蓋然的衒学辞書にチェックメイト (と十十)
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呼ぶより謗れ
ある日、新人スパイ二人にミッションの指令が下った。
なんてことはない要人の監視および尾行ではあるが、新人二人にとっては初仕事で大仕事であった。
二人は、さっそくミッションの準備にとりかかったが、ここでふと、お互いの名前を知らないことに気づく。
しかしながらいくら仲間同士とはいえ、スパイである故に気軽に名前をあかすこともできない。
ここは基本に忠実、コードネームで呼び合うことも考えたたが、そけでは面白くないと背高ノッポの相方は首をふった。
仕事に面白いも面白くないもあるかと、もう一人のスパイであるチビスケはカンカンになって怒ったがノッポは悠然と「俺は、この仕事が面白そうだったから選んだんだ」言い放つ。
これにはチビスケも面食らい、いや半分あきれながら、ならどうやって呼び合うのかを脱力まじりに問うた。
そこでノッポは、我が意を得たり得意げな顔で「お互いを罵倒しよう」と高らかに主張した。
同時にチビスケは、心底ノッポと組むことになった己の運命を呪った。
そんなチビスケを知ってから知らずか、ノッポは陽気に説明しはじめる。
「ミッション中というのはストレスがたまる、ストレスがたまると嫌になる、嫌になると仕事が疎かになる、ならこうやって呼び合うときぐらい思いっきり相手を罵倒しよじゃないか」
「…………この馬鹿野郎!」
チビスケの本音交じりの承諾にノッポはご満悦であった。
こうしてミッション当日。
お互いに罵倒しながらノッポとチビスケはターゲットの尾行をしていた。
順調にミッションが進んでいるかのようにみえたが、ここで一つトラブルが起きた。
連絡をとりあうためのトランシーバーが故障してしまったのだ。
チビスケは、焦った。
しかしいくら叩こうが押そうが、機材はうんともすんともいわない。しだいにイライラがつもりチビスケはぶちぶちと文句を言い始めた。
初めは、相方のノッポの文句から始まり現状の不平不服、報酬が少ないことやボスのこと、あの政治家が悪い、あの国が悪い、いやそもそもこの世界が悪いと全方位に文句と罵倒をぶつける。
もはやターゲットは明後日の方向である。
しかしそんなチビスケに目をつけたのが、街角世論調査を行っていたテレビ局だった。
悪口雑言と文句を言い続けるチビスケにリポーターはマイクを向ける。
「もうね、馬鹿ばっかり、相方もそうですし上司もお上もみーんな馬鹿、馬鹿ばっかでほんと馬鹿馬鹿しくてもう馬鹿になりそうなくらい馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
生放送だというのに馬鹿と言い付けるチビスケにリポーターも驚き、そして偶然テレビを見ていたノッポも驚いた。
すぐさまチビスケのもとに駆けつけ、リポーターに愛想笑いをそこそこにチビスケを問い詰める。
「ターゲットは、どうしたんだよアホ」
「あんな薄らハゲしらん馬鹿!」
「見失ったってことかよドアホ!」
「デブのおっさんを見つめ続けるなんぞ、やってられるか馬鹿野郎!」
そんな喧々諤々と言い合いを続ける二人を見かねて、男性が一人「まあまあ」と言いながら仲裁に入ってきた。
その男性を見てピタリと喧嘩は止まった。
彼らの初仕事は失敗に終わった。
――
・呼ぶより謗
人の悪口を言うと不思議と当人が現れるという話から、用があれば呼びに行くよりも悪口を言ったほうが手っ取り早いということ。
出典:故事ことわざ辞典
前半の内容をもっと後半に活かしたかった。
勢い不足にてごり押し。
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竿竹で星を打つ
竿竹で星を打つ
流星爆弾が地球に落ちてくるようになって、もうずいぶんと長い。
政府の連中は威勢はいいが、何も対策もとれてないのが実態なのは言わずもがな。
まあそれでも声を出せるうちはまだマシってことだろう。
国が国でなくなるなるなんて、あっというまなんだからさ。ほんと。
実際もうかなりの数の中小国はその煽りをくらって国名が変わってるし、大国と言われてたとろはソレ目当てに飽きもせずに人間同士で殺しあってるぐらいだ。
それがどういうことかというと。要するに世界にはまだ上司がいて部下がいるってことだ。
つまり、命令は上から下にへと流れ。
上司から部下にへと。
止めてこいと。
星を……。
「そんな無茶な!」
「無茶でもやるんだ。これは命令だ人類の存亡がかかっている、期待している」
「でも、どうやって!?」
「それをやるのが君の仕事だ」
そう言ってお偉いさんは、よく響く靴音を鳴らしながら去った。
ああ、どうしてこうなってしまったんだ……。
今から5年前、人類は突如現れたイーア惑星連合を名乗る謎の宇宙艦隊から降伏勧告を受けた。
ようやく宇宙にヨチヨチ歩きをしだした人類にとっては、心理的にも物理的にも大きな衝撃を受けることになったのだ。
イーア惑星連合の時間で7842グリン、おおよそ一年の猶予が与えられたが、もちろん各国がそんなわずかな時間で意見をまとめることも、答えを出すこともできるはずもなく。
なしくずしに、人類史上初となる宇宙世界戦争が始まったのだ。
そして回りまわって、そのツケの全てが今何故かこんなところにやってきたのだから、嘆かずにはいられない。
「ああ困った、どうしたもんか、白旗でも上げようかなー」
「おや主任、悩み事ですか?」
「おおリッカー君じゃないか! いやねえ、生きるべきか死ぬべきかそれが問題なんだよ」
「それじゃあゲームしません? メイド・イン・宇宙人製の」
「君ね、人類の存亡がかかってるときにそん……なんだって!?」
曰く、人類にはみだし者や落伍者が居るように、宇宙人にもそんな外れた連中がそれなりに居るらしい。
そんな連中は、目の下にいる人類が気になってしょうがないらしく非公式に各国や企業とコンタクを取ったりしているそうだ。
そして今彼らの中でもっともブームになっているものが、そう。
「はい、"ポン"のコピー品"ドン"ですね」
なぜか、2Dレトロゲームなのであった。
――
本来はもっと長ったらしい総称があるのだが、ここは便宜上通称のイーア星人と呼ぶことにする、そのイーア星人にとって三次元軸にあるものを抽象化して、二次元に起きなおすという概念が希薄だそうで。
絵やアニメ、設計図に地図にいたるまでが物珍ものに見えたらしい、特にハミダシ者の連中にとって2Dのゲームは非常に斬新で新しいものとして、またたくまに広がり受け入れられたのだ。
その中でも元祖テレビゲームと言われる PONG は、ひときわ人気がある。
卓球ゲームを模した1対1のゲームはシンプルながらも奥が深く、まことしやかにイーア宇宙艦隊内で大会が開かれるほどであった。
さて、そうなると本家本元の人類に挑戦してみたくなるといもので。
イーア星人は、あれこれと手をまわし秘密裏にとある壮大な計画を一部の人類に打ち明けた。
「そして、これがイーア星人の技術提供により完成した反重力盤です!」
「なにこのでっかいモノリスは」
それは視界に収まりきらないほどの巨大な壁であった。
しかしこれほどまでに巨大な代物だというのに、それを支える柱は一本も存在せず、鈍い音をたてながら空へと浮かんでいた。
「主任、これが対流星爆弾反射攻撃装置となります」
「え、俺きいてない」
「主任にはこれを操縦してもらいます」
「え、なにそれ怖い」
こうして人類の存亡とプライドをかけた戦いが一人の男にたくされた。
ルールは、簡単で一度でも地球上に落下直撃されれば人類側の敗北、イーア惑星連合の統治下入る。
イーア惑星連合は、操縦する旗艦が流星を受けもらした場合負けとなり地球を同盟星として迎えるということになった。
いったいどうい措置と会議でそうなったのかは定かではないが、一説には宇宙開発でのソ連とアメリカのような「俺の所のほうが凄いんだもんね」精神が働いたと言われている。
会戦時は、イーア惑星連合の時間で427ノル、グリニッジ標準時で翌日の12時にて流星爆弾が月の軌道から投下されることになり、それまでに主任と呼ばれた男にわずかな休暇が与えられた。
「なんで俺なの……」
「主任が時々やっていた、ポンの対戦相手の方々が全員イーア星人なんです」
「コンピュータじゃなかったのか」
「向こうでは、ポン・マスターとして崇められてますよ主任。おかげでずいぶんと時間稼ぎができました」
いったいいつからこの計画を秘密裏に進めていたのかは、わからないが。今までただの部下だと思っていた女性が、これほどまでに怖いと感じたのは初めてだったと、彼は後に語った。
そうして当日――……。
――
「えー本日はお日柄もよく、第8回流星爆弾反射式の開会式を始めたいと思います、えーまず、イーア惑星連盟・ポン愛好家協会から祝電が入っておりますので、読まさせてもらいます……えーこのたびは――」
イーア惑星連盟との戦いは続いてる。
そう、月から地球へと流星を反射させる年一回のイベントとして。
イーア惑星連盟友好条約の締結日として。
今なお、イーア星人と主任の激しい戦いが繰り広げられているのだった。
「ところで主任、いま向こうでスペースインベーダーが流行ってるらしいですよ?」
「……」
了
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・竿竹で星を打つ
できるはずのないことをしようとする愚かさのたとえで、なかなか思うところに届かないもどかしさのたとえ。「竿で星打つ」「竿の先で星を打つ」ともいう。
出典 : ことわざ辞典
竿竹どこいった。
全体的に中途半端でよくわからない落ちになってしまった。
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瓢箪から駒がでる
宇宙で食事。
言葉の響きだけ聞くならロマンを感じなくもないが、宇宙開拓事業がゴールドラッシュの如く星々を駆け巡るこのご世代にソレらを感じられるのは一部の金持ちか、宇宙に出ることすらままならない貧乏人ぐらいで。
それだけ宇宙での食事事情は味気なくなく、わびしいもので。食べるというより栄養を補給すると形容するような代物が多い。
無論それに不満を抱く者は大勢いるが、何せ食料となると諸々の諸経費でビックリするほど金がかかる。それこそ打ち上げるロケットに食べさせる燃料代が無くなるほどにだ。
よって誰もが不満を抱きながらも、誰もが同じ理由で不味い宇宙食を齧っているのだった。
そして若き宇宙パイロットのタナカもまた、現在の食事に不満を持ちながらも、何処か諦めた気持ちで支給される宇宙食を齧っていた。
宇宙便利舎に入社してはや四年。宇宙貨物船タイタン号の副操縦士を任されるぐらいになったものの、依然と食事の中身は変わらず。
モソモソとした宇宙食に申し訳程度にケチャップがつけられたぐらいだ。
「はあ~、匂いだけでもいいから肉が食いてえ……」
「やめとけやめとけ、一度その手の物食べたことがあるが空しさがつもるだけだったぞ」
そう言いながら現れたのは、副船長のケイだ。
副操縦士のタナカとは立場は違えど年齢が近いこともあってか、食事を共にすることが多く。
不味い宇宙食でも談笑しながら食べればまだ気が紛れるというもので、タナカとしては、ありがたい限りだった。
副船長のケイのメニューもタナカよりは比較的マシといったぐらいで。ほとんど変わらない代物であるが、たまにデザートがついてくることがあってか、他の乗組員たちに酷く羨ましがられていた。
だがケイは、その貴重な趣向品を惜しみなく誰かまわずあげてしまう。
結果、デザートよりも良いのを食べていると誤解されることもままあった。
「やれやれ、今日は合成パンに解凍スープか。チューブ食でないだけマシと思おう」
「あれを食ってるところってまだあるんですかねえ」
「外宇宙の輸送船だと今でもチューブとブラシらしいぞ。さて、冷めないうち食べちまおう。冷めたら犬でも食わん」
「……犬ってくえ」
「言うな、言わないでくれ」
そんな悲しき宇宙の食事事情に変化を見せたのは、開拓惑星に荷を降ろして帰る途中で補給に立ち寄ったプラント衛星でのことであった。
鉄板の上でパチパチと弾ける油と熱気、かぐだけで唾液が出るような焼けた匂い、噛み締めるほど溢れ出る肉汁のソレが船内で配給されたのだ。
故郷の星で食べてもそこそこの値段であろう。あまり大きな宇宙船でないとはいえ、それはクルー全員に行き渡ったらしく瞬く間に時の話題となった。
しかしケイだけは、その配給を訝しがった。
「うーむ、こんな予定も余裕も無いはずなんだがなあ」
「船長はなんと?」
「食えるものは食べておけと言っていたが……。どうも腑に落ちない」
「少し早いボーナスってことじゃないですかね? ほら、うち普段出ないから」
「うむむ、そうかもしれないな」
しかしその予想は外れることにる。なんと次の日から配給メニューとしてステーキが追加されたのだ。
それも昨日出されたものと遜色が無い、いや同等の熱々のものが宇宙船内で食べられるようになったのだから。流石にタナカも驚いたが宇宙での味気ない食事に楽しみが増えたと思い、深くは考えなかった。
だがケイは違った。いよいよもって副艦長の権限を使ってでも徹底的に調べはじめたのだ。
それにたいして冷笑を浮かべ、時には馬鹿にするような発言をされても、ケイは諦めることはなかった。
そうして数日後、夜間部タスクを勤めていたタナカにケイからの内線コールが飛んだ。
『タナカ聞いてくれ! タイタンには一度も牛肉や豚肉が乗せられてない、合成加工品もだ!』
『ケイおちつけ、なんの話なんだ』
『これが落ち着いていられるか! どう勘定しても出した物と入れた物でウチはギリギリなんだ、だけど一回だけ無理している。あの時だ! あのプラント衛星でタイタンは、食材でない何かを買っている、ああ! もどかしい! 今からそちらに行く!!』
タナカの返事も聞かずに通信は切れた、いったいどういうことなのか気になるところではあるが、ケイの半狂乱な様子を顧みるに、どうやらとてつもないことを発見してしまったことは間違いなさそうである。
しかし待てども待てどもケイは現れない。一時間過ぎてもなんら連絡がこないのはおかしいとみて、タナカはケイのもとに向かおうと立ち上がろうとしたその時。
ロックをかけていたはずのドアが開いたではないか。
そこに立っている人物は、もちろん――……。
「やあ、タナカ君……ケイ副艦長はこれなくなったよ」
「か、艦長……? それはいったいどういうことですか?」
「そのままの意味さ、ところで君はお肉は好きかい?」
「ええ……え、ええまあ、それなりには……」
「そうか、それはなによりだ」
そう不敵な笑みを浮かべ艦長は素早くタナカを蹴り飛ばした。不意をつかれたタナカは、そのまま倒れ押さえつけられる。
「艦長! いったい!?」
「宇宙ってのは本当に不思議なものが多いね。例えばそう、切り取った瞬間から再生する生命体とかさ。まあそれは高いんで血だけを買い取ったわけなんだけど」
「いったいそれが……」
「君もお肉になれるよ。その血を注入するだけで強力な再生能力が手に入れられるんだ。変わりに定期的に人間の血液を摂取しなくちゃ自壊しちゃうんだけど、言わば吸血鬼だね」
「ああ! あああ! 何故!? そんな、何故!! あんまりにも!」
タナカは泣き叫んで止めるように懇願した、まさかそんなことがこの船で行われてたなんて。
狂っているとしか言いようがいが艦長は、ごくごくいつも通りの表情で淡々と言葉を連ねる。
タナカは、それがもう怖くてならなかった。
これからおきる惨劇よりも、ただただ目の前の男が恐ろしかった。
ガタガタと震えるタナカを横目に艦長は、吸血鬼の血が入った注射器をとりだしつつ呟いた。
「まあ私はベジタリアンなんだけどね」
――
・瓢箪から駒がでる
瓢箪の中から馬が飛びだすことで、思いかげないことが起きるたとえ。さらに、冗談で言ったことが事実になってしまうたとえ。
出典 : 故事ことわざ辞典
吸血鬼になれば宇宙でも血だけで安上がりだよね、と考えてたのに奇妙な話になってしまった。
SFなんだかホラーなんだか……。
描写というよりも全部説明なのでひたすら読みにくい。情景が見えない。
尻すぼみ。
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