。

 

「ついでに着替えもあります」

 

「楽しそうだけどこれ残業だからな」

 

そうなんだよなぁ…これ残業なんだよなぁ

着替えもあるとか残業を修学旅行とかと勘違いしてるんじゃないの?

これもお仕事だよ?

 

「夜中は自分の天井以外は電気を消すこと」

 

「はい」「うす」

 

部屋の電気が消えると最近見慣れた景色も別世界である。

急に暗闇になったのが怖いのか、涼風はゴクリとつばを飲み込む。

 

「わっ!!」

 

「ひゃう!?」

 

八神さんが驚かしに来るのはわかっていたので俺は咄嗟に右斜め後ろにバックステップを取ることで回避できた。もし、予測できていなかったら「ひゃいん!?」とか気持ち悪い声をだしていたに違いない。

驚かされて変な声を聞かれたのが嫌だったのか、涼風は不服顔で着替えを持って部屋を出ていく。

 

 

さて、俺は俺で頑張るか…

 

少しするといつものツインテールではなく髪を一つに束ね、スーツではなくかなりラフな格好で涼風は戻ってくる。

 

「よし!お仕事頑張るぞ!」

 

と席につくなり自分に気合いを入魂していた。確か、口に出して頑張るとか言うのは心理学的にいいんだとか言っていた気がする。

まぁ、それもいつまで続くのか知らんが。

 

案の定、2時間程で寝落ちしていた。そう言う俺もかなりやばい状態である。……もうゴールしちゃっていいよね?ごーとぅべっどしちゃってもいいよね?

 

「おい!2人とも!」

 

「はっ!ここどこ!?」

 

八神さんに揺すられて記憶喪失者にありがちなセリフを言うが、冷静なツッコミが入る。

 

「会社だよ」

 

そうですね、会社ですね。

 

「青葉は寝袋あるんだからそっちで寝なよ。体痛めるよ。比企谷ももうそこまでいったんだったらあとは明日に回したら?」

 

「……あ、そうでした」

 

なにこの気遣い。マジでありがたい。もう寝ていいよと言われるまで仕事してる自信あったわ。俺が無言で首肯すると、八神さんは大きく欠伸をする。

 

「わたしもそろそろ寝るから。おやすみ〜」

 

「「おやすみなさい…」」

 

八神さんが自分のブースに戻っていくと、涼風は「じゃーん!」とオレンジ色の袋を取り出すとそれを展開し身に付ける。どうやら、くまの着ぐるみらしい。

 

「どう!くまさん寝袋だよ!」

 

いや……どうって…

 

「なんか子供っぽいな」

 

「なんですと!?」

 

仕方ないだろ…そうにしか見えないんだから。もうキャンプではしゃぐ小学生にしか見えない。俺は悪くない。涼風の見た目が悪い。

俺も八神さんの言う通りそろそろ寝るか。この調子なら明日の昼には終わってんだろ。

俺は立ち上がりトイレに向かおうとするが涼風に呼び止められる。

 

「え、どこいくの」

 

「トイレだよ」

 

「あ、そっか」

 

なんだよ、その男の子だもんね…みたいな目は。

……気のせいか。涼風に限ってそんな考えはないだろう。お子様だし。

 

トイレから戻ってくると涼風の机の電気は消えており、下を見ればくまに包まれて寝ている涼風がいる。

 

「…おやすみ」

 

俺は一言そうつぶやくと、仮眠用のタオルケットを自分の体にかけた。

昼間はすこし喧騒があるこの部屋も夜はとても静かである。まぁ、人がいなければどこも結構静かなんだが。ディスティニーランドも多分人いなかったらいい感じのBGMしか聞こえないだろうし。

 

しかし…職場で寝るってなんか不思議なもんだな…

ホントに静かで落ち着く…はじめ先輩の机のフィギュアがなければ!

なるべく視界に入らないように寝返りをうつと耳に細々しい声が入ってくる。

 

「ねぇ……比企谷君……もう寝ちゃった……?」

 

 

返答に困ったが寝てから寝てないと言えばいいのだろうか。もし返事をしたらおしゃべりされて寝れなくなるコースではないだろうか?

後者になると非常にめんどくさいので無視だな。人に自分が嫌がることはしてはいけないと言われているが、涼風もしたしいいよね!!

 

「……寝ちゃったのか」

 

あぁもう寝ましたよ。今の俺は比企谷八幡であって比企谷八幡ではない。眠りの八幡である。決して名推理とかはしない。

ゴソゴソと変な物音がしたかと思うとそれもすぐに消え、再び静寂が訪れる。

俺とでは寝れないもしくは寝にくいのかは知らんが、八神さんのところにでも行ったのだろう。前者なら死にたい。

 

……ん?なんか背中らへんにすこし温かみを感じるのは俺の勘違いだろうか。寝返りを打って確認しようにもなんか動きづらいし…

身体を起こして目を開けて隣を見ると涼風が予備のタオルケットを着て俺の横で寝ていた。

 

な゛に゛こ゛れ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛

 

寝袋買った意味ないじゃねぇか……。

完全に無駄金だったろあのくま。しかも、なんか放置されてるし。

 

……まぁ、動いて起こすのもアレだし?不安にさせるのもアレだし?

独りぼっちは、寂しいもんな…いいよ。一緒にいてやるよ。

 

翌日、何故か涼風が顔を赤らめ、八神さんがニヤニヤしながら仕事していたのはなぜなんだろうか。

 

 

###

 

(おまけ)

 

コウ、青葉「まんがタイムきららキャラット〜!」

 

青葉「八神さ〜ん!あの写真消してくださいよ!」

 

コウ「え〜こんなに可愛く撮れてるのに〜?」

 

青葉「も〜!いいから消してくださいよ!見られたらどうするんですか!」

 

八幡「どした?やけに騒がしいな」

 

青葉「え、え、な、なんでもないよ!!」

 

八幡「え、なんでもないのかよ」

 

コウ「いやね、実はね…」(八幡に携帯を見せようとする)

 

八幡「…ん?」

 

青葉「わーー!!!まんがタイムきららキャラット!毎月29日発売!芳文社!」(コウと八幡の間に割って入る)

 

ひふみ『ヨシヨシ(。´・ω・)ノ゙』 八幡『解せぬ…(´・ω・`)』

 




ガンダム見ながら書いてましたがイオク去ね
三日月さんマジでフラグブレイカー
昭弘も助けたことあるけどやっぱ、ミカはすげぇよ……


で、なんか青葉、はじめ、ひふみ先輩とフラグを立ててく八幡はフラグを回収できるのでしょうか(オルフェンズしちゃダメだよね)
ほかの人とのフラグは立てることが出来るのか!
次回を待て!


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久方ぶりに比企谷八幡は時の流れを感じる


全然ストックないけどはっじまるよー!!



 

 

妹と過ごした休日から時は経ち、梅雨も明けた。

長雨こそ無くなったものの、それでも夕方には学生諸君を殺すかのようにゲリラ豪雨が頻発しているらしい。

しかし、社会人となり必然的に夜に帰宅することが多くなった俺には関係の無いことだ。駐輪場には屋根があるので雨が降ったところでサドルは濡れないし、道路が濡れたところで大した影響もない。

 

とはいえ、梅雨が明けたといえどゲリラ豪雨や夏も間近ということもあってじめりとした空気が漂っている。

だが、気分だけは高揚していた。

 

夏休みを目前に控えた今の時期は、遊びの予定目白押しのリア充のみならず、会社という牢獄から解放される社畜も活気づく季節だからだろう。

まぁ、それは家庭を持つ社畜の話であり、俺のような独り身には週5日で8時間の労働が待ち受けているわけである。

 

時代の流れなのか、地球温暖化が進んでいるこのご時世。

この季節から世の中では熱中症と呼ばれる病が発症し始める。

熱中症といってもなにかに熱中しすぎて動けなくなるとかそういうのではない。

水分不足やら長時間の日射によってめまいがし、最悪死に至ると呼ばれるアレである。俺が高校時代の時はそんなやつはいなかったがニュースなどでは毎日のように報道されていた。

 

ということもあって、我が会社では冷暖房が完備されており、夏でも業務そのものは快適に受けることができる。だが、会社の外は別の話だ。会社につくまでは額や頬に汗が滲む。

 

会社につけば空調が効いており、優雅に業務に励むことが出来る。

こうして今もゆっくりと重要NPCを作ることが出来る。ちなみに我が自宅にはクーラーはない。仕方が無いね!

 

ドアがガチャりと開く音がし、目線だけ動かしてみると涼風とはじめ先輩がやってきたようだ。夏場になってきたということもあって、涼風の服は半袖になり、はじめ先輩はいつも通りタンクトップだがプリントされている文字は「なつですね」とはいそうですね、という感想しか返せない服になっている。

 

「おはようさん、今日は外暑いな〜」

 

「もう7月ですもんね あ、ゆんさんはまだ長袖!」

 

「へ?そそそそうや!私はまだ大丈夫やし!」

 

何をそんなに顔を赤くするのだろうか。ゆん先輩の服装は胸元にナプキンのようなものがありそれ以外はチェック柄と、それがスカートも兼ねており可愛らしい服装だ。

 

俺はこの前愛する妹から貰った狼のTシャツである。思ったよりカッコイイし、初めて着ていった日にははじめ先輩に「かっこいいね!それ!」と言われてしまった。そりゃそうだ。小町が選んだんだからな!

涼風は荷物を椅子に置くと、はじめ先輩の席に近づく。おい、仕事しろよ。と言いたいがその言葉をグッと飲み込む。

 

「隣駅から歩くだけで痩せますかね」

 

「な、なんや、ダイエットの話〜?」

 

「そうなんですよ。腕の肉がちょっとぷよぷよしちゃって」

 

気のせいだろうか。ゆん先輩に「ぷよぷよ」というワードが言霊のように突き刺さったのは。

どうでもいいが、涼風もゆん先輩も別に太ってないし、むしろ男から見れば細いほうだと思う。

しかし、最愛の妹や高校時代の後輩曰く可愛くなるにはダイエットが1番らしい。なぜなら、ダイエットしてる時の自分は可愛く終わったあともなんだか可愛くなった気になるかららしい。ちなみに男子は筋トレしてるとなんだかカッコよくなれる気がするよね!ソースは俺。腹筋が割れ始めた頃にはやめていたが。

 

「あ、ゆんさん。もしかして…陰でダイエットして努力してるタイプですか?」

 

「な、なんもしてへんよ〜」

 

おっと、その割には声が上ずっていますが?

 

「まぁ、2人とも細いから大丈夫でしょ」

 

ボソりと呟くと2人は顔を見合わせると自分の二の腕当たりを触り始め涼風は「そ、そうかな…」と安堵の色を浮かべるが、ゆん先輩は顔をプルプルする。

 

「どうでもいいけどやっぱちょっと寒くない?」

 

「どうでもよくないわ!アホー!」

 

このなんかよくわからん空気をぶち壊してくれたのは腕を擦るはじめ先輩である。今度は俺が安堵するがゆん先輩は顔を真っ赤にするほどお怒りのようだ。

 

 

「空調って上げちゃいけないんですか?」

 

涼風の質問にはじめ先輩は顎に手を置いて少し考える。

 

「うーんいっか」

 

そう言うと、立ち上がりドア付近の空調を操作にいったようだ。

どうやら、温度を結構上げたのか液晶タブレットが妙に発熱している。

はじめ先輩がジュースを持って戻ってきてしばらくすると、今度は八神さんがどこかへ行く。チラッと見たが暑いのか髪の毛を束ねていた。あと咥えゴムしてた。ゴムといっても髪を束ねる用のヤツである。決して近藤さんではない。

 

八神さんが戻ってくると部屋の温度が下がったように感じる。

どうやら、あの人も空調を操作しに行っていたようだ。はじめ先輩とは対照的に部屋は涼しくなり、ここに来た時のように過ごしやすい温度だ。だが、はじめ先輩は寒くなったらしくまた立ち上がり温度を上げに行く。

 

……さっきより暑くねぇか?はじめ先輩だけサウナで仕事すればいいのにと思ってしまうくらいの暑さ。涼風を見れば今どき流行りのクールビズというやつのおかげなのかはたまた、集中しているからなのかあまり汗はかいていないようだ。

 

対照的にゆん先輩は暑そうに身をよじったり、長袖で汗がベタベタするのか袖をさすったりしている。

 

「ここは耐えどきやで、ゆん!」

 

暑さに負けないように喝を入れたのかペンタブの動きが加速する。

すると、涼風も「よしっ」とソフィアちゃんの色塗りを進めいていく。そういえば、ひふみ先輩はどうしているのかと見てみればいつも通りである。

 

しばらくすると八神さんがまたドア付近へと向かう。お互い妥協することはできないのだろうか…これも全部空調が悪い。無ければこんなことにはならなかったに違いない。

 

部屋の温度が下がっても八神さんは戻って来ずに次はゆん先輩が出陣する。もしかすると、あの人は汗をかくことで痩せようとしてるらしい。だから、そういうのはサウナでやれよ。

さらにはじめ先輩もまた席から離れる。だが、3人は帰って来ずに時間は経つ。

 

何事かと思って俺も立ち上がり、覗きに行ってみると空調をいじっていたらしい。それもいい歳した女性3人が。

 

「これではっきりしたじゃあないですか。ゆんも高温を求めているんです。つまり、2体1でこの会社の温度は高温に決定なんです!」

 

「3人でこの会社の温度決めるっておかしいでしょ?」

 

「じゃあ、八神さんが勝手に決めるのもおかしいじゃないですか!」

 

「ふ、2人ともわたしはただ…」

 

口論を続ける3人(主に八神さんとはじめ先輩だが)

これは止めねばやばいな。ヒーローにはなれないがやられ役には定評のある俺がいいところを見せてやろう。

 

「あの…」

 

「こら!!さっきから上げたり下げたりしてたのはあなた達ね!」

 

Dangerous!!乱入モンスターのようだ。俺は動かそうとしていた足を下げると隅に隠れて様子を伺う。

怒りでご立腹の遠山さんのオーラに気圧されたのか3人は萎縮する。

 

「だ、だって、液タブが…」と八神さん。

「上着が…」とはじめ先輩。

「……」と無言のゆん先輩。

 

そして、無関係そうにブースの仕分けの隅で怒られてる3人を観察する俺と涼風とひふみ先輩。

 

「譲り合って仲良くできないの?それが出来ないなら今後あなた達には空調を調整するのは禁止します」

 

「「「は、はい……」」」

 

遠山さんの言ってることは至極真っ当だから逆恨みなどはしないと思うが、まぁとりあえず今日は何事もないだろう。

戻ろうと身体を起こすと涼風は感心したように言う。

 

「遠山さんってビシッとしてカッコいいですね。憧れちゃいます」

 

「……そこ?」「そこかよ」

 

確かにショートボブで凛々しい顔立ちでかっこいいとは思う。

だが、女性らしい部分ははっきりしてるし、おそらくこのブースの中では1番女子力が高いのではないだろうか。

ひふみ先輩と顔を見合わせクスッと笑うと涼風は「なんで笑うんですか!?」と声を上げるがそんなことは気にせず、俺とひふみ先輩は席に戻る。

 

ただでさえ暑い季節だというのに、涼風に「なんで!なんで!?」と身体を揺すられて余計に暑苦しく感じる。しかも、揺すられる度に俺の腕になんか当たっていて俺の体感温度がきっかり3度上がった瞬間だった。

時に暑さは人を狂わせる。その暑さにやられて涼風はおかしくなったのかもしれない。そう考えればこの行動は納得できるが、ゆん先輩の苦笑やひふみ先輩とはじめ先輩のジト目はどうも許容しがたい。

 

夏はまだ始まったばかりで、夕刻になっても日は高い。

帰った後も空調のない部屋で扇風機を回して眠りについた。

 

 



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幸せとは小さくても幸せである。

今回、newgameキャラと八幡の会話はありません
いわゆる、俺ガイル回です


 

残業、会社に寝泊まり、そのまま休日出勤を終えた日曜日は非常に素晴らしく、会社に行かなくてもいいし、起きたら録画しておいたおかげでスーパーヒーロータイムを楽しむことができた。

こういう日が毎日続けばいいのになぁ…

 

別に仕事が嫌いというわけではない。むしろ、やりがいを感じてしまっているくらいだ。もしかしたら、このまま俺は社畜まっしぐらコースかもしれない。そう考えるとこのジメッとした季節に寒気がしてきた。

 

ジメッとした季節といえば、例年通り現在は梅雨である。

だが、今年の6月は雨が少ないのか知らんが自転車出勤の俺にとってはすごくありがたい。だからといって、この祝日のない6月は俺は大嫌いである。マジで国は山の日を6月に作るべきだった。

 

魔法使いになった女の子たちのアニメを見終わり、時計を見ればそろそろ家を出る時間だ。昨日は夕方に帰って来れたが夜更かしして昼前まで寝てたからな…飯を食う気はしない。どうせあいつのことだ。晩飯は俺に奢らせる気だろう。

 

まぁ、いい。久しぶりに会うんだそれくらいはしてやろう。

……べ、別にそれ以外にお金の使いどころがないとかじゃないんだからね!

勘違いしないでよね!働くようになってから本屋に行かなくなって貯金ばっかしてるとかそんなんじゃないんだからね!

 

 

###

 

家から待ち合わせ場所まではバスで7分程と近く、歩いても15分でつく。

それなら自転車の方が良いのだが、相手は徒歩で来るということなので俺も徒歩である。ここ最近バスには乗っていなかったが日曜日で昼の時間帯ということもあって、乗客は少ない。せいぜいお年寄りの方が3人ほどである。

 

バスから降りればそこに約束の相手はいた。

ボーダーのタンクトップに肩口が大きく開いた薄手でピンクのカットソーを合わせ、ややローライズ気味な腿より上丈のショートパンツ。

それを世界中の女子高生よりも華麗に可憐に着こなすのは我が最愛の妹、比企谷小町である。

補足だが、屈託のない笑顔は俺の心の浄化薬である。

 

「お兄ちゃん、久しぶりー!」

 

「おう、久しぶりだな」

 

実に2ヶ月と19日ぶりである。

こんなに会わなかったことがあっただろうか。せいぜい、修学旅行とか林間学校とかでどちらかが家にいなかったということはあったが、こんなに長期間会わなかったのは初めてである。

 

「お前ちょっと背伸びたか?」

 

久しぶりの会話の種としては充分であろう。我ながらなかなか良い話題提供である。女子ばかりの会社で務めているだけある。

 

「んー?そんなに変わってないよ」

 

うん、そだな。そのどこに出しても恥ずかしくない天使のような仕草や口調は全然変わっていない。

 

「でも、お兄ちゃんにはもう少し変わってて欲しかったよ…」

 

こんな良い兄をげんなりとした表情で見てくるのも相変わらずである。できればそこは変わっていて欲しかった。

 

「いや、変わっただろ」

 

「例えば?」

 

咄嗟に意地を張りたくて言ってみただけなので、特に自分で変わったところなんて考えたこともない。ほら、人間って知らず知らずのうちに変わってるもんだからさ。

 

「まぁ、そうだな。遅刻はしなくなったな」

 

少しドヤ顔で言ってみるが、小町は呆れ顔だ。

 

「そんなの当たり前じゃん。それにお兄ちゃんは一応は社会人なんだし」

 

言われてみれば確かに。ていうか、なんで「一応は」とかつけんの?

「お前黙ってれば可愛いのに」っていう余計な一言にさらに「喋るとホントカスだな」とかさらに余計な一言付け加えるやつみたいじゃん。

 

「まぁ、いいや。とりあえず行こ」

 

そう言って小町は俺の手を引っ張って駆け出す。

 

「ちょお前、急に走んな、転ぶから」

 

引っ張られる手を剥がそうとするが、よくよく考えればこれは疲れた俺に対するサービスというやつなのではないだろうか。

集合場所は聞いていたが思ったより歩いている。

 

「で、どこ行くんだよ」

 

「ん?あー映画館」

 

「映画館?」

 

「そそっ!」

 

「映画ならお前友達多いんだから、そいつら誘えばいいだろ」

 

実際、小町は非常にモテる。男女問わず。しかし、妹には妹なりの境界線があるらしく、友達をグレード付している節がある。

例えば、Aクラスなら話すだけ楽しい、遊園地とかいける。

Bクラスだと遊びに誘われると行くくらい。

Cクラスから下は知らん。とりあえず、小町は友達が多いとだけ言っておこう。

小町はふふふと笑うときゃるるんとした表情で言う。

 

「それはね!お兄ちゃんと一緒に見る方がたのしいからだよ。あ、今の小町的にポイント高い!」

 

ホント、最後のがなければもう少し嬉しかったんだがな。

相変わらず小悪魔な妹である。

 

 

###

 

 

映画館に着くなり、小町はお花を摘みに行ってしまった。

こういう時は先にチケットを買うなり、物販を見るところだが勝手に動くと後で何を言われるかわからんしな。

 

「お待たせ〜」

 

いや、待ってない。大丈夫だ。という意思表示をしながら、どれを見るのかを尋ねると「これ!」と言って指さしたのは『映画 魔法少女 ムーンレンジャーDX』という今時の子供達と一部の大きなお友達に大人気のアニメの映画版であった。

なるほど、これは確かに仲のいい友達といえど、一緒に見に行こうとはならんな。

 

「よし、さっさとチケット買うとするか」

 

最近の映画館は受付の人に「大人1枚と高校生1枚」とか言わなくても券売機のようなものがあり、コミュニケーションに悩みを抱える人間でも映画を見やすいシステムになっている。なんなら、ネットで席などを予約するハイテクなシステムとかもあったりする。

 

チケットを買って小町に1枚渡すとそれをポケットに仕舞い、目を輝かせてくる。あーこれはあれだな。プレゼントとかお菓子をねだる時の目に似てる。

 

「ポップコーン買ってきていい?」

 

こういうところはまだ子供だな…いや、胸とかもまだまだ子供なんだが。そういえば、高校になってから身長以外そんなに変わってない気がするのは気のせいだろうか。

 

「別にいいぞ」

 

言うと俺の財布をふんだくって嬉嬉として買いに行きやがった。

あいつのことだ。どうせ親父から金はもらってるだろうに。

多分、親父のお金は服とかお菓子やらに消えるんだろうな…

しかし、あのバカ親のことだ。娘のオシャレや栄養に変わるなら親父も喜ぶであろう。

 

飲み物くらいは欲しいと俺もメニューを見てみる。ポップコーンは塩味とキャラメル。そして、季節限定のバナナキャラメル味という意味のわからないものまであった。

 

「お兄ちゃん買ってきたよー!」

 

小町の手元を見てみるとどうやら塩とキャラメルの2つの味が楽しめるペアセットとかいうやつだった。

 

「はい、お兄ちゃんはコーラね」

 

なんとも優しい妹である。だが、俺の財布からでたお金だから当然といえば当然であろうが、ちゃんと兄のことも考えてくれているとはマジで感謝。

 

「さっき並んでる時に隣の人がポップコーンのバナナキャラメル買っててさ、『すっごい甘ったるい』って言ってた」

 

まぁ、キャラメルとバナナだからな。名前からしてもやばそうだし、糖分の暴力といってもいい組み合わせだ。それに比べて塩味超うまい。

 

「まぁ、子供とかにはありがちだよな」

 

「あー確かにその2人すっごく子供っぽかった」

 

だろうな、と相槌を返すと入場可能のアナウンスが放送される。

俺は映画を見ている時にトイレに行きたくないので前もっていってから、チケットを係の人に見せて3番と書かれたところを目指す。

 

トイレに行っている間に意外にも列ができていて、列を見れば子連れの大人やら友達で来ている小学生たちが多い。前方を見るとドアの前で係の人が何か配りながら、声を出している。

 

「小さいお子様には特典のスティックライトをお配りしておりますー」

 

日曜日もお務めとはご苦労様です。しかし、映画館で働いてる人ってだいたいイケメンかそこそこ可愛い人が多い気がする。あとはスタバとか。未だに行ったことないけど。

 

「多分、あれでムーンレンジャーを応援するんだろうね」

 

確かに光るところが三日月の形になっているあたりがムーンって感じだな。でも、何故三日月なんだ。満月や新月じゃダメなのか。……新月はダメだな。見えないし。

 

「まぁ、小町なら貰えるんじゃねぇの?」

 

「え、ほんとに!?」

 

ちょっと子供扱いしてからかってやろうとしたのになんで嬉しそうなんだよ…。可愛いからいいけど。

 

「はいどうぞ」

 

「やったね!」

 

マジでもらいやがった…しかも、それをドヤって感じで見せてくるあたりそんなに嬉しいのだろうか。あれかライブビューイング見に来てサイリウムを無料で貰えるようなもんだろうか。

 

さすがに俺は小さなお子様ではなかったので貰えず、今では相変わらずヌルヌル動く映画泥棒をポップコーンを口に含みながら見ている。

 

「そういえばさ、お兄ちゃんの会社の人でアニメ好きな人はいるの?」

 

「んー、あー」

 

言われてまっさきに浮かんだのははじめ先輩だったが。あの人は魔法少女ものより戦隊モノとか仮面ライダー、アメコミとかの男の子が見そうなヒーローの方が好きそうだな。

 

「いるっちゃいるが、どうだろうな…」

 

「ふーん、あ、もう始まるよ」

 

聞いといてそれかよ。ったく、自分勝手な妹だ。

まぁ、そこも含めて全部可愛いんですけどね!

 

 

 

###

 

 

 

壮大なエンディングが流れ終わり、劇場に明かりがつくと出口へと足を進める。ポップコーンと飲み物のゴミを捨てると小町は満足顔である。

 

「いやーさすが日本の誇るアニメ映画だね!すっごく面白かったよ」

 

そうだな。だけど、自分の妹がアニオタっぽいこと言っててなんだがお兄ちゃん複雑だよ…。しかし、エンディングに出てたスタッフロールを見て思ったがあの映画ゲスト声優とかに金使ってんなぁ…。

あ、声優とか見てる俺は声豚かもしれない。いや、そんなことないよな?

 

「メガ粒子レクイエムシュート!」

 

小町はムーンレンジャーの必殺技を真似するが、似てない。

だが、可愛い。ぜひとも戸塚と2人で並んでやってほしい。それなら、多分キングダークとかライダーロボとか一撃で倒せる。

 

妹のはしゃぎ様に微笑んでいると後ろからも「メガ粒子レクイエムシュート!」「違うよ、メガ粒子レクイエムシュート!」と2人ともイントネーションが恐ろしく違うレクイエムシュートが聞こえてくる。それに幼女らしき声で「全然似てへん!」とツッコミをいれられている。

 

物販コーナーに行くと小町はムーンレンジャーグッズを物色しており、「わーこれ欲しいなー」と言いながら目を輝かせている。

ふむ、おれもパンフレットとかファンブックでも買うか。

 

「お兄ちゃん」

 

またなんか買えとせがまれるかと思って振り向くと、「はい♪」と丁寧にラッピングされた袋を手渡される。

 

「なにこれ…」

 

「小町からの就職祝だよ、どーせお兄ちゃんのことだから千葉loveTシャツとかしか着てないと思って」

 

中身を開けてみると、黒の生地に白い狼がデザインされたシャツだった。

 

「え…なんで狼?」

 

「だって、お兄ちゃんって1匹狼って感じだし…それに」

 

俺が1匹狼じゃねぇと反論しようとすると人差し指で口を抑えられる。

 

「狼は意外に家族想いな捻デレさんなんですよ?」

 

なんだよ、それ…と思ってしまったが。妹からのプレゼントだ。ちゃんと受け取っておこう。何気に誕生日はおめでとうだけでプレゼントは貰わなかったからな。

 

俺は優しく微笑むと小町の頭を優しく撫でる。

久しぶりに会った妹と過ごした休日。初めてみたアニメ映画もこのTシャツも楽しくて嬉しくて。何より誰かと休日を過ごせて、それが最愛の妹だったことが1番嬉しかったのではないだろうか。

 

つまりのところ、俺の妹がどう考えても可愛いすぎる。




とりあえずこれで1巻分の話は終わりです。
いかがだったでしょうか?
休日は小町か一色と絡ませる予定でしたが、やっぱり小町だよね!妹はやっぱり最高だぜ!

珍しくたくさん書いて、ストック作ったのに1日1個ペースとかで出したからもうストックがないわけですよ。

ということで次の更新は来週になると思います。

でも、バイトとか冬期講習とかあるのでもしかしたらもっと遅くなるかもしれませんが。気長にお待ちください!

ではでは〜


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比企谷八幡は平穏に過ごしたい


ジョジョも最終回目前……
(今回のタイトルに少なからず何故か影響しています。)

真田丸は終わったし……
佐江門之助幸村ァァァ!!!!

ガンダムは面白くなってきましたね!
…またイオク様がいらんことしたけど。マッキーは口だけだし。
石動の霊圧が消えた……?ジュリエッタちやんもやられてたよね…?
シノとヤマギ、ハイッテルヨネ
ミカァ!!!!

さて、始めますか



 

1週間のうちで最強の曜日は土曜日だ。

その圧倒的優位が揺らぐことはないだろう。休日でありながら次の日も休みだなんて、(スーパー)サイヤ人のバーゲンセールみたいなもんだ。

 

俺も土曜日を愛するあまり、将来は毎日が土曜日の生活を送りたいと思っていた。だが、今日の土曜日は仕事である。おかしい。

 

しかし、そこまで悪い気分ではない。朝からエレベーターでひふみ先輩と一緒になれたからな。今日の俺の星座は1位だったし、ラッキーアイテムの黒いポーチも持ち歩いている。

 

土曜日ということもあり、エレベーターから降りると誰もいない。もしかしてもしかすると、このままひふみ先輩とラッキースケベに…ないな。そもそも、そんなことあっても俺の理性が黙っていないだろう。

 

「八神さんの席!ふふーん、キャラクターデザイナー青葉〜」

 

何やってんだあいつは…。そういえば珍しく八神さんがいない。会議か…?それとも家に帰ったのだろうか。てっきり、帰る家がないのかと思っていたが。

俺とひふみ先輩の視線に気付くと涼風は「ぎゃー!!」と叫んだ後、誰も求めていない言い訳を始める。

 

「いや、あの、ちょっとした出来心というかなんというか!」

 

「あ……青葉……ちゃん?」

 

お、これはひふみ先輩からの説教かな。…全くそんな気配しないけど。

 

「……えっとね…ふぁいと」

 

「あ、ありがとうございます」

 

すみません、それ俺にもやってもらえませんかね。そしたら、頑張るびぃって返せるんで。

にしても、涼風がさっきまで座っていた椅子の前にある机にはレシートやコーヒーカップ、栄養ドリンクのゴミなどが散乱している。それを見てふと呟いてしまう。

 

「八神さんの机っていつも散らかってるなぁ…」

 

A型の俺からするとこれはすごく気になることだ。それに比べて俺の机は殺風景極まりない。マッ缶が積まれている以外は。

 

「前から気になってたけど、この紙…」

 

その目線の先には大量の白紙の紙が積まれており、それを涼風は捲ろうとするがチラリとこちらを伺う。すると、ひふみ先輩は自分の目を手で覆う。

 

「見てない…から…」

 

「そんな悪いことしませんよ!」

 

「いや……見るくらいなら…いいと思う…」

 

「ですよね!」

 

紙の上に置かれていたくまの置物やカレンダーをどかして、パラパラとめくってみるとキャラデザの絵が現れる。

 

「うわっ、これ全部キャラデザの絵なんだ…」

 

「微妙な違いだが…八神さんも結構ボツ出してるんだな」

 

「コウちゃん…頭を抱えてること…多いよ?」

 

「へぇ……ちょっと意外です」

 

まぁ、あの人も苦労しているということか。てか、1発OKのやつ全然ねぇじゃん。これを見るとあの人も俺と同じ人間なんだなと思える。

ほら、会社でパンイチで寝るとかね…俺は1度も見たことがないが。

 

「遠山さんの机は綺麗ですね」

 

そりゃあな、逆にあの人がガサツだったらなんか色々とショックだよ。よくよく考えれば、八神さんと色々と対照になってんな。性格とか髪の長さとか几帳面さ…胸の大きさとか?あとはよくわからん。

 

「ん……?」

 

ふと、目に入った写真立てに入れられたものが気になり手に取ってみる。フェアリーズのパッケージが写っているということは最初の頃のやつか。横で涼風が写真を覗き込んでそんなことを言うと写っている八神さんに気になるところがあったようだ。

 

「この八神さん……なんだか雰囲気が違う…」

 

確かに1人だけカメラから目線を逸らしている。写真を撮るのに恥ずかしがる性格でも無さそうだがな…歓迎会の時も普通に笑って撮ってたし。

 

「昔は無口だったし……」

 

「え!?信じられない!」

 

ひふみ先輩の話を聞くと、一時期席が隣の頃があったらしく、話しかけてこないから「いい人」だなって思ったらしい。しかし、ある日突然笑いながら今のように話しかけてくるようになったらしい。

 

「いや、なんか私もよく話しかけちゃってごめんなさい」

 

俺も社内メッセージでめちゃくちゃ話しかけてごめんなさい。その意を込めて頭を下げると、ひふみ先輩は恥じらう乙女のような表情になる。

 

「え?…あ…青葉ちゃんは…ちょっとだけ話しやすい……から…」

 

何その破壊力ある表情と発言は。

 

八幡 に こうかはばつぐんだ!

 

でも、俺が含まれていないあたりなんか複雑だなぁ…。べ、別にいいんだけどね!!

 

「へ!?……な、なんだか照れちゃいます」

 

どうやら、涼風にも効果はばつぐんだったようだ。あれだよな、こういうおとなしい人からそういうの言われると幸せウルトラハッピーな気分になるよな。

 

「青葉ちゃん、ひふみちゃん、比企谷くん、おはよう。休日出勤お疲れ様」

 

「おはようございます!」「お疲れ様です」「……」

 

 

いや、ひふみ先輩も挨拶しましょうよ…。

 

 

 

###

 

涼風が昔の八神さんを遠山さんに聞き出した頃に俺とひふみ先輩はデスクに戻り、それぞれ仕事を始めた。ひふみ先輩は「今日も頑張ろうね( ´ ▽ ` )ノ」とメッセージを飛ばしてくれたおかげで色々と元気が出た。

 

エレベーターの件といい、先ほどの言葉といい、今日は来てよかったと思えるな。仕事さえ無ければ。少し、現実逃避しながら仕事でもするか。

 

 

_俺の名は比企谷八幡。年齢18歳。

 

自宅は〇〇市のアパート暮らし。結婚はしていない。

会社は中堅ゲーム会社のイーグルジャンプに務めている。

タバコと酒は日本の法律上、年齢的に無理。

夜23時には床につき、8時間は睡眠を取りたい。

寝る前には録画しておいたアニメを見てから用を足しMAXコーヒーを飲むとアラームが鳴るまでグッスリ眠れる。

しかし、疲労やストレスを残して、朝、目を覚ませるんだ…健康診断はまだ受けていないから何を言われるか不安だよ。

 

「ねぇ、比企谷くん、さっきから何笑ってるの?」

 

お前、いつ帰ってきたんだ。と涼風に言ってやりたかったがそんな事言っても面倒事のもとになる可能性がある。ここは適当に切り抜けよう。

 

「なぁに、少し思い出し笑いをな」

 

まぁ、現実逃避って言いつつ思いっきり現実みてましたけどね。なんなら、最近の俺を振り返っていたまである。それを涼風に見られたというのは少し釈然としないな。

 

「ふーん、別にいいけどあんまりしない方がいいよ」

 

それは俺の笑い方が気持ち悪いからとかそういうことですか。

そういうことならそういうことでいいんだが。

 

なんであんな手首フェチの殺人鬼のようなことを考えていたのか。

確かに俺は『心の平穏』を願って生きてる人間だし、どっかの胸のない下さんのように、『勝ち負け』にこだわったり、頭をかかえるような『トラブル』とか夜襲が怖くて夜も眠れないといった『敵』をつくらない。

 

「そうか」

 

それだけ言うと、涼風はムーっと俺の言葉に何か思うことがあったらしい。

 

「比企谷君ってさ、基本冷たいよね」

 

「そうか?」

 

どうでもいいが同じ言葉でも使い方が変えると意味も変わる日本語はやはり、外国人にとって難しいのではないだろうか。

だが、英語も一つの単語で複数の意味を持つものもあるから一概にそうとは言えないが。

 

「まぁ、人と関わることが少なかったからコミュニケーションの取り方がよくわからないからかもしれないな。……それに人と関わるとろくなことがないしな」

 

人と関わるということはトラブルの始まりであり、楽しいことや嬉しいことなどもあるやもしれんが、逆も然り。嫌なことや喧嘩、すれ違いなどもある。俺なら女子の思わせぶりなことされて告白して爆死するとか、変な部活に強制入部とか。

 

しかし、生きていくうえで人と関わるということは必要である。

人間1人で生きていけるとか言ってるやつは1度、DASH村とか無人島に1人で行ってみるといいのではないか。

 

「わかる」

 

ガタッと立ち上がったひふみ先輩は俺の方に少し歩み寄るとカァっと顔を赤くして顔を俯かせる。

 

「わ…私も…人と関わるの苦手だから…わかる…」

 

なんだろう。俺の父性本能が『嫁に出したくない。だれにも渡してたまるか』と叫んでいる。ついでに言うと、俺のムスコもそう叫んでいる。

 

「あ……あ、と……い……イメチェン……したい」

 

「俺は今のひふみ先輩がいいです」

 

咄嗟にそのまま口に出すとひふみ先輩はさらに顔を紅潮させて、疾風の如く席に戻ると顔を机にドスンと打ち付ける。……な、なんか悪いこと言ったかしら…。なんか知らんが涼風はジト目でこっち見たと思ったらパソコンの方向いてるし…

 

はぁ、これだから人と関わるとよくわからんことになるのだ。

人の考えてる事はある程度読み取れても感情までは理解できない。

いや、わかってしまったら恐ろしいのかもしれない。

 

好きな人や大切な人のことを知らないということはひどく怖いことだし、逆に全てを知ってしまうということはひどく恐ろしいことだ。

 

だから、知りたい、知りたくないと思うためには人と知り合わないのが一番なのかもしれない。しかし、知ってしまった以上は仕方がないことなのだ。

 

俺はひふみ先輩のことも涼風やはじめ先輩、ゆん先輩、八神さん、遠山さんのことも今はあまり少しのことしか知らないし、いずれにせよこれから色々とわかって知っていくのだろう。知った時俺は何を思ってどうするのだろうか。それは未来の俺にしかわからないし、今の俺にはどうしようもない。せめて、今出来るのはこの安定した関係性を保つことだ。

 

つまり、俺は平穏に安全に快適に過ごしたい。

スリルなんていらない、恋愛をしたいというなどという死地への片道切符を手に入れてはいけない。

 

そんな生活が俺にとっても、周りにとっても幸せなのだ。

なので、日本は人類ぼっち化計画を進めるべきである。

 

 

 





終わり方が個人的にイマイチ…仕方がない。俺の文才はこんなものなのだ。

あと、一つこの場を借りて。評価で4から下をつける人になんですが。どのへんが悪くてその評価なのかを教えて欲しいです。じゃないと、解決できないしずっと悪いままかもしれませんから。お手数がですがそこんとこお願いします。



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青春のマグナム弾

今回は短め+オリジナル要素入ってます


 

 

人の趣味とは人それぞれだ。

俺のように人間観察が趣味のやつもいれば、乗馬やらカラオケ、料理鑑賞、テニス、ドライブ、原稿執筆とかも本人らが趣味といえばそれは趣味なのだ。

 

俺はどんな趣味も否定したりしない。それは自分の趣味も否定することに繋がる。……だから、全然否定したりしない。自分のこれまでの生き方も行動も。後悔はしても否定はしない。したくない…。

 

してはいけない。否定してはいけない。今のこの状況を受け入れ、肯定しなければいけない。

 

肌が茶色に焼けていて、綺麗な黒髪を長く伸ばし、ぱちっとしていて尚且つキリッとした目の女性にモデルガンを突きつけられているこの状況を。

 

 

 

どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

「さすがのあなたでもこの間合いならよけれませんね」

 

「……降参です。うみこさん」

 

俺は持っていたロングライフル(モデルガン)を地面に置いて手を上げる。するとうみこさんはふっと微笑んで突きつけていた銃を引く。

 

暇なはずだった休日。イレギュラーな平日休み。こういう日は何をすればいいかわからなくて困る。土日なら朝方はアニメがやってるし録り溜めたアニメを見ることが出来るが、平日だと中途半端にしか消化できないのだ。誰かに「ねぇ、次は何をすればいい?」とか聞いてしまいそうになる。まぁ、聞く相手がいないのが現実なのだが。

 

日程表を見てため息をついていたそんな時だった。最近知り合った人にサバゲーに誘われたのは。

 

 

 

きっかけは涼風が重要NPCを作っていた時のことだ。俺はその時は少し休憩していながらコーヒーを飲んでいた。なにやら、涼風がエラーを出しまくっていたらしく、それの注意にプログラムチームの人がわざわざこちらまで来たのだ。

 

まぁ、ミスに気づいていなかった八神さんがモデルガンで撃たれて、それに涼風とひふみ先輩が驚いている中、俺は目を見開いていた。

涼風と八神さんに数点注意するとグラフィッカーのブースをあとにしようとするがちょうど俺と目が合う。

 

「……阿波根うみこといいます」

 

「比企谷八幡っす…変わった苗字ですね」

 

「沖縄出身なので。でも、「うみこ」と呼んでください。いいですね?」

 

そんなに鬼気迫る顔で言わなくても…まぁ、本人が呼んでくださいと言ってるし、別にいいよね?

 

「わ、わかりました」

 

それが俺とうみこさんとのファーストコンタクトというやつだ。

それだけでもう特に何もないはずだった。ただの社交辞令の挨拶。それだけで終わりだと思っていたのだが、人生とはやはりよくわからないものだ。

 

うみこさんは涼風に言いすぎたと思ったのかしばらくするとまたこちらのブースに来たのだ。その時、うみこさんが涼風に渡したものが俺の目にとまった。

 

 

「私の宝物のひとつなんですが、ぜひ受け取って頂けると嬉しいです」

 

「え!?そんな、悪いのは私ですし申し訳ないです!」

 

「いえ、数個持っている物なので気にしないでください。どうぞ」

 

うみこさんの開かれた右手から出てきたのは先端に穴が空いた小さな筒のようなもの。普通の人から見れば何かよくわからないものだが、中学時代にサバゲーやらミリタリーをかじっていた俺にはわかる。

案の定もらった涼風は「な…なに、これ…」と言いたげな顔だ。それを見て俺は自然に口を開いていた。

 

「弾丸の薬莢だろ。ほら、マシンガンとか撃ったら出てくる抜け殻みたいなの」

 

その説明でわかったのかはよくわからんが涼風は「へー」と興味深そうに薬莢を見ている。しかし、涼風よりも興味を示したのはうみこさんだった。しかも、薬莢でも涼風でもなく俺に興味を示したようだ。

 

「…!! よくご存知ですね。沖縄のアメリカの兵隊さんにいただいたもので貴重ってほどでもないんですが、火薬の香りも少し残っていて興奮してしまいます」

 

な、なるほど…確かに沖縄なら自衛隊やらアメリカ軍基地やらもあるからあってもおかしくはない気がする。てか、たくさん持ってるってどんだけもらったんだよ。

 

「私のデスクに他にもいろいろあるので興味があれば是非いらしてください。といっても本物の銃は持ってないですが」

 

「持ってたら犯罪ですよ」

 

涼風の意見は最もだ。だが、男の子としては是非とも見てみたい。

まぁ、俺は散弾銃やらスナイパーライフルよりもリボルバーやらマグナムの方が好きだったりする。……次元大介かっこいいよね。

 

「そういえば、比企谷さんは何故これが薬莢だと?」

 

「あぁ、昔にちょっとそのへんのジャンルをかじってたことがあって…」

 

言うとバッとうみこさんが俺に1歩詰め寄ってくる。近い近い!しかも、なんかさっきと違って怖いっていうより新しいものを興味深そうに見る女の子の表情してて、目を逸らしてしまう。

 

「では、もしかしてサバゲーなども?」

 

「えぇ、中2の夏休みにしょっちゅう行ってました」

 

仲間はいなかった。ずっとバトルロワイヤルしてたよ……味方は自分だけなのはいつものことだから慣れていたからやりやすかった。チーム戦は……うん。

 

「なら、今度サバゲーに参加しませんか!?」

 

「え、でも、俺の次の休み平日…」

 

「それは偶然ですね、私も平日です。ちなみに何曜日ですか?」

 

「えっと……」

 

 

と、涼風をほったらかしてそのまま話は進んで今に至るというわけだ。断ろうと思ったのだが、結局暇だし別にそういうのも悪くないと思ったのだ。

 

「それにしても比企谷さんは避けたり隠れたりするのが上手ですね。見つけるのに手間取ってしまいました」

 

まさかステルスヒッキーが褒められる日が来るとは思わなかった。高校時代はどこにいるかわからなくて困るだの、存在感を消すのだけは得意だものね、とか言われてきたからな。

 

「いや、そんなことないですよ」

 

「謙遜なさらなくても今までやった人の中で一番時間がかかってしまいました」

 

「それは相手が隠れたり逃げたりしなかったからじゃないですかね…」

 

「いえ、逃げるのも戦略です。逃げずに立ち向かうのは立派といえば立派ではありますが、逃げたり隠れたりして勝利を掴もうとする方が私は好きです」

 

まぁ、勝てばよかろうなのだ主義はわからないこともない。いや、この人の場合は自分の個性をうまく活かしている人の方が好きという解釈の方が正しそうだな。

……そういえば、なんかのアニメで言ってたな。生きるための逃げはありです。ありありです……だとかなんとか。

 

「さて、もう1戦いきましょうか」

 

「まだやるんすか…まぁ、今度は本気でやりますよ」

 

「おや、さっきは本気ではなかったのですか?それは楽しみです」

 

いやいやただの負け惜しみってやつですよ。そんな生意気なことを言うとうみこさんは楽しそうに笑ってくれた。まぁ、俺はライフルよりマグナムの方が使い慣れているのは事実だからあながち間違いじゃないんだけどな。

 

 

 

 

こうして俺の平日休みはいつもより楽しく、そして他の人にとっては当たり前のように過ぎていった。

 

 

 

 



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健康診断とは意外に色々と気にするものである

クリスマス特別編は何故かうみこさんも交えたくなったので消しました…勝手に申し訳ありません……まぁ、完全オリジナル目指すためなら仕方が無いと思っていただきたいです(面白くなるとは言ってない)

ちなみに作者はうみこさん推しです
ついでにいうとオルガ推しです(何言ってんだミカァ!)

今回は特に会話シーンはあります。強いて言うなら看護師達との会話くらい


健康診断。

学生時代はだいたい4月あたりに学校が勝手に身長、体重、座高測定やら聴力、視力検査や心電図だとか色々してくれていたが、まさかうちの会社でもやってくれるとは思わなかった。

 

あれだよな。尿検査の回収日に忘れてお茶いれてひっかかてるやつとかいたよな。え?いない?いないな。アスカ?誰だよそれ、あんたバカァ?

 

しかし、健康診断か…。そういえば、親父も会社に人間ドックをしろと言われて断食している隣で家族でアイスケーキを食べたのは懐かしいな。その時の親父は「こいつら絶対殺す」という2子の父親とは思えない顔をしていた。

 

どうでもいい情報だが、バリウムは30歳から下は飲まないらしいぞ!

あれ…?でも、みさえは飲んでたような…。

 

「それではこの検査着に着替えましたら、ロビーでお待ちくださいね」

 

可愛らしい看護師さんから服を受け取ると男性の更衣所に向かう。グラフィッカーの男は俺1人というのは寂しい気もするが、よくよく考えれば他の男子とかと身長伸びたか?という健康診断にありがちな話をしたことがなかったな。

だから、別に気にしてない。むしろいても会話しないしな。だって、他のブースの人とかも着替えてるけど誰1人俺に話しかけてこない。

 

 

着替え終えてロビーに出ると八神さんがぐったりと遠山さんにひざまくらしてもらっていた。

 

「どうしたんすか…」

 

「あぁ…うん、なんか看護師がどうかしたらしくて」

 

遠山さんが苦笑いしながら言うと八神さんが手をぷるぷる震わせながらうめき声のように俺に忠告する。

 

「気をつけろ…あの…看護師…うっ」

 

なるほど、どうやら看護師の中にスタンド使いがいるようだ。そんなわけあるか。いたとしても無敵のスタープラチナがなんとかしてくれるさ。八神さんの骨を拾ったところで看護師さんからお呼びがかかる。

 

「比企谷さーん」

 

呼ばれていくぜ、じゃじゃーん。遠山さんにぺこりと頭を軽く下げてロビーを出て検査室へ行くと青ざめた顔をしているゆん先輩とはじめ先輩がいた。

視線の先を辿るとおどおどとしたなんだか見てるこっちの寿命が縮みそうな手をした看護師さんがいた。

 

……八神さんはあの人に殺られたのか。

 

「いっ、飯島さーん」

 

呼ばれたゆん先輩はため息をついて、のろのろと立ち上がりその看護師さんの方へと向かう。さて、俺ははじめ先輩の隣に座ればいいのか…なんか、さっきよりも青ざめてるんだけど…。

 

「比企谷さん、どうぞこちらへ」

 

どうやら、俺は男の人が血圧測定やら採血をしてくれるらしい。あのメガネの人や可愛い看護師にしてもらったら危うく血圧が上がるどころか沸騰するところだった。

 

「まず血圧を測ってそのまま採血させてもらいますね」

 

「はい」

 

なんだろう。この人…すげぇ顔も声もイケメンだな。葉山のような爽やかイケメンではなく、テレビとか出たら女子にキャーキャー言われるタイプ。

 

「よし、血圧はこれで大丈夫です。…では、次は採血をしましょう」

 

注射とはいつになっても慣れないものだ。あの鋭利な銀色の針が俺の血管から血を吸い出したり、予防接種を打ち込んだりしてると考えるとなんだか気分が悪くなる。

そんな俺のどんよりした顔を見たのか、看護師さんは優しく声をかけてきた。

 

「苦手でしたら、一度深呼吸してみてください。そうすれば多少は落ち着きますから」

 

「あ、いえ、大丈夫です」

 

なんだこの人…顔もよし、言葉遣いよし、性格よし、手際もよし…なんだろう。悟空とベジータがポタラで合体したのと戦う魔人ブウの気分だな。

 

結果的にいえば何事もなく採血は終わり、次は身長測定らしい。

見ればゆん先輩がお腹に力を入れてなにやら誤魔化そうとしていたが手馴れた看護師さんはフェイクを使って真のウエストを記録していた。

 

……なんか知り合いの女子のお腹見るのってなんか複雑な気分だな。しかも、タチの悪いことに全員可愛い。目のやり場に困っていると八神さんを殺った看護師さんの方に目がいく。

 

「ええい!じれったいですね!私がやります」

 

とメガネの看護師さんの手際の悪さに痺れを切らしたうみこさんが注射器を奪い取って自分で採血をしようとしていた。

さすがにそれはダメでしょ…看護師さんめちゃくちゃ慌ててるし…。

 

「次の方~」

 

どうやら俺のターンらしい。ドロー!モンスターカード!

そんな脳内デュエルは誰の脳にも届かないし届いたら恥ずかしいのでやめて欲しい。ほんと、半径200mにピンクの髪の超能力者がいないことを祈る。

にしても、女の人にウエスト測られるのってムズ痒いというか恥ずかしいというかなんというか…。

 

「……もういいですよー」

 

どうやら終わったらしい。

 

「そういえばさ、八幡なんか筋肉ついた?」

 

涼風やゆん先輩にお腹をぺたぺた触られてるはじめ先輩に聞かれて考えてみる。まぁ、この前うみこさんとサバゲーした次の日に恐ろしい程の筋肉痛に見舞われたのをきっかけに少しは筋トレをしているが、短期間の筋トレでそんな目に見えるほどの変化が出ているのだろうか。

 

「どうでしょう…よくわかんないです」

 

自分で筋肉に力をいれてみるが、そこまで変わっている気がしない。

すると、涼風、ゆん先輩、はじめ先輩が手を伸ばして触ろうとしてきたので1歩身を引く。自分の貞操くらい自分で守らねば…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

どうでも良くないから聞くが、健康診断の結果っていつ返ってくるんだ…(←マッ缶飲みすぎて糖尿病を気にしている)



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比企谷八幡に夏休みなんてなかった

バイト編は俺ガイルキャラは誰も出さないつもりでしたが、まぁ出せそうな人がいたので出しました。詳しくはあとがきで。


 

7月に入り始め、地中で過ごしていたセミたちが子孫を残そうと大合唱を始めていた。まだ7月になってそんなに時も経っていないが、ゲリラ豪雨やらのせいでジメジメとした暑さが続いている。

 

もうこの時期だと大学生諸君はテストが終わって夏休みに入ってる頃だろう。なぜ学生に夏季長期休暇が存在するのかといえば、暑いから熱中症にならないためだとか、程度にいい息抜きやガス抜きになるからなのだろう。高校までは基本的に夏休みは31日まであるのだが、一部の地域では24日までだったりするらしいのでほんとにドンマイケルである。

 

しかし、社会人となったこの俺には夏休みなんぞ無く絶賛仕事中である。社内は空調が効いていて涼しくても、来るまでは暑すぎてアスファルトに陽炎が立ち上がっているくらいである。

 

夏休みなのに休めないのはなにかおかしいと言ったことがあるが、今なら夏なのに夏休みがないのはおかしいと言える。

まぁ、夏休みは通常休暇と有給休暇を上手く組み合わせれば実現できるのだが、俺は休んだところですることもないし、なんなら小町とご飯食べたり、うみこさんとサバゲーしかしてないまである。

 

それに今は新作ゲームのデバッグ作業やらグラフィック修正などで忙しい時期なのだ。そのため、今休むと確実に白い目で見られる。高価なお土産とか買ってこないと刺されるレベル。

とりあえず、今年の俺には夏休みなんてない。ないったらない。だから、小町ちゃん、お兄ちゃんに大阪連れてってとねだるのはやめなさい。

 

休憩中に妹から送られてきた妹からのメールを怒涛の長文で返す。そういえば、高校生のこの時間は授業中のはずなんだが。勉強しろよ。まぁ、俺は基本的に寝てたからどっちもどっちなのだが。

兄妹揃ってダメダメなんじゃないかと思案していると、俺の後ろで立ち止まったうみこさんに話しかけられる。

 

「比企谷さんメールですか、珍しいですね」

 

「え、あぁ。2つ下の高校生の妹ですよ。なんか夏休みに大阪連れてけって言うもんで」

 

「そうなんですか…比企谷さんの妹…」

 

どういう想像をしているのかわからんが、顔を顰めてるあたり俺の腐った目を持った憎たらしそうな女の子でも想像しているのだろうか。

 

「まぁ、とりあえず忙しいから無理と返しておきました」

 

言うと、うみこさんは首肯する。

 

「そうですね、開発終盤ですし…」

 

そうそう、開発終盤だから俺も敵キャラを増やさなきゃいけないんですよ。あと細かい修正を八神さんに出されたからそれもやんなきゃだし…あー!忙しいなぁ!!!

俺が遠い世界にいきそうになっているとうみこさんが「ですが」と少し朗らかに言う。

 

「夏休みはありますよ。ゲームが完成してからですが。まぁ、その頃には高校生の夏休みは終わってると思いますが…」

 

おかしいな、さっきのいい笑顔はどこにいったんだろう。最後の方は声と一緒に表情も落ちていってたぞ…。しかし、まぁ、夏休みが貰えるのか…うん、どうせ打ち上げやらするんだろうな。

うみこさんはなにやら予定でもあるのか、腕時計を見る。

 

「では、これからアルバイトの研修があるので」

 

「あ、お疲れ様です」

 

アルバイトか…上手いことこなしてたら歳上にいびられてバックれた思い出しかないな。まぁ、うちではそういうことはないが…うみこさんだからなぁ。怖いとかいう理由で誰かしら逃げ出しそうで怖い。

 

しかし、その程度で逃げ出すのならいらないか。給料あげる価値無し、働く意味なし。それに人を見た目や第一印象で判断する人間ほど信用できない人間はいない。だから、俺を見てオバケとかゾンビって言うのやめてよね。

 

 

###

 

 

飯も食べ終えて自分のデスクに戻る。やはり、食堂で食べる温かい飯は美味い。危うくマスオさんみたいに「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛」とか言ってノリのいいやつに「そうかそうか」と言われるレベル。

 

さて、仕事するか。どうでもいいが、小学生くらいはまだ仕事する大人はカッコイイとか思ってたけど、いつの間にか働く大人はダサいと思ったのはいつだっけか。それを親父に言ったら『バカ野郎、働く大人がカッコイイんじゃねぇ、自分は何もしないで人に働かせる大人をギャフンと言わせる大人がカッコイイんだよ』と返されて何故か納得してしまった。多分日曜劇場のせいだな。やられてなくてもやり返すってやつだっけかな…。

 

「あおっぢだずげで~~!!!」

 

……なにやら、八神さんの方のブースが騒がしいな。どうやら、空調の風がよくないものを運びこんで来たらしいな。気になって、伸びをするフリしてチラリと見てみると、アルバイトの子がうみこさんに腕を掴まれていた。……もしかして、パワハラ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなわけないでしょう」

 

「ですよね」

 

どうやら、事情を聞くと涼風の友達…桜ねねというらしい。まぁ、そいつが涼風を探してフロアをチョロチョロしていたのをうみこさんに発見されたらしい。

 

しかし、涼風と同じでめちゃくちゃ童顔だな。中学生といわれても信じちゃうレベル。

 

「そういえば、ねねっち、大学の友達は?」

 

『ねねっち』って……なんかなぞかけとかしそうだな。『貧乳』とかけまして『ぼっち』と解く、その心はどちらも『揉めない』でしょう。

 

「あ、うん、いるよ!」

 

嬉嬉として言う、涼風の友達はデバッグ作業中のその友達を連れてくる。しかし、その友達というのにはやけに見覚えがあった。明るい紫色の髪の毛をポニーテールにまとめ、泣きボクロがあり、少し気だるげそうな表情したその女には見覚えがあった。

 

「沙希っち、早く早く」

 

「もう…引っ張らないでよ…」

 

桜に服の袖を引っ張られて…えっーと、名前なんだっけ。胸が出てて泣きボクロがあって…川越?

沙希っち、ってことは下の名前は沙希か。……んん?

首を傾げているとどうやら、川なんとか沙希さん、略して川沙希と目が合う。あ?

 

「あ、川崎か」

 

思い出して思わず声に出すとあちらも俺に気づいたのかあわあわと顔を引き攣らせている

 

「な、なんであんたがいんの!?」

 

その状況を見た涼風と涼風の友達(長いからもう桜でいいや)が俺と川崎の顔を交互に見る。

 

「比企谷くんの知り合い?」

「あれ、沙希っちの知り合いなの?」

 

ふむ、2人の発言から「お前知り合いいたの?」みたいなニュアンスが含まれてる気がするのは気のせいだろうか。

 

「あぁ、高校の時の同級生だ」

 

先に答えたのは俺で桜に「そうなの?」と尋ねられた川崎はコクリと頷く。にしても、変な巡り合わせだな。なんでこいつがこんなところに……ってバイトか。

 

「ところでうみこさん」

 

「……なんでしょうか」

 

あれ、なんか機嫌悪くないですか?気のせいですか?まぁ、気のせいですよね。便所掃除の精とかいるからそれくらいいる。

 

じゃなくて。

 

「デバッグのバイトって時給どれくらい出るんですか?」

 

「えっ、まぁ、そうですね……円くらいでしょうか」

 

なるほど、ゲームはできてお金が貰える。しかも、時給はなかなか良いと来た。これなら、川崎が食いつくのもわかる。が、川崎がなにやら俺に不満があるらしい。

 

「別に時給がいいからとかじゃなくて……私、好きだから……」

 

おかしいな、この場の気温がかなり下がった気がするんだけど。さっきまで話していたはじめ先輩やらひふみ先輩の声も聞こえなくなったし、どういうことなの?そんな顔を赤らめて何を言い出すんだしたんだこいつは。あとなんで、桜はなにやら「え、もしかして」と俺に好奇の目を向け始めてるんだ。

 

「えっと……何が?」

 

涼風が引き攣った笑顔でそう尋ねると川崎は恥ずかしそうに身をよじる。

 

 

 

「……フェアリーズストーリー」

 

 

 

なぜだろうか、心がなんだかポカポカするのだが。でも、涼風やうみこさんはなんで安心したような顔をしているんだろうか。まぁ、いいか。

 

「では、お話もすんだところでそろそろ戻ってください」

 

「はーい」

 

桜と川崎は自分達のブースに戻っていき、俺達もそれぞれ椅子に座る。どうやら、デバッグ作業のブースはプログラムチームのすぐ近くらしい。なるほど、これならうみこさんが巡回しやすいね!

 

それにしても、意外なところで意外なやつと再会したな。高校卒業してから連絡全くとってなかったからというのもあるし、というか連絡先知らねぇしな。あのゴミ……弟のは知ってるけど。

 

やはり、人生とは奇想天外。いつどこで誰とどんな出会いがあるかわからんようにこんな再会の仕方もあるのだろう。ここがファンタジー世界ならどちらかが闇堕ちしてるパターンが王道だよな。とか、そんな変なことを考えてしまう。

 

机の上に置いてあるカレンダーをパラパラと捲ると書き覚えのない字である日にちに赤丸がされている。

 

『ゲーム完成予定日!!』

 

グラフィッカーは俺以外全員女子だから誰が書いたかわからんから、こういうのは特定しづらいな…とりあえず俺の字ではないことはわかる。

 

まぁ、この日までを目標に頑張ればいいか。人間何かしらの目標があれば意外にも頑張れるものである。それが最愛の自分や妹のためならなおさらである。

 

 

 

比企谷八幡がんばります!

 

 





まさかの川……川?
川なんとか沙希さんこと川崎さんがアルバイト枠で参戦です。
消去法でここにバイトに来そうな人は材木座か川崎しかいなかったので川崎にしました。

雪乃は!?ガハマさんは!?という人もいるでしょう。

八幡は2人に「大学には行かない」としか言っていないとしたら、どこの会社に就職したかは伝えない。まぁ、八幡なら内定をもらったことくらいは伝えそうですが。
だから、2人は来ないと考えました。(それに雪乃は今のところ設定上海外の大学にいるので)

ガハマさんはゲームはするけどポピュラーなものしかしないといっていましたし、それにおそらくみんなで遊べるタイプのものしかしないと思い、フェアリーズストーリーって(多分)完璧1人用なので興味はあってもしないかなーと思って除去。

一色と小町はまだ高校生。

葉山も考えましたが、ここで出すわけにはいかないので除去

折本という選択肢もありましたが彼女なら飲食店あたりが妥当でしょう。なので除去


ということで消去法で川崎ということです。



材木座は面接で落ちる。はっきりわかんだね


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比企谷八幡は友達に憧れる。

 

 

ある人曰く「奪うことは等しく悪である」

それは日本の法律がものがたっており、物や生命を奪うことは悪として罰せられる。またファーストキスをズキュウウウン!!!と奪うことも悪だし、なんなら波紋使いに波紋疾走されるまである。

 

男性も女性もやたらと初めてを大事にしたがる傾向があるらしい。

例えば、初めてシた相手のことは忘れられないだの、ファーストキスの相手は忘れたくても死ぬまで覚えてるだの。

 

しかし、奪うことは悪であるということから紐解くに、お互いの了承があろうがなかろうが異性との関係には「奪う」「奪われる」が付き物である。なので、異性と付き合うと悪になってしまうと言える。

だから、俺は誰とも付き合わないし、誰にも俺のオレを奪わせたりはしない。もう彼女欲しいとか恋人が欲しいとか思わない。思っちゃダメ。思った瞬間、俺もリアルな獣に大変身してしまう。それに仏の道に女は不要……しかし、戸塚は必要。

 

 

……はぁ、なんで男なんだろ。戸塚ぁ……。

 

ため息をつきながら再び、突然社内に一斉送信されてきたメールに目を通す。

 

 

【差出人:遠山りん】

【宛先: 社内全員】

 

皆さんおつかれさまです。

本日、冷蔵庫にあった八神コウの

プリンが誰かに盗まれました。

食べた方は怒らないので、

遠山のデスクまでお願いします。

 

遠山りん_

 

 

 

遠山さんからの社内メールを見て、奪うことの醜さ残酷さなどを実証しようとしていたら何故か戸塚の話になっていた。やっぱり戸塚は偉大なんだな…俺の中ではな。

 

にしても、プリン1個が盗まれたくらいでこんな大袈裟にしなくてもいいんじゃと思うが、まぁ、さっき奪うことは悪って言ったし、悪いよな。うん、でもここまですることないと思うんだ。

 

しかし、この『食べた方は怒らないので、遠山のデスクまでお願いします』の1文だが、俺の過去の経験から「怒らないから正直に言ってごらん」って言うやつは絶対怒るの法則がある。しかも、こんな大事にしちゃったら犯人も行きづらいだろうな。

 

だが、これは食ったヤツが悪い。にしても、冷蔵庫にいれるもんには名前が書いてあるはずだから食べないと思うんだが…しかも八神さんのだぞ。食べたら何を言われるかわからん。そんな命知らずのやつがこの会社に…

 

「あおっちまで悪者にされちゃう!」

 

……どうやらいたらしい。

 

「どした、そんなところで」

 

「ひゃ!」

 

ブース裏で隠れていた桜に声をかけると涙目で驚いた声を出す。

 

「声に出てたっ」

 

なるほど、さっきの涼風も悪者にされる発言は無意識だったわけか。わかる、わかるよ、ひじょーによくわかる。俺も無意識に戸塚や小町に可愛いとか言ってることあるもん。

 

「あ、あの…その……えっと」

 

ふむ、手に持ってるプリンカップからしてこいつが八神さんのプリンを食べたんだな。仕方がない。変な罪悪感を持って仕事に集中できなくてデバッグに支障が出たら困るからな。

 

「それ、間違って食ったんだよな」

 

「え、あ……うん」

 

それがわかればそれでいい。悪意がないのであれば、間違って食べちゃいました!で済むがここは負けることに関しては最強の俺の出番だろう。

 

「ここは俺がやっとくから、お前は明日の昼休憩までに新しいの買って冷蔵庫に入れとけ、それでなんとかなる」

 

「え、あっ、ちょっと!」

 

俺は桜からプリンカップを取り上げると八神さんの席へと向かう。

そこにはいつも通り遠山さんとキャラのチェックをしに来た涼風がいた。まぁ、丁度いいか。

 

「八神さん」

 

「ん?」

 

「これ、すみませんでした。貰い物か何かだと思って、名前書いてるの気付かなくて食べちゃいました。」

 

プリンカップを見せながら深々と頭を下げると、八神さんはブンブンと手を振る。

 

「あ、全然いいよ!コンビニで買った100円くらいのやつだし」

 

……は?そうなの?一斉送信しておいて?今の俺も目パチくりさせてるよ。

 

「え、でも、社内メールで言うから結構高くてうまいやつなのかと…」

 

言うと、八神さんは遠山さんにジト目を向ける。

 

「ほら!大事になっちゃったじゃん!」

 

向けられた遠山さんは「ははは…」と苦笑いしているが、その後開き直ったのか普通の笑顔になる。

 

「別にいいじゃない。犯人も見つかったことだし」

 

「そうだけどさ…」

 

よし、俺はこれでよし。あとは明日新しいの買って持ってきますんでとだけ言っとけばOK。超完璧。人の罪を背負うとかマジで正義のヒーロー。

 

話を終えて未だに俺の席付近にいた桜に声をかける。

 

「安いプリンだったらしいからわりとあっさり許してもらえたぞ」

 

「え、そうなの!?」

 

「あぁ、でも、今日の帰りでもいつでもいいから明日の昼休憩までにプリン買っとけよ」

 

「うん……ありがと!」

 

本来は桜本人に謝らせるべきなのだろうが、あそこまで大事にされたら謝るに謝れないだろう。それにあいつは自分が犯人だとわかれば、友達である涼風にも火の粉が及ぶということでも考えたのだろう。それであんなことを言っていたのだろう。なんとも美しい友情愛であろうか。

 

俺もそんな友達が欲しい。そんなことを思ってしまう。

……そういえば、奪うことが悪であるなら貰ったり欲しがるという行為は正義なのだろうか。それに今の世の中の正義とはなんなのだろうか。もう平和の象徴もガリガリになってるし、よくわかんねぇな。

 

 

###

 

【翌日】

 

少し人より早く昼休憩に入り、食堂の冷蔵庫を覗きに行く。

さすがに昨日、2回もプリン買っとけよと言ったんだ。買って入れてあるだろう。そう思って見に行くとしっかりと八神さんが買ったプリンより高そうなのが入っている。

 

でも、桜がメモ書きで「食べちゃってごめんなさい!」って貼ってたら俺が自首しに行った意味ねぇだろ。俺はそれをバッと剥がしてペンで『コウ』と書き込むと冷蔵庫を閉める。

 

あ、β版の提出はどうなったのだろうか。てか、今日もひふみ先輩とはじめ先輩、ゆん先輩は休みなのか。羨ましいというかなんというか。どういう休みを過ごしているのかと思ったが、うん、安易に出てくるな。

 

「お疲れー」

 

斜め前に座った八神さんに挨拶されたので返そうと思ったが、それと同時に八神さんの目の下が恐ろしく気になる。八幡、気になります!

 

「お疲れ様です……ってどうしたんですかそのクマ…」

 

「昨日の深夜、βディスク焼く直前に不具合が見つかってさ朝まで対応してたから…」

 

それは大変お疲れ様ですね…俺が心の中で大変労っていると遠山さんや涼風、桜もやってくる。

 

「でも、しっかりできたからこれで審査も大丈夫だと思うわ」

 

「おつかれさまです」

 

あちらも俺と八神さんと同じ話をしていたらしい。で、桜のおにぎり食う姿が完全にドングリを食べるリスにそっくりという。

 

「あ、八神さん。プリン冷蔵庫に入ってますんで、いつでも好きな時に食べてください」

 

「おー、ありが……」

 

なんでそこで切るんですか。パンパンパンって言いたくなるじゃないですか。しかも、なんで笑ってるんですか。

 

「あの、どうかしたんですか」

 

「あーいや、ごめん…」

 

謝りつつも八神さんはまだ笑っていて、それに遠山さんと涼風も笑っているし、困惑しているとさっきまで黙っていた桜が頭を下げる。

 

「ごめん、ハッチ!」

 

ハッチ?なにそのあだ名。俺はお母さん探してる蜂じゃないんですけど?あと桜って「〇〇っち」っていうあだ名の付け方なんだな。それだとたまごっちのキャラクターにも聞こえるから面白いな。じゃなくて。

 

「なにが」

 

「全部話しちゃった!」

 

「なん…!…だと…?」

 

全部話したとはお前がプリン食って、謝ろうとグラフィッカーブースまで来て、でも勇気が出ないで踏み出せなかったのを俺が代わってやったっていうのも含めて全部ですか?

 

「八幡はやっさしいね~。ほんといい男だね~」

 

おい、さっきまで疲れてだるそうな顔をしてたくせになんで今はそんなに元気そうにニヤニヤしてるんだよ。

 

「別に俺は変な罪悪感持ったままデバッグされて、ミスられたら困るからやっただけですよ」

 

「あらあら、照れ隠しかしら」

 

ぐっ、遠山さんまで…そして、涼風もそれに続くように言う。

 

「ほんと比企谷君は捻デレてるね」

 

なんだその造語。妹からしか聞いたことないぞ。あと、俺は捻くれてもないし、デレてもいない。

 

なんかその場にいるのが恥ずかしくなり、サンドイッチを口に運ぶ。

うげっ、これトマト入ってんじゃねぇか。しまった…朝時間が無かったからといって適当に選ぶんじゃなかった。いや、これはトマトが悪い。バジルに隠れていたトマトが悪い。

 

ゴミを捨てに立ち上がろうとすると、桜が「あ、まって!」と俺を呼び止めると、手に持っていた袋をガサゴソと何かを取り出す。

 

「はい!…昨日のお礼……無駄にしちゃったけど」

 

「お、おう…」

 

コーヒーゼリーか。できれば冷やして渡して欲しかったんだが…と思ったら冷えてやがる。どうやら、袋に保冷剤か氷でも入れていたらしい。まさか、俺のために……!?ここで「べ、別にあんたのためじゃないんだからねッ!」と言ってきたら完璧俺狙いですね。ありがとうございました。

 

 

まぁ、お礼というのならありがたく受け取っておこう。あれだ、病気以外なら貰えるもんは遠慮なく受け取っておけというし。ゴミは病気のもとになる可能性あるからNGな。

それにコーヒーゼリーはあまり嫌いではない。シンプルなものから、上にクリームや果実が乗ったものから何から何まで嫌いではない。

 

ただ、強いて言うならMAXコーヒーゼリーを発売してくれれば完璧。あれ、自分で作るの大変というか面倒だし思ったよりMAXコーヒーの味しないんだよな。なんかゼラチンの味がする。

 

俺は受け取ると、片手を上げてそのまま先へ進んでいく。ゴミ箱へゴミをシュート!超エキサイティング!!

ふむ、なんだろうな。恥ずかしくなって死にたくなってるからテンションが異常に高くなってるな。

 

さて、問題です。こういう時に無理やりテンションを下げる方法はなんでしょうか。

 

……仕事一択じゃねぇか。

 

 





今の職場も仕事は好きといえば好きだけど、やっぱり仕事という概念は嫌いな八幡。


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恥を捨てると役に立つ。

冷蔵庫のプリンほどなくなりやすいものはないと昨日肌で感じた作者
コンビニの高価なプリンは美味しいんですが、甘ったるかったりするのでやはり庶民の私には100円くらいの焼きプリンが丁度いいです。

で、親父はさっさと焼きプリン3個入り買ってこい

本題

ドーナツの差し入れの話は飛ばします。いわゆる、キンクリ。
だって、八幡働きすぎなんだもん……(言い訳)


あとキーボードの調子がくそ悪い


 

 

夏といえばまさに学生達の思い出を築く重要なサクセスとなる季節だ。

海にお祭り、花火にキャンプに合宿、プールに怪談……まさにこの季節は学生達にとってはいかに過ごすかが鍵となるわけだ。

ちなみに俺は高校時代までにすべて体験済みである。海とプールは家族やら1人で行ったし、なんかよく分からんけど葉山、戸部、材木座とも行ったが。

 

つまり、俺は学生時代に黄金体験、ゴールド・エクスペリエンスを発動したことになる。ただし、矢で射抜いていないので鎮魂歌は発動していない模様。はぁ、小町か戸塚あたりにラブアローシュートして欲しい。ただし俺は死ぬ。

 

別に夏じゃなくても、海やらお祭りはあるのだが夏だからこその意味があるのだ。それに夏は学生やリア充じゃなくても楽しめる素晴らしい季節と言える。

 

しかし、それも学生までの話。社会人にとっては仕事の季節と言える。もはや、真夏の方程式は「仕事+暑い=だが仕事」というクソみたいな方程式が成り立っている。夏休みなんてない。あってちょいちょいと3日くらい。お盆休みレベルである。だから、非リア社会人にはお盆休みしかない。これ豆知識な。

 

 

 

さて、非モテ社会人夏休み3大イベントといえば!

薄着に水着に透けブラ!

夏のコミックマーケット!

 

そして、東京ゲーム展である。

 

 

東京ゲーム展とは、そのまんまだ。東京で各企業がゲームの展示会をするのだ。

 

本来は土日と公務員やらゲーム好きな学生達にも行ける日にあるのだが、ゲーム会社関係者となった俺は木金の企業日に行くことが出来るのだ。一般日よりも空いてるし、はた迷惑なやつがいないのでひじょーに楽な日である。

 

ということで、来たぜ。東京ゲーム展。ゲームショウじゃないよ、ゲーム展だよ。なんだか、女の人の方が多い気がするがそんなことは知らんぜよ。ついでに言うと今日あるなんていざ知らず、なんの準備もしていない。

珍しく早く出勤したらうみこさんにチケットと名刺を渡されて、「え、え?」となるくらいに準備していない。

 

「私は忙しくていけないので。楽しんできてください」

 

そう言うとスタスタとどこかに去っていったのだが、おかしいな名刺を渡すのは直属の上司とかじゃないのだろうか。

パッと見八神さんはまだ起きてないし、遠山さんも来ていない。他のメンバーは先に行ったのか、まだ来ていないのか。

まぁ、いいや。とりあえず、名刺の渡し方は親父から教わったし多分声をかけられない。はずだ。

 

しかし、名刺はどうやら首からぶら下げるためにあるだけで、別に交換をするためにある訳では無いようだ。さっきからテンテンドーやらスニー、マクロソフトの人とかすれ違うけど誰も話しかけてこないし。イーグルジャンプだからだろうか。

 

とりあえず、ぼちぼち歩き回っているとレイヤーさんがいるらしく、少し気になって覗いてみたが、なんのコスプレだあれ。

コノハナサクヤ姫か?でも、刀持ってるしマント翻してるし、刀剣乱舞?とか思ったがフェアリーズストーリー2のキャラクターか。確か、クリティカルの発生率がやたらと高かった気がする。しかも、『怨嗟の剣』の威力が高すぎて後半戦は非常に活躍するキャラだった。

記念に写真でも撮っておこうとカメラアプリを起動する。多分、はじめ先輩あたりに聞けばわかんだろ。

 

 

「あぁ……企業日にこんな素敵なコスプレを拝めるなんて……!」

 

「こっち向いてください!!」

 

やっぱり、こういう日にレイヤーさんが来るのは珍しいのか。にしても、すげぇ人気だな。そんな有名な人なのだろうか。それともキャラクターが人気なのだろうか。

 

こっち向いてくださいと言った人がちょうど俺の反対側にいたので上手いこと顔が映らない。って、レイヤーさんが向いてる方向には涼風とゆん先輩がいるじゃないですか。はじめ先輩もそのへんをパシャパシャと写真撮影しているようだ。あれ?おかしいなー俺はー?

こっちですね。てか、今思ったんだがはじめ先輩って意外に身長高いのね。

 

ぼうっと眺めていたらレイヤーさんは顔を赤らめて、カメラを向けていた人にそっぽを向ける。された人は「ぎゃあああ!そんな意地悪なところも素敵!!」と何やら嬉しそうだ。世の中には変わった人もいるなぁ…。

 

とか、思っているとレイヤーさんは今度はこちらを向く。先ほどの顔つきから一転し、平常心を取り戻したのかクールで知的な雰囲気を出している。

そして、不意にそのレイヤーさんとお互いに目が合うこと数秒。俺はあることに気づく。

普段はポニーテールに束ねられた後ろ髪は毛先に近い位置で結ばれ、いつもの涼し気な表情ではなく、目を細め顔を紅潮させているその顔には何やら見覚えがある。

 

「!?」

 

その反応で確信がもてた。どうやら、ひふみ先輩らしい。

これは見なかったことにするべきか、写真に収めて早めに退散するかを考える暇もなく、俺はひふみ先輩に連れ出される。

 

 

###

 

 

 

見上げれば赤みがかった白の天井。下を見ればピンクのタイルが敷き詰められており、前を見ればT〇T〇の洋式トイレの蓋がウィィィンと静かに音を立てて立ち上がり、便座が現れる。

 

「……あの、ひふみ先輩?ここ女子トイレですよね」

 

ここに連れ込んだ人はというと死んだような表情と頬を赤らめてなんだか今にも泣きそうな顔で壁にもたれかかっている。

 

「……」

 

聞いても返事がない。どうやら、ただのしかばねのようだ。

しかし、ひふみ先輩にとっては見られてはいけないものを見られた感じだったのだろうが、俺からすればご褒美です。ありがとうございました。という感じなのだが……。

 

「…………」

 

相手はそういう感じではないらしい。さっきから見ているからか、少し怒ってるようにも見えてきた。

 

「まぁ、俺は別にいいと思いますよ。ほら、ひふみ先輩可愛いですし。ほら、可愛い人はなんのコスプレしても可愛いですよ。ほら…モビルスーツ乗っても可愛いですよ!ノーベルガンダムとか!」

 

言ってるこっちも恥ずかしいし、聞いてるあっちも恥ずかしそうだ。

これはもはや、火に油を注ぐというより水に油を注いでる感じだ。

 

「……このこと…みんなには…秘密に…してくれる……?」

 

「え、まぁ、それはもちろん」

 

俺が言わなくてもTwitterとかに写真が出回って特定される可能性はあると思うけど。そんな事言ったらキリがないし、企業日にTwitterに写真をあげるのはNGだからおそらくないと思うが。

 

「……ほんとに……?」

 

ふむ、まだ信用されていないようだ。多分俺の信用度はハリネズミ以下なのだろう。まぁ、誰かさんいわく人間以下らしいから仕方がない。

コクリと頷くとひふみ先輩は大きめのキャリーバッグから何やら取り出すとバッとそれを広げる。

 

「じゃあ…これ着て」

 

なぜそうなる。そんな言葉が顔に出ていたのだろう。ひふみ先輩は細々とした小さな声だが、俺にまっすぐ視線を向ける。

 

「着てくれたら……信じる……」

 

いや、まぁ、それを着るだけならいいんですが。と俺はその衣服を受け取ったのだが、その後に続けた一言がダメだった。

 

「それで……私と一緒に…並んでくれたら……うれしい」

 

並ばせていただきます!

 

……てか、なんで俺のサイズぴったりで頭髪用ワックスまであるんですかねぇ……そう聞こうとしたらギロりと睨まれる。

 

「早く着て」

 

「は、はい」

 

なんだろうな。ほんとはすごく怖がるはずなんだろう。だけど、だけど。すごく気持ちいい気がする。まさか、これはMの目覚めなんだろうか。

 

「あ、あの着替えるんでそちら向いてて…もらえないですかね」

 

言うとひふみ先輩は先ほどの凍りついた表情から一転して、いつもの恥ずかしがり屋な顔に戻りましたとさ。

 

【一方、会社では】

 

「ひふみんと八幡は何やってんだ」

 

この時八幡はワックスで髪をかきあげて、フェアリーズストーリー1の男性キャラになってゲーム展の女性を歓喜させていました。

 

ひふみんはゲームの先行体験で最速クリアをしていました。

 

 

そして、2人は仲良く残業しましたとさ。

 





トイレに男女2人で入っても薄い本イベントが発生しない。なんでだろう。というか、薄い本はあれはあれでいいんだけど現実で起きたら色々の頭がやばいことしかない。

なので、そんなイベントはなかった。

葉山と戸部と材木座というカオスメンバーで海に行った話はまぁ、海の家でのバイトと考えてください。誰が誘ったかって?だいたいわかるでしょ。あーでも、高3の夏休みに海の家にバイト行くかな~んんん???

あと、正直今回の話とドーナツの差し入れの話(書いてみたのですが、会話が全くと言っていいほどありませんでした)は八幡を絡ませづらかった。


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比企谷八幡は世話を焼く

ひふみ先輩すげぇなと思った昨日今日

コメントで多かったいいペースですね的なやつ。
作者の投稿ペースが早いのは……

『振り返るとそこにいつも読者の目があるんだ。
すげえよ読者は。
多分暇で、暇でムスコもある。初めての感想文もこなすし、今度は評価まで。
その読者の目が俺に聞いてくるんだ
「『魔術師、次はどうする。次はなにを書く。次はどんなワクワクする話を見せてくれるんだ』」
―――ってな。あの目は裏切れねえ。
あの目に映る俺は、いつだって最高に粋がって格好いい通りすがりの魔術師じゃなきゃいけねえんだ。 』

つまり、低評価が怖い



 

友達。

どこからどこまでが友達かなのかはよくわからんが、国語辞典やネットで調べれば『一緒に遊んだり勉強したり、友情を深め合った人達』とか書かれているが。

つまり、学校生活を共にした者達は全員友達なのかと言われればそうでもなく、最後の一文句『友情を深め合った人達』が重要なキーワードとなる。

 

そう、たとえ共に勉学に励もうが共に青春の汗を流そうがそこに友情が無ければ友達とはいえないのだ。そもそも、友達だから友情が育まれるわけで友達でないのなら友情なんて存在しない。

 

友達とは共に自分という人間の共通認識、存在認識があってそこから共に学び遊んで初めて友情が生まれて友達という関係になっていくのではないだろうか。

いや、待てよ。友達だから友情が育まれると言ったのに、なんで先に友情が生まれてんだよ。……まぁ、あれだな。バトルの後はみんな友達って言うしな…友達の定義は人それぞれってことでいいよな……

 

別に友達がいなくても不利益はないし、なんなら恋人もいなくても何ら問題がない。というか、友達や恋人が大事と言うやつはだいたいリア充だし、それに俺ががんや生活習慣病よりも恐れている、人に依存している【他人依存症】にかかっている節があるので感染しないためにも関わりたくないものだ。

 

ちなみに俺は妹(小町)依存症だから特に問題は無い。妹にくらい迷惑かけてもいいでしょ。他人には迷惑かけてないんだから。

 

 

###

 

昨日の夜から雨がザーザーと振り続けており、朝起きても未だに雨は地面を打ち付けていた。流石にこの雨の中で自転車を漕いで会社に行く気にはなれず、仕方なく電車を使っている。

 

社会人になってからというもの、電車というのはあまり好きではない。まぁ、高校生になってから嫌いだったが。

理由は簡単で痴漢に間違われる可能性があるからだ。今の時代は世間では男女平等を目指して様々な政策を掲げてはいるが、どうにも女尊男卑の世の中になっている気がする。

 

ほら、昔は女性がつけなかった仕事もつけるようになってるし、給料も変わんなくなってきたし、それに女性専用車両やら映画館ではレーディスデイとか言って逆に女性を贔屓している傾向がある。

 

それに比べて男子はオタクや根暗、ブサイク、キモイだからといって退けられ、金も学も顔も無ければ結婚できず非リアの一途をたどる……ん?これらは女性も同じだな。

 

しかし、俺が一番女尊男卑を感じるのは電車である。例えば、触ってもないのに「この人痴漢です」とか言われたらもう社会的抹殺が待っている。職も家族も信用もその一言ですべて失われるし、告訴されて慰謝料請求とかにまでなったら金まで持っていかれてしまう。

痴漢の無実を証明するには逃げるのが一番いいらしい。ほら、逃げるは恥だが役に立つとかいうだろ。

 

まぁ、2駅くらいだからすぐにつくしそんなことには巻き込まれないだろう。やっべ、これフラグじゃん…

だが、対策はバッチリである片手でつり革を持ち、余った左手でマッ缶を握っている。これで俺は手が出せないし、出せたらおかしいことになる。

 

「この人痴漢です」

 

耳元で囁くように女性の声が聞こえて、ドキッとして後ろを振り向くとそこには見知った顔がある。

 

「川……川……川ごえ?」

 

「は?あんた何言ってんの。まじで殺すよ」

 

それは社会的にということでしょうか。

にしても、こいつの苗字ってなかなか思い出せねぇな。なんだっけ。黒のレース…違うな。コックカワサキ…?セッ!……違う違う。

あれ?川崎?

 

「あぁ、川崎か」

 

「あんた…」

 

どうやら、本気で忘れられていてショックを受けるどころか呆れられてるようだ。てか、こいつも電車なのね。まだ実家暮らしならありえるか。

 

「で、なんだよ。そんな怖いこと言いやがって」

 

「別に、どういう反応するか気になっただけ」

 

「やめろよ、そういうの。マジでビビるから」

 

ほんとに心臓に悪いから。

 

「てか、お前ってそういうことするんだな……ってどこ見てんだよ」

 

「いや、あれ」

 

あれ?川崎の指さす方向を見れば涼風と桜がいた。同じ電車だったのか。にしても、なんか2人とも機嫌悪そうだな。生理か?女性の機嫌が悪い原因は生理か便秘だと思ってる俺は間違っているだろうか。間違ってますね、うん。

 

「あれがどうしたんだよ」

 

「…どうしたんだろうね」

 

そう言う川崎の顔はどこか寂しげで、素っ気ない感じがした。

まぁ、何かあったんだろうと気付いていてこんな聞き方した俺も俺だが。自然に見ていていたたまれなくなって、俺は電車の外に目を向けていた。

 

###

 

 

電車を降りて、改札を抜けて傘をさして会社に向かい、着けばすぐにパソコンの電源をいれる。ここまで川崎と一緒に来たのだが涼風と桜は同じ駅で降りたのにバラバラに来ていた。

 

チラリと隣を見れば、涼風は普通に仕事しているのかと思えば、気が散っていてあまり手が動いていない。ふむ……わかりやすいな。

 

まぁ、2人のことに俺が首を突っ込むことはないだろう。これは友達同士の問題というやつだろうから、2人も関係ないやつにあれこれ言われるのも嫌だろう。

 

そう思いながら、仕事をこなしていると昼休みに入る。俺はいつも通り1人で食堂に向かおうと席を立つ。

 

「はじめさんお昼どうします」

 

「あぁ、ごめんここで軽く済ますよ」

 

涼風がはじめさんにそう尋ねると、はじめさんはカバンからコンビニの袋を取り出す。涼風に視線を向けられ、その会話を聞いていたゆん先輩も「私もや、堪忍な」と手を合わせる。

 

多分、誰かに打ち明けたいのだろう。誰でもいいというわけでもない。人間、悩み事というのは誰かに打ち明けるだけでスッキリするものだからな。

 

「比企谷君、お昼…」

 

振り向くと涼風は少し涙目だった。おそらく、自分でも無自覚なんだろう。これは俺の勝手な憶測だが、涼風は滅多に怒らないし、友達とも喧嘩しない。そういうやつが怒って友達と喧嘩した時、どうしたいか、どうして欲しいのか。それは俺の妹がそうだからよくわかっている。

 

「いいぜ、付き合うよ」

 

 

 

###

 

 

エレベーターにお互い無言で乗り込む。ボタンを押すとドアがゆっくり閉まっていく。そして、エレベーターは動き出す。しかし、俺達の時間は全く動かない。小町ならこういう時は自分から話し始めるのだが、こういう時は相手から話し始めるのを待つべきなんだろう。

 

「比企谷君ってさ」

 

「ん?」

 

「友達と喧嘩したことある?」

 

うん、それは友達と呼べる友達がいたことがない人間に対してはかなり答えづらい問いかけですね。というか、人間関係テストとか出されたら0点取る自信あるよ、俺。

 

さて、相手が真剣に聞いてきているんだ。俺も真剣に答えねばならん。喧嘩か……マジで友達いなかったからなぁ…したことないんだよなぁ。小町ともしたのは一番最近では修学旅行明けだし…修学旅行…。

 

「そうだな。友達がいなかったからそういうことは無かったが、行き違い…すれ違いみたいなことはよくあったな」

 

「へぇ」

 

「聞いてといてそれはひどくないか」

 

「ごめん…あのね、実は……朝にねねっちと喧嘩したんだ」

 

「…原因は?」

 

「私、仕事終わっても絵かいてて昨日あんまり寝てなくて、それでねねっちに倒れるよって言われて…それでこの会社おかしいんじゃない?って言われてそれでイラッとしちゃって…それで色々言っちゃったら『ばかー!!』って言われて……」

 

「それでお前も怒ったわけか」

 

仕事終わっても絵かいてるんだ…すごいね。俺帰ったらすぐに寝てるよ。おかげでこの前の健康診断の結果オールAだったよ。

 

「ひどくない?私頑張ってるのに」

 

確かに涼風は俺より頑張っているのだろう。でも、その頑張りが万人に伝わる訳では無い。ゲームをしているプレイヤーのほとんどはゲーム制作側の苦労なんていざ知らずプレイしているだろうし、なんならグラフィックが悪かったりバグが見つかったりするとすぐにネタにする。そんな世の中なのだ。だから、親友である桜にもそれが伝わらないのは当然なのだ。

 

だから、今かけるべき言葉は共感でも否定でもない。涼風はどうしたらわかってもらえるかが知りたいのだ。桜とこのまま喧嘩別れするのが嫌なのだ。……仕方ないな。

 

「そうだな。ところで涼風、お前パソコン消した?」

 

「え、ううん。つけっぱなしだったと思う」

 

ならば、大丈夫だろう。うみこさんか川崎あたりが世話を焼いて桜にあやまるなり、話すように背中を押したはずだ。

じゃ、俺がすることは。

 

「そうか、じゃ、俺行くから」

 

「え!?サラダ食べるの早くない!?結構量あったよね!」

 

「フッ、ぼっちは早食(草食)なんだよ」

 

「……」

 

あれぇ…思ったより全然受けてない??少しは笑ってくれると思ったんだが…まぁ、いいや。

 

「ほら、俺、けっこう遅れてるから早くやんないと八神さんに怒られちゃうし、じゃ」

 

流石に真面目に話を聞いていないと思われたのか、なんだか不機嫌顔だ。まぁ、そりゃ悩んでる時にあんな事言われてもなぁ……。

あ、そうだ。ついでにひとつ言っとくか。

 

「あぁ、あと涼風」

 

「……なに?」

 

「友達なんてそう簡単にできるもんでもないんだから、大切にしとけよ」

 

俺はそれだけ言うと、ゴミを捨ててエレベーターのボタンを押した。エレベーターを待っていると「…わかってるよ…バカ…」とそんな声が聞こえた気がした。

 





このあと2人はちゃんと仲直りします。やったね八幡!
あと2話でアニメ分終わりますよ!やったね魔術師!
多分大晦日の投稿はガキ使やってる時に出すから18時〜20時の間くらいに出すよ!テキトーに見といてね!

あと、新年1日2日は投稿しません。帰省するので……すみません。
書けたら書きます。なんでもするからぁ!


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だから、比企谷八幡は変わらない

多分大晦日書く暇ないかと思って30日の夜に書いてます。
大晦日だよ!ドラえもんとか見ません
大掃除して友達の家行って帰ってきてガキ使見ます
で、正月は初詣行ってからアニメイト行きます
ちょっと通りすがってきます。

あとキーボードの調子が本当に悪いので誤字脱字が多くなると思われます

正月にソフマップで買おうかな…


ゲーム制作も終盤。俺の戦いは第二フェイズに移行していた。

 

「ミスが多発……ですか」

 

白い紙1枚にびっしりと敷き詰められた文字列は何度瞬きしても消えず、その黒い文字は俺の網膜にこびりつくように全く動かず消えることもない。

 

「えぇ、ミスといっても簡単なものばかりなのですぐに終わると思います。終わったら八神に報告しておいてください」

 

それだけ言うとプログラマーチームは仕事がまだまだ残っているのだろうか。目の下にはクマがあり、こちらのブースを出ていく時も「はぁ…」とため息をついていた。

 

うん、また休みにサバゲーに付き合ってあげよう。それでまたマグナムで追い詰めてあげよう。ほんとにライフル使ったら負けるのにマグナムかリボルバーだったら勝てるってどうなんだろう。サバゲーでリボルバーで即死クラスだと思うんだけど。

 

サバゲーしてて思ったのは、俺って運動神経は悪くないんだな。って常に思うんだ。でも、やる相手がいなかったからなぁ。それに比べてサバゲーはやる気と実力があれば相手してもらえるからな。

 

まぁ、そんな戯言を吐いていても仕事は終わらないドラゲナイわけで…ほんとに社会人になってからの仕事ってワードが怖い。夢に出てくるくらいに怖い。

 

それで仕事楽しいとか言ってるやつもめちゃくちゃ怖い。まぁ、自分の好きな職につけてて、思ったのと違うかったとか言わないやつは楽しいだろうな。俺の隣とか。

 

「比企谷君そっち終わった?」

 

「終わってねぇよ。終わらないパーティーだよ」

 

もうこのままMusic S.T.A.R.Tしちゃいたいくらいだよ。

連日座りっぱなしで俺のお尻がにっこにっこにーって言ってるよ。

 

「じゃあ、手伝おうか?」

 

「あー…」

 

手伝って貰えば早く終わるんだろうが、終わってもひふみ先輩とゆん先輩見てる限りじゃデバッグ作業するっぽいしな…。でも、この細かいミスをちまちま潰すのもな…。それに俺は養ってもらう気はあっても、施してもらう気はないし…。

 

「いや、いいわ。どうせすぐ終わるし」

 

「終わらないって言ってたのに……」

 

ぶつくさ言いながら涼風は席から立ち上がり八神さんのところに報告に向かったようだ。誰かに手伝ってもらうのは早く終わっていいが、なんか自分の仕事なのに他の人にかやってもらうのはやっぱり気が引けるんだよな。俺ってめんどくせぇ…

 

 

 

###

 

やった……やったんですよ…必死に!その結果がこれなんですよ。

と言いたいばかりにミスをちまちま修正し終わった。まぁ、八神さんに報告する時にそんなことは言ってない。ちゃんと終わりましたとだけ伝えておいた。

 

「じゃあ後はデバッグしておいて」

 

「うぃっす」

……にしてもとてもマスターアップとは思えない静けさだな。あれか?嵐の前の静けさってやつか?

嵐の中で輝いて倍返しだぁぁぁ!!

 

だが、どうやらこの静けさはグラフィックチームだけらしく、俺の脳内や他のブースは色々と忙しいようだ。そして、この静けさも終わりらしい。

 

「あおっちー!ハッチー!」

 

「ねねっちどうしたの?」

 

「うみこさんが栄養ドリンク買ってきてくれって。だから2人も行こ!」

 

えぇ……別に俺いなくても良くない……?むしろ、桜一人でもいいんじゃないかと思うんだけど。…まぁ、こんな暗い中女子2人だけっていうのもやばいか。

 

「じゃあ、さっさと行こうぜ。チラッと見たけどプログラマーチーム死にかけてたし」

 

なんなら、俺が逆に殺されそうだった。何か言うはずだったのに忘れるくらいに殺気立ってた。

とにかく、俺は椅子に座る暇もなく、次の仕事を言い渡された。

バイトに。

 

 

 

 

 

3人で向かったのは会社近くで深夜にもやってるドラッグストア。ドラッグストアといってもリーズナブルに特化しておりお菓子やらジュース、アイスも売っている。ただし、マッ缶は売っていない。解せぬ。

マッ缶が無いことを確認した俺はふらりと2人のもとに戻ると涼風達が危なっかしい会話をしていた。

 

「そうだ、ねねっちお使いの時はね〜しっかり領収書を貰わないといけないんだよ」

 

「ふーん、レシートじゃダメなの?」

 

「……え?どうだろ……」

 

「いいんじゃない?記録は残るんだし」

 

「そっか確かにそうだよね」

 

「ねー」

 

あぁ、おいたわしや……。なんて馬鹿なことを…。俺こいつらと同年代だ…すげぇ悲しい。そんな気持ちが俺から滲み出ていたのか涼風が何も知らずに話しかけてくる。

 

「比企谷君どうしたの頭抑えて」

 

「いや、なんでもない…なんでもないよ」

 

「じゃ、なんで私達のことそんな可哀想な目で見てるの…」

 

見てないよ。別に養豚場の豚を見るような目はしていない。あぁ、これから出荷されて肉丼になるとか思ってない。やべ…銀の匙見たくなってきた。

 

「栄養ドリンク〜栄養ドリンク〜」

 

「どれがいいんだろ」

 

まぁ、妥当なとこでオロナミンFとか『ファイトォォォ!!!イッパァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ーツ!!!』じゃないですかね。

 

で、桜が「あ!すごそう、これ!」と指さしたのが。

 

「ケロリン大魔王!!」

 

「三千円!?な、なにこれ高過ぎない?」

 

確かに高いが、栄養ドリンクは高い方が疲れにはいいらしいからな。

でも、パッケージの『命を…燃やせ!おめめけろりん!』ってのはすごくブラック企業の社員向けのドリンクなんだろうなーって感じさせるよね。命燃やした結果が仮面ライダーだったりしたらどうなるんだろう。

 

「まぁ、これうみこさんが飲むんだろ?沖縄育ちならこれくらい飲まないと元気出ないんじゃねぇの?」

 

「そうだよ、あおっち!うみこさんに安物なんて効かないよ!『なんですかこの安物。水ですかー?』……って言われちゃうって!」

「ありそうで怖いよ…」

 

うん、あると思います。古い!

……どうでもいいが、桜のうみこさんのモノマネ上手いな。さすが、集中力がなくてうみこさんの隣に移動させられただけはある。

 

「あれ、そういえば、川…川……」

 

えっと、なんだっけな。あれだよ、あれガンプラ作る名人の…それは川口だな。あと、最近はあんまり出てないけどひろしの後輩でもある。

 

「あぁ、沙希っちなら会社にいると思うよ。忙しそうだったし」

へー、てか、もう川なんとかさんでわかるようになってるあたり、桜も俺に慣れてきたな。まぁ、いきなりハッチとかいうくらいだし。あれ?俺っていつ自己紹介したっけ?あれ?

俺が頭を抱えてる間に俺の持つカゴの重さはどんどん増えていった。

 

 

 

 

###

 

 

 

 

会社に帰ってからはドリンクやらお菓子は涼風に任せて俺は自分の席に戻った。……やっぱり静かだなぁ。でも、プログラマーブースは少し騒がしいな…あのドリンクどんな味なんだろ。ブラック企業専用ドリンクって感じがするから少し飲んでみたい気もするんだが。

 

「比企谷」

 

呼ばれて振り向けばそこにいたのは川なんとかさんこと黒のレース。川崎沙希である。

 

「どした」

 

俺も疲れているからか、文字数が少ない単語を選んでしまう。昨日もあんまり寝てねぇしな…たわわチャレンジしてて。

 

「いや、今日で最後だから挨拶に回ってるだけ」

 

「そうか、お疲れさん」

 

アルバイトなのにこんな時間までほんとにご苦労様さまである。

残業代ってどれくらい出るんだろ?通常分に上乗せされるのだろうか。

 

「ほんとに静かだね。こんなに人がいるのに」

 

「疲れてるからな。それに騒がしいよりはいい」

 

「だね」

 

俺がそう言うと川崎は微笑む。高校の頃はこんな感じで2人きりで会話することもなかったから少し新鮮な感じがする。

 

「比企谷はさ、この会社で働くの楽しい?」

 

「まぁな。でも、やっぱり仕事っていうワードは嫌いだ」

 

「比企谷らしいね」

 

俺らしいか。まぁ、俺らしいな。いつまで経っても、ひねくれてるし、目と考え方は腐ってるし、悪いところは直さないし、なんでもそつなくこなすけど、コミュニケーションは素っ気ないし。

でも、そんな俺でも話してくれる人がいる。接してくれる人がいる。それも今の俺らしさがあるからなんだろう。

 

「じゃ、八神さん達にも挨拶してくるから」

 

「あぁ」

 

そう言うと川崎は軽く手を振ってから八神さんがいるブースに向かう。椅子から立ち上がって外の空を見てみれば月は出ていないが、珍しく満天の星空が舞っている。こんな都会でも星が見えるんだな。とかそんなことを思ってしまう。どれがなんの星かもわからんが、多分あれがデネブ、アルタイル、ベガなんだろう。繋げば夏の大三角形になる。よし、あれだな。

そんなくだらないことも考えてしまうのも俺らしい。

俺がここに来てから半年も経っていない。そんな中で俺はここに馴染めたのか、馴染んでいたのか。それは俺にはわからない。

でも……

 

「八幡、コーヒー買ってきたよー!」

いつも天真爛漫で出るとこは出てて健康的な身体をした特撮、アニメ好きな人が。

 

「……私は……クッキー、持ってきた……」

恥ずかしがり屋でコミュ障で天使で、なのにコスプレイヤーな人が。

 

「うちも色々買ってきたでー!」

関西弁で身体やらは小さいのにお姉さんで体型を気にしてるけど細くて可愛い人が。

 

「すごいよ、ハッチ!けろりんパワー!」

アルバイトだが、1日で会社に溶け込んで色々やらかしたトラブルメーカーが。

 

「おぉ、私もひふみんのクッキーもらおうかな」

天才と言われてるけど努力家でサバサバしてて会社でパンツで寝る人が。

 

「私もいただこうかしら」

上品だけど誰よりもしっかりしていて今日まで俺たちを導いてくれた人が。

 

「私も少しお菓子をもらいに来ました」

真面目で不器用でミリタリー大好きで面倒見がいい人が。

 

「よしっ!みんなで乾杯しましょう!」

中学生みたいな童顔と容姿で俺と同い年でめげずに頑張ってるやつが。

そんな人達がいるこの会社を嫌いではない。

仕事は嫌いでもこの職場を嫌いにはなれない。なってはいけないし、なれるはずがない。

 

「比企谷君もおいでよ!」「ハッチー!」

「ほら、八幡、マッ缶だよ!」

「はよ、こななくなんでー!」「…クッキー…美味しい……」

「これは美味しいですね…比企谷さんも早く来て食べた方がいいですよ?」

「全部飲んで食べちゃうよー」

「ダメよ、コウちゃん。でも、早く来ないと私が食べちゃおうかしら」

 

 

 

 

 

今はこの瞬間を。このひと時を。ただ受け止めよう。そして、楽しもう。

それが今の俺にとっての幸福であり、彼女達の幸福だと信じて。

 

 

 

 




今年最後の更新ということで少し頑張りました。
一番最後に何か八幡のセリフを入れようと思ったのですが、八幡なら無言で少し笑いながら行くだろうと思い、消しました…
あった方が良かったかな?
まぁ、八幡らしさ……が出てるといいですが。

二回目になりますが、これが年内最後の更新です!大晦日特別編とかお正月特別編とかは書きません!ごめんなさい!
次の更新は1月3日(予定)
では、良いお年をお迎えください!


(追記)
投稿時間を今日の16時にするはずが先程になり、しかも行間詰めが行われていたのに気付いたのが2分前
そして、キーボードの調子が本当にメチャくちゃくそ悪い



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比企谷八幡は社会人夏休みを謳歌したい

黒い鉄格子の中で生まれてきました

はい、キーボードも変えて心機一転鬼ドラゴンになりました
なんか投稿してない日に日間ランキング3位に上がっていて吐血しました。
ありがとうございます!ありがとうございます!

そして……初めてのファンブック
を購入しました!読んでいて「あぁ、イーグルジャンプって4階と5階なのか!」とかいい発見がありました。ちなみにデバッグブースはグラフィッカーブースの横でした…OTZ

今回はお正月特別編!……なわけない
八幡が八幡の夏休みを振り返るという話。2話くらいあるかと。
(振り返り→その日の八幡の思考にシフトチェンジしていて過去形じゃなくて現在形になっています『__』←ってのが目印)
だから、原作にはない話ですね!(まあ、newgameの原作の描き下ろしなどを参考にしたりしてますが)
これが僕からのお年玉(ちなみに父からのお年玉は200円でした…)




2週間とは実にあっという間に過ぎていくもので日に直すと14日、時間に直すと336時間、分に直すと……いや、やめよう。

こんなことをしたところで俺の短い夏休みは返ってこないし、なんなら戻ってもこない。

 

しかし……カレンダーを見ればその2週間は真っ白だ。学生の頃は真っ白しろすけだったように。やーい、お前ん家おばけ屋敷〜!って俺がお化けだって言いたいんですかね。なのに、結構色々あったんだよ……。

 

1日目はマスターアップ後だったからすぐに寝た。

小町が飯を作りに来てくれたからよかった。何もしなくてもよかった。

 

「はい、お兄ちゃんの好きなハンバーグとポテトサラダだよっ!」

 

マジであれは天使。家のことから俺の介護までやってくれるなんて、お嫁に欲しい。でも、血が繋がってるから結婚できないんだよなぁ。

結婚したら『結婚したのか……兄以外のやつと…』とか言っちゃいそうです。

 

しかし、家のことを隅々までやってもらったかわりに俺の財布から諭吉さんが1人だけ持っていかれたが家事代行サービスと考えれば安いもの……あれ?みくりさんってこんなにもらってたの?冗談だよね、小町ちゃん。

 

 

2日目ははじめ先輩とゆん先輩とラーメンに行ってきた。

きっかけは俺から貰うものを貰った小町ちゃんはこの日には来ず、昼は昨日の残り物で済ませたのだが、晩飯ィ……。

それで仕事が忙しくなってから食べに行っていなかったラーメンを食べようと外に出たのだ。

 

__

 

久しぶりに会社以外の場所に来た気がする。

なんなら、会社以外で外に出る理由がなかった。

ついでに言うと、この辺のラーメン屋は攻略してないからな。

 

「あ、八幡〜!」

 

商店街あたりをぶらぶらしていると聞き覚えのある声に呼びかけられる。後ろを振り向いてみれば、いつも通りショートパンツと白のキャミソールのはじめ先輩だ。

 

「どしたのこんな時間にこんなところで」

 

「ラーメン食べに行こうと思って。忙しくて食べてなかったんで」

 

ここでさらに聞かれてない情報もだすのはぼっち特有の特性かもしれない。ほら、普段あんまり話すこともないしな。それは学生の頃から変わってないな。こういうのを蛇足って言うんだろう。

 

「そうなんだ!……私もラーメン食べようかな…最近食べてなかったし」

 

ここで戸部や葉山のようなリア充なら『じゃ、一緒にどう?』とか言うんだろうが俺は言わない。そんなことを言えるような度胸も勇気もない。

 

「じゃ、俺は行くんで」

 

「あっ、待って!私も行く!」

 

……まさかそっちから申し出てくるとは。ラーメンは1人で食べたい主義なんだよなぁ。でも、ここで断るとこれからの関係にヒビが入るか?いや、その程度で崩れるのならその程度だったいうことだ。ここは断って……

 

「あっ……はじめに八幡やん」

 

今日はやけに知り合いに会うなぁ……。てか、ゆん先輩っていつもゴスロリ系の服着てる気がするのは気のせいか?そういう俺もジーパンに黒服っていういつものスタイルなんだが。

 

「あれ?ゆんじゃん。珍しいね」

 

「今日はおとんとおかんがおるから弟達のめんどう見てもらえるから、久しぶりに外食しよう思うて」

 

へぇーゆん先輩ってお姉さんなのか。まぁ、確かにそんな感じはしていた。はじめ先輩の扱い方といい、涼風に対する面倒見の良さといい。てか、ゆん先輩も寂しい人だな。1人で外食だなんて。そんな思いがつい、口に出てしまった。

 

「1人でですか?」

 

「……せや」

 

「寂しいっすね」

 

「八幡には言われたくないわ…」

 

おかしいな、俺がいつも1人でご飯食べてるような言い方だな…。

俺にだって妹がいるんですよ!妹に飯作ってもらって一万円持ってかれたんですよ!

 

「じゃ、ゆんも行く?ラーメンだけど……って嫌か。嫌いそうだし」

 

ラーメンは日本、いや世界中に轟く神器の如し美味さと中毒性を持っているが世の中にはそれを許容できない人もいる。別に否定はしないが、あまりその人とは気が合いそうにはない。

 

「そ、そうや。こんな高カロリー、食べたら後が大変や!」

 

「ふーん、もったいない。じゃ、私達は食べてくるよ〜」

 

あれ、いつの間にかはじめ先輩が仲間に加わっているぞ?おかしいなーって、俺断ってなかったんだね。もう完全に行く気満々だし別にいいか。平塚先生も「たまには誰かと食べるラーメンもいいものだよ。ラーメンとは人と人を結ぶ糸のようなものだからね」と多分最後のことが言いたかったのか、ある映画の影響を受けたのかそんなことを言われたことがある。

 

「あ〜仕方あらへんな〜!付き合ったるわ〜!」

 

はじめ先輩の言い方に腹を立てたのか、それともただ単に1人で食べるのが悲しくなったのかゆん先輩は俺達についてくる。

こうして並んでみると……うん、現実って残酷なんだな。ゆん先輩って涼風よりも小さいんじゃないだろうか。いや、別にいつもは見てないよ!よく見てみると気になるだけである。誰に言い訳してんだよ…。

 

「八幡はラーメン好きなの?」

 

「好きです。死ぬほど好きです」

 

「そんなに好きなんや…」

 

「カロリーとか気にしないんで」

 

「なんやそれはうちに対する嫌味か?」

 

「いや、そんなつもりは…」

 

はじめ先輩からの質問に答えてたらゆん先輩がジト目で見てきたので軽口を叩いてみるとジト目が怒り目に変わった。

 

「八幡は男の子やからええけど、うちは女の子やからな!そういうのめっちゃ気にするんや」

 

「私は気にしないけどなー」

 

やめたげてよぉ!ゆん先輩のライフはもうゼロよ!

ほら!ゆん先輩めちゃくちゃ睨んでる!

 

「はじめはほら、運動趣味やからええやん」

 

「じゃ、ゆん先輩も運動すればいいんじゃ…」

 

「うち運動はごっつ苦手なんや…」

 

あぁ、そんな感じしますね。どうでもいいけど、運動できない人は走り方を見ればだいたいわかる。燃堂?あれは論外だ。

 

「てか、別にまだまだ細いんですからいいんじゃないですか?」

 

「……そうかな」

 

そうですよ、と俺は無難な顔で言うとゆん先輩は二の腕やらお腹やらを擦り出す。なんかそれエロいっすね…。

で、なんではじめ先輩まで気にしだしてるんですかね……

 

 

__

 

 

ラーメンは美味かったがなんかすげぇ変な雰囲気になってたな…

食べる前も食べた後もずっとお腹擦ってたし……。ラーメンって背脂なかったらそんなにカロリーないはずなんだが(あります)

 

3日目4日目は特に外に出ないでアニメの録り溜めを見ていた。

視聴ボタンを押させるなぁっー!!!いいや!限界だ!押すね!

勝ったな!ガハハ!

 

 

5日目は久しぶりに高校時代の知り合いに会った。あっちは俺のことを忘れてると思っていたのだが、まさか覚えているとは。まぁ、色々あったから覚えてるか…。しかも、誘われるとは予想外すぎた。

 

 

__

 

「やぁ、比企谷。元気そうだね」

 

「お互い様だな、葉山」

 

俺が面と向かって初めて「嫌い」と言った相手で、言われた相手でもある。最初はただのクラスメイト。人気者と日陰者。ただそれだけだった。しかし、俺が奉仕部にはいって、チェーンメール事件から始まり小学生の林間学校、文化祭、修学旅行、生徒会選挙、マラソン大会とあいつとは色々と対立したり、お互い違う場所に立っているはずなのに、何か奇妙なものを感じた。

 

そんな俺達も今ではたまに会って飯を食べたり買い物に行ってるから驚きである。

 

「で、今日はどうしたんだよ?」

 

「いや、君の妹に休みだって聞いてね。俺も休みで暇だから久しぶりにどこか行こうと思ってね」

 

「おい、俺の妹となんで連絡をとっている貴様。事の次第によっては……」

 

「俺からじゃないよ、君の妹から連絡してきたんだよ。多分、結衣とかにも連絡いってるんじゃないかな?」

 

あいつか……なんで俺の休みを奪うのかなぁ……ソフト&ウェットかよ。いや、小悪魔だな。小町の小も入ってるしそうに違いない。

 

「そういうことか……てか大学で部活とかねぇのかよ?」

 

「あぁ、やってないよ。サークルには入ってるけど」

 

「なんのサークルだよ」

 

「TRPGのサークル」

 

「あぁ、あの妹さえいればいいのやつか」

 

俺の発言に葉山は首を傾げていたが、『妹さえいればいい』ってのは小説家の日常をまとめたライトノベルのことだが、巻末にTRPGをする話があるのだ。

それでその小説のキャラクターに春斗というイケメンがそのサークルに所属していたことがあるのだ。ちなみにそのサークルはそいつのせいで崩壊した。やはり、イケメンは罪。

 

「まぁ、とりあえず行こうか」

 

「行こうか……ってどこ行くんだよ」

 

「君の妹に頼まれたんだよ。服を選んでやってくれって」

 

「なるほど……おい、やっぱりなんか貴様信用できんぞ」

 

「ハハハ…相変わらずシスコ…妹想いだね」

 

よく言い直した。まぁ、いい。それで許してやろう。てか、小町って葉山となんの関わりもなかったと思うんだけど……。あ、林間学校か。

 

__

 

それでその後ショッピングモールを巡回して色々買ったんだよな。あんまり金を使うことがなかったからよかったし、冬服も買えたからよしとしよう。

 

さてと、明日に備えて寝よう。仕事?

違うぜ?休みはまだ残っている。

 

 




(少し修正しました)


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夏だ!海か!?いや!コミケだ!

どうでもいい情報が本編のあとにあとがきにあるのでどうぞ

あと観察眼の持ち主同士の会話ってよくわかんないよね


 

人には生きていく中で運命があり、生まれ持った宿命があるという。

そんなのは幻想だ。運命も奇跡も魔法も俺は信じない。信じられるのは自分だけ。いつもそうだ。何事においても最後は自分なのだ。決めるのは自分。他人に流されて選ぶと言っても、選んだのは自分だ。

 

友人も受験も恋人も仕事も、全部自分が決めるのだ。運命ではない。そうなる運命だった?赤い糸で結ばれていた?そんなわけない。

それは運命ではない、宿命だ。人間が生まれ持って与えられた使命ともいえる。というか、運命より宿命の方がなんかかっこいいだろ?

 

つまり、俺が夏休み最終日にコミケに行くのも宿命。はっきりわかんだね。

 

俺の僅かな夏休みも終盤。

夏休みとは休むためにあり、その過ごし方は人それぞれである。睡眠をとる、運動してリフレッシュ、誰かと過ごすのもよし。本人が仕事から離れて気持ちを切り替えることが大切なのだ。

逆にいえば、休みが終わればまた仕事に向けて気持ちを切り替えなければならないのだが、それは今は置いておこう。

 

今はそんなことより。

俺を見つけて急いで駆けてくる美少女のエスコートをするとしよう。

長い髪を水色のシュシュで束ねて、ラフな上着に短めの赤いスカート、さらに黒のオーバーソックスという服装は俺や童貞を殺しにきている。これは青眼の白龍好きな社長さんもふつくしい……と漏らすレベル。

 

「……おま…たせ」

 

全然待ってなどいない。この程度待つとは言わない。心の準備、そう!俺が待ってもらっていたのだ!俺はそんな童貞丸出しな表情を出さぬように心がけて淡白にいう。

 

「全然待ってませんよ、じゃ、行きましょうか」

 

「…うん」

 

夏といえば海やプール開き、夏祭りに旅行やら色々あるだろうが、俺にとっての夏のビッグイベントとはやはり夏のコミックマーケットである。公式の出す本気グッズ、限定品、同人作家による薄い本やアンソロジーや、いわばオタクのオタクのためのイベントと言える。

 

コミックマーケットと聞くと「え、マンガの即売会じゃないの?」となる人がいるのかいないのかは知らんが、以前まではそうだった。しかし、時の流れとは現代に新しい風を吹かせる。人々はそれを黄金の風と呼ぶらしいが知らんからいい。

 

現代のコミックマーケットはコスプレイヤーにとっては自分達のコスプレ力を見せつける場でもある。コスプレには大まかにガチ、ネタ、旬、定番などのジャンルがあり、コミケに参加する人々の中には同人誌や限定グッズよりもコスプレを楽しみに来ている人も現れるくらいだ。

 

このコミケでどれだけウケるか、キャラになりきれるかでTwitterのフォロワー数や今後の活動に大きく関わってくるため、コミックマーケットはコスプレイヤーには「コミケ夏の陣、冬の陣」といわれていたりなかったりする。

 

そして、『コミケ 夏の陣』に今回出陣することになった俺は現在ひふみ先輩から渡されたアタッシュケースを持って電車に揺られている。

集合場所は会社の駅前がお互いに近かったのでそこで待ち合わせ、そのまま電車に乗るのだ。この駅は会場から離れているのだが、近付けば近付くほど電車の中には人が入り込んでくる。

 

まぁ、別に俺とひふみ先輩は座っているから問題ないのだが。だが、この状況で立っていたら人混みに紛れて痴漢するヤツとか俺を痴漢呼ばわりする人間などが現れるかもしれない。そういう意味ではあの集合場所は大正解だったと言える。

 

にしても、全く会話がない。もともと無口なのはお互い様だからいいのだが、ただのモテない男なら無理やり会話を紡ごうとするのだろうが、プロのぼっちの俺は一味違う。相手が話して欲しそうな顔をすれば会話を、携帯を触っていたり窓の外を見ていれば俺も同じようにするのがベスト。まさに完璧。もう人類全員がぼっちになればいいのに。でも、顔色ばかり窺うのもなんだか気が引けるがこれが俺の最善策なので仕方がない。

 

気付かれないようにひふみ先輩の様子を窺うが、携帯も触っておらず窓の外も見ていない。車内の広告でも見てるのかと思えば、見られているのは俺だった。

 

 

「……比企谷…君……」

 

「……なんでしょう」

 

「面白い…話……して……」

 

「面白い話…ですか」

 

……ひふみ先輩笑わないじゃないですか。そんなセリフが飛び出そうになったが押し殺す。いや、まぁ、事実なんだけどね。

『ただのぼっちと笑わない針鼠』っていう新刊の同人誌が書けるくらい笑わない。いや、ペットの前では笑うのか。あ、そういえば、かまくらの写真見せても笑ってたような。よし、これだな。

 

 

「うちの猫の話なんですけどね、俺が高校2年の夏休み……まぁだいたい今の季節頃の話ですよ。知り合いが旅行に行くとかでペットの犬を預かって欲しいと妹が頼まれまして。それで預かったんですが、うちのかまくらが無愛想で、だけど預かったサブレ…あ、預かった犬は『サブレ』って言うんです。で、サブレはかまくらと仲良くしたいわけでして。それで2匹の追いかけっこが始まりました」

 

そこで一旦話を切って、ひふみ先輩の反応を窺う。

見ればえらく真剣な顔をされていた。

 

「……それで……?」

 

あ、これはクリーンヒットですね。まるでコーヒーゼリーに食いつく斉木君のようだ。これは多分面白くなくてもいいやつかもしれない。とりあえずこの調子で続けてみよう。

 

「うちのかまくらは家の地形に慣れているので冷蔵庫の上に逃げ込んだのですが、サブレは上がれないから素直に諦めたんですよ。まぁ、それでもかまくらが降りてきたらサブレが追いかけに行くんです。そんなのが毎日続きました」

 

「ま……毎日……」

 

「で、ある日に妹に携帯のアプリで『イヌリンガル』っていう犬の言葉の翻訳アプリを入れてくれと言われまして、入れたんですよ。その後すぐにサブレに向けてみたらずっと『遊んで!遊んで!』しか言わなくて、妹が『それ壊れてるんじゃないの?』って言うんで俺がゔぁう!ゔぁう!って吠えたら『働きたくないでござる!』って通訳されました」

 

「……そうなんだ…」

 

あれ、おかしいな。さっきより表情が暗い。結構面白いと思ったんだが、俺よりかまくらとサブレの話の方がいいのだろうか。

 

「……で、ですね!まぁ、知り合いが旅行から帰ってきてサブレを引き取りに来たんですが、一週間くらいいたんで俺に懐いちゃって。なかなか離れなかったんですよ。で、飼い主に返したらクゥーンって鳴くんでイヌリンガル使ってみたら『この人だれー?』って」

 

「プッ!!……あっ」

 

うむ…これは予想以上期待以上の反応だ。ひふみ先輩が口を抑えて吹き出すなんてめったに見れるもんじゃない。ぜひとも写真か動画にして全国にアップしたいくらいだ。

 

「……えっと、あの……その…サブレ………可愛いね……」

 

そのさっきの笑いを誤魔化すかのような言い方、絶望的に可愛いぜ!

てか、誰か。俺の代わりに可愛いのはあんただよ。って言ってくれないだろうか。

 

 

 

###

 

 

ひふみ先輩の珍しい笑顔を見れたことだし元気が出てきた。

会場についた俺達は早速着替えに向かうのだが。

 

「あの、ひふみ先輩」

 

「……?」

 

「どこで着替えれば…?」

 

尋ねるとスッと人差し指をある方向に指す。どうやら、更衣所があるようだ。ありがたい。

 

「じゃ、後で…」

 

「…うん……」

 

なんだよ、この感じ。ラブホに始めてきたカップルかよ。いや、知らねぇよ。って!何自分で自問自答してんだよ。っていつもしてるな。うん。

 

中に入ろうと扉を開けるといきなり予想外のモノがすれ違う。立ち止まって道を開けて、呆然と眺めてみると9人の戦士達だった。まさにあの体格は全員ナッパかゴリラ。全員髪の色は違うのに体格と衣装は同じだ……あれが噂に聞くゴリライブ……

 

気を取り直して中に進むと思ったより、混んでおらず場所もあったが、これは覚えてないとマズイな。それに貴重品もあるし…てか、ここに来るまでに衣装も見てなかったな。

 

『一緒にコミケにコスプレで参加してくれないかなっ?晩御飯代もだすから(>人<;)』

 

っていうメールを見て2秒で

 

『行きます(๑•̀ㅂ•́)و✧』

 

って返信したから内容までは聞いていないのだ。

 

パカッと箱を開けるとそれはパンドラの箱だった。災厄と希望の箱、この箱の中には人類の希望と絶望、両方が詰まっているそんな箱だった。入っていたのは厨二病全開衣装と剣と頭髪の指示書だ。うん、これもフェアリーズストーリーのキャラなんだろうな。なにか、わからんけど。さらに銀髪のカツラと鏡も入っていた。

 

まぁ、なんのキャラかは検討はついた。1の敵キャラにして最恐キャラ。その名も『ディストピア』どうでもいいが、言うと人気投票1位。最恐キャラと言われるのはモンハンで例えるならミラバルカン、ポケモンで言うとガブリアスくらいの強さやつだからだ。実を言うとラスボスよりも強かったりする。そんなやつだ。しかし、炎系魔法で連打しながら回復してたら倒せたりする。

 

こんなキャラを俺がやって大丈夫なのかと思ったが、ひふみ先輩のためだ少しは頑張ろう。

着替えて髪を整えて剣を背中に背負い込むと、鏡で確認する。よしっ、前髪セットおっけー!いっくよー!あ、ちょっと待ってもっと眺めてたーい。いや、そんなことしてたらひふみ先輩を待たせることになる。

そう思って更衣室を出ると、広場は大盛況だった。さらにその盛況は俺の登場でさらに膨れ上がる。なんで?人混みの群れが道を作る。その道の先にいたのは…

 

「待っていた…!」

 

同じく1の最恐キャラ『ユートピア』人気投票女キャラ部門1位に扮したノリノリなひふみ先輩だった。いつもの小さく無表情な声ではなく、その声は強く、そのキャラのような覇気がある。……これは俺も本気で行かねばならんようだな。

 

「……フッ、待たせたな。我が友!我が宿命!」

 

俺がそのセリフを口にすると『ウォォォォ!!!』と歓声と拍手が上がる。

 

「あの、二人並んで貰っていいですか!」

 

「よかろう…… 」

 

俺はマントを翻すとそれだけでも歓声に似た悲鳴が上がる。ひふみ先輩の隣に立つとカシャカシャとシャッター音が無数に鳴り響く。フェアリーズストーリーってこんなに人気なんだな。知ってたけど。

 

しばらくシャッターの波に当てられたり、突然湧いてきた役者心でポーズを取って遊んでいたりするとそれも写真に撮られ、それが終わると近くのベンチに腰掛ける。

 

「ディストピア…」

 

ユートピアに渡されたものは冷たく見てみるとパピコのようだ。ありがたく飲んでいるとあることに気づく。

ひふみ先輩ってコスプレしてる時は人目とか気にしないんだな…

 

この場面も写真に撮られているのかと不安になるがまあいいか。

 

「あ、見てあおっち!あれユートピアとディストピアのコスプレだよ!」

 

「ほんとだ!」

 

「「!?」」

 

声がするほうを恐る恐る見ると、予想通り回避不能、俺とひふみ先輩と同じ会社に務める涼風とその友達の桜だった。

 

「な……な……!」

 

ひふみ先輩は突然の出来事に戸惑い、硬直している。先ほどまで量を減らしていたパピコも今はただ溶けるだけである。

ここは俺がなんとかするしかないようだ。

 

俺はパピコを天高く放り投げると、剣を抜刀しゲームの必殺モーション通りの動きをすると2人は「おお〜!」と感嘆の声を上げて写真を撮り始める。とりあえず、先ほど要望のあったポーズやらは全て取って相手を満足させる。

 

……が。

 

「あの、ディストピアさんと並んで貰っていいですか…?」

 

涼風が遠慮がちに言うとひふみ先輩はピクッと硬直状態が解除され、現実に引き戻される。顔を下げたままゆっくり立ち上がって俺のところに来ると、見えないように俺の裾を引っ張る。……これは非常体制の合図。

 

一枚パシャッとシャッター音が鳴ったのを合図に俺達は走り出す。

更衣室という名の幻想郷へ。

 

「はぁ……はぁ……まぁ、ここまでくればこっちのもんですよ」

 

「……う……ん……」

 

お互いに走って逃げてきたから息を弾ませており、夏の炎天下の中での全力疾走だったため汗を拭っている。あんな無様な最恐キャラは見せたくなかった。

 

「……ねぇ……比企谷……君」

 

ユートピアさんは息が整ったのか俺の名を呼ぶ。振り向けばそこには笑顔のひふみ先輩がいた。その笑顔にドキッとしているとひふみ先輩が口を開く。

 

「今日は……ありがと……」

 

「全然…いいっすよ……俺も楽しかったですし」

 

これは良いムードなのではないだろうか。普通の男子がこれで告れば必ず付き合えると言った状況だ。いや、告白はダメだな。多分、振られるのがいつものオチだ。ぼっちは振られるたびに強くなる。なんだよ、この種族。泣きたくなるわ。

 

「あぁっー!みつけたぁぁーー!」

 

「「!?」」

 

「あおっち!いたよー!」

 

「待ってよ〜ねねっち〜!」

 

チッ、これはまるで追い詰められたルパン三世の気分だ。ここをどう切り抜けるか。……そういえば2人はまだ子供みたいなもんだったな!よし。

 

俺はバッとひふみ先輩…ユートピアの方に振り向くとなるべく優しく抱き寄せる。そこにちょうど涼風がやってきてそれを見た2人は「「ひゃっ!?」」とみてはいけないものを見てしまったような声を出すと「「ごめんなさいー!!」」とどこかへ走り去って行った。

 

「行きましたよ…大丈夫です…」

 

か?…と続けようとしたのだが抱き寄せたことに気づき、手を離して1歩下がる。

 

「すみません……急に……」

 

恥ずかしさと申し訳なさで一杯になっていると、不意に手を握られる。

 

「……冬も……一緒に……来て……くれたら…いい……よ……」

 

そう言う顔はいつもより赤く、汗をかいていて服が透けていて下着が露わになっている。そんなひふみ先輩を直視できるはずもなく、俺は顔を逸らして言う。

 

「……そういうことなら」

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにだが、その後着替えてからも涼風達から逃げてとても疲れて晩御飯はまた後日ということになった。





【あくまで作者のオリ設定です】
フェアリーズストーリーは主人公は人間ですが、妖精の話
なので精霊もいるわけで『死の精霊』というのが1のラスボスとします。

彼らはそれぞれ別の場所、ユートピアは荒れ果てたスラム地、ディストピアは平和な国で生まれます。ユートピアは希望を、ディストピアは絶望を持って育ち、それぞれの目標達成のために故郷を離れます。
ユートピアとディストピア世界を良くするために動き、己を磨いて強くなります。途中で2人は出会い、それぞれの理想の違いに反発しますが、最終的な目的は一緒なので協力関係を築きます。さらにその後、旅に出たばかりの主人公に会って自分達の目的を再確認して、世界の乱れの元凶を倒すことを決意します。
ついに2人は死の精霊と対決。だが、圧倒的な力の差で敗北しますが、死の精霊に認められ一度殺されてそれぞれの目標達成のための力を与えられます。が、闇堕ちします。

そして、主人公達が死の精霊に辿り着く前に敵として現れます。

「待っていた……!!」

「……フッ!待たせたな。我が友!我が宿命!今ここで!貴様らの命!絶やしてくれる!」



イメージとしてはディストピアは銀髪、赤眼の少年。CVイメージは緑川光さん。ユートピアは黒髪ロング、肌は白くひふみ先輩そのもの。CVイメージは喜多村英梨さん。


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意外にも八神コウは恥じらいがある。


今日はこの時間に投稿
理由は特にない


 

清々しい朝だ。ンッン~♪実にスガスガしい気分だ。歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ。

 

カーテンを開くと朝の柔らかい日差しが部屋に入り込んでくる。

眩しすぎて思わず目を閉じて後退してしまうあたり吸血鬼に近いものを感じるが粉にならないのでまだ大丈夫ということだろう。

 

顔を洗い、タオルを手に取る。顔をゴシゴシと拭いても痛いだけで、この目と顔は何も変わらない。別に不細工でもイケメンでも…いや、少しは整ってる方だな。でも、セクシーさが足りない。俺にセクシー増強剤持ってこい!……ジャス!ティス!!!

 

テレビをつけると昨日のコミケになんちゃら姉妹が来てたらしく、その特集が朝のニュースになってる。思い出してみると、昨日は良かったような良くなかったようなそんな日だった。あの時の温もりを思い出そうにも俺の俺がコンニチハしちゃうだけだ。ってこれは朝のいつものことですね。もはや、習慣、いや習性だな。男ならわかるはず。

 

ボサボサになった髪はそのままに歯だけ磨いて、ニトリで買ったクローゼットを開ける。うん、高校の制服とシュウカツ!で着たスーツと『働きたくないでござる』シャツ、千葉loveシャツ、小町からの贈り物とこの前葉山と買いに行った冬服(トレンチコート、ジージャン、パーカー)くらいしかない。まぁ、家から送られてきた服は未だにダンボールの中というのもあるのだが。

 

健康診断でわかったことだが、卒業してから身長が少し伸びているらしく千葉loveTシャツも小さく感じてきた。さてと今日はどうしようかな。なんか今日は涼しいらしいからな…うーん。

適当にダンボールを漁っていると短パンと青のチェックの上着が出てきた。……これでいいか。

 

サッサと服に着替えて家を出て鍵を占める。うちは管理人さんという名のSECOMがいるから泥棒は来ない。ただし、妹が来る。可愛い。

 

2週間ぶりの会社への道はいつも通りの人混みかと思いきや、思ったより少なくサクサク進む。人生もこれくらい楽に進めばいいと思ったことはこれが初めてではなかったりする。

 

出社してもあまり人はいないとわかる。理由『有給消化という名の夏休み』というわけだ。わけがわからないよ、というやつはまともな企業に就けばわかる話。

 

「あ、比企谷君、おはよー」

 

駐輪場から出て社内に入ったところでエレベーター待ちの涼風に会った。何故かいつものスーツ(笑)ではなくオシャンティな格好をしている。まぁ、俺の懸念していた昨日のアレは気付かれてないようだ。

 

「おう、久しぶり」

 

一応、あいつからすれば2週間ぶりの再会となるわけだからこの挨拶は普通。なんにも違和感のない話し方。エレベーターに入ると涼風が俺をまじまじと見る。

 

「気になってるんだけど、珍しいねその服装」

 

はい、出ましたよ特大貫通ブーメラン。

 

「いや、お前こそなんだよその帽子にロングスカートは」

 

「これはスーツがクリーニング中だから!」

 

「……そんなに怒ること?」

 

俺の真顔がよほど嫌だったのか真っ赤な顔してカバンで殴られた。ご褒美として受け取っておこう。まじで最近の俺様、超ポジティブ。というか、怒りの沸点低すぎない?カルシウムを取った方がいいぞ。

 

エレベーターを出るとこの時間はキーボードを叩く音やら聞こえるものだがそんなものはなかった。ここだけ別次元のようだ。……そうか、俺が神だったのか。

 

「ちょっと2人とも休み明けだからって気合入りすぎじゃない?」

 

ニヤニヤと俺達の背後から来た八神さんはコーヒーカップを手におはよと軽く手をあげる。

 

「おはようございます。あ、これはスーツがクリーニング中で」

 

「俺はちょうどいいのがこれしかなかったんで」

 

それぞれの理由を聞くと八神さんは「あ…そう」となんだか残念そうな表情だ。大方、俺と涼風の服がペアルックだとか言いたかったんだろうがチェック柄といえど短パンとロングスカートという大きな違いがあるから無理もない。

 

「ところで今日は何のお仕事をすればいいんですか?」

「あ、そうだった」

 

八神さんは奥のブースに行くと厚めの本を持ってきてそれを開く。

 

「これ前作の攻略本なんだけど、ここにキャラとかモンスターの3Dモデルの画像が載ってるでしょ?これこっちで用意して出版社に送るんだけどそのスクリーンショット撮っておいて」

 

「……まさかと思いますが全部ですか?」

 

「そうだね!みんないないし。がんば!」

 

俺の予想が的中するあたりやっぱり俺って神なんじゃないだろうか。でも、こんなの嫌だ。俺が絶望していると八神さんが思い出したように閉じた本を開く。

 

「あと巻末の方に設定画もちゃんと載るんだけど、二人のやつはそのままで大丈夫?」

 

「へ?どういうことですか?」

 

「設定画集ってそれ用に描き下ろしたりするんだよ。加筆修正もする人はいるし」

 

私はあまりしないけど、と付け加えると目でどうするか問いかけてくる。

 

「だから、ゲーム作ってる時になかった三面図なんかも載ってたりするの」

 

「それって設定画集じゃなくて、もはや設定っぽい画集なんじゃ…」

 

俺が思ったことを口にすると苦いを顔された。

 

「まぁ……うん、そうだよ」

 

苦笑いする八神さんと真顔の俺の横で涼風は真剣な眼差しで言う。

 

「私は……あれは全力で描いたものなので、そのまま載せてください!」

 

八神さんはそれをちゃんと聞くと「OK」と涼風に見本として攻略本を渡すと今度は俺に向き直る。

 

「八幡はどうする?」

 

「俺は作ってる時にはじめさんと描いたポーズ集とか載せれたら載せたいです」

 

「あーいけるんじゃない?まぁ、そんなには無理だけど」

 

んな、適当な…だいたいどれ位か言ってもらわないと困るんですよね。選ぶのは俺だし…まぁ、これははじめさんと考えるか。2人の共同作業ですね!とか変な方向に考えておこう。

 

「2人ともなんだか嬉しそうね」

 

そう言ってブースに来たのはいつも通り綺麗というか上品なOLさんを思わせる服装の遠山さんだ。

 

「今日はオシャレしてるのね。2人もインタビュー?」

 

そんなわけないない。ライビュもないのにインビュがあるわけない。

おい誰だよ、人が料理しようとする前に花澤さん俺椅子になろうか?とか言ったヤツ。

2人で顔を合わせて「インタビュー?」って顔をしてると遠山がくすりと笑う。

 

「今日は攻略本の記事用に出版社から取材が来るのよ」

 

なるほど、だから遠山さんはいつも以上に気合いを入れているんですね。そういえばきあいだめって急所に当たるようになるんだっけ?あれ?

 

「コウちゃんも服持ってきたからね〜」

 

「!」

 

あ、そうか。八神さんはメイン担当だからインタビューは必須なのか。まぁ、あんなボサボサで可愛いとはいえノーメイクで写真を撮られるのは遠山さんにとっては嫌なことだろう。

 

「えぇ……いいよ。私は、面倒くさいし」

 

かなり乗り気ではない夫に対して嫁はかなりおこのようだ。

 

「面倒くさい!?しっかり選んできたのに!だいたい毎日毎日同じ服着て、たまには女の子らしくしたら!?」

 

「「そうですよ!服を選ぶのって大変なんですよ!」」

 

3人がかりの攻撃に怖気づいたと思いきや、八神さんは不思議そうに俺と涼風を見つめて数回瞬きをする。

 

「なんで2人もムキになってるの…」

 

それは朝に色々あったからですよ。多分!

 

とりあえず、男の俺は八神さんの劇的ビフォーアフターには参加出来ないらしく1人でスクショ作業である。あーあー、暇だ。てか、なんで俺って男なんだろ?でも、男なのに女だらけのブースで勃たない逃げない、ラブコメが発生しないのはなぜなんでしょうか。まぁ、俺だからですね。

 

……やっぱり気になるなぁ。だけど、覗きに行ってラッキースケベに遭遇したら逃げる前に追放されるからなぁ。覗くは恥だがためになる(意味深)とかいうドラマ作ってくれないかなぁ。

しかし、八神さんって可愛いのになんでファッションに疎いんだ?まぁ、確かに胸はなさそうだが。涼風よりはあるのか?いや、なんでそんなことを考えるんだよ。比べるのは良くない。

 

とりあえず、八神さんに言えるのは女の子らしくしてなかったらどっかの公務員みたいに三十路になっても結婚できませんよ!……平塚先生の場合は男運の無さと本人の残念さがありすぎるからなんだろうなぁ…誰かもらってあげてよ!

 

俺がもう少しというか結構早めに生まれてればよかったとか思っていたら、部屋の扉が開かれる。振り向いてみればそこにいたのはモジモジとした見知らぬ女性。

 

「……変、でしょ…?」

 

「…………」

 

え、誰この人。こんな綺麗な人この会社にいたっけ?なんかすげぇ妖精っぽい。フェアリーズストーリーからとびだしてきたレベル。綺麗な白い肌に艷めく金髪、貧相な胸だが逆にそれが愛くるしさを出している。

 

「な、何か言ってよ!」

 

俺があまりの綺麗さに言葉を失っているとその少女に怒鳴られる。が、それであることに気付く。そういえば、平塚先生もウェディングドレスを着た時は恐ろしく綺麗に1人の女性に見えた。つまり、この人は…。

 

「……八神さん?」

 

「気づいてなかったのかよ!」

 

「え、いや、あの…」

 

言えねぇよ……普段とのギャップに全然気づいてなかったとか…。って気付かれてますね。

 

「全然普通でしょ……」

 

「いや、そんなことないです!可愛いですよ!ほら、モナリザってあるじゃないですか!あれみたいなもんですよ!」

 

「え………最後の方、ちょっと何言ってるか分からない」

 

おかしいな。モナリザを見て勃起した男の子とかいるのに。それが殺人鬼になるのだから驚きである。いや、これも驚きである。まさに隕石級の大ショック!ドーハの悲劇なんて目じゃないぜ。

 

「てか、どうしてここに?」

 

「んー、りんと青葉がずっと可愛い!可愛い!ってうるさくて……トイレ行くって言って逃げてきた」

 

あぁ、それは大変でございますね。逃げることの大切さ厳しさは昨日に身に染みてわかったのでよく共感できる。

 

「にしても、ほんとこういうのあんまり好きじゃないんだよね…。オシャレって恥ずかしいし、私さ胸もないし色気もないから男っぽいほうが合うっていうか……」

 

誰しもコンプレックスやら自分に何かしらの不自由は抱えているものだが、八神さんの弱い部分は初めて見た気がする。天才と謳われ、キャラデザイナー界では魅惑の存在。それが今はとても弱そうに今にも崩れそうな表情をしている。

 

「まぁ、いいんじゃないですか。たまには」

 

「だけど……」

 

「別に胸がなくても、色気がなくても八神さんのことが好きな人は現れますし、その八神コウが好きって人が必ずいますよ」

 

誰かに認められたい、好きになって欲しい、崇め奉られたい。その欲求は人間どこかにいつかはあるはずだ。でも、それが叶わない人もいる。しかし、世界は広くて人は多い。その中に必ず自分を許容して好きになってくれる人はいるはずだ。なぜならこの世界は残酷で美しいのだから。

俺が言うと八神さんは呆気に取られた感じだったが、顔に笑顔がうつる。

 

「……そうやってみんなを丸め込んじゃうんだね」

 

その言葉の意味がよくわからず、首を傾げていると出版社のカメラマンが来てテキパキと準備に取り掛かっている。

 

「ありがと、なんか元気でたよ」

 

彼女はそう言うと先ほどの恥じらいの乙女ではなく、いつものキリリとした八神コウとしてインタビューを受けていた。

 

 

 

 

 

……まぁ、撮影の時はとても照れてカメラマンさんにとっても可愛いとか言われてたりしていた。

その時の八神さんの表情と言ったらマジで乙女。普段からああしてればいいのにとか思ってしまうくらい。

やはりギャップ萌って最強だな。

 





やっとの八神さん回

あとはゆん先輩と遠山さん、葉月さんだね!まぁ、葉月さんは出てないけど。
てか、あと2回しかないんですよね。
長かったような短かったような……勝った!第3部!完!

ちくわ大明神


誰だ今の


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比企谷八幡は深く考えない。

この話のタイトルめっちゃ悩みました
本編より時間かかったりしました……(笑)


待ちに待った日とは心がかなり昂るもので、そうそれは例えるならば、初めてポケモンを貰う日やクリスマスの朝やバレンタインデーのようなものだ。ちなみに後者二つは人によってはないのでそこまで昂らないものの、変に期待してしまうものである。

 

しかし、期待するということは愚かな行為だ。期待するから裏切られるのであり、期待しなければ裏切られることも失望することも責任を押し付けることもない。なので、責任を押し付けられたり失望されたりしたら自分は信用、信頼、期待されていたと思ってよし。でも、それ以後はされなくなるので注意。

 

そんなことは誰もが百も承知だろう。でも、期待して信頼して絶望という悪循環を繰り返すのが人間なのだ。だから、人はいつまで経っても愚かな生き物なのだろう。ということで愚かさを愛しましょう。

 

「……ハッチっていつもそんな変なこと言ってるの?」

 

「いや、君がなんでもいいからなにか話してとか言うから話してあげたんですよ?わかってます?」

 

記念すべきフェアリーズストーリー3の発売日に突然見知らぬ電話番号で呼び出されて俺はとあるゲーム屋に来ている。それも同僚とかではなくアルバイトの人と。そう、涼風の友達の桜ねねである。

 

「うーん、もっとこう。これじゃないっていうか……」

 

うん、言いたいことはなんとなくわかるけど、その表現は嫌われるぞ。相手に直して欲しいところがあるけどうまく言葉にできなくて『なにかちがう』とだけ言ってどこが違うか具体的に言わないと言われてる方は直しようがないからな。

 

「まぁ、俺と話すってのこういうことだ。よかったな、一つ無駄な知識が増えたぞ」

 

もう雑学とかトリビアより無駄な知識。もう無駄すぎてラッシュ決められるくらい。勝ったッ!死ねいッ!

 

「なんだかあおっちが言ってたことがよくわかった気がする……」

 

誰に何を言われようが俺はブレないしブレたら俺じゃない。でも、影でなんて言われてるか私気になります!昔は話題にすらならなかったけど、会社という環境でなら少しくらいは…ね?

 

「てか、なんでここなんだ?涼風が行ってるとこでよくね?」

 

まぁ、もともと行くつもりなんてなかったんだけど。ほら、最近もうすっかり秋というか寒くてね。家で実況動画見てる方が有意義だった気がするんだ。それにゲーマー〇の方には八神さん達……というか俺以外のグラフィックチームがいるわけですしね。

 

「店舗ごとのドラマCDの特典がさ内容と出てるキャラが違うんだよねー」

 

「あーなんかホームページとかTwitterで言ってたな」

 

なんかメイン3人のそれぞれのスピンオフだったか。俺は自分のキャラがないので別にいいし、どうせネットに誰かが違法であげるんだから、それ聴いて通報すればいいし。ソフトは貰えるし別にいらない。

 

「どうせネットに上がるんだろうけど限定版だからね!」

 

あぁ、そう。だが、言われたらなんだか記念に一つ欲しくなってきた。というか、店舗によって違うってなんか怖い。大人の世界の闇が見える。

 

「ここは誰のドラマCDなんだ?」

 

「うーんとね、主人公のナイト君だよ」

 

そんなたわいのない話をしていると、ふと桜の体に目が行く。そういえば、こいつと涼風って同い年なんだよね。うーん、涼風よりは身長は少し低いが胸はこいつの方があるんだな。ロリ巨乳?ってやつか。こういうことを考えるあたり、俺も男の子なんだな、と自覚させられる。そうやって、自分を再確認しているとある質問をされる。

 

「社員さんってそういうの貰えないの?」

 

「多分、経費削減だとかいって貰えないんじゃねぇの?貰えるなら前もって連絡来るだろうし」

 

八神さんとか遠山さんあたりになると貰えるのかもしれんが。腕を組んで考えていると店が開店する。すると中からナイトのコスプレをした店員さんが現れる。そして、口を開けて元気で爽やかな声を出す。

 

「これより『フェアリーズストーリー3』の販売を開始しまーす!」

 

そのコスプレを見た人は『おっー!』とカシャッとスマホやガラケーのカメラで写真を撮る。桜も興奮してなんかよくわからんことを言いながら写真を撮っている。

 

……社員というか関係者だからわかることだがなんかところどころ違うな。まぁ、別に気にならないんですけどね。わかんなかったらだけど。

 

店から出てきて買えた人達は嬉しそうな顔で袋からソフトを出してニヤニヤしていたり、the otaku って感じの人たちは展示パネルの前で記念撮影をしていたりする。

 

嬉しそうだが今作はキャラたくさん死ぬし、主人公の親友がラスボスっていう黒いイーグルジャンプ作品だからなぁ…大丈夫かな…

と売る側に回るとそんな不安も湧いてくる。

 

まぁ、気にしすぎるとあんまり良くないしな。でも、人間悩んでる方が脳にはいいらしいからずっと悩んでおこう。どうして彼女ができないんだ〜ドワッハッハっー!妖怪のせいなのねそうなのね。なわけねぇから!

 

「次のお客様どうぞ〜」

 

「あ、はい」

 

とは言ってもやはり自分が少しだけでも関わったゲームということもあって嬉しいという気持ちがある。それは嘘をつきのようがない事実だ。それは桜も同じなのか隣で嬉嬉として2個も買っている。

 

お金を払って特典ももらって店を出る。しばらくもしないうちに桜も鼻歌を歌いながら出てくる。

 

「お待たせ〜」

 

「おう、じゃあな」

 

このまま帰宅しようとすると別れの挨拶をすると桜がポカーンと口を開けている。

 

「え、なにどうしたの」

 

「……いや、うん…こういうとこも残念だなーって」

 

「直球だな。まぁ、別にこれから行くとこもないだろ」

 

「ううん、これからあおっち達と合流しに行くよ」

 

そう言うと桜は俺の手を掴んで道を歩き出す。やだ、この子。躊躇いっていうのがないのかしら!手汗とか出てないかな!とか、思ったら出てくるからやめとこ!

 

道を進むこと5分ほどすると違うゲーム店近くまでやってくる。すると、桜は涼風を見つけたのか俺の手を離して走ってそちらに向かっていく。涼風に向かっていたっと思いきや、隣にいたはじめさんの方に駆け寄る。

 

「おひさー!別店舗特典手に入れてきたであります!!」

 

「たすかるー!おつかれー!」

 

「おやすいごようであります!」

 

なるほど、それは鑑賞用、プレイ用というわけではなくはじめさんの分だったんですね。納得。てか、仲いいですね2人とも。遠目で眺めていると近くにいたのか八神さんに声をかけられる。

 

「おっ、八幡じゃん、来ないんじゃなかったの?」

 

「いや、そのつもりだったんですけどね。なんかよくわからないうちに」

 

「そうなんだ。あっちにみんないるからいこうか」

 

八神さんに連れられるまま涼風達のいるところに移動すると桜とはじめさんが大変なネタバレを話していた。

 

「まさか闇落ちしてラスボスになるとは思ってなかったけど」

 

「そうそう意外だったよね」

 

「でもあの平和主義なナイトとは違う考え方は結構好きなんだよね。だからぐっときちゃって最後の一騎打ちも……」

 

そこまで言ったところで涼風が止めに入るが既に遅く周りでは「コナーがラスボス?」「さっき関係者って言ってたよねあの人?」とヒソヒソ声が飛び交っている。

 

「やばい!帰ろう!」

 

八神さんの判断でその場を急いで離れるが遠山さんは見たことない顔で震えて「どうしよう…怒られるかもしれない。怒られるかもしれない」と復唱していた。それをなだめる八神さんも苦笑いだから少しは恐れているかもしれない。

 

「比企谷くん……これ……」

 

肩をトンと叩かれ振り向いて見ればひふみ先輩がケータイ画面を見せてくる。近い、めっちゃいい匂いするとかそんなこともすぐに消えて画面に注目すると既にコナーがラスボスであることが話題になっていた。それをそのまま涼風に見せると恐ろしく驚いた顔で大声をあげる。

 

「もう広まってるー!?遠山さん、八神さん、これ」

 

そう言って2人にも見せると「はやいよ!!」と八神さんも珍しく目を見開いて驚愕している。

 

「ちゃ、ちゃいますよ!フラゲしてクリアした人やって」

 

「なるほどそれだ!そういうことにしておこう!」

 

「ああもうせっかくの発売日がー!」

 

ゆん先輩がそう言うと八神さんはもうどうにでもなれと言った感じで気狂ったように笑ってるし、涼風は首謀者2人に挟まれて悲痛の声を上げている。

 

 

まぁ、特に問題ないと思うしいいんじゃねぇの?多分だけど。

 

 

 

###

 

(おまけという名の次回予告)

 

青葉「次で最終回ってほんとですか!?」

 

ねね「えっそうなの!?」

 

コウ「え、まぁ、作者がそう決めてたからそうなんじゃない?」

 

はじめ「八神さんがそう思うんならそうなんでしょうね。八神さんの中では」

 

ゆん「ってことはまだまだ続くってことか!?」

 

うみこ「でも、それだと作者のライフが……」

 

りん「どうなるのかしら…」

 

ひふみ「すごく……心配……」

 

八幡「まぁ、なんとかなるでしょ。多分、あるいはもしかしたら…」

 

青葉「そんな適当すぎるよ!」

 

八幡「次回『働くのも青春なのだろうか』……これで終わりじゃないよな?」

 

作者「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……」

 

 

 

……To be continued




マジで続けるかは決まってない
アニメ放映後の話はノータッチの方がアニメ派の人はいいかと思うし……
とりあえず皆様のお声次第!

次回を待て!


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働くって青春なのだろうか。

空前絶後のぉ!
超絶怒涛の孤独の王!
孤独を愛し 孤独に愛された男!
便所飯 先生と組む クリぼっち
全ての孤独の生みの親ァ!!
そう 我こそはぁぁ!!
サンシャイイイン!!!
ぼふっ!
通りでビラ配りをしています!!!
お小遣い3000円!貯金残高25000円!キャッシュカードの暗証番号は0721
財布は警察にありまァァす!
読者の皆さん!今がチャンスでぇぇぇす!
もう一度言いますよ!『0721』
「お、なにー?」で覚えてくださぁぁい!!
そう!全てをさらけ出した俺は!
サンシャイーン!
ぼふっ!
通りすがりのぉ……魔術師!!
イエェエエエエ!!!!
ジャス!!!ティス!

茶番終了

とりあえず最終回として用意しておいた内容です。
今、振り返るとマスターアップの回も十分最終回でした。

どうぞ



打ち上げ

 

もう聞き慣れてしまった言葉だが、やはり釈然としない。

打ち上げると落ちて帰ってくるのは自然の摂理だし、たとえ空に上がってもいずれは帰ってくるのがオチだ。打ち上げ花火なんて大空で弾けて綺麗なアートを写し出すが、消える時は落ちるように広がって消えていく。それに小惑星探査機ハヤブサ2に括りつけられて小惑星を探査しようにも人間は大気圏を抜ける際に死滅するので不可能な話である。何の話だよ。

 

話を戻すが学生の打ち上げというのはファミレスやカラオケ、大学生にもなると居酒屋などで行われるが、社会人ともなるとあるホテルの1室を借りて行われる。出てくる料理や飲み物はサイゼとは比べ物にならないのだが、所詮一般家庭で育った俺としてはミラノ風ドリアの方が食べたいし、MAXコーヒーの方が飲みたい。

 

まぁ、つまり、学生時代の打ち上げなんて打ち上げと言えず、ただの学生が大人ごっこする会と言える。てか、前夜祭とか後夜祭も似たようなもんな気がするし、リア充はとりあえず打ち上げといたり、祭りをしとけばいいと思ってるよな。

 

フェアリーズストーリー3の発売が2週間。売れ行きはなかなか好調らしく、予定した販売数を超えており相当な人気を誇っているようだ。そうでなくては面白くない。まぁ、じゃなきゃこんなでかいホールで打ち上げパーティなんてできんだろう。てか、打ち上げってパーティじゃないの?どっちなの?

 

そんな疑問を持ちながらチキンにかぶりつく。なるほど、辛味チキンといい勝負じゃねぇか……やっぱり国産若鶏は違うな。日本の畜産農家の人に感謝だぜ…これって蝦夷農かな。

 

周りを見れば見たことない人でごった返しており、なかには声優さんやらお髭のおじ様たちも大勢いる。こういう人混みは嫌いだが、話が通じない人が大勢いる訳では無いから問題ない。ほら、なんか日本語通じそうなのに通じない人っているじゃん?あれって日本人なのかな?そう思ってると八神さんが挨拶を始める。

 

「えー…キャラクターまわりのリーダーをやらせてもらった八神コウです。……えっと、あれ…?何いうか忘れちゃった。すみませんこういうの慣れてなくて」

 

八神さんが照れくさそうに言うと笑いが起こる。すると、はじめさんと涼風が「いつもどおりでいいんですよー」「八神さん頑張ってくださーい!」とエールを送ると八神さんは落ち着いた感じで話し始める。

 

「…私は三部作の一作目からキャラデザとして携わって、この7年近くの間、いろいろなことがありました。辛いことも多かったですが…」

 

そう一旦切るとその視線は遠山さん、ひふみ先輩、ゆん先輩、はじめさん、涼風、そして俺に向けられる。

 

「…でも今作の開発は楽しいことばかりだった気がします。スタッフのみんなありがとう。今後ともよろしく」

 

そこまで言ったところで拍手があがる。俺も持っていたグラスを置いて手を叩いていた。そして、八神さんのマイクは次の人に渡される。

 

「では、最後にディレクターの葉月から」

 

司会と遠山が目配せすると、その葉月さんという人は口を開く。

 

「ディレクターの葉月しずくです。おかげさまで売り上げも好調なようでほっとひと安心。これでまた新たな一歩を踏み出せるかなと思っています。先ほどの八神のお話の通り一作目のスタートから七年近くが経ちます」

 

葉月さんという人はどういう人なのか俺にはわからないが、だが涼風が思い悩んでいた時に声をかけたり、食堂ではじめさんやゆん先輩と親交もあったから人当たりがいい人なんだろうと思う。まぁ、俺とは全く会話してないけど。

 

「最初から開発に携わってきた者。途中から参加した者。全員を含めるととても多くの人間の力でこうして発売まで辿り着けたと思います。みんなありがとうそれでは乾杯」

 

「かんぱーい!!」

 

こうしてディレクターや各お偉いさん、この作品に関わった重要な人達からの挨拶を終えて打ち上げは始まった。

 

 

###

 

 

乾杯の音頭があってから会場は賑わっており、会話を楽しむ者、食事を楽しむ者、あるいはその両方。はたまた、声優さんにサインをもらいに行く者。人それぞれにこの打ち上げを楽しんでいる。

俺はと言うと壁に持たれて手に持つグラスのジュースをチビチビと飲んでいた。こうしていると、やはり俺はこうやって遠目から見てる方が気が楽と感じられる。まぁ、そうしていても話しかけられるのだが。

 

「久しぶり、比企谷」

 

「おう、久しぶり」

 

えっと、誰だっけ川谷?たわし以外たわしじゃないよ?当たり前だけどね。違うな、川崎か。

 

「デバッグも呼ばれてるんだな」

 

「うん、クレジットに名前が載ってる人には声かけてるんだって」

 

「なるほどな」

 

軽く相槌を打つと、川崎からグラスを差し出させれる。どういう意味かわからんかったが、川崎が横目である人達を見るとそこではグラスとグラスをカーンと合わせて乾杯をしていた。俺はそれを見て理解すると川崎のグラスに自分のグラスを当てる。

 

「乾杯」

 

「うん、乾杯」

 

俺達はそう言うとグラスに入ったジュースを口に含む。まだ未成年だからここに出されてるオレンジジュースしか飲めねぇんだよな。お酒が飲みたいとは思わんが炭酸も飲みたい気がする。やはり、そのあたりサイゼは最強。何でも揃ってるからな。

 

「あ、グラスなくなった」

 

俺が中身を飲み干して独り言のように言うと川崎が「取ってこようか?」と言うが遠慮しておいた。これくらいは自分で取りに行くしそれに何か食べないとな。今回もタダ飯みたいなもんだし。テーブルの方に向かうとちょうどプレゼント抽選会が行われていた。

 

「3等は87番の方!」

 

「あー!はいはいはーい!!」

 

そう元気に手を挙げた桜は嬉嬉として受け取りに行くが、その景品はまさかのモデルガン。つまり、渡したのは…

 

「景品は阿波根さんよりN16アサルトライフルモデルガンでーす!」

 

「まさか桜さんに当たるとは、まぁデバッグを頑張ってくれたお礼になりますね」

 

やっぱりか……やっぱりうみこさんか。てか、あれ欲しいんだけど…

しかし、受け取った本人は「なにこれ…いらない…」と口を尖らせていた。それにうみこさんは怒りもせず、顎に手を置いて笑っていた。

 

「ははは、桜さんにはBK47の方がお似合いでしたね」

 

「そのネタがそもそもわかんないだよ!」

 

「なんでわからねぇんだよ!」

 

気付けば俺も自然に大声を出していて、今までひっそりとしていたためか、それともあの2人のやり取りも含めてなのか場が静まり返る。俺は慌てて口を塞ぐが時すでに遅し。そして、桜は口を尖らせて

 

「え……いや、わかんないもん」

 

と言うので

 

「え……あっ、そうですか…すんません」

 

なんで同い年に敬語なんて使ってんだろ。とりあえず、場は遠山さんの流れるようなトークで盛り返したが俺達3人は雑談という名のミリタリートークをしていた。

 

「ミリタリーってよくわからないんだよね」

 

「製造の歴史などを知れば少しは興味がわくかもしれませんよ?」

 

「まぁ、ガルパン見ろガルパン」

 

あれは戦車の方が多いが三日月ちゃんマジで可愛いから。ゲリラ戦大好きとか鉄華団かよ。でも、何故かオルガが大量にわくが気にしない。

 

「じゃあ次のデバッグの時までに調べておきますです!」

 

「残念ですが、今度からは専門の会社に発注する予定らしいのでデバッグの募集はもうありませんよ」

 

涼し気な声で言ううみこさんに対して衝撃の展開を見せられた桜はガチャンと持っていたモデルガンを指さすに落とす。

 

「私絵は描けないしそんな頭も良くないし想像力もないし、じゃあほんとにこれでお別れ…?」

 

想像力が足りないよ…とか思いましたが、そんなことダメですよね。ちらりと見るとライフルを拾うためしゃがみ込んだ桜の顔は張り詰めており、今にも爆発しそうだったが、うみこさんはサラサラと名刺に何か書き込んでそれを桜に渡す。

 

「何かあれば連絡してください」

 

「うみこさん……」

 

「泣き言は聞きませんからね」

 

やっぱりこの人は優しいのか優しくないのか……いや、この人は単なる気まぐれなのかもな。

 

「それではいよいよ一等に移りたいと思いまーす」

 

2人の後ろ姿を見送り俺はテーブル付近に戻ると一等の番号が発表される。

 

「82番の方!」

 

「あ、俺か」

 

ポケットから番号が書かれた紙を取り出すと、『82』と勝利の番号が刻まれていた。俺はガッツポーズを取るとそのまま前に出る。

 

「景品は私から東京デスティニーランドペアチケットです!」

 

「……」

 

どうしよう全然嬉しくない。こういう時どういう顔をすればいいかわからないよ。え、笑えばいいと思う?そ、そうか。ははは…。先ほどの場所に戻ると見知った顔の人たちが俺のかわりに喜んでくれている。

 

「よかったじゃん!八幡!」

 

「せや!デスティニーランドやで!」

 

「……よかった……ね」

 

「比企谷さんもよく頑張っていましたからね」

 

「そうだよ、ハッチは頑張った!」

 

はじめさん……良くないんだ……ゆん先輩…デスティニーランドであってもなくてもダメなんだ…ひふみ先輩…うん、ありがとうございます…うみこさん…ま、まぁ!俺、夜勤はしない残業しないお泊まりしないを守れなかった人ですし!桜、貴様は何様だ。

そうやって強がるも俺の表情は暗いようではじめさんに「大丈夫?」と顔を覗かれる。

 

「大丈夫ですよ…多分」

 

「多分って………なんでそんな暗いん?」

 

「これ…ペアチケットじゃないですか…」

 

俺がチケットを指しながら言うと全員がウンウンと頷く、それで察したのか桜は「ハッ!」と言う顔をする。

 

「それが……どうか…したの?」

 

「誘える人がいないし、誘ったとしても承諾してくれるか不安です」

 

それを真顔で言うと、全員が苦い顔をするかと思いきや、ため息をついたりホッとした顔をしていた。

 

「はぁ、そんなことですか。別に私は大丈夫ですよ」

 

「うちも平気やで。てっきり、あんたが絶叫マシーン無理なんかと思うたやん」

 

「私もいつでも空いてるからね!」

 

「……わ、わたしも…」

 

「私も行きたい行きたい!」

 

俺はどんな顔をしているだろうか。呆気に取られたような顔か、それともなんとも言えない顔か。今まで培ってきた人間観察の眼はこの人たちが嘘をついてるようには見えてないし、それは俺の直感もそう告げている。

でも、これペアチケットだからこの中から一人選ぶって至難の業なんですけど。まぁ、こんな俺でもいいと言ってくれるのならそれは喜ぶべきなんだろう。

 

「って、これペアチケットなんでこんな大人数じゃ無理ですよ…」

 

「それもそうか!」

 

はじめさんがわははと笑っていると、今まで席を外していた八神さんと涼風が戻ってくる。それぞれで2人をみんなで迎え入れる。

 

「あ、戻ってきた」

 

と、桜がチキンやポテトを頬張りながら言う。

 

「まったく…取引先の人が捜していましたよ?」

 

うみこさんは少し弱めのカクテルの入ったグラスを手に取ると優しく微笑む。

 

「そうだ、八神さんもサインくださいよ 記念に!」

 

「素直に欲しいっていえばええやろ?」

 

はじめさんが照れくさそうにサイン色紙を出し、ゆん先輩はそれを見て苦笑いしている。

 

「……おかえり。青葉ちゃんも連れてきてくれてありがとうね」

 

そして、この中で誰よりも八神さんのことを知り、八神さんのことが好きな人は誰よりも優しく朗らかな笑顔を向けた。

その笑顔を向けられた2人も遠山さん以上の笑顔を見せて涼風は「はい!」と。八神さんに寄り添いながら言った。

 

 

そんな光景を眺めながら、グラスに張られた水面にうつる自分を見て少しあることが脳裏をよぎった。

 

もしかしたら…もしかしたらだ。俺の探していたものはここにあるのかもしれない。今まで欲しがって探し続けていたものはどこかにある。それはあの部室もそうだし、ここにもあるのかもしれない。でも、手に入るかは別だ。だが、今はありのままを受け入れよう。

 

「え!比企谷君デスティニーランドのチケット当てたの!?」

 

「お、青葉。もしかして八幡と行きたいの?」

 

「そりゃ行きたいですよ!……って何言わせるんですか!?」

 

八神さんに茶化された涼風は顔を赤らめると八神さんを睨みつける。そして、俺を見ると顔を逸らしながらモジモジしていたので俺は一言だけ。

 

「まぁ……予定が合えばな…」

 

 

青春とは学生時代のことを言うらしい。

学び、遊び、友情を育み、恋をしたりすることを青春というのなら、会社もそれは同じなのではないだろうか。

 

もし、もしもだ。

その言葉が今でも使えるなら。使っていいのなら。

 

 

……働くって青春なんじゃないだろうか。

 

 

 

###

 

おまけ【八幡視点ではない】

 

「やっと一息つけるなぁ〜」

 

パーティが終わるとそれぞれに身体を伸ばす。

 

「そうだね〜。……てか、青葉ちゃんいいなぁ…」

 

はじめはあまり酒を飲んでいないため、身体はふらついていないが八幡が青葉と2人で出かけると知って少し落ち込むというか、嫉妬のような感情に駆られている。

 

「まぁ、同期やしなぁ〜。しゃあないんちゃうか」

 

逆にゆんは今回は少しにとどめたのだが、やはり酔いがまわっており楽観的だ。まぁ、彼女は八幡にはあまり気はないといえば嘘になるが今は特に考えることは無い。しかし、彼女が翌日酔いが覚める時には発狂することになる。

 

「……」

 

ひふみに関して言えば、ぼうっと空を眺めるだけだった。

彼女が何を考えているかはよくわからないが、とりあえず早く帰って愛しの宗次郎に会いたいという心だけだ。

 

「あ〜眠い。明日休みでよかった…」

 

そして話題の中心の1人とは言うと酒も飲めず、特になんの気持ちもなく出てきて大きなあくびをしていた。

 

「明日は全員休みだと思いますよ。流石に楽しんだ後に仕事ができるとは思いませんし」

 

八幡の後ろから出てきたうみこは酒に強いため酔ってはいないが顔が赤いことから相当飲んだことが窺える。

青葉やねね、コウやりんは帰り道が逆のためもあったが酔いが恐ろしい2人だったためうみこが先に帰らせたのだ。

 

「あの2人大丈夫かな……結構フラフラだったけど」

 

八幡がそんな心配をするとピクッと何人か反応を示す。今この場に残っている者は八幡以外は成人しているため全員酒を飲んでいる。

反応した全員の胸中は同じで酔った勢いで八幡の前で何かやらかさないかということだった。

 

「じゃ、また明後日ですかね?俺はこれで」

 

そうやって1人猫背で帰ろうとすると4人全員に背中のフードを掴まれる。

 

「比企谷さん、か弱いレディーをこんな夜中に1人で帰らせると?」

 

「……怖い…………」

 

「…ちょっと流石に私もこの時間はね」

 

「うちもなんか不安やわ…」

 

全員言ってることは女性らしいのだが、なんだか全員怖い。そんなふうに感じた八幡は時計を見る。

 

「いや、まだ11時ですよ。これくらいなら…」

 

大丈夫と続けようとしたところでいつも物静かな女性が八幡の耳元で囁く。

 

「……大丈夫……じゃ……ないんだよ……?」

 

それだけで童貞の男は揺れる揺れる。少し空を見上げればピンク色の看板にHOTELと書かれており、思わず唾を飲み込む。頭にはあんなことやこんなことが浮かんでおり、酔いがまわってるならいけるんじゃね!?とか考えているがさすがにそこまで勇気も元気もなかったため、身体をよじる。

 

 

しかし、異様な殺気に感ずいた八幡が振り返るとほかの3人も臨戦態勢を取っていた。あまりにも異様な雰囲気の彼女達に八幡は仕方なく全員を家に送り届けるのであった。チャンチャン♪




婦警は見た!きらら警察24時!

うちに…そんなものはないよ…


とりあえず最終回として用意していた話です。葉月さん以外は八幡と会話できました!やったね!

葉月「解せぬ」

まぁ、これからもやってくわけですが、もしかしたら途中で新作にフェードアウトするかもしれません(多分ないです)

考えているのは俺ガイル×ジョジョ、進撃の巨人×鉄血のオルフェンズ
それか僕の好きな作品オールスターズみたいなのをやりたいなーと仕事をしながら考えていました。

とりあえずこの作品は続きます!NEW GAME!二期来い!来なかったら泣く!てか、てめぇらアニメ見ろ!

おっと失礼…本音が…そんなわけでこれからも応援よろしくデース

あと、投稿時間が16時30分だったり、深夜2時だったりしますが作者の気分なのでお気になさらず〜

ついでに言うと明日は投稿しますが明後日はどうかわかりません
理由は少しは休ませてぇー!


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葉月しずくは可愛いものが好き

ここから3巻に入っていくわけですが、1発目が葉月さんとひふみ先輩回
つまり、八幡に付け入るスキはない……けど無理矢理入れるしかないッ!
まぁ、ネタバレ……というよりは2期(決まってないけど)に備えての予習くらいの気持ちで見て頂けたらと思います。

今回は3巻冒頭のひふみ先輩のファッションショーを見た八幡の休日から始まります。


祭りのあとの祭りとは多分二次会のことをいうのだろうがイーグルジャンプの打ち上げにはそんなものなく、祭りのあとの休みのあとに仕事というものだ。

 

休みの朝というのは非常に起きるのが遅く、だいたい昼前かあるいは昼過ぎに起きてしまう。起き上がって用を足してから洗面所で手を洗って顔を洗う。

 

「あー腹減った…」

 

鏡で自分の顔を見てたら腹の虫が鳴るし、さっき昨日食べた分は出したから余計に腹が減った。冷蔵庫を開けると牛乳とMAXコーヒーしか入っていない。…そういえば夏休みが明けてから小町も来てないし…そりゃ野菜も肉もなんもねぇわな。ついでに言うとご飯もない。ご飯おめぇの出番だぞ!

 

はぁ…買出しに行くか。

高校から使っている青のジャージを着てドアを開ける。

外に出れば木の葉もすっかり紅く色づいている。こうして見るとすっかり秋じゃのう…って何おっさんみたいなこと思ってんだろ。疲れてんのかな…。

 

ショッピングモールに向かうと客はオシャンティーな格好をしており、これも見るとやはり気候の変化を感じさせられる。しかし、まだ白い息は出ないし手袋やマフラーをしなくてもこのジャージで十分なことからまだ冬は先だろうと思える。

 

地下1階に向かうエスカレーターを降りて食品売り場に向かう。さてと、何を買おうか。最近料理してないからしたといえば味の素の冷凍餃子くらいだ。あれを料理というか知らんがフライパン使ってるし料理でいいだろ。

 

適当に惣菜と野菜と肉、冷凍食品を買い物カゴに入れてレジへ向かい、精算する。龍歴院ポイントなんてもらえないし、領収書なんかいらない..想像するんだ..。最近はセルフレジとかいうのがあるから新人店員のように横着して遅くなることは無い。高校の時にレジを担当しておいて良かったと思える手捌き!人呼んで、ハチマンスペシャル!!

 

ちなみに俺はデキる男なのでエコバッグと呼ばれる土の魔術を持っていたりする。これにより2円引きとなんとも素晴らしい。

 

そのまま帰っても暇だし、エスカレーターで1階に上がれば服屋やアクセサリーが集中しているフロアである。荷物を持ちながらなんとなくぶらぶらしているとあんまり興味無いのに新しいジャージが欲しいと思ってしまった。てか、ジャージならスポーツショップで買えばいいんでないの?よくよく考えたらそうだし、この格好で来たことを少し後悔してしまった。

 

ある程度進んだところでそれに気付いて道を引き返す。すると、見知った顔の人がファッションショーを楽しんだのか服をたくさん持って試着室から出てくるのが見えた。ひふみ先輩って1人だと結構笑ってるよな。やっぱり、1人の方が気が楽なんだろうか。

 

「お客様ー、何かお気に召した商品はございましたか?」

 

「!!」

 

ある店員さんが笑顔で話しかけるとひふみ先輩の顔が一瞬で変わり、いつもの慌てふためく顔になる。しかし、店員さんはそんなことお構い無しにペラペラと喋る始める。

 

「よければ今年流行のものなども取り揃えておりますよ。お客様大変お綺麗なのでなんでもお似合いに…」

 

「また来ます…!」

 

ひふみ先輩はそう言うと持っていた服を全てその人に渡して店から出ていく。いそいでいるのかあるいは周りが見えていないのか俺には気付かずエレベーターのボタンを連打していた。そして再び店内に目を移すと店長らしき人がさっきの店員と慌ただしい様子で会話していた。

 

「ちょ!あのお客様は強く押しちゃダメなんだって!」

 

「えええー!?」

 

ふむ、やはりあれだな。俺が昔提唱した説は俺以外にも当てはまることが実証されたな。服選んでるときに話しかけるのはほんとダメだ。服屋の店員さんはぼっちが放つ「話しかけんなオーラ」を感じ取るスキルを身につけたほうがいい。そのほうが確実に売り上げ上がるぞ。

だって、ひふみ先輩は話しかけられなきゃ全部買ってただろうからな。

 

 

###

 

 

休みがあれば休めない日もあるわけで今日はそういう日である。

と言っても特に仕事がないから手持ち無沙汰なのだが。あるといえばバグの修正……はうみこさん達の仕事だからな。

 

なので、俺達は今は動かしやすいモデルのためしてガッテンをしている。まぁ、俺は見てるだけなんだが。だって先輩達がアイデア出してくれてるんだぜ?何も言わない方がいいだろ。違うこと言って『それは違うよぉ』とか言われて論破されたら泣く。

 

「ごほん、楽しそうだね」

 

俺が何もされてないのに被害妄想していると葉月さんがやってくる。それに軽く挨拶を返すと葉月はにこやかに微笑む。

 

「何を話していたのかな?」

 

「はじめさんの提案で動かしやすいモデルの試行錯誤してて、ひふみ先輩がいろいろアイデアを出してくれて凄いんですよ!」

 

「そんなこと…ない…けど…」

 

涼風が褒めると褒められたひふみ先輩は恥ずかしそうに声を細める。しかし、それが可愛かったのか葉月さんは写真を撮り始める。

 

「はっ!ごめん!可愛かったからつい」

 

変な人だなぁ…と思ったけどまぁ、仕方ないね!ひふみ先輩は可愛いからね!

 

「だって滝本くん、昔と比べて表情が柔らかくなったから。いいことだと思うよ」

 

「…はい」

 

うん、いいことだ。非常に素晴らしい。なんだろうこれが神の作り出した芸術品の完成系。まさにパーフェクト!とか言っちゃうレベルでひふみ先輩は可愛いからな!だが、小町と戸塚の方が可愛い。それだけは絶対に揺るがない。

 

「ところで…君が比企谷君かな?」

 

「あ、はい」

 

「ふむ…よろしく頼むよ」

 

握手を求められたので握手をするが、綺麗な手をしているな。肌も白いし、多分この会社で一番肌が白いんじゃないだろうか。でも、ディレクターってことは結構歳食ってるよな?ファンデーションでも誤魔化せるか。まぁ、手はマジで白いな。まじまじと見つめていると再びシャッターが切られる。あれ?私って可愛いのかしらうふふ?

 

「そういえば、次のゲームってどんな感じになるんですか?」

 

「ん?ああ。今考え中だよ。完全新作の予定だからなかなか難しくてね」

 

「そうなんですか」

 

「別に涼風君たちでもいい企画書を作れればそれが採用されるんだよ」

 

「え、ほんとですか!?」

 

可愛いの定義について考えているとそんな会話が聞こえてきたので我に返る。とりあえず戸塚は最強で最高ということがわかったからいいとしよう。

 

「じゃあ私戦隊物がいい!あ、でも魔法少女も捨てがたい…」

 

「そればっかやん。私はシリアスっぽいのかな」

 

「私はファンタジーかな…」

 

はじめさん、ゆん先輩、涼風とそれぞれ口々だすが全員バラバラだりまぁ、全員一緒だとそれはそれで気持ち悪いが。

 

「比企谷君と滝本君は?」

 

「え…?…私も青葉ちゃんと…一緒で…」

 

「……そっか…やっぱり作り慣れたファンタジーかな」

 

葉月さんにそう言うひふみ先輩の言葉はとても本心と思えなかった。それは葉月さんも同じだったようで少し間が空いたものの足りない言葉を補っていた。

 

「で、比企谷くんは?」

 

「俺は…」

 

どんなゲームをしたいかではなく、どんなゲームを作りたいか…か。イーグルジャンプはファンタジー世界を題材としたゲームが。そこから抜け出した新ジャンルに入るもよし、ファンタジーで新しい要素も入れるのも良い。でも、それは俺が作りたいと思うことではない。ならば、俺は……。

 

 

 

###

 

 

昨日の質問に答えれず、後で話しますとか言っといてそのまま定時になったので帰ってしまったからなんにも言えなかったな…。まぁ、特にないんだが。強いて言うならぼっちが活躍するRPGが作りたいです。くらいだ。

 

早めに寝たので6時くらいに起きてしまい、家にいても暇なので少しゆっくり準備してから外に出て会社に向かった。

会社についてパソコンの電源を入れると今来ているのは俺とひふみ先輩、葉月さんだけのようだ。八神さんも今日は会社で寝ていないらしく、パンツ姿は拝めなかった。べ、別に見に行ったとかそんなことしてないんだからねっ!

 

あ、葉月さんに一応言っとかねぇと。ぼっちが孤独に戦って活躍するRPG…そう!ダークヒーロー的立ち位置のやつが世界救う冒険譚!世にも奇妙な物語!俺が求めるのはこれだ。最近のゲームは協力とかみんなで繋がるとかぼっちには優しくないゲームばかりだ。いくら、見知らぬ友達とも協力できるからと言っても限度がある。地雷とかいるしな。

 

葉月さんのいるブースに向かうと先に先客がいたのか、誰かと話している。声を潜め、気配を消してその場に潜む。なんだかいけないことをしている気分だ。

 

「私…昨日青葉ちゃんと…同じがいいって言いましたけど…えっと…ほんとは現代ものというかスタイリッシュな世界が…好き……です……以上…です。」

 

「ふふっ…」

 

「っ!」

 

「あ、いや、ごめん違うんだびっくりしただけだよ。よく言ってくれたね。ありがとう参考にさせてもらうよ。」

 

「は、はい……!」

 

カシャっとそんな音がしたのを聞くとどうやらひふみ先輩はいい笑顔で返事を返したようだ。ひふみ先輩が鼻歌まじりで上機嫌で自分の席に帰るのを見てから俺は隠れていた場所から姿を現し、葉月さんに俺の要望を伝えると彼女は紅茶を1口飲む。

 

「それはそれで面白そうだね。それも参考にさせてもらうよ」

 

「うっす」

 

よし、伝えることは伝えたし俺も自分の居場所に…と思って身体の向きを変えたところで声をかけられる。

 

「ところで比企谷くんは好きな女の子はいるのかね?」

 

「妹以外ですか?」

 

「う…うん、そうだね。できればその方が嬉しいかな」

 

考えてみるが小町以外となると…戸塚?でも、戸塚は女の子じゃないからな。あとは誰だ?平塚先生?まぁ、あの人は好きっていうより面倒見なきゃダメな気がするってだけだし…

 

「特にいませんね。妹以外の女の子では」

 

「そうか…ごめんね、変なこと聞いて」

 

そう言うと葉月さんは軽く手を振る。俺は頭を軽く下げて自分の席へと戻る。給湯室でコーヒーを入れて出てくると

 

「これは可愛い見物だなぁ…」

 

と、そんな声が俺の背中に届いた。

 

 




ガッデム!

新作予告(詐欺の可能性があります)

この素晴らしい世界に平穏を!

「私はなんとしでも生き延びてみせる…!この世界では…!」

……To be continued?


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比企谷八幡は動じない

どうでもいい話、出だしはレッドブルに囲まれた材木座から始まる予定だった。まぁ、途中に入ってるけどなぜそうなった。


マッ缶の空き缶が積まれた机を見て、人は何を思うのか。マッ缶は意外にも知られておらず、最近では販売範囲を拡大しているらしいがそれでも日本の最北端、最南端までには届いておらず。つまりのところ、まだまだ知名度が低い飲み物なのだ。

 

コーヒーの苦味の中に砂糖と練乳をいれることでこの絶妙な甘さと何度でも飲みたくなる中毒性を生み出しているのだが、驚くことに関東住みの人間にもあまり知られていない。この会社の人間も知っていたのは八神さんくらいだが、飲んだことは無いらしく試しに一口と俺のヤツを飲むと「甘ったるい」と言いつつ顔は苦にがしいものだった。それを横で見ていた遠山さんの顔は今でも覚えている。私にもちょうだいと言い、八神さんと関節キスが出来て嬉しいのか飲む前はすがすがしい顔をしていたのに、口に含んだ時には八神さんと同じ顔になっていた。

 

だが、お子様の涼風と桜には飲みやすいらしく、最近は俺に金を渡してまで買ってきてもらうくらいになっている。桜はもういないから渡せていないが、大量買いして安い店を教えてやったのでおそらく愛飲していることだろう。

 

しかし、飲みすぎは禁物だ。酒やビールに急性アルコール中毒があるようにマッ缶は飲みすぎると糖尿病になる可能性がある。なので、1日1杯が限度なのだがそれでもダメだと周りからは言われているのだが、健康診断でオールAだったから別にいいんじゃないかと思う。

 

 

俺の身体の心配をしてくれるのはありがたいのだが、やはり他人より自分のことを心配した方がいいのではないかと思う。ほら、単位とかね?とりあえず材木座は何があったか聞きたい写真を送るのをやめろ。なんでレッドブルに囲まれてレポート書いてんだよ…

 

まぁ、俺もこいつの心配してる場合じゃねぇな。

 

「比企谷くん次やでー」

 

会議室から出てきたゆん先輩に呼ばれ、席から立ち上がる。さぁてと、そんなこんなで今日も仕事だ。

 

仕事と言っても簡単なアンケートのようなものらしく、そこまで気張らなくてもいいと言われている。なんでも次回作に活かすための調査らしい。ノックして返事を待つと「どうぞ」と返ってきたのでドアを開ける。俺は設けられた椅子に座ると目の前の女性2人に目を向ける。今回、ディレクターを務めた葉月さん。そして、ADをやり遂げて次はプロデューサーに就く遠山さん。この状況をわかりやすくするなら逆三者面談である。

 

「前作の開発で何か感想はあるかしら?」

 

そう、今日はこんな紙に打ち込んで一斉に聞いた方が早いことを口頭で各々別に聞くのだが、こうした方が効率という概念を抜けばいいとは思える。

 

文字に起こしにくくても言葉にならしやすいものもある。例えば、今日は月が綺麗ですねとか。

 

「そうですね…」

 

土日休みが良かったのに平日に休みがあったりとか、定時に帰りたいのに帰れなかったりとか、会社に泊まるとかブラックなんじゃないですかね。とか言っちゃダメだよなぁ……。いや、ある程度は予想していたんだけどね?

 

クリエイター…何かを創るという仕事には錯綜、迷走がつきものだし、少しでも良いものを創ろうという精神からできるだけ時間をかけようというのがあるのだろう。だから、仕方ないと割り切るしかない。

 

「いいと思ったところや反省。これからの目標でもいいのよ。何かない?」

 

俺の無言を何を聞くべきか悩んでいると解釈したのか、遠山さんは優しい口調で尋ねてくる。

 

「…チームでの連携は取れてるし、良いチームだと思いました。作業遅れも八神さんや先輩方に取り戻してもらえて助かりましたし」

 

言うと遠山さんはサラサラとノートに俺の言ったことを書き込んでいき、隣にコーヒーを飲みながら座っている葉月さんは「他には?」と目で聞いてくる。目は口ほどに物を言うとはこのことか。

 

「反省としては切り替えが遅いことですかね」

 

まぁ、俺は出来ていたという確固たる自信があるがね。

 

「目標は…今のところ特にはありませんが自分の責務は今以上にやり通したいと思っています」

 

こんなところか。無難な回答だ。カレーのナンの写真に「これはナンですか?」と聞かれて「はいそうです」と答えるくらいに無難だ。特に当たり障りもない言い方をしたが葉月さんはまだ何かあるんだろう?とゲンドウポーズをとって微笑んでいる。

 

「……あ、質問いいですか?」

 

「? 構わないよ」

 

「なんで俺以外女の人ばっかりなんですか?」

 

葉月さんはその場からガクッと崩れるとズレたメガネの位置を正しながら頑張って笑顔を作っている。それに対して遠山さんは落ち着いて俺の疑問に答える。

 

「実力と相性を見て選んでるわよ。女性ばかりなのはたまたま…」

 

おかしいな最後の方声小さくなって聞き取れなかったんだけど。今のうちに聞きたかったことは聞いておこう。

 

「えっと、俺以外にここで働きたいって人は…?」

 

「…いても花ちゃんが持ってちゃうんだよ」

 

「はなちゃん?」

 

「あ、あぁ、こちらの話だ。まぁ、今回は君だけだったからね。君と涼風君が来る前に2人ほど結婚したり、他社にもっていかれたりしてか退社してね」

 

なるほど、つまり俺と涼風はその穴埋めになったというわけか。……ちゃんと埋めれてるか心配だな。いや、やることはやってるし…と思ったが思考が一旦停止する。やることだけやるのは誰でも出来るのでは?やること以上のことをやらねばいけないんじゃないのだろうか?……よし、次の目標はそれでいくか。誰にも迷惑をかけず、前回以上に働く。やっぱり俺の社畜適性MAXなんじゃないかな。

 

「ところで比企谷くん」

 

「はい?」

 

「来週は社員旅行だね」

 

「あぁ、そうですね」

 

「北海道だね」

 

「雪国ですね」

 

「楽しもうね、お互いに」

 

「は、はぁ」

 

なんだろうこの変な会話は。それを隣で聞いていた遠山さんはというと今まで取った議事録らしき紙束をトントンと整えると無機質にいう。

 

「でも、企画書がまだならお留守番ですね」

 

「うそ!?」

 

現実とは非情である…おのれポルナレフ…。俺は一礼してから部屋を出ると給湯室に向かってマッ缶をコップにうつしてレンジで温める。

給湯室の窓から外を見れば夏ではまだ明るかった空もすっかり紅蓮色に染まっている。

 

来週から社員旅行か。スノボはウインタースポーツ体験会的なのでしたことあるが北海道は行くの初めてだしスキーはしたことねぇな。……ん?待てよ?俺のチームで男って俺1人だよね?温泉も着替えも寝るのも1人か?何その地獄。




次回は修学旅行!?ではなく社員旅行!八幡は孤独に打ち勝つことが出来るのか!?スキー、スノボーをうまく乗りこなすことが出来るのか!?

……To be continued

新作予告(詐欺の可能性しかない)

この素晴らしい世界に漫画家を!

「どうやら転生したってのは本当らしいな…。実にイイ!すごい体験だ!」

「悪いが、僕にとって魔王なんてのはどうでもいいんだ。ぼくは『読んでもらうため』にマンガを描く!今はそれしか考えていないね」

「他人を負かすってのはそんなむずかしい事じゃあないんだ…。いいかい! カズマ! もっとも『むずかしい事』は!」

……続く?



えぇ、これと同時刻に「この素晴らしい世界に平穏を!」(ジョジョの奇妙な冒険から吉良吉影とこのすばの短編クロス小説)を投稿したのでジョジョ好き、このすばファン、もしくは両方、はたまた興味がある人は是非ご覧ください。


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社員旅行で北海道に行こう!

無言で評価1を付けられる夢を見て起きたら正夢だったでござる(`‐ω‐´)

今回の話、原作で結構不明瞭な点が多いんですよね
なにでいったのか、何時についたのか、ついてすぐにご飯を食べて寝たのかとか。まぁ、わからないなら勝手に捏造しちゃえばいいんですよ。

ついでに言うと多分投稿ペースが落ちます。理由 学校 宿題 テスト



北海道

 

最北端の都道府県であり、日本領土の中でもっとも広大な大地を持ち、農業、畜産などの日本の食料自給率の多くを担っている。旅行地としては冬のさっぽろ雪まつりや農業体験などが人気だと聞くが、やはり海に囲まれた場所だからこその新鮮な海の幸などが主流だろう。また、温泉などでも有名である。

 

と、社員旅行用のパンフレットに書いてありました。泊まる場所は名前も外観も古き良き日本を体現したかのような雰囲気なのだ。目の前にはスキー場があり、近くには居酒屋や海の幸が堪能できる店がわんさかあるらしい。

 

俺としての印象はやっぱり、銀の匙だな。いや、あれのせいで一時期農業高校に入学しようとか考えてたからな。でも、朝5時起きの実習とか肉体労働は俺の目指す目立たず疲れず楽な高校生活とはかなり遠いし、何より実家から離れるとか無理だからやめた。

 

 

俺は着替えや日用品を大きめのカバンに詰め込むとそれを玄関にぽんと置いておく。さてと、明日は待ちに待っていなかった北海道である。正直、俺も葉月さんと同じくお留守番がよかったんだがな。まぁ、来るらしいけどね葉月さん。

 

 

 

朝になると俺は手早く身支度を済ませて、荷物を持って家の鍵を閉める。俺不在の間は小町に掃除を頼んでおいたから安心できる。代わりに五千円も飛んでくのは、最愛の妹へのお小遣いと思えばいい。こうして俺の女だらけの社員旅行の幕が開けた。

 

 

###

 

 

一日目は到着したのが夕方というのもあったが、嵐がやってきた。別に五人組の歌って踊れるイケメン共ではない。大雪をふらせ風を吹き俺たちを旅館という牢獄に閉じ込めるやつだ。

 

着くまではバスで騒いでいた涼風やはじめさんも今では静かにタイの刺身を口に運んでいる。かく言う俺もあまりのうまさにマスオさんみたいになるところだった。宮迫さんってマスオさんの真似うまいよね。

 

バスでは俺は1番後の五人座れるところの左側の窓際に座り、その隣に涼風が座っていた。さらに隣にはひふみ先輩、はじめさん、ゆん先輩が座っていて、何やら連想ゲームや後出しジャンケンで負けるという遊びをしていた。俺はずっと外を眺めてたが、途中で涼風に巻き込まれてダウンタウンだとか言われてしまった。意味がわからんぞ!

 

そんなことを思い出しながら箸を進めて、飯を食い終わりそれぞれ部屋に戻る。さて、ここで問題です!俺はキャラデザ班唯一の男であり、イーグルジャンプで唯一の男性社員です!そんな俺に部屋なんてあるのでしょうか!?

 

 

「あるんだなぁ、これが」

 

 

3畳半と少し手狭だが、個人的には十分な広さだ。アパートよりは狭いがそこは仕方ない。別にゲームをするわけじゃない。寝ころべるならそれでいい。あとは戸塚がいれば完璧なのだが…どうこう言ってられないな。

 

 

「とりあえず、風呂でも行くか」

 

 

北海道の旅館といえば、温泉である。てか、旅行といえば露天風呂。これは常識であり摂理である。日本人は風呂好きと世界に言われるくらいに風呂が好きだ。風呂は1日の疲れや汚れを落とす他、温かいお湯に浸かることでリラックスする効果もあるらしい。さらに天然の温泉や入浴剤を使えばお肌ツルツル、血の巡りも良くなったりといいことばかりなのだそうだ。

 

 

部屋にも風呂は付いてるのだが折角ここまで来たのだ。やっぱり、露天風呂に入りたいよね!ここの温泉の効能はなんだろうかと眺めていると、後ろから八神さんと遠山さんに声をかけられる。

 

 

「あれ?八幡もお風呂?」

 

 

「比企谷くん男の子1人だから寂しいんじゃない?」

 

 

「いや、そんなことないですよ」

 

確かに男1人の社員旅行というのは心苦しく寂しいと思われそうだがそんなことは無い。だって、いつも1人だしな。中学の時はクラスで15分間の入浴時間があったが居心地が悪くてすぐに出た。高校の時は戸部の告白の手伝いとかで部屋風呂で済ませてるからなぁ…。戸塚とお風呂入れなくて無念である。

 

 

「まぁ、いいや。じゃあね、八幡覗かないでよ〜」

 

 

「もう!コウちゃん!」

 

 

いたずらっぽく笑う八神さんに遠山さんが顔を赤らめて諌める。うむ、相変わらず仲いいな。俺もああいう友達が欲しいと思ってた時期があったなぁ。材木座?誰だよ知らねぇやつだな。

 

 

###

 

 

二日目。昨日は風呂に入って出てすること無かったからすぐに寝ました。だから、俺は元気です。

起きてカーテンを開けるとそこに広がるのはまっしろわーるど!ここにならウルクススかベリオロスがいてもおかしくないなそれくらいに銀世界が広がっている。

 

 

 

朝食のため男女共用の食堂に移動する。大きなあくびをしながら、廊下を歩く。どうでもいいが、男湯と女湯って壁が薄いのかちょっと大きな声で喋られると声が聞こえちゃうんだよね。だから、『りん、またおっきくなったんじゃないの?』とか『もう!そんなことないわよ…。』みたいな会話が聞こえてきたりした。うん、尊い。怒るあたり図星なんだろうな。

 

 

 

「あ、おはよう八幡」

 

「おはようさん」

 

「……おはよう」

 

行くとまだ全員揃っていないのかいたのははじめさんとゆん先輩、そしてひふみ先輩だけだった。

 

「おはようございます」

 

挨拶を返して椅子に座ると涼風と八神さん、遠山さんがやってくる。

 

「皆さんおはようございます!」

 

「お待たせー」

 

「おはよう」

 

それぞれ挨拶を返すと朝ごはんが運ばれてくる。白ご飯に味噌汁、漬物と鮎の塩焼きと和食一式である。うむ、上手い。そういえばエゾノーは漁業やってないんだっけか?てか、エゾノーってあんのかな。そんなことを考えながら食べていると今日の過ごし方の話題になった。

 

「えー二人ともスキー行かないんですか?もったいない!」

 

まぁ、スキー場来たんだからスキーするのは当然といえば当然なのかもしれないが、涼風は運動できないし仕方が無いだろう。八神さんは…顔が赤い気がするがもしかしたら熱か?

 

「私、スキー滑れないので…」

 

「私はまぁ、気分」

 

二人が口々に言うとはじめさんは納得のいかないという顔をしている。だが、すぐに「遠山さんは?」と尋ねる。

 

「私も……やめておくわ」

 

「りんは滑れるんだから行けばいいのに」

 

「……私はコウちゃんと違って忙しいの」

 

「ひど!」

 

何このムズ痒いラブコメみたいなの。遠山さんも素直に八神さんと一緒にいたいからと言えばいいのに…。

 

「八幡は?」

 

「俺は滑りますよ」

 

スキーじゃなくてスノボーですけど。いや、マリオスポーツやってたらしたくなることってあるよね?それに中学生の頃、冬のスポーツ合宿とかいうよくわからんのに小町といったおかげでスキーとスノボー、そして雪合戦は極めている。もう東京オリンピックの予選には出れるくらい。

 

「…八神さん、朝ごはん朝ごはんって言ってたわりにはあまり食べてないですね」

 

涼風に言われて気付いたのか八神さんは「え…?」と気の抜けたような声を出す。見てみればご飯を1口ほどしか食べていなかった。

 

「ああ…なんだろ、食欲がなくなってきちゃって…ちょっと水とってくる」

 

そう言うと八神さんはふらっと危ない感じに立ち上がり、コップを掴めず、そのコップはパリン!と床に落ちてガラスの破片を飛び散らせる。騒ぎを聞きつけた従業員はすぐにちりとりとほうきを持ってきて対処にあたる。

 

「すみません…」

 

「ちょっとコウちゃん!」

 

八神さんが細々とした声で謝罪するとガタッと遠山さんが立ち上がり、八神さんの額に手を当てる。

 

「……やっぱり少し熱がある」「これくらいたいしたことないって」

 

「いつもそうでしょ?今日はおとなしく寝てよう?あと数日あるのに風邪で潰す気?」

 

「りんがそう言うなら……わかった」

 

「青葉ごめん、うつすといけないから今日は別行動で」

 

そう言って八神さんは遠山さんに支えながら食堂をあとにする。うむ、この味噌汁美味いな。

 

「じゃあ私もスキー場に行くくらいはしようかな…」

 

涼風がそう口にするともぐもぐと静かにパンを食べていたひふみ先輩が「!」と反応を示して涼風の肩をポンポンと軽く叩く。てか、洋食もあったのね。

 

「あおば……ひゃん!わ、わたひが…スキー…おひえてあげる!」

 

ひふみ先輩は口にものを含めながら喋るが、ちゃんと噛めよ……とどっかのナメック星人に言われてそうな気がする。いや、ほんとうに行儀が悪いからやめといた方がいいですよ?まぁ、可愛いから全然いいんですけどね!

 

朝食を終えて待ちに待ったスキー場である。スキーウェアはレンタルできるので着替えると俺はすぐさまゲレンデに出てスノーボードを借りる。

 

そして、上に上がろうとリフトを待っている時だ。後ろからカチャっと背中に銃口を突きつけられる。こんなことをしてくるのはあの人しかいない。

 

「……なんですか」

 

「おや、ノリが悪いですね。何かあったのですか?」

 

「いや、こんなとこで出してて勘違いされて捕まったらどうするんですか……」

 

「……それもそうですね」

 

背中の重みが消えてうみこさんはモデルガンをポケットにしまうと

俺の隣に並ぶ。それって標準装備なのか……と思っていると俺の手に持ってるスノボに気付いたのか、これを指指す。

 

「比企谷さんはスノーボードなんですね」

 

「まぁ、スキーより好きですからね」

 

言ってから気付いたが地味にダジャレだなこれ。そう思って恐る恐る横に振り向くとゴミを見るような目を向けられていた。

 

「……シャレですか?」

 

「すみません」

 

まぁ、俺との会話なんてこんなものだ。楽しくもなければ面白くもない。ただ暇つぶしとしては丁度いいのだろう。リフトが来たので座ると隣にうみこさんも座る。リフトは上にのぼっていく。あれだよな、ロープウェイって上に行くから上なら下に行くならロープシタァなんだろうなとかそんなつまらないことを考えてしまう。

 

「比企谷さんはお好きな女性はいるのですか?」

 

「え?……あー強いて言うなら妹ですかね」

 

「シスコン?」

 

「いや、違いますよ!」

 

ほら、妹さえいればいいとか言うじゃん?つまりは妹さえいればこの世界生きていけるってことだな!どういうことだよ!

 

「では、特にはいないということですか?」

 

「まぁ、そうですね……なんでそんなことを?」

 

「いえ、興味本位です。気にしないでください」

 

なんだろう。気にしないでって言われると気になっちゃうよね。これが吊り橋効果ならぬリフト効果か。好きな人は特にいないが、こう綺麗な人や可愛い女の人に好きな人がいるかと聞かれると「え、もしかして俺のこと……」とか考えちゃうよな。で、それどこの中学生の俺?

 

軽くトラウマを思い出して傷ついていると上の方まで来たらしく、危なげなく降りる。ここで降りれずに二周目に行ったり、上級者コースに行ったりする人がいるらしいが俺はそんなヘマはしない。

 

「では、私はお先に」

 

うみこさんはまるで風のように滑ってのぼってきた場所から一気に下に下っていく。そんな後ろ姿を見て俺も行くかと準備しているとソリに乗ったはじめさんとゆん先輩が上級者コースから降りてくる。

 

「やっほーいぃぃ」

 

「早い!早い!あかん!早い!死ぬぅ!」

 

タノシソウダナー。にしてもあの二人はスキー組じゃなかったけ?はじめさんがスキーできるからとゆん先輩に教えていた気がするんだが。

 

さてと、俺も滑るとするか。ボードにのって勢いをつけるため片足で雪を蹴る。すると、傾斜をスゥーっと滑り始める。まだだ!こんなものじゃない!これが俺が向こう側で得た力か?だが足りない、足りないぞ!!俺に足りないもの、それは情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!そして何よりも __

 

「速 さ が 足 り な い !!」

 

そう言いながら空中トリックを決めて着地するとそれを見ていた人たちから拍手喝采が起こる。

 

「すごいですね」

 

「タオパイパイかよ…」

 

「よう、あんなんできんなぁ…」

 

と先ほど見かけた三人が近づいてきて俺の特技を見て感嘆の声を漏らす。いや、タオパイパイは空中トリックはできませんから、俺の方が一枚上手ですよ。

 

「ど、い、て、ぇ〜!!!」

 

上から大声がしたので振り返ると雪の上を全速前進で滑り降りてくる涼風がいた。俺は避けようと足を動かそうとしたのだが、時既に遅かったようだ。

 

「のぉぉぉ!!?」

 

俺にぶつかった涼風はそこで尻餅をついて停止するが、俺は吹き飛ばされる。そう、これが我が逃走経路だぁー!!と飛んでいく吸血鬼のような飛び方だ。しかし、飛んでいった方向には運良く雪が溜まっており、それがクッションとなり大事には至らなかった。

 

「八幡!大丈夫!?」

 

「……大丈夫…?」

 

すぐに救助にきたはじめさんとひふみ先輩に引っ張り出されて、俺はふらふらになりながらよたよたと這い出てくる。

 

「なんとか…」

 

「比企谷くんごめん!大丈夫?」

 

死んでもないし、痛いところもないから大丈夫だが、もう少し反省させてやろう。

 

「くっ!どうやら今ので腰が…!」

 

「そんな!」

 

「どれどれ見せてください」

 

「へ?」

 

腰を?今ここで?こんな寒い中で?

 

「当然です。もし、骨に異常をきたしていたらどうするんですか」

 

あ、これはガチトーンだ。しかも、涼風泣き出したし……と、とても嘘とは言えない。いや、まだなんとかなる。

 

「……あれ、あ、思ったより大丈夫そうです。でも、痛みが引くまでちょっと休んでます」

 

俺がそう言うとみんなは散り散りになるのだが、涼風だけは責任を感じてか俺の隣にチョコンと座っている。

 

「……気にすんなよ。ほらよくあることだろ、多分」

 

「……」

 

普段よく喋ってるやつが静かにしてると気まずいんだよな…。ちなみに俺の知ってる同人誌ではこういう状況で男が胸を揉ませろとか言ってそのままあんなこといいなできたらいいなになるのだが……。

 

さすがにこいつとこんな場所でそんなことになるわけにはいかないし、二人とも未成年だ。まぁ、結婚できる歳ではあるが。俺は適当に雪をかき集めてそれを玉にすると涼風の顔に投げつける。

 

「冷たっ!!?何するの!!」

 

当てられた雪を払ってでてきた顔は先ほどのような沈んだ顔ではなく、顔を赤らめて少し怒った顔だった。

 

「いつまでも暗い顔してるから頭を冷やしてやろうと思ったんだよ」

 

「ずっと冷えてたよ!…この…えいっ!」

 

今度は涼風から雪玉が飛んできてそれは俺の顔にクリーンヒットし、顔をプルプルして雪を弾くと涼風はニヤニヤ顔になっている。

 

「ふふーん、さっきのお返しだよ!」

 

「やりやがったな…!」

 

そんなこんなで風邪ひいたり、それを看病する人がいたり、スキーを楽しむ者がいたりがいたり、そりに乗って傾斜を滑ったり、雪合戦を楽しんだりと。それぞれがこの旅行を楽しんでいる。

 

俺達、イーグルジャンプの社員旅行は始まったばかりだ。

 






オリキャラは死んだ(オールフェーンズ)


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比企谷八幡は暇を持て余す。



オリキャラが死んだ!


 

北海道といえばカニである。誰がなんと言おうとカニだ。千葉県といえば落花生とMAXコーヒーというようにそれは絶対揺るがないし、それこそが俺のジャスティス。

 

「う~ん!美味しい!」

 

「美味い」

 

「……うん……美味しい……」

 

ひふみ先輩と涼風に声をかけられて今はカニ料理専門店に来ている。あれだよな、人間って本当に美味いもん食べたら「美味い」しかでてこないよな。それか笑顔。

 

 

「比企谷くんはさ、旅館に帰ったらどうするの?」

 

 

涼風がカニの甲殻を丁寧に剥ぎながら、俺に尋ねる。

 

 

「まぁ、特に決まってないけど多分風呂だな」

 

「……私達も……お風呂……行こっか……」

 

「はい!」

 

 

ひふみ先輩と涼風が風呂……うーんたわわとした感じがたまらんな。凸凹コンビというかなんというか。いや、どこがとは言わないけどな。

 

 

にしてもカニは美味いな。しかし、こういう店では日本茶とか日本酒とかの「和」を重んじる感じがしていたのだが、出てきたのはソーダである。まぁ、美味いな。マスオさんならびゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛と叫んでいるだろう。

 

 

「はぁ~美味しかった~」

 

「…そう…だね」

 

 

温泉宿の浴衣というのは湯冷めしないように保温性やら保湿性が高いらしいがそれが返って俺の視線を迷わせる。2人ともスキーをしてから1度風呂に入ったのか身体が火照った感じがしていてなんかエロい。

 

こういう社員旅行ではトラブルが起きないのは鉄則であり、例えば酔っ払った勢いで…なんてことは現実では存在しない。そもそも、俺は飲めないし居酒屋には行かないからな。……平塚先生に会う可能性があるからな。

 

社員旅行というのは修学旅行と違って騒ぎさえ起こさなければ、自由に動いていいらしく、それぞれ自由行動を取っている。さきほども俺はカニを食いにいってたわけで旅館に戻ってくると、大浴場へと向かう。

 

 

先ほど、ひふみ先輩から聞いた話だが。旅館には宿泊料金とは別にお金を払うことで風呂場を貸し切ることができるらしい。その話を聞いた時はまさか誘われるのかと思ったがそんなことは無かった。悲しい。でも、これでいい気がする。

 

 

脱衣して戸を開けると俺以外に誰もおらず貸切状態になっていた。今なら泳いでも怒られないがそんな涼風みたいな子供っぽいことしない。身体を軽く洗い流して湯に浸かると一日の疲れが抜けていく。まぁ、涼風と雪合戦してただけなんだけどね。ぼうっとしてたら眠くなってきた。

 

 

 

……ここで寝たら逆上せるな。そう思って風呂から出て石段に座って足だけ湯につける。こうしてると血行が良くなる気がする。調べたことないから分からんが、足湯は健康にはいいとか聞いたことがある。

 

 

「このっ!いい加減に名前で呼べっ!バカは……ん!このっ!」

 

 

「あ、青葉ちゃん……?」

 

 

「なんで先輩はみんな名前なのに私だけ……なの!?このっ!」

 

 

 

早くも逆上せてきたのか、幻聴が聞こえてきたぞ…。そういえば、涼風とひふみ先輩も入ってるのか。じゃあ、これは幻聴じゃないのか。壁越しだから途切れ途切れしか聞こえないが、誰かさんが涼風に恨まれてるらしいな。怖い怖い。

 

 

「あ、青葉ちゃんが呼べば呼んでくれるんじゃないのかな……?」

 

 

「そんなわけないですよ!あれは絶対呼びませんよ!もうこのッ!」

 

 

あいつ酒でも飲んだのか?ひふみ先輩も大変だな。

これ以上いたらほんとに逆上せそうだ。さっさと出よ。温泉に置いてあるシャンプーで頭を洗い、石鹸で身体の汚れを落としたあと俺はすぐさま風呂を出た。

 

 

 

 

 

頭をドライヤーで乾かし、番台のおばさんからコーヒー牛乳を買って一息つく。温泉はあまり来ないがこういうのは憧れだったのだ。出来れば裸で飲み干したかったがそれは子供が出来るまで取っておこう。てか、結婚出来るのかな。

 

それにしても、部屋に戻っても暇だしどうするかな。こういう時に男1人ってのはすることがなくて困るな…。旅館内をぶらぶらするか、外に出て買い食いでもしようか。マッ缶を1本しか持ってこなかったのは失敗だったな。

 

 

「お兄ちゃん、暇なら旅館の中にゲームセンターあるからそこ行きねぇ」

 

 

ずっと暇そうにここに佇む俺に番台のおばちゃんがそう言ってくれる。俺はその言葉に従うように足を進めた。行ってみると思ったより広く人も多い。卓球もあったけどこっちの方が暇つぶしには丁度いいだろう。な、に、をしようかなと財布から出した百円で1人キャッチボールをしていると涼風達が〇リオカートをしていた。

 

 

「やったね!」

 

「……負けない…!」

 

「ちょ!青葉ちゃんさっきから何してんの!?」

 

「このコース曲がりきれませんよ~!」

 

 

はじめさんが全速前進でぶっちぎりの1位に思えたが後ろからアイテムを使って2位に接近しているひふみ先輩。そして、かなり後ろの方でのろのろ進んでいるゆん先輩とドリフトを知らないのかそれが使えずカーブで落っこちる涼風。うん、これDVDにしたら売れるんじゃないかな。

 

 

「このゲームでこの篠田はじめに精神的動揺による操作ミスは決してない!」

 

あ、あかんそれ。フラグや。本人は鼻を擦りながら「言ってみたかったんだよね~」と言ってるがその顔を一瞬にして歪む。

 

「あぁ!?」

 

「……ふふ」

 

キノコで加速したひふみ先輩にコース外に弾き出され、はじめさんは信じられないという顔をしていた。それに対してひふみ先輩はにこやかに笑って1位に躍り出る。

 

 

「うわぁぁぁん!また落ちた!!」

 

 

「何やってんの……」

 

 

あっちはあっちで楽しそうにやってんな。レインボーブリッジ、難しいけど慣れたらめちゃくちゃ楽しいからな。それにもうひふみ先輩ゴールしてるし、勝負は決まっただろう。

 

さてと、俺はどうしようかと背を向けた時にどうやら気付かれたらしい。

 

 

「あ、比企谷くんやん」

 

はじめさんがコース外に落ちたことで2位になったゆん先輩がおーいと手を振る。いつもは元気な涼風とはじめさんは意気消沈といった様子だ。

 

「どうしたん?こんなところで」

 

「まぁ、暇だったんでぶらぶらしてただけですよ」

 

「そうなんや。みんなで遊んでんねんけど、どないする?」

 

 

うーん、この道端で犬の糞を踏み潰してしまったような顔をしているのが2人もいる中で遊ぶのはプロぼっちには難しいな。しかも、涼風に関しては親の敵を見るような目で見てくるし。そもそも、遊ぶといっても何をするのかがわからない。ほら、遊ぶと友達って言葉ほど定義が曖昧なものは無い。

 

 

「別に構いませんけど、何するんですか?」

 

 

俺が尋ねるとひふみ先輩がある四角い筐体を指差す。プリパラ?ムシキング?そんなちゃちなもんじゃない。プリント倶楽部だ。略してプリクラ。この人にしては意外なチョイスすぎて俺とゆん先輩が固まっていると、ある2人は乗り気のようだ。

 

 

「いいですね!」

 

「撮ろう撮ろう!」

 

 

先ほどのトラウマを払拭したいのか若干荒ぶってるようにも見える。プリクラか。そういえば、戸塚となんかでかいのと撮ったくらいだな。俺自体写真に写るのが嫌いというのもあるが、あまり縁のないものである。

 

 

「まぁ、たまにはええか」

 

2人のはしゃぎ具合を見てゆん先輩は微笑む。……このパターンだと俺も写ることになりそうだな。別にいいのだがこんな美少女に囲まれて写真を撮るというのはどうなのだろうか。

 

「比企谷くんも……撮ろ……?」

 

 

撮りますよね。あんな上目遣いで言われて撮らない男子は女に興味がない人でしょうね。

 

「うわ、思ったより狭いね」

 

「椅子あるからちゃう?」

 

「どかせられないんですかね」

 

プリクラとかバリバリ撮ってそうなイケイケ系女子3人が筐体に文句をつけてるとひふみ先輩がポチポチと画面を操作する。

 

 

「意外ですね、こういうの慣れてないと思ってたんですけど」

 

「…コスプレ…してる時……たまに……撮るから……」

 

あぁ、そうか。ってなぜそうなった。まぁ、プリクラにそんな使い方があるとは俺もまた活用しよう。多分しないけど。

 

「ひふみ先輩、もうちょっと後ろじゃないと映りませんよ」

 

「はじめが邪魔なんやろ」

 

「そんなことないよ!」

 

「あっ!もうそろそろですよ!」

 

「……はい、……チーズ……」

 

4人の可愛らしい女の子達の真ん中に写った目の腐った男子。

 

もし、この1枚を見て俺が思うことがあるのだとしたら。

 

 

それはなんで俺はこんなに美少女に囲まれて無愛想にしてるの?くらいであろう。これを小町へのおみやげにすれば喜ぶだろうが、俺はそっと財布の中に閉まっておいた






手直し楽しい


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比企谷八幡は努力を肯定する。

学校始まったんで投稿ペース落ちますというのを活動報告で出させていただきました。他にも一つ書いてるのがあるので多分週に1本くらいでしょうか。まぁ、活動報告などで連絡する他、Twitterと呼ばれるSNSを始めましたのでそちらで随時現状を報告させていただきます。

名前は「通りすがりの魔術師」
アイコンは魔術師です。あえて、IDは伏せます。
自力で見つけてください(辛辣)



楽しい楽しい社員旅行が終われば仕事だ。もう1度言う。仕事だ。英語で言うとwork!となるのだが、特に意味は変わらないし、現実からは逃れられない。

 

 

北海道から東京の自宅に帰る。なんで千葉住みじゃないのとか言われそうだから言っとくけど、イーグルジャンプは東京にあるのだ。旅行の疲れを取るため、1日の休暇を貰って体力フルスロットルになった状態で仕事に向かう。

 

 

よぉ、5年ぶりだな……。正確には5日ぶりなのだが。机に積まれているマッ缶が懐かしいぜ。

自分の椅子に座ると不思議と喜びを感じる。すっかりこの会社に染まってきたのかもしれない。いや、社畜適性が高いだけだな。社畜してやる……この机から1枚残らず…!

 

マッ缶をちびちび飲んでテンションをあげつつ、さっきもらった書類に目を通そうと手に取ると涼風に声をかけられる。

 

 

「比企谷君、とうとうキャラコンペだね!」

 

 

「あーそうだな」

 

 

あげる相手もいないのにお土産に買ったクッキーを食べていると社員旅行2日目に熱を出してお嫁さん(遠山さん)に看病してもらったおかげで夜には回復したのに、なにやらお酒に強いうみこさんに負けじと飲みすぎて二日酔いでダウンしていた八神さんがやって来る。

 

 

「葉月さん達、企画班が作ったその企画書を読んでからイメージを膨らませてね」

 

 

昨日の休みに風邪も二日酔いも完全に消え去ったのか、その顔には疲れや気だるさなどは見られない。そこにはじめさんが椅子のタイヤで移動してくる。

 

 

「私のアイデアも入れてもらってるんだ~」

 

 

ちょっとだけだけど、と頬を掻きながら付け足すと「すごい!」と涼風が反応する。それに対してゆん先輩の反応は消極的だ。

 

 

「え…じゃあ、企画班に…?」

 

 

「ううん、モーションも続けるよ。どっちもやるんだ!」

 

 

なにやら焦りを見せるゆん先輩に対してはじめさんは笑顔で答える。

 

 

「へ、へー。すごいなぁ……」

 

 

「私も応援してます!」

 

 

「へへへ、ありがとう」

 

 

照れながらはじめさんは鼻の下を擦ると俺の方に向き直る。

 

 

「八幡も応援してよね!」

 

 

「……まぁ、そりゃしますよ」

 

 

本気で頑張ろうとしてる人にせいぜい頑張れとか言う気は無いし、そもそも言えるような立場じゃない。だが、この気合いが空回りするなんてこともあるかもしれない。

 

 

 

そんな心配を抱えながら企画書をペラペラとめくって読んでいく。なになに…ダンジョンごとにステージをクリアして進行するアクションゲームか。しかし、どこを見ても世界観が書いていないため疑問に思って口にしてみると返してくれたのは八神さんだ。

 

 

「今回はこの仕様にそったバトルができるデザインなら自由みたいだよ」

 

 

「そ、それは、いわゆる丸投げってやつですか?」

 

 

涼風が神妙な顔で言うと八神さんの顔は少しばかり呆れた様子だ。

 

 

「私たちを信頼してるんだよ」

 

 

まぁ、そりゃ八神さんはフェアリーズストーリーのメインやってたし実績は充分、ひふみ先輩とゆん先輩は俺達よりも経験も実力があるし、涼風も後半のNPCの村人は1発OKになっていたし信頼に足るものはあるだろう。俺はどうかは知らんが。

 

「とりあえず第一回コンペは1週間後。参加希望者は描いてきてね」

 

 

「はい!」「うぃっす」

 

 

涼風は元気だなぁ……そう思いながら再び書類に目を向ける。えっと、ダンジョンクリア方法はダンジョン内にいるモンスターや動物を吸収することでそれぞれの特殊能力を発揮する……なんかピンク色の丸い食いしん坊といいやつに生まれ変われよ!またな!で消されたピンク色の魔人が出てきたんだが…。

 

 

まぁ、とりあえずそいつらに似ても似つかないキャラをメモっておこう。何かの参考になるかもしれない……多分。というか、別に無理に出る必要もないじゃないだろうか。

 

 

「ゆんさんは出るんですか?」

 

 

「え、私?」

 

 

聞かれたゆん先輩は自分を指差し首を傾げると苦笑いを浮かべる。

 

 

「私そんなうまくないし、落ちるの目に見えとるからやめとくわ」

 

 

やはり、無理に出る必要はないらしい。ひふみ先輩はどうなのだろうと思って椅子を回転させる。

 

 

「ひふみ先輩はコンペ参加するんですか?」

 

 

「私3Dに…専念したいから…だから2人のデザイン…たのしみにしてる…!」

 

 

何気なく聞いたのに、割とマジで返されたうえに応援されちゃってるよ俺。というか、可愛い女子の頑張れと応援する時に胸の前で手をグッとする仕草の破壊力は異常。

 

 

「比企谷君はやっぱり参加するんだ」

 

 

「一回くらいは出ておいた方がいいだろ」

 

 

それにやることなくて暇だしな。3DCGの練習ばかりしててもつまらないというか、息抜きにこういうことをしてもいいかもしれん。決してひふみ先輩に応援されたからとかそんなんじゃない。少しはあるかもしれないが。

 

 

実績がなければ査定が上がらないというのが一番の理由だ。まぁ、1年目だからそんなに高くはならないが、塵も積もればなんとやらだ。努力することに関しては否定はしないが、肯定もしない。努力して成功しなかったらいたたまれないからな。程々に自分ができる程度にが最もベストな選択だ。だから、俺は自分に出来る精一杯をやろうと思う。

 

 

さて、何をしようか。

想像するのは常に最強の自分。解き放て。誉ある自分。

そうやって自分の集中力を高めながら、俺はコンペに向けてパワーポイントを作り始めた。

 

###

 

 

コンペ当日。なんだか字面にするとコミケ当日に見えるな不思議。とかそんな変な考えができるくらいには緊張はしていない。今はPowerPointを使って名前も知らない女性社員がプレゼンをしているのだが、動物やモンスターだけでなく野菜や植物吸収するのはどうかという案を出す。その意見は葉月さんにも好感を持たせたようで「いいね」と呟かせていた。

 

 

つぎは誰もが期待し待ち望んだであろう八神さんのターンだ。八神さんはスクリーンではなくホワイトボードに手書きで描いたイラストを貼っていくと1枚1枚丁寧にコンセプトやどんなキャラかを説明していく。

 

 

「……といった感じでファンタジーよりにしてみました」

 

 

「相変わらず素晴らしいね、八神さんの絵は。大好き」

 

 

説明を終えると八神さんは葉月さんを見つめ、感触はどうかという目線を送る。求められた葉月さんは笑顔を向ける。だが、「でもね」と先ほどの感想とはうって変わった意見を述べる。

 

 

「これだとフェアリーズと世界が同じだよ。八神にはもっと自分の世界を広げて欲しい」

 

 

「え…じゃあ全部ダメ……?」

 

 

「もったいないけど…自由に描いてもらってるからこそもっと遊んでほしいんだ。それに……」

 

 

あれでダメとは随分厳しいというか、それだけ八神さんに期待していた…ということでもあるのだろう。まぁ、どんなコンセプトになろうがおそらくあの人がメインをやりそうだが。

 

 

「つぎは涼風くん」

 

 

 

呼ばれた本人は緊張しているからか落ち着きのない様子で前に出ると「よ、よろしくおねがいしますっ!」とお辞儀した時に持っていた紙をばら撒くという余興を見せてくれる。それで顔を赤めながら解説する涼風氏。可愛いなおい。見てる限りだと八神さんの影響が強く出ていて、フェアリーズ寄りのイラストだ。一つを除いて。

 

 

葉月さんが見せたのは涼風の使っているくまの寝袋に包まれた人間が「ガオー」と遠吠えをあげている絵だ。それを見た涼風はまたもや恥ずかしそうな声を上げる。

 

 

「…?わあああ!すみません!それ私の寝袋を元に描いたものでラクガキというかでも面白いかなって」

 

 

「なるほどね、確かに面白い。というかこれじゃあキャラが吸収されてるよね……でも、うん。決めたこの方向で行こう」

 

 

「ですよね……うそ!?」

 

 

「もちろんこのままでは使えないから次のコンペまでにブラッシュアップしてくれるかな?それ次第」

 

 

「は……はい!」

 

 

 

そうして戻ってきた涼風はほっとしたん感じで帰ってくるとメンバーに歓迎され「やったじゃん!」「おめでとう」と激励の言葉をもらっていた。

 

 

「じゃ、最後に比企谷君だね」

 

 

呼ばれてファイルから自分の描いたキャラクター達をホワイトボードに磁石で貼り付け、前を向く。そういえば、こうやって大勢に前に立つのは教卓に立たされて謝罪をさせられた時以来だな。今でもトラウマだし、あいつらは絶対に許さない。

 

 

にしても、ここから見る景色というのは人の顔がよく見える。このコンペには出ていないが、俺が世話になってる先輩3人からの「どんなものを見せてくるんだ」という眼差し。

自分の絵が否定され自分を尊敬している後輩が褒められたのを見てどう声をかければいいかわからない複雑な表情。

ちょっとした気持ちで描いたものが選ばれて喜びを顕にする者。

 

 

 

 

「では、始めさせていただきます。まず、自分が描いたのは3枚だけです」

 

 

「……」

 

 

指を3本立てて右手に持ったクリアファイルでそれぞれ貼った紙を指す。

 

 

「まず最初にコンセプトを聞いた時に思い浮かんだ単純なやつです。ベースが対象を吸収してベースが対象のイメージを引き継ぐ……二つ目は先ほどの涼風に似たヤツです。ベースが対象に吸収されるケース。これはコンセプトを逆説的に考えた結果です」

 

 

そこまで言って聴いてる人たちの反応を窺うと、これまでに出た意見ということもあってパッとしない感じだ。まぁ、だいたい予想はできていたが。

 

 

興味を少しでも誘うため、間をゆっくり開ける。そして、誰かが「最後は?」と口を開こうとした瞬間だ。そこで俺が決めてやればいい。

 

 

「……最後に吸収したものとは別にストックというのを用意してみました」

 

 

「ふむ…どういうことかな?」

 

 

「多分、皆さんが出した意見って一つの対象しか吸収できないと思うんですよ。それだと途中で効果が切れたら危ういと思うんですよ。だから、危険に備えるために予備で小さくするか飴みたいなものを食べれば1度だけ特殊な能力が使えるみたいなものがあってもいいと思ったんです」

 

 

「なるほどね、それなら野菜や植物が活きてくるね…よし。次までにもう少し具体的にしてみて、涼風くんと一緒に」

 

 

「はい」

 

 

俺は頭を下げるとその場から離れて元居た端っこに移動する。すると、はじめさんやゆん先輩が近づいてして「おめでとう」と賛辞の言葉をくれる。俺もそれに会釈して答えると葉月さんがマイクをとって椅子から立ち上がる。

 

 

 

「それじゃあ、第一回コンペは終了。第二回は来週。私から指示があった者はそれを。新たに参加したくなった者も自由だからよろしく」

 

 

 

葉月さんが解散と言うと、それぞれ散り散りになっていき皆、それぞれのブースに帰っていく。

 

 

 

そして、俺もこれの調整及び飛躍をさせようと自分のデスクに向かおうとすると、ある2人の背中が目に映った。

 

 

 

「あ、八神さ……」

 

 

 

 

「……ん、なに?」

 

 

 

「あ、いやなんでも……」

 

 

 

 

努力と頑張りが実った涼風と期待されてそれに応えようとしたが上手くいかなかった八神さんのそんなやり取りを見て、俺は、呆然と立ち尽くしていた。




5日ぶり→社員旅行が3泊4日、その後1日休みなので5日ぶり。
原作だとコンペは八神さんスタートですがそこはいじってます。
八幡の最後の案は書く前全く出なかったけど、頑張った。それなりに説得力はあると思う。イメージソースは魔人ブウと世界1強い飴玉だったりする。

次回、まぁ、原作でもそれなりにギクシャクあった回を八幡が混ざってもっとギクシャクするかなという回。700文字書いたけどほとんど八幡の独自。明後日には出せるかと。では……


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想いは交錯し、種は実る。

タイトルがよくわからないことになってるけど読めばある程度は納得してくれると信じてます。


第一回コンペ終了後、昼休みを挟んですぐに仕事だ。仕事と言ったら仕事だ。ここではじめさんがマスターアップ前に帰りたいと嘆いた時にひふみ先輩の名言を言っておこう。

 

 

「仕事が終わるまで帰れないよ」

 

 

そうなのだ。仕事が終わるまでは帰れないのだ。しかも、今日の仕事が終わっても明日が、それが終わっても明後日が。そして、それが終わっても……明日があるー明日があるさー。ということである。

 

 

「うーん…難しいよ〜どうやったらよくなるんだろう…」

 

 

先程から俺の前で白い紙に何かしら書こうとしているのだが、イマイチ進んでいない。葉月さんから指示があった俺と涼風は夏にデバッグブースが使っていた空きスペースを使って2人でブラッシュアップもとい情報量の向上に向けて仕事をしていた。

 

 

「比企谷くんは結構進んでるね…」

 

 

「まぁ、俺のは形の問題だからな」

 

 

第3のプランとして出した携帯式特殊能力。まぁ、世界1強い飴玉とか舐めたら世界1強くなれるんじゃね?と考えた結果である。あとは気合だな。ここで松岡修造論を出すあたり俺は太陽神の素質があるかもしれん。

俺の仕事ぶりに何か感じることがあったのか涼風は肘をついて一言呟く。

 

 

「八神さんならなにかアドバイスくれるかな……」

 

 

 

ただの独り言なのか、あるいは俺に対する質問なのか。どちらか考えてはみたが答えを出すよりも早く涼風は立ち上がり、紙を何枚か手に持つ。

 

 

「ううん、気のせいだよ!八神さん優しい人だし!」

 

 

涼風はそう言うと、急ぎ足で俺を残して八神さんのところに行く。

大丈夫かなぁ……心配だなぁ……って何考えてんだ。あれだよな。女の仲に男は不要だよね。そう思って自分の事に集中しようとペンを握るが、その手が不意に止まる。

 

 

「……はぁ」

 

 

……それはこっちのセリフというか俺が取りたい行為だな。ったく、何があったか知らねぇけどそんな泣きそうな顔して戻ってくるなよ。ほんとに知り合いの女子が泣きそうになってるの見るとこっちもギクシャクして腹が痛くなるんだよ。

 

 

 

「……なぁ」

 

 

「…………あ、えっと、どうしたの?」

 

 

声をかけると反応が遅かった。涼風なりに平然を装ってるつもりなんだろうが、目尻に少し涙が溜まってるし目が赤い。こういうのは他人が見ないと気づかないところなんだろうな。……そんなことどうでもいいか。

 

 

「今日定時で帰れるか?」

 

 

「え、いや……でも」

 

 

 

遠慮がちに見るその先にあるのは積まれた白い紙の束。

 

 

「そのままじゃ進めようにも進まないだろ」

 

 

「そうだけど…」

 

 

ああじれったいな。普段前向きなくせにこういう時だけ後ろ向きというか消極的、いやちゃんと仕事しようとしてるあたり前向きなのか。向くべき時と方向を間違ってる気もするが。

 

 

「確かにお前の仕事は進んでいない。が、お前はその心境でこのまま残業して終わらせられるのか?」

 

 

「……それは」

 

 

俯くとその表情は窺えない。だが、肩を震わせてることから何かを堪えてるのはわかった。それが俺に対する怒りなのか、八神さんと一悶着あったからなのかはわからないし、もしかしたら両方なのかもしれない。

 

 

人間生きていれば誰かと対立したり、意見の相違などで揉めることはよくあることだ。極力、人と関わらないようにしていても、避けても逃げても必ず通る道だ。

 

 

学校や会社やご近所付き合いなどの現実でも、ネットやSNSなどの虚構にも、今やどこにでも多くの人がいる。それこそ人と関わらないようにする方法が死ぬしかないくらいだ。

 

 

だが、人と関わるのが嫌だからという理由で死ぬ人間はそうそういないだろう。でも、今まで仲良く接してきた人でも関わりのない人でもよくよく考えたらどうでもいいことで言い争うことは誰にでも1度はあるだろう。

 

 

それで関係が悪化するなり険悪な仲になるということは俺の経験からすると当たり前で、そういう人間ばかりを見てきた。

 

 

涼風と八神さんが対立、何かしらあったとするなら涼風が何か言ったかだろう。八神さんもそこまで器用な人でもおおらかでも偉大でもない。天才だとかキャラ班の期待の星だとか言われていても、ぺちゃぱいで色々とサバサバしてて会社に泊まる時はズボンを脱いで寝るくせに俺が出社する頃にはズボンを履いている人だ。それでいて乙女だ。

そして、打たれ弱い。

 

 

コンペには自信があったのだろう。朝みた時はそんな表情をしていた。だけど、昼休みにはそんな顔をなりを潜め思いつめたような顔で昼食をとっていた。自信があった自分の作品が全否定されればそうなるのは当たり前だ。俺でも流石に会社では平静を保つが家に帰って枕を濡らす自信はある。

 

 

きっと涼風も期待してしまったのだろう。あの八神さんなら全否定された後だからこそ、もっとすごいのを作ってるし、私にアドバイスをくれるだろうと。そんな期待が裏返った時、あいつは何を思ったのか。多分、なんだ八神さんも何もかけてないんだ。とかそんな感じだろう。

 

 

それを口に出したのかは知らんがおそらくは何かしら言われたのであろう。それは俺じゃなくてもわかる。ここに帰ってきてからずっと上の空だし、俺の一言で完全に仕事から意識が途切れてる。

 

 

「疲れた時とか悩んでる時は休憩と糖分が一番だ。ほれ、マッ缶」

 

 

頭にコツンとマッ缶を当てると嗚咽を殺して泣いていたのか、上げられた顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。ポケットからハンカチとティッシュを渡してやると、涼風はさらに涙を流す。しかし、それでも喋る声は上擦ってはいるが表情は自嘲気味なのに綺麗だと思った。

 

 

「私ね……嬉しかったんだ…決定じゃないけどデザインが通って…でも、そしたら八神さんが……そう思ったらなんか…なんか…」

 

目をこすって、鼻をかんで、小さな声で涼風は言うのだ。

 

 

「私が描いてた夢ってこういうことだったのかな………」

 

 

 

涼風の夢は知らんが、夢があるってのはいいことだ。夢があってそれを叶えたい実現させたいと思った人間は努力する。でも、夢が叶うとは限らない。だが、夢のために努力したという経験と結果は残る。それだけでも大きな財産になるはずだ。俺は椅子から立ち上がって涼風の頭を軽く撫でてやると足を進める。向かう場所は決まっている。

 

 

 

 

 

八神さんの様子を遠目から覗いてみるとうわぁ、こっちも涼風と同じ顔だよ。何言ったか知んないけどあれかな?誰彼かまわず、八つ当たりでもしちゃったのかな?まぁ、いいか。とりあえずはこっちにも働きかけて……と思ったが背後から軽く肩を叩かれる。振り向けばいたのは遠山さんだ。

 

 

「ね、比企谷くん。ここは私に任せてくれないかしら」

 

 

「遠山さんが…?」

 

 

「うん、だから比企谷くんは青葉ちゃんのことお願い」

 

 

確かに俺が言うよりは同期の遠山さんが話を聞いてあげる方がいいか。頷くと「ありがとう」と笑顔を向けた遠山さんはどこかに向かって歩いていった八神さんの背中を追いかけていった。

 

 

 

どんなに仲が良くても、喧嘩することや八つ当たりをしてしまうことはあるだろう。それでも、お互いに反省することがあったり、本音をぶつけ合うことで今までよりも良好な関係になった人達も見たことがある。

 

 

だから、問い続けるのだ。正解が出るまで。何度でも。

俺達にはそれができる。そうすることが許されている。

何をどうしたらいいのかなんて関係ない。正しいことなんて人それぞれだ。

 

 

 

いつだってその選択が正しいと思っていても、それは俺だけで、他の人からしたら欺瞞でただの自己満足かもしれないのだ。でも、俺は違うと思う。リスクを侵さずに手に入れられる正解なんておかしい。

 

 

例えば、数学や学校のテストには答えがある。それだけを聞くと素晴らしい。しかし、その正解を導くまでには先人達が自らの時間を割いてまで得ることが出来たように、俺達もまた学ばなければならない。そこに辿り着くまでの過程を説明しなければならない。たった2文字の言葉に秘められた出来事を語らねばならない。そう、勉学に置いても知識を得るというメリットの代わりに時間が奪われているのだ。

 

 

つまり、何かを手に入れるためには何かを奪われる覚悟、捨て去る覚悟が必要なのだ。それで正解が得られるとは限らない。だが、意味が無いということはない。だから、思考したこと試したことは無駄ではないのだ。

 

 

「よっ、元気でたか?」

 

 

 

 

そして、もう1度問い直そう。

 

 

 

「うん…少しは」

 

 

「そうか。だったら、少しは進めるか?」

 

 

「……うん」

 

 

「よし」

 

 

本物を手に入れるために……

 

 

###

 

 

数日後、第二回コンペで涼風が八神さんに意見をもらいながら、どうしてもバランスが取れないところは描いてもらったりしたものがプロト版として採用された。

 

 

 

(おまけ)

 

 

「まんがタイムきららキャラット〜!」

 

 

 

青葉「あ、比企谷くん!コンペ通ったよ!」

 

 

八幡「知ってるよ……おめっとさん」

 

 

コウ「八幡もアドバイスくれたし助かったよ」

 

 

八幡「いや、別にそんなこと……」

 

 

青葉「あるよ!……ところで比企谷くん定時に帰ってどうしようとしてたの?」

 

 

コウ「え?そうなの?それは興味あるな〜」

 

 

八幡「……」

 

 

青葉&コウ「あ!逃げた!」

 

 

りん「まんがタイムきららキャラットは毎月28日発売!芳文社♪」

 

 

ひふみ『私…出番なかった…(ू˃̣̣̣̣̣̣︿˂̣̣̣̣̣̣ ू)』




そんなに重い話にならなくて良かった。あれだね、ほとんど八幡の独自だったね!ほんとは八神さんに胸ぐら掴まれるはずだったのにね!遠山さん流石だね!そこにシビれる憧れるゥ!


とりあえず、八幡が同僚達をどうおもってるかサクッと紹介するぜ!


涼風青葉→同期。席も隣で年齢も同じなので一番話す回数が多い。時々見せる仕草にドキッとする。たまにモノに話しかけてるのを見て引くが、最近は見慣れた様子でスルー。異性としての意識はないことはないが、後輩の面倒を見るのに近い。


篠田はじめ→でかい。揺れる揺れる。アニメの話で盛り上がれる人。ボーイッシュでサバサバした性格故か普段の薄着に視線を困らせることはない。


飯島ゆん→姐御肌の先輩。体重やらを気にしてるのを見て見守っている。スイーツが美味しい店を知ってることからそういう話では意外と盛り上がる。ゴスロリ衣装や森ガールのようなファッションに萌えそうになっている。


滝本ひふみ→可愛い。社外での交流は一番多い。コミュ障だが女神という新ジャンルをもたらした。恋人がいないのはペットがいるからだなと思ってアタックはしてないし、ペットがいなくてもするつもりは無い。

八神コウ→主に本編で述べたとおり。平塚先生以来のギャップ萌えを体験してからたまに平塚先生と性格が被ることがある。仕事が恋人で遠山さんの気持ちに気付いてない鈍感と思っている。あとは良き先輩として尊敬している。


遠山りん→八神さんの嫁。おかん。可愛くてファッションセンスもあり、女子力の塊と思っている。仕事以外で八神さんと話していると大体の確率で話に入ってくる他、昨日は何を話したのか聞かれるのでヤンデレの線があると睨んでいる。


阿波根うみこ→サバゲー仲間。キレさせると怖いし、しつこい。でも、そんなところが可愛い。エピソードで書いてはいないが夏休み中にガルパンについて熱く語り合っている。


葉月しずく→ミステリアス。たまに写真を撮ってくるので消すようにお願いしている。


桜ねね→調子者でトラブルメーカーだが素直なところは評価している。同い年でアニメやゲームの話もできることからメールのやり取りやゲーム買いに行くのに付き添うくらいには仲がいい。




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いつでも、桜ねねはお調子者である。

 

 

コンペも無事に終わり、プロトタイプ版の制作も順調に進んでいる。ということもあって、普通に休みはある。そう、普通に、平然とそれは決まっていたかのように。

 

 

紅葉の季節が終わって葉は朽ちていき、木枯らしが吹いている。寒波とやらはまだ来ていないらしいが、それでもやはり冬とは寒い季節だ。しかし、臨海部に位置していた千葉県に比べればまだ暖かいのかもしれない。

 

 

東京には忠犬ハチ公ならぬ忠鳥ペン公などというものがあり、俺はそこで大きく口を開いてあくびをする。それを手で抑えると、チラリと俺の隣でだんまりと首に巻いているマフラーをいじったりしている人を横目で見る。

 

 

「なんですか」

 

 

「いや、おしゃれだなと」

 

 

カジュアルで柄物のセーターとマフラーに茶色のロングスカートを身にまとったうみこさんだが、相変わらず睨みつけ方が怖い。高校時代にいた三浦とか雪ノ下並に怖い。いや、この人に至ってはハンドガン(モデルガン)所持してるから尚更なんだよな。

 

 

「……そうですか。まぁ、ありがとうございます」

 

 

苦し紛れに褒めたのだが、思いのほか効果はあったようだ。

 

 

「ところで俺はなんで呼ばれたんですかね」

 

 

「どうせ暇かと思いまして」

 

 

なぜだ?最近社内の人の俺の扱いが酷い気がする。いや、高校時代から全然変わってないな。というか、どいつもこいつも俺の休日をなんだと思っているんだか。俺は暇つぶし用の都合の良い人間じゃないのに。もしかしたら、レンタルお兄さんとかそういう仕事の方が向いてるんじゃないかと思える。

 

 

「実は桜さんに呼び出されまして」

 

 

思い浮かぶのはあの無邪気で悪意のない童顔をした女の子だ。悪意はないのだが、幼なじみを心配して来たが逆に心配されたり、喧嘩したり、人様のプリンを食べたり、足元のパソコンのコンセントを足で引っ張って抜いてしまったりと。他にも色々とやらかしているのだが、それは置いておこう。

 

 

 

「はぁ、それでなんで俺が?」

 

 

 

「涼風さんはお仕事だと伝えたらあなたを連れてきてくれと言われまして」

 

 

 

なんでやねん!……はっ、全く理解のできない理由で呼ばれたからつい関西弁で突っ込んでしまった。あんなエセ関西弁を使っていいのはのんたんだけだし、浪速の名探偵に怒られてしまう。

 

 

「理不尽通り越して意味不明すぎませんかね」

 

 

「まぁ、桜さんですから」

 

 

 

なんでだろう…不思議と納得してしまった。

で、俺をそのよくわからない理由で呼んだ張本人は木の裏に隠れて何してんだか。

 

 

ここからかなり距離があるがつば付きのニット帽と子供が着てそうなコートを羽織った桜は単眼鏡でこちらの様子を伺っているようだが、俺とうみこさんが目線だけそちらに向けるとビクッと肩を跳ね上がらせて体を隠す。

 

 

それを見計らったかのようにうみこさんは携帯に取り出して即座にその場を離れる。俺は囮としてここに残っていよう。案の定、桜は再び単眼鏡で俺だけしかいないことに困惑した後、暗殺者(うみこさん)からの電話を受けてビクビクしてた。その後、うみこさんにあしらわれて頬を指ピストルで撃ち抜かれていた。

 

 

 

###

 

 

何やらあったが桜と合流できた俺達は近くのファミレスへと入る。禁煙席のテーブル席に座るとメニュー表をとり、各々デザートを注文すると数分後に店員さんが運んできてくれた。

 

 

桜はジャンボパフェ、うみこさんは白玉あんみつ、俺はコーヒーゼリーとそれぞれカオスなものを目の前に置く。

 

 

「うまうま」

 

 

「相変わらずですね」

 

 

桜が一口美味しそうに頬張るとうみこさんが呆れたように口を開く。

 

 

「どういう意味ですか!あ、でも白玉あんみつも美味しそう」

 

 

「食べますか?」

 

 

「いいの!?」

 

 

「じゃあ、あーん」

 

 

「……」

 

 

桜が大きく口を開けると、早く早くとうみこさんの白玉あんみつを待っている。俺はチビチビとゼリーを食べながらその様子を見守っている。だが、うみこさんはスプーンで掬ったあんみつをどうしようかと戸惑っていた。

 

 

「まぁ…動物にエサをやってると思えばいいんじゃないですかね」

 

 

俺が小声で囁くように言うと、うみこさんは「あぁ、なるほど」と手に持っていたスプーンを桜の口に運ぶ。

 

 

「うまうま…じゃあお返し!」

 

 

「わたしは結構です」

 

 

「えー……じゃあ、八幡は?」

 

 

なんかその振り方腹立つからやめてくれないかな。

 

 

「いや、俺も遠慮しとく」

 

 

「ちぇー……あ、もしかして2人とも照れてるの?」

 

 

「照れてないですよ」「照れてねぇよ」

 

 

桜の質問に同時に答えるとどうにも話しづらくなる。

それを見かねた桜はニヤニヤと口角を釣り上げる。

 

 

「ふ〜〜〜ん」

 

 

「わかりました食べますよ!」

 

 

「じゃあ、あーん」

 

 

と、桜がスプーンを突き出すとうみこさんは若干頬を赤らめながら口を前に出すのだが。

 

 

「なーんちゃってあげなーい!」

 

 

そうやって桜がそれをぱくと食べるとうみこさんの顔が般若のようになって、さらには恐ろしくゴゴゴゴという幻聴まで聞こえてくる。それを見た俺は慌てて桜からスプーンを奪い取り、パフェのクリームとアイスの部分を掬うとうみこさんの口に突っ込む。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

どうだ……?と死亡フラグビンビンの発言を心でしてみるが、思ったよりは満足してもらえたらしく何も言わずに口元をナプキンで拭いていた。

 

 

「で、今日は用事ってなんですか?」

 

 

「そうそう、俺まで呼びやがって」

 

 

「え、うーん…えっと…笑わない?」

 

 

遠慮がちに顔を逸らして言われると、俺とうみこさんは顔を合わせる。

 

 

「場合によっては」

 

「まぁ、笑うかもな」

 

 

「2人ともいじわる!」

 

 

桜が膨れっ面になるとうみこさんは呆れたのかため息を吐くと席から立ち上がろうとする。それを桜が慌てて制す。

 

 

「あ!ちょっと!んーと…プログラムでわからないことがあったんだけど、調べてたら解決したから特に用もなくなっちゃって」

 

 

「へー桜がプログラム?何か作ってるのか?」

 

 

俺が興味本位で聞いてみると「見る!?」と桜はその言葉を待っていた!と言わんばかりの反応を示す。その反応に納得したかのように鼻で笑ううみこさん。

 

 

「フッ、ああ、それでモジモジしてたんですか」

 

 

「だから笑わないでって言ったの!」

 

 

そう言うと桜はカバンからノートパソコンを出してすぐに起動させるとカタカタとキーボードに何やら打ち込み、画面をこちらに向ける。

 

 

そこに写っていたの棒人間ではないがかなり簡略された騎士と馬、敵っぽい豚が写っていた。あとは樽や斧、そしておにぎり。

 

 

「こ、これは…凄い絵ですね」

 

 

「なんでおにぎりなんだ…?」

 

 

「しょうがないじゃん、絵描けないんだもん!!」

 

 

それは仕方ないがフリー素材とかあるだろ…そう言おうと思ったのだが、桜がキーボードを叩くと絵は動き出す。ジャンプはするし、攻撃もできるし、正直すごいなと思ったのだが急に動きが止まる。

 

 

「また止まっちゃった!」

 

 

「問題解決してないじゃないですか」

 

 

「前はそもそも起動しなかったりだし…でも動く時はずっと動くんだけど…」

 

 

 

「はぁ」

 

 

うみこさんはそう言うと俺の隣から向かい側の桜の隣に移動するとパソコンのキーボードを操作する。

 

 

「…ほら、ここわかりますか?」

 

 

「あ!同じ処理を何度もしてたんだ…なるほど、さすがプロ!」

 

 

「……プログラムは楽しいですか?」

 

 

うみこさんがそう尋ねると、桜は難しそうな顔をする。わからないし、難しい。そう口にした桜だが、涼風の気持ちはわかったらしい。

 

 

「絵とは違うけどこうやって形になってくって面白いし、あとバグみつからないでーっていうプログラマーの気持ちもちょっとわかった」

 

 

 

「わからずデバッグしてたのかよ」

 

 

「でも、全く見つからないと逆に不安になるものですよ」

 

 

「え、そうなんですか?」

 

 

「バグなんてあって当然。それを直しながらよくしていくのが当たり前の流れです。それがないなんてイレギュラーですよ」

 

 

「そっかー、バグがあって当然なんだ…。ちょっと安心したかも」

 

 

まぁ、確かにバグはあって当たり前なのは現実も同じだからな。例えばサッカー部の永山とか俺の人生のバグに違いない。あいつがいなければ俺はリレーでこけずに済んだし、球技大会でもそれなりの活躍はできたはずなのだ。

 

 

「まぁ、また進んだら見せてください」

 

 

「……もしかして私……素質あった…?」

 

 

「お前全国のプログラマーに謝れよ…ポジティブすぎるだろ」

 

 

流石にそれは自分を崇めすぎだろ。あれか?褒めて伸びるタイプなのか。いや、そんなタイプのやつはたいてい何かしらやらかすやつなのだ。あ……やらかしてる。

 

 

「あ、2人ともこのことは秘密ね!とりあえずこのゲーム完成するまでは秘密!」

 

 

「はいはい」

 

 

俺が適当に返事を返すとうみこさんが「そうだ」と何か思い出したのかそうつぶやく。

 

 

「涼風さんのことは聞いてますか?」

 

 

「え…なにかあったんですか…?」

 

 

心配そうに俺とうみこさんの顔を目線が行き交い、うみこさんは意地悪な笑みを浮かべる。

 

 

「いや、悪いことではないですが、知らないならいいです。」

 

 

「え、なにそれ!八幡何か知らないの?」

 

 

楽しそうなうみこさんと困ったようにバタバタする桜の顔を見てるとこちらもなんだかいじりたくなってきた。

 

「さぁ、本人から聞けば」

 

 

「えー気になる」

 

 

「楽しくやってますから」

 

 

「そっかーそれならいいか、へへへ」

 

 

「いいのかよ」

 

 

 

散々聞いといて楽しそうにやってるならいいのかよ。……まぁ、別にいいか。苦しそうに疲れたようになってるわけでもないし、悪いことをしたわけでも失敗したわけでもない。幼い頃からの友人だからこそ、お互いを極限まで知りたがると思ったのだがそれは俺の勝手な幻想だったらしい。

 

 

 

夕方になって2人と別れると俺は電車の切符を購入し、改札口を通る。今の世の中、PiTaPaだとか電子マネーが普及していて電車に乗るのもそれだけで済むのだが俺はやっぱりこういう古さというか慣れ親しんだものを使う方が好きなんだよな。おっさんではない。お兄さんだ。

 

 

平日のこの時間だと少し混み始めてる頃でサラリーマンやOLさんで車内は溢れかえっていて乗るのも降りるのも一苦労といった感じだ。これだけ満員だと少し体やら手が当たるだけで痴漢だとか思われそう。でも、大丈夫。八幡は覚えたんだ。痴漢だとか言われたらお前が痴漢したんだと反論すればいいんだって。嘘ですごめんなさい。

 

 

ドア側の手すりに掴まって電車に揺られて自分の降りる駅を待つ中、ふと見知った顔が目に入る。そいつは黒い艶やかな髪を下ろして、どこかの学校の制服のブレザーと首にマフラー巻いて、耳にイヤホンをつけて無表情でケータイをいじっていた。

 

 

鶴見留美。高校2年時にしたクリスマスイベント以来会っていなかった気がするが、あれから2年だからルミルミは中学2年生なのか。待てよ、あそこの小学校なら中学は電車を使わなくても行ける距離なのでは?と思考してみたが受験したか、引っ越したかと考えれば別に不思議でないと思って目を逸らした。

 

 

自分の家の最寄り駅について電車から降りて振り返ってルミルミを見てみる。しかし、その姿はもう無く俺が目を離した後にどこかの駅で降りたらしい。まぁ、あっちとしてはあんまり会いたくない顔だろうな。千葉村での一件も心良い思い出ではないだろうし。

 

 

家に帰ろうと後ろに向いていた体を前に向ける。すると、俺の目の前には見失ったはずのルミルミが腕を組んで機嫌悪そうにそこに立っていた。

 

 

 

 

 

なんで?

 

 

 

 

 



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比企谷八幡は空を見上げる。

ネタを詰め込んだただの閑話休題なのでめちゃくちゃ短いです。ルミルミと八幡が少し話すだけの回。書いててこの2人の会話ってこんなもんだろみたいな。
そして、眠い。


どうでもいいけど、ダンまちの原作を買って鉄オルとクロス小説作ったけど「あ、これ面白くねぇわ」ってなったのでボツ。だけど、鉄オルの二次創作は書きたいのでいずれ書きます。


では、本編。


 

 

前回までのハチライブ!12月の初旬。平日の休みということもあって家でダラダラ怠惰に勤勉に過ごそうとしていた八幡に1本の電話が!それは常にモデルガンを携帯している上司からだった!そして、向かった先に待ち受けていたものとは…!俺をどうせ暇でしょという理由で呼び出した桜とうみこさんだった。で、プログラムがどうだのの話をして、夕食前に解散したのだが……。

 

 

 

 

電車のなかで輝く美少女を見つけたんだけど、まさかの知り合いだったぜ。で、無視して電車を降りたんだが他のドアから降りていたらしく俺の前に先回りしていた。何を言ってるかわかると思うが、俺にはわからねぇ(言語崩壊)

 

 

 

 

 

久方ぶりに知り合いや友人と会うことを人々はそれを運命の再会などと言うが、運命を信じない俺としてはただの偶然に過ぎない。それに再会したところで会話することもないしな。まぁ、RPGとかなら闇堕ちしてるのが定番だが、流石に2年ぶりに出会った人間がそんな簡単に闇堕ち……うん、ゲームとかアニメなら割としてるな。

 

 

 

 

フェアリーズ・ストーリーではもはや定番だし、あとはワンピースとか?ピンクの髪のメガネの子、なんかすごく強くなってたよな。昔の仲間が強くなって帰ってくるのもテンプレだな。豪炎寺とか。いつもお前は遅いんだよ!!

 

 

 

 

 

俺が懐かしいアニメを思い出していると、目の前で腕を組んで不機嫌そうな表情を浮かべた鶴見留美は俺と目が合う。だが、あっちがサッと逸らす。何がしたいのかは知らないが俺はもう帰るぞ。早く録画しておいたデブだった豚足が復讐のために痩せてイケメンになったというアニメが観たいからな。

 

 

 

鶴見留美とは色々あった。いや、別に俺がなんかやばいことしたとか犯罪に手を染めかけたとかそういう色々じゃない。彼女を取り巻く人間関係をぶっ壊したり、クリスマスイベントで折り紙を切ったくらいだ。前者に関しては少し罪悪感を持ったが今となっては特に気にすることもない。

 

 

 

比企谷八幡はクールに去るぜ…そんな決めゼリフを言ってもいいかのように華麗に留美の横を通ろうとするとそれが気に入らなかったのか思いっきりつま先を踏みつけられた。マジでなんなのこの子。久しぶりに会ってこの仕打ちはないんじゃないだろうか。

 

 

 

「チッ……」

 

 

 

相手を威嚇するためにわざと舌打ちを打つと留美は顔を俯ける。フッ、勝ったな。そう確信したのが死亡フラグだったらしい。少しすると顔を上げてにこりと微笑んでいた。そして、彼女の右手に握られたとても見慣れたやばい物を見て俺は目を丸くする。

 

 

そして、俺は心でこう叫んだ。

 

防犯ブザーを押させるなぁッー!!と。

 

そこからの俺の行動は早かった。

 

 

「わかったから、何かよくわからんがわかったから、とりあえずそれを仕舞おうぜ?な?」

 

 

周りの視線を気にしながらそれをやめさせようとすると留美は少し考えた後少し微笑む。その笑顔はよく見たことがある。小町や一色が俺に無理難題を押し付ける時の顔だ。

 

 

 

「じゃ、ちょっとお喋りしよ」

 

 

 

「なんだ、聞いて欲しい話でもあるのか?」

 

 

 

 

「ううん、別に」

 

 

 

 

「じゃ、帰って……」

 

 

 

いいか?と続けようとしたところで爆破スイッチがポケットから出されたので言うのをやめた。というか、なんでそんなの持ってるの?護身用にしては強すぎないかな?

 

 

とりあえず、駅のベンチに2人で腰掛けると留美はため息を吐く。それを訝しげな目で見ていると雪ノ下に似たような目で睨みつけられてしまった。こいつは昔からだが、黒髪ロングで可愛いというより美人系の顔立ちなところが雪ノ下によく似ていると思う。別に雪ノ下の妹とか言われても信じてしまいそうだ。

 

 

 

「あのさ、八幡は今は何してるの?」

 

 

 

「駅のホームで中学生と会話」

 

 

よくよく考えるとこれは事案なんじゃないだろうか。と思ったが涼風とか桜と話したり一緒にいることが多いからそんなに気にならねぇな。やっぱり、あいつら中学生なんじゃねぇの?

 

 

 

 

 

「そういうことじゃなくて、大学とかの話」

 

 

 

 

「大学は行ってないぞ。就職したし」

 

 

 

「え、そうなの?なんで?」

 

 

 

「なんで、って……まぁ、成り行きというか…」

 

 

 

なんでだっけと考えたが、スカラシップで儲けたお金を手に大学に行って自由気ままなキャンパスライフを送って大学で俺を養ってくれる人を見つけるのが俺の目標だったが、そんなことよりもやりたいことが見つかったからだろうか。人との出会いは奇想天外。適当に選んだ選択科目でこれからの自分の行く末を決定付ける人と出会うことだってある。ソースは俺。

 

 

 

「俺がそうしたかったから。としか、言いようがない」

 

 

 

 

「そっか」

 

 

 

 

「で、お前はどうなんだよ」

 

 

 

 

「お前じゃなくて留美」

 

 

 

 

あーそういえば、こいつ留美って呼ばないと怒るんだっけか。友達が少なくて下の名前で呼んでもらえないからかな。わかる、わかるよその気持ち。俺が留美と同じくらいの時はゲームのヒロインしか呼んでくれなかったからな。ホントに恋愛シュミレーションゲームは最高だな。

 

 

 

「……留美はどうなんだ?中学校は楽しいか?」

 

 

 

 

「別に。1人で本読んでるだけ」

 

 

 

うわーなんとも悲しきかな。まるでどっかの誰かさんみたいだ。おい、やめろこっち見んな。俺が中2の時は異能バトルモノのラノベしか読んでないし、魔戒の書を作るのに忙しかったから学校では基本寝たフリしかしてなかったぞ。

 

 

 

「そうか…その、なんだ?す、好きな人とかはできたのか?」

 

 

 

「……いない」

 

 

 

よかったな、留美のお父さん。しばらくは家にいてくれるみたいだぞ。でも、いずれ嫁に出る日が来るんだろうな。俺は小町の結婚式には行かない。間違って男にアームロックかけたり、話し合い(物理)をしてしまって刑務所に入る可能性があるからな。

 

 

 

「まぁ、気にしなくてもいつかできるさ」

 

 

 

強く成長するんだ、俺もお前な…そんな深い意味を込めて言ってみたが特に伝わっている様子もない。留美は顔を逸らすと俺に質問を返す。

 

 

「……八幡はいるの?」

 

 

 

 

「俺か?あー、妹以外だと戸塚かな…」

 

 

 

 

「誰それ」

 

 

 

あれ?この子の威圧感が上がったぞ。数字にすると53万くらい。

 

 

 

「高校時代の同級生だよ。ほら、クリスマスイベントの時にあのお団子頭の人とケーキ運んでた人」

 

 

 

「え、その人って確か… 」

 

 

 

「やめろ、それ以上いけない」

 

 

 

 

確かに男だが、俺の中では天使なのだ。そう永遠に永久に。今は埼玉にいるけどどうしているのだろうか。もしかしたらあそこで成長期を迎えてるのかもしれない。天使から神様になってるのかな…世界の平和こそが私の望みだ!とか言わないことを祈ろう。

 

 

 

 

嫌な話題から話を逸らそうと、何かしら考えるのだが特に浮かばない。せいぜい、今日は風が騒がしいなくらいだが全く風がない。せいぜい、冬特有の冷たい空気が張り詰めているくらいだ。仕方がないここは1発かましておくか、スカした言葉を。

 

 

 

「今日は……月が綺麗だな」

 

 

 

チラリと反応を窺うと少し顔を赤らめて下を向いていた。これは結構効いているようだ。流石、日本版I LOVE YOUと言われるだけのことはある。よし、このまま押し切らせてもらおう。

 

 

 

 

「だけど、それよりも…」

 

 

 

 

俺がそう言うと留美はソワソワと身をよじり出す。おそらく、次の言葉を気にしているんだろう。だが、残念ながらそれはセニョリータが期待している言葉じゃない。期待をせず、期待をされたら裏切る男。比企谷八幡がその言葉を口にするはずがない。

 

 

 

 

「俺の方が綺麗だな」

 

 

 

 

かなりカッコよく、ついでにドヤ顔を決めながら言った瞬間、ルミルミが掴みかかってきた!

 

 

 

 

 

 

 

 






八幡「ところでなんで電車乗ってたの?千葉の公立なら使わなくても行けるじゃん」


留美「私立」



八幡「お嬢様かよ」





ということでネタを詰め込んだよくわからない回でした。あと、ランキング入りしてたよありがとう……それ以外に言う言葉が見つからない。



土曜に模試があるので明日は投稿しません。多分。他のを投稿するのではないでしょうかね(((((っ 。•ω• )✩


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比企谷八幡は良くも悪くも周りを見ている。

名瀬の兄貴が死んだと思ったら、幼女戦記で生きてたけどまた死んで幼女になった。何を言ってるかわからねぇと思うが俺にもわからねぇ。


お久ぶりに書きました。名瀬の兄貴が死んでショックすぎて書けなかったし携帯壊れたから書けなかったんですわぁンヒィ。


 

 

主人公になりたい。

 

 

 

 

それはこの世に生まれたち、アニメや漫画などの二次元と呼ばれる娯楽に囲まれた男の子なら1度は思うことである。

 

 

 

主人公と呼ばれる属性には大したイケメンでなくてもモテたり、本人にその気はなくてもラッキースケベが発動したり、普段は平凡な高校生なのに突然異能に目覚めたりとか、死んだら異世界生活を強いられたりなどの「主人公補正」と呼ばれるものが発動する。

 

 

あらゆる危機的状況を打破する他、死亡フラグをへし折ったりラブコメの匂いをプンプンさせたりもできる恐ろしいスキルである。それがあれば俺も……などとは考えてはいけない。あれはあくまでフィクションであり、主人公補正はこの現実的社会にはないし存在したとしても全く通用しない。

 

 

 

 

人は死ぬ時は死ぬし、恋愛フラグを建ててもいずれは必ず折れるのだ。それに主人公とは誰にでも優しく、誰でも守ったり助けたりできる訳では無い。例に出すなら、少年漫画の主人公は身の回りの人間を助けているだけでわざわざ不幸な人間を助けようとはしない。ちょっと探せばすぐに出てきそうなのにだ。

 

 

不幸な人間を見たらほっとけないというのは正義の味方らしいがそれは主人公ではない。偽善者かもしれないし、人を助ける俺超かっこいい系男子かもしれない。

 

 

その辺は戦隊モノやライダーも同じだ。わかりやすい悪者を倒しているだけで、貧困や飢餓に悩む人を救ったり、戦争を止めたりはしない。つまりの人間の人間による不幸は、正義の味方にもどうしようもないのだ。まあ、ライダーだからといって善人とは限らないしな。おのれディケイド。

 

 

 

話は少し逸れたが『主人公になりたい』という人間は数多い。それは俺も同じだが、俺の人生の主人公はいつだって俺なわけでヒロインも俺なのだ。

 

 

 

「あの、なにかデザインで質問があったら遠慮なく言ってくださいね?」

 

 

 

「うん……」

 

 

プロトタイプ版の製作も進んで現在のキャラ班は、八神さんと涼風がキャラクター原案、俺とゆん先輩で敵キャラの3Dモデル、ひふみ先輩はメインキャラの3Dモデルを担当している。ちなみに俺は他にもアイテムパワーアップ用の小物やエフェクトの試作も行っている。完全にキャラデザの仕事じゃないけどほとんどモデリングしかしないから別にいいよね!

 

 

 

「遠慮しなくていいんですよ?」

 

 

 

「え?え?」

 

 

 

いや、流石に涼風さんしつこすぎるよ?ひふみ先輩も困ってるでしょ?メインキャラの3Dモデルが形になったのを見た涼風はひふみ先輩の画面にべったりで自分の机に置かれたデザインの作業は滞っている。それを横目で見ながら2人の会話に耳を傾ける。

 

 

 

「ううん……ほんとにない…よ…?」

 

 

 

「そうですか…いや、自分でデザインしたものを人に作ってもらうって初めてなので形がわからないーとか立体にならないーとかそういう質問があるものだと思って……」

 

 

 

「そういうのは…別になかったけど……あ!デザインが単純すぎて…ごまかせなくて難しい…!」

 

 

 

「それは今後の参考にさせていただきます…」

 

 

 

ひふみ先輩が頑張って絞り出した言葉にその反応は正解なのかわからんがとりあえずお前は自分の仕事をしたらどうだ?あ?

そんなふうに思っているとエフェクト班の人からアイテム使用時のエフェクトはどうするかと聞かれたので、その人のノートパソコンを拝借する。

 

 

いい加減に名前聞いた方がいいかなと思いつつ、うみこさんのデスクに向かう。どうでもいいけどこういうのってエフェクト班のリーダーさんのお仕事なのでは?そう思いながらも、プログラマーブースを除くと今は特に大きな仕事はないのか俺達があげたキャラクターのバグチェックをしていた。

 

 

 

「うみこさん、少しいいですか?」

 

 

声をかけると手を止めて、椅子がくるりと回ってうみこさんの体がこちらに向く。

 

 

「はい、どうしました?」

 

 

「アイテム消費後のエフェクトなんですけど、他の人からもう少し派手にしてもいいんじゃないかと言われまして」

 

 

パソコンの画面を向けて試作のエフェクトを見せながら言うとうみこさんは顎に手を添える。

 

 

「……そうですね。今のところは大丈夫ですので一応、もしもの時にこれと派手にしたものの2つをお願いします」

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

話を終えて自分の席に戻り、エフェクト班の人にそのことを伝えると「わかった」と背中を向けたので俺も自分の仕事に戻ろうとキーボードに手を出す。なんかいない間に八神さんとゆん先輩がひふみ先輩の机に集結しているが気にしないドラゲナイ。

 

 

なんかファーがどうとか3D使わなくても毛皮っぽさを表現する方法とかをやっていたりするが気にしない。ちなみに俺はそれくらいの表現はできますよ。伊達に中学、高校とプロぼっちやってねぇよ。プロのぼっちは一回見たことは勝手に自分のものにするからな。ゆん先輩の画面見て覚えた。だから、かめはめ波とか誰かが目の前でやってくれたらできる。多分。

 

 

 

「あ、あのさ、比企谷くんはわからないとこある??」

 

 

 

年上3人の話についていけなくなったのか、涼風は俺の画面を覗き込む。その顔は何やら焦りか憤りを感じる。

 

 

 

「今のところは特にねぇけど……」

 

 

 

俺がそう言うと涼風はシュンとした表情をする。なんなのこの子。最近、不機嫌になったり落ち込んだりするの多いな。キャラデザ担当になったんだから笑顔になってもいいと思うんだが……。

 

 

 

あぁ、そうか。キャラデザなのに何も言えないし何も出来ないから不安なのか。わかりやすいな…。

 

 

 

 

「……あ、そういえば。エフェクト班の人がキャラがアイテム使った時のエフェクトを派手にするかどうかって相談されてな。涼風はどう思う?」

 

 

「えっと……今がどんなのかわからないから…どうとも……」

 

 

 

うわぁーめんどくさー。わざわざ、意見出せるようにしたのにー?えー?ってこれは俺が悪いのか。涼風はエフェクトの試作見てないわけだし。仕方ないな。USBメモリーからデータを取り出してそれを涼風に見せる。

 

 

「あー、確かにもう少しドカーンとかしててもいいかも!」

 

 

「ドカーンって……つまり派手でもいいってわけか?」

 

 

「うーん、派手っていうよりはなんかもう少しパワーアップしてる感じが欲しいかな」

 

 

確かに今のままじゃなんかアイテム入手した時とそんなに変わんない気もするな。それに緑じゃ回復ポーションと被る可能性もあるし…。

 

 

 

「そうだな。ありがとよ。参考になった」

 

 

 

俺がそう言うとやっと自分が役に立てた。というか原案を出した自分の意見が出せたことが嬉しかったのだろうか。顔には笑顔が浮かんでいる。その姿にホッとしているとそこでお昼の時間を告げるメロディーが放送機から流れる。

 

 

「あ、お昼か。じゃあ、休憩の後でね」

 

 

「任せてください」

 

 

八神さんはゆん先輩にそう言うと自分のデスクに戻っていく。今はプロトタイプ版の製作ということであまり急がず慌てず、全員がちゃんとした時間にお昼を摂っている。俺は財布と携帯を持って席から立ち上がるとふと、ひふみ先輩が涼風に話しかけていた。

 

 

 

「一緒にお昼……いこっか……!」

 

 

 

「へ!?あ、はい!びっくりした…」

 

 

 

そりゃびっくりするわな。でも、ひふみ先輩の方がびびってたぞ、ずっとニヤニヤしてる後輩にどう話しかけようか迷ってるのが動作ですごく伝わってきた。とりあえず、これからのアフターケアはひふみ先輩に任せよう。あの人はあの人で人の痛みや悩みがわかる人だ。きっと涼風の力になってくれるだろう。俺はそれを尻目に見るとその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、飯を食べて会社に戻るとひふみ先輩がぐったりしてたのは別の話。本人いわく「喋りすぎて……もう疲れた……ダメ……」ということらしい。



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比企谷八幡は我流を行こうとする。

お久しブリーフ。


 

 

朝起きてケータイの画面を見れば「12月24日」

テレビをつければ今日はクリスマスイブ。

メールが来たと思ったら妹からのクリスマスプレゼントの催促。

外に出てショッピングモールを見ればクリスマスセール。

 

 

世間はクリスマス一色で夜になれば光を灯すであろうイルミネーションの数々、道行くカップルや子連れの家族たち。そして、そんな人混みの中で1人、最愛の妹へのクリスマスプレゼントを物色する俺氏。例年のクリスマスではクリぼっちという俺だが、今年は仕事があるじゃあないか!と思っていた時期も私にはありました。そう、休みである。クリスマス前に5日も働いたので社会と会社が俺に休めと命じたのである。

 

 

なので、僕は今1人です。プロトタイプ版に向けて小物とかアイテム担当でモンスター関連のことは何もしてないです。昨日はやることだけやって、帰宅しました。

 

 

別にクリスマスの2日を1人で過ごすのは嫌いではない。むしろ、好きな方だ。1人でビームサーベルで水を温めるガンダムをチキンを食べながら見るのも良し、録り溜めた今期アニメを消化するのも良し。ぼっちにはぼっちの嗜みがあるのだ。

 

 

危機を察知してしゃがみこんで見ていた棚からスッと離れていく。俺の店員さん探知機が発動したからである。ホントにこんな日くらいは俺を1人にして欲しいものである。

 

 

イエス様はこんなことを望んだのだろうか。本日はイエス様の誕生日の前の日。でも、そんなことを気にする人はキリスト教徒くらいなのだろうか。だが、SNSでイエス様は「全部俺が背負うわ」と言ってるし…。

 

 

ゆらゆらとショッピングモールを探索していると、ポケットに入れたケータイが振動している。通行人の邪魔にならぬように端っこの方で立ち止まって、ケータイを耳元に当てる。

 

 

 

『もしもし?ヒッキー?』

 

 

「……どちら様?」

 

 

『私だよ!?由比ヶ浜結衣だよ!!』

 

 

あーそうかそうか。確か、高校時代に俺にヒッキーとかいう不名誉なあだ名をつけた奴がいたような気がする。

 

 

「……で、何?今、忙しいんだけど」

 

 

『嘘だ。小町ちゃんから今日お仕事無いって聞いたもん』

 

 

なるほど。どうやら身内から刺されたらしい。よし、小町にはこれから予定表に嘘も交えて送ろう。てか、別に嘘ついてもバレない気がする。

 

 

「いや、ほら、今あれじゃん?だから俺無理じゃん?」

 

 

 

『なにそれ全然意味わかんないんだけど』

 

 

 

あっちゃーやっぱりだめかー。とりあえず社会人は無理とか言っとけばなんとかなると思ったんだけどなー。

 

 

「で、マジでなんなの?」

 

 

『あ、うん。実はね』

 

 

なんとなくだが、ホントになんとなくだが。ものすごく嫌な予感がする。そう、例えばエロ本を買う所を親か同級生の女の子に見られるくらい恐ろしいことが起こる気がする。ゴクリと生唾を飲み込んで続きの言葉を待つ。

 

 

『ゆきのんと小町ちゃんとさいちゃんとでクリスマスパーティやるんだけど……どうする?』

 

 

 

何そのメンツ、プチ同窓会かよ。いや、別に行きたくない訳ではない。だが、ホントにとてつもなく嫌な予感がするのだ。戸塚と小町がいる時点でものすごく行きたい。しかし……

 

 

「それって、何するかとか決めてるのか?」

 

 

『うん、みんなでビュッフェに行くの!』

 

 

ビュッフェってあれか?オサレなバイキングっていうイメージで合ってるよな?間違ってないよね?チョコレートマウンテンが絶対あるんですよね?知らんけど。

 

 

『大丈夫?これそう?』

 

 

行けないことはないし、金もあるのだ。今月は自分へのプレゼントと小町へのプレゼントしか買う予定なかったから特に使ってねぇし。とりあえず、適当な事言ってバックれる手もあるが、戸塚に会いたい。というか、戸塚と2人きりのクリスマスを過ごしたいです。

 

 

「悪い、ちょっと仕事で立て込んでるんだ。また後で連絡するわ。えっと、何時くらいまでには言っといた方がいい?」

 

 

『うーん、夕方の5時くらいまでかなー』

 

 

 

「わかった。じゃ、また後でな」

 

 

 

 

そう言って電話を切ると、メールが届いていることに気付く。差出人は意外にも八神さん。パスコードを開いてメールを見ると、『プロトタイプ版の作業だいたい終わった記念で晩にご飯行くから予定開けといてねー。てか、空いてるでしょー』と。

 

 

舐めてんのかこのアマ。ついさっき、俺の予定を埋める電話が来たところですよ。作業が終わったのはいいことだと思いますが、早めの打ち上げってことか?よく分からんけど。

 

 

さて、これで俺のクリぼっちを邪魔しに二つの案件が飛び込んできたわけだ。ケータイをポケットにしまって歩き始めると雑貨屋さんに入って小町に似合いそうな小物を見繕う。

八神さん達のクリスマス打ち上げ会(仮称)に行けば…特に何もなさそうだな。いつものパターンだと八神さんと遠山さんとゆん先輩が酔っ払って俺と涼風が苦笑いしながら家に送らねばならない。

由比ヶ浜の方に行けば、今日のうちに小町にクリスマスプレゼントを渡すことが出来、戸塚に会うことができる。あれ?こっちの方が俺に得があるのでは?

 

 

だけど、行かないとうるさそうだし、ひふみ先輩にお酒を注ぐことも出来ない。あれ、なんか卑猥に見えるのは俺だけでしょうか。気のせいですね。まぁ、ひふみ先輩との飯はいつでも行けるだろうし、たまには昔の同級生達と会うのもいいだろう。

 

 

だが、雪ノ下と会うのはやはり気が引けるな。会っていきなり罵倒されるのは予想できるが、あの時のことで何かしら言われることがあるかもしれない。そう考えるとどちらも行かずに家でダラダラしてる方がいいかもしれない。

 

 

小町へのクリスマスプレゼントを買い、ショッピングモールを出ると空を仰ぐ。今日も飛行機が雲を描きながら飛んでいて、ところどころにある灰色の雲が太陽を見え隠れさせている。

 

 

家に帰って、寒さ対策に巻いていたマフラーを廊下に放置し、コートは椅子の背もたれにかけると手を洗ってどかっと人をダメにするクッションに倒れ込む。ケータイを取り出してどちらに行くべきか悩んでいると第3の勢力に材木座義輝というのが出てきたが『八幡、ゲームしようぜ!namco集合な!』という時間指定なし、どこの店舗かもわからないクソメールだったので無視した。

 

 

目を閉じて今後の予定を考える。明日も休みです。だから、別に今日は夜更かししても問題ありません。なので、録り溜めたアニメやら懐かしのアニメを見ようとしていました。そんな時に知り合いから『ご飯行こうぜ!お前財布な!』という電話とメールが来ました。片方は氷の女王と処女ビッチと天使と天使付き。もう片方はおそらく合法ロリ、せやかて工藤、特撮大好きさん、平塚先生2号機、世話焼きお姉さん、女神様付きです。さぁ、どちらに行くべきでしょうか。

 

 

悩んだ末に俺が出した結論とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

誰か、土下座してもお金を渡してもいい。何でもするからかなり本気で助けて欲しい。俺は両方行かないという究極の選択をした。マジでこれは俺にしてはかなり頑張った方だと思う。由比ヶ浜には大事な書類があるからと、八神さんには家族と過ごすからと断っておいた。材木座?誰だそいつは。

 

 

これで俺の平穏は守られたわけなのだが、昼時だしクリスマスなのにどこにも行かないというのはなんだかなーと思った。ショッピングモールに行った時に昼飯も買っておけば良かったと軽く後悔してから再びコートを着てマフラーを首に巻き付けてまた外に出たのだ。

 

 

それでラーメンを食べて、ザラスで自分へのプレゼントを物色して何も買わずにレンタルDVDショップで見たかった映画とアニメを借りて、晩飯であるチキンを買いに行こうとケンタに向かっている最中だ。背後に恐ろしいほどの霊圧を感じた。恐る恐る振り返ってみるとそこにはこの季節にピッタリな氷の微笑を浮かべた美少女が。

 

 

「あら、お仕事が忙しいと聞いていたのだけど?なぜここにいるのかしら?」

 

 

あまりの突然の出来事に瞬きを数回繰り返して、目の前の美少女が指さす方向を見ると俺が立ち止まったのは最近出来たという評判の良いバイキングのお店。それを見て真顔になって彼女の方を見ると後ろからぞろぞろと見知った顔もやってくる。

 

 

「あ、ヒッキーだ!」「あれ?八幡来ないんじゃなかったの?」「えーと、小町もちょっとわからないですね」「はぁぁぁちまぁぁぁぁんんん!!!!?」

 

 

ザッと後ろに後ずさり走って逃げようと身体の向きを180°変えた時、そこにも俺の道を塞ぐ者達が現れる。そこには薄く紫がかった長いツインテールのパッと見中学生にしか見えないスーツを来た同期の女の子。その顔は笑っているが明らかに目は笑っていない。

 

 

「……ねぇ、比企谷くん。家族はどうしたの?」

 

 

見た目とは裏腹に出されたどす黒い何かを感じる言葉と声音、普段の笑顔との雰囲気が違いすぎてまた後ずさってしまう。そして、その恐ろしい女の子の後ろには愉快な仲間たちが。

 

 

「あれ、八幡じゃん」「ほんまやな」「……」「あらあら」「これはどういうことか聞かないとね」

 

 

 

アスファルトの一本道の最近巷で大人気と呼ばれるビュッフェの店の前で退路を塞がれた俺は冷や汗を浮かべながら、両側で睨みつけてくる美少女2人に愛想笑いを浮かべながら心でこう叫んだ。

 

 

 

(ダ、ダレカタスケテーー!!)

 

 

 

 



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聖夜の夜に願いを。

テスト期間に入ったから今月はこれで最後だぜ!


雪乃「問いましょうか、あなたの真意を」


八幡「金!マッ缶!戸塚!小町!」(半裸で)


結衣「総武校の恥部だ……」


八幡「」




 

世間はクリスマスイブでラブラブなカップルやらプレゼントを貰えるのがワクワクでたまらない子供たちでごった返している。それなのに俺の周りはというと般若のお面の方が可愛く見えるような表情をした女の子に睨まれています。

これはある意味貴重な体験かもしれないが、こんな体験したくて外に出てきた訳では無い。

 

 

 

『四面楚歌』という言葉はこういう時のためにあるんだなと実感した時は今日以上にないだろう。

右を見れば高校の同級生達(妹もいるよ)

左を見れば職場の愉快な仲間達

 

 

逃げ道は後ろにある店の扉とガードレールを超えた先にある地獄への道である。ここから逃げ出したいのは山々なのだが、クリスマスの夜はチキンを食べると決めてるし、奴らから逃げるために命を落とす気にもなれない。それにここから逃げれたとしても待っているのはどっちにしろ死。この比企谷八幡、19年も生きていればそれくらいのことははっきりわかんだね。

 

 

「いい加減何か言ったらどうかしら」

 

 

右から右から雪女が来てる。それを俺は左に左に受け流したいところだが……。

 

 

「ねぇ、比企谷くん、家族は?」

 

 

こちらもこちらで恐ろしい女豹がいらっしゃる。いつもはうさぎとか子グマあたりが似合いそうな小動物系女子かと思えば、いつの間にか恐ろしいほどに進化していた。あんなのとフレンズになれるわけがないし、わぁ君は人を睨みつけるのが得意なフレンズなんだね!たのしーとか言えるはずがない。

 

 

「ねぇ」

 

 

「何か言うことはないのかしら」

 

 

何もないですね。というか、恐怖のあまり口も身体も動けないです。そうだ。今この場には妹がいるじゃないか。ここで何10年も培った言葉に頼らない目による意思疎通(レベルEX)を使ってSOSを発信すると小町ちゃんは少し瞬きをした後、パァっーと何かいいことを思いついたような笑顔になる。

 

 

「もうゴミぃちゃんは仕方ないなー」

 

 

お、さすが我が妹。なんか罵られた気がするけど今となってはそんなことどうでもいい。さぁ!この絶望的状況お兄ちゃんを助けてくれ。小町はてくてくと俺のところまで近寄り、一触触発ムードである2人に向かって宥めるように後ろを指さしながら言う。

 

 

 

「とりあえず、ここではなんですし中に入りませんか?」

 

 

「ここここ小町?なにいってんの?ねぇ?そこは『お兄ちゃんは忙しいからかくかくじかじか』とかじゃない?」

 

 

「いやーちょっと今回はお兄ちゃんが悪そうだし。雪乃さんのを断ってあっちに行ってるなら小町的にはまだOKなんだけど……」

 

 

 

そう言いながらジト目で睨んできたと思ったらゆっくりと視線を左に移す。そこには『念仏は唱え終わったか?』という怒気を孕ませたオーラを放ったひふみ先輩が……ってなんでひふみ先輩がそんな怖い顔してるのか理解不能理解不能。

 

 

 

「そうね、ここにいたら邪魔ね…。それにその男には聞くことが多いものね……」

 

 

「そうだね…」

 

 

なんか雪ノ下さんと由比ヶ浜さんがめちゃくちゃ睨みつけてくるんですが…

 

 

 

 

「八神さん達も構いませんよね?」

 

 

 

「え、あ……うん」

 

 

 

涼風は八神さんに確認をとるとゴゴゴゴと今にも何か出てきそうな雰囲気を醸し出している。別にどうでもいいのだが、八神さんは返事する時、俺のことをすごくかわいそうな目で見てきた。

 

 

「あの俺帰って」

 

 

「「あ"?」」

 

 

「なんでもないです」

 

 

 

ふぇぇ、今の明らかに女の子が出していい声じゃないよぉ。

ビクビクしながら小町に押されてそれに抵抗している時、タバコの煙が鼻腔をくすぐり、視界の片隅に黒いスラリとしたスーツに白衣を羽織ったどこかクールな女性が映った。そして、その女性は呆気に取られたような顔をするとどこか嬉しそうなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは、全く君は相変わらずだな」

 

 

と、俺が由比ヶ浜や八神さんにクリスマス会に誘われてそれを断ったことで起こったあの店の前での出来事を話すと、陽気な笑い声とともに背中を叩かれた。

 

 

場所は変わり、巷で有名なビュッフェではなく多人数で入れる居酒屋に来ている。絶体絶命危機一髪というところでたまたま近所を徘徊もとい、パトロールしていたという、俺の高校時代の恩師、平塚先生にここに連れてこられた。なんでも、これだけの多人数ならここの方がいいだろうと座敷の大広間を使わせてもらっている。

 

 

常連なのだろう平塚先生は一番歳上ということもあって全員分の飲み物と刺身の盛り合わせや唐揚げなど多人数向けの料理を頼むと一言断ってからタバコに火をつけて、八神さん達と談笑していた。そんな仕草を見るのも久しぶりだなと思いつつ、違う場所に視線を移す。

 

 

 

「この男の性根はそんなものではないわ」

 

 

「えっ?そうなの?」

 

 

 

先ほどまで俺を尋問しようとしていた女の子2人はというと意気投合したのかよくわからんが、今では2人隣で仲良さそうに会話を交わしている。

 

 

「え、ヒッキーが?」

 

 

「そうなんだよ、ハッチはゲーム買うのに付き合ってくれたりして優しいんだよ」

 

 

居酒屋に向かう途中に合流した桜だが、もともと涼風と晩飯を食べに行く予定だったらしくこちらについてきたのだ。で、変なあだ名を付ける者同士で俺の話をしていた。まぁ、俺の武勇伝を語るのならやっぱり俺であるべきだと思うんだがな。

 

 

 

「みよ!これが我の最強陣形!ドロシーゲイザーの陣!!」

 

 

「はい、テミス」

 

 

「のぉぉぉぉぉんんんん!!!!???」

 

 

おかしいな、あのデブはどこかのゲーセンに1人でいるはずだったのに。なんではじめさんとローカル通信でゲームしてんの?しかもどうやら一掃されたっぽいし。

 

 

 

「なんでや、君女子ちゃうんか…それやのになんでそんな肌綺麗なん……」

 

 

 

「そ、そんなことないですよ。ゆんさんの方が綺麗ですよ!」

 

 

 

ゆん先輩は戸塚の魔力に落とされたらしい。可哀想に。でも、戸塚は可愛いし天使だし仕方ない。戸塚に勝てる者などこの世では小町か戸塚くらいのものだ。

 

 

「にしても、これがすっぴんの八神コウか……やっぱり最近の画像加工技術はすごいなぁ……」

 

 

「ありぇは私がメイクしたりコーディネートしたからですよぉ?画像加工技術じゃなくて、私の力です。コウちゃんはおめかししゅるとすごく可愛いんでしゅよ?」

 

 

「ふむ……しかし、この差はまるで駄天した天使みたいだな」

 

 

「くっ……誰か殺してくれ」

 

 

メンツの中でもアダルティーな連中は八神さんの雑誌でのギャップについて酒を飲みながら語り合っていた。平塚先生はまだまだ大丈夫そうだが、遠山さんはもう既に呂律がまわっていなかった。当の本人は苦虫を噛み締めるような顔で酒を飲んでいた。飲まずにはいられないんだろうなぁ……。でも、平塚先生の駄天した天使みたいってのすごくわかる。あの駄天使も胸ないし金髪でボサボサだし。

 

 

「かーくんも歳ですからねー。最近は小町よりも炬燵の方が好きみたいで」

 

 

「猫だもんね……それで…他には…?」

 

 

俺を裏切りかけた我が最強にして最高の可愛さを持つ小町ちゃんはここに来た時に自己紹介や乾杯の音頭を仕切り、人見知りでなかなか口を開かないひふみ先輩とペットについてトークを弾ませていた。天使と女神が会話してるよ…これビデオにしたら売れるよね。主に買うのは俺だけど。

 

 

 

「さて、比企谷くん。由比ヶ浜さんの誘いを断ったちゃんとした理由を聞かせて欲しいわね」

 

 

「そうだよ、せっかくクリスマスイブでプロト版も終わりかけーって時に嘘までついて」

 

 

「そうよ、この男はねすぐにバレる嘘をつくのよ。潔いのか小賢しいのか…」

 

 

 

もうお前ら2人でずっと話してろよ。多分、俺への罵詈雑言でなら話題が尽きないと思うぞ。さっきからちょくちょく色々と聞こえてるからな。

 

 

「クリスマスイブくらい1人でゆっくりさせて欲しい」

 

 

「ヒッキーはいつもゆっくりしてるじゃん」

 

 

「うん、約束の時間には来るけど、ハッチ歩くのゆっくりだったし」

 

 

それはお前らに合わせてるからであっていつもはもっとゆっくり…あれ?もしかして俺、全然ゆっくりできてない……?

 

 

「ていうか、八幡はクリスマスもゆっくりするんでしょ?じゃ、別にイブくらいよくない?」

 

 

「そうだぞ、八幡!さぁ、我と決着を!お主のネフティスなど我のドロシーで一捻りだ!」

 

 

確かに毎年、クリスマスの2日間は暇で1日中ダラダラゆっくりしているがそれを邪魔する権利は誰にもないはずだ。材木座に関してはどうでもいい。もうお前とはシャドバはしない。ミッション達成したしな。

 

 

「いや、俺にとってクリスマスイブの1日ってのはすごく大事なんだよ」

 

 

 

「一応、弁明の余地を与えるために聞いておくわ。例えば?」

 

 

 

「まず、昼まで寝るだろ」

 

 

 

「それはいつも通りだね」

 

 

 

またもや身内に刺され周りからの視線がグッと冷たくなる。涼風に「それから?」と促され続ける。

 

 

「録画しているアニメを見る」

 

 

「録画してるのであればいつでも見れるじゃない」

 

 

 

雪ノ下が吐き捨てるように言うと、その発言に異議ありと言わんばかりにはじめさんや桜が食いかかる。

 

 

「わかるよ、八幡。ひじょーにわかる」

 

 

「うんうん、お休みの日に録画してたその週のアニメを一気見するのって楽しいし、時間を忘れちゃうよね」

 

 

「うむ!それで1日が終わってるなんてことはよくあることだ!」

 

 

と、俺の味方をするように3人が口々に言う。そんなヲタク達の反応に引き気味の由比ヶ浜は苦笑を浮かべる。

 

 

「で、でも、クリスマスくらいは…」

 

 

「思うんだがな、俺の時間だから俺がどう使おうと自由だろ」

 

 

「そうだけど……」

 

 

ド正論の前ではどんな理屈も通じない。時間はお金と同じで有限なのだ。それらを奪うということはどんな理由があろうと悪である。それはこいつらもわかっているだろう。こいつらにだって少なからず1度はあったはずだ。奪われたくない時間を奪われた時が、奪ってしまった時が。

 

 

「ふっ……」

 

 

と、全員が静寂に心を許そうとした時、平塚先生は頬を緩ませる。

 

 

「そうだな。自分の時間をどう使おうが本人の自由だ。でも、由比ヶ浜や雪ノ下、涼風君たちは君の時間を分けて欲しかったのだよ。君と同じ時間を過ごしたかったのだ。君と話して笑って楽しみたかったのさ」

 

 

「……」

 

 

「やはり、君はまだまだ他人の感情を理解する力がないようだな…。まぁ今はその方が幸せか……」

 

 

タバコを灰皿に押し付けて、くすりと微笑むと俺を見つめる。

確かに俺には他人を理解する力がない。いや、理解する資格がないのだ。あらゆる可能性を払って、思考を読んでそれぞれの思惑と結びつける。そこにどんな私情があるのかは省いてだ。そんなものは判断材料にはなっても最終的な結果には繋がらない。感情なんてものは結局は無に変わるものだ。だから、それを考慮する必要はない。

 

 

「私は……別に……いいよ」

 

 

 

そう、ポツリと呟いたひふみ先輩はグラスの氷をカランと鳴らす。

 

 

 

「感情なんて理解されなくてもいい。でも…八幡と一緒にいたい。……ご飯を食べて…たくさん話したい。そしたら……理解しなくてもよくなる。……多分、わかるように…なるんだと…思う」

 

 

わかるか……そうだな。そっちの方が簡単でずっと楽だ。理解とは自分から知りに行って学んだりすること。こちらから踏み込んでわかろうとするよりも、いつの間にかお互いの気持ちがわかるようになっている。そっちの方がロマンチックでドラマチックで素晴らしいのではないだろうか。

 

 

「ひふみちゃん、それってすごく素敵ね」

 

 

「うん、理解って言葉よりわかりやすいや」

 

 

「もう、コウちゃん!」

 

 

 

八神さんがあははと笑うと遠山さんはふくれっ面だったが八神さんの顔を見ると仕方ないなこの人はといった顔になる。

 

 

「そう考えると小町とお兄ちゃんってわかりあってる関係だよね」

 

 

「そうだな。何かあった時がすぐにわかる」

 

 

兄妹だからというのもあるのかもしれないが、両親共働きだから兄である俺が寄り添ってやるのが一番だったからいつの間にかそうなっていたのだろう。

 

 

「わ、我も八幡のことはわかるぞ!」

 

 

「お前にわかってもらわなくても別にいいんだが…」

 

 

「もう八幡、そんな事言ったら材木座君がかわいそうだよ」

 

 

おっ、そうだな。悪いな材木座。全然そんなこと思ってないけど戸塚に免じて心の中では謝罪しておくよ。

 

 

「でも、全ての人が分かり合えるとは限らないでしょう」

 

 

「そうやなぁ、分かり合えたら喧嘩とかしたりしないもんな」

 

 

雪ノ下とゆん先輩が言うとひふみ先輩は首を振る。

 

 

「それは……わかろうと……してないから」

 

 

「それだとさっきのあなたの言葉は矛盾しているように感じるのだけれど」

 

 

わかろうとしてわかることを『理解』、いつの間にか自然に意思疎通が出来ていることを『わかる』と定義したのならそういうことになる。ひふみ先輩が雪ノ下の言葉にしゅんとしていると涼風が口を開く。

 

 

「多分、喧嘩するのって分かり合えないからじゃなくてわかってほしいからじゃないですかね」

 

 

「うん、そうだよゆきのん。私達もそうだったじゃん」

 

 

由比ヶ浜の言う私達とは俺と雪ノ下とのことだろうか。確かに互いの意見や思考の食い違いですれ違うこともぶつかり合うこともあった。だが、あれは喧嘩ではないだろう。ただのプライドの張り合いで意地のぶつけ合いだ。自分の意見が、行動が正しいと押し付けていた。

 

 

 

 

だが、もしかしたら。

心のどこかで俺は願っていたのかもしれない。いや、確実に願っていたじゃないか。あいつらの目の前で無様に涙まで晒して、それで後輩に脅されたことはよく覚えている。2人に向けられた視線と共に全員の目が俺に注がれる。まるで俺の言葉を待っているかのように。

 

 

 

自然と言葉は出ていた。

 

 

 

 

 

 

「俺は

本物が欲しい」

 

 

 

 

 

 

それがどんなものかはわからない。形は全く見えないし、本当にあるかどうかもわからない。それはどこかの大魔王にも言われたことであり、そんなものが君の本物かと言われたこともある。本物なんてものはないのかもしれない。

 

 

 

だが、ないのなら作ってしまえばいい。

 

 

 

 

「本物……」

 

 

 

俺の口から出た言葉の意図はどのように伝わったのかわからないが、だが少なくても俺はわかってしまった。おそらく、この人達は俺の欲する『本物』とは何かを理解しようと知ろうとわかろうと、その『本物』になってあげたいと思われたことを。同時に俺もそうして欲しいと願っていた。

 

 

幸い、今日はクリスマスだ。

別に願うだけなら構わないであろう。俺達はもう大人だ。サンタさんからクリスマスプレゼントがもらえる歳ではない。だからこそ、欲しいと願うことだけなら、それくらいなら聞き入れてもらうだけなら全然いいじゃないか。聖夜の日には願いを、希望を、幸運を。

 

それが俺達のクリスマスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの暖かい謎の空気も終わり、この部屋は異様な熱気に包まれていた。

 

 

「では、クリスマスイブの夜も残り30分!今日は小町も楽しみますよぉー!!!」

 

 

 

手に持ったグラスの中身のコーラを一気に飲み干すとそれに合わせるかのように周りは酒飲んだり、料理を口に運ぶ。

 

 

「そうだぞ、比企谷妹!今日は特別に条例無視で飲もうではないか!あ、未成年は酒は飲むなよ!ガハハハハ!今日もビールが美味い!」

 

 

 

「ぷはーっ!!たまにはこういうのもいいね!平塚さんもっといきましょう!」

 

 

「コウひゃ〜ん、ほどぼどにねぇ〜」

 

 

 

「遠山しゃん、もう潰れますや〜ん」

 

 

 

歳が近いのかそこは触れないでおくべきか平塚先生と八神さんは互いのジョッキをカツンと当てるとゴクゴクと飲み下し、それより以前にアルコールの驚異に倒れた遠山さんとゆん先輩は机に項垂れながら声を出していた。

 

 

 

「なんとこれがアルコールの力ッ!!……あ、ちょま」

 

 

「やっぱり、雷神卿は強いね!」

 

 

その様子を垣間見た材木座だがまたもやはじめさんに圧倒されたようだ。というか、弱すぎるだろ。

 

 

「お酒か…男らしくていいな……」

 

 

「さいっちは男らしくならなくていいと思うけど」

 

 

「そうそう、戸塚は永遠に戸塚であるべきだ」

 

 

「ヒッキーってばまた変な事言ってるよ」

 

 

「いつものことよ放っておきなさい」

 

 

おかしいな、普通のことを言ったはずなのにいつの間にか罵られてるような気がする。いつの間にか桜が戸塚に変なあだ名をつけているが気にしない。

 

 

 

「そういえば、ひふみ先輩、さっきしれっと比企谷くんのこと『八幡』って言ってませんでした?」

 

 

「!?…………そ……そう……だったかな……よ、酔って……たから……わから……ない……」

 

 

 

「あー!ごまかさないでください!って!どこいくんですか!逃げないでくださいよ!」

 

 

 

涼風の追求から逃げるように座敷の襖を開けてトイレへと向かったひふみ先輩を追いかけていく涼風。

 

 

 

 

まぁ、確かに生きているうちにこういうクリスマスも悪くは無いかもしれないな。

 

 

 

 

 

……待てよ。クリスマスじゃなくても宴会はできるんじゃ……?

 

 

 

 




涼風「つまり比企谷くんはサンタさんに『本物』ってプレゼントをもらいたいんだね」

八幡「違うそうじゃない」


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たまにはいいもんだな

クリスマス回のあとに忘年会の催しを決める話があるのだが、別に忘年会の話がないしいいかとなりました。(まぁ、別に年明けてからでもできるし)


 

 

 

新年明けましておめでとう。とかいうけど、何がめでたいのかよくわからず使ってる節があるよな。

確かに新年が明けるまで生きてたね!おめでとう!とかそういう意味があるのなら納得であるが、そんなのある意味不謹慎すぎるし、寿命が縮んだね!やったね!的な意味もありそうでさらに不謹慎だ。

 

 

だが、戸塚からのあけおめメールというのはココロオドルものであり、エンジョイエンジョイ音楽は鳴り続けるような気がするので不思議である。やはり世界は戸塚で満たされなければいけないのかもしれない。

 

 

ここで大きなあくびを一つ。

 

 

眠い。非常に。なんで朝の5時に高尾山なんかに来なきゃならんのだ。

別に初の日の出なんて見えればどこで見ても一緒だろ。あれだよ?太陽だよ?1月1日に見たからと言ってその1年が太陽のように輝かしくなるとは限らんのになんで人々はそんなに見たがるのだろうか。

俺なら美少女のパンティとか戸塚の恥ずかしがる姿を見る方がよっぽど1年間輝かしくなれる気がするがね。……いや、変態の汚名を着せられる可能性があるな。うん。

 

 

 

「ふわぁ……眠いですね……」

 

 

隣で甘栗色の髪の毛から良い香りがするので見てみれば、高校時代に俺を下僕とか奴隷扱いしていた女が映る。

 

 

「眠いなら帰ろうぜ。俺も寝たい」

 

 

「うわぁ、相変わらずですね…」

 

 

そうやって俺のことをゴミを見るみたいな目で引くのは一色いろは。俺のかつての後輩である。しばらく見ない間にヘアースタイルを変えたのかセミロングからショートボブに変えていた。まぁ可愛いと思いますが、今年の正月はガキ使で迎える予定がこいつのせいでできなかった。許せん。

 

 

一色は来る途中に聞いた話では、俺が行こうとしていた私立文系の大学に指定校推薦で受かったらしく、それのお祝いを由比ヶ浜達にはしてもらったのだが、俺にはしてもらってないからという理不尽な理由でここに連れてこられたのだ。どこが理不尽かと言うと、そのお祝いのパーティ的なのに俺が呼ばれてないことなんだよね。それで初詣に付き合わされるっておかしくない?

 

 

「そういえばクリスマスに雪乃先輩と集まったってマジですか?」

 

 

「集まったってより遭遇したというか、逃げようにも逃げれなかったというか」

 

 

いや、あの日は平塚先生がいなかったらどうなっていたか。多分、今年も1人で新年迎えたんだろうなぁ……。ある独身女性を可哀想に思っていると一色はあざとく頬を膨らませる。

 

 

 

「なるほど。よくわかりませんがなんで呼んでくれなかったんですか」

 

 

 

「俺に言われてもな。声かけて回ってたのは由比ヶ浜だし。俺は連絡先知らんし。そもそもクリスマスは1人で過ごすつもりだったからな」

 

 

 

クリスマスといえば未来の猫型ロボットのアニメなんだろうが、俺は08小隊の方が好きなんだよなぁ。あとはビルドファイターズとか。アビゴルバイン?だっけな。カッコイイよな。

 

 

 

「……まぁそのことは初詣に付き合ってくれてるので許してあげましょう」

 

 

 

わーい!やったー!うれしー!なわけねぇだろ。なんだよけものフレンズって。どこが獣なんだよ。毛が足りねぇ!と、どっかのケモナーの意見を言ったわけだが…。

 

 

 

「で、どうすんの?帰るの?」

 

 

 

「は?何言ってるんですか。これからこれ登るんですよ」

 

 

 

指さす方向を見れば長蛇の列ができた坂道。どうして人間は高いところで朝日を見たがるんですかね。別に自分の家から見た朝日でも感動的だと思うんだけど。

 

 

「マジで?」

 

 

 

「マジです。大丈夫ですよ、ロープウェイが通ってますし。すぐに行けますよ」

 

 

 

そのロープウェイというのは、俺達以外も使うだろうし明らか2つしか通ってないのだが、すぐに行けるのだろうか。どこが大丈夫なのだろうか。それに新年いきなり山登りなんてしたくないよ俺。

 

 

「でも、登ってる間に日が出たらどうすんだよ」

 

 

 

「あー……」

 

 

 

人の列の長さや進み具合からして初の日の出が見れない、もしくは見えにくい可能性がある。せっかくここまで来たのだから見てみたいと思ってしまうあたり俺も人の子だな。

 

 

 

「仕方がありませんね。あ、ほら、そこにベンチがありますしあそこに座って見ましょう」

 

 

 

「いいけど、誰か座って……あ?」

 

 

一色の言うとおりベンチはあるが誰か2人ほど座っている。どちらも女性だ。アダルトというよりはロリっぽい。というか、あの長いツインテールはどこかで見たことがある気がする。そう、昨年の4月あたりからかなりの頻度で。でも、他人の空似ということもあるだろう。というか、あいつならあのうるさいのと一緒だろ。見た感じ明らかに違うやつといるし。つまり、あいつは涼風じゃない。

 

 

「ほたる先輩ーお久しぶりです」

 

 

 

おやおや、目を離した隙に一色がベンチに座っている人に話しかけに行ったぞ。どうやら、一色の中学時代の先輩らしいな。

さて俺はどうすればいいのだろうか。そう思っていると後ろから靴を蹴られた。誰だよ新年早々喧嘩売ってくるリア充は……

 

 

「あ、やっぱりハッチじゃん。あけおめー!」

 

 

 

お前かよ。……ってことは、あのロングツインテラーはまさか…。

 

 

 

「あおっちー、ハッチいるよー!よくわかんないけど」

 

 

 

「えっ、えー!?なんで!?」

 

 

そんな幽霊とか死人を見たように驚かなくてもいいんじゃないですかね。しかしまぁ、なんでこいつらと遭遇しなきゃいけないのだろうか。やっぱり元旦は家にこもってるにかぎる気がするんだが。

 

 

「えっと、あけましておめでとう」

 

 

「おう、おめでとう」

 

 

マジで何がめでたいのかわからんが。言われたらそう返すしかない。こんにちはって言われたらこんにちワンって返すみたいなもんだよな。

 

 

「比企谷くんも初の日の出見に来たの?」

 

 

「まぁ、後輩に無理矢理な」

 

 

チラリと隣で中学時代の先輩らしき人と話している一色を見ると涼風は一瞬眉根を寄せた顔をするがすぐに「そうなんだ」と笑顔を向ける。

 

 

「あれか?邪魔だったらさっさと退散するが」

 

 

幼馴染とか親友とかの付き合いを察して一色を連れてこの場を去ろうと思ったが2人は首を横に振った。

 

 

「別にいいよ」

 

 

「……そうか、なんか悪いな」

 

 

 

なんで俺が謝らねばならんのだ。一色を睨みつけると少しだけ焦ったような顔をすると自己紹介を始めた。流石のコミュ力だ。オラにも分けて欲しい。

 

 

 

「一色いろはと言います。先輩の1つ歳下で今年で大学生になります。よろしくです」

 

 

当たり障りのない挨拶だな。こいつならもっと「総武高のアイドル色ちゃんだよー!今年でキャンパスライフの仲間入りだよー!」とか言いそうなのに。

 

 

 

「涼風青葉です。比企谷くんとは同じ会社の同僚なんだ。よろしくね」

 

 

「桜ねねだよ!私も大学生なんだ!よろしくね!」

 

 

 

「はいーよろしくでーす」

 

 

 

あれ?一色さんなんかちょっと適当じゃないですかね?

 

 

「あ、先輩。この人は私の中学の時の先輩のほたる先輩です」

 

 

「よろしくね、えーと……」

 

 

「あ、比企谷八幡です。」

 

 

「比企谷くん……うん、よろしくね」

 

 

可愛らしいベレー帽にタートルネックに大人びたコート。顔は童顔だが、涼風と桜よりは少しだけ大人びて見えるその子はニコリと笑う。

 

 

ベンチは5人で座るには狭く、それに女性ばかりのところに座る気にもなれないので俺は立って太陽を見ることにした。あれだな。覚悟ってのはこの登りゆく朝日よりも明るい輝きで道を照らしている。そして俺がこれから向かうべき正しい道をも。そんな名言を思い出していると桜が声を上げる。

 

 

 

「あ、見てみて太陽!」

 

 

 

顔を上げてみれば薄らとかかっている雲を抜けて朝日が昇って来る。そういえば初の日の出なんていつぶりに見ただろうか。

たまにはこういうのもいいだろうと思う。たまに見るからこそ感動があり楽しめる。毎年見てんじゃつまらなくなるだろう。

 

だからたまには……な。



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葉月しずくは自由奔放である。

一度やってみたかったネタを仕込みました。
忘年会って年明けにもやってるとこはやってるよね!!!!


 

 

 

正月というのは日本人にとっては約束された勝利の休みみたいなイメージがあるが、そんなことは無い。休めば休んだ倍以上の仕事が待ってるわけで休めば休めるのは学生だけなのだ。大学生の夏休み、冬休みはとことん長いが小中高生の冬休みは2週間程度と短い。しかし、社会人の冬休みはもっと短い。

 

 

 

「お前14日も休めるの?俺2日だよ。俺の冬休み2日だけ」

 

 

そんな話を初詣を終えて久しぶりに実家に帰った時に小町に愚痴ったものだ。そういえば、涼風は今朝桜に羽根突きに誘われたらしいが断ったらしい。まぁ、仕事だもんな。はじめさんに呼ばれて身体を向けると白い紙をテーブルに置く。

 

 

 

「さてと、疎かにしてた忘年会の場所決めちゃおうか」

 

 

忘年会とは年末から年明けの2周目あたりに催される宴会の事である。一般的には、その年や前の年の苦労を忘れるために執り行われる宴会であり、特に宗教的意味付けや特定行事様式は無いのだが、一発芸やらビンゴ大会が用意されていたりとぶっちゃければ社会人の打ち上げのようなものである。

 

 

イーグルジャンプはベータ版の提出やらで忙しかったので年をまたいで今年の1月中にすることになった。別にしなくてもいいと思うんだけどね。親父のところは年末にちゃんと済ませたらしく、親父は出し物でモノマネをしたらしい。何のモノマネかを聞いたらムスッとしていたが母曰く、ピングのモノマネらしい。ペンギンなら今旬のコウテイペンギンちゃんにしろよ。そんなことを思ったが口にはしなかった。

 

 

「てか、なんで俺らが……」

 

 

そんな本音をこぼすとゆん先輩は苦笑いを浮かべる。

 

 

「まぁ、若手の宿命やな」

 

 

そうか若手か……あの人もう三十路だから若手じゃないんだろうなぁ……。いや、新しい先生が入ってこない限りは最年少キープ出来てるのかもなー。あはは、可哀想だからまた今度飲みに付き合ってあげよう。そうしよう。

はじめさんは腕を組むと真剣な表情で話を切り出す。

 

 

 

「忘年会兼納会…その幹事の責任はとても重く、上手くこなせたかどうかで来年の評価も変わってくるからね」

 

 

 

はじめさんの言葉に涼風はゴクリと喉を鳴らすと口を開く。

 

 

「も、もし失敗したら……」

 

 

「これからずっと空気読めない子扱いだよ。それに成功しすぎてもダメなんだ」

 

 

「え、なんでですか」

 

 

 

「今後ずっと幹事をやらされることになる」

 

 

「ひぃぃ!」

 

 

幹事のなにがめんどくさいかと言うと日程調整から予算配分、お店の下調べから予約まで全て一任されるため、自分のことで手一杯なのにそんなことを任される立場といったらたまったものではない。

 

 

「成功し過ぎず、失敗し過ぎず……難しいですねどんな感じなんだろ」

 

 

 

「まぁ適当に無難な店でパァーとやれればいいんじゃね?どうせ酒飲んで忘れるんだし」

 

 

我ながら的確だと思う。親父のモノマネとやらも忘年会中は高評価だったらしいが次の日には二日酔いでほとんどの人に忘れ去られていたという。ならば、酒が飲めてつまみが美味い店に連れてけばある程度は満足するし不満があったとしても酒が忘れさせてくれるだろう。ほんと、酒、飲まずにはいられない。

 

 

「でも、それじゃあ来年の私達は記憶に残らない社員になってしまうのでは」

 

 

「は?」

 

 

「記憶に残らない社員より、空気の読めない社員の方がいいのでは」

 

 

 

「確かに記憶に残らなくて来年も任されるより、空気読めなくて来年からやらなくていいと考えると……」

 

 

涼風の意見に納得しそうになっている所をゆん先輩に止められる。

 

 

「夫婦漫才か!!だいたい幹事ゆうてもたまにあるくらいやろ?いいお店選んだ方がみんな喜んでくれるしええねん。それにここで上手く立ち回れば仕事が出来るイメージもつくやろし、頑張って損なんてない」

 

 

ゆん先輩の言葉に固まる俺たちを見てゆん先輩が動揺したのか「な、なんや?」と交互に顔を見やると俺はまたもや思ったことを口にする。

 

 

「なんかヤフー知恵袋のベストアンサーみたいっすね」

 

 

「どういう意味!?」

 

 

うむ、どうやら上手く伝わらなかったようだ。

とりあえず、パソコンを使って近場で納会ができそうなお店を調べていく。

 

 

「あ、このイタリアンレストランなんて楽しそうやない?」

 

 

「えーかたっ苦しい…」

 

 

「せやかてうちのチームは女の人ばかりやしおしゃれなとこの方がええやろ!」

 

 

「でもお行儀よくしてたら楽しく話せないじゃん!」

 

 

 

ゆん先輩もはじめさんも記憶に残らない社員にならないために選んでいるようだが、堅苦しくなくて美味しいイタリアンレストランの存在を忘れているようだ。それは何かって?それはね魔法の言葉『サ☆イ☆ゼ』だよ。

 

 

「うー青葉ちゃんは?」

 

 

「ぇ、私は……ハンバー……お酒が美味しいとこならどこでも」

 

 

 

「青葉ちゃん未成年やろ?」

 

 

 

いや、こいつさっきハンバーグの美味しいお店って言いかけてたぞ。多分、20歳越えが多いからこいつなりに気をつかったのだろう。でも、今までの意見を統合するとイタリアンレストランで堅苦しくなくてハンバーグがあって、お酒が美味しいとかサイゼ一択じゃないですかね。

 

 

流れ的に次は俺に質問が来るのかと思ったがそんなことは無く無言の時が過ぎていく。そんな時にぶらりと葉月さんがやって来る。

 

 

「やぁ、納会の幹事をしてるんだって?お店選びは順調かい?」

 

 

「なかなか難しくて……」

 

 

涼風が顔をしかめるとはじめさんがまさかの俺ではなく葉月さんに尋ねる。

 

 

「どこかいいお店知りませんか?」

 

 

「そうだね……メイド喫茶」

 

 

「「「え?」」」

 

 

 

「メイド喫茶がいいと言ったんだよ」

 

 

 

あ、だめだこの人。キリッとしてなんてこと言ってんだ。え?イタリアンで堅苦しくなくてハンバーグとお酒が美味しいメイド喫茶?あるわけねぇだろ。いや、あるのか?材木座あたりなら知ってそうだが。

 

 

「でも、メイド喫茶なんて行ったことないから……比企谷くんは行ったことあるの?」

 

 

「ん?あぁ、1回だけな」

 

 

千葉市内にあるエンジェルと名のつく店が二つあってどちらかに川……川サキサキがバイトしてる可能性があったからな。それっきり行ってない。

 

 

「そうなんだ……」

 

 

「私も行ったことないなぁ」

 

 

 

「うちもないなぁ」

 

 

 

3人が俺を見る目が一瞬だけいつもと違ったんだけど気のせいですかね。あれですか?うわーやっぱりみたいな?でも、由比ヶ浜と雪ノ下のメイド姿は可愛いといえば可愛いが、やっぱり文化祭ではしゃぐ奴にしか見えないんだよなぁ…。それに最近はメイドラゴンが流行ってるわけで人間のメイドの時代は終わったと見た。

 

 

「ふふ、仕方ないね。じゃあここで少し実演してみようか。私と比企谷くんがお客役で君達はそのメモのセリフを読み上げておくれ」

 

 

「え、いや、あの……」

 

 

 

何だか完璧におかしな方向に行ってると思うのは俺だけではないのだろうが、意外にも3人とも渡されたメモを暗記しようとしてるので乗り気なんじゃないかな。俺も促されるまま椅子から立ち上がって葉月さんの横に立つこと数秒。

 

 

「はやく扉を開けてよ!」

 

 

「そこから!?」

 

 

 

そう突っ込んだ涼風は椅子を離れドアノブを捻るようなジェスチャーをすると葉月さんが「ガチャ」と手動音声をつける。そこはあんたがやるのね。てか、自動ドアじゃないのかよ。

 

 

「お、おかえりなさいませ!お嬢様、ご主人様!さ、寂しかったニャン!」

 

 

ま、まさかの猫キャラ!?いや、様になってるけどね!でも、涼風がやると犯罪臭がすごいというか……あ、それは俺がいるからですねはい。にしても、ちゃんと手をニャンニャンさせてるのを見るとこいつマジでメイド喫茶行ったことない発言が嘘に聞こえるな。

 

 

「ごめんよ、仕事が忙しくてね。今日のオススメは何かな?」

 

 

「は?自分で選べへん……ないの?仕方ないわね。私が選んであげる!」

 

 

 

「はははお願いするよ」

 

 

なるほど、ゆん先輩はツンデレメイドさんか。確かに普段の言動に近いから似合ってるといえば似合ってる。

 

 

「はい、レモンティー」

 

 

おかしいなー僕の分がないんですけどー?ご主人様なのに俺のがないんですけどー?

 

 

「あんたはこれ」

 

 

「……」

 

 

ガムシロだけですか……。

まさかのレズビアンなの?それともこういうプレイなの?そんなので興奮する俺じゃないぜ。だから、静まれ……もう1人の僕!

 

 

「あ、待ってにゃ」

 

 

葉月さんがカップを取ろうと手を伸ばしたのを涼風が止めるとカップに向けて手を振る。

 

 

 

「おいしくなーれ。おいしくなーれ。はいどうぞ」

 

 

「ちがうだろ」

 

 

「え?」

 

 

「そこに書いてるだろ」

 

 

 

「え、ほんとに言うんですか、これ」

 

 

「そうだよ」

 

 

どうしてだろうやった葉月さんがタチの悪いお嬢様になってる。あれだな執事やメイドを困らせるわがままハイスペックかな?

涼風はちらりと俺を見ると顔を赤めてぷるぷるしながら両手でハートを作るとそれを前に突き出す。

 

 

「も、萌え萌え キューーーーーーーン!」

 

 

「……お、おう」

 

 

ガムシロに萌え萌えキューンされてもなぁ……。てか、マジでこれだけなの?それともお嬢様に渡しなさいとかそういう事なの?出された品物の対処に困っていると今まで黙りとお盆で胸を押し上げて立っていたはじめさんが手を上げる。

 

 

「あのー……私はこれといってキャラ付けとかないんですか?お盆持って立ってればいいって……」

 

 

「篠田くんはね、だまってるだけで可愛いし、せっかく胸もあるんだからそれを生かすべきだよ」

 

 

「へ……?……ふっ」

 

 

やめたげてよぉ!そんな勝ち誇ったような顔で涼風とゆん先輩を見るのやめたげてよぉ!

 

 

「うん…美味しい…」

 

 

美味しそうな顔でレモンティーを飲まれるお嬢様、どうかこのガムシロもお使いくださいませ。そんな思いが届いたのかと思いきや微笑んだ顔で仕事中のひふみ先輩を見つめる。

 

 

「そこのお嬢さんもこっちにこないかい?」

 

 

「……!!」

 

 

その目はまるでゴミを見るような目で今までひふみ先輩がした事がない目だった。うん、めちゃくちゃゾクゾクした。

 

 

「ふふ、ゾクゾクするねその視線」

 

 

 

それはどうやら葉月さんも同じだったらしい。しかし、何か思いついたのかメモに何か書き出すと俺に渡してくる。どうやら、ひふみ先輩に向かってこのセリフを読めということらしい。なんだよこのセンス…しかもイケボって……はぁ。

 

 

「僕はカルボナーラ……ひふみ先輩は半熟卵……ずっと絡み合っていよう……」

 

 

「……!?」

 

 

やばい、めちゃくちゃ引かれてる。葉月さんは殴りたいくらいに笑ってるし、ほかの3人に関しては他人のフリして納会の話を進めていた。

 

 

 

「比企谷くん……」

 

 

「ひ、ひゃい?」

 

 

「私、カルボナーラより……ペペロンチーノの方が……好き」

 

 

 

あ、そうですか。俺も好きです。さっき好きになりました。いいっすよね具なしペペロンチーノ!

 

 

そして、俺がひふみ先輩の闇オーラに気圧されてる間に納会は結局八神さんの適当な神さまの言うとおりでハンバーグのお店に決まったらしい。なんでサイゼじゃないんだ解せぬ。



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比企谷八幡はついボヤいてしまう。

お久しぶりです


叶えるのが夢だけど
叶わなくても夢は夢さ

Happy Birthday……俺。


 

 

「うわ、すげぇ雨だな」

 

 

カッパを畳みながら、ドアの外を眺めてそう呟いた。さっきまで自分がいた時は小雨程度だったが今ではドアを打ち付けるように風が揺らしている。

 

 

エレベーターから降りて自分のデスクに向かう。2日ぶりのデスク周りは何故か綺麗に片付けられており、ゴミ箱を見れば俺の積み上げたマッ缶が捨てられていた。誰かは知らんが余計なお節介サンキュー。マスターアップ前なのに休んでいいのかと思っていた俺だが、どうやら会社は俺がいなくても廻ってるらしい。

周りを見れば、ほとんど誰もおらず、どうやら皆会議やら打ち合わせやらで忙しいらしい。

 

 

 

それに比べて俺はというと。

 

 

「平和だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は顔や目つきは父親に髪型は母親に似てしまったらしく、それでこのような死んだ魚のような目やら、まるでゾンビとか言われてるわけだ。

それに対して、親愛なる絶対護るべき絶世の妹というと、顔も髪型も母親よりになっている。父親と似ているところといえば少し勘が鋭いということくらいでそれ以外は全くないと言っても良い。親父が小町を溺愛するのは母ちゃんに似てるからなのか、それとも単純に可愛すぎるからなのか。多分だが、どちらもそうなのだろう。

 

 

 

最近、俺は周りが女性ばかりの職場に放り込まれて、たまにだが、こんなことを考えてしまう。

もし、俺が女子だったなら少しは青春ライフを謳歌出来ていたのだろうかと。

 

 

女子なら体つきは華奢になり、目も多少はキラキラするだろうし、肌も綺麗になり、今よりはかなりマシに見えるはずだ。それに学生時代の物静かな性格でもクール系とやらが好きな男子は多いのでモテる可能性はある。

 

 

女子なら恋人がいるからといって青春は輝くとは限らないが、雪ノ下と由比ヶ浜、涼風と桜のように親友という関係とやらには出逢えたのではないだろうか。

 

 

 

「でも……女の子って……結構、めんどくさい……よ?」

 

 

 

あー、そーらしいな。小町も言ってたわ。女の子同士が喧嘩するとめんどくさいって。なんか陰湿になるらしいな。あからさまに無視したり、お菓子のゴミ入れられたり、掃除の後自分の椅子だけひっくり返されたままだったりとか。で、それっていつの俺の話?

 

 

 

「ご、ごめん……わからない……かな」

 

 

 

いやいや、謝ることは無いですよ。これは俺の単なる独り言というか妄言ですし。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「どうしたの……?」

 

 

誰かに受け答えされていて気になったのだが。もしかして、声に出てたか?てか、さっきから女の子がめんどくさいとか、謝ってるのって誰?

 

 

「私……だけど?」

 

 

 

まさかのひふみ先輩でした。

 

 

 

「……いつから声に出してました?」

 

 

 

 

「比企谷くんの目がお父さんより……ってとこから」

 

 

 

全部じゃないですか。恥ずかしい、穴があったら沈みたい。

それで綺麗な比企谷八幡になりたい。

 

 

「すんません……」

 

 

「え……いや……こっちも、ごめんね……」

 

 

 

なんだこの微妙な空気。

誰もいないからといって気を抜いてひとり言を言ってしまった俺が悪いのか、たまたま隣にいたひふみ先輩が悪いのか。俺くらいになると集中力を上げるために変なことを考えながら作業して、つい口に出すことはある。それを偶然誰かに聞かれても特に気にしないが、相手が相手だったりするのでそうもいかない。とりあえず、この空気を何とかしよう。

 

 

 

「ところでひふみ先輩はどうしてこちらに?」

 

 

思えば、なんでひふみ先輩が隣に座っているのか疑問でしかない。隣は涼風とはじめ先輩でひふみ先輩のデスクからは少し離れている。今日は涼風は会議出てるし、はじめさんも葉月さんのところに行ってるし。ゆん先輩は弟妹がどうとかで確か午後からだったはずだ。なので、このブースには俺とひふみ先輩のみ。奥には八神さんと遠山さんがいるわけだが、あの2人もどうやら葉月さんのところに行ってるらしい。つまり、俺以外は会議かな?

 

 

「あ、私は……リーダーだから……やることやらないと……」

 

 

リーダーなら会議に出なきゃいけないんじゃないんですかねぇ。

しかし、ひふみ先輩がここにいるということは会議ということではないらしい。おおよそ、打ち合わせとか仕様書の確認といったところだろう。

 

 

「やることやるにしても、机そこじゃないんじゃ……」

 

 

「……だめ……かな……?」

 

 

ダメではないと思うんですが、むしろありがたいけど緊張して変な汗でるのでちょっと離れて欲しいというかごめんなさいありがとうございますというか。何考えてんだ俺。

 

 

「青葉ちゃん、少し遅れてるから……お手伝い……してるの」

 

 

「あぁ、なるほど」

 

 

優しいな、ひふみ先輩。俺も遅れたらお願いしたいぜ。そしたら、俺の椅子にひふみ先輩が座るわけでしょ?考えただけでもなんだかね。

 

 

 

どうでもいい話、俺が会社からいただいた休みの間に色々と変わっていた。いつの間にかひふみ先輩がキャラ班リーダーになっていたし、葉月さんの額にはガーゼが貼られていた。

 

 

あと、ひふみ先輩手作りのおせちを食べたらしい。ずるい。みんないなくなればいいのにな。

 

 

 

「比企谷くんは……遅れてるとことか……ない?」

 

 

 

「今のところはないっすねー」

 

 

休みの日、暇すぎて家でも仕事してたからね。アニメ観ながらだけど。何かしら作業する時には音楽(アニソン)やらテレビ(アニメ)つけたりすると意外に捗るものだ。逆も然りだけど。

 

 

 

「あのさ……」

 

 

「はい?」

 

 

「私が……リーダーで不安とか不満ない……?」

 

 

 

ひふみ先輩がリーダーになった経緯はだいたいは把握してる。前リーダーの八神さんがADをやるので、これからの事も考えて実力のあるひふみ先輩がリーダーに抜擢されたらしい。それに対して俺は不満はないが、不安はないと言えば嘘になる。

 

 

 

「そうですね…」

 

 

 

ひふみ先輩はとても優しい。それでもって可愛い。ひふみ先輩の抱き枕とかあったから欲しいし、毎日話しかけられたい。めぐり先輩のような人の心をリザレクション効果がある。だが、この人は恐ろしく不器用だ。手先は器用だが、言葉や感情があやふやだ。思ってることを口に出さないこともあるし、自分ではダメだとネガティブに考えている。そういうところが不安要素だ。何がダメで、どこを直せばいいかをこの人はちゃんと言ってくれるのだろうか。ご機嫌を窺って、人の顔色を見て話さないかが不安だ。ゆん先輩はそういうのは嫌うだろうし、涼風も気にしてしまうだろう。

 

 

そんなのは偽善だ。自分の感情や言葉を押し殺してまで得る信頼や友情に何の意味がある。

 

 

 

「何か困ったことがあったら俺を頼ってください」

 

 

 

俺に出来ることは精一杯やろう。

ダメと言われたら、いいと言われるまで直そう。

もし、お願いされたら自分に出来る範囲で助力しよう。

いや、出来なくてもできるように共に努力しよう。

そういうのはあまり得意じゃないが、嫌いじゃない。

 

 

 

「……うん……わかった……」

 

 

 

 

その時向けられた笑顔は先ほどまでの不安に押し潰されそうな顔とは一変して、美しく守り続けたいと思わせるそんな笑顔だった。しかし、それもすぐに変わり一気に肌を紅潮させ可愛らしくハリのある唇が開く。

 

 

 

「じゃ……八幡……って呼んでもいい……かな?……ほ、ほら、も、もう……1年経つし……」

 

 

 

 

まぁ、それくらいなら。全然俺に出来る範囲だ。

だけど、やっぱり慣れないことは言うもんではないな。

 

 

そう思った俺は居心地悪そうに頬を掻きながら頷いた。

 

 

 

 




これで3巻収録話終了。(無理矢理)やったぜ。


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飯島ゆんは叱られたい。


勝ち取りたい!物もない!
無欲なバカにはなれない!



今更ですが、「僕はカルボナーラ」ネタで沢山の感想ありがとうございました。


モンハンの小説書きたい




 

睦月はもうすぐ終わり、来月には大学、高校受験生がいい加減に本気をだそうという頃。俺はというと、いつも通りパソコンの画面に目線を釘付けにして作業を行っている。自分の仕事をノルマ分終わらせてMAXコーヒーを飲もうと給湯室に行ったら、どういうわけか、うみこさんにバグの修正を委託されてしまった。

 

 

まぁイレギュラーな仕事には高校から慣れっこだし、今日は変なこと、変なネタを口走らないように頑張るぞい!

ちくしょう!早速、使いやがった!だいなしにしやがった!お前はいつもそうだ。

この脳内はお前の人生そのものだ。お前はいつも失敗ばかりだ。

お前はいろんなことに手を付けるが、ひとつだってやり遂げられない。誰もお前を愛さない。

 

 

「し…進捗どうですか!!」

 

 

そんなやり取りを脳内でしていると、3D作業の締切が翌日に迫ったキャラ班のブースでそんな声が響く。八神さんに変わってリーダーとなったひふみ先輩がゆん先輩に作業の進捗確認のために声をかけたのだが、思ったより声が大きく、声をかけられたゆん先輩も近くに座っている俺と涼風もビクッとなる。

 

 

「あ、あした〆切だと思うけど大丈夫…そう?」

 

 

 

「……はい、大丈夫ですよ」

 

 

遠慮がちに聞かれたゆん先輩は少しだけ動揺しつつも答える。

 

 

「わかった…がんばって...ね!」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

ちょっとゆん先輩、その反応は失礼でしょ。ひふみ先輩ががんばってとか言ってくれたし、話すのが苦手なのに声をかけてくれたというのに。俺なら頑張るびぃとか言って返すくらいだ。あ、まただいなしにしやがった!

 

 

「あ、青葉…ちゃん!」

 

 

「はい」

 

 

「進捗……」

 

 

 

おそらく、この流れだと俺の方も聞かれるのだろう。なんて答えようかな。暇すぎて家でやったからもう終わっててプログラマー班の仕事をやってますとか、できるヤツすぎてやばい。もうこのまま会社に使い倒されて生涯を終えそうである。

 

 

ゆん先輩はまだ終わってなさそうだが〆切には間に合うだろうし、涼風の方はキャラデザの仕事があったから遅れてるらしい。俺はとりあえず、出来てるけど出来てないということにしておこう。

 

 

 

 

……で、俺には進捗聞かれなかったんだけど、そのへんどうなのよ。

 

 

 

###

 

 

 

どんなに忙しい時でも昼休みがあるのは当たり前で、会社のビルの休憩室にはそこそこだが人がいる。ほとんど女性ばかりで男一人だと息苦しく感じる。いつも通り一番目立たない電気のついていない端っこの席に陣取ると、袋からここに来る時に買ってきたおにぎりやらマッ缶を取り出す。

 

 

「ちょっと隣ええかな?」

 

 

おにぎりのフィルムを剥がそうと手を伸ばすと珍しくゆん先輩が話しかけてきた。しかも、昼食時とはさらに珍しい。色違いのポケモンと遭遇するのと同じ確率じゃね?あ、そんなことないですか。

 

 

「構いませんが」

 

 

俺がそう言うと、ゆん先輩は机にランチボックスを置き椅子に腰掛ける。

 

 

「そういえば、八幡とご飯食べるの久しぶりやね」

 

 

夏休みのラーメン以来ですかねぇ。あの時は女子の体重に対する観念が聞けてよかったです。そんなことは言わない。多分、何か俺に用があってきたことは明白だ。もし、そうでないとしたらありがたい。人の悩み話を聞いても、俺自身に解決はできない。当人の悩みの解決は当人とそれに関わってる人物にしかできないのだ。あれ?もしかして、俺知らない間に関わってたりする?そんなことない?

 

 

「八幡はひふみ先輩がリーダーってどう思う?」

 

 

「えぇ…どうって……」

 

 

「八神さんの時と比べてやりやすいとかそういうの」

 

 

ヤリやすい……?いや、やったことないから分からんけど……。

うん?なんだか、変な誤解をしてる気がします。つまりはあれか?八神さんとひふみ先輩。どちらがリーダーの時がモチベーション上がるとかそういう話だろうか。

 

 

だとしたら、あんまり変わらないなぁ。やることは変わらないし、怒られるようなことはしていない。せいぜい、遅刻が数える程度くらいだ。まだひふみ先輩がリーダーになってからはしてないのでわからんが、八神さんは「またか」と平塚先生みたいな小言くらいしか言わないし別になぁ。というか、最近八神さんが第2の平塚先生に近づいてて不安です。遠山さん早く籍入れてよ!

 

 

「八神さんと違って無茶な注文はないんじゃないですかね。」

 

 

 

「せやなぁ。怒ってくれなさそうやし」

 

 

 

まさかとおもうがこの人、進捗そんなに進んでないのでは?

八神さんの時なら間に合わなかったら怒られて終わりだが、ひふみ先輩ならどうなるか分からない。てか、あの人なら「一緒に頑張ろう」とか言って待ってくれそうだが。

 

 

「怒ってほしいんですか?」

 

 

 

「そんなことはないけど……」

 

 

「怒る方も怒られる方も疲れますから、怒られない、怒らせないが一番ですよ」

 

 

 

「そんなん……わかっとるわ……」

 

 

 

 

俯いたゆん先輩は落ち込んだような表情で箸を置く。

俺は滅多に怒らないが、怒られることは多い。怒られると逆恨みするやつが多いが怒られるのは自分が悪いことをしたからだ。そうと分かっていてもイライラするのは相手の言い方がわるいか、お前が言うなやら色々と理由はある。

 

 

しかし、怒るのはいけないからとかそうではないのだ。

正しい道を歩んで欲しいからだ。愛があるからだ。

どうでもいいやつが失敗したところで怒る必要はない。呆れるか、嘲笑うか、切り捨てるかだ。でも、ひふみ先輩も八神さんもゆん先輩を必要としているからそんなことはしないだろう。

 

 

 

この人もそれは分かってるはずだ。ひふみ先輩はおそらくだが怒りはしない。八神さんのように厳しく言って見逃すということはない。多分、手伝ってその失敗を成功に変えようとしてくれるだろう。

 

 

 

 

「……もし、叱ってほしいなら叱ってくれって言えば叱ってくれると思いますよ」

 

 

 

「ええ?」

 

 

 

「じゃ、俺もまだ仕事あるんで」

 

 

 

袋にゴミを詰めて包むと俺は席から立ち上がりその場を立ち去る。

コスプレイヤーだし、夏コミの時あれだけ演技出来てたんだから借り物の怒る演技くらいひふみ先輩なら余裕だろ。

 

 

###

 

 

 

「私を叱ってください!」

 

 

ふむ、おかしいな。エレベーターから出た瞬間にゆん先輩の口から唐突なドM発言が聞こえてきたんだが。てか、昨日言ったな。叱られたいなら叱ってと言えばいいって。

 

 

どれどれとこっそり覗こうとすると目に入ってきたのは髪を払いのけ、表情をガラリと変えたひふみ先輩。クスリと冷淡な微笑を浮かべると目を細める。

 

 

「…嘘つくなんて悪い子ね。ダメでしょ?」

 

 

「へ……?」

 

 

 

いつものオドオドした雰囲気と打って変わった声音、目つき、仕草にゆん先輩は間抜けな声を上げる。紅潮させた頬を舐めるように手をすべらせると、その手をゆん先輩の顎に置いてひふみ先輩側に引き寄せる。

 

 

「ごめんなさいは?」

 

 

艶やかな唇を動かし発せられたその声はゆん先輩の心を優しく握りつぶすようで、恥ずかしげも無く顎クイをするひふみ先輩に対してトマトのような顔色になったゆん先輩は舌足らずになる。

 

 

「ご、ごめんなひゃい……」

 

 

そんな非常に百合としての完成度1000%な状況に空気を読めないバカがやってくる。

 

 

 

「おはようございまー…………」

 

 

 

KYの涼風は目の前のひふみ先輩がゆん先輩を顎クイをポカーンとして見るやいなや、かなり衝撃的なところを後輩2人に見られたひふみ先輩は顔を一瞬でいつも通りに戻したというか、なってしまいその場に顔を隠すようにしゃがみこむ。

 

 

「調子乗りすぎたーー!ううう〜〜〜!!!」

 

 

 

「あーもう!結局泣くんかい!」

 

 

その状況をどういうことか分からず終始「???」となっていた涼風。泣きわめくひふみ先輩を宥めるゆん先輩。そして、頭痛に襲われたようにこめかみを抑える俺。

 

 

今日もイーグルジャンプは平和らしい。

 




次回、死のバレンタイン!


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バレンタインとは一体なんなのだろうか

久しぶりです。FGOやってたら書く時間ありませんでした。まぁ、携帯替えたからというのもあるんですがね!


とりあえず、2期 や っ た ぜ 


アニメて新刊出る前に4巻分の話は書き上げたいですね。では、どうぞ


バレンタインは嫌いだ。

 

別に甘いものは嫌いじゃない。それはMAXコーヒーを飲んでる時点で察してほしい。てか、チョコは少し苦いくらいがちょうどいいと思う。

負け惜しみに聞こえるかもしれんが、そういうのではない。

貰ってもお返しが面倒だ。なんてわけでもない。ほら、俺はいつも小町からしか貰えないからね?少しお返しが増えても問題ないんですよ。

 

 

そして、覗くのは2月13日の夜に届いた愛する妹から『今年は色んな人達から貰えるだろうから〜じゃあ、幸せなバレンタインを〜』

 

 

なんでお前がたくさん貰えるからって俺が貰えなくなるの?的な返信をしたのだが、何故かゴミ呼ばわりされた不遇。

だから、チョコの唯一の貰い先である小町からチョコが貰えないと知った俺はもうバレンタインを否定する。

 

 

 

 

 

###

 

 

バレンタインってそもそも何のための日か忘れてしまったここ最近。とりあえず、チョコレート会社の企てた陰謀だ。俺が望むのは血のバレンタインです。すみません嘘です。小町からチョコが貰えないからって錯乱してる。

 

 

「……にしても多いな」

 

 

バレンタイン当日にチョコを買いに来るのはどうかと思うが、上の命令には逆らえない。だが、この時期に男はチョコは買いづらい。まるで女の子からチョコを貰えないからって自分で買ってるみたいだ。デジタル化してる日本なら店頭にパソコン置いてクリックしたら買えるシステムとか導入してくれたらいいんだがな。それならネットで買えとか言われそうだ。というか、俺は普通は貰う側ですよね!

 

 

 

女の子で賑わうチョコ売り場をぼんやり見てると、見慣れた青紫の髪が揺れているのが映った。なにやら動物のチョコをじっと見つめていたが、首をぶんぶん振るとウイスキーボンボンを手にした。無理して大人っぽいチョコ買うなよ、子供っぽく見えるぞ。

 

 

 

で、外も社内もバレンタイン一色だ。まだ昼前だというのにこの騒ぎ。夜になったら家とかホテルにいってドッタンバッタン大騒ぎするに決まってる。

 

 

 

「爆発しろ!」

 

 

 

エレベーターから出て聞こえたのが葉月さんの呪いの言葉だった。覗いてみると八神さんが遠山さんにチョコを4箱も渡していた。あーやっぱりそういう仲なんですね。そんな目で見てたら八神さんが顔を赤くしてこちらを向く。

 

 

「ち、違う!こ、これは!」

 

 

「もう……仕方ないんだから……」

 

 

もう1人は好きな人にチョコをたくさん貰えてご満悦のようだ。やれやれだぜ。

 

 

「あ、ごめんね、八幡……その、りんがあんたの分も……」

 

 

遠山さん……アタイ許せへん!あの男勝りでギャップ萌えの塊の八神さんからチョコが貰えないなんて!もしかしたら、デレデレしながらチョコを渡してくれたかもしれないのに!ないです(確信)

俺が涙を殺しながら歯を食いしばっていると涼風が顔をひょっこり出してくる。

 

 

「あのこれからここで少しチョコパーティーをするんですけど葉月さん達もどうですか?」

 

 

「いいね、お邪魔しようかな」

 

 

葉月さんはそう言うと涼風の方に行くが、お2人さんは自分の席で食べると言いその場に残った。さて、俺はと言うと……まぁ、強制連行だ。

 

 

「そうだ、比企谷くんこれ」

 

 

 

「あ、どうも」

 

 

なんだか遠山さんからチョコを貰ったけどついで感がすごいが義理だし是非もなしかな!でも、貰えたから嬉しい!

 

 

「おーい、八幡早く来なよ」

 

 

へいへーい、とはじめさんに呼ばれたのでその場を去る。たかが、数cmの距離だが。

机に広げられたマットにたくさんのチョコと紅茶。

 

 

「じゃーんチョコット工房の人気チョコレート詰め合わせ!買うの大変やったんだから!」

 

 

「チョコばかりだと思ったから私はクッキー……」

 

 

「みんな普通ですな〜私は動物チョコレート!!」

 

 

 

チョコット工房なんて俺は知らんぞ!せいぜい、ゴジラだかゴディバとかいうとこしか知らん。貰ったことはないがな。それにしても、ひふみ先輩はなにかと空気を読むのに長けてる気がする。バレンタインというのはチョコをあげるのが定番だからな。どうしてもチョコが集まりやすくなるからこういうのは助かる。

で、なんでゴリラなんですかね……女の子ならもっとうさぎとか……ダメですね。心がぴょんぴょんしなくなる。

 

 

「1個しかないやん!」

 

 

「砕けばみんなで食べれるじゃん」

 

 

「でもちょっとかわいそうですね……」

 

 

砕くといってもどうやって砕くのか。ちなみにダイヤモンドはハンマーで割れます。トリビアで観た。荒木さんごめんなさい。

 

 

 

「動物さんチョコっていろんなものがあって可愛いですよね。私も迷ったんですけど…」

 

 

「どんなのにしたの?」

 

 

はじめさんが聞くと涼風はえへへと笑いながら箱の包装を破っていく。そのへんは雑いのな。

 

 

「ちょっと背伸びして大人のチョコレートを……じゃん!ウイスキーボンボン!お酒ですよ!お酒!!」

 

 

「そこまでにしとけよ涼風」

 

 

「ええ!?なんで!?」

 

 

「いや、言ってみたかっただけだ。悪気はない」

 

 

 

さっきまで俺、全然喋ってなかったからね。それに比べてお前はたくさん喋ってたんだから、俺にも少しは喋らせてほしい。心の中では俺の方がたくさん喋ってるんだがな。

 

 

「これって未成年が食べても大丈夫なの?」

 

 

「あくまでお菓子だから問題ないよ。でも食べ過ぎると…ね」

 

 

「え、じゃあ、もし食べすぎてちょっと酔ってしまって…交番のお巡りさんに飲酒チェックされたら……」

 

 

「た……逮捕……?」

 

 

「ま…まだ会社辞めたくないです!」

 

 

「気にしすぎだし、どちらにしろ補導までだろう」

 

 

なんで会社に来てまでこんなコントを見せられなきゃいかんのだろうか。アキトさんやミカさんは……oh......思ったよりも修羅場みたいだ。主にミカさんが。

 

 

「八幡……食べないの……?」

 

 

「あ、食べます」

 

 

なんか忘年会からひふみ先輩に下の名前で呼ばれているのだが、酔っ払ってるからだと思ったんだが、そういうわけじゃなさそうだ。もしかすると脈ありかもしれない。いや、それはない。

 

 

「うん、お酒のいい香り。美味しいね」

 

 

「なんやまだ仕事あるのにお酒ってちょっと背徳感あってええな」

 

 

今までに食べたことがないわけではないが……大丈夫……だよな?酔って錯乱しないよな?俺が食べるか否かと悩んでいると涼風が恐る恐るウイスキーボンボンを手に取る。

 

 

「わ、私も食べてみます……!」

 

 

 

「青葉ちゃんお酒ってはじめてー?」

 

 

 

「は、はい…」

 

 

「甘酒とかもないのか?」

 

 

「え!?あれってお酒なの!?」

 

 

「一応お酒だよ…」

 

 

 

ノンアルコールみたいなもんだと聞いたが。にしても、この子ほんとに大丈夫かな。いや、なんか歳とったら簡単な詐欺に引っかかりそうで怖いんだけども。

 

 

「酔ったらどうしよ……」

 

 

「その時は八幡とはじめに取り押さえてもらい」

 

 

「そうですね!」

 

 

いや、勝手に決めないでよ。そんな視線が俺とはじめさんと交差し、ため息をつく。とりあえず、涼風の舌にウイスキーボンボンは合っているらしい。もう1個だけと手を伸ばしているが、これは無限ループの予感だ。

 

 

「葉月さんはどんなチョコレートなんですか?」

 

 

「あぁ、私の?えっと、まずこれは……」

 

 

袋から1つずつチョコを取り出していく葉月さん。どうやら動物チョコレートを買ったらしく、ハリネズミをひふみ先輩、犬ははじめさん、猫はゆんさんにだ。

 

 

「比企谷くんにはアライグマだ。理由かね?特にない」

 

 

「えぇ...」

 

 

貰えるのはありがたいけど理由もなく渡されるのは困るなぁ…。アライグマか……アライさんにおまかせなのだー!って感じか?俺は虎の方が良かったな。ほら、1人で山月記コントできるし。

 

 

「そして涼風くんへはクマだけどどうかな?」

 

 

「わぁ、可愛い…」

 

 

次の瞬間、クマの頭部は無くなっていた。

 

 

「クマさん美味しい……」

 

 

恍惚とした表情を浮かべながらクマの残骸がついた指をぺろりと舐める涼風。何があった???

そう思ってウイスキーボンボンの箱を見ると全て無くなっていた。

 

 

「こいつ何個食べたんだ……!?」

 

平らげられたウイスキーボンボンの袋を掴むと、涼風がずいっと俺の胸ぐらを掴んでくる。

 

 

「数個だよ…何ビビってるの?それより比企谷くん」

 

 

「ひ、ひゃい?」

 

 

「なんで私だけまだ苗字呼びなの?いい加減青葉って呼んでよ?ねぇ?」

 

 

なんなんだこいつ。てか、アルコール度数低いチョコでも酔っぱらうんだな…。そんなことを考えて目をそらすと服をつかむ力が強くなる。

 

 

「ほら、そうやって逃げようとする。もうむしゃくしゃしてきた……!」

 

 

そう言うと涼風は俺を掴んでいた手を離してはじめさんの買ってきたチョコを力強く掴むと「ゴリラめ…こしゃくな…食ってやる!」とゴリラの頭部を一かじりする。それ以上食べさせないようにはじめさんが取り押さえてはいるが……

 

 

 

「涼風くんの来年の飲み会大丈夫かな……」

 

 

それでも食べる口は止まらず、葉月さんのそんな呟きが俺の耳に強く残った。

 

 

 




久しぶりなのでかなりぐだぐだになりました。多分、いつもなんですが。
それはそうと、なんか書いてない時期の方がお気に入り登録が多かったです。あれ?俺書かない方がいいんじゃないかな……となったのは別の話。


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水中戦ってしんどいよな

悔いは改めない通りすがりの魔術師です。
最近、ドロシーがきてます。アグロヴァンプ多すぎるんだよなぁ……。まぁ、虹で帰らせるんだけど。

さて、今期アニメは早速いい感じですね。Fate/Apocryphaに賭ケグルイ、青山くん、妖怪荘、アホガールとか。あと、再放送でグレンラガンやstaynight Unlimited Blade Worksとかもやってますしね。

どうでもいい話ですが、ここ1ヶ月は不運続きでした。Fate/Grand Orderでは30連引いても星4、5鯖は来ない。シャドバも新パック30剥いてレジェンド0で、さらに靴は隠されるわ、チャリはパンクさせられるわ。
俺が何をした。

さて、そんなこんなで色々ありましたが僕は元気です。
Twitterの方がフォロワーが50超えました。やりました!
RTされた数だけ小説書きますとかやったんですが2RTされてたので書きました(元から書く気だったんですけど)


おそらく、しばらくFate/Grand Orderのイベントが来ない限りは書けると思いますので再び応援願います。

あと、八幡が青春してるとか言う感想貰いましたが高校時代からしてるだろと思ったのは僕だけですか?


俺も変な作文書いたのに美人で若手(自称)の女教師に呼び出されてないし、あんな黒髪ロングの美少女がいる部室に案内されないわ、春に助けた犬の飼い主には木炭クッキー貰ってないし、男の娘には会ってないし……てか、そもそもそんなことねぇわ。


ということで始まるザンス。


 

 

「うーん…」

 

 

恐怖と血に満ちたバレンタインというイベントが終わって外に出てもあまり学生も見かけなくなっていった。理由はこの時期は受験シーズンの終盤だからというのもあるだろうが、単に寒いからだろう。昔は寒いからという理由で学校を休んだ俺だが、流石に会社は休めない。てか、そんな理由で休んだらクビ確定だろうな。

 

 

「うーん…」

 

 

しかし、仕事効率を良くするため社内では暖房が効いているから大丈夫だ。今時の学校はついてるらしいが俺の時はついてても動かなかったからな。いい時代になったもんだ。

 

 

「う〜〜〜ん……!」

 

 

それにしても、こんなに暖かくてうちのパソコンはオーバーヒートとかしたりしないだろうな。この前PS2が動かなくなって触ってみたらオーバーヒートした時は驚いたもんだ。上に保冷剤置いたりして冷ましたがやっぱり寿命だったのかおじゃんになってしまった。

やはり、形あるものは壊れるが運命。それは物も人も……

 

 

 

「だめだ〜!なんにも思い浮かばない〜!!」

 

 

ふむ、とうとう、はじめさんも壊れたようだ。

 

 

 

「はじめさんの企画のお仕事大変そうだね」

 

 

と、先日ウイスキーボンボンで酔っ払って仕事終わりまで俺を殺そうとしてきたヤツは椅子を寄せて耳打ちしてくる。なんだろうな、ひふみ先輩とかりん先輩みたいにいい匂いとかしたら興奮するんだけどな。いや、したら犯罪ですね。

 

 

「ねぇ、比企谷くん、今失礼なこと考えなかった?」

 

 

「ないです」

 

 

「……ならいいんだけど。というか、はじめさんのことなんだけど」

 

 

「あぁ、結構きつそうな感じだな」

 

 

はじめさんは今回の企画担当に立候補してそのまま採用されちゃったりしている。それにモーションの仕事もあるらしいし、それができるのはやっぱり好きなんだろうな。俺もこうして続けてるあたり多分好きなんだろうなぁ。ほら、嫌いなら今頃やめてるしな。いや、高卒だからやめたらニートどころかフリーターなんだけど。早く誰か貰ってくれよ!

 

 

「なにか相談に乗れることあったらなんでも乗ってあげたいけど…」

 

 

「なんでもって……それで無茶振りされても知らんぞ」

 

 

「何気に心配してくれるんだね……その時は最悪比企谷くんにも手伝ってもらえばいいし」

 

 

「おい今なんつった」

 

 

聞き捨てならないことを言った気がしたんだけど気のせいですかね。

 

 

「ちょっと聞いてくる!」

 

 

「……いってら」

 

 

適当に送り出しけど良かったよな。

まぁ、変なことにはならんだろ。多分な。……あれ?これフラグじゃね?

 

 

 

###

 

 

 

はじめさんに話しかけにいった涼風だが「これは己との戦いだ」的なことを言われて引き返してきた。その後、はじめさんも葉月さんのとこに行ってなんか言われて帰ってきた。なんかってなんだよって?俺が聞きたい。

 

 

「水の中での仕様……ですか」

 

 

「それで魚人のアイデアを出したんだけどいまいち良くなくて」

 

 

「八神さんとも話してたんですけど、種類によって特徴を活かしたデザインにしようかなと思って。魚だったら例えば……」

 

 

で、何やらはじめさんから涼風とゆんさんに相談事があるらしくいつものテーブルの上で作戦会議というわけだ。今は涼風が何か書いてそれを見たはじめさんが引きつったような感じの声で困惑してた。ちなみに俺は呼ばれてないよ。なんでだろうね、ハハッ。

 

 

「でも、これじゃあ手足がなくて攻撃できないしなぁ。体当たりだと顔が痛そうだし」

 

 

体当たりして顔痛めるってそれ頭突きとかそういう類の攻撃なんじゃ…

 

 

「ならシュモクザメみたいなのは?あれ目なんやけどナイフみたいにすればいいかも」

 

 

「なるほど強そう!そしたらフグみたいなトゲトゲもいいかもですね」

 

 

俺の後ろですごく盛り上がってる。よくあることだが。気になって手が止まっていたが俺に仕事がないってのはいいことだ。

 

 

「八幡もなんかない!?」

 

 

はじめさんの急な無茶振りにビクッと肩を震わせて、振り返るとキラキラした目でこちらを見ている。その目絶対朝のスーパーヒーロータイムとか見る目だよ。

 

 

「あータコとかイカもいいじゃないんすか?」

 

 

あの中に人が入るとは思えんが、ファンタジーだしいいんじゃないかな。それに俺の意見を聞いてすぐに紙にイメージを書いてくれる涼風ナイス。

 

 

「巨大なクジラとかもいいよね!」

 

 

「青葉ちゃん、クジラの尾ひれは縦やのうて横やで」

 

 

「あ……そういえば」

 

 

「やっぱりゆんってそういうの詳しいよね」

 

 

「へ?……あ、あたりまえやろ!だてにずっとモンスターとか作ってへんし!」

 

 

「照れなくてもいいのに」

 

 

「照れてへん!」

 

 

やっぱり同期って仲いいんだな。俺と同じことを思ったのか涼風がこちらを見ているが無視しておこう。

 

 

「というか、俺全く話聞いてなかったんですけど葉月さんに何言われたんですか?」

 

 

「あ、えっとね…水中ならではの変化とかつけられないかって言われて」

 

 

水中ならではの変化ねぇ……ビコーンって光るとか水圧弾撃ったり、装甲板を爪で貫いたりとか?ってこれ全部ズゴックだな。

 

 

「水中だと息ができないけどこれ着れば出来るとかってことですよね?」

 

 

そう言いながら涼風が描いたスケッチを指すとはじめさんはコクリと頷く。

 

 

「でも、これ着たら攻撃できないんじゃないですか?」

 

 

「……あ!そっか!これだよ!これ!」

 

 

どれだよどれ。という表情をしているゆんさんとはじめさんにはじめさんは涼風が最初に描いた魚に包まれた主人公の絵を手に取る。

 

 

「攻撃ができないことが代償なんだ!」

 

 

「でも、それじゃあ戦えへんやん」

 

 

「戦わなくてもいいんだよ。隠れながら進むのもこのゲームのスタイルじゃん。それにどうしても戦いたければ魚の着ぐるみを脱げばいいんだよ」

 

 

「でも、それだとスキューバダイビングの装備を外すようなもんだから場所によっては溺死しますよね」

 

 

モンハンとかグラセフでも水中で呼吸出来る時間は限られてる。理想を抱いて溺死することはないが相当なリスクだ。それを聞いた涼風が前のめりになる。

 

 

「スリルが出る!」

 

 

「そう!水の中のスリル!」

 

 

その後も意見はたくさん出た。蟹型だと攻撃は出来るが移動は遅く地底を伝ってしか動けなかったり、タコやイカも動きは遅いがスミを撃って邪魔したり出来るなど……四人寄れば文殊の知恵状態だ。

 

 

「すごいや、話してたらこんなにすぐに解決するなんて…実は、相談するのってかっこ悪いなって思ってたんだけど……助かったよありがとう」

 

 

少し恥ずかしそうな顔で言うはじめさんにゆんさんは紅茶を置いてジト目になる。

 

 

「なんやみずくさいな」「水だけに?」

 

 

「そうですよ困ったらお互い様です!」

 

 

「でも手柄は山分けな?……あと八幡後でちょっと」

 

 

「そんな!?」

 

 

「冗談冗談。あ、八幡はマジな」

 

 

なんだと……何されるんだろ。もしかして、この前のプレイ(ひふみ先輩に顎クイされてたやつ)を俺にやれと……!?

 

 

「あ…あの……」

 

 

俺が顔面真っ青で俯いてたら後ろから可愛らしい声が。振り向いてみると、何か描かれた紙を持ったひふみ先輩が。いたんですね。

 

 

「私も…ちょっと描いてみたんだけど…」

 

 

あ、話は聞いてたんですね。どれどれとはじめさんと2人で見てみると……。

 

 

「ヤドカリ…」

 

 

「だね。でもこれじゃあ……」

 

 

動けないんじゃないかと思ったのだが、ひふみ先輩にはある作戦があったようだ。

 

 

「敵がいなくなるまでじっとし続ける……みたいな」

 

 

「耐久プレイはリスクが高い気がします……」

 

 

「そ、そうかな……」

 

 

けど、カニとかにくっつける能力とかあれば良くなるかもしれませんね!といい笑顔のつもりで言ったら喜んでくれたぞ!やったね!個人的にイソギンチャクとかつけると強そうだなと思いました。

 

 

あとこの後、はじめさんは葉月さんに出てきた案を見せて高評価をもらい、俺は机の片付けを命じられたのでした。




今日以降に貰った感想は気になったものしか返信いたしません
なんでかって?作者の語彙力の問題です


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桜ねねは人の休みをかっさらっていく。

友人が「ねねむりやわー」と言ってて、俺も最初は無理だったけど書いてて好きになった。意味がわからないと思うが俺は好きだよ。うみこさんの方が好きだけど!てか、呟き見てたら「オープニングのひふみ先輩可愛スギィ!」という呟きが多くてつい「ひふみ先輩はいつも可愛いだろ!いい加減にしろ!そこは『オープニングのひふみ先輩も可愛い!』だろ!!」と錯乱してしまいました。



では、どうぞ。


 

 

たまにだが、俺なんで呼ばれたの?と思うことがある。初めて思ったのはまだ小学生の頃に小町が小町の友達と遊ぶとなって俺も伴わされた時だ。その時は親父と母ちゃんの愛情が小町に注がれてることに嫌気がしていたこともあって、かなり嫌々だったのだが小町を泣かすようなことになれば両親にどんな酷い目に遭わされるか分からないので仕方なく同行したが、ほんとにあれは居る意味があったのだろうか。

 

 

最近では、葉山と折本とあと折本の友人とで出かけた時のことだ。あの2人の目当ては葉山であって俺なんてお荷物どころか夏の蚊より邪魔な存在だろう。まぁ、あれは最後に俺を呼んだ理由を理解したくなかったがさせられてしまった。

 

 

 

最近といっても3年も前の話か。てか、2回しかねぇじゃん。いや、夏休みの時のボランティアとかも思ったんだけどね。戸塚と寝れるとなったら話は別だからね。是非も無いね。

 

 

「で、なんで俺呼ばれたの?」

 

 

 

「うんとね、暇そうだったから!」

 

 

 

と、久しぶりの休日を謳歌しようとしていた俺をとある大学の中に設けられた図書館に呼び出してきた桜はパソコンに向けていた目を俺に合わせると罪もへったくれもない笑顔でそう言った。

 

 

「いや、暇じゃないから。ほら?色々あるじゃん?」

 

 

 

例えば溜まりに溜まったアニメ観るとか、ようつべで動画漁りするとかね?他にすることねぇな。あれ?もしかして、俺暇すぎ……?

 

 

「色々ってハッチー家で寝てるだけなんでしょ?」

 

 

何故それを、と顔に出ていたのだろうか。桜は口元に手を添えてニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

「あおっちから聞いたもんねー」

 

 

 

なるほど、全部あいつのせいか。よし、明日あいつの机の引き出しにゴキブリのおもちゃいれてやる。それも10個くらい。そんなことしたら周りに殺されるのでやめときます。はい。

 

 

「で、見てほしいものってなんだよ?」

 

 

突然、電話がきたと思ったら大学の図書館に来てくれーとの事だったが部外者行っては行かんだろうと思い断ったのだが、まさかのところから魔の手がやって来たのだ。

 

 

小町『愛しのお兄ちゃんオープンキャンパス着いてきてよー♡』

 

 

俺『よかろう✩』

 

 

愛しの妹にそう頼まれたら行くよね普通。ということで待ち合わせの場所に向かっていたのが……

 

 

「よーし、ゲームも結構出来てきたぞー!ドラゴンファイヤー実装!」

 

 

ドヤ顔でタッタッタッターンッ!とキーボードを叩く桜の姿が。しかし、パソコンには【動作を停止しました】の文字が。

 

 

「もしかして、俺呼んだのってこれ手伝えってこと?」

 

 

「ううん、1人だと寂しいから」

 

 

そうか、独りぼっちは、寂しいもんな…いいよ。一緒にいてやるよ。どうせ暇だし。幸いここは図書館だから暇つぶし用の本も揃ってる。立ち上がって適当に本棚から気になったのを何冊か手に取る。主にデザインやパソコン関係の本だ。こういうのは読もうと思った時じゃないと読まないからなー。

 

 

再び桜の隣に戻り、本を開く。ちらりと桜を見るとゲームプログラム技術解説という分厚い本と睨めっこしていた。ついでに停止したパソコン画面を見たがそこにはフェアリーズストーリのような不思議な世界で素敵な世界とは程遠いグラフィックだ。

 

 

「……イラスト描いてやろうか?」

 

 

見るに見かねた俺は一応聞いてみたが桜は首を振る。すぐに本に目を落とすと「あ、そうか!」とパソコンにプログラムを打ち込んで龍なのか怪獣なのか分からんのが3発の炎を吐くのを見ると「やった!」と笑顔を咲かせる。

 

 

俺はため息をついて開きっぱなしになっていた本に集中することにした。桜の邪魔にならぬように。いるだけでいいなら、それでいいだろうと思って。てか、なんかあったら勝手に話しかけてくるだろ。

 

 

 

###

 

 

 

「ハッチー起きて!ハッチー!」

 

 

 

「んぁ……?」

 

 

身体を強く揺すられて目を開けると、桜が何か良いことがあったという顔で俺を見ていた。今は冬場と言ってもここは図書館。だいたいの図書館は設備が良いため基本的に暖房がついていて室内は暖かく、それでいて静かだからいつの間にか眠りの世界に引き込まれていたのだが、それもこれで終わりらしい。

 

 

目元を軽くこすって桜が向けてきたパソコンの画面を見る。うむ、グラフィックは相変わらずらしいが。

 

 

「ここ押して!」

 

 

そう言われて押してみると、怪獣ドラゴンがいくつもの炎を吐き出す。これ、避けさせる気ないだろというくらいの量だ。しかし、さっきよりは良くなっている。

 

 

「ね!ちょっとよくなってない!?」

 

 

 

「……まぁ、確かにそうだな」

 

 

 

そんな返事をして窓の外を見ると月が出ていた。満月じゃないからサテライトキャノンは撃てなさそうだな。とか思いながら時間を見ると8時前……。結構寝てたな。

 

 

「悪いなずっと寝てて」

 

 

「ううん、全然いいよ。呼び出したの私だし」

 

 

確かにそうだが…寝ちまうのはなぁ…。少しばかり罪悪感に襲われてると桜はノートパソコンを閉じると読んでいた本を目に被せて大きく仰け反る。

 

 

「それより疲れた〜!頭パンクしそう〜〜!」

 

 

お疲れ様と言おうとしたが、大きく仰け反ることで主張された胸元に目がいってしまう。なるほど、これが万乳引力の法則か…。でも、ひふみ先輩の方が……いかんいかん!俺は何を考えてるんだ。口に出したら、うみこさんあたりに会社から抹殺されるところだった。

 

 

「ここが桜さんの大学ですか……ってなんで比企谷さんがいるんですか」

 

 

おっと、何故か抹殺執行人が来てるみたいなんですが、なんでなんですかね。概ね、桜がプログラミングのアドバイスを貰うために呼んだんだろうが。

 

 

「俺も呼び出されました。てか、お疲れ様です。うみこさんは仕事終わりですか?」

 

 

「ええ、上からの無茶なプログラミングを終えたところです」

 

 

あはは、多分八神さんと葉月さんあたりかな。何頼まれたんだろスゲぇ見たい。

 

 

「ところでいいんですか?勝手に入って」

 

 

「いいのいいの!」

 

 

キョロキョロと辺りを見渡すうみこさんに桜はそう言うと「ここの食堂凄く美味しいからあとで食べに行きましょう」と閉じていたノートパソコンを開いて電源を入れる。

 

 

「読み込んでいますね」

 

 

机にあった大量の付箋が付けられた本を手に取るとうみこさんは温かみのある顔で言う。

 

 

「うん、その本読みやすいんだー」

 

 

「こっちの本はめちゃくちゃ汚れてるが…」

 

 

「コーヒーでもこぼしたんですか?」

 

 

解説書と違って入門書の方はうみこさんのいうとおりコーヒーでもこぼしたかのようなでかいシミができていた。それに桜はえっへんと胸を張る。褒めてないんだが。

 

 

「で、今日の用事はなんですか?」

 

 

理由は分かってるはずだがそう尋ねると桜は恥ずかしそうに身をよじる。

 

 

「用事っていうか、まぁ…前と一緒だけど…えっと…」

 

 

その様子に見たうみこさんは意地の悪そうな笑顔を浮かべる。

 

 

「もじもじして桜さんらしくないですね」

 

 

「わかってるでしょ!」

 

 

「なら、さっさと見せてください」

 

 

「はい…!」

 

 

そういえば、この前もこのメンバーで集まったな。確か、あの時も桜に誘われて自作ゲームを自慢されたんだったか。もしかしたら、桜は天才肌なのかもしれない。地味に国立の大学だしなここ…。

 

 

「じゃ、俺は飲み物でも買ってきますわ」

 

 

そう言って図書館の外を出ると、廊下には暖房が効いていないのか結構肌寒い。しかし、外はもっと寒いのだろう。そんな中、仕事終わりに立ち寄ってくれるとは…うみこさんもお人好しもいいところだ。まぁ、可愛い歳下の後輩ができた気分というのは分からなくもない。もっとも、俺の後輩はあざとくて人に仕事を押し付けてくるようなやつだったが…。

俺も弓道をやってる方の桜みたいな後輩が欲しいなと思いつつ、自販機のスイッチを3回押した。






桜の大学の食堂で飯を済ませたあと、俺は2人を家まで送った。うみこさんはいいと言ったのだが、桜が3人で帰ろうと駄々をこねたためそうせざるを得なかったのだ。


「すみませんね、送ってもらって」


「いいや、桜だけ送るってもあれですし」


ぶっちゃけ、桜とうみこさんの帰り道は全く違うのでかなり遠回りになってしまっている。それでも、一緒に来てくれたうみこさんに桜はとても喜んでいた。もっとも、うみこさんの家の場所を知らないからだろうが。


「別にタクシーを使うから良かったのに。あなたはお人好しなのですね」


それをあんたが言うか、そんな言葉を飲み込むと俺は首を横に振った。


「こんな雪道で走ってるタクシーなんてそうそういないでしょ」


「それもそうですね」


クスクスと笑うとうみこさんは立ち止まる。家はここなのかと思ったが表札の名前は『阿波根』ではなかった。じゃあ、なんで?とうみこさんに視線で問うた。


「いえ、涼風さんや滝本さん、それに桜さんがあなたを気にかける理由がよく分かりました」


「……そうですか」


どうわかったのかは知らないがなんだか恥ずかしいな。気を紛らすために頬を掻く。うみこさんは背を向けてまた歩き出し、俺が横に並んだ時、そうだと何か思い出したように口を開いた。


「また今度、サバゲーに付き合ってください。……比企谷さんとするサバゲーは何故か心が躍ります」


少しだけ呆気に取られて言葉が出なかった。そう言ううみこさんの顔がものすごく可愛らしく見えたからだろうか。俺は精一杯、目を逸らしながら「休みが合えばいいですね」と。そう返した。









###(ここから後書きよ!)



NEW GAME!!2期! や っ た ぜ !!
作者は観てませんが友人がオープニングやたらとゴリ押ししてくるので明日観ようと思います。てか、アニメ放映後のお気に入り登録数がすごかった。4位ですよ。体育大会の俺かよ。


ちなみに今回はうみこさんendでした。ラブコメは書くのが苦手だし、ハーレムはあまり好きではありませんがそちら路線で目指してみてもいいかなと思い書いてみました。

多分、ひふみ先輩endの催促が来ることが予想されます。
青葉、ねね、ゆん、はじめ、ひふみ先輩、コウ、りん、うみこさんendは描きたいと思います。ほたるんはアニメ次第(可愛かったら書く)


終わりにこんな拙い文章を最後まで読んでくれてありがとうございます。2週間に一回ペースを守りつつ、アニメでモチベを上げていきたいと思います。ではでは。


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とんでもない誤解をされてしまいました…

 

 

春は出会いと別れの季節だという。さらには淡い恋の始まりだとか。

そんなことを考えて俺はこの場所に立っていた。借りているアパートから自転車を漕いで数分の距離に俺の勤めている会社はゲーム制作会社『イーグルジャンプ』

やはり、慣れというのは恐ろしくこの桜並木の道を通るのにも全く違和感がない。緑の葉をつけて蝉が慟哭していた夏、葉が色と共に落ちていった秋、葉を失くした木の枝が白い雪を乗せた冬。それらを俺は目にしてきたのだ。

 

 

しかし、俺は変わらない。変わっているところもあるかもしれないが、自覚がないことからそんなに変化してないのだろう。自転車も高校の時からの愛車。髪は少し切ったからさっぱりした感じだ。

 

 

この前まで雪が降っていたのが嘘のように街は変わっていても自分は変わってない。環境が変わることで自分が変わったと勘違いするヤツにはなりたくないからと思ってるからかもしれない。

だが、どうやら俺は変わらなきゃいけないらしい。俺が入社してから1年経ったということは先輩というのになるのが自然の摂理だからな。

 

 

「先輩の涼風青葉だよ。よろしくね。先輩の涼風……」

 

 

それは俺と同期の涼風も同じこと。周りに人がいないからか、会社の前で胸に手を当てて後輩への自己紹介を繰り返していた。

そういえば、俺は後輩にどんな自己紹介をしたのか……。あれ、したことない気がする。てか、あいつに俺の名前呼ばれたことあったけ……。

 

 

「比企谷くん、おはよう」

 

 

「あ、遠山さん。おはようございます。」

 

 

確か、去年も涼風を見つけて立ち止まってたら遠山さんと会ったんだよな。俺は何故か不審者と間違われたが。軽くトラウマになりそうなことだが、高校時代からよくあった事だから別に慣れている。

 

 

「どうしたの?立ち止まって」

 

 

「いえ、あそこで涼風が後輩への挨拶の練習してたの見て、俺も今日から先輩と思ってまして」

 

 

俺がそう言うと遠山さんは苦笑いを浮かべる。

 

 

「……今年は新入社員いないわよ」

 

 

その発言が未だに挨拶を繰り返していたやつの耳に届いたのか、涼風は勢いよく振り返りながら「えええええ!?」と口を大きく開けていた。

 

 

 

エレベーターに乗ってる時も顔を赤らめていた涼風を気遣ってか遠山さんも俺もあまり口を開かなかったが涼風がなんで後輩がいないんですかと尋ねる。

 

 

 

「ごめんね、大きな会社じゃないから新入社員の採用は不定期で」

 

 

「そうなんですね。去年は私とは…比企谷くんだけでしたし」

 

 

まぁ、俺らは抜けた穴を補う形というのを葉月さんから聞いたんだが。てか、涼風さん俺の名前間違えそうになってませんでした?

 

 

「うう…でも恥ずかしいところを見られてしまいました…」

 

 

そんなことより本人はさっきのアレが恥ずかしいらしく、顔を手で覆い隠す。

 

 

「誰にも言わないから気にしないで」

 

 

遠山さんは優しいな…。それに比べて涼風と来たら覆ってる指の間から俺をじっと睨みつける。

 

 

「なんだよ」

 

 

「言わないでね」

 

 

「言わねぇよ」

 

 

そんなこと言って何になるというのだ。いつも通りゆん先輩とはじめさんにからかわれて追い打ちで八神さんにも言われて終わりだろ。

 

 

「そうだ。なにか飲む?」

 

 

遠山さんにそう聞かれて涼風はではと口を開く。

 

 

「すみません、そしたら…コーヒーでお願いします。冷蔵庫に黄色いのがあると思うので」

 

 

「おい、それ俺のだろ」

 

 

去年はブラックって言ってたのになんで今年はイエローなんだよ。しかも、それ絶対俺がワンケース買って持ってきたやつだろ。自分で買えよ。

 

 

「えー、いーじゃん。あんなにあるんだから」

 

 

「ばっかお前。あれだけあってもよくわからんうちにすぐに無くなるんだよ」

 

 

「うーん、多分コウちゃんとかはじめちゃんが飲んでるからじゃないかしら」

 

 

おいおい、そんなに愛されてるの?あれ俺のだよ?人のマッ缶をなんだと思ってんだよ。でも、仕方ないか。だってマッ缶なんだもの。MAXコーヒーだけ取り扱ってる自販機がここにあれば一生仕事してられる自信あるわ。いや、ないです。

 

 

俺も同じものをと頼むと遠山さんは笑いながら給湯室へと向かう。さてと、パソコンの電源つけますか。うちのパソコンはスペックがいいのか立ち上がりが早い。しかし、うちのエース様は立ち上がりが遅いようだ。「う〜ん…」と日曜日の母親が出すような声をあげていた。

 

 

「八神さん泊まってたんですか?最近珍しいですね」

 

 

それが気になったのか、涼風は自席から立ち上がって様子を窺いに行く。ん?待てよ?八神さん泊まりということはズボン履かずに寝てるのでは?これはチャーンス!やはり、パンツか。俺も同行しよう。おい誰だよ、花京院呼んだやつ。

 

チラリとバレないように見るだけ見るだけ。あ、これ多分、修学旅行で女湯覗こうとする男子高校生と同じ心境だわ。待て待て待て。それでは俺が八神さんのパンツを見たい変態野郎みたいじゃないか。

俺は違う……そうだ、八神さんに聞きたいことがあるから聞きに行くんだ。

よし、覚悟はいいか!俺はできてーーーーー

 

 

「へぶちっ!!」

 

 

「な、なに、八神さんのパンツ見ようしてるの!八神さんも早くなにか履いてください!」

 

 

「えぇ!?あ、うん……八幡、大丈夫?」

 

 

トートバッグで思いっきり顔面を殴られて顔を抑えていると、八神さんにズボン履きながら心配される。そこにマッ缶を4本持ってきた遠山さんが首を傾げる。

 

 

「えっと、何があったの…?」

 

 

「比企谷くんが八神さんのパンツを見ようとしたんです!」

 

 

「違うわい!」

 

 

「そうなの?比企谷くん?」

 

 

「いや、俺は単に八神さんに聞きたいことがあっただけですよ」

 

 

ホント、ハチマンウソツカナイ。

その場は八神さんがなんとかしてくれたから俺は助かったが、最悪遠山さんに殺されたな…。

 

 

「おっはようございまーす!……ってあれ、八幡大丈夫?」

 

 

マッ缶を受け取ってデスクでげっそりしてると、今来たばかりのはじめさんにも心配されてしまった。

 

 

「もうそんな暗い顔してたらダメだよ!今日から先輩なんだから!テンパらないようにしないと!」

 

 

何言ってんだこの人。そんな目を向けても伝わらないのか見えてないのか。はじめさんは髪をかきあげてカッコつけるてクールな声を出す。

 

 

「先輩の篠田はじめだよ。よろしくね。…ん?ああ、はじめさんでいいよ……とかかな〜」

 

 

威厳もなにもねぇな。誰も来ませんよと言うべきだろうか。いや、面白そうだから黙ってよ。

 

 

「はじめさん、さっき見てました?」

 

 

「えっ、なにを?」

 

 

「ははは」

 

 

はじめさんと同じようなことをしていた涼風には精神的にくるものがあったらしく、紅潮させながらジト目ではじめさんを見つめていた。どういう意味かわからないはじめさんだが、知っている遠山さんはただ愛想笑いを浮かべるだけだ。

 

 

「おはようさん〜なんや新しい子が来るん?」

 

 

「おはよう。緊張しないようにしないとねって」

 

 

「あ、いや…」

 

 

ゆん先輩も何も知らないのかそんなことを言うと、はじめさんは挨拶を返し、涼風は真実を知ってる為慌てた感じだ。しかし、はじめさんや涼風と違ってゆん先輩は新入社員に思うところがあるらしい。

 

 

「人数的にキャラ班やとええけど…でもそれやとモーション班のはじめは席移動やろし…寂しくなるな〜」

 

 

「うそ!?」

 

 

もう誰か、新入社員いませんよって言ってやれよ。そう思ってると、またもや何も知らない一番新入社員というものに敏感な人がやってくる。

 

 

「あ…新しい部下……?悪い子だったら…ど、どどどど、どうしよう……!」

 

 

うわぁなにあの人。めちゃくちゃ可愛んだけど。もうこれは俺が優しく教えてあげるしかありませんね!と、ゆらりと立ち上がろうと足に力を入れると

 

 

「いやいや、今年はいないみたいですから!」

 

 

涼風にかっさらわれた。俺は怒りの矛先をどこに向けるべきか悩んだ挙句、マッ缶を飲み干す。

 

 

「なら、今年も青葉ちゃんと八幡は一番下の後輩やな〜」

 

 

「そうですね……でも1人じゃないですし、皆さんがいるので安心です!」

 

 

俺は男の後輩欲しかったなー。男1人は肩身が狭いわー。

 

 

「でも、高卒って珍しいでしょ?専門卒でも20歳だし…」

 

 

「歳上の後輩ってどうすれば…」

 

 

「別に歳上でも、立場上は俺らの方が先輩だろ」

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

俺がデスクでだらけながらそう言うと、全員が静かにこちらを見つめる。それが気になり体を起こさざるをおえない。

 

 

「……なんすか。そんなこっち見て」

 

 

すると、はじめさん、ゆん先輩、涼風、ひふみ先輩、遠山さんの順で口を開く。

 

 

「いや……」「生きてたんやなぁ……って」「うん、ずっと黙ってたし…」「ご、ごめんね!」「特に何も無いわ」

 

 

なんか先輩2人の反応がひどいし、実行犯が目逸らして言うし、ひふみ先輩に関しては全く悪くないんで謝らないでください。ところで遠山さんだけまださっきの事気にしてるのは気のせいですか?

 

 

「あれ?どしたのみんな集まって」

 

 

自分のブースから出てきた八神さんが聞くと、さっきの恐ろしい顔とは打って変わって遠山さんは笑顔を向ける。

 

 

「うん、みんなが新入社員が来るって思っててね」

 

 

「あーなるほどね…」

 

 

納得したように頷くと涼風を見てなにか気になることがあったのか「ん?」と涼風の頭に手を伸ばす。

 

 

「な、なんですか!?」

 

 

「頭に桜が乗ってたの」

 

 

動揺してる涼風に対して八神さんは桜の花びらをじっと優しく見るとある提案した。

 

 

「お花見行こっか」

 

 





長くなりそうだったので花見の話と切りました


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桜の木の下は戦場である

やっぱり四コマ漫画だから、24分くらいやろうと思ったら他の話混ぜなきゃ無理なんだろうなーとアニメを見て思った。

あと、オリキャラが消滅しました(女の子しかいねぇ)
葉山の出番も消失しました
社員旅行編も修正いれてます


花見というのは日本独特の文化の一つで、古来から桜が多い日本では春の桜が満開の時期に行われている。それは歴史的文献や、絵巻物にも残されており、伝統のようなものとなっている。

日本人はとにかくお祭りごとが好きなのは周知の事実だろう。それに伴い、周囲にはゴミが散乱するわけで、近隣住民は苦労する。

祭りとは皆が楽しむものであり、自分さえ楽しければそれでいいと言うわけにはいかない。自分達の出したゴミは自らの手で決められた場所に捨てるべきである。

ちなみに俺は花見とか呼ばれたことねぇし、したことないから分かりません。

 

 

一般的には桜の木の下でバーベキューでしょ?え?違うの?

まぁ、有名なのは混み合う前にブルーシートやら敷物を引いて場所を確保。あとはそれを死守する。謂わば、攻城戦みたいなものだ。自分達の陣地を敵に取られないように守り続ける……あ、戦国BASARAやりたくなってきた。

 

 

まぁ、守護は昼から交代で行ったおかげで場所はしっかり取れているらしく、俺はそこに向かうだけとなっていた。

 

 

「ごめんね、荷物持つの手伝わせちゃって」

 

 

「いや、大丈夫ですよ」

 

 

花見には酒やつまみが必要らしく、俺は遠山さんの持ってきた箱詰めの弁当とスーパーで仕入れてきたジュースや酒の入った袋を運んでいた。

なんで俺なのかというと、男の子だからだと思うが昨日のことをまだ引きずられてるんじゃないかと思ってしまう。

 

 

「しかし、仕事もあるのによくこの量作れましたね」

 

 

遠山さんの持ってきたお弁当は三段重ね。お正月とかお嬢様のお昼にしか見ないものだと思っていたが、現実に存在するのは初めて見た。うちの家庭は母親がめんどくさがって作らないし、頼まないからテレビで見ることしかなかったので少し新鮮である。

 

 

「うん、ちょっと大変だったけど頑張っちゃったわ」

 

 

多分、八神さんのために頑張ったんだろうな。どうにも、八神さんからこういう多人数での食事を提案したのが初めてらしく、遠山さんも張り切って作ったのだろう。これが愛の形というやつなのだろうか。

 

 

「そういえば、比企谷くん、コウちゃんのパンツ見ようとしたのってホント?」

 

 

花見をする公園までもう少しというところで、やはり昨日の事を掘り返された。相変わらずめちゃくちゃいい笑顔なのに目が笑ってらっしゃらない。

 

 

「だから、八神さんに聞きたいことがあったから行ったら、涼風にそんな誤解されただけですよ」

 

 

「ほんとに?」

 

 

ずいっと下から覗き込むように真意を確かめようと遠山さんはこちらに寄ってくる。確かに少しの下心はあったし、特に聞きたいこともなかったが、誤解は誤解だ。ほら、結局見れてないし。

 

 

「ほんとですよ」

 

 

「……よし、これ以上はもう聞かないわ」

 

 

そう言って離れてくれたのだが、何故かまたすぐに黒いオーラを解き放つ。

 

 

「でも、コウちゃんに手出したら容赦しないからね」

 

 

「出しませんよ。……遠山さんはいいんですか?」

 

 

「えっ?」

 

不意をつかれたのか鳩が豆鉄砲食らったような声を出す。

 

 

「いや、出しませんよ。遠山さんには八神さんがいますし」

 

 

「からかわないでよ…」

 

 

冗談混じりで言うと、遠山さんは怒ってそっぽを向いてしまう。

そんなこんなで公園へと辿り着き、先に来ていた八神さん達の姿を見つける。

 

 

「おーい!ご飯早く!お腹すいたよー!」

 

 

あちらも俺たちに気づいたのか大きく手を振る。八神さんの無邪気な姿を見て機嫌が良くなったのか遠山さんはにこやかに手を振り返す。

広げられたシートの上に袋を置くと、俺も靴を脱いでその場に座り込む。

 

 

「いやー八幡ご苦労!」

 

 

「ご苦労さん。八幡は何飲む?」

 

 

はじめさんに紙コップを渡されゆん先輩がオレンジジュースとコーラを持つ。じゃあ、コーラでと言おうとしたらひふみ先輩がとあるものを出してくる。

 

 

「は、八幡は……これ、だよね?」

 

 

手渡されたのは見慣れたというか、もう会社では俺=これになりつつあるMAXコーヒー。

 

 

「そうっすね。ありがとうございます」

 

 

中身を紙コップの中に移すと、全員が飲み物を持ってそれを前に突き出す。

 

 

『かんぱーい!!』

 

 

###

 

 

花見はいつの間にか規模を増して、キャラデザ班とはじめさんを含めたメンバーだけでなく、今日来れるイーグルジャンプ社員全員が参加している。つまり、男は俺だけである。

 

 

「まぁ、比企谷くん以外にも男の人はいるんだけどね。今日は来てないみたいだね」

 

 

「そうなんすか…」

 

 

「安心したまえ!君の話し相手はこの葉月しずくがしてあげよう!」

 

 

酒飲んでなくても葉月さんは元気だなぁ。あと、人が飲み物飲んでる時に背中を叩くのはやめてください。

 

 

「葉月さん、比企谷さんが嫌がってるじゃないですか」

 

 

酔っ払ってるのか声のトーンが幾分高いうみこさんが銃を持ちながらやってくる。

 

 

「あ、そういえば、葉月さん。この前のこと覚えてますよね?」

 

 

「こ、この前の?」

 

 

「仕様変更したら……バン!」

 

 

「デコピンだよね!?」

 

 

そんな話したのか…。サバゲーの時も愚痴ってたな。葉月さんが仕様変更しすぎて仕事が増える。その怒りが弾丸にのってくるあたり恐ろしいんだよなぁ。そして、葉月さんへの怒りが八つ当たりという形で俺にも来た。

 

 

「比企谷さんも、そんな甘ったるいコーヒーではなくブラックを飲むべきです!ブラックかホワイトかはっきりしてください」

 

 

「いや、マッ缶は正義ですし…」

 

 

それに人生がブラックなんだから、コーヒーくらいホワイトでいいと思うんですよね。

てか、最後のコーヒーの話じゃない気がするんですけど気のせいですか?

 

 

「そうですよ!比企谷くんは早く色々とはっきりするべきです!」

 

 

「なんでお前がしゃしゃり出てんだよ」

 

 

酒の匂いだけで酔っ払ったのか、涼風が立ち上がって俺に指さしてくる。

 

 

「だって、比企谷くん、男の子だよね!?」

 

 

「……はぁ?」

 

 

そりゃ、男ですよ。『子』が『娘』じゃなきゃ合ってる。俺の中で男の娘は戸塚だけで十分です。ましてや、俺が男の娘とか誰の得になるんだよ。

何が言いたいのかと聞き返そうとしたが、ひふみ先輩に袖口を引っ張られる。

 

 

「…今日は、楽しい日だから…ね?」

 

 

喧嘩はするな、ということだろうか。する気はさらさら無いが…。

 

 

「青葉ちゃんも落ち着きなぁ」

 

 

「そうだよ楽しくやろうよ」

 

 

あちらもあちらではじめさんとゆん先輩に宥められていた。

それでもまだ何か怒っているのか頬を膨らませている。

 

 

「まぁまぁ、2人ともこれでも食べなって。美味しいからさ」

 

 

そう言って俺達の間に入るように八神さんは大トロを差し出してくる。受け取ろうとしたがはじめさんが物欲しそうな目でこちらを見てくる。それを見て食べていいものかと思案するが、八神さんはさらに前に出してくる。

 

 

「2人とも1年間頑張ったからそのお祝いってことで」

 

 

そういうことならとはじめさんは引き下がり、俺と涼風は皿を受け取る。でも、これわさび入ってるよね。

食べれないことは無い。しかし、醤油がいるわこれ。取ろうと手を伸ばすとイタズラな笑みが目の前に現れる。

 

 

「あれれ?もしかして食べれないの?」

 

 

「いや、醤油……」

 

 

「食べれますよ!ねぇ?比企谷くん!」

 

 

食べれないことはないけど醤油がないとキツイから取ってほしいのだが。取りたいのだが。しかし、取らせてくれない。となれば、覚悟を決めるしかない。箸でシャリの部分を掴み、口に放り込む。飲み込んでしまえば味はしないはず……!

 

 

「「〜〜〜〜〜〜!!」」

 

 

「2人とも無理せんで良かったのに…」

 

 

「ははは」

 

 

流石、わさび。お前に負けるなら悔いはないさ。

あまりに辛くてひふみ先輩から水をもらう。ちくしょう、あんなに笑わなくてもいいだろ。涼風もはじめさんから貰った水を飲み干すと俺と目が合う。そして、にこりと笑った。

 

 

変わったこともあれば、変わらなかったこともある。

自分の顔とか性格とかは変わらなくても、周りは変わってる。

俺はそれに合わせればいい。もし、俺が変わることがあればそれは周りが変えてくれたのだろう。

 

 

それでは、比企谷八幡、希望の未来へレディーゴー!

 




雑になったから後で修正いれました(一応)


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比企谷八幡は苦闘する。


あくまでこちらは原作準拠です
八幡が入ることで話が広がりますし、あんなにうまい事出来ない(本音)


 

 

突然だが日本の労働基準法に週2日の休日、最低でも1日を義務付けられている事はご存知だろうか。つまり、4週間を通じて4日以上の休日があるのだ。

 

他にも1週間の労働時間は40時間までとか,1日の労働時間は8時間まで。

という原則があったりするのだがそれは置いておこう。

 

会社にもよるのだが、休日は与えられており、それはイーグルジャンプにも与えられている。だいたい、休みのサイクルというのは決まっており、キャラ班は最低でも2人は出仕している状態になるように考えられている。

 

 

俺の休みは基本的に土日と公務員的な時もあれば、火曜金曜と飛び飛びになることもある。後者は新作ゲーム開発時のサイクルだ。

今はちょうど涼風と八神さんがメインをしている名称不明の新作のプロトタイプが終わって一息つけたのもつかの間。

さらにメインキャラや敵キャラを増やしていかねばならんのだが。

 

 

「青葉…ちゃん、そろそろ…新しいデザインがこないとキャラ班の手が空いちゃうんだけど…大丈夫…そう?」

 

 

「ごめんなさい、もう少しだけ待ってください。なんとか……!」

 

 

「何日くらい…?」

 

 

「それもわからなくて…」

 

 

「ううんいいの…!」

 

 

「まてまてー!」

 

 

デザイン担当の涼風の手が止まっており俺達は絶賛手空き状態なのだ。俺もアイテムの方はエフェクト班の方に引き継いでもらったので特にすることがない。

敵キャラはゆん先輩がやってくれるし、3Dモデリングはひふみ先輩がやるし……あれ?もしかして俺仕事ないの?

やったね!働かずにもらう金って申し訳ないから仕事ちょうだい!

 

 

「八神さんにこれでいいか聞いてきます」

 

 

「うん……行ってらっしゃい」

 

 

ゆん先輩のツッコミは華麗にスルーなのね。てか、ひふみ先輩と涼風仲いいよなー。べ、別に羨ましくなんかないんだからねッ!

 

 

俺の仲いい人って、誰だ?戸塚はクリスマス以来会ってないし…材木座って誰だっけ……?

最近、同性と遊んでないな……って、昔からか。なんか悲しくなってきた。そうだな、歌を歌えば楽しくなるっていうし

 

 

 

 

月曜日はちゃんと出勤。一人で乗り切きろう。

火曜日には調子出ます。多分ほんまなんです〜(ゆん先輩風)

愛想笑いしたら悲しくなってきた!

水曜日、画面に集中

木曜日 、もう画面に夢中

納期・ 新規・ 末期だって、金曜日だもん。

 

 

うん、これ俺の1週間かよ。締切破ったことないけど、守らないと周りに迷惑かかるからな。最悪、ハンドガンで脇腹を撃たれる未来が見える。締切三秒前と見た!

 

 

「うう…変なプレッシャーかけられた…」

 

 

八神さんに急かされることでも言われたのか、涼風がヨレヨレになって戻ってきた。あいついつも八神さんにプレッシャーかけられてない?気のせい?PP絶対削られてるでしょ。

 

 

「おーい八幡」

 

 

「なんすか、八神さん」

 

 

「かもん ひーあー」

 

 

何その雑な英語。ネイティブに怒られるぞ。てか、わざわざブース越しで呼ぶのね。席から立ち上がって、行ってみると数枚の紙を渡された。一応、何ですかこれという視線を向けるとあははと笑う。

 

 

「いやーアイテムの方、終わったから暇かと思ってさ。それ、キャラの指示書ね」

 

 

「え、指示書?モデリングじゃなくて1から描くんですか?」

 

 

「当たり前だよ。八幡もキャラ班なんだから。……ってのは、建前で青葉のが遅れてるからさ」

 

 

涼風が成長も納期も遅れてることは知っているが、1からキャラデザするのは当たり前なのか。COWCOWはそんなこと言ってなかったぞ。

 

 

「それなら俺じゃなくてひふみ先輩とゆん先輩が……」

 

 

いるからその2人の方が適任だと、その言葉は最後まで言うことは出来なかった。なぜなら、八神さんに人差し指で口を封じられたからだ。

 

 

「ダメだよ。八幡も来て1年経つんだからこれくらい出来るでしょ」

 

 

これくらい出来る……というのは俺への期待なのかそれとも、八神さんは1年目でできていたということか。

 

 

「分かりました、片付けてきますよ」

 

 

「うん、それでよろしい」

 

 

軽く肩を落として了承すると、八神さんは突き出していた人差し指を戻してニコリと微笑む。なんだよ、その顔、反則だろ。遠山さんが好きになった理由がよくわかったよ。多分、こういうところなんだろうな。

涼風も……八神さんのカリスマ性とまでは言わないが人を奮い立たせてくれるところや、適切なアドバイスをくれることに好意と、自分の絵に向かう姿勢とそのキャラの美しさに憧れを抱いたのだろう。

 

 

###

 

 

「2人とも調子はどう?」

 

 

八神さんから貰った指示書に従ってデッサンやらしてイメージを固めていると後ろから声をかけられた。

 

 

「遠山さん……って今日はスーツなんですね」

 

 

「ええ、これから取引先にご挨拶に行くから」

 

 

ADの仕事も大変なのは知っていたが、外部の取引先にも行くのか。うん、絶対やりたくない。まぁ、おそらく高卒に務まる仕事ではないんだろうが。

 

 

「あ、この下の女王様。その取引先の人にちょっと似てるわ」

 

 

「ええ、怖い人なんですか!?」

 

 

「ふふ、ちょっとね。でも話してみると案外いい人だったりするのよ」

 

 

「へぇ…」

 

 

涼風が感心するように言うと、今度はこちらの絵に目が向けられる。

 

 

「比企谷くんは博士キャラ描いてるの?」

 

 

「ええ、八神さんに頼まれまして」

 

 

本当に指示しか描いてないから、本当に困る。1から!いいえ、0からだよ。

 

 

「2人ともそのキャラは好き?」

 

 

突然の質問に涼風は困ったような笑顔を浮かべるが、すぐにそのキャラについて話し始めた。

今のところ、主人公のペコ以外で唯一の人間キャラでぬいぐるみ達に恐怖政治を強いている。何故そんなことをするのか涼風には分からないらしいが、それが分かればデザインが固まるのではないかと、ひらめいたように言う。

 

俺はさっき知ったキャラだからそこまで好きになるポイントもキャラへの理解もない。だから、理解できれば好きになれるかもしれない。

 

 

「デザインのお仕事をしていれば全部のキャラが好みなんてことは難しいけど、でもやっぱりどこか好きなポイントは持っておいた方がいいわよね」

 

 

遠山さんの言う通り全てのキャラを好きになるなんてことは難しい。たいてい、ラスボスというのは主人公と同じくらい惹かれるものがあるが、非道すぎると逆にそうも思えない。まぁ、メタギアのラスボスは基本的に好きになれないんだよなー

 

 

涼風は初心に帰ることにしたそうだ。楽しんでやるということを忘れてしまっていたらしい。わかるぜその気持ち。俺もこの会社にいるとたまに童心を忘れそうになる。

俺は童心に帰るか。涼風は葉月さんに女王様について聞きに行ったから俺も誰かに聞くとしよう。

 

 

「ゆん先輩」

 

 

「ん、どうしたん?」

 

 

「博士ってどう思います」

 

 

「……はぁ?」

 

 

あぁ、ダメだこれ。コミュ症丸出しの聞き方になってしまった。とりあえず、八神さんに押し付けられたキャラがラスボスの部下というか参謀の博士キャラで男であることを説明した。

 

 

「ほーん、で、他になんか指示は?」

 

 

「男であることと何かしらの戦闘手段を持ってるキャラにしてくれればいいみたいな感じで」

 

 

「なるほど、丸投げされたんやな」

 

 

「悪くいえばそうですね」

 

 

ため息混じりに言うと、それは違うよとひふみ先輩が立ち上がる。

 

 

「こ、コウちゃんは…は、八幡に…期待…してるんだと思う……よ?」

 

期待はあまりされた事がない。親にも小町関連のことを抜けばこうしろああしろとは言われたことは無い。ただ健康に生きていてくれればそれで良かったのだろう。学校の先生も、ただ見ているだけだった。

いや、平塚先生は別だ。あの人は俺をちゃんと視て、俺にきっかけを与えてくれた。あの人も俺に期待していた。自分だけでなく雪ノ下雪乃を変えてくれることに。

残念ながらそれには応えれなかった。

 

だったら、今回は応えてみせよう。

俺なりに、形はどうあれ。ちゃんとやってやろうじゃないか。

 

 

考える時は、考えるべきポイントを間違えないようにする。俺の恩師はいいことを言うのになぜ結婚出来ないのか。仕方がない、また今度やけ酒なり愚痴なり付き合ってあげよう。

 

 

 

 

「じゃ、やりますか」

 

 

 

言うと、2人は笑顔で頷いてくれた。

 

 

「まず、八幡はどうしたいのかやな」

 

 

「俺的には…」

 

 

そこからは意見の出し合いだ。俺は人格破綻、つまりサイコパスチックな研究者がよい。悪者だし、そこは譲れなかった。2人もそれには賛成でそこからどのあたりが破綻しているかを決めていった。

 

 

「次は……見た目……だね」

 

内面が決まったとなると、容姿はトントン拍子だ。女王様の手下という設定はあったので年齢が定まればよりイメージしやすいのだが。

 

 

「涼風、女王様の年齢はどれくらいだ?」

 

 

性格が決まったあたりで涼風は戻ってきていた。葉月さんに色々とヒントを貰ったのか、先程よりは手が動いていた。つまり、キャラの方向性は固まったということだろう。

 

 

「うーんとね、10歳台かな」

 

 

「じゃあ、歳上の方がええんかな?」

 

 

「でも、人格破綻者が歳下につきますかね?」

 

 

「狡猾な性格だから…女王様の方が…強いし…つくんじゃないかな?」

 

 

ひふみ先輩の意見に全員が納得したので男は歳上で30代くらいに見えるようにした。これ、書いてて思ったけど白衣着た材木座っぽいな。目元が違うから分かりにくいけど、ちょっと調子のって逆立てた白い頭髪とか、知力上げにかけさせた眼鏡がよりそう見させる。

まぁ、中身は勘のいいガキは嫌い系男子だからあいつとはかなり離れているんだが。

 

 

 

ゆん先輩とひふみ先輩の助力もあって、俺は人格破綻した研究者のイラストを完成させることが出来た。何故か設定も考えさせられたが、概ね出来ていたのでそれもすぐに出来た。

八神さんは2日で持ってくるとは予想外だと言って驚きつつも感心していた。

涼風も1日遅れであったが、子供の女王様を描きあげることが出来たらしい。

 

 

余談だが、八神さんならどうするか聞いたら2分くらいでそれは見事にグレートな博士キャラを描きあげてきた。俺のよりこっち採用しませんか?って言いたくなるくらいだ。しかし、先に出てきたのは苦闘の言葉だった。

 

 

「俺の2日が2分で……しかも1人で……」

 

 

「え、あーなんか……ごめん」

 

 

去年の今頃も歓迎会でそんな感じで謝られたのを思い出した。うん、めげないしょげない。明日は休みだし、別にいいか!え、遠山さん休日出勤ってなんですか?





投稿ペースが早い理由→アニメに追いつかれたくない

以上(もう追いつかれてそう)


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掴め夢のチケット

FGOフェス行きたかった……転売ヤーさえいなければ……忌々しい奴め……という思い(やつあたり)を込めて前半書きました。八幡が口を開くのは最後のシーンくらいです(1人で大声出したりしてるんだけどね)


 

桜の花も散り散りになり始めた今の季節というのは子供向けアニメーション映画の公開オンパレードである。

映画というのは素晴らしいもので、春なら新しい友達ができるので映画の話で友情を深めるもよし、家族と観て楽しむということができる。

最近は昔は小さかった友達が時を経て大きなお友達になったこともあり、往年シリーズとして続いてる作品は昔のキャラが出てくるなどして、あらゆる世代に楽しめるように工夫がなされている。

 

 

それはフェアリーズストーリーも同じらしく、つい先日アプリで全作のキャラが集結するという夢のようなゲームとなって登場した。ちなみに俺は仕事やら、アニメの消化のためそんなことしてる暇ないです。

そもそも、スマホは多機能型暇つぶし目覚まし時計としか思ってないので、ゲームは全く入れていない。外でフレンズをゲットしてgoするアプリが流行ったが俺は流行に乗るのが嫌いなので入れたりしていない。だって、俺自転車通勤だし休日は外でないからね。

 

 

そんなわけで俺のスマホには余計なアプリなど何も……と思った矢先に俺の多機能型暇つぶし目覚まし時計が自転車漕いでる時のはじめさんの胸みたく揺れる。いや、そんな揺れたとこ見たことないんだけど。

 

 

 

あと10分で仕事始めなきゃいけないという時に誰だよ。どうせ材木座か密林あたりだと思ってホームボタンを押すと、あるメッセージが浮かび上がってきた。

 

 

『ムーンレンジャーファイナルライブ一般チケット販売開始まであと10分』

 

 

 

 

###

 

 

 

説明しよう。ムーンレンジャーとは小さな女の子向けに始まった魔法少女アニメである。よくある普通の女の子が不思議なステッキを手にしたところから物語は始まる。

魔法少女の王道でありながらも、作画、演出、主題歌、劇中歌の評価が恐ろしく高く、その出来の良さから大きなお友達からも支持を受けた超人気作である。そのため、主役を務める声優さんや主題歌を歌うLIZEさんらのトークイベントやライブも行われるのだが毎度大盛況となっている。

 

 

そして、次のイベントが初代ムーンレンジャーの登場が最後となるのである。2年半前から続いていたそのライブのラスト。となれば、ファンとしては行くしかない。放送当時は周りがアレであまり行く暇が取れなかったが、最後くらいは行っておきたい。

 

 

DVDの特典の先行予約抽選は2回とも外れたから、俺は一般にかけるしかないのだ。当たれ当たれ当たれ!!転売ヤーに当たるくらいなら俺が当ててやる。

 

 

ということで、俺は仕事が始まる前にお腹が痛いと言って男子トイレにひきこもり中である。ていうか、男は俺と4、5人くらいしかいないはずなのに男子トイレ結構広いよね。そんなことはどうでもいい。

さぁ、サイトにアクセスできた。あとはメールアドレスとかの個人情報を入力するのみ。今日に備えてケータイ会社からポケファイ借りてよかった。備えあればなんとやらだ。

 

 

ここのサイトの当選発表は先着順であるため、いかに早く打ち込むかが勝負の鍵である。だから、左上のアンテナの隣のやつがぐるぐる回ってるのが本当に心臓に悪い。

 

 

『登録が完了しました。あなたの席はー列の……』

 

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

あ、やべ、ここ会社だった。大丈夫だよな?聞こえてないよね?マジかよ、最高だぜ。なんか今年の運全部使った気分だわ。多分、明日あたりに遠山さんから自害しろとか言われそうで怖いが仕切り直しすれば問題ない。いや、無理なのか?

 

 

とりあえず、これでトイレから出れる。いやーいろんな意味でスッキリした。ケツ拭いて出よ。

 

 

 

手から水を落としてトイレから出る。いい気分だ。歌でも1曲歌いたいようないい気分だ。だが、俺が歌うべきではない。ここはぐっと我慢だ。

自席に戻ると涼風とゆん先輩はテキパキ仕事をしていたが、何故か2席空いていた。

 

 

「あれ?涼風、ひふみ先輩とはじめさんは?」

 

 

「え?あ、比企谷君がトイレ行ったあとに2人もどっかいっちゃって」

 

 

あっ…(察し)うん、2人もあれですかね。……当たってるといいですね。

 

 

それがフラグになったのか普通にお花を積みに行ったゆん先輩と共にしょんぼりした顔で戻ってきたはじめさん。座ったその後ろ姿からは酷く哀愁が漂っている。それに続くようにひふみ先輩も帰ってきたのだが、悲しいというより申し訳なさそうな表情だ。

 

 

仕事開始からいなかった俺と2人はペナルティというか、当たり前のことで皆が昼休みに入っても手を動かさねばならない。しかし、ひふみ先輩が恐る恐るはじめさんのほうを振り向くのが椅子の音から窺えた。

 

 

「はじめちゃん…?」

 

 

「? なんですかひふみ先輩」

 

 

反応したはじめさんは体ごとひふみ先輩に向ける。すると、ひふみ先輩は申し訳なさそうに胸の前で手をギュッと握る。

 

 

「さっきの話…聞いてたんだけど…」

 

「……!」

 

 

さっきの話?俺には分からなかったがはじめさんはそれだけで思い当たることがあったらしい。

 

 

「ごめんなさい!でも、どうしても我慢出来なくて!!」

 

 

「い、いや、そうじゃ…なくて!」

 

 

両手を合わせて必死に謝るはじめさんに困惑気味のひふみ先輩。どうやら、会話が噛み合っていないらしい。

 

「実は私も…同じことしてて…ソロ席だけど……取れたんだ。チケット」

 

 

やっぱりひふみ先輩とはじめさんも俺と同じことをしていたらしい。いや、ムーンレンジャーのチケットとは限らんが。はじめさんはムーンレンジャーで確定でいいだろう。その話にはじめさんの背後には

 

いいないいないいないいな

 

という文字がスタンドのように現れて見える。

錯覚だろうか…え?錯覚?おそらく、誰よりもムーンレンジャーを好きと思っているのに当たらなかったショックからだろうか。

 

 

「そ、それでね、私よりムーンレンジャー好きそうだし…チケット…譲って…あげよう…か?」

 

 

ほしいほしいほしいほしいほしい

 

 

「!?」

 

目を擦るとその文字は見えなくなっており、ホントはめちゃくちゃ欲しいんだけどいやいやいや!みたいな顔をするはじめさんの姿があった。

 

 

「い、いやダメです!ひふみ先輩が当てたんですから、ひふみ先輩が行くべきです!!」

 

 

気持ちはありがたいがチケットを当てたのはひふみ先輩であり、それはムーンレンジャーを応援する気持ちと同じだから私の分も応援してきてくれ、はじめさんのメッセージを受け取ったひふみ先輩は半分申し訳なさそうに頷いた。

 

 

てか、やっぱりムーンレンジャーの話じゃないか!

 

 

###

 

 

 

数日経って、ライブ当日。

どうやら、はじめさんは昼の部の子供同伴の方にゆん先輩の兄妹の保護者として参加するらしい。その話を聞いた時は感動したものだ。あの会社にだが無意味だとかいうKYはいないので本当によかった。

 

 

そして、俺はと言うと夜の部のサイリウムを振っていい方に参加である。一般だから席は後ろの方だと思っていたが真ん中辺りで非常に助かった。

有給取ることを遠山さんに言った時は「青葉ちゃんとひふみちゃんも休み取ったんだけど、その日何かあるの?」と尋ねられたが気にしない気にしない。

とりあえず、開始までまだまだあるからサイリウムの確認とかしとかないと……

 

 

「よし…やったるで……!」

 

 

なんか隣の人めちゃくちゃやる気だな…そう思って顔を上げると目が合った。

 

 

「!!?は、は、はち……」

 

 

どうやら、俺の運ステータスはEXらしい。だって、隣がひふみ先輩だよ?これはもう自害ではなく爆ぜるしかないな。

 

 

「こんにちは、ひふみ先輩来てたん」

 

 

「わー八幡だ!」

 

 

「ひふみ先輩もいる!」

 

 

俺の言葉を遮るようにひふみ先輩の横からひょいと顔を出した桜と涼風。こいつら俺とひふみ先輩がいるとこにいつも湧いてくるな?なんなの、お邪魔虫なの?キンチョール効く?

 

 

「2人とも偶然ですね!もしかして……」

 

 

「ち、ちがくて!こ、これは…たまたまで……」

 

 

そんな顔を赤くして手をじたばたさせても説得力ないぞ…。むしろ、怪しまれるのがオチだ。

偶然、隣の席になったことを言うと桜はすごいねー!と言っていたが涼風は目を細めて半信半疑といった感じだ。

 

 

「青葉ちゃん…ほんとに、たまたまなの…」

 

「まぁ、ひふみ先輩がそう言うなら信じますけど……」

 

 

俺だと信じないってどういう事だよ。表出ろや。俺だけライブ楽しむから。

 

 

「……ってごめんなさいプライベートの邪魔しちゃって…」

 

 

「そ、そんなことないけど…」

 

 

「おう、気にすんな」

 

 

「比企谷くんには言ってないよ」

 

 

「なんでそんな暗黒の笑顔なの…雪ノ下かよ

……」

 

 

「え、ゆっきーってこんな顔するの?あとでLINEしてみよ!」

 

 

「やめてください桜さん……」

 

 

ホントにそんなことされたらメールボックスがパンパンになるから。ノンケでもそんなの無理だから…。懇願して頼む俺にひふみ先輩は苦笑いを浮かべる。

 

 

「ははは……あ、青葉ちゃん……ライト1本使う?」

 

 

「いいんですか?……ありがとうございます!」

 

 

「せっかくだし、みんなで楽しもうーー!」

 

 

まぁ……こうやって誰かと騒ぐのもいいか。俺は静かに手に持つ棒に光を灯した。





なんか昨日今日とランキングいりしていて「えぇ...(困惑)」となりました。マジで感謝


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笑うコウにはりん来たる

タイトル考えた時の俺

「天才か……?」


どうでもよくない話、この話書くために原作見返しでたのですが……
ひふみ先輩の……ビックサンダーマウンテンの……右側に……ほ、ホクロが……ぶ、ブヒィィィィ!!!!




有給を使って行ったムーンレンジャーのライブは実によかった。特にひふみ先輩がサイリウムを激しく振るたびに、ひふみ先輩のビックサンダーマウンテンも……ゲフンゲフン!

さぁて、仕事仕事。楽しんだ後に苦しいことがあるのは昔から。楽あれば苦ありとはよく言ったものだ。しかし、俺はこう考える。

苦しいことがあるから、楽しいことはより一層楽しく感じるのではないかと。

 

 

涼風がラスボスを完成させたことにより、主人公が着るゴリラや魚、熊などのモデリングが次々と出来上がっていた。

俺的にはタカ、トラ、バッタとかも欲しいと思っているのだが流石に却下されそうだと思ってやめてる。タカはいいと思うんだが、人はどう足掻いても飛べないんだな。まぁ、手を水平に伸ばせば飛べるかもしれない。メイドラゴンでやってたし。

 

 

口にサンドイッチを頬張りながら、ようつべで動画鑑賞する昼休みも悪くない。ヘッドホンを持ってきてみたが大正解だな。これなら誰にも邪魔されずに昼食を満喫できる。動く時は流石に外さないとダメなのだが。急に引っ張ると抜けちゃうからね。別に悪いものを見てるわけじゃないんだけど。迷惑になるとあれだし。

ヘッドホンを取って、ずっと座っていたからか肩が凝っていたのでピッコロさんみたいにバキバキと鳴らすように首を動かすのだが鳴らない。やはり、俺はナメック星人ではないらしい。

 

 

「ひふみん!」

 

 

「「!?」」

 

 

突然、ダン!と叩かれた机に強烈に反応してしまう俺とひふみ先輩。勢いよく立ち上がった八神さんはその勢いのまま、ひふみ先輩の席へと近づく。

俺は特に何もしてないはずだから、驚く必要も無いのだろうが急にそんな音がすれば誰でも驚くだろう。

 

 

「な…なに…?」

 

 

「い、いや、なにってわけじゃないけど…珍しかった?笑ってるの…?」

 

 

「ううん…最近は、よく笑ってるよ…コウちゃん。昔は仕事中はずっと真剣な顔で仕事してたから…安心する…」

 

 

「別に昔だって笑うことあったって!」

 

 

会話を聞いてる限り、どういう脈絡でそんな話になったのか分からないのだが、ひふみ先輩の言う通り八神さんは笑うことが多い。デフォルトだと思ったが、そうでもないらしい。

 

 

「でもさっきは上がってきたキャラモデルが良さげだったからそれで笑ってたのかもね私…」

 

 

頬を掻きながら八神さんはそっぽを向くとひふみ先輩は柔和な表情を浮かべる。

 

 

「ありがとう…」

 

 

「あー!ひふみんだって笑うようになったじゃん。表情筋が柔らかくなったんじゃないの〜?あれか〜?あいつか〜?」

 

 

「や、やめて…」

 

 

うりうりと意地の悪い笑みでひふみ先輩の頬を引っ張る八神さんに口でやめてと言いつつあまり抵抗を示さないひふみ先輩。てか、八神さんなんで俺の方見てるんですかね。

 

 

「八幡もひふみんよく笑うようになったと思うよね?」

 

 

あぁ、そういう質問のためですか。

 

 

「まぁ、去年よりはよく見るようになった気がしますね」

 

 

「だよね〜」

 

 

「……!!」

 

 

そんな楽しげな会話をしてると何故か部屋の空気が少し下がったような寒気を覚えた。あれ?なんでだろうな〜おかしいな〜と思っていると。

 

 

「あら〜2人だけで話してるなんて珍しいわね。どうしたの?」

 

 

にこりと僅かながら何か含みのある声音でそう尋ねる遠山さん。地味に俺が除外されてる件。

 

 

「ええ?いいじゃんなんだって。2人だけの秘密だよね。ひふみん」

 

 

ジト目で誤魔化すように言う八神さんにひふみ先輩は「え?あ…うん…」と遠慮がちに返事を返す。

 

 

「あらあら、それは妬けちゃうわ。お邪魔だったみたいね」

 

 

その言葉で俺とひふみ先輩は確信した。何かまずい空気が漂っている。ぼっち同士、人の顔色を窺うことに長けた観察眼が遠山さんの微笑からそれを感じ取ったのだ。

遠山さんはあとは2人でどうぞと去っていくとひふみ先輩が「あ…」と何か言いたげな目で見つめる。

 

 

「もう何怒ってるんだか…」

 

 

あんたが鈍いからだろ…と八神さんに言ってやりたいが、遠山さんからすれば本人から気持ちに気づいてもらった方がいいだろう。が、あろう事か八神さんはさらに鈍感スキルを発揮する。

 

 

「あ、そうだ。こないだの肉じゃが、ホントに美味しかったんだけどもう作らないの?」

 

 

「!?」

 

 

あ、また部屋の空気が……。ちょっとプラズマクラスターでも買いに行こう。これ以上この部屋にいたら酸素欠乏症とかになって彗星でも見てしまいそうだ。

 

 

「りんちゃんに…作って…もらえば…?」

 

 

「まぁ確かにりんの肉じゃがは美味しいよ」

 

 

「うんうん!」

 

 

「でもひふみんのも美味しかったから忘れられなくて」

 

 

あーー!せっかく、ひふみ先輩のフォローのおかげでいい空気に戻ってたのに!奥の方のブース(遠山さんの席)から黒いオーラが漂ってるよ!

 

 

「あ…えっと…作り方のメモ…無くしちゃって…もう…無理…」

 

 

「そっかー残念。美味しかったのになぁ…」

 

 

ホントに残念そうにするなよ…多分ひふみ先輩の気の利いた嘘なんだから。八神さんはトボトボと俺の隣の冷蔵庫からマッ缶を出すとぐびぐび飲み始める。

 

 

「八神さんって鈍感ですよね」

 

 

「……八幡がそれ言う…?」

 

 

え、我は悪意とかにすごく敏感でござるから、鈍感ではござらんよ。

えぇ〜ほんとにござるか〜?みたいなこと言われても違うと断言出来るね。

そもそも、俺に好意を抱くやつとかいないし。強いて言うなら戸塚くらい?小町はあれだ。素直じゃないから。多感な時期だからな。仕方ない。結局、戸塚さえいればいい。

 

 

「俺はアレですよ、まともな好意とか向けられたことないんで」

 

 

「私もないよ?中学と高校は女子校だったし……あ、でも友チョコはたくさん貰ったなー」

 

 

「いや、それ絶対本命入ってますよ」

 

 

俺の言葉に八神さんはないないと手を振る。可哀想に昔からなのか…多分誰も本命だとは言わなかったんだろう。言ったら嫌われるとか思ったんだろうか。

 

 

「八幡はチョコとか貰ったことないの?」

 

 

「ありますよ。妹とか高校時代の部活仲間とかに。まぁ、後者はチョコというよりは木炭でしたけど」

 

 

「木炭!?」

 

 

チョコクッキーもチョコに入れていいなら貰ったことになるよな。ありがとう由比ヶ浜、役に立ったぞ。しかし、よく良く考えれば、いやよく良く考えなくても、俺は八神さんと違って本命は貰ったことがないのだ。全部、義理。部活が同じ、会社が同じだから、とかそういう理由だ。それ故に俺もホワイトデーはMAXコーヒーを渡すくらいしかしていない。数人にはゴミを見るような目で見られたが仕方がない。俺だからな。

 

 

「じゃ、私、葉月さんのとこ行かなきゃだから、また後でね〜」

 

 

また後で、って戻ってきても話さないじゃないですか。そう思いながらも会釈するあたり俺って出来た人間なのかもしれない。さてと、あちらはどうなったかなと目を向けるとひふみ先輩がゴソゴソとクッションを取り出してぐったりしてた。

パソコンに映し出されたメッセージを見るになんとか遠山さんの機嫌を直せたらしい。

 

 

「比企谷さん」

 

 

俺も変な空気に当てられて疲れたから寝ようと思ったら、うみこさんに声をかけられてしまった。残り5分の昼休み、寝かせて欲しかったぜ。

 

 

「どうしました?」

 

 

「滝本さんに会議が1時に変更になったとお伝えしていただけませんか?起こすのも迷惑かと思いますので」

 

 

「分かりました。伝えておきます」

 

 

やったね、八幡、ひふみ先輩と会話する機会ができたね。そう思ってウキウキワクワクしてるとうみこさんにじっと見つめられる。

 

 

「な、なんですか?」

 

 

「寝不足ですか?」

 

 

「はい?」

 

 

確かに昨日と一昨日は合計で10時間程度しか寝てないが、そんなに眠い顔はしていないはずだが。

 

 

「いつにも増して目の下のクマが凄いです。目も澱んでますし…」

 

 

あー寝坊しかけて朝、鏡を見ずに顔洗ったから自分の顔みてないんだよな。てか、目はいつも通りじゃない?そう言おうと口を開こうとしたがうみこさんのうんちくというありがたいお言葉に阻まれてしまう。

 

 

「睡眠はとても大事なんですよ。寝不足は仕事にも影響しますし、なにより健康に良くありません、椅子で寝るのもーーー」

 

 

それが昼休みが終わるまで続いたために、ひふみ先輩への伝言が八神さんに取られてしまったのは言うまでもない。

 

 

「な、なんで、そんなに睨むんですか……」

 

 

「いえ、別に……」

 

 




アニメがどこまでいってるか知らないけど追いつかれてないことを祈りたい……


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女心はラブコメより難しい


眠くて久しぶりに2時間くらい寝てた
すること特になかった良かったんですけどね!
あと、ランキング入りしてました。ありがとナス!


何故人は、娯楽や雑談といった、必ずしも必要とはいえないものが必要なのだろうか。

娯楽や遊びが蔓延した現代社会においてそう考える人間は少なくはないだろう。

 

何故必要かと問われれば答えられないのにも関わらず、何故するのかと問われれば人それぞれの答えが返ってくる。

楽しいから、そこにあるから、なんとなくなど。

人によってはそれ無しでは生きてられないなどと自分の人生への必要性を顕にする者もいるだろう。

 

俺ならばこう答えるだろう。

コミュニケーションをとるのに必要だから。

娯楽とは、快楽や悦楽を得るための文化や事であり、決して悪いものではない。例外として麻薬などというものがあるが、あれも元々は精神安定剤の一種だったのがああなっただけなのだ。

 

話を戻すと、娯楽はコミュニケーションを取るにかなり絶大な効果をもたらす。それが顕著なのはヲタクだろう。普段はコミュ症で会話に入れないのに、自分の知ってるゲームやアニメの話になると、その会話に入りたくなる。それが娯楽のもたらすシナジー効果なのだ。

 

 

しかし、娯楽は時に人を苦しめる。

だが、遊びや娯楽がなかったら、人間社会はこんなにも発展はしなかったのではないだろうか。

 

 

 

『つまり、何が言いたいの?』

 

 

「あ?決まってんだろ。ゲームは神ってことだ」

 

 

くどくど桜に語ってしまったがゲームは神。最初に生み出してくれた人ありがとう。ゲーム実況とかゲームセンターCXとか、ゲームがないと始まらないからね。淫夢実況、てめぇはダメだ。

 

『なんか話がかなり脱線したような…まぁ、いっか!』

 

 

そうそう、細かいこと気にしてるとストレス溜まるからな。

 

 

「とりあえず、ゲーム完成おめでと」

 

 

『ありがとー!半年以上かかったけど頑張ってよかったー』

 

 

月が輝いて見える頃に仕事が終わって家に着いた頃、着信が着ていたので掛けてみると出たのはハイテンションな桜だった。どうやら、作っていたゲームが完成したらしく、それの報告を受けていたのだ。俺特に何もしてないからよかったのだが付き合ってくれたからということらしい。

 

 

『明日あおっちに見せるんだーどんな反応してくれるかなー?楽しみっ!』

 

 

「まぁ、あいつならすごーい!とか言って喜ぶだろ」

 

 

『だよね!あ、それでねーー』

 

 

そんなこんなで桜の話は俺が風呂に入りたいから切っていいかと言うまで1時間半も続いた。

 

 

 

###

 

 

 

翌日、俺は休みを利用して少しだけ遠出をしていた。遠出と行ってもそこまで距離はない。自転車を走らせれば40分の範囲だ。会社が忙しく、うみこさんとの休みが合わないことからあまり運動していなかったのだ。

だから、サイクリングも兼ねてあまり来ないところにきたのだ。

 

 

地図アプリを起動してこの辺りで休めるところを探していると、喫茶店が近くにあるらしい。漕がずとも歩いて数分の距離だったのでそこに向かうと…

 

 

「あのね!私!ゲームを作ったんだ!」

 

 

来たカフェにはテラス席と店内が別れており、俺はあまり長居はしないだろうからと店内のカウンターに座ってコーヒーを飲んでいたのだが、聞き覚えのある声がして目線だけそちらに向けると涼風と桜と……えっと、ほたるん?だっけ。がいた。苗字聞いてないからわかんねぇんだよな。

 

 

席が遠いから会話はよく聞き取れないが眺めていると、どうやら3人仲良く楽しめているらしい。少し盛り上がりすぎているがそれもいいだろう。ゲームには人の心を通わせる力がある。

3杯目のコーヒーを注文したところで、ゲームをクリアしたのか3人が「やった〜〜!」と歓喜の声を上げると、流石に店員さんが注意に向かう。

 

 

 

時計を見ると、かなり長居してしまったらしくそろそろ会計をしようかと出されたコーヒーを一気に飲み干そうとカップを口に持ってきた時、桜がとある爆弾を投下したのが耳に届いた。

 

 

「あとね、うみこさんとかハッチーにアドバイス貰ったり、作るの見ててもらったりしたんだよ」

 

 

「うみこさんと比企谷くんも知ってたの!?」

 

 

「あおっち静かに!」

 

 

ブフっ、とコーヒーを吐きそうになるとすぐに店員さんが大丈夫ですか!?と駆け寄ってきたのでジェスチャーで大丈夫であることを意思表示すると口元をナプキンで拭う。

あいつ余計なことを。最近何かと涼風の当たりが強いんだから、気をつけてほしいぜ全く。バレてないかな、と涼風達の方を見るともう居なくなっていた。どうやら、もう帰ったらしい。

まぁ、あんなに騒いでたら帰るわな。俺も帰ろうかと席から立ち上がると、ガシッと腕を掴まれる。

 

 

「こんなところで土偶だね…比企谷くん?」

 

 

いつの間にか隣に来ていた3人組。何故か涼風が暗黒の微笑を浮かべている。桜は申し訳なさそうに手を合わせ、ほたるんはあたふたと困り顔だ。

 

 

「それを言うなら…奇遇じゃないですかね…」

 

 

俺は精一杯言葉を出すと、涼風の手をつかむ手が強くなる。そんなに強くないのだが。

 

 

「なんでここにいるの?」

 

 

「いや、だから偶然…」

 

 

「ねねっちに呼ばれたの?」

 

 

「違うから。ほら、桜も首振ってるじゃん…?」

 

 

振ってなかった。それどころか、下を向いて顔を赤くしてた。アイエエエエ! サクラサン!? サクラサンナンデ!?

もしかして、私のことが心配で来てくれたんじゃ……?的な勘違いされてる!?

いや、もしかしてこのストーカー死ねっ!とかおそらく後者だな。死にたい。

 

 

「ねねっち、どうしたの?」

 

 

「あ、うん!呼んでないよ!昨日電話したくらいで……あ……」

 

 

ほたるんが桜の様子が気になったのか、声をかけるが放心状態。それが解けたと思ったらまた爆弾発言をしやがった。もう頼むから喋らないで!

 

 

「電話ぁぁぁ??」

 

 

「ほら、ゲーム完成したよーって連絡受けてだな。それ以外は別に何にもないぞ」

 

 

「ホントに?」

 

 

「あー八神さんに誓ってないな」

 

 

「え……なんで八神さん?」

 

 

「だって神だし」

 

 

今のは八神さんの『神』と『神絵師』の神を掛けた高等テクニックなんだな。まぁ、涼風には分かんないか。

 

 

「あのーよく分からないけど、お店から出ない?ほら、迷惑になるし」

 

 

ナイスだぜほたるん!そうだな、俺も会計して帰ろうとしてたところだし丁度いいな。

 

 

「よし、じゃ、会計して帰るか。3人は約束して集まってたんだろ?なら、俺はさっさと退散するわ。じゃあ……」

 

 

そのままクールに去ろうと財布を出そうと手を伸ばしたところで3人に襟首を掴まれる。え?なんで3人?

 

 

「そう簡単に帰らせるわけないじゃん?バカなの?八幡なの?」

 

 

え、八幡ですけど。だから、人の名前を虐語にすんなよ。ホントに涼風はなんで怒ってんの?

 

 

「そうだよ!ハッチーせっかくだから遊ぼうよ!ね、ほたるん!」

 

 

「うん、私もちょっと興味あるし」

 

 

「何に!?」

 

 

唯一、善人だと思ってたほたるんに裏切られてしまった。元々、味方じゃなかったと思うんだけどね?俺の叫びも虚しく、何故か3人のパフェ代を奢らされてしまった。

 

 

あれだな。ギャルゲーとかラブコメゲームの女の子にはちゃんとした攻略法とかあるのに、現実の女の子にはそういうのがないんだな。今度、葉山にでもこういう時の対処法を聞くとしよう。

 

 

 

###

 

 

結局、晩飯まで付き合わされた俺は今は駅前通りをほたるんと歩いていた。大学に通うために1人暮らしをしているらしく、涼風とは帰路が別なのだ。幸い俺の家が駅近くなので俺が送っていくことになった。

本来は涼風と桜の方にも同行するべきなのだろうが、あの2人は家が近いらしく2人で大丈夫だからと帰っていった。

別れ際に涼風が少し訝しげな目を送ってきたが、俺なんか嫌われることしたっけな。

 

 

「ごめんね、八幡くん。こんな時間まで付き合ってもらって」

 

 

「あぁ、全くだよ」

 

 

「……そこは気にしなくていいとか言うと思うんだけど…正直というか捻くれてるね…」

 

 

ふはは、よく言われる。てか、今のはひねくれてるとかそういう問題じゃないから。俺のサイクリングが台無しになったから。

童顔とはいえ、涼風と桜とほたるんは傍から見たら可愛く映るらしく、その3人と一緒にいる俺はと言うと恐ろしい憎悪を向けられてしまった。だから、これくらいのことは言っても構わないだろう。

 

 

「あおっちとかねねっちと電話とかLINEしてると八幡くんの話題が出てくるんだけど、今日見てたら聞いてた通りで面白かった」

 

 

「そりゃよかった」

 

 

どういう話を聞いたのか知らないが、多分不評ばっかりだろう。それか便利屋みたいな事を言われたに違いない。まぁ、今に始まったことじゃないからいいんだけどね。

 

 

「今日は楽しかったなー。男の子と遊んだの初めてだけど結構楽しいものなんだね」

 

 

「意外だな。結構、経験あるのかと思ってた」

 

 

「それはこっちのセリフ。八幡くん彼女いないって言ってたけど女の子慣れしてるよね?」

 

 

そう言われてみれば、あんまりキョドったり緊張はしなくなってきたな。まぁ、あんな俺以外女しかいない職場に放り込まれればそうなるわな。でも、未だに下の名前で呼べる女子がいない。先輩とかさん付けならいけるんだが素では呼べないんだよな。小町は別だが。兄妹だし、当たり前だよな。

それに手も繋げない、ボディタッチはできない。したら通報されて捕まる自信がある。

 

「まぁ、話すくらいはできる」

 

 

「うーん、でも目はあわせてくれないからやっぱり慣れてないんだね」

 

 

「それはあんたもだろ」

 

 

「そうだね。あはは」

 

 

俺達は言葉を交わしているが視線は交わしていない。俺は元から人の目を見て話すことは得意としてないし、それが可愛い女子が相手なら尚更だ。あちらは、さっきの話を聞くにクラスの男子とは会話する程度で遊んだりしたことはないのだろう。変な男に捕まらないといいが。

 

 

「あ、ここでいいよ。じゃあね、八幡くん」

 

 

駅前の噴水広場まで来たところで俺は足を止めた。その時、ほたるんと初めて目が合う。駅前なのに電灯は少なく、彼女の顔は窺い知れないが、声音から少なくても笑っているのは確かだろう。

小さく手を振る彼女に俺は小さく手を挙げて返すと、その背中が見えなくなるまでそこに居続けた。





青葉&ねね『どこかでラブコメの香りがした』


一応、ほたるんともフラグを貼ってといた。ぜんこくのほたるんファン満足頂けたかな?てか、ほたるんってもうアニメ出てたよね?気のせいか?


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俺は明日、明日の涼風とデートする。(前)

オリジナルストーリーです。そういえばディスティニィーランドのペアチケット貰ってるのに使ってないなと思ったので。
それに今の青葉と八幡には丁度いいかと。


長くなったから二つに分けました。ついでに言うと原作準拠だと八幡が完全にクズ男になるので、話の順番を変えます。
詳しくは後書きで。


屋上。

そこは俺にとって思い出深い場所だ。中学の時は立ち入り禁止だったから入ったことはない。高校もそうだったが、鍵が壊れていたため、少し知恵を働かせれば簡単に入れるようになっていた。

 

 

初めて訪れたそこは、とても落ち着く場所だった。風当たりもよく、誰1人居ない。

放課後の生徒は大体が部活に勤しんでいる。そのため、入ってくるのは俺のようなすることも無く、居場所もない人間くらいだ。

 

 

黒のレースを見るのを引換に俺の職場見学調査を見られたり、文化祭の日は学校一の嫌われ者になった。

それ以降はあそこには近づかなかった。トラウマになったというわけではないが、あまり行く意味もなかった。

 

 

イーグルジャンプのビルの屋上は高校の屋上とよく似ていた。違う点も喫煙者用に置かれた灰皿くらいだ。

ベンチもあるわけではないが休憩するには丁度いい空間だ。あまり人が来るわけでもないから落ち着けるし、個人的にはとても好きな場所だ。一番好きなのは、自宅なんですけどね!小町に会いたいとは切実な思いだ。

 

 

「よっ」

 

 

「……」

 

 

ガチャりと屋上に通じる唯一の扉が開かれる音がし、振り向いてみると俺と同じく片手にマッ缶を持つ涼風がいた。扉を閉めてこちらに来る涼風に軽く挨拶をしてみたが反応はない。すごく悲しい。

そんな思いはいざ知らずと涼風は俺の隣に来ると、マッ缶のタブを開けて口に近づける。

 

 

そういえばこいつとは最近、当たりが強くてこちらからあまり話しかけることがない。というか元からなかったですね。つまり、より一層なくなったというのが表現としては適切かもしれない。

ぷはぁとマッ缶から口を離して大きく息を吸うと涼風は俺の方を向いて、こう言った。

 

 

 

「明日、デートしよっか」

 

 

 

「……はい?」

 

 

###

 

 

翌日、俺は珍しく早起きをした。理由は最近様子のおかしい同僚に突然デートしよとか言われたからなのだが。

てか、付き合ってないもないのに男女が遊ぶことをデートというのは間違ってる気がする。違うと言ってよ、バーニィー。

 

 

電車に揺られながら昨日のことを振り返る。

 

 

『デートって……どこ行くんだよ』

 

 

『ほら、比企谷くん去年の冬にディスティニィーランドのペアチケット貰ってたじゃん』

 

 

『あーそういえば』

 

 

興味がなかったのと、行く相手がいなかったからすっかり忘れていた。有効期限とかあった気がするが大丈夫なのだろうか。そこのところを確認すると涼風はにっこりと笑う。

 

『遠山さんに聞いたら1年以内って言ってたから大丈夫だよ』

 

 

 

ということで行く運びになったのだが、仕事のために住居が変わってるから行くのに少し時間を要していた。なんで東京ディスティニィーランドなのに東京にないんだよ。いや、俺が千葉から離れたのが悪いんですけどね。

 

 

目的地の舞浜駅に着くとガラス越しに見える白亜の城などの景色が飛び込んでくる。

高2の時も平塚先生が結婚式の二次会で2回も当てて、それを貰って取材とか言って来たがほとんど遊んでたな。

 

 

まぁ、俺は妹へのクリスマスプレゼント選びとか分断されて強がり負けず嫌いの冷血少女とジェットコースターに乗ったり、振られて砕けた後輩を元気づけたりしたわけだが。

 

 

純粋にここで遊ぶのは久しぶりな気がする。駅の中からもうディスティニィー感が凄いのだが改札を出ればもっと凄かったりする。

キョロキョロと涼風を探すとまだ来ていないらしく、暇なので隠れパンさんを見つけようと壁を見つめていた。

全然パンさんいないじゃねぇか……この壁……不快!

 

 

「比企谷くんー、おまたせー!」

 

 

怒りのみずうみに溺れそうになっていると、やっと待ち人が来たらしい。そちらを見ると、その姿に目が止まる。

クリーム色のカーディガンに、白と青のギンガムチェックのワンピース、黒のパンプスに襟付きソックス、そしてクマさんポーチと、普段のスーツ姿とは打って変わって真面目さから可愛さにステータスを全振りしたコーディネートだ。

 

 

「ごめん、待った?」

 

 

「いや、少し前に来たところだ」

 

 

今の季節感からすれば涼風の服装は体温調節が容易だし、見てるこちらも涼しく感じる。あれか、涼風だから涼しい風でも吹かせようという魂胆なのだろうか。

 

 

「よし、じゃ行こっか」

 

 

そう言って歩き出した涼風に並ぶように俺も足を進める。

平日の開演よりも少し前に来たおかげで思ったよりすぐに入ることが出来た。

ビンゴゲームで当てたペアチケットを見せてエントランスゲートから広場へと移動する。

 

 

最後に来たのは冬の季節だったが、春に来たのは初めてだったりする。夏はウォーターイベント、秋はハロウィン、冬はクリスマスとかやってるけど春はこれといったイベントが少ない。強いて言うならイースターという卵の祭りくらいだろうか。

 

 

しかし、それでも人は多く、休日ほどの喧騒ではないがやはり人混みには苦手意識がある。涼風はどうなのだろうかと思うと「ほぇー」とアラレちゃんみたいな声を出していた。

 

 

「なんだ、来るの初めてなのか?」

 

 

「うん!テレビでは見たことあるんだけどね」

 

 

涼風の事だから桜とかとよく来るのかと思ったがそうではないらしい。俺の意外そうな顔に涼風はこちらを覗き込むような体制になる。

 

 

「こういうテーマパークはあんまり来る機会無くて。バイトとかしてなかったから」

 

 

親にでも言えば金くらい出してくれるだろうに。一人娘とならば、甘えれば父親がサクッと札束をくれると思うんだが。

 

 

「それにお小遣いはゲーム買ったり、洋服に使ってたりしたから」

 

 

「なるほど」

 

 

確かにゲームとか、趣味があるとこういう場所には滅多に来ないだろう。涼風からしたらせいぜい、電車で通り過ぎたり、行けたら行きたいレベルの場所だったのだろう。

 

 

「さてと、まずはなに乗ろっか?」

 

 

目を輝かせながら園内のマップを広げる涼風。

 

 

「……あれとか?」

 

 

俺は振り返って、駅から出てきた京葉線の電車を指差す。

 

 

「まだ何も乗ってないのに!?」

 

 

いや、乗ったじゃん。電車に。

 

 

「もう……じゃ、これ乗ろ。これ」

 

 

そう言って涼風はずかずかと足早に進む。子供かよ……そう思ってる間に結構先に行ってしまった。あれだな、気持ちと足の速さが追いついてるな。普段は逆なのに。そう思って歩きだそうとするとギュッと手が握られる。

 

 

「もう遅いよ、ほら行こっ?」

 

 

あまりに遅かったのか急速に戻ってきた涼風に手を握られ、引っ張られる。それに少しの恥ずかしさを感じたが俺は何も言わずただ純粋で楽しげな顔をする涼風に身を任せた。

 

 

 

###

 

 

「はー楽しいね!」

 

 

「そ、そりゃよかった……」

 

 

ジェットコースター系のアトラクションを3つほど乗ったところでやっとベンチに座れた俺は背もたれに全体重を預ける。

遊園地に来るのは初めてだとか言ってたわりには涼風は絶叫マシーンに乗っても平気どころか、逆にパワーアップして手を挙げたり大声を出したりしていた。それに比べて俺はというと……年老いたじいさんのようにかなり疲弊していた。

もう高速でグルングルン、上り坂と下り坂をピュンピュンしてたらそりゃ気分も悪くなる。

 

 

「……お前ジェットコースターとか乗ったことないんじゃねぇの?」

 

 

「え?そうだけど?」

 

 

「そのわりにはピンピンしてるな…」

 

 

「うん、思ったより怖くなかった!」

 

 

こういう頼もしさを仕事でも発揮してくれるといいんだけどな。

 

 

「よし、じゃ、次いこー!」

 

 

「おー…」

 

 

もう少し休ませて欲しいが、元気りんりんな涼風は次のアトラクションへとスキップ混じりに歩いていく。

なんだか、中学生の娘と遊園地に来たお父さんの気分だ。次の父の日に親父になにか贈ってやろう。

 

 

###

 

 

涼風に振り回されてるうちに空は点々と僅かだが星が見える頃合になってきた。

春でも夜に吹く風によって少し肌寒く感じてしまう。

昼食を摂った後も涼風の興奮は収まることを知らず、いくつかアトラクションを回り、美味しそうなフードがあれば食べて、家族や会社へのお土産を買ったりと休む暇もなく時間は過ぎていった。

 

 

途中、休憩は取ったのだがそれも数分程度で「次あれ乗ろうよ!」と涼風が目に入ったアトラクションを片っ端から乗っていったため、かなり疲れが溜まっている。しかし、意外にアトラクションに乗ってる時が一番休めていたりする。

 

 

「時間もそろそろあれだし最後になんか乗ろうか」

 

 

「まだ乗んのかよ…」

 

 

「え?嫌…だったりする?」

 

 

「いや、次で最後だと思うと気が楽になった。さっさと行こうぜ」

 

 

早く帰りたい。その一心である。

 

 

「でも、乗るって言ってももう乗ってないのほとんどねぇだろ」

 

 

「あるよ。ほら、夜に乗った方が綺麗だってネットに書いてたから……あ、あれ!」

 

 

誰だよそんな迷惑な口コミした奴はと涼風の指差す方向を見ると、思わず息を呑む。

 

 

『いつか、私を助けてね』

 

 

ささやき声で言われたその言葉は今でも鮮明に覚えている。なぜなら、あれは初めて雪ノ下雪乃が口にした願いだったから。俺は助けることが出来たのだろうか。そんな不安に駆られていると、涼風に手を掴まれる。

 

 

「ほら、行くよ」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

スプライドマウンテン。コースター系の乗り物であるが、最初はファンタジーの世界をゆっくりと回り、最後に湖へと急降下するアトラクションだ。

待ち時間は15分とかなり短く、ファストパスを取っていたからすぐに乗ることが出来た。

 

 

俺より先に涼風が乗り、その隣に俺が座る。今更だが、ケーキを食べたことはあったがこいつと2人でこうやって遊ぶのは初めてじゃないだろうか。

ライドがゆっくりと動き出し、ファンシーな音楽が流れてくる。冬仕様とは違うのか全体的に暖かい雰囲気の物語だ。

今回も涼風は子供のような目でそれらを楽しんでるのかと思えばそうでもなかった。

視線は俯いていて、表情は窺えない。もしかしたら、ここにきて疲れが出たのかもしれない。声をかけようとすると涼風が小さな声で話し始めた。

 

 

「ごめんね、比企谷くん」

 

 

唐突な謝罪に俺は押し黙る。なにか謝られるようなことをされただろうか。考えれば思い当たることはいくつもある。それも些細なことだ。

 

 

「なにがだ」

 

 

カエルたちが水場ではしゃぎまわり、水しぶきを立てるのを見ながら聞き返す。ゆったりと進むライドのように、涼風もゆっくりと話す。

 

 

「最近、勝手に機嫌悪くして比企谷くんに八つ当たりとか…怒ったりしたこと。ほんとにごめんね」

 

 

「……まぁ、慣れてるから別にいい」

 

 

事実、昔から理不尽なことで言いがかりを付けられたりするのはよくあったことだ。それの対処法も対応も熟知している。今回で言えば、ほとぼりが冷めるまで待っているだったが、当たりだったらしい。

 

 

「そっか…よかった……」

 

 

胸を撫で下ろし、安心したように息を吐く涼風。どういうわけで機嫌が悪かったのか、俺がそれを尋ねると涼風は急に固まる。周りが暗くて表情は見えても顔色がよく見えない。

 

 

「それは…その…比企谷くんが…」

 

 

え?俺?なんにもしてなくない?あれですか、顔見てたらイラつくみたいな?それ、バイトしてる時よく言われたわー。でも、生理とか便秘じゃなかったんだな。八幡大安心。

 

 

「他のみんなと…なんていうか…」

 

 

ボソボソと口ごもる涼風に首を傾げているとアトラクションは佳境に入り、前方から水面に反射した光が見えてくる。

それを見て涼風が落ちる前に何か言おうと思ったのか、ばっと顔を上げる。

 

 

「八幡!」

 

 

涼風が俺の名前を呼んだ時、ライドは外へと出た。そのまま一気に急降下するのではなく水平に止まる。そして、見えたのは夜空の月に照らされたディスティニィーランドのアトラクションを象徴する火山、ジェットコースター、巨大なパンさん像。

それと同時に頬を赤くした涼風の顔がはっきりと俺の目に映る。

 

 

「私ね」

 

 

目の前に映るのはこの世には二つもないだろうこの季節に合わせた電飾でライトアップされた美しい桜色の城。それと相揃って、顔を赤らめる涼風が可愛らしく見えて息が詰まる。涼風は右手を俺の手の上に乗せる。小さく見た目相応の白い肌の手はまるで今日見た白雪姫のようで、心臓が高鳴る。

 

 

「絶対、手に入れるから。待っててね」

 

 

今日一番の笑顔で放たれたその言葉に「何を」と聞き返すこともできず、俺達は湖の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 




多分、いいところで終わってると思います(計画通り)
屋上の話で「焼いてかない?」とか入れたかったのは別の話。

このまま続けると恐らく1万文字いくので切りました。後編はそんなに書いてませんがそれでも1500くらいだったので……。
いつもが2900~4000文字くらいなので少し長いかなーと。


本来はゆんデート、はじめデートの予定でしたが、流石に3回連続デートはシャレにならないと思ったので変更。
原作では2人の過去編的な感じの話で1話なのですが、それだとつまらないかなーと分割してデートさせることに。

もともと、今回は原作の「キービジュアル」の話を入れるはずでしたが、その前に青葉と八幡の話を書いておきたかった。


そのため

後編→キービジュアル→ゆんorはじめデート→サプライズ面接→ゆんorはじめデート となります。自分で話を長くしてるあたり俺はドMなのかもしれない。一応、3つ目のデート回で原作4巻までの話は終わりになります。おそらく、アニメに先を越されると思いますが気長にお待ちください。


だって、待ってますって……言われたし……。




次回は所用で2日後に出ます。ゴメンネ!ではでは~( ˇωˇ )


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俺は明日、明日の涼風とデートする(後)

ひふみせんぱいとのデート回を所望する人多スギィ!
そんなに言っても今のところ書く予定はないよ…(書かないとは言ってない)


 

 

 

 

 

涼風に飲み物を買いに行くと一言断ってから、俺はスプライドマウンテンの出口から離れた自販機に向かって歩いていた。

 

 

『絶対、手に入れるから。待っててね』

 

 

ふと、気づけば俺は涼風の言葉の意味を考えていた。

桜色の城に照らされたように見えた涼風はいつものあいつとは違って見えたのだが、それもこのディスティニィーランドが見せる幻覚なのか、吊り橋効果というやつなのかはわからない。

少なくても、俺が涼風青葉を初めて同い歳の女の子として見たのは確かだろう。

今までどう見てたかって?例えるなら、俺が保育所の先生であいつが園児とかそんな感じだ。多分だいたいあってる。

 

 

とりあえず、さっきのことを払拭するかのように、こういう遊園地の飲み物って高いよな、と思いつつ小銭を入れて炭酸飲料のボタンを押す。なんだか、スッキリしたい気分なんだろう。自分のことなのにはっきりしていない当たりまだ動揺しているらしい。

 

 

スプライドマウンテンの近くまで戻って涼風の居場所を探す。あらかじめ場所を決めておけばよかったな。少し歩くと近くの売店からいくつか袋を手に持つ涼風が出てくるのが見えたので、そちらの方に近づいていく。

あちらも俺に気づいたのか、手を振ってくる。

 

 

「飲み物買えた?」

 

 

「あぁ、高かったけどな」

 

 

高いうえにマッ缶がないとか夢の国としてどうなのだろうか。夢を見せる代償にしては大きすぎる気がするのは俺だけだろうか。

 

 

「その、今日は楽しかったね」

 

 

「まぁ、そうだな」

 

 

ただ単に疲れただけかと思ったら、意外にも楽しめていた。やっぱり、夢の国ってすげー!

 

 

「じゃ、そろそろ帰るか」

 

 

「あ……うん」

 

 

答える声は沈鬱で、涼風はそこから動こうとはしない。まだ何か乗りたいものでもあったのだろうか。今日はパレードもないし、これといったイベントもない。ほとんど乗り尽くしたはずだが。

 

 

「なんだ、もう1回乗りたいものでもあるのか?」

 

 

聞くと、涼風はぶんぶんと首を振った。

じゃあ、なんなんだ…。相変わらずわからない女心に困惑してると涼風は歯切れ悪く言葉を紡ぐ。

 

 

「……えっと、その……楽しかったから…し、写真撮りたいなーって」

 

 

「撮ればいいじゃねぇか」

 

 

何の写真かは知らないが、別に1枚くらいなら咎めはしない。俺が言うと、涼風は「じ、じゃあ!」と俺の手を取り歩き出す。なんか今日の涼風さんは自己主張が激しいというか、とりあえずその服装といい童貞を殺す気なんですかね。

 

 

写真を撮りたい場所に着いた涼風は息を整えると、ポケットからスマホを取り出す。近くを見渡せば桜色にライトアップされた夜の白亜の城を記録に残そうと撮影する者が多く見られた。それも友達や恋人とのツーショットでだ。まさかと思って涼風を見るとかスマホのカメラを城に向けて、シャッターを切っていた。

 

 

「もう済んだか?」

 

 

「あ、最後に1枚だけ」

 

 

そう言って涼風は、俺の方に寄ってくるとスマホのカメラを内側にする。自分も写して撮るのかと思ったら、急に服の裾を引っ張られる 。あまり力は強くなかったが、完全に気を抜いていたので思ったより涼風の密着してしまう。

 

 

「え、あ……」

 

 

カシャッと、スマホの写真にみっともない顔をした俺と涼風を保存する音が鳴る。

「悪い…」と急いで、涼風から離れる。うわ、なんかめちゃくちゃいい匂いした。けど、あれ絶対ビオレの匂いだよ。ビオレママになろう弱酸性ビオレの匂いだよ。しかも、女らしいというか、その、柔らかさが伝わってきて素直にアレしそうになった。あれだな、俺がそのヘンの童貞だったら死んでたな。

 

 

「……よ、用も済んだし、帰ろうー!」

 

 

俺と顔を合わせないように振り返って出口の方へと進んでいく涼風に、俺は何とも形容し難い気分を落ち着けながらその背中について行った。

 

 

 

###

 

 

帰りの電車の中は働き者の帰宅ラッシュをすぎていたためか、車内はとても静かで容易に座ることが出来た。それに隣が静かなのはようやく疲れが出てきたのだろう。

東京駅まではほんの数駅で、俺と涼風は特に喋ることもなくただ電車に揺られていた。

 

東京駅についた後もその静けさは変わらず、俺は下に止めた自転車の料金だけが気がかりだった。ほら、ちゃんと止めないと持ってかれるし、止めたら止めたで金取られるからな。結局、お金は取るあたりこの国すごい。

そういえば、涼風はどうするのかと振り返ると下を向いてため息を吐いていた。

 

 

「どした」

 

 

「……ううん、なんでもない」

 

 

軽く首を振ってそう言う涼風。本人が何も無いというのならこちらもそっとしとくのが一番だろう。

 

 

「じゃ、俺、こっからチャリだから」

 

 

「あ、そうなんだ」

 

 

「お前は?」

 

 

「バスだけど…この時間あるかな…」

 

 

確かにこの時間帯で動いてるバスは流石に少ない。タクシーなら、たくさん常駐しているだろう。提案してみたがお土産にだいぶ使ったらしくそんなお金はないと言われた。

 

 

「……じゃ、貸してやるから。流石に何分も歩く体力残ってないだろ」

 

 

「え、でも悪いよ」

 

 

「いいんだよ、こういう時は遠慮せず借りとくべきだ。それで500倍返ししてくれればいい」

 

 

「そっかそう……えぇ!?500倍!?」

 

 

「いや。冗談だよ」

 

 

そんな本気にすんなよ。でも、俺だって5000兆円欲しい!という欲望はある。だって、そんだけあったら仕事しなくていいじゃん。

 

てか、それより、こいつ大丈夫か?ちょっと八幡心配になるよ?老後とか詐欺に騙されそう。俺とかに。しないけど。

ふくれっ面の涼風に諭吉を差し出すと嫌々といった感じに受け取る。

 

 

「返すのは次会った時でいい」

 

 

「う、うん。というか、八幡と私って会社でしか会わないじゃん」

 

 

いや、わりと外でも会うだろ。この前もそうだし。しかし、何気にあらかじめ集合場所やら時間を決めて会ったのは今日が初めて……あれ?

 

 

「どうしたのそんな顔して」

 

 

俺の少し驚いたような顔に涼風が首を傾げている。

 

 

「いや、お前いつから俺の名前呼んでたんだっけと思って……」

 

 

「!?」

 

 

よくよく思い出してみたら、この前も1回言われた気がする。あれは小町や雪ノ下とおなじく虐語として俺の名前を出したんだろうが、今日はなんか違ったような。

どうなのだろうかと顔を上げるとそこに涼風の姿はなく、喧騒の中でさっきまで前にいた紫髪のツインテールが慌ててタクシー乗り場近くの階段へと急いでいた。

何かの用事でも思い出したのかと思って、特に気にすることもなく俺は帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





思ったより長くなかった


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ヲタクの秘匿は難しい

すまない……ゆん先輩とはじめさんとのデート回は無くなったのだ……すまない……あくまで予定だったのだ……すまない……最新刊を読んだら早く進めたくなったのだ……すまない……


 

人々は正義の味方というのをいつまで信じていたのだろうか。俺は今でも信じている。きっと、世界のどこかに必ずいるだろうと。そうでも思わないと過去の俺が報われない気がするから。

 

 

そもそも、正義の味方とはどういう存在なのだろうか。一般的には、悪人をやっつける清く正しい心を持つ者が該当するだろう。しかし、世界にはそんな人間は数少ない。大体の人間が我欲を持ち、それの邪魔になるものは消し、使えそうなのは使うとかそんなのだろう。

 

 

だから、正義の味方なんてのはいない。

そう結論付けるのが妥当だろう。だって、この世界には奇跡も魔法もありゃしないんだから。

それでも、俺は信じ続けるのだろう。いつか、俺に『本物』を与えてくれる正義の味方を。

 

 

「皆応援ありがとう!」

 

 

『はーい、インセクトファイブと握手したいお友達はこちらに並んでね~!』

 

 

昆虫をモチーフとした戦隊ヒーロー【インセクトファイブ】のショーは録音されたインセクトレッドの声とマイクを通して話すお姉さんの声によって幕を閉じた。

 

 

買い物ついでに立ち寄ってみたが、やはりこの手のショーは人気があるのはいつも変わらない。

最初は悪が優勢でも、観客の力で正義の味方は強くなり悪を倒す。

子供の頃は無邪気にその存在に憧れたが、今はどうだろう。

 

 

「見てはじめおねぇーちゃん!あそこに怪人が」

 

 

「ちょ、あれは違うよ!」

 

 

そう、目が腐りすぎて敵役と間違われてしまう始末だ。別に慣れてるからいいんだけど。あ、このセリフもう何回目だろう。言いすぎて分かんなくなるな。

 

もう栄光の7人ライダーとかになら倒されてもいいんだけどな。多分、お前に負けるなら悔いはないさとか言って爆発する自信あるよ。

 

 

「ごめんなさい!私の知り合いの子が…」

 

 

目頭が熱くなるのを感じて抑えていると、どうやら先ほどの子供の姉が謝りに来たらしい。気にしなくていいのに。そう思ってそちらを向くとお互いに固まる。

 

 

「あ、はじめさん」

 

 

「……なんだ八幡かー!あーよかった。知らない人じゃなくて」

 

 

いや、知り合いだからっていいわけじゃないだろ。ホッと胸を撫で下ろすはじめさん。今回はその大きな胸に免じて良しとしよう。

 

 

「八幡もインセクトファイブ好きなの?」

 

 

「いえ、買い物ついでに」

 

 

俺がそう言うとはじめさんは今度は肩を落とす。ごめんなさいね、俺が好きなヒーローはバイクを違法改造するマスクマンと弓兵のくせに近接戦闘が得意な赤い外套の人くらいなんですよ。

 

 

「てか、握手しなくていいですか?」

 

 

さっきから、ゆん先輩の姉弟らしい2人がずっとステージ上を見つめている。

 

 

「なんや、はじめ握手、行かんの……って、なんで八幡ここにおるんや?」

 

 

ゆん姉弟がいるということは必然的にゆん先輩もいると思っていたが、案の定だった。買い物ついでと話すとそんなことだろうと思ったと納得された。

 

 

「じゃ、私たちは…」

 

 

「あれ…シノ!?わ~やっぱりシノだ!」

 

 

そう言ってはじめさんがステージに向かおうとした時、後ろから謎の女性が現れた。どうやら、はじめさんの高校時代の知り合いらしく、久方ぶりに再会したらしい。

 

 

「シノも東京に来てたんだね奇遇~。あれ?…その男の人ってシノの彼氏?」

 

 

「ちっ、ちがわい!か、会社の後輩だよ!」

 

 

「だよね~びっくりした~シノそういうの疎かったし、あはは」

 

 

笑いあってる2人だが俺たち完全に空気だ。なんなら、俺は彼氏と間違われて気まずいまである。

 

 

「八幡、悪いねんけど、この子ら握手連れてってくれへん?はじめはあれやし、うちはちょっとお花摘みにいってくるわ」

 

 

そんなご丁寧な言い方しなくてもトイレに行くと言えばいいものを……まぁ、淑女らしさって大事ですもんね!まぁ、その申し出は渡りに船だ。俺もこの場から離れられて凄く助かる。

 

 

「じゃ、行くか」

 

 

今日会ったばかりでしかも、怪人扱いされてしまったが子供たちは気にせず俺についてくる。事案になるんじゃないかと不安だったがそんなことも無く、インセクトファイブとの握手は笑顔で終わった。

 

 

戻ってくると先ほどの女性の姿はなく、ゆん先輩もお手洗いから帰ってきていた。ただ座っている場所が変わっており、2人で何やら話していたので気を使って子供たちの相手をしておいた。

 

 

「なぁ、怪人のおにぃちゃん」

 

 

んー、俺は怪人じゃないんだけどな。改造も洗脳もされてない、どこにでもいる社会人なんだけどな。しかし、妹以外の子供におにぃちゃんと呼ばれるのはなんだかいいぞコレ。

 

 

「おにぃちゃんはおねぇちゃんの彼氏なん?」

 

 

またその話か。違うよーと首を振ると「なーんだ」と言ってお相撲さんの着ぐるみのとこに走っていった。多分、俺よりあっちの方に興味がわいたのだろう。おかげでこちらはフリーになったわけだが。

さて、子供の相手はあのお相撲さんの中の人がなんとかしてくれるだろうし、俺はどうしようか。一応、2人に言っておいた方がいいと思って近づいていく。

 

 

「あの~」

 

 

「「!?」」

 

 

声をかけたら凄く驚かれた。そりゃそうか、子供から見たら怪人に見えるんだから。

 

 

「俺、そろそろ帰るんで。あの2人はあそこで相撲と遊んでるで」

 

 

「……見たん?」「……見たの?」

 

 

「はい?」

 

 

何をだろうか。幽霊でもいたのだろうか。振り向いてもそんなことは無く、子供たちの和気あいあいとした姿のみ。それで前を向けば、ただ睨みつけてくる先輩2人しかいない。あらやだ怖い。

 

 

「何も見てませんよ。なんですか、今風のキラキラした女子高生とかガリ勉姿の女子高生でもいたんですか?」

 

 

「「やっぱりじゃないか!」」

 

 

適当に言っただけなのにホントにそんなのがいたらしい。怒った顔をした2人は同時にスマホの俺の前に見せつける。

そこに映っていたのは、今のショートヘアではなく長い髪をお団子にまとめたはじめさん。ゆん先輩の方には、勉三さんリスペクトなのか知らないが丸メガネを付けた女子高生の姿が。多分、ゆん先輩だろう。

 

 

「え、嘘やろ……?」

 

 

「「ふざけんな!」」

 

 

あまりの衝撃的すぎるビフォーアフターに思わず関西弁が出てしまった。それに2人が掴みかかってくる。暴力反対!

 

 

話を聞けば、昔と今は違うんだよ、イメチェンしたんだよ。という話をしていたらしく、それでお互いの高校時代の写真を見せたんだそうだ。

 

 

「で、それを俺が見たと勘違いしたわけですか」

 

 

「ほんまに見てへんねんな?」

 

 

「いや、さっき見ましたが」

 

 

見た感想としては、劇的ビフォーアフターに出せるんじゃないかと思うくらいの変化だ。

 

 

「……八幡はどうなの?高校の時と変わったところとかないの?」

 

 

「はぁ、髪の長さくらいですかね」

 

 

目は相変わらずだし、身長は少し伸びた気がするが髪の長さくらいしか変わってないように思える。まぁ、トラウマの数は年々増えてるんですけどね!

 

 

「ええなぁ2人は。うちは元々ガリ勉やったからな。ゲームも1人でしてたわ。東京来てからそれをキッカケにいろいろイメチェンするようになって…」

 

 

「そっか、それでゆんの服装っていつも気合が入ってたんだ。慣れてないから」

 

 

俺、ガリ勉じゃなかったのに友達いなかったから1人でゲームしてたなー。そう思ってたら、はじめさんが地雷原に飛び込んだ音がした。

 

 

「こっちは真剣に悩んでんねんアホー!!」

 

 

「なんで俺!?」

 

 

ゆん先輩のあまり早くない右ストレートが俺を襲う!だけど、平塚先生からブリットシリーズを受けてきた俺からすれば止まって見えるぜ。

 

 

「確かにわからへんわ!でもこれでも私なりに勉強して選んどるねん!かわいいって言われたいねん!アホアホ!」

 

 

「ちょ落ち着きなよ!」

 

 

ナゼェナグルンデス!?と言うくらいにポカポカとゆん先輩は殴ってくる。全然何ともないけど。ターゲットは止めに割り込んだはじめさんへと切り替わる。

 

 

「待って、別にそれは恥ずかしいことじゃないよ!苦手を克服しようとするのはすごい事だし、ゆんの服、私好きだよ?」

 

 

「……」

 

 

あら~百合の花が咲いてきた気が。それでは空気を読んで俺は失礼しよう。ここから先は罪なき者のみ通るがいい。ガーデンオブアヴァロン!

 

 

「だってキャラが立つのはいいことだし」

 

 

「ゆん先輩ってかわいいゴスロリな服好きですよね」

 

 

「爆ぜろ!」

 

 

「いて!」「イィッ↑タイ↓メガァァァ↑」

 

 

なんでさ……なんで俺だけ霧吹きによる目潰しなの?てか、なんで霧吹き持ってきてるの?それ中身大丈夫なやつ……?

このままじゃ目が腐るどころか飛び出ちゃうよぉ……。

 

 

「なんだか、友達に遠慮してる私達って案外似た者同士なのかもね」

 

 

「……かもな」

 

 

人が目の痛みに悶えてる間に2人はまたいい雰囲気になってた。やっぱり男が土足で会話に入るのが良くなかったんだね。わかるとも。

 

 

「ゆんは今の自分に自信もって大丈夫だよ。だから私も自信もってアッキーに自分の趣味を告白する!」

 

 

「は?ちょ、それは…やめたほうが」

 

 

「いや私はやるよ!メール送信!」

 

 

「えぇ…」

 

 

よかった。霧吹きの中身、これ水だ。舐めたら分かった。思い込みでレモン水だとか思ってたがそんなこと無かった。

 

 

「あ、返信返ってきた!」

 

 

「なんてなんて?」

 

 

急かすゆん先輩にはじめさんは顔を一気に紅潮させていく。それを見て俺は一言。

 

 

「多分、知ってたって返信来たんじゃないですか」

 

 

「うわあああ!!!私の長年の苦労はなんだったんだーー!!」

 

 

「黙っててくれたなんてアッキーさんええ人やん…」

 

 

その通りである。ほんと、ヲタクなのを隠すのは苦労するが、バレるのはほんの一瞬だから気をつけた方がいいと思う。ソースは俺。ほんと息子の引き出しを勝手に開けるんじゃねぇよ……!!

 

 






一言


『おまえらひふみ先輩好きスギィ!!!!!!!将棋のひふみんで我慢しろ!!!!!』


(気が向いたら書きます)






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心は製鉄所で、胃は溶鉱炉。

感想欄が賑わってきて返信が大変だぜ……前に返さないとか言ったけど、適当に返してます(何人か返してない人はいるけど、その人達はすまない……)


ちなみにタイトルは孤独のグルメのをアーチャーの詠唱に合わせてみました


 

 

2日間の休みの終わりを告げるかのように、休み明けに出勤した朝。

俺の机にはびっくりするくらいにたくさんの仕様書が積まれていた。それにその上にはご丁寧に八神さん直筆のメモ書きまで置いてあった。

 

 

『1週間で仕上げてね~ by コウ』

 

 

最初見た時な殺意を覚えたものだ。この量を1人で?はい?と思ったが2日も経てば…あれ?楽勝じゃねとか思えてきた。

 

 

とある都内のビルの5階にあるイーグルジャンプは今日も大忙し。特に2日も休んでいた俺は尚更だろう。もちろん、会社から指定された休日である。

しかし、休みが開ければたくさん仕事が用意されてる始末。こんなはずじゃないのにー!

 

 

余裕だと思って調子に乗っていたがなかなか無くならない紙の山に泣きそうになりながらも、仕様書を一つ一つ丁寧に処理していく。やってもやっても、山は崩れることなく、むしろ増えている気がする。

どうやら、俺がいない間に積まれていっているらしい。

別に、モデリング作業なら散々やったから出来るしいいんだよ。

そう、出来る~出来る~君なら出来る~と熱いあの人が応援してくれてる気がする。気がするだけで実際そうじゃないんだけどね。頼めば意外にしてくれそうだな。

 

 

「ふげ~疲れた~」

 

 

人が集中してパソコンに向かってる時に変な声を出しやがって。そう思って涼風の方を見ると積まれたプリントを見て「へへ」と笑顔を浮かべていた。とうとう末期症状でも現れたのか…。

 

 

「青葉ちゃんたくさん描いたなぁ」

 

 

「はい、気づいたらこんなに…溜まるものですね」

 

 

溜まってるだけでナニを想像するかはその人次第だが、涼風の溜まってるものというのはキャラクターデザインのことである。真面目にやってきたおかげでキャラがこんなに増えちゃった。本人は気にしてないけど、胸とか身長も増えればいいのにね。そしたら、中学生に間違われなくて済むのに。

 

 

「八幡は、どのキャラが好きなの?」

 

 

涼風の可哀想……もとい幼くて可愛いらしい姿を想像していたら、不意にご本人に声をかけられた。焦ってキョドりそうになったが、そこは幾千の戦いを乗り越え腐敗してきた俺には平常心を保つくらいどうってことない。て、腐敗してんのかよ。

 

 

「まぁ、やっぱり自分で作ったやつだな」

 

 

勘のいいガキは嫌い系博士は葉月さんにも好評で『犬とかレッツ混ぜ混ぜしてみようか!』とか言ってた。シャレにならないからやめとけと言っておいたが…しそうだなぁ……。

 

 

今頃、仕様変更を申しに行ったらデコピンでも喰らってそうな人のことを考えていると、はじめさんが首を傾げながら言う。

 

 

「そういえば、青葉ちゃんっていつから八幡のこと名前呼びになったの?」

 

 

「あ、最近ですよ。みんな呼んでるのに自分だけ苗字って堅苦しいかなーって」

 

 

「確かに同い年やしな。でも、八幡は青葉ちゃんのこと苗字呼びやんな?」

 

 

「はい。俺は同い年だから下の名前で呼ぶとかないんで」

 

 

なんなら、高校の知り合いも全員苗字呼びである。先輩で呼んでる人はいるが、陽乃さんくらいだしな。

呼んでくれと言われたら呼ぶかもしれないがおそらくないだろう。ほら、気安く呼ばないでくれる?とか言われたら困るし。

 

 

それ以上は触れまいと話題は変わり、はじめさんが手につけてるボクシンググローブの話になった。俺は聞き耳を立てるだけで会話には入らなかった。だって、手動かしてないとこの仕事終わらないもん。

 

 

「青葉、会議」

 

 

「あ、はい!」

 

 

はじめさんが肩からグローブをかけてカッコつけたり、また手に嵌めて紐をゆん先輩に結んでもらったりしてると奥から八神さんが出てくる。

 

 

「では、行ってきます!」

 

 

「「行ってらっしゃい~」」

 

 

書類を持って元気に挨拶をした涼風は会議室へと向かっていった。涼風がフロアからいなくなるとはじめさんはシャドゥを撃ちながら呟いた。

 

 

「青葉ちゃんってまだ10代でしょ?すごいよね」

 

 

「そやな~」

 

 

「高卒で入社の応募してきたんやもん…私ならそんな勇気でぇへん…」

 

 

「覚悟が違うよね…」

 

 

一応、俺も同い年なのだが涼風と俺は比べられることがない。理由としては、やはり比べる意味が無いことを誰もが分かっているからだ。

俺には涼風のように八神さんのようになりたいという目標もないし、あいつのように『今日も1日がんばるぞい』とポジティブに仕事をする力がない。

俺はただ、与えられた仕事を黙々とこなしているだけなのだ。

 

 

「八幡もすごいよね。1年目でさ、遅れほとんど無かったし、エフェクト班の仕事とかもやっちゃうし」

 

 

まさか俺にも矛先が向くとは思わず、手が止まってしまう。が、すぐにその手を無理やりに動かした。単に少し人より器用なだけだ。絵も指定があれば描けるし、プログラムもマニュアルさえあればできる。それはおそらく、ずっと1人でやってきたから自然に身についたスキルとも言える。

誰に頼ることもなく、飢えることもなく培われたそれなりに仕事をこなすという人から見れば羨まれるかもしれない技能だが、俺としては理由が悲しくて嫌になる。

 

 

「ゲームも順調に面白くなってるし。青葉ちゃん有名になるかもね。いつか、青葉さんって言わないといけないのかな……なんてね、あはは」

 

 

「はじめ最悪。青葉ちゃん真っ直ぐ頑張っとるやろ?バカにしたらあかん」

 

 

「別にそんなつもりじゃ……」

 

 

確かに高卒だから重役になれないという訳は無い。それはうちの会社に限った話ではない。可能性としてはゼロではないのだ。だから、もしかしたら涼風が俺の上司になる時が来るかもしれない。

すごく嫌だけど。

 

 

「でも…3人とも頑張ってると…思うよ?…はじめちゃんはいくつか企画も…通してるし…ゆんちゃんには…女王さまのモデリングお願いすることになる…よ?」

 

 

ひふみリーダーからラスボスのモデリングを託されたゆん先輩は大喜び。それにひふみ先輩からはエールがはじめさんからも「やったじゃん!」と喜びを分かちあっていた。で、俺は?

 

 

「はぁ、頑張っとるとええことあるな~お茶にしよか~」

 

 

「さっそく油断かい」

 

 

「あ、お菓子…あるよ」

 

 

「わ、おおきに~食べよ食べよ~」

 

 

何故だろうか、俺が空気になってる。

いや、空気を吸って吐くだけならそこらへんのエアコンの方が優秀だとか言われた気がする。最近のは空気を読む機能とか付いてるらしいしね。俺は空気清浄機にでもなろうかしら。

 

 

「八幡も……食べない…?」

 

 

食べます食べます。なんなら、お持ち帰りしたい。やな仕事はゴミ箱に捨てちゃお~う。ということで、俺もお茶会に参加。今日も煎餅が美味い!

3人でもぐもぐごくごくしてるとグローブを付けて何も掴めないはじめさんが一言。

 

 

「食べさせて!」

 

 

「やっぱり紐は不便やろ」

 

 

ゆん先輩が優しく餅やら紅茶をはじめさんの口に運ぶ中、俺とひふみ先輩はバリバリと煎餅を咀嚼し続けていた。うぉん、俺達はまるで人間火力発電所だ。

 

 

 

 

###

 

 

煎餅を食べ終えて仕事に戻った頃にピリついた雰囲気で八神さんと涼風が戻ってきたので自然と周りにもそれが伝播した。最も、涼風への配慮への視線がほとんどで誰も何があったとは聞かなかった。

 

 

そして、やっとやってきた昼休み。ずっとパソコンと向かい合っていたから目が疲れたし、何よりあのブースに何か良くないものが取り付いていた気がしたので俺は屋上までやってきた。屋上はいいね、心を穏やかにしてくれる。

 

 

鉄柵に寄りかかっておにぎりを頬張っていると、ガチャりと屋上の扉が開かれる。誰かと思うと八神さんがマッ缶を2本持ってこちらにやってきた。

 

 

「ひふみんに聞いたら多分ここだろうって、はいこれ」

 

 

どうもと言ってマッ缶を受け取るとタブを開く。ひふみ先輩に居場所を尋ねたということは俺に何か用があるのだろうと口を開くのを待つ。

 

 

「……八幡さ、もし、自分を慕ってる後輩と全力で勝負しろって言われたらどうする?」

 

 

突拍子もない質問だが、八神さんには何かしらの意味があるのだろう。さて、自分を慕ってる後輩か……。そんなのいた事ねぇから分かんねぇなおい。先輩を顎で使うのはいたけど。

 

 

八神さんを慕う後輩とは確定で涼風だろう。おそらく、葉月さん辺りに先ほどの会議で涼風と絵で勝負しろとでも言われたのだろう。

 

 

「俺なら、先輩として負けられないから本気で叩き潰しますね」

 

 

俺の答えに八神さんは苦笑する。

 

 

「八幡には無理じゃないかな。多分、なんだかんだ言って手抜きそう」

 

 

確かに多少は加減をするだろう。でも、ほんの少しだ。まぁ、相手が戸塚とか小町なら全力で負けに行く。俺に勝って喜ぶ姿とかみたいじゃない?見たくない?

 

 

「でも、俺は勝てない勝負はしない主義なんで勝てると思わない限りしませんよ」

 

 

「うわぁ、清々しいまでのクズだね」

 

 

うん、自分で言ってて思った。けど、人間そんなもんだろ。だが、時には勝てないと分かってても戦わなければいけないこともある。それが世界の真実だ。

おそらく、涼風からしたら八神さんに挑むということは超サイヤ人4ゴジータに挑むようなものに違いない。

憧れに挑戦できる昂りと勝てる可能性が限りなくないという焦燥。それでもあいつは勝とうと足掻くだろう。それが涼風青葉の往生際の悪さであり、長所だ。

 

 

コーヒーを飲み干して、手で握りつぶそうとしたが……この缶……固いッ!やっぱり、握力落ちてるのかもなーと思いつつ、俺はもたれていた鉄柵から身を起こす。さっきのかっこ悪いところは空を見る八神さんには見られていないらしく、ホッとする。

 

 

「まぁ、どういうわけでそんな質問したのかは知りませんが、八神さんは手を抜かないであげてくださいね」

 

 

ーーーーーじゃないと、もし勝ってもあいつが本気で喜べないから。

 

 

 

「うん、やるからには全力でやるよ」

 

 

強い意志を感じさせる顔でそう言った八神さんとすれ違うように俺は屋上の扉のドアノブに手を伸ばす。そして、扉を開けた時、風と共に八神さんがこちらも向かずに独り言のように呟いた。

 

 

 

「……私が勝ったら何か奢ってよね」

 

その願いは俺に言ったのか、あるいはここにいない涼風か遠山さんに言ったのか。単なる独り言かはわからない。

ただ、もし俺が奢らされることになるなら、涼風には勝ってもらわないとな。





その後


八幡「涼風が勝ったら俺の仕事減らしてください」

コウ「ダメ」


八幡「……さいですか」
(ああああああああ!!!!!ブリュ(自主規制)!!!!)




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比企谷八幡は敗北をも肯定する

ほとんど地の文になってしまった。まぁ、後半は会話シーンなんだけど。
今回は比較的年長組(それでも26歳っていうね)との絡みが多いです(遠山さんは後書きにちらっと)


日本は平和主義を謳ってる国だが、政治の問題、気が合わない、同族嫌悪やらでわりとどうでもいい事で争ってることが多い。

 

 

昨今の争いでは手は出さないが、相手の個人情報や弱味を逆手にとったりと卑劣極まりない手段で心を蝕んでくる。ネットが社会的にも世間的にも普及してきた代償である。

 

 

争いが無益だと分かっていながらも人は争う愚かな生き物である。そんなに口論がしたいのなら弁護士にでもなればいい。ついでに髪を横分けにすれば気持ち的に多少は良くなるかもしれない。

 

 

まぁ、無益でない清き争いがあるのも事実だ。スポーツとかが顕著だろう。自分と相手の全力のぶつけ合い。それから得られるのは勝利か敗北か。

 

勝利すれば栄光が、賞賛が、名誉と誇りが。

 

敗北してもそれを受け入れ、次に向かう足があればそれはいつか勝利へと繋がるだろう。

 

 

たとえカッコ悪くても、情けなくても。強者に挑む弱者は不細工なものだ。それはそうだ。

なぜなら、一生懸命な時はどんな人もダサくてかっこ悪いのだから。

 

 

 

###

 

 

涼風と八神さんが勝負することになったという話を聞いてから3日が経った。勝負の内容は、今作ってるゲームのキービジュアルをどちらが描くかというものだ。

 

 

今回のゲームのメインイラストレーターは涼風だから、キービジュアルは涼風が担当するのが当然であろう。しかし、会社がそれを良しとしなかった。

 

 

『フェアリーズ・ストーリー』シリーズを手掛けた葉月しずくディレクターと天才イラストレーター八神コウ。その2人がパッケージを飾ることを上層部は望んだのだ。

 

 

それを葉月さんは了承した。遠山さんもゲームを売るためだから仕方が無いと苦い顔をしながらそう言った。だけど、八神さんは真っ向から否定したのだ。このゲームは涼風がいなければ出来なかったと。

 

 

事実だが、それだけでまかり通るほど現実は甘くない。上は決して決定事項を変えることはないと。だから、涼風は八神さんとの勝負を選んだのだそうだ。

 

 

「同席していたのに、何も言えませんでした。……ホント自分が情けないです」

 

 

勝負することになった経緯はプログラマー班のリーダーのうみこさんから聞いた。こちらから聞いた訳では無いのだが、会社から出たところを待ち伏せされていたのだ。そして、そのまま近くの焼き鳥屋に連行された。

 

 

「うみこさんが気にすることじゃないと思いますよ」

 

 

「いえ、ですが…」

 

 

苦虫を噛み潰しめるような顔でうみこさんは否定する。自分にも何か言えることがあったはずだと。

 

 

「…比企谷さんならどうしましたか?」

 

 

「別に何も」

 

 

「……そうですか」

 

 

おそらく、俺も八神さんと涼風を勝負させる案で話を終わらせるだろう。その方が本人達も納得できるだろうし、会社のためになる。

99%、八神さんが勝つだろうが、残りの1%で涼風が勝つかもしれない。

 

 

勝負はいつだって実力とほんの少しの運で決まるのだ。だから、傍観者である俺に出来るのは文字通りただ見るか応援することだけだ。

 

 

「まぁ、こちらとしては涼風に勝ってほしいですね」

 

 

「……え?」

 

 

ポカンと口を開けたうみこさんに対して俺はつくねを人齧りしそれを炭酸飲料で飲み下す。

 

 

「ほら、せっかく頼んだんですし。暗い話はナシにして食べちゃいましょう」

 

 

柄にもない事を言って話を逸らしてまたつくねを口に入れる。音を立てないように咀嚼していると、うみこさんにしては珍しく恐る恐るといった感じで尋ねてきた。

 

 

「なぜ、涼風さんに勝ってほしいのですか?」

 

 

それに俺は堂々と言ってやった。

 

 

「八神さんが勝ったら八神さんに何か奢らなきゃいけないからですよ!」

 

 

どうだ、とばかりに威勢よく言ったがそんなに大したことじゃないし、なんなら自分が損したくないだけじゃないかと思われそうだ。実際、そうなんだけどね。そんな俺の発言にうみこさんは「なるほど」と言いつつ笑っていた。

 

 

###

 

 

キャラデザとイラストの仕事はかなり違う。どう違うかと言うと、キャラデザというのはゲームで動かすキャラの基礎を作っていく。正面を書いたら横、後ろから見た姿も書く。これにより、3Dモデリングができるようになる。

 

 

イラストというのは1枚絵で誰に何を伝えるか、ということである。今回でいえば、このゲームの良さをいかに伝えるか…なのだがキービジュアルが載る雑誌にはゲームの内容が書かれるので「あーこんな感じかー」と解釈させるのが本来の目的かもしれない。

 

 

キービジュアル提出の前日まで俺は涼風に声をかけなかった。お前が負けたら奢らさせるから勝ってねとか変なプレッシャー、もしくは殺意を芽生えさせるわけにはいかなかったので俺は黙ってることにした。自分の仕事もあったからね!

 

 

『青葉ちゃん、大丈夫かな(´・ω・`)』

 

 

『結構進んでますし大丈夫ですよ(⌒ ͜ ⌒)』

 

 

『そうだね!(●´ω`●)』

 

 

涼風を心配するひふみ先輩からのメッセージを返信して仕事に戻る。誰1人として涼風に助言を送らない。最近の会話は挨拶くらいしか聞いていない。それ以外では涼風がパソコンに向かいっきりで話すに話せないのだろう。

 

 

全員が見守ることに決めた。

どんな結果になっても涼風なら大丈夫だろうと。

 

 

 

 

 

 

そしてーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハハハハ!やっぱり勝っちゃったね!」

 

 

 

「ほんと容赦なかったですね…」

 

 

勝ち誇ったような笑みでビールを飲み込む八神さんに俺は悪態をつく。

結果は八神さんの勝利に終わった。おそらく、涼風がどんなものを出してきても八神さんを採用することは決定していたのだろう。まず、8年間の積み上げがあった八神さんにデザイナー2年生の涼風に勝てる要素など無かっただろう。

 

 

「私めちゃくちゃ頑張ったからね。お酒も我慢してずっと描いてたよ」

 

 

「そんなに俺に奢らせたかったんですか…」

 

 

「うん、やっぱり人のお金で焼肉はいいね!」

 

 

そう、八神さんが勝てば何か奢る約束になっていたのだがまさかの焼肉である。貯金も貯まり始めた頃の後輩に焼肉である。食べ放題ではあるが、俺の金と考えるとなんか食欲失せるなこれ。

 

 

「いや~青葉に計画力があれば分からなかったんだけどね」

 

 

「計画力?」

 

 

「そうそう、青葉のやつ自分の絵の描くスピード把握してなかったから下書きと線引きだけで6日使ってそれでちょいちょい付けたししてるから色塗り遅れててさ」

 

 

あー、だから最終日に白黒だったのね。

 

 

「まぁ、あと2、3年くらいしたら化けるかもね」

 

 

「そんなもんすか」

 

 

「そうだよ。てか、八幡もカッコつけて青葉に言ってたじゃん」

 

 

「いや、あれはマンガの受け売りで…」

 

 

「『ここで負けたということがいつか大きな財産になる』……だっけ?あれなんのマンガのセリフ?」

 

 

え、知らないのかよ…。でも、アニメあそこまで行ってないから知らない人は知らないのかもな。

 

 

「ほら、『諦めたら試合終了ですよ』のやつですよ」

 

 

俺が言うと、肉を噛みながら「あ~!あれね!天才バスケットマンのやつね」と指と箸を振る。動作がイマイチ理解できないがなんのマンガかが伝わってよかった。

 

 

「気になってたんですけど、なんで俺が奢らされてるんですか?」

 

 

「え、なんでだろ……」

 

 

そこで考えるのかよ。

 

 

「りんと行くなら自分も払って高いとこ2人で行くし。ひふみんとゆんとはじめはプライベートでご飯は行かないし…阿波根は酔っ払うと面倒だし…青葉は誘ったら来るだろうけど行ったことないなぁ」

 

 

聞いてたら、そうでしょうね。という感想しか出てこなかった。いや、他にも出てきたけど。八神さんってプライベートで食事に行くとかそんなにしないんだな。だいたいわかってたんだけど。

 

 

「そもそも私、プライベートでご飯行くの好きじゃないんだよねー。家でダラダラしながら食べたい時に冷凍食品チンして食べたい」

 

 

うわぁ、この人からなんか平塚先生と同じ匂いが……ん?でも、平塚先生は外食多いよな。わりと男が食べそうなものとか。少し人種が違うのか?

 

 

「だったら、なんで俺とは来るんですか」

 

 

「……まぁ、そういう気分だったんだよ」

 

 

少し間が空いて返ってきた答えがそういう気分ってなんだそれ。

 

 

「…あ、ほら、そこの肉焼けてるよ。お皿出しなよ」

 

 

「あぁ、どうも」

 

 

なんだかはぐらかされた気がするが、肉が美味かったので気にしないことにした。あれだな、争いのあとに残ったのは肉しみだけだったな。ははっ、染みてねぇけど。

 

 

 

 

「よぉし、はちまんかえるどー!」

 

 

「この人、めちゃくちゃ酔っ払ってやがる」

 

 

キービジュアル描いてる間禁酒してたらしいし、たくさん飲むのは分からなくもないが……

 

 

「はちまんおぶってー」

 

 

呂律も回ってない、自分で歩けなくなるまで飲むとかどうなってんだこの人。まぁ、俺は水のように優しいから運んであげるんですけどね。いや、放っておいたら何するかわからないからこの人。

八神さんのあやふやなナビに従って歩き出すと、八神さんが何か思いついたように声をあげる。

 

 

「そっかー!べつに自分の家に帰らなくてもはちまんのところに泊まればいいじゃん!わたひてんさーい」

 

 

「どこがだよ」

 

 

俺、明日も仕事だっつーの。それに女性用の着替えなんて……あー小町のがあるか。多分、おぶった感じそんなに当たってないから大きさは同じくらいだろ……あれ?もしかして、八神さんて…。

 

 

「おい、何か失礼なこと考えたろ」

 

 

「いえ、何も」

 

 

なんだよ、この人酔っ払ったらエスパーにでもなるのかよ。怖い。あと超怖い。

別に嫌じゃないんだよ?柔らかいし、髪からはいい匂いするし。でも、酒と店の匂いがすごいんだよなぁ。

 

 

「八神さん明日仕事あるんですか?」

 

 

「あぁぁぁ、そうだよぉぉぉ」

 

 

「じゃ、帰宅してください。それで明日の朝にでもシャワー浴びてください」

 

 

「えぇぇ、でもぉぉ」

 

 

「浴びろ。でないと、置いて帰るぞ」

 

 

「……はちまんってたまにドSだよね」

 

 

そんなことないです。普通です。ノーマルです。

この後、1時間かけて八神さんを家まで送り届けて、帰宅した後「あれ?タクシーで送った方が早かったんじゃね?」と思ったのは別の話だ。




後日談


コウ「ふわぁぁぁ(なんか昨日のこと全然覚えてないや…。なんか八幡に変なこと言ってないといいけど……)」


|ョω´)りん(コウちゃんから男の匂いがする……!!)


コウ「あ~頭ガンガンする……りんー、お水持ってきて」


りん「……え?別にいいけど…コウちゃん昨日どこか行ったの?」


コウ「あ、うん。八幡と焼肉」


ひふみ、青葉(ガタッ)


りん「へぇ……そうなの……(ギロり)」


八幡(スッキリ……って、えええ!!?怖ぇぇぇぇ!!!)←トイレから帰ってきたら3人に睨みつけられる人



明日の投稿はおやすみです。ではでは


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阿波根うみこは揶揄うのが好き

今回ダラっとしてます

ちなみに「揶揄う」ですが「からかう」と読みます

からかい上手のなんちゃらさんって面白いですよね(うろ覚え)


キービジュアルのコンペが終わっても俺の仕事は終わりません。やってもやっても無くならない作業。同じようなことを何度も繰り返しで、それでいてクオリティは落としてはいけないのだ。

 

 

まぁ、焼肉の時に聞いた話では俺のやってる作業はPVや完成版で初めて出るキャラなのでそこまで急ぐ必要は無いらしい。なんだよ、それ。1週間で仕上げろって言うから頑張ったのに。

 

 

俺はその時思ったね。仕事に終わりはないが、辞められるんだぜ……?

辞めないけど。辞めたところで希望の未来はない。高卒の目も根性も腐った一般男性を他の会社が取るわけがない。最悪、YouTuberかニコ動主にでもなるか。小学生のなりたい職業1位らしいけど大丈夫か日本。あのイキすぎた先輩よりはいいのか?

 

 

 

真面目に変なことを考えていたら、プログラマーブースからうみこさんがやってくる。俺と目が合うとぺこりと一礼して口を開く。

 

 

「今日、面接があるのですがお2人には面接官をお願いしたいのです」

 

 

突然過ぎて、タブペンを走らせていた手を止めて2人で顔を見合わせて首を傾げる。

 

 

「今日の希望者にはお2人が適任ですので」

 

 

どういうことか、そんなことを聞く間もなく俺達は食堂へと通された。

 

 

「ここでやるんですか?」

 

 

「いえ、奥の一室を使います。ここは待合室です」

 

 

うみこさんの視線の先には見慣れない赤い髪をしたのと黒い髪の子がスーツ姿で静かに佇んでいた。

一昨年くらいの俺もあんな感じだったのだろうか。まぁ、俺は来たのは冬だしあんなに落ち着いてなかったが。

 

 

部屋に通され涼風、うみこさん、俺の順で席につく。うみこさんが面接を担当するということはプログラマーの面接だらう。

ならば、俺達は不要だろう。涼風はもちろん、俺もプログラムに関しての知識は高校で教えてもらえるレベルでしか知らない。

その事を言うとうみこさんは「構いません」と言う。実力は把握してるらしく、今回は素行調査らしい。

 

 

「どうぞ」

 

 

ドアが3回叩かれ、うみこさんが返事をすると扉が開かれる。入ってきた黄色い髪をポニーテールに纏めたその少女は俺と涼風に関わりのある人物だった。

 

 

「失礼します!」

 

 

「ねねっち!?」

 

 

「あ、あおっち!?それにハッチーも!?なんで!?」

 

桜ねね。人の休みをひったくるは、仕事終わりに電話を入れてくるわ。お前は俺の母ちゃんか。しかし、確かに桜ならプログラマーの腕はうみこさんは把握しているだろう。ならば、言葉通り素行調査が目的なのだろう。

 

 

「あおっちとハッチーとはなんですか。面接中ですよ?」

 

 

ギロりと私語を放った桜にうみこさんが釘を刺す。それに桜は慌てながらも訂正する。

 

 

「え?……あ!涼風さん、比企谷さん」

 

 

「はい、正解です」

 

 

苦笑しながら涼風が答える。よかったー俺の苗字覚えててくれた。ヒキタニって呼ばれなくて良かったぜ。

 

 

「自己紹介」

 

 

「あ、はい!きらら女子大学の桜ねねと申します」

 

 

「お座りください」

 

 

「失礼します」

 

 

あそこ女子大だったの!?……ほんとに俺入ってよかったのか…?いや、この会社にいる時点で大丈夫な気がするけど。目の前の女子大に男子を呼びつけたとびきりイカれた女はゆっくり席につくと、涼風が肩を震わせて笑いを堪えている様子だ。

 

 

「どうした」

 

 

「う、ううん、マナーを守ってて、つい…」

 

 

え、あぁ、そう。わりとどうでもいい理由で笑ってた。桜も礼儀作法は弁えてるだろ。きらら女子大って俺でも聞いたことがあるくらいの有名校だし。材木座が志望校リストに書いてたからよく覚えてる。

 

 

「それではまず志望動機をどうぞ」

 

 

「う…あお…涼風さんの前でホントに言うんですか?」

 

 

「俺はいいのかよ」

 

 

「……涼風さんに聞かれてはまずい動機なんですか?」

 

 

「うぅ…そんなことないですけど」

 

 

言うと、桜は志望動機を淡々と語る。昨年したアルバイトで会社の雰囲気や作品に対する姿勢に感銘を受けて入社したいと考えたことを。それに涼風は感心したように口を開けている。

 

 

「すごいそんなこと考えてたんですね」

 

 

 

俺も思った。別に悪くない動機じゃないか。ただ、涼風が丁寧語になると煽ってる感じで凄いな。涼風煽葉かな?

にしても、桜のやつぎこちなくてやりにくそうだな。それもそうか、面接官が全員知り合いだもんな。うみこさんはこの状況でも面接を無事終えられるかを試してるんだろう。それに気づいたのか桜は背筋をビシッと伸ばす。

 

 

「……涼風さん。なにか桜さんへ質問はありますか?」

 

 

「えっと…いつから弊社に入社したいと考えるようになったんですか?」

 

 

「ほ、ホントはデバッグのバイトをしてた時はただ楽しかっただけでまたデバッグできたらいいな~と思ってるだけでした」

 

 

かなりぶっちゃけたな。どうせ取り繕ってもバレると想定したのか。意外に頭回るんだなと自然に頷く。

 

 

「でも、デバッグの募集はもう無いと聞いて最初はなんとなく、プログラムを始めてみただけだったんですが、使ってるうちにあお…涼風さん達が凄く頑張ってゲームを作ってるってわかってきて…ゲームを1本自作していく中で自然ともう1度御社で働いてみたいと思いました!」

 

 

動機としては充分すぎる理由で思わず「ブラボー!おお・・・ブラボー!!」と拍手したくなってしまうくらいにはよかった。危ない危ない。

 

 

「……結構です。涼風さん。他にはなにかありますか?」

 

 

「い、いえ、今は別に…」

 

 

「それでは涼風さんお疲れ様でした。ご退室ください」

 

 

「え、私が退室ですか!?」

 

 

「そうです」

 

 

うん、これ俺いらなかったよね?ため息を吐かぬように注意して立ち上がろうとすると太ももにカチャリと鈍く黒く光るアレが突きつけられていた。

 

 

「比企谷さんはステイです」

 

 

「……俺は犬か何かですか」

 

 

呟いて椅子に座り直すと、涼風が退室する。ここから本番なのだろう。で、俺は何すればいいの?犬でも連れてくればいいの?

 

 

 

……その後も俺は特にすることは何もなかった。

桜は週3日出勤の3ヶ月間のアルバイトで課題や雑用続きとなること。そして、うみこさんは私の期待を裏切らないようにと。そう言われた桜は目尻に涙を浮かべる。

 

 

「えへへ、期待してるなんて生まれて初めて言われました。頑張ります!」

 

 

しかし、その顔に悲しみの色はなく。いつもの元気ハツラツとした表情だ。

 

 

「最後に比企谷さんからなにかあれば」

 

 

流石に来させて何も喋らせないのはあれかと思ったのか、もしくはあらかじめ最後に何か言わせるつもりだったのか。この人の考えてることはわからない。

 

 

「特に何も。言いたいことはその時その場で言います」

 

 

言いたいことはたくさんある。人の休日を邪魔するな、仕事終わりに電話をするな、人の気苦労を無駄にするな。でも、それは彼女が悪意があってやってるわけではない。それに俺も怒りはしていない。いつの間にか、それなりに楽しんでる俺がいるのだ。だから、一つだけ強いて言えることがあるとすれば。

 

 

「まぁ、楽しいゲームを作れるようにこれから頑張ろうぜ」

 

 

言うと、桜は「はい!」と力強く頷く。そんな俺達のやり取りにうみこさんは微笑む。

 

 

「さぁ、もう開発室に行ってもいいですよ。改めて涼風さんに挨拶してきてはいかがですか」

 

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 

ドタドタと騒がしく音を立てて出ていた桜が出ていった扉を温かい目で見つめる。

 

 

「付き合わせてしまってすみません。仕事詰めだったようなので息抜きにと思いまして」

 

 

「あぁ、そういう事ですか」

 

 

納得するとドアの向こうに目を向ける。そういえば、まだ2人くらい残ってるんだっけか。

 

 

「じゃ、俺も開発室に戻ります。いい気分転換もできたので」

 

 

立ち上がって部屋を出ていく前にそう言って俺も退室する。また少し騒がしくなるな。そう思いながら。

 

 

 

桜の花は散れども、桜は葉をつける。それが何のためなのかは学校では教えてもらえない。人はたいてい教えてもらわなかったことを聞かれると「そんなの知らねぇよ。学校で教わってねぇんだから」と返す。

教えてもらわなかったからどうなのだろうか。自分の人生が教科書に載っているわけが無いし、人生まで学校に教えてもらう事はない。

 

 

何故ならば、これは自分の物語なのだから。




デデドン!(絶望)


重大発表ぉー!!



Twitterの方でアンケート取ります。



アニメオリジナルの百合温泉があったじゃろ?あれ書こうと思ったけどあれは八幡がいない方が美しいと思うのよ。

それでなにか別の話を書きたいわけよ(ホントは書きたくないんだけど)



それで、俺はあるイベントを考えた……





それが!




『作者が考えた!夏だ!海だ!花火だ!夏休みだ!フェスティバル!』





前置きはここまでにして、ざっくり言うと

①八幡がイーグルジャンプにはいったきかっかけ

②ひふみ先輩視点回

③そのまま6巻の内容に入るか

④夏だし水着回やろうぜ


のどれをやるか投票で決めようぜ!っていうもの。


①に関しては何度か指摘があったので。
ちょうど5巻がまるまる青葉の過去編なので青葉と八幡メインで過去編やっちゃうか。となりました。


②→感想欄にひふみ狂が湧いてるので。話の内容は…まぁ、楽しみにしてろ。


③これが1番作者的に楽


④俺はな!誕生日だからとか!何かのイベントだからって特別な話は書かない主義なんだよ!!……とか言いましたがTwitterの投票機能が4つまであるので、たまになら……みたいな感じで。


以上が今回の『夏だ!フェスティバルだ!』(略した)の概要です。

「Twitterやってないから投票できない……」という人で感想や個人メッセや評価付与の際のコメント、過去の活動報告へのコメントで『〇番で~』とされても無効とします。(というか、したら泣く)


(追記)新しく活動報告でもアンケート受け付けます。だから、感想で言うなよ!


投票期間はこの話が出てから24時間です。なので投票終了後に書き始めるので投稿は"早く"て月曜日になります。
(6巻分の話は書いておく予定ですが…FGOイベが……ゴホゴホ!)


ということでよろしくお願いします。


その他アテンション


八幡の入社理由については「平塚先生からの助言」としてましたが変更しました。オリキャラは出さないつもりですが、最悪出るかもです。


水着回ですが、作者は女性の下着には関心と造詣がありますが水着に関してはありません。だから、公式さんのイラストを見て書きます。その方が皆さんイメージしやすいからいいよね!


ひふみ先輩視点回ですが…多分「……」が多くなります。あと、過度な期待はしないように。(マジで)


6巻分ですが、特にいうことは(ないです)
強いて言うなら新キャラ出るよ!くらい。(ヒロインが増えるよ。やったね八幡!……え?胃薬?効いたよね?早めのアヴァロン♪)


では、よろしくです~


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滝本ひふみの春は終わらない。

彼女いない歴=年齢の俺にラブコメは無理やで……!!!

近況報告はモンハンワールドはよ!配布イシュタル強スギィ!!

Twitterの方がフォロー、フォロワー100人超えました(アンケートの副産物)


記念とかないです。それでは僕のラブコメ……?となるラブコメどうぞ。


ひふみ先輩視点の話です。


 

私、滝本ひふみはコミュ障である。それも極度の。話しかけるには一呼吸いれないといけないし、喋る前に発音の言葉が入ってしまう。それに単語が空き空きになる。

 

 

そんな私が最も苦手な相手は男の人だ。ニュースで男の人が身体を触ってきたりセクハラをしてくるというのを子供の頃から聞いて、さらに学校では体操服を盗まれたりしたからかなりトラウマを持っている。それなのに、私が好きになった相手は……。

 

 

「は、……は、八幡!!」

 

 

「な、なんですかひふみ先輩」

 

 

短く爽やかなイメージを想起させる黒い髪に、整った顔のパーツ。それだけ見ればとても好印象な男の人。多分、すごくモテると思う。だけど、その人はそれらを台無しにするくらいに目が死んでいた。

 

 

出会いは1年前、彼は新入社員でイーグルジャンプに入社してきた。同じキャラデザ班だから、話すことはあるだろうと思っていたけど、モデリングのことで分からないことがあるからと話しかけられた。

 

 

その後もたまに話すことがあって東京ゲームショウの時にコスプレを見られて……。コスプレ仲間に引き込んでコミケで一緒にコスプレをした。その時に青葉ちゃん達にバレないように逃げた時に抱きつかれたことは鮮明に覚えている。おかげでその日は眠れなかったことも。

 

 

「あ、明日、2人で……ご飯…食べ……ない?」

 

 

 

その時にもしかしたらと思った。だが、すぐに否定した。私に限ってそんなことがあるはずがないと。

 

 

 

でも、胸の高鳴りが。鼓動の動悸が。感情の高ぶりが。それら全てが私にこう伝えていた。

 

 

 

『お前(私)は比企谷八幡が好きなんだと』

 

 

 

###

 

 

 

夜。それは大人の時間だと言う。確かにこの時間に1人でいると声をかけられるらしいけど、私は仕事が終わったら寄り道せずにすぐに帰宅している。それに家は会社の近くで比較的に街灯や開いてる飲食店が多いから明るい。だから、そんなことは全くない。

 

 

 

「ちょっと早く来すぎたかな…」

 

 

 

私は今日は仕事が無いけど、八幡はあるから外で待ち合わせることになった。腕時計を見て時間を確認すると約束の時間からまだ10分くらいあった。お店の前のガラスで自分の身だしなみを整える。青いワンピースに水色のスカートで涼しめな感じできたけど……可愛いって……褒めてくれるかな……?

 

 

 

ご飯に誘ったとき、少し戸惑っていたけどそれでも私が「……ダメ……かな?」と聞くとすごくいい顔でOKしてくれた。なんでだろう。

 

 

どんな味が好きとか何が食べられないとか知っといた方がいいかなと思って八幡の妹さんに話を聞いておいたからお店選びは大丈夫。

 

 

『兄はトマトが苦手です!それ以外は食べます!なんなら、ひふみさんみたいな可愛い女の人が作った料理は好きだと思います!今の小町的にぽいんとたかーい☆』

 

 

 

「うぅ……」

 

 

 

最後の2行余計なようで必要ない気がした。

八幡の妹さん、なんだかビンタしてくれとか言われたら躊躇なくしそうな感じ。私はしてくれとか言わないけど。八幡はしてもらってそう。

 

 

 

待つこと数分ぐらいするとアンテナのように張った特徴的なアホ毛が揺れて近づいてくる。

 

 

「すみません、遅れて申し訳ないです」

 

 

肩で息をしながらそう謝る八幡に気にしなくていいと首を振る。黒基調の服装でいつもの『千葉love』シャツじゃない八幡を見るのは久しぶりだ。

 

 

「……もしかして……着替えて……来たの?」

 

 

「え?あ、いや、ちょっと……」

 

 

何か隠すように口ごもる八幡にジト目を向ける。ずっと目を逸らしていたがそれに堪忍したかのように八幡は肩を落とした。

 

 

「……妹に会社の前で出待ちされてて、それで着替えるように言われました」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

うん、なんだか、着替える前の服は聞かないほうがいいのかな。とりあえず、適当に返事をしたことでなんだか気まずい雰囲気になってしまった……。

 

 

「じ、じゃあ、行きましょうか」

 

 

「え、あ、うん……」

 

 

八幡に言われてその場から歩き出す。

 

 

「で、どこの店行くんですか?」

 

 

「え、えっとね…」

 

 

スマホを取り出してあらかじめスクリーンショットしておいたお店の写真を見せる。

 

 

「バイキングですか」

 

 

「う、うん……嫌……かな?」

 

 

「いいや、全然、むしろドンと来いですよ」

 

 

よかった……と胸を撫で下ろす。集合場所から目的の場所までの長い通りを進む。右も左も飲食店や娯楽施設、商業施設ばかりで店の前には仕事終わりと思わしきサラリーマンやOLの姿が見える。

 

 

 

「そういえば、なんで今日俺、誘われたんですか?」

 

 

「えぇ、とそれは……」

 

 

だいぶ前に八幡がご飯行こうって言ったのに誘ってくれないからこっちから誘ったんだけど…。それを言おうか言わまいか悩んだ結果、話題を変えることにした。私のヘタレ!八幡の鈍感!

 

 

「は、八幡は、普段どういうところ行くの?」

 

 

「えっ……あー、図書館とか本屋……あと、家ですかね」

 

 

急に話を変えられて少し動揺したみたいだけど、割と普通に答えてくれた。

図書館と本屋さんって時間潰せるしいいよね。でも、家……家?首を傾げる私に八幡は慌てて付け足す。

 

 

「ほら、借りたり、買ったりした本とか家で読みたいじゃないですか」

 

 

あ、そうだよね。そういう事だよね。私もコミケで買った同人誌は家でゆっくり落ち着いて読みたいし。

 

 

「服とかは買わないの?」

 

 

「あー、ある程度揃ってますから基本的には。千葉関係のがあれば買いますけど」

 

 

千葉関係の服って何…?千葉のブランドとかあったかな。チーバくんとか?

そんな話をしてるうちにバイキングのお店にたどり着く。

 

 

「え、ここって……」

 

 

お店に入ってキョロキョロする八幡。昨年のクリスマスにここの前で色々あったことを思い出してるのか顔が若干暗い。

そんな姿を眺めていると店員さんがやって来る。

 

 

「いらっしゃいませーご予約されてますでしょうか?」

 

 

「よっ、よっ、予約してた…た、たきもとです……」

 

 

「たきもと様……はい、2名様ですね!どうぞ、こちらへ」

 

 

通されたテーブル席に座って、店員さんがお絞りを置く。簡単にバイキングのシステムを言って「ごゆっくり」と笑顔で新しいお客さんの相手に向かう。

その後ろ姿を見送って、また静かな時間が流れる。

 

 

ぐぅ、という私から鳴ったお腹の音に八幡は頬を掻きながら目を逸らす。

 

 

「……えっと、じゃあ……ご飯食べよっか…」

 

 

 

恥ずかしくて死にたくなってしまった。

 

 

 

###

 

 

 

お会計を済ませてお店の外に出ると、月が出ていた。バイキングの時間は2時間でそんなにいないだろうと思っていたけど、つい、会社の話や宗次郎やかまくらちゃんの話をしてる間に随分いたみたい。

 

 

「さて、帰りますか」

 

 

「うん」

 

 

まだそこまで深い時間帯ではないけど、八幡は仕事終わりだし、私も明日には仕事がある。だから、帰るのは自然な流れだろう。

 

 

「家、あっちですよね?」

 

 

「え…送ってくれるの?」

 

 

「え、あー、嫌じゃなければ……」

 

 

またしても頬を掻いて目を逸らす八幡。もしかして、八幡の照れ隠しの動作なのかもしれない。

 

 

「お、お願い…します…」

 

 

そんな仕草にドキッとしたのか、顔が熱くなり、下を向いてしまう。

食事中はいい感じだったのに少しのきっかけでまたぎこちなくなってしまう。男の子との距離感ってこんなものなのかな。

 

 

会話のないまま道を歩き、少しずつ私のマンションへと近づいていく。前を歩く八幡は分かれ道に合う度に振り向いてどう進めばいいかを尋ねてくる。それに私は指を指す。

 

 

 

どうして口があるのに、言葉を使わないのか。それは私がコミュ障だから?

違う。勇気が無いんだ。怖いんだ。自分の気持ちを伝えて拒絶させるのが。さっきの道でなにか飲まないかと言えばまだ一緒にいられたかもしれない。なのに、なのに。後悔と自責の念だけが積み上げられて、マンションの下にたどり着く。

 

 

「今日は誘ってもらってありがとうございました。では」

 

 

そう言って来た道と逆を行く八幡。

何か言わないと、どうにかして止めないと。

何かしないと自分は進めない。きっと、いつの日か今みたいに八幡が遠ざかってしまう。ただの先輩後輩の関係で終わってしまう。

 

 

「ま、まっ、待って!」

 

 

咄嗟に出た言葉に八幡は足を止める。

 

 

「きょ、今日、八幡を……ご飯に…誘ったのは…」

 

 

喉まで出かかった言葉がもう少しというところで止まってしまう。誘ったのは八幡が誘ってくれなかったから。それもある。でも、そうじゃないんだと思う。青葉ちゃんと仲良くなってて、コウちゃんと2人でご飯に行ったとかそういう話を聞いた時、すごく嫌な気持ちになった。

 

 

だから、つまりは私は嫉妬したんだろう。それくらいに八幡を好きになったんだろうと。そう確信せざるを負えなかった。

 

 

「……誘ったのは……」

 

 

未だそこから続かない言葉。待っていた八幡は私から言葉が出ないと思ったのかまたその場から足を動かした。

 

 

「……理由はどうあれ誘ってもらって嬉しかったですよ」

 

 

そう言うと、ぽんと頭に柔らかく温かい感触が触れる。それが八幡の手だとわかるのに時間はかからなかった。俯いていた顔を上げると優しく笑った八幡がいた。

 

 

「では、また会社で」

 

 

手が離れると今度こそ八幡は行ってしまう。点々と光る街灯の夜道を1人で進んでいく。その背中は頼もしく、とてつもなく悲しげに感じた。

 

 

 

もし、彼の隣に立つことが出来るのなら。その時はたくさん甘えて、甘えさせよう。季節は次々に死んでいく。春ももうじき終わり梅雨の季節に入る。

 

 

それでも、この想いは、この時間は、永遠に続く。私の春はまだ始まったばかりなのだから。




Q.全部やるんでしょう?

A.そんな安請け合いばっかして!『NO』といえる人間になろうぜ!
ということで『NO』です。

Q.海は?

A.アホガール見てください



そんなわけで夏だ!フェスティバルだ!!でした。
第2弾は作者の気持ち次第です。本当の目的はゲームのスタミナ回復の合間に書く用の企画でした。不満の声は壁や電柱に言ってください。八幡が入社した理由はどこかでさり気なく入れたいと思います。


次からは6巻の話にはいっていきます。



ps.友人が中間素材からスライムに進化してました(クソどうでもいい)


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その先に何が待つのか比企谷八幡は知らない


ひふみ先輩とのデート?の八幡視点版です。こっちの方がイキイキしてて文字数が多いです。ほとんど地の文ですが。もうラブコメ書く時は八幡視点にしよう。うん。

ついでに言うと全体的にネタが多いです。


 

 

 

 

わたし、比企谷 八幡!1998年生まれ!A型獅子座。どこにでもいる普通の会社員! なのに、ある日突然ゲーム会社で働くことになっちゃって、締め切りや現実と戦うことに!?これからわたし、どうなっちゃうの~!?

 

 

うん、俺以外女性ばかりだから合わせて俺も女性っぽくなろうとしたら気持ち悪くなってしまった。無念!

 

 

ちなみに季節は春!俺の誕生日まで4ヶ月!関東の春はそこらへんの春とは違う。どう違うかと言うと俺にもわからねぇ!

ちなみに俺の誕生日が同じキャラは氷と炎のカーニバル使いのお父さんの燃焼系ヒーローだったり、ラッキースケベ系ラブコメの1人と被っていたり、麦わら帽子のゴム人間に最初にやられた海賊の船長と同じなのだが、覚えている人は少ないのだ。残念!

 

 

 

そもそも、夏休みでメル友が少ない俺が祝われる確率なんてほとんどない。なんなら、家族にも2日経ったくらいで思い出されるくらいだ。妹はちゃっかり深夜におめでとうメールを送ってくれるんだけどね。

 

 

会社に入ったから夏休みとか関係ないと思ってたら、夏休みはイレギュラーでしかも忙しい時期だったこともあって、俺も自分の誕生日を妹のメールで思い出してしまった。大丈夫かな俺。

 

 

「は、……は、八幡!!」

 

 

 

「な、なんですかひふみ先輩」

 

 

 

屋上で孤独な昼休みを満喫していたら、突然、声をかけられびっくり、顔を赤くしたひふみ先輩がいた。

 

 

ひふみ先輩が来たことにより、この空間は浄化魔法が作用し、楽園と化した。

そう、俺が目指したのはここだったのだ。欲望は抑えきれずに空想にまみれた自由を探し求めた。今なら言えるだろう。そうさ、ここが楽園さ……。

 

 

「あ、明日、2人で……ご飯…食べ……ない?」

 

 

あぁ、さらば蒼きどうしようもない青春の日々よ……ってちょっと待て。今ひふみ先輩なんて言った?ご飯?2人で?えぇー!?

いや、この前一緒にご飯行こうとか言った気はするがタイミングを失ってたんだよな…。さて、どうしたものか。ここで断ってまた自分で誘うほうがいいか。

 

 

「……ダメ……かな?」

 

 

あ、行くわ。

 

 

 

###

 

 

 

夜。仕事を終えた有象無象が我を解放する時間。そこに上司も部下も関係ないと言わんばかりに食い飲み食う。子供は寝る時間であり、大人は忙しい者もいればエンジョイする者もいるだろう。例えば、あそこの大学生グループとか噂で聞いたヤリサーとかじゃないだろうか。女子2人、男子6人とかどういう構成だよ。合コンなら人数合わせるだろうし、あれはヤリサーで間違いないな。さっさと男だけで屋上で焼いてこい。

 

 

 

「にしても、早めに終わったな」

 

 

 

ひふみ先輩にご飯に誘われたはいいが、指定された日がちょうど仕事だった。クソッ!出来れば朝から夜までご一緒したかったが、仕事があるんじゃ仕方ないな。

 

 

しかし、定時前に上がれてよかった。妹と久しぶりに飯行くから早めに上がらせてとか通じるんですね。よし、これから毎日飯に行こうぜ!

 

 

まぁ、ご飯に行く前に着替えさせられたんだけどね!

 

 

『うわぁ、お兄ちゃんその服はないわ……。小町があげたやつだけど女の子とデートするのにその服はないわぁ……』

 

 

 

と、俺を見るなりゴミを見せつけられたかのような目をした小町ちゃん。てか、なんで会社の前にいるの?ついでになんでひふみ先輩とデートすること知ってんの?

 

 

『ほらほら、これに着替えて。早く早く時間ないよー?女の子待たせるとかほんとにありえないからねー』

 

 

そう言われ、公園のトイレで着替えさせられてしまった。誰もいないからって男子トイレに入ってくるのはどうかと思いましたよ…。お兄ちゃん、妹のそういう部分がほんと心配……。

 

 

着替えの時間さえ無ければもう少し早くついていたが、走ったおかげでほぼ予定通り5分前だ。待ち合わせの時計の見えるお店の下につくとふつくしい服装の女性を見つけた。

 

 

「すみません、遅れて申し訳ないです」

 

 

肩で息をしながらそう謝るとひふみ先輩は気にしなくていいと首を振る。優しいなぁ…。

 

 

「……もしかして……着替えて……来たの?」

 

 

「え?あ、いや、ちょっと……」

 

 

流石に妹の服装チェックに引っかかったからお着替えしたとは言えない。だが、誤魔化そうとする俺の態度が不服なのかひふみ先輩にジト目を向けられる。

 

 

「……妹に会社の前で出待ちされてて、それで着替えるように言われました」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

観念して正直に言うと微妙な反応が返ってきた。ほんとすまない…空気が読めないやつでほんとすまない。

 

 

「じ、じゃあ、行きましょうか」

 

 

「え、あ、うん……」

 

 

とずっとここにいても気まずいままなので歩き出すことにした。それに続くようにひふみ先輩も付いて来る。てか、どこ行くか知らないんだけど、こっちで合ってるのか?

 

 

「で、どこの店行くんですか?」

 

 

「え、えっとね…」

 

 

尋ねると可愛いケースに包まれたスマホを取り出して、あらかじめスクショでもしておいたのであろう写真を見せる。その写真には店の外観と場所とどういう料理のお店なのかが記載されていた。

 

 

「バイキングですか」

 

 

「う、うん……嫌……かな?」

 

 

「いいや、全然、むしろドンと来いですよ」

 

 

俺の返事によかった……と胸を撫で下ろす。うん、可愛い。行き先が分かったので人通りの多い大通りを避けて長い通りを進む。人通りが少ないとはいえ、この時間のこのあたりは右も左も飲食店や娯楽施設、商業施設がばかりでどこの店を多くの人が常駐していた。

 

 

 

「そういえば、なんで今日俺、誘われたんですか?」

 

 

「えぇ、とそれは……」

 

 

普通、誘うなら涼風あたりだと思うんだが。この前も2人でパスタを食べたと涼風に自慢されたし。しかし、その質問はタブーなのか露骨に悩んだ顔をすると話題を変えられる。

 

 

「は、八幡は、普段どういうところ行くの?」

 

 

「えっ……あー、図書館とか本屋……あと、家ですかね」

 

 

よかった、同じような質問を数年前にされてるから答えるのは余裕だぜ。ありがとう、一色。お前との時間は無駄ではなかったようだ。だが、ひふみ先輩は何やら引っかかるところがあったらしく「家……家……?」と小声で首を傾げていた。

 

 

「ほら、借りたり、買ったりした本とか家で読みたいじゃないですか」

 

 

これはいけないと、すぐさまフォローを入れる。我ながら完璧なフォローだ。ほら、買ったエロ本は外では読まないからな。家で読むもんだ。読んだらすぐに処分しないと親に見つかるから注意な!

 

 

「服とかは買わないの?」

 

 

「あー、ある程度揃ってますから基本的には。千葉関係のがあれば買いますけど」

 

 

服は欲しいと思わないから買わないんだけどな。千葉限定!とかそういうのを見ると欲しくなってしまう。まぁ、服屋いかないから買わないんだけど。

そんな話をしてるうちに目的の店についたのだが。

 

 

「え、ここって……」

 

 

んん?ここのガードレールとか店の看板とか見覚えあるぞ。なんでだ?昨年、確かここで……うっ、頭が!何故か、トラウマスイッチが起動してしまい行動不能に陥っているとひふみ先輩が店員さんに話しかけられていた。

 

 

「いらっしゃいませーご予約されてますでしょうか?」

 

 

「よっ、よっ、予約してた…た、たきもとです……」

 

 

「たきもと様……はい、2名様ですね!どうぞ、こちらへ」

 

 

通されたテーブル席に座って、店員さんがお絞りを置く。簡単にバイキングのシステムを言って「ごゆっくり」と笑顔で新しいお客さんの相手に向かう。教育が行き届いているなーと感心しているとぐぅ、と美しいお腹の鳴る音が聞こえた。まさかと思って前を向くとひふみ先輩がお腹を抑えて顔を赤くしていた。その様子に悶えそうになるのを頬を掻いて目を逸らすことで緩和する。ずっと見ていたいんだけど、どうもそうはいかないらしい。

 

 

「……えっと、じゃあ……ご飯食べよっか…」

 

 

 

ひふみ先輩は恥ずかしそうに口ごもって言うと席から立ち上がり料理の並ぶ方へと向かう。俺もそれに続くように立ち上がった。

 

 

 

###

 

 

 

1人あたりの料金を払って店の外に出ると、すでに月が出ていた。もうサテライトキャノンも撃てる頃合いか。バイキングの時間は2時間あったがそんな時間まで食わねぇよとか思ってたが会社の話やお互いのペット話をしていたらあっという間にすぎてしまった。

 

 

「さて、帰りますか」

 

 

「うん」

 

 

仕事終わりで疲れた体も一気にリフレッシュした事だし、明日も1日頑張れる気がする!だって、金曜日だしね!次の日が休みと考えれば自然にテンションが上がるものだ。

 

 

「家、あっちですよね?」

 

 

「え…送ってくれるの?」

 

 

「え、あー、嫌じゃなければ……」

 

 

意外そうな顔をするひふみ先輩を直視出来ずについ目を逸らしてしまう。ほら、アレだ。俺が見るに値しないというか、調子に乗ってごめんなさいという感じだ。

 

 

「お、お願い…します…」

 

 

なんでそっちまで照れるんだ……。そんな疑念を抱きつつ歩き始める。あれだよな、今の感じは付き合う前の方が仲良かった男女とよく似た雰囲気を醸し出している。気まずいとは思わないが話すのをつい躊躇ってしまう。

 

 

以前にも送り届けた覚えがあるのだが、うろ覚えのため確認のため分かれ道の度に振り向いてどう進めばいいかを尋ねる。美少女な先輩とこんなやり取りをしてたらそろそろ、ヒットマンに撃たれるんじゃないかと心配になる。それでも俺はひふみ先輩に止まるんじゃねぇぞ…と俺を置いていくように促すのだろう。うわ、俺マジで優しい。でも、無駄死にとか言わないで!

 

 

 

そんなこんなで比較的明るい道に出るとひふみ先輩の住んでいるマンションの下にたどり着く。あれだなその人の住んでいる場所でその人の器量やらは推し量れるというがまさにその通りだな。ここで一緒に暮らしてる宗次郎ってのが羨ましいぜ。

 

 

「今日は誘ってもらってありがとうございました。では」

 

 

あまり居ても会話もラブコメ展開も生まれないだろうと思って言ってそのまま前に突き進む。飯も美味かったし、メインディッシュのひふみ先輩の可愛らしい姿も見れたので満足満足。

 

 

「ま、まっ、待って!」

 

 

突然の呼び止めにピタッと足を止めて、少しだけ後ろを振り返る。そこには先程まで沈鬱な表情を浮かべていたのに顔を赤くして涙目になっているひふみ先輩がいた。

 

 

「きょ、今日、八幡を……ご飯に…誘ったのは…」

 

 

 

なぜ今頃、あの時の質問の答えを返そうとするのか。俺にはそれがわからない。でも、ひふみ先輩はどうしてもそれを伝えたいらしい。喉まで出かかってるであろうその言葉の続きを待つ。

 

 

 

 

 

 

「……誘ったのは……」

 

 

 

2分は経っただろうか。それだけ待ってもひふみ先輩の口はずっと同じ言葉を繰り返していた。そのまま行ってしまうのもあれかと思ったが今の俺に何か出来るとも……

 

 

『そういう時は愛してるでいいんだよ、お兄ちゃん』

 

 

不意に妹の言葉を思い出してしまった。いやいや、この状況で愛してるとか言えるかよ。ばっかじゃねぇーの、ばーかばーか!言えたら苦労しねぇっての。

 

 

……言えるわけがないだろう。なぜなら、俺はひふみ先輩を愛しているわけではない。愛されているわけでもない。それに俺のような男に急にそんなことを言われてもひふみ先輩は驚き最悪拒絶するだろう。そんな人だとは思わなかったと。

 

 

人間には他の動物と違い、感情を言葉にすることが出来る。言葉を持つからこその表情があり、感動があり、残酷さがある。

言葉の持つ力は偉大だ。例えば、今まで散々批判していたことを有名人が一言何か言えばそれに同意するように掌を返す人間がいることが顕著だ。

 

 

しかし、人には言葉以外にも気持ちを伝える方法はある。プレゼントやジェスチャー。それらを駆使して人は自分の想いを伝えるのだ。

 

 

「理由はどうあれ誘ってもらって嬉しかったですよ…」

 

 

だから、俺の精一杯をひふみ先輩に伝えた。気持ちを落ち着けさせるように頭に手を置く。すると、俯いていた顔が俺に向けられ目が合う。ひふみ先輩の表情の抜けた素の顔に自然に笑顔が零れた。

 

 

「では、また会社で」

 

 

頭から手を離すと自分の帰路へと歩き出す。点々と光る街灯の夜道を一人孤独に。独りでいると変なことを考えてしまう。

 

 

 

そう、もし、もしもだ。俺と共に隣を歩いてくれる人がいるとすれば、俺はその人に自分をさらけ出すことが出来るのかとか。そもそもそんな人が現れるのか。人生はわからないことだらけだ。だけど、わからないからこそ面白いのだと今に名を残す人物達は言う。その通りだ。

 

 

だから、ほんのちょっぴりだけ期待しよう。未来の俺が今よりも幸せであるように。この小さな幸せなひとときが大きな幸せになるようにと。

 

 

 

出会いの季節は終わり、旅立ちの季節へと向かっていく。それがどんな旅立ちなのかは俺にはわからない。だからこそ、希望もあるのだと。絶望しか未来でも一筋の光があれば進んでいける。人生そんなものだ。

 

 

海に風が朝に太陽が必要なのと同じように俺を必要としてくれる人が現れることを信じて、俺は進み続ける。止まることなくーー。






いかがだったでしょうか。最後のは僕の好きな曲の出だしから取ってます。たまたま聴いて『使える!!』となったのだ。曲名も八幡にあっている気がします。わかる人がいたら嬉しい。


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比企谷八幡はよく俯瞰している。

水着エレナきた。やったぜ
でも、モニュメントがない。交換所にあった。頑張ろう


 

 

 

 

「えー!ついに新しい人が入るんですか!?」

 

 

「そう!キャラ班には1人。あとプログラマーに2人入るんだって。1人はねねちゃんだね」

 

 

八神さんから重大発表があるからと集められた俺達はその事を告げられた。新人がくる。つまり、俺と涼風に後輩が出来るということである。

 

 

「と、とうとう私もせ、先輩になるんですね……!」

 

 

「おめでとう青葉ちゃん」

 

 

「なに余裕ぶってるんやはじめ…」

 

 

先輩になれるという感動から涼風は嬉しそうだ。はじめ先輩もその気持ちがわかるのかグッと親指を立てる。

 

 

「で、でもやっぱりと、とととと、年上だったらどうしよう! 」

 

 

「いや、俺に聞かれてもな…」

 

 

年上の後輩でも一応上下関係はあるだろ。相手がそれを意識するかどうかだが。俺なら自分より年下の先輩には何も聞かないな。特に涼風とかに教えてもらうとかやたらドヤ顔してきそうで嫌だ。

 

 

「まぁそこはお楽しみに。私は知ってるけど」

 

 

出来れば「先輩♡」と慕ってくれるような盾持ちの後輩かヤンデレ気味の洋食の美味い後輩が欲しいところだな。もし、俺より年上なら男の人がいい。ほんと、俺以外に男の人来てぇ!!

 

 

「だけど…ここのブースは既に席が…」

 

 

確かに既に5人でブースの中パンパンだからなぁ。これ以上増えたら誰かがダンボールの上で仕事せねばならん。もしくは、八神さんの隣か。

しかし、八神さんは新人が自分の隣だと緊張させることになるからと、今いる誰かを移動させたいらしい。それで目を向けられたのが……。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!席移動候補っていったらモーション班の私じゃん!」

 

 

そう、モーション班なのにキャラ班のブースにいるはじめさんである。

 

 

「寂しくなるなぁ。一番の賑やかしやったのに」

 

 

「決定!?……ほ、ほんとにゆんは私がいなくなってもいいの…?」

 

 

「……へ? そ、それはよくあらんこともあらへんこともあらへんけど」

 

 

「どっちなんだよ」

 

 

うん、なんだかバカボンのパパを思い出した。賛成の反対の賛成なのだ、だっけか?見たの随分前だからよく覚えてないが。

 

 

「いっそここのブースの真ん中に席を」

 

 

「可哀想だろ」

 

 

涼風の言葉に八神さんは呆れ混じりに返す。俺はそれでもいいけどね。だが、このままだと誰が行くかで揉めるよな。

 

 

 

「あの…」

 

 

「誰も行かないなら俺が……」

 

 

「あの!!」

 

 

挙手しようとしたところでひふみ先輩が大声を出して遮る。危ねーもう少しで変な声出しちゃうところだった。ひふみ先輩が急に声を出したことに驚きつつも疑問符を浮かべる。

 

 

「あ、え、えっと…私が…コウちゃんの…隣に行く…!」

 

 

なんだか『拾いに行く…!』みたいなニュアンスだ。溺れなきゃいいが。そんなことを考えたのは俺しかいないのだろう。

 

「まぁ、それが妥当かな。ひふみんはキャラリーダーだし」

 

 

「うん」

 

 

八神さんの言葉にひふみ先輩は頷く。

 

 

「でもやっぱり…ちょっと寂しくなりますね…すぐ近くではありますけど」

 

 

「……ううん…大丈夫」

 

 

涼風とひふみ先輩って仲いいよなー。羨ましい。ま、まぁ?この前食事に行った俺の方が1歩先を行ってますけど?それに離れ離れになるわけじゃないし。

 

 

デスクの移動が決まり、早速ひふみ先輩のデスクから八神さんの隣のデスクへとパソコンやらを動かすのだが。

 

 

「まぁ、男だからやらされますよね」

 

 

このブース唯一の男となるとそうなるのは必然。円環の理とかそんなのねぇから!にしても、パソコン移動させなくてもデータ移行とかした方が早いんじゃね?そう思ってたら後ろから気配が…。

 

 

「あ…ごめんね…八幡…私が……やらなきゃ…なのに」

 

 

「いや、全然気にしなくていいですよ」

 

 

うん、女神がいた。ひふみ先輩をモデルにした女神キャラとか実装したらPECO(今作ってるゲーム)めちゃくちゃ売れると思うんだけどどうよ。

 

 

そう手に顎を置いて考えてたら、八神さんと話してる美人さんが目に入った。美人なだけならばうちの会社にはたくさんいるので気にならないのだが……なんで猫なんて抱き抱えてんの?いや、たまに見るんだけど名前とか誰のとか知らないんだよなぁ。ただ、カマクラより太ってる。うん。

 

 

「みんな気になるなら来ていいよ」

 

 

俺と同じく、涼風達も気になっていたらしく八神さんにそう言われ、ぞろぞろと集まる。

 

 

「あの、どうしたんですか?ネコちゃんが会社に…」

 

 

「葉月さんのペットだよ」

 

 

えぇ……あの人猫飼ってんのか。確か独身だよね?独身で年齢不詳……あっ……ふーん。

 

 

「名前はなんて言うんですか?」

 

 

「さぁなんだっけ?大和さん」

 

 

猫を抱きかかえている人は大和というらしい。最近の若者は大和と聞いたら海上戦艦を擬人化したのしか思い浮かべないが、俺はやっぱり波動砲を撃つ方だな。スパロボでは最高クラスの火力を誇るから好きだ。

 

 

「……も、もずくです」

 

 

あの人らしいセンスだなぁと少し離れた距離で猫と戯れる女性陣を眺めていると八神さんに横腹をつつかれる。

 

 

「な、なんですか」

 

 

「いや、八幡は触らなくていいの?」

 

 

「実家で猫飼ってたんで俺は大丈夫です」

 

 

それにあの手の人は男なんかに寄られたら嫌がるでしょ。案の定、猫に群がる女性陣に苛立ったのかは分からないが「ち、近づかないでください!!」と一喝する。

 

 

「ご…ごめんなさい」

 

 

それに驚いて涼風が一歩下がる。すると、大和さんは顔を背けてもずくを前に差し出す。

 

 

「あ、違います。もずくは好きなだけ触ってください。ただ、私は…えっと。人に触れられたり接近するのが苦手で……ごめんなさい」

 

 

恥ずかしそうに言うその姿はまさに…乙女だ…。でも、あの人の気持ちはおおいにわかる。自分のパーソナルスペースにズカズカ土足で踏み込んで欲しくないというか、構わないでくれよどっか行ってくれって感じだよな。え?違う?

 

 

「めんどくさい性格だよね…まぁ、八幡も似たようなもんか」

 

 

大和さんと俺を見比べるようにそう言う八神さんも酔っ払うとめんどくさいですよね。

 

 

「てか、大和さんは何しに来たんですか」

 

 

「え?あぁ、PECOの宣伝で雑誌に描き下ろし描いてくれって頼みにきたんだよ。もずくを連れてきたのは多分、葉月さんの差し金だろうけど」

 

 

なるほど、わからん。別にもずくいなくても会話はできるだろうに。いや、葉月さんの事だから別のところに狙いがあるんだろうが。

 

 

「…あの大和さんのフルネームって『大和 クリスティーナ 和子』さん……ですよね」

 

 

「え?は、はい、そうです。母がフランス人のハーフです」

 

 

「フランスですか!友人がフランスに留学に行ってました。挨拶でキスするのが習慣だって」

 

 

涼風の言う友人とは星川の事だろう。星川って誰だよって?ほたるんの苗字だよ。ずっとあんたとか言うのもあれだからこの前涼風から聞いた。

にしても、フランスと日本のハーフか。じゃ、どっちの言葉も話せるんだろ?俺は千葉と千葉のバイリンガルだから日本語しか話せないが。あとはオンドゥル語を少々だ。

てか、フランスでは挨拶にキスする習慣があるのか。平和的でいいよな。ポケモンなら挨拶替わりにポケモンバトルだからな。……よし、今度戸塚誘ってフランスいこう。キスしよう。

 

 

「ああ……確かにそうですね…」

 

 

涼風の話に頷きつつも暗い顔をしながら肘を擦る大和さん。どうやら、妹が必要以上に挨拶をしてくるんだそうだ。

 

 

「じゃあ、日本には1人で?」

 

 

「はい、私は日本のゲームが好きで日本に来ました。妹もフランスでゲームを作ってるんですよ」

 

 

新しい後輩の話はどこへやら、周りは大和さんの妹が作っているゲームの話に聞き入っていてそんなことも忘れてしまった様子だ。まぁ、八神さんがどんな人か教えてくれない以上、これ以上話しようがない。期待して予測を立てても違っていればその人の前で失礼な態度を取ってしまうだろう。

 

 

だから、俺は何も考えないでおこう。別に俺を慕ってくれるような年下でなくてもいいし、年上の優しいお姉さんでなくてもいい。ただ、何事も起きないことを祈るだけだ。ほんとに。

 

 

 

……あれ?そういえば、桜の面接の時に2人くらい女子が……え?まさかね?……そんな不安を募らせる俺であった。




ポケモン映画の主題歌聞き直してたんですが、ダントツで「ひとりぼっちじゃない」が良かったです。個人的にはレックウザとかディアルガ対パルキア対ダークライも好きです。では、また今度。


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新入社員はやっぱり女の子。

ポケモン主題歌の話題を出したら「私は〜」みたいな感想が多くてやっぱりポケモンは妖怪に負けてないんだと思いました。
妖怪といえばレベルファイブ作品ですが、やっぱり有名所はイナイレ、レイトンなのでしょうか。僕はダンボール戦機が一番ですね。バンさん中の人も含めて大好き。


 

初めて先輩と言われたのはいつだったか。ゲームでは何度も呼ばれたことがあるがそれは文字列でしかなく、耳に届くものではなかった。おそらく、俺を初めて先輩と呼んだのは間違いなく一色いろはであろう。あとはいない。川崎大志とか知らない。

 

 

大学に行っていれば、他にも呼んでくれる後輩が出来たかもしれないが所詮俺なのでそんなことは無いだろう。それに俺は最近は「先輩♡」と言ってくれるより生意気に苗字を呼び捨てにしてくる学園最強系生徒会長の方がいいかもしれない。

 

 

しかし、そんな子が来るわけがないので淡い希望は捨てる。そもそも、社会人になったら学園最強も生徒会長も過去の遺産だ。話のタネになってもその面影がでるかどうかと言われればそうではないだろう。実際、ここに文化祭実行委員とかやらされたけどそんな片鱗どこにも見えない人とかいるし。逆に見えたら恐ろしい。

 

 

いつも通り、出仕時間より前に出勤してMAXコーヒーを飲む。これが俺の習慣である。仕事始めの月曜日とか気が滅入ってしまうから少しくらいはテンションあげないと。たわわチャレンジとかやったらテンション上がるかなぁ。

 

 

「おはよう八幡〜」

 

 

「あ、八神さん。おはようございます」

 

 

「今日から八幡も先輩だけど、ねぇ今どんな気持ち?」

 

 

ニコニコしながら肩を組んでそんなことを聞いてくる八神さん。

 

 

「いや、別になにもありませんよ」

 

 

「えぇ〜ほんとにござるかぁ〜?」

 

 

……めんどくさっ!?

何この人今日マジでどうかしたの?頭でも打ったのか?もしくは熱でもあるのか?いや、ただ単にからかってるだけだな。なんか表情が氷の女王の姉にそっくりだわ。

 

 

「ほんとですよ。強いて言うなら静かなのがいいです」

 

 

「あ〜そうだね。ただでさえあそこのブースお喋りが多いのにこれ以上増えるとね」

 

 

同意しながら冷蔵庫から俺と同じ飲み物を取り出し口に含む。言ったけどその辺はあんまり気にしてないんだよなぁ。納期がやばい時は静かにしてるし。

 

 

「お先に」と一言告げてから給湯室から出ると見慣れない顔の女子が2人居た。この前見た赤髪と黒髪の髪型がサイドテールの2人だ。

 

赤髪の子は俺から見て左に髪を黒のリボンでまとめ、頭頂部のカチューシャ、黒のノースリーブのセーターのような服に白いスカート、黒のハイソックスとなんだか強気な感じだ。対して黒髪の子は赤髪の子とは逆に作られたサイドテールを青いリボンでまとめ、たくさんのアルファベットがあしらわれたシャツを着ていた。

 

 

「ごめんなさい。たまに寝てる人がいるので初対面のイメージを悪くしちゃうのもなって思って」

 

 

いつも八神さんのいるブースから出てきた涼風は冷や汗を拭う。まぁ、多分俺が来た時に起きたのだろう。多分だが。

 

 

「それって誰のことだ〜?」

 

 

「わあ!八神さん来てたんですか!?」

 

 

「八神コウさん!!」

 

 

ちゃっかり聞いていたのか八神さんは悪そうな笑みを浮かべながら3人の前に現れる。それに驚く涼風と赤髪の子。

 

 

「望月さんだよね。私面接したし。もう1人はプログラマーの子かな?」

 

 

「鳴海ツバメです!よろしくお願いします!……で、そちらは……?」

 

 

と、黒髪の子が俺を見つめる。すると、赤髪の子が警戒するような目を向けてくる。いつの時代もどこの世界も人は第一印象で決まる。人は見た目が100%とか言うけどあれは嘘っぱちだ。人は見た目が9割、中身が1割なのだ。俺は見た目はほぼ死んでるゾンビのように見られるのでアウトだが、中身はそこら辺の凡俗とは違うのだ。そこのところをこの後輩達に見せてやろう。

 

 

「あぁ、あれは比企谷八幡。望月さんと同じキャラ班だよ。見た目はアレだけどイイヤツだから」

 

 

うん、俺が口を開く前に八神さんに紹介されてしまった。ここで先輩の威厳とか、風格を見せつけようと思ったのに。まぁ、特に何も言うことを考えてなかったからいいんだけど。

 

 

「あの…」

 

 

「?」

 

 

もう真顔でこの場の空気に佇んでいようとしたら、赤髪の子にさっきの目のまま話しかけられた。

 

 

「い、いや、なんでもないです」

 

 

さいですか。何も無いのか、そうか。

 

 

「わ、私、八神さんみたいなキャラクターデザイナーになりたくて来ました!望月紅葉です!」

 

 

「私と一緒だ!お互い頑張りましょうね!」

 

 

「え?は…はい」

 

 

それだと熾烈なライバル関係になることが目に見えてるんだが…。もしかしたら、2人で八神さんを越えようみたいな共闘戦線を張るかもしれないな。で、八神さんは照れてこっち見るのやめましょうね。

 

 

「そうだ、なにか飲みますか?コーヒーとか紅茶とかすごく甘いコーヒーとかがありますけど」

 

 

「おい、最後のはだめだ。あれは俺のだ」

 

 

わざわざ、日曜日に千葉まで出向いて箱買いしてるこっちの身にもなれ。マッ缶は密林とかで買うより、小町の教えてくれるチラシ情報を元に安い店を探して買ったほうが得なんだよ。

 

 

「えー、でも、八神さんも飲んでるし」

 

 

「あれは八神さんのだろ。だから、別にいいんだよ」

 

 

「ん?これ八幡のだけど?」

 

 

「え」

 

 

俺のだったのか。どうりでマッ缶の減りが早かったわけだ……。俺が無意識にがぶがぶ飲んでしまっていたと思って心配していたがそんなことはなかったらしい。

会社の冷蔵庫に入れた物は会社の物になるのだろうか。名前書かないからだよとか、1本1本に書いてたら日が暮れるわ。

 

 

「私は紅茶でお願いします!」

 

 

「私は砂糖なしで…」

 

 

そんな俺の心情を察してくれたのか、ただ単に千葉のソウルドリンクを知らないのか。おそらく、後者だろう。

 

 

「無理して砂糖なしにしなくてもいいんですよ?」

 

 

「お前みたいに見栄張ってブラックコーヒーなんて頼まねぇよ」

 

 

「ちょ!後輩の前でその話しないでよ!!」

 

 

恥ずかしさと怒りで顔を赤くして怒る涼風に八神さんは笑い、新人2人は苦笑いを浮かべる。カバンも置いていかず紅茶を入れに行った涼風の背中を見ながら八神さんが呟く。

 

 

「ごめんね騒がしくて。青葉のやつ、初めての後輩で張り切っちゃって」

 

 

「いえ……良い人だと…思います」

 

 

「まぁ、皆の出社時間まで少し時間があるからここでゆっくりしてて」

 

 

手を振って自分のブースに戻ろうと背中を向けた八神さんに望月は目の前の席を指さして尋ねる。

 

 

「?……八神さんの席ってここじゃ…」

 

 

「そこは青葉の席だよ」

 

 

お前の席はひふみ先輩がいたとこだよ。とは言えず、俺はその隣の自分の席に座るとスリープモードに入っていたパソコンをつける。

 

 

「そ、そうだったんですか。キャラデザの紙とかがいっぱいあったので」

 

 

「まぁ、それが涼風の仕事だしな」

 

 

「……?」

 

 

「青葉がPECOのメインキャラクターデザイナー。私はキービジュアルとアートディレクターだよ。ごめんね、変な宣伝の仕方してるから勘違いするよね」

 

 

笑いつつも影のある表情で謝る八神さんに望月は「い、いえ…」と首を横に振る。ついでに言うと俺は無茶振り担当だ。

八神さんから話を聞いて、少し考え込むような表情を取ると何故か彼女の後ろから燃え盛るような熱気を感じる。こいつ……新手のスタンド使い!?

 

 

「お待たせしました〜……ってあれ?」

 

 

 

ガァルルルル……とビースト解放しかけの望月を見て涼風は耳打ちして「な、なにがあったの?」と聞いてくるが俺にもわからんとため息をついた。

 

 

「紅茶ありがとうございます!」

 

 

空気が悪くなるのを感じたのか、鳴海が望月を弾き飛ばす。空気の変え方が新鮮というか、強引というか。

 

 

「こっちが鳴海さんのです」

 

 

「で、こっちがもものですね」

 

 

受け取った鳴海は『鳴海の』と言われたカップを望月に渡す。それを望月は弾かれたので動揺してたのか「え?あ…うん…」と挙動不審な感じで受け取る。

 

 

「……!?甘……!」

 

 

「にひひ〜」

 

 

「わー!?私、間違えちゃいました?」

 

 

そんなに砂糖入れたのか……?鳴海のすり替えトラップもあれだが、女子があんな低音出すくらいの甘い紅茶を作る涼風って一体。あたふたする涼風に「私のイタズラっす。ごめんなさい〜」と謝る鳴海を睨みつける望月。

 

 

「お前砂糖何杯いれた?」

 

 

「え、そんなに入れてないけど…」

 

 

そんなにということは1杯で大さじ2杯くらい入れたのかこいつは。それとも、望月が甘いのが苦手という可能性もある。だとしたら、マッ缶飲めないじゃん!可哀想に。

 

 

「涼宮さん…」

 

 

「?」

 

 

「私…負けませんから」

 

 

「…あの…私、涼風です」

 

 

「え!?」

 

なんだよ涼宮青葉って。ただのキャラクターデザイナーには興味ありません。とか言いそうだな。

苗字を間違えられて困惑する涼風と苗字を間違えたことに申し訳なさと恥ずかしさで顔を紅葉の葉のように紅くする望月。

なんだかめんどくさくなりそうだなと思い、俺と八神さんは知らんぷりした。




久しぶりに仮面ライダーWとダンボール戦機の話をしました。
自分は父の影響で昭和ライダーから入ったせいか、平成ライダーはWがダントツで好きです。2番目はディケイド。3番目は強いて言うならフォーゼですかね。




仮面ライダーエミヤとかかっこよさそうじゃない?弓を使ったライダーってあんまりいないし、いいと思うんだ。それに無限に剣を出すとか強くない?でも、ライダーキック……うん、あいつキックしないな。


消した。



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welcome to イーグルジャンプ

書き上げたのさっきなんだぜ。

多分八月終わったら更新ペース落ちるからヨロシクゥ!!


前回のあらすじ。やっぱり新入社員は女の子でしたっ!個性豊かな2人だがもう1人は涼風の名前を間違っちゃって……これからどうなるんだろうな。他人事だなって?他人事だからな。

 

 

「え〜!インターン中は学校に行かなくていいの!?」

 

 

「うちの専門学校はこうしてインターンで働くことも単位になるので」

 

 

昼休みに新入社員と仲を深めようということでカフェに訪れたキャラ班+はじめさん+うみこさんと桜と鳴海御一行。俺はいつも通り屋上で孤独なグルメを堪能しようとしていたのだが、八神さんと涼風のコンビプレーの前に敗れ去ってしまった。こうして女性達が並ぶ中にちょこんと置かれてる俺の肩身は狭いどころかもうないんじゃないかと思いたくなる。

 

 

聞いた話では、望月と鳴海は俺と涼風、桜と同い歳らしく今は専門学校のインターンでイーグルジャンプに来てるのだそうだ。あ、この情報は全部隣のプログラマー組の話を盗み聞きして得たものである。

 

 

プログラマー組はもう打ち解けたのか「タメ口でいいよ〜」とか話していたりするのだが、それに比べてこちらは殺伐としている。

 

 

「も、望月さんはよく呼ばれるあだ名とかあるんですか?」

 

 

ナイスだ涼風。さすがこの中ではコミュ力EXある女。

 

 

「え?なるからはいつも"もも"って呼ばれてます」

 

 

望月 紅葉だから苗字と名前の頭文字をくっつけて「もも」か。てっきり髪の色から来てるのだと思ったがそうではないらしい。

 

 

「じゃあももちゃんやな」

 

 

「私達も下の名前とか気軽に呼んでくれていいよ」

 

 

あ、ももといえばやっぱりハーレム計画とか推進したりするのだろうか。それだと俺が完全にリトさん枠なのだが、うんないな。

 

 

「えっと…じゃあ…」

 

 

そう言って、見えないように手元で何やら小さなメモを見る望月。

 

 

「ゆんさん。はじめさん。青葉さん。ひふみリーダーで」

 

 

「り、リーダー!?」

 

 

「間違ってへんけど初めて聞きましたね」

 

 

今まで誰も呼ばなかったからわすれそうになっていたが八神さんに代わってキャラクター班のリーダーはひふみ先輩なのだ。つまり、これは間違った呼び方ではない。ゆん先輩も苦笑いしながら肯定していた。

で、地味に俺が抜けてるのはバグですか?

 

 

「あと、比企谷さん」

 

 

「え?あ、おう」

 

 

とか思ってたらちゃんと呼ばれた。でも、俺だけ苗字なのね。珍しく「ヒキタニ」とか間違ってないから別に全然いいんだけど。

 

 

「ずっと気になってたんですけど、ひふみ先輩って八神さんや遠山さんのこと下の名前でちゃん付けで呼びますよね?数年後輩なのに…」

 

 

確かに八神さんと遠山さんは同期だがひふみ先輩は違うはずなのだ。てっきり、親しげに下の名前で呼びあっているからそうだと誤解する連中が多いが同期ではない。確か八神さんは高卒でここに入って8年目とか言ってたから年齢が割り出せるが、遠山さんって高卒なのか専門校卒なのかで年齢変わるよなぁ…。でも、同い歳って言ってたな……じゃ、高卒……?考えるのはやめよう。

 

 

「ああ…昔私の会話の練習の相手になってもらってたから…私が無理矢理やり…ね」

 

 

 

八神さんが言うと、ひふみ先輩は頷く。

 

 

「うん…そのまま流れで…」

 

 

なるほど、八神さんがコミュ障を治そうと砕けた接し方をしてるうちに下の名前呼びになったわけか。

 

 

「じゃあ遠山さんは?」

 

 

「コウちゃんって呼んでたら、ある日りんちゃんが自分もちゃん付けで呼べって…」

 

 

少しビクビクしながらひふみ先輩が答える。それに八神さんは首を傾げるが、俺とゆん先輩はある予測を立てる。

 

 

「多分、自分だけさん付けとか嫌だったんじゃ」

 

 

「せやろな。それも八神さんやし」

 

 

「え?どういうこと??」

 

 

「複雑な心理ですね」

 

 

相変わらず八神さんは遠山さんの気持ちに気づいておらずちんぷんかんぷんといった様子だ。どこのラブコメの主人公だよ。

 

 

「あれ?そういえば、今日遠山さん見ませんでしたけど、お休みですか?」

 

 

「葉月さんたちとPECOのキャストオーディションに行っててスタジオじゃないかな」

 

 

聞いたら八神さんが答えてくれたやっさしー!おそらく、今頃噂話をされてくしゃみでもしている頃であろう。あと、最近遠山さんからの視線が怖くて直視できません。どうすればいいでしょうか。よし、あとで知恵袋に聞こ。

 

 

「お待たせしました〜」

 

 

遠山さんの話になりかけて、望月が分からないだろうと八神さんが気を遣うと待ちかねた料理がやってくる。こういうオシャンティなカフェの定番といえばパスタであり、スパゲッティである。あれらの違いはよく知らないが麺の太さがどうとかだった気がする。ちなみに俺は麺類は最近食べ飽きてるのでミラノ風ドリアに近いドリアである。こっちの方が高い。だからと言って美味いとは限らない。

 

 

「大盛り…結構食べるんですね」

 

 

「はい」

 

 

「ええな〜それでもももちゃんはスタイルよくて。私食べるとすぐ表に出てしまうから」

 

 

望月のパスタの量に驚く涼風に羨ましがるゆん先輩。そうは言うが太ってないじゃん。とか言うとなぜか怒るので言わないことにしてる。……誕生日にでも倒れるだけで腹筋が割れるというアレをプレゼントしてやろうかしら。

 

「さっき砂糖入りの紅茶がダメそうな顔してたけど甘いものが苦手なの?」

 

 

「はい…それでも砂糖はまだ大丈夫ですけど…あんことか羊羹とか…あれくらい甘すぎるともうダメです」

 

 

ということはマッ缶飲めないじゃん。可哀想。これ数時間前にも思った気がする。それが表情に出てしまったのか俺を見ながらはじめさんがニヤっと笑う。

 

 

「ありゃりゃ、甘いもの苦手じゃ八幡のオススメ飲めないね」

 

 

「オススメ?」

 

 

なんですかそれ?と俺を見る望月。

 

 

「MAXコーヒーっていうコーヒーがあるんだよ。八幡のやつそれが大好きでさ。まぁ、私も好きなんだけど」

 

 

「ほんま、休日に千葉に行って1ケース買いに行くくらい好きなんやで。うちはたまにくらいが丁度ええかなぁ」

 

 

「そうそう。これがないとやっていけない……みたいな! あ、私は毎朝飲んでるよ!八幡のだけど」

 

 

「私はあんまり飲まないかな。あれ甘すぎますよね、ひふみ先輩?」

 

 

「え…う、うん…確かに……そうだね。で、でも……美味しい……よ」

 

 

口々にMAXコーヒーに対する評価を口にするが、望月は飲んだことがないのでやはり分からないらしい。

 

 

「……そんなに甘いんですか?」

 

 

「まぁな。ほら、人生は苦いからコーヒーくらいは……な」

 

 

カッコつけて言ってみたが「はぁ」と反応はイマイチだし、周りは呆れた顔をしていた。

 

 

「まぁ、八幡の言ってることは6割くらいわからなくていいから大丈夫ですよ」

 

 

「そうそう、世の中知らなくていいこともある。だから、気にしなくていい。ほんと」

 

 

「そう言うなら悲しそうな顔すんなよ…」

 

 

別に甘いのが無理でマッ缶飲めない後輩に対して哀れみを抱いてるのではなく、残業してる望月に「これ(マッ缶)」と言って一緒に飲む口実を作れなくて残念に思ってるだけ。決して悲しいわけではない……悲しくなんかないんだからねッ!!

 

 

###

 

 

「は〜食べた食べた。ごちそうさまです〜!」

 

 

 

店から出てお腹を擦りながら満足気な声音で言うはじめさん。うん、確かに満足度でいえば腹が膨れたから味はどうでもいいや。腹がすいたらまた会おう。

 

 

「3人ともまだ入社ってわけじゃないから、ランチの歓迎会くらいしか会社からお金でなくて悪いね」

 

 

「いえいえ、とんでもないです。美味しかったです。ご馳走様です!」

 

 

「ごちそうさまです!」

 

 

正社員とインターンとアルバイトとじゃ待遇が違うのか。そりゃそうか。正社員は金さえ払えば使い古すまで使えるし。ちゃんと最初にいい餌を与えて逃げないようにしてるんだな。

 

 

「もも!奢ってもらったんだからご馳走様ですって言わないと」

 

 

鳴海がボソッと耳打ちするように望月に囁くと頭を下げる。

 

 

「……あ!ごめんなさい。ご馳走様です」

 

 

「はい、どういたしまして。まぁ、私のお金でもないけど」

 

 

気にしなくていいと手を振った八神さんは前を向いて会社への帰路へと進む。それに続くように俺達も歩みを進める。

 

 

第一印象からすれば俺の望月のイメージは少し協調性の足りない羊だった。羊は群れで行動するのだが、1匹が進路を変えると他の羊もそれの後を追う。

 

 

それに例えるならば、望月は群れに付いていくが納得はしていない羊だろう。みんなが行くから行くのであって自分の意思ではない。みんなといないから不安ということはなく、必要ならば群れを離れることを辞さないだろう。

 

 

しかし、今この時、今日知り合った人の名前を覚えようとしている。それを見て改めて評価するなら真面目なんだけど少しドジってしまう系女子といったところか。どこのラブコメのヒロインだよ。

 

 

「飯島ゆんさん。篠田はじめさん。滝本ひふみさん。阿波根うみこさん。桜ねねさん。……涼風青葉さん。……比企谷……は、は?」

 

 

「八幡だ」

 

 

「えっ!?あ、す、すみません」

 

 

「いや、謝ることじゃない」

 

 

珍しい名前だとは思うが他にも名前を覚える人間がいるのだ。だから、1人くらいメモを忘れてしまっても仕方ないだろう。あと、なんで俺だけ苗字だったのかも理解出来て良かった。望月はメモに手早く俺の名前を書くと顔を上げる。

 

 

「あ、あの比企谷さん」

 

 

「ん?」

 

 

「失礼かもしれませんが、レラジェに似てるって言われません?」

 

 

 

似てるも何も、外見のモデルが俺だからなあれ。八神さんに指示されて作ったのが自分だよ。恥ずかしいとは思わないが…その、なんだ、面と向かって言われると死にたくなる。しかも、そんなに目をキラキラさせながら言われるとより一層だ。

 

 

「……そんなことは無いが」

 

 

「そ、そうですか。とても似てると思うんですが…喋り方とか雰囲気とか特に目とか……」

 

 

喋り方に関してはそういう仕様になったのだから仕方ないが、目に関してはちゃんと光を入れたのだ。しかし、ゆん先輩やはじめさんに「ハイライトない方がいいよ」ということでわざわざあの目にしたのだ。というか、なんでそんなにモジモジしてるの?もしかしてトイレにでも行きたいのか?

 

 

「あ、あの、私、フェアリーズストーリー3に出てきたレラジェってキャラが大好きで。特に中盤の敵だったのにソフィアを助けるシーンとか大好きで」

 

 

あーそんなシーンもありましたね。やって布団の上で6回転がって「あーー!!死にたい!死にたいよぉ!!」とかやってたからね。多分、自分がモデルと知らなかったらカッコよく思えたんだろうな俺も。

 

 

「他にも、1回クリアしてからできるエクストラモードで使えるレラジェの技とかセリフの言い回しがかっこよくて!」

 

 

その辺はライターさんや葉月さん辺りが考えたことだろうから俺はノータッチだ。……まぁ、必殺技は俺が考えたけどね?

それより、なんか急に喋るようになったなこの子。あれか、自分の好きなものでならめちゃくちゃ語れるというやつか。

 

 

「他にも好きなところとかあるんですけど、あの、つまり、その……」

 

 

わかるわかる。俺も好きなキャラとか作品のことになると喋りが止まらなくなるからな。まぁ、喋る相手がいなかったからそんなことは1度もなかったんだが。

 

 

「レラジェが大好きなんです!」

 

 

「……そうか」

 

 

……意外に自分の作ったキャラのことを良く言われるのは全然嫌いじゃない。エゴサとかしたことないから言われるのは初めてだし。でも、俺のことは好きじゃないと言われてる気もするが当たり前のことなので良しとしよう。

 

 

「あ、レラジェ作ったのてハッチーなんだよね?」

 

 

「あぁ、そうだよ」

 

 

「……え?」

 

 

レラジェというワードに反応して鳴海と話していた桜が振り向いてそう尋ねてきたのですかさず返答する。どうせ涼風にでも聞いていたのだろう。今更、聞かなくてもいいだろうに……。

 

 

「って、あれ?」

 

 

気付けば望月は俺から離れて後ろでじっと俺を睨んでいた。どうしたんだ、と声をかける前に察しのいい俺は分かってしまった。レラジェを作ったのが俺だからそれに幻滅してる……説が濃厚だろう。八神さんかひふみ先輩が作ったのだと思ったキャラがまさかの俺でショックを受けている。そんなところだろう。そうじゃなきゃあんなに顔を真っ赤にして怒ったような目を向けてくるはずが無い。

 

 

「はぁ…」

 

 

ため息を吐くと幸せが逃げるというが、元から幸せでないのなら吐いたところで変わりはないだろうと思う。それに運気も気分も最悪なのならこれ以上下がりようがないだろう。だから、思う存分今のうちに運気を逃がしていこう。いい事があれば悪いことがあるように、悪いことがあればいい事が起こるのだろう。実際、そんなこと無くても人間気の持ちようでなんとかなるものだ。とにかく、今は後輩に嫌われたという事実を受け止めるべくとぼとぼと会社への帰路を歩いていこう。




その後。

八幡(嫌われたな……はぁ)←とんだ勘違い

紅葉(あの人がレラジェを……!!)←八幡の背中を恍惚とした顔で見る

ツバメ(ん?レラジェってももが大好きなキャラだったような…。思い出してみたら……比企谷さんにそっくりだよね…?)←何かを察する

ねね(あれ……なんか余計なこと言ったかな?)←今更







紅葉の「レラジェが大好きなんです!」を聞いた他


コウ(へぇ、よかったじゃん八幡。自分のキャラ好きって言ってもらって)


はじめ(確かにレラジェ登場シーンとかモーションかっこよかったもんね。私がつけたんだけど)


ゆん(そういえば、レラジェと八幡って声似とるよなぁ。声優さんの名前誰やっけ……)


ひふみ(……そうだ。今度のコミケでレラジェのコスプレしてもらおう)


青葉(ソフィアちゃん作ったの私だって言いたい……!!)


みんな意外にお気楽だった。




【あとがき】


レラジェのCVですが、シエロ・拓也、というハーフの人らしいです(適当)
セリフに関しては
「逃げるだけ損だ。大人しく荷物を置いていけ」登場時
「疾風よ、吹き荒れろ」剣攻撃時
「死にたくなきゃ避けるんだな」弓攻撃時
「土に還るといい。降り注ぐは我が災厄の加護を持つ矢だ」必殺技時
「あぁ……悪くない……最期だ」死亡時


さぁて、お次はツバメちゃんとフラグ建てなきゃ(白目)


番外編、路線変更するかも(詳しくは活動報告)


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どっちもどっちで前途多難な気がする。

鳴海ツバメちゃんとのフラグはまだ建たないよ。てか、建てるとこなくて草。徒然チルドレン早く読みたい!


 

 

新入社員(仮)が入ってきてから早くも数時間。涼風は名前を間違われ、ライバル視される中、俺に関しては嫌われたとまではいかなくても苦手意識を持たれてしまった。オーマイダーティー!なんて醜態!もう誤魔化せないのが痛いところである。

 

 

今までの経験則から後輩にこき使われたり、弱みを握られたりすることがあったから、そんな負の連鎖を断ち切るために少しでも優しくて頼りになる先輩を演じようとしていたのだが望月に対してはもう無理そうです。

 

 

 

まぁ、嫌われたって構わない。誹謗中傷なんて怖くない。俺のやり方を貫くのみ。どうしてそんなやり方しかできないんだとか言われても気にしない。おそらく、最低限の会話はしてくれるだろうし。それならそれで仕方ない。俺は悪くない、社会が悪い。よし!

 

 

だが、折角できた後輩なのだ。せめて鳴海にはいい先輩として見られたいという欲があったのだが、それも数分で断ち切られてしまった。

 

 

 

「アイドルの歌う言葉の文字が立体になって敵に当たると浄化されるんです。そんな音ゲーを作ってました」

 

 

「音ゲー!?アクションでは!?」

 

 

鳴海が作成したというゲームを望月がやるのを見ているが、こんな俺よりもすごかった。ゲームは鳴海が作り、アイドルや敵などのキャラクターは全て望月が作ったらしい。その出来栄えに『お前達に負けるなら悔いはないさ』と言いたくなる。

しかし、恐ろしいな。専門学生ってこんなの作れるのかよ。それは見ていた桜も同じことを思ったらしく、うみこさんに尋ねる。

 

 

「専門学生って皆こんなの作れるの!?」

 

 

「いえ、優秀ですよ。これは」

 

 

「へへへ、どうもっす」

 

 

桜の実力はうみこさんがほぼリアルタイムで把握していたので、望月と鳴海の方をとなったのだが、このアクション型リズムゲームを見る限り、おそらく入社時の俺と涼風を遥かに上回る実力であろう。

 

 

「3Dモデルもこれくらい出来るんなら青葉達の時は基礎勉強からしてもらったけど、最初から実践で試そうかな」

 

 

八神さんにそう言われて、わかりやすくドヤ顔を決める望月だがその間に敵にやられていた。それを桜に指摘されるも特に気にしている様子はなかった。

 

 

 

###

 

 

実力把握タイムが終わり、それぞれ仕事に戻ったのだが俺は八神さんから託された全てのモデリングの作業を終わらせて手持ち無沙汰になっていた。おそらく、残りの仕事は経験値を積まねばならない望月に回るだろうし、涼風のデザイン作業が進むまで俺のところには回ってこないだろう。

 

 

どうしよう…暇だなぁ暇だなぁ、サボっちゃおうかなぁ。

 

 

「もも…ちゃん!これ…お仕事の発注書」

 

 

キャラリーダーとしてひふみ先輩が仕事を望月に渡すその姿、死ぬほど感動したぜ。なのに、望月は淡々と「ありがとうございます」と言って受け取る。そこは「ひゃっほ〜い!!ありがとうごじゃいますぅ~!!」と歓喜の様を表現するべきだと思うな。いや、そんなことしたらひふみ先輩絶対ビビるからやめた方がいいけど。

 

 

「わからないところとか…ある?」

 

 

「いえ特には」

 

 

「…そう」

 

 

わからないところとかあるか?って聞かれてどう答えるのが正解なのかといつも思う。あっても手元にマニュアルがあれば「これ聞かなくてもやってれば分かるんじゃね?」とかなったりするし、なかったらなかったで「何か聞いた方がいいのか」となってしまったりする。1番困るのは「質問ある?」を繰り返し何度も聞かれたりした時だ。何も聞かなかったら後で何かあると「あの時聞けって言ったよね?」と威圧的に怒られてしまうからだ。正直言うと言わなかったお前が悪いとしか言いようがない。ちなみにこれは俺がバイトしてる時にあった実話である。

 

 

「それじゃあ…ばいばい」

 

 

「…ばいばい」

 

 

なんだあのぎごちない挨拶。ペッパーくんなら元気に返してくれるのに。あれ一家に一台の時代来ると思うよ。それで卵わる機能とかあれば最強。でも、卵は手で割れるんだけどね。

 

 

「あ」

 

 

「……?」

 

 

 

「この差分デザイン、青葉さんが描いたんですか?」

 

 

 

「うん…そうだよ!可愛いでしょ!」

 

 

うーん、涼風のデザインは可愛いというよりサイコパスというか、どこかに闇でも抱えてるんじゃないかと思えるのが多い気がするんだよなぁ。クマを食うクマってどうなのよ。同族嫌悪にしても酷すぎるだろ。

 

 

「やっぱり上手い…」

 

 

ひふみ先輩から貰った発注書を見て悔しそうに呟く望月。それがひふみ先輩には聞こえなかったのか急に機嫌を悪くした望月に「え?あれ?わわわ!」と慌てていた。大丈夫だろうか。

 

 

「SAN値チェックいってきまーす」

 

 

特に精神は死んでないのだが、とりあえずこの場から離脱しようと椅子から立ち上がる。キャラ班の方は俺ごときいなくてもどうとでもなるだろう。むしろ、俺がいない方がいいまである。

 

 

 

にしても、やけにプログラマー班が静かに感じる。聞こえるのはキーボードを叩く音くらいで、あの2人のことだからもう少し騒がしいと思うのだが。うみこさんに釘でも刺されたのかと、チラッと覗きに行くとさっきまで仲良さげにしてた2人がツーンとした顔でパソコンと向かい合っていた。

 

 

「桜、なんかあったのか」

 

 

「へ…?あ…えっと…」

 

 

あまりの静けさに話しかけるとビクッと桜が慌てて反応するがいつもと違った意味で落ち着きがない。不審に思いなにかあったのかと首を傾げていると鳴海が笑顔で振り返る。

 

 

「ねねっち少し手間取ってるみたいで」

 

 

「あ、なるほど」

 

 

分からないことがあればうみこさんに聞くといい。プログラムに関しては桜にわからないところは俺にわかるはずがないからな。だが、口で納得はしてみたものの少し引っかかるところがある。キーボードを叩く音がよく聞こえるくらいに静かだったわけだから別に手は止まってなかったしな。

 

 

「そういえば、比企谷先輩はどうしてここに?」

 

 

「え、暇だから」

 

 

「暇って……ほかの皆さん仕事してますよね…」

 

 

「ふっ、俺をそこら辺の凡俗同じにするな。俺はやる時はやるし、サボる時はサボる男だ」

 

 

カッコつけようとしたらとんだクズ発言をしてしまった気がする。俺の悪い癖だな。でも、やる時はやるっていうのは最近のアニメの主人公ではありがちな設定だと思うんだよね。

 

 

「で、鳴海は何してんだ」

 

 

「うみこさんに簡単なミニゲームを作るように言われたのでそれを作ってます」

 

 

そう言って仕様書を見せてくる鳴海。企画担当ははじめさんのようだ。だるまさんがころんだを面白くしてみた……というやつらしい。その名を【タイムアタックだるまさんがころんだ】

 

 

「そうか、頑張れよ」

 

 

「はい!」

 

 

パッと見いい子なんだが、どこか初めて会った時の一色と同じ匂いがするな。雰囲気の話な、香水とかそういう匂いじゃない。なんだか猫被ってそうな感じがする。目上の人にはよく見られたいみたいな。観察眼に優れてる俺でもこれだけの会話では確証はないので話を切り上げて、いつもとは違う様子のやつに話しかけた。

 

 

「桜は?」

 

 

「迷路状の板の上を玉を転がして進むボードゲーム」

 

 

珍しく簡略的な説明だな。もっと、こう「ラビリンスボードの上をボールをローリングしてゴーするボードゲームだよ!!」とかルー語で言ってくると思ったんだが。なんかテンション低いな。やっぱりなんかあったか。

 

 

「……おや、比企谷さんサボりですか」

 

 

「あ、うみこさん。サボりじゃないです。SAN値チェックです」

 

 

鳴海にさっきと言ってることが違う……という目をされたが、見なかったことにしよう。

 

 

「そうですか。サボりですか」

 

 

「はい、そうです」

 

 

素直に認めたら許されると思うんだ!でも、怒らないから言ってごらん?って言われて正直に言ったらキレるのやめてくれない?逆ギレプンプン丸になるから。

一応、保身のためというか事実なのだが、手元に仕事が無いことを伝えるとため息を吐かれた。

 

 

「それなら、八神さんか滝本さんに言えばいいでしょう」

 

 

「いや、あの2人は言わなくても勝手に持ってきてくれますし」

 

 

主に八神さんが。多分、俺が席に戻ったら机の上にドサッと置いてある。

 

 

「あ、桜がなんか聞きたいことがあるとかで」

 

 

「そうなのですか?どの辺りがわからないですか?」

 

 

「……!……」

 

 

聞かれた桜はじっと下を俯くと何か考え込むような顔になるが、唐突に「へへへへ」と気持ち悪い笑みを浮かべる。

 

 

「大丈夫です!自分で考えます!!」

 

 

急に元気になった。多分、なんか変なことでも考えたんだろう。ここで頑張ればうみこさんが褒めてくれるんじゃないかとか。

 

 

「なるっち!」

 

 

「?」

 

 

「私、絶対スーパープログラマーになるんだから覚悟しててよね!!にひひ~」

 

 

あれだな桜は静かでも気持ち悪いし、元気でも気持ち悪いな。悪い意味ではないけど。それはこの場にいる全員が思ったのか、うみこさんは?を浮かべ、鳴海はジト目になっていた。つまりのところ、キャラ班もプログラマー班もこれから大変そうだ。

 

 

 

「おーい、八幡仕事溜めておいたぞー」

 

 

うん、案の定八神さんが暇な俺のために仕事をたくさん持ってきてくれたらしい。俺もこれから大変そうだ。




多分来週のアニメ見たらわかると思うんですけど、原作読んでない人に補足すると

初めは仲良かった2人。
なんでプログラマーになったの?という話に。
それでねねはコネで入社したようなものだとツバメに思われる。
そこからギスギスした感じに。
ざっくり言うとこんなんです。


もうTwitterとかで言われてたからいいと思うけど、紅葉ちゃん胸デカイな。……後輩の方が大きいという胸囲の格差社会。僕は小さい方が好きなのでツバメちゃん派かな。


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望月紅葉は察しが悪い。

FGOメンテ長すぎて書けちゃった☆
ストックとして予約投稿出しといたぜ!

書いた日(8/24)


ちなみにもう1話ストックあるんだぜ……(明後日出るよ)


 

お仕事たくさん、楽しくなっちゃうなー!カキカキ、カキカキ、あっち描いて、カキカキ!こっち描いてカキカキ!うわぁ、全然無くならない。新しい仕事を貰ってから2週間経つのだが、まだまだ残っている。まぁ、今まで作った3Dモデリングのクオリティアップとかだからそんなに大変ではない。さっきまで描いてたのなんだよって?OKマークだよ。

 

 

もう新しいモデリングの担当はゆん先輩とか望月に託されたわけなので、俺は今まで自分が作ったのも含めて、おかしな所(大きさ、光の加減、色指定のミスなど)がないか発注書と見比べてやっていかねばならんのだ。こういうのは普通、ひふみ先輩とかゆん先輩のような熟練者というか慣れてる人がやるべきだと思うの。

 

 

「おっ昼だー!」

 

 

はじめさんがパソコンのキーボードから手を離して、バンザイしながら立ち上がる。相変わらず健康そうな脇をしてらっしゃる。毛細血管がたくさん詰まってるらしいが視認できなくて残念。できても嫌な気しかしないと思うが。

 

 

「私はお弁当買いに行こうかなって」

 

 

「いいね」

 

 

「ほんなら私も」

 

 

お昼ご飯となるとやはり昼休み。至福の時間である。この時間、俺は屋上でただ1人孤独なグルメを楽しむ。今日のお供はカルビ弁当だ。脂が乗っててオラワクワクすっぞ!

 

 

「で、八幡とももちゃんは今日も……」

 

 

俺はコンビニの袋を手に取り、望月は風呂敷からラップに包まれた巨大なおにぎりを出現させる。それに涼風は苦笑いを浮かべる。

 

 

「相変わらず大きいね、そのおにぎり…」

 

 

見てびっくりな海苔をぺたぺた数枚貼り付けられたそのおにぎりは望月の顔の半分かもしくは胸くらいありそうだ。後者に関しては嘘だ。あながち間違いでもなさそうな気がするけどすまない。

 

 

「最初見た時はびっくりしたけど、紅葉ちゃんが入社して2週間だもんね。少し慣れてきたよ」

 

 

「ほんま早いな~」

 

 

「…やっぱり紅葉ちゃんも食堂でいっしょにたべない?」

 

 

誘う涼風だが、この光景は初めてではない。涼風じゃなくてもゆん先輩やはじめさんが誘うことは今まで多々あったのだが、最初の1回以外は望月は断っているのだ。望月は自分の席からあまり動こうとはしない。動くのはせいぜいお花を詰む時と帰る時くらいだ。それ以外は何故か頑なに動く素振りを見せない。

 

 

「…いえ、ここの方が落ち着くので…それとも…」

 

 

「それとも?」

 

 

「食堂でないと話せない用件でもあるんですか?」

 

 

「いやそんなことはないんだけどね」

 

 

流石にこうもあっさり断られると涼風も諦めたらしく、はじめさん達と食堂の方に向かった。それを見て、俺も屋上で食べようと腰を上げる。しかし、行く途中で窓から外を見ると雲行きが怪しい。どうやら、風が街によくないものを運び込んできたらしいな……。一雨来る可能性を考慮したら、屋上に出ず室内で食べた方が懸命か。だが、食堂には行かないって目線で断ったしな。まぁ、昔から雨の時は居場所が無かったが今はこうして自分の席がある。自分以外の誰かが座ることがない椅子というのはなんとも素晴らしいことか。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

き、気まずい!俺が率先して屋上で食べていたのには理由がある。まず、俺がいると望月がソワソワしてチラチラと俺の様子を窺ってくるのだ。特に何もしてないはずなのだが、どうしてこうなったのだろうか。おかげで飯を食べる手があまり進まなくなった。

 

 

あと、プログラマー班が怖い。いや、先輩方とは特に関わりがないからどうでもいいんだが、後輩2人が無言でひたすらキーボードを叩いているのが怖い。初日の仲の良さはどこに行ったのやら。八幡悲しいよ。

 

 

「あ、あの……」

 

 

「え、ど、どうした?」

 

 

急に話しかけられると動揺するのは昔から治っておらず、思わず割り箸を落としそうになってしまった。うん、ダメリーマン。

 

 

「比企谷さんって変わってますよね」

 

 

それ君が言うの?と思ってしまったが心当たりがないわけではないのでここはぐっと堪えて。

 

 

「そうか?」

 

 

「はい、比企谷さんが休みの時にみなさんが言ってました」

 

 

えぇ...何言われてたのぉ……私気になります!ブースに唯一の男だからネタにしやすいのかもしれないが、特に表立って変なことはしてないから大丈夫なはずだ。それに俺が変わっているってのはあくまで周りからの見解で望月はそう思うように強いられただけかもしれない。

 

 

「……望月はどう思うんだ?俺のこと。あと、口元にご飯粒ついてるぞ」

 

 

「へっ!?……えっと、その、やっぱり……」

 

 

指摘すると慌ててご飯粒を取り口に含む。その後の口ごもりから察するにあれか、やっぱり嫌いなパターンか。それは言いにくいよな。でも、言葉にしないあたり望月は優しいんだな。うん、あぁ、目頭が熱くなってきた。俺の目がスプラッシュしそうだ。

 

 

「もも…ちゃんにはち…まん?」

 

 

あぁ、天使だ。間違えた女神か。天使は戸塚と小町だった。危なかった。てか、ひふみ先輩そのオーバーオール可愛いですね。

 

 

「2人とも…食堂…行かないの……?」

 

 

「…ひふみ先輩もあまり行かないじゃないですか」

 

 

ごもっともな意見である。

 

 

「うん、私は…宗次郎と…あ、ペットなんだけどいっしょに昼ごはん食べたくて…でも食堂が疲れちゃうのわかるから…人付き合いって…大変…だよね!」

 

 

「はぁ…」

 

 

おいコラ望月!なんだよ、その反応は!ひふみ先輩が珍しく自分からグイグイ行ってるんだから無理にでもハイテンションに返せよ!

レラジェの話の時みたいな興奮とスペクタクルを出せよ!

 

 

「……そういえば、比企谷さんはなんで今日はここで食べてるんですか?」

 

 

また急にそんなこと聞くなよ…。雨降りそうだったからなんだけど…こっからじゃ窓見えないからどう言おうか。普通に言っても「晴れてるじゃないですか」とか言われたら詰む。

 

 

「まぁ、気分だよ気分」

 

 

「はぁ…」

 

 

その反応、面と向かってやられると腹立つな。ここは先輩らしくビシッと……って俺、高1の時に同じようなことバイトリーダーにしたわ。うわぁ、人の事言えなくてごめんなさい。

 

 

「えっと…んと…そうだ!宗次郎…見る?」

 

 

自己嫌悪に陥っている俺と気を遣われてることが分かってない望月の不穏な空気にひふみ先輩は携帯を取り出すと仰向けになって起き上がれなくなった宗次郎の写真を見せてくる。

 

 

「あ、ハリネズミ。可愛い…」

 

 

うんうん、ペットは飼い主に似るっていうからな。当たり前体操でも言われてたことだな、見たことないから知らんけど。宗次郎の写真を見てやっと表情が柔らかくなった望月を見てひふみ先輩は安堵の息を漏らす。

 

 

「あら、何見てるの?」

 

 

「ひふみ先輩がペット見せてくれて…」

 

 

「これが噂の宗次郎くんだったのね」

 

 

「可愛いです」

 

 

スタジオか取引先に行っていたのか白いスーツ姿で戻ってきた遠山さんは宗次郎の写真を見るとニコッと笑顔を浮かべる。

 

 

「ひふみちゃんもリーダーらしくなってきたわね」

 

 

「……いや、そんなことない……です!!」

 

 

「ふふふ」

 

 

リーダーらしくなってきたかと言われたらどうなのだろうか。以前よりはコミュニケーションを図ってくれてるあたり、自分の役割を果たそうとはしているのだろう。で、遠山さんはさっきと全く違う殺気を秘めた笑顔を俺に向けてくるの?

 

 

いつもは幼少期に惚れてた男の子と遊ぶ時のような笑顔を八神さんに向けるのに。いまは鈍感な男の子(八神さん)が他に女の子とフラグ作ってたことを把握したみたいな顔してて怖い。あとすげー怖い。

 

 

 

###

 

 

 

 

「おっ昼だー!」

 

 

最近、時計見なくてもはじめさんがお昼とか仕事終わりを知らせてくれるから超便利。先輩をアラーム替わりに使ってくスタイル。別に俺がしてとか言ったわけじゃないからいいよね!

 

 

「じゃーん、今日は私、おにぎりを握ってきました!」

 

 

「うそ!?青葉ちゃんも?偶然だな~私もなんだよね~」

 

 

「ヘタクソ」

 

 

ゆん先輩がジト目で突っ込むくらい白々しく驚くはじめさん。多分、昨日食堂で打ち合わせでもしてきたのだろう。ゆん先輩もサンドイッチを作ってきたらしい。

 

 

「ももちゃんはやっぱり~」

 

 

「今日は私もお弁当を買いに行こうと思って小さいおにぎりしか…」

 

 

「それでもおにぎりはあるんだ」

 

 

はじめさんの振りにちゃんと反応したところを見ると望月も周りの打ち解けたいという気持ちをようやく理解したらしい。よかったよかった。

 

 

「お腹いっぱいになるほど買うとお金が無くなっちゃうので…」

 

 

「それでいつもおにぎりだったんだね」

 

 

炭水化物ってお腹に入ると結構満足感出るからおにぎりってかなりいいらしいな。そう考えると関西の炭水化物のオンパレードは食費も少なくてかなり家計に優しいのかもしれない。

 

 

「ももちゃんって一人暮らし?」

 

 

「いえ、なるとルームシェアです。一緒に上京してきたので」

 

 

「わかるわかる。家賃とか払ってるとやっぱりお金がね~」

 

 

「はじめはおもちゃのせいもあるやろ」

 

 

ルームシェアかぁ、戸塚としたかったな。なんなら、そのまま入籍して永遠の愛を違うかもしれない。でも、ルームシェアって借り物だから結局返さなきゃいけないんだよな。

 

 

「はやくたくさん稼いでお肉もたくさん食べたいです」

 

 

「太らないようにね」

 

 

そうだな、早く稼いで楽になりたいよな。俺は未だに専業主婦の夢は捨てていないぞ。やっぱり働かないで食べる飯は美味いからな。人の金で焼肉が食べたい。

 

 

「実家はどこなの?」

 

 

「北海道です」

 

 

「ホンマ?去年の社員旅行北海道でな、海鮮とか美味しかったわ~」

 

 

「美味しいですよね。東京のは少し物足りないです。あと高いし…」

 

 

まぁ、東京は都心だから流通してくるが新鮮かどうかと言われたらそうでもないからな。やっぱり野菜とか魚の生物は採れたてが最高だと社員旅行で知り合った番台のおばちゃんが言ってたぜ。食べ物の話をしたからか、ぐう~と大きな腹の音を鳴らす望月。それに涼風がフォローするように言う。

 

 

「おかず買いに行きましょうか。私達もおにぎりだけだとあれだし」

 

 

「せやな」

 

 

恥ずかしがる望月の心境を察して多くは触れない3人。優しい世界はここにあったようだ。4人がブースを出ていったのを見て今日はここで1人で食べようかとサランラップを捲っておにぎりにかぶりつこうとした時ーーー

 

 

 

「ももちゃん、これがイーグルジャンプの主…もずく……!」

 

 

と、ひふみ先輩が葉月さんのペットを抱えてやって来た。持ち上げられたもずくが「にゃー」と鳴くとその場に静寂が生まれる。

 

 

「……あれ?ももちゃんは……?」

 

 

「涼風達と飯買いに行きましたけど……」

 

 

俺がそう言うと、ひふみ先輩はすぐさま顔を赤くして、もずくを床に置くと手で顔を覆って泣き叫んだ。

 

 

「……うわぁぁぁんん!!」

 

 

そのままどこかに駆け出していくひふみ先輩を追いかけるため、俺も立ち上がったのだが。

 

 

「ちょっ、ひふみ先輩!どこに!?猫置いてかないで!?」

 

 

 

「にゃー」

 

 

この後、コミカルに追いかけっこをした疲れから仕事に集中出来なかったのは言うまでもない。




遠山さんの笑顔の差分ですが、中の人が他に演じたキャラをイメージして書きました。めんまと霞ヶ丘詩羽先輩なのですが、多分わからないと思います。俺もわからん。


あと風邪ひきました。でませい!


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やはり遠山りんは一途である。


遠山さんをヒロインにするためのフラグがねぇなと思って書いたけど、この人はやっぱり八神さんとくっつくべきでは……?と思いました。


即効思いつきで書いたので内容がスカスカで誤字脱字が多いと思いますがご了承ください(よくそんなの出したなとか言わないで死んじゃう!)


 

最近、ある先輩からの目線が辛い。昔はとても優しくて笑顔を絶やさないそんな人だった。今もそうなのだが、俺にはその笑顔を向けてくれなくなった。向けることもあるが、あれは目が笑ってない。完全に何かしらの悪感情がある時の笑顔だ。善意とか全く向けられたことないおかげで人の悪意に敏感になってしまった。

 

 

理由はだいたい分かってる。八神さん絡みで間違いないだろう。だが、思い当たることがない。あれか俺のMAXコーヒーを八神さんが飲んでいるからか…いや、それ俺悪くないな。

 

 

「ほら、行くわよ。比企谷くん」

 

 

そして、ある休日。俺はその怖い先輩と共に都内のショッピングモールを訪れていた。なんで?そんなこと俺が聞きたい。いつものように仕事を楽しみつつ嫌だなー嫌だなーって思いながらこなしてたら、突然背後に殺気を感じたので振り向いて見ると相変わらず目が笑ってない笑顔の遠山さんが立っていた。

 

 

 

『比企谷くん明日休みにしといたから』

 

 

 

と言われたのだ。多分、有給を取ってなかったからだろうか、と思ったのだが

 

 

 

『明日、ここに来てね。時間厳守だから』

 

 

 

黄色いメモ用紙には指定された場所の簡単な地図と集合時間。わけがわからないよ。どういうことか尋ねようと思ったがそれも、有無を言わせずな表情の遠山さんを前にはイエスマムと頷くしかなかった。

 

 

 

「まずはここね」

 

 

 

そして、現在その遠山さんと共にショッピングモール内の洋服屋に来ている。もうなんでとか聞くのも怖いので黙って従ってます。

 

 

「はい、これ着て」

 

 

店に入っていった遠山さんを待っていたらいきなり服を押し付けられた。こればっかりは本当にわけがわからず、なんでですかと言った。

 

 

「いいから早く着なさい」

 

 

怒られた。不遇、理不尽の極み。おかしいな、休みの日、可愛らしい先輩と2人でお買い物とか材木座が聞いたら『ぜんぜんうらやましくないでござるよ…拙者はぁ!!』とか否定しつつもキャラ崩壊してどっかに消えるに違いない。

 

 

「ふーん、やっぱり似合うのね……じゃ、次はこれ」

 

 

試着室を開けて服を着た姿を見せると、顎に手を置いて何か感心したと思ったら次の服を渡された。

 

 

その後も俺は遠山さんの着せ替え人形となった。トレンドらしい服装にポップスに、カジュアルからハワイアン、果てには侍スタイルなども着こなした俺に遠山さんは眉にシワを寄せる。

 

 

「比企谷くんって顔も目を除けばいいし、背もそこそこあるから割と何でも似合うわね」

 

 

一瞬、貶された気がするが結局褒められたらしい。やったぜ。もうイーグルジャンプやめて読モの道をまっしぐら出来ますかね、ジャニーズとか入れますかね?無理ですか、ごめんなさい。

 

 

「そろそろランチかしら。会計してくるから、比企谷くんは外で待っててもらえる?」

 

 

腕に巻いたキュートな時計を見てそう言うと、俺が着た服の何着か気に入った物を持ってレジへと向かう。……俺は遠山さんになにかしたのだろうか。

 

 

 

 

ちなみにランチを食べた後も、別に店に行って俺は着せ替え人形になりました。わっかんね☆

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

「いい服がたくさんあってよかったわ」

 

 

来たときよりは幾分か上機嫌になった遠山さんを見て俺も一安心。結局、夏物と冬物を1着ずつ買って今日の買い物は終了らしい。よかった……というかなんで遠山さんが男モノの服を……?まさか……!!

 

 

 

男!?

 

 

 

 

あの、八神さん一筋の遠山さんに男!?

だとしたら、俺とじゃなくてその人と買いに行った方が……いや、遠山さんはそういうのは奥手というか引っ込み思案だから体型が似てる俺に着てもらうことで似合うかどうかをチェックしてたのか。なるほど、これで合点がいったぜ!真実はいつもひとつ!

 

 

 

「はい、これ」

 

 

 

はいいい?

 

 

「だから、これ比企谷くんにあげるわ?」

 

 

 

はいいいいい????

 

 

「どうしたの?いらないの?」

 

 

 

いる、いらないの問題じゃなくてなんで俺がその服を貰えるのでしょうか。さっぱりわからんぞ!終始困惑してる俺に遠山さんはため息をつく。

 

 

 

「…つかぬ事を聞くけど比企谷くんはいつも私服はどんなのかしら」

 

 

 

聞かれて考える。出社の時は小町から貰ったシャツか千葉loveシャツで、冬はテキトーにコートとか着てるな。それ以外はジャージかギンガムチェックの服か…?

 

「どうせ、ろくなの着てないんでしょ?それでコウちゃんとデートさせるわけにはいかないじゃない」

 

 

へぇ?八神さんとデート?俺が?いつ?なんで?

 

 

「……いずれはそうなるわ」

 

 

 

いずれってもしもの話ですか…。多分、そんなこと未来永劫いつまで経っても起こらないと思います。

 

 

「そうは言うけどコウちゃん、比企谷くんとご飯食べたの楽しかったらしいわよ」

 

 

 

それは俺の金で食べたからじゃないですかねぇ……。

 

 

「え、そうなの?コウちゃんが奢ったって聞いたんだけど……」

 

 

あの人なに自分を高く盛ってるんだ…盛るなら別のとこ盛れよ……まぁ、俺は小さくてもOKです。

 

 

 

 

「というか、遠山さんはいいんですか?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

え?ってアンタ……。

 

 

 

「だって、遠山さん八神さんのこと好きですよね?」

 

 

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

 

 

道中で大声を上げると、驚いた周りの人の視線が注がれる。少し前から見られてはいたのだが。ほら、遠山さんって顔も可愛いし、性格もよければファッションセンスもピカイチのファビラスだから。

 

 

「い、いつから気付いてたの……?」

 

 

 

「入ってすぐには」

 

 

 

確定的だったのは初給料の話で、2人で温泉旅行に行ったのにそれを八神さんが忘れていたと知った時の態度である。まぁ、好きでなくても少しは怒るだろうが、あそこまでプンスカしないだろう。それにあの後日帰りで行ったというのを八神さんから聞いた。それでそれから1週間は遠山さんがホクホク顔だったのも覚えてる。

 

 

 

「はぁ……なんで後輩は気付いたのにコウちゃん気付かないんだろ……」

 

 

「それはあの人が鈍感だからじゃないですかね」

 

 

普通あんなにチョコ要求されたり、楽しげに話してたら気付くと思う。そう思っていると、遠山さんにジト目を向けられる。

 

 

「それ比企谷くんが言えることじゃないと思うんだけど……」

 

 

いや、俺は悪意とかそういうのに敏感なんでそんなことないです。敏感肌に優しい肌想いとか使いたいくらいに敏感である。好きとかは面と向かって言われたことないから知りまシェーン。

 

 

「俺は応援してますよ、遠山さんのこと」

 

 

 

「え?」

 

 

 

今時、同性愛者なんて世界中探さなくてもいくらでもいる。世間体を気にして隠してる者もいれば、隠さずに見せつけるようにイチャイチャしているのもいるくらいだ。愛に制限などない。好きになれば、年齢や格式、家柄、そして性別すらも超越する。それが本当の愛ではないだろうか。たとえ世界を敵に回したとしても、その愛は貫くべきだ。俺は人の持てる可能性を信じたい。

 

 

 

「……そう。ありがとう」

 

 

目にゴミでも入ったのか、涙を拭き取る遠山さんの目は晴れ晴れとしていて、その目は真っ直ぐ俺に向けられている。

 

 

「じゃ、この服受け取って?」

 

 

「……なんでそうなるんですか」

 

 

 

応援するとは言ったけど服を受け取るとは一言も言ってないです。何かの聞き間違いだろうか、と首を捻った時には俺の手には今日買った服の詰まった紙袋が。

 

 

 

「それじゃあね比企谷くん、また会社で」

 

 

 

そう言って手を振った遠山さんは足早にこの場から消えていった。服を返さねばと声をかけようと思ったが、追いかければ信号にそれを阻まれてしまった。

 

 

はぁ、とため息をついて来た道を引き返して帰路につくとこの服たちをどうしようかと思考する。新品同様だからメルカリとかで売れるかな…いや、せっかく貰ったのに売るのもなぁ。

 

 

それにこの服は俺のためでなく八神さんのためらしいし……どういうことかと立ち止まって、今までの会話や会社での2人の関係やら遠山さんの思考ルーチンを組み合わせて考えると。

 

 

 

 

さっぱりわからん!

 

 

 





りん(コウちゃんから比企谷くんを引き離すより、比企谷をこっちに抱き込んでからコウちゃんも抱き込んだら幸せになれるんじゃ……?)


とか考え始めた遠山さん。つまり、りん+八×2というハーレム計画。





ちなみに遠山さんの思考ルーチン

コウちゃんは比企谷くんが好き(とまではいかなくても気はある)

比企谷くんといる方が幸せなら……!(*´・ω・`*)グスン

どっちもファッションセンスがゴミというか雑!( `△´)

コウちゃんは無理だから比企谷くんのをなんとかしようε-(´-`*)

私は明日休みだから、比企谷くんの有給を使えばいけるわね!(・∇・ )

よし!服を買った!(´∀`*)

後輩にコウちゃんが好きだとバレたけど応援してくれるらしいヽ(;▽;)ノ

比企谷くんはそんなに嫌いじゃないしいっその事3人で……←イマココ


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鳴海ツバメはしっかりしてる。

ある方から「こういうフラグの建方どうよ?」と言われ、それと自分の合わせたらご都合主義も少しはマシになりました。でも、やっぱりご都合主義。普通、女の子2人のシェアルームに会社の先輩の男連れ込むとかない。甘々と稲妻のようには上手くいかないさ。

本編、後書き合わせて7500文字でした。お疲れ様でした。


シェアハウスとシェアルームの違いってなんなのだろうか。両方の利点としては、賃貸アパートに比べて費用が少なくて済むところだろうが、他のいいところがあまり思い浮かばない。

 

適当にインターネットで検索をかけるとシェアルームは知り合い同士。2人なら自分の部屋があり、暮らし方は家族と暮らすのとほとんど変わらないようだ。

 

 

シェアハウスは新しい出会いや入居者同士との交流を大切にしたい人や、通常のアパートにはないラウンジやシアタールームなどの充実した設備を利用したい人……つまりリア充志望の人におすすめらしい。

 

 

どうして急に調べ始めたのかと言うと、うちの後輩2人がシェアルームをしているという話を聞いたからである。相変わらずの盗み聞きだけどね!いや、帰る方向一緒だから聞く前から察してはいたけどね。

 

 

「あ、比企谷先輩」

 

 

帰る方向が同じで住んでる場所も近かったが故に、買い物に立ち寄ったスーパーで鳴海と会ってしまうなんてこともある。前にもあったように言ってるが今日が初めてである。

 

 

「よう、じゃ」

 

 

「えぇ!?なんでですか!?」

 

 

いや、外で知り合いに会うのとか気まずいじゃん?これ全ぼっちに当てはまることだと思うんだよね。特に相手が2人以上でこっちが1人の時とか最悪。空気を読んで話しかけないでくれると嬉しいのだが、あいつら目が合うとポケモントレーナーみたいにビックリマーク出して近づいてくるから嫌い。

 

 

「すまん、つい癖で」

 

 

「なんですかその悲しい癖……」

 

 

後輩の言う通り過ぎてグウの音もでない。

 

 

「で、比企谷先輩も買い物ですか?私もなんです」

 

 

見たらわかるわ。逆に買い物かごに野菜がたんまり詰まってるのに買い物じゃなかったら何なんだ。営業妨害じゃねぇか。

 

 

「あぁ、家の食糧が底を尽きたからな」

 

 

「そうなんですか。私は今日の晩御飯の材料を買いに来ました」

 

 

買い物かごを見るとにんじんやキャベツにレタスに玉ねぎにピーマンと野菜づくしである。対して俺はと言うと。

 

 

「じゃがいもににんじんに豚肉……あ、もしかしてカレーですか?」

 

 

「まぁな」

 

 

カレーは素晴らしいぞ。野菜と肉を切って、軽く炒めてカレーの素入れたらあら不思議。それに1日目も美味しいし、2日目はさらに美味しい。これはシチューや肉じゃがにも言えることである。

 

 

「でも、意外です。比企谷先輩料理出来るんですね」

 

 

「そりゃ一人暮らししてたら自然とな」

 

 

それに小町がするまでは俺がしてたし。味は服が破けたりとか頬が落ちるとかそんなことはないが、食べられない味ではない。でも、やっぱり小町が作ってくれたやつの方が美味しいんだよなぁ。けど、今年は大学受験を控えてるから甘えるわけにもいかず、休みの日は図書館で料理本借りてそれ読んで料理作ってます。

 

 

「お肉か……いいなー」

 

 

「なんだ肉食ってないのか」

 

 

「はい……その、ももが結構たくさん食べるのでお肉を足すとなると予算が……」

 

 

あぁ、そういう……。北海道の子はよく食べる子なのかしら。トリミングしたら美人の子もよく食べて夏バテして痩せてるし。それは関係ないか。

 

 

「給料が入れば買えるかもなんですけど」

 

 

チラッ、チラッとお肉コーナーと俺を交互に見やる鳴海。

 

 

「なんだ買って欲しいのか?」

 

 

「いや、そんなつもりは」

 

 

「いいぞ」

 

 

俺が適当に「20%OFF」というラベルの貼られた豚肉の入った商品を手に取って自分のカゴにぶち込む。それを見た鳴海は驚きの声を上げる。

 

 

「えっ!?」

 

 

「その代わり俺も食う」

 

 

「へっ!?……って、え?えぇー!?」

 

 

さらに追加条件を言うと、さらに動揺してその場で混乱していたがしばらく「うーん」と唸ると「じゃあ行きましょうか」とレジへと向かった。

 

 

 

###

 

 

 

「ただいまー」

 

 

流石都内と言うべきか、中に入ってみるとそれは結構な玄関が俺を出迎えてくれる。これが賃貸だもんな。俺の住んでるとこも賃貸なのだが、ゴジラとショッカーの戦闘員くらいの差があるな。

 

 

「ももー!レラジェがきたぞー」

 

 

「え?なにそれいみわかん……ってえぇ!?」

 

 

お肉を手に入れて上機嫌の鳴海は笑顔で言い放つ。すると、ひょこっと裸で出てきた望月は顔を真っ赤にして悲鳴に近い驚嘆の声を上げる。まぁ、見えたのは肩までくらいだからせーふだよな。うん。

 

 

「もう!だからシャツくらいは着なって言ったでしょ!」

 

 

「だって、比企谷さん来るなんて聞いてないし!!」

 

 

こういう時俺はどういう反応をすればいいのだろうか。男の子らしく鼻の下を伸ばせばいいのか、紳士っぽくエクスカリバーだけ起立させて真顔でいればいいのか。俺の答えは目を手で覆って見なかったことにするだ。

 

 

「もう!まだびしょびしょじゃん!ほら、これ着て!」

 

 

「ううぅ~~!!!」

 

 

いつもあんな感じなのだろうか。鳴海のオカン力の高さが窺えるな。やっぱり肉を買う代わりに飯をいただくというのは不味かっただろうか。それと望月に嫌われてるの完全に忘れてた。も~八幡のバカ!って俺を叱ってくれる戸塚の声が聞こえる。

 

 

「あ、比企谷先輩入ってもらって大丈夫ですよ」

 

 

やっと入室の許可が出たので入ると普通にパジャマ姿の望月とエプロンを着こなした鳴海が立っていた。

 

 

「……あの、見ました?」

 

 

泣きそうな顔でそう尋ねてくる望月。見たとは何のことだろうか。あれか、スタンドとか?見てないよ。そういう意味を込めて首を振ると「…そ、そうですか…」と口を尖らせる。

 

 

「さて、ご飯作りますか。遅くなっちゃったし…悪いんですけど比企谷先輩、手伝って貰っていいですか?」

 

 

「それくらいはお易い御用だ。で、何を作るんだ?」

 

 

「そうですね…お肉もありますし回鍋肉ですかね」

 

 

回鍋肉とは中華料理の一つであり、簡単に言うと野菜炒めにお肉を入れました的な奴である。ちなみにこれを本場の料理人に言うと多分殺されるから注意な。

 

 

「え?今日お肉あるの!?」

 

 

「うん、レラ…じゃなくて比企谷先輩が奢ってくれたから」

 

 

今、素で俺のことレラジェって言おうとしたよな鳴海。そんなに似てるか……自分で作ったからこそ言えるがそんなに似てないと思うぞ。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

こっちは料理を作ってもらうのだから気にしなくていいと手を振ると、早速調理にかかる。食材を回せ!決めに行くぞ鳴海!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へいおまち」

 

 

 

食材を切ったり肉の処理をしたりした後は全て鳴海に任せたため、俺は落ち着きもなく部屋を見渡したり、望月のレラジェトークに付き合ったりしながら時間を潰すこと数10分で皿に盛られた回鍋肉が現れる。

 

 

「「いただきます」」

 

 

手を合わせて箸で肉と野菜を掴み、それを白いご飯の上に乗せて一緒に口に入れる。

 

 

「美味いな…」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

小町といい勝負かもしれない。だが、キングはただ1人小町のみ。結局小町が勝つのだが、回鍋肉は作ってくれなかったから1番美味いかもしれない。

 

 

「うーん、やっぱり肉は正義」

 

 

「ご飯より肉の方が多い!?」

 

 

「もも、取りすぎだって!」

 

 

幸せそうな顔で肉を頬張る望月から肉を数枚奪おうとする鳴海。多分俺がいなかったらもっと楽しげな会話を繰り広げているのだろう。

 

 

「そういえば、給料入ったら何か買いたいものとかあるのか?」

 

 

ちょうど一年前に遠山さんからされた問いを投げかけると2人は思案顔になる。

 

 

「私は特にないですね…ももは?」

 

 

「ジンギスカン」

 

 

「ヤギかー」

 

 

「いや、羊だろ」

 

 

「え、嘘?」

 

 

別名マトン。この辺ではお肉の専門店にいけば出してもらえるが市販で売っているところは少ない。鳴海の反応に怪訝な顔になって望月は味噌汁を啜るのを止める。

 

 

「ほんとに道民?」

 

 

「そんなに軽蔑されるような間違いなの?」

 

 

どうなんだろう…でも、千葉県民からしたら落花生をピーナッツと間違えるのと同じだよな。え、落花生とピーナッツは同じだろ?って違うんだよなー。多分。

 

 

「ジンギスカンだと鍋がないから外食かな」

 

 

「買おう鍋」

 

 

「えー?でもあんまり食べれないかもしれないし」

 

 

「ううん、そうじゃなくてなるが作ってくれた方が美味しいし」

 

 

それは一理ある。自分の大切な人や身近な人に作ってもらった料理の方が美味しいということは多々ある。実際、一流シェフの作ったハンバーグより小町の作ってくれたハンバーグの方が美味しかったしな。

 

 

「もう、嬉しいこと言ってくれるじゃないの!じゃあお給料入ったら買おうか、鍋」

 

 

「うん」

 

 

そんな仲睦まじい会話を聞きながら食事は進み、あんなにあった回鍋肉はほとんど望月の胃袋へと吸引されていく。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

「はい、お粗末様です」

 

 

久しぶりに誰かの手料理食べた気がする。いやー5時過ぎてるけど満足満足!肉を食べれてもっと満足したのか望月は床にどかっと倒れ込む。

 

 

「今日も美味しかった……」

 

 

「もう、牛になるよ!」

 

 

「牛肉もいいかも」

 

 

「食べることしか頭にないのか!」

 

 

こんな頬が緩みそうになる会話をいつまでも聞いてられるかと言うとそうでも無く、シェアルームに混ざりこんだ異物は早めに退散しなければならない。

 

 

「ありがとな、鳴海。美味かったわ、じゃまた会社で」

 

 

「こちらこそ、お肉美味しかったです!」

 

 

「あ、ありがとうございました」

 

 

肉が美味しかったのは豚とそれを育てた人と調理したお前とこの場のおかげだと思うんだな。まぁ、敢えて口にしないでおこう。

 

 

「帰る前にトイレだけ借りていいか?」

 

 

「どーぞどーぞ、廊下出てすぐ左のドア開けたらありますから」

 

 

飯まで食べてトイレまで借りるとか図々しいかと思ったけど生理現象だから仕方ないよな。ドアの鍵を閉めてズボンを下ろして便座の上に座って一息つく。あ、便座が温かい。うちのアパートは洋式だけどウォシュレットではないからこういう機能は羨ましい。ゆったりとアレが出るのを待っていると、リビングから悲鳴が轟いた。

 

 

「きゃあああ!!」

 

 

何かあったか、泥棒か!?と思って急いでパンツとズボンを履いて水を流してドアを開けてリビングに飛び込むと……

 

 

「どうし……ひぇ!?」

 

 

「み、見ないでぇぇぇぇー!!!!」

 

 

風呂にでも入っていたのかバスタオル1枚の鳴海と涙目でおろおろと立ちすくむ望月の姿が。見ないでと言われても、白いのが不敬であるぞと全部隠してて特に何も見えてないぞ。まぁその、形はくっきり出ちゃってるけど……そんなことより。

 

 

「な、何があった」

 

 

「黒い…虫が…さっき…初めて見た…隠れちゃいましたけど」

 

 

なんだ、ゴキブリかよ。そんなの何回も見たわ。でも、北海道では滅多に出ないって言うし…。

 

 

「きょ、去年までは出なかったのになんでまた……」

 

 

「引っ越したばかりだし…」

 

 

「だいたい単なる黒い虫でしょ?おおげさな…」

 

 

強がるなよ、余計に弱く見えるぞと言いたげな顔をした望月だが、カサカサと姿を現したゴキブリに「ぎゃああああ!!」という叫び声を上げると鳴海と一緒に俺にくっついてくる……ってなんで!?

 

 

「お、おい、お前ら……」

 

 

「比企谷先輩なんとかしてください!」

 

 

「お、お願いします!」

 

 

わ、わかったから離れて!そ、その当たってるからぁ!お前ら両方とも布1枚で密着してるから!やめてぇ!!理性が!理性がぁぁぁ!!なんともないけどぉ!

 

 

「さ、殺虫剤は?」

 

 

「ありません!でるなんて思ってませんでしたし!」

 

 

「じゃ叩くもの!」

 

 

「新聞とかとってません!」

 

 

なんだよ使えねー!都内で暮らすならそれくらいは用意しておこうよ。てか、ほんとに早く離れて!お前ら女子なんだからブラくらいしろよ!あんまりない小町でもしてたぞ!

 

 

「レラジェみたいに弓矢撃ってくださいよ!」

 

 

「ねぇよ!」

 

 

そんなの持ってたら銃刀法違反で捕まるわ!……え、弓矢って銃刀法に入んの……? 持ってたら捕まんの…?教えて横わけの弁護士。そんなこと気にしてる場合じゃないな!

 

 

「とりあえず、お前ら離れてくれ…!身動きとれないから」

 

 

「で、でも……!」

 

 

「Gが!」

 

 

Gくらい「これが開拓者魂だー!」って踏みつければいいでしょうが。Gは汚いとか思われてるけど実は結構綺麗な生き物なんだよ?表面テカテカだから汚れとかつかないし。しかも、どっかの超能力者はこれとNが出たんだぞ。俺もNとGが揃うとかNGだわ。俺がジャンプ作品のとある回を思い出していると、鳴海が青い顔をして俺の袖をぐいぐい引っ張ってくる。

 

 

「じょうじとか言ったらどうしよ!」

 

 

「それは絶対ないから安心しろ」

 

 

もし言われでもして筋肉隆々にでもなられたら勝ち目がない。かのレラジェでも苦戦を強いられるだろう。あんなのチートもいいところだ。ほかの虫の能力見て吸収するとか魔人ブウかよ。

 

 

「……!これ使うぞ!」

 

 

その辺に落ちていた雑誌を拾って丸めて一撃で叩き潰そうとするが大慌てで俺の手を抑えてくる鳴海によって阻止される。

 

 

「な、何をするだァーッ!?」

 

 

「こっちのセリフですよ!それまだ読むんです!」

 

 

「じゃ、他のは!」

 

 

「昨日に全部捨てちゃいました」

 

 

なんなのこの子達、スプレーはない、叩き潰すものはないとか大丈夫かよ。最悪ティッシュはあるからあれで何とかするか。もしくは今履いてるスリッパか。

 

 

「比企谷さん、これ!」

 

 

ゴミ箱からペットボトルを抜き出し、それを渡してくる望月。えぇ、これで倒せと?そんな装備で大丈夫か?無理です。

 

 

試しにGの進行方向にそれを勢いよく叩きつける。手応えはあった。威力は充分なはず……。見ると、見事に叩いた部分が潰れていた。それでもピクピク触角が動いてるあたり生命力高ぇな。

 

 

「悪い、望月ティッシュ取ってくれ……」

 

 

「え、あ、はい!」

 

 

慌てて6枚ティッシュを抜き取る望月だが、そんなにいらない……。多すぎるティッシュでゴキブリを包んでゴミ箱にシュート!超エキサイティング!主に俺の心臓が!女子2人にあんなに密着されると誰でもこうなると思うんだ……さてと。

 

 

「へっくしゅん!」

 

 

「……鳴海はもう一回風呂入ってこい。あとは俺がやっとくから」

 

 

「は、はい…ありがとうございます……」

 

 

なるべく、直視しないように言うと雑巾でGの死骸があった場所を拭く。少しは綺麗にしておかないとこいつらも安心して眠れないだろう。礼を言って風呂場に戻る鳴海となにか出来ることはないかと聞いてくる望月。さっきから丁寧語使われるけど、よく良く考えたらこいつら後輩だけど同い歳なんだよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、お肉といいゴキブリといい……それに洗い物まで……本当にありがとうございました!」

 

 

死骸のあった場所を一通り綺麗にしたついでに洗い物を済ませると、ちょうど鳴海が服を着て浴室から出てきたので帰りの挨拶をすると清々しいほどのお辞儀をされた。

 

 

「ま、まぁ、気にするな」

 

 

少しはこっちも罪悪感あるからな。最初と言いG出現時といい2人の裸を見た上に密着されてしまったからな。その事を思い出して頬をかくと鳴海がまたお辞儀をする。

 

 

「こ、このお礼はまたしますから」

 

 

「ほんとに気にしなくていいから大丈夫」

 

 

「そ、そうですか……?でも、じゃないと気が済まないので!また今度ご飯食べに来てください!」

 

 

まぁ、それくらいならいいか。美味かったし。靴を履いてつま先をトントンと押してちゃんと踵まで入れる。

 

 

「じゃ、頭乾かして風邪引かないようにな」

 

 

「は、はい!ほんとに、ほんとにありがとうございました!」

 

 

 

「そんな重ねて言わなくていいから」

 

 

 

じゃあなとドアノブに手をかけて扉を開いて外に出ると、空はすっかり暗くなり月の光だけが夜空に照らしていた。多分、今夜は眠れないだろうな。

 

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 

 

そういえば言うの忘れてたな。今日の態度で望月達が勘違いしてることに確信がもてた。確か、涼風はこいつらに同い歳であることを伝えたが俺のことは伝えてなかったはずだ。それでいて、俺を下の名前で呼ぶ先輩方。そのせいで多分俺は涼風より先輩だと思われている。

 

 

「まぁ、次会った時でいいか」

 

 

おそらく、言ったところで先輩であることは変わりないとか言ってくるんだろうが。それでもいずれはちゃんと言うべきだろう。だから、その日まで精一杯先輩面しておくとしよう。

 

 




八幡がいなければ、本当はツバメちゃんがゴキブリをお茶碗に閉じ込めるという荒業をして、閉じ込めて抑えている間に紅葉ちゃんがスプレーを買いに行くという流れでした。それでタオル1枚で紅葉ちゃんが帰ってくるまで耐えていたツバメちゃんは風邪を引いてしまうのですが……八幡のおかげでそれも防がれました。やったね!……これでフラグ建つのかな……?



ツバメ(思ったよりいい人かも……)


くらいには思ってるでしょう。次の次くらいで完全に建てちゃいたいですね。





おまけ→感想でヒロインズが八幡のことどう思ってるの?(どれくらい好き?)という質問があった気がしたので回答。全員はきついので少しずつ。
ついでにヒロインズに「八幡と付き合えるなら?」という質問してみた


青葉→初めてまともに話した男性+同い歳で同期+ぶっきらぼうだけど優しい=好き。でも、最近は八幡よりいい男もいるのではないかと思ってるがやっぱり八幡がいいみたい。


「八幡と付き合えるなら……?えぇと、20歳になったら2人でお酒とか飲みたいな…。え?付き合うってそういう意味じゃない?八幡と恋人になる……?えっーー!!!?」この後自らの勘違いと八幡と恋人になることを想像した恥ずかしさに回答不能になった。




ひふみ先輩→後輩としても異性としても好きで信頼を寄せている他、何かシンパシーを感じてる。1度やりたかったディストピア、ユートピアのペアコスが出来て満足。またしたい。違うこともしたい。デートとか……その他諸々。多分同人誌とか買ってるからその手の知識あると思う(作者の見解)


「……!!?……えっと……その………たくさん、コスプレ……したり……ご飯作ってあげたり……その……うう~~~!!」と最初は頑張ってましたが後半頭を伏せてうずくまってしまいました。



はじめさん→そんな話書いたことないけど、特撮、魔法少女の話で盛り上がる。趣味の話を心から出来たのが初めてだったので好感度はある。また、八幡の社会人になってから初めてのお使いでの一幕で後輩から多少の変化はあった模様。


「八幡と付き合えるなら?……うーん、考えたことないわけじゃなかったけど……そうだね、2人で水族館とか行ってみたいなぁ……柄でもなくて悪かったね!」と少しベソをかいて言う。




ゆん先輩→生意気な可愛い後輩。冗談も言うし、面倒見がよく察しも良いということで結婚するなら~くらいのポジション。また、面と向かって話した男子で痩せてるとか可愛いと言ってもらったこともあって好印象。

「え?八幡と付き合えるなら?…………せ、せやな。弟と妹の遊び相手になってもらおうかな……う、うち?……ま、まぁ、お茶くらいは……?」とか赤い顔して言ってるので脈アリである。お疲れ様でした。



今回は以上!次やるとしたら八神さん、遠山さん、うみこさんですね


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篠田はじめは頑張っている。

少なめ
物足りないなら原作みて
多分アニメは来週くらいでこの話やると思う。





たまにだけど、アレがしたいのに全く出てこないことがある。でてきてもガスだけとか。最近、そんなことが多い。理由はおそらく食べてるものに偏りが出来てるからだろう。麺類などの炭水化物ばかりで野菜はあまりとれていない。なので、毎食に野菜ジュースを飲むようにした結果。

 

 

「はぁ~うんこすっきりしたわ~」

 

 

快調快調♪これで今日も頑張れそうな気がする。やっぱり溜まってると結構イライラしちゃうもんな。女子とかもそうらしい小町も女の子の日とかはすごくイライラしてたし……あれ?あれは溜まってるというのか?ちなみに俺が溜めてるのを違うのと勘違いしたやつは病気だと思う。

 

 

上機嫌にスキップしながら自分の席へと戻ろうと足を進めていると何やら不穏な空気を感じ取ったので、こっそりと耳を立てる。

 

 

 

「遅れの責任です。私はしっかりやっているつもりですけど修正するたびにこれでは…」

 

 

 

あっれー?何だか鳴海がすごく怖いぞー?でも、誰に怒ってんだ?そう思って何も知らない顔をして手を拭きながらブースへと入っていく。

 

 

「はじめさんは正社員だから多少ミスしても大丈夫でしょうけど、私は合否前の研修中なので困るんです」

 

 

もう、鳴海め、そんなに眉間にシワを寄せたら可愛い顔が台無しだぞっ!とか言える雰囲気じゃねぇなこれ。静かに座っとこ。

 

 

 

「あ…ごめん…そこまで考えてなかった…上には私のわがままだってしっかり報告しておくから気にしないで…本当にごめん」

 

 

 

「いえ、こちらこそごめんなさい」

 

 

悲しげな表情で申し訳なさそうに俯くはじめさんと同じく晴れない顔で頭を下げる鳴海。俺が快便してる間に一体何があったんだ……?聞こうにもそんな状況じゃねぇな。

 

 

俺なりに推察するとしよう。多分、ミニゲームの話をしててああなったんだよな。締め切りがどうとか言ってたから納期が遅れてる……?はじめさんがした仕様変更で鳴海の評価が下がらないかという話か。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

はじめさんの大きなため息が耳に届く。だいたい分かったがなんとも声をかけづらないな。ここで励ましの一言でも言えればいいのだが、俺にそんな勇気はございません。ぼっちはぼっちらしく一人孤独に仕事をこなしてればいい。

 

 

 

「あの、八幡ちょっといいかな?」

 

 

それもあちらから声をかけられたら別の話だ。俺はゆん先輩や涼風と違って新規のデザインは担当しておらず、修正作業やバグチェックが主となるのでそこまで急ぎではない。だから、こうして相談にも乗れる。

 

 

 

「ミニゲームのことでさ、八幡の意見聞きたくて、……いい?」

 

 

「その前に何があったか聞いてもいいですか?」

 

 

一瞬、うっ、と嫌そうなというよりは悔しいという顔をすると経緯を順に話してくれた。

鳴海に頼んでいたPECOのミニゲーム「タイムアタックだるまさんがころんだ」が想定よりも早く、さらにはじめさんの頼んだ仕様書通りに完成した。だが、はじめさんは出来に不満は無くても何か物足りない感じがしたらしい。その事をゆん先輩や涼風に相談した結果、追加変更を頼んだ。仕様変更後から1日で完成させて持ってきたらしいのだが、それも周りの指摘から元に戻すかまた変更するかで揉めた結果。

 

 

 

「仕様変更して納期遅れになったその責任は誰が取るのかって話になって……」

 

 

さっきより理解出来たが、これはどっちが悪いとも言えないな。リアリティを追求するのは悪いことじゃあない。むしろ、は?なんでこうなるんだよ!ざけんじゃねぇ!っていうクレームが発生しなくて済む。

しかし、納期てめぇはだめだ。納期がもう少しあればこんな諍いもしなくて済んだのだから。今回の悪は会社だ。納期は悪い文明、破壊してやる。

 

 

「とりあえず、うみこさんにメールしたんだけど……どうしよ」

 

 

まぁ、鳴海の直属の上司だし、あの人の方がこういうことを多く経験してるだろうから適任だろうな。

 

 

「で、はじめさんはどうしたいんですか?」

 

 

 

「え?私?私は……」

 

 

今頃、うみこさんが鳴海に何かを伝えている頃だろう。あの人は言っていた。すんなり完成の方向が見えれば楽だが、そうもいかないのが現実。楽はしたいけど良いものを作りたい気持ちは忘れたくないと。多分、忘れそうになったことがあるのだろう。それでも踏みとどまってその心だけは忘れないようにしてきたのだ。だから、今のあの人がいる。

 

 

 

「私は……みんなが熱中できて楽しいものを作りたい!」

 

 

 

心が同じならきっと想いは伝わるだろう。鳴海はまだ正社員じゃない。インターンシップでの研修期間の評価によって、うちに来ることになっている。だから、あいつは納期遅れで自分の評価を落としたくなかったのだろう。いいものを作りたいという気持ちよりも、早く作って期限以内に納めて高評価を得ることをとった。別に悪いことではない。鳴海の今の生活状況を考えれば良い選択とも言える。

 

 

俺も一時の幸福を取るか、それとも未来まで続く平穏のどちらを取るかと言われたら後者を取る。だが、それは最良ではない。いずれ必ず、ああしておけばという後悔が残る。悔いが残る選択を最良と言えるのか、言えるわけがない。なら、最も賢く、さらにハッピーエンドを迎えるための選択は………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー最高のクオリティのゲームを作って納期遅れなんて無かったことにしちまうことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

はじめさんが完璧にして最強の仕様書を持って鳴海のところに向かって「よろしくお願いしまあああああああす!!!」してから2日後。葉月さんははじめさんが考えて鳴海が作ったミニゲームをプレイして満足そうな表情を浮かべる。

 

 

 

「ふむ、ライバルには背中だけを見せながらか、倒しながら鬼に向かうんだね。そして効率よく動かないと時間切れか。すごく面白くなったね、OKだよ」

 

 

 

「やった!」

 

 

OKサインにはじめさんは声を上げて喜び、鳴海もそれに安堵の息を漏らす。だるまさんがころんだって競走ゲーよりも耐久ゲーのイメージがあるんだが、そんなこと無かったんだな。とりあえず、コンピュータキャラを増やして、そいつらと競走するのだが、クマだから襲ってくるんじゃね?となったので戦うか鬼に見つからないようにしつつゴールするというゲームになった。当たり前だが他のクマも鬼が振り向いてる時は何もできないぞ。

 

 

 

これでこの件も無事解決。では、拙者そろそろドロンさせてもらうでござる。ちょっと協力したからって同伴させられるのとか、正直ミニゲームの相談とかもうゴメンだわ。だるまさんがころんだとか友達いなくてやった事ねぇし。でも、小町とはやったことあるもんねー!ふーーんだぁ!!!

 

 

 

「そうだ。おもしろいから動きの違う魚と鳥のバージョンも作ろうか?」

 

 

「えー!?嬉しいですけど、気分でそんなこと言っていいんですか?また怒られますよ~」

 

 

 

易易と提案をする葉月さんにうみこさんらのプログラマー班を気遣うはじめさんだが。それも葉月さんの前では無駄なのだ。

 

 

 

「ゲームは生き物だよ?その場その場の発想で成長していくのさ」

 

 

「なるほど確かに」

 

 

それっぽい言葉で納得させられてしまったはじめさん。まぁ、あながち間違いではないのがあの人の恐ろしいところである。さすがうちのボスはゲームのためなら社員の苦労も気にしないんだね!目の前で起きてる2人の会話に、いつの日かなにか自分も無茶ぶりが来るのではないかと察したのか、鳴海は冷や汗をかきながら苦笑いをしていた。若しかしたら、うみこさんにはじめさんよりも葉月さんが厄介だということを教えられていたのかもしれない。

 

 

 

ここで問題です。無茶ぶりばかりしてくる無能な上司と、無茶ぶりしかしてこないけど有能な上司。どちらがタチが悪いでしょうか?正解は文句が言えない分後者の方です☆

 

 

 

 

 

 




投稿始めてから1年ですよ、ハハッ。
特に何もしません。俺はなぁ!イベントとか記念日だからとかで特別なことをするのは嫌いなんだよ!(3回目)
まぁ、おまけの八幡のことどう思ってる?は1年続いたからこそだと思うんだ。



まぁ、活動報告見て



さて、最近マジで調子悪いからしばらく休むわ。
ごめりんこ、許してヒヤシンスクレメンス(全く申し訳ないと思ってない)


どれくらい休むかは知らん。とりあえずアニメに追いつかれない程度にチマチマやります。








前回のアレ。思いのほか好評の様でなりより。




八神コウ→好き。それが後輩としてなのか異性としてなのかは本人にも不明。でも、話してると楽しいし、落ち着くらしい。多分、同い歳ならもっとからかって遊んでた。それで真面目な顔されるとドキッとしてこっちが喋れなくなる。



「八幡と付き合えたらかぁ……うーん?ご飯でも作ってもらおうかな。私下手だし。八幡そういうの得意らしいから。その後、お昼寝とかしたいかな。……え?出掛けたりしないのか?するよ。八幡とならどこ行っても楽しそうだし」

と特に取り乱してるところを出さない。でも、ボソッと「ちょっと気にしてみようかな…」と服を見たり、自分の胸を触ったりしてる。可愛い。



遠山りん→少し変わってるけど根は真面目で有能な後輩からコウちゃんを取ろうとしてる狼になり、最近はランクアップして共に幸せを築いていくための人となる。オオカミのフレンズからヒトのフレンズに昇格。



「比企谷くんと付き合えたら?そうね、私とコウちゃんと比企谷くんの3人で住むお家でも買ってもらおうかしら…」


たった2行だが恐ろしいことを言ってる気がする。しかも、『付き合う』であって『結婚する』ではないので注意されたし。




阿波根うみこ→隠密行動が特異なサバゲー仲間にして周りをよく見ている後輩。両親との電話で「気になってる人とかいないの?」と聞かれて脳裏にチラッと出てくるが口には出さない。コウと青葉の勝負の際に青葉を応援していた八幡に動揺するも、それが自己保身のためと知ると八幡らしさとそれと共に何故か安堵する。つまり、脈アリ。



「…………沖縄の両親に紹介してあげたいですね。この年になっても男ができないのかとうるさいですし。それに早く安心させてあげたいので。比企谷さんには観光にもなるので互いに利はあっても損はないでしょうし……私ですか?そうですね、たまにはサバゲーではなく違うこともしてみたいですね」



と静かに微笑みながら言う。沖縄出身だし上京してきてるから両親のことを考えてるだろうという作者の勝手な予想。てか、うみこさんって性欲強そうだよね。あぁ、日頃からというよりは、本番になったら……みたいな。


八幡「まだ……やるんですか?」
うみこ「……まだまだですよ」みたいな(終われ)



次は桜、ほたる。後輩2人はまたその次に……


では、元気が出たらまた会おう!


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あの時から比企谷八幡は。

スマホの音楽を整理してたらアニソンだけで200曲超えてたので、プレイリストにまとめて再生しながら書いてましたが、懐かしい……!






メジャー最高!



(本題)


比企谷八幡がイーグルジャンプに入った話……ではなく、入る遠因になった話。つまり、どうしてキャラデザ班にいるのかという話の発端です。イーグルジャンプに入った理由に関しては後々。





まぁ!本編はねねとツバメの話なんだけどね!


PECOのマスターアップも近づいてきた今日このごろ。暇だった俺の手元にもたくさんのお仕事が舞い込んできて大変です。まぁ、前と変わらず全部修正とかチェック作業の仕事なんだけどね!武器のモデリングは望月がやってるし、キャラクターの方はゆん先輩とひふみ先輩、涼風が担当している。主に雑魚キャラの大量生産がメインなのだが、そこに俺が参加していない理由は俺が知りたいくらいである。

 

 

 

ひたすら、延々と仕事をしていて思うことがある。なんで俺働いてんの?と。

 

 

夢は専業主夫だったはずだ。なのに、今どうしてゲーム会社で働いているのか。人間、初心忘れるべからず。俺は時として、自分の原初に還ろうとする。働かずに食べる飯の美味さは知ってる。しかし、それと同じく汗水垂らして働いて食べた飯も美味いことを知ってしまったのだ。まぁ、イーグルジャンプは冷暖房完備だから汗はかかないのだが。

 

 

 

話は逸れたが俺は一体全体どうして働いているのか。材木座の小説の手伝いをするうちに触発されてクリエイターを目指したくなったから?違う。

 

 

 

自覚したのだ。

きっかけは些細なことだ。材木座が小説を少しでも良くしようと絵を描いてもらいたいとお願いしてきた。当然、由比ヶ浜や雪ノ下は拒んだ。そもそも、由比ヶ浜の絵は子供っぽく、雪ノ下の絵は美しくはあったがとてもラノベ向きとは言えるものではなかった。そこで白羽の矢が立ったのが俺だったわけだが。そんなの描けるわけないだろと最初は突き放したが、どうしてもと言う材木座に俺は仕方なく1枚だけ描いてやった。

 

 

 

選択科目で美術を取っていたこともあるが、中二時代に『黒き暁の書』なんてものに時折絵を描いていたからか、少しデザインの勉強をするだけでそれなりのものを描くことが出来た。そして、それを材木座に渡して依頼は終わり。そうなるはずだった。

 

 

 

何を血迷ったのか材木座が俺のそれだけをインターネットに投稿した。擬人化したカラスが自分の羽根と盗難品で作った巨大な鎌を持って夕焼け雲を見ながら電柱に佇んでいるという絵だ。俺は投稿されたことを知るなり、すぐに材木座を殴ろうと思った。

 

 

 

だが、ネットの評価は俺の想像とは全く違った。神秘的だ、かっこいい、これ何のキャラクター?オリジナル?などの様々なコメントがその絵には寄せられていた。

 

 

 

 

その時に俺は感じてしまった。世の中そんなに甘くはないはずのに、自分の作ったもので誰かを喜ばせる快感を、達成感を素晴らしさを、俺はこの目で直視した。皆が俺の絵を見て、賞賛を口にする。中には酷いものもあった。それは俺の心を蝕んださ。パソコンをもう開きたくないと思った。もう2度と描くものかと思った。それでも、見てもらいたい。自分の絵が輝く舞台を見たかったのだ。

 

 

 

 

だが、そうした事で失うものはあった。人が何か大切な物を得る時に、また大事な物を失う。俺は自分の中の大きな可能性を手に入れると同時に大切な関係と場所を失ったのだ。後悔がないといえば嘘になるが、そうして得た物も大きいのは事実。ハイリスクハイリターンを実現してる以上、とやかく言うことは無い。何も失わずして何かを手に入れることなど不可能なのだ。

 

 

 

「ハッチー、手止まってるけど大丈夫?」

 

 

 

昔のことを思い出していると思わず手が止まってしまった。それを桜に指摘されて気づくあたり、相当物思いにふけていたらしい。

 

 

「あぁ、大丈夫だ。それよりどうしたお前、もしかしてサボタージュ?」

 

 

「ち、違うよ!」

 

 

 

じゃ、なんでプログラマーさんがこっちにいるんだよ。って、俺もキャラ班なのにそっちにいってたこと何回もありますね、てへ。

 

 

「その、うみこさんに言われてたやつが終わって暇になったから、なんか手伝えることないかなーって」

 

 

そう言いながら涼風の方を一瞥する桜。見られてる涼風は望月とモデリングのことで何か話し合ってるらしい。

 

 

「終わって暇になったんだったら、他にやることないか聞けばいいじゃねぇか」

 

 

「そうしようと思ったらうみこさん忙しいから後でって言われたから……」

 

 

 

「それでこっちに来たのか」

 

 

言うと、桜は指をつんつんと合わせてふてくされる。なんだそれ可愛いなおい、また今度小町か戸塚にでもしてもらおう。

にしても、こっちもこっちで結構忙しいんだよな。だけど、桜に手伝えることはないし。これで急に「熱盛!」とか言って失礼しました熱盛と出てしまいましたとかなると困るし…

 

 

 

「まぁ、いい。俺も気分転換したいからお前のゲーム見てやるよ」

 

 

 

「やったー!」

 

 

バンザイしてとことこ進む桜の後ろ姿を見て、こいつみたいに人生楽しめたらなぁと常々思う。席から立って、一応「プログラマー班のとこにいます」と書き置きしてそこから離れる。

 

 

 

プログラマー班のところに行くといたのは、葉月さんの追加注文で魚でだるまさんがころんだを作ってる鳴海と桜のみ。んー、歳は同じなのにどうしてこうにも成長の差が出てしまったのだろうか。

 

 

「あ、あれ!?」

 

 

 

突然声を出した鳴海の方を見ると魚が高速回転していた。それを見て桜が口元を抑える。

 

 

 

「なに、おかしいの?」

 

 

 

あーほら、そういう険悪な空気になるじゃん?やめてよね。俺は平和主義者なんだから、争いごととか苦手なんだよ。内輪揉めも最近は他人事のように見れなくなってきたし。

 

 

「あっいや、そういう意味じゃなくて!なるっちも失敗するんだなって~。ちょっと安心して」

 

 

「……失敗はしても私はその失敗をそのままにしないし、そこの挙動が不安定なゲームみたいにね」

 

 

ジト目で桜を射るように言う鳴海。図星なのか桜は冷や汗を浮かべる。挙動が不安定とはどういう事だろうか。あれか、8月が31日ではなく32日まで続いちゃうとか?それは挙動ではなくシステム上のバグですねはい。

 

 

「まさかそのまま提出する気じゃないよね?せっかくそこまで作ったんだから最後までやりなよ。それがプロでしょ?」

 

 

 

え、プロなの?君らまだ大学生だよね?うーーーん??あと、鳴海さんなんか棘がある言い方になってるな。あれか、桜とは同い歳だとわかってるからか?いや、違うな。なんだろうか、劣化版陽乃さんのような感じがする。

 

 

 

「と、当然これから直すし!それに途中でもっともっと凄くなる予定なんだから!」

 

 

「どう凄くなるの?」

 

 

「へ?え……えっと……」

 

 

この反応は、桜のやつ適当にでまかせに言ってたな。

 

 

 

「火吹いたりとか!」

 

 

 

「火!?」

 

 

えっと、桜が作ってるのって玉を転がしてゴールに辿りつかせる迷路だよな。どうして火が……あれか、おじゃまギミックか?

 

 

「ふーん、まぁエフェクトの効果まで入ったら確かに褒められるんじゃない?」

 

 

「え……ほんとに!?」

 

 

「基礎だし出来ることが増えればそりゃ…」

 

 

「他にはなにかある?」

 

 

「え?ら、ランダムで迷路が自動生成されたりとか…?」

 

 

「それもやってみよー。いいこと聞いちゃった~」

 

 

聞くだけ聞いて上機嫌で自分の席に座って作業を始める桜に「気分で言ってたなこいつ」という眼差しを向ける鳴海。まぁ、互いに意見を出して切磋琢磨するのは重要なことだ。ブレインストーミングだっけ?あの相手の意見を否定せずに意見を出し合っていくやつ。俺は思いっきり否定されたけどね!

 

 

「あ、ハッチーごめん、私すること出来たから戻っていいよ」

 

 

そんな思い出したように言われても……。んー、確かに俺に出来ることなんてバグのチェックくらいしかないからいいか。

 

 

「え、比企谷先輩、いつからいたんですか」

 

 

今頃気付いたのか。悲しいことにステルスヒッキーは健在らしい。気配を消してるつもりは無かったが、ちょうど鳴海の死角になる位置に立っていたから気づかなかったようだ。

 

 

 

「お前の作ってる魚が高速回転したあたりからだな」

 

 

言うと、鳴海は顔を真っ青にして立ち上がる。

 

 

 

「あの、さっきのことはうみこさんや他の人には内緒にしてもらえませんか…?」

 

 

 

さっきのこととは、桜との言い合いのことか?別に同僚にアドバイスする風に見えたんだが。

 

 

「え?なんで」

 

 

「ほら、評価下がるの、その困るんですよ…」

 

 

そんなしゅんとした表情で言われるとこっちが困る。それにそんなこと言ったところで誰の得にもならんし。てか、さっきのってそんなに気にすることか?多分、うみこさんの前ではネコでも被ってるんだろうが、ネコくらい誰でも被るだろ。ついでに言うと、うみこさんは人間性より実力を取る人だろう。だから、鳴海がネコ被ってるのを知ったところで評価を下げることはあるまい。

 

 

 

「まぁ、別にいいけど。俺はさっきのお前の方がいいけどな」

 

 

「へっ!?」

 

 

「じゃ、ミニゲーム作り頑張れよ」

 

 

 

そう言って鳴海の顔を見ることもなく足早に立ち去る。そろそろ戻らないと怒られそうだし。

 

 

 

……人からよく見てもらおうと振る舞うのは否定はしないが、そうすることでよくない想いをされることもある。自分の評価を上げるということは、出る杭を打たれる覚悟をすることだ。今の日本はそういうやつらばっかりだからな。まぁ、うちの会社にそんなやつはいないけど。

 

 

 

それに仮面をつけない方が人間味があっていいと思う。初めて話した頃に比べて、この前飯を作ってもらった時や桜と話している時の鳴海はなんだか違和感がないというか、これが鳴海ツバメなんだなと、安心感があった。

 

 

 

 

鳴海が仮面を被る理由は知らないが、それが本人の意思でなら外して心を開くまで待てばいい。幸い、桜には開いてるらしいから、アイツに任せておけばいい。俺は俺で、課せられた仕事を虎視眈々とこなしていくとしよう。

 




一応、数日後に桜ねねはボードゲームを完成させます(火とか吹くのは容量オーバーやら処理不能で出来ませんでしたが)
そこのあたりはアニメで見てください(アニメって便利)




続き


桜ねね→好きか嫌いかでいえば好きだが、恋愛感情ではなく友達としての好き。likeである。たまに男らしいところを見ると不意にドキッとしてしまうらしい。というか、ゲームが完成してから真っ先に八幡に連絡するあたり……。


「ハッチーとつきあえたら?んー?誰かに自慢するのはなんだか恥ずかしいし……一緒にゲームするかな!あ、でも、それだと子供っぽいって思われるかも……う~ん!!どうしよ!?」とか言ってるけど、その胸は飾りなのだろうか……。大丈夫?揉む?とか言ったら1発だと思います。



星川ほたる→2回ほどしか面識がないため恋愛感情はヒロインの中では小さい。が、青葉とねねが気になってる人ということで興味はある。初めて遊んだら楽しかったので好印象。その時の別れ際に笑いながらも別れるのを惜しんでいた模様。


「八幡くんとつきあえたら?……んー、なんだか苦労させそうな気がするなぁ。私、体弱いし…。い、色気もないし…。 え?今のままでも十分?それに戸塚さんに似てるから大丈夫?ど、どういうことですか?」と体の一部を気にしながら言うが、十分である。可愛ければよし!














ちなみにインタビューを担当しているのは比企谷小町である。




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場所は違えど、頑張っていれば。


モンハンXXで見た目装備というのがあって、息抜きにえっちぃのでも作るか……と思って作ったんだけど……やべぇわ…性別女選んでよかった……!!!!


八幡「何書いてんだよ、作者!!」

俺「なんて声出してやがる……八幡!俺は魔術も使えないのに魔術師を名乗ってる男だぞ!」キボウノハナー

八幡「でも!」


俺「いいから行くぞ。読者が待ってんだ。それに・・・(うみこさんのあんなシーンやこんなシーン)」


俺「俺は(書くのを)止まんねぇからよ、お前らが(読むのを)止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!だからよ、止まるんじゃねぇぞ・・・!!」オールフェーンズナミダー


と思っていそいそと書きました。とりあえず、あと4話です。それが終わったら番外編を進めたり、何かほかのものを書けたらなと思います。アニメオリジナル?7巻?あー!聞こえないー!!!


 

 

人は他人と競走することで本来の力の数倍を出すことができると言われている。ぼっちの俺に原理は全くわからないが、相手に負けたくないと思う心が脳に働きかけて自分の限界を高めているのだろう。

 

 

だが、人間に限界はないと言う。限界とは己自らが言い訳のために作ったものであり、そんなものは存在しないと。まぁ、人間は元気があればなんでも出来るらしいのであながち間違いではない。

 

 

 

しかし、限界はなくとも出来ることに限りはある。例えば6時間もぶっ通しでバグやミスを見つけて修正する作業のためにパソコンと向き合ってたら誰だって疲れるとも思う。精神的にも、体力的にも、ただでさえ、やばい目も余計に腐るというもの。

 

 

 

だから、滅多に来ない食堂でこうして誰もいないこの時間にMAXコーヒーを飲んで一服して英気を養う。

 

 

「……」

 

 

誰もいないと言ったが視線を感じる。まぁ、誰もいないと思ってたら望月がいたのだが。あちらも休憩しているのか、インスタントコーヒーを飲んで休んでるところに俺がやってきたのだ。コミュ障同士、特に会話することもないので、こうして中身の違うコーヒーを啜ってるわけだ。でも、急に立ち上がったと思ったら隣に来たのはなんでなんだろう。

 

 

「キャラ班は平和そうでいいですねぇ…」

 

 

「???」

 

 

望月に気を取られていたら、ノートパソコンを持って現れたと思ったらおばさんみたいなことを言って椅子を引いて座る桜に何言ってんだこの人という顔をする望月。そういや、この2人が話してるの見たことねぇな。

 

 

「疲れた~~~……」

 

 

とか、思ってたらゾンビのような声を出してへなへなと八神さんがやって来る。同い歳3人が集まっている中に1人だけ四捨五入したら三十路の人が……

 

 

 

「あ?」

 

 

おっと、何故か睨まれてしまった。あの人やっぱりエスパーなんじゃないの?

 

 

 

「3人とも休憩中?」

 

 

 

「はい、お疲れ様です」

 

 

「私は勉強中です!」

 

 

俺は無言で頷き、望月、桜の順で返すと八神さんはへぇと目を細める。

 

 

「ねねちゃんがこんなところで勉強って。さては…うみこに叱られたな?」

 

 

「違いますよ!!」

 

 

一瞬びくっとした桜だったが、八神さんの予想は外れらしく俯いた表情になる。

 

 

「なんだかピリピリしてるから居づらくて…」

 

 

マスターアップもそろそろだからプログラマー班はこの時期はそうなるだろう。

 

 

「紅葉ちゃん、なるっちって…どんな人?」

 

 

急にそんなことを尋ねられて望月は顎に手を置いて考える仕草をとる。

 

 

「なるですか?掃除も洗濯も料理も家事はなんでも出来て…お世話好きで…。頼れるお姉ちゃん…みたいな?」

 

 

あーそんな感じするわ。金さえあれば結婚してるかもしれない。けど、性格きつそうだしなぁ。いや、愛さえあれば関係ない……?望月から見た鳴海に桜は「はぁ…」と大きなため息をつく。多分、自分の思ってる鳴海と違っていて何かショックでも受けたのだろう。

 

 

 

「そんだけ出来てゴキブリは無理なんだな」

 

 

「なるは地元の北海道の旅館の一人娘なので接客も含めてしっかり教えられたみたいなんですが、Gのことは多分……」

 

 

まぁ、北海道はあんまりゴキブリ出ないらしいから教えられないわな。にしても、旅館の一人娘とか優良物件じゃない?それを思ったのは八神さんも同じらしい。

 

 

「すごい、わざわざプログラマーになんてならなくてもいいくらいじゃん」

 

 

「はい。実際女将として跡を継ぐように求められていて」

 

 

 

「え?」

 

 

ここまで聞くと流石にオチが見えてるが、それでも俺達は静かに聞いていた。もっとも、桜は声を出していたが。

 

 

 

「だから…なるはゲーム業界に入ることを親から反対されているんです」

 

 

確かに一人娘に他の業界にいかれたら跡継ぎがいなくて親御さんとしては困るだろう。そこの旅館のことは知らないが、もし長年続く由緒ある旅館なら尚更継いでほしいだろう。

 

 

 

「何度も何度も説得して、専門学校の入学を許してもらえて。でも、仕送りは送って貰えないから学校にいきながらバイトもして…」

 

 

「すごい、そんなに頑張ってたんだなるっち…」

 

 

「いつも笑ってますけど、なるはすごく苦労してますよ。だけど、第一志望のイーグルジャンプに就職出来なかったら旅館を継げって。それが条件だって言われてて……」

 

 

普段の笑顔が本物だとは限らないと知ってはいたが、あの笑顔の裏側には相当の苦労があったのだろう。それはただ聞いただけの俺には計り知れないが、それでも親から夢を応援されないというのは辛いことではないだろうか。

 

 

「……あ!今のは秘密でした、忘れてください!」

 

 

 

「もう聞いちゃったよ」

 

 

焦る望月に苦笑いになる八神さん。誰にでも家庭の事情というのはあるが、鳴海のは相当息苦しいものだろう。

 

 

「なんで秘密なんだ?」

 

 

そういうのは口に出した方が頑張ろうという気持ちになると思うのだが。俺はならんけど。

 

 

「意地っ張りですから。正々堂々、プログラマーになってお母さんを見返してやるんだって」

 

 

「そっか…それで…」

 

 

何か腑に落ちる事があったのか意味深なことをつぶやく桜に目線が集まる。それに気づいた桜は誤魔化すように取り繕う。

 

 

「あ、いや、いつも本気だから」

 

 

「普段はもっと軽い感じなんですよ」

 

 

 

料理の時とかノリノリだったもんな。それにあの時の鳴海は素の感じがしてよかったぞ。でも、タオル1枚で男の人にくっつくのはやめましょうね。下手したら女将さんに殺されるかもしれないから。

 

 

「心配しなくてもうみこには黙っておくけど、うみこはそんな同情で合格させるほど優しくないと思うけどね~」

 

 

静観していた八神さんはゆっくりと口を開き言葉を紡ぐ。

 

 

 

「それに同情で入社しても周りに付いていけなくて不幸になるのは本人だし。無愛想なようでも責任もって選ぶやつだよ」

 

 

真っ直ぐに向けられた眼差しで俺達を見て勝ち気な笑みを浮かべる。やはり、付き合いが長いとそういうことも自然にわかってくるのだろう。そう、自然と。俺も最近やっと女心とやらがわかるようになってきた。全然わっかんねえけどな。

 

 

「そうですか…。でも、なるならきっと大丈夫です」

 

 

「おいおい、紅葉も他人事じゃないんだからな~」

 

 

「う…がんばります」

 

 

望月も今は研修生の身だがこの調子でいけば、正社員になるだろう。肉のために会社のお金を横領とかしない限りは。

 

 

「あの、青葉さんも研修ってしたんですか」

 

 

「青葉は面接に来た時はまだ高校生だったし、直で入社だったよ」

 

 

八神さんがそう言うと、望月は下を向いて唇を尖らせる。

 

 

「凄いですね。高卒で面接に来るなんて…」

 

 

うん、君の隣にも高卒で来た人いるよ!ほんとは専門学校行ってからにしようと思っていたのだが。だけど、まぁ、両親がそんなこと許してくれるはずないんですよね!投稿サイトでいきなりメールされて来てみてくださいとか言われたから行ったとか言えない。

 

 

 

「でも、あおっちあれでも高3まではフラフラしてて」

 

 

「うそ、そうだったの!?」

 

 

話題がこの場にいない涼風になった事で俺から目線は外れて涼風の話をする桜に向けられる。どうやら、涼風は高校時代に星川と会って美術部で一緒に絵を描くようになってから前向きになり始めたらしい。涼風は星川と同じ大学に受かっていたが就職を選んだそうだ。それに八神さんは笑って「よく就職を選んだな…」と小声で呟いた。

 

 

「確かに皆寂しかったですけど……目の前のことをいつもがんばっていれば離れていても寂しくないって、3人で思ったから。だから平気だったんだ」

 

 

満面の笑顔でそう言う桜につい頬が緩んでしまう。正直、涼風が羨ましいと思った。多分、あいつはこいつや星川にちゃんと向き合ってここまで来たんだろうなと。だから、今のあいつがいるんだろう。

 

 

「でも、私もイーグルジャンプに来ちゃったからほたるん少し可哀想かも」

 

 

 

いいこと言っといてさらっと自分の株下げてくなこいつ。てか、この流れだと星川のやつ大学卒業したら来るんじゃないの?気のせい?

将来の有り得るかもしれないIFを考えていると背後から気配が、もしやアサシン!?

 

 

「桜さん」

 

 

 

「わぁ!?勉強もしてましたよ!?」

 

 

「してなかったんですね」

 

 

アサシンではなく、戻りが遅い桜を呼びに来たうみこさんでした。それにしても、桜の言い訳は相変わらずバレバレである。

 

 

「……それはともかくプログラマー内で緊急会議をするので桜さんも来てください」

 

 

「えーなんですか?」

 

 

手早くパソコンを閉じて席から立ち上がるとうみこさんのところまで駆け寄る桜。まるで、犬のようだ。

 

 

「がんばっていれば離れていても寂しくない…か…」

 

 

不意に聞こえたその小さな声は八神さんから出たものだった。不審に、疑問に思いしばらく凝視していると八神さんは身体を上に伸ばす。

 

 

「う~ん…充分休憩したし、私達も仕事再開しようか!」

 

 

「あの…八神さんと比企谷さんにも質問が…」

 

 

言われてぴたっと動きを止めて望月の言葉を待つ。

 

 

「お2人には先生や師匠っているんですか?」

 

 

「私?絵のこと言ってるなら私はそういう人はいないよ。でも、皆からはいろいろ学んでいるつもりだけど。2人からもね」

 

 

聞いてみれば、俺も八神さんに似たようなものだ。師匠どころか先生も友達もいない。全部独学だ。インターネットや本から得た知識ばかりだ。それらを書いた人が俺の師匠ということになるのだろうか。しかし、八神さんが学ぶような技法なんて使ったことあっただろうか。

 

 

「え!?何をですか?」

 

 

「へへへ、内緒。さ!ラストスパート頑張ろう!」

 

 

聞かれてもそれ以上は答えずに下の階へと降りていく八神さんの背中を追って望月もこの場からいなくなる。ぬるくなったマッ缶を全て飲み干すと、八神さんの言葉の意味を考える。が、考えるだけ無駄だと気付いて、嫌々ながらも俺も自分のデスクに戻った。




急ぎ足で書いてるけど、内容が伝わればいいなと思います。それではおまけ。残り最後の後輩たちです。葉月さんがいない?あの人はヒロイン枠ではないんだなぁ……。



望月紅葉→フェアリーズ・ストーリー3で初登場したレラジェが大好き。それにそっくりな八幡のことも……?普段は滅多に喋らないのにレラジェのことになると話し出す。また、八幡には自分から話しかける。多分、八幡が好きというよりはレラジェが好きと言った方が正しいかもしれない。でも、お肉奢ってくれたり、Gを殺してくれたりしてくれたので八幡=レラジェ認知されてる。(設定上、レラジェは独りで生きてきたので家事スキルはそれなりにある)


「比企谷さん…とですか?…………たくさん、お話し…したいです。 ほ、他!?え、ええっと……ちょっと考えさせてください……」と顔を逸らしてしまう。他には?って聞かれて考えるって何する気だ……?




鳴海ツバメ→なんだかテキトーで紅葉が恋焦がれてる?男性。言われてみればレラジェにすごく似てる。でも、かっこよくはない。だけど、お肉を奢ってくれたり、Gを処理してくれたり、洗い物をしてくれたり、自分を気遣ってくれたりしてる人。くらいには思ってる。もう一度料理食べてくださいはただのお礼なのか、それともちゃんと自分のお金で買った食材でいいものを食べてもらうためなのか……?



「へっ!?…………あー、もしね。毎日ご飯食べさせてあげたいな。ほら、あの人死んだ魚みたいな目してるし。あんな砂糖の塊みたいなコーヒー飲んでるし、健康面をなんとかしてあげないと……」オカンかよ。恋人から母親に昇格しそうですね、はい。



以上で終わりです。次からも何かやりたいですねぇ……!一応、こういうのやってほしいとかあれば募集します。今のところ「異性へのアピールポイントは?」くらいしか決まってないので。






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これも鳴海ツバメってやつの仕業なんだ。


『それでも、俺が残っている』


プリズマ士郎見に行きました……よかった





では、どうぞ。


 

 

数10分の休憩を終えて、ゆん先輩の淹れた紅茶を飲みながら作業を再開する。ンー!今日も紅茶がオイシイねー!あ、このアイス紅茶、ツメティー!……ごほん。

 

 

 

修正するところなんてほとんどないと思っていたのだが、思ったより多くて困る。正面から見た時と横から見た時でアクセサリーが変わるって相当なバグだよな。

 

 

もうそろそろ時計は5時を指し示し、そろそろ草薙くんあたりが「もう5時か~」とかボヤキ始める頃だろう。ついでに言うと、あと少し頑張れば帰れるということであり、そう考えると俄然テンション上がる。

 

 

 

「比企谷さん、頼みたいことがあるのですが」

 

 

八神さんと話を終えて奥のブースから出てきたうみこさんに声をかけられ、手を止めて向き直ると俺とは縁のないことを頼まれてしまった。

 

 

「え?バグ修正の手伝い?」

 

 

 

「はい、鳴海さんの担当箇所がバグだらけでして、それの修正をするにしては人手が足りないので」

 

 

 

それは本当ですか?と思って詳しく話を聞くと、鳴海は「あそこが動くならここも……」といった感じでチェックを怠ったらしく、それが今回のミスを招いたそうだ。ちゃんと確認しなかった私にも責任があるとうみこさんも可能な範囲で手伝うらしいが、それでも人手が足りないからと、俺のところに来たらしい。

 

 

待て待て、俺はキャラ班だから、プログラムのことはからっきし……というわけでもないのが俺の悲しいところだ。高校の授業で習ったことくらいなら出来るが、流石にイーグルジャンプのプロ集団と比べると雲泥の差がある。

 

 

それにと、チラッと自分のデスクを見る。手伝ってやりたいのはやりたいが、こっちも忙しいんだよな。断るか、自分の仕事をトランザムして終わらせるかで悩んでいると、ふらっと八神さんが俺の机から書類をかっさらっていく。

 

 

「行ってきな。これは私とひふみんで片付けるから」

 

 

カッコつけてるのか可愛いくしてるのかわからないが、ウインクする八神さんについ見惚れてしまった。なるほど、俺を拝借するために八神さんと話してたのか。……八神さんとひふみ先輩なら俺以上に修正作業とか手馴れてるし、そっちの方がクオリティアップのためになるか。

 

 

「じゃ、ちょっくら後輩のミスとやらを片付けてきますか」

 

 

自分を納得させて、かっこつけて平手と拳を合わせて気合を入れる。力加減間違えて痛かったのは内緒。椅子から立ち上がって、歩きながらプランを確認する。スケジュールの都合上、鳴海の作ったミニゲームを作るのが理想的だが、それでは鳴海の苦労が報われなくなる。ということで、進行具合で判断して現実的でないと分かったらミニゲームを削るらしい。

 

 

 

「もう桜さん達が始めてるので比企谷さんは時折、2人のサポートをしてあげてください」

 

 

はい、と頷いたはいいが要するに雑用か。これじゃ、どっちが先輩か分からなくなるな。他のプログラマーの方々は他にやることがあるらしく、随分と忙しそうにしてる。

 

 

 

「では、私は企画の方と話をつけてきますので」

 

 

 

いそいそと葉月さんのところに向かっていく背中を見て、俺も桜達のところに行く。

 

 

 

「嫌いじゃないの?私のこと、私…桜さんに何度も酷いこと言ったのに…」

 

 

「嫌いだったよ!でも、なんでああいうこと言ってたのかわかったから紅葉ちゃんからなるっちの家のこと聞いたんだ。全部」

 

 

入るなり、2人で何か言い争っていたので止めようかと思ったが終わるまで待つことにした。

 

 

「私単純だから……聞いたらなるっちのこと応援したくなっちゃった」

 

 

 

明るく優しい声音で桜は言う。彼女の気持ちは同情からではなく、純粋な気持ちであろう。あの話を聞いて、本気で頑張ってる鳴海の姿を見てきたからこそ、芽生える本物だ。

 

 

「なるっちくらい本気でやってたら私のこと気に入らないのもわかるし…ごめんね、こんなんで…」

 

 

「ううん…実は後ろでボードゲームを作ってるのを見てて頑張ってて見直してたんだ……。でも私、イジになってて…ごめんなさい、桜さん」

 

 

「へへへ、ねねっちでいいよ。もう!」

 

 

 

「うん、ねねっち!」

 

 

どうやら、丸く収まったらしい。本音を言い合ったことでお互いの腹の中が見えて、いつも背中を見続けてきたからこその関係か。悪くないんじゃねぇの、そういうの。

 

 

「じゃ、仲直り?も済んだところでやるか」

 

 

「げっ!ハッチーいつからいたの!?」

 

 

「そ、そうですよ!悪趣味ですよ!」

 

 

なんだよお前らその態度。やめろよ、傷つくだろ。まぁ、お互い泣いてなくてよかった。これで泣いてたら俺この場に入れる自信ないからね。

 

 

「うるせぇ、それより仕事よこせ。とっとと、終わらせて帰るぞ」

 

 

「は、はい!」

 

 

「ハッチー、バグシートコピーしてくるから待ってて」

 

 

「いや、それだと要領が悪い。鳴海、それ何枚かくれ」

 

 

 

俺1人だとあれだが、こいつらがいれば多少はなんとかなるだろう。俺と違ってマニュアルとか見なくても出来るんだし。あーあ、これならプログラムも少しは勉強しとくんだった。

 

 

 

「あの、ほんとにすみません…比企谷先輩にも迷惑かけて…」

 

 

 

心で愚痴っていると今回の騒動の原因さんが頭を下げてくる。本当なら俺がやるべき事はこれじゃないんだろうが、いかんせんこれ以外にする仕事を取られてしまった以上やるしかあるまい。

 

 

「全くだ、また今度何か食わせろよ」

 

 

 

昔見たやられたらやり返す系ドラマで出てきたセリフを吐いてから、鳴海からバグシートの何枚かを取るとパソコンと向き合う。

 

 

 

「は……は、はい!」

 

 

 

早く帰りたいがために今まで使ったこともない5本指すべてでキーボードを叩き始めると後ろから返事だけが聞こえる。その表情は窺いしれない。しかし、今はそんなことよりも早くおうちに帰りたい。ただそれだけだった。

 

 

 

 

###

 

 

 

カタカタ、カタカタ、カタカタ、カタカタ、カタカタ、カタカタ、カタカタ……。耳の奥でずっと木霊する音にイラつきを覚える。

 

 

 

 

えっと、俺何してるんだ……?生まれて始めて自分とは関係ないチームの仕事の手伝いで会社に泊まって?涼風達が差し入れでドーナツ持ってきてぇ?ミニゲームを2個くらい削って……?

 

 

 

「も、もうバグはありましぇ~~ん!!」

 

 

ウトウトとメトロノームのように首を振っていた桜がそう叫ぶのを聞いて思い出した。そうだ、バグの修正作業してたんだ。バグスターの野郎、ノーコンテニューで駆除してやるぜ!ってあれ……?

 

 

「バグ……なくね?」

 

 

 

「え……それじゃあ……!」

 

 

 

「はい」

 

 

 

俺の呟きに桜が反応し、2人でうみこさんの方を見つめると笑顔が返ってくる。

 

 

「なるっち、起きなよ!大丈夫だって!」

 

 

「んん……?」

 

 

 

揺すられて目を覚ました鳴海をガバッと身体を起こすとうみこさんの方を見る。

 

 

 

「よく頑張りましたね。お疲れ様です」

 

 

 

「……!」

 

 

 

うみこさんのチェックでOKならば、もうこれ以上面倒なことはないだろう。これにて、俺の仕事は終わりだ!キャラ班の仕事とか知るか!いやー、バグという概念が存在しない世界って最高だな!

 

 

「そして、鳴海ツバメさん、いくつか問題はありましたが…合格です。鳴海さんがよければ今後とも弊社でよろしくお願いします」

 

 

紡がれた言葉に目を輝かせる鳴海に横から「やっったああああ!!」と桜が抱きつく。

 

 

「ありがとう、ねねっちがいなかったらきっとダメだったよ。ありがとう、ありがとう…!」

 

 

 

「そんなことないよ。なるっちの実力だよ!」

 

 

あーいい話だなー。

 

 

「そうですね、実力的に合格でした。脅かすようなことを言ってましたが終わるとおもってましたし。それと比企谷さんがいなかったら危なかったですが。最悪私がなんとかしましたが」

 

 

「ちょ、ぶち壊しだよ!」

 

 

 

「ふふ…とはいえマスターまで数日あります。気を引き締めて走りきりましょう」

 

 

 

「「はい!」」

 

 

 

うんうん、止まるんじゃねぇぞ……。お前らの進んだ先に夏休みはいるぞ!!

 

 

 

……また同じネタを使った!俺はいつもそうだ、そうやって台無しにする。古いわ!熱盛ィ!……ダメだ、疲れててろくな思考ができない。今日はもう帰って寝よう。

 

 

 

「……あ、ところで私はどうなりましたか?」

 

 

「え、言わなくてもわかるでしょう?」

 

 

「お願いします!」

 

 

「契約更新です。また3カ月間頑張ってください」

 

 

それを聞いて「やったー!!」と声を合わせて飛び上がるとハイタッチを交わす。上手くいったときはハイタッチだよな。さらに俺にも求めてきたのでハンドシェイクしておいた。ほら、バトル相手ともハンドシェイクとかいうだろ。

 

 

こうして、面倒なバグは消えて、鳴海の正式加入が決定して、桜の契約は更新されて、誰1人の犠牲もなく俺の帰宅は決定して。とりあえず、近未来ハッピーエンド達成で万々歳である。

 

 

 




ネタ多めでお送りしました。




それでは妄想全開のこのコーナー。もう正直やることないと思ってたけど、なんかやろう。

うみこさんのあれ「まだまだですよ……」のアレが好評だったので……別にそういうのを書いてしまっても構わんのだろう?(書かねぇよ)





異性へのアピールポイントは?←それに対する周りからのコメント



青葉「え、急に言われても……髪とか、かなー?」←ひふみ「そ、そうなんだ……」


はじめ「ワイルドさとか?」←ゆん「えぇ……」


ゆん「ファッションちゃう?」←はじめ「ゆんってゴスロリばっかだよね」


コウ「特に……ない……って、え?何、りん。ギャップ?なんのこと?」←りん「ううん、気にしなくてもいいわよ」


りん「やっぱり、料理かしら」←しずく「そうだね。遠山くんの料理は美味しいからね」


うみこ「射撃力……ですかね」←ねね「え、なにそれ!なにそれ!」


ひふみ「……え、え、えっと……そ、宗次郎!」←うみこ「自分のことアピールしなくていいんですか?」


ねね「セクシーさ!」←青葉(言ってて恥ずかしくないのかな…)


紅葉「いっぱい食べるとこ」←ツバメ「いっぱい食べる君が好き~、最高ハッピー♪」


ツバメ「家事力!」←紅葉「オカン力じゃないんだ」


ほたる「が、画力?」←青、ねね「天然は?」


しずく「そうだね~独創性かな!」←うみこ「計画性があれば完璧ですね」


八幡「え、目とか?」←一同「は?(え?)」







こんな感じでよければ続いていきます。




もし、こんな質問したい!とかあればどうぞ。採用された方には特に何もございませんが。(採用するとも言ってない)


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どう考えても比企谷八幡は悪くない。

これが投稿される頃にはアニメはどこまで進んでるやら……。ネタバレにならなきゃいいんだが。


そんな気持ちで書いてました。まぁ、原作持ってない人で八神さん推しはそろそろ覚悟を決めた方がいいかもしれませんな。


ラーメン。それは神が人に授けた英知の結晶の料理である。中華麺とスープを主とし、多くの場合、チャーシュー・メンマ・味付け玉子・刻み葱・海苔などの様々な具を組み合わせた最強の麺料理。出汁、タレ、香味油の3要素から成るスープ料理としての側面も大きく、地域や店によっては豚骨や海鮮類などを使ったスープも魅力的である。

 

 

 

トッピングにも先ほど述べたスタンダードなもの以外にも、コーンやバター、角煮チャーシュー、納豆、もやし、キムチ……他エトセトラ……などの豊富な種類があり、一つの皿で多くの味を楽しめ、栄養が採れることもある。その分、カロリーが高いが気にしない。

 

 

うどんや蕎麦ももちろんのこと美味しいのだが、やはり王道はラーメンである。日本のソウルフードといっても過言ではないだろう。

 

 

昔から言うだろう。一に曰く、めんまは和らぎを以て尊しとなす。二に曰く、アツアツの三宝を敬え。三宝とは麺、具、スープなり。まぁ、これは平塚先生からの受け売りだが。

 

 

 

そんなラーメンは老若男女、エロゲのヒロインから正統派主人公まで、あらゆる人たちから支持を得ている。それはイーグルジャンプの先輩も同じらしい。

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

昼休みに会社を抜け出して1人で孤独のグルメを楽しもうと会社近くの商店街のラーメン屋に躍り出たはいいが、その店の前でうみこさんと遭遇した。

 

 

 

「奇遇ですね比企谷さん」

 

 

 

「そうっすね」

 

 

 

聞くまでもなく、ここで会ったのならうみこさんもラーメンを食べに来たのだろう。時間も結構混んでいる時間帯なのだろうが、思ったよりもスーッと列が進む。

 

 

「もし、よろしければ一緒にどうです?」

 

 

 

「いいんですか?」

 

 

「構いませんよ。さぁ、入りましょう」

 

 

 

ならば、遠慮なくと店に入るとピタッとうみこさんの足が止まる。その視線の先を追うと珍しく髪をポニーテールにまとめて麺を咀嚼している八神さんがいた。

 

 

「「「あ」」」

 

 

と、3人の声が重なり俺とうみこさんは目を合わせると八神さんに言い放つ。

 

 

「真昼間からラーメンですか?体に悪いですよ」

 

 

「そうそう」

 

 

「2人もだろ!!」

 

 

レディーファーストの精神を発揮し、先にうみこさんに食券を買ってもらう。初めて来る店じゃないからここは慣れてる。はじめさんや、ゆん先輩とも来たことがあるし。あれも予定調和ではなかったが、ここの店はイーグルジャンプ社員を引き合せるスタンド使いでもいるのだろうか。

 

 

「比企谷さんはどれにします?」

 

 

え、奢ってくれるのか。姉御とお呼びしたい。うみこさんはねぎラーメンを選び、俺はお言葉に甘えようと思ったが流石にそうもいかないので断りを入れてからとんこつを選択する。とても難儀な顔をされたが気にしないでおこう。八神さんの隣に並んで座った。食券を出す時に麺の固さを指定してからしばらく、八神さんが口を開く。

 

 

 

「そっちは新人2人も抱えてどうよ?」

 

 

「まぁまぁ可愛いものですよ。片方は猫かぶってましたし、もう片方は元気な犬のように落ち着きがないですし。猫と犬を同時に育てている気分です」

 

 

「動物扱いかよ」

 

 

うみこさんらしい評価の仕方である。にしても、女の人ってラーメンとか熱いもの食べる時、髪くくるけどやっぱり髪がスープとかに浸からないようにしているのだろうか。スープとかに猛烈に指が入ってたら嫌だし、そういう理屈だろうきっと。

 

 

「そちらは?」

 

 

「うーん、紅葉は黙々と卒なく仕事をこなしてるよ。実際上手いし。あとあの青葉がいまいち距離感を掴めてないみたいで笑える。ひふみんとのほうが喋れてるくらいだし」

 

 

涼風のコミュ力は高いと思っていたのだが、それが裏目に出て、寡黙な望月とはあまり話せていない。仕事のことは話せてるからいいと思うんだけどね、俺は。

 

 

「比企谷さんはどうなんですか、望月さんと」

 

 

「なんか避けられてます」

 

 

「あれは避けてるのとは違う気がするけどなぁ」

 

 

真顔で言う俺に苦笑いを返してくる八神さん。確かに俺も少し違う気がしてきてる。望月からの目線が畏怖でも尊敬でもなければ、なんか仮面ライダーを見る子供のような目に近いと思うんだよな。だから、どうしたという話なんだが。

 

 

「コウさんからはなにかしてるんですか?」

 

 

「いや別に。だって直接はひふみんの部下だし、私が口出すのもあれかなって」

 

 

「本当めんどくさい性格してますね」

 

 

「なにおう!?」

 

 

こらこらお店のなんだから大きな声出さない。そう心の中で注意すると、前から注文したラーメンがでてくる。俺は割り箸を取って、うみこさんに渡すと両手を合わせる。

 

 

「いただきます」

 

 

「いただきます」

 

 

一口目にスープを口に入れて、喉の渇きを潤す。ちゃんと、ふぅふぅと少しぬるめてからだ。濃厚でこってりとした、とんこつ主体の味が口の中に広がる。

 

 

「さっきの話の続きですが、望月さんも涼風さん同様あなたに憧れて来たんでしょう?たまには声をかけてあげるだけでも嬉しいでしょう」

 

 

「む…たまには声くらいかけてるよ!…挨拶くらいだけど」

 

 

静かに麺を啜っていると横でそんな会話が繰り広げられる。やっぱり、席順替えた方がよくない?俺真ん中なの絶対邪魔だと思うんだ。しかし、そんなこと言い出せるわけでもなく、俺はただ黙って箸を止めた八神さんに耳を傾ける。

 

 

「それにケンカしてるわけでもないし。問題があるなら、ここはひふみん達だけでなんとかするべきだと思うんだよ…私に頼らないでさ」

 

 

そう言う八神さんの表情はとても悲しそうでなんだか辛そうに見えた。だが、すぐにいつものにやけ顔に戻る。

 

 

「……もし突然私がいなくなったりしたら大変でしょ?」

 

 

「まぁ確かにグラフィックはあなたのワンマンめいたところがありますからね」

 

 

八神さんがいなくなったら俺の仕事が確実に減りますね、必ず。だいたい俺に仕事持ってくるの八神さんだし。でも、もしいなくなったとしたら……それはそれでつまらなくなるんじゃないだろうか。共にマッ缶を愛する者がいなくなるとか私死んじゃう!!

 

 

「そうだ、バグはまだ残ってますがもうほぼマスターしてるんですよ。新人2人と……さっきから黙ってラーメンを食してる人の頑張りもあって」

 

 

どうしてそこでジト目を向けられなきゃいけないんだろうか。てか、まだバグ残ってんのかよ。俺はもうやらないぞ、やらないかとか言われてもやらない。戸塚とならまだ少しだけ考えるけど。むしろ、言う。

 

 

「午後に食堂でプログラマーの皆を集めてプレイする予定なんですが、そちらもどうですか?」

 

 

 

「あ、いくいく!こっちもクオリティアップ調整ばっかだし」

 

 

そんなこんなでデモプレイをすることになった。

 

 

 

###

 

 

 

 

「というわけで行こうー!」

 

 

 

会社に戻るなり、ザックリとさっきの事を説明すると八神さんはテンションアゲアゲな感じでそう言う。が、いつもはっちゃけてるはじめさんはそうでもないらしい。

 

 

「えぇ…めっちゃ忙しいんですけど…調整、調整で…」

 

 

「そうだ、はじめは企画だった」

 

 

振り向きながらやつれた顔のはじめさんにあははと頬をかく八神さん。涼風も苦笑いしていた。

 

 

チラッと目の端にキャラのディテールアップをしている望月の姿が目に入る。八神さんに憧れて北海道からここまで来るなんて余程尊敬する人物なんだろう。そんな人に話しかけられたら、どういう気持ちになるんだろう。俺にはそういう人がいたことがないから、よく分からない。いや、1人、憧れというか『こいつはこういうやつなんだ』って自分の理想を押し付けたやつがいたか。ふと、昔の愚かだった自分のことを思い出していると、八神さんがそろりと望月の後ろに立つ。

 

 

「紅葉」

 

 

「ひゃう!?」

 

 

作業をしていた望月は耳元で名前を呼ばれて飛び上がるように反応する。そんな反応に八神さんは笑うこともなく、ただ優しく微笑んだ。

 

 

「紅葉もゲームのデモプレイ見に行かない?」

 

 

「…………」

 

 

暫しの沈黙。憧れの人に話しかけられたからか固まっていたが拳をきゅっと握ると八神さんが驚くくらいに声を振り絞った。

 

 

「い、行かせて頂きます!」

 

 

声があまりに大きかったからか注目を集めるが、八神さんはその視線を気にしつつはじめさんの方に向かうと立ち上がらせて背中を押す。

 

 

「ほらほら!紅葉も行くんだから皆も行った行った!!」

 

 

「もう理由になってませんて~」

 

 

そう言いつつもゆっくりとプログラマーブースへと歩いていくはじめさん。それに続くように他のメンバーも立ち上がる。それを見て、うみこさんの言っていたことが腑に落ちた。あの人は絵も上手いし、カリスマ性もある。だから、自然と人を引き寄せるのだろう。

 

 

「ほら、八幡もいくよ」

 

 

羨ましいとは思わなかったが、葉山のそれと違った気がして、なんだかいいなとは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレイしたい人~じゃんけん!」

 

 

「はーい!」

 

 

「なんやノリノリやん」

 

 

 

桜が司会で行われてるデモプレイ会。なんと今回は俺たちに譲ってくれるらしい。まぁ、プログラムやってたら自然と仕様とかわかってしまうか。にしても、はじめさんさっきより元気になってないか?ゆん先輩に指摘されるくらいだから間違いないだろう。

 

 

 

「2人はいいの?」

 

 

「え…なんだか恥ずかしいし」

 

 

「私もです」

 

 

はじめさんが元気に手を上げる隣で八神さんは憧憬されている2人にそう尋ねた。しかし、2人は苦笑を浮かべて拒否する。が、それを許す八神さんでもなく、ニヤ……と笑うと2人の手を取ると天に上げる。

 

 

「はいはーい!この2人も」

 

 

突然のことに驚く2人に八神さんはニヤニヤと笑う。

 

 

「じゃあ、私含めて4人でじゃんけんだね」

 

 

「仕方ないなぁ…」

 

 

諦めたのか涼風はそう言うと前に出る。ついでに俺も出る。

 

 

「あれ?ハッチーもやるの?」

 

 

 

「え、ダメなの」

 

 

「ダメじゃないけど珍しいなーって」

 

 

は?金を払わずにただでゲームできるんだろ?やるに決まってんだろばぁーかじゃねぇの!?それとも、あれか。お前のやるゲームじゃねぇから!的なやつだろうか。やめてよね、昔のトラウマとか思い出しちゃうから。

 

 

 

呼び起こすは原初の想い出。小学校の頃にクラスメイトが兄から丸いピンクのレースゲーム貸してもらったからやろうぜと呼びかけていたので、そこに近づいたら『悪いなヒキガエル。このゲームは4人用なんだ』と笑いつつ、そいつは俺以外の男子を引き連れ帰っていた。

 

 

 

 

やべ、なんか泣きそう。こんなところで泣いちゃダメだ、泣いちゃダメだ。泣いていいのはトイレかパパの胸の中だけって言われたし。いや、死んでも親父の胸の中では泣きたくないな。

 

 

 

「……どうかしたか?」

 

 

 

「え?いや………」

 

 

そんなことを考えてたら、何やら望月が挙動不審になっていたので声をかけると後ろを振り返りつつ、顔を赤らめ目がマジになっている。そんなにゲームしたいのか。

 

 

「緊張してるんじゃない?」

 

 

「え?あぁ、そう」

 

 

こんな大勢の前でゲームするのが恥ずかしい?失笑。小学校の頃に謝罪コールされた俺にはそんなもん関係ないぜ!さぁ、じゃんけんバースやろうぜ!……じゃんけん!バハムート!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり大人のグーは最強だな」

 

 

 

望月とパーで涼風、桜、はじめさんを下した俺は、その後あいこでもつれたが結果的に俺がデモプレイすることになった。

 

 

「もう先輩なんだから譲ってあげればよかったのに」

 

 

「負け犬の遠吠えか、涼風。やめとけ、弱く見えるぞ…」

 

 

呆れた顔で負け惜しみを言ってきた涼風に嘲笑するように言うと、ムカー!と熊のように襲いかかろうとしてきたので望月やはじめさんが宥めていた。ほんと、手のかかるやつだ。

 

 

「デバッグモードだから好きなステージで遊べるよ」

 

 

「なんでもいいや」

 

 

でも、人生は厳しいからゲームくらいイージーでもいいよね。ということで一番簡単なのを選んだら周りからの視線が痛い。いいじゃん、俺の自由だろうが。

 

 

 

「このステージのBGM良いですよね。街と雰囲気も合ってて」

 

 

「ほんまにこういうメルヘンなイメージやったんやね」

 

 

はじまりの街でのプロローグや操作説明を終えて進んでいくとはじめさんとゆん先輩がつぶやく。駄女神とか風林火山のリーダーとかと仲間になれるのかなと思ったら、そんなことなかったぜ。それよりもイージーモードってサクサク進めるのがいいところだよな。敵も弱いし。人生もこうならいいのに。それだとつまらないかもしれないが。

 

 

「そんなに囲まれたらやられちゃうよ!」

 

 

「これくらい何とかなるだろ」

 

 

「ワラ!ワラがあるのに!」

 

 

質より量じゃねぇ!いいから、前に出るんだよ!と興奮気味に言いつつ、ワラに隠れる。だから、そんな白い目で見ないでよ。それはそうと、こういう隠れるためのギミックはダンボールの方がいいと思うんだよな。誰だよ、こんなステージギミック作ったの。

 

 

「あ、俺か」

 

 

「自分で作って忘れてたの!?」

 

 

「グラフィッカーはそこまで仕様を把握してませんが…自分で作ったのに知らなかったんですか」

 

 

ワラを作ったのは俺だけど、隠れられる仕様にしたのは俺じゃないから。桜もうみこさんもそんなゴミを見るような目で見ないで、お願いシンデレラ!

 

 

隠れてやり過ごしてクマの集団から逃れると森へと入っていく。こういう所は虫が多いイメージなのは初代ポケモンとかのせいだろうか。まぁ、俺が始めたのはFRからなんだけど。にしても、恐ろしいBGMだな。シオンタウンかよ。それと相揃って不気味なのは松明を持って隊列を組む骨を被った熊たち。

 

 

「音が入るとさらに物騒だな。誰だよ、これ考えたの、また八幡?」

 

 

「あ、私です。クマ食い族。葉月さんにふざけて見せたら面白いねって。結構気に入ってます」

 

 

「お前は心の中に闇でも抱えてんのか」

 

 

クマがクマ食うとか共食いじゃん。主人公はクマじゃないからセーフなんだけどさ。他のが可哀想。しかも、こいつらだけ中身綿じゃなくて肉が詰まってるってグロすぎるだろ。もっとこうベアッガイIIIみたいな愛くるしさみたいなの欲しいよな。

 

 

「でもこれ紅葉の最初の力作だもんね。よく出来てるよ」

 

 

「……ありがとうございます!」

 

 

褒められて嬉しかったのだろうにそれでも緊張してぎこちない笑顔になっている望月。微笑ましいな、てか、ノースリーブで寒くないの?グラサンかける? 歯ァ食いしばれ!って殴られる可能性があるけど。

 

 

「うわ、出た。八幡の作ったクレイジーマッドサイエンティストや」

 

 

「ほんと、イカれた性格してるね」

 

 

ゆん先輩に言われて画面に目を戻すと、俺の書いた勘のいいガキは嫌い系博士がいた。ツギハギだらけの体を1本チューブで繋ぐその姿はまさに異様とも言える。

 

 

「悪趣味な格好しやがって」

 

 

「……比企谷さんが描いたんですよね?」

 

 

え?あ、うん。これ描いたのは俺だわ。けど、設定を考えたのは俺じゃないから。でも、ごめんね、レラジェみたいにまともじゃなくて。そう言うと望月は首を振る。

 

 

「いえ、私、こういうの結構好きなんです!」

 

 

「お、おう。そ、そうか、ありがとよ」

 

 

真正面でそう言われると照れるわ。あとそんなにモジモジしないで!どこがとは言わないが揺れてるから!……乳トン先生はやっぱり偉大だったか。

 

 

「どこ見てるの、やられちゃうよ?」

 

 

 

なんだか恐ろしい声音で隣の涼風が言うもんだから、自分の描いたキャラを完膚無きまでに粉砕玉砕大喝采してやったぜ。心が痛まないのかとかそんなことない。そんで次はラスボスか。結構早めにたどり着くもんだな。イージーだと会話量が少ないとかそんなことない?

 

 

 

『グオワアアア!』

 

 

まさかの咆哮。この子可愛いのに人語喋んないの…か。ラスボスなのに喋らないのか。魔神柱でも喋るというのに。比べる対象が違いますね、てへ。

 

 

「こっちはゆんさんの力作ですもんね」

 

 

「青葉ちゃんのデザインがよかったからやって」

 

 

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 

 

そうそう、自分の作ったキャラを褒められると嬉しいよな!わかるぜその気持ち。でも、大好きとか言われると流石に反応に困る。

 

 

「どう?初キャラクターデザインのゲームの感想は」

 

 

「あまり実感がわかないですけど…あの時思いつきで描いたラクガキから何度も修正して、こうして皆の力で生きてるみたいに動き出して……描けてよかったです」

 

 

そりゃわかねぇだろ。まだ世の中には出てないわけだし。HPが赤になってくると後ろや横から「そこだー!」「ヘッドショットです!」「あぁ、もう!死んじゃう!」だとか言われたので、ゴリ押しで殴りまくるとラスボスの動きが止まる。

 

 

 

「ふっ、俺の勝ちだぜ」

 

 

「あ、これ第二形態になるやつだ」

 

 

は?と声を出すよりも早く踏み潰されるプレイヤーキャラ。なんとも言えない時間が流れ、俺も含めてみんなが大笑いする。ひとしきり笑うと八神さんが望月に尋ねる。

 

 

「紅葉も目指してるんでしょ?キャラクターデザイン」

 

 

「……はい」

 

 

「いつか、叶うといいね」

 

 

願っていればいつか夢が叶うなんてのはまやかしで、夢は自らの手で掴み取るもの。なのに、夢はなかなか自分の手に収まってくれないどころか死ぬまでに一度も現れなかったりする。それでも、諦めない心と夢を掴むための翼があればなんだって乗り越えられるだろう。現に、望月紅葉はここまでしたのだからやれるだろう。きっと、いつの日か、そう遠くない日に。

 

 

「でも、私も負けませんから!」

 

 

「わ、私だって!」

 

 

 

競い合える相手がいるのだから、いつかきっと、とは言わずに近いうちに実現するだろう。それが来年か10年後はさておいてだが。

 

 

 

「八幡、2人をよろしくね」

 

 

 

「えっ?」

 

 

もし、不意に、俺の耳元で囁かれたその言葉が、悲しげに微笑む八神さんから発せられたものだとしたら。それはどういう事なのか。俺はただ呆然とその言葉の意味を考えることだけで脳を埋め尽くされた。

 

 

 

「……ほら、私はADだからさ。2人のことは同い歳の八幡に任せた方がいいかなって」

 

 

「あ、なんだそういうことですか……でも、そんな理由で任せられても困りますよ」

 

 

「はは、そう言うと思った」

 

 

 

八神さんのその笑顔が嘘だと分かっていたのに。俺はいつものように生意気なことを言って、それがいつもの八神さんだと無理矢理思い込もうとしていた。




結構時間かかったなーと思ったら6000文字も書いてた……とほほ。
その後書き足したら7000文字いったわ。



ここから先は作者の妄想なので注意



何フェチですか?(ここで答えてるのは作者の妄想です)


青葉「仕草とか?……照れると頬を…かく…とか……」


はじめ「声かな!」


ゆん「特にないけど強いて言うなら匂いちゃうかな」


ひふみ「可愛いもの」


コウ「鎖骨」


りん「生活面とファッションセンスがダメな人」


うみこ「筋肉……特に上腕二頭筋ですかね。あと体力がある」


ねね「ゲームが上手な人!」


ほたる「ズボラな感じ?ボサボサな髪とか」


紅葉「ダークヒーローです」


ツバメ「腕まくりする仕草」


しずく「特徴的なパーツがあるみたいな!」


八幡「脇と太もも……? おや、女性の視線が厳しい……」←厳しいというか自分のはどうかとアピールしてるのに気づいてない


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滝本ひふみは狙い澄ましている。

久しぶりのひふみ先輩回だぞ!喜べ貴様ら!
久しぶりすぎて軽くキャラ崩壊してるかもしれない……そこはすまない……。


アニメは明日で最終回ですね……それに合わせて予約投稿しております。一応、オリキャラ?が出ますがあくまでレラジェとかと同じゲームのキャラクターです。では、。


 

PECOのマスターアップを終えてから数日。やることも終わって暇というわけもなく、東京ゲーム展に向けて与えられた仕事を丁寧丁寧にこなして、休む暇もありつつステップも踏む余裕があるくらいに捗っていた。余裕すぎて1人でカーニバってしまうくらいであったし、半日で仕事が片付いてしまい、俺は手持ち無沙汰となってしまった。優秀すぎるのも考えものである。……実を言うと、そんなに仕事が無かったのだが。

 

 

一応、言及しておくと東京ゲーム展とは、非モテ夏の三大名物と称されるものの一つである。残り二つはコミケと透けブラと薄着。決めたのは俺と材木座であることは言うまでもない。

 

 

 

入場無料でゲームを楽しめ、新作ゲームの最新情報を誰よりも早く手に入れられるゲームヲタクにとっては至高の場であることは間違いない。が、最近ではSNSの普及が進んで東京ゲーム展に来る前に情報を投稿されて知ってしまうなど、人によってはわりと不快な思いをすることもある。ちなみに俺はそういうのは気にしない。なぜなら結局知ることになるのなら構わないだろうという思考だ。まぁ、ガセネタだったら流石に怒るが。

 

 

 

コミケもあの合戦のような人の嵐を駆け抜けなければならないことを除けば、好きなサークルの絵を覗くことができたり、流行りのネタのコスプレやカッコよかったり可愛いコスプレを目にしたりできるのだ。しかも、これも交通費さえ考えなければタダなのである。薄着や透けブラに関しては外に出れば無償で見れるのだが、別に興味ないとか材木座に言えなかったです。

 

 

 

さてさて、そんなこんなで東京ゲーム展に来ましたよっと。どういう事だよ、説明しろ苗木!とか言われても、「今日はすることないから行ってきたら?」とか言われたから。それに、と視線を横にずらすとホクホク顔でキャリーバッグを引くひふみ先輩の顔が映る。

フェミニンなブラウスに白スカートと春っぽい装いで、頭に付けたピンク色のシュシュと相まって春の始まりを告げているかのようだ。今は夏なんだがそこは気にしない。

 

 

 

『また、一緒にコスプレ……やらない?(>_<)』

 

 

とかメールされたら断れませんよね。いや、色々と理由を付ければ断れたのだが。そんなことするとひふみ先輩に嫌われちゃう!『それくらいで嫌われるってことはその程度の関係性だったんだろ』とか思っちゃったけど、地味に冬コミも参加しようねと言われたのにしなかったからそれの罪滅ぼしみたいな感じなんだよな。

 

 

 

「ひふみ先輩、今日は何のコスプレ持ってきたんですか?」

 

 

さっきからうふふと頬が緩みっぱなしで可愛いひふみ先輩に尋ねると聞こえてないのか答えは返ってこなかった。多分あれだな、つくまでのお楽しみということなんだろう。そうに違いない。我ながら名推理だ。

 

 

 

駅から数分ほど歩くとガヤガヤと喧騒が耳に入ってくる。人が増えたためか、ひふみ先輩はさきほどの顔は失せていつものように人とトラブルに合わないように安全運転で歩いていた。

 

 

 

「やっぱり、この辺りまでくると…人多いね」

 

 

ひふみ先輩の言う通り会場に近くなればなるほど、人は多くなってくる。しかし、ひふみ先輩は俺よりも東京ゲーム展に来た回数は多いし、なんならコミケの人の多さも経験してるはずだが、あまり慣れてない様子だ。やはり、コミュ症は人混みに慣れることができない種族なのだろうか。そう首を傾げていると、後ろから「おーい!」と元気な声が聞こえてくる。

 

 

 

振り返ると、『やる気 元気』と書かれたノースリーブのシャツに大胆な太ももを露わにするようなショートパンツを履いているはじめさんがこちらに向かって走ってきていた。何度か人にぶつかりそうになって謝りながらようやく近くまでやってくる。

 

 

 

「いやー、良かったよ知り合いに会えて」

 

 

 

一息ついてペットボトルを取り出して水分を補給するはじめさん。ぷはぁ!と生き返ったように息を吐くと湧き出している汗を拭う。

 

 

 

「八幡も一人で来てたんだね。言ってくれたら一緒に来たのに」

 

 

 

何を言ってるんだはじめさんは。俺の隣には今日を誰よりも楽しみにしていた人がいるだろうと、隣を向くとそこにひふみ先輩の姿は無かった。

 

 

「? どうしたの八幡?キョロキョロなんかして」

 

 

 

辺りを見渡してひふみ先輩を探すが姿形もなく、俺は「なんでもないです」と口にする。ひふみ先輩見ませんでしたか?と聞こうとも思ったが、口に出さないことから見てなかったのは明白である。故にひふみ先輩ははじめさんの接近に感づいてここから消えたと見て間違いないだろう。なんなのあの人、直感EXかよ。おそらく、自己防衛本能とも呼べるものなのだろうが、同じ会社の知り合いにまで発動するとは悲しいなあ。

 

 

 

「さて、どこから回ろうか!」

 

 

 

建物の中に入ると様々な企業が最新ゲームの試供プレイや、最新映像を公開しており、外の喧騒とは違った形でこちらは盛り上がっていた。はじめさんはどうやら完全に俺と回る気らしくマップを見ながら「ここなんてどうかな!」と目を輝かかせていた。

 

 

「じゃ、俺はこのへん回るんでまた後で」

 

 

 

「は?」

 

 

 

華麗にモンファンブースに向かおうとするとはじめさんに肩をガシッと掴まれる。

 

 

「えっと、八幡は私と回るの……嫌?」

 

 

振り返るとそこにいたのは鬼のような形相ではなく、結構不安そうな顔をしたはじめさん。アイエエエ!?ナンデ!?となったが、そう思うのも無理ないか。

 

 

 

「いえ、俺はこっち見たいんではじめさんがあそこ見たいんなら別行動の方がいいかと思ったんですが」

 

 

「あ、そっかー!なるほどね!八幡賢い!じゃ、また後でね!」

 

 

そう言ってビューンと駆け足で目的のコンテンツコーナーに向かうはじめさんを見てまるで嵐のような人だなと思ってしまう。あながち間違いではないのだが。怒られると予想していたから、これはかなりついてるかもしれないと拳を握る。

さて、俺も行くべきところに行くとしよう。今回は一般日ではないから、人も少ないほうなので伸び伸びと回れそうだ。にしても、何か大切なことを忘れてるような。そう思っていると背筋にゾクッと悪寒のようなものが走る。

 

 

「……は、八幡……?」

 

 

唐突に声をかけられて振り向けば、まるで春がやってきたかのような錯覚を覚える装いをした美少女が……と思ったらひふみ先輩だったぜ。さっきぶりですね、と軽くあいさつをしようとしたが顔をよく見ると、来た時のホクホク顔ではなく刺し穿つような瞳が俺に向けられていた。薄く瞳は潤んでおり、どことなく怒っている様子だ。

 

 

 

「か、勝手にいなくなって…ごめん…ね…」

 

 

 

紡がれたのは謝罪の言葉でひふみ先輩は頭を下げる。びっくりしたー……泣かれて怒られるのかと思った……。ホッと胸を撫で下ろしていると、ひふみ先輩に手を掴まれる。

 

 

「じゃ、行こっか」

 

 

行くってどこにとか、なんで急にいなくなったのかとかいう前に繋がれた手に意識を持ってかれて、その言葉は口にできずに俺は引っ張られるままにその足を進めた。

 

 

 

###

 

 

ある龍は言った。原初に還れ、と。その原初とは生まれる前の母胎の中なのか、本当に居るべき場所なのかは分からないが、俺は帰ってきたぜ。

懐かしいのピンクのタイルの床に、俺が入ってくることを確認するとウィィンと音を立てて開く蓋。今や慣れたものだが、学校のトイレにはこんな機能はなかった。

 

 

 

「……これ、着て」

 

 

 

ここに連れ込んだ主はキャリーバッグから取り出した紙袋の中に入っていたコスプレ用の衣装を俺に渡してくる。

また、ここで着替えるのか。前回もこんなことがあった気がする。いや、前は女子トイレだったんだけど、今回は多目的トイレなんだよね。どこが違うのかというと、とりあえず多目的なんだよ。でも、着替え用のトイレじゃないと思うんだ。

 

 

「あの、着替えるんで後ろ向いてて貰っていいですか?」

 

 

 

「あ、うん…」

 

 

 

顔を赤くして慌てて後ろを振り向くひふみ先輩を尻目に上の服を脱ぐ。コミケも入れると3回目なのだが、その時は男子用の更衣室だったから今よりは気が楽だったかもしれない。会社の先輩で女の人(しかも可愛い)が後ろにいる状況で平常心で着替えられるわけねぇから!

そういえば、ひふみ先輩も着替えてなかったような…とコスプレ用の服を着ながら振り向くと、噎せた。

きめ細かな白い肌に桜色のブラの紐、ピンク色のシュシュを解いてそれを口に咥えるひふみ先輩。どういうことかと言うと、ひふみ先輩もお着替えタイムということだ。それも俺と背中合わせで。

なんだこの状況。おそらく、100人の男性に聞いたら100人の男性が「羨ましい!氏ね!」というシチュエーションだ。これなんてエロゲ?今回のゲーム展に出典されてないかと材木座あたりが聞いてきそうだ。

にしても、あのひふみ先輩が俺の後ろで着替えてる……あ、やべ……ちょっとタンマ。うーん、落ち着け!もう一人の俺!大きく深呼吸して息を整えて素早く脱衣!下を履いて何も見なかったかのように、カツラを被って袋の中の小道具を手に持ち、いざ戦場へ!と準備万端にして待っていると、よし、と呟く声が聞こえる。

 

 

「八幡、着替え…終わった?」

 

 

さきほどの春らしい衣装から一気にチェンジ。紅蓮のように燃え盛るような赤い和服に手に持たれた短刀のレプリカ。そして、高めの位置で結ばれたポニーテール。フェアリーズ・ストーリー3でひふみ先輩が担当したキャラ「ヒガンバナ」のコスプレだろう。

メインストーリーでソフィアとレラジェとの別れが終わったあとに出てくるキャラクターで、彼岸花の花言葉を体現したキャラと言える存在だ。

 

 

情熱的な性格だが孤高。その理由は愛する人との別れが原因であり、最期は虚しく、待ち焦がれた人は既に死んでおりそれによるショックで自暴自棄になっていたところを死の精霊につけ込まれ、主人公達に打ち倒されるというものであった。このストーリーを見た時は葉月さんの頬にグーパンを食らわせてやろうと思った。もちろん、拳で。

 

 

 

「終わりましたよ…相変わらず寸法ピッタリですね」

 

 

 

俺の衣装はレラジェだ。服を着替えて目の下にクマを入れて、カツラを被れば完成である。さすが、俺が元になったキャラクターである。恥ずかしい。

 

 

 

「そっか、よかった……よく…似合ってるよ」

 

 

 

「ひふみ先輩も綺麗ですよ」

 

 

 

お互いに自分の担当したキャラのコスプレをするというのは、自担のキャラ好きすぎかよとか言われそうだが、あながち否定出来ないのが悲しいところだ。そろそろ、出ようかとひふみ先輩に声をかけようとすると俯いていた。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

 

「なっ!な、なんでもないから……さ、先に出てて!」

 

 

 

心配したが返って迷惑だったのか、出るのを急かされたのでお先にと周りに人がいないことを確かめてから多目的トイレの個室から出る。そこまで長い時間いなかったと思うのだが、体感時間では相当いたのではないかと錯覚してしまう。いわゆる、CROSSROADS状態である。初耳だろうが俺も今初めて言ったからお相子ってことで。

 

 

「あ、あれレラジェじゃね?」

 

 

「マジ? うわ、ホントだー!クオリティたけぇ!」

 

 

「写真いいですかー!?」

 

 

コインロッカーに荷物を預けて会場に戻るといきなり色んな人から好奇の目で見られる。中には握手を求めてきたり、どこのレイヤーさんですかとか聞いてくる人もいたが、そこは「名乗る名など持たぬ」とか言って誤魔化しておいた。レラジェの初登場の時に主人公に名前を問われた時の返しなんですけどね、キャハッ!

 

 

「す、すごい……比企谷さんくらい似てる……!!」

 

 

「こうして見ると八幡とそっくりだな……1枚撮って送ってあげよ!」

 

 

 

そりゃいるよね知り合い。関係者は入れるもんね!でも、ここまで早くに見つかるとは予想外である。しかし、特に俺だとバレてる様子は無くて良かった。多分、俺がコスプレするわけないと思ってるおかげなのだろうか。普段の行いって大事だな!

弓を構えたり、適当なポーズを取っていると急に歓声が上がる。何事かと、背後を盗み見るように振り向くと容姿端麗でまるで美しさを身にまとった様な人が現れる。

 

 

 

この日を待っていました。と、その雰囲気が全てを物語っていた。ゲームで見せていた堅苦しい表情ではなく、柔和な笑顔を浮かべてこちらに歩いてくる。

 

 

 

「ヒガンバナ!ヒガンバナですよ!はじめさん!」

 

 

 

「ももちゃん、そんなに言わなくてもわかるけど……レラジェとヒガンバナって関連性あったっけ……」

 

 

 

「知らないんですか!ヒガンバナの待ち人はレラジェだったんですよ!」

 

 

 

「マジで!!?」

 

 

 

身内がうるさかったので耳を傾けていると衝撃的な設定が明かされてしまった。一体どういう訳ですか、わかるように説明してくれ。

 

 

 

「クリア後に開放されるアナザーストーリー見てないんですか……?」

 

 

 

「え、あ、うーん、ソフィアちゃんとかナイトとかは見たんだけど……てか、レラジェとかヒガンバナのってあった?」

 

 

「ありますよ!ハードモードでレラジェを自分の体力を半分以上残してクリア達成すれば出ます。ヒガンバナも同じ条件です」

 

 

 

えぇ……ハードモードのあの二人を体力半分以上残して倒すとか、マジでハードモードじゃん。ゲームなんだからそれくらい優しくしてやれよ…。攻略Wikiとか見なかったからそういうのは知らねぇんだよな。また今度、ようつべで実況動画見よう、そうしよう。

 

 

 

そう心に誓うと、ひふみ先輩は俺の隣まで来ており表情を崩さずに腕を組んでくる。その時に黄色い歓声が上がり、綺麗すぎる待ち人と周りの空気に当てられて少し恥ずかしい気分になってしまう。しかも、柔らかい双丘が当たってるわけで。ひふみ先輩の方を見ると、ぴたっと目が合う。

 

 

 

「……また、よろしくね……」

 

 

 

潤った唇が動き、まるで感謝するかのように、次もあることを告げるような言葉に思わず胸が高鳴る。不思議と嫌でもなく、むしろ嬉しいと思ってしまう。誰かに必要とされることで幸福感や高揚感を感じることは昔から無意識的にあったが、今回は少し違う気がした。

一年前では到底考えられないこの状況に苦笑しつつも、横で艶めかしい妖美を放って立っている人ともに同じ舞台を楽しむことにした。




オリキャラだけどゲームキャラだしいいかなって。


詳しい説明。

ヒガンバナ。
情熱的なハートを持つが、人付き合いが苦手かつ優秀すぎるが故に孤高である。炎系の魔法を得意とし、剣と鈍器を扱う。愛する者と出会うために村を出て、その途中で主人公達と出会う。そして、最期は戦場に咲く花のように散っていった。


戦闘ボイス
味方時
戦闘開始「さて、どうやって潰そうか!」
魔法使用「我が真紅の炎を受けよ!プロミネンス!」
近接攻撃「躱せるものなら躱してみよ!」
戦闘終了「この程度で私を倒せるとでも思ったのか?たわけ…」


敵対時
戦闘開始「うそだ……うそだ……うそだ……!!」
魔法使用「我が絶望を味わえ!プロミネンスメテオ!」
近接攻撃「もう私は自分を抑えきれない!!」
戦闘終了「あぁ……!!ああああああああッッッ!!!!」


アナザーストーリー。

愛する者というのはレラジェ。年齢は19歳くらいでレラジェより歳上。レラジェと同じ村で育ち、親同士の取り決めで許婚となるが、16の時にレラジェが村のしきたりを破ったことにより彼が村から追放されて離れ離れとなる。その際に「もし、俺が今のあんたと同じくらいになるまで生きていたなら、俺はあんたを幸せにしてみせると誓おう」と言い残し、村を去る。
レラジェは村で学んで技術や知識を活かして盗賊となり、数年間食い繋いで生きていくが、ある時に1人の女の子(ソフィア)or主人公を守るために死んでしまう。
レラジェが死ぬ前に村から出ることを許可されたヒガンバナはレラジェを探しに出るが、主人公らと合流した時には既に……。


メインストーリークリア後の2巡目にエクストラモードを選択した場合のみ彼らが出会うであろうルートが存在するはずだが、そのルートではレラジェはソフィアに言い寄られているため、おそらく続きがあるとすれば修羅場である。




見た目はひふみ先輩のコスプレそのもの。葉月さんの指示である。
名前の由来は作者の好きな花から。綺麗だけど、悲壮的だよな。

こんかいのおまけはなし!さぁ、次の話は0時に投稿だよ!





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始まりの終わりは突然に。

勝ち取りたいものもない!無欲なバカにはなれない!


異世界オルガ、友人に見せたら「細谷さんええわぁ」と返ってきて「いや、そうなんだけど違う」となりました。あと、空前のオルガブームすごくいい。リゼシャロもっと流行れ。


 

マスターアップを終えてから数日。クオリティアップ調整を終えて俺達、グラフィック班は幕張まで来ていた。2年目の俺は特にはしゃぐことも無く、イベントブースの最前列の席であくびをしていた。

 

 

 

「「東京ゲーム展だーーー!!」」

 

 

「騒がない!」

 

 

奥のほうで、来るのは初めてなのかおおはしゃぎの桜と鳴海はうみこさんに叱られて「ひぃ!ごめんなさい!!」と息ぴったりに謝る。怒ったうみこさん怖いなぁ怖いなぁ。多分、稲川淳二の怖い話にも出てくる。

 

 

「しかし、なんやこの人の多さは…疲れる…」

 

 

「八神さん達のトークイベントは一般日だけとはいえ、確かにこの多さは…」

 

 

 

ゆん先輩がイラついた様子で言うとそれを宥めるように涼風が笑う。一般日に来たのは初めてだが、こんなに人が多いと帰りたくなるな。でも、ここまで来たからには帰りたくないみたいなのあるよね。

 

 

「もうゆん達は企業日来なかったくせに体力ないな~。私なんか今日で3日目だよ!」

 

 

「マスターが明けたとはいえ元気すぎやろ」

 

 

ドヤっと大きな胸を張るはじめさんに呆れ顔のゆん先輩。まぁ、自分の好きなことなら疲れないだろう。

 

 

「あれ?ひふみ先輩と八幡もなんだか疲れてるみたいですけど大丈夫ですか?」

 

 

「え?ううん、大丈夫!」

 

 

そう答えるひふみ先輩だが実際そんなに疲れてはないと思うが、寝不足なのは間違いないだろう。さっき俺は「よう5年ぶりだな…」的なことをいっていたが来るのは2日目なんですよね!なんでかって!察しろ。

 

 

 

「関係者席って素晴らしいな。並ばずに座れるとは」

 

 

「ほんまありがたいな」

 

 

俺の独り言に同意するようにゆん先輩が話しかけてくる。うーん、誰かに話してるのに反応されないと困るように独り言に反応されると困るんだよな。とりあえず、笑っとこ。笑う門には福来たるとかいうし、愛想笑いでもしていればいいことがあるかもしれない。

 

 

「あんなことがなければ青葉ちゃんもステージにたっていたかもしれないのにもったいない」

 

 

「えー?わたしはいいですよ。それにやっぱり八神さんだからこれだけの人が集まったんですよ。きっと……」

 

 

 

涼風に関しては酷く卑屈だな。そうなるのも分からなくないが、PECOの出来から考えれば涼風がメインをやってもこれくらい集まるだろうに。ゆん先輩にデリカシーがないとでも言われたのか、手を合わせて謝るはじめさんに気にしないでくださいと手を振る涼風。

 

 

それを見ているとポケットに入れているケータイが揺れる。またAmazonか?そう思ってスマホを出すと隣で座っている望月からだった。隣にいるんだから話しかければいいのに…。開くと

 

 

 

『青葉さん 昔 なにかあったんですか?』

 

 

 

というメッセージが来ていた。どう返そうか。ライバルのことだし、知っておきたいことだろう。それにいつの日かわかることだし。

 

 

 

広告やボックスアート、キービジュアルなどのイラストを八神さんが描いてるのは売れ行きを伸ばしたい上からの命令で、本来は涼風が任されるはずだったこと。でも、八神さんはそれに反対して、コンペでどちらがキービジュアルを描くかを争って、八神さんが勝ったことを長いメッセージで伝えると望月は涼風を見る。

 

 

 

「あ、始まりますよ!」

 

 

 

当の本人は見られてることに気付かず、目の前のステージに集中している。望月がそれで何を思ったのかは知らないが、おそらく涼風青葉という人物を再認識できただろう。敵を知って己を知る。それができる人間はきっと大成する。そう信じてやりたい。

 

 

 

 

###

 

 

 

 

「……といったゲームです」

 

 

 

「面白い話ありがとうございました」

 

 

 

葉月さんによるPECOのゲーム制作秘話やら誕生秘話が終わり、大きな拍手が起こる。

 

 

「というわけで先日マスターアップを迎えた 『PECO』次にそのメインビジュアルを担当した八神コウにお話を聞きたいと思います」

 

 

 

「八神コウです。さきほど流れたゲームの映像はご満足いただけたでしょうか?」

 

 

遠山さんの流れるような司会で次に進み、葉月さんの話す後ろで座っていた八神さんが葉月さんと代わるように前に出てマイクを取る。

 

 

「では今回フェアリーズシリーズとは違う世界観である『PECO』 メインビジュアルアートディレクターとしてこだわった部分はどこでしょうか?」

 

 

「そうですね『PECO』もファンタジーではあるんですが、おとぎの国のような世界観を強く持っているのが特徴です。その中で生きているぬいぐるみ達のほとんどが着脱可能でどのぬいぐるみにも入ってみたくなるような特徴ができるよう頑張りました。クレジットにもあるんですがそのほとんどのデザインを頑張ってくれた人間がいるんですよ」

 

 

 

打ち合わせにはなかった話なのか葉月さんと遠山さんがあからさまに驚いたような顔になる。それが目に入っていないのか八神さんは客席を見渡す。

 

 

「この会場にいるかな………あ、いた。青葉」

 

 

 

そう言って八神さんは手を伸ばす。

 

 

 

「ここまで上っておいで」

 

 

「え、えっと……きゃ!」

 

 

行こうかと戸惑ってる涼風の背中を無理矢理押し出すと八神さんのところを親指で指差す。

 

 

 

「行ってこいよ。今ならあの人と同じ土俵に立てるぞ」

 

 

おそらく、しばらくはないステージだ。だから、行くべきだ。その意図を汲み取ってくれたかはわからないが、涼風は頷くとステージへと上がっていく。

 

 

「おいおいアドリブかい?涼風が戸惑ってるじゃないか?」

 

 

茶化すように葉月さんが声をかける。それに八神さんは笑い返すと涼風にマイクを手渡す。

 

 

「ほら、自己紹介」

 

 

「あ、は、はい!あーあー!」

 

 

 

「声入ってる!」

 

 

涼風の天然さに頭を抑える八神さんとそれを見て笑いが起きる観客席。身内は赤面ですけどね。

 

 

「す、涼風青葉と申します!キャラクターデザインを担当させて頂きました!」

 

 

「私の管理のもと涼風には『PECO』のキャラクターのほとんどを担当してもらいました。弊社のこれから期待の若手です」

 

 

八神さんにそう言われて照れたのか「えへへ」と頭を摩る涼風。それを見て微笑むと八神さんがすぅと息を吸う。

 

 

「こうしたフレッシュな人間と私達ベテランの人間の力がいいバランスで上手く力を出し合えた開発環境だったと思います。なので、きっとご満足いただけるゲームになっていると自負しています。来月発売の『PECO』是非ご期待ください」

 

 

言い終えて、今日一番の拍手と喝采が生まれる。望月もあそこに立つために決意を固めたのか俯いていた顔は上へと上がっていた。

 

 

 

そして、登壇した葉月さんと八神さん、遠山さんにお疲れ様の言葉を言うために楽屋へと向かっていた涼風達の背中を俺はただ止まって見ていた。

 

 

「あ、あれ?……は、八幡……行かないの……?」

 

 

 

ひふみ先輩に尋ねられて、俺は短く今行きますと答えて歩き出した。ここから先は地獄でなくとも、それなりに嫌な気分になるのは目に見えていた。だけど、行かないといけないと訴えかけらていた。

 

 

 

「はぁぁぁぁ!?フランスの会社へ行ってくるー!?」

 

 

イーグルジャンプの楽屋に入るなり聞こえてきた葉月さんの驚く声にこの場にいる八神さん以外の人は顔を曇らせたり、葉月さんのように叫ばなくとも多種多様な驚き方をしていた。

 

 

 

「すみません。ステージで勝手なことをしたばかりでなく突然」

 

 

ある程度、予想はついていたから俺へのショックやらは少ない。というか、こういう事が初めてなのでどう反応すればいいか分からないのだが。 違和感は前々からあった。桜や望月と話していた時に呟いた言葉やラーメン屋での冗談。確定的だったのは俺にあの2人を任せると言ってきたこと。

 

 

「遠山くんは?遠山くんは知ってたの!?」

 

 

「私もしっかり聞いたのはついさっきで」

 

 

だけど、1人だけ大丈夫じゃないやつがいる。あいつの心境としては、やっと同じ土俵まで上がれたと思ったら離れていく八神さんに対する怒りでも悲しみでもない。ただ、この状況が理解出来てない。そんな顔をしている。

 

 

 

「突然で迷惑を掛けるのはわかってます。この会社も好きです。でも……数年後のことを考えた時に。今の皆の上司のままで私は成長できるのかって考えるんです」

 

 

八神さんの言うことは正しい。今のイーグルジャンプにも、これからのイーグルジャンプにも八神さんは必要な人なのは違いない。だから、スキルアップしてくればこの会社はもっと羽ばたくことが出来るだろう。社長でもない俺が何を言ってるんだか。

 

 

「青葉」

 

 

「は、はい!」

 

 

「キービジュアルコンペ前日の夜…頑張ってる青葉を見て私も負けてられないって思ったんだ。今に満足していた私に青葉がその気持ちを思い出させてくれた。だから、私はまだ知らない環境で海外でたくさん勉強してもっと上に行くよ」

 

 

多分、八神さんは立ち止まっていたのだろう。孤高ゆえに、1度の理解もされず、ただひたすら止まることなく頑張ってきた。しかし、いつの間にか立ち止まっていた。道はあるのに、そこまで行く足が動かない。だが、涼風のなんらかの言葉や行動を見て、さらなる道を歩むための決意をしたのだろう。涼風にとって目標の八神さんがどこに行ってしまうのは嫌だろう。だが、涼風はそれで八神さんの歩く道を止めていいのかと迷っているのだろう。

 

 

 

「応援……してます」

 

 

 

涼風から出たのは確実に本心ではない言葉だ。八神さんに迷惑をかけまいと当たり障りのないものを選んだのだろう。

思ってもないこと言うのはやめたほうがいい。ほんとは行って欲しくないんだろう。が、あの人の取り繕ったような笑顔の裏側の苦しそうなその表情の前では言うことは出来ないだろう。

 

 

 

……多分、八神さんはわかってるはずなんだ。ここにいる誰もが行って欲しくないことくらいは。それでも行くと決めたんだ。一番辛いのは、八神さんなのだろう。

 

 

そう考えると目の前の音が何も聞こえなくなった。正確に言えば、耳に入れたくなかった。残念そうに笑う葉月さんの言葉も、張り詰めた笑顔を決壊させて泣きじゃくる遠山さんの想いも。何も。何も。

 

 

 

 

「八幡、みんなをよろしくね」

 

 

 

 

 

ただ、最後の言葉だけがハッキリと届いて、今のこの景色から目を背けたくなった。

 

 

 






漫画でこの話を読む「うわぁぁぁァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!」

これ書いてる時「う、う、うわぁぁぁぁぁぁァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!」



となっていたので書いた時には前書きとあとがきは真っ白でした(マジで)

書き終えたのが9月3日当たりでしたので今読むと結構楽な気持ちです。拙い文章ですけどね!ペッ!



本編は次でラストです


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さらば、いとしき日々よ

タイトルは八神さん側からの。八幡からではない。


八神さんENDと本編ENDの合成だったりするけど思ったよりもマッチングしてるはず。




個別ENDは多分ちゃんと書く……はず?
(今のところ八神さん、ゆんさん、ツバメちゃんのプロットしかできてない)



急いで書いた(正確には書き直し)ので誤字脱字が多いと思います。お手数ですが報告お願いします。あと、設定とか矛盾ガバガバかもしれないので、その際は感想と共に御報告下さい。




途中、八神さん視点入ってます。



では、夢のように片付けよう。


 

社会はやっぱり単純でいつも欠かせなかった人がいなくなっても、ソレが当たり前のように心の中で埋め合わせをする。例え、無二の親友が転校しようがまた会えるからと笑顔で見送る。本当にまた会えるとも限らないのに。

 

 

しかし、八神さんは桜の話を聞いてフランスに行くことを決心したのだろう。頑張っていれば離れていても寂しくない。そんなのは戯言だ。今まで一緒にいるのが当たり前だった人が離れていったら寂しいに決まっている。

 

 

 

雪ノ下と由比ヶ浜に俺が就職するから千葉を離れるということを伝えた時、2人の反応はそれぞれ違っていた。だが、2人ともとても応援してくれる様子ではなかった。俺は東京、戸塚は埼玉と同じ県にすらいられない事をお互いに残念に思った。材木座は…どうしてかわからないが酷く落ち込んでいたがすぐに立ち直っていた。他にも一色や葉山達との別れも、たった2年ほどの付き合いだったのに離れるのは寂しく感じた。

 

 

 

なのに、今は何も感じない。もういないということが日常になったからだ。あの時に戻りたいと思わない。むしろ、消し去ってやりたいくらいだ。けど、あの場がなければこうして俺がここにいることも無かっただろう。

 

 

 

「結局、何が言いたいんだろうな」

 

 

 

八神さんの見送りに行くわけでもないのに、遠山さんから以前貰った服を着て家を出て、来る途中に自販機で買ったブラックコーヒーを飲みながら、エレベーターが次の階へと進むのをただ待っているだけ。何も変わらない自分と、周りが変わってくことに順応していく自分。今の気持ちに答えを出せないまま、時は残酷にも流れていく。

 

 

いつものブースにつくと、やっぱり来るのが早かったのかあまりの静けさに誰も来ていないと思っていたが自分の席に向かうと涼風のパソコンがついていることに気づく。トイレにでも行ってるのかと思って俺もパソコンの電源を入れる。

 

 

 

「あ、おはよう」

 

 

「お、おう…」

 

 

トイレに行ってると思っていた涼風は八神さんのブースから葉月さんのペットであるもずくを抱き抱えて席に座る。はぁ、とため息を吐くと涼風は喋り始める。

 

 

「八神さんと初めて会った時さ、下着丸出しだったよね」

 

 

「あぁ、よく覚えてる」

 

 

確か綺麗な肌の太腿に白いパンツだったはずだ。あんな印象的な出会いを忘れるような男の子はいないだろう。

 

 

「ブラックが飲めないのに見栄張ってからかわれたりしたよね」

 

 

「いや、それはお前だけだ」

 

 

俺は紅茶にしたはずだから、そんなことは無い……はずだ。記憶が正しければ、俺は紅茶を頼んでたはずだ。八神コウちゃんだけにな……。

 

 

 

「それでさ……」

 

 

 

そこで会話は途切れて、隣からは鼻をすする音が聞こえる。多分、俺もさっきの話をして涼風がいなかったのなら少しくらいは涙のひとつも出たのかもしれない。が、涼風が居なければさっきの話もすることはなかったのだ。つまり、その仮定は意味を成さない。

 

 

「おはようございます」

 

 

「おはよう」

 

 

普段もこのくらいの時間に来るのか、望月は特に変わらない様子で挨拶をする。それに涼風は涙も拭かずに鼻声で返す。涙を浮かべる涼風の顔に驚いた望月の顔を見て逆に自分が泣いてることに気づいたのか、目元を拭うともずくを下に下ろす。

 

 

「あ、ごめんね。昔のことを思い出してつい。ダメだね。先週のお別れ会でしっかりお別れしたのに、こんなんで」

 

誤魔化すように笑顔を浮かべて御託を並べる涼風は「さぁ!お仕事お仕事!」と未だに取り繕った笑顔のまま歩き出す。

 

 

 

「紅葉…ちゃん?」

 

 

それを望月紅葉は許しはしなかった。涼風の手を掴んで彼女は少し怒ったような表情で言葉を口にする。

 

 

「私は…私は3ヶ月間しか八神さんとお仕事ができなかったので八神さんが行ってしまうと言った時もただ驚きしかなくて…青葉さんは…ズルいです」

 

 

 

何がズルいのか、それを聞く間も与えぬように望月は続ける。

 

 

 

「だから青葉さんにはしっかりお別れの挨拶を八神さんにして欲しいです!」

 

 

「え、それは先週言ったよ。ありがとうございましたって」

 

 

「嘘です。その顔はまだ心残りがある顔です。会いに行きましょう。今から空港へ!」

 

 

 

「え?今からって会社は?」

 

 

 

「いいじゃないですか、1日くらいズル休みしたって」

 

 

 

焦る涼風に少し子供っぼく勝気な言葉を放って、望月は涼風を引っ張っていく。だが、ズル休みに抵抗があるのか涼風は頑張ってその場にいようとするのだが、望月がそうはさせない。

 

 

 

「……仕方ねぇから、ひふみ先輩とかには俺が言っとく。だから、お前らはとっとと行ってこい」

 

 

適当にあしらうように手を振ると「で、でも」と涼風は未だに行く決心がつかないのか自駄々を捏ねるが、俺はため息を吐くと少し強めに言う。

 

 

 

「お前、八神さんに本当に言いたい事言わないと仕事に集中出来ねぇだろ。集中力の欠けたやつに仕事場に居られても困るからさっさと行け」

 

 

 

流石にここまで言えば、考えを改めたのか「よし!」と鞄を手に持ち望月と共にエレベーターへと乗り込んでいく。俺はその後ろ姿を見送った後に1通のメールを打ち込んだ。

 

 

 

『涼風と望月が八神さんに一言物申しに会社脱走わず』

 

 

 

と、それを送信した後に一息ついてまだ誰もいないのをいいことにマッ缶を八神さんの机だった場所で飲んでいると1通のメールが入ってるのに気づく。

 

 

 

From 八神さん

本文 どうせ、言わないと来ないだろうから言う。見送りこい。

 

 

 

 

 

急いで、支度を始めた。

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

『涼風と望月が八神さんに一言物申しに会社脱走わず』

 

 

 

めずらしく八幡からメールが来たと思ったら社内メールを使った一斉送信のメールだった。わずってことは、八幡は止めなかったんだろうな。

 

 

 

 

「わ~ホントに来た」

 

 

 

近くで聞き覚えがある声がしたと思ったら、青葉が紅葉の手を引いてこっちにやって来た。

 

 

 

「お疲れ様です」

 

 

 

お疲れ様って…特に疲れてないんだけどな。荷造りはりんに手伝ってもらったし。それにしても。

 

 

「なんだ仲いいじゃん」

 

 

「いや!これは…」

 

 

 

2人が仲良く手を繋いでいたから、からかうように言うと照れたのか紅葉がバッと勢いよく手を離す。紅葉が青葉を連れてきたんだって?と聞くと、恥ずかしそうに口を開く。

 

 

「はい…えっと…あの…あ!ごはんとか大変かと思いますけど頑張ってください!」

 

 

 

「へ、ごはん?」

 

 

そりゃ、フランスだからナイフとかフォークばっかで箸は使わないだろうけど、パンは手で食べられるだろうし。

 

 

「さっき大変だねって話してて」

 

 

「わざわざそんなことを言いに来たの?」

 

 

補足するように言う青葉。しかし、紅葉はただの付き添いらしく、青葉の後ろに隠れて背中を押す。

 

 

「えっと…私も勢いできてしまったというか、なんというか、ははは…」

 

 

「青葉ちゃん、コウちゃんになにか言い忘れたことがあったんじゃないの?」

 

 

誤魔化すように言う青葉にりんが優しく問いかける。すると、青葉は俯いてしまう。そんな悲しそうな顔しないでくれよ。いや、そうさせてるのは自分か。

 

 

「ごめんな。自分勝手な上司で」

 

 

最初はやめる気だった。ここをやめてフランスで1から学びなおそうと思った。そしたら、それを大和さんに引き止められた。やめなくても大和さんの妹さんの会社に行けば、研修扱いにしてやめなくて済むと。その方が私にも会社の利益にもなるからと。

 

 

 

でも、それをあの時まで誰にも伝えなかった。伝えれなかった。勇気が出なかった。それでも、離れていても頑張っていれば寂しくないってねねちゃんが教えてくれた。

 

 

「……そうですよ、ホントに自分勝手な上司だと思います。八神さんは会社の看板なんですよ、自覚あるんですか?」

 

 

けど、やっぱり寂しいな。

 

 

「それにいつも、テキトーだし、にぶいし、それでいてナイーブだし、振り回されるこっちの身にもなってください。八神さんはバカヤローですよ!」

 

 

なんで、最後にこんなボロクソに言われなきゃいけないだろう。私が悪いんだろうけど。どう返せばいいかと悩んでたら、涙も拭かずに青葉は開き直ったように笑う。

 

 

 

「…なーんて、ほんとは行って欲しくないんですよ?八神さんはいつまでも私の目標なんです。だから、絶対帰ってきてくださいね?」

 

 

無理して挑戦的な表情を浮かべる青葉に私は抱きついた。

 

 

「バーカ、当たり前だろ」

 

 

帰って来るに決まってる。イーグルジャンプは私にとっては家も同然のみんなは家族と同じくらい大切だから。

 

 

「それにもし、帰ってきた時にへたれてたら承知しないからな。これでも期待してるんだぞ。だから、青葉のこと離れていてもずっと見ているから」

 

 

「はい、見ててください。私も八神さんのこと見てますから……!」

 

 

 

それが不可能だと知っていても、同じ空の下にいれば必ずまた出会える。今の世の中、ネットでお互いの近況は調べあえるし、メールも電話も届くんだから。

 

 

 

「あ!いたー!!」

 

 

 

はじめが大声でそう言うとこちらに駆けてくる。相変わらず元気なやつだなぁ。はじめの後ろにはゆんやひふみんの姿を見える。……が、あいつだけはいなかった。

 

 

「結局いつものメンバーみんなきたの?」

 

 

平静を装って聞くと、ゆんが答える。

 

 

 

「青葉ちゃんとももちゃんが空港に行ってるって聞いてつい……でも…」

 

 

 

本来はその場にいるであろう後輩のことを思ったのかゆんが目線を逸らす。ひふみんが留守番をしてくれてるのだから仕方ないと言ってくれる。まぁ、この前にお別れは済ませてるんだし来るわけないか。……メールしたけど気づいていないのかもしれない。……だったらしょうがないか。

 

 

 

 

はじめにフランスのゲームが出たら教えてと頼まれ、ゆんにはフランスだから服装には気をつけろと言われ、旅行に行くわけじゃないのにひふみんには観光の穴場を教えてとせがまれ、うみこには海外だから食べ物に気をつけろと注意された。紅葉から聞いたっつーの。みんなから激励の言葉を貰っていると、そろそろ飛行機の時間が近付いてきた。

 

 

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

 

 

『いってらっしゃい!』

 

 

 

元気よく言うと、笑顔で手を振ってくれる。私の乗る飛行機を見送るために上に行ったみんなの後ろ姿を見送ると、私もトランクを転がす。

 

 

「ちょっと、ちょっと待っ……うっ、はぁ、はぁ……」

 

 

 

突然のことに振り返ると、そこには本当に来て欲しい後輩がいた。今頃、言い忘れでもしたのかと、息を弾ませるそいつに私は苦笑を浮かべる。

 

 

 

「なに、今頃来たの?」

 

 

冷たく言い放つと、膝に手をついて息を整える八幡はゆっくりと顔を上げる。その顔はいつも通りの目が腐っていて、ボサボサな髪で私の好きな男の顔だった。

 

 

###

 

 

 

呼び出されて俺史上最速で空港に向かった。自転車では間に合わないと察した俺はタクシーを拾って運転手さんに「全速前進だ!」みたいな感じで急かすように空港まで走らせた。代償は大きかったが、仕方ない。あのメールを見て来なかったとなれば、次会った時にどんな嫌がらせをされるか分からないからな。

 

 

 

それは建前で、俺も日本から離れる八神さんを見送りたいという気持ちがあったのだろう。だから、見送る口実ができたから俺はこうしてここに来たのだろう。

 

 

 

「は、八幡!?」

 

 

 

「どないしたんそない汗かいて…」

 

 

 

 

空港について走っていると前から見知った顔の集団を見つける。俺に気づいたはじめさんとゆん先輩が声を上げる。

 

 

 

「ど、どうしたんですが、比企谷さん」

 

 

 

「や、八神さんに呼び出されて、そ、それにさっき気づいて……」

 

 

「って、ハッチー大丈夫!?息上がりすぎ!」

 

 

 

驚くうみこさんと桜に手を挙げて大丈夫だとジェスチャーするが、全く大丈夫ではない。仕方ないだろ全く走ってなかったんだから!毎日のように自転車漕いでるから多少は大丈夫だと思ったがそんなことは無かったぜ。

 

 

 

「先輩大丈夫ですか、水飲みますか?」

 

 

「もも、それ口つけたやつでしょ!」

 

 

 

「え、そういうの気にするかな…」

 

 

 

「いや、いい。ありがとな望月」

 

 

 

望月の親切心は受け取っておこう。それに間接キスは俺はめちゃくちゃ気にするから鳴海ナイス。もし、飲んだ後にそれ言われたら余計に息が乱れるとこだった。

 

 

「え、えっと、ホントに大丈夫?」

 

 

「マジで大丈夫です」

 

 

ひふみ先輩にそんな心配されたら大丈夫になるしかない。むしろ、ならなかったら失礼の極みである。

 

 

 

「で、八神さんもう行ったか?」

 

 

 

「どうかしら……まだ少し時間はあるけれど」

 

 

 

遠山さんが時計を見てそう呟く。仕方ない、今から全速疾走。疾風迅雷、ナルガクルガの如くだな。任せろ、そういうのは多分得意だ。

 

 

 

「早く行きなよ。言いたい事あるんでしょ?」

 

 

 

涼風が後ろで手を組んで微笑む。この笑顔は嘘ではなく、自分の言いたいことを伝えたあとの本当の笑顔だろう。

 

 

「特にねぇけど、行ってくる」

 

 

 

そう言ってまた走り出す。後ろからなんじゃそりゃー!とか聞こえてくるけど気にしないドラゲナイ。

やっとの思いで八神さんの姿を確認すると俺は精一杯、腹に力を込めて声を出す。

 

 

 

「ちょっと、ちょっと待っ……うっ、はぁ、はぁ……」

 

 

 

「なに、今頃来たの?もう飛行機出るから早くしてくれない?」

 

 

自分が呼び出しといてなんだその反応は……と悪態づきたくなったが、メールされた時間からだいぶ経ってるからこう言われるのも無理もないか。息を整える俺に「何か言うことでもあるの?」と声をかけてくる八神さんに俺は顔を上げて答える。

 

 

「まぁ、特に言うこととかないんすけど…」

 

 

「は?」

 

 

 

何いってんのこいつ。という顔をしたと思ったら、ジト目でじゃあ何しに来たのとか聞いてくるもんだから、俺はスマホを取り出してメールの画面を開いて見せつける。

 

 

 

「いや、八神さんがメールで来いって言うから会いに来たんじゃないですか」

 

 

メールしたことを忘れていたのか、ぎょっと目を見開いて口をパクパクさせる八神さんは面白いが、飛行機の時間に間に合わなくなるのもあれなので、最後に言いたいことだけ言おう。

 

 

 

 

「ま、まぁ、その頑張ってください。そ、その遠山さんみたいないい人?とか見つかるといいですね」

 

 

 

現地に行ったら遠山さんみたいに世話してくれる人は居ないわけで、八神さんの性格だとすぐに堕落な生活になりそうだからそういう人を早めに見つけることを推奨した。

 

 

「じゃ、俺はこれで……なんでそんな怒った顔してるんですか……」

 

 

 

「AD命令だ。目を閉じろ」

 

 

「えっ、なんで」

 

 

「いいから」

 

 

何か悪いことを言ったのか、イラついた顔で有無も言わさずに押し切られ、嫌々恐縮しながらも従う。何されるんだろ、最後にお別れのビンタとか笑えないんですけど。

 

 

「目開けるなよ」

 

 

「は、はぁ」

 

 

何故かわからないけど、結構距離が近いよ!ビンタしたらいい感じに頬の痛覚を刺激できるくらいの距離!いつ来ても大丈夫なように深呼吸してごくりと息を飲んで覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、俺の肩に手が置かれて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっと唇に温かく柔らかいのが重なる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?、ちょ!や、八神しゃん!?」

 

 

 

 

 

チュッ、とアニメとかドラマのラブシーンで耳にする音が聞こえたと思うと俺は動揺やら何をされたかを理解した恥ずかしさで大きく仰け反る。俺の姿が滑稽で面白かったのか八神さんは大きく笑うと、背中を向けながら顔だけこちらを見ると、大声で言い放つ。

 

 

 

 

「私の初めてなんだから、大切にしろよな!じゃ、行ってくるであります!」

 

 

 

 

そんなこと言われましても……キスの大切な仕方って……。あまりに唐突で衝撃的なことに俺は呆然と立ち尽くしてしまう。

 

 

 

このままここにいるのも迷惑かと思って、近くの椅子に座るとガラス越しに見える飛行場の飛行機を見つめる。どれが八神さんのやつかわかんねぇな。下手したらこっから見えないかもしれないな。スマホが揺れたので、開いてみると上で飛行機の離陸が見れると涼風からメッセージが着てたので「俺はいい」と返信するとカチッと電源を落とす。

 

 

 

 

涼風と望月が憧れた先輩は、ゆん先輩やひふみ先輩を支えたキャラ班のリーダーは、うみこさんと打ち解けていたり、桜や鳴海とも親しげにしていて、遠山さんに好意を向けられていたその人はーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺にとてつもなく、忘れられないような想い出を残して飛び立っていった。

 




最後まで八神さん視点の予定でしたが最後は八幡に。



ここまで後輩やひふみ先輩がリードしてましたが一気に八神さんが巻き返しましたね。まぁ、これから出るかは分からないのですが…番外編では出ますよ?料理編も夢のように片付かねぇかな…





おまけ(最後まで八神さん視点バージョン)


「なに、今頃来たの?もう飛行機出るから早くしてくれない?」


少し冷たく言い放つと、膝に手をついて息を整えていた八幡はゆっくりと顔を上げる。


「いや、特に言うこととかないんすけど…」


「は?」



何いってんのこいつ……。じゃあ何しに来たの……。そう聞くと、八幡に呆れ顔で返された。



「いや、八神さんがメールで来いって言うから会いに来たんじゃないですか」



……!!!?



あー……そういえば、りんの目を盗んでトイレでそんなメールしたな…。いやでも、まさか今頃来るなんて思わなかったし、ていうかなんで今日はそんなにオシャレなの!?聞こうにも聞けず、時間もなければ私の想いも伝えることができない。



「ま、まぁ、その頑張ってください。そ、その遠山さんみたいないい人?とか見つかるといいですね」



ぶっきらぼうなその言葉に何故かカチンときた。いい人?つまり彼氏?それ昨日、母親にも言われた。せっかく、海外に行くんだからいい男の人でも見つけて来いって……! 人の気持ちも知らないで……!



「じゃ、俺はこれで……って、なんでそんな怒った顔してるんですか……」



何にも分かってないのか。なんだよ、なんだよ。八幡の方が私よりテキトーだし、にぶいし、ナイーブじゃん!もう、私は怒ったぞ。クリリンを殺された時の悟空くらい怒った。



「AD命令だ。目を閉じろ」


「えっ、なんで」


「いいから」


有無も言わさずに押し切ると、嫌々恐縮しながらも従う八幡に近づく。やっぱり並んで立ってみると背高いな…。


「目開けるなよ」


「は、はぁ」



何をされるのかとビビる八幡に、私はごくりと息を飲んで覚悟を決める。







つま先を伸ばして



バランスを崩さないように




八幡の肩に手を置いて





私はーーーー。


































そっと唇を重ねた。








「……!?、ちょ!や、八神しゃん!?」





チュッ、とアニメとかドラマのラブシーンで耳にする音が聞こえたと思うと八幡が動揺やら羞恥で顔を赤くして大きく仰け反る。その姿が滑稽で、こんな私からのキスでもそんな顔をするだと思うと、なんだか嬉しくなって。私はいつものようにいたずらな笑みを浮かべて言ってやった。




「私の初めてなんだから、大切にしろよな!じゃ、行ってくるであります!」






これで私の気持ちが伝わらないのなら、八幡は相当のバカだ。でも、悪い虫はつかないだろうからいいかな。伝わってないのなら、次会った時に言葉にしよう。




そう心に決めて、しばらく帰ってこれないであろう生まれ故郷に私は一つの大きな想い出を残して、大空に飛び立った。






ー了ー







これからに関して



作者忙しくなるから番外編の更新しか出来ないぞ
多分今月はもうないです
再開は10月の中期終えたあたりですね。多分。では、またお会いしましょう。see you again.....


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比企谷八幡は悶絶苦闘する。

(注意、1ヶ月ぶりくらいで暴走してます)


エレキシュガル引いたやつ首を出せい……
まぁ、正直エレシュキガルよりアキレウスとケイローン先生の方が欲しい。カメムシ女はええわ。実装はよ。
正月に村正の影……お年玉が消えていく……


きららファンタジア、やっとですか。って!不具合オオスギィ!
ごちうさはまだですが……?はやくココア(cv:森川智之)を……!!


アズレンの夕立ちゃん可愛すぎて僕のも夕立しそうっていう下ネタ思いついたわ。まぁ、艦これの方が好き。ぽい?


ラノベとマンガ買いすぎて本棚も買いました。おかけでガンプラ飾るスペースも増えて万々歳!衛生兵を呼べー!バンザーイ!!



ほんへ


2日かけたわりには文字数少なっ!
まぁ、いっか。これは息抜きみたいなもんだし。


今回は本編かつ分岐ルート的なの。
とりあえず読んでから後書き見てどうぞ。

12月27日本編一部とタイトルを修正


あの日から、悶々と過ごす日々が続いた。

仕事はあまり手が付かず、家にいてもただ天井を見つめるだけの日々だ。

 

 

最近、生まれて初めて異性と口付けをしたのだ。それも相手からである。会社の先輩で、ゲームデザイナー界の天才。しかもギャップ萌え持ち。

彼女いない歴=年齢の男子は一撃ノックアウトするに決まっている。

 

 

「けほっ」

 

 

まぁ、今俺が身体的にノックアウトしているのは完全に風邪が原因なのだが。まだ六月なのに風邪をひいてしまうとは情けない。おかげで取りたくもない有給を取ることになってしまった。

 

 

会社からはPECOも終わったし、丁度いいんじゃないかと言われたのだが、それでも体調不良で休むというのは気が引ける。昔はそんなことなかったのだが、やっぱり俺も社畜に染まってきたということか。

 

 

 

神は言っているのだろう。この休みに社畜の精神を抹消せよ。

 

 

人間、初心忘るべからず。俺の最初の夢、専業主夫。社畜などでは断じてない。幼き頃から父親に英才教育という名の現実を教えこまれた俺は社畜にならないことを心に誓ったのだ。

 

 

 

社畜やめる社畜やめる社畜やめる働きたくないでござる働きたくないでござる専業主夫専業主夫専業主夫専業主夫専業主夫専業主夫専業主夫……

 

 

まるで、呪詛のように頭の中に若かりし頃の願いを口にする。どうして、高校出て就職したんだ。これも全部材木座のせいだ。そういえば、あいつは無事小説家になれたのだろうか。それよりも、ちゃんと書いた作品は編集社に送ってるのか?

 

 

うん、材木座のことだし、そこんところはどうでもいいか。それに小説家になれなくても、私立理系の中でもそこそこの大学いけたんだし、なんとかするだろ。理系で小説家の人とか多いし、ガリレオとか書いた人とか。

 

 

それに考えるべきことは他にある。他、ほか、他ねぇ……。

 

 

 

『私の初めてなんだから、大切にしろよな!』

 

 

考えるべきことを考えた結果、現れたのは一週間も前の強い強い頭を打っても消えないであろう記憶。

 

あまりに突然で、何か口にするでなく、する暇も与えられず、その時の俺は何も出来ずにただ呆然とすることしか出来なかった。

 

 

そして、今はーーーー。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!恥ずかしい!恥ずかしいよぉぉぉぉ!!なんで!なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 

 

 

こうやって、一人暮らしの狭いアパートの一室のベッドの上で悶えることができるようになった。いや、これならただ静かに呆然としてる方がマシな気がするが、こうでもしないと俺は平生の自分を保てないのだから仕方ない。でも、自分を保つ代償に隣とかには奇人だと思われてそうだ。

 

 

 

 

 

キス……つまり、接吻とは好きな相手に心を許した証だという。八神コウは旅立ちの際に彼女の唇に俺の唇を重ねていった。それも初めてだと言う。

 

 

いつものいたずらにしてはスケールが違いすぎる。急須の中身をトマトジュースに変えるとか、人のパソコンにいつ撮ったのかわからないが俺と涼風の寝顔を送り付けたりしてきたりとか。所詮は中学生レベルのものだったのだ。

 

 

それがいきなりアレだ。モンハンでいうとアオアシラのクエストのあとにラオシャンロンクエストを出されるようなものだ。なんだ、その鬼畜ゲー。

それでその鬼畜ないたずらを俺はされてしまったわけだ。

 

 

そっと唇を指先でスっとなぞる。もう一週間前のことなのに、あの暖かく柔らかい感触はまだ残っている。未だに残る感覚に何度発狂しそうになったことか。

 

 

「はぁ」

 

 

アレがどのような意味があったのかは本人に聞くしかないのだが、そんなことする度胸も覚悟もないので、気分転換にテレビを付ける。ちょうどお昼のバラエティ番組がやっていたのでそれを見ることにした。いかにテーマに沿ったコーディネートが出来るかというコーナーらしく、俺にはあまり無縁な内容だ。

 

 

 

薬を飲むために水を取りに行こうと立ち上がると、玄関からコンコンと扉を叩く音が聞こえる。台所でコップに水を入れて、風邪を治す用の錠剤と共に飲み下してから玄関の方に向かう。

 

 

このアパートは造りは新しい部類らしいのだが、インターホンという物が存在しない。欲しければ自分で付ければいいのだが、友達がいない俺には不要なのである。小町には合鍵を渡しているし、他に家に来るやつは勧誘とかくらいだし、あったら面倒になりそうだから付けなくていいかとなり、今に至る。

 

 

居留守を使うと勧誘共は断らない限り何度でも来るのでここは直接ビシッと必要ないと言わなければならない。

 

 

念の為、チェーンを繋いだまま、鍵を開けて扉を開くと、俺はそこで一瞬だけ後悔する。ドアに来客者の顔を確認するための覗き穴があるのに、なぜそこで勧誘の人間か知り合いかを確かめなかったのかと。

 

 

「遠山さん…仕事は…?」

 

 

家に来たのは宗教勧誘や新聞の押し売りではなく、遠山さんでした。アイエーなんでー?

 

 

「早めに切り上げて、みんなを代表してお見舞いに来たわ。……中に入れて貰っていいかしら?」

 

 

別にその紙袋だけ渡してもらえればいいんですが。まぁ、社交辞令とはいえ、人の善意を無下にするのは良くないよな。

チェーンを外す前に目線を後ろに移すと、広がるは一人暮らしの男の部屋に相応しい散らかり具合。そんなところに遠山さんを……?ゴミと一緒に捨てられる未来しか見えない。

 

 

「ちょっと、待っててください」

 

 

一度閉めてからある程度片付けたら入ってもらおう。下着とかは大丈夫なはずだが、机の上にカップ麺とか洗ってない皿とか放置したままだし。そう思って閉めようとしたら、遠山さんはそれを阻むように扉をつかんで微笑む。

 

 

「……入れてもらえるかしら?」

 

 

「は、はい」

 

 

怖くて部屋に上げてしまった。小町以外の女の人を連れてしまった。……何故だろう、小町が喜んでる気がする。気のせいだろうか。

 

 

 

「酷い散らかりようね。いつもこうなの?」

 

 

「え、あ、まぁ」

 

 

「そう…」

 

 

ため息をつきながらも何故か嬉しそうな遠山さんにゾッとする。こういうゴミ屋敷が好みなのだろうか。遠山さんは僅かに空いたスペースに紙袋を置くと、腕まくりをして机の上のゴミは袋に、使った皿は流し台へと運んでいく。

 

 

「あ、あの」

 

 

別にそんなことしなくても、と声をかけようとしたが。

 

 

「いいから。比企谷くんはゆっくり横になってて」

 

 

と、言われてしまったので病人は病人らしくベッドで横になることにした。目を離した隙にバラエティ番組は次のコーナーに移行しており、百均のおすすめ商品の紹介をしていた。あまり行く機会がないのでやはり俺には無縁だな。このバラエティ番組次から見るのやめよう。チャンネルを替えて他にいい番組がないか探している間に、台所から食器を洗う水音、リビングからは袋にゴミが入る音、掃除機の活動音が聞こえる。

 

 

 

どうやら家事をやってくれているらしい。それが終わるまで起きていようと思ったのだが、さっき薬を飲んだせいか、それとも日頃の疲れからかはわからないが、いつの間にか瞼が落ちていった。

 

 

###

 

 

目を覚ますと、顔はいつの間にかテレビのある方ではなく、壁に向いていた。まだ残る眠気を振り払うために大きく伸びをして、身体を起こす。すると、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。

 

 

「比企谷くん、梅干しは食べられる?」

 

 

「……あ、えぇ、大丈夫です」

 

 

遠山さんが見舞いに来てくれていたのをすっかり忘れていた。

客人が来ているのに寝てしまうとは、よっぽど体調が優れなかったのだろうか。とりあえず、遠山さんのエプロン姿を見て一気に目が覚醒する。

 

 

「それ……」

 

 

「あ、ごめんね、可愛かったから借りちゃった」

 

 

エプロンを指すと可愛く一回転して見せる遠山さん。いつからそんなあざといキャラになったんですかね。

 

 

「似合ってるかしら?」

 

 

「え?あ、まぁ」

 

 

俺の反応が気に食わなかったのか、ジト目を向けられてしまう。似合ってるかという質問にはちゃんと答えたし別にいいんじゃないですかね。誤魔化すように咳をすると、遠山さんは諦めたかのようにため息をつく。

 

 

「……はい、これ。お昼食べてないんでしょ?」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

梅干しの乗ったお粥を受け取って、はふはふと熱を冷ましてから口に入れる。

 

 

「……うまいっすね」

 

 

「それはよかったわ」

 

 

そのまましばらくお粥を食べ続け、完食して匙を置いて手を合わせる。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

「はい、お粗末さまでした」

 

 

寝込んでからうどんのカップ麺とかしか食べてなかったが、やはり誰かに作ってもらったお粥はいいものだ。

 

 

「すみません、部屋の片付けからご飯まで作ってもらって」

 

 

ほんと、家族でもないのにここまでしてもらうというのはありがたいのだが、少しばかり気負いというものもある。

 

 

「いいのよ、もう、慣れたから」

 

 

どこか寂しそうに窓の外を眺めながら、そう言った。慣れたから、とは。その言葉の意味を尋ねようとしたが、振り向いた遠山さんに遮られる。

 

 

「比企谷くんは、好きな人とかいるの?」

 

 

なんの脈絡もない質問に俺は絶句する。

 

 

「なんでですか?」

 

 

そんなことを聞いて何になるのか。もし、見舞いの礼に聞かせてくれ、というのであれば答えるが別段そういうわけでもなく、とても興味があるという様子には見えない。

 

 

「あんな女の子ばかりの会社にいたら一人くらい好きな人ができるかなーって。思ったんだけど、いないのかしら?」

 

 

「今は特にそういう人は」

 

 

この人と付き合えたらいいなと思う人はいても、『好き』という感情は湧いてこない。そもそも、何を持って『好き』というのかが俺には分からなかった。そこで俺は改めてあいつの言葉の意味を知る。

 

 

比企谷八幡は本当の意味で、本気で、人を好きになったことがないのだと。

 

 

「ふーん、じゃ、比企谷くんはこっちなの?」

 

 

そう言って、いやらしい顔で同性愛者を示唆するかのような遠山さんに俺は否定しようとするが、ふと考える。

 

 

戸塚!戸塚は好きだな。うん、一緒に風呂入ったり寝たいとかいう男の子の欲求があったし。あれ、もしかしてこれが恋……?マサチューセッツ州に行けば結婚出来るんじゃね……?いや、でも、戸塚は女の子の方が好きなんじゃ……ん?そもそも、戸塚の性別ってなんだっけ……あ、戸塚は戸塚か。そうだよな、うん。

 

 

「満更でもないのね…」

 

 

思考の湖に溺れていると遠山さんは呆れるかのように頭を抑えていた。聞いてきたのそっちなんですけどね。まぁ、俺は可愛ければどっちでもいいですよ!戸塚オンリーだけど!

 

 

そこからは語る程でもないくだらない話が続いた。会社のこと、休日の趣味のこと、好きな食べ物や、ブランドの話だとか。

いつでも出来る話だが、久しぶりに人と会話したからか気は楽になった。

 

 

「……それでね、あそこのお蕎麦屋さんがね」

 

 

だが、楽しげに話をする遠山さんに一つ違和感を感じた。それは会社の話をしている時から感じていたものだ。話をしていて楽しいのだろう。しかし、それがあの人がいた時の雰囲気と全く異なるのである。お茶を啜りながら、相槌を打ちながら話を聞いていると何か思い出したかのように呟いた。

 

 

「そういえば、コウちゃんにキスされたのよね?」

 

 

お茶を全部飲んでおいてよかった。もし、飲んでいる時にその話題を振られたなら汚いことになっていたに違いない。どうしてそれを?という目を向けると遠山さんはクスクス笑う。

 

 

「比企谷くん一人だけでコウちゃんの見送りに行ってその日はそれっきりだったし、次の日から上の空になってたから何かあったのかなーと思ってコウちゃんに電話してみたのよ」

 

 

マジかよ。気を掻き乱された俺も俺だが、聞かれたからって話すあの人もどうかと思う。

 

 

「コウちゃんに比企谷くんの話題を振ったら、そしたらなんか急に黙っちゃって。喧嘩でもしたのかと思ったら、自分からキスして恥ずかしいだなんて、コウちゃんも乙女よね」

 

 

何やってんだあの人…。

 

 

「それで、キスされた感想は?」

 

 

「……はい?」

 

 

感想もなにも、突然すぎてなにもないのだが。ただ温かかったとか柔らかかったみたいな?……それくらいだな。そう伝えるとまた遠山さんは笑う。

 

 

「コウちゃんと同じこと言ってるわね」

 

 

まぁ、初めて同士だし、感想も似てくるでしょ。もし、気持ち悪かったとか思ったのと違ったとか言われたら死んじゃうよ俺。

 

 

「比企谷くんはコウちゃんのこと、好き?」

 

 

それは「LOVE」なのか、それとも「LIKE」だろうか。もし、前者ならNOだ。八神コウという人物に尊敬の念はあれど、愛してるとかそういう言葉は出てこない。仮に後者だとしても、一人の先輩としては好きだが女性として接すると……案外悪くないのかもしれないが、俺はまだあの人のことをよく知らないのだ。多分、目の前の人物の方がよく知っているであろう。

 

 

「私はね、好きよ」

 

 

知ってた。前に一部にバレてることも言ってあげたし知ってると思うんだが。

 

 

「それで同じくらい君のことも好きかもしれない」

 

 

「はい?」

 

 

これまた突拍子もなくて、驚きの声が出る。驚きよりも疑問の方が勝っているのだが。冗談はよし子ちゃんですよ、軽口を叩こうとしたが、頬に感じる温かさで出てこなくなる。

 

 

「……今日はこれくらいにしておくわ」

 

 

「え、あ、あ、うへぇ?」

 

 

口と頬とではそんなに違いはないと思っていたが、やっぱり今までそんなことされたことがないせいか、あまりに情けない声が出てしまう。

 

 

「ふふ、今日はいいものが見れたから帰るわね。じゃ、またね」

 

 

見送りはいいから早く治してね。

そう言ってピンクの鞄を持って部屋から出て玄関ドアが閉まる音がしてから数秒。

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?はぁぁぁぁぁぁぁぁいいい??なんでぇぇぇぇぇ???」

 

 

ここ一週間最大にして、俺史上最大最高の悶絶苦闘の声が出た。




もともと八幡に誰かを選ばせるために考えてもらう(一人一人の魅力やら印象について語るみたいな)回の予定がいつの間にか遠山さんが。
まさか、ゴルゴム……ゆ゛る゛さ゛ん゛!



書いてて俺が1番「はぁ?」ってなった。何書いてんだミカァ!!




なんで急に遠山さん?と思った方はいるでしょう。

「はよひふみん」「ほたるちやぁぁあんん」「やらないか」
とか思ってる方いるでしょう。おい最後の誰だ。

宝石の国、という現在アニメがやっている作品で遠山さんを演じる『茅野愛衣』さんがダイヤモンド(ドララララ!ではない)というボクっ娘をやってるのですが、それが可愛すぎて……というのと、単に遠山さんの魅力に気づいたからです。


ヤンデレ、S、家事万能、仕事スキル完備。あれ?これで可愛いとか化けもんかよ。(ちなみに作者はうみこさん派です)


ひふみ先輩との回は多いけど遠山さん回は少ないし、八神さんいなくなった後だし絡ませやすい!!となったので。
八幡もファーストキスされて気が休まらないだろうと思い、体調不良になりました。(多分結果的に精神的には悪化した)


とりま今年までには何人かのルート入る分岐は書けたらなと思います。それまでヒロアカ書けませんわ。最悪、誰かに書いてもらおう。うん、そうしよっ。




おま〇け
(本編とは全く関係ありません)

八幡「二人の女性にキスされた。どうすんだこれ…」

??「それはあんたが決めることだよ。あんたのこれから全部を決めるような決断なんだ」


??「お前が止まらない限りその先に俺はいるぞ!!」


八幡「誰だあんたら……いや、どこかで……?」



おまんけ(その2)


暇だったので八幡とヒロインがアレした時の反応的なの考えてメモってたから、それ書こうと思ったけど辞めます。では。
(要望があれば活動報告とかでひっそりやります)


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比企谷八幡は変わらぬ日常を歩む。

昨日7巻を買ったので初投稿です。
紅葉ちゃんが可愛いと思います。うみこさん今回出番すくねぇな…少なくない?(疑惑)
ほたるんもキャラが掴めてきたゾ。てか、可愛い。


時系列は八幡の風邪が治って1週間くらいです。では。


 

 

PECOがついに完成し、それと同時期に八神さんがパリに渡り、俺が風邪を患い治り。色々とあった冬だった。簡潔にまとめるとこんなものか。

 

 

「あら、私に看病されたことが入ってないけど?」

 

 

「勝手に人のモノローグ覗かないでくださいよ」

 

 

PECO発売までを文字にして大体3行くらいで振り返っていたら、隣にいた遠山さんがからかうように口出してくる。

 

 

「だって、口に出てたわよ?」

 

 

「はぁ、なるほど?」

 

 

それで納得しよう。長引かせても遠山さんに勝てるビジョンが見えない。

ついに発売となったイーグルジャンプの最新ゲーム『PECO』。それを祝してみんなで集まろうということになったのだが、買いに行かない組である俺は遠山さんの誘いで秋葉原の道を歩いていた。

 

 

「そういえば、ココ最近上機嫌に見えるんですけど何かありました?」

 

 

愛する人がパリに行ってから仕事はしてたが落ち着かない様子だったのに、いつの間にか自然な笑顔が増えていた遠山さんにそう尋ねてみる。具体的な時期は俺が風邪をひいた頃か。

 

 

「え?そうかしら?」

 

 

と、頬に手を当てながらニヤけてるのを見る限り、パリについてから八神さんと連絡を取り合ってるらしい。俺はあれ以来気恥しいのかしてこないですけどね。いや、されても困るからいいんだけど。

 

 

「にしても、コウちゃんが比企谷くんを好きになるなんて予想外だったなー」

 

 

「そうなんですかね。意外とからかわれてるだけかもしれませんよ」

 

 

「コウちゃんがからかうのにキスするわけないでしょ」

 

 

なんか怒ってらっしゃる。まず、直接好きって言われてないし、女性がどういう時にキスするとか知らねぇし。てか、この前遠山さんもキスしてきたけどあれ完全に挑発の類じゃねぇか。そう思ってあのキスの意味を聞いてみる。

 

 

「遠山さんのアレはなんなんですか?」

 

 

「私のは……ヒ、ミ、ツかな」

 

 

そう可愛く言って許されると思うなよ。許すけど。にしても、休日の秋葉原というのは人が多くて困る。それもゲームショップ関連密集地に近づけば近づくほど増えてくる。

 

 

「比企谷くんは『PECO』のソフトどこで買うの?」

 

 

「俺はネットで買いました。さっき来る前に届きましたし」

 

 

「ネットで?じゃあ限定盤とか特典はつかないんじゃないの?」

 

 

「別に俺は興味ないんで」

 

 

人混みに飲まれてまで欲しいとは思わんし、今回俺の描いたキャラ関連なかったからいらない。それに予約特典でプロダクトコードは貰えたから別にいいんだ。うん、いいんだ…。

 

 

「そう言いつつも落ち込んでるのが可愛いわね」

 

 

「……あ。あれ、涼風と望月じゃないですか?」

 

 

可愛いはさておき落ち込んでるのは図星だったので話題を変えようと思ったら都合よく見知った顔が店から出てくるのが見えたので指を指す。

 

 

「あら、ほんとね。……比企谷くん、まだ青葉ちゃんのこと苗字呼びなの?」

 

 

「そうですけど?」

 

 

答えたら何故か遠山さんが涼風に憐れみの目を向けていた。別に苗字被りがいるわけでも先輩達みたいに下の名前で呼んでと言われたわけでもないからいいと思うんだが。

 

 

「あ、はじめさんとゆんさん……あれ?遠山さん?」

 

 

そう考えたら、はじめさんがダッシュで2人に近づいており、後ろからは小走りでゆんさんがいた。と、思うといつの間にか遠山さんの姿が消えており、はじめさんの襟首を掴んでいた。怖。

 

 

何かしら言われたはじめさんは大人しくなり、それを見て昨年はじめさんがやらかしたことを思い出した。遠山さんも大変だな。

 

 

「ほら、比企谷くんもいくわよ」

 

 

遠山さんが振り返って俺の名を呼ぶとつられて他の面々も俺の方を見る。そんなに見られると興奮しちゃうじゃない♠︎とかそんなことない。へいへいと、返事しながら女性ばかりの集団に続くように俺は歩き出した。

 

 

 

 

###

 

 

近くのサイゼリヤに入って各々注文を済ませる。ここに来る途中でひふみ先輩が合流し、7人と多人数になったので席を4:3でわけた。俺、涼風、望月、ひふみ先輩。もうひと席がはじめさん、ゆんさん、遠山さんだ。

 

大体がコーヒーの中、俺だけミラノ風ドリアとドリンクバーを頼む。なんでここに来てコーヒーだけで満足するのかがわからん。

もし、ここに俺だけなら辛味チキンも頼んでいたところだが、仕方なく妥協した。また夜来たらいいし。

 

 

「それで何の話でしたっけ」

 

 

「私のサインの話だよ」

 

 

まずはメロンソーダを一飲みして落ち着いたところでそう言うと、涼風が少し怒り気味だ。

 

 

「サイン?」

 

 

「そう。青葉ちゃんの初キャラデザとして貴重なサインになると思ってね」

 

 

はじめさんが発端か。

 

 

「全然考えてなかったんだけど、やっぱりそれっぽいの必要なのかな」

 

 

「俺に聞くな」

 

 

昔、誰かに求められるわけでもなくサインを書きまくっていた俺だが、どんどん俺の原形がなくなっていてもう書くのをやめた。というか、そういうのとはお別れしたんだ。クチバシティにさよならバイバイ。俺は1人で旅に出る。

 

 

「試しに今何か書いてみれば?」

 

 

「そうですねぇ…うーん…」

 

 

ゆんさんにそう言われノートを取り出す。どっから出てきたそれ。突っ込む間もなく、『葉』の字だけくるっとしたフルネームを書く涼風に「直球やな」とゆんさんは正直なコメントを零す。

 

 

「いや、これはダメですね!」

 

 

「私はこれでもいいけどな〜。こういうサインのアイドルもたまにいるし」

 

 

「え?」

 

 

「だって本人が書いたことに意味があるんだよ!可愛いとかヘンテコはその人その人の個性でむしろ面白いし、だから私は嬉しいよ!」

 

 

そう力説するはじめさんは本気らしく、どんなものであれ気持ちのこもってるサインは嬉しいらしい。それも可愛がっている後輩の書いたものとなれば当然なのかもしれない。

 

 

「望月は書かないのか?」

 

 

「比企谷さんこそ書かないんですか?」

 

 

「いや、俺は今回特に何もしてないし」

 

 

「よく言うわ。風邪でダウンする前に修正作業終わらせといて」

 

 

あの日はちょっと熱前の異様なテンションだったから仕方ない。むしろ、仕事を片付けてから休んだのだ。仕事置いて休みやつよりは有能だと思います。

 

 

「それだったら私も特に何もしてないのでサインはしません!」

 

 

「お、おう。なんか悪いな。ほら、ミラノ風ドリア食べるか?」

 

 

「…………いただきます」

 

 

新しいスプーンを渡して望月が一口食べると顔が一瞬で花開いたような幸せなオーラがにじみ出る。すぐに店員呼んで俺と同じのを注文していた。やったぜ。

2人でもきゅもきゅとミラノ風ドリアの味と食感と焦げ目を楽しんでいると遠山さんが皆に尋ねる。

 

 

「今日は休日だけど皆これからどうするの?」

 

 

「私は少し服とか見て帰ろかなて」

 

 

「私も少しぶらぶらしてから…帰る」

 

 

「わたひはなるしだいで…」

 

 

「望月食べてから話せ」

 

 

「はひ」

 

 

服を見て帰るゆんさんとぶらぶらして帰るひふみ先輩。あとから来るであろう鳴海次第の望月。はじめさんはというと。

 

 

「私はそのまま帰りまーす」

 

 

「うそ!?」

 

 

まさかの直帰にゆんさんが驚きの声を出しそれにはじめさんが驚き返していた。

 

 

「え、なに?そんなに驚いて」

 

 

「せやかて『これからヒーローショー見に行きまーす!』とか言い出すと思うてたから。なんや体調でも悪いん?」

 

 

「私だって大人しく帰る日もあるんだよ!!」

 

 

普段の行動が災いしてるな。熱あるかまで確認されるてるよ。

 

 

「比企谷さんはどうするんですか?」

 

 

「俺?特にないけど、夜はここだな」

 

 

「…また来るんですか?」

 

 

「ああ、周りに遠慮して辛味チキン頼んでないし。他にもこのポトフとか食べたいし」

 

 

「……私、晩空いてます」

 

 

「おい鳴海はどうした」

 

 

「おーい、さっきからそこコソコソ何話しとんねん」

 

 

小声で望月とそんな会話をしているとゆんさんにジト目を向けられる。それを2人で手を合わせてごちそうさまをすることで切り抜けた。ちょうどもうひと皿やってきたのでいただきますしといた。

 

 

「…遠山さんはどないするんですか?」

 

 

「私? そうねぇ、ほかのお店も少し回ってあとは映画でも見て帰ろうかしら」

 

 

目でええ度胸してるなと言ってから遠山さんに今後の予定を聞いたゆんさん。この人、何気にコミュ力高いんだな、昔はガリ勉だったとか言ってたのに。遠山さんの映画というワードにはじめさんがキュピンと反応を示す。

 

 

「あ!今『タイタニック2号』って恋愛映画が評判いいみたいですよね」

 

 

その発言がこの場に初めて静寂をもたらした。

 

 

「……」

 

 

「そ、それよりコメディでもっと評判いいのがあったんやないですかね!」

 

 

「そうそう!ウンウン!」

 

 

八神さんのことを引きずっていると思っているゆんさんと空気を読むスキルに長けているひふみ先輩が掩護する。

 

 

「ううん、ちょっと気になってたのタイタニック2号!見てみるわ」

 

 

「ぜひぜひ感想聞かせてください!」

 

 

遠山さんはパァッとした笑顔で見る映画を決めた。それにゆんさんは驚いてる様子だが、コミュ力上げるのもいいけど人間観察力も上げようねと思う俺であった。

 

 

「サインできました!」

 

 

「あ、いたのお前」

 

 

「いーまーしたー!」

 

 

ずっと喋ってなかったから寝たかと思ってわ

。バンと広げられたノートにはいくつも試行錯誤されて書かれたサインがあるがその中で一際目立つものがあった。青葉の周りに桜が舞っている。おそらく、これが涼風の完成させたものだろう。

 

 

いい感じだねとはじめさんが笑顔でサインを求めるとひふみ先輩もゲームのパッケージを袋から取り出す。俺ももらおうかと思ったが家だわ。

望月は貰わなくていいのかと聞こうとしたら、めちゃくちゃ難しい顔していた。なんかこう(帰ったら私も青葉さんよりいいサインを考えるんだから……!)って感じの。

 

 

「ではここに書きま…」

 

 

「どうしたの?」

 

 

ペンのキャップを外してはじめさんの買ったPECOのパッケージにサインを書こうとした手がぴたっと止まる。すると、涼風はパッケージをはじめさんに返す。

 

 

「ごめんなさい。私大事なことを忘れてました。最初のサインはねねっちにあげるって約束してたんでした」

 

 

「そんなー!あらかじめ予約してるなんてねねちゃんズルい〜!!」

 

 

「むしろヲタクの手に青葉ちゃんのサイン1号が渡らんでよかったわ」

 

 

まぁ、初めてのサインだ。それを親友にあげるというのはとても素晴らしいことだと思う。俺も戸塚に書くか…戸塚PECO買ってないかな。小町は受験だから絶対買ってない。てか、買うな。

 

 

「なので先にねねっちにあげてからで…ごめんなさい」

 

 

「ううん。じゃあ私2番ね!」

 

 

「私は3番…!」

 

 

指を立てて言うひふみ先輩が可愛い。俺はどうしようか。別にいいか。このくだり何回目だ。

 

 

「そうださっき買ったのに書いてねねっちにプレゼントしよう」

 

 

「一番気持ちのこもった最初のサインね」

 

 

「はい!」

 

 

遠山さんにそう言われて恥ずかしそうにしながらも満面の笑みを嬉しそうに浮かべる涼風。サインをカキカキしてるあいだに俺はドリンクを入れに行くとしよう。立ち上がって、ドリンクバーに行く途中で桜と鳴海がこちらに気づいてやってきた。

 

 

「おっすはっちー!」

 

 

「こんにちはー」

 

 

「おう、涼風達なら曲がってすぐそこだ」

 

 

簡単に挨拶を済ませると「了解ー!」と桜と鳴海は右に曲がって涼風達のところに向かう。後から涼風が「最初のサインはねねっちがもらうって約束したじゃん!」と怒鳴る声が聞こえたことから察するに、桜が忘れていたのだろう。

 

 

こうして、最初から最後まで色々あったが。やっとひとつのことが終わった。次は何をするのかと考えるが、分からないし出来れば何もしたくないなと思うあたり俺は変わってないらしい。

 

 

「八幡!ジュース入れたなら早く戻ってきなよ!写真撮るから!」

 

 

そんなに大きな声出したら店に迷惑だろ。と思ったがご生憎さまなことに客は俺達しかいなかったので特に咎めることなく俺は頭を掻きながら彼女たちの待つ場所へと戻った。

 

 

とりあえず。自分にお疲れ様。

次にPECOに携わった人にお疲れ様。

そして、PECOをプレイしてくれる人達にありがとう。

 

 

 

「はい、チーズ!」

 

 

 





その後
青葉ねね、ほたるんと合流(詳しくは新刊買って♡)
他は恐らく有言実行

一方、サイゼ残った組。

紅葉「ポトフ食べたい」
ツバメ「それなら作ろうか?」
八幡「つくれるのか」
ツバメ「はい」
八幡「……」
ツバメ「食べに来ます?」
八幡「!?……いや、でも、その…」
(女の子しかいないとこに上がり込むわけにも…って1回いってるしなんなら裸見たな。うん、何も怖くないな)
「やっぱ行く」
ツバメ「でも、やっぱり今日は外で食べよっか」
紅葉「そうだね」
(は?)
ツバメ「てことで、先輩も食べましょう」
八幡「……まぁいっか」


『俺の後輩達が可愛すぎる件について』

某後輩「私とどっちが可愛いですか?」
八幡「ぺっ」
某後輩「はぁ!?」



……ってなってたらいいなっていう妄想。


お久しぶりです!番外編や他作見てる人はそうでもないかな!
今年初めての更新です。久しぶりすぎて番外編とごっちゃになるところでした。
一応、こっちはハーレムにはならないけどそれっぽくはなるからね。女の子多に男の子1人だったら仕方ないから許してクレメンス!なんでもするから!(なんでもするとは言ってない)


新刊マジで尊いから見て。友達に借りるとかでもいいから。


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どうにも女の子は服を選びたガール。

しょうもない洒落。やめたら?あほくさ
なんでも聞いてくれるけど卑屈に返す八幡ちゃん






 

 

 

「大和です。まずは『PECO』の制作お疲れ様でした。売り上げ評判ともにとても好調です。さて、皆さんお待ちかねのマスターアップ休暇についてですが。今回は短期制作だったため…無しです」

 

 

『え────!?』

 

 

出勤してしばらくすると遠山さんに集まるように言われ、行ってみれば大和さんからそのような報告があった。はじめさんやひふみ先輩やらが大声で驚く中、俺のようにそこまで気にしていない輩もいる。大和さんはこほんと咳払いするとこれからの俺達の動きについて話す。

 

 

「次のタイトルが決まるまでは他のチームの手伝いをしつつ余った時間は各自自習でお願いします。PECO中に休日出勤で増えた分の休暇も早めに消化するように」

 

 

『はーい』

 

 

軽く返事をした後、それぞれの持ち場に戻るよう告げられて席に戻る。その時、大和さんが遠山さんに愚痴をこぼすのが聞こえた。

 

 

「…って、これ私が言うこと?他社の人間なんだけど私」

 

 

「大和さんが言った方が迫力あるかなーって」

 

 

俺もなんで大和さんが言うんだろうと思ったけど、そういうことね。確かに葉月さんとか慣れ親しんだ遠山さんに言われても変わらないだろうが、大和さんが言った方が新鮮味はある。迫力があったかどうかは個人的な所感だろうから知らん。

 

 

デスクに戻るとはじめさんがもうすでに荷物をまとめて帰り支度を終えていた。そして、席から立ち上がる。

 

 

「それじゃあ私はさっそく帰りまーす」

 

 

「え!?まだ昼前やのに」

 

 

「さっき有給消化しとけって大和さんが言ってたじゃん」

 

 

「せやかてせっかく出社してるのにもったいないやん」

 

 

二人の言うことはもっともで、どちらも間違ってはいない。出社してるのにもったいないというゆんさんにはじめさんはアデューと指を立てる。

 

 

「だって私は自転車で近所だし〜!お疲れ!」

 

 

「お疲れ様です」「お疲れです」

 

 

タタタと足早にこの場を去っていくはじめさんに涼風と俺はそう言う。言ってから気づいたが別に今日は何もしてないし疲れてない説あるな。元気そうだったし。それはいつもの事か。

 

 

「なんや最近様子がおかしいな…」

 

 

「アニメやヒーローショー以外に趣味でも出来たんじゃないですか?」

 

 

「そうなんやろか」

 

 

様子がおかしいというか、テンションがおかしいのはいつもの事だし気にしなくていいと思いますよ。席に戻ってマッ缶を飲んでくつろぎながら自習について考える。絵の彩度とかグラフィックの簡単な補正方法と陰影とかもう少し上手くできるようにした方がいいか。あと、プログラムも少々…と考えているとゆんさんに質問しにいく望月。分からないことがあったら聞きに行くあたり真面目だな。

俺は本とかネットで調べてもわからない限りは聞かないし。まぁ、人から教わる方がやりやすいのだろうが俺の場合は人から教わるまでのプロセスに問題があるからな。

 

 

「紅葉ちゃんは研修終わって一度学校には戻らないの?」

 

 

あ、それ気になってた。ずっとインターンシップでここにいるが大学の単位とかは大丈夫なのだろうか。涼風が聞くと望月は顔だけこちらに向けて答える。

 

 

「出勤してればそれが単位になるので。あとなるの方が会社のお給料が止まるとバイトに戻らないといけないのでここにいた方がって」

 

 

へぇ、便利だなインターンシップ。授業に出たらお金と時間が吸い取られるがこっちにいればお金が入ってくるもんな。そりゃいるわ。

 

 

「そうなんだ。短い間でも寂しくなると思ったから安心したよ」

 

 

「ほんとほんと」

 

 

いなくなると俺の仕事増えちゃうからね。望月は要領もいいし手際もいいからほんと助かる。もう俺いなくてもいいんじゃね?いや、それだと自宅警備員しか就職先ないからそれは困るな。

 

 

「……っ」

 

 

何故か舌打ちされた。それの意味がわからず俺と涼風は顔を見合わせるがさっぱりわからない。ゆんさんは苦笑いしてるあたり分かってるようだが。

 

 

「はっち〜あおっち〜、私帰るね。ってか大学行くね」

 

 

「え、ねねっちも?」

 

 

「ちょっとこのままじゃ単位がやばくてさぁ…これじゃあ卒業できないよ」

 

 

唇を尖らせて不満げに言う桜。そういえば、こいつはインターンシップ関係ないんだったか。つまりここでの仕事は単位にはならず出席するなりテストを受けなければあいつは大学を卒業できないわけだ。でも、就職したんだし別にいいと思ったが、女性のプログラマーの生涯は35までとか聞いたからその事を考えるとちゃんと大学を出ておくのが吉なんだろう。

 

 

「だから今日はお疲れ〜!」

 

 

「がんばってね!」

 

 

バイバイ〜と手を振って去っていく桜を見送るとすぐドタドタと走る足音が聞こえて立ち上がって見てみると何やら焦った顔でケータイを持った鳴海が、

 

 

「ねねっちケータイ!ケータイ忘れてる!!」

 

 

と、桜にケータイを届けに行っていた。結局なんだかんだで仲良くなったよな。おそらく、険悪の時期のままならあんなことしなかっただろうに。

 

 

「何笑ってるの気持ち悪い」

 

 

後輩達の友情を微笑ましく思っていると顔に出てたらしく、涼風に若干引いた目で見られる。それを俺は適当に誤魔化してゴミ箱に缶を捨てる。にしても、笑っただけで気持ち悪いって言われるのは相変わらず心外だ。でも、俺の笑顔は本当に気持ち悪いらしいのでこれから笑う時は伏せておこう。そう決心したら、奥のブースからひふみ先輩が現れる。

 

 

「青葉ちゃん!!」

 

 

「はい!」

 

 

呼ばれて椅子に座ってクルクル回っていた涼風は大きく返事をし、それを聞いたひふみ先輩は奥で作業してる2人を見る。

 

 

「ゆんちゃんと...ももちゃんも...!」

 

 

ゆんさんと望月は「?」と後ろを振り向き、ひふみ先輩の言葉を待つ。そして、俺もいつ呼ばれるのかとそわそわしているとひふみ先輩と目が合う。

 

 

「は、八幡も...!お昼...ごはん...一緒に行こうか…!」

 

 

「行くぞお前ら!!」

 

 

ひふみ先輩の号令に従い、俺は3人にそう声をかける。拒否権はないと目線で訴えると涼風にはため息をつかれ、ゆんさんには「先輩にお前言うな」と笑顔で釘を刺され望月に関してはきょとんとしながらついてきた。

 

 

 

###

 

 

そういうわけで会社を出てランチを食べるお店を探す。昼間で社会人の皆様は休憩時間だからか普段でさえ人通りの多い商店街は活気に溢れていた。

その中をイーグルジャンプの女性社員5人と少し後方から俺が歩いている感じだ。あの5人の中に混ざれるほど俺の心臓は強くない。この距離感ならはぐれることもないだろう。

 

 

「ごめんね。特に用事があるってわけじゃないんだけど...」

 

 

「いえいえ、むしろ嬉しいくらいですよ」

 

 

ひふみ先輩の言葉に涼風は首を振る。

あの人に誘われてうれしくない人間とか存在するのだろうか。探せばいるだろうが社内にはいないだろう。

 

 

「なんだかキャラ班の中に私まですみません」

 

 

「ううん、気にしないで...あまり話したこともなかったし...丁度いいと...思うし」

 

 

ひふみ先輩の隣でそう言った鳴海はぺこりと頭を下げる。スマホを忘れた桜に届けにいって戻ってきたところに鉢合わせて望月が誘い共についてきた。こういう多人数は相変わらず慣れない俺はただ聞き耳を立てるばかりで会話には一切参加しない。ところが、鳴海とひふみ先輩が楽しく喋っているとゆんさんがこちらに寄って耳元に口を近づける。

 

 

「八神さんがおらへんからひふみ先輩気を使って誘ってくれたんやないかなぁ」

 

 

「あ、なるほど...」

 

 

言われてみれば確かにひふみ先輩がこうして複数を食事に誘うのは珍しい。大抵は1人か、誘って涼風くらいだ。

それを近くで聞いていた涼風はふと呟くとゆんさんと共にひふみ先輩に尊敬の眼差しを向ける。向けられた方は空気を読む能力に長けているためすぐに気づき驚いて後ろを振り向く。

 

 

しばらく進むと青果店や八百屋の通りをすぎて今度は服屋が立ち並ぶ。女性ものばかりでただでさえ肩身の狭い俺の存在意義が薄れようとしていた。これついてこない方が良かったんじゃないかと思案していると鳴海が展示されている服を見て歩くのが遅くなる。

 

 

「どうかしたか?」

 

 

そのペースは俺が離れた距離から普通に歩いていて隣に並んでしまうくらいで流石に不思議に思った俺は声をかけた。すると、鳴海は苦笑いを浮かべた。

 

 

「あ、いえ...」

 

 

何かありそうだが本人がこうやって誤魔化すのならば下手に詮索する必要は無い。

が、その目はそうは言っていない。前に進んでいたゆんさんは俺と鳴海が付いてきていないのを不審に思いこちらに目を向ける。それに俺は鳴海が何かあるらしいと目線を向けるとひふみ先輩達に一声かけて歩いてくる。

ゆんさんは俺の方まで来ると服をまじまじと見つめる鳴海を見て、何か察したのだろう。1人納得したような顔になると鳴海の背後から左へ移る。

 

 

「この服可愛えな〜」

 

 

前から俺達の方へ向かってきているひふみ先輩に聞こえる声でそう言うとひふみ先輩はある提案を出す。

 

 

「少し...見て行こうか?」

 

 

「いいんですか?」

 

 

「わぁ〜女の子同士で服見るの憧れとったんです」

 

 

手を合わせて喜びを表すゆんさんに涼風は視線を向ける。

 

 

「え?ゆんさんはてっきり慣れてるものかと思ってました」

 

 

「...あ!いや、まぁ...いろいろあるんや」

 

 

そうだ涼風。いろいろあるんだ。人は見た目が100パーセントと言うがそうではない。今でこそゴスロリ衣装や森ガールっぽい衣服に身を包んでいるゆんさんだが昔はそうではなかったのだ。

誰しも、誰かに打ち明けられない過去や思い出があるのだ。特に俺とか打ち明けられないことだらけでいつトラウマスイッチが入るかわからない。

ゆんさんの場合は過去にガリ勉だったのでそういうことをしなかったからとかそういう理由なのだろう。勉強に神経を注いでいて、共に服を買いに行く友達がいなかったからこういう体験をしたかったのだろう。

故にそれがわかっている俺は端の方で「言うなよ?」と恐ろしい目で睨まれることになる。

 

 

「ええなぁこれ」

 

 

「ほんとそのレースとか細かくて素敵です」

 

 

俺が言いませんよと首を振って帽子コーナーを見始めると後ろの方から服を手に取ったゆんさんと涼風の会話が聞こえる。

よく良く考えれば服を見ようという提案の時、俺は何も聞かれなかったな。拒否権はないということだろうか。そもそも、人権があるのかも怪しい状態なのでなんとも言えないが。

とりあえず、こういう時は当たり障りのないものを見て待っておくのが妥当であるが。

 

 

「比企谷先輩」

 

 

「ん?」

 

 

「ももの服選び手伝ってもらっていいですか?」

 

 

こんな風に声をかけられ頼まれたらそうするわけにもいかなくなる。小町に付き合わされることも昔はあったので服を選んだ経験がないことは無いし、断る理由も見当たらなかったので受諾すると鳴海はやった!と可愛らしい笑顔を向ける。目に毒だな。

 

 

「で、どういうのがいいんだ」

 

 

「先輩が選んだのならなんでも着ると思いますよ」

 

 

「それだとこの店の服全部が対象になる可能性があるんだが」

 

 

全部を選ぶわけではないがもし俺がそうしてしまえばそうなるわけだ。かなりの極論だが、鳴海もそれには「そうですけど」と苦笑する。

 

 

「比企谷先輩はそういうことしないって分かってますから」

 

 

そんな無垢な笑顔で言われちゃったら「お、おう」としか言えなかった。鼻歌交じりに見繕っていく鳴海に対して俺は夏物のコーナーをぶらりと回る。

望月に似合いそうな服だろ。いつもあいつがどんなのを着てるか思い出す。

カッターシャツ。パジャマ。タオル1枚。某パン屋の制服っぽい胸を主張するアレ。

だめだ、まともなのを見たことがあまりにも少なすぎる。

買うかどうかは別にして、俺個人で似合いそうな服を選ぶことにした。

 

 

「ゆんちゃんは...こういうのも似合うと思うよ」

 

 

その服を持って涼風達が集まっているところにいくとひふみ先輩がゆんさんに服を勧めてるところだった。

それを受け取ったゆんさんは俯く。

 

 

「こんな大人っぽいの私なんかで大丈夫ですかね...」

 

 

「ゆんさんならそういうのも可愛く着こなせると思うっすよ!」

 

 

そんなゆんさんを励ます鳴海。それが功を奏したのかゆんさんは穏やかな表情を浮かべる。

 

「こ、こうやっていつもと違う服を選んだりするんやね」

 

 

「ふふふ」

 

 

笑顔のゆんさんにつられて涼風も微笑む。ああいう風に笑顔が可愛らしいやつは羨ましい。人前で声を出して笑えるのだから。

そういえばと手に持っていた服を思い出し望月に渡そうと辺りを見渡すが姿が見えず、鳴海に声をかけようと集団に近づくと試着室から「なる...」と望月の声がした。

 

 

「小さかった...」

 

 

「え、うそ!?」

 

 

手招きされて望月のいる試着室の前に行くと「他にどれがいいと思う?」という質問に鳴海は「そうだな〜」と展示されてる服や陳列されてる服を見渡し俺に目をやる。

 

 

「あれとか」

 

 

「あれ?......!!」

 

 

にやけながら俺の方を見る鳴海に、鳴海の向く先に目を向けた望月は俺を見るなり身を引っ込める。

 

 

「ははは...先輩それ貸してもらえます?」

 

 

「あぁ...」

 

 

なんか悪いことをしたようないい顔を見れたような。そんな入り組んだ感情を出さないようにしつつ鳴海に服を渡す。

 

 

「へぇ...いいですねこれ」

 

 

渡された服を広げて見る鳴海は感嘆の声を漏らす。期待してたわけではないが予想を上回って驚いたのだろう。頼まれたことはしたので離れようとした時、近くにあった棚からカジュアルな模様のセーターを見つけた。

 

 

「あとこれ」

 

 

2枚取って渡すと鳴海は「え?」と困惑顔になる。

 

 

「お前と望月の分だ。望月の服ばっかりで自分の服選んでないんだろ」

 

 

そう言ってその場から離れると聞こえるか聞こえないくらいの声で「…ありがとうございます」と鳴海が呟くのが聞こえた。気にするなと手を振って、試着コーナーから遠ざかろうとするが突然後ろから服の首元を掴まれ足を止める。

 

 

「どや」

 

 

「ふふーん」

 

 

つっかえそうになった喉を抑えながら振り向くとひふみ先輩がゆんさんに似合うと言っていた青と白のギンガムチェックの服を着たゆんさんと涼風がドヤ顔でアピールしてきた。

どういう反応を見せればいいんだこれ。普通に似合ってると思うが…。

 

 

「!?……ど、どうかな...?」

 

 

言葉のチョイスに悩んでいると真横の試着室のカーテンが開き、中から同じ服を着たひふみ先輩が出てくると俺を見て後ずさるともじもじしながら聞いてくる。それにまたも俺は言葉に困ったが、感想はすんなり出てきた。

 

 

「いや、そのまぁ、よく似合ってるんじゃないですかね…」

 

 

「あ、ありがと...」

 

 

お互い照れくさくなって顔を背けるとその先にはジト目を向けてくる二人の姿があった。

 

 

「なんなんでしょうかこの差...」

 

 

「個体差や」

 

 

二人に対して感想を言わなかった俺への抗議ではなく単にひふみ先輩のポテンシャルに対する、なんだろう。尊敬でもないし嫉妬している感じでもない。驚いてる、という言葉が適切かもしれない。

まぁ、個体差というかちょうど胸のある当たりに上下に引かれた線がある部分を強調していたから、明確な差がでたことは言わない方がいいだろう。

 

 

今度こそここから離れようと歩き出すと「比企谷先輩」と声をかけられる。またかと引き返すとそこには白い襟、胸元から伸びる赤いリボン、少し裾の余ったブラウニーの服、水玉とレースの組み合わさったスカートを綺麗に着こなす後輩の姿があった。

 

 

「どうです?先輩の服を着たももの姿は」

 

 

「そうだな、可愛いんじゃねぇの」

 

 

服がお淑やかで普段の気の強さはなりを潜めてるように見えるし、それに恥じらう姿も中々にキュートだ。これなら大体の男はたじろぎ、彼女に目を奪われることになるだろう。

 

 

「...ありがとうございます…って、これなるが選んだんじゃないの!?」

 

 

「そう言わなかったっけ?」

 

 

顔を紅潮させて尋ねる望月に鳴海はとぼけて見せる。ぐぬぬと肩を震わせると望月は鳴海を同じ試着室に連れ込みカーテンを閉める。

中からは「な、何するの!?いきなり脱ぐなー!ちょ!脱がすなー!!」と鳴海の悲鳴にも似た声が聞こえるが自業自得だろう。これは待っておいた方がいいのだろうかと頬をかいていると二人揃って同じセーターを着た鳴海と望月がでてくる。

 

 

「ど、どうですか?」

 

 

白主体の生地に黒であしらわれた様々な模様を着る鳴海は若干息を上げてそう聞いてくる。対して、黒主体で白の装飾を施された鳴海とついになるセーターを着た望月もきょとんとしつつ目線では服の感想を聞いていた。

 

 

「オシャレ!」

 

 

俺よりも先に答えたのは隣で見ていた涼風が答える。そうだなと便乗すると2人から訝しげな目を向けられる。悪いけどファッションセンス皆無の俺からいつも感想を貰えると思ったら大間違いだ。伊達にお兄ちゃんとは服を買いに行きたくないと言われてるだけはある。

 

 

その後、各々服を買ってホクホク顔で店から出てきた5人は「買うつもりがなかったのに買っちゃいましたねー」という涼風に同調する。

 

 

「ひふみ先輩今日は楽しかったす」

 

 

特に新しい服をいくつか見繕えた鳴海は嬉しくあり楽しかったのか満面の笑みをひふみ先輩に向ける。ひふみ先輩もその反応が嬉しかったのか満足そうな顔だ。

まぁ、こんな空気であまり言いたくなかったのだが俺は時計を出すと全員に見せびらかす。

 

 

「どうしたんや、新しいのでも買ったんか」

 

 

鈍いなこの人。そうじゃなくてと、時計の針を指さすと気づいた涼風はぽかんと口を開けた。

 

 

「あ、時間...」

 

 

『あ!!』

 

 

それで気づいた残りの面々は服の入った袋を持って商店街を全力疾走で走っていく。その後ろで俺は手に持っていた携帯を耳に持ってくる。

 

 

「行きましたよ」

 

 

『そう...で、君は?』

 

 

「俺はコンビニで飯買ってから行きます。ついたやつに何か買ってきて欲しいものあれば連絡するように言っといてもらえませんか」

 

 

事前に昼休憩が終わる5分前くらいに遠山さんに電話した。伝えると遠山さんは「忙しくない時期だからあまり咎めない」とは言うものの少し怒っている様子だった。

 

 

『わかったわ。でも、就業時間は守ってもらうわよ』

 

 

「やっぱりですか」

 

 

『当たり前よ』

 

 

クスッと笑って答えた遠山さんに俺はため息をこらえて「かしこまりです」と返すと近くのコンビニに入る。電話を切って涼風達の連絡を待ちながら自分の昼ごはんを選びながら最初遠山さんに電話した時に聞かれたことについて考える。

 

 

『どうしてみんなにその事を言わないの?』

 

 

服選びに夢中になっている彼女らに声をかけるのは躊躇いがあったし、昼休憩の終わりが迫っているのにも気付いたのは10分前でレジにいたので特に急かすこともなく待つことにした。そして、昼飯を買ってない食べてない彼女らは会社に帰って空腹のまま仕事をするのは集中力が欠如してあまり合理的ではないだろう。

そこで俺の出番である。1人で先に帰れば会社には十分に間に合ったが、1人だけ抜け駆けするのは俺らしくあるがそうするべきでないと判断した。普段のように建て前は色々と出てきた。

しかし、本音を言うならば同僚達の楽しむ顔が見たかったから。結局それは口にすることなく俺はどう答えたのだったか。

いつくるかわからない連絡を気長に待ちながら俺はコンビニのお弁当コーナーの前でただただ待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連絡はちゃんと来たから安心してほしい。





長いなと思った人は申し訳ない。
オリジナル要素入れてたら長くなってしまった。
どうせお気に入り下がるしいいかなと思ってしまうこの頃。
本編に関しては毎週水曜日の不定期更新です
最新話として投稿できる嬉しみを存分に味わいます


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かなり真面目に篠田はじめは考え込む。

原作ある分話は組み立てやすいというか組み上がってますがそれをどう表現して八幡を絡めるかで悩む。今回はオリジナル少なめというかほとんどないです。すみません!


 

 

 

 

ヒューヒューと木枯らしが吹くこの季節。ホットなコーヒーが美味しく感じられて、かつ心も体も温めてくれる。ほんとコーヒーを温めるという発想に初めて着手した人間は天才ではないだろうか。

別にコーヒーに限らず、紅茶もハーブティーも寒い時期ならばホットにして飲むと普段と違う格別な味を得られる。まぁ、どっちもアイスは飲んだことないから比較したことはないが。

 

 

湯気が消えて温くなったコーヒーを啜りながら休憩スペースに向かう。昼飯を食べ終えたが、何か物足りないので冷蔵庫に何かないかなーと見に来てみれば机の上をじっと見つめてため息を吐くはじめさんとその様子を伺うゆんさんと涼風の後ろ姿が目に入った。

 

 

「な?ここ数日ずっとあーやねん」

 

 

「恋...ですかね」

 

 

「んなアホな」

 

 

何か思いつめる姿はそうも見えなく無いが、そういうことならわりとすぐにゆんさんになら相談しそうだが。あと、女の子は悩んでる人を見るとどうして恋という発想に行き着くのだろうか。ほら、もしかしたらもっと別のことかもしれないでしょ。これ以上先は言うと保身に関わる気がするから言わないでおくが。

スーッと2人とはじめさんの間にある冷蔵庫を開けるとあるにはあったが俺のものは何も無かった。マッ缶はたんまりあるが、菓子類やデザートはない。仕方なく冷蔵庫の上にあるラングドシャの袋を開ける。その音でこちらに気づいたのか涼風と目が合った。

 

 

「あ、八幡。いたんだ」

 

 

「いたよ」

 

 

さっき来たばかりだがな。はじめさんの思考の邪魔にならないような場所に座ろうと歩き出すと不意に名前を呼ばれる。

 

 

「...八幡、ゆん、青葉ちゃん」

 

 

「わっ、バレとった!」

 

 

あんな俺にも聞こえる会話をしておいて気づかれてなかったと思ってたゆんさんは焦ったような声を出すがそれに対してはじめさんは至極落ち着いていた。

 

 

「ゲームって...なんだと思う?」

 

 

唐突に投げかけられた質問に3人で顔を見合わせるも全員が当惑した表情を浮かべる。なんとか取り繕って涼風が口を開いた。

 

 

「な、なんですか突然」

 

 

「ここんとこ様子がおかしかったけどどないしたん?」

 

 

続いてゆんさんが質問を投げかけるとはじめさんは視線を上から下へとスライドさせた。

 

 

「どうしたもこうしたも...ずっと新作の企画書を書いてるんだけど...」

 

 

「ほうほう」

 

 

「書いても書いてもボツボツボツ...葉月さん厳しくてさぁ...」

 

 

一気に肩を落として一番のため息をつくはじめさんにゆんさんは納得したような顔をするもすぐにジト目を向ける。

 

 

「なるほど、それで腑抜けとったんか」

 

 

「真剣に考えてたんだよ!!」

 

 

まるで漫才だな。

 

 

「つまり、企画書を通すためにゲームとは何かについて考えることにしたんですか?」

 

 

クッキーを1枚掴んで口に入れ尋ねるとはじめさんは首肯する。とりあえず、はじめさんの前に移動すると涼風がゆんさんとはじめさんにコーヒーを持ってくる。俺は中央にクッキーを置いて席にかけようとすると奥から望月がやってくるのが見えたのでもう1つ用意してやろうと立ち上がる。

 

 

「うーん、ゲームとは...暇つぶし?」

 

 

「おいおいそれがゲーム開発者の言葉か」

 

 

まず涼風が少し首をひねって考えて出したのをはじめさんは呆れた様子で言う。まぁ、PECO考えたのこいつだしな...。

 

 

「結局娯楽ですもんね。でも面白いゲームをやれたらその日が少し楽しくなるかも」

 

 

「そうそうそういうことだよ」

 

 

そうが多いなぁ…。まぁ、概ね同意するが楽しいゲームってのは1日で終わらせたくなるもので寝る間も惜しんでエンディングまでいっちゃうんだよなぁ。しげしげと昔やった数々の名作たちを思い出しているとゆんさんは涼風の意見に何かあるようで口を開く。

 

 

「せやけどそれなら漫画とかアニメとかドラマも一緒やん」

 

 

「そうなんだよね...」

 

娯楽という点においては同じだが、根本が違う気がする。漫画は紙という媒体で、アニメやドラマは映像、音声、演出で魅せる。ゲームも同じだが。

 

 

「でも、ゲームにはそれらにはないものがあるでしょう」

 

 

俺が言うと3人は揃って「?」を浮かべる。仕方ないな、では俺が答えを言ってやるとしようそれはね!と調子よく言おうとした刹那、正解を別の人物にかっさらわれた。

 

 

「ゲームは体験です」

 

 

「わぁ!?びっくりした!」

 

 

突然現れた望月に驚くはじめさんだが、俺たちの見てる側からは望月が来てるのが丸見えだったので驚きはしないし、なんなら既にコーヒーの準備は出来ていた。ほいと渡すと「ありがとうございます」と受け取る。お礼がちゃんと言えるなんて流石だね!これくらいで褒められる世界になんねぇかなと思っていると望月は俺をじっと見る。

 

 

「...どした」

 

 

「いえ、ゲームにしかない魅力の答えが合ってるかなと」

 

 

あ、そういうこと。それなら大正解だ。親指を立てると望月はふふんと得意気に笑う。これそういう勝負じゃないから。

 

 

「どゆこと?」

 

 

「ほら、アニメやドラマは一方的に見るだけだがゲームってのは自分でやるだろ」

 

 

選択肢が出てそれを選ぶことによりゲームが進行する。アニメやドラマにはない魅力だろう。大抵のゲームは選択肢によって生死が分かれてたり、攻略できるヒロインが変わったり、会話内容が違ったりする。そういう発見もゲームの醍醐味だろう。

 

 

「私はそこが好きです」

 

 

俺は大いに肯定出来るが残りの3人はポカンと口を開けたまま望月を見ると当の本人は居心地悪そうな顔をする。

 

 

「な、なんですか?」

 

 

「まだ正式な入社前の新人ちゃんに諭されるうちらって...」

 

 

「情けないですね...」

 

 

不甲斐なそうに顔を合わせるゆんさんと涼風に対して、褒められたのかよくわからない望月は顔を赤くするだけで無言で2人をみていた。

ゲームを楽しんでるだけならそんなことは考えないだろうから普通の反応だと思うが。

さてそれを聞いたはじめさんは顎に手を当てると真剣な目付きで呟いた。

 

 

「では選択肢のないゲームはゲームではないのか...。ゲームではないといけない理由とは...」

 

 

「食いつくな...」

 

 

新たな問題提起にまたもジト目を向けるゆんさんを無視してはじめさんは望月の方に顔を向ける。

 

 

「ももちゃんはキャラデザがしたくてゲーム業界にきたんだよね?」

 

 

「はい」

 

 

問われて答えた望月は理由も続ける。

 

 

「絵を描くのが好きだったので。あとフェリーズ1をやって八神さんみたいなキャラデザができたらなって」

 

 

「私と一緒だよね」

 

 

コクコクと笑顔で頷く涼風。すげぇな八神さん。2人の人間に影響与えてるよ…。軽く感銘を受けていると熱のない声音ではじめさんが望月に迫る。

 

 

「それはゲームじゃないとダメだったの?」

 

 

「え?」

 

 

「キャラデザなら漫画とかでもいいわけじゃん」

 

 

まぁ、ごもっともな意見だとは思うが、八神さんと同じ職場で働きたいならここじゃなきゃダメなんだろう。俺は別にどこでもいいけど。

 

 

「ああもう!面倒臭い!」

 

 

はじめさんの真面目かつ言い返すのが嫌になったのかゆんさんははじめさんの手をがしっと掴むと無理やり引っ張っていく。

 

 

「少し外の空気を吸った方がええ!いこ!」

 

 

力強い歩みで進んでいくゆんさんに「ちょ、ちょっと〜!」と困り気味ではあるが抵抗せずに引っ張られていくはじめさん。そのまま帰ってもいいんじゃないですかね。と辛辣なことを考えていると前で望月がふと呟いた。

 

 

「でも...ゲームは好きですけど確かにこだわる理由ってなんなんでしょうか。それに機会があれば別の媒体でもキャラデザはやってみたいです」

 

 

「ええ!?」

 

 

望月の言葉にショックを受けたような声を出す涼風だったが少し間を空けたところで頬をかいて苦笑を浮かべる。

 

 

「......って私もそこは否定しきれないかも...」

 

 

「ですよね」

 

 

はじめさんの言うようにゲームだけがキャラデザの場ではない。アニメや漫画はもちろん、ドラマでもオリジナルのキャラクターを作る時などは重宝するのだ。それに俺達の業界だと同人誌を出すという手もある。流石にイーグルジャンプ関連のものは社員だから版権の問題で無理だろうがそれ以外なら可能なはずだ。まぁ、同人誌にするくらいの絵を描く時間がどこにあるのかという話だ。あるにはあるがまずやる気がない。

 

 

 

「青葉さんの今の目標ってなんなんですか?」

 

 

「え?」

 

 

望月が真摯な目で涼風にそう問いかける。

 

 

「夢、叶いましたよね。キャラデザの次はメインビジュアルも含めたキャラデザですか?」

 

 

どこか棘のある言葉。しかし、望月の言う通り涼風は八神コウと同じ土俵で仕事を達成することが出来た。ならば、次の目標はなんなのか。尋ねられた涼風は「私は......」と俯きカップを両手で握る。そして、顔を上げると自信や希望に溢れた顔でこう言った。

 

 

「1回やったくらいじゃ...まだまだ物足りないよ」

 

 

そういえばこいつはそういうやつだったか。目の前に壁があれば乗り越えて、逆境ですら自分の成長の糧にしてみせる。どんなくだらない発想も地味な発見でも大きな力に変えてみせる。少年マンガの主人公のように聞こえるがやってることはキャラデザインで戦いとかは関係ない。いや、あるのかもしれない。実際、望月からは対抗心を燃やすオーラが向けられている。

 

 

そんな2人は2人きりにしておくとして、俺は自らの席に戻るとしよう。ほらライバル同士は2人だけにするのが一番いいって言われてるから。ただ単にいる理由が無くなった俺に火の粉が来ないようにしたかっただけなんだけどね。

 

 

###

 

 

ブーンと出すものを出してデスクに戻ってくるとなんだか俺のいない間に色々集まってて大盛り上がりしてた。具体的には涼風と桜がゲームをしててそれをうみこさんやゆんさん達が見守っていた。

他のメンバーの邪魔にならないようにまるで保護者のような佇まいのうみこさんに耳打ちで話しかける。

 

 

「何してるんですか」

 

 

「PECOを改造しながら会社で使っているエンジンの練習です。桜さんが作ったんですよあれ」

 

 

はぁ、なるほど。前半がよくわからん。つまり、どういうことだってばよと画面に目を向けるとクマがほかのクマを吸収して大きくなっている。共食いか。クマの世界も厳しいもんだな。弱いものは喰われ強いものだけが残る。弱くても有能かもしれないのに。

 

 

「なんだかねねっちがプログラマーだなんて今考えても不思議な気がするよ」

 

 

「えーなにそれー」

 

 

軽く冗談のように言う桜は唇を尖らせる。

 

 

「そりゃ最初はなんとなくだったけど、私は今の自分にできることを一生懸命やるだけだって決めてるからそれだけだし!」

 

 

桜が真面目なこと言ってる...俺の中で衝撃が走る。他の面々も桜を凝視するとゆんさんがクスリと笑う。

 

 

「小難しいことよりそれが一番だいじなのかもね」

 

 

「ですね」

 

 

それに同意する涼風に何のことかよくわかってない桜は「え?え?」と2人の間を目が行き来していた。

 

 

「皆ちょうどいいわ」

 

 

「あ、遠山さん」

 

 

声の主の方を振り返れば遠山さんがスマートフォンを持ってこちらにやってくる。

 

 

「これコウちゃんから写真が送られてきて。青葉ちゃんやみんながみたら喜ぶかなって」

 

 

はい、と渡されたスマホの画面を見るとクマの着ぐるみを着た小さな女の子と八神さんが笑顔で写っていた。

 

 

「コウちゃんのホームステイ先の女の子がPECOにハマっちゃって自分で作ったんですって」

 

 

「え、これ自作なんですか」

 

 

思わずそんな言葉が漏れてしまった。この子本人が作ったなら大したものだが、おそらくはこの子の両親のどちらかだろう。え?八神さん?あの人にこれが作れるなら遠山さんはいらなくなるからダメですねはい。

 

 

「こんな遠い国の女の子にまで届いてるんですね…」

 

 

涼風が感動して頬を赤くして柔らかい笑顔でそう口にした。まぁ、ゲームは言語を超えるからな。外人のコスプレにはゲームキャラやアニメキャラが多いがどれも日本のものだ。それだけ日本のサブカルチャーが優れているということが、同時に愛されているということでもある。

 

 

「よーっし、私も負けてられない!頑張ろう!!」

 

 

「その意気や!」

 

 

おぉー、っと気合を入れて立ち上がるはじめさんにゆんさんは拳を握る。それを傍目で見ながら他になんか写真送られてるんだなと指をスライドしてるとうみこさん程ではないが少し焼けた肌の人が八神さんと肩を組んでいる写真になる。あ、これはとなんとなく危機感を覚えたが既に遅く涼風は嬉嬉として口を開く。

 

 

「あ、この人が八神さんの上司ですか?」

 

 

「距離が近いですね」

 

 

「やっぱりそう思う!?」

 

 

悲鳴のような声で遠山さんは俺からスマホを取り上げるとぱぱっと写真を見せると「これも!これも!近くない!?」と俺に問うてくる。あぁ、やっぱりこうなると思ったよ。みんなはめんどくさい空気を察したのか俺一人に任せて散り散りになって自分のデスクに戻る。あれれー?おかしいなー!?さっきまでたくさんいたのになー?

そんな俺の疑問は誰にも届かずひたすら遠山さんに「ねぇ!このコウちゃん可愛くない!?」と自慢される時間を過ごすのだった。




遠山さんの八神さん愛は爆発だ!
それに巻き込まれる八幡、ご臨終です。


眠い。夜は眠れないのに朝はぐっすり寝れる。生活リズムが崩れてきた。


次回はほたるんと紅葉回。登場人物が少ないと八幡絡めやすいからほんと楽...


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意外と星川ほたるは歩み寄ってくる。

ほたるちゃん顔は戸塚に似てね?(疑惑)
てか文字数多いなぁ...これ2話に切った方がよくね?
これから6000文字超えたら区切ろうかにゃ...
スクフェス無料11連で推しのSR以上出ないんだけどキレていい?(予約投稿日時点で)
あと天竺イベはキツいからやめちくり。はよCCCコラボ復刻かApocryphaコラボ(多分GW)はよ。


次回予告どおり紅葉とほたる回。でも、メインはほたるにしてます。
かわいいよね、早めのほたるん。


 

もうすぐ春かと思ってたらまだクリスマスも終わっていない。紅葉が散ってから日は浅く、時の流れとはここまで短かったかと感じさせられる。

クリスマスまであと何ヶ月かを考える過程でふと、あることに気付く。冬はリア充向けのイベントが多すぎることに。

 

 

ハロウィンにクリスマス、お正月にバレンタイン。締めにホワイトデーときたもんだ。

こんなにイベントばかり詰め込まれてはお父さんお母さんの財布が持たないし、ゲーム会社はそれ用に配布やら新作ストーリーを作らねばならない。

 

 

そもそも、これらの行事がリア充達のために作られたかといえばそうではない。

まずハロウィンは確か豊作を祈る行事で仮装大会とかお菓子くれないとイタズラしちゃうぞなんかはメインではないはずなのだ。それでも最近では渋谷や新宿の街がコスプレしたパーリーピーポーで溢れかえるのが現実である。

 

 

次に言わずと知れたクリスマス。玩具業界の策略によって計画されたのではないかと疑いたくなるこのイベントも結果的には子供を夢を与えつつ後々粉砕して子供の成長を促してるあたり良いことなのかもしれない。それにクリスマスがなければサンタクロースはいなかったし、サンタクロースがいなければイヴ・サンタクロースも生まれてなかっただろう。

 

 

正月に関しては新年を大切な人と迎えたいだとかがあるのかもしれないが、それが来年にはいなくなっていたらショックなのではないだろうか。どうして自ら自分の傷口を抉りに行くのか理解しかねる。隣にいる人間が明日もそこにいるとは限らないという名言を知らないのだろうか。

 

 

んでもってバレンタインな。世の中の男子を一喜一憂させるイベントであるがクラスでぼっちやヲタクよりの人間には忌まわしいことこの上ないイベントである。わざわざ女の店員さんのところでチョコを精算し「やった女の人からチョコもらった!」と負けるよりも悲しきことをする男子学生はどれだけいるのだろうか。まぁ、俺は問題ない。妹がいるからな。

 

 

ホワイトデーに至ってはバレンタインにチョコがもらえないと何も無い日と相違ないので非リア男子にとっては最も必要ない日であろう。まぁ、この日はギリギリ春に入りそうだが、3月なので誤差の範囲。つまり冬だ。俺が冬のイベントといえば冬なのだ。

いつからそんな決定権を持ったのかはさておき、未だに冬の寒さには慣れない。というか、一生慣れない気がする。

 

 

人は寒暖差に対応するために衣服を纏うことを選んだが故に裸に興奮を覚えるという性癖を会得した。普段見慣れないものだから物珍しく色欲が募ってしまうのだろう。

よって今の季節は春と夏の薄着に備える季節と言える。違うか、違うな。

 

 

「あ、八幡くん」

 

 

外をほつき歩いて枯れた広葉樹を眺めているとあまり見かけない知り合いに遭遇した。その知り合いは俺の顔を見るとニコリと微笑み、俺は誰だったかなと思い出すために名を呟く。

 

 

「星川...」

 

 

「うん、久しぶり八幡くん」

 

 

それを挨拶と解釈したのか手を振って少しばかり急ぎ足で近づいてくる。確かに随分と久しぶりな気がする。最後に会ったのはいつだったか...覚えてないな。まぁ、星川との繋がりは涼風だし。つまるところ、星川から見た俺は涼風の同僚で俺から見た星川は涼風の友達。繋がりが近いようで遠い。故に会う機会は滅多にない。

 

 

「いつ以来かな」

 

 

「あーさぁ」

 

 

多分正月以来なんじゃないだろうか。知らないけど。お互いに連絡先も交換してないし、社会人と大学生とじゃほんとに接点が少ないからな。

大学生...?思い当たってちらほら周りに同じ方向に足を向ける俺と同い年くらいの人たちを見かけて確信した。

 

 

「大学この辺りなのか?」

 

 

「うん。そこの美大」

 

 

確認のために一応聞いておくと当たりだったようだ。しかし、星川は「言ってなかったかな」と首を捻る。それをスルーして離脱を試みるが星川はあまり気にしておらず「そうだ」と手を合わせる。

 

 

「今日暇かな?もしよかったら私の描いた絵見て行ってよ」

 

 

「星川の?」

 

 

「そうそう」

 

 

興味はあるが、休みの日を潰してまで見たいとは思わない。が、何か用があるわけでもない。外に出たはいいがコンビニで立ち読みしてからは適当にぶらついてただけだし。

 

 

「まぁ、少しくらいなら」

 

 

「よし、じゃ行こっか」

 

 

言われて星川の後から続くように歩いているとぴたっと星川の足が止まったので俺も歩くのをやめた。すると、星川はとてとてとこちらに歩いて横に立つ。

 

 

「行くよ」

 

 

「あぁ」

 

 

そして、また歩き出す。それに俺はまた追うようにして歩き始めると星川はまた立ち止まると今度はため息をついた。

 

 

「なるほど。あおっちの言ってたことがわかった気がするよ」

 

 

何言ってたのか知らんけど碌でもないことには違いないな。ふるふると顔を振って2度俺の横に立つと唐突に手を絡めてきた。それにおどろいて仰け反るも星川は離さず手を握ってくる。

 

 

「うん、八幡くんにはこれくらい強引の方がいいかな。よし、今度こそいくよ」

 

 

何か呟くと星川は俺の手を引き3度歩き出す。共に横並びで歩いていると周りから奇異な視線に晒され星川に小声で話しかける。

 

 

「おい、いいのか?」

 

 

「何が?」

 

 

「いや、周りめちゃくちゃこっち見てるぞ」

 

 

「あー、別にいいかな。慣れてるし」

 

 

 

慣れてる?え、慣れてんの?まさか他にも男の人と手を繋いで大学に通ってるのか。とてもそんな風には見えないが。

 

 

「絵のコンクールで賞とか取ると色んな人に見られるから慣れちゃった」

 

 

あぁそっちね。でもこれは色々と違うと思うんですがね。ジト目を向けても星川はそのことに気付いていないのかずんどこ歩いて大学へと進む。

その途中で星川のポケットから振動音が聞こえ手が離れると思いきや、星川は空いた右手でスマホを取り出すと画面を見つめるとキョトンと瞬きを繰り返す。

 

 

「どうした」

 

 

「なんか私を探してる子がいるらしくて」

 

 

星川を?顔を見合わせて首を傾げてもどういうことかよく分からない。とりあえず星川を探している子が大学まで来てるらしいので気持ち早歩きでそこに向かう。

 

 

「てか、お前探してるのって男なの女なの?」

 

 

「女の子って書いてたけど、どうして?」

 

 

「いや別に」

 

 

もし男で悪質なストーカーだったり、星川に好意を抱いてる男子だとしたら俺と手を繋いでるこの状況を見たら発狂するんじゃないかと危惧しただけだ。そしたら最悪俺か星川が被害を被ることになるしな。

女だからといって安心はできない。一応、注意深く目を凝らしながら大学の門を潜ると星川のキャンパスメイトらしき子が「あっちだよ」と指を指す。その方向に目を向けるととても見知った顔がいた。

 

 

「あ、星川ほたる...さん...!?」

 

 

そうやって驚愕にも似た悲鳴のような声を上げたのは俺の後輩にあたる望月紅葉だった。なんでここにいるのお前。

 

 

「私になにか御用ですか...?」

 

 

おずおずと尋ねる星川に横で俺は居心地悪く肩がこったから首を巡らせて望月の視線から逃れようと頑張っていた。尋ねられた望月はというと「あ、えっと...あの」とテンパりつつもどうにか頭を下げる。

 

 

「望月紅葉といいます。涼風青葉さんとそちらの比企谷八幡さんの後輩で春からイーグルジャンプに入社予定です」

 

 

言われた星川はこちらを向くと「そうなの?」と視線で聞いてきたので「まぁな」と頷く。丁寧に社員証も出してきた望月に俺は関心しつつも、望月の視線があるところに注がれていた。

 

 

「てか、大学ついたんだしそろそろ離してくれよ」

 

 

「あ、ごめん」

 

 

やっとこさ離れた手に、俺は安堵する。良かった。知り合いに見られてるとどうにも落ち着かなくてあと数秒遅かったら手汗が脱水症状になるレベルでドバドバ出てるとこだった。

 

 

「えっと、あの、星川さんと比企谷さんって…」

 

 

「あ?ただの知り合いだよ」

 

 

「え?友達じゃないの?」

 

 

望月の質問に普通にそのまま返すと星川が不満げな目になる。いや、友達ってほど遊んだり会話もしてないし。そもそも曖昧な意味づけの言葉だからそれ。まぁ、俺と星川がお互いにお互いのことを友達と思えるようになれば友達と言ってもいいだろうが少なくても俺はまだそういう気分じゃない。

 

 

「で、どうしたんだ望月は」

 

 

「あ、はい!すごく上手いって聞きました。星川さんの作品を見せて頂けませんか!」

 

 

「......」

 

 

熱心に話す望月に気圧されたように黙った星川だが、すぐにニコリと笑うと「いいよ」と明るい返事を返す。それに望月もパァっと笑顔を見せる。持っていた紙を丸めてカバンにしまい込むと望月と星川は足を進める。

そして、俺はというと星川に手を握られて羞恥心を煽られるのが嫌なのでその隣に続くのだった。

 

 

 

###

 

 

 

美大の中というのはどこもかしこも彫刻やら巨像が置いてあるわけでもなく、閑散としたところもあれば俺の思った通りのイメージの場所もある。男が珍しいのか俺は通り過ぎる女子大生達にチラチラと不審者を見るような目で見られるが慣れていることなのであまり気にしていない。ほんとに。気にしてないから。

 

 

ガララと微妙に立て付けの悪い引き戸を開けると部屋には様々なキャンパスが置かれていたがそのどれもに生命が吹き込まれているような、そのように形容できる絵がゴロゴロとその部屋の中には存在した。

 

 

「あおっちに言えばもっと簡単に会えたのに」

 

 

「青葉さんがいるとペースを持っていかれたので」

 

 

2人は部屋に入るなりそのような会話をする。俺はというと目の前に広がる多種多様な絵に息を呑むばかりだ。

 

 

「いつもここで描いてるんだ」

 

 

「へぇ」

 

 

ということはこれらのほとんどが星川1人で描いた絵ということだろうか。もしそうならば恐ろしい。こいつが卒業したらどの業界に進むのかさておき、いずれ巨匠とか言われる未来が見える。その頃俺はというとどこかで野垂れ死にしてるかもな。あるいは星川とか八神さんみたいなやべー人の下につくか。働きたくねぇな…。

 

 

「それ、丁度今描いてて」

 

 

星川が言ったその絵の前に立った望月は無言ではあったが、目を輝かせていた。青空の下の花畑で笑顔を咲かせる女の子。その姿は最近発売したゲームに出てくるキャラにとても似ているように思えた。

 

 

「あの!他にも見せてもらってもいいですか!」

 

 

「うん、どうぞ」

 

 

またも望月の勢いに押されて引き気味の星川。望月は手当り次第に机の上にあるスケッチブックや紙の束を手に取りパラパラと捲る。俺は俺で油絵や不透明水彩、透明水彩で描かれた美しい風景画や色鉛筆だけ使った模写や人物画を見て「へー」とかそんな誰でも言えそうな感想を漏らしていた。

 

 

「これ...アニメ!?」

 

 

「うん、ちょっと気になって」

 

 

ほぇーアニメ描いてんのか。驚く望月の横から覗いてみると紙の束をパラパラと1枚1枚捲るとキャラクターが動いている。こいつ何でもやるんだな。

 

 

「ここにあるもの全部星川さんの作品ですか?」

 

 

「そうだよ」

 

 

絶句。まさかのここにあるもの全てとは思わず唖然としてしまった。

 

 

「お前絵描くの好きなんだな」

 

 

「うん...それくらいしか取り柄がないし」

 

 

頬を居心地悪そうにかく星川に俺はそんなに自分を卑下せんでもと思うが、聞いた話では運動はダメらしいし学力も普通くらいと桜が言っていたことから本当に絵にしか情熱を注がなかったのだろう。それにこれだけの量の絵を描くというのは才能や努力だけではできまい。大方、こいつはお絵描き大好きフリスキー人間ということか。

 

 

「星川さん!!」

 

 

「はい!」

 

 

「私の作品も見てもらえますか?星川さんみたいな天才からしたら...下手に見えるかもですけど」

 

 

望月がカバンからスケッチブックを出すやいなや星川はムッとした顔でそれを断る。

 

 

「なら見ない」

 

 

「!?」

 

 

「自分の作品を下手だなんて言ったらいけないよ。作品が可哀想だよ」

 

 

「...ご、ごめんなさい」

 

 

萎縮して謝る望月。いや、星川の絵みた後だと大抵のやつは自信を失くすと思うんだが。けど、さっきのはてっきり『天才』ってワードに引っかかったんだと思ったがそうでもないらしい。星川は笑うと望月からスケッチブックを受け取ろうと手を伸ばす。

 

 

「よろしい!じゃあ見せてみて」

 

 

「どうぞ...」

 

 

おずおずと渡して、それを開いて見る星川。

自分の作品を見られていて望月は冷や汗を浮かべながら落ち着かない様子だ。気持ちはわからなくもない。俺も他人に自分の作品やら作文を読まれてる時はいたたまれない気分になったものだ。

 

 

「少しここでお互いの顔を見ながら鉛筆で描きあいっこしてみようか」

 

 

「え!?」

 

 

スケッチブックから顔を上げると急にそんなことを言う星川におどろいて目を見開く望月。その提案をマイナスに受け取ったのかリラックスしてデッサンの用意を始める星川に対して望月の顔は強ばっている。

 

 

「な、なにかダメなところがありましたか?」

 

 

「ううん、とてもうまかったよ」

 

 

不安げな望月に対してにこやかな応対をするとパイプ椅子を開いて望月に座るように促す。そして俺の方を見るともう一脚椅子を開く。

 

 

「ほら、比企谷くんも」

 

 

「いや俺は」

 

 

「いいから」

 

 

ずいっと有無も待たず近づかれて椅子に座らされ鉛筆を渡される。

 

 

「あ、望月さんも左利きなんだ。私と一緒!」

 

 

「はぁ」

 

 

1人テンションの高い星川と違ってローテンションの望月は困惑気味に返事を返す。さっきと立ち位置が逆転してるな。それで誰が誰を描くのか聞こうとすると星川が笑顔で口を開く。

 

 

「...望月さんってさ、おっぱい大きいよね」

 

 

「な!?」

 

 

何言ってんだあいつ。聞かなかったことにして目を逸らすがプルプルと赤面した望月の目が怖い。見なくても見られてるのがすごくわかる。

 

 

「やっぱり肩とかこるの?」

 

 

「...こりますよ。なので毎日腕立て伏せをするようにしてます」

 

 

「へぇ〜!何回くらい?」

 

 

「100回です」

 

 

「そんなに!?私は10回もできないよ...」

 

 

「それは非力すぎなのでは…」

 

 

腕を折り曲げて力こぶを作ろうとするもか細い腕にしか見えない星川の腕を見て望月は困ったような顔をするとそれに星川はトリミングするように手を構える。

 

 

「あ、その表情頂き!」

 

 

「...それが目的で雑談してたんですか?」

 

 

「えへへ、だって望月さんのことがわからないと描けないでしょ?」

 

 

分からなくてもかけると思うんだけどなー。と、誰を描けばいいのか分からずぼーっとしてると星川がそれに気付き振り向く。

 

 

「八幡くんも望月さんにも私のいい表情を描いて欲しいな」

 

 

「え、俺お前描けばいいの?」

 

 

「え」

 

 

俺の問いかけに反応したのは先程まで何か考えているような表情をしていた望月で、口をぽかんと開けて俺と星川の交互に見やる。

 

 

「うーん、時計回りに描く方がいいかな」

 

 

それだと結局星川は望月、俺は星川を描いて望月は俺を描くことになる。

 

 

「やっぱり俺はいいわ。絵は見たし、そろそろ」

 

 

「じゃ八幡くんは望月さんと私を描けばいいんじゃないかな?」

 

 

んー?おかしいぞー?俺だけ作業量が増えてませんかね。望月も「まぁそれなら」と納得してて俺の意見が通りそうにもない。仕方なく席について輪郭線を引いて2人を観察する。人間観察は昔から得意だが、いい表情を描くのはあんまりしないし難しいんだよな。小町と戸塚なら何も見なくても描けそうなんだが。...やはり、俺だけ2人描くのはおかしくないですかね。そんな疑問はよそに望月は意を決したような顔で星川に話をふりかける。

 

 

「青葉さんとはいつからお友達なんですか?」

 

 

「高3の春からだよ」

 

 

「じゃあ...1年くらいしか一緒にいなかったんですね」

 

 

「そうなの。そんな感じもしないけど。でもあの高3の1年間は本当に楽しかったな...」

 

 

とてもいい思い出なのだろう。その時のことを思い浮かべているのか星川は懐かしそうに穏やかな笑みを浮かべる。それを見て望月はニヤリと口角を上げる。

 

 

「その表情頂きました」

 

 

「え!?今のはダメ!!」

 

 

「なんでですか?」

 

 

「恥ずかしいから」

 

 

「でもいい表情でしたよ」

 

 

あははと笑いながら2人は手を動かして頂いたという表情を描き進めていく。その間に挟まれた俺は、そんな微笑ましい会話を交わす2人の顔を見ながら慣れない手つきで画用紙の中に息を吹き込む。

 

 

「出来た!八幡くんは?」

 

 

「2人も描いたから顔だけな」

 

 

「よし、じゃあ見せ合いっこしよう」

 

 

せーのという掛け声と共に全員の絵を並べる。そこに俺の顔が無いというのは悲しむべきか喜ぶべきか。いてもビジュアル的に残念にするのは明白なのでなくて良かったな。うん。

 

 

「八幡くんって結構上手なんだね」

 

 

「ははは、ありがとよ」

 

 

お世辞でも嬉しいぜ。2人の横に置かれると粗さが目立つから早いとこ処分したいんだけど。

 

 

「ほんとに上手。でも、八幡くんにはレラジェとかクレイジーマットみたいな荒っぽい絵の方が似合ってるかな」

 

 

その言葉に俺は思わず尋ねる。

 

 

「なんだ俺が描いたやつ知ってるのか」

 

 

「うん。あおっちから聞いたの。すごくかっこよくて丁寧なんだけど...」

 

 

 

けど?俺が目線で問うと星川は言うのに迷ってるのか苦笑する。そこにぐいっと動く人影が星川の手を握る。

 

 

「わかります!レラジェすごくかっこいいですよね!それでいて優しくて頼もしくて!」

 

 

レラジェと聞いて興奮する望月の勢いに破顔するとまた引きつった顔を浮かべる。また始まったかと俺は頭を抑えると望月に落ち着くように取りなす。

 

 

 

「......あの...また来ていいですか?お邪魔じゃなければ…」

 

 

 

引き剥がした望月は1度頭を下げると熱の入った目で星川を見つめる。見つめられた本人は少しだけ沈黙するとすぐに嬉しそうに笑った。

 

 

 

「もちろん!」

 

 

 

その眩しい笑顔の後ろに、俺が1年ほど前に随分と描いたキャラクターと似たようなのが散らばるようにしてあったのを見て目を細める。

星川ほたるは天才じゃない。あったとしても絵を描く天才じゃない。絵が大好きで、色んな絵を描いて、描き続けて。そうして辿り着いたのが今のこの場所にある作品達なのだろう。

もし仮に。星川が持っていた天賦の才能に名をつけるなら『無限に絵を描き続ける才能』名付けてunlimited picture works...。

 

 

「あ、そうだ。八幡くん」

 

 

「どうした藪からスティックに」

 

 

急に声掛けんなよびっくりしてキョドっちゃうだろとさっき見ていた場所から目を離すと星川は窓の外を見やった。何か言おうと一瞬、口を開いたがまた閉じると薄く微笑んでこちらを見る。

 

 

「...今日はありがとね」

 

 

「あぁ。こっちもいい暇つぶしになった」

 

 

何を言おうとしたのかはわからない。でも、言わないのなら聞く必要は無い。聞いたところで何か変わる訳では無い。だから、無難に素っ気なく返すと「それは良かった」とにこやかに微笑む。

何故か俺にはその笑顔が憂い帯びていたが「もうそろそろ帰りましょう」と手を引いてくる望月にそれどころではなくなり、俺は星川に背を向けてその場を去った。




てことでほたるん紅葉回でした
八幡とほたるちゃんのフラグ建てるのにちょうどいい回でしたね
これでほたるちゃんヒロインにできるぞ!
地味に八幡と手を繋いでる紅葉ちゃんすごい。


あ、活動報告で書いたアレは番外編のボツネタだぞ!
いわゆるエイプリルフール用に用意してたけど書ききれなかったやつ
to be continuedって書いたけど特に続きはないぞ(迫真)


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その行先を比企谷八幡は見守っている。

小町のクリスマスプレゼントリスト(in 北海道!)
▷◁.。カニ!伊勢エビでも可
▷◁.。チーズケーキ!
▷◁.。海鮮丼!


『p.s 小町はお兄ちゃんの幸せが1番欲しいです。きゃー!今の小町的にはスーパーウルトラハイパーミラクルポイント高い!』


 

 

...なんじゃこりゃ。

出かける前にポストの中身を覗くと珍しくチラシ以外の紙が見えたので見てみるといつか見たキラキラのラメがあしらわれた可愛らしいクリスマス仕様のレターセットがあった。封を開ければ可愛らしい妹からのお土産の催促とよく分からないことが綴られていた。

お土産の全部が手荷物にすると食べれなくなるやつなんですけど。俺のカバンは保冷バッグじゃないから持って帰るのは無理だな。最悪スーツケースの中に氷と保冷剤を詰めてカニとチーズケーキと海鮮丼を入れねばならん。まぁ、前者2つは輸送してもらえばいいが海鮮丼に関してはどうしたものか。

 

 

とりあえずほんとに欲しいのは一番最後の俺の幸せなんだろう。昔なら胸に引っかかって答えを出せずにいたものだが、今ならなんとなくではあるがわかる気がする。おそらく、こうして僅かにでも笑っていられるうちは幸せの枠組みにいれても問題ないだろう。

よって最初の3つは無視して良い。むしろ、持って帰れない分お土産として機能してないしな。けど、何も無いと怒りそうだし毛ガニのストラップでも買って行ってやろう。

 

 

それに小町は受験生だ。まだ受かったという報告もなければどこを志望してるのかの連絡もない。おかしいな、そういう情報はちゃんとシェアするべきだと思うんだが。

ともかく、今のこの時期に合格してないとなると1月かセンター試験が勝負なのだろう。それなら、合格祈願を兼ねて蟹くらい実家に直送してやってもいいだろう。母ちゃんにも母の日や誕生日に何もしてやれてないわけだしな。親父は知らん。

 

 

というか、どうして俺が社員旅行で北海道に行くことを知ってるのだろうか。受験生だから迷惑をかけないようにとこちらからはメールをしないようにしてるし、そんなこと言った覚えはない。まさかと思うが涼風か?

 

 

考えても仕方ないので俺は手紙を折り畳んで手提げカバンの小さいポケットに入れると黒いボストンバッグを持ち上げて歩き出す。目指すは成田空港。そしてさらにその先は北海道。俺は一年ぶりに国内最北端の県へと舞い戻るのだ...。

今思ったけど、都内でさえ寒いのになんでここの比じゃないもっと寒いところに行くのだろうか。

意味わかんない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###

 

 

「また来てしまったか...」

 

 

新千歳空港に降り立った俺は、やつれているであろう顔でそう呻いた。昨年は寝ていたから特に異常はなかったが、今年はトランプや人狼に交ぜられたため寝ることが出来ず、耳がキンキンした状態だ。しかも、真っ先に俺をつるし上げる風習のせいで全く楽しくなかった。これなら1人でドン勝してた方がマシである。そして、その後にバスに乗りこみ雪道を進んでいった先でとうとうたどり着いた。

 

 

「大丈夫...?八幡」

 

 

バスから降りて荷物を出されるのを待っていると空港での俺の様子を見ていたのか心配そうに覗き込んでひふみ先輩が聞いてくる。まるで天使、いや女神だ。マリアでもここまでの加護やご寵愛はしてくれないだろう。抱きしめたいな!

 

 

「大丈夫ですよ。ちょっと耳が痛いだけで」

 

 

「そっか...良かった...」

 

 

平気そうにははっ!と乾いた笑みを浮かべるとひふみ先輩は手を合わせてほんわかと微笑む。マジでなんなのこの人。この温かさを持った人だけが世界にいれば平和だろうに。

 

 

「北海道だーー!」

 

 

「帰ってきたぞーー!」

 

 

耳が痛いのに意味もなくカドック君並に手を頭に当てる俺の後ろではしゃぐ二人組。そのペアに移動中、俺は軽く殺意を覚えてしまった。

理由、小町。人狼。以上だ。小町に社員旅行で北海道に行くことを前もって知らせたのもこいつで、人狼で怪しい人物がいなかった時に桜と共に俺を死に追いやった。帰ったら絶対に許さないリストに書き込んでやる。まぁ俺は寛容だからそんなことでいちいち腹を立てたり威圧感を放ったりはしない。真の男というのはこういう時こそ耐えて耐え抜いてみせるのだ。それに不毛な争いは俺が最も嫌うことの一つだし。

 

 

「いらっしゃいませ。イーグルジャンプ様。お待ちしておりました。当旅館の女将でツバメの母でございます」

 

 

「本日は大勢で押しかけてすみません」

 

 

ガラリと引き戸を開けて遠山さんを先頭に中に入ると旅館の方々が出迎えてくれる。それに遠山さんはいえいえこちらこそといったふうにお辞儀する。靴を脱いで上がるとツバメ母の前に立つ。

 

 

「私イーグルジャンプの遠山りんと申します。よろしくお願い致します」

 

 

「いえいえとんでもございません。娘がお世話になっております」

 

 

うわぁ社交辞令感パネェ...。手馴れた遠山さんの名刺を渡す所作とそれを笑顔で受け取るツバメ母。お互いに社交辞令の世界で生きてきたから出来る完璧な笑顔だ。いや、初対面の人にそんな不躾な態度は取らないと思いますけどね。でも、俺にはあんな笑いたくもないのに笑うのは無理だな。よかった営業とかに回らなくて。

 

 

挨拶も交わしたところで部屋に案内してもらう。靴を棚に入れてスリッパに履き替えると鳴海が駆けてツバメ母のところに近づいていく。

 

 

「お母さん、私ね...」

 

 

見たところ母親に自分の夢に近づいたよという報告をしようとしてるのだろう。なんと素晴らしい親子愛だろうか。グロパンで攻撃2段階上昇するくらいメ〇〇ルーラさんのようだと思って視線を逸らすとさっきとは打って変わってツバメ母のギラりと射抜くような声が耳に届いた。

 

 

「なにやってるの?ツバメもお客様をお部屋にご案内しなさい」

 

 

そう言われて鳴海は伸ばしかけていた右手を力無く下ろすと「...はい」と静かに頷いた。その様子を誰も見ることなく、俺だけが視線を向けていると真横にトンッ!と壁に矢が突き刺さる。正確に言うと吸盤のついたおもちゃの矢だ。しかし、唐突に現れたそれに涼風やひふみ先輩は「わぁ!?」と驚きの声を上げる。

矢をよく見てみると『ツバメの父でございます。どうぞごゆっくり』という文が書かれており怪訝な顔で見ていると間に焦った顔の鳴海が入ってくる。

 

 

「あああっ!すみません!うちの父恥ずかしがり屋で姿を見せないんです!」

 

 

「じゃあどこかに隠れてるんですね…」

 

 

なんで恥ずかしがり屋なのに旅館をやってるんだ...。大方料理とか裏方周りなんだろうけどそれでも表に出ることはあるだろうに。というか、弓文とかここ何時代だよ。

 

 

「メ、メール以外にもそんな会話の方法が...!」

 

 

「感心するところじゃないと思いますよひふみ先輩!?」

 

 

現代のメッセージ機能に心酔していたひふみ先輩には矢文という会話機能に驚愕してる様子で、その様を見た涼風もまたひふみ先輩に驚いていた。2人をアホくさと思いながら見つめていると手から重さが消える。見ると鳴海が俺から鞄を取っていた。

 

 

「ささ、お客様。どうぞこちらへお越しくださいませ」

 

 

「よろしくお願いします!」

 

 

涼風の荷物もかっさらうと意気揚々と前を歩く鳴海。こちらとしては肩が楽になったのでありがたいが、あいつはそれでいいのだろうか。母親に何か言われて無理をしたような笑顔を浮かべるその姿が、いつかどこかで見た誰かに似ていて、なんとなく嫌な面持ちになった。

 

 

ぞろぞろと女の子ばかりの中に異物のように混ざった俺は最後尾につき、自分の部屋に案内されるまで待つ。

 

 

「比企谷先輩はこちらです」

 

 

数分程で鳴海は女子の大部屋から出てくると先導して階段を上がり、すぐに曲がる。通された部屋は去年と同じように男一人が泊まるには十分な部屋で、むしろ前と比べると少しだけ広く感じる。荷物を適当に置くと鳴海はふぅと息を吐く。

 

 

「では、私は着替えてきます。温泉は階段降りてすぐ右です。夕食は」

 

 

「なぁ」

 

 

従業員のように説明する鳴海を遮って口を開くと鳴海は言葉をやめて「なんですか」とキョトンとした顔で言う。

なんで社員旅行なのにお前働いてんの?

そう言おうとしたが、鳴海のイーグルジャンプに入社までの過程と母親の先程の顔を思い浮かべると喉元まで出かかっていたその言葉を引っ込める。

 

 

「......この辺にカニとか買えるとこないか?妹がお土産に欲しいって言っててな」

 

 

「あぁ、それなら」

 

 

言うと鳴海はスマホを開いて何箇所か新鮮なカニを配送してくれるお店を紹介してくれる。誠心誠意、丁寧に。本当に板についていると思いながら、見るだけ見てメモも取らずに適当にコクコクと頷いて礼を言うと「いえいえ」と笑顔を向けてきた。その無理して笑う笑顔にその後は何も言わず、それをもう用はないと解釈した鳴海は綺麗に頭を下げる。

 

 

「では」

 

 

襖を占めて出ていった鳴海の足音が遠くなっていくのを聞いて俺はカバンからモバイルバッテリーとイヤホンを取り出してポケットに突っ込むと部屋を出た。温泉もいいが自販機とか周りに何があるのかを見ておきたいという男の子故の冒険心だ。いつだって男の子は荒野を目指すものだが、今回は雪原である。

 

 

外に出る前に飯が出来る時間を聞こうと従業員の人を探すが、手っ取り早いのは鳴海を見つけることだと思って館内をとぼとぼ歩く。途中、何人か従業員の人とすれ違ったが無視して進む。コミュ障故に話せない訳ではなく、さっき鳴海が言いかけていたのでおそらく知っているであろうという俺の推察だ。いや、ほかの人も知ってそうだけど無愛想にしちゃうからそれなら知り合いの方がいいよねっていう俺の気配りである。知り合いになら無愛想にしてもいいという訳でもないが。

 

 

「お母さん!」

 

 

館内を1周したところで食堂近くの部屋から鳴海の声が聞こえ立ち止まる。

 

 

「私...イーグルジャンプの内定が決まりました。入社を...許してください!」

 

 

「許すもなにも約束したことはお母さんは守ります。でも本当にそれでいいの?お母さん調べたのよ」

 

 

張った声音に対して静かな声でいなすように鳴海母はそう口にした。

 

 

「ゲーム会社って夜も遅くなることがあるんでしょう?その割に給料も良くないっていうし。なによりプログラマーって35歳までが限界ってネットに書いてあったわ」

 

 

ゆっくりと淡々と話す鳴海母に鳴海は何も言い返さない。母の説教は佳境に入る。

 

 

「今は若いから夢だなんだでやっていけるだろうけど将来のこと考えたら...」

 

 

と、結論に当たる部分をいう前にトスッという音が聞こえたと思うと襖が開いたので咄嗟に壁によって身を隠す。

 

 

「とにかくもう少し考えなさい。いいわね?」

 

 

有無を言わさず言うと鳴海母は鳴海父から射たれたであろう矢を握って食堂の方へと歩いていく。

よかったバレなくてとほっと息を吐く。さて、夕食の時間を聞くどころじゃなくなったな。今は鳴海を1人にするべきだろう。とりあえず、スマホさえ持ってれば誰かしらか連絡が来るだろうと思い棚から靴を出すと引き戸を開け放ち外に出る。

 

 

一面の銀世界に白い息を吐いてぼーっとしながら空を仰ぎ、振り返ってでかでかと『鳴海』と書かれた看板を見つめる。

 

 

桜から聞いた話では鳴海は本来ここを継ぐはずだった。おそらく、大学や専門学校に行くことなく高校を卒業すればここで修行して若女将にでもなっていただろう。それは今からでも遅くはないのだろう。現に、今ここで働いている従業員よりも動きや言葉はテキパキと正確だ。それに先程のような質問にも答えられる。

母親が厳しく愛をこめて育てていたのが良くわかる。それ故に娘が違う道を志したことは母親からすれば理解のできないことなのだろう。俺も専業主夫やめてゲーム会社に入ると言った日には驚かれたものだ。まぁ、すぐに勝手にしろって言われて終わったけど。

うちはうち。よそはよそ。鳴海母は娘の夢よりも跡を継いで欲しいという気持ちが強いのだろう。だが、当の本人はそうは思っていない。少しでも継いであげたいという気持ちがあればプログラマーの夢は頓挫していただろうし、社員旅行でここに来ることも承諾してないだろう。多分、鳴海としては就職できたことを直接報告するついでだったのだろう。それがまさか社員旅行返上で働かされる上に継ぐかどうか決めろと言われるとは思ってもなかっただろう。俺もそんなドロドロした昼ドラみたいな状況見せられるとは思ってなかった。おかげで気持ちはかなり沈鬱である。

 

 

「あっ」

 

 

思考に耽っているとそう呟く声がしてそちらを向くと『望月牛乳』と書かれた牛乳の詰まったケースを持った望月がいた。

 

 

「どうも」

 

 

「あぁ、おう...」

 

 

って朝から一緒に飛行機に乗ってバスに乗ったりしたのになんで今日初めて会いましたみたいな空気になっているのだろうか。

 

 

「お前の実家牛乳作ってんのか」

 

 

「はい。牧場なんです」

 

 

なるほどな。それでそんな立派なものが出来たのか。望月牧場の牛乳飲めば雪ノ下や涼風の胸も膨らむのだろうか。でも、成長期終わってるしな...。

 

 

「...っ、寒」

 

 

「確かに。中に入りましょう」

 

 

唐突に吹いた北風にぶるっと身体を震わせると望月はこちらに歩いてくる。

 

 

「そうだな」

 

 

答えながら望月に向かって手を伸ばす。すると、望月は俺の手を凝視すると首を傾げる。

 

 

「えっと」

 

 

困惑したような声を出す望月を無視して、よっと望月の手から箱を奪う。

 

 

「あっ...。ありがとうございます」

 

 

「別にいい」

 

 

取り上げて前を向いてるので表情は窺い知れないが、望月のことだ頭でも下げてるんだろうな。こんなことでいちいちお礼を言われる覚えはない。

望月に戸を開けてもらってまた館内に入ると涙目で重い足取りで廊下を歩く鳴海が目に入った。あちらも俺と望月に気付くと小さく「先輩...もも...」と呟く。それに望月は取り繕うことなく「まいど望月牛乳です」と返す。そこから僅かに静謐な時間が流れる。俯く鳴海に俺はカランと音を立てる箱を見ながら尋ねる。

 

 

「これどうすればいいんだ」

 

 

教えてくれよ鳴海。鳴海ツバメと問いかけると鳴海は再起動して仕事モードに入ると仲居さんを呼んできて、その人がどこかに運んでいった。明らかに歳上の従業員顎で使えるのか...若女将の権力ってすげぇんだな。固まって戦慄してると望月が袖をちょいちょいと引いてくる。なんだよ可愛いな。

 

 

「どした」

 

 

「なると外で話してきていいですか?」

 

 

「いいんじゃねぇの?」

 

 

俺の許可なんてなくても鳴海に言えばいいだろうに。表出ろやゴラァ!とか言って連れ出せばいい。まぁ、落ち込んだテンションの鳴海に声をかけるのを憚られる気持ちは分からなくもない。

 

 

「鳴海、ちょっと外出ないか」

 

 

「...えっ?...はい」

 

 

言うと、鳴海は気の抜けた声を出すと頷いて草履を履く。割烹着なのか浴衣なのかは知らないがその薄い格好では寒いのではないかと怪訝に思いコートを脱いでかけてやる。

 

 

「あ......ありがとうございます...」

 

 

なんで親友同士で反応がほとんど同じなのだろうか。頭をガシガシ掻いて気にするなと戸を開けると足元に冷たい風が通り抜ける。あぁ、カッコつけてコート脱ぐんじゃなかったなと後悔する。

2人が出てきてどこで話すのか知らないがいい場所があるならそこに向かわせるべきだろうと望月に行く先を委ねた。望月は旅館の裏手に回って温泉の源泉近く、つまり比較的暖かい場所の前にある石に腰掛ける。続いて鳴海が腰掛ける。

 

 

「許してもらえなかったの...?」

 

 

静かに尋ねた望月に鳴海は首を振った。

 

 

「ううん」

 

 

「そう...よかった。悲しそうだったから...」

 

 

その反応にひとまず安堵を零す望月だったが、鳴海は俯くと穏やかで悲しげに口を開いた。

 

 

「やっぱり私は旅館を継ぐべきなのかなでお母さん...可哀想だし」

 

 

「…………さみしくなる...」

 

 

「うん...」

 

 

2人の会話はそれきり途絶えて、ただ静寂と時間だけが流れていく。ふと、顔を落とすと鳴海と望月の視線がこちらに向いていた。それに俺はぎょっと声を漏らした。

 

 

「どした」

 

 

そんな俺の問いに反応したのは望月だった。

 

 

「比企谷さんは...どう思いますか...」

 

 

抽象的だがさっきの会話の流れからして鳴海が旅館を継ぐべきかイーグルジャンプに残るべきかの話であろう。

 

 

「さぁな。でも、やっぱり鳴海の人生だし。鳴海次第だろ」

 

 

期待したような瞳で見つめていた鳴海だったが、俺の誰でも言えそうな答えを聞くと「そう...ですよね...」と俯く。

 

 

突き放すような言い方になるが、別に鳴海がどうしようが俺の知ったことではない。鳴海がイーグルジャンプから抜けようが、鳴海が来る前とメンバーは変わってないのでその穴はすぐに埋められる。逆にこの旅館を継いだとしたら。母親との確執は消えて、可愛い若女将として客足は多少は増えて親孝行は出来るだろう。

 

 

だが、それが鳴海の幸福だとは限らない。

 

 

おそらく鳴海はこの旅館では昔に受けたであろう指導や磨いてきた技術を発揮して働くだろう。それを見て両親は安心してこの旅館を任せることが出来るだろう。しかし、鳴海は心からここで働くことができるだろうか。無心でがむしゃらに突き進んでいれば可能だろうが、いずれ限界が来る。

 

 

脳裏にチラつくのだ。本当にこれで良かったのか。ももと夢を叶えるんじゃなかったのか。私がしたいのは本当にこれなのかと。

その自問今も鳴海の脳内で行われてるだろうが未だに答えは出ないままなのであろう。

 

 

鳴海がノーダメージでかつ、母親に旅館を継がせなくする方法。確実性に欠けるが俺が鳴海の仕事ぶりにいちゃもんをつけるくらいしか今のところ浮かばない。しかも、鳴海に事前に言ったとしても多少は嫌な気分になるだろう。

他には鳴海には東京に婚約者がいて、その人と結婚したいからここは継げないとか。これに関しては写真を見せろとか言われたらその場で終わりだからボツだ。

1人で部屋に戻ってゆっくり考えればもっと出ると思うが今のところはこんなものだ。が、こんなことで解決していい問題ではないだろうし、そもそも俺は何も頼まれてない。よって、今回は何もしないのが吉だろう。

 

 

「そろそろ戻るぞ」

 

 

動かず若干身体を摩って暖めようとしている2人にそう言うと、立ち上がり歩き出す。

その時見た鳴海の悲しそうに今にも泣き出しそうな横顔に目を背けながら俺は足を進めて自分の部屋まで帰した。

 

 

 

 

 

 




誤字脱字は挨拶みたいなもんだから許してね。
社員旅行編。相変わらず八幡は一人部屋です。
あと冬ってことは8月が終わってるからPECO製作中に八幡成人してる...?(戦慄)
個人的には八幡は酒飲むよりもタバコ吸いそうだなって。不健康なのでさせませんが。
また落ち着いたら八幡の誕生日回でも書けたらいいなと思います。


そういえばうみこさんの出番がなかったな。代わりに誰が出ると思う?万丈だ(知ったばかりのネタを使いだがるクソ)


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それ故に望月紅葉は。

季節の変わり目には風邪をひく男。その名も...打つのだるいからスパイダーマッ!にしときます。
どーも、通りすがりの魔術師です。可愛い子好きですが好きですか?
やはり人は自然には勝てないので自分の身は自分で守らねばいけないことを身にしみて感じましたね。
休まずに書けばあと6話ですね。番外編も書かないとなんですけど生憎リアルが忙しいので


FG〇イベ、40枚のプリントとテキスト1冊
なんだよこれ...休ませる気ないだろ...!!!(憤怒)


あ、憤怒って英訳するとRAGEらしいですね...うん...?
勝ち取りたい!(ほんへどうぞ)



 

どうにも一人部屋というのは狭くも広くも感じるものであり、俺の心象を不安定にさせる。寝返っても誰にもぶつからないが調子に乗ると壁に当たるし、話しかけても誰も答えてくれない。

そもそも、男一人というのがおかしいのだ。確かイーグルジャンプの社長は男だったはずなのだ。そう、はずなのだ。

 

 

公式ホームページや面接で見たことはあるのだが口調がちょっとアレだった。その直球な言い方をすればおねェというやつだ。

それが関係あるのかは知らないが、イーグルジャンプには女性が多い。昔、自分が可愛いと思った二次元美少女やかっこいい勇者やダークヒーロー、ライバルキャラは全ておっさんが描いているというのが定説だったが、現代社会においてそれは切り崩されている。

 

 

今や才能があろうとなかろうと、実力と運さえあれば誰でもクリエイターになれるご時世だ。最近だと高校生竜王の元に幼女達が集まる作品とネトゲの嫁が現実世界でも嫁になるという作品のアニメのキャラデザと作画監督は女の人がやってたって話だ。

昔だとバリってる人とかガワラ立ちの人が...ってそれはロボットか。しかも今もだし。

 

 

話を戻そう。昨今女性が美少女やイケメン、俺TUEEEEを作る世の中になってきている今こそ、男女手を取り合ってもっとより良い作品を作っていくべきなのだ。

ということでうちにあと一人くらい男性社員雇ってくれねぇかな。部屋の隅っこで膝を抱えて悲観に暮れていると襖がゆっくりと開けられる。

 

 

「比企谷先輩、お食事の用意が出来ましたので...って何やってるんですか」

 

 

営業スマイルで入ってきた鳴海だったが、俺の様子を見るなりげんなりとした表情で顔をひきつらせている。気持ちは分からんでもないけど、もう少し抑えような。

 

 

「なにちょっと現代社会に対するアンチテーゼを綴ってたんだ。気にすんな」

 

 

「はぁ...何言ってるか分からないから気にしませんけど...お食事出来ましたので1階にお越しください。他の皆さんはもう向かいましたので」

 

 

まぁ自分でも何言ってるか分かってないからその対応でいいや。飛行機とバスで疲れたし。鳴海の後に続いて階段を降りて食堂に向かうと既に馴染みの面々は席についており、食事を始めていた。俺は空いてる席、ここから1番遠く恐らく下っ端向けに用意されてたであろう位置の席につく。すると、隣に座っている涼風が喋りかけてきた。

 

 

「遅かったね八幡」

 

 

「そりゃお前と部屋も階も違うからな」

 

 

「一緒がよかったの?」

 

 

「そうは言ってねぇよ」

 

 

それはそれでいいような気もするが俺の心と身が持たないし社外的にアウトだ。理性と自意識の化け物の俺がそんなところに放り込まれたら押し入れの中にずっと入り込んでる自信がある。

 

 

「でも、1人やと寂しいよな?別に遊びに来るくらいやったらええで?」

 

 

「そうそう。UNOしようよ。それかTRPG」

 

 

珍しく優しい言葉をかけてくれるゆん先輩にかなり魅力的な提案をしてくれるはじめさん。TRPGか、内容によるがやってみたいな。できればオークとか出ないヤツでお願いしたい。空気が変なことになっちゃうからね!

 

 

「寂しいって...ハッチーいつもぼっちだし寂しくないんじゃないの?」

 

 

ハッチーだけにボッチーってか。はいはいうまいうまい。桜の悪意のない鋭利な言葉が俺を傷つけたがもうそれくらい慣れたわとカニの殻を外しながら乾いた笑いを浮かべた。

 

 

「ね、ねねちゃん...は、八幡...だ、大丈夫...?」

 

 

「ははっ...大丈夫ですよ、ひふみ先輩」

 

 

「で、でも......」

 

 

目が笑ってないよと言いたそうな眼で狼狽えるひふみ先輩だったが、俺が遠い目をし始めるともう何も言うまいと黙々と箸を動かす。それでいいんですよ。こんなのに構ってたら美味しい飯も不味くなっちゃいますから。うわ、俺いない方がよかったんじゃねぇの?

 

 

「...美味い」

 

 

ズズと啜った味噌汁がこの疲れてきった心身に染み渡る。ほっこりと息を吐くと涼風に「じじくさ...」と小声で悪口を言われて気分が落ちたのはナイショだよ。まだ20歳だから。されどもう20歳。

 

 

「そうだ。ハッチーは明日どうするの?」

 

 

唐突に桜にそう問われて口をもぐもぐさせながら考える。特に決めてないけど、この流れだと何か誘われるパターンだな。多分、スキーか市場の方まで出て遊ぶとかだろ?お土産は最終日に買うだろうし。

 

 

「何も考えてないが、そういうお前は?」

 

 

「もっちーの牧場見に行こうかなって」

 

 

望月の牧場でなんだかちょっとアレなゲームなタイトルみたいですね。そんなことないか。でも、あってパッケージが良かったら手に取って戻して手に取ってを繰り返してしまいそうだ。

いかんいかんと後輩に対する煩悩を振り払ってゆん先輩たちはどうするのかと尋ねるとはじめさんと顔を見合わせた。

 

 

「うちらはスキーやな」

 

 

「うん。今年はいつもと違うし」

 

 

ほんと仲いいなあんたら。他はとうみこさんに目を向ける。

 

 

「私もスキーですね」

 

 

「私もだよ、うみこくん」

 

 

「...滑れるんですか?」

 

 

「失礼だな!ふっ、いいだろう見せてやろう私の華麗なハットトリックを!」

 

 

葉月さんそれスキーだと出来ないと思うんですが...いや、スキージャンプならあるいは?そう首を傾げていると正面のひふみ先輩が俺に尋ねてくる。

 

 

「八幡は......どうするの?」

 

 

どうしよう。どっちでもいい。

なんなら1人でぶらぶらしたい。でも、そしたらスキー場も牧場にも足が行き届いたら気まずいよな。気まずい空気チャラヘッチャラな俺だが、昨年のクリスマスの二の舞にはなりたくない。ここは無難に「明日になってから決めます」と返しておいた。

 

 

 

食事を終えて一旦部屋に戻り着替えを取ってから風呂場へと足を進める。ここの温泉の効能は何かなーと鼻息を混じりに歩いて青の暖簾を潜る。見渡す限りこの時間帯は俺しかおらず、なんならこの旅館には鳴海の父親を除けば男は俺しかいない説がある。もうこれで確証に至った気もするが気にしないでおこう。

 

 

 

「ふぃ〜〜」

 

 

あ〜生き返るわ〜とだらりと湯の中に身体を沈める。これこそ温泉だよな。周りの目を気にせずにゆったりと出来るというところを考えると男一人でよかった気もする。昨年は誰かいたような気がするがそれは夢のまた夢だったのだろう。

 

 

それに涼風たちの入浴時間とズレた時間に入ることであちらの会話を聞かずに済むしな。もし、女の子的なキャッキャウフフな話をされたら落ち着かずにいそいそと出ていく自信が俺にはある。

 

 

とりあえずこの至福の時をテンションアゲアゲで過ごすとしよう。思い返せば風呂というものにはあまりいい思い出がない気がする。中学の修学旅行では1人だけソッコーで出たし、高校では戸塚との入浴を楽しめなかったし。でも、今年は!今年こそは!

俺のこの身が真っ赤に火照る!入浴しろと轟叫ぶ!ばぁぁぁくねつつつ!!

 

 

と、その時、ひゅーと凍てつくというよりは涼しげな優しい風が吹いた。

 

 

 

「はぁ...涼風が...気持ちい...」

 

 

あ?

 

 

「そしてあったかい〜〜〜」

 

 

まさか

 

 

「北海道さいこ〜〜〜」

 

 

...わざわざ女子と入る時間を大幅にずらしたのに涼風はまた入ってるらしい。しかも、かなり調子に乗ってる。酒でも飲んだのか?

でもあやふやだが1月生まれなはずだ。つまりお酒はまだだよな?食事中に飲んでる様子もなかったし、それにあいつが一口でも飲めばどったんばったん大騒ぎだ。

お酒の力は怖いからな。人気アイドルが女子高生に手を出してしまうほどの代物だ。親父も言っていた。酒は飲んでも飲まれるなと。

俺は気をつけようといそいそと身を清めて風呂場をあとにした。

 

 

 

 

 

###

 

 

「来てしまった...紅葉ちゃんの牧場」

 

 

「ヤッホーーーひろーい!」

 

 

「......」

 

 

翌日。結局、生の牛が見たいという欲が勝った俺は涼風、桜、ひふみ先輩と共に望月の親の経営する牧場へとやってきた。若干緊張気味の涼風にハイテンションな桜、おどおどとその2人を見守るひふみ先輩。方や俺は。

 

 

「思ってたのなんか違う」

 

 

あれじゃねぇの?ロータリーパーラー?とかいうのがあるんじゃねぇの?それか馬。あと、牛の出産とか見れると思ってたんだけど。やっぱりフィクションとリアルは違うということだろうか。少し残念である。これに関しては期待した俺が悪いな。

 

 

「はじめさんもゆんさんも来ればよかったのに...」

 

 

「まぁ...しかたないよ...」

 

 

昨日の会話通り、はじめさんとゆん先輩はスキー場に行った。その他もおそらくそちらだろう。鳴海は旅館の手伝いがあるのでどちらにも来てないが。あと、遠山さんは何も聞いてないな。何してんだろと考えてると雪をギュッギュッと踏む音が聞こえてそちらを振り向くと。

 

 

「お待たせしました」

 

 

「お、おう」

 

 

4人が見た先にいたのは望月と轡で口を縛られた牛(大)、牛(小)、そして子犬。なんだそのメンツと困惑してると望月はえへんと胸を張る。

 

 

「絞る用と触る用とおまけです」

 

 

「動物園だね...」

 

 

「いや、違うだろ」

 

 

妙なリアクションを取る涼風に思わずツッコミを入れる。

動物園に牛と犬はいない。はずだ。

おそらく。

 

 

「あの、さっきはすみませんでした。母が」

 

 

「あぁ...」

 

 

ぺこりと申し訳なさそうに頭を下げる望月に俺は顔をひきつりつつも気にするなと手を振る。何があったかというと、望月の母親に旅館まで車で迎えに来てもらい乗せてもらってここに来たのだ。その際に望月の母親の隣に座った俺はとても話しかけられた。

連れてきてもらってることもあって無愛想にできず、無理に愛想笑いを浮かべていたことが望月にはわかっていたのだろう。

 

 

「まぁあれくらい生きてりゃ何度かあるだろうし、気にしなくていいぞ」

 

 

「で、でも、あんなこと言われて...」

 

 

望月のあんなことというのは『君みたいないい子がうちの娘の先輩でよかったわ!もう婿に欲しいくらいよ!』のことだろうか。社交辞令というか北海道ジョークだと思ってそこまで気に留めてないのだが。

 

 

「俺は構わねぇよ。それよりその牛、乳出るのか?」

 

 

「え、あ、はい...」

 

 

「あ!私先にやりたい!」

 

 

話を変えて本来の目的の牛に目を向けさせる。俺もこの話が続くとメンタルヘルスケアが必要になるので早めに逸らした。望月が雌牛の轡を持ち、涼風はしゃがみこんで牛の乳を握る。

 

 

「びゅー!びゅー!」

 

 

搾られて白い液体がバケツの中へとこぼれ落ちその度に牛が「も〜」と甲高い声を上げる。その周りを子犬がワンワン!と元気そうに駆け回っていた。

 

 

「えい!えい!どうだ!この!」

 

 

「上手いですね」

 

 

やってる涼風は楽しそうに牛の乳をえいやえいやと強く絞る。その顔は巨乳に何か恨みでもあるのかという感じで怖かったが、本人にその気があるのかわからないので何も言うまい。一段落したのか涼風は汗を拭いこちらを振り向く。

 

 

「ひふみ先輩もどうですか?」

 

 

「えぇ!?」

 

 

聞かれて驚愕の声をだしたひふみ先輩はあたふたと嫌そうに目をそらす。

 

 

「さ、先にねねちゃんから......」

 

 

「こ、こらー!やめろー!」

 

 

助け舟を求めて桜を見たが子牛と子犬に遊ばれててダメそうだった。となると、次は俺なわけだが。

 

 

「は、八幡...」

 

 

「......」

 

 

なんか女子たちの前で乳を搾るのは俺にはハードルが高いので遠慮しておいた。ほら、なんか恥ずかしいじゃない?分かってくれると嬉しいがこの場には男は俺しかいないので悲しいものである。

うるうるとした目に耐えながら目を合わせないようにしてると、望月と涼風に促されてやむなしにひふみ先輩はしゃがみこんで恐る恐る手を伸ばす。

 

 

「ほ...本当に大丈夫...?」

 

 

「はい、そのまま握ってください」

 

 

目を閉じてえいっ!と軽く力を入れるとぴゅと僅かにだがミルクが零れる。

 

 

「もっと思いっきり!」

 

 

「がんばです。ひふみ先輩!」

 

 

喝を入れる望月にエールを送る涼風。それを受けてぴゅぴゅと目を閉じて優しく乳を搾るひふみ先輩。後ろを見れば桜が子牛に跨っていた。なんだかカオスだなと思いながら、俺は柵の向こうにある牛舎をじっと眺めていた。

 

 

 

 

 

「これさっき搾ったののホットミルクです」

 

 

「わぁー」

 

 

しばらくして、一旦牛舎に戻った望月はお盆に5つのマグカップを乗せてまたこちらにやって来た。ほくほくと上がる湯気、可愛らしいマグカップを受け取るとゆっくりと口をつける。

 

 

 

「あったかい〜〜」

 

 

「あぁ、美味いし温かい」

 

 

牛乳は搾りたてが美味いというが本当に美味しい。何もしないで飲む牛乳最高。顔を上げると空は茜色に染まっており、真正面の水平線の先には夕日が猛々しく燃えるようにそこにいた。

 

 

「紅葉ちゃんはこの景色を見ながら育ったんだねぇ...」

 

 

 

「なるともよくここに座って景色を眺めてました」

 

 

しみじみという涼風に望月は首肯した。5人で同じ風景を見つめながらボーッと佇む。たまに吹く木枯らしが温かいミルクの味を高めてくれてる気がした。ミルクを啜る音が聞こえる中、静寂を破るかのように俺は口を開いた。

 

 

「望月は牧場継がなくていいのか?」

 

 

「はい。兄が継いでくれます。だから自由に育てられて...それでなるが心配で」

 

 

「紅葉ちゃんからはなんて言ってるの?」

 

 

「私は...内心は一緒に就職したいです。だけどなるのお母さんがなるを凄く大事にしているのも知っているので...ケンカもして欲しくないです。でも素直に...私の気持ちをいったほうがいいんでしょうか?」

 

 

問われて少し答えに戸惑った。素直に言っていいこともあれば、悪いこともある。口は災いの元。本心を伝えても相手の受け取り方次第ではその言葉の意味は大きくネジ曲がる。それならば伝えない方がいいのではないか。だが、それはもっと愚かで何の解決も生まない行為だ。

 

 

「言ってもいいんじゃねぇの?それで鳴海も答えが見つかるかもしれねぇし」

 

 

原点は望月と同じ夢を追いかけたい。だったら、望月が鳴海と同じ夢を見たいと望んだなら鳴海も決心が固まるかもしれない。

 

 

「うん。言いたいことがあるなら言うべきだって背中を押してくれたのは紅葉ちゃんだし。私、あの言葉で凄く勇気づけられたし言った方がいいんじゃないかな?」

 

 

かつてそう発破をかけられた涼風は優しく微笑みながらそう言った。あの日、あの人にどのように気持ちを伝えたのかはさておき、あの時の晴れ晴れとした顔を見るに何か自分で納得出来るものを伝えられたのだろう。

 

 

「そうだよ!私もあおっちと進路が分かれる時に言いたいこと言ったし、言っておかないと後悔するよ!」

 

 

後悔する...か。それはよくわかる。

あの時、俺が素直に気持ちを言葉に出来ていたのなら。時々、そう考える時がある。だが、思い返しても償いたいと思っても時は巻き戻らない。人生はビデオテープやディスクのように早送りも巻き戻しもできない。なら、せいぜいそうしなくていいように足掻くのが1番ではないだろうか。

 

 

「まぁ、そのセリフ。口拭いてから言って欲しかったな」

 

 

「ほんとだよ!口のまわりに牛乳つけながら真面目なこと言わないでよ」

 

 

言われて気づいたのか「え!?うそ!!」

と腰掛けていた柵から飛び降りると口元を拭う。

 

 

「今のやり直しー!」

 

 

「ふふふ」

 

 

「むりだってー」

 

 

駄々をこねる桜を見て笑うひふみ先輩と涼風の横で既に牛乳の入っていないコップを見つめながら望月は顔を顰める。それに俺は独り言のような声で呟いた。

 

 

「言うも言わないも自分次第。言わなくて後悔するよりは言ってから後悔した方がいい。言ったらわかるなんて言うのは傲慢なんだ。言った本人の自己満足。話せば必ず理解し合えるわけじゃない」

 

 

言いながら全員の視線がこちらに向けられていることに気づく。だんだんと夕日が水平線の向こう側へと沈んでいく。何を言うべきか。過去に語った淡い俺の欲しかったものを告げるべきでないのは分かっている。でも、確かに望月と鳴海が欲しがっているものは過去の俺と一致している気がした。無言で言葉の続きを促されて俺は言葉を放った。

 

 

「言うだけ無駄なのに。分かったりしないのに。

そんなことない、きっと分かり合える。それが遠い未来の話でも。口に出さなくてもいい。言葉じゃなくてもいい。

ただ、誰かが自分を知っていてほしい。知って安心してほしい。もしそれをお前らが互いに思えているのなら...どんな想いも懸命に伝えようと思えば伝わるもんさ…」

 

 

多分な、と最後に付け加えて残りのミルクを飲み干したタイミングで望月ママがクラクションを鳴らしながら車でやって来た。柵から立ち上がり白い息を吐いて、4人を見ると各々同じような顔をしながら俺を見ていた。それにむず痒くなり足早に助手席に扉を開いて席についた。その時、望月ママに「何かあったの?」とニヤニヤしながら聞かれたが特に取り留めることもなく「牛乳が美味しかったって話ですよ」と軽く笑って答えた。

 




時事ネタ1個ぶっ込んでみた。
モーさんのモーション変更来たけど今(前)のままでも好きなんですけど...
まぁええわ。

来週も見てくれよな!


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ツバメの翼が大きくなって。

こーとりのーつばさがついにーお、お、きくなーってー
旅立ちの日だよ!


今回はあとがきが無いので前書き多めでお送りします。
まずは団長1位おめでとうございます!1作品しか出てないのに1位はすげぇよ...。まぁネタで入れた人の方が多そうですが、年齢層を見るにキッズが少なかったのでもしかしたら本当に掴み取った1位なのかなって。ちなみに自分は投票してません。


続いてFate。衛宮さんちの今日のごはんが尊くてheaven'sfeelが見れない!まぁ見たんですけどね。2章早く来ないかなー。
ゲームの方は何やってんだよアキレウスが出ないので種火とサボってた強化クエ回ってます。ほんとがチャの排出率狂ってんじゃねぇの…。


ほかは特にないです。ほら、長くなると怒られるしね!
社員旅行編ファイナルどうぞ〜。


(2018/05/14 追記
言い忘れてたけどよォ...!今、テスト期間中でよォ...!欠点取ったら俺の人生終わるからよォ...勉強したくないけどしなきゃ詰むからよォ...!!
だからよォ...今週と来週の投稿はねぇからよォ...お気に入り外すんじゃねぇぞ...)


 

「わざわざ送って頂いてありがとうございました」

 

 

車から降りて涼風がそう言うと望月ママは上機嫌そうに首を振った。

 

 

「なーにお安い御用だよ」

 

 

ふふっと娘と違い柔らかな笑みを浮かべると目付きが温かいものに変わり、その目は俺と望月に向けられる。

 

 

「ツンツンしてる娘だけどホントはいい子だから今後もよろしくしてやってな〜」

 

 

「もうはやく帰って!!」

 

 

楽しそうに笑う母に対して娘はご立腹らしく声を荒らげた。それを見守っている涼風は「あはは」と苦笑いをこぼした。

車が走り去って、その姿が見えなくなると俺たちは後ろを振り返る。神妙な面持ちで拳を握る望月は戸に手をかけると少し躊躇ったのか立ち止まった。中々決心がつかないのか、それとも何かを待っているのか。何にせよ、俺はその背中に何かしらの言葉をかけたのだろう。

 

 

「...行くのか」

 

 

「はい。伝えずに後悔するよりはいいので」

 

 

現に気づけば俺は声をかけていて、俺の問いかけに間もなくきっぱりと答えた望月は顔上げて引き戸を開けて中へと入っていく。各々、「頑張って」やら「ふぁいと」「応援してる!」と声はかけたもののそこから会話はなく。しばらくして宿に入り、自分たちの部屋へと戻っていく。

俺は...なんか腹減ったし食堂でも行くかと足を進めた。

その途中でふと顔見知りの声がしたので立ち止まった。

 

 

「はぁ〜年甲斐もなく一日中スキーなんかしてたらさすがにヘトヘトだよ〜」

 

 

「だらしないですね」

 

 

どうやら葉月さんとうみこさんが休んでいるらしい。年甲斐もなく...か。やはり葉月さんの年齢は平塚先生くらいなのだろうか。合わせてみたらめんどくさそうだが、意外に息が合うのではないだろうか。そう考えていると背後から人の気配がし、振り向いた。

 

 

「あ、比企谷先輩、お戻りになったんですか」

 

 

「あぁ、ついさっきな」

 

 

可愛らしく八重歯を覗かせながら鳴海はそう声をかけてきた。それに軽く答えると、鳴海はどうだったかと尋ねてきた。

 

 

「そうだな。搾りたての牛乳は美味かった。くらいか」

 

 

正直な感想だ。俺は搾ってないんですけどね。ひふみ先輩と涼風の搾りたてミルク...あらやだなにこの背徳感。牛乳パックに2人の写真貼れば売れるのでは?と悪徳商法を考えていると鳴海は俺をしげしげと眺める。

 

 

「...へぇ、そうなんですか。あ、何か食べます?夕御飯は終わっちゃいましたけど何か作りますよ?」

 

 

「お、そうか」

 

 

ならばお言葉に甘えて何か貰うとしよう。鳴海の作る飯は美味いというのは過去に食べさせてもらったこともあるので実証済みだ。とりあえず、テーブルへと通されて向かった先にいるのはさっき愚痴をこぼしていた葉月さんとそれに付き合わされているのであろううみこさんの席だ。

 

 

「おや、比企谷くんに鳴海くんじゃないか」

 

 

だるそうに項垂れながらもそう挨拶してきた葉月さんにぺこりと会釈する。うみこさんは通路側から壁際へと席を移すと俺が座る席を用意してくれ。ありがてえ。これで「おめぇの席ねぇから!」って言われたら裸足で東京に帰るところだった。帰ったとしても、多分青函トンネル辺りで発見されるだろう。帰れてないじゃないですか...。と、自らに悪態ついているとひょいと鳴海が顔を覗かせた。

 

 

「お疲れ様です。夕御飯は終わってしまいましたけど...何か食べますか?お出しできますよ」

 

 

その言葉は俺ではなく、2人に向けられたものなのだろう。俺は俺で壁にかけられた木札に書かれたメニューを眺めながら何を頼もうかと思案していた。

 

 

「あぁ、ご飯はお店で食べてきたので。日本酒となにか軽くおつまみはありますか?」

 

 

 

「私はビールで〜」

 

 

「かしこまりました!いくつか用意しますね」

 

 

元気そうなうみこさんとは対照的にだらしない態度の葉月さんに鳴海は営業スマイルをで応対する。

 

 

「比企谷先輩はどうします?」

 

 

「あ、俺?...そうだな」

 

 

酒を飲む気分ではなかったし、ここで飲んで何かあると困るのでソーダと適当に2、3品ほどツマミになりそうなものを指差して頼むと鳴海は奥へと下がっていく。

ボーッとすることもなく、スマホをいじろうとポケットに手をかけたところでうみこさんが口を開いた。

 

 

「そういえば、牧場はどうでしたか」

 

 

「楽しかったというよりは貴重な体験させて貰ったかなって感じですね」

 

 

前述の通り、俺は特に何もしてないんですけどね!強いて言うなら望月ママと話したり、望月兄にいじられたりしたくらい。親バカでありシスコンである2人は強烈でしたはい。机の下にあった手を上に置き、俺も本日のうみこさんについて聞くことにした。

 

 

「そっちはどうだったんですか?...葉月さんの様子見てれば察しはつきますけど」

 

 

「見ての通り私はまだまだ滑れますが、葉月さんは明日明後日は筋肉痛に襲われるのではないのでしょうか」

 

 

「やだよ〜!!」

 

 

ちょっと!もう歳なんだからそんな声出さないでくださいよ。うみこさんがめちゃくちゃ蔑んでますから。ウサミン星にでも行って身も心も17歳になればいい。あと、17歳っていや...田村ゆかり、井上喜久子辺りか...。いつまで言うつもりなのだろうか。

 

 

「お待たせしました〜」

 

 

ガラガラと台車を押してやってきた鳴海は机の上に4本の瓶と俺が頼んだツマミを置くと説明を始めた。

 

 

「まず、比企谷先輩のご注文です」

 

 

「どうも」

 

 

「次に日本酒。オススメなのを持ってきました。右から甘口、甘口、中口、辛口。右のは少しフルーティです」

 

 

淡々と説明する鳴海にうみこさんは驚いたような顔をする。

 

 

「凄いですね。鳴海さんはもうお酒の味が分かるんですか?」

 

 

「いやいや、そのまえにまだ飲んだこともないです!」

 

 

手を振って否定する鳴海に「ならばどうして」と首を傾げるうみこさんに鳴海はすかさず答えた。

 

 

「母から教えられているので。あと飲んでる時のお客さんの反応も見ておけーって」

 

 

「なるほど」

 

 

 

納得して頷いたうみこさんの隣で俺もへぇ、と軽く感心してた。これがプロの人間観察術か。俺とは違って仕事用であって自衛の手段として使われてないあたりちゃんとしっかりしてるようだ。

 

 

「では私は左の辛口のを」

 

 

「私も飲みたくなった!右のフルーティなの頂戴」

 

 

「はい、お注ぎしますね」

 

 

白い湯呑みに注がれた透明な液体は溢れかえるがそれをそこの皿が受け止める。注ぎ終わった湯呑みを手に取り掲げると2人はカチンと淵を合わせる。

 

 

「お疲れ様です」

 

 

「お疲れ様」

 

 

コクコクと飲み下す2人は満足そうに息を吐く。俺はソーダをグラスに移してもらい「どぞどぞ」と鳴海に笑顔を向けられた。

 

 

「とても美味しいです」

 

 

「こっちのはジュースみたいだ。すごいね」

 

 

「よかった!」

 

 

各々口々に感想を述べるのを見て俺もこの都内でも飲めそうなソーダについて何か言及すべきか悩んだがやめておいた。焼き鳥や冷やしきゅうりを口に運び咀嚼しているとうみこさんが湯呑みの中を見つめながらポツリと零した。

 

 

「鳴海さんは親御さんから大切に育てられていますね…」

 

 

「いや...母が厳しいだけですよ」

 

 

苦笑しながらそう答えた鳴海はさらに続けた。

 

 

「小さい頃からあーだこーだってずっと言われてきたのでこれくらいできて当たり前です」

 

 

当たり前か。それは個人の価値観だ。出来て当然なことはあるだろうが、少なからずできない人間もいる。幼い頃から教わっていてもできないことは必ず1つくらいはあるはずだろう。だが、鳴海ツバメにそれがないということは。

 

 

「それでもこうして期待に応えられるのは鳴海さんが頑張ったからでしょう?」

 

 

俺と同じような事を感じたのだろう。憂いはなく、優しく見守るような目でうみこさんはそう言った。

 

 

「鳴海さんもお母さんのことを大切にしていることがよくわかりますよ」

 

 

言ってうみこさんは2杯目のお酒に口をつける。言われた鳴海はどこか嬉しそうに口を開けていた。

 

 

「なる!」

 

 

固まっていた鳴海が動いたのは親友の声を聞いてからだった。今までずっと探していたのだろう。望月は息を切らしながらその場に立っていた。息を整えながら鳴海に一歩一歩近づく。

 

 

「私の気持ち...言うね」

 

 

「もも?」

 

 

「私...なるにはお母さんのことを大切にして欲しい。だからどうなってもなるの選択を応援してる...」

 

 

でも、とそこで区切ってまた一歩踏み出す。鳴海の手を取り強く握ると心の底からの気持ちをぶちまける。

 

 

「これからもなると一緒にゲームが作りたい!それが私の一番の気持ちだから!!」

 

 

矛盾だな、なんて口に出すと危ないことを思ってしまった。鳴海に母親を大切にして欲しいが共にゲームを作りたい。それは母親の気持ちを踏みにじることになるのだろう。旅館を継いでほしい。さしては共に働きたい。これからの生活でももっと娘といたい。そんな気持ちがきっと鳴海の母親にはあるはずだ。

しかし、彼女は母親だ。自分の気持ちがあっても、結局は娘が本当にしたいことなら分かってくれるのかもしれない。あくまで可能性の話だ。なんとも言えない。けど、親は子供に生き抜けって言うもんだ。どんなに暗く険しい荒野でも切り開いて辿り着いた先に待ってるものを見させてあげたい気持ちがあるに違いない。

 

 

「あと...ねねっちさんが諦めないでって」

 

 

モジモジと突然声の小さくなった望月に鳴海はじっと見つめると「ふっ」と吹き出した。

 

 

「もう、なに?ねねっちさんって」

 

 

「え?おかしかった...?」

 

 

当惑する望月に鳴海は目を閉じて首を振る。

 

 

「ううん、ありがとう。私...もう一度行ってくるね!」

 

 

タタッと駆け出していった鳴海の背中を見つめながら佇む望月にほいとよく頑張りましたの意を込めて焼き鳥を一本渡してやると望月は呟いた。

 

 

「...これで良かったんですかね」

 

 

「さぁな。それは鳴海と鳴海の母親次第だろ」

 

 

冷たく突き放すような言い方に望月は俯きがちに「そう、ですよね」と串を握る。

 

 

「まぁ...お前が後悔してないならひとまずはいいんじゃねぇの?」

 

 

俺は言ってグイッとグラスを上げて喉にソーダを流し込む。望月はやれることをやった。というか、伝えるべきこと、伝えたいことを伝えたのだ。これで望月のオリジン、原初の願いは鳴海に伝わった。それに、鳴海の夢は望月と共に夢を叶えること...だったはずだ。

だとしたら...ハッピーエンドに近づくためのピースは揃った。ここからは鳴海ツバメ本人の戦いだ。これより傍観者は立ち入らず、どうなったかも知らずにただ2人に幸せがあることを望むばかりだ。

 

 

「...なんかずるいですね」

 

 

そう漏らして望月は頭を軽く下げるとこの場をあとにした。何が、とは聞けずに意味もわからず首を傾げているとそれを見ていた葉月さんは目を細めた。

 

 

「青春だねぇ」

 

 

 

###

 

 

翌日、三日間という短い時間ではあったが午後にはイーグルジャンプの社員旅行は終わりを迎えた。されど、過去来歴から言う通り帰るまでが社員旅行であり、俺達の社員旅行はまだまだこれからだ状態である。まぁそれも数時間で終わるし、飛行機に乗ればもう東京についてしまうわけだが。

 

 

「短い間でしたがありがとうございました」

 

 

「こちらこそありがとうございました!是非またのお越しをお待ちしております!」

 

 

荷物をまとめて玄関に集まり、遠山さんが代表して仲居さんに謝辞を述べた。それに答えた仲居さんは旅館の女将である鳴海の母親でなかったことに少し驚いた。

昨日の夜、望月が伝えた言葉で鳴海がどう動いたのかは分からない。けれど、本人の晴れた表情を見るに言うべきことを言えたのだろうか。

 

 

「なるっちのお母さんいないね〜」

 

 

「そうだね...なにかあったのかな...」

 

 

鳴海家の事情を知り、気にかけていた桜と涼風はそう口々に心配そうに呟くがそれを鳴海は背中を押して2人の隣に並んだ。

 

 

「なんにもないっすよ!さっ、皆帰りましょ!」

 

 

ハツラツとした顔の割にはなんだか無理して振舞っている。そんな違和感に囚われたが、一瞬だけ見せた暗い表情から察するにまだちゃんと話し合えていないのではないだろうか。皆が荷物を持って歩き始める中、俺だけが軋んだ音を立てる廊下に目を向けていた。

 

 

「ツバメ!!」

 

 

やはりというか、鳴海の母親は血相を変えて現れた。仕事時とは違い眼鏡をかけており、目元は潤んでいていた。大声で呼ばれたからか鳴海は驚きしおらしい顔で振り向いた。

 

 

「お母さん...」

 

 

「...まだお母さん、ツバメにここの跡を継いで欲しいって気持ちを変えることはできない...それがお母さんの夢だから...。...あなた少し痩せたでしょう?ごめんね、そんなことも気づかないお母さんで...。だからこんなことを言う資格はないのかもしれないけど...」

 

 

一言一言に我が子を想う大切さ、愛しさ、旅館の跡を継いでくれないことの悲しさを含ませながらも鳴海の母親は真剣に声を出した。言葉を紡いだ。今しか、感情を爆発させた今でしか言えない言葉を。

 

 

「頑張ったわね...ツバメ」

 

 

それをどれだけ待ちわびたのだろう。鳴海は溜めていた涙を溢れさせると目をつぶり歯を噛み締めて母の胸元へと飛び込んだ。

 

 

「わあああ!お母さぁぁんっ!!」

 

 

「ツバメ...ツバメ...」

 

 

鳥の燕は確か、親離れをすると自らの翼で空を飛び新しく家族を作るとかそんな話を聞いた。鳴海ツバメ、とはよく言ったものだ。旅館の跡取りから翼を広げて、これからの電脳世界を作る一人として羽ばたいていくのだ。

我が子を抱きしめその名を呼ぶ母親の姿に俺は何故か帰ったら実家に顔を出してみようかなんて、柄にもなくそんなことを思ってしまった。

 

 

 




母と娘の抱擁を目にした後、全員で鳴海の母親に感謝を伝えて鳴海旅館をあとにした。迎えのバスで空港に向かい、今は飛行機の中で空の旅を優雅に楽しんでいた。


「いや〜いろいろ大変だったけど一件落着!よかったよかった〜」


「...でも跡を継がなくてもよくなったわけではないんじゃ...」


「あれ?落着してない?」


行きのうるささから最初の席とは変わり、前の席へと移動した俺は、俺が移動する原因となった2人の会話に耳を傾けていた。
口を挟みたい気持ちはあったが、そうするとここに移った意味がなくなるので窓を眺めながらその会話を俯瞰することしていた。なので静かにコーヒーを啜っていると通路を挟んで涼風の隣に座っていた鳴海が口を開いた。


「ううん、今はお母さんと向き合って話せるようになれただけでも十分です。これから時間をかけてわかり合えればなって。きっとできます」



「え!?じゃあいつかは旅館継いじゃうってことも?」



「今は考えられないよ」


桜の問いに鳴海は苦笑がちに答えた。



「同業の中には家業を継ぎながらフリーとしてこの仕事を続ける人間もいますよ」


「ほんとですか!?」


そんな2人の会話に聞き耳を立てていたのは俺だけではなく、桜の前に座っているうみこさんがそんなことを言った。てか、結構声大きいから機内の半分くらいの人には聞こえてるのではないだろうか。ごめんなさいね、遠山さんかうみこさんが注意するまでの辛抱だから。


「まぁそれ相応の実力も必要ですが...これからも頑張ることですね」


「じゃあなるっちもスーパープログラマーだ!」


「えーなにそれ安易すぎるよ」


女の子だらけの微笑ましい会話にはははと笑いの花が咲いた。こんなところに俺がいてもいいのだろうか。今からスーパープログラマーの勉強をして家でフリーになる方がいいのかもしれない。と、真面目に思っていると隣に座っている遠山さんがこちらを見ていた。


「なんですか?」


周りに聞こえないように小声で尋ねると遠山さんはふふっとからかうように笑った。


「いや、出発の時間早くしてよかったなって」


「あぁ...その件はありがとうございました」


鳴海が母親に対して何も言えてないという可能性は無きしにもあらずだったので、保険をかけて宿を出る時間を遠山さんに言って30分ほど早くしてもらっていた。おかげで親子のドラマティックシーンにより飛行機に乗り遅れることもなく無事に時間通りに搭乗することが出来たというわけだ。バス会社の人が気兼ねいい人で助かったのも一応付け加えておこう。
俺が一言言って頭を軽く下げると遠山は笑みを絶やさない。


「どういたしまして」


にっこりと笑ってカバンからチョコレートを取り出すと俺の手に1つ置いてきた。くれるということだろうか。


「君はすごいよね。そうして周りを変えていく」


「…...そんなことないですよ」

以前同じようなことを誰かに言われたなと思い返していて、言葉を返すのに間が空いてしまった。


「いやあるわよ。現にコウちゃんも私も、ツバメちゃんも。もしかしたらここにいるみんなが君に変えられたかもしれない」



「...例えそうだとしても変わったのは本人達で俺は関係ないですよ」


人間変わるきっかけは他人が知らず知らずのうちに与えるものかもしれないが、結局変わるのは本人の行動や意思次第で第三者は全く関係ない。変わる過程で関わったのだとしても、それはあくまできっかけに過ぎず結果的には何も残らないのだ。それに俺が彼女たちを変えたという実績も結果も何も残ってはいない。つまり、遠山さんの言ってることは本人の思い込みなのだ。


「...まぁ比企谷くんがそう思うならこれ以上は言わないわ」


そう言うと、小さく可愛らしい欠伸をして椅子を倒すと瞳を閉じた。どうやらおやすみモードらしい。その寝顔を何の躊躇もなく男性に見せるのはいけないですよ!と見ないように窓の外に目を向けた。機体は空の上を滑空していて雲は見えず僅かな月明かりで群青色となった空と所々光るビルの灯りが日本を包んでいた。
2日間の休日を挟んだらまたこのビルの光の一つになるのかとため息をついて、俺もまたゆっくりと瞼を閉じた。



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比企谷小町の華麗なる計略

2週間ぶりの小説投稿で覚えてるやつがいるのかね...
必勝祈願も兼ねてこのエシディシ様からもプレゼントだ...


は?


※今回NEW GAME!要素はほとんどありません


 

 

時刻は午前の11時を回った頃だろうか。

2泊3日という短くも色々あった気がする社員旅行を終えた疲れからか、こんな時間まで眠りこけてしまった。

あまりいつもの休日と変わらない気もするが、身体のだるさはあまり無い。温泉にも入ったし美味しいご飯を食べたから当たり前なのだろう。

 

 

朝食も食べずに歯を磨き顔を洗って、着替えを済ませると昨日のうちに荷物から分けておいた紙袋を手に取り、外に出る。

念の為中身を確認すると、自転車のカゴにそれを放り込んでサドルに跨りペダルを漕ぎ出した。

目指す先は実家。そう、千葉である。

都内と千葉は近いようで遠い。若しかしたら空よりも遠い場所と感じる人がいるかもしれない。京葉線で数駅足らずで着くから近いイメージがあるかもしれないが、あれは電車の進む速度が速いだけでそんなに近くないのだ。

 

 

というのは嘘で普通に近いと思う。ぶっちゃけ、南船橋からチャリで舞浜いけるし。...って、どっちも千葉県内じゃねぇか。

まぁわざわざ自転車を使うのは普段デスクワークをしていて、足の筋肉やらが固まっていて運動不足に陥るのを防ぐためである。

べ、別に電車賃をケチってるわけじゃないんだからね!

 

 

そうこう言ってる間に実家がどんどん近づいてきた。この信号を渡って京葉線沿いに行けば15分くらいで着くだろう。途中で何度か曲がって坂道を下ればさらに時間短縮になるだろう。やはり住み慣れた街だから土地勘はあまり変わらずのようだ。

それに今日はほとんど信号が青で気分がいいな。こう上手くいってると不幸にも事故に遭っちゃうのではないかと思案していると。

 

 

「ワンワン!」

 

 

ちょうど曲がり角に差し掛かり、曲がろうとすると犬が飛び出してきた。慌ててブレーキを握り急停止するとその犬は首輪に繋がったリードを垂らして俺をマジマジと見つめてくる。その犬に俺は身に覚えがあった。

そして、その飼い主にも。

犬から視線を外せば坂道の下から黒いお団子髪をした女の子が走ってきていた。

 

 

「ま、待ってよ〜サブレー!!」

 

 

やはりというか相変わらず犬に逃げられることに定評のある由比ヶ浜結衣さんが上下ジャージと犬のお散歩にはピッタリな格好で息を弾ませていた。お茶目で自由気ままな犬の飼い主はうちの犬がご迷惑を〜と膝に手をついて謝ってくる。どうやら、俺だとはまだ分かってないらしい。

こいつ、目悪かったっけ。

 

 

「気にしなくていい。それよりお前視力落ちたか?」

 

 

「そ、そっか...。あ、視力は昨年からちょっとずつ落ち始めて、大学ではメガネかけてるんだけど...って...え...えぇ...?」

 

 

胸を撫で下ろしたり質問に答えたり困惑したりと大忙しだなと感心してると由比ヶ浜は顔を上げるなり驚いたように1歩引いた。

 

 

「ひ、ヒッキー!?」

 

 

「よ」

 

 

言うと、由比ヶ浜も軽く手を上げた。どうやら大学生になって普通の挨拶ができるようになったらしい。

が、お互いその後は特に会話することなく気まずい時間が駆け抜ける。

 

 

最後に会ったのが昨年のクリスマスだから無理もない。高校の時は特に取り留めない会話でも出来たのだろうが、今は共に進んでいる道が違っている。共通の話題というのも出ないだろう。

 

 

「あ、あのどしたの今日は?休み?」

 

 

「休みじゃなきゃこんなとこいねぇよ」

 

 

思わず悪態つくような返しをしてしまったことに気づいたのも遅く、「ご、ごめん...」と由比ヶ浜は俯いてしまった。足元ではさっきまでワンワン吠えてたサブレが飼い主が落ち込んだのを見て空気を読んだのかくぅーんと小さな声を出して由比ヶ浜の元へと寄って言った。

 

 

「...髪、黒にしたんだな」

 

 

「え?あ、うん。まだ先だけど就活とかあるし…」

 

 

申し訳程度に昨年と変わった髪色について指摘すると由比ヶ浜はポンポンと団子の部分に触れる。よくそこ触ってた覚えがあるけどリラクゼーション効果でもあるのだろうか。

 

 

「就活か。どこ受けるか決めてるのか?」

 

 

「ううん、まだだけど。会計とかお金の管理をする仕事とかいいなーって」

 

 

確かにその辺はきっちりしてたし、適職だろう。

 

 

「あ、でも料理人とかもいいかなって」

 

 

「悪いことは言わん。やめとけ」

 

 

「なんで!?」

 

 

「いや、お前の料理下手相当だし...」

 

 

それに通ってる大学も料理系じゃないでしょ。

割と昔の感じに戻ってきたところで由比ヶ浜が何か思いついたのように声を上げた。

 

 

「そうだ、今年のクリスマスどうしようか?」

 

 

「クリスマス...ねぇ...」

 

 

ぶっちゃけ外に出たくないんだが。もはや定番の流れだと小町に連絡が行って連行されるんだろうな。しかし、その小町も今年は大学受験が控えてる身だ。そう簡単にはいくまい。それにまたイーグルジャンプ連中からも声がかかるかもしれんし。どちらにせよ今決めるのは難しいところだ。

 

 

「嫌...かな...」

 

 

「そういうわけじゃなくてだな...」

 

 

どうしてそうもモジモジするんですか。まぁ俺が嫌そうに呟いたからですよね。分かります。

 

 

「多分休みだったはずだが、会社の人に誘われるかもしれんからそこは確約は出来ないな」

 

 

「あ、じゃ日にちをずらせば!」

 

 

何名案みたいに言ってんだよ。俺だけ使う額増えるじゃねぇか。日頃そこまで使ってないのにクリスマスの2日間で消えるとか嫌だよ俺。

 

 

「まぁそれはまたできたら連絡するわ」

 

 

「うん、わかった!」

 

 

やっぱり単純だなぁ...大学で変な男に言い寄られてそうだが、こう見えてガードは固いから心配はいらないだろう。それに俺は元カレとかそういうのじゃないし。こんなこと口に出すのも野暮だろうからそっとしまっておく。

 

 

「じゃ今から実家帰るからまた今度な」

 

 

「オッケー!またねー!」

 

 

大きく手を振る由比ヶ浜の姿を尻目にまたペダルを漕ぎ始める。少しばかり話し込んでしまい、朝を食べていなかった反動かよく腹の虫が鳴る。これは早めに着かないと空腹で倒れちゃうなと漕ぐスピードを早めた。

 

 

ビュビュビューンと風を切って自転車を走らせ見慣れた道に来たところでまたブレーキを握った。

 

 

「5年ぶり...ってわけでもないか」

 

 

今年顔だしたっけと思い返してみたが全く覚えがない。小町とは定期的に会ってはいるが母ちゃんとはメールくらいしかしねぇしな。

親父は知らないです。鍵を刺して捻るとガチャりと解錠され、そのままドアを引く。

 

 

「たでーま」

 

 

と、言ってみたものの家には誰もいない。おかしいな今日は土曜日だから全員休みのはずなのだが。上がり込んで各部屋を回ってみたがほんとに誰もいなかった。

なんなら俺の部屋は完全な物置と化していた。

本は捨てられてなかったのでそれだけは感謝するべきというか当然と言うべきか。

 

 

リビングで水を1杯飲んで一息つく。

よく良く考えたら、俺今日来るって言ってないな。だから、誰もいないのか?となるが特に用事もなかったはずだ。カレンダーを見てみると『小町 外出』と書いてあったので、受験生だし小町は塾か予備校にでも行っているのだろう。両親は寝室にいなかったところを見ると、休日出勤か出かけてるかの2択か。でも、会社用の鞄が置いてあったからメシでも行ってるのか。

どちらにせよ、今日はお土産を置いていくだけになるな。

 

 

メモ書きを残して鍵を閉める。

今回の帰省は報告、連絡、相談の前者2つが出来てなかった俺が悪いですね。まぁ会っても何言われるか分からないから別にいいんだけど。

さて、今から帰るのもあれだし久しぶりに地元を回ってみることにしよう。

上手く行けば由比ヶ浜に遭遇出来たみたいに戸塚にも会えるかもしれんし。

そう思うと俄然テンション上がってきた。

 

 

しかし、会えなかった時の反動が大きいよな。戸塚の大学は埼玉だし、休日だからといってここらをうろついてる可能性は低いか。仕方ないレンタルビデオ屋か古本屋にでも寄ろうと自転車の鍵を開けているとカツンと足音が聞こえた。歩いていた足を急に止めて、俺の目の前で静止していた。気になって目線だけ上げてみると、目が合うだけで身体の体温が2度くらい下がる感覚を覚えた。

 

 

「あら偶然ね、比企谷くん」

 

 

「ほんとに偶然だな」

 

 

引き攣りそうな頬を頑張って下げながらどうにかなるのを抑えながら言うと目の前の人物、雪ノ下雪乃は昔通り黒く艶めいた綺麗な黒髪を揺らす。

 

 

「えぇ、ほんと偶然ね。で、今日はどうしたの?お金に困って実家に泥棒しに来たのかしら」

 

 

「なわけねぇだろ...お前こそどうしたんだよ」

 

 

「だから言ってるでしょ。偶然よ」

 

 

偶然でここを通るような人間だったかこいつ。雪ノ下が前のマンションに住んでいるのだとしたら、そこそこ距離がある。散歩にしてはかなり遠い散歩になるだろう。しかし、どう言おうと雪ノ下はそんなことは無いと冷徹にして懇切丁寧な罵倒を返してくることだろう。

 

 

「そうか、じゃあな」

 

 

用がないならさっさと帰るが吉。そう思って自転車に跨ったら来ていたジャンパーのフードを何者かに引っ張られた。

誰だ、誰だ、誰だと振り返るとそこにはヘルメットを被った小町がいた。裏切り者の名を受けて戦う小町ちゃんじゃないか。あ、違うか。てか、なんでヘルメット被ってるん?と首を傾げていると、後からバイクを押しながら怖い目をしたお姉さんこと川崎沙希がやってきた。

 

 

「お兄ちゃん来るなら来るって言ってよね。沙希さんに迎えに来てもらうことになったじゃん」

 

 

「なんで川崎なんだ?母ちゃん達は?」

 

 

「町内会の福引で温泉旅行が当たったから行ってくるって」

 

 

そうなのか。初耳だ。

 

 

「それで、なんで川崎が迎えに?」

 

 

当然の疑問だ。川崎も聞かれると思っていたのかバイクを止めてヘルメットを脱ぐと口を開いた。

 

 

「別に、偶然だよ」

 

 

うーん、なんだか偶然が多いな今日は。

雪ノ下と川崎を交互に見るとギロりと睨み返されてしまった。久しぶりにこの2人の視線は寿命縮むからやめて欲しいな。

 

 

「で、俺が帰ってきたって情報はどこから...」

 

 

 

「ゆきのーん!ヒッキー!小町ちゃーん!沙希ー!」

 

 

質問が遮られて声の方を振り返るとほんの数十分前に会った由比ヶ浜が歩いてきていた。なるほど、あいつか。この1年で察しが良くなった八幡はなんでもお見通しだよ。感銘受けたり明察したりするのに関しては今の俺はピカイチ。

 

 

「やっはろーみんな」

 

 

「やっはろーです結衣さん」

 

 

「こんにちは由比ヶ浜さん」

 

 

「久しぶりだね」

 

 

「うん!久しぶり!」

 

 

由比ヶ浜の奇異な挨拶に各々返す中で俺だけが置いてけぼりを食らっていた。どうしてこんな知り合いが集まってるの?おかしくない?これも偶然?なわけないよな。

 

 

「なんなんだこの集まりは」

 

 

「いやーヒッキーが帰ってきてるってLINEしたらみんなで集まろ...あれ?ゆきのん?沙希どしたの?」

 

 

 

「由比ヶ浜さんちょっと」

 

 

LINE?なんだそりゃと首を傾げていると、由比ヶ浜が雪ノ下と川崎に詰め寄られてそれどころではなさそうだったので小町に説明を求めた。

 

 

「うーん、ほとんど結衣さんが言ったんだけどな...。まぁ小町の受験も終わったしみんなで集まろうって」

 

 

「え?嘘、お前受験終わったの?」

 

 

「あれ?言ってなかった?」

 

 

「聞いてねぇぞおい。なんでそんな大事なこと言わなかったんだ?」

 

 

「...聞かれなかったから?」

 

 

小首を傾げてそんな返しをする小町においおいと怒りたくなるが、合格してるならいいか...。

 

 

「で、どこ受かったんだ?」

 

 

「あ、パンフレット見せるよ。とりあえず中入って」

 

 

いや、俺今日は帰りたい気分なんだけど…と言おうとした時、何故か天使の煌めきが見えた気がした。ピリリリン!と脳内に稲妻のような線が走り後ろを振り返るとそこには...。

 

 

「はちまーん!」

 

 

と、戸塚ぁ!見間違いかなと目を擦る。5回くらい擦ったが、俺の虹彩と水晶体はちゃんと機能しているらしい。よく出来た偽物かと思ったが本物のようだ。どうして千葉に?という疑問はもはやどうでもいい。

 

 

「久しぶりだね、はちまん!」

 

 

「おう、久しぶりだな戸塚。元気にしてたか?」

 

 

「うん!この通りだよ!」

 

 

そう言いながらぶかぶかのコートを着てるのに力こぶを見せようとしてくる戸塚が可愛すぎるんですがどうしたらいいんだ。もう死ねばいいのか?

 

 

「はっ!そうだ、戸塚」

 

 

「どうしたのはちまん?」

 

 

「つい昨日まで北海道に行っててお土産にカニとかチーズとか色々買ったのが今日届くはずだから一緒に食べないか?」

 

 

おそらく、今日の夕方に届くようにしてもらったから夕ご飯は戸塚と小町とでエンジョイ出来るはず!と拳を握るとすっと両肩に手が置かれた。

 

 

「あら、それはちょうど良かったわ。私もいくつか野菜を持ってきたから」

 

 

「うちも豆腐や肉とか白身魚持ってきたし鍋でもしようか」

 

 

近い近い怖い怖い!

びっくりした…急に背後に来るなよ。悪質なタックルされるんじゃないかと勘違いしちゃうだろ。

慌ててばっと離れると2人が手からぶら下げている袋の中には、野菜やら肉やら魚などの鍋にぴったりなものばかりが入っていた。

なんで持ってきたんだよ。というか、由比ヶ浜は?と目線を動かすと「じゃじゃーん!」とカセットコンロを持ってきていた。

何?もしかして今からゆるっとキャンプでもするの?マジマジと3人の持ってきたものを見ていると戸塚も左手に持っていたスーパーの袋を掲げた。

 

 

「僕は急いできたから飲み物買ってきたよ」

 

 

「おー、ありがとな戸塚。まぁこんなとこでもなんだ、寒いし家の中に入ってくれよ」

 

 

「じゃ遠慮なくそうさせてもらうわ」

 

 

いや、雪ノ下さんに言ったわけじゃ.....すんません。なんでもないからその目で見るのはやめてください。

 

 

こうして、俺のほんの運動のつもりの帰省は何故かよく分からないうちに知り合いたちの集まった鍋パーティーへと発展することになった。

 

 

「ふしゅるるるる!!はーちまーーん!!」

 

 

...なんか来たけど冬は不審者がよく出るっていうしもうドア締めるか。




まさかこうなるとは思ってませんでした

一連の流れ
(はだしのゲンコラをイメージして読んでください)

そうだ青葉が風邪で寝込むからその導入を...
あかんあかん!青葉が風邪ひいたのは帰ってきてから2日後くらいや!
導入にするにはこの日は八幡永眠しとかなあかん!


せや小町の合格祝いに...
あかんあかん!八幡s両親をどう書いたらええか分からへん!そもそもNEW GAME!!の要素ないやないか...あかんわこんなん...罵詈雑言書かれて評価全部1にされて終わりや...


ひふみ先輩や!超絶可愛くて大人気なひふみ先輩とのデート回を書いてランキング急上昇や!
デートしたことない俺には荷が重い!今まで書いたデート回も割と誰でも思いつきそうやし全国のひふみん教の方が逞しい想像力でひふみ先輩とあんなことやこんなことしてるはずや!


せや!雪ノ下や由比ヶ浜や!冬場やしクリスマス編の前イベにはちょうどええやろ。それに俺ガイルメインの話も書きたかったんじゃ...
あかんあかん!そもそも12月の半ばや!なんでこんな都合よくみんな集合してるねん!


まぁええか...(執筆)


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未だに比企谷八幡は手を伸ばし続ける。

水着玉藻が2体も来た。なんでや。
今年の水着は誰なんですかね。
個人的にはエルドラドのバーサーカーとメディアさん、メドゥーサ(ロリ)のどれかが来てくれたら嬉しいです。はい。


 

偶然なことに、高校時代の知り合いが集結した。本当に偶然なのかはさておき、俺は昼から鍋というカオスな状況に見舞われている。

 

 

「お兄ちゃん2階にあるお鍋2つ取ってきてー」

 

 

「へいへい」

 

 

野菜をトントンと切り刻んで適当なサイズにしている小町からの命を受けて2階へと向かおうとする。

正直、実家なのにこんな知り合いに囲まれて落ち着かないしな。

ソファから立ち上がると由比ヶ浜も次いで腰を上げた。

 

 

「私も行くよ。1人じゃ大変でしょ?」

 

 

「いや、客にそうさせるのも...」

 

 

ありがたい申し出なのだが、言葉通り客にそんなことさせるのも気が引ける。

それに台所からの視線がすごい。

小町1人で野菜を切ったり、仕込みをするのは相当骨が折れることだと思ったのか、自分でも料理をする雪ノ下や川崎が共に手伝っている。

由比ヶ浜がいないのはここにいる全員が承知していることである。

 

 

「比企谷くん、それくらい1人で持ってこれるわよね?」

 

 

氷の微笑と共に細い目で俺を見る雪ノ下と無言の圧力をかけてくる川崎が怖いです。

小町は小町でなんでそんなに嬉しそうに笑ってんだよ。

さて、どうしたものかと困っていると救世主が立ち上がった。

 

 

「じゃ僕が行こうか?由比ヶ浜さん女の子だし重たい物は僕が持つよ」

 

 

と、戸塚ぁ...!戸塚は優しいなぁ。そうだよな、女の子には鍋は重いもんな...いいよ。一緒に行ってやるよ、八幡...。って感じだな。

戸塚が輝かしい笑顔で手を差し伸べる間に鼻息を荒げて割り込んできた奴がいた。

 

 

「そういうことであれば、我がいこう!...ぶっちゃけ、俺だけ何も持ってきてないから何かしないと...」

 

 

「急に素になるのやめろよ…」

 

 

大学生になって厨二病から脱却したのかと思えば以前とあまり変わってないらしい材木座。

誰から連絡が回ったのかこいつも俺の家に来た。わざわざ来たのに閉め出すのもあれだと思ったので仕方なく家に入れたのだが、自分だけ鍋の用意を持ってこなかったことに罪悪感を持っていたらしい。

 

 

「じゃ材木座でいいや。行こうぜ」

 

 

「うむ!」

 

 

意気揚々と立ち上がった材木座を連れて2階に上がり物置と化していた自分の部屋から鍋を探し出して下に降りるだけの簡単のミッション。...だと思ったのだが。

 

 

「なぁ、八幡。この中に鍋があるというのか?」

 

 

「...あんのかな」

 

 

部屋を開けてみたらびっくり、ステップも踏めないほどの宝島があった。

そういえば、来た時にもこの光景を見たな。

足の踏み場がない訳でもないが流石にこの中から鍋を見つけるのは面倒だ。

 

 

「てか、なんで鍋がここにあんだよおかしいだろ...」

 

 

「むう、確かに普通鍋は台所に置くものだからな」

 

 

「そうなんだよな」

 

 

大方、俺が家を出て鍋をすることが減ったからなんだろうが。そもそも、俺が家にいる時も年末くらいにしかしてなかったからここにあるのが正解なんだろう。

ついでに言うと、鍋が2つあるのも謎なんだよな。大家族でもないんだし、別に1つでいいだろうと思う。

確か、親父が会社のビンゴ大会で当てたからだった気がする。興味ないから知らねぇけど。

 

 

「そんなことよりさっさと探すか…」

 

 

これなら由比ヶ浜と戸塚にも手伝って貰えばよかったな。ため息をつきながらダンボールを漁り始める。

中には本や親父の集めていたコレクションに小町が捨てに捨てきれなかった雑誌...とマジでガラクタばかりだな。

 

 

「こ、これは!Zモード∑オービス!金属パーツを使っていて合体も可能な!」

 

 

「材木座、いいから早く探せ」

 

 

「あ、はい...」

 

 

何やら見つけて興奮しているらしい材木座を諌めて鍋を探す。まだ数分しか探してないが、もうないんじゃないかと思えてきた。

材木座に関してはさっきから鍋じゃなくて俺や親父が集めてたコレクションを見て興奮気味でもう集中力がなさそうだ。

俺は俺で、心が折れてたので壊れているラジオを一生懸命直そうとしていた。

 

 

「あ、2人とも!鍋2つとも下にあったって......何してるの...?」

 

 

嬉々として部屋を覗き込んできた戸塚だったが、俺と材木座の様子を見るなり不審な目を向けてきた。

戸塚の声で我に返った俺はいそいそとダンボールにラジオを仕舞い、そっと蓋を閉じた。

 

 

「降りるか」

 

 

「そうだな!」

 

 

「お前はポケットに入れたもん置いてけ」

 

 

しれっと人の集めたもん持っていこうとしてんじゃねぇよ。

ここに置いててもしょうがないもんばっかだし、欲しがるやつは欲しがるもんしかないからな。捨てられたり売られる前に運ぶしかないな。

 

 

探し物はなんだったのか。見つけにくいものどころかあの部屋にはなかったので砂漠で氷を探すような無謀さだったことが分かり、だらけながらリビングを開けると、もわぁっと鼻腔をくすぐるいい匂いがする。

見れば、2つの机の上にそれぞれ違う具材の入った鍋があった。

 

 

「すごくいい匂い」

 

 

「肉と魚を分けたのか」

 

 

「ぬっ!」

 

 

感心したかのように眺める戸塚と俺の間を割って材木座が肉の鍋の前へとスタンバる。相変わらず肉好きだな。

 

 

「もう厨二邪魔...あ、ヒッキーにさいちゃんはどっち食べる?」

 

 

なるほど選択式なのか。

テーブルの方は魚系...なにやら伊勢海老が入ってるところを見ると雪ノ下が持ってきたのだろう。必然的に雪ノ下はあっちか。

対してコタツの方は肉類。材木座が食いつくわけだ。鶏に牛に豚の3種類。

大きな違いはこれくらいか。豆腐とか野菜は同じだし。ただシメは雑炊とうどんと違いがあるらしい。

 

 

「両方はダメなのか?」

 

 

「ダメじゃないけど...」

 

 

困り気味の由比ヶ浜の後ろにポン酢や大根おろしを持った雪ノ下が小声で言った。

 

 

「食べ物くらいちゃんと選んで欲しいわね」

 

 

「ははは...確かに...」

 

 

何を言ったのかはわからんが由比ヶ浜が同意してるあたり昔から変わってない部分について言われたのだろう。

多分目とか性根は変わってないのね…的なことだろう。

 

 

「とりあえず肉から食うわ」

 

 

「じゃ私もそうするー!」

 

 

「そうね海老はもう少し蒸した方が美味しいから先にお肉を頂こうかしら」

 

 

お前ら便乗しすぎぃ!

別にいいけど。それだと小町と川崎と戸塚には魚に行ってもらわないと過密になるな…。

そう考えていると小皿を持った小町が魚の入った鍋の火を弱める。

 

 

「ささっと肉を食べてみんなで伊勢海老と真鯛をいただきましょー!」

 

 

「えぇ...全員で鍋囲むのか…?多くない?」

 

 

「別に普通でしょ」

 

 

いや、川崎の家では普通かもしれんが俺の家は4人ぐらし!!だから1つの鍋を囲んで食べるんだよ。

 

 

「まぁまぁたまにはいいじゃん。お兄ちゃんはいつも1人なんだしさ!」

 

 

「それもそうね。比企谷くんは社会人になっても1人だものね」

 

 

どうして我が家に帰ってきてまでこんなに痛めつけられないといけないのだろうか。

悲しみに暮れていると川崎がそうだとコタツに入りながら声を出した。

 

 

「桜とかとはどうなの?あと、涼風か」

 

 

バイト辞めた今でもたまにメール来るんだけど...とため息混じりに言われたが顔を見るに満更嫌そうでもないあたりクーデレ極めてるなぁ。

 

 

「桜ってねねっちのこと?」

 

 

「あー!昨年のクリスマスで会った」

 

 

仲良くなった由比ヶ浜と戸塚は驚いたように口を開いた。

 

 

「あぁ、お兄ちゃんが働いてるとこの同い年の人だっけ。ちょっと見た目が幼い人?」

 

 

「青髪のツインテールなのが涼風さんで」

 

 

「黄色い髪をしてお茶目なのがねねっち!」

 

 

わざわざ特徴言わなくても毎週顔合わせてるから知ってるんだけどな。

たまにドSとか構ってちゃんだとか。

 

 

「他にもいたな。確かはじめ殿に関西弁の...」

 

 

「ゆんさんだね」

 

 

まぁ材木座ははじめさんとしか喋ってなかったから涼風とかゆんさんの印象が薄いんだろう。類はなんとやら...ってやつなんだろう。

そこから話は弾んで由比ヶ浜や雪ノ下、戸塚達は昨年のクリスマスの話を始めた。ひふみ先輩可愛いだの、遠山さんと八神さんの進展など...初対面にも気付かれる遠山さんお疲れ様です。

何故かイーグルジャンプに属している俺とはじめさんとしか会話していなかった材木座は置いてけぼりを喰らっていたので、仕方なく寂しそうにパクパクと肉だけを食べる材木座と話すことにした。

 

 

「そういえば材木座、大学はどうなんだ」

 

 

「ヌシは我の母親か?」

 

 

お前のキャンパスライフ聞くだけで俺が母親になるわけないだろ。

 

 

「じゃもういいよ、で、小町はどこの大学受かったんだ?」

 

 

「えぇぇぇぇ!!?我の話それで終わり!?八幡聞いといて全然興味なさげ!?」

 

 

「うるせぇぞ材木座。お前の話より小町の進路なんだよ」

 

 

わざわざこんな当たり前のこと言わせんなよな。キレ気味に言ってしまい材木座が押し黙り、小町がまぁまぁと諌める。

 

 

「うーん、普通に教えるだけじゃ面白くないからなぁ...そうだ!」

 

 

そう言うと立ち上がってリビングから出る。そしてしばらくすると「本日の主役!」というタスキをかけた小町が現れる。

 

 

「ぱんぱかぱーん!今日は小町の合格祝いにお集まりいただき...まことにありがどうございまーす!」

 

 

「いえーい!」

 

 

「そうだったのか?」

 

 

「いや、聞いてないけど...」

 

 

「私もよ」

 

 

盛り上がる小町と由比ヶ浜をよそに川崎や雪ノ下と小声で話し合う。戸塚や材木座もそのことは知らなかったらしく首を振っている。

 

 

「はいそこ!私語は慎んで!」

 

 

ビシッと指を指して俺達に注意すると、どこから取り出したのかマイクを握る。

 

 

「さぁーて!小町ちゃんの受かった大学は...どこでしょーか!!?」

 

 

あ、これめんどくさいやつだわ。

 

 

「ヒント」

 

 

「ヒッキー早すぎ...」

 

 

いや、小町の将来の夢とかやりたいこととか知らないから兄の俺でも予想不可能だよな。

 

 

「そうだなぁ...うーん、家から通える距離です」

 

 

「どこにでもあるじゃねぇか...」

 

 

国立も私立も専門学校も京葉線、総武線使えば割とどこでもいけるぞ…。実質ノーヒントすぎる。

 

 

「わかった!ヒッキーが行こうとしてた私立文系のとこだ」

 

 

なるほど...いや小町にあそこに行けるほどの学力があるとは思えない。ましてや、この時期の合格となると推薦だ。内申が足りてても筆記で落とされるだろう。

となると、専門学校か下の方の私立だが、それを母さんと親父が許すわけねぇしな…。

予想通り小町の答えはNoで、由比ヶ浜は顔顰めた。

 

 

「では、我と同じく理工学部のある」

 

 

「ちがいます」

 

 

「ぬぇぇえ??即答...」

 

 

最後まで言わせてやれよ。材木座と同じ時点で絶対違うとは思ってたけどさ。

 

 

「ヒント2」

 

 

「あなた仮にも兄なのだからもっと考えたらどうなのかしら…」

 

 

「仮じゃなくて本物なんだけど」

 

 

呆れ混じりに言う雪ノ下に食い入るように返す。考えても分からねぇもんは仕方ない。大学の現代文の評論とかでももう少し前置きしてヒントくれるぞ。

 

 

「えー、これ以上言うとお兄ちゃん分かっちゃうしな…」

 

 

「分かっちゃう?」

 

 

戸塚が聞くと小町は「はい」と頷いた。

分かっちゃうならもう言ってしまえよ。楽になれるぞ。

 

 

「別に言っていいんじゃないの?どうせ、ばれるんだし」

 

 

今まで沈黙を守っていた川崎の言葉に俺は眉根を潜める。

 

 

「お前知ってるのか」

 

 

「...まぁね」

 

 

そっぽを向いて俺の茶碗を無言で取ると米を足す。頼んでないけどありがとうと一応お礼を言って受け取る。

 

 

「...で、どこなんだ小町の大学」

 

 

「これアンタが当てるゲームなんだけど、言っていいの?」

 

 

それを言われると弱るなぁ。でも、教えてよ教えてよその答えを。小町はどこの大学に行くの。と聞きたいが腹から声が出そうになくて押しとどめる。

 

 

これまでの言葉から全部考えるんだ。

まず、決まったのが最近なら専門はない。そもそも、専門に推薦とかあるのか知らない。だいたいAO入試とかだろ。小論文とか自己推薦文とか書けんのかな。

次に国立だが小町にそんなとこ受けるほどの脳みそはない...我ながら相当酷い事言ってんな。

さて、次に川崎が言ってしまえば分かる...そして、ここに来る時川崎と共にバイクに乗ってやってきたことを考えるに...。

 

 

「まさか、川崎と同じ大学か」

 

 

思い当たったのがそれしかなかった。いや、それに思い当たるようにヒントは予め用意されていたのだろう。

俺の答えに満足がいったのか、小町は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「だ、い、せ、い、か、い!!!」

 

 

パフパフと小町がスマホでSEを出して盛り上げる。

音が止んで落ち着いたところで俺は小町に問いかけた。

 

 

「よく通れたな。桜が行ってるから見落としがちだがあそこ結構頭いいぞ」

 

 

「ふっふっ...馬鹿なお兄ちゃんはAO入試って知ってる?」

 

 

知ってるわ、それにお前が受かるはずないと思ってさっき除外したわ。

 

 

「もしかしてそれで受かったのか?」

 

 

尋ねると小町は大きく頷いた。

まぁ外面はいいもんな。...いや、内面も見た目も全てにおいて完璧だな。ちょっと残念な思考を除けばの話だが。

すごいすごいと由比ヶ浜に頭を撫で撫でされてご満悦な小町に野菜と肉を皿に入れてやり俺は床から腰を離した。

 

 

「あれ?はちまんどうしたの?」

 

 

「ちょっくら狩りにでも行ってくるわ」

 

 

戸塚に聞かれてそう答えると材木座以外はキョトンと俺を見つめる。女の子で言うお花をつみに行きます的なニュアンスだったのだが伝わらなかったらしい。

リビングの扉を開けて廊下をしばらく歩き、トイレの扉の前で立ち止まった。

 

 

「...そりゃ親父達も温泉旅行に行けるわな」

 

 

小町が受験生でなくなったのならあの二人の肩の荷も少しは軽くなったのだろう。それでおあつらえ向きに福引が当たったのだ。小町も両親に息抜きしてもらいたいという気持ちがあったからきっと笑顔で送り出したのだろう。

だが、結果的に小町はそれで1人になる。1人が嫌いというわけでもなく、誰かといるのが苦ではない小町だが、受験を終えて羽根も伸ばしたかったのだろうか。

だからといって、俺が帰ってきたと聞いてすぐに飛んでくるやいなや高校のメンバーを呼び寄せて鍋パーティーを開く豪胆さには恐れ入った。

もし今日のこの出来事が偶然でなく必然ならば、俺は今日という日を忘れないだろう。

いや、なんだったとしても、ああやって妹の合格を心の底から祝ってくれるあいつらに出会えたことを俺は誇らしく思うだろう。

 

 

目尻を拭って再びその扉を開け放つ。

まるでこの扉の向こうがかつて見ていたあの頃と同じように、俺が手放してしまったと思っていた景色は、姿かたちを変えども未だここに存在していた。

 

 

「あ、ヒッキーお魚の方は夜に食べるんだって」

 

 

「別にいいけど、夜まで何すんだよ」

 

 

「じゃお兄ちゃんの会社の話してよ。ほら、最近あれ出たじゃん。小町全然やってないけどあれあれ」

 

 

唐突に昼ごはんはここまでと告げられて困惑しているとまたも小町が抽象的なことを言い出して、あれってなんだよ全然わかんないよ!小町ちゃんの言ってること曖昧過ぎてわかんないよ!と憤慨しかけてると横から雪ノ下が口を挟む。

 

 

「PECOのことでしょう。あれは結構面白かったわ。特に猫の着ぐるみが良かったわね。それと最後の科学者だけども強酸攻撃で耳が溶かされて腹が立ったわ」

 

 

なんだよ…ゲームとか全く知らなかったくせに結構やってんじゃねぇか...!

 

 

「な、なにかしら」

 

 

「いや、特に何も」

 

 

強酸かけるプログラムしたの俺じゃないけど書いたのは俺ということは言わない方が吉だろう。

 

 

「ネコの着ぐるみ描いたのはひふみ先輩じゃねぇかな」

 

 

モグラとハリネズミも描いてた気がする。

その事を言うと、戸塚が手を合わせてはにかむようにして口を開いた。

 

 

「あれすっごく可愛いよね!動きも敵が来たら丸まって針を出すってのがいいよね」

 

 

うん、そう言ってる戸塚の方がすごく可愛い。PECOはダウンロードコンテンツとかしないのかな。戸塚実装したら買う人とかカムバックキャンペーンしなくても人は戻ってくると思う。

 

 

「しかしいい所ばかりではないぞ。水中では攻撃不能というのは少しばかり面倒だったな。まるで退路を絶たれたネズミのようになってしまった。だが、途中で主人公の味方っぽかった科学者が裏切ってラスボスに忠誠を誓うのは叛逆の香りがして実に素晴らしかった...」

 

 

いや、裏切ったわけじゃなくて最初から敵だったし、忠誠じゃなくて親代わりだったからラスボスの味方しただけで叛逆はしてない。

退路を絶たれたのは材木座のプレイングに問題があるのでは…。とジト目で訴えたが自称プロゲーマーの意地があるのが鼻息荒く腕を組んだまま微動だにしない。気持ち悪いしほっとくか。

 

 

「でも、今回バグ少なかったね。やっぱりうみこさんが処理したの?」

 

 

「あぁ。あといつもの皆様とインターンで来てるやつだな」

 

 

まぁそのインターンの子は盛大にやらかしたのだが。

由比ヶ浜が「インターン?」と首を傾げていたのを雪ノ下が耳打ちして教えてやると「そ、それくらい知ってるし!」と顔を赤くする。

 

 

「それでそのインターンシップ?で来た子って女の子?」

 

 

「まぁな」

 

 

言うと、女性陣が固まってコソコソ話し始める。どうかしたのだろうか。不審に思っているとその枠から外れていた小町がやれやれと首を振っている。

 

 

「ゲーム会社ってうちの学校から行けるかな...」

 

 

「そうね。由比ヶ浜さんの学科だとプログラマーやキャラデザイナーは無理ね。おそらく、会社の経理や事務仕事なら可能だと思うわ」

 

 

「桜みたいにプログラムの勉強して採用試験受けてみたら?」

 

 

由比ヶ浜の疑問に雪ノ下と川崎がそれぞれ答えると、由比ヶ浜は「冬休み頑張ってみようかな…」と小さな声で呟いた。

正直、やめとけって言いたいが由比ヶ浜が望むことなら止める必要は無いだろう。それにエンジニアとかプログラマーに回ると残業続きになるかもしれんが事務関係ならそうとも限らないだろう。

それに由比ヶ浜にはそちらの方があっているだろう。

 

 

しばらくして、小町がPECOをしたいと言い出したのでゲーム機とPECOを引っ張り出す。小町を囲むようにして経験者たちがアドバイスを出しながらストーリーを進めているのを眺めながら、俺は1人窓の外の虚空を見つめていた。

 

 




この作品はただNEW GAME!のイーグルジャンプに比企谷八幡をぶっ込んだという内容で特にメッセージ性やテーマなどがあるわけでもないので、ひとまず八幡の目標というか「未だ探しているもの」に重点を置くことにしました。


あと、リアルが相当に忙しくなってきたので更新日時を変更します。
忙しくて急いで書きなぐったので今回は誤字脱字や矛盾点やら多いと思います。もし何かあれば誤字修正機能、内容におかしな点があれば感想にてお願いします。
まだ決まってませんが来週の水曜日の更新はありません。決まり次第、Twitter、活動報告にてお知らせします。


次回から原作の内容に戻ります。ではでは



これよりクソくだらない小ネタ


女の子に鍋は重いもんな...いいよ。一緒に行ってやるよ。はまどマギ屈指の名シーン。マミるシーンを名シーンというのはノーコメント。
ステップを踏めないほどの宝島。このまま君を連れていきそうですね
Zモード∑オービス、ダンボール戦機にまたハマり出したからです
川崎の乗ってきたバイク、カワサキのバイクです。
わかんないよ!のとこは「異能バトルは日常系のなかで」の櫛川鳩子(cv早見沙織)のオマージュ。その後に雪ノ下雪乃(cv早見沙織)に話させるという小ネタ
なんだよ…ゲームとか全く知らなかったくせに結構やってんじゃねぇか...!はあいつのオマージュです。
忠誠を誓う。ビルドも熱くなってきましたね。
叛逆。おー圧政者よ!汝を抱擁する!

自分で書いてて覚えてたのはこれくらいです。


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休日の過ごし方は人それぞれである。

別に休日の話ではなく、休日明けの話です。
青葉が風邪を引いて休むという話で青葉がベッドで寝てるところから始めようと思ったのですが、青葉のいないイーグルジャンプというか久しぶりだったので面々を書きたかったというのが本音ですね。

FGOですが8回ほど引いて以蔵さん3、李書文先生、すり抜けキャスギルでした。あと良かったのは黒の聖杯くらいですかね。
イベント礼装欲しいなーと思いつつ回して300円が豆腐や魔法陣などに変わってぶちギレですっ 


 

カーテンの隙間から差し込む光に覚醒を促されて、うつらうつらと目を擦りながら起き上がる。

社員旅行を休みを終えて今日からいつもの如く出社である。

しばらくぶりに再会した雪ノ下たちと鍋の味を楽しんだのはいいものの、ゆったりと休むことができなかったせいかぼーっとしてる。

それでも顔を洗って飯を食えば腐った目もぱちぱちと開かずにはいられない。

 

 

1週間ぶりの会社は相変わらず、綺麗でも汚くもない外見ながら看板のみが現代的かつ清潔さを保たれていた。

エレベーターもボタンを押せばガコンと音を立てて動き出すし、指定した階につけばピーンと音を鳴らしてドアを開いてくれる。

デスクを見れば片付けて行ったおかけで特に荒れてることもなく、ゴミ箱の中身も空である。逆に荒れてたりゴミ箱に何か入ってたらこの会社は幽霊でも飼っていることになるだろう。

もし飼っているなら可愛い子がいいな。だが、他人に勝手に乗り移ったりいつの間にか肉体を得てたりするのはごめんである。

 

 

さて、旅行に出る前と変わらないことを確認した後、一つだけ違和感を覚える。

その理由を探るかのように周りのデスクを見るが特に異常はなくアニメのキャラのフィギュアが並べられたり、ゴスロリなのかホラー趣味なのかわからない小物が置かれた机があるのは変わらずである。

隣を見ればなんの特徴もない同期の机が...あれ、そういえばこいつ今日は出社のはずだが遅いな。

この時間にはいるはずの人間がいないことが違和感の正体だと気付き胸のもやもやが晴れたところでパソコンの電源を付けるとゾロゾロと先輩方がやってきた。

 

 

「おはよう〜」

 

 

「おはよー!八幡」

 

 

「お、おはよ...」

 

 

まだ若干眠気が取れてないのか伸び気味の声のゆんさんと明朗快活なはじめさんに控えめな挨拶のひふみ先輩たちにそれぞれ会釈する。

 

 

「八幡休みどうだった?疲れ取れた?」

 

 

「まあそうっすね」

 

 

取れたといえば取れたが、取れてないといえば取れてないと微妙な感じなのだが、適当に無難に返しておくのが吉だと思って肯定しておいた。

すると、はじめさんは昨日は秋葉原に行ったらしくニコニコしながら新しいフィギュアを机に置く。アルターの1万円台のハイクオリティなフィギュアにゲーセンで取れるプライズ品のフィギュアを並べて配置換えしたりと楽しそうなはじめさんを羨ましそうにゆんさんは大きなため息をつく。

 

 

「ええなはじめは。うちなんか弟たちの面倒見ててそれどころやなかったわ」

 

 

「まだ冬休み前ですもんね…でも、幼稚園とかで預かってもらえるんじゃ?」

 

 

「せやねんけど送り迎えがあってな。それの帰りにスーパー寄ったらはしゃぎおって中々帰れんくてな…」

 

 

あー表情とか言葉から察するに子供の無邪気さに流されたというわけですか。是非もないね子供だし。

ぐったりしながらもパソコンを開くゆんさんを尻目にどうして奥のブースに行かずに立ってるのかわからないひふみ先輩に視線を動かす。

 

 

「わ、私は...そ、宗次郎…取りに...行ってた」

 

どうやら俺に話を聞いてほしいらしい。可愛いな全くもう。なんでも話を聞いてあげようじゃないか。

 

 

「どこに預けてたんですか?」

 

 

「親戚は、ダメだったから...ペットシッター...っていう人...」

 

 

それは人じゃなくてサービスですね。

ペットシッター。自分が家を空けてペットの面倒をみれない時、代わりに世話をしてくれるサービスのことだ。

カマクラに対しては1度もしたことがないので額や内容などは知らないが、ひふみ先輩はとても良かったと嬉しそうだったので悪くは無いサービスなのだろう。俺のことも世話してくれないだろうかなんてことを考えてると、静かに望月がブースに入ってきて一瞥して頭を下げると席につく。

 

 

あいつはこの休日は何も無かったのだろうか。ソワソワするわけでもなく落ち込んでるわけでもない。いつもと変わらない休日だったのだろうか。

俺とおなじく気になったのか、あるいはリーダーとして部下とコミュニケーションを取らねばと思ったのかひふみ先輩が望月に声をかける。

 

 

「ももちゃんは昨日はちゃんと休めた...?」

 

 

「はい。でも、午後はなると家の掃除したりしたのでいつも通りです」

 

 

なるほど午前中は寝てたタイプか。

しかしまぁ、掃除がいつも通りというのは女の子らしい。

どちらかと言えば、旅館の娘の鳴海が綺麗好きだからかもしれない。

 

 

「掃除って3日でそんなにホコリ溜まったの?」

 

 

「いえ、持ってた服とか親にもらったもの片付けたりしてて」

 

 

はじめさんの質問に淡々と答える望月。

そういや、俺はお土産とコート以外はそのままにしてた気がする。

まあ寝間着とかジャージだし別に帰ってからでもいいかと考えているとスタスタと笑顔で遠山さんがやってきた。

 

 

「みんなおはよう」

 

 

『おはようございます』

 

 

上司にはちゃんと立って挨拶。これは社会の基本である。

たまに忙しいときは目も顔も向けずに挨拶することもあるがしてるだけマシだと思ってほしい。

精神的にやられる時ほど声を出しづらいことはないのだ。

 

 

「えっと、今日は青葉ちゃんは風邪を引いたのでおやすみです」

 

 

『えーー!?』

 

 

と、俺以外が驚くような発言をした遠山さんは苦笑いしながらこういった。

 

 

「ここと北海道の寒暖差にやられちゃったのかもね…幸い今は企画もないしゆっくり休んでもらいましょ」

 

 

風邪には処方箋と睡眠が一番だしそれが最適だろう。てか、あいつの場合寒暖差にやられたんじゃなくて単にはしゃぎすぎたからだと思うんだが。

 

 

「そういや、涼風には誰もお見舞い行かないんすか」

 

 

「あ...そうね...」

 

 

俺の時は遠山さんが来たけど、今回も遠山さんが代表していくのだろうか。そう思っていたが遠山さんは渋い顔をした。

 

 

「今日は私は打ち合わせがあるから無理ね...」

 

 

と、ひふみ先輩の方を見る。すると、ひふみ先輩は指先をちょんちょんと合わせる。

 

 

「わ、私も...行きたいけど...」

 

 

チラリと自分のデスクにある紙の束を見て、無理ですと暗喩で伝えると今度はゆんさんに視線が向かう。

 

 

「うちもグラフィックの改良とDLCキャラの修正頼まれてて」

 

 

「私も葉月さんに企画書の説明しないと…」

 

 

次に目線が来ることを予見していたはじめさんが言うと、最終的に目線が俺に浴びせられる。

この流れはまさか。

 

 

「比企谷くん、午後からでいいから行ってきてくれないかしら」

 

 

ですよねー。俺だけ特に今すぐやらなきゃいけない仕事もないし、なんなら同期だから俺が行くのが最善だと思われますよね。

とりあえず、全員が涼風に対してお大事にのメッセージを送る中、俺は1人、孤独に午前中のノルマをこなしていく。

その中でふと思ったのだが、涼風のお見舞いに行くのはいい。

しかし、俺あいつの家知らねぇんだけど...。

 

 

「遠山さん...ってもういないのか...」

 

 

遠山さんのデスクを見に行ったが既にカバンが無くなっていたので打ち合わせに向かったようだ。

メールで場所を聞こうにも、打ち合わせ中だったら迷惑だろうと思いスマホをしまう。

さて、他に涼風の住所を知ってそうなのは...と、プログラマー班のデスクに行く。

 

 

「おや、比企谷さん。どうしましたか?」

 

 

「あ、うみこさん」

 

 

キョロキョロといつもの小うるさいのを探しているとどこからか戻ってきたのかうみこさんに声をかけられ振り向く。

 

 

「桜って今日きてますか?」

 

 

「いえ、今日は休みですが...何か御用でしたか?」

 

 

あいつ休みなのかよ。使えねぇなと思っているとひょいと鳴海が顔を覗かせる。

 

 

「ねねっちに何か用なんですか?」

 

 

「あぁ、涼風が風邪ひいて休みでな。それのお見舞い頼まれたんだが住所が分からなくてな」

 

 

「だったら電話して青葉先輩に聞けばいいじゃないですか」

 

 

「病人に直接聞けるかよ」

 

 

それに俺が来るって知って悪化させると悪いしな。いや、この理論でいくと俺が何の予告もなく来る方が悪化の原因になるのでは...?

 

 

「そういうことでしたら少し待っててください」

 

 

俺と鳴海の話を聞いてうみこさんは葉月さんのいるフロアへと上がって戻ってくると1枚の紙を手渡してくる。

 

 

「葉月さんに事情を話して涼風さんの家の周りの地図をプリントしてもらいました」

 

 

「めちゃくちゃ助かります」

 

 

「...誰でも出来ることですよ」

 

 

そんなこと言わなくても助かったのは事実なのでお礼くらいはちゃんと受け取ってほしいものだ。

これで地図は手に入れたのであとはノルマをこなしてお見舞いの品とその他もろもろを買って涼風の家へと行くだけになった。

 




なんてゴミみたいな文章なんだ...(困惑)
次回は青葉視点...ではなく三人称視点になります。
青葉と八幡の心理描写書きたいし、みんなも見たいよね(迫真)
投稿日時はよっぽどの事がなければ月曜日にします。投稿がなければ「あ、書けなかったんだな...」って思ってください。
一応受験生なので。
周りで専門受かった友人がいるのでストレス発散のカラオケとかに付き合ってもらいながら志望校合格に向けて頑張るぞい。

あと、ここしばらくメディアや今期アニメを見れてないのでネタはあまりありませんし、それをカバーするような文才をないので...(なんだこれつまんねぇな...)とお気に入りが減っていますが作者は元気です。


期末テストが始まるので再来週あたりから更新がまた止まりますがご了承下さいませ。
団長「止まるんじゃねぇぞ...」
作者「いや、止まるわ」


てか、ツ〇イッターで団長の画像のツイート伸びすぎでしょ。3桁もいったの久しぶりだわ。

団長「俺は止まんねぇからよ...」
作者「止まれ」
シロッコ「なぜだ!なぜ動かん!?(PC)」
作者「ほんとにアレは焦った」


最後に言うと、最近キーボードの調子悪いなーって思ってたら、単に自分が打ち込むの早すぎてそれにスマホの反応が追いつかないという異常事態になって、ダンボール戦機の海道ジン君の『ジ・エンペラーのCPUがプレイヤーの入力速度に追いつけずにSystem Errorした』
っての思い出して、通りすがりの魔術師から通りすがりの皇帝に名を変えようと思いました。終わり


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風邪を引きながら涼風青葉は意を決する。


予告通り二人称視点
(彼と彼女使ってないから二人称じゃないかにゃー)
久しぶりにラブコメっぽいの書いた気がします。



 

北海道の雪花の夜。

温かい湯に体を浸からせ、満足げに微笑む女がいた。

 

「はぁ...涼風が...気持ちい...」

 

 

外気の気温は1桁、あるいはそれを下回るというのにその女は胸から上を湯の外に出して手を広げて度々吹いてくる涼風を堪能していた。

 

 

「そしてあったかい〜〜北海道さいこ〜〜」

 

 

1人なのをいいことに湯の中に入ったり出たりを繰り返して肌はツヤツヤ、血行もよくなり心身共に良くなっているはずだった。

しかしそれも節度を持って適度な時間湯に浸かり、湯から出ても湯冷めしないように水分を拭き取りすぐに服を着ていればの話である。

彼女は風呂から上がっても体も拭かずに冷たいコーヒー牛乳を飲み干し、扇風機の風に当たったりしていた。

 

 

その結果。

 

 

「ごほっごほっ」

 

 

ゲーム制作会社『イーグルジャンプ』

キャラクターデザイナー班 涼風青葉

社員旅行の北海道で調子に乗りすぎ、風邪を引きました。

 

 

「はぁ去年は全然平気だったのに、年かなぁ...」

 

 

げほげほと20歳前なのに年だと呟く青葉。それだと遠山さんや八神さん、さらに言えば葉月さんなんて年中風邪を引いている。

喉と鼻はそこまで酷くないが咳と頭痛に苦しめられ青葉は昨日の夜から寝たきりである。

 

 

「出社時間...なのに寝ているこの背徳感...ふふたまにはいいかも...」

 

 

口元を抑え笑いをこらえるも隠しきれず目だけがクスクスと笑っていた。

だが、青葉はあることに気づくと血相変えて飛び上がるようにベッドから身を起こした。

 

 

「あ!休暇の連絡忘れてた!!」

 

 

自分に何やってんだ〜!!と言いつけ頭をポカポカ殴ってスマホを手に取ると急いで上司である遠山りんにメールを打ち込む。

 

 

「遠山様 本日風邪のためお休みします。よろしくお願い致します 涼風青葉」

 

 

送信っと、メールを送るとぽてっと顔から枕に倒れ込む。

 

 

「メール打っただけで疲れました。しんどい。そもそも病気なんだから連絡なんて無理なんだよおやすみなさい」

 

 

震え声で言い訳すると目を閉じて寝ようとする。もしこれをある男が聞いていれば「自業自得だろ」と一蹴されていただろう。

しばらくしてスマホからピロリン〜とメッセージの受信を伝える音が鳴りスマホを手に取って内容を確認する。

 

 

『体調は大丈夫?お仕事のことは忘れてゆっくり休んでね』

 

 

「遠山さん優しいなぁ…ふざけて風邪ひいて申し訳ない...」

 

 

大丈夫です。ご心配おかけしてすみません。と返信してまた寝転ぶと目を閉じる。

 

 

「しっかり治そ!」

 

 

と、言ったがりんから青葉が休むと聞いて心配した面々たちから一気にメッセージが届きスマホからはピロリンという音が連続で鳴り響く。

 

 

『青葉ちゃん大丈夫!?』

『無理せんようにな〜』

『たくさん寝るんだよ〜』

 

 

ひふみ、ゆん、はじめと青葉のことを可愛がっている先輩方からメッセージが来て青葉は嬉しく思いつつも申し訳なさを感じた。

 

 

「う〜滅多に休まないからすごい心配されてしまう」

 

 

またふらつく頭を起こして『ちょっと熱があるくらいなので寝てれば治ると思います。ありがとうございます!』と誠心誠意の返信をしてため息をつく。

すると、またピロリン〜と受信音が鳴り見てみると後輩から『お大事に』ときて頬が緩みそうになる。

が、その顔はすぐにムッと顰めっ面へと変わった。なぜなら同期で自分の知ってる社内唯一の男からなんの連絡もないからである。

自分では話すほうだとは思っているがまだやはり壁を感じざるおえない。

相手もそう思っているのかもしれないが、紅葉のようにお大事に一言くらいあってもいいじゃないかと悪態づきながら痛む頭を抑えて青葉は今度こそ眠ろうと瞳を閉じた。

 

 

 

###

 

 

 

「う〜〜にゃー!!」

 

 

フミ、フミ、フミと顔を柔らかい小さな何かが触れているのを感じて涼風青葉は目を覚ました。

飼い猫の肉球で顔を揉まれたせいか僅かに猫みたいになっているが薬の副作用なのかもしれない。

青葉はなんで起こされたんだと猫を睨みつけ、視線を壁にかけてある時計へとスライドする。

 

 

「はっ...3時。結構寝てたかも」

 

 

そう呟くと猫は「にゃー」と青葉の足を小さな手で擦る。青葉は布団から出て上着を羽織ると自室からダイニングへと向かう。

 

 

「お腹減ったの〜?」

 

 

尋ねると「にゃーん」と返事をする飼い猫に微笑みかけるとピンポーンと廊下にインタホーンが鳴り響く。

 

 

「こんな時に...宅急便かな…」

 

 

じゃれてくる猫をあしらいながら手に印鑑を持ちドアに付いた小さな穴から外にいる人間を覗き見る。万が一、宅急便の人とかではなく不審者なら今の自分は一瞬でやられてしまうからである。

念の為覗いたその先にいたのは。

 

 

「な、なんで八幡がいるの...?」

 

 

メールをしてこないと思えばまさか直接見舞いに来るなんていうのは青葉の予想の範疇を遥かに超えており、嬉しさと戸惑いの混じった声で呟いた青葉は急いで洗面所で顔を洗う。再三にわたり鏡で自分の顔を見て、玄関に戻り靴を並べると深呼吸して扉を開く。

 

 

「ど、どしたの...?」

 

 

ゆっくり開きながら聞くと八幡は手に持ったビニール袋を掲げた。

 

 

「遠山さんにお見舞い行ってくれって頼まれてな。上がっても大丈夫か?」

 

 

「う、うん」

 

 

青葉がそう言うと八幡は靴を脱いで青葉の家に上がり込む。それに青葉は今まで感じたことない高揚感を感じてじっと八幡を見つめてしまう。人の視線に敏感な八幡はそれに気付き青葉に尋ねた。

 

 

「どした、なんかついてるか?」

 

 

「ううん!そんなことないよ!」

 

 

疑いの目を向ける八幡に対してほっと胸をなでおろす青葉。

 

 

「あ、そうだ。お前風邪なんだよな」

 

 

「うん、ちょっと北海道でテンション上げすぎて...」

 

 

青葉が照れるようにいうと、その一部始終をちゃっかり男湯で聞いていた八幡は「あー、あれか」と心の中で呟くと持っていた袋に手を伸ばす。

その仕草に青葉は八幡からのお見舞いに何かくれるのかと期待したが、中から出てきたのは1枚の使い捨てのマスクだった。

思ってたのと違う...という顔をする青葉に八幡は真顔でこう言った。

 

 

「お前風邪なんだろ?」

 

 

そして当たり前のようにマスクをつけて手を洗いに行く八幡に青葉は乙女心を遊ばれたことに腹を立てる。

しかし腹を立てたところで熱は下がらず、むしろ怒りのパワーで悪化した。

 

 

「で、何しに来たの」

 

 

「さっき言わなかったか。お見舞いだよ」

 

 

手を拭きながら戻ってきた八幡にそう投げかけると首を傾げて返された。

とてもそんな態度じゃないと憤怒しかけてると青葉の飼い猫がにゃーにゃーと餌くれ餌くれと強請っていた。

八幡も実家でカマクラという猫を飼っていたのでその鳴き方には覚えがあった。

 

 

「なぁお前飯は」

 

 

「あ!忘れてた!」

 

 

八幡の一言でお腹の減りを思い出した青葉は急いで台所に向かおうとするが、右手を八幡に掴まれる。

 

 

「な、な、何!?」

 

 

意中の人間に触れられて下がっていた熱が別の原因で高騰する。顔を真っ赤にして聞くと八幡は呆れたようにジト目で返す。

 

 

「病人だから寝てろよ。飯くらい用意してやるから」

 

 

「え、でも...」

 

 

「いいから」

 

 

「う、うん...」

 

 

そう力強く言われてしまえば青葉も引き下がるしかしない。

大人しく自分は部屋に戻り、布団に入って八幡がご飯を持ってくるのを待つ。

 

 

 

だが。

 

 

(落ち着かない...!)

 

 

気になる人物が自分の家に来てるのにこうして布団の中で大人しくしているというのはとてもじゃないが落ち着かない。

ソワソワとスマホを何回も見たり消したり、床に落ちてるものを片付けたりして時間を潰す。

 

 

「あ!汗くさくないかな...!?寝てる時ちょっと暑かったし...」

 

 

 

 

 

 

 

一方、台所では。

 

 

「涼風の母ちゃん優しいんだな」

 

 

初めてきた同期の家、それも女子の家で八幡は台所に入り、見舞いの品で要冷蔵のものを冷蔵庫に入れると、カウンターに置かれていた青葉の母親が作っていったのであろう玉子とじおかゆを見て呟いた。

自分の母親はこんなことしてくれない。でも、羨ましいとは思わない。だって、自分には小町がいるから!と平常運転でモノローグを綴り、おかゆを温める。

 

 

温めている間に猫のキャットフードを探し出す。実家だとここだったよな、という棚を開けると予想通り探し物は見つかった。

それを実家の猫に与えていたくらいの量が入る皿に入れて青葉の猫の前に差し出す。

すると、よほどお腹が減っていたのかむしゃむしゃと勢いよくかぶりつく。

 

 

美味しそうに食べる猫の姿を眺めているうちにおかゆが温まり、お盆の上に匙と水を注いだコップと共に乗せて台所を離れる。

 

 

「入るぞー」

 

 

「え!?ちょっ、ちょっと待っ」

 

 

ノブを回してドアを開ける。その際に中から何か青葉が言った気がするが八幡は無視して中に入る。

言ったことを守っていれば青葉はベッドの上で寝ているはずなのだ。

片付いた部屋で本棚と大きなパソコン、壁にはフェアリーズストーリーのポスターがかけられており、女の子の部屋というよりは男子中学生の部屋のそれに近い。部屋の一角を占める木製の大きなベッドにはきのこの掛け布団と部屋の主の少し偏った趣向を感じさせられた。

そうして部屋を見渡した八幡の目はピタリとある人影を見てから止まる。

 

 

「あ...あ...」

 

 

半身になって八幡に顔を向ける青葉。

八幡が来るのが遅いので、汗をかいた服を着替えようとパジャマを脱ぎ、下着を外したところで扉が開かれたのだ。

その身を隠しているのは余程慌ててたのか、半分ずり落ちた下着だけだった。

両手で危ない部分だけ隠した青葉の姿を見た八幡はすぐさま扉を占める。

 

 

「悪い」

 

 

ドア越しで目を逸らしながらそう言った八幡だが内心はかなり混乱していた。

 

 

(なんで寝とけって言ったのに着替えてたんだよ!しかも来客中だぞ!?馬鹿じゃねぇの!?)

 

 

不慮の事故とはいえ嫁入り前の娘の裸を覗いてしまった自分を正当化しようと青葉を悪者にするが、司法が出てくると確実に自分が悪いことになると確信した八幡は素直に諦めて青葉の声を待つ。

 

 

「......どうぞ」

 

 

許可が出たので八幡は入った瞬間に土下座をする覚悟で再び扉を開く。

部屋の中には来た時は違うパジャマを着た青葉がベッドの上に座っており、八幡と目を合わせないように電源の入っていないパソコンの画面を注視していた。

 

 

「そ、その悪かったな…ノックもせず入って」

 

 

入ってすぐに罵倒される覚悟でいた八幡だったが、青葉が何も言ってこなかったので先に謝罪を入れる。すると、青葉は手で顔を覆い消え入りそうな上擦った声で呟く。

 

 

「...うん、私もごめん。寝とけって言われたけど落ち着かなくて」

 

 

「お、おう...」

 

 

なんだこのぎこちない空気と2人は同時に思う。

いつも会社で話すような雰囲気はなく、お互い目を逸らす。

先程のことがあって未だ硬直して入口の前に立ったまま動かない八幡に青葉は紅潮した顔を見せないように手で覆ったまま顔を動かす。

 

 

「とりあえず、お腹減ったから...それ...こっち持ってきて」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

そう言われてやっと動いた八幡は青葉の側まで近づきお盆を手渡そうとするが、青葉は手を出さずにジロっと八幡を見上げる。

 

 

「...どした」

 

 

やっぱり怒ってんのかと八幡は後ろめたい気持ちになる。

別に興奮してない。下着なんてただの布だし。となるべく心を清らかに、理性の化け物として顕現しようとしていた八幡だが、流石に被害者に睨まられたらそんな気も失せて申し訳なさが先行してしまう。

 

 

 

「あーん」

 

 

「は?」

 

 

そんな八幡だったが、唐突に青葉が大きく口を開いてそう言ったのを聞いて思わず威圧的な声が出る。

 

 

「え、病人だから食べさせてくれるんじゃないの...?」

 

 

「いや、そこまでは言ってないんだが」

 

 

言ったかな?と八幡は思い出してみるが用意はするとしか言ってない気がする。それに自分はそんなこと言う人間ではないから違うと確信を持って言える。

 

 

「えーいいじゃん。それくらい」

 

 

「それくらいって...元気そうだし自分で食えよ」

 

 

「さっきので結構熱上がっちゃって...」

 

 

苦笑混じりに言う青葉に八幡はそれを言われては仕方ないとため息をつく。

 

 

「ん、ほれ」

 

 

過去に何度か妹にこうして食べさせたことを思い出しながら八幡は匙を青葉の口の前まで持っていく。

青葉は口を大きく広げて匙にのったお粥を中に含むと幸せそうな顔をして咀嚼する。

 

 

「ん〜美味しい...でも、味薄いかな…」

 

 

それだったらと八幡はおかゆを青葉の机に置いて部屋を出て、台所から醤油を取って戻ってくる。

玉子とじ粥に醤油を適量かけてまた青葉の口元に持っていき食べさせる。

 

 

 

「あ、いい感じ」

 

 

「そりゃよかった」

 

 

食べ終わり蓋をして、八幡は台所にそれを置く。

戻ってくる際にちゃんとノックして部屋に入ると青葉は布団の中で目を開いて八幡を待っていた。

 

 

「今日はありがとね。助かったよ」

 

 

「礼なら遠山さんにいってくれ」

 

 

本心でそう言う八幡に青葉は首を振った。

 

 

「ううん、来てくれたのは八幡だし。それに多分、ひふみ先輩とか歳上だったりももちゃんみたいに後輩だったら気遣っちゃうし」

 

 

「...確かに」

 

 

言われて八幡も遠山さんが来た時、めちゃくちゃ気がかりだったなと思って頷いた。

 

 

「あー寝れるかな。昨日の夜からずっと寝てるしな...眠れるかな」

 

 

「目閉じて何も考えずにいたら寝れるだろ」

 

 

「そうだけどさ」

 

 

布団の中でもじもじしながら青葉は言うか言うまいか思案する。

口に出すのは難しく、出した後も相手が嫌がるかもしれない。そんなお願いだ。

瞬きして目を開けるたびに八幡と目が合う。

言って後悔するか、言わなくて後悔するか。

青葉は最近になってその答えを知った。

 

 

「八幡」

 

 

「ん?」

 

 

言って後悔するより、言わなくて後悔することの方がずっと苦しく嫌な気持ちが残るかもしれない。そう考えたら言って悶えて気持ちを切り替えてしまう方がよっぽどマシかもしれない。

それに裸を見られたのだ。今更恥ずかしい思いをする必要があるものかと青葉は意を決して口を開いた。

 

 

「私が寝れるまで手、握っててくれない?」

 

 

頑張って青葉は願いを口にしたが、唐突な青葉の申し出に八幡は苦い顔をする。

それを見越していたように青葉は先程の言葉に少し付け加える。

 

 

「私、寝れない時お父さんかお母さんに手繋いで貰ってたから...お願い」

 

 

握れるように布団から右手を出して八幡の答えを待つ青葉。じっと見つめられた八幡は観念したようにため息をつくとその右手を優しく握った。

 

 

「寝れるまでだからな」

 

 

「...うん」

 

 

そう言って口元を綻ばせて目を閉じた青葉。

八幡は青葉が寝付いたら家を出ようとしていたが、昨日の疲れからかベッドに身を預けて瞼を閉じてしまった。

 

 

 

「あらあらまぁまぁ」

 

 

しばらくしてそれを発見したお出かけ帰りの青葉母は写真を撮って、どちらかが起きるまでにこりと2人を見守っていた。

 

 

 




いかがだったでしょうか。
青葉がメインヒロインなんだよ!!って感じの話を書こうと思ったら、ラッキースケベしてました。これでキュンキュン来る人いんのかなぁ...いや、いないだろうなぁ...。


さてさて、関西にお住まいの皆様地震大丈夫だったでしょうか。
自分は家を出たところで強風に見舞われ
「駐輪場の屋根ガタガタ言ってる〜w 強風警報はよ」とか思ってたら、風じゃなくて地震で揺れてました(風は吹いてました)。
駐車場がビービー!いってる時点で察するべきだった。
地震のせいでエレベーターは止まり10階より上にある我が家へ階段で駆け上がりました。
そしたらマイルームが大惨事に。コレクションを置くスペースは倒壊し、フィギュアの台座はなくなり、お気に入りのコップは割れてました。
でも、お宝(18禁アイテム)は散らかることなく親の目に晒されることは無かったので良かったです!!ではでは!




おま○け


ピンポーンの音で目を覚ますと部屋の電気は消えていて、目をこすって上半身だけ身を起こす。何時間くらい寝てたんだろうと時計を目にしようと思ったところで下腹部辺りに妙な重さを感じたので先にそちらを見る。


「ひょええぇぇぇぇ!?」


そこにはなんと私のお腹を枕にして寝る八幡が!
看病しに来たのになんで寝てんの!?



「...それにしても」


寝ていても私の手をちゃんと離さず握ってくれてるのは嬉しいけども...。自分の中の八幡の株が上がるのを感じていると部屋の明かりがつく。


「青葉〜元気になった〜?」


「お、お母さん!?」


いつの間に帰ってきていたのか。その事に驚き、さらにニヤニヤしているお母さんの顔を見て色々と察して頭を爆発させる。


「ねねちゃんとほたるちゃんが来てるけど〜どうする〜?」


「え!?なんで!!?」


「そりゃお見舞いに決まってるでしょ。...でも、今日は帰ってもらう〜?」


「あ、いや大丈夫!会う!治った!...ほら、は...比企谷くん起きて!」


もう少し握っていてほしいがこんなところをあの二人に見られるとどんな誤解をされるかわからないのて握られていた手を離して、八幡の背中を揺する。


「んん...ん...?」


「八幡!ねねっちとほたるんがきたから起きて!」


そう言うと八幡は半開きだった目を覚醒させて私のベッドからばっと離れると、鞄から本を出して今まで本を読んでいたかのように読み始める。


「あおっち〜元気ー?...ってなんでハッチーが?」


「あ、ほんとだハッチーだ」


「よ、よぉ...」


引きつった笑みを浮かべながら挨拶する八幡。なんでいるのかとねねっちに聞かれて八幡は目を右往左往させながら答える。



「遠山さんに頼まれたんだよ。お前らは?」


「私達は大学にいってたんだよ」


「...そういえば、お前大学生か」


「そういえばってなんだー!」


すっかり会社に溶け込んでいたねねっちのことを八幡はまだ大学生だということを忘れていたらしい。よかった、ねねっちのおかげでいつもの空気だ。


「もう、あおっち滅多に風邪ひかないからちょっとびっくりしたよー」


「へへへ、ごめん」


あせあせと謝る私にねねっちはジト目を向けてくる。それから目をそらしてほたるんの方を見る。


「これ、果物買ってきたんだ元気がない時は栄養付けなきゃ」


「ありがとう」


ほたるんからみかんを受け取り皮を剥いて食べようとすると八幡が温かい目で私を見ていた。


「どしたの変な目して」


「いや...ただお前明日大きめの袋持ってきた方がいいぞ」


「どゆこと?」


意味がわからず首を傾げていると、ほたるんとねねっちの間でどうして風邪をひいたのだろうかという話になった。


「どうせ北海道のお風呂で調子乗ったからでしょ〜」


「お風呂?」


「ち、違うよ!お風呂はぜんぜん関係ないし!!」


「しょっちゅう出たり入ったりね。もう子供なんだから」


「えーそんなことしてたの?」


「ねねっち〜!...は、八幡もなんとか言ってよ!」


さりげなく帰る用意をしていた八幡の背中にそういうと、八幡は振り向いて「自業自得だろ」と小声で言った。


「だよねー!」


「だいたい夜にあんな長湯してたらそりゃ風邪ひくわ」


「そ、そうかもしれないけど...ん?なんで八幡が私がお風呂に入ってたの夜だってわかるの?」


「俺もその時間入ってたからに決まってんだろ。なんならその時なんて言ってたかも聞こえてたぞ」


え、嘘!?と八幡を凝視するが表情から察するに本当に聞こえていたらしい。あわわわと恥ずかしさで固まっているとほたるんが八幡に尋ねた。


「なんて言ってたの?」


「ダメダメ!言わないで!」


「いいじゃん聞きたーい!」


「もうねねっち!」


「確かなー」


「あーもうやめて!八幡のいじわる!」


そんなこんなで騒がしい夕方のひと時を過ごして、3人が帰った頃には私の熱は完全に下がっていた。ありがとう、ねねっち、ほたるん。
ついでに...八幡も。本当にありがとう。


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新企画とは当たって砕けることである。

いつも前書きと後書きくだらないと言われるので書きません。


独り言が止まらないからよ、誰か話そうぜ。

そう思ったのが1分前で、あー地球が亡くならねぇかなと思っているのが今である。そう現在進行形。ing系というやつだ。

大体のリア充は「〜なーう!」とか言ってるからingを使う奴はリア充。とか思っていたが、最近のリア充は「〜わーず!」と過去形も使い出したのでもうわけがわからないよ。

俺の予測ではこれからは完了形が流行る。でも「〜はーぶ!」って意味わかんねぇな。hadならまだわかりやすいけど結局過去完了で過去になっちまうしな。

 

 

あと未来形も流行るだろう。「〜うぃる〜」みたいな。ライブうぃるとか使えそうなんじゃね?俺ライブ行かないから使わないけど。

ちなみにWillは助動詞だからこの後に来るのは原形だ。一般常識だから覚えておいた方がいい。覚えてなかったらバカにされるから気をつけろ。

 

 

 

とまぁ、数年前まで習っていた英語をリア充と絡めて考えたところで本題に入ろう。涼風が風邪から立ち直り普段の雰囲気が戻ってきたキャラクター班のブースでは、涼風のお見舞いの品として持ってきた果物の消費作業中である。

りんご、みかん、メロン、バナナ、パイナップル...季節感ゼロの果物がある気がするがそこは気にしてはいけない。めったに休まない涼風が休んだことで皆が心配して果物を持ち寄った結果、涼風の机の上がフルーツ一色に染めあがっていた。

大体はひふみ先輩が持ってきたのだが、メロンはどこから出てきたのだろうか。北海道かな?それとも...コホン。

 

 

望月からは牛乳、俺からはマッ缶を進呈しておいた。誰とも被らなくて何よりである。

 

 

 

さてさて、涼風が戻ってきたキャラクター班は今日も今日とてヘルプ作業。あそこをこーしてあーしてdoして?みたいな作業だ。葉月さんが次の企画を決めない限り俺たちメインの仕事がやってくることは無い。つまり、葉月さん次第では今すぐにでも俺たちは地獄へと踏み込むことになる。だから、俺としてはこのまま仕事なんてしたくないのだが…。

 

 

 

「もはや新企画なんて通す気がないのでは。と思われます」

 

 

指を立て深刻そうな顔で口を開いたはじめさんに俺は「はぁ」と素っ気ない返事を返す。

PECOが出来てから新企画を作っては書類にまとめて持って行っているはじめさんだが未だにOKは貰えず頭を抱える毎日のようだ。

ひとまず突き返された企画書を見ると両腕がコントローラーの両スティックに対応しててロボットを操縦できる楽しさを追求したゲームらしいのだが、イーグルジャンプにはロボットもののノウハウがないらしくかなり難しいということでバツだったらしい。

それを聞いたゆんさんは頷いてすっぱりと切り出す。

 

 

「ロボットは確かに、無理やろ。無理やわ。無理ですわ」

 

 

 

「3回も無理無理言うな!!」

 

 

 

無駄無駄!オラオラ!ドラララ!とかよりはマシだと思う。言葉と一緒に拳が飛んでくるからな。何なら前者は2人は時が止まってるかのような速度で拳うってくるし止めてくる。

ここは格ゲーがいいんじゃないかと思ったが、ゲーセンでいくらでも出来るしなぁと考えると自分で即却下した。何か目新しいものがないと採用はされないだろう。

 

 

 

「他にはどんな企画書を出したんですか?」

 

 

 

「あ、見る?たくさんあるよ!」

 

 

 

涼風がそう問うとはじめさんは嬉嬉としてどっさりと今まで葉月さんに却下されてきた企画書の束を取り出す。

 

 

 

「巨人になって怪獣を倒せ。

防衛軍になって怪獣を倒せ。

ダンスダンス応援団!

5人協力バトルアクション。

超サッカー。

ハードボイルドシューティング...」

 

 

 

「どれもはじめらしい企画やな」

 

 

 

確かにはじめさんらしい企画だが、どれもこれも似たようなのでヒット作というのが存在するものばかりだ。ハードボイルドシューティングに関してはよく分からないのだが、巨人になって怪獣を倒すというのはウルトラマンだし、防衛軍になるのはEDFというのがある。

ダンスダンス応援団!はオリジナリティがあるが渋すぎるな。なんで全員学ランで男しかいねぇんだよ。誰が買うんだよこのゲーム。どこ狙い?音ゲーマーでも手を出すの躊躇うぞこれ。

5人協力バトルアクションはありきたりだ。大体のアクションゲームのミニゲームとかにあったりするし、友達がいないと楽しくなそうだから却下。

超サッカーは...うん、バーニングキャッチかな。

 

 

俺がペラペラ捲りながらダメ出ししてクソ雑魚ブロッコリー先輩がフェンスオブガイアしたり頼り無い手を使ってるのを想像してたら涼風は気に入ったものがあったのか笑顔ではじめさんに話しかける。

 

 

 

「この応援団ってダンスゲームですよね。楽しそう」

 

 

 

「ほんとに?ありがとう!」

 

 

 

涼風の言葉に喜びを浮かべるはじめさんだがすぐに落胆したような表情へと変わった。

 

 

 

「でも...渋すぎるって...渋くないのだと既にあるし...それと比べて新しい要素もないし...」

 

 

「難しいですね...」

 

 

どうして渋い以外の要素が浮かばないのだろうか。サンバとかよさこいとか世界のダンスができるゲームみたいなコンセプトのは無いはずだからやってみりゃいいのに。無理って言われても作ってみてゴリ押しすればいけ...いや、ダメだな。ゴリ押しして企画が通るならはじめさんのこれらが全部ゲーム化してお休みがお仕事になるくらい多忙になってしまう。

 

 

「でも...案外どれもやってみれば面白い...かも」

 

 

 

「そう言ってもらえるだけで私は嬉しいです...」

 

 

ひふみ先輩の励ましに心の底から頑張って出したような声を出すはじめさん。

まぁ一生懸命やってるのに自分の企画が通らないなんてよくある話だろう。

聞いた話では、プロのデザイナーは108個の企画を考えて実際に形にしてプレゼンして通ったのが2個だけとか、そういう話を聞いたのでまだ2桁ほどしか作ってないはじめさんのものはまだまだということなのだろうか。

 

 

 

ふーむ、と唸っていると隣でもっもっと俺が白い部分を取ったみかんを咀嚼している望月と目が合った。

いらなかったから気にしてなかったけど許可なく食べるのやめようね。いや、涼風のだから涼風に確認とってたしいいんだけど。

 

 

「なら、しっさいにくくってみへれば いいんしゃ らいれふか?」

 

 

 

『え?』

 

 

 

望月の不可解な日本語に全員が疑問符を上げる中で俺は望月に「口の中のものを全部食べてから言いなさい」と言うと、望月はゴクリとみかんを飲み込む。

 

 

「ちゃんと噛めよ...」

 

 

俺のそんな呟きはこのあと、望月の発言を理解したはじめさんによってかき消されるのであった。

 

 

 

###

 

 

 

「てことで、はじめさんの企画を形にできないかと思ってな」

 

 

「なるほど」

 

 

望月の「実際に作ってみたらいいんじゃないですか?」発言により、早速はじめさんはプログラムに長ける鳴海のところを訪れた。何故か俺はゆんさんの命令で同伴させられた。はじめさんのブレーキ役になって欲しいとの事だ。

 

 

「さっき皆の意見も取り入れて練り直したばかりなんだけど良くなると思うんだ!」

 

 

興奮気味に力説するはじめさんは若干引き気味の鳴海に気付かず話を続ける。

 

 

「5VS5のドッヂボールでスポーツというより、とにかくバトルっぽく仕上げて格闘ゲームの爽快感を出してさ、それに...」

 

 

「いや、これ」

 

 

 

「ん?」

 

 

説明してヒートアップして資料を放り出してジェスチャーで表した始めたはじめさんに鳴海が企画書を拾い上げて呟くとはじめさんは挙動を止めて首を曲げる。そして、鳴海はペラペラとめくってからはじめさんを見つめる。

 

 

「結構面白いんじゃないですか?」

 

 

 

「でしょーーーー!!」

 

 

「はじめさん、声」

 

 

褒められてテンションアゲアゲなはじめさんに静かにするようにと制するとごめんごめんと手を合わせる。

 

 

「...まぁこういうゲームなんだが、鳴海の言う通りそこそこ面白いと思う。だけど、この企画書だけじゃ葉月さんが首を縦に振るとは思えない。だから実際に作ってみてほしいんだ」

 

 

黙って聞く鳴海は「なるほど」と頷く。

一応、こいつもはじめさんが今まで企画が突き返されているのは望月経由で聞いてるかその目で目の当たりしたことがあるだろうから状況の飲み込みは早いだろう。

 

 

 

「だけど、これは仕事じゃない。給料の発生しないノーリターンのはじめさんの自己満足だ」

 

 

言ってはじめさんの方をチラリと見る。少しキツい言い方になってしまったがその事は自覚してるのかはじめさんは何も口を挟まない。

 

 

「それでこんなこと勝手にしたら会社から何か言われるかもしれん。入社前の鳴海には危ないことだ。だから、もし良ければ…ってことで」

 

 

 

「か、考えてみてくれないかな!」

 

 

 

頭を下げるはじめさんに鳴海はしばしの沈黙を経て口を開いた。

 

 

 

「いいっすよ」

 

 

あっさりと了承してくれた鳴海に呆気に取られて声が出ない鳴海は笑いかける。

 

 

「むしろPECOの時にいろいろあったのにそれでも頼ってくれて嬉しいです。作りましょう。面白いゲームを!」

 

 

「うん!」

 

 

では、早速と鳴海はプログラミングの作業に入る。仕事大丈夫?またバグ出ない?と心配してたら「そうだ」と鳴海が振り返る。

 

 

「やりますけど報酬はいただきますね」

 

 

「う、うん!わ、私に払える範囲なら!」

 

 

冷や汗を流すはじめさんに鳴海は「違いますよー」と笑顔を浮かべると俺にいたずらめいたスマイルを向けてきた。

 

 

「比企谷先輩に、ですよ」

 

 

「えぇ...なんで俺」

 

 

同伴しただけで企画には全く携わってないんですけど…いや、必殺技の考案とかはしたけどさ。男の子的視点を加えたけど、体は女なのに思考回路が男の子のはじめさんならいずれ辿り着いたと思うんだよね。

 

 

「それで何がお望みだ?あ、痛いのと金銭類はなしな。今月はちょっとな」

 

 

「...給料からまだ1週間しか経ってないんですけど」

 

 

ジト目を向けられて顔を逸らす。いや、マッ缶がいつもより安くて会社用と家用に買ったりとかパソコン新調したら生活がね...。普通にしてたら大丈夫だけど予定外の出費には対応出来ん。

 

 

「大丈夫ですよ、大したことじゃないので」

 

 

あぁ、そう?なら、いいかな?と俺は軽く適当に返事を返してはじめさんと共にブースへと戻る。

 

 

「なるちゃん受けてくれた!自主勉ってことにするって!」

 

 

「おぉ!」

 

 

はじめさんの吉報にゆんさんが感嘆の声を上げる。が、すぐに首を傾げた。

 

 

「...で、私らは何をすればええの?」

 

 

「手伝ってくれるの!?」

 

 

ゆんさんの申し出にマジですか!?と驚いたはじめさんは頬をかきながら口を開く。

 

 

「じゃあまずは簡単なキャラと背景の仮モデルを...でも一番必要なのは面白くなるまでひたすらテストプレイしてほしくて...いいでしょうか?」

 

 

「なにかしこまってんねん。まかしとき!」

 

 

「がんばります!」

 

 

「みんな...!」

 

 

とんと胸に拳を当てるゆん姐さんとぞい!と拳を握る涼風の頼もしさに嬉しみが深そうな声で喜ぶはじめさん。

 

 

「でもなんだか悪いことしてるみたいでちょっとドキドキしますね」

 

 

「まぁ下っ端のお遊びや」

 

 

涼風が気まずそうに遠山のデスクを見やる。そこには誰もおらず、今日も今日とて売り込みや会議に出ているのだろう。それにゆんさんは涼風の方を見て苦笑いを浮かべた。

しかし、ゆんさんの発言で涼風は「あ」と漏らす。

 

 

「ということはひふみ先輩まで関わるとまずいのでは...」

 

 

 

「!?」

 

 

「まぁ責任者だしこういうのは止める側だからな」

 

 

「!!??」

 

 

「た、確かになんで止めんかったんやって責任取らされんのは...」

 

 

 

「う...うぅぅ〜〜〜〜〜...」

 

 

 

下っ端3人の責任者への視線が刺さり、それにひふみ先輩は耐え切れず本人からすれば唸り声のようなものだろうがただ可愛いだけです。さて、我らが責任者の滝本ひふみの出した答えは…

 

 

「だ、大丈夫!今のヘルプの仕事を...おくれないようにしてくれれば、そ、それで...!」

 

 

 

「む、無理しないでくださいね!」

 

 

最低限のことさえしてれば文句は言われないってことですね!さすがひふみ先輩!分かってる!

けど、既にこの企画練ってる間に俺の仕事が遅れ始めてるんですが。と早めに仕事に戻ろうとしたらはじめさんが拳を突き上げた。

 

 

「よし!円陣組もう!」

 

 

「そうですね!」

 

 

「う、うん...!」

 

 

「でも、ここじゃ狭ない?」

 

 

意外にノリ気な皆様は体育会系か何かかな?

と首をかしげたくなるなこの状況は。まぁ確かにここじゃ狭いな。この人数が円陣を組めるくらいの広さとなると。

 

 

「屋上か」

 

 

「それだ!」

 

 

思わず呟いた一言にはじめさんは指を鳴らして賛成すると屋上への階段へと走っていく。

その姿を見送りながら望月に鳴海も呼んでくるように指示すると俺は席につく。俺は今回は傍観者でいよう…と思ってたら横で胸の前に手を重ねたひふみ先輩がいた。

 

 

「は、八幡......い、いかないの?」

 

 

「いきます」

 

 

さぁ、早く行こう。時間は有限。細工は流々仕上げを御覧じろ。このくらいの遅れどうにかなるさと勇猛に階段を上がる。

扉を開くと俺とひふみ先輩以外は揃っており、円陣を組もうとしていた。

俺とひふみ先輩はそれぞれ間に入るとはじめさんが息を吸って吐いて声を出す。

 

 

「それじゃあ残業もさせちゃうと思うけど...よろしくお願いします!後で好きなおもちゃあげるから!」

 

 

「いらんわ!ただし出世払い」

 

 

「ははは」

 

 

俺は興味あったがゆんさんがあっさり切り捨てるとはじめさんは乾いた笑いを浮かべた。

 

 

「見せてやりましょう私達の実力を!」

 

 

「うん」

 

 

「ほどほどにね...」

 

 

 

鳴海が意気揚々と口を開くと望月が首肯し、ひふみ先輩がリーダーとしてやんわりと忠告する。

そして、各々の顔を見合わせ全員が手を重ねる。あんまりこういうのが得意じゃない俺は渋っていたが涼風に手を取られ無理矢理重ねさせられる。

 

 

「せーの!」

 

 

 

『おー!』

 

 

 

はじめさんの掛け声で全員が手を挙げて気合いを入れる。目指せ打倒葉月さん!羽ばたけチームはじめ!ということで、俺たちのオリジナルゲーム制作が始まった。




いかがでしたか?
日が空いてすみません!許してください!
でも書くとお気に入り減るし、書いてない間の方がお気に入り伸びてるから書かない方がいい説が微レ存...?
まぁ!他人の評価なんて気にしちゃダメですよね。最近『原点回帰』という目標を掲げて自分の原点に戻ってるところです
ムシキング、ドラゴンボールZ、ダンボール戦機、イナズマイレブン(円堂守編)、ジョジョの奇妙な冒険など...自分が憧れたり夢中になったものに改めて触れてみると感慨深かったり、面白かったりしますよ。
それで小説を書き始めたきっかけは『書きたいから書く』だったので原点に戻って評価は『なるべく』気にしないようにします。
流石に真っ青とか-100とかされたら心折れますけど。
そうならないようにがんばります!


あ!後書き書かないって言ったのにめちゃくちゃ書いてるナリ!そうだ!大声で文字をかき消すナリ!(略)汚い。


ではでは


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遠山りんは見てくれている。




強靭!無敵!最強!なジグルドさんは引けましたか?僕はまだです。
破滅の純情やいけないボーダーラインを引いてワルキューレが止まりそうにありません。(訳:ワルキューレ2体引いた)
地震、大雨に引き続き猛暑で死にかけてましたがなんとか書きました。
暑いですがこの夏を乗り越えて...どうすんだろ...


 

 

 

一日中起きていたのはいつ以来だろうか。高校のテストで数学がかなり危なかったからという理由で一夜漬けした時以来だろうか。

まぁその時は1日だけだったし何とかなったのだが、流石に4日はキツい。かの有名なナポレオンでも3時間は寝ていたというのでこの4日間15分しか寝てない俺を責められる人物がどこにいるだろうか。

 

 

 

「先輩、2行目のコード追加してください」

 

 

「へーい」

 

 

ちょっとプログラムが出来るからって召し出された俺だが、決して鳴海の飯に釣られた訳では無い。善意であり同僚が困ってんなら俺は助ける!的な感じで来ただけで決してカニ鍋が食べたかった訳では無い。ほんとだよ?八幡嘘つかない。

 

 

 

にしても、最後にまともな飯を食ったのがそれで、カップ麺と冷凍食品続きで望月に買い物に行ってもらうのが申し訳ねぇな。それに家に帰るのだるいし…。そう言えば、鳴海と望月の家に行くのに地図が必要なくなってきたな。まぁ、男友達なら普通だしいいか。あれ?鳴海と望月って女だっけ...もう覚えてねぇや...。

 

 

もう起きすぎてそろそろ座に召されてもいい頃だ。適正はなんだろなぁ...ドッヂボールのゲーム作ってるしアーチャーかな。アーチャーが弓使うわけねぇだろ。

 

 

 

 

そんな冗談も言えていたのは三日前の話だ。流石に1週間も続いてくると流石に限界が来る。

ドッヂボールってなんだっけ…。冗談も思いつかなくなってしまった俺はこの数日そんなことを考えるようになってしまった。

このままいくとゲームも俺の頭も超次元ドッヂボールになっちまうぞ…。

 

 

 

「お、おはよう...3人とも大丈夫?」

 

 

 

 

寝不足によって頭クラクラ大ピンチで覚束無い足取りで会社まで来たら、コーヒーカップを手に持つ遠山さんはそんな俺とはじめさん、鳴海を見て唖然とした様子で立っていた。

 

 

 

「あ...おはようございます〜...」

 

 

 

「大丈夫です〜...」

 

 

 

「▷〇☆□×※$♪%#◇✽♫$...」

 

 

 

はじめさんと鳴海が項垂れながら挨拶をする中、俺のみ呂律が回らず思考もできずに言葉では表現出来ない挨拶をしてしまう。それに遠山さんは口を開けたまま「あ、うん...?」と首を傾げるが俺たちは遠山さんの横を通り過ぎてはじめさんはふらふらとしながら口を開く。

 

 

「あ、昼休み、いつもの、所で、よろ、しく〜...」

 

 

 

「了解っす〜...」

 

 

 

手をゆらゆらと振ってプログラマーブースへと歩いていく鳴海を見送ることもなく、自席につくなりいつも通りの...仕事を...寝みぃ.........

 

 

 

 

 

 

 

はちまん は めのまえが まっくらに なった!

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

仕事が始まってからしばらくもしないうちに眠ってしまったはじめさんと八幡を尻目に見ながら、私とゆんさん、ももちゃんとで椅子を近づけて顔を向け合う。

 

 

 

「はじめさんは分かるけど八幡はなんで寝てるんだろう」

 

 

そんな疑問の声を出すとももちゃんがそれはと口を開く。

 

 

「なるとはじめさんだけじゃ人手が足りないからと駆り出されたみたいです。ここしばらくなると2人でやってます」

 

 

 

「え!?3人で泊まってんの!?」

 

 

 

「いえ、泊まってませんけど。はじめさんは自宅で、比企谷さんはPCの環境が整ってるうちでなると作業してます」

 

 

 

八幡はわりと何でもできるところと頼まれたら断れないからはじめさんかツバメちゃんに頼まれたのかな。

 

 

「なると比企谷さん...夜遅くまではじめさんと打ち合わせしながらプログラム書いて帰っても朝方までプログラム書いてて大変です...」

 

 

「そんなに!?」

 

 

「なるちゃんスイッチ入ると極端やな」

 

 

 

仕事終わって夜から朝までパソコンと向き合ってたらそりゃ眠いよね...。キーボードに顔を埋めた八幡はなんとか起きようとしてる様子だったけどもはやピクリとも動かずに寝息を立てている。若しかしたらツバメちゃんもあんな感じなのかな…。

 

 

 

「なるの体も心配なんですが...私の...」

 

 

 

「私の?」

 

 

 

「私のここ数日のごはんがずっとインスタントとかコンビニ弁当で非常事態です!!」

 

 

 

「それは大変だね」

 

 

 

ももちゃんにとってはツバメちゃんの料理はとても大事みたい。ちなみに最後に食べたのはカニ鍋らしい。いいなぁ。

でも、それ以降八幡たちもまともなごはん食べてないってことだよね?何か作ってあげた方がいいのかな…。

 

 

「私達もなにか手伝えればいいんですけどね...グラフィックはこういう時無力ですね...」

 

 

グラフィックなのにプログラムしてる人もいるけど、アレはよくよく考えたらおかしい事だよね。つまり、1人でゲーム作れるってことだよね。うん。3人で出来ることはないかと考えていると背後から声をかけられた。

 

 

「やっぱりあなた達なにかしてるのね?」

 

 

「わぁああ!?」

 

 

と、遠山さん!?

 

 

 

「あ、いや、な、なんでもないですよ!」

 

 

 

「そ、そうです。はじめ、新しい企画が思いつかなくて疲れてるんやないですかね」

 

 

 

「ひ、比企谷さんもはじめさんの相談相手になってるみたいで!」

 

 

ゆんさんとももちゃんの3人で誤魔化すように言ったけど遠山さんは寝てる八幡とはじめさんを一瞥する。

 

 

 

「でもなるちゃんも一緒に疲れた顔をしていたけど」

 

 

「き、企画も知っておくべきプログラムの勉強に付き合って貰ってるんじゃ!」

 

 

 

我ながら適当なフォローだと思いながらも、口から勝手に出てしまうから仕方ないと割り切る。それにここで止められたら全部無駄になっちゃうかもしれないし。

 

 

「おはようございます」

 

 

この声はひふみ先輩!?あ、まずい!

と思った時には時既に遅く、遠山さんに「何か皆で私に隠してることない?」と聞かれてしまった。

 

 

「え!? い...いや...し、しししし、しら...」

 

 

人に嘘をつけない+バレたら責任を取らないといけないというプレッシャーからバレバレなしらの切り方をしようとしてできてないひふみ先輩に遠山さんは目を細める。

 

 

 

「りんさんちょっと...」

 

 

 

ひふみ先輩があたふたしてる後ろから今度はうみこさんが腕組みしながら現れる。

 

 

「鳴海さんと篠田さんが隠れてなにかやっているようで......って今そのことを話してました?」

 

 

地味に八幡省かれてるけど遠山さんが「比企谷くんもです」も付け加える。するとうみこさんは呆れたように目頭を抑える。

 

 

「最近プログラムについて聞いてきたと思ったら...一体何をしてるんですか?」

 

 

視線がひふみ先輩へと集まりひふみ先輩はキョロキョロし、視線に耐えきれなくなったのか縮こまった。

 

 

「うぅぅぅぅうう!!」

 

 

「ああ!大丈夫です!!」

 

 

 

「私達が白状します!!」

 

 

その様子を見て私とゆんさんは急いで立ち上がり遠山さんとうみこさんに全ての事情を説明した。

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

「社内で無断でゲームを作っていたら遅かれ早かれわかるに決まっているでしょう?」

 

 

ありのまま起こったことを話すぜ!仕事してたら寝落ちしてて、起こされたと思ったら会議室に連行された。何を言ってるかわかるけど今の俺には到底理解できない。(支離滅裂な発言)

わかりやすく3文字で言うと「バレた」ということである。

 

 

「はい...ごめんなさい...」

 

 

「反省してます...」

 

 

鳴海とはじめさんが向かいに座る遠山さんとうみこさんに頭を下げる。すると、2人の目が俺に向けられたので俺も一応頭を下げておく。...俺の意思で関わってるわけじゃないんだけどな。

 

 

「しかしびっくりですね」

 

 

「本当に。こんなことするなんてびっくりです」

 

 

 

「いや...桜さんが関わっていないのが」

 

 

 

「そこですか!?」

 

 

まぁ確かに桜なら「何それ面白そう!」と食いついてるだろう。というか、最近見ないな。ちゃんと生きてる?

 

 

「ねねっちは大学卒業前のテスト勉強とかで忙しいので教えてないです」

 

 

言うと手伝っちゃうのでと涼風は苦笑いしながら付けたした。

 

 

「で、でも言い訳だけど...会社からの仕事は...こなしたうえで空いた時間を使ってたし…!」

 

 

「会社のPCやソフトを使って?」

 

 

「う...はい、ごめんなさい...」

 

 

頑張って俺らを庇ってくれようとしたひふみ先輩も本気モードの遠山さんの前では無力だった。責任者だし本来は止める側だから咎められる立場なのに守ってくれてありがたい。

 

 

「...まぁでも、私は好きですけどねこういうの。他社の仕事をしてた訳でもないですし。ただ鳴海さんが遅かれ早かれ倒れると思ったので」

 

 

 

うみこさんはわりと賛成派らしい。味方につけようと策を弄しようとしたが、まだ眠気が取れず頭働かなーい。誰か飴くれ。また寝落ちしそうになってるところで机がバンッ!と強く叩かれ背を伸ばす。

 

 

「もう!なんで皆そんなに勝手なの!?規律があるの!誰かが勝手なことをするのを見過ごしたら皆も真似して規律も崩壊してしまうでしょ!?」

 

 

ごもっともすぎて反論する気にならん。ルール守ってこその自由だし、その点では自分達の仕事は果たしてるしひふみ先輩の言う通りになる。勝手に会社のソフトを使ってるのは鳴海なので俺は悪くない。自分の言い訳をぶつくさ考えているとはじめさんが口を開いた。

 

 

 

「あ、あの!黙って作り出してしまって悪いとは思ってます。でもたぶん...これくらいしないと企画の良さが分かってもらえないと思って...」

 

 

はじめさんの言葉に遠山さんは口を挟むことなく聞き入る。

 

 

「昨日の夜、やっと操作できるところまでこぎつけてドッヂボールなのにまだキャッチボールみたいな感じなんですけど。それが嬉しくて眠れなかったんです!」

 

 

そうやっと操作できるようになった。弾速遅かったりキャッチのタイミング調整とかまだまだだから、ほんとにキャッチボールのレベルだが。しかし、それでもはじめさんと鳴海は欲しいプレゼントを貰った子供のように大はしゃぎしていた。

 

 

「あと一週間で面白いってところまで持って行って見せます。それでダメなら諦めます。お願いします!」

 

 

はじめさんがそういって頭を下げると涼風や鳴海達も頭を下げる。俺もカクっと頭を下げると横の涼風に脇腹を殴られた。違うよ、寝そうになったんじゃなくて頭下げたんだってだから睨むのはNo!

 

 

 

「...私の仕事は、私のプロデューサーという仕事は私が信じた人達を見守り支える仕事です」

 

 

突然、遠山さんが語り始めて全員の目が遠山さんに注がれる。

 

 

「はじめちゃんの企画、実は先日こっそり読みました。気持ち伝わってきました」

 

 

顔を落とし、何かを思い出したように遠山さんは目を閉じ、そして開いた時目を煌めかせ柔らかな笑みを浮かべた。

 

 

「プロデューサー命令です。もうヘルプの仕事はせずにはじめちゃんの企画にあなたたちは専念してください。そして1週間後にそのゲームのテスト版を見せてください」

 

 

上司の命令となれば仕方ない。全員『はい!』と返事をして遠山さんに気をつけるべきことを告げられてそれぞれの持ち場に戻る。

 

 

ただ俺だけを除き。

 

 

 

「比企谷くんはツバメちゃんのサポートとその日その日の報告書を提出。いいわね」

 

 

「それとこのままプログラマーブースに来てください。鳴海さんと確認することがあるので」

 

 

「...はぁ」

 

 

俺だけ何故か仕事が変わってるんだが。グラフィッカーだよな俺。なんでプログラムと書記をやらされることになってるんだ?まぁ高校の時に記録雑務として経験済みだからいいし、今回は他のメンバーもやる気だから別段気にすることもないんだけど...。

 

 

 

「それと今日はよく寝ること。いいわね!」

 

 

 

「...うっす」

 

 

腕を腰に置いてお姉さんからの忠告だよ!という風に言う遠山さんに俺は目を逸らして返事をする。ちょっとそのポーズずるくないっすかね。うみこさんみたいに腕組んで女王様みたいな感じの方がいつも通りで気が楽なのだが...。

俺の返事が気に入らなかったのか、遠山さんは頬を膨らませてムッと俺を睨む。

 

 

「寝なかったら明日は私と一緒に寝てもらうから」

 

 

 

「はい。ちゃんと自宅で寝ます」

 

 

遠山さんとおねんねとか何されるかわからない。『この唇ね、コウちゃんと口付けした悪い唇は...』とか恍惚とした顔で切り取られる想像までしてしまった。

 

 

 

「では行きましょうか」

 

 

 

頭を切り替えてうみこさんの後を追うように俺はその部屋から出る。その際に遠山さんは小さく手を振って、声に出さずに、俺か、もしくは全員に「がんばって」と笑顔で送った。

 

 






意識が朦朧とする中書いたので誤字脱字やもしかすると矛盾が多いかもです。確認しろって?今から祖母家行くから無理です。


あと、7巻分終わったら今年はおそらく更新しません
なので残り2話となります。私情ですがご理解頂けると嬉しいです。
全く更新してない他の作品についても同様です。


ではでは。


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意外とイーグルジャンプはホワイトなのかもしれない。



ホワイトというか社員が女性ばかりなのでピンクな気がしますがね!ハハッ。


 

 

遠山さんからありがたいお言葉を頂いてから各々やるべき事をやるために自分達の場所へと向かう。それは俺も例外ではなく、うみこさんと共にプログラマーブースへと足を運ぶ。一応、言っておくと俺はキャラクターデザイナー班である。

 

 

「厳しいことを言いますが、ここで終わるゲームかもしれません」

 

 

「はい」

 

 

 

腕組みしてうみこさんは椅子に座ってちゃんと話を聞く鳴海に注意事項を告げる。

 

 

「ただそうでもないかもしれない。その時は皆で引き継ぐことになるのでコードは逐一私に見せてください。その都度ここのルールを指示します」

 

 

 

コクコクと頷く鳴海を見てから俺を一瞥すると「比企谷さんもよろしいですね?」と目で問うてきたので無言で肯定した。要するにコード修正したら鳴海に任せりゃいいんだろ。まぁあっちは本業で俺はアシストだからそこまですることはないだろう。

 

 

「あと...鳴海さんは1人で抱えて無理するところがあるので困ったら素直に頼ってください」

 

 

少し諌めるような言い方でうみこさんは眉を寄せて言い放つ。だが、またも俺に目を向けるとため息混じりな声になる。

 

 

「決してあのような素人ではなく、プロである我々に声をかけてください。もっと新人らしく振舞っていいんです」

 

 

そう言ってぽんと鳴海の頭に手を載せるうみこさんは穏やかな表情で呟く。それに鳴海は照れくさいように片目を閉じる。なんだその照れ方。

 

 

「じゃあ俺は一旦、グラフィッカーブースの方に戻りますね」

 

 

「えぇ」

 

 

一声かけてクールに立ち去ろうとすると、そうだと思い出したようにうみこさんに肩を掴まれた。なんですかと振り向くとずいっと目と鼻の先がくっつくのではないかという距離にうみこさんの顔が迫る。何事!?と驚いている俺に対してうみこさんは真剣な面持ちで口を開く。

 

 

「篠田さんたちの方へ行ったら、あなたは仕事をせずに今日は寝てください。りんさんの言う通りに」

 

 

 

じゃないと...と何か小声でその後は聞こえなかったが、まぁ寝ないと後が怖いから寝る。けど、これ寝たら給料発生しないんじゃ...?

そんな不安に駆られているとうみこさんは俺の肩から手を下ろす。

 

 

「会議室を使っても構いませんので倒れる前に寝てください。でないと、他の方々が集中して取り組めないので」

 

 

うわぁ心配するから仕事に支障を来すようなら壁にかかってるコルトパイソンで脳を撃ち抜くって顔してらっしゃる。怖いなぁ怖いなぁ...。精一杯の苦笑いを浮かべていると今まで傍観していた鳴海も立ち上がり俺の手を握る。やだ何この子。

 

 

「先輩のおかげで私の負担は減りましたし、今日くらいは私一人でも大丈夫です!先輩よりも寝てるので!だから、先輩は今日はやすんでてください!」

 

 

「お、おう...」

 

 

やさしさが 痛み染み入る 不眠の目

 

比企谷八幡 心の一句。

 

 

ほんとありがとな鳴海...とか思ったけどお前が寝れてるのははじめさんとの打ち合わせの時寝てたからだな。Skypeで寝落ちして可愛らしい寝息が聞こえてたのは俺は知ってるぞ!

 

 

「まぁ先程もウトウト寝てましたもんね」

 

 

「ははは...」

 

 

うみこさんのジト目が鳴海に刺さり誤魔化すような消え入る笑いを浮かべる。おや?パワハラかな。大丈夫、イーグルジャンプにパワハラは存在しない。

 

 

「では」

 

 

軽く手を振ってプログラマーブースから離れて自分の席のあるグラフィッカーブースへと歩き出す。どれくらい進んでるかなーっとひょっこり顔を出すと、管理部から借りてきたのであろう開発機をプレイしていた。いわゆるテストプレイというやつだろう。ベータテストとはまた異なるものなので、ここではイキリトは生まれないだろう。

 

 

「あ、八幡おかえり!」

 

 

「どーも」

 

 

どうですか進捗は?とはじめさんのパソコンを見るとボールをキャッチするタイミングを調整しているらしい。この辺りは鳴海がやるべきだと思うけど、はじめさんが出来るならそれに越したことはないか。

 

 

「ちょ、ちょっと、八幡近い...」

 

 

「...え?...あーすみません」

 

 

眠くて視界がぼやけてるのかパソコンにかなり身を近づけていたらそれが結果的にはじめさんの方にも接近していたらしい。パワハラはないけどセクハラはあるのかもね!主に俺からだけど。しかし、これは不可抗力なので許していただきたい。ということで涼風やひふみ先輩からの視線が痛い痛い。

 

 

 

「比企谷さん大丈夫ですか?」

 

 

「...ん、まぁ、程ほどにな。でも、遠山さんに寝ろって言われた」

 

 

 

この場で唯一俺の身を案じてくれる望月まじえんじぇー。望月は俺が死んでいく様をこの数日見ていたから信じてくれているが涼風とはじめさん、ゆんさんは「遠山さんが...?」と疑心暗鬼の目を向けていた。遠山さんって信用ないのか?いや、これは俺の信頼ですかね。

目を擦りながら迫る睡魔と戦っているとひふみ先輩があわあわと席から腰をあげる。

 

 

 

「あ、うん...八幡、寝てないからりんちゃんが...会議室で寝ていいって...」

 

 

「そうなんですか」

 

 

「それならしゃーないな」

 

 

意外そうに涼風が呟くとゆんさんも首を縦に振る。俺の言葉だと信用しないのにひふみ先輩のだと信じるのかよ。おかげで俺に対する信頼がないのは分かったけどよ。知らずのうちに訝しげな目を送っていたのだろうか、それに気付いたゆんさんと目が合う。

 

 

「あ、勘違いせんといてな。いくら八幡が頑張ってるからってそれは会社外での勝手なことでのことやろ?それやのに遠山さんが寝ていいっていうのは不思議やなぁって」

 

 

あ、そういうことですか。それなら納得...できるのか?ダメだ。まともな思考ができん。これはもう寝るしかないな。別に早く寝たいからとかそういうわけじゃないんだからね!ユメノトビラを開きたいとそういうわけじゃないんだからねッ!

 

 

「というわけで、少しだけ寝てきます」

 

 

「うん!ゆっくり休んでね!」

 

 

「寝る前にトイレは行くんやで」

 

 

「いや、ゆんの弟達じゃないんだから」

 

 

「...が、がんばって!」

 

 

「頑張るのは私達では...?」

 

 

 

背中に熱いエールというか寵愛を受け取って俺はブースから廊下へと歩みを進める。この先に遥か遠き理想郷(会議室)があるというのだ。そう言えば、布団とかは用意されているのだろうか。せめて、毛布の1枚でもあればいいのだがと会議室の前まで辿りつきドアノブへと手をかける。ドアを開くと中央の大きなテーブルの上に毛布と枕が置いてあった。どうやら杞憂だったらしくこれを使えということだろう。

 

 

「やっと、寝れる...」

 

 

 

床に枕を起き寝転がって毛布をかぶる。その時、どこかで嗅いだことのあるような安心感というか懐かしい匂いに包まれるかのような中で俺は急速に眠りの世界へと落ちていった。

 

 

 

 

###

 

 

 

どれくらいの時間寝ていたのかはさておき、十分な睡眠をとったのか俺の瞼はゆっくりと開いていった。足に若干のだるさを感じたのはここしばらく寝ていなかったせいだろうか。

自分の部屋ではなく会議室で寝ていたことを思い出すのにはいつも目覚ましにしているスマホがないことを確認するまで気づかなかった。

いや、気づく要因はそこではなかった。手探りでスマホを探している時に、何度か布やら柔らかいものに指が触れたのだ。どうせ、寝てる際に移動した枕や布団だと思っていたが、枕は俺の頭の下にあるし毛布は俺の腰付近にかかっている。

ムクリと起き上がって真っ暗な部屋を見渡すがやはり目が慣れていないため何も視認することができなかったが、顔を上げると机の上にパソコンらしきものがあることが確認できた。

そして、足のだるさの正体を確かめようとポケットからスマホを取り出してライトをつける。

 

 

 

「.........ん...」

 

 

 

どういうわけか俺の足を枕にしている涼風がいた。さらに周囲に光を向けると、右にはひふみ先輩、その先には顔にはじめさんの手を乗っけられているゆんさんがいた。左には鳴海と望月が肩を寄せあって壁にもたれて寝ている。もしや、俺はスマホを探している時に.....うん、考えるのはやめよう。

 

 

 

どういうことだってばよとライトを消してスマホの時計を見ると深夜の3時。俺が寝たのは朝の10時頃だとすると...信じられないくらいに寝ていてしまったらしい。寝すぎた故の頭痛に頭を抑える。なにか飲みたいが足を動かすと涼風が起きる可能性がある。慎重に起こさないように足を動かして、俺の足と枕をすり替える。これで涼風が違和感を感じて起きることはないだろう。

 

 

ちゃんと足を直立に立たせて俺は身体を伸ばす。寝てなかったとはいえ寝すぎてしまった。さてと、俺が寝てる時にはじめさんらは何をしてたのかとパソコンを起動する。

ログを見ると細かな修正や必殺技の追加、また葉月さん達に説明する際に使うスライドも作られていた。

 

 

3人だとこれくらい進めるのに3日はかかったというのに、相変わらず数の力はすごいと思わざるを得ない。いや、数だけじゃない。彼女たちはプロだ。熱意と本気を注ぎ込めばこれくらいは造作もないのだろう。

 

 

それに比べて、俺はなんて無駄な時間を...。溜息をつきながら適当な椅子に腰掛けると徐々に慣れてきた目が机の上に置かれた袋を視野に入れる。

 

 

手に取って袋から箱とぬるくなったMAXコーヒーであんぱんには何やらメモ書きが貼られているがこればかりはよく目凝らさねばよく見えない。

 

 

 

『比企谷くんへ 目が覚めたら食べてください りん』

 

 

どうやら遠山さんが何か作ってくれたらしい。ありがたやーと手を合わせてから箱の中身を開ける。しかし。

 

 

 

「うわ、見えねえ」

 

 

折角作ってもらったのに口に入れるまで何かわからないなんてそんなのは嫌だ。ライトをつけようにもその光で起こしてしまうのも面目ない。かと言って暗闇のままご飯を食べるのは遠山さんに失礼だし、食べる音でも起こしてしまう可能性がある。静かに会議室の鍵を解除し廊下に出て自分の席へと向かうと机の上の電灯をつけて席につく。

 

 

 

「いただきます」

 

 

 

改めて箱の蓋を開けると中には梅干しご飯と玉子焼き、それにほうれん草とごまの炒めものだろうか。栄養バランスとこの時間でも腹に収まりそうなものが入っていた。それに遠山さんの作った料理は美味いと風邪を引いた時から知ってるので問題は無い。

 

 

 

ぱくぱくもぐもぐ、ガツガツムシャムシャと無理せずそれでいて勢いよく口の中にかき込むとパソコンを起動して、咀嚼している間に体験機を操作する。行儀は悪いが今はどうこう言ってられない。適当な裏紙に自分の思ったことを書いていく。

タイミング調整はもっと精密に、それでいてバラツキがあった方がリアリティ(面白み)がある。

キャラも男性女性で利点を出してみてもいいかもしれない。僅かばかりだが単調に感じる。

それとエフェクトは派手さばかりでギラギラしているイメージがある。あとは......と、やりながらしていると飯を食い終わり、手を合わせる。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 

そう言って箸をしまい、弁当箱を給湯室で軽く洗って仕舞うと作業に戻る。BGMとかやっぱり欲しいなーとボヤきながら修正点を書き出して自分で修正できそうなところはその場で修正していく。

普段なら嫌になる作業がこの時ばかりは何故か楽しく思えて、朝日が昇ってることも気付かずある人に目を手で覆い塞がられるまで俺はとてつもない集中力を発揮していた。

 

 

「だーれだ?」

 

 

 

「...遠山さん」

 

 

口に出すと手がどけられ、後ろを振り向くと「正解!」とにこやかに微笑む遠山さんがいた。

 

 

 

「早いっすね。出社時間の2時間前ですよ」

 

 

 

「うん、皆がんばってるし、私も頑張らなくちゃって」

 

 

 

「そうですね」

 

 

そうだ。はじめさんと鳴海がやってきたことは全部無駄じゃなかった。これからも作業が終わらない限り道は......と詠唱を開始していたら遠山さんが目をそらして尋ねてくる。

 

 

「その、お弁当。ちゃんと食べてくれた?」

 

 

 

「えぇ、はい。美味しかったですよ」

 

 

 

「そう...ならよかったわ」

 

 

 

袋に入れた弁当箱を渡すと遠山さんは肩をすくめる。

 

 

 

「急いで作ったから味が心配だったけどよかったわ」

 

 

 

左手で耳にかかった髪に触れながら、遠山さんは右手で袋を受けとると満足そうな顔で踵を返し、ある方向に目を向ける。

 

 

「...今度は私の番ね」

 

 

自分に喝を入れるように呟いて、カバンを机に置くと会議室の方へと歩き出す。みんなを起こしてくるから朝ごはんにしようと微笑みながらそう言って遠山さんはその姿を消す。

 

 

 

「...食えるかな」

 

 

すっと脱力感に見舞われた俺は昇った朝日を見つめながら頬をついた。

 

 




ちなみに八幡が使った枕と毛布は八神さんのだゾ。


Twitterの方で大晦日に遠山さんが八神さんとパリで過ごす話があるんだけど、どう八幡を絡ませたらいい?というアンケートをとった結果。
①遠山さんに誘われて3人でフランス観光する
②遠山さんが来る前日に八神さんに呼ばれて八神さんと2人で観光する
③遠山さんに抹殺される。現実は非情である
のうち②になりました。途中③が優位だったので焦りましたが良かったです。


次回はプロトタイプ完成
その月が大晦日に八神さんと会う話

それで8月に入るとしばらく投稿出来なくなるので見納めミルキィとして何か特別回でもやれたらなと思うので残り3話(特別話によっては4話?)になります。
稚拙で矮小で短絡的な文章ですが、これからも御付き合い下さいませ。



特別回に関しては水着回、八幡の誕生日、時系列合わせで忘年会のどれかになると思います。ではでは。


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やはりこの職場は間違っていなかった。

スカサハスカディを聖晶石3つでお迎えしましたが塵が無くてスキル上げに詰んだ魔術師です。あ、強靭無敵最強のシグルドもお迎えしましたし、ワルキューレは三体お迎えしたので2章の新ピックアップキャラはコンプリートしました。やったね!福袋は巌窟王とサリエリさん。
あと適当に引いたのですり抜けでエリザベートとニトクリスが来ました。共に宝具レベルが4になりましたやったね。エミヤも絆レベルMAXになったし、タカキも頑張ってるし俺も頑張らないと!


あ、本編クソ長いと思うから気をつけてね。


 

 

レッツ!みんなでアゲアゲゲーム製作大作戦! 〜強敵葉月しずくを倒せ!~的な感じのタイトルではじめさん主導から遠山さんに手綱が渡った俺達キャラクター班もとい、鳴海も混じってるからもうよく分からないチームの作業は最終フェイズに移行していた。

 

 

中身はほとんど完成、細かい修正作業は開発が認められてからで今はとにかくゲームの良さを前面に出していこうと作戦が決まり、鳴海が躍起になっている間、俺とはじめさんは葉月さんにプレゼンを発表すべく会議室へと向かう。

 

 

扉を開けば上座に葉月さんはもちろん出資者代表の大和さんも馳せ参じていた。遠山さんは既に大和さんの向かい側の椅子に腰を下ろしており、俺達を一瞥すると小さく頷いた。それに呼応するようにはじめさんは顔を強ばらせながら息を呑む。

 

 

 

これから始まるのは前代未聞の大博打。企画が通らないなら作っちゃえばいいじゃない!という望月の提案から始まり一致団結して作り上げた『爆殺★ドッヂボール(命名 比企谷八幡)』を披露するのだ。プレゼンのスライドは鳴海とはじめさんが作り、原稿ははじめさんが作ったのを俺が改稿した。それに練習もしたから大丈夫だろう。多分。確証はない。

 

 

 

プロジェクターを背にはじめさんは瞼を閉じて大きく深呼吸する。見守るのは俺を含めた4人で、俺以外はこの企画を推し進めるか破棄するかを決める裁定者。緊張するのは当たり前だ。

 

 

しかし、それでも篠田はじめはただ前向きにやってきたことを、ここまで付き添ってくれた仲間達を、そして自分を信じるのみ。

 

 

 

......はじめさんのプレゼンの前にちょっとした余談を挟ませてもらうとしよう。星の内海、物見の台、ある1人の傍観者として聞かせよう。

 

 

 

 

###

 

 

 

ちょうど1週間も前のこと。俺の改稿作業が終わりそれを遠山さんに見せてOKを貰い、やっとプレゼンの練習をすることになった。

 

 

「はぁ!?いつもの服装でプレゼンする気やの!?」

 

 

 

「へ?ダメ?」

 

 

 

そう声を荒らげたのはゆんさんでそれに自らのパーカーをまじまじと見るはじめさんが唇を尖らせる。その反応にゆんさんは「論外や」とジト目を向ける。

 

 

 

「正装とまでは言わないけどキチッとしてる感じの方が...ね?」

 

 

 

苦笑を浮かべて遠山さんが言うとゆんさんは鼻息を荒らげて立ち上がる。

 

 

 

「しかたあらへん。選んだる」

 

 

昼休み、ということで外出は許可されている。はじめさんはゆんさんに連れられて昼のオフィス街を抜けて春山か青山にでも行くのだろう。さて、その間に俺は原稿の印刷でもしますかと振り返ると遠山さんが笑って立っていた。

 

 

「比企谷くんも一応...ね?」

 

 

なんですかその笑顔怖い怖い。さっきの苦笑いは消え失せてとてもいい笑顔で財布を持つ遠山さんに有無も言う暇もなく引かれて俺も紳士服売り場へと駆り出される。

 

 

 

 

###

 

 

 

 

「なんだか新鮮だけど恥ずかしいね」

 

 

「…そっすね」

 

 

昼休みが終わる頃には共に会社に戻り、それぞれのパートナーに見繕われた正装に着替える。はじめさんも俺も共に黒を基調としたスーツ姿でチョイスしたお2人は満足そうに微笑んでいる。

 

 

「ど、どうかな?」

 

 

試しにと頭を下げて胸を突き出すような姿勢となったはじめさんにゆんさんは笑顔を破顔させる。

 

 

 

「いかがわしいから論外や」

 

 

 

「着せといてなんだよ!!」

 

 

 

まぁ女の子しかいない会社だから別にいいんじゃないですかね。でも、小さくてお悩みの人にはかなり心にくるものがあるのかもしれない。男の子的にも見る場所に困るからやめて欲しいが自然に目が引き寄せられてしまうので、やはり乳トン先生は偉大だな!

 

 

「上着脱いでカッターシャツにしたらいいんじゃないんすか?」

 

 

 

「...うん、そうするよ」

 

 

 

理不尽なもの言われに肩を落としたはじめさんは脱衣所となっている会議室へと入つていく。その同情せざる得ない姿を見つめながらMAXコーヒーを口に流し込む。

 

 

 

「スーツだとそれもなんだか様になるわね」

 

 

 

「...そうっすか?」

 

 

隣で見ていた遠山さんがふふっと口元に手を当ててそう言うのを見て、居心地悪そうに俺は目を逸らす。

 

 

 

「はじめちゃんが戻ってきたら練習始めましょうか」

 

 

 

「うっす」

 

 

 

そう返事したものの、俺は何もしないわけだから必要ないのでは?と首を傾げたのはプレゼン当日の朝になるのだが、今は置いておくとしよう。

 

 

 

更衣室となって使えない第1会議室に変わり、普段はあまり使われないという第2会議室を使ってプレゼンの練習開始である。降ろされたスクリーンに画像を投影するプロジェクターが机に置かれた一室で何故かうみこさんが鎮座していた。

 

 

 

「服装も落ち着いたことだし、次はプレゼンの練習ね」

 

 

 

「よろしくお願いします!」

 

 

プレゼンの準備を始めるはじめさんを一瞥してから遠山さんはうみこさんの座る隣へと座る前に声をかける。

 

 

「うみこさんを大和さんだと思ってプレゼンしてみてね。うみこさん怖い顔でお願いしますね」

 

 

 

「なんで私が...」

 

 

大和さん役として呼ばれたことに不服そうにしつつも、仕方ないとため息をつくと腕を組んで睨みつけるようにはじめさんを見る。

 

 

「さっさと始めてください。私の時間を無駄にする気ですか?」

 

 

見る物が見れば怖気付くようなトゲトゲしたオーラを放つうみこさんだが、見慣れている俺とはじめさんは顔を見合わせる。

 

 

「な、なんかいつものうみこさんなのであんまり怖くないですね」

 

 

「むしろ、無理して怖く見せようとしてるところに可愛げ...」

 

 

俺が最後まで言葉を言い終えることはなく、うみこさんが普段携行しているモデルガンの銃口がこめかめに押し付けられる。

 

 

 

「早くしなさい」

 

 

さもなくば引き金を引くと、うみこさんの目と人差し指が物語っていた。怖くて顔が全く見れないが怒ってることは間違いない。だって、足も踏まれてるからね。

 

 

そうしてやっとの事で始まったプレゼンの練習だがいきなり良くないところを言ってマイナス印象を与えようとしたりするはじめさんに咎める遠山さん。それを直すべく推す方向性を間違えるはじめさんに何度も遠山さんからのストップが入る。おかしいな、原稿渡したのにあの人緊張しすぎて頭から飛んでるな。

 

 

 

「大丈夫でしょうか」

 

 

 

心配そうに呟くうみこさんの声はあーだこーだ言う2人には届かず、取り残された籠の中の鳥のようにただこの時間が終わるのを待つ俺の耳だけに残ったのだった。

 

 

 

###

 

 

 

「いやぁ、なにかやってるなぁとは思っていたけどテスト版を作ってしまうとはねおどろいたよ」

 

 

 

プレゼンが終わり、葉月さんはそんな感想を述べるとはじめさんを席につかせる。その隣で大和さんは疑いの目を葉月さんへと向けた。

 

 

「白々しい。またしずくの差し金?」

 

 

「いやいや本当に知らなかったよ。誰もえこひいきしてないし」

 

 

たしかに葉月さんは誰もえこひいきしていない。試しに俺も企画を一つだけ持っていったが具体的な感想を言わずに抽象的な言葉で改善点を言うだけだった。それは企画班、はじめさんも同じだったらしい。良くいえば言葉通りだが、悪く言えば誰もよく見ていてその実、見てはいない。ということだろうか。

 

 

「バジェットは?」

 

 

「へ?バジェット...?」

 

 

 

突然繰り出された意識高そうな言葉にはじめさんはキョトンと汗を浮かべるが、遠山さんが言葉を引き取る。

 

 

「はい、バジェット...予算案も含めた計画書はこちらに用意してあります」

 

 

言って紙束を出すと俺に手渡してくる。ここで俺の役目を理解した。席から立ち上がり、大和さんと葉月さんに計画書を渡すと2人は目を通す。その間にはじめさんがカバーしてくれた遠山さんに小声で話しかける。

 

 

 

「すみません。助かりました」

 

 

 

「大丈夫だから今は前を向いて」

 

 

そこからは数分、もしかするとそれに満たない時間ペラペラと紙をめくる音のみが谺響する。先に読み終えて顔を上げたのは葉月さんで、葉月さんは俺に目を合わせると微笑んでまたプリントへと目を落とす。反対に大和さんが見終わり口を開いた。

 

 

 

「やりたいことは分かりました。計画案も妥当だと思います」

 

 

ここまで聞いた限りでは意外にも好印象な反応だ。しかし、この手の話の始め方には覚えがある。飴と鞭。褒めてから落とす。そう呼ばれる手段だ。

 

 

 

「ただ決定的なこととして今隣に座っているしずくが新作を作ればその利益率には到底叶わないということです」

 

 

 

葉月しずく半端ないってもぉー!アイツ半端ないって!ここまでしたはじめさんよりも良いもん作れるもん...。そんなん出来へんやん普通、そんなんできる?言っといてや、できるんやったら...。と嘆きたくなるような言葉が俺達の胸につき刺さる。

 

 

 

「しかも計画通り完成までこぎつけられるかも怪しい。リスクにおいてもリターンにおいてもこの2択は明らかに片方が劣っています。出資する側としてそれでもなお、しずくを差し置いて篠田さんを推す理由はなんでしょう?」

 

 

 

そう聞かれて声を上げる者はいない。はじめさんも遠山さんも苦虫を噛み潰したような顔で大和さんと目を合わせることが出来ない。ただ1人、俺だけが顔を上げていた。

 

 

 

「じゃあ聞きますけど、葉月さんがこれ以上のものを作れるなら企画班はいらないのでは?」

 

 

俺の発言に俯いていた2人は顔を上げ、大和さんは目を細め、葉月さんは「へぇ」と興味深そうに唸る。

 

 

「それは...いえ、しずくの企画を形にするには企画班が必要です。しずくの案にさらに良い案が加わる可能性があります」

 

 

 

「それは逆もまた有り得るんじゃないですか?」

 

 

 

大和さんの言い分を正当とするなら、はじめさんの案に葉月さんの意見を付け加えることも可能だ。喧嘩腰になる俺を宥めようと遠山さんが待ったをかけようとした時、ガチャりと葉月さんが試験機を持ち上げた。

 

 

 

「...とりあえずまぁ...さ。このテスト版を遊んでみようよクリスティーナ。まだやってないんだろう?」

 

 

 

「やったところで判断は...」

 

 

 

「ふーん、さては負けるのが悔しいのかな?」

 

 

 

消極的な大和さんに挑戦的な微笑みを浮かべた葉月さんに釣られたのか大和さんも体験機を手に取る。

 

 

「わかったわ1戦だけよ」

 

 

 

「そうこなくっちゃ」

 

 

 

そうして対戦を始めた2人を神妙な面持ちで見つめるはじめさん。先程のことを咎めるように遠山さんは俺を射るような目で見据える。怖くて直視出来ないくらいに。

 

 

しかし、もしもあそこで葉月さんが試験機で遊ぼうと大和さんに提案していなかったらどうなっていただろうか。俺はあのまま『やってもいない物をつまらないと断言する権利は出資者であろうとあるはずがない』と言うつもりだったのだが、結果的には大和さんはゲームをプレイをしている。

 

 

「うそ、必殺技がキャッチされた!?」

 

 

「一気にゲージが溜まったから私も必殺技が撃てるわね」

 

 

 

「ふふふ、クリスティーナにキャッチ出来たんだ。私だってキャッチできるさ」

 

 

 

「そう?ほら!!」

 

 

「あああ〜〜〜〜! 負けちゃった...」

 

 

 

「甘いわね」

 

 

画面が見えなかったから2人がどのような戦いを繰り広げたのかは言葉から理解出来た。それに画面を見なかったことで2人の表情はしっかりと観ることが出来た。試験機をプレイしている目は俺からは楽しげに映った。それははじめさんも同じだったらしい。

 

 

「......?なんですか?」

 

 

2人が楽しそうにプレイする姿を見て嬉しかったのかはじめさんは心配事が晴れたかのような表情で後頭部をかく。

 

 

「いや、これでつまらないと思われたらどうしようって少し不安だったのでせめて楽しんでもらえてよかったなって...。あ!弱気になってるわけじゃないですよ!でもせっかく、なる...鳴海さんが睡眠を削って形にしてくれて、飯島さん達に何十時間もテストプレイに付き合ってもらったので…」

 

 

 

慌てたために早口で言葉を走らせるはじめさんに対して、大和さんは冷静に穏やかな口調で首肯した。

 

 

 

「...そうですね。人の苦労の上にゲームができていることは私も分かっているつもりです。そしてその苦労が無駄にならないよう決断するのが私の仕事です」

 

 

 

大和さんは俺を見ると少し目を逸らしてから再び口を開いた。

 

 

 

「先ほどのあなたの言う通り、篠田さんの企画にしずくの意見を付け加えれば良くなる可能性はあります。しかし、それは結果としてしずくの企画に変わってしまう場合の方が大きいです」

 

 

それは涼風の提案した着ぐるみを八神さんが描いたことにするという過去の事例からよく分かっている。いや、そんなことは俺はとうの昔から理解している。

 

 

学生生活を彩る文化祭は貧乏くじを引いた人間達の活躍の元に成り立っていることは身に染みるほど痛感した。体育祭も学年種目を決めたりもしもの場合のアフターケアのことまで頭を回さねばならないということを知覚させられた。

しかし、それらの体験もたった一人の主役の前では霞んでしまう。俺はいつだって影の役者、いやワルモノになるしかないのだ。

だから今もそうなろうとしている。誰のために?そんなものは自分のために決まっている。はじめさんや俺やここまで尽力してくれたあいつらの努力や時間が葉月しずくという人物1人に劣る?今までやってきたことがたった一人に?それだけの天才ならとっとと企画を練ればいい。企画書を書けばいい。そして俺達に業務命令を出せばいい。

 

 

 

 

なのにそうしないのは何故か。

 

 

 

葉月しずくも結局は凡人なのだ。多大なる信頼を寄せる大和さんのそれは言ってしまえば大いなる過信とも言える。万能の人でもない限り、様々なサブカルチャーが発展している業界でヒット作を何本も飛ばすことは不可能に近い。もしそれを可能にするのが葉月さんなら、仮に葉月さんがいなくなったらこのイーグルジャンプはどうなるのか。

 

 

 

俺はここで1つの結論を出した。大和さんの言う通り、葉月しずくが天才ならば何故PECOを出してから今まで企画を出さなかったのか。

 

 

 

「葉月さんは自分の後釜になれる人を見つけたかった。ですよね?」

 

 

 

大和さんの言い分をぶった斬って葉月さんへと言葉の矢を向ける。放たれた矢が向かった先にいる葉月さんは一瞬不意を突かれたような表情になるもすぐに不敵に笑ってみせた。

 

 

「さぁ、どうかな?」

 

 

一切取り乱す様子のない葉月さんに対して、先ほどまで自信満々、慢心せずして何が出資者か!みたいなオーラを出していた大和さんは「え?そうなの?しずく?ねぇ?そうなの?」と葉月さんに詰め寄るが全く相手にしてもらっていない。立場的には出資者だから大和さんの方が上のはずなんだけどなぁ...。

 

 

 

とりあえず俺の仕事はここまで。ラスボスの目的を看破した後は裏ボスの説得のみ。しかも予想以上にダメージを受けているので落とすのは容易いだろう。

そしてここから水先案内人を務めるのはやはり我らがボス、遠山りん以外に他ならない。

 

 

 

「部下が失礼なことをたくさん申してすみませんでした」

 

 

 

あれ?

てっきり、かっこよく啖呵を切ってくれると思っていた遠山さんに頭を押されて無理やり謝らされる形になっていて俺は困惑する。俺のおデコと机がキスする中、遠山さんは「でも」と言葉を紡ぐ。

 

 

「フェアリーズ1で八神がキャラデザに抜擢された頃はいろいろと問題も起こりました...それは八神にも問題はありましたが、それでも実力主義を通すことがいかに大変なことかは身をもって感じているつもりです。

だからこそ、今のチームはとても成熟していると分かるんです。少なくとも、制作リスクの心配は小さく完成までたどり着けると私は確信しています。大和さんだって本当はわかっていると思います。

そしてそんなチームを私達が信じてこそ新しいゲームが出来るのだと思います。目先の利益ではなく、人を信じてもらえませんか?」

 

 

 

遠山さんの心からの熱弁が終わり、ついに頭から手が離れたと思うと首の根っこを掴まれ無理やり立ち上がらされる。それを見て隣で引き気味に口元を引き吊らせたはじめさんも

立ち上がる。

 

 

 

「芳文堂様からの御出資の程よろしくお願い致します」

 

 

 

3人で頭を下げると、しばしの静寂が流れる。いい加減頭をあげてもいいと思うのだが、遠山さんの力が弱まらずに顔を上げることが出来ない。

 

 

 

「...私はそこまで人を信じることは出来ません。裏切られるのが怖いので」

 

 

 

唐突に聞かされた大和さんからの独自はどこか寂しげにかつて誰かに裏切られたことがあると物語っているような口調だった。

 

 

 

「...それでもこれまでイーグルジャンプを支えてきた遠山さんがそう言うのなら...感情論で企画を通す気はありませんが、確かに今のチームの新しい風を信じる価値はあると思います」

 

 

 

けれどもそこから先は一変して明るく芯の通った声で背中を押すように言葉を繋いでいく。それによって遠山さんの力が緩んだために俺は僅かに顔を上げた。そこにいたのは裏ボスではなくある1つの可能性を見つけた清々しい表情をした女性だった。

 

 

 

「分かりました。弊社からも出資させてください。こちらこそお願いします」

 

 

 

「ありがとうございます!!」

 

 

 

感激のあまり大きな声で感謝の意を述べたはじめさんだったが、大和さんの「ただし!」という声に「へ」と困惑した声と共に顔が固まる。

 

 

「やはり懸念材料がたくさん...特にそこの方。ので、しずくがスーパーバイザーとして常にチームを助けることが条件です。いい?」

 

 

「分かってるよ」

 

 

 

まさかとは思うけどそこの方って俺のこと?いきなり懸念材料扱いされたんですけど不服なんだけど、遠山さんが怖いので何も反論しません。

 

 

 

「それでは正直まだまだ頼りないですが...篠田はじめさん。ディレクターとして頑張ってください」

 

 

 

「はい!!」

 

 

 

感極まって涙を溜めるはじめさんだったがなんとか我慢して今日1番の元気な声を出すと嬉し涙と共に白く綺麗な歯のとびっきりの笑顔を見せた。

 

 

 

###

 

 

 

 

会議室を出て大きくため息を吐いた3人で向かい合うと真っ先に出たのははじめさんへのお疲れ様の一言だった。

 

 

 

「まあこれからが忙しいんですけどね」

 

 

 

「そうね。とりあえず今日は休んで明日から計画を実行して行きましょう」

 

 

 

あははと和気あいあいとした和やかな空気から一変して俺を見た途端に般若もビックリな形相を浮かべる遠山さんに思わず後ずさりしそうになるも逃げられないと悟り、俺は遠山さんからのお説教を素直に聞くことにした。

 

 

 

「全く君は...結果的にはまとまったけど、もしかするとこの話が無くなってたかもしれないのよ?」

 

 

 

「いやまぁ、そこは終わりよければすべてよしってことで」

 

 

 

「そうだけど、ちゃんと身の程は弁えて。大和さんが寛容だったからよかったけど、怖い人だったら最初の一言の時点でプロジェクターを投げつけられてたわよ」

 

 

そんなおっかない人この業界にいるのかよ。怖すぎるだろ。それ絶対出資者じゃなくてヤクザとかヤベー奴だから頼まない方がいいと思います。

 

 

「身の程弁えろって言われても...てか、なんで俺も呼ばれたんですか?明らかに必要なかったでしょ」

 

 

 

プレゼンをするならまだしも俺今回大和さんの不機嫌を買って、推論したけど葉月さんに言葉濁されたおじゃま虫だったからね。完全にいらないよね。

 

 

「仕方ないじゃない。葉月さんが呼べって言ったんだから」

 

 

 

「あの人の仕業かよ...」

 

 

葉月さんならやりかねないと腑に落ちてしまって思わず遠山さんの前で愚痴をこぼすように言ってしまうが遠山さんは咎めることなくため息を吐いた。

 

 

 

「とにかく、今回は見逃してもらえるだろうけど、次からは気をつけてね。コウちゃんが帰ってくる前にあなたにいなくなられたら困るし...」

 

 

 

「どうでした!?」

 

 

 

遠山さんの最後の方の言葉は俺達の姿を見た涼風によってかき消され、何も答えていないというのにはじめさんと遠山さんの表情から察した面々の中から見知らぬ顔が1歩前に出る。

 

 

 

「おめでとう。悔しいけどもっともっと面白いゲームにしよう」

 

 

 

「うん、皆ありがとう。これからよろしく...!」

 

 

 

うんうん、イイハナシダナー。

でもこれからもっと忙しくなると考えると全然いい話じゃねぇな。で、マジで知らないのが3人くらいいるけど誰?聞こうにもそんな空気ではなく、俺は隅っこの方で団欒するはじめさん達を傍観していると背後から肩をちょんちょんとつつかれる。振り向けば暖房のきいた部屋ではその服暑いだろうという格好をした桜がいた。そう言えば随分見てなかったな。

 

 

「おっひさー。何か楽しげだけど何かあったの?」

 

 

 

「ん?あぁ、実は...」

 

 

 

確か、大学の卒業のための単位を取ってたのか卒業試験があったのだか知らないが、状況に馴染めない俺と違い何一つ知らない桜に今日までの激動の出来事を余すことなく語っているうちに桜の頬は膨張していく。

 

 

「いいんです。どうせねねっちは単位取るのに必死だったので手伝えませんでしたし...」

 

 

 

話を終えると拗ねた桜が俺の椅子の上でぶーぶーと文句を口にし、それを涼風が宥めるという形になり先程までの大団円の雰囲気は桜の来襲と共に去ってしまった。まぁ、こちらの方がいつもの涼風達らしくて見てて微笑ましいか。

締めていたネクタイを緩めて壁に背を預けて紅く燃ゆる太陽に染められた空を見ながら彼女達の日常の音を聞いていた。




結構書いたと思ったけど8474文字でした。
1万行ってると思ったんだけどなー


さて、次で最終回...とは味気ないのでオリジナル話て最後にしたいと思います。
詳しくは活動報告にて。


最終回だからといって、この俺が消え去るわけではない。夢がひとつあればいいのだ。その夢を持って希望せよ。足を止めるな。その先に俺はいるぞ!


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冬の花火

第1弾ピックアップ水着キャラを10連プラス1回で当てた魔術師が通りますよ〜。
その日はKey作品ストラップを友人が10個買って欲しいキャラ当てれずにダブらせたのに1発でその子の欲しいキャラを当てた豪運だった自分が素晴らしい。
なのにデレステ一番くじは小早川紗枝の色紙2枚でした。まぁ知ってるキャラなだけいいんですけどね!


あ、自慢はもういい?...そう(無関心)


ということで、原作では遠山さん八神さんデート回でしたが、八八コンビによるデート?です。


 

 

 

 

人生にはターニングポイントというものが存在する。それは人によってそれぞれであり、1回だけ訪れる者もいれば数回訪れる者もいるだろう。

 

 

例えば、涼風青葉のターニングポイントは八神コウに出会う、つまり『フェアリーズストーリー』をプレイした時であろう。それが初めのターニングポイントで次に実際に彼女に出会ったことがターニングポイントと言える。

 

 

ならば、八神コウのターニングポイントはどこなのだろうか。絵を描き始めた時なのか、イーグルジャンプに入社してからなのか、あるいは涼風青葉と出会ってからなのか。

それは本人にしか分からないことかもしれないが、意外と本人も気付いていないという可能性もある。

 

 

現に、俺も自分のターニングポイントというものを知らないのだ。生まれた時なのか。ぼっちになった時なのか。高校2年なのか。はたまた、入社してからなのか。

先程も言った通り人生にはターニングポイントは複数存在する者もいるが、俺は今までの出来事を重要視してきたことは無い。

 

 

どんなに大切なひと時でも終焉があり、かけがえのない人に出会えても、何十年もポケモントレーナーをしてる少年のように出会いがあれば別れがあるのだ。

俺は今ある時間を大切にしようとは思えど永続させようとは思わない。それは甘えであり、自分の弱さをさらけ出すということだと、俺が個人的に感じているからだ。

 

 

 

だからなのだろう。20年生きてきて、家族や自分よりも大切だと思えるものに恵まれないのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は冬。今日の首都圏は雪は降っていなくてもシジミが取れるからと頑張れる気温ではなく、おそらく人々は家の中で暖を取るなり、誰かと寄り添って心と体を温めあっているのだろう。

 

 

 

まぁ、そんなことは海外にいる俺には関係の無い話。遠い昔なら船でも使わねば行けなかった海を隔てた遠い大地へと空飛ぶタイヤで移動すること数時間。俺はスチュワーデスに肩を揺すられて目を覚ました。

『惰眠貪郎』と書かれたアイマスクをずらして窓の外を見れば、そこは成田ではなかった。

 

 

 

カバンを持って諸々の手続きを済ませた頃には十分な睡眠を取ったというのに疲弊しきっていた。せっかく英語喋れるようにしたのに日本語使えるのは反則だわ。おそらく鏡で見れば窶れた顔をしているであろう俺は空港のロビーを見回す。すると、3ヶ月ぶりくらいにその人の顔を見た。

 

 

金髪の美しくしなやかながらも整えていないが故にボサついた長い髪。女性にしては160台くらいの高い身長を成す健康的な脚のスネまで伸びるコートを羽織り。

 

 

 

「あ、八幡、おひさー!」

 

 

「ども...」

 

 

 

八神コウは現れた。俺のかつての上司であり、同僚の涼風青葉や望月紅葉が憧憬を抱く人物で、今はフランスで大和さんの知り合いだか親戚の会社に勤めているのだそうだ。

 

 

「あれ?元気ないね?どうしたの?」

 

 

元気がないも何も、年末の休みをゆったりしようと腹を括っていた俺にここまでの飛行機のチケットを送り付けられ、対処に悩んでいたら妹に外に連れ出されてパスポートを作らされてそのまま飛行機に放り込まれたのだ。機内で小町から渡された荷物を見てみれば少なくても2泊はできそうな着替えと必要最低限のものが詰め込まれていた。いつの間にこんなことをとたまげていたら日本から離れる前に携帯にメッセージが届き、『八神さんが呼んでいる』という風が呼んでる的な厨二っぽいのが届いていた。開いて詳細を見るに大晦日を楽しく過ごそうという趣旨のメッセージだったのだが。

 

 

 

「俺は日本で年を越したかったんですよね...」

 

 

 

自宅から1歩も動かずに年をこして来年こそは穏やかで惰性に満ちた生活を送ろうと思っていたのだが、すでにその夢は破綻してしまった。そう!八神さんの気まぐれのせいでね!

 

 

 

「まぁまぁそう言わないでよ」

 

 

 

どんよりと嫌味っぽく言ったのだが八神さんは大きく口を開けて笑う。

 

 

「こっちの大晦日もいいもんだから。ね?」

 

 

 

ね?ってあんたも今日が初体験だろうが。しかし、日本の大晦日とフランスの大晦日の違いは見てみたい気もする。出来れば日本の我が家のテレビで。

 

 

 

「とりあえずここ出よっか」

 

 

そう言われ八神さんと並んで空港の外に出る。するとそこは日本と同じく冬の景色。マフラーやコートを羽織った老若男女達が道を行き来していた。金髪、白髪、銀髪のフランス人達を前に俺はうんうんと頷いた。

そうだよなこれが普通だよな。日本では黒髪が当たり前のはずなのにうちの社内に黒髪の人間が少なすぎて、もしかしたらフランスのほうが黒髪多いんじゃないかと思ったんだけど、やっぱり違うよな。

 

 

「どしたのそんなに珍しい?」

 

 

俺の反応が気になったのか、八神さんが尋ねてきて俺は八神さんの髪を見る。

 

 

「八神さんって日本人ですよね。ロシアと日本のクォーターとかじゃないですよね」

 

 

「うん。マ、母さんと父さんも日本人だよ。てかなんでロシア...?」

 

 

 

そりゃロシアのキャラって色白美肌の金髪って相場が決まってるからですけど。だが、八神さんは違ったらしい。

 

 

 

「まぁいいけど。ほら行くよ」

 

 

「行くってどこに?」

 

 

 

聞くと、八神さんは腕を組んでどこかの女教師のような男らしく虹彩を輝かせたような目で高らかに言った。

 

 

「決まってんだろ」

 

 

タッタッタッ...1歩。また1歩と足を進めて右手の人差し指を太陽へと向ける。

 

 

 

「ラーメンだよ」

 

 

 

「......は?」

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

どうして俺はラーメンの本場の日本ではなくフランスで麺を啜っているのか。

 

 

「おいしー!」

 

 

「うん、美味しいねー」

 

 

どうして八神さんと俺の間に見たこともないロリっ子がいるのか。

 

 

「うれしイことイッテクレルネ!」

 

 

なんでラーメン屋の大将が見た目完全にフランス人なのに日本語を話せているのか。いや

これは空港で体験済みだからそこまで驚かなかったが。

 

 

そして大将が作ったラーメンがなかなかに美味い。刻みネギにめんま、もやしにチャーシュー、煮卵とラーメンの王道を往くトッピングに豚骨醤油ベースのスープが麺にしつこくなくベストマッチという風味で絡み合っている。出てくる時間、盛り付け、味からハザードレベル3くらいで食べれるラーメンだと判断できる。

 

 

そんな美味いラーメンもスープをズズっと喉奥に流し込んでキレイさっぱり平らげて水を飲んで一息つくと、ある事実に気がついて俺は肘をついた。

 

 

「ラーメンは日本でも食べれるじゃねぇか...」

 

 

 

食べるならフランスでしか食べれないものが食べたかった。本場のミラノ風ドリアとか。って、あれはイタリアか。フランスといえば...岸辺露伴とか?食べ物じゃないし漫画家だな。

 

 

 

「......」

 

 

うーむと唸っていると隣から視線感じる。確かソフィーちゃんとか言ったか。八神さんがお世話になってる人の妹らしい。なんでいるのかは分からないが、簡単な自己紹介だけ済ませてこうして並んでラーメンを食べているがやはりおかしいよな。俺も思うよ。

 

 

「レラジェはコウのボーイフレンド?」

 

 

「NO」

 

 

なんでボーイフレンドなんて単語知ってんだよ。しかもこの子も日本語ペラペラかよ。あと俺はレラジェじゃないから(良心)

自己紹介する前に「レラジェ!?」って言われて俺のキャラが国の壁を超えて知られてることに喜んだが、ふと涼風を見たらソフィアだと言うのだろうかという疑問が浮上したが今は置いておこう。

にしても、日本語は外国人からしたら難しいって聞いたことがあるけど迷信なのか?

 

 

「ソーなんだ」

 

 

俺の答えがつまらないと興味を失ったかのように残ったラーメンへと意識を向けたソフィーはもっもっと啜った麺を咀嚼する。

その姿を見つつちらりと八神さんの方を見るとあちらも食べ終わったのかソフィーの食べる姿を眺めているところでちょうど目が合ってしまった。

 

 

 

「八幡と私が恋人か...悪くないのかな?」

 

 

首を傾げる八神さんに俺は目を逸らして答える。

 

 

「悪くは無いですけど、色々と問題があるんじゃないですかね」

 

 

遠山さんとか遠山さんとか、あと遠山さんとか。あの人八神さんのことスーパーウルトラハイパーミラクルロマンチック並に大好きだからな。キスされた時なんか、もし見られてたら殺されてたかもしれん。

 

 

 

...ん?キス?

 

 

 

ふと、唇に手を当ててあの日のことを思い出すと顔に熱が集まるのを感じた。そういえば、ここしばらくそのことが霞むくらいに忙しかったからすっかり忘れてたぜ。

 

 

というのは冗談で、八神さんと会うと知ってからその時のことで頭がいっぱいになり無理矢理寝静まることでそのことを頭から切り離したのだが、また舞い戻ってきた。八神さんが前と変わらない態度だから気にしなかったが、さっきのような意識してしまうことを言われるとどうしようもない。水をがぶ飲みして心を落ち着けているとソフィーが食べ終わって八神さんが椅子から立ち上がる。

 

 

 

「よし、そろそろ行こうか」

 

 

 

俺がまだ紙幣の換金をしていないため勘定を八神さんが出してもらってから店の外に出ると八神さんは笑顔でお腹をさすった。

 

 

 

「は〜食った食った〜」

 

 

 

「ラーメンちょーすきデース」

 

 

 

ソフィーも満足そうに微笑みながらそう言うと俺の方へと顔を向ける。

 

 

 

「レラジェもおいしかったデスカ?」

 

 

 

「まぁぼちぼち」

 

 

 

「ボチボチ?」

 

 

習っていない日本語だったのかソフィーは頭にハテナを浮かべると八神さんを見上げる。すると八神さんは屈んで目線をソフィーと合わせる。

 

 

「ぼちぼちっていうのは普通に美味しかったって意味だよ」

 

 

 

「ソーナンデスカ」

 

 

 

日本人じゃないソフィーに分からなかったか。もっとわかりやすい言葉を使うべきだったな。でも、普通に美味しいって普通なのか美味しかったのかどっちなんだよって感じで外国人には伝わりにくいと思うんだよな。言葉のチョイスをミスったことに反省していると八神さんは立ち上がる。

 

 

 

「そこでひと休みしようか」

 

 

 

提案され適当な丸椅子に八神さんは腰掛けるとその隣を手で叩く。隣に座れという指示なのだろうか。別に俺は立っててもいいし、むしろそっちの方が落ち着くのだが。しかし、執拗に叩く八神さんに仕方なく俺は少し間隔を空けて座ると八神さんは口を開く。

 

 

「最近どうなの?会社の方は」

 

 

 

なんだその質問の仕方。会社ってワードがある分答えやすいけど、何も無かったらちょっとだけ怒っちったぞ。

 

 

 

「そうですね...」

 

 

 

適当にはじめさんが企画通らないから周りを巻き込んで試験機作って企画を通したことを話すと八神さんは感嘆を漏らす。

 

 

「そっか〜はじめの企画がね〜やるなぁみんな」

 

 

「まぁはじめさんと鳴海と最終的には遠山さんの功績が大きいですけどね」

 

 

「でも、八幡も頑張ったんでしょ?」

 

 

 

「...給料分の仕事はしたと思いますよ」

 

 

 

途中寝ちゃったから給料引かれると思ったけど引かれるどころか僅かに増えてて驚いたが。あの日以降無理せずに十分な睡眠をとるようにしてるが、あの時は完全に目が社畜のソレに近かったから一歩間違えたら戻ってこれなかったかもなと感傷に浸っていると八神さんは目を細めて微笑む。

 

 

「おつかれ」

 

 

ひどく間抜けな顔だったと思う。そう労われたことはあったものの、自然と胸にストンとくるような感覚は初めてのように思う。

 

 

 

「そりゃどうも」

 

 

 

だけど、照れることはなくいつも通り卒なく、俺らしい返しを口にする。その後に八神さんはどうなのかという定型文も忘れずに。仕事は順調かといえば微妙なところらしい。

 

 

「定時内に終わらせるために必死でさ。そこがまず慣れなくて」

 

 

八幡はそういうの得意だったよねと皮肉地味たことを言われたが華麗にスルーした。

 

 

「八神さんなら簡単なんじゃないですか?」

 

 

 

「私のことどう思ってるか知らないけど、そんな器用じゃないから」

 

 

 

苦笑いして八神さんは俯くと穏やかながら消え入るような声でポツポツと零す。

 

 

 

「カトリーヌさんのマネジメントがすごくて自分も描けるくせに全然描かないんだ。自分の想像をわたしたちに描かせる感じで...尊敬するよ...」

 

 

 

落ち込み気味の八神さんに対して俺はカトリーヌという名前にピンク色の毛並みをしたプードル犬を思い浮かべるがすぐにそのイメージを払拭する。

 

 

 

「カトリーヌってこの前遠山さんに送った写真の人でしたっけ?」

 

 

「うん、そろそろソフィーを迎えに来るはずだけど...」

 

 

 

と、八神さんが何か思い出したように頬に触れるのを疑問視していると背後から人が近づいてくる気配を感じて振り向く。

 

 

「わ、声をかける前に気付かれたか」

 

 

驚きとともに興味深そうな目で俺を見つめているのは八神さんの今務めている会社の上司のカトリーヌさん。肌はうみこさんほどでは無いが少しばかり黒く、纏う妖美でミステリアスな雰囲気はどこか葉月さんに近いものを感じる。

 

 

「おまたせ」

 

 

そう八神さんに挨拶するとカトリーヌさんが来たことに気付いたソフィーが駆けてきてカトリーヌさんの前で止まると、カトリーヌは屈んでソフィーの頬に口付けをする。

何か言いながらしていたがなんて言ってるか分からん。多分『待たせたな!』的なニュアンスのことだろう。

自然と無駄のないキスを見てたらカトリーヌさんと目が合い咄嗟に1歩下がるとカトリーヌさんは笑いながら立ち上がる。

 

 

 

「ははは、日本の文化は知ってるからいきなりはしないよ。はじめましてカトリーヌです」

 

 

 

ですよねー!されたら水の都へと飛び立つところだったぜ。

 

 

「八神さんの後輩の比企谷八幡です」

 

 

 

「ハチマンか。変わった名前ね」

 

 

 

「よく言われます」

 

 

 

はははと社交辞令を交わすとカトリーヌさんは俺を見ながら何故か八神さんは安心したように胸をなでおろす。その意味がわからず眉を顰めるとカトリーヌは口元を緩めてまた笑っていた。

 

 

 

 

###

 

 

 

カトリーヌさんとソフィーと別れた後、八神さんのエスコートで高そうなレストランに連れられ注文を全て済ませてくれると、これまたexpensiveな赤ワインが出てくる。

 

 

 

「八幡ってもうお酒飲めるよね?」

 

 

 

「それ頼む前に聞きませんかね普通」

 

 

 

トクトクと注がれた赤ワインのグラスをカツンと合わせて乾杯し、一口飲むとブドウの香りが身体中に広がる感覚を覚える。

 

 

「どう?美味しい?」

 

 

 

「えぇ。とても」

 

 

 

ソフィーとの会話の反省として今度はわかりやすく、短い言葉を返す。すると八神さんは「良かった」と柔らかな笑みを見せる。

 

 

 

「ご飯食べ終わったらエッフェル塔に行こうか。光って面白いらしいよ」

 

 

「面白い?」

 

 

 

綺麗じゃなくて?と首を傾げるも八神さんの感覚は一般的な女性のそれでないし、そもそも俺が一般的な女性の感覚が分からないので頷くしかなかった。プロジェクションマッピングでも使われてるのだろうか。だったら少しばかり期待しておこう。

 

 

 

量は少なかったが高級な食事を終えて、足早にターミナルへと急ぐ。券売機には行かずそのまま改札へと向かう八神さんは振り向くと俺の手を掴む。

 

 

 

「大晦日の夜は無料開放されるんだって、乗り放題!」

 

 

 

あ、そういうこと。券売機あるのに切符買わないから日本の電子マネーがここでも使えるのかと思っちゃったぜ。しかし、無料か。

手を引かれながら駅のホームを見渡すと人人人人人人...無料で電車に乗れる上にエッフェル塔まで行く電車に乗ろうとする人で溢れ返ったホームから電車の中はすぐに想像できた。

 

 

 

「な、なんでフランスでまでこんな満員電車に」

 

 

 

「...死にそ」

 

 

 

普段自転車通勤の俺が嫌いなのはこの人混みであり、普段は通勤電車を使用しているのであろう八神さんでこの様子だ。数回しか体験したことない満員電車の中で窒息死そうになるもなんとか目的地に辿り着くまで耐え抜き、急いでホームから出ると2人で駅の外まで走る。

 

 

 

「ふぁ〜!参った〜!!」

 

 

 

人の波から外れたところで膝に手を置き息を整えていると、八神さんが顔を上げて唐突に吹き出す。

 

 

 

「って、八幡髪ボサボサ〜」

 

 

 

「それはいつも通り......って八神さんもじゃないですか」

 

 

 

「あ」

 

 

互いに乱れた髪を触ると自然と頬が緩んで口から笑みが溢れ出す。

 

 

 

「あははははは」

 

 

 

「ふっんんっんん」

 

 

 

「なにその笑い方...き、気持ち悪っふふっんふ...」

 

 

 

互いに笑いが尽きるまで笑い、落ち着いたところでエッフェル塔が見えるベンチへと腰掛ける。走ってたくさん笑った後だったが疲れはなく爽やかな気持ちで目の前に聳える電飾のされた塔を見つめながら俺は八神に問を投げた。

 

 

 

「なんで遠山さんじゃなくて俺を誘ったんですか?」

 

 

素朴な疑問どころかかなり重大なことで、このことが知られたら俺は日本に帰らない方がいいのではという気持ちに駆られる。しかし、その心配は杞憂だったと思わざるを得ない回答が八神さんの口から飛び出す。

 

 

「誘ったんだけど、忙しいからって断られて。それで八幡にでも声掛けてみたらって」

 

 

 

「え」

 

 

 

「おかしいよね。あんなに会いたがってたのに」

 

 

そっかぁ。遠山さん公認なら大丈夫かぁ...。俺が呼ばれたことの疑問やら理由がおざなりなことはそのことの安心感で消え失せて俺は思わず白い息を吐く。

 

 

 

「あ、でも明日には来るって」

 

 

 

「明日?それってつまり...」

 

 

 

1月1日なのでは、そうつぶやこうとした時、エッフェル塔がピカピカと想像とは違う光を放つ。キレイ...なのか!?と困惑しそうな煌めきに八神さんは失笑する。

 

 

 

「たしかにちょっとヘンテコかも」

 

 

 

「ですね」

 

 

 

光が強くもなく弱くもなく、これならディスティニーランドのツリーの方が綺麗なんじゃないだろうか。やっぱり日本サイコー千葉最強ってことだな。

 

 

「あけましておめでとうございます。八神さん」

 

 

 

「うん、おめでとう。これからもよろしくね。八幡」

 

 

 

新年の挨拶を口々に交わすと木の向こうから炎の花が暗い空に広がる。

 

 

 

「花火か」

 

 

 

「こっちは綺麗だね」

 

 

 

まさかここで見られるとはと感嘆すると八神さんはスマホをカメラモードにすると内カメラにして腕を伸ばす。

 

 

 

「ほら、八幡くっついて」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「ほら早く。花火終わっちゃう」

 

 

 

パーンとぱっと晴れやかに光って咲く花を背にして八神さんに引き寄せられて肩と肩が密着する。はいチーズとシャッターが切られる。

 

 

その写真に写る八神さんと俺の顔は花火のように晴れやかでその後ろで大きく広がる花火は美しく儚く綺麗で、夜に咲いた花は音と共に静かに消え去る。

 

 

 

「おー、結構いい感じだね」

 

 

 

「...ですね」

 

 

 

「...うん」

 

 

 

何故か急に深夜テンションから急降下ジェットコースターみたく落ち込み、ぎこちなく視線を行き交わせる。

 

 

 

「は、八幡は今日はどこに泊まるの?」

 

 

 

「あっ」

 

 

 

知らない。俺は今日これからどうするんだ。どこに泊まるんだ。この時間からホテルはチェックインできるのか?最悪漫画喫茶かカラオケに......フランスにあるのか?寒いはずなのにダラダラと溢れ出てくる汗に動揺する。

 

 

 

ねぇ、八神さん。俺はどこに泊まればいい?八神さんが泊まれって言うならどこにだって泊まるさ!とフランス歴は浅くても俺よりはマシな八神さん目を向けると八神さんはもじもじしながら口を尖らせる。

 

 

 

「そ、その良かったら...」

 

 

 

もし、エッフェル塔の前でなく暗闇ならば俺は特に思うこともなかっただろう。しかし、周りは電飾や電灯で明るく照らされており八神さんの顔ははっきりと見える。耳まで赤く染まった顔に、震えている艶やかな唇、上目遣いで俺を見つめる眼差しに息を呑む。

 

 

 

まさか、まさか...!流石の俺もこの歳になれば多感な時期を過ぎていようとも、身体は正直に八神さんの言葉の先を理解してしまう。しかも、過去には接吻もしている。俺にターニングポイントが訪れるのではと言葉の先を待つ。

 

 

 

「あっちの方にホ、ホテ...」

 

 

 

八神さんが何か言いかけてるその時、茂みから「それはダメーっ!!!」とクロスチョップしながら女性が追突してくる。

ぐえぇっ!?と倒れ込んだ俺に驚く八神さんは駆け寄ってこようとするが、突然現れた〇大クロスチョップ部の女性に手を握られる。

 

 

 

「だめよコウちゃん!それはまだ早すぎるわ!」

 

 

 

「へっ!?......りん!!?」

 

 

 

「そうだよ!」

 

 

 

「りんー!!」

 

 

 

「コウちゃん!!!」

 

 

 

倒れ伏す俺を無視して熱いハグを交わす2人から目線を外した俺は体を丸めて「もう今日はここで寝よう」と目を閉じたのであった。

 

 






おめでとうございます!夜戦ルートは回避されました!!




や っ た ぜ




ということで本編最終回になります。
最後の最後に自分らしくそして原作のキャラ達(2人だけなんですけど)を生かせたと思います。拙く、誤字脱字がおおく誤用が多いこのような小説を見てもらってありがとうございます。
多くの励みになる感想や評価をありがとうございました。2年も書けたのは皆様のおかげだと思っております。
低評価や『面白くない』や『短所しかない』などの心に刺さるコメントをされたこともありましたが、それでも!とバナージ君のように言い続けてここまで辿り着くことが出来ました。(書くのを)止めない限り道は続く。オルガのアニキの言う通りでした。俺の指はスマホをも貫く!と超プラズマバーストをぶちかましながら番外編や各ヒロインに焦点を当てた作品も書くことが出来ました(未完)


この作品を書くにあたってNEW GAME!原作7巻+アンソロ3巻と俺ガイル原作17冊を新品で買うという犠牲を払ってますが、悔いはなかったので良しとしましょう。イラストカードとか貰いましたし。
そして、一昨年の8月から試しにズドンと投稿。当時はNEW GAME!関連の二次創作は少なく検索しても自分のくらいしか出てきませんでしたが、今となってはかなり多くなっている印象です。八幡が先輩してたりしてるのもありましたね。他にも幼馴染が童顔すぎるとか。ランキングに入ってるのをお見かけして「やるやん(強がり)」となったことを覚えています。
いつだって何が正しいか分からないので、とりあえず自分が正しいと思うことや「こういうのはどうだ?」と色々なことをを書いてきたのですが、見返すと「あ、ふーん(軽蔑)」と声を漏らすこともあったり、面白い時は自分も面白いと思いました。
パロディとかネタとかはとにかくぶっこみましたね。多分、全部わかった人は自分とウマが合うか、もしくはもう1人のボク!の可能性がありますねぇ!なわけあるか。
これ以上長くなると寝てしまいそうなので残りは活動報告で。
この作品以外の話や、これからの話も活動報告などでさせていただきます。



そして水着編は夏イベ終わるまで待って...!と言いたい。(一応、礼装交換、ジャルタの再臨素材入手、ポイントは呼符獲得まで。ギル札のアイテム交換だけ終わりました)何言ってるか分からない人は分からなくてもいいかもしれません。


さてさて!水着編は八月中に出します!何話構成とかは決めてませんが。全員出すとなるとかなり遅くなると思うので気長に期待せずお待ちくださいませ。



ほか質問(この作品に関係ないことは後日出す活動報告でお願いします)や感想などあればどしどしお願いします!
ただしアンチテメーはダメだ


では、またお会いしましょう〜see you 〜!!!!


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俺が水着を裁定するのは間違っている。

お待たせ。無事にイカロスXXじゃなくて、水着謎のヒロインとケルトの生んだスーパービッチの水着も入手したので残りはBBちゃんのみとなりました。隙あらば自分語り。というか前書きとか後書きってそういう場所でしょ。


さて今回は夏!ということでプール!可愛いらしい女の子が水着を着てはしゃぎ回ってる姿なんて2次元だけだと思って興味ねぇや。それに水着が見たければこのシーズンにイズミ〇にでも行けば見れるし。マネキンマジでスタイルよすぎな、マネキンと結婚した男がいるって聞いたけど納得はしたわ。理解はしてないけど。

プールは従姉妹とは行ったことあるけど、ビーチバレーしたり鬼ごっこしたりくらいしか覚えてないな。あ、そうだ。僕の従姉妹めちゃくちゃ可愛いんですよ。1つ上と5歳くらい歳下のいるんですが、下の方が「お兄ちゃん」って呼んでくれるのでとてもいいです。しかも普通に可愛いのでよりいい。もう彼女なんていらねぇわ。ところで最後に遊んだ時にだけど、従姉妹の友達に俺がSECOMって言われたんだけどなんで?



それでは本編。時系列は八神さんがフランスを飛び立つ前の最後の休みでしょうか。休みの理由はそれっぽくでっち上げてます。




学校が社会の縮図と呼ばれるのには、社会が学校よりも悲惨であることを現している。学校では無理な人付き合いは体育でのペアを組んだり、修学旅行や遠足などでの班行動くらいなもので、部活や委員会、生徒会に入らなければそれくらいで済むのだが社会は違う。

 

 

まず、新入社員という立場にいれば先輩から仕事のいろはを教えてもらわねばならないし、年を追えば後輩にその逆をしなければならない。ここで拒否すれば居づらい状況を作ることになり、還暦まで仕事を続けられるか危ぶまれる。なので、どんなに先輩が嫌な人物でも耐えて耐えていかねばならないのだが、ここイーグルジャンプではその心配がない。上司は変わっているが事務的なことがなくても話しかけてくれる優しい人ばかりで、強制的な付き合いの強要もなく、女性ばかりの職場だが過ごしやすい環境である。それは俺が一年もこの職場に居ることが証明であり、これからも何事もなければいようという気持ちになっていることも起因している。

 

 

 

だから、たまには、こんな俺をキャラデザとかに使ってくれる上司や会社に感謝して、わがままにも付き合ってやろうと思ったのだが。

 

 

「なんでこんなことに...」

 

 

壁一面に配置されたロッカーを一望すると俺は上着を脱いで貴重品など共に8番のロッカーに放り込んだ。水着なんて高校卒業以来だなと普段から半パンとして使えるシンプルな蒼一色水着を見る。

 

 

近年よく見る猛暑に、雲一つない空、今日もフフ、フハハハハ!と降臨する太陽。地表が太陽を映せし鏡になったかのような暑さが日本を襲う中、今日も元気に仕事...ということはなく、イーグルジャンプの会社員全員に与えられた休みである。なんでも社長室と会議室のクーラーが不調に陥ったため、PECOの製作も落ち着いたということでこの機に社内のエアコンを全て点検する運びになった。そのおかげで社員には2日間の特別休暇が言い渡されたのだ。その報告を受けた俺たちは一喜一憂し残りの仕事を定時までに片付けようと手を動かす。

 

 

 

『全員休みなんでしょ?じゃ、プール行くぞー!』

 

 

 

どこから貰ってきたのか複数の優待券を掲げた八神さんは終業時間に見知った面々を集めてそう高らかに言い放った。それに苦色を浮かべた者はおらず、八神さんがフランスに行く前の思い出作りに丁度いいだろうと遠山さんやうみこさんが言うと全員が頷いた。俺も一日くらいならいいかと、首肯したが家に戻って水着があるか見てみれば、そもそも自前の水着を着たのが小学生の頃だと気付いた。そのため水着を買いに近くのショッピングモールへと足を運んで普段から短パンとして使える水着を購入したのだった。

 

 

 

そして、やってきた当日だが予定とか取り決めてる時は楽しいのに、いざ当日になるとテンションが下がるという状況に瀕しており、一種の賢者モードになっていた。

 

 

 

まず、来るまでにめちゃくちゃ汗かいたし、空いてるロッカーが少ないことを見て人が多いのは確信したし、トドメに俺以外のメンバーが女子なことも気分を低迷させている一因となっている。まぁ折角、優待券を使ったし八神さんの申し出だから来たのだ。たまにはサービスサービス!しなくては。日焼けしないようにと買った白いパーカーを羽織って、扉をパタンと閉めながら周りを気にしながら呟く。ゴーグルをポケットに突っ込んで、ロッカーキーを腕につけるとシャワーを浴びてから俺は炎天下の外へと駆り出した。

 

 

 

「あ、遅いよ八幡!」

 

 

 

ちょうどシャワーを出たところで待っていた涼風が不服そうに抗議の声をあげる。華奢な身体をした涼風はピンクと白のストライプの三角ビキニに裾のないズボンを履いているがそういうオシャレなのだろうか。

 

 

「お前が早いんだよ」

 

 

俺がそう言うとぷくーっと頬を膨らませる涼風を一瞥してから周りを見渡す。世間はまだ夏休みで、プールは芋洗いみたいにぎゅうぎゅう詰め。せっかくの休みなのにこんな人の多いところに来なくてもと頭を搔く。

 

 

 

「そんなことないよ。みんなもう待ってるよ」

 

 

 

「えぇ...最近の女子ってそんなに着替えるの早いの?」

 

 

「それはわかんないけど...みんな下に着てるから」

 

 

 

おかしいな、俺も履いてきたんだけどな。これが熱意の差なんだろうか。夏をエンジョイしようとする者と、もう既に帰りたい民族とではただ上着を脱ぐだけでも差がつくのだろう。やはり、俺には速さが足りないらしい。別に超速変形しなくてもプールの水は逃げないと思うんだがな。

 

 

「......あの、それでさ」

 

 

「あ?」

 

 

さっきと変わって躊躇いがちにかけられた声に思わず涼風の顔を見ると、もじもじと足裏を擦り合わせている。

 

 

「どした」

 

 

「いや、そのさ、ど、どうかなって」

 

 

 

歯切れ悪く言葉を発する涼風に何がと尋ねたくなるが、腕を後ろで組んでチラチラと俺に何かを求めるような視線を送ってくる。訳が分からず首を傾げていたら涼風は唐突に表情を顰める。

 

 

「もういい!行くよ!」

 

 

何がもういいのか分からないが、いいんならいいのだろう。もしかしたら水着の感想が欲しかったのだろうか。だとしたら、まぁ見た目は別として年相応だと思います!

 

 

 

###

 

 

 

涼風の後に続きながら歩いて進んでいくとどんどん人が多くなっている気がする。気のせいかと思えば俺達が向かっている先に人々が興味を持つ者達がいるのだ。有象無象の人だかりの間を避けながら涼風が立ち止まった場所はモデルの撮影会かと見間違うほどの水着姿の美人美少女達がいた。

 

 

 

「みなさーん!連れてきました!」

 

 

 

涼風がその集団に溶け込むと俺の方へと視線が集まる。それは集団の外からも同じことでナンパを狙っていたのだろう輩は散り散りになり、単に騒いでいた女子もいそいそと離れていく。アレが連れかよみたいな顔もされたが、俺だって来たくて来たわけじゃないと心の中で弁明する。

 

 

 

「あ、やっときた」

 

 

 

「遅いわよ。比企谷くん」

 

 

 

真っ先に俺に気づいた八神さんと遠山さんは日焼け止めクリームを塗る手を止める。さらにその奥にいたはじめさんは体操しながら、ゆんさんは浮き輪を膨らませながら俺を見つめる。

 

 

 

「あ、八幡、遅かったねー」

 

 

身体を捻ったり曲げたりする度に黄色と茶色の蜂蜜大好きな熊さんみたいな水着のはじめさんの胸が揺れる揺れる。まさかその中にはたくさんの蜂蜜が...!?

 

 

「よしっ!じゃぁね!」

 

 

準備体操を終えてプールサイドを駆けて早速監視員に注意されているはじめさんに苦笑いすると、呆れてみていたゆんさんの方と目が合う。

 

 

 

「...なんやその目は、しゃーないやろ。泳げへんねんから」

 

 

 

無意識にはじめさんと比較して哀れむ目を向けてしまったのだが、ゆんさんがそういう解釈をしてくれて助かった。案外、ゆんさんは体重関係以外のことでは自分のスタイルというのを気にしないらしい。にしても、相変わらずゆんさんの水着はゴスロリじみてる。フリルのついたホルタービキニに腕にはハイビスカスのような赤いシュシュを手に巻いている。

 

 

 

「な、なんや...ジロジロ見て...」

 

 

 

「あ、いや、似合ってるなと思って」

 

 

 

見つめていたことを不審に思われて咄嗟にそんな言葉が飛び出す。言ってからしまったと思ったが妹には女性の水着は褒めとけば大丈夫というアドバイスをされたことを思い出す。褒めたんだし、大丈夫だろうとゆんさんの様子を窺う。

 

 

 

「...そ、そか…」

 

 

恥ずかしかったのか俺に背を向けて再び浮き輪に空気を入れ始める。妙に手馴れた感じに息を吹き込んでるのを見るに家族で行く度に妹や弟のためにもやっているのだろう。その姿を生暖かい目で見ていると今度は俺の背中に寒気が走る。ピリリリリン!と新人類かのような瞬発力で振り向くと涼風と八神さん、さらに遠山さんが腕を組んで仁王立ちして俺を睨みつけていた。

 

 

「...ねぇ、八幡はそういうのが好きなの?」

 

 

 

「え、何が」

 

 

 

「んー、もう少し幼い感じの方が良かったかしら…」

 

 

 

「りんはスタイルいいんだし紐のやつにしたら良かったんじゃない?」

 

 

 

「もうコウちゃん!」

 

 

 

何故かご立腹な様子の涼風と遠山さんと違い八神さんはニヤつきながら遠山さんを揶揄うと1歩前に出て胸に手を当てる。

 

 

 

「八幡!私の水着はどうかな!」

 

 

 

ドン!と背景に文字が浮かんでそうなくらい勇ましい聞き方。しかし、聞いてることはこちらとしてはとても困る。クリームソーダのような白と水色のビキニは八神さんの綺麗な白い肌をより主張している。だが、堂々とする八神には絶対的に足りないものがある。パッと見、涼風と同じくらいかと思えばスタイルがいいせいでその無さを発揮しているが、それが逆にいいと言える。

 

 

「いいんじゃないですか」

 

 

 

「なんか適当だなおい」

 

 

 

俺の感想が気に入らなかったのか肩を落とすとじゃあと遠山さんの両肩に手を置く。

 

 

「りんは?私よりも胸あるしスタイルいいよ?」

 

 

 

「ちょっ、ちょっとコウちゃん!!?」

 

 

 

好きな人に押し出されながら褒められて喜びの絶頂なのか、悲鳴のような声を上げると俯きながら俺の方を見る。フリルがトップスを覆い、バスト部分にボリュームアップを持たせる桃色のフレアビキニにより、遠山さんの働く女性らしいくびれと腰つきがより強調されている。遠山さんが水着を合わせたと言うよりは、水着が遠山さんに合わせたと言わんばかりにベストマッチしている。恥じらう乙女のような顔をする遠山さんに思わずギャップを感じて言い淀むがなんとか言葉を選び出す。

 

 

 

「なんというか、インスタとかにあげたら遠山さん目当てでいいねがめちゃくちゃつきそうですね。あ、今の八幡的にポイント高い!」

 

 

と、妹の真似を照れ隠しのために入れてみると遠山さんは面食らったように顔を固めると頬を緩める。

 

 

 

「ふふっ、なにそれ」

 

 

良かった。思いのほかウケたらしくホッと一息つく。そんな一悶着を終えるといつの間にやら浮き輪を膨らませ終わったのかゆんさんの姿はなく、八神さんと遠山さんも涼風に何か言い残してプールの中へと入っていく。そして、この場に残った涼風はというと、日陰のパラソルの中に入ると俺のパーカーの裾を二度引く。

 

 

 

「どうした」

 

 

 

「私は?私の水着は?」

 

 

 

「えぇ...」

 

 

 

「ちょっとなにその顔。八神さんや遠山さんにはちゃんと言ってたじゃん」

 

 

 

「それは先輩だし、ちゃんと要望には応えないと」

 

 

 

「あ、たしかにそれは分かるかも...」

 

 

 

だろ?と俺は胸をはる。いつだって先輩や上司、先生とかの目上の人からの命令は断れないのだ。同年代だし涼風が理解を示してくれたのは嬉しかったのだが、涼風は頷きかけてすぐにハッと開眼すると首を横に振る。

 

 

 

「それとこれとは別だよ!この水着、昨日ねねっちとももちゃんとツバメちゃんとで買いに行ったんだよ!」

 

 

 

「いや、聞いてないし。てか、その桜たちはどうしたんだよ」

 

 

 

キョロキョロと辺りを見渡すがここにその3人がいた形跡はない。ゆんさん達がいたならひふみ先輩の姿も見えるはずだったのだが。それにうみこさんの姿も見ない。ここに多人数で固まるのは蒸し暑いからと別の場所で集まってるのだろうか。

 

 

 

「私も知らないよ。多分、3人だけでウォータースライダーにでも行ったんじゃない?」

 

 

涼風が見るその先を見れば、天まで届きそうで届いていないビッグで巨大な長くロングでスパイラルコースの多い滑り台が聳えている。CMでも見たことはあったが実際に見ると本当にでかいんだな。庶民が熱中するわけだ。

 

 

 

「じゃ、お前も行ってきたらどうだ?」

 

 

「いいよ私は。それに荷物見てないといけないし」

 

 

苦笑しながら頬を掻くとブルーシートの上に腰を下ろす。俺が見てるから行ってこいよと言おうと思ったが、本人がいいって言ってるしいいか。

 

 

「それよりさ、どうなの?私の水着は?」

 

 

「かわいいかわいい」

 

 

「...!.........他には」

 

 

「ハラショーハラショー」

 

 

「......?.........他」

 

 

「ラヴィンラヴリィラヴリミン」

 

 

「......なにそれ」

 

 

「あぁもう世界一可愛いよ」

 

 

「............適当すぎ!!」

 

 

おかしいなウサミンパワーを使えば大体の子に自信を持たせられるはずなのだが。しばらく瞬きを繰り返した後、流石に腹を立てたのか涼風は立ち上がると足音を立ててどこかへ去っていく。次会う時に何言われるかわからんが俺に水着の感想を求めるのは間違っているのだ。それに俺に可愛いだの綺麗だの言われても嬉しくはないだろう。そういう褒め言葉は葉山みたいなイケメンが言ってこそ意味を持つもので俺が言っても変態のそれにしかならん。だが、求められたなら嘘でも褒めようじゃないか。...まぁ涼風も含めてあの人らは褒めれる部分しかないから困るのだが。

 

 

 

「あ...の...」

 

 

 

不意に声をかけられて下げていた頭を上げる。紅蓮のチューブトップでも押さえつけられない包容力を秘めた胸部にむき出しになったピンク色の肩。レッドブラウンの髪を黒のゴムで束ねてポニーテールにしたひふみ先輩は前髪を耳にかけながらこちらを覗き込む。

 

 

 

「ど...どうかな...?」

 

 

その時、俺は思い出した。籠の中の鳥だということを。井の中の蛙だったということを。スタイルのいいショッピングモールのマネキンとは比較にならないほどに、生を得ている女性が着る水着はこんなに素晴らしいのだと。

 

 

「......」

 

 

 

「えっと......変...かな...?」

 

 

 

いや、変じゃない...これは恋だ...。全然変じゃない。むしろ最高だと思いっきり何度も首を右往左往させるとひふみ先輩はほっとしたような顔を浮かべる。守りたいこの笑顔。

 

 

 

「......あ、あの、青葉ちゃんたちは......?」

 

 

 

涼風や八神さん達の荷物があるというのに俺しかいないことが気になったのか、ひふみ先輩は上目遣いで尋ねてきて俺はそれに自分を律しながら声を発する。

 

 

「...さぁ、桜たちでも探しに行ったんじゃないですかね」

 

 

 

「そっか...」

 

 

 

シュンと落ち込むように手を止めて辺りを見渡して、その涼風達の姿を探すためにひふみ先輩は立ち上がる。その時に万乳引力によって引き寄せられたそれにあるものが映り込む。ひふみ先輩の右乳の上の方に何かゴミが乗っているように見えた。しかし、取ろうにもひふみ先輩は立ち上がったため、俺は見上げる形になり、そうは出来ない。まぁ、水の中に入れば取れるだろうが。

 

 

 

「というか、ひふみ先輩は八神さんとかゆんさんとかと一緒じゃなかったんですね」

 

 

 

「あ、うん。......着替えるのに時間......かかっちゃって」

 

 

 

なるほど。やっぱりそうだよな。女の子って着替える時にそれくらい時間がかかるもんだよな。

 

 

 

「うみこさんとかは見てないですか?」

 

 

 

「......多分、来てると思う...よ?」

 

 

 

なんだか要領の得ない答えだ。女性同士だから一緒に更衣室へ入ったのだろうに。入場の際はいたのだから、どこかにいるのだろう。それにあの人は根っからのスポーツマンだし、一人で自由に泳ぎ回ってるのかもしれない。

 

 

 

「八幡は...荷物番...?」

 

 

無言で頷くと、ひふみ先輩は今度は意味もなくキョロキョロと挙動不審になるとその瞼を何度も開閉し、こちらに何か伝えようという意思を持った眼差しを向けてくる。

 

 

「えっと...その...みんなと着替えるの...遅れて......」

 

 

たどたどしいがちゃんと一つ一つ言葉を繋げていく。下に水着を来てこなかったひふみ先輩は下に着てきた組の涼風達とはぐれてしまった。

 

 

 

「だから......サン......オイル......塗ってなくて......」

 

 

 

サンオイル?日焼け止めのことだろうか。それを塗っていないというのは白い柔肌乙女のひふみ先輩にとっては大ピンチだろう。副業(コスプレ)のこともあるし。

そういえば、俺も塗ってないがこのままパラソルの下にでもいれば問題ないだろう。最悪水の中に引き込まれても肩を出さぬようにしていれば平気平気!おっと、話が逸れてしまった。続きを目線で促すとひふみ先輩は手に持っていた日焼け止めを俺に手渡して正座すると紅潮した顔で震えながら口を開く。

 

 

 

「......八幡が......良かったら......なんだけど.........塗って........くれないかな......?」

 

 

 

その瞬間、俺の思考がフリーズした。





これから全員分書こうと思うと長くなるのでキリのいいところで投稿。個人的にしつこく「これどう?」って求める青葉をあしらいつつも最後に照れながらぎこちなく「いいんじゃねぇの?」とか言われて喜ぶ青葉が見たかったりします。

八幡が少しばかし変態チックになってますが夏の過ち(A+)ということで。てか、ひふみ先輩みたいな人を前にして平常心保ってられる男はヤベーよ。好きな人にサンオイルは男の夢みたいなのを聞いたことあるけど、自分は恥ずかしいので遠慮したいです。流石にどうしてもと頼まれたら塗りますけど。


どれくらい続くか分かりませんが、あと2話お付き合いいただければなと。ちなみに全員の水着はTVアニメオフシャルガイド1、2を参考にしています。まだ今回は出ていないのがいますが、次には全員出ると思います。出来れば水着を買いに行くみたいな話もしたかったんですが、経験がないものでそれは割愛させてもらいました。



近況報告も兼ねて8月中に個人ルートについての話を活動報告にてさせてもらおうと思います。



それではまたいつか。8月が終わる頃に次は出せたらいいですね。


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ぼっちに水着の感想は難しい。

BBちゃんが来ないので初投稿です。急ぎの用があるので前書きはこれで終わります。


 

 

 

もしこれが2度目の人生だったのなら俺はこの状況を打破する手段を持っているのだろうか。その答えは否であろう。そもそも、人生は1度きりで仮に転生なんてものがあったとしても、それをするのは前の人生に未練があった者で俺のような目的も意味無く生きてる人間には訪れない。てか、2度目でも覚えてないと無理だろうし、俺は確実に人生ニューゲームだわ。

 

 

「...やっぱり...ダメ...だよね.........?」

 

 

これが小町ならそんな小首傾げて可愛いと思ってんのか可愛いわボケと冗談交じりに追い払うが、今回は別だ。なんたってみんな(俺一人)が憧れるあのひふみ先輩からのお願いだ。普通なら断らない。そう、普通ならだ。お願いの内容に問題がある。

 

 

 

 

日焼け止めを塗ってほしい。

 

 

 

こんなの人生何周したら巡り合えるんだというお願いに人生初心者の俺は硬直する。こんな時、俺はどうすりゃいいと尋ねても答えてくれる相手はいない。そもそも、女子からのお願いなんて学校でずっと陰キャだったから経験がない。後輩から上目遣いやら脅しで便利な小間使いをさせられたことはあっても先輩からのお願いは初めてなのだ。

 

 

 

「自分で塗るという選択肢は...?」

 

 

 

「か、身体が固いから...背中...に手が届かなくて...」

 

 

 

なんだそういうことか!なんだぁ!つまり前は自分で塗るから後ろは俺に頼みたいということか。それならばやるのもやぶさかではない。誰かに見られても自然......なはずだ。

 

 

「じ、じゃ背中だけなら...」

 

 

 

「......!......うん、ありがと...」

 

 

 

はにかむような笑顔が太陽よりも眩しい。俺はこれからこの人に日焼け止めを塗るのか...。ひふみ先輩はうつ伏せで寝転がると「んっ」と何故か艶めいた声を出す。

 

 

「...じゃ...お願い......します...」

 

 

 

「あ、ひゃい」

 

 

 

蓋を開けて容器をぐっと握り、左手にドロっとした日焼け止めを500円玉程度の大きさで出して一旦日焼け止めの容器を置く。それでこっからどうすればいいんだ?このまま直接塗ればいいのか、右手にも付けて広げるようにしたらいいのだろうか。マジで誰か教えてくれよ…。

 

 

 

「...八幡」

 

 

「あ、はい、塗ります塗ります」

 

 

なかなか動かない俺を不審に思ったのかひふみ先輩が俺の方を振り向く。その際に右乳のゴミがほくろだとわかったのは些細な話だ。ほんと、俺のビートが有頂天になったくらいだ。本人はああいうのに気付くものなのだろうか。まぁいいやと意を決して、ひふみ先輩に手を伸ばしたところでその腕を掴まれる。

 

 

「何をしてるのですか?」

 

 

 

ギョッと目を見開いて声の主を見るとうみこさんが目頭を抑えながら俺の手も抑えていた。これはまずいと俺は精一杯口を動かして事情を説明する。

 

 

「これはですねひふみ先輩に日焼け止めを塗ってくれと言われて決して俺から塗ろうとかそんなことを言った覚えはなくてですね」

 

 

真実を言っているのだがうみこさんは疑心暗鬼に掴む力を強めてくる。助けてひふみ先輩!とレスキューを求めたらひふみ先輩は「あわわ......」と蒸気を出して使い物にならなくなっていた。

 

 

「で、言い訳はそれだけですか?」

 

 

 

「言い訳じゃないんですけど…」

 

 

 

うみこさんの眼やら腕のフィジカルが強すぎて怯えて声も小さくなっていってしまったし、今のこの人に何言っても無駄な気がする。諦めムードに陥って冤罪を受け入れようと投げやりになっているとうみこさんはため息を吐く。

 

 

 

「まぁ確かに比企谷さんから言うとは思えませんし...今回は不問にしましょう」

 

 

やはり普段の行いというのは大切なのだろう。うみこさんは手を離すと日焼け止めを手に取りひふみ先輩に塗りたくる。褐色のうみこさんが白肌のひふみ先輩に日焼け止めを塗っているという絵面を見せられ、1分程で塗り終えるうみこさんにひふみ先輩は頭を下げる。

 

 

 

「あ、ありがとうございます......」

 

 

「礼には及びませんが、こういうのは比企谷さんに頼むものでは無いと思いますよ」

 

 

グウの音も出ない正論にひふみ先輩はシュンと落ち込む。初体験を体験出来なかったが内心かなりほっとしている。塗ってる時に何かしらのハプニングとかひふみ先輩に上擦った声でも出されたらここからプールに飛び込んでいるところだった。つづくという文字が出るくらいの大爆発をしていたた違いない。

 

 

「そういえば、うみこさんは今までどこに?」

 

 

「室内の方で泳いでました」

 

 

「へぇ、そんなのもあるんですね」

 

 

というかこの人は今まで一人でガチ泳ぎしていたのだろうか。相変わらず我が道を往くタイプで安心するが将来不安だな。具体的に言うとこの人と結婚する人。うみこさんは顔も良いし、スタイルよし、面倒見もよしと三良しが集まっている。だから、その気になれなくても男の方から魅力を感じて寄ってくるだろう。男らしいところもあるにはあるが、見慣れてしまえば気になるものでもない。

 

 

「それで他の皆さんは?」

 

 

「はじめさんとゆんさんとか八神さんと遠山さんは2人でいると思いますけど、桜と望月、あと鳴海はロビーから顔合わせてませんし」

 

 

「涼風さんは?」

 

 

「なんか怒ってどっか行きました」

 

 

俺がそう言うとうみこさんは冷たい目を、ひふみ先輩は心配そうな目を向けてくる。

 

 

「また何か言ったんですか?」

 

 

「またって...水着の感想求められたから世界一かわいいよって言っただけですけど」

 

 

「はぁ......なるほど」

 

 

あったことそのままを伝えたのだが、うみこさんはまたもため息を吐き、ひふみ先輩も若干呆れたような顔をしていた。

 

 

「他の方には聞かれなかったのですか?」

 

 

「八神さんと遠山さんには聞かれました」

 

 

「その時はどう言ったんですか?」

 

 

「...いいんじゃないですかとかインスタ映えしそうとか」

 

 

「やっぱり適当ですね」

 

 

仕方ないでしょ他人の水着を見たのが2回目なんだから。だけど、耐性がついてるからおかげで今回はそこまで動揺しなかったな。ひふみ先輩は除くけど。

 

 

「では、私はどうでしょう?」

 

 

うみこさんは挑戦的に見せつけるような表情で尋ねてくる。焦げた胸を覆う黒い三角の布を金色のリングで繋いだバンドゥビキニと呼ばれるもので、パンツも三角ビキニに見えるが結ぶ紐が2本と大人の水着という感じがする。それに南国育ちのうみこさんによく似合っていて沖縄生まれの射撃アイドルみたいな感じで売り出したらヒットしそうだ。けど、うみこさんの性格上アイドルというよりは本職のヒットマンなので違う意味で心臓にヒットするだろう。

 

 

「似合ってるとしか...」

 

 

「......なるほど」

 

 

喜ぶわけでもなく落ち込むわけでもなくうみこさんは目を逸らして髪を弄りはじめる。どういう反応なんだこれと困惑していると聞き覚えのある騒がしい声が近づいてくる。うみこさんもひふみ先輩も俺と同じくその声のする集団に目を向ける。

 

 

「あ、うみこさんにひふみ先輩!」

 

 

2人が見えるなら俺のことも視界に入っているはずなのだが、俺の名前が聞こえなかった。後輩からも存在を抹消される俺ってやっぱりアサシン。

大きく手を振りながら笑顔を振りまく鳴海とその後ろから若干落ち込んでる雰囲気の望月はパラソルの中に入ると疲れたーとブルーシートに座り込んだ。

 

 

「あ、比企谷先輩もいたんですね」

 

 

「まぁな」

 

 

ニカッと悪意のない笑顔が怖いな。俺がもっと感情の気上が激しければからかい上手の鳴海さんの名を進呈していただろう。

 

 

「で、ウォータースライダーはどうだったんだ?」

 

 

「楽しかったですよ。2回も乗っちゃいました。...あ、でも、ももは...」

 

 

含みのある言い方に思わず望月に視線を動かす。既にこの太陽熱で髪は乾きかけているが、まだ鎖骨には少しばかり水が溜まっている。

 

 

 

「何があったかは聞かない方がいいんでしょうか」

 

 

「さぁ...まぁ俺は別に」

 

 

興味無いと言おうとしたら望月を除いた面子から鋭い視線が刺さる。そこで俺は言葉を飲み込んで望月に問いかけた。

 

 

「なにかあったのか…?いや、まぁ言いたくないならいいんだが…」

 

 

プールでこんなに落ち込む原因というのは想像に容易い。例えば泳げないだとか、足をつってしまったとか水着が流されたみたいなベタな展開だろう。

 

 

「...2回目のウォータースライダーから落ちた時に鼻を打ちました」

 

 

全然ベタじゃなかった。ひふみ先輩は大丈夫?と背中をさすり励まし、うみこさんはウォータースライダーに誘ったであろう鳴海をじっと睨む。それから逃れようと鳴海は立ち上がると俺の前に立って変なポーズを決めてみせた。

 

 

「先輩どうです?私の水着は?」

 

 

どうして女の子はそう水着の感想を求めるんですかね。友達と選んで試着とかして買ったんでしょ?だったら自分では満足してるでしょ。それでも他人に評価を求めるとは...。

 

 

薄いイエローの生地のフレアビキニは水玉模様で彩られており、活発的な鳴海にはぴったりと言える。パンツの方はフレアはなく、両腰に固結びして固定したのか、はたまたそれは飾りなのかと少し心配になる。しかし、フレアが無いおかげで鳴海の健康的な尻が出ている。

 

 

「ん、鳴海らしさが出てて可愛いんじゃねぇの」

 

 

「そ、そうですか...なんだか平凡な、感想ですね...」

 

 

聞いといてその言い草はないだろと抗議しようかと思ったが、鳴海が太陽を背にしているため顔を直視すると目がやられるので諦めることにした。それでも鳴海も顔を背けて手で抑えているあたり少し照れているのだろうか。分からんけど。変な空気が流れる中、うみこさんはわざとらしくごほんと咳をするとその場から立ち上がる。

 

 

「私はもうひと泳ぎしてきます」

 

 

「あ、私も...」

 

 

「では、2人で行きましょうか」

 

 

うみこさんがそう言うとひふみ先輩は動揺しつつもコクコクと頷く。かわいい。2人が室内プールへと歩いていく姿を見送っていると俺の横に回ってきた鳴海が耳打ちしてきた。

 

 

「...もものは褒めてあげないんですか?」

 

 

「いや、聞かれてないし」

 

 

というか近いよ君。そういうことはね俺みたいな男にするべきじゃないと思うよ?耳がこそばゆいしひそひそ話は落ち込んでる人間にとっては精神攻撃に成りうるからやめましょうね。

 

 

 

「でも、ももの水着可愛いですよ?」

 

 

言われて見てみると、望月の目はいつの間にか俺を捉えていた。体を隠すように腕で自分を抱く体育座りでもふくよかな胸の大きさは隠しきれていなかった。水着隠して胸隠さずということわざが生まれちゃうくらいのフィジカル。望月紅葉...恐ろしい子っ!

 

 

「で、どうなんですか?」

 

 

再度聞かれて望月を見ると、ひそひそ話は聞こえているのか伏し目がちに上げられた目が俺の言葉を待っているように見えた。

 

 

農場の娘だからなのかは知らないが白黒の牛さんカラーのビキニに小さくついたフリルが目を引く。いや、それ以上にやっぱり胸のでかさだな。おそらくひふみ先輩以上、しかしはじめさんの方が勝っているだろうか。いかんいかん、同年代とはいえ望月は後輩だ。そんな下卑た目で見るのは先輩として人間として男として終わっている。

だが、先ほどウォータースライダーで沈没した名残なのか、水滴が弾かれるようにして艶やかな肌の上に残っている。しかし、重力には逆らえず少しずつ優美な曲線を描くくびれを伝い腰まで到達するとパンツについたフリルへと消える。

胸からも腰からも目を逸らせない。どうやったらこんな破壊力満点のボディーが出来上がるのだろうか。本人は無自覚なのだろうが、自信を持った方がいいと思う。

 

 

「悪くない...と思う。可愛いし女子らしくていいな」

 

 

社外なのでこれはセクハラにはならない。そうセクハラにはならない。それに聞いてきたのは鳴海なので鳴海が全部悪い。

 

 

「...そういうこと初めて言われたので嬉しいです」

 

 

はにかむような望月の笑顔が日陰なのに眩しくなって、俺はやっと目を逸らした。あれをずっと見てたら俺の体砕けて新しい肉体を得ないといけなくなっちゃう。つまり、望月は太陽だった...?

 

 

「...俺もちょっと泳いでくるわ」

 

 

そうパーカーを脱ぎ捨てて軽く準備運動をしていると2人は小さく手を振って「いってらっしゃい」と声に出す。...もし、こいつらが本当に歳下の後輩なら何ともなかったんだが、水着評価の後だと死にたくなるな。主に恥ずかしさで。そんな気持ちを払拭するべく俺は飛び込み台の上から人がいないことを確認して水面へと飛び込んだ。

 

 







あと1話です。ほんの少しですがお付き合いくださいませ。
あとは特に言うことは無いです。


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夏の思い出は星のように

やっと出来た。相変わらず稚拙で情景を想像しにくい文章ですが読んでくれてありがとう。





 

 

 

心体共に無邪気さを存分に解放している後輩達といるのが辛くなってスイミングの時間ですと水中に入ったのはいいのだが、人が多くてろくに泳げやしない。浮き輪に身を預けるキッズや貸し出しボートで楽しむ者。その他には小さいバスケットゴールに向けてビーチボールをシューティングしたり、水に浸かった状態でビーチバレーをしてる者もいる。そいつらは全員誰かといて、1人で虚しく寂しく泳いでいるのは俺だけであった。

 

 

それにしてもこうして泳いだのはいつぶりだろうか。高校の水泳の授業は2年までで終わりだったから3年ぶりくらいだろうか。しかし、人間は陸上生物なので水中にいなくてはならないということは無いが、ヒキガエルのくせに泳ぐの下手だなぁと小学校の頃に言われたのは今でも覚えてる。まぁそいつらには翌年のタイム測定で勝ったし、それでもその後にやっぱりヒキガエルじゃないかと言われたのは解せなかった。

 

 

以降、俺が本気で泳ぐことは無かった…。てか中学校時代に俺にヒキガエルというやつは愚かヒキタニとしか言われなかったしな。誰も俺が泳ぐことに興味なんてなかったのだろうが。大体、その頃の男子中学生は女子の水着を見るのに夢中で俺のことなんてどうでもよかったのだろう。

 

 

「ぶふっ」

 

 

過去の記憶を抹消するかのようにクハハハハハハハ!!とホップステップグレートオーシャンとクロールしていたら誰かのお尻に顔が追突してしまう。見れば水玉のビキニ。つまり女性とぶつかったということだ。やばいと急いで水から出て頭を下げた。

 

 

 

「前見てなくてすんません」

 

 

額が水面につく。すると、俺のぶつかった子からの返事がない。もしやこんな男にぶつかられて屍と化したのだろうか。顔を上げるとそこにはポカンとビーチボールを手に持ち立ちすくむ桜がいた。

 

 

「いや、別にいいけど…」

 

 

「あ、そう...」

 

 

なんだよ結構優しいじゃねぇか。邪魔して悪いなと涼風にぎこちない笑顔を送ると若干引き気味な顔で返された。悲しいなと笑顔を崩すと桜に声をかけられた。

 

 

「てか、さっきからずっと泳いでるの?」

 

 

 

「まぁな」

 

 

どこでもそうだが俺はふらつくばかりで目的意識があって動くことはほとんど少ない。与えられた仕事があればそれをやるが、外やプライベートでは意味もなく足を動かすだけだ。

 

 

「他にやることないしな」

 

 

「え?ウォータースライダーとか流れるプールとか色々あるじゃん」

 

 

「確かに桜の言う通り遊び場はたくさんある。けどな、それではしゃいで遊ぶほど俺は子供じゃない。子供の頃に滑り台は滑りまくったし、俺の吐くイチオシのギャグもツルツルと。流れるプールなんて時の流れに身をまかせてる俺には無用である。よって、この場での俺の最適解はただ泳ぐ。以上。」

 

 

 

その旨を語り終える頃には桜は涼風とのトスリターンを再開していた。そして黙った俺を不審に思ったのか桜は振り向きもせず「終わった?」と尋ねてくる。

 

 

「あ、うん...終わったよ...」

 

 

「そ」

 

 

同い年でも望月や鳴海とは大違いだな。やっぱり後輩ってのが魅力的なのだろうか。いや、一応こいつも後輩なんだったな。ただ出会った時期が早かったのだ。こいつとの出会いがもう少し遅かったなら......なんて、らしくないことを考えてしまう。

 

 

 

「...何笑ってんのハッチー」

 

 

まさか顔に出ていたのかと慌てて口元を抑える。また引かれたかなとチラリと見て見たら桜の顔はどこかぎこちない。それについて尋ねると桜は唇を尖らせた。

 

 

「さっきよりいい笑顔だったから...かな」

 

 

「なんだそれ」

 

 

引かれなくてホッとはしたが少しばかり気恥しい。思い返してみればこいつには色々と付き合わされたり、話を聞かされたばかりだな。お返しにとからかってやろうかと思ったが、そういった経験がないので上手いこと思いつかない。いじらないで長瀞さんでも見てきたらよかったと思案していると「なんで笑ったの?」と聞かれた。

 

 

「多分お前の水着が良かったからじゃねぇの」

 

 

 

「.........へ?」

 

 

 

咄嗟に答えてまたもしまったと思ったが、これは意外に意表を突く言葉になったのではないだろうか。それに嘘は言っていない。普通の水玉のビキニは童顔で子供らしい性格には背伸びしすぎでないかと思うが、身体は19歳、20歳に相応で同い歳の涼風と比べれば太ももや腰つきは幾分か大人に見える。

だが神経はまだ子供なのか、これくらいで間抜け面を晒して嬉しそうにするとは...。

 

 

「八幡?」

 

 

む、殺気が。振り向けば奴がいた。桜を庇うようにして俺を睨みつける涼風が。

 

 

「違う、俺じゃない」

 

 

「ねねっち、八幡に何言われたの?」

 

 

「水着似合ってるって...」

 

 

「はぁ!!?」

 

 

怒りの形相を再び強める涼風に思わずたじろいでしまう。怖いなぁ青葉ちゃんは...。これ以上見つめられると殺されるからここは。

 

 

「あっ!逃げた!!」

 

 

大きな水しぶきをあげて俺は108の特技のひとつ『攻めのバタフライ』を使って人に当たらぬように涼風達から離れていく。ちなみにバタフライは腰に効く。病院の先生が言うんだから間違いない。

 

 

「殺されるかと思った...」

 

 

ひとまず距離を取って温泉プールへと逃げ込んだ。温泉かプールなのかはっきりしやがれと思うが今はあってよかったと思う。こうして一息つけるのだ。

 

 

「いい湯だね、八幡」

 

 

「そっすね」

 

 

あまりに気持ちよくて声をかけられても反応できたが、誰だこの人と隣を見ると湯の中で足を伸ばしてくつろぐはじめさんがいた。さらに控えめにちょこんと端っこにゆんさんもいた。

 

 

「いやー温泉はいいよね...ゆんもそんなとこいないでこっち来なよー」

 

 

「......なんやおばはんみたいに。あとここでええ」

 

こちらに聞こえる声ではあるがどことなくいつもの元気さがない。時折、俺の方を見ては目から上だけ出してぶくぶくと泡を立てている。

 

 

 

「なんかあったんすか」

 

 

 

「さぁ?でも、八幡が来てからかな。あっちに行ったのは」

 

 

なにかしたの?と聞かれて俺は特に何もと答えればゆんさんからの視線が強くなる。

 

 

「やっぱりなにかしたんじゃない?」

 

 

「心当たりがあると言えばないような...」

 

 

具体的には水着を褒めたことだろうか。ゆんさんには水着どうとか聞かれてなかったし。それが嫌だったのだろうか。小町のやつめ、何が女の子は褒められたら喜ぶだよ。むしろ、怒ってるじゃねぇか。

 

 

「やっぱり女子って褒められたら嬉しいんですか」

 

 

「うーん、どうだろ」

 

 

伸ばしていた手足を丸めて真面目に考えるとはじめさんはぽんと手を打った。

 

 

「好きな人に褒められると嬉しいんじゃない?」

 

 

それはそうだ。好きな人に褒めてもらったり励ましてもらえれば嬉しいものだ。

 

 

「てか、はじめさんってそういう水着着るんですね。てっきり、競泳水着とかだと思ってました」

 

 

「私も最初はそのつもりだったけどこっちの方がいいって言われたからさ」

 

 

その視線の先には未だにこちらを見ては泡を立てるゆんさんがいた。何してんだろあの人。関西人ってしょげたらみんなあんな感じなのだろうか。

 

 

「でも、周りの視線がね…気になるかな…」

 

 

頬を掻き苦笑いしながらはじめさんは目線を落とす。確かに大きく、男からしたら万乳引力の法則によって目は自然と引き寄せられてしまう。それは決して悪くない不可抗力なのだが、やはり見られる側としてはかなりの不快感やフラストレーションが溜まるに違いない。

 

 

「やっぱり男の子って好きなのかな...?」

 

 

そんな上目遣いで聞かないで下さいよ。うんとイエスとouiしか言えないじゃねぇか。無言は肯定と捉えられる世の中なので「人それぞれじゃないですかね」と答えるとはじめさんは目を瞬かせる。

 

 

「じゃ、八幡は何が好きなの?」

 

 

「え、それは...」

 

 

太ももとか?脇腹のくびれとか?鎖骨とか?脇とか?うなじとか?結局全部好きなんじゃない?そう思いたくなるくらいに色々と出てくるもんだなと感慨深い気持ちに浸って逃げようとしてる。

 

 

「まぁあれっすね!やっぱり女性は愛嬌っすね!」

 

 

そして男は度胸。そんな世の中も悪くは無いさ。そう高らかに言ってみるとはじめさんは目を細めて朗らかに微笑んだ。

 

 

「そっか、じゃあ八幡なら安心だね」

 

 

はじめさんの表情に魅入られ、少し遅れてからどういう意味かを考える。だが、程なくして思考はシャットダウンされる。

 

 

「あーいた!!」

 

 

ずっと俺を探していたのか涼風が指を指して大声をあげる。つかまえちゃう!と走ってくる涼風に走ると危ないぞと心で思いつつも身体は逃げの姿勢を取っていた。

 

 

「あおっち危ないよ!」

 

 

後ろから桜がゆっくりとやってくるが涼風はそんな桜の忠告を聞くこともなく俺めがけて走ってくる。そろそろ逃げないと捕まるなと思って1歩目を踏み出そうとした時、その足は涼風の方へ向いた。

 

 

「あおっち!」

 

 

「「青葉ちゃん!!」」

 

 

足を滑らせて後頭部から転びそうになる涼風へ桜、ゆんさん、はじめさんが名を呼ぶ。涼風は頭を打つことを覚悟したのか目を閉じた。

 

 

「.........え?」

 

 

そして目を開けたのは俺に抱き抱えられてだったのでかなり驚いていた。目を何度もパチパチと瞬きをすると自分の状態が把握出来たのか小さく呟く。

 

 

「お、下ろしてよ...」

 

 

言われるがままにゆっくりと下ろしてやる。にしても、転ばなくてよかった。咄嗟に方向転換して濡れた床を利用して滑り込んでよかった。これでウォータースライダーと流れるプールは体験出来たも同然。違うか?違うな。

 

 

「大丈夫か?足とか」

 

 

「あ、うん、大丈夫だから!ありがとね!」

 

 

そう言うと涼風は顔を抑えてまた走り出す。おいバカと言おうとしたらまたコケそうになったので先程と同じく受け止めるが今度はうつ伏せに倒れ込み、しかも僅かに布に触れてしまった。

 

 

「...ったく、ちょっとは考えろよ」

 

 

もしこれでこけていたら大惨事だぞ。咎めるように言うと涼風は恨めしいものを見るように俺を見上げた。

 

 

「ねぇ、今触ったでしょ...」

 

 

「はい?」

 

 

「今、胸と...その...触ったでしょ!!」

 

 

「触ってねぇよ。当たったんだよ」

 

 

「触った!!」

 

 

「お前がコケるからだろ!」

 

 

「やっぱり触ったんじゃん!!」

 

 

どうしても俺に痴漢の罪をきせようとする涼風に俺は悪くない社会が悪いと言うが、俺が悪いと言われる。そう騒いでいると俺と涼風の間にある人が入ってくる。

 

 

「2人ともその辺に......ね?」

 

 

 

穏やかな表情と宥めるような口調ながらもその辺にしとけという圧がすごい遠山さんに言われ涼風も押し黙る。俺はよかったと胸を撫で下ろしたが涼風の視線は相変わらずだった。

 

 

「いい加減機嫌治せよ...」

 

 

そう言ってはみるが涼風はぷいっと目を背ける。どうすりゃいいんだと近くにいた八神さんに目を向けると「知らないよ」と呆れられてしまった。

 

 

「てか、カップルかよ」

 

 

ついでにからかうように吐き捨てると八神さんは温泉に浸かった。先程の涼風との言い合いでかなり人が集まっており、遠目ではあるが望月と鳴海、さらに逆方向からはうみこさんとひふみさんもやって来ている。

 

 

過去の経験則から言って涼風の機嫌を直すのにはかなり時間がかかる。しかも怒っている理由を言わない分余計にだ。

さて、今日の涼風と俺を振り返ってみよう。まず更衣室から出たら出会う。それでなんか言われかけるけど結局言わない。次に八神さん達と合流。で、その後に水着を褒めろと...なるほどこれかな?適当に言ったからかな。

 

 

「似合ってるぞ」

 

 

「...何が?」

 

 

「水着だよ」

 

 

「......どんな風に?」

 

 

「普通に可愛くて涼風に似合ってるよ。...ただ...」

 

 

「...ただ?」

 

 

「そのズボンみたいなのは無くてもいいんじゃねぇの...」

 

 

「...エッチ」

 

 

履いてるのお前じゃんと言えばまた涼風は怒るのだろう。それでまた遠山さんに咎められて、八神さんに笑われる。それでやって来たうみこさん達ははじめさんに事情を聞いて呆れて見つめてくるのだろうか。

 

 

「そうだな。でも、その方がいいと思うぜ。俺は」

 

 

普通に、当たり前のように涼風に世間話をするかのように告げてみると「そっか」と恥ずかしがることもなく、帰り道に友達と話すように涼風は微笑む。

 

 

 

「じゃ、脱いじゃっおかな」

 

 

「ここではやめとけよ」

 

 

「うん、また今度ね」

 

 

そのまた今度がいつなのかは分からないが、きっとその日は来ると涼風はそう言ってる気がした。その誘いをするのが涼風なのか、俺なのか、あるいは今日のように誰かが発案して多人数で行くのかもしれない。だからその時までその姿は待つとしよう。

昔ならまた今度なんてないと決めつけて期待せずに記憶の海へと忘却していたが、こいつなら少しくらいなら期待してもいいかとそう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




【その日の夜】

八幡のスマホに一通のメールと写真が。
青葉
『八幡の言う通り脱いでみたよ!どうかな?』



八幡『まさか自宅で撮ったのを送ってくるとは思わなかったです』
(保存はせず、メールをロック)








これにて完結ありがとうございました。
活動報告の方を昨日にあげてるので見てない人は見てね。
ダイナモ感覚☆ダイナモ感覚☆YO! YO! YO! YEAH!の方は長いのでサクッと見たい方は今日投稿した方を見てください。


追加事項
各ヒロインルートですが活動再開した時に書き直すため、1度作品削除しようと思います。具体的には特に決めてませんが青葉からちゃんと順番にやっていこうと思います。シチュも八幡と幼馴染だとか既に付き合ってる状態から始めるとか色々してみたいですね。R18?やろうと思えば。


その件でR18でもいいと思うか、否か。まぁ八神さんとイチャラブとかいうの書き始めてるんですけどね。ハッハッハッハー!

ではでは


また逢う日まで


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新たなる季節に、新たなる年。

あけましておめでとうございます...ってまだクリスマスも来てない!
てか、お久しぶりですね。何ヶ月ぶりなんでしょうか。あ、でも最新巻出てからちょうど1ヶ月ですのでそんなに経ってませんね(錯覚)


近況ですがひとまず発表待ちなのであと1週間はダラダラ出来そうです。その間にもFGOのイベントは止まんねぇし、パズドラは仮面ライダーコラボとかやってくれちゃってるので困りますわぁ...。
FGOはここのところ大敗気味で、星4セレクト以外で星4以上が出てません。夏ガチャの反動かな...! パズドラは昭和勢がすぐに揃ったので良かったです。RXの進化が原作通りでうれしみ。



話す相手がいなくて多く語ってしまいました。失礼。
ではここから本編。久しぶりで変わったところや至らぬ点があることをご了承いただいた上でお読みください。




 

一年の計は元旦にありという言葉がある。その一年の善し悪しは初めが肝心という意味である。これは一年の初めに限らず、様々なことにいえる。学校生活も友人関係もファーストコンタクトが大事で、そこを間違えれば待っているのは孤独なスクールライフ。しかし、悲しいかな。年を追う毎にそれでいいからそれがいいと思ってしまったのだ。もちろんソースは俺である。

 

 

学生でしか味わえない青春というのを履き違えて、間違えて回り迷い続けた俺が一年の初めの行いを間違えたとは思わない。神や仏は

都合のいい時にしか信じないが、仮にそれが世界の望んだことなら甘んじて受け入れようとも。そうハルヒの望みに逆らえないSOS団のように、逆らったところで意味が無いのだから。しかし、それでも出来る限りの抵抗はさせてもらうとも。ただ焼かれるのを待ってるだけの魚ではない。こちらとしても刺身にされたり、茹でられたり揚げ物にされたりするのを選ぶ権利はあるのだ。結果は違えど過程くらいは自分に決めさせて欲しい。それが俺の今年の目標である。

 

 

 

 

まぁ、だいたいこういうのは数日経てば忘れてしまうのだが。それでも俺は抗いたい。

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

新年おめでとうございます。

すでに家を出て1人暮らしをしてお年玉を貰えない身分となっている俺には無縁の言葉と思っていたが、社会人となった以上は昨年付き合いのあった人間にはしなければならない。葉月さん、うみこさんには真っ先に送り、ひふみ先輩に当たり障りもなくて今年もよろしくしてくださいという感じのメールを送るのに時間がかかってしまいはじめさんやゆんさんにはかなり後になってしまった。涼風と桜? 別にどうでもいいでしょ。

後輩である鳴海と望月はサクッと今年も頑張ろうぜという簡潔なメールで済ませてベッドから起き上がる。

 

 

 

「まさか国外で正月を迎える日が来るとは...」

 

 

昨夜は突然の遠山さんのドロップキックに瀕死寸前だった俺だが、空気を読んで近くのホテルへと足を運んで一夜を過ごすと窓の外には太陽がピカピカリンと輝いていた。

目に降り注ぐ光が眩しくてカーテンを閉める。八神さんと遠山さんはあの後どうしたのだろう。やはり、2人で楽しく夜を明かしたのだろうか…。いや、考えるのはよそう。そういう正解もありおりはべりいまそかりというやつだ。どういうのだよ。

 

 

兎にも角にも、今日中には日本に帰っておかねばならない。一応、正月くらい両親に顔を出しておかないと忘れられるかもしれないからな。息子の顔なんだから忘れないだろうと思っていても、あの二人だと忘れかねないから仕方ないのだ。別にホームシックになったからではない。小町にもお年玉渡さないといけないからねうん。

起き上がってカレンダーアプリに書き込んだ飛行機の時間を確認していると、スマホの画面が急に切り替わる。どうやら八神さんから電話らしい。良かったソフトなユーザーじゃないのに電波障害が来たのかと思ったぜ。

 

 

 

「もしもし比企谷です」

 

 

 

『あ、八幡あけましておめでと〜』

 

 

 

「おめでとうございます」

 

 

 

『昨日はごめんね、りんが急に押しかけてきちゃって』

 

 

 

「いや気にしてないですよ」

 

 

 

ゆりゆららららゆるゆりするのならお邪魔かと思って消えたのだ。べ、別に気にしてなんかないんだからね!

 

 

 

『八幡今日はどうするの? てか、どこにいんの?』

 

 

 

 

それはどっちから先に答えればいいのだろうか。とりあえず、2時間後には日本に戻ることとメインストリート近くのホテルにいることを告げると八神さんは「じゃあ」と口火をきる。

 

 

 

『りんと2人でノートルダムで初詣しようと思うんだけど来る?』

 

 

 

 

うむ、お誘いは嬉しいけど電話の後ろから聞こえる『ねぇ誰?』の声が怖いんで切っていいですかね。ダメですかそうですか。

 

 

 

「あー気持ちは嬉しいんですけど、俺、カトリーヌさんのところに置いてる荷物取りに行かないといけないんで」

 

 

 

『あーそっか......じゃあこっちから日本に送っとくからノートルダムに来てね!じゃ!』

 

 

 

「え、は、ちょ......」

 

 

 

切ってるよあの人。勝手すぎない? しかもノートルダムってなんだよ。聞いたことねぇぞ。ちょっと調べてみたが…うん、日本の神も仏も関係ないな!

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

ノートルダムの鐘へと御参りを終えて直ぐに成田行きの飛行機に駆け込んだ。名前も初めて聞いて、初めて見たそれは語彙力が消失するくらいに凄いと思ったが、日本の寺や神社の方が俺は好きだと思いました。やはり木造建築に良さを感じる。床がギシギシいったり台所からカメムシみたいな匂いのするそんな......って、寺なのになんで台所があんだよ。

 

 

 

 

とまぁ、俺が寝ている間に到着した成田空港を出て電車で自宅へと向かう。途中で返ってきていたあけおめメールを読了し、涼風や桜からきたヤツは「はいはいおめおめ」と返して終わり! 親しき仲にも礼儀ありと言うが、あの二人は仲良いけど俺は別だから。たまたま同じ会社で同期だったから話す関係。それを父親はただの同僚と呼ぶ。

やめとけやめとけあいつは付き合いが悪いんだとか言われても気にしないし、まずそんなに誘われないし!仕事できないし!そつなくはこなしてるつもりではあるけど!

まぁ俺なんかが言っても空気悪くするだけだから行かない方がいいよね!

 

 

 

外国の神にエキセントリックお参りからの帰国と帰宅。就寝して翌日の1月2日。世間は三賀日で神社や寺周りは人混みが多いのは容易く、ららぽとかも年始セールで盛り上がってるだろうし、ゲーム販売店やヲタクの集まる場所ではお年玉を貰った学生諸君で溢れ返っているに違いない。そんな外にこんな無気力なお兄さんが行ってもお互い疲れてウィンウィンじゃないので今日は実家へと帰省である。

 

 

 

「あ、八幡。あけましておめでとさん」

 

 

 

「おめでとー!」

 

 

 

その途中でゆん、はじめ夫婦とその子供たちと出会った。あ、うん語弊がありましたね。ゆんさんとその弟妹とはじめさんだね。まだ、夫婦じゃないね!

にしても、うちの会社そういうカップル多いな...。八神さんに遠山さん。望月に鳴海。涼風と桜。葉月さんは大和さんだし。あと余ってるのはひふみ先輩とうみこさんか。どちらか貰ってしまっても構わないだろうか。ダメですね。

 

 

「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 

 

 

メールでも言ったが相手に面と向かって言われたら返すのが礼儀だよね。俺を怪人呼ばわりしてきた子供たちもぺこりと「あけましておめでとう!」と元気よく言う。この悪意にも邪悪にも染まってない純粋な目がいつ汚れるのだろうかと思っているとゆんさんに尋ねられる。

 

 

 

「八幡はこれからどこか行くん?」

 

 

 

「俺は実家っすね」

 

 

 

行かないと忘れられそうなんでというジョークも付け加えると新年から相変わらずと失笑を得た。満更ジョークでもないので早く行って顔を見せておきたい。まだ50にもなってないのに母と父が認知症で大恋愛するのとか見たくないし。

 

 

「ねーねー!はじめおねーちゃんね!昨日誕生日だったの!」

 

 

 

「2人でインセクトファイブとムーンレンジャープレゼントしたの!」

 

 

 

幼稚園児から20歳を超えてる社会人が戦隊モノと魔法少女のグッズを正月に貰うというのも中々の絵面だな。しかし、しっかりと代償を取られたのかはじめさんは苦笑していた。

 

 

 

「おにいちゃんの誕生日はいつなん?」

 

 

 

「8月8日じゃねぇの多分」

 

 

 

「なんで自分の誕生日やのにそない適当なん」

 

 

夏休み中だから家族にしか祝われないし、なんなら妹にしか祝われなくて8月になるまで自分も忘れるからですかね。その気持ちははじめさんも分かったのかウンウンと頷く。

 

 

 

「わかるわかるなー!1月1日に生まれたからってはじめって名前つけるし」

 

 

 

「あー俺も8月生まれだからって八幡ですからね」

 

 

 

「2人の両親のセンスすごいな...」

 

 

 

はじめさんとは趣味や名前の由来とか似てるものが多いなと赤い運命の糸を感じそうになっていたが、あることに気付く。

 

 

 

「てか、2人とも昨日も会ったんですか」

 

 

 

「うん、昨日は御参りで今日は映画見に行くの」

 

 

 

なるほど今流行りの時の王様の映画だろうか。まさか本人が出てくれるとは感慨深いものである。俺も時間があれば見に行くとしよう。出来れば全部あいつ1人でいいんじゃないかなっていう太陽の子を見たいが今回はさすがにないと首を振る。

 

 

 

「じゃまた会社で」

 

 

 

「ほなね〜」

 

 

 

映画の時間が迫ってきたのか、少し急ぐ一行様を見送って俺も再び足を動かす。また会社でか、嫌な言葉だ。けど、職場以外で会っても嫌な気持ちにならないのはあの人達の人の良さがあるからなのだろう。親父から聞いていた話とは大違いである。

 

 

 

さてと、じゃあその俺に英才教育を施した父親の顔でも拝みに行くとするか。




結構書いたつもりがそんなにでしたね。
8巻を見るにうみこさんは沖縄、紅葉とツバメは北海道と実家に。葉月さんはハワイにいるみたいなので絡みはないですね。
次回は青葉とねね、ほたるとひふみ先輩との絡み。
ひふみ先輩が「...」多すぎて少し困り者ですが可愛いので良しとします。では、また次回。


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どんな運勢でも、比企谷八幡はついている。

青葉と桜を出すつもりがひふみ先輩オンリーになってしまった。おのれディケイドォォォォ!!!


「お前誰に話してんだ」



おのれディケイドォォォォ!!!



「くどい」(ファイナルフォームライド、ディディディケイド!)



キボウノハナー。







 

 

 

電車は混み合うだろうと自転車をチョイスしたのが吉と出て、思ったよりは早く自宅へと参ることが出来た。ここに来るまでに着物姿の子供や大人の主に女性を見かけたが、1月2日でもこのはしゃぎ様だ。やはり日本人はお祭り大好きフリスキーなのだろう。そういう俺も小町にお年玉を渡したくてうずうずしてる。それはついででホントは小町に会いたいだけ。あ、これ八幡的にポイント高いっ!

 

 

 

しかし、突然押しかけて家に誰もいませんよってオチはないだろうか。一応小町には三賀日のどこかには帰ると伝えておいたのだが、詳しい日までは言ってない。だが、いつものケースだと親父達は家でダラダラ。小町はお友達と初詣だろうが、昨日に行ってるだろうし家にはいるはず。それに中学の時と違って今は既に受かっている。いいなぁ羨ましなぁと思ったけど、俺もこの時期までには入社決まってたわ。

 

 

 

 

「たでーま」

 

 

 

ということは、全員いるんだろうと家の鍵を開けて中に入る。ここに来るのはクリスマス辺りに帰った時以来だが、この挨拶は間違っていないと俺は信じてる。家を出ても実家は帰る場所だし何よりも温かいものなのだ。

 

 

 

「かあちゃん、小町ー…...いないのか」

 

 

 

地味に親父をハブっているのはお約束である。いても寝てるだろうし。リビングまで行くとカマクラがダラりとコタツの中に顔だけ入れて寝ていた。こらこらそんな格好で寝てたら風邪ひくわよと遠山さんみたく腰に手を当てて怒ってみるが返事はない。仕方ないので引きずり出して顔を出して身体を入れてやる。これでよし。

 

 

 

「にしてもカマクラしかいないとは...」

 

 

 

時計を見れば針は12時を指している。まさかあのぐうたら家族は外食にでも行っているのだろうか。ありえないと思いつつも、小町が提案したならあの二人は嬉嬉として着いていく。俺を置いて旅行に行くような家族だ。やりかねん。まぁそれは俺が1度断わったからなのだが。

いないのであれば書き置きだけして立ち去るとしよう。お年玉はまた今度渡してやればいいさ。

 

 

 

昼飯をもらってなさそうだったカマクラに餌を与えて家を出る。この前は雪ノ下達が来ていてあまり構ってやれなかったから少しだけ戯れようと思ったが拒否されてしまった。餌をやればちょっとは感謝の意を表すかと思いきや相変わらず不遜な態度だった。

 

 

 

さて、これからどうしようか。初詣は国外で済ませてきたが、日本の仏様にもちゃんと挨拶はしておいた方がいいのだろうか。

となるとここから近いのは俺がいつも行ってるとこか、少し足を伸ばして浅間神社辺りだろうか。けど、休みが5日まであるんだし厳島神社に行ってもいいかもしれない。が、そこまでして願う頼みも、必要性も感じない。

結局帰宅という選択肢に行き着いて俺は自転車のペダルを漕ぎ出した。

 

 

 

 

###

 

 

 

 

千葉から離れて都内に入り、最近になってようやく親しみを感じるようになった街並みを通って自宅へと向かう。公園で凧揚げする子供がいたり、隅っこのベンチでゲームを楽しんでる子供がいたりと時代の流れを感じる風景だ。俺が子供の頃は皆親戚の家とかに行ってて我が家みたいに親戚への挨拶を年賀状と電話で済ませる家族は稀だったのかもしれない。

おかげであの辺で街をウロウロしてる子供は俺だけだった。それはそれで街の支配者になった気分だったのだが、寒いので自宅が1番となった覚えがある。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

そんな過去の思い出に浸っているとオロオロしてる着物美人を見かけた。持っている縦に長い紙、おそらく御籤を何度も見てはため息をついていた。

新年早々に着飾って神社に行ったのに『凶』でも引いて落ち込んでいるのかもしれない。例えば悪い男に引っかかるだの、落し物は見つからないだの、商売は上手くいかないだの。この辺はまだマシだが、たまに調べないと意味がわからない単語が飛び出してくることがある。まぁ御籤はかもしれないね、くらいの気持ちで取っとくのが1番いいと思う。たまたま選んだ紙切れでその1年の運勢が決まるなんてことは無い。

 

 

 

 

「はぁ.........」

 

 

 

 

だからそんなに気を落とさなくてもいいと思うんですよ俺は。後ろ姿だけでも分かってしまう落胆具合。これで涙でも流していたら、エリスに声をかける豊太郎のようなことをしていただろう。高い時計なんてないけど。今の所持品で1番高いのが乗ってる自転車なので手放す訳にはいかない。ごめんね見知らぬお姉さん。心で詫びて通り過ぎようとすると、そのお姉さんが俺を見て何か呟いた。

 

 

 

「は、ち......まん...?」

 

 

 

その声を俺は知っていた。見目麗しい顔立ちにナチュラルメイクにより際立った美しい目尻、長い髪を黄色の大きなリボンで纏めてポニーテールにしているその御仁の姿も俺は知っている。

 

 

 

「ひふみ先輩...」

 

 

 

傍から見れば『これは運命だ』そう言ってしまいたくなるシチュエーションだが、俺と彼女は前世で恋人同士だったわけでもなければ、赤い運命の糸で繋がれているわけでもない。

しかし、妙だ。こんなひふみ先輩の自宅はここから離れているし、逆方向だ。ここで一般的な男性なら『も、もしかしてわ、我のことを!?』とか言いそうだ。いや、材木座は一般男性じゃねぇな。

ともかく、俺は変な勘違いを起こさない。けど、御籤見ながらあわあわしていた理由は気になる。お互いにあけましておめでとうの挨拶を交わして俺はそれよりと前置きしてから尋ねた。

 

 

 

「どうしたんですこんな所で」

 

 

 

「あ、うん......実はね...」

 

 

 

聴けばひふみ先輩の親戚がこの近くに住んでおり新年の挨拶に参ったそうなのだが、昨日ひふみ先輩の着物姿が全国ネットに晒されてそれを偶然見た親戚に着物で家に来て欲しいと頼まれたのだそうだ。

 

 

 

「それで今は帰り......なんだけど」

 

 

 

「......なんかあったんですか」

 

 

 

「うん......これ」

 

 

 

 

見せられたのは『末吉』と書かれた御籤。渡して見せてもらうと大したことは書いてない。特筆すべきも写真映りに気をつけてくらいだ。コスプレイヤーのひふみ先輩にはこれがショックだったのだろうか。ひふみ先輩に返すと今度は足元に目を落とす。

 

 

 

「あー......」

 

 

 

「末吉じゃなくて、凶かもしれない...」

 

 

 

見れば草履の紐が切れていた。新年から不吉である。それで動けずにため息を吐いていたのか。なるほどと理解した俺だが、眉を顰める。一体俺にどうしろと。

 

 

 

「親戚の家に戻って靴貸して貰おうと思って、戻ろうと思ったんだけど...」

 

 

 

また見れば草履の切れた足が靴擦れしたのか、右足の靴下がほんのりと朱に染まっている。やだ不吉怖い。誰が一体ひふみ先輩にこんなことを。

にしても、こっから親戚の家に戻るのか。どれくらいの距離か聞くと遠くはないがこの足では難しいと首をふるふると振る。可愛い。

 

 

 

 

「だったらウチ来ます?近くなんで」

 

 

 

もう10メートルもしない距離だし、絆創膏もあるので怪我の治療もできる。草履の紐は直せるか分からんが最悪、俺のサンダルくらいなら貸してあげれるだろう。

 

 

 

「え、えと......は、八幡の、お家...?」

 

 

 

「え、えぇ。ほらあそこなんすけど」

 

 

 

母ちゃんが1歳から貯めてくれてたお年玉を頭金に借りた賃貸なのだが、エレベーターもあるし管理人もいる。それに俺のフロアの住人は会社員ばかりなので近所付き合いもしなくていい。それに仕事場に遠くもなく近くもない。なんだこれ最高の物件じゃねぇか。

とは俺が思ってるだけで、足を踏み入れる側はそうでは無いかもしれない。それに一人暮らしの男の家に入るなど、ひふみ先輩も嫌だろう。ここで『嫌なら大丈夫ですよ』と言うとひふみ先輩は罪悪感で『じゃあ行きます』と来てしまう。ここは断りやすく、かつ来てもいいよって感じをアピる言葉を...。

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

「.........」

 

 

 

 

ダメだ思いつかん。友達とか恋人を家に招待したことないからこういう時どう言えばいいかわからん。氣志團みたいに『俺んちこないか』とカッコよくワンナイトカーニバルする感じに誘うのがよかったか。いや俺のキャラじゃねぇな。どう言うべきかと悩んでいると、ひふみ先輩が大きく息を吸う。

 

 

 

 

「うん......わかった。いく」

 

 

 

草履を手に持ち俺の自転車の後ろに立つ。ぽかんとそれを見てると「の、乗らないの?」と紅い顔で首を傾げられる。

 

 

 

「乗ります」

 

 

 

即答である。そうだよね、足怪我してるから歩かせるわけにもいかないよね。これだから八幡はダメだよね。でも経った10メートルの距離を二人乗りする意味はあるのか。否、意味など必要ない。後ろから香るお香をたいたようないい匂いに、女の子らしい細い手が俺の腰に回される。さらに後ろから加わる柔らかい感触。

冬の寒い日だというのに身体は熱く、顔から熱が出ていくのが容易に分かる。それはひふみ先輩も同じかもしれない。けど、後ろは振り向けない。いつもはすぐに終わる10メートルという距離が、とても長くそして幸せに感じられた。

 

 

 

 

駐輪場に自転車を止めてエレベーターで俺のフロアに上がる。降りて俺の部屋まで行く際にひふみ先輩は怪我してない方の足だけで跳ぶ。その際におそらく着物に締め付けられたアレが揺れてるのかは定かではないが、先頭を歩いてて見れないのが残念である。

 

 

 

「お、お邪魔します......」

 

 

 

「はいどうぞ」

 

 

 

消毒と応急処置、靴の履き替えだけでいいから玄関まででいいとひふみ先輩は立ち止まり座る。俺は消毒液とティッシュ、絆創膏を手に戻る。

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

 

「いえいえ。じゃ脱いでもらっていいですか」

 

 

 

「...え!?」

 

 

 

「え」

 

 

 

何をそんなに驚くことがあるのだろうか。消毒するのに靴下履いてると出来ないし、絆創膏も貼れないから脱いで欲しいのだが。早くしないとウィルスが入って細胞さん達が働く前に大変なことになっちゃうよ!

 

 

 

「え、えと脱ぐってここで...?」

 

 

 

「ひふみ先輩がここでいいって...」

 

 

 

「そ、そうだけど......」

 

 

 

「靴下だけ脱ぐのにそんなに恥ずかしがることないと思いますよ」

 

 

 

「.........あ、うん...そ、そうだよね......」

 

 

 

納得すると若干涙目で靴下を脱ぎ始めるひふみ先輩。そんなに玄関で靴下を脱ぎたくなかったのだろうか。よくわからない人だが可愛いからいいや。

 

 

 

「じゃ消毒しますね」

 

 

 

「...うん」

 

 

 

消毒液でティッシュを濡らして靴擦れで出来た傷口に当てる。その際にひふみ先輩が「んッ!」とか「ひゃっ、痛い...」とかちょっとゲフンゲフンな声を出したが気にしない。あとは絆創膏貼って、草履は素人には直すの難しいからサンダルを貸すことにした。

 

 

 

「あ、ありがとね...」

 

 

 

「会社で助けて貰ってるんでこれくらいは全然」

 

 

 

「そっか......」

 

 

 

そうこれくらい大したことは無い。誰にでもできることだ。けど、やらない人が多い。傷ついている人や助けを必要としてる人を、見て見ないふりをするのは人間誰しもそうだろう。ましてや赤の他人なら尚更だろう。

ひふみ先輩に可愛くても、どういう理由で泣いてるかわからない以上、助けても得があるかわからない。

それに助けられる方も下心ありきで助けられても嬉しくはないだろう。やっぱりこういうのは人助けを生業としてる公務員関係の人に任せるのが1番ですね。

それでも俺が知ってる人なら、世話になったことがある人なら、助けるのは当然なのだ。

 

 

 

「じゃ下まで送ります。歩けそうですか?」

 

 

 

「うん、大丈夫、ありがと」

 

 

 

そう言って笑顔を見せるひふみ先輩。サンダルのサイズが大きいから傷口に当たることもないし、左足も履いてもらったので靴擦れはもう大丈夫だろう。

草履は持って帰って直すからと袋に入れて渡しておく。直せるのかすげえなと感嘆して、家を出てまたエレベーターに乗る。

 

 

 

「そういえば八幡って今年成人式だよね」

 

 

 

「え? あぁそういえば…」

 

 

 

「忘れてたんだ...」

 

 

 

記憶の片隅にも残らないくらいには興味のないイベントだった。てか、絶対に行かなきゃならねぇのかなぁ。アレって袴じゃないとダメなのか? スーツなら入社式用に買ったのがあるが、袴は実家にもなかったと思うんだが。

 

 

 

「まぁ行けたら行くってことで...」

 

 

 

 

「それ行かない人のセリフじゃ...」

 

 

 

そんな話をしてる間にエレベーターが1階へとつき、レディーファーストでひふみ先輩を先に降ろして後ろから続く。エントランスを出てひふみ先輩が口を開く。

 

 

 

「その、本当にありがとね。......八幡がいてくれて助かった」

 

 

 

 

「いやまぁ」

 

 

 

「本当にありがとね。じゃ」

 

 

 

気にしなくていいと言おうとしたら可愛らしい笑顔とバイバイと手を振る姿に思考も視線も奪われてしまった。俺が小さく手を振り返すと、ひふみ先輩は前向いて帰路を辿る。その後ろ姿が見えなくなるのを待って、自宅へと戻る。新年早々ひふみ先輩に会えたのはラッキーだったなとベッドにダイブして時計を見る。そして、時間を見て俺はあることに気づいた。

 

 

 

 

昼飯を食えていないと。

 

 

 

 

......けど、まぁそんなことはどうだっていいことかもしれない。一食抜いたくらいで人は死なないし、現に朝飯を何度か食わずともやっていけた。朝と昼の違いはあれど食べていなくても生きてはいけるのだ。それに夜食えばいいし、と俺は瞼を閉じた。やっぱり正月はダラダラと1人で過ごすのが一番だと思って深い眠りの底へと入って行った。

 

 

 

 

 





やっぱり二次創作でも小説書くのって難しいですね。ワイの表現力のなさを痛感したよ...!
次回は同年代組による成人式のための着付けの時間です。
専門外のことは描写に困るんば。


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涼風青葉は退屈を壊しに来る。

今回はネタ少なめです。


 

 

年が明けてからのキャラクターデザイナーの朝は早い。寝惚けて朧気な状態でソシャゲのログインを済ませていき、数分の二度寝をして目を覚ます。目を覚ますために洗面所に向かい顔を洗い、瞬きを繰り返せばいつもの自分だ。

顔を拭いて次に台所へと向かう。一人暮らしでも炊事はする方なのでシンクや水道周りに水垢や酷い時はカビが発生するが、大晦日前に妹が掃除に来てくれたことでそれらもキレイさっぱり消えている。

あっという間にお湯が沸く機械に水を入れて適当に取り出したカップにスープの素をぶち込むとリビングに戻ってテレビをつける。

 

 

 

1月4日と三賀日を終えて仕事始めの社会人は多いだろうが、ニュースキャスターやらは1日から仕事をしているので本当にご苦労さまだとおもう。まぁ、この時期にニュースをしてるのは取り立て屋放送局くらいだろうが。映らないテレビ買おうかしら、紅白とか観ないし。

 

 

お湯が沸いてカップに注ぎぐりぐりとかき混ぜる。こうして頭と身体を動かしてると、目を醒ませ僕らの世界が呼び起こされてるぞって感じがする。どんな感じだよ。

新年始まってからはじめさんとゆんさん、ひふみ先輩と会った以外は目立ったイベントはなく退屈してるのかもしれない。あと1週間もすれば成人式だと言うのにこの体たらく。そろそろコマッチマンに助けに来てもらわないと。いや女だからウーマンか?どうでもいいや。

 

 

 

「あちち…」

 

 

 

そんなくだらない思考をしながらスープを口に入れると、まだ冷めていなかったのか舌が噛み付かれたようにいたい。これだから猫舌は困るんだと自分のことながら憤慨してしまう。

今度は大丈夫としっかり冷ましてから口をつける。うん美味しい!インスタント食品ながら非常に美味だ。まぁコンソメスープとかインスタントと小中での給食以外で食べたことないが。

 

 

朝食を食べ終えて食器を片しているとベッドの上のスマホが音楽を流し始めた。俺のスマホは唐突に音楽を流す機能もなければ、OKスマホ音楽流してと言っても富澤たけしのように「ちょっと何言ってるか分からない」と返してくるスマホだ。こいつが音楽を流すのは手動かもしくは誰かからの電話でしかない。

 

 

 

「で、どこのどいつだ」

 

 

 

社会人になっても電話のかかってこない俺は着信音を人によって分けるという行為をしない。分けてたら分けたで誰かを確認するまでもなくなって便利なのだが、誰かわかると出ないこともあるのでそれはそれで失礼な気がするので分けずにしている。なお、戸塚と材木座は例外だ。戸塚からの電話は嬉しいので勝利確定のUNICORNの長調バージョンにして、材木座からの電話は心底めんどくさいのでUNICORNの短調バージョンにしてる。

で、今回の電話はどちらでもなくてピタゴラスイッチの曲だ。

 

 

 

「もしもし比企谷です」

 

 

 

 

『あ、もしもし八幡、あけましておめでとー!』

 

 

 

元気よく幼さの残る声。スマホを耳から離して名前を見ると表示されていたのは同期の同僚だった。コールがかかってから結構時間が経ってたから早めに出ようと名前を確認しなかったのがいけなかったな。後で一人一人に着信音をつけようと誓ってまたスマホを耳に当てる。

 

 

 

「はいはいあけおめ。じゃ」

 

 

 

『じゃ、じゃないよ!なんでもう切ろうとするの!』

 

 

 

朝の9時から人と会話するの疲れるし…。用があるなら手短にメールして欲しい。そう伝えると涼風は呆れた様子で口を開いた。

 

 

 

『八幡、メールしてもちゃんと読まないじゃん』

 

 

 

失礼な、ちゃんと読んでるぞ。偶にだけど。

読者家の俺は横読みではなく斜めに読んでサーっと目を通して、これは別に重要じゃないやつだなと判断したらスマホを閉じる男だ。つまり、涼風のメールはほとんど重要では無いということになる。

 

 

 

「で、どうした」

 

 

 

『あ、そうそう!』

 

 

 

俺が尋ねると涼風は電話の理由を思い出したのかはしゃいだように声を上げる。

 

 

 

『来週、私たち成人式だからさ着物の着付けしようと思って。どう?』

 

 

 

「どうって…」

 

 

 

今日は特にすることもないから構わないが、色々と問題がある。どうして涼風と着付けをしないといけないかだ。するなら実家に帰って小町か母ちゃんにしてもらうしな。

 

 

 

『ねねっちとももちゃんとツバメちゃんも来るんだ!』

 

 

 

なんだその女ばかりの着付け大会みたいなメンツは。てか、俺以外全員女じゃねぇか。あ、それはいつもの事か。

 

 

 

「そんな女子ばっかりの所に俺が行くと思うか」

 

 

 

『え? いつも通りじゃない?』

 

 

 

はいそうですよ。思わず瞬で肯定しちまったじゃねぇか。けど、ここで引き下がる訳にはいかない。成人式の着付けだろ? てことは戸塚とか材木座、あと葉山とかも成人式はあるんだ。アイツらに連絡して一緒にすればいい。その方が俺の心的ストレスとか、起こりうる可能性のあるトラブルも避けられる。

 

 

 

「いや、俺他の男友達のとこでやるから」

 

 

 

『友達いないのに?』

 

 

 

辛辣ゥ!どうしたのこの子、新年から俺への当たりキツくない? あ、それもいつも通りか。それに友達いない発言はいつも俺がしてるから自業自得ですね。エア友達のトモくんがいるという設定にしとけばよかった。

 

 

「いやでもあのけどあのあれがアレであれだから」

 

 

 

こうなったら適当に意味のわからない支離滅裂な発言をして乗り切る戦法に切り替えて呆れさせるか怒らせるかして『もういいよ』と電話を切らせる作戦に移行したのだが、それも涼風の一言で一蹴される。

 

 

 

『小町ちゃんにはこっちで引き受けるって言っちゃったんだけど』

 

 

 

「はい?」

 

 

 

何勝手なことしてくれてるんですかね。流石の俺でも堪忍袋の緒が切れて、涼風の家でスプレー缶100本に穴あけて大爆発を起こす自信あるぞ。

 

 

 

「…お前のとこに紳士物の服あるのかよ」

 

 

 

『ほたるんの家だからあるよ』

 

 

 

お前の家じゃないんかい。てっきりそうだと思ってたわ。さて、そろそろ断るための口実が無くなってきたぞ。どうしたものかと頭を悩ませていると、遠慮がちなか細い声が届く。

 

 

 

『…えっと、そんなに私達と着付けするの、嫌…かな?』

 

 

 

「いや、そういうわけじゃ」

 

 

 

これが電話でよかったと思った。もし目の前で口調のような落ち込んだような顔をされていれば押し黙っていただろう。

 

 

 

『じゃ…来る?』

 

 

 

仮にも相手は乙女で全員同い年だ。年頃だし、そろそろ変なことも考えるだろうが、涼風を筆頭に子供っぽい奴らの集まりだし大丈夫な気がする。それに相手が俺だ。そう思うと間違いなんて起こるわけがないという自信が湧いてくる。

 

 

 

「分かった」

 

 

 

俺がそう言うと先程ほどの声はどこへ行ったのかめちゃくちゃ嬉しそうに『やった!』という声が聞こえるが、まぁきっと俺が来てくれて嬉しいからなんだろう。決して罠にハマった俺を嘲笑ってるわけではあるまい。きっと多分。

 

 

 

「で、どこへ行けばいい?」

 

 

 

『ごめん。ももちゃんから電話きたから、メールで送るからそれ見て』

 

 

 

突然電話してきて急に切りやがった。まぁメールの方が文字だし、地図とかも送れるし場所や時間の確認には適してるよな。電話を切って涼風からのメールはいつ来るのかとアプリを開くと既に1件メールが来ていた。相手は涼風ではなく小町で、開いて見れば今日も家に誰もいないから帰ってきても意味ないということと着付けは青葉さん達とやってねという旨が書かれていた。送ってきたのが涼風から電話が来る数分前なのを見るに、涼風が小町に手を回してからすぐなんだろう。

 

 

 

「やれやれ」

 

 

 

面倒だと思いながらも、どうせ着付けは昼からだろうとメールを待ちながら昼飯の用意を始めた。

電話のおかげでしっかりと覚醒した脳で昼食のメニューを考えてる合間にピロリンとスマホが鳴る。そして場所や時間を確認してから、それに間に合うように俺は冷凍庫の扉を開いて本格炒めチャーハンを温めるのであった。




新年明ける前に1話書いとこうと思って書きました。原作にはない部分ですね。青葉が八幡を誘おうにも女の子だらけだし来てくれなさそうと小町に手を回してから電話したら当日になっちゃったという乙女心があります。


さてこちとら推薦落ちて2月まで戦う羽目になりました。ので、新年1話だけ更新したら2月まで何も無いと思われますのでご了承ください。
言い訳じゃないけど文句言っていいなら、2000年生まれただでさえ多いのに募集定員減らしてんじゃねぇーよ!って感じです。



ではでは、もんじゃー!!


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桜ねねはいつだってトラブルメーカーである。

お久しぶり。
マジで久しぶりで「なんて呼ばせてたっけ…?」ってなったりしてかなり時間かかりました。


 

成人式。それは日本において20歳を迎えた男性女性が大人になったことを祝う式典として俺は認知している。20歳になると酒が飲めてタバコが吸えるくらいの浅い認識ではあるが、以前までなら選挙権もあったが随分と前に18歳から可能になったため、20歳になってできることというのはかなり減ったように思う。

 

 

 

なんなら、近々成人までも18歳に下げようという試みもあるらしく、これから日本はどうなるのかと不安でたまらない。

 

 

 

しかし、俺が不安に思ったところでこの世の中は全く変わらない。20歳じゃなくてもタバコを吸うやつや酒を飲むやつは探さなくてもSNSにはいるし、それを公表して「自分はもう大人」「お前らとは違うんだよ」アピールに勤しんでいる。あれ傍から見たら単なるバカだし、私は法律を無視しました宣言にもなってるからやめようね。

 

 

 

それに、20歳になって大人になったと認められても人は変わらない。子供の頃からルールを守ってきたやつは大人になっても石頭だと思うし、クズなやつはずっとクズだと思う。大人になったからって得られるのは社会的地位、いつ崩れさるかわからない硝子のようなシロモノだ。子供の頃なら電車で少し女性に触れても仕方ないだとか気にもとめないが、大人になれば触れなくても不快な視線を浴びせられたと痴漢者扱いされるのだ。見たくなくても視界に入るものは仕方ないと思うし、不快だと感じるのは相手の被害妄想に過ぎない。それでも痴漢のレッテルを貼られれば男性は負けるか逃げるかしかないので、どうしようもない。

 

 

 

 

 

やはりどう考えてもこの世は腐っている。俺の目以上に。

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

涼風からのメールに乗ってる地図に従い道を進む。電車に揺られてる間、成人について考えてみたが良いことも悪いことも特になく、世間的に大人と認められるという形に落ち着いたが途中からおかしなことになっていた気がする。それはいつもの事か。

 

 

 

歩いていると駅の近くのオフィス街から石瓦の塀に囲まれた立派なお屋敷が立ち並ぶ景色へと変わる。ここだけ江戸時代なのかとタイムスリップしたことを疑うくらいの和風な建築物。さらにチュンチュンと鳴きながら飛ぶ雀がそれに拍車をかけようとするが、よく考えると江戸時代には電柱はなかったのでここは明治時代なのかもしれない。違うか?うん。違うか。

 

 

 

にしても、星川の家ってこの辺だとしたら由緒正しい家柄のお嬢様だったりするのだろうか。美人だし美術スキルがあってわんぱくというところがお嬢様のテンプレって感じで、あとはこれで傘を持って大乱闘にでも参加すれば完璧だな!その前に悪い王に攫われて配管工事の兄弟に助けてもらう必要があるが。

 

 

 

「うへぇ…」

 

 

星川に家に近づいてそろそろかという所に今まで見た家よりも大層立派な屋敷を見つけておもわず驚きの声が出てしまう。小町が見ればこんなに広いと掃除も大変なんだろうねと漏らしそうなくらいでかい屋敷を見上げて歩いていると、その屋敷の玄関らしきところで俺と同じ屋敷を見る4人の同僚がいた。

 

 

 

「ここっぽいね」

 

 

 

「ご立派なお屋敷〜」

 

 

 

「私も初めて来たけどすごーい…」

 

 

 

どうやらあちらもつい今しがた着いたらしく大きくそびえる屋敷にそれぞれ感想を口にしていた。

いたのは涼風と桜に望月と鳴海で、全員今年度成人したメンバーである。一番端にいた桜は俺に気づくと「あ!」と大きな声を上げる。それに追従して他の4人も目線をむけるがその中で望月と鳴海が驚いたように目を開く。

 

 

 

「え、比企谷さん?」

 

 

 

「なんで先輩が?」

 

 

 

いつものキョトンとした目ではなくガチで「なんでいるんですか」って感じの目を向けられている。そういえばこいつら俺のこと涼風より歳上だと思ってるんだよな。さて、どう説明したものかと考えていると桜が固まる2人に普通に「ハッチーも今年で成人なんだよ」と言うと2人は「えっ!?」とまた驚いたようだが「そうなんだ」と納得するとすぐにいつも通りに戻った鳴海だったが突然顔を紅潮させる。

 

 

 

比企谷さんが20歳…? じゃあ私、同い年の男の子に裸見られたの…?

 

 

 

「どうしたの、なる?」

 

 

 

「ううん……なんでもない…」

 

 

 

心配そうに鳴海の顔を覗き見る望月だが鳴海は何か言った後顔を逸らして顔を振る。それでいつも通りの証明になるのかはさておき、ガラッと扉が開いてこの屋敷の住人である星川が現れる。

 

 

 

「みんないらっしゃい〜! 八幡くんも来てくれんだ〜」

 

 

 

こっちは俺がいることを聞いていたのかあまり驚いだ様子はなくにこやかに手を振っている。星川に促されて中に入ると、それはもう凄い日本の金持ちって感じの屋敷だった。門から玄関までは石畳で、家の中もシックにかつ気品漂わせる木の廊下に鳴海の旅館の和室部屋よりも広くアンティークさを感じさせる内装に的確な家具の配置。この部屋だけでハッピールームアカデミーから8万ポイントくらい貰えるのではないだろうか。

 

 

 

「ほたるんの家ってお金持ちだったんだね〜」

 

 

 

「ううん、ひいおじいちゃんが建てた家をそのまま使ってるだけだから今はそんなことないよ」

 

 

 

昔はお手伝いさんがたくさんいたらしいが今はお掃除の人しかいないらしい。でもいるのか。そう思った時涼風とセリフが被ったのは内緒だ。星川に案内されて着付けするための部屋に向かう途中、ひっそりと星川の隣へと近づく。別に変なことをしようって訳では無い聞きたいことがあるだけだ。

 

 

 

「俺来てよかったのか」

 

 

 

そう、今の状況は5人の女子に1人だけ男と大変居心地が悪い。いや会社の方がもっと酷いからそこはいい。けど、女子の着付けに男の俺が来てよかったのかと今更ながら思ってしまった。

 

 

 

「うんいいよ。ひいおじいちゃんの袴もあるし」

 

 

 

うむ、どうやら俺の意図とは違う解釈をしたらしい。てか、ひいおじいちゃんマジで何者だよ。この辺の地主か何か? 地主じゃなくても袴は持ってるもんだろうけど、5人分の着物に男用の袴まであるとか。あとめちゃくちゃどうでもいいけど男1人に女5人って五等分の花嫁みたいだな。あちらと違って胸囲の格差社会が存在するが。

 

 

 

「ここで着付けしよう」

 

 

 

 

星川が開いた部屋は畳が1枚2枚3枚……沢山敷いてある広い部屋だった。桜が大の字で寝れるくらいには広い。実家にも今住んでるとこにも畳の部屋はないので少しばかり高揚感というものがある。これがDNAに刻まれた日本人の因子というものだろうか。

 

 

 

「そうだ、ほたるん紹介するね。こちら望月紅葉ちゃんと鳴海ツバメちゃん。春から入社でちょうど成人式の会場も一緒で」

 

 

 

寝転ぶ桜を注意した涼風はそのまま望月と鳴海の紹介に入った。鳴海は初めてだったと思うが、望月は2度目……もしくは俺の知らないとこで会ってればもっとか。

 

 

 

「へ? あ、うん。星川ほたるです。よろしく〜」

 

 

 

「せ、成人式は諦めてたので誘ってもらって嬉しいっす」

 

 

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 

 

鳴海は一応気さくな感じだが、どこかぎこちなさを感じるあたり星川と何かしら面識があるのだろうか。星川と望月は言うまでもない。

それを思ったのは涼風も同じだったのか俺にコソッと耳打ちするように話しかけてくる。

 

 

 

「どうしたんだろうあの2人」

 

 

 

 

「…生き別れの姉妹にでも似てたんじゃないのか」

 

 

 

「髪の色が明らかに違うんだけど…」

 

 

 

髪の色が違っても生き別れの姉妹ってのは存在するんだよ。養子に出された家で髪質が変わった子とかもいるんだから。まぁ現実にそういうことがあるかどうかは知らない。

涼風の適当に話しながらマイペースな星川に呆れている望月の姿が目に入る。やっぱりちょくちょくあったりしてるのだろうか。

 

 

 

「そういえばハッチーは会場どこなの?」

 

 

 

「地元だけど行かねぇかな…」

 

 

 

「え、じゃ今日何しに来たの」

 

 

 

「何しに来たんだろうな…」

 

 

 

まさか今日が成人式当日だなんて俺知らなかったもん。曜日感覚狂いまくりだよ。都内だから電車の乗り合わせさえ良ければ間に合うだろうが、借り物の袴で千葉まで行く気は無いな。

 

 

 

「ふーん、じゃこっちの出ようよ!」

 

 

 

「それってアリなのか?」

 

 

 

別に成人式自体出なくても成人としては認められるんだし、わざわざ行かなくてもいい気がする。それに地元だと高校の知り合いはまだしも中学より下の知り合いもいるからな。トラウマが蘇って吐くかもしれないから行きたくない。

別にいいんじゃないと軽く言う桜に呆れていると星川が着物をもって戻ってくる。

 

 

 

「じゃ着付けは私と…」

 

 

 

「はい!母から習ってるので私もできます!」

 

 

 

鳴海の率先して行動しようとするその精神憧れちゃうなぁ…嘘だけど。まぁあの母ちゃんで実家が旅館なら着物の着付けくらい教え込まれていて当然だろう。

 

 

 

「まずはあおっちと紅葉ちゃんから着ようか」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「はい」

 

 

 

返事して用意を始める女性陣を見て俺は襖を開ける。すると、鳴海が「どこ行くんですか?」と尋ねられる。

 

 

 

「いや、着替えるんだったら俺外にいた方がいいでしょ」

 

 

 

言うと、涼風も望月は顔を見合わせてから頷き、星川と鳴海も「だね」と了承する。

 

 

 

「私もなにか手伝うことあるー?」

 

 

 

そこに2人の着付けが終わるまで暇の桜が着付け担当組に聞くと「ねねっちは座ってて」と同調して釘を刺される。

それにむくれた桜は立ち上がると俺の横まで歩いてきて襖に手をかける。

 

 

 

「じゃ、ハッチーと待ってるねー」

 

 

 

 

顔はにこやかな笑顔なのに声はそこまで笑ってない桜はパタンと襖を閉めると、俺にまたにこりと笑顔を向ける。

 

 

 

「じゃ待ってる間にハッチーの着付けやっちゃおうか」

 

 

 

「お前できるの?すっごく不安なんだが」

 

 

 

「大丈夫だよ、スマホで検索すれば大丈夫!」

 

 

 

久しぶりにこんな信用出来ない大丈夫聞いたな。

 

 

 

「いや、お前らが終わるの待ってるわ。それに成人式行かねぇから着る必要ないし…」

 

 

 

ん?だったら俺帰ってもいいのでは? そう思ったが口にするべきではないと思って、ため息でかき消す。

 

 

 

「けどほたるん、ハッチーに袴着せる気満々だったよ」

 

 

 

え?そうなの? と目線でだけで聞くと、コクリと頷いて桜は唐突に襖を開ける。

開けた先にあったのは下着姿の涼風と望月で星川と鳴海が肌襦袢を着せる途中だった。

 

 

 

「ほたるん、ハッチーの着物って━━」

 

 

 

 

「ねねっちー!!!!」

 

 

 

桜が言葉を発してる間に自意識を取り戻して顔を赤らめた涼風は、鬼のような形相で怒鳴るとそれに恐れを為した桜は「ひぃぃぃぃごめんなさいぃぃ!!」と急いで襖を閉める。

 

 

 

「こ、怖かった…」

 

 

 

「着付けが終わった後の方が怖いと思うぞ」

 

 

 

頭を抱えて蹲る桜に追い討ちするように言うと、ぐたりと地面に倒れ込み生きる屍となった。まぁ多分俺もこのあと怒られるんだろうな。理不尽の極みである。




八幡の着付けまでいくとかなり長くなるので一旦カット(なお書けてない)


続きは明日、明後日に書いて投稿したいですね。
誤字脱字あれば報告お願いします(いつもしてくれる人マジでありがとう)




特に報告することは無いですが、NEW GAME!!のR18あんまりねぇなぁ…ってことで書くかもです。そんだけ〜。


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少しずつ人は変わっている。

タイトル思いつかねぇから原作タイトルから引っ張ってこようかな。シンプルでわかりやすいしいいよね。




───────と思った魔術師だった。


 

「じゃーん!」

 

 

 

着物の着付けというのは慣れてると早く終わるらしく、体感時間的に10分も経たずにオシャレに頭も着飾り着物を着た涼風と望月がでてきた。

 

 

 

「わぁー!可愛い〜!」

 

 

 

「でしょでしょ」

 

 

 

2人の姿を見て目を輝かせる桜にその2人のメイクアップをした星川と鳴海は当然だと言わんばかりに胸を張る。

 

 

 

「じゃ、次はねねっちね」

 

 

 

「は〜い!」

 

 

 

鳴海に呼ばれて意気揚々と小スキップ気味で部屋に入ってく桜は鼻歌交じりに自分の着る着物を眺めると「おー!」と感嘆の声を出して鳴海と髪型の相談していた。

着替えに入って晒される桜の姿を見て変態のレッテルを貼られる前に襖をゆっくり閉めようとすると星川に止められる。

 

 

 

「ねねっちは2人がかりでやるから私も入るよ」

 

 

 

「あ、そう」

 

 

 

わざわざ2人がかりでやる意味とは…? 単に桜が予測不可能なことをして手間が増えるからだろうか。まぁその説が濃厚だろうな。俺が部屋の方を見ないで襖を開けると「紳士だね」と星川は笑顔を浮かべて言ってくる。

 

 

 

「別に、普通だろ」

 

 

 

同僚で、しかも異性の着替えを見るとか、プライベートな時間であっても警察に電話されれば俺だけが捕まる事案である。桜はそんな事しないと思うが、絶対なんてことはありえない。だから潰せる可能性は潰しておくに限る。

 

 

「ねねっちが終わったら私とツバメちゃんが着替えて、その次に八幡くんでいいかな?」

 

 

 

「いや、俺は…」

 

 

 

「いいじゃん。やってもらいなよ」

 

 

 

もう成人式に出る気がないので着替える必要性が皆無となっており、わざわざ着付けしてもらうのも申し訳ないしめんどくさいので断ろうとすると、涼風が前に出てくる。

 

 

 

「いやでもな」

 

 

 

「成人式に出なくても写真くらいは撮るでしょ?」

 

 

 

 

言われて少し考える。成人式というのはどう足掻いても人生で1度きりだ。しかし強制ではない。今日と言う日に他の予定があってそちらに時間を割く者や知り合いに会いたくないからと行かないやつもいるだろう。それに成人式を経験しない経験というのも俺の中ではアリだ。

だが、それを許してくれないのが1人いる。

 

 

 

 

「小町ちゃんに写真とか送らないと何か言われるんじゃない?」

 

 

 

そうだその通りだ。おそらく、あいつは今日の夜にでも俺に連絡を取ってきて「どうして成人式に出なかったのゴミいちゃん!!」と怒鳴り声を上げるはずだ。年々、母ちゃんに似てきた小町は怒ると本当に恐ろしい。でも、何が1番恐ろしいかって俺が成人式に出たかどうかを知ってることなんですよね。

多分、情報源は成人式に必ず来るであろう由比ヶ浜あたりだろう。だが、成人式に参加しなくても会社の同僚と着物の着付けをしていた、となれば小町も文句は言わないだろう。

 

 

 

「……それもそうだな」

 

 

 

 

「よし、決まりだね」

 

 

 

 

だいぶげっそりした俺に対して満足そうな涼風は「じゃお願いね」と星川に言うと、言われた方はラジャーと可愛らしく敬礼のポーズを取り、先程から桜の着付けに苦戦しているであろう鳴海を助けるべく部屋の中へと入っていく。

そして、さらに声が大きくなり桜1人に苦労する2人の様子を案じた涼風は苦笑した。

 

 

 

「ねねっちは成人できるのかな……」

 

 

 

「まぁ、世間的にはできるだろ」

 

 

 

精神面では知らない。それに成人してもあの子供らしさが桜のアイデンティティなことは間違いない。永遠にあのまま、というのは問題な気がするが。

 

 

 

「あ、そうだ」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

唐突に何か思い出したかのように声を上げた涼風はくるっとターンして「どう?」と聞いてくる。流石にここで「何が?」と聞き返すほど察しは悪くない。

いつものツインテールは纏められており、お団子が作られそこから短く伸びている。さらに星柄のリボンや紫陽花のブローチで彩って派手な印象を受けるが、相も変わらない幼さを出した顔で可愛らしさが出ている。

着物は桜の花びらが描かれており、新成人にふさわしい衣装だと言える。

 

 

 

「まぁ、似合ってんじゃねぇの」

 

 

 

 

「えーそれだけ?」

 

 

 

夏のプールに行った時に水着べた褒めしたらキレられた覚えがあるからあまり言葉を重ねないようにしたのだが、それも涼風からすると不服だったらしい。

 

 

 

「それだけって他に何言えばいいんだよ」

 

 

 

涼風本体に褒めるとこは童顔でとても20歳目前には見えないってことくらいだぞ。他に褒めるとこ? 繊維とか材質の話でもすればいいの?

涼風自身も特に何か思いつかなかったのか、諦めたようにため息を吐くと縁側で黄昏ている望月を見た。

 

 

 

「ももちゃんはどう?」

 

 

 

「あっちも普通に似合ってるとしか」

 

 

 

座っていて正面から見えないが、確か部屋から出た来た時に、小さなリボン2つを耳にかかる前髪につけてたのと大きなコスモスの花飾りをつけてたと思う。着物は上半身は装飾は大人しめだが、下のほうに行けば行くほど花火のように様々な花で彩られている。これが打ち上げ花火を上から見た構図なのだろうか。

 

 

 

「八幡ってボキャブラリーが貧弱だよね」

 

 

 

「単に褒めなれてないんだよ」

 

 

 

その気になれば横文字使ってめちゃくちゃ褒められているように感じさせることも出来る。けどそれは俺も言葉選びに神経使うし、相手も何が琴線に触れるか分からないからあまりしてない。小町には世界一可愛いよとかでいいから楽なんだよな。実際世界一可愛いけどな!

 

 

 

「他になんかないの? 髪飾り綺麗だねとか」

 

 

 

 

「別に全部可愛かったり綺麗だったら似合ってるでいいんじゃねぇの」

 

 

 

 

髪飾りを指摘するのは本人じゃなくて物を褒めてるから人によっては怒られると思うんだが。それにそう言うなら、「その髪飾り似合ってるな」の方がポイントは高いだろう。ソースはない。

人によって褒めて欲しい部分が違うのだから、どこを褒めるのが正解かわからない。だったら、総じて似合ってるという言葉が1番適切な言葉選びだと言える。

 

 

 

「…そ、じゃいっか」

 

 

 

少し間が空いたが納得した涼風は頷くと望月の隣へと座って「晴れてよかったね」と世間話を始めた。いや、世間話というかガールズトークか。あれが始まるとオトコの娘でもオネェでもない俺に出る幕はない。大人しく待っていようと柱にもたれかかって座ると涼風に声をかけられた。

 

 

 

「八幡もこっち来なよ」

 

 

 

「いい、2人でどうぞ」

 

 

 

部屋の中が静かになったし、多分桜の着付けは終わったのだろう。ということは今は鳴海と星川がお互いに着付けし合ってるということだろうか。なんだ字面を見ると新しい百合の世界みたいだな。と、目を伏せて考えていると左右に人の気配を感じた。目を開けると右に望月、左に涼風が座っていた。

 

 

 

「なんで?」

 

 

 

 

「別にー?」

 

 

 

 

尋ねてもはぐらかして答える涼風に怪訝な顔をするが無視を決めているのか新しい言葉は出ない。反対を見て望月の顔を見ると、成人式のために薄く化粧をして艷めく唇が開く。

 

 

 

「比企谷さんって私と同い年だったんですね」

 

 

 

「…まぁな」

 

 

 

涼風と同期であることは言っていたはずだが、おそらく入社時期が一致しただけの歳上だと思われていたのだろう。ゲーム会社に務める人間の大半は専門学校を出てからなのでそういう勘違いも分からなくもない。

 

 

 

 

「悪かったな。聞かれなかったし今まで黙ってた」

 

 

 

「大丈夫です。それに勘違いした私も悪いですし」

 

 

 

そこから「いや、自己紹介の時に言わなかった俺が」「でも、やっぱり聞かなかった私が」と不毛な責任の負い合いに涼風は「ストップ」と口を挟む。

 

 

 

 

「どっちが悪いとかもういいじゃん。もう終わったことだし」

 

 

 

そう言われてお互いに渋々と言った感じに納得すると、望月が今度は涼風に謝罪した。少し前から星川に絵を教わっていて知り合いであること。それを涼風は笑って一蹴した。

 

 

 

「それでさっき2人でコソコソしてたんだね」

 

 

 

「気づいてましたか」

 

 

 

意外にも涼風が察していたことに驚く望月。涼風はクスクスと笑うと「ほたるん上手いでしょ?」と投げかける。

それに望月は頷き、涼風は空を見た。

 

 

 

「もうやんなっちゃうよねー上手い人いっぱいいて」

 

 

 

「青葉さんもそういうこと言うんですね」

 

 

 

 

「思うよ!私だって負けたくないもん!」

 

 

 

でもその絵が好きになると憎めなくなると苦笑して語る涼風は「ね?」と俺に同意を求めてくる。俺はそれに「まぁな」と頷く。

俺の場合、俺より上手い人なんて探さなくても大勢いる。けど、涼風や望月のように嫉妬や羨望を向けたことは無い。その気持ちを内包することは大事だと思うが、重要なのは"だからどうするか"にあるのだ。

 

 

 

涼風青葉は八神コウのようになりたいという憧れから己の技術を磨いた。それでも八神コウにはフェアリーストーリーズ3のキャラコンペでは苦い味を噛み締めた。そこからさらに成長した涼風はPECOでメインキャラクターデザイナーを勝ち取った。

 

 

 

望月紅葉も同じくして八神コウに憧れるが、涼風青葉という八神コウに認められていて、キャラクターデザイナーとしてのスキルを持った好敵手に出会って、嫉妬と羨望を抱いて星川ほたるに絵を教わっている。

 

 

 

2人とも憧れから始まったその気持ちを大事に持って努力してきたのだ。憧れだけを持って、何もしなかったわけではない。俺はそれが1番重要だと思うのだ。憧れのために近づく精神、俺に欠けてる向上心。それをこの2人は持っている。

 

 

 

そして、今も2人は次のキャラコンペに向けて情熱を燃やしている。その姿を俺は間に挟まれながらも、どこか遠くで見ている気分になった。

 

 

 

「比企谷さんにも負けませんから!」

 

 

 

 

「え? お、おう…」

 

 

 

不意に宣戦布告されて戸惑っていつものコミュ障を発揮する俺の背後から「お待たせ〜」と3つの声が重なる。3人で背後を見ると着付けを終えた星川、鳴海、桜が涼風達と同じく着飾って現れた。

 

 

「わぁ〜奇麗!」

 

 

 

「似合ってる」

 

 

 

それぞれ髪にバラのブローチをした星川に、髪止めをリボンに変えた桜、赤と白のパンジーの髪飾りを付けている鳴海に涼風と望月は歓喜の声を上げる。

そして、3人は俺を見て目で感想を求めてくる。

 

 

 

「あ、うん、似合ってる」

 

 

 

「うわぁ適当」

 

 

 

流石に5人となるとそれぞれに感想言うのもだるくなってくるし、みんな可愛い!奇麗!最高!!みたいなニュアンスで似合ってると言うと桜がジト目で睨んでくる。

 

 

 

「そういうもんじゃないの?」

 

 

 

「さぁ…」

 

 

 

桜とは違って旅館で人を褒めることが多いであろう鳴海は星川の方を見ると、星川は首を傾げる。

 

 

 

「じゃ、次は八幡くんだね」

 

 

 

「時間押してるし早くやっちゃおうか」

 

 

 

気を取り直してやる気満々に腕をまくる星川と鳴海は俺に部屋に入るように促す。時計を見れば成人式まで残り時間は僅かで、移動のことも考えれば少し急いだ方がいいだろう。

 

 

 

「へいよ」

 

 

 

「ん?ハッチーが素直だ…」

 

 

 

時間がないって言ってたから仕方なくな。俺が駄々こねて5人が成人式に遅れるなんてことがあれば申し訳が立たない。部屋に入って、サッと上着を脱いでそこからは手際の2人におまかせで俺は言われた通り藍色の着物を羽織って白の帯を巻かれる。ぎゅっとそれが腰の上あたりで締められて、さらに上から羽織ものをする。

 

 

 

「よし、これでOK!」

 

 

 

「髪はどうします?」

 

 

 

 

満足気に鼻を鳴らした星川は自分の裾を直し、鳴海は鏡を見てる俺に横から尋ねてくる。

髪は不格好だが時間もないし水で軽く濡らして整えようかと思案していると「はいどうぞ」と星川に整髪料のケースを渡される。

 

 

 

「こんなのもあるのか」

 

 

 

「ううん、八幡くんも来るって言うから昨日買っといたの」

 

 

 

マジかすげえな星川。行動力と気遣いの化身かよ。てか、俺が来るって決まったの今日なのにどうして昨日のうちに用意を……まさか俺が呼ばれることは前から決まっていたのだろうか。

 

 

 

「ワックスあるなら私がやりますよ。ささっ、座ってください」

 

 

 

 

「そうか? じゃ頼むわ」

 

 

 

自分でやるとどうにも上手く決まらないのは過去の経験から知っているし、やってくれるならやってもらうとしよう。鏡と向き合って座り、鳴海にワックスの容器を渡すと蓋を開けて手に取って俺の髪を整えていく。そういえば、髪をいじられるのは久しぶりだったなと思い少し居心地が悪くなったので、整えられていく様子を見ながら俺は口を開く。

 

 

 

「鳴海は男の髪を触るのに抵抗とかないのか?」

 

 

 

「へっ?……あー、いや、まぁ父のとかしたことありますし別に大丈夫ですよ」

 

 

 

親父さんの?道理で手馴れてるわけだ。旅館でお客さんが頼んでくることとか、滅多にというかほぼほぼないだろうし、その辺が妥当だろうか。

 

 

 

「それに比企谷さんですし」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

それってどういうことだと聞こうとしたが「できた!」と髪が整え終わってその容姿を自分で見て思わず何度も見てしまう。

馬子にも衣装という言葉があるが、髪型と服でここまで変わるものか。目はいつも通りであるが。

 

 

 

「なんか凄腕の剣豪みたいだね」

 

 

 

 

「確かに。時代劇に出てきそうなくらいめちゃくちゃ似合ってますよ」

 

 

 

褒め慣れてもないし、褒められ慣れてない俺は「お、おう」と2人から顔を背ける。頬をかいて今一度自分の姿を見てると唐突に襖が開け放たれる。

 

 

 

 

 

「八幡、終わっ……おー…」

 

 

 

「ほへぇ…」

 

 

 

「かっこいい…」

 

 

 

 

勝手に戸を開けて俺の姿を見て各々言葉を漏らすが、全員その表情は呆気に取られている。涼風と桜は何度も目ぱちくりと瞬きして驚いており、望月に関してはレラジェ補正が入ってるから出てきた感想だろう。

 

 

 

「……うん!よし!成人式にレッツゴー!!」

 

 

 

何のよしなのかは分からなかったが、いつもの桜のテンションであろう。そうして、俺達は成人式へと向かい、5人はつつがなく成人式を終えて、俺はそれが終わるまで待ちぼうけをした。その際、通り過ぎる人々にいつも向けられない目を向けられたが気にしないようにした。

そして、成人式が終わって5人が戻ってきて胸を撫で下ろす。よかった忘れられて先に帰られたり、昔の知り合いとの会話に花を咲かせて戻ってこないとかされるのかと思ったぜ。

でも、思ったより早く戻ってきた5人にそういうのは良かったのかと尋ねると、涼風は桜と星川が1番の親友だからいいし、望月と鳴海に関しては地元ではないためそんな友達はいないと言われた。なぜか申し訳なくなったぞおい。

 

 

「せっかくだし5人で写真撮ろうよ」

 

 

学校や居酒屋の近くなどの新成人が多く集まる場所から離れて小さめの公園に来た俺達は星川の提案で写真を撮ることになった。

 

 

 

「八幡真ん中ねー」

 

 

 

「なんでだよ」

 

 

 

端っこでいいよ俺は。と、動こうとするとさゆうからがっちりと動きを止められてしまう。女子の団結力怖い。

写真を撮ってくれるように親切な人に頼んだ星川は戻ってくると、俺を囲む涼風達の輪の中に入る。

カメラマンの人が「準備はいいですかー?」とカメラを構えてシャッター切ろうとした時、何かに気付いたのかその人は軽く微笑む。

それを不思議に思った俺達が顔を見合わせるとカメラマンの人は朗らかに言った。

 

 

 

「なんだか光源氏みたいだね」

 

 

 

どういうことだと考える間もなく、パシャッとフラッシュが光り、写真が1枚撮られる。追加でと2回、シャッターを切ったカメラマンの人から少し慌てた様子で星川はカメラを受け取ると6人でお礼を言う。

 

 

 

 

「こ、この後どうする?」

 

 

 

「お腹すいたし何か食べるか」

 

 

 

「それいいですね!」

 

 

 

ぎこちなく聞いてきた涼風にも、俺の意見に同意した鳴海もどこか落ち着かない様子で「大丈夫か?」と心配してみるが全員大丈夫と首を振る。まぁ言語能力はしっかりしてるし大丈夫か。

その後、夕飯を楽しみ涼風と望月が20歳になったらまた集まろうという約束をしてこの日は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

これは後々の話だが。この日撮った写真が送られてきた。俺の手元に来た写真は普通だったが、涼風がデスクに飾っている写真は───────5人が僅かにだが赤面しているように見えた。





光源氏は一夫多妻制で1人の夫にたくさんの妻がいる。
写真を撮る時、1人の男に5人の女の子が囲むようにしてればそうも見えるよね。───────正妻戦争開幕!?


(別に八幡がマザコンでロリコンだと言いたい訳ではありませんのでそこは理解ください)






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どうしてか涼風青葉は期待される。



さーて久しぶりの更新ですよーと。
ここから2話くらいコンペの話です。


 

 

 

「は? キャラコンペ?」

 

 

 

成人式という人生の節目と呼んでも差し支えのないイベントを終えて、いつも通りの社会人生活に戻った俺は目の前で瞳をギラつかせる後輩の言葉に耳を疑う。

 

 

 

 

「はい、はじめさんの企画のゲームのキャラクターデザインを決めるんです」

 

 

 

「いや、それは分かるんだが」

 

 

 

まぁ結構前の話のように感じるが、そういえばPECOの次にイーグルジャンプが出すゲームにはじめさんの『ドッジボールファイト(仮)』に白羽の矢が立ったんだよな。企画に四苦八苦してた様子を見てただけあって採用された時はとても喜ばしかったが、そうだよな俺って企画でもモーション班でもなければキャラクターデザイナー班なんだよな。自分の立ち位置を危うく見失うところだったぜ。

 

 

 

「やっぱり望月は出るのか」

 

 

 

「もちろんです」

 

 

 

ですよねーと俺は苦笑して望月の視線から逃れようとするが、そうは問屋が卸さないと言わんばかりにタイヤ式の椅子を器用に使って俺の側面に回り込んでくる。

 

 

 

「八幡さんも出るんですよね?」

 

 

 

ここしばらくの望月の変化として、俺の事を下の名前で呼んでくるようになった。もちろん、会社では勤続年数的に俺が上なので「さん」がついてる。会社外でもなのだが、それはこちらとしてはありがたい。急に呼び捨てにされたら「気安く呼ぶんじゃねぇ!」と顔を赤くして逃げ帰ってしまいそうだ。どんなツンデレだよ。

 

 

 

これは成人式の日に俺と同い年だと知った望月と鳴海が決めたことで、翌日の出勤日にそういうことになりましたと2人で伝達に来た。いや、別に呼ばなくてもいいんだよ?

ついでに俺に下の名前で呼んでもいいですよとか言ってきたが、そこは断っておいた。

 

 

 

「聞いてますか?」

 

 

 

「あぁ、悪い。考え事してたわ。で、何?」

 

 

 

 

「むー…」

 

 

 

おいおいそんな頬膨らませるなよあざとく見えるけど可愛いじゃねぇか。そこら辺の男ならコロッと落ちて溶けちゃうぜ。

さて、コンペか。あれあんまり好きじゃねえんだよな。いや、選ばれる選ばれないの問題じゃなくて考えるのがな…。しかも、八神さんに負けるのが目に見えてたからキャラクターじゃなくてアイテムの方に逃げたからな。そのおかげでエフェクト班の人とも交友が出来たぜ!

 

 

 

まぁそういうことで前回出てるし今回は出なくていいかなと高を括っているとキャラコンペの概要の書かれたプリントを持ってきたはじめさんがやってくる。

 

 

 

「じゃーん!まずチーム構成は当初の5人から改め3人となりました。プラス常時外野ポジションの3人とで計6人チーム!」

 

 

 

葉月さんや大和さんとの話し合いでより企画をブラッシュアップしたのだろうか。にしても、ドッジボールか。懐かしいな。低学年の時はまだ混ぜてもらえたが歳を重ねるごとに外野より向こう側にいた気がする。

過去の思い出に身を蝕まれていると涼風が仕様書を見ながらはじめさんに尋ねる。

 

 

 

 

「世界観の指定は?」

 

 

 

「学園ものかなーなんて私は思ってるけど…PECOの時同様自由! ただしターゲット層は小学生男子を想定してるよ」

 

 

 

だから、そういうことでと俺を見る。

 

 

 

「男の子代表の八幡には有利なんじゃないかなー」

 

 

 

 

「はぁ。でも、俺出る気ないんですけど」

 

 

 

「え!?出ないの!!?」

 

 

 

驚愕の表情を見せるはじめさんに他のメンバーも口を開けて俺を見ている。

 

 

 

「いや、自由参加なら俺はいいかなと」

 

 

 

八神さんがいない今、確かに俺でもメインキャラクターデザイナーになることは出来るだろう。しかし、前回メインになった実績のある涼風に新たに加わって初のコンペに闘志を燃やしてる望月。それに今回はゆんさんも出る気みたいだし、俺の勝つ確率は0パーセント。敗北者行き確定である。…は、敗北者…?

 

 

 

「んー、出来れば八幡には出て欲しかったんだけど…」

 

 

 

 

「私も八幡さんの絵見たいです」

 

 

 

 

はじめさんに同意するように望月が俺に眼差しを向けてくる。涼風とゆんさんは苦笑い気味でひふみ先輩は戸惑い気味にファイトだよと拳を握っている。

 

 

 

「まぁ……何か思いついたら参加ってことで」

 

 

 

「うん!よろしくね!」

 

 

 

 

無言の圧力に負けた俺はとりあえず脳内で構想を練っていく。男の子向けか…どの世代だろうか。与えられた骨組みに肉を着けるようにして思考を繰り返す。

 

 

 

「青葉ちゃんには特に期待がかかってるからね〜よろしく頼むよん!」

 

 

 

「頑張ります」

 

 

 

クスクスとからかうようなはじめさんの言い方に遠慮がちに答える涼風の横でプリントがクシャと強く握られる音がしてそちらを見てみると、まるで身体からメラメラと炎を出しているかのような望月が。

 

 

 

「あ…刺激するようなこと言っちゃった私…?」

 

 

 

「ははは」

 

 

 

 

地雷を踏み抜いたはじめさんに乾いた笑いを浮かべた涼風は望月に声をかけようにもかけられないため、次の話題へとシフトする。

 

 

 

「あとひふみ先輩アートディレクターの件なんですけど…」

 

 

 

「え!?」

 

 

 

そりゃ八神さんが抜けて、遠山さんがプロデューサーに回ったら自然と経験も実力もあるひふみ先輩があがるだろう。他の2人も異論はないのか「すごい」「実力やな〜」と賞賛している。

 

 

 

「や、やっぱりやらなきゃ…ダメ? グラフィックチーム全員をまとめるのは…ちょっと…」

 

 

 

しかし本人はそんな期待されてもとしおらしくプリントで顔を半分隠す。確かにひふみ先輩に実力はあれど全体をまとめあげるカリスマ性とかはないのかもしれない。だけど俺はどこにでもついてく所存だし、逆らうやつも触れれば30秒で死に至るヒキガヤ・ヘイズをお見舞いしてやれば問題ない。だが俺にそんな獰猛な能力はない。

 

 

「実力的にはひふみ先輩なんです!せめてキャラコンペが終わるまでだけでも…ダメですか?」

 

 

 

 

「そ、それじゃあ…コンペまで…わかった」

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

はじめさんの熱に押されて妥協して納得したひふみ先輩は自分の席へと戻っていく。それに釣られて涼風や望月も自分のパソコンと向かい合い作業を開始した。

期待されてる涼風に、初めて自分の力を発揮出来る望月。二人とも気合いも熱意も見てるだけで伝わってくる。

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 

それに対して誰にも聞こえないくらい小さなため息を漏らしたゆんさんの表情は芳しくない。今のため息に込められたのは嫉妬、というやつだろうか。俺じゃなきゃ聞き逃しちゃうくらいの音量だ。涼風と望月の背中を見ながら発せられたそれは、自分だけ何の期待もされていないという失意なのだろう。

 

 

 

誰にも期待されない。

俺からすれば羨ましいことこの上ない。期待されないということは、勝手に誰かが裏切られた気にもならないし、自分も気負うことなく己の作業に熱をそそげる。それの結果が良ければ褒められて次の期待へと繋がってしまうが、悪いか可もなく不可もなくなら「まぁあいつはこんなもんだし」と記憶にも残らず流される。

 

 

 

誰の記憶にも残らず、ただ目の前の仕事を終わらせたら文句も言われない。なんて素晴らしいことなのだろう。勝手に期待して勝手に裏切られた気になるなんてのは、お互いに良くない気分だろう。

だから、俺はゆんさんが抱えている感情を理解できないし、する気もない。けど、はじめさんは期待はしてなくても、ゆんさんを信頼してるから何も言わなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

……あくまで可能性の話だが。

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

下準備から1週間ほど経ってキャラコンペ当日。一体今までどこにいたんだという量の人間が社内で1番広い会議室に集まっている。おそらく、背景やエフェクト班からも何人か来ているのだろう。

 

 

 

 

「本日はコンペに向けて多くのご参加ありがとうございます!」

 

 

 

 

カッターシャツにスーツ用のズボンといつものラフなスタイルから引き締まった装いのはじめさんは大衆の前で司会を執る。まぁ企画者なのだから当然だろうか。

こういうことをするのが楽しいのか緊張してる様子はなく、むしろ口角を上げて楽しんでいる様子だ。

 

 

 

 

「えっと、最初は…皆きっと気になってますよね。涼風さんのデザイン」

 

 

 

 

「ちょっハードル上げないでくださいよ!」

 

 

 

 

それを証拠に涼風をいじったはじめさんに何人かの笑いが起こる。中にはひふみ先輩のように苦笑を浮かべてるものもいるが、掴みはOKだろう。

 

 

 

「では涼風さんからお願いします。どうぞ!」

 

 

 

 

「はい…!」

 

 

 

プロジェクターの前に立ち左手でPCを操作しながら、映し出されたデザインに涼風が説明を加えていく。いかにも、といった風貌の少年達がネット検索で一番最初にヒットしそうなユニフォームを着ている。

それに俺は眉を顰める。いつもの可愛い推しではなく、在り来りというか、誰にでも思いつきそうなイラストだ。

 

 

 

「…なんや絵柄変わりましたね青葉ちゃん」

 

 

 

「うん」

 

 

 

言葉ではオブラートに包んでいるが、ゆんさんもどこかしっくり来ないという感じの口調だ。ひふみ先輩も思うところがあるのか頷きの言葉を出したにも関わらず微動だにしなかった。

 

 

 

「私は純粋に部活ものとしてキャラクターをデザインしてみました」

 

 

 

 

「あ、うん、そう…私もこんな感じのをイメージしてて……あれ………?」

 

 

 

戸惑いの声を出すはじめさんに涼風はぎこちないままの笑顔で審査員席を見つめる。

 

 

 

 

「あ…! ごめんなさい。変な反応をしてしまって。とても良いと思うんです。まさにこれって感じで…だけどなんだろう…」

 

 

 

はじめさんはそこで言葉を切ったが、あえて繋げるなら「これじゃない」と言ったところか。イラストを凝視していた葉月さんは顔を上げると涼風に尋ねた。

 

 

 

「涼風くんとしてはこのデザイン気に入ってる?」

 

 

 

「え? も、もちろんです!」

 

 

「…悪いけど無難に選んでもらおうっていう意識を感じて私はつまらないかなって思ってる」

 

 

 

──涼風くんはもっと気持ちのこもった絵を描けるはずなんじゃないかな?

 

 

 

 

押し付けられた期待に応えるために可もなく不可もないデザインをした涼風に突き刺さったのは失望の意。こんなもんじゃないだろという勝手な思い込み。

 

 

 

「そ、そうですよ! 普段の青葉ちゃんならもっと良いのが描けますよ。だ、だから次回までにいつもの調子で描いてきてくれるかな?」

 

 

 

「…はい、すみませんでした。描き直します」

 

 

 

沈んだ空気を上げるため大袈裟な身振り手振りでまくし立てたはじめさんに涼風は萎縮気味に頷くと観衆の中へと戻っていく。

 

 

 

「えっと、じゃあ次は…あ、やっぱりいる」

 

 

 

そう言ってはじめさんはすぐさま後ろを振り向いて瞳を、まるで最初からそこにいるのを知ってたかのように1発でゆんさんに狙いをつけた。

 

 

 

「ゆ…飯島ゆんさんお願いします」

 

 

 

「…はい!」

 

 

 

続いて2番バッターはゆんさん。投影されたスクリーンにはパンクでアメリカのストリート街でバスケットをしてそうなやんちゃで悪そうなギザ歯を剥き出しにした少年少女達だ。

 

 

 

「私の描いたキャラクターも少年達ですが世界観は少し違います。ポップカルチャーの中でもストリート系をイメージしました。試合も縄張り争いみたいなイメージです」

 

 

 

 

「凄い、この発想はなかった…確かにゲーム性ともしっくりくる…」

 

 

 

確かに悪くないデザインだし、縄張り争いという点からストーリーも構築しやすい。男の子向けでもあるし、こういうデザインは女の子も手に取りやすい。

 

 

 

「わぁいいですね。この雰囲気」

 

 

 

 

「おおきに」

 

 

 

遠山さんからも好印象なようでゆんさんは笑顔を浮かべる。そのままコンペはどんどんと進んでいき、様々な案が出されるが今までで一番好印象だったのはゆんさんのだが、他のもはじめさんは「ここがいい!」「あーなるほど!」と褒めちぎっていた。

 

 

 

「じゃ、次は比企谷さん?くん?言い難いな…お、お願いします!」

 

 

 

普段名前で呼んでいるせいか俺の苗字を呼ぶのに不慣れみたいですね。でも、ヒキタニって呼ばなかったから許しちゃう!

 

 

 

というか、この流れで俺なのか。あと呼ばれてないのが望月だろ? 望月の前座か嫌だなぁ。あれだぜこれで俺が変なの出したら失望されて「あなたとは違うんです」と俺より遥かに上のデザインを叩きつけてくるに違いない。

ここはさっさと適当に発表して引き下がろうとキーボードを叩いてスクリーンに俺のデザインを映し出す。その瞬間、場の空気が固まったような気がしたが、まぁ男の俺が発表するんだしそうはなるかと気にしないでおいた。

 

 

 

 

「えーっと、じゃあ俺?僕?……まぁ俺でいいや」

 

 

 

 

「待って」

 

 

 

もうそろそろ3年目社員とは思えないぶっきらぼうさで話を始めようとしたらはじめさんに制された。あれ、やっぱり私とか僕みたいな丁寧な一人称の方が良かっただろうか。怒らせたかなって考えてるとはじめさんが机を叩いて立ち上がる。

 

 

 

「何これ可愛い…!」

 

 

 

 

「へ?」

 

 

 

 

「八幡!説明を!」

 

 

 

 

「あ、はい…」

 

 

 

怒られると思ってたら、はじめさんは目をキラキラと輝かせて俺に説明するように促してくる。身構えていた俺は脱力してプリントを見ながらプレゼンを始めた。

 

 

 

 

「えっと、男の子向けって聞いたんで魔法少女にしてみました。でも、常時だと面白くないんでゲージが溜まったら変身できるみたいな感じで」

 

 

 

変身前は学校の制服、あるいは小学生くらいなら私服とか体操服の姿で、変身後は華麗で綺麗で可憐な衣装を身にまとっている。べ、別に俺の趣味じゃないんだからね!男の子向けって聞いたからこういうデザインにしたんだからねッ!

けど、これだと大きな男の子の方が連れそうだなと思ったんだけど全部描ききったあとだからこれでいいかなって。妥協って大事。

 

 

 

チラッと観衆の様子を窺うと男の子向けなのに魔法少女…?と首を捻る者もいれば、興味深そうに顎に手を置くスーパーバイザーの姿も見える。

予想外の反応に呆気に取られているといつの間にか俺の前にやって来ていたはじめさんは俺の手を握った。

 

 

 

「いいねそういうの!うん!これなら男心も女心も掴んで離さないよ!」

 

 

 

 

ブンブンと俺の手を握って上下し、相当俺のイラストというか女の子の衣装がドストライクだったのかはじめさんは親指を突き立てて俺に押し出してくる。

そんなテンションが荒ぶっているはじめさんを尻目に見ながら葉月さんが口を開く。

 

 

 

「君は本当に私の予想を超えてくるね」

 

 

 

 

「あ、どうも」

 

 

 

 

ぺこりとお辞儀をして元の場所に戻る。褒められてるのか呆れられてるのか分からなかったが、もしかしたら両方なのかもしれない。にしても、思いの外ウケが良くてビックリだ。

 

 

 

「それでは最後は望月さんお願いします」

 

 

 

 

「……はい!」

 

 

 

 

大トリを飾るのは望月で、その目は決意と覚悟に満ち溢れた目だ。ぎこちない歩き方でスクリーン前まで行くと、ガチガチとお辞儀をして説明を始めた。

そこに映し出されたのは鉄や金属で出来た鎧や兜。

 

 

 

「小学生の男の子が好きそうなものといえばロボットです。そして私が考えたのは…ロボットバトルです」

 

 

 

 

男の俺より、男の子らしい着眼点をしていた望月は自分の世界観をさらけ出す。プレイヤーが少年となりパーツを組み合わせてロボットチームを編成。ドッジボール以外にもパーツを収集する楽しさそれをカスタマイズする楽しさを想定しており、1つで2つ楽しめる内容となっていた。

 

 

 

「面白そう……」

 

 

 

そんな感想が漏らされ、声の主を見れば桜ねねは慌てたように手を横に振る。

 

 

 

「あ!いや、私はあおっちを応援してるけど〜…ははは…」

 

 

 

涼風からの視線に気づき誤魔化すように言う桜。しかし、望月のイラストをチラ見しながら言われると説得力に欠ける。誤魔化すのが下手だなぁ桜はと眺めているとはじめさんは息を呑む。

 

 

 

「正直驚きました。想定外のイメージを提示してくれた飯島さんと比企谷さんも、もちろんよかったですが…望月さんの案は確実に小学生男子にウケると思います」

 

 

 

まだ決定ではないがはじめさんがコンセプトとして1番気に入ったのは望月の案らしい。なお、イラストなら俺のが1番だそうだ。完全にはじめさんの好みによる主観だが、褒められて悪い気はしない。

 

 

 

「それでは第一回コンペは終了します。追加の指示などあれば今日中に出しますのでお待ちください!」

 

 

 

その言葉で締めくくられて、文字通り『ドッジボールファイト(仮)』のコンペは終了した。俺はふぅと脱力して力を抜く。はじめさん達はこれからどの案に絞るのかを決めるため別の部屋へと移っていく。

 

 

 

「やったじゃんもも!」

 

 

 

 

「ありがとう…」

 

 

 

 

拳を握って絶賛する鳴海に、望月は浮かない様子だ。そんな彼女に涼風は作ったような笑顔で話しかけた。

 

 

 

「一歩リードだね。…悔しいよ」

 

 

 

その声音は、とても悔恨を持つようなものでなく、とりあえず付け加えたかのように聞こえたのは俺だけだろうか。

 

 

 

「なんでへらへらできるんですか?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

「正直…がっかりです」

 

 

 

 

涼風は知らない。知っているのは、望月が目標にしているのは八神さんということのみ。しかし、自分がそれまでの目標にされてることは知らない。

だから、望月が何故失望しているのか分からない。戸惑いの表情を浮かべた涼風に望月は気持ちを顕にして口を開く。

 

 

 

「あんなの、私の好きな青葉さんの絵じゃないです」

 

 

 

 






ドッジボールファイトね、小学生の頃とか体育が雨の時にしたことあるけどわざと真っ先に当たって外野に行ってましたね。逃げるのは楽しかったけど、投げるのは不慣れだったので。



ということでコンペ編その1です。その2、その3は来月辺りに書きます。3月半ばまで暇がないので、書けたら書くみたいな調子で過ごします。失踪とかは多分?ないのでよろよろ。


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好敵手とは競い合うものである。


本年度初投稿です。大奥イベがだるすぎてちまちまと進めてたら結構遅れました。というのは嘘で新刊が来月に出るかもということでこちらを優先します。


 

キャラコンペが終わったあと、涼風に声をかけられた望月は目に見えて憤りを感じていた。自分の持ち味を生かさず万人受けを狙いにいった涼風に正直イラつきを隠せなかったのだろう。俺が見やる頃にはもう望月は感情をあらわにしていた。

 

 

「なんでへらへら出来るんですか? 正直…がっかりです」

 

 

「……」

 

 

「あんなの私の好きな青葉さんの絵じゃないです」

 

 

言い切ってから冷静になったのか、望月はすぐさま謝罪した。感情的になってしまって頭を下げられた涼風は「う、うん、大丈夫…」と首を振った。当然のことながら、その顔には戸惑いが浮かんでいた。

見かねて何か声をかけようとしたが俺と別方向に2人の様子を見ていたゆん先輩がため息を吐くのが見えた。ゆん先輩はすぐに顔を切り替えるとズカズカと2人の方へと近づいていく。

 

 

「あーもう!私も高評価やったの忘れてへん?2人だけみたいな空気出して」

 

 

 

「え? いや、そんなことは…」

 

 

「ほんまハラタツ!最後は絶対負けへんからな覚悟しいや!」

 

 

自分の気持ちをぶつけているようで涼風の落ち込みと望月の憤りを忘れさせているのだろう。しかし、その後ろ姿は酷く寂しく見えた。まるで本来ある別の感情を押し殺してるようで。

 

 

「……まぁあの3人に比べたら俺なんて下の下か」

 

 

発想のスケールでは勝てた気がするが、やはり絵の精巧さや技術はあの3人の方が圧倒的に上だろう。だから俺を差し置いて落ち込むのなんて許せない。嘘であるが。

この程度のことで落ち込んでいるのから今頃俺はうつ病にでもなって自殺を考えてるだろうし、あの3人に憎悪を喝采して向けているだろう。

葉月さんと大和さん、それに企画班とひふみ先輩は今頃キャラデザの選考を行っているのだろう。涼風と俺の案は置いておくとして、軒並み評価の高かった望月と感触の良かったゆん先輩のどちらかに絞ってるだろう。

 

 

「あの…すぐにでもキャラデザの再考をしたいんですが私は…」

 

 

一旦グラフィッカーブースに戻った俺達はゆん先輩のいれた紅茶を啜りながらはじめさん達の選考が終わるのを待っていた。

 

 

「せやかて指示があらへんとなんもでけへんやろ」

 

 

「ゆんさんはそうですけど私達は…」

 

 

達ってなんだよ。俺見ながら言うなよ。ぶっちゃけ俺はキャラコンペに乗り気じゃないのに参加して思ったより評価が良かったから別に何もする気は無いんだが…。そう言うとキレられそうな気がしたので紅茶を啜る。

 

 

「ええかコンペゆうと勝負みたいな雰囲気にどうしてもなってしまうけど、それが終わったらまた協力して仕事することになるんや」

 

 

一度言葉を切るとゆん先輩は望月の方に視線を送った。

 

 

「特にももちゃん。あんたは若干分かってへんとこあるから気ぃつけること!」

 

 

「…はいすみません」

 

 

確かにコンペとは比較とか競合するとかそういう意味だった気がする。高卒までの英語知識だから確信が持てないのが残念だ。

素直に謝罪してる望月だが、コンペを抜きにしても負けず嫌いの節がある。というかそれはここの社員ほぼ全員に言えることだと思うが。おそらく、競争心というのが存在しないのは俺とひふみ先輩だろうか。

 

 

「八幡もなんか言いや」

 

 

「えぇ…」

 

 

なんだその会話の振り方雑くない?今更だけどこんな女の子ばかりの空間で紅茶を飲めるだけでも俺のメンタルは限界なのだ。高校の時からしてるけど、基本的に同性同士が会話し、たまに会話が振られてきてそれを適当にあしらう形が1番良いのだ。不可侵にして不可視の存在くらいがちょうどいい……ってそれいないのと一緒だな。

 

 

「まぁ俺は別に不満とかないんで」

 

 

「八幡のは、はじめさん食いつきよかったもんね」

 

 

「あの魔法少女可愛かったです」

 

 

「どうやったら出てくんのあの発想」

 

 

 

そうそう。採用されなくても誰か一人の心にさえ残ればそれでいいのだ。俺という存在も含めて。おじいちゃんやおばあちゃんになった時に「ああ、あんなのいたな」みたいな感じになってくれると生きていた意味があった気がする。

 

 

「な、なんかコンペ中とは思えないほど和気あいあいとしてるね…」

 

 

会議が終わったのかはじめさんが戻ってきて開口一番にそう口にした。昨年がギスギスしすぎてただけだと思うんだよな。今年は20歳コンビがギスギスしそうになったがゆん先輩が止めてくれたし。それはそうと。

 

 

「どうかしたんですか」

 

 

「いや……えっと」

 

 

どこか暗い顔をしているはじめさんとひふみ先輩に俺はそう問いかけると2人の顔が曇る。

 

 

「あの、ももちゃん…さっきのデザインなんだけど」

 

 

「はい」

 

 

重苦しく言いたくないような口ぶりで話し始めたはじめさんに望月は顔をむける。そして申し訳なさそうにお腹の前で手を組みながらはじめさんは瞳を閉じながら言った。

 

 

「結論から言うと…あの案は使えない…全部」

 

 

「え…?なんでですか?」

 

 

すぐに浮かんだ疑問について返したのは涼風だった。ゆん先輩もあんなに絶賛していたのに何故と口にする。

 

 

「ごめん本当に軽率だった。ディレクターとしての自覚が足りなかったよ…」

 

 

そこからの説明はひふみ先輩が引き受けた。どうやら望月の案だとメカものをやったことが無いイーグルジャンプでも作れるか作れないかでいえば作れるらしい。だが、問題点としてパーツ数を膨大にするとグラフィックの量が多くなり、組み合わせの数だけパターンも増えてそのバランス調整に人手が注がれてメインのドッジボールの調整が疎かになる危険性がある。そのため予算的な問題で現実的じゃないとして望月の案は除外された。

 

 

「…わかり…ました。それならまた一から…考えます」

 

 

「ごめん。またよろしくお願いします」

 

 

さすがに時間とお金の問題が絡んでいるため望月も納得するしかなく、はじめさんはその事を視野に入れて伝えるべきだったと謝罪する。ということはつまり2番目に高評価だったゆん先輩の案が採用になるのかと思案していると、どうやらその通りらしくはじめさんは拳を握りながらゆん先輩に伝えた。

 

 

「今のところゆんの案が1番有力だよ。おめでとう!」

 

 

まぁキャリアと実力から言ってこれが当然なんだと思う。男心を鷲掴みにしようとした望月と、男女共に遊べるようなデザインを選んだゆん先輩の方が商業的に考えるとやはり好印象だと思う。ウンウンと皆で頷いてゆん先輩の方を見るとその瞳には涙が浮かんでいた。

 

 

「かんにんちょっと席外すわ」

 

 

「ゆん!?」

 

 

飛び出すように歩き去っていったゆん先輩を急いで追いかけにいったはじめさんを見やり、2人のムードメーカーを失ったグラフィッカーブースに空虚な風が流れる。

 

 

「そういえば俺の案ってどうなったんですか」

 

 

この状況を年長者としてどうしたものかとぎゅうううと拳を握って瞼を閉じて逡巡するひふみ先輩を助けるつもりはなかったが、尋ねられてあからさまにひふみ先輩が笑顔を咲かせる。

 

 

「う、うん! あの、その、案自体はいいから、キャラコンペ決定後に予定を組み立ててから進めようって」

 

 

「そうなんですか」

 

 

またこのパターンか。2年連続でイラストじゃなくて案だけ採用ってケースを考えると、俺そろそろ企画班にでも行った方がいいんじゃないだろうか。

 

 

「あの…」

 

 

「ん?」

 

 

「あ、八幡さんじゃないです」

 

 

唐突に口に開いた望月に反応したら俺ではなかったらしい。久しぶりに漂ってくる負の感情を抑えるべく立ち上がって机の引き出しからマッ缶を取り出すと望月の視界の外でぐびぐびと飲み始める。やっぱりマッ缶は最高だな。だって最後までMAXコーヒーたっぷりだもん。

 

 

「青葉さん、その、立場…同じになっちゃいましたね…偉そうな事言っておいて情けないです」

 

 

「そ、そんなことないよ。確かに私のは…良くなかったし…」

 

 

二人共俺がいなくなったことは気にせずに会話を進め、ひふみ先輩だけが視線をグルグルと錯綜させていた。

 

 

「絵って難しいね…ちょっとの気持ちの変化が表に出ちゃう…。PECOの時はただ憧れだけで描いていればそれでよかったのに」

 

 

八神さんに認められて、後輩ができて、周りに期待されて、自分らしさを見失っていた涼風は無意識に心のどこかで負けたらかっこ悪いと考えていたのかもしれない。

 

 

「周りの目線ばかり考えて無難に無難にって気持ちが絵に出ちゃったんだね…」

 

 

その後、何故か俺の方を見て「そういうこと考えない人もいるのにね」と苦笑いするとすぐに真剣な眼差しで望月を見た。

 

 

「もう一度だけ…見ていてくれないかな?今度は私の…楽しいって気持ちをぶつけてみる。そしてキャラデザを勝ち取ってみせる」

 

 

もうがっかりなんて言わせない。そう宣言した涼風に望月もまた真剣な眼差しで涼風にこう返した。

 

 

「私も…がっかりさせません」

 

 

まるでスポ根のような熱い展開に驚きを隠せないが、解決したようで何よりと肩をなで下ろす。女子トイレから僅かに聞こえていたはじめさんの声も聞こえなくなったことから、あちらの方も解決したのだろう。今回も傍観者として終えることが出来てホッとしていると、ひふみ先輩が再びあわあわと右往左往し始めた。

 

 

「えっと、あの…解決しちゃった…ようだけど…」

 

 

そう言って取り出したチョコレートを2人に渡すと「これ食べて頑張ってね!!」とキリッと仕事した私!って顔で満足そうにしていた。しかし、そんなひふみ先輩に望月は言いにくそうに口を開いた。

 

 

「あの、すみません、私、甘いものが苦手なので…」

 

 

「あっ!そうだった!!」

 

 

そういえば牧場生まれなのに苦手だったな。牧場生まれ関係あるのか知らないけども。まぁ食べられないのなら仕方ない。それにせっかくのひふみ先輩のチョコレートが余るのは勿体ない。

 

 

「じゃあ俺が貰」

 

 

「まぁでも食べてみれば意外といけるんじゃない?」

 

 

「え…?」

 

 

最後まで言う前に平静を装いつつも少し苛立ったような声で望月にそう言った涼風に、俺は「は?」という顔を向け、望月はというと当惑していた。

 

 

「ほら、ひふみ先輩からのせっかくのプレゼントだぞ!食べろー!」

 

 

「ちょ、こんなところで意地悪な先輩みたいな事しないでくださいよ!」

 

 

和やかな雰囲気になったと思ったらブチ切れた涼風に望月はワーワー叫びながら応戦する。ひふみ先輩というと遠くで止めようにも止めれず3度目のあわあわをしながら俺に助けを求めてきた。

 

 

「……はぁ」

 

 

出ていった幸せを逃すため息を押し戻すためにMAXコーヒーを流し込んだがそれでもため息は出て、もたれかかっていたデスクから身を離すと、喧嘩するふたりの間に割って入った。

 

 

「おい涼風、先輩なんだから後輩いじめんなよ」

 

 

「いじめてないよ!」

 

 

「じゃあパワハラすんな」

 

 

「だって、ひふみ先輩のチョコだよ!食べないと損じゃん」

 

 

その気持ちは大いにわかるが、甘いものが苦手な望月にとっては毒なのでは。いや、そもそもチョコレートは苦いものではなかったか。例えばこれがブラックビターチョコレートなら望月でも食べられるだろう。そう思い至って涼風の手から1つ奪って口に入れてみる。

 

 

「美味いけどめちゃくちゃ甘ぇ…」

 

 

マッ缶に勝るとも劣らないちょうどいいさじ加減で作られたチョコに思わずそうこぼしてしまった俺に、望月は警戒してチョコからより一層距離をとる。

 

 

「え、えと、ご、ごめんねももちゃん…!」

 

 

「あ、いえ、大丈夫です…こちらこそごめんなさい」

 

 

今日何度耳にしたかわからない謝罪に、全員の顔に大なり小なり笑顔が浮かぶ。明日からゆん先輩の案に合わせて第2回コンペに向けて励んでいくわけだが、これは勝負ではないのだ。だからこうやって笑いあってるくらいがちょうどいいのだろう。

 

 

 

ちなみに望月が貰ったチョコは鳴海の手に渡ることになり、俺が最初の1個以外を食べることは無かった。



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今回も比企谷八幡は見守っている。

 

 

キャラデザの大元が決まって、これで手に職がついたという感じなのだが、俺はここでリタイアした。理由としてはあの3人のしのぎ合いに立ち入る隙がないからだ。アイデアが決定してしまった以上、俺に出来るのは傍観するのみ。ダークファンタジーなら俺の独擅場になるのだが、子供向けというのは厳しいだろう。

 

 

「ということで次のコンペには出ません」

 

 

「そっか…」

 

 

はじめさんと葉月さんには「涼風と望月とゆん先輩の誰かが適任だと思うので」ということで次のコンペの辞退の旨を伝えた。はじめさんは残念そうにしていたが、葉月さんは分かっていたように肩を竦めた。

 

 

「分かった。じゃあそのようにしとくよ」

 

 

特に追及されることなくその場を立ち去る。俺が余程の負けず嫌いさんであれば、今頃下で涼風達と同じくキャラデザの構築に勤しんでいるのだろうが、俺はそうしない。出来ないと言った方が正しいのだろうか。特別な力を持たない凡人は隅っこの方で才能あるべき者達を見守るべきなのだ。そうこれからの時代を作るのは老人ではないのだ。……まぁ俺もまだ20歳だけど。けど、今はまだその時ではない。そう自分に言い聞かせながらマッ缶を口に入れる。

 

 

「そういや昨年は八神さんに焼肉奢らされたな…」

 

 

なんとなく思い出したその出来事と共に頬をそっと撫でる。あれも既に遠い昔のようで最近のことだったんだなと感慨深い気持ちに陥る。正月以降忙しいのか、国際電話だからお金がかかるのが嫌なのか連絡を取ってくることはなかった。メールもなく、付き合ってるわけじゃないからこんなものかとスマホを閉じると背後の扉が開かれる音がした。

 

 

「あ」

 

 

振り返ってみれば目が合った望月が思いもよらなかったという声を出す。

 

 

「……」

 

 

言葉は続くことなく、無言のまま望月は俺から数メートル離れたところにあるベンチに腰掛ける。そして黒い缶コーヒーの中身を口に入れる。共に同じ空間にいるだけで会話は生まれず、昼休みの時間が終わる間際までそれが続くかと思われたが、停滞した空気を打ち壊すように望月は口を開いた。

 

 

「あの、八幡さんは次のコンペ出ないんですか?」

 

 

「あぁ」

 

 

答えずとも当日になれば分かることなので答えた。嘘をつく必要性も感じなかったし。

 

 

「…八幡さんは前のコンペで誰の絵が1番……いえ、社内で誰の絵が1番好きですか?」

 

 

急になんだその質問。しかし、それは考えたこと無かったなと顎に手を置いてみる。なるほどこうすると確かに考えが整理しやすい気がするな。そんなことを思いながら、社内の人たちの絵を思い浮かべる。

涼風のは入社当初よりは柔和でキャラの表情表現が上手くなったように思う。だから、ヒロインキャラやショタを描かせると輝くのではないだろうか。

ゆん先輩はパンクというかワイルドでダークといった感じだろうか。それ故にモンスターなどの絵はあの人の方が圧倒的に上手いと思う。

ひふみ先輩は動物好きもあってか、獣人やマスコットキャラクターなどの動物モチーフよキャラに関してはピカイチだと思う。

そして、望月だが星川に色々と伝授されたのか『絵』単体の良さでは涼風にも勝らずとも劣らない。キャラデザも専門学校で培ってきた努力と技術がある。

けど、今まで述べた人達は俺にはないものを持っている。が、同時に彼女らは俺が持っているものを持っていない。それは当たり前の事なのだ。だが、その当たり前を崩してくるのが今は会社を離れている八神さんであろう。

 

 

「そうだな」

 

 

望月は普通に俺の真摯な答えを期待している。だから、ここで八神さんだと言っても「ですよね」と素直に受け取るだろう。負けず嫌いだからといってすぐに憧れの人に勝てるとは思っていない。リアリスト気質の望月はそれ自体に怒りはしない。時間がかかってでも八神さんのようになりたい。八神さんを超えたい。そう思うだろう。だったら、俺が出してやるのは。

 

 

「……キャラコンペ、望月のが通ったら焼肉奢ってやるよ」

 

 

「へ?」

 

 

八神さんが通過した地点を用意してやる。それくらいだろう。尤も、俺が奢らされた時点で八神さんの実力は社内トップクラスだったが、それくらいは後輩ということで匙を引いてやろう。

 

 

 

###

 

 

 

「今回は前回上位3名の飯島さん、涼風さん、望月さんの3人の決戦ということにさせていただきました。よろしくお願いします!」

 

 

第2回キャラコンペは再びはじめさん司会のもと開催された。

 

 

「それではまず飯島ゆんさん。お願いします」

 

 

それぞれの思惑を胸に今回のコンペは始まる。トップバッターに選ばれたのは3人の中でも最年長のゆん先輩で、呼ばれた彼女は1度深呼吸すると「はい…!」と力強く返事をした。

前に出てスクリーンの隣に立つと、画面にゆん先輩がデザインしたキャラ達が現れる。アメリカのストリート街にいそうな悪ガキ風の子供たちにルンバのような体躯に頭にプロペラ、下に手が生えたロボットのようなものが目を引く。

 

 

「基本的なデザインの方向性は前回と同じです。ご指摘の少し高かった対象年齢を下げるために頭身を低くし可愛くしてみました」

 

 

「なるほど、横のドローンっぽいのは?」

 

 

「はっきり外野キャラだとわかるようにするためにこうなってます。使い魔的な動物でもいいかもしれないですね」

 

 

自分の持ち味のデザインは変えずに前回の反省点を活かしてリビルドしてきたゆん先輩は流石と言わざるを得ない。なにより、はじめさんの要望を的確にまとめている。あれははじめさんとの付き合いが長く、共に信頼し合っているからこそ出来る芸当で涼風や望月にはないアドバンテージだ。

 

 

「ありがとうございます。こちらの指示を的確に消化して前回よりとても良くなっていると思います」

 

 

ろくろを回すことなく進行していく会議。強いて言うならはじめさんが少し固いところだろうか。それは葉月さんも指摘しており「可愛い子だらけのチームなんだ、明るく元気にしないと〜」と間の伸びた声で言う。

 

 

「次は望月紅葉さん。よろしくお願いします」

 

 

「はい」

 

 

葉月さんの言葉を軽くスルーして、進行に戻る。望月は涼風の方を一瞥すると、微笑みを向けられてたじろいだ様子を見せる。次に鳴海、そして俺を見ると彼女はスクリーン前へと立った。

 

 

「私は…涼風さんと同じ方向性ですがその中でよりアクション性の強い装備で描いてみました」

 

 

映し出されたキャラは前回ボツにされたロボットの意匠を感じせるような篭手やアイアンソールを身につけている。が、それも邪魔にならないようにあくまで超次元ドッジボールをするために取り付けられている。そして、キャラ自体は望月の言う通り涼風の絵の雰囲気に酷似してるが、星川を知る者ならどちらかと言うと彼女寄りな気がする。

 

 

「望月さんも上手いからしっかり様になってますね」

 

 

「ひとついいかい?」

 

 

笑顔を綻ばせて頷くはじめさんに対し、葉月さんは疑問を浮かべながら望月に質問を投げかける。

 

 

「涼風くんと同じ方向性ということはなにか突出したものがない限りは信用と実績のある涼風くんが選ばれてしまう…ということは分かっているよね?」

 

 

「……きっと悔しいと思います。それでも…ダメでも納得できるなら私はそれで満足です」

 

 

葉月さんの言うことは尤もだ。しかし望月はそれでもこの絵で挑んだ。それは彼女の信念であり、超えるべき相手を超えるための通過儀礼なのかもしれない。

 

 

「これが…私の絵です」

 

 

八神さんへの憧れ。同じ人に憧れた涼風への敬意。2人を超えるために星川のところで学んだ技術。さらに夢を後押ししてくれる鳴海の存在が望月紅葉をより強く逞しくした。彼女の成長はあの絵と言葉に如実に現れている。

 

 

「思い出すなぁ…」

 

 

「え?」

 

 

少し離れたところでポツリと呟いたゆん先輩に涼風は顔を向けた。俺も何を思い出したのかとゆん先輩の言葉に耳を傾けた。

 

 

「前回のコンペの時の青葉ちゃんを見てるようや。あそこまでギラギラしてへんかったけど、それでも気持ちは同じな気がする」

 

 

「……私はあの時の八神さんやゆんさんの気持ちが少し分かる気がします。後輩の前ではカッコよくしないとって。カッコよかったですよ?ゆんさん」

 

 

「ありがとう…青葉ちゃんも頑張ってな」

 

 

「はい」

 

 

穏やかにも温かな会話を盗み聞きしてる間に望月のプレゼンは終わっており、遂に涼風の出番を迎えた。涼風が前に出て望月とすれ違う間際、望月は立ち止まった。

 

 

「私は…全力を出しました。どうなっても悔いはないです」

 

 

「うん、見せてもらったよ紅葉ちゃんの全力。私のことも…見てて」

 

 

女の子同士の会話でもあんなに熱くなるのかと、アタックNo.1を思い返してると涼風の描いたキャラクター達が画面に現れる。『5-2』と書かれたワッペンが付けられた体操服に他の2人よりも頭身が低く描かれた愛らしいキャラは涼風らしさを取り戻したと言える。装飾品も子供らしくグローブと専用の靴だけにとどめている。

 

 

「私も…改めて自分の絵柄で挑戦してみました。PECOを通して培ってきた私の得意な可愛いで推してみました。これが私の大好きです」

 

 

涼風のプレゼンはそこで終わり、お辞儀をすると拍手が起こった。残るは選考となり、遠山さんが立ち上がらないのを見るあたり、ここで決めてしまうようだ。

 

 

「何か言うことは無いのかい?」

 

 

「いえ…文句なくとてもいいデザインです。どれもみんな良かったです。だから…迷ってます」

 

 

「そうだね…どれが選ばれても不思議ではないと思う。篠田くんの選択で決定していいかな二人とも」

 

 

葉月さんの問いかけに大和さんと遠山さんが首肯する。しばしの沈黙、プレゼンを行った3人は当たり前として見守る全員にも緊張が走る

 

 

「……まず最初に」

 

 

3人のキャラデザを何度も、何度も見返して遂にはじめさんは口を開いた。

 

 

「ごめん、ゆん…」

 

 

重苦しく本当に申し訳ないという思いを滲ませた一言は、はじめさんの真後ろにいたゆん先輩に届き、その表情はどこか晴れやかなものだった。

 

 

「…涼風さんと望月さんのどちらかで選びたいと思います。ただ…このどちらも……優劣をつけづらく…それなら選ぶべき選択肢は決まっているのかもしれません…でも…私の正直な気持ちは…」

 

 

長く綴られた言葉に全員が意識を向ける。決して誰の方も向かず、自分と対話するように言葉を紡いだはじめさんは意を決したように顔を上げた。

 

 

「望月さんの絵が…好きだなと思いました」

 

 

名前を呼ばれた望月は喜びと信じられないという感情を混ぜ合わせながらパクパクと口を開き、呼ばれなかった涼風は肩を落とすと同時に望月へと微笑んだ。

 

 

「おめでとう紅葉ちゃん」

 

 

こうしてキャラコンペは望月紅葉のものが選ばれて終了した。今後のことはまた後日連絡すると遠山さんの締めくくりがあり一旦解散となった。いろんな人が今回のキャラコンペの感想を口々にしながらそれぞれ足を進めたり、その場にとどまって立ち話をしたりしている。

 

 

「あの…正直信じられないです…負けたと思っていたので…いいんでしょうか」

 

 

「ううん、これが結果だよ」

 

 

「私だけでは…描けていませんでした…」

 

 

そう言うと望月は頭を下げながら涼風に「ありがとう…ございました」と言葉を伝えた。それに涼風は静かに微笑むと駆け寄ってきた鳴海や桜達と談笑を始めた。俺はそれを見届けるように去ると会議室前から離れた廊下で座り込むはじめさんに寄り添うゆん先輩が見えた。これは邪魔しない方がいいかと迂回した。

 

 

こうしてそれぞれの成長と、小さな蟠りの解消と、新たな物語を紡ぐために列車は動き出した。





焼肉回はまた後日。


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頭を抱える者達。

八幡が出るところが少ないので三人称視点です。


 

 

イーグルジャンプ会議室にて、大和・クリスティーナ・和子は悩んでいた。キス魔である自分の親族のいる会社へとエースを送り出したことか、いい歳もなって男がいないことか。どちらでもなくイーグルジャンプの現状について悩んでいた。彼女自身キャラクターデザイナーの心得、というか普通に女の子らしい絵心はあるため、現状を図解して白いB4の紙に書いていく。

まず今作が初めてのディレクター、篠田はじめ。吹き出しからは「がんばります!」とあるように熱意は認めるが如何せんこれが初めてだ。モーション班から後述の人物に焚き付けられて企画に殴り込んできた。

次にそのはじめを焚き付けたのがちゃらんぽらんなアドバイザー、葉月しずく。天賦の才と流行を見抜く力はあるがムラっけがすごくやる気がないと動かないタイプの人間だ。しかし、逆にやる気さえあればヒット作を連発できるだけの力を持っている。口癖は「もっともっと可愛い子を入社させよう」で、何度も聞いていたこともあって彼女がある男をグラフィッカーチームにねじ込んだことを未だに不思議に思っている。なお、クリスティーナとは付き合いが長く、酒に酔っては普段吐き出さない泣き言や愚痴を口にするのだが、それを知るのは今のところクリスティーナだけ。

 

 

「それで…」

 

 

次に描いたのは「あ、あわ、あわわわわわ」

と何も起こってないのに慌てた様子の滝本ひふみ。入社してから柔らかくなったがそれでもコミュニケーションに問題があるアートディレクターだ。実力もあるし、イーグルジャンプには必要な人間なのだが意思疎通が電子メッセージを使わないと難しいというのは頭が痛い話だとクリスティーナは本当に頭を抑える。

 

 

「それで一番の問題は…」

 

 

まだ入社もしてないキャラクターデザイナーの望月紅葉。しかもこちらもコミュニケーションに難がある。旅立つ前のコウの評価とりんからのレポートから入社は確定しているが、今はまだインターンシップ扱いとなっている。

 

 

「絶対にまずい…」

 

 

せめてもの救いがプログラマーチームが頼もしいことではあるが、しずくがいいゲームにするためにと仕様変更を連発したりするためある人物が不満を抱えているのをクリスティーナは知っている。だから、プログラマーチームのエースである阿波根うみこがいずれこんなことを言い出すのではないかと不安になっていた。

 

 

『仕様通りに作っても不具合だらけ、アートとの打ち合わせもろくに出来ない。こんな情けないチームの中で働く義理はありません。辞めさせて頂きます』

 

 

そしてそこから彼女についてプログラマーチームの有能な人間はライバル企業やらに転職……。そう考え至ったところで髪をかきむしった。

 

 

(ああああ!!これはいけない!!)

 

 

まず企画という中心部が初心者とムラのある人間で、それを形にするグラフィッカー達に難が多すぎる。そして頼りになるプログラマーで に何か問題が怒起こったり飛び火すればこの会社は終わってしまう。そう結論づけたクリスティーナは最近登録された番号に電話をかけた。

 

 

 

「安心感…ですか?…ず、随分と抽象的ですね…」

 

 

呼び出された篠田はじめはすぐさま会議室へと赴き、クリスティーナの話を聞いた。クリスティーナの言う安心感のある人員配置というのにピンと来ず頬をかいた。

 

 

「例えば頼りない人にはその役職を降りてもらう、ということです」

 

 

「え!?ここに来て私クビ!?」

 

 

「あなたの企画なんだからあなたはいないといけないでしょう!?」

 

 

頼りない人というので自分を思い浮かべて、自分を指さして目を見開くはじめにクリスティーナも同じく目を見開いた。これで大丈夫なのかと本気で不安になったクリスティーナははじめに2日の猶予を与え、それまでに安心感のあるチーム作成を頼まれた。

 

 

(ああ…ディレクターになってから人を選んでばかり…ゲーム作りの方は楽しいけど、胃が痛いな)

 

 

会議室から出て目に見えて肩を落とし、さらにお腹もさすって出てきたはじめはクビを宣告された人間にしか見えないのだが、この時間は皆仕事に集中しているためはじめのことを心配する者はいない。

 

 

(しかし誰を降ろせば…みんな頼もしいし……いや逆に考えろ。私が扱えなさそうな目の上のたんこぶになりそうな人は…)

 

 

顔を上げるとちょうどプログラマーチームのブースの前で覗きみるとうみこがキーボードを叩きながらパソコンと向かい合っている。うみことはじめは仲が良くなければ悪くもないという微妙な関係なので、目の上のたんこぶになるかと言われれば、現状知り合いの中では1番高いかもしれない。しかし通り過ぎてからうみこがいないとプログラマーチームが機能しないと頭を振った。

 

 

「どうしたんですか?うみこさん」

 

 

「さっきの篠田さんの目……獲物を選別する目でした…予算が足りなくなって誰か退職者を探しているのかも…」

 

 

「だ、誰かが…クビ」

 

 

しかし、僅かな時間でもはじめから放たれた不穏な空気に気付いたうみこはサバゲーで鍛えた五感を発揮して冷や汗を流していた。うみこの発言を聞いてその場に居合わせたねねは両手で頬を抑える。お前はどこのピノ子だ。

 

 

「本当に予算の問題ならお給料の高い人が狙わられるんじゃ…」

 

 

「お給料が高い人……」

 

 

ツバメが振り向きながらそう言うとねねが復唱し、そのまま視線がうみこへと注がれる。そして2人は顔を見合わせると頭を下げた。

 

 

「「お世話になりました」」

 

 

「待ちなさい!!」

 

 

いきなりうみこを切り捨てるあたり彼女らも肝が据わっていた。心配になったうみこは昼休みにしずくに確認をとり、リストラの動きがないことを知ると胸をそっとなで下ろした。

一方その頃、はじめはというと─────。

 

 

 

「言えるかー!!」

 

 

うみこを降ろすとプログラマーチームが機能しなくなるなら、グラフィックチームかと顎に手を置く。そこで真っ先に浮かんだのが「私じゃ力不足なんだね…ごめんね…」と瞳に涙をうかべるひふみであった。

正直、青葉とゆんのようなコミュニケーション能力豊富な人間との付き合いが良好なはじめはひふみのようなコミュニケーション能力に難がある人間とは深く関わらない。深く関わることで壊れてしまう関係があることを知っているからだ。なので、グラフィックチームにいるひふみを除いた目の腐った男と最近入社が確定した女の子ともある程度の距離感を保っている。

 

 

「3人ともいい子だしなぁ…」

 

 

声をかければ話してくれるし、こちらの話題にもある程度は乗ってくれることから嫌われてないのはわかる。それに3人とも与えられた仕事はキッチリとこなす。あれ?除外する人いなくない?とはじめは頭を抱えた。

そんな時目にしたのはひふみが青葉にモデリング作業についてレクチャーしてる場面で、しっかりアートディレクターが出来ていることに髪をかきむしった。

 

 

「お疲れ様」

 

 

「わぁ!?」

 

 

それを見かねて背後からりんは声をかけた。偶然、たまたま通りかかったらはじめが思い悩んでいる顔をしていたからなのだが、それははじめにとって女神のように見えた。別の会議室へと場所を変えて、はじめはクリスティーナからの指令をりんに話す。

 

 

「はじめちゃんが『皆信頼できます!』って強く言えてれば、多分そのままだったんじゃないかな」

 

 

「え!?」

 

 

りんから返ってきた予想外の答えに驚くはじめに対して、言い放ったりんの顔は微笑みを崩していない。

 

 

「幸い皆、実力に問題ないし、あとは人と人との組み合わせの相性…誰がよくないってことはないと思うよ。はじめちゃんが今回のゲームを作る上で最善のチーム構成にするには…って考えてみたら?」

 

 

コウが抜けても、彼女に憧れてどんどん成長してる青葉と紅葉。敵キャラやアクの強いキャラを描かせたらピカイチのムードメーカーなゆんに、コウに次ぐ実力を持っているひふみ。さらに経緯は色々あったが企画、エフェクト、プログラマーチームとも繋がりが大きい八幡がいる。はじめの心配するようなチーム同士でのトラブルは自分と八幡がいればないだろうとりんは踏んでいた。だから心配する必要は無いよと直接言うことも出来たが、それでは自分が良くても八幡の心象を悪くするかもしれないので、あえてみんなを信用して組めばいいと発言したのだ。

りんの言葉を受けてはじめは再び思考した。今回のゲームを作る上で最善のチーム。グラフィックチームは……キャラコンペの時のこと、先程の出来事を踏まえればアートディレクターは変更出来る。グラフィックチームは今まで通りで問題ない。ただ意思疎通がしっかり図れる人物が必要になる。それを担う人物を決めたはじめは立ち上がるとりんに頭を下げてから件の人物達に会議室に来てもらった。

 

 

 

「なんや突然どうしたん?」

 

 

「ちょっと話が…ね。八幡もひふみ先輩もどうぞ座ってください」

 

 

呼び出されたのははじめと最も親交の深い飯島ゆんと現アートディレクターのひふみ。そして。

 

 

(俺、完全に場違いな気が……)

 

 

どうしてこんな実力者の中に自分が呼び出されたか分かっていない比企谷八幡だった。はじめに促されて3人は席に着くと、はじめの言葉を待った。

 

 

「えっと…んと……あー……単刀直入に言うね!」

 

 

ゆんが口を出す寸前に覚悟を決めたはじめはそのまま勢いに任せてゆんとひふみに告げた。

 

 

「グラフィックのチーム構成を調整したくて、ひふみ先輩にはキャラリーダーに、そしてゆんには…ゆんにアートディレクターになってもらいたい!」

 

 

 

###

 

 

退勤時間ももうしばらくというところで唐突にはじめさんから呼び出された俺は、同じく声をかけられたというひふみ先輩とゆん先輩と共に会議室に向かった。何かやらかしたかと不安になっているとはじめさんに座るように促されてひふみ先輩とゆん先輩が席に着いたのを見計らってから俺も椅子に腰掛ける。

そして、はじめさんの言葉を待つこと数秒、はじめさんの話というのはゆん先輩にアートディレクターをひふみ先輩にキャラリーダーになって欲しいという話だった。

 

 

「…は?私が!?なんで…コンペのことで同情しとるの?」

 

 

「違うよ!それに特別扱いでもないし!」

 

 

コンペの時に周りの空気が悪くならないように取り計らい、的確に自分の指示を理解して修正し第2回コンペに望んできてくれたゆん先輩なら自分の思い描くビジュアルを描くように導いてくれる。そうはじめさんは考えたらしい。

 

 

「あ!も、もちろん、ひふみ先輩がダメってわけじゃなくてですね!キャラ3Dの実力が抜群なのでそっちに注力して頂いた方がいいかなって…」

 

 

「う、ううん!私は…いいの!ゆんちゃんがきっと適任だと思う!!」

 

 

なぜだろう。ひふみ先輩が心底嬉しそうなことを言ってるように聞こえるが。もしかすると自分は人と話さず技術職になりたいから今回の話は渡りに船とか思ってるんじゃないだろうか。ありそう。ひふみ先輩だし。

 

 

「なんやおかしいな…コンペのために頑張って、結局ダメやと思うたらそのおかげでADやなんて頑張ってみるもんやな…まだまだやけど私でええなら…よろしゅう」

 

 

「ありがとう!」

 

 

またも実に感動的な場面を見せられて、拍手したくなるのだが生憎とそんな気分ではない。なぜならさっきの話、俺が全く出てこないのである。アートディレクターでもなければキャラリーダーでもないので、この場にいなくても良かったのではと首を傾げたくなる。というか既に傾げている。この温かい空気をぶち壊すのは悪いが、俺の存在意義がわからないのだ。気付いたひふみ先輩ははじめさんに視線を送る。

 

 

「あ、ごめん!」

 

 

「いや、何もないならいいんですけど」

 

 

こんな空間に閉じ込められただけで、特にする仕事もないしおかげで時間が潰れたからむしろベリベリオッケーなんだよな。そういうことで何も無いなら俺的には良かったのだが、どうやら本当に用があったらしく、はじめさんは忙しく手を振ると「待って待ってあるから!」と口にし、落ち着くためにコホンと咳払いすると口を開いた。

 

 

「えっと、八幡にはその顔の広さを活かして他のチームの橋渡しになって欲しいな…って」

 

 

「はい?」

 

 

一体何を言ってるんだはじめさんは。俺の顔が広い?なわけないだろ。そう決めつけると横からゆん先輩が口を挟んできた。

 

 

「確かにエフェクト班とか企画とかプログラマーチームにも八幡のこと知ってる人多いしな」

 

 

エフェクト班はPECOの時に共に仕事をしただけで連絡先を交換するような事はなかったし、企画も関わったのははじめさんを通してだし、プログラマーチームに至ってはうみこさんと新人2名くらいだ。もしかすると俺が知らないだけで他の人から知られている、という可能性は無きにしも非ずだが。まさかそのパターンかと俺は頭を抱えた。

 

 

「まぁ社内で数少ない男性社員やしな。みんな嫌でも覚えるんやろ」

 

 

「え、えっと…八幡って…その、話しやすいし…仕事熱心だし」

 

 

「ということで頼めるかな、八幡」

 

 

ゆん先輩の理屈はわかる。俺もゲイバーに女の子がいたら勝手に目がいくし覚えちゃう。そんな感じなのだろう。ひふみ先輩のフォローは俺の思ってる自分とかなり食い違ってるが、ひふみ先輩から好印象だというのは伝わってくるのでOKだ。

 

 

「はぁ、まぁ……」

 

 

俺じゃなくても涼風みたいなコミュ力もあって実力もあるやつにやらせたらいいんじゃないかと思ったが、そうすると涼風は自分の仕事に集中できなくなるし、さらに俺の存在意義がなくなる。与えられた仕事を淡々とこなすだなんてまるで家畜かロボットのようだ。けど、今回のは依頼されたキャラデザをしつつうみこさんや他のチームの人ともコンタクトを取る必要がある。これは目の前が真っ暗になりそうだが、こうもはじめさんに目を輝かされて頼まれたら断れない。ひふみ先輩も「うん!」と拳を握って応援してくれている。

 

 

「分かりました」

 

 

「ありがと八幡!」

 

 

はじめさんにお礼を言われながら、今回は俺の脳みそがトップギアになりそうだなと先行きの不安さを感じられずにはいられなかった。





文化祭やクリスマスイベントを見てて思ったのは、八幡って管理職向いてるのでは?ってこと。周りの状況を冷静に判断できるし、今何ができて何が出来ないかも把握出来ている。自分を悪者にすることで悪化の一途を辿る進行も変えることが出来たりと……やり方はどうにせよ有能だと思います。それに話しかけられたら話すし、必要であれば見知らぬ人ともコミュニケーションが取れるので意思疎通はかなりできる方でしょう。ということで、今回の彼の立ち回りは他のチームへの窓口となりました。今までとあんまり変わらないような気がするけど気にすんな!ガハハ!


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意外なところで桜ねねは苦労している。

お久しぶりです。書く時間はあったんですが気力がなくて放置してました。とりあえず本編見てください。その後でこれからの話をしたいと思います。


季節は巡り巡ってエブリデイ。そんなに巡ってないけど俺が多方面への連絡係を任されて数日が経過した。名前の知らなかった人は名前を覚える程には至ってないがとりあえず外見的特徴を覚え、最悪首から下げている社員証を見て判断してる。これが一番楽でいいのだが、どうしても視線を顔から胸にスライドしなければならないため、相手に勘づかれたら一瞬でセクハラで訴えられてしまう。理由はもちろんお分かりですねとか言われても社員証見ただけだから無罪なのだが、きっと裁判を起こされて裁判所にも問答無用出来てもらって慰謝料の用意もさせられるんだろう。そうなったら無敗横わけ小僧にでも助けてもらおう。

 

 

 

「「「「かんぱ〜い!!!」」」」

 

 

カチンと合わさるグラスの音と共に3人の女性が機嫌よく音頭を口にする。一方、その場に居合わせグラスを突き出すも声は出してない俺ともう1人は無言である。

 

 

「もう、ももっちもハッチーも盛り上がろうよ!」

 

 

今回の飲み会もとい【成人おめでとうの会】を企画した桜は俺と望月が乗り気でないのが不満らしく唇を尖らせた。そもそも来る気無かったのに来いよ来いよとうるさかったから仕方なく来たのだ。来ただけでもありがたいと思って欲しい。

 

 

「にしても苦いな」

 

 

「ですね」

 

 

親父も母ちゃんもがぶがぶ飲んでるからもっと美味いもんだと思っていたのだが現実はそうではないらしい。望月も初めて飲むお酒に対する感想はいいものではなく、すぐにグラスを置くと口直しにと唐揚げに手をつけた。

 

 

「お酒ってもっと美味しいんだと思ってたけどあんまりだね」

 

 

「まぁ、お酒ってビール以外にもありますし」

 

 

その他の評価も似たようなものだが涼風は半分ほど飲み終えており、鳴海は飲む前からビールが苦手だと分かっていたから最初から別のにしてるおかげが減りは早い。一方、桜はというと既に飲み干して「次は何にしよーかな」とメニューを見ては目を輝かせている。

これは男の立場ねぇなとちびちびとビールを減らしていく。

 

 

「そういえば、八幡くん最近色々と大変って聞いたけどどうなの?」

 

 

「あぁ、ホント大変」

 

 

そんな矮小な俺に優しく尋ねてきた星川に俺は過去の辛く険しい思い出を語るように口を開いた。聞いてくれるか俺の愚痴話。その凄い愚痴を聞かせたい。

 

 

「まずエフェクト班とかプログラム班の場所がバラバラだろ?社内の内線とかないから直接行かなきゃいけねぇし、それがめんどくさい」

 

 

「電話すればいいじゃん」

 

 

「俺に他人の電話番号を聞くスキルはない」

 

 

それに電話して休みとかだったら申し訳ないから見に行くのがめんどくさいけれど一番手っ取り早いのだ。しかし行く度に「またアイツかよ」「今度はなんだ」みたいな目を向けられないか不安になるくらいには女性耐性がない。

 

 

「あと、皆女の人。しかも全員歳上。あーもう無理。なんで男いねぇんだよ…」

 

 

「それは私に言われてもね…」

 

 

ここはきらら時空なのかってくらい男がいない。ごちうさでもタカヒロさんとかリゼパパがいるのにどうしてこの会社にはいないのだろうか。上司はだらしない金髪パンイチ女よりもダンディで物腰柔らかな人が良かったんだが。いや、嘘です。眼福なのは前者。

 

 

「はは……大変なんですね」

 

 

「けど、ハッチー上手くやってるってうみこさんが言ってたよ」

 

 

「それはうみこさんとは今の立場になる前から関わりがあったからな」

 

 

苦笑する鳴海と励ますような桜の言葉が辛い。けど、言った通りうみこさんとは親しい方だと思うし、あの人の性格も知ってるから連絡は手短に終わる。少し雑談も挟めるから心苦しい気持ちにはならない。それに時折心配して菓子折りとか薬莢とかくれる。薬莢は食えないし飲めない。

 

 

「てか、キャラデザの仕事はどうしてるの?」

 

 

「それは一応やってる」

 

 

量はまだ序盤だし合間合間にやらずとも簡単に片付けられる。適当にやるとゆん先輩にリテイクくらうだろうから今まで通りのクオリティでやってはいる。けれど、それがいつまで続くかという話だ。制作末期に入れば新規に修正画、その他諸々。さらには他との連絡もしなければならない。あ、俺このままいくと過労死ルートでは? という懸念もあるが、俺にはあのスケジュール管理の鬼である遠山さんがついている。多分大丈夫だろう。おそらく、きっと。

 

 

「夢が専業主夫だった男とは思えないね」

 

 

桜が感慨深そうに言う。お前は俺の母ちゃんか。

 

 

「……そうなんですか?」

 

 

「え? …あぁ、高校の時はな」

 

 

先程から話さずゆっくりとビールを飲み唐揚げやら焼き鳥やらを喰らっていた望月に聞かれ頷く。あの頃は若かった。そんな淡く無謀な幻想もありましたよ。けれども、少年はいつだって荒野を往くものだから仕方ない。

 

 

「…むぅ、私がもう少し歳上なら養えたのに」

 

 

頬を膨らませて儚げにため息をついた望月に俺は鳩が豆鉄砲を食らったように固まった。それはその呟きを聞いていた鳴海と桜も同じ。そして───────。

 

 

「八幡がまた女の子誑かしてる…」

 

 

面倒なやつのスイッチが入った。

 

 

###

 

 

説明しよう!涼風青葉はお子様なので、アルコールを1%以上摂取すると一瞬で酔って支離滅裂で俺に対して辛辣になるのである!

辛辣なのは酒を飲まなくても変わらないんですけどね。

 

 

「別に誑かしてはないだろ」

 

 

「誑かしてるよ!」

 

 

ダン!と机を叩くと涼風は俺を睨みつけてくる。こうなると誰にも手がつけられないんだよなぁ。鳴海が一応空気を察してくれてお冷を頼んでくれてるが、果たして効果があるかどうか。

 

 

「望月のアレはもし自分にお金があればお手伝いさん感覚で雇えるのにみたいなだろ」

 

 

決して俺を自分の夫して迎えたいからとかではないだろ。だよな? と望月の方に向いてみると彼女は俯いた。

 

 

「…レラジェとなら結婚してもいいかなとは思います」

 

 

「ほらぁ!」

 

 

「俺はレラジェじゃねぇ!」

 

 

アレかな、望月さんは酔うと現実と理想の狭間に閉じ込められるのかな。ちょっと先輩そういうのは痛いと思うな。うん。

 

 

「もも大丈夫飲みすぎてない?……ってまだ2杯目か」

 

 

「しかもこれアルコール低いやつだよ」

 

 

ビール1本で酔いが完全に回っている望月だが意識も言語もしっかりしている。おかしいのは思考のようで「レラジェと一緒に暮らせる……ふふ…」とどこか闇堕ちしている。まぁあれは保護者である鳴海に任せれば問題ないか。

 

 

「もも目が据わってるよ!大丈夫!?」

 

 

「大丈夫大丈夫…」

 

 

問題なんか何も無いよとは言えないな、これ。鳴海と桜は顔は赤くなってるが酔ってる様子はないが、涼風と望月はボーッとしており星川に関しては飲みながら微笑んでるから素面なのか酔ってるのかわからない。

 

 

「やっぱり歳上連れてくるべきだったんじゃないか?」

 

 

それこそうみこさんとか、あとはひふみ先輩とか? ひふみ先輩がいたら誘われなくても来るから一石二鳥だと思うんだが。

 

 

「そんなことしたらまた八幡がデレデレするじゃん!」

 

 

「失礼な」

 

 

デレデレはしてない。ただ対応が甘々なだけだ。むしろ、ひふみ先輩に対して不遜な態度を取って泣かせてしまうと捕まらないにしても退社は免れられないだろうからな。

 

 

「私だってもう子供じゃないんだから…えいっ!」

 

 

「あぁ!?あおっちそれ私の!?」

 

 

酒を飲んだくらいで大人になれると思ってるやつは大人になれない子供だぞ。あと、異性との行為に及んだらもう大人とか、俺だったら風俗にでも行かない限り永遠に子供のままじゃないか。

 

 

「まぁお酒って大人の飲み物ですからみんなそう思っちゃうんですよね」

 

 

「そういう奴が多いから未成年飲酒が横行するんだよな」

 

 

宅飲みだの一気飲みだのやりたきゃ法律的に認められてから他人の迷惑にならないように好きにやればいい。けれど、昨日何杯飲んだとか経験人数を誇らしげに自慢してくるやつは俺から言わせたら子供なんだよ。

ビールはやめて鳴海の頼んだ日本酒を注いでると目の前の2人が騒がしくなるそして顔を上げてみると。

 

 

「私は20歳だからいいの〜!!」

 

 

「ひゃあああああ!?」

 

 

何故か涼風が桜の頬に熱い口付けをしており、いつの間にやら2人はゆるゆり空間に引き込まれてたらしい。それに便乗して星川も桜に抱きつく。

 

 

「私も大人だよ〜〜!」

 

 

「ほたるんまで!」

 

 

あぁ、これがアヴァロンか。内面の知らない他人ならどれほど素晴らしかったことか。3人とも外見はそれなりに可愛いんだが中身がなぁ。やっぱり人間、知らなくてもいい事の方が多いよね。

 

 

「お水、お水沢山飲んでください。多少は良くなりますから」

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

ベロベロに酔っ払った2人に水を手渡した鳴海に桜は「慣れてるね…」と感心するような声を出す。そりゃ実家が旅館でその後継として育てられたらそうなるだろう。

 

 

「けど、それ日本酒じゃねぇの?」

 

 

「へっ……? あっ!?」

 

 

気づけば既に遅く、涼風も星川ももう飲んでおり幸せそうな笑顔を浮かべている。

 

 

「はぁ〜このお酒も美味しい。水みたい!」

 

 

「…それ日本酒だぞ」

 

 

「あ、八幡も同じの飲んでる…えへへ…」

 

 

なんだコイツ。酔いが一周まわって上機嫌になってる。まぁいいか。俺は助かるし、桜は介錯で頑張ってるし。けれど、俺は頑張らない。

 

 

「お酒と水を間違えるなんて私…旅館の娘失格だ…」

 

 

「いや、別にそこまで落ち込まなくても…」

 

 

「ここだってお母さんがご贔屓の蔵元さんに聞いて紹介してくれたお店だし…プログラムだってまだまだ…ふえ〜〜ん!やっぱり私は何にもできないダメな子なんだ〜〜!!!」

 

 

「よ、酔ってるの!?失敗もあの時くらいだし優秀でしょなるっちは!」

 

 

なるほど、鳴海は酔うと泣き上戸になるのか。こち亀の纏の兄ちゃんがそんなキャラだった気がするなぁとしみじみ思い出してると桜が視線でヘルプを求めてくる。鳴海が潰れたとなるとここで平静なのは俺だけだし、それは尤もなんだが。

 

 

「ほらお水飲んでお水」

 

 

「うん、ありがとう」

 

 

「だからそれはお酒!!」

 

 

別に俺がいなくても桜が全部やってくれるし俺は何もしなくてもいい気がする。けど、それだと桜がやけ酒したら俺が困るな。先に潰れておくかそれとも手伝うか。

 

 

「八幡さんも幻滅しましたよね…」

 

 

「あ?」

 

 

「ミスばっかで意地っ張りで胸もなくて…こんな取り柄のない私なんて…」

 

 

幻滅も何も鳴海にはなんの幻想も抱いてなかったんだが。というのは、言うとより面倒くさそうなので引っ込めた。

 

 

「大丈夫だよ。なるには料理があるじゃん」

 

 

「けど、けどぉ……それも無くなったら……う〜〜〜!」

 

 

もう桜でも止められないくらいになってしまった鳴海は望月に勧められた酒を飲むと「お米が違うだけでこんなに違うんだ…」と悟りを開き始めた。

桜に全てを託して帰ろうかしらと悩んでいると「あ」と声を上げた星川がこちらを向いた。

 

 

「そういえばさ、八幡くんは誰が好きなの?」

 

 

成人おめでとう会はさらなる局面へと突入した。





次回を修羅場にしたのは原作NEW GAME!の終わるタイミングが分からず、このままいくとちゃんとした終わりのないまま作品を投稿する日々になるな…と思ったのでここらでケリをつけようかなと思いました。長くなるとマンネリ化しますし、僕も書くのが面倒になってくるので……ということで、今年までには完結させようかなと。
個別ルートを用意するという話でしたが、ちょっと難しそうなので最低1人で絞ろうかなと。ハーレムはやっぱり書くのが億劫なので、ないです。とりあえず着地点が見つかって書く時間が出来次第書いていきます。ではでは。


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だから比企谷八幡は未だに問い続ける。

シリアス「おっ、前回の流れ的に出番か?」


 

 

人を好きになるってのはどういうことなんだろうか。20歳になった今でもその答えを出せずにいる。食べ物やゲーム、漫画の好き嫌いは簡単なのに何故か人だけはどうにも答えが出ない。

世の中には一目惚れという言葉があるが知れば知るほどそのピンクレンズは崩れていく。

結局、可愛いやカッコイイという容姿だけでは人は人を好きになれないし、それに人柄や文化、知識、仕草などが付与されていって最終的な到達点に至っても「この人といたい」と思えたならそれは好きではなく愛なのだろう。

けれども、比企谷八幡はそれを知らない。誰かを手放したくない。抱きしめたい。癒したい。笑顔にしたい。愛したくて愛されたい。そんな感情を持ち合わせたことは無い。

妹に対する愛はある。だがそれは妹だからだ。家族愛と呼ばれるもっと別のもの。崩したくても崩れないし、切りたくても切れない身体の中で繋がった縁がある故のモノ。妹だから、助けるし、悩んでたら話を聞く。でも、その愛する妹でさえ煩わしく感じることもある。

だからきっと、人は分かり合えない。それでも、分かり合いたい。気持ちを共有したいというあるかもわからず、存在も不確かなそれを求めるのは間違っているのだろうか。だが、俺は思うのだ。そうしたいと思える相手が本当に好きな相手なのではないかと。

 

 

「……で、誰が好きなの?」

 

 

聞こえないふりをしてやり過ごそうとした俺に星川は大きな瞳を細めて再度問いかけてくる。それに俺は一瞥すると、その際に涼風や桜、望月に鳴海の瞳も俺に注がれているのが視界に入った。

 

 

「さぁ…特にそういうのは」

 

 

事実、俺が好きと明確に思った相手はいない。涼風に向けるのは同期としての親愛かもしれないが、同期という括りを抜けばただの同僚にすぎない。桜は俺が適当な態度をとっても近づいてくる積極性とはいかないが親しみやすさがあるのかもしれない。望月と鳴海は同い年ではあるが後輩という立ち位置だから1歩引きつつも親身に接しようという気持ちはある。

でも、それだけだ。星川の言うような「好き」という感情ではない。好きか嫌いかで聞かれたら好きと答えるかもしれない。それも「LIKE」という意味でだ。好ましいだけで愛してるとか一緒にいたいみたいな異性関係に至りという気持ちではない。

 

 

「そうなんだ」

 

 

俺の言葉に星川は深くは追及はして来なかった。酔ってるが故にからかい半分での質問だったのだろう。それを証拠に今度は桜に同じような質問を振りかけた。

 

 

「えっ、私!?」

 

 

ぎょっと目を見開いた桜に星川は興味ありげに頷いた。

 

 

「ねねっちも大人なんだし、好きな人の1人や2人出来たでしょ」

 

 

「そ、そんなにいないよ!」

 

 

「じゃあ、1人はいるんだぁ〜」

 

 

「うっ…!」

 

 

自ら墓穴を掘った桜に星川は上機嫌そうに微笑んだ。涼風もそれに便乗して桜を弄るのではと思いきや、彼女は何故か俺を見つめていた。

 

 

「どうした」

 

 

そんなに見つめられたら気になっちゃう!

もしかするとまた酔いに任せた人格否定が始まるのではと危惧したのだが、水を飲んで幾分か落ち着いてるだろう涼風に俺は首を捻った。

 

 

「…ひふみ先輩は?ひふみ先輩のこと好きじゃないの?」

 

 

「は?」

 

 

唐突に出てきたその名前に俺は意図せずに間の抜けた声を出す。

 

 

「だってさ、八幡さ、ひふみ先輩のこといつも可愛い、可愛いって言うし」

 

 

え、そんなに言ってたっけ? 思ってもあまり口に出さないようにしてるんだが、アレかな? つい口に出ちゃったのを聞かれたのだろうか。

 

 

「そんなに言ってる?」

 

 

「まぁ…」

 

 

「割と?」

 

 

「というか目線でわかるよ」

 

 

鳴海と望月は僅かに首を傾げて同意し、桜に至ってはスパッと言いきられてしまった。えぇ…そんなに言ってないにょ…? と、かわいこぶってみるが心の中では意味が無いですね。

 

 

「まぁ、ひふみ先輩の可愛さは先輩としての可愛さというか、ほんわかしてて見てるこっちが癒される可愛さ……ほら、子供の頃のぬいぐるみみたいな」

 

 

子供の頃のぬいぐるみに癒しなど感じなかったが女の子にならこんなニュアンスで通じるだろうと口に出してみる。

 

 

「けど、八幡、ひふみ先輩と話してる時よく鼻の下伸ばしてるし、多分そういう愛くるしさを感じてるわけじゃないと思うよ」

 

 

「伸ばしてねぇよ」

 

 

伸ばしてないよね…? そんな盛った下劣な陽キャ男子大学生みたいな態度を俺が取るわけないじゃん。というか、俺の男子大学生に対する意見ってかなり辛辣だな。まぁ、一気飲みとかヤリサーとかのイメージが強いから故なんだろう。そうだ、涼風が俺がひふみ先輩に対して鼻の下を伸ばすくらいに好意を持ってると思われるのも俺への変なイメージが先行してるからだ。きっとそうに違いない。

 

 

「鼻の下は伸ばしてないですけど、ひふみ先輩と話した後、上機嫌ですよね」

 

 

「あーたしかに」

 

 

頑張って弁解の余地を探ろうとしてる矢先に鳴海が思い出したように呟くと桜も何か思い至ることがあったのか頷く。それに星川が「そうなの?」と尋ねると2人は頷く。

 

 

「ほら、やっぱり」

 

 

「ねぇここはいつから俺を糾弾する会になったの?」

 

 

ただでさえ女の子ばかりで肩身が狭いのに益々狭くなってるんだけど。大丈夫? 俺の座布団まだある?

 

 

「てか、俺がひふみ先輩を可愛いと思おうと勝手だろ」

 

 

実際可愛いんだし。髪も綺麗で肌もレイヤーだからか知らないけどツヤとハリがあるし、自信なさげなサファイアみたいな色の瞳とか最高だろ。

 

 

「そうだけどさ…」

 

 

「というか、八幡先輩って好きなタイプとか居ないんですか?」

 

 

「俺を養ってくれる人」

 

 

「それタイプじゃなくないですか…」

 

 

呆れるような声を出す鳴海に俺は胸を張り続ける。多分、今からでも俺を家で引き取ってくれる人がいたら退社する覚悟はある。けど、引き止められる際に遠山さんに脅されたりしたら考える間もなく居残る自信はある。

 

 

「…けど、それだと私のところとかいいんじゃないですか?」

 

 

「ん?」

 

 

どういうことかと「なるっち?」「ツバメちゃん?」という声を無視してその続きを促す。

 

 

「ほら、私の家って旅館じゃないですか。専業主夫になりたいんだったら、父と一緒に厨房にいれば大丈夫なんじゃないですか?」

 

 

「あー、まぁ、確かに?」

 

 

養ってほしいが何もしないでずっと家にいるのはアレだから専業主夫希望なんだが、鳴海の提案はアリかもしれない。鳴海の親父さんの料理を間近で見れて教えて貰えるってことだろ? しかも、味見やら廃棄があればタダ飯にありつける。

 

 

「…でも、それってなるのお母さんたちと一緒に暮らすんでしょ? 」

 

 

「え? うん、そうなるかな」

 

 

「…許してくれるの?」

 

 

望月の指摘に鳴海は「うっ」と顔を顰める。

 

 

「いや、けど私の代わりに跡継ぎが出来るかもしれないわけだし…」

 

 

「えっ、八幡さんに婿入りさせるの?」

 

 

「へっ?………えっ!??」

 

 

まぁ、さっきの流れだと俺が鳴海旅館を継ぐ流れだよな。でも、ただの従業員が跡を継ぐってのも変な話だと思うんだが、法的な問題はなかった気がするし…。

 

 

「わ、わた、私と八幡先輩が……!? へっ!?……そ、そんにゃ……」

 

 

よく分からないが顔を真っ赤にして頬を押さえてる鳴海に望月が水と称して新たな日本酒を勧めてるが見なかったことにしよう。

 

 

「それならウチなんてどうです? ウチは牧場ですから私有地は広いですし、両親も兄もガミガミした人じゃないですし」

 

 

「牧場だと人手がいるから駆り出されるんじゃないのか?」

 

 

「大丈夫ですよ。ちょっと牛の乳を絞って畑を耕すだけですから」

 

 

「ちょっとってどれくらい?」

 

 

「兄と一緒だとまずは30頭と2ヘクタールですかね」

 

 

うん、ちょっとって量じゃないね!しかも、それに牛の出産とか寒暖対策とかも合わせると結構労力かかるよね!

 

 

「それに今なら私の乳も……あ、今のナシで」

 

 

「お、おう」

 

 

なんだよそれ。いや、そう言われたからって何もしないけどね。それで採用しちゃうと俺が望月の胸しか見てないみたいになるから。あと、人手が欲しいからってそういう自分の身を売るやり方は感心しません!

 

 

「すみません、ちょっと酔いすぎたみたいです」

 

 

「…じゃあ水でも飲んでろ」

 

 

どうしてくれるんだよこの空気。いつの間にか俺を糾弾する会から離脱してるのはいいけども、これはこれで結構キツイな。何がきついって後輩に働き口を紹介されてることが。

 

 

「というか、容姿的なところでないの?こういうのが好きみたいなの」

 

 

「戸塚」

 

 

「だれそれ」

 

 

なんだと!?戸塚をご存知でない!?

星川は終身刑だな…。あの可愛さを知らないなんて。

 

 

「八幡の同級生で」

 

 

「すっごく可愛い男の子だよ!」

 

 

「へぇーそう……え? 男?」

 

 

そうなんだよなぁ…男なんだよなぁ。残念ながら。どうして神はこんなに俺に試練を与えるのだろうか。乗り越えようにも性別の壁と社会的視点に邪魔されるからな。とりあえず戸塚と外国に行く算段でもつけておくか。

 

 

「そういえば、ほたるんと似てるよね」

 

 

「あ、確かに!」

 

 

「えっ?」

 

 

「クリーム色っぽい綺麗な髪に」

 

 

「キメ細やかな白い肌に」

 

 

「大きくて輝く瞳に」

 

 

「華奢で小柄な身体とか」

 

 

涼風と桜が口々に言うと星川は「えっ?えっ?えっ…?」と当惑して、頬を抑える。

 

 

「ということは八幡君の好みは私…?」

 

 

「どうしてそうなった」

 

 

星川の異次元的理解力に自然と言葉が出てしまった。

 

 

「でも、戸塚君と外見的特徴が一致してるんでしょ?」

 

 

「性格が違う」

 

 

「あ、そっか……」

 

 

素直に真実を叩きつけてやった。戸塚以外が戸塚になれるわけないだろ。戸塚以外戸塚じゃないんだよ。当たり前だけどな。だから、星川は戸塚にはなれない。

 

 

「でも、チャンスはあるよね!」

 

 

「何が」

 

 

「好みの人と同じ特徴を持ってるんでしょ? じゃあ、八幡君が好きになれるように振る舞えばいいんだよね?」

 

 

「ちょっと何言ってるか分からない」

 

 

それだと星川のアイデンティティが消失するからよくないと思うんだが。それに、俺にわざわざ好きになってもらう必要も無いだろう。ということで星川の虚言は却下。やっぱり、星川に酒は危険なのだろう。これからは酒ありの食事に星川がいたら行くのはやめよう。そうしよう。

 

 

「まぁ、ほたるんの言ってることが分からないのはたまにあるから」

 

 

「大変だな」

 

 

「まぁ、そこ含めて親友だし」

 

 

親友……か。もしかすると、これも愛の1つの形なのかもしれないなと思う。涼風達だけでなく、望月と鳴海、八神さんと遠山さん、はじめさんとゆん先輩のように困ってたら駆けつけて、助けて、話を聞いて、共に笑い合う。家族ではないが、家族のような、もしくはそれ以上になれるかもしれない関係。そこに愛が生じないはずはない。

きっと彼女達はこれから仲を深める中ですれ違うことがあるだろう。けど、そこで躓かずに1歩1歩進んでいくのだろう。

 

 

「そうだよ〜〜!私たち親友だよ〜〜〜!!」

 

 

「うわっ、ちょっと!キスしないでっ!!」

 

 

「じゃあ、私も〜〜〜!!!」

 

 

「うわぁぁぁっっっ!!!?」

 

 

再び酔いの回った涼風から熱いパトスを受け取り、さらに星川からも逆の頬に口付けされ桜は目を白黒させる。けれど、驚きはしても嫌がる仕草はなく、どこか嬉しそうにしている。そういう気質があるのか、あるいは……。そこは本人でさえ分からないことなのかもしれない。

 

友情にせよ恋愛にせよ、知り合いや友達のままだったら楽しかったのに真剣に好きになればなるほど、つらいことや傷つくことは多くなる。

それでも、やっぱり人はいつの時代でも恋愛をするのだ。だから、俺もきっと真剣に好きになって辛くなって傷つくことがあっても、誰かを愛おしいと思える日が来るのだろうか。そんな分かりもしないことを考えながら氷の溶けきったグラスの中身を喉に流し込んだ。

 




シリアスは死んだ!もういない!けど、俺の胸に!灯火となって生き続ける!


まぁ、最初はシリアスムード全開にしようとしてたんですけど手が勝手に動いてシリアスムードから「逃げるんだよ〜〜!!!」してました。


後書き(その2)

書こうが書かまいがお気に入りは減るんですね。思い出しました。でも、感想とか評価コメントいただけて嬉しかったです。ハーレムじゃなかったり個別ルートがなかったりするのは申し訳ありませんが、近未来ハッピーエンド的な終わり方を目指せればなと。終わり方も誰かとくっついて終わるとかじゃなく、他の終わり方もあると思うので最善最高の終わり方を描きながら模索していきたいです。
まぁ、読者全員が納得する終わり方なんてどんな偉大な作家でも難しいというか不可能に近い事なんですけど、ひとまずは自分が満足出来る終わり方になればなと思います。ではでは。



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序曲は緩やかに奏でられる。

これは鎮魂歌ではない。帝王になる物語でも反逆でもない。
とある青年の日常の1ページである。


毎度の如く、イベントが終わればやってくるのはいつもの日常であり、今日も今日とてアリのようにせっせと働くばかりである。聞いたところによると、アリという集団は全てのアリが働いているというわけではないらしい。働きアリと働かないアリの2種類に分かれるらしく、俺もできれば後者が良かったのだが、そうもいかないのが世の中の常。

どういうわけか働きたくないと願ってるやつほど働かされて働いてしまうのだ。

 

 

「じゃあ、シナリオの流れはこんな感じでいいでしょうか…」

 

 

「いや、俺に言われましても」

 

ドッジボールファイト(仮)はただのドッジボールゲームではなく、ストーリーモードなるものが存在する。初期プランでは主人公達がドッジボール部を作って全国大会を目指すというものである。それに沿ってシナリオ班のリーダーと構想を練っているのだが。

 

 

「けど、ここ。もう少し戦う理由を増やした方がいいと思う」

 

 

「そこは大会ですし、理由がなくても勝手に戦うんじゃ」

 

 

「ダメ。それじゃプレイヤーは盛り上がれない」

 

 

「…はじめさんに伝えときます」

 

 

「うん、よろしく…」

 

 

そう言うと向けていた身体をパソコンへと戻し、再び作業に戻った。

はじめさんに頼まれて仕方なくやっているハシゴ仕事だが、俺はあくまで連絡役。自らの意見を出してはいけない。出せるのはせいぜい折衷案。増やさなくてもいい仕事を増やすのは効率的ではない。それがユーザーを楽しませるためでも、長くなって難しくなればユーザーは飽きる前に嫌気がさしてやめてしまう。だから、今のままが1番いいと思うのだが決めるのは今回の企画のはじめさんなのだ。

はじめさんは毎日来てるわけではないし、来ていても会議やら本来のモーション班の仕事で動けないこともあるので、それを踏まえた上で俺がこうして社内のあらゆるチームに出向いてははじめさんの意向を伝えている。けれども、そこに俺はおらずはじめさんがいる日は本人が動くため、俺は彼女が不在の日のレポートを書いて終わりなのだ。

 

 

「なんで引き受けたんだろ…」

 

 

そりゃあの場の雰囲気では断れなかったが、考える余地はあったのだ。もう少し時間をくださいと言って決断を渋ることも出来ただろう。ひふみ先輩に頑張れとエールを送れられたからってそう簡単に安請け合いをする俺ではない。リスクリターンの計算に定評のある男だぞ俺は。ノーリターンで自分の本来の仕事が圧迫される危険性があるハイリスクじゃねぇか。

でも、引き受けてしまった以上はやるしかないのだ。

 

 

「ディレクター補佐」

 

 

「なんだい?」

 

 

今度は先程のシナリオライターの意見をはじめさんがいない時の代行者…企画リーダーディレクター補佐という官職についた女性に報告せにゃならん。俺の直接の上司ではないが、このポストに収まってる上に歳上で先輩なので役職名で呼ぶのが適切なのだ。決して名前を覚えていないわけではない。

 

 

「シナリオ班からの提案まとめといたんで目を通したらはじめさんのデスクにお願いします」

 

 

「…うん、了解」

 

 

受け取ってほんの僅かな間に上から下まで文章に目を通したディレクター補佐はバインダーを自分の机の脇に置く。これで俺の仕事は終わり。なわけあるかい。今から自分の仕事じゃい。

似合わないことをやっている自覚はあるが、俺が適任だと言われれば仕方の無い事なのだ。確かに意図しないところで他所の手伝いをしたりしてしまって、一方的に認知されてはいる。けれど、連絡役というだけなら誰にでも務まる仕事だ。きっと、涼風や望月でもそれは可能だろう。

だが、どうして俺なのか。答えは明確なのかもしれない。涼風と望月には彼女らにしか描けない評価された絵がある。ゆん先輩にはADとしての責任があり、ひふみ先輩には彼女らを影から支える役割がある。では、俺には何があるというのだろうか。

 

 

「どうしたの八幡?」

 

 

覗き込まれるようにして涼風が見ていることに、名前を呼ばれるまで気付かなかった俺は乾いたような声を上げる。

 

 

「大丈夫?」

 

 

「…いや、大丈夫だ。ちょっと考え事をな」

 

 

大丈夫と聞かれるやつの大抵は大丈夫ではないのだが、俺は大丈夫だ。生きてるし、話せてるし、動くことが出来る。不安や絶望に苛まれて自分を押し殺されることはないし、自分という自覚が残っている。

だから、俺はまだ大丈夫なのだ。けれど、傍から見ればそうは映らないらしく気付けば周囲の視線が俺に集まっていた。

 

 

「大丈夫ですよ。ほら、この通り頼まれたキャラのモデリング出来ましたし。次はどいつをやればいいんだよ…休ませろよ…とか考えてたらちょっとぼうっとしてだけっすよ」

 

 

誤魔化すためか少し早口になり言わなくてもいい事まで言ってしまう。けれど、俺の減らず口を聞いて彼女達も「いつもの比企谷八幡」だと認識したのだろう。

 

 

「なんや休む暇なんてないで。はじめ次第ではまだ増えるかもしれんし」

 

 

「頑張りましょう、八幡さん」

 

 

ひふみ先輩はこの場にいないので彼女からのエールは受け取れないが、ゆん先輩と望月からの言葉に俺は頷きを返した。

 

 

「そっか…うん、まだこれからだし、頑張ろう!」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

そうは答えだがやはり身に入る気はしなかった。そもそも俺と彼女達とでは期待値も実力も何もかも違うのだ。俺にゲームキャラクターというものに心血を注ぐという気は無いし、このゲームを必ず成功させようという気持ちもない。

 

 

 

だったら、俺はどうしてここにいるのだろう。

 

 

 

 

###

 

 

季節は夏が終わって秋に入ろうかという頃合い。この季節の3年生はAO入試や専門学校への合格組を抜けば受験勉強真っ最中であり、県内でも有数の進学校という評判の総武高校では専門学校に志願する人間は多くはなく、9月までの進路決定者はAO入試合格者を含めても3年生の1割程度であった。

大体が推薦入試希望者で、国立や私学の中でも偏差値の高い大学を希望する者は年明け後に控えたセンター試験に向けてペンを走らせていた。

 

当時の比企谷八幡もその1人で学費の安く、奨学金制度も充実している私立文系の大学へ入学するべく勉学に励んでいた。3年になり文化祭と体育祭を終えて、控えている学校行事が卒業式だけとなり何の懸念もなく参考書を捲りながら過去問を解いていく。

 

文化祭が終わった時点で奉仕部の活動は停止し、それぞれ自らの進路実現のために努力を重ねている。

雪ノ下雪乃は姉とは違う大学の文系を目指し、由比ヶ浜結衣は動物関係もしくは子供と触れ合えるような職に就きたいという願いをいつでも選択できるようにと彼女の偏差値よりも上の大学に合格するべく雪ノ下と共に勉学している。

 

 

「ぬぅ、八幡、何故に真田幸村は教科書に名前が出てこんのだ?」

 

 

「知らねぇよ。文部科学省に聞け」

 

 

一方、俺はというといつまで経っても自らを剣豪将軍と名乗る男と共に絶賛勉強中である。おかしいな、本当は戸塚がいるはずだったのになー。でも、戸塚はテニス部の同級生達と図書館で勉学するらしい。俺もあの時にテニス部に入っておくべきだったと後悔したが時既に遅し。

 

 

「聞けば坂本龍馬ももしかしたら消えるとの噂。なんとも時の流れとは残酷なものよ」

 

 

「まぁ、受験制度が変わるらしいし仕方ないんじゃねぇの」

 

 

どうやらマーク式を廃止して筆記になるらしいし。詳しいことはよくは知らないが多分小町が受験する時にはそうなってるだろうしその時小町か母ちゃんに聞けばいい。

 

 

「てか、お前理系だろ?なんで文系の俺と勉強してんの?」

 

 

「ふっふっふっ……愚問だな比企谷八幡!」

 

 

そんな仰々しくしなくていいから、もう簡潔に答えだけを言ってくれ。そうやって答えを渋っていいのはCM前のバラエティ番組だけだぞ。

 

 

「理系の勉強は家で嫌なくらいやっておる!だから、外では貴様も知っているであろう日本史をやっているのだ!分からないことがあれば教えて貰えるからな!」

 

 

「悪いが俺は世界史専攻だぞ」

 

 

「ぶへらっぁっ!?」

 

 

今の今まで知らなかったのかよ。てっきり知っててやってるんだと思ってたんだが。

 

 

「というか、大丈夫なのか? お前の狙ってるとこ結構上の方の大学なんだろ?」

 

 

「うむ……今の我の戦闘力では到底敵わない相手よ…しかし我は模試と過去問の度に強くなる!」

 

 

「お前は勉強民族かよ。じゃあ、前の模試の結果は?」

 

 

「待てしかして希望せよ! 今回はEだったが来月にはAに…!」

 

 

「絶望的じゃねぇか…」

 

 

まぁ、俺も材木座のことをあれこれ言える立場ではないのだが。滑り止めはなんとかBになってたが志望校がDというのはどうなんだろうか。滑り止めのランクをひとつ上げても良さそうだとは思うがそうすると実家から通えなくなるしなぁ…。

 

 

「時に八幡、奉仕部の方々とはどうなのだ?」

 

 

「なんだ藪から棒に」

 

 

どうなんだって言われてもな。たまに部室で勉強会したり紅茶を飲みながら茶菓子をつつくくらいだが。

そもそも奉仕部は俺たちの代で終わりなのだ。平塚先生が転勤して顧問のいなくなったあの部室は自然消滅するはずだった。それを平塚先生が俺達が卒業するまで残して欲しいと校長や教頭に頼み込んだおかげで今も時々、職員室から鍵を借りてはあの戸を開くことが出来ている。けどそれは平塚先生の力だけでなく雪ノ下の成績の良さも関与してると思われるが。

とりあえず、特にいつもと変わらないということを伝えると材木座は「ほむほむ」と腕を組んで頷く。

 

 

「…八幡は受験はいつ終わるのだ?」

 

 

「推薦に受かれば年内だが、多分無理だから2月、3月くらいじゃねぇの」

 

 

自分のことなのに適当なのはいつもの事である。しかしだ。

 

 

「それがどうした?」

 

 

尋ねると材木座はポチポチとスマホを操作し始める。そして、ある画面を俺に見せた。

 

 

「6月に我が依頼したことを覚えてはいるか?」

 

 

「確かイラストを描いてくれ、だっけっか」

 

 

成績評価に関わる期末前になんてことをさせるんだとキレかけた記憶があるが、終わってみれば呆気なかったように思う。けれど、それがどうしたというのだろう。

 

 

「実はだな、アレを八幡の意思に関係なくネットに上げてな」

 

 

「は?」

 

 

何を勝手にやってくれちゃってんの? 俺が腰を上げて拳を握っていたのを見て材木座は焦りながらこれ以上下がれないというのに後ずさりをするように身を引く。

 

 

「ち、違うのだ!本題はそこではない!」

 

 

これを見てくれと材木座から渡されたスマホを見る。映し出されたイラストは擬人化したカラスが自分の羽根と盗難品で作った巨大な鎌を持って夕焼け雲を見ながら電柱に佇むという絵は、俺が厨二病の時に使っていたノートの落書きを参考にイラストの勉強をしてから描き直したものだ。それを材木座がスキャンしてネットにあげたのだろう。本当に何やってくれてんのとマジで軽く殴ろうかと思ったら、右下の吹き出しマークのアイコンに多くの数字がついていた。クリックしてみるとそこにあったのは『神秘的だ』『かっこいい』『これ何のキャラクター? オリジナル?』などの様々なコメントがその絵には寄せられていた。

 

 

「ど、どうだ? 驚いただろう?」

 

 

あぁ、驚いて声が出ない。何故か自慢げな材木座の顔にどうも思わないくらいに今の俺の心は揺れていた。世の中そんなに甘くはないはずのに、短時間で少し勉強しただけの自分の描いた絵で誰かを喜ばせる快感。画面の向こうで知らない誰かが俺の絵を見て、賞賛を口にする。中には酷いものもあり、心を傷めると思いきや過去に俺が言われた罵倒に比べたら大したことは無かった。

一時の感情に身を任せて冷静な思考のできなかった俺はそのコメントの中にあったメッセージに心を踊らせてしまった。

その日から受験勉強と同じくイラストの方に力を入れてしまった。まだ受験まで日数があるからと自らを甘やかした。けどその過程で、イラスト投稿サイトで自分の絵をあげていく中で一通のメールが届いた。





過去編を書くにはちょうどいい話だったので唐突な過去編。
思えばここまで続くと思ってなかったら入社の理由を考えてなかった……。ので、昔書いたやつを参考に。


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その答えは未だ得ず。けれど、答えを求めている。

この八幡はゆきのんの相棒になってない。
奉仕部は残ってはいるけど実質活動してない状態だった。
八幡が就職を選んだことで離散。結果、あのクリスマスまでずっと会っていなかった。





 

 

八幡は激怒した。なんとしてでも自分の絵を勝手にネットに晒した諸悪の根源材木座義輝を滅ぼさんと。しかし、それも自分宛に届いたメールを見て一変する。この度は突然のメール失礼しますという一言から綴られたメールには要約すれば、この絵を描いた俺に会いたいとのことで高3の受験前のクソ忙しい時期にんな事できるかよといった感想を抱く程度のものであった。

 

 

「それ断っといてくれ」

 

 

「なんと八幡、正気か!?」

 

 

「正気だよ」

 

 

会いたいだけなら俺にいく理由はない。ご返事下さいって書いてるから無理ですごめんなさいそういうのは私にとってのメリットを提示してからお願いしますとあざとい後輩のような謝罪文を送っておけばいいだろう。

 

 

「ふむぅ、もったいない気もするが…」

 

 

「問題ない。そもそも、その葉月しずくって誰なんだよ」

 

 

編集者だとしたら聞いたことあるはずなく、聞いたとしても「やべぇ!編集者だ!逃げろ!」となるのがオチだ。それに名前からして女性っぽいから余計に会いたくない。わぁ、女の子だ!と会いに行ってみたら「マジで来たよ、ぎゃははは」と陽キャが飛び出してくるに違いない。

 

 

「確かに。では、検索を始めよう」

 

 

材木座はそう言うと目を閉じて、白く本棚で埋め尽くされた世界へと入っていく。しかし、すぐに戻ってきて地球、果ては宇宙の情報まで検索ワードを打ち込めば導き出してくれるであろうインターネット様に葉月しずくという名前について問いかけた。

 

 

「こ、これは!?」

 

 

「どうした?」

 

 

大仰そうに驚く材木座だが、こうやって大したこともないことを大袈裟にするのは材木座の十八番であり、見慣れてる俺としてはまたいつものかとため息をつくしかない。多分、オチとしてはpixivのアカウントか何かで同じ名前が見つかったとかそういう感じだろう。

 

 

「は、八幡、これを見てみよ」

 

 

そう言って未だに震えた声でさも大事のようにスマホを渡して材木座を尻目に俺はスマートフォンの画面に目を落とした。すると、どうだろう。そこにはフェアリーズ・ストーリーの公式サイトが出ており、そしてStaffの項目の一番上、プロデューサーのところに葉月しずくの名前が映し出されていた。フェアリーズ・ストーリーといえば、今もなお人気が熱いRPGゲームで、キャラクターデザインを手かげている八神コウの名が世によく知らされた名作でもある。

 

 

「こ、これは1度会うべきなのではないか?」

 

 

「……」

 

 

その時、俺は持っていたシャープペンを置いて再び葉月しずくからのメールを見た。これを受験勉強を妨げる障壁と見るか、千載一遇のチャンスと見るか。どちらにせよ、このメールの差出人が葉月しずく本人という確証はない。だが、なりすまし特有のURLの添付はない。

 

 

「そのメールこっちに転送してくれ。あとで返しとく」

 

 

俺はそう言うと材木座の口ごもった応答も聞かずに目の前にある過去問を解くべくシャープペンを握った。しかし、頭に入ってくるのは問題内容ではなくイーグルジャンプの葉月しずくから「会って話をしてみたい」という言葉が連語の如く繰り返されていた。

 

 

 

 

###

 

 

 

結局、俺は葉月しずくと会うことを決めた。けれども、現れたのは葉月しずくではなく世間一般からすれば少し変わっているというべき人であった。図体は男性に近いものの、話し方は女性的で分かりやすくいえばおねェというやつで、名刺を渡されるまでは「葉月しずくってオカマだったのか…」という、美少女ゲームはオッサンがつくっているという俗説に対して新たなる俗説を生み出しそうになるところであった。

その時の会話の内容は、まずは俺の絵への賞賛。高校生が書いたようには思えないという絶賛の嵐ではあったが、俺はそれを気遣いと建前であることを理解していた。八神コウを有するイーグルジャンプが、名もなきただの高校生に対して、そんな美しく着飾った言葉を本心から連呼することはない。ただ、個性的でどこか悲しさを想起させるような絵というのは本心なのだろう。大抵の人間は個性的での後にポジティブな言葉を付け合された褒め言葉を言われると嬉しいものだ。

 

 

嘘や建前とわかっていても俺は上機嫌になってしまって、その人に対する警戒心を僅かに解いてしまった頃、ようやく話の本題へと進んだ。

 

 

「キミも知ってるとは思うけど、今度ウチは新しいゲームを出すの」

 

 

いや知らない。初耳だ。ゲーム雑誌は値段と量の割に読む部分が少ないので買わなくなったし、SNSはラノベ作家とイラストレーターしかフォローしていないので最新ゲーム情報は誰かのリツイートかトレンドに入らないと得られない。なんなら、最近は勉強のためにとSNSは見ないようにしているため、新作が出るなんて情報は初めてである。

 

 

「そんな肝心な時にキャラクターデザイナーが2人も辞めちゃうのよ」

 

 

「はぁ」

 

 

それは大変ですねなんて殊勝な言葉も出ず、ただ言葉を出すのが精一杯で俺は言葉の続きを待つ。

 

 

「それでね、次のはダークヒーローっていうか、敵にも個性を出したいと思っててそんなキャラクターが描ける子を探させてたらね!貴方がいたのよ!」

 

 

「へっ?」

 

 

「私が見つけたわけじゃないんだけどね。しずくが見せてきてね確かに貴方なら、あの子の要望と合致するんじゃないかと思ったわけ!」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

「しかも、貴方ちょうど高校三年生なんでしょ?だったら入社させちゃおうって!」

 

 

え、なにその「ユーやっちゃいなよ!」みたいな簡単なノリは。てか、そんな簡単に決めちゃっていいのか?俺の意思は?

 

 

「もちろん、キミの意思は尊重するわよ。大学に行きたいなら行ってくれていいし、他の会社に就職を決めてるなら無理にとは言わないわ」

 

 

心を読まれたのか、あるいは予め言おうと決めていたのかつらつらと御託を並べられ、俺は選択を迫られた。もちろん、この場で決めなくてもいいけど早めにねと花と名乗ったその人は席から立ち上がった。

 

 

「会計は払っておくわ」

 

 

そう言って彼…彼女?は立ち去っていき、ただ1人俺だけが取り残された。

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

そして、俺は結局誰に打ち明けるでもなくイーグルジャンプへの入社を決めた。専業主夫になりたいという夢は遅かれ早かれ捨てなければならなかったし、大学に進んでもその先就職出来るという保証はなかった。ということで、今なら少年少女が知っていて「俺、ここで働いてんだ」

と言ったらゲームの知識に詳しい人なら「え、すげーじゃん!」と言いそうな会社に就職した。なお、ゲームの知識に詳しい人間はおろか、イーグルジャンプに就職したと誇って言える友人などいない俺にとって会社の名前など意味がなかったのだが。

 

 

過去を振り返ってみたが、なんの為にここに入ったかと聞かれたら、内定が確定で社名がある程度世間に知られているからという誰に言っても良い感触を得られないようなものであった。とどのつまり、俺はリスクリターンの計算のみで、特に夢も希望もなくこの会社に飛び込んだということである。

 

 

「…断るべきだったか」

 

 

別にイーグルジャンプに入って後悔したことは無い。人間関係に女性が多すぎるという以外での不満はないし、どこの会社でもトラブルや残業は付き物だろうがここはさして多いということも無い。

だが、逆に充実しているかと聞かれたらそうでもない。未だに彼女なし、女性経験ゼロ。あと10年で魔法少女に就職出来るというところまで来てしまった。けれど、彼女がいたら俺が劇的に変わるわけでもないだろう。変わるのはせいぜい服装と音楽の趣味くらいではないだろうか。付き合ったことないからわかんねぇけど。

 

 

温くなったMAXコーヒーを喉に流し込んで踵を返す。気分転換をしたところで過去は変わらない。あの時ああしていればこうしていればというのはただ意味の無い思考であり、無意味な後悔にしか繋がらない。明日に生きろとか、未来を見据えろだなんて大層な考えはないが、せめて目の前にある仕事をこなしていれば何か意味を得ることができるのではないだろうか。

そんな淡くも儚い期待を抱きながら、俺はキーボードを叩いた。




年内に終わらせるとか言って終わらせなかったやつ〜!
NEW GAME!最新刊読んで書こうと思った書いたら出てきたのがしずくと原作にしか出てきてない「花ちゃん」という謎の人物。多分しずくと同期くらいの付き合いはありそうだから結構上の人なんだろうなと。
久しぶりに書いたら、考えていたことをほとんど忘れて、八幡がイーグルジャンプに入った経緯や意味は特にないというオチでした。

けれども、少しでも進めた気はするのでよかった思います。
ハーレムはないと決めたけど、誰とくっつけるか、はたまたくっつけないとかもキメてないカス野郎ですが、ちゃんと終わらせたいとは思ってるので気長にお待ちください。



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それでも比企谷八幡は変わっていない。

昔と違って書く気力が失われた感ありますねぇ、ありますあります…


世間がバレンタインというお菓子メーカーの策略に踊らされている中でも、社会人は仕事に次ぐ仕事である。外のひんやりとした空気とは違い、オフィス内は暖房によって過ごしやすくなっている。ずっと座っていると肩や首に血がたまる感覚がしてポキポキと鳴らしていると、隣から視線を感じた。

 

 

「どした」

 

 

「いや、最近なんか頑張ってるなぁって」

 

 

ごくごく自然に目線だけを動かして、視線の主へ問いかけるとなんだか感心するように、まるで俺がいつもは頑張っていないかのようなことを言われた。確かに俺は手を抜けるところは手を抜いて、やるべきところはしっかりと表面上は頑張ってやっている。あれ?もしかしてまるで全然ダメなのでは?

 

 

「まぁ、仕事だしな」

 

 

「そうじゃなく、なんて言うんだろ」

 

 

うーんと唸りながら涼風は考える素振りを取るも、だんだんと首を捻り始める。

 

 

「キャラデザは今まで通りだし、はじめさんの補佐もやってるし、でもなんだろな…」

 

 

言葉だけなら褒めてるように聞こえるのに、その声音はちょっと複雑な感じがするのはなんでなんですかね。元専業主夫志望にしてはめちゃくちゃ働いてる方だと思うんですけど。散々考えた挙句、涼風はにこりと笑った。

 

 

「わかんないや」

 

 

「なんだそれ」

 

 

けれど、まぁ俺は最近頑張っているのだろう。どこを、どのように、どうやってという具体的には言えないが頑張っているのは伝わっているというのはいい事だ。自分でできる範囲で目の前にある仕事をひたすら片付けていこうと決めた身としては、その成果を他人に認められるというのは喜ばしい。

 

 

「…これ売れるかな」

 

 

「知るか」

 

 

「ええっ!?」

 

 

これというのは今イーグルジャンプで作っているゲーム『デストラクション ドッヂボール』、略してDDBの事だろう。それ以外は知らない。涼風が画集を出すには早すぎるし、自作のポエムも書籍化するというのなら喜んでオフィス内に拡散しよう。買わないけどね!

 

 

 

「売れないと困るじゃん!私たちが何やってるか分からなくなるよ!」

 

 

ガララッと椅子のタイヤを回して俺の隣へ近づいてきた涼風がこちらを覗き込むように切迫してきた。相も変わらず紫がかったツインテールが揺れて、俺の首筋にかかってこそばゆい感覚が走る。幸いだったのは近づかれても胸部装甲が薄くて、スーツ姿だからあまり接触効果が薄いことだろうか。これがひふみ先輩だと間合いに入られた時点で即KO。求婚して拒否されセクハラで訴えられて社会的地位を失うところまで見えた。いや、そんなに好感度は低くないはず…ないよな?

 

 

「まぁ、心配しなくてもはじめさんが何とかするだろ」

 

 

あとは葉月さんとか大和さんとか。遠山さんがいるのも心強い。フェアリーズ・ストーリーを売り出したスペシャルでアドバンテージなプロデューサーとマーケティングリサーチの鬼がついていれば怖いものはないと思いたいが。

 

 

「そういや、発売時期が被ってるゲームがあるんだっけか」

 

 

一応、ゲーム会社に入ってからは他社のゲーム発売時期をチェックするようになってしまったのでそういう知識が入ってしまっている。別にやりたいなー欲しいとかそういうんじゃないよ。ほんとに。

 

 

「そうなんだよ!!」

 

 

「っおぉっ!?」

 

 

俺のそんな独り言に答えたのは隣にいた涼風ではなく、逆方向から唐突に俺の机を叩いたはじめさんであり、あまりにも急でしかも近くて岩盤に叩きつけられるような衝撃を受けてしまった。

 

 

「ダイナギアーズだよね!?私も体験版やってさ、めちゃくちゃ面白くてさ……それであれがDDBの10日後発売なんだって!」

 

 

他社のゲーム作品を褒めていいのかと聞かれたらダメですが、面白いものにはちゃんと面白いって言わなきゃダメだと思うのではじめさんの言葉は大正解。けれど、大声で言うのはやめましょうね。

俺が涼風に聞かれるであろうことを全部話してくれたはじめさんはやや興奮気味にそう言うと、俺の方を見た。

 

 

「それでさ、このゲームどうなんだろうって。本当に面白いのかな…って」

 

 

いや、それあんたが言っちゃダメだろ…。考案者が面白くないと思うゲームを誰が面白いと思うのだろうか。そう言いたかったが残念ながら俺にそんな根性はない。代わりに思ったことをズバズバと言える人に代弁してもらおう。

 

 

「なんやなんや、はじめが面白い思ってなかったら意味ないやんか!」

 

 

「ち、違うんだ。その、なんて言うかさ、面白いとは思うんだけど…これでいいのかなって…」

 

 

ふくれっ面のゆん先輩にはじめさんはぶんぶんと手を振る。まぁ、不安になるのは分からなくもない。自分が面白いと思ったものが他の人にも共感を得られるかどうかというのは。

 

 

「じゃあ聞いてみたらいいんじゃないですか?」

 

 

その他大勢には社外秘のため聞くことは出来ないが、ここにはゲームが出来ていく過程を見ていて何かしらの感想を抱いた人間はいるはずだ。それがポジティブだったり、ネガティブであるかは別の話だが。

 

 

「涼風、なんかないか?」

 

 

「へっ!?わたし!?」

 

 

他に誰がいるんですかねと目を向けると、ゆん先輩やはじめさん、さらには傍観していた望月の視線も集まる。

 

 

「え、えっと、面白いとは思うんですけど、キャッチのタイミングが簡単すぎるかなぁって」

 

 

「逆やろ。キャッチがむずい!取れん!せやから防御しててキメ技のゲージが溜まらへん」

 

 

涼風の意見にゆん先輩は腕を組みながら声と態度で反発する。けど、ここはゲームが得意不得意の差だと思うんだが。タイミング取るのってリズム感覚とかとは別ベクトルだから、俺でもできるし。言ってる事が逆の2人では参考にならないなと俺は望月に目配せする。

 

 

「私ですか?ゲーム自体は面白いと思うんですけど…思ったよりカメラが引きで細かい部分が潰れてしまうのでもっと単純なデザインにしておけば…と」

 

 

なるほどさすが根がゲーマーのやつは視点が違う。それに加えてキャラデザの視点も入ってきて、参考になりにくいな。これにははじめさんも苦笑いだ。はてさて、これでは改善点が見えてこないな…いや見えてきたら手直しが必要になるからいらないんだけどね。

 

 

「他にも聞いてみましょうか」

 

 

「うん」

 

 

 

とりあえず近場から順を追ってインタビューすることにした。となると、まずはハリネズミのマスコット人形が目につくひふみ先輩だろう。

 

 

「ふ、ふぇ、八幡に、はじめちゃん?ど、どうしたの?」

 

 

言葉と言葉の間隔はなくなったけど口篭りは相変わらずで可愛らしいひふみ先輩にDDBについて良いところや悪いところはないかと聞いてみた。

 

 

「わりとあっさりしてるかな…あ!いや!でも一般ユーザーくらいならこれが丁度いいと思うよ!!」

 

 

ガチゲーマーの本音に加えてのヲタク特有の早口。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。そうだよなぁ。ゲームショウのデモプレイで最高スコア出す人にとっては今回のゲームはかなり簡単な部類なのかもしれない。

 

 

「言ってる事がバラバラだ…」

 

 

メモを取りながらそう呟いたはじめさんの顔は浮かず、どうにも彼女の得たい意見とは違うらしい。賞賛も批判も大歓迎という感じなのだろうが、はじめさんに建前を使わずに本音で話す人間というのはやっぱりゆん先輩とか遠山さんや葉月さんくらいではないのだろうか。この場にはいないが八神さんも思ったことはすぐに言うタイプだから、こういう時は頼りになるのだがいない人に頼っても仕方あるまい。

 

 

「次行きましょ」

 

 

「う、うん…」

 

 

続いてやってきたのはプログラマーブース。今回は納期まで安定して仕事が出来ているらしく暗雲は漂っておらず、どこか弛緩した空気が流れていた。

 

 

「お、ハッチーとはじめさん」

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

いち早く俺とはじめさんに気づいた桜と鳴海が首を傾げ、追従するようにうみこさんも気づいたらしい。顔見知りでちゃんと話したことがあるのはこの3人くらいなので聞くならば、適役だろう。

 

 

「外野っているのかなーって、ちょっと思いますね。ただの球拾いだし」

 

 

「ミニゲームを追加してほしー!そして私が作る!!」

 

 

カールした髪をいじりながら何かドッヂボールで暗い経験があるのか鳴海がむくれながら言うと、逆に桜は意見ではなく誇らしげに自らの要望を口にした。最もそれは聞いていたうみこさんに却下されているが。

 

 

「なるちゃんのは一理あるかな…」

 

 

いや外野大事だと思いますよ。授業が終わるまで何もしなくていいって言う点では。内野にいてもボールは取れない触らせて貰えないし、なんなら1番当てやすいからと速攻で外野送りにされる上に、球の威力が強いんだよなぁ。そのあとはどちらかが力尽きるまで終わらないので、見てるだけで終わるから…まぁスポーツマンタイプはいればいいんじゃないかなと思います。

 

 

「現状リスクとリターンのバランスもいいと思います。ただ、よりライトユーザー向けにキャッチ時間増加などのリスク軽減は必要かと」

 

 

続いては企画班。常にユーザーを意識して、カスタマーサイドに立って仕事してるだけあって意見が的確で明瞭だ。はじめさんもうんうん唸りながら聞いており、リーダーデイレクター補佐の……えっとそう世界の破壊者みたいな名前した人。確かはじめさんがつかささんって呼んでたから間違いない。けど、「さ」で終わる人に「さん」付けってしにくいよな。おのれディケイド。

 

 

「凸凹があって防壁になるマップとか。キャッチ出来なかったら爆発するボールとか入れたら面白いと思う」

 

 

ステージギミックや特殊ボールというアイデアは既にあるものの、真新しさはなかったのでレベルデザイナーの人は参考になるなぁ。で、このチャイナ服着せたら似合いそうな人誰?

 

 

「もっと女の子キャラを増やしたいです…」

 

 

名前は知らないけど割と話したことのあるシナリオ担当の人の意見は、取り入れられるかは別として、確かにストーリーは男の子主体で女の子は少なめではある。けれど、ゲームだけでも男性は多い方がいいと思います。ほら、ここほとんど女性だしね。

 

 

「そういえば、八幡はどうなの?」

 

 

あとは葉月さん、遠山さんとなったところで当然というべきか俺に白羽の矢がたった。そういえばと思い出したように聞かれたが、はじめさんの目は真剣そのものであり、俺の言葉を待っている。

 

 

「俺は別に…けど、今の仕様なら買わないですね」

 

 

「え」

 

 

「概ね、聞いたことと変わりませんけど、付け加えるならドッヂボールで3対3って少ないですし、戦略性に幅が出ません」

 

 

「う、うん…」

 

 

「あとは発案者が面白くないって思ってるゲームは俺も面白くないんで」

 

 

「…へ?」

 

 

「じゃ、俺、仕事溜まってるんで。あとははじめさん1人でお願いします」

 

 

そう言って足早にはじめさんの前から消えて、ちょこっと給湯室に寄り道する。コソッと顔を出して俺のせいではじめさんが落ち込んでその場で泣きじゃくってないかを確認するが、その顔は先程の浮かないものではなく晴れやかなものになっていた。

 

 

「よしっ!」

 

 

はじめさんは自分の頬を叩いて気合を入れ直し、葉月さんのいるフロアへと急ぎ足で向かっていく。どうやら俺の心配したようなことはないらしい。ホッと一息つこうとする頬に温かい感触がし、振り向くと俺にマグカップを押し当てる遠山さんがいた。

 

 

「お疲れ様」

 

 

「ども」

 

 

一歩間違えたら火傷しますよという言葉を飲み込んで渡されたマグカップを受け取る。中はどうやら紅茶らしく、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。

 

 

「はじめちゃんのサポートしっかりやってるみたいね」

 

 

「はぁ、まぁ仕事なんで」

 

 

「ふふっ、そう」

 

 

そう仕事だから。きっとはじめさんのサポート役なんて仰せつかわらなければ俺ははじめさんを助けることも発破をかけるような真似はしなかっただろう。誰かに頼られて、褒められて図に乗って自己欲求を満たしたいとかそういうのはもうやめたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




割と書いてみたいネタはたくさんあるけどそれを言語化して物語する力がもうないので他力本願寺ってことで誰か書いて感がすごいですね。
やはり歳をとるってのはこういう事なんすねぇ(しみじみ)


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