わがはいは、わがはいである (ほりぃー)
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どこにいくとも、かぜのむくまま

 欠伸が出るような日だ。

 吾輩はうだるような夏の日が嫌いだ。こう熱いと何もする気が起きないのである。

 それにしても人間はやかましいものだ。こう熱いというのにあっちにいったりこっちにいったりと忙しく働いている。商売繁盛といえば結構結構、と言いたいところであるが吾輩の昼寝の邪魔だけはしてもらいたくないものである。吾輩は蝉の声も中々に嫌いである。

 

 のそのそ起き上がる。

 近くを通りかかった人の子共に一声挨拶をしておく。吾輩は挨拶にはうるさいのである。おや、子供達も吾輩へ挨拶を返してくれた。感心なことである。しかし、吾輩の声を真似するのはいかぬ。

 

 雑多な街中はいろんなものがあるのだ。

 呉服屋もあれば八百屋もあり、何を売っているのか吾輩にも分からぬ場所もある。しかし、道が舗装されているので歩きやすい。肉球が痛まぬことが何よりなのだ。

 

 おお、あっちからやってくるのは天秤棒の魚屋であるな。

 そこ行く人間よ、吾輩に一匹くらい魚を分けて欲しい物である。そう邪険にするではない。しっしと蚊を追い払うようにされると吾輩も考えがあるのだ。

 

 てやっ、とう。天秤棒の片側に頭から突っ込むのだ。おお頭が冷える。水が入っていたか。吾輩は綺麗好きでお風呂は大好きであるが。うむ。魚臭い水は少しどうかと思うのだ。

 かぶっ。よし。一匹魚を咥えてやったのである。小さなヤマメであるな。山魚の中では好きである。

 魚屋よそう怒るではない。吾輩を虫けらのように扱ったことがいかぬのであるぞ。魚どろぼうとは心外であるな。これは慰謝料なのである。と説明したいところではあるが「に」と「ゃ」では少し人とのこみゅにけーしょんは難しいのである。

 さて、逃げよう。これこれ、魚屋。魚泥棒を捕まえてくれなどと叫ぶでない。いずれ代わりにイチジクかグミかネズミでも持ってきてやるのである。

 

 人里の真ん中を奔ると風を感じるのである。子供達が吾輩を応援しているのである。

 むむ、魚屋に助っ人であるな。目の前に立ちふさがって来る者がおる。

 年端もいかぬ少女のようである。黒いリボンをした銀髪の女子。吾輩は今魚を咥えておるので威嚇してあげることはできぬ。許すのだ。いのちまではとらぬ。

 

 というよりもあの女子は腰に大小の刀を差しておるのである。むしろ吾輩のいのちをとらないで欲しいのである。

 それに肩に白い何かが乗っておる。もしやあれは人ではないかもしれぬ。

 吾輩はそうと知っていても前足と後ろ脚を止めることは出来ぬのだ。

 

「止まりなさい!」

 

 言われてもとまるわけにはいかぬ。左に曲がるのだ。

 

「この」

 

 甘いのだ。後ろ脚で地面を蹴れば右へ回れるのである。

 

「わわ」

 

 その緑のスカートの下を通り抜けていくのだ。おわっ。こやつ座りおった。まずいのである。スカートに囲まれてしまった。出られぬのである。落ち着くのだ。吾輩。

 

「つ、捕まえましたよ」

 

 よし。ヤマメをこの子の足にぬるぬると塗り付けてみるのである。吾輩も魚は好きだがぬるぬるは嫌いなのであるから。くらうがいい。ついでにお尻のあたりにヤマメをぶつけてみるのである。

 

「ひ、ひゃ」

 

 よし、飛びのいた。

 そして刀を抜きおった。

 わ、吾輩にそこまで本気になる意味があるのか。顔を真っ赤にしておるが、もとはと言えば吾輩を捕まえようとしたお主がいかぬのだ。

 

「ゆ、幽々子様のおやつを買いに来ただけだったのに……こ、この猫!」

 

 これはかなわぬ。吾輩は争い事は嫌いである。だがヤマメは返さぬ。それは吾輩の沽券にかかわるのだ。しかし、この殺気は凄まじい。おしりのあたりを触ったのがいかぬことだったのかもしれぬ。

 

 きょろきょろとすれば周りに人だかりができておるではないか。むむむ。これでは容易に逃げることができぬのだ。人間達の足元に逃げ込むこともできるが、それでは巻き添えにしてしまうかもしれぬ。紳士な吾輩にはそれはできぬ。断じてできぬ。

 しかしこの女子刀を振り回すなど穏やかではない。それにそう吾輩を睨みつけて威嚇するのもいかぬ。闘いとはこうするのである。

 

 こう、身体を、くねらせて。ヤマメは傍に置いて。お腹を見せる。どうだまいったか。

 

「……降参ということですか」

 

 ため息をついて女子が刀を納めておる。さらに吾輩はごろごろしてやるのだ。そうするとくすくすしながら近寄ってきておる。

 

「もう悪いことしてはいけませんよ」

 

 お腹を撫でるではない。おお、顎を触るな。眠くなる。だが心外なことがあるのだ。悪いことなどしておらぬ。簡単に刀を抜くようなおぬしにはきつーいおきゅうをすえ、うむうむ。顎の扱いがうまいではないか。

 

 ごろごろ。むむ、そうそうそのあたり。中々に才能があるぞおぬし。だが吾輩はきょうこない精神を持っているからして、そう簡単には屈服などせぬ。これはかの諸葛孔明のようなあれである。

 ばっと起き上がる吾輩。おどろく女子の胸へ飛び込むのだ。そりゃあ。吾輩のお腹を撫でたが運の尽きである。その体勢では踏ん張りがきくまいて。

 

「わっ。わあ」

 

 どすんばしん。転げた女子の胸の上で勝ち名乗りならぬ、勝ち鳴きをしておくのだ。吾輩に喧嘩で勝とうなど千年早い。見れば悔しそうな顔の女子。吾輩はささっと降りて、ささっとヤマメを咥えて、たったか走りさる。

 

「ま、まてぇ!!」

 

 くるりと一度だけ振り向いてやるのだ。倒れたままスカートがめくれておるぞ。吾輩はそれを注意してにゃーと鳴いてやる。伝わったかどうかはわからぬ。尻尾を二、三ふりふりしてから逃げるのである。

 

 

 

 ★

 

 お腹がいっぱいになった。吾輩は満足である。

 ここは行きつけの神社の縁側である。横にいつも座っておるのは赤白の服を着た女子は巫女というらしい。吾輩にたまにご飯をくれる、中々愛いやつである。

 

「あんたまたきたの」

 

 巫女はお茶をすすりながら吾輩に話しかけている。吾輩は律儀ににゃあにゃあと答えてやると巫女は少し笑ったようである。この女子吾輩の尻尾をぐにぐにする癖がある。大人な吾輩は我慢してやるのであるが、これが隣町の寅やらであればまたたび一つではたりぬ。

 

 こうして縁側でごろごろしながら、身体を伸ばすのは吾輩、一番の楽しみである。しっかりと毛をなめて艶を出したり。大きく誰にはばからず欠伸をするのである。人前で欠伸など出来ぬ。紳士な吾輩は礼節にもうるさいのである。

 

 巫女よ背中のそのあたりが撫でるのがすごくよい。手付きが中々様になってきたではないか。吾輩が育てた甲斐はある。これであればどこの猫を撫でても恥ずかしくはないぞ。

 

「あんた。どこから来たの? って猫に聞いてもわからないか」

(それがとんと吾輩にもわからぬ)

「……え?」

 

 どうしたのだ巫女。鳩が弾幕を食らったような顔をしておるぞ。

 

「今喋った? 疲れているのかしら」

 

 ふむふむ疲れておるのであれば吾輩。昼寝の極意を教えて進ぜようではないか。日差しが強すぎるところではいかぬ。こう、縁側の奥の方の陰になっている場所に身体を移して寝転がるのである。

 

「あ、こら奥に勝手に行くんじゃないわよ」

 

 両脇を持たれて宙に浮く吾輩。足が地面につかぬは少し気持ちが悪いことである。無理やり日差しの強い場所に持ってこられてもここでは寝れぬのだ。巫女よ。そのあたりのことは多めにみてくれぬだろうか。

 

「そうにゃあにゃあ鳴いたってあんたを飼う余裕なんてないわよ。用が済んだらいつも通り帰りなさい」

 

 やはり人とのこみゅにけーしょんは難しいのである。吾輩は仕方なく欠伸をする。

 

 

 

 

 

 

 



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のきしたでもあたたかいものである

 吾輩の辞書に不可能の文字はない。しかし、とんと文字という物は読めぬ。

 いきつけの神社で巫女が書物とにらめっこしているところを見ると、吾輩は思わずそんな面白くないことするくらいであれば、吾輩が遊んでやろうと目の前で転がるものだ。これがなかなかにコツがいる。巫女とて最初は一顧だにせぬ。

 

 根気がいるのである。ここでうるさくしてはいかぬ。ごろごろとしながら、巫女がこちらをみるまでやるのだ。その内にねこじゃらしなる、猫としては不名誉な遊ぶ道具を巫女が持ってくるが、吾輩は紳士である。文句ひとつ言わず巫女とあそんでやるのである。

 

 さて、今日はそれができぬ。

 ざあざあと雨の降る日である。地面を叩く音に耳をぴくぴくさせてみる、特に意味はない。退屈なのである。

 

「あんた。家にはいれないけど軒下ならいいわよ」

 

 巫女はいつも通り縁側にいる吾輩にそういった。どうやら今日の寝床を貸してくれるというのである。さらに少しのにぼしを吾輩の前に置いた。かりかりと食べていると巫女は雨戸を締めながら吾輩に話しかけてきた。

 

「今日は風が強いから。雨戸も締めるわよ、あんたもさっさと軒下でも潜ってなさい」

 

 にゃあと返事をしてやるのだ。ふむ。嵐が来ているのかもしれぬ。見れば木々が騒めく音が聞こえる。縁側には屋根はあるのだが、さっきから横風に飛ばされてきた雨が顔を打っておる。これはいかぬ。吾輩はしゅたっと縁側を降りてごそごそと軒下へ潜った。

 床の下は思いのほか暖かいものである。我は少し砂利を踏みしめながら奥へ歩みを進めるのだ。上ではどたどたと巫女の歩く音が聞こえる。それと合わせて後ろを見れば床と地面の間に雨の降る景色が見える。吾輩は濡れるのは嫌いであるが雨の日は嫌いではないのだ。

 

 どこで寝るかを考えねばならぬ。奥へ行くのだ。

 しかし、どうやら先客がおる。人間が軒下にもぐりこんでいるとは珍しいこともあるものである。吾輩は一声挨拶をする。礼儀作法には吾輩少しうるさいのである。

 

「わ! ななんだ。猫か」

 

 どうやら少女のようである。銀髪で白い着物を着ておる。ふむ、人里でもあまりみぬ恰好であるな。胸元に烏帽子を抱え込んで腹這いになった人間は吾輩初めてである。

 

「おぬし。ここに住んでおるのか? 我は太子様より重大な命令を授けられて張り込みをしておるのだ。騒ぐ出ないぞ!」

 

 耳に響くくらいに大きな声であるな。そもそも吾輩は何も言ってはおらぬ。ふと、耳をすませば床の上から巫女の声がする。

 

『な、なに? 今の声。どっかで聞いたことがあるような……』

 

 それを聞いてから目の前の少女が吾輩に抱き付いてきた。何故か吾輩の口を押えてくる。ここが納得がいかぬ。どう思ってみても先ほど騒いだのが悪い気がするのであるが。軒下で顔が近いのである。

 少女は床の天井を不安げに見ている。ばれぬか、ばれぬかと存外大きな声で騒ぐので吾輩の方が心配してしまうものである。

 

「猫よ……さ、騒ぐでなむぐ」

 

 吾輩、この少女が何をしているのか分からぬが悪人には見えぬ。だからよくしゃべる口に肉球を押し付けてやるのだ。

 

「な、なにをすむぐ」

 

 吾輩の親切な肉球を押しのけたのでもう一度押し付ける。まったく最近の軒下はやかましい物である。別の猫がいることもある。

 床の上ではどたどたと巫女の歩く音が聞こえてくる。目の前の少女も冷や汗を流しながら黙り込まざるを得ぬ。

 しばらくすると音も止んだようである。吾輩は少女から肉球を外して、代わりに自分の足でかゆいところを掻く。ああ、気持ちがいいのである。それから欠伸をしようとして、目の前の少女にいたことに吾輩は気が付く。

 不覚である。人前で欠伸をするなど礼儀に反するがこれは止められぬ。大きくそれをしてしまうと

 

「ふぁぁあ」

 

 少女も吾輩と同じように欠伸をするものである。これでお互いにふぇあといっていいのであるな。

 

 ★

 

「実は暇だったのだ。我はこうして一人でずっとここにおるが、やることがなくてな。一人でしりとりをしておった」

 

 吾輩と少女は横になって寝ている。しりとりとは何なのか吾輩にはわからぬが、吾輩は少女の言葉をこの耳で全て聞いておる。

 

「おぬし、しりとりはできるか」

 

 やったことはない。しかし、物はためしというもの。やれぬとは軽々には言えぬ。吾輩はにゃあと固い意志を表示する。それを見て少女はくすりと笑ったようである。少し間の抜けたところはあるが、白い肌が餅みたいで美味しそうである。もちろん食べぬ。

 

「意味のないことを聞いた。許せ……」

 

 少し眠たそうに吾輩に言う少女であるが、吾輩はしっかりとにゃあと鳴いたのである。ううむ、人とのこみゅにけーしょんの方法はないものか。しりとりとは何か分からぬがやってみたかったものである。言葉から察するにお尻をどうするかというものであろうな。吾輩はしっかりとわかっているのである。

 

「おぬし……名前はなんというのだ」

 

 少女はうつらうつらと吾輩に聞いてくるのだが、そこがとんと分からぬものの一つである。吾輩にも自分の名前は分からぬ。昔はいろいろと呼ばれたような気もするが、よく覚えておらぬ。

 

「我は……物部布都というのだ」

 

 ふと、というのであるか。良い名前であるな憶えやすいのである。ふと、いやこれは名前を呼んでおるのではないのだ。ふと、いや不意になんとなく思ったのであるが吾輩も何か名前が欲しいような気もしてくるのである。

 吾輩も名前を考えてみるものである。あまりありきたりな名前ではいかぬ。こう、吾輩はわがはいであるような、そんな吾輩だけの名前が欲しい物である。

 ふと、いや今度は名前を呼んでいる。憶えやすい名前ではあるが妙な引っ掛かりを覚える名前であるな。

 見ればふとは寝ている、すうすうと寝息を立てておる。吾輩も眠たくなってきたような気もするのだ。だが、吾輩は綺麗好きなのである。しっかりと毛づくろいを舌でしながら、外の雨の音を聞きながら眠る準備をするのである。

 

「うう……」

 

 ふとがもぞもぞと動いておる。もしかして寒いのかもしれぬ。吾輩周りを見てみれば砂利しかないのである。こんなものを掛けてもいやがらせにしかならぬ。仕方ないのである。吾輩はすすっとふとの胸元に歩み寄り。腕の間にもぐりこんでやるのだ。

 ふとは吾輩を少し強く抱き付いてくる。すりすりと無意識に背中に顔を押しあてて来るのはくすぐったいものである。吾輩、こういう時の為に毛並みのめんてなんすを怠ったことはないのである。

 

 ★

 

 いかぬ。少し寝てしまっていたようである。もぞもぞと動くとふとが吾輩を離さぬ。仕方ないのである。少し強引に体を引き抜いておる。

 雨の音が聞こえぬ。蝉の声すらも遠くに聞こえるのである。吾輩は外を見る。天井と床の間におれんじ色の地面が見える。どうやらもう夕方のようである。嵐は去っているのであろう。

 吾輩は寝ているふとににゃあと声を掛ける。すると寝ぼけていたのかふとも

 

「にゃあ……」

 

 と返すではないか。ううむ人間とこみゅにけーしょんが取れた気がするのである。それではと頭を吾輩は下げ、風邪を引かぬようにするのであるぞともう一度鳴くと、ふとは

 

「たいしぃ」

 

 とよくわからぬことを言う。まあいいのである。

 吾輩は軒下を歩き、外に出る。湿った地面を踏みしめて夕日の暖かさを身に受ける。

 空を見ればちぎれた雲がどこかに行こうとしているようで、山の間におれんじ色の太陽が沈もうとしているのである。

 今日も良い日であった。

 



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おんせんはしずかにはいるべきなのである

 吾輩は月夜が好きだ。涼しい風と、鈴虫の声を聞きながらぶらぶらと歩き回ることはなかなかにご機嫌なのである。

 空に浮かんだ大きな満月に吾輩はにゃあと挨拶をしておく。長い付き合いである。なんといっても吾輩が生まれた時からずっとお月様とは知り合いなのである。ただ、向こうから話しかけてきたことはないのが少し寂しいことである。

 

 吾輩はいろんなところを知っている。

ねこじゃらしの多く生える場所も、またたびのよく取れる場所も吾輩以上に知っておる者はおらぬと自負しているところだ。少し前に巫女が後をつけてきたのでお月様の良く見える場所に連れて行ったこともあるのである。

 

今日の腹は膨れている。ひょんなことで人里でご馳走になったのである。いずれはネズミでも取ってお礼に行かねばならぬ。しかし、ただでありついたわけではないのだ。人間の子供とてらこやで遊んでやったのである。吾輩は子供の面倒を見る程度はやぶさかではない。

そこにいた少し大きな人間の女性にいろいろと貰ったのである。周りからは先生と言われたのである。ふむ、吾輩も子供達に遊び方を教えたせんせいでないだろうか、それならば吾輩も少しそう呼ばれたいものである。

 

吾輩はそんなことを思いながら蛍の道を歩いていくのだ。夏は森が明るくてなかなかに歩きやすい。緑色のに光るあの虫を捕ることは勘弁している理由でもあるのだ。吾輩は一人である。いやお月様と二人であるか。

 最近見つけた良い場所がある。

 森の奥に進んで、山に向かって歩いていくと川があるのである。そこには何故か暖かいお湯の出る場所があるのである。吾輩、綺麗好きとはいえ水は多少冷たく苦手であるからよくそこで身体を洗いに行くのである。

 やはり毛のめんてなんすはたいせつであるのだ。それにその場所は吾輩以外に知っておる者はおらぬ。少し前に山の中にか、かん……かんけっつぇんせんたーなるものが出来たときくらいからお湯がでるようになったのである。

 少し名前が違っているかもしれぬ。しかし、吾輩とて度忘れはある。

 

 森を抜けると水の流れる音がしてくるのである。山から下りてきた川である。

 吾輩ざあっと流れていく川を見ながら歩くのが好きである。少しだけ水しぶきが舞い上がって顔にかかってくるのも中々に涼しいのであるが、冬場はいかぬ。

 そのまま河原を砂利を踏みしめながら歩くのであるが、足元が固いのである。歩きやすいのであるが、あとあと足が疲れてしまうのである。

 

 しかし、吾輩は知っておるのである。お湯に足を付けておけば明日には肉球が良い具合になるのである。これが生きる知恵と吾輩自負しておる。

 

 岩をしゅったと昇り、上り。吾輩は進んでいくのである。空を見上げれば星が流れるようである。天の川と人間は言っておるようで星の川とは吾輩も泳いでみたいものだ。どんな魚がおるのであろうか。ヤマメがおれば文句はないのである。

 

 湯気が立っておる。ついたのである。てんねんぶろというやつであるな。今度巫女を連れてきてもいいかもしれぬ。いや、教えてしまえば吾輩以外も知ることになる。迷うところだ。

 岩と岩の隙間に満々と張られたお湯は少し深い。吾輩は前足を半分だけ入れてみるが、底には着かぬ。

 横に小川を見ながら暖かい湯気に当たっていると吾輩はごろりと横になる。意識的にしたわけではない。ただ、河原の石が暖められてごろごろしていると何とも言えぬ。吾輩は空で遊んでいる星を見上げながら、ゆうがなりらっくすをしてみるのである。

 おお、浅いお湯だまりがあるではないか。吾輩は思わずそこにのそのそ入ってみる。吾輩の体を半分にも満たぬ深さであるから、ううむ。

 

 ううむ。

 ちゃぷちゃぷ、くしくし。ふぁあ。ごろごろ。

 は!? 吾輩今は我を忘れておったところである。不覚である。こんなところを誰かに視られよう物ならば末代までの恥であるな。

 

「気持ちいいですか?」

 

 ふゅぎゃああぁ。

 吾輩飛び上がってしまったのである。それに今の声は、アレである。違う。違うのだ。みれば吾輩のすぐ横に顔がある。このお湯だまり、すぐ横に人が入れるくらいのてんねんの湯船があるのだ。そこに先客がおったとは、吾輩も今日は不覚が多い。

 

 吾輩に話しかけてきたのはどうやら女子(おなご) であるようだ。おお、瞳が紅いのである。ふむ。吾輩の姿が其処に映っておる。なかなか、はんさむではないか。

 その女子は珍しい髪の色をしているのだ。紫の髪がしっとり濡れておる。ううむ。どうやら吾輩が来るずっと前からりらっくすしていたようであるな。小さな敗北感があるのである。

 

「…………」

 

 この女子、動かぬ。うっすらと笑いながら吾輩をじっと見ておる。こやつできる。両方の肘をつきながらそこに顔を載せてじっと見てくる。持久戦というものであるな。吾輩も負けてはおられぬ。

 

「たまたま見つけた温泉でたまたま出会うのも一つの偶然でしょうか。偶然と言えば最近地震は起こっていませんが猫は地震の時にはどこにいるのですか?」

 

 ん? と言う感じで顔を傾ける女子。吾輩もつられて首を傾げてしまったのである。それに気をよくしたのかこの女子はにっこりと笑っているのである。むむ。よくわからぬ。だがまあ笑うことはいいことである。

 ここは吾輩がおとなの対応をせねばならぬ。先に入られてしまったことは寛大に許すのである。だがしかし、この女子吾輩の前足を掴んでぷにぷにと肉球を触るのはいただけぬ。しかし、この女子は肌も命と聞く。前に見たゆでたまごのような肌をひっかくのは気が引けるのである。

 

 終わらぬ。さっきからずっと吾輩と女子は手と手を取り合って握手を続けておる。たまに顎を撫でてくるのでそれは、まあ許してもよいのだが、女子が少し大きく動くたびにその体がお湯を弾いて顔にかかる。

 しかし、文句は言わぬ。吾輩は紳士であるからして、耐えて耐え抜くのである。吾輩は肉球を掴まれながらそっぽを向いておるかのようなくーるな顔をしなくてはならぬ。これも一つのマナーである。

 

「知らぬような顔ですね……」

 

 女子は少し不満のようであるが吾輩とて子供ではない。引っ張られてもはしゃぐことはできぬ。いや、引っ張るでない。そっちは深いから行ってはならぬ。この女子は吾輩をお湯の中に引きずり込む気であるな。

 ちょっとこの女子の顔がにやけているのは気のせいなのであろうか。

 それならばこちらとて考えがあるのである。吾輩は、こと何かしらの駆け引きが得意の得意なのである。こういう場合は押して駄目なら引いてみろと、今日会ったてらこやで聞いておいたのである。

 吾輩は後ろ脚に力を入れて、女子に飛びつく。水しぶきを上げて女子が驚いているのである。吾輩をお湯の中に引きこんで驚かせようとするなど百年くらい早いような気がするのである。

逆に飛びかかって女子の肩に両の前足を掛け、そこから頭のてっぺんまで登って行くつもり、なのであるがこの女子肌が滑る。肩に前足を掛けたままのぼれぬ。ふぬ。むむむ。だんだんと体が下がっていくのだ。

 

後ろ脚をばだばださせて上を見れば、女子がニコニコしながら見下ろしているのである。無様な吾輩を笑っているのであろう。肩から前足が抜けていく。やられっぱなしで悔しいとしか思えぬ。

 女子の首元に噛みやすそうな骨があるのだ。甘噛みしておどろ、滑るのである。もういかぬが最後に一矢を報いるのだ。

 

「ひゃ、さこつをな、なめ」

 

 どぼん。ばしゃん。吾輩は沈んだ。

 

 

 



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わがはいはまなぁをしっておるのである

 吾輩は夜が好きである。特に理由はない。静まった街を横切ればかすかに美味しそうな香りがするときがあると、ふらふらと人家に入っていきそうになるのである。しかし、吾輩は紳士であるから、そんなことはせぬ。

 吾輩が歩くと鈴の音が響く。昨日巫女の買い物になんともなしにぼでぇがーどとして付いていったら無理やり付けられたのである。これが吾輩、自分では外せぬ。だから吾輩は夜の人里で一人演奏するよりほかない。

 ちりんちりんと夜空に吸い込まれていくような音であるな。ふむ、なかなかどうして。いやいや吾輩はただ無理やり付けられただけで気に入っているわけではない。断じてこのようなお洒落はこうはな吾輩には似合わぬ。

 人里を歩いていると前からマントを付けた赤髪の少女が歩いてくる。吾輩はこういった時に挨拶は欠かさぬ。にゃあと鳴いてお辞儀をする。これがまなぁという物であるな。相手は吾輩の毅然とした態度にひるんだようで、手加減してやるべきであったかも知れぬ。

 

「わ、なんだネコか。なんだか新しい鈴をつけているわね。きらきらしている」

 

 そうであろう。

 いやいや、吾輩は気に入っているわけではない。鈴など付けていては綺麗な音が、いやいや首に巻かれて迷惑をしているのである。しかし、巫女も吾輩にいつも煮干しをくれるから、仕方なく付けているのである。

 

「うりうり」

 

 吾輩の心情を介さない赤髪の少女がしゃがんで頭を撫でてくると、吾輩は眼を瞑って応じてやるのだ。夜道で出会ったのも何かの縁であろう。ここはじゃれついてくる少女と遊ぶのもやぶさかではない。

 ごろり、ごろごろ。

 

「お腹? お腹がいいのかしら?」

 

 赤髪は吾輩が寝転がると直ぐにお腹を撫でてくるのである。む、むむむ。この状態で顔を触ろうとするでない。吾輩は躾けの為に顔に延ばされた指をパンチで落とすのである。

 

「ふふ、あはは」

 

 なんか笑っているのである。まあ、笑うのはいいことだから良しとしよう。この少女も夜中に歩いているのなどおそらく寂しかったに違いない。吾輩はそのあたりもしっかりとわかっているのである。それが大人の吾輩である。

 そう思っていると少女が首を傾けて覗き込んで来るのだ。むむう、そんなに角度を付けて覗き込んだら痛いのではないだろうか。吾輩もなんとなく首を傾げてしまう。と、思っていると少女の首が落ち、落ちたのである!

 

「あ、しまった」

 

 ころころ転がる生首が喋っておる、妖怪の類だったようであるな。吾輩は最初から分かっておった。残されたからだがのそのそと生首を追っていく、吾輩は一人寝転がっている。

 

 

 珍しいものを見れるものだ。昔はあんなものは見れなんだ。いや、吾輩は昔など覚えてはおらぬ。だが、木の股から生まれたでもなし。きっとどこかに思い出を落としてきてしまったのであろう。

 ふむ、どうやれば拾えるのであるか。思い出の拾い方は博識な吾輩にもとんと見当がつかぬ。今度巫女にも尋ねてみたいところであるが、にゃあと鳴いても巫女はたまにだけ「にゃあ」と返すだけでこみゅにけーしょんが取れぬ。

 

 そう深い思索をしながら吾輩はお寺にやってきたのであるが、本堂に今日は用事はないのである。それにもう皆が寝ているであろう。

たまに髪の色が妙な女性から色々と食べ物を分けてもらえるものだ。勘違いしてはならぬ。吾輩も蝉の抜け殻などを持ってきてはお返しをしておる。そのたびに頭を撫でてくれるのが中々に良い。

 さて、裏手に回れば広いお墓である。四角の墓石が並ぶ、その間を吾輩は歩く。お供え物などが置いてあるが吾輩はそれに手を付けたりはせぬ。それが誇り高き吾輩のまなぁという物であるな。

 

「あ、猫だ。にゃあにゃあ」

 

 にゃあ。

 変な羽根を生やした黒髪の少女が通り過ぎて行ったのである。しかし、スカートが短いのである。あれはいかぬと巫女が言っておった。吾輩もそれには同感である。こけたら怪我をするではないか。うむ、よく考えればあれも妖やもしれぬ。まあ、少女である。鬼や天狗やぬえのような大妖怪ではあるまい。

 

 吾輩はきょろきょろとあたりを見回すのである。墓石をそれぞれ物色する。何を隠そうこう顔を付けるとひんやりして気もちいのである。暑い夜には墓で寝るのが良い。偶に傘を持った声の大きな青髪がいると、うるさくて寝れぬが吾輩は大人であるから何も言わぬ。

 

「なんだお前はー?」

 

 にゃあ。後ろを振り向けば何だか妙な格好をした少女が立って居る。頭に紫に星マークの帽子を被っておるのはいいとしても額にお札のような物を付けているのだ。どう見ても普通ではないのである。

 

「くえるのかー? もぐもぐ」

 

 むむ、吾輩を食らう気であるか。そうはさせぬ、吾輩は体を伸ばして強力に威嚇する。なーご、なぁああご。

どうだまいったか。

 

「やるってのかぁ。もぐもぐ」

 

 相手も両手を前に突き出した格好で構えておる。なかなかやるやもしれぬ。この勝負先が見えぬのである。それにしてもこの少女さっきからゴマ団子を口に入れて喋っているのである。口からぼろぼろ胡麻を落としているのでわかるのだ。

 それはお供え物に違いないのである。吾輩が後で、いやいやお供え物に手を出すとは不届き千万であるな。吾輩とその少女は一歩も引かずににらみ合うのである。

 

「我々は崇高な霊廟を守るために生み出された戦士だぁ。ここからたーちーさーれぇぇ」

 

 なあぁああご!

 

「なんて言っているのかわからないけど。ちーかーよーるーなー」

 

 ふぎゃあぁ!

 

「にゃあー!」

 

 にゃああ!

 

「にゃぁあああ!」

 

 にゃああああ!

 

 自分でやっておいて訳が分からぬ。巫女やふとにも吾輩はこみゅにけーしょんはできぬがこの娘にはなおさらできぬ。年頃の少女が口からゴマを落としながらしゃべるのも承服できぬ。

 しかし食われるわけにはいかぬ。吾輩はまだ生きていなければいけぬのだ。

 

 

「こうなったらぁ。実力行使だぁ!」

 

 ばっと少女が飛びかかって来るのである。中々に早いが吾輩には遅い。ぱっと避けて、墓石に激突する少女を横目で見るのだ。がこんばきん、頭から墓石に突っ込んで変な音がしているのである。

 だ、大丈夫であろうか。ちょっと心配なのである。吾輩は紳士であるから敵とはいえ情けもかける。こういうのを敵にヤマメを送るというのである。

 お尻を突き出した変な格好で少女が倒れている。

動かぬ。頭に貼ってあった妙な札も地面に落ちているのだ。

 大丈夫であるか? 大丈夫であるか? 吾輩周りをちりんちりん動き回るのである。こういう時には焦ってはいかぬ。落ち着かなくてはいかぬ。むむ。にゃあにゃあ。

 

「……ぇ」

 

 少女が動いているのである。良かったのである。良かったのである。むくりと起き上がってお尻を地面に付けたまま空を見上げているのだ。

 

「う、ぇえええん」

 

 泣きだした。これはいかぬ。ほれほれ、尻尾であるぞ。肉球もあるのである。

 

「……ぇええん」

 

 ぽろぽろ大粒の涙を流してやまぬ。吾輩は困った。お腹を見せても反応すらせぬ。何かないのであろうか、は。気が付いてしまったのである。しかしこれは、いやいや少女を泣かせていては吾輩は表を歩けぬ。

 吾輩は少女の膝に載る。爪をたててはいかぬ。胸元に手をおいて身体を伸ばし、頬を嘗める。涙で潤んだ眼がこちらを見たのである。

 

 吾輩はちりんちりんと首元で輝く鈴を何度かならす。れでぃに渡せるものはこれしかないのである。泣き止んでくれねば困る。

 空を見れば満月が大きい。巫女へなんと言い訳をするべきであろう。

 



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しゅくめいのたいけつ

 吾輩は綺麗好きである。くしくしと右手を嘗めてから左手を嘗める。ここをよくよくまじめにやらねばならぬ。吾輩は忙しいのであるが、昼下がりの木陰で小一時間それに没頭せざるを得ぬ。

 一度毛並みの手入れをし始めると止まらぬ。

 それに今日は天気が良いのである。こんな日は心も軽いものである。ここにヤマメでもあれば言う事はないのであるが、あいにく食べるものはない。吾輩は人里に行くか神社に行くか迷う所である。ふむむ。

 神社に行くのであれば何か手土産でも持っていかねばなるまい。ネズミなどあたりにおればいいのであるが、見当たらぬ。巫女とてご馳走に小躍りするであろう。吾輩はご馳走は自分で食べずに分け与える紳士なのである。

 

「はあ、おもいおもい」

 

 びくっ。

いやいや吾輩は驚いたわけではない。いきなり横に人が座ってきてちょっと体が動いただけのことなのだ。断じて驚いておらぬ。見れば頭に鈴のついた髪留めをした少女ではないか、驚くに値はせぬ。背中に背負っておった紐で結んだ本を地面に下ろして、手で顔を扇いでおる。

鈴は持っておらぬ。そのことで今朝、巫女に怒られたのである。

 

「あぁ~阿求のやつこれだけ借りて一気に返すんだから。たまったもんじゃないわ」

 

 少女は吾輩に気が付いておらぬようで一人で喋っておる。しかし本とは興味深いのである。吾輩は字は読めぬが、それでいかぬと最近思い始めてきたのである。巫女も読書をしておる。人里を歩けば書物を手にしておる者は吾輩の腕で数え切れぬほどである。

猫も杓子もと言うではないか。ところで杓子とはなんであろうか。吾輩にはわからぬ。しかし、挑戦をしなければいかぬのだ。吾輩はそう思って少女に近づいてみる。鈴の少女は少し驚いたようであるが、吾輩はにゃあと一声してお辞儀をする。

 

「え? こ、この猫今おじぎしなかったかしら」

 

 驚く前に吾輩へ返礼もあっていいものである。

 

「え、えっとこんにちは」

 

 鈴の少女がそういうので吾輩は一声返してやるのだ。それを聞いて少女はまたのけぞった。いちいち動きが大きいのである。

 

「……じ、実は化け猫とかじゃないわよね……」

 

 失礼である。吾輩はれっきとした正真正銘の猫であるが、と思いつつも吾輩「化け猫」が何を持ってそういうのかわからぬ。しかし吾輩は違う。この前に視た人の姿をした尻尾が二つに分かれた猫は多分化け猫であろう。

 吾輩は深い思案をしていると、少女はまだ吾輩を疑いの目で見ておる。うむ。しかしその手に持ったねこじゃらしはなんであろうか、吾輩がそんなもので遊ぶと思っておるのであろうか。この。目の前で振るではない、にゃあにゃあ! ぱんちをお見舞いするのである。

 

「あはは。やっぱり普通の猫ね」

 

 鈴の少女は猫じゃらしを素早く動かすから吾輩の顔に当たって仕方ない。ほ、白刃取り。失敗である。この毛むくじゃらの先っぽを抑え込まねばならぬ。何故か吾輩それに熱中してしまうのだ。

 噛めぬ、つかめぬ。鈴の少女はいつの間にか吾輩と同じく寝ころんでニコニコしておる。むう。今日はここまでにしておいてやると、吾輩は許してやるのである。

 

「あれ、ほらねこじゃらし、ねこじゃらし」

 

 吾輩の尻にねこじゃらしを当てるのはやめるのである。この鈴の少女はよくわからぬ。吾輩はそっぽを向いて伏せる。鈴の少女はそれに不満のようであるが、ねこじゃらしを高速で動かすのはいかぬ。普通にとれぬ。

 

 今日は風が気持ちいいのであるな。吾輩はこんな日も好きなのである。いや吾輩嫌いな日がない。朝も昼も夜も、雨もお天道様の日も好きである。雪の日はまあ、好きである。そう考えれば世の中には良い日しかない。

 

 隣でぱらぱらと音がするのである。吾輩思わず耳をぴくりとさせてしまうのである。ちらっと横を見れば鈴の少女が本を開いて真剣なまなざしで見つめておる。積まれた本の束から取ったのであろう。

 何故人間は文字を楽しんでみるのであろうか、吾輩はそれが知りたいものである。しかし、今はいかぬ。さっきまでねこじゃらしで顔を叩かれた後である。

 吾輩はじっと鈴の少女の顔を見てみる。大きな目であるな。真正面から見れば鏡のように吾輩が映るのかもしれぬ。しかし今は本が映っておるのであろうか。

 

「わ」

 

 吾輩はたまらず鈴の少女のあぐらを掻いている真ん中に飛び乗った。そしてすかさずに開かれた本を見る。ううむ、墨の匂いがする。吾輩はこの匂いが好きでも嫌いでもないのである。

 これは漢字というものであろうか、吾輩は肉球で文字に触ってみる。しかし、鈴の少女が吾輩を片手で抱いて直ぐに引き離してしまったのである。

 

「だめよ、汚しちゃ」

 

 むむ。言いがかりである。吾輩は汚そうとしておるのではない。単に文字に触ってみたかっただけである。にゃあと抗議すると鈴の少女は、

 

「あとでねこじゃらしで遊んであげるから」

 

 と吾輩望んでもいないことを言われてしまう。どこかに吾輩とこみゅにけーしょんのとれる人はおらぬものであろうか。吾輩がそれが残念でならぬ。人間と話すことができればヤマメを平和に譲ってもらえるかもしれぬ。

 

 

 本を重ねて背負った鈴の少女が遠くを歩いていく。吾輩はただ静かに見送るだけである。視よ、この吾輩の周りに散らばったねこじゃらしを。遊び疲れて吾輩はくたくたである。途中で鈴の少女が両手でねこじゃらしを持ちながら「にとうりゅう」と眼をキラリとさせながら言ってきたが、何のことかわからぬ。

 

 吾輩は再び草の上で寝ころびながら毛並みのめんてなんすを行うのである。しかし、よくよく考えれば何も食べてはおらぬ。腹も減ったが艶を出さねばならぬ。忙しさに目が回ってしまいそうになるのだ。

 

 空を見ればお天道様も昇りきっておる。吾輩は毛並みのめんてなんすにひと段落が付くとむっくりと毅然に起き上がるのである。ちょっとどこからかいい匂いがするのもあるのだ。見れば鈴の少女が歩いて行った道から、逆にこちらに来る者がおる。手に大きな包みを抱えいるがどうやら饅頭であるな。

 美味しそうに食べ歩きしておるのだ。あれだけ持っているのであれば丁寧に礼儀を尽くせば吾輩にも少しはくれるかも知れぬ。だから吾輩は艶を出した毛並みと毅然とした歩みで歩いてくる者に近寄って見るのだ。

 

 灰色の髪に大きな耳のような物がある少女である。なんであろうか、あの耳はネズミのようである。それによくよく見れば尻尾もあるではないか、おそらく妖の類であろう。それにしても口いっぱいに饅頭を詰め込んでおるのがやはり吾輩にはネズミに見えるのである。

 

 にゃあにゃあ。吾輩は丁寧に頼み込んでみる。

 

「……なんだ猫か」

 

 その少女は赤い瞳をしておる。あと首から綺麗なぺんだんとをしておる。

 

「猫にあげる物はないね」

 

 ふんと鼻を鳴らして少女は足で吾輩を追い払おうとする。吾輩がこれだけ頭を下げておるのに一顧だにせぬ。むむ。これはいかぬ。少女がネズミに似ているのもあるが。吾輩は怒った。

 少女は穴の開いた妙なスカートをしておるが、太腿は出ておる。吾輩は紳士であるから女子に牙はたてぬ。しかし吾輩を邪険にした足を許せぬ。だからさっと後ろに回ってから足首のあたりを嘗めてみるのだ。

 

「ひ、ひい」

 

 少女は何か言って飛び跳ねた。

 

「な、なにするんだ。この猫! あ、あれ? ど、どこにいった」

 

 この手を使う時はすぐに離れなければならぬ。しかし、吾輩はこの時気が付いてはおらなんだが、吾輩はネズミの少女と争ううんめいなのである。

 

 

 

 

 

 

 



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そらをとぶのもひとくろうである

――吾輩は食べぬ。

 

「そりゃないぜ、せっかく取ってきたのに」

 

 吾輩の前で金髪の白黒の娘があからさまに肩を落とした。帽子を深くかぶってやれやれと首を振るところも芝居がかっているのである。確かに吾輩は腹をすかしている、それは正直なところである。

 

「ほらほら」

 

 どう言っても吾輩とてどこで取ってきたかわからぬ赤いキノコなど絶対に口にせぬ。

この金髪の娘は何度も巫女の所に遊びに来ておるから、吾輩、顔見知りなのである。名前ももちろん知っておる。ただ少し思い出せぬだけなのである。

 

「ちぇ、せっかく毒見させてみようと思ったんだけどなぁ」

 

 ふむ。吾輩はそんなことは既に見切っていたのである。それに神社の片隅で日向ぼっこをしておった吾輩ににやにや近づいてきた時から怪しいと思っていたのである。吾輩のような紳士であれば、妙な物を口にすることはないのである。

 にぼしであれば考えぬこともない。

 吾輩は目の前の赤いキノコを前足でどかしてから、日向ぼっこに戻るのである。空にはお天道様が輝いておる。こんな日には吾輩は横になって動かぬ。だから吾輩のお腹を指でつつくのはやめるのである。白黒の娘よ。

 

「猫はいいなぁ」

 

 なにやら羨ましがられているのであるな。ふむ、隣の芝生は青いと申すではないか。人の子も吾輩もそういう物なのである。しかし芝生とは吾輩羨ましいのである。あの巫女も神社に芝生を植えてはくれぬものかにゃ、いや。植えてくれぬものであろうか。

 吾輩は横になったまま前足と後ろ足を延ばしてリラックスするのである。ううむ、この体勢はなんどやっても楽であるな。前に「ふと」と寝た時もこんな感じであったのだ。

 

「このきのこ食べてもいいぜ?」

 

 だから食べぬ。赤いキノコなど食べて腹でも壊せばどうなるかわかった物ではない。

 それにしても首筋がかゆい。吾輩はむっくりと起き上がって、後ろ足でごしごしと首元を掻いてみるのである。おお、おおお。気もちいい、のである。

 ところでこの娘の名前を思い出したのである。確か、まりさとかいう気がするのである。巫女がそういっていたのを吾輩はちゃんと覚えていたのである。そういえば巫女の名前はなんであったか。

 

 にゃあと聞いてみようとまりさを見れば両手を組んで吾輩を睨んでおる。だが、ふと何を思いついたのかにやにやしだした。吾輩その顔によからぬものを感じて、離れようとするとまりさに飛びつかれた。むむ、痛いのである。

 吾輩は脇を抱えられて宙を浮く。巫女と言いまりさといいこの持ち方をよくするのであるが、多少恥ずかしいのである。紳士な吾輩としては抗議したいところではある。

 まりさはそんな吾輩の心が通じたわけではないであろうが、片腕で吾輩を胸元に抱きかかえた、首が少々つらい。上を見ればまだにやにやしておる。空いた片手で近くにあった箒を掴んでまりさはそれにまたがった。

 

 まりさは神社にある巫女の住む母屋に叫んだ。耳元で叫ばれるとうるさいのである。

 

「れーむ! ちょっと空をとんでくるぜ!」

 

 ★

 

 わわわ、吾輩は吾輩である。

 少し下を見ればふわふわの雲が見えているのである。断じて焦って等おらぬ。まりさの腕にしがみついておるのではない。あたる風の冷たさを感じれば、まりさとて寒かろうと思って抱き付いてあげておるだけである。

 

 どこまでも広がる青い空にお天道様が近いのである。ひゅうひゅうと耳元でなる風は冬の風のようである。吾輩は顔を上げてみれば歯を見せて笑っておる、まりさがいる。吾輩もいたずらをすることはあるが、空を飛ぶことはせぬ。

 

 遥か下に人里が見えるのである。

 ああ、あすこにはヤマメを分けてもらう魚屋がおるのであろう。そういえばこの前刀を振り回していた少女は何をしているのであろうか、何故か脳裏に昔のことが思い出されてならぬ。

 

「おやおや、そんなに急がれてどこに行かれるんですか?」

「げ! おまえは」

「人の顔をみてそれはご挨拶ですね」

 

 吾輩の傍で何か聞こえてくるのである。見れば吾輩と魔理沙の上を悠々とついてくる娘がおる。頭に赤い紐を付けた六角形の帽子をかぶった、黒髪のものである。ちょっと耳が尖っておるのは、ふむなんとなく噛みついてみたいのである。

 

「魔理沙さん。猫なんて抱えて、もしかしてなにか異変でも?」

 

 妙に近くを飛んでくるのである。みればまりさも胡散臭げな顔をしておる。そんなことにはお構いなしに六角帽子はシャツの胸元からメモ帳を取り出してずいずい顔を近づけてくる。こんなに早く飛んでいるのに世間話をしてくるとは、こやつできる。

 

「ああ、もう、うっとおしい! ちょっと買い物に行くだけだぜ」

「ほうほう」

 

 何が面白いのか六角帽子がメモを取っておるのである。吾輩もいつかメモをしてみたいのである。それにはまず勉強せねばならぬ。しかし六角帽子はにやりと歯を見せて笑っておる。手にはいつの間にかキャメラが一つ。吾輩は国際派であるからいんぐりっしゅもできるのである。

 

「まあ、記事なんていくらでもおもしろくできるわ。とりあえず魔理沙さん、写真を一枚」

「そういうのをねつぞうっていうんだろっ! 今はそんなことしている暇はないぜ」

 

 ぎゅんと吾輩の頭に音が鳴る、と錯覚したのである。とたんに風が吾輩の顔を叩く。まりさが空中を箒を傾けて、一直線に天空から地上へ降りていくのだ。ううむ、うううむ。止まってくれ。

 

「いいですねその真面目な表情。猫さんもこっち見てください」

 

 六角帽子がすぐ横にいるのである! キャメラを手に悠々ついてきておる。侮れぬ。まりさもそう感じてか、横に上に下にぐるぐるぐる飛んでは落ちては上っては一回転をくり返して逃げようとするのだ。

 

 ぱしゃ。と音がするのだ。

 いつの間にかまりさと吾輩の前に先回りした、六角帽子がさかさまに飛んでキャメラで吾輩たちを撮ってきた。むむむ、た、魂だけは取ってほしくはない。

 

「わあぁああ!」

 

 耳元でまりさの叫び声するのである。六角帽子に驚いたのであろう。

途端に吾輩、空を自分で飛んでいるような錯覚を覚えた、おお世界が回っておる。手を伸ばしているまりさが遠ざかっている。吾輩はついに自分で飛べるようになったのかもしれぬ。

 

「おっと、危ない」

 

 六角帽子の体に当たった。しかし、その瞬間に視たのはにたりとしている六角帽子の悪そうな顔である。この娘の体に沿ってころころと吾輩転がるのだ、捕まえてはくれぬ。おお。

 

「ああ、両手がカメラでふさがっていて捕まえられませんね」

 

 わざとらしい声がするのだ。しかし吾輩は諦めぬ。前足を伸ばして必死に縋りつくのだ、ずるりと何かの手ごたえがあった。ただ目の前が真っ暗で何も見えぬ。それでいて落ちていく感触がするのだ。遠くで悲鳴も聞こえる。

 ああ、吾輩の猫生もこれで終わりであろうか。もっとねこじゃらしで遊びたかったのである。黒い布で前が見えぬ。

 

 だが、吾輩の体を抱きとめてくれたものがおる。

 

「ふう、危なかったぜ」

 

 この声はまりさであろう。恩に着るのは、もとはと言えばまりさが連れてきたのが悪いのである。と思いつつ、それは紳士ではない。素直ににゃあにゃあと抱き付いて感謝するのである。

 まりさが吾輩の顔から黒い布を取ってくれたのである。なんであろうかこれは。よく見れば金色の柄に紅葉の模様などもあるのである。

 

「あいつ、これがないと困るだろうな。ま、人を捏造記事なんて書こうとするからじごーじとくだぜ」

 

 そう言ってまりさは空の真ん中で黒い布を捨てた。

 

 

 




※投稿時間をみすりました、来週からまた11時投稿します


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わがはいはしりたくなってきたのである

 吾輩は散歩が好きである。ぽてぽてと何も考えることなしに歩いていると、ふといいことを考え付いたりするのである。吾輩は何も考えていないつもりであるが、景色をみていると頭に浮かぶことがあるのだ。

 

 吾輩はそんなわけで堂々と街道を歩くのだ。お天道様が少し傾いてきたお昼過ぎであるから、すれ違う人間達はせわしくなく歩いてくのだ。

おお、布都ではないか。と吾輩は知り合いにはちゃんと挨拶をするのだ。

 

「おお、おぬしは」

 

 布都は良い娘である。布都はかがんで吾輩の顎の下を触って来る。ごろごろ。

 

「おぬし。元気であるか」

 

 布都も元気そうであるな。それでは吾輩は忙しいから行くのである。布都も名残惜しそうに手を振ってどこかに行くのだ。それにしてもどこに行くのであろうか、たまたまあの娘にであったが、人はいつもどこに行くのであろう。何をしに行くのか気になるところである。

 意外と本人達にも分かってはいないのかもしれぬ。それは吾輩とて同じであるが、そもそも散歩とはそういう物であろう。

 

 ★

 

 散歩とは近くへの旅であろうな。と吾輩は神社へ帰る道が遠いことに気が付いてから思ったのである。調子にのって遠くまで来てしまったかもしれぬ。野宿してもよいのであるが、たまには神社へ顔を出さねば巫女が寂しがるかもしれぬ。

 吾輩は紳士であるからちゃんとご機嫌を伺いに行くのである。その時に煮干しを少し分けてもらえればいう事はにゃあしかないのである。

 

 とは思うのであるが、今日はもう神社は遠いのである。幻想郷は吾輩の庭のような物ではあるのだが、ままならぬ。仕方ないので吾輩は草むらに腰を下ろして欠伸をしてから、今日の予定を立てるのである。

 おお、そうだ。りんのすけの所であれば雨露しのげるかもしれぬ。吾輩はそう思って体を起こしてから歩き出した。胸を張りつつ、尻尾を振りながら歩くのが紳士な歩き方なのである。そういえば前に知人に渡した鈴はどうなったのであろうか、なんとなく思い出したのである。

 

 魔法の森という所があるのである。吾輩もたまに入るのであるが、人間だけで入るのはあまりおすすめせぬ。吾輩も最初入って迷ったことがあるのである、あの時はありすと会わなければ吾輩はお腹がへってしまったかもしれぬ。

 しかし、今日は入らぬ。こんどありすにはせみでも持って行ってあげようと思っている。きっと喜ぶであろう。吾輩がそんなことを思いながらぽてぽて歩いていると、目的の場所に着いたのである。

 

  大きな木の下にこじんまりとしたお店がある。そこには「香霖堂」と書かれているが吾輩には読めぬ。ふむ、あれは漢字であろう。裏手には大きくて、頑丈そうな倉があるのである。その壁に立てかけられているのは外の世界のじてんしゃとかいう物であるな、その周りにも珍妙なものが並んでおるのである。

 あれはどーろひょうしきだとかてれびだとかとりんのすけが言っていたのである。外の世界の何かしらであるが、吾輩にはとんとその使い方が分からぬ。吾輩はそんな使い方の分からぬものにもにゃあと挨拶をしておくのである。いつか物にも心が宿るやもしれぬ。

 

 吾輩には暖簾は高い。入口から入るといつも通り中は暗いのである。そこには吾輩にもわからぬいろいろなものがあるのだ。りんのすけには困ったものである。吾輩も光る物くらいはひみつのねぐらに集めているのであるが、ここには所狭しとガラクタが置いてあるのである。

 

 まあ、吾輩には良い寝床になるので許してやるのである。さて、りんのすけは今どこにいるのであろうか。そう思って吾輩は店の中を歩き回ってみるのである。外はもう暗くなる手前であるが、店内はもっと暗いのである。

 まあるいランプにほのかに点る明りを頼りに吾輩はきょろきょろとりんのすけを探す。しかし、よくよく考えれば吾輩夜目は効くのである。半端なあかりで目をぱちぱちするから、くしくしと顔を掻いてみる。

 おお、誰かいるのである。吾輩はカビの匂いのする棚と棚の間をするりと抜けていくのだ。そこには樽に腰掛けて本を読んでいる妖怪がいるのである。なんでわかるかというならば、髪の毛が白と青で角が生えているならば人間とはいえぬ。

 

「……」

 

 吾輩はその本を読んでいる妖怪に頭を下げてそろそろと離れるのだ。こういうところで邪魔をせぬのが紳士のたしなみといっていいであろう。

 物音がした。今度こそりんのすけであろうか。吾輩はあわてて飛び出したが、近くのガラクタの山を崩してしまったのである。後ろでなにか小さな驚いた声がするのは、聞こえないこととするのである。

 吾輩が音のした方へ行ってみるとまたりんのすけではない。むう、いつになったら食事にありつけるのであろうか。前にりんのすけに分けてもらった「かりかり」をまた食べたいものである。

 

「あら、ねこのお客さん?」

 

 そこにいたのは妙なシャツを着た娘であった。首輪のような物を付けて、そこから鎖が三本伸びているのである。その鎖には一つ一つ色の違う「ボール」がついて宙を浮いているである。頭の上にボールを乗っけているところが珍妙としか言えぬ。スカートも妙な柄である。

 

「奇妙なものを置いてある店があるからって来てみたけど、店主は留守。ざんねんね、猫さん」

 

 ふむ、りんのすけは留守であるか。吾輩は少々肩を落とすのである。この娘も何かを探しに来たのであろうか、手に持っているのはやはり吾輩にもよくわからない何かである。小さなリングと手のひらより小さな箱に見える。

 

「ああ、これはポケットベルよ。懐かしいから手に取ってしまった」

 

 吾輩の目線で察してくれたのか、娘は応えてくれた。しかし、ぽけっとべるとはなんであろうか。いんぐりっしゅであろうとおもうのである。

 しかし、その変なシャツの娘はその疑問には応えてはくれぬ。ぽけっとべるなるものを適当に棚に押し込んで、腰をかがめて吾輩を撫でる。

 

「こんなところで迷っているなんて、迷子……迷い猫?」

 

 吾輩は迷ってはおらぬ。ただ、娘とはやはりこみゅにけーしょんはとれぬ。

 

「まあ、ここには忘れられたものが集まっている。この猫が迷い込んでしまったのもそれだけの理由かもしれない」

 

 言っている意味が分からぬ。しかし見上げれば物が詰まった棚。天井にも何かわからぬものが吊ってあるのである。そういえば、この物たちも迷い込んだのかもしれぬ。

 だがよいではないか、迷い込んだ先でも楽しめるであろう。吾輩は迷ってはおらぬが、明日はどこに行くかは知らぬ。それより変なシャツではあるがよい手つき、ごろごろ。

 

「お客さんか」

 

 りんのすけの声がするのである。吾輩と変なシャツは声の方向を見て、同じように動くのである。おお、この娘裸足である奇妙な。吾輩はその横をするりと抜けようとして、尻尾が触ってしまったのである。

 

「く、くすぐったい」

 

 変なシャツがよろけて棚に手を突こうとするので吾輩を無視してかけよったりんのすけが抱き留めたのである。ちょっと吾輩を抱くときのような形で変なシャツをりんのすけがかかえておる。

 

「あぶないな。倒れたら一大事だった。商品が……」

 

 吾輩はそれを傍観しているのである。ふむ、昼頃も思ったのであるが吾輩は今日であった者が何者で、何をしているかを知らぬ。そう考えるとむくむくと知りたい気持ちが湧いてくるの感じる。

 

 ところで棚の間から本を抱えた妖怪がなぜか顔をむくれさせて突っ立っているのである。何か怒ることがあったのであろうか。

 



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そうだおてらにいこう

 最近吾輩は良い発見をしたのである。行きつけの神社のお参りする場所にさいせんばこなるものがあるのだ。吾輩はそれに乗って一つお昼寝をしてみたのであるが、これが中々に良い。偶に来る参拝客にはしっかりと挨拶もしておるから巫女も文句はないであろう。

 

 中を覗き込むとほとんど何も入ってはおらぬ。お金を入れるというが、おかねという物を何故人が欲しがるのか吾輩にはわからぬ。あれは嘗めてみたが、どうともいえぬ味である。

 

 あれを貰えるのならば、吾輩は煮干しの方がよい。そんな形で吾輩は賽銭箱の上で思索にふけっているのである。

 

「あんた、なにやってるのよ」

 

 吾輩は体を起こす。見ればちょっと怒った顔の巫女が立っているのである。手に持った箒が怖い。まあ、落ち着くのだ巫女よ、吾輩は何もやってはおらぬ。たださいせんばこの上を少し借りているだけである。

 

「降りなさいっ!」

 

 巫女が箒を吾輩に向けて振ってくるものだから、吾輩はバッと飛び上がって避ける。ううむ。急な事だったので巫女にとびかかる形になった。

 

「ふゅぎゃ」

 

 失敬。顔にのしかかってしまったのである。巫女が変な声を出している。

 すぐにどこう。だが巫女よ、気に食わぬからと言って暴力はいけぬ。吾輩はそう冷静になるように「にゃあ」と鳴きながら地面に降りる。見上げてみれば巫女はこめかみをぴくぴくしながら怒っておるのである。

 

 これはいかぬ。

 吾輩はまるでウサギのようにその場から離れた。後ろから巫女の声がするが、ううむ。少し申し訳ないかもしれぬ。あのさいせんばことやらはそんなに大切なものなのであろうか。ならば今度は蝉の抜け殻でも入れておけば許してくれるであろうか。

 

 

 さて、今日は神社には行けぬ。

 そうだ、寺に行くのである。

今日はあのひじきはおるであろうか、うむ。たしか名前はひじきであったと思うのであるが、うろ覚えかもしれぬ。それにしても昨日りんのすけにご馳走してもらった「ひじきのかんづめ」とやらはうまかったのである。

 

 ――ふむ。消費期限切れていても食べられるのか。缶詰とは便利な……

 

 りんのすけが意味の分からないことを言っておったのが気になるところではあるが、吾輩は思いもかけずにご馳走にありつけてよかった。吾輩は昨日のことを思い出しながらとことこ道を歩くのだ。

 

 神社から見れば人里の向こうに「寺」はある。中々遠いので片方に行けば、もう片方にはいかぬが今日は仕方ない。前に行ったときは夜であった。

 お天道様が真上から少し傾くくらいの時間歩くと、目的のお寺に着いたのである。

 しっかりとした瓦葺の門がその目印である。神社の鳥居なるものの方が大きいが吾輩こんな門の方がよじ登っていけるので好きである。屋根に上ってお昼寝はまた格別なのだ。

 

「おぬし。おぬし」

 

 うむ。なにか声が聞こえてくる。吾輩は背筋をピンと伸ばして、あたりを伺うのである。こういう時には耳を立てておいた方がよく物音が聞こえるのである。

 よく見れば門の中の陰にいるのは見慣れた烏帽子である。ふとではないか。いつも真っ白な服を着て、妙な被り物をしているからよくわかるのである。ふとは吾輩につかつかと歩み寄り、しゃがんだ。顔が近い。

 

「奇遇であるな。我も今からこの寺に忍び込もうとしているのだ」

 

 吾輩、別に忍んではおらぬ。

 

「この前には神社の軒下で会ったが今度も太子の命でな……」

 

 こそこそあたりを伺いながら吾輩の耳元に話しかけてくるふとであるが、こんなところで四つん這いになって猫に耳打ちしている者は怪しいのではないだろうか、相も変わらず隠れるのが苦手そうである。

 ともあれ、元気そうで何より。吾輩はとことこ物陰に歩いていくと、ふとは「ど、どこにいくのだ」という。いや、目立ちそうにない物陰にふとを誘導しているである。そう思っているとふとが吾輩を抱きかかえてため息をついたのである。

 

「全く猫は気ままだな。あまりうろつくと寺の者に追い出されるであろう」

 

 どうやらふとも吾輩が寺の者に追い出されないか心配してくれているようである。吾輩とふとは言葉は通じぬが気は合うかもしれぬ。

 

 ともあれ旅は道連れという、ふとは吾輩を抱きかかえたままこそこそと目立ちながら中に入っていくのだ。ふと、いや不意に気が付いたが人に抱いてもらいながら歩くと楽ちんである。石畳の階段の左右の木々、その影が揺れているのだ。

 

「ふう、ふう。お、もい。猫を抱えて階段はきついであろう……」

 

 なかなか石段は続く。左右に赤い「毘沙門天」と書かれた幟(のぼり) が整然と並んでいる。あれは何と読むのであろう。吾輩はふとににゃあと聞いてみる。

 

「ふ、ふふ。我を応援してくれおるのか」

 

 なにか別な感じで伝わったようである。まあいいのである。

 石段を吾輩とふとが昇りきると、広い広場に出た。ここで祭りなどすればよい塩梅になりそうである。そして石畳自体は真っ直ぐに続き、その先には大きな本堂があるのだ。吾輩はいつもあそこでひじきに何か貰っている。

 

「げっ。いちりん」

 

 ふとが何か驚いている。見れば青い髪で袈裟を着た少女が近づいてくる。

吾輩は初めて見るのである。濃い藍のフードを被って、胸元に赤い宝石を付けているのである。もしや、ふとのいう「いちりん」とは名前であろうか。

 ふとはきょろきょろとあたりを見回して、吾輩を持ったまま、横にあった赤い幟の裏に隠れた。いや、ふとよ。幟の後ろなど丸見えであろう。吾輩は真剣な顔をしているふとが見つかる前に囮をしてやろうと思うのである。吾輩はふとの右手を嘗めた。

 

「ひっ」

 

 高い声をだしてふとは吾輩を離してくれたのである。さっさと吾輩は走り去る。もちろんさっきの広場に出るのだ。ちゃんと近寄ってきていた「いちりん」も吾輩に気が付いたようである。

 

「あ、猫だ」

 

 吾輩は地面の剥き出しになっているところに寝そべって首を掻いてみるのである。この隙にふとを逃がそうというのであるが、ここから見れば幟からふとの足が見えている。ううむ。隠れるとか以前の話であろう。

 しかし、いちりんは吾輩に近づいてくるのである。何故かニコニコしながら、腰をかがめて話しかけてきた。この少女意外に派手な服を着ているのだ。この袈裟爪でちょっと破いてみたい、ううむいやいや紳士な吾輩は人様の物を粗末にはせぬ。

 

「今日はなんできたのかにゃ?」

 

 妙な話し方をするやつであるな。

 

「おまえは聖様といっつも遊んでる猫ね。聖様は留守よ」

 

 おおう何故か頭を撫でてくるのである。そういえばひじきではない「聖」であったな。昨日のりんのすけのひじきしか頭になかったのである。いちりんよ感謝するのである。

 

「そうだ! 実はお前が来るかと思って煮干しを少し持っているのよ、ほらおたべ」

 

 にゃあにゃあ。そういえば聖と遊んでいる時に後ろの方に「いちりん」もいたのである。今思えば遊びたそうな顔をしていたのだ。煮干しうまい、うまいのである。かりかり。

 

「おいしいかにゃ?」

 

 微笑みながら聞いてくるいちりんに吾輩はにゃあと答えると、嬉しそうにしているのである。しかし、吾輩は驚いた。いちりんの真後ろにふとが口を押えて、笑いをかみ殺しながら見下ろしている。

 な、何故隠れておかぬ。吾輩は怒ったのである。せっかく囮になったというのに、と吾輩は抗議の声を上げるのだ。

 

「な、何でいきなり怒っているの……あ」

 

 後ろを振り向いたいちりんがふとを見て固まっている。

 逆にふとはこらえきれぬとばかりに高笑いした。

 

 

 

 

 

 



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おちゃかいのおすそわけをするのである

せっかくのきゅじつなので。こうしん


 しばらくすると袈裟を着た御坊が一人帰ってきたのである。その顔は吾輩よく見知っている。妙な髪の色をしているその女子を見間違えるはずはないのである。

 聖であるな。わがはいこの名前を忘れたことはない。いや、少し間違えていたことはあるのである。ふと、といちりんは庭で弾幕ごっこをしているのである、それを聖は首を振りながらため息をついて見ているのである。

 

「あとでお仕置きね」

 

 ちょっと吾輩も怖くなってしまうのである。それはともかく、聖は吾輩に挨拶してくれたのである。

 

「こんにちは猫さん」

 

 にゃあ、吾輩も挨拶は欠かさぬ。これは人としていや猫として当たり前のことである。そんな吾輩は背筋を伸ばして、かくりと首を垂れる。これが人の挨拶であろう。ごうに入ればごうに従うのである。しかし、はて「ごう」とはなんであろうか。吾輩にもとんと分からぬ。

 聖はニコニコしながらいつも通り吾輩を縁側に連れて行ってくれたのである。そこで聖も座りながら、吾輩はそのひざに寝転がる。ううむ、てーいちというものであろうか。

 今日は良い天気であるな。聖の着ている袈裟はふかふかしているのである。こう膝の上に載ってごろんごろんしてみると肌触りがいい。服という物を吾輩着たことはないのであるが、ううむ吾輩におあつらえ向きの服はないのであろうか。

 

 暖かいお天道様の下でこうお昼寝していると吾輩は感無量であるな。ううむ聖よお腹をさする手がくすぐったいのである。吾輩はそう簡単な抗議をしようと体を起こしかける。親しき中にも礼儀はあるという、ここはびしりと言わねばならぬ。

 

「ほら、今日は里で煮干しを貰いました」

 

 にゃあにゃあ。は、いかぬ。これでは「わいろ」というやつではないか。しかしわいろとはなんであろうか、食べられるのであろうか。かりかり。ううむ。これは良い味。

 

「お茶が欲しいわねぇ」

 

 何か言いながら何故か聖も煮干しを齧っているのである。ううむ吾輩と聖は煮干し友達というところであろうか。

 

「聖様、お疲れ様でした」

 

 いい香りがするのである。吾輩が身体を袈裟の上で動かしながら見てみると、金色の髪をした派手な格好をした女子が立っているのである。それは湯呑の入ったお盆を持っているのである。おそらくお茶を持ってきたのであろう。

 それも二つ湯呑があるのである。吾輩の分もあるのであるな。好意はありがたいのであるが、吾輩はお茶を飲んだことがないのである。だが、物は試しであるな。吾輩はちゃれんじゃーなのである。

 

「ありがとう、星」

 

 聖が湯呑を受け取ったのである。ううむ、この女子はじょーというらしいのである。妙な名前であるな。いんぐりっしゅであろうか。

 じょーは聖に湯呑を渡した後にその場に座ったのである。着ている服はまるでアレであるな、良くお寺の奥の方にいる人間のおじさんの銅像のようである。しかし、なぜ頭に粒々を付けたあやつは寺の奥にいるのであろうか。もしやあれがうわさに聞く仏というものであろうか。

 

 ううむ? 吾輩ちょっとわからぬ。この近くにお寺と言えばここしかないのである。しかし、昔どこかで見たことがある気がするのである。はて? いつ寺などみたのであろう。

 まあいいのである。

 

 ずずーと音がしたので吾輩の耳がぴくぴくしてしまう。見ればじょーが湯呑からお茶をすすっているのである。……聖ともう一つはじょーの分の湯飲みであったか、吾輩はやとちりをしてしまったのである。

 

「あつぃ」

 

 じょーが舌を出して熱がっているのである。こやつ、自分で持ってきた気がするのであるがそれにしてもこういうのを猫舌というらしいのである。吾輩心外である。吾輩は我慢強い方であると自覚しているのである。

 

 縁側から見える庭にはいちりんとふとが寝ころんでいるのである。引き分けであろうか。あたりに割れた皿が散らばっている光景は、こう吾輩には言い表すことが出来ぬ。

 

「ほら猫さんもご利益があるかもしれませんよ」

 

 聖が吾輩を抱え上げて前足を取った。それから肉球と肉球を合わせた。それからじょーに吾輩の体を向けたのである。おお、これはよくおじぞうさんにあきゅーがやっているポーズではないか。吾輩祈ったのは初めてである。

 しかし、お茶で熱がっているじょーに祈って何かあるのであろうか。まあいいのである。

 じょーもにこにこしながら片手をあげている。ううむ少しおじぞうさんのポーズに似ているのである。

 

「ふふ、その猫よく寺に来ますね。聖様」

「私のおともだちですから」

 

 えっへんと胸を張る聖が吾輩を抱えてたかいたかいする。おお、たかい。しかし吾輩この前にもっと高いところに行ったのである。

 

「ご主人様~」

 

 ほう、また声が聞こえるのである。どことなく気の抜けたような声であるが、吾輩どこかで聞いたことがある気がするのである。

 

「あ、ナズーリン。こっちです」

「……ご主人様。こっそり食べたいからって人里に買いにいったお菓子がありますよ」

「え、ええ? あ、いや違う。聖様違います。な、ナズーリン! 」

 

 慌てるじょーが声の主を呼んでいる。吾輩はじとっとじょーを見ている聖に抱えられたままである。声の主が近づいてきた。

 そこに立っていたのは、あっと驚きながらお盆に乗ったお菓子を持った少女である。吾輩も固まったのである。あやつはケチンボではないか、以前何もくれなかったから嘗めてやったことがあるのである。

 

「そ、その猫は。なんでここにいるんだ!」

 

 なんか怒っているのである。吾輩も負けずに鳴くのだ。というか、このナズーリンなる女子、口元に何か付けているのではないか。お菓子をつまみ食いしたに違いないのである。

 

 にゃああ。

 

「な、なんだこいつ」

 

 にらみ合うナズーリンと吾輩。見れば見るほどネズミ顔であるな。いや、似ているかと言われれば似ていないのであるがなんとなくネズミっぽいのである。何故であろうか。

 

「こら、ナズーリン。私の客人ですよ」

 

 聖が怒ったのである。ううむ吾輩の味方をしてくれるのは嬉しいのであるが、胸に押し付けられるように抱かれると息が苦しいのである。にゃ、にゃあ。

 ナズーリンも味方を探すようにじょーを見ているのであるが、何故かため息をついて座ったのである。ううむ、今日は雌雄を決するときではにゃい、いやないようであるな。

 

「ご主人様。お菓子です。ご主人様の言った通りにこっそり買ってきましたよ」

「…………あ、あのナズーリン。……えっとひ、聖様? こ、これは違うんです」

「星。お菓子くらい正直に食べたいと言えばいいんですよ?」

 

 ★

 

 それから吾輩はお寺でのんびり過ごして、夕日が沈む前にふとと一緒帰ったのである。本当は泊ってもよかったのであるが、どうにも気になることがある。

 

 今朝は巫女の顔に乗ってしまったのである。紳士としてあるまじきことであるな。

 しかし、吾輩はとんと謝る方法がわからぬ。こみゅにけーしょんの難しいところである。そこで少し聖たちの食べている「きんつば」なるものを分けてもらい、巫女にあげようと吾輩は思ったのであるが聖たちとは喋れぬ。

 

 吾輩にゃあにゃあと訴えてみると、なぜかじょーが「きんつば」を袋に包んで首にかけてくれたのである。

 

「ほら、これでいいですか?」

 

 じょーの情けないところばかり見てしまっていたのであるが、お地蔵さんのように優しい顔をしていたのである。なぜ、吾輩の思っているところがわかったのであろうか、実は猫かもしれぬ。

 

 ともかく、吾輩は月夜を神社に急いだのである。

 

 

 



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つきよのうたげはにぎやかではなくとも

 吾輩はとことこと帰路についている。

 おお、間違えたのである。吾輩が今から向かっているのは神社である。あそこは吾輩の家ではないが、まあいいのである。この空の下は吾輩の庭のような物であろう。

 それにしても首についた袋入りの「きんつば」が重いのである。こう落とさないようにじょーが付けてくれた紐が首に食い込んでいたいのである。ううむ、だがしかし吾輩はこれをもって巫女と仲直りしなければいけないのである。

 

 吾輩は目の前にあった小石をするりと追い抜き、なんとなく後ろ足で蹴ってみるのだ。別に意味などはない、こうそれを見た時に遊んで、いやいや蹴ってみたくなったのである。

 歩いているとさらさらと風に揺れているねこじゃらしが生えておる、しかし吾輩は急いでいるのである。相手をしている暇はないのである。だからそのけむくじゃらの先っぽを二度、三度ぱんちをして素早く通り過ぎるのである。

 

 吾輩は急いでいる。ううむ、しかし路上は誘惑が多いのであるな。こうこの世は面白いことがあふれているかのようである。それに今日は道が明るい、空を見ればお月様がぽっかりと浮かんで吾輩を見下ろしてくれている。ううむ、いつ見ても丸いのである。

 

 吾輩は紳士であるからやらぬが、昔は丸い毛糸の玉に乗っては落ちてをしたものである。

 もし吾輩がもう少し大きければお月様に乗れるのであろうか、惜しいところである。一度くらいはころころしてみたいものである。

 

 そんなことを考えていると吾輩は神社の石段まで来ていた。なんであろうか、お寺からここまで一瞬であったようである。一度も退屈しておらぬ。吾輩は夜に冷やされた石段をしゅたしゅたと昇ってみるのである。

 

 赤い鳥居が見えてきた。吾輩は石段の最後の一段を大きく蹴って、しゅったりと神社に着いたのである。後ろを振り向けば今まで昇ってきた石段が見えているのである。ううむ、いつも思うのである。昇っている時には考えぬが高いところに来てから後ろを見ると、良く昇った物であるなと我ながら感心するところである。

 

 夜風が吾輩の毛並みを撫でる。おお、首がかゆい。前足でこう、掻くと。くしくし。気もちいいのである。

 吾輩はそれから勝手知ったる神社の境内を悠々と優雅に歩いていくのである。吾輩は巫女がどこにいるのか知っているのである。吾輩も風流を知っているつもりであるが、人もお月様が出ている日にはちゃんと挨拶をする習慣があるのである。前に巫女も「ろうそくがたかい」と言いながら縁側で月明りを楽しんでおった所だ、それにしてもろうそくがたかい、とは何の事であろうか。

 

 おお、白い着物を着た巫女がおるではないか。いつものリボンを外しているということは、寝間着であるな。一人で広場に立っているのである。顔を上げているからお月様を見ているのであろう。吾輩はそちらに近寄って、下から見ながら挨拶をしたのである。

 

 にゃあ

 

「わあっ!? び、びっくりした。なによ。あんたか……」

 

 巫女は心底驚いたようである。上を見ている時に吾輩が下から話しかけたからであろう。ううむ悪いことを下のである。それはそうと巫女よ、今日は良いものを持ってきたのである。そう吾輩は巫女に説明しようとしたのであるが、その前に巫女が腰をかがめて頭を撫でてきたのである。

 

「あんた。今は朝人の顔に乗っておいて、よくのこのこ来られたわね」

 

 ううむ済まぬ。しかし巫女とて箒で吾輩を叩こうとしたのである。

 今日の巫女の頭を撫で方は良い。ううむ合格である。しかし人は吾輩が来ればよくなでるのであるな。さーびすが行き届いているのである。

 

「ふふ」

 

 何故か巫女が笑っているのである。何故であろうか、吾輩は昔から人にしろ妖怪にしろ猫にしろ笑っている相手が好きでたまらぬ。それにしても巫女よもう少し右、おお、ぉぉ。

 

「あんた何を首から下げてるのよ……。この前やった鈴はなくしたくせに」

 

 それも済まぬ。、墓場で会った妙な少女にあげてしまったのである。

 巫女は吾輩の首から下げている包みをとって、中を開けて見ている。巫女は眉を寄せているのだ。包みの中には四角の固そうで黒い塊が入っているのだ。

 

「なにこれ?」

 

 きんつば。である。なにやら甘いというではないか、吾輩はたまに花の蜜を嘗めてみることもあるのであるから、それ以上に甘いのであろう。ううむ、吾輩もちょっと食べていたいのである。

 

「黒くてかたい塊ね…。いい包みに入っていたからあんた、どこからかもらってきたの? ……ああ、猫に話しかけてもしょうがないな」

 

 吾輩は見上げるだけである。こんな時にこみゅにけーしょんが取れればいいのであるが、とんと方法が分からぬ。じょーを連れてくればよかったであろうか、いや連れてきてもあまり役には立たない気がするのである。

 

「まあいいわ。どうせ一人で暇だったしね……ほら来なさい」

 

 にゃあ。吾輩は巫女についていく。

 

 

 割れた茶碗に巫女がぬるいお湯を注いでくれたのである。舐めてみるとほのかに味がするのである。

 

「流石に猫に酒はあげられないからね。重湯で我慢しなさい」

 

 ここは座敷であろう。畳の匂いが鼻に心地よいのである。巫女は酒瓶と赤い盃を用意して畳の上に置いているのである。盃がきらきらと月夜に光っているのだ。

 

 舌でぴちゃぴちゃと飲むとやはりほのかな味がするのだ。それに身体があったまってくる気がもするのである。最近の夜はとみに寒いのからであろう。吾輩は口周りについた重湯もしっかりと嘗めておくのだ。巫女はそれを黙ってみている。

 

「にゃあぁ」

 

 にゃあ

 

 巫女が不意に吾輩と同じように鳴いたから、紳士な吾輩もしっかりと返すのである。見れば巫女は少し笑っているような気がするのだ。

 それにしても吾輩わからぬことがある。吾輩と一緒の時には巫女もたまに「にゃあ」となくのであるが、まりさや他の人と一緒の時には巫女は鳴かぬ。これはどういうことであろうか、吾輩とんと分からぬ。聞いてみたいところであるが、吾輩には聞けぬ。

 

 寂しいものである。吾輩はいつか、誰かと心行くまでこみゅにけーしょんをしてみたいものであるが、巫女とはこうして重湯を飲むよりほかはない。吾輩はそう思って舌で茶碗を嘗めて見るのだ。

 

 いや、そこで吾輩は思いついたのである。

 人は酒を飲むときにお互い盃にお酒を入れ合う物である。吾輩にもできるやもしれぬ。吾輩は思い立ったがよい時である。ぱっと身体を起こして巫女へそう伝えてみる。

 

「……? なににゃあだか、なあだが、鳴いているのよ」

 

 首を傾けて聞かれてしまったのだ。ええい、吾輩はじれったくなってとことこ近づいてみるのである。酒瓶を見れば吾輩の顔が映っているのである。

 

「ああ、近寄るんじゃないわよ。零れるから。……あ」

 

 あわてた巫女が手を伸ばしてカツンと手が酒瓶に当たったのである。おお、吾輩の顔が迫ってくるのである。酒瓶が倒れようとしておる。吾輩はとっさに酒瓶に身体を当てて、支えるのだ。ちょっと零れた。吾輩の体と畳にしみこんでキツイお酒のにおいがしみこんでいく。あと、重いのだ。

 

「ああ、畳が」

 

 巫女よ、そっちであるか。

 

「あー、あんたも」

 

 そうである。吾輩も心配してほしいのである。

 巫女は吾輩が支えていることには手を貸さず、どたどたと雑巾を探しに行ってしまったのである。吾輩はそれで困った。重くて動くことが出来ぬ。

 

 その時ふと声がしたのである。縁側の方からであろう。

 

「咲夜。座敷に猫がいるわ」

 

 誰であろうか。

 

 

 

 



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ぱーてーの誘いにはのらなければならぬ





 吾輩は驚愕したのである。ううむ。だれやらが神社に来たことは覚えているのである。この耳がしっかりと「さくや」なる声が聞いたのだ。

 この目をぱちくりさせて、うなうなと唸りながら考えてもわからぬ。さっきまで吾輩は巫女のお酒の瓶を体で支えて零れぬようにするというししふんじんの働きをしておったはずである。

 

 それというのに、吾輩はだっこされているのである。

 

「お嬢様。猫を捕まえましたわ。如何いたしますか?」

「いや、誰も捕まえてなんていってないのだけど……。まあいいわ。そのまま邪魔にならないように持っていなさい」

 

 吾輩が見上げると顔の左右で三つ編みを結っている少女がおるのである。このおなごの手に抱かれて吾輩は揺られている。ううむ。吾輩、だっこされておることは慣れておるが、いつの間にだっこされたのかとんと分からぬ。

 おそらくであるが、このおなごが「さくや」であろう。にゃあにゃあ。三つ編みをこう、はっ。少し揺れている三つ編みをパンチしてしまったのである。ふかこうりょくというものである。

 

「こらこら」

 

 さくやよまるで人の赤ん坊を揺らすように吾輩を揺らすではない。こう見えても吾輩は紳士で通っているのである。おお、顎の下を撫でるな、ごろごろ。

 

「ここかしら」

 

 ううむ。これはゆだんできぬてくにしゃん。しかし吾輩とてこう捕まっているままでは折れぬ。この撫でる指をこう噛んで威嚇するのである。

 

「ふふふ」

 

 吾輩に指を噛まれて笑うとは面妖であるな。しかし安心するのである、少女にけがをさせるつもりはないのだ。こうかみかみ、と吾輩をぞんざいに扱うとこうなるという脅しである。これ、鼻をくすぐるでない。

 

「なにやってんのよあんたら」

 

 この声は巫女が戻ってきたのであるな。

 

「ああ、霊夢。この猫なにかしら?」

 

 別の声がするのである。そういえばさくやと一緒に誰か入ってきたである。それをおお、お腹をさするのもなかなか……ううむ、考え事が出来ぬ。巫女よ助けてくれ。

 

「野良猫よそいつ。で? レミリア、あんた何しにきたのかしら。まさかそいつに猫を撫でさせるために来たんじゃないでしょ?」

 

 もう一人をレミリアというらしいのであるな。おお、にゃあ。

 ええい。もう我慢できぬのである。さっきから何か吾輩が考えようとするたびに執拗にマッサージをするではない。憤怒にかられた吾輩は、もぞもぞと咲夜の手の中で体勢を立て直して、そこから飛び出したのである

 

 ――

 

 吾輩はさくやにだっこされているのである。なぜ。なぜであろう。とんとわからぬ。

 確かに脱出したはずである。目の前に畳の折り目まで見ておったのに、次の瞬間にはここでおお、ぉお背中をさするのもうまい。

 

「この猫大人しいですわね」

 

 さくやが何か言っているのだ。

 

「いや、あんた今……まあいいか」

 

 巫女が何かを言いかけて止まったのである。何を言いかけたのであろう。

 

「ああもう、話が途切れた。で? あんたら何しに来たのよ」

「月が綺麗だったから寄ってみただけよ」

「ああ、そう」

 

 レミリアという少女は小柄であるな。頭にこうりんのところで見たどあのぶかばーのような物を被っておる。

 肌が白くてほっぺたが柔らかそうである。ちょっと噛んでみたいのは悪いであろうか。

 そんなことを思っているとレミリアがさくやに抱かれている吾輩をちらりと片目で見てきたのだ。八重歯? であろうか、きらっと光る歯を見せてから両手を組んでいるのだ。

 

「うちのツパイの方が可愛いわね」

 

 ううむ。それは吾輩のことであるか。巫女よ何か言ってやるのだ。

 

「ああ、そういえばなんだっけ。ちゅ、ちゅぱなんとかをあんた飼ってたわね」

 

 突然さくやが吾輩を撫でるのをやめたのである。今である。脱出を試みたのだ。

 

 なぜさくやの手の中に吾輩はいるのであろうか。離れられぬ。さくやを見上げると何故か笑っているのだ。ううむ。何でであろう。さくやは吾輩を抱いたまま言うのである。巫女に向かって。

 

「ぱちぇ? といいたいの?」

「そんな名前だったかしら。前に狸から聞いたんだけど……」

 

 ふむふむ見えてきたのである。このレミリアは「ぱちぇ」なる猫を飼っているのであるな。しかし、凛々しく野原を闊歩する吾輩も負けぬ。まだ見たことはないのであるが、吾輩はぱちぇには負けてはおられぬ。

 

「いや、ぱちぇじゃないわよ。咲夜」

「あら。違うのですか? てっきり私はそうかと思いましたが、今日も本を読んでいらしたので」

「…それになんの関係があるのかしら……? 咲夜、貴女はたまに妙なことを言う気がするのだけれど」

 

 ぱちゅは本を読めるのであるか! 吾輩、負けたのである。吾輩はよい木の実の成るところは良く知っておるが、人の書いた文字は読めぬ。だが、吾輩は紳士であるから負けは負けとして認めねばならぬ。だが、いずれは吾輩も読めるようになるのである。

 まだ見ぬぱちぇよ、見ておるがよい。猫として吾輩は追いついて見せるのである、ああごろごろ、さくやよ決意している時に顎を撫でるでない。

 巫女よ助けてくれ。

 

「まあ、何でもいいけど。私はそろそろ寝ようと思ってんだけど。レミリア。あんたがただ寄っただけとは思えないわ」

「ふふ、そうね。半分は本当だけど、半分はこっちよ」

 

 レミリアは懐から一通の手紙を出したのである。それを巫女に渡そうとして、手を滑らせて落としたのだ。レミリアは自分で拾って巫女に渡した。

 

「……今度、我が紅魔館でパーティーを開くことにしたの。これは招待状よ」

 

 ぱーてーであるか、吾輩には招待状はないのであろうか。

 

「くく、その猫も連れてきてもいいわよ。あの子の遊び相手になりそうだから」

 

 吾輩も行ってよいのであるか。中々話しが分かるではないか。しかし、ご馳走をくれとは吾輩は言わぬ。ヤマメと煮干しがあればそれで充分なのである。それにさくやよ、巫女とレミリアの話に聞き入って油断しているのであるな。今である――

 

「わぁぁ」

 

 わ、吾輩いつの間にかレミリアの頭の上に載っているのである。いつの間に移動したのであろうか。それに驚いてレミリアのかぶっていた帽子をずり下げてしまったのである。こ、これレミリアよ暴れるでない。

 

「ま、前が。ちょっと咲夜!」

「はい」

「なんで猫が頭の上にいるのよ」

「その子が急に飛び出したので」

 

 吾輩はレミリアとは別方向に飛んだはずであるが、気が付いたらいつの間にかその上に載っていたのである。まるで吾輩、前に耳にしたわーぷをしたようである。いつの間にかレミリアの頭の上に「置かれていた」かのようである。ちょっと招き猫のようであるな。いや、今は関係ないのである。

 

「はいはい、もう。ほらレミリアじっとしなさい」

 

 レミリアと吾輩が一緒に右往左往しておると巫女が吾輩を抱き寄せてくれたのである。なんとなく安心するのはなぜであろう。さくやがにこにこしているのが少し怖い。

 

「とりあえず、この招待状は預かっておくわ。いい酒用意してなさいよ」

「愚問ね。私が客人をもてなすのに抜かりがあるわけないわ」

 

 帽子を被り直しながら、レミリアは言ったのである。

 

 ★

 

 二人が去ってから吾輩と巫女は縁側で月を見ながらぼんやりしているのである。胡坐をかいた巫女の膝に乗って、吾輩はかりかりと煮干しを噛んでいる。

 

「招待状か。あ、これ英語じゃない。読めないわよこんなの」

 

 巫女は酒を飲んでいるからか、顔が少し赤い。ツマミは月と、吾輩ときんつばである。

 

「これ、おいしいわね」

 

 きんつばを食べながら吾輩を巫女は撫でる。

 



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かたいけついでべんきょうをするのである

 吾輩も負けてはいられぬ。

 今日は暖かい日であるが、吾輩の心は燃え盛っているのである。人であれば胸が躍るというらしいのであるが、吾輩が自分の胸のあたりを見ても吾輩自慢の毛並みしか見えぬ。ううむ、どうやって踊るのであろうか。

 いやいや、そうではない。

 この前に巫女と話をしていたさくやとれみりあは「ぱちぇ」なる猫を飼っているというのである。なんと、驚いたことに人の字が読めるというではないか、それができるのであれば人とこみゅにけーしょんも取れるかもしれぬ。

 

 そこで吾輩は思ったのである。人の子が通う寺子屋とやらで書物を勉強しようと、固い決意である。

 だからこそこんな草むらで寝転がっている場合ではないのである。ちょうどお天道様も真上に来たからには、そろそろ起きねばならぬのだ。ごろごろ、起きねばならぬ。その前に毛並みを手入れせねば。

 少し吾輩は前足を嘗めておめかしをするのである。決してまだ起きたくないわけではない。こう、ちゃんとしておかねばならぬ。後ろ足も、こう。楽しくなってきたわけでは決してない。

 

 ★

 

 吾輩はしっかりと健康に気を遣っているからこそ時間がかかってしまったのである。紳士であるからには毛並みの手入れを欠かす訳にはいかぬ。まんぞくしたのである。

 吾輩はすくっと立ち上がり胸を張って歩くのだ。行動はめりはりが大切というであろう。ところで「めりはり」とはなんなのであろうか、とんと分からぬ。ぱちぇならばわかるかもしれぬ。

 

 しかし、吾輩他の猫に頼っている時ではない。向上心に燃えている吾輩を止めることのできる者は何もない。おお、手ごろな石があるのだ。ころころと転がしてみると中々におつであるな。

 はっ。いかぬいかぬ。遊んでいる場合ではない。吾輩道草を食うような暇はないのである。速く人里に行かねばならぬ。吾輩は街道にでた。

 

「おお、猫ではないか」

 

 にゃあ、ふとではないか。いつも妙な帽子を被っているものであるな。そういえば吾輩も帽子が欲しいと思うことがあるのであるが、猫用の帽子はないであろうか。

 それにしてもふととはよく会う。もしかしたら吾輩を慕っているのかもしれぬ。

 

「最近よく会うな、もしや我を慕っているのか?」

 

 ふとよ、それは吾輩がさっき思った事である。

 だからにゃあにゃあと吾輩が鋭い抗議をすると、ふとはわかったわかったというではないか。

 

「我を慕ってくれるのは嬉しいが今は何も持ってはいない。今度にぼしをもってきてあげるから」

 

 どうであろうと鼻を鳴らして吾輩を見下ろしてくるふとである。

 何も分かっておらぬようであるが、にぼしとなれば話は別である。吾輩、ここは大人で寛大な心を持って全面的に許すのである。ぅう、ふとが頭を撫で始めたのであるが、吾輩は忙しい。今日は人里に行かねばならぬ。べんきょうせねばならぬ。

 

「ここがよいのか」

 

 もっと首のあたりがよいのである。

 

 ★

 

 じんそくな行動とは難しいものであるな。ふとの遊びに付き合ってあげたら、時が走るように過ぎてしまったのである。今日はもうどうしようない、夕日が沈んで遠くで鴉がかあかあと鳴いているのである。

 そういえば鴉天狗とは鳴くのであろうか? 吾輩はとんとわからぬ。前にもみじなるものにご馳走を貰ったことがあるが、あやつは元気であろうか。台風の時の疲れがでたと言っておった。

 

 そんなことよりも吾輩は今日の寝床を探さなければならぬ。吾輩ほどになればこの幻想郷は庭のような物であるが、逆にどこで寝るか悩むところであるな。いや、それよりも吾輩は大変なことを思い出してしまったのである。

 

 今日、吾輩は大事なことをしていないことに気が付いてしまった。不覚である。嘆かわしいことである。これではまだ見ぬ「ぱちぇ」に笑われてしまう。そうである、吾輩今日は、

 

 ごはんを食べておらぬではないか。

 

 そう思うととたんに腹が減ってきたような気がするのである。ううむ、ここからは寺も神社も遠い。りんのすけの所に行ってもよいのであるが、たまにゲテモノを出すから考え物である。

 

 うむ? なんかいい匂いがするのである。おお、なぜであろう体が勝手にそちらに動いていくではないか。不思議なことである。確かこの先には沢があったような気がするのである。

 夜の道は暗い暗いというが、吾輩の眼にはそこまで暗くは見えぬ。何故であろうか、それよりも夜は寒いのがいけぬ。お月様もお天道様のようにあったかになればよいと吾輩は常々思っているところである。

 

 うむ、ほのかに明かりが見えるのだ。あれは沢のほとりであるな。火を起こしているのであれば人か妖怪であろう。吾輩は恥ずかしながら火というものを扱ったことはないのである。

 

 草むらを抜けると小さな滝のある沢に出たのである。周りを木々に囲まれた場所で吾輩は始めてくるのだ。庭とて見た事ないところくらいはあるであろう。

 

「あ、ねこだ」

 

 そこにこんがり焼かれたヤマメを木の枝にさして食べている少女がいたのである。

 たき火の前の石に座っているから、顔がよく見えるのだ。銀色の髪に赤い瞳がきれいであるな。頭には大きな赤いリボン。それにしても上着がぼろぼろである。寒くなってきたのに半そでとはいただけぬ。下に穿いているものをよく知っておるのだ、人里でもんぺといわれているものである。

 

「なんだ。これを食べにきた? ほらおいでおいで」

 

 たき火の周りにはさらにヤマメが焼かれているようである。わ、吾輩の足が勝手に動いていくのである。これはふかこうりょくというものであろう。吾輩は一つ身をもって知識を得たのだ。

 

「猫か、昔からいるんだよね。名前とかあるの?」

 

 吾輩を少女はだっこして何か聞いてくるのである。わがはいは、わがはいである。それに昔からとはよくわかっているのである。吾輩はこのあたりでは少し有名になってきたかもしれぬ。

 

「私は妹紅……って。猫に自己紹介してもなぁ」

 

 もこおであるか。それよりもこおよ、吾輩お腹が減ったのである。吾輩の眼はさっきから炙られているヤマメにしか向いてはおらぬ。それに気が付いてくれたのかもこおは自分が食べていたヤマメを地面に近くにあった岩に置いたのである。

 

「ほら、おたべ」

 

 もこおとは初対面であるが一匹のヤマメを分け合うことになるとは思っていなかったのである。食べかけとはいえ、贅沢は言ってはいられぬ。吾輩は紳士であるから、貰ったものに文句など言わぬ。

 吾輩がもこおのひざ元から足を伝って降りる。

 

「おー。体が長い」

 

 降りるときに足を延ばすから、身体も伸びるのは当たり前であろう。しかし、感心されることには悪い気はせぬ。

 吾輩がヤマメに近づくと、良く焼けた皮からいい匂いがする。それに一部で剥き出しになった白身からほんのり湯気が立っている。はむはむ。はむはむ。ううむ。もぐもぐ。

 

 吾輩はまなーにはうるさいのであるから、食事は静かにとるのだ。虫の声と沢を流れる水の音くらいは許すとしよう。それにたき火からぱちぱちと音がしているのだ。もこおも火にあぶっていたヤマメをとって食べ始めた。

 

「あち、あち」

 

 なんか言っているのである。吾輩はちらっと見て、すっと視線を戻す。口に物を入れて喋るわけにはいかぬ。もこおは別に吾輩を撫でてくるでもなしに、岩にもたれかかって食べているようである。

 

「明日は何をしようかな……ふぁーあ。眠い」

 

 涙を浮かべてもこおが欠伸する。それからぼんやりと空を見ているのである。

 吾輩つられて大きな欠伸をしてしまう。 

 

 

 

 

 

 



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このよは、おどろくことばかりである

 朝に眼が覚めると、今吾輩がいる場所が分どこだかわからなくなってしまうことがよくあるのである。今日もそうである。周りを見渡してもここがどこかよくわからぬ。

 吾輩はそんな時には体を伸ばしてからゆっくりと考え直すことを日課にしているのだ。

 

 そうである。

 昨日はもこおと知り合ってヤマメをご馳走になったのであった。それからたき火の火がぱちぱちと拍手をしている音を聞きながら眠ってしまったのであろう。最近思ったのであるが、吾輩は「ふと」の口調がうつってしまったのかもしれぬ。

 

 たき火はもう黒い煤を残して見る影もないようである。ううむ、ちと寒いのである。吾輩はできることも多いのであるが、火を起こすのは苦手である。岩の上には昨日もこおが着ていた服が干してあるのである。遠くには行ってはいないようであるが、吾輩は寒いのである。沢の清流が目の前を流れているのはいいのであるが、それが冷たい風を運んできているかのようである。

 

 吾輩はもこおを探そうとしたが、そこではたと気が付いたのである。これも一宿一飯の恩。もこおが戻ってくる前に温かい火を起こしておくことに吾輩が挑戦するべきであろう。

 

 早速吾輩は昨日はぱちぱち燃えていたたき火の後を調べることにしたのだ。しかし、ぐるぐるその周りをまわってみても匂いを嗅いでみても、とんと火を起こす方法が分からぬ。

 にゃあ、これは困ったのである。吾輩はその場でうずくまって考えるのであるが妙案は浮かばぬ。その内もこおが戻ってくるかもしれぬ。もしかしたら煤を触ってみれば何かわかるかもしれぬ。

 

 吾輩は勇気をもって肉球を煤に押し付けてみる。さらさらざらざらしているのであるな。なにもわからぬ。

 しかも吾輩のじまんの毛並みに煤が付いてとれぬ。

 吾輩は近くの岩に手を擦りつけてみるが、とれぬ。

 

 煤が取れぬ。

 ふぎゃあ、にゃあ。にゃあ。

 いかぬ。今しばし我を忘れてしまったのである。ここは落ち着くのである。落ち着いていつも通り、前足の毛並みを嘗めて艶を出すのである。

 苦いのである。煤を嘗めたのは吾輩初めてである。

 

「……おーい」

 

 吾輩は突然の声にびっくりして後ろを見ると岩に寄りかかるようにずぶ濡れのもこおがいたのである。髪まで濡れているのは何でであろう。もこおは吾輩に近寄ってくると吾輩の両脇を抱えて持ち上げたのである。しばし見つめ合う。

 

「なんでたき火の跡に近づくんだ……。ああいろんなところが汚れているわ」

 

 もこおが帰ってくる前にあったかいたき火をもう一度起こしておきたかったのである。見るからに寒そうな恰好で何をしていたのでああろう。

 

「おまえも一緒に水浴びするしかないな」

 

 ……? ……!? この寒い朝に水浴びは嫌である。吾輩はその言葉を聞いた瞬間からもこおの手からもがきにもがくのである。体を捻り、ひねり。なんとか離してほしいのである。もこおの背中に上ろうともしたが、もこおは強く抱いてくるのである。

 

「こらこら。暴れるな」

 

 そんな吾輩の抗議も空しくもこおは吾輩を抱くとぺたぺた水の中に入っていく。綺麗な川の流れではあるが、入りたいなどと思わぬ。尻尾で少し触ってみれば飛び上がりたくなるほど冷たいのである。

 

「あ、おとなしくなった。観念した?」

 

 もこおよ、吾輩の知っている温泉に連れていくのである。だから屈んでいくのをやめてほしい。そして仮に吾輩が暴れてもこおが水の中に吾輩を落としてしまえば元も子もないではないか。

 もはやどうにもならぬ。

 もこおの胸板に抱かれた吾輩はまさにまな板の上の鯉。いやまな板の上の吾輩なのである。だから吾輩はもこおから落とされぬようにするしかないのである。

 尻尾をもこおのお腹のあたりに巻き付けてみる。首を振ってごろごろ鳴いて頼んでみてももこおは「つめた」などとしか言わぬ。そんなことは分かっているのだ。

 にゃあぁ。肩まで浸からなくてもよいであろう。冷たいのである、冷たいのである! にゃあにゃあ。

 

「ほら、手の煤を落とすから」

 

 そんな悠長なことを言っている場合ではないのである

 

 ★

 

 お昼は吾輩ともこおで散歩をしたのである。もこおは空を見上げながら何を言うでもなく歩いているのである。水浴びをしてさっぱりしているからかもしれぬ、しかし二度とあれはしたくはない。

 

 今日もいい天気であるな。吾輩はもこおの横について歩きながら思っている。それにしてももこおは何を見ているのであろう。青い空には雲が泳いでいるだけである。

 もこおは口を開けて髪を揺らしながら歩く。髪を一本にまとめているのはぽにーてーると聞いたことがある。それに両手をもんぺのぽけっとに入れてあるくのはふりょうかもしれぬ。そんなもこおに吾輩は「なぁご」とどこに行くのか聞いてみるのである。

 

「…………」

 

 返事はない。吾輩は仕方なくもこおと同じ姿勢で、空を見上げながら歩いてみる。

 どこに行くのかはわからぬ。もこおが歩いている方向に吾輩はついて行っているだけなのである。

 

「あんたは」

 

 突然もこおが聞いてきたのである。吾輩は紳士である。折り目正しく答えねばならぬ。しかし、折り目とは何であろうか。

 

「さっきからどこにいこうとしているの?」

 

 もこおよ、吾輩は付いてきているだけのはずだったのであるが、もこおはもこおで吾輩に付いてきているつもりであったのかもしれぬ。目的地などもとからありはしなかったのではないだろうか。これは由々しきことかもしれぬ。

 

「まあいいや」

 

 まあいいのである。

 吾輩には今日は何も用事はないのである。強いていうなら、ぱちぇに負けぬために勉強をする程度のことなのであるが。

 

 そうであった! 吾輩昨日はかたいけついでぱちぇに負けぬために勉強をするつもりであったのだ。それをすっかりとわすれ……いや、忙しさにかまけて後回しにしてしまったのである。

 こうはしておれぬ。吾輩は急ぎ足で人里に行かねばならぬ。寺子屋に行って今度こそ人とこみゅにけーしょんを取るのだ。

 

「なんか、いそぎだした」

 

 もこおはぽけっとから手を出さずに走ってついてくるのである。吾輩の健脚についてこれるとはなかなかやるのである。吾輩はちゃんともこおが置いてけぼりになって泣かぬように手加減ならぬ足加減をしながら走るのである。

 

 ★

 

「おまえ、自分で走れ……」

 

 もこおは息を切らせて吾輩にいうのである。

 すまぬもこおよ、意外に人里が遠くて吾輩途中で疲れたのである。もこおは吾輩をだっこしてここまで走ってきたのである。言葉は通じぬ。それでも方向でなんとなくわかってくれたのかもしれぬ。

 

「それにしてもここは」

 

 もこおと立派な門の前に立つ。中では子供の声がするではないか、吾輩はもこおににゃあ、とお礼をしっかりと言って下に降りる。寺子屋の前はいつも掃き清められているのである。

 

「うらめしやぁあ~!!」

 

 ふゅあぎゃあ。

 吾輩、突然飛び出してきた不審者に驚いてしまったのである。急いでもこおの足元に逃げ、いやせんりゃくてきなてったいをするのだ。

 しかも見れば飛び出してきたのは、蒼い髪をした少女である。なんだ、恐るるにたらぬ。少女は手に持ったナスビ色で口と舌の飾りのついた傘をばらっと、開いてくすりとしているのである。

 

「なんだ、ネコか~~。貴女は驚いてくれた?」

 

 貴女とはもこおのことであろう。もこおは表情を変えることなく、ぽけっとに手を入れたまま答えるのである。

 

「……わぁ。おどろいた」

 

 傘を持った少女が「そ、そう」といいながらしょんぼりしたのである。

 

 




一体傘の少女は誰なんだ……


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わがはいはかさをあるくのである

 吾輩、今日は寺子屋で勉強しに来たのである。それというのに、門の前に隠れていた傘の少女に驚かされてしまったのは不覚というしかないのである。吾輩はもこおの足元から伺い見てみるのだ。

 

「へへー。ここなら人間の子供達がいっぱい集まるからまちぶせしていたのよ。出てきたり、入って来る時にうらめしやーって驚かすのよ」

 

 少女は傘をさしてくるりと回っているのである。足には赤い下駄を履いている。ううむそういえば吾輩は下駄を履いたことはないのである。

 

「へー」

 

 もこおの気の抜けた声を聞きながら、吾輩は傘の少女を見るのだ。

 それにしてもこの少女は不思議な目の色をしているのである、片目が赤で、片目が青いのである。

 

 片目だけ充血しているのではないであろうか? 

 吾輩も巫女に眼が赤い時には心配されたものである。吾輩は紳士であるから、傘の少女に近づいてうできるだけ、吾輩が心配していることを伝わるように「にゃー」と声を出してみるのである。

 足もとに寄ってみれば下駄を裸足で履いている。体の調子が悪い時には温かくしなければならぬ。吾輩は体を擦りつけてみるのである。

 すると傘の少女は膝を抱えて屈み、吾輩の顎のあたりをさすり始めたのである。

 

「この猫は私に驚かされて懐いたみたいね」

 

  鼻を鳴らしながら吾輩の気持ちが全く伝わっていないことが分かったのである。どことなく「ふと」と同じ感じがするのは気のせいであろうか。少女は傘を首で支えて、吾輩を両手で持ち上げたのである。

 吾輩と目と目が合うのだ。やはり眼が赤い。医者に行った方がよいかもしれぬ。

 

「私は多々良小傘よ。これ以上驚かさないから、だいじょうーぶ、だいじょうぶ」

 

 小傘というのであるか。

 

「べー」

 

 小傘はいきなり。にやけた顔で吾輩に舌を出してきたのである。吾輩、不覚にもびくっとしてしまったのである。反対に小傘はさらに顔をほころばせているのである。

 

「ううーん。やっぱり驚かせるっていいなぁ。……このごろお腹が減ってるのよ」

 

 こんどはいきなり暗い顔で空腹と言い出した。忙しいやつである。

 それにころころと表情が変わるものであるな。お腹が減っているのであれば、何か食べ物を上げたいところであるが、吾輩は何も持ってはおらぬ。だからもこおを見たのだ。

 もこおを見たのであるが、どうみても何も持ってはおらぬ。よく見れば服もぼろぼろであるな。

 

「それで人間を驚かせているの? あんまり目立つと紅白の巫女に退治されるんじゃない?」

「そうなんですよー。ひもじいのにあんまり頑張るとすっ飛んでくるし……。この前は針を作り直してからコテンパンにされたし……うーん。あのぼうりょくみこー」

「どこかにいるかも?」

「うそでーす。……こわいこと言わないで……」

 

 小傘よ。

 いくら巫女であるからと言ってお腹が減っているから攻撃してくるなどはせぬであろう。あ、いや。吾輩も「さいせんばこ」に乗っているだけで箒をぶつけられそうになったことがあるのである。やりかねぬ。

 

「とりあえず今日は猫しか驚かせてないけど、あとでいっぱい人間を驚かせるのよ」

 

 小傘よ。それよりも先に眼の医者に行くべきである。そう思って吾輩は小傘に前足を伸ばした。

 

「あの、ふえ。ちょっと」

 

 ほっぺたが柔らかいのである。ちょっと噛んでもよいのであろうか、いやいや何でもないのである。小傘が吾輩の前足から逃げようと顔を振る。いかぬ。爪が当たるではないか、吾輩前足を下げてからもう一度、伸ばすのである。

 

「へふっ」

 

 すまぬ。パンチしてしまった。わざとではないのである。小傘はのけぞってしまった。

 誤解しないでほしいのである。吾輩は心から小傘の健康を気遣っているのだ。

 しかし、のけぞりから体勢を立て直した小傘は鋭く吾輩を見てきた。眼をらんらんと光らせているのである。それにしてもらんらんとは、楽し気な響きであるな、人のひょうげんとは妙な物である。

 

「このいたずら猫。私の恐ろしさを見せてあげるわ!」

 

 小傘は傘を畳んで、片手で吾輩を抱えたまま、寺子屋の前の大通りに走り出したのである。もこおよ、なんとか説得してほしいのである。そんなにゆっくり付いてくると間に合わぬ。ぽけっとから手を出して追ってきてほしいのである。小傘の下駄のからんからんという音の方が速いのである。

 

「よーし」

 

 小傘は吾輩に自分の傘をあてがったのである。それをばっと開かれると、吾輩の前に大きな目玉が開かせて、なすびのようなそれに押し上げられたのである。おおう、空にあげられていくような感覚。

 小傘が大きく開いた傘の上に吾輩は載っているのである。見れば地上はかなり下、見物客も周りから集まってきているではないか。

 

「どうだ、まいったか。高くて怖くて、おどろけー」

 

 いや、吾輩この程度の高さでは驚かぬ。

 一度、雲の上まで行った事があるのである。それにこの程度なら神社の屋根の上の方が高いのである。だが、しかしちょっと足場が不安定であるな。吾輩はとてとて傘の上で歩いてみるのである。

 

 ――おおー

 

 うむ? 下の方から歓声が聞こえるのである。周りには小さな人だかりがあるではないか。

 

「わ、わ。ちょっと、あんまりうごかないでよー」

 

 小傘が何か言っているのであるが、吾輩の足が止まらぬ。傘が動いているのに合わせて動かなければ落ちてしまうではないか。小傘が傘をもう少し早く回してくれなければ、歩きにくいのである。

 

 ――いいぞー

 ――がんばれー

 ――ねこまわしだー

 

 何であろうか、下が騒がしいのである。

 

「お、おもいー」

 

 いや、小傘よ。自分で吾輩を上げたのであろう。吾輩は不可抗力というやつである。それにしてもこの傘、妙な目の模様と舌であろうか、変な飾りが邪魔であるな。吾輩はその「舌」を踏みつけて、転びそうになる。邪魔である。噛んでみるのである。

 赤くてなんだか湿ったそれを、吾輩はがぶりと噛んでみる。すると、いきなり傘が上に押し上げられて、吾輩は傘の上でジャンプしてしまったのである。

 

「痛ったぁあ!!?」

 

 小傘の悲鳴が聞こえるのである。何故いたがるかわからぬ。しかし、傘がぐらぐら揺れて、落とされぬように吾輩は傘の上で走るのである。にゃあ。傾いてきたのである。下から「危ない」と聞こえてくる。

 吾輩、宙を飛んだ。くるりくるりと回転してみながら、何故か痛がっている小傘の前にすとんと着地してみるのだ! 着地するときには胸を張らねばならぬ。吾輩はこだわりがあるのだ。

 

 意外と大勢集まっているのであるな。皆が吾輩を見ているのである。

 

「舌噛まれだぁ」

 

 小傘よ、吾輩は傘しか噛んではおらぬ。それに――

 

 ぱちぱちぱちぱちぱち!!

 

 吾輩びくっと驚いてしまったのである。いきなり周りの人が拍手をしてきたのである。もこおもちょっと見開いて拍手をしているではないか。おどろいた、などすごいなどと吾輩を褒めるのである。やめるのである。

 照れるではないか。

 

「え? 驚いてくれたの?」

 

 小傘も何故か笑顔になっているのである。よくわからぬが小傘は人を驚かせるのが好きなようであるな。吾輩が少しでも手伝えたなら、良しとするのである。それにしても拍手が続くのであるな。

 小傘も頭を掻きながら照れているのである。

 何はともあれ、終わりよければすべてよいのである。

 

「こ、こんなに驚いてくれたの初めて」

 

 吾輩を抱えて小傘が言う。だが、小傘はもう一つ付け加えたのである。

 

「……で、でもこれ何か違う気がする……」

 

 何が違うのであろう。吾輩にはとんと分からぬ。

 

 

 

 




寺子屋にはいれぬ


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あのねこはいいやつなのである

「よいしょっ」

 

 大きな傘の上で吾輩は歩くのである。この紫の傘も見慣れてくるとおつなものであるな。

 ついつい吾輩も見物している人間達が驚きの声を上げるともう一度やってあげたくなるのだ。小傘も歓声が上がるたびににこにこしているのである。

 

 ぱちぱちぱち、わーわーわー。

 

 寺子屋から出てきた人の子供達が笑っているのである。吾輩も嬉しくなってくるのだ。

 笑う門にはふくきたるというのである。それにしてもふく、とは誰であろうか。名前からして「ふと」の親戚かも知れぬな。

 そんなことで吾輩は小傘のまわす傘に乗って歩き続けたのである。

 道端で小傘と一緒に歩く練習をしていたら、もう遠くで鴉が鳴いているのである。いつも思うのであるが、遊んでいると時間は早く過ぎていくのはなんでであろう。もしかしたら時間も吾輩と一緒に遊んでいるかもしれぬ。

 

「あーつかれたー」

 

 小傘が吾輩を下ろして、言うのである。見ていてくれた人も帰って行ったから、道には吾輩たちしかおらぬ。もこおはどこに行ったのであろう。

 そういわれると吾輩も疲れたのである。もうかれこれ、どれだけ歩いたかわからぬ。小傘がよろけるたびに飛び降りたりしたから、吾輩肉球が疲れたのである。そんな吾輩の両前足を小傘が手に取ったのである。

 ふにふにと吾輩を肉球を揉んで来るのである。いい感じである。

 

「今日は久しぶりにいっぱい人を驚かせたわ! ……やっぱりなにか違う気がするけど、でもやればわたし……わちきにもできるのねっ!」

 

 ほっぺたを膨らませて小傘が吾輩を見るのである。ううむ、やはり柔らかそうであるな。それにしても、人を驚かせるのが好きとはなんだか妙な趣味であるな。そう言えば吾輩には趣味を持たぬ。そろそろ何か考えなければならぬかもしれぬ。

 

 ふと横をみるのだ。おお、お天道様が吾輩にさよならをしているのである。

 お天道様は山の間に沈んでいく時が一番きらきらしているのであるな。吾輩と小傘は並んでみているのである。吾輩の眼に映る景色がオレンジ色の変わって行く夕方は、なんとなく好きである。

 

「ふふふ。今からは夜、おばけの時間よ」

 

 小傘が何か言っているのであるが、吾輩にはとんと意味が分からぬ。

 それから小傘は吾輩を抱き寄せて、ぐりぐりと顔を吾輩のお腹に当てるのである。

 

「ふかふか~」

 

 吾輩は毛並みのケアは怠らぬのである。それによく吾輩行きつけの山の中で風呂にもはいる。吾輩は綺麗好きなのである。それにしても小傘は、あれであるな、吾輩からみてもだ――

 

 ちゅっ。

 

 吾輩の額に小傘が顔を寄せているのである。ちょっと吾輩の額が濡れた気がするのである。

 小傘は吾輩を下ろしてから「それじゃあね、ねこさん」というのだ。吾輩もちゃんと挨拶をする。

 

「うーん。猫の挨拶はわからないけど……にゃーお」

 

 吾輩の真似をしてから、小傘は片目をつぶってから舌を出しているのである。なんだかわからぬが、笑いながらであるからよいのである。

 小傘の背にした夕日がまぶしいのである。

 小傘は傘をくるりと回してから夕陽の方へからからか下駄を鳴らして帰っていくのだ。曲がり角でひらひら手を振っているのは、人間の挨拶であろう。別れるときは少し寂しいのはなんでであろう。

 影が小傘から吾輩に伸びているのだ。

 小傘も、影も手を振っているのである。影はまだ、帰りたくないのであろうか?

 それでも吾輩も頑張って手を振るのである。こう、前足を上げて。こう……、吾輩はこけた。

 

 ★

 

 寺子屋にやっと入ることができた。吾輩、ここまで来るのは長かったのである。

 ううむ、玄関は閉まっているのだ。吾輩の前足では開けるのは難しいと思わざるをえぬ。吾輩は仕方なく庭の方へ回ってみるのだ。

 それにしても吾輩は、人の見方を一つわかっているのである。

 庭が歩きやすいように掃除しているものに悪い者はおらぬ。この寺子屋も何度来ても、小石も落ち葉もあまりないのである。

 

「今日は外がにぎやかだったな」

 

 声が聞こえるのである。この声はけーねであろう。よく吾輩にいろんなものをくれるのである。

 

「寺子屋の前でまさか唐傘お化けが大道芸をしているなんて思いもしなかったけど、妹紅があの猫を連れてきたの? いつも私に会いに来てくれる猫だよ」

 

 相手はもこおであるな。吾輩はけーね達がどこにいるのかきょろきょろと探してみるのだ。

 だんだんと周りが暗くなっていくのである。そうすると、ぼんやりと明るい部屋があるのが外からもわかってくる。吾輩はそちらに歩いていくのだ。走る必要はないのである。

 

「連れてきたのは私だけど……なんだ、慧音の知り合いだった?」

「……ふふ。そう、猫の知り合い」

 

 吾輩のことを話しているようであるな。吾輩は縁側に前足を変えて「みゃー」と鳴いてみるのである。そこにはいつの間にかいなくなっていたもこおと、青い髪の毛をしたけーねがいたのである。

 

「おや、噂をすればだな」

 

 けーねが立ち上がって吾輩に近づいてきたのである。いつものを頼むのである。けーねは縁側に置いてあった水の入った盥とそこから手拭いを出して、吾輩の足を拭いてくれるのだ。

 

「お前は外の世界で言う紳士だからな。ちゃんと足を拭かないとだめだぞ」

 

 けーねよ、それは吾輩が来るたびに言っているのである。ちゃんと吾輩はけーねの言う通りいつも「紳士」であろうとしているから、心配しなくてもいいのである。

 

「よし」

 

 みゃー。

 お礼も吾輩は忘れぬ。

 けーねの部屋にあがっていく。うむ、ここの畳を吾輩好きである。巫女のところでもこの前寝転がったのであるが、こう、畳の匂いが吾輩はたまらなく好きである。そうは思わぬか、もこお。

 

「おまえ。慧音の知り合いだったとはねぇ」

 

 もこおが吾輩の顎を撫でるのである。ごろごろ。

 ごろごろ。

 いかぬ。吾輩は今日こそぱちぇに勝つために勉強をしに来たのである。もこおにかまっている暇はないのである。吾輩は顎撫での誘惑を力強く振り払ったのだ。

 

「なんだ、お腹がいいのか」

 

 もこおが今度は吾輩を掴んで腹を撫でてくるのだ。

 

「そらそら」

 

 ええい、もこおよ。そう吾輩にかまうではない。けーねも吾輩を助けてほしいのである。そう思って吾輩はけーねに助けてほしいような目で見るのだ。

 

「楽しそうだな」

 

 けーねも吾輩を見ながらうっすら笑っているのである。いや、楽しそうだななどと言ってほしいわけではないのである。吾輩は勉強をしてみなのものとこみゅにけーしょんを取らねばならぬ。吾輩はもこおの指をパンチして跳ねのけるのである。

 

「おお」

 

 悪く思うなもこお。吾輩はすーこうな思いでここに来たのである。吾輩はすくっと体を起こして、油断なくあたりを見回すのである。けーねの前に机があるのだ。そこに書物が置いてあるではないか。

 吾輩、一目散にそこに駆け寄るのである。机の上に載って広げられた書物を見るのである。おお、これはカンジがいっぱい並んでいるのである。吾輩は字に肉球をあてて、読んでみるのだ。吾輩は熱心に書物を読みふけるのだ!

 

「こらこら、その本は逆向きに置いてあるんだ。読めるのか?」

 

 …………けーねよ、それは先に言うのである。

 けーねが吾輩を抱きかかえるのである。

 

「さて、今日はなんの話をしようか。猫さん」

 

 はあ、今日もけーねの話を聞いてやらねばならぬのである。いつも長いのである。それでもけーねの話をいつも聞いていて、吾輩は、

 

 吾輩

 

 という響きが大好きになったのだ。けーねの話してくれたそーせきのねこはいいやつである。

 

 



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しんじつはいつもひとつ





 はんにんは吾輩ではない。

 

 いい天気だったので吾輩はいつも通り、神社に来てみたのである。しかし、巫女が庭のどこにも居らぬ、にゃおと挨拶しても返事もない。

  吾輩は巫女がおらぬので仕方がないと諦めて、賽銭箱の近くに寄りかかって眠っていたのである。日差しがたいそう気持ちのいい日であるから、眠った時のことを覚えておらぬ。

 そして吾輩が起きたら、いきなり目の前に怒った巫女がいたのだ。吾輩には訳が分からぬ。

 

「あんた、私のお饅頭食べたでしょ?」

 

 巫女よ吾輩のほっぺたを両側に引っ張るのはやめてほしいのである。

 とりあえず、吾輩はお饅頭を食べたことがないのである。甘いと聞くそれを、いつかは食べてみたいものであるが、吾輩は紳士であるからして盗もうとは思わぬ。

 

「白状しなさい!」

 

  どう言われても吾輩にはとんと分からぬ。吾輩は無実である。べんごしを呼ぶのである。吾輩は何かけんかがあると仲直りさせにべんごしとやらが来ると聞いたことがあるのである。それにしてもべんごしとはいいやつである。

 

「……うー。ああもう。猫相手に言ったって仕方ないか」

 

 吾輩を巫女がやっと離してくれたのである。

 巫女はその場でうんうん唸っているのだ。それにしても心外なことである。吾輩はただ寝ていただけなのである。悪いことは一切しておらぬ。

 

「それに、こいつの口元に何もついていないし。勢いでいったけどこいつか魔理沙しかいないし」

 

 ちらりと吾輩を疑いの目で巫女が見てくるのである。

 しかし、巫女自身の言うとおりである。吾輩は巫女の前で口の周りを舌で嘗めてみるのである。もしも吾輩がねぼけて饅頭を食べていたのであれば、口元が甘いかもしれぬ! ……ちょっとそれはいいかもしれぬと吾輩は思うのである。

 

「あーもう。まだ饅頭はあるからあきらめるしかないか……」

 

 巫女がとぼとぼとと背中を見せて歩いていくのである。

 ううむ、吾輩が犯人という誤解が解けたのか、解けておらぬのかわからぬ。もやもやするのである。

 

 ★

 

 吾輩はもやもやしたから、神社の境内を歩き回ったのである。相変わらず人があまりおらぬから、気兼ねなく散歩できる。それに巫女も掃除をちゃんとしていることを吾輩は木の陰からしっかりと見ているのである。

 吾輩は知っている。安心するがいいのである。

 

 吾輩はひとしきり神社を一周したから、また巫女の所に戻ってきたのである。ううむ。縁側で書物を広げているのである。傍に小さなお盆があるではないか、その上に栗色の何かが置いてあるのである。

 吾輩は気になって寄ってみるのである。

 

「そこで止まりなさい」

 

 だんっ、と巫女がその場で立ち上がって。吾輩を止めたのだ。

 

「あんたの疑いが解けたわけじゃないから。それ以上近寄るんじゃないわよ?」

 

 むむむ。吾輩は饅頭など食べていないのである。こう、どこかに吾輩の気持ちを代弁してくれる者はおらぬであろうか、もしくは吾輩が喋ることができればこみゅにけーしょんがとれるのであるが……

 巫女は警戒しながら座り込んで書物を読み始めたのである。仕方ないのである。吾輩もその場でまるくなっておくのである。

 

 それにしてもいい天気であるな。最近雨も降らぬ。

 吾輩はうとうとしてきたのである。ああ、寝る少し前が一番気持ちいいのである。

 うむ?

 

 なんかへんな物が見えるのである。

 書物を読んでいる巫女の後ろに変なスキマがあるのである。吾輩、眼をぱちぱちさせてから起き上がってみる。

 なんであろうか、空中に何故スキマが空いているのであろう。どうやら巫女は気が付いていないようであるが……にゃ、スキマが開いたら目みたいになったのである。紫色の眼が空中に浮いているのである。不気味で吾輩はびっくりしたのである。眼の中に眼がいっぱいあるのである。

 おお、そこから白い手袋をした手が伸びてきたのである。

 その手がお盆に乗っているおまんじゅうを摘まんでスキマの中に持って行ったのである。巫女は気が付いておらぬ。

 

 吾輩。この目で犯人を見たのである!

 巫女よ、吾輩の話を聞いてほしいのである。

 

「あ? なににゃあにゃあ鳴いているのよ。今いいところなんだから」

 

 書物に夢中になっている巫女の後ろでまた、白い手が伸びてきたのだ。そうはさせぬ。吾輩はだっとその場を蹴り、縁側に乗ったのだ。

 白い手にパンチをお見舞いしたのである。

 驚いた白い手が紫色の眼に帰っていく。

 吾輩の勝利である! おそるるにたらぬ。

 

「あんた、もう! おまんじゅうはあげないっていったでしょ」

 

 ううむ吾輩の両脇を持って巫女が持ち上げてくるのである。吾輩の活躍を伝えられぬのはもどかしいところであるな。

 巫女はそのまま吾輩を地面に下ろしたのである。

 ……まあよいのである、吾輩は謎のどろぼうを撃退したのだ。これで巫女もへいわにおまんじゅうを摘まむことができるであろう。吾輩はそう思って、その場でまた丸くなったのである。

 

 ふと、影がかかったのである。吾輩がいぶかしく思って起き上がってみると、傘を持ったおなごが吾輩をにこにこと見ろしているのである。いつの間にきたであろうか、金髪をしたそのおなごは、日傘をさしているのだ。

 なるほど、それで吾輩に影がかかったのであるな。

 

「げ、ゆかり」

 

 巫女が何か言っているのである。どうやらこのおなごはゆかりというらしいのである。

 ゆかりは吾輩の頭を撫でてくるのである。何だか変に手のひらが柔らかいのは何でであろう。

 

「こんにちは、霊夢。最近猫を飼い始めたのね」

「いや、そいつ野良よ」

 

 なーご。

 何だか気持ちよくなってきたのである。吾輩は丸くなったまま、頭を撫でられるのはなかなかに好きである。このゆかりという者もやるのである。

 

「野良ねぇ。でもこの子はただの野良じゃないわ」

「どういうことよ、ゆかり」

「幻想郷の賢者だって撃退したこともあるのよ?」

 

 おお、気もちいいのである。うにゃうにゃ。

 

「そんな嘘を信じるわけないでしょ」

「あら、霊夢も助けられたのに……恩知らずね」

「わけわかんないわ」

 

 ゆかりの手が離れていくのに吾輩はふと寂しくなって立ち上がったのである。耳が勝手にぴくぴく動くのである。吾輩は歩いていくゆかりの足元をなんとなくついていくのである。

 

 ゆかりと巫女が並んで縁側に座ったのである。吾輩も昇ろうと思ったのであるが、スキマがないのである。そう思っているとゆかりが自分の膝のあたりをぽんぽんとしたのである。吾輩はにゃあと一礼してから、上るのである。

 おお、中々に寝心地がよい膝である。しかもゆかりがまだ撫でてくれるではないか。

 

「どうみても、普通の猫ね」

 

 巫女の声がするのである。巫女よ、吾輩はそこらの猫と一緒にしてもらっては困るのである。さっきもちゃんと泥棒を退治したのである。

 

「この栗饅頭を食べようとしたのよ」

 

 だから巫女よ、吾輩はそんなことしておらぬ。何か言ってやるのだゆかりよ。

 

「霊夢……貴女はまだまだ修行がたらないようね。真犯人は他にいるわ」

「じゃあ、だ、だれよ」

「ふふふふ」

 

 ゆかりが笑いながら吾輩を撫でてくるのである。ゆかりは右手に吾輩をそして左手に栗饅頭を手にして、ぱくりと食べたのである。

 

「お茶はあるかしら? 霊夢」

「……はいはい」

 

 巫女が歩いていくのである。吾輩が見上げると栗饅頭をおいしそうに食べているゆかりがいたのである。吾輩もちょっとほしいのである。だから、のっそり起き上がってゆかりの肩に手を掛けながら口元についた欠片を食べてみたのである。

 

 うまいのである!!

 

 




きのうきえたのはちぇえええんのはなしだったのですが、こっちをさきに


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じゆうきままにいきるのである

 吾輩は今日がご機嫌なのである。昨日は巫女にあらぬ疑いを掛けられたのであるが、ゆかりの膝でよく眠れたのである。

 

 吾輩はどんなことでも一度眠ればよい思い出になるのである。

 それに今日は一つ楽しみがあるのである。この幻想郷は吾輩の庭のようなものであるからして、どこに行けばまたたびをよく取れるかを吾輩以上に知っている者はおらぬ。

 

 気が向いたから、吾輩は森の中に入ってまたたびを楽しみに行くのである。

 吾輩は草むらを抜けて、剥き出しになった木の根っこを飛び跳ねながら進むのだ。

 またたびはたまには巫女にも分けてやらねばならぬと思いつつも、吾輩がまたたびを咥えて持っていくわけにはいかぬ。途中で転んでしまうのだ。仕方ないであろう。良い気持ちになってしまうのだ。

 

 それでも吾輩は反省している。これではいかぬとおもいつつも、まだ吾輩にはとんと妙案が浮かばぬ。

 巫女にまたたびをやったことはないのであるが、おそらく好きであろう。いや、嫌いな物がおるのであろうか。吾輩はその場で考え込んでみたのである。

 

 みんなまたたびは好きであろう。うむ。

 

 ちゃんとけつろんをだしてから、吾輩は前に進むのである。それにしても今日もきょうとてよい日である。

 温かい日はいつもよいである。いや、雨の日もよい日であるし雪の日は……よい日である。しかし、雷はいかぬ。あのばこんという音が吾輩は苦手である。偶には手加減してくれも罰は当たらぬと思っているのである。

 

 そういえば、昨日神社から帰る途中に妙な猫と会ったのである。

 頭に緑色の帽子を被った、黒猫であった。片耳にイヤリングをしているお洒落な猫である。

 お月様もちょっとだけ顔をだした日であったから、顔はよく覚えておらぬ。ただ、尻尾が二股に分かれていたのである。吾輩は痛くないであろうかと気遣ったのであるが、大丈夫とのことであった。

 吾輩それで安心してから、みゃあとちゃんと挨拶をしてそばを抜けていこうとしたのである。ただその猫は吾輩に妙なことを言ってきたのである。

 

 遠くの山の奥に猫の楽園があるというのである。

 そこでは「ちぇん」なるぼすがいて、食べ物もまたたびもいっぱいくれるというではないか。その猫が言うには「ちぇん」は猫たちに慕われているというのであるが、今なら楽園に迎えてくれるというのである。むしろ「ちぇん」に従うならゆうぐうしてくれるというのである。

 

 吾輩は興味ないのである。

 その二股尻尾の猫には悪いのであるが吾輩は自由気ままに生きていたいのである。それに楽園などに行かなくとも、吾輩は神社やら寺やら人里やらに出入りしているのである。

 

 中々に毎日が楽しいのである。

 そういって断るとその猫は、それでも楽しいことはいっぱいあるのだとにゃあにゃあいうから、吾輩も悪い気が深まってしまったのだ。

 せんざいもつけるというのであるが、なんのことかわからぬ。

 こんなに熱心に誘ってくれても吾輩は応えることが出来ぬ。そこで吾輩はその猫に「またたびのいっぱい取れる場所」をこっそり教えてあげたのである。

 

 その猫は眼をぱちくりさせから喜んでいたのである。

 

 ★

 

 あの猫は元気であろうか、ぜんいで吾輩を楽園に誘ってくれたのであろうから、吾輩もついつい秘密の場所を教えてしまったのである。

 まあ、吾輩もまたたびを独り占めはできぬ。ちゃんと教えてあげることが紳士なのである。

 おお、そろそろ秘密の場所につくはずである。吾輩は背の高い草を押しのけながら、途中で休みつつ、毛づくろいしつつ迅速に行動をするのである。

 

 開けた場所に出たのである。このあたりはまたたびがいっぱい取れるのである。

 木になっているまたたびは、吾輩が空を見上げればいっぱい……

 

 ないのである。

 

 なぜであろうか、吾輩にはわからぬ。あたりを走り回ってみても全くないのである。

 かりかり。

 はっ、気が動転して木で爪とぎをしていたのである。こんなことをしている場合ではない。

 吾輩はその場でぐるぐる回りながら、なんでまたたびが一つもないのかを考えているのである。もう一度上を見てみると、またたびのなっている木の枝に葉っぱもかなりむしられているのである。

 

 うーむ。これはいかぬ。どろぼうである。

 二日連続でどろぼうと会うとは思わなかったのである。

 吾輩はだれが犯人かを考えながら、その場でぐるぐるぐると回ってみるのである。すると視界の端っこに黒い影が見えるではないか!

 

 吾輩はすぐさまそれを追っていくのである。その場をくるくる回っても追いつけぬ。中々逃げ足の速いやつである。犯人に違いあるまい!!

 

 かぶり、吾輩はかみついた。はみはみするのである。まいったか!

 ……これは吾輩の尻尾ではないか。ぐるぐる回っていて気が付かなかったのである。

 

 吾輩は恥ずかしくてあたりを見回してみるのである。背筋を伸ばして、首を回してみるのだ。すると近くの茂みががさりと動いたのである。吾輩はそれに素早く反応したのである。

 

 しっぷうのように茂みに突撃する吾輩。がさりと入り込むと、がつんと頭に何かが当たったのである。

 

「わ、わっ、いたぁ」

 

 どしん、ばたん。ぐちゃ。何か音がしたのである。

 見ればひとりの少女がうつ伏せで倒れているのである。あたりに葉っぱが舞い散っている。これはまたたびの葉っぱではないか。

 少女は赤い服を来て、お尻から二股の尻尾の飾りを付けている、ううむこの程度の変装で猫に成りすます気であるな。それに胸元でつぶれているのはまたたびの実である。胸でつぶしたのか、あたりに匂いがするのである。

 

 うにゃあ。

 は、いかぬ。木をしっかり持つのだ吾輩。いや木の枝を何故噛んでいるのだ吾輩。気をしっかりもつのだ。

 吾輩は少女のお尻から背中に上りにゃあと抗議するのである。茶色の髪をパンチしてみるのである。頭に被っている帽子は昨日の猫と同じようなものであるな。

 

 ともかく観念するのである。

 

「……にゃあん、ごろにゃあぁん」

 

 少女は赤い顔でごろごろもぞもぞしながら、何か唸っているのである。……またたびを潰したときに酔ったのではないであろうか。

 

「うにゃあ」

「ごろごろ」

 

 なんであろうか。もはや話が通じぬくらいにまたたびに酔っているのである。

 吾輩が一度パンチしても、意味がないのである。しっかりするのである。吾輩はこの少女の気付けに舐めてみるのである。

 

「……!……」

 

 なんだかびくびく痙攣するだけで変わらぬ。

 

「……ぐす、ぐす」

 

 な、なんで泣くのであるか。どこか痛いのであるか、吾輩心配なのである!

 吾輩は降りて少女の顔をのぞきに行ったのである。頭におおきな耳があるのである。それよりも大粒の涙を流すのはなぜであろうか。

 

 にゃあご。

 吾輩は聞いてみるのであるが、通じぬ。少女は誰に言うでもなくぼそぼそなにかを言っているのだ。

 

「いうこと……きいてよ、もうまたたび……ないけど」

 

 何を言っているのであろうか。と吾輩は思ったときに思い出したのである。昨日の猫の言葉を。

 もしかしてこやつ「ちぇん」ではないであろうか。

 楽園のまたたびやご飯を一人で用意しているというのであるから、それはそれは毎日大変なのであろう。

 

「らんしゃまぁ」

 

 うなされておるのである。きっと「らんしゃま」は楽園の猫の一匹であろう。

 うむ、わかったのである。……吾輩は寛大な心で全てを許すのである。またたびを持っていくがよいのである。

 そう思って、吾輩はおそらく「ちぇん」の少女に肉球を当ててみるのである。

 

「がぶっ」

 

 噛まれたのである!

 

 

 

 




数日前にデリートされた物語でした。


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おてんとうさまのしたは、ひろいのである

 吾輩が数日ぶりに神社に顔を出してみると、なにやら何かを広場で作っているのである。

 それはまるで塔のようであるな。周りには青い服を着た女子が力仕事をしているのである。おそらく何かの妖怪であろう。大きな木造の塔に紅白のめでたい垂れ幕を付けているようである。

 

 まあ、吾輩には関係ないのである。

 いつも通り、良さげな場所を探して日に当たりながら丸くなるのである。うむ、このあたりが良い感じに草が生えている。ここにするのである。

 吾輩はそこで丸くなった。だが、怠けているのではない。吾輩はとても忙しいのである。

 前足を嘗めて毛並みをしっかり整えなければならぬ。

 ううむ、それにしても顎のあたりがかゆいから後ろ足で掻くととてもいい気持になるのだ。おお、おおう。

 

『よーし。それはそこにやってー』

 

 青い服を着て、青い髪をした少女は他の者たちに指示をしているのである。吾輩はそれを内心応援しつつも、眠くなってきたのである。それにしても平和そのものであるな。

 そう思って吾輩は後ろをくるりと向いて視るのだ。特に意味などはない。

 

「…………」

 

 そこに一人、歩く途中で固まった様な少女がいるのである。

 なんだか桃のような髪の色をした少女である。吾輩のするどい視線を受けてもぴくりとも表情を変えぬのだ。こやつ、やるのかもしれぬ。

 まあ、いいのである。吾輩は一旦神社の方をちらりと見て、もう一度後ろを見たのである。

 

「…………」

 

 なんか近づいてきているのである。それにしても表情が全く変わらぬ。頭に狐のお面をかぶっているのであるが、それ以外は普通の、いやよく見たらあまり吾輩も見ぬような服装である。

 穴ぼこだらけのスカートを穿いているのである……貧しいのであろうか。吾輩は少し心配なのである。ちょっと自分でも心配性かもしれぬとこの頃思っているのだ。そう思って少し眼を閉じてしまったのだ。

 吾輩はっとしてすぐに少女を見たのである。

 近いのである。しゃがんで地面に手をついてしまっているのだ。その無表情な顔がすぐ目の前にあるのである。

 

「…………かんねんしろ」

 

 いきなり言われても困るのである。いったい何がしたいのであろう。

 少女は吾輩に手を差し伸べてきたのである。吾輩の前で手のひらを広げているのだ。吾輩も意味が分からずに少女をみると、全く表情が変わっておらぬ。しかし、心なしか眼がきらきらしているような気がするのである。

 

 わけがわからぬ。吾輩はとりあえず手を嘗めてみるのだ。

 すると少女は自分の掌をじっと見つめて首を振るではないか。

 

「ちがう。……そうじゃない」

 

 いや、わからぬ。

 少女がまた吾輩に手を差し伸べてきたのである。今度ばかりは流石の吾輩にもわからぬ。だからちょっと首を傾げて少女をみると、手を差し伸べたまま少女も首を傾げているのである。……吾輩と一緒の動きをしてどうするのであろう、説明してほしいのである。

 

『そこまでだ面霊気よ!』

 

 吾輩たちが悩んでいるとどこからか聞き覚えのある声が聞こえてきたのである。

 吾輩はそちらをむくと神社の軒下からずりずりと烏帽子をかぶった少女がはい出てくるではないか。うむ、ふとであるな。なんで軒下にいたのであろうか、もしや住んでいるやもしれぬ。

 足を広げてから右手をちょっとあげ、さらに左手を吾輩たちに突き出してくるのである。妙なポーズであるな。

 

「でたな、ようかいのきしたやろう」

 

 無表情の少女がなにか言っているのである。それにふとが怒った。

 

「わ、我のどこが妖怪だ! これは深いわけがあってのことだ」

「……ふつう軒下にもぐらないと思うけど」

「そうなのよねー。いや、我も太子の命で神社の下にいたのだが、さびしくって。あ、いやなんでもない」

 

 無表情の少女とふとは知り合いのようであるな。吾輩はさっきから一歩も動いてはおらぬが、なんだかあっちを向いたりこっちを向いたり忙しいのである。

 

「よいか、面霊気よ。この猫は我を慕っているのだ」

 

 慕ってはおらぬ。

 

「おおー」

 

 少女よ、騙されるでない、と言いたいところであるがまあいいのである。なんだか楽しそうであれば吾輩とやかくいわぬ。

 ふとは吾輩の前に両膝をちゃんととつけて座って、吾輩に手を差し伸べてきたのである。

 

「お手」

 

 ふふんと鼻を鳴らしながら吾輩にふとは言ったのである。

 なるほど、吾輩に人里で飼われている犬のようなことをさせるつもりであるな。吾輩はそれはできぬ。他を当たってほしいのである。できれば犬辺りがいいのではないであろうか。

 

「……ほれほれ」

 

 手のひらをひらひらさせても吾輩はせぬ。ふとよ……いや、そんな不安そうな顔になって行かれると困るのである。吾輩もぷらいどはあるからして、できぬものはできぬ。

 横を見ると無表情の少女がふとをじっと見つめているのである。ふとは汗を掻き始めている。

 

「……できない?」

「い、いや。こ、これは我もまだ教えていなかったからな。ほら猫よ。手を出すのだ」

 

 なんだか可哀想になってきたのである。吾輩されるがままである。

 

「よいか、猫よ。お手とは手のひらをこう広げて」

 

 といいつつ、吾輩の前足をふとが持って肉球を上に向けたのである。それからふとが自分の右手を肉球の上からゆっくりと下ろしてきたのだ。

 

「よいか、こうするのだ!」

 

 吾輩の前足の肉球にふとが手を乗っけているのである。

 自信満々な顔をしているふとを吾輩はどうすればいいのかわからぬ。悩まし気に横の無表情の少女を見れば、吾輩から眼をそらしてくるのである。どうしようもできぬ。

 

「……………」

 

 ああ、いい風が今日は流れているのである。こんな中お昼寝をすれば気持ちがいいであろう。

 

「こ、これではまるで我が猫にお手をしているみたいではないかっ!」

 

 ……吾輩に言われても困る。勝手にやってきたのである。ふとは吾輩の両前足を持って振るのであるが、これが握手というやつであろうか。

 

「我は……なんで、猫に怒っているのか」

 

 きっと疲れているのであろう。吾輩はうにゃあとその場で鳴いて、ぐるぐると回ってから横になるのである。ふとをちらりちらりと見てみるのだ。

 吾輩はこみゅにけーしょんは難しいが伝わってくれると嬉しいのである。吾輩の思っていることわかってくれればよいのであるが、

 

「我と昼寝がしたいのか?」

 

 嬉しいのである。

 

「し、仕方ないな」

 

 ふとはその場でころりと吾輩に並んで寝ころんだのである。

 何故か吾輩を抱き寄せて仰向けになったのだ。おお、今日も青い空に雲が泳いでいるのである。気持ちがいいのである。

 

「私もねむくなってきちゃった」

 

 無表情の少女よ遠慮することはないのである。ごろ寝するのである。

 なに、この幻想郷の土地はどこでも寝ていてもお天道様が照らしてくれるのである。

 心配するでない。

 

 ★

 

 どれくらいたったのであろうか。

 ふとに抱かれているとなんだかあったかいのである。

 それでも吾輩少し寝ぼけているのかもしれぬ。

 

『ああーもう、なんでこいつらいるのよ』

 

 巫女の声がする気がするのである。

 

『こいつ、なんで猫を抱いて寝てるのかしら。それにこころも寝てるし。……お祭りで踊ってもらうから、風邪なんてひかれたらこまるけど』

 

 まつりをするのであるか。吾輩やたいの裏でよくいい匂いを嗅いでいるのである。

 

『……仕方ない。掛ける毛布とかあったかな。まったく人の神社でなんで寝てんのよ』

 

 巫女が歩いていくのである。

 吾輩は、それを呼び止めようとして声が出ぬ。代わりに二人の少女の寝息が吾輩の耳に響くのである。

 

 

 

 



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おまつりのそらはめまぐるしいのである

 それにしても今日はやかましいのである。

 なんでも神社でなにかしらのお祭りをするからと屋台がどんどんやってきているのである。

 吾輩は昨日ふとたちとお昼寝をした草の上でくつろぎながらそれを見守っているのである。仮に不正があれば吾輩は見逃さぬ。いまのところは何もないようではある。

 昨日は吾輩たちが起きてみると掛け布団を掛けられていたのである。誰が掛けてくれたのであろうか。吾輩はとんと分からぬ。親切なものもいるのだと吾輩感心していたところだ。

 そんな吾輩も今日はかぼちゃのようなスカートの上で丸くなっているのである。

 

「…………」

 

 吾輩を膝の上に載せたままじっと神社の広場を見ているのは、昨日知り合ったこころである。全く表情が変わらぬから、吾輩をしてもこころのことはよくわからぬ。しかし、この少女の周りに妙なお面が浮いているのが不思議である。

 たまに近くに寄ってきた時には吾輩のぱんちで追い払ってやるのだ。

 おお、話をすれば吾輩の隣に笑った女のお面が近寄ってきたのである。……怖いと思ってはいかぬ。吾輩はすくっとスカートの上で体を伸ばしてから、パンチするのである。

 

「いて」

 

 なんでこころが痛がるのであろう。それに全く表情が変わっておらぬ。

 

「あばれるんじゃない」

 

 何か言いながら吾輩の背中をこころが押さえつけてきたのである。吾輩はその手には乗らぬ。するりと草むらにおりたのである。それにしてもこころの履いているスカートは穴だらけであるな。

 なんでであろう、吾輩こういう狭い空間があると入ってみたくなってしまうのである。スキマの中に顔を入れてみようするのである。

 

「は、はいるな、はいるな」

 

 途中でこころに抱き上げられたのである。しばしこころの無表情な顔とにらめっこするのである。人里ではよくにらめっこを人の子から挑まれるのであるが、吾輩負けたことはないのである。

 相手が勝手に笑顔になるのである。吾輩は特に何もしておらぬ、目の前でじっと相手の顔を見ているだけにすぎぬ。それでも負けたことはないのである。偶に巫女にも勝つのだ。

 吾輩はむてきである。

 ふふ、そうとも知らずに吾輩ににらめっこを挑んだことを悔いるのである。こころよ、さあ笑うがいい。

 

 …………………………

 

「なぜ見てくる?」

 

 それは吾輩の台詞である。本当にわずかも表情が動かぬ。まさかこやつは、にらめっこの達人なのかもしれぬ。しかし、吾輩とて負けられぬ。にゃあと鳴いてみるのである。にらめっこで吾輩が鳴くと相手が笑顔になることもしばしばである。

 

「にゃあ」

 にゃあ

 

 ううむ、けっちゃくがつかぬ。鳴き合っているだけではいたしかたないのである。

 吾輩はちらりと見て、そっぽを向いてみたりとひじゅつの限りを尽くしたのであるが、こころは一向に笑わぬ。にらめっこをして吾輩は生まれて初めて苦戦しているのである。けいねにも吾輩は負けたことはない。

 

「わかったわ。お散歩をしたいのね」

 

 こころはそういうと吾輩を抱いて立ち上がったのだ。軽やかに屋台の準備が進む広場へ足を進めているのである。もしかしてこれはにらめっこではなかったのかもしれぬ。こころのこみゅにけーしょんだったのかと吾輩は思うのである。

 それはそうとだっこされたままの移動は楽ちんであるな。

 

 ★

 吾輩は昔からお祭りの雰囲気が好きである。こころと一緒に神社をあてどもなく歩き回り、たまに縁側に座って休んだりしたのである。

 お天道様もお家に帰っていく。吾輩はそれを名残惜しくいつも見守っているのである。

 お月様はいつもいつの間にか空にあがっているのである。吾輩に昇ってくるところをみせぬ。いつかはかならずどこから昇ってくるかを暴くのである。

 こころと一緒に縁側から空を見上げると、夕焼けと黒い空がまじりあっているのである。黒い方にはお星さまがだんだんとやってきたのである。

 

「いこ」

 

 こころの言葉ににゃあと答えて、吾輩は縁側から軽くジャンプしたのである。

 境内にいくつかの屋台が立ち並ぶと里からだんだんと人が集まってくるのである。

 その内に人の子などが走り回り始めたり、もう何かを焼いている屋台のいい匂いがしたりするのである。

 それでいて、だんだんと暗くなってくると赤い提灯が空に浮かんでいるのである。あれは糸かなにかでつるしていると吾輩はちゃんとわかっているのである。

 

「うまいなぁ。これ」

 

 吾輩はこころの後ろを歩いているのである。こころはさっきヤツメウナギなるものの串焼き貰って食べ歩きしているのだ。これはいかぬ。ちゃんと吾輩が注意してやるのである。

 

「…………これは食べれない」

 

 こころが吾輩をちらりと見てから言うのだ。いや、吾輩はねだっているのではないのである。それにしても今日は何の祭りであろうか、さっきちらりと見た巫女が何かを売っていたのである。

 

 まあ、いいのである。

 楽しいことは毎日しても、きっと楽しいのである。

 しかし、人が多くなってきたのである。吾輩踏まれぬかちょっと心配なのである。

 

 むむ。吾輩の前から歩き食いをしている少女がやってくるのである。肉まんのような物を口に咥えて楽しそうにしているのであるが、吾輩は一つ「にゃあ」と注意するのである。

  頭におだんごのような髪飾りを二つ付けた少女であるな。

 少女は吾輩の毅然とした鳴き声に驚いているのである。しかし妙な格好である。頭はこころと同じような桃色であるが、片手には包帯でぐるぐる巻きにして、片手にはくさり? を巻いているのである。胸元には大きな花をつけているのである。

 

 これはおしゃれであろうか。吾輩にはとんとわからぬ。

 まあ、なにはともあれ歩き食いはいかぬ。

 

「……ご、ごめんなさい。わ、私が猫に……」

 

 なんか謝られたのである。

 ううむ。吾輩の言葉がわかったのであろうか? いや、そんなわけはないのである。そうであれば吾輩もこみゅにけーしょんには苦労せぬ。こころもそう思うであろう?

 

 

 うむ?

 にゃあ?

 みゃあみゃあ?

 

 

 こころがおらぬ。というか周りに知った顔がないのである。

 こころが迷子になってしまったのである! 

 これはいかぬ、どこかで泣いているかもしれぬ。吾輩はあわてて体を伸ばして探してみるのである。さっきの包帯の少女もどこかへ行っているのである。

 

 というか、おぬしは誰であろうか。

 吾輩の後ろに小さな女の子が泣き顔で立っているのである。どこかで見たことがあるのである。たしか人里の子供……迷子であろうか! 遊んだ記憶があるのである。もしかして親と離れて、知り合いの吾輩に助けを求めにきたのであろうか。

 な、泣かないのでほしいのである。安心するのである。吾輩は少女になあごと声を掛けるのである。

 人の足が吾輩の前を通り過ぎていくのである。

 吾輩はきゅうしたのである。だれも見捨てるわけにはいかぬ。

 どうすればいいのか、吾輩は深く考えるために眼を閉じたのである。

 それから眼をあけると、目の前につくりのしっかりとした靴があったのである。

 

 見上げれば赤い瞳が吾輩と少女を見下ろしているのである。

 緑の髪を片手でよけながら優しい顔をしているのである。吾輩はふと、綺麗なお花を見た時のような気持になったのである。

 少女はひまわりのような色のリボンをして雨でもないのに傘を持っているのである。

 

「おじょうさん、子猫さん? まいごかしら?」

 

 緑の髪をした少女は言ったのである。がやがやと周りの声がするのにしっかりと吾輩にも聞き取れるきれいな声である。

 

 しかし、吾輩は、迷子ではない。

 

 

 




削るところが無さすぎて、くせんしました


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どんなかたちのであいもいいものである

 祭りの時に空をみると不思議なのである。

 提灯がゆらゆらしていて、吾輩の周りは明るいのであるが、空の上は暗いのである。

上を見ながら吾輩は人に踏まれぬように歩く。

そうやってしさくにふけってみるのである。

 それにしてもいい匂いがそこらじゅうからするのである。吾輩もおかねがあればやたいとやらで何かしてみたいのである。それにしても不思議である。おかねなんて噛んでも、嘗めてもおいしいものではない。

 あんなものを取り合う物ではないのである。それよりも煮干しのほうが吾輩は嬉しいのである。

 

「猫さん。付いてきているかしら」

 

 吾輩を呼ぶ声がするのである。ちゃんと付いてきていると吾輩は前をむいて、にゃあというのだ。

 緑の髪の女子がいるのである。

吾輩のことを迷子と間違ったことはまあ、吾輩の広い心にはなにほどのことでもない。緑の髪の女子は吾輩を頼ってきた迷子の少女と手を繋いでいるのである。

 どうやら迷子の少女のほごしゃを探すことを手伝ってくれるようである。吾輩はほっとしているところである。

 

「猫さんの飼い主はどこにいるのかしら?」

 

 吾輩に飼い主などおらぬ。自由気ままにどこにでも行くのである。

 緑の髪の女子はずっとえがおである。迷子の少女もそれにつられて笑顔になっているのである。

 うむ、よいことである。

 会話にぴくぴく聞き耳を立ててわかったのである。どうやらこの緑の髪のおなごは「ゆうか」というらしいである。

 吾輩はその名前を忘れぬようにしっかり覚えたのである。吾輩は記憶力にはすこしじしんというものがあるのだ。いちじいっくたがうことはない。

 ゆーかと迷子の少女の後ろを吾輩はてくてくついていくのである。

 ……ゆーかの足取りが遅いのである。もしかして吾輩や少女に合わせているのであろうか、吾輩は二人の後ろを歩かなければ踏まれぬかもしれぬ

 屋台の前で2人が止まったのである。

 お、りんごあめであるな。吾輩あれを食べたことはないのである。

 りんごあめの屋台をやっているのはどうみても河童であるな。いつも暑苦しそうなへんな青い服でいるからわかりやすいのである。

 

「そうね。ひとつ」

 

 ゆーかがりんごあめを貰っているのである。そのまま迷子の少女にあげたのである。

 吾輩には……いや、なんでもない。

ねだるなど紳士ではないのである。ところでりんごはどこで手に入れているのであろうか。

 もしや妖怪が作っているのであろうか?

 いやいや、たぶん人里で作っているのであろう。吾輩も山芋を掘り出してみることもあるのである。あとで口がひりひりするから食べぬ。掘り出すだけである。

 りんごも地中に埋まっているのであろう。吾輩は今度見つけるつもりである。それは食べてみるのである。

 

 縁日はいろんな屋台があるのである。

 ゆーかよ射的をするのはいいのであるが、あっちを狙うのである。吾輩にじゅうを向けるではない。それを迷子の少女も真似ているのである。

 おそらくわからぬであろうが、吾輩よりも背の高い2人にじゅうを突き付けられる吾輩の身にもなってほしいのである。そうそう、ゆーかよじゅうを引くのである。

いや、店主をじゅうで脅すでない。いいけいひんをまえに、とは何を言っているのであろうか? 

迷子の少女に狙わせているのである。あ、あたったらしいのである。吾輩からは見えぬ。

 

しばらく歩くとゆーかと迷子の少女がまた立ち止まったのである。

縁日は子供が遊ぶものがいっぱいあるのである。こう周りを見回すと人の子はいっぱいいるのである。

うむ? あそこで何かを食べている子供は着物をちゃんときてはいるのであるが、頭にお椀のようなものを被った妙な格好をしているのである。いや、なんで頭にお椀を被っているのであろうか。おしゃれというものであるな。

吾輩もお椀を被ったらお洒落であろうか……? とんとわからぬ。

 

「猫さん」

 

 ゆーかの声がするのである。後ろを向いてみると手にほかほかの串にささったヤマメを持っているのである。屋台でもらったのであろう。

屈んで吾輩の前に持ってきてくれたのである。

 にゃあ、にゃあぁ。

 いかぬ、我を失っていたのである。吾輩は紳士としてちゃんと挨拶をしてからいただくとするのである。

 ゆーかよ、さあ吾輩にくれるのであるというさきから吾輩の前でもぐもぐたべるのをやめるのである、ちょっとくらいほしいのであるそこがいちばんおいしいのであるああ、えがおでたべるのをやめるのであるふぎゃあ! なああご。

 

 なんで吾輩を呼び止めたのであろうか!? 

 ゆーかは自分で食べているのである。それもすごくうれしそうなのはなんでなのであろうか。ううむ、そんな食べ終わった串などいらぬ。

 

 いや、この串ちょっと味がするのである。少しだけ嘗めてみるのである。ううむ。このあたりがちゃんと味がするのである。ゆーかが頭を撫でてきたのである。

 

 

 ゆーかと少女と吾輩で縁日を回ってみたのである。

 お団子をもぐもぐしているきんぱつのウサギのような耳の少女の足を踏んでしまったのである。まあ、お団子のかけらを貰ったから許してやるのである。

 ちらりと小傘の顔を見たのである。ゆーれい屋敷をしているようであるが、なんだか笑い声が聞こえるのである。

 それでも吾輩は2人から離れられぬ。

迷子の少女はゆーかを笑顔で見上げているのである。。

ゆーかは迷子の少女を笑顔で見下ろしているのである。

笑い合いながら、歩いていくのであるな。

うむ? ということは吾輩も笑顔なのであろうか。吾輩は鏡はあまり見ぬ。水面にうつる吾輩の顔をたまに見る程度である。だから笑顔がよくわからぬ。

 とりあえずにこにこしているゆーかと笑顔の迷子の少女が吾輩を見下ろしているのである。吾輩はそれでいいのである。

 

 ふと、声がしたのである。

 誰かを呼んでいるのであろう。

 ゆーかと手を繋いでいた迷子の少女が「あ」と声を出して駆けだしていくのである。人をかき分けておとなのにんげんに抱き付いているのだ。おそらく親であろう。

 吾輩がゆーかをみると、まだ笑顔のままで片手を迷子の……いやもうただの少女に向けて小さく振っているのである。ほんのり吾輩は寂しくなってしまうのである。

ゆーかはどうであろうか。

 吾輩はにゃあと聞くとゆーかは吾輩をゆっくりと見下ろして優しそうな顔をしているのである。しかし、吾輩はさっきのヤマメのことは忘れておらぬ。油断はできぬのである。

 

 提灯の明かりがゆーかを照らしているのである。ほんとうにやさしいとおもってしまうようなかおであるな。髪がきらきらしているのである。

周りをひとが歩いていくのである。

吾輩もこころを探さなければならぬ。

 

「猫さんも行くのかしら?」

 

 仕方ないのである。吾輩はもうひとりの大きな迷子を捜さねばならぬ。

 吾輩はにゃあとゆーかに挨拶をしてから、後ろを向いて歩きだしたのである。

 

 またね

 

 後ろから聞こえてきた声が吾輩には聞き取れなかったのである。

 ゆーかが吾輩に何か言ったのかもしれぬ。だから吾輩は振り返ってみると、そこにゆーかはおらぬ。

 

 こんなにひとがいっぱいいるというのにほんのりさびしいとはなんでであろうか? 吾輩にはわからぬ。明日にはきっとまたどこかであえると分かっているとしても、こうなんとなくそう思ってしまうのは吾輩にはえいえんの謎かもしれぬ。

 

 それでも吾輩はもう振り返ってはおれぬ。

 いろいろとやることは多いのである。なに、吾輩にはわかっているのである。きっとまだまだ何か楽しいことがあるに違いないのである。

 

 

 

 

 

 

 



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われはぼうしではないのである

おそくなりました。ふとちゃんがどうしてもでてくる


 ふむ、吾輩はどうしようか迷っているのである。

 無事に迷子もいなくなってから、ゆーかもいなくなったのである。吾輩が次にするべきことは突然いなくなったこころを探しに行くことであろう。

 

 それにしても皆突然いなくなるのである。吾輩にはとんと分からぬ。全くしかたのない者たちなのである。吾輩はその場で後ろ足で首元を掻いてみるのだ。ううむ、いい。

生きていくことは出会って別れるという事らしいのである。

 けーねに聞いたことがあるのである。

 いちごいちえというのであるな。吾輩はいちごを食べたことはないのであるが、出会いといちごは切っても切れぬ関係なのであろう。不思議である。いつか音に聞くいちごを食べてみたいものである。いや、やまいちごなら食べたことはあるのだ。

 しかし、吾輩にはわからぬ。いちごはともかく「いちえ」とは何であろうか、まあ何かの果物であろう。

 

 そんなふうに吾輩は思索にふけっていると、空が光ったのである。

 見れば花火が上がっているではないか、大きな花が空に咲いているのである。ぱぁんぱらぱらと音をたてては散っていくのだ。吾輩はそれを見てにゃあと一声、綺麗である。まわりの人々も立ち止まってぱちぱちと拍手しているのである。

 いかぬ、こころを探さねばいかぬ。今頃泣いているかもわからぬ。

 そう思って吾輩はとことこ石畳を歩き出すのだ。空ではぱんぱんと花火が上がって、立ち止まって見ている人々の間を吾輩が歩いていく、みんな止まっているから歩きやすいのである。

 

 吾輩は歩きながら考えるのである。

 さっき別れたからには次は誰かに会えるのであろう。吾輩のふかい経験からすれば、別れても寂しがることはないのである。ちょっと寂しいのであるが、また誰かに出会えるのである。

 

「おお、おぬしは」

 

 後ろから誰かが吾輩を呼んでいるのである。吾輩はくるりと後ろを振り向くと、団子を持った「ふと」が吾輩を呼び止めているではないか、

 相手している暇はないのである。

 

「ちょ、む、むしするではない」

 

 吾輩は忙しいのである。

 

「おぬしとはお昼寝をした仲ではないか……」

 

 ふとに両脇を抱えられて持ち上げられたのである。うむ、今日は頭にあの長い帽子を被っていないのであるな。

 

「なあ、おぬし」

 

 顔を近づけてくるのである。空には綺麗な青い花火が上がっているのである。

 

「我の烏帽子を知らないか?」

 

 知らぬ。えぼしとはあの頭にいつも載せている物のことであろうか、逆に吾輩が知っていると思うのであろうか? 

 

「祭りではしゃぎ……ごほんげふん、げほげほ。年甲斐もなくはしゃぐ屠自古のやつと大人な我がいろんな店を回っているといつの間にか頭から帽子が消えていたのだ……盗まれたのかもしれぬ」

 

 ううぬ。もし本当であればそれは由々しき問題であるな。しかし、頭から盗むとはすごいことである。吾輩ならば、ふとの足元でから飛びかかるくらいしかできぬ。

 

「…………」

 

 うむ? ふとが何か吾輩を見ているのである。なぜそんなに見つめるのであろうか、照れるのである。いや、なぜ持ち上げるのであるか。そしてなぜ自分の頭に吾輩を載せようとしているのであろうか。

 吾輩はふとの頭に載せられたのである。おお、しかいがたかい。空に桜の花みたいな花火が上がったのである。

 

「重い……」

 

 失礼であるな。それに勝手に吾輩を載せたのはふとであろう。吾輩はにゃあと鋭い抗議の声を上げたのである。それにこれは帽子の代わりをするという事であろう。自分で言ってて意味が分からぬ。

 

「しばらくこれで我慢するか」

 

 いや、ふとよ。これでいいのか。

 

 

 くすくすくす。

 吾輩とふとが歩くとまわりが笑っているのである。まあ、笑う門には福が来るというから悪いことではないであろう。しかし、吾輩の大変さもわかってほしいのである。

なんといってもこのふとは暴れるのである。

 

「おお! あれはなんであろう」

 

 などと言いながら屋台に向かっていくのはかわいいものである。

 時にはジャンプしたり、吾輩を載せたまま屈んだりする。振り落とされそうになったことはもう何度もあるのである。吾輩が必死になって組み付くのである。

 

「おおう。そう我を慕うのは分かるが、あまり動くではない」

 

 こみゅにけーしょんがしたいのであるな。ふととは話が合う様で合わぬ。

 

「我も何を言っているのか。こういう時に猫と話ができればいいのに……」

 

 ちょっといしそつうができたのであろうか。ふととは腐れ縁を感じるのである。

 うむ? あちらで何か笑い声がするのである。吾輩がそちらを見ようとする前にふとが首をぐるりと向けたのである。実は吾輩とふとは既にこみゅにけーしょんできているのやもしれぬ。

 

 人だかりができているのであるな。

そこにひょこひょこと動く烏帽子が見えるのである。うむ……あれは見たことあるのである。誰か知らぬが頭に被っているようであるな。遠くから見れば着物をきた女子のようであるな。髪が桃の花のような色なのである。

 

「あ! あれは我の烏帽子ではないか」

 

 どたどたと走るのはやめるのである。いきなりのことに吾輩もしがみついてしまったのである。

 

「いたい!!」

 

 ふとのあたまにつめを刺してしまったのである。おおおお、ふとよその場でぐるぐる回転されると吾輩も酔ってしまうのである。吾輩は振り落とされない様に頭にしがみつくのである。やっと止まった時にはふとも眼をぐるぐるさせているのである。

 騒がしいふとであるな。まったくこのふとは。

 

「あらあらあら」

 

 烏帽子をかぶったおなごが近づいてきたのである。手に扇子を持って顔の半分を隠しているのである。目元が優しげであるな。青い着物を着ているのである。

 その後ろには緑の服を着た、うむあれは刀を振り回す危険な少女である。あちらも吾輩に気が付いているようである。確かに昔にちょっといざこざがあったのであるが、吾輩は水に流しているのである。

 だから吾輩がにゃあと挨拶をすれば、あちらも驚いてかぺこりと頭にを少し下げてくれたのである。これこそれーぎであるな。紳士な吾輩は嬉しいのである。

 

「かわいらしいことね? 頭に猫さんの帽子」

 

 にっこりと烏帽子の女子が言うのである。吾輩またまた照れるのである。

 

「ゆゆこさま、ゆゆこさま。さっき拾った烏帽子。この人のじゃないですか?」

 

 刀振り回す少女がゆゆことやらに耳打ちしているのである。やはり、ふとの烏帽子であったのであるな。まあ、こんなもの持っているのはふとくらいしかいないのである。当のふとも肩をふるふると震わせているのである。

 

「お、おぬし。その烏帽子は我の物だ。返すのだ!」

「……だーめ」

 

 くるっとゆゆこがきびすを返したのである。ふとは手を伸ばしながら追うのである。

 

「あ、あの。ほんとに我の物だとおもうのだ」

「ほんとかしら。なにか証拠があるのかしら?」

「な、名前は書いてはおらぬが……」

 

 意外とふとは気弱であるな。ゆゆこの後ろでぱぁんと花火が上がったのである。振り返ったゆゆこがふとに笑いかけているのである。

 

「そう、じゃあそこの屋台でやっている型抜きでこの妖夢に勝てば返してあげるわ。負けたらそうね、その猫さんを貰おうかしら?」

 

 我は景品ではないのである。あ、いや吾輩は景品ではないのである。

 

「な、なに!? ……な、なんで我が、それに我が勝ったら我の烏帽子が帰ってくるだけではないか!」

「そうねー。だったら、貴女が勝ったら妖夢がなんでもするわよ?」

「え?」

 

 刀を持った少女が驚きの声を上げたのである。

 

 

 



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けんかしてはいけないのである

あらすじ:はぐれたこころを探している吾輩。ふとにみつかり帽子代わり、やっとみつけた烏帽子はかたぬき屋の前でゆゆこがかぶっていた。

かくしてゆゆこの代理に負けたらなんでもする妖夢と負けたら吾輩と烏帽子をとられる物部布都のどうでもいいかたぬき決戦が始まる――


 吾輩と烏帽子を掛けた勝負は熾烈を極めているのである。

 ふととよーむという二人の少女が「かたぬき」なる遊びをかりかりかりかりとさっきからずっとやっているのである。二人とも凄まじい集中力であるな。手に持ったおかしの板を爪楊枝でちまちまやっているのである。

 ふとが負けれれば烏帽子も吾輩も取られてしまうのである。がんばるのである。ふとよ。

 

「う、うう、ううう、ここがこうなって……」

 

 ふとがうなりながらちくちくしているのである。爪楊枝を使っておかしをいい形に切りとった方が勝ちらしいのである。それにしても地味であるな。よーむというもう一人の少女も頭をあっちに動かしこっちに動かししながら頑張っているのである。

 

 むろん吾輩は紳士なのであるから心の中で応援はしても実際にえこひいきはしないのである。吾輩はさっきまで載っていたふとの頭から降りて、座っているゆゆこの膝の上でのんびりしているのである。

 

「ひまねー猫さん?」

 

 吾輩はにゃあとゆゆこに返事をしたのである。

なかなかゆゆこの膝はいい。それに吾輩を常に撫でていてくれるのである。

 

「ふふふ。猫さんはここがいいのかしら」

 

 吾輩はゆゆこの膝の上で転げまわる。うむ、お腹をさするやり方が中々にいいのである。合格である。

 

「ゆ、ゆゆこさま! 気が散ります」

 

 怒られたのである。ゆゆこは「これも修行よ妖夢。あとで貴女にもやってあげるから」と軽くあしらっているのである。よーむはむっと顔を赤くして。

 

「い、いりません!」

 

 というのである。その横でふとがにやにやしているのである。

 

「ふ、そんなに余裕を見せていいのか? もう我は削り終わるぞ!」

「な、なに!?」

 

ふとはかりかりと手を動かしているのである。あまりに地味なのであるから、観客はいないのである。むしろ空でぱぁんと景気よく上がっている花火を見上げているのである。吾輩が頭を上げてみるとゆゆこの顔がきらきら光っているのである。

ああ、花火に照らされているのであるな。そう言えば吾輩「花火」がどうして空を飛んでいるのか知らないのである。ひゅるーと音がしてぱぁんとしてからすぱぁんと空に光るのである。それにしても忙しいやつであるな。少しゆっくりしてもいいのであるが。

 

「できた!! 我の勝ちだ!」

 

 おお、ふとが出来たと騒いでいるのである。ニコニコしながらゆゆこに近づいてくるのである。手には小さな、なんであろうあれは、何かしらの形をした桃色のおかしを持っているのである。

 

「どうであろう。これで我の勝ちだな!」

 

 その変な形のおかしをゆゆこに見せているのである。吾輩もちょっと触ってみたいのである。こう肉球をちょっとふとの手に載せようとすると、

 

「これこれ、だめだめ」

 

 ふとに止められたのである。ううむ、いずれは吾輩も自分でかたぬきをできるようにならねばならぬようであるな。吾輩はにゃあとゆゆこに鳴いてみるのである。特に意味はないのである。

 

「ねこさんの言う通りよ」

 

 ゆゆこが言うのである。吾輩は何も言っておらぬが……

 

「この形では駄目ね。貴女はいったい何をかたぬきしたのかしら? 猫さんもこれではだめとはっきり言っているわ」

 

 いや、言っておらぬ。吾輩にゃあとしか言っておらぬ。

 

「な、なに! ね、ねこよ。おぬしどっちの味方だっ!」

 

 勝負にはふぇあせいしんが必要なのであるからして、どちらにもえこひいきはせぬ。それでもゆゆこは吾輩の手を掴んで、ふとに向けたのである。吾輩はされるがままである。

 

「猫さんはこう言っているわ。せめてなんの型を抜いてきたのか一目でわかるくらいきれいにしないさいと」

「……さっきのにゃあにそれほどの意味があったのか……?」

 

 ふとよ騙されるな。いやしょんぼりした顔で吾輩を見るではない。なんとなく悪い気がするのである。

 

「とりだったのに……」

「あ、それはおいていっていいわよ」

 

 ゆゆこはふとの手からお菓子をとってひょいと食べたのである。それから「それじゃあがんばって」というのである。なにか言いたそうなふとは肩を落として席に戻っていくのである。新しくやるつもりなのであろう。がんばるのであるふとよ。

 

「できました!」

 

 そうこうしているうちによーむが立ち上がったのである。そう言えば負けたらなんでもする約束であったな。吾輩としては暇なときに遊んでくれればいいのである。

 それでも刀をちゃりちゃりならせながら満面の笑みで近づいてくるよーむは自信満々であるな。両手で捧げるようにお菓子を持っているのである。ちょっとほっとしているようであるな。

 

「あひっ」

 

 あ、こけたのである。お菓子が、鳥の形をしたお菓子が宙に浮いているのである。吾輩はどうしようもできぬ。ひらひら落ちてくるそれにゆゆこがちょっと顔を動かしてぱくりと食べたのである。器用であるな。

 

「やりなおしよ。妖夢」

「な、何でですか!!? 幽々子さま。綺麗にできていたじゃないですか」

「確認する前に食べたからわからないわ……。食べ物で遊んではいけないということよ。猫さんの言う通り」

 

 吾輩もその意見には賛成であるが……今回吾輩は何もしておらぬ。

 

「この猫さんの目が言葉でいわずとも語っているわ」

 

 ゆゆこが吾輩を持ち上げてよーむの前に出したのである。よーむの大きな瞳と見つめ合うのである。おお、吾輩が瞳に映っているのであるな。

 

「いや、ゆゆこさま。この猫きょとんとしていますよ」

「可愛いわね」

「そ、そうではなくてですね。はあ、わかりました。もう一度します」

 

 よーむも席に戻っていくのである。吾輩は仕方なくゆゆこの膝の上で遊ぶしかないのである。ふともよーむも頑張るのである。ゆゆこが吾輩の顎を撫でてくるのである。おおう。むう? 指先が甘いのである。もしやさっきのお菓子のあまりであろうか。

 

「くすぐったいわ」

 

 ニコニコしながらゆゆこが言うのである。吾輩もにゃぁおと答えておくのである。

 

「できた!」

「できました!!」

 

 びくっ。吾輩びっくりしたのである。見ればふととよーむが同時に立ち上がっているではないか。見ればその手には鳥の形をしたお菓子をそれぞれ持っているのである。今度はふともうまくできたのであるな、ああ多分じかんをかけて頑張ったのであろう。

 

「ええい、我の方が速くできたであろう!」

「いや。私の方が速くできたわ!」

 

 おかしを持ったままふととよーむが身体で押し合いをしているのである。ううむ喧嘩は良くないのである。ゆゆこよここは止めに入るのである。

 ゆゆこを見上げるとやさしく笑っているのである。吾輩をそっと地面におろしてから二人に歩み寄るのである。

 

「喧嘩は良くないわ。妖夢もあなたもこんなものがあるからいけないのね」

 

 そういうとうゆゆこはひょいひょいとよーむとふとの手からお菓子をとって食べてしまったのである。

 

「「あ!」」

 

 おお、仲良く二人が驚いているのである。ゆゆこはもぐもぐとしているのである。吾輩にも、ちょっとほしいのである。うむ? ふとが烏帽子を返してもらっているようである。良かったのであるな。

 

「もう喧嘩したらだめよ」

「う、うむ。いや烏帽子が帰ってくれば我はいう事はないが……」

 

 そうこうしているうちに吾輩ふわっと空にあがり始めたのである。

おう!? なんであろう地面が遠くなっていくのである。誰かに持ち上げられたのである。

 

「もしもーし、今あなたのうしろにいるの」

 

 吾輩はいきなりのことにびっくりして体をよじったのである。そこには歯を見せて笑う少女がいたのである。

 



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よぞらのだんすほーるなのである

あらすじ:どうでもいいようむとふとの決戦はあやふやなまま終わった。しかし、決着の瞬間にいきなり空に連れ去られた吾輩のうんめいやいかに


 

 急に吾輩は抱きかかえられて空にあがっていくのである。ううむ。あれである。下を見たら祭りの火がだんだんと遠くになっていくのであるから、ちょっと怖いのである。

 吾輩が上を向くと、少女の顔が見えたのである。緑の髪をした少女であるな、なにが面白いのか笑顔である。いいことなのである。

 おお、ちょうど上にふんわりした雲が迫ってくるのである。吾輩は一度雲を食べてみたいと思っていたところである。吾輩は口を開けてみるのである。

 

 少女と吾輩は雲に突っ込んだのだ。

 目の前が真っ白になったのであるが……雲は味がせぬ。人間の食べるわたがしも雲の親戚だと思っていたのであるが、現実は甘くないのである。

 そう吾輩が思うと、急に視界が開けたのである。吾輩は眼を疑ったのである。

 

 満天の星空とお月様がいつもより近いのである。

 下にはふかふかの雲が敷き詰められているではないか、空の上とはこんなにも綺麗だったのであろうか。でもちょっと寒いのである。吾輩は少女ににゃあと訴えてみるのである。

 

「はじめましてねこさん」

 

 うむ。初めましてなのである。別にさっきのは挨拶ではないのであるが、まあいいのである。吾輩は紳士なのであるから、ちゃんと挨拶はするのである。それにしても空の上で挨拶するのは初めてなのである。何事も経験であるな。

 

「私は古明地こいし。猫さんはこんばんは」

 

 にっと歯を見せて笑うのが似合っているのである。こいしよ、吾輩は吾輩なのである。

 こいしは吾輩を両手で持って、向かいあったのである。こいしの周りに紫の目玉のようなものが浮かんでいるのは何であろう? パンチしたくなるのである。

 

「今日はおまつりなのに誰も私に気が付いてくれなかったの」

 

 ううむ……確かに何事もみんなでやった方が楽しいのであるな。そう言えばふとはどうなったのであろうか、結局ゆゆこが全て食べていたのであるが勝敗が分からぬ。まあ、ふとが食べられるわけでもない、大丈夫であろう。

 

「でも、寒い」

 

 そうであるな。吾輩も寒いのである。おお、吾輩のお腹に顔を当てるではない。

 こいしは吾輩を抱いたままくるくるとゆっくり飛んでいくのである。まるで空の上で寝そべるように吾輩を抱いているのである。

 空にはお星さまがきらきら光っているのである。吾輩は結構高いところに来たと思ったのであるが、上には上がいるのであるな。お星様は飛ぶのがうまいのである。吾輩も鳥くらいにはなれればいいのであるが、

 それにしても綺麗であるな。吾輩はお月様にもにゃあと挨拶しておくのである。

 

「しずかだなぁー。ねえ猫さん」

 

 なんであろうか?

 

「いま私は貴方の後ろにいるの」

 

 ……うむ。まあ吾輩を抱いたままであるから、後ろと言えば後ろであるな。こいしは吾輩をじっとみていうのである。

 

「猫さんは電話って知ってる?」

 

 もちろんである。

よく村の子供達が作っている糸のついたやつであろう。遠くでも声が聞こえると評判のあれであるな。なんで急にそんなことを聞くのであろう。吾輩は首を傾げたのである。

 

「わからないかー。メリーさんって有名じゃないかもね。幻想郷では人の後ろをとっても電話が掛けられないのが問題よね」

 

 いや、わかるのである。今首を傾げたのは分からない合図ではないのである。

しかし、めりいとやらには会ったことがないのである。話からすれば糸のついたあれを人の後ろから掛けてくるのであろう。……奇妙な奴であるな。一度見てみたい気がするのである。やっていることがこがさと似ているのである。知り合いであろうか。

 

 こいしと吾輩はそんな形でのんびり空の上で泳いでいくのである。

 

「そうだわ」

 

 急に声を出したこいしを吾輩が見るのである。こいしも吾輩を見ているのである。

 きらきら光るこいしの瞳はまるでお星さまのようであるな。にこにこしているのはいいことなのである。

 

「さっき能だとか、踊っているお面をいっぱい持っているのが注目を浴びていたわ。私もダンスがうまくなればみんな話しかけてくれるかも?」

 

 さっきからそうであるが、こいしはいろいろと突拍子がないのである。それでも嬉しそうに吾輩を抱いて、くるりくるりと空を泳いでいくのである。楽しそうなのはいいことであるが落とさないようにして欲しいのである。

 

「そうと決まったら練習をしないと、どこかに練習相手はいないかなぁ」

 

 これ見よがしにこいしが吾輩を見てくるのである。いいのである、吾輩だんすはしたことがないのであるが、これも経験なのである。こいしは吾輩が何か言う前に、吾輩を左手で抱いて、右手で吾輩前足を持ったのである。

 

「こんなに素敵なダンスホールがあるんだから。踊らないと損だもん!」

 

 こいしよ、だんすほーるとは何であろうか?

 ここは空の上である。雲の上で踊る吾輩たち。見ているのはお月様とお星さまたちだけである。吾輩は疑問に思ったのであるが、こいしが吾輩を抱いたままくるりくるりと踊り始めたのである。

 こいしが何か歌っているのである。

気持ちよさそうにしているのである、綺麗な声であるな。これはいんぐりっしゅかもしれぬ。吾輩もなーごと合わせてみるのである。

 こいしは吾輩をみてニット笑うと、またくるっと回ったのである。吾輩は初めてだんすをしたのであるが、こんな感じでいいのであろうか。なかなかうまくできているのかもしれぬ。吾輩にはさいのうがあるのであろうか。

 いやいやここで慢心してはいかぬ。吾輩は紳士であるから、謙虚にならねばならぬ。

 

「ねこさん。今度地底に遊びにこない? お燐も喜ぶかもしれないわ」

 

 おりんとやらが喜ぶのであればいかねばならぬ。吾輩誰かが喜ぶのであるならどこにもでも行くのである。

 

 吾輩の返事も待たずにこいしはまた歌いながら踊るのである。

 

☆★☆

 

 今日は疲れたのである。 

 吾輩はあれからこころいくまで踊ってからこいしと地上に下ろして貰ったのである。そう言えばこころはどうなったのであろうか、もう祭りも終わっているのかもしれぬ。それでも心配ではあるな、吾輩は神社に急ぐのである。

 それにしてもこいしも吾輩をよくわからぬ人里の一角に下ろして、急に消えたのである。全くどこに行ったのかわからぬ。掴みどこのないやつであるな。ふと以上である。

 

 ともあれ吾輩は神社にたったか急ぐのである。疲れてはいるのであるがこころも泣いているのかもしれぬ。結局ゆーかと遊びふとと遊びこいしと踊ったのである。なかなか充実していたのかもしれぬ。

 吾輩はいつもの石段を駆けあがるのである。逆に人々が石段を下りていくのである。

 

――たのしかった

 

 おお、もう終わっているようであるな。

 口々に楽しかったと言いながら帰っていくのである。

 吾輩はふと立ち止まったのである。それから後ろ足で頭を掻いてみるのである。祭りが終わったと聞くと……妙に寂しくなってしまったのである。なんでであろうな。

 

「お」

 

 と声がするのである。顔を上げるとそこにはようむがいたのである。相変わらず刀を腰にぶら下げているのである。

 

「どこに行っていたの? 迷子になったかとあいつが探していたわよ」

 

 あいつとは、アレであるな。ふとであろう。

うむ? ようむよ、なんでそんなに吾輩を見てるのであろう。照れるのである。

 

「こいつを、百物語の間抱いていれば……怖さがまぎれるかも」

 

 なんだか眼が怖いのである。ようむが両手を広げて吾輩を抱っこしようとするのである。

 

「こ、こわくない、こわくない」

 

 いや、怖いのである。普通に近寄ってほしいのである。

 



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わがはいは、いたいのはいやなのである

あらすじ:とつぜん無意識にちょっと空の上まで連れていかれた吾輩。無事に空の上でダンスをしてから帰ってきた。そこにやってきたのは刀を持った少女、魂魄妖夢。怪しい手つきで吾輩を連れ去ろうとする彼女に、吾輩は引いてしまうのだった――


 ほうほうとどこかで鳥が鳴いているのである。

 吾輩は吾輩を捕まえようとしてくるようむに連れられて神社の広場にやってきたのである。なんだか必死であったので吾輩は人助けのつもりで来たのである。

 

 吾輩とようむは紅白の掛物がされた、大きなやぐらにあがったのである。そう言えば青い髪の少女が立てていたのである。

 高さは神社の屋根よりは少し低いのであるが、上がってみれば大勢で寝そべることができるくらい広いではないか。周りにはぼんぼりが輝いているのである。

 

「あら、猫さんを連れてきたの? ようむ」

 

 すでにゆゆこが座っていたのである。扇子で顔を半分隠しながら吾輩を見てきたのである。ひさしぶり……いや、さっき会ったのであるな。吾輩はちょっと空の上まで行っていたのである。お月様が綺麗であった。

 

「ねこさんこっちに来てもいいわよ」

 

 ゆゆこが膝を叩いているのである。吾輩は軽く返事して近寄っていくのである。

 

「だ、だめですよ。幽々子さま! この猫は私が」

「妖夢。今から百物語をするのがあんまりこわいから、その間ねこさんを抱いて怖さを紛らわせよう、なんて考えていないかしら」

「…………………」

 

 うむ? ひゃくものがたりであるか、それは何であろう。そう言えば蝋燭がいっぱいあるのである。ようむよ、にゃあ。ようむ? 何であろう赤い顔で固まっているのである。

 

「そ、そそそそ、そんなことあるわけないじゃないですか!」

 

 びっくりしたのである。急に大きな声を出されたので吾輩耳がぴくぴくしたのである。

 

「こここ子供じゃあるまいし。私はただ猫が迷子になっていたのを保護しただけですよ。決して幽々子さまがおっしゃられたようなことはありません」

 

 ようむが滝のような汗を流しながら何か言っているのである。それからその場に座って幽々子に言ったのである。

 

「も、もちろん幽々子さまが猫を抱かれていても、い、いいですよ」

「そーう? じゃあ猫さんこっちにいらっしゃい」

 

 うーむ、吾輩はその場でゆゆことようむを交互に見比べてみたのである。よくわからぬがようむが何かに怯えているのは分かったのである。

 ゆゆこが吾輩に手を差し伸べてきたのである。吾輩は肉球でその手に触ってからにゃあと答えるのである。そしてくるりと後ろを向いて妖夢の膝の上に乗ったのである。

 

「あら」

 

 済まぬ。ゆゆこよ。吾輩は紳士であるから困った者がいれば見過ごすことはできぬ

 吾輩が上を見ればようむが眼をぱちぱちさせているのである。吾輩は挨拶を忘れぬ。ちゃんとにゃあと言っておくのである。ちょっと膝の上を借りるのである。

 

「ふふ、妖夢。まるでこの猫さんには私たちの言葉がわかっているかのようね?」

「ま、まさか。これは、たぶんこの猫……」

 

 なんであろうか、吾輩は初めて会った時から刀を振り回すのはどうかと思う以外、おぬしのことを悪く思ったことはないのである。仲良くしたいものであるな。今度お昼寝をするのである。

 

「私のことを慕っているのかもしれません」

 

 ……ううむ。ふと、と同じ程度のことを言うのはやめるのである。

 

 

 時間がたつにつれてやぐらの上に人が上がってきているのである。おお、巫女である。吾輩ちゃんと挨拶をするのである。巫女は吾輩をみてため息をついているのである。

 

「……はあ、なんで普通にいんのよ。まあいいけど」

 

 次はまりさもきたのである。相変わらず大きな帽子であるな。吾輩が挨拶するのである。

 

「おっす」

 軽い挨拶をであるな。吾輩気に入ったのである。

 ところでようむよ、膝が固いのである。正座しているからであろうか、吾輩座り心地がよくないのである。もっと楽にしても苦しゅうないのである。

 

「…………」

 

 固まっているのである。吾輩は仕方なくようむの膝の上で一番過ごしやすいぽーずをあれこれ研究してみるのである。ごろごろ、ううむ。これでもないのである。ごろごろ、おおうひざこぞうがいたい。

 そういえばさっきからゆゆこたちの言う「百物語」とはあれであるな、怖い話をするらしいのである。怖い話であるか……ある日突然にぼしがこの世から無くなってしまったら、吾輩あまりの悲しさににゃあにゃあ鳴いてしまうかもしれぬ。

 考えるだけで恐ろしいのである。そんな話を百個もするのであろうか、にぼしがいくつあっても足りぬ。いや、百個あれば足りるのであろうか。いやいやそれであるなら吾輩が食べたいのである。……これは難しい問題であるな。

 

「こいつ、のんきですね」

 

 ようむよ吾輩は今難解なことを考えているのである。

 

「きっとにぼしのことを考えているのよ。妖夢も一緒に考えてあげなさい」

 

 ゆゆこよ! 吾輩は今その通りのことを考えていたのである。もしかするとゆゆことはこみゅにけーしょんが取れるかも知れぬ。吾輩そう思ってゆゆこを見たのである。ゆゆこも吾輩ににっこりと笑いかけているのである。

 

「いや、幽々子さま……にぼしなんてどこにもないじゃないですか」

 

 ようむよ修行が足らないのである。

 

「妖夢。修行が足らないわね」

 

 また、意見があったのである。吾輩とゆゆこは気が合うかもしれぬ。ゆゆこは膝で吾輩たちににじり寄ってきて、吾輩の頭を撫でてくれるのである。ゆゆこの手は綺麗であるな。

 

「いい、妖夢」

 

 吾輩を撫でながらようむにゆゆこが言うのである。

 

「猫の気持ちになるには猫と同じことをしないとわからないわ」

「え。猫の気持ち……ですか?」

「そうよ。虎穴に入らずんば虎子を得ずというじゃない、猫の穴に入ってみないと猫を手にいれることはできないわ」

「え? え?」

 

 ううむゆゆこの言葉は深いのである。吾輩にはよくわからぬ。それより撫でる手付きがいいのである。気持ちいいのである。ようむはこんわくした表情をしているのである。まあ、あれである。むずかしいことはてきとうに考えておけばいいのである。

 

「妖夢」

 

 おお、ゆゆこが吾輩のなでなでを中断したのである。そしてなんと、ようむを撫で始めたではないか。

 

「は、はずかしいです幽々子さま」

「猫の気持ちになりなさい」

「……ね、猫ですか」

 

 にゃあにゃあ。吾輩も撫でていてほしいところである。吾輩は顔を後ろ足で立ってゆゆこに前足を何度か振ってみるのである。ゆゆこはそんな吾輩を見て言うのである。

 

「ほら、妖夢。お手本通りにしなさい」

 

 ようむが吾輩をちらりと見てきたのである。何であろうか。

 

「にゃ、にゃあ」

 

 ……ようむが吾輩のぽーずを真似してきたのである。ううむ。顔を真っ赤にするくらいならば、なぜ真似をするのであろうか。 それに周りを見ればいつのまにやら大勢が座っているではないか。みながようむを見て微笑んでいるのである。

 

「に、にい」

 

ようむもそれに気がついて変な声を出しているのである。吾輩をそんな抱きしめたら苦しいのである。ゆゆこも微笑んでいるのである。扇で半分顔を隠しながらであるな、吾輩もそれをこんどしてみたいのである。

まずは扇を用意せねばならぬ。

それよりも苦しいのである。ようむよ、抱くのは吾輩も文句は言わぬ。だが恥ずかしいからと言ってそこまで強く抱かれると胸元というか壁に押し付けられているかのようである。

 

 ええい、苦しいのである。

 吾輩はうなうなと体を抜け出させたのである。吾輩やぐらの隅に避難したのである、なんとなく下を見れば、広場に浴衣姿の少女が立っているのである。緑の髪でなんであろう、右だけ長いのである。

 

 おう、そんなことよりも百物語が始まるのである。ようむよ痛いのは吾輩嫌なのである。

 

 

 

 

 

 



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おはなしはたのしいものである

注意:書籍ネタがあります


 

「――それでは本日はお集り頂き有難うございます」

 

 鈴の少女が皆の前で挨拶をしたのである。

 

「それでは納涼祭のメインイベントの百物語を」

 

 吾輩はようむの手の中で周りを見渡すことにするのである。

あの頭に鈴をつけた少女が以前に吾輩がねこじゃらしで遊んでやったことがあるのであるな。たしかあの日は良い日差しの日であった。

 今日はちょっと曇り気味ではあるが、お月様が偶に顔を出してくれるいい日である。

 今から「百物語」とやらを始めるらしいのであるが、大勢集まって車座になるのはこう、よい事であるな。皆で一か所にあつまるとこう、なんというか落ち着くのである。

 周りを見渡せば巫女にまりさもいるのである。あとは、頭に蛇を巻いた変な奴がいるのである。恰好は巫女に似ているのであるが、髪が緑色であるな。あとは、さくやであるな……この間は大変な目に会ったのであるから、そっとしておくのである。それとそのれみりあもいるのである。

おお、あれは浴衣を着たゆかりであるな。こっちに手を振っているのである。吾輩も挨拶をしたいところであるが、身動きが取れぬ。

 

「うう、うううう」

 

 ようむが吾輩をしっかりと抱いているのである。痛いのである。吾輩は抗議の意味を兼ねてようむの手を嘗めたのである。

 

「ひゃ、ひゃあ!! お、おばけゆゆこさま」

 

 びくっ。

 びっくりしたのである。そこまで驚かなくてもいいのである。みんなこっちを見ているのである。

 

「はいはい。おばけのゆゆこさまですよ」

 

 となりでゆゆこも何か言っているのである。おばけとはあれであるな、こがさのようながんばりやさんのことを言うのであろう。ということはゆゆこもがんばりやさんなのである。ようむもそうであろうか。

 

「はっはっは。始まる前からにぎやかじゃの」

 

 おお、にぎやかなのはいいことなのである。吾輩がそれを言ったものに首をぴんとあげて、顔を向けたのである。頭に葉っぱをつけた女子であるな。手にはきせるを持っているのである。あれはいかぬ、きせるを持った人間はこう、匂いがあるのである。

 それにしてもきょうはあれであるな、頭に葉っぱを載せていたり蛇を巻いていたりと妙な格好が多いのである。吾輩も何か頭に付けた方がいいのであろうか……。

 

 なぁご、なあお

 

 吾輩は心配になってようむに聞いてみたのであるが、ようむは青ざめた顔で正面を見て動かぬ、吾輩はそのほっぺたを軽くたたいてみたのであるが、ううむ反応がない。まるでしかばねのようであるな。

 

「ご主人様はどうやら集中しているようじゃの」

 

 後ろを見れば葉っぱを頭にした女子がいるのである。なんであろうか、何故か狸を思いだすのである。訳が分からぬ。

 

 

 ううむ。百物語とはあれであるな、一人一人が何かを話して蝋燭を消していく遊びのようである。さっきから深夜の街をお面をして歩いていた人がいた話など、中々に面白い話があるのである。

 吾輩もお面をかぶってみたいものである。うむ……そういえばこころはどこに行ったのであろうか。

 

「ひぃい!!」

 

 びくっ! 

 話が終わるたびにようむが吾輩の耳元で叫びのである。それがとてもこわい。

 ようむよ、吾輩がちゃんとついているのであるからして、いきなり叫ぶのをやめてほしいのである。

 

「あら、猫さんも怖いのかしら」

 

 ゆゆこよ、違うのである。ようむが締め付けるから声が出るのである。

 吾輩はは吾輩の名誉の為ににゃあにゃあとちゃんとじじょうを説明したのであるが、ゆゆこはちゃんとニコニコしながら聞いてくれたのである。

 

「お腹減ったのかしら?」

 

 ……。吾輩の意図が伝わってはおらぬ。

 まあいいのである。吾輩はさっきから叫び続けているようむの口に肉球を当ててみるのである。ようむは吾輩の前足を手で持って口元から外したのであるな、なんでここだけ冷静になっているのであろう。

 

 

 それにしても面白いものであるな。あの葉っぱの頭のおなごもかーなびとやらの話をしてくれたのである。ううむ、ゆかりもなかなか面白いことを言っているのである。

 吾輩はひとの話を聞くのが大好きである。こみゅにけーしょんは取れぬが、こう寝そべって何かを聞いているのはいつでも楽しいものであるな。

 

「退屈なのかしら」

 

 ゆゆこよ違うのである。吾輩は楽しいのである。そもそもようむがいつ叫びだすかが気がかりで全く気が抜けないのである。

 

「ひぃい!」

 

 びくっ!

 いうそばからこれであるな。ゆゆこが吾輩にしゃべりかけてきたから身構えておけなかったのである。間違いなく今日一番吾輩を驚かせているのはようむではないだろうか。

 また吾輩はようむにぎゅうと抱きしめられるである。

 にゃあ……くるしいのである。もう少し弱めに抱いてくれればいいのであるが、吾輩は紳士なのである。怖がっている少女に対して無下にすることはできぬ。そもそもようむをみればあれである、ほっぺたを赤くしているのである。

 なあご、んなーお。

 吾輩は腕が緩んだすきにほっぺたを嘗めてやるのである。まあ、安心するのである。あれだ、悪いおばけがでてきても吾輩には恐るるに足らぬ。こうぱんちでげきたいしてやるところである。

 

「…………くすぐったいわ」

 

 ようむが吾輩の脇を持って体から離してきたのである。よかったのであるな、思いのほかほっぺたが柔らかくて噛んでしまいそうになっていたところである。

 

 目の前のさくやの顔があるのである。わ、笑っているのである。

 ふぎゃあ、にゃああ!?? 

 ようむがいきなりさくやになってたのである。吾輩は思わずさくやのほっぺたにぱんちをしてみたのである。

 

「ふえっ!」

 

 ようむのほっぺたにぱんちが当たってしまったのである。

 ????? いきなりさくやが出てきて、いきなりようむに変わったのである。わ、わけわからぬ。お、怒るでない。いまのはふかこーりょくというやつである。吾輩は急いでさくやを振り返ったのである。

 

「ところでお嬢様。諸葛草を召し上がられますか?」

「なんでいきなり野草を食べないといけないのかしら。咲夜」

 

 れみりあと何かしゃべっているのである。むむ、さくやがちらっとこっちをみて片目を閉じて舌を出したのである。やはり犯人はさくやなのである! ようむよ、はんにんはあっちなのである。いや、刀を抜こうとするのを止めるのである。

 

 こ、ここは一時退却なのである。百物語を全て聞けぬのは残念であるが、斬られてはたまらぬ。吾輩は脱兎のごとく飛び出したのである。吾輩はやぐらに足を掛けて、ぱあっと空にジャンプしたのである。

 意外に高いのである。後ろから巫女の声が聞こえる気がするのである。吾輩は空中でくるり、にゃあおと皆に挨拶をしておくのである。紳士は常にれいぎただしくあらねばならぬのである。巫女が吾輩に手を伸ばしているのである、何をしているのであろう。

 

 吾輩はくるくると回転してから、地面にすたりと着地したのである。

 やぐらの上から拍手が聞こえてくるのである。照れるのである。

 それでも吾輩はやぐらの上に戻る気はないのである。ようむとは今度お昼寝でもするとしよう。そうだ、こころを探さねばならぬ。そろそろ泣いているのかもしれぬな。そう思って吾輩は駆けだしていくのである。

 

 ごちん。

 いたいのである。吾輩は誰かにぶつかってしまったのである。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 吾輩が見上げると浴衣を着た女性がいたのである。お月様がちょうど出ているからして、げっこうを背に吾輩に手を伸ばしてくるのである。緑の髪は右側だけ長いのである。

 



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わがはいのえすこーとである

 吾輩としたことがあわてていたようである。

 まさか他のことに気を取られて緑の髪の少女とぶつかってしまったのである。不覚である、紳士としてここは深く謝るのである。

 

 にゃあ

 吾輩はぴんと背を正して顔を上げたのである。吾輩を見下ろしている少女はくすりとしているようであるな、どうやら許してくれたようである。少女は藍色の浴衣を着ているのである。

親切であるな、屈んで吾輩と目線を近づけてくれたのである。

 

「ねこさん。お祭りに参加したのですか?」

 

 そうである。吾輩は今日はだいかつやくだったところで、といいたくともこころの行方が分からぬ……。ようむとふとが遊び過ぎたのである。

 

「ふふ」

 

 おお、吾輩を見て少女が笑っているのである。なんであろうか、優しい顔であるな。こうお地蔵さまのようなほんわかした笑顔である。

 

「私は部下が怠け者で……すこしおくれてしまいました」

 

 それはいけないことであるな。吾輩はいつもまじめにしているところであるから、こんどそのぶかとやらをちゅういしてやるのだ。吾輩はうなうなと少女に言ってあげたのである。

 

「にゃあ……」

 

 にゃぁお

 優しい顔のまま吾輩の声を真似ているのである。指で吾輩の顎をこしょこしょしてくるのである。吾輩がその程度で、うむ。ううむ。もう少し力を入れてもよいかもしれぬ。少女は片方だけ長い髪を手で軽く払ったのである。さらさらとしているのであるな。

 吾輩も負けないのである。吾輩はその場で座り込んで背中を見せたのである。吾輩は毛並みには自信があるところだ。さらさらの髪にも負けぬ。

 

「毛づくろいをよくしているようですね」

 

 何故か背中をなでなでしてくれているのである。その場で、吾輩はあたりを見回してみるのである。あたりで屋台を仕舞って帰っているようである。

 さっきまであんなに騒がしかったのであるが、吾輩はきょう何度目かのしょうしんを味わったのである。そういえば味わうというが、吾輩は「傷心」の味を知らぬ。甘いのであろうか?

 

 吾輩はふと、ふとのことを。いやいやあやつことはどうでもいいのである、「ふと」と思うたびに思い出してしまうのがダメなのである。とにかくふと、後ろを体をひねってみてみるのである。

 緑の髪の少女も寂しそうな、いやあまり寂しそうではないのである。綺麗な目で終わったお祭りを見ているのである。吾輩が寂しいのであろうか、確認したくなって「にゃあ」と聞いてみると少女は「ふふふ」とまた優し気に笑ったのである。

 

 吾輩はその顔が大好きになったのである。こう、見ていると落ち着くのである。吾輩はたまに道のわきにあるお地蔵さまに挨拶をすることがあるのであるが、いつも笑っているのである。ううむ。なんでであろう、やはり少女とお地蔵さまは似ているのである。

 吾輩は体を起こして少女のふともものあたりに身を寄せてみるのである。すりすり。

 固くないのである。あと、あったかいのである。お地蔵さまはあれである、暑い日は凄まじく熱いので触りたくはないのである。そのあたりは似ておらぬな。

 

「こらこら」

 

 なぜか怒られたのである。

 吾輩はすいと上を見てみたのである。星空が出ているのであるな。いい日である。だから、もう少し今日は冒険するのである。

 吾輩はにゃあと一声、飛び出したのである。少女よ、ついてくるのである。吾輩は何度も後ろを振り向きながら誘導したのだ、ううむ小さく手を振っているのであるな。違うのである、付いてきてほしいのである。

 吾輩は一度少女の足元に戻って「にゃあにゃあ」と訴えてみるのである。

 

「どうしたのですか?」

 

 ん? とまた優し気な顔で聞いてくるのである。さあ、こっちである。吾輩がえすこーとするのである。星空のしたででーとである。けいねが言っていたのである、仲良くおさんぽすることを「でーと」というのだ。吾輩は物知りである。えへんえへん。

 

 からからとげたを鳴らしながらゆっくりと少女が付いてきてくれたのである。

 吾輩はちゃんと遅れないようにたまに止まって、後ろを向いて「なーお」と声を掛けるのである。

 まだ、提灯の火は消えていないのである。

 石畳の上を吾輩と少女で歩くのである。ゆったりしているのであるな。

 

「今日は涼しい日ね」

 

 少女の声は耳に心地よいである。吾輩は耳をぴくぴくさせながら聞いているのである。

 

「どんなことも本来善いことでも、悪い事でもありません。それは感じる心次第ですから」

 

 いきなりむずかしいことを言い出したのであるな。でもそうであるな、吾輩はみんな好きである。これがせけんばなしというやつであろうか? そういえばでーととはこれだけでいいのであろうか。

 うむ? こっちからあまいにおいがするのである。片付け途中の屋台であるな。吾輩はたったか駆け寄ってみたのである。あまいのがほしいのである。

 

「わ、なんだ」

 

 おかっぱ頭の店員であるな。

ポケットの多い青い服を着ているのである。口元に赤いものを大量につけているのはなんであろうか。手にも赤い玉が突き刺さった棒を持っているのである。齧りかけであるな。

 

「あ、余ったからって猫にリンゴ飴はやれない! しっ」

 

 ぐるるるる。

 

「う、うなったってやらないってー」

 

 その手に持った大きな赤い玉みたいなものが甘いやつであるな。りんごあめというのであろう。吾輩ちゃんと聞いたのである。ぐるるる。それがほしいのである。吾輩が食べるわけではないのである。

 

「大量に余って頑張って仕方なく食べてたけど……猫にはなぁ」

 

 おかっぱよそこを何とかするのである。

 

「何をしているのですか?」

 

 緑の髪の少女が来たのである。おかっぱがそっちを見たのである。

 

「あんた飼い主か! こいつリンゴ飴欲しいみたいだけど……お安くしておきますぜ」

「これだから河童は……。商魂たくましいと言えば耳触りがいいのかしら」

 

 はあとため息をついて、少女は袖の下から袋を取り出したのである。そこからきらきらお金をおかっぱに渡したのだ。「まいど」と言いながらおかっぱは少女にリンゴ飴を渡したのである。

 

 少女は赤いリンゴ飴をじっと見ているのである。吾輩はちゃんと少女にリンゴ飴をぷれぜんとできて満足である。にゃあにゃあと吾輩は少女に言うのである。悪いのであるがそろそろこころを探しに行かねばならぬ。

 吾輩はにゃあと挨拶をしてからだっと駆けだしたのである。

 

「あ」

 

 少女が何か言っているのである、吾輩が振り向くとリンゴ飴を両手で持ってこちらを見ていたのである。だからもう一度、にゃあと挨拶をしたのである。少女はまたあの優しい顔で吾輩を見送ったのである。

 

 

 それにしてもこころはどこに行ったのであろうか。

 吾輩は神社の周りを歩いてみたのである。ううむ、おらぬ。

 

「ぐう……ぐう」

 

 うむ? 何か聞こえるのである。

 吾輩は声のした方へ歩いて行ったのである。神社の縁側の方であるな。

 巫女はようむのところだから、縁側の近くは星明りしかないのである。

 

 というか居たのである。

 吾輩が縁側にと、と載ってみると座敷に大の字で寝ているこころがいたのだ。お腹に蒲団が掛けてあるのである。

 

「ぐうぐう」

 

 ううむ。良く寝ているのである。神社の建物の中で寝ていたのであるな、道理で見つからないわけである。

吾輩はのそのそと足から胸のあたりまで載って歩いてみるのである。

 

「う、うう」

 

 苦し気であるな。心配させたバツである。吾輩は肉球をほっぺたに押し付けたのである。

 それから吾輩はその場で丸くなったのだ。今日は、疲れたのである。

 

 

 



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つちあそびは、たのしいものである

みこころ


 いい天気なのである。

 吾輩はごろりと日当たりの良いばしょでくしくし後ろ足で首を掻いているのである。それにしても昨日のお祭りは大変だったのだ。迷子のこころを探してほうぼー駆けずり回ったところである。

 吾輩のあんよはなかなかにくたびれているのだ。だから今日はのんびり過ごすことにしよう。それに今日はよい「ねどこ」もあるのである。

 

 昨日吾輩は巫女の家の座敷でぐーすか寝ているこころの上で寝ていたのであるが、朝起きてみれば目の前におらぬ。代わりに吾輩の体の下に橙色の布が敷かれていたのである。これがなかなか寝心地がよい。まるでかぼちゃのような色であるが、ところどころに穴が開いているのが不思議である。

 吾輩はとろりと落ちてくるまぶたに抗う事が出来ぬ。なかなかのきょうてきであるな。

 それにしてもこころはどこにいったのであろう……またいなくなったのである。

 

「わ! あ、あんたなんでそんな格好しているのよ」

 

 ねむいのである、遠くでぼんやり巫女の声が聞こえてくるのである。

 

「目が覚めたらねこが私のスカートの上で猫が寝ていたから、仕方なく」

「仕方なくって……いや、なんであんたもあの野良も私に無断で寝てんのよ……あー、あ、頭が痛い。二日酔いかも」

 

 こころのこえが、するのである。あと巫女よあたまがいたいのは、ゆゆしきもんだいなの、であるろうのう、わがはいがなでて、来るので、ある………………また、たび。

 

 ぐう。

 

「ともかく! あんたもこっちに来なさい、みっともない」

「おお、これは驚きのお面」

「うるさい!」

 

 

「おーい」

 

 ゆさゆさと吾輩が揺られているのである。吾輩はむくっと体を起こしたのである。

 目の前に巫女がいるのである。吾輩を揺らしていたのはお主であろう。

 ううむ? 見慣れぬ巫女であるな。髪が桃色なのである。いや、この無表情はどこかで見たことがあるのである。むむむ、吾輩は考えたのだ。

 ふと、座敷から見える庭を見たのである。なんとなくそうして見たくなったのである

 

 そうしていると視界の端から桃色の髪の巫女が膝立ちで歩いてきたのである。 明るい庭を背景にして赤い袴を摘まんでいるのである。やっと気が付いたのであるが、この巫女装束の少女はこころである。

 なぜいつもの服ではなく、白い上着に赤袴を着ているのであろうか? もしや、巫女になったのかもしれぬ。それならば吾輩も悪い気はせぬ。

 

「…………」

 

 こころよ、吾輩を無表情で見下ろすのはやめるのである。すっと立ち上がってこころは袴を指でつまんでいるのである。それからくるくると回った。桃色の髪がきらきら光りながら揺れているのである、ちょっと手でパンチしてみたいのである。

 

「あたしきれい?」

 

 止まって言うのである。

 こう、良く晴れた日の座敷は狭いのであるが、お天道様の光を後ろに受けながらこころは首をちょっと傾けているのである。

 吾輩はもちろんにゃあおと答えておくのである。

こころは……なぜ右手を上に振り上げるのであろう。無表情で怖いのである。そう言えば巫女とは違い、腕に何もつけていないから涼しげであるな。腋も開いているのである。

 

 まあ、どうでもいいのである。吾輩はこころの横をとてとて抜けて、縁側からすっとジャンプしたのである。うむ。畳も好きであるが、こう地面をふみふみするのもいいのであるな。

 いい天気ではある。良い木陰はないであろうか……あのあたりがいいのである。

 

「急に外に出てどうしたの」

 

 こころも外に出てきたのである、一緒に外でお昼寝してもいいかもしれぬ。吾輩はにゃあと答えておいたのである。

 だからであろう、吾輩がとてとて歩くとこころもついてくるのである。大きな幹の良い木があるのである、風と葉っぱが歌っているのである。

 このあたりにするのである。

吾輩はかりかりと地面を掘ってみるのだ。もちろんこころとのこみゅにけーしょんの為である。このあたりで寝てはどうであろう、ちらりと吾輩は心を見るのだ。

 

「……いきなり猫が動く。まさかここほれワンわ……ここほれにゃーにゃー? つまりこの下におたからがある……?」

 

 顎に手をあてて何か言っているのである。いや、こころよ急いでどこに行くのだ。そしてなぜスコップを片手に戻ってきたのであろう……土遊びであるな! 吾輩もそれはやぶさかではない。

 ざっくざくとその場をこころと共に掘るのだ。土のにおいがすると吾輩ちょっとわくわくするのである。

 

「あ、あんたたち! な、なんで穴なんて掘ってんのよ!?」

 

 吾輩とこころが振り向くと巫女がいたのである。こころよじじょーを説明するのである。

 

「まて、これには深いわけがある」

「はあ? あんた、私が貸してやった服も汚れてんじゃない!」

「猫がここでにゃーにゃー言って地面を掘り進めていた。おそらくお宝がある」

「おたから~?」

 

 巫女が吾輩を見てきたのである。何だか胡散臭げであるな。

 そして、吾輩もわかったのである。どうやらこころは吾輩がおたからの場所を教えたと思っているようである。誤解である。そんなことは一言も言ってはおらぬ。

 巫女よ、こころに言ってやってほしいのである。

 

「たしかに最近オカルトボールみたいなこともあるし、この野良もたまにへんなこともあるし」

 

 うむ? 何を考えているのであろうか。ちらちらと吾輩を見ないでほしいのである。

 

「もしかして本当におたからが……?」

 

 でぬと、思うのであるが……。

 

 

 吾輩とても悪いことをしたような気がするのである。

吾輩の目の前には大きな穴が開いているのだ。巫女とこころと吾輩で掘ったのだ、手伝わぬわけにはいかぬ。

 お昼には少し休んだだけで、それ以外には作業が止まらぬ。

 そういえば吾輩がお昼にもらったねこまんまなるものを食べていると、穴の近くに狸がいたのであるが、あれは何であったのだろう?

 

「はあはあ、結構掘ったのに……」

 

 巫女よ、そろそろ諦めていいと思うのである。

 

「もう少し」

 

 こころよ諦めるのである。

 吾輩はそろそろ穴の底から自力で上がれぬようになるから、そのあたりをうろうろしているのである。うむ? だれか来ているのである。あの片手にキセルを持ったおなごは百物語で見たことがあるのである。。

 それより吾輩は恐る恐る穴の中を見下ろしているのである。

 吾輩、困ったのである。

 巫女とこころの頑張りを無駄にしたくないのである。

 どうすればいいのであろうか? こうなったらまたたびでも持ってきて埋めてもいいのである。いや間に合わぬ。

 

 吾輩がぐるぐると自分の尻尾を追いかけていると、突然音がしたのである。

 

 がキン!

 

「な、なんか見つかったわ」

「おおー」

 

 吾輩は急いで穴の中を見下ろすのである。巫女が地面をぱっぱと手で払っているのである。するとぱあぁあときらきら光ったのである。

 巫女が地面からおおばんこばんを持ち上げたのである! きらきらとぎらぎらしているのである! 巫女は肩を震わせながらいったのだ。

 

「ほ、本当にあった ………やった、やったわ!」

「おおおお、これは喜びのお面」

 

 巫女とこころが抱き合いながらくるくると穴の中で踊っているのである。吾輩はあまりに驚きすぎて訳が分からぬ。不意に鼻をつくようなにおいがしたのである、吾輩が後ろを向くと、キセルを持った女子が笑っているのである。

 吾輩ににこにこ笑いかけてから、踵を返したのである。

 

 ――葉っぱでできるお宝たいけんじゃ

 

 何か聞こえたのであるが、意味は分からぬ。

 ま、吾輩は巫女とこころが喜んでくれればそれ以上言うことはないのである。

 

 



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おだんごのあじはどんなものであろう

おだんごはちていにつづいて


 吾輩は人里にやってきたのである

 ここはいつ来ても人が多いところなのであるな、吾輩はがらがらと車輪を回して大きな車が横を通るのを見ながらとてとて歩いているところだ。それにしてもだいはちぐるまはすごいのである。いろんなものが載せることができて吾輩もちょっと乗せてもらえぬだろうか?

 車には上に多くのお米をいれた俵が乗っているのである。これを引いているおじさんは吾輩もたまに遊びに行く八百屋のおじさんであるな、頑張るのである。

 吾輩は砂埃が目に入らぬように路地に入っていくのだ。

 ここは涼しいのである。陰になっていて地面すらもひんやりしておるではないか。そこで吾輩ははっとしたのである。気になってあたりをきょろきょろ、にゃあにゃあと鳴いてみるのだ。

 ふとは、おらぬようであるな。

なんだかこう、じめじめとした場所でよく会うから警戒してしまったところだ。だが、勘違いしてほしくはない。吾輩はふとを慕ってはおらぬがなかなかに気に入っているのである。

 よいしょ。吾輩はそこで腰を、いや体を下したのである。おおう、やはり地面がひんやりしていて吾輩大好きなのである。足をなめてまっさーじするにはいい場所であるな。

 

 それはそうと今日はどこにあそび……いやいや、伺いに行こう。

 りんのすけのところでもよいし、巫女のところはこの頃入り浸っているところである。うううむ悩むのである。こういう時に誰かとこみゅにけーしょんが取れればいいのであるが……お寺でもいい……とそこで吾輩は名案を思い付いたのである。

 

 りんのすけと巫女を誘ってお寺に遊びに行くのはどうであろう。

 それであればみんな楽しいかもしれぬ。あと、ついでにふとも見かけたら誘うところだ。こうなっては善は急げというのである。ちゃんと体中をまっさーじしてから向かうのだ。

 ぺろぺろ、はむはむ。

 忙しいのである。あと首のあたりも掻いておこう、あとではかけぬかもしれぬ。

 吾輩はじんそくに準備を整えるとすっくりと立ち上がったのである。ちゃんと毛並みが整っているかその場で回って確かめるにゅうねんさが大切なのである! おお、このあたりがまだ、なむなむ。

 

 なむなむというと、お経のようである。そういえばあの猫舌のジョーはどうしているのであろうか。

 

「なんだとー!」

 うむ? どこかでけんかの声がするのである。初めて聞いた声であるな。

 

「そんなふうに鈴瑚(りんご) がいうからお客さんに仲悪いって言われるんじゃない!」

 

 いかぬ。どこかでリンゴにけんかを売っている者がいるのである。声の主よ、リンゴはあれである。しゃべれぬし吾輩ともこみゅにけーしょんが取れぬ。勘弁してやるのだ。つい最近リンゴ飴にお世話になった吾輩としては見過ごせぬ。

 吾輩は忙しい体を起こして喧嘩の仲裁に向かうのである!

 

 

「そうやってみたらし団子だとか黒ゴマだとか、団子本来の味に自信がないから清蘭はダメなのよー。売り上げはうちの方が上だしねー」

 

 吾輩が駆け付けると二人の少女が喧嘩をしていたのである。

 片方は声の主であるな。青い髪で頭にウサギの……耳を生やしているのである。おお、驚きなのである。せいらんというのであるか、えぷろんをつけてお団子を持っているのだ。

 もう片方はさきほどくろごまだとかみたらしだとか言っていた方である。頭にウサギの……お揃いであるな。ただ髪が金髪で短いのだ。あと妙な帽子をかぶっているのである。

ところで喧嘩に巻き込まれたリンゴはどこにいるのであろう。吾輩がころころしてこの場から逃がさなければならぬ。

おらぬ。もしかすれば走って逃げられるリンゴであったのかもしれぬ。吾輩も少し見たかったのである。

 どうやらこの二人はお団子やのようであるな。道端に幟(のぼり) を立てて商売をしているのであろう。それぞれ「清蘭屋」と「鈴瑚屋」であるか……よめぬ。なんと書いてあるのであろう。

 

「鈴瑚なんて三色団子なんて地味なやつじゃん」

 

 うむ? リンゴ? どこにいるのであろう。空にはお天道様しかおらぬ。おおーい、お天道様は知らぬであろうか。駄目であるな、聞こえておらぬ。

 吾輩はお天道様に聞くことをあきらめてせいらんを見ると、金髪と近い距離でにらみ合っているのである。少し怖いのであるな。

 

「三色団子の良さがわからない清蘭なんかにお団子を売ってほしくなんてないわ!」

 

 金髪の手には串にささったお団子があるのだ。上から三色、桜色に吾輩のおなかのような白に、ようむの服のような緑であるな。つやつやしてておいしそうである。吾輩はお団子は食べたことはない、一つくれぬであろうか?

 

「このお団子を作るために地上の人間にどれだけ頭を下げて材料を手に入れたか! 朝早くからヨモギを取りに行ったり……うんぬんかんぬん…………………」

 

 金髪が早口でしゃべっているのであるが、吾輩はとてもじゃないのであるが聞き取れぬ。せいらんもたじたじで涙目であるな。それにしても金髪がウサギ耳をフリフリしながらしゃべっているのは新鮮であるな。こう耳を振りながらしゃべるものはそうはおらぬ。

 しかし、目が血走っているのはいただけぬ。お団子とは奥が深いのかもしれぬ。

 吾輩はふと、自分の耳を見ようとしたのであるがどうにも見えぬ。耳を動かしてどうにかしてみようとその場をくるくる動いてみるのであるが、おお視界の端で動いているのである。

 

「う、うっさいなあ。鈴瑚のばーか」

 

 むむもしやリンゴとは金髪のことであったか、吾輩不覚であったのである。ただ、吾輩は頭にウサギ耳をしたリンゴがようかいであることはちゃんと見抜いていたのである。おそらくウサギとリンゴのようかいであろう。

りんごはせいらんに「ばか」と言われて思わず三色団子をもぐもぐしているのである。吾輩もほしいのである。

 しかしせいらんよ、ばかとはいかぬ。悪口を言ってはいけないとけいねも言っておったのである。吾輩は紳士であるからしてせいらんに「にゃあ」と注意してやるのである。

 

「な、なにこの猫」

 

 ぱちくりしながらせいらんが見下ろしてくるのである。しかしすぐにりんごに向き直りつつ、吾輩を指さしたのである。

 

「じゃ、じゃあこの猫にお団子で釣って食べたほうのお団子が魅力的じゃない!?」 

 

 吾輩にもお団子をくれるのであろうか? 大歓迎である。

 りんごももぐもぐごっくんしてから、串を口にくわえながら返したのである。

 

「ほほむところよ」

 

 りんごよ。口の中のものをきれいに食べてからしゃべるといいのである。

 

 

「ほーらほら、あまいよー。おいしーよー。みたらしだんごだよー」

 

 吾輩の前に二人の少女がしゃがんでいるのである。

 せいらんが吾輩の目の前でとろとろで甘い匂いのするもののかかった団子を左右に振るのだ。吾輩は無意識に目で追っているのである。

 

「もぐもぐ」

 

 りんごは片手でお団子を自分でたべつつ、吾輩にもう一つ三色団子を差し出してくるのである。これがじつえんはんばいというやつであるな。ううむ、しょうばいじょうず。

 

 なやむところである。吾輩はどちらかを選べといわれると迷ってしまうのである。ううむ、うううむ。せいらんとりんごの目がいがいと必死でこわい。

 

「待ちなさい」

 

 おおう? せいらんとりんごとわがはいが声のした方を見たのだ。

 

「猫に甘いものは毒よ。その勝負は私が判定してあげるわ」

 

 道の真ん中に編み傘をかぶった薬売りが立っていたのである。

 長い紫の髪がさらさら風にゆれているのはきれいであるな。一体だれなのであろう。

 

 

 



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とおくへおでかけするのはまようのである

 怪しいやつである。薬売りの格好をした編み笠をかぶったふしんしゃがいるのである。

 急に現れて吾輩のお団子をとろうとはふといやつである。紳士な吾輩はせいらんとりんごの前に出たのであるのだ。不審者から守らねばならぬ。ふうう。

 

「な、なに? なんで威嚇してくるのよこの猫」

 

 片足を挙げてふしんしゃはびびっているのである。吾輩はお団子が食べてみたいのである。いきなり来ても渡さないのである。

 

「そりゃあ鈴仙があやしいからでしょ」

 

 せいらんが言ったのである。吾輩がせいらんを振り向くともぐもぐと「みたらしだんご」を食べているのである。そ、それは吾輩がたべ……吾輩は紳士である……意地汚い真似はせぬ……。ううむ。

 

「怪しいって、むしろ堂々と商売しているあんたたちの方がおかしいのよ」

 

 薬売りが編み傘をとると、ぴょこんと二つのよれよれうさぎみみが現れたのである。なぜよれよれなのであろう、猫にでもかまれたのだろうか。それに紫色の長い髪がさらあとしているのである。

 なんだ、知り合いであるか。れいせんとさっき言われていたのである。せいらんたちもふしんしゃと知り合いとは珍しいことであるな。

 

「こっちはこんなに頑張って正体を隠しつつ商売しているってのに」

 

 れいせんは編み笠を片手に持って自分の顔を仰いでいるのである。あの編み笠は吾輩の寝床にぴったりかもしれぬ。よくよくみればれいせんの瞳は赤々としてきれいであるな。まるでほうせきのようである。吾輩はほうせきは見たことはないが、たぶんあんな感じなのであろう。

 れいせんは編み傘をかぶりなおして吾輩たちに向き直ったのである。笠の下で赤い瞳がぎらっと光っているのだ。

 

「でもあんたたちもひまねー。こんな道端でお団子談義なんて」

 

 れいせんがふはーとため息をつきながら、やれやれと首を振っているのである。

吾輩がせいらんとりんごを振り向くと二人はむっとしながら、もぐもぐとほほを動かしているのである。

 ずるいのである。お団子を食べながられいせんの話を聞くとは、吾輩もほしいのである。吾輩はにゃあにゃあ鳴いて、抗議をするのだ。

 

「まあ、元同僚として見かねてからね。ここは公平に私が裁断をしてあげるわ。……猫にお団子あげるよりは現実的でしょう?」

 

 ううむ、聞き逃せぬ。吾輩は怒ったのである。お団子をこう、ぐっと我慢して意地汚いことをせぬようにこらえていたところである。だからこそ吾輩はふぎゃあと一声鈴仙にとびかかったのである。

 

「わー、なによこの猫!」

 

 その場でぐるぐるぐる追いかけっこである。

 れいせんを吾輩はせいらんたちのまえで円を描くように追いかけまわしたのである。まいったか。まあ、追いついても何もせぬ。

 

「はあはあはあ、もう」

 

 れいせんが膝に手をついて止まったので吾輩も止まったのである。疲れたからその場で腰を下ろしておくのだ。れいせんは吾輩をちらりと見て「な、なんなのよ」といったのである。なにもなにも、なんであったか? 追いかけっこは楽しかったのである。

 

「まあ、なんでもいいんだけどさー」

 

 せいらんが言うのである。

 

「お団子を食べてどっちがおいしいかあんたが判定してくれるんでしょ」

「はあはあ、そ、そうよ」

 

 せいらんとりんごが目と目を合わせているのである。

 

 

「それじゃあ。いただきます」

 

 れいせんが両手に、いや片手にみたらし団子と片手に三色団子をもっているのだ。両方とも串にみっつずつであるな。そしてみたらし団子にはんむと食らいついた。うらやましいのである。ねたましいところであるが、吾輩は紳士であるから何も言わぬ。

 

「はむはむ……うんほどよい甘さね……」

「でしょでしょ!」

 

 嬉しそうに両手でがっつぽーずするせいらんに軍配が上がるのであろうか。れいせんは片目でちらりとせいらんを見てから、三色団子ももぐもぐし始めたのだ。

 

「これはもちもちしてて……それでいて歯ごたえがある……。シンプルだけど、おいしい」

「ふふん」

 

 鼻を鳴らしてりんごが両手を組んでいるのだ。これはわからぬ。どちらがおいしいのであろうか。れいせんはまた片目でりんごを見たのだ。それから微笑んでいるのである。ごっくんとお団子を飲み込んだのである!! ……いや、ちょっと感情が入ってしまったのだ。

 

「確かに両方とも、あんたたちが頑張ったことが伝わってくるもの」

「「鈴仙……」」

 

 おお、はもったのである。さらに鈴仙はふふーと顎を挙げて得意気に何か言おうとしているのである。

 

「お互いにいいところがあるからこそ……」

 

 れいせんの言葉の途中でりんごが手を挙げたのである。なんであろうか。

 

「鈴仙。それぞれにいいところがあるから引き分けとか言ったら、お代をもらうわよ?」

「……え?」

 

 れいせんが固まっているのである。

吾輩蚊帳の外であるな、ふぁあとあくびが出てしまったのだ。それにしてもおなかが減ったのである。ヤマメが地面から生えてこぬだろうか?

 

「そーそー。まさか鈴仙。私たちの言い争いにかこつけてただでお団子を食べようとしてたんじゃないよね?」

 

 うむ? せいらんがお餅を搗くときの杵を持ってきたのである。おもちをつくのであろうか。れいせんよ……?……ぼたぼたとすさまじい汗をかいているのである。

 

「そ、そんなわけないじゃない。あ、あんたたち何を言ってるのよ。あは、あはははは」

 

 ざっと下がりつつれいせんが言っているのだ。顔が青ざめているのである。

せいらんが杵を肩に担いで「ふーん」という。りんごも手をぽきぽきと鳴らしているのである。これは、ふおんな空気を感じるのだ。吾輩はすくっと立ち上がったのだ。なんとなくここを離れなくてはならぬ。

 おお空に浮かんだのである。れいせんが吾輩の両脇をもって持ち上げたのだ。離れられぬ。

 

「お、落ち着きなさいよ二人とも……それに、お代なんて……買い食いなんてしたらお師匠様に怒られる……」

 

 語尾がどんどん小さくなるのであるな、こう言っては何であるが吾輩を盾にしてどうするのであろう。吾輩はなされるがままである。

りんごがずいっと近づいてきたのである。

 

「ふーん、じゃあ永琳様に怒られないために私たちのお団子をただで食べようとしたってことね?」

「ぎくり」

 

 れいせんの手が震えているのである。吾輩が間に挟まれているのでまるで吾輩が怒られているかのようである。背中にれいせんの顔が当たっているのだ。

 

「まあ私達としては払うもんは払ってもらわないとね」

 

 りんごが手を吾輩に出してきたのである。だからなんとなく吾輩の手をのせてみたのだ。

 

「いや、ちがう。猫の手がほしいわけじゃ……にくきゅうぷにぷにしてる。お団子みたい。じゅるり」

 

 た、食べられないのである

 

 吾輩とれいせんはなんとなくとぼとぼと歩いているのだ。

 

「うう……帰ったらなんていいわけしよう。あんなのカツアゲよ……」

 

 そうしたを向いて歩いているとけがをするのである。れいせんよ、おかねなど硬いだけでおいしくもないのである。りんごとせいらんに与えてもいいのではないだろうか?

 

「あんた、のんきそうな顔をしているわね」

 

 失敬であるな。吾輩はれいせんを心配しているのである。

 

「あーあ。このまま帰っても売り上げもないし、あるのはお団子だけだし。どこか遠くにいきたいわ! どーせ、また私の帰り道にてゐが落とし穴仕掛けてるだろうし!!」

 

 ううむ、どことなくかわいそうであるな。吾輩になにかできることはないであろうか? とおくにと言われても、吾輩今すぐには思いつかぬ。

 

 

 

 



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よのなかはせわしないことばかりである

 吾輩はぽてぽてとあてどもなく歩いているのである。

 横にはあくびをしているれいせんがいるのだ。吾輩が誘ったわけではないが、たびは道連れというものであるな。旅をしているわけでもないのであるが、まあいいのである。おお、いい小石が置いてあるのだ。えい、えい。

 

「なーに遊んでんのよ」

 

 れいせんも小石を転がして遊ぶのである。今なら一つ譲ってもいいのである。にゃあと伝えて見るのだ。れいせんはきょろきょろしてそのあたりの石に腰を下ろしたのだ。吾輩はころころと石を転がすのを見ているのである。

 

「ほーら」

 

 おお猫じゃらしとかいう草であるな。吾輩はじゃらされはせぬ、れいせんが目の前でふりふりしても……ううむ。手が勝手に動くのである。にゃあ、にゃあ。

 

「あはは。はあぁ」

 

 吾輩は猫じゃらしの先っぽのふわふわしているところをつかんでみるのだ。なかなか柔らかいのであるな。吾輩はこれがなかなか好きなのである。れいせんよ、なかなか猫じゃらしの見る目があるのである。

 

「ああ、薬を売ったお金がお団子に化けたなんてどうやって言い訳しよう……」

 

 何か悩んでいるのであるな、まあなるようになるのである。吾輩はいろんな者にあったが、みんな優しいところは一緒なのである。だいじょうぶである。

 

「にゃあにゃあってまるで励ましてくれているみたいね」

 

 励ましているのである。

 

「まあ、悩んでてもしょうがないしわ」

 

 吾輩もそう思うのである。こう吾輩は考えることがあると地面に転がってお天道様と一緒にお昼寝をするといいと思うのだ……あ、れいせんよどこに行くのであろうか。

 

「かえるわ、じゃあね」

 

 そうであるか、寂しいことであるな。吾輩はにゃあと挨拶したのだ。

 行ってしまったのである。

 吾輩も行くとしよう。

 この先は神社であるな。巫女は今日いるのであろうか。

 とてとて、ころころ。吾輩は歩くのは好きなのである。走ったら疲れることもある。今日はれいせんと一緒にお散歩できてよかったのだ。毎日何か、いいことがあるものであるな。ああ、今日も素敵な日である。ううむ、生まれてこの方、素敵ではない日がないかもしれぬ。

 

 神社が見えてきたのだ。山の上に続く石段があるのだ。

 おう? 誰か立っているのである。いや……あれは。誰か大きな傘を持った少女がいるのである。ううむ、なすびみたいな傘に大きな目玉が描かれているのだ。

 目立つのである。こがさであるな。吾輩の知り合いである。

 

 とっとと、走って近づいてみるのだ。吾輩が走るとまるで風が顔を仰いでくれるのだ。風もいいやつであるが、走ると体が熱くなるのがいかぬ。風がせっかくすずしくしてくれたに申し訳が立たぬ。

 それはそうと、

 にゃあ。

 吾輩は挨拶をしたのだ。こがさよこんな神社の石段で何をして……

 

「う、うう」

 

 くるりと振り返ったこがさは大粒の涙を流していたのだ。ど、どうしたのであろう。どこかが痛いのであるか、ああ、まだ片目だけ赤いのである。おいしゃに行かなければならぬ。吾輩は心配なのである。

 

「わぁあん」

 

 むぎゅ、吾輩は抱き着かれたのである。

 

「このごろ人間にだいどうげいにんあつかいしかされないの……」

 

 ううむ、ゆるせぬ。よくわからぬが弱いものをいじめてはいかぬ。だいどうげいにんというのはよくわからぬが、こがさよ悲しんでばかりではいかぬ。この前に吾輩と一緒に人里の皆を驚かせたではないか! 

 

「あなたのせいでもあるんだからねー。このー。ねこー」

 

 泣きながらこがさが吾輩のほっぺたを伸ばしてくるのである。両側から引っ張ってはいかぬ。辞めるのである。

 やっとやめたと思ったら、こがさは吾輩を持ち上げたのである。

顔をすぐ近くにしてほっぺたをぷっくりと膨らませているのであるが、もしかして怒っているのであろうか。おおう、揺らすでない。吾輩は上下に揺らされて目の前のこがさが数人に見えるのだ。

 いきなり止まったのである。こがさに「にゃあ」と聞いてみるのだ。

 

「肩がつかれたー」

 

 じゃあやらないでほしいのである。吾輩はこがさのほっぺたにぱんちしたのだ。あ、動くではない。ぜつみょうなタイミングで動くから、軽く当てたつもりが強く当たってしまったのだ。

 

「ぎゃっ」

 

 すまぬ。吾輩驚いたこがさに投げられても華麗に着地したのである。こがさよこちらを涙目でにらまれたら困るのである。わざとではない。吾輩は必死に訴えたのだ。

 こがさははあと大きなため息をしているのだ。ちらちらと吾輩を見ながら言う。

 

「人里に驚かせてほしいって言われて行ってみればねこまわし、ねこまわし。私がうらめしや~っていっても全然驚いてくれないし……。もう異変でも起こして巫女を倒さないとだめかなーっておもったけど……こわくて」

 

 ねこまわし、とは何であろうか。もしかしてこの前、傘の上で歩いたことであろうか。心外な気もするのであるが、吾輩はじっとこがさを見るのだ。泣くほどのことであるならば、吾輩も真剣に聞くのである。

 

 じー、

 じーー

 じーーーー

 

「う、うう。そ、そんな目で見ないで。いきなりあなたのせいにしたことは謝るからー。じっと見られたらちょっとこわ……こ、怖くはないけど」

 

 なんだか謝られてしまったのである。吾輩もまだまだこみゅにけーしょんが取れぬ。仕方なく足をなめて、落ち着くのだ。毛並みのブラッシングはいつでもせねばならぬ。紳士は身だしなみにはうるさいということである。

 そういえば吾輩以外の紳士は身だしなみになると大声で叫んだりするのであろうか? うるさいというのも考え物かもしれぬ。

 

 そうである、こがさも足を舐めれば元気になるかもしれぬ。

 吾輩は落ち込んだこがさの足元に行って、素足を舐めてあげるのである。

 

「ひっ、くすぐったい!」

 

 やはり元気になったようであるな。足の指がわきわき動いているのだ。吾輩下駄をはいたことはないが、……うむ? 神社の石段の上から誰か降りてきたのである。吾輩はよく確かめるために小傘のスカートの下をくぐりぬけ……

 

「こらこら」

 

 なぜ怒るのである。この前のこころに怒られたばかりである。今度けいねに聞いてみねばならぬ。吾輩にはとんとわからぬ。

 吾輩はこがさを見上げながらにゃあと聞いてみたのだ。いや、今気が付いたのであるが……こがさよ……真後ろにこいしが立っているのである。

 

「もしもーし、今あなたの後ろにいるの」

「ひぃい!? びっびっくりした!?」

 

 こがさがすさまじい勢いでジャンプして、前方に転がったのだ。吾輩といきなり現れたこいしは目を合わせて、互いに小首をかしげざるをえぬ。こいしは片手に紙束をたくさん持って、もう片方の手の人差し指を自分の唇に当てているのだ。

 それから歯を見せて吾輩ににっと笑ってくれたのである。

 

「こんにちはー猫さん。こんど地底でこんなことがあるけど、ごらいじょうおまちしていまーす」

 

 紙束の一枚をくれたのである。ふむふむ、読めぬ。こがさよ、これを読んで……へんじがないのである。ぴくりともせぬ。

 

「ごうがーい、ごうがいだよー」

 

 

 訳の分からぬことを言いながら、こいしは紙束をばらばらとばらまきながらどこかに走り去ってしまったのである。いや、これは何が書いてあるのであろうか。吾輩はもう一度こがさのおしりのあたりをたたいてみたのであるが……動かぬ、ううむ。

 

 その紙には大勢の人が、温泉につかっている絵が描かれているのである。

 まずは読める相手を探さねばならぬ、吾輩はすっと立って神社を見上げたのである。口にこの紙を咥えたのだ。

 



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なかよくはんぶんこにはできぬ


ちゅうい;もみじーのくちょう


 とてとて、吾輩は石段を上るのだ。

 神社の石段はいつ昇ってもしっかりしていて上りやすい。ただお天道様が頑張りすぎた日は吾輩の肉球が熱くて登ることができぬ。程よい日には、あれである。よい日陰を見つけてごろごろするのもおつなものである。

 まあ、だいたいそういう時には巫女に箒で追い払われてしまうのであるが……あれはりふじんとしかいいようがない。

 それはそれとして、吾輩は生まれて初めてチラシを配るところなのだ。こいしが持ってきた絵のついた紙を口にくわえているのだ。石段を半分くらい上ったところで後ろを見れば、広い空が見えたのだ。

 おっと、吾輩はあくびをしてしまうところであった。今はならぬ。断じてならぬ。いったん頭を手で掻いておちつこうと……ううむ、ちょっとチラシがくしゃくしゃになってしまったのだ。まあ、よいのである。大切なのはきもちというであろう。

 

 吾輩はあくせんくとうしながら神社の石段を登りきる。最後の一段はすたっと飛ぶのが作法なのである。姿勢よく着地せねばならぬ。

 

 境内には誰もおらぬ。吾輩とさいせんばこまで石畳が一直線に伸びているだけなのだ。のどかである。吾輩はいつもの通り、真っ赤な鳥居をくぐって中に入っていくのだ。吾輩はこの鳥居には上ったことがない。柱が丸くてつるつるするので、どうにも登れぬ。

 

 というか誰もおらぬ。いったんチラシを置いて、にゃあにゃあと鳴いてみても返事もない。

 ううむ、ごろん。ごろごろ。これはゆゆしきじたいであるな。

 せっかく巫女にチラシを配ろうと思ったというのに……

 ごろごろ、くしくし。どうしようか考えねばならぬ。そうである、こころはいないであろうか、昨日は巫女の服を着ていたはずである。おらぬな。このさいふとでもよいが、肝心な時にはおらぬ。こがさは下で寝ておるし……。

 どうしようかと吾輩はころころ転がりながら考えているのだ。石畳は体が汚れぬからよい。空に、くもが、うかんでいる。

 

「なんだ、おまえ」

 

 おおう、吾輩びっくりして、後ろを向いてしまったのだ。逆に驚いている声の主がいたのだ。髪の白いおなごであるな。巫女のような……服であるが、頭に紅の六角帽子をかぶっているのである。……腰には剣であろうか。

 

 にゃあ。吾輩は挨拶をしたのだ。挨拶は関係のはじまりとけいねも言うところである。

 しかし、白髪のおなごはじろっと吾輩を見ているのだ、切れ長の目であるな。まつ毛が長いのがあれである。吾輩まつ毛の長いものにすりすりされるとたまに痛いのだ。

 

「…………ご主人様はどうしたんだ?」

 

 むむう。こやつ挨拶を返さぬ。吾輩はゆるせぬ。こうなったら挨拶をするまで見てやるまでである。あと、ご主人様とは誰のことであるか。

 

「ねこに話しかけても仕方ないか……神社の適当なところに射命丸さ……まあいいか。巫女への新聞をおけそうな場所は……まったく、あの人もたまに会いに来たと思ったら雑用を……こんな時だけもみじーもみじー。あーあ」

 

 じーー。ぶつぶつ言いながら歩いているのであるが、吾輩は一生懸命見ているのだ。このおなご「もみじー」というらしいのである。

 

「適当に縁側にでも放り込んでおこうかな。はあ、山の上に住み着いた連中は変なことするし、休みはないし……上司はあれだし……はあ」

 

 なんだか肩を落として歩いているのだ。手には丸めた新聞紙を持っているのだ。吾輩もあれにはたまにお世話になるのだ。寒い日に巫女が吾輩をくるくるまいてほうちするのである……思い出したら寂しくなったのだ。

 

 じいい。それはそうと見るのである。

 

「このねこ……なんでついてくるの? なにか咥えているな、チラシ?」

 

 なぁーご。チラシをとろうとしてもそうはいかぬ

 

「ちょっ、離してって。かたくなに離さない。まあ、いいか。よっと」

 

 もみーじ、いやもみじーは吾輩を抱いて胡坐をかいたのだ。なるほどこれなら吾輩がくわえたままでも読めるのである。やるのである。

 

「なになに。温泉巡りイベント……地底か……。おんせんかー。疲れが取れるだろうな。なんでこの猫はこんなのを持っていたんだろうか、なあおまえ」

 

 にゃあお。吾輩ちゃんと返事するのだ。もみじーは吾輩の頭の後ろの方を撫でてくるのだ。おおう、なかなかいいのである。吾輩はもみじの膝の上でコロコロ動くのである。

 

「どうしてこんなチラシを持っていたんだ。あは、こいつ。ここか」

 

 おなかを撫でるのもきゅうだいてんであるな。そういえばきゅうだいてんとは何であろうか。まあいいのである、誉め言葉なのである。

 

「まあ、猫に聞いてもしたかないか。言葉が喋れればなぁ」

 

 それは吾輩も思うところである。こみゅにけーしょんができればいいのであるが、

 

「そういえば地底には心が読めるとかいう妖怪がいるらしいけど」

 

 !!! 吾輩はぴーんと来たのである。誰かわからぬが、こみゅにけーしょんができるやもしれぬ。もみじーよ。地底とはどこであろうか、にゃあにゃあと聞いてみるのだ。

 

「お、おお。暴れるな。もう。なんなんだ」

 

 立ち上がろうとするではない。吾輩は切実に巫女ともこころとも小傘とも、ついでにふとともこみゅにけーしょんがとりたいのである。吾輩はもみじーを逃さないために腕に飛びついたのだ。

 

「こら」

 

 それでも立ち上がろうとするのであるな、こうなったら頭を押さえるのである。吾輩はもみじーの細い腕をすたっすたと伝っていくのである。結構こわい。

 

「わ、わ、わあぁ!」

 

 もみじーが驚いて中腰になったのである。ええい、ここで落とされてはたまらぬ。吾輩はもみじーの背中に飛び乗ったのだ。

 

「せ、背中に乗るな」

 

 顔をあげないでほしいのである。

 まるまったもみじーの背中がぴんとなっては吾輩落ちてしまうのだ。そうはさせぬ。吾輩は前足に力を込めて、もみじーの肩に引っ掛けたのだ。

 張り切りすぎたのである。吾輩はもみじーの肩を起点にジャンプしてしまったのだ。くるりと一回転して、もみじーの肩に着地したのである。吾輩落ちるようなへまはせぬ。そして胸をしっかり張るのが紳士なのである。

 

「ぐえ、おもっ!?」

 

 失礼であるな。おお、もみじーが肩に乗った吾輩をつかんできたのだ。勢い余って、吾輩を抱いたままもみじーもちょっと回転したのだ。

 

 ちゅんちゅん。

 鳥が鳴いているのである。もみじーは吾輩を変なぽーずで抱いたまま固まっているのだ。何をしているのであろう。顔がだんだんと赤くなっていって、口をへの字に結んでいるのだ。

 それから大きくため息をついたのだ。

 

「何が悲しくて一人で大道芸をしないといけないんだ……」

 

 吾輩を向かい合うように持ったままいうのである。すまぬ。こみゅにけーしょんがしたいのである。吾輩はもみじーの顔をじーと見てみるのだ。するとくすりとしてくれたのである。

 

「地底は遠いし、めんどくさいことも多いし、どうしようかな。ん?」

 

 もみじーが急に横を見たのだ。吾輩も横を見る。

 そこにはほっぺたを膨らませたこがさがいたのである。何を怒っているのであろう。

 

「わ、わたしというものがありながらー」

 

 なにか変な方向に怒っている気がするのである。こがさはからから下駄を鳴らして近づいてくるのだ。それからおお、もみじーから吾輩を取ろうとするのだ。

 

「おい、いきなり来て誰だおまえ!」

「私の方がうまくねこまわしできるんだからー」

 

 吾輩を取り合うではない。ここはなかよくはんぶんこに……されては困るのである。ちょっとようむを思い出してしまったのだ。

 




ひょんなぱーてー。こがさ・わがはい・もみじー


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てんぐもたいへんなのである

 吾輩はものではないのである。

 またたびのように二つにすることはできぬ。いやしかし、またたびをふたつにすることなどあるのであろうか、吾輩にはわからぬ。それはともかくこがさともみじにみゃあみゃあとげんじゅうなこうぎを行うまで、引っ張られ続けたのである。

 

 それからお天道様がほんのり傾いたくらいである。

 お天道様はいつものんびりしているのである。

 

 吾輩はこがさに抱かれながら深くしあんをしている。

 こがさは吾輩を両手で抱きかかえながら、器用に自分の傘ももっているのである。腕で挟んで首で支えているのは吾輩もやってみたいところであるが、吾輩は傘を持っておらぬ。

 

「ところで天狗がなんで神社にきているんですか?」

「それはまあ、うん。……お前には関係ない。いや、それを言うならなぜ唐傘風情がいるんだ」

 

 じろじろと怪しげな瞳でもみじがこがさを見ているのである。

 それを見てこがさがむっとしているのである。

 火花が散りそうなにらみ合いであるな。

 吾輩は心配して後ろを向こうとするのであるが、ちょっと強く抱かれているのである。うごけぬ。もぞもぞ。しかし、もみじはいかぬ。こみゅにけーしょんはえがおというのである。

 喧嘩もいかぬ、こがさももみじも仲良くしてほしいのである。吾輩は付き合いは長くはないが、みんなが笑顔の方がいいのである。ううむ、こんな時にふとがいればよいと思ってしまうのだ。

 吾輩はしばし考えていいことを思い付いたのである。二人が笑わぬのであれば、吾輩が笑顔になればいいのである。そうであるな! 吾輩はもみじとこがさを見ながらせいいっぱい喧嘩を辞めるように鳴き声を上げたのである。

 

 んんなーお

 

 おお、なんかへんな声が出たのである。吾輩初めてのことに感動したのである。

 

「な、なんだ、へんな声を出して」

 

 もみじもひるんでいるのだ。吾輩はここで畳みかけるように声を、くしゅん。いかぬ、くしゃみをしてしまった。にゃむにゃむ。口の中で舌を動かして、吾輩の声を整えるのだ。こがさがなぜか頭を撫で始めたのである。

 

「よしよし」

 

 なぜ吾輩の頭を撫でるのかはわからぬが、こがさよもうちょっと上の方がいいのである。耳のあたりをこう、おお。よい。

 

「それにしてもおとなしい猫……そんなことはないか。唐傘、おまえの」

「もう天狗は居丈高だねぇ。私の名前は多々良小傘。あなたは?」

「……犬走 椛。それでその猫はえっとこ、小傘の猫なのか?」

「うーん」

 

 小傘が吾輩を持ち上げたのである、見つめあう吾輩たち。こがさはなぜか何かの自信にあふれた顔で吾輩を見つめているのである。

 

「あなた、私の猫?」

 

 吾輩はわがはいである。誰のものでもないとほこりに思っているところである。吾輩はきりりと表情をひきしめてうにゃあと答えたのである。

 するとこがさはにぱぁと笑顔になって、吾輩のおなかに顔をうずめてきた。

 

「ふかふか」

「いや、あの。それは小傘の猫…………」

 

 もみじが近づいてくるとこがさがにやりと笑ったのだ。この顔はわるいかおであるな。いがいとごくあくにんかもしれぬ。こがさもみかけによらずあなどれぬ。みかけによらぬといえばふともごくあくに……それはないのである。

 

「あなたもやってみる?」

「いや…いい、うわっ」

 

 こがさが吾輩のお腹をもみじにおしつけ始めたのである。なんだかくすぐったいのである。もみじが何かうめいているのであるが、吾輩には見えぬ。吾輩の前にはもみじの白い髪と六角帽子が見えているのである。

 

「ほらほら」

「やめ、やめ……」

「ぐりぐりー。おどろけー」

「……!!」

 

 あ、もみじが逃げ出したのである。

 こがさが「まてー」などといいながら、吾輩をもって追いかけているのである。神社の周りをぐるぐると走り回っているのであるが、ううむ。これは意外と楽しいのである。というか、吾輩は走らぬから楽である。かぜがきもちよい。

 

 それにしてもこがさももみじも仲良しになってよかったのである。二人とも息を切らしておいかけっこしているのである。じつにたのしそうであるな。しかし、吾輩もそろそろ降りるのである。こがさ手で体をひねって、ぬけだすのだ!

 

「こら、ど、どじょうみたいに」

 

 いや、どじょうではないのである。たとえがひどい。せめてあれであるな、こう……思いつかぬ。吾輩は難問をかかえつつもこがさの「まの手」から逃れたのである。しゅた、なんだかひさびさの地面である。くしくし、前足で首を掻いた。かゆかったのである。

 

「はあはあ、なんで私に猫を押し付けてくるんだ」

 

 おお、もみじも戻ってきたのである。おいかけっこはたのしかったのであろうか。そういえばさっきまで喧嘩していた気がするのであるが、もうとおい昔のことのようであるな。いい思い出になったのである。

 

 そうである。そういえば、吾輩はチラシを持ってきていたのである。あれはどこに行ったのであろう。吾輩はもみじににゃあと聞いてみる。

 

「にゃあにゃあ、って私が鳴いてもな」

 

 ううむ、話が通じぬ。寂しいのである。それではこがさはどうであろうか。吾輩はこがさに呼びかけてみたのだ。

 

「にゃー」

 

 なんでかわからぬが、舌をべろりと出して吾輩の真似をしているのである。……ぜったいに通じてはいないのである。

 こまった。吾輩は地底にいかねばならぬ。そして「こころのよめる妖怪」とあってみたいのである。もしもこみゅにけーしょんが巫女と取れるのであれば、吾輩はうれしいとして言いようがない。

 

 吾輩は悩んでしまうのである。こがさにももみじにも伝えるすべが吾輩にはない。ううむ、ううむ。ころころとその場で転がりながら思案してみるのだ。

 

「あはは、猫さんころころ」

 

 こがさの声がするのだ。

 

「くす」

 

 控えめなもみじの声もするのだ。いや、そうではない。吾輩はこみゅにけーしょんがとりたいのである。どうすれば――

 

 

「ふむふむ。地底で温泉ですか。これは面白い記事になるかもしれませんね」

 

 うむ? 吾輩のふさふさの耳に新しい声がするのだ。二人も驚いているようである。どこであろうか、こうくせものは。そういえばくせものとはなんであろう。つけものの親戚であろうか?

 

「こ、この声は」

 

 もみじよ知っているか。……よく考えたら吾輩も知っている気がするのである。声は上からしているのである。吾輩はその場に座り込んでお天道様の方向を見上げた。

 おお、ひらひらくろいはねが落ちてきているのである。そこには空中で腰かけたようなポーズでチラシを見ている少女がいるのである。

 いや、以前に吾輩は空の上であったことがあるのである。あれはまりさと一緒に空を飛んだときであった。

 

「射命丸様。……ちっ」

「おやおや、下っ端白狼天狗から何か聞こえてきましたね」

 

 しゃめいまる、へんな名前である。空に浮かんでいる少女があの日のままのしゃつとすかーとであるな。あと頭に六角帽子をつけているのである。

 

「椛が神社で巫女と鉢合わせすれば面白いこともあるかと思いましたが、このチラシ」

 

 しゃめいまるが手元でチラシを動かしているのである。にんまりと赤い目を光らせながらもみじに話しかけているのだ。チラシには「おいでませちてい」と書いているのであるが、読めぬ。でも絵は楽しそうである。

 

「とても楽しそうですね。椛。特別に休暇を与えますから、取材に行ってきてください。よかったですね。ひさびさのおやすみですよ」

「な、そ、それは! ち、地底にはお、鬼が……」

 

 しゃめいまるの顔が楽しそうな笑顔になったのである。

 

 

 

 




続きは明日、9時


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がんばりさんもやすまねばならぬ

 しゃめいまるという少女は天狗のようである。もみじとは知り合いということなのであるが、なんだかふんいきがちがうのである。

 

「部下を思いやって温泉旅行も考えるとは、いやはや、少し甘すぎますかね」

 

 ばさばさ、黒い羽を鳴らしながらしゃめいまるが地面におりてきたのである。もみじは何かいっているようであるが、顔にじんだ脂汗がすごいことになっているのである。

 

「いや、し、しかしですね。わ、私は」

 

 もみじが吾輩をちらりと見てきたのである。がんばるのである。何をしているかはよくわからぬ。もみじはなぜかため息をついてから、しゃめいまるにむかいあったのだ。

 

「私は仕事が大好きなので休みはいりません……」

「おやおや、それは感心ですね。椛」

「そ、それほどでも、だ、だから地底には……」

「もちろん。そんな椛には温泉旅行から帰ってきてから、たんと仕事を用意しておきますから。安心してくださいね」

「は、ははは」

 

 もみじは頑張り屋さんなのであろう。

たまには休んだ方がいいのである。吾輩はちゃんと休む時はやすんで、がんばるときはてきどにがんばるのである。またたびを取ることに関して吾輩のみぎにでるものはいないのである。

そういえば、吾輩のひだりにはだれかいるのであろうか、気になって横を向いてみる。うむ。こがさがいるのである。

 

「なんだか蚊帳の外なきがするわ」

 

 こがさよ、吾輩がちゃんと相手をしてあげるのである。さみしがることはない。

 そう思って吾輩はこがさの足にあたまをすりすり、してみるのだ。

 

「くふふ、くすぐったい」

 

 こがさが軽くにげたのである! 吾輩なんとなく追いかけてしまうのだ。

 くるくるその場で追いかけっこをして、吾輩は疲れたのである。座って休むのだ。めりはりが大事とけいねも言っていたのであるが、めりはりとはなんであろう。

ふと目が合ったしゃめいまるは吾輩を見て、ちょっと呆けているようである。

 

「ああ、お久しぶりですね。空の上であって以来ですか。猫さん。いや、ひどい目にあいましたよあれは」

 

 よくわからぬが吾輩も久しぶりだと思うのである。

しゃめいまるはひどいめにあったらしいのであるが、吾輩もむりやり空の上に連れていかれたのである。それにしてもしゃめいまるよ、なんでえがおで吾輩に近づいてくるのであろうか、なんとなく怖いのである。 

 吾輩はそれとなくもみじの足元に隠れたのである。

 

「こ、こら私を盾にするな」

 

 なーお。

かくまってほしいと吾輩はうったえる。

 

「おや、椛。猫さんとお友達になったのですか」

「い、いえ。こら離れろ」

 

 冷たくされるとさびしいのである。吾輩はひっしにめで訴えるともみじも困ったような顔をしているのである。吾輩はわかっているのである。もみじは悪いようかいではない。きっといろいろといいこともしているのであろう。

 

「そうですね」

 

 ぱんとしゃめいまるが手をたたいたのだ。吾輩びっくりして椛の足につかまってしまったのである。しつれいしたのである。

 

「椛。それに猫さんと、そこの付喪神さん。三人で地底を取材してきてください。椛が引率するように」

「ま、待ってください。なんでですか」

「おもしろそうですし。それに上司の命令です」

 

 おお、吾輩地底に行けるのである。うれしいのである。

 

「お、おうぼうだー。それにおもしろそうって普通は婉曲的にいうものじゃないのですか?」

「そうそう、付喪神さん。いや小傘さんでしたね」

「無視し始めた……」

 

 もみじよ、そう肩を落とすことはないのである。

吾輩にはちゃんとわかっているのである。吾輩も巫女に相手をされぬことがあれば寂しいこともあるのである、もみじはきっとしゃめいまるがすきなのであるな。

 

「うー」

 

 うなりながらもみじが爪を噛んでいるのである。なんとなく怖いので吾輩は小傘の足元に移動するのだ。

 

「おいでませー」

 

 こがさが両手を広げて吾輩を迎えてくれたのである。吾輩もおとなしく抱かれるのだ。こがさも地底に行くのであろう。しゃめいまるが言っていたのである。こがさは吾輩をよしよししながら話し始めたのである。

 

「私も今日はお墓でおどろかせる日だから」

 

 こがさはいかぬのであるか……さびしいのである。

 そう思っているとしゃめいまるがこがさの肩をもって言ったのである。

 

「小傘さんとは以前取材でお会いしたことがありますね。どうですか、人間をたくさん驚かせておなかいっぱいになれましたか?」

「う、ま、まあ。ぼ、ぼちぼち……こ、このまえは人里で大勢おどろいてくれたわ」

 

 吾輩が傘の上に乗って歩いたときのことであるな。あれは盛り上がったのである。

 

「なるほど、なるほど。さすがですねぇ」

「そ、それほどでも」

「前もかなり恐ろしいお化けだと思っていましたが、いまでは里の人間たちを手玉に取るほど成長しているとは……感服しました」

「…………ま、まあ。それほどでも」

 

 なんであろうか、吾輩を抱いているこがさが小刻みに震えているのである。吾輩が見上げると、目がやまめのように泳いでいるのである。しゃめいまるも横を向いている……うむ? 目だけこちらを見ているのだ。流し目というやつであろう。吾輩もやってみるのである。いみはない。

 

「地底に住んでいる鬼の一人や二人驚かせに行ってみてはどうですか? いや……鬼を驚かせるくらいだったら、人間などいつでも驚かせることはできるとは思いますが」

 

 こがさが吾輩を見てきたのである。こころなしか目がきらきらしている気がするのである。

 

「お、鬼を驚かせることができれば、きっと人里の人間たちも私を恐れてくれるに違いないわ!」

 

 にゃあにゃあ。吾輩はよくわからぬが、楽しそうなので吾輩も鳴いておくのである。なんであれ、楽しいことはいいことに違いないのである。吾輩はよくわかっておるのだ。

 

「そうそう、その意気です。さて、椛」

「はい……なんでしょうか」

「ということで取材を願いしますね。カメラくらい持っていると思いますが、いろいろと面白い話を期待していますよ」

「…………なんでこんなことに」

 

 もみじはなんだか元気がないのである。吾輩たちをどんよりくもりぞらのような目で見ているのだ。しゃめいまるはなんだかにこにこしているのである。

 なにはともあれ、吾輩はこがさともみじが一緒に地底であそべることが何よりもうれしい……むむむ、いやいや、吾輩は本当は地底にいるという「こころがよめる」というようかいと会うというすうこーな理由があるからして、遊びに行くのではない。

 ……ちょっと遊んでもいいであろうか?

 吾輩は元気のないもみじににゃあと聞いてみたのだ。

 

 もみじは目をぱちくりさせて、ほんのり笑顔になったのである。

 

「にゃあ」

 

 おお、もみじが吾輩がなんでか鳴き声をはなったのだ。これは遊んでもいいということであろうか。

まあいいのである。吾輩はもぞもぞとこがさの手の中で動く。

 そろそろ降りてもいいであろうか。

こがさが放してくれたから地面に着地したのだ。吾輩はだっこもすきであるが、こう地面をふみふみするものやぶさかではない。

 

「それでは皆さん、よい旅を……」

 

 しゃめいまるがばさっと羽を鳴らして空に上がったのだ。吾輩が見た時にはあおいそらにすうと上がっていくのが見えたのだ。てんぐはとべていいとおもうのである。吾輩も練習すればできるであろうか? 

 

「それじゃあ、いこー」

 

 こがさも元気であるな、傘をくるくるまわして片目をつぶってきたのである。

 

「……おー」

 

 もみじはなんだか疲れているのである。

 



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おちていくときものんびりできるのだ

 幻想郷はどこもかしこも吾輩の庭である。

 吾輩は日陰にある、よさげな岩の上でのんびりだらりとしてみたのである。こうごつごつしているところが冷たくて気持ちいいのであるが。吾輩は前足をしっかりとなめて、きれいにしておくのである。

 

 なんといってもこれから初めての地底なのである。おめかしせねばならぬ。

 ぺろぺろ、にゃむにゃむ。……うむ!

 吾輩はどこにでもいくのである。幻想郷はどこもかしこもが吾輩のにわであると重ねて言うのだ! ……なんとなく気合が入ってしまったである。

 はずかしい、吾輩は岩の上できょろきょろとだれもみていないか見てしまったのだ。誰も見ておらぬ、吾輩は安心してさらなるけなみのめんてなんすを開始したのだ。

 

 それにしてもこれはすごいのである。

 吾輩は地底にどうやって行くかはしらなかったのであるが、吾輩の目の前におおきなおおきな入り口があるのだ。まっくらでおおきな穴が吾輩の前の地面に開いているのだ。

 

 吾輩は地面におりて、その「おおきなあな」をのぞきこんでみたのである。そこがくらくてよくみえぬ。手じかにあったこいしをおとしてみたのである。

ひゅうーとおちていってみえなくなったのである。

 こいしも怖かったかもしれぬ。悪いことをしたのだ。

 

―――いてっ!

 

 

 なんか下の方で声がしたのである。しかし、相手は見えぬ。誰かは知らぬがすまぬ。わるぎはなかったのである。吾輩ははんせいしつつ、とてとて穴から離れていくのである。

 それにしてもおそいのである。こがさはなにをやっているのだろうか。

 

「そろそろいきませんか~」

 

 なんだか情けないこがさのこえがするのである。吾輩はそちらに歩いていくのだ。みればこがさがもみじの肩をもんでいるのである。なぜであろうか。

 もみじはその場にしゃがんで大きなため息をついているのである。やはりつかれているのかもしれぬ。吾輩はこがさの足元に歩いて行く。

 

「はあ、なんで地底なんかにいかないといけないんだ……」

「まあまあ」

 

 こがさがもみじを慰めているのだ。吾輩もしゃがんでいるもみじの前に回り込んで、にゃあと声をかけてあげたのだ。もみじはため息をつきながら吾輩を撫でてくれるのだ。

 

「おまえ、なにも考えていなさそうでいいね」

 

 しつれいである。吾輩は撫でてくる手を首を振って払ってみるのだ。こうぎである。

 するともみじは吾輩の鼻を指で押してきたのだ。まけぬ。まけぬのだ、吾輩はそのゆびをなむなむと舐めてやるのである。にげるではない。吾輩はもみじの手をつかんで舐めるのだ、なんであろう、くせになる。

 はむはむ、なむなむ。

 

「こらっ」

 

 びくっ。

 吾輩はおどろいてもみじをみると、なんだかやさしそうな眼で吾輩を眺めていたのである。それからもみじは立ち上がって、言うのだ。からりと腰の刀が音を立てている。

 

「しかたない。まがりなりにも休みだから、せいぜい楽しもう。……鬼の皆さまのことはできるだけ考えないようにしよう……」

「そうそう。これを逃す手はないね!」

 

 こがさが元気に言うので、吾輩もにゃあにゃあと相槌をしてあげるのである。なんだかこがさとは息があっている気がするのだ。もみじもくすりとしているのである。吾輩の勝ちであるな。……いまのはてきとうなのである。

 でも、まあ、あれである、どんな時でもたのしくすることはいいことだと吾輩は思うのである。

 

「よし、いこう」

 

 もみじの声に吾輩とこがさがおーとにゃーで合わせたのだ。

 

「ほら、おいで」

 

 ……? なんでもみじは吾輩をつかもうとするのであろうか、吾輩は意味もなく逃げてしまったのである。こがさのスカートの間をくぐりぬけて、草むらをとっとと歩くのである。

 

「わぁ」

 

 こがさの声がしたので吾輩は後ろを振り向いてみるのだ。不覚である。

 

「捕まえた」

 

 もみじにつかまってしまったのである。鬼ごっこであろうか。吾輩はみゃあともみじに聞いてみるともみじは困ったような顔をしているのである。

 

「おまえ、飛べるのか」

 

 やってみねばわからぬ。しかし、ちょっと怖いのである。

 なるほど地底に行くには飛ばねばならぬのであるな。吾輩はもみじにつかまることにしたのだ。だっこである。こういうのをたくしーというらしいのであるが、吾輩は「たくしー」を知らぬ。たくわんの仲間であろうか?

 

「それじゃあ小傘もいくぞ」

「はーい、いて」

 

 こがさが石につまづいた。持っていたかさが勢いあまって吾輩ともみじに振られたのである! 

 

「……ひゃあ」

 

 もみじが情けない声をだして横に飛んでいるのである。うむ? こがさともみじがそれぞれ遠くに見えるのである。くるくるせかいが回っているのだ。これはもしや、吾輩離されたかもしれぬ。

 ……! 地底の穴に落ちていくのである。おお、体が動かぬ。手足をじたばたしてみるがつかむところがないのである。どんどんお空が遠ざかっていくのである。もみじよ助けてほしいのだ。

 

「助けにいくからまっていろ! えっと、ねこ!」

 

 もみじが吾輩を呼ぶ声がするのである。吾輩は安心して落ちることにしたである。こういうときは慌ててはいかぬ。落ち着いておちることがいいのである。

 

「おや、猫のお客さんとはめずらしいねぇ。おいそぎ?」

 

 にゃあ! いきなり真横から話しかけられたのだ! みれば、吾輩の横をねそべるような格好で一緒に落ちていく少女がいるではないか! めずらしいのである。

 まあ、急ぎといえば急ぎであるな。体が勝手に急いでいるのだ。

 そんな吾輩に少女はのんびり話しかけてきたのである。落ちていくときでもれいせつを忘れぬ吾輩も姿勢を正したのである。くるくる回って目が回るのであるな。

 

「私は黒谷ヤマメ。いごおみしりおきお、なんて言ってみたり」

 

 なぬ!? ヤマメ? 地底にもいるのであろうか。食べたいのである。

 吾輩はみゃあみゃあとくろたにに聞いてみるのである。ヤマメのことははだいすきなのである。くろだによ

 

「猫さんは地底にいくのかい。最近温泉がいい感じらしいから、楽しんでおいで」

 

 くろだにはからからと笑っているのである。頭のリボンが揺れているのである。とても楽しそうであるな。吾輩はまんぞくである。なんとなく誰かが喜んでいるのはいい気分である。だからヤマメを欲しいのだ。

 

「猫。そいつから離れろ!」

 

 白い光が落ちてくるのである。

いや、もみじであるな。すごい速さで吾輩をつかもうとしているのである。

 

「よっと」

 

 にゃあ! くろだにが吾輩のしっぽをつかんで投げたのである。そのせいでもみじにつかまれなかったのである。おおはやい、おちていくのである。吾輩の下は底がみえぬ。

 

「邪魔をするな、土蜘蛛」

「おやおや、友好じゃないなぁ。あの黒い髪のやつといい、なんで天狗がこうもけんかっぱやいのかねぇ」

 もみじとくろだにが落ちながらにらみ合っているのだ。どうでもいいのであるが、吾輩は尻尾をさすりたいのである。きょろきょろしても吾輩は飛べぬ。

 

「きゃっち」

 

 おお、吾輩を柔らかいものが包んでくれたのである。みればこがさではないか。おぬしがすべて悪いのである。しかし、吾輩は過去はとわぬ。許すのである。こがさは吾輩を抱いてくれてすいーと空を飛ぶのだ、うらやましいのである。

 

「どうせ地底に行くんなら、地下に落とされた妖怪達の力を味わうがいい。毒符『樺黄小町」!」

「白狼天狗の力をなめるな。牙符『咀嚼玩味』」

 

 もみじとくろだにがふところからカードを取り出したのである、綺麗であるな。ううむ、吾輩はどちらを応援するべきであろうか。

 

 

 




椛VS地底アイドル(深く書くとは言っていない)


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なかよくなるしゅんかんはきがつけぬ

 吾輩はこがさに抱かれて地底に落ちていくのである。

 最初はもみじが吾輩をのせてくれるはずであったが、今はこがさが飛んでくれているのである。吾輩は自分では飛べぬ。これがよくない。今度練習をしてみようと思うのであるが……そらをとぶ練習とはどうすればいいのであろう? ううむ。

 

「ながいなぁ」

 

 たしかにどこまで行っても暗闇が終わらぬ。吾輩はうむうむとうなづいてみたのだ。

 

「にゃあにゃあって、まるで相槌を打ってくれているみたい」

 

 くすくすとこがさが笑っているのであるが吾輩は相槌を打っているのである。ちゃんとわかってほしいのである。

 吾輩は真っ暗なやみのそこを見たのだ。この下はこころが読めるという妖怪がいるらしいのである。吾輩はこみゅにけーしょんが取れるかもしれぬと思うと、むねが踊るのである。ところでむねが踊るとはどうやって踊るのであろうか。

 吾輩、踊ったことはないのであるが、盆踊りのまねを今度してみるのもいいかもしれぬ。

 それにしてもいい風である。吾輩のけなみがさらさらゆれるのである。

 そんなことをおもっているとまわりがぱぁと明るくなったのだ。まるで花火のようである。

きらきらの光の塊がそこらじゅうを飛んでいく。吾輩はそれをつかもうと前足を伸ばしても届かぬ。地底に向かってきらきら落ちていくのだ。

 

「おお、さすがに天狗はやるね」

 

 くろだにが吾輩とこがさの目の前を通ったのである。その時吾輩に対してくろだにが片目をぱちんと閉じて、サインを送ったことを吾輩はちゃんと見ていたのである。

 次の瞬間吾輩とこがさの真上から光が落ちてきたのである。吾輩、にゃあと鳴くことしかできぬ。こがさよたのむだ。

 

「わぁあああ」

 

 おお。おお。

 こがさがくるくると空中を飛んでいくのである。吾輩目が回る。

 吾輩たちの周りを白い光のたまがすごいはやさで落ちていくのである。あれがだんまくというやつであろう。このまえお寺に行ったときにふとといちりんが喧嘩しているのを見たのである。

 

「ながれ弾幕に注意ってね」

 

 くろだにがまた吾輩たちの前にやってきてけらけら笑っているのだ。それから光を発するとぶわっと泡のように消えたのである! これは手品であるな。吾輩は初めて見たのだ。

 

「まて! 土蜘蛛……にげたか」

 

 いれかわりにもみじがやってきたのだ。盾と剣を抜いているのである。もみじよ、地底に落ちていくときくらいは喧嘩を辞めるのである。こがさからもいってやるのだ。

 

「あのー。弾幕ごっこは遠くでやってくれませんか……? スカートが焦げた……」

 

 うむ、確かにこがさのスカートの端がこげこげである。もみじよこれはいかぬ。さっきの光の玉を撃ったのはたぶんもみじである。あんずるではない、あやまってもじょーじょーしゃくりょうのよちはあるのだ。べんごしを呼んでもかまわぬ。みんなで仲良くするのである。

 

「……ふん」

 

 鼻を鳴らしてもみじが盾と剣を収めたのである! 

 もみじはいじっぱりである。吾輩がちゃんと教えてやらなければならぬ。悪いことをしたらちゃんと謝らねばならぬ。吾輩はみゃあみゃあと訴えたのである。

 もみじが吾輩を見たのである、そして、なんで吾輩の鼻を押すのだ。

 

「こいつ、怖かったのか。もう大丈夫だ」

「え、こわかったの? 猫さん」

 

 もみじとこがさよ。そういう話はしておらぬ。

 

「神社でもいきなり飛びついてきたり、妙になつかれているからな」

 

 ううむ。なんでふとももみじも吾輩がなついているや慕っていることにしたいのであろうか。吾輩には永遠の謎である。おおう、もみじよ吾輩の頭をなでるではな……やぶさかではない。

 

「ふふふ」

「あはは」

 

 まあ、なんだかもみじもこがさも笑っているからよしとするのである。吾輩はなされるがままである。ここは吾輩が大人にならねばならぬ。

今気が付いたのである。吾輩は見知らぬ地底で二人が迷わぬようにほごしゃとしてしっかりせねばならぬのだ。こころとお祭りを歩いた時のようにはぐれてしまうともみじが泣くやもしれぬ。

 これは顔を引き締めねばならぬ。きりり。

 

「なに、見ているんだ。さあ、行こうか」

 

 もみじが吾輩から手を離したのだ。少し名残惜しいのである。

 吾輩をこがさがのぞき込んできたから、吾輩は「にゃあ?」となんでのぞき込んできたのか聞いてみたのだ。するとこがさは大きなめをぱちぱちさせて、にっこり笑ったではないか。

 

「にゃあにゃあ」

 

 ふむふむ。わからぬ。

 吾輩のことばを真似してくれるのはうれしいのであるが、吾輩にはとんとわからぬ。まあ、いいのである。もみじとこいしと吾輩達は地下に降りていくのである。もみじが先頭であるな。

 それにしても深い穴である。まだ底が見えぬ。

 うむ? なんか変なのである。いわかんがあるのだ。

 

「おい……こがさ」

 

 きようである。もみじはこっちを向いて飛んでいるのだ。

 

「な、なんですか?」

 

 こがさがなんとなく情けない声を出しているのである。安心するのである。もみじはがんばりさんでいじっぱりなのは知っているのだ。吾輩はちゃんと叱れるからして、こがさもあんしんするのである。

 

「なんか変じゃないか?」

「え?」

「なにが変かはわからないけど……おかしいような気がする」

 

 吾輩とこがさは目を合わせてみるのだ。何がおかしいのであろうか、ちゃんと吾輩合わせても4人そろっているのだ。どこもおかしいことはないのである。

 いや……よく考えたら吾輩もさっきおかしいと思ったのだ。うむ。こいしよ何か知らぬか。

 

「別におかしいところはないかなぁ? 気にしすぎじゃないですか」

 

 こがさもこう言っているのだ。

 

「気のせい、なのかな? 弾幕ごっこをして疲れたのかも」

 

 もみじが大きくため息をついたのである。お疲れ様なのである。

 こがさよ何か元気になることを言ってあげるのである。こがさは吾輩のほっぺたつつきながら言うのだ。

 

「地底には温泉もあるんですよね! きっと椛の疲れも取れるわ! ね、猫さん」

「温泉もって、私はそれが目的なんだけど。ああそういえば、写真撮らないといけないな」

「地底によーこそー。ぱちぱち! ねこさんこっちおいで」

「温泉かー。猫さんも入るのかしら。……でも地底では鬼を驚かせてみせるわ」

「小傘には、むりなきがする……」

「む」

 

 こがさよ膨らむではない。手でつつきたくなるのである。それでももみじとこがさはお互いにほほえんで、くすくすと笑っているのである。なんだか仲良くなったようであるな。吾輩は満足である。

 

 吾輩はこいしに抱かれながら満足げに二人を見ているのである。

 ? ??????? なんで吾輩はここにいるのであろうか?

 

「おひさしぶり!」

 

 こいしである。いつの間にいたのであろう。それにしてもまつ毛が長いのである、いやどうでもいいのである。それよりもあれである「にゃあ」と挨拶をしたのだ。

 

「あ、いつのまに」

 

 こがさが気が付いたのである。たすけて……いや別に助けは必要ない気がするのである。こがさがにやりとしているのである。もみじも剣を抜いているのであるが、いらぬ。しまってほしい。

 

「よーし。さっきは椛にしてもらったから今度は私が……」

 

 こがさが大きく傘を振りかぶったのだ。

 

「っひゃあ!?」

 

 もみじの背中にちょくげきしたのである。

 

「あ、ごめんなさい!?」

 

 などと言っているうちに勢いのついたもみじが背中からっ込んでくるのである。こいしよ、どうすればいいのであろう。

うむ。もうおらぬ。吾輩は空中で一人である。

 

 むぎゅ。吾輩にもみじのおしりがげきとつした!

 



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ゆめのなかでもであいがあるものである

注意:このお話は最新話ではありません(以前からあったものをここにもどしまました)

 この前のお話からおたのしみください


 吾輩が目を覚ますと空にお星さまがいっぱい浮かんでいたのである。

 さっきまで小傘ともみじと一緒に遊んでいたような気がしていたのであるが、いつの間にか夜になってしまったのであろうか。吾輩は落ち着いて前足を舐め見る。ぺろぺろ……わからぬ時には毛並みのていれが一番であるな。

 

 それにしてもきれいな空である。お星さまがしかいいっぱいに広がってい、きらきらと流星が落ちていくのだ。流れ星はいつも急いでいるのである。それでも今日は嫌に多い。吾輩はその場であたりを見回してみたのだ。

 

 なんだかしっかりした作りの足場であるな。吾輩はとても気に入ったのである。

 うむ? そういえば吾輩はさっきまで神社にいたはずである。ここはどこであろう。

 きょろきょろ……にゃあにゃあ……。

 まあ、いいのである。ここがどこかはわからぬが、吾輩の庭には変わりない。吾輩は安心してその場でうずくまったのだ。夜風も涼しい、吾輩の好みの季節である。

 もし、目の前にヤマメが置いてあればいうことはないのであるが……吾輩は思わず舌でぺろりと口元を舐めしまったのである。いかぬいかぬ。吾輩は紳士であるからして、こうはしたない真似は出来ぬ。

 

 うむ? おお? 

 吾輩は後ろを向くと皿に入ったヤマメが置いてあるのである。吾輩はびっくりして飛びつこう……いやいや、吾輩は用心深いのである。あたりを見回して持ち主を探す。ちゃんと一声かけてから頂かねばなるまい。

 

 じゅるり。

 いやいや、まだいかぬ。

 ちらり。

 ヤマメが置いてあるのだ。吾輩は警戒しながら円の動きで近づいていくことにした。さすりさすり、ヤマメを触ってみてもどこもおかしいところはないのである。一体だれがこれを置いたのであろう、もぐもぐ。まったくわからぬ。

 

「それは食べてもいいんですよ」

 

 吾輩は飛びあがったのである。

 急いで振り向くのであるが、最近なんだか脅かされてばかりである。ちょっと悔しいところであるな。今度ふとでも脅かしてみるのもいいかもしれぬ。

 

「こんばんは」

 

 吾輩に挨拶をしてきたのは、椅子に座りながらまーるいてーぶるに肘をのせてにやにやしている少女である。けいねから聞いたことがある、頭にさんたくろうすのような帽子をかぶってるのだ。

 

「猫の夢も久しぶりですね。私は獏……そうですね。ドレミー・スイートといった方があなたにはわかりやすいかしら」

 

 はじめましてなのである。吾輩はちゃんと頭を下げて挨拶をしたのだ。ドレミーはにやにやしているのである。なんであろうか、ふとやこがさとは違う感じがするのだ。

 

「ここは夢の世界」

 

 何を言っているのであろう。吾輩は眠ってなどおらぬ。

 ドレミーは立ち上がって肩をすくめたのである。それからゆっくりと空を見た。満点の星空であるな。吾輩の好きな景色である。よくよく見ればあそこにヤマメの形をした、星座がいるではないか! 吾輩今まで知らなかったのである。

 

「よい夢ですね。食べが……。ふふふ。楽しみは後に取っておきましょうか。私もあなたのような猫が迷い込んでくる、いや。この場合どういえばいいのかしら」

 

 にやけ顔のままドレミーが吾輩の周りを歩くのである。頭の帽子は後ろが長くてそれが、先っぽがふらふらしているのである。吾輩の手元にあれば、こうねこじゃらしのように使ってしまうかもしれぬ。

 ドレミーは吾輩の前でしゃがんだのである。つま先で立ちながら吾輩の顎の下を撫でてきたのである。

 

「なかなかいい毛並みですね」

 

 それほどでもないのである。えっへん。

 

「その蝶ネクタイも似合っていますよ」

 

 ? 何を言っているのであろうか。吾輩は何もつけては……なんであろう、吾輩首にちょうちょのような飾りをつけているのである。い、いつの間につけたのであろう。吾輩は手で、ちょっと触ってみる。りんりんと真ん中についた小さな鈴がなっているのである。大変である。こんなもの……なかなかよいではないか。

 

それでも吾輩はとんとわからぬ。にゃあとドレミーに聞いてみたのである。こやつならなんとなくコミュニケーションが取れぬやもしれぬ。しかし、ドレミーはにやけ顔のまま小首をかしげただけである。

 そんな顔のまま、吾輩から目をそらしたのである。

 

「すべての夢はつながっています。それは人であれ妖怪であれ変わりはないわ」

 

 吾輩は今夢を見ているのであろうか。なるほど、ううむ。不思議である。それにしても約束もしておらぬのにドレミーと夢の中で出会ったのは奇遇であるな。気が合うかもしれぬ。

 

「その蝶ネクタイも誰かの夢からの贈り物かもしれませんね。ふふふ」

 

 ドレミーが笑っているのである。吾輩もなんだかうれしいである。笑う門には福が来ると言っている人がいたのだ。福とはどんな顔であろう。

 うむ?

 誰か立っているのである。もしやあれが「福」であろうか。

 福は変な格好をしているのである。ギザギザ……なんだかまがった矢印の並んだような紫のスカートをはいて片手で口元を隠しているのである。銀色の髪がきらきら光ってきれいである。

 

「…………」

 

 何もしゃべらぬ。吾輩がすくっと立ち上がって挨拶をしても、軽くうなづいてくれただけである。福はシャイやもしれぬ。

 

「もうすぐこの猫は夢から覚めるでしょう、どうします?」

 

 にやけ顔のままドレミーが言うのである。福は後ろをちらっと見るのだ、背中に片方だけ白い羽が生えているのだ。なかなかに柔らかそうであるな。しかし、吾輩も負けぬ!!

 吾輩はその場でごろりと寝転がったのである。毎日手入れしている吾輩の毛並みは、自信があるのである。福も片手で口元を隠したまま、吾輩を撫で始めたのである。

 どうだ、まいったか。

 

「…………」

 

 何も言わぬな。まあいいのである。ごろごろ、吾輩撫でられながらこうするのがたまらぬ。

 

「…………」

 

 さすさす、さわさわ、なでなで。こしょこしょ。かきかき。

 終わらぬな。

ちらりと福を見ればうっすら笑っているのである。それでも何もしゃべらぬ。赤い瞳がちょっときらきらしている気がするのは気のせいであろうか。それにしてもなかなかいい手際である……吾輩、眠たくなってきたのである。

 そういえば、夢の中であったはずであるな。このまま寝てしまったらどうなるのであろうか。

 

「猫さん。いい夢でしたか?」

 

 ドレミーの声がするのである。

 

 

「おーい」

 

 吾輩はこがさの声で目が覚めたのである。見上げればこがさともみじが吾輩をのぞき込んでいるのである。それにしても、もみじよ。なんで蜘蛛の巣まみれなのだ。吾輩は首をかしげたのだ。

 

「うらやましいな。お前が気絶している間また土蜘蛛には襲われるは、首を取りに来るやつや妬ましいなんて言いながらハイテンションで向かってくるやつもいるわ……あーもーつかれたー」

 

 その場でごろんでもみじが寝転がったのである。こがさも「おつかれー」と言っておるな。ううむ。思い出せぬ。吾輩は何をしていたのであろうか、空はきらきらいろんな色の星が光っているのである。こがさに抱かれたままそれを見上げてみたのである。

 そういえばさっきまでこんなきれいな空を見ていた気がするのであるが、とんと思い出せぬ。

 

「きれいだけどあれって怨霊らしいですねー」

 

 こがさよ、何を言っているかわからぬ。ここはどこであろうか。吾輩はもぞもぞ手の中で動いてこがさの顔を見たのである。

 

「椛が猫さんに体当たりして気絶させたから驚いているかもしれないけど、猫さんが寝ている間に到着したわ!」

 

 どこに、であろうか。

 



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ちていのきねんである

 ひさびさの地面である! ……吾輩は頭をすりつけてご挨拶するのだ。

 なんとなくうれしいのである。吾輩は思わずその場でくるくると歩き回ってしまったのだ。はずかしい。吾輩は我に返って、きょろきょろとあたりを見回したのである。

 吾輩が上をむくと、吾輩たちが降りてきた穴が見えるのである。あそこを降りてきたのであるか、とてもすごいことである。まあ、吾輩はとちゅうの記憶がないのであるが。

 

「何をしているんだ、いくぞ」

 

 先に行っているもみじの声がするのだ。吾輩はその後ろにたったか近づいて、後ろからついてくのである。こがさも傘を広げて横を歩いているのだ。吾輩と二人とお散歩であるな、だれかと一緒に歩くだけでうれしいのである。

 地底の地面はひんやりしているのだ。吾輩はしゃりしゃり水気のある地面を掻いてみたり、においをかいでみたりする。

 

「こら、寄り道するな」

 

 もみじに怒られたのである。吾輩は反省も得意であるから、安心するのだ。吾輩はじしんをもってもみじに答えたのだ。

 

「にゃあって。わかっているのかなぁ」

 

 わかっているのである。それよりももみじもそろそろ疲れているのであろう、吾輩がだっこできればいいのであるが、少しおおきいのである、吾輩にはもてぬ。こがさよ、どうにかできないであろうか?

 

「鬼を驚かせれば地上ではきっと一年中おなかがへることはないわ……」

 

 なんだかぶつぶつ言っているのである。おなかがへっているのであろうか。むらさきの傘をさしたまま、こがさは吾輩達とは違う方向に行き始めたのである。

 

「ぶつぶつ……ぶつぶつ」

 

 もみじよ、こがさがどこかに離れていくのである。吾輩は呼び止めたいのであるが、行けばこんどはもみじがまいごになるやもしれぬ。だからもみじに必死に訴えたのである。このままではこがさがどこかにいってしまうのだ!

 

「どうしたんだ、さっきから鳴いて。それにしても疲れたわ。温泉につかってから、てきとうに写真を撮って帰……」

 

 もみじがおしりやこしをまさぐりだしたのである。なんだか顔が青ざめているのである、大丈夫であろうか。

 

「か、カメラ忘れた」

 

 なるほど忘れものであるな。とりに……は戻れぬ。わがはいともみじは空を見上げて、椛だけ下を向いてためいきをついたのだ。

ちょっと遠出したから難しいのである。まあ、こういうこともあるのだ。吾輩はもみじのあしくびに頭をあててすりすりする、元気出すのである。

 

「……はあ、こんな時に甘えてくるのか。ほら」

 

 なでなで、もみじが吾輩を撫でるのである。元気づけるつもりがいい具合に……いい。

 む、ものがけがから誰か出てきたのである。茶色の妖怪である! 傘を持っているのだ、なんだ、こがさである。

 

「こ、こけた~。椛も猫さんも私が変な道に行ってたのに言ってくれないんですか……」

 

 うーむ泥だらけでたのしそ……いやいや、かわいそうであるな。吾輩は慰めるのである。ううむ、もみじもこがさも仕方ないのである。吾輩はほごしゃとして気が抜けぬ。もみじはこがさを見ているのだ。

 

「遊んできたのか」

「遊んでいるようにみえる?」

「そうとしか見えないわ。はあ。カメラを忘れて落ち込んでいるときに……」

 

 二人してため息をつくではない、いつでも明るくいかねばならぬ。吾輩はその場でにゃあにゃあと鳴いて元気づけるのである。おお、よくわからぬが二人とも吾輩をみて小さく笑ったのである。

 それからこがさが言ったのである。

 

「カメラがないなら絵に描けばいいじゃないですか」

「そんなご飯がないならパンを食べればいいみたいに」

「ぱん? 食べたことある?」

「一応あるけど……関係ないだろ! まあ上司には何か報告はしないといけないから、絵か……じしんないなぁ」

 

 吾輩も絵は描いたことはないのである。いや、一度神社のろうかに吾輩のにくきゅうのてがたを描いたことはある。あの時は巫女が怖かったのである。

 それはそうと先に進むのである。む、何か火が見えるのである。おおきなおおきな橋が架かっているのだ。しゅぬりであるな、吾輩はものしりなのである。

 橋の向こう側に大きな街が見えるのだ。

 

「ついた!」

 

 こがさがぴょんと飛んで喜んだので、吾輩も一緒によろこ……

 

「ぐえっ!」

 

 下駄が引っかかってこがさがこけたのである、ううむ。ここは、あれであるな、吾輩も一緒に地面に転げておくのだ。ごろごろ。これでおあいこであろう。

 

「小傘。何をあそんでいるんだ」

「あ、遊んでいるように見える……? 足をくじいた~」

「はあ、せわしないやつだな。それよりも早く行こう」

「まった、まった。大切なことを忘れているわ」

 

 大切なことであるか!? 吾輩は忘れていることを思い出してみるのだ、今朝のごはんはちゃんと思い出せる。大切なことは忘れておらぬ。こがさよ、大切なこととはなんであろうか。

 

「記念写真を撮らないと、せっかく旅行に来た気がしないわ。カメラはないけど、絵の練習と思って」

 

 うんうん頷きながらこがさが言うのだ。

きねんしゃしんであるか、吾輩初めてのなのだ。撮ってみたいのである、絵しかできぬらしいのであるが、それでもいいのである。

吾輩はもみじの袴の裾を軽くかんで引っ張ってみたのだ。

するともみじが吾輩をちらりと見たのだ! わかってくれたのであろうか。

 

「……いや、ほら。猫も早く行きたいとせかしているから」

 

 ぜんぜんわかっておらぬ。こがさよ何か言ってやるのだ。

 

「ほら、猫さんは私が説得しますから……」

「せっとく……いつから動物と話せるようになったんだ」

 

 もみじとこがさがふもうな会話をしているのだ。吾輩は最初から反対などしておらぬ。

 それでもこがさは吾輩を持ち上げて、顔を向き合わせたのだ。ほっぺたの泥が付いているのであるが、目がきらきらしているのである。

 

「にゃあにゃあ?」

 

 なぁご

 

「にゃあ?」

 

 みゃー

 

「ぐるぐる~、みゃー」

 

 なーご。

 

「ふっふっふ。猫さんも賛成だそうです」

 

 ……うむ! そういうことにしておくのだ!!

 さあ、もみじよ吾輩とこがさをぞんぶんに絵にするのである。もみじも観念したようである、ため息をついて手近な岩に腰かけたのである。吾輩はこがさと一緒である。

 もみじは腰から竹の筒をとりだして、ぱっかり開けてから中の筆をとりだしたのだ。なるほどそうやって持ち運ぶのであるな。それに腰から紙の束をひもでとめたあれをとりだしたのだ。

 

「…………」

 

 もみじよ、吾輩をよく描いてくれるようにお願いするのである。こがさも吾輩を抱いたまま身じろぎもせぬ。

 もみじがさらさら何かを書いているのだ。あ、紙をぐしゃぐしゃぐしゃにして捨てたのである。それに悩んだり、頭をふったりせわしないもみじである。まったくもみじは、しゅぎょうがたらぬ。

 

「あの、いつまでこのままにしていればいいですか?」

「……動くな、もう少し」

 

 こがさが聞いたら、もみじは吾輩達をにらみつけてくる。しんけんであるな。吾輩はもみじが怒ってはおらぬことちゃんとわかっているのである。吾輩は顔をきりりとさせているのである。

 

「できた! あ、こほん。とりあえず完成だ」

 

 もみじが一瞬えがおになってから、すぐにぶすっとした顔に戻ったのである。

 

「どれどれ~みせて~」

 にゃあにゃあ

 

 吾輩とこがさは興味津々である。もみじは鼻を鳴らして、そっぽを向きながら吾輩達に絵を見せてくれたのである。

 紙のなかで吾輩とこがさがにっこり笑っているのである。

 吾輩がこがさをみるとこがさもにっこりしているのである。

 ふむ、あっぱれ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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いいところをみつけることもいいところなのである

 ちていの都はにぎやかである。

 おおきなおやしきが立ち並ぶ中を吾輩を先頭にのんびり歩いていくのだ。しかし、人里よりも立派なのである。おそらくがんばり屋さんが建てたのであろう。

 

 大通りにはいろんなお店があるのである。つちぐもだとか鬼だとか、よくわからぬ者がいろんなものを売っているのだ。たまにいい匂いにつられてとことこ吾輩が歩いていくと、こがさかもみじに止められてしまうのである。はずかしいのである。

 

 がやがや、わいわい

 吾輩は神社でのお祭りを思い出しているのである。人通り……はないのであるが、妖怪通りが多いので吾輩はしっかりともみじの足元についていくのだ。たぶん踏まれぬ。

 

「……間欠泉の騒ぎから地底に来る妖怪も増えたって聞いたけど」

 

 もみじがひとりでぶつぶつ言っているのだ。吾輩はにゃあと相槌を打っておくのであるそれにしてももみじの袴がゆらゆらしていて、吾輩はたまにかみついてしまいそうになるのである。いかぬいかぬ。

 

「とりあえず、着替えたい……」

 

 どろだらけのこがさのいうことはもっともである。とはいっても吾輩は着替えるものがないのである。たまには服を着るのもいいかもしれぬ。

 もみじもこがさに言うのである。

 

「さすがに私は地底にきて鬼の皆さまに挨拶もしないわけにはいかないからな……あーあ。気が重いわ」

「ふぁいと?」

「うるさい」

 

 地底から飛び込んでくるだけでこがさともみじは仲良しになったようなのである。けっこうなことであるな。ふともみじが立ち止まっているのだ。

 

「それじゃあ私は挨拶に行ってくるから、ちょっと別行動をしよう。集合場所は……どうしよう?」

「うーん。目立つものなんてわからないし……」

 

 こがさが傘をばっさと開いて悩んでいるのであるが、吾輩いいことを思い付いたのである。こがさが一番目立つのである。もみじよ、大きななすび、ではない傘を目指して帰ってくるのである。まいごになってはならぬ。

 あと、もみじが離れるとちょっと寂しいかもしれぬ。

 

「お前が一番目立つな」

「え? 猫さんが?」

「……なんだっていいけど、私が戻ってくるまで適当にぶらぶらしてていいわよ。傘だけはさしておいてくれ。空を飛んで探せば一発だろうから」

「はい? よくわからないけど、わかったわ」

 

 そんなこんなで吾輩とこがさはもみじと別れたのである。どこに行くかは吾輩にもとんとわからぬ。だから吾輩とこがさはのんびりとそのへんを歩いていくのである。

 

「おんせんはいりたいなー、でもどこにいけばいいのかわからないわ。猫さんはわかる?」

 にゃー

 

 わからぬ。

 吾輩も初めてきたところはさすがによくわからぬ。だが、きっと大丈夫である。吾輩が付いているのだ。おお、こがさよあそこに湯気が立っているのである、きっと温泉である。

 吾輩は幻想郷にひみつの温泉を持っているから知っているのである。そういえばこの前会ったあのおなごはどうしているであろうか、さこつなどと言っていた気がするのである。名前であろうか?

 

「あ! 温泉発見。ふふふ、猫さんよりも早く見つけたわ」

 

 いや、吾輩が先に見つけたのである。吾輩は抗議するのだ。こがさはわかってかわからずかわからぬ笑顔である、わからぬことだらけであるがかんだいな吾輩は許してやるのである。

 こがさが下駄で走り出したのである。吾輩もついていくのだ。周りの妖怪たちはみんな吾輩達を見ているのである。こがさはやはり目立つのであるな。

 

「あれ?」

 

 あれは温泉ではないのである。いや、温泉かもしれぬ。小さな小屋のようなところで座り込んでいる少女がいたのである。小屋は屋根しかない、冬は寒そうである。

 それでも屋根の下に浅い穴があるのである。そこにお湯が張ってあるではないか。

 

「なんだ。足湯かー」

 

 こがさが下駄をぽいぽい投げ捨てているのである。はしたないであるかしらして、吾輩は下駄の鼻緒を咥えてしっかりと邪魔にならぬ物陰にもっていくのだ。こがさよ感謝するのである。

 

 こがさはスカートをまくってあしゆ、とやらに足をつけているのである。なるほど! だから足湯であるか。吾輩はまたひとつ賢くなってしまったかもしれぬ。それにしてもこがさはずっとはだしのような格好である。

 

「あああ~」

 

 びくっ。

 吾輩はこがさの呆けた声でびっくりしたのである。みれば顔をほんのり赤くしてりらっくすしているではないか、変な声は出す必要はない気もするのであるが……。

 それでも吾輩には言うことはないのである。さて、吾輩も足をつけるとしよう……うむ? 吾輩は後ろも前も足である、どうすればいいのであろう。

 

「妬ましいわ」

 

 びくっ。

 最初から足をつけていた少女が言うのである。見れば金髪である、たぶん妖怪であるな。白い脚をお湯につけているのである。吾輩はこがさのそばに寄ってみるのだ。

 

「ああ、こんにちは。あなたも足湯にきたの?」

 

 こがさの知り合いであるか? 

 

「……猫さんは寝ているときに襲ってきたから知らないかも、えっと名前は……パ、ぱ……るこ?」

「パルスィ! あぁ、妬ましいわ」

 

 ぱるすぃというのであるが……ううむ。変な名前である。ぱるすぃは足湯でちゃぷちゃぷ足を動かしているのである。こがさも一緒にちゃぷちゃぷしているのである。

 吾輩も負けておられぬ、とおもったらこがさが吾輩を抱いてきたのである。いや、足湯に入れぬ。膝の上におくではない。

 

「妬ましいって、何が妬ましいんですか?」

「いっぱいよ、そんな理由なんていくらでもつくれるわ」

 

 ぱるすぃがこがさの髪をつまむのである。

 

「この青い髪もつやつやだし、目がぱっちりしているわ。ああ妬ましい。それに猫なんて連れて……可愛らしい顔をしているのも妬ましいわ」

「そ、そんなことないですよ」

 

 こがさが真っ赤になって驚いているのである。吾輩はその膝の上でごろごろ。

 

「そういう謙虚なところも妬ましいわ……あぁ」

 

 ぱるすぃはいいところを見つけるのがうまいのであるな。吾輩もほめてほしいのである。

 こがさは頭を掻きながら照れているのである。

 

「い、いや。そんな~ぱるすぃさんの方がこう、びじんですし、髪も綺麗ですね」

「……」

 

 ぱるすぃがほっぺたを膨らまして赤くなっているのである。

 

「そんな人をほめるところも妬ましいわ……」

「いやいや、ほんとですよ」

 

 む? むむむ。こがさとぱるすぃがお互いのいいところを言い合っているのである。

 

「あなたは~」

「パルスィさんこそ~」

 

 吾輩もほめてほしいのである! 

 

「だからその服もかわいいから妬ましいわ!!」

「パルスィさんの服も個性的でかわいいです!!」

 

 いや、なんで褒めあいながら喧嘩を始めるのであるか、こがさよ。おお、こがさがぱるすぃの足を軽く蹴っているのである。

 

「足も白いですしパルスィさんっていいですよね」

「……そ、そんなこと。……妬ましいわ」

「妬ましい」

「妬ましい? なんであなたが……いうの」

 

 こがさが妙な会話をしているのである。それにしてもお互いいいところを見つけるのが得意で吾輩大満足なのである。そろそろ吾輩をほめても差し支えないのである。

 ぱるすぃが立ち上がったのである、いよいよであるな。

 

「わ、私もう行くから」

 

 ぱるすぃよ吾輩、吾輩は?

 ほめてくれぬのであろうか。おお、顔を真っ赤にして走り去っていってしまったのである。残念であるな……

 

「いっちゃった……」

 

 こがさも吾輩をほめてもいいのである。

 

「ふぁーあ、早く温泉に入りたいなぁ」

 

 む、吾輩はこがさのひざの上でごろごろして抗議するのだ。

 



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そのかおはわがはいもすきである


ちていへんもしゅうばん(見せ場はない)


 吾輩とこがさは足湯のそばでのんびりしているのである。

 吾輩は足湯に入ってはおらぬが、湯気があったかいのである。その場で丸くなっているとこがさが吾輩の下にハンカチを敷いてくれたのである。ありがたいのである。

 

「ちゃっぷ、ちゃっぷ、それにしても椛遅いなぁ。そろそろ温泉に入りに行こうかしら?」

 

 吾輩はむっくり体を起こしてみるのである。そういえばどれくらい時間がたったのであろう。よくわからぬ。そういえば、何か大切なことを忘れている気がするのである。こがさよ……そばに折りたたんだ傘を置いているのである。

 

 なんであったか、もみじに何か言われた気がするのであるが……。おお、そういえば傘をさしておくように言っていたのである。めじるしであるな。

 吾輩は気が付いたのである。こがさよ今すぐ傘をさすのである。吾輩はなすび色の傘をパンチして訴えるのだ。

 

「こらこら。私の傘はおもちゃじゃないわ」

 

 いや、このままではもみじがここには来ぬ。こがさよ気が付くのである。吾輩は訴えるのだ。そんな吾輩をじっと、こが吾輩を見てくるのである。大きな瞳であるな、吾輩はこがさのおめめは好きである。

 

「そっか」

 

 わかってくれたようであるな。ぽんと手をたたいているのである。吾輩は安心して胸をなでおろすのだ。

 

「そういえば私は鬼を驚かせにきていたんだったわ! 危ない危ない」

 

 ぜんぜんわかっておらぬ。しかし、こがさは自信満々に立ち上がって、傘をばっと開いたのである。なぜかその場でくるりと回って、吾輩に舌を出しながらウインクをしてくるのである。

 

「それじゃあ猫さん。今から……」

「傘……さしておけといっただろうが!!」

 

 どーん。吾輩は驚いた。

 急に何かが落ちてきて土煙が舞ったのである。吾輩はいきおいあまってころころ転がるのである。ぺっぺっ、口に砂が入ったのである。砂はおいしくはない。 

 空から落ちてきたのは誰であろう。うむ、もみじである。しりもちをついて傘にしがみついているこがさの前ににおうだちをしているのである。

 

「お前、こんなところでくつろいで……かなり探し回ったんだぞ。なすび色の傘を開いたからわかったものの」

「ご、ごめんなさい……な、なすび?」

 

 指を顔の前に突き付けてもみじが怒っているのである。怒るではない、吾輩はこがさともみじの間に入って、怒るもみじを見上げたのである。ううむ、見上げたはいいがあとはわからぬ。

 

「そ、そんな目で私を見るな……はあ、もういい」

 

 なんか吾輩が見ているだけで収まったのである。

 

「もう、疲れた。ひっく。挨拶に行った鬼の皆さまのところではお酒も飲まされるし」

 

 そういえばもみじは少し顔が赤いのである。吾輩はお酒を飲んだことはない。

 

「早く温泉に入って、一眠りして帰るぞ」」

 

 まだまだ、ぷんぷん怒っているのである。肩をいからせてもみじが歩きだしたのである。どことなくふらふらしている気がするのは気のせいであろうか。吾輩は心配なのである。

 吾輩はこがさににゃあと声をかけて、もみじの後ろをとことこついていくのである。

 

「あ、ちょ、ちょっとまってよ。どこにいくかわかるの?」

 

 こがさが立ち上がって追いかけてきたのである。もみじがゆらりと後ろを向いたのだ。

 

「勇儀様に聞いた。ひっく、ああ、天狗である私でも酔いそうになる酒を飲むなんて……」

「ゆうぎ?」

「様、をつけろ。……それよりもああもう、なんだか怒ったらくらくらしてきた」

 

 もみじがその場で座り込んだのである。だ、大丈夫であろうか。

 

「だ、大丈夫?」

「だいじょうぶ、にきまっている、わたひを誰だと思っている」

「……1足す、1は?」

「……いっぱい」

「だめだこりゃ」

 

 もみじがぐったりしているのである。こがさはふうーと息を吐いて、吾輩をちらりと見たのだ。……なんであろうか、寝ているもみじを見るこがさの表情を吾輩はすきである。

 やさしいきがするのである。

 もしかしたらもみじも安心して眠ってしまったのかもしれぬ。

 

「よいしょ」

 

 こがさがもみじをおんぶしているのだ。吾輩も手伝うのにはやぶさかではない。しかし、手伝い方がわからぬのだ。こがさのまわりをぐるぐる歩き回ることになったのである。

 

「重いなぁ」

「ぐるる」

 

 こがさの言葉にもみじが犬のような声を出したのである。おお、首筋にかみつこうとしているのである。

 

「わ、わ、私は食べてもおいしくないわ。お、重くなんてない、ごめんなさ――」

 

 かみつかれているのである。

 

 ★

 

「あれ、ここはどこだ」

 

 やっともみじが起きたのである。頭を振っているのである。吾輩とこがさはあれから、いろいろと歩き回ってやっと「おんせんやど」を見つけたのである。とおいみちのりであった。

 大きなおやしきである。わふうというやつであるな。

 吾輩達はおおきなおやしきの、おおきな座敷にいるのである、と吾輩はもみじに言ってみるのだ。にゃあにゃあ。

 

「お前、私を見ていてくれたのか。よしよし」

 

 頭を撫でてくれているのである。なんか違う気がするのであるが、まあいいのである。吾輩は神社では巫女に怒られるからできぬ畳の上でのころころを楽しんでいただけである。

 

「ここは宿か。小傘はどこに行ったんだ。あつ、頭が痛い。なんだか途中から記憶がない……」

 

 大丈夫であるか、吾輩はもみじの膝にしがみついて心配するのである。もみじは吾輩の鼻を押さえてくるのである。ううむ、なんでであろう。吾輩は押してくる指を舐めて抵抗するのである。

 

「とんとん」

 

 もみじの肩をたたいている者がいるのである。吾輩からはよく見えぬ。吾輩にはもみじも大きいのである。もみじはため息をついて振り返ったのである。

 

「まったく、小傘だろう、なにを……きゃ」

「うらめしやー」

 

 おおお。鬼のお面をかぶったなぞの少女がいるのである!

 吾輩はもみじを守るのである。かくごするのである。もみじはその場でのけぞっているのだ。

 

「ふふふ。さっきかまれたお返しね」

 

 鬼のお面を取ると、中からこがさが現れたのである。ほっぺたを膨らませて鼻を鳴らしているのだ。吾輩はほっとしたのである。

 

「お、おまえ」

 

 怒るもみじがこがさにとびかかって頭をぐりぐりしているのである。

 それは、何であろう。撫でているのであるか。

 

「い、いたいいたい」

「しょうもないことばかりして、私がお前なんてかむわけないだろ。猫じゃあるまいし」

 

 ぬれぎぬである!!

 それでもこがさともみじは仲良しであるな。吾輩は満足である。

 畳の上で仲良く遊ぶのである。吾輩も混ざりたいのであるが、混ざれぬ。吾輩も遊んでほし……遊んであげるのである。

 

「ま。まいった~」

 

 こがさの上にもみじが乗っているのである。楽しそうである。こがさは白いハンカチを手で振っているのだ。さっき吾輩のべっどになったはんかちであるな。ちゃんとはんかちを持っているこがさは偉いのである。

 どこがえらいのかは吾輩もよくわからぬ。けーねが言っていたのである。

 

「はあ、柄にもなくムキになってしまったわ」

「が、柄にもなく………?」

 

 もみじがこがさを強い目で見ているのである。こがさは両手を上げて。

 

「も、もうあたまぐりぐりはこりごりです」

「……ふん」

 

 もみじがこがさを離して、どいたのである。するとこがさがぱっと正座をしたので、吾輩もその膝に乗ってみるのだ。

 

「この宿には大浴場があるそうですよ。椛も入りに行きましょう!」

 

 両手を広げてあかるくこがさが言ったのである。

 吾輩も両手を広げようとしてころりと膝から落ちてしまった。

 

 



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おんせんにやってきたのである

 石畳を吾輩は歩いていくのである。

 前を行くこがさともみじの下駄がかこんかこん、鳴っているのである。吾輩も音が出せぬかと肉球を石畳に何度かつけてみても何も音が出ぬ。吾輩も下駄をはいてみたいのである。

 

 地底は暗いのであるが、温泉への道には灯篭が並んでいるのである。ほんわかした火のついているのである。並んでいる燈篭をみていると吾輩はほっとするのである。

 

 かつん、かつん。こがさが傘で地面をつつきながら歩くのである。何か歌っているようであるが、吾輩にはよくわからぬ。

 少しだけ歩くと小屋が現れたのである。こがさが吾輩を「おいで」と呼んだのでその後ろをついていくのである。小屋はしっかりした作りである。ひのきであるな、吾輩は知っているのだ。

 引き戸をこがさがからから開けて、吾輩とこがさは元気よく中に入ってみたのである!

 

「おー」

 

 吹き抜けであるな。手前にかごが置かれているのである。小屋の向こう側から外は大きな石がいっぱい並んでいるのである。もわもわ、湯気が立ってよく見えぬが温泉であることは間違いないのである。

 周りには灯篭が立っているので、結構明るいのである! 吾輩たち以外にもお客さんがいるのだ。

 

「わー」

 

 こがさが下駄を捨てるように脱いだのである。

 それから籠に服を脱いでいるのである。この籠、こったつくりであるな。吾輩は籠を作ったことはないのであるが、なかなかいいものと吾輩にはわかるのである。とりあえず中を見てみるのだ。

 

「ねこさんだめだめ」

 

 吾輩がいくつか並んでいる籠に頭を入れてこがさが吾輩の脇に手を入れて持ち上げたのだ。ううむ、なぜダメなのであろう。吾輩にはとんとわからぬ。

 もみじもいつの間にか来ているのである。吾輩がにゃあというと、一度もみじはこがさを見て「に……いやいい」などと言っているのだ。よくわからぬ。

 そういえばさっきの籠にはお寺で見たことのある帽子が入っていたのである。白い、ううむ。なんといえばいいのかわからぬ。もしかしたらお寺のものも来ているのかもしれぬ。

 それはそうとそろそろ離すのである。こがさよ。吾輩は腰を動かしてにゃあにゃあ言うのだ。

 

「おっと」

 

 しゅたっと地面に降りてみるのである。ひのきの床をとととと歩いて、石畳にかっつり降り立つ。吾輩は気ままに行くのである。

 

「ま、まってよ~」

「まて!」

 

 うしろでこがさともみじの声がするのであるが、吾輩は待たぬ。というか、すぐそこにいるのであるから待つも何もないのである。早く来ればいいのである。

 

 どうせこの温泉には吾輩は入れぬ。

 吾輩は温泉の縁に足をかけて中を覗き込んでみたのである。吾輩の顔が映っているのである。あったかい湯気が吾輩の顔にかかるのである。吾輩はこれが好きである。

 しかし、しょうしょう深すぎるのである。猫用のふろでもないものであろうか。吾輩はうなうな悩んでいると、脇をつかまれたのである。

 

「こっちにおいで猫さん」

 

 こがさであるな。今日は脇をつかまれることが多いのであるが、こがさよ。その傘はお風呂にも持ってくる必要はあるのであろうか。吾輩にはとんとわからぬ。

 端っこの方にこがさにもっていかれる吾輩。いがいとらくちんである。

 桶が積み木のように並んでいるのである。その前にこがさは吾輩を下ろしたのである。これ崩してはかぬのであろうか……ううむ、よっきゅうが、いかぬいかぬ。

 こがさはその桶を一つとって、お湯を組んだのである。何をするのであろうか。

 

「おいで」

 

 ……

 ……いやである! いやなよかんがする。

 吾輩は逃げ出そうとすると、脇をかかえられたのである。

 

「何逃げようとしているんだ」

 

 もみじである。はなすのである。これはふとうたいほであるな。べんごしを呼んでもやぶさかではない。しかし、べんごしも地底には来てくれるのであろうか。

 

「ばしゃー」

 

 うにゃあ。お湯が吾輩にかかったのである。はんにんはこがさに間違いないのである。

 

「小傘、私が離していないのにかけるな」

「え、でも一石二鳥ですし」

「かけ湯くらい自分でする」

 

 けほこほ、お湯が目と口に入ったのである。

 吾輩はもみじの手から脱出したのである。ぽたぽたとお湯が吾輩の毛並みに吸われて、あれである。からだがおもい。ううむ、地面にみずたまり……お湯たまりができているではないか、なんとなく座ってみるのである。

 

「おやおや。お姉さんがた、猫を連れてくるなんて良い趣味しているね」

 

 だれか近寄ってきたのである。ぬれた赤い髪をしているのである。

 どことなく猫っぽいのような気もするのであるが、気のせいであろうか。こがさよ誰か聞いてみるのである

 

「お前は?」

 

 いや、もみじではない。まあいいのであるが。

 

「あたいかい? あたいは……まあお燐って気安く呼んでおくれよ。そんなことよりも姉さん方、これなんだが知っているかい?」

 

 なんであろうか、おりんが手に何か持っているのだ。もみじもこがさも首をかしげているのである。……とりあえず吾輩もかしげておくのである。

 

「最近地上に行くことがあってね。雑貨屋で買ったしゃんぷーってやつだよ。なんでも幻想郷の外の世界のものらしいよ」

「「しゃんぷー?」」

 

 こがさともみじは本当に仲良しであるな。別に一緒に言わなくてもいいのである。

 

「まあ、物は試し。そっちの傘持ったお姉さん、座った座った」

 

 おりんが小さな木製の椅子を持ってきて、こがさを座らせたのである。不安そうにしているのである。

 気のせいであろうか。おりんの目が光っているのである。しゃんぷーなるものを手で押して中から液体を出しているのだ。

 

「おっと、その前に目をつぶっていておくれよ」

 

 おりんが桶にお湯をくんできてこがさの頭にかけたのである。それから両手でこがさをなでなでし始めたのである。なんであろう、妙ななでなでであるな。

 おお、お? おお? 白い泡が出てくるのである。

 吾輩は思わずもみじの後ろに隠れてしまったのだ。

 こがさも驚いているのだ。

 

「わ、わ」

「おっと、お姉さん目を開けたら……死にますぜ」

「し、しぬ??」

 

 おりんがごしごしすると泡がこがさを包んでいくのだ。ぽとりと泡の塊がこがさの肩に落ちて体を伝って落ちていくのである。

 

「よし」

 

 おりんがお湯をかけて泡を流すのである。……もったいないのである。もしかしたら甘いかもしれぬ。

 おお、なんだかこがさの髪が綺麗になっているのである。きらきらしている気がするのだ。

 

「あ、なんかつやつやしてる気がするわ」

 

 こがさが指で髪をつまんでいるのだ。嬉しそうなのはよいことである。

 

「ほ、ほう」

 

 なんでもみじはもじもじしているのであろうか。

 ちらちらお燐を見ている気がするのである。何か言いたそうであるな。

 

「お姉さんも試してみるかい」

 

 おりんがもみじに言うのである。もみじが吾輩を見たのでにゃあと言っておくのだ。

 

「……ま、あ。ためしくらいなら」

 

 そわそわ嬉しそうにもみじが椅子に座るのだ。こがさよ何にやにやしているのであろう。

 もみじの髪におりんがお湯をかけて、またなでなでし始めると泡が出てきたのである。

 

「かゆいところはないかい?」

「だ、大丈夫だ」

 

 わしゃわしゃ、白い泡。吾輩はこの時を待っていたのである。

 吾輩はもみじのおひざに足をかけて、体を昇るのである。

 

「おい、何をしている」

 

 もみじが目を開けて吾輩を捕まえようとしているのである。しかしその前に。肩に手をかけて、泡をパクリ。苦い! だまされたかもしれぬ。

 

「め、めがあぁ」

 

 もみじが何か言っているのである。

 







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おふろでおよいではいかぬ

 吾輩は物陰に隠れて体をぷるぷるさせるのだ。

 ちゃんと吾輩が飛ばした水滴が誰にも当たらぬようにせねばらならぬ。吾輩は紳士であるからして、誰にも迷惑をかけてはならぬのである。

 どこかで吾輩を呼ぶ声がするのである。声というか、

 

 にゃあー?

 

 こがさが吾輩を呼んでいると思わしき鳴き声を発しているのである。吾輩は岩の影からそれをちらっ、ちらっと見るのである。

 近くにはお湯の川が流れているのである。それがゆぶねにそそいでいるのであろう、吾輩は前足でちょっとそれに触ってみるのである。うむ、なかなかいいゆかげん。ちゃぷちゃぷ音を出してお湯が入っていくのである。

 

 何もやることがないのである。

 吾輩はその場で座り込んでみる。おお、床があったかい。吾輩は寝そべって、ごろごろしてみるのだ。これは、なかなかいいではないか。くるしゅうないのである。

 吾輩は特に意味もなくその場で寝がえりをうったり、ちょっとあくびをしてみたりのんびり過ごすのである。吾輩はここにはじめてきたのであるが、もう吾輩の庭のようなものであるな。

 

 ちょっとねむたくなってきたのである。

 こくりこくり、いやいかぬ。吾輩はあたまをふって眠気を払うのである。こんなところで寝てしまっては紳士としてはしたないのである。そうであるな、あのひときわ大きな岩の上で寝そべってみたいものである。

 吾輩はそう思ってのそのそと歩いてみるのだ。おゆだまりをふむとぴちゃっと音がするので、何度か踏んでしまったのである。

 

 うむ。なんであろうか、これは。

 吾輩はぽつんと置かれた桶を見つけたのである。いっぽんのこれは、うむ。ひしゃくも入っているのだ。はっぴーせっとかもしれぬ。りんのすけがいい物が一緒になっているとそういうと教えてくれたのである。

 周りには誰もおらぬ。誰かが使ったのにそのまま置き去りにしたのかもしれぬ。吾輩はこうきしん、いやいやどこかでなにか手掛かりがあるかもしれぬと思い、中に頭を入れてみるのである。

 なかなか広いのである。ひしゃくもこうなんとなく吾輩持ちたくなってしまうのだ。

 吾輩がすっぽりとはいってしまった。おちつく……。

 はっ。この桶のみりょくを満喫している場合ではないのである。おお、誰かに持ち上げられたのである。誰であろうか、吾輩は体を起こしてみようと思ったのであるが、引っかかって動けぬ。

 もぞもぞ、もぞもぞ。

 やっと顔を出した瞬間に、ばしゃんと水に何かが飛び込む音がしたのである。一体何が……たいへんなのである。吾輩は温泉に浮いているのである!

 桶がゆらゆら吾輩をのせて進んでいくのである。吾輩にはどうすればいいのかわからぬ。焦ってうごいてみれば、あやうくちんぼつしそうになったのである。

 吾輩は意味なくひしゃくに縋っているのだ。

 吾輩はこがさを探してみるのであるが、おらぬ。もみじは遠くでしゃんぷーをしているのが見えるのだ。吾輩のことに気が付くとは思えぬ。

 

 ま、なるようになるのである。

 吾輩、ふなたびは初めての経験なのである。そういえば空の上にはいったことがあるのであるが、温泉を桶に乗って旅するのは初めての経験なのである。

 空を見ればふよふよと綺麗なひかりが飛び交っているのである。こがさが「おんりょう」といっていたのであるが、おんりょうとはなんであろうか。

 

 ――ひしゃくをおくれ~

 

 びくっ。吾輩は驚いた。

 吾輩の頭の中で変な声がしたのである。なにかわからずにまわりを見渡してみるのである。うむ? なんかお湯の下に沈んでいるのである。ひとであるな。黒髪のしょうじょのようなものが吾輩の桶の下に沈んでいるのである。

 

 ――ひしゃくをおくれ

 

 にゃあー。

 吾輩はこんどこそ挨拶をできたのである。相手がだれであれ挨拶を欠かしてはならぬ。吾輩は紳士なのである。そう胸を張るのだ。

 

 ――ひしゃくをください

 

 丁寧になったのである。挨拶の効果であるな。吾輩は満足である。

 ひしゃくといえばこれのことであるな。ううむ、くれと言われてもうまく持てぬ。吾輩はひしゃくの取っ手に力強くかみついて、ふらふらと持ち上げてみたのである。別に吾輩のものでもなし、あげてもいいのである。たぶん下にしずんでいる少女が欲しているのであろう。

 うんしょ。

 いや、今のは違うのである。思わず子供のように思ってしまったのであるが、吾輩は紳士なのである。

 

 吾輩はどうにかこうにかひしゃくを咥えたままさきっぽをお湯につけてみたのである。お湯をくむところが一番重いのである。

 早くとるのである。吾輩は少女の前でゆらゆらひしゃくをひらしてみたのだ。……これは、うわさに聞く釣りかもしれぬ。吾輩これも初めての経験なのである。

 おう。ひしゃくのさきっぽのお湯をいれるところが少女のでっぱりに引っかかったのである。うむうむ。ひっぱってもとれぬ。いや、よく考えてもとる必要はないのである。

 

 取られたのである。ひしゃくがお湯の中にしずんだのだ。吾輩はちょっと寂しいのである。

 するとすぐに白い手がひしゃくをもって飛び出してきたではないか!

 吾輩は驚いてにゃあと叫ぶんでしまったのだ。

 脅かすではない……なんであろうか、吾輩の桶にひしゃくがお湯を入れ始めたのである。お湯が吾輩を包んでいくのだ。あったかい……ではないのである。このままでは沈んでしまうのである。やめるのである。

 

 おゆが、お湯が桶にいっぱいになって、吾輩の肩まで浸かってしまったのだ……

 うむむ? しずまぬ、これはいい湯である。吾輩は満足である。

 

「ちょっと」

 

 びくっ。

 みればお湯から顔の半分だけ出している少女がいるではないか。くせっ毛がお湯にぬれているのである。

 

「そこはしずまないとだめじゃない」

 

 いや、しらぬ。駄目といわれても吾輩は悪くはないのである。いい湯であるから、いいではないか。

 

「せっかく桶とひしゃくをつかっておびき寄せたのに、あー。これじゃあ欲求不満だわ」

 

 勝手言っているのである。さっき吾輩を持ち上げたのはおぬしであるか。

 

「このままじゃあこの村紗船長の名にかかわりますし」

 

 せんちょうであったか、吾輩ははくがくたさいであるから知っているのである。たしかあれである、ううむ。そうあれなのだ! 吾輩ちゃんとわかっているのである。……いや、すまぬ。しったかぶりはいかぬ……。どわすれしたのだ。

 それでも、せんちょうは吾輩ににっこり笑いかけてきたのである。

 

「沈めますね」

 

 桶に手をかけようとしてきたのだ。いや、かけて下に引きずり込もうとしているのである。

 な、なんでそこまでして吾輩を沈めようとするのであろうか。りふじんである。吾輩は納得がゆかぬ。

 

 ただではやられないのである。吾輩は桶を蹴ってきゃぷてんの頭に着地したのである。

 おお、不安定である。せんちょうよ、暴れてはいかぬ。捕まえようとしてもいかぬ。

 

「こら、おりてください」

 

 ばしゃん、吾輩は落ちたのである。

 ごぼぼ、ごぼぼ。吾輩は必死になってその場で足を動かしてみるのだ。もうしにものぐるいである。吾輩はここで沈むわけにはいかぬ。

 

 ぱしゃぱしゃ。

 

 意外と泳げるものである。吾輩は前足をぱたぱたさせて風呂の縁へ向かって泳ぐのである。

 

「そりゃあないですよ……」

 

 せんちょうの声が聞こえるのであるが、吾輩にはよくわからぬ。

 ばたばた。

 

 吾輩、温泉で泳いだのは初めてである。しかし、吾輩は知っているのだ。お風呂で泳いではいかぬ……

 

「わーい」

 

 真横をこがさが泳いで行ったのである。

 ……。見なかったことにするのだ。

 

 

 



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おふろはしずかにはいらねばならぬ

 吾輩はいい感じの岩を見つけて寝そべってみるのである。少し泳いで疲れたのかもしれぬ。体がぬれているのでよく乾かさねばならぬ。このまま帰ったら巫女に怒られてしまうかもしれぬのはいやである。

 ふむ、なんとなく吾輩は巫女のところに帰ると思ってしまったのである。まあ、いいのである。どこに行っても吾輩の庭には違いないのであるからして、これはかりかりくらい小さなことである。

 ……かりかりは小さいことではないかもしれぬ。あのご飯をたまにしかりんのすけはくれぬ。巫女とかりかりはどちらが大事であろうか……ううむ。巫女であるな。なんもんであった。

 

「なんでそんなところで寝そべっているんだ」

 

 おおもみじである。おおもみじといっても、おおきいもみじではないのである。普通の大きさであるな。

 なんだか髪がきらきらしているのである。心なしかご機嫌に見える。

 全身ぬれているのは吾輩と同じであるな。お揃いである。吾輩はここでゆっくりと体を乾かすのであるからして、もみじはゆっくりと温泉に浸かっているといいのである。こがさもさっきおよいでいたのを寛大な吾輩は見ぬふりをしたところだ。

 

「お前、風邪をひくぞ。こっちにこい」

 

 うにゃあ。吾輩を持つではない。

 吾輩お気に入りの岩が遠ざかっていくのである。もみじは吾輩を持ったまま。温泉に浸かったのである。吾輩は足が届かぬ。両脇を持たれたまま動けぬ。

 ちゃぷちゃぷ。ふむ。あったかいのである。吾輩は綺麗好きであるから、よく地上でも温泉には入るのである。あそこは吾輩のひみつのすぽっとであるな。吾輩はいんぐりっしゅにもたんのうなのかもしれぬ。

 

「ふぅ」

 

 もみじもりらっくすしているようで吾輩は満足である。むむ、こがさには負けるのでるが、もみじもほっぺたがぷにぷしていそうであるな。吾輩は思わず前足で触ろうとしてしまったのである。

 

「こら、おとなしくしていろ。いたずら猫」

 

 しんがいである。吾輩は紳士であるからしていたずらはちょっとしかせぬ。吾輩はこうぎするのである。するともみじは吾輩をじっとみてきたのである。

 

「なんだかおまえ……私が言っていることがわかるような気がするな」

 

 もみじよ。吾輩にはわかっているのである。もみじはいい子なのである! 

 

「まさかな。ただの猫にわかるわけもないわ」

 

 吾輩はちょっと寂しいのである。だからにゃあと言ってみるのだ。

 もみじは首をちょっと傾けて、小さく舌を出したのだ。

 

「おどろけーっ……だったか」

 

 もみじよ何を言っているのであるか? 吾輩はきょとんとしてしまったのである。

 するともみじは目を吾輩からそらして恥ずかし気にしているのである。

 

「う、ぅ。猫相手でもあいつの真似なんてするもんじゃないな」

 

 おお、こがさのものまねであるな。吾輩も物まねは得意なのである。

 にゃあ。

 こがさが吾輩に言ってくる真似である。

 

「何鳴いているんだ?」

 

 わかってもらえなかったのである……吾輩もまだまだなのかもしれぬ。うむ? 何かがお湯の中を泳いでいるんである。もみじよ何かが近づいてくるのである。吾輩を見るよりも下を見てほしいのである。

 そんな吾輩の願いとはうらはらにもみじがいうのだ。

 

「うらめしやー」

 

 何を言っているであるかもみじよ。吾輩に笑顔で舌ださなくていいのである。それよりも下から何かが、

 

 ばっっしゃーん。

 

 いきおいよくお湯の中からこがさが現れたのである。

 

「お、おどけげほげほ、ごほごほ、ちょ、ちょっとた、たいむ」

「わあ! い、いきなりなんだ!」 

 

 けほけほ、吾輩にもお湯がかかったのである。なんであろうか、お湯の下を潜っていたのはこがさであったのである。なんかせき込んでいるのだである。たいむとはなんであろうか。

 もみじは本当に驚いているようであるな。吾輩がみると大きく目を開けているのである。こがさがやっと息を整えているのだ。

 

「驚いた?」

「お、お、驚くに決まっているだろう! お風呂くらい静かに入れ」

 

 うむうむ。もみじにどうかんである。

 

「でもさっき猫さんも泳いでいましたし……」

 

 あれは桶を沈められて仕方なくしていただけなのである。吾輩はまなーは知っているのである。吾輩は恥ずかしいことはしておらぬとむねをはるのだ。

 

「おまえそんなことをしていたのか……だめだろう」

 

 もみじが吾輩をじっくり見つめてくるのである。誤解としかいいようがないのである。犯人はあのひしゃくをつかって吾輩を沈めようとした船長である。どこに行ったのであろう。

 吾輩はこがさを見る。するとこがさはくすりとして肩までお湯につかったのだ。

 温泉に波がたっているのである。なんで温泉はきらきら光っているのか吾輩にはとんとわからぬ。いがいとめだちやがりなのであろうか。

 吾輩は不思議に思って波を前足でパンチしてみるのだ、すると別の波がくるのでパンチをするのだ。これがなかなかやめられぬ。

 もみじとこがさはそのまま黙っているのである。

 まあ、二人とも気持ちよさそうな顔をしているからいいのである。吾輩はそろそろ熱くなったから上がりたいと思うのであるが、もみじが吾輩を離さぬ。

 

「ふー」

「ふー」

 

 おお、二人ともなんだか同じことを言っているのである。もみじが嫌そうな顔をしているのはなんでであろう。

 

「そういえば小傘は鬼の皆さまを驚かせに来たんだろう? どうせないでしょうけど、勝算はあるの?」

「あ、ありますよ! ほら、物陰からうらめしやーって飛び出てみれば」

「一応言っておくけど、やめておいた方がいい」

「ですよねー……。あーあ。椛みたいに驚いてくれたらいいのに」

 

 もみじが片手でお湯をこがさにかけたのである。ふんと鼻を鳴らしてながらであるな。

 

「わ、やったね! そりゃ」

 

 こがさも吾輩にお湯をかけてきたのである。もみじよ吾輩を盾にするのではないのである。にゃあ!

 

「ご、ごめんなさい」

 

 いや、こがさに怒ったのではないのである。顔をお湯につけるくらい落ち込んでほしくないのである。吾輩も悪かったのである。

 もみじよなにか言ってやるのである。ううむ、ぶあいそうなひょうじょうをしているのであるな。

 

「そもそもお前は全然怖くないんだ」

「む、そ、それなら椛も猫さんに話しかけていたじゃない、天狗らしくないわ」

「え? そ、そんなことはしていない。み、見間違えだろう」

 

 けんかはやめるのである。お互いにお湯をかけあいながら吾輩を盾にするのもやめた方がよい。いや、やめるべきなのである。

 おおこがさが吾輩を奪おうとしているのである。強く引っ張るではない。もみじもむだな抵抗をするのをやめるのである。

 吾輩を間にしてこがさがもみじのほっぺたをひっぱろうとしているのだ。いや、吾輩つぶれそうでこわいのである。喧嘩はよくないのであるが、吾輩をおたがいの体の間に挟むと大変なことになりそうである。普通にこわいのである。

 そう思っているともみじが立ち上がったのだ。吾輩をかかえたまま、こがさを見下ろしているのだ。吾輩ちょっと安心したのだ。

 

「もういい、私は上がる」

「も、もう上がるんですか?」

 

 なんだかこがさが勝ち誇った顔をしているのだ。

 もみじよ、何を震えているのであるか。

 椛が吾輩を地面に下ろしてから、またお風呂につかったのだ。

 こがさともみじは汗を額からたらたら流しているのであるな。あがらぬのであろうか?

 

「は、早く上がればいいだろう?」

「も、椛こそ早く上がったらいいじゃないですか?」

 

 何をしているのであろうか、吾輩はお風呂の縁でのんびりするのである。

 

 

 





こがさVSもみじのしょうもないたたかいのまくが切って落とされた


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にぎやかなのはやぶさかではない

 吾輩はお風呂に前足をつけてみるのである。そのままゆらゆら揺らしてみると、波が立つではないか! いや、別に意味はないのである。しかし、温泉の縁で遊ぶのはなんとなく楽しいと吾輩は思ってしまうのである。

 吾輩以外はどうなのであろう。吾輩は考え込んでしまうのである。

 

「そ、そろそろ上がったらどうだ。小傘、げ、限界だろう」

 

 もみじがゆでたさわがにのようになっているのである。

 真っ赤であるな。そういえば巫女と一緒にさわがにを取りに行ったことがあるのである。山の中の小川はきらきら綺麗であった。吾輩はさわがにをみつけるのは得意なのである。

 巫女が足を滑らせて川に頭を突っ込んでいたことは誰にも言わぬ約束である。吾輩は律義であるからしてまだ誰にも言ってはおらぬ。

 さわがにとりは楽しい物であった。まあ、吾輩はあんなものは食べぬが。

 巫女はゆででぱりぱり食べていたのだ。今考えても硬そうであった。それよりもヤマメを取ってくれとにゃあにゃあ頼んでも巫女は聞いてはくれなかったのである。

 代わりにそのへんの葉っぱをくれたのであるが、あまりのことに吾輩混乱した思い出があるのである。

 

 いかぬいかぬ。思い出にふけってしまったのである。吾輩はだんだんこがさともみじがお風呂の中で何をやっているのかがわかってきたのである。先に上がった方が負けなのであるな、そうと知っていれば吾輩も上がらなかったのである。吾輩も勝負したかったのである。

 

「も、もみじこそ真っ赤よ。あ、あがったら?」

「私はふだんの仕事で疲れているんだ、ちょうどいい湯治だ」

 

 赤くなったもみじはさわがにのように固いのであろうか。

 さわがには元から硬いのであるが、もしかしたらもみじも硬いのかもしれぬ。吾輩はお風呂の縁から前足を伸ばしてもみじの肩に触れてみたのである。

 なんだ柔らかいのである。しかし、それにしても体があったかいである。

 

「何をしているんだ」

 

 もみじが吾輩の足をもって聞いてきたから、吾輩はなーごと詳しいせつめいをしたのである。

 

「遊ぶのは後でしてやるから、おとなしくしていろ」

 

 別に遊んでほしいわけでもないのであるが……いや、せっかくなのであとで遊ぶのである。約束したのである。

 吾輩は邪魔にならぬように体を横たえて座る。この目で勝負を見届けるのである。

 

 くい、くい。

 

 む、だれかが吾輩のしっぽを引いているのである。

 吾輩はびくっとしてそちらを向いてしまったのである。見てみれば桶とひしゃくをもった船長がいるではないか、何の用であろう。

 

「猫さん、今度は桶に重しを入れておきましたからもう一回乗りませんか?」

 

 乗らぬ。重しを入れる意味も分からぬ。

 この船長は何を考えているのかわからぬ。吾輩はもみじとこがさの方へ視線を戻したのである。うむむ、この勝負どちらが勝つかわからぬ。こがさもまっかである。

 そういえばこがさは何の妖怪なのであろう。さわがに? ううむ、謎は深まるばかりである。そういえば前にもみじがからかさと言っていたのであるが、あれであろうか。

 からかさ、とは……むむむ。わからぬ。ごろごろ、吾輩は思案するのだ。

 誰かがしっぽを引いているのである。また船長であろうか。

 

「こんにちは」

 

 なんだくろだにではないか。地底の入り口でもみじとあそんでいたものであるな。

 温泉に入りに来たのであろう。肩からタオルをかけているのである。そのタオルをかけるのは吾輩もちょっとやってみたいのである。

 ……そういえばまだヤマメをもらってはおらぬ。いつになったらくれるのであろうか。吾輩は立ち上がってくろだにににゃあと毅然と言ったのである。

 

「……にゃあ? 駄目だね。私は猫語はわからないよ」

 

 残念である。吾輩も教えてあげたいところであるが、今は忙しいのである。

 

「なんだ? さっきの天狗じゃないか」

 

 くろだにが吾輩と同じように前足と後ろ足のひざを地面につけながらもみじの近くまで歩くのである。首にかけたタオルがゆれるので、吾輩思わずパンチしてしまったのだ。

 

「土蜘蛛……お前も温泉に入りに来たのか」

「そうだよ、私は綺麗好きでね」

「病を司る妖怪がよく言う」

「態度悪いなぁ。そういうあんたこそ、なんでそんなゆでだこみたいになってまで入っているのさ。上がれば?」

 

 こがさがなんとなく笑っているように見えるのであるが、体は真っ赤であるな。

 ところでゆで、だことは何のことであろうか? あ、わかったのである。空を飛ぶあれであるな。

 

「あがれば? 椛」

「小傘こそ先に上がれ」

 

 くろだにはその場に胡坐をかいて考えこむようなしぐさをしたのだ。そしてしばらくして、ぽんと両手を打ったのである。

 

「あぁ。我慢比べ。天狗も大変だねぇ」

 

 くろだにが笑っているのである。楽しそうであるな。

 吾輩は誰かが楽しそうにすることはやぶさかではないのである。くろだには吾輩を振り返ったのである。いや、吾輩を桶にいれようとしている船長を振り返ったのである。吾輩はじたばたするのである。

 

「ちょいとそこの桶を持ったあんた」

「はい? なんでしょう」

 

 船長は吾輩を入れながら言うのである。というか桶に吾輩をいれるでない。脱出するのである。

 

「せっかくだからどちらが勝つか賭けない?」

「なるほど。おもしろそうですね」

 

 ふぎゃあ、ううむ。吾輩を押さえつけようとするでない。船長よ。吾輩を怒らせたらあれである、またたびを分けてやらぬ。吾輩は船長の手から逃れるようと動き回るのである。

 

「か、勝手にかけ事するな!」

 

 もみじが怒っているのである。そんなことよりも吾輩は船長から離れてくろだにのひざ元へ避難したのである。くろだには吾輩を抱き上げて、頭を撫でてきたのである。

 

「この猫は頭が弱点みたいね……そらそら。それじゃあ私はこの天狗が勝つ方に賭けるわ。あんたは?」

「そうですね。じゃあ私も天狗に賭けます」

「賭けにならないじゃないか」

 

 くろだにが吾輩を撫でながら苦笑しているのである。船長は吾輩を取り返そうと魔の手伸ばそうとするのでパンチで叩き落すのである! にゃあ、にゃあ。船長の手を何度も撃退するのである。

 

「じゃあ私はそっちの付喪神に賭けるわ」

「お! 大穴狙いね。誰?」

 

 だれであるか? 違い声に吾輩とくろだにが反応したのである。

 ぺたぺた足音がするのである。吾輩が見れば、おおぱるすぃではないか。吾輩はにゃあと挨拶するのだ。

 

「妬ましいわ……」

 

 吾輩を見ていったのである。よくわからぬが、ぱるすぃの挨拶なのかもしれぬな。それよりも早く吾輩のいいところも見つけてほしいである。いや、顎を撫でてとは言ってはおらぬ、……ごろごろ。

 

「ふふ」

 

 ぱるすぃが笑っているのである。それはいいのであるが、くろだにが上から撫でて、ぱるすぃが顎を撫でていて、吾輩は挟み撃ちにあっているのかもしれぬ。これは初めての体験であるな。

 船長はひしゃくで桶にお湯を入れているのである。ほっとくのである。

 

「な。何勝手なことを言っているんだ」

 

 もみじが何か言っているのである。安心するのである。吾輩はもみじもこがさも応援しているのである。

 

「う~」

 

 こがさが変な声を出しているのである。

 

「うー」

 

 もみじが歯を食いしばっているのである。

 くろだにが吾輩の前足をもって、上下させるのである。

 

「ほらほら、がんばれ、がんばれ」

 

 おお、なんか吾輩が応援しているみたいで気に入ったのである。こがさもくらくらしながら親指を立てているのである。

 こがさよ。そっちに親指を立てても吾輩はおらぬ。こっちである。

 




みんなで街をかんこうして、あの人にあってこの旅行はおひらきかも(たぶん)


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ながゆはいかぬ

あそんで、はねて、


 吾輩はしんけんに応援しているのである。

 こがさももみじも頑張ってほしいのである。お風呂から先に上がってはいけぬ。ううむ、しかし両方が勝つ方法はないのであろうか、そうすればみんな楽しいのかもしれぬ。

 吾輩は両前足を後ろからくろだににつかまれたままである。

 くろだには吾輩の肉球を押したり、押さなかったりしているのである。いったい何をしているのであろうか、吾輩にはとんとわからぬ。

 

 ぷに、ぷに

 くろだによ無言で吾輩の前足を触るのはなんでであろうか。くすぐったいのである。

 はっ、これはもしやまっさーじというものなのかもしれぬ。吾輩本格的なまっさーじは初めてなのである。おおう、くろだにが吾輩の肉球をさわってやまぬ。

 

「柔らかいなぁ。こいつ」

 

 そうであるか、吾輩は照れるのである。

 

「はあ、はあ」

 

 おお、もみじがお風呂の縁に手をかけたのである。上がるのかもしれぬ。くろだにも吾輩の前足を離してもみじの手を取ったのである。

 

「てい。天狗なんだかもう少し頑張って。賭けてんだから」

 

 くろだにがもみじをお風呂の中へ押し戻しているのである。吾輩にはよくわからぬ。とりあえず、にゃあと応援するのである。もみじよ頑張るのである。こがさはお風呂の中で口を開けてほうけているのである。

 おお、こがさが湯舟にしずんでいくのである、こ、これは由々しき自体かもしれぬ。吾輩が助けねばならぬかもしれぬ。体が前に進まぬ。尻尾を誰かがつかんでいるのである。

 吾輩が驚いて振り向くと船長がひしゃくをもって吾輩の尻尾をふにふにしているではないか、何をしているのであろうか。いや、それどころではないのであるからして後にしてほしいのである。

 

「猫さんも尻尾って柔らかいですね」

 

 照れるのである。いや照れている場合ではないのである。こがさを助けねばならぬ。吾輩は船長の手から逃れようと身をよじってみるのである。すると船長がひしゃくの先の部分を吾輩の頭にすっぽりかぶせてきたのである。

 

「……にやにや」

 

 いったい何がしたいのかわからぬ! 吾輩はひしゃくをかぶっている暇はないのである。目の前が真っ暗である。早く外すように「にゃあ!」と吾輩はいげんをこめて訴えたのである。

 吾輩が必死になってひしゃくを振り払う。目の前がぱっと明るくなって吾輩は驚いてしまったのである。むむ、いかぬ。お風呂に青い髪が浮かんでいるのである。顔が見えぬ。たぶんあれはこがさである。

 今行くのである。吾輩はさっそうと飛び出したのだ。

 

「危ないっ」

 

 吾輩は空中で捕まえられたのである。見上げるとぱるすぃではないか。

 

「いきなり飛びこんで、溺れたいのかしら?」

 

 吾輩を抱っこしてきたのであるが、吾輩今は忙しいのである。こがさが普通に沈んでいるのである。吾輩がさっそうと助けようとしていたのである。ぱるすぃよ手を離すのである。吾輩はぱるすぃの目を見て訴えるのだ。

 

「おおきな瞳をして、妬ましいわ」

 

 おお、やっと吾輩をぱるすぃがほめてくれたのである。吾輩は満足である。……ちがう、吾輩満足している暇はないのである。体をよじってぱるすぃから離れるのである! こがさよ今行くのだ。

 

「よっと」

 

 くろだにが吾輩の前足を捕まえたのである。

 

「やわらか、やわらか」

 

 ぷにぷに、ぷにぷに。

 にゃあ! 吾輩は一喝するのだ! くろだにが驚いて離したすきをついて今こそ――頭にひしゃくがかぶさってきたのである。吾輩はその場で地面に倒れたのである。

 やってられぬ。こんなことをするのは船長しかおらぬ。同じことをする暇は吾輩にはないのである。なんとかひしゅくを振り払うと吾輩は即座にぱるすぃを警戒したのだ。くろだにと船長の後はきっとぱるすぃなのである。

 吾輩は同じ手は二度は食わぬ。……くろだに達の分は二度してしまったのであるが。今度こそはちゃんとかわすのである。

 さあ、来るのである。ぱるすぃよ。

 そんな吾輩の前足をくろだにが捕まえてこようとしてきたのである、吾輩は即座に反応したのである。横に飛んでよけるのだ! ぱるすぃは吾輩を見ているだけである。

 

「おっとっと」

 

 くろだにがよろけているのである。吾輩を簡単に捕まえられると思っては困るのだ。

 そこに襲い来るひしゃく!

 吾輩は読んでいるのである。ころころ転がってかわすのだ。船長が吾輩に向かって何か言っているのであるが、どうでもいいのである。こやつと会ってから意味が分かったことがないのである。

 それよりもなんだか楽しくなってきたのである。吾輩は負けぬ。かかってくるのである。

 

 ぐるぐるー

 じりじりと吾輩とくろだに、そして船長は間合いを詰めるのである。吾輩は負けぬ。よくわからぬが遊んでくれているのであるな、吾輩は遊ぶことは大好きなのである。なにか大事なことを忘れている気がするのであるが、なんであったかわからぬ。

 

 吾輩は逃げ回るのである。絶対につかまったりはせぬ。ひしゃくとくろだにをかわすのである。楽しくて仕方がないのである。そういえばこがさたちも遊んでくれればいいのであるが……思い出したのである。

 吾輩はあわてて湯舟をみると、目をくるくる回しているもみじがこがさを引き上げているのである。

こがさも目がくるくるしているのである。体は真っ赤であるな。さすがはもみじである。ちゃんとこがさが沈んでいることを見ていたのであるな。吾輩にはわかっていたから遊んでいた……正直にならねばならぬ……楽しくて忘れていたのである……。

 

「すきあり」

 

 船長であるな、そうはいかぬ。

 吾輩は横に飛んで後ろからのひしゃくをよけるのだ。油断しているわけではないのである。船長はよろけて、そのままドボンと湯舟に飛び込んだのである。ばっしゃーんと波が吾輩にかかってくるのである。

 

 ふるふる、ふるふる。

 吾輩はしぶきを落とすのである。体を震わせていると水はちゃんと落ちることを吾輩は知っているのである。ふるふるして、体を震わせるのだ。

 ちゃんとお風呂の中にはこがさともみじと船長が浮かんでいるのである。船長はどこか打ったのかもしれぬ。

 

……あれはダメな気がするのだ。吾輩は一番吾輩の話を聞いてくれそうなぱるすぃの足元ににじり寄ってにゃあにゃあと言ってみるのだ。助けてあげてほしいのである。一応船長もなのである

 

「どうしたの? ごはん? 妬ましいわ」

 

 ごはんではないのである。

 ええい、仕方ないのである。吾輩は自分の力で助けに向かおうとしたのである。

 

「やれやれ。これじゃあどっちが勝ったかわからないわ。よっと」

 

 くろだにが三人を引き上げて石畳に並べているのである!

 すまぬくろだによ。吾輩は言っても分からぬかと思ってしまったのである。ちゃんと謝らねばならぬ。吾輩は近づいてみるにゃあというのだ。

 

「なに? おなかすいたの?」

 

 おなかはすいてないのである。

吾輩はそんなにはらぺこに見えるのであろうか。まあ、いいのである。吾輩はこがさたちが無事で一安心である。船長を踏み越えて吾輩はこがさの顔の前に移動したのだ。

 顔が赤いのである、こがさよ大丈夫であろうか。吾輩はほっぺたをぺろりと軽くなめてみるのである。こがさはうっすら目を開けているのである。

 

「私は……ごはんじゃないわ……」

 

 わかっているのである。吾輩はこがさのほっぺたにかるくパンチをしてしまったのである。ふう、もみじは大丈夫であろうか。うむ、目をしっかり開けているのである。

 

「ああ、おなか減った……そうめんが食べたい……」

 

 吾輩の周りはごはんのことしか言わぬ。

 



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くろねこのおさそいをうけるのである

 吾輩はさっぱりしたのである。

 やはりお風呂はいいのである、吾輩は綺麗好きであるからして温泉は大歓迎なのである。吾輩達はお風呂から出て旅館に戻ってきたのだ。

 

 吾輩は知らなかったのである。

 おふろから上がってから畳の上で転がると気持ちいいではないか、ごろごろ、ごろごろ、ううむやぶさかではない。ここでヤマメがあればいいのであるが、くろだにはまだ吾輩にくれぬ。

 もみじとこがさは真っ赤な顔で横に寝ているのである。これはあれであるな、ゆかたというものに違いないのである。あわい色をした服を二人だけ着てずるいのである。吾輩はゆかたを着たことはないのである、試してみたいのである。

 

 吾輩はこうぎの意味を込めて寝転んでいるこがさの顔をぱんちするのだ。こがさは赤い顔で吾輩を見ているのだ。な、なんであろうか。

 

「うりゃぁ」

 

 こがさが吾輩のほっぺたをつついてきたのである。吾輩は顔を振るのである。

 まけられぬ。吾輩はこがさのほっぺたに肉球を押し付けてみるのだ。するとこがさも吾輩を腕でひきよせてなでなでし始めたではないか。いや、違うのである。今はなでなでするときはではない……。

 せなかのあたりがいいのである。ぉお、うむ。うむ。

 

「なんだか猫さん毛並みがつやつや」

 

 きっとおんせんのおかげであるな。吾輩は照れてしまうのである。

 こがさも髪がきらきらしているのである。吾輩がほしょうするのである。寝転びながらわがはいとこがさは遊んでいるのである。吾輩は重大なことがわかってしまったようなのであ。

 おふろ上がりに畳の上でごろごろしながらあそぶと、たのしい。

 またひとつしんりに近づいてしまったのかもしれぬ。吾輩は勉強家なのである。けいねもそういっていたから間違いはない。吾輩はそのままそのばでころころと背中を畳につけて寝転んでみる。

 するとこがさが吾輩のお腹をなでなでするのである。うむ。うむ。なかなかよいてくにしゃんであるな、

 

「うわ! 猫」

 

 なんであろうか、もみじが吾輩を呼んでいるのである。するりとこがさの手から逃れて、吾輩はとことこもみじの方に歩いていくのだ。もみじよ何であろうか。

 もみじはこちらに背を向けているのである。吾輩を呼んだのであるからこっちを見てほしいのである。そうしなければ恐ろしい目にあうことになるであろう、遊んでやらぬ。

 

 やっともみじがこちらを見てくれたのである。

 遊ばぬとは言いすぎたのかもしれぬ。泣かないでほしいのである。

 

「こいつはお前の友達か?」

 

 うむ? ともだちであるか。こがさはともだちである。

 もみじが体を起こしてこっちを向いたのである。するとそのひざ元に一匹の黒猫が乗っかっているではないか。

 

 にゃあ。

 にゃあ。

 

 吾輩達は挨拶をしたのである。なかなか礼儀がわかっているやつであるな。もみじも黒猫をなでなでしているのである。

 

「あ、こいつ尻尾が二つに分かれている。……化け猫だったのか」

 

 もみじが黒猫の尻尾をつかんでいるのである。黒猫は身をよじってもみじの膝から降りてきたのである。吾輩と相対するのである。

 まあいいのである。吾輩達は干渉せぬ。それよりもこがさと遊ぶのである。

 

「あ、あれ? 猫さん同士でお話とかしないんですか?」

 

 不思議な顔で吾輩にこがさが言ってくるのだ。吾輩は首をかしげるのである。猫の集会はそれぞれがぷらいべーとを大事にするのである。さっき黒猫とは顔を合わせたのであるからしてこれ以上することはないのである。

 まなーを大事にするのが吾輩である。

 それよりもこがさよ吾輩と遊ぶのである。さあ、好きにするのである。吾輩はその場に座り込んだのである。

 すると横に黒猫がやってきておなかを見せたではないか。そのまま、にゃあにゃあとこがさにアピールしているのである。

 吾輩も負けてはられぬ。こがさよこちらである。吾輩はこがさに近づくのである。すると黒猫はごろごろとしながらこがさに鳴いているのである。

 

「う、うう。よくわからないけど猫が二匹もなついてくれている。む、むふぅ」

 

 こがさがなんだかうれしそうなのである。ほっぺたをゆるませて頭を掻いているのである。そんなことよりも吾輩はこがさをじっと見るのである。さあ、吾輩と遊ぶのである。

 すると黒猫はさらにこがさに近づいて膝の上に乗ったのである。こやつ、できるのである。

 

 にゃあにゃあ、と吾輩が鳴けば。

 みゃあみゃあと黒猫が鳴いているのである。

 

 しれつなあらそいである。吾輩はこがさと遊ぶのである。これは譲れぬ。

 ちょっと後ろをみるともみじが物欲しそうなめをしていたのであるが、吾輩と目が合うとあわててそっぽを向いたのである。

 

 ……………。吾輩は紳士である。さびしがりやなもみじを放ってはおけぬ。吾輩は立ち上がってこがさに背を向けたのである。ここは黒猫に任せたのである。もみじよ、もみじよ。ゆかたのすそのあたりを吾輩は甘くかんでみるのである。

 

「こら」

 

 もみじに怒られたのである。吾輩はそのまま。あぐらをかいているもみじの膝の上に乗ったのである。なかなかいいのである。吾輩は満足である。

 

「まったく。なんなんだおまえ」

 

 もみじが何かいいながら、吾輩を撫でてくるのである。いや、くすぐってきているのであるな! 吾輩は身をよじって膝の上でていこうするのである。目線のすぐ上でもみじが笑っているのである。

 吾輩は満足である。吾輩は誰かを仲間はずれにはせぬ。

 見れば黒猫もこがさの膝の上にいるではないか、ううむ。こがさとも遊びたかったのであるが仕方ないのである。もみじはいいやつであるかして、吾輩は好きである。

 もみじとこみゅにけーしょんができればいいのであるが……黒猫よそう思わぬであろうか。

 

 黒猫が吾輩をじっとみているのである。吾輩も負けずにじっとみようとすると、もみじがこちょこちょしてくるのでできぬ。

 

「ここか」

 

 そこではないのである。首筋のあたりをもみもみしてくれると助かるのである。

 吾輩も黒猫を見たいのであるが、多忙な吾輩は目を合わせることもできぬ。しかし、黒猫はいつの間にかこがさの膝の上から降りているのである。そして吾輩にいったのである。

 

「なぁご」

 

 うむ? こいと言うのであるか。

 それだけ言うと黒猫はたったかどこかに行こうとするではないか、吾輩はあわててそのあとを追うのである。

 

「あ、こら」

 

 すまぬもみじよ、なんだかよくわからぬがお誘いをされたのである。吾輩はもみじの膝から飛び降りて、こがさの横を通り過ぎようとしたのである。

 

「わっ!」

 

 びくっ。いきなりこがさが吾輩に何か言ってきたのである。しまったのである。立ち止まってしまった。こがさは舌を大きく出して笑っているのだ。

 

「驚かせて、止まらせる作戦成功!」

 

 にゃぁ。

 どこからか声がするのである。あの声は言っているのだ。吾輩に来るように言っているのである。吾輩は捕まえようとしてくるこがさの手を抜けて、旅館の入り口まで走り去っていくのである。

 

 たったか、たったか。

 結構走った気がするのであるが、黒猫が見当たらぬ。ううむ、地底の町並みは初めてで勝手がわからぬ。どうするか考えながら首筋を掻くのである。おお、気持ちいい。

 

「そこいくねこさん」

 

 うむ? おお、赤い髪と黒い服をきた者が立っているのである。さっきお風呂であった、たしかおりんであるな。吾輩は道に迷って黒猫を見失ったのである。

 

 

「ほうほう、それは大変だねぇ。そこのお屋敷ならなにかわかるかもしれないよ」

 

 お屋敷、であるか? 吾輩ははじめてである。

 

 

 

 

 

 

 

 




こいしさまと姉のまつところへ


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おちゃかいなのである

 吾輩はお屋敷にお呼ばれしたのである。

 おりんの横や後ろを吾輩はとことこついていくのである。みつあみが揺れているのである、吾輩とても気になるのである。ちょっと後ろ足で立って、前足を伸ばしてみたのであるが全く届かぬ。

 

「どうしたんだい?」

 

 おりんが振り向くとみつあみもくるりと揺れているのである。こう、吾輩のこころをくすぐるものがあるのである。こうパンチしてみたいのである。いやいや、いかぬいかぬ。吾輩は紳士であるからしてそれをしていかぬ。

 おりんは吾輩を見てこくびをかしげているのである。吾輩もなんとなくそれに合わせて首を動かした。

 

 ?

「?」

 

 吾輩達は目を合わせたまま小首をかしげているのである。後ろ足で立っているのは結構疲れるのである。それにしても妖怪も人間も両足でしっかりと立っているのである。これは見ならわねばならぬ。

 だから頑張ってみるのである。このまま一歩歩いてみるのだ! あ、ダメである。前足を地面につけてしまったのである。難しいことであるな。きっとふともいっぱい練習にしたに違いないのである。

 しかし、失敗したままではおれぬ、今度練習をいっぱいするのである。

 吾輩はきりりとした顔でおりんに決意を「にゃあ」と伝えるのである。おりんはにっこり笑って「にゃあ」といい返事をしたのである。

 

「それじゃあいこうか」

 

 おりんはみつあみを揺らしながら言うのである。吾輩それが気になって仕方ないのである。それにしてもいつの間にか吾輩は空を飛んでいるの……な、なんで飛んでいるのであろうか。地面がちょっとだけ下にあるのである。

 

「猫さん、お久しぶり」

 

 おお、こいしが吾輩の両脇をつかんでいるのである。いつもどこからやってくるかわからぬ。しかし、吾輩は挨拶はかかさぬ。こいしよいきなり現れて吾輩をつかむのはびっくりするから、抱っこする前に一言いうのである。

 

 みゃーみゃー。

「にゃあ?」

 

 こいしも小首をかしげているのである。ところで路地裏に連れていくのをやめるのである。おりんが別の道を行っているのである。

 

「あ、あれ!? ど、どこにいったんだい!」

 

 おりんの声がするのである。吾輩が声を出そうとしたらこいしがわがはいの口をつかんできたのである。これでは声が出せぬ。みればこいしも自分の唇にひとさしゆびをあてて、片目をつぶっているのである。

 

「しー」

 

 ぱちぱちこいしは瞬きするのである。瞳が綺麗であるな。

 吾輩をだっこしたままこいしはふわりと空を飛んでいくのである。このまえはお空の上でお月様の前でだんすを始めてしたのである。こんどは地底で踊るのであろうか、なかなかおつなものである。

 吾輩をだっこしたままこいしが飛んでいくのである、下を見ればがやがやとした地底の街の灯が綺麗なのである。のんびりそれを見学しながら飛んでいくのである。おお、けむりが目の前に。

 

「とつげき!」

 

 むむむ、こいしがけむりに突撃したのである。うむ? なんかいい匂いがしてからすぐに抜けたのである。

 

「あははは」

 

 くるくると空を飛びながらこいしが笑っているのであるである。吾輩はもう空を飛ぶべてらんなのであるからして、楽しくて仕方ないのである。む、なすびのような傘を指したものがいるのである。こがさであるな、目立つのである。

 すぐに飛び去ってしまう。にゃあと言ってみても間に合わぬ。空を飛ぶのは忙しいのである。鳥もこんな気持ちなのであろうか。

 こいしが吾輩をもったまま、くるりくるりと回るのである。めがまわる。さらにこいしは吾輩の抱き寄せて顔をすりすりしてくるのである。

 

「おひげ~」

 

 すまぬのである。しかし、紳士はおひげは大事だとけいねも言っていたのである。こいしはすべすべであるな。

 吾輩とこいしは空を見上げてみるのである。暗いのである。くるりと回ってしらを見てみるのである。おれんじ色の光を発するお店がいっぱいあるのである。まるで祭りのときみたいであるな。

 ときどきいい匂いがするのである。ぐうとお腹が鳴っているのである。

 吾輩のことではないのである! こいしのお腹である。

 

「えへへ」

 

 なんか恥ずかしそうにしているのである。頭を掻くのはいいのであるが、吾輩が落ちそうになっているのである。恥ずかしがることはないのである、おなかが減るのはいいことである。なぜなら、おなかが減ったときの方がごはんがおいしいのである。

 

 

「おなか減ったし。それじゃあ帰ろっと」

 

 お、おおお。風が吾輩をたたくのである。こいしが加速したのであるな、吾輩が本気で走ったときとどっちが速いであろうか。いい勝負かもしれぬ。

 遠くに大きなお屋敷が見えてくるのである。ぐんぐん近づいてくるとさらに大きくなってくるのである。もしや、あれがおりんの言っていたお屋敷なのやもしれぬ。ということは、きっとおりんもあそこにいるはずである。

 

 お屋敷はせいよーふうというやつであな。吾輩はちゃんと知っているのである。

 こいしは塀をらくらくと飛んで超えていくのである。吾輩はちょっとうらやましいのであるが……いやいや、違うのである。ちゃんと玄関から入らねばならぬ。吾輩はこいしににゃあと言ってみるのである。

 

「にゃあにゃあ」

 

 ううむ。話が通じぬ。

 こいしが吾輩を抱いたまま、大きなお屋敷の大きなお庭に下り立ったのである。きれいな花壇の真ん中に降りたものであるから、こいしの周りに花びらが舞うのである。

 

 ひらひら、ひらひら。赤、むらさき、黄色、桃色の花びらが舞うのである。こいしは吾輩を抱いて、その場で軽く踊ってみるのである。吾輩はお花と踊るのは初めてである。

 お花の花びらが吾輩の目を奪うのである。それにしてもなぜこいしはこんなにも楽しげなのであろうか、いつも突然やってきて突然吾輩をどこかに連れて行ってくれるのである。

 

 そういえば地底に来るように言ってくれたのもこいしであったのである。吾輩は楽しい思いをしたのもこいしのおかげかもしれぬ。

 

「こいし。なにをしているのかしら」

「あ、おねえちゃん。ただいま!」

 

 うむ。こいしが止まったのである。見ればお屋敷の方から誰かが歩いてくるではないか、こいしと同じような目玉の飾りをつけているのである。しかし、髪は桃色であるな。そういえば桃を吾輩はほとんど食べたことがないのである。

 

「おかえりなさいこいし。なんで猫をだいているのかしら?」

「おなか減ったなぁ。クッキーを食べに帰ってきたの」

「…………猫は?」

「クッキー。クッキー」

 

 こいしは吾輩を抱いたままステップしながらお屋敷に行こうとするのである。するとその後ろ首を「おねえちゃん」が捕まえたのである。

 

「お、おお」

 

 こいしが驚いているのである。大きく上げた前足が前に進まぬ。

 

「はあ、ちょうどお茶にしようと思っていたから」

 

 おねえちゃんが吾輩達に言うのである。見ればお庭に丸い小さなテーブルとイスがあるではないか。テーブルの上にあのお茶を入れる、あのあれが置いてあるのである。

 

「ティーポット」

 

 おお、おねえちゃんが教えてくれたのである。うむ? なんか変な感じがするのである。

 

「お菓子をもって来るから座っていなさい」

 

 こいしは「はーい」と言いながらそれに走り寄って、どすんと椅子に座ったのである。吾輩を抱いたまま、足をぶらぶらさせているのである。

 

「猫さんいい匂いがする。温泉に入ったの?」

 

 照れるのである。吾輩は綺麗好きである。

 こいしとおねえちゃんも入ればいいのである。吾輩がしゃんぷーを教えてあげるのである。

 



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ひざのうえでくつろぐのである

 ティーポットという言葉を吾輩はちゃんと覚えているのである。吾輩は椅子に座ったこいしの膝の上に座っているのである。なんであろうか、椅子が何重にもなっているみたいで豪華かもしれぬ。

 こいしの前におかれたカップに紅茶が注がれているのを吾輩はじっと見はっているのである。こう、こぼれてはいかぬ。ちゃんと見はっておらねばならぬ。

 こぽこぽ。

いい匂いがするのだ。吾輩はお茶を飲んだことはないのであるが、このにおいは嫌いではないのである。

 

「さとりおねえちゃん。お砂糖どれくらいいれてもいいの?」

「ほどほどにしておきなさいこいし」

 

 紅茶を入れてくれているのはこいしのお姉ちゃんなのである。名前はさとりというのであるな、姉妹そろっていい名前である。こいしにちゃんと言ってやらねばならぬ。

 

「ありがとう」

 

 なんでさとりが吾輩にお礼を言うのであろう。ううむ、わからぬ。吾輩はまだ何も言っておらぬ。こいしが吾輩を見ているのであるが、どうしたのであろう。

 

「猫さんお姉ちゃんが砂糖はほどほどにしておきなさいって、猫さんはどれくらい食べるの?」

「こいし……猫に砂糖をあげてはいけないわ」

 

 吾輩は砂糖を食べたことはないのであるが、ダメであるか。残念である。とても残念なのである。

 しかし、ちょっとくれぬであろうか、巫女にお土産でもっていけば喜ぶかもしれぬ。セミの抜け殻は巫女にあげても喜ばぬのである。ぜいたくものであるな。巫女は。

 

「えーでもお燐は食べるけど。ま、いっか。クッキー。クッキー」

 

 こいしがテーブル上のクッキーを手に取ってぽりぽり食べ始めたのである。巫女はこの前たくわんをぽりぽりしていたのである。クッキーもたくわんも吾輩は食べたことはないのであるが、きっとどっちもおいしいのであろう。

 さとりは紅茶を入れて自分で飲んでいるようであるな。紅茶は、熱そうで吾輩は厳しいやもしれぬ。しかし何事も挑戦をせねばならぬのだ。

 吾輩は身を乗り出してクッキーに前足を伸ばしてみるのである。

 

「こら、め」

 

 さとりに怒られたのである。

ううむ、わからぬ。それにしてもこいしよ、吾輩の頭に食べているクッキーの粉が落ちてくるのである。吾輩は気になって仕方ないのである。さとりよ、なんとか言ってやるのである。

 

「こいし、もっとお行儀よく食べないとだめよ」

「はーい」

 

 おお、なんとか言ってくれたのである。吾輩は感動したのである。こいしもぽりぽりごくりとしてから吾輩を抱っこしてくれているのだ。

 

「そういえば猫さんは温泉に入ったのなら、今度はどこに行くのかしら?」

「その猫はこいしがつれてきたんじゃないの?」

「ちがうよお姉ちゃん。あのへんな傘を持ったのと天狗が連れてきたの」

 

 変な傘とは失礼である! なすびみたいな傘である。というか、吾輩はこがさともみじと一緒に来たのである。二人ともいいやつなのである。吾輩が保証するのだ。

 

「ふーん。そう」

 

 さとりはおいしそうに紅茶を飲みながらそう言ったのである。

それに吾輩はとても大切なことを探しにこの地底に来たのである。なんでも、心の読める妖怪がいるというではないか、吾輩はぜひとも会って話がしたいのである。

さとりが吾輩をじっと見てくるのである。

吾輩は照れるのである。いきなりどうしたのであろうか。

 

「こちょこちょ」

 

 こいしよ、吾輩をくすぐるのはやめるのである。

そう、顎の下なら構わぬのだ。吾輩そこは大好きである。うなうな、吾輩はこいしの膝の上で体をひねってみるのである。

 

「猫さんふかふかだね」

 

 おなかを撫でながら言うのである。吾輩はちゃんと毛並みのけあをしているのである。吾輩は紳士であるからして、みだしなみにはうるさいのである。

 

「ふふ、ふふ。紳士って……ふふ。そうね。紳士はみだしなみに気を付けないといけないわ」

 

 うむ? さとりが笑っているのである。吾輩はよく聞こえなかったのであるが、何か言っているように聞こえたのである。なーお。こいしよ、なぜさとりは笑っているのであろうか。

 

「あはは」

 

 いや、こいしもなぜ笑っているのであろうか、吾輩にはとんとわからぬ。愉快なことがあるのなら吾輩にも教えてほしいのである。ずるいのである。

 

「ふふふ」

 

 さとりも笑っているのである。そもそもさとりはなぜ笑っているのかわからぬ。さとりは手に持ったコップを置いて、組んだ両手の上に顎を載せたのである。吾輩もあの格好をしてみたいのであるが、できぬ。

 

「こいし。あなたは相手とのコミュニケーションで大切なことは何だと思うかしら?」

「お姉ちゃん。砂糖取って」

「……はい」

 

 さとりは優しいのである。砂糖の入った箱をちゃんと取っているのだ。吾輩はそういういいところを見逃さぬのである。

 

「そうね。いいところを見逃さないことね」

 

 さとりも同じ考えなのであろうか、吾輩と同じことを言ったのである。ううむ? わからぬ、吾輩はなんとなく不思議に思うのである。まるで吾輩の思っていることがわかっているかのようであるな。

 

「はい、ご名答」

 

 ゴメイトウとはなんであろうか。お米の仲間やもしれぬ。さとりよおなかが減ったのであろうか?

 なんだかさとりがかっくり肩を落としているのである。そこまでおなかが減っているとは吾輩にはわからなかったのである……。

いや、なにか悪いことでもあったのであろうか、吾輩に話をしてみるのである。吾輩は悩み事を聞くのは得意なのである。何時間でも聴いているのである。

 

「……」

 

 にゃー。

 さとりよ遠慮することはないのである。吾輩の心は神社よりも広いのである。吾輩は困った人を放ってはおけぬのである。

 

「紳士、ね」

 

 おお、そうである。吾輩は紳士なのである。

 吾輩はこいしの膝の上できりりと顎を上げて、胸を張ったのである。なんとなくこうしていると誇らしいような気がするのである。……いや、薄々わかっているのである。さとりはきっと吾輩の思っていることがちゃんとわかっているに違いないのである。

 こう、いざ話ができると思うと吾輩は照れてしまったのである。前足で頭を掻いて見るのだ。

 

「猫さんここがかゆいの?」

 

 こいしが頭をかいてくれるのである。いや、別にかゆいわけではないのであるが、それでもこうそのあたりがいいのである。なでなでされるのも吾輩は好きなのである。

 

「お姉ちゃんも撫でてあげたら? ほらほら」

「こいし、猫を持ち上げて私の顔につけようとするのは、やめ、やめ、やめなさ、むぐ。こ、こいし」

 

 こいしが吾輩を持ち上げてさとりに押し付けるのである。吾輩はなされるがままなのである。下手に前足を上げたらさとりの眼にあたってしまうかもしれぬ。

 

「おお?」

 

 さとりがこいしから吾輩を取りあげたのである。今度はさとりの膝の上であるな。なかなか落ち着く場所である。おお? こいしもさとりの膝の上に顎を載せているのである。何をやっているのかわからぬ。

 

「こいし……まあ、いいわ。そうね。なんで私に会いたかったのかしら、紳士さん?」

 

 吾輩が顔を上げるとさとりが見ているのである。

 そうであるな、吾輩は巫女ともっと仲良くなりたいのである、

 

「そう。巫女ってあの紅白のことね」

 

 こーはくであるか、そうであるな。赤かったり白かったりするのである。

 

「にゃーにゃー」

「こいし……なにをしているの?」

「猫さんだけずるい」

「…………」

 

 さとりが吾輩とこいしの頭をなでなでするのである。

 

「……仕方ない子たちね。話が進まないわ」

 

 吾輩とこいしは膝の上で満足げにしてしまうのである。

 

 

 




次回か次々回にさわがに回(謎)


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てーぶるのうえでおしゃべりなのである

 吾輩は負けぬのである。さとりがなでなでしてくれているのであるが、吾輩の横でこいしもなでなでされているのである。

 

「んー」

 

 こいしはとても気持ちよさそうであるな。そうである、吾輩も負けてはおれぬのである。こう、なでなでされるのは吾輩がベテランなのである。さあ、さとりよもっと撫でるのである。

 

「……あなたたち何をしているのかしら?」

「お姉ちゃん。なんだかねむたくなってきちゃった」

「……こいし。眠るならベッドに行きなさい」

「ぐう」

「こいし!?」

 

 吾輩も眠たくなってきてしまったのである。これはりらっくしているからに違いないのである。いやまだ眠ってはおれぬ。せっかく心の読めるさとりと知り合うことができたのである、こみゅにけーしょんを巫女と取るにはどうすればいいのであろうか。

 

「まったく。この子は。でもちょうどよいかもしれないわ」

 

 さとりが吾輩を抱き上げてテーブルの上に乗せたのである。吾輩は今テーブルに腰かけているのである。まるで人のようであるな。なんだかうれしいのである。

 さとりが吾輩を両手で持ったまま、じいとみてくるのである。そんなに見つめられても吾輩はやぶさかではないのである。いや、もしかしたらこれはにらめっこやもしれぬ。吾輩も負けずにさとりを見返したのである。じい。

 

「くす」

 

 おお、笑ったのである。にらめっこは吾輩の勝ちであるな。

 

「いつからにらめっこになったのかしら?」

 

 そういえばそうである。吾輩ははやとちりしてしまったのかもしれぬ。恥ずかしいのである。

 

「なんで巫女なんかとコミュニケーションなんて取りたいのかしら?」

 

 うむ。それは説明すると深いわけがあるのである。話せば長くなってしまうかもしれぬのだ。……ううむ、まずどこから話せばいいのであろうか、そうである! 吾輩は巫女と仲良くなりたいのである。

 おお、説明が終わってしまった。

 

「なるほど」

 

 さとりはこいしの頭を両ひざの上にのせてなでなでしているのである。吾輩はテーブルの上でそれを見ながらうらやましいなどとおもって……はおらぬ。吾輩は紳士であるからして、お膝の上はこいしに譲るのである。

 

 にゃあー

 でもまあ、あとでもう一度お膝の上にのせてくれても吾輩は一向にかまわぬ。ちらり、ちらり。さとりは知らんぷりしているのである。いや、口元が笑っているのを吾輩は見逃してはおらぬ!

 

「ふふ、ごめんなさい」

 

 いいのである。吾輩は寛大に許すのである。吾輩のこころは山よりも海よりも大きいのである。……頭の中で山よりも大きなこころが暴れているのである。おそろしいのである。

 吾輩は海は見たことないのである。

 さとりは吾輩を見てきたのである。こいしは「おねえちゃんだいすき」と言っているのである、寝言であろうか。吾輩も寝言を言っているのかもしれぬ、しかし吾輩は吾輩の寝言を聞いたことはないのである。

 さとりは自分の寝言を聞いたことはあるのであろうか?

 

「ないわ」

 

 ふむ。吾輩もないのである。

 

「あなたはここで暮らす気はないかしら?」

 

 吾輩にとってはお天道様のしたはみんな吾輩のお庭なのである。

 

「そう、それでも地上に戻っても巫女とおしゃべりは難しいと思うけれど。ここならいっぱい仲間もいるわ。こいしもあなたが気に入っているようだし」

 

 ううむ。やはり巫女とのおしゃべりは難しいのであるか、吾輩はとても残念なのである。それでも吾輩は上に帰るのである。巫女が心配するやもしれぬ……。

 

「ずいぶんと巫女のことが好きなのね」

 

 吾輩は誰でも好きなのである。

 ふともこがさももみじもようむもこいしも、多すぎて全部は言えぬ。吾輩はみんな好きなのである。おお、さとりのこともちゃんと好きであるからして安心するのである。

 さとりが目をぱちぱちさせているのである。なにかあったのであろうか、

 

「そう、それはどうも」

 

 さとりはこいしを撫でる手を止めて紅茶のかっぷを口元にもっていったのである。吾輩は紅茶を飲んでいるさとりを驚かせたらどうなるであろうかと、体がうずうずしているのである。

 さとりがせき込んでいるのである。大丈夫であろうか。

 

「げほ、げほ、や、やめなさい」

 

 まだ何もしておらぬのである。いや、しようとしたわけではないのであるが。なんとなく考えてしまったのである。

 吾輩はテーブルの上にしゃがんでみるのである。なかなかいい場所であるな。いつもは神社の屋根に上ってのんびりしていることもあるのであるがこのくらいの高さもいいやもしれぬ。

 神社に一つ置いてくれぬであろうか。

 

「あの巫女はそうはしないでしょうね」

 

 さとりは巫女と知り合いなのであろうか、吾輩は気になるのである。

 

「知り合いというほどではないわ。通り魔みたいなものね」

 

 とおりまーであるな。おいしいあれであるな。すまぬ。本当はよく知らぬ。まあ、詳しくは知らぬがきっと巫女のいいところであろう。さとりよどういう意味か教えてほしいのである。吾輩はにゃあと真摯にお願いしたのである。

 

「…………………」

 

 さとりも知らぬのであろうか。なかなか口を開かぬ。

 

「と、とおりまーというのは、そうね。えっと。その」

 

 さとりよ頑張るのである。吾輩はしっかりときいているのである。巫女のいいところを教えてほしいのである。吾輩は真剣に耳をぴくぴくさせるのである。

 

「道行く人たちにコミュニケーションを仕掛ける人のことよ……」

 

 なるほど、吾輩はまたひとつ賢くなったのである。確かに巫女と一緒にいるといろんな人に会うことがある気がするのである。もしかしたらみんな巫女のことが好きなのやもしれぬ。

 こみゅにけーしょんは大切なのである。吾輩も道行く人に挨拶を欠かさぬのである。

 

「……ごめんなさい」

 

 なんでさとりが謝るのであろうか。吾輩は不思議で首をかしげてしまったのである。吾輩はいいことを教えてくれたさとりに感謝しているのである。今はセミの抜け殻を持ってはおらぬが今度持ってくるのである。

 

 さとりよどこを向いているのであろうか。

 吾輩はさとりの見ている方向を一緒に見たのだ。何もないのである。吾輩はさとりが何を見ているかわからずに、にゃあと聞いてみたのであるが、さとりはこちらを振り向いてはくれぬ。

 

 まあいいのである。

 そういえばこがさたちはどうしているのであろうか、そろそろ吾輩も戻らないと心配しているやもしれぬ。そう思って、吾輩はテーブルからとっと、ジャンプしたのである。着地はこう肉球をうまく使わねばならぬ。これにはコツがいるのだ。

 しゅた。吾輩は胸を張った。

 吾輩はさとりを振り向いたのである。こいしはまだ寝ているのであるな、今度また一緒に遊ぶのである。

 

「もういくの?」

 

 楽しかったのである。また来るのである。

 

「また? また来られるつもりなのかしら?」

 

 大丈夫である。吾輩はちゃんとさとりのことを覚えているのである。地底も吾輩の庭のようなものであるから、ちゃんと会いに来るのである。

 一度会ったらともだちなのである。今度はおいかけっこをしてもいいかもしれぬ。それでも吾輩が一度神社に帰らないと巫女が心配するのである。一言にゃあと言っておくのである。

 

「あの暴力巫女のどこがいいのかわからないわ」

 

 さとりが手に大きな目玉のようなものを持ったのである。さとりの服の飾りなのであろうか。お洋服に目玉をつけるとは吾輩はさとりとこいししか見たことがないのである。

 

「これは個人的な興味でしかないわ」

 

 目玉がぴかっと光ったのである!

 

「少しだけ読ませてもらうわ」

 

 

 




わがはいには明日も明後日も楽しい日がつづくと、思っているのである


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さわがにとあめとにじのつめあわせなのである

 さとりの眼がぴかっとなると吾輩は昔のことを唐突に思い出してしまったのである。

 忘れていたわけではないのであるが、まあ大したことでもないのである。巫女と初めて会った日のことであるな。

 

 吾輩は暑かったので水浴びに出かけたのである。

 山の中に入ってすこし歩いてみると、吾輩の知っている川があるのである。その川には名前があるのかはわからぬ。吾輩が見かけたときからずっと流れているのである。

 

 お天道様が元気な日だったのである。おおきなにゅうどうぐもの下をあるいて吾輩はその川にやってきたのである。セミがみんみんと鳴いているので、どこにいるのかを探してみたのであるがあまりに多すぎて取るのをやめておいたのである。

 

 吾輩は川の流れが好きである。特にお昼に近くの岩で寝そべりながら流れを見るのが好きなのである。きらきら光りながら流れていく水はもしかしたらたからものが入っているやもしれぬ。

 そうおもって吾輩は前足を水につけてみてもきらきらはとれぬ。なんどすくってみてもとれぬ。ううむ、そう悩んでいた日のときである。

 

 吾輩のそばでこけて川に飛び込んだ巫女を見たのである。

 さとりよ、何を笑っているのであろう。吾輩はその時すごく心配したのである。吾輩は驚きすぎてびくと体がはねてしまったのである。

 

 吾輩がずぶぬれになった巫女を心配してにゃあにゃあと言ってみたのである。

 

「あ? なによあんた」

 

 一言目がそれであった。巫女は足が滑って恥ずかしがっていたのやもしれぬ。吾輩にはちゃんとわかっているのである。

 巫女はいつもの服と手に桶を持っていたのである。

 

「沢蟹を取りにきてとんだ災難ね。へっくち」

 

 巫女は鼻を押さえながら言っているのである。なるほど沢蟹を取りに来たのであるな。吾輩も手伝うのであると思ったのだ。沢蟹はいかぬ、ハサミもいかぬが硬いから食べられぬ。

 

 巫女はじゃぶじゃぶ足を川に入れて石をどけていたのである。吾輩もちゃぷちゃぷ川に入って水の流れを見ていたのである。吾輩が水に入ると胸のあたりまで浸かってしまうのであるこればっかりはどうしようもないのである。

 

「あ、いた!」

 

 巫女が沢蟹を捕まえてから近くに桶に入れているのである。あんなに捕まえてどうするのであろうか、その時の吾輩にはわからなかったのであるが、どことなく巫女はうれしそうだったので吾輩もうれしくなってしまったのである。

 

「今日は沢蟹をいっぱい食べれるわ」

 

 ニコニコしながら巫女が言っているのである。

 そこで吾輩は思ったのである。巫女は顎が強いのであるな。沢蟹は食べようとしたことはないのである。あの桶に入っているものたちはきっと巫女がそのまま食べるのであるな。

 もしかしたら吾輩も食べられるかもしれぬ。恐ろしいのである。さとりが涙をながしているのである。おなかが痛いのであろうか。

 おお、あそこにもいるのである、にゃあにゃあ、巫女よあそこである。

 

「あ。沢蟹。あんた見つけてくれたの? ……そんなわけないか。猫だもんね」

 

 しんがいである。吾輩はお手伝いがしたかったのである。

 そんなこんなで吾輩と巫女は楽しく沢蟹をとったのである。いっぱいとれて満足であったのであるが、いつの間にか空が真っ暗になっていたのである。

 おおきなにゅうどうぐもが吾輩達の上に来ていたのである。ぽつぽつと雨が降り始めて、ばばばと大雨になってしまったのである。

 

「い、いきなりなんなのよ!」

 

 巫女が頭のりぼんを押さえながら走り出したので、吾輩もつられて走ったのである。帰りに道は泥がいっぱいで吾輩と巫女は泥だらけになりながら一緒に帰ったのである。

 よく考えたらあの時に吾輩が巫女と一緒になる理由はなかったのであるが、なんとなくついていったのである。

 

 巫女についていくといつの間にか見知らぬながいながい石段を登っていたのである。今思えば神社に行く道であるな。いまはもう吾輩の庭である。

 石段をとてとて滑らないように歩いたのは覚えているのである。雨の日は滑りやすいのであるからして、気をつけねばならぬ。

 登り切ったときに吾輩大きな鳥居と雨に濡れている神社をみたのである。おおきなたてものだったのである。巫女はそのそばのお家に入っていこうとしたのであるから、吾輩もおじゃましようとしたのである。

 

「あ、あんた、ついてきていたの?」

 

 ついてきていたのである。おじゃまするのである。

 

「だ、だめだめ」

 

 吾輩は脇をつかまれてもちあげられたのである。このころから巫女は吾輩を家には入れてはくれなかったのである。吾輩は持ち上げられて巫女と顔を合わせたのである。

 あめのおとがざあざあとなっていたのである。

 あめの日はどことなくくらいのであるが、巫女は困ったような顔をしていたのである。

 

「はあ、玄関までよ」

 

 吾輩を玄関において巫女はひとりで上がっていったのである、一度振り向いて「玄関までだからね!!」と叫んでいたのである。吾輩はしかたなくその場に体を落ちつけたのである。

 よくふっているのである。吾輩は玄関からそとを見ていたのである。なんとなく寒いのである。

 そう思っていると上から何かに包まれたのである。見れば手ぬぐいであるな。

 ごしごし、ごしごし

 

 体が拭かれるのである、気持ちいいのである。

 

「かぜひくんじゃないわよ」

 

 顔は見えないのであるが、巫女が拭いてくれているのはわかったのである。ざあざあ雨のおとをききながら拭いてくれるのは気持ちがいいのである。吾輩はすっかりと拭かれて、手ぬぐいから顔を出してみると、

 顔に泥をつけた巫女がいたのである。

 ……巫女は口が悪いのであるが、吾輩を先に拭いてくれたのをちゃんと覚えているのである。なんとかお礼を伝えたいと思ってにゃあにゃあと言ってみるのである。

 

「なによ。どこかかゆいの?」

 

 ちがうのである。お礼を言いたいのである。

 ごしごし。

 ううむ、巫女よ、自分の心配をするのである。おお背中が気持ちいのである。いやちがうのである。吾輩は巫女の手のうちから飛び出してみれば、巫女はけげんな顔をしているのである。

 びしょぬれであるな。

 吾輩はちゃんと着替えてくるように言ってみるのであるが通じぬ。むしろ吾輩を拭こうとするのである。

 そうであるな。吾輩はこのころから巫女が口は悪くてもやさしいことをちゃんと知っていたのである。

 そうであるな。吾輩はあの時のお礼をちゃんと言っていないのである。いつのまにかこみゅにけーしょんのことばかりを考えてしまったのである。いかぬいかぬ。ちゃんと思い出すことができたのである。

 

 さとりが吾輩を見ているのである。さとりの顔は優しい気がするのであるな。

 

「そうですか。ちゃんと思い出すことができましたか?」

 

 大丈夫である! もう忘れたりはせぬ。それと沢蟹は巫女がちゃんと食べ方を教えてくれたのである。まあ、一匹もくれなかったのであるが。けちんぼなのである。

 でもそれもあの雨の後にお庭で作っていたのである。虹が見える雨上がりは気持ちよかったのである。

 

「私もたんなる興味だったのだけど、あの巫女にもそういうところがあるのね……」

 

 さとりよこんど巫女と追いかけっこして遊んでみるのである。遊んでみるといいところがよくわかるのである。

 

「私が巫女とおいかけっこ? ふふ。考えておきましょう。それと」

 

 さとりが吾輩に向かって言ったのである。

 

「ふふ、紳士な貴方に必要なものをひとつあげましょう。それまで地底を楽しんできなさい」

 

 さとりはぱちり片目を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 

 



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だれとでもなかよくできるのである

 吾輩はそろそろおいとまをするのである。別れるときにはちゃんと挨拶をせねばならぬ。吾輩はれいぎをちゃんとわきまえていると評判なのかもしれぬ。まあ、誰にも聞いたことはないのであるが。

 

「くー、くー」

 

 こいしよ、こいしよ。にゃあにゃあ。

 いつの間にかこいしはお花畑の中で眠っていたのである。なんでこんなところにいるのかはわからぬ。さっきさとりと話をしているときに移動したに違いないのである。

 

「ほら、こいし。風邪をひくからベッドにいきなさい」

 

 さとりがゆすってもおきぬ。吾輩は前足で顔をぽんぽんとしてみるのである……!

 

「がぶっ」

 

 かまれるところであった。

それはもう見切っているのである。前にちぇんに噛まれて以来、吾輩はよける練習をちゃんとしていたのである。吾輩はちょっと得意になってしまうのである。

 まあ、起こすことはできなかったのであるが……。それにしてもお花畑で眠るこいしはなんだか似合うのである。さとりも頷いているのであるな。うむ? 吾輩がふりむくとなぜかそっぽを向いてしまったのである。

 

「思わず頷いただけです」

 

 そうであるか。……いやさとりよそっぽを向かれるのも寂しいのであるが、じっと見られても照れるのである。

 

 

 吾輩はとてとてお屋敷の門をくぐったのである。なかなか楽しい時間であったのであるな。心の読めるさとりに出会えて吾輩はとてもうれしいのである。

 

「はあ、どこにいったんだろ。地底中探してもいないわ」

 

 おお、おりんである。吾輩はにゃあと挨拶をして通り過ぎるのである。いきなりいなくなって申し訳ないのであるが、吾輩もこいしに連れられて驚いたのである。

 

「ああ、こんにちはっ。あれ? え? なんであっちからくるんだっ!? ええ? え? ええ?」

 

 おりんが何か言っているのである。すまぬ、そろそろこがさのもとに戻らないと心配しているかもしれぬ。吾輩はひとことにゃあと振り返って鳴いてみるのである。なんだか疲れているみたいであるな、

 元気出すのである。さとりがさっき甘いおかしを持っていたのである。おりんも行って食べさせてもらうのである。そう吾輩が言うと、おりんはにっこり笑っているのである。ちょっと通じたのかもしれぬ。こみゅにけーしょんとは気持ちなのであるな!

 吾輩はそれだけ言うと、たったか駆けだしたのである。

 

「あ、おーい。さとり様と会ったのかい」

 

 後ろから声がするのであるが、吾輩は振り返れぬ。さとりはいいやつであった。

 吾輩はしっぷうのようにかけるのである。けいねが言っていたのであるがしっぷうはとても足が速いらしいのである。吾輩も負けているわけにはいかぬ。こんどしっぷうと出会ったときはおいかけっこで勝たねばならぬ。

すばやくこがさたちを見つけて、遊ぶのである。

 ううむおらぬ。おらぬな。意外と通りには人通り、ううむこの場合妖怪通りが多いのである。

 ふと、そこで吾輩は思ったのである。

 きっとこの妖怪たちも毎日いろんなところでこみゅにけーしょんをしているのである。誰かに挨拶をして、きっと吾輩と巫女のように仲良くなっているに違いないのである。そう考えると仲良しさんがいっぱいこの世にはいるのであるは、吾輩は安心したのである。

 なぜ、安心したかは吾輩にもよくわからぬ。考えるのは後である。

 

 地底はほんのり暗いのであるが、道に燈篭がちゃんと並んでいてぼんやりと明るいのである。吾輩はこのくらいが好みやもしれぬ。とてとて、歩くとなんだかいい匂いのするお店もあるのである。

 いかぬいかぬ、吾輩はこがさともみじを探さないといけないのである。

 にゃあにゃあ、そこを歩く者よ。ちょっと聞きたいのである。ナスのような傘を持った吾輩のともだちを見なかったであろうか。

 吾輩が声をかけたものは、お酒をのみながら歩いているのである。

前に回ってにゃあにゃあ聞いてみると、ぱちくりと目を動かしているのである。サンダルであるな、それに頭から角が生えているのである。ううむ、これが噂に聞く鬼であろうか。

 

「なんだ、おまえ。迷子か」

  

 前もこんなことがあったのであるが、吾輩は迷子ではないのである。そうしっかりと胸をはってにゃあと訴えるのである。この女子は白い服を着ているのである。

 

「地底に普通の猫とは珍しい。屋敷の方からきたのかな」

 

 屋敷からやってきたのであるが、吾輩はちゃんと地上に帰るところがあるのである。それでこがさともみじを探しているのである。二人とも泣いてなければいいのである。そういえばこんなことも前にあったのである、あの時はこころは部屋で寝ていたのである。

 

「おーい」

 

 おお? 吾輩は聞きなれた声に耳をぴくぴくさせるのである。この声はもみじであるな。なんであろうか、こう安心するのである。今日はよく安心できる日であるな。

 吾輩は後ろ足で立ったのである。前足が浮くとばらんすをとるのは難しいのであるが、遠くまで見渡せるのである。えへん。

 

「おお、立った」

 

 おなごも感心しているのである。

 うむ! あちらから手を振っているもみじが近づいてくるのである。綺麗な浴衣を着て走ってくるのである。下駄を鳴らす音は吾輩も結構好きなのである。

 

「はあ、やっと見つけた。まったくどこに行っていたんだ。小傘とさがして……!」

 

 もみじが止まったのである。おお、なんであろうか、吾輩持ち上げられたのである。

 

「き、貴様。こんなところに」

 

 もみじよ何を言っているのであろうか、吾輩が後ろを向くと角の生えたあのおなごが吾輩を抱き上げているのである。口元が笑っているようであるな。それによく見えると黒髪に白いものが混じっているのである。

 

「これは、これは。天狗様じゃないですか。こんなところで会うとは奇遇ですね」

「天邪鬼……地底に潜んでいたのか」

 

 もっとこう、こういう風に持ってもらうと気持ちいいのである。吾輩は身をよじる。

 

「は、地上ではいろんなやつらに追い回されたけど、結局誰にもつかまりませ、おいうごくな、わわ。おい。……つ、捕まりませんでした。強者を気取っている天狗にも」

「……そんなことはどうでもいい、今はお前とやりあう気はない。その猫を返せ、鬼人正邪」

 

 せいじゃというのであるか、かわいい名前であるな。吾輩は気に入ったのである。それを伝えるためにはどうすればいいのであるが、おおそうである、よいこよいこすればいいのである。

 

「は、やなこった」

 

 にゃあにゃあ。

 

「いいなりにはなら……こら、なんだ。ほら。おとなしくしろ」

 

 吾輩かっちりと抱かれてしまったのである、身動きが取れぬ。もみじはなぜか呆れた顔である。

 

「……その猫は一筋縄ではいかないから、返した方がいいと思うけど」

「や、やなこった」

「すでに気取った口調が崩れてかけているし……」

「う、うるさいな。わ、わ。お前も動くなって言っているだろ!」

 

 怒られたのである。吾輩はせいじゃを撫でようとしただけなのである。

 もみじよ、せいじゃとも仲良くしてやるのである、にゃあにゃあと言ってみるのである。

 

「待っていろ今助けてやる」

 

 いや、別に助けてほしいわけではないのである。

 それでもがんばりやさんのもみじは吾輩を指さして言うのである。

 

「もう一度言うが私は争う気はない。その猫を返せ。天邪鬼」

「そうはいくものか。私は生まれ持ってアマノジャクだ」

 

 おお前足が動くのである。なんとなくせいじゃのほっぺたを触ってみるのである。

 

「はいそうでふかとかへふ……ぐ、ぬぬ」

 

 柔らかいほっぺたであるな。気に入ったのである!

 

 



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せいじゃはいいこなのである

 おお、おお。吾輩はせいじゃのほっぺたが気に入ったのである。

 肉球で押し見ればこう、いいではないか。せいじゃよ流石なのである。吾輩はほめるところはちゃんとほめることができるのである。

 

「やめろ、やめ」

 

 うむ? せいじゃがやめろといいながら顔を振っているのである。

 ! もしかすると吾輩のするどい爪があたってしまったのやもしれぬ。ちゃんと当たらぬようにこう引っ込めていたつもりだったのであるが、すまぬ。吾輩は申し訳ないきもちでいっぱいである。

 

 にゃお

 

「こ、こら。何を登ってきているんだ」

 

 吾輩は体をくねらせてせいじゃの腕から抜けると、その肩に前足をかけたのである。ううむ。せいじゃの顔が目の前にあるのである。しかし、どこも赤くはなってはおらぬ。きっとだいじないのである。

 しかし、痛かったのであるな。吾輩は反省しているのである。

 

「……! おまえ、なめるな」

 

 ぺろぺろ。

 こうすると痛みが取れることは吾輩のいがくてきちしきで知っているのである。けいねも軽いけがならば唾をつけていれば治ると言っていたのである。ちゃんと毎日べんきょうしているのが役に立つのであるな。今度はふとに教えてやらねばならぬ。

 ふとはいつも遊んでばっかりである。

 

「……いいかげんに。あは……いいかげんしろ!」

 

 せいじゃよ強がるのはよすのである。

吾輩を離そうとしてもダメなのであるちりょうは最後までせねばならぬ。

それに痛いときはいたいといわねばならぬのである。吾輩も痛いときにはちゃんと言うのである。

 

「おい」

 

 吾輩はもみじが呼んでいるので振り向いたのである。もみじはあとため息をついているのである。疲れたのであろうか。もう一度おふろに入るのもやぶさかではないのである。吾輩もあそこはなかなか気に入ったのである。

 

「天邪鬼。今、あはっていわなかったか」

「言っていない」

「……まあいいけど。その猫は自由気ままに動き回ることはわかっただろう? さっさと離せ。何度も言うが今お前とやりあう気はない」

 

 せいじゃは吾輩をまだ抱っこしたのである。なかなかいいではないか。この抱っこの仕方には吾輩もまたたびをあげてもいいのである。それにしてもせいじゃからなんだかいい匂いがするのである。おおこれは温泉であるな、きっとさっき入ったのであろう。

 くんくん、正邪はちゃんと綺麗にしているのである。吾輩もけなみのめんてなんすをにはうるさいのであるが、感心なのである。

 

「はっ! こちらも何度もいわせる。私は生粋のあまのひゃあ」

 

 いかぬ。思わず舐めてしまったのである。

せいじゃよ話の邪魔をしてわるかったのである。吾輩をきにせずもみじとお話をするのである。しかし、仲良くしなければ吾輩にも考えがあるのである。

 またたびを分けてはやらぬ。考えるだけでおそろしいことである。

 うむ? せいじゃが吾輩をにらんでいるのである。吾輩は何か悪いことをしたのであろうか、わからぬ。もみじよ、教えてほしいのである。おお、もみじはくすくす笑っているのである。

 

「格好がつかないな。天邪鬼」

「……」

 

 次の瞬間吾輩は空を飛んだのである。

 せいじゃに抱かれたまま、近くの建物の屋根に飛び乗ったのだ。なかなかやるのである。かつんとせいじゃのサンダルが瓦を鳴らしているのである。

 

「返してほしかったら力づくで取り返すんだな」

 

 屋根の上を走りだしたのである。楽しいのである。せいじゃも屋根を伝って奔るのであるな吾輩も人里でよくやるのであるが、木の屋根はいかぬ。たまに落ちそうになるのである。

 

「天狗を舐めるな」

 

 真横にもみじがいるのである。速いのである。もみじの眼の光がこう線になって見えるのだ。

やはりもみじはおいかけっこが得意なのであるな。吾輩はにゃあとなんとなく鳴いてみるのである。もみじはそんな吾輩に手をのばしてきたのである。

おお、おおぉ。屋根をころがる。せいじゃに抱かれたままである。屋根のとちゅうでとまってせいじゃが立ち上がったのである。

 

「そう簡単に返すわけないだろ」

「……ちっ」

 

 もみじは着崩れた浴衣をなおしているのである。腰のひもをきゅっと締めながら吾輩を見ているのである。吾輩も一度は浴衣を着てみたいのである。そういえばせいじゃは着ないのであろうか。

 おお、そんなことを想っていると吾輩は両脇を持たれてつきだされたのである。

 

「おっと、こっちには人質……猫がいることを忘れてもらったら困る」

「卑怯だぞ……」

 

 くすぐったいのである。もう少し下を持ってほしいのである。

 吾輩はにゃあにゃあとせいじゃに訴えるのである。

 

「はは、どんな手を『にゃあにゃあ』っても『なむなむ』ばいい。ってうるさい!」

 

 怒られたのである。

 

「まったく。なんなんだお前は」

 

 せいじゃが吾輩の顔を覗き込んできたのである。こういう時はしっかりと相手の目を見なければならぬ。きりりと吾輩は表情を引き締めたのである。

 

「なんだかとぼけた顔しているな。……あー。あいつに見せたら気に入りそうだな」

 

 失礼であるな。吾輩はちゃんとしているのである。どちらかというとせいじゃのほうがほっぺたがぷにぷになのである。……よく考えたら関係はないやもしれぬ。

 そういえば、視界の端でもみじがこっそりと近づいてきているのである。吾輩は気が付いていない振りがうまいのである。前に巫女としたことがあるのである。だるまさんがころんだであるな!

よくわからぬが、吾輩に向かって巫女がいきなりだるまさんがころんだと何度も言っていたのである。動いたら負けということはあとでわかったのである。

 

「はっ!」

 

 もみじが吾輩をつかんだのである。せいじゃが驚いているのである。

 

「おまえ。離せ」

「そちらこそ離せ、天邪鬼!」

 

 なんだかこの頃取り合いになってばかりであるな。吾輩は取り合うよりもなかよく握手をするといいらしいである。

 せいじゃももみじも吾輩を抱きかかえるようにしているのであるが、吾輩はなされるがままである。二人ともがんばるのである。吾輩はどちらかを応援することはできぬ、きっと二人ともがんばりやさんなのである。

 

 空から何か降りてくるのである。ひらひらとしている浴衣の前を手で押さえて傘を指しているのは……なんだこがさであるな。屋根に降りるとかつんと下駄が鳴ったのである。

 

「やっとみつけたわ。もみじ、猫さん!」

「小傘! こいつはお尋ね者の天邪鬼だ! 猫を誘拐しようとしてる!」

「な、なんだってー」

 

 こがさが両手を広げて驚いているのである。それからきらきら目を光らせて、くるりと傘を回した。よくみれば髪もふたつむすびであるな。きっとおしゃれなのである。

 

「くう、なんてこった」

 

 せいじゃが言っているのである。

ぴんちなのやもしれぬ。しかし、もみじとこがさも吾輩のともだちなのである。悩みどころである。どうすればいいのであろうか。

その時吾輩の耳を驚かせる大声で誰かが叫んだのである。

 

「その勝負待った!!!」

 

 おおおぉお。吾輩は風に飛ばされそうになったのである。勢い余ってもみじのむねの中に飛び込んでしまったのである。もみじもおどろいているのであるな。

 こがさはどこに行ったのかわからぬ。せいじゃも転がっているのである。

 見れば頭に大きな角を生やした女子が屋根に立っているのである。周りには瓦がなくなっているのだ。

 

「せっかくの勝負に1対2とはいけない。この勝負この星熊勇儀が預かった!!」

 

 むむ、もみじが震えている気がしたのである。吾輩はなんとなく顔を舐めてあげたのである。

 



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おまつりのようである!

「あっはっは。悪い悪い。いきなり驚かせてしまったね。許せ、許せ天狗」

 

 吾輩の前にゆうぎが立っているのである。いや吾輩は座り込んだままのもみじに抱かれているのであるから、もみじの前にゆうぎが立ってるのであろうか。これは難題である。

 もみじよどう思うであろうか、しかしそれにしてももみじの腕の中は安心できるのである。きっともみじががんばりやさんだと吾輩が知っているからであろう。

 

「…………」

 

 もみじが口を開けてゆうぎを見上げているのである。おめめを開けると綺麗であるな。

 それにしてももみじの歯はとがっているのである。まるでいぬのようなところであるな。いやいや、これは失礼であろうか、まるで吾輩のようなのである。

 なんとなく……開けている口に前足をいれてみたくなってしまっ、おお、危ないのである。もみじが口を閉じるのに巻き込まれるところであった。

 

「ほ、星熊勇儀様」

「硬いなぁ」

 

 ゆうぎがしゃがんで顔を近づけてきたのである。片手には盃を持っているのだ。ちゃぷちゃぷ音がしているのである。

 

「勇儀……あー。一応序列はつけないといけないのか。じゃあ、勇儀様でいいよ」

「あ、はい……?」

「せっかく天狗が地底に来たんだ。あいつらどうせ地上ではまたお前ら白狼天狗をこき使っているのかい?」

「あ、はい……」

「そりゃあまた、変わらないねぇ。で?」

「あ、はい?」

 

 もみじが同じことばかり言っているのである。しっかりするのである。

 

「ほしくま……勇儀様! わ、私は決して地底を争うなどと思ったのではなく。あの天邪鬼がこの猫を誘拐したので取り返そうとしただけです。決して、そのあの」

 

 なんか焦っているのである。もみじよおちつくのである。吾輩も同じことを思ってしまったのである。

 

「わかった。わかった。勝負で白黒はっきりつけるんだね」

「へ、へええ??」

 

 勇儀がにっこり笑っているのである。笑顔はいいことなのである。もみじも笑っているのであるがなんだかひきつっているのである。吾輩がにゃあと言って励ますのである。もみじは笑っていた方がいいのである。

 それにしてもせいじゃとこがさはどこに行ったのであろうか、おお、せいじゃは屋根の上で眠っているのである。なんだか全く動かぬ。

 

「あいつ、頭打ったのか……」

 

 もみじの言葉に吾輩ははっとしたのである。急いで駆け寄りたいのであるが、その前にゆうぎが顔を寄せてきたのである。角が近いのである。なんだかうれしそうであるな。

 

「いや、退屈しててねぇ。どうせ勝負するならぱあっとやらないとな。あっはっはっは」

 

 にゃあにゃあ、吾輩もぱあぁとやるのは好きである。

 

「おお、おまえもそう思うか」

 

 ゆうぎが吾輩の前足をつかんだのだ! あくしゅであるな! 吾輩は満足である。

 

「い、いえ。そんな、もう猫はここにいますし。それに天邪鬼も気絶していますし。……小傘はどこに行ったんだ……?」

「ああ、あの青髪のことか? すまないけど、さっきので屋根から落ちていったよ。まあ、あれも妖怪の端くれなら大丈夫だろう」

「い、いつもながら不憫な奴……あ。いえそれよりも勇儀様。勝負と言っても天邪鬼も気絶しておりますし」

「ああ、いいよ、どうせ準備にはちょっとかかるからね」

「じゅ、じゅんび?」

「ああ」

 

 にやりとしているのである。吾輩はゆうぎが楽しそうなのである。

 からんからんと勇儀は下駄を鳴らしながら屋根の上を歩くのである。どこに行くのであろうか、このおやしきの前は大通りであるな。もみじが吾輩を抱いたままたちがあるとよく見えるのである。

 ゆうぎが息を吸っているのである。それから、叫んだのだ。

 

「野郎どもぉ!!この星熊勇儀のもとに酒をもって集まれぇ!!!!」

 

 おお、体が後ろにいくのである。もみじが吾輩のみみをふさいでくれているのであるが、なんだか顔につよい風が当たってくるのである。ゆうぎは声が大きいのであるな。

 うむ? なんだかいろんなところから大きな鬼やら、妖怪やらが集まってきたのである。

 

――なんだなんだ!

――酒が飲めるのか!

――勇儀姐さんのもとへ集まれ!

 

 どっどっど。どたどたどた。

 地面が揺れているのである。地震である。久しぶりであるな。地震にも吾輩はにゃあと挨拶するのである。久々にあったらするのである。

 

「な、なんだ!? 何が起こっているんだ」

 

 もみじがきょろきょろしているのだ。おお、町中から煙が上がっているのである。

 

「あ、あれは土煙だ。ま、まさか」

「ほーい」

 

 しゅたっと近くに誰かが降りてきたのである。なんだくろだにであるな。

 

「土蜘蛛、なんでここに」

「え? なんかあるんでしょ? ただ酒が飲めると聞いて」

「す、すでに尾ひれがついてる。というかまさか地底中の妖怪が」

「くるんじゃないの? みんな暇だし」

「……あ、ああ」

 

 もみじよ落ちるのである。しっかり抱いてほしいのである。……なんか青い顔をしているのである。元気出すのである。にくきゅうを触ってもやぶさかではない。

 おお、どんどん妖怪が増えていくのである。

 笛の音が聞こえるのだ。よく見れば屋敷の下にはでみせもできていくのである。

 がやがや、わいわい。

 いつの間にかゆうぎは屋根に腰かけてにこにこしているのである。お酒をくいっとのんで言うのだ。

 

「ぷはぁ。こんなもんでどう?」

「え、え? あの」

 

 もみじよ元気だすのである。吾輩は応援しているのである。まあ、なんで元気がないのかわからぬが。勇儀は不思議そうな顔をしているのだ。

 

「あ? まだ足りないのかい」

 

 こくびをかしげているのである。キョトンとした顔であるな。吾輩も同じようにこくびをかしげてみると、ゆうぎはにっこりして立ち上がったのである。

 わしゃわしゃと吾輩を撫でてくれるのである。

 

「こいつ私の真似をするとは」

 

 わしゃわしゃわしゃわしゃ。

荒っぽいのであるな。しかしこれはこれでいいのである。

 わいわい、わいわい。

 いい匂いがするのである。それに下のでは提灯がつられているのである。楽し気であるな、行きたいのである。前足をばたつかせてみるのである。

 おお、よく見ればこがさも屋根の上に登ってきたのである。

 

「うう、ひどいめにあった、それにしても今から何かあるの?」

 

 吾輩はにゃあと挨拶するのだ。なんだか久しぶりな気もするのである。

 

「にゃあにゃあー」

 

 にっこりこがさも挨拶をしてくれたのである。もみじも何か言うのである。

 

「こがさ……笑っていられるのも今のうちだからな」

「え? ど、どういうことですか」

 

 こがさは傘をたたんで。浴衣の着崩れを直しているのである。髪をふたつむすびにしているのであるが、なかなか似合っているのである。そんなこがさの背中をばしばしとゆうぎがたたいたのである。

 

「おお、気が付いたかなにかの妖怪!」

「え? あなた誰」

「私は力の星熊勇儀。いい勝負を期待するよ」

 

 もみじがこがさをひっぱったのである。吾輩は片手もちであるな

 

「こ、こら小傘! こちらは鬼の中でも山の四天王と恐れられる方だ」

「……鬼……、ふ、ふっふっふ。ここであったが百年目ですね!」

 

 きらきら、目を光らせてこがさ飛びあがったのである。もみじが驚いているのである。吾輩もちょっとだけ驚いたのは秘密である。

 

「地底に鬼を驚かせに来たんだから! えっと勇儀さん。勝負よ!」

「ほう。私に勝負を挑むとは腕に覚えありか! いいよ、その喧嘩買った!!」

 

 もみじが今にも泣きそうな顔をしているのである。

どこか痛いのであるか。吾輩心配である。ちゃんと痛いときは言うのである。

 

 

 



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わがはいにまかせるのである!

「この星熊勇儀に喧嘩を売るとはいい度胸だ。気に入った!」

 

 ゆうぎが楽しそうににこにこしているのである。しかしけんかはいかぬ、ちゃんと仲良くせねばならぬ

吾輩はそう思ってにゃあにゃあと鳴いてみると、ゆうぎも吾輩をみて笑っているのである。それを見ていると吾輩はとても楽しくなってしまったのである。きっとけんかはせぬようにわかってくれたのであるな!

 吾輩はそのまま振り向いてみると、こがさが固まっているのである。なんだか困ったような顔であるな、どうしたのであろう。心配事があれば吾輩にちゃんと言ってほしいところなのである。吾輩にも何かできるやもしれぬ。

 

「あ、あの~その」

 

 こがさが口を開いたのである! 吾輩は悩んでいるこがさを見捨てたりはせぬ。ちゃんと耳をそばだてて聞くのである。ちゃんと人の話を聞くときはしせいを正しくして聞くのだとけいねも言っていたのである。

 ぴんと胸を張って聞くのが紳士であるな。吾輩はその点はちゃんとしているのである。

 

「ん? なんだ?」

 

 ゆうぎも胸を張って聞いているのである。吾輩も負けてはおれぬ、さらに背筋を伸ばすのである。……うむ。思わず立ち上がってしまったのである。うむむ。後ろ足だけで立つのは難しいのである、うむ、むむむ。

 ころころ。

 いかぬ、ばらんすを崩してしまったのである。恥ずかしいのである。吾輩は思わずにゃあお、と言い訳をしてしまったのである。もみじよ、助け起こしてほしいのである。

 

「…………ゆ、勇儀様」

「?」

 

 もみじはゆうぎとお話し中であるな。ではこがさは……なんだか青ざめているのである。おなかが痛いのでろうか、

 

「い、勢いで言ってしまった……」

 

 いきおいは大切なのである、それはそうと吾輩を助けて起こしてくれぬものがおらぬ。前足をばたつかせてころりと回転するのだ。ちゃんと一人で起きられたのである。

近くでくろだにがぱちぱちと拍手をしているのであるが、それなら起こしてくれてもよかったのである。まあ、吾輩の心は海のように広いからして、そんなことで怒ったりはせぬ。

 それにしてももみじが一生懸命にゆうぎに何か説明しているのである。もみじはがんばりやさんであるな、吾輩は話をよく聞いていなかったのである。恥ずかしいのである。

 くろだにはちゃんと聞いていたのであろうか。吾輩はみゃーおと聞いてみるのである。

 

「なあなあ。お手ってできる?」

 

 やらぬ。これはダメである。くろだには頼りにならぬ。ヤマメもくれぬ。

 もみじの話をしっかりと聞くために足元に近寄って見上げてみるのである。

 

「で、ですから。この唐傘は地上で迷惑にもいきなり人を驚かせて来る妖怪でして……。たぶん勇儀様を驚かせることができればなんて思いあがった上に口が滑って勝負などと言っているのです」

 

 なんだかもみじがとてもがんばっているのである。あせを流しながらがんばっているので吾輩は応援するのである。

 

「……おどろかせに? なるほど大道芸人というやつか。しかし、勝負と一度口にしたからには筋を通してもらわないとな」

 

 ゆうぎが何かを考え込んでいるのであるな、きっともみじのがんばりが通じたのである。吾輩はとてもうれしいのである。ゆうぎは急に吾輩の前にしゃがみ込んで言うのである。

 

「お前はどう思う?」

 

 ううむ。よくわからぬが、きっとみんな仲良くするのがいいかもしれぬ。そう思ってゆうぎに吾輩は伝えてみたのである。

 

 みゃーみゃー

 

「ふむ……そうだ! こうしよう」

 

 ゆうぎが突然立ち上がってこがさともみじを振り返ったのである。屋根の上を下駄を鳴らしながら歩いていくのである。屋根の下はもうおまつりみたいになっているのである。吾輩はそこに行ってみたいのである。そう思って屋根から下を覗いてみると、もみじにだっこされたのである。

 

「こら、あぶないだろ」

 

 あぶないのであるか? 吾輩にはよくわからぬが、心配してくれたので助かったのである。やはりもみじはいいやつであるな。吾輩はすきである。

 

「あっはっは。その猫も下のどんちゃん騒ぎに混ざりたいんだろうねぇ」

 

 ゆうぎの笑い声は大きいのである。

吾輩も真似してみたいのである。ゆうぎを見ればなんだか髪がきらきらさせながらほほえんでいるのである。おお、下で集まっているようかいたちが提灯を出したりして明るくなっているからして、ゆうぎが綺麗に見えるのである。

 

「まがりなりにも一度勝負を口に出したからには最後まで付き合ってもらおうか。下の奴らも喧嘩を見に集まったんだから、このままじゃあ収まりがつかない。天邪鬼もまだ寝ているしな」

 

 がやがや、わいわい、どんちゃん。

 下からたのしげな音がきこえてくるのである。ううむ、そういえばさっきからせいじゃが動かぬ。みればくうくう寝ているのであるな、なかなかかわいいのである。頭にこぶがあるのはしんぱいである。

 

「なーにどうせ私を驚かせに来たくらいなんだ、ここにいるやつらを驚かせるくらい訳はないだろう? あのど真ん中で私たちを驚かせて見せることができればあんたの勝ちでいいよ」

 

 ゆうぎが片手をあげてそれから、ゆっくりと周りを見回したのである。なんとなくこがさをみてみると両手で傘を持って、ふるえているのである。なんだか目も泳いでいるきもするのであるが、こがさは言ったのである。

 

「も、ももちろん。や、やってやるわ! こ、これくらいら、らくしょーですよ!!」

 

 もみじが「お、おい。それお前の驚かせることとは違うだろ」と言っているのである。それよりも先にゆうぎが「よしっ!」といったから吾輩はとても驚いたのである。こがさよなにかよくわからぬが頑張るのである。

 

「そうときまったら早速やってもらおう」

 

 ゆうぎがこがさをひょいと持ち上げたのである! 吾輩と同じような格好であるな。

 

「ちょ、ちょっとまって」

 

 ゆうぎは笑顔のままなんだか楽し気である!

 

「野郎ども!! 今からこの地上から来たやつが驚かせてくれるそうだっ!!!」

 

 わーーー!!

 おお、なんだか盛り上がっているのである。吾輩もにゃあにゃあ言ってみるのである。こがさよ……がんばる……うむ。ちらりとこがさが吾輩を見たのである。なんだか不安げであるな……もしやこれはぴんちではないのであろうか?

 もみじよ離すのである。体をひねるのである。

 

「お、おいなんだお前まで」

 

 いや、離すのであるそんなに頑張って抱っこしなくてもいいのである。

 

「うなぎみたい」

 

 くろだにが何か言っているのであるが付き合っているひまはないのである。

吾輩はもみじの手から離れるためにひねりひねりするのである。やっと地面に降りられたのである。吾輩は走り出したのである。

 

 ゆうぎもこがさを降ろして、屋根の上に腰を下ろしているのである。

 屋根の下の広場はおおぜいのようかいでいっぱいである。

 吾輩の耳には大きな声が聞こえてくるのであるが、それよりも吾輩はなんだかしょんぼり立っているこがさの足元に行ったのである。

 

 にゃあ。

 こがさが振り向いたのである。何も言わぬな。こがさよ吾輩が来たからにはもう安心である。安心しておおぶねに乗った気持ちでいるのである。まあ吾輩はおおぶねを知らぬ。

 こがさはぐっと顔を引き締めてきりりとした顔を吾輩に向けたのである。

 

「手伝ってくれるの?」

 

 もちろんである。こがさは吾輩を抱き上げていっかいおなかに顔をうずめたのである。

 それからおおぜいの、とてもおおぜいのかんきゃくがいる広場を吾輩と一緒に見たのである! きらきら綺麗である!

 

 

 




ちていよこれがだいどーげーだ


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にじのなかをとぶのである!

 吾輩が下を覗き込むと大きなかんせいが聞こえてくるのである。みんな楽しそうであるな、よくわからぬがこがさは人気ものなのである。にゃあと声をかけるとこがさもにゃあとにっこり笑ってくれたのである。

 

「おいで、猫さん」

 

 しゃがみ込んだこがさが手を吾輩に差し伸べてきたのである。おおあくしゅであるな。吾輩はこがさの手の上に前足を載せてみるのである。

 

「おて?」

 

 お手ではないのである! 吾輩はそこには厳重な抗議をせねばならぬ! ふとといい、こがさといいくろだにといい、吾輩がお手をするとなぜ思うのであろうか、それは犬にでも頼めばいいのである。

 こがさはくるくると傘の取っ手を回しているのである。また吾輩と遊んでくれるのであろうか、こがさはにこにこして答えぬ。それにしても首がかゆいのである。

 

「おい。小傘」

 

 もみじである。こがさと吾輩はにゃあと答えたのである。もみじは手に何かつつみをもっているのである。

 

「あ」

 

 こがさが両手を口に開けて恥ずかし気にしているのである。

 

「おもわずいっちゃった」

「……いや、いいけど」

 

 なんだかもみじも恥ずかしそうにしているのであるが、なぜそうなのかわからぬ。ちゃんとにゃあと反応するのはれいぎである! なにも恥ずかしいことはないのである。

 そう思っているともみじがしゃがんで吾輩を撫でてくれたのである。ううむ、やはりなかなかやるのである。吾輩は気持ちがいいのである。

 

「……ふふ……」

 

 もみじが笑ったのである。いやそれよりももう少し首のあたりがいいのである。

 

「あ! いや。小傘。……まあ、どうなっても多少は……あの……かばってやる! せいぜい頑張るんだな。それとこれは勇儀様からどうせなら着飾るようにとの配慮だ」

 

 おお、もみじの手が離れていくのである。吾輩は前足を延ばしてそれをつかもうとするのであるが届かぬ。

もみじは手に持っていた包みを解いてばさっと広げたのである。

 おお、お星さまである! 綺麗な羽織りであるな。黒い布にきらきらお星さまが輝いているのである。うむ、ううむお月様がおらぬな、これはかくれておるのかもしれぬ。でてきてもいいのである。

 

「おおー」

 

 こがさが羽織を着てクルクル回るのである、吾輩も回ってみるのだ。めがまわる。

 

「動くな」

 

 もみじが前のひもを締めてあげているのである。やはりもみじは優しいのである。こがさがちょっと動くと、ひらひらとお星様が泳いでいるのである! 

もみじは「ふん」と鼻を鳴らしてから、そのまま背中を見せてかつかつとゆうぎの方に行ってしまったのである。こっちをちらちらとみてくるので吾輩はちゃんとにゃあにゃあと反応するのである。

 

「うーん。椛って実は優しいのかな? 猫さんはどう思う?」

 

 ふむふむ。こがさはよくわかっているのである。吾輩はもうわかっているのである。

 

「ま、いいや!……それじゃあいこっか?」

 

 こがさが手を伸ばしてきたのである。吾輩はとてとてその手に足をかけて腕を登っていくのである。下を見ればわあわあときらきら光っているのである。こがさは胸元から何かをとりだしているのである。何枚かのかーどであるな。

 それから吾輩の耳元でこそこそと話をするのである。

 

「あの人里でのことこっそり練習してたけど、みんなには内緒ね」

 

 くすぐったいのである。人里でみんなを驚かせたのは吾輩も楽しかったのである。

 

「はい。猫さん」

 

 こがさよ、なんで吾輩を持つのであろうか、まるで投げようとしているみたいである。

 

「それじゃあうらめしや~~!!!」

 

 おおぉ! 吾輩は空を飛んでいるのである。

 くるくるくるくる、なんだか下には大勢のようかいたちがやんやとしているのであるが、なかなか高いのである。

 

「ねこさん。こっちこっち!」

 

 こがさも吾輩の隣を飛んでいるのである。こっちと言われたからには吾輩も足をばたつかせて頑張ってみるのである。ううむ、どうにもできぬ。

 

「おいでー。虹符『にゃんブレラサイクロン』!」

 

 こがさが傘を振ると、虹が空にさっとうかんだのである! きらきら七色に光る虹が綺麗であるな。吾輩はこがさの傘の裏側できゃっちされて、そのままくるくるされるのである。

 

わーわー

 

「よいしょっと」

 

 こがさが強く傘を振ると、吾輩は真上に飛んだのである。

今度は大丈夫である。こがさのにっこり顔見えたのだ。

とん、とこがさの構えた傘の上に乗って、くるくるとそこを走るのである!

 そのままゆっくりとこがさが地面に降りていくと、吾輩にもようかい達の顔が見えてきたのである。みんな笑っているのであるな。おおあれはせんちょうであるな、楽しそうにぱるすぃとお酒を飲んでいるのである。

 

 わいわい! わーわー! がやがや!

 わがはいとこがさは踊るのである。傘の上からは眺めもいいのである。高すぎると笑っている顔が見えぬ。

 

「ふふーん! 化鉄『置き猫特急ナイトカーニバル』!」

 

 周りに傘がいっぱい現れたのである! 光りながらくるくる吾輩達の周りを傘も踊っているのだ。吾輩は思わず飛び乗ってみるのだ。

 

「おっ! やったー」

 

 なんだかこがさも喜んでいるのである。吾輩はそのまま傘をとびのりとびのり、張り切るのである! この傘ほのかに光っているのである。

 

「ふふふ、猫さんがんばれー」

 

 こがさが両手を広げるのが見えるのである。すると傘たちが上に向かいながら速く動いているのである。まるで傘の階段であるっ!

 この程度、吾輩にはなんてことないのである。吾輩はとんとんと飛び移っていくのである。

 周りのおまつりさわぎが楽しそうで、吾輩も楽しいのである。

 

「大輪『にゃーフォゴットンワールド』! ねこさんのステージを作ってあげるわ。おどろけー!」

 

 こがさがクルクルと傘を回しながら踊っているのである。手にもったかーどがぴっかり光ってぱぁと、虹が広がっていくのである。

 とんとん、とんとん。

 虹の中で傘を飛び移っていくのは初めてなのである。

 

わーわー!

 猫-がんばれー。

 

 いつの間にかくろだにも下に降りてきているのである。

 おお、空から花びらが降ってきたのである。見ればこいしがぱらぱら何かを空から撒いているのである。

 

 とんっとん。

 傘を飛び移るのである。吾輩はだんだんと昇っていくのだ。

 おお? 先がないのである。もう傘がないのである! どうすればいいのであろうか!?

 

「そのまま飛べっ!」

 

 もみじの声が聞こえてくるのである。わかったのである。吾輩はもみじをしんらいしているのである。できるだけ勢いをつけて吾輩は空を飛んだのである。

 

 結構高いのである。

 下を見る、

 みんなが吾輩を見ているのである。虹の残りが周りでまだ光っているのだ。

 

「おいでませ~」

 

 こがさが手を広げているのである。虹のように笑っているのである。……自分で言ったのであるが、虹のようにとはどういうことであろうか、まあいいのである。

 おいでと言われても空中ではどうしようもないのである。吾輩はそのまま落ちるしかないのである!

 

「おっ、おお、おっお」

 

 こがさよわたわたされると困るのである。吾輩はまっすぐにこがさのもとへ行くのである。

 

「わっ」

 

 ばすんと吾輩は飛び込んだのである。こがさは「わっ」と言っておしりをついたのである.

それでもちゃんとつかんでくれてあんしんしたのである。

 吾輩はにゃあとこがさにお礼を言うと、こがさもにゃあと言ってくれたのである。今ならこみゅにけーしょんがこがさともできるやもしれぬと、吾輩はさらに声をかけようとすると、

 

 わぁあああああああ!

 

 周りの声にかきけされてしまったのである。

 



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たのしくおさけをのむのである

 周りから大きな拍手が続いているのである。

 吾輩はこがさに抱かれたままであるから身動きが取れぬ。もぞもぞと動いてからこがさを見るとほっぺたを赤くしてちょっと目も赤いのである……おお、目が赤いのは今までもそうなのであるがこう、いつも白いところが赤いのである……、むむむ「ことば」で表すのは難しいのであるな。

 吾輩はこがさの手から離れて地面に降りてみるのだ。地底の地面にはひんやりしているのである。吾輩はなんとなくその場で体を長くして転がってみるのである。

 みんな見ているのである……照れるのである。吾輩はちょっと困ったのでこがさを見たのであるが、

 

「っふふーん」

 

 こがさが嬉しそうで吾輩は何よりである。それでもまあ、吾輩は困っているからしてどうにかしてほしいのである。

でもまあ、よくわからぬが、ぱちぱちとみんなが拍手をしてくれたから吾輩もとても満足である。

 こがさは両手を腰につけて胸を張っているのだ。吾輩も同じような格好をしてみたいものなのであるが、ううむ? 吾輩の腰はどこであろうか、吾輩はその場でぐるぐると回ってみて体を眺めてみたのであるがまるで見当がつかぬ。

 もしかしたら吾輩には「こし」がないのかもしれぬ……。しんこくな悩みを吾輩は持ってしまったのやもしれぬ。

 

 そんなことを想っていると、空から何かが降ってきたのである。

 大きな盃を持った……なんだゆうぎであるな。地面に降りるときにどこんっと音がして吾輩はびっくりしたのである。

 おお、そのあとにゆっくりともみじもおりてきたのである。吾輩はもみじになんとなく近寄ってみると、もみじもしゃがんで両手を広げたのである。

 

「ほら、おいで」

 

 お呼ばれしたのである。これはいかねばならぬ。

 吾輩はしょうたいされたのでもみじのそばに行くとなでなでされたのである。おお、気持ちいのである。

 

「がんばったね」

 

 なんだかもみじも口調がやわらかいのである。吾輩はどちらでも好きである。

 ?????

 もみじが吾輩の首の後ろをごりごりと力強くなでてくるのである……ううむ、うううむ。これは、これは気持ちいいのである。吾輩はその場で座り込んでみたのである。もっとしてほしいのである。

 

「いや、お見事お見事。さすがは大道芸人というだけはあるね」

 

 ゆうぎがなんだかこがさをほめているのである。こがさはなんでかほっぺたを膨らませているのはなぜであろうか。

 

「わ、私はだ、大道芸人ではないんですけど……」

「そうなのかい? まあ細かいことはいいじゃないか! あっはっは。私を驚かせることができたんだ、なーに人間くらい簡単に驚かせることはできるさ」

「ほんと!? ……う、ううでもこれで驚いてもらっても、私のあいでんてぃてーは……」

「あ、あいで……小難しい言葉を使うわね。まあ、この勝負はあんたの勝ちだ」

 

 ばんばんとこがさの背中をゆうぎがたたいているのである。すると吾輩を撫でるもみじの手が止まっているのである。吾輩はおもわず体でもみじの手に当ててみるのだ。

 撫でてくれぬ、吾輩は辛抱たまらぬ。おもわずにゃーと言ってしまったのである。するともみじはちらりと吾輩をみて、

 

「ここか」

 

 ごりごり。

 そこである、おお、おぉ……。いいのである。

 もみじにも吾輩はお返しをしたいのであるが、どうにもできぬ。肉球を後でほっぺたにつけてみようと思うのであるが、気持ちはいいのであろうか。

 ふと、ゆうぎを見てみるのである。

 

 ゆうぎは吾輩を見てにっこりと笑っているのである。それから周りに向かって叫んだのだ。

 

「野郎ども!! この地上からの客をもてなしてやりな! ……飲むぞぉ!!」

 

 わぁああああああああ!!!

 吾輩はあまりの大きな声に思わずもみじへ抱き着いてしまったのである!

 

 

「あはは」

 

 こがさは遠くでお酒を飲んでいるようであるな。笑い声が聞こえてくるのである。

地底のみんなとの飲み会はたのしそうであるが、吾輩はどこに行っても撫でられるので疲れてしまったのである。街中でお酒を飲んでいるのである。

 くろだには妙な動きをしたり、きゃぷてんは吾輩のしっぽをつかんでくるのである。

 仕方なく吾輩はぱるすぃのおひざで休んでいるのである。ここなら安心であるな。

 

「それにしても天狗とは久しぶりに会った」

 

 ぱるすぃの前でゆうぎが座っているのである。その前にはふらふらと頭を揺らしているもみじがいるのである。

 

「え? そそうですね。上司のしゃ、しゃめーまるが私にひっく」

「天狗のくせにだらしがない。ほら飲め飲め」

 

 もみじが手に持った盃にゆうぎがとくとくとお酒を注いでいるのである。もみじも「いただきます」と言ってくいっと飲んでいるのである。吾輩も飲んでみたいのであるが、お酒に近づくとぱるすぃが「めっ」と言ってくるのである。

 

「そ、そういへば、ゆうぎさま、あ、あまのじゃくは」

「ああ。あれか。小傘の芸の間に気付で酒を飲ませたんだが、目がとろんとしてね、あげくあへぇだのほえぇだの変なことを言い出したのから寝かせてある」

「……鬼のお酒をどれほど飲ませたのですか? 勇儀様」

「……そんなに飲ませてなんていない! あくまで気付だ、まあ、量でいえば……10杯も飲ませてないわ」

「…………あまのじゃく……」

 

 そういばせいじゃはどうしたのであろうか、吾輩は心配なのである。そう思ってぱるすぃに聞いてみても「にゃー」としか返ってこぬ。吾輩は仕方なく、その場で自分で首を掻くくらいしかできることがないのである。

 ゆうぎは吾輩を見ているのである。

「この猫もなかなか肝が据わっているわ」

 

 きもがすわっている……きもとは誰であろうか? どこに座っているのかわからぬ。吾輩はあたりをきょろきょろしてみてみたのであるが、もみじとぱるすぃとこいししかおらぬ。

 ゆうぎよ、きももちゃんと仲間に入れてあげるのである。

 みゃあ、みゃあ吾輩は真剣に訴えるのである。仲間外れはいかぬ。

 

「この猫何か私に言いたいことでもあるのか」

「勇儀様。まさか、猫ですよ……」

 

 ゆうぎともみじとこがさがじいいとみてくるのである。恥ずかしいのである、吾輩は思わずそっぽを向いてあくびをしてしまったのである。断じてテレカクシではないのである。これはふかこーりょくというと、思うのである。

 

「あっはっは!」

「ふふふ」

「あははは!」

 

 ゆうぎともみじとこいしがそれぞれ笑っているのである。

 そういえばいつの間にこいしは来ていたのであろうか……、まあいいのである。

 

「……」

 

 ゆうぎが立ち上がったのである。ゆっくりとまわりを見回しているのである。それからもみじに聞いたのである。

 

「天……いや椛。お前たちはいつごろ帰るつもりだった?」

「えっ? そ、そうですね。私も小傘も目的はもうありませんので落ち着いてからすぐ帰ろうかと思います」

「そうかい。ゆっくりしていけばいいのにねぇ。温泉にも入ったのか?」

「は、はい」

「そうか、それじゃあ地上に帰るまでに汗をかいたらもったいないわ。よし、私が地上まで送ってやろう」

「! そ、そんな。恐れ多い。勇儀様地上へは私どもだけで」

「遠慮するんじゃない。椛もあの小傘も猫もちゃんと送り届けてあげるわ」

 

 ゆうぎはいいやつであるな。でももみじも言うのである。

 

「こ、このようなことで勇儀様を地上までご足労願うわけには……」

「何を言っているんだ?」

 

 ゆうぎがキョトンとしているのである。

 

「私は地上に行く気なんてないわよ?」

 

 もみじが吾輩を見て小首をかしげたから、思わずまねてしまったのである

 





じかいちていへんらすと


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かえりみちもにぎやかである

 ちゃきちゃき

 くるくる

 にゃあにゃあ

 

 吾輩はもみじとこさがをしっかりと連れて地底の街を歩いているのである。もみじの腰につけた剣がちゃきちゃき鳴っているのである。それに歩きながらこがさが傘をくるくる回しているのである、何をしているかはわからぬ。

 

「あー。なんだかあっという間だったねー。あれだけ騒いだのに、お祭りの後ってさびしいかも」

 

 こがさが言うのである。吾輩もそう思うのである、だから後ろをちらっと見て目でこがさに訴えてみたのであるが、こがさはあくびをしているのである。

 

「まあ、温泉にも入れたし。お前も曲りなりには目的を達成できてよかったじゃないか。……私は逆に疲れがたまった気がするけど」

 

 はあ、ともみじがため息をついているのである。吾輩は心配である。そう思って足元に近づいてみるのであるが、下駄は危ないのである。吾輩の尻尾を踏みかねぬ。

 もみじもこがさも着替えているのである。こさがの泥だらけの服もちゃんと綺麗にしてもらったらしいのである。泥遊びは大変であるが、楽しいのである。

 

 ちゃきちゃき

 

「おーい」

 

 吾輩達が声をする方向をみるとくろだにが手を振っていたのである。こがさが手を振っているのであるが、吾輩は不満である。

 くろだにはヤマメをくれなかったのである! 吾輩はげんじゅうなこうぎの意味でそっぽを向いたのである。見ればもみじもそっぽを向いているのである。もみじもきっとヤマメが食べたかったに違いないのである。

 

「またきなよー」

 

 くろだにの

 こえがとおく

 なっていくのである。

 吾輩は思わず後ろを振り向いてにゃあと返してみたのである。もみじも見れば後ろを見ているのである。

 

 くるくる。

 

 少し歩くとおまんじゅうを食べながら歩いているせんちょうとすれ違ったのである。

 

「おや、お帰りですか? 小傘さんに猫さん。また命蓮寺に遊びに来てくださいね」

 

 みょうれんじであるか。うむむ。もしかしたらせんちょうもひじりとともだちなのかもしれぬ。こがさも知り合いだったのであろうか?

 

「ふっふっふ。私は鬼も驚かせたんですから。これから人間たちをきょーふのどんぞこにおとしてやるわ」

「それはそれは。お寺の境内で見世物をしてくださるなら暇つぶしになりますね」

「……み、見世物じゃないわ」

「ふふ、冗談ですわー。それじゃあ、また」

 

 せんちょうも歩みを止めぬ。振り返ったまま、後ろむきで吾輩達と逆方向に歩ていくのである。お風呂で沈めようとしたりわけのわからぬせんちょうであったが、にっこりわらっていたのである。

 

「あ、天狗の人もおまけで遊びにきてくださいね~」

「だ、誰がおまけだ……」

 

 もみじが怒っているのである。

 

 とことこ。

 さらにしばらく歩いていると街かどでちらちらしているぱるすぃがいたのである。何か手に抱えているようあるな。何かの植物であろうか? 吾輩はとことこ近寄って、みゃあと挨拶をしてみたのである。

 

「……」

 

 すっと植物をぱるすぃが差しだしてきたのである。

 ! これはねこじゃらしであるな。吾輩はもうこんなもので遊ぶほど子供のではないのである! ちょっとしか付き合わぬ!

 

 ふりふり

 この、ねこじゃらしの動きがいかぬ。吾輩の前足で追いかけるのである。この先っぽのふわふわしたところが捕まえられた時が嬉しいのである。

 

「妬ましいわぁ。またね」

 

 ねたましいのであるか。

ぱるすぃも元気でいるのである。ひとしきり遊んでから吾輩はもみじとこさがの方にもどっていったのである。こさががちょっと考えた顔で、自分の傘を閉じてふりふりしてきたのであるが、わけがわからぬ。

 

 思えば楽しかったのかもしれぬ、そういえば地底に落ちていくときにみょうな夢で出会ったものもいたのである。元気であろうか。吾輩を撫でてくれたずっと黙っていた半分羽の生えたものもどうしたのであろうか。

 

 吾輩はそうふかい考えに陥りながらとことこ歩いていると、

 

「こら、猫。こっちだ」

 

 もみじに叱られたのである。吾輩は恥ずかしいのである。急いで戻ろうとしたとき、ふと真横に黒い猫がいることに気が付いたのである。

 

 にゃー

 にゃー

 

 挨拶をして別れるのである。しっぽが二つになっていて痛そうなのでちゃんと治すのである。そういえばおりんとも会っておらぬ。

 うむ? くろねこが吾輩の前に立ちふさがっているのである。なんであろうか、うむ?? なんだか誰かに抱きかかえられた気がするのである。これは、後ろを向かぬでもわかるこいしであるな。

 

「もしもーし。今あなたのうしろにいるのー」

 

 言わなくても分かるのである。

 ?

 何かを首につけられたのである。

 

「蝶ネクタイをお姉ちゃんからお土産だって」

 

 吾輩はネクタイをしたのは初めてである。似合っているであろうか。ありがとうなのである! さとりとお話したことも忘れないのである。

 

「それじゃあね、またねー」

 

 吾輩は突然地面に下ろされたのである! あわてて後ろを振り向いてみると、

 誰もいなかったのである。

 なんだか寂しい気もするのであるが、仕方ないのである。またこいしとは会える気もするのである。いつのまにかくろねこもおらぬが、あっちはまあいいのである。

 吾輩はとことこもみじ達のもとにもどっていったのである。

 

「あ、猫さんネクタイしてる」

「誰からもらったんだ?」

 

 二人ともしゃがんでみてくるのである。そういえばどういうねくたいなのであろうか、吾輩は首をこう曲げてみようとしてもうまくいかぬ。むむ。難しいのである。見えぬ。

 

「似合ってるよ」

 

 こがさがにっこり言うので吾輩はそれでいいと思ったのである。

 

ちゃきちゃき

くるくる

とことこ

 

 大きな広場についたのである。見ればゆうぎが立っているのだ、周りにはなんだか鬼がいっぱいいるのである。

 

「おお、来たか」

 

 もみじがいっぽ前に出ていったのである。吾輩も前に出ると、こがさもあわてて前に出てきたのでもみじがさらに一歩前にでて、吾輩も一歩前に

 

「こら!!」

 

 もみじに怒られたのである。吾輩はおもわずこがさの足元に行くと、こがさが抱き上げてくれたのである。

 

「こほん。勇儀様このたびは」

「あーかたっ苦しいのはいらないから」

 

 ゆうぎは歯を見せて笑ったのである。

 

「地底は楽しめたかい?」

「……」

 

 もみじがちらちらと吾輩達を見てきたのである。それからそっぽを向いたり変な方向を見てから言うのである。

 

「……はい」

「そうか、それはよかった。また来るといい」

 

 ゆうぎが近寄ってきたのである。そのままもみじを抱き上げたのだ。

 

「ゆ、勇儀様。な、なにを」

「地上まで送ってやろうといっただろう」

「そ、そんなこんな、お、お姫様だっこ……い、いえ」

「おひめさま、あはは。そんないいもんじゃないさ。よいしょ」

 

 ゆうぎがもみじをもって振りかぶったのである。

 

「え? え? ちょ――」

「おぉりゃあ!!」

 

 ゆうぎが真上にもみじを投げたのである!!

「あああああああぁ……!!!」

 

 おお、お星さまである。もみじが空に飛んで行ったのである! 楽しそうである!

 

「さてと」

「ひ、ひぃ。わ、私はじ、自分でか、帰れます、お、おかまいなく」

 

 こがさが吾輩を抱いたまま後ろにさがろうとしているのである。するとゆうぎが抱き着いてきたのである。

 

「遠慮するな、こっちのほうが速い」

「ひ、ひえ」

 

 ぎゅっとこがさが吾輩を抱いてくるのである。ぐらりと体が揺れるのである。ゆうぎがふりかぶったのであるな、

 

「いつでも地底においで」

 

 その言葉を吾輩はちゃんと聞き取ったのである。

 それからすぐに、空に向かって投げ飛ばされたのである!!

 

 




いちわちていへん(地底じゃあない) 話がのびたのである


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おほしさまにもみせるのである

ごおぉおお

 

 吾輩の耳に風を切る音がするのである。

 

「わぁああ!」

 

 こがさの叫び声がうるさいのである。吾輩はこがさに抱かれたままぐいぐいと空を上っていくのである。したをみれば地底の街のひかりがどんどん遠くなっていくのである。なんだか寂しい気もするのであるな。吾輩はしみじみと思うのである。

 これはきょうしゅうーというやつかもしれぬ。

 

「わぁああわあぁ!」

 

 ちょっとうるさいのである。こがさも地底とのお別れをするのである。遠ざかっていく地底の街に吾輩はちゃーんとあいさつをしたのである。またねを、しないといけないのである。楽しいことにはまた会いにいかなければならぬのだ。

 

 もうみえなくなったのである。

 

 吾輩はくしくしと頭をかいてみるのであるが「ね、猫さんう、うごかないで、と、とまらない」とこがさに言われたのである。そうはいっても痒いのであるが……しかし吾輩は紳士であるから、ちゃんと言うことは聞くのである。

 

 そういえば先に空のおほしさまになったもみじはどうしたのであろうか、ちゃんと地上についていたらいいのであるが、吾輩はしばしちんししこうをしてみるのである。それにしてもヤマメをたべられなかったことは残念である。

 おお、いかぬ。もみじのことを考えていたらヤマメを思いうかべてしまったのである。はずかしいのである。

 

「あ! 空」

 

 うむ? 吾輩はこがさの声におもわず空を見ようとしたのであるが、こがさのあごが邪魔で見えぬ。手でどいてくれるようにアピールするのであるが、「わ、わ」と驚くだけでこがさはどいてくれぬ。

 

ごおぉお。

 むむ、あれは出口であるな。こんなに早く帰ってこられるとは思わなかったのである。もう少しのんびりしてもよかったのやもしれぬ。吾輩とこがさはそのまま空にぽっかりとあいていた「でぐち」に飛び込んだのだ。

 きらっ

 なんだかまぶしいのである。吾輩は思わず目を閉じてしまったのである。こがさの服に顔をすりすりしてから首を振ってみるのだ、するとばっと何かを開く音がしたのである。

 

「猫さん猫さん」

 

 こがさよ、なんであるか。と目を開けてみると吾輩はぱちぱちと瞬きすることになったのである。

 

 空にいっぱいのお星さまのお出迎えである!

 

 きっと地底から帰ってくる吾輩を歓迎してくれたに違いないのであるな。それにぽっかりとお月様も顔をだしているではないか、吾輩とお月様は知り合いであるからして、ちゃんとわかっていたのである。

 わがはいとこがさはゆらゆらと降りていくのである。

 さっき開いた音はこがさが傘をばっとひらいていたのであるな。片手で空に突き上げているのである。

 

「あ、流れ星」

 

 どこであるか? ないではないか!

 

「流れ星ってはやいですよねー」

 

 きっと忙しいのである。家に帰っているのかもしれぬ。

 遠くにはぽつぽつと明かりも見えるのである、きっと人里であるな。それにしても夜風も気持ちいいのである。おお、あそこで木の枝に引っかかっているのはもみじであるな。

 

「く、くふふ」

 

 こがさが笑いをこらえているのである。もみじをちゃんと心配しないとだめなのである。そう思ってこがさのほっぺたを肉球触ろうとすると突然こがさが動いたのである。

 

「ふげっ」

 

 おお、またぱんちみたいになってしまったのである。動くからである。もうしわけないのである。こがさは吾輩をむーと見てきたのである。なあなあとこがさが抗議をしてきたから、吾輩もにゃあにゃあ返してみたのだ。いみはわからぬ。

 ゆっくりと地面に降りていくのである。

 吾輩とこがさはこみゅにけーしょんをしているのかもしれぬ。

 言葉はわからぬが、言いたいことはなんとなくわかるのである。

 

「わかった!?」

 

 こがさが言うのである。もちろんである。今度から肉球で触るときは聞いてから触るのである。

 

「よし、私が言った通りにうらめしやーって言ったら怖がるように」

 

 そういったのであるか……、まあいいのである。かんだいなこころで受け入れなくてはならぬ。吾輩とこがさはそんな形でもみじの成る木のそばに降りたのである。

 

「大丈夫? 椛」

「ひどい目にあった……はあ、こんな休日なんていやだ」

 

 もみじも地面に降りてきたのである。

 

「ふふ、もみじー」

「なんだその顔は」

 

 もみじにこがさが近寄るのである。

 

「取材活動できませんでしたね」

「……あ! 忘れてた。はあ、まあいいや。鬼の皆さまに怒られたことにしよう」

 

 そういえばしゃめいまるのおしごとをもみじはしていたのである。吾輩はあの時に絵はいいと思うのである。

 

『そうは問屋が卸しませんよ、椛』

「なっ、その声ははらぐろて、射命丸様! ど、どこに、って私の服の中から声が聞こえる」

 

 もみじがごそごそ服を探ると袖の中から綺麗な「玉」が出てきたのである。そこから何か声が聞こえるのであるな。

 

『さっき本音が聞こえてきましたね……まあそれはいいです。一部始終はちゃんと聞いておりましたからご心配なく。あなたがカメラを忘れたことも。含めてわかっておりますよー。かわいい椛の失敗です、寛大な心で許しましょう』

 

 しゃめいまるが玉になってしまったのであるな……かわいそうであるな。吾輩よりも小さいのである。

 

「……いつのまにこんなものを、申し訳ありません」

 

 もみじがしゃめいまるをもって肩を落としているのである。元気を出すのである。

 

『いえいえ。楽しい旅を満喫できたようですしね、楽しかったのでしょう。猫さんと小傘さんと旅ができて、ね? も、み、じ』

「…………………」

 

 なんだかもみじが赤いのである。こがさもくすくす笑っているのである。吾輩も楽しかったのである。

 

『まあ、絵も一枚ありますからそれで我慢してあげます。それは提出するように、破いたりしたら尋問裁判沙汰にしますね? それじゃあまた明日に』

「射命丸様……切れた……それにしても絵?」

 

 あれのことであるな。吾輩はちゃんと覚えているのである。

 

「天狗の新聞に椛がでびゅーですね!!」

 

 こがさが言うのである。

おおでびゅーであるな、でびゅーとはあれである……なんであろうか?

 

「なっ!? そ、そんな。……今すぐ破…さ、裁判!? あれが山の天狗……あるいは人里に広がる……あ、あぁ」

 

 へたっともみじが座ったので、吾輩もこがさに下ろしてもらったのである。元気出すのである、でびゅーもたぶん悪い意味ではないのである。にゃあ、と吾輩は言ってみるのである。

 

「あの絵はかわいいから大丈夫ですよ。ほらもう一回出して」

 

 こがさもその場に座ったのである。そうである、こがさよもっと、元気づけるのである。

 

「いやだ!」

「えーいい思い出じゃないですか! 猫さんもお願いして」

 

 吾輩もお願いするのである。

 

「猫、お前は私の味方だろう?」

 

 うむ、吾輩はもみじの味方なのである。

 

「猫さんは私の味方だよねっ。椛から絵をとりだして」

 

 うむうむ。吾輩はこがさの味方なのである。

 ……? どうすればいいのであろうか、吾輩はわからぬ。わからぬから、こがさともみじの両方を応援するのである。すもうであるな。

 

「この~往生際が悪い天狗~!」

「離れろ……この付喪神」

 

 吾輩はその場に座り込んでけなみのメンテナンスをするのである。これは毎日しておかねばならぬ。ぺろぺろ、こうやり始めるとなかなか楽しくて終わらぬ。

 

「とっったー!」

 

 おおこがさが絵をとりだしているのである。もみじも取りそうとしているのであるな。

 こがさが取られまいと手をたかだか上げているのである。

 

 あれなら、もみじの絵を星様に見てもらえるのである。

 




あしたはつづくよどこまでも、ということで次回からなんだろう? なにをはじめるでもなしにつづくよということで、地底編はおしまい


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けなみのめんてなんすなのである

 ……む? うむむ。

 吾輩はむっくりおきてあくびをしてみたのである。ここはどこであったかなんだかよく思い出せぬ。外でちゅんちゅん鳥の声がするのである。

 そうである! 昨日はこがさともみじと別れてから神社に来たのである。

 巫女はさすがに寝ている様子であったから、吾輩も眠ることにしたのである。楽しかった後にはすぐに眠ることができるのである。

 

 天井が目の前にあるのである。たぶん、のきしたを借りたのであるな、吾輩は昨日の記憶はあいまいである。

 のそのそ、

 吾輩は外に出るために動くのである。なんだかおなかも減ったのである。

 

 お天道様である! なんだか久しぶりと思うのであるが、吾輩はちゃんと挨拶をしてから、体をその場で伸ばしてみるのである。こういう時にのコツとしては前足をそろえてから、後ろ足を伸ばすと背筋がぐーーと伸びるのである。

 

 ぽかぽかあったかいのであるな。

 そうである! 巫女にあってこみゅにけーしょんをとらねばならぬ。そう思って吾輩はあたりをきょろきょろしてみるのである。

 誰もおらぬ。

 にまにま両手を後ろで隠してちかよってくるふとしかおらぬ。

 ……誰もおらぬことにするのである。吾輩はなんだか近寄ってきているふとに背を向けて歩き出したのである。

 

「ちょ、ちょっと待つのだ。猫よ! 我を無視するでないっ」

 

 後ろから声がするのである。

 吾輩は忙しいのである! たったか走り出すのである。

 

 とっとっと

 神社の周りを走ってみたのであるが、巫女がおらぬ。

 

「はあはあはあはあ。わ、われをむしするな」

 

 ふとはずっとついてくるのである。吾輩は仕方なく後ろを振り向いて挨拶をしたのである。するとふとは疲れた顔をあげて、ふーんと鼻を鳴らしてあごを上げたのである。なにか企んでいるような気がしてならぬ……。

 それでも吾輩とふとの仲である。まあ、仲といっても何かあったわけでもないのであるが……。

 

「ふっ、やっと観念したようじゃな。ほれほれ」

 

 ふとが吾輩の前で手のひらをひらひらさせているのである。おてをさせようとしているのであるな、ううむ?

 それにしてもまだ片手を後ろに隠しているのが怪しいのである。

 

「ほれほれ」

 

 ……ううむ。どうするべきであろうか。吾輩はおてはあまりしたいわけではないのであるが……しかし、ここまで期待されたかおをしているふとをみると、こうかわいそうな気もするのである。

 吾輩は紳士である、ここは吾輩がおとなになるのである。

 吾輩は前足を上げて、ふとの手に置いたのである。すると、ふとはきらきらした目で吾輩を見てくるのである。なんだか口をもぞもぞさせているのである。なんというか、あれであるな。

 うれしそうな顔をしているのである。

 

 急にふとがたちがったのである! 両手をきゅっと構えて……吾輩は知っているのである。これはがっつぽーずであるな。というか吾輩がびっくりするのである。

 ? 手に何か持っているのであるな、それは何であろうか。

 

「ふ、ふっふふ。この猫もようやく我の教導の成果でおてができるようになった! ついに我の努力が実ったのだ!」

 

 そこまで喜ばれると照れるのである。

 

「そあ、褒美を授けよう! ……ほら、こっちおいで」

 

 

 なんかふとも急に優しい口調になったのである。その場で座って自分の膝をぱんぱんたたいているのである。吾輩はまあ仕方なくそちらにその膝の上に乗ってみたのである。

 

「人里はずれた雑貨屋? でな外の世界でぶらっしんぐなるもののをする器具が売ってたから買ってきたやったぞ、我がこのぶらしでぶらっしんぐをしてやるっ!」

 

 ざっかやとは何のことかわからぬが、ふとは吾輩を膝に寝かせるとその手に持った「ぶらし」を吾輩の首においてずずずっと体に沿わして動かしたのである。

 

 !!!!!!!!!!!!

 ……吾輩はその場でみぶるいしたのである。な、何をするのであるか。吾輩は、吾輩は、とても気持ちいのである。

 ぞりぞり。

 ううむ、ぶるぶる。くすぐったいようなちょっと痛いようなきもするこれが、おおう。これはいいではないか。

 

「ふーふふーん。そうであろう、そうであろう! それにてもおぬしリボンなどつけてめかしこんでいるのう」

 

 ふとはなにが「そうであろう」かわからぬが、何か言っているのである。そんなことよりももっとしてほしいのである。

 

「それはともかくかくごするが……い、い……?」

 

 手が止まっているのである。ふとよ、にゃあにゃあ。いかぬいかぬ、あまりのきもちよさに我を失っていたのである。しかし途中で止められると困るのである。なんで止まっているのであろうか。

 吾輩も止まったのである。

 なんかふとの真横で少女が寝ているのである。緑の髪をした赤い服の少女であるな。頭に角が生えているからして人間ではないのである。

 

「あっ!? 私もやってもらってもやぶさかではないですよ」

 

 期待した目をしながらなにか言っているのである。

 

「な、なんだおぬしは! いきなり現れてっ!」

「挨拶まだでしたね。こんにちは」

「あ、これはご丁寧にこんにちは……て、そんなことじゃなーい!」

 

 おおふとよそれはのりつっこみというやつであるな!

 

「いやだなぁ。いつも会ってるじゃないですか。高麗野ですよ」

「お、おお久しぶり……いや、我は知らぬ! あったことないぞ!」

「ひどーい。まあ、それよりも最近守ってばかりでぶらっしんぐなんて、ちら。興味深い。ちら。ことを聞いて、ちら、思わず」

 

 すごいちらちらしているのである。吾輩もこのこまののことは知らぬはずであるが、なんでであろうかよく知っている気もするのである。ううむ?

 

「さあさあ、遠慮なく」

 

 おお、こまのがふとににじり寄っているのである。

 ふとよ吾輩をぶらっしんぐするのである! ふとはきょろきょろと吾輩達を見比べているのである。

 

「わ、我は……この……ぶらっしんぐを……思ったのじゃ……」

 

 汗を流しながらこごえで何かふとが言っているのであるが、よく聞こえぬ。こまのはさらにふとに近寄ってくるのである。吾輩も負けてはおれぬ。吾輩はふとのひざ元でたちあがり、ふとに目で訴えるのである。

 

 すると、こまのも立ち上がって強い目でふとを見ているのである。

 

「う、うう」

 

 ふとの眼がおよいでいるのである。

 吾輩をブラッシングするのである、……いまなんか、うまく言えたかもしれぬ! ぶら、ぶらっしん、ぶらっしんぐダメである……。

 

「仕方ないなぁ。じゃあこうしましょう。その猫さんが先客でしたから、先にしてもらって。その間は私がしっかり守っておきます」

「ま、守……まもる? な、なにいっておるのじゃ?」

「さあ、さあ。後は任せて早く。あ! 終わったらお願いしますね」

「う、うむ」

 

 よくわからぬが吾輩をぶらっしんぐしてくれるのであるな! 大歓迎なのである。吾輩はにゃあと言ってから、ふとの膝の上で長くなって寝転んだのである。

 

 ごりごりごり

 おお……ぉお、なんだかこまのがちらちら見てくるのであるが気にしてはおれぬ。おおぉ、気持ちいいのである。

 

「……まあ、いいか」

 

 ふとが何か言いながら吾輩にぶらしを当てるのであるが、気持ちよくて聞き取れぬ。しっぽが勝手に動くのである。

 

「おお、猫よ気持ちいいのであろう、そうであろう」

 

 ふともうれしそうで吾輩もうれしいのである。

 

「最近皿を割りすぎてへったおこづかいをはたいて買ったのじゃ。喜ぶがいい!」

 

 すっすっ。

吾輩はとてもうれしいのである。うずうずとこまのが吾輩に言うのである。

 

「あっ! 代わってもらってもいいですよ?」

 

 まだいやである!

 



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どうしてもおこしたいのである

ねこはあきらめないのである


 今日はお散歩日和である。

 吾輩はここちよい風の吹く道を歩いていくのである。

 今日は吾輩の毛並みがさらさらとしているのである。これもふとのおかげであるな、たまにはいいことをするのである。

 

 吾輩はいつも思うのである。なんで空は青いのであろうか? ううむわからぬ。何度考えても分からぬのである、吾輩はその場に立ち止まってくしくしと後ろ足で首をかいてみるのである。何かいい考えが浮かぶかもしれぬ。

 いや、浮かばないのである。空に聞いてみたいのであるが、空の耳がどこにあるのか吾輩にはわからぬ。それに遠すぎるのである、今度もみじに空のところまで連れて行ってもらえぬであろうか?

 お空の散歩は前もしたのであるが、結構楽しいのである。

 しかし、なぜ空は青いのであろうか、ううむ。

 吾輩が深くそんなことを考えていると、吾輩の前で刀を持った誰かが止まったのである。もしかしたらもみじかもしれぬ。吾輩はそちらに目を向けたのである。

 

「あ」

 

 おぉ、ようむではないか。手に持っている袋は何であろうか。

 

「おまえ、どこにでもいるわね。幽々子様のお饅頭のお使いの帰りに会うなんて、奇遇というかなんというか」

 

 お使いの帰りであるか、吾輩もそのおまんじゅうをひとつほしいのである!

 吾輩はようむにそういってみると、ようむはいったのである。

 

「ねこはいいなぁ。気楽そうで……何考えていつも生きているのかな?」

 

 今は空がなんで青いかを考えていたのである! ようむは何か知っているのであろうか。

 

「……どうせ、今日のごはんのことでも考えてたのかも」

 

 いや、別に考えておらぬ。しかしそういわれるとちょっとおなかが減ったのである。ようむよおまんじゅう……。いや、なでなではいいのである。おなか減ったのである。

 

「はあ、幽々子様もそろそろおなか減らしているだろうなぁ、帰らないと」

 

 ようむはそういうと吾輩にかるくおじぎしてから「何猫におじぎなんてしたんだろう」と独り言を言ってどこかに行ってしまったのである。ついていこうか悩んだのであるが、吾輩はやめておいたのである。

 ついていったらきっとゆゆこと遊んでしまってたのしくて帰れなくなる気がするのである。吾輩はその場でふるふると体を揺らしてみるのである。それにしてもおなかが減ったのである。

 草むらには何もないのである。

 人里に行ってみるのもいいかもしれぬが。

……たんぽぽである。なんか目に入ったのである。

まっきいろなその花のまわりを吾輩はなんとなく回ってみるのだ。はっ、なんでこんなことをしたのであろうか。わからぬ、風に揺られているたんぽぽに吾輩は聞いてみたのであるが、なにも答えてはくれぬ。

 

「……おーい」

 

 びくっ。

 吾輩が驚いて振り向くとそこいたのは赤いリボンの少女である。巫女ではないのである。白い髪をしたもこおであるな。前に一度会ったことがあるのである。だから吾輩は背筋を伸ばして挨拶をしたのである。

 

「……おなか減ったなぁ」

 

 吾輩もであるが、ちゃんと挨拶をするのである。

 それにしてももこおはなんで吾輩に話しかけたのであろうか、髪が風に揺れているのである。もこおは草むらに座り込んで吾輩を眺めてきたのである。照れるのである。

 

「たんぽぽかぁ。一応食べられるんだよなぁ。さすがに今はいらないけど」

 

 そうなのであるか? 吾輩はたんぽぽを食べようとしたことはないのであるが、もこおは食べたことがあるのであろうか。いがいとものしりである。

 そう思っているともこおはごろんとその場に寝転んだのである。お昼寝であろうか吾輩もお昼寝したいのである。なんとなくもこおの真似をして仰向けでころんと寝転んだのである。

 

 もこおは両手をひろげた枕を頭に空を見ているのである。

 

「ねえ、あの雲」

 

 雲はいっぱいあるのである。もこおがどれを言っているのかよくわからぬ。吾輩はねころんだままもこおを見るのである。

 

「……なんでもない……ふぁーあ。ねむたいなぁ」

 

 ……気になるのである。どこの雲がなんなのであろうか、吾輩はとても気になるのである。もこおよ。教えてほしいのである。なにがくもがどうしたのであろうか? 眠ってないで答えてほしいのである。

 吾輩は体を起こして、ねむっているもこおの顔を舐めてみるのである。

 

「ううん……」

 

 手でどけられたのである。

 吾輩は負けぬ。起きてほしいのである。もこおの胸の上に乗っかってみるのである。

 

「おもい……」

 

 起きてほしいのである。

 おきぬ……どうすればいいのであろうか、吾輩は悩むのである。ほっぺたを肉球で押しても、顔を舐めても起きてはくれぬ。というかそのたびに手でどけられてしまうのである。しかし、吾輩はあきらめぬ!

 くものことがなんとなく気になるのもあるのであるが、もこおを起こし始めたのを最後までやりたいのである。なぜかはわからぬ。

 

「ああ、もう……。眠いから、静かにしてぇ……」

 

 くものことを聞いたら静かにするのである。吾輩とあそんで……いやいや、お話を最後までしてほしいのである。吾輩はもこおの周りをまわってみて、なんとか起きてくれぬかと思うのである。

 足を組んで寝ているのであるな。足にすり寄ってみてもおきぬ。吾輩はごうをにやしているのである。しかしごうとはなんであろうか? ごうがにやにやしているというときっと笑っているのかもしれぬ。笑うのはいいことである。

 

 吾輩はまたもこおの顔のそばに来たのである。「起こすなよ……」と聞こえてきたのであるが、気のせいであろうか? いいのである。吾輩はどうしても起こしたくなってしまうのっである、この気持ちは吾輩にもよくわからぬ。

 吾輩が一歩前にすすむともこおが「ぐるる」とのどを鳴らしているのである。なんか怖いのである。ううむ。どうすればいいのであろうか、胸の上に乗ったらすぐに降ろされてしまうのである。安定して乗りやすいのであるが……仕方ないのである。

 

 なんとなく耳を舐めてみるのである。

 

「!! ひゃ」

 

 もこおがはね起きたのである!

 吾輩もびっくりしてはねたのである。もこおが赤い顔で吾輩をにらんでいるのである。

 

「いたずら猫……」

 

 もこおも悪いのである。とても気になることを言っていきなり寝るのはいかぬ。ちゃんと答えて寝てくれねば吾輩も安心してお昼寝できないのである! これはせいとうな理由があるのである。

 

 しばらく吾輩と見つめあってからもこおはかっくり肩を落としたのである。

 

「猫と何を対抗しているんだ私は……まーいいか。よいしょ」

 

 もこおがその場で立ち上がっておしりをぱんぱんとはたいているのである。ちょっと耳たぶをつまんでもみもみしているもいるのである。痛かったのであろうか。もしそうなら悪かったのである。

 そういえば、吾輩もおしりをはたいた方がいいのであろうか、しかし吾輩はおしろのはたき方がわからぬ。その場でクルクル回ってみても吾輩の尻尾しか見えぬ。

 

「なにやっているの? ……今から慧音のところにでも行こうかな、おなか減ったし」

 

 吾輩も行くのである! 吾輩はぴったりクルクル回るのをやめてもこおのそばに近寄ったのである。もこおは両手をぽけっとにいれて、空を見上げながら歩いていくのである。

 

 吾輩も一緒に行くのである。お散歩は大勢の方が楽しいのである。

 もこおはたまに吾輩に話しかけてくるのでちゃんと吾輩はにゃあと答えておくのである。

 遠くに人里が見えるのである。

あれは白い煙が立ち上っていくのはごはんを作っているからだと吾輩ともなれば知っているのだ。

 



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ごはんをいっしょにたべるのである

 吾輩はてらこやの門をくぐったのである。

 そういえばこがさと一緒に遊んでのもここであった。なんだか懐かしいのである。こがさはよく遊びたがるから吾輩がちゃんとあそんでやらねばならぬ。おとなのつらいところであるな。

 

 てらこやのなかは静かである。今日は誰もおらぬのかもしれぬ。

 と、思っていると玄関から頭巾をかぶったけいねがひょっこりと顔を出したのである。吾輩はすぐに見つけてみゃあみゃあと挨拶をするのである。

 

「ああ、来たのか」

 

 けいねはゆっくりと笑って、吾輩を手招きした。吾輩はその後ろをついていこうとして気づいたのである。たてものの中に入るときは足を拭かねばならぬ。

 吾輩は紳士であるから、そのあたりはうるさいのである。

 というよりも昔怒られたのである。

 でも自分で足は拭けぬ……けいねよ助けてほしいのである。吾輩は声を上げて助けを求めたのである。

 

「わるい、わるい」

 

 くすくす笑いながらけいねが戻ってきて、ちゃんと足を拭いてくれたのである。ありがとうなのである。それにしても足を拭かれているとなんだか、気持ちいいのである。

 

「ほんと、その猫は慧音になついているのね」

「妹紅?」

 

 けいねはまたくすくす笑いながら玄関の外に立っているもこおを見たのである。

 

「なんだか最近この子と妹紅は一緒にくるね。仲良くなったのか?」

 

 吾輩はもこおとはともだちなのである。ヤマメをくれたことを吾輩はちゃんと覚えているのである。もこおは頭をかきながら、「んー」と何か考えているのである。

 

「まあ、そんなとこかな」

 

 なんだかなげやりなのである。吾輩は綺麗になった足でしっかりと立って、首を振るのである。吾輩ともこおはとても仲良しなのである。一緒にやまめを食べたことは忘れてはならぬ。

 

「それより」

 

 それよりといいながら、もこおがおなかをさすっているのである。

 

「あー、えっと」

 

口を小さく開けてぱくぱくしているのである。なんであろうか。

 もこおがそっぽを向いているのである。吾輩にはよくわからぬ。ううむ、何が言いたいのであろうか、吾輩はけいねにご飯をもらいに来たのである。けいねよどういうことであろうか、そう思って吾輩がけいねを見上げると、けいねも首をかしげているのである。

 

 うむ? けいねがぽんと手をたたいて笑ったのである。

 

「ちょうどいいところに来た。私は今からお昼にしようかと思っていたんだ。どうだろう妹紅、私ひとりじゃ味気ないし、食べていってくれないかな?」

「…………さすが寺子屋の先生ね。ごちそうになるわ」

 

 もこおが両手を上げているのである。吾輩は知っているのであるそれはこうさんのぽーずであるな。吾輩はよくわからぬが勝ってしまったのである。けいねよ吾輩もごちそうになりたいのである。

 そう思ってけいねの足元でしばらく鳴いてみると、けいねは「わかっているから」とにっこり笑っているのである。なんだか今日はよく笑う日であるな。そういう日はいい日なのである。

 

「ふふふ」

 

 しかし今日のけいねは不気味である。こう、なにかを企んでいるような顔をしているのである。

 

「お前が来るかもと思って、今日はすごいものを手に入れているんだ」

 

 すごいものであるか?

 

 

「外の世界の猫のごはんでか、かりかりだったかな?」

 

 ☆

 

「いただきます」

 

 もこおとけいねがまーるいテーブルに向かい合って座っているのである。その上にご飯とみそしるがほかほか湯気を立てているのである。あとは漬物であろう。吾輩はごはん以外は食べたことはないのである。

 

「ほら」

 

 畳で寝そべっていると、けいねが吾輩にもお茶碗をくれたのである。中には「かりかり」が入っているのである。吾輩はこれを食べたことがあるのである。りんのすけがたまにくれのである!

 ……かり……かり。うむうむ。おいしいのである!!

 

「いっぱいたべろ……。いいこいいこ」

 

 けいねはそう言って吾輩をなでなでしてくれたのである。これをいたれりつくせりというのであろう、吾輩はわかっているのである。もこおよ、ちゃんと食べているのであろうか。

 

 もぐもぐ。もこおもご飯を食べているのである。ちらりと吾輩を見ているのである。なんとなく寂しげな顔をしているような気もするのはどうしてであろうか。

 

「猫ってたまにうらやましい気もするわ」

 

 おお、もこおがぱるすぃと同じようなことを言っているのである。

それを聞いたけいねは膝でもこおに近づいて行って、その頭にぽんと手を載せてなでなでし始めたのである。

 

「いいこいいこ」

「いや、そういう意味じゃないけど……。わかってやってるからたちが悪いなぁ」

「なんだ、猫がうらやましいってそういう意味かと思ったよ。かりかりでも食べる?」

「おいしいの? 一つもらっても」

「いや、冗談! 本気にしないでくれ」

「……わかってて言った」

 

 くすっともこおが微笑んでからけいねもくすくす笑い出したのである、

吾輩も笑いたいところであるがこれを食べるのに忙しいのである。

 かりかり……かりかり……かりかり……?

 このお茶碗は端っこが欠けているのであるな。いや、別にどうということもないのであるが、かりかり。もこおよりも早く食べる勝負である! 吾輩はおいしく食べて勝つのである。

 

「ごちそうさま」

 

 もこおが言ったのである。吾輩はびっくりしてそちらをみると、お茶をすすっているもこおがいるのである。負けたのである。ううむ。別に悔しくはないようなきもするけど、くやしいのである。

 けいねはまだ食べているのである。さっきちょっと台所に行っていたのである。

 

「ねえ、慧音。ごちそうさまって……猫は言うのかしら?」

「……いきなりね。私に聞くよりも猫に聞いてみた方が速いんじゃない?」

「そうかな。おい。猫。ごちそうさまって猫語でなんていうのかしら?」

 

 吾輩に言っているのであるな。ごちそうさまがごちそうさまである、吾輩はしっかりと説明をするのである。

 

 にゃぁー、にゃー。

 

「なるほど」

 

 わかってくれたようであるな、吾輩はコミュニケーションのてんさいになってしまったかもしれぬ。これもさとりのおかげである。そういえば巫女とはまだあっておらぬ。後で会いに行くのである。

 

 ぱんっ!

 驚いたのである。見ればもこおが両手を合わしているではないか、なんであろう。

 

「にゃぁー、にゃー……やってみたけど恥ずかしいわね」

「いや、かわいいよ」

 

 いきなりなんであろうか? わけがわからぬ。吾輩は食事中におおきなおとをたてぬようにげんじゅうなこうぎをもこおにしたのである。

 

「ん? まだご飯食べてないじゃない。あとで遊んであげるわ」

 

 近寄ってみるとそういわれたのである。すべてを食べると遊んでくれるのであるな!

 

「慧音。隣の部屋を貸してくれないかしら?」

「ああ、どうぞ。お布団敷こうか?」

「座布団1枚貸してくれたらいいわ」

 

 そういってもこおがあくびをしながら隣の部屋に行ったのである。話が違うのである! 吾輩と遊んでくれる約束をいましたのである!! ううむ、ううむ。さびしい。

 

「おや? おまえ。お茶碗」

 

 けいねが吾輩のお茶碗をひょいと持ち上げたのである。まだ、食べ終わってはおらぬ。

 

「欠けているね。これを使うと危ないなぁ。代わりのお茶碗なんてないし……」

 

 けいねがお茶碗を置いて吾輩を抱っこしてきたのである。顔をずいと近づけてくるのである。なんだか甘いにおいがするのであるな。けいねはお菓子と友達かもしれぬ。

 

「私とお茶碗を買いに、でーとしようか?」

 

 よくわからぬがお散歩は大歓迎なのである!

 






もこおはなにも言わぬ。ばめんばめんの心情をわかってくださるとうれしい


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わがはいはかおがひろいのである

 とてとてとて、ちら。とてとてとて、ちら。

 

 吾輩は歩いては後ろを振り向くのである。ちゃんとけいねが付いてきているかを吾輩はとても気になるのである。けいねはにこにこしながら吾輩の後ろをついてくるのである。手に包みをもっているのはお財布だといっていたのである。

 

「もしかして、待ってくれているのかな?」

 

 そうである! 吾輩は置いて行ったりはせぬのである。そう思ってちからづよくけいねをみると、けいねも腰をまげて吾輩を見下ろしてきたのである。 

 

「ちゃんとエスコートしてくれるのか? んー?」

 

 任せるのである! えすこーとは得意なのである。それに吾輩はちゃんとお散歩できるのである。さあ、こっちである。

 

「こらこら、そっちは逆方向だから」

 

 ううむ、間違ってしまったのであるな。けいねが呼ぶのでにゃあと言って近づいていくのである。そっちであるか、とてとて。けいねについていくのである。

 人里のことは吾輩は大好きである。吾輩は顔が広いからしていろんなものを知っているのである。あの曲がり角の先でよく遊んでいるこどもは吾輩と追いかけっこが好きなのである。

 あの家のろうじんはいつもしょうぎをしているのである。吾輩は一度だけろうじんに抱っこされてしょうぎをしたことがあるのである。こう、駒をばらばらにして、倒さないように外にもっていくと勝ちなのである! 吾輩はたいへん褒められたのである。

 おお、あそこの家の前で水を撒いているのはよく吾輩にご飯をくれるおなごであるな。今日はけいねとお散歩であるから、今度寄るのである。

 

「なんだかきょろきょろしているな」

 

 けいねが立ち止まって、吾輩の前にしゃがんだのである。それからつんつんと吾輩の鼻をつつくではないか、くすぐったいのである。ぶるぶる。

 

「お前はいつもどこで何をしているのかしら? いつもいつもひょっこりと現れてはどこかにいくけど」

 

 吾輩はいろんなところが大好きだから、いろんなところに行くだけである。そういうことを、にゃあと伝えてみてもけいねはくすりとして立ち上がっただけである。なんだか寂しいのである。

 

「実は、結構人里でもお前のことを知っている人がいるんじゃない?」

 

 吾輩は知り合いは多いのである。しかし、こみゅにけーしょんは難しいのである。そこのところが悩みであるな。

吾輩はくしくしと首元をかいてみるのである。思案することは多くあるのであるが、かゆいときは痒いのである。けいねがふっと笑って「いこっか」と言ったから、吾輩もそのあとをついていくのである。

 

「そうそう、この前な。人里の貸本屋で売られている新聞に猫の話があったよ」

 

 ふむ? しんぶんであるか。吾輩はよく読んだことはないのである。いつかは読みたいものであるな。

 

「なんだかつたないけどかわいい絵で……傘を持った女の子と猫。そんな天狗の絵が掲載されていたなぁ。なんでも地底旅行だってね。……くく、天狗があんなかわいい絵を描いたと思うと」

 

 それはもしかして、もみじの絵ではないでないであろうか! 吾輩はなんとなくうれしいのである。けいねに褒めてもらえているのである。

 

「最近は貸本屋で新聞を買う人も多いらしいから、みんな見ているのかもなぁ」

 

 独り言のようにけいねがいうのを、吾輩はうむうむと聞くのである。できるだけ大勢にみてほしいのである。たぶん吾輩とこさがの絵である。もみじにも絵のさいのうがあるのやもしれぬ。

 

「それでね」

 

 そうやって、けいねは歩きながら吾輩に語り掛けてくるのである。

 吾輩はそれがたのしくて、ついつい足元をあるくものであるから、たまに足が当たりそうになってしまうのである。それでも吾輩はこういうお散歩は吾輩は大好きなのである。

 

「おっと、いけないな。お茶碗を買うんだったわ」

 

 気が付いたようにけいねは立ち止まったのである。吾輩も立ち止まるのである。

 胸をぴんと張って、上を見るとけいねの帽子の先がゆらゆらしていて、吾輩も帽子がほしい気がするのである。

 

「ちょいとちょいと、そこのお姉さん」

 

 けいねを呼ぶ声がするのである。振り返ってみると大きな木の籠を背負ったおなごがいるのである。声でわかるのである。背は小さいのであるが、吾輩よりは大きい。

編み笠を深くかぶっているので吾輩にも顔がわからぬ。下から見ると髪が青いのである。

 

「私ですか?」

「そうそう、あんた以外誰がいるのさ」

「なんだ、行商人か」

 

 なんだか怪しいのである。吾輩は騙されないのである。もしかしたら、あれである。なんであろう? よくわからぬが、とりあえず足を舐めてみるのである。

 

「にゃっ! な、なんだこの猫」

「ああ、悪い悪い。こら、めっ」

 

 めっ。と言われてしまったのである。しかし、なんとなく妖怪のような気がするのである。吾輩の勘の鋭さは自信があるのである。まあ、だいたい髪の色が人里で目立つようなら、妖怪である。

 

「なんだよ、もう。あんたの猫か? 最近は猫を連れてどこかに行くのが流行っているらしいね。捨ててある新聞を拾ったけど、天狗が地底に猫連れて行ったんだって?」

「ああ、私もさっきその話をしていたところよ、なんでも鬼とお酒の飲み比べをしてべろんべろんになった天狗だとさ」

「はっ、地底の鬼になんて会いに行くなんて物好きだなぁ」

「そうだろうな、河童にとっては昔の上司だったか?」

 

 編み笠をかぶった女子が一歩下がったのである。編み笠を指でつまんであげると、片目をぎらりとさせてけいねを睨んでいるのである。吾輩も負けずに間に入るのである。けいねをいじめるのは許さないのである。

 

「私が河童だって?」

「いや、すまない。言葉の綾よ。河童はよくイベントをするから、貴方に似た河童もいた気がしただけだから。その河童は人里で大暴れもしていた気がするけどなぁ」

「……あはは。迷惑だなぁ、間違えてもらっちゃ困るよ。妖怪が人里をうろうろしているなんてあるわけないじゃないか。河童はおとなしくて、お淑やかなんだぜ」

 

 あはは

 なんだか二人して笑っているのである。吾輩は安心したのである。ということはこの青い髪のおなごも妖怪ではないのである。本人がそう言っているからして、信じてあげるのである。

 

「まあ、何でもいいけどさ。ほらこれあげるよ」

 

 編み笠がぱらっと紙をけいねに渡してきたのである。けいねはそれをまじまじと見つめているのである。

 

「へえ、明日陶器市をするのか。……郊外ね。『妖怪が出てもおかしくないような』場所でなんでまた……きゅうりは3本まで……なんだこれ」

「疑い深いね。何の変哲のもない陶器市だよ? 格安でいいお茶碗も手に入れることができるさ。ぜひ来てくれよ」

 

 そういうと編み笠は笠をちらっと上げて、にやっと笑ったのである。けいねもくすくすしているのである。

 

「そうだなぁ。この猫のお茶碗がほしいのだけど、どうする?」

 

 けいねが聞いてきたのである。吾輩は耳をぴくぴくさせてみるのである。

吾輩はどこにでも行くのである。そして、すぐにみゃあ、みゃあと答えたのである。力強い返事に。編み笠もよしっと「来るってさ」と言ってくれたのである。おお、編み笠には吾輩の言葉が通じているのかもしれぬ。

 けいねともお話できればいいのであるが。吾輩悩ましいところである。

 

「それじゃあ、ちゃんと来てね」

 

 編み笠はそれだけ言うとどこかに行ってしまったのである。

 取り残されたけいねは吾輩に言うのである。

 

「今日はお茶碗がないね……ヤマメでも買って帰ろうか?」

 

 !!!!! うむうむ。

 





おちゃわんを買う程度の話だったのに、陶器市にいくていどの話になったのである。

誰がくるでしょう


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あたらしいあさなのである

パーティー編成


 吾輩は満足である! 

 人里からの帰りにけいねはなんとやまめを2匹も買ってくれたのである。吾輩は今日はおなかが膨れて何も考えることができぬ。

 だからこうしてけいねの家でごろごろしているのである。明日はよくわからぬが陶器市に行くというので吾輩楽しみである。なんといっても吾輩は知らないことをする時には楽しいことがあるというのをちゃんと知っているのである。

 

 ごろごろごろ。吾輩は畳が好きなのである。外を見ればもう真っ暗であるな。ほうほうほう、と鳥の鳴き声が聞こえてくるのである。……それよりも、ろうそくのある部屋から外を見るといつもより暗く見えるのはなんでであろうか。ふしぎである。

 

「あれはフクロウかな?」

 

 けいねよ、あの鳴き声はフクロウではないのである! むむむ、これは吾輩がせんせいになれるちゃんすであるな。吾輩が教えてあげるのである。

そう思って丸いテーブルによりかかってお茶を飲んでいるけいねに近づくのである。吾輩になんでも聞くのである。

 

「どうしたの? もう眠たい?」

 

 背中を撫でられると吾輩は、うむ。ぶるぶる。眠たくなってしまうのであるが、そうじゃないのである。

 

「妹紅も泊っていけばよかったのにね?」

 

 きっと忙しいのである。今度会ったらもう一度おさんぽしたいものであるな。

 けいねはさっき吾輩とお風呂に入ったから手があったかいのである。そこ、そこであるな。いいのである。そういえばさっき吾輩はけいねに何を言いに来たのであったか……まあ、いいのである。

 

「うん、もうおまえも乾いたな、明日は朝から出かけるからもうお休みしようか?」

 

 けいねはそう言って吾輩を抱くと、ろうそくの燭台を片手にもって寝るところにぺたぺたと廊下を歩いて移動したのである。吾輩はどこでも眠れるのであるが……。

 そういえばけいねは白い寝間着になっているのである。巫女も寝るときは着替えるのであるが、吾輩も寝間着を用意した方がいいのであろうか……ううむ。

 吾輩がそう思って深い考えに耽っているとけいねの部屋についたのである。お布団が敷いてあるのである。けいねはお布団の傍らに吾輩をおろすと、ろうそくをふっと消したのである。

 それ吾輩もやりたいのである!! そのふっとするの、吾輩もやりたいのである。なんだか楽しそうである、

 

「こらこら何も見えないのににゃあにゃあ言っても分からないよ」

 

 ? 見えるのである。暗い方が吾輩いい時もあるのである。もしかしたらけいねは目が悪いのやもしれぬ……心配である。

 けいねは布団の上に座り込んでから手探りで中に入ったのである。髪をまとめているのがねこじゃらしみたいであるな。

 

「おいで」

 

 けいねがふとんを上げたので吾輩はするりと入り込むのである。うむ、なかなかのいごこちであるな、吾輩は布団の中で目を閉じたのである。

 

「おやすみ。ゆたんぽ代わりにちょうどいいよ」

 なーお。あったかいのである。

 

 

 やまめ、やまめ……ううむ。うむ? 夢であるか……。こがさとふとにやまめを取られそうになった……怖い夢である。

目の前が真っ暗である。

ここはどこであったか、なんだかいい匂いもするのである。吾輩はもそもそとそこから移動してやっとわかった。前の前ですうすう寝息を立てているのはけいねである、吾輩はほっぺたをぷにぷにしようとして、やめておくのである。

 吾輩は紳士であるから寝ているけいねを起こすことはせぬ。もこおは、まああれである。遊んでほしかったのである。

 

 吾輩はそろりそろりとけいねを起こさぬように、脱出するのである。

 

「う、うーん」

 

 ビクっ

 ……寝返りをしただけであるか、吾輩びっくりしたのである。まあ、いいのである、もう完全に目が覚めてしまったのであるからして、外に行きたいのである。吾輩は布団をふみふみしてから抜け出すのである。

 さて、どうやって出ようか、と吾輩が考えていると綺麗に張られた障子が目に入ったのである。白いぱりっと割れるあれであるな……。頭をいれて破るといい音がするのである。

 

 うずうず

 にじりにじり

 うずうず

 

 はっ! いかぬいかぬ。吾輩はやらぬ。ちらり。うむむむ。誘惑には断じて負けぬのである。怒られてしまうのである。

 吾輩はそのあたりをうろうろしているとふすまの間が空いているのである。そこに前足をいれて体をいれると、おお開くのである。そこから廊下に出たのである。

 

 寒いのである。廊下の床も吾輩は冷たいと思うのである。吾輩はふるふる体を震わせたのである。ちょっとお布団にもどりたい気もするのであるが……。

 それでも吾輩は渡り廊下にきて庭に降りたのである。ここは出るのも入るのも簡単であるが、けいねはちゃんと入ってきなさいというのである。今日は出るだけであるからいいのである。

 

 空が青いのである。うむむ、なんといっていいのかわからぬ。なんだかお山のあっちの方が明るいのである。それにしても静かであるな。

 くしくし。落ち着いて毛並みのめんてなんすができるのである。こう、1日でも怠ってはならぬのである。

 ? 屋根の上に誰か座っているのである。危ないのである。吾輩もよく屋根の上にはあがるのであるが、素人が昇ってはならぬ。

 吾輩はにゃあにゃあと読んでみると人影がこっちを見たのである。朝の風に赤いリボンがゆれて、にっと歯を見せて笑っている少女である。短い金髪がうっすら朝日に輝いているのであるが、ふわふわとこちらに降りてきたのである。両手を伸ばしているのである。

 なんだ妖怪であるか。けいねの家に妖怪も来ているのであろうか。

 

「のんびりしてたら、夜が終わっちゃった」

 

 そうであるか。何か言いながら少女は吾輩の前にすとんと降りてきたのである。ばっと黒いスカートが揺れたので思わず吾輩がパンチしてしまったのである。

 

「ちょっ、ちょっと破ける」

 

 すまぬ……わざとではないのである。この少女意外とおしゃれに気を付けているのかもしれぬ。スカートを指でつまんで破れてないか見ているのである。吾輩がにゃあというと、少女は赤い目で吾輩を睨みながら両手を上げたのである。

おお、見上げたついでに空にいい雲が飛んでいるのである。

 

「たべちゃうぞ」

 

 ……吾輩雲は好きである。今日もいい日になりそうであるな。

うむ? 少女よ大きな口を開けて何をしているのであろうか、すまないのである何も聞いていなかったのである。

 なかなか歯並びがいいのであるな……。いや、どうでもいいやもしれぬ。なんだか少女は固まっているのである。もしかしておなかが減っているのであろうか? なんだかかわいそうである、

 

 そうである! 吾輩はたったか走り出したのである。少女も「ど、どうしたの」とついてくるのである。

 吾輩は外からけいねの部屋に雨戸をかりかりするのである。ごはんがほしいのである。

 

「……う~ん。朝早くからどうしたんだ。おなかが減ったのか?」

 

 けいねがからから雨戸をあけて顔を出したのである。

 

「うわっ、なんだルーミア……だったか? なんでここに」

「しーらない。朝になりそうだから休んでただけだもの」

 

 ふーん。と言いながら少女……るーみあがそっぽを向いたのである。吾輩はその足元でごろごろ鳴いてみるのである。おなかが減ったまま我慢してはならぬのである。

 吾輩がみると、けいねはふっと笑ったのである。

 

「ご飯をお茶漬けにして食べていかないか? ルーミア」

 

 るーみあは振り向かずにどこかにむけて「そーなのかー」と言ったのである。吾輩からはちょっと笑っているのが見えるのである。

 




けいねとのふろはかっと


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あたらしいともだちなのである


あらすじ

陶器市を前にけいねの家にお泊りしたわがはい、早起きしたら偶然るーみあとであう。るーみあはけいねに朝ご飯をおごってもらうことになったのだ(はしょりはしょり)




 ずずーと音を立ててるーみあがお茶をすすっているのである。

 吾輩達は起きてきたけいねにご飯を作ってもらって満足しているのである。ううむ、こういう場合はでりしゃすというのである。るーみあはおちゃづけなるものを食べていたのである。るーみあの前には空になったお椀が重ねているのであるな

 

 るーみあが湯飲みをおろして、ふうと息を吐いたのである。吾輩もにゃあと声を出してみたのであるが、特に意味はないのである。

 お茶をみていると白い湯気がもやもやしてて飽きぬ。吾輩は好きである。

煙もいろんな形があることを吾輩はちゃんと知ってるのである。しかし、お茶を飲んだことはないのである。吾輩はたまには飲んでいいかもしれぬ。けいねよ吾輩にもほしいのである。

 

「にゃあにゃあ、何を言っているの?」

 

 るーみあは一人だけお茶を飲み終わると、ぺろりと口周りを舐めながら言うのである。吾輩もお茶を飲んでみたいのである。そうるーみあに説明すると、赤い目をぱちぱちさせながら吾輩の尻尾をふにふにし始めたのである。

 

「猫ってたべられるのかー?」

 

 食べられないのである! 吾輩は食べ物ではないのである。そういうことを言うのであるなら吾輩も考えがあるのである! 吾輩はるーみあにちかよって、服をかみかみしてみたのである。まいったかっ。

 

「んー」

 

 るーみあが吾輩のお腹をなでなでしてきたのである。うむ、このくらいにで勘弁しておいてやるのである。ううむ、そこであるな。吾輩は仰向けになってみるのである。

 ふとるーみあの手が止まったのである。

吾輩はちらっとるーみあを見るのである。するとすぐになでなでが始まったのである。しかし、すぐに止まってしまうのである。だから吾輩はもう一度ちらっとみるとるーみあはなでなでしてくれるのである。

 

「きもちいいのかー?」

 

 うむ、気持ちいいのである。それにしてもけいねはどこに行ったのであろうか、吾輩にもお茶がほしいのである。

 

「なんだ遊んでいたのか」

 

 噂をすればけいねが部屋に入ってきたのである。吾輩はるーみあと遊んでやっていたのである。こういうことをちゃんとするのが紳士であるからして、怠ったことはないのである。……ふとのことはたまに無視してしまうのであるが反省するのである。

 

 けいねはるーみあの近くに座って、吾輩を抱っこしたのである。

 

「今日はこのこと一緒に陶器市に行く予定なんだ」

「とうきいち? そうなんだーいってらっしゃーい」

 

 るーみあよ、なんだかどうでもよさげであるな。

吾輩はみゃあとけいねに聞いてみたのである。るーみあはなんでそっけないのであろうか。けいねを見るとくすりとしているのである。

 

「お前もよかったら来るか? 人里から離れた場所でやるから紛れ込んでも大丈夫と思うけど」

「興味ないわ」

「……そうか、なあ。ルーミアは興味がないようだ。どう思う?」

 

 吾輩にけいねが聞いてきたのである。ううむ、これは難しい問題であるな。吾輩はみんなで行くのにはやぶさかではないのである。るーみあよきっと楽しいのであるからして、ついてくるのである。なに心配はいらぬ。吾輩が付いているのである。

 

 にゃあにゃあ

 

「……と、この子もこう言っているんだがどうする? ルーミア」

「いや……私は猫の言葉なんてわからないんだけど。そもそもなんで私を連れていきたいの?」

「そうだな、これも何かの縁かなと思って誘ってみたんだけどな。なあ?」

 

 なあ、と吾輩に語り掛けてこられたのである。

 けいねは吾輩をじっと見てきたのである。吾輩もけいねの眼をしっかりと見つめるのである。にらめっこなら負けぬ。……うむ、勝ったのである! けいねが笑ったのであるな、吾輩はにらめっこなら負けぬ。こころにもいつか吾輩が勝つのである! 

 けいねは顔を上げてゆっくりと話をし始めたのである。吾輩はけいねがはなすところは好きである。

 

「この子はなんだかどこかで友達を作ってくるんだ。つい最近も私の知り合いと連れ立って遊びに来てたりね」

「そうなのか、って何か関係があるのっ?」

「いや、朝にちょっと目を離しただけですぐにお前と知り合いになっていたのことが、そのおかしくて」

 

 くすくす、けいねが笑うのである。

 

「さっきの答えを補足するけど、どうせならこの子と遊んでやってくれないか」

「……私は猫と友達になった覚えはないんだけど」

 

 むむむ、吾輩はしょっくである。もうるーみあとはともだちとして考えていたのである。これは悲しいことであるな。吾輩はじっとるーみあを見るのである。

 

「……」

 

 じい。

 

「うっ……」

 

 るーみあがそっぽを向くと、けいねが吾輩を抱いたままその前にもっていくのである。らくちんであるな。るーみあの前にいくと、吾輩はなんとなくるーみあをみるのである。

 

「……」

 

 なんか汗をかいているのであるな。吾輩は別に何もしておらぬのであるが、これはかてるやもしれぬ……。何に勝つのかは吾輩にもわからぬ。なんとなく尻尾を振ってみたりするのである。

 

「ほら、ルーミアと友達になりたいから尻尾を振っているわ」

 

 けいねよ、そういうわけではないのであるが、るーみあと友達になるのはきっといいことであるな。吾輩の心は広いのである。お月様くらいの大きさはあるやもしれぬ。だから吾輩はるーみあとも仲良くしていたいのである。

 

「わかった。ついていってあげてもいいけど、なんかちょうだいっ」

「わかったわかった。ちゃんと私がルーミアのお茶碗を買ってあげるさ。よかったな、ルーミアが友達になってくれるって」

 

 よかったのである! にゃあおと吾輩は声を出すのである。このごろ知り合いが増えていくのである。にぎやかでいいことであるな。

 

「……猫と友達になるとは言っていないんだけど」

「まあまあ、そういえば昨日もらった草餅があるんだが、行く前のでざーとに食べるか」

「うんっ!」

 

 いきなりるーみあが元気なって吾輩はびっくりしたのである。思わずびくっと体を震わせてるーみあを見てしまったのである。それにしてもくさもち、とは何であろうか吾輩はちゃんと餅はわかっているのである、のどに詰まらせるから絶対に食べてはいかぬ、とけいねに止められているものであるな。

 

 ううむ、くさもち……くさもち。わかったのである! 草を丸めたやつであるな。おいしいのであろうか? 吾輩にはとんとわからぬが、るーみあが好きなら今度作ってあげるのである。

 草ならその辺にいっぱいあるのである。吾輩はいらぬ。どうせならふとにもやるのである。喜ぶであろうか? ふとが喜んだらこがさにもつくってあげるのである。

 

「それじゃあ、草餅取ってくるから、ちょっと待ってて」

 

 けいねがくさもちを取りに行くのである。草をむしってくるのであろうか。吾輩もお手伝いするのである。その足元についていくのである。

 

――

 

 だまされたのである!

 るーみあが両手に緑色の「くさもち」をもっておいしそうに食べているのである! なにやら甘いあんこも入ってるというのである。吾輩もほしいのである。

 るーみあの周りを吾輩はまわって、にゃあにゃあ鳴いてみるのであるが、どうしてもくれぬ。

 

「おいしい」

 

 るーみあがくさもちを咥えてみよーんと伸ばしているのである。楽しそうである。吾輩もやりたいのである。けいねよ、吾輩もほしいのである。

 そう思ってけいねを見てみると、けいねはにっこりとわらいながら吾輩に言ったのである。

 

「のどに詰まらせるからダメ」

 

 りふじんである! 

 

「後でヤマメあげるから」

 

 じゃあ、いいのである!

 





あけましておめでとうございます。おもち食べたい


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おでかけがたのしみである

 お出かけである! 

 吾輩はりきって玄関を飛び出しのである。なにやら「とうきいち」というところにいくとのことであるが、吾輩にはよくわからぬ。しかし、吾輩はけいねとお出かけするのにはやぶさかではない。

 

「こらこら、まっててくれ」

 

 玄関で靴を履きながらけいねが言うのであるな……吾輩は紳士なので待つのである。

……けいねよ早く靴を履くのである。なんならはだしでもいいのである。吾輩はいつもはだしである! これもなかなかおつなものである。

 

 ふりふり、ふりふり。

 おっといかぬ。吾輩としたことが尻尾がかろやかになってしまったのである。これは恥ずかしいのである。吾輩は思わず自分の尻尾を舐めてごまかしてしまったのである。

 

「……めんどくさーい」

 

 るーみあがくさもちを食べながら奥から出てきたのである。のそのそと靴を履いてはいかぬ! はやくしてほしいのであるが、ここは吾輩はも背筋を伸ばして待つのである。こういう時に焦ってはいかぬのである。それがたしなみというやつなのである。

 

「もぐもぐもぐもぐ」

 

 るーみあよ早くするのである。けいねもこういう時に「めっ」てするのである。吾輩はたまりかねてるーみあの足元に歩いて行ったのである。るーみあは指についたお餅を舐めながら吾輩を見ているのであるな。

 早くするのである! 吾輩はるーみあににゃあと力強く言ったのである。

 

「ほら。ルーミア。この子も早く行きたいようだから、行こう」

「えー」

 

 けいねと吾輩の力強い言葉にルーミアは靴を履き始めたのでる。早く行きたいのである。外を散歩すると気持ちがいいのである。

 ルーミアが靴を履いて、けんけんと地面をさきっぽでたたいているのであるな、何をしているのでろうか、よくわからぬが吾輩はそれを見て玄関に飛び出して――おおけいねに抱き上げられたのである。

 

「ほら、人里なんだから車(大八車など) がきたら危ないだろう? ちゃんと私の……ルーミアのそばにいなさい」

「えっ? なんで私?」

 

 みゃあ。心配性であるな。しかし、けいねのいうことももっともであるな……吾輩は急ぎすぎてしまったのである。わかったのである。

るーみあがくるまにひかれてはかわいそうである! ちゃんと吾輩が子守をするのである。るーみあよ吾輩がちゃんと守ってあげるからして、安心するのである。そんな吾輩をるーみあもじっと見てきたのである。

 

「んー、なんかこの猫私を見ているんだけど……。まるで言葉がわかっているみたい?」

 

 吾輩はるーみあが見ていたから見たのであるが……。

 しかし、るーみあよ吾輩はちゃんとわかっているのである。しかし、ことばよりもこう、伝えようとすることが大事であるとさとりも言っていた気がするのである。こみゅにけーしょんはだいじであるな。地底で勉強してきたのだ。

 

「なんだいまさら、この子はちょっとわかっているよ」

 

 けいねが吾輩をおろしてから言うのである! むむむ、うれしいのである。吾輩をよくわかっているのであるな、さすがはけいねである。吾輩はとてもうれしいのである。

 

「ちゃんとごはんっていえば来るし。ヤマメっていえば、すっ飛んでくる。……とても正直な子だから」

 

 ……まるで吾輩が食いしん坊のようであるな……。吾輩はそこまで食い意地は張っていないのである。るーみあもなにか言ってやるのである。吾輩はるーみあだけがくさもちを食べていても文句を言わない紳士だったのである。

 

「やまめー」

 

 ぴくっ! にゃあ。

 どこであるか! ……るーみあよないではないか。

 

「あは」

 

 るーみあがなぜか笑っているのである。まあいいのである。吾輩は誰かが笑っているところは好きであるから、ちゃんと許すのである。吾輩の心はお空のように大きいのである。

「くすくす。それじゃいこうか」

 

 けいねが言ったのである。吾輩はにゃあと答えると、るーみあも「はーい」と気の抜けた声で言ったのである。お出かけである。楽しみである。

 

 

 今日のことはちゃんと吾輩はわかっているのである。吾輩のお茶碗を新しくしてくれるのであるな、楽しみである。吾輩はとてとてと歩きながらふと気が付いたのである。

 朝から楽しみなことばかりであるな。今日はきっといい日なのである。それは間違いがないのである。

 人里を離れてのんびりとけいねとるーみあと吾輩は歩くのである。吾輩はちゃんとるーみあのそばを離れぬ。こういう田んぼの間の道でもどこから敵がやってくるかわからぬ。

 

 けいねは行きかう知り合いに「こんにちは」と挨拶をするので、吾輩もにゃあというのである。すると「えらいね」と言ってくれることが多いのである。吾輩は満足である。

 

「おお、おぬしは猫ではないか」

 

 なんだか知った声がするのである。るーみあよ気を付けるのである。たいていろくなことはせぬ。顔をあげてみればやはり、えぼしをがぶった少女である。ふとであるな。なんでこうよく会うのであろうか。

 

「ああ、こんにちは」

「うむ。……あ、失礼。こんにちは」

 

 !!! ふとが普通にけいねへ挨拶をしているのである。吾輩は驚いたのである。ふともあいさつを普通に挨拶をすることができるようになったのであるな……吾輩は感動したのである

 

「あ、皿割るやつだ」

 

 るーみあよまずは挨拶をするのである。……さわらる?

 

「い、いきなりなんだおぬしは! 我は考えなしに皿を割っているわけではない、よ、よける方が悪い……わ、我は一生懸命しているのだ」

 

 ふとよ皿をわるなんて悪い子である。めっとするのである。吾輩はふとの足を肉球でぽんぽんとたたくのである。するとふとはにんまり笑ってきたのである。

 

「この猫は我を慕っているらしくてな。よく遊んでやっているのじゃ」

「……そうか、やはり顔が広いなぁ。私の知らないようなところで大冒険しているんじゃないのか?」

 

 けいねよ感心しておるところ悪いのであるが、吾輩は別に慕ってはおらぬ。しかしだいぼうけんであるかしたいのである。ううむ。このまえは地底にいったくらいしかしておらぬ。

そんなものおもいにふける吾輩を無視してふとはしゃがみ込んでから手を出してきたのである。むむ、お手をしてほしいのであるな。

むしすると泣きそうになるから吾輩はちゃんと手を載せてあげるのである。

 

「……(うれしそうな顔)」

 

 な、なにか言うのである。

 

「ふふふ、おぬしもちゃんと我の言うことを聞くようになってきたな」

 

 やっぱりだまっておくのである。

 

「ん」

 

 るーみあよなんで吾輩に手を出しているのであろうか、お手をするようにということであるか?

 

「ふっ。金髪リボンよ。我もこやつを手なづけるのに苦労したのだ。そうそう、簡単にはできぬ」

 

 吾輩はるーみあ手に前足を載せるのである。

 

「おお」

「うあぁああ!」

 

 びくっ。ふとよいきなりわめかれるとびっくりするのである。ふとは吾輩を指さしてきたのである。

 

「ま、祭りの時にはあれだけ遊んであげたのにぃ」

 

 おお、どこに行くのであるかふとよ。

なんかだか悪いことをしたような気がするのである。

 

「騒がしくて楽しいお友達だなぁ……気取った口調なのにお前といると変わっている気がするよ」

 

 けいねよ、ふともお友達になるのであろうか、いやお友達であるな。吾輩はふとのことを嫌いではないのである。けいねはそんな吾輩をなでなでしてくれるのである。

 

「お前はいつも外にいるから、あんな風なともだちがいっぱいいるんだろうな。私もお前と散歩していると楽しいよ」

 

 吾輩も楽しいのである。ふとも今度はいっぱい遊んであげるのである。

 

 






ねこはあなたのしらないところで、しらないともだちになでなでされています


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ろぼである!

 吾輩がえすこーとするのである。けいねにるーみあよしっかりと吾輩についてくるのである。うむ、いいお花が生えているのである。これはなんのお花であろうか、こんにちはと言ってみてもいつも答えはくれぬ。

 

「こら、置いていくぞ」

 

 おお、危ないのである。吾輩はけいねに置いていかれるところであった。不覚である。お花も後で会いに来るのであるから、そこで待っているといいのである。吾輩はげんそうきょうじゅうにお花の知り合いがいるのである。丘の上のたんぽぽは仲良しであるな

 

 まあ、お話をしたことはないのであるが。寂しいのである。

 

 にゃぁ。

 ちゃんとお別れの挨拶もするのが紳士である。吾輩はお花を見ながら前に歩いていたのである。っ!。吾輩はなにかにぶつかってしまったのである。見れば立ち止まったけいねの足ではないか、吾輩は急に立ち止まることに抗議したのである。吾輩が頭をぶつけてしまったのである。

 

「な、なんだあれ」

 

 ううむ、聞いておらぬな。るーみあもなにか言ってやるのである……うむ? るーみあよそんなにお口を開けて何を見ているのであるか、心なしか目もきらきらしている気がするのである、全く何を見ているのであ……

 

 おお、おお! なんであろうか! あれはなんであるか!

 人の形をしたおおきな何かが浮かんでいるのである。それに「いらっしゃいませ。守矢陶器市!」と書いているのである。吾輩にはなんと書いているかは読めぬがすごく奇異なるのである!

 

「ろぼだっ。ロボだ!」

 

 るーみあが何か言っているのである。あれはろぼというのであるか。空をふわふわ飛ぶとはなかなか見どころのあるやつである。それにしてもるーみあの目がきらきらしているのであるな、吾輩はろぼと同じように気になるのである。

 

「あれは大きな風船だろうな……なんか前に見たこともある気がするけど。守矢か、あれもなんだか聞いたことがあるけどな」

 

 けいねは何でも知っているのであるな。ろぼとも知り合いかもしれぬ。けいねよ、吾輩はとてもほめているのである。吾輩も負けてはおれぬ。吾輩もろぼと友達になるのである。

 

「それにしてもルーミアも子供っぽいところがあるんだな」

「……っ、べ、べつにー」

 

 ふんっとるーみあがそっぽを向いてしまったのである。なぜであろうか。ちょっとほっぺたが膨れているのであるな。……だっこしてほしいのである、ほっぺたをさわらせてほしいのである。

 いかぬいかぬ。吾輩はああいう顔をされるとなんでかそうしたくなってしまうのである。こがさにはなんどもぱんちをしてしまったのを反省せねばならぬ。

 

 うむ?

 るーみあが吾輩を抱っこしてくれたのである。こみゅいけーしょんが通じたのやもしれぬ! おお、けいねの顔がよく見えるのであるが、背中にるーみあが顔を押し付けてくるのである。

 

「そ、そんなんじゃないわ」

 

 うむ、よくわからぬがそんなことではないのである。けいねよ。

 吾輩はよくわかっておらぬがるーみあの味方であるな。吾輩ので顔を隠しているのはきっと、あれであるな。いないないばあというやつである。たまに人里のこどもがやってくるから吾輩にはわかるのである。

 

 けいねも困った顔をしているのである。今である! ばあっとするのである。るーみあよっ!

 

「わるいわるい。私が間違ってた。さ、行こう。どうせならルーミアのお茶碗もいいやつを買ってあげるから」

「……」

 

 おお、急にるーみあが離したから吾輩は地面に着地したのである。ばあが下手であるな。こうもっと元気にするのである。けいねもるーみあも待つのである。

 

「おいで」

 

 るーみあがちょっと振り返っていったのである。ほんのり笑っている気がするのである。

 

 

 人がいっぱいいるのであるな。

 大きな広場に出店がいっぱいあるのである。なにやら、おちゃわんをいっぱい売っているようであるな。

 

 わいわいがやがや。

 なんだか楽しみである。遊びに行こうと吾輩は駆けだすと、るーみあにまた抱っこされたのである。

 

「だめ」

 

 むぅ。難しいのであるな。なぜダメなのかわからぬ……。しかし、るーみあにだっこされたまま吾輩は動き出したのである。これはたくしーであるな。前にはもみじたくしーであったがるーみあもなかなかいいのである。けいしゃもないのである

 

「あっ来たんだ」

 

 とてとてやってきたのは青い髪をしたしょうじょである。どこかで会ったことがある気がするのである。

 

「河城にとりっ」

 

 けいねが言ったのである。

 にとりというのであるか。吾輩はにゃあと挨拶をしたのである。にとりは頭に緑色の帽子をかぶっているのである。吾輩も帽子がほしいのである。

 

「どうだい結構来ているだろう? 今日はいっぱい買って行ってくれよ!」

 

 両手をこしにおいてふふんとにとりはむねを張るのである。るーみあも負けずに張るのである。るーみあよどこを向いているのであるか? おおろぼであるな。大きいのである。

 

「とこで河城さん あれは何なの?」

 

 けいねよ、ふふふ。あれはろぼというのである。吾輩がちゃんと教えてあげるのである。にとりよ言ってやるのである。

 

「あれかい? あれは我々河童イベントのスポンサー様ごよーぼーで作ったアドバルーンの非想天則Ⅱさ。遠くからでもよく見えただろ? いい宣伝になるよ」

 

 ひ、そう? 吾輩は耳をうたがってぴくぴくするのである。るーみあよ、どう思うのであるか、小声で「かっこいい」と言っているのである。ううむ、そうではないのである。名前のことを聞いているのである。

 

 ぴくぴく。

 吾輩はだっこされたまま耳を動かしてアピールしてみるのであるがこちらを見てくれぬ。ちょっと手を舐めてみるのである。

 

「っ」

 

 びくっとしているのであるな。

やっと吾輩を見てくれたのである。するとるーみあはほっぺたを大きく膨らませた後に、吾輩に向かって大きく口を開けたのである。

 負けてはおれぬ! 吾輩もそうするのである。るーみあは吾輩に強く抱き着くと耳を軽くかまれたのである。くすぐったいのである。

 

「ぺっぺっ。毛が口に入った」

 

 じゃあやらなければいいのである。吾輩も負けずにどこか痛くなさそうな場所を噛むのである。シャツをこう、はむはむ。まずいのである。

 

「なにじゃれあってんのさ、あんたら」

 

 にとりが聞いてきたから吾輩も考えたのでるが、うむむ。よくわからぬ。とりあえず吾輩はるーみあのシャツを離したのである。

 

「わっ、ちょっと首元が……」

 

 るーみあは吾輩を片手で持って、シャツを締めなおしているのである。吾輩は意外と重いやもしれぬが大丈夫であろうか?

 

「まあ、どうでもいいけどさ。それよりもあんたらもそこの先生がお茶碗を買ってくれるんだろう? 河童印のいいお茶碗を紹介するよ。できるだけ、安くしておくよ」

 

 にっ、とにとりが笑ってたのである。なんだか怪しいのである。けいねもなんだか胡散臭げに見ているのである。

 

「な、なんだよ。全員そろってさっ。我々河童は宗教家とはちが……おっと今回はスポンサーだから言わないけど、適正なしじょー価格で取引しているんだぜ?」

 

 このにとりはなんだかあやしいのである。吾輩は騙されぬぞ。

 

「あ、そうだ。ほらにぼし」

 

 にとりはいいやつである! おててに煮干しを載せて吾輩の口元に持ってきてくれたのである。はむはむ、うむうむ。なかなかでりしゃすというやつであるな。

 

「どうせこいつも来るだろうと思って一応用意してたんだ」

 

 にとりは準備がちゃんとできるのであるな。

 

「それじゃ、私があんないしてあげるよ。楽しんでいってね!

 



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はげしいしとう


ひさびさです。遅れてすみません。はげしいバトルになりますのでお気を付けください。


 

「それじゃあ、このにとり様がじきじきに案内してやるからさっ。ちゃんとついてきなよ」

 

 にとりが片手を腰にあてて、顎をあげているのである。どことなく得意気であるな。任せるのである! 吾輩はちゃんとついていくのである! けいねもるーみあもわかったのであろうか? 

 吾輩は心配してけいねをみるのである。

 

 にこっ

 

 けいねが吾輩に笑いかけてくれたのである。どうやらちゃんとわかっているようであるな。吾輩はほっとしたのである。

 

「それじゃあ、あっちの店から行こうか。我々河童の技術を使って焼いたお茶碗とかはなかなかいいよ」

 

 にとりが歩き出したのである。その後ろにけいねが付いていくので吾輩もちゃんとついていく……うむ? るーみあがおらぬ。ど、どこに行ったのであろうか。こんなに早く迷子になるとはこがさよりもあわてんぼさんなのやもしれぬ。

 

 吾輩はあたりを見回してみる。うむ、ううむ。見つからぬ。こういう時には人に聞くのが早いやもしれぬ。吾輩はちょうど来た歩いていた二人の少女ににゃあにゃあと話しかけてみるのである。

 

「なにこの猫?」

 

 一人は髪の毛がくるくるしてて目が回るのである。頭の上に大きな黒い眼鏡を置いているのであるな、吾輩はあのめがねというものがよくわからぬ。のぞき込むと目が回るのである。

 

「ひもじいの? ……何もないけど」

 

 もう一人は服に何かべたべた貼っているのである……。吾輩には読めぬ。いや、そんなことよりもるーみあを知らぬであろうか? 吾輩は必死ににゃあにゃあと聞いてみると。

 

 なでなで

 

 なでなでされたのである! 服にべたべた貼っている少女はいいやつであるな。吾輩にはわかるのである。しばらく、撫でると2人ともどこかに行ってしまったのである。

 吾輩はとても気持ちよかったのである……何か忘れているような気もするのであるが……うーむ。そ、そうである。るーみあのことをすっかりと忘れてしまったのである。

 

 けいねよ! 大変である。

 ? けいねもおらぬ。た、たいへんである。けいねも迷子であろうか。吾輩はあたりを探しまったのであるが、にとりもすらも見つからぬ。

 

さっきよりも人が多くなってきたような気がするのである。

たくさん人がいるのになんとなく寂しいのはなんでであろうか。吾輩はふとそう思ったのである。るーみあも寂しい思いをしているのやもしれぬな。吾輩は頑張って探すのである! 

こういうのをしんしのつとめというのであるな、ふふん。吾輩はちゃんとわかっているのである。けいねのいったことはよく覚えているのである。

 

 とことことこ

 いろんなところでおちゃんわんが並んでいるのであるな。こう「ござ」を敷いて並べていたり、木の棚に並べてあったりするのである。……いかぬ。木の棚を揺らしたらきっとお茶碗が落ちてしまうのである。吾輩はそんなことはせぬ。うず。

 

 そう思いながら歩いていると、突然吾輩に影が差したのである。誰かが前に立っているのであるがどうにも足しか見えぬ。仕方なく吾輩は立ち止まって顔をあげてみたのである。

 

「げっ」

 

 そこには嫌な顔を少女が立っていたのである。片手にはお餅をもって、ほっぺたがちょっと膨らんでいるのである。頭には「ねずみのような」耳がはえているのである! にゃああ!! なずーりんであるなっ!

 

「な、なんだ。おまえ、いきなり喧嘩腰だなっ」

 

 なんとなく唸ってしまったのである。別になずーりんに恨みがあるわけではないのであるが、ほんとになんとなくである。なずーりんよそう警戒しなくても吾輩はもう何もせぬ。

 

「はあ、全く。ご主人様がお茶碗を割ったとか泣きついてきたから仕方なく来ただけなのに、猫なんかに出会うとはね。まったく厄日だよ」

 

 はあ、とナズーリンはため息をついているのである。悪かったのである。そう落ち込まなくてもいいのである。吾輩はもう怒ってはおらぬ。そう思ってなずーりんの足元に近寄って足首を舐めてみるのである。

 

「あーあ。ご主人様ももうすひぃぁあ」

 

 おっきな声にび、びっくりしたのである。なずーりんよびっくりさせるではない。周りの者たちも見ているのである! ひそひそと話している声に吾輩は耳をぴくぴくさせるのである。なずーりんはなぜか肩を震わせて顔を真っ赤にしているのである。

 

「ち、ちがう。今の声は! 違うんだ。この猫がいきなり私を舐めたんだっ!」

 

 なんかなずーりんが周りに必死に言い訳しているのである。吾輩はただ仲直りをしただけである。ぬれぎぬである。そう思って毅然としたこうぎを吾輩はしたのである。にゃあ!

 

「わっ!? いきなり叫ぶな。……こ、こいつ。この前はご主人様や聖がいたから何もしなかったが……ネズミを甘くみると死ぬよ」

 

 なずーりんは甘くはないのである? しかし、やはりおぬしはネズミの友達か何かであるな。吾輩は最初から感づいていたのである! まあ、わかっても特に何もないのであるが。

 

 なずーりんは吾輩を睨みながら見下ろしているのである。吾輩も負けてはおれぬ。ちゃんとすくっと立ち上がって見上げるのである。後ろ足だけで立つのは結構難しいのであるが、吾輩ならできるのである。

 

「……ふっ」

 

 しばらくにらみ合っているとなずーりんが突然笑ったのである。

 

「悪かったよ。私も大人げなかった。猫なんかに本気で怒るなんてことをするわけないだろ。ほら、これをやるよ」

 

 なずーりんは吾輩の前でかがんで握った手を吾輩の鼻のあたりに持ってきたのである。

 

「にぼしだよ。仲直りの印」

 

 にんまり笑うなずーりんに吾輩もにゃあと返したのである。にぼしが嬉しいのではないのである! なかなおりはいつでもうれしいのである!! けっして煮干しが嬉しいのではないのである。

 

「お前が煮干し好きだってことは寺の中では有名だからな。ほら。遠慮しなくていいよ」

 

 なずーりんは笑いながらおててを開いたのである。吾輩は頭をそこに突っ込んだのである! 掌の中でにぼしを探すのである、うむ? ううむ? ないのである。どこにあるのであろうか。

 にゃあにゃあ。

 吾輩が見上げるとなずーりんは口を開けて声もなくえがおである。にぼしはどこにあるのであろうか。もしかしたらなくしてしまったのであろうか?

 

「……うそだよ」

 

 ?

 ?

 !!!!

 吾輩は怒ったのである! ばっとなずーりんのむなもとに飛びついたのである。

 

「わっ。こ、この」

 

 なずーりんがしりもちをついたのであるが吾輩はようしゃせぬ。

 道端で転げまわりながら吾輩を引きはがそうとするのであるな。そうはいかぬ。うそはいかぬ。嘘はあれである、何かの始まりと聞いたことがあるのである。吾輩はなずーりんがもうそんなわるいことをしないようにお仕置きをせねばならぬ。

 

 にゃー

 はなれろー

 しゃー

 このねこー

 

 なかなかやるではないか。さすがは吾輩のらいばるであるな。もう嘘をつかぬといえば吾輩は寛大にゆるすのである。

 

「はあ、はあ」

 

 なずーりんの顔が目の前にあるのである。ほっぺたが赤くなっておるな。吾輩も疲れたのである。これをしとうというのであろう。吾輩はなずーりんの顔を舐めてみるのである。これでけんかはおしまいにするのである。

 

「げっ、ぺっぺっ」

 

 なんかひどいのである。なずーりんはやはり吾輩のらいばるであるな。いずれ決着をつけねばならぬやもしれぬ。吾輩はなずーりんのむねをふんでから地面に降りようとしたのである。

 ぐいっと引っ張られたのである。わ、吾輩はそらを飛べるようになったかもしれぬ。

 

「こら。だめだろう?」

 

 けいねである、吾輩は怒られた。

 

 



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さっきのてきはいまからおともである!

 

「こら、いたずらしたらだめだろう?」

 

 けいねが顔を近づけて吾輩にいうのである。こわいのである。

 吾輩はちからなく「なぉ」として言えぬ。確かにやりすぎであったやもしれぬ。吾輩は弱いものいじめは絶対にせぬである。吾輩は恥ずかしさのあまりくしくしと顔をかいてしまったのである。

 そうしているとなずーりんがすおしりをぱたぱたはたきながら近寄ってきたのである。

 

「まったく。困った猫だな。君が飼い主かい?」

 

 なずーりんが嘘をついたのもよくないのである。にぼしを手に持っているふりをしたのはいかぬ。うそつきはハリセンボンを飲まされるというのである。痛そうであるな……吾輩はなずーりんにねこじゃらしを飲ますくらいで許すのである。

 

 うむ?

 けいねが頭をなでながら抱っこしてくれたのである。

 吾輩は首を振るのである。こうすると手に頭がまんべんなく当たって気持ちいいのである。

 

「ああ、貴方は寺で見たことがあるな。いや、この子は私の飼い猫というわけではないけど、いたずら好きでね。迷惑をかけてすまなかった」

「まったく……その猫はよく寺にもやってくるんだ。ご主人様も『今日はこないかな』なんて言っているのは情けない……。おっと、これはこちらのことだね。まあ、飼い主でなくても関係があるならしっかりと躾けをしておいてほしいものだね」

「ほらおまえも、わかったか?」

 

 けいねが吾輩の両脇をもってなずーりんの前に出したのである。

 

「わっ」

 

 なずーりんは吾輩に恐れをいだいているのか両手をちょっぷするように構えているのである。吾輩もちょっと真似をしてみるのである! こう、前足を動かすのは結構難しいのである。

 

「意外と仲がよさそうだな」

「だ、誰が猫なんかと」

 

 なずーりんがむきになっているのである。吾輩はなずーりんと仲良くするのもやぶさかではないのである。そう思って一声かけてみるのである。

 

 にゃあ

「ちっ」

 

 ううむ。ごうじょうであるな。けいねよ、こういうときは言ってやるのである。仲良くせねばならぬ。けいねと吾輩は目が合ったのである。けいねはキョトンとした顔で吾輩を見て、うっすらと笑ったのである。

 耳元に口を寄せてけいねが言うのである。くすぐったいのである!

 

「……仲良くなりたいのか?」

 

 にゃあお。吾輩はちゃんと返事をするのである。顔を動かすとけいねのほっぺたに当たったのである。すりすりするとなかなか気持ちいいのである。

 

「あは、くすぐったいよ」

 

 そういいながらけいねはちらりとなずーりんをみているのである。

 いつの間にかなずーりんはお餅をもぐもぐ食べているのである! 吾輩もちょっとほしいのである。

 

「前にお寺の住職と話す機会があったのだけど、買い食いが多くて困っているそうだ」

「むぐっ。……ごほごほ。い、いきなりなんだい?」

 

 なずーりんよ「かいぐい」はいかぬ。よく吾輩もわからぬがよくないことはよくないのである。けいねが吾輩を抱いたままにやっと笑っているのである。なんか怖いのである。

 

「いや、前にそんな話をしたことを、ふと思い出しただけだよ。またお寺に行く機会があれば話をするかもしれないけど」

「……へえ、そう。それは好きにすればいいけど。そんなことをわざわざ言うってことはさ、何か言いたいことがあるんだろう?」

「そんなことは一言も言っていないさ。ただ、この子と友達になってくれるならうれしいなとは思っているよ」

 

 ともだちであるか。吾輩はともだちが増えることはいいことである。なずーりんは鼻を「ふん」と鳴らしてそっぽを向いているのである。

 

「はっ。寺子屋で人間の子供相手にしているとは聞いていたけど、まるで子供に接しているような口調だな。そんな仲良しごっこに付き合ってあげる義理はないね!」

 

 そおっとけいねが吾輩をもってなずーりんに近づいていくのである。

 なずーりんはそっぽを向いているのである。細い首が近づいてくるのであるな。ううむ、ここはぺろりと挨拶をするのである。

 

「そもそも私がどこの馬の骨……? いやまあ、どこの猫かもわからないあひゃぁあ!」

 

 ! なずーりんが飛び上がったのである。それから首筋を押さえてへたり込んだ。どうしたのであろうか? 吾輩は悪いことはしてはおらぬ。

 

「お、おまえ」

 

 首を押さえながらなずーりんが涙目で見てくるのである。いや、そこがじゃくてんとは知らなかったのである。許してほしいのである。けいねも悪いのである。そう思ってけいねににゃあと聞いてみるのである。

 けいねも目をぱちくりさせて驚いているのである。

 

「い、意外と大きな声を出したから驚いたよ。すまなかった。……でもこれも乗り掛かった舟だし、私とこの子の買い物に付き合ってくれないか?」

「な、なんで?」

「河童とかが出している屋台でおいしいものを買ってあげるから」

「……こんなことをし、しておいて。……そ、それくらいで…………」

 

 吾輩もおいしいものが食べたいのである! ヤマメがいいのである! ヤマメである! けいねよ吾輩も。

 

「こら」

 

 しゅんとしてしまったのである……吾輩としたことが。にゃむにゃむ。

 なずーりんも何か考えているようであるな。吾輩と一緒に遊んでくれるなら歓迎するのである。

 けいねはへたり込んでいるなずーりんに片手を差し伸べたのである。吾輩は片手にしがみついているのである。

 

「それじゃあ決まりだな。ルーミアもどこに行ったか分からないから探さないといけないし。この子を頼むよ」

「ふん……ここまで強引にされたらす、少しくらいは付き合ってあげてもいい。わっ」

 

 うむ! 気が付いたらなずーりんの腕の中にいたのである。ううむ腕が細いのである……こう捕まるのがたいへんであるな。肩につかまろうとするとなずーりんに抱きしめられたのである。

 

「こ、ら。暴れるな。な、なんでこいつを私が持たないといけないんだ!」

 

 なずーりんよおとなになるのである。わがままを言っていては大きくはなれぬ……うむ? ちょっと違ったかもしれぬ。吾輩は恥ずかしいのである。

 

 にゃあにゃあ。

 吾輩は抱っこされながらなずーりんの顔をじっと見て、そういったのである。おお、すごく嫌そうな顔をしているのである。にゃあにゃあとさらに抗議するのである。

 

「にゃあにゃあうるさいいにゃあ……う、うるさいな!」

「くす」

 

 けいねが笑ったのである。なずーりんは顔を真っ赤にして何か言っているのであるが、うるさいのである。うるさいので、なずーりんの胸元に耳を押し付けてみるのである。かべのようでいいのであるが、片方の耳しか隠せぬ。

 

「おーい」

 

 うむ? どこかで聞いた声がするのである。おお、にとりであるな。

 なんだか怒った顔でこちらにやってきたのである。

 

「なんで、私の後ろをついてくるだけなのにはぐれるんだよ。慧音もなかなか帰ってこないし。あ、なんだ、新しいカモ……お客さんがいるのか、じゃあいいや」

「おい。君。今なんていった」

 

 なずーりんはカモであるか、なら飛べるのであろう。聞いた話によればカモはネギを背負って飛んでくるそうである。なずーりんよ、ネギはどこに持っているのであろうか?

 

「なんで私のことをじっと見つめてくるんだ……この猫」

 

 いや、ネギをもってはおらぬな。今日はお休みであろうか?

 

「まあ、いいじゃないか」

 

 おおう、けいねがなでなでしてきたのである。考え事をしている途中にされると気持ちいいのである。

 

「どうせ、お茶碗を買いに来たんだからそっちを先にしよう。にとり」

「はいはい。今度はついてきてね」

 

 

 

 



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はじめてのじゃんけんである

 ひまであるな。

 吾輩はなずーりんに抱きかかえられたままでやることがないのである。いい天気であるから、あくびがでてしまうのである。ううむ、いかぬこういう時にもちゃんとしなければならぬのである。

 

 ゆらゆら、ゆらゆら。

 ……にゃむにゃむ……はっ! いかぬいかぬ。眠ってしまうところであった。なずーりんが歩くたびに心地よく揺れるのであるから、吾輩もふかくにもゆだんをしてしまったのである。

 なずーりんを見ればちょっとだけ目があったのである。

 

「…………ふん」

 

 なずーりんが吾輩を見てそっぽを向いたのである。ちゃんと前を向いて歩かねば危ないのである。吾輩はそれをちゃんと注意したのである。そういえば、吾輩はいつも前を向いて歩くことではちゃんとしているのである。

 

「ここだよ、ここ」

 

 にとりの声に吾輩はむくっと体を起き上がらせようとしてできなかったのである。抱きかかえられたままでは難しいのである。そう思ってもぞもぞしていると、なずーりんが吾輩の両脇から手を回して抱きなおしたのである。

 そうではない。そうではないが、うむこれでもいいのである。

ちゃんと前が見える。今日はちゃんとしていることが多いのである。いいことであるな。

 

 みれば多くのお茶碗が並んだお店であるな。さっきいろんなところで見たお店よりもいっぱいある気がするのである。

ござの上に多くのお茶碗が並んでいるのである。みせばんはにとりと同じような格好をしたおかっぱの少女であるな。吾輩がもぞもぞしていると、なずーりんは地面に下ろしてくれたのである。

 

「ああ、重かった」

 

 ありがとうなのである。吾輩はお礼も欠かさぬ。けいねよほめるのである。

 けいねはしゃがみ込んでお茶碗を眺めているのである。

 

「にとり。随分といろいろとあるんだな。河童が焼き物をするとは初めて聞いた気がするけど」

「ちっちっち、なめてもらっちゃ困るね。我々は日々いろんな研鑽を積んでいるのさ。この前作ってみた焼き物を焼く機械で人間たちよりも多く作れるようになったんだよ」

 

 きかいとはがんばりやさんなのであるな。いつか会ってみたいものである。

けいねの足元にいくとけいねは吾輩を撫でながら「どれがいい?」と聞いてくるのである。

 吾輩が見るところ、ううむ……悩むのである。前足でちょんと触ってみたりするとおかっぱの少女が「ああ、だめだめ」と言ってくるのである。げせぬ。

 けいねはひょいと一つのお茶碗を取り上げてみたのである。おお、色が桜のようであるな。吾輩は大好きである。

 ひょいとけいねのひざもとに上ってみるのである。

 

「わっ」

 

そのままお茶碗をじっと見つめていると、慧音が言うのである。

 

「これがお気に入りかな? ……にとり、これちょっと形がゆがんでいるみたいね」

「……ああ、そういうのをおりーべとかいうとか、外の世界ではね」

「もしかしてあんまりうまく作れなかったけどいっぱい作ったから売りに出したとか」

「……ごそーぞーにお任せするよ、でもあくどいことはしてないぜ」

 

 にとりもそっぽを向いたのである。 

 うむ、うむむ、おかっぱが吾輩を撫でてくるのである。なかなかうまいのである。そこである、その首のあたり。おかっぱも「うふふ」とか言っているのであるな。

 

「そういえばこれは一つおいくらなのかしら? にとり」

「これくらいだよ」

 

 にとりがけいねへ指を立てて見せているのである。何が面白いのであろうか、吾輩にはわからぬ。それよりもおかっぱよ。肉球を触るのはあれであるな。まあいいのであるが……やさしくするのである。

 

「それは高すぎるね」

 

 けいねが何かが高いと言っているのである、そうである高いのである。よくわからぬが。

 

「いやーお客さん。これ以上は難しいよ。我々だってただで作っているわけじゃないからね」

 

 にとりも言っているのである。そうであるぞ、むずかしいのである。けいねとにとりは何かを言い合っているのであるが、吾輩にはとんとわからぬ。なずーりんよわかるのであろうか? なずーりんはしゃがんでお茶碗を手にもっては戻しているようである。

 

「ご主人様のことだから底が深い方がいいかな……。意外と柄とかにもうるさいんだよな……おい、君」

 

 にとりに話しかけているのである。にとりは「なに?」と答えるのである。

 

「その桜色のお茶碗をその先生が買えないなら私が貰う、お代はちゃんと払うからいいだろう?」

「まいどー」

 

 にっこりとにとりが笑っているのである。

 

「ま、まってくれ」

 

 けいねが慌てて止めているのである。吾輩はついに仰向けになっておなかをなでなでしてもらっているのである。ごくらくとはこのことであろう。

 

「この子もお茶碗を気に入っているようだ。ここはちゃんと決めよう」

 

 そうである、けいねの言う通りちゃんとすることは大切である。よくわからぬが吾輩もすくっと立ち上がってみるのである。吾輩はけいねとにとりとなずーりんを見回して、にゃあ? とところで何の話をしているのか聞いてみたのである。

 

「ふふ、やはりこの子もお茶碗がほしいんだ」

 

 けいねよ。何の話であろうか。

 

「いや、お金を私が出すと言っているんだから他をあたってくれよ」

 

 なずーりんよ当たったら痛いであろう。何を言っているのであるか?

 

「金さえくれれば別にどっちでもいいよ。じゃんけんでもして決めれば」

 

 けいねとなずーりんがにとりを見て「この河童は……」と一緒に言ったのである。仲がいいことはよいことである。吾輩はうれしい……おぉ、けいねに抱きかかえられたのである。そして前足を持たれたのだ。

 

「わかったナズーリン。じゃんけんをしよう」

「はあ? なんでそんな子供のようなことをいやに決まって」

「買い食いのことをばらすよ」

「ろ、露骨じゃないか! くそ、わかったよ」

 

 おおぉお! これはもしかして吾輩はじゃんけんをできるのであろうか! うれしいのである。吾輩はじゃんけんは初めてのことである。慧音が吾輩の両前足を持ってゆらゆらさせているのである。

 

 なずーりんははあ、とため息をついてから首をこきこきならしているのである。

 

「なんだこの勝っても大してうれしくない勝負はさっさと終わらせよう。さいしょーはぐー」

 

 うむうむ。なずーりんはやる気がなさそうな声を出しているのである。吾輩の前足をけいねがフリフリしてくれるのである。

 

「じゃーんけんぽん」

 

 なずーりんは手をかにさんのようにしているのである。吾輩は自信をもって前足をぷらぷらさせているのである。

 

「これはこの子の勝ちだな」

 

 おお、けいねよ吾輩は勝ったのであるか? 

うれしいのである。よくわからぬが、勝ったのである。

 

「ま、待ってくれ。そいつはどう見ても手のひらをそのままにしているからパーをだしているじゃないか!」

「いや、ちょっと肉球を丸めている。これはグーだよ」

「お、横暴だ! 解釈の違いじゃないか」

 

 あきらめるのである。なずーりんのかにさんも頑張ったのであろうが、吾輩には及ばぬ。吾輩はみゃあとなずーりんに声をかけてみたのである。するとなずーりんは「な、なんだそその目は。ば、ばかにしているのか」と言ってきたのである。いや、別にしておらぬ。

 

「それじゃあ、にとり。これをもらうよ」

「まいど」

 

 けいねがにとりにお金を渡しているのである。それからにとりはとてとて吾輩のところにやってきたのである。おお、またまだ抱きかかえられたのである。にとりは目を光らせていいかおをしているのである。

 

「まいど!」

 

 白い歯を見せてにとりが笑ったのである。

 



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ろぼのうえにいきたいのである

予想以上にナズーの出番が多い……


 ころんころん。吾輩は転がるのである。

 地面に転がっては後で砂を落とさねばならぬ。吾輩はそんなことにはならぬようにさいしんの注意を払うのである。だから、ちゃんとござの敷かれたうえで転がるのである。

 

「はむはむ」

 

 横では胡坐をかいてなずーりんがおまんじゅうを食べているのである。お膝に竹の葉っぱにのせた白いおまんじゅうが並んでいるのであるが、吾輩にはくれぬ。

 さっきけいねがなずーりんにだけくれたのである。ううむ、吾輩にもほしいのである。吾輩はむっくりと起き上がってなずーりんのひざ元に近寄るのである。

 

「…………」

 

 そうするとなずーりんはおしりを使ってくるっと後ろを向いたのである! 吾輩は仕方なく前に回り込もうとして、またなずーりんは回ったのである。

 

「饅頭はやらないからな」

 

 なずーりんよ。吾輩はそんなことは言ってはおらぬ……まあ、ほしいといえばほしいのであるが。それにしてもなずーりんは食いしん坊さんであるな。よく食べることはよいことである。感心するのである。

 

「なんだ、その目は」

 

 じっとりと吾輩をなずーりんが見てくるのである。なんだといわれても吾輩は特に何もないのである。遊んでげるのはやぶさかではないのである。そう思ってコロンと寝転がってみるのである。

 

 ごろごろごろ。ううむ頭がかゆいのである。吾輩は後ろ足で掻くのである。ごしごし、おお、きもちいい……。ふるふる。ごろごろ。

 

「ひまそうだなぁ」

 

 吾輩は忙しいのである。抗議をする意味を込めてなずーりんを見るのである。じぃとみているとなずーりんはもぐもぐとほっぺたを動かしているのである。なんだかおもしろいのである。吾輩はにゃあと声をかけてみるのである。

 

「……にぁ……」

 

 なずーりんは何か言いかけて首を振っているのである。頭を掻きながら「ああ、ペースが狂う」と言っているのである。ぺーすとはなんであろうか、わからぬ。吾輩は知ったかぶりはしないのである。だからなずーりんの眼を見ながら首をかしげてみるのである。

 こうしているとたまに教えてくれたりするのである。

 

「……?」

 

 おお、なずーりんも同じように首をかしげたのである。いや、教えてほしいのである。一緒の動きをして貰いたいわけでないのである。ううむ、らちが明かぬ。けいねはどこに言ったのであろうか、るーみあを探すといって言ったのであるが……。

 

 吾輩はたちあってきょろきょろと周りを見渡してみたのである。さっきまでいた人が結構いるのであるな。吾輩となずーりんはちょっと離れてりらっくすしているのである。

 

 ! そうである。けいねのお手伝いをするのはどうであろうか、るーみあをちゃんと見ておかなかったのも吾輩にせきにんがあるのである。そう思って、なずーりんへ振り向いたのである。ちょっと出かけてくるのである!

 

 ……? 振り向くとなずーりんが吾輩に手を伸ばしたまま固まっているのである……? なんであろうか。

 

「……あ、ああ」

 

 なんで顔を赤くしているのであるか? ……おお! わかったのである。吾輩を撫でてくれるのであるな。それはやぶさかではないのである! 吾輩はちょっとなずーりんに近づいてみるのである。

 

「だ、誰が撫でたりするか!」

 

 それは残念である……吾輩はあきらめきれずにお膝に乗ってみるのである。

 

「う、うあ」

 

 顔を赤くして逃げようとしてもあれである。別に何もないのであるが、観念するのである。この首のあたりとかが吾輩はいいのである。

 

 なずーりんは固まったまま動かぬ……吾輩は仕方なくお膝から降りてみるのである。まあ。いいのである。ここでちゃんと留守番をしているのである。吾輩はけいねを探しに行くのである!

 

 たったか、吾輩は走り出したのである。吾輩を止めるものは誰もおらぬ!

 

 

「こら、ちゃんと待っているように言っただろう?」

 

 なでなで。

 すまぬのである。しかし。吾輩はけいねのお助けがしたかっただけである。なでなでされながら吾輩は毅然としたたいどをとるのである。ううむ、うむうむ。そこである。

 

「いつも目を離すとどこかに行こうするんだからな……ほら、おいで」

 

 けいねははあとため息をついてから吾輩の顎を指でちょいちょいとしたのである。ちゃんとついていかねばならぬ。吾輩は紳士なのである。

 

「それにしてもルーミアはどこに行ったんだろうか。お茶碗を買ってあげようとおもったけど……」

 

 けいねは紫の包みを大切そうに抱えているのである。あれは吾輩のおちゃわんだったはずである。なずーりんとの激しい戦いに勝って手に入れたのである……。じゃんけんは初めてであったが勝てるとは吾輩も末恐ろしいかもしれぬ。

 

 空を見るとあの大きなろぼが浮かんでいるのである。

 

「あれはたしか非想天則……だったかな。前に聞いたことがあるんだけど、それにしても妙な形をしているな……くす」

 

 うむ? けいねよ。なあなあ、にゃあ!

 

「なんだ」

 

 あのろぼの上に立っているのはるーみあではないであろうか。

 空に浮かんだろぼの一番高いところで両手を組んで立っているのである。にゃあにゃあ、吾輩はけいねに訴えてみたのであるが、

 

「おなか減ったのか?」

 

 いや、違うのである。

 

「ヤマメ食べにいこうか?」

 

 うむ。

 おお、ちがう。るーみあがあそこにいるのである。それにしても気持ちよさそうであるな。すかーとがはたはたと動いているのである。かぜさんも来ているのであろう。吾輩はだっと駆けだしてみるのである。

 

「おーい」

 

 のんびりとしたけいねの声がするのであるが、吾輩は振り返らぬ。

 るーみあだけずるいのである! 

吾輩もあそこの行きたいのである。しかし、吾輩は飛んでいくことはまだ練習しておらぬからできぬ。

 まりさやこがさはおらぬであろうか? 吾輩はあたりを見回したのである。

 ! あれはみこである。吾輩はにゃあにゃあ言いながら近寄ったのである。吾輩をお空の上まで連れて行ってほしいのである。

 

 うむ? なんであろう、いつもと格好が違うのである。かみのけが葉っぱと同じ色なのである。それにちょっともじゃもじゃしておる気がするのである。

 

「ん?」

 

 振り向いたそのみこは、吾輩に気が付いたのである。大きな瞳がお星さまが飛び出したようにきらっと光ったのである。

 吾輩は驚いたのである。吾輩の知っている巫女ではないのである。格好が似ていたから間違えてしまったのである。なんとなく目を合わせたまま、止まってしまったのである。

 これではいかぬ。吾輩は紳士である。ちゃんと挨拶をするのである。

 

 みゃー。

 うまく言えたのである。

 緑の巫女は吾輩を覗き込みながら、

 

 

「にゃあ?」

 

 と聞いてきたのである。吾輩はすかさずにゃあと返したから、相手も「にゃあにゃあ」といいながら両手を組んで頷いているのである。どうやらちゃんと通じたようであるな。よくわからぬが。

 緑の巫女は自分でしゃべりだしたのである。

 

「今回のお祭りは成功したようねー。こんな猫さんまでやってくるなんて……。どうせなら霊夢さんとかも来ればよかったのに」

 

 れいむ? 聞いたことがあるのである……おお、たしか巫女の名前であるな。吾輩はいつもみことしか言っておらぬ。

 

 というか忘れていたのである。るーみあのところに行きたいのである。吾輩は上を向いてにゃあにゃあと鳴いてみるのである。

 緑の巫女も不思議そうな顔で上を向いてくれたのである。

 

「あ、あんなところに上ってる人がいる。注意した方がいいかしら? よーし」

 

 ふわっと巫女が浮いたのである。吾輩も連れてってほしいのである!

 



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あおぞらのおえかきするのである

久々の更新すみません。勝手にロボ(バルーン) にのったルーミアを追いかけるため、早苗と吾輩は一緒に飛ぶのだった!


 

「猫さんも行きたいのですか? じゃあ、ほら、こっちに来てください」

 

 緑の巫女がそう言って吾輩を抱えてくれたのである! わがはいはにゃあとお礼を言っておくのである。紳士はお礼をかかさぬ。

 きらきらした瞳で吾輩をみてから、にぱぁと緑の巫女が笑ったのである。うむうむ、笑うことはいいことである。吾輩もうれしいのである。

 

「そういえば猫さんはお名前はあるんですか?」

 

 首をかしげて聞いてきたので吾輩も思わず一緒に首を傾げたのである。……名前であるか? わがはいはわがはいである。

 

「私は早苗っていいますよー。以後お見知りおきを~。よしよし」

 

 さなえであるか! いい名前であるな、吾輩はとても気に入ったのである。うなうな、吾輩はさなえの腕の中でもぞもぞ動いてみるのである。最近分かったのであるが、こみゅにけーしょんとは言葉だけではなにのである、うれしい時はこう動いて……。

 

「めっ」

 

 怒られたのである……。ううむ、こみゅにけーしょんは難しいのであるな。

 

「さーてとそれじゃあ勝手に非想天則の上に乗った不届きな子を退治するとしましょう。猫さんもサポートお願いしますね」

 

 さぽーとであるな! 得意である。わがはいはちゃんとわかっているのである。さぽーととはあれである……うむ……たすけることであろう!

 そう思っているとまた、ふわりと空に浮いたのである。もう何度も空を飛んだことはあるから吾輩は驚かぬ。どっしりとかまえているのである。さなえもゆっくりと空に上がっていくのである。

 それにしてもロボは大きいのである。空を浮かんでいるのはロボも同じであるが、疲れぬのであろうか。たまには休むのである。

 どんどん昇って行って、吾輩とさなえはロボの上で寝転がっているるーみあを見つけたのである。ちょうどろぼの頭の上であるな。さなえはそのるーみあの近くに降りたのである。今回は短い空の上であったのである。

 

「……」

 

 寝ているのである。

 るーみあは腕を枕にしてお昼寝であるな。さっきまで起きていたのに疲れていたのであろう。さなえもるーみあの寝顔を見ているのである。

 

「なんか、幸せそうに寝ていますね。起こすのはかわいそうな気もしますけど、まあ」

 

 さなえが後ろを振り返ったのである。

 おお、風が吾輩をなでなでしてくれるのである。遠くまで見えるのである。お天道様が今日は元気であるな。なんだか幻想郷がきらきらしているのである。

 

「確かにお昼寝日和かもしれませんねー。よいしょっと」

 

 さなえはるーみあの横に寝転んだのである。ずるいのである。吾輩もそれをするのである。こてんと吾輩も仰向けに寝てみるのである。両足がつかぬ、ぱたぱた動かしてみるのであるがどうにもならぬ。

 

「くす。これが川の字ってやつですねー。神奈子様と諏訪子様ともたまにやりますけど、ああ…猫さん。空って広いですね―」

 

 そうであるな。吾輩の前には空しかないである。いや、雲がいるのである。どこに行くのであろう。買い物であろうか? 急いでいるようであるな。

 ごろごろ、なかなかいいではないか。横をみたらるーみあがすやすや眠っているのである。吾輩もちょっと眠たくなってしまうのである。さなえよ、吾輩が眠たくなったのである。

 にゃあ、と伝えたのであるが返事がないのである。

 

 起き上がってみるとさなえが眠っているのである。なんだか幸せそうな顔であるな。吾輩はなんだか寂しいのである。仕方なくるーみあの上での中にもぞもぞと入りこんでみるのである。うむ、ここもなかなかよいのである。

 

「あ……ぁ……」

 

 るーみあがなにか言っているのである。

 

「……けいね…ありがと……」

 

 うむうむ。るーみあもちゃんとお礼が言えるのである。ということはるーみあも紳士であろうか? ううむ、難しい問題である。さなえよどう思うであろうか。吾輩はるーみあを踏み越えてさなえに聞いてみたのである。よだれを垂らしているのである。これはダメであるな。それにもこうと違って乗りにくそうである。

 

 吾輩はさなえのほっぺたをぱんちしてみるのである。おきぬ。

 ねぼすけさんであるな。吾輩はもう一度ぱんちしてみるのである。おきぬ。

 ううむ。なんだか楽しくなってきたのである。ぷにぷにとほっぺたを触ってみるのである。するとさなえがゆっくりと目を開けて、むーと吾輩を見てきたのである。

 

「猫さん?何をしているんですか?」

 

 ……吾輩は何もしておらぬ。

 

「なんでそっぽを向いているんですか? さっきまで私のほっぺたを触ってたりしてませんでしたか」

 

 …………。

 

「こら」

 

 おおう、あごを撫でながらのじんもんは卑怯である。おお、そこである。吾輩はそのばでごろごろさせられてしまったのである。

 

「ふふふ。ここか、ここかー」

 

 なかなかいいのである。吾輩は気持ちいいのである。高いところでまっさーじはおつなものであるな。吾輩はさなえの膝の上にのせられてごろごろするのである。うむ? 突然さなえの手が止まったのである。

 

「ふふふ」

 

 さなえが吾輩を見ながら笑っているのである。もう少しマッサージしていいのである。吾輩はにゃあと言ってみるのであるが、さなえは動かぬ。

 

「ちゃんと白状したらもう少ししてあげますよ? どうしますか」

 

 にゃあにゃあ。

 ううむ。悪かったのである。この通りであるな。吾輩はおわびのしるしとしておなかを見せてごろごろしてみるのである。

 

「甘えたって駄目です。ちゃんと反省するまでなでなでしてあげますから、ほらほら」

 

 これは反省をせねばらなぬ……おおう、おおう。吾輩はその場でくねくねと体を動かしてみるのである。さなえは吾輩の毛並みに沿ってなでなでしてくれるのである。

 

「ふぁーあ」

 

 おおう、るーみあも起きたのであるか。おはようである。るーみはあ目をごしごししながら、吾輩達におはようの挨拶を……

 

「なんでいるの?」

 

 ちゃんと挨拶をせねばならぬ! 吾輩はきりりとした目で抗議したのであるが、るーみあは頭を掻いているのである。さなえよ何か言ってあげるのである。

 

「おはようございます! でもだめですよ、勝手に上ってきちゃ」

「……」

 

 るーみあがさなえをじとりとした目で見ているのである。

 

「そーなのかー」

 

 それだけ言ってぷいとそっぽを向いているのである。さなえを見上げて、吾輩は相談するためになあお、と言ってみたのである。さなえはうんうんと頷いてくれたのである。よくわからぬが通じたのであろうか。

 

「まあ、いいですね」

 

 さなえよさっきまで何をうんうん頷いていたのであるか。

 

「ああ、きもちいー」

 

 さなえはまたコロンと寝転がって、大きく伸びをしているのである。手を空に向けて、指を立てて動かしているのである。

 

「大空をキャンパスにしてスケッチするっておしゃれですよね? 猫さん」

 

 きゃんぱす……すけっち……難しいのであるな。しかしおしゃれと聞けばいいことであろう。

 

「ほらほら、ねこさんねこさん」

 

 さなえが指を動かしているのである。るーみあと吾輩はその指に合わせて顔を動かすのである。楽しいのである。

 

「何を書いたの?」

 

 るーみあがきいているのである。吾輩もとても気になるのである。るーみあよ、もう少し詳しく聞くのである。さなえはふふっと吾輩達に笑いかけてこういったのである。

 

「一緒にお絵かきすればわかるかもしれませんよー」

「……」

 

 るーみあはその場にこてんと寝て手を伸ばしたのである。

 吾輩も負けてはおれぬ! 前足を伸ばしてみたのである。

 並んで青空に何かを書いてみたのであるが、難しかったのである。

 

 

 

 

 

 



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あれはだれであろう!

 さなえとるーみあが空に向かって何かを描いているのである。吾輩はそれを目で追うのであるが、何を描いているのであろうか、ううむ。難しいのである。

 

「あー。なるほど」

 

 るーみあが何か言っているのである。なにが分かったのであろう。しかし、るーみあは吾輩をちらりと見て、にやりと笑っただけである。

 気になるではないか! 吾輩も負けてはおれぬ。二人を真似して寝転がって前足をこう、フリフリして見るのである。むむっ、何か分かった気がするのである。空が綺麗である。

 

 おぉ、いい天気であくびをしてしまったのである。吾輩は頭を掻いてごまかすのである。ついでに前足を舐めて毛並みのメンテナンスをしておくのである。吾輩はこうりつ良くやるのである。

 

 はむはむ。

 ごろごろ。吾輩はなかなかここが気に入ったやもしれぬ。さなえよ。

 

「……」

 

 横を見るとさなえが吾輩をにこにこしながら見ているのである。なんであろうか、吾輩は気になってむくりと起き上がったのである。

 

「あれ? どうしたんですか?」

 

 それはこちらのセリフである。吾輩を見ていたので気になるのである。吾輩はさなえに近づいてにゃあと聞いてみたのである。するとさなえは頭をなでなでしてくれたのである。

 

 うむ。まあ、いいのである。

 

「よしよし。でもそろそろ降りないといけませんね。あなたもですよ」

「はーい」

 

 るーみあも起き上がって体を伸ばしてあくびをしているのである。まったく、迷子になったるーみあをみんなで心配していた気がするのである。これはいかぬ。悪いことをしたら反省をするのである。吾輩はるーみあの足を舐めてみるのである。

 

「……!!」

 

 おお、るーみあがのけぞっているのである。まいったか。いや……そんなに睨まれても困るのである。吾輩はただ反省してほしいだけである。

 さなえも何か言ってあげるのである。うむ? どうしたのであろうか。手で掲げて空をみているのである。お天道様に手を振っているのであろうか。吾輩は足元に行って聞いてみるのである。

 吾輩のなきごえにさなえは振り返ったのである。

 

「いや、お天道様を掴めるかと思うくらい近くて」

 

 お天道様を掴むのであるか! それはすごいのである。吾輩もまだやったことはないのである。いや、でも捕まえるのはかわいそうである。そっとしておいてほうがいいやもしれぬ。

 なんといってもお天道様は吾輩よりもちいさいのに頑張っているのである。屋根の下に入ったらすぐに見えなくなるのであるし、雲よりも小さいのである。それでもがんばりやさんであるな。

 吾輩はとても感心しているところである。

 それにしても吾輩も光ることができるのであろうか。練習が必要であるな。ちょっと丸くなってみるのである。こうしっぽも体にまきつけるようにすると真ん丸になれるのである。

 

「こらこら、もう下に降りるんですから。寝転がったらだめですよ」

 

 さなえに怒られたのである。

 

 ☆

 

 ロボから降りてさなえと別れるとるーみあと一緒になったのである。

 目を離すとすぐに迷子になるから吾輩も気が抜けぬ。ちゃんとついてくるのである。

 

「あーおなか減ったわ」

 

 吾輩もちょっとおなか減った気がするのである。むむ、何かいい匂いがするのである。いや、るーみあよ。吾輩よりも先に行くのをやめるのである。吾輩もいい匂いのする方にいくのである。

 吾輩達はいい匂いのする方へ歩いていくのである。周りはお皿など売っているお店が並んでいるのである。吾輩達は並んで歩くのである。

 

「はふはふ。ん? なんだ、いたのか」

 

 向こうに居るのはなずーりんであるな。

 手に持ってるのは串に刺して焼いたヤマメである! しゃー!

 

「わっなんだ、いきなり」

 

 いかぬいかぬ。

 吾輩としたことが、かりのほんのうを出すところで会った。なずーりんよそれを少し分けてほしいのである。頼むのである。吾輩はさっきお昼寝をしておなかがへっているのである。

 

「はむはむ」

 

 吾輩をちらちら見ながら、おいしそうに食べているのである……むむむ。るーみあよ何か言ってやるのである。

 

「それどこでもらったの?」

「いきなり人聞きが悪いな、買ったんだよ。ほしければ自分で買えばいいだろ」

「それ欲しい」

「いや、買ったらいいだろ」

「お金ないもん」

「もんって言われても……」

 

 なずーりんはじりじり後ろに下がっているのである。なんであろうか、逃げるえも……なずーりんを追いかけていきたい気がするのである。それにしてもなずーりんはいつも何か食べているのである。

 るーみあもじりじりとなずーりんに近づいているのである。

 

「な、なんだ君たち。す、少なくともこれは私が自分のお金で買った正当なものだ。君たちにあげるようなつもりもないから、両手を広げて近づいてくるのをやめてくれ」

 

 るーみあは両手を広げて、じりじりと近づいているのである。後ろは吾輩に任せるのである。吾輩はなずーりんの真後ろに回ったのである。

 

「なっ、き、君たち。これはカツアゲじゃないか!」

 

 かつあげ? かつあげとは何であろうか。食べたことはないのであるが、けいねがたまに作る揚げ物の一種であろうか。ヤマメを焼くとカツアゲというのやもしれぬ。

 

「そーなの?」

 

 るーみあは首をかしげてキョトンとしているのである。吾輩も同じように首をかしげてみるのである。なずーりんははあとため息をついているようであるな。

 

「それはそうだろう。少なくとも人のものを取るようなことをしていいわけがないんだ。さあ、そこをどいてくれ。私はもう帰るつもりなんだ」

「ふーん」

 

 うむ? なんだかなずーりんとるーみあの周りがまっくろになっていくのである。

 

「わわっ。な、何をするんだ。こら、やめろ。こんなところで力を使うなっ」

 

 まっくらなところからなずーりんの声が聞こえるのである。

 

「やめろぉ、これはちょろまかせたお小遣い……いや、お金で買ったものだ。お前なんかに渡すものか」

「そーなのかー」

 

 おお、何も見えぬ。真っ黒な中で何かが起こっているようであるな。

 ふたりとも頑張るのである。吾輩はどっちも応援するのであるぞ。しかし、不思議である。突然るーみあの周りだけ真っ暗になることもあるのであるな。

 

「ふん、相変わらず地上の者は妙なことをしているな」

 

 うむ? いつのまにかとなりに誰か立っているのである。むむ、なんとなく甘いにおいがするのである。上を見上げると両手を組んで青い髪の少女がいるのである。おお、帽子に桃が生えているのである。

 吾輩もほしいのである! いや、しかし、ここではまずは挨拶をせねばならぬ。吾輩は礼儀ただしくにゃあと言ってみるのである。するとその少女は吾輩をちらりとだけ見て、どこかへ歩いていくのである。

 

「せっかく霊夢のところへ土産でも持って行ってあげようとおもったのに。どうするか」

 

 何を言ってるのかわからぬが、なんだったのであろうか。

 はっ、それよりも、るーみあとなずーりんとヤマメが心配である。吾輩は黒い周りでにゃあにゃあと言いながらぐるぐる回ってみるのである。

 すると黒い靄が晴れてきたではないか、中から現れたのは……

 

「はあはあ、もうこ、こんな人の大勢いるところで暴れるなんて」

 

 けいねである! おお、両脇になずーりんとるーみあを抱えているのである。重そうであるな。

 

「あわてて飛び込んだけど。さ、さすがに二人の妖怪相手のするのは疲れたよ。帰ろうか……」

 

 けいねが吾輩に言ってきたのである。吾輩もそろそろ帰って眠るのである。そうであるな、神社で今日は寝るのである。

 



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そらのちかくへきょうそうである

 

「ああ、重いなぁ」

 

 けいねよ頑張るのである! 吾輩はなずーりんをおんぶして歩くけいねを応援しているのである。まわりをぐるぐる回ってにゃあにゃあと声援を送ればきっと元気が出るのである。

 

「ふう、ふう。しまったなぁ、さすがに頭突きはやりすぎてしまったかもしれないよ」

 

 けいねは汗をかいているのである。なずーりんはずーっと動かぬ。

白目をむいていてこわいのである。ついさっきるーみあと真っ暗なところからけいねが引っ張り出したときにはそうなっていたのである。頭にたんこぶがついておる。ううむ、吾輩がなでなでしてあげたいところであるが。とどかぬ。

 

 吾輩は後ろ足で立って、前足をこう、動かしてみるのであるが、けいねに負ぶさっているなずーりんはちょっとだけ遠いのである。ここは工夫が必要かもしれぬ。

 吾輩はじっとけいねを見ながら考えてみるのである。

 

「ん? どうしたの?」

 

 けいねに聞かれたのである。吾輩は今考えている途中なのである。とりあえずそう答えておくのである。

 

「みゃあお、と言われてもなぁ。くす。もしかしてこの子が心配なの?」

 

 うむうむそうである。吾輩は「いたいのいたいの」をしてあげるのである。前にけいねがやっているのを見たのである。……ううむ?……いたいのいたいの……何かが足りぬやもしれぬ。

 そんな深いことを考えている吾輩の後ろをばたばたと通り過ぎたものがいるのである。吾輩はびくっとしてしまったのである。みればるーみあではないか、両手を広げて、頭の上におちゃんわんを置いているのである。

 

「こら、ルーミア。せっかく買ってあげたんだから大切にしなさい」

「はい、はーい」

 

 くるりとるーみあは回りながら、頭の上のお茶碗を両手で持ったのである。スカートが揺れて髪も揺れているのである。吾輩もちょっとやってみてもよいかもしれぬ。こう寝そべってくるりと回ってみるのである。

 

「なにごろごろしているの?」

 

 るーみあよ、吾輩はごろごろしているのではない。おぬしの真似をしたのである! しかし、まあうまくいかぬのである。もうすこしごろごろして見るのである。

 るーみあが吾輩のお腹をなでなでしてきたのである。ううむ、吾輩はごろごろできぬのである。抗議せねばならぬ。るーみあの指を前足で挟んで、なめてみるのである。

 

「……」

 

 るーみあよ、にぱーと笑ってもいいのであるが吾輩はごろごろ……いやクルリとしたいのである。

 

「おーい、置いていくぞ」

 

 けいねも呼んでいるのである。るーみあと吾輩は起き上がろうとしたのである。

 

「えい」

 

 るーみあにおされて吾輩はまたころんとしてしまったのである。にゃあ、吾輩は抗議するのである。……吾輩はこんどこそ起き上がろうとするのである。

 

「えい」

 

 ころん。

 むむむ、起き上がれぬ。起き上がろうとするとるーみあが吾輩のおなかを「えい」としてくるのである。これは難しいのである。起き上がるにも工夫がいるやもしれぬ。ううむ、吾輩は口元をとりあえず舐めて考えてみるのである。

 

 るーみあよ、そう両手を構えるではない。どうすればいいのであろうか、吾輩はとても考えるのである。そういえば、昔こんな話をけいねから聞いたことがあるのである。

 きたかぜとお天道様が旅人の服を脱がせた……いやいや、それは違うのである。その話ではないのである。なんであったであろうか……。

 

「おーい」

「はーい」

 

 待つのである、るーみあよ。

吾輩はちゃんと思い出すのである。それなのに行かれると寂しいのである。吾輩はあわてて立ち上がって、るーみあの後を追いかけるのである。たったか走って、るーみあと一緒にけいねのところへ来たのである。

 

 さっきよりもけいねが疲れた顔をしているのである。吾輩は心配してにゃあと聞いてみるのである。

 

「なに?」

 

 るーみあに話しかけてはいないのである。吾輩はうなうな言ってみるのである。

 

「なにか文句があるの?」

 

 文句はないのである。しかし、吾輩はけいねが心配なのである。なずーりんは重たいやもしれぬ。少しだいえっとした方がいいのである。吾輩はちゃんとわかっているのである。なずーりんは食いしん坊さんである。

 前にけいねも言っていたのである。あんまり食べるといけないのである。吾輩はちゃんとわかっているのである。

 

「そうだルーミア、神社に行こう。ここから近いから休ませてもらおうか」

 

 びくっ。いきなりであるな。吾輩は驚いたのである。しかし賛成である。吾輩も巫女には会いたいのである。

 

 

「あ、ああ。わ、忘れてた」

 

 さあ、けいねよこの石段を登り切れば神社である。吾輩についてくるのである。

 るーみあもなんでにやにやしているのであろうか。よくわからぬがけいねよ頑張るのである。

 ひょいひょいと吾輩は昇るのである。後ろを振り向くと、だんだんと高くなっていく階段が吾輩は好きである。ちょっとずつ空が近くなっていくのである。

 けいねはなずーりんをおぶって頑張っているのである。吾輩は心から応援するのである! なにか手伝うことがあれば言ってほしいのである。

 

「ま、待ってくれ」

 

 うむ。待つのである。吾輩は待つことには定評があるのである。石段に寝そべるとなかなかひんやりしてて気持ちがいいのである。たまにあつあつなときがあるから気を付けねばならぬ。

 

「ひぃひぃ」

 

 けいねよ頑張るのである。神社はすぐそこである。きっとおいしいものを用意して巫女がまって……くれぬであろうな。るーみあよ、ちょっと手伝ってあげるのである。吾輩も手伝ってあげたいのであるが、手が届かぬ。

 

「飛べばいいのに」

「こ、こんなところで飛ぶわけにはいかないだろう……?」

「どうせ巫女くらいしかいないわよ」

「いや、たまにだけど参拝客もいるんだ……。人里で寺子屋をやっているからには下手なことはしたくない」

 

 何を話しているかわからぬが、吾輩はちゃんと覚えたのである。わからないことはあとでよーく考えたらわかることもあるのである。またたびの良くなる場所もよーく考えたらわかったこともあるのである。

 

「も、もう少しだから」

 

 石段を頑張ってけいねが昇るのである。うむ? 今ちらりと背中のなずーりんと目があったのである。もしや、なずーりんは起きているのではないであろうか?

 吾輩は前に回ってみるのである。なずーりんは目をつぶっているのである! さっきまで白目をむいていたのである! 吾輩の眼はごまかせぬ。

 

 にゃあにゃあ! そやつ起きているのである!  

 

「にゃあにゃあ」

 

 いや、るーみあよ吾輩の真似をしなくてもいいのである。それよりもたぶんなずーりんは起きているのである。そこに気が付いてほしいのである。るーみあは吾輩をじーと見てから、ニヤッとしたのである。

 

「競争ね」

 

 たったっとるーみあが石段を上がっていくではないか! 競争である! 吾輩は負けぬのである。吾輩も負けずに石段を上るのである。

 

 よじよじ。よじよじ。たまに背の高い石段があるのである。るーみあは両手にお茶碗のつつみを持っているから追いつけるやもしれぬ。吾輩は頑張ってるーみあに追いついたのである。

 

「おお」

 

 るーみあが驚いているのである。負けないのである。

 おおっ。るーみあが石段を二段飛ばしで上がっていくのである、卑怯である! あ、足を引っかけてこけそうになっているのである。吾輩はその横をすいすい抜けていくのである!

 

 るーみあも追いかけてくるのである。最後の段である!

 

「とうちゃく!」

 

 到着である。

 

「帰れ」

 

 ……箒を構えた巫女が迎えてくれたのである。

 



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しょうじのまえのもんばんである

 久しぶりであるな巫女よ。吾輩は会えてうれしいのである。

 

「あぁ? 何か言いたいことでもあるの?」

 

 巫女が腰をまげて顔を近づけてきたのである。なんだか不機嫌であるな。いかぬのである。怒っていてはダメなのである。

 吾輩はそう思って巫女ににゃあにゃあと言ってみるのである。吾輩は地底にいってこみゅにけーしょんを学んだのであるから、きっと巫女にも通じるのである。

 

「ご飯ならないわよ」

 

 そうであるか……いや、そうではないのである。吾輩は食べ物をねだったのではない。

 

「あーあつい」

 

 るーみあが首元を緩めて手でぱたぱたしているのである。巫女はるーみあをにらみつけているのである。

 

「なんであんたはいるのよ」

「さあ?」

「さあ?ってここは妖怪の来るところじゃないわよ」

「いまさらー」

 

 るーみあは両手を広げて、くるくると回ってみているのである。なんだか楽しそうであるな。吾輩もその場でクルクルして見るのである。るーみあが巫女の周りをくるくる走っているのである。吾輩もやってみるのである。

 

「……!」

 

 巫女も肩を震わせているのである! 吾輩達のいきのあったくるくるに感動しているのかもしれぬ。るーみあも吾輩をみてにやっとしているのである。

 

「い、いい加減にしなさ~い!!」

 

 ビックリしたのである。吾輩はその場ですってんころりん、としてから丸くなったのである。巫女を見ると顔が赤くなっているのである。

 

「今日は妙な奴もくるし……あんたたちにかかわっている時間はないのよ」

「ぜーぇぜー」

 

 おお。けいねである。死にそうなかおであるな……吾輩は心配である。

 

「や、やっと着いた……。あ、あれ。霊夢、な、なにかあったの?」

「いや、むしろそれはこっちのセリフなんだけど……あんたはなんで死にそうな顔をして昇ってきたのよ。……なんでそいつ担いでるの?」

「え? ああ、うん」

 

 足がぷるぷるしているのである。なんだかおもしろいのである。……いや心配である。そういえばさっき吾輩はなずーりんのことで伝えたいことがあったような気がするのであるが、るーみあとのかけっこで忘れてしまったのである。不覚である。

 

「どっこいしょ」

 

 おお、そんなことを想っているとるーみあが吾輩の両脇をもって抱き上げてくれたのである。なにか用であろうか。

 

「よしよし」

 

 るーみあによしよしされたのである! いや、別に驚くほどのことではないかもしれぬが、うれしいのである。耳のところを撫でると喜ぶかもしれぬ、吾輩が。

 

「そ、それで何しに来たのよ」

 

 巫女とけいねが話をしているのである。

 

「実は近くで陶器市があってこの子を」

 

 けいねがなずーりんをゆさゆさしているのである。

 

「頭突きで気絶させてしまったんだ」

「なんで?……お茶碗を取り合いでもした?」

「いや、ヤマメを取り合いしてた」

「なんで陶器市で魚めぐって頭突きするのよ……?」

「いや、これには深いわけがあってだな。それよりも霊夢。少し休ませてくれないか」

「……はあ、少しだけだからね」

 

 巫女がはぁあと大きなため息をついているのである。

 

 

 ごろごろー

 

「ごろごろー」

 

 ごろごろー

 

 るーみあと吾輩は畳の上でゴロゴロを満喫しているのである。吾輩はまけぬ。吾輩はくつろぐことにかけては幻想郷一番やもしれぬ。いつかはみんなで畳の上でごろごろ勝負をしてもよいやもしれぬ。

 うーむ。こがさやふとも強敵やもしれぬが、意外ともみじも強いやもしれぬ。

 

「すーすー」

 

 なずーりんも寝ているのである。ほっぺたがもちもちであるな。吾輩はちょっと肉球で触ってみようとしたら、るーみあが吾輩を引っ張ったのである。

 

「わしゃわしゃ」

 

 おなかを触るのは卑怯であろう。おおぉ、おお。るーみあはすぐに吾輩を離して、四つん這いでるーみあがなずーりんの寝顔をうかがっているのである。

 

「しー」

 

 楽しそうな顔で吾輩をふりむいて、口の前で人差し指を立てているのである。吾輩は知っているのである。静かにするということであるな。るーみあはなずーりんの耳を引っ張っているのである。

 

「こら、君」

 

 なずーりんが起きたのである。むっくりと起き上がって、吾輩達をじっと見ているのである。るーみあは気にせず耳をフニフニしているのである。

 

「や、やめないか、起き上がったら普通やめるだろう!」

 

 なずーりんがていこーしているのであるが、るーみあはにやにやしながら耳を動かしているのである。

 

「く、くすぐったい、やめ、やめるんだ」

 

 おぉ、るーみあになずーりんが反撃しているのである。なかなか見ごたえのある戦いであるな。だきついて、ごろごろしているのである。楽しそうであるな。

 

 にゃあにゃあ

 吾輩も混ぜるのである。ふたりだけで楽しむのはダメなのである。なずーりんもるーみあのほっぺたを引っ張っていないでこっちを見るのである。

 ふりふりとなずーりんの尻尾が動いているのである。パンチしてみるのである。なかなか楽しいのである。はむ、噛んでみるのである。

 

「はぅ」

 

 びくっ

 なずーりんが妙な声をあげて転げまわっているのである。尻尾を抱いて、吾輩を睨んでいるのである。

 

「し、尻尾を噛むんじゃない!」

 

 も、申し訳ないのである。そこまで反応されるとは思わなかったのである。

 うむ? どたどたどたと音が聞こえるのである。誰か近づいてきたのである。吾輩はるーみあの足元に隠れてみるのである。座敷の障子に影が映ったのである。頭に角があるのである! ……なんか見たことがあるのである。

 

 ぱぁーんとふすまが開いたのである。

 

「こんにちはー。つめたーい麦茶が入りましたよー」

 

 こまの である!

 手にお盆を持っているのであるな。いくつかの茶碗に麦茶が入っているのである。

 

「誰だ君は」

「誰?」

「やだなぁー。高麗野あうんですよー。霊夢さんを手伝っているんです。それよりさあさぁ、麦茶をどうぞ」

 

 吾輩も、吾輩も。

 

「ふっふっふ。ちゃんと猫さんの分も用意してますよ。水で割った麦茶ですよー」

 

 吾輩の前にお茶碗が置かれたのである。吾輩は、ぴちゃぴちゃ舌でそれを飲むのである。るーみあとなずーりんも何か言いながら飲んでいるのである。

 おいしいのである。麦茶を飲んだのは初めてである。こまのは吾輩の前に座って「おいしいですかー」と言っているのである。吾輩は、みゃあと言っておくのである。

 

「猫さんとは毛づくろい友達ですからね―」

 

 毛づくろい友達であるか、ふともそうなのかもしれぬ。吾輩も毛並みのめんてなんすをかかさぬからこんどこまのにもしてあげるのである。

 

 そういえばけいねと巫女はどこに行ったのであろうか。吾輩は起き上がってこまのの開けたふすまからとことこ歩いていこうとしたのである。

 

「ダメですよ~」

 

 こまのが吾輩の前に立ちふさがったのである。

 

「今日はほかにお客がきているんです。しばらくの間皆さんをここから出しません。霊夢さん曰く『あったらめんどくさいことになる』だそうです!」

 

 とことことこ、こまのの脇を通って吾輩は外に出ようとしたのである。

 

「あーだめですって」

 

 おお、捕まったのである。るーみあとなずーりんよ気を付けるのである。こまのもなかなかやるのである。

 

「ふっふっ。このねこさんが大切なら、おとなしくしててください」

 

 すまぬ人質になってしまったのでる。

 なずーりんがぱんぱんとお尻を叩きながら立ち上がったのである。

 

「猫質というやつか、私はもう帰るだけでいいんだ。そこをどいてもらおうか」

 

 なずーりんがキリっとした顔で言った後、後ろからるーみあが膝カックンしたのだ。

 

 

 



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みんなでけづくろいである!

 

「な、なんでこのタイミングでこんなことをするんだ! まったく君たちの思考回路は全くわからないよ!!」

 

 お膝をカックンされてなずーりんが怒っているのである。るーみあはそっぽを向いているのである。なずーりんよ怒ってはいかぬ。吾輩を見るのである。こまのもそう思うであろう。

 

 にこにこ

 なんだかわからぬがこまのはにこにこしているのである。吾輩はどうすればいいのかわからぬ。とりあえず、毛並みを舐めてみるのである。紳士には毛並みのけあが一番大事なのである。

 

「おっ、毛づくろいですねー」

 

 そうである。こまのは吾輩を畳の上に下ろしてくれたのである。これで集中して毛並みをめんてなんすできるのである。ぺろぺろ、ううむ。今日は調子が良いやもしれぬ。

 

「ほうほう、やりますねー」

 

 照れるのである。みればまた、るーみあとなずーりんがつかみ合いになっているのである。たまには仲良くすればいいのである。こまのもそう思うのである。こまのはあぐらをかいて、両手を組んでむっとしているのである。

 

「すとぉーっぷ」

 

 !! ビックリしたのである。吾輩はいきなり叫んだこまのを見たのである。

 るーみあとなずーりんも一緒のようであるな。こまのはぷんぷんほっぺたを大きく膨らませて言うのである。

 

「喧嘩をするのはいいですけどっ。ほこりがたっちゃいます。それにお客様にもきこえちゃったらだめなので、静かにしましょう」

 

 そうである、静かにするのである。吾輩は紳士であるからちゃんとわかっているのである。

 

「この猫さんみたいに毛づくろいするくらい余裕を持ってください。そうですっ。じゃあみんなで毛づくろい……いやいや、へあーぶらっしんぐをしましょう!」

 

 なずーりんが一歩前に出たのである。

 

「君は何を言っているんだ? とにかく私はもう狸寝入りにも疲れたし、買った茶碗をもって帰るだけなんだ」

「まあーまーあ。そんなこと言わずに、すわっください」

「わっ、君。何をするんだ」

 

 こまのが無理やりなずーりんを座らせているのである。それからこまのはどたどたどこかに走り去って、すぐに戻ってきたのである。右手に袋。左わきに座布団を何枚か挟んでいるのである。

 

「さあさあ、皆さん座ってください」

 

 おお、吾輩にも座布団が出たのである。るーみあもスカートを押さえながら、正座したのである。なんであろうか、るーみあが何か興味を持っているように見えるのである。なずーりんはあれであるな、不機嫌そうであるな。

 

「このまえ猫さんがあの、布都さんにブラッシングされているところを見てから、私も買ってみたんですよ」

 

 袋の中からこまのがババーンと天井に向けてとりだしたのである。

 

「ぶらっしんぐぶらしー」

「おおー」

 

 るーみあが拍手しているのである。吾輩も何かした方がいいのであろうか、とりあえず尻尾を振ってみるのだ。

 

「ふふん。それじゃあ、やりましょうね。ナズーリンさん」

「な、なんで君が私の名前を知っているんだ」

「そりゃあ、いつも見てましたから」

「み、見ていた? 君は、いったい……? あっ」

 

 なずーりんの髪にそうようにこまのがブラシを動かすのである。するとなずーりんが黙ったのである。

 

 さっさっさっ。

 

「ん……」

 

 なずーりんが何か言っているのである。こまのはにこにことブラシを動かしているのである。

 

「練習しましたからね―。最近は霊夢さんも期待した目で見てくれますよ」

「……ふん」

「つやつやですね―。おなか一杯いつもたべていませんか? 一輪さんもそうですけど、最近買い食いが多い気がしますよ」

「……な、君がなんでそんなことを」

「見てましたから!」

「……すとーかーってやつかい?」

「ひ、ひどい」

 

 さっさっ、話をしながらこまのもなずーりんの髪をとかしているのである。吾輩もやってほしいのであるがここは我慢である。吾輩はとりあえず自分の毛並みを舐めてメンテナンスするのである。

 うむ? るーみあが自分の前髪をつまんでちらちらとこまのを見ているのであるな。

 こまののブラシが動くたびになずーりんの髪がさらーと動くのである。なんだか見ていると楽しいやもしれぬ。

 

「はい! おしまいです。じゃあ次は」

「はーい」

 

 るーみあが手をあげているのである。こまのはうーんと言いながら「ねこさんとどっちがいいですかね」と言っているのである。

 るーみあよ吾輩を睨むのをやめるのである。吾輩は心が広いのであるからして、ここは譲ってあげるのである。

 

「じゃあ、とりあえずルーミアさんをブラッシングするので、ナズーリンさんは猫さんをなでなでしてあげてください」

「なっ、なんで私が」

「おねがいしますよー。今度、お寺に行った時にもぶらっしんぐしますからー」

「……はぁ。そんなのが交渉材料になるわけないだろ。まったく、仕方ないな」

 

 なずーりんが吾輩見たので、吾輩はなずーりんのひざ元にのって丸くなったのである。

 

「これは、仕方なくやっているんだからな。わかっているな」

 

 何か言っているのである。

 なでなで

 なずーりんもなかなかいいのである。るーみあもこまのにぶらっしんぐをされているのである。

 

「このリボン外していいですかー」

「はずれないわよ」

「ほんとだ、これどうなっているんですか?」

「しらなーい」

「知らないって、ふふ」

 

 吾輩しっているのである、こういうのをがーるずとーくというのである。吾輩はものシリオなのである。なずーりんよ吾輩と何かしゃべるのである。なでなでもうまいのであるが、おしゃべりもやぶさかではない。

 

「……全くなんで私がこんなことを」

 

 うっすら笑いながら何か言っているのであるが、吾輩にはよくわからぬ。まあいいのである。吾輩はなかなかお膝の上でも居心地がいいのである。吾輩の背中をなずーりんの手がすーとなでると、気持ちがいいのである。

 

 みんなで集まって毛づくろいするのもいいものであるな。吾輩は気に行ったのである。るーみあもニコニコしているのである。

 

「ちょっと待ってください」

 

 いくらでも待つのである。なんであろうか、こまのをほうをみたのである。

 

「私もぶらっしんぐしてほしいです! 誰かお願いします!」

 

 吾輩が立ち上がった。やぶさかではないのである。

 

「え、えっと。大声を出して驚いちゃいましたか?」

 

 何を驚いているのであろうか、こまのよ吾輩がぶらっしんぐをしてあげるのである。そのブラシを吾輩に渡してみるのである。

 

「い、いやぁ、猫さんでは厳しいと思うのですが。むしろ私がしてあげますよ。あれ? もしかして猫さん言葉がわか……」

 

 おお、こみゅにけーしょんができるやもしれぬそうで

 

「あああああ!!!!! あの二人がいつの間にかいなくなってる」

 

 ほんとである、るーみあもなずーりんもいつのまにかいないのである。

 

「ぐぬぬ。私がちょっと目を離したすきに部屋から出て行ったんですね。ううー。霊夢さんから怒らるかもしれないわ……勝手に出ていくなんて。ごくあくひどー」

 

 

 こまのよ気にするではない。あの二人も大人であるからして、迷子に……そういえばさっきなっていたのであるな。まあ大丈夫である。

 

 それはそうと吾輩も巫女とけいねに会いに行くのである。そう思って開かれたふすまから廊下に出たのである。

 

『猫さんはここにいて、あれ? ねこさーん。え、えー』

 

 部屋の中から何か聞こえてくるのである。

吾輩はたったかと廊下を走るのである。神社を自由に走るのは初めてである。

 

「つ、捕まえますから」

 

 おお、後ろからこまのが追ってきたのである! おいかけっこであるな!

 



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じんじゃでおいかけっこである!

 とっとっと。

 廊下を走ると音が鳴って吾輩は好きなのである。

 

 きゅー。

 おお、止まろうとするとすべるすべる。しかし、吾輩はそこはちゃんとしているのである。こう体重をかけると止まることができるのである。

 

「まってー」

 

 こまのが追いかけてきたのである! 吾輩は捕まるわけにはいかないのである。捕まったら追いかけっこが終わってしまうではないか。ということで吾輩は縁側からジャンプするのである。ふさぁと雑草を踏んで着地するのである。

 

「あっ、外に」

 

 こまのが靴を履いているのである。吾輩はちゃんと待つのである。吾輩は紳士であるからして、焦ったりはしないのである。おお。履き終わったのであるな。逃げるのである。

 

 うむ? 追いかけてこないのである。後ろを振り返ると、両手を組んでこまのが仁王立ちをしているのではないか、吾輩は遠くから何をしているか観察してみるのである。

 こまのは吾輩の方をむいてポケットから何かをとりだしたのである。手のひらに何か載せて吾輩に見せているのである。

 

「猫さん。ほーらおいしい煮干しですよ」

 

 あやしい……。

 あやしいのである。吾輩はこのしゅほーに一度引っかかったことがあるのである。なずーりんと同じことをせぬとも限らぬ。吾輩は一度されるとちゃんと覚えているのである。

 

「ほらほらー。私がたべちゃいますよー」

 

 こまのが膝を曲げて手のひらを地面に近づけてきたのである。吾輩は一歩前に出たのである。……! なんで一歩前に出たのであろうか、煮干しをおもうとううむ、よだれがでるのである。舌で口元を拭いてみるのである。

 

 うろうろ。

 近づこうかどうしようか迷うのである。こまのが嘘をつくとは思えぬが……裏でなずーりんがいるかもしれぬ、ううむ。なずーりんは悪い子である。今度「めっ」としてあげねばならぬ。

 吾輩とこまのはそういう風ににらみ合いがつづいたのである。しかし、吾輩はもう迷わぬ。しゅたっと駆け寄ったのである。

 

「やった。さあ、おいしいですよー」

 

 吾輩は素早くこまのの掌に載った煮干しをハムハムするのである。偽物やもしれぬがおいしいのである。

 

「それ、あれっ」

 

 こまのが吾輩を掴もうとしたのですぐに逃げるのである。はむはむ。偽物にしてはおいしいのである。こまのの股の下を通って後ろに行くのだ。さらに軒下に潜り込むのである!

 

 ふう、一安心であるな。吾輩は満足である。

 

「こ、こらーまてぇ」

 

 おお、こまのがよつんばいで軒下に潜り込んできたのである。しかし四本足で走るのは吾輩の方が上ある! 

 

「あいたぁ」

 

 うむ? こまのが頭……いやとがった角を天井にあてて痛がっているのである。

 

「いた~」

 

 さすりさすりしているのであるな、吾輩はいてもたってもおれぬ。こまのに近づいてにゃあ、と聞いてみたのである。

 

「あ、心配してくれている? いい子だなぁ。……それ」

 

 捕まりそうになったので吾輩はすばやく動いたのである。ごちん、とまたこまのは頭を打ちついているのである。

 

「~~!」

 

 スキをついて吾輩を捕まえる気であったな……吾輩はまだ捕まるわけにはいかないのである。楽しい……いや、これは捕まったら負けな気がするのである。こまのは涙を浮かべながら吾輩を追いかけてきたのである。

 

 吾輩はたったか逃げるのである。

 しばらく軒下であそ……逃げ回ってからしゅたっと外に出たのである。おお、お天道様も綺麗であるな。暗いところからでてくるとまぶしいのはなんでであろうか、吾輩は後ろ足でくしくしと首元をかきながら考えたのである。

 

「……はあ、はあ」

 

 軒下からこまのの出てきたのである。なんだからお洋服が汚れているのである。

 

「ううー。いい加減に捕まってください」

 

 迷うところであるな。

 しかし、吾輩は走り出したのである。こまのも後ろから走ってきているようである。いつの間にかはだしであるな。床下に隠してきたのであろうか? 吾輩もきらきらするものがあれば大切に隠すことはよくあるのである。

 

 おお、お賽銭箱である。吾輩はひょいと飛び乗ってみるのである。ここにいると巫女から怒られるのであるが、なぜか上りたくなってしまうのである。

 

「はあ、はあ。追い詰めましたよ。ほら、怖くありませんから、こっちに来てください」

 

 息を切らしながらこまのも賽銭箱の前にきたのであるな。

 こまのが両手を広げて吾輩をまねているのである。吾輩はなんとなくあくびをしてみて、ゆっくりと考えてみるのである。じいーとこまのを見てみるのである。

 

「う、そんなつぶらな瞳で見られても困ります」

 

 照れるのである。しかし、こまのはそーっと吾輩に手を伸ばしてきたのである。手のひらには煮干しが載っているのである。くんくん。これは本物である。吾輩にはわかるのである。さっき食べたものも本物やもしれぬ。

 

「おとなしくしてー」

 

 はむはむ。ぺろぺろ。

 

「あ。あは。手がくすぐったいですよ」

 

 あうんの手は煮干し味であるな、ぺろぺろ。

 

「はぅ」

 

 なんだか今日はいっぱいおいしいものが食べられた気がするのである。あうんよ? うむ? 「こまの」より「あうん」の方が言いやすいやもしれぬ。吾輩はにゃあと呼んでみるのである。

 

「にゃーお?」

 

 小首をかしげながらそれでもにっこりとあうんが笑ったのである。気に入ったのであろう。それはそうと吾輩はあうんの手に「乗って」見るのである。

 

「わ、わわわ」

 

 そのまま手を駆けのぼって、肩を通るのである。

 

「え、えええ?」

 

 もみじとやったことがあるのである。またうまくできたのである、吾輩は後ろ足で肩を蹴って地面に降りたのである。むむ……うまくできてうれしいのである。

 吾輩は絶対につかまらぬ。

振り向くとほっぺたを膨らませたあうんがいたのである。

 

「も、もうーゆるさないわっ」

 

 足を鳴らして両手をあげたあうんが叫んだのである。まだ、遊ぶのである! 吾輩は立ったか走り出したのである。おお、あうんがさっきよりもかなり早いスピードで追ってくるのである。吾輩も負けてはおれぬ。

 

 とりあえず神社の裏手に回るのである。このあたりの塀をよじよじのぼると、神社の屋根の上に行けるのである。吾輩はものしりである。あうんもよじよじ昇っているのであるな。

 

 吾輩は瓦をとてとて歩くのである。ううむ、……これは。

 あうんも瓦に裸足で登ってきたのである。吾輩とあうんは屋根の上で対峙したのである。

 

「ふ、ふふふ……あっつーい!」

 

 あうんがあんよをふーふーしているのである。瓦はお天道様があっためているからダメである。吾輩も降参である、おしりをつけてあんよをふーふーしているあうんの懐に飛び込んだのである。

 

 あうんが目をぱちくりさせているのである。そこで吾輩は事情を説明してみたのである。

 

 にゃあにゃあ

 

 あうんに吾輩の言葉は通じたのかわからぬが、

 

「……やっとつかまえましたー」

 

 ぎゅーと抱きしめられたのである。悪くはない気がするのである。しかし、ちょっと息苦しいのである。ごろごろ喉を鳴らして抗議してみたのであるが、あうんは吾輩を離さぬ。すりすりと吾輩の背中に顔を押し付けいるのである。

 

「こらぁああー!」

 

 びくっ!

 

「れ、霊夢さん!」

 

 吾輩とあうんは一緒にびっくりしたのである。下を見ると巫女が両手を組んでぷんぷんしているのである。その横に帽子をかぶった青い髪の少女がいるのである、はて見たことがある気がするのである。

 

「あんたら、神聖な社殿の屋根で何をしているの? 早く降りなさい!」

「は、はいぃー」

 

 あうんは吾輩をもったまま。飛び降りたのである。

 



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だっこされるのもむずかしいものである

 吾輩とあうんは並んで座ったのである。あうんは下を向いて正座しているのである。背筋がぴんとしてなかなか姿勢がいいのである。吾輩はちょっと疲れたのでくつろぐのである。

 

 ドンっ

 

 吾輩達の目の前で巫女が足を踏み鳴らしたのである。吾輩はちょっとびくっとしてしまったのである。あうんもびくっとしているのである。おそろいやもしれぬ。

 

「あんたたちはいったい何をしているのよ」

 

 巫女が怒っているのである。うむ? 巫女の後ろで青い髪の少女がそっぽを向いているのである。

吾輩とあうんは巫女に座るように言われたからここにいるのである。何を怒っているのであろうか、あまりあうんを責めるのではないのである。あうんも反省しているのである。

 

「ううー。でも猫さんが逃げるのを一生懸命おいかけたんですよ~霊夢さん」

 

 とても楽しかったのである。

 吾輩はまたやりたいのである。あうんに近寄って頭をすりすりとこすりつけてみるのである。

 吾輩は思ったのであるが、こみゅにけーしょんは言葉以外でも意外といけるやもしれぬ。

 

「はあ、なんかあんたなつかれているわね。まあ、こいつは誰にでもなつくけどね」

 

 巫女よ、吾輩はなついたりはせぬ。ただ、ちょっと遊んであげるにもやぶさかではないのである。巫女にそう抗議しようと近づいていったのである。

 

「あれ、リボン」

 

 おお、そうである。吾輩は地底にいったときにさとりからリボンをもらってつけているのである。どうであろうか、吾輩は胸を張ってみたのである。

 おお、ぉお。巫女が吾輩をなでなでしてくれたのである。なんだか珍しいのである。

 ぅおぅうおぅ。なんだかうれしいのである。そこである、おお、巫女がなでなでしてくれることはたまにしかないので吾輩はうれしいののである。二度もうれしいと言ってしまったではないか。

 

「あ、思わず。……こいつ」

「そんなことよりも」

 

 後ろにいた青い髪の少女がしゃべったのである! 長い髪がきらきらしていて、かぶっている帽子に果物がついているのであるな。すごいのである、すかーとが七色に光っているのである。すかーともがんばり屋さんなのであるな。

 

「天子……」

 

 てんしであるな覚えたのである。しかしである……

 

「そんな猫なんてほおっておいて、さっきの話の続きをするわよ」

 

 ふふんとてんしは両手を組んで鼻を鳴らしているのである。巫女がてんしをみているのである。吾輩はこう、思うところがあるのである。

 

「地上の奴らの度肝を抜くくらいの宴会を開いてやるわ。霊夢ももちろん呼んであげる」

「はあ、そう……ん?」

 

 吾輩は負けぬ、巫女の手を舐めてこっちを向いてもらうのである。おお、巫女よこっちをみるのである。てんしよ、珍しい巫女のなでなでを邪魔されては困るのである。

 

 ころん。にゃあにゃあ。

 ぉお、おなかをさすってくれるのである。てくにしゃんであるな。あうんがそおぉと頭を下げているのである。わかるのである。なでなでしてほしいのであな。しかし、吾輩はここは譲らぬ。あまりないのである。

 

「霊夢? 聞いてるの?」

 

 にゃあにゃあ! 巫女よ、吾輩と遊ぶのである。てんしにはまけぬ。吾輩は巫女の指を前足でつかんで舐めるのである。

 

「くすぐったい……、てん」

 

 巫女が天子に話しかけようとしたときあうんがじりじりと近づいて巫女の前でころんと寝転がったのである。

 

「あ、霊夢さん。私もなでなでしてもらってやぶさかではないですよ。いえ、むしろ、いいですよ」

「いいって何がよ」

「霊夢! 宴会のこと」

 にゃあにゃあ

「霊夢さん! はやくはやく」

 

 てんしと吾輩とあうんが同時に巫女に言うのである。巫女は立ち上がったのである。

 

「う、うるさい! 何なのよあんたたち!」

 

 怒られたのである。いや、吾輩はただなでなでが嬉しかっただけである。

 

「だって、霊夢さんが猫さんだけ撫でてて……」

「あーもうほら」

 

 巫女があうんをなでなでしているのである。あうんは「うん、うん」と言いながら頷いているのである。吾輩ももう少しなでなでしても構わないのである。巫女よ開いた右手を使っても構わぬ。

 みゃー。と鳴いてみると巫女は吾輩をちらりと見たのである。

 

「はあ、なんなのよ」

 

 ! 顎の下をこちょこちょであるか、吾輩は……吾輩は……好きである……。ううむ。吾輩とあうんは一緒にこちょこちょとなでなでをされて満足である。

 

「…………っ」

 

 はっ、てんしが吾輩を睨んでいるのである。こちょこちょしてほしいのであるな……巫女よてんしもこちょこちょしてあげるのである。またはなでなででもいいのである。

 てんしもきっと巫女のことが好きなのであるな。吾輩にはよーくわかっているのである。

 

「ふんっ」

 

 てんしが踵を返してどこかに行こうとしているのである。吾輩は巫女の手を振り払って、てんしの前に出たのである。

 

「なによ」

 

 両手を組んでてんしは吾輩を見下ろしているのである。なかなか迫力があると思うのである。しかし、吾輩も負けてはおれぬ。後ろ足で立ち上がってみるのである。

 いかぬのである、巫女もいいやつなのであるから、ちゃんとおねだりせねばいかぬ。正直になでなでしてほしいといっても恥ずかしいことはないのである。

 

「? おまえ」

 

 うむ! なんであろうか。

 

「もしかして私を……慕っているのか」

 

 ……ふとのようなことを言い出したのである。しかし、吾輩はもうなれっこである。はんろんはせぬ。

 

「きっとだっこしてほしいんですよ」

 

 ぬっとあうんが顔を出してきたのである。てんしは「あんたは誰だっけ」と言っているのである。あうんは、

 

「やだなぁ、高麗野あうんですよ。比那名居天子さん」

「……どこかであったかしら」

「ずっとみてましたから! それに今日は霊夢さんとのお話を邪魔されないように頑張ったんですよ……まあ、ちょっと失敗しちゃいましたけど」

 

 にこにことあうんが笑っているのである。巫女はなんだか呆れている顔であるな。それにしても吾輩はそろそろこの姿勢がきつくなってきたのである。どうにかしてほしいのである。

 

「ほら、だっこだっこ」

 

 あうんがてんしの後ろをいったり来たりしているのである。てんしは「はあ?」といっているのであるが、吾輩はきついのである。巫女よなんとか言ってやるのである。

「天子、とりあえず抱っこしてあげれば」

「……し、しかたないな、ん」

 

 てんしが吾輩に手を差し伸べてきたのである。片手だけである。

 ……どうすればいいのであろうか。吾輩は片手だけ差し出されてもどうしようもないのである。上るには前足が届かぬ。

 

「天子……。たぶんそれじゃあ無理じゃない?」

「そうですよ。比那名居さん、こうっ両手で」

 

 あうんも巫女もちゃんと言ってやるのである。てんしよそんなやり方では吾輩は抱っこできぬ! ううむ、そんな気合を入れて言うことでもなかったやもしれぬ。

 

「……こ、こう?」

 

 てんしが吾輩の前足を持ったのである。これはだんすようであるな、しかし、天子がしゃがんだのである。吾輩はシュッと足をおろして、てんしの膝を土台に胸元まで上ったのである。

 

「おっおお……」

 

 顔が近いのである。吾輩はてんしの肩に前足をのせてにゃあと鳴いてみたのである。するとてんしふんぞり返ったのである。

 

「動物に慕われてしまうとは、これも天人としての徳かな」

 

 ほっぺたがなんだか赤いのであるが、なんであろうか、吾輩はちょっといたずらをしたくなったのである。しっぽをてんしのまえでふりふりしてみるのである。

 

「……へっくち」

 

 てんしがくしゃみをしたのである。

 



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おはなしにみみをかたむけるのである

音声をお楽しみください


 吾輩は縁側の下に潜り込むがすきなのである。

 日陰になっているからちょうど涼しい。そういえば前に雨の降ったとき「ふと」と会ったのも軒下であった。今元気にしているのであろうか……いやいやたぶん元気である。見なくても分かるのである。

 

「それで霊夢。今度の宴会には協力をさせてあげるわ」

 

 てんしと巫女が座って話をしているのである。吾輩は軒下から聞いているから、ぶらぶらと動くてんしの足しかわからぬ。うむむ、ちょっとぱんちしてみたくなってしまうのである。さっきまで履いていた靴は脱いでいるのであるな……あまり見ないながーい靴である。

 

「……別に宴会をするのは構わないけど、いつやるきなの。酒が飲めるとすればどうせすぐあつまるだろうけど……へんなのださないかぎり……」

 

 声が聞こえてくるのである。しかし、最後の方はよく聞こえなかったのである。

 

「明後日くらいね」

「はやっ! あ、でもそれは無理よ。たしか紅魔館でぱーてぃーをやるってレミリアが言っていたわ」

「レミリア? 誰? そんなのどうでもいいわ。紅魔館ってあれね、あの湖のほとりにあるあばら家の」

「あ、あばら家? そ、それならわたしの神社……ごほん。とにかくよ、天子。先に招待状ももらっちゃったし。たぶんあいつのことだからたっぷり酒も用意しているはずよ」

 

 とてとて足音が聞こえるのである。

 

「霊夢さん! お茶を用意しました。あれ? よだれがでてますよー。はいふきふきしますね」

「!……っ。あうん。や、やめなさい!」

「さっきまで幸せそうな顔をしてましたし、たぶんおいしいもののこととか考えていたんじゃないですか?」

「……そ、そんなわけないじゃない! そんな顔してないもん!」

 

 おいしいものであるか! 吾輩は立ち上がった。しかし、吾輩の目の前で縁側からぷらぷら動いてた、天子の足が地面を踏みしめてたちがあったのである。

 

「霊夢! そんなのどうでもいいじゃない。私が地上の奴らにはとーてー味わえない珍味を食べさせてあげるわ。鬼にも手伝わせてな!」

「鬼? 天子、あんた鬼の知り合いがいるの? ……あ、萃香のことか、でもあいつが手伝うかしら」

「……萃香……? まあいい。天界の宴の一端に触れることができれば地上の奴らもさぞ喜ぶだろう! あひぃい」

 

 おお、なんとなく足を舐めてしまった。特に意味はないのである。こう吾輩は新しいところにくるとにおいをかいでおくことがあるのであるが……たまにこうしてしまうこともあるのである。

 

「な、なにをするんだ。この猫!」

 

 にゃあ。吾輩は軒下のさらに奥に逃げるのである。

 

「く……私を慕うのはいいがあのけだものめ……」

 

 てんしの声が遠くに聞こえるのである。吾輩はくるっと回って元の場所にもどるのである。あまり奥に行くと、寒い。それにちょっと舐めただけでああなるとこう、いたずらを……いやいや。何でもないのである。

 

「比那名居さんのことが好きなんですよ~。はいお茶です」

「ふん。当然。……これは地上のお茶だな。えっとあんたは」

「も、もう忘れたんですか。私は高麗野あうんですよ」

「ふーん……。まずい。お茶か泥かわかったものじゃない」

「ひ、ひどい」

 

 ううむ、吾輩の上では何が起こっているのであろうか。吾輩には座ったてんしの足しか見えぬ。ふと巫女の声が聞こえてきたのである。

 

「とりあえず、あんたの宴会はまた今度ね。紅魔館の連中は大勢を招待するって噂だし。この床にいる猫も招待されているのよ、一緒にいたから」

 

 そういえば前にれみりあにはあったことがあるのである。……ぶるぶる。さくやのことを思い出してしまったのである。いまだにあのなぞはとけぬ。降りたはずなのに降りてなかったのである。

 てんしの足が勢いよくぶらぶらしているのである。

「いいだろう。そこまでいうなら勝手にするがいい。私はほかに協力させてやるやつを探すとする」

 

 よくわからぬが。えんかいとはあれであるな、おいしいものを食べることであろう。しかしてんしは来ぬのであろうか……それはちょっと寂しいのである。

 

「……はぁ……天子。一緒にいかない? レミリアんとこ」

「…………」

「比那名居さん! 霊夢さんは比那名居さんとどーしても一緒に行きたいんですよ!」

「「なっ」」

 

 おお、巫女とてんしの声がはもったのである。あうんがばたばた動いている音がするのである。

 

「霊夢さんも寂しくてきっと誘っているんですよ……。比那名居さん」

「ほう……ふふん。そこまで懇願されては行ってやらなければならないな。私としては全く興味はなかったが、これも地上のやつらのことを知ってやるためには少しくらい参加してもいいかもしれないわね」

 

 てんしの嬉しそうな声が聞こえてくるのである。吾輩もうれしいのである。ぱちぱちと拍手が聞こえてくるのである。一体だれが拍手しているのであろうか……。きっとあうんであるな。吾輩はわかるのである。

 

「あ、あんたねぇ。あうん。ちょっと」

 

 巫女の声がするのである。

 

「まーまー霊夢さん。ここは押さえて押さえて。天子さんはきっとあのままだったらダメだったじゃないですか。あ、私も連れてってくれてもいいですよ? ね。霊夢さん」

「ああ、もう。まあいいけどさ。レミリアのことだからそううるさくは言わないだろうしね。天子、とりあえず明後日の夕方前には神社に来なさい」

「いいでしょう。たのしみしておきま……楽しみにしておきなさい」

「言葉遣いおかしいでしょ、天子」

 

 吾輩も夕方には神社に来なければならぬ。こーまかんというあばら家で宴会であるか。意外とれみりあもびんぼーなのやもしれぬ。またたびを持っていったら喜ぶであろうか。明日は取りに行くのもいいのであるな。

 

「それはそうとあうん。あんた、あのネズミとルーミアはどうしたの」

 

 巫女が聞いているのである。吾輩も気になるのである。

 

「あ、いつの間にかいなくなっちゃったんですけど。ネズミさんの持っていたお茶碗はちゃんと隠しているのでそのうちやってくると思います」

「いや、別にそのまま帰してもよかったんだけど。じゃあ、あいつが来たら適当に相手しておいて。慧音も疲れたからって休ませてたけど、そろそろ」

 

 とことこまた足音がするのである。

 

「ああ、すっかり休ませてもらったよ。ありがとう」

 

 けいねであるな。吾輩は聞き間違えたりはしないのである。

 

「しかし、今日はあわただしい日だった。迷子になる子が多いし、喧嘩もあったし……。ほんとに助かったよ霊夢」

「はいはい、どういたしまして。これは貸よ」

「ははは。今度何かお返しするよ、そういえばルーミアたちは?」

「帰ったみたいよ。薄情な奴らね」

「そんなものだよ。むしろ、らしいって安心する。あ、猫は?」

「その下」

 

 吾輩のことであるな。

 軒下をひょっこりと覗いてきた慧音と目があったのである。長い髪が地面につかないように手で押さえているのであるな。吾輩を見つけて、にこっとしているのである。

 

「ああ、いたいた。それじゃあかえってご飯にしようか?」

 

 みゃあみゃあ。ごはん!

 

「そいつあんたの飼い猫なの?」

 

 みこよ吾輩は飼い猫ではないのである!

 

「えっ、いや違うよ」

 

 けいねの言うとおりであるな。けいねは吾輩に手を伸ばしてきたのである。

 

「ほらおいで」

 

 吾輩はのっそり起き上がって近づいていくのである。ここで、てんしの足元を通るときに尻尾でふんわりさすってみたのである。

 

「ぃいぃぃ」

 

 ……てんしが足を押さえているのである。いたずら成功であるな! 満足である!

 



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もこおはいないのである

 神社の石段をとてんとてんと降りていくのであろう。吾輩は後ろから来るけいねをちらちらと見ながら、降りていくのである。

 吾輩は石段を上ったり降りたりすることのべてらんである。神社にはもう何度言ったかわからぬ。そうして階段を降りきったのである。

 

「待ってくれていたんだな。ありがとう」

 

 どういたしましてである。吾輩は紳士であるからけいねがヤマメをくれるときに「まて」という時もちゃーんと待てるのである。

 

「それにしてもすっかりと遅くなってしまったな」

 

 空を見れば、お天道様が山の向こうに帰るところである。こう、オレンジ色の空はなかなか好きである。お空もみんなに喜んでほしいのであろうな! 毎日綺麗に色を付けているのである。

 

「帰ろうか」

 

 けいねがそう言ったのである。

 

 

 だんだんと暗くなっていくのである。しかし、吾輩は暗いところでもちゃんと歩くことができるのである。けいねは「提灯でも持ってくればよかったな」と言っているのであるが、安心するのである。吾輩がえすこーとするのである。

 

 足元に転がっていたこいしに躓いたのである……いや、これは油断しただけである。けいねよ、ちゃんとわかっていると思うのであるが……吾輩は後ろをう振り向いてみたのである。けいねはキョトンとした顔で吾輩を見ているのである。どうやらばれ……。ちゃんとわかっているようであるな。

 

「やっとついたな」

 

 おお、いつの間にかてらこやについていたのである。吾輩は一番乗りで門をくぐったのである。

 

「おわっ。びっくりした」

 

 びっくりしたのである! 吾輩の前に黒髪の少女が立っているのである……ううむ、背中から赤と青の……羽? であろうか、生えているのである。吾輩はとりあえずれいぎただしく「にゃあ」と挨拶をしたのである。ううむ? どこかで会った気がするのである。

 

「にゃあ」

 

 その少女はにっこり笑って吾輩に返したのである。どうやら悪いものではないようであるな。吾輩は安心したのである。

 

「ああ、こんにちは、おじいさん」

 

 けいねがやってきて言うのである。おじいさん……? どこにいるのであろうか、挨拶をせねばならぬ。まなーである。おらぬのはないか?

 

「こんにちは」

 

 羽の生えた少女が言っているのである。おじいさんなのであろうか、ううむそうは見えぬ。けいねよ、この少女はたぶんおじいさんではないのである。そう思っていると、門をくぐって少女はどこかに行ってしまったのである。

 

「こんな遅くに何をしていたんだろうか……。保護者のおじいさんが夜道に独りは心配だが、まあ大丈夫か」

 

 けいねよ、どうみてもおじいさんには見えなかったのである。ううむ、わからぬ。教えてほしいのである。さっきの少女はおじいさんだったのであろうか? にゃあにゃあ、とけいねのおひざにすりよってみるのである。

 

「くすっ。なんだ、そんなにおなかが減ったのか? ご飯にしようか?」

 

 うむ!

 

 

 てらこやの中に入ったのである。もちろん足はちゃんとふきふきしたのである。

 吾輩の前に桜色のお茶碗が置かれたのである。中にはご飯が入っているようであるな。これはさっきけいねがにとりからもらったお茶碗である。吾輩は前足をお茶碗にかけて、顔を突っ込んだのでる。

 

 むしゃむしゃ。

 

「ふふ、おいしいか?」

 

 うむうむ。吾輩は口元を舐めながら答えるのである。けいねは吾輩を見ながらにっこりしているのである。それを見ると吾輩もうれしくなるのである。けいねもご飯を食べるのである。

 

「おまえ……結構汚れたな。そういえば今日はいろんなところでごろごろしてたからなぁ」

 

 ……恥ずかしいのである。吾輩は綺麗好きであるからして、お山のお風呂に行くのであるが、今日はまだ行っておらぬ。

 

「よし。お風呂を沸かすか、一人でやると結構大変だが、私も今日は疲れたよ。ちょっと待っててくれ。こういう時に妹紅がいてくれたらなぁ。炎でさっと温めてくれそうなものなのに……薪代も結構馬鹿にならない出費なんだ」

 

 よくわからぬが吾輩もお手伝いするのである。

もぐもぐ、これをちゃんと食べ終わってからである。もぐもぐ。おいしいのである。吾輩はとても幸せであるな。そういえばさっきはあうんににぼしももらったし……おお、そういえばなずーりんからヤマメをもらえなかったのである……思い出したのである……。

 うむ? けいねがおらぬ。お風呂を沸かしに行ったのであろうか?

 

 こんこん。

物音がして吾輩はそちらを見てみたのである。おお、よく見ればさっきの少女であるな。にやにやしながら吾輩を見ているのである。ぴんと指を吾輩に突き付けて言うのだ。

 

「おまえ。もしかして見えているんじゃないか?」

 

 なんのことかわからぬ。吾輩はうしろを振り向いてみたのである。

 

「いや、違う違う、猫。猫」

 

 吾輩のことであるか! 見えているというとちゃんと見えているのである。吾輩はじっと少女を見返したのである。

 

「困るのよねぇ。このぬえは正体不明でなきゃ。こうやって人里を練り歩いていろいろとくふうーしているのに、でもまぁ猫くらいならいいのか? ああん」

 

 どことなく楽しそうに言うのであるな。ぬえというのであろう。ぬえ……鵺かもしれぬ。吾輩はものしりなのである。

 

「おや? 妹紅。来てたのか」

 

 けいねが帰ってきたのである。もこおであるか。どこにいるのであろう。吾輩はあたりをきょろきょろと見まわしてみたのであるがぬえしかおらぬ。けいねよもこおはおらぬぞ。

 

「ちょうどよかった。妹紅。お風呂に水を張ったんだ。いつものようにしてくれないか」

「……わかったわ」

 

 ぬえがにやぁと笑いながら立ち上がったのである。もこおはおらぬが、ぬえがやるのであろうか。吾輩にはよくわからぬ。けいねよ。にゃあにゃあと吾輩が聞いても「めっ。ごはんをあんまり食べ過ぎると太るぞ」と言われたのである。 

 ううむ、太るのはあまりいやである。

 

 ぬえのあとをとことこ歩いていくのである。お風呂場は吾輩も知っているのである。

 

「くっくっく。このぬえの正体に気が付かずにお風呂まで用意してくれているとはな。ちょうどくつろぎたい気分だったのよ……」

 

 ぬえは頭の後ろに両手で組んで歩いているのである。

 

「お寺では行水なんてしているみたいだけどあんなの冷たくて絶対やりたくないわ。お、ここか。月明かりの入ってくるいい風呂場じゃないか、村紗でも連れてくればよろこびそうだな」

 

 むらさ……きゃぷてんであるな! 吾輩は知っているのである。

ぬえはお風呂場に入っていくのである。暗いままであるが大丈夫であろうか。ごそごそと服を脱いでいるのだ。ここのお風呂は「ひのき」を使っていると聞いたのである。よくわからぬがよいことなのであろう。

 

「さてと」

 

 ぬえがはだしになってぱたぱたと湯舟に歩いていくのである。お水が張っているようには見えるのであるが、高くて良く見えぬ。

 吾輩は物陰からじっと見ているのである。ぬえは湯舟に手をかけているのであるな。

 

「おい、お前も一緒に入るか……なんてね」

 

 いや、いいのである。

 ぬえは吾輩をみて、ちらっと舌を出しているのである。右目をウインクしているのである。吾輩はだんだんとわかってきたのである。じっと、じっと見るのである。

 

 ぬえがざばぁっとお風呂に入ったのである!!

 

「……ひゃぁああ!!!!」

 

 水風呂から這い上がってきたぬえは四つん這いで吾輩を睨んできたのである。

 

「ち、違うからな!!」

 

 わかっているのである。わかっているのである。おっこちょいさんであるな。

 




ぬえええぇにコメントもらえるとぬえぇえ


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おふろとばんしゃくである

 どたどた音がするのである。きっとけいねがやってきたのであろうな。

 

「な、なんだ今の声は!」

 

 慌てたけいねがお風呂場に入ってきたのである。ぬえはあわてて「な、なんでもない」と言っているのであるが、ううむ。けいねよ、ぬえが体を抱きかかえるようにして寒そうである。何とかしてほしいのである。

 けいねははあとため息をついているのである。

 

「また、行水をしようとしているのか? まだ寒くはないからって自分を痛めつけるようなことには関心出来ることじゃないな。妹紅。ほら、とりあえずこれでで体を拭いて待っててくれ。今私が外でお風呂を沸かすよ」

 

 けいねは白い布をぬえに渡したのである。

 

「まあ、私も甘えたのが悪かったしなぁ。悪かったよ」

 

「あぁー」

 

 ざばーとぬえが肩までお湯につかったのである。吾輩はあふれ出したお湯に前足をつけてみるのだ、おお、いい湯加減である。

 

「まさか、水風呂だったとは思わなかった。妹紅ってやつは風呂焚きをさせられているんだなぁ。ああ、寒かった」

 

 お疲れ様である。ぬえは気持ちよさそうに両手をあげて右手で左手の肘をもったまま、体を伸ばしているのである。吾輩も少し真似してみようと思ったのであるか、なかなかむずかしいのである。

 

 吾輩は湯舟にとんと飛び乗ったのである。目の前にぬえの顔があるのである。まつげが長いのであるな。こう、きらきらしてて綺麗である。

 

「お! お前も入るのか?」

 

 ううむ。少し深いのである。ぬえよ吾輩を抱っこしてほしいのである。妹紅も川でやってくれたのであるが、あれは寒かったのである。……そう考えると吾輩はぬえの気持ちがよーくわかるのである。冷たいのはいやであるな。

 

「ほらほら」

 

 ぬえが手ぬぐいをお風呂につけて、ぷくぅっと膨らませたのである。おお、なんであろうか! とても気になるのである。吾輩は前足を伸ばしてぱんちしてみるのである。柔らかいのである。

 

「お前、砂がついているな。よっと」

 

 ぬえが吾輩を持ち上げて湯舟から上がったのである。それから木の椅子に座って吾輩にお湯をかけたのである! ビックリしたのである! 

 

 にゃあにゃあ。

 

「風呂に入る前にちゃんと綺麗にしておかないとな」

 

 ごしごし、ごしごし。手ぬぐいでこすってもらった後にお湯をざばーとかけられるのである。なかなか気持ちいかもしれぬ。慣れてきたのである。

 吾輩もぬえにやってあげてもいいやもしれぬ。しかし、なかなか難しいのである。どうすればいいのであろうか。

 

「よし、綺麗になったな」

 

 きれいになったのである! しかし、吾輩の毛並みがびしょびしょである。こう、濡れていると体が重くていやであるな。ぬえは湯舟にざばーんと入ってしまったのである。吾輩はなんとかよじ登ったのである。ううむ、重い。

 

 ぬえの顔がまた近くにあるのである。吾輩はお風呂の中を覗き込んでみたのであるが、やはり深いのである。泳げぬことはないのであるが、こうくつろげぬ。

 む? いいところがあるではないか。

 ぬえが膝をあわせて座っているのであるからして、その上にぴょんとのってみるのである。

 

「うわっぷ」

 

 膝にのると吾輩はちょうど首くらいまで出るのであるが、乗るときにお湯を飛ばしてしまったのである。申し訳ないのである。

 

「……まったく」

 

 ぬえは怒ったようであるが、膝は貸してくれているようである。ぬえは両手を頭の後ろで組んで体を反らしているのである。こう、吾輩はとても気になるのであるが、前の「いく」もそうなのであるが首のつけねのあたりが突き出ているのはなんでであろうか……いくはさこつと言っていた気がするのである。

 

 ぱんち。

 

「あ?」

 

 ぬえに睨まれたのである。いかぬいかぬ。いたかったのかもしれぬ。悪かったのである・吾輩は叩いたところを舐めていたわったのである。

 

「ぃぃ」

 

 ぉおお、ぬえが動いて、吾輩はお湯の中に沈んだのである。

 

 

 もぐもぐ。

 これは吾輩ではないのである。けいねと向かい合ってぬえがご飯を食べているのである。丸い机の上に吾輩が載ろうとするとけいねが「めっ」としてくるのである。

 しかし、おいしそうなご飯が並んでいるのである。吾輩は机に前足をかけて、けいねをじっと見つめてみるのである。

 

「こら、物欲しそうにしてたらダメだぞ」

 

 難しいのである……。けいねはお箸をつかってご飯をパクパク食べているのである。吾輩も箸を使うべきであろうか。

 

「そういえば、妹紅。そのねまきは大丈夫か、私のだから少し大きいかもしれないが」

「ああ、うん」

 

 ぬえはご飯を食べながら答えているのである。そうである。ぬえならば吾輩に何かくれるやもしれぬ。吾輩はのそのそ近づいていったのである。

 

 ぬえはちらっと吾輩をみて、べーと舌を出したのである。

 吾輩も負けてはおれぬ、同じように舌を出してみるのである!

 

「ああ、この子をお風呂に入れてくれてありがとう。お酒でも温めてこようか!」

「……うん!」

 

 ぬえが笑ったのである。けいねよ吾輩もお助けするのである。

 立ち上がったけいねにとてとてついていくと、台所の前でけいねが言ったのである。

 

「それにしてもびっくりしたよ。さっきまで妹紅に見えていたんだけどなぁ……できるだけ強い酒をのませてみようかな」

 

 うむ?

 けいねよ何か言ったであろうか?

 

「……ん? お前にお酒をあげるわけにはいかないからな。そうだな、麦茶をあげよう」

 

 うむうむ。

 

 

「あー」

 

 ぬえよ、寝転んでおなかをかくでない。

 それにしてもよく飲んだのである。お酒を吾輩は飲んだことはないのであるが、みんな気持ちよさそうになっているのである……吾輩も少し飲んでみたいのである。

 吾輩はそう思って、ぬえの使っていたおちょこを舐めようとしたのである。

 

「こら」

 

 けいねに怒られたのである……今日はよく怒られる気がするのである。けいねは食器を片付けているのである。吾輩も手伝おうとしたのであるが、尻尾を掴まれたのだ。

 

「ううー」

 

 ぬえよ、離すのである。寝ぼけているようであるな。吾輩はぬえのほっぺたをパンチしてみるのである。それにしてもだらしなく口が開いているのである。それにねまきもちゃんと着ておらぬ。

 ぷに、ぷに。

 ほっぺが柔らかい。吾輩はなんどかパンチしてみるのである。しかし、吾輩は前に噛まれたことがあるのであるからして、ちゃんと気を付けてこうパンチするのである。離すのである。

 

「ぅう」

 

 おぉ、逆にだっこされたのだる。

 

「ゆたんぽ」

 

 ゆたんぽではない。吾輩はわがはいである。しかし、もぞもぞ動いてもぬけだせぬ、吾輩は仕方なく、ぬえと一緒に寝ることにしたのである。

 

「あ、ほんとに寝ちゃったのか。やっぱり強いお酒を飲ませすぎたかな」

 

 けいねであるな。吾輩はそっちを見てみたのである。手に掛布団をもっているようである。それをぬえにそっとかけてあげているのである。吾輩はぬえと布団の間のどーくつのようになっているところから、にゃあと言ってみるのだ。

 

「ああ、おやすみ」

 

 ! けいねに吾輩の言葉が通じたやもしれぬ。うれしいのである。

 これで安心して眠ることができるのである……。今日はいろいろあって楽しかった。

 

 

「おひさしぶりですね。猫さん」

 

 みゃあぁ……。ここはどこであろうか、吾輩はすくっと立ち上がってみれば神社の真ん中にいるのだ! 吾輩はなんでここにいるのであろうか?

 

「困惑しているようですね。しかし、安心してください」

 

 頭に帽子をかぶった……ドレミーがそう言っているのである。久しぶりである。

 

「ここは夢の世界ですから」

 



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きょうもいいことありそうである

  吾輩はどこにいるのであろうか。さっきまでぬえと一緒に寝ていたと思ったのであるが……。そもそもぬえもおらぬ、代わりにおるのが

 

「おや、どうしましたか?」

 

 ながーい帽子をかぶったどれみーであるな。うむ……、吾輩はどれみーのことを知っていると思うのであるが、なんだかあまり思い出せぬ。前にあったことはあると思うのである。

 

 どれみーはふよふよと浮かぶ桃色のぼーるのようなものに乗って、ぱらぱらと本を読んでいるのである。吾輩も読んでみたいものである。どれみーは吾輩をじとっとみて、言うのである。

 

「それなりに長く生きてはいますけど、私も猫さんの夢に何度も入るなんてそうはなかったわ」

 

 ぱたんと本を閉じたのである。

 

「……」

 

 どれみーは片手を上にあげると、手のひらに小さな桃色の玉を出したのである。それからにやっと吾輩に笑いかけて、ぽいっと吾輩に玉を投げてきたのである。

 吾輩は子供ではないのである。このようなボール遊びはもうやらぬ。こう、ぱんちして、のってみて、ごろごろして、ううむ。たのしい。

 意外と弾力があるのである。吾輩はコロコロ転がして遊んでみるのである。おお、どこに行くのか! 吾輩は転がっているボールを追いかけていくのである。

 

「……くすくす、それにしても猫さん。なんだか不思議な気……のようなものがまとわりついていますね」

 

 今忙しいのである。ごろごろ。

 

「不幸でも呼びそうなものが体についてますよ。もしかして、最近貧乏神にでもなでなでされました?」

 

 うむ? びんぼうがみとはなんであろうか。びんぼーとはあれであるな、巫女のことであると誰かが言っていたのである。意味はわからぬ。がみとはなんであろうか……。

 

「ふふ、これも何かの縁。まあ、私にはどうすることもできませんが、ここ数日は気を付けていた方がいいかもしれないわ……」

 

 どれみーが本を開いたのである。ぱらぱらと風もふいていないのにページがめくられていくのである。

 

「漱石の猫にも最後には悪いことはありましたけど、貴方は……そうですね。信頼するような相手と一緒にいればきっと大丈夫でしょう」

 

 ごろごろ、やっと「こつ」を掴んできたのである。ボール遊びもなかなか侮れぬ。

 

「……あの、聞いています?」

 

 ……も、もちろんである。ちゃんと聞いていたのである。吾輩はじっとドレミーを見てみるのである。ふよふよと浮かんでいるのは不思議であるな。

 どれみーは吾輩とじっと見つめあってから、うっすらと笑ったのである。

 

 それからウインクしたのである!

 

 

「んんぅ」

 

 いたいっ。吾輩はころころと飛ばされたのである。な、何が起こったのであろうか? よく見るとぬえがすごい寝相で寝ているのである。暑かったのであろうが、吾輩もいたかったのである。

 吾輩はぬえに近寄ってなにゃぁーと威嚇して見るのであるが。「えへへ」とぬえは笑ったのである。……なんだか幸せそうであるな、まあいいのである。

 それにしてもさっきまで誰かとあっていた気がするのである。なんだか悪いことが起こることがあるから気を付けるように言われた気がするのであるが……誰であったか。それにしても悪いこととはこわいのである。

 

「ぅん」

 

 ごろりとぬえが寝返りを打っているのである。とても幸せそうであるな。おお、二度も幸せそうなになるとはぬえは幸せ者である。

 吾輩は昨日と同じように朝に起きてしまったようであるな。外から明るい光が入ってきているのである。吾輩はその場で大きく伸びをしてから、毛並みのめんてなんすをするのである。ぺろぺろ。くしくし。

 今日はなにをするべきであろうか、そう思っているとけいねがやってきたのである。目をぱっちり開けているのである。流石である、それに比べてぬえはだらしがないのである。

 

「あ、起きていたのか。まあそちらさんはまだおねむのようだけど」

 

 けいねは吾輩の顎の下をこしょこしょしてくれた後に縁側の障子をからりと開けたのである。うむ、まぶしい。今日もいい天気であるな。しかし、まだ涼しいのである。

 吾輩はとてとてあるいて縁側から外に出たのである。

 

「お、おい、もう行くのか?」

 

 うむ。世話になったのである。まあ、また来るのである。今度はけいねにセミの抜け殻でも持ってきてもいいかもしれぬ。吾輩はけいねににゃあとお礼を言ったのである。紳士としてわすれるわけにはいかぬ。

 

「まったく。せっかちな奴だな。また、いつでもおいで。せっかくお前のお茶碗も買ったんだから」

 

 また来るのである。吾輩はとてとて歩いて、門をくぐったのである。

 

 

 今日は何をしようかと思いながら歩くのは結構楽しいのである。朝は涼しいから、吾輩は散歩も好きである。最近は忙しかった気もするのである。そういえば地底から戻ってきて、吾輩だけになったことはほとんどなかった気がするのである。

 吾輩は人里からちょっと離れた場所で丸くなってみるのだ。たまには木陰でのんびりするのもいいかもしれぬ。

 

 そうである。吾輩はまたたびを取りに行くつもりだったのである。思い出したのである。すぐにすっと立ち上がって、きりりと山の方を向いたのである。

 

 それからのんびり歩きだすのである。急ぐことはないのである。いずれつく、と吾輩は知っているのである。

 お天道様が吾輩の真上にのぼるまで競争である。吾輩は負けたことはないのである。休まずに歩いているとちゃんとつくのである。

 とてとて、としばらく行くと向こうから誰かやってくるのである。髪をまとめた着物の少女であるな。あと後ろにいるのは……おお!

 

 吾輩はだっと駆け寄ったのである。にゃあと挨拶をすると、椛も驚いたような顔をしているのである。

 

「わっ、びっくりした。お前か……」

 

 なんだか今日はもみじもおしゃれであるな。しっかりした着物を着ているのである。

 

「なに? 椛。その猫は知り合いなの」

「え、ええ。ちょっと」

「あ、もしかして文の奴が言ってた猫ってこの子ことなの? へー」

 

 もう一人の少女も吾輩をなでなでしてくるのである。ううむ、いいのである。ニコニコしているのであるな。手に板のようなものを持っているのである。それを吾輩に向けて。

 

 ぱしゃっ!

 

 ! びっくりしたのである。吾輩はもみじの後ろに隠れたのである。

 

「お、おい。毛が付くだろう」

 

 なんだかひどいのである。

 

「あはは。とりあえずこれが一枚目ね。この調子で文の奴をぎゃふんといわせられる写真をとってやるわ」

「はたてさん……なんで私まで人間の里なんていかないといけないのでしょうか?」

「はたて、でいいわよ椛。いいじゃない、私だって人里なんて一人で行くのはこわ……つまらないし。これも仕事よ」

 

 はたては両手を組んでうんうんと頷いているのである。

 

「はぁ、普段引きこもっているから……」

 

 もみじが何か言っているのであるが、吾輩には聞き取れぬ。

 はたてはむすっとして言うのである。

 

「だって、文の奴がまーた私の新聞を念写に頼るだけのありきたりな新聞っていうのよ! 敵情視察もかねて、取材にいくのよ」

「だ、だからなんで私まで、この前の休みは地底で消えましたし」

「……な、なによ。甘味くらい奢ってあげるわよ」

「……………………………ぅ」

 

 もみじがちょっとうつむいたのであるが、吾輩が下から見ると嬉しそうである。もみじははっと吾輩を見たのである。

 

「ち、違うからなっ!!」

「何で猫に言い訳しているのよ、あんた」

 

 そうである。吾輩なら言い訳はせぬ。

はたてはもみじの背中を押しながら行くのである。

 



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わがはいはのどにつまらせたりせぬ

あらすじ:
ひょんなことから人里に行くもみじとはたてについていく吾輩。はたてはもみじと甘味処に行く約束をしているのであった。


 とてとてとてとて 

 

 もみじが振り向く! ぴたっ

 

 …………。もみじが歩き出したのである。

 くるっ。その手には乗らぬ! もみじが振り向いたらちゃんと止まるのである。

 

「おい、いつまで付いてくるつもりなんだ? 今日は遊びに行くんじゃないんだぞ」

 

 吾輩は動かぬ。吾輩もついていくのである。

もみじは白い頭をかきかきして、はあとため息をついているのである。

 

「まったく。このままじゃその辺の茂みから小傘も出てきそうだな」

 

 こがさであるか? 吾輩はあたりを見回してみたのである。おらぬ。

 おお、動いてしまったのである! なかなかこーみょーな手を使うのである。もみじよ、おぬしできるのであるな。吾輩は負けた時はちゃんと認めるのである。ころん、と転がっておなかを見せるのである。

 

「……」

 

 もみじがなでなでしてくれるのである。うむうむ。

 

「ちょっと。椛。猫と遊んでないで早く行くわよ」

 

 はたても来てなでなでしてくれるのである。ちょっと怒っているのやもしれぬ。怒ってはいかぬ。吾輩はにゃーと言ってみるのである。

 

「はたてさ……はたても撫でているじゃないですか」

「いや……だってずるいし」

「ずるい? 何がですか。私はあの手この手でやっと取れた休みを使っているんですよ」

「そうじゃなくて猫のこと……って、わかったわよ。そんなに怒らないでいいから」

 

 なでなでしながら話されると吾輩、立ち上がれぬ。ごろんと転がって、するりと抜けてみるのである。こういうのは得意である。さくやと今度会っても逃げきって見せるのである。

 

 

 吾輩ともみじとはたては人里にやってきたのである。吾輩からすればもどってきたのであるが、お山のまたたびは逃げぬ。ゆっくりと行くのである。

 道を歩いているとはたてが「あっ」と声を出したのである。吾輩は思わずそちらを見たのである。茶屋であるな。吾輩はよく知っているのである。お茶と団子を食べるところであろう。

 吾輩は食べたことがないのである。のどに詰まるといわれてもらったことはないのである。吾輩はそこまでおっちょこちょいなのではないから、残念である。

 

「椛、あそこ幟(のぼり) 見て」

 

 はたてが「甘味処」と書かれた幟を見ているのである。

 

「甘味処」

 

 なんと読むのであろうか。吾輩は首を動かして考えてみるのである。ううむ、ううーむ。わからぬ。はたてが喜んでいるからきっといいことが書いているのである。いいことであるか、ううむ。「またたび」やもしれぬ、いやなかなかいい線いっているのではないであろうか!

 もみじよきっとあれは

 

「あまみどころか、はたて……あそこに寄るんですか」

 

 ごろごろ、……間違えたのである。

 

「その中途半端な敬語もやめていいわよ。奢るって約束したし、あそこでちょっと休憩をしていきましょう。ほら、椛」

「えっ? 何ですか」

「いや、席を取ってきて」

「私が? まあいいですけど」

 

 もみじがつかつかと歩いていくのである。吾輩もその後ろをついていくのである。するとはたても吾輩の後ろをついてくるのである。なんだか仲良しであるな。

 茶屋の横に大きな赤い傘が立っているのである。その下に長い椅子が置かれているのであるな。吾輩はちゃんと知っているのである。あそこでのんびりするものであろう。

 もみじがお店のものと話をしている間にはたてがそこに座ったのである。吾輩もぴょんと飛び乗って丸くなったのである。日陰になっていてなかなかいいところであるな。

 

 しばらくするともみじがやってきて吾輩の隣に座ったのである。

 もみじはふうと息を吐いて、吾輩の頭をなでなでするのである。うむうむ、くるしゅうないのである。

 さらにしばらくすると店の者がお茶とあんこのたっぷり乗ったお団子を持ってきたのである。それと吾輩にはお椀にお水であるな。なんだかずるいのである。

 

 にゃあにゃあ。

 

「わっ、お前にこれはやれない。のどに詰まらせたらどうする」

 

 もみじも同じことを言っているのである。

 はたてが「あははは」と笑っているのである。

 

「ほんとっ、よくなついているわね椛。あんたは性格いいから動物にも好かれるのかもね。あっ。このお団子おいしい。それに餡子が程よい甘さ……」

 

 なんだか幸せそうにはたてが食べているのであるな。吾輩は紳士であるから我慢せざるを得ぬ。尻尾をふりふりしてみるのだ。決して怒ってなどおらぬ。

 

「うっ」

 

 急にはたてが青い顔をしているのである。胸をどんどんとたたいて、急にお茶を飲んだのである!

 

「あちゅっ」

 

 妙な声を出してお店の中に入っていったのである。吾輩よりもはたての方が喉に詰まらせているのである! 気を付けて食べなければならぬ。

 

「お水でも取りに行ったのか……。急いで食べるから……はあ」

 

 にゃあ

 全くその通りであるな。はたてはおっちょこちょいなのである。その点、吾輩はそんなことをせぬ。ちょっとくれてもいいのである。

 

「だーめー」

 

 ううむ。ケチなのである。吾輩がもみじににゃあにゃあと催促してもくれぬ。吾輩は仕方なくお水を飲むのである。うむうむ。水であるな。舌でちょっとずつ飲むのである。

 ふと吾輩はもみじを見たのである。

 

 もぐもぐとほっぺたを動かしながら、だんだんとにやけているのである。「ん」と言いながら手をほっぺたにつけているのである。

 幸せそうであるな。吾輩はなんとなくうれしくなってしまうのである。もみじがうれしいのであるなら吾輩はそれでいいのである。我慢してお水を飲むのである。

 

 ぴちゃぴちゃ、舌を出したり入れたりして飲むのである。

 

「うっ」

 

 吾輩が振り向くともみじが青い顔をしているのである。それから胸をたたいているのである。お茶を手に取ってそれから飲むと、

 

「んぐっ」

 

 熱そうにその場でうつむいたのである。おおぉお団子を落としたのである。吾輩は地面に落ちる前に串のところをキャッチしたのである! ちょっと甘いのである。

 

「あんた何をやってるの?」

 

 はたても戻ってきたのである。

 

「い、いや。喉に……。それにお茶が熱くて」

「なんなの、今日の私たち……こんなの文にばれたら一日中ネタにされてからかわれるわ」

 

 二人ともおっちょこちょいであるな。吾輩が一番なのやもしれぬ。

 もみじが吾輩が串を咥えていることに気が付いたのである。

 

「お前、相変わらず曲芸みたいなことができるんだな……小傘と一緒なら一財産築けるんじゃないのか」

 

 もみじよ吾輩はしゃべれぬ。そう思ってじっと見てみるのである。

 

「うっ、いや……ありがとう」

 

 もみじが吾輩からお団子の串を取ったのである。吾輩は食べるのをちゃんと我慢したのであるし、お団子には触っていないのである! ほめてもいいのである。

 

「この子ほんとお利口ね。椛が飼ってみれば」

「なんでそんな話になるの? こいつはついてくると思ったらいきなりいなくなったりしますから大変ですよ。こいつと小傘が一緒にいた時はほんとにたいへ……」

 

 急にもみじが黙ったのである。……汗をかいているようにも見えるのであるな。

 吾輩が振り向くと、のしのしと大きな傘を持った少女が近づいてきているのである。あのなすびのような傘は吾輩も見覚えがあるのである。

 

「は、はたて、ここを離れましょう。早く」

「えっ?なんでよ、まだお団子食べ終わってないわよ」

 

 吾輩はだっと駆けていくのでる。

 

「あっこら」

 

 椛の声が後ろから聞こえるのである。

 吾輩は大きな傘の下に潜り込んだのである。見上げると大きな瞳がぱちくりしているのである。

 

 にゃあ。

 

 吾輩がそういうと、こがさがにっこり笑ったのである。

 

 

 



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こうようである!

 吾輩はこがさの顔をちゃんと覚えているのである。なすびのような傘を持っていたらこがさであるな、間違いないのである。

 

「猫さんだ」

 

 猫さんである! いや……わがはいはわがはいである。吾輩は後ろ足で立って前足をこう、伸ばしてみるのである。するとこがさは吾輩の前にしゃがんで、両手を前に出したのである。

 

「たーっち」

 

 おおぉ、こてん。

 吾輩は倒れてしまったのである。「たっち」とは何であろうか、吾輩にはわからぬ。しかし、こがさよ危ないのである。吾輩はにゃーと抗議したのであ。

 

「あっあっ。ご、ごめん」

 

 なでなで。

 うむ。許すのである。

 

「それにしてもなんでこんなところに猫さんがいるのかしら?」

 

 こがさが小首をかしげたので吾輩もやってみるのである。こがさの大きなおめめに吾輩の姿が映っているのである。なかなかなりりしいのである。

 

「あっ。あれ? あそこにいるのは椛?」

 

 こがさが指を指したのである。吾輩はそうであると答える前にこがさはとてとてお団子屋さんの前に歩いてったのである。吾輩もついていくのである。

 戻ってみるとはたてがお茶を飲みながらわがはいに「おかえり」と言ってくれたのである

わがはいもちゃーんと「ただいま」と答えたのである。

 

「まるで言葉がわかっているみたいね」

 

 ずずずとはたてはお茶を飲んでいるのである。吾輩はもみじを見るとこがさがその周りをぐるぐるしているのである。何をしているのであろうか。

 

「椛? 今日はすごいおめかししているじゃない。どうしたの?」

「うるさいな……唐傘風情には関係ない。私は忙しいんだ」

「……お団子食べるのに忙しい? くす」

「……!! う、うるさい! そもそもなんで妖怪のお前が普通に人里にいるんだ」

「え? 人里でよく子供たちと遊んでいるから……」

「な、何を言っているんだは? ああ、もうとにかく帰れ」

 

 おお。もみじがこがさを押しながら「かえれ」と言っているのである。こがさも負けずに胸を張っているのである。ううむ、どっちも負けないでほしいのである。

 

「こがさ……小傘。ああ、あの記事で椛と一緒に地底に行ったとかいう!」

 

 急にはたてが立ち上がったのである。手に持った湯飲みからお茶がこぼれたのを吾輩はかれーに回避したのである。

 

「椛、このえっと小傘にインタビューをしてよ」

 

 もみじにはたてが言うのである。

 

「えっ、なんで私が、こんなところでいつもの人見知りになってもらっても困るんですけど……自分でやってください」

「ひ、人見知りで言っているんじゃないわ。ほら、文の記事ではあいつの第三者視点ばかりだったからあんたとこの子のインタビュー記事は行けるわ」

 

 はたてはひとみしりさんであるか。大丈夫である。おなかをこう見せれば誰でも仲良くなれるのである。吾輩はよく知っているのである。

 

「えっ、インタビューって」

 

 こがさもキョトンとして聞いているのである。はたては椛のちょっと後ろから言うのである。

 

「いや、貴方は鬼を倒した唐傘としてちょっと有名になっているのよ。まあ、倒したっていうかあれだけど。独占インタビューって記事ならきっと受けると思うわ」

「……鬼を倒した……有名……えへへ」

 

 こがさが頭を掻きながら幸せそうであるな。いいことである。それにしてもインタビューとはなんであろうか。吾輩も食べたいのである。いや、食べ物かはわからぬが。

 そう思って、吾輩ははたての足元をすりすりして見るのである。

 

「ん?」

 

 はたては吾輩をひょいと持ち上げたのである。

 

「インタビューしてくれないとこの子がどうなっていいの?」

 

 はたてが吾輩を撫でながら言うのである。するとこがさも笑顔で言うのだ。

 

「ななんだとーひれつなー」

 

 はたてはひれつなのであるか。吾輩はそうは思わぬ。もみじもきっとそう思うのである。

 吾輩はもみじに聞いてみるのである。

 

「お前も茶番に付き合わされて大変だな……」

 

 ちゃばんとはなんであろうか? お茶は飲んでみたいのである。

 

 

「そこでちぎってはなげ、ちぎってはなげと活躍したのよ」

 

 もぐもぐとこがさがお団子を食べながら言うのである。うむうむ。吾輩もあの時は楽しかったのである。

 吾輩ははたてのひざ元で丸くなって聞いているのである。はたては「うんうん」いいながら手元の紙に何かを描いているのである。吾輩がちらっと見てみるのである。

 

『多々良小傘はお調子者である。話を盛るところがある』

 

 なんと書いているのかは読めぬ。きっといいことが書いてあるのである。おお、そうである文字はわからぬが、じっと見ているとなんだかわかるような気がするのである。

 

 ううむ、ううむ。きっとこう書いてあるのである。

 こがさともみじはなかよしである。吾輩も仲良しである。はたてもなかよしである。

 うむうむ。

 

 はたてもなかなか良いことを書くのである。そうお思ってにゃあとほめてみるのである。はたては吾輩を見下ろして白い歯を見せて笑ったのである。

 

「それにしてもはたて。これから貸本屋に偵察に行くんだろう。そろそろ行かないでいいのですか?」

「なーんか椛。敬語と混ざってへんなしゃべり方しているわね」

「そりゃあ、まあ」

 

 ずずずともみじがお茶をすすっているのである。それから言ったのである。

 

「小傘もお茶、熱いから気をつけろ」

「はーい。ありがと。でもまあ、お茶でやけどするような妖怪なんていないだろうけど」

 

 はたてともみじが黙ったのである。吾輩は尻尾をふりふりしてこがさに合図をしてみるのである。

 

「おいしい」

 

 こがさは幸せそうである。これでいいのである。

 

「あっ」

 

 むっ? はたての声で吾輩は気が付いたのである。吾輩の頭の上にお客さんであるな。イチョウの葉っぱである。吾輩はよく遊んでやっているのである。いっぱい落ちているところで寝るといい音がするのである。

 まだ紅くはないのであるな。はたてが指でつまんでくるくるとしているのである。

 

「そういえば今年はいつかもみじも紅葉するかしらね」

「誰が紅葉なんてするか!!」

「え?」

「え?」

 

 はたてともみじが顔を見合わせているのである。少し遅れてこがさも「え?」と首をかしげているのである。

 はたてはにやりと笑って、手元のイチョウをもみじに見せているのである。すると、もみじが口を開けて何も言わずに下を向いて、

 

 見る見るうちに、かぁーっと赤くなったのである!

 

「おお。紅葉した!」

 

 こがさが何か言っているのである。はたてもにこにこしているのである。

 おう、もみじが吾輩を引き寄せて抱っこしたのである。吾輩で顔を隠すのは構わないのであるがくすぐったいのである。

 

「……文さんには秘密ですよ」

 

 はたては「わかっているわよ」と言って、こがさは「秘密秘密」と軽く言っているのである。もちろん吾輩もしゃべったりはせぬ!

 

 

 お団子屋さんを後にして吾輩達はとことこ歩くのである。

 なぜかこがさもついてきたのであるが吾輩はうれしいのである。

 

「小傘、なんでお前まで付いてくるんだ」

「なんとなく」

「なんとなくで付いてこられても困るんだ」

「猫さんはいいの?」

「猫は……」

 

 ちらっともみじが吾輩を見たのである。

 

「猫はいい。お前はダメだ」

「かささべつー」

 

 吾輩はゆるされたのである。

 

「あんたたち、とりあえずあそこが目的の場所ね。なんだか思ったよりも時間がかかっちゃったわ」

 

 先頭を歩くはたてが言うのである。吾輩がとてとてその前に行ってみると、ちょっと向こうにほんのり大きな建物が見えるのである。表には「鈴奈庵」と架けてあるのであるが吾輩は、よめぬ。

 

 

 



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かしほんやである

 大きな木の陰から「鈴奈庵」を覗くのである。

 上からはたて、もみじ、こがさと吾輩の顔が並んでいるのであるな。こんな経験は初めてである。

 

「いや、はたて。さっさと中に入りましょうよ」

 

 もみじの声がするのであるが吾輩が見上げるとこがさが笑っているのである。うむ。笑うことはいいことである。しかし、もみじの顔がみえぬ。ちょっとどいてほしいのである。

 

 にゃー

 

 吾輩はそう厳然と抗議したのである。こがさとはなかよしさんではあるが、親しき中にもまたたびがあるのである……。なにか違う気がするのであるが、またたびは大事である。

 

「にゃ~」

 

 こがさと吾輩はそうやって鳴きあったのである。しかし、こがさはどかぬ。吾輩はもう一度鳴いてみるのであるが、こがさは「ふふふ」と言った後に「ごろにゃーん」と言ってきたのである。

 

 いや、どいてほしいのである。

 吾輩は悩んでしまったのである。はむはむ。おお。間違えて自分の尻尾をはむはむしてしまったのである。悩んでいると何をするか自分でもよくわからぬ。もしかしたらこがさも悩んだ時は傘をはむはむするのであろうか? きっとなすびの味がするのである。吾輩は食べたことはないのである。

 

「私も早いところ帰りたいですし、さっさと用事は済ませましょう」

 

 もみじが木を回り込んで吾輩達の前に出たのである。くるりと吾輩達を振り返った後ろでカエデの葉っぱがひらひらとゆっくり降っているのである。吾輩達が寄り掛かっていた木はカエデであったやもしれぬ。

 

「あっちょっと待ちなさいよ」

 

 あわててはたてが前にでたので、こがさも吾輩も前に出たのである。どうせなら一番前に行くのである。吾輩はもみじの前にでてとことこ、堂々と歩き始めたのである。

「ほら、はたて。猫の方が堂々としていますよ」

「猫と私を比較するんじゃないわよ……。わかったわよ。こうなったらままよ」

 

 まま? はたてのお母さんがどこかにいるのであろうか? 吾輩はあたりをきょろきょろ見回してみたのである。誰もおらぬ。

 

「なんでいきなり止まってんの?」

 

 はたてが聞いてきたのであるが、いや。はたてが気になることを言ったのが悪いのである。吾輩はしかし、気にせぬ。紳士は細かいことは気にしないものなのである。ちゃんと胸を張って歩き出すのである。

 

 とことこ

 ちらっ

 

 後ろを見たら胸を張って歩くこがさともみじとはたてが付いてきているのである。吾輩は先頭であるな。誇らしいのである。まあ、特に意味はないことはわかっているのであるが、みんながちゃんとついてきているのは吾輩のおかげやもしれぬ。

 

 吾輩達はそのまま貸本屋の暖簾の下をくぐったのである。

 うむ……急に暗くなったのである。吾輩はお散歩から帰ってきて神社の軒下に潜るときもこんな感じで苦手である。……吾輩は別に神社に住んでいるわけではないのであるが、なんとなく帰るところと思ってしまったのである。なんでであろうか。

 

 本のにおいがするのである。

 吾輩はこのにおいが嫌いではないのである。たまにけいねの本の上でお昼寝をしたりするのである。けいねが本を読んでいるときに間に座って寝ることもあるのである。だいたい「めっ」されるのであるが……なんで怒られるのかはわからぬ。

 

「いらっしゃーい」

 

 鈴の音がして吾輩はそちらを見たのである。

 すると頭に鈴をつけた少女がこちらを見たのである。こすずであるな。吾輩はちゃんと知っているのである。

 

 吾輩はちゃんと挨拶をするのである。するとこすずも小さく手を振ってくれたのである。笑顔で手のひらを上下させているのである。うむうむ。あまり見たことのない挨拶であるな。吾輩も後ろ足で立って真似してみるのである。

 

 するとこすずは困ったような顔で額を手で押さえたのである。ううむ、吾輩の真似があまりうまくなかったのかもしれぬ。

 

「こーらー。駄目じゃないこんなところにきちゃ」

 

 こすずがなぜか吾輩に言ってきたのであるが……貸本屋とはそんなに危険なところなのであろうか? そうするとこがさが危ないのである!吾輩はしゅっばっと後ろを向いてこがさを探したのである。

 本を手に取って表紙をふーふー息を吹きかけているこがさがいたのである!なにをしているのであろうか、本が熱いのやもしれぬ。吾輩が助けるのである。

 

「ぺっぺっ。埃っぽいなぁ。おっ!?」

 

 吾輩はこがさの足元ですりすりして見るのである。熱いならすぐに離すのである!

 こがさは吾輩をみて、目をぱちくりしているのである。おお、目が充血しているのである……いや昔からそうであった。

 

 こがさは本を置いたのである。よかったのである。

 それからこがさはしゃがんで吾輩を抱きかかえて。ぎゅーっとしたのである。苦しいのである。

 

「あ、猫さんの頭にほこりついてるわ」

 

 ふーふーと吾輩に息を吹きかけてくるこがさである。吾輩は熱くないから必要ないのである。

 

「ちょっとちょっと。飼い主さんですか?」

 

 こすずよ吾輩に飼い主などおらぬ。

 

「え? そうです」

 

 こがさよ、嘘をつくでない。吾輩は抗議するのである。

 

「ダメですよ。猫さんを連れてきてもらったらきっと本をかじかじしちゃいます」

「大丈夫よ。この猫さんに限ってそんなことはないわー」

「そ、そんなお母さんみたいなこと言われてもこまるんですけど」

 

 そうであるこがさの言う通り吾輩はかじかじなどせぬし、こすずの言う通りこがさもお母さんでもないのである。……大変である! 両方ともいいことを言っているのである。

 吾輩はとりあえずこがさの手から逃れて下に降りたのである。こういう時はもみじに聞いてみるのである。もみじは頭がいいからわかるのである。

 

「あっちょっと」

 

 こすずよ吾輩を追いかけまわすのをやめるのである。吾輩はちゃんとわかっているのである。本をかじかじなどせぬ。もうけいねに怒られたからわかっているのである。

 

「ありましたよ。はたて」

 

 もみじはすぐに見つかったのである。手に新聞を持っているのである。吾輩はちゃんと知っているのである。もみじも吾輩を見つけてちらりと吾輩を見たのである。それからすぐに新聞を読み始めたのである。

 

 なんとなく悔しいのである。吾輩はおなかを見せてごろごろして見るのである。するともみじはちらっとみてまた新聞を見始めたのである。……こうなったら奥の手である。あまり使いたくはなかったのであるが……。

 

みゃーみゃーみゃーみゃー

 

 気が付くまで鳴いてみるのである。もみじは頭を掻きながら吾輩に言ったのである。

 

「あーもー、にゃおにゃお。うるさい。どうしたんだ!」

 

 やはり奥の手である。だいたい怒られるのである。それよりももみじよ、こがさとこすずのどっちを褒めたらいいであろうか。どっちもいいことを言ったのである。吾輩はもみじに縋りつこうとして、宙に浮いたのである。

 

「もみじ。なんで叫んでんのよ。静かにしなさい」

「え? は、はたて。それは猫が」

「いや。何猫と張り合っているのよ」

 

 はたてが吾輩を抱っこしているのである。後ろからとは卑怯であるな。まあ、許すのである。もみじも静かにするのである。

 もみじのほっぺたがほんのりと大きくなった気がするのであるが、気のせいであろうか。

 

「ま、まあいいです。ほらはたてさん。お目当ての新聞は見つかりましたよ。それなりに売れているみたいですねっ」

 

 もみじが吾輩達の前に新聞を広げたのである「文々。新聞」と書いているのであるが、やはり読めぬ。

 

「へ、へー」

 

 はたてよ力を入れるではない苦しいのである。

 

 

 



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だっこにもやりかたがあるのである

あけましておめでとうございます!


「へ、へぇ、店員さん。この新聞売れているの?」

 

 はたてが吾輩を抱っこたままこすずに聞いたのである。新聞であるか、吾輩は前に見たことがあるのでけいねが障子の間をこう、掃除するのに便利と言っていたのであるな。新聞がほしいということはみんな綺麗好きなのであろうか。

 

「え、あ、そうですね。結構売れてます。最近は定期購読を望んでいる人もいてですね」

 

 こすずよそこにいたのであるか、てーきこーどくとはよくわからぬがが、きっとおいしいものであろう。おお、う。

 ぎゅううう。

 はたてよ吾輩をそんなに抱きしめたら痛いのである。うにゃあ、うにゃあ。吾輩はくねくねして見るのであるが、はたては吾輩に気がつかぬ。

 

「ふ、ふーん。定期購読……あ、貴方も面白いと思う?」

「んーそうねー」

 

 こすずは指をたてて顎の下につけたのである。それからちょっと上を向いて考えているのであるな。吾輩もちょっと真似をしてみるのである。しかし、吾輩は今考えることがないのである。どうするべきであろうか……そう思っているともみじと目が合ったのである。

 もみじの好きなものを考えるのである。ううむ、ううむ。こがさではないであろうか。

 

「なんだろうか、この猫にいつも不本意なことを想われている気がする」

 

 もみじが吾輩をじとっと見て言うのである。はたてはがそれを聞いて言うのである。

 

「いや、猫と交信しないでよ」

「してませんよっ」

 

 そうである。吾輩はもみじがこがさのことを大好きなことをちゃーんとわかっているのである。こがさもそう思うであろう、いや、こがさはどこに行ったのであろうか。端っこの方で頭に本を載せてバランスをとっているのである。

 

 見なかったことにするのである。何をしているのかわからぬ。

 

 そう思っていると今度はこすずが話を始めたのである。吾輩はこすずを見たり、もみじを見たり、こがさを見たりして忙しいのである。

 

「時々わからないこととかもありますけど、この文々丸新聞を読んでると新しい発見とかもあって面白いですよ」

 

 ぎゅううう。

 むむむ。はたてよ吾輩をだっこするには強すぎるのである。うにゃあ、うにゃあ。もみじもなんとか言ってやるのである。

 

「はたて」

「な、なによ」

「これくらいでいいんじゃないか。だいたい知りたいことは知れたと思うけど」

「そ、そうね」

 

 はたてともみじはそう言ってくるりと踵を返したのである。その肩をぐいっとひっぱらたのである。はたてが振り向くと吾輩も振り向くのである。

 

 ぷくっとほっぺたを膨らませたこがさが立っているのである。

 

「だめだめ! 猫さんが苦しがっているじゃないですか~!」

 

 びしっとこがさがはたてを指さして言ったのである。うむ。だっこにもやり方があるのである。

 

「ほら。貸してください」

「え、ええ」

 

 吾輩ははたての腕からこがさの腕の中にお引越しである。こがさは甘いにおいがするのであるな、もしかしたらこがさの一部はおさとうかもしれぬ。こがさは吾輩を両手で優しく抱き上げてくれたのである。

 

「こういう風に、だっこしないといけないんですよ?」

 

 うむうむ。吾輩ははたてに怒っているわけではないのである。こう、もう少し優しくもってくれたらいいのである。はたても抱っこされたらわかるやもしれぬ。

吾輩はにゃあにゃあとこがさにはたてを抱っこするようにお願いしたのである。

 

「すりすりー」

 

 するとこがさは吾輩のほっぺたに顔をすりすりさせてきたのである。くすぐったいのである。こがさはすぐにきりりとした顔つきにもどって、はたてに言ったのである。

 

「ほら。こうですよ、こう、やさしく! 古い傘をこう開く時みたいに」

「た、たとえがわかりにくいんだけど。ま、まあいいわ。ほらおいで」

 

 また、こがさの腕からはたての腕にお引越しである。ただいまである。移動するときはこがさが吾輩の脇をもってはたてに手渡したのである。

 

「……こ、こう」

「……うーむ」

 

 こがさが唸りながらじろじろと吾輩とはたてを見るのである。じとーと吾輩をこがさが見てくるのである。吾輩も見返すのである。はたては今度は吾輩を優しくもってくれているのである。

 

にゃー。

「にゃー」

 

 にこっと笑ってこがさが返してくれたのである。

 

「うむごーかくですね」

「は、はあ。ありがと」

「しょーじんしてくださいね」

「はいはい」

 

 はたては言いながら吾輩をなでなでしてくれるのである。うむうむ。

 

「あ、あのー」

 

 こすずが片手を小さく上げながら間に入ってきたのである。

 

「そ、そんなことよりも。本を借りたりされないんだったら、その……あの、帰ってください」

「この子、結構はっきりと言うのね。でもまあ、そうねお邪魔したわ。椛、小傘出るわよ」

 

 はたて、吾輩。吾輩も出るのである。呼んでほしいのである。

 にゃあ、みゃあ、なぉ。

 

「ど、どうしたのよ。まだ帰りたくないの?」

 

 そうではないのである。それよりももみじとこがさを呼んだから吾輩も呼んでほしいのである。こがさが吾輩をじっと見ているのである。何か考えているのである。

 こがさならわかるやもしれぬ! 吾輩はみゃーおと鳴いてみたのである。

 

「んー。もしかして、私たちは抱っこしたのに椛だけ抱っこのテストをしてないのがダメなのかしら」

 

 全然通じておらぬ。それにもみじの抱っこはなかなかである。

 

「な、なんでそこで私が出るんだ!」

「まあ、まあ、椛。ほら減るもんじゃないし」

「はたて……いや抱っこするだけですけど、たぶんこいつ小傘の言ったようなことを想っていない気がするんですけど」

 

 はたてが吾輩の脇をもってもみじに渡したのである。今日のお引越しは多いのであるな。もみじは吾輩をじーと見るのである。

 

「おまえ、ほんとに小傘の言ったようなことを想っているのか?」

 

 別に思ってはおらぬ。にゃーと答えるのである。もみじははぁと返したのである。

 

「ほら」

 

 おお、優しくもちつつ、ゆらゆらと吾輩の体が揺れるである。てくにしゃんではないであろうか。吾輩はゆっくりするのである。

 

「おおー」

 

 はたてが何か感心しながら板みたいなものを吾輩達に向けて。ぱしゃっと光ったのである。もみじがむすっとした声で聞いたのである。

 

「な、なんで私を携帯で撮るんですか?」

「いや、思い付いたのよ」

「は? 何を?」

「私の新聞って地味……手堅いって評判じゃない? だからこう猫の写真特集なんかしたら受けるんじゃないかなって」

「……そ、それは私をはたての新聞に載せるってことですか!!? い、いやですよ」

「目元に黒線入れるから」

「な、なんか嫌だ、というかお山の世間なんて狭いんだからすぐにばれるに決まっているじゃないか!」

 

 ううむ、静かにするのである。こがさがなんだかほっぺが膨らませているのである。それにこすずは「おやま?」と首をひねっているのである。

 

「まーまー。とにかく椛。ここはひとつ頼むわ。今度お酒をおごるから」

「だーかーらー……。な、なら私より小傘の方がいいでしょう。ほら小傘」

「ふーん」

「な、なんで突然すねているんだ」

「抱っこはうまいようですけど。椛より私の方が猫さんと仲良しですからねっ」

「誰も競ってないだろっ!」

 

 こがさともみじがううううとにらみ合うのである。

 そこでぱんとはたてが手をたたいたのである。

 

「わかった。それじゃあ、二人ともこの猫を抱っこしたりして遊んでるところを撮ることにしたわ、二人にお酒をおごるそれで文句ないでしょう?」

 

 もみじが「文句しかない……」と呟いたのである。吾輩は遊ぶのは大歓迎である。

 



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しゃしんをとるのである!

「それじゃ、椛と猫を写真で撮りまくるか」

 

 はたてがそういったのである。その後ろでこがさが「おー」と手をあげているのであるな。吾輩もそうしようと前足をこう動かしてみるのである。うまくいかぬな。もみじもやるのである。

 

「はぁ~」

 

 なんでため息をついているのであろうか?疲れているのなら吾輩に言うのである。そういう時はおひるねするのが一番である。おひるねをすると元気が出てくるのである。考えただけであくびがでるのっであるな。

 

「それにしても『椛と猫』って言い方はなんとなくかっこいいわね。どことなく風流で小傘もそうおもう?」

「ねーでも傘と猫もけっこういいと思いませんか?」

「あー、なんとなく場面が思い浮かぶわ」

 

 はたてとこがさがきゃいきゃいしているのである。吾輩も仲間に入れてほしくてとことこと歩くと、またため息が聞こえたのである。見上げるとこすずが肩を落としているのである。

 

「いや、あのー、外でやってくれませんか?」

 

 こすずも疲れているのならおひるねがいいのである。吾輩は今日はアドバイスが絶好調やもしれぬ。はたてよ、吾輩の話を聞いてほしいのである。吾輩ははたての足もとに引っ付いてアピールするのである。

 

「あ、あはは。くすぐったい……。あんた毛がつやつやね」

 

 つやつやであるか。吾輩は紳士であるからして毛並みのめんてなんすを毎日しているのである。はたてはにぃっと笑って腰を落としたのである。

 

「それじゃ、まずはこう知的にやってみようか」

 

 

 お店の中にあった椅子をこがさが持ってきたのである。せいよーフウであるな。せいよーとは言ったことはないのであるが、すごく遠くらしいのである。

 その椅子にもみじが座ったのである。着物のお尻の部分を押さえながら、ゆっくり座ったのである。吾輩、こう少し、着物の端をはみはみしていたずらしたくなるのであるが……我慢である。

 

「いいわよー。じゃあ猫を膝に置いて」

「はたて……ほんとにやるのですか?」

「やるわよ。あいつの新聞に負けてらんないもん。あくせんとっ、てやつをつけないとね」

「最近はなんだか文さんに似てきましたね……」

「……がっ!?」

 

 はたてが頭を抱えているのである。詳しくは聞き取れぬがぶつぶつと「ちがう」といっている気がするのである。

 それはそうと吾輩はもみじの膝の上に乗るのである。吾輩はなかなか好きである。もみじはむすっとした顔でなでなでしてくれるのである。

 

「あー、取り合えず気を取り直して、一枚目撮るわよ。ほらこっち見て」

「みてー」

 

 はたての後ろでこがさもにっこり笑っているのである。もみじと吾輩ははたての構えた板を見るのである。いやいや、けーたいであったな。さらに後ろでこすずが「かえって」と低い声を出しているのである。

 

「ちょっと椛、笑ってよ」

 

 はたてが言うのである。

 

「笑ってって言われても……」

 

 もみじが両手をほっぺたにつけて目を泳がせているのであるな。吾輩も笑った方がいいと思うのである! 

 

「椛。おてほんおてほん」

 

 こがさが呼んだのである。そっちを見ると。

 

 にっこり、こがさが笑っているのである。両手の人差し指を伸ばしてほっぺたに着けているのである。うむうむ。なかなかであるな。はなまるである。

 けいねもいいことがあると「はなまる」と子供に言うことがあるのである。はなまるとは何のことかはわからぬ。

 

「あ、いい。ほら椛もねこもこっち向いて」

 

 はたてが言うのである。後ろではちゃんともみじが笑えているのであろうか。吾輩はとても心配である。そう思って後ろを向こうとしたのであるが、すぐにはたてが「ねこ、ねこ!こっちみてこっち」と言ったので振り向けなかったのである。

 

 吾輩が前を向くと、こがさとこすずが並んで目をぱちくりさせているのである。はたてが言うのである。

 

「ほら、椛。首をちょっとかしげる感じで、笑ってみて。そうそう」

 

 そうはたてが言った後にこすずとこがさが向き合って両手の指をあわせたのである。

 

「「かわいー」」

 

 なんだかわからぬがこがさたちも仲良くなったようであるな。きゃいきゃいしているのである。

吾輩はとてもうれしいのである。うむ? なんだかもみじの手に力が入っているのである。ぎゅうっと着物をつまんではいかぬ。しわになるのである。

 

 ぱしゃ。

 

 吾輩が注意をしようとしたときにそう音が鳴ったのである。

 

「はい、おっけー。まずは一枚目ね」

 

 おっけーと言われたのである、よくわからぬが。はなまるであったやもしれぬ。吾輩はもみじのにゃあ、と話しかけてみたのである。むむ、もみじよなんだか顔が赤いのである。それにちょっと震えているのであるな。

 

 もみじは吾輩に気が付くと、ふいっとそっぽを向いたのである。

 

「ふ、ふん。くだらない」

 

 なんで怒っているのであろうか? 

吾輩にはわからぬ。しかし、ううむ、吾輩の気のせいであろうか。そっぽを向いたもみじはちょっとだけ笑っているような気がするのである。

 

 

「それじゃあ、次は外ね」

 

 はたてに続いて、もみじとこがさと吾輩とこすずがついていくのである。

 うむ? こずすも遊ぶのであろうか、吾輩は大歓迎であろる。

 

「あの、なんかお店の人がついてきているんですが、はたて?」

「別にいいんじゃない。椛。それにしても今日はいい天気ねぇ」

 

 はたてともみじが前を歩いているとのである。こがさとこすずが何かを話しながら歩いているのである。吾輩は誰と遊べばいいのであうか、おおタンポポである。元気であろうか。

 

 吾輩が前足でちょっと挨拶をすると、タンポポはゆらゆら挨拶をし返してくれたのである。うむ。

 

「ほら、いくよー」

 

 こがさが呼んでいるのである。吾輩はとことこ後ろからついていくのである。

 しばらく歩くと大きな木の下に来たのである。見上げるとなかなか高いのである。よい木陰であるな。吾輩は気に言ったのである。今度おひるねをしにこようと思うのである。

 

「それじゃあ次はここからしら」

 

 はたてがあたりをきょろきょろ見回しているのである。吾輩は眠たくなってきたのであるな。

 

「椛―。あんた。あそこのあたりまで歩いてから、こう見返り美人して」

「……見返りび……なんとかをするってどういうことですか?」

「普通に歩いて、普通に見かえればいいのよ。あんたかわいいから」

「……ぐるるる」

「な、なんで威嚇するのよ。とりあえず着物姿の椛が歩いて行って。その後ろをぽてぽて歩く猫って感じの絵が撮りたいのよ。あーそうだ、できればお洒落な番傘でもあればいいんだけど……あっ……やば……」

 

 おお、眠っていたのである。吾輩は体をふりふりして起きたのである。

 

 ……なんでこがさははたての真後ろで手をあげているのであろうか。

 

はたてももみじもこがさには気が付いていないようであるな。

 吾輩の出番である。とてとてはたての前に行ってにゃあおと呼んだのである。こがさが後ろにいるのである。気が付いてあげるのである。

 

「いい? 椛、振り返るんじゃないわよ?」

「わかってる。なすびをさして歩く趣味はない」

 

 こがさが後ろから近付いているのであるが……目がきらきらしているのである。手を綺麗に空に向けてあげているのであるな。吾輩も真似をしてみるのである。こう、後ろ足でたって、おぉ、難しいのである。

 

「あ、アー、そんなことをしたらアブナイゾー」

 

 もみじが妙なしゃべり方で言って、吾輩を抱っこしてから歩き出したのである。

 

「あ、もみ、椛! あんたにげるなっ ぎゃっ!?」

 

 はたての肩をこがさがつかんだのである。

 



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かさのとんねるである

「傘のことなら私に聞いてくれたらいいじゃないですか」

 

 ふふーんとこがさが胸をたたいたのである。吾輩はもみじの腕の中から抜け出て、地面に降りながらそれを見たのである。首元がかゆいのである。後ろ足で掻くのである。おぉ。気持ちいいのである。

 

「あ、また今度ね」

 

 はたてはこがさから目をそらしているのであるな。

 

「えっ!? な、何でですか? 傘のことは傘に聞いた方がいいに決まっているじゃないですか?」

「それはそうかもしれないけど……。でも、そのあれよ。ほら言うじゃない。河童の川流れってさ、ここは玄人の小傘もいいけど素人の私たちで考えるのもいいと思うのよ、うんうん」

 

 はたてがうんうんと首を振っているのである。もみじは何故か腰を落として吾輩の後ろにのいるのである。吾輩の後ろに隠れても、少し大きすぎるやもしれぬ。隠し切れないのである。

 吾輩はとりあえず毛並みのめんてなんすをするのである。はむはむ。こうちゃんと吾輩は身だしなみを整えるのである。

 

「で。でも私にいい考えがあるわっ」

 

 こがさがいい考えがあるらしいのである。きっといい考えであろう。吾輩は応援しているのである。はむはむ。おぉ、ちょうちょうである。どこに行くのであるか? 答えてはくれぬ。むしともこみゅにけーしょんがとれぬのは寂しいのであるな。

 

「なんだ、おまえ。蝶を食べるのか?」

 

 もみじよ、吾輩は食べぬ。たまに妙なものを食べさせてくる人間もいるのであるが、ちゃんと吾輩は選んで食べるのである。それに吾輩はちゃんとお礼もするのである。

 

「でも、小傘はあれよね―。いい天気よねー」

 

 はたてが空を見上げているのである。もみじがぼそりと「混乱しているな……」と言っているのである。

 

「私が、いい天気……??。ど、どういうことなの?」

「あ、あれよ。太陽みたいな笑顔で明るいなって」

「えっ? い、いきなりほめられても。え……えへへ」

 

 はたてが一度こちらを振り向いたのである。すごい目が泳いでいるのである。吾輩に助けを求めているのやもしれぬ。任せるのである!

 吾輩は駆けだしたのである。するりとこがさの真下に来たのである。

 

 にゃあーにゃー。

 

「んー。猫さんどうしたの?」

 

 吾輩はこがさを応援しているのである。さっきの「いい考え」ではたてに言うのである。はたては今困っているのであるからして、きっと助かるのである。なんではたてが困っているのかはわからぬが。

 

「猫さんもおしゃれな傘屋にいきたいですよねー」

 

 うむ。行きたいのである! かさやとはなんであるかわからぬが、きっと楽しいのである。

 聞く前にこがさが吾輩の顎を指でこちょこちょしてきたのである。ううむ、吾輩はやられてばかりではいかぬ。前足で挟み込んでなむなむ、なめるのである。

 

「あはは、くすぐったいわ」

 

 こがさも今度もみじの指を舐めてあげるといいのである。

 

「えっ? いい考えってそれなの。小傘が自分の傘を使ってくれっていうかと思ったわ」

「あっ! それでもいいわ! ふふー、私の傘は雨傘だからこんないい日に写真を撮るにはほんのちょっとだけ向かないかなー、なんて思ってたから」

 

 ちらちらとこがさがはたてを見るのである。はたては両手組んでまた困ったような顔をするのである。

 

「あー、あー私も番傘見たいなー。新しいのほしいなー」

 

 はたても行きたいらしいのである。こがさは「むぅ」と言ってから吾輩をなでなでしてくれたのである。そういえばこすずはどうしたのであろうか、見れば木陰で眠っているのである。気持ちよさそうであるな。

 

 

 こがさと吾輩をを先頭に人里の中のお店にやってきたのである。

 暖簾がかかったそこをくぐると、

 

「わー。すごいですねー」

 

 こすずが声をあげたのである。

 吾輩もみるとお店の中は畳が敷いてあって、その上にいっぱい開かれた傘が置いてあるのである。吾輩はとんっと畳に乗って冒険して見るのである。畳に置かれた傘はなかなか大きいのである。「持つところ」が伸びて、お花のように大きく傘が開いている間を通るのである。

 

 傘のとんねるであるな。

 

「あっ、これすごい」

 

 はたてが言ったのである。吾輩がみると傘に桜の花びらが付いているのであるな。吾輩ははたてに近づいて行って、持っている傘から桜をとろうとして見るのである。取れぬ。綺麗なのに残念である。

 

「あはは。これは絵よ。赤い傘に桜の花びらが描かれてるだけって……なんで猫に説明しているのかしらねぇ」

 

 絵であるか。ううむ。不思議である。いっぱい桜の花びらがあるのである。吾輩は桜は好きである。

 

「わっあぁぁ」

 

 声がした方を見てみると。こすずが手に傘を持っているのであるな。

 紫の傘である。色はこがさと同じようなのであるが、むむむ。なんだかちょっとかっこいいのである。紫に青いアジサイが描かれているのである。

 あれは絵であるな! ちゃんとわかったのである。こすずはくるくるとそれを回しながら「大人っぽいなー」と言っているのである。吾輩も大人であるからして、傘を使うべきかもしれぬ……。

 

「……」

 

 うむ? もみじよどうしたのであろうか。おお。今度は紅葉が付いている傘であるな。吾輩は気にいったのである。吾輩はそれをもみじに伝えようとしてにゃーと言って傘にぱんちをしてみるのである。

 

「あ、こら。だめだ」

 

 止められたのである。吾輩はすぐにやめるのである。怒られたら止めた方がいいのである。最近分かってきたのである。なんで止められたのかはわからぬ。

 

 しかし、吾輩のぱんちで傘がころころと転がるのである。紅葉が動いているのである。なんとなくいいのである。

 

「……これいいなぁ」

「ふふふ。これが傘の魅力ですよー。なんと言っても私たちは天気だって変えられるんですから」

 

 こがさがやってきら椛に話かけたのである。

 

「わっ。突然なんだ。それに天気を変えるだと? そんな大それたことを付喪神いや小傘ができるわけないじゃないか」

「ふっふっふっ。椛も分かってないわー。私の真の力をみよー」

 

 みよーと、言ってからこがさはきょろきょろして、閉じられた傘を見つけてとてとてもどってきたのである。青い傘であるな。そこに白いものが描かれているのである。

 こがさは椛と吾輩が入るように傘をさしたのである。

 ぱっと青い傘が開かれるのである。

 

 雪である。

 おぉ、天気が変わったのである。こがさともみじが傘に描かれた雪を見ているのである。

 

「……おどろいた!?」

「……うん……。あ、いや。その大きな声にびっくりする。少しは落ち着きを持ったらどうだ」

 

 もみじはふんとどこかに行くのである。こがさは吾輩を見て片目をつむって「べー」と舌を出したのである。

 

「なんとなく最近椛がわかってきたわ。猫さんもそう思う?」

 

 吾輩も分かっているのである。もみじはいいやつなのである。

 

 だからにゃーと答えるとこがさも傘を手でくるくる回して言うのである。

 

「にゃー」

 

 そういえば今日は一年が経ったやもしれぬ。桜とアジサイと紅葉と雪が見られるとは傘とは不思議である。

 

「あ、そうそう。はたてさん」

「小傘。あー。別にはたてでいいんだけど。ここはいい店ね。ところで何?」

「さっきお店の人と話をつけたわ安くしておくって。これくらいですね」

「…っ。け、けっこうするわね。……もしかして、あんた、ここへの案内料なんて入ってないわよねー」

「まさかまさか!」

「そうよねー。あはは」

 

 くるりとこがさは後ろを振り向いたのである。こがさは青い傘で顔を隠して、べーと舌だけ出しているのである。

 




小傘ちゃんはできるおんな!


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かさのしたでおさんぽである

お久しぶりです。こがさの案内で傘を手に入れた3人組。

ご機嫌なお散歩をご一緒に


 3つの傘が並んでいるのである。

 いや、はたてともみじとこすずが並んで歩いているのである。吾輩はその後ろをとてとてついていくのである。

 

 はたては桜の傘であるな。吾輩はその下に入って、上を見上げてみるのである。桃色の傘に桜の花びらが浮かんでいるのである。うむうむ、これは「絵」なのである。吾輩はちゃーんとわかっているのである。

 

「んーんー」

 

 はたてが何か歌っているのである。手元でくるくる傘を回しているのであるな。ごきげんなのはいいことなのである。吾輩は安心したのである。

 少しゆっくりいくと、はたてが先に行って今度はもみじの足元に来たのである。わがはいの周りがほんのり赤くなったのである。吾輩が見上げるともみじの大きなおめめが吾輩を見ているのである。

 手には紅葉の描いてある傘を、だいじそうに両手で持っているのである。傘の下に来たから周りがほんのり色が変わったのであるな。不思議である。

もみじは吾輩を見下ろしながら、ぱちぱちと瞬きをしているのである。吾輩に何か言いたいことがあるのであるな! 吾輩はちゃんとわかっているのである。

 

「歩くのに……じゃま」

 

 すまぬ。吾輩は紳士であるからして、ちょっと横にそれたのである。

 もみじは吾輩の横を歩いて前に行くのである。その時ちょっと小さな声で何か言っていたのである。

 

「いま……言葉が通じた? まさかなぁ」

 

 よく聞こえなかったのである。もみじが吾輩を振り返りながら見ているのである。手の傘を少し傾けて小首をかしげているのである。そういえば小首とはなんであろうか。吾輩は首は一つしかないのであるが……もみじにはじつは大首もあるのかもしれぬ……。

 

「猫さん猫さん」

 

 おぉ。こすずであるな。吾輩はそちらを見てみるのである。

 にっこりとこずすが笑っているのである。吾輩は、にゃぁおと答えてみるのである。こすずも「にゃおにゃお」と言っているのである。

 

 !

 にゃおにゃおとは新しいのである! 吾輩もちょっと真似をしてみるのである。ぐるる、うまく声が出せぬ。なかなかこうどな技であるな。こすずを見直したのである。こんど集会に呼んでもいいやもしれぬ。

 こすずはアジサイを描いた青っぽい傘をさしているのである。「えへへ」とこすずもごきげんであるな。吾輩もうれしいのである。しかし、うれしいことをちゃんと伝えることは難しいのである。吾輩はなやましいのである。

 

「猫さんも傘を買ってもらったらよかったのにねぇ」

 

 うむうむ。こすずの言う通りなのである。

 ……いや、やっぱりいいのである。吾輩には傘は大きいのである。もらっても吾輩は咥えて引きずることしかできぬ。いや、そうであろうか、くふうをすれば意外といけるやもしれぬ……。

 

 吾輩ははたてたちの後ろを歩きながら深く考えてみるのである。

 傘を持つにはどうすればよいであろうか。

 背中に乗せても大きいのである。

 尻尾でこう、引っ張ってみてはどうであろうか。

 いや、ううむ。それより咥えてみればいいやもしれぬ。

 難題である。こんなに悩んだのはやまめを頭から食べるか尻尾から食べるか悩んだ時以来であるな……ううむ。ううむ。難しいのである。

 

 カラカラ。

 吾輩はその足音に気が付いて後ろを振り向くと、こがさがいたのである。不思議そうな顔をしているのであるがなんであろう?

 

「猫さん。なんか遅れてるわよ?」

 

 うむ? おお、考えている間にはたてたちがずっと前にいるのである。恥ずかしいのである。吾輩はすごく遅れてしまったのである。少し早く歩くのである……。ぉお宙に浮いているのである。

 

「ほら、だっこだっこ」

 

 こがさがだっこしてくれたのである。

 ちょうどいいのである。こがさは傘に詳しいのである。こがさよ、吾輩が傘を持つためにはどうすればよいのであろうか。吾輩は前足をこうふりふりしたり、にゃあーにゃーと言ってみたりしてこみゅにけーしょんをとってみるのである。

 

「んー? 猫さんどうしたのかしら」

 

 きょとんとしているのであるな。こがさの眼は大きいのである。こがさは「んー」と言って少し考えているのである。吾輩の気持ちをわかってほしいのである。

 

「ふふ、私もそろそろ猫さんが何を想っているのかわかってきたわ」

 

 吾輩は騙されぬ。そう言って吾輩の気持ちをちゃーんとわかってくれる者はあまりおらなかったのである……。

 

「傘がほしかったのね?」

 

 ??

 こがさとこみゅにけーしょんができたのやもしれぬ……こがさよ、そうである! 傘を持つには吾輩はどうすればよいであろうか? いやそれよりもこがさとこみゅにけーしょんができてうれしいのである。

 

「私みたいな!」

 

 …………。

 ふいっ。

 

「あ、あれ? 猫さん? なんでそっぽをむくの?」

 

 …………。

 

「ちょ、ちょっともみじぃー!」

 

 たったったっとこがさが吾輩を抱きかかえたままもみじに泣きついたのである。

 

「なんだ」

「猫さんがそっぽをむいちゃった」

「な、何をしたんだ? おい」

 

 もみじは吾輩をなでなでしてくれるのである。うむ。こがさを許すのである。ほんとはこがさとこみゅにけーしょんがとれて嬉しかったのであるが、やっぱりあまりわかっておらなんだのがちょっぴりがっかりだったのである。

とりあえず吾輩はみゃーと鳴いてみるのである。もみじはなんだか優し気に笑っているのである。もみじのなでなでは優しいのである。

 

「なんだ。撫でてほしかっただけじゃないか」

「ええ? 私……私みたいな傘がほしいの猫さんって聞いたら……そっぽむかれちゃったんだけど」

「……あー。それは小傘が全面的に悪い」

「な、なんでぇ?」

「悪逆非道だな」

「え!!?? 私みたいな傘って来たらそ、そこまで、むむしろ私の方が傷つくわ」

 

 くすくすともみじが笑っているのである。

 そこにはたてがやってきたのである。

 

「はい。ちーず!」

 

 ぱしゃ。

 吾輩とこがさともみじを写真に撮ったのであるな。はたては手元の「ケイタイ」を見ながらうんと頷いたのである。

 

「な、なにするんだはたて」

「椛が普通に冗談を言うなんてあれね。小傘と仲がいいのね。あ、あと何をするんだってもともと今日の目的って記事用の写真とか取ることだしね。仲良さげな写真を撮ってあげたのよ、地底に行ったトリオの今って感じでね」

 

 こがさよ。気になることがあるのである。ちーずとは何であろうか? こがさは吾輩をみてなでなでしてくれたのである。いや、そうではない。

 

「あのー。はたてさん。なんで『チーズ』っていうんですか?確か西洋の食べものですよね」

 

 こすずよ。ありがとうなのである。あとこがさよ首筋のあたりがなでてほしいのである。

 

「えっ? そりゃあ、あれよ。……なんでかしらね。あー、んー。わからないわ」

「へー。天狗でもわからないことってあるんですね」

 

 はたてともみじがこすずを挟み込んで、ほっぺたを両側からつねったのである。

 

「にゃにするんですかー」

 

 こすずが抗議しているのである。はたてともみじは両側から何か言っているのである。「悪い口はこれかしら」とはたてが言っているのだ。

それよりも3人は傘を手に持っているのであるからして、桜と紅葉とアジサイが重なっているのである。こがさよ、今である、こがさも仲間にはい……らなくていいのである!

 

「あ、はたてさん!」

 

 こがさがはたてから携帯をとったのである。それから片手で構えたのである。吾輩にも携帯に映ってる画面が見えるのである。

はたてともみじが仲良くほっぺたをつねっているのである。

 

「はい、ちーず」

 

 ぱしゃと、音がしたのである。

 



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みずあそびである!

 

「うーん、結構写真をとったわねー。でもこう、パンチが弱い気がするわ」

 

 はたてが立ち止まって何かを言っているのである。困っているのであろうか? 吾輩も一緒に考えるのである。あとぱんちも任せるのである。

 そう思って吾輩ははたての足に吾輩の前足をかけて、背伸びをしてみるのである。はたては吾輩を見てくすりとしているのである。

 

「どうしたのよ? そろそろおなかでも減ったのかしら?」

 

 なんだか吾輩はいつもはらぺこのように思われている気がするのである……。はたてはしゃがみこんで吾輩と目を合わせたのである。吾輩も負けずにじぃーとみてみるのである。

 

 じー

 じー

 

「ぷっ。負けたわ」

 

 よくわからぬがはたてに勝ったのである! ううむ、少しうれしいのである。はたてよ、まだまだであるな。うむうむ。

 

「あ、そうだ。水辺とかってどうかしら」

 

 ぱちんと指をはたてが鳴らしたのである。

 ……それはどうやって鳴らすのであろうか! 吾輩もこうやってみたいのである。吾輩は肉球をこう、こうくにくにと……ならぬ!

 

 川である! 吾輩は駆けだしたのである。

 吾輩は河原はなかなか好きなのである。きらきらと水が流れていくのである。

 

 吾輩は水の中を覗き込んでみるのである。小さな魚がいるのである。吾輩はここまで小さいものを食べたりはせぬ。ただ、前足をちょっといれてみるのである。

 

 冷たいのである、ううむ。

 ……おぅ。よさげな石があるのである。吾輩はひょいと飛び乗ってみるのである。ううむ、その先にまた別の石があるのであるな。吾輩はさらに飛び乗るのである。

 

 おぉ。すべるのである。吾輩は少し立ち止まったのである。こういう時は落ち着いて首筋を掻くのである。

 

「えへー」

 

 吾輩がさっきまで乗っていたところにこがさが立っているのである。なんでかわからぬが笑顔であるな。

 吾輩はにゃおと答えておいて次の石に飛んだのである。

 

「よっと」

 

 こがさがついてくるのである。なんでついてくるのであろうか。

 まだ先に石があるようであるが小さくなっているのである。吾輩は川の流れを見てみるのである。きらきら光りながら水が流れているのである。何か光っているのであろうか?

 

 ううむ。わからぬ。吾輩はちょっと前足で水を掻いてみるのである。冷たいのである。吾輩は泳げぬわけではないのであるが、冷たいのはあんまり好きではないのである。

 

「お魚を探しているの?」

 

 こがさが聞いてくるのである。別に探しているわけではないのであるが……うむ。やまめもどこかにおるやもしれぬ。きょろきょろと探してみるのであるが、蟹がいるのであるな。

 

「あ、カニさんだー」

 

 こがさは蟹とも知り合いなのであろうか? なら、吾輩も挨拶をしていた方がよいやもしれに。吾輩はそう思って、赤くて小さな蟹の前でにゃあと鳴いてみたのである。

 

 

蟹がハサミをあげたのである!

 おぉ。挨拶を返してくれたのである。ううむ。こがさのともだちにしては礼儀正しいのである。

 

「あれ? 猫さん、そのカニさんとお友達なの?」

 

 挨拶をすれば友達といってもいいやもしれぬ。

 こがさは石の上でしゃがんで吾輩を抱っこしたのである。じっとこがさが吾輩を見て、にこっと笑ったのである。吾輩もなんとなくうれしいのである。

 

「猫さんっていつも楽しそうなかおしてますねー」

 

 そうであろうか? 吾輩はこがさのほうが楽しそうにしているように見えるのである。

 

「よっと」

 

 うむ? 後ろでもみじが近づいてきたのである。こがさと同じように吾輩が飛んできた石に乗っているのである。こがさは……。

 

「にゃあにゃあ」

 

 何を鳴いているのであろうか? 後ろにもみじがいるのである。

 もみじはやれやれとした顔をしているのであるな。吾輩はもみじのことなら何でもわかるのである。もみじが手を伸ばしてきているのである。

 

「あ、あれ」

 

 もみじがぐらつて。こがさの肩を押した……

 おぉ、空が見えるのである!

 こがさが「ぁあぁ!」と変な声を出しているのである。

 

 ばっしゃーん。

 

 冷たいのである! 吾輩はあわてて、すぐに上がってふるふるふるとしたのである。

 ふるふるふるふる。水を飛ばすのはこうするのである。もみじよ、びっくりしたのである。

 

 そう抗議しようとしたのであるが、もみじはなんだかあわあわしているのである。

 うむ? 吾輩はもみじが見ている方にふりかったのである。

 

「ふふ、うふふふ」

 

 こがさが川に腰までつかりながら笑っているのである。

 前髪で目元がかくれて見えぬ。

 

「ふふふふ……うふふ」

 

 しかし、笑っているのであるからして大丈夫であろう。それでも早く上がらねば風邪をひくのである! 吾輩はもみじの裾を口でひっぱって、早くこがさを助けるようにあぴーるするのである。

 

「あ、ああ、ああ、……その。こ、こがさ。わ、わざとじゃない」

 

 じゃばーとこがさは立ち上がってたのである。ほっぺたが膨らんでいるのである。

 

「もんどーむよー!!」

 

 こがさが手に水をいれて飛ばしてきたのである。ううむ。吾輩にかかったのである。もみじは「きゃあ」と言っているのである。

 

「それーそれー」

 

 ぱしゃぱしゃとこがさが水を掬ってはとばしてくるのである。ぱしゃぱしゃの間にはたてがぱしゃぱしゃと何か撮っているのがみえるのである。

 

「こら、やめろ、こ、こがさ。も、もう」

「それー」

 

 もみじとこがさよ……。吾輩は、吾輩は……一緒に遊びたいのである!

 吾輩も川に入ってぱしゃぱしゃと前足を動かしてみるのであるが、こがさのようにうまくはいかぬ。こがさは水あそびのてんさいであるな。

 

「い、いーかげんにしろー」

 

 もみじが水を手にためて投げたのである! すごいのである。こがさの顔にぶつかってぱーんと音がしたのである。

 

「い、いたーい。て、天狗のくせに本気でやったわねー」

「そ、それはお前が調子にのるからだ」

「私だってまけませんよ」

「や、やめ」

 

 今度はもみじの顔にお水がかかったのである。吾輩もやりたいのである。うむ? あれは……さっきの蟹であるな。一緒に遊びに来たのであろうか。こがさよ、こがさの友達が遊びたいようであるぞ。

 

「にゃ!!?」

 

 もみじがばしゃーとこがさに水をかけたのである。

 こがさはびしょ濡れであるな。服が肌にはりついているのである。吾輩も毛並みがこう張り付いたりするのであろうか? 蟹よ、どう思うであろうか。いや、泡を出されても分からないのである。

 

「あんたたちー。もう十分に写真を撮ったから、そろそろ上がったら?」

 

 おお、はたてである。吾輩は岸に上がってふるふるふるふると水気を飛ばすのである。

 

「ううー」

「おまえ……なんで。私がこんなことに」

 

 びしょ濡れのこがさともみじがそれぞれ上がってきたのである。ふるふるするといいのであるぞ、こうである。

 こがさは顔をふるふると振って、青い髪から水を飛ばすのである。

 

「あんたたち、子供かー」

 

 はたてが笑いながら言ったのである。もみじは「いや、だってこがさが」と言っているのであるな。

 

「いや、その言い訳の仕方こどもっぽいわ」

 

 くすくすとはたてが笑っているのである。そこに後ろからこすずがやってきたのである。こすずははーと言いながら、両方の掌を上にあげて。

 

「皆さん。こどもですねー」

 

 と言ったのである。

 吾輩が振り向くとこがさともみじはお互いに顔を見合わせているのである。

 

 

「にゃ、にゃにするんですかー!」

 

 もみじとこがさが仲良く両側からこすずのほっぺたをつねっているのである。こすずのほっぺたはお餅のようであるな。吾輩もこう、引っ張ってみたいのである。

 

 

 



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みことおはなしをしたいのである

久々の更新です! ところで家に野良猫が迷い込んで、ほんとに飼い始めました(0歳)


 お天道様がだんだんとオレンジ色になってきたのである。

 吾輩は知っているのである。この時間の時はとてもとても……

 

 影が長くなるのである! 不思議であるな。影もこの時間は頑張るのであろうか、吾輩は後ろを振り返って長くなった影を見るのである。のびのびしているのやもしれぬ。

 地面に寝転んでいる影を見ていると、それがひとつ、ふたつ、みっつ、よっつに増えたのである。吾輩は逆に振り返ってみるとはたてともみじとこがさとこすずがいたのである。

 

 遠くで鴉が鳴いているのである。

 

「結構いろんなところにいったわね」

 

 はたてが言うのである。うむうむ。今日も楽しかったのである。川遊びした後も少しお散歩したのである。

 

「あっ! 私もう帰らないと」

 

 うむ? こすずがいきなり大声をだしたので、吾輩はびくっとしたのである。こすずははたてに頭を下げているのである。

 

「今日はありがとうございました」

「ああ、おつかれさん。また今度貸本屋にいくかもしれないわ。その時はよろしくね」

「次はお金もって本を借りてくださいね!」

 

 にっこりとこすずがいうのである。笑顔は大事である。はたては「やっぱ、あんたはっきりした性格ね」と言っているのである。はっきりは大切である。もみじとこがさにも挨拶してから、お昼にもらった傘を手に夕日の中に走って行くのである。

 

 遠くで手を振っているのである。声は聞こえぬ。何となく寂しいのである。

 

「私もこれから用事があるの」

 

 こがさが小さく手をあげて言うのである。もみじが言うのである。

 

「暇人なのに用事があるのか?」

「ひ、ひど!? 私はこれでもとっても忙しいのよ?」

「ほう、じゃあ何の用事なんだ?」

「お墓に行って、来た人を驚かせるの」

「……暇人」

「な、なによぉ! これでも結構驚いてくれる人いるのよ。お墓の陰に隠れて、来た人にうらめしや~っていうとね」

「……ま、頑張れ」

 

 もみじはそっぽを向いてはあと息を吐いているのである。うむうむ。こがさよ頑張るのである。

 

「な、なんかどうでもいい感じ……ま、まあいいですよ。毎日私にきょーふする人間達がいるんだから。今日は子供達も来るらしいしね。肝試しの引率だってするのよ」

 

 はたてともみじがなんだか憐みの顔でこがさを見ているのである。なんでであろうか。

 こがさはふふんと鼻を鳴らして、胸を反らしているのである。吾輩はその足元でにゃあと声をかけるとこがさがなでなでしてくれたのである。それから片目をぱちんとういんくして、べっと舌を出したのである。

 

「じゃ、またね。猫さん」

 

 吾輩の耳元でそう言うととこがさはからからと下駄を鳴らしながらどこかに走って行ったのである。遠くでこけたのである! おお、頑張って立ち上がっているのであるな。

 

「はたて。今日はもういいんじゃない?」

「あー、そうね。結構写真も撮れたし、ま、楽しかったしね。椛も楽しかったでしょ」

「……まぁ……それなりに」

「あー、素直じゃないわね―。そこらへん文とそっくりよ」

「…………面と向かって悪口を言わないでください」

「たぶん、あんたの方がひどいこと言っているわ」

 

 はたては吾輩のまえでしゃがんだのである。それからにっこりと笑って、なでなでしてくれるのである。

 

「あんたも今日はありがとね」

 

 にゃー。こちらこそである。

 

「どうせまた、会うんだろうけどな」

 

 もみじが何か言っているのである。だんだんと周りが暗くなってきたのである。お月様が顔を出そうとしているのである。もみじとはたても何か話しながら、どこかに帰ろうとしているのである。

 

 …………うむ。吾輩も帰るのである。なんとなく寂しいのである。間違ってはたて達の後ろをついていこうとしてしまったのである。なんでかはわからぬ。

 お天道様もおうちに帰ってしまったのである。吾輩はくしくしと足で首元をかいてみるのである。ううむ、どこに行くか悩みどころである。吾輩は近くにある良さそうな草の上で丸くなって考えるのである。

 いろいろと考えてみるのである。いろんなものの顔が浮かんでは消えるのである。

 …………お月様が見えたのである。内緒であるぞ。吾輩は少し寂しいのである。吾輩は絶対にほかに言わないようにお月様ににゃあと言っておくのである。

 

 うむ。これできっと秘密は守ってくれるのである。吾輩は毛並みのめんてなんすをしながら、ふと思いついたのである。巫女の顔が頭に浮かんだのである。

 立ち上がって、伸びをして、吾輩はとことこ歩き出すのである。

 なんだか久々に吾輩だけであるな。いや、コオロギの声が聞こえるのである。吾輩はまだ話したことはないのであるが、夜になるとおしゃべりになるのである。

 

 今日は星もよく見えるのである。一度聞いたことがあるのであるが、空にも川があって星が流れているそうである。ほんとかは知らぬ。吾輩は空を見上げて、そんな星の川がないか探してみるのである。

 見当たらぬ。いやいや、いかぬそれよりも吾輩は神社に行かなければならぬ。巫女は意外と早く寝るのである。吾輩はちゃんと知っているのである。

 

 

 神社の石段をとてとて登るのである。

 石段を上ってから振り向くと結構眺めが良いのである。ただ今日はなんとなく振り返るよりも巫女の顔がみたい気がするのである。吾輩は段を登り切ったのである。

 神社の境内には誰もおらぬ。虫の声しか聞こえぬ。ただ、吾輩は巫女がどこにいるのかは知っているのである。吾輩は神社の縁側に回って、とんと乗るのである。廊下にも誰もおらぬ。

 

「ぐーぐー」

 

 こまのが寝ている以外は誰もいないのである。こまのにはおふとんがかけてあるのである。たぶん巫女であろう。吾輩は巫女がやさしいのは知っているのである。

 おお、明かりのついてる部屋があるのである。障子ごしに影は見えるのである。吾輩はとてとて歩いていくのである。障子は破ってはいかぬ。それをしたら怒られるのである。しかし、開け方がわからぬ。

 

 にゃー

 

 吾輩は障子の前でそういうのである。すると少しだけ開いて、巫女の目が見えたのである。

 

「何の用?」

 

 よう……そういえば特に何もないのである。でもいいのである。吾輩はじっと巫女を見るのである。

 

「……そ、そこにいられても困るんだけど、はあ、もう寝るんだけど。あんた夜に来ること多いわね。まあ猫に言っても仕方ないことだけど」

 

 からっと障子が開いたのである。巫女は白いねまきになっているのである。おお、いつも結んでいる髪を下ろしているのであるな。毛を縛るのは辛そうであったからいいことである。吾輩なら毛並みを結ばれるのはいやである。

 

「…………」

 

 じっと見るのである。巫女は怪訝な顔をしているのであるな。どうしたのであろうか?」

 

「……あんた、寂しいの?」

 

 巫女よ、もしかしてお月様に聞いたのであろうか? ううむ、ううむ、あれは秘密であったはずである。

 

「……あー」

 

 巫女は頭を掻いているのである。

 

「なんで猫の表情なんて読んでいるのかしら、いつも変わらないのにさ」

 

 巫女は吾輩を抱き上げるというのである。

 

「あんた、今日泊まりたいなら足をちゃんと洗いなさい。たまに廊下に肉球の跡が残っているんだからね。あれ、絶対あんたしかいないから」

 

 覚えておらぬがすまぬ。吾輩は紳士であるからして素直に謝るのである。巫女に抱かれたまま廊下を行くのである。

 

「今日はどこに行ってきたの? あんた無駄に顔広いからどうせ誰かと遊んだんでしょ?」

 

 今日も楽しかったのである。それを伝えるために、吾輩は鳴くのである。

 



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あのときのおれいなのである

 ちゃぷちゃぷ。

 吾輩は巫女に出されたお水を飲むのである。お茶碗にいれられたお水はおいしいのである。

 

「あんたって美味しそうに飲むわよね」

 

 巫女が吾輩を見下ろしながら言っているのである。吾輩は振り向いてじっと巫女を見てから、またお水がほしくなったので飲み始めたのである。ちゃぷちゃぷ。こう舌をなんども出したりするのは楽しくなってくるのである。

 

 吾輩と巫女は縁側にいるのである。今日は思ったよりも温かいのである。

 巫女はごろんと寝転がって空を見ているのである。吾輩はお水を飲み終わって振り向いたのである。

 

 みゃー。

 

 ごちそうさまである。巫女は吾輩を見るのである。

 

「なによ? おかわりなんて持ってこないわよ」

 

 じろっと見てきたのであるが、吾輩はおかわりなんて頼んだわけではないのである。ううむ。まあいいのである。吾輩は毛並みのめんてなんすをするのだ。はむはむ、ゆっくりしたときにやるのがいいのである。

 ぺろぺろ、はむはむ、ごろんごろん。

 うむ? 巫女よ、なんで吾輩を見ているのであろうか。吾輩は……なんとなく恥ずかしいのである。巫女はうつぶせになって吾輩を見てくるのである。ほっぺたを縁側で押し付けているのであるが、なんとなくやわらかそうであるな。

 

「…………」

 

 巫女が吾輩を見ているのである。なんであろうか、吾輩はじっと巫女を見ているのである。

 

「何見てんのよ」

 

 吾輩のセリフである。巫女は肘でずりずり吾輩に近寄ってきたのである。むむむ、なんであろうか、吾輩を真剣に見ているのである。なんであろうか? まあ、うむ。巫女である、変なことはすまい。

 巫女が吾輩に手を伸ばしてきたのである。ゆっくりと吾輩の頭に手を置いて、

 

 なでなで。

 

 おお、なかなかいいのである。なんだか珍しいのである。巫女は無表情で吾輩を撫でているのである。ぉお、もう終わりであるか? 寂しいのである。

 

「……ふん」

 

 巫女はまたごろんと寝転がっているのである。うむ、吾輩はちょっと思ったのであるが、とことこ近づいてみるのである。それから黒い髪をぺろぺろと毛づくろいしてあげるのである。

 

「わっ……あんた……な、なんのつもりよ」

 

 毛づくろいである。何もおかしくはないのである。なぜ怒ったのであろうか? 吾輩にはわからぬ。でも、吾輩は紳士であるからして悪いことをしたらちゃんと謝るのである。

わがはいは巫女の横にごろんと寝転がって、のびのびするのである。体を伸ばしておくと走る時には調子が良いのである。

 

「……」

 

 空を見ると今日はお星さまがいっぱいいるのである。何かお祭りもであるのであろうか? 吾輩はみゃあと聞いてみるのであるが、返事をしてもらったことがないのである。巫女をみると黙って空を見ているのである。

 

「猫のあんたに言っても仕方ないけど、星ってどれくらい遠くにあるのかな?」

 

 巫女が吾輩を見ずに言うのである。ううむ、どうであろうか。隣町よりも遠いかもしれぬ……。巫女が手を伸ばしてぐーぱーぐーぱーしているのである。じゃんけんであろうか? 吾輩はじゃんけんは得意である。

 

「星を手につかむ、なんて」

 

 おお。巫女はお星様を手につかめるのであるか、さすがであるな。吾輩にも見せてほしいのである。とんと巫女の上にのって、手を見てみるのである。うむ? 何も持っておらぬ。

 

「あんたねぇ」

 

 なぜか巫女が怒っているのである、吾輩はまたわからぬ。ううむ。難しいのである。しかし、巫女よ。吾輩にも見せてほしいのである、きっときらきらして綺麗なはずであるな。巫女は体を起こしたので、吾輩もとんっと降りたのである。

 

 巫女は吾輩をじとっと見ているのである。何か言いたそうであるが、吾輩に言ってみるのである、吾輩はちゃんと聞くのである。吾輩はちゃんと前足をついて体をぴんとのばして、尻尾を体に巻いて姿勢よくするのである。

 

「……」

 

 巫女は何も言わずに立ち上がったのである。それから部屋に戻っていくのである。途中縁側に寝ていたあうんを蹴って「風邪ひくわよ」と起こしていたのである。優しいのであるな。 

 吾輩はその後ろをとてとてついていくのである。

 部屋に入ると巫女の布団が敷かれているのである。吾輩は畳の上でノビノビしてみるのである。気持ちいいのである。巫女は部屋にろうそくの明かりをつけて布団に入ったのであろう。

 布団の中からごそごそと何かを出しているのである、本であるな! うむうむ。吾輩にはちゃんとわかるのである。巫女は寝転がってそれを読み始めたのである。吾輩にも読ませてほしいのである。

 近寄って本の上に乗ってみるのである。

 ふむふむ。わからぬ。いつか読めるようになればいいのであるが、よくわからぬ。

 

「ちょっとどきなさいよ」

 

 巫女は吾輩の両脇を掴んで脇にどけたのである。なんだか恥ずかしいのであるが、巫女はまた本を読んでいるのである。ずるいのである、吾輩も読むのである。

 そう思って本の上のもう一度乗ってみるのである。巫女はほっぺたを少し膨らませているのである。なんでであろうか? 

 

「……!」

 

 吾輩はまた脇を掴まれて横にどけられたのである。

 

「なんで邪魔するのよ」

 

 邪魔なんてしてないのである。吾輩も勉強したいだけであるな。吾輩はこうにゃあと抗議するのであるが、巫女は言ったのである。

 

「遊びたいのはわかるけど、泊めてやるんだからおとなしく寝てなさい」

 

 遊びたいと言っているわけではないのであるが、まあ仕方ないのである。吾輩は毛並みのめんてなんすでもするのである。ぺろぺろ。

 ふるふる。

 ごろんごろん。ふみふみと毛布をしてみるのである。なかなかいいのである。そろそろ眠たくなってきた気がするのである。そういえば巫女よ、何を読んでいるのであろうか?

 

『吾輩は猫である』

 

 なんと書いてあるかわからぬ。巫女はたまに吾輩を見てくるのである。なんでであろうか?

 

「ねえ、あんたも名前はまだないの?」

 

 わがはいはわがはいである。変なことを聞くのであるな。巫女も巫女である。

 

「猫にそんなことを聞いても無駄よね。化け猫でもない限りは……ふぁーぁ」

 

 巫女が大きなあくびをしているのである。吾輩もつられてあくびをするのである。眠たくなってきたのであるな。吾輩は体を丸めて目をつぶろうとしたのである。すると体がふわっと浮いたのである。

 目を開けると巫女がいるのである。布団の中に入れてくれたのである。なるほど温かいのであるな。

 

「なんで猫なんかと寝るのかしら?」

 

 なんかとはひどいのである。巫女は布団の中の吾輩を見ながら、布団を頭まで被ったのである。布団の中で巫女は吾輩に笑顔を見せたのである。吾輩は巫女が優しいことはちゃんとわかっているのである。

 

「一応言っとくけど、あんたは酒なんて飲んだりするんじゃないわよ」

 

 お酒であるか。飲んだことないのである。

 

「溺れたって知らないからね」

 

 溺れるのであるか……。よくわからぬが、わかったのである。

 

「そういえばあんた、いつの間にか蝶ネクタイなんてしているわけ。寝るときは外しなさいよ。ほら。誰に着けられたんだか」

 

 それはこいしに着けてもらったのである。さとりがくれたらしいのである。

 

「ん? これなんか裏に書いてある。読めないし」

 

 巫女はおきあがって明かりの下にネクタイを持って行ったのである。巫女よ何を見ているのであろうか?

 

『みこよ ありがとう なので ある』

 

「……なにこれ? 私に……お礼? あぁ?」

 

 巫女が首をひねっているのである。吾輩はさとりの顔を思い出して、うれしくなったのである。 

 



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こまのもいくのである

久しぶりの投稿です!


 

 ぴくぴく

 

 ぴくぴく

 

 うむ。

 

 吾輩は耳をぴくぴくさせて起き上がったのである。体をしっかりと伸ばして、すくっと立ち上がるのである。吾輩は紳士であるからして、おねぼうさんはいけないのである。

 

「ん」

 

 巫女はまだ眠っているようであるな。吾輩は起こさないようにお布団から抜け出すのである。吾輩は抜け出すのは得意だ。

 

「んん」

 

 しまった……吾輩の尻尾が巫女の鼻をくすぐっているのである。いや、わざとではない。吾輩はその場で巫女の顔を覗き込むと起きてはおらぬ。幸せそうに眠っているのである。

 

 雨の音がするのである。吾輩は外に出ようとして、部屋をぐるぐるしてみるのであるが、障子が閉まっていて出られぬ。吾輩はじーと白いそれをみてみるのである。

 

 ぱしぃっとこう、破いてもよいのであろうか。

 いや、巫女に怒られたことがあるからしてやめておくのである。

 

 しかし、出られぬ。吾輩はその場でぐるぐる回ってみるのであるが、いい考えが浮かばぬので横になってみた。

 

 尻尾でぱしんぱしんと床をを叩いてみるのであるが、巫女は起きる気配がないのである。吾輩は外に出たいのである。

 

 焦ってはいかぬ。のんびり行くのである。吾輩は毛並みのメンテナンスをするのである。

 

 ぺろぺろ。かりかり、はむはむ。

 

 指の間をこう口でハムハムしておくと綺麗になるのである。それにしても巫女はおきぬ。ねぼすけさんであるな。おなかをかいているのであるが、吾輩もなでなでしてもやぶさかではないのである。

 

 吾輩は巫女の顔の前にいったのである。ほっぺたが柔らかそうである。少しさわってもいいとおもうのである。吾輩はパンチしてみるのである。おぉ、柔らかい。

 

「ん、ん」

 

 巫女が何か唸っているのである。じーと吾輩が見てもそれでもおきぬ。軽く触ってみるのであるが、やはりおきぬ。

 

 …………うむ。

 吾輩は振り返って障子の前に来たのである。吾輩はぱりぃっと破れるのが好きであるからして……でも前にけいねに怒られてしまったのである。ううむ、吾輩はしょうじとにらめっこである。

 

 少しくらい触ってもよいかもしれぬ。吾輩は手を伸ばそうとしたのである。

 

「んん、あんた何やってんの?」

 

 何もやっておらぬ。吾輩はゆっくりと振り返って巫女ににゃーと挨拶するのである。

 巫女は体を起こして吾輩を見ているのである。

 

 そのままずいいと膝をすすめてきたのである。吾輩を持ち上げて聞いてきたのである。

 

「あんた、なんか悪さしようとしてなかった?」

 

 目の前に巫女の顔があるのである。悪さなどしておらぬ。ただ少し障子をこう、触ってみようとしただけである。吾輩はじーと巫女の目を見ているのである。

 

「まったく」

 

 巫女がため息をついたのである。

 

「あんた、人の言葉がわかってそうでわかってない気がするわね」

 

 そうであろうか……吾輩はちゃーんと巫女の言っていることを聞いているのである。こみゅにけーしょんはなかなか難しいのであるが、吾輩は覚えているのである。

 

 かららと巫女が戸を開けたのである。吾輩がその隙間からのぞくとやはり雨が降っているのである。こういう日はのんびりと神社にいるのがいいのである。

 

「あー、雨降ってるし。今日は確か紅魔館でパーティーだったんじゃなかったかしら。屋内だっけ?」

 

 吾輩は巫女の開けたところからとことこ外に出て、廊下でこてんと横になってみるのである。おぉ、良く雨が降っているのである。地面がバシバシなっているのである。

 

「あんた、雨の間だけだからね。ちゃんと明日にはでていきなさいよ」

 

 わかっているのである。吾輩は振り返ると。巫女は吾輩のうしろでしゃがんでじっと見てきているのである。なんであろうか。手を伸ばしてきたのである。

 

 なでなで。

 なでなで。

 なでなで。

 

 うーむ。なかなかうまいのである。吾輩は巫女のことをほめるのである。ちゃんとなでなでができて偉いのであるな。

 

「まあ、雨なら逃げないでしょ、レミリアのやつもあんたを連れてこいって前言ってた気がするからちょうどいいかも。パーティーに連れていくって……そういえばどうやって連れていこう」

 

 安心するのである。後ろについていくのである。どこに行くのかはよくわからぬが、きっと楽しいのである。

 

 吾輩は毛並みのメンテナンスにもどるのである。あたりを見回すと、遠くで顔半分だけ「こまの」が見えるのである。なんか羨ましそうであるな。

 

「霊夢さん……私にもなでなでしていいんですよ……?」

 

 なんか言っているのである。

 

「なに、あれ?」

 

 知らないのである。巫女よ、なでなでしてあげるのである。巫女はうーんと体を伸ばして部屋に戻っていったのである。

 

「着替えるからね。あんた後でご飯あげるから逃げないのよ」

 

 ごはんであるか! 楽しみである。吾輩は待っているのである。

 そういえば昔どこかでちゅーるという美味しいものがあると聞いたことがあるのであるが、きっとやまめであろう。

 

「ずるいですよー」

 

 こまのが廊下を滑って吾輩の前に来たのである。……! 楽しそうである。吾輩も滑ってみたいのである。

 

「猫さんだけ。霊夢さんになでなでしてもらってずるです。私はたまに家事とか手伝っているのに!」

 

 かじ、かじとは何であろうか。よくわからぬ。こまのは吾輩を抱き上げてぷくっとほっぺたを膨らませているのである。吾輩はこまのの手をぺろぺろと舐めてみるのである。

 

「あーあ、私もパーティーにいきたいなー」

 

 大きな声であるな。

 

「あーあー。れーむさんが私も連れて行ってくれたら―。私たまに家事もお手伝いして、お掃除もしているんですけどねー。あーあー」

「うっさい!!」

 

 ぱしぃと戸があいてびっくりしたのである。そこにはいつもの赤い服を着た巫女居たのである。

 

「あんたは、くどくどとわざとらしく……」

「こ、こうぎですよー。霊夢さん猫さんのお世話をしますから私もつれていってくださいー」

「…………あー?」

 

 巫女よ、こまのもいいこである。吾輩がちゃんと面倒を見るから連れて行ってあげるのである。吾輩は迷子の扱いには慣れているのである。

 

「どうせレミリアも細かいことは言わないだろうから、別にいいけど」

「やったー!」

 

 こまの吾輩をぎゅーとしてきたのである。

 

「ふわふわな毛並みですね―」

 

 それほどでもないのである。

 

「それはそうとあんた。連れて行ってあげるんだから数日、神社の前の掃除をするのよね」

「え?」

「なに? 嫌なの?」

「お、おうぼう。ま、まあ。任せておいてください」

 

 こまのは吾輩を床においてどんと胸を叩いたのである。

 

「あら?」

 

巫女はそれを見ずにこまの後ろを見ているのである。

吾輩も振り向くと雨が弱まっていたのである。こまのも振り返ったのである。

 

 

青空がちょっと見えているのである。

 

「雨、やみそうね。通り雨だったのかしら」

「そうみたいですねー」

「そうだ、レミリアとか咲夜がその猫を連れてくるように言ってたから、あんた逃げないように見張ってなさいよ」

「はーい」

 

 吾輩は逃げぬ。すっと立ち上がって、尻尾を体に巻きつけて背筋を伸ばすのである。

 

「ご飯持ってくるから待ってなさい、あ、あうんは自分用意するのよ」

「ふふふ、霊夢さん。私が台所にいくと猫ちゃんがにげちゃうかもしれませんよ。だから、ゴハンは持ってきても罰は当たりませんよ」

「そ、じゃあ。あんたは飯抜きね」

「そ、そんなぁー」

「どうせ狛犬なんだから平気でしょ」

「そ、それはそうかもしれませんけどー!」

 

 吾輩はとことこと歩いていくのである。巫女の部屋でくつろぐのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ぱーてーのじゅんびである

 あうんの頭の上に吾輩は乗っているのである。

 

 普段よりも高いところにいると新しい発見があるのである。うむ……たとえば……うむ。あうんの髪は柔らかいのである。

 

「猫さん。逃げないでくださいねー。私が霊夢さんに怒られますからね」

「うるさいんだけど」

 

 巫女はずんずんと前を歩いているのである。あうんとその上に乗った吾輩には背中しか見えぬ。

 

 それにしてもらくちんである。吾輩は自分で歩くのも好きであるが、こういうのもいいと思うのである。そう思ったら巫女が振り返ってきたのである。むむ、怖い顔をしているのだ。

 

「いい? あうん? 今日は紅魔館でパーティーをするっていうけど、ちゃんとおなか一杯食べるのよ。数日は食べなくていいように」

「は、はい~。で、でも霊夢さん。最悪ご飯を食べなくてもなんとかなりますけど、できれば毎日食べたいです」

「ちっ」

「し、舌打ち!??」

 

 そうである。ごはんは毎日食べなければならぬ。元気がなくてはよい遊びはできぬ。あうんも「ひどいですー」と言っているのであるからして、わがはいもちゃんとにゃーと言っておくのである。

 

「なによあんたら……なんでそんなに息があっているのよ?」

 

 吾輩とあうんは仲良しである。

 

 ……

 

 しばらくあうんが歩いていると吾輩は眠たくなってきたのである。ゆらゆら揺られて、たまに毛並みのめんてなんすを舌で行っていると大きな建物が見えてきたのである。

 

 おお、大きいのである。

 

 赤い建物の周りを黒い柵が囲んでいるのである。どれくらい大きいのかというと、うーむ。そうであるな。どういっていいのであろうか。こう、うむ。大きなヤマメがこう100匹並ぶより大きいやもしれぬ。

 

 吾輩はあうんの頭に乗ったまま入り口から入ったのである。庭であるな。背中に羽の生えためいどが大勢いるのである。どこからかいい匂いもしてくるのを吾輩はきょろきょろして探すのである。

 

「なによまだ準備中? おら、そこの」

 

 羽の生えためいどを巫女がけったのである。

 

「わっ? なんですか?」

「レミリアはどこよ」

「お屋敷の方だと思います」

 

 巫女はそれでずんずん歩いていくのである。

 

「猫さん。ああいう建物をせーよー建築っていうのですよ」

 

 あうんがお屋敷を指さしながら言ったのである。ふむふむ。せーよーけんちくであるな覚えたのである。それはなんであろうか。

 

「神社みたいに木造じゃなくて、レンガっていうかたーくて、頑丈なものでできているんですよ。粘土とかをこんがり窯で焼いて作るらしいです」

 

 うーむ。こんがり焼いてできたおうちであるか……うむうむ。吾輩は知っているのである。正月に巫女がおもちをこんがり焼いているのであるからして、同じ作り方であるな。……もしかしたらおいしいやもしれぬ。

 

 吾輩とあうんは巫女の後を追って建物の中に入っていくのである。中はかなり広いのである。天井が高いのはさとりのところみたいである。

 

「あ、レミリア」

 

 吾輩は巫女が叫んだ時にぽんとあうんの頭から地面に降りたのである。……!!!! おお、地面が柔らかい。それにふかふかである。

 

「ああ、絨毯ですねー。これはいいですねー」

 

 吾輩とあうんは地面でごろごろしていた、さくやの腕の中にいたのである

 

 !!????

 

 吾輩が見上げるとさくやがほほ笑んでいるのである。なでなでしてきて、おおそこ、そこ。……いや違うのである。いつの間にかさくやが現れて吾輩はなでなでされているのはわけがわからぬ。

 

 吾輩はもぞもぞして地面におりたのである。さくやの腕の中にいる。

 

 ????

 

 吾輩は意味が分からぬ。みゃーと巫女に言ってみると、巫女はこめかみを抑えているのである。

 

「あんたねぇ、猫に能力使ってんじゃないわよ」

「あら、別に構わないでしょう?」

 

 さくやと巫女の言うことがよくわからぬ。詳しく教えてほしいものである。ただ、ぱんと音がしてびくっと吾輩はそちらを見ると、れみりあが手をたたいた音であった。

 

「はいはい。まあ、よく来たわね霊夢。今日はゆっくりしていくといいわ。まあ、まだパーティーの準備中だけど」

「早く来て損をしたわ」

「…………そんなことはないわよ、霊夢」

「なによ」

 

 れみりあが巫女ににじり寄るのである。ニコニコしておる。……うむ? そういえばあうんはどこに行ったのであろうか? どこにもおらぬ。

 

「ふー。重いものを外に捨てるのは疲れるわ」

 

 さくやはなぜか疲れておるようであるな。さくやはあうんがどこに行ったかしらぬのであろうか。聞いてみてもほほ笑むだけであった。

 

「ふっ、霊夢、今日のパーティーはドレスコードを採用している」

「どれす、こーど。何よそれ。新しいスペルカードかしら」

「いいえ。外の世界ではよくあるしきたりよ。決まった服装をしないとパーティーには参加できないのよ」

「なによそれ」

 

 れみりあは両手を組んでにこりとしたのである。

 

「安心して霊夢。ちゃんとあなたのためにドレスを用意したわ。さあ、咲夜。案内してあげなさい」

「ちょっと待ちなさい。私はわけのわからないものを着る気はないわ!」

 

 巫女よ。よくわからぬが頑張るのである。

 

「いやぁ。あきらめたほうがいいですよ」

 

 うむ? 赤い髪の背の高い女性が来たのだ。

 

「あ? 美鈴。あんた」

 

 巫女も振り向いたのである。

 

「そうそう、レミィの思い付きでも、この場はあんたが不利ね」

 

 むむ、また誰か来たのである。ふわっとした帽子をかぶった紫の髪の少女である。

 

「パチュリー……」

 

 巫女がつぶやくのである。

 

「あんたたち。何私を囲んでんのよ」

「囲むなんて人聞きが悪いわ霊夢。何も取って食おうっていうわけじゃないわ」

 

 れみりあが言うのである。そうであるとって食べるのはいかぬ。

 

「パチェのいう通り思い付きみたいなものだけど。この幻想郷に我々の文化を広げる必要があると気が付いたのよ霊夢」

「ああ? 何を意味の分からないことを言ってんのよ」

「別に難しいことじゃないわ。幻想郷はもともと我々がいた場所とは全く違う文化があるからこそ、小さな不満がいっぱいあるのよ。例えばお米なんて私は食べないし、紅茶を手に入れるだけでも一苦労だけど、苦い抹茶は売ってたりね」

「はあ~?」

 

 巫女が胡散臭そうな顔をしているのだ。

 

「ああ、別に霊夢が理解する必要はないわ。この機会にドレスに聞かざる紅魔館の豪華絢爛なパーティーで幻想郷全体の雰囲気を古臭くて貧乏な感じから変えるのよ。それにはとりあえず霊夢。あなたからドレスアップする必要があるわ」

「…………それで、あんたら全員出てきたの? いい!? そんなものを絶対着たり……だせー! なにこれ!」

 

 いつのまにか巫女が車輪のついた檻に入れられているのである。それをさくやがきゅるきゅる車輪の音を鳴らしながら持っていくのである。

 

 うむ!? 吾輩はいつの間にか地面に降りているのである。なんだかほっとするのである。さくやが霊夢に話しかけるのである。

 

「戦闘態勢になってない巫女なんてこんなものね霊夢。そう暴れないの。まあ、あんたなら本気になればこれくらい壊せるかもしれないけど。お嬢様のもうそ……構想はともかくただ外の世界のかわいいドレスを着てみるのはいい経験と思うわ」

 

 廊下の向こうかられみりあの声がしたのである。

 

「咲夜! さっさと終わらせなさい。他のお客の相手もこれからいっぱいあるんだからね」

「はい! お嬢様」

 

 巫女は檻の中で黙っているのである。ちょっとほっぺたが膨らんでいるのである。吾輩は檻の隙間から入ってその膝の上で寝そべったのである。

 



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どれすをきるのである

 うむうむ。

 

 絨毯の上は柔らかいのである。吾輩はなかなか気に入ったところであるな。しかし、寝そべって毛並みをなめるといつもよりきれいにすることができるような気がするのである。

 

 しゅっしゅっと、音がして吾輩はそちらを見るのである。

 

 大きな鏡の前に巫女が座っていて、その黒い髪をさくやがブラシでこう、しゅっしゅっとしているのである。こうなんといっていいであろうか、あれは毛並みのめんてなんすであるな。

 

吾輩はちゃんとブラシは知っているのである。前にふとにやってもらったのである。

 

「ふん」

 

 巫女は不機嫌そうであるな。吾輩はさくやの前に行ってじーっと見るのである。吾輩はもぶらっしんぐをしてほしいというわけではないのである。ただ、見ているのである。

 

「ふふ。猫さんはあとでね」

 

 うむうむ。

 

 いや、別に催促したわけではない。だがこう、ブラシでしゅっしゅしてもらうのはやぶさかではない。

 

「とりあえずこの目つきの悪い巫女の着替えから終わらせないとね。さ、お嬢様が用意したドレスをどれでも選んでいいわよ」

「私はこれでいいわよ」

 

 巫女が自分の服をつまんでいるのである。

 

「それじゃ意味がないでしょ。こっちの部屋よ。早く」

「ひ、ひっぱるんじゃないわよ」

 

 巫女がさくやに連れていかれるのである。吾輩はそれにとことこついていこうとして、巫女が振り返ったのである。

 

「あんたはここにいなさい!」

 

 ううむ。なぜであろうか、吾輩は止められてしまったのである。

 

 やることがない。仕方ないので、後ろ足で顎をかいてみてるのである。おお、いい気持がよい。

 

 

 吾輩はあくびをしたのである。退屈であるな。巫女もさくやも戻ってこぬ。

 

 吾輩はすくっと立ち上がってから、のびのびして体をほぐすのである。体を動かす前にはちゃんとのびのびをするのが必要なのである。今度こがさにも教えてあげねばならぬ。

 

 とことこ。吾輩は巫女の歩いて行ったほうに向かうのである。小さなドアの前にさくやが椅子に座っていたのである。

 

「あら、猫さん。こっちに来たのね。あなたのご主人様は中でドレスを選んでいるわ。猫さんもついてこないように言われたけど、私も追い出されてしまったわ」

 

 ご主人? 何のことであろうか? 吾輩はよくわからぬが、にゃあとあいさつをしてから、ドアをかりかりしてみるのである。

 

「なにかしら。入りたいの?」

 

 入りたいというよりも体が勝手に動いたのである。

 

しかし、さくやがちょっとだけドアを開けてくれたのであるからして、吾輩はちゃんとお礼を言ってから中にするりと入ったのである。

 

 ううむ。いい匂いのする部屋であるな。服が並んでいるのである。……ちゃんとわかっているのである。これがどれすであるな! 吾輩もたまには着たほうがいいのであろうか? しかし大きすぎる気もするのである。

 

 物音がしたのであるからそちらに歩いていく。吾輩は用心深いのであるから物陰から顔を半分だけ出して、様子をうかがったのである。

 

 巫女が赤いどれすを着て鏡の前でくるりと回っているのである。黒い髪にはいつものりぼんがないのであるな。すかーとがひらひらとうごいているのである。吾輩は危うくそれに反応して飛び出してしまいそうになったのである。

 

「……」

 

 なんとなく楽しそうである。鏡に手を置いて少しうれしそうにしている顔が見えるのである。うれしいことはいいことであるな。吾輩は物陰からじっと見ているのである。

 

 巫女はどれすのを両手でつまんでちょっとお辞儀したのである。……むむむ、紳士である吾輩にはわかるのである。あれはあいさつの練習であるな。

 

 吾輩もするのである。とことこと歩いて、巫女ににゃあーと声をかけてみるのである。挨拶はちゃんと元気よくするものであるな。

 

「……!!! っ!」

 

 巫女が顔を真っ赤にして吾輩を見たのである。ぐぬぬという顔をして、何も言わぬ。

 

 巫女は吾輩を指さして怒っているような顔をしているのである。しかし吾輩は何もしてはおらぬ。

 

「あんた……いや、猫に何を言っても仕方ないわね。はあ」

 

 しんがいである。吾輩はなんでも聞くのである。悩みがあるならなんでも言うのである。またたびのいっぱいある場所も教えるのである。

 

「何か言いたげね。まっ、どうでもいいけど」

 

 巫女は吾輩から目をそらして、手に白い手袋をしたのである。寒いのであろうか? 

 

吾輩も一度だけけいねにてぶくろをつけてもらったことがあるのであるが、あれはかりかりができないのでいかぬ。

 

 

 吾輩はお屋敷の中を探検するのである。

 

 巫女とさくやが話し込んでいる間に出てきたのである。ぱーてぃーとやらはまだ始まらぬようであるな。見れば忙しそうにめいどが準備をしているのである。

 

 吾輩も手伝いたいところであるが、何をすればよいのかわからぬ。仕方ないので絨毯の上で寝そべってじーとみていたのである。いろんなものを持っためいどが歩いているは戻ってくるので楽しいのである。

 

 ふと、刀を持ったものが通りかかったのである。黒い丈の短いどれすを着ているのであるな。ようむであるな。吾輩を見るなり、剣を抜いて、ふーっといかくしてきたのである。

 

 ……まあ、おちつくのである。吾輩は寝そべっているだけである。

 

「な、なんだ猫か。危うく斬るところだったわ」

 

 よくわからぬが吾輩は危なかったやもしれぬ。ようむは吾輩の近くでぐるぐる歩き回っているのである。

 

「くそ。いきなりドレスに着替えさせられるなんて不覚だわ。というか私の服はいったいどこに行ったんだ。こんなに短いスカートなんて正気じゃないわ」

 

 かりかりと爪を噛んで、顔を赤くしているであるな。よくわからぬが落ち着くのである。吾輩はじっと見ながらそう思ったのである。

 

 おお。黒いドレスにはお花の模様がついているのである。なかなか似合っていると思うのである。吾輩はそれを伝えようとしてうまくいかぬ。みゃーといえばいいのか、ぐるぐるといえば伝わるのかわからぬ。

 

 こみゅにけーしょんは難しいのであるな。

 

「はずかしい……」

 

 顔を赤くしたようむはそれだけ言ってどこかに行ってしまったのである。

 

 次に歩いてきたのはなんであろうか。……大きな木の桶が歩いてきたのである。吾輩は興味がわいてそれをじーっと見つめていたのであるが、吾輩の前で木の桶が止まったのである。

 

 桶が動いて中からふとが顔を出したのである。

 

「おお、猫ではないか」

 

 ふとであるな。吾輩は興味がなくなって寝そべるのである。

 

「ふふ。我が来たとなるとそうおなかを見せるとは。なでなでしてほしいのであろう! そうであろう!」

 

 ふとが吾輩の背中をなでてくるのである。なかなかの手並みであるが、ふとは何をしているのであろうか。

 

「今日は太子様も来られるからな。先に敵情視察というやつだ、それにしてもおぬしはどこにでもいるのう。高麗野もどこかにいるのか?」

 

 こまの……あうんのであるな。どこかに行ったのである。

 ふとはしきりに吾輩をなでなでしていると、後ろから来た数人のめいどに取り押さえられてどこかに連れていかれたのである。「は、はなせー」といっていたのである。

 

 吾輩は頭をふるふるして立ち上がり、首を後ろ足でかいかいしてみるのである。

 

 そこでふと思ったのである。ふと、というのはふとではなく。こう……ふとおもった。ううむ、ふとのことではない! 邪魔しないでほしいのであるな。

 

 ようむもふとも来たのであるが、もしかするともっと大勢の吾輩の知り合いがくるやもしれぬ。…………楽しみであるな。

 

 



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ちかしつのしょうじょである

 だんだんと人が多くなってきたのである。いや、人かどうかはわからぬ。どちらかというと妖怪が多いやもしれぬな。まあどちらでも吾輩はこみゅにけーしょんはとれるのである。

 

 そういえばおつきさまも呼べばよかったかもしれぬ。たまには一緒に歩くのはいいのである。吾輩はそう思って外に出ようと思ったのであるが、よく道がわからぬ。

 

 右に曲がってから、左に曲がったりしてみるのである。たまに通りかかるめいどに道を尋ねてみるとなでなでしてくれるのであるが、違うのである。そういうことではない。

 

 巫女もどこに行ったか分からぬ。吾輩は後ろを振り向くと、こいしも吾輩に合わせて後ろを振り向くのであった。

 

 ……? 吾輩は今何かおかしなことを言ったのではないであろうか。きょろきょろしてみてもおかしいことはないのである。吾輩は安心して歩きだしたのである。

 

 むむ、下に降りる階段があるのである。そばには「危険 降りるな」と書いてあるのである。これは……何と読むのであろうか。けいねに聞けばわかるのやもしれぬが、吾輩は文字は少ししか読めぬ。いや……あまり読めぬ。

 

 とにかく降りてみるのである。吾輩の足はあまり音をたてぬが、こつこつと階段を下りる音が響いているのである。吾輩が後ろを振り向くとこいしも後ろを振り向いているのである。

 

 おかしいところはないのであるな。

 

 ……吾輩はなにかじゅーだいなことを見落としているのやもしれぬ。なんであろうか……。まあ、いいのである。

 

 地下はひんやりしているのである。絨毯ではなく石だたみであるな。これはいいのである。こう、のびのびと寝転がるととても気持ちいいのである。吾輩はこういうことをちゃんと知っているのである。

 

 おっとこうしてはおられぬ。吾輩は探検を続けるのである。ほのかに明かりがあるだけで暗い廊下を歩いていく。ううむ。足音が吾輩のすぐ後ろから聞こえてくると思うのであるが、こいし以外はだれもおらぬな。

 

「赤い扉だー」

 

 うむうむ。赤い扉であるな。吾輩はかりかりとするのである。こうしていると誰かが明けてくれるのやもしれぬ。吾輩は障子であれば、こう隙間に前足を入れて開けることはできるのであるがドアは難しいのである。

 

「どうぞー」

 

 おお、一人でにドアが開いたのである。吾輩は中に入ってみるのである。

 

 そこには大きなベットがあったのである。部屋の隅には青い炎がゆらゆらと動いているのであるな。だんすであろうか。

 

「入ってきたのは誰?」

 

 ベットの上で足を抱えて座っている少女がいるのである。背中から羽が生えて、おお! 宝石のような羽であるな! とてもきれいである。

 

「猫? それにあんたはどこの誰?」

「私? 私は古明地こいしだよ」

 

 おぉ。こいしである。いつの間にいたのであろうか。いつもの帽子と、白いドレスにお花をいっぱいつけているのである。なかなか似合っているのであるな。

 

「……まあ、だれでもいいけど。とりあえず出て行ってくれない?」

 

 座っている少女を見ると金髪で頭の横で髪を結んでいるのであるな。吾輩は思うのであるが、吾輩も結んでみたいのである。

 

「じゃあ、でていこっか」

 

 こいしが少女の手をつかんで引っ張ったのである。

 

「ちょ、なにすんだ。出ていくのはあんたと、この……猫!」

 

 こいしは頭を傾けて少女を見ているのである。

 

「あなたの名前は誰ですかー?」

「……フランドール・スカーレット。ここに来たのならあいつ……お姉さまにもあったんでしょ。今日は変なお祭りをするから私はここにいるのよ」

「じゃあ。フランでいいね。さあ、いこいこ」

「だから! 私はここにいるって、それになれなれしく。押すな!」

 

 こいしがふらんの背中を押して外に出そうとするのである。ふらんはどらの前で外に出ないように壁に手をついて踏ん張っているのである。

 

「よいしょ。よいしょ」

 

 こいしよ。頑張るのである。

 

「お前たちは何が目的だ!」

 

 焦ったようなふらんの声が響くのであるが、吾輩は見ているのだけである。しかしふらんよ。ちゃんとお外で遊ばねばならぬ。外は気持ちがいいのである。

 

「もーおうじょうぎわがわるいなー」

「……なんで外に出そうとしているのよ。私は部屋にいるって言っているだろ」

 

 うむ? 吾輩の脇をこいしが持ったのである。そのままふらんに吾輩は渡されたのであるが、吾輩はものではない。ふらんにだっこされたまま目が合ったのである。

 

「なんで渡したの??」

 

 うむうむ。もっと言ってやるのである。

 

 ふらんが吾輩を紅い瞳で見てくるのである。紅い瞳といえばこがさが半分だけそうであるな。ふらんはそれよりもきれいやもしれぬ。吾輩は前足を伸ばしてみるのである。

 

「わっ、なんだよ」

 

 かおをそむけられたのである。吾輩は気が付いたのである。白くて柔らかそうなほっぺたであるな。もしかすると甘いやもしれぬ。吾輩は何となくなめてみるのである。

 

「やめろ! ざ、ざらざらする、きゃっ」

 ふらんがよけるのである。吾輩はしぶしぶやめてみるのである。あんまり甘くはないのであるな。

 

「それじゃあ、フランが猫さんを持っててね。さあ、いこー!」

 

 そういうとこいしがドアの外に歩きだしたのである。

 

「え? ちょっと、待て。猫を置いていかないでよ」

 

 ふらんも吾輩をだっこしたままこいしの背中を追うのである。吾輩はらくちんである。ううむ、しかしふらんの髪が目の前でゆらゆらしているのである。吾輩はそれを咥えてみるのである。

 

「噛むな!」

 

 怒られたのである。吾輩はにゃーとちゃんと謝るのである。

 

「…………フラン! そういう時はね」

 

 こいしがくるりと振り返ったのである。ドレスのスカートがふわっとしたのである。

 

「にゃー」

 

 こいしが吾輩に言ったのである。何を言っているのであろうか。吾輩はきょとんとしているとこいしがふらんに言うのである。

 

「猫さんにはちゃんとにゃーとかなーって言わないと伝わらないよ」

「…………は?」

「フランも猫さんと会話するならにゃーって言わないと」

「いやだ!」

「ほら、にゃーって。ね。猫さんにはわかるもんね」

 

 わからぬ。何を言っているのか全然わからぬ。

 

 ふらんが吾輩をちらりと見たのである。ほっぺたをもごもごさせて、顔をそらしながら言ったのである。

「……にゃ……―」

 

 おお、ふらんが赤くなったのである。こいしは「もう少しわかりやすいほうが……」と言っているのであるが、吾輩はどっちでもいいのである。

 

「も、もういい! 私は部屋に帰る。ほらあんたの猫でしょ」

 

 吾輩をふらんはこいしに渡そうとするのであるが、吾輩はものではないのである。こいしの胸元から抗議のためにふらんの顔をじーっと見るのである。

 

「な、なによ。なんでそんな顔で見るのさ」

「猫さんはフランもパーティーに参加してほしいって言っているんだよ」

「はあ? いやよ。めんどくさいし」

 

 こいしよ……確かにそれもいいと思うのである。ぱーてぃーにさんかしてほしいのである。吾輩とこいしはじーつとふらんをみたのである。

 

「なによ。なんでそんな顔で見るの?」

 

 壁際に追い込むのである。ふらんは壁に背中をつけて顔を背けようとしているので、こいしがささっとまわりこんだのである。逃げられぬのである。

 

「…………お姉さまに叱られても知らないからね!」

「わーい!」

 

 吾輩を抱いたままこいしがふらんの手をぎゅっと握って歩き出したのである。

 来たときは吾輩だけできたつもりであったが、帰りはふらんとこいしが増えたのである。

 

 にぎやかになるのはとてもいいことである!

 



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ぱーてぃーでいろんなともだちとであうのである

お久しぶりです。

更新できてなくてすみませんでした


 

 とととと、とこいしが階段を上がるのである。

 

 吾輩もとっとこそのあとを追うのである。

 

 こいしが振り返った。

 

「ねえ、フラーン。早くきてよぉ」

「……うるさい」

 

 なんだか警戒するようにふらんも吾輩の後を歩いてきたのである。

 

「あいつ……お姉さまに見つかったら面倒だし」

「お姉ちゃん……私にもお姉ちゃんがいるんだけどとっても優しいよ」

「ふーん。どうでもいいかな」

 

 ふむ、よく考えたら吾輩にも兄弟はいたのであろうか。よく覚えておらぬ。

 

「ま、いいや、おなか減ったし、いこいこ」

 

 こいしがふらんの手を引いてどんどん行くのである! 吾輩はふかーく兄弟のことを考えていたのであるからして、あわてて後を追っていくのである。

 

 

 ぱーてぃーとはいいにおいがするものであるな。大きなお庭にてーぶるがいっぱいあるのである。上には見たこともないごちそうが並んでいるのである。その中にやまめもあるやもしれぬから吾輩はつま先立ちをして覗こうとしてみるのだ。

 

 するとこいしが吾輩をすっと抱きかかえてくれたのである。

 

「ねこさんって、何食べるの? 骨?」

 

 骨は食べぬ。

 

「おりんはよく集めていたのは食べる気だったのかしら。まあ、いいや」

 

 こいしが走ると吾輩もらくちんである。うむ? あれは知った顔である。刀を持った少女がよーむであるな。吾輩は挨拶をしようとしてにゃーとあいさつをしてみるのだ。

 

 よーむはさっきみたドレスを着ているのである。なかなかよいのであるが、刀はおいてきた方がよかったのである。手に皿を持ってもぐもぐと串に刺さったおにくを食べているのだ。

 

 こいしはとことこ寄って行って、よーむの皿にある串を全部取ってしまった。

 

「もらうねー」

「……うーん。おいしい。あれ!? さっきまでここに!? あれ??」

 

 こいしよよーむが何か探しているようであるがいいのであろうか。吾輩はこいしの肩によじ登って、地面を探し回っているよーむをじーとみているのである。

 

「もぐもぐ。あ、フラン、はい」

 

 よーむからごーだつした串をこいしはふらんに与えたのである。分けるのはいいことである。しかしふらんはじっとみてぷいっと横を向いたのである。

 

「別に要らない」

「はい」

 

 こいしはその口元にお肉を近づけたのである。

 

「いらないって。ぐぐ」

 

 お肉が入ったのである。ふらんはもぐもぐと食べているのである。ううむ少しこいしをにらんでいるのような気がするのであるが、まあいいのである。それよりも吾輩のごはんはどこであろうか。

 

「あーおなかいっぱい」

 

 舌を出してぺろりと唇をなめているこいしに吾輩はこーぎするのである。

 

「にゃーにゃー!」

 

 こいしも吾輩のこーぎに負けじとなんか「にゃーにゃー」言っているのであるが、何を言っているのかわからぬ。吾輩はそうやってこいしの手からこーぎのために地面に降りたのである。

 

「おお、その猫は」

 

 うむ? 聞きなれた声がするのである。振り返らずともわかる! ふとであるな。だから振り向かぬ。

 

「……いや猫よ。こっちを向いてくれ。おーい?」

 

 振り向かぬ。吾輩はいま忙しいのである。すると頭をなでてこようとする手が見えたので、するりと吾輩は交わしたのである。

 

「が、がーん」

 

 ふとがしょっくの顔で何か言っているのである。口で「がーん」と言っているのは何を言っているのであろうか? 吾輩も真似したいところである。にゃーん。

 

「お、おぬし。我との友情を忘れたのか?」

 

 ゆうじょう……? ふとが涙目で吾輩に何か言ってきているのであるが、よくわからぬ。いや……それよりもその手に握っているのは! 串にささったやまめであるな!! こんがり焼けているのである。

 

 にゃー!

 

 吾輩は言ったのである。ふとは一度手のやまめを見てふふんと鼻を鳴らしたのである。

 

「ふふ、しかたないのぉ。これが欲しいようじゃが、我もただでとはいかぬ」

 

 その手からこいしがすっとやまめをとったのである。それからもぐもぐ食べて串だけふとの手に返した……早業である。吾輩も反応できなかった……

 

 やまめを持っておらぬふとに用はない……ふいっと顔をそらしのである。

 

「お、おい。猫よ。あれ!?? なんで? 消えているのじゃ???」

 

 しかしふとがやまめを持っているとすればどこかにあるはずであるな。ううむ。

 

「な、何よ」

 

 吾輩はつまらなさそうにしているふらんをじっと見るのである。やまめを探してほしいのである。こいしでは先に食べてしまうやもしれぬ。

 

「何がいいのよ」

 

 やまめを探してほしいのである。吾輩は身振り手振りでこう、なんとか説明するのである。今までこみゅにけーしょんはいっぱいしてきたからしてきっと通じるのである。ふらんはぽんと手を叩いてわかった顔をしたのである。

 

「はーん。あんたバカなんだ」

 

 全く通じておらぬ。吾輩はばかではないのである!

 

「ふらん、猫さんあっち行こ」

 

 突然吾輩を抱きかかえて、ふらんの手を取ってこいしがまた歩き出したのである。いきなりいつも動くから読めぬのである。

 

「ちょっ、ちょっと」

 

 よく考えたら抱きかかえられているのはらくちんであるな。こうしているとあたりがよく見えるのである。お祭りのように夜なのに明るいのである。いっぱい人がいるのである、いや、背中に羽があったりするのであるから、妖怪が多いようであるな。

 

 こいしが大股で楽しそうに歩くのである。何か歌も歌っているのである。

 

 うむ? ねずみの耳が見えるのである。あれはわかるのである。ナズーリンであるな!

 

「げっ。なんでまたこの猫がいるんだ」

 

 ナズーリンもきれいな恰好をしているのである。首元に青い宝石が光っているのである。こいしが立ち止まって。

 

「あー鼠だー」

「鼠……? なんでそんなのが」

 

 ふらんをナズーリンがきっとにらんでいるのである。

 

「君が誰か知らないけど、いきなりずいぶんな物言いだね。鼠をなめていると死ぬよ」

 

 ふらんがむっとしているのである。それからはっと笑ったのである。

 

「鼠なんてなめるわけないじゃん、汚いし」

「……へー。君。本当になめているね」

 

 ナズーリンとフランが顔を近づけてにらみ合っているのである。いかぬ仲良くしなければいけないのである。しかしどうすればいいのであろうか、こいしよ、どうにかするのである……。

 

 こいしがつかつかと歩いて行ってナズーリンとふらんの背中を押したのである。

 

「わっ!」

「うわっ!」

 

 二人とも後ろから押されたようになっているからして、抱き合うようになってしまったのである。うむうむ。仲がいいのはよいことである。

 

「何をするんだ!! ていうか、君! すごい影が薄いな!!」

「こいし!! あんた意味が分からない行動ばっかりしてんじゃないわ!」

「わー。今日はお星さまがきれいだねー」

 

 そうであるな。いい夜である。吾輩はこいしに賛成である。こいしはわたわたと走り去っていこうとするのである。

 

「ちょ、ちょっと待てー!!」

 

 ふらんも慌てて後を追うのである。ナズーリンはあっけにとられて吾輩を見るのである。

 

「お前の友達はいつも変なのばっかりだな。……類は友を呼ぶというんだろう」

 

 よくわからぬが友達はいいことであるな。ナズーリンは後ろを向いてどこかに行こうとするのである。待つのである。お礼をせねばならぬ……ううむ。足に頭を擦り付けて、ペロッとしたのである。

 

「ひぃ!」

 

 いかぬ! こいしを追わねばならぬ。吾輩は忙しいのである。これ以上ナズーリンと遊んであげる時間はないのである。すまぬのである。

 

「こらまて! おまえ! 毎回毎回!!」

 

 待たぬのである! 

 

 

 



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せんせんふこくである

 

 ぱーてぃーは初めてかもしれぬ。

 

 吾輩は走っていくこいしを追っていくのである。吾輩はなかなか足には自信があるのである。毎日にちゃんと毛づくろいをしているからして、マッサージは十分なのである。

 

 けいねも足のマッサージは必要だと吾輩のにくきゅうをもみながら言っていたのである。吾輩はちゃんと覚えているのである。

 

 こいしとふらんもなかなか早いのであるが、吾輩はそれを追い越していくのである!

 

「猫さん!」

 

 こいしの声がするのである。吾輩はたったか走っていく。なんだから楽しくなってきてしまったのである。追われているのは楽しいのである。

 

 なんだか少し高いところがあるのである。吾輩はぴょーんと飛び乗ると、ここからはよくぱーてぃーが見えるのである。むむ、やはりしっている顔が結構いるのだ。吾輩は紳士だからして、挨拶に行かねばならぬ。

 

「へっへー」

 

 この声はこがさであるな! 吾輩は振り向くのである。

 

 ……?

 

 とんがりなぼうしを被った少女であるな、しかし、目にはお星様のような形のものをかけているのである。手には大きな傘を持っておる。……こがさであろうか、しかし奇妙な恰好である。

 

「猫さん! いいでしょ、このサングラス!」

 

 さんぐらす? を外すとべーとこがさが顔を出したのである。

 

 違う姿であるな。おしゃれは良いことである。

 

「ふふふ」

 

 さんぐらすをまたかけるのである。黒のマントをつけているこがさは似合っているのである。

 

「ふふふ、ふははは! 今日はみんな私を怖がる日よ」

 

 うむうむ。楽しそうなのはいいことである。こがさは大きく腕を広げているのである。吾輩もこう、真似してみるのであるが、2本足でたつのは難しいのである。

 

「何を高笑いしているんだ」

 

 もみじであるな。振り向かずともわかるので振り向かないのである。

 

「お前ら……いつもいつも一緒にいるな。ところで小傘はなんだその恰好」

 

 こがさはさんぐらすをちょっとずらして上目遣いでもみじを見るのである。

 

「いやーなんか最近さー、全然人里の人が怖がってくれなくて……いろいろ考えたらこうなったの」

「ふーん。血迷っているな」

 

 もみじを振り向くと、着物を着ているのである。うむ似合っているのである。

 

「まあ、お前がどんな風になろうと私には関係ないしな。せいぜい恥をかかないようにすることだ」

「椛」

「なんだ」

「この写真」

 

 こがさが懐から一枚の紙を取り出したのである。見えぬ。吾輩は見たいのである。

 

「おま! その写真!」

「へへへー。ほたてさんからもらったんだぁ」

「はたてだ! いや、あいつのことなんてどうでもいい、いやごほん。あの人のことはどうでもいい、その写真を渡せ」

「やーだよー」

 

 しゃしんであるか! 吾輩にも見せてほしいのである。

 

 しかし、こがさは逃げていくのである。もみじも追っていくのであるが、吾輩も走るのである。

 

 パーティーの中を走るのである。みんなもみじたちを見ているのである。

 

「くそ! 走りにくい!」

 

 もみじが着物のひもを緩めて、足を出したのである。それから体をいぬのようにかがめたのである!

 

「唐笠風情が!! なめるな!!」

 

 おぉ! もみじがすごい速さで飛んでいくのである。地面がぼこって抉れて、ちょっと土がかかったから体を振って払わねばならぬ。

 

「うわー!」

 

 こがさを後ろから押し倒してもみじがしゃしんを奪おうとしているのである。吾輩はまだ見ておらぬ!

 

「早く渡せ、コラ」

「ううー、暴力反対!」

「何が暴力だ!」

「ねー何してんの?」

 

 こいしがいきなりやってきて写真を取ってしまったのである。

 

「あーかわいー。猫さんも写っているね」

 

 

 こいしが吾輩にも見せてくれたのである。これはいつぞやのもみじの恰好であるな。じーとみているといつの間にかこいしが吾輩をなでなでしてくれている。おぉ、気持ちいい。

 

「あれ? いつの間にか手にない!」

「貴様! どこに落とした! あんなものが文なんかに見つかってみろ!」

 

 こいしともみじは楽しそうに遊んでいる。吾輩はこいしの手でりらっくすしているのである。すると何となく知っているにおいがしたのである。吾輩が顔を上げると、紅い目をした黒髪のしょうじょが見下ろしていたのである。

 

 肩が見える黒いきらきらしたドレスを着ているのである。耳が長いのであるが、……しゃめいまるであるな! 思い出したのである。にっこり笑っているのである。

 

「こんばんは、猫さんとお嬢さん。よかったら私にもその写真を見せてくれませんか?」

「うんいいよー」

 

 こいしがしゃめいまるに見せるとにこにこしているのである。

 

「あ、あ……あ」

 

 うむ? もみじよおなかがいたのであるか?。

 

「射命丸……様」

「椛、これ」

 

 もみじはうっといって後ろに下がったのである。むむむ。これはしゃめいまるがもみじをいじめているのやもしれぬ。吾輩は間に入るのである。そうしようとしたら、こがさに抱きかかえられたのである。はなすのだ!

 

「ど、どーしたの猫さん! 私のこと嫌いになったの?」

 

 うーむ。そういわれるとていこうできぬ……もみじよすまぬ。……うむ? よく見たら周りに大勢集まってきたのだ。みんな何かたべたり飲んだりしながら何か期待しながら見ているのである。

 

 しゃめいまるが言ったのだ。

 

「椛がかわいい写真を撮ったのなら私にも教えてくれればいいのに」

「……そ、それは無理やり。はたてが……」

「あー。なるほど」

 

 もみじがまた後ろに下がったのである。しゃめいまるがいうのだ。

 

「なるほどなるほど、じゃあ私のモデルにもなってくれますよね?」

「…………」

 

 もみじよあおいかおをしているのである。

 

「い、いや、それは。ほら、私の仕事ではありませんし」

「えー? はたてにはこんなにサービスしてくれたのに、私にはないんですか?」

 

 しゃめいまるが手をカメラを持ったのだ。どこから出したのであろうか。

 

「いい写真は新聞に使いますから!」

「い、いや。わ、私なんかよりほら。周りを見てください!」

 

 きょろきょろ。みんなきょろきょろしているのである。

 

「今日は幻想郷中からいろんなものが集まっているのですし、ドレスを着ている皆さんを撮った方が絶対にいいですよ」

「それ、いいわね」

 

 うむ? 今のはしゃめいまるではないのである。

 

 みんなが声の方を見ると、紅いドレスを着た少女がたたずんでいたのである。後ろにはさくやがいるのである、いや、吾輩はさくやの手の中にいるのである? さっきまでこがさのもとにいたはずなのである! 遠くでこがさの「ねこさーん!? どこー」と泣き声が聞こえるのである。

 

 れみりあは吾輩をちらりと見て言うのである。

 

「今日はこの幻想郷を華やかにしてやろうと企画したパーティーだったけど、いいことを思いついたわ」

 

 れみりあはみんなの前で空に浮かんで腕を組んだのです。

 

「どうせなら、お前たちと弾幕を含めて美しさを競うのも面白いわ。弾幕とドレスで一番美しかったものが勝ち」

 

 おぉとみんな言っているのである。その中のひとり……まりさであるな! が言ったのである。

 

「賞品はあるのか!?」

「ええ」

 

 れみりあは言ったのである。

 

「勝ったやつにはなんかいいものを送るわ!」

 

 ざわざわしているのである「ふわっとしている」「おお」「すごい」と聞こえてくるのだ。

 

 うむ? れみりは吾輩を見ているのである。

 

「そこの猫でもいいわ」

 

 吾輩であるか。

 

「なーにー!」

 

 こがさが出てきたのである。言ってやるのだ。

 

「猫さんは私のものよ! 勝負してやるわ!」

 

 こがさがなんかせんせんふこくしているのである。そうではない……

 

 

 

 



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だんまくごっこである

 

「ふふふ。いいわ。今日こそ私がこわーい妖怪だっておもいしらせてやるわ!」

 

 こがさが吾輩にウインクして、傘をくるりと回したのである。するとぱあっとあたりに光る傘がいっぱい出てきたのである。きらきらと光って周りに飛んでいくのである。おお、きれいである!

 

「弾幕ごっこなら負けないわ!」

 

 こがさが楽しそうである。周りのみんなもなんだか声を上げているのである。

 

 おぉ? 空に一人飛び上がったのである。おつきさまを後ろにして大きな何かを振りかぶってまっすぐ降りてくるのである。

 

「いい?? 碇を持ってる!?」

 

 こがさがあわてて吾輩を抱き上げたのであるが、吾輩はもう少しみていたいのであるからして、こがさの肩に手をかけた手みるのである。

 

 まっすぐにきゃぷてんが落ちてくるのである!

 

「転覆! 沈没アンカー!!」

 

 どーんと大きな音がして、きゃぷてんがつかんだ大きな「いかり」で地面を叩いたのである。ごおんごおんと地面が揺れて、こがさが「わっととっ、村紗! 手加減」っていっているのである。

 

「あははは!」

 

 きゃぷてんががれきの上でいかりを肩にかけて笑っているのである。おお、おつきさまも楽しそうにみているのであるな。吾輩とおつきさまは長いつきあいであるからして、すぐにご機嫌かどうかはわかるのである。

 

 きゃぷてんだけじゃないのである。なんだかあたりでどんどこ音が鳴って、きれいな光が飛んでいるのである。たまにぴちゅーんと音がするのはなんであろうか?

 

「小傘さん! まずは覚悟ね!」

「ううぅ、村紗……」

 

 吾輩はちゃんと知っているのである。きゃぷてんが来ているのはたきしーどというのである。けいねの本で見たことがあるのである。なかなか似合っているのである。髪も後ろで縛っているのであるな。

 

「猫さん。つかまっててね!」

 

 こがさが懐から紙を出したのである。なんであろうか。

 

 ――後光 『からかさ驚きフラッシュ』!

 

 こがさが傘を振るのである。傘に大きな舌がある宙を舞うとあっという間にあたりに光の線がひろがっていくのである。うむ、まるで大きなひかりの傘の中にいるようである。

 

「本気ね!」

 

 きゃぷてんにひかりがいっぱいあつまっていくのである。吾輩はにゃーと思わず声を出してしまったのである。するときゃぷてんが吾輩をちらっとみて、おやゆびをたてたのである。

 

 ぴちゅーん。

 

 なんかへんな音を出してきゃぷてんが光の中に消えて、すぐにぼろぼろになって倒れててしまったのである。こがさはそれを見て「あれ? 簡単に倒せた。いや、ふふん。私の実力ね」と言っているのだ。

 

「自分で砕いたがれきにあしがもつれたー」

 

 なんかきゃぷてんが言っているのである。

 

 ぴかーとまた何か光ったのである。吾輩とこがさを両側から大きな光が挟もうとしているのである。

 

「ひゃー!」

 

 吾輩を小こがさが抱いてくるのであるが、今そんな気分ではないのである。前足でほっぺたを押しやるのである。

 

 こがさがぴゅっと上に飛んだのである。吾輩も一緒に空にいるのである。

 

「ふふふ。ひょんなことで今までの恨みを晴らせそうだね」

 

 なずーりんも空を飛んでいるのである。なんであろうか、へんてこな棒を持っているのである。吾輩はこがさに抱かれたままみると、なずーりんはその棒を振り回しているのである。

 

 ――棒符 ナズーリンロッド!

 

 また光が両側からやってくるのである。

 

「わわわ」

 

 こがさがあわててよけているのである。頑張るのだ。吾輩はこう、手をなめて、毛並みのめんてなんすをするのである。

 

「ははは、逃げても無駄だよ!」

 

 なずーりんがわらっているのである。

 

「あ」

 

 こがさの声がしたのである。その瞬間吾輩は宙に浮かんだのである。おお、落ちていくのである。

 

「ああーーー! ねこさーん!!!」

 

 こがさの声が遠くになっていくのである。吾輩はまっかさまに落ちていくのである。それをしゅっと抱っこしてくれたものがいるのである。なずーりんであった。

 

「……あ、危ないじゃないか! ちゃんとしがみついていないと落ちてしまうぞ」

 

 すまぬのである。

 

「まったく」

「ごめん」

 

 こがさも近づいてきて、吾輩はなずーりんからこがさに空中で渡されたのである。む? こがさの目がさんぐらすの奥できらっとひかったのである。

 

「チャンス! 水滴払いスピナー!」

 

 こがさが吾輩を片手に大きく傘を回したのである。青い、おみずのような光がなずーりんに飛んでいくのである。

 

「ひ、ひきょうだぞ」

 

 ぴちゅーん。

 

 なずーりんが目をぐるぐる回しているのである。こがさよ! ひきょうはいかぬ。

 

「二連勝!」

 

 いかぬ。これはせっきょうをせねばならぬ。こがさよここに座るのである。けいねも説教の時にはよくすわるように言うのである。しかし、浮きながら座れるのであろうか……? 

 

「見ていましたよ!」

 

 今度はおそらからおっきなげんこつが降ってきたのである。桃色の煙みたいである。こがさはわーっと逃げるのである。あたりに桃色の煙がもーとしてきて、そこから青い髪の女性が腕を組んで立っているのである。

 

 紫のどれすをきているのであるな。肩が出ているのはよーむのと似ているやもしれぬ。両手にはなんであろうか、何か丸い円のようなものを持っているのである。あれは遊ぶと楽しいやもしれぬ。

 

「小傘さん。村紗にナズーリンとうちのものをよくも倒してくれたわね。今度は私が相手よ!」

「う、う、さ、三連戦」

 

 こがさが疲れているのである。はあはあと息を吐いているのである。ううむ、吾輩はも何か手伝えないであろうか。とりあえずあれはいちりんであるな。吾輩は挨拶をしたのである。

 

「あ、あのときの猫さん! ……あ。こ、こがささん、攻撃できないからひ、卑怯ですよ!」

 

 何かよくわからぬが何か動揺しているのである。

 

「と、とりあえず。逃げよ!」

 

 こがさがぴゅーと下に降りたのである。

 

「あ、待って! うわ」

 

 おお、何かわからぬが追ってきたいちりんが大きな光に飲み込まれたのである。こがさがうしろをみると「流れ弾……いや流れますたーすぱーく」と言っているのである。

 

 いちりんを飲み込んだ大きなひかりは七色で虹がそらにのぼっていくようである。お月様にも届くやもしれぬ。うむ? ということはあの中に入ったらお月様に近づけるやもしれぬ。……いちりんはお月様に会いに行ったのであろうか? うらやましいのである。

 

「なむあみだぶつー」

 

 こがさよそれはなんであろうか。

 

 地面に降りるとあたりでみんなきらきらと光ったりして遊んでいるのである。吾輩も地面に降りてくしくしと顔を足でかくのである。こがさは傘を杖にしてぐったりしているのである。頑張るのである。

 

「猫さん……よーし! この調子でこの弾幕ごっこに勝ち残ってやるわ!」

「ぎゃー」

 

 ! びっくりしたのである。なんか飛んできたのである。こがさと吾輩の前に誰か倒れて、めをぐるぐる回しているのである。来ているドレスがぼろぼろであるな。

 

「響子! 誰にやられたの?」

 

 こがさが抱き上げると、腕の中で少女が指をさすのである。おお、こがさの仲間である。一目見てわかるのである。なんといっても傘をさしているのである。

 

 にこにこしながらこちらに近づいてくるのであるな。あかーいドレスで白いうわぎをつけている緑のかみのじょせいと遠くから見てもわかるのである。

 

「う、ううう」

 

 こがさが涙目になっているのである。どこか痛いのであろうか? 吾輩がなめてもいいのである。

 

「こんばんは」

 

 近づいてくるとじょせいが挨拶をしたのである。挨拶は大切である!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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おんがくはたのしくするのである

 

 ……歩いてくる姿を見て思い出した! あれはゆーかであるな。

 

 お祭りの時にいろいろと一緒にまわったことが昨日のこととのように思い出せるのである。うむうむ。よくよく考えたらゆーかもこがさも同じようにかさをもっているからして、きっと友達なのであろう。

 

「こんばんは。猫さん。お久しぶりね?」

 

 みゃー。

 

 吾輩はちゃーんとあいさつをするのである。……こがさよ、こがさも挨拶をせねばならぬ。そういうことをちゃんと吾輩が教えてあげなければならぬのやもしれぬ。みゃーと吾輩はこがさの足に頭を擦り付けながらあいさつをするように言うのである。

 

「……ああ」

 

 こがさがすごく汗をかいているのである。挨拶が苦手なのであろうか……? 心配いらぬ。にゃーとあいさつが苦手であれば、吾輩たちはお鼻をくっつけてあいさつすることもあるのであるからして、こがさもゆーかにしてくるのである。

 

「なんだろう、あいつ、すっごく強いような気配がする気がするわ」

 

 こがさがなんかいいながら後ろに下がるのである。ゆーかはえがおで近づいてくるのである。笑顔はいいことである。

 

「吸血鬼の思い付きでいきなりのことだけど、こんなことになってあなたも災難よね? えっと、傘のおばけさん」

「……多々良小傘よ」

「ふーん」

 

 ゆーかが指をパッチンとしたのである! あれはすごい。吾輩もやりたいのである。こう手を、こう、ぺろぺろ。はっ、なんとなく手を見たらなめてしまったのである。

 

 いつの間にか吾輩とこがさは花畑にいたのである。白い花がいっーぱい咲いている。お月様の光をですごくきれいである。しかしゆーかが傘をゆっくりふると光る花びらが舞い始めたのである。

 

「……猫さん」

 

 こがさが吾輩をこわきに抱えたのである。遠慮がないのであるな。

 

「逃げよ!」

 

 こがさが走り出したのである。周りの光る花びらが渦を巻いて降りてくるのである。まるで光のトンネルであるな。きらきらしてきれいである。

 

「わーーーー、ひぃいいーーー!」

 

 こがさがうるさいのである……。ふわりと浮いて、びゅーんと飛び始めたのである。花びらも追ってくるのである。こがさが物陰に隠れるとどーんと音がして花びらが突っ込んできたのである。

 

「はあはあはあ。に、にげきった」

 

 こがさが首元をぱたぱたしながら言っているのである。疲れているのであるな……吾輩は首をなめてみるのである。

 

「ひっ」

 

 吾輩を見てくるのである。ちょっとほっぺたが膨れているのである。なんで怒っているのであろうか……。む、そんなことより空から降りてきたのである。

 

「……こんばんは、おひさしぶり」

「ひぃ」

 

 傘をもってゆっくりと地面におりてきたゆーかが言ったのである。久しぶり……これは挨拶であるな、さっき会った気もするが、何度も挨拶をすることはいいことである!

 

 こがさが涙目でがたがた震えて、吾輩をだっこしているのである。ううむ。よくわからぬがゆーかよよわいものいじめはよくないのである。

 

「弱い者いじめ良くありませんよ」

 

 おぉ、あの妙な金色にむらさきを混ぜたような髪をしているのは、聖であるな! ひさしぶりである。聖はいつものかっこうではなく黒いどれすとひらひらのすかーとをはいているのである。その後ろには金髪の少女がいたのである……たしか、星……じょーであるな。

 

 聖が言ったのである。

 

「私の弟子である、一輪に村紗、それにナズーリンまでやられたと聞いてまさか巫女の仕業かと驚きましたが、貴方ならさもありなんといったところね。……その上に小傘さんまで手にかけようとは……」

「……」

 

 ゆーかがこがさを見たのである。こがさは「え、えへへ」とか言っているのである。さっきの三人はこがさが倒した気がするのであるが……。ゆーかはにやりと笑ったのである。

 

「へえ、もしそうならどうだというのかしら?」

「弟子の仇を取らせてもらうわ」

 

 じょーが「いや、死んでませんよ」と言っているのである。……吾輩の目の錯覚であるな、くしくしするのである、聖とゆーかの間の空間がゆがんで見えるのである。

 

「と、とりあえず猫さん、い、今のうちに逃げよっか」

 

 こがさが吾輩を掴んでまた走り出したのである。吾輩たちの後ろでどーんと大きな音が立て続けに起こって、大きくてきれいな光がとんでいくのである。

 

 

 

 どんどこ崩れたぱーてぃー会場の中庭に吾輩たちは戻ったのである。がれきの間に隙間があるの遊びがいがありそうである。あとで探検してもいいかもしれぬ。とりあえず、こがさが迷子にならぬように今は見張っておかねばならぬ。

 

「やってらんないわ!」

 

 ぐびぐびと何か飲んでいる赤毛のしょうじょがいたのである。なんとなくゆーかと似ているのであるな、その後ろに赤と白と黒の少女がしゅんとしているのである。

 

「なにかしらあれ」

 

 さっきこがさがぱーてーの会場で残っていた串をもぐもぐしているのである。吾輩もやまめを食べさせてくれたのである。食べた後に口を舌で舐めると意外と味がするのである。

 

「どうしたのー?」

 

 赤毛がきっとにらんできたのである。

 

「どーしたもこーしたもないわー! いきなり予定が変わっちゃったから、今日の演奏会が弾幕ごっこになっちゃった! どんぱちしているし、飲まないとやってられないわ。リリカもメルラン、ルナサもやることがないし」

 

 赤毛がぐびぐびと飲んでいるのである。ネクタイをしているのであるな! 吾輩それを知っているのである。3人組はりりかとめるらんとるなさというらしいのである。難しい名前であるな。

 

 楽器を持っているのである。吾輩はそれを扱うことはできぬが、なんどか音を鳴らしているのを見たことがあるのである。いい鳴き声をするのである。

 

 どーん、

 

 またどこかで音がしたのである。空を見るとおーきな花火のようなものがはじけたのである。きれいであるな。

 

「たーまーやー!」

 

 こがさが嬉しそうに言うのである。にゃーと吾輩も言っておくのである。

 

「はー。今日はとりあえず、演奏はなさそうね」

 

 赤毛が言うのである。吾輩はその膝の上に載ってみるのである。

 

「わ! 何!? この猫」

 

 よくわからぬが吾輩は聞くのである、吾輩はじーと赤毛を見てみるのである。なずーりんなどとは違ってひっかけるところがあるからして、前足を置きやすいのである。

 

「もしかして猫さん。演奏聞きたいの?」

 

 こがさが言ったのである。赤毛が、はあ?と吾輩の目を覗き込んできたのである。それから抱っこして。じーと見つめあうのである。

 

 ふっと赤毛が笑ったのである。それから吾輩のほっぺたにちゅっとしたのである。吾輩もなめるべきかもしれぬ! しかし赤毛は吾輩を地面におろして、両手を握りこんだのである。

 

「よーし。どうせなら思いっきり、ド派手な演奏をしてやるわ! ドンパチしている連中にも負けないくらいにね! あなたも聞いていくでしょ!?」

「……」

「なんでふくれっ面なの?」

 

 こがさがふくれっつらなのである! ぷにぷにしてみたいのである。

 

「私の猫さん」

「! あはは、ごめんごめん。そういえばまだ名乗ってなかったわね。私は堀川 雷鼓よ。たぶんあなたもそうだと思うけど、付喪神よ。お仲間さん」

 

 らいこは立って、ウインクするのである。白い上着を着ていつの間にか後ろに三人も立っているのである。

 

「さぁ。夜のクライマックスに向けて思いっきり暴れてやるわ! 楽しんでいってね! なすびの付喪神さんと猫ちゃん!」

 

 こがさはなすびであったか!

 

「ち、ちがうぅう!!」

 

 こがさの叫びがうるさいのである。

 

 

 

 

 

 



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おさけをのむのである

 

「さー、ノっていくよー!」

 

 らいこが叫んだのである。

 

 周りにたいこがいっぱい現れて、とんとんだんだんとりずむに乗っているのである。らいこは大きなたいこに乗っているのであるな、ううむ、空を飛べるたいこ……がんばりやさんであるな……吾輩も頑張れば空を飛べるやもしれぬ。

 

 だんまくごっこできらきら光るよぞらでらいこは刻むのである。

 

 それに「りりか」と「めるらん」と「るなさ」も演奏を始めたのである。楽しそうであるな。こがさよ、こがさもなんかできぬのであろうか?

 

「え? 何その目。私……私になんか期待している……!? 楽器とはできないけど……猫さん!」

 

 ぱあっとこがさは傘を開くのである。うむ、吾輩はそこにぴょんと乗るのである。おんがくが聞こえる中で傘の上をくるくる歩くのは初めてであるな。

 

「よーし『大輪 からかさ後光」!」

 

 光の中に傘がいっぱい現れたのである。吾輩はそれにぴょんぴょんと乗っていくのである。地底いらいであるな!

 

「おー! いいね。リズムを上げるよ!」

 

 らいこが言うと音楽が早くなったのである。それを聞いて、なんだなんだと段々とひと……ようかいもいっぱい集まってきたのである。ようむもふとももみじもあやも……みーんなである。全員のなまえを言っていてはおれぬ! いっぱいみんなである!

 

「わっ」

 

 こがさが足を滑らせてわがはいも足が滑ったのである。おお、落ちそうになるところをキャッチされるのである。みればこいしがにこっと笑っていたのである。

 

 いつの間にかこいしがやってきて吾輩を前足をやさしくつかんだのである。

 

「ねこさんねこさん♪」

 

 そのまま傘の上でだんすを踊るのである。わがはいはこれで2度目であるな。

 

「そーれ! ふらーん!」

 

 !! こいしがわがはいを投げたのである! 大変である。着地をせねばならぬ。下にはぴかぴかの羽をはやした……ふらんがいるのである。

 

「な、こ、こっちくるな」

 

 

 来るなと言われても吾輩はくうちゅうではどうしようもない。風に頼んでほしいのである。

 

 だっこ。

 

 

 ふらんはちゃーんとつかんでくれたのである。勢いあまってそのままふらんもくるくる回るのである。これもだんすであるな。

 

 だからみんなの前でふらんをえすこーとするのである。吾輩は前足を出すとどこからこいしが言ったのである。

 

「ふらーん。くるくる、くるくる回って」

「……なんで、こんなところで」

 

 ふらんもぎこちなくおどるのである、ここはこう、こうである。周りからは応援が聞こえるのである。

 

「あーもーう」

 

 ふらんも投げたのである。しかしわがはいはちゃーんと着地をするのである。

 

「「「「おおー!」」」

 

 ぱちぱちぱちと拍手が聞こえるのである。むむむ、吾輩は紳士であるからして簡単には喜ばぬのである。きちっと姿勢を整えねばならぬ。きまったのである。

 

 今日はいっぱいだんすのえすこーとをしたのである。これはがんばったのである、けーねにやまめをもらってもいいのやもしれぬ。

 

 吾輩はそう思ってふいっと走り出したのである。

 

「あ、猫さん!」

 

 後ろでこがさの声がするのであるが、あとでいいのである。吾輩は壊れたいろんなところを走ってけーねを探してみるのであるがおらぬ……。

 

 遠くでは楽し気な音楽とこえが聞こえてくるのである。おそらくらいこ達がもっとがんばっているのであろう。

 

 何となく今日は疲れた気もするのである。ここで休むのである。ふぁーとあくびをしてしまったのであるが、だれにもみられてないことを吾輩はちゃーんと確認するのだ。すこしおなかが減った気もするのである。なにかないのであろうか?

 

 吾輩は歩き回るとつくえ……だったようなものがあるのである。さかながおいてあるな! なんのさかなかわからぬがもぐもぐするとなかなかである。やまめといい勝負ができるやもしれぬ。それにしてもだんまくごっこでくずれている隙間に潜り込むのは結構楽しいのである。

 

「おーい」

 

 むむ? 誰かが呼んでいる気がするのである。誰であろうか。

 

 

 吾輩はあたりを見回してみるのであるが、なかなか見つからぬ。そうであるな、高いところに上ってみたらいいのである。あの樽がいいのである。ひょいと乗ってみると。

 

 あしがぬけたのである。吾輩は割れた樽の中にドボンと入りこんでしまったのである。中には赤いみずがいっぱい入っているのである。

 

 ……

 

 もがくのである。

 

 うえもしたもわからぬ。

 

 

 いきもできぬ

 

 

 

 ……わがはいはなんとか外に出ようと思うのであるが、でられぬ。

 

 くるしいのである。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 何かの音がするのである。

 

 

 水音がしてわがはいをつかむなにかがひきあげるのである。

 

 

「……してんの!?」

 

 

 だれであろうか。目の前に誰かたっているきがするのであるが……よくみえぬ。

 

 

「何してんのよあんた!?」

 

 そこにはしんぱいそうなかおをした『みこ』がいたのである。吾輩はみゃーというと、はあーと息を吐いてへなへなと座ったのである。

 

「心配させるんじゃないわよ。こんなぼろぼろになったレミリアの屋敷のどっか逃げたら困ると思ったから追いかけてきたら……」

 

 ぎゅっとみこはだっこしてくれたのである。きれいなどれすに吾輩についた赤い水がついてしまっているのである。

 

「さけくさい。あんた」

 

 すまぬのである。みこは文句を言いながら吾輩をなでてくれたのである。

 

 吾輩を地面に下ろしてくれたであるが、おお、ううむ、まっすぐに歩けぬ。なんであろうか?

 

「…………帰るわよ」

 

 うむ?

 

「猫が酒に酔っていいことなんてたぶんないわ」

 

 

 

 お月様がでているのである。吾輩は巫女にだっこされながらそれを見るのである。

 

「あんたさぁ、いつもうちの神社に来るけど、なんで来るの?」

 

 りーんりーんと虫も演奏しているのであるな。

 

「聞いている?」

 

 ぉお、すまぬのである。吾輩が神社に来る理由であるか? なぜであろうか、なんとなくである。

 

「そう思ったらふらっといなくなったり、普段あんたってどこに行ってんの?」

 

 いろんなところに行っているのである。かわに……やまに……てらに……あといろいろいっぱいであるな。吾輩は顔が広いのである。

 

「みゃーじゃわかんないのよ?」

 

 吾輩はしっかりと答えたのであるが、こみゅにけーしょんは難しいのであるな。

 

 

 しばらくするとじんじゃに到着したのである。みこは吾輩を布でごしごしした後に水をくれたのである。

 

「二日酔いには水がいいって思うけど、猫の場合どうなのかな?」

 

 みこもねまきに着替えているのである。髪を下ろしてふとんを敷いているのである。吾輩はどこで寝るべきであろうか。今日の寝床を探そうと思ったら、みこに捕まったのである。そのままふとんに連れていかれたのである。

 

「あんたさ、本当に大丈夫?」

 

 みこは心配そうに聞いてくるのである。

 

「気分が悪かったらすぐって……いっても猫はなんにも言えないか」

 

 じっとみこが吾輩を見てくるのである。

 

「あんたがさいなくなると寂しい気もするわ」

 

 吾輩もみこがいないと寂しいのである。吾輩はふとんのなかでまーるくなってすやすやと眠るのである。そういえばぱーてぃーはどうなったのであろうか。きっとみんな楽しんでくれているのである。

 

 みこは吾輩の背中をやさしくなでてくれているのである。そうしてくれると今日の楽しい思い出がずーとゆっくり、思い出すことができるのである。

 

「猫の医者とか……いるのかな」

 

 何かをみこが言っているのであるが……吾輩はだんだんと眠たくなってきたのである。うむ、ふとんの中はあったかいのである。

 

 おやすみなのである。

 

 

 






更新できずすみません。

実は次回最終回になります。なんとなくお別れしたくないなって思って滞っていました。よかったら最後までわがはいを見てあげてくれたらうれしいです。


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私の神社によく来る猫

 

 私の神社にはよく来る猫がいる。

 

 縁側に座っているといつの間にか足元にやってきてじっと見てくる。餌なんてやらないって言っても、その場であくびしたりするふてぶてしい奴。

 

 今日は単なる気まぐれで膝の上にのせてやる。こいつ顎を撫でるとごろごろと喉を鳴らすことがある。

 

 ごろごろ。

 

 今日はその日みたいだった。

 

「あんたさ、いつもどこからきてんの?」

 

 それには「にゃー」と答えてくる。

 

「まあ、猫に言葉なんてわかるはずもないか」

 

 すくっと猫が立ち上がってじっと見てくる。丸い目が少しかわい……いや、なんでもない。

 

 頭をなでてやると気持ちよさそうに目を細めている。

 

 

 みゃー。

 

 何が言いたいのかさっぱりわからない。たまに猫って話しかけているんじゃないかって思うこともあるけど、そんなのは妖怪の猫。こいつはただの猫だからそんなのはない。

 

「お、今日はお揃いなのね」

 

 見れば白沢がいた。上白沢慧音という人里で寺子屋をやっている物好きなやつ。神社に来るなんて珍しい。

 

「お揃いって何よ」

「いや、その猫」

 

 私がなでている猫を指さす慧音。ん? こいつ慧音をみて立ち上がった。なーおって鳴く。なにそれ、挨拶のつもり? ふふ。

 

 ん? 慧音が私を見て目をぱちくりさせている。

 

「なによ?」

「いや……巫女にもそんな優しい顔ができたんだなって」

「……は?」

 

 はぁ? この妖怪は何を言っているのだろうか。いつ私がそんな顔をしたのだろう。

 

 ……なんか慧音が横に座ってきた。

 

「こんにちは猫さん。今日は神社に泊まるの?」

「あんたも知り合いだっけ? こいつ、意外と顔が広いのよ」

「ああ、知り合い」

 

 慧音はそういって私の膝から猫をひょいととると自分の膝に乗せる。

 

「この子はあごの下が好きなんだ」

「知ってる」

「……へえ」

 

 ごろごろ。

 

 たわいのない会話の途中でも猫は気持ちよさそうに顎を撫でられている。

 

「この子はたまに言葉がわかるんじゃないかって思うような時があるんだ」

 

 それには同感。さっき思った。それにしてもあごの下といい思うことと言い、結構みんな同じように思っているのかもしれない。

 

 

 それにしてもいい日だ。暖かくてただ座っているだけで気持ちがいい。すこしうとうとしそうになる。

 

 見れば猫もあくびをしてから手をぺろぺろなめている。猫はきれい好きというけど、こいつの毛並みはきれいだ。そう思って手を伸ばすと、私の手をなめてくる。ざらざらした猫の下特有の感触。

 

「こいつって名前とかあるのかしら?」

 

 ふと思った。ただの野良だから、いつもてきとうに呼んでいた。

 

 猫がじっと私を見て、みゃーと言った。何それ。

 

「あんたの名前はにゃーって言うの?」

 

 じーっと見てくる。何か言いたげな顔のようにも見えるがふっと私は笑ってしまった。なんでだろう。

 

「あはは」

「ふふふ」

 

 慧音と笑った。彼女は猫を抱っこして言う。

 

 

「この子は紳士だからな。意外とかっこいい名前があるのかもしれない」

「しんし? なによそれ」

「いや、いつもちゃーんということを聞いてくれる時もあるから紳士のようにしなさいって教えている」

「ますます訳が分からないわ」

 

 猫の奴もなんかふんぞり返っているように見える。

 

「じつはうむなんて思っているんじゃないわよね」

 

 私はそう言って猫のおなかを触る。ふさふさで心地よい。でも猫は少し身をよじってとんと縁側に降りた。それからひょいと奥に入っていく。私は焦った。

 

「あ! こら。勝手に上がり込むんじゃないわよ」

 

 どたどたと追うと猫もしゅたたと逃げる。コラまて。いつの間にか寝室に来てまだ畳んでなかった布団の中にさっと猫が入った。私はふとんをばさっとはねのけると猫はそのすきに布団の間から走り去っていく。

 

「すばしっこい!」

 

 そんな感じの望まない追いかけっこをしてから、やっと捕まえたときには少し疲れた。私は猫を抱いて縁側に連行する。そこでは慧音が笑っていた。

 

「なかなか愉快ね」

「……あー?」

「そんな顔しないで」

 

 慧音はそう言って立ち上がった。

 

「そろそろ帰るかな」

「そもそも何をしに来たのよ」

「……お参り?」

 

 少し考えてとってつけたようなことを言った妖怪をじろっと見る。

 

「お賽銭は?」

「現金ね」

 

 くすくすと慧音は笑う。私ははあとため息をついてなんとなく猫の肉球をくにくにと指で触る。みゃーみゃーこの子は言っているけど、逃げた罰だ。猫はくすぐったりできるのかよくわからないから、こうしてやる。ほらほら。……いや、これ嫌なのだろうか? よくわからない。

 

「それじゃあね」

 

 慧音は本当にそれだけで帰っていく。散歩がてらに来たんだろうとおもうけどちゃんとお賽銭を入れていきなさいよ! それにしても今日は暇だ。慧音が帰ってから縁側にごろんと横たわる。あ、これ気持ちいい。神社の庭を見ながらあったかい中で少しずつ、眠りに落ちていく……。

 

 いつの間にか猫も横で丸くなっている。私はその背中をなでながら……くぅ……。

 

 

 ここはどこだろう。

 

 私の前を一匹の猫が歩いている。

 

 

 その猫は

 

 朝も

 

 昼も

 

 夜も

 

 楽しそうに前を歩いていく。私はその後ろを何となくついていく。

 

 

 山の中や川に落ちそうになったりしたり。

 

 ああ、ここはどこだろう。いや、一度行ったことがある、地底の底だ。

 

 温泉の湯けむりがもうもうと立ち込める。鬼や妖怪が楽し気に笑う声がする。

 

 そうおもったら花火が上がった。これは人里のお祭りだ。出店が多く並んでて、楽し気に大勢が行きかう。

 

 

 

 次の瞬間には夜の空の中……星空の下を歩いている。

 

 

 きれいな星の瞬く中をあの猫はどんどん歩いていく、でもたまに振り返って

 

 にゃーと私がちゃんとついてきているかを聞いてくる。

 

 聞いてくるって言い方はおかしいかもしれないけど、まあいいや。

 

「どこに行くの?」

 

 そう言うと猫は言う。

 

 ――どこでも吾輩のにわである!

 

 私は耳を疑った。猫がしゃべったように思った。でも足元に来た猫が見上げてくる。ふっと笑う。

 

「あんたさぁ、何よそのしゃべり方」

 

☆☆

 

 はっと目を覚ます。あれからどれくらい寝ていたのだろうか。いつの間にか猫のふさふさのしっぽが顔の前にあった。それに鼻をくすぐられて起きたみたい……あー変な夢を見た。

 

 猫はすやすやと眠っている。寝顔は結構……あー、うん。……かわいい。

 

 頭をなでるとすりすりとこすりつけてくる。寝ぼけているのだろうか? そう思ったけど、猫は目をぱちりと開けて立ち上がって体を伸ばす。猫の体って柔らかいっていつも思う。

 

 猫がぱっと縁側から飛び降りる。それからたったっと神社の鳥居に向かって走り出した。

 

 どこに行くのだろうか。

 

 だんだんと猫が小さくなっていく。なんでかわからないけど、その時不意に寂しさを覚えた。いつの間にか靴も履かずに縁側から飛び降りた。

 

 小さくなっていく猫の背中に向かって私は言った。

 

「どこに行くの?」

 

 猫は遠くで振り返った。

 

 

 少しだけ私のことを見てくる。それからにゃーと返事をするように言ってくれた。……言ってくれた? 変な感じだけど、でもあの夢と同じで、安心した気がする。

 

 

 猫は走っていく。そうして鳥居をくぐって見えなくなった。

 

 ざああと風に揺られた木が鳴る音がする。

 

 ……でも、どうせまたやってくる。あいつは食いしん坊で気まぐれな奴だから。

 

 今日くらいは人里でやまめを買ってやってもいいかもしれない。

 

 あいつは今日はどこで遊んでくるのだろう。私はすでに背中の見えなくなった猫に向かって語りかけた。

 

「いってらっしゃい」

 

 あんまり遠くには行かないようにしなさいよって、続けようとしてやめた――

 

 

 

 

 






これにてわがはいの物語は完結になります。


きっとこの子はこれからも幻想郷を庭としてくれると思います。

途中、最後まで書くことが寂しくて書けない時がありましたが、

この最後を描けて良かった気がします。


お付き合いいただきました方々に心の底から感謝申し上げます。


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