GATE クリティカルロマン砲に何故か転生した件 (シアンコイン)
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プロローグ

どうも、シアンコインです。
はじめましての方、こんにちは。

見切り発車、後先考えない矛盾設定が得意なシアンコインです。

駄文ですが思いつきでなんとなく頭の中で話がまとまって来たので投稿しました。

fgoやってる人からしたら、「ん?」って思うかもしてませんがどうぞよろしくお願いします。



「して、お前に願いはないのか?」

 

「無いね、強いて言うなら本物の銃を一回でも良いから撃ってみたかったことかな。」

 

果てのない真っ白な空間で人影にも見えるそれは老人の如く低い言葉で向かい合っている少年に問いかける。

少年は対して怯える事もなく軽い笑みを浮かべると、飄々と答えた。

 

「む? お前の経歴には銃の経験があったと書いてあるが?」

 

「すごいや、神様は何でも知ってるんだ。でも残念、それは実弾じゃなくてゴム弾で仲間内とふざけて空に一発撃っただけなのさ。」

 

後はゲームの中でしか知らないよ、とそう言葉を付け加えて黒い髪を掻き微笑む。

平然と少年が白い人影を神と呼ぶ。そう、その場を支配していたのは少年の視線の先に佇む不安定な光の塊。

 

神と呼ばれる存在だった。

 

「そうか。ならばソレを願いとして別世界に転生してもらおうか。」

 

「え? 何で?」

 

「だからさっき説明しただろう、お前の人生は終わりを迎えて死んだ。その時に抜けた魂が偶々選定により導かれて転生できる権利を得た。」

 

「ヤダよ、別に、生き返ったってどうせ同じ事を繰り返すんだから。」

 

「そうもいかねぇんだ。この選定に選ばれた者は必ず転生している、それぞれの世界の人数もある程度決まっていてそれの調整も兼ねてる。それに今更他の魂を呼ぶにも今日昇ってくる魂は居ない。」

 

ボクに関係ないじゃん、そうぶっきらぼうに答える少年。対する神は溜息を吐いたかのような動きをすると一つ提案した。

 

「分かった。今更転生するのは変えられないが、転生の際にお前の願いを好きなだけ叶えてやる。だから、頼む。神に頼まれる人間なんていないんだぞ?」

 

「えー。」

 

「そこまで嫌か?」

 

「…………分かったよ。それじゃあ転生するのは元の世界で。」

 

「他に願いは?」

 

「働きたくないから金持ちにして。」

 

「他は?」

 

「んじゃあ、この高い身長にも嫌気がさしたからあまり高くならないように。以上かな。」

 

「随分と欲が無いな。」

 

「そうでもないと思うけど。」

 

「ふぅ、それじゃ。転生してもらおうか。悪いが同じ世界にお前が転生する事は出来ない、もう定員オーバーだからな。だからほぼ同じ世界に落ちてもらう。安心して新たな人生を楽しめ。」

 

最後にその場で男性が思った事は、あぁやっぱり神様はずるいの一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「い、いや……!!」

 

場面は移り変わり現代社会、日本都心、東京銀座。その大通りにソレは出現した。道行く人々が一瞬呆気に取られたのを皮切りにいつの間にか聳え立っていた門から鎧を着た人間と異形。モンスターが姿を現した。

緑色の皮膚に大きな牙、そしてその腕に携えるは斧やこん棒。馬に乗った男の言葉に反応して兵士とモンスターが一斉に駆け出して街行く人々を襲っている。

 

言葉を発した女性の目前で銀色の剣で切り伏せられる名前も知らない男性、飛び散った血が頬について滴る。一瞬にして人が殺された。その事実を受け止められないまま女性は後ずさる。

悲鳴を上げたいのに口は震え、逃げ出した衝動に駆られながらも振り向くほどの勇気が彼女の中には今、存在しなかった。

 

男性を切った鎧を着た兵士、その顔は興奮を抑えきれないのか笑みを浮かべている。女性はその事に対して信じられず僅かな怒りを感じる。

 

(何で、急に出てきて人を殺して、笑っていられるの!!)

 

平然と歩みを進める兵士、周りから聞こえる悲鳴、怒声。平和だった日常が一瞬にして戦場に変わる。女性は逃げる事を諦め震えている身体を抱きしめるようにして目前の兵士を睨んだ。

それが、彼女に出来る精一杯の抵抗だった。

 

「ーーーーーーー?」

 

「この、人殺し!!」

 

兵士から発された言葉を理解できずとも女性は声を荒げた、それをつまらなさそうに兵士は一瞥すると剣を振り上げる。

 

「ッ!」

 

もう助からない、そう感じた彼女は身体を強張らせて瞳を閉じた。

 

――――キィィィィィィィィン

 

その瞬間だった、女性の目の前に蒼く輝く魔法陣が形成され一人の人影が浮かび上がる。

 

「ーーーー!?--!!」

 

突然の事に慌てる兵士はその光る人影に目標を変え剣を振りぬいた。だが――

 

「―――人を殺したんだろう? だったら殺される覚悟もあるんだよね?」

 

軽快な声が聞こえたかと思えば一瞬の爆音が響いた。ガシャッ、そんな音が後に響いて恐る恐る瞳を開けると見えるのは銀色の鎧ではなく。

黒い革のコートに赤いマフラー金髪の髪、自分よりも一回り小さな体躯。気が付けば帽子を被った男性が目の前に立っている。

 

そんな事実と辺りが静寂に包まれている事に気付いた女性は辺りを見渡して理解する。

誰も彼もがこちらを見ている、正確には自分ではなく自分の前に立つ男性を。

 

兵士もモンスターも唖然とこちらを見つめているその状況で、男性はこちらを振り返った。

 

「やぁ、怪我はなかったかな。随分と物騒な状況だけどとりあえず、あの変な連中の視線がボクに向いている内に後ろへ下がって。」

 

「え……で、でも。」

 

「大丈夫、ボクにはこの銃があるから。」

 

男性は笑みを絶やさず女性に語り掛け片手に持った銃を見せて帽子のつばを直し、民間人と詳細不明の兵士たちの間に一人たたずむ。

幸いな事にその通りは一本道で、先駆けだった一人の兵士よりも先に前に出た者は誰もいない。

 

確かな中間地点。逃げ出した民間人たちの前に立ちはだかるように居る男は兵士たちからすれば邪魔で仕方ない。

ならばどうするか。―――無論、正面突破で殺す。

 

「やっぱり、神様って奴は嘘吐きなんだね。いい勉強になったよ。どんな理由かは知らないけどこんな体にしちゃうし。日本の筈なのに変な門もある。オマケに中世の時代から引っ張り出してきたみたいな軍団。そして広がる死体の山、冗談にしても笑えないよ。だから――。」

 

――――ドサッ

 

――――バンッ!!

 

「一方的な勝負を始めようか。」

 

音を置き去りにして衝撃が先頭の兵士にぶち当たる。何が起きたかも理解できない当人は鮮血をまき散らし地に伏した。

帽子の下で見せるニヒルな笑みは再度、兵士らを凍りつかせ戦慄させた。金髪の男の言葉は理解できない、だがそれでも言わんとしていることが理解できる。

 

これ以上、前に出れば。気づかないうちに殺されると。

 

「どうしたの? 来ないならこっちから行くよ。」

 

軽快な言葉の後に男は目にも止まらぬ速さで駆け出し先頭から二番目の兵士の目の前に飛び出す。

 

「!?」

 

動揺するも遅く突きつけられた黒い塊が兵士の顔面に突きつけられ、引き金が引かれる。

先ほどと同じ、死を呼ぶ爆音。兵士の頭は吹き飛び鮮血が舞った。言葉を失う後に続いた兵士たち。一人、また一人と爆音と共に倒れていく。

 

それに対し金髪の男は手に持った黒い塊で相手に触れず仲間を殺してく。帽子の下で見せる笑みが兵士達には死神のようにも見えた。

 

 

 

    ◇

 

 

「何だ、アレ……。」

 

後方、突如現れた門から出現した軍団から逃げ出していた民間人たちの一人が声を漏らした。その視線の先には一人のOLの前に立ち拳銃のような物を構える小柄の男。

ソイツは光の中から現れたかと思うと兵士の一人を吹き飛ばした。否、撃ち殺したのだ。

 

拳銃の発砲音など本物を聞いた事はないが。それでも分かる、なんせ、そこには確かに鮮血が舞い、空を飛んでいたドラゴンらしきモノを撃ち落す姿が見えるのだから。

赤いマフラーをはためかせ、人間離れした足取りで兵士が放つ弓、振りかぶられる槍、突撃を繰り返すドラゴンを避け拳銃を撃ち続けているその様は異様だった。

 

素人目でも分かる、拳銃の装弾数は明らかにおかしい。間髪入れずに拳銃を撃ち続けているのにその銃に弾を装填する素振りを全く見せていないのだ。

あまりにも現実離れし過ぎている、これは現実なのかと混乱する者が後を絶たない中で唐突にそれは聞こえた。

 

「ビリー・ザ・キッド………!?」

 

誰が発した言葉だったか、その名前はこの世界でガンマンと呼べば必ず上がるであろう伝説のガンマンの名前だった。

だがそんな大昔の人物が何故のこの場に、いや、彼は本当にあのビリー・ザ・キッドなのだろうか。そんな憶測が飛び交う中でその言葉を発した青年は自身のスマートフォンを見る。

 

その中には過去の英雄たちを召喚し、世界を救う為に戦うという趣旨のゲームが起動されており。その中にはまさに視線の先に存在する男性と瓜二つなキャラクターが戦っている。

 

「さぁて、そろそろ避難してくれないと。ボクも本気出せないんだけど?」

 

自動車の屋根に飛び乗り銃を撃ち続けている男、道端に止められていたバイクに向け拳銃を向けて発砲し爆発を誘発し数名の兵士を吹き飛ばした。

爆炎をハイライトにこちらに向けられた顔には笑みが浮かんでいる。民間人は一気に現実に引き戻されて逃げ出した。

 

「ビリー・ザ・キッドねぇ………。本当に神様は酷い事するなぁ。」

 

何か感慨深そうに、帽子の男は先ほど聞こえてきた名前を呟くと帽子を深く被り直して投擲された槍をかわして相手を見もせず、引き金を引いた。

 

降り立った地面に薬莢はなく、広がるのは血の池。

 

姿、形は同じなれどその中身は紛れもない別人は面白悲しそうにその銃をホルダーに戻す。

 

「「「「「「オオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!」」」」」

 

その姿を隙と、好機と見た敵の一団は隊長と思われし男の雄叫びに呼応し、先陣を切った隊長に続いて駆け出した。

槍を構え、弓を番え、竜を操り、剣をかざす。

 

一対大体数。明らかな物量さ、今までその状態でその場に軍団を引き留めていたという真実さえ非現実な事。常人であれば間違いなく逃げ出すであろう現状に帽子の男は笑みを浮かべて辺りを見渡した。

 

「―――――ファイア!!!!」

 

そして、それは一瞬にして起きる。

 

「ッ!?」

 

先陣を切った隊長が突然仰け反り糸の切れ人形のように倒れる、見れば額には三つの穴が開いていた。そして――――

 

――――バァァァァァンッ!!!!!!!!

 

隊長を失ってもなお戦意を失わなかった兵士たちが帽子の男手前で爆炎に飲み込まれる。

そして、その爆炎は更に燃え上がり爆音を上げて一団を瞬く間に包み込んだ。

 

そして一番後方に居る兵士は戦慄した、前を見れば隊長を最初に、何百人もいた兵士が爆炎に呑まれオークやゴブリンは逃げ出し。

空を支配していたワイバーンは鳥のように瞬く間に撃ち落されていくその事実に。

 

そして――

 

「―――どうする? まだ勝負、する?」

 

帽子の男は無傷で爆炎の中、兵士たちの蹂躙対象だった民間人を背にまだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやいや、ビリーってこんな大多数と戦えるサーヴァントじゃないだろうって?
英霊(仮)だし多少はね?

因みに、作者のハートはガラス、わかって下さい。
何でもしますから。



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「さぁ、決闘を始めようか(どうしてこうなった……)」

気が付いたら評価を頂いていて、感想ももらっている事実。
寝起きだったのに目が覚めてしまったので、テンション上げ上げで投稿。

感想、評価、大変励みになります!!
ありがとうございます!!

プロローグでも言いましたが、駄文注意!!!


神によって、転生させられた少年。

今は名をビリー・ザ・キッドと呼ぶとする。

 

彼の伝説のガンマンに気がつけばされていた少年が、転生させられて最初に見たのは血で濡れた見慣れた大通り。

 

阿鼻叫喚、道行く平和に身を委ねていた一般人達は突如出現した門から湧き出るモンスターと兵士達に一方的に蹂躙されている。

 

(何だよ、これ……。いや、この状況って……!?)

 

少年だった彼はこの状況を知っている、これは彼が生きていた頃にテレビで物好きな親と毎週見ていたアニメと全く同じ出来事だ。

 

(それに……何だこの体、透き通ってる。服も変だし帽子にマフラー、金髪に腰に着けた赤いラインが入った銃……あ…。)

 

自分の体に何が起きているのか、瞬く間に見た目と状況判断で彼は察してしまった。

幸いにも転生しては居るものの現界はまだしていない、このままアニメの筋書き通り行くならば自分は人知れず人気のない場所で姿を現し。民間人に紛れて新たな人生をスタートできる。

 

(物語がこのまま進むのなら、自衛隊が到着しこの騒動は鎮圧される……。)

 

だけど、心の底で少年であった時の感情が見過ごす、という選択を拒否しようとしている。

仮に自身があの空想の中で設定されたキャラクターであっても、あんな大多数をどうにかする技量がこの体にあっても。

 

(出来るわけがない、ボクにそんな事は……。)

 

そこまでやるという度胸は彼には存在しなかった。

 

(ごめんよ………。)

 

アニメの中であっても人が殺されている、あのシーンに憤りを感じていた彼にこの状況は重くのし掛かった。

 

歯を食い縛り、霊体と呼ばれる状態で踵を返した、そんな時だった―――

 

「―――この、人殺し!!」

 

(っ!?)

 

震えている声で誰かが必死で声を上げている、見れば横断歩道を挟んで向こう側に逃げ遅れた女性が震えて声をあげていた。女性の目の前には嫌な笑みを浮かべている兵士が剣を振り上げている。

 

―――何もしないの?

 

彼の心に誰かが語りかける。

 

(勝てないよ……)

 

―――それで後悔しないんだね?

 

(そんな分けないだろ……!)

 

―――大丈夫、体が覚えてる。

 

(見過ごせるわけがない……!! これ以上殺させてたまるか!!)

 

―――アウトローの素質は充分だね。

 

誰かの声は愉快そうにそう告げるのと同時に、彼は霊体の状態で女性と兵士の間に入り。力を解放した。

所謂、現界、この世界に英霊、ビリー・ザ・キッドが現れた瞬間だった。

 

彼の視界は更にクリアに、現界した瞬間に生じた力の余波は光と共に砂埃を巻き上げる。

降り下ろされた剣は歴戦の英霊達には遠く及ばない、体を反らして簡単に彼は避けてしまう。

 

「―――人を殺したんだろう?だったら殺される覚悟もあるんだよね?」

 

彼の本心と英霊の"彼"の言葉が混ざり、自然と口角が上がる。その軽い笑みは英霊ビリー・ザ・キッドにとっていつも着けている仮面ともいえる。アウトローに絡まれやすいタイプであった彼は、揉め事を避けるためにいつも笑みを浮かべていたという話もあるぐらいだ。

 

そしてそんな中、ビリーは引き金を引いて撃鉄を落とす。

 

音を置き去りにして兵士の頭はザクロの如く弾け、赤い血を撒き散らした。その光景、状況に後に続いた兵士達は凍りついたがビリーの内心は穏やかだった。

 

(……何でだろう…人を殺したのに…。)

 

体が恐怖に震えることもなく、今何が自分にできるか、何が実現可能なのかが即座に理解できる。だがそんな時、思い出した。自分が誰の姿に奮い立ってこの場に姿を見せたのかを。

 

(とりあえず、笑顔は大事!!)

 

即座にニヒルな笑みから普通の笑顔に変えて、振り替える見ればそこには自分よりやや身長が高い女性が震えて立っていた。

 

「やぁ、怪我は無かったかな。随分と物騒な状況だけどとりあえず、あの変な連中の視線がボクに向いてる内に後ろへ下がって。」

 

瞳に涙を溜めて、今にも泣き出しそうに震えていた女性に笑いかけるビリー。それに対して女性は答えた。

 

「え……で、でも。」

 

状況が理解できていない様子で言い淀む女性。そんな彼女にビリーは安心させるように片手の拳銃を自信の顔の前に掲げてまた、笑った。

 

「大丈夫、ボクにはこの銃があるから。」

 

安心させるように笑いビリーは帽子を被り直す、ゆっくりとだが頷いた女性が避難している人々の方へ向かった事を確認してからビリーは振り替える。

 

(幸いにもボクが今さっき殺したのが、奴等の先頭。これより先に進ませなければこれ以上、犠牲者は出ない。)

 

(上空にはワイバーン、地上にはオークにゴブリン、騎兵、兵士。それで多分あの目立ってるのが隊長かな。)

 

思考を巡らせ最善の策を探す彼、その顔にはまだ笑みが張り付いている。それを見た門から現れた軍団は足を進めることに戸惑っている。

先に行動を起こしたのはビリーだった。

 

「やっぱり、神様って奴は嘘吐きなんだね。いい勉強になったよ。どんな理由かは知らないけどこんな体にしちゃうし。日本の筈なのに変な門もある。」

 

まず最初に自分を転生させた神に対しての文句、これは彼の紛れもない本心だ。

 

「オマケに中世の時代から引っ張り出してきたみたいな軍団。そして広がる死体の山、冗談にしても笑えないよ。だから――。」

 

一人語りのように、言葉を繋ぐビリー、その顔は笑みを絶やすことはないが何処か異質である。

そう、言葉で言い表すなら"目が笑っていない"。

 

「―――一方的な勝負を始めようか。」

 

言葉を後に片手で拳銃を構え引き金を躊躇なく引き絞る。

いつの間にか戦意を取り戻し、こちらに突進を仕掛けようとしていた先頭の騎兵に弾丸は吸い込まれる。

 

(足止めの意味も込めての一発……!!)

 

少年だった頃の感情は今、単純な怒りで消え失せている。

一方的に、突然現れて何の罪もない人間を殺した集団に彼は今怒りしか感じていない。

 

英霊としての彼の視界は良好、元を辿れば彼のこの姿はあるゲームで実在した偉人や伝説上の人物を英霊として召喚し共に世界を救うために戦う。そんな趣旨のゲームの姿であり、実在した人物とは似て非なるもの。

そのゲームの中でもそれぞれにクラスという、それぞれの特徴にあったクラスが複数存在し、彼は『弓兵:アーチャー』というクラスに該当している。

 

弓兵の特徴は誰も皆、飛び道具に長けておりそのクラスに分類されたビリーの射撃能力は例え伝説級の英霊と戦うことになろうと、劣ることはまずないだろう。

そしてその英霊としての体は今、現界したことにより少年の魂と同調を始めている。彼の英霊ビリー・ザ・キッドの経験がその魂に刻まれていく。

 

それを体で感じたビリー、体が銃の撃ち方、戦い方を教えてくれている。相手を打倒出来ずともこれならもう一般人を殺されないで済むと理解した彼は銃を片手に本心の笑みを浮かべた。

 

「どうしたの? 来ないならこっちから行くよ。」

 

足取りは軽く、ちょっと加速したつもりがいつの間にか敵の目前。英霊の体がどれほどまでに規格外なのかを身を以て再確認したビリーは瞬きをするように自然に引き金を引く。

音は軽く、同時に鈍い音が後に続いて兵士が倒れる。軽快な足取りで状況を理解できていない兵士たちに的確に銃弾を撃ち込んでいく。

 

間合いは適度に、離れすぎずに近すぎず。されど相手に反撃されないほどの距離を取り続け、こちらに反応を示した兵士には確実に眉間に穴をあける。

空のワイバーンは的が上に向くのであまり狙いすぎずに、こちらに近づいた瞬間にワイバーンに乗っていた兵士共に撃ち落とす。

 

「ッ!!」

 

そんな時、身体が勝手にその場を飛びのいた。

その瞬間、上空から降り注いだ矢が先ほど自身がいた場所に突き刺さって居る事に気づく。

 

心眼(偽)C――直感・第六感による危険回避。天性の才能による危険予知によって彼は、いや彼の体は見ずとも矢を避けて見せたのだ。

 

(あっはははぁ………流石英霊、半端ない…。)

 

ビリーは内心で驚いた笑いを上げると前の体の目よりもよく見える瞳で先を見据える。近場にはもう死体しか転がっていない。

標的を変えるにしてもビリーの武器は相手に正面切って突撃できるほどの広範囲武器ではない。

 

それこそ英霊のビリー・ザ・キッドであれば、囲まれてもクイックドロウで一瞬にして蹴散らす事も出来るだろう。だがまだ彼にその技術は扱えない。

まだ経験が足りない。まだ同調途中、インストール中の技術を即席で使っているにすぎないのだから。

 

生き物を初めて撃ち殺している"少年"の心にはまだ余裕がある。大丈夫、この状態で相手の進行を止められている。

無理をする事はない。確実に全力で相手を止めているだけで良いと、感じたビリーは笑みを深めて引き金を引く。

 

弾丸は彼自身の体に宿る魔力から精製される、それ故に薬莢を抜き弾丸を込める必要はなく撃ち続ける事が可能になっている。

そして魔力とは本来の英霊という存在をこの世に存在させるために、契約した魔術師から供給されるものであり言わば彼ら英霊の力の源とも言える。

 

アーチャーのクラスには単独行動というクラス別の能力が存在しそれは、契約した魔術師からの魔力供給を行わなくともスキルのクラスにもよるが、長時間現界し続ける事を可能に出来るスキル。

当然そのスキルはビリーにも付与されており、そのスキルのランクは『A』。実際の例からは外れるが、魔術師がいなくとも現界し続ける事が可能なランクである。

 

(…………まだまだ、撃てる。………疲れも少ない、大丈夫だ。)

 

元より魔力消費の少ないアーチャークラス、そして単独行動[A]という破格なスキルを備えたビリーにこの状態で限界が来る事はないだろう。

身体でそれを理解したビリーは安堵し、振りぬかれた棍棒を屈んで避け緑色の両足を撃ち抜き苦悶の表情を浮かべる異形の化け物を撃ち殺す。

 

次に突撃してくるは槍兵。突き出した槍の穂先を横に蹴り飛ばし懐に入り込む。

 

―――――――こんな槍、槍の狂戦士に比べれば欠伸が出る。

 

信じられないと、そんな顔をした兵士を容赦なく撃ち殺しその場で飛び上がる。当然のようにその場に突撃して来ていた兵士たちが彼を見上げ、ビリーは撃鉄を三回落とす。

既に彼は心眼に慣れ始めている、驚異的なスピードでビリーは完成に近づいていた。

 

 

 

      ◇

 

 

 

その姿を見ている一団の隊長は戦慄した、たった一人にもう数刻も進軍を阻まれている。最初は反撃もなく、逃げ惑うだけの哀れな民衆だった筈なのに視線の先で戦っている男がどこからともなく現れた瞬間から狂い出した。

歴戦の兵士たちが爆音と共に血をまき散らし死んでいく異様な光景、憤りを超え恐怖すら湧かせる笑み。まるで本物の化け物と戦っているような感覚に囚われた男に更に災難が降りかかる。

 

―――――――バァァァァン!!

 

突然の爆音、死を呼ぶ爆音よりも強烈なそれは突如として起き。燃え上がる爆炎と共に兵士、ゴブリン、オークを包み吹き飛ばす。

火薬を撒けと命令した記憶は男の中にはない、何処からこの爆発は起きたのか、これもあの男の仕業なのかと視線をそちらに向ける。

 

見れば相手は鉄の箱の上に乗り、顔後ろに向けて何かを喋っている。もう既に兵士の半数はアイツに殺された。

ゴブリンやオーク共はもう脅えて使い物にならない。だが、こんな場所で引き下がれるものかと男は決心した。

 

「脅えるな同胞たちよ!! 敵を目前にして逃げる事は許さん!!」

 

「今我らに刃向い戦っているのはあの男一人、武器を掲げよ!! あの男の首を獲った者には極上の褒美を与えようぞ!!」

 

声を上げ、兵士達に喝を入れる。ここで負けてなるのものか、新天地に足を進めいの一番に手柄を上げて自分は欲望のままに伸し上がると息巻く隊長。

戦意を徐々に取り戻し始めている兵士たちを見て、隊長は支持を出し脅える亜人、オーク達を見捨て隊列を組む。

 

もう一度、相手を見据えれば戦意を喪失したかのように視線を下げて、その手に持った得物を収めている。

 

「今こそ好機だ!! 私に続けぇぇぇぇ!!」

 

「「「「「「オオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」」」」」」

 

武器を構えた兵士たちを引き連れ馬を操り塊となり突き進む。

一点突破、このまま奴をひき殺してやる。そう興奮気味に不敵な笑みをした所で―――――

 

 

「―――――――ファイア!!!!」

 

 

帽子の男の声と共に隊長の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 

 

「ビリー・ザ・キッドねぇ………。本当に神様は酷い事するなぁ。」

 

時は数分巻き戻り、ビリーは自分の言葉を聞いて慌てて逃げていく一般人を背に先ほど聞こえた一般人の言葉に少し落ち込んでいた。

彼はある程度気づいていた、自身の身なりが、武器がゲームの中のビリー・ザ・キッドに酷似している事に。

 

この身体がビリーということを既に経験して実感しているのに、何処か否定したい部分が彼にはあったのだ。

何故なら。

 

(これじゃ絶対、平穏に暮らせないよね!? 神様何してくれてんのコンチクショウ!!)

 

妥協で転生したのにもかかわらず、すでに物語の大部分に接触してしまい。一般人には姿を見られこのビリー・ザ・キッドが登場しているゲーム『Fate/Grand Order』がこの世界で存在している事に気づいた彼はもう別の意味で後悔していたのだ。

一般人に紛れ込んでもこの容姿は目立ちすぎる、うまく逃げおおせても絶対政府から追われるだろう、最低限、協力するとしても絶対平穏な時間はない。

 

そう悟ってしまった彼に投擲された槍が迫るが、心眼により見もせず避けて相手を撃ち殺す。もう手馴れ始めていた。

深くため息をついて彼は自動車の屋根から飛び降りて辺りを一瞥する。目ぼしいのは自動車とバイク、幸いここは銀座、路上注意など気にもしない連中の駐車違反の車が鎮座している。

 

しめしめとちょっとした作戦を考え付いた彼は、自身が今奥の手を使えるのかを身体で確認している。その技術はもう使えるようになった、魔力の量も申し分ない。

いける、この作戦が上手くいけば相手を戦意喪失に追い込めるかもしれないと希望を抱いて拳銃をホルスターに戻した。

 

「「「「「「オオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」」」」」」

 

考え事をしている内に敵が戦意を取戻しこちらに一丸となって突撃して来ている事に気づいたビリーは、呼吸を整え始めた。

 

(…………撃つのは三か所、一つは隊長、後二つは両脇の自動車のガソリンタンク!!)

 

全神経を研ぎ澄まし、この攻撃に賭ける。

 

英霊の奥の手。宝具と呼ばれるそれは、その英霊の代名詞ともいえる彼らが生前に築いた伝説の象徴であり武器やアイテムが大多数だが。

ビリーの場合は愛用していたと言われるコルトM1877ダブルアクションリボルバー、通称サンダラーから繰り出されるカウンターの三連射撃。彼に纏わる逸話が宝具となっている。

 

そして、その威力は――――

 

「――――――ファイア!!!!」

 

――――バァァァァァンッ!!!!!!!!

 

敵の一団を吹き飛ばす事はなくとも、一瞬にしてあらゆるものを確実に撃ち抜く(・・・・・・・)!!

 

先頭を行く隊長の頭を吹き飛ばし、一団の両脇に止められている車のガソリンタンクをほぼ同時に撃ち抜き爆発させる。

並ぶように止められていた車は連鎖爆発を起こし一団を包み込んだ。

 

まさに地獄絵図、自身らがほぼ同じことをしていた事も知らず叫びをあげて逃げ惑うその姿をビリーは無表情で見据えると帽子の再度被り直して笑みを作った。

オークやゴブリンたちが門の先に逃げていき、辛うじて爆発に巻き込まれなかった兵士達を見つけたビリーは声を上げる。

 

「どうする? まだ勝負、する?」

 

(諦めて引き上げてくれれば御の字なんだけどなぁ…………。)

 

言葉は通じなくても雰囲気さえ伝わればいい程度の意味だったのだが、何故か悲鳴に近い声が聞こえた事に落ち込みつつ。

背後から無数の足音とガチャガチャ騒がしい音が聞こえたので彼は振り返ってみた。

 

「動くな!!」

 

「………え?」

 

そんな彼の後ろにあったのは緑の服や黒の服に身を包み、その腕には銃器を携えている。自衛隊と特殊部隊だった。

しかも、その銃口が向けられているのは門から現れた一団ではなく自分である事に彼は気づく。

 

(ヤッベェェェェェェ!! 自衛隊が来るの忘れてたぁぁ!! ああ、もう明らかにボクが不審者で悪者雰囲気醸し出してるし!!)

 

(そんな悪人面してないよね、ビリーは!! あ………アウトローだった…………。)

 

内心穏やかではないビリーは笑顔の下で全力で取り乱す、本来なら普通の少年から別の人物に転生して急に戦う事になった時点で動揺するものだが。

 

「聞こえているのか!! ゆっくりこちらを向いて手に持った武器を地面に置きなさい!!」

 

そんなビリーの内心は自衛隊には届かない。無慈悲である。

ゆっくりと言葉通り振り向いたビリーは笑顔のまま自衛隊を見た、そして口を開く。

 

「聞こえているよ、けどね。ボクにこの銃を置けっていうのは無理があるなぁ。」

 

(ちょっ、何言ってんの!?)

 

今更だが、彼の言葉には度々、ビリーの口調がうつる時もあり勝手に言葉を変換してしまうことがある。

今がその状況である。

 

「ッ!! これは警告だ!! 警告に従わない場合実力行使に出る!!」

 

「へぇ、ボクと決闘するの? いいよ、やろうか?」

 

(よくないよくない!! ほら、あっちも顔険しくなってるって!! こんな所で自衛隊と撃ち合ったら今までの苦労がぁぁぁ……!!)

 

本音で悲鳴を上げて上っ面はやる気満々、自衛隊との修羅場に突入しそうになったその時に、その人は現れた。

 

「―――――待って下さい!! 彼は、私たちを守ってくれたんです!!」

 

「あっ、君はさっきの。」

 

その場に飛び込んで来たのは先ほど彼が助けた女性である。自衛隊との間を縫って出て来たのか長い髪は乱れて服はよれよれになっているがビリーが助けた女性だった。

 

「だから、やめて下さい!! 私たちの命の恩人なんです、貴方も銃を下ろして。」

 

「えっ、いや。でも。」

 

流石のビリーも突然の事に笑みは剥がれて慌てる。ビリーと自衛隊の間に割って入った女性はビリーの元まで行くと銃を構えたビリーの手をつかんだ。

 

「ッ!! その男は危険です、離れて!!」

 

自衛隊の一人が声を荒げて警告したその瞬間だった。

 

ビリーの手をつかんだ女性の手に赤い稲妻が一瞬走る。その光景に誰もが息を止めビリーでさえも硬直した。

 

「ッ!! いったぁ……。」

 

―――――そしてビリーは見つけてしまう、女性の手に赤い文様が浮かび上がって居る事に。

 

「え? 何この模様?」

 

(ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?)

 

女性が驚いた様子で腕の模様を見る中、ビリーは固まり内心で大絶叫する。

 

内心穏やかではない彼を他所に交わった世界の運命の歯車は回りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






え?思ってたのと違う?

許してヒヤシンス。



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「よろしく、マスター(転生でサーヴァントってどうよ……)」



どうも。
前話を投稿して一日後にランキング一覧を見て盛大に吹き出したシアンコインです。

えっと………何でこんなに伸びてるんです? え……コワい(本心)。

あ、あと感想と評価を沢山いただきましてありがとうございます。
嬉しくて励みになります!!

精一杯頑張ります。

だ、駄文注意(本音)





 

 

 

 

 

 

「え、何この模様。」

 

女性がその手に浮かび上がる模様を見て呟いた、見れば彼女の目の前の帽子の男は引きつった笑みで硬直して。後ろで警戒体制の自衛隊やら機動部隊は何が起こったか理解できていないようだ。

手の甲に浮かび上がる赤い文様は三つに分かれておりそれぞれが翼の形を模している。

 

「……ごめん、少し見せてもらってもいいかな?」

 

「え? あっ、はい…。」

 

その模様を見つめていた彼女に帽子の男、ビリーは話しかける、その表情には笑みはなく真剣であった。

彼が女性に一歩踏み出した瞬間―――

 

「―――動くなッ!!」

 

再度、自衛隊の警告が飛ぶ。その大声に一瞬女性は身体をビクつかせ、ビリーは珍しくめんどくさそうに顔を歪めるとその手に持った銃を掲げ文字通り、消して見せた(・・・・・・)

 

「「「……………!?」」」

 

「これで満足かな? ちょっと取り込み中だから後にして。」

 

一同がその光景に口をあけて驚いているとビリーはそう告げて彼女の手の甲を見つめ始めた。

 

(…………この模様は見た事ないけど、明らかに令呪だよな……これ。体でさっき使った分の魔力が少しだけ補給されてるのが分かる……。)

 

(……てか、これでボクはサーヴァント決定なのね!? あの神様、転生させるって言ってたのにサーヴァントじゃ死人と変わらないから!! やっぱ喧嘩売ってるよあのコンチクショウ!!!)

 

「あ、あのー。これが何かわかるんですか?」

 

数秒の後に女性からおずおずといった感じで声をかけられたビリーは笑みを戻して、一息つくと覚悟を決めた。

 

「うん。分かるよ、君はボクのご主人様(マスター)だって事がね。」

 

「…………はえ?」

 

ビリーの言葉にその場の誰もが言葉を失い、当の彼女はやや放心気味に首を傾けて間抜けな声を出した。

この後、門の前で動けずに居た兵士、亜人達は機動部隊、自衛隊により捕縛されこの空に残っていたワイバーンは自衛隊の戦闘機により撃ち落とされた。

 

もちろんこの二人も――――

 

「―――ご同行願います。」

 

「えっ………、わ、私もですか!?」

 

(あっはははぁ………。知ってたけど、ボクの平穏な人生オワタ……。)

 

 

 

 

 

 

 

      ◇

 

 

 

 

 

 

 

「貴女のお名前をお聞かせください。」

 

尾賀 万理(おが まり)……です。」

 

事情聴収、薄暗い部屋の中でやや脅え気味のビリーに助けられた女性、尾賀 万理は口を開いた。彼女の目の前ではペンを持ち紙に何やら書いている男性。

その背後には扉があり警察官が立っている。左隣にはマジックミラーらしきものが壁一面に張ってあって向こう側から誰か見てるんだろうな、と彼女は感じていた。

 

「貴女は何故、あの場に?」

 

「………仕事の休憩時間で小物を買いに出てた所でした。」

 

「ご職業は?」

 

「小さな会社の事務員です……。」

 

「なるほど………。それでは本題に入りますが…。」

 

「はい。」

 

「帽子の男との関係は?」

 

警察が彼女の聞きたい事、それは正体不明、銃器を携帯した人間離れの能力を持つ男の事だった。その姿はさながら西部劇に出てくるであろうガンマンでその射撃は的確にして凶悪。

実際、ビリーがした事は世間一般からすれば大量殺人以外の何物でもないのだ。

 

「よく、分かりません………。」

 

「…………。その場にいた警察官、自衛隊員からの情報によれば彼は貴女をご主人様(マスター)と呼んでいたそうですが?」

 

「それはあの人が勝手に………。話をする前にココに連れられて来たので、分からないんです。」

 

「…………あの男には別の部屋で調書を取らせているので、時期に事実が分かると思いますが、本当の事は最初に言っておいたほうが身のためですよ?」

 

警察官の冷たい視線に充てられて彼女心臓は激しく鼓動を刻む、今までの人生で彼女は大きな問題を起こす事無く優秀な成績を残してきた。

揉め事、荒事とは無縁な人生を歩んできた彼女にとってその視線と言葉はナイフのように深く突き刺さった。

 

(………私、何もしてないのに……。)

 

心の中で必死に自分を保つ、突如現れた門から出て来た軍勢に周りの人が殺されていき。気が付けば目の前には凶器を持って笑う男と切り殺された男性。

血に染まった地面、もう死ぬと感じた瞬間に現れたビリーに彼女は助けられただけなのだ。

 

「あまりご主人様(マスター)を虐めないでくれないかな?」

 

その瞬間、彼女の隣から軽快な声が聞こえた。自然と俯いていた顔を上げて隣を見ると初めて会った時と同じ笑顔をしているビリーがそこにいた。

調書を取っていた警察官は目を剥いて驚き、扉の前に立っていた警察官も慌てて扉を確認するがあいた形跡はない。

 

「一体……何処から!?」

 

「ボクにとっては容易い事だよ。それよりマスター、大丈夫かい?」

 

驚いた表情のままビリーに尋ねる警察官、その言葉を興味なさそうに返すとビリーは万理に声をかけた。

 

「…はい………あの、貴方は何で私をご主人様(マスター)って呼ぶの?」

 

最初に出会った時もその場に最初から居たかのように現れたのを知ってる彼女は、驚くことなくビリーに質問を投げかけた。

その質問にビリーはキョトンとすると、また微笑み彼女の手の甲を指差した。

 

「その模様、令呪がその証だからさ。」

 

「令……呪…? これ……?」

 

「うん、そう。それはボクと君が契約を交わした証、詳しい話はまた二人でしたいから今度ね。ただ言える事はボクは人間じゃない(・・・・・・・)

 

「え………それってどういう「すみませんが、その話はあとにしてもらえますか?」……。」

 

万理の言葉が遮られ眼鏡の警察官が腹立たしそうにビリーを睨んでいた。その表情に圧されてしまった彼女は口を紡ぎ、ビリーはまた薄っぺらい笑みを浮かべている。

 

(あー、めんどくさい。こういうインテリ気質の警察官。)

 

内心毒ついたビリーを他所に警察官は机の上に置かれていたファイルに手を出した。

 

「自分が人間ではないとはご冗談が得意なようですね、ですが今は真面目に話をしています。貴方はどうやって取調室から抜け出してここに入ってきたのですか?」

 

「冗談なんか言ってないさ、それにさっき言っただろう? ボクにとっては容易い事だって。」

 

「答えになっていません、正直に答えて下さい。事と次第によっては刑罰が重くなりますよ?」

 

威圧するように”刑罰”という言葉を使い、ファイルから画像の荒い写真を取り出してビリーに見せつける警察官。その写真にはビリーらしき人影が銃を片手に兵士を撃ち殺す瞬間が写っていた。

 

「それで、何が言いたいの?」

 

「貴方は一体何処の誰で、何故あの場に居たか。そして何故拳銃を所持していたか。全てを吐いてください。」

 

「お生憎様、それは全てボクの企業秘密だから教えられないなぁ。」

 

「…………どうやら自分が置かれた立場が理解できていないらしいな。」

 

飄々と軽い口調で警察官の言葉を返していくビリー。傍から見れば相手を挑発しているとも取れる口調と笑顔に耐えかねたのか警察官は眼鏡を一回外してレンズを拭いている。

ビリーはといえば笑みを崩さない所かより挑発的な笑みを顔に浮かべていた。

 

(………しゅ、修羅場の予感……。)

 

並々ならぬ二人の威圧感に押しつぶされそうな万理は密かに戦慄するも、既に蚊帳の外。最早警察官の視界の中には軽薄な笑みを浮かべた軽い男しか映っていなかった。

 

「お前はもう既に、銃刀法違反、大量殺人、器物破損、往来妨害罪などの罪を犯している事を理解しているのか?」

 

痺れを切らしたかのように声を荒げる警察官の口から出た言葉は、お世辞にも軽犯罪と呼べるものはどこにもない。一歩間違えば情状酌量の余地もなしと見なされ一生牢屋の中か、死刑に処されるだろう。

そんな事実にビリーはほとんど無関心の様子でこう答えた。

 

「うん、それで? 何? ボクをその法に乗っ取って処罰するって?」

 

「その通りだ、言い逃れはできないと思え。」

 

「別に言い逃れなんてしないさ、ボクは確かにあの場で人を殺していたからね。だけど――――」

 

俄然、表情を変えず警察官とのやり取りをするビリー。余裕の態度で接してくるビリーにまた警察官はいら立ちを覚えた。

 

「だけどなんだ!!」

 

「―――――この国では死人(・・)を法で裁くのかい?」

 

いつの間にか目の前に立っていたビリーが警察官の背後に立って肩に手を置く。目前から一瞬で消えて自身の肩に気に入らない若造が手を置いている。

思考が一時止まるが男のありえない動きと言葉が警察官の思考を更に鈍らせる。

 

「死人………だと!?」

 

「ボクの名はヘンリー・マッカーティ・ジュニア、人呼んでビリー・ザ・キッド。よろしく、マスター。それと強面の保安官(・・・)さん。」

 

被っていた帽子を取り片手で持って、わざとらしく立ち上がったビリーは万理にニッコリと笑みを向け。警察官には皮肉を飛ばした。

 

「な、なにを「警部!! 大変です、あの殺人犯が取調室から突如消えましたっ…………て…。な、なんで!!」」

 

警部と呼ばれた警察官の言葉を遮るようにして取調室に入ってきた若手の警察官、その慌てようと言葉から警察官は思ってしまった。

この男は本当に、生きている人間ではないのかもしれないと。

 

それを証明するには証拠が有り余る、数十人の自衛隊、特殊部隊の前で構えていた銃を光に溶かすように消してしまったという証言。この完全に閉鎖された空間に自分たちに気づかれる事無く現れた事。

一瞬にして姿を消して自分の背後に回り込んでいた事実。確かではないがほぼ一人で数百人は居たであろう軍勢と竜を拳銃一丁で撃退していたという報告、画質が荒かったがこれは映像でも確認できた、その異常な身体能力も。

 

今更、彼には恐怖に近い感情が生まれた。自分が今対話している男は笑みを崩さない。その笑みがさらに警察官を追い詰める。立場を理解していなかったのは此方の方だった。

考えてみれば拳銃一つで武器は劣れど軍勢を相手とって勝利を勝ち取った帽子の男、そんな男が大人しく着いて来たのは恐らく自分が尋問していた女性が連行されたからで、想像をしたくないがもしこの女性が男に命令すれば場合によって自分は風穴だらけになってしまうと。

 

そんな思考が警察官の中でフル回転している時のビリーといえば。

 

(あぁぁぁ………。何でこうビリーの口調だと相手を挑発しちゃうんだぁぁぁ!!)

 

身体はうまく扱えても、口調をコントロールできないことに苦悩していた。

 

(早く帰りたいなぁ………。)

 

そして今回の一番の被害者である尾賀 万理はこの状況に涙目で小さくため息をこぼしていた。

 

 

 

 

 

 

       ◇

 

 

 

 

 

 

「早く行かないとッ………!!」

 

警察署の廊下で一人の長身の男がそう呟いた、身なりを黒いスーツで整え、慌て気味な足取りの男はお世辞にも顔は良いとは言えないが凛とした表情でその場を歩いてた。

名を伊丹 耀司といい現役の自衛隊員で今回の騒動、『銀座事件』に置いてその場に居合わせ冷静な判断と機転で逃げ惑う一般人を避難させた所謂英雄である。

 

実際に彼の行動はあらゆるメディアに取り上げられ銀座の英雄、二重橋の英雄を持て囃されていた。もう既に昇進も決まっており彼には並々ならぬ期待があらゆる方面から寄せられていた、が。

実際の彼は――――

 

(――――同人即売会に行けなかったし………親戚が大変な事になってしかも昇進って……。もう平穏な人生は歩めないのかなぁ…。)

 

かなり消極的なオタクであった。今回彼がこの場を訪れたのも彼の親戚が銀座事件に巻き込まれて何の因果か、重要参考人として警察に身柄を拘束されているという事で上司から書類を渡され身柄を受け取ってくる事になったのだ。

抜擢されたのは親戚ならば相手に負担をかけずにつれて来れるという点からだった。

 

(いやいや、そんな泣き言も言ってられない。彼女が大変なんだ、きっと今頃半泣きで脅えてるに違いない。)

 

気を持ち直し目的の人物が居るとされている取調室の前までやってきた彼は、二回ノックしてドアを開けた。

 

「失礼します、こちらに尾賀 万理さんが身柄を拘束されているとの事で伺ったのです……が。」

 

「………あっ……。耀司おじさん!?」

 

「おっ、マスターの知り合い?」

 

そこに居たのは滝のように汗を流している警察官と、瞳に光を灯していない親戚の万理の姿。そして自分の頭部にリボルバーを突きつけている金髪、蒼眼の男の姿だった。

 

(何この状況………。何か見た事あるコスプレの人いるし………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 







という訳で尾賀 万理さんがマスター決定しましたー。
モデル?もちろんgoのあの人です。

さて、平均下がるかな……(ネガティブ思考)


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「さて、どうするかな(これからどうなんの……)」



お、お久しぶりです。シアンコインです。はい。


気が付けばUAが30000突破していて………。

お気に入り数も1500突破してて………。

なんか評価もオレンジ色キープしてて………。


ナニコレコワい(真顔)

内心穏やかじゃない自分に鞭打って書いていたんですが動揺で手が進まず日が経ってしまいました。

申し訳ないです。

そして感想覧で所長の人気を再確認しました。

駄文ではありますが頑張って投稿します、これからもどうぞよろしくお願いします。





 

 

 

 

「こんな体になったからかな……。こんな静かな夜が凄く落ち着くよ。」

 

窓越しに見える夜空を見上げ帽子の男、ビリー・ザ・キッドは誰に伝える訳でもなく呟いた。

彼の後ろにはキングサイズのベッドで横になり静かに寝息を立てている女性、尾賀 万理が居た。

 

(余程疲れたんだろうね……。ここに来るなりへたり込んじゃって伊丹さんとベッドに運んだら寝ちゃうんだもの。)

 

振り向くことなく視線だけを一瞬そちらに向けるとビリーはまた小さくため息をこぼした。彼らが居るのは高層ビルの一室、伊丹耀司により取調室から連れ出された彼女は諸事情によりこのホテルに数日宿泊することになったらしい。

恐らく国のお偉いさん方に自分の存在と彼女の関係を少なからず把握されているからだろうと彼は考えた、前触れもなく現れた巨大な門と軍団、それに触発されるように現れた架空のゲームのキャラクター。

 

門の対処にも苦労しているだろうが、間違いなく自分もその苦労の一つに入っているだろうと感じている。

彼の心境はかなり複雑だった、突然の転生は許容範囲としてもまさか自身が知っていたゲームのキャラクターとして転生し。挙句の果てにはこの世界にも同一のゲームが存在している。

 

そして助けた女性と体が触れれば相手には使い魔(サーヴァント)の証である令呪が浮かび上がっていた。自分がそのキャラクターとして存在している事に少なからず気づいてた彼でもまさか主従関係の相手までが現れるとは思いもせず。

腹を決めて彼女の使い魔(サーヴァント)として居ようと決めたわけだが。如何せんその彼女のビジュアルに今頃になって困惑しているのだ。

 

(あの時はまだ深く考えてなかったけど……。彼女の名前と顔、容姿ってまんまオルガマリー所長を黒髪、黒目にして三つ編みを無くした感じなんだよなぁ………。)

 

オルガマリー所長とは、彼こと英霊ビリー・ザ・キッドを生み出したゲームの中でストーリーの序盤で登場する人物でゲームの中での主人公の上司にあたる存在。

だが、ストーリー上で彼女は不運にもとある事情で姿を消してしまい。彼が知っている中では再登場はしていないのだ。

 

(アホ毛も健在だけど、話をした感じ魔術には精通していないし。高飛車でもない、まぁ小心者で臆病なのは変わらないか………。)

 

その所長と彼女がよく似ている事は良いとして、苦笑しながらビリーは考える。

 

(………まだサーヴァントとしての感覚には慣れていない、けれどこれだけはわかる。”この世界には”聖杯はない。)

 

聖杯、本来使い魔(サーヴァント)として召喚された英霊たちは魔術師(マスター)に従いたった一つの願いを叶える事が出来る聖杯を求め争う。

 

これを聖杯戦争と呼び、本来ならばその時に限ってサーヴァントは召喚され互いに殺し合う。実際にはその聖杯からの補助を受け魔術師は使い魔(サーヴァント)を従えるのだが、その補助も見当たらない。

これは神様がうまい具合に調整してくれたのかと考えたビリーだったが、人の願いを勝手に自己解釈して滅茶苦茶な状態に叩き落とす奴だ。あまり信用できないとその考えを消した。

 

(fateの設定は土台無視って事なのかな………。)

 

本来のこの世界は彼ら英霊が存在する「fate」シリーズの世界ではなく、寧ろファンタジー色を残しながら現代日本の自衛隊が主人公の物語。

それはあの”門”が証明している。

 

本来関係ない存在がこの世界に乱入し本来の筋書きを変えてしまった時点で、この物語は間違いなく歪んでいるだろう。実際、彼の後ろで寝息を立てている女性は自分の知っている物語には登場しない。

もちろん彼もそうである。この先の物語は絶対にどこかが違う別世界。彼の知識はもう当てにはならない、そう気づいたビリーは踵を返して窓際の椅子に腰かけて帽子を深く被り直した。

 

「………考えても仕方ない…。マスターが寝てるんだしボクも寝よう。」

 

(警戒していたとはいえ、伊丹さんには悪いことしたな………。ちゃんと謝ろう……。)

 

あの門も封鎖されているため心配事はない。

それよりも先ほど取調室に入ってきた伊丹に銃を突きつけてしまった事を少なからず後悔している彼は、ボンヤリそんなことを考えてゆっくり意識を手放した。

 

 

 

 

 

         ◇

 

 

 

 

「それで……その、ビリーさんで良いかな?」

 

「うん。大丈夫だよ、ボクは何て呼べばいいかな?」

 

尾賀 万理が宿泊しているホテルの一室で二人の男が机を挟んで向かい合っていた。お互いに微笑みを浮べているものの伊丹の表情からは疲れ、困惑の意が見て取れる。

 

「あぁ、すいません。俺の名前は伊丹耀司、好きに呼んでください。」

 

「それじゃあ、イタミって呼ばせてもらうよ。それでボクに何の用だい?」

 

俄然表情を崩さずフランクな話し方をするビリーに伊丹は調子を崩されながらも、息を呑んで彼の今一番の疑問を口にした。

 

「えっと……。その、もしかして貴方は彼の有名なガンマン、ビリー・ザ・キッドさん……本人ですか?」

 

「彼の有名なんて言われると照れるけど、その通り。ボクはヘンリー・マッカーティ・ジュニア、人呼んでビリー・ザ・キッドさ。」

 

ビリーの言葉を耳にして伊丹の脳裏には携帯ゲームのキャラクターと、自身の従妹である尾賀万理の顔が浮かぶ。恐らくと考えていた事が少しずつ彼の中で確信に変わっていた。

彼の後ろの部屋ではまんま被害者であるはずの女性、尾賀万理が今も休んでいる。伊丹は見逃してはいなかった、彼女の腕に浮かぶ赤い文様を。

 

「それじゃあ、次に………。貴方は自分の存在がどんなものか理解していますか?」

 

確かな核心を得る為の言葉、伊丹にとって最悪な言葉は聞きたくはないがそれでも大事な従妹の事である手前有耶無耶には出来なかった。

できれば「あ、これ実はコスプレで彼女にちょっと付き合ってもらったんですよー。」とか安易な言葉で返してもらいたいと思っている。

 

「もちろん。この”世界”でのボクはフィクションの中のキャラクターだって事でしょ?」

 

「………あぁ。………ご存知ですか…。」

 

「………何でそんな暗い顔してるの?」

 

「いえ……何でもないんです…。」

 

まるで当然とばかりにハッキリ言って返したビリーに伊丹は消沈してしまう、それもそうだ。先の一件で自分は一躍時の人。

昇進決定、英雄やらヒーローやらで持て囃されてしまい。新聞やニュースでも自分の事を見ないというのも難しくなっている。

 

自分が望んでいた平穏で趣味に没頭したい、そんな生活がたった今。

『親戚の従妹がFGOのキャラ、ビリー召喚して契約結んじゃった(テヘペロ)』

 

的な俄かにも信じがたい、いや信じたくない、そんな出来事に現実が王手(チェックメイト)を決められたのだから。

 

(…これ、ボクの登場でもっと話がややこしくなるよねぇ……。)

 

因みにビリーも内心ではかなり落ち込んでいる。一晩寝ても状況は変わらず隣の部屋で昨日の女性、尾賀万理は寝息を立てていたし。

姿も変わらない、銃の取り出しも思いのままで、何も変わっていないのだ。

 

これから起こるであろう一波乱に、間違いなく何らかの形で関わる事になるか。それか、政治的な問題で自分は正体を隠されるか抹消されるか。

はたまた外国、主にアメリカ辺りに存在を知られて世界中が大騒ぎになってしまうか。

 

嫌な憶測ばかりが頭の中で飛び交い、更には不安の種としてもう一つある、彼女。尾賀万理の事だ。

彼女はこの世界で主人公をしている伊丹耀司の親戚、従妹として存在し、現マスター。

 

雰囲気、見た目からして明神が用意したのかと考えたビリー、それとも自身の出現で歪んだ世界に元から居た存在なのかと思考を巡らせるが答えは出るはずもないので考えるのを放棄する。

彼女の潜在的な魔力の保有量が多いのか魔力は微量ながら彼に供給されており、疲れた様子は昨日寝るまで見えなかった。まぁ別の疲れは見せていたが。

 

伊丹から事前に聞いた話では大人しい女性らしく、騒がしい事には無縁なタイプらしい。

 

「……あっ、万理ちゃん。起きた?」

 

「………………ん……。おじさん、なんでいるの?」

 

突然の伊丹の言葉に天井を見上げていたビリーは視線を戻すと、そこにはドアを開けて半開きの瞼を擦りながら寝癖だらけな尾賀万理の姿があった。

一見して明らかに寝起き、朝に弱いタイプなんだろうなとビリーは一人思うとさりげなく視線を逸らした。

 

理由は明確。

 

「何でって……。万理ちゃん、とりあえず部屋に戻って着替えてきて?」

 

寝起き、着替えなし。そこから導かれる答えは自ずと出るだろう。ワイシャツ一枚、かなり無防備な姿で登場した彼女。

伊丹は至って冷静に言葉を返しながら顔を逸らしているビリーを見て一息つく。

 

年頃の女性、寝ぼけているとはいえそんな姿で簡単に人前に出てはいけないだろう。

 

(……………ボクは何も見ていない見ていないみていないみていない。)

 

寝ぼけの万理よりもクールな表情で内心は動転しているビリー、それも仕方ない、彼の意識は少年のままで大人のビリーではないのだ。

 

「……………? …………、………ッ!?」

 

そしてしばらくして今の状況に気づいた万理は二、三回彼らを交互に見ると顔を真っ赤にして慌ててドアを閉めて引っ込む。

大きなため息を吐く伊丹、未だ内心大慌てのビリーの二人を残してその部屋は静寂に包まれた。

 

『夢じゃなかったぁぁぁぁぁぁ!! 見られちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

隣の部屋から聞こえる悲鳴に伊丹は何とも言えない顔で机に突っ伏し、ビリーは風に当たろうとベランダに歩き出した。

彼らの苦悩は続く……。

 

   

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 

『次のニュースです、今から丁度一週間前になります。銀座事件で関係しているとされる帽子の男の情報が入りました。』

 

「イタミー。本当にいい加減情報規制しないと世界中が大騒ぎになるよー?」

 

大型のテレビ前で帽子の男こと、ビリーが呑気にそんなことを口にした。

場所はホテルの一室、変わらずそこに滞在しているビリーと万理の所に護衛兼、万理の保護役として共に滞在している伊丹はめんどくさそうにその視線をテレビから天井に移した。

 

「もう知らないよ、俺はもう何回も上に報告したし。情報規制も入ってるはずなのにやってるんだもん。」

 

「おじさんも疲れてるんだね……。」

 

「万理ちゃん程じゃないよ、どう? 落ち着いてきた?」

 

何処から手に入れたかビリーはポップコーンを片手に床に胡坐をかいてニュースを見ており、その後ろで伊丹、万理が机で茶を飲んでいる。

あの寝ぼけから数日、最初は政府からの取り調べ、ビリーとの関係など事細かく毎日ゆっくりと取り調べを受けてきた彼女は、最初の頃よりも落ち着きを取り戻しメンタルも回復しつつあった。

 

それでもあの一件の出来事は根強く彼女の心に住み着いており、あまり思い出したくない出来事であるらしい。

会社の方は政府の者から連絡が行ったらしく暫くは休業になったとのこと。

 

「うん、取り調べの人も優しくしてくれるから…。」

 

「そうか、良かった。」

 

「マスター。本当に大丈夫かい? 何かあったら呼んで。」

 

そういって万理の身を案じているビリーにも取り調べはされており、最初はメンドクサイと渋ったがイタミと万理に言われとりあえず取り調べを受けている。

最近では自分がゲームキャラクターと自覚しているかどうか等と聞かれるようにもなっていた。

 

その辺の事にはありのまま話してはいるがまだ疑われている節はあるようで、まだ拘束は二人とも解かれていない。

 

「………ありがとう、でももう銃は使わないで欲しいかな?」

 

「えっ!? ボクにそんな事言うの!?」

 

「だって、今の日本には必要ないもの。ね?」

 

儚く笑顔でこちらに笑いかける万理にビリーは驚きながらも渋々銃をしまう。万理自身も最初は突然現れたビリーの事がよく分からなく。

何処からともなく現れるビリーに盛大にビビッて腰を抜かしたり、寝起きに無防備な姿で出くわして悲鳴を上げたりと散々だった。

 

(……何か、所長のイメージが強いから優しく諭されると何も言えないんだけど…。)

 

(でも、本当に落ち着いてきたみたいでよかった。話しかけるだけも一瞬飛び上がるんだもん……。)

 

それでも数日でビリーの努力もあり普通に話を出来るまで仲良くなってきている。

もちろんビリーがどういう存在なのかも説明済みで、その辺の詳しい設定なんかは伊丹によるFGO実戦で理解済みだ。

 

最近では少しずつだが笑顔を彼に向けて話すようになり、幼い頃の万理を知っている伊丹からすれば本当に安心している。

 

『―――そしてこの帽子の男は銃を片手に、一般市民と門の向こうから現れた軍団の間に割って入り。自衛隊が駆け付けるまでその場で戦い続けたといわれています。』

 

そんな時にテレビでは銀座事件での動画が流されていた。画質がすごく荒く悲鳴などが聞こえ揺れている映像には黒い帽子と金髪の人影が見て取れた。

聞こえにくいが銃声らしき音も聞こえ、ビリーの姿が度々移りこんでいる。

 

『本当にそんな事が可能なんですかね? だってあの軍団はモンスターやらドラゴンやらが混じっていたって話でしょう? そんな中で拳銃一つで戦えますか?』

 

その映像の後にはコメンテーターらしき男とニュースキャスターにカメラが向き話し始めた。

男の顔には嫌味たらしい表情が浮かんでおり、明らかにこの映像と話を嘲ていた。

 

『普通ならあり得ない話ですが、実際に証言は幾つもあるようでネットの書き込みや投稿された動画も多いんですよ。』

 

『それにしたってあまりに現実離れしすぎていませんか? 銃一つで軍団を倒せるならとうの昔にこの世界に戦争はありませんよ。仮にこれが本当でも帽子の男がやったことは大量殺人じゃないですか。』

 

わざとらしく肩を竦めて男は笑う、こういう出来事にはこんな言葉は付き物だ。

 

『そんな人物がいるなら私は早く捕まえてほしいですね、一部ではこの帽子の男を英雄視する声も上がっているそうで。大量殺人犯を英雄扱いするんて寒気がしますよ。』

 

(ホントに英霊なんだよなぁ………。)

 

テレビのコメントに伊丹はそんな事を考えて首を振る、仕方ない事とはいえコメンテーターの言葉は間違ってはいない。画面の下に流れる視聴者の言葉は荒れに荒れてはいるが当の本人は素知らぬ顔だ。

 

(まぁ、そういわれても仕方ないね。その通りだし。)

 

して本人も気にしていない様子でポップコーンを頬張っている。彼も数日で気を取り直し殺人を犯した事も受け入れている。

本来そんなに物事を気にしない性分の彼はどうでもよさそうだった。

 

「………酷い言いようだね、この人。……ビリーさんが居なかったらもっともっと被害者が出たかもしれないのに……。」

 

だが、不意に聞こえたマスターの言葉にビリーは思わずポップコーンの手を止めてゆっくり振り返った。

悲しそうに影を落とした彼女に伊丹とビリーは苦い顔をしている。

 

「……………そうだねぇ、ちょっと恩知らずかなぁ。なんて…良いんだよマスター。」

 

そんな彼女にビリーは立ち上がってにこやかに笑って見せて言葉を返した。

 

「…え?」

 

「ボクは誰かに認めて欲しかったとか持て囃されたくてあの場に召喚されたんじゃない、ボクがそうしたいからそうしたんだ。」

 

「ボクは無法者、ボクはボクのやりたいようにやって生きてきた。あの場で君を助けたのも自分がそうしたいからそうした。それだけなんだよ。」

 

「他人がどう言おうが関係ない、連中の言葉なんか気にしていたら疲れちゃうよ?」

 

「「…………」」

 

「あれれ? 二人とも今日は疲れたのかな? それじゃボクは一足先に寝ることにするよ。お休みー。」

 

ビリーの本心の言葉を聞いた二人は何も言わない、それを見たビリーはハッとして笑顔で明るくその場から姿を消した。

 

「……ビリーさん、本当に気にしてないのかな?」

 

「…どうだろうな…。元は昔の偉人、それなりに波瀾の人生を歩んできたんだろうけど。誰かを助けたのにあんな言い方されたら誰でも傷ついちゃうんじゃないかな。」

 

この数日でビリーと過ごしていた二人はその人柄をなんとなく知っている、陽気で優しい人物で確かにあの場でたくさんの人の命を救った英雄であると。

そんな彼が悪く言われているのに納得がいくわけもなく、二人して彼が傷ついていないか心配だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その数日後。

 

 

 

 

 

 

封鎖された筈の門は何の前触れもなく、突然。

 

 

 

 

 

 

強引に開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








門の向こうはちょっぴり待って下さい……………。

そろそろ平均、下がりますよね………?(脅え)


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「笑えないなぁ(うせやろ……)」


…………………あ、シアンコインです。どうも。
寝れないのでサイト開いて絶句したシアンコインです。

何で赤評価……………?

あ、いえいえ。すごく嬉しいです、本当です。
ただ怖いなぁ……なんて…(本心)

これからもじわじわと続けていくつもりです。

感想や評価も本当にありがたく思います。
これからもどうぞよろしく………。





「それでは最後です、貴方は本当に使い魔(サーヴァント)と呼ばれる存在なのですか?」

 

「しつこいなぁ。その通りだって、ボクは使い魔。この問答を何回繰り返したと思ってるの?」

 

ウンザリとした表情でビリーは椅子の背もたれに寄りかかり天井を見上げる。

政府の役人による事情聴取、これはもうマスターの万理と同様に毎日と繰り返されており。これでもう一週間近く経っていた。

 

「申し訳ありません、何分こちらもまだ不明瞭だらけなものでして。」

 

「だったらいっそ、『Fate』シリーズを調べてみればいいじゃない。」

 

「貴方が異例の存在だというのはこちらも重々承知ですが、あくまで空想上の事を信じるわけにも………。」

 

政府の人間は苦笑して不満そうなビリーに言葉を返す。仕方ないとはいえ一対一で化け物同然の人物と話をしているのだ、それなりに彼の言葉は丁寧なものだ。

対してビリーの内心はかなり不満らしく笑みは剥がれ、頬杖をついて大きなため息をついている。因みに取り調べを受けているのは万理や伊丹達と滞在しているホテルの一室である。

 

(いい加減しつこいよ……まったく……。メタな事言っちゃったけど、どうせ調べればいくらでも出てくる情報なんだから、ソコから理解してもらえば一番手っ取り早いし。)

 

依然、門には変化もなくこのまま行けば何も問題なく自衛隊は門の向こう側へ足を進めるだろう。それは物語の進行上、正しい事でそれで終わればビリーも万理も役目を終える形になる。

それでも何らかの制約はつくのだろうとビリーは一人考え、舌打ちするが口には出さず堪える。

 

「それで、この取り調べってやつも終わりでいい?」

 

「えぇ、今日はもう結構です。お時間をありがとうございました。」

 

徐にビリーは立ち上がると役人に視線を向ける、了承の意を受け取って一言、じゃあねと言葉を残してその場から姿を消した。

その光景を見た役人は言葉を失い瞳を擦るがそこには誰も居なかった。

 

(ハァ……。ビリーの事を誤魔化すのも限界がきてるな……。)

 

霊体と呼ばれる誰にも姿を捉える事も、危害を加える事も出来ない状態になった彼は一人ビルの壁をすり抜けて屋上へ飛び出す。

少年であった彼は現状、英霊ビリー・ザ・キッドの戦闘技術と技能、スキルを継承し扱う事は出来ているが。

 

その実、記憶や性格、感情などは継承されておらずビリーについて詳しく聞かれると事前に知っていたこと以外は誤魔化すしかないのだ。

何もかもが予想外の続きで彼はまた疲れを感じており、最近は霊体の状態で誰かの目に触れる事も避けはじめていた。

 

(………………本当にこのまま何も起きずに終わるのか……? ………嫌な胸騒ぎがする…。)

 

英霊になった事により、より敏感になった第六感がビリーに警鐘を鳴らし始めている。彼がビルの屋上から眺めている街並みの先には封鎖され自衛隊らが警備をしている門がある。

それに鋭い視線を向けていた彼は一瞬にしてある事に気づきその場を飛び出した。

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

「…………つかれたぁ…。」

 

「お帰り万理ちゃん、今日は早く終わったね。」

 

ホテルの一室、ドアから顔を出したビリーのマスター。万理は言葉通り疲れた様子で力なく扉をくぐると溜息を吐いた。

その声に気づいた待機中の伊丹が声をかけて微笑む。彼の手元にはノートパソコンが開かれており、何かの作業中に見えた。

 

「うん。……おじさんは仕事?」

 

「あぁー……。仕事というか書類処理と最近テレビでもビリーの事が取り上げる事が多いからさ、ネットではどうなってるか確認したくてね。」

 

頬をポリポリと掻いて伊丹は手元を動かした、上着を脱いだ万理もその隣に座り画面を覗きこむ。

そこには某掲示板やらまとめサイトやらが開かれていた。

 

「いっぱいあるんだね。」

 

「そりゃあねぇ、あの事件からまだ一か月も経ってないから。」

 

画面いっぱいに表示される項目はタグで『帽子の男』『銀座の英雄』『もう一人の英雄』やら様々であり、中には伊丹の事を書いたページもある。

その中でも彼らの目を引いたのは――――

 

『―――帽子の男は英霊の可能性が微レ存』

 

そんなスレッドの名前であった。その書き込みを覗くことにした伊丹はスレッドを開く。

流石に今世間を騒がせている門関係の事だけあって書き込みの量は凄まじい、呆気に取られる伊丹と万理だがゆっくりと書き込みを読み進めていった。

 

『そもそも何で英霊? ただのコスプレじゃねぇの?』

 

『英霊がいるんだったらセイバーを召喚できるという事か!?』

 

『身体にアヴァロン入れてから出直して来い。』

 

『聖杯がこの世界に存在する?』

 

『社長と茸さんは魔術師だったのか!?』

 

『そういえば、社長さんと茸のSNSが凍結されてるんだが……。』

 

話が脱線して何を語っているのか分からなくなってきた二人に、一つの書き込みが映し出される。

 

『武器は拳銃、金髪に赤いマフラー。自分が見た限りFGOのビリーで、現れたその時も地面に魔法陣みたいなのが見えた。』

 

「………これ、あの時にあの場に居た人の書き込みか…?」

 

「…分かんないけど、ビリーさんが出てきてくれた時に一瞬目の前が真っ白になったのは本当。」

 

その書き込みの後には特に気にするような事は書かれていない、それでも世間の目がビリーや伊丹に向いている事は確かに分かった。

伊丹はそのコメントを流しながら見ていき、それとなくビリーがビリーであると少なからず思われ始めている事に冷や汗をかく。

 

(これ……このまま広まったら…本当に国際問題になるぞ……。)

 

ただでさえ架空の存在で扱いにも困っているのに、このまま世界に彼の存在が広まれば間違いなく政府にあらゆる方面から圧力がかかる。

ましてや本当に英霊であればその存在は脅威でしかない、空想上であれその身体はあらゆる近代兵器を無効化しその武器にもよるがそれぞれが街一つを滅ぼしかねない力を持つ。

 

対抗策は彼と同じ英霊を呼び出し戦うか、魔力を帯びた武器、あるいは魔術で倒すしかない。だが魔術というモノが存在しないこの世界ではそれすら実行に移せないだろう。

現状、魔術師(マスター)である万理の言う事を聞いているビリーには害意は見て取れず、このまま何も起きなければ彼女にもビリーにも問題は起きないだろう。

 

それでも悪意は何処にも蔓延っている、ビリーの存在を知ればその力を欲し手に入れようとする奴らが現れるだろうし。

その場合、狙われるのはビリーと契約を交わしてしまった万理であり。ビリーの力の源である魔力を供給しているのは彼女。

 

その供給源を握られてしまえば英霊である以上、従うしか道はない。

 

次に彼女がその手に宿している令呪と呼ばれる刻印は英霊であるビリーとの契約の証であり。

魔術師(マスター)から使い魔(サーヴァント)に対して絶対的な命令を下す事が出来る服従の証でもある。

 

それを使われてしまうと英霊はその命令に従わざる負えない、想像したくもないがビリーが悪用される可能性も少なくないのだ。

 

「……。おじさん、テレビつけるね。何か飲む?」

 

「ん、あぁ。ごめん、ありがとう。麦茶あったらくれるかな。」

 

考え込んでいた伊丹を見ておずおずと、言葉を発した万理はリモコンを片手にテレビをつけて冷蔵庫へ向かう。

偶々ついたチャンネルでは昼のニュースと称して生中継で門の前にニュースキャスターがコメントをしている。

 

「…なんであの門はこんな所に現れたんだろうなぁ……。」

 

「………。……はい…お茶。」

 

「ありがとう。」

 

呟いた伊丹に万理はそっとコップを差し出した。それを受けとっと彼の隣に再び座った彼女はそういえばと思い部屋の中を見渡すが目当ての人物が何処にもいない事に今更気づいた。

 

「あれ?……ビリーさんはまだ帰ってきてないの?」

 

「うん。いつもならまた笑ってテレビ見てるんだけどな。」

 

帰りが遅い自身の使い魔の事を気にしているマスターは手元のコップをボーっと見つめていた。心ここに在らず、まだ受け入れがたい現実に戸惑っている彼女は一人また考え込む。

そんな時だった―――

 

――――ガンッ!!

 

「ぴっ!?」

 

とんでもない音がテレビ越しに彼女らの部屋に響く、口に含んだ麦茶を思わず噴き出した伊丹と変な悲鳴を上げる万理達の視線の先にはテレビ越しに見える巨大な門を封鎖する為に作られたシェルターの扉が歪んでいた。

その扉がどれほど大がかりな物か理解していた伊丹は目を見開き、万理はあわあわといった様子で震えている。

 

二、三回と続いた扉を何かで殴打するような音が止まると瞬く間に、金属音が届く。

その瞬間、一瞬にして言葉の如く切り裂かれた扉は崩れその中からは真っ黒な人影(・・・・・・)が複数、姿を現した。

 

ニュースキャスターの悲鳴を皮切りにその場を警備していた自衛隊、警察官が容赦なくその人影に向けて発砲する。

だがソレはそんなものと嘲笑うように銃弾の雨の中を歩き出す、当たれば致命傷は避けられない近代兵器が通用しない、避けようともしない。

 

そんな光景が映し出され伊丹は戦慄し、万理はその場で顔を隠した。

 

『も、門の向こうから黒い姿の人物が現れて現在、自衛隊と交戦を始めました!! ですが、自衛隊の攻撃は効いていないようでッ――』

 

『―――呑気に話してる暇なんてない!! 死にたくなけりゃ逃げろ!!』

 

それでも報道を続けているカメラマンとニュースキャスター、彼女らの言葉に誰かが割って入った。カメラマンが後ろのにカメラを向けるとそこには尋常ではない速さでその場を駆け抜ける帽子の男が映る。

 

『あ、貴方はあの帽子の『逃げろって言ってるんだ!! 死にたいのか!!』』

 

その声音に反応した万理が見たのは帽子の男こと、ビリーその人で今まで見せたこともないほど必死な形相でニュースキャスター達に声をかけて銃を抜き放った。

銃口が向けれられたのはそのカメラ、カメラマンの悲鳴が聞こえたかと思えば放たれた銃弾は彼らの真後ろに向かい的を射ぬく。

 

慌ててカメラマンが後ろにカメラを向ければナニカが居たのであろう、黒い塊が離散していく光景が写った。

 

「何で……門の向こうからアレが……」

 

「……おじさん…、ビリーさんが戦ってる…。」

 

その手の事を知っている伊丹は驚愕の表情を再度浮かべた後に、万理の言葉で苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

再び訪れた災厄、門の向こう側から再度現れたのは人間ではなくむしろもっと不味い存在。

 

シャドウサーヴァント。

 

英霊ならぬ英霊、英霊に何らかの理由でなれなかった出来損ないの存在。

あらゆるものに害意を振るい、その力は本来のサーヴァントと相違は殆どない。

 

この場に置いて最悪な事は、奴らには近代兵器が通用せず、奴らの頭の中には破壊衝動しか残されておらず、その強さが一騎当千の化け物だという事。そしてこの場が街中であるという最悪な状況である。

 

第六感をもってその存在を少なからず理解していたビリーは、ビルからビルを飛んで門まで駆けつけたが時すでに遅し。

もう既に門を覆っていたシェルターは破壊され、無数のシャドウサーヴァントが進軍を進めている。

 

警備にあたっていた自衛隊が抵抗してはいるがそれもスズメの涙、全くの意味も成さず倒れていく自衛隊を目にビリーはホルスターから銃を引き抜き迷いなく引き金を絞る。見事命中した弾丸は黒い人影を貫きその影は離散する。

この辺にまだ残っていた報道陣や一般人はこの状況に恐怖を感じて逃げ出している、だがそれに目を当てられるほどビリーには余裕はなかった。

 

(……クソッ…。今度は門の向こうからシャドウサーヴァントだって!?)

 

以前は敵なれど、人間を相手にしていた彼からすればこの状況をは望ましくない。守るべき存在がまだいる中で今度は出来損ないとはいえ同じ存在、サーヴァントを一人で相手することになってしまった。

落ち着いてはいられない。それでも自分がやらなければコイツ等はこの都市を滅ぼしかねない。そんなことはさせられないとビリーは奥歯を噛み締め狙いを定める。

 

(シャドウサーヴァントの数は…三体……。一人は恐らくカリギュラ、もう一人はカエサル、もう一人はハサンか……。)

 

その黒い霧のようなモノに身を包みんだ敵をシルエットで誰かビリーは判断していく。先ほどニュースキャスター達に襲い掛かった影を見るに先に見えるあのハサンは百の貌のハサンと呼ばれるサーヴァントだろう。

百の貌のハサンはその人格を他の個体として存在させる事ができるサーヴァント、その数は名の通り百体。

 

自身に自我があるとはいえ、先ほど倒した二体を削っても一対百。圧倒的な数の差に逃げ出したくもなったビリーだが踏みとどまる。

 

「門の向こうからこんにちわってね、ここからはボクが相手するよ。」

 

自身でも無謀だと思うが逃げる道を消したビリーはやけくそ気味に笑顔を作り、銃を構える。

目前でこちらを見据えていた三体のうちの一人、カリギュラと思える影がとてつもない速さで肉薄し拳を振り抜く。

 

「ッ!!」

 

紙一重で体を逸らしその腕をつかみビリーは銃口を敵に向けるが、その刹那には何処から飛んできたか黒いナイフが迫ってきている。声も上げられずにそれを避けようとして顔を逸らせばその隙に腹部をカリギュラにより強打される。

 

「ガッ!?」

 

とんでもない衝撃が彼を貫き体を吹き飛ばす、そのままビルの壁に叩きつけられたビリーは内心でほくそ笑んだ。

 

(やっぱり多勢に無勢かなぁ………。偽物とはいえサーヴァントだもんなぁ……。)

 

まがい物にも実力が届いていないのかと落ち込む半面、ここで終わりなのかと諦め始める心に喝を入れ彼は立ち上がる。

 

(それでも。こいつ等をこのままにするわけにはいかない。)

 

口から吹き出した血をぬぐい、追撃を加えようとするカリギュラを目前に据えビリーは両手で銃を持ち構える。

出し惜しみはしない。そう彼は決めた。

 

「ファイア!!」

 

カリギュラの拳が迫る中でビリーは宝具を放つ、必中の三連射撃がカリギュラに直撃しその体は黒い霧と共に茶色の何か(・・・・・)を残して離散した。

その拍子に無数のダークと呼ばれる刃物が彼に迫り、ビリーはその場を飛びのき回避を試みたが数本が彼の体に突き刺さる。

 

(…………本当に……キツイ……。)

 

腕と足に突き刺さったダークを引き抜き、傷口を抑えながら内心でそう呟くビリーの戦いは始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





評価の話は振りじゃなかったんです……。
どちらかというと不安だったといいますか……。

作者は小心者、ハッキリ分んだね!!

なんかごめんなさい!!

なんでも(ry


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「…スリルがあったね(死ぬとこだった)」

最近、fateの詳しいことを友人と相談していたんですが。
相談した結果。

「明日投稿してくれるんでしょ?(脅迫)」

と、言い渡されたので頑張って今週中に投稿……。

え、日曜?

書き終えたの土曜だからセーフでしょ……(逃げ腰)


誤字報告に感想、評価、本当にありがとうございます。
励みになります!!





 

「―――当たれッ!!」

 

正午、銀座にて無数の爆音が木霊し斬撃が飛び刃がその場を飛び交う。

その中で避難を終えた民間人を誘導する自衛隊、警備に当たっていた警察官等は横目に固唾を呑み込んだ。

 

先には噂されていた帽子の人物が現実に現れ、自分達をまた守るように立ち回り、今度は異形の存在と戦いを繰り広げている。

銃弾は効かない。それは知っている、なんせ自らが撃った弾丸はあの黒い影のような存在には当たる事はあっても通り抜けてしまうのだから。

 

それなのにあの男が手にした旧型の銃で撃たれた影は瞬く間に、霧になって消えていく。

それよりも彼らが目を引いたのは相手の移動速度と、行動だ。

 

「チッ……!!」

 

帽子の男、ビリーはその身体から鮮血を滴らせながらその場を飛び回り、四方八方から迫る刃を紙一重で避け目にも止まらぬ早打ちで撃ち落していく。

地に降り立った瞬間にはその大柄な体を物ともせず俊敏にかける剣を持った影が襲い掛かる。

 

大雑把に振り下ろされた剣の腹をビリーは蹴り飛ばし標的をずらし、その場を飛びのく。飛び退いた瞬間にはその場に再度黒い刃が降り注ぎ地に突き刺さる。

飛び散る鮮血を気にもせずビリーは立ち回り、道脇に止められた車を背にし攻撃を避けてはその隙に数人の影を撃ち抜き消していく。

 

その間は数分にも満たない、まるでテレビの中の映画を見ているかと錯覚してしまうほどにその状況は異常であった。

最早、人間とは思えないほどの速さで行動し、飛び壁に張り付き。攻防を繰り返している。

 

その一撃一撃が必殺と言っても過言ではなかった。

 

実際、彼らは英霊の成り損ねた存在であり基礎能力は英霊と遜色ない。それぞれが一級品かそれ以上の能力を備えその身体から繰り出される攻撃は一般人が当たれば一溜りもない。

ハサン、その場に無数に存在する影の正体の一人はそう呼ばれた暗殺者であり。その能力は本体が持ちえた複数の性格が分裂し実態を持ったモノ。

 

それぞれが本体と同じ暗殺者でありその身体から放たれた刃は、標的の急所を正確に狙い。直撃を喰らえば致命傷は避けられないだろう。

持ちえる武器も様々で大鎌を携える者、短刀を身体中に隠し持つもの、武器を持たずにその屈強な体を思うがままに振るう者も居る。

 

そして、もう一つの影。それは大柄な体ながら俊敏な動きで立ち回り。ビリーから放たれた弾丸を最低限の動きで避け剣で切り払っていく。

かの有名な古代ローマにて皇帝の称号の語源ともなった人物であるガイウス・ユリウス・カエサル。

 

その紛い物であるがその剣の威力は甚大、振り抜かれ標的を見失った剣は地を砕き風を起こしてしまう。

化け物と言えるそんな存在を相手に未だに奮戦しているあの帽子の男は、と考える自衛隊員も中にいた。

 

見れば彼の周りはその影で囲まれ、帽子の男は息も絶え絶えに銃を構えている。

門が開かれあの影が飛び出してきて自衛隊員が攻撃され倒れ押され始めたその時に現れた彼は、その存在を少なからず知っていた一部の隊員は歓喜にも似た表情を見せた。

 

助かった、そんな気持ちが彼らの中には生まれていたが今のビリーの姿は傷だらけで、身体の至る所に切り傷や刃物が突き刺さった跡が見えた。

現在も複数の縄が四方から伸びて彼を拘束し、剣を持った大柄な影が彼に歩みを進めている。どう考えても劣勢であり、必死の形相で縄を振り解こうと、もがいて見えた。

 

あの時の銀座でも、今この時も帽子の男は素性は不明でも一般市民を助ける為に戦っている。

それは明らかだった。その事に気づいた自衛隊の一人が拳を握り痺れを切らして拳ほどの大きさの何かを取り出すと、仲間の制止も聞かずにピンを引き抜いてビリーに向かって思い切り投げた。

 

「――――フラッシュ!!」

 

「ッ!?」

 

その自衛隊員がワザと叫んだ言葉を聞いたビリーは即座に目を閉じる。

刹那、ビリーを中心に取り囲んでいた影、シャドウサーヴァント達は武器を掲げるがそれよりも先に閃光がその場を包み込んだ。

 

――――パンッ!!

 

瞬間、閃光が完全に消え去っていない時に乾いた爆音が一発響いたのを皮切りに連続してその爆音が響き続ける。

 

一人の自衛隊員が恐る恐る瞳を開ければ、そこに居たはずの無数の影は綺麗サッパリ消え失せ視線の先には帽子の男が大柄な影の後頭部に銃を突きつけていた。

 

「………ンド……だ…。」

 

閃光弾のせいで耳がまだよく聞こえない彼には何を呟いたか、分からなったがその瞬間に銃の引き金は引かれ、最後の影は離散する。

最後にはその血で汚れた身体をこちらに向け、汚れた顔で男は微笑んだ。

 

「…ありがとう。」

 

そう、確かに聞こえた時には男は瞳を閉じると光に溶けるように消えて行った。

場に残されたのはその状況に取り残された自衛隊員と、民間人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリーが門の前でたった一人の攻防を繰り返している最中、ホテルの一室から飛び出した万理と伊丹は車を走らせていた。

運転席には真剣な面持ちで伊丹がハンドルを握り、助手席で万理が不安そうに携帯を目にしている。

 

「何で急にシャドウサーヴァントが現れたんだ!! あれじゃ自衛隊の警備も意味ないぞ!!」

 

「……英霊、ビリーさんやあの影には近代兵器は通用しないんだよね?」

 

「あぁそうだ、結局、極端に言えば彼らは幽霊。実体が無い存在に武器は意味を成さない。方法は魔術を帯びた武器か魔術何だけどそんなもの用意できるわけもない!!」

 

珍しく動揺した面持ちで彼がハンドルを切る中で万理は今一度、携帯に映った生中継を見る。

遠目にチラチラと見える人影と黒い影が飛び回り、攻撃をお互いに仕掛けているのは分かるがカメラが彼らの動きについていけてない。

 

残像しか映らないその光景にニュースキャスターの興奮した声が続くだけで、そこから得られるのものは何もなかった。

 

「…おじさん。」

 

「どうした?」

 

「ビリーさん、大丈夫かな………。」

 

「……見た感じ、数で負けているし。多分ビリーは周りを気にして戦っている、優勢に持ちこむのはキツイと思う……。」

 

苦い顔で万理にそう伝える伊丹はハンドルを強く握りしめる。伊丹からすれば予想外の連続の中で更に脅威としか言えない存在が再び姿を現してしまっている。

あの場ですぐにビリーが飛びこまなければ自衛隊員にも死者が出かねなかったが、多勢に無勢である。いくらビリーが理性のある英霊だとしても数の暴力には抵抗するのが精いっぱいだろう。

 

実際、ニュースの中継に耳を傾ければビリーが押されているという発言しか聞こえてこない。

 

「それって……。」

 

「……。ビリーは”あの時”と同じように一般人を守るために行動している。」

 

「……………おじさん、急いで…。」

 

「言われなくても!!」

 

伊丹の言葉に手元の携帯を強く握りしめた万理は俯いていた顔を上げて、凛とした表情で彼にそう告げた、が。

 

「―――――って言っても渋滞なんだよね…」

 

「だったらカッコつけないでよ!!」

 

困ったように顔を下げる伊丹に万理は顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。そんな時だ。

 

――――ピピピピ

 

「ん、俺の携帯か?」

 

ふと伊丹の携帯に誰かから着信が入り渋滞で進まない事を確認してから、電話に出た。

 

「はい、伊丹ですが…。」

 

『―――おう、伊丹。突然でワリィが今どうなってんだ? 例の嬢ちゃんは?』

 

聞こえてきたのは低いながらもしっかりと通る男の声で伊丹は驚いたように声を大きくした。

 

「嘉納さん………。テレビは見ていますか?」

 

『こんな大騒ぎになりゃ誰でも見るだろ、今戦ってんのがお前が言ってた英霊か?』

 

「えぇ…そうです。聴取を受けていた際に帽子の男、ビリーが門の異変に気付いたようで俺達に何も言わずにあの場に飛び込んだようです。」

 

真剣に誰かと話をしている伊丹の姿に万理は隣で、しみじみとその横顔を見つめていた。無理もないだろう。

普段からの彼を知っている彼女からすれば彼が真剣な顔を見せるのは中々無い事で、少なからず彼女は驚いているのだ。

 

『話に聞いた通りならその男は今……。』

 

「えぇ……。ですから自分は今彼のマスターと一緒に門に向かっています。」

 

『無理な事はすんなよ。銀座の二人の英雄が死んだなんて笑い話にもならねぇ。』

 

「…大丈夫ですよ閣下、こんな所で死んだら今度の祭りに参加できないですから。」

 

そんな真剣な表情も束の間で、次の瞬間には伊丹は二ヘラと笑みを浮かべると携帯からは馬鹿でかい声が響いた。

思わず身体が竦んだ万理に伊丹は苦笑しながら挨拶を終えて通話を切った。

 

「知り合いの人?」

 

「まぁね、俺の趣味仲間。それより万理ちゃん中継はどうなってる?」

 

「え、えっと『たった今、思わず目を閉じてしまうほどの光が辺りに立ち込め、一瞬の内に帽子の男を取り囲んでいた影が姿を消してしまいました!! そして今、あっ!!』あっ。」

 

伊丹に言葉を投げかけられ万理は手元の携帯の音量を上げていく、すると興奮気味のニュースキャスターの声がノイズ混じりに聞こえてきたのだが。

ニュースキャスターの驚きの声と一緒に万理も声を漏らす。

 

「え、え、どうしたの!?」

 

そんな様子に慌てて伊丹は身を乗り出して携帯画面を覗いた。

そこには最後の一体の影に銃口を突きつけ、その場で発砲したビリーの姿だった。

 

「倒しきったのか………よかった……。」

 

「………ない。」

 

「へ?」

 

「全然よくない!! おじさん急いで、ビリーさん傷だらけだよ!!」

 

映像の先で離散していく黒い人影を見た伊丹は大きく息を吐いて運転席に座り直し、安心したようにそう呟いた。

だが、対照的に万理は肩を震わせて何かを呟く。伊丹がそれに気づき声をかけるが感情が爆発したように声を上げて万理は伊丹をまくし立てた。

 

「え!? いや渋滞だから進めないって!!」

 

「だったら横の脇道に逸れて車停めて歩いて行こうよ!!」

 

「この車借り物だし、無理矢理言って出て来たから持っていかれたら大変だよ。」

 

「―――――そうだねぇ。よく分かんないけど危ないんじゃない?」

 

「でもビリーさん血だらけみたいだったし、早く迎えにいかないと!!」

 

「―――――大丈夫、もう血は止まったよ。まぁ少し頭がクラクラするけど。」

 

「焦る気持ちは分かるけど、万理ちゃん。落ち着こう、中継が止められたってことは警察や自衛隊が動けるようになったって事だからビリーも大丈夫だ。」

 

「―――――いやぁ、あの自衛隊? の人が投げた光るヤツで助かったよ。危うく消滅するところだった。」

 

「「……………………」」

 

「や、マスターにイタミ。ドライブってやつ?」

 

―――――スパァン!!!!!!!!!!!!

 

「いったぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこは例え過去に何かを成した英雄であれ関係ない、突然姿を消した人物が危険な状況に飛び込み二人を心配させたのは確かな事で。

安心したとはいえ本気で彼の身の心配をしていた二人の前に平然とした表情で、本人が後部座席から顔を出して笑っているのだ。怒らない人間の方が少ないだろう。

 

何も言わず、無表情な二人はゆっくりと横を向いて手を振りかぶる。

間髪入れずに容赦なく二人はビリーの頭をぶっ叩き。油断していたビリーは苦悶の表情で声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁてビリー。話を聞かせてくれるか?」

 

「…う…うん。分かったからイタミ。マスターを何とかしてくれない?」

 

「動かないでビリーさん。」

 

ホテルの一室、血だらけの状態で車の中に姿を現したビリーはそのままこの場まで連行され椅子に座らせられていた。

現状、伊丹は彼の目の前に座り隣で万理がビリーの傷の手当てをしており彼の顔面は包帯だらけである。

 

「無理だな。そうなったら万理ちゃんは梃子でも動かないよ。」

 

「ボクは英霊だから、魔力さえあれば直に回復するんだけど……。」

 

「…………………………。」

 

「あー分かった。分かったからマスター!! そんな顔しないでボクが悪かったから!!」

 

苦笑する伊丹を前にビリーそれとなく手当てがいらない事を万理に伝えると、万理は何も言わなくなり頬を膨らませて瞳が潤ませてしまう。

それに慌ててビリーは撤回すると万理はまた手を動かし始めた。

 

「まず最初に聞きたいのは何でシャドウサーヴァントが門から現れたか、だ。」

 

「……その事だけど、門の向こうが別の世界に繋がっている可能性があるのはイタミも気づいているよね。」

 

「あぁ、もちろんだ。」

 

「言っていなかったけど、本来英霊が召喚されるにあたって必要な聖杯の存在がこの世界では感じられないんだ。」

 

その言葉に伊丹は薄々気づいていたのか手を顎に当て思案顔になった。

 

「多分、門の向こうからアイツ等が出て来たのも。ボクがこの世界に召喚されたのも。」

 

「門の向こうに聖杯が存在するからか……!?」

 

驚き交じりに声を大きくする伊丹にビリーはゆっくりと頷き、隣の万理を見る。

 

(あくまでボクの推測にすぎないけど、それなら門の向こうからシャドウサーヴァントが出て来たのも理解できる。)

 

(そして転生したボクがこの世界にはめ込まれ抑止力として呼ばれたなら、何もかもが説明がついてしまう………。)

 

本来存在しないはずのマスターと自分自身、歪んだ物語の行く先に不安を覚えながらビリーはボンヤリと万理を見つめていた。

 

「………ッ!!」

 

「あいたたたたた!!!」

 

見つめられていた事に気づいた万理に結んでいた包帯をきつく締められたビリーが声を上げ、伊丹は何かに気づいたようで溜息をついた。

 

「何てこった……それじゃあ門の向こうには…。」

 

「聖杯と他のサーヴァントが居るだろうね。」

 

どうしたことか、と頭を抱えた伊丹はビリーを見てまた溜息を漏らしビリーも苦笑いを浮かべている。

どうやらお互いに置かれている立場を理解したようで、ビリーである少年も内心で大きなため息を吐いた。

 

(シャドウサーヴァントが相手だったとはいえやっぱり強かった……。もしあの場で自衛隊の人が閃光手榴弾を投げてくれなかったら……本物の英霊がいたら…。)

 

あの場で自分は消滅していたかもしれないと思い。次、何かあれば自分に勝機があるのだろうか、巻き込んでしまった伊丹と万理を守りきる事が出来るのだろうかと彼の中に不安が募る。

力量が追いついていない事を感じてしまった少年、それは無理もない事で経験があろうと、英霊の身体があろうと中身は別人。

 

本物に近づくにはまだ時間が足りていない。一度、死を経験している少年は現状、死を恐れてはいない。

一番に恐れているのは自分が消滅してしまい、再び現れる可能性があるシャドウサーヴァントと存在するかもしれない本物のサーヴァントによりこの世界が最悪の結末を迎える事だった。

 

「終わったよ、ビリーさん。」

 

「え……あぁ、ありがとうマスター。」

 

そう考えている内に万理の手当てが終わったらしくビリーの腕や足には真新しい包帯と、消毒液の匂いが僅かにした。

隣で鬼気迫るような表情からホッとした様子に変わった万理、それを見てビリーもにこやかに笑みを浮かべる。

 

「……うん…。ねぇ、ビリーさん。」

 

「ん? どうかした? マスター?」

 

「怖く……なかったの? もしかしたら死んじゃうかも…しれなかったんだよね…?」

 

そんな彼女からゆっくりとそう告げられたビリーは口を噤んで、言葉を選んだ。

 

「怖くないって言ったら、嘘になるなぁ。でもねアイツ等を放っておいたらマスターもイタミも困るかなーって思ったから倒したんだ。」

 

だから大丈夫だと、また微笑むビリーに万理は不安そうな顔を綻ばせて頷いた。

 

「でも……次は何かあったら一言欲しいな。」

 

「…うん、分かった。これからはマスターにちゃんと約束するよ。だから笑って。笑顔のマスターの方がボクは好きだなぁ。」

 

自分の両頬を指で押しあげて万理にそう告げるビリー。彼につられて万理も戸惑いながら笑顔を作った。

その様子を見て伊丹もやれやれといった感じで微笑む。

 

「ん? 電話か?……はい、もしもし………はい…はい……え”!?」

 

そんな中で伊丹の携帯に着信が入り数秒の後に伊丹はとんでもない声を上げて、テレビの電源を着けた。そこに映っていたのは―――

 

『―――数時間前に封鎖されていた銀座の門が突然開かれ、正体不明の影らしきものが銀座を襲った事件で現在、政府より会見が開かれようとしています。』

 

『そしてご覧いただけておりますでしょうか。銀座にて門の前で戦ったとされる帽子の男が再び門の前に現れ正体不明の影と交戦を繰り広げていたのです!!』

 

ビリーがシャドウサーヴァントと戦闘をしている場面が合間合間と映されていたのだ。

 

(………まずい……)

 

ビリーがそう感じたのも束の間で彼の後ろでその映像を見ている万理、二人に通話を切ったらしい伊丹が半ば諦め気味に声をかけた。

 

「お偉いさんと………お話しないといけないかも……」

 

最早、逃れる事は出来ない状況に彼らはズルズルと落ちていった。

 

 

 

 

 




何故か予約投稿が働かなかったので、こんな時間になってしまいました。
すみません、次回はキッチリ朝七時に投稿します。

さて、そろそろ読者さんも気づくはず、作者に文才がないことを(本心)

さて、失s………旅行の準備を……(色々準備)


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「暇だなぁ…(何この状況)」

どうも、シアンコインです。
早めに投稿できるかと思ったんですが時間がかかってしまいました……。

感想覧にて自分の発言が皆様を不快にさせてしまうとの意見を頂きました。
この事について不快にさせてしまった方々にお詫び申し上げます。

ここまで評価を頂き驚いていただけなのであまりに気にしないでください。

UAも70000を超えて
お気に入り数も2000突破。

非常にありがたいです、これからも良ければよろしくお願いします。



 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

静寂、いやほぼ無音とも言える状況がその場に広がっていた。

場所は某議事堂の一室。その場に居るのはビリー、伊丹、万理、総理大臣、防衛大臣、他、ボディーガードの皆さんである。

 

「………あのさー。黙ってても話進まないんじゃない?」

 

誰も何も言えない状況とはある意味、すごく珍しい事で別にそれぞれが気まずいと感じているわけではない。

どちらかと言えば政府のお二人に関しては目の前で女性の隣に座り、落ち着かない様子の帽子の男。ビリーが気になって仕方ない様子だ。

 

だがその二人に向かい会って座っているビリーを除く二人は気が気じゃない様子、万理に至ってはまだ何も話をしていなかったのにも関わらず頭が真っ白。

伊丹に関しては帰りたくて仕方のないようだ。

 

沈黙を破ったビリーはすごく申し訳なさそうに片手を上げただけだが、周りの反応は過敏だった。

彼らの後ろに控えていたボディーガードが即座に銃を構え、ビリーに銃口を向ける。周知の事実故に彼らの警戒心は極限までに高くなっていた。。

 

「あ、撃ちたいなら撃ってもいいよ? ボクの方が早いけど。」

 

(………総理大臣、閣下……アカン、アカンよこれ。)

 

標的であるビリーは微笑みを浮かべたまま横目でボディーガードの一人を見据えると、一瞥して片手をヒラヒラと振って興味なさそうに振る舞った。

表面上は、だが。元一市民である少年の内心はただビビッていた。

 

「……いい…。確かに彼の言う通りだな。」

 

総理大臣が片手をあげボディーガードを止め、隣にいた防衛大臣も大きくため息を吐いた。

 

(お、おじさん……。お偉いさんって……なんで……総理大臣!?)

 

(……いやぁ…閣下……、嘉納さんからは嘉納さんと他の人だけって俺も聞いていたんだけど…。)

 

そんな最中にビリーの隣で萎縮気味の万理が伊丹に耳打ちして、抗議をしていた。

実際、総理大臣と防衛大臣、その二人が公務員とは言え一般の人間と、ごく一般市民を相手にするかと言われれば答えは言わずとも知れるだろう。

 

それをひっくり返したのは言わずもがなビリーの存在だった。銀座のあの事件から姿を現した正体不明、驚異的な戦闘能力を有すると言われその風貌から『帽子の男』と安直すぎる通り名を着けられた存在。

一度の出現なれば言葉を濁すなり、正体不明と言い張るなりで時が経てばビリーの事もなりを潜めるだろうと政府の人間は少なからず期待していたのだ。

 

事実、その場でその帽子の男の主人なる女性を保護という名目で言い方は悪いが拘束でき。騒ぎの元、正体不明の人物も成り行きで政府の監視下に収めることが出来ていた。

が、度重なる門による騒動にてビリーは誰の制止も受けぬまま再び公の場に不可抗力とはいえ姿を晒してしまった。

 

これにより規制を掛け、新たな情報を晒すことなく自然に話題を消すという手段は崩れ。偶然にも最悪のタイミングで生中継していたテレビ局の放送からビリーの存在を隠す事は不可能となった。

ぶっちゃけ『門から詳細不明の軍団が現れて、それをどうにかする為に日本のゲーム原作の過去の偉人が英霊っていう存在になって出現したよ!!』

 

なんて、一般人が聞けば病院に行くことを薦められそうな話を国の実質トップが言う訳にもいかず。こうしてトップ自ら帽子の男に話を聞く事にしたのだ。

因みにその際に一番手っ取り早くコンタクトを取れる方法として、現防衛大臣、嘉納太郎の知り合いである伊丹に連絡が入ったのだ。

 

かなり緊張気味の彼ら三人を置いて総理大臣、防衛大臣は挨拶をし、ビリー以外の二人はぎこちない素振りで挨拶を返した。

緊張の糸が少しだけ緩んだのかその場の空気はやや落ち着いてきた。

 

「話は嘉納さんから聞いている、ビリーさん。貴方はゲームの中の人物という事で銀座の門と関係は無いというのは本当ですか?」

 

「うん。それで間違いないよ、ごめんね、先に断わっておくけれど丁寧な受け答えはあまり得意じゃないんだ。」

 

総理大臣の言葉を最初に本題に入った彼ら、総理大臣の質問に対しビリーは帽子を手に取り困ったように微笑みながら頭を掻いて先に謝罪をした。

それは彼が内心で盛大に焦りを見せているからで本来のビリーがこのような対応をするかとか、そんな事は微塵も考えていないのは確かだ。

 

穏やかな表情でその事を受け止めた総理にビリーは安堵し会話が再開される。

 

「では、何故貴方はあの場に、あのタイミングで現れたのかを聞かせていただきたい。」

 

「んー。素直に言えば偶然あの場に召喚されたとしか言えない………それがボクの答えかな。」

 

「…偶然……?」

 

「その通り、本来ボクらサーヴァントは魔術がある世界で聖杯という願いを叶えられる存在を賭けて争う。」

 

「だけどこの世界にはボクらサーヴァントの目的である聖杯の気配がない、もっと言えばボクを召喚するに必要な条件がこの世界に無いんだ。」

 

この時のビリーの言葉に嘘はあっても、悪意はない。自分の状況を話した所で何も話が進まなければ、意味も成さない。

むしろ他の人間を混乱させるだけと本当の事は呑み込んで、自分が知りえた情報から推測を口に出していく。

 

「その条件、というのは?」

 

「大本は確か、地球そのものが現在の世界が破壊されないために呼ぶ……えっと…?「ビリー、抑止力の事か?」あっそうそう。それ!!」

 

ビリーの中の少年が知り得ている情報を思い起こしてビリーが言葉を繋ぐ中で、隣の伊丹が答えを出してくれた。

嬉しそうに伊丹に指を向けたビリーその後に続いて防衛大臣から、言葉を掛けられる。

 

「……よく分からない単語も多いが、伊丹、その抑止力が何と関係しているんだ?」

 

「元々は英霊、ビリーのような存在を呼び出すには先ほどの『聖杯』があって成り立つ事で。その他の方法で呼び出すとすれば、地球が現在のこの世界が何らかの方法で破壊されない様に呼び出すしかないんです。」

 

ここに来て役に立つアニメ知識、本人もこんな場面で役に立つとは思わなかったのかやや苦笑気味でとんでもない事実を口にしている。

次いで言えば、ビリーと伊丹に挟まれて座っている万理は何となく話を理解し自分の存在が忘れられている気がしていた。

 

「だから、偶然なのかどうなのかボクには把握出来てないの。」

 

「まぁ、でもボクが呼び出されたのはきっと。門の向こう側に『聖杯』があってボクは偶然召喚されたのか。門の向こうにある脅威に抵抗する為に呼び出されたか、のどっちかだね。」

 

ビリーの発言にその場の誰しもが口を閉じる、非現実的な事が度重なり起きたこの現状にビリーの言葉に現実味が無くとも確信をもって否定できるものなど誰もいない。

ありえない事がありえない、そんな状況なのだ。

 

「門との直接的な関係はないけれど、間接的にはあるかもしれない。実際、二度目に現れたあの黒い影はボクら英霊に成り損ねた偽物。奴らが現れたなら門の向こうには『聖杯』があってもおかしくないんだ。」

 

だから門を封鎖する事も、破壊してしまう事も得策ではないという事を伝えてビリーは話に区切りをつけた。

 

「……大本の原因を探らない限り、危険は常にあるという事か……。」

 

「やはりこのまま門の向こうに行く事に……?」

 

考え込むように瞳を閉じた総理大臣、その様子に伊丹は恐る恐るといった表情で防衛大臣に声をかけた。

薄々と予想はしていたのもあって伊丹はあまり驚かないでいたが、やはり気が重いのだろう。

 

沈黙が募り始めた個室、静かに出されたお茶を飲んでいた万理は一人。天井を見上げた。

 

(マスターでも……私、空気……。)

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

総理大臣との会合から一週間余り、あの場にてビリーと伊丹は二人に対し、自分の危険性と起きうる問題点を話し現状は門の向こうに行く際。

再び現れかねないシャドウサーヴァントの対抗策としてマスター、尾賀万理。サーヴァント、ビリーザキッドの同行を要請され。

 

ビリーが目的に据えている聖杯の存在の把握も相まって彼は了承、一人取り残されれば何があるか分からない事に気づいた万理もこれを了承。

ついては次にシャドウサーヴァントが現れる前に門の向こうへの進行を進める為に、自衛隊の派遣をする為に急ピッチで準備を進めていた。

 

現在ではビリーに関する映像や写真などの規制が厳しくされ、掲示板などには書き込みが増えるもののそれ以上の賑わいを見せないようになっていた。

 

そして現状、渦中のサーヴァント、ビリー。共に尾賀万理は緑色の防護服と銃器を持った人たちと共に車の中に座っていた。

急ピッチで準備は進められた結果、早い段階での門の向こうへ進むことになり、今日がその日。

 

そんな中、ビリーはつまらなさそうに帽子を取って消してしまい胸元のスカーフも光に溶かしてしまう。

チラチラと視線を向け、その光景を目の当たりにした自衛隊員は口を開けて呆然とし隣の万理は不思議そうに首を傾げた。

 

「帽子、いらないの?」

 

「うん。ボクの事を知っていて逃げ出した奴が向こうに居るかもしれないから、目立つ物はしまっておくよ。」

 

「便利でいいなぁ……。」

 

「そう? ボクとしてはあのテレビで見た青い猫のポケットの方が便利だと思うよ?」

 

緊張感の欠片もない彼ら二人の会話を耳にして自衛隊員の一同は面食らい、伊丹は溜息をついた。

マスターとサーヴァントという関係だからか、最近の二人の仲は良好だった。

 

万理に関してはビリーに命を助けられたという事実と、彼が隣に居るという現実が不安を掻き消し。

ビリーもこの状況で一人にならず誰かと一緒に居られるという事に安らぎを感じている。

 

(………まだ…他の魔力は感じない……気配も無い。………アサシンクラスはこの前倒したけれど…また出てくる可能性もある…。)

 

それでもビリーは顔に笑みを張り付けたまま、警戒心を高める。自身の感覚を集中させてすぐにでも動けるように。

首相による演説が終わり進行が開始された。動き出した先頭の戦車の後続として彼らの車両は進み始める。

 

「…………。」

 

そんな時にビリーは万理の仕草に目が行く。動きやすい格好という事でジーンズにワイシャツと上着、もしものことを考えて防弾チョッキを着ている彼女が心なしか震えてるように見えた。

何て事の無い会話で誤魔化していた恐怖から来る震えを、胸元に片手を寄せて自分自身を落ち着かせているようにも見えた。

 

「……大丈夫、マスターはボクが守るよ安心して。」

 

素直に率直にビリーは万理の頭に触れて言葉をかけた。突然の事に万理は触れられた瞬間大きく震えたがビリーを見て落ち着きを取り戻したよう、だが。

 

「………ッ!?」

 

すぐに万理は気づく、この場は何処か。自分の座っている場所は――――

 

「―――――え、ラブコメっすか?」

 

自衛隊員が集まっている車両の中だという事に。

 

そう気づいた万理は伊丹の知り合いである倉田陸曹からの一言に、恥ずかしさからか顔を真っ赤にして気絶し。慌ててビリーは万理を抱きとめる。

先ほどよりも大きくため息を吐いた伊丹からは哀愁が漂っていたとか。

 

 

 




真面目な話は前書きで終わりとして。
前回に続きまして、私生活でマジで旅に出る事になりましたので次回投稿は先になるかもしれません。
ご了承ください。

ところで、今回のハロウィンイベントのエリちゃんの宝具が『コン・〇トラーV』の超電磁スピンに見えたのは私だけ…………?




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「平和だねぇ(話進まねぇ……)」



どうも、シアンコインです。
気が付けばもう11月も終わりですね…………。

UA数90000突破

ありがとうございます、旅行からも無事帰還しましたのでまたボチボチと更新していきますのでよろしくお願いします。

あ、タグ追加しました。


 

 

 

 

 

「………………。違和感は……無いか…。」

 

一人、幾千もの星が散らばる夜空の下でビリーはスコープを覗きながら言葉を漏らす。

彼が今居るのは門を超えた向こうの世界、視界に広がるは門を囲むように火を灯し数万は居るであろう異世界の軍勢。

 

伊丹達、自衛隊との進行をして数分経たずに門の向こうに達していたビリーたち。

その門を潜った瞬間、ビリーの意識が何故か途絶え万理に慌てて起こされ。二人車両に残されたことを知るとビリーは万理を抱え門の上へ飛び乗った。

 

その際に自衛隊から勝手に拝借したライフルを持ち、伊丹の動向を見守りながら自分の身体の違和感を探っているのが現状である。

スコープ越しに自衛隊の隊員たちの配置を一通り見定め、次に敵戦力を流し見て行く。

 

(……何で意識が一瞬途切れた…? 感覚にしては現界した時に近かったけど……この世界の知識でも入ったのか…?)

 

そう一人思案顔で考えこむビリー、彼がそう考えた理由は当然、自身が転生者であり神という存在が少なからず自分に何らかの補助。ビリーからすれば余計な事をしていると思ったからである。

目先の戦闘は自衛隊に任せれば向こう側に被害があろうと、こちらの被害は最小で済む。自分が出る必要もない、そう彼は考えている。

 

「おじさん大丈夫かな……。」

 

そんな彼に彼の後ろで屈んで自衛隊の方角をボンヤリ見ていた万理が声をかける。

不安そうに先を見つめるその瞳を横目にビリーはスコープから顔を離した。

 

「大丈夫さ、マスター。今、敵は遠くに離れているからね。あのまま突進して来ても彼ら自衛隊に蜂の巣にされるだけだよ。」

 

「…うん。あの、ビリーさん、あの影はまた出てくると思う?」

 

不安にさせないようにと明るく振る舞うビリーは、にこやかにほほ笑んで構えていたライフルを下に向け万理に質問に彼は答え始めた。

 

「………どうだろうねぇ、ボクのクラスは『アーチャー』なのは分かるよね? この前出て来た奴等の元のクラスはマスターも分かるでしょ?」

 

「えっと、『バーサーカー』『アサシン』『セイバー』だよね?」

 

「その通り。もし、この世界で聖杯戦争が行われて居るならば既に三人のサーヴァントを撃破したことになる。」

 

くどい言い回しになっているが、これでもビリーはそれなりに分かりやすく話しているつもりである。

実際の聖杯戦争では七つのクラスが存在し、例外が無ければ六人が敗退すれば聖杯戦争は終結するのだ。

 

この辺の事もしっかり説明するべきかとビリーは考えたが、伊丹の教え込みが上手くいったのか。

それとも単純に彼女の地頭が良かったのかは分からないが万理は理解したようだった。

 

「残りは三人………でもビリーさん言ってたよね。あの影は『成り損ない』だって。」

 

「良い所を突くねマスター。そう、アイツらは『成り損ない』。だからクラスがあるのかも定かじゃないんだ、もしかしたら別でまた現れる可能性もあるよ。」

 

思案顔から平然と疑問点をぶつけてくる万理に、ビリーは笑顔で人差し指を彼女に向けた。

ビリーの脳裏では以前、自身がプレイしていたFGOの第一章。所謂序章のシナリオが思い出されている。

 

序章にとある理由で登場したシャドウサーヴァント達はそれぞれに自我が存在し、クラスを有していた。

だが今回出現したシャドウサーヴァントは自我を持ってはいなかった、その事を加味すると奴等がクラスを有していた可能性はかなり低い。

 

それはそれで面倒な事には変わりなかった、もしただのシャドウサーヴァントならばどこかに存在する歪み。シャドウサーヴァントを生み出している存在がある限り生まれ続けるだろう。

その頻度があまりにも多ければ自身がこの場を離れる事は叶わない。悪ければ物量に負け自身が消滅する可能性も無いわけでもないのだ。

 

できれば、と彼はこのまま暫くは現れる事無く時が過ぎる事を祈っていた。

 

(……もし、仮に。何かが起これば()()がある。もしもの時は……。)

 

吹き抜ける風に髪を揺られながらビリーはそっと胸の裏ポケットの辺りに触れて、まっすぐとその先の暗闇を見据える。

その隣に座りこんだ万理は時折聞こえ始めた銃声に耳を塞いで瞳を閉じていた。

 

刻み始めた時の歯車は本来の筋書きよりもより速く回り始め、物語は更に歪む。

必然の出来事は偶然に変わり、この先の未来をビリーは見据えられなくなった。

 

自身の服、ビリーの胸の辺りが微かに光を帯びていた事にも彼らは気づいて居ない………。

 

 

 

 

       ◇

 

 

 

 

「んー……。はぁ、清々しいほど穏やかな空だねぇ。」

 

門の向こうへと向かったその日のから早くも一週間、状況は自衛隊による武力行使により帝国軍と思われる軍勢は数えきれないほどの犠牲を持って撤退していた。

現状は門の周辺に自衛隊が陣地を築き、その簡易の宿舎でビリーと万理はシャドウサーヴァント及びこの世界の事を探っていた。

 

探るといってもビリーが門の周辺に気を配り不審な影が無いか警戒するほどで、元々魔術の心得が無い万理はビリーに付き添って周辺を見て回るだけだった。

チラホラと訓練している自衛隊員や、警備に当たっている隊員に笑顔で挨拶するのが二人の日課になりつつあった。

 

「そうだねぇ。空気もおいしいし……アーチャーはもう何も感じないんでしょ?」

 

「うん。今のところは何の気配も感じない、もしアサシンクラスが居るならとっくに何か行動に移すだろうしね。」

 

当然のように万理に『アーチャー』と呼ばれたビリーは言葉を返す。今までビリーと呼んでいた彼女だが伊丹とビリーによる判断で第三者が居る場所では彼の事は『アーチャー』と呼ぶようにしたのだ。

門の向こう、"特地"では別段と意味のある事ではないが。何も知らない隊員にも素性を知られる事はあまり望ましくない。思いがけない場所から情報が漏れる危険性を顧みての事だった。

 

「良かった。このまま現れないといいね。」

 

「そう? ボクとしてはスリルが欲しかったり――あぁ、ウソウソ。冗談だよマスター。」

 

だから怖い顔をしないでくれ、そう困ったように告げるビリーに万理はフイッと顔を背けて拗ねてしまった。常日頃から共に居ると言っても過言にはならない関係になった二人。

万理自身も、ビリーの軽口には慣れているし。理解もしているが彼のこういう発言はあまり好ましく思ってなかったのだ。

 

「私、アーチャーのそういう冗談は好きじゃない……。」

 

「ごめんよマスター、だからそう膨れないでよ。――でもその言い方だとそれ以外はボクの事好きなのかい?」

 

そうぶっきらぼうに答えた万理の言葉にビリーは困ったように微笑み謝罪をするが、それと同時にあげ足を取ってニンマリと笑う。

瞬間、万理の顔はトマトの如く赤く染まり両手の拳が強く握られ振りかぶられた。

 

「――――ッ!!!!!!!」

 

「へ……?」

 

その速さは油断していたとはいえビリーの予想を超えた行動、ビリーの失敗の原因は穏やかで優しく暴力の類を好まない彼女は()()()行動には出ないだろうという驕り。

そもそも彼からすればちょっとからかっただけの事にそこまで過敏に反応するとは思っていなかった浅はかさ。

 

(ラブコメか………)

 

(若いねぇ……)

 

(あれが……帽子の男……?)

 

主人と使い魔という関係で回路が繋がっている彼らは身体を通した主人の照れ隠し(スキンシップ)も可能だったのだ。

警備または任務中の自衛隊員が横目でその場に蹲るビリーに内心、合掌しながら歩みを進めていき。

 

(リア充爆発しろ)

 

(妬ましい、ああ、妬ましい)

 

その光景に一部からは嫉妬の怨念が向けられている事を気づきもしなかった。

 

 

 

 

         ◇

 

 

 

 

「アーチャー、お前の意見が聞きたい。ちょっと付いて来てくれないか?」

 

「…あ…あぁ……。分かったけどイタミ……ボクちょっと肩がすごく痛くて………。」

 

「自業自得だろ。万理ちゃんは優しい子だけど、暴走すると手におえないんだ。マスターの事は把握しとけ。」

 

ビリーがマスターから両肩にダメージを受けて数刻、どうやらその一連の流れを見ていたらしい伊丹に声を掛けられたビリーは辛そうに声を返した。

万理に至ってはその場に居る事も恥ずかしくなったのか、それともバツが悪くなったのか走り去ってしまっている。

 

「マスターの腕力って……実はAくらいあったりしない?」

 

「俺の従妹を英霊と一緒にするな、それに万理ちゃんはそんなに力持ちじゃない。」

 

「だよね……。」

 

「……今回の進行で俺達自衛隊の拠点はもう一通り準備が出来た。そろそろ調査隊を編成してそれぞれこの特地を調べる意向が出ていてな。」

 

伊丹の後ろをゆっくりと付いていくビリーに彼から今後どうするべきか、そういう意見を聞きたくて呼びに来たとの報告を受ける。

 

「どう思う? 現状他のサーヴァント、シャドウサーヴァントは確認できていない。お前の話だと気配も無いってことだが……。」

 

「賛成って言いたい所だけど、あまり気乗りはしないなぁ……。」

 

微笑みながらも若干言い淀むビリーの様子に伊丹は何かを察したように溜息をついて空を仰ぐ。

 

「そりゃあ、そうだよな。お前にとっちゃ万理ちゃんを護るのが役目で、しかも門の事も気にしてるんだもんな。」

 

「流石にボクだって人が一方的に蹂躙されるのはイヤだからね。それとイタミ、溜息ばかりついてると幸せが逃げるってマスターが言っていたよ。」

 

ビリーの言葉に、誰のせいだよと苦笑して目的の場所に着いたのか立ち止まり拠点の中では比較的大きいテントの入り口を開く。

先に中に入った伊丹に促されビリーも後に続き中に入ったところでビリーは感づいた。

 

(あっ、これ、また偉い人と話す奴だ………。)

 

時すでに遅し、彼の視界の先には何やら机に座った眼鏡の男性と話をしている伊丹がおり傍らで作業している方々からも視線が飛んできている。

伊丹に手招きされ彼の隣に立つと眼鏡の男に訝しげに見られるビリーだが、慣れたもので笑顔は崩さないでいた。

 

改めて男性から説明を受け、この地の地理、宗教、政治形態、産業の調査をする為に六つの部隊を編成し各地に散らばり情報を集めるとの事。

その事にあたり、例外のビリーの意見を聞かせてほしいとのことだった。

 

「…………行くなら一部隊だね、それ以上行くのはボクは賛成できない。」

 

数秒、考えたビリーはそう答えた。ここまでは彼の知っている物語と遜色は無い、言うなれば自衛隊が進出する時期がずれている事と自分という異例が居るという事だが。この際その事は除外して判断を下す。そして、この場で拠点から動くのはやめておいた方が良いと意見も出来たがこれは彼なりの考えからの言葉だった。

現状、この国の軍勢は撤退しこの丘への進行は止んだ。それでも危険が解消されたわけではない、新たにシャドウサーヴァントが現れないという可能性は何処にもない。

 

もし自分がこの場を離れ、拠点にシャドウサーヴァントが現れれば抵抗も虚しく突破されるのは目に見えている。

かといって彼がこの場に留まり続けても状況は好転しない、この世界がどうなっているのかをせめて確かめる必要があった。

 

その為に、部隊の数を一つに限定し自分がそれに同行するという考えを彼は導き出した。他の誰かを犠牲にするという考えは彼の中に存在しない。()()()ビリーならば仕方ないと切り捨てるかもしれないが、()()ビリーは誰かの命までも惜しんでいたのだ。

そして一部隊ならば襲撃を受けても自分が対応できる、最悪の場合を考えて車両のどれかにオートバイを乗せてもらえればこの拠点に戻る事も可能だと。

 

「一部隊か……だが、それでは効率が下がる。」

 

「効率が下がるって言うなら、無理に出撃させてあの影に遭遇すれば彼らは死ぬよ? それこそ、その先の効率に影響するんじゃない?」

 

返された言葉にビリーは冷淡に答える、いつになく微笑みを消したビリーはその場で思考を更に巡らせた。

 

「仮に、他の部隊が居たとしてもボクが同行できるのは一組だ。他の部隊が影、シャドウサーヴァントに遭遇すればまず戦闘は避けられない。そんな状況でボクが救援に向かうとしても新たに他の部隊の前にシャドウサーヴァントが現れないという確信もない。たらればの話をしていたらどうしようもないけど、選択肢は二つに絞りたいんだ。」

 

一つは部隊の護衛を継続する、もう一つは拠点に出現したシャドウサーヴァントの撃破。

部隊を分けるにしてもこの身一つでは対処ができないと改めて実感し、条件を限定する。これが却下されればそれまでだが是が非でも伊丹の部隊に同行するという意思を彼は見せた。

 

「どうだい? ボクの頭でもそれなりにいい答えが出せたと思うけど?」

 

真剣な顔から切り替えてニッコリ微笑み、ビリーは隣の伊丹に話を振る。彼の頭の中はすでにパンク寸前。

元々楽観的な性格だが、ここに来て問題が山積みな現状と思った以上に居るであろう『敵』の動きが見えない事で彼は心の何処かで余裕をなくしていた。

 

身体は霊体、人ならざる者だとしても中身は一般人でしかない。見え隠れする自分の焦りを拭い払うようにビリーは笑顔の仮面を張り続ける。

状況が好転する見込みは何処にもないが、それでも行動を起こし変化が起きることを彼は祈った。

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、何処までも人間な使い魔は気づかない

 

 

 

 

――――もし、他に理性の存在する使い魔が存在し、好機を伺っているとすれば

 

 

 

 

――――もし、戦闘能力としてビリーの特徴を知っている存在だとすれば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………貴女……誰?」

 

「警戒しないで欲しいのだけれど……。貴女と貴方の使い魔(サーヴァント)に話があるの。危害は加えないわ、どうやら知り合いみたいだから。」

 

 

辺りには眠らされた警備兵、自衛隊が転がるその場で、警戒した様子の尾賀万理の前に小柄な人影と小さな人形が佇んでいた。

 

 






寒いときは布団をかぶると幸せになりますよね。
本読んでもいいし、ゲームしても良いし。

あぁ、エクステラ楽しいんじゃぁ………。




ジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィ………?

fgoのイベント始まったら皆さん頑張って下さいね、作者も頑張って周回s(ry


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「……ごめん、イタミ」(ホントにごめんなさい……)



………ども、シアンコインです。


………年末ですね………。


最近毎日、日がすぎるのが早いです。日は早く沈みますし………。

とりあえず…………。

遅くなってすいませんでしたぁぁぁぁぁ!!!





 

 

 

 

 

「………アーチャーのお知り合い、ですか……?」

 

おずおずと尾賀万理は疑問を口にして目線の先の人影、小柄な体型の少女に問いかける。見ればその傍らには軍服らしき服装の小さな人形が浮遊している。

容姿とその手に携えた分厚い本、言葉に万理は警戒心を強めていたがそれと同時にアーチャー、ビリーの知り合いだという言葉と口ぶりからして彼女が何か知っていると確信を得ていた。

 

「直接的な対面はなかったけれど、共通の敵を打倒する為に共に戦った事に違いはないわ。」

 

まぁ、彼の方が先に倒れたけどね、と付け加えて遠い日の事を思い出すように目を細める少女。その姿と言葉に万理は相手は敵対する存在ではないと思ったのか強張った身体の力を解いていく。

 

「けれど驚いたわ。時代も文明も何もかもが違う異世界に召喚されて、あの時代でのお仲間がまた召喚されているんですもの。」

 

「あの……先に倒れたって……ビリー…アーチャーが負けたんですか…?」

 

「英霊にも格があるわ、彼はその中でもトップクラスの英霊と戦って敗れた。何を思ったのかは知らないけれど彼にその事を言うのはやめておきなさいな。男性は変な所でいがみ合ったり気にしたりするものよ。」

 

同情と優しさは違う、例えそれが中身がまるで別でも真実に変わりはない。その言葉でビリーがどう感じるのかは二人には分かりはしないが万理は言葉を呑み込んだ。

一方、その小柄な女性の脳裏には白いネコ科とバチバチ系紳士がいがみ合っている様子が浮かんでいた。

 

「自己紹介がまだだったわね、私の名は……まぁ彼が知っているでしょうけど『キャスター』を名乗らせてもらうわ。アーチャーのマスターさん。」

 

仕切り直すように遠くを見つめていた瞳を瞬かせ女性はニッコリ微笑みそう告げた、彼女の隣を浮遊していた人形はゆっくりとその肩に乗っかり敬礼のポーズをとっている。

その光景にやや気持ちを絆されかけた万理の思考に『キャスター』という言葉が駆け抜け、身体を強張らせた。

 

彼女の叔父、伊丹からの教えによれば使い魔。サーヴァントであるビリーは本来は聖杯戦争と呼ばれるもので願いを叶える聖杯というものを賭け争うという話を聞いていた。

聖杯戦争には7つ、それぞれのクラスを持った英霊が召喚される。そして最後の一人になるまで戦い続けるサバイバル。それはつまりサーヴァント同士が出会えば開戦という事になる。

 

即座に回転しだした万理の思考は、自身の前に現れた自称『キャスター』がどんな人物で、自身の置かれている状況の把握に努め始めていた。現状はあまり良いとは言えずむしろ悪いと言えるだろう。

本来の聖杯戦争がこの特地で行われているのならばこの場で『アーチャー』のマスターである自分が狙われてもおかしくない事は彼女自身も理解している。

 

既に邪魔が入らないように付近の自衛隊員は眠らされてしまい、魔術的なモノで人払いをされているのか彼女等の周りには人の気配がまるでない。

頼みの綱であるビリーも未だ現れてくれない。やや慌て気味の中で一つの案が思い浮かんだ。それはあまりに運任せな判断ではあるが目前のような英霊には対抗するすべがない彼女にとって出来る最善策でもあった。

 

なにより―――

 

(この前は……私が助けて貰った……。だから次は私がビリーさんの助けになる…!!)

 

自分が死ぬ又は魔術的な何かでビリーに何らかの危害が加わる事を良しとしない、万理の本音が彼女を突き動かした。

 

「私は…尾賀万理と言います……。一応アーチャーのマスターです。それで、何が目的ですか?」

 

「………立ち話も良くないわ。それに貴女も彼が居なくて不安でしょう? 彼の元まで行きましょう?」

 

「え? でも……」

 

「『なら何で彼と一緒の時に現れなかったの?』とでも思った? もう既にね、私は目的を達している。だから何も問題ないのよ。」

 

それとは別にキャスタ―と名乗る女性は万理の表情を見るなり、辺りを見渡して口角を上げる。

その表情は何処となく感心したような、何か面白い物を見つけたと言わんばかりに生き生きとし、万理に淡々を言葉を返した後。彼女の横を通りぬけて笑みを浮かべた。

 

悠々と足を進め万理はキャスターの後をついていく。

 

 

――――その場に寝転がっている自衛隊員達を置いて。

 

 

後日、彼らにキツイ説教と訓練があった事を万理は知らない。

 

 

 

 

       ◇

 

 

 

 

 

「…………………」

 

「なぁ……アーチャー…」

 

「何だい、イタミ。」

 

「……聖杯戦争ってさ、殺伐としてるイメージが俺はあったんだよ。」

 

「うん。」

 

「英霊たちが凌ぎを削って争う、気高きイメージ。」

 

「うん。」

 

「その中でのマスター達の成長と戦いも大事な物だと思ってるんだ。」

 

「そうだねぇ……」

 

「でもさ、俺の目の前では―――」

 

「マスターが、キャスターに魔術の手解きを受けてるねぇ………。」

 

正確には簡易魔術の手解きである、数十分ほど前。何者かの気配を感じたビリーは即座にその場を後に万理を探して飛び出し、丁度歩き出した彼女らを見つけ拳銃を構えたのだが……。

時すでに遅し、万理には気取られぬようにキャスターは彼女の肩に自然と小さな人形を座らせていた。万理自身警戒しているのだろうがそれが意味をなしていなかった。

 

無駄な行動は万理(マスター)に危害を及ぼす可能性がある、今更彼は万理から離れていた事を悔やんだがそれも遅すぎた。

内心で自分に対し舌打ちをしたビリーは、余裕の表情でこちらを見据えていたキャスターに薄っぺらい微笑みを向け出迎えた。

 

結果、キャスターが万理の素質に気づき興味があれば簡単な魔術を教えると申し出た。訝し気なビリーと伊丹を置いて意外と乗り気な万理はその誘いに乗ってしまい現状に至る。

 

(キャスター………。てかどう考えてもエレナ・ブラヴァツキ―だよね。こうして本物の英霊を見るのは初めてだけど何となく……気配が違うな。)

 

キャスター、エレナ・ブラヴァツキ―。ビリーと同じくFGOにて登場した魔術師のクラスを持つ英霊。

自身とは違い、本物と相対するとは思いもしなかったビリーの内心は落ち着きがないがどこかでホッとしていた。これがもし目玉が凄い青いひげの人だったり、小柄なハンサムボイス、または鋏を持った悪魔だったらビリーの胃に穴が開いていた事だろう。

 

(で、どうなんだ? 怪しい素振りとか見せてないか?)

 

(うーん、ボクは英霊だけど……あくまでガンマンだからねぇ……)

 

そんな中で隣の伊丹に耳打ちされたビリーはそことなく辺りを伺い彼女らを見据えるが、特にこれと言って変な所は無いように見えた。

というより―――

 

(ボクにそんな魔術とか高等技術を理解する知識も技術もないからぁぁぁぁぁ!!)

 

中身が人間の彼にそれを理解する術を持っていないのが本音でそれっぽい言葉で伊丹を誤魔化していた。

幸いな事に瞳が泳ぎまくっているのに誰も気づかなかった。

 

「――――よし、後は貴女の努力次第ね。気になる事があればまた聞いて頂戴。」

 

「あ、ありがとうございます…キャスターさん。」

 

「よくってよ、この位どうってことはないわ。自己防衛が出来るようになれば彼も喜ぶでしょ?」

 

やや焦り気味のビリーを置いて、どうやら魔術の手解きは終わりを迎えたらしくキャスターはニッコリ微笑むと開いていた本を閉じ。

万理は立ち上がって礼を言っていた。意味ありげに横目でビリーを一瞬見据えたキャスターにビリーは頭を抱えた。

 

「何をマスターに教えてくれたんだい? あまりボクは魔術に詳しくなくてね。」

 

「比較的簡単な物よ、アクセサリを介して行う魔力を収束して放つ魔術と障壁を形成する魔術、あとはオマケ程度だけど治癒魔術。後者二つは練習が必要でしょうけど貴方が居るならさほど気にすることはないわ。」

 

これよ、と万理の腕に巻かれた紫色のブレスレットと文様が刻まれた白い手袋を指さしたキャスター。それを見て納得したようにビリーは頷くと立ち上がる。

 

「どうだいキャスター、ちょっとその辺を見て回らないかい?」

 

徐に取り出した帽子を被りビリーはテントの出口を指さしてそう伝える。その表情はニコやかだが何処か真剣な雰囲気が垣間見えた。

 

「あら? 貴方からそんなお誘いが来るとは思わなかったわ。」

 

「こんな綺麗なお嬢さんを見たら誘わない方が失礼だとボクは思うな。」

 

そんな彼の言葉にキャスターはキョトンとすると、疑問を彼に投げかけるが彼の軽口に乗せられて歩き出す。

 

「ふふ……よくってよ。行きましょうか。」

 

「お、おい。ビリー。」

 

「任せてイタミ、マスターを頼んだよ。」

 

「アーチャー……。」

 

引き留めた伊丹にビリーは微笑むとそのまま足を進める。彼の耳に届いた小さな声にビリーは振り返り声の主である主人を見つけると片手を上げ微笑んでその場を後にした。

互いに何も発さず、ビリーは拠点を抜け、自身が主人の元まで最短で辿り着けて近くの警備の者や自衛隊が近づかない小さな丘で足を止めた。

 

「さて、改めましてかな。キャスター。」

 

「そうね、アーチャー。ごきげんよう。」

 

社交辞令としてお互いに頭を下げるが互いに警戒は解かない、彼にも聖杯戦争が絡んで召喚されたであろう者同士、無駄な戦闘を避けるための判断であった。

時折吹き付ける爽やかな風に両者の髪は揺れ、木の葉が舞う。見定めるように交差する視線、数秒の後にビリーが口を開く。

 

「あまりまどろっこしいのは好きじゃないから、単刀直入に聞かせてもらうけど。キャスター、君は何が目的だい? ボクの命か、それとも――」

 

「命のやり取りをしに来たわけじゃないわ。どちらかというと仲間を探していたのよ。何にも染まっていない純粋な仲間を。」

 

「その言い方だと、()()もそういう事になってる訳かい?」

 

「察しが良くて助かるわ。そう、今回もこの聖杯戦争は異例(イレギュラー)が多発してるわ。まず貴方も遭遇したでしょうけど英霊ならざる者、そして――――正体不明(unknown)。姿形が把握できない存在がこの世界で無造作に暴れまわっているわ。しかも汚染された聖杯を持ってね。」

 

背中に冷たい何かを感じたビリーは眉を顰め視線を丘の向こうの大地に向け、思考を始める。キャスターの口ぶりからして彼女はもう既にこの世界の全貌を掴みかけている。そうしても尚、他の使い魔(サーヴァント)に協力を求めている。

それだけで事の重大さが目に見えてしまい彼は理解してしまった。

 

(こりゃ……本当にボクも覚悟を決めないといけないみたいだね……。)

 

薄々と自分が大きな壁の前に立っている事に気づき始めていたビリーは諦めたように薄く笑い、納得してしまった。そんな彼の横顔を見てエレナは仕切り直すように咳払いをして話し始める。

 

「私が呼び出された大前提として、勿論この世界には魔術基盤が存在するわ。けれど人類の歴史上、エルフやオークの様な空想上の存在は明らかになっていないしこの国を総べる王族の名も記録にはない。あまり認めたくはないのだけれどこの世界は異世界か、または汚染された聖杯が作り上げた幻か、貴方なら答えを知っているんじゃなくて?」

 

「前者、異世界だよ。ボクとボクの主人が保証する。」

 

「やっぱりそうなのね………。となると、差し詰め貴方達はこの世界と繋がった私達の知る世界から来たのかしら。」

 

「凄いね、その通りさ。」

 

「驚く事かしら、この世界に現代技術がある時点で答えを言っているようなものよ。」

 

ま、勘でもあったけれど。と慎ましく笑いキャスターは近場の木の幹に寄りかかり空を見上げている。

 

「どうかしら、アーチャー。貴方が良ければ手を組まない?」

 

木漏れ日に照らされながらも、キャスターは視線の先で背を向け何処かを見ているビリーへと申し出をした。この場でビリーには彼女の提案を断る理由は何処にもない。

寧ろ良い機会だ。主人である万理を護らなければならないビリーは、既に行動を制限され手詰まりに近い、誰かの助力を何処かで求めていた。故に答えは一つ。

 

「レディの頼みとあれば、断わるわけにはいかないね。なんて、こちらこそよろしくお願いするよ。主人に色々と教えて貰っちゃったしね。」

 

「えぇ、よろしくアーチャー。もう知っているでしょうけど改めて名乗らせてもらうわ。私はエレナ・ブラヴァツキ―、クラスはキャスター。」

 

「ボクはウィリアム・ヘンリー・マッカ―ティー・ジュニア。人呼んでビリー・ザ・キッド、クラスはアーチャーさ。」

 

了承の意を込めてビリーは振り返り、手を差し出しキャスターはそれを掴み立ち上がった。お互いにこやかに自己紹介を済ませビリーは一度戻ろうと提案し二人は歩き出した。

 

「でさ、キャスターはどうしたいんだい? ボクは一応、彼ら自衛隊の警護と門の先にある世界の防衛を任されていてね。今、彼らの意向でこの世界の調査を行おうとしているんだ。」

 

「私は他に私のように汚染されずに召喚された英霊を探して、飛び回っていたのだけれど…貴方に会う事が出来たし、今の所は無いわね。強いて言えば正体不明への抵抗として他の英霊を探したいのだけれど………そうね…。ちょっと私にいい考えがあるわ。」

 

(あ………これ、不味い奴だ。)

 

足を進めながら会話をしていると、徐に彼女は辺りのテントやこちらに視線を向けている自衛隊員を見てニヤリと笑みを浮かべた。

同時にビリーは内心でキャスターの言葉に、一種のテンプレと不安を覚えていた。

 

 

 

 

 

      ◇

 

 

 

 

 

「……………ごめん、イタミ。」

 

「いや……良いんだ、死人が出ないなら……それで……」

 

自衛隊仮拠点、離れのテントにて二人の男が項垂れ夜空を見上げている。その表情は暗く、虚ろとも言えた。

 

Xa-xa-xa-xa-xa-xa-xa-xa(アッハッハッハッハッハッハッハッ)!!」

 

背後には机の上に並べられた自衛隊の装備一式を取り囲むように魔法陣が形成され、その手前で本を片手に高笑いするキャスター。

そして――――

 

(………これが……魔術……!!)

 

瞳を輝かせてその光景を見つめる、一人の主人(マスター)の姿があったとか……。

 

 

 

 

 

 

 






え? エレナさんの口調変? 気のせいじゃないですかね(すっとぼけ)

七章も来まして、遂にソロモンですが皆さんはどこまで進んでますか?
自分はメドゥーサ(ランサー)狙ったらエルキドゥ来て色々折れました………。

今年中にはあと一回は更新すると思います、では。


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「そう怒らないで(何このトンデモ技術)」


私「去年あと一回は更新すると言ったな。アレは嘘だ」

                  
                    友人<うわあああああああああああああああ


新年あけましておめでとうございます。
冗談はさておいて、更新が滞ってしまい申し訳ありません。

中々に忙しく書く暇がありませんものでして…………。
そこでナイフを構えないでください何でも(ry


 

 

 

 

夜更けの特地では『アルヌスの丘』と呼ばれるその場所で男は一人、丁度いい大きさの岩に腰かけ徐々に上る太陽を背にまだ薄暗い地平線を見据える。

今は弓兵(アーチャー)という立場を捨てて少年に戻ったその精神は苦悩と興奮に苛まれていた。

 

(…………どうしようか…。)

 

前方の虎、後方の狼。この場から主人を連れて逃げ出せば言葉も通じない災厄が訪れるであろう世界に投げ出され、地球に戻れば各国から追われることになるだろう。

覚悟を決めて足を進めても決定条件としてまず、彼には龍の存在と他サーヴァントが待ち構えてる。

 

どちらに転んでも少年には困難が待ち構えている事に違いはないのだが………。吹き付けた夜風に前髪が揺らされ少年は瞳を細める。

本心は逃げ出したいのだろう、こんな責任を伴い重圧に耐えてる自分を自覚していた彼は逃げられない理由を頭の中で上げていった。

 

(ボクはどの道、あの場でマスターを助けたことで逃げ道はとっくに消してるじゃないか……。今更逃げるなんて情けない、何よりこの身体を貸してくれている”彼”に顔を向けられないよ。)

 

「……ハハハ、結局行き着く答えは変わらずだね…。」

 

結論を見つけ自嘲気味に力が抜けたように薄く笑って少年は後ろに手をついて身体を逸らす、変わり始めた空を見上げていると草を踏む音が彼に届いた。

夜更けのこの時間にこの場を訪れる人物が思い当たらない彼は、ゆっくりを首を動かした。

 

「…おはよう、アーチャー。眠れないの?」

 

振り向いた先には眠そうに瞳を擦る主人、万理の姿があった。まだ誰も起きる時間ではないだろうと高を括っていたビリーはまさか、あまり朝が得意ではない万理がこの場訪れるとは思わずに驚いてしまったがすぐに何時もの笑顔で迎えた。

 

「やぁ、マスター。Good morning。いや、ただ空を眺めていただけさ。マスターこそよくボクがここに居ると分かったね。」

 

「あ、そうなんだ……。私は何となくアーチャーならここに居るかなって思って……。」

 

「へぇー。そっか……今日は冴えてるね? それともまだ寝ぼけてるのかな?」

 

「寝ぼけてないもん!! まるで私が何時も鈍感みたいに……。」

 

「ごめんごめん。ボクのマスターだもの、そんなことないよね。……………。」

 

「……考え事?」

 

陽気に振る舞うビリーに対し万理は落ち着いた表情で言葉を返してはむくれ、苦笑いしながら会話をする二人。コロコロと表情を変え最後にビリーは自然に言葉を止めて何処かを見つめた。

そんな彼の表情に何かを感じた彼女は彼が腰かけた岩の隣に座りこみ同じ方向を見据える。

 

誰かが何を考えているのかなど、誰にも分かりはしない。それでも使い魔の主人は理解しようと、自分に出来る事なら力になろうと考えた。

それが例え、本来の聖杯戦争の魔術師が取るべき行動でなくても。彼女の本質から生まれた彼への気遣いなのだから、

 

「……ん? いや……。」

 

「……………。私はね、聖杯戦争ってよく分からない。アーチャーの為に何をしてあげれば良いなんて思いつきもしないの…。」

 

素っ気なく万理の言葉に返答したビリーは何処か上の空で、何を考えているのかも分かりはしない。

そんな彼の隣で万理は穏やかに言葉を紡ぎだした。

 

「おじさんから話を聞いて、貴方が人間じゃない存在だって教えてくれた時は俄かにも信じられなかった。それでも不思議と怖くなかった、最初は驚いて腰が抜けちゃったりしたけど……。」

 

「……あの時はボクも焦ったなぁ。どうやってマスターに会えばいいか悩んだもんさ。」

 

「ごめんね……。昔から私怖がりでそういうの苦手だったから。でも今は大丈夫だよ、アーチャーのおかげでね。」

 

「マスターは……怖くないかい? 今の今までボクの独断で話が進んでしまっているけどマスターの気持ちを聞いていなかった。だからもし―――」

 

「―――大丈夫。私はビリーさんに助けて貰ったからこうして生きているの、だから今度は私がビリーさんの力になりたい。それでいいの、ね?」

 

静かに言葉を交わす二人の間を風が吹き抜け草木が穏やかに揺れる。朝焼けの空が明るく色を変えて大地を照らし出す。

慎ましく微笑んでビリーに念を押した万理。言わずとも見透かされたように言葉を返されたビリーはその仕草に困ったように顔を逸らす。

 

主従の関係とは程遠いその二人の絆は徐々に深まりつつあった。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

「~~~♪~~~♪」

 

舗装もされていない道を車両、装甲車がひたすら駆ける。空を行く鳥は高らかに上昇し吹き抜ける風は草原を揺らす。

車両の中から時折聞こえる歌声に耳を傾けながらビリーは車両の上で寝そべっていた。

 

快晴の空の下、まばらに浮かぶ雲の数を数えては瞳を閉じて深呼吸を繰り返す。

彼は束の間の平穏に身を委ねていた。

 

『快適そうね、アーチャー。』

 

そんな彼の頭上に小さな影がかかる、耳に届いたのは何処となく不機嫌そうな女性の声だった。

ゆっくりと瞳を開けて彼が見据える先には白いライオンの顔をしたカラフルな人形。それを見て一瞬目を見開いた彼は思い出したように笑って身体を起こした。

 

「そうだねぇ、歌を聴きながら一眠り。最高のひと時さ。」

 

『そう、それは結構だけど。』

 

デフォルメされたライオンの顔がずいっと微笑んだビリーの顔面に寄せられ、擬音を着ければクワッと表情を変えてビリーの顔面に頭突きする。

だがそこは人形、ぬいぐるみ特有の綿の柔らかさが彼に伝わるだけで特に意味を成していない。

 

『な・ん・で!! 私を置いて行ったのかしら!!』

 

(やっぱりご立腹デスヨネー)

 

険しい表情で両腕をバチバチ光らせながらトーマス君人形(仮名)がビリーに向けて不満を露わにする。ビリーからすればどんな魔術を駆使すればこんな人形が作れるのか非常に好奇心を誘うモノだった。

 

「そう怒らないで欲しいな、キャスターにしか出来ない事だからお願いしたんだし。」

 

『えぇ、確かに貴方は銃の技量で英霊の座に着いたのは承知しているし魔術と無縁だった事も百も承知。 けれど、何で私は調査隊から外されて駐屯地で魔術の罠を張り巡らせているのかしら!!』

 

「適材適所って奴さ、ほらほらそんなに怒ると綺麗な顔が勿体ないよ?」

 

『見えてないでしょ!!!!』

 

語気を強めてトーマス君人形はビリーの頭部をタコ殴りにするが所詮は人形、ポカポカと柔い衝撃が彼に伝わるだけで実害ゼロ。

傍から見ればただ一人の男が人形と戯れているという部屋の中のならば思わずドアを閉めてしまいそうな場面なのである。

 

だがこれはトーマス君人形を介してキャスターと会話をしているのであって、人形遊びでは断じてないのである。

やんややんやと騒がしい車上を余所に助手席に座った伊丹耀司は、憂鬱そうに道すがらその先を見つめては手帳に何やら書き込んでいた。

 

「………アーチャーの話だとこの世界に聖杯があるのは間違いない…。それはキャスターが出て来た時点でもう確定と言えるけど……、それなら何でシャドウサーヴァントが門を超えて地球に来たのか……。聖杯の泥を浴びてシャドウになったのか、されたのかは二の次でも……明確に誰かが指揮していた? ……いや、それならもう駐屯地は火の海……何かが偶発的に出現しそれに伴って奴らが現れ無造作に暴れたというのがまだ現実的か………?」

 

彼は彼で持ちうる知識を絞り、現状を考察していた。真剣な表情で箇条書きしながら状況を整理している中で隣から伊丹に声がかかる。

 

「…あの…隊長、お取込みの所申し訳ないんですけど……。」

 

「ん? どうかしたのか倉田。」

 

「い、いえ……。その、上に居る『アーチャーさん』はあのビ「それ以上言うと禁則事項で消されるぞー」え!? ちょ、ネタ古いのととんでもない言葉が!!」

 

「……はー。あのな、確かに上に居るのはお前が思う通りの人物だけど一部の人間以外には正体も詳細も開示されていない。出所がアレだから意味はほぼないけれど出来るだけ口にするな。」

 

じゃないと本当に消されるか………他国に……。と最後には口を噤んだ伊丹の表情に運転席の倉田陸曹は青い顔で震えて視線を前に戻した。

 

「て、わけでこれを聞いてる全体は彼の事はアーチャーという男性として認識すること。彼は今の俺達にとって切り札であり最高戦力だ、敬意を払えとは言わないけれどちゃんとした態度で接するように。」

 

 

無線機の回線が開いている事に気づいた伊丹は苦し紛れに話を纏めて言い放つ。仕方ないとは言え説明もなく万理とアーチャーを連れて調査に出たのだから問題はないだろう。

車両の屋根で未だにキャスターと騒いでいる弓兵を余所に、伊丹はとりあえずと手帳を閉じて道筋を地図に書き込み民家を探し始めた。

 

「ねぇ、おじさん。」

 

「ん? どしたの万理ちゃん。」

 

そんな時だ、ふとした時に後部座席に座って景色を眺めていた万理が顔を覗かせて伊丹に声をかけた。

何気なく彼女に言葉を返し伊丹は横を向く、だが声をかけて来た当人はまっすぐ前を見つめていた。

 

「何か、嫌な感じがするの………。あそこにある村……双眼鏡で見てもらえる?」

 

万理の緊張しているような表情から伊丹は何も言わずに双眼鏡を手にその先に見えた村を見つめる。裸眼ではまず捉える事は出来ないであろう街並みを流すように見て行く。

太陽が真上に指した正午にその村に人気は無い、活気も垣間見えない異常な光景に伊丹は眉をひそめた。

 

「アーチャー……。」

 

小さな声でビリーを呼ぶ万理、開いていた窓から何も言わずにトーマス君人形が飛び込み万理の腕の中に納まり天井から透けるようにしてビリーは姿を現した。

その光景に数人が口を開けてみていたのは別の話し………。

 

「…変だねぇ、まだ昼間だよ。ボクらの時代なら酒場で飲んで騒いでいる時間なのに。」

 

『文明が違うでしょう、でもその通りね。何かあるかもしれないわ。』

 

「アーチャーは何か感じないか?」

 

何度かこの手の質問をされていたビリーはこんな時に上手く逃げるコツをつかみ始めていた、何度も言うが彼は身体は英霊、中身は一般人という。

俗に言う見た目は子供、頭脳は大人その名はなんちゃらという具合なのだ。よってこんな時に彼の口から出る言葉は。

 

「…違和感はあるけどね。魔術とかそういうのはジェロニモの得意分野だったしなぁ…。でも寄ってみて損はないんじゃないかな。」

 

嘘である、本音はただ単に分からないだけでそれっぽい事を言っているだけ。

 

「どの道、情報収集しないわけにもいかないからな。―――これより我々は先の村に向かい村民との接触を試みる、何があるか分からない総員警戒を怠るな。」

 

『『『了解』』』

 

やや浮かない表情の伊丹により各車両に伝達され、了解の意を聞いた後に倉田陸曹はハンドルを切りその先に向かった。

 

 

 

        ◇

 

 

 

言葉が通じない、それはあまりにも大きな問題で。常日頃から共通の言語を使う人種がそろう世界から外れたこのは独自の言語を当然ながら有していた。

ビリー等が村を訪れた際に一軒家から人の気配を感じる事は出来たがココで問題が生じた。

 

それは日本人、地球人ならば最早常識である自動車の駆動音、そして自衛隊員の姿が村民からは異形の物としか映らずそれが僅かな恐れの感情を抱かせてしまった事。

怯えるような視線を向けて扉から顔を覗かせた婦女は伊丹等と視線が合うとすぐに扉を閉じ姿を隠してしまう。

 

「―――やぁ、こんにちは。チョコレート食べるかな?」

 

困り果てる自衛隊員の一部と、自ら笑顔を覗かせて黒川二等陸曹とビリーはそれぞれもの珍しそうにこちらを見ている子供らに歩み寄っていった。

言葉は通じなくとも笑顔で身振り手振りでこちらが危険ではないと伝える為だ。

 

張り付けたような笑みではなく本心からの笑顔で、銀紙に包まれた一口サイズのチョコレートを取り出したビリーは離れた場所から差し出す。

安心させるように自らも一つ取り出して口に放り込んで問題ない事を見せると、何とか男の子も受け取ってくれた。

 

心配そうに後ろで見守っていた母親も安心したように男の子に駆け寄ると、何かに気づいたようにビリーの後ろを見つめ始めた。

見ればその男の子もビリーの後ろを瞳を輝かせて見ている。

 

何事かと振り返れば―――

 

「キャ、キャスターさん!! あんまり目立つようなことは……!!」

 

『警戒心を解くには子供からの方が良いのよ。それに……彼の見た目は子供受けするからね。』

 

万理に抱かれていたトーマス君人形が独りでに浮かび始め、肩の電球と胸元が煌びやかに光らせながら飛び回りアクロバティックな動きを繰り返していた。

本当にどんな仕組みでできているのか気になり始めたビリーと、あたふたしている万理を余所にその光景に引き寄せられて子供が姿を現しその騒ぎに村長が顔を出した。

 

その時の伊丹の顔はかなり複雑そうだったとか。

 

伊丹が言語の違いに悪戦苦闘している中、それを横目にトーマス君人形を抱えた万理と車両の傍で待っていた時。

ふとビリーの視線が何かに引き寄せられるように森に面している家の向き、人影を見つける。

 

「………ん?」

 

目を細めてそれを注視するが、それはすぐに家の影に隠れてしまい何だったのかは分からず終いだった。

だがビリーの目にはその姿に妙な既視感を覚えていた。

 

 

 

       ◇

 

 

 

「―――――物陰に隠れろッ!!!!」

 

束の間の平穏、夕暮れ近くの森の集落にて雨に打たれながら自衛隊員は駆け出し。ビリーは万理を抱え即座に四方から放たれた矢を撃ち落とす。

その数は十。的確にして正確、ビリーに負けず劣らずのその矢。撃ち落され地に落ちた矢先に何かが塗ってある事に気づき舌打ちをする。

 

怯える万理はトーマス君人形を通じてキャスターに声を掛けられ障壁を張るのを確認し、飛び出す。

場所は広場、敵の姿は何処にも見えはしない。むしろ空中から狙っているのかと思えるほど出鱈目な角度で迫る矢を撃ち落とし駆ける。

 

潜伏先も見当たらない、自衛隊員に被害が出ていない事は幸いだが。ジリ貧に他はない。

 

(一体何処から……いや、この攻撃方法は!!)

 

ビリーの脳裏に掠める記憶の切れ端、この場で最も可能性が高い敵の姿を思い出した。

 

 

 

 





ところどころ文章の差があるのは作者クオリティ。
気にしないでください。

ソロモンというクリスマス聖杯戦争は楽しかったです(ゲス顔)
なお、新年明けて何の気もなしに引いたらキングハサンの前に武蔵ちゃんで運を使い果たした模様………。

キングハサンは強敵だったよ…………(大爆死)


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「無茶はしないよ、大丈夫」


ドーモ、ドクシャサマ。シアンコインデス。

色々と言わないといけない事がありますが……。

これも全部オビワンの……じゃなかった。

オルフェンズとタイタンとfgoのせいだ!!

………今回はやや増量なので心が広い皆さんなら許してくれますよね……?





 

 

数時間前、現地にて村民からの情報収集中の伊丹を置いてキャスター、ビリー、万理の三人は顔を合わせて何やら話し込んでいた。

 

「マスター、話したいことって?」

 

「えっと詳しい事はキャスターさんから何だけどね? この村から魔力反応がするって……。」

 

『正確にはサーヴァント未満の魔力の塊があったわ。』

 

「あった?」

 

『えぇ、あったの。けれどその反応はもう無い。自然に消えたとしか言えないわ。何か心当たりはないかしら?』

 

キャスターの言葉に首を傾げたビリー、万理も同じように不思議そうに首を傾げている辺り似た者同士というべきか。

キャスターが操るトーマス君人形は片手から桃色の煙を出すとそれを玉状に浮かべ、解けるように離散させた。

 

「……………そういえば妙に既視感があった人影を見たけれど……。」

 

「え? でもアーチャーはこの世界出身じゃないよね?」

 

元々おかしな話ではある、この地にて人見知りが居る事自体無理な話であるのに既視感。一度は見た事がある人影を見かけるというのはまずありえないのだ。

最初はビリーも前世で見たことがある人物を偶々この地で見かけたのかと考えた。時間軸に大きなズレが生じているこの世界でならあり得る話だと。

 

「うん、だから他人の空似か見間違いかと思ったんだけど。」

 

『それはどの位前かしら?』

 

「ついさっきさ、10分くらい前かな。」

 

『…アーチャー、警戒した方が良いかもしれないわ。貴方が見たことがある人影とはつまり、今の地球の人間又は英霊の可能性が高い。態々姿を露わにしたのにもかかわらず接触して来ないのは……。』

 

「こっちの隙を伺っている可能性があるって事かい?」

 

『その通りよ。仮に相手が暗殺者のクラスなら彼女も、自衛隊員にも被害が出かねないわ。』

 

警戒を促すキャスターとそれに同意するように彼を見つめる万理、二人の雰囲気に押されビリーは頷くが心の奥底ではまだ疑問が渦巻いていた。

 

(さっきの既視感は前世の物? それとも彼の物? いや記憶とかの継承はされていないし……、でも一度意識が途切れた時にもしかしたら……。)

 

この世界は正史ではない、彼により多少のズレが存在するのは無理もない話だがそれ以上に危惧すべきは自衛隊及び世界に何らかの影響が及ぶこと。

せめて自分が歪めた物語なら落とし前として、犠牲になるのは自分だけでいいという身勝手な決意を胸にビリーは今の今まで行動していた。

 

だがここでまた気づく、シャドウサーヴァントにせよサーヴァントであろうと自分(ビリー)以外の存在を狙って攻撃してとは言い切れない。

現状はキャスターであるエレナを駐屯地に留まってもらっているがそう長くは引き留められない。

 

この状態が続いてしまえば被害は必ず出る、自分自身が常人ならざる存在になっていようと綻びは必ず現れる。

驕りなどは誓ってない、杞憂など何度も何度も彼は自身で繰り返し自問し続けた。

 

この世界に置いて安全な場所などありはしないだろう。

だがそれでも、始まってしまったこの物語を止める事など出来ないのだ。

 

後には引けないこの状況で最善の判断を下し続ける自信は彼の中に残っていない。

だが、それでも絶対に諦めはしないと彼は誓った。

 

だから選び続ける、選択し続ける。

その先にその身を滅ぼす楔が打ち込まれていようとも。

 

「――あぁ、早々にイタミに話を切り上げて貰ってこの場を離れよう。ね? マスター。」

 

「う、うん。アーチャー……大丈夫? 何か思いつめたような顔してるけど……。」

 

ふと主人の口から発せられた言葉にビリーの内心は大きく揺らされる、何故なら笑みを崩して等いないのだから。

これも主人と使い魔の関係が彼女に影響しているのかと考えるが普段通りおちゃらけて見せて彼はその場を乗り切った。

 

 

 

 

 

 

 

行動は早く、あらかた必要な情報を入手した伊丹に声をかけビリー等一行はコダ村を後にした。

先程と打って変わり車両の屋根に座ることなくビリーは万理の隣に腰かけ、向かいの窓を見つめ流れる景色を眺め。

 

万理はと言えばキャスターとの会話に花を咲かせている、サーヴァントとは言え同じ女性ならば気を使うことなく話が出来るのは当然の事だ。

暇を弄ぶように片手には具現させた相棒サンダラーに指を掛け回しては構え、回しては構え。時折シリンダーを開いては銃弾を見て閉じる。

 

カチャリカチャリと金属の音を響かせていると彼はふと気づいた、向かいに座る自衛隊員と助手席に座る伊丹の視線がバックミラー越しに伝わってくることに。

それも仕方はない、片や事情を知っている男は不用意な行為で他の人を刺激するなと言いたいのだろう。

 

もう一人は肩書きは大量殺人、はたまた英雄と呼ばれている未知数な男が自身の目の前で銃を片手に暇を持て余しているのだ。

いつ何時、その銃口が自分に向くかもしれないと気が気ではないのだろう。自分の軽率な行動に溜息が漏れそうになるのを堪えビリーはシリンダーから銃弾を抜いてポケットにしまいこんだ。

 

「………アーチャー殿。」

 

「ん? どうかしたかな、えっと……。」

 

そんな時だ、虚空を見つめるビリーに向かいに座った初老の男性が声をかける。

一拍おいてその言葉に反応したビリー、隣に居る万理は思った以上にキャスターとの会話に夢中のようで気づいていなかった。

 

「桑原陸曹長であります。差支えなければ話を聞かせてもらっても良いでしょうか?」

 

「勿論さ、丁度暇を持て余していたからね。何の話だい?」

 

ビリーの脳裏には向かいに座る渋い顔つきの男性に見覚えがあったが、名乗りもしていない男性の名をいう訳にもいかずに一芝居うっている状況だ。

 

「お恥ずかしながら、先ほどからその手に持っている拳銃が気になりましてね。随分と年代物をお使いになっているようで。」

 

「あぁ、コレかい? そうだね今の時代からするとコレは拳銃のご先祖様って言ってもおかしくない位だもんね。」

 

丁寧な口調でビリーの手に納まっているコルトM1877(サンダラー)を見て言葉を紡ぐ桑原陸曹長。

 

「…………銀座での件。貴方は何の為に戦ったのですか?」

 

「……あー、言える事は一つかな、自己満足。ただそうしたかった、それだけさ。それ以上はボクに言う権利無いから。」

 

唐突に声を低くして問われた言葉、その瞳が捉えるは真剣で鋭い眼光。言葉の重みが伸し掛かるビリーは本心を偽りなく口にする。

そう、ただそうしたかった。武器も抵抗する力も持たない人間を不意に襲い掛かり平和な日常を血に染め上げようとした野蛮な行動を見過ごせなかったから、彼は今、英霊としてソコにいるのだ。

 

考えてみれば感情的になりすぎて冷静な判断が出来ていなかったかもしれないと彼は思う、けれどその感情が今の状況を作り出してくれた。

あのまま何もしなければ後悔していた事は確か、この先苦難が続くであろうこの旅路も悪くないと気を持ち直したビリーは薄い笑みから確かな微笑みへと変わる。

 

「……そうですか、不躾な質問。失礼いたしました。」

 

「そんな畏まらないでおくれよ、別にボクは大統領でもなければ王様でもないんだからさ。」

 

何処か納得したように頷いた向かいの男性を見て朗らかに微笑みビリーは桑原陸曹長に告げて、助手席からバックミラー越しにこちらを見ていた伊丹へ視線を移し横目で外を垣間見る。

 

「そういえばイタミ、さっきの村でどんな情報を手に入れたか教えてほしいな。」

 

「ん? あ、あぁ。そういえば伝えていなかったなちょっと待ってくれよ。」

 

思い出したようにメモ帳を取り出して伊丹は情報を読み上げていく、この先の森にエルフと呼ばれる種族の集落があるという事。

最近になり火竜と呼ばれるワイバーンの上を行くドラゴンの行動が活発化してきていると。

 

元来の目的はこの世界の地形の把握、住民との接触だった故情報としては十分すぎるぐらいだ。

このまま問題が無ければ本筋通りエルフの集落が火竜に襲われ壊滅している所だが、ビリーはその可能性はないだろうと予測した。

 

時間軸が確実にズレているこの世界線は本来よりも早く物語が進行している、彼の知識の中にあるエルフの集落襲撃も伊丹等自衛隊の到着よりもほんの少し前だった。

ならば、この先で見つけるのは火竜に襲われる前のエルフの里。あるいは………。

 

どんなに思考を前向きに構えても這い出てくる悲観的な想像に溜息を吐いたビリーは頭を振った。

 

「―――そんで最後が、最近になって近頃亡くなった人間の姿を見るようになったらしい。」

 

次いで伝えられた情報に社内の空気は凍りつき、一瞬目を見開いたビリーは気を取り直し詳しく話を聞いた。

伊丹によれば、何でも寿命を終えた者や病死、あるいは不幸な事故に遭い死んだはずの人間が時折姿を現しては何も話さずに姿を消すという事で一部の人間は気味が悪いと外に出るのを控えていたらしい。

 

異常が続く現状に更なる異常が重なり内心、動揺が止まらないビリーは気を逸らすように隣に座るトーマス君人形を見やり口を開いた。

 

「ねぇ、キャスター。さっきの話とこの話、関係がありそうじゃないかい?」

 

『…………何故そう貴方が感じるのか聞きたい所だけど、可能性が無い事も無いわね。死んだ人間が形だけでも生き返っているのなら死霊魔術師(ネクロマンサー)にも可能だわ、けれど住民が気味悪がるという点からしてこの世界の魔術にその類の魔術は存在しない事になる……貴方の言う事もあながち間違いではないかもね。』

 

「つい最近って事からしても時期的にもあり得る話じゃないのか? 」

 

興味深そうに視線を飛ばす伊丹にビリーは頷き、トーマス君人形は難しそうな表情で腕を組み黙り込んだ。

同時にビリーの脳裏に掠める前世の知識、もしこれがただの噂で済むのなら何ら影響のない話だが本当ならこれも本筋から外れた異常となってしまう。

 

これ以上、問題が続くのは避けたいところだが無下にも出来ないビリーだった。

 

『……状況判断するにしても、仮に死霊魔術だとしてその蘇った人間とアーチャーが見たっていう人影との関係性があるかは分からない、あやふやな憶測で行う行動程危険な物もないし。今は保留にして本来の目的を果たしてからにしましょう。』

 

「うん、私もそれが良いと思う。アーチャーも今は忘れよう?」

 

「え………えっと、マスター。ボク変な顔してた?」

 

「なんとなく。」

 

「あ、アハハ。マスターには適わないな。」

 

困ったように笑い飛ばしたビリーを万理は不安げに見つめ、トーマス君人形を通してビリーを見ていたキャスターは目を鋭くした。

 

「「ッ!!」」

 

そして二人の英霊は強烈な重圧を全身にくらう。即座に窓から飛び出した二人は車両の屋根で目を細め進行方向の先を見つめた。

二人の行動にどうしたのかと、驚いた様子で伊丹と万理が窓から顔を出して様子を伺っている。

 

「…………アメリカで見た時とは桁違いだ…。」

 

『…アーチャー、アレを単騎で打倒しようなんて馬鹿な事言わないわよね?』

 

弓兵としてビリーの視力は問題なくその先の光景を見据える、あってほしくなかったその可能性は無情にも今否定され無情な光景がビリーに叩き付けられる。

嘘だと思い込みたい衝動に駆られたビリーが直視するは燃え上がる森、立ち上る紅焔、その場に漂う煙の中に潜む赤黒い(・・・)ドラゴン。

 

英霊としての視力で視認出来ている現状、ドラゴンの視力がどれほどの物かは予測できないがこちらの姿を遠目に確認できているわけではないらしい。

それほどまでに離れているが、英霊となった今、彼が全身に感じるのは膨大な量の魔力、殺気、重圧。相手に気づかれてもいないのにこれほどまでのプレッシャーを浴びるとは彼も夢にも思わなった。

 

異常は健在、この先に待ち受けるは知りえた情報をバラバラにされた別の物語だ。

ビリーには世界が自分を嘲笑っているようにも見えた。

 

いつの間にか握りしめていた愛銃を片手に彼は大きく息を吸い込み真上を見上げ、瞳を閉じる。

覚悟はいいか? このまま進むのかと自分自身に問いかけ胸に燻ぶる下向きな気持ちを取っ払う。

 

「流石に何の策も無しに突っ込む気にはなれないね、今はマスターもイタミも、自衛隊の皆もいるから。あの時みたいに好き勝手に暴れるわけにはいかないよ。」

 

『冷静な判断が出来ているようで安心したわ。けれど変ね、炎龍と呼ばれるぐらいなら鱗は赤に……ッ。………なるほど。』

 

何にせよ、自分が消えるという選択肢が存在しない彼の思考内で結論を導き出し当たり前のように告げるビリー。

その言葉を聞き、ホッと息を吐く仕草をしたトーマス君人形は瞬く間に表情を一転させるとキャスターが息を呑むのを彼は感じた。

 

「……気づいた?」

 

『えぇ、まさか貴方が先に気づくとは思わなかったわ。どうやら……アレと私達は切っても切れない関係になりそうね。戦力を整えないと。』

 

キャスターの反応により、ビリーの推測は正しかった事が決定した。

その推測は『本来、赤一色の炎龍が所々黒く変色している』という点からきた推測だった。

 

「いやぁ、退屈しないとは思っていたけれどこりゃオーバーワークかな。アハハ。」

 

『アレを見て笑っていられるその神経、異常というか図太いというか………。まぁ、悲観的な考えよりも建設的ね。』

 

それはつまり、彼の炎龍が――――

 

『―――決まったわ、私の今後の目的は炎龍……いえ。サーヴァントの影響を受けている炎龍の打倒よ。もちろん手を貸してくれるわよね?』

 

車両の上に立つ弓兵と人形、徐にビリーの腕の中に納まったトーマス君人形はそのつぶらな瞳を彼に向け決定事項と言わんばかりにビリーにそう告げた。

ビリーにはその瞳の先でニンマリとご満悦の表情で笑うキャスターの顔が浮かび、彼はゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

           ◇

 

 

 

 

 

立ち上る煙が常人の視界に入るほどに近づいたころ、あらかじめビリーから状況を説明された伊丹は他の隊員に通達。

その頃には姿を消していた炎龍がいない事に内心歓喜していたビリーを余所に、自衛隊は煙の出所まで進んでいた。

 

大火事による影響か、降り出した雨を物ともせず自衛隊員はこぞって集落跡地にて生存者の有無を確認する為に動き出していた。

小雨のおかげか多少の臭いは抑える事が出来ているもののそれでもこの臭いは、一般人には苦痛であろうとビリーは取り出した自身の赤いスカーフをトーマス君人形を抱える万理に渡し歩き出した。

 

集落の中心へとゆっくりと足を進め、気配を探るビリーとキャスター。今の所互いに何かに気づいた様子が無い事に安堵し気を引き締め踏み出したその先に見えたのはありふれた井戸と大きな地に書かれた文様だった。

訝し気に眉をひそめた彼は立ち止まり再度、周りに神経を飛ばす。英霊として過敏になった神経はこれと言って敵意や殺気などは感じなかった。

 

ただ疑問に感じたのはまるで空気中に漂うように浮遊する魔力の塊だったが、それはこの集落に居たであろうエルフたちが炎龍に対抗する為に使った魔術の残り香だとうと結論づけた。

その地に描かれた巨大な文様は井戸の手前に存在し、その手前まで足を進めた彼は屈みゆっくりと触れるた。

 

「この陣、キャスターさんが描いたのと似ていますね?」

 

後ろで口を開いた万理に腕の中のキャスターは腕を組んで首を傾げていた。

 

『えぇ、確かにこれは魔法陣だけど。………この陣は一人で使用する為の物じゃないわね、複数の人間で魔術を注ぎ込むような構図……一体何をしようとしていたのかしら。興味深いわ。』

 

「少なくとも魔術に精通する人たちがここに住んでいた事に変わりないね。生き残りが居ればいいのだけれど。……ん?」

 

立ち上がったビリーは何かに気づいたらしく、魔法陣を超え井戸を徐に覗きこんで顔を上げると声を上げた。

 

「イタミー!! 生きている人居たぁぁぁぁ!!!」

 

「「「「ッ!!!」」」」

 

自衛隊員が軒並み顔をこちらのに向けたのを皮切りに駆け出して、状況を確認すると迅速にロープを持ち出して井戸の底に居た金髪の少女を助け出すために行動を始めた。

発見者のビリーはまだ疑問が残るのか、警戒した素振りで腰のホルスターに銃を出現させ辺りに気を配り始めた。

 

(勘だったけれど、やっぱり彼女が生き残っていた。それは良い事だけどこの足元の魔法陣が引っかかる何もないと良いけど……。)

 

心の中で前世の記憶に感謝するのと同時に異常に不気味さを覚えたその瞬間だった。

 

――――スカンッ

 

簡素な音の後に、彼の足元に突き刺さったのは一本の矢。軌道を見ても明らかに常軌を逸したその矢の速さと角度にビリーは戦慄する。

条件反射、即座に抜き放った愛銃をその矢が放たれたであろう空中に向けて彼は構える。

 

「ッ!! 敵襲!! イタミ、ボクがここを抑えるから早く上がって来て!! 自衛隊の人も引き上げる人以外物陰へ!! 後ろの二人は下手に動かないで!!」

 

「マジかよ!! 頼んだぞビリー!!」

 

「総員、物陰に隠れろッ!!!!」

 

伊丹に代わり誰かが叫んだ瞬間にその場にいた四人を除く全員が廃屋や瓦礫の影へ走り出した。

隣にいた万理を片手で抱え、すぐ傍の廃屋へビリーは送ると自身に迫る数本の矢を撃ち落とし、井戸の前へ立ち戻る。

 

宛らオールレンジの如く井戸を中心に全方向から放たれる無数の矢をビリーは寸分の狂いもなく撃ち抜く。

左手にかかる負担を物ともせず引き金を絞り、神経をすり減らし続けた。

 

「おい、グリーン!! 何でこんな事をするんだ、やめてくれ!!」

 

彼の脳裏に過ぎる、この状況を作り出せるであろう人物に対し彼は声をかけるが、反応はない。

 

その場を支配するのは止む事のない爆音と迫る矢、建物の影からその光景を目の当たりにした自衛隊員達はまるで夢でも見ているかのような錯覚に陥る。

あり得ないはずの角度、速さの矢が四方八方から迫り、それを順番に撃ち漏らす事無く撃ち抜き無効化していくその神がかり的な彼の腕に。光景に。

 

数分にも及んだその攻防は終盤に変化を迎えた。

拮抗してた矢と銃弾の嵐は、中身が人間である彼の疲労により崩れる。

 

「ッ!!」

 

コンマ一秒、小雨が雫になり彼の額を伝い瞳を落ち瞼を閉じてしまったその瞬間だった。自身に迫る矢に反応する事が出来ずビリーは片腕を犠牲にした。

右腕を貫いたその矢に何かが塗られているのは百も承知の上だった。ギリッと歯ぎしりをしたビリーは井戸から伊丹等が顔を出した瞬間に矢を引き抜き口を開いた。

 

「いい加減にしろッ!! ロビン・フッド!!」

 

この場にて初めて声を荒げたビリーの怒号はその場に響き渡り、それを切っ掛けに最後の一本の矢が彼の頬を掠め矢の雨が止まる。

呼吸を荒く、鋭い視線を辺りに向けたビリーは銃をホルスターに戻し右腕の傷口を左手で押さえ片膝をついた。

 

ロビン・フッド、中世イングランドの伝説的な英雄であり弓の名手とされる。その知名度もさることながら本来のビリーは彼との接点がいくつかあるのだがこの場で語る事ではないだろう。

本来、圧政を強いられていた民衆の為に立ち上がった彼が何の理由もなく人を襲うという行動に映るという事があり得ない事であり。

 

彼の素性を前世の知識で知っているからこそビリーは彼の名を口にし怒鳴りつけたのだが、何のレスポンスもなく姿も現さない事に彼は落胆しつつ更に疑問を感じた。

 

(キャスターが第五特異点の記憶を持ち得ているのならって思ったけれど……。全然反応が無い…、今回の彼はその記憶を持ちえない彼なのか?)

 

恐らく毒が塗られているであろう矢を受けた右腕の傷口に視線を向け、息を大きく吸うと彼は立ち上がり井戸から引き揚げた少女を車両に乗せ終えた伊丹とトーマス君人形を抱えた万理がこちらに駆け寄ってくるのを見た彼は薄く笑みを浮かべ歩き出した。

大丈夫かと声を掛けられ笑顔で頷いて見せた瞬間に万理とキャスターに傷を見せろと詰め寄られ、引き摺られビリーは瞬く間に装甲車に乗せられ一行は逃げるようにその場を後にした。

 

 

 

 

 





はい、という訳でお久しぶりですシアンコインです。
更新が滞ってしまい申し訳ありません、というわけで言い訳をさせていただくと……。

続き書こうと思う

タイタンフォール2に出会う

また書こうと思う

オルフェンズで毎週落ち込む

気を取り直して書こうと思う

沖田さん当たる

といった具合で……本当にお待たせして申し訳ありません。話進んでない?そうですか?(すっ呆け)
ちょっと駆け足なんですがこれからはなるべく更新を早くするのでまた、よろしくおねがいします。



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「……あぁ、大丈夫さ」

ども、シアンコインです。
何とか宣言通りに早めに投稿できたんですが………。

ちょいと短めですご了承を………。

所で皆さん、

スパルタ教育の語源て知ってます?





 

「………キャスターさん、アーチャーの容態は?」

 

集落での一件の後、その場を後にした一行の先頭車両にて万理は助けられた金髪の少女の傍らで体を休めるように崩した姿勢で眠るビリーを見つめ。

腕の中で難しそうな表情のトーマス君人形を通してキャスターに問いかけた。傷のせいか、それとも魔力の消費が激しかったのか、おあつらえ向きの治療を受けたビリーは一言休むと彼らに伝えると霊体化せずに眠り始めてしまったのだ。

 

『そうね……。彼の言う通りならアーチャーの身体を蝕んでいるのは英霊ロビン・フッドの毒……。本当なら今すぐにでも私が治療に行くべきなのでしょうけどこの場を離れるわけにもいかないのよね…。マリ、私が教えた治療魔術を使いなさい治す事は出来ずとも少しは楽にしてあげられるはずよ。』

 

キャスターの言葉に頷いた万理はトーマス君人形を椅子に降ろし、アーチャーの元へ近寄ると教えの通り、未だあやふやな魔力回路という原理を思い出し腕のプレスレットへと意識を集中する。

数秒の後に仄かに輝きだしたブレスレットの光が集まると弾けるように離散し、弾けた光がビリーへと吸い込まれていく。

 

失敗してしまったのかと誤解した万理は慌てるが、息苦しそうに呼吸を繰り返していたビリーの表情がやがて穏やかになっていくのを見た万理は安心したように息を吐くと、右腕に巻かれた包帯から血が滲んでいる事に気づきポケットから替えの包帯を取り出した。

 

「おじさん、ロビン・フッドって義賊のあの人の事かな……。」

 

手際よく起きないように静かに包帯を取り、新しい包帯に交換しながら彼女は助手席から視線を送ってきていた叔父、伊丹へと問いかけた。

ビリーの言うロビン・フッド。彼女の知識の中にあるのはイギリスの英雄として圧政に苦しめられていた民衆の為に立ち上がり、弓を武器に戦った英雄という知識しかなかった。

 

「…万理ちゃんに話していなかったけど、アーチャーは第五特異点って場所でそのロビン・フッド、もう一人のアーチャーと国民を守るためにゲリラ戦をしていたみたいなんだ。だからあの攻撃で相手がロビン・フッドだって思ったんじゃないかな。」

 

「だから……怒ったんだ。アーチャー……。」

 

彼女の脳裏に浮かぶのは普段からは想像できないような表情で叫ぶビリーの姿、まるで大事な友人に裏切られたという表現が近いだろうか。

弱者を守るために戦った英雄が、一度は共に戦った戦友が敵となり、自身が最も憎むべき弱者を虐げる行為をした事に憤りを覚えたのだろう。

 

「……俺もうっかりしていた、アーチャーが居るから警戒が御座なりになってたし…。起きた時に謝らないとな。」

 

「でも、アーチャーも無理し過ぎなんだよ…。一人で何でもしようとしてる。」

 

『それは貴女という主人を護るのが私達英霊の務めでもあるからよ、まぁ、彼が何もかも一人で解決しようとしているっていうのは分かるわ。』

 

「もう少し、頼ってほしいな。」

 

悲しそうに微笑んだ万理は眠り続けるビリーの頬をそっと撫でると座席に座り直した。

ふと後ろを向けば、連なる車両と荷馬車の列だった。拠点へと戻る道のりでコダ村に寄りエルフの集落にて炎龍らしき影を見たと警告の意味も込め忠告しに立ち寄ったのが理由で、現状、非難するというコダ村の住民を連れて帰路についていた。

 

魔術を使った影響か、それともビリーの先ほどの戦闘にて消費した魔力が供給されているのか多少の疲れを感じた万理は瞳をゆっくりと閉じるが、急に停車した事により揺れた車内で万理は目を見開いてしまう。

前を見れば双眼鏡を覗く叔父、伊丹の姿。遠目に見えるのは鴉らしき黒い鳥が道の先で集っていることぐらいで、見つめるとその下で誰かが居るのか人影らしきものが見えた。

 

「ご、ゴスロリ少女だと……!?」

 

「うぇ!?」

 

自身の叔父が呟いた言葉に、思わず何を言っているのだろうかと呆れてしまった万理であったがとある事に気づいた。

いないのだ、先ほどまで自分の隣にいたトーマス君人形を介したキャスターの姿が無かった。辺りを見渡せば伊丹の真横で両腕をだらんと垂らし宙に浮かんだまま微動だにしないトーマス君人形の影。

 

『………………………』

 

「キャスター、さん?」

 

立ち上りキャスターの隣まで進んだ万理、トーマス君人形が見つめる先には無数の鴉らしき鳥が飛び回り佇む大きな斧を携えた小柄な人影。

 

『………何でもないわ、アーチャー、休んでいなさいな。どうやら敵意は無いらしいわ。』

 

キャスターの言葉に彼女は思わず振り返る、見れば寝ていたはずのビリーの瞳が開き鋭くフロントガラスを睨んでいた。

 

「こんな気配を垂れ流されて………反応しないってのも無理な話さ……。マスター、こっちにおいで。」

 

気だるそうに言葉を紡ぐビリー、力なく手招きされた万理はゆっくりと彼に近づき、自分の隣に座るように言われそっと腰を下ろした。

 

「しばらく……こうしていて…。」

 

致死性の毒かそれとも神経毒か、ビリーの思考内で手探りを始めるがいまいち結論には至らない。それもそのはずだ、中身がただの人間なのだ知りえるはずがない。

揺れる視界内で心配そうにこちらを見つめるマスターを見つけ、ゆっくり微笑むその横顔に汗が流れ落ちる。

 

行動範囲が限られてしまった現状でせめて自身の主人を護るために隣に置いて、彼はその手に銃を持ちその時を待ち続ける。

願わくば、黒い神官には何も起きていない事を祈って。

 

『………アーチャー、悪いけれど少し席を外すわ…。客人が来たようだから…。イタミ、貴方の銃器には私の魔術が施してあるのは知っての通り。 いざという時は躊躇なく使いなさい』

 

「あぁ……」

 

「よろしく、お願い。」

 

助手席の伊丹が頷き、それを確認すると彼の目線に人形が一瞬過ぎる。そのまま声をかけて万理の腕の中に納まりただの人形に変わった。

ビリーはにじり寄ってくる強大な力の気配に神経を研ぎ澄ませ、キャスターがいち早く戻ってくることを祈った。

 

 

 

 

      ◇

 

 

 

 

「さて……、それでそこの貴方、その不審な男は何処に居るのかしら?」

 

ふぅ、と一息ついたのと同時に手元の本を閉じたキャスター、エレナ・ブラヴァッキーは髪を掻き揚げるとテントの出入り口で気難しそうに眉間に皺を寄せる男が居た。

黒縁の眼鏡を掛け直し、不機嫌そうに男は口を開く。

 

「柳田二等陸尉だ、とりあえず来てくれ。今にも暴れそうな勢いなんだ。」

 

「せっかちな男は嫌われると後世にも伝わってるはずなのだけれど?」

 

クスクスと余裕の表情を崩さないキャスターの言葉に柳田二等陸尉の機嫌は更に悪くなる。

アーチャー、ビリーがこの場を後にするという状況ではこういう厄介ごと、つまり人間では対処できない事はすべてキャスターに協力を得る手はずになっており、柳田はその為にキャスターに割り当てられたテントまで足を運んでいた。

 

「そんな事はどうでもいい、原住民なのかもよく分からない男が槍と盾を持って騒いでいる。もはやアレは人間の域を超えている!!」

 

冷静な雰囲気を放棄して、柳田は頭をガシガシと掻くと早くしろと言わんばかりに彼女に背を向けてテントの外に出て行ってしまった。

そんな彼の言葉に反応を示したキャスターは携えた本の一片に目星をつけるが、この場であの口ぶり、外の喧騒から特に大きな被害と負傷者が出ていない事を加味してあまり好戦的な英霊ではないのかと結論づけて柳田の後を追った。

 

「その男の風貌は?」

 

「筋骨隆々、兜に槍と「まだまだぁぁぁぁ!!!」………赤いマントに大きな「フンヌッ!!!」……。大きな声が特徴だ…。」

 

目の前を足早に歩く柳田の言葉を遮るほどの大きな声が前方から木霊する、時折自衛隊員らしき人物たちの悲鳴が聞こえ始め彼女の頭には一人の英霊が該当した。

思わず笑いが漏れそうになる自分を自制し、彼女は人形を片手に宙に浮かびその先の広場で武器を手放し素手で大柄な自衛隊員複数と組み手をしている身体中に刻まれた赤いラインが特徴的な男を見つけた。

 

「フフフッ……。アーチャー、どうやら風は私たちに吹いているみたいよ…。」

 

嬉しそうに口元に手を当て微笑むキャスター。その姿に一瞬あっけに取られた柳田二等陸尉だったがすぐに気を取り直し声をかけた。

 

「悠長に構えていないで早くアイツを止めてくれ。」

 

「心配ご無用よ、何せあの男……いえ、王様(・・)は人類史で最も優れた守護者にして冷静な男だもの。」

 

そう、風向きはこちらに向いている。あの英霊が姿を現した事、危害を加えていない事から敵ではない事。なによりこの場に彼が現れてくれたことが何よりのアドバンテージに成りつつあった。

 

 

 

 

         ◇

 

 

 

『―――――――――――ッ!!!!!!!』

 

「総員戦闘配置に着けッ!! 怪獣退治は自衛隊の伝統だよなぁ!!」

 

激しく揺れる車内、徐に立ち上ったビリーは銃を片手にゆっくりと歩みを進める、舐めるように背後から向けられる視線を全身に浴びながらも歩みは止まらない。

垣間見えた騒動の根源、炎龍の身体は所々が黒く変色しその片目には一本の矢が突き刺さっている。

 

ただの一介のガンマンがこの天災に何が出来るのだろうか、抵抗虚しく死ぬのが落ちではないのか。ましてや手負い、足手まといにもなりかねない。

本来の筋書きならばこの後にロケットランチャーの一撃で炎龍を退ける事は出来るが、この場合、その可能性は低い。

 

何らかの影響を受けている炎龍がその一撃で止まるのか定かではない、ならば異常には異常を。

規格外には規格外で対抗して見せよう、徐に取り出したカウボーイハットに赤いスカーフを身に纏い飛び出そうとした。

 

「―――ダメッ!! アーチャー!!」

 

車両後部のドアを開いた瞬間に背後から誰かに呼び止められるが彼は一瞬笑顔を咲かせると、何も言わずに外へと飛び出してしまった。

 

「ッ、自衛隊の銃は効いてないけど……数発は貫いてるね……イタミの銃かな…。なら……倒せるッ!!」

 

地に降り立った炎龍の周りを走り一斉射撃を繰り返している装甲車にも負けず劣らずの速さで駆けだしたビリー。

横目に自衛隊の数人が驚愕の表情を見せていたが気にもせず、ビリーは目前に迫った炎龍に向け引き金を絞る。

 

巨大ビルにも劣らないその巨体に拳銃の弾など焼け石に水とも言えなくもない。それでも身体に穴が空けば痛いだろう。

 

「良い的だね、何処に撃っても当たるよ。」

 

ニヒルな笑みを見せて疾走しながらも銃口から火を噴かせ続ける、着実にこちらにダメージを与えているビリーに気が付いたのか炎龍の口元に火が灯る。

 

「ブレスが来るぞ!!」

 

傍にいた伊丹の叫び声に耳を貸し、ビリーはその場で跳躍すると低くした頭部に向けてサンダラーを空中で構える。

 

「―――ファイア!!」

 

炎龍のブレスを引き金にビリーの宝具、『壊音の霹靂(サンダラー)』の発動条件が揃う。

相手の攻撃のカウンターとして機能するその宝具はサーヴァントの知覚として周囲の時間をスローモーションにして、状況を完全把握。

 

相手の急所に最大で三連撃を食い込ませる、この場合は矢が刺さっている左目だった。

 

――――バンッ!!

 

一つの銃声が鳴り響き、の銃弾が的確にその瞳に吸い込まれる。

 

『ォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!』

 

火が残る地面に降り立ち、悲鳴の様に叫ぶ炎龍を見やり再びビリーは駆け出す、痺れ始めた右腕、強くなる頭痛に歯を食いしばりながらも戦う事を止めはしなかった。

だがそれ故に気づけなかった。再度開かれた炎龍の瞳がビリーを捉えたその瞬間に全身の黒い模様が大きくなっている事に。

 

 

 

 

 




BBちゃん配布キタキタキタァァァー!!
えぇ、石の貯蔵は充分ですともまだまだ回せますよ!!

星5………誰ですかねぇ……キアラさんかな……(遠い目)

はい、というわけで自衛隊皆さん、頑張って、どうぞ。




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「…………」


どうも、シアンコインです。段々と日差しが強くなってきた今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

もちろん私は仕事の合間を縫ってタイ………いえいえ、fgoイベントに勤しんでおりましたとも。

感想もついに100件突破致しましてものすごく嬉しい次第です。
いつもいつも皆様ありがとうございます。

では、お楽しみを。


 

「ッ、……いい加減、引いてくれないかな……。」

 

グラグラと揺れる視界、額を流れる汗を拭い愚痴を小さく零した彼は止まりかけた足を再度強く踏み込み炎龍との間を的確に取りつつ、銃弾を叩き込んでいく。

時折痺れる片手に気を取られブレスや振られた尾が彼の身体を掠るが、持ち前の勘とスキルにより何とか致命傷は避け攻撃を仕掛け続けていた。

 

炎龍との戦闘が始まり数分が経過していた、毒の影響か先ほどよりも体調の悪化が早い事を他人事のように悟ったビリーはこれ以上長引かせるわけにもいかないと炎龍の周りを走る伊丹の車両へと足を運ぶ。

瞬く間に車体に飛び乗り助手席の天井を二回叩いて伊丹の視線をこちらへ向けさせた。

 

「持久戦は、ボクが持たない……。飛び切り強い武器があったら使ってくれないかな……。あと、この前教えてくれた手榴弾? ある?」

 

「飛び切り強いの……RPGの出番か…。アーチャー、無理はするなよ。」

 

「分かってるよ、ありがとう…イタミ。ドラゴンの気はボクが引いておくからうまく当ててね。」

 

彼を見上げ焦り気味に呟いた伊丹は、そのままビリーへと手榴弾を手渡し無線を手に取り横目でアーチャーに返答する。

 

「任せとけ。アーチャー、後で殴らせろ。」

 

「………アハハ、いくらでも殴っておくれよ…。」

 

彼の声音、自分の行動から何故伊丹がそう告げたのか察したビリー。

力のない言葉を残し、再びその場で跳躍したビリーは地に降り立つと瞬く間に疾走、敵意を向けられた咆哮がその耳を劈くが気にも留めず全身に回る痺れと気だるさを噛み殺し銃声を響かせる。

 

(あと、少し、もう少しだ……!!)

 

足を止めず、振られた尾を紙一重で避け、威嚇の様に羽ばたいた翼から繰り出される豪風に身を揺られながらも足を止める事無く炎龍の身体を目の前に捉える。

わき目も振らずにその足に手を掛けると一心不乱にその身体を駆け上がり、その巨大な赤黒い顔と視線を交える。

 

その黄色い眼に灯るは恨みの感情、口に力を溜めるように炎を吐き出さんとするその半開きの口に対し、ビリーは口角を上げると包帯が巻かれた方の腕にもった手榴弾四つをその口へ投げ込む。

 

「お腹空いてるから、不機嫌なんだろ? これでも食べてな、よ!!」

 

至近距離にて四つの手榴弾が爆発すれば唯では済まないだろう、そう人間(・・)ならば。だがこの男にその常識は当てはまらない、ブレスが吐かれまいと炎が溜まる鋭い牙が見え隠れする口の中、黒い塊描け空中にて最早神業とも言えるほど正確にビリーは手榴弾を撃ち抜く。

刹那、炸裂する四つの爆弾は炎龍のブレスを中断させ肉片と幾つかの歯が離散する、焦げるような悪臭が鼻に着いたビリーをしり目に背後から何かの空気を抜いたような軽い音が彼の耳に届く。

 

見ずとも何かを理解した彼はうめき声を上げる炎龍に対しニヒルな笑みを皮肉気に向け、その身を翻し追い打ちと言わんばかりに垣間見えた片目に数発弾丸を放つ。

地面に降り立った瞬間にその場から大きく飛び退くと、数秒も待たずに手榴弾よりも大きな爆音が聞こえ地が大きく揺れる。

 

自衛隊車両から放たれたRPGによる物だと、納得したビリーは漸く安堵に近い感情を得る事が出来たがまだ気が抜けなかった。

風を切り凄まじい勢いで回転する巨大なハルバードがこちらに向かい飛んでいる事を、眼下に収めた彼は横に一歩だけずれる事でそれを回避し、地面に到達したソレが地砕きを起こす寸での所で飛び上がり避ける。

 

見事、自衛隊によるロケットランチャーに片腕が吹き飛ばされ地砕きにより足場を無くした炎龍の姿を捉えたビリー。

土煙が次第に晴れていく中で、炎龍の全体を確認した彼は思わず目を見張り、聞こえてくる底冷えするような声音に全身を強張らせた。

 

『……―――――――!!…………。グオォォォォォォォォッ!!!!!!!』

 

火が灯るように潰れた片目から噴き出す黒い炎、未だ炎龍と呼ばれる由縁の赤い赤い鱗が瞬く間に黒く半身を染め上げ、千切れた腕からは影と思しき不気味な人間のような長い腕が伸びている。

何よりも彼を凍りつかせたのは確かに炎龍の口から聞こえた『―――――』という言葉。

 

突き刺すように向けられる異形の眼光、瞬く間に土煙を切り裂き伸びてくる黒い影のような腕を捉え、何も考えずに彼はそれを迎撃する。

現状、情報を処理できなくなってしまった彼は唯々、銃の撃鉄を落とし銃声を響かせシャドウサーヴァントの如く爆ぜる黒い腕を離散させていく。

 

簡素な音が淡々と響いていく中で、炎龍は咆哮を上げると退散するようにその場を飛び立ち。その場を去って行った。

炎龍が去っていく事を虚ろ気な瞳で捉えたビリーは踵を返し、炎龍の襲撃により倒れた馬車、逃げ惑う民、子供達の元まで駆け始めた。

 

「アーチャー!? オイ、アーチャー!!」

 

幸い近くに居た装甲車から伊丹の制止する声が届くが彼は脇目の振らずに、倒れた馬車の下敷きになった人の救助を始めてしまう。

大の大人数十人でやっと動かせる馬車を一人、両腕の腕力だけで持ち上げた彼は難なく馬車を立て直し下敷きになった男性に手を伸ばした。

 

「大丈夫かい、さぁ、もう平気だ。」

 

作り上げた笑みを浮かべ何かを忘れようと彼は優しく問いかけ、瞳に涙を浮かべる妻と子供であろう人物に笑いかけ早々に次に向かおうと歩み始めた。

既に体力の限界か、それとも魔力の限界か、霞み始めた視界でも彼は足を止めない。

 

(……炎龍は退いた…。大丈夫、山は越えたんだ。後は他の人を助けて―――)

 

虚ろな瞳は光を無くし、右腕の包帯は赤く赤く染め上げられていく。最早気力だけで動いていた彼は唐突に糸が切れた人形が如くその場に崩れ落ちた。

 

 

 

            ◇

 

 

 

炎龍の襲撃から約一日、襲われた村民、遂には倒れてしまったビリーを連れ自衛隊は駐屯地まで戻っていた。

心底疲れたように溜息を吐き夜空を見上げた伊丹は背後のテントを覗く、そこには包帯でグルグル巻きにされたアーチャーが静かに寝息を立て、傍らには看病に疲れた万理が疲れ寝入ってしまっていた。

 

「……これが、異世界か。」

 

実感するように呟いた伊丹の脳裏に映るのは人智を超えた炎龍という幻の存在、それに対抗すべく戦いを挑んだと呼ばれる幻想の存在。

自らもその攻防に参加していたとはいえ、連れていた村民の死傷者の数が限りなく少なかったのは自分ら自衛隊の功績とは言えなかった。

 

既に東京の一件から傷を負っていたビリー、森の集落で使い魔らしき存在との攻防もあり毒という大幅なハンデを背負いながらも炎龍に挑んだその様は蛮勇とも言えた。

されどその行為により少なくとも何人もの人間の命を救っているのは確かだ。だが、もうそれも叶わない、少なくとも満身創痍な彼は傷が癒えるまで何が何でも動かさないと伊丹は心に決める。

 

誰にも頼らずに笑顔を振りまき、最善を尽くそうと戦い行動したその姿はまさに英雄。英霊と呼ばれる物だった。

 

「…ウルトラマンでも動けるのは三分、ビリーも少し休むべきだ。」

 

誰に伝える訳でもなくそう呟く彼は、早々に足を進める。次は俺達の番だ、と。

 

「―――あら、珍しいお客様ね。」

 

「―――む? おぉ、イタミ殿ではないですか。」

 

「や、やぁ、キャスターにランサーさん。」

 

彼が足を進めたのは二人の使い魔(サーヴァント)が居場所としているテントであり、苦笑いとも取れる笑みで中に入った彼を待ち受けたのは机に並べた拳銃を玩具の様に弄び本を広げる魔術師と、己が兜、盾、槍を磨く赤髪の屈強な槍兵だった。

伊丹を見つけるや否や、面白そうに微笑むキャスター。駐屯地に帰還した際に顔を合わせていたランサーは槍を磨きながら声をかける。

 

(何で増えてるんだよぉ……しかもレオニダス一世とかぁぁぁぁ!?)

 

内心気が気ではない伊丹は目の前の槍兵、真名をレオニダス一世を前にして口角を釣り上げてしまう。それもそうだ、歴史上にて最早敵なしとも言えんばかりの強さを持った兵士をまとめ上げたった300人の兵士で大軍、20万にも及ぶペルシア軍を相手に幾度も撃退して見せた最強の守護を持つ王。

そして『スパルタ教育』の語源にもなった代名詞とも言える、数年前に映画化されたこともあり知名度も高い本物の英雄である。

 

そんな存在が目の前に居る事、もっと言えばそんな存在が増えた事に頭を抱えたくなる反面、嬉しい誤算もある彼は何としても彼らと話をしたかった。

 

「それで何の御用かしら? アーチャーの傷と毒ならもう治療も解毒も済んで後は回復待ちよ。」

 

「あぁ、その事なんだが……。」

 

駐屯地に着くや、待ち構えていたキャスターとマスターである万理、二人がかりでの治療がなされていた。

その時のキャスターの顔は呆れたと言わんばかりに顔を顰め、意識が戻ったら覚えていなさいと零していたのを伊丹は忘れていない。

 

「話には聞きましたが、そのアーチャー殿は勇猛であられますな。単騎、使い魔だとしても龍を相手に勝利を勝ち取るとは……一度組み合ってみたいものです。」

 

同時に何故か、自衛隊の力自慢達と組み合っていたランサーともその時に出会い。急だったとはいえ。

 

『アイエエエエエエ!? スパルタ!? スパルタナンデ!?』

 

と、どこぞの忍者に出会った一般人の様に叫び声を上げてしまった彼は悪くない。

 

「暫くは無理ね、ランサーも万全でない男と競っても嬉しくないでしょう?」

 

「ハハハ、違いないですな。して、失礼したイタミ殿。話を。」

 

ランサー、レオニダスの言葉からゲーム基準でビリー対レオニダスの勝負を想像してしまった伊丹はクラス的にビリーに勝ち目がないとか、そもそもガッツ持ち、耐久キャラとクリティカル極振りのキャラじゃマジで勝ち目がないと最早関係ない事を考えてしまっていた。

その直後にランサーからの言葉で現実に引き戻された伊丹は思い出したように言葉を紡ぎだした。

 

「…アーチャーが受けた毒が何は分かったか?」

 

「…………。第一に、私は魔術師であって医者じゃないわ。ましてアレが貴方の言うロビン・フッドの宝具であったのならもうアーチャーは脱落、この場にいないわよ。」

 

伊丹の言葉に本の頁を捲る手を止めたキャスターは一瞥して、溜息を吐いた。森での戦闘直後に車内にて僅かながらビリーと会話した彼女は襲って来たのが英霊ロビン・フッドの可能性が高いと聞いていた。

故に彼を蝕んでいた毒の正体もある程度は掴んでいたが、辿り着いた彼の容態は酷いものだった。度重なる一対多の戦闘、圧倒的不利な状況での防衛戦。

 

身体に蓄積されたダメージもあり、即座に治療しなければならなかった。とても解毒の最中に詳細を掴み取る事など出来なかった。

 

話には聞いていたが連戦を重ねたその身体は既に満身創痍、この状態で霊祖を保っている事自体不思議に彼女は思えた。

ならば、今まで見せていた笑み、振る舞いは空元気だったのかと勘ぐったキャスターは何が何でも話をしないと気が済まなくなっていた。

 

「それはつまり……。」

 

「貴方が言うイチイの毒ではないわ、いえ、もっと言えば毒と言うのも間違いかもしれない。」

 

それでも収穫はあった、本を閉じた彼女は一枚の紙とペンを取り出すと髑髏を書き記し伊丹に見せる。

 

「間違い?」

 

「そう、毒であって毒でない。まるで書きかけの小説の様に効能が中途半端に発揮され、彼を死にまで至らしめていなかったのよ。最終過程が足りない。そうね、『未完成』というのが一番分かりやすくて正しいわね。」

 

怪訝そうに首を傾げた彼にキャスターは言葉を続け、書き記した髑髏のマークの中心からひび割れたようにギザギザの線を引いていった。

 

「ほう……。それは些か可笑しな話ですな、元来毒を使うという事は相手を確実に射止めるという事。でなければ毒を使わず手傷だけを負わせればいい。にもかかわらず相手を死に至らしめる事も動きを止める事もない毒を使うとは本末転倒だ。」

 

「あら、聡明ね王様。」

 

彼女の言葉に反応したのはランサーだった。武人、生粋の戦士であるが故に狩りも熟知している彼はその行為は大本からおかしいと意を唱える。

ランサーの言葉に同意するようにキャスターはニヤリと微笑むと、満足気にペンを彼に向ける。

 

「ハハハ。王様等と呼ばないでくだされ、スパルタではただ計算が出来たが故に王として崇められただけ。まして今は使い魔(サーヴァント)、魔力の援助もしていただいているキャスター殿にそう言われては立つ瀬もありません。」

 

「あら、謙遜する事はないわ。貴方が残した逸話、出来事、それは人類史に置いても偉業。胸を張って誇るべきだわ。それに魔力の件はお互いに協定を結んだ結果だもの畏まらないで頂戴。」

 

(あー、やっぱり協定勝手に結んでるんですよねー………知ってた。)

 

片や、紀元前の大英雄、片や十九世紀のオカルティスト。その奇妙な組み合わせで何ら問題なく会話が進んでいる現状に伊丹はもう思考回路がショート寸前であった。

諦めに近い感情で、それでも彼は挫けず言葉を発する。

 

「協定っていうと、やっぱりランサーさんも?」

 

「えぇ、私たちに協力してくれる事になったわ。魔力の供給を条件に門及び駐屯地の防衛をしてもらうつもりよ。防衛戦において彼の右に出る使い魔(サーヴァント)はそうは居ないでしょう? そうね、ギリシア神話のヘクトール位かしら?」

 

「ヘクトール……あぁ…『不毀の極槍』のヘクトールね…。第三特異点では本当に強敵でした……。じゃなくて!! 協定については分かったけどランサーさんはそれでいいの? あと、毒の事は!?」

 

「私は俄然問題はありません、主人もなく彷徨い辿り着いた先がこの場所、キャスター殿に巡り合えたのはそういう運命だったのでしょう。どうせ魔力も尽き消える運命だったのです役に立てるのならば本望。」

 

「そう……なんだ。なら「――何より」へ?」

 

「ココには良い筋肉を持った兵士達が揃っている!! 既に訓練され洗礼された動き……筋肉……素晴らしい!! スパルタの素質も十分!! これを放っておく手はありませぬ!!」

 

この時点で伊丹は悟ってしまった。

―――自衛隊員のスパルタ化、待ったなし、と。

 

「フフフッ、ご機嫌ね。王様。……イタミ、彼も気づいているでしょうけれど今回のこの出来事は明らかに『聖杯戦争』とはかけ離れた物よ。異常に異常が重ねられた現状では何が起きるか予想も出来ない、もしあの森に本当に『弓兵(アーチャー)』ロビン・フッドが潜んでいたのなら彼も含めて『弓兵(アーチャー)』が二人存在する事になる。何度も言うようだけれど異常事態の今、確証を得るには時間も証拠も何もかもが足りないわ。予測も意味を成さない、今はあの森に近づかないように手配して時を待ちましょう。何より、私達を引き合わせた本人が居なければ話も出来ないし、ね?」

 

彼女の言葉に頷いた伊丹はふと、一つの疑問が浮かぶ。それは何故彼女ら使い魔(サーヴァント)が主人もなしに召喚されたかという疑問。もしビリーと同じよう『この世界の抑止力』として呼び出されたのであれば納得も出来るが。

ならば、あの森の使い魔(サーヴァント)と思しき者も同じく『抑止力』なら何かしらの理由があって攻撃してきたのかもしれないと。思いつく限りの可能性を探る中で一つ思い当たるモノがあった。

 

それに気づいた伊丹はキャスター、ランサーに改めて協力を要請、満足気に頷いたキャスターと心の昂りが未だ納まっていないランサーの覇気のある返事に苦笑してその場を後にする。

向かったのはエルフの村にて救助したテュカという少女の元だった。そして後に伊丹は後悔した、あの場でキャスターに装備の話をしていなかったことを。

 

「――銃器への魔術付与(エンチャント)は概ね完了……。フフフ、一度成功してしまえばこちらの物…。これで自衛隊の防衛力も申し分なく強化できるわ…。」

 

黒く黒く微笑み、楽しみが増えた子供の様にくつくつと笑うキャスターは立ち上がり傍らのオルコット人形が持ってきた駐屯地における、備品倉庫が記された地図を手に伊丹が姿を消したのを確認して歩き出した。

 

「王様、早速で申し訳ないのだけれど警備をお願いしてもいいかしら? 火急の要が出来ればすぐに連絡させてもらうから。」

 

「心得た!! 何分昂るこの気持ちを抑えきれなかった所です故。」

 

お願いね、でもあまり大声を出しちゃダメよ。と言葉を残してランサーと共にキャスターはテントを後にする。善意もとい欲求を満たすその行動を誰も止める事は出来ない。

後日、自衛隊の訓練がよりハードなモノになる事や伊丹の常備品の中に胃腸薬が追加されたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 





改めましてイベントお疲れ様でした。

今回はメルトリリスもリップも鈴鹿も来てくれたので満足でした、凄く楽しかったぁ……。

え? 殺生院さん?
家のアンデルセンが拒否したので(来て)ないです。
デミヤは新宿で既に来てくれたので大丈夫です。

あ、そうそう、もしFGOにてレベル100、フォウMAX、宝具MAXで騎士の矜持(最大解放)を装備したビリーが居れば恐らく私です。もし見かけたら仲良くしてくれるとうれしいです。

ではまた次回。


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「ひ、久しぶりだね……」

どうもシアンコインです。

かれこれ一カ月経ちましたね(白々)
ビリーの宝具強化を確信して日付が変わった瞬間に強化してから一カ月です(二度目)

イベントが立て続きだったものですので今回はやや少なめです。
ご了承下さい……。


 

 

「――――痛ったぁぁぁッ!?!?!?」

 

早朝、アルヌスの丘、駐屯地のテント一角にて金髪の青年が頭部を抑え悲鳴を上げた。彼の前に立ちはだかるように立つ小柄な貴婦人は片手を腰に当てもう片手を前に掲げている。

見れば彼の頭上には分厚い本が宙に浮遊し、その上にはオルコット人形が見下ろしていた。

 

「まったく……、一仕事終えて様子を見に来れば、早々に抜け出して何処に行くつもりだったのかしら?」

 

呆れたように溜息を吐いた貴婦人こと、キャスターは頭を押さえて蹲るアーチャー、ビリー・ザ・キッドを戒めるように睨みつける。

身体の至る所に巻かれた包帯は痛々しく赤く染まり、帽子もコートもスカーフも脱いでいた彼は傍から見ても全開とは思えなかった。

 

「や、やぁ。キャスター。久しぶりだね。」

 

「お陰様でね、どこかの陽気なガンマンに言い包められて置いて行かれたから体力も有り余っていてよ?」

 

困ったように笑みを浮かべ彼女を見上げたアーチャーに映るのは絶対零度の如く冷たい眼差し。一瞬凍りつくかと錯覚してしまうほどに驚いたビリーは何とか言葉を繋ぐ。

 

「そ、そんな悪い奴がいるならボクが退治してあげようか?」

 

「大丈夫よ? 今目の前にいる事だし自分で報復するから。―――マリも言いたい事があるのよね?」

 

(あっ………)

 

何とか誤魔化そうと足掻くが無駄になりそうだと諦めた瞬間にキャスターから誰かに向けられた言葉を聞き、ビリーは死期を悟ってしまった。

ギギギとブリキの人形の様にゆっくりと首を後ろへ向けたアーチャーが見つけたのは、自分がかけたコートを羽織り涙目でこちらを睨む万理(マスター)の姿だった。

 

状況にもよるが、唐突にサーヴァントである自分に腕力でダメージを与えたり、消耗しているとはいえ自分に気づかれず背後に立つという偉業を成し遂げている彼女も大概だとか。

関係ない事を考え始めてしまった彼。傍から見れば女性二人に挟まれ詰め寄られている様にも見えなくもこの状況。

 

(またあの男か………)

 

(羨ま……妬ましい妬ましい…)

 

(リア充消滅しろ)

 

(修羅場かな?)

 

通りかかった自衛隊員達は急にハードになりつつあった訓練からの疲れか、単純な嫉妬の視線が注がれていた。

――――ビリーに容赦のない口撃が向けられるまであと10秒。

 

 

 

 

             ◇

 

 

 

 

とある村の酒場、夜な夜な栄えるのは当然の事と飲んだくれや、食事を取りに来た民衆の中で四人の鎧を纏ったいかにもな格好をしたグループが飲み物を片手にとある話をしていた。

噂話として最近巷を騒がせている、緑の服を着た傭兵団。その一団はコダ村の人々を炎龍といういわば災害に近い存在から非難させていた途中で、その炎龍と遭遇、それを追い払ったという話だ。

 

俄かには信じられないと若い金髪の騎士は苦言を示し、龍にも種類があると別の可能性があるのではないかと言葉を紡ぐ。そんな時だ、実際にその炎龍の話をしていたおかみがそのテーブルに近づいて来た。

 

「本当の炎龍さ、騎士さん達。」

 

さも当然、嘘など言ってはいないと堂々とした態度でそのテーブルに飲み物が入った器を置くと女将は二ヤリと笑う。

ノーマとそう呼ばれた騎士は信じられるかと笑い飛ばすが、女将は腰に手を当てこの目で見たと自信満々に告げる。

 

間髪入れずにその隣の女騎士、ハミルトンは小銭を手に取り話を聞かせてくれと頼む。こういう時は大概チップが目当てだろうと勘ぐっての行動だ。

案の定、どうしたものかと焦らした女将にハミルトンは小銭を差し出す。その瞬間にその手から小銭は消えて女将の手には小銭が握られる。

 

「ありがとよ、若い騎士さん。こりゃ取って置きの話をしなけりゃいけないね。」

 

思い出すように瞳を閉じた女将は語りだす。その光景と凄まじさを。

 

「―――鉄の一物のような魔法の武器を持ち、ビクともしない頑丈な荷車に乗った緑色の服を着た連中。最初は不気味だったけど、その荷車は馬が引いているわけでもないのにとんでもない速さで駆け、炎龍の吐いた火を避け、鉄の武器で炎龍を怯ませたのさ。」

 

「鉄の……一物? そんな物でどうやって炎龍を?」

 

その話を聞いていた赤髪の女騎士は首を傾げて聞き返した。剣や矢ならまだ分かるもその武器でどうやって炎龍を怯ませたのか疑問に思ったのだろう。

 

「目には見えなかったけどね、パンッと何かが弾けるような音がしたと思えば炎龍の身体に火花が散っていたのさ。しかも、だ。最後に取り出した巨大な鉄の一物は、とんでもない音を出したと思ったら炎龍の片腕を吹き飛ばしていたねぇ……。アレには本当に驚いたさ。」

 

「炎龍の片手を……吹き飛ばした!?」

 

女将の言葉に赤髪の女騎士は思わず立ち上がり声を荒げてしまう。信じられるか、触らず音を立てたと思えば炎龍の腕を?いだというのか。そんな事が出来る筈がない。

どうやら他の騎士たちも同じく感じたようで皆、顔を顰めて項垂れている。

 

「あと、最後に…。」

 

「まだあるの!?」

 

「あぁ、とっておきのとっておきがね。」

 

流石にこれ以上の事があるとは思えなかったのか、椅子に座り直し息を整えていた赤髪の女騎士の隣のハミルトンが声を上げ。再び彼女はむせてしまう。

 

「――ソイツはたった一人で炎龍を前に大立ち回りをしていた。そうだねぇ、むしろ緑の服を着た連中が彼を補助していたとも今では思えるよ。黒い帽子に赤い布切れを首に巻き、黒い服を着た金髪の男は炎龍を見つけるや鉄の荷車から飛び降り。その荷車よりも早く早く駆け、その手に持った黒い塊で鉄の一物と同じように音を響かせ確かに炎龍の身体に傷をつけて行ったんだ。」

 

「は……ハハハ、それこそ無理がある。荷車よりも早く走り、炎龍に傷をつけた? そんな事信じられるわけ……。」

 

「まぁまぁ、最後まで話をお聞きよ。ソイツは振りかぶられる巨大な尻尾を飛んで避け、吐かれた火を躱し、炎龍の身体に引っ付くととても人間業とも思えない速さでその巨体を登り頭まで辿り着くと、何かを口の中に入れ炎龍の口を爆発させたのさ。……信じられない、そういったね? じゃあ証拠を見せてやるよ、アレを見な。」

 

長々と話を続け、満足といった様子で話の内容に唖然としている騎士たち四人の視線をカウンターの上に飾られている巨大な牙に向けさせた。

 

「ま……まさか。」

 

「ご想像通りさ、アレがその男が吹き飛ばした炎龍の牙だよ。」

 

帽子の男は興味なさそうだったからねと笑い、満足気に微笑んだ女将はゆっくりしていってね、と言葉を残して次の客の所へ行ってしまう。

残された四人の視線はその飾られた牙に向けられるが。あの話を嘘だと否定できる材料が見当たらなかった。遠目に見ても何かで弾かれたような真新しい傷があちらこちらに存在し、日に当たって出来るであろう黄ばみも無い。それはつまりつい最近の物だと証明していた。

 

「とんでもない者達の様ですな……。」

 

誰もが言葉を失った中で老年の騎士が最初に口を開いた。その言葉に我を取り戻した三人は各々頷くなり、乾いた喉を潤すように飲み物をあおる。

 

「…………これも噂ですが…何月か前、門から帰還した兵士達は皆口々にこう語っていたそうです……。『黒い帽子と赤い布の死神』が門の向こうには居たと……。」

 

「「「………」」」

 

騎士ハミルトンが絞り出すように発した言葉に、三人は言葉が浮かばない。そして不意に思ってしまった。

帝国軍が踏んだのは虎の尾ではなく、それよりも恐ろしい何かではないかと。

 

赤髪の騎士こと、帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダは身震いする。どんな強大な敵であろうと我らが負けるはずがないという自信が。

突きつけられた言葉と噂に目に見えて崩れ始めている事に気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………。」

 

「……あー、マスター?」

 

沈黙は金なりと昔の人は言った。だが、今この瞬間のビリーにとってそれは苦痛以外何者でもなかったのだ。

二人による容赦のない波状口撃を真正面からくらった彼は面を食らい、項垂れる事しか出来なかった。

 

キャスターを口で言い包めてアルヌスの丘に置いて行った手前反撃も出来ず、こちらの事を心配して付きっ切りでいてくれたらしい主人の万理が涙目で問い詰めてくれば何も言えるわけがなかった。

結果としてギッタンギッタンにされたビリーを置いてキャスターは、時間をあけてまたお話しましょうとテントを去ってしまい。

 

残されたのは主人の万理と使い魔のビリーだけであった。

心底困ったように苦笑いを浮かべた彼は立ち上がり振り返ったのだが、その先に居た万理は目が合うや顔を逸らしてしまい気まずいままだった。

 

「………包帯と傷薬、タオルもありがとう。マスターがやってくれたんだよね?」

 

「私が出来るのは……それくらいだから……。」

 

「ありがとう…、ごめんね、心配かけたよね。」

 

「………そんな言葉、いらない…。」

 

感謝の意を伝えた瞬間に呟くように返された言葉、人間であった頃の彼であれば聞き逃していたであろう言葉に英霊の身である彼は皮肉にも気づいてしまう。

半ば信じられない様子で顔を背けたままの万理に彼は手を伸ばした。

 

「…マスター?」

 

「……ごめんなさい、アーチャー…」

 

顔を合わせぬまま、彼の手を避けるように隣を通り抜け彼女は一言そう囁いてその場を後にする。

残されたビリーは数秒、唖然としてその場に立ち尽くし行き場を無くした片手を力なく下げると天井を光のない瞳で見上げた。

 

(………あぁ、この姿になった以上、自分を殺して、手の届く範囲を護ろうと恨まれるのも疎まれるのも覚悟していたのに……。――――やっぱり、僕は人間のまま、か……………。)

 

傷の痛みなど感じるはずもありもしないのに、酷く痛む胸を押さえ何かで叩かれたように揺れる頭を押さえビリーはベッドに崩れるように寝転がった。

どこまでも非情になり、考えうる最善の策を練り上げ、自分の為に大多数を救い続けようとして自身に最も近い存在を蔑ろにしていた事に、今頃気づく彼は後悔の念に遂に押しつぶされてしまった。

 

 

 

 

 




ハンティングクエスト、羅生門、鬼々島…。

皆さんはどうでしたか?
自分はビリーで無双できたので大満足です。

あと呼札で星5ってホントなんですね……都市伝説だと思ってました。
まさかの酒呑が………。

育成頑張らなきゃ…………(遠い目)

あ、マイページの方にFGOのID記載しております。
良ければご気軽に…。


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「知らない内に……って感じだね。」


ども、お久しぶりですシアンコインです。

えっと、その、まぁ、はい。

この作品を投稿して一年、経ってしまいました。

長らくお待たせしてしまいました。

久しぶりの投稿なのに話はあまり進みません、どちらかというとレオニダスさん要素強めなお話になりました。

それではどうぞ。


 

 

 

 

 

 

「………っ……はぁ…。あぁ……どうしてこうも問題ばかり起こるんだ…!!」

 

アルヌスの丘、自衛隊駐屯地の一角。一人の男性が鬱憤を吐き出すように溜息を零して自らの黒縁眼鏡を掛け直す。

忌々しげに見つめる先にあるのは自衛隊員達が訓練の合間を縫い、とある人物とちょっとした勝負を繰り広げる広場だった。

 

その勝負に挑む自衛隊員達曰く―――

 

『今までの自分が如何に力不足かを実感できた。』とか。

 

『あの勝負をした事で自らの欠点と足りないモノを見つける事が出来た。』とか。

 

『武器が無い極限の状態で如何に人を相手にするべきかを学ぶ事が出来た。』

 

等という訓練に支障もなく休憩時間内に終わるその小さな催し物が柳田二等陸尉の悩みの種だった。

 

『―――筋肉!!筋肉!!筋肉!!』

 

『―――筋肉サイコォォォォォォ!!』

 

あぁ………最後の言葉は忘れてしまおう。

 

ハッキリと言ってしまえばその催し物に関しては何ら問題はない、が。

自衛隊員が相手にするとある人物が問題だったのだ。

 

始まりは数日前。

伊丹二等陸尉含めた一個師団が銀座の一件で姿を現した名称『弓兵(アーチャー)』を引き連れ現地調査に出て間もなくの事だった。

 

その姿は現代人からすると宛ら野蛮人に見えなくもない出で立ち、傍らに抱えるのは巨大な鈍色の盾に鋭い槍。前時代的な鈍色の兜を被り自衛隊駐屯地に真正面から入ってきた時は本当に驚いたものだ。

警戒する自衛隊員に対し、その男は両腕の得物を通達があった弓兵と同じように光に溶かして消してしまうと徐に大柄な自衛隊員に『素手で相手しよう』と挑発して見せたと傍らに居た隊員は語る。

 

その挑発された自衛隊員はこの駐屯地に置いて一、二を争うほどの力自慢でもあった。故に詳細不明の男に挑発されプライドも相まってその誘いに乗ってしまった。

睨むようにしかして笑う様に表情を変えた隊員はその場で体を屈め全力のタックルを繰り出した、男との距離は十メートルにも満たない、数秒の後に薙ぎ倒される男の姿を想像した周りの自衛隊員は次の瞬間に言葉を失った。

 

『―――甘い!!』

 

タックルを真正面から受け止めた男はそのまま自衛隊員を両腕だけで間髪入れずに後方へ投げ飛ばしたのだ。

一瞬の攻防に唖然とした隊員達は我に返ると警告も無しに数を頼りに相手を拘束しようと詰めかかる、一対一で負けたのならば数で勝ればいい。確かにそれは理にかなっているし間違いではない。

 

『―――まだまだぁ!!』

 

相手が人間ならば、だが。

瞬く間に隊員数名を投げ飛ばし、地面に叩き付けた男は雄叫びの様に声を荒げ次はまだかと兜の中で瞳を闘争心に滾らせていた。

 

殺到する自衛隊員の波を薙ぎ倒しては投げ飛ばし、時には受け止め読んで文字の如く叩きのめすその姿は正に戦士と呼ぶに相応しい姿だったという。

その事の顛末が柳田の耳に届いたのは騒動の数分後であった。極端に言えば単純な己の力比べ、害を及ぼすような行動を見せずにいた男相手に次第に隊員らはこぞって一対一を挑むようになり。

 

この騒動を治める為、数日前にこの駐屯地に現れた名称『魔術師(キャスター)』に白羽の矢が立ち。結果、名称『槍兵(ランサー)』が『魔術師(キャスター)』と共にこの駐屯地の防衛に当たる形になり事なきを得たのだ。

そう、事なきを得た。確かに得たのだ。結果的にその力は未知数であるが銀座での一件から協力関係にある『弓兵(アーチャー)』と同じ存在だと『魔術師』から説明されその力は並大抵ではないという報告を受けている。

 

自衛隊上層部も『弓兵(アーチャー)』に匹敵するほどの力を持った存在が野放しにされているよりも自陣に居る事を選んだのだ。実際問題、銀座の門を破り現れた『影』への対抗手段は自衛隊にはなく。

奴等に対応できるのは『弓兵(アーチャー)』『魔術師(キャスター)』加え、今回現れた『槍兵(ランサー)』の三人しかいないが故に、そんな貴重な存在を手放すのを惜しんだとも言えた。

 

その為、この駐屯地には詳細不明の『弓兵(アーチャー)』『魔術師(キャスター)』『槍兵(ランサー)』という如何にも胡散臭い連中が居座っている。

何も事の経緯を知らない隊員からすれば不審に思うのも無理はないだろう。現にそんな目で彼らを見ている隊員が居るのも確かだ。

 

最近では夜な夜な魔術師らしき人影が駐屯地を飛び回り何やらやっている、との噂が出る始末。

頭を垂れて眉間を指で摘み、大きなため息を吐いた柳田は再び顔を上げ悩みの種であるその広場を見ると既に今日の勝負が始まろうとしていた。

 

「――あぁ、面倒事ばかりで本当に嫌になるよ!!」

 

吐き捨てるように語気を強くして柳田は事が大きくならない様に足を進め始める。

今日も彼の仕事は時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

「………………、元気ないねぇ……。」

 

場所を同じくして自衛隊駐屯地、名称『弓兵』ことビリーは駐屯地の高台から見下ろすようにただ一人の女性を見つめていた。

時折溜息を吐くような身振りで立ち止まった視線の先の気弱そうな女性、辺りを見回すように首を左右にゆっくりを振る彼女の姿に彼は心苦しそうに溜息を吐いていた。

 

そして同時に興ざめしたかのように顔を強張らせ左手をホルスターへと伸ばしていた。

 

「Hey girl。それ以上ボクに近寄らないでくれるかな?」

 

振り返りもせずに自らの背後に言葉を飛ばしたビリー、すると残念そうに笑い声が彼の耳に届きそこでやっとビリーは振り返った。

対面するは黒いドレスに特徴的な大きな黒いリボンを頭に着けたビリーよりも小柄な少女、その風貌に似つくわしくない巨大なハルバードを抱えて佇むその姿は現実味がまるでなかった。

 

「残念、ちょっと驚かせようと思っただけなのにぃ。フフフッ。」

 

「気にする事はないさ、君のその得物を見ただけで十分驚いたからね。」

 

「あら、本当に驚いてくれたのかしら?」

 

「勿論さ、あまりにも綺麗なお嬢さんが目の前に居るもんだからね。」

 

「うふふふふ、お嬢さんだなんてお上手ね。気づいているんでしょう? 僕ぅ?」

 

「ハハハ、何のことだかボクにはサッパリだなぁ。」

 

緩急もなく、まるで台本の様に言葉を交わす彼ら、片や乾いた笑い声でとぼけたビリー

そして彼を興味深そうに見つめる少女は笑みを崩さない。

 

「ふぅん。ならそういう事にしておきましょうか、それじゃあもう一つ聞かせてもらえる?」

 

「何だい? 答えられる範囲なら答えるよ。」

 

 

 

       『どうやって、器と魂を入れ替えたのかしら?』

 

 

 

核心を突かれた一言、その静かながら脳内に響く言葉にビリーは一呼吸置いて口を開く。

 

「おっと、魂とか精霊とかの話ならジェロニモの得意分野だ。ボクには何の事だか分からないね。」

 

肩を竦めておどける彼は背中で冷や汗をかく、不審な素振りは見せる事無くこの場をやり過ごすつもりだろう。

突然のアクシデントに弱いビリー自身、黒服の彼女ことロゥリィ・エム・マーキュリーには警戒していた。

 

それもそのはず、彼女は『半神』という半分が人間であり半分が神という上位的存在。彼の脳裏にはこの物語の本筋で伊丹の魂を可視化している描写、加えて血の契約らしき物を交わしている事を理解していた。

故に彼女がいずれ自分というイレギュラーに接触してくることは目に見えており、自身の存在に気付くであろうと予測していたのだ。

 

彼の反応を見てロゥリィは満足のいく答えを得る事が出来たのだろうか、その場で怪しく微笑むと再度言葉を紡ぐ。

 

「それじゃあ、最後に――――お手合わせ願おうかしら!!」

 

「………警告した筈だけど?」

 

赤い瞳が嬉々として輝き数メートル離れていた二人の距離は瞬く間に詰められ巨大なハルバードがビリーの足元を抉り取る。

それよりも早くその場を飛びのき振り抜かれたハルバードの穂先にビリーは降り立ち、銃を構えて凄んだ。既にそこには人間である彼は存在せず、障害となる物を排除する英霊となっていた。

 

「いいじゃない、形は違えど貴方が強者なのは変わりないわ。闘争を求めて何が悪いのかしら?」

 

「これはイカれたバトルジャンキーだね、だけどボクにも建前があるからね。無闇にここで戦う訳にはいかないよ。」

 

だからサヨナラだ、と言葉を残し振り上げられたハルバードから飛び上がりビリーは彼女に背を向けるとそのまま体を光に溶かしやがて消えていく。

残された半神はその場に残された一瞬の濃厚な殺意の余韻に浸りながら静かに笑い声を漏らしていた。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

「………ジー…」

 

「オーケーオーケー、分かったからお嬢さん、そんなに熱い視線を向けないでおくれよ。ホラ、ボクの相棒だから大事に扱ってよ?」

 

ロゥリィから離れ駐屯地を当てもなく眺めるように歩いていた彼は、やることもなく人気の少ない隅のベンチに腰掛け黄昏ていた所を一人の少女に目をつけられていた。

 

観念したように苦笑いするビリーの傍らには杖を携えた青い髪の少女が彼の腰元を見つめている。

ゆっくりとした動作で腰のホルスターからコルトM1877を取り出し、隣の彼女に見える様に弾倉から6発の銃弾を取り除き銃を彼女に差し出す。

 

軽率な行動ともとれるビリーの判断だが、『本来』の彼女を知っている彼はそうしなければ終わらないと知り得ていた。

 

興味深そうに両手でコルトM1877を受け取り眺める少女、名をレレイ・ラ・レレーナ。

コダ村に住んでいた少女であり賢者カトーから魔法を学ぶ魔法使い見習いと言った所だろうか、そんな彼女は炎龍との戦いで果敢に戦うビリーそして自衛隊に深く興味を示したようで事あるごとに駐屯地を見て回っていたのだが、眠りから覚めたビリーを偶然見かけこうして彼に着いて回っている。

 

拳銃を見つめていたのは恐らく自衛隊の持つ突撃銃を見せてもらえなかった為、突撃銃とは別に炎龍にダメージを与えていたビリーの拳銃を拝見しようと考えたのだろう。

 

「……ん…?」

 

隣で興味深そうにコルトM1877を触る彼女から疑問の籠った反応を感じたビリーが横を向くと丁度レレイは視線を上げ彼を見ていた。

拳銃の撃鉄部分を指さし何かを伝えたいようだった。

 

「この部分は何を意味している?」

 

「あぁ、そこはガンズハンマッ………―――君は今日本語を喋ったのかい…?」

 

「ん?……ニホン…ゴ? それは緑の人が使用している言葉の事? 少なくとも今は貴方も、私も私たちの言葉を話している。」

 

ある程度は勘付いていたビリーは微笑みの裏で驚きの感情を隠し通す。

 

(……そういえば、ロゥリィの時も僕は彼女の言葉を理解していたし、返答も何の問題もなく通じていた……。やっぱりあの時にこちら側の知識が入ったのかなぁ……。)

 

やはりこの世界を超えた瞬間に意識を失った理由はコレだったのかと思案する彼を余所に、目の前の魔法使い見習いは再びコルトを触り始めた。

そんな時、ふとビリーの耳に複数の足音が届く。こちらに徐々に近づくそれに気づいたビリーはそちらへ顔を向けて硬直した。

 

「アーチャー………気が付いたのか!!」

 

「おぉ!! 貴公が弓兵、アーチャー殿であるか!!」

 

(レオニダスゥぅぅぅぅぅ!?!?!?!!?)

 

自らを見つけ驚きの表情を浮かべた伊丹の足取りは次第に早くなり彼に近寄っていく中、伊丹の隣を当たり前の様に歩いていた槍兵、レオニダスの存在に内心絶叫、絶句しているビリーの表情は固まり続けたままだ。

 

「とりあえず一発くらえ!!」

 

「あいたっ。」

 

流れる様に彼の額にデコピンを喰らわせた伊丹は満足気に彼の向かいに腰かけ、その隣にレオニダスは腰を下ろした。

そして注がれる並々ならぬ視線、視線、視線。一人は拳銃の説明がほしい少女、もう一人は何故か自分に熱烈な期待のような視線を向ける筋肉、もう一人はさぁ、言い訳を聞こうかと言わんばかりの大人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず紹介と報告を兼ねて話をしておこう、お前と同じようにキャスターと協定を結んだランサーさんだ。んで、こっちが話していたアーチャー。」

 

先に一通りのレレイの質問に答えたビリーは長話になるだろうと、次があると彼女に言い聞かせその場を後にさせ本題に移っていた。

槍兵からの鋭い視線に内心震えあがりそうになっている自分を押さえつけて彼はその場にとどまり続ける。

 

「やぁ、紹介に預かったアーチャーさ。キャスターと協定を結んでいるならボクも仲間だ、よろしくねランサー。」

 

「これは丁寧に、感謝する。しかしながら真名を隠す必要はありません故名乗らせて頂こう。我が名はスパルタ王、レオニダス。この地に召喚され主人もなく彷徨っていた所この場に辿り着いた次第です。」

 

「おおっと、これはこれは。雰囲気というかオーラというか何となく察していたけれどまさかキング、王様とは驚いたね。ボクはウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア。人呼んでビリーザキッド、キャスターから話は聞いてると思うけれど周りに人目がある時はクラス名でよろしくね。」

 

兜を外し朗らかな笑みを浮かべた筋骨隆々の男に右手を差し出したビリーは微笑み握手を求めた。

それに快く応じたレオニダスのおかげで事は円滑に運び、待ちわびたと言わんばかりの彼からの質問が始まったのだ。

 

「所でアーチャー殿、傷の方は如何ほどに? 話に聞けば何者かの襲撃で傷を負い手負いのまま炎龍を相手にしたと聞きましたが……。」

 

「お陰様で、優しいマスターとキャスターが治療してくれたから時間が経てば元通りさ。因みに釘を刺しておくけどあと数日は安静にしてるつもりさ。」

 

「ハハハハハ。気づかれておりましたか。」

 

「そりゃあ当然さ、ボクらの時代はどちらが先に撃つか撃たれるかの世界。臆病にもなるよ。」

 

握手をした際に感じた一瞬のピリピリとした空気に加え、その視線に見え隠れする戦意に彼は内心冷や汗をかいてやり過ごす事を選ぶ。

穏やかに微笑むビリーは冗談交じりにレオニダスとは暫く手合わせをするつもりはないと伝え、徐に懐から一枚の銀貨を取り出して指先で弄び始めた。

 

「臆病者に炎龍は些か無理があるのでは? 見事返り討ちにしたそうではないですか。」

 

「男なら誰でも女性の前ならいい格好したいだろう、キングにだってそういう経験あるんじゃないかい。」

 

「これは参りましたな、口では勝ち目がないやもしれん。」

 

「まぁまぁ二人とも、互いに聞きたい事や話したい事はあるかもしれないけれど俺からも二人に、いや三人に伝えなきゃいけない事があるんだ。」

 

したり顔でニヤついたビリーは飄々と己の無茶を唯の意地だと偽って、指先でコインを弾き掴み取った。

対するレオニダスは思う所があるのか指先で頬を掻くと苦笑いを返し。隣で話を聞いていた伊丹が話を切り替え始めた。

 

気が付けば自分の影が一回り程大きくなり、帽子を被っている事に気づいた彼は諦めた様子で上を見上げ。

顔面に降り立ったオルコット人形を手にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






前回投稿から一月ごとのにあった事

7月
「アラフィフ欲しいなぁ……こないかなぁ……あっ、もう来ないわ」(ホームズ)

8月
「今年の夏イベはネロかぁ……まぁどうせ当たらないし。………うせやろ」(一発ツモ)

9月
「えっ、ロマン砲投稿一年…………?」

10月
「英霊剣豪7番勝負? 家のビリーの出番だ!!」(プ ル ガ ト リ オ)


とこんな感じでスランプ気味に過ごしてました。

後書きで言うのも場違いでしょうが………。

すいまっせんでしたぁぁぁぁぁぁ!!





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「落ち着かないなぁ」


お久しぶりです、新年あけて半年ぶりでございます……。

まぁ、その辺の釈明は後書きにして……。

英霊旅装、良いですよね。みんなカッコ可愛いです。


所で、ビリーの礼装、どこ(死んだ目)?





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ…」

 

深夜、誰もいないアルヌスの丘の外れ。

以前ビリーが一人黄昏ていた岩の上で一人の女性が憂鬱気に星空を見上げていた。

 

天を照らすのはまばらに散りばめられた星々、見知った星座も無い星空は新鮮であり同時に違う世界なのだと実感させていた。

尾賀万理、平々凡々なその女性は右も左もわからない道で立ち竦む様に顔を伏せる。

 

思えば波瀾の日々だった。

変わり映えのない日常があの日、一転し彼女は命の危機に晒されていた。

 

襲い来る武器を持った軍勢、突然の出来事に反応できずに切り裂かれ、穿たれ、叩き殺される人々を間近で見てしまった彼女。

今でも鮮明に浮かび上がる凄惨な光景は色濃く彼女の心身を傷つけ蝕んでいた。

 

「……ッ……ぅぅ……。」

 

思わず嗚咽を漏らした彼女に途方もない哀しみ、そして寂しさが押し寄せた。

命の危険から逃れたわけではない、怖い怖いと心の何処かで恐怖に怯え、今更になってひと肌が恋しく、寂しくてたまらなかった。

 

我ながら自分勝手なワガママだと万理は瞳に涙を溜めるが、吹き抜ける風がソレを散らしてくれていた。

しかし、心の隙間は埋まる事無く彼女は再び顔を俯かせた。

 

以前ならば何処かで自分を見守っていてくれていたビリーは、この前の件から姿を見せる事をしてくれなかった。

不器用な笑顔で謝罪してくれた彼を突き放してしまった自分に後悔が尽きない様子で彼女は腕の中で振り払う様に頭を振るう。

 

向こう見ずで、黒いコートの背中は自分よりも小さいはずなのに大きく感じた。

何時も何処か達観したように笑顔を浮かべるアーチャーは自らを省みない、仮にも主人とそう呼んだ自分の言葉さえも聞かずに誰かの為にならその命を天秤に掛けてしまうのだ。

 

これがもし、自身が深い関わりを持たずに助けられただけの関係だったのならそこまで深く考えるなどしなかっただろう。

けれど万理の脳裏にはもうビリーという英雄が深く刻まれていた、命を救ってくれた恩人として、主人と使い魔という関係として、そして何時も笑顔で弱みを見せずにボロボロになってしまう一人の青年として。

 

だからこそ、彼が傷つくのを唯見ているのが歯痒く、何もできない無力な自分を悔しく悲しく感じたのだ。勝手な言い分だと瞳に涙を浮かべ万理は再び瞳を閉じる。

もう一度、一陣の風が吹き抜けたその時――――

 

「―――――おや、先客が居るとは驚いたね。」

 

「ッ!?」

 

思わず顔を上げた先に居たのは、飄々と微笑む横顔で満天の星空を見上げるビリーの姿だった。

 

「……いいねぇ…。……星を見るには絶好の夜だ。ハハハ、こうも真っ暗じゃ星と月、マスターのシルエット位しか分からないや。」

 

見え見えの小さな嘘を吐くビリー、その言葉の真意に気づいてか万理は涙を拭わずに視線を彼に向けた。

 

「どうして、ここに居るってわかったの?」

 

「んん? さぁねぇ……ただ何となくマスターがココに居るんじゃないかなってさ。」

 

ついこの間あった出来事をそのままの言葉で意地の悪い笑みを浮かべて返す、ビリーは平然と夜空を見上げ続けていた。

静かにその場に佇む彼は彼女に何かを求めているわけではなく、ただ寄り添っているだけだった。

 

それは彼が臆病だからなのか、それとも万理を気遣っての行動なのかは分かりはしない。

そして口を開く。

 

「さて、と。それじゃボクは一足先に向こうに戻るよ。マスターも風邪を引かないようにね。」

 

「………アーチャー…」

 

「ん?」

 

「…ごめんなさい………。アーチャーは当然の事をしようとしただけなのに、あんなこと……言って…。」

 

「………。…マスターが謝る事じゃないよ。ボクが約束を破ってやりたいようにやった結果じゃないか、だからマスターは気にしないで、笑っててよ。」

 

おやすみ、そう一言だけ残したガンマンは夜闇に溶けていく。その表情は困ったように笑う一人の青年だった。

 

「…………。」

 

その光景を後に俯かせていた顔を上げた万理は顔を上げ夜空を仰ぐ、その瞳に宿るのは確かな光と覚悟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――で、今度はボクも留守番かい? キャスター?」

 

「あら、貴方の本来の目的はあの門の防衛でしょう。 当然の結果ではないかしら。」

 

不機嫌そうに苦言を示したのはカウボーイハットを指先で回すアーチャー、その隣でさも当然といった表情で書物を捲るキャスター。

オルコット人形は気ままに宙を浮遊し、彼ら二人が暇をつぶすプレハブの屋根の下では眩い光が幾度も漏れては消えるを繰り返している。

 

本日も晴天なり、舞い上がる草端を眼下にアーチャーは雲一つない青空を見上げ寝転がった。

プレハブ小屋の天井から時折微弱な振動が彼の背中を擽るが彼は眉一つ動かす事無く、息を漏らした。

 

「マスターの魔術の才能は、どの程度なの?」

 

照りつける太陽の光を鬱陶しそうに瞳を細めたビリー、そんな彼の言葉に隣のキャスターは首を一度彼の方に向けると再び書物に視線を戻して口を開いた。

 

「………天才の下を凡才というならば、彼女は直向きに努力を選んだ分、秀才よ。そもそも素養がない人間に私が指南すると思って?」

 

「………そうかい、んじゃあ。あまり危なくない魔術を頼むよ。ボクが居なくても大丈夫なくらい。」

 

「まったく……、良く出来たコンビね。」

 

主人は使い魔の身を案じ、魔術に励み。自らに力を求め自身を顧みない、片や使い魔は主人の身を案じ、そして他者の身を案じ自らを省みない。

互いが互いに矛盾させている事に気づきもせずに、似た者同士の彼らは自然と支え合っている。

 

余りにもアンバランス。故に綻びが起きればそれはすぐに崩壊する、しかしすぐに関係を補修した彼らにキャスターはそう小さく呟くと困ったように微笑んでアーチャーと同じく空を眺めはじめた。

 

「そーいえば、エジソンのぬいぐるみはイタミ達に渡したのかい?」

 

「ええ、ランサーを同行させているし。情報の共有も出来るなら使わない手はなくってよ。」

 

「ホント、便利だねぇ魔術は。」

 

呟いたビリーは帽子を掴み上げると日差しから隠れる様に自らの顔を帽子で隠すと、大きく息を吸い込んだ。

想像よりもダメージが深刻だったビリーは、伊丹、キャスター、万理からの提案により駐屯地に繋ぎ止められていた。

 

特地進出初日に起きた防衛戦でのワイバーンの亡骸から手に入れた鱗、素材を近くの街にて換金、手に入れた資金を運用したいという避難民達の申し出があり。

避難民の監視、保護の役目を担っていた伊丹の部隊は彼女らを連れて移動する事になっていた。

 

ビリー自身、本当なら万理を連れて同行したい所だったが伊丹、万理、キャスターに咎められてしまい現在はこうして駐屯地の警備を担当していた。

正直、不満ではある。しかしまた無理を通しでもすれば隣の魔術師は今度こそ契約を反故にしかねないだろうし、デメリットが多く出てしまう。

 

(あぁ、もう、当然だけど上手く事が運ばない……。)

 

内心で悪態を着き、諦めの溜息を吐き出した彼は仕方ないと逃避した。

 

「………いい加減、話しなさいな。何を見たのアーチャー」

 

沈黙を切り裂いたのは本に視線を向けたままのキャスターだった。

まるで当然の様に、確信したように言い放った言葉、それにビリーは口角を下げると重い唇を動かした。

 

「炎龍が、ボクをこう呼んだ『弓兵』ってね…。」

 

「あら、こちらの龍は人の言葉を話すのかしら、ユニークな話ね。」

 

「……ボクも冗談で済ませたかったよ。」

 

彼の言葉に頁を捲る手を止めた彼女はビリーを一瞥すると小さくため息を吐いた。

龍種が言葉を口にしたという逸話は少ない、しかしこの世界には凶暴な災害として扱われてはいるが意思疎通の出来る存在として伝わっていない事から、言葉を口にするとは考えられない。

 

加えて彼らサーヴァントは人間ならざる力を持ち得るものの、容姿は普通の人間と遜色ないのだ。一見で彼を弓兵と呼称した炎龍には何らかの力が働いていると考えた方が利口だろう。

そしてもし、英霊が炎龍を使役、或いは操っているのなら。それは自らよりもワンランク、いいや更にその上を行くレベルの英霊と言っても過言ではないのだ。

 

ビリーはその後に起きた現象、炎龍の半身が瞬く間に黒く染まりあがった事、吹き飛ばした筈の場所から影の様な異形の人型の腕が無数に生え、自らに襲い掛かってきたことを。

ソレを聞いた彼女は顎に手を当て何かを考え始めた。

 

「正体不明の姿形は確認できていない、そうキャスターは言っていたよね?」

 

「…………そうね、遠くから覗いていたわ。下手に近づいたらアレに呑み込まれていただろうから。」

 

「その口ぶりだと……黒い泥のような『何か』だったのかい?」

 

「えぇ、水の様でそれでいて泥の様に蠢く、黒いスライムの様な何かよ。……人型のサーヴァントは確認できず、あったのは禍々しい魔力の余波、そしてその中心で一層強い魔力の塊を確認したわ。」

 

「ソコから推察して、汚染された聖杯を持つナニカと君は確信したと…。正体不明はその後、どうなった?」

 

「その時は丁度真夜中、日が上る前に何処かへと這いずる様に消えて行った。後を追うか迷ったけれど、もし見つかった場合、取り込まれてしまえば元も子も無いから引き上げたわ。」

 

「成る程ねぇ……。うーん、キャスターとしてはどう考えてる? 話を聞く限り、正体不明は聖杯を持った英霊その物か、それとも宝具により生み出された何かだとボクは思うけど。」

 

「……、まぁ、私の考えもそんな所ね。ただ、貴方の話が本当なのだとしたら。私は後者、宝具の可能性が高いと思うわ。」

 

互いの意見を交換するも、結局の所、浮かび上がるのはそれ程の力を聖杯、あるいは自らの魔力として保有し、村一つ容易く破壊できる宝具を持っている存在が相手だという事だった。

休めた瞳を開き、帽子を手に被り直したビリーは上体を上げると辺りに広がる草原、ビル一つない果ての無い大地を見据え僅かに頭を俯かせた。

 

「まったく、いつまでそんな辛気臭い顔をしているのかしら?」

 

「イヤだなぁ、ボクが考え事する顔はそんなにしみったれた顔なのかい。」

 

「軽口を叩けるのなら大丈夫ね。次の話に行きましょうか。」

 

「えー、少し休まない?」

 

「開拓時代の人間は働き者だと思ったのだけれど?」

 

「冗談、ボクは無法者だぜ?」

 

「………………」

 

「OK、分かったよレディ。だからそんな冷たい目をしないでおくれよ。」

 

一連の言葉を交わした後に向けられた絶対零度の瞳に、一瞬で負けた彼は降参とばかりに苦笑いを浮かべて両手を上げた。

そして紡がれるのはついこの間の伊丹との会話内容だった。

 

それは救助したエルフの少女の手に、令呪と思しき痣の様な後を見つけたという話だった。ビリーもその場で話を聞いていたが如何せん。

彼女の周りにはレレイ、ロゥリィの二人が居る為、簡単には近づけずに居た。結果、今は街に向かい確認できずにいる。

 

「令呪の痣があるという事は、彼女、テュカだったっけ? 彼女にマスターとしての素質があるって事になるのかな。」

 

「それだけなら偶然にマスターの資格を得たとも言えるけれど、この場合はどうかしらね……。遠目に彼女を見たけれどこの地の人間の魔力は比較的多い方よ、マリよりもね。」

 

「なら、あの魔法陣で英霊を呼び出そうとして、途中で炎龍に襲われた。そして井戸の中に落とされた。これが一番それっぽいけど。」

 

「そうね……。本当なら本人に話を聞きたい所だけど、記憶障害を起こしているようだし今は時間に任せるしかないわね。」

 

「でも疑問も残るよね、この予測だと。」

 

「その通り、あの魔法陣は複数で魔力を注ぎ込むモノよ。そして姿を見せなかった英霊らしき存在。あれらが何を意味するのか。」

 

「「……………」」

 

沈黙が顔を出し二人は口を閉ざす。

緩やかに傾きだした太陽を横目に立ち上がった彼は、真後ろ、遥か後方を見据え帽子を深く被りこんだ。

 

「キャスター、気づいたかい?」

 

「いいえ、まだ私には何も感じないわ。流石、弓兵ね。気配察知は得意分野の様ね。」

 

「得意、というよりは直感だけどね。悪いけどマスターを頼めるかい? ちょっと見てくる。ヤナギダには伝えとくからさ。」

 

「よくってよ、任せなさい。けれど索敵だけよ、何かあれば報告しなさい。それと――」

 

「ん? それと?」

 

「ちゃんと伝えていきなさい、貴方の、主人に。」

 

わりと真剣に言葉を紡いでいた彼にキャスターは快くその提案を呑み、そして引き留め彼らが今立っているプレハブ小屋を指さし、しっかりと伝える様に強調しだした。

 

「…う……うん……。」

 

「………そのままだと、いつか必ず後悔する時が来るわよ? それでもいいの?」

 

バツが悪そうに首元に手を回した彼は一度頷くと、その場から飛び降りてプレハブ小屋の扉に手を掛ける、と同時にドアが開かれ急いだ様子のマスターが顔を出した。

切羽詰まったように慌ててる彼女に、ビリーは何事かと首を傾げるも今は時間が惜しかったので後回しにする事にする。

 

「やっとティータイムかな? でもごめんよマスター。ボクはちょっと向こうを見てくる、何、大事だったら尻尾巻いて逃げて来るからキャスターとここで待っててくれるかい?」

 

屈託のない笑顔で自らの向かう方向に指を差したビリーは、確認するように主人の顔を見やり微笑んだ。

何故か不安げなその顔に、心配ないと言い聞かせる様に。

 

「……気をつけてね、無茶はしないで。」

 

「オーライ、それじゃのんびりしててよ。」

 

口角を上げて帽子を被り直したビリーは告げ、踵を返し走り出した。瞬く間に小さくなっていく背中を万理は見つめる。

晴天だったはずの空は知らず知らずに、雲に隠され冷たい風が吹き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杞憂であって欲しかったのだろう。

普段はなりを潜めていた真剣な表情が顔を出し、彼は駐屯地を掛ける。

 

道すがら幾分か表情が優れた柳田を見つけ、警戒するように促し返答は聞かずに再び走り出す。

立ち止める暇もない程の速さでその場から離れたビリーは目的地である、山岳地帯方面まで足を進めた。

 

「……………」

 

言葉で簡単に表すのなら単純な直感、こうなった自分だから分かる誰かに向けられた視線を僅かながらに感じ取ったはずだった。

しかしその場には誰もいない。あるのは膨大に広がる草原、物陰もなく曇り空となった薄暗い大地。

 

瞳を細め腰元のホルスターに手を伸ばし警戒、自分の直感が正しければ恐らくコレも歪みによる自分への皺寄せだ。

 

より一層強い風が、吹き抜けた―――

 

「――――ッ」

 

同時に最も聞きなれた音が彼の耳に届き、強引にソレを躱す。態勢が崩れるもビリーはソレが来たであろう方向を捉え。

 

そして

 

「……どう…いう…」

 

言葉を失い瞳を見開いた。

 

風に靡く、黒いスカーフ。

 

より深く暗い色の拳銃。

 

黒い帽子、自分と全く同じの背丈、眼光

 

黒い影の様な何かを纏い、こちらに銃口を向けていたのは忘れもしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分と同じ姿をした何かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

交差する射線、神業と名高いビリーのその一撃は寸分狂わず同じ一撃によって敢え無く砕かれる。

焦り表情を浮かべたまま彼は再び撃鉄を落とし、連射、幻だと幻想だと目を逸らす様に相手に撃ち放つ。

 

例え、焦りを抱いていようがその早打ちは歴史に残るほどの偉業、簡単に防がれることは無い彼の強みである。

 

「……………」

 

しかし、容易くその速射は避けられ逆に撃ち返された。

 

「チッ」

 

避けられる範囲だ、負けやしない、絶対に。

牽制して駐屯地に戻ろうともこの影が何をするか分からない、よもや追ってくるのならば自衛隊に被害は免れない。

 

理由は単純、宝具を扱えぬシャドウサーヴァントであれどビリーの影は以前の百貌のハサンに次いで手数が多く、そして早い。

そしてソレが忠実に再現されている成り損ないなら、自衛隊が瞬く間に視界内の相手を全て撃ち抜けてしまう。

 

その手の武器だけで。

 

だから逃げられない、引けない、この勝負には負けてはいけない。

 

舌打ちしながらも半身を逸らし彼は視界に捉えた相手に、同じ格好をしたもう一人に視線を向け精神を集中させる。

遅くなる視界内、このままならすり抜ける弾丸を横目に出し惜しみなく力を振るう。

 

「《壊音の霹靂(サンダラー)》!!!!!」

 

必中にして急所を穿つ三連撃、カウンターであるソレはスローモーションの視界の中で間もなく、敵に着弾する。

 

「…………」

 

程なくして煙の様に離散し消えていく弓兵(アーチャー)の形をしたナニカを眺め、ビリーは立ち尽くした。

 

(僕の形をしたシャドウサーヴァント? もう新しい奴が生み出されたのか? 時期にしてもあり得ない話じゃない、でも……何故ボク、ビリー・ザ・キッドのシャドウが……?)

 

新たな疑問が生まれ、頭を悩ませるも彼は踵を返す。何故かは分からない、しかし出来るだけ早くこの事を相談せずにはいられなかった。

 

 

 

 

 






長らくお待たせいたしました………本当に……。
実際何度も何度も書き直して、書きたい事がたくさんあるわ、他の作品のネタが生まれるわで………。

友人にも
「続きマダー?」とか「はよせい」と言われる始末。


アナスタシアでテンションあがって筆が進みつつあるので、よければお付き合い下さい。







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「お留守番決定だって」

お久しぶりです。シアンコインです。

夏も終わってもう秋です、早いな一年(しみじみ)

今回もレオニダスのターン、あれ主人公の出番少ない……。





 

 

 

「率直な意見を述べるならば、見栄を張らずに逃げるべきですな。」

 

「ッ、何だと……」

 

「口を慎め蛮族が!! 畏れ多くも皇女殿下に何という口を!!」

 

従妹や、掴み所のないガンマン、日に日に自衛隊の武装を魔改造(読んで字の如く)していく魔術師と別れても尚、伊丹の頭痛と胃痛は消える事はなかった。

目標である都市、イタリカを目指して足を踏み入れてみれば何時かの敗残兵が盗賊となり物資を求め襲撃してくるという。

 

して、この出来事は本来ならば伊丹、レレイ、テュカ、ロゥリィの四人で話を聞き驚くだけなのだが、残念、ここにはもう異例が紛れ込んでいた。

鈍色に輝く兜、赤いマントの下から覗かせる肉体美、そして赤い文様。自らが筋肉こそが鎧、そう誇るように姿を現した日本でも過去に映画が上映され有名となったレオニダス王、その人である。

 

街並み、外壁、そして門を一瞥し口を開かぬまま伊丹に追従していた彼は招かれた先で伊丹に問いかけられ。

そう冷淡に告げたのだった。

 

赤髪の第三皇女ことピニャはその言葉に眉を顰め、その隣に連れ添っていたハミルトンは声を荒げあろうことか、レオニダスに対して蛮族と侮蔑するという事態が起きてしまったのだ。

これが落ち着いていられるだろうか、いられるわけがない。武器を持たずとも英霊、しかもゲームでも映画でも色んな意味で凄い王様である。切実にやめてくれマジで。

 

「度重なる襲撃により、正規兵、有志の民兵も指揮は最悪。武器も盾もなく、物資も、気力も、それを補う活気でさえとうに潰えている。こんな状況では無駄に民を死なせるだけです。」

 

「何を知ったような口を、貴様のような蛮族に何が分かる。そんな出で立ちで参謀を気取るのか?」

 

「成る程、これで合点がいきました。この身なりで私の事を蛮族と呼んでいたのですな。いやいや、私の国の戦士の装束はコレが正装でしてな。他に切るのは性に合わないのです。」

 

「フン、よっぽど辺境の集落に居たのだな。」

 

「ま、まぁまぁ、二人ともその辺で。」

 

「イタミ殿、相手の規模にも寄りますが自衛隊が手を貸さなければこの都市は今夜にでも落されるでしょう。決断は早急に。」

 

「はぁ!?」

 

「何を根拠にそんな世迷言を!!」

 

「……二度目になるが、正規兵の数は少なく、碌に戦いを知らない民兵が大半、物資もなく活気もなく、休む時間さえ惜しい。そんな状況で勝てるとでも?

 先程拝見した民兵の武器もバラバラ、皆が皆、戦いの心得が無い物が剣や斧、挙句には鉈をを手に戦っている。アレでは心得がある盗賊に殺してくれと言っているも同然。

 何でもいい、長手の棒を削り槍にして待ち構えればいい。それで無駄死には減りましょう。相手は人間です、何度も同じ手では来ない。何でもしてくるでしょう。

 あの城壁を当てに防衛するとの賜うならば、即刻この街を捨てなさい。」

 

流れ出す一国の王のダメだしにたじろぐピニャにハミルトン、兜から覗かせる鋭い眼光は次第に熱がこもり二人は言葉を失ってしまった。

 

「………、それでも民を守るために戦うと口にするか?」

 

まるで子供の我儘を宥める様にレオニダスが口にした言葉、それに対し皇女ピニャは下げていた瞳を上げると真っ直ぐな瞳でレオニダスを捉えた。

 

「あぁ、民を想い、守るのが王族の務め。見捨てる等出来るものか!!」

 

宣言するように大きな声でそう発した彼女に、周囲は口を閉ざし、対するレオニダスは兜の中で閉じていた瞳をカッと見開くと口を開く

そして―――――

 

「よくぞ言ったッ!!」

 

賞賛するように、良く響く言葉が部屋の中を木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中だった、程なくして目的地に着いた伊丹達からの連絡により自衛隊が動き出す事となる。

向こうの状況は予想通り、異常が発生。本来は向こうの都市は敗残兵、野党の一団に何度も攻撃を受け疲労、偶然立ち寄った帝国の皇女により纏められ抵抗している所に伊丹等自衛隊が加勢する流れだった。

 

だが、当然のようにそこで邪魔が入る。レオニダスの勘が燻ぶる戦士たちの他に、それよりも脅威な気配を感じ取ったらしく救援を求めてきたのだ。

 

『これは戦士としての勘、これより攻め入る野盗とは別に、我々の同類が闇夜に紛れ姿を現すやもしれません。お二方のどちらかの手を借り申したい。』

 

先程の一件、自らの元に姿を現したビリーならぬビリーの事もあった。だからこそ彼はこの提案を呑む事を選ぶ。

当然、根拠が勘だと言われれば誰でも難色を示す、しかしこの言葉は幾星霜、戦い続け死して尚、自らの国を救った戦士の英雄の言葉、誰がソレを反故に出来るのか。

 

対してキャスターは今回はビリーが残りこの場で待機していろと口にする。

それも当然、瀕死の状態から回復しただけの英霊を戦いに向かわせられるだろうか、ならば今は万理と共にココに残るべきだと判断したのだ。

 

だがビリーも引けない、彼女の判断が至極まっとうな事に加え全快でもない事は確か。本人は自覚していないがその精神は先ほどの一件から大いにブレているのだ。

 

「ランサーの感じている気配は(シャドウ)の可能性もある。ボクで充分だ。」

 

「憶測で話をしても答えはない、むしろ向こう側の本物だった場合、手負いで足手まといが居る英霊二人がいた所で勝ち目なんか無いわ。」

 

「けど「―――聞き分けのない子は嫌いよ?」」

 

「私達はお互い協定を結んで協力関係にある。なのに一人に任せていたら協定の意味が無いわ。 そろそろ私が我儘を言う番よ。」

 

「…………分かった……、よろしく。」

 

はにかみながら宥める様にビリーを言い包めたキャスター、そんな彼女に根負けした彼は帽子のツバを掴み深く被るとそう口にして俯く。

そして胸元に手を動かし、一枚の紙切れを取り出してキャスターを見据えた。

 

「これを…」

 

「あら、何処で手に入れたの?」

 

「向こう側に踏み込んできた影の一体が落とした。素人のボクでも何か分かるさ、………きっと役に立つ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城壁の南門に配置された自衛隊は、夜闇の中、松明の明かりを頼りに辺りを見渡し、隊長である伊丹はその上で月を見上げると隣で月明かりで本を捲るキャスターを見やった。

どうも、今回出て来たのが弓兵ではなく彼女だった事に疑問を感じたらしい。

 

「何か質問かしら、イタミ。」

 

「……何でもお見通しか、いや何、今回もアーチャーが来るだろうなって思ったから意外だっただけさ。」

 

あぁ、その事。と意味深な笑みを浮かべた彼女は本を閉じ、抱えていたトーマス君人形を隣に置くと指を一振りし、トーマス君人形をランサーが控えている東門の方向へと向かわせた。

そして伊丹の疑問に答えるべく身体をそちらに向けると口を開く。

 

「確かに、弓兵なら何かしら理由をこじつけて、マリを連れてココに来たかもしれないわ。でも、今は手負い。無理をしてでも仲間を守りたいという気持ちは立派だけれど、勝手に倒れられちゃこっちが困るもの。だから今回は留守番よ、打倒でしょ?」

 

まるで聞き分けのない子供を叱った母親の様に微笑んだ彼女、その様子に伊丹は内心で「あぁ、すごいわコレ……」などといったオタク特有の感情を呟いていた。

因みに何が凄いのかはその場に居た本人にしか分からない。

 

「ねぇ、イタミ。マリから貴方達のこれまでの顛末をそれとなく聞いて居たのだけれど、私も聞かせてもらって良いかしら。」

 

会話は止まる事無く、キャスターは今度は自分の番だと言葉を紡ぎ、伊丹は頷く。

 

「貴方から見てアーチャーはどう見えているのかしら?」

 

その質問の意味は一体どういう意味なのか、そんな疑問が生まれるも彼と彼女は現在協定を結んでいる。そんなビリーに対しての疑問だろうから、大した理由など無いのだろうと考えた伊丹は口を開く。

 

「ま、俺からすれば貴女達サーヴァントは空想上の存在だったからな。出会いは突然だったけど最初は夢心地だったよ、アイツ、割かし時代が近いからテレビを良く見てたり、万理ちゃんと積極的に向き合ってくれた。人が良いというか、絡みやすい、言葉にするなら気の合う悪友みたいな感じかな。」

 

「ふむふむ、それじゃもう一つ。彼は文字通り悪漢王(・・・・・・・)なのかしら?」

 

「え、そりゃどういう意味?」

 

「出会ってからもう何日も経ったけれど、彼は優しすぎるのよね。それは良い事よ、誰かの事を想い、命を軽んじる事は無い。けれど果たしてそれは少年悪漢王ビリー・ザ・キッドとして正しいのかしら?」

 

彼女もまた探究者、視野が広く知識もある。例えそれが英霊の範囲であろうとも歴史上に名を連ねた偉人であれば情報は手に入った。

何日も行動を共にして、ビリーの行動原理と考えを聞く限り、開拓時代にて少年悪漢王とまで呼ばれた冷酷で残忍なガンマンとはブレて彼女には見えていたのだ。

 

優しく信頼されているのは良い事だ、しかし彼はその銃で何人もの命を刈り取った否定しおうのない悪党である。本人もその事には頷いている。

だが今の彼はどうであろう、罪なき人となれば誰であろうと助けようとし、主人の為ならばと命令された訳でもなくこの土地に赴き戦っていた。

 

それは正しく悪党の姿であるのか?

 

その姿を人は英雄と呼ぶのではないのか?

 

キャスターはその考えに至り、万理と同じく近くにいた彼にそう問いかけたのだ。

 

「確かにビリーの属性は悪・中庸だけれど、それは歴史に刻まれた結果そうなっただけで。本来のアイツはああだったって事じゃないのか?」

 

「まぁ確かに、その線はありえるわね。彼のブリテン王が女性だったみたいに……。」

 

キャスターの脳裏に思い浮かぶのは輝くブロンドの髪に煌びやかな鎧を纏いし王の姿、そして同時に浮かぶのは記憶の中の『ビリー・ザ・キッド』

 

「あぁ、青セイバーの事ね……。そりゃ新しいサーヴァントが出る度に性別とかで話題になるから…。」

 

「そこは仕方ないわね。歴史は当時の人間が書くもので真相なんて調べようがないから。――――あら、お客さんがいらっしゃったみたいね。」

 

肩に座っていたオルコット大佐が瞳を光らせて暗闇の向こうを見据えたのと同時に、野盗の叫びが後方から木霊する。

その言葉に伊丹含め、他の自衛隊員が反応しどうするか無線で会話しているもそれは彼女によって遮られた。

 

「向こうの救援は先に向かった神官サマだけで十分よ、貴方達はこれから来るアレを私と相手なさい。」

 

「え、アレって何の……マジかよ。」

 

何かが地を蹴り飛んでいく姿を横目に、キャスターは本を開くと臨戦態勢に入る。

彼女が指さした方向を見つめた伊丹は口をだらしなく開いて、驚きのあまり咽ると無線にて全隊員に告げる。

 

「影が前方にて出現、数は複数と見られる。この場はキャスターが前線に立ち影の相手を担ってくれる。俺達は彼女の援護だ、総員、戦闘準備!!」

 

夜闇に紛れていた複数の影は、顔を出した月光に照らされ姿を露わす、日本で姿を現した影並の集団を前に怖気づく事なくキャスターは待ち構え。

伊丹含めた自衛隊員は小さな銃口を構え、やがて火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――同時刻

 

 

 

 

「計算通りですな、やはり夜を狙ってきた。」

 

慌てふためく数少ない兵士達を前に姿を現したランサーは手にした槍の石突を城壁に叩き付け、視線を集めた。

 

「狼狽える事無く武器を持ち迎撃を!! 手の空いている者はまだ寝ている者たちを叩き起こし準備なさい。慌てる事無く事前に教えたとおりに動くのです!!」

 

ランサーの進言から、夜攻め入ってきた場合に備え待機していたピニャ含めハミルトンは目を開けると耳に入る雄叫びに眉をひそめた。

 

何時の間にかピニャやハミルトンしいては部下の兵士共々を置いてきぼりにして指揮を始めたランサー、そんな状況に黙っていられるはずもなく。

その光景を唖然と見ていたハミルトンが声を上げた。

 

「き、貴様。何を勝手に指揮を執っている!? それは姫様の―――」

 

「―――い、いや、いい。大丈夫だハミルトン。」

 

「しかし姫様……。」

 

ハミルトンの言葉を遮って前に出たピニャは彼女を見下ろすランサーの瞳を見据えると、門に向け視線を向けた。

 

「貴公が練った策の通りに動く事にしよう、だが困難となれば即座に貴公を切り捨て我らはこの街を守る事に専念する。それで良いな?」

 

ピニャはランサーを横目に言葉を紡ぐと兵を連ね、民兵に言葉をかけ城壁へと戦力を集中させる。

理解したのだ、戦場に置いて不利であるこの現状で焦る素振りも見せる事無く平然と指揮をして的確な指示を出し、戦力を集めて見せたランサーの力量を。

 

何よりも

 

(あの男は、わらわよりも戦を知っている……!!)

 

埋める事など出来るはずもない程に遠い場所に位置する男の揺るぎ無い強さに、彼女は楯突く事をやめ受け入れる事を選んだのだ。

 

「それではグレイ殿、城壁の守りはお任せいたします。」

 

「任されました、貴公もご無事で。」

 

ピニャの部下であり、恐らく彼女の部下の中でも歴戦の勇士であるグレイというベテラン騎士と言葉を交わすと、けたたましく門を突き破ろうと攻撃している門の前に立ち声を張り上げた。

 

「門を開けよ!!」

 

敵兵に攻められている現状で守りを固めたわけでもない門の前で、たった一人、重厚な鎧に身を包んだわけでもない男が槍と盾だけを構え開けと口にすれば誰もが馬鹿げていると思うだろう。

しかしこの場にもしビリーが入れば何て事は無いと気にした様子も見せずに門を開き、あわよくば軽口を叩く位、その男の背中は大きく堂々としてた。

 

傍から見れば自殺行為とも取れる行為に、門の周辺に木製の柵を立て手製の長物の槍を手にした民衆は固唾を呑んでソレを見つめていた。

左右の門を開く兵士達は気狂いでも見るかのようにレオニダスを見つめ、手早く門を開く。

 

炎の光に照らされて怪しく浮かぶ、卑しい笑みを浮かべた敗残兵は誰かが乗り込み門を開いたものだとばかりに笑い、一歩踏み出した瞬間だった。

 

「ギッ!!?!?!??」

 

鼻っ面から顔面に掛けて走る鈍痛、そして浮遊している自らの身体。思考は回る事無く見えたのは暗い夜空だけだった。

そして吹き飛ばされた敗残兵の隣に居た奴らは当然のように立ち、槍を持ち防具は兜と盾だけを持った男を見上げ慄いた。

 

兜の隙間から垣間見えた鋭い眼光、刹那にして一人を遥か後方まで吹き飛ばした膂力、そしてその余波で生まれた衝撃の風に。

程なくして静かにしまっていく門を止めようと動こうにも誰も動けない、絶好のチャンスとも取れる状況を前にたった一人の男を前に恐怖したのだ。

 

そう、今も覚えている。あの赤と黒の死神の様な者をこの男から感じたのだから。

 

「さぁ、参られよ。兵共(つわものども)ォォォォォォ!!!!!」

 

そして門は閉められ一対多の戦いが今、始まる。

 

 




やっとクイック強化のスカディ来てビリー強化がはかどるこの頃。

次イベも楽しみですねぇ……。

もうそろそろくどいので謝罪はナシで……。

その内また思いつきで他の話を投稿するつもり何で、その時はまた。

それではそれでは。



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「決着、ついたかなぁ」


はいどうも、新年明けまして、GW終わりまして。
シアンコインです。

また年越ししちゃいました……。

許してクレメンス…





 

 

 

 圧倒的物量差、相手は唯一人

 

 傍目に見ても半裸に近く、盾、槍、そして兜だけという鼻で笑えそうなほどに軽量の装備の男一人に無数の敗残兵たちは足止めされていた。

 たった一人が吹き飛ばれたぐらいでどうしたと口にし斬りかかった誰かは、容易く剣戟を盾でいなされ片腕だけで振るった槍の柄で同じく後方へ吹き飛ばされる。

 

 異質、鎧を着こんだ大の大人が子供が如く軟なはずの槍の柄で悉く吹き飛ばされ起き上がってこない。

 たった一人を相手にしていた筈が数秒であっと言う間に気圧された。

 

 勘の鋭い者は距離を取り、馬鹿正直な連中は気にも止められずに同じく吹き飛ばされてく。

 有利なはずの戦況が拮抗する、まるでこちらの戦法が筒抜けしているのか思わせるぐらいに城壁の守りは硬く梯子を掛ければ叩き落とされ。

 

 門からの突撃は未だ一人の男に阻まれ続けている。何故と、策を練っていた男達は何度も何度も襲撃して弱らせた筈の街が硬く守られてしまった事に困惑する。

 そもそも最初からあの男が前線出ていれば馬鹿正直にこうして何度も襲撃などしなかっただろう。可能性としてはこの数刻前にあの男を傭兵として雇ったのか、それとも単純な増援なんだろうか。

 

 だとしても簡単に落とせる守りではなくなったのは事実、どうするか。このままジリ貧を狙い相手の消耗を待つべきだろうか。

 だが、そうするとしても不可解な部分が残る。兜の男のその膂力を持ってすれば周囲の兵士達を紙屑が同然に吹き飛ばせる、数十人の兵士を率いて突撃されれば簡単に自分達は薙ぎ払われているはず。

 

 何故それを実行せずに、ただその場で門を守るように立ち続け依然不動であり続けるのか。

 時間稼ぎかそれとも単純に手を抜かれているのか……。

 

 今も押し寄せる大軍をたった一つの盾と槍だけで迎え撃ち薙ぎ倒されていく。

 人間とは思えない強さはその異質さをより際立たせ、その空間の不気味さを周囲の男たちに見せつけた。

 

「……誰一人、死んでいない……?」

 

 隣からそんな言葉が聞こえた、何の事かと視線を巡らせれば蹲るり、力なく地面に突っ伏す仲間たち。

 大人一人が宙に浮くほどの力を受けながらも誰一人とて死んではいない、何より見慣れた筈の赤が何処にもなかった。

 

 何時の間にか開いたままになっていた口、視線を徐々に上げて行けばこちらを見据え再び盾による一撃で集団を吹き飛ばしては構え直す一人の男の姿。

 それはまるで殺めずともどうにでもなると、その刃を使う必要もないと暗に口にしているように男たちには見えたのだ。

 

 今ここで確信する。それぞれの額に青筋が浮かび、口にした。舐められていると。戦狂いの男たちの頭でもそれは理解出来た。

 気圧されていた空気は激昂した男たちの殺意により相殺、いいや、沸騰した頭では冷静に戦況を理解できて居なかった、未だ男が戦場を支配している事に変わりない。

 

「…………炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)

 

 聞いた事の無い言葉が迫った兵士達の何人かに届くも、すぐさまその視線は眩い光により遮られ男たちの身体は再び硬直した。

 しかし一斉に投げ付けた槍、矢が間もなく届くだろうとほくそ笑んだ男は光が消え少しして瞳を開くとその光景に息を呑んだ。

 

「何処から、現れた……!?」

 

 口から飛び出した言葉はその場にいた彼の仲間たちの総意、強烈な光が瞬いた数秒の間に無数の盾が男を包み込み門を守るように展開されていた。

 無論、敢え無く槍は弾き飛ばされ矢は受け流される。攻撃が止んだその瞬間、盾の隙間からギラリと光る眼光が男を貫き情けない悲鳴が漏れた。

 

 それを皮切りに無数の盾の中から数百人、敗残兵にも引けを取らない数の同じ格好の兵士達が現れた。

 鎧を身に纏わず、携えるは槍に盾、腰の剣に兜。統一されたその軍団の中心には先ほどの男が無傷で立っていた。

 

「……、スパァァァァァルタアァァァァァァア!!!!!!!!」

 

 

「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」」

 

 雄叫びの如く中心の男が叫んだ瞬間、周囲の兵士達は声を上げ地響きかと錯覚するほどの音が轟いた。

 竦んだ足腰、熟練の兵士の如く、ルーティンとして確立された動作で盾を一斉に構えた兵士達。

 

 たった一人にも適わずにいた男たちがコレに向かって行けるはずもなく、戦意は簡単に削がれた。

 次第に一人、また一人と、逃げ出し絶叫しながら逃亡する仲間たち、男がそれに加わろうとしたその瞬間。

 

「ふふ、フフフフフ!! 逃げちゃ、駄目よ?」

 

 月光を背に、また一人、黒い死神がその鎌を振りかざし姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもんかしら?」

 

 肩の埃を払う様な仕草を見せながら穴だらけの大地の上でキャスターは呟いた。

 警戒心の欠片も無いそんな様子に背後から闇に紛れ突き進んでいた、一体の影がその手にした槍を突き出すも、届く事なく彼女の頭上に出現した巨大な書物からの魔力の一撃により沈む。

 

 まるでもう慣れっこだといった顔で辺りを見渡した彼女は、踵を返すと軽く地を蹴り、伊丹の元まで浮かぶように舞い戻り口を開き彼の横腹をしっかりしろと言わんばかりに軽く叩いた。

 

「あら、そんな呆けた顔して。もう眠いのかしら?」

 

 言葉にして圧倒的だろうか、英霊の闘いを一般人としてはそれなりの数を見てきた伊丹からするとそんな言葉が脳裏に浮かぶ。

 目前で繰り広げられた戦闘は魔術師と言えど敵の追随を許さない一方的なモノだった、コレが英霊、サーヴァントの普通なのであれば弓兵の彼は何故あそこまで苦戦したのか、と思うほどには。

 

 開いた口を閉じた伊丹は視線を魔術師に向ける、すると彼女は指折りして今回現れた影の数を呟いて数えているようでまた何かを考え込んでいた。

 視認するのも一苦労なこんな真夜中、シャドウサーヴァントはその身体に文字通り影らしき何かを纏っている手前、物凄く視認し辛くそも常人離れした動きなので数など把握できるわけもなかった。

 

「……6……7……、数はあっている。でも変……まだ……」

 

 訝しむ様に瞳を細めたキャスターは視線を辺りに巡らせて不意に城壁下、門手前に駐車されている装甲車の傍、今回の遠征についてきた魔法使い見習いレレイ、そして保護中のテュカが居る辺りが視線に入る。

 その場を目にして異様に大きい魔力の塊、そして黒い影が視界にチラついた事に気が付いて腕を振るう。

 

 即座に開いた書物は無数の閃光を生み出し彼女ら二人から影を引き離す為に放たれた

 

「キャッ!?」

 

「なに……!?」

 

 魔法使いとしての勘か、しきりに周囲を見ていたレレイは閃光に気が付き構えるも影の存在には気が付けない。

 その光景に伊丹も当然声を上げるも遠距離での攻撃は視野に入れていなかったのかキャスターの表情は明るくなく、何も口にはしなかった。

 

 狙いが自身だと気が付いているだろう、しかし影は彼女の閃光に守られている二人から視線を外さない、何度妨害されようと執拗に二人の場所へと向かい続けている。

 引いては避け、飛び退き進み、阻まれるその繰り返し、何度も繰り返すその光景に伊丹は何も話さないキャスターに見やり走り出した。

 

 彼なりの最善、恐らく影の目標はレレイ、テュカ、ならば二人をその場から引き離しキャスターの負担を減らすべきだと考えた。

 無線で各員に警戒を呼びかけ自らは二人に向かい走り続ける。

 

「こっのッ!!」

 

 ちょろまかと動く影に痺れを切らし始めたキャスター、これほどまでに無駄な魔力の消費は計算外だったのだろう。

 形振り構わずに振るう腕に反応した書物はより一層多くの閃光を生み出し放つ、が

 

「暗殺者のクラスは本当に厄介ねッ!!」

 

 その背後にいつの間にか迫っていた影の一撃を飛び退く事で避けたキャスターは悪態を着き、片腕を振るい横目に未だテュカ達に接近を試みる影へ攻撃を仕掛けるも両方に意識を割く事に苦戦。

 乱雑に撃ち出される閃光を一瞬の隙を突かれ掻い潜り、影が遂に彼女等に届きかけた瞬間だった

 

 ―――――スカンッ

 

 何処からともなく影の進行方向から一羽の矢が飛来する

 

『ッ!?』

 

 例え影であろうが元は英霊、常人ならぬ反射で飛来した矢を紙一重で避け追随する無数の矢を後退する事で避けていく。

 何が起きているか理解できていない渦中の二人はアタフタと周囲を見渡し、それを横目に捉えたキャスターは一度目を見開くと何かを確認するように周囲を見渡し手元に本を出現させた。

 

 間髪入れずに前方から斬りかかってくる影、それに対しキャスターは心底ウンザリした表情で斬撃を避け、避ける間も与えずに影の背後に出現した本による閃光を直撃させ離散させる。

 鋭い眼差しのまま未だ影に狙われている二人に視線を向ければ何処からともなく矢が彼女らに近づく影に向かっては撃ち出され続けている。

 

 周囲に他の人影は無く、あるのは影の反応と大きな魔力の塊、見れば二人を保護する為に動いていた伊丹も矢に狙われたのか運よく避ける事に成功し近づけずにいるようだ。

 まるで二人を守るように撃ち出される矢の雨、近づく者には容赦のない一撃。なるほど、と一人勝手にゴチたエレナは以前にビリーに渡された何も刻まれていない、しかし異様な魔力を秘めた一枚の札を取り出す。

 

「――繋がったわ」

 

 パズルが解けたと言わんばかりにニッと歯を見せ笑った彼女は手元に手繰り寄せた魔術書にその札を栞の様に挟むと腕を振るう。即座に消え失せた魔術書は渦中の少女二人の目の前に飛び出した。

 瞳をパチクリさせて驚いた二人は目線の高さで浮遊する書物が独りでに回転、誰の手も借りずに開かれ一枚の札が片方の少女、テュカの足元にヒラリと落ちる。

 

 何事も無かったように再び消え失せた書物を前にテュカは何事かと驚くだけで、隣のレレイは興味深そうにその様子に瞳を煌めかせていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 星屑に照らされた草原の元、人知れず一体の塵芥が闇夜に離散する。

 硝煙を気にも留めず何度目かの自分の形をした偶像を撃ち抜いたビリーは踵を返した。

 

 日数にして二日と言った所だろうか、伊丹等が駐屯地から離れてそれぐらいの時間。

 ランサーに続いてキャスターが増援に向かった現状、特に心配するような必要も無く万理は魔術の訓練に精を出し、それを見守りながらビリーは時折姿を現す自分の姿をした影と対峙していた。

 

 まるでこちらを試すばかりに決まって駐屯地離れの草原に姿を現し、彼が足を運ぶと途端に行動を開始する。

 実力は図らずも彼が上を行き、常人の精神は皮肉な事に同じ姿をした偽物を撃ち抜く事で同調率を上げていく。

 

 次第に出来ずにいたクイックショットも造作なく行うほどにまで上達、いいやこの場合は同じ領域に達しつつあったが正しい。

 

(こっちに異常はない、……そりゃあそうか、本筋は向こうの伊丹達だ。こっちに動きがあるとすれば増援の準備位だけど、その必要もないよねぇ)

 

 本来ならばイタリカには闇夜に紛れ自衛隊の増援が突入し、侵略が如く野盗を薙ぎ倒すという自衛隊無双が始まるのだが駐屯地にはそんな素振りは無い。

 準備をしている隊員はおろか、日々の機体チェックだけで動きもしていない機体が殆どであった。

 

 つまり、そういうこと(サーヴァントのせい)である。喜ぶべきか、それとも盛大に捻じ曲がった事を笑うべきかビリーは曖昧な表情で唸るだけだった。

 ただ同時に危惧する事と言えば

 

(キャスターに渡したけど……、多分、解決、しちゃったよねぇ……)

 

 弓兵として直感か、英霊ならざる思考がそうさせるのか、おそらくまた何か起きたのだろうと一人勝手に勘ぐるのだった。

 

 






段々ペースが落ちていますが、何度も言いますがまだまだ続けますので、よろしくお願いしまっす。

ライネスちゃん、可愛い……(爆死報告)


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