夢見る乙女達と英雄王は舞踏会へ (969)
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魔法と夢と王
王と灰被りの夢


以前執筆していたモノを再編したものです
それでは


「ことみねー、どこだー。我はおなかすいたぞー、ことみねー。」

 

言峰教会に響く英雄王の声

第四次聖杯戦争を終え暇になった王はうろちょろとしていた。

愉悦などと言い遊び呆けてたのだが飽きた

 

「ギルガメッシュ…」

 

「言峰!? どうしたのだそんなにボロボロになって!」

 

満身創痍…ヨロヨロとギルガメッシュに近寄り倒れた言峰を抱え起こした。

頬がコケ、あの男と戦った体も見るに耐えぬほど衰弱していた

 

「…は…」

 

「は…? 何を言いたいのだ!」

 

コヤツがここまで追い込まれるとは何事か。

 

「働いてくれ…」

 

「む?」

 

人を食らう事をしない大食らい英雄王のせいで家計は火の車

副業を兼ねてラーメン屋をやっていたのだが遂に口座の底が見えてきた。

 

「…我に働け…だと? フハハハハハ!! よいぞ言峰!! 貴様の苦労、我も味わってみようではないか」

 

ポイッと衰弱した言峰を捨て教会を出ていく英雄王

 

「現世にも興味があったところだ。 我を楽しませるような仕事はあるのか」

 

「…何も問題が起きなければいいんだが」

 

英雄王が歩いていった方向を見つめ少々不安になった言峰の呟きは虚空へと吸い込まれていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて、街中に来てみたものの仕事とはどう探すのだ? 言峰に聞いてから来ればよかった」

 

駅前の椅子に座り周りを見渡す。

どれもこれもつまらなさそうな雑種ばかり…されど、この世界では一人一人が歯車として何らかの役目を担っている…手出しは出来ない。

その中で1人だけ圧倒的なオーラを持つ黄緑色の服を着た女がいた。

我のgoldなオーラではなく奴はmoneyの金であろうオーラだ

あの女にしよう…腰を上げ近づく

 

「おい、そこの女」

 

「はい? 私でしょうか?」

 

突然呼ばれた女は困惑しながらも王と向き合った。

やはり只者ではない。この我を前にしてこの威圧感!

搾取する人間の目をしている

 

「我に仕事先を寄越せ」

 

「仕事先…ですか? えーと、職業案内所とかには…」

 

「我は貴様に言っているのだ」

 

「私にですか…そうですねぇ…」

 

ここまでの横暴な物言いに表情を曇らせることなく考え込む。

髪を結い片方におさげを作ったような髪型。年齢もわかりにくく若く可愛らしい女だった

 

「あ、そうだ! ちょうどウチ、人手が足りないんですよ。 よかったら来てくれませんか?」

 

「ほぉ、それは退屈しない仕事なのだな?」

 

「えぇ、それは勿論。最近立ち上げたプロジェクトで今がスタートラインなんです」

 

ニコニコと笑いながら名刺を差し出してくる。王はそれを受け取り社名を見た

 

「346プロ…? よかろう、この我が手伝ってやるのだ成功は間違いあるまい!!」

 

「それは心強いですね! これからよろしくお願いします。 プロデューサーさん」

 

「プロデュ…なに?」

 

黄金の王と緑の女帝の出会いがアイドル業界に激震を走らせるのはまだ先のお話

 

 

 

 

 

「ところでお名前は?」

 

「ふっ、名を知りたくばそちらから名乗るのが礼儀というものであろう?」

 

「あぁ、そうですね。私は千川ちひろといいます。これからよろしくお願いしますね」

 

「我はギルガメッシュだ。よろしくしてやろう」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「――というのがプロデューサーとしての仕事です。大丈夫ですか?」

 

二ヶ月に渡り、プロデューサー知識を詰め込まれた。

初めはそんなのいらん。と突っ撥ねたのだがあの女の笑いの無い笑顔を見ていると何故か受けねばならない気がした

 

「ようはアイドルに仕事をとってくれば良いのだろ?」

 

「え、えぇ…そうです」

 

この二ヶ月何を聞いてたのだろうか…

少々、早計だったかもしれない彼を事務所に迎え入れたのは

 

「しかし、ちひろよ」

 

「ここにはアイドルがまだ居ない…そう言いたいんですね?」

 

「その通りだ、このフロアで見かけたのは貴様ぐらいだぞ」

 

他のフロアではそれっぽい雑種がちょろちょろとしていたがここには自分とちひろのみだ。

 

「ギルガメッシュさんのお眼鏡に叶う女の子をスカウトして来てもらおうと思いまして。」

 

「この我の目に叶う女などセイバーぐらいしか…「スカウトしてきてください」 あい分かった。行ってこよう」

 

逆らってはいけない。本能が諭してきた

 

 

--------

 

 

「我がスカウト…か。」

 

右を見ても左を見ても雑種雑種…ろくなモノが居ない。

 

「一生見つからんかもな」

 

宛も無くさ迷い始める…スーツという格好も結構暑いものだ。言峰の神父服なども同じだろうか…そうだ、給料が出たら奴とワインでも飲もう。

 

そんな仕事に関係ないことをダラダラと考えているとすれ違った1人に目がいった。

 

「あれは…」

 

我の好みとはかけ離れている。しかし、何か別のものを感じ取った。

アイドルとは人に愛され人を笑顔にする存在だと緑の女帝が言っていた。あの女ならば出来るやもしれん…

とりあえず、奴に習ったとおりやってみるとするか。

 

「あー…あー…こほん

すまない、少々話をいいか?」

 

「へ? アタシ?」

 

「あ、おねーちゃんナンパされてる!」

 

こちらに振り向いた少女はピンクの髪というドギツイ色をしているが中々の顔立ち、中々のスタイル。そう評価した

 

「我…じゃなくて、ワタクシ、346プロダクションでプロデューサーをしてる者でして是非スカウトをと…」

 

口がムズムズする。本当にこんな口調をせねばいけないのか!と切れたら正座をさせられた。王たる我が正座を

 

「あー…そういう勧誘系はパスで」

 

「えー! 芸能事務所だよ!? チャンスじゃんー」

 

「こら莉嘉、静かにして。という事で…すみません」

 

逃げようとする姉妹を(というか、姉だけしか見ていなかったが)目にして英雄王は…………キレた

 

「我がスカウトしに来たというのに何だその態度は!! 光栄に思うのが当たり前であろう!?」

 

「は、はぁ!? アンタ何様なの!?」

 

「王様だぁぁ!!!」

 

ギルガメッシュからしてみれば事実しか言ってないのだがこの少女からしてみたらチンプンカンプン。ただの怪しい人だ

 

「な、何言ってるの…この人…」

 

「貴様は! アイドルになる素質があると我が認めたのだ! 拒否など許さん」

 

実に暴君である。

 

「り、莉嘉…先帰っていて…ヤバイ人かも」

 

「お、お姉ちゃんも逃げよ?」

 

「大丈夫…だと思うから」

 

妹の背を押し先に帰らせる。危ない目には合わせれない…

 

「よし、行くぞ!」

 

「いや、アタシまだ決めて…ひゃぁ!?」

 

少女を軽々とお姫様抱っこし…王は飛んだ

 

「な、ななな!? なに、こここれ?!」

 

「事務所に向かうのだ。言ったであろう?」

 

「こ、この移動方法が無茶苦茶だって言ってるの!? なにドッキリ?! 映画の撮影!?」

 

ビルとビルを軽々飛び越えていく

見知らぬ男に抱き抱えられ高層ビルを飛び越えて行くのは並大抵の恐怖ではない。が、それと同時にファンタジーに出てくるお姫様の気分もあった。

 

「そろそろか…身を屈めておけ!」

 

「は、はい!」

 

バリーンと窓を割り帰社に成功した

 

したのだろうか?

 

「プロデューサーさん…ちょっと♪」

 

待ち構えていたのかちひろが居た。

 

「む? 我に用か? 少し待っていろ女よ」

 

少女を下ろしちひろと呼ばれた女性にスタスタと着いて行った。

 

10分後、ガクガクと震えながら横暴な王様は戻ってきた。

 

 

----------------

 

 

「えーと、お名前は?」

 

「あ、城ヶ崎美嘉…です」

 

「城ヶ崎さんね。城ヶ崎さんはアイドルになりたいのかしら?」

 

「え、えーと…急に連れて来られたというか…」

 

先程の状況を事細かに説明した…

 

「ギルガメッシュくーん? それは拉致って言うんですよー?」

 

「そうなのか? 知らなかった」

 

テーブルに置かれている茶と菓子を貪り平らげる。

 

「ちひろ、茶をくれ」

 

「300円になりますよ」

 

「貴様!? 同僚から金をせびり取るのか!?」

 

チャリンと金を払い茶を貰う

 

「ごめんなさい、城ヶ崎さん…」

 

「い、いえ…でもアイドルの素質があるって言われたのは嬉しかった…かな? この人怪しいけど嘘はついて無さそうだったし」

 

「我は嘘をつかんぞ?」

 

「だから…や、やってみようかなーって」

 

頬を少し赤く染め俯きがちに言う

 

「ホント!? やりましたねギルガメッシュくん。 この部署初めてのアイドルですよ!」

 

「流石は我のスカウト!! ちひろ、茶」

 

「600円です」

 

「値上がっておるぞ!?」

 

シンデレラプロジェクト初のアイドル

城ヶ崎美嘉が事務所に入ってきた頃のお話

 

この後、まさかあぁなるなんてアタシは考えてもいなかった。

魔法がかかるなんて…ね

 



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カリスマ?ギャル爆誕

ギルガメッシュが苦労英雄王になりそうな気がしなくもないメンバーが揃いそうです
ちなみにギルガメッシュはそれなりの常識を持っています。横暴ですけど。横暴ですけど!


「ただいま〜…」

 

コッソリと家に戻ってきた美嘉はどうやってアイドルの話を親に切り出そうか考えていた。

ちひろさんにでも付いて来てもらって説明してもらった方が良かっただろうか…

プロデューサー…ギルガメッシュは論外だ。話が拗れる

 

「お姉ちゃん、おかえり!」

 

「あ、莉嘉! 無事に帰れたんだ」

 

「うん、なーんにもなかったよ!

それより、お姉ちゃん。 アイドルになるってホント!?」

 

へ? なんで莉嘉がその話を知っているのだろう。

 

「あー、うん。やってみよーかなー? って」

 

リビングに入るとグラス片手に両親と…プロデューサーがいた。

 

「ハハハハ! 貴様、良く分かってるではないか!」

 

「そりゃ、もう14年も美嘉の親をしてますから!!

そういう、貴方も出会ったばかりで美嘉の魅力をしっかり分かってるなんて」

 

「我の目は確かだからな」

 

「間違いないですな!」

 

「なにこれ…」

 

パパとプロデューサーが意気投合してアタシのことを語り合っていた。

恥ずかしいし、それよりも

 

「なんで家にいるのプロデューサー!」

 

「挨拶…というやつに行けとちひろが煩くてな。来てやったぞ喜べ」

 

何故、人の家でこうも偉そうに出来るんだろう…

頑固なパパもアイドルをすることに何の文句も言わなかったし…ママもやりたいことはやらせてあげるって言ったし…

問題が論外だったはずのプロデューサーの手で解決してしまってた。

 

「こやつのプロデュース方針とやらを決めるとするか。 小娘、なにかやってみたいことはあるか」

 

方針…これからどんなアイドルとして売っていくか…どうだろ、アタシはどんなアイドルになりたいんだろうか。

 

「よし、ギャル路線でよいな」

 

「え、アタシの意見は!?」

 

答える前に決まっていた

 

「そのナリで今更何を言う。 ただのギャルではつまらぬな…そうだカリスマギャルというので行こう。出来るな?」

 

もう、無茶苦茶だった

でも、すっっっごく楽しそう!

カリスマギャルってどんなのだろう!?

 

「じょ、ジョートーじゃんこの現役JC美嘉がカリスマギャルのトップを取るから!」

 

こうして、アタシの人生を変えた1日が終わったんだ。

 

ここからは毎日レッスンや売り込みが始まった。

プロデューサー?

あー…大した仕事はしてなかった気がするなぁ…だって、アタシになんて言ったと思う?

「王たる我が仕事を道化に取ってくる? 馬鹿は死んでから言え」

ってね、今考えたら有り得ないよ。

14の女の子に仕事を自分で取れ!

って言ったんだもん

 

必死にオーディションを受けて…たくさん落ちて、たくさんレッスンしてそんな毎日が続いた

 

ある日のレッスンで久しぶりにプロデューサーが見に来てた。

 

「ワン・ツー・スリー・フォー!」

 

ステップを踏みターンして止まるっ

レッスンの難易度も上げて初めての会心の出来だ。

 

「うん、いい出来だな城ヶ崎! 上出来だ。これなら次のオーディションは間違いなく…」

 

「落ちるな」

 

ベテラントレーナーさんの言葉を遮ったのはプロデューサーだった。

 

「プロデューサー殿…今の城ヶ崎は間違いなく行けると思うのですが…?」

 

「戯け、これで受かるだと? この程度で受かるような仕事なぞ受けるな!」

 

初めて…アタシはキレた

 

「…大した仕事もしない癖に何なの!? 今のはアタシのベスト…それまで否定されちゃアイドルなんて一生出来ない!! 何が素質がある、よ! ダメダメじゃん!!」

 

辛くてもスカウトされた時に言われた素質がある。それが嬉しくて…信じたくて頑張ってきたのに…!!

 

「小娘、貴様は何を考えて踊ってる。何を考えて歌う」

 

「それは…上手くなりたいって…」

 

プロデューサーの目が今まで見たことない冷たさになった。その瞳にはアタシが映ってない。

 

「雑種がこれ以上失望させるでない。貴様は何故アイドルを始めた? 我に言われたからか?」

 

「きっかけはそうだけど…愉しそうだったから…」

 

「ならば何故、1度も愉しそうにしない! 気負うのはいい、努力も認めよう。しかし、肝心の貴様が楽しめぬダンスなど誰が愉しめる! 誰が見惚れる!」

 

楽しんでない…最近は必死になり過ぎてたからか考えなくなっていたこと

 

「踊りなぞ見本があれば誰でもやってのける。 小娘、貴様はカリスマギャルになるのだろ? ならば、型ばかりに嵌ってる場合ではあるまい。壊せ、その型を」

 

カリスマ、人々を引きつける…

そんな風になりたい

 

「ねぇ…トレーナーさん。 今度のオーディションって決まったダンスをする奴なんだけどアピールはしていいのかな?」

 

「アピール…どのような物かはわからないが多少なり売り込みは必要だし何よりも同じダンスを踊る中でのインパクトは大事だと思うぞ」

 

よし…決めた

もう、頑張るのはやめよ。

これからは

 

「プロデューサー、これからは愉しく好きにやっちゃうからね!」

 

「好きにするがよい!!」

 

このオーディションが初めての合格

初めてテレビに出たあの時の事。

今でも覚えている。あそこにいたアタシを見てファンになってくれた人の顔も忘れない。

 

プロデューサーは本当のアタシをアタシ以上に知ってるのかもしれないな~

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「プロデューサー、 受かったよ! 初めてオーディションに受かった!!」

 

「そうか」

 

「ちょっとそれだけ? 初めて受かったんだからもうちょっと何かあるじゃん」

 

「阿呆、オーディションはオーディション。本番ではないだろう。威張るなら本番を100%で終えることだ」

 

プロデューサーの言う通り…これはスタートラインに立っただけだ。

この初舞台で少なくともファンを獲得しないとアタシに先は無い

 

「そうだな…会場の9割を虜にしてみせろ。そしたら褒めてやろう」

 

「9割!? ムリムリムリ、殆どじゃん!」

 

相変わらず無茶を言う。何を考えてるんだろうかこのプロデューサーは

 

「我が直々にスカウトしたのだ、それぐらい貴様には出来る。 やるかやらないかだけであろう?」

 

アタシに出来る…?

過大評価もいいところだよプロデューサー…でも、言われたからにはやってやろーじゃん

 

「よし、そんじゃ見ててよねプロデューサー! 9割なんて言わず全員、美嘉の虜にしちゃうんだから!!」

 

「城ヶ崎美嘉さん、スタンバイお願いします!」

 

スタッフから声がかかる。

緊張するけど…啖呵をきったからにはやってみせてやろーじゃん

 

「行ってくるね☆」

 

「あぁ、愉しめ」

 

美嘉はステージ裏へと走っていく

それを見つめギルガメッシュは息を吐いた

 

「やれやれ…手間をかけさせる小娘だ。 仕事とはこういうものなのか?」

 

関係者の位置へ移動しステージを見る。デビューアイドルからベテランまで出演するこの番組では美嘉を含め3人のデビューアイドルがいた。それ以外にも中堅、ベテランといるが…

 

「ベテランまでは叶わぬが中堅以上の才覚が今のあやつにはある」

 

只でさえデビューせず、延々とレッスンとオーディションを繰り返してた美嘉はそんじょそこらの新人とは頭一つ二つ違う

 

「さぁ、魅せてみろ。 貴様の全力を」

 

スタジオ内に曲が鳴り響く

オーディションは皆同じダンスを踊り受かった者は持ち曲で番組へと出られる。

その中、美嘉はぶっつけ本番

ダンスの振り付けを自分で考えながら踊る事になる

 

曲は『TOKIMEKIエスカレート!』

 

 

「ハッ、ピッタリな歌詞だな美嘉」

 

即興のダンス

だが、観客は魅せられた

自分の魅力を全員にぶつける渾身のダンスを、デビューという心待ちにしていた瞬間の嬉しさを歌声に込め響かす音を

この会場にいた人間はアイドル、城ヶ崎美嘉のファーストステージで虜になった

 

「……褒美をやらねばならんな」

 

自らが笑顔になっていることに気がつくとギルガメッシュは正気に戻る。 裏通路に戻ると話し声が聞こえてきた

 

「城ヶ崎美嘉か…ふむ、いい子だなぁ? 味見でも…」

 

「また悪い癖ですねぇ? ぜひ私も…」

 

男2人がニタニタと下品な笑みを浮かべ画面の美嘉を見ていた。

 

「…ウチの小娘がどうしたのだ?」

 

「おや…346プロのプロデューサーかい? いやいや、こんな素晴らしいステージをしているから大きな仕事をあげようかと思いましてね」

 

「ほぉ、いい心掛けだ」

 

「しかし、なんの礼もなく仕事はあげられないからねぇ? 少々、美嘉ちゃんをお借りしたいんですよ」

 

妙に下手で出てきた男の顔を見、つまらなさそうに話を続けた

 

「何をするのだ?」

 

「何…営業というやつですよ。 私は色んなテレビ局に顔が利きましてね?」

 

「営業? 枕とかいうやつか」

 

ちひろから前もって聞かされていた汚い話だ。

 

「お互い助け合うと思って…ね?」

 

ポンとギルガメッシュの肩に手を置いたテレビ局のプロデューサーはすぐに絶叫した

腕が不自然なまでに折れたのだ

 

「下郎が触れるでない」

 

もう1人の体格の良い男に向き直る

 

「醜悪な見た目をしおって…目が汚れるわ! とっと、失せるがよい」

 

「な、なんだと? ふん、いい気になりおって…あの娘がこの先どんな目にあっても知らんぞ?」

 

「ならば、貴様をここで殺すだけだ」

 

殺意を顕にしたところで再び肩を触れられた

 

「誰だ」

 

「ギルガメッシュくーん? 乱暴はダメって言いましたよね?」

 

「ち、ちひろ…!?」

 

ここにいるはずの無い事務員が立っている。

見たこともない顔で

 

「キミ、関係者かね? まったく346プロは礼儀が…「黙ってください豚野郎」…は?」

 

「先程の会話、録音させていただきました。この手の話がだーいすきな出版社や未成年に手を出しかけた件を警察に…流してしまいましょうか」

 

「脅すのか!」

 

「脅す? いやですね…これは命令です。 2度と目の前に現れず仕事を寄越しなさい♪」

 

ニコやかに、ちひろは笑う

 

「…流石の我もびっくりだぞ」

 

「くっ…わ、わかった…だからそれは消してくれ」

 

「もう一度言いますよ? 目の前から速やかに消えてください」

 

「は、はいぃ!!」

 

デブはその場を走り去っていった。

この後、美嘉に定期的に仕事がきたり知らぬ間に収入源が増えてたりしたがそれは別の話。

 

「プロデューサーさん、ライブ成功おめでとうございます♪」

 

「おぉ…今の話の流れを無かった事にするのだな? それなら我も…おめでとうは我に言う事でない美嘉に言え」

 

「えぇ、そうします♪」

 

そうこうしている内に美嘉が控え室に戻ってきた。

 

「プロデューサー!…にちひろさん!?」

 

「美嘉ちゃん、おめでとう。 凄いステージでしたよ」

 

「ありがとね、ちひろさん☆」

 

ちらっと、プロデューサーを見やる。少し難しい顔をしていた…ダメだったかな…?

 

「何がよい」

 

「へ?」

 

「何がよいか聞いておるのだ阿呆」

 

何がなんだかよくわからない

 

「な、なにが?」

 

「貴様は我が出したノルマを超えたのだ褒美をやろう。何がよい」

 

「え!? え、えっと…どうしよ」

 

褒美かぁ…

やっぱり…あれかな?

 

「名前で呼んで…くれないかなー?」

 

「あれ? まだ呼んでなかったんですか?」

 

「まだ? え、どういうこと?」

 

何がなんだか全く分からない

 

「プロデューサーさん、美嘉ちゃんが居ないところでは美嘉って呼んでるんですよ」

 

何それ初耳

 

「それだけでよいのか、美嘉」

 

「い、今はそれでいい!!」

 

恥ずかしい!!何なのもう…



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クセのある2人

短めの一話投稿ですどーぞ


あのオーディションに落ちまくっていた頃が嘘みたいに仕事が舞い込んできた。

歌番組や雑誌の取材、ラジオの収録…色々あって毎日大変だ。

プロデューサーが何かしたのかなと思って聞いてみたけど…

 

「美嘉の実力だ。我は何もしておらん」

 

しか言ってくれないし…

 

「仕事…頑張ったら何かくれるかな…?」

 

デビューしてもう半年…そろそろ今年も終わる時期が近付いてきた。

 

「っと、収録に遅れちゃう! ちひろさん、行ってきます★」

 

「はい、気をつけてね美嘉ちゃん」

 

最近はよく1人で仕事に行くようになってる

プロデューサーを見返してやる!と意気込んでいるようだ。

 

「ギルガメッシュくん」

 

「なんだ、守銭奴。 金ならないぞ」

 

「ん?」

 

「なんだ、ちひろ。我に用事か?」

 

やり直した

 

それは置いといて、美嘉に関して思い浮かんだ不安を伝える事にした。

 

「美嘉ちゃん、最近寂しそうなんです」

 

「寂しいだと?」

 

何を言ってるんだこの金…もとい、緑の女帝は。と怪訝な表情をしちひろの目を見る。

 

「えぇ、プロデューサーは放任主義ですし、それに美嘉ちゃん…ここには同じアイドルが居ませんから。競える相手はテレビ局に行けば沢山います…でも、支え合う事が出来るライバルはいないじゃないですか」

 

真剣な表情でこちらに伝えてくる

なるほど、彼女はこう言いたいのか

 

「つまり、この部署の売り上げが増える様に美嘉の為という名目で新しくスカウトしろと言うのだな?」

 

「美嘉ちゃんの為です」

 

…悪魔め

 

 

-----テレビ局-----

 

美嘉の迎えという事もありとりあえずテレビ局まで出迎えに来たが不満な顔をし歩いていた

 

「この我を顎で使うなぞ未来永劫あやつだけだ…我は英雄王なのだからな!」

 

「あら? あまり見ない顔だけれど…局内で迷ったのかしら?」

 

「なんだ貴様」

 

声をかけてきたのは20代…前半ぐらいの女だった

 

 

 

 

 

 

「自己紹介が先ね…コホン

川島瑞樹、25ちゃいで〜す」

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

絶句、それがピッタリな程に言葉を失った

 

「…何とか言ってくれると嬉しいわ」

 

「あまりの衝撃に言葉を失ってしまったぞ」

 

驚きの表情のまま固まっているギルガメッシュが精一杯口を開いた

 

「やっぱり無理があったかしら?」

 

「我にこれ程の衝撃を与えた…素質はあるし問題無さそうだ…よし、貴様アイドルになれ」

 

「喜んでなるわ」

 

「は?」

 

「え?」

 

すんなりと二人目の加入が決まった

なんだ、スカウトとはこんなに楽なものなのか。そう思う英雄王なのだがその考えが一癖も二癖もある人物達を引き寄せてしまう事になるとはこの時、気が付きもしなかった…

 

「困惑するとかは無いのだな」

 

「誘ってくれたのはそっちでしょ? ならその誘いに乗らないと失礼じゃない?」

 

川島という女を連れ美嘉が撮影をしているスタジオへと向かう最中、もう1人面白そうな女を見つけた

 

「貴様、何をしている?」

 

通路で俯き考え事をしていたのだろうか通路に置いてある小道具を見てからこちらを見つめボソッと呟く

 

「このステッキ、とても素敵ですね」

 

「「………」」

 

「今のはステッキと素敵がかか「えぇい、わかっておるわ! 説明せんでいい!!」 あ、よかったです」

 

「行くぞ、女」

 

「瑞樹ちゃん、って呼んでもいいわよ?」

 

「誰が呼ぶか阿呆」

 

先ほどのオヤジギャグをかましてきた女を無視しその場を去ろうとした。のだが何故か着いてくる

 

「おい、女2号。何故ついてくる」

 

「面白そうなので…あと私は高垣楓です。女2号ではありません」

 

「女1号、コイツをどうにかしろ」

 

「瑞樹ちゃんって呼んでくれたら何とかするわ」

 

「どいつもこいつも…!」

 

声をかけたのは失敗だったか

いや、違う。思い返せばこの2人から声をかけてきたのだ。

 

「ぷ、プロデューサー…? その人達は?」

スタジオへの道半ばで収録を終えたばかりの美嘉がこちらに気が付き寄ってきた

 

「むっ…そう言えば美嘉を迎えに来たのだったな。すっかり忘れておったわ」

 

「ちょ、酷くない!?」

 

スタッフが行き合う廊下では邪魔になるのでとりあえず美嘉はギルガメッシュと謎の女性を外に出し急いで帰る支度をしテレビ局を飛び出る

 

「人の気も知らないで…プロデューサー!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「遅いぞ美嘉」

 

「ぜー…ぜぇ…これでも……急いだんですけど…」

 

「我が遅いと言ったら遅いのだ。覚えておけ」

 

相変わらず横暴だ

 

「それで…その人達は……って、片方はアナウンサーの川島瑞樹さんじゃん!? それにモデルの高垣楓さん!?」

 

「あら、最近の若い子はニュースとか観ないと思ってたけど知られているのね。嬉しいわ」

 

「美嘉ちゃん、お久しぶりです。前に1回一緒に撮影しましたよね」

 

「あ、その説はありがとうございます……で、どういうことなの!?」

 

相変わらず外回りの仕事の時だけちひろさんが用意したスーツをちゃんと着ているプロデューサーはさも当然かのように言い放つ

 

「新しいアイドルだ。喜べ」

 

「へっ? あ、やっ、やったー? いや違うでしょ!?」

 

「あ、プロデューサーくん。私は辞表だしてくるわね!」

 

「うむ、さっさと済ませて来い。貴様もだ女2号」

 

「わかりました。ふふ…」

 

川島さんと高垣さんは二人して足早にテレビ局の中へと戻っていった。

 

「え、えぇ…それでいいのかなぁ…」

 

「奴らが構わんと言ったのだ。我は知らん」

 

 




という訳で、わかるわさんと25歳児(この頃は22児)が介入しました。あと数人すぐに合流します


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ファーストプロジェクトとプロデューサー

前もですがちょいちょいと作品内の時期が飛んでいきます

時間があればその間のサイドストーリーも書いていくつもりです


「プロジェクト…だと?」

 

ちひろが綺麗にまとめた紙の束を渡してきたのでパラパラと内容を眺めた。

正直言えば面倒な案件だ。

というか我にやらせる前に自分でやるか他の者に当たるかすればよ「ギルガメッシュくーん?」

 

「あいわかった。この我が手がけるのだ成功するに決まっておろう!」

 

こやつ、令呪でも持っているのだろうか

 

「しかし…我はこういったモノはてんでわからん。貴様がアイデアを出せ」

 

「…ホント、プロデューサーさんって何処で育ったのかしら…大丈夫です、私も手伝いますからっ」

 

「当然だ、王の職務を手伝うのが従者の務めよ」

 

手近な資料を捲っては捨て捨て…ライブ何ぞ美嘉と楓、瑞樹の3人が小さいながらも成功している。知名度も言峰が知るぐらいには有名になっていた。

我のおかげでな!

 

「ふふーん、可愛いボクですよ。おはようございます」

 

「煩い雑種」

 

何処からかやって来た雑種に万能な収納箱、【王の財宝】から不要なものを投げつける

 

「ふぎゃー!? い、いきなり雑誌を投げないでくださいプロデューサー! というか、毎回思うんですけど、どうやって投げてるんですか…こう…振りかぶってるところも見えないんですけど!?」

 

「そうだ、ちひろ。ユニットを作ろう」

 

「ゆ、ユニットですか?」

 

「あと2人、この後に来た奴で良いだろう」

 

「あ、この雑誌! こないだ取材受けたヤツですね!? やっぱりボクって可愛いですねー! ねープロデューサー!」

 

鬱陶しい

 

「おっはよー、プロデューサー! いやー、昨日はキャッツが快勝してさー!」

 

野球娘…と

 

「おはようさんどす~、今日はええ天気そやし早う来てしまいました~」

 

それに、どすえ

 

「よし、ちひろ。ユニットが出来た、ボク・野球・どすえ…だ!」

 

「せめて頭文字にしましょうか。B・Y・Dですね。わかりました」

 

うむ、プロジェクトの一つとして組み込もう

 

「可愛いが抜けてますー!」

 

「それじゃあ、KBYDですね?」

 

「お、何々? 仕事? え、幸子ちゃんと紗枝ちゃんとユニット! 面白そー」

 

「よろしうお願いします、幸子はん、友紀はんっ」

 

勝手に盛り上がっている事だし我の仕事はここま「まだ終わってませんよー」

 

「なに、茶を取りに行こうとしただけだ。案ずるでない」

 

席を立った英雄王はニコニコ笑顔の女帝に見送られキッチンへと移動する。

 

 

 

ええい、なんだあやつは…我の考えを読み取っているとでも言うのか…

 

「あ、プロデューサーさん。いい所にーお菓子でも食べませんかぁ?」

 

キッチンの冷蔵庫からアップルパイなるものを取り出し笑顔を向けてくる女…確か名は十時愛梨…だったな。

…美嘉から楓まではよい

 

「いつの間にこれ程のアイドルが増えたのか…」

 

「えぇー、プロデューサーがスカウトしてきたんじゃないですかぁ」

 

「そうであったな…」

 

そう、あれからというものの自称可愛いを始め野球やどすえ、脱ぎ女にボンバー…様々な奴を片っ端からスカウトをした。

その話を覚えているかと問われれば忘れたと答えるしかない。

 

「アップルパイを寄越せ」

 

「はい、どーぞっ」

 

受け取ったアップルパイを頬張り思案する。

どうせだ、こやつら全員をステージに上げてやろう。

 

 

「ちひろぉ! プロジェクトの内容を決めたぞ!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《美嘉side》

 

(時は過ぎ夕方)

 

 

「え、全員ですか?」

 

「左様、美嘉を始めとする3人は既にステージ慣れをした。ならば他の連中を牽引させ一気にステージに上げてしまおうとな」

 

「え、アタシ達がリーダーなの?」

 

 

プロデューサーがまたとんでもないことを言い出した。アタシは別にいいけど大丈夫なのかな

他のみんなの顔は緊張や驚き…よりも喜びで染まっていたけどね

そりゃそうだよねぇ、アタシみたいにオーディション落ちまくってひたすらプロデューサーの地獄のレッスンを受けてたんだもん。

 

 

「ついにデビューですか! うぉぉぉぉ、凄いです!!! 走ってきていいですか!?」

 

「うーん、わくわくするねー! 特大のホームラン上げちゃうよー」

 

「ふ、ふふん! き、緊張なんてしてませんよ?」

 

茜も友紀さんもさっちーも嬉しそう…?だしアタシも事務所のみんなと舞台に立てるのはすっごいワクワクする。

 

「黙れ」

 

「「「「ッ!!」」」」

 

静かにしかし怒りを込めた一言が事務所を凍らせる。

怖い、こうなったプロデューサーは毎回怖い

 

「話は終わっていないぞ。 まずは紹介しよう、来月から我のアシストとして配属されることになったもう1人のプロデューサーだ。入れ」

 

「…はい」

 

静まった部屋に戸が開く音が響く

そこから現れたのは三白眼の据えた目つき、ほとんど変わることのない無表情、そして貫禄すら感じさせるような重低音な声…

 

「ひっ」

 

あ、さっちーが震えてる

 

「来月付けでこちらに配属されることになりました武内…という者です。よろしくお願いします」

 

「「「よ、よろしくお願いします」」」

 

「こちらのプロデューサーさんは次期プロジェクトの総括として抜擢された凄腕なんですよー。ギルガメッシュくんとは大違いです」

 

「おい、ちひろ。我とてこやつら全員のプロジェクト総括だぞ。今西からもそう言われた」

 

今西…って部長さんじゃん!? 何呼び捨てにしてるの!?

そう思いながら聞いていると武内…と名乗ったプロデューサーが申し訳なさそうに話に割って入った。あれ、顔に似合わず気が使えそう…?

 

「あの…ギルガメッシュさん、私はとりあえずどうすれば」

 

「む、そうだな。来月からいきなりというのもの大変であろう。仕事が空いてる時でよい、美嘉や楓の仕事について行け」

 

「はあ…」

 

え、マジ?

 

「それとだ、貴様らのライブ用に新曲を用意した。曲名は未明だ…が! 貴様らで決めて良いらしい。1週間以内に決めろ。連絡は以上だ」

 

スーツを脱ぎ捨てスタスタと部屋を出て行った、おそらく上の階に勝手に作った自室に向かったんだろう。

いつもの事だった

 

…にしても、この人と仕事かぁ

 

「…城ヶ崎美嘉さん…ですよね。よろしくお願いします」

 

「…え、あ、うん★ よろー」

 

やり辛いなぁ…



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不思議な人

連続投稿気味です




その方はとっても不器用で、無愛想だけれども

私に最初の魔法を掛けてくれた王様の様にどこか強い心を持った人に思えました

 

「高垣さん、次の仕事ですが……すみません、少し休憩を挟みましょうか」

 

「大丈夫ですよ。プロデューサーさん…それにもっとフランクでいいです」

 

「いえ、やはり礼儀は必要かと…」

 

同じプロデューサーと言えど彼は王様みたいな人ではなく従者…みたいな人でした

 

むしろこれが正しい方…なのかしら?

 

「次はラジオの収録ですよね?」

 

「はい、時間には余裕があるので休んでいきましょう」

 

「はい」

 

アイドル皆を気遣ってギルガメッシュさんの手伝いもして、ちひろさんの書類も処理して…休憩が必要なのは貴方な気がしますけど。

美嘉ちゃんも最初は苦手意識を持ってたみたいだけれど今はなんとかやってるみたいだし

 

「あの…高垣さん」

 

「なんですか?」

 

普段、業務連絡以外行わない彼が珍しく口を開いた

珍しく…珍しい…!

 

「大した事では…いえ、貴女達にとってはとても大切な事でした。ギルガメッシュさんが行おうとしているファーストライブですが…どういうものになるかお聞きですか?」

 

仕事の話だった

 

「ほとんど聞かされてないです」

 

ありのままを伝えると彼は普段無表情な顔をギョッとした顔に変えた

今日は珍しい事だらけ

 

「そ、そのライブはもう…」

 

「来月ですね」

 

「だ、大丈夫…なのでしょうか…」

 

あぁ、彼は私達アイドルを心配してくれてるのだ。私や瑞樹さん、美嘉ちゃんは初めてじゃないにしろいつもより大きめのステージ

茜ちゃん達にとっては初めてなのだ。

どんな広告を使ったかは知らないけれどもチケットはソールドアウト。

 

正直、不安で仕方がない

 

 

 

 

だけれども

 

 

「大丈夫です」

 

「…え?」

 

「だって、何となくモデルをやっていた私が今こんなに楽しくアイドルを出来てるのはギルガメッシュプロデューサーが見つけてくれたから…あの人が大丈夫と言うなら大丈夫なんです」

 

「信頼…しているのですね」

 

「もちろん、武内さんもちひろさんも信用してますよ。ラジオのお仕事、取ってきてくれたのは貴方ですから」

 

「は、はぁ…そろそろ時間です行きましょうか」

 

照れているのかほんのり顔が赤くなったプロデューサーは背を向け扉に手をかけた。

 

いつもは1人の楽屋、移動、現場

そこに彼が一緒に来るようになった

 

仕事でわくわーくするようになるのも増えてきた。

貴方は不思議で不器用な魔法使い…なのかもしれないですね

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(日は変わり)

金ピカside

 

 

「曲名が決まった…だと?」

 

あの何を考えているか分からん楓が朝イチ、会議室に皆を集めた

 

「くだらん洒落だったらクビだぞ」

 

「楓ちゃんが決めたの…? 大丈夫かしら」

 

「か、楓さんが?」

 

瑞樹も幸子も戸惑っている

わからんでもない。我も戸惑っている

普段から仕事中に晩飯なぞ考えている奴が決めたというのだからとんでもないに決まっている

 

「といっても曲のワンフレーズ目をそのままタイトルにしたらいいと思って」

 

「ワンフレーズ目…? それって…」

 

「はい…私達はある意味そうだと思うんです。自分で言うのも恥ずかしいですけれどギルガメッシュプロデューサーやちひろさん、武内プロデューサーに今西部長さん…色々な人に助けてもらって、引っ張ってもらって夢みたいじゃないですか。だから…」

 

「お願いシンデレラ…なんてどうでしょう?」

 

「「「「「おおぉー!!!」」」」」(楓さんがまともだ!)

 

「よろしい、では曲名が決まったな。ライブのセットリストは…我が決める」

 

「ちょ、プロデューサー? 大丈夫なの?」

 

「美嘉、貴様は何の心配をしているのだ? 我を誰だと思っている!!」

 

「あー、はいはい英ゆ「アイドルマスターだ!!」 ごめん誰!?」

 

フハハハハ! よし、そうとなれば早速考えなければな!!

 

バァァァァァァン!!!! と盛大な音を立てて部屋を意気揚々に出て行った

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(現場にて…)

 

昼休憩中、朝の件をなんとなーく思い出した

 

「お願いシンデレラかー…アタシ達がシンデレラ…そしたらあいつは魔法使い?」

 

「うーん、王様じゃないかしら?」

 

瑞樹さんの言う通り、魔法使いなんてタマじゃない

というか、魔法使いなんて言ったらキレる

 

「楓さん、理由は言ってたけど…きっかけとか?」

 

「きっかけ…えぇ、ありました」

 

「あら、恋かしら?」

 

「え、ええ!? だ、ダメだよ楓さん!」

 

そ、そりゃ楓さんは素敵な人だからいつかそういうこともあると思う…けど!

い、いまはアイドルだし!

 

「美嘉ちゃん、慌て過ぎです。 瑞樹さん、そういう冗談は程々にしてくださいね?」

 

いつに無く真剣な楓さん

なかなか迫力がある

 

「私達は少しだけですけど…みんなより先輩だから頑張らないと…って」

 

「わかるわ。私達人生の先輩でもあるしね。若い子を引っ張るのは年長者の勤めよね」

 

いや、アタシまだ15なんだけど…

 

「美嘉ちゃん、アタシはまだ10代って顔してるわね?」

 

「え!? い、いやーそんなこと…あはは」

 

鋭い…

 

 

そうこうしていると一つのラーメン屋を見付けた。瑞樹さんと楓さんは入る気まんまん。

うぅ…カロリーが…プロデューサーには「貴様がダイエット? まだ早いわ戯け!」って言われたけど気になるんだよね…

 

「…いらっしゃいませ、何名様でしょうか」

 

「「「……!?」」」

 

現れたのは身長190はあるのではないかという程の大男で半袖から伸びる腕は筋肉質でとてもじゃないがラーメン屋の店主とは思えなかった

 

「…3名だな」

 

答える前に答えられた

 

「え、えぇ…」

 

「ちょっと、あのプロデューサーに似てますね」

 

「う、うん…でもあそこまでマッチョじゃないね…」

 

カウンターに案内され腰をかけるとメニューを開いた。開いたのを後悔した

 

「「「激辛麻婆拉麺…?」」」

 

「激辛麻婆拉麺3つ、畏まりました」

 

「え、頼んでないんですけど!?」

 

聞く耳持たず

体現したかのような対応でラーメンを作り始めた

こういう所はギルガメッシュに似てるかも?

 

「激辛麻婆お待ち」

 

「え、ラーメンは?」

 

「麻婆豆腐だが?」

 

「と、とりあえず食べましょ美嘉ちゃん」

 

「「「いただきますっ…」」」

 

 

 

 

 

 

「「うぐっ!?」」

 

「あ、美味しい…」

 

お、美味しい!? こ、こんなの殺人級だって!!! 楓さんどんな舌してるの!?

 

「腸から胃が超辛い…ふふ」

 

「あ、アタシ無理かも…」

 

「私も…」

 

レンゲを置こうとした時、視界に入ったのは物凄い形相でこちらを睨む店主

 

「ほぉ、私を目の前にして残すとはいい度胸だ。ダシにとる骨が無かったな。食事の代金は文字通り体で払っ……む?」

 

包丁をこちらに向けていた店主がキョトンとした顔になった

 

「…城ヶ崎美嘉、川島瑞樹、高垣楓…か?」

 

「そ、そうですけど…」

 

「むぅ…ギルガメッシュの知り合いならば今回の件は許そう。だが食べ物を粗末にするのは許さんぞ」

 

「ぎ、ギルガメッシュくんと知り合い…?」

 

「私は言峰綺礼。今はラーメン屋をやっているがこう見えて神父でな、ギルガメッシュとは共に暮らしていた」

 

「「「ええええええええ!?!?」」」




お気に入り感想ありがとうございます!

これからも続きますのでよろしくお願いします


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運命の歯車 灰かぶりの娘達

「さて、ライブ当日となったわけだが…」

 

ライブ前の最終ミーティング

アイドルの面々がステージ裏で顔を揃えている。

 

「貴様ら、なぜ震えているのだ?」

 

「ここ、これは! 武者震いですっ!」

 

「幸子、時間はあまりない。さっさとメイクを直してこい。野球、どすえ貴様らもついでだ行ってこい」

 

「むー、そろそろ名前で呼んでくれてもいいじゃーん。 ほら、幸子ちゃん行くよ」

 

ズルズルと引き連れられていく幸子を放っておき、あの普段煩い日野も今では無口だ

 

ちっ、コイツらときたら

 

「ぷ、プロデューサー」

 

「なんだ、美嘉。貴様も何かしらあるのか」

 

「そ、そうじゃなくて…この会場…いっぱいになるんだよね?」

 

「たった2000人ではないか。気にするな」

 

「いやいやいや! 2000人って! ふ、普段の小ライブだったら良くて500…とかじゃない?」

 

「流石に…緊張するわね…」

 

「はい…」

 

「ふん、この程度の客を満足させられなくて何がアイドルか! この我を満足させる結果を持ってきたくば、この10倍は持ってこい!! このライブは貴様らにとって先駆けに過ぎん。 ここで降りるならば降りろ」

 

我がここまで言っているというのに未だに顔が晴れん奴がチラホ「私、楽しみです!!!」 む?

 

「初めてのステージが! 皆さんと一緒になんて凄い楽しみなんです!! だから楽しみましょう!!」

 

「あ、茜ちゃん?」

 

「貴様、緊張して喋れなかったのではないのか?」

 

「はい? 緊張…ですか? 私はただ今夜の晩御飯は何かなと考えてただけです!」

 

「貴様は楓かァ!!!」

 

「ちょっと待ってください、それでは私が普段から変なことを考えているみたいじゃないですか」

 

「「「「その通り」」」」

 

「えぇ!?」

 

先程までの緊張感が一瞬で消し飛んでいたスタッフまで笑っている

あいも変わらずムードメーカーとしては一級だ。あとはもう少し落ち着きがあればよいのだが

 

「トラーーーーーーイ!!!」

 

無理か

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

幕が上がると其処は光の海の中だった

 

まるで夢の中

 

でもこれは現実

 

これから先 みんなで歩み続ける光景なんだ

 

 

シンデレラの夢は夢では終わらない

 

みんな一歩ずつ輝く日に向かっていくんだ

 

歓声が聞こえる

みんな笑顔だ

ステージのみんなも会場のみんなも!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちひろside

 

(ステージ裏)

 

「出だしは大丈夫そうですね」

 

「出だしはではない。全て大丈夫だ。今のあヤツらなら心配などする必要もない」

 

「信頼…してるんですねっ」

 

「さぁてな…」

 

肩を竦め画面から視線を移す

ギルガメッシュくんの瞳に映るのはもう1人のプロデューサー

 

「さて、武内よ。貴様のプロジェクトの第一段階はこれで完了した」

 

「どういう…事でしょうか?」

 

首に手を当ててる時は困っている時だと最近、気がついた

 

「貴様のプロジェクトは様々な女がアイドルになれるチャンスを作る…そんな内容であったな?」

 

「は、はぁ…まだ決定ではないですが」

 

「元キャスターに元モデル、現役学生…我がプロデュースをしているアイドルもそうだ」

 

ギルガメッシュくん、美嘉ちゃんこそ強引なスカウトだったけど他の皆さんはちゃんとスカウトしてましたもんね…

 

「このライブはとある局のツテを使ってな、後日ダイジェストなるものではあるが夜のニュース番組に流される」

 

「…」

 

「察しの悪い奴め、ならばこれで解るだろう。シンデレラプロジェクト、346プロにてアイドルデビューを目指す女子オーディションを開く…という一言も流す」

 

そ、それって!?

 

「ぷ、プロデューサーさんまさか!?」

 

「左様、既に我以外のプロデューサーもスカウトに回っている。多くのアイドルも居る。武内も実はしているのだろう?」

 

「そ、それは………はい」

 

あぁ…だからこないだ警察に…

 

「だがな、スカウトに行ける距離は限られている。 目先の宝石に目を盗られ遠くにある巨大な原石に気付けないなど三流のする事だ」

 

「原石…」

 

「よって、自信がなくとも『オーディションだけなら…』という奴もおるかもしれん地方の女子を集めるため! シンデレラオーディションを開催する事を決めた!」

 

シンデレラオーディション…シンデレラプロジェクト…全て武内プロデューサーさんの為に手を回してたんですね…成長しましたねギルガメッシュくん…

 

 

 

……って

 

「完全に独断じゃないですかーーー!?」

 

「案ずるな、今西と美城に話は通してある」

 

「え、え? 部長と常務に…?」

 

「やらせろ。と言ったら許可をくれたぞ」

 

「その…お気持ちは嬉しいのですが…」

 

「全員が全員オーディションで選べとは言わん。貴様が自ら見付けた原石を磨け。…我は美嘉達の様子を見て来るぞ、たるんでいたら喝を入れてやろう」

 

控え室の方へと姿を消すギルガメッシュくんを何時までも武内プロデューサーは見つめ口を開いた

 

「シンデレラ…プロジェクト…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

???side

 

夜の街、いつも通り先生に別れを告げ歩き出す。

 

何の気なしに大画面を眺めていた

そこには輝くステージに立つ少女が映し出されている

 

『先日、舞浜アンフィシアターにて行われた346プロダクションによるライブイベントは大盛り上がりの様子を見せました。』

 

『人気沸騰中の城ヶ崎美嘉ちゃんを始め、新たにデビューをした可愛いく綺麗なアイドル達、そして私の元同僚である川島瑞樹ちゃんもアイドルとしてファンを沸かせました!』

 

『いやー、あの川島くんがアイドルとはねー。聞いた時はびっくりしたけど…似合ってたね! 私も見に行ったのですが楽しかったですよ』

 

『ここでその346プロ、アイドル部門のプロデューサーからファンそして皆さんに向けた告知があるそうです。VTRどーぞ』

 

 

 

『雑種共、御機嫌よう。アイドル部門プロデューサーをしている言峰ギルガメッシュ、という者だ。我々346プロは来年度の春に向けて一つ大きなプロジェクトを行おうとしている。』

 

 

『シンデレラプロジェクト! それが次のプロジェクトだ。このテレビを観ている冴えない雑種共! 人生がつまらないと思ってる雑種!自らの人生を変えるために我の元へ集え!! オーディションを行う!』

 

「シンデレラプロジェクト…」

 

少女達の歯車が廻り始める

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あ、お姉ちゃん! こないだのライブニュースになってるよー!」

 

「ホントだ。う、嬉しいけど恥ずかしいなぁ」

 

「父さん、絶対ライブのブルーレイ買うからな!」

 

は、恥ずかしい…家族がライブを見に来た時もそうだけど日に日にアタシ関連の物が家に増えてきている。

 

『雑種共、御機嫌よう』

 

「はぁ?!」

 

「お姉ちゃんのプロデューサーくんだ!」

 

「何度見てもカッコイイ人ねー」

 

「オーディションかぁ! アタシも受ける!」

 

「ちょ、莉嘉!?」

 

莉嘉までアイドルになるの!?

 

「いいでしょー?」

 

「あーもう…好きにしたら?」

 

「やったー! カリスマJCになっちゃうかんねー☆」

 

「いや、アンタまだ小学生でしょ…」

 

「来年の春には中学生だもんっ お姉ちゃんも再来月16じゃん? 来年からカリスマJKだよねー」

 

そっか、もうアイツと出会って2年近くか…




ここから話の時間の流れがスローになります
アニメに沿うので

あとお気に入り100以上も…ありがとうございます!!


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王の謁見、オーディションとも言う

「はぁ、ダメだな。よい娘が一人もおらん」

 

「プロデューサーさん、気を落とすの早すぎですよ…まだ10%も終わってないんですから…」

 

現在オーディションを終えた女達は約50名、それでもまだ10%にすらなっていないほどの数が参加したオーディション

 

しかしここまでイマイチしか現れていないのだ

 

「次の組! 入って来い!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

遡ることオーディション締切日

 

 

川島side

 

あの放送の翌日から恐ろしい程の書類が届いた。中には他者推薦などもあったほど

あまりの書類の多さにギルガメッシュくん、ちひろさん、武内くんが続けてダウン、結局私や他のプロジェクトのプロデューサーさん達まで書類選考を手伝い始めた

 

「お、コイツ…中々…ギルさん。コイツら、こっちで受け持ってもいいっスか?」

 

声を上げたのはアッシュに染めた髪、唇にピアス、サングラス、派手ながらのスーツというヤ○ザ…よくてホストといった見た目の男だった

 

「大和亜季に松永涼…? 構わん」

 

「あざっす!」

 

確か、美嘉ちゃんよりも少し早くデビューした…そうそう、向井拓海ちゃんのプロデューサーさんだ

 

「こ、こっちもいいですか!」 「この娘も!」と次々に声が上がっていく

 

「ええい、貴様ら! 手伝いに来たのか邪魔しに来たのかわからんぞ!!」

 

一蹴するギルガメッシュくんの背後に何枚かの書類が上がっていた。

 

「あら、それは何かしら?」

 

「これか? 教えん!」

 

ササッと隠したそれは確かにアイドル候補の書類

何か隠してるわね…

 

みんな一通り目を通し終わった様で休憩に入った

 

「して、残ったのは何人だ?」

 

「えーと、ざっと350…ぐらい?」

 

「アホか!! せめて70程まで削れ」

 

「いやー、この子いいこかも? とか思っちゃうとつい残しちゃいまして…」

 

「1日70人オーディションして5日ですか…」

 

やれやれだわ…

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

面接一日目

 

「面接官を務める言峰ギルガメッシュだ」

 

「千川ちひろです」

 

「こ、小日向美穂です」

 

よろしくお願いしますっと声を揃える少女達を目の前に私は震えていた

き、緊張する…たぶんあの子達よりも緊張している

 

「では、57番から始めろ」

 

「はい、57番…」

 

あぁ、この人可愛いなぁ

元気も良くて…チラりとプロデューサーの手元を見ると既に×が描かれていた。

 

えぇ、ダメなんですか!?この人が!?

さっきからこれの繰り返しだ

私がいいな、と思う人は尽くダメのようで…

 

「58番、双葉杏です」

 

次の人は小柄…というよりは小学生の様な体躯の人

 

「…16歳?」

 

「よく言われるよ、でも正真正銘16歳の高校生だからね」

 

「何故アイドルになりたいのだ?」

 

「んー、取り繕っても意味無いから言うけど印税生活の為かな? ほら、杏ってこんな見た目だしさ刺さる人には刺さるって思うんだよね」

 

い、印税生活…

 

「なるほど、よく分かった次!」

 

えぇ…今ので終わりなんですか…

 

「59番、諸星きらりです☆ 」

 

お、大きい人っ

180ぐらいかな? スタイルもいい…私は…

 

「ふむ、貴様は何故アイドルに?」

 

「きらりんのきゅんきゅんぱわーでみ~んなをはぴはぴしたいからだにぃ☆」

 

「次ぃ!!」

 

食い気味に言葉を切ったプロデューサーさんは少し怖かった。

諸星さんもしょんぼりして座ってしまう。

でも、私は見た。プロデューサーの口に薄らと笑みが浮かんでいたことに

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ちひろ、58番と59番に連絡しろ。面接会場に忘れ物があるとな」

 

「忘れ物…ですか? わかりました、連絡してみます」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うへぇ…めんどくさー…」

 

せっかく面接も終わって帰ってきたってのにまた行かなきゃならないなんて…というか杏、何忘れたんだろ

 

グダグダしていても仕方が無いのでさっさと行くことにした

 

 

346プロダクションに着く頃には日も傾きすっかり夕方だった。

まぁ、何というか綺麗な事務所だなぁと感想を抱きながら中へ向かうと面接前に話をしたあの子、諸星きらりが居た

 

「あれ、どーしたのさっきぶりじゃん」

 

「あ! 杏ちゃんだぁ☆ んっとー、忘れ物しちゃったみたい…面接ダメダメだったのに忘れ物もしちゃうなんてぇ…」

 

「元気だしなよ、きっといいことあるって。杏も忘れ物したみたいだからさ一緒に取りに行こ?」

 

「うんっ…」

 

きらりの手を引き先程の面接会場へと向かうことにした

 

 

 

「あ、やっほー★」

 

「ど、どうも…」

 

城ヶ崎美嘉、今じゃ人気アイドルの1人

そんな彼女が挨拶をしてきた。実は凄い経験をしているのではないかと思う。

 

「失礼しまーす」

 

「お、おにゃーしゃー☆」

 

「来たか…さっさと座れ」

 

金髪のプロデューサーに促され二人並んで座る

黄緑色のスーツ…たしか千川ちひろという女性だ

その人が茶を置き奥へと消えた

 

「まず貴様らの忘れ物だ。受け取れ」

 

杏ときらり、それぞれに数枚の紙が渡された…これってまさか

 

「そこに、名前と誕生日…住所電話番号…趣味特技etc…全て書いて提出しろ」

 

「にょわ!? こ、これって?」

 

「貴様ら2人、合格だ」

 

「いやいや、ちょ、え? ダンス審査とかあるって杏聞いたんだけど」

 

たしか、最初の説明だと面接、ダンス審査、ボーカル審査…とか言ってた

 

「黙れ、我がルールだ」

 

「えぇー…ま、合格したならしたでいいか…やったね、きらり」

 

「 」

 

驚きの余り固まっていた

 

「きらりー? おーい」

 

「はっ! き、きらりが合格?」

 

「あぁ、そうだ。不満か?」

 

「そ、そのぅ…きらりの番を早く終らせてたから…ダメだったのかなぁ…って」

 

「…は? 何を言っているのだ? 我は貴様ら2人を見てすぐに契約の話に移りたかったからさっさと終わらせただけだ」

 

「なんていうか…凄いねプロデューサーさん…」

 

この人にプロデュースされてる人大変そうだなぁと思いながら書類を書き終わった頃には日も沈み夜になっていた

 

 

 

 

「ねぇねぇ、杏ちゃんっ 一緒にご飯食べに行かない?」

 

「おー、杏もお腹減ってたしお祝いだね」

 

「きゃー☆ うれすぃー☆」

 

双葉杏、アイドルになりました

あぁ、プロジェクトが始まるまではアイドル候補生としてレッスンばかりみたいで面倒くさそうだけど…

 

「何食べゅ?」

 

…新しい友達と頑張ろうかな




きらりの口調難しぃぃぃぃ!!?

皆様、お気に入り評価等ありがとうございます!


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小さきプリンセス

「やれやれ…」

 

今日のオーディションで見込みがあるのはゼロ人だった

まぁ、昨日は2人も合格にしたのだトントンという所であろう

 

駅前のベンチに腰を据え、ちひろから貰ったスタドリを飲み干す

物思いにフケているととあることに気がついた。

 

「……?」

 

先程から4度目だろうか右から左に消えてまた右に戻ってきてキョロキョロと視線を移す少女がいた。

 

「おい小娘、さっきから我の前をチョロチョロと鬱陶しいぞ。迷子か?」

 

「ち、違います! 迷子なんかじゃないです。すみません」

 

「見栄を張るな」

 

「う…実は…ここに行こうと思ってたんですけれど…この辺初めてで…」

 

チラシを見せてきた少女

 

ふむ…パフェフェアとな?

 

「よし、気分転換だ。行き詰まったら甘いものを食べると良いです。と愛梨も言っておったしな。ついて来い小娘連れて行ってやろう」

 

「え? あ、ありがとうございます…」

 

傍から見れば少女に声をかけている不審者だが生憎ギルガメッシュはそんなことに気が付かないのだ

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

???side

 

目的地のお店に着いて一安心…と同時に不安になる。大丈夫、安全という確信は無かった。でもこの人は嘘を言ってないと思ったから着いてきてしまった

 

「王たる我はこれよ! ウェイター、キングパフェを寄越せ!」

 

「私は…これをお願いします」

 

「畏まりました」

 

ウェイターが居なくなり暫く無言が続く

目の前に座った金髪の男性を何処かで見たような気がした。

…テレビ…? 俳優ではないはず、でも凄いインパクトだった…

 

「あ…346プロダクションのプロデューサーさん…?」

 

「左様、我こそ敏腕プロデューサーギルガメッシュである」

 

子供の私から見ても何とも大きい態度と自信だ

 

「小娘、貴様も名乗るがよい」

 

「…たt「お待たせいたしましたー、キングパフェです」 来たみたいですよ」

 

「おお! キングの名にふさわしデカさよ。我の器には及ばんがな」

 

なんとも美味しそうに食べるギルガメッシュさん

まだかな…

 

「お待たせいたしましたー、いちごパフェです」

 

「ほぉ、貴様が頼んだのはそれか。む、名前を聞くはずが忘れておった」

 

「橘…ありす…です…」

 

「ありす、良い名ではないか」

 

「子供っぽくて嫌いですっ」

 

この人もやっぱりみんなと同じようなことを言う。

するとギルガメッシュはこっちのそんな考えを見越してか鼻で笑い飛ばした

 

「子供っぽい? ふん、さっきから見ていれば妙に大人ぶると思えばそういう理由か。 よいか小娘、貴様のような子供が大人ぶるのはダメとは言わん。しかしな今の貴様の魅力は今この瞬間しか出せん。人は必ず何処かで大人になるものだ」

 

「私の魅力…?」

 

「大人には大人の魅力。貴様には貴様の魅力がある。自らの魅力を隠し偽る必要はない。自信を持て、名を、自分を好きになれ! そうすればこれから楽しくいられるであろう!」

 

自分を好きに…自信を持つ…

そうか、だからこの人はこんなに輝いて見えるのかも…

 

「だからだ、子供ならば少しはそれらしくせよ。世の理のわからぬうちは、ただ王たる我の威光に目を輝かせておればいい」

 

「あの…ご相談があるんですが」

 

「ん?」

 

先程までとは違う真っ直ぐな瞳がパフェを頬張るギルガメッシュを射抜いた

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉side

 

 

「えっと、ここでいいのかな…?」

 

「ん、どうしたの?」

 

撮影が終わり事務所に戻ってくると扉の前に見た事の無い女の子が立っていた。

 

「あ、えっと…こないだスカウトされてお父さんとお母さんにもいいよって言われたから来たの」

 

「あー、なんか朝ちひろさん言ってたなー…いいよ、入って入って★」

 

「失礼しまーすっ」

 

「おかえりなさい美嘉ちゃん、それと…赤城みりあさんですね。ようこそ346プロダクションへ。今プロデューサーさん呼んできますね」

 

ちひろさんはいつ見ても凄い人だなぁ…

 

っといけない、アタシも今日の報告してこないと

 

「ごめんね…えーと、赤城さん?」

 

「みりあでいいよ! あ、いいですよ…?」

 

「無理して敬語なんて使わなくていいよ、みりあちゃん。アタシの事は美嘉って呼んでくれればいいからさ」

 

「う、うん美嘉ちゃん!」

 

「よろしいっ★ アタシまだやる事あるからごめんねー。それと、これからよろしくっ」

 

バイバーイと別れを告げ上の階へと向かう

アイツの部屋は確か7階だったはず

普段あまりこないからか視線を感じる

事務所とは別に個室作っちゃうんだもんなぁプロデューサー…

というか久しぶりにプロデューサーの部屋行くかも?

 

「なんだか嬉しそうなオーラを感じます! いい事ありました?」

 

「あ、ユッコちゃん」

 

「青春かな? あ、でも悪い子だったら逮捕よー」

 

「嬉しそうですねー」

 

あー…これは…

 

「セクシーギルティお揃いだね。早苗さん、雫ちゃんこんにちは★」

 

「美嘉ちゃんさー、せっかくそんなにセクシーなんだからユニットに入らない? ほら、ユッコちゃんをそっちにあげるから」

 

「ちょ、早苗さん!? わ、私だってセクシー出来ますから!」

 

「やってみてくださいー」

 

「あ、え、えーと…あはん?」

 

プルプルと顔を真っ赤にして震えているユッコちゃんは可愛かった。というか普段の言動がアレなだけで黙っていれば事務所内でもトップクラスの可愛いさなんだけどなー…

 

「これだもんねぇ…」

 

「ひどい!?」

 

「あはは、みんなお疲れ様っ。アタシこれからプロデューサーのところ行くからさっ!」

 

じゃあ、と話を切って歩き出す

 

「あぁ、だから嬉しそうだったのね」

 

「ふふ、いいですねぇ」

 

なにか聞こえた気がするけど…そ、そんなことないもん

 

「プロデューサー、失礼するよー」

 

一つだけやけに豪奢な扉を開け中に入る。全く、職場をなんだと思ってるんだろうか…ってあれ? いない?

 

「プロデューサー? おーい」

 

部屋の中にさらに部屋がある完全に自室のプロデューサーの個室

どこを探しても見つからない

おかしいな…営業にでも珍しく行ってるのだろうか

 

「せっかく来たのに」

 

デスク周りをなんとなく見ていると一つの書類を見つけた…次のライブか何かかな? えーと、新プロジェクト…「何をしている、美嘉」

 

「うひゃぁ!?」

 

「普段ならば許さんがよい、我は寛大だならな」

 

「ご、ごごめんなさい…プロデュ…ってはだはだははは裸ぁぁぁぁぁ!?」

 

勝手に見てしまったことを謝ろうと振り向くと其処には…その全裸の変態が居た

全裸なのだが光り輝いており。い、一応隠れていた…うん

 

「照れるのも無理はない。我が裸身はこの世で最高水準のダイヤに勝る。それが生娘なら尚の事だろうよ」

 

「き、生娘って!!? そ、それに照れてるんじゃないから!!」

 

「それで、何の用だ」

 

「きょ、今日の仕事の連絡で…」

 

「ふむ…そこに座れ。茶でも飲みながら聞こうではないか」

 

「とりあえず服は着てー!!」

 

まったくもーーー!!




い、いつの間にかお気に入りが200を超えて
皆様ありがとうございます!

感想、アイドルの希望等まってますっ


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Smile?

「本日の面接官を務める千川ちひろです」

 

「ギルガメッシュだ…」

 

「佐久間まゆ…ですっ」

 

面接4日目、いよいよ折り返し地点

この時点でめぼしい原石はちっこいのと大きい女の2人のみ

この辺であと数人は見つけておきたいところだが……

 

(おい、まゆ。こちらを見るな、あの娘共を見ろ、良い娘がいるかどうかをだ)

 

(プロデューサーさん、まゆじゃダメですか…?)

 

(ちひろ、誰だこのバカを面接官にした奴は)

 

(貴方ですよギルガメッシュくん)

 

(まゆ、プロデューサーさんにおバカなだけですっ)

 

ええい、鬱陶しい!!

 

「243番、し…島村卯月です!」

 

………

 

「えっと、私から質問を…島村さんは何故アイドルに…? 因みに、まゆはプロデューサーさんにであ「答えろ、243番」…むぅ」

 

「憧れですっ。みんなを笑顔に出来るそんなアイドルになりたいんですっ!」

 

「そうか…次!」

 

この女…いや、我が下す決断ではないな

強ばっているが依然笑顔のまま…か

一種の才能…それに本人が気がつくかどうか見物だな

 

「はい!! 244番春日未来です!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月side+etc

 

はぁ…とため息をつき肩を落とす

 

「やっぱりダメだったのかなぁ…?」

 

オーディションはすぐに終わった。むしろ待ち時間の方が長かった気がする

それに質問も1度だけなのは他のみんなもだったけれど…

 

「あ、お母さんに牛乳買ってきてって言われてたんだ」

 

終わってしまったことは気にしても仕方が無い。次に向かって頑張るだけ!

 

「よしっ、島村卯月頑張りますっ」

 

ふんすっ…と気合いを入れたのはいいけど…ここ街中だぁぁ!? は、恥ずかしい…

 

 

 

そそくさと立ち去りコンビニで牛乳と…あ、765プロの特集組んでるんだ…買っとこ

 

「アイドル…か」

 

レジの店員さんが呟く

独り言…だったんだろうけどアイドル、その言葉だけは聞き逃せない

 

「アイドル好きなんですか?」

 

気がついたら言葉にしてしまっていた

 

「え? あぁ、いや…いつも笑顔を振りまけるアイドルって凄いなって思っただけっすよ。俺には愛想笑いもできないから」

 

笑顔…

 

「あんたなら…なれるかもな? ありがとうございましたー」

 

商品を受け取り店を後にする

変わったお兄さんだった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちひろside

 

「プロデューサーさん、本当にあの子不合格にするんですか?」

 

オーディション終了後、何度も見返していた島村卯月ちゃんの履歴書

先程、ギルガメッシュくんから破棄しろと申出があった

 

「構わん」

 

見向きもせずに告げる

あんなに何度も見返していたなら何かありますよねぇ…?

 

「捨てるのが面倒ならば武内の机にでも放っておけ」

 

ははぁ、なるほどなるほど…

 

「わかりました、私も少し忙しいので武内プロデューサーさんに任せますね」

 

「何だその生暖かい視線は!」

 

「いえいえ、素直じゃないなーなんて思ってませんから。 それと、今日も行くんですか?」

 

「あぁ、あの娘は何としても手中に置いておきたい。珍しく我の血が騒ぐわ!」

 

「騒ぐのはいいんですけど街を騒がせるような真似は止めてくださいねー」

 

「ふん、わかっておる!」

 

バンッと戸を閉め出ていくプロデューサー

こないだ寒そうだったから渡したマフラーもしっかり使ってくれてるようでよかった

 

「それにしても街の本屋に通うなんてよほど凄い子なんですかね?」

 

書類を一つの封筒にまとめ社印を押す

あとは武内プロデューサーの机に置いてくるだけだ。

あっちのスカウトは順調なんでしょうか…

スカウトされて入ったのはみりあちゃん、アーニャちゃん、美波ちゃんの3人だ。

こちらは杏ちゃんにきらりちゃん…それにこの島村卯月ちゃんもほぼ確定だろう。

あと7人…春までに見つかるかしら

 

「信じて待つだけ…ですね」

 

「千川くん、どうしたんだい?」

 

「部長、ええとなんというか…あのプロデューサーさん達大丈夫かなー…と」

 

「大丈夫だよ、彼ら…すごく楽しそうじゃないか」

 

楽しそう…? ギルガメッシュくんはわかるけど…武内プロデューサーは表情が変わらないから分かり辛い

 

「こちらはこちらで全力でやりたい事をやらせてあげようじゃないか」

 

「…そうですね。今は私が出来ることをやるだけですっ」

 

ギルガメッシュくんが帰ってきたら新商品エナチャ10を売りましょうっ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

???side+etc

 

「お母さん、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫…って言いたいところだけど今日1日休んでおく。また風邪ひいたら悪いしね。店番お願いできる?」

 

「大丈夫だよ、今日はお手伝いさんも来てるし」

 

母が風邪をひき今日は私と近くの店から手伝いに来てもらった男の人2人で切り盛りすることになった

 

「今日はよろしくお願いします」

 

「あぁそんな固くならないで? それにここは君のご家族のお店だから俺の方が…ね?」

 

物腰の柔らかそうな男性で年齢は確か…30歳といっていた。とてもそんな風には見えなかった

 

「同じ街中のお店同士だし、助け合いって大切だと思ったからさ。よろしくっ」

 

「…なんて呼べばいいですか?」

 

ふぅむ、と考えるふりをして微笑んだ

 

「みのりって呼んでくれていいよ。俺はなんて呼んだらいいかな?」

 

「渋谷…でも、凛でもいいですよ」

 

「よろしく、凛ちゃん」




今回は少々短めでしたー
それとスペシャルゲストに3人のお方が…1名名を明かしてませんが


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最後の3人とタカラモノ

お、お気に入り300も…とても嬉しいですっ


「くぅ…やっと終わったぞ…」

 

「そうですね…お茶でも入れますか?」

 

「うむ、美味いやつを持ってくるがいい」

 

面接を通ったのは武内のプロジェクト候補で4人、その他のプロジェクトを合わせると計24人その他は取るに足らん雑種共ばかりだった

あくまでメインは武内のスカウト

 

「まぁよい、我のところにも数人引き込めたから良しとしよう」

 

王たるもの常に三手四手先を読まなければ生き残れない。

 

「やはり、武内はヤツに話を持っていったか…特大の爆弾となるか…はたまた特大の宝となるか見物だな」

 

「島村卯月ちゃんのことですか?」

 

コトリと置かれた湯呑み

縁起よく茶柱も立っている

 

「そんな所だ。チビとデカイのはどうなっている?」

 

「杏ちゃんもきらりちゃんもバッチリレッスンしてますよ。見に行きますか?」

 

「行かん。我の管轄はオーディションから採用まで。そこから先は全てあやつの責任よ」

 

む、茶葉が変わったな…ちひろめ。やるではないか

 

「あと3人…だったか? 随分と大掛かりなプロジェクトだな」

 

「いや…ギルガメッシュくんも大差ないかと思いますよ…?」

 

「我を誰だと思っている? その辺の凡夫共とは違うのだ。出来て当たり前の事をしてる」

 

「成長しましたねぇ…初めなんて全然仕事しないし窓割って帰ってくるし…」

 

「常に進むのが人というものだ。」

 

『あの大災害から今年で10年となります◯◯です。人々の手によりここまで復興し今では…』

 

ふとテレビを観れば映し出されるのは手を取り合い助け合う人々

人類とは弱くなったものだ

 

「あー、◯◯ですね…もう10年も経つんですか…私が中学生の時?だったかしら」

 

「よくもまぁ、10年であそこまで復興出来たな」

 

「人って力を合わせると凄いんですよ。アイドルも同じですね」

 

確かに、1人では心許ないアイドルも3人で一つとなれば爆発的な輝きを魅せるものも居る。熟々面白い

 

しかし君臨せしはただ1人

それで十分なのだ

 

「最近、美嘉ちゃんも楓さんも忙しくなってあんまり会えないですね…みんなが人気になるのは嬉しい事ですが…寂しいものです」

 

「何時かは巣立つ時も来よう。今から1人で何でもやれるようにしておけば後に困らん」

 

PiPiPi PiPiPi…無機質な呼び出し音が響く

 

「すみません、電話ですね…はい、もしもし千川です…え? プロデューサーさんが…? えぇ…えぇ…本当に申し訳ございません、今そちらに向かいますので…はい、お手数お掛けします…」

 

「我か?」

 

「武内プロデューサーの方です…」

 

「どうした」

 

「警察に連れていかれたようで…」

 

「またかあの戯け者が…」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛side

 

卯月とプロデューサーに説得?されたような形でやって来た346プロダクション

そこは本当にお城みたいな所で目を奪われた。

 

「…ん?」

 

上層階の方からこちらを見つめる金髪の男の人がいた

 

「凛ちゃん?」

 

「あ、ごめん卯月。行こうか」

 

もう1度見上げてもあの男の人は居なかった…

 

「わぁ…! オーディションの時は緊張しすぎてよく見てなかったんですけど…お城みたいっ」

 

「そっか、卯月はオーディション受けてたんだっけ」

 

「あ、あはは…補欠合格…みたいなものですけどね」

 

うっ…言葉間違えた

 

「た、確か事務所は30階だったよね?」

 

「そうですね! そんな上だなんて…びっくりしちゃいます」

 

エレベーターに乗り込むと初老の男性が微笑みを浮かべこちらを見ていた…偉い人…かな?

 

「うぁぁぁぁ!?」

 

扉が閉まる直前、一人飛び込みで来る

 

「何階かね?」

 

「22階です!」

 

元気の良い女の子は一人別の階で飛び降りた

あぁいう娘も居るんだ…なんというかアイドルらしい子だ

 

「30階…ですね」

 

「緊張するね…」

 

事務所の扉の前

これからここが私達の始まりの場所になる…

 

「失礼します……誰も居ない?」

 

「へぇー、なんだかクールな感じだね」

 

あれ、さっきの子?

 

「おはようございます」

 

…あ

 

「プロデューサー、おはよ」

 

「おはようございます!」

 

「おはよー、プロデューサー!」

 

「皆さんのサポートをさせていただきます。千川ちひろです。よろしくお願いしますね」

 

年上のお姉さん…という感じだ

 

「渋谷凛です。…よろしく」

 

「本田未央!高校一年生です!」

 

本田未央…か。

 

「私と同い年なんだ」

 

「島村卯月、高校二年生ですっ」

 

え?

待って、卯月って…え?

 

「年上だったの…?」

 

「え、えへへ…17歳になっちゃいました」

 

年上に敬語使われてるって…えぇ…

 

「ふん、それが最後の3人か」

 

偉そうな…そして威圧的な声が聞こえてきた

 

「はい、彼女達がシンデレラプロジェクト最後のメンバーです」

 

奥から姿を見せたのは先程窓からこちらを見ていた金髪の男性

 

「ほう…」

 

「えっと…ちひろさん、この人は…」

 

「あぁ、言峰ギルガメッシュさん。皆さんとは直接関わりはありませんがプロデューサーさんの1人です」

 

「面接官の人だ!」

 

「は、はい…」

 

卯月が俯く…そうか、1度オーディションに落ちてるから…この人が落としたってことか。

そんなことを考えていた所為かじっと見すぎてしまった

 

「貴様、良い瞳をしているな。何処までもそれを貫け。どんな苦難にも抗う女は美しい」

 

「へ?」

 

「それに、島村卯月」

 

「は、はい!」

 

「よくぞ346プロダクションに来た。歓迎しよう。貴様の活躍、楽しみにしているぞ」

 

「え、え?」

 

「本田なんちゃら! 貴様は迷うな、迷えば迷うほど貴様は抜け出せなくなるタイプだ」

 

「未央ですっ! はいっ!」

 

「武内、よい3人を見つけたな。ちひろ、我は美嘉を迎えに行ってくる」

 

「珍しいですね?」

 

「ふっ、あやつと出会った時を思い出したまでよ」

 

スタスタと言いたいことを言い切ったかのように居なくなった。

な、なんだったんだろう…?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やっほー★ みんなやってるねー」

 

妹の様子を見に来たつもりがこんなに後輩が出来たとは思いもしなかった。

 

「うわ! 本物の城ヶ崎美嘉だぁ!!」

 

「本物だよー★」

 

新鮮な感覚だなぁ…!

わいわいとみんなが寄ってくる中、スタッフから撮影の準備が出来たと知らせがくる。

みんなも見てるしバッチリ決めちゃお

 

「お、いいねー! 美嘉ちゃん今日は普段以上にノッてるよ!」

 

「イェイ★」

 

パシャリ パシャリと様々な方向から撮られその度にポーズを変え、自分の一番の構図を探し続ける。撮影も自分の知らない一面を探す仕事だーなんて、昔ギルガメッシュプロデューサーに言われたことだった

 

「おっ、やってるねー」

 

「次はボク達の番…ふふん、ボク可愛すぎるから撮影長くなっちゃいますよっ」

 

「長くなったら困りますなぁ…幸子はん程々に」

 

KBYDのメンバーもやってきた。続くにように茜ちゃん、愛梨ちゃん…ブルーナポレオンに楓さんまで勢揃いだ…ってなんで!?

 

「美嘉さんばっかりズルイです。千枝達も撮りますよ?」

 

「そういうことッス。勘弁してください」

 

「いやいや、ボク達の番は!?」

 

「どーせならみんなで一枚撮っておきましょ?」

 

集合写真…そういえば撮ったことなかった

ここにいるメンバーはアタシが入った時の仲間達だ。それなのに写真一枚も無いなんて今更…

 

「スタッフさん、みんなで1枚…撮ってもらってもいいですか?」

 

「お、全然構わないよー! むしろ、大歓迎だっ」

 

「いいってさ!」

 

わいわいとみんなが集まり自然と立ち位置が決まる。近くに集まると本当の最初は一人ぼっちだったのに今じゃこんなに頼もしくて凄いライバルが増えた。

 

「あれ? プロデューサー?」

 

「あら…ギルガメッシュさん」

 

「ギルガメッシュくんも写りたいのね。わかるわ!」

 

「わからなくてよいわ!! 誰が写るか」

 

「そんな事言わずにさーっ」

 

「一緒に撮りましょうっ!! さぁ! さぁ!」

 

友紀ちゃんと茜ちゃんに…なんて言ったっけ羽交い締め? されこちらに運ばれて来るプロデューサー

 

 

うん、みんな逞しくなったなぁ…

 

「はい、2枚目、3枚目撮りますよーっ」

 

しぶしぶという形で右端に仏頂面で立ち写るプロデューサー。

 

その写真はアタシ達のタカラモノになった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ギルガメッシュくん、その写真は?」

 

「あぁ、先日美嘉達の撮影を見に行った時にな。くだらん…」

 

「へぇ…?」

 

「美嘉達にとってはタカラモノというらしい。これの何処がタカラモノだ。ちひろ、我は出かけてくるぞ」

 

「…あっ…ふふ、なんだちゃんと笑えてるじゃないですか」



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王の思惑

いつの間にかお気に入りが500オーバーに!?

あ、ありがとうございます!
もうしばらくギルガメッシュと美嘉ちゃんのお話にお付き合いいただければ幸いです


美嘉side

 

シンデレラプロジェクトが始動して数日たったある日のこと

珍しくギルガメッシュプロデューサーと一緒に現場へ向かっていた時にこれまた珍しくとある提案を出された

 

「美嘉、次のソロライブにダンサーを付けてみようではないか」

 

「ダンサー!? え、いいの?」

 

「あぁ、だがシンデレラプロジェクトからバックダンサーを選ぶことだ。貴様がな」

 

あの子達から…? ははぁん、プロデューサーまた何か考えてるねぇ

おおかた、早めに挫折をさせようってところかな?

そうはさせないもんねっ!

 

「うん、わかった。3人でいいかな?」

 

「その辺りは貴様に任せる。期待してるぞ美嘉」

 

よーしっ、頑張っちゃう

 

…といっても、どの子達にしようかな?

莉嘉…にはまだ早いし…うーん

やっぱり高校生組だよねー…

 

「この3人…かな?」

 

手元の資料にある名前は島村卯月、渋谷凛、本田未央

 

うん、大丈夫だと思う

ふふ、楽しみだなぁ

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「えぇ!? わ、私たちが」

 

「バックダンサー…?」

 

「もうステージに立てるの!?」

 

反応は三者三葉

予想通りという感じだ。

 

「そっ、アタシのライブのバックダンサーね★ だから、これからダンスレッスンをしてもらうよッ」

 

「「「は、はい!」」」

 

うんうん、元気でよろしいっ

レッスンといってもこの日は3人の現状を見るだけにしておいた。初日からやっても無理がかかるだけだし。

 

 

卯月は養成所に通っていただけあって誰よりも基礎は出来ていた。

「うわわぁ!?」

うん、少しドジっぽいけどレッスンで何とかなる

 

 

凛は動きがまだ固いもののキレもよく通しで踊れるようになれば3人の中で一番映える感じ

 

 

未央は所々雑なものの誰よりも大きな動きをしていい意味で目立つ

 

 

「一長一短ってところだね」

 

「は、はい」

 

「ふぅ…きついね…」

 

「うへぇ…疲れたぁ」

 

「うーん、やっぱり卯月は体力あるけど2人はまだ足りないみたい。無理はしなくていいけど凛も未央もこれから毎日ジョギングした方がいいよ」

 

「ん、ハナコの散歩がてらするよ」

 

「しぶりん、私も一緒にいい?」

 

「わ、私も行きます!」

 

3人とも出会ったばかりなのに随分仲がいいようだ。 見ていて微笑ましい

 

「じゃ、明日はトレーナーさんが見てくれるから。頑張ってね!」

 

きっとこの子達なら大丈夫っ!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「やれやれ、美嘉の早計も困ったものだ。間違いではないがそこまで急を要するものでもない」

 

レッスンルームをチラ見しその場を後にする王は誰も居ない空間に言葉を捨てるように呟く

 

「あの3人を選ぶのは流石だ。と褒めておくところだが問題はライブを成功させた後、おそらくは本田未央。奴がどうなるか…ふん、見物だな」

 

携帯を取り出し連絡先を呼び出す

呼び出した名はハニー(笑)と勝手に登録された名だった

 

「我だ。これから出てこい」

 

一言だけ吐き捨て電話を切る

 

打てる手は全て打つ

 

楽しませてもらおうじゃないか

 

 

 

 

シンデレラプロジェクトよ

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉side

 

「3人とも大丈夫そうだしアタシも準備しないとねー」

 

すっかり日の暮れた街を歩く

金曜日の夜なだけあってか皆楽しそうだ

居酒屋に入っていく会社員軍団、おしゃれな店を回る女の子たち

 

「あれ…?」

 

そんな中、プロデューサーを見つけた

間違えるはずもない

 

「おーい、プロデュ…!?」

 

ついでにギルガメッシュに抱きつく女も

 

「おアツイ」

 

「嫉妬ね、わかるわ」

 

「べべべつに、しっ、嫉妬なんてしてないし!? だ、抱きつきたいなぁなんて思ったこともない!」

 

「あ、居酒屋入った」

 

「行きましょう美嘉ちゃん」

 

「し、仕方ないね! こ、これはプロデューサーが未成年に手を出してないか調べるため…なんで楓さんと瑞樹さん居るの?」

 

2人に手を引かれギルガメッシュプロデューサーが入った居酒屋に入る。案内された席は都合よく2人が見える位置だった。

 

「もー、ギルのせいで腰が痛いよ」

 

「あの程度で軟弱だな」

 

「それひどくない? こんなに可愛い子を捕まえてそんなこと言うなんてさ」

 

「戯け、何が捕まえてだ。貴様から迫ってきたのだろう」

 

迫って!? え、や、やっぱりそういう関係…?

 

「生2つの…オレンジジュース1つ」

 

「焼き鳥の五本セットが…食べる? あ、五本セット二つで」

 

「なんでそんなに冷静に注文してるの!?」

 

こっちは真剣にプロデューサーを見てるのに!

 

「ギルの激しいからキツいし」

 

「あれで激しいのならまだまだだな」

 

あわわわわ!?

 

「「カンパーイっ!」」

 

「プロデューサー!!!」

 

我慢ならず店に入り数分で問い詰めることになってしまったがここまで来たらヤケだ

 

「む、美嘉か。珍しいなこのような所で」

 

「お、城ヶ崎美嘉ちゃん?」

 

キョトンとしたプロデューサーと焼き鳥を咥えてこちらを見る女の子

 

「ぷ、プロデューサーとどんな関係なの!!」

 

「あー…ハニーとダーリンかな?」

 

「は、ハニー…」

 

「程々にしろよ、周子」

 

「ごめんごめん、ついつい反応が可愛くて?」

 

ハニー…ハニー…

 

「おい、美嘉。コイツは貴様の後輩にあたるアイドルだ。戯言を間に受けるでない」

 

「こ、後輩!?」

 

「そそ、ごめんね先輩。あたしはシューコ、塩見周子だよ」

 

「さっきのキツいってな、なんなの?」

 

「この人のレッスンキツくてね…」

 

「ふん、あの程度でキツいとは片腹痛い」

 

よ…よかったぁ…

 

「これからよろしくね?」

 

これがアタシと塩見周子との出会い

プロデューサーが引き合わせてくれた将来のメンバーの1人だった

この時はそんなこと気が付かなかったけど

 

 

 



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本田未央、アイドル辞めるってよ?

アニメ7話にあたるお話です。

お気に入りがまた増えていてビックリしており
また、嬉しいです。
皆さんありがとうございます!


美嘉side

 

どこで間違えたのだろうか

 

結果的に言えばソロライブは大成功。

初の試みのバックダンサーも上手くいきプロデューサーも見返せたと思ったのに

 

「あの程度で挫折するならばアイドルなんぞやらなくてよい」

 

とか言ってしばらく姿を見せないし…

 

 

何があったか…アタシもよく知らないけど莉嘉達のシンデレラプロジェクト内で何かがあったのは知っている。

 

「大丈夫かな…」

 

「なにが?」

 

「あ、周子…莉嘉の所で問題あったみたいでさ」

 

「あー、知ってる知ってる。うんうん」

 

絶対知らないって顔は言ってる

 

「ふふーん、カワイイボクのお出ましですよー! プロデューサー!…は、居ないから美嘉さん!」

 

「おはよう幸子ちゃん。あれ、今日はパンツなんだ?」

 

いつもフワッとしたロングスカートを履いている幸子ちゃんにしては珍しくスリムスタイルのパンツを履いていた。

普段あまり見ることは無いが幸子ちゃんはスラリとした脚をしているから自分に合ったモノさえ履けば脚が長く見える。

 

「今日はカワイイボクだけじゃなくてちょいカッコイイカワイイボクを目指しました!」

 

カッコイイ…の部分はアタシのコーディネートの守備範囲外だからよく分からないけどいつもは白や落ち着きのある色を纏う幸子ちゃんが青を身につけ髪も少し後ろに流す様な髪型をしていた

 

「ふひ…に、似合ってるぞ…」

 

「輝子さん、ありがとうございます」

 

「おはよーん」

 

「しゅ、周子さん…おはよう…」

 

「そう言えば何の話してたんです? ボクが来る前」

 

「あぁ…シンデレラプロジェクト内で何かあったらしいって話だね」

 

「あ、ボク知ってますよ?」

 

…?

 

「え、知ってるの!?」

 

「はい、何でも本田未央さんがアイドルをやめる…とか? まぁ、こんな業界ですからね。合う合わない…ありますよ」

 

未央が…? こないだデビューって言ってたけど…何かあったのかな、失敗しても凹まなさそうだけど。

 

辞めるって…

 

「まさか!」

 

「…ど、どうした美嘉さん…」

 

「アタシ、プロデューサーの所に行ってくる!!」

 

3人に告げるとアタシは…アタシの考えが正しければプロデューサーは!!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ギルガメッシュside

 

 

 

 

「やはり本田未央は辞める…か」

 

予想通り

あのタイプの人間は理想と現実を履き違える

 

「プロデューサー!!」

 

「どうした美嘉、廊下は走るな」

 

呼吸を乱しながらこちらに歩み寄りバン!と机を叩きこちらを睨みつける。

 

出会ったころよりも強い目をするようになったな

 

「なんだ?」

 

「アタシを…利用したんだね…?」

 

「今更、気が付いたか。 しかし、利用…というのはいただけんな」

 

我は機会を与えただけだ。

それを奴は生かせなかった

 

「アタシのステージをダシにして…」

 

「ふん、我は奴らをステージに上げただけだ。

そのステージを自らの力では及ばない事に気が付かず、あまつさえ初めてのステージを見に来た客も見ずに客の数だけを見て理想と違う現実の違いを知っただけで心が折れる…

そんなアイドルなんぞいらん」

 

「で、でも…意地悪しすぎじゃない?」

 

「武内が奴らの太陽ならば我は北風として立ちはだかる。たまにはよかろう?」

 

武内は優しすぎる、故にあのアイドル達は挫折から最も遠い位置にいる

 

「其方にかまけてばかりで貴様らの仕事におざなりになっていたのは認めよう。明日からは美嘉、仕事について行こうではないか」

 

「え… ほ、ホント? って誤魔化されないよ!!」

 

ちっ、賢しくもなったか!

 

 

 

「用が済んだらさっさと出ていけ。我もやることがある!」

 

首根っこを掴み猫のように放り出すと

一息つく…やれやれ出会って3年…成長が早いものだ

 

仕方あるまい、奴を面接で通したのは我だ

ここで辞められるとちひろに何をされるかわかったもんでもないしな。声ぐらいは掛けに行くとするか。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美波side

 

「すこし、昔の話をしようか」

 

静かになった事務所の中、ぽつりと語り出した

 

『昔々、ある所に、とてもまっすぐな男がいてね』

 

『男はいつもまっすぐ道を示した。

シンデレラ達が正しく進めるように。』

 

『でも、正しい道も時には息苦しく感じてしまうもんだ…

結果、何人かのシンデレラが男の元を去って行った』

 

『男はとても憶病になり

男は自分を、シンデレラを城へ送る無口な車輪に変えてしまった』

 

きっとこの話は私たちの身近にいる人の話だ。

そして、これから知っておかなければならない話

 

「男はね、シンデレラを信じている。

どんな苦難に当たってもきっと乗り越えてくれると… だけど男は何も言えない。

また間違えてしまうのではないか…

苦しい思いをさせてしまうのではないか…」

 

「あ、あのそれって…」

 

智絵里ちゃんが気がついたのか声をあげた…それを今西部長は微笑み首を横に振る

 

「だけどね、この話にはもう少し続きがある」

 

「終焉の時ではない…?」

 

 

『シンデレラが去り空っぽになったお城は数年で人々に忘れ去られた。

誰も居ないお城の中で車輪はただただ自分を責めたんだ』

 

『そんな時、空っぽのお城に王様がやって来た。

「王も姫も不在の城、我が世界最大、豪華絢爛な城にしてやろう」 なんとも大仰な事を言う青年だ。』

 

『でも、彼の目には曇などない真実の目をしていたよ。

そんな彼を見て、無口な車輪は気が付いた…

自分に足りないのは彼のような自信。』

 

『自分が不安がっているとシンデレラも安心して舞踏会には出られないと…』

 

そこまで語るとふぅ、と息をつき私たちの顔をそれぞれ見渡す。

 

「無口、無愛想…色々と言われる彼だけどね。誰よりも君たちの事を考えていると思うよ」

 

それじゃあ、と挨拶をしルームから出ていく。

部屋はまた静寂に包まれる…みんな思うことがあったみたいだった…

私はこの中では年長…こういう時どうしたらいいか分からないけど…莉嘉ちゃんやみりあちゃんを不安がらせる理由には行かない

 

「ねぇ、みんな…!」

 

「どうしたにゃ、美波ちゃん」

 

「ミナミ…?」

 

「プロデューサーを信じて…待とう?」

 

「…そうだよね。今の私たちには待つことしか出来ないし…未央ちゃんが戻ってきた時、笑顔で迎えよう? 私、ケーキでも作ろうかな?」

 

「ケーキ! みりあも作りたいっ」

 

かな子ちゃんっ…!

かな子ちゃんの後押しもあったお陰か少しずつ空気が変わってきた

 

「私は最初からわかってたし?

信じて待つってロックだね」

 

「みくも不安だけど待つことにするにゃ!」

 

「くっくっくっ…我が友との契約は既に結んでいる。今はまだ時が満ちていなかっただけの事!」

 

「ら…蘭子ちゃん? 私も…クローバー探してこようかな…」

 

言葉を絞り出しただけよかった

みんな、まだまだ一つにはなれないかもしれないけど…それでも同じものに憧れた仲間が暗い顔…してほしくないから



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王の叱咤

「ごめんね…しぶりん、しまむー…」

 

事務所に行かなくなってから数日が経った

あの日から雨が降りしきり

まるで私の気持ちのような…晴れない空

 

憧れのアイドルになれて、やっとスタートをしたと思ったのに

 

 

 

今は家に1人

家族みんな出かけていた。はずなのに…

 

 

ドンッ… ドンッ…

 

 

音が響く…ベランダ…?

恐る恐る近づき閉め切ったカーテンに手を掛ける

その時、稲光でシルエットが映し出された。人のシルエットが

 

「ひぃっ!?」

 

ここはマンションの上層階だ

人がベランダに来れるはずがない…

慌てて窓際から離れようとしたが腰が抜けて動けない。

もうダメだ…

 

「おい、本田なんちゃら! さっさと開けろ! 雨が強すぎて敵わん」

 

「へ…?」

 

その声は何処かで聞いたことのあるエラソーな声だった

カーテンを空けると予想通り

ギルガメッシュプロデューサーが居た

 

「いやどうやって来たの!?」

 

「飛んで来た」

 

「とん…はい!?」

 

どうやら規格違いらしい

 

とりあえず部屋に上げお茶を出すと私を見て嗤った

 

「貴様、何故アイドルを辞める?」

 

「それは…「勝手に期待して現実が違って恥をかいた自分が嫌になったからか?」…ち

違う!」

 

「ほう、ならばファンがあまりにも少なくて嫌になったからか」

 

確かに…期待したより全然人が居なかった…でも…そうじゃない…はず…

私は…私はまだアイドルを…

 

「貴様は道化だな。しかし面白くない、気分次第では我の目の前に立つことも許さん…が、346の関係者である手前まだ許そう」

 

「な、何が言いたいの?」

 

「我はまだしも…だ」

 

 

「武内とちひろ、今西…シンデレラプロジェクトの石ころ共の期待を裏切るな。裏切るようならば…」

 

言葉を切り茶を飲み干したあとこちらを睨みつけ言い放った

 

「この世に居場所は無い」

 

背筋に一気に汗が流れ再び腰が抜けた

 

「ではな、暫くすれば武内が来るだろう。決着をつけろ」

 

茶、馳走になったと言い捨て窓から飛び出た王を私は追うことが出来なかった…

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月side

 

 

風邪をひいてしまった

アイドルなのに体調管理が出来ないなんて失格だ…

早く治してまた頑張らなきゃっ

 

「卯月、お客さん来てるけど…大丈夫かしら?」

 

「へ?」

 

つい先程、プロデューサーが来て凛ちゃんと未央ちゃんのことは任せてって言ってくれたばかりだ。

それにお母さんの反応からプロデューサーではない事も分かる…では誰だろう?

 

「うん、大丈夫…」

 

「お通しするわね」

 

扉を開け入ってきたのは意外な…想像もしなかった人

ギルガメッシュプロデューサーだった

 

「ふん、病に伏せるなどプロとしての意識が足らんな」

 

「す、すみませんっ!」

 

「よい、そのまま布団に入っておれ」

 

ほとんど話した事がない

でも、怖そうな人だとはオーディションの時から思っていた…

何か用があって…?

 

「本田未央がアイドルを辞めるようだな」

 

「っ!!」

 

あの日、私たちのデビューライブの日に未央ちゃんが言っていたあの言葉

信じたくなかった、必死に目をそらしていた

悔しかった…何も出来ない自分が…

 

「しかし案ずるな、武内が何とかする」

 

「え……?」

 

「我の目は確かだ。貴様も、渋谷凛も本田未央も…この程度では終わらん。

むしろ終わってしまったら我の目が腐っているという事になるからな。終わらせはしない」

 

安堵した

まだやれる事がある…気付かされた

でも、少し引っかかることが出来てしまった…それなら、なんで…

 

「なんで、私を一次オーディションで…落としたんですか?」

 

虚をつかれた様な顔を見せたギルガメッシュプロデューサーは口角を上げ笑った

 

「フハハハ! 我に意見するか!」

 

「い、いえ! ごめん…なさい…気になったもので…」

 

「何れ教えよう。今は身体を休めろ。武内が二人を連れ戻したらまた仕事があるのだからな!」

 

何処までも強く、どこか人を惹きつけるギルガメッシュプロデューサーは私の中で怖い人から少し優しい人になっていた

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛side

 

 

「ハナコ…私はどうしたら良かったのかな…」

 

プロデューサーがあんな言い方するとは思っていなかったわけではない。

元々不器用そうな感じだったし、でもあの時の未央…それに私にはキツかった

夢を見すぎていたかもしれない

 

 

「ハナコ…?」

 

いつも大人しいハナコが急に唸りだし私の前に立って遠くに向かって吼えた

 

「ほう、主の危険を察知し自ら前に立つか…中々の忠犬だ。しかし、犬っころよ! 実力者を把握出来ぬ訳ではあるまい。命を投げ捨てるようなものだ」

 

ハナコが吼えた向こうから美嘉のプロデューサー、ギルガメッシュが悠然と歩いてきた

 

ワン! と力強く吠えたハナコはゆっくりと私の横に戻ってきた

…守ろうとしてくれたの?

 

「ふっ、そうか犬っころではなくハナコか。覚えておこう! 貴様の家族は逞しいな渋谷凛」

 

「な、なんなのアンタ…」

 

「城ヶ崎美嘉のプロデューサーだ」

 

「そうじゃなくて何でここにいるの? プロデューサーの差金?」

 

「我が武内の? ナメられたものだな。

それになんだ、その腑抜けた眼は」

 

腑抜けた…?

冗談じゃない、アンタに何が…

 

「何がわかるとでも言いたそうだな」

 

…口に出してないはずなのに

 

「何もわからんさ。貴様のような雑種の考えなどな! 所詮石ころは石ころ…貴様如きではアイドルに成りえなかっただけ。違うか?」

 

「だったらなに? クビにするならそう言えばいいじゃん」

 

「貴様をクビにするかどうか決めるのは貴様と武内だ。 辞めるならば話し合え…もっとも辞めるとしても雑種、貴様だけだがな」

 

…私…だけ…?

 

「未央は? 未央はどうなったの?」

 

「今の雑種よりは…まだ前を見ていた。 あやつなら立ち直れるであろう…

貴様自身も考えぬけ!

悔いの残らぬように、明日その命が尽きても構わんぐらいに足掻け!

死ぬ間際まで足掻き続けたものは美しい!」

 

まるで歌うように告げたコイツは近寄ってくるとしゃがみこみハナコをひとしきり撫でた

 

「ハナコ、貴様の主人は愚かではない。

しかし、間違えることもあるだろう…その時は貴様がリードを引っ張ってやるのだ。よいな?」

 

ワフッ! と先程とは違う…まるで王様の命令を受けた騎士のように…凛々しくて穏やかな返事だった

 

「良い返事だ。今度は何か土産をやろうではないか」

 

「ちょ、ちょっと! 好きなだけ言ったら帰るの?」

 

「我は多忙でな、明日からアメリカに行かねばならん。 誰かを頼るな…とは言わない。 所詮貴様らは人間…雑種なのだ」

 

 

公園を後にし事務所の方へと歩いていく彼を見ていると…何故かすぐにでも卯月と未央に会いたくなった…

 

「ごめんねハナコ、散歩は終わり。私レッスン行ってくるよ」

 

情けない自分はもう要らない

アイツを見返す為にも頑張らないと

 

 

 

(というか、アイツ…ハナコと話していた?)

 

 




少し女の子と人間に甘いギルガメッシュですね
でも、そんな彼がこの先どうなるか
石ころと呼ばれた少女がどうなるか
もう暫くお付き合いください


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HINO in USA

前回に比べだいぶ軽い内容になっています
そして、これから先少々物語に関わってくるアイドルが1人出ます。
ではどうぞ


「ゆーえすえー!!!!!!」

 

「えぇい、騒がしいぞ茜!」

 

飛行機の中では静かにしていたのになんだこれは

 

「だって、初海外ですよ!! 美嘉ちゃん達も行ったことないって!!!」

 

「確かに…我が立ち上げた部門では貴様が初めてになるか…」

 

そう、我は日本を離れ日野茜と共にアメリカにやって来た。

聖杯戦争で呼び出され早10年、遂に日本から出た

というのもだ、茜自身が仕事先で新たな仕事を取ってきた…その場所がここアメリカだった…という理由なのだが…

 

「我は仕事の詳細を全く聞いておらんぞ」

 

「大丈夫です!!! 私におまかせください!!!」

 

不安しか残らない

 

「スポーツの応援キャンペーンガールをですね!!! 任されたんです!!!!

しかも日本代表のですよ!!!」

 

「ほう、貴様がか。ならばラグビーか」

 

「いいえ、アメフトです!!!」

 

「…何が違うのだ?」

 

「良くぞ聞いてくれました!!!

まずはボールのサイズ、人数、時間…どれをとってもラグビーの方がアメフトより大きく、多く、長い!!!

また、一つのプレーを連続で行うのがラグビーと言われてます!!!

アメフトは攻守が明確にあるんです!!!!」

 

「ふむ、見た目は似ているが中身は全然違うのだな?」

 

「そりゃあ、もう!!!」

 

…サラリと聞いていたが茜、そういう知識はあるのだな。我ビックリ

 

 

茜に連れられメドウランド・スタジアムにやって来た

スポーツ競技場なぞ初めて来たが興味をそそるものが多い。 それに…だ

やはり、日本対アメリカ…プロの試合で無いにしても世界各地に放映するため数多くのテレビ局が来ている。

 

…凄まじい仕事を自ら取ってきたものだな茜

 

「打ち合わせいってきまーーーーす!!!!」

 

「うむ、粗相がないようにな」

 

最終調整だろうか、日本のチアチームと共に奥へと消えて行った

最初から我の仕事はない。

保護者として来たようなものだ

なので…折角だ、初のスポーツ観戦としよう

 

 

【さぁ、日本選手の入場だぁ!!!】

 

【日本最速のランナー! アイシールド21……小早川瀬那ーー!】

 

 

 

む、始まるのか…

腰を据えると既に大画面で茜が映し出されていた。

おぉ、良い面構えになっているではないか

それにチアガールも似合っている…ふむ、確かほかの部門に居たな…確か若林智香だ。

ヤツと組ませると面白そうだな

 

 

 

 

【そして我らがUnited State of America!!!!!!】

 

 

 

ちっ、日本の選手入場が終わったせいで茜が映らなくなった

 

しかし、日本の選手も美嘉と同じコウコウセイには見えんな

なんだあの巨体は、サーヴァントかなにかか?

それに悪鬼の様な面もいる

 

「「「「ぶ・っ・殺・す!!!」」」」

 

「Ya----Ha----!!!!」

 

殺伐とした掛け声だな…

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

結果的に言えば面白かった

我を楽しませる見世物としては十分だ

茜もハーフタイムとやらをまるまる使ったミニライブを行ったことだしな

 

「プロデューサー!!! 観光していいんですか!!?」

 

「あぁ、ちひろから許可は得ている。

それに帰国は来週の頭だ」

 

いい機会だから観光をして休んでこいとちひろから言われていた。

 

「それにしてもあれですね!!!!

プロデューサーと私だけって何気にスカウト以来ですよ!!!!」

 

む、そうだった…か?

如何せんコイツとの出会いは物凄い勢いだったからな。殆ど覚えていない

 

「うぉーーー!!! ボンバー!!!!」

 

「五月蝿い」

 

「…………!!!!」

 

黙っていても五月蝿い

しかし観光か…茜が一つでも何か吸収して帰れるならばよいか

 

「おい、タクシーに乗るぞ。」

 

「……ッ!!!」(コクコク

 

「はぁ、喋って良い」

 

「はい!!!!」

 

 

 

この日は時間も時間だったのでホテルへと直行したのだが…

我は眠れずに1人ホテル内をさ迷っていた

トレーニングルームにプール、カラオケ?まで付いてるとはここはなんだ

346プロか?

 

「広いな、我の部屋は何処だったか」

 

ついつい散策をしてしまった

ふと、気がついた

何処からか我でさえ綺麗だと認めるしかない声が聴こえてきた

 

どこだ

 

「〜〜♪」

 

これは…先程通ったカラオケルームか?

少し歩速を早めカラオケルームへと向かうと1人の少女が歌っていた…

これは、楓に次ぐ上手さ…いや同じと言っても過言ではない

 

「…? あの、どうされました?」

 

「む、気付かれたか。 なにあまりに綺麗な声だったのでな聴きに来たまでよ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

どうせだ、海外でもスカウトをしてみようではないか

 

「挨拶が先だな、我は346プロダクションのプロデューサー、ギルガメッシュだ。貴様、アイドルになれ」

 

「あの…すみませんっ。 私、アイドルなんです…」

 

何だと!?

 

「このような所で同業の方に会えるとは思ってもみませんでした」

 

「それは我もだ。一曲聴かせてはもらえんか?」

 

「えぇ、構いません。…では…蒼い鳥」

 

 

 

 

これは…これ程の逸材とは…!

 

 

「…ふむ、中々だ。

明日の行き先など知らない…という歌詞のところに力が入り過ぎてるな。 もう少し気を緩めろ」

 

「やはり、指摘が的確ですね。気を付けてみます…

あ…すみません、申し遅れました

765プロダクション所属、如月千早です」

 

如月千早か…

同じ業界でもここまで実力がある奴がまだまだ居るのだな

あやつ等はまだまだということか

 

「その、差し出がましいかと思いますが…少し練習に付き合ってもらえませんか?」

 

「よかろう、我も眠れずに暇を持て余してたところだ。 我は厳しいぞ」

 

「望むところです…っ!」

 

こうして我の夜は更けていった



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本の少女

とあるお客side

 

「…今日も来たんですね」

 

「当たり前だ、我の目に狂いは無い。 貴様は民衆の偶像になるべくして生まれた存在だ」

 

古びた本屋、お客は私を含めて2人だけ

店員さんと金髪スーツのお客さんがいつもの様に何かを話している。

 

「…あまりそういう事は分からないので」

 

「構わん、貴様は決断すれば良いだけだ。この書庫で一生を終えるか終えないかをな」

 

「それは…」

 

まるで小説のような、そんな言葉

あの男の人は何者なのだろう?

 

「まぁよい…もう少し時間をやろう。店内を見回らせてもらうぞ」

 

 

あ、こっちにくる…

歩いてきたのは金髪赤眼、それでいて何処か本に出てきそうな騎士様の様な方だった

 

 

「む…? その本を見せろ」

 

「へ、え? こ、これですか?」

 

私が読んでいた本を見ると目の色を変え…

 

笑っていた

 

私が読んでいた本のタイトルはギルガメッシュ叙事詩

古代メソポタミアの文学作品。 実在していた可能性のある古代メソポタミアの伝説的な王、ギルガメッシュをめぐる物語だ

 

「やはり我は偉大であったか!

この時代にまで名が残っているとはな!」

 

その本を持ったまま店員さんへと歩を進める唄うように言葉を紡ぎだした

 

「鷺沢文香よ、この世に意味の無い本など無い。 一つ一つ駄作と言われようとつまらんと言われようと必ず書き手の意味がある。 それは読む者が汲み取れるかどうかだ」

 

「……」

 

「しかし…だ。 書かずに終わってしまうモノは物語ではない。 ましてや、貴様の物語はここで本を読み過ごす…それだけ。

本で言えばあらすじにもならん」

 

「では、どうしろと」

 

「自ら書け。 事実は小説より奇なり…よく言ったものだ。 貴様は、この書庫から飛び出、人々の偶像に…アイドルになるのだ! 誰が想像する? 街の本屋の少女がアイドルなぞ!

超展開というやつだ

貴様の物語は、貴様が踏み出したその瞬間に色付き広がる!」

 

自らの物語…アイドル…

 

「…私の物語…書けるのでしょうか?」

 

「書ける! 我が保証しよう!!」

 

「…ふふ、可笑しな人ですね。 分かりました、精一杯やらせてもらいます」

 

店員さんとお客さん、その2人のやり取りを見るのは今日が最後になりそうだ。

事実は小説より奇なり…まさにそんな瞬間だった。

…私も、一歩踏み出してみようかな?

 

店を出ると空は鮮やかなオレンジ

夕飯の食材を買いに来た親子や部活帰りの高校生が沢山歩いている。

ここに居る人、それぞれの物語がある

 

 

「ふぅ……よし!」

 

 

私の…七尾百合子の物語は今から変わるんだ!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

英雄王side

 

 

やっとだ

 

やっと駒が揃った

些か不安が残るがこやつらが居れば美嘉も

まぁ、まだ先の事だが手を打っておくのは早い方が良い

 

「む、武内から電話か。ヤツめ行き詰まったか?」

 

言峰に買ってもらったスマホの操作も慣れたものだ最初はガラケーというヤツだったがこの時代の人間共は貧弱ながら昔に比べ繁栄に対する力は凄まじい執念だ

 

「我だ。 我に電話をするなどよほどの事があったのであろう?」

 

英雄王たる我がこの様な人間の猿真似をし他人に意識を向けるとは思いも寄らないことだったが折角の道楽だ。やるところまでやろう

 

「…ほう、美嘉をか。

貴様らのために前座をしろと? 」

 

内容は至極簡単

夏のフェスにてシンデレラプロジェクトの【前座】として美嘉に出てもらえないかという話だ。

 

言うにことかいて前座だと…?

美嘉を?

 

随分と思い上がっているではないか雑種

 

あれは我が見出した…よいか

 

「我に聞くな。その返答は美嘉がする」

 

ブチッと切り言葉を遮る

 

「ギルガメッシュ、珍しいなこの様な場所で」

 

すると背後から声をかけられた

 

「言峰ではないか。様子を見るに買い出しか?」

 

「そんなところだ」

 

「…そうだ、言峰よ。 今宵は何処かに飯でも食いに行こうではないか。

今後の話もあるしな。 我が全額払おう」

 

「ほう、ならば荷物を置いてからだな。

まさかギルガメッシュが自ら本当に働き稼ぐとは露にも思わなかった」

二人の男は闇へと歩を進める

少なくとも平穏な闇だが…

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉side

 

 

 

「オッケー★ いいよいいよ出てあげるっ」

 

武内プロデューサーからの電話だった内容は夏フェスに出てもらえないか…ということ

アタシとしても仕事を貰えるのは嬉しいし何より莉嘉たちのことが気になるから都合がよかった。

 

「それじゃ、打ち合わせは近いうちにねー★

お疲れ様っ」

 

あの人がアタシ達と関わるようになってからだいぶ経つ

前よりは幾分かわかりやすくなったものだ…

 

考え事をしているとぐぅぅ…とお腹が鳴った…乙女として恥ずかしい

コンビニでも行って何か甘い物買ってこよ

 

 

帽子を深く被り、伊達眼鏡を掛ける

よし、変装完璧…かな?

 

歩いて数分、さほど遠くない所にあるコンビニ

この系列にあるプリンが絶品なのだ

今日は沢山レッスンして動いたし多少なら大丈夫と自分に言い聞かせ棚に残った唯一のプリンへと手を伸ばした

 

重なる二つの手

一つは勿論アタシの

もう一方は男の人だった

 

身長はアタシより少し大きいくらいかそこら

短髪で赤みがかった感じ

 

「あ、す、すみませんっ」

 

「あー…こちらこそ…。 アタシ他の買うからいいですよ?」

 

「い、いや俺が他の買うんで」

 

ここで押し問答をしても変わらない

ここは男の人を立てる為にも譲られておこうっ

 

「それじゃあ…ありがとうございますっ」

 

「先輩、これ美味しそうですよ? 買いませんか」

 

そんな彼の後ろからシアン色…珍しい色の髪と目をした少女が現れた

染めてたりするのかな?

 

「お、美味しそうだな。買っていこうか」

 

「はいっ」

 

微笑みながら歩く2人はどこか幸せそうで…

 

 

 

 

それでいて儚く壊れそうな2人だった

 

 

 

また何処かで…そう遠くない内に会えるような気がした

 

 




いやー、EXTELLA面白いですね
アルテラが一気に好きになりました


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番外 ある日のカルデア

今回はとてもショートな番外編です

残念ながら一切アイドル達が出てきません
英雄たちのある日の事です


それは騒音

それは爆音

 

それは突如としてカルデアに響き渡った

 

ある者は敵襲と考え音の正体へと駆け出し

またある者は素晴らしい歌声だと賛美して現場へ赴き

その他の者は気を失った

 

 

「みんなー! 今日はアタシのライブに集まってくれてありがとー!」

 

尻尾と角を生やしたドラゴン娘は自らの歌に酔いしれ狂喜乱舞した。

観客も大勢集まっている。

 

実際の所、殺気立ったクランの猛犬や自称良妻賢母

 

ハーレム王を目指す海賊 黒髭曰く

【あんな歌を聴くぐらいならBBAと添い寝の方がマシですぞwwwwww】

 

まぁ、かの暴虐皇帝は拍手喝采だったが…

 

 

「おい、いい加減にしろよエリザベート! おちおち寝てもいられねぇじゃねーか!」

 

「全くです、そんな騒音を巻き散らせば私は疎かご主人様の眠りも遮るというもの…」

 

「なによ、みんなアタシのライブ楽しんでるじゃない! ランサーもキャスターも度量が狭いわね!」

 

「そうだぞ、光の御子に狐よ。この様な素晴らしい歌声など余以外にはこやつだけだ! そうそう聴けるものではないのだから楽しむのが一番ではないか」

 

「そうよそうよ、セイバーの言う通り!

この、カルデアのアイドルエリザベートの歌が聴けるのだから喜びなさいよ!」

 

4人が啀み合う中、王は降臨した

 

「戯け! 貴様がアイドルだと?

雑種風情が図に乗るな!!!」

 

「き、金ピカ!? ななななにをそんなに怒ってるのかしら? アンタそういうキャラじゃないでしょう!?」

 

「知らんが何故かアイドル…という単語を聴くと虫唾が走ってな」

 

「まったく同感だね。まさか英雄王と同じ意見になることがあるとは思いもしなかったが」

 

英雄王の後を追うように入室してきたのは赤の外套を纏ったアーチャー

 

「ほう、贋作者と同じとはこの娘の歌は我らをこうして同じ意見にするほどのモノだということだな」

 

「いいか、エリザベート=バートリー。歌というものは誰かの為に歌うものだと私は思う。キミのは自己陶酔に他ならないのだよ」

 

「そうだぜ、嬢ちゃん。そこの弓兵と同じとは癪に合わねぇが歌っつーのは戦で死んでいった奴らに歌ったり女の心情を歌ったりだな…」

 

アーチャー2人にランサー1人の猛口撃を暗い徐々にへし折られていくエリザベートは…キレた

 

「そんなに言うなら本物のアイドルってヤツ見せてみなさいよ!!!!」

 

「…ふむ、よし全てこの英雄王に任せろ!!」

 

「「「はい?」」」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アーチャーside

 

「あ、あの英雄王!! な、なぜ私達が呼ばれたのでしょうか…」

 

「そうよ、それになんでよりによってコイツとなの? 私に対しての嫌がらせ?」

 

目の前に立つは2人の聖女…いや、正確には聖女と魔女

まさに表裏の人物だった。

 

「貴様らにはある事をしてもらおうと思ってな。こうして呼んだ迄よ」

 

そう、英雄王と私はエリザベートの為にある事を行うと決めたのだ。

 

「ある事…とは?」

 

「貴様らにカルデアアイドルの先駆けになってもらう」

 

衝撃的なデビューが決まったからか嬉しさのあまりに2人は口が開きっぱなしだ。

無理もない…アイドルとしてデビューが決まったようなものだからな。

 

「バッッッッカじゃないの!?」

 

「どうしたのだね、ジャンヌオルタ。

急に大きな声を出したら私も英雄王も驚く…実際、横でジャンヌ・ダルクが驚いてしまったじゃないか」

 

「アンタもよ! 言うことかいてアイドル? ちゃんちゃらおかしわよ!?

そもそもアーチャー、アンタそんなキャラだったの? 違うでしょ!?」

 

「ふむ、キャラではない…と言われてしまえばそこまでだが。

何故か私もアイドル…という単語に並々ならぬ情熱を感じてね。もしかしたら私は生前、歌に関する者だったのかも知れないな」

 

嘘だが

 

「歌に関する英霊がなんでアーチャーなのよ!? 弓兵の癖に剣士みたいなスタイルだし!」

 

「すみません、アーチャーに英雄王。

私も私と同意見です…」

 

「何故アイドルが嫌なのだ?」

 

「私みたいな卑屈な小娘には無理って事よ」

 

「私はアイドルというモノをよく知りませんから…中途半端にやってしまえば本物のアイドルの方に示しが付きません」

 

それぞれ考えることがあるということらしい。

オルタがジャンヌの答えに(え…そこなの?)というような視線をぶつけてたが

 

しかし、ジャンヌはともかくオルタは自らを卑下しすぎだな。

女性ながらオルタは中々魅力的な方だと思っている。それはこのカルデアに存在するサーヴァント皆そうだ。

男性もワイルドから伊達男まで揃っている

 

「ふん、アイドルを知らないのは仕方あるまい。 そのようなものが無い時代の英霊なのだからな」

 

「…英雄王、アナタもそうじゃなくて?」

 

「その辺は気にするなよ、邪ンヌ

まぁ、それは置いておいてだ。特別に講師を連れてきた」

 

「「特別…講師?」」

 

英雄王に招かれな特別講師は…

意外な人物だった

 

 

 

…続く

 

 

 



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幕間 ある日の346プロ

今回は話の中心から逸れているため超ショートです


英雄王side

 

 

「合宿に使えそうな場所…だと?」

 

「はい、この度シンデレラプロジェクトで合宿を行うことになったのですが…」

 

「よい場所が見つからない…と。 ほとほと呆れるな武内」

 

こやつは考える前に動くタイプだったか…?

仕方あるまい。我にはいい案がある

 

「少し待っておれ、恐らく奴ならば力になってくれよう」

 

電話をかけ呼び出す

上手い具合に仕事がなかったようだ

 

 

〜少しして〜

 

 

 

「失礼します…あの、ギルガメッシュさんに呼ばれたのですが」

 

「おぉ、来たか歌姫。 貴様らたしか何処かで合宿に行った…と言っておったな。

それに関して聞きたい事が…」

 

「ぎ、ギルガメッシュさん! そ、その方は…!?」

 

凄まじい形相でこちらに詰め寄る武内に若干ながら気圧された。

確かにコレは警察へと連れられるのも理解できるが…

 

「近いぞ武内! 以前、茜と共にアメリカに行った時、偶然同業者に出会ってな。

 

「申し遅れました、765プロに所属しています如月千早です。本日はよろしくお願いします」

 

「 」

 

む、武内が何故かフリーズしているな

 

「おっはよープロデューサー! お、ギルっちも居るんだ珍しー!! それに…えーと………き、如月千早だぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「武内は無言になるわ、だみおは五月蝿いわ。なんなんだ貴様ら!!!」

 

「だ、だって如月千早さんだよ!? あの、今をときめく765プロの!!」

 

「貴様、有名人だったのか?」

 

「いえ…あまりそういう自覚はないんですが」

 

どうやら歌姫は有名なアイドルらしい。

やはり我の巡り合わせは中々どうして凄まじいものだ。

 

「えっと、私はどうしたらいいでしょうか?」

 

「そうさな、とりあえずそこの武内に合宿で使った場所を教えてやれ。それとそうだな…この事務所でボイスレッスンでもして行くがいい。設備は整っているからな」

 

「いいんですか? では、そうさせてもらいます」

 

礼儀がなってるではないか。

頭を下げ歌姫は武内と共に応接室へ歩いて行く。

さて、我も仕事に戻るか

 

「だみお、渋谷凛にも声をかけておけ。あやつとレッスン出来るなぞ貴様らにとっては凄いことなのだろう?」

 

「本田未央だって! わ、わかった! しまむーにも声をかける!」

 

はぁ…落ち着きのない奴め…

茜もそうだが奴らは何故こう………

 

「だみおと茜を組ませるか」

 

我名案

あと誰かもう1人ぐらいを入れて新しいユニットだな。

 

「あぁ、ギルガメッシュくん。ちょっといいかい?」

 

「ほう、今西部長が我に用とは珍しいな。 よいぞ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉side

 

「えー…と?」

 

「はぁい、美嘉ちゃん。宮本フレデリカだよー」

 

うん、知ってる。こないだプロデューサーがどこからか首根っこ掴んで連れてきた子だ。

 

「しゅーこでーす」

 

知ってるって。

 

「にゃーはっはっはっ、一ノ瀬志希だよ!」

 

「「「誰?」」」

 

「えー…そういうノリなの?」

 

プロデューサーの招集で第2レッスン場に来ると何時ぞやプロデューサーと歩いていた周子、それにフレデリカちゃん。 加えて、初めて見る人が1人居た。

 

「あ、フレちゃんねギーちゃんからお手紙預かってるんだー」

 

「「ギーちゃん…」」

 

プロデューサーはホント色んな人に色々な呼ばれ方をしている。

アタシも呼んでみよ「ダメだ」

 

!?

 

あたりを見渡せどプロデューサーの影は見えない。なんだったんだ今のは…

 

「えーと、手紙にはね…貴様らでユニットを組め。 追伸、後日もう1人メンバーを紹介する。 だって」

 

「ユニットねー…私はいいよ?」

 

「むしろギルギルのお達しなんだから拒否権はなーい」

 

「そうだよねー…プロデューサーの命令だし大人しく従っとこうか★」

 

ユニットかぁ…初めてだな…誰かと一緒にアイドルをするなんて。

というか、プロデューサーなら「アイドルの頂点に立つのは一人。なれ合いなどいらん」とかいいそうなんだけど…珍しいこともあるもんだ。

 

「んで、何をするのかにゃーん」

 

「ユニット名とか?」

 

「名前はギルギルに任せよ? それよりしゅーこちゃんお腹空いた」

 

「あ、フレちゃんも」

 

どうやらこの4人で一番初めにやることになるのはランチのようだ。

 

「それならアタシいいカフェ知ってるよ★」

 

「お、流石はカリスマギャルだね」

 

「それじゃーれっつごー」

 

「志希ちゃんも行く行くー」

 



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王妃の帰還

英雄王side

 

「なるほど、今西が言っていた通り戻ってきたか」

 

ある日の夕方…サマーフェスティバルが終わりシンデレラプロジェクトにも多くの仕事が舞い込んできた頃だった。

奴が城へと戻ってきたのは。

 

「キミがまだこの事務所にいるとはな。意外だ、すぐに投げ出すと思っていたが」

 

「ふん、誰にモノを言っている美城。我は王だぞ? 王が城を捨て出ていくものか」

 

「勝手にキミの城にしないでほしいのだが…まぁいい、確かにキミの功績は大きい大したものだ。たった3年で10人以上のシンデレラを限りなくトップに近い位置まで導いた…しかし、今キミが肩入れしているあれはなんだ?」

 

美城のオフィスにての話し合い

ちひろや武内は心配をしていたがなんて事がない世間話程度だ。

 

「さぁな、我は知らん」

 

「…そうか、では明日の午後、全部門のプロデューサーを集め会議を行う。キミも出席するように」

 

「気が向いたらだ」

 

「遅れないように」

 

部屋を後にする。

何やら良からぬ予感がするが…まぁ、何とかなるであろう。

 

「プロデューサーさん」

 

背後から声をかけられた。この心地よい声は聞き間違いようがない

 

「文香か。 我を呼ぶとは珍しい…珍しさに免じて話を聞いてやろう」

 

「ありがとう…ございます。 その、私…」

 

「ダンスが苦手か」

 

髪の毛で隠れた瞳が驚愕に開かれる…そんなに驚くような事か? 貴様を見ていれば一目瞭然だが…荒療治をしてもいい。しかしそれで潰れてしまっては本末転倒だ。

 

「来るがいい文香」

 

「え、あのその…」

 

手を引き事務所内を歩いて行く。

時折…「ぷぷぷぷろでゅーさーがふみかちゃんのてを…」やら「あー、美嘉ちゃんでも握ったことなかったかー」とか「美嘉ちゃんここに散る…」など聞こえてきたが知らん。

 

「あの、何処へ…」

 

「あれを見ろ」

 

ダンスレッスン場、そこで踊っていたのはまだ小さいながらも必死に周子や大槻唯に食らいつこうとしている1人の少女。

 

「ありすちゃん…」

 

「あやつもダンスが苦手と言っていてな。自主的に練習をしていたのだが指導者がいなくては身に付くものも身に付かん」

 

ありすの曲質上、激しいダンスなどは一切ないのだが本人曰く、

 

「私の曲は激しく無かったとしても、他の皆さんと共に取り組むことになった時、私が子供だから…という理由で足を引っ張りたくありません」

 

らしい。全くもって我が前に言った【今の自分の魅力】の話を分かっているのだろうか

 

「貴様はどうする。諦めるのか? まさか、そんな訳はあるまい…やることは分かっているな?」

 

「…はい、ありがとうございます。プロデューサーさん…その、行ってきます」

 

あぁ、行ってこい! 背を押し笑い飛ばす。

今日の我は少し気が利きすぎだな!!

 

フハハハハっフハハハハハハハハハ!!

 

 

 

 

 

 

 

翌日の事だ、あの女が言っていた会議に参加せざるを得なかった。理由は至極簡単、ちひろに出ろと言われた。

 

「さて、皆集まったようだな。今回集まってもらったのは他でもない…」

 

シンデレラオーディションの時に書類の山をかき分けた雑種共と肩を並べ美城の言葉を聞く…やれやれ、この我が驚くようなことなど有り得ん。

 

「アイドル部門全てのプロジェクトを白紙に戻す」

 

「「フザケルな!!!!!!!」」

 

バァン!!!と二つの机が割れた

割ったのは我と…向井拓海だったかのプロデューサーだ。

 

「美城…貴様、言うに事欠いてプロジェクトを白紙にするだと?」

 

「おいおいおい、こっちは炎陣がやっと軌道に乗った所なんだよ!」

 

「はぁ…やはり君達が問題だな。これ以上、私に逆らうならばクビだ」

 

「王の我をクビにする? はっ、笑わせるな痴れ者が!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、シンデレラプロジェクトと共に結果を出さないとクビになると」

 

「あれは美城が 「ギルガメッシュくーん?」 …ちひろ、その、なんだ。我は悪くないぞ」

 

容赦なくクビを言い渡された

 

「なぁ…その、プロデューサーさんよ。悪い事は言わねぇからさ謝りに行こうぜ?」

 

「そうそう、あたし達デビュー前からなんでこんな崖っぷちなの?」

 

声をかけてきたのは我のために設えた最高級のクッション!のようなモフモフを持つ神谷奈緒と病弱北条加蓮だ。

 

「我が謝るだと!? そこに座れ説教してくれよう!!」

 

「説教されるのは……アンタよー!!!!」

 

「ぬぁ!?」

 

耳元で叫ばれた。誰だ、我にこのような仕打ちをするの……は……?

 

振り向けば般若の様な面をした美嘉が居た。

 

「そこに座りなさい」

 

「ふん、美嘉。貴様も偉くなったものだな! 我にすわ 「座れ」 …なんだ、我が悪いのか? んん?」

 

ちひろ以上の威圧感を放つ美嘉とちひろにこの我が説教をされた。

 

「なぁ、加蓮…本当に大丈夫なんだろうか…」

 

「どうだろう…」

 

 

 

 

 

説教も終わり日が落ちた頃

二人の影が一つの部屋で会話を交わしていた。

 

「ちっ、美城め…貴様の企みも我のクローネで叩き潰してくれるわ…!」

 

「まぁ、プロデューサーさん。落ち着いて? まだデビューもしてない私だけれど必ず力になる」

 

「ふん、貴様も美嘉に比べればまだまだだ」

 

「そりゃあ、現役カリスマJKの彼女と比べられたらね…? 大丈夫、クローネとLiPPSが何とかするわよ」

 

我の新たなプロジェクト

プロジェクトクローネ…それに美嘉を含めた5人のメンバーで構成される新クインテットLiPPS

 

「奏よ、貴様は思う様に自らを表現し魅せろ。それ以上は求めん」

 

「あら、求めてくれないの? 寂しいじゃない」

 

「ハッ、生娘がイキがるではない。あと8年は早いわ」

 

「あら、意外にスグなのね?」

 

最近、妙な胸騒ぎがする。

我の予感は当たるが…たまには当たってほしくないものだな。



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城の姫達と地下の灰被り

「シンデレラプロジェクト…プロジェクトクローネ…私的にはクローネこそ346プロに相応しい姫達だが…あの男の元だしな」

 

頭痛がする…確かにあの男はかなりのやり手だ。それに加え眼は確か。彼が取る仕事と彼が揃えたアイドルは間違いがない必ず大きく成長するだろう。

 

しかし、だ。どうにも彼が選ぶアイドルは落ち着きが足りない。

 

「それでボクの出番という訳かい? いやはや、アナタには逆らえない。ボクをアナタという籠に閉じ込めてどうするつもりなんだか」

 

「ふん、せいぜい私の足を引っ張らない事ね? 私は豚の調教で忙しくなるのだから」

 

「ふぇぇ…ぶたしゃんどうするんでしゅかぁ…」

 

…大丈夫なのだろうかこのメンバー

プロフィール、それぞれの能力を考え組んだつもりなのだが…蓋を開けてみれば凄まじい個性の持ち主だった。

最後の1名を除いては落ち着きはあるものの我が強過ぎた。

ただ、1人ぐらいはあのように愛らしい娘を入れておくのも間違いではない。

 

「ほら飛鳥、くるみぐずぐずしない!」

 

「時子しゃん、すみましぇん…」

 

「行こうかくるみ、時子さん。ボク達のネクストステージへと」

 

本当に大丈夫なのだろうか…

 

 

一人、部屋で頭を抱える美城の気持ちなぞ知らずに渦中の男は事務所で高笑いをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハハハ!!! ネクストニューカマーなぞ恐るるに足りん!!」

 

「いやー、中々侮れないかもよ?」

 

「そうだね〜アーニャちゃんと凛ちゃん…こっちからは奈緒ちゃんと加蓮ちゃんは引っ張られているわけだし?」

 

周子とフレなんちゃらの言う通り奈緒に加蓮め、我が拾ってやったというのにユニットを組むために向こうに着くとはな…

 

しかし、クローネとしての活動では奴らはこちらのモノ。

 

ならばここからはコイツらの基礎能力の向上を行い続け広報をするのみ!

 

「休憩は終わりだ、立て!!」

 

「ちょ、もう!?」

 

慌てる美嘉

 

「あら、もう限界なの美嘉?」

 

と、平然を装いながらも肩で息をしている限界の奏

 

「にゃははー…」

 

既に息絶える寸前の志希、周子、フレデリカ

 

「奏…アタシよりそこの干上がった志希どうにかしない?」

 

「今まで動いてなかったツケが…」

 

「貴様ら…ありすや文香、唯を見習え!!」

 

5人がくたばる中、離れたところでは3人が汗をかきながらもひたすらレッスンを続けている。トレーナーは長女…つまりキツい奴だ

 

「とはいっても、こっちもずっとギルガメッシュの地獄のレッスンだよ…?」

 

「美嘉、これは地獄は地獄でもまだ一丁目だ!」

 

「「「「「まだあるの!?」」」」」

 

む、5人の目から生気が抜けていくではないか…仕方あるまい

 

「次のオフにでもケーキぐらいは奢ってやろう」

 

「「「「ごくり…」」」」

 

「いや、ちょろすぎじゃない?」

 

周子だけは冷静な様だ…ちっ

 

「今舌打ちしたよね? ね?」

 

「気のせいだ。 して、シンデレラプロジェクトの方はどうなのだ?」

 

「さぁ? しゅーこちゃんは何でも知ってるわけじゃないよーん」

 

「武内に聞くとしよう、貴様らもマスタートレーナーの指示に従え。レッスン終わりも体に負担が掛からぬようしっかりとストレッチをして帰るように…解散!!」

 

解散を告げレッスン場から出て暫く歩く、無駄に広い敷地だ時間がかかる。

 

シンデレラプロジェクトのフロアへ着いた時に、楓が現れた。今日は確か…

そうだ、あの場所でのライブだったか。

 

「ライブは楽しかったか」

 

「はい。アナタと武内さんが一番初めに用意してくれた場所でのライブでしたから…」

 

「貴様と美嘉には負担をかけるなクローネとソロの掛け持ちは大変であろう?」

 

奈緒と加蓮が抜けた穴を埋めるメンバーとして楓と美嘉の参加。

ありすに文香、唯にLiPPSこれがクローネフルメンバーだ。

 

「ふふ、大丈夫です。瑞樹さんも愛梨ちゃんも…KBYDのみんなも頑張ってますから」

 

居場所を奪われない為の戦い…茜はそう言っていた。

こやつらにとって我が用意したあの場所は第2の家みたいなものらしい。よく分からんが失いたくないものの為に戦うと強いんです。とも言っていた

 

我は孤独の王故に分からぬことも多いと熟、実感した

 

 

 

 

---------------------------------------------------------

 

卯月side

 

凛ちゃんも未央ちゃんも、最近は一緒に仕事が出来ていない。

それどころか、事務所出会わない日も増えてきたぐらいだ。

 

「……よし、今日も島村卯月頑張りますっ」

 

「何をしてるんだ、貴様は」

 

「ひゃい!?」

 

恥ずかしいところを誰かに見られた!

と思うよりも先に追撃が来てしまう。

 

「渋谷凛と本田未央と仕事が出来なくて凹んでいたのか? ハッ、先が思いやられるな」

 

「そ、そんなことないですよ?

あ、おはようございます!」

 

「うむ、挨拶を忘れなかったことは褒めて遣わす。 早くルームに入れ、わざわざ地下まで来てくたびれているのだ」

 

そう言えば、なぜギルガメッシュさんがシンデレラプロジェクトのルームまで…?

戸を開けて中へと入ると今日は凛ちゃんが居た。

 

「凛ちゃん、おはようございます」

 

「あ、卯月おはよう。 それにギルガメッシュプロデューサー? 珍しいね、おはよう」

 

「貴様に話があって来てやったのだ。光栄に思え!」

 

「はいはい、それで何の話?」

 

凛ちゃんは見なかったうちにいつの間にか打ち解けていた。

また、少し遠くに感じてしまう。

 

「わ、わたしレッスン行ってきますね…」

 

逃げ出すように荷物だけ置いてルームから去る。

まただ。また逃げちゃった

未央ちゃんが来なくなった時もそうだプロデューサーに任せて私は何も出来なかった

 

私は凛ちゃんみたいに歌が上手くない

私は未央ちゃんみたいに人を惹きつける魅力もない

 

私は…私には何があるのだろう?

 

 

 

 

 

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美嘉side

 

「え? 今日は一緒に来てくれるの?」

 

「あぁ、手が空いたのでな。成長した貴様を見てやろう!」

 

久しぶりに2人で仕事だっ!

最近アイツ、クローネやら何やらでずっと仕事に着いて来ることはなかった。

ふふん、成長したカリスマJK見せてあげるんだからっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて、意気込んでいたけどあの…バカプロデューサー…

 

「どこ行ったの!?」

 

撮影が終わる夜には姿が見えなかった。

というか、撮影の途中から姿を消した

 

こんな夜道を女の子1人で歩かせるなんて…はぁ

 

「美嘉、終わったのか」

 

「なっ、このバカ! アタシを置いてどこ行ってたのよ!?」

 

「ば…貴様、我をバカと言ったか!?」

 

「言ったよ!」

 

こっちの気も知らないで…!

 

「この…! …貴様、泣いているのか?」

 

ギルガメッシュに指摘を受け頬に伝う涙に気がつく…

な、何で泣いてるんだろアタシ…

 

「ち、ちがっ! これはゴミが…」

 

何で言い訳してるんだろうか? 素直に言ってしまえばイイのに。

 

「寂しかった」

 

言葉が零れ落ちる。きっと、そうだったんだ前からずっと

コイツがアタシをスカウトしてアイドルになってスグの時は何だかんだ言いつつも傍に居た。けど、瑞樹さんや楓さんが入ってきてから徐々に一緒には居られなくなってきた…あぁ、バカはアタシだったんだな

 

「そうか、美嘉。寂しい思いをさせてしまったようだな」

 

暖かい手が頭に乗せられる。

 

「我が恋しいのも分かるが泣くではない。幼い顔が台無しだぞ」

 

「なっ、幼くないし!?」

 

「ふん、我の好みになりたくばあと8年は早いわ」

 

8年…8年後っていったらアタシは25…ギルガメッシュは…そもそも何歳?

 

「先程までどうしても会わねばならん知り合いと会ってきたのだ。さぁ、帰るぞ美嘉!

この埋め合わせは舞踏会が終わった後にしてやる!」

 

「ぜ、ぜったいだからね★」

 

まだ目がウルウルしてるけど…やっぱりギルガメッシュはアタシにとって大事な人なんだなって。

アタシがトップになるまで手を引いてくれる人だって

 



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番外 ある日のカルデア 2

ある日のカルデアは一応3か4で終わる予定です。
それと、この度ぐだ男を出すことになりました。
性格は出来るだけFGOに近くしたいと思いますが…



エミヤside

 

「呼んだか、英雄王よ」

 

ジャンヌ、ジャンヌオルタが驚くような人物が部屋へと入ってきた。

私も最初に聞いた時は愕然とした、まさか彼がこの話に乗るとは思いもしなかったからだ。

 

現れたのは肉体と一体化した黄金の鎧と胸元に埋め込まれた赤石が目を引く青年…

 

その名は施しの英雄カルナ

 

「「か、カルナ(さん)!?」」

 

「此度のアイドルに関してエキスパートと呼べるのは我、贋作者、そしてカルナだ」

 

「いやいやいや、わけわからないわよアンタ達!?」

 

「あの、カルナさん。私が言うのも何ですがアイドルについて知っているのですか?」

 

私も彼女達と同意見だった、あのカルナが知っているはずがないと

 

「以前ジナコにダンスや曲を覚えさせられてな。あれもきっとこの時の為に必要な知識だったのだろう」

 

ビシッとポーズを決めるカルナに唖然とするジャンヌ達を尻目にギルガメッシュは話を次々と進めていく

 

「人材には適正適所というものがあるからな、選曲やステージメイクは我、レッスンはカルナ、食事等の健康管理に日常のスケジュールは贋作者が受け持つ。今日は以上だ!」

 

「いや、ちょっと私はまだするとは」

 

「手始めにストレッチから始めよう。二人共動きやすい格好になれ」

 

「分かりましたっ!」

 

「アンタなんで乗り気なの!?」

 

ギャーギャーと騒ぐオルタとは裏腹にジャンヌはオルタを引き摺り更衣室へと向かった。

 

「贋作者よ、我はステージと他のアイドル候補をスカウトしてくる。 貴様は食堂を占拠してこい!」

 

「了解した、速やかに食堂の占拠を行おう」

 

英雄王の指示を受け私は廊下を疾駆する。実に清々しい気分だ、何故こうもアイドルを育てるという行動がしっくり来るかはあまり覚えていない。だが、生前誰かと交わした約束が私をこうして動かすのだろう。

 

食堂の扉を開け放ち中へと侵入する

台所は私のポジションだ!

 

「おや、アーチャーではないですか」

 

「ほう、アーチャーか。私にピッタリの食を持ってきたのか? それとも作るのか?」

 

「貴女達、彼は私の為に食を作ってくれるのです。くれぐれも勘違いせぬように…」

 

「アーチャー、ジャンクなモノを頼みますよ」

 

「セイバーは殲滅すべし…ランサーは…ええい、アルトリアは殲滅すべし! アーチャー、腹が減ってはなんとやらです! 私にも補給を!」

 

これを地獄と言わず何を地獄と言うのか

アルトリアとアルトリアとアルトリアとアルトリアとアルトリアがいるではないか。

 

 

よりによって

 

 

食堂に!

 

「…なんでさ」

 

まず、ここを占拠するにはこの大食感5人を撃破せねばならないとは…

 

 

 

 

 

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ぐだ男side

 

「ジャンヌ・ダルク・オルタ、腕の振りが遅い。ジャンヌ・ダルクに置いてかれているぞ」

 

「あぁ、もう! 分かったわよ!!」

 

カルナのレッスンが始まってから早数刻…

2人にとっては想像以上にキツイものだった。

戦いとは違う繊細な動きからのとたんに爆発的な動きになったり、それだけ動きながらも音程を崩さず歌う…

 

それを真顔でカルナがやってることが外野からしてみたら爆笑ものなのだが…

 

「アイツ…どうなってるのかしら……」

 

「流石は…カルナさん…ですね…」

 

汗をダラダラと流し床に尻餅をついた2人を嘲笑う様にカルナは口を開く

 

「どうした、その程度か」

 

もっとも本人はそんなつもりは全くないのだが。

 

 

 

3人がダンスを行っている最中の事だ。館内放送で一部サーヴァントが英雄王に招集された。

 

もちろんマスターである自分もだ。

 

「あのー…ギルガメッシュ…? なんでこんなメンツ集めちゃったの…?」

 

「我が認めた一流達だ。こやつら以外に我の計画を進められる者がいない。 さて諸君! 手元の資料を見てもらおう!!」

 

いつの間に英雄王は書類何か作れるようになったのだろうか…しかも十数頁に及び両面びっしりに何かが書かれている…

 

「まずは楽曲、これに関しては貴様以外に居るまいモーツァルト」

 

「まさか、英雄王から作曲を承るとはね。いいだろう、キミのオーダー…姫達の曲、描いて見せようじゃないか!」

 

「あぁ、音楽に事関しては貴様以上に信用たる者は居ない。頼むぞ」

 

英雄王が人に! 物を! 頼んだ!?

 

「次にステージ、これは多大な労力を使う事になろう。イメージは出来ているものの我は建設なぞせんからな…よってこれも適任者に任せるとしよう」

 

これまたすごい人が座っている…

 

「太陽王! いやさ、此度はこの名で呼ばせてもらおう、建築王! このステージを作るには貴様が力が必要だ!」

 

「フハハハハ!! 貴様の招集、何事かと思えば余に舞台を作れと!? よい、よいぞ!! 実に気に入った。最近はそのような事をしていなかったからな。 して、作るイメージとやらはなんだ?」

 

オジマンディアスさんも乗り気だー!?

 

「先程、モーツァルトが言った様に此度は聖女と魔女が主役…だけでは終わらん! 折角だ、カルデアにいる全女サーヴァントが姫となり我らが王となるパーティを開こうと思う」

 

「つまり、城を築け…という事だな?」

 

「満点の答えだ建築王」

 

ステージじゃなかったの!?

 

待って、ツッコミが追いつかない…

 

「はー、なるほど。つまり俺たちゃ力仕事やらそういう事だな?」

 

「そうだ、そこに居るバーサーカー共を上手く指揮するのだぞ。ランサー共」

 

後ろに控えるヘラクレスやヴラド

クーフーリン達までもが案外やる気だ

 

「電気バカ2人にも当日働いてもらおう」

 

「「誰がコイツと働くか!」」

 

「魔術師の小娘に恩義を感じないならばそれで良い」

 

「「うぐっ!?」」

 

ニコラテスラとエジソンもやはりエレナには恩義を感じてるらしい。

 

「アーチャーにアサシン共、貴様らには城を築く場所へ建築王とそれに征服王共に赴き、一掃しろ」

 

「「「御意」」」

 

「あいわかった! 速やかに征服してみせようぞ!」

 

「円卓の馬鹿共、貴様らはセイバーに何かを聞かれたら真面目に答えてしまうからな。貴様らは建築現場から当日まで戻るな」

 

「反論が出来ませんね…」

 

「悲しきことです…」

 

「海賊、お前は科学者と共に当日の為に手紙を書け」

 

意外にも黒髭とジキルにも役目があった。

 

「出来るだけパーティと悟られるモノは避けよ。そうさな……このカルデアを襲う…とでも書いておけば従者先導の元、皆ついてくるであろう」

 

凄まじい計画性だった。何故こんなことになったかは知らないけど…特異点を修復する為に手伝ってもらっているみんなには感謝しきれないし。ギルガメッシュが開くパーティーでみんなリフレッシュ出来るならば自分も全力を尽くそう

 

「従者よ、貴様にもあるぞ」

 

「何でもやる!」

 

「この事を知ってしまった女サーヴァントが居たら令呪を以て捕縛せよ」

 

「手荒な!?」

 

「これより、男サーヴァント共によるグランドオーダー【英雄達の舞踏会】を開始する!! 各陣営、抜かるでないぞ!!!」

 

「「「「「オオオオオオォォォォ!!!!!!!」」」」」

 

自分達の雄叫びがカルデアの女性陣を驚かせたのは後に知ったことだった



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不安と不調

いよいよ見えてきましたシンデレラの舞踏会
さてこの後、アイドル達はどうなるか…


美穂side

 

最近、卯月ちゃんの様子がおかしい…

なんだか無理して笑っているような、どこか上の空のような…体調でも悪いんだろうか…

 

「せっかくのお仕事…すみません!」

 

「ううん、大丈夫だよ? 次一緒に頑張ろ?」

 

「…はい」

 

まただ、また顔に影が落ち始める…お仕事上手くいっていないのかな…

 

「…島村さん、少し休みましょう」

 

「プロデューサーさん、わ、私頑張れますから! 頑張れますっ!」

 

鬼気迫るような言い方だった。

 

「美穂、帰るぞ」

 

「あ、ギルガメッシュさん…だ、大丈夫でしょうか…」

 

「我が知ったことか。シンデレラプロジェクトの問題であろう」

 

そ、その通りなんですけど…

 

ギルガメッシュさんも時折、余裕が無いような…そんな気がする。

事務所から現場が近かったからか歩いて移動するようだった。

 

「クローネの様子はどうなんですか?」

 

「うむ、メンバー各々最終調整というところだな。不安は残るが奴らならば大丈夫だろう…シンデレラプロジェクトが足を引っ張らなければ…な!」

 

「美嘉ちゃんと楓さんと凄いですよね…ソロもやってクローネもなんて…私も頑張らなきゃな」

 

あの2人と瑞樹さんはプロデューサーと付き合いが古い3人なのは前から知っている。私は少しあとだったけど

そんな2人をクローネに入れて、瑞樹さんは私達ファーストプロジェクトのメンバーを上手くまとめてくれている。

 

それほどギルガメッシュさんにとって今回の事は本気なんだ…

 

「どうした、美穂。ニヤついて」

 

「えへへ、嬉しいんですっ。新しい仲間と一緒に…成長した自分をファンのみんなに見せれることが」

 

「……ふっ、それが島村卯月に足りない所だな」

 

ん? なんだろう、今すごく引っかかること言ったような…

 

「仕方あるまい…奴らに足を引っ張られては我の苦労も水の泡というもの…あくまでも助けるのは武内だが、我も手を貸すぐらいはしてみるか」

 

「ほ、本当ですか? 卯月ちゃんをよろしくお願いしますっ!」

 

「あくまでも助言をするだけだ! 奴がその後どうするかまでは見切れん! まゆ、まゆは居るか!」

 

何故か、道のど真ん中でまゆちゃんを呼び始めた…

 

「はぁい、あなたのまゆですよー」

 

居た!?

え、何処に!?

 

「島村卯月が通っていた養成所の場所を調べろ」

 

「わかりましたっ」

 

「後で褒美をやろう。期待しておれ」

 

まゆちゃん何者なのだろうか…

 

 

 

 

 

------------------------------------------

 

美嘉side

 

最近、どこのプロジェクトも躍起になって仕事をしている。

それもこれも美城常務にプロジェクトを白紙にされないため。

 

そんな中、アタシはいくつか持ってきた衣装案をギルガメッシュに見せてるんだけど…

 

「ギルガメッシュ、こんな衣装どうかな?」

 

「露出が多い。却下」

 

「これは?」

 

「地味。却下」

 

「…こっちは」

 

「似合わん。却下」

 

「もー! どれもダメじゃん!?」

 

全てダメ出しされた。

 

「当たり前であろう! 露出が高いのやら貴様に合わん色やらばかり持ってきおって!

よいか、貴様らアイドルは客に見られるのでは無い。客に魅せるのだ! 」

 

「じゃあ、ギルガメッシュも意見出してよ。えらーいえらーい王様ならアタシにピッタリの衣装案あるんだよね★」

 

少し煽ってみた。

するとだ、ギルガメッシュは何処からか…いや本当に何も無い所から紙を取り出した。

 

「これだな」

 

ギルガメッシュが出してきた原案図はパープルを基調としたドレス風の衣装だった。

薔薇をあしらい普段の衣装より大人っぽく纏まってる。

 

だけど…

 

「これアタシが出したヤツより肩とか…む、胸とか出てない?!」

 

「気の所為だ」

 

「は、ははぁん? 実はそんな事言いながら胸とか見たかったわけだね★」

 

「興味ないが」

 

ぐはっ!?

 

そ、そこまではっきり言われると傷つくというか…相変わらず乙女心が分からないプロデューサーだ。

 

「貴様らクローネにとっての初舞台だ。我にとっても楽しみだからな」

 

「あはは★ ギルガメッシュが楽しみって言うのなんか珍しいじゃん」

 

「プロデューサーさん。 あ、美嘉さんお疲れ様ですっ」

 

「お疲れ様、ありすちゃんっ」

 

「橘ですっ!」

 

「何用だ、ありす」

 

「えっとですね…」

 

プロデューサーはありす呼び良くてアタシはダメなの…

 

ありすちゃんもアタシと同じで衣装案の話だった。

どうも今回は皆ドレスで固めるらしい…

 

「ねぇ、ギルガメッシュ。みんなドレスなの?」

 

「あぁ、シンデレラプロジェクトと行うライブもあるがその後が本番だ」

 

「その後ですか…?」

 

「うむ、その後に行うライブ…これは武内が付けた命題なのだが【シンデレラの舞踏会】というらしい」

 

「舞踏会…か。確かにそれはみんなドレスで着飾らないとね★」

 

「それじゃあ、王子様はプロデューサーですね」

 

ありすちゃん凄いグイグイ攻めるね…

 

「戯け、誰が王子か!! 我は王であるぞ!」

 

「「えぇ…」」

 

この後、加蓮に奈緒も似たようなやり取りをやったそうで…

プロデューサー人気過ぎ!

 

 

 

------------------------------------------

 

英雄王side

 

まゆに調べてもらった住所

王の我、自らが足を運び来てやった

あの爆弾を処理しなければクローネの足を引っ張られてしまうからな。

 

「島村卯月はいるか!!」

 

「ひゃい!?」

 

鏡に映る自分を見つめた阿呆が一匹居た。

 

酷い有様だった

何も服や髪が乱れてる訳では無い

表情だ

 

「くっ…くははははっ!? どうした、その顔! その表情!! まるで武内ではないか!!」

 

感情のない顔

 

奴にとって有るべきものがない顔

 

「わ、わた…私は…」

 

「その様な顔を続けるならばアイドルを辞めろ。貴様に資格はない」

 

「そんな…」

 

「我はこうなる事を見越して貴様をオーディションで落とした。」

 

だが…

 

「だがな、勘違いはするな。才能がないとは言ってない。むしろ貴様はアイドルになる為にこの世に生を持ってきた数少ない人間だ」

 

ここで少し、島村卯月の顔が破顔した

大粒の涙を流し嗚咽混じりに言葉を紡ぐ。我慢をしてきたことを吐き出すように

 

 

「私…には、笑顔しか…出来ないです。笑顔なんて…笑顔なんて誰にでもできます!!」

 

 

 

「凛ちゃんみたいに歌が上手くありません! 未央ちゃんみたく何でも挑戦できません! 2人に追いつかなきゃって…頑張らなきゃって思って…それでもダメで…!」

 

 

 

「みくちゃんにも李衣菜ちゃんにも…他のみんなも色んな凄いところがあるのに私には何にもなくて…っ」

 

 

「貴様には笑顔しかないか…」

 

俯き泣きじゃくる小娘

 

この時代の人間は弱すぎる

 

「島村卯月、貴様の笑顔は渋谷凛も本田未央も…346プロにいるどのアイドルも持っていない最大の武器なのだ」

 

「最大の…武器?」

 

「貴様はどんな困難があっても笑顔を絶やさなかった。それによって救われた人間は数多くいる…その笑顔は人を勇気づける笑顔だ」

 

そうだろう? とあらかじめ連れてきたあやつを呼びつける。

暗いレッスンルームにやって来たのは他でも無い我の最初のアイドル

 

「卯月の笑顔のお陰でアタシ頑張れたんだよ」

 

「美嘉…ちゃん…?」

 

「ほら、卯月達をバックダンサーに選んだ時さ…

最初はアタシ、プロデューサーを見返してやろうと張り切ってたんだけど本格的に人に教えるのは初めてだったし、もし失敗して3人が嫌な思いをしたらどうしよう…って悩んでた時もあったんだ」

 

「そんなこと…」

 

「でもね、卯月がどんなに辛くても笑顔を絶やさないで頑張ってくれたから…アタシも自信を持って出来たんだよ★」

 

「確かに、笑顔は誰にでもできる。

だが、我が笑っても誰かが笑う訳では無い。 しかし、貴様の笑顔は人を笑顔にする! それを、心に刻み付けよ!!

そして今一度全てを考え直せっ。帰るぞ美嘉」

 

言いたい事は全て言ったのでもうここに用事はない。

さっさと部屋を出た。

 

そうだった、通話を切らねばな

 

「あれで良かったのギルガメッシュ…?

って、誰と電話?」

 

「渋谷凛と本田未央だ」

 

「も、もしかして…今の会話全部?」

 

「電話越しに聞かせていた。あとは奴らと武内が島村卯月を再起させるだろうよ。我らはクリスマスの後に控えるライブに向けて邁進するのみ!」

 

「本当…不安を全部取り除いてくれるよね…」

 

 

 



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クローネの舞台

FGOやったり高森奈津美さんと三宅麻理恵さんのイベント出たりと忙しくなかなか進みませんでした( ˇωˇ )


英雄王side

 

「さぁ、当日だ!! 貴様ら各員、舐めてかかるなよ!!」

 

「あったりまえじゃんっ アタシ達がしっかりと魅せてアゲル★」

 

美嘉と楓を除くとクローネの面々は殆どが初ステージだ。 我が教えてやったのだから失敗何ぞありえんのだが…

 

「文香、顔が強ばっているぞ」

 

「は……はい…」

 

「奏、余裕の無い顔をしてるな。その程度か」

 

「そんなことないわ」

 

クローネのリーダーである奏

美嘉をリーダーにすれば簡単に事は進んだだろうが…それでは次世代へと繋がらんからこそ奏を抜擢した

 

 

「加蓮、奈緒。 貴様らはトライアドプリムスとこちらの掛け持ちだが気負うなよ」

 

「わ、わわかってるよ!」

 

「も、もう奈緒。緊張し、しすぎだって」

 

ダメだなこれは

 

「おい、凛!」

 

「はいはい、ほら奈緒、加蓮深呼吸深呼吸…」

 

美城め…これで十全なのかトライアドプリムスは!!

我からしたらまだ足りんぞ!

 

既に開演の時刻は間近

ネクストニューカマーはトップバッターとして舞台袖にスタンバイしている。

 

「ふん、無様な豚はそこから指を咥えて見ていなさい」

 

財前時子…王たる我を下に見よって…

まぁ、よいヤツを噛み殺すのは我ではない…我が財である美嘉が直々に殺す!!

 

「吠えていろ雑種風情が!」

 

「時子さん、今はボクらの始まりの地へと行こうじゃないか。心配はあるが…いつも以上にボクを演じればいい」

 

二宮飛鳥…謎が多い小娘だ。

内に秘めている魅力と才能は未知数…

是非とも我が直々にプロデュースしてやろうでらはないか。機会が巡ればな

 

「う、上手く出来るか分からないですけど…頑張りましゅ!」

 

大沼くるみ…些か…いやかなり頼りないが…アレはステージで化けるタイプだ

 

 

ちっ、人を選ぶ目は確かなようだ美城め…

 

 

ネクスト(以下略)がステージに立てば観客はまさに豚のように時子へ鳴き、かと思えば女性からは黄色い歓声が飛鳥へと飛び、男と女両方からはくるみを応援するような大歓声が出来上がった。

 

そんな状況下だ、震えるのも無理はない

 

「文香さん…大丈夫ですか?」

 

「は、はい…なんとか…」

 

ありすと文香、ヤツらが終わればこの二人の出番

 

「文香!」

 

「…はいっ!!」

 

「よし、返事は良いな。 案ずるな恐れることは無い! ここに集まる人間は貴様の物語の端役よっ

貴様の物語の始まり、隣に立つは新たな友! 歩め、描け!! 最高のエンディングに辿り着くように!! 分かったか!」

 

「…分かりましたっ!」

 

影は晴れ、文香の真に美しい顔が見える。この顔だ、この顔に我は美を観た!

やはり目に狂いはなかった、流石は我

 

「ありす、文香を支えよ。年など関係ない! 肩を貸せ!」

 

「はいっ!!」

 

幼いながらもしっかりとしたその意志はクローネの誰より堅いだろう。任せたぞありすっ!

 

「貴様らもだ、周子、フレデリカ、志希。それに唯!

怯えるな貴様らの後ろには我がいる」

 

「なんとも頼もしいことだねー?」

 

「じゃ、フレちゃんの背中は任せたよー」

 

「にゃははっ、心配ご無用ー!」

 

「はいはーい、飴ちゃんでも舐めて待っててねっ」

 

この4人に関しては緊張なぞ無縁のものだったか。なんとも図太い連中よ

 

美嘉と楓、目配せで頷く。

 

 

「よし、プロジェクトクローネ!!

観客共を魅殺せ!! 落とし切れねば我が貴様らの首を落とす!!」

 

「「「「急に殺伐としたね!?」」」」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうだい、クローネとシンデレラ達は?」

 

今西部長はゆっくりと常務に歩み寄る。

 

「最初からあれぐらいはこなせると思っています。ハッパをかけただけですから」

 

「それなら、彼のクビを心配する必要はないね?」

 

次のライブで結果を残せなければ彼をクビにする。そういう条件でシンデレラ、クローネの白紙化をこの時期まで引き伸ばせたのは良かった…武内くんもちひろくんもギルガメッシュくんもここまで頑張ったのだ、それは彼女も認めていよう

 

「…は? 彼をクビにする? 誰が言ったんですか」

 

虚をつかれた様に目が点になる。

んん、彼からはそう聞いたのだけれど…

 

「彼は確かに面倒で横暴で手のつけられないぐらい問題児ですが…その腕は確かですのでそこまでするつもりは…」

 

「ふむ、ではこの話は一体誰から…」

 

この話が出て来たのだろうか?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ちひろ、ちひろは居るか!」

 

騒がしいステージ裏

アイドルとスタッフが行き来する中、あの緑の女帝を探す。

 

えぇい、何処に居る…あの守銭奴!!

 

「誰が守銭奴ですか?」

 

「我、何も言っていない」

 

「それで何のようです?」

 

「うむ、奴らも頑張っているからな。奴らの好きなものを買ってやろうと思うのだが…あいつらは何が好きなのだ?」

 

「……はぁ…あなた何年目ですか…」




恐らくあと4話ほど…ある日のカルデアを含めて6話ほどで本編は終わりに向かいます。

しかし、日野茜や姫川友紀との出会いなどそれぞれのアイドルにスポットを当てた外伝も書くので暫く続きます


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番外 ある日のカルデア 3

ある日のカルデアも次回がラストです
読んでいただければ分かると思いますが…このギルガメッシュも実は…?


ぐだ男side

 

「ワンツースリーフォー」

 

カルデアにある、隠された部屋

そこには無機質なカルナの声が響き、そのリズムに合わせ笑顔で踊る聖女と魔女

 

「ストップ。ジャンヌ・ダルク、テンポが少しずつズレていく。ダンスと歌の一節置きに呼吸を忘れるな」

 

「は、はい!」

 

「ジャンヌ・オルタ、疲労か? 後半に連れて指先がダレてきている」

 

「気をつけます」

 

彼女らは最初の頃とは違う。汗はかけど呼吸は上がらず数曲通して踊れるようになっていた。2人の中では尊敬と畏怖を込めてカルナを鬼のカルナなど呼んでいたけど

 

「それでは通しでもう一度行ない今日は終了にしよう」

 

「「はい!」」

 

曲が始まる

聴いたことがない曲だ。ギルガメッシュ王の要望から出来た曲って聴いてたんだけど…

 

「アマデウス、これ何ていう曲?」

 

「んー、これかい? ボクにも分からないね。でも王様の要望通り…いやそれ以上に描いたつもりさ!」

 

「うん、確かにいい曲だ」

 

まるで2人がお姫様になったような感じに見えた。アマデウスはまだ舞踏会用の曲も描かなければならないと言い部屋を後にした。

 

 

そう言えば、ギルガメッシュ王に頼まれていたことがある。

王、曰く

 

『貴様にしか出来ん仕事だ』

 

らしい。サーヴァントの様な力も無ければなにか特別秀でた特技もない自分が役に立てることがあると聞けて嬉しかった

 

えーと…渡されたメモは…

 

「ジャンヌ、オルタ。レッスンが終ったら採寸するから隣の部屋に来て!」

 

メモを読み上げた瞬間、踊っていた2人がズッコケた。

 

 

あれ、なにか凄まじいことを言ってしまった気がする。

 

 

「今日のレッスンはこれまでにしよう。マスター、2人を頼む」

 

「ま、待ってカルナさん!? 置いてかないで!」

 

我関せずと部屋から出ていくカルナに縋るように叫ぶが時すでに遅し…

ガシッっと両腕が白と黒に掴まれる

ギギギと軋む首を捻り左右を見、腹を決めた

 

「ま、マスターなら…主も許してくれるでしょう」

 

「そうですね、マスター。早く済ませましょう」

 

「令呪を持って命ずる! オルタ、ジャンヌの採寸をしろ!!」

 

「「令呪の使い方雑ですね!?」」

 

逃走から数分後半泣きのジャンヌからメモを渡された。数字を見て推測するに同じ人物な筈なのにジャンヌの方が…こう…一部…ほんの少し大きかった所為で色々やられたんだろう…

 

「お疲れ様…」

 

「はい…」

 

とぼとぼと自室に向かうジャンヌを見送りこのデータをある2人に持っていく。

採寸をしたのも勿論衣装を作る為だった。

 

カルデア内に居ては誰かに見つかってしまう可能性が高いので…もちろんこの人もこちら側の人間だ

 

「必要なものは揃ったかな? レイシフトの準備は万全さ! 男性スタッフ一同頑張っているからね」

 

「ありがとう、ドクター!」

 

場所は城の建設予定地…の近くにある仮宿舎

 

「必要な物は持ってきたかねマスター」

 

「はい、これっ」

 

宿舎2階に拠点を構えた彼の串刺し公

彼がドレスを仕立てあげるのだ。

 

「うむ、では余も全身全霊で紡ぐとしよう!」

 

「それと…俺にも作り方教えてくれないかなヴラドさん」

 

「ほう、どなたかに贈り物か?」

 

「その…何時も守ってもらってるからさ。贈り物がしたくて…ギルガメッシュ王から見本のドレスも貰ってきてるんだ」

 

紫が似合う彼女に贈るドレス

ギルガメッシュ王に相談したら王の財宝からパープルを基調にして薔薇をあしらった大人っぽいドレスが出てきた。

 

『む…? 何故、我の宝蔵からこのような女物のドレスが出てきた? よい、我には必要の無いものだ持っていけ!』

 

とか言っていたけど…

 

「ふむ、然らば赤きアーチャーも交えた後に製作を開始するとしよう。マスターは建築予定地の方を見回ってくるといい」

 

「ありがとう、そうするっ」

 

宿舎を後にするとスグにわかりやすい声が聞こえてきた。あれはクーフーリンのものだ。

 

「またドラゴンが出やがったぞ!? アサシン共は何してやがる」

 

「いっそのこと、森ごとルーンで焼いちまうか?」

 

「愚図が、圧倒的な力で引き千切ればいいだろ」

 

「おいおい、年老いたらオレはこのうちのどれかになるってのか? 勘弁してくれよ」

 

クーフーリンのもの…というかクーフーリン達の声だった

 

「そこの槍バカ共!! さっさとドラゴンを撃滅してこい! マーリン、貴様もサボってないでさっさと石を積み上げろ! よいな、納期は1日たりとも遅れてはならん」

 

「いやいや、太陽王。そんな事言われても積み上げる石がないからね。小休止ってやつだよ…というか何故、マーリンさんはここに引きずり出されたんだい」

 

「戯け、英雄王も余と同じ事を言うだろうが敢えて言おう…!!

働かざるもの食うべからず!!!!!」

 

「はっはっはっ、これは夢かな? まさか働かされるなんてね!!」

 

あ、マーリン逃げようとしてる…

 

「石…持って…きたよ!」

 

「■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

あ、アステリオスとヘラクレスに捕まった

 

「労働基準法違反だ! というか、あそこにもう1人の働かない最弱の最悪サーヴァントがいるぞ!?」

 

「1章から5章までまともな働きをしなかったのだ。ピックアップなどという期間限定なのだから今だけは身を粉にして死ぬがよい!」

 

「いやー、悪いね! オレってば最弱英霊だから重いものとか持てなくて!! ま、アヴェンジャーの後輩が何とかしてくれるさ」

 

全身に刺青が入った青年が屋根の上でゲラゲラ笑っていた。あんなサーヴァント…ウチに居たか?

 

「オジマンディアス王!」

 

「来たか、見ての通り工事は着々と進んでいる。これも余の手腕とバーサーカー共の剛腕、石を剣でスパスパと斬るセイバー…それとバベッジが用いた機械とやらの力だ」

 

「それじゃあ、この分だと…」

 

「うむ、余裕で間に合う!」

 

流石は建築王!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

英雄王side

 

「舞踏会…か」

 

どうにも懐かしい響きがする

かつて、どこかで似たような催しでもしたか…? あのドレスもそうだ、我にとてもかかわり合いが深かった女の物か?

 

ならば、何故覚えていない?

 

「ちっ! 奥歯に何か挟まったかのような気持ち悪さだ」

 

「英雄王、こちらでしたか」

 

カルデアの厨房

一昨日夜から何も食べていなかった為、贋作者に何か作らせようと立ち寄ったのだがあやつは今、ドレスを作っているのだったか。

そんな時だ、思いもよらない珍客が来た

 

「珍しいではないか、セイバー。貴様が我に話しかけてくるなんてな」

 

「気の迷いですよ。 貴方にしてはらしくない顔をしてましたから」

 

かつて我に刃を向けた敵に心配されるなぞ我もわかりやすくなったものだ

 

 

………刃を向けた敵…だと?

 

「セイバー、我は貴様と手合わせしたことがあるか?」

 

「? 何を言っているのですか、聖杯から得た知識…私自身の記憶ではないですが我々は幾度か死闘を繰り広げたではないですか。聖杯戦争でも月でも」

 

何たる事か、我からはその記憶が丸ごと抜け落ちているとでも?

 

いや、しかし…

 

「おや、顔の迷いが消えましたね。良い事です。さて、ご飯にしましょう! たまには共に夕餉を囲うのも悪くないはずです」

 

「ふむ、そうだな。腹が減ってはなんとやらだ!」

 



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シンデレラの舞踏会

今回、ほとんど話がアイドル紹介です(目をそらし


英雄王side

 

舞踏会前日

仕事も終わり暇になったのでとりあえずファーストプロジェクトとクローネを招集した。

 

「さて、貴様らに集まってもらったのは他でもない。明日のライブについてだ。明日のシンデレラの舞踏会は貴様らにとって集大成…そしてようやく、一人前としてのスタート地点でもある…つまりだ」

 

「その話まだ続く?」

 

えぇい、誰だチャチャを入れた奴は!

我からのありがたい言葉を黙って聞けないのか!!

 

「アタシ達、眠いんだけれど…」

 

寝ぼけ眼を擦る美嘉に

 

「夜はよーる眠らないと」

 

くだらない洒落を口にする楓

 

「楓さん、面白くない」

 

容赦ない周子

 

「夜更しは肌の敵よ?」

 

アンチエイジング瑞樹…etc

 

「黙って聞け、大馬鹿共!!」

 

「今何時だと思ってるの、9時だよ?!

そんな時間に急に呼び出すアンタが馬鹿でしょ、バカ!!」

 

「バカとはなんだ美嘉!! 貴様には説教が必要だ!」

 

「はいはい、痴話喧嘩はそれぐらいにして…用事って何かしら?」

 

「ち、痴話喧嘩って…そ、それじゃアタシとギルガメッシュがその…フフフッ」

 

む、イカンな。美嘉に釣られて目的を見失うところだった。

 

「話を聞く女はいい女になるぞ奏。 そんな貴様にはコレをくれてやろう」

 

予め用意しておいたブツを奏に投げ渡す。

小さく筒状のものだ。

 

「あら…これは口紅…? って、これかなりブランドものよね?」

 

「む、そうなのか? 貴様に似合いそうで高いやつを買ったのだ。大切にしろ」

 

「え、えぇ…」

 

急に顔を赤くしたと思えば落ち着きを見せる…何だこの女は?

 

「友紀、お前はこれだ。たしか好きだったな」

 

「ね、ねこっぴーだー!?」

 

よくわからん生物だが、友紀が笑顔になるならばそれでよい

 

「わざわざ生け捕りにしてきたのだ」

 

「ありがとう、プロデューサー! 大事にするよ!」

 

「ということでだ、貴様ら全員にプレゼントを配る。喜べそして泣け!!」

 

先程までわーわーぎゃーぎゃーと喚いていた者共が目の色を変え待機している。まだかまだかと

 

「美嘉、貴様にはこのネックレスをやろう!」

 

「わーいって、これアンタが何時もしてたやつでしょ!?」

 

「よかったな、これで何時でも大好きな我と一緒ではないか!」

 

「な、なななな!?」

 

「しかし、我は王、故に一人の女で収まる者では無い!」

 

「「「最低だ!?」」」

 

明日は舞踏会当日

決戦の日だ

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ちひろside

 

舞踏会当日

アイドル達はもちろん、私やスタッフ共々会場裏を駆け回り準備に追われている。武内プロデューサーもだ。

 

ただ1人例外が居たが

 

「ギルガメッシュくーん、ちゃんと準備してくださいね?」

 

「む、そうだな…我も成すべきことをするか」

 

嫌に素直だった…何か企んでますね? もう、驚きませんから

 

「開演三十分前です! 皆さん、準備出来てますか!!」

 

「「「「「「はいっ!!!」」」」」」

 

アイドル一同気合いは十分!

私は泣かないように見守らなきゃ…と、思った矢先にギルガメッシュくんが消えた。

 

もしや…

 

ひとりでに暗転するステージ

そして見たことの無いPVがモニターに流される。

観客がアイドルの登場か?とか新しい企画か?とか、どよめく中やはり彼がそこに居た

 

「よくぞ来たな、雑種共!! 我の名を分かるものは居るか!」

 

急な振りに観客は固まるが一部、極一部から大きな声が聞こえた

 

「知ってる! プロデューサーのギルガメッシュさん!!」

 

「正解だ!! 我こそはファーストプロジェクト及びプロジェクトクローネのプロデューサーにて、このシンデレラ達が夢見た城の王…ギルガメッシュだ!!」

 

「「「「王様ーーーー!!!」」」」

 

割れんばかりの歓声がギルガメッシュくんに向けられる。なんというカリスマ性だろうか。入場途中の皆さんも声を上げていた

 

「本来ならばこのような事は無いのだがな、今日はとても気分がいい…なのでだ! この我が直々にアイドル達の軽い紹介をしよう…まずはコイツだ!!」

 

バンッ!!と音がスピーカーから響く…ステージ上、その他会場に設置されているスクリーンに瑞樹さんが映し出された

 

「もちろん知っているだろう? 川島瑞樹、この女は元テレビキャスターなどと異色の経歴からアイドルになった。本人は年齢を気にしているみたいだ。だがな、普段から努力を重ね、若いアイドルにも負けない根性がある! プロダクション一の良き年長者、ファーストプロジェクトの最高のリーダーだ!!」

 

「「「「瑞樹さーーーん!!!」」」」

 

ステージ裏で待機していたアイドルの中で既に川島さんが泣きそうになっている…

 

「次は姫川友紀、普段はどうしようも無いくらいののんべいで野球女だが…野球とアイドルに対する気持ちは何時だって一直線、常に笑顔で上も下も引っ張る良き女だ」

 

「「「「ユッキー!!!」」」」

 

ま、まさか全員分やる気!?

だから三十分前に始めたんですか!?

 

アイドル達は感動か困惑か分からないですけどフリーズしちゃってますし!

 

「次々いくぞ! 輿水幸子、自称カワイイやらナルシストなどと巷では言われてる様だな。その通りだ…しかし、その自らに対する自信は何よりも強い武器だ。そして、我らで断言しよう幸子はカワイイ!!」

 

「「「「サッチーカワイイーーーー!!」」」」

 

「小早川紗枝、見てくれは京美人…中身は腹黒女だが誰よりも人の意思を汲み取れる良き理解者だ。貴様らの心内も読み取られてるかも知れんな!」

 

「「「「紗枝はーーん!!!!」」」」

 

「日野茜、全力全開という言葉が人となったような者でプロダクション一の熱血だ。茜のファン達よ、奴から振り落とされんようにしっかりと応援しろ!」

 

「「「「茜ちゃーーーん!!!!」」」」

 

ボンバーーーーーーー!!!!!!

茜ちゃんが叫んだ!?

マイク無しでも声が表に聴こえたのか笑いが起きていた

 

「小日向美穂、優しくしっかりした娘だ。ファーストプロジェクトは皆、癖のあるものが多かったがここまで活動が続いたのも単に美穂が皆をまとめあげてくれたからだ。コイツがいなければ貴様らが応援している今は無い!感謝しろ!」

 

「「「「「「美穂ちゃーーん!!!」」」」」」

 

「佐久間まゆ、どこまでも一途でその為ならばなりふり構わずに走り続ける女よ。所々ポンコツだが、そこは貴様らがファンとして支えろ!」

 

「「「「ままゆーーー!!!」」」」

 

「十時愛梨、アイドルたるものレッスンは過酷を極める…そんな時、何時も差し入れを持って現れ皆の心に安らぎを運ぶ!! この我でさえ多少なりリラックスしてしまう程の癒しの権化だ」

 

「「「「「愛梨ちゃーーん!!!!」」」」」

 

「さぁ、ここからはクローネの紹介だ! 先日のライブを観られなかった者ども、心して聞いておけ!」

 

美嘉ちゃんと楓さんはクローネの方で紹介するんですかね?

 

「神谷奈緒に北条加蓮、この2人はここ半年ほど前に我が軍門に下った小娘。 奈緒は典型的なツンデレ、加蓮はイタズラ好きの小悪魔といった所だろう…

何やら我の知らんところではトライアドプリムスとか言うユニットをやっているようだが…これから奴らが頑張れるからは貴様ら次第だ! 応援せよ命令だ!」

 

「「「「奈緒ちゃーーん!!!」」」」

 

「「「「加蓮ちゃーーん!!!」」」」

 

「大槻唯、発言自体はよく他人を舐めてると思われがちだが仕事に関しては誰よりも真面目に取り組む良い娘だ! お土産はキャンディにしてやれ、好物らしいからな!!」

 

「「「「唯ちゃーーーーん!!!!」」」」

 

「あっはは、お父さんみたい!」

 

「子煩悩…みたいなもんですかね…」

 

「一ノ瀬志希に塩見周子、放蕩娘…または放浪娘コンビだな。どこかミステリアスな影を持つ2人だが中身は何ら変わらん乙女だ。素っ気なくしようとも貴様らの応援は無駄ではない、奴らのガソリンだ!! 心置き無く全力で応援しろ!」

 

「「「「しゅーこーー!!!!」」」」

 

「「「「志希にゃーーーん!!!」」」」

 

地味に褒めてない気がするんですけど!?

 

「はぁー…お仕置きが必要だねー?」

 

「にゃはは、お薬試しちゃおうかなー?」

 

ギルガメッシュくんの命が危ない

 

「宮本フレデリカ、まるで本心が掴めないおちゃらけた感じだがその心は常に楽しいという感情に向けられている。感謝しろ、フレデリカは貴様らに幸せと楽しいを振り撒くぞ!」

 

「「「「フレちゃーーーん!!!」」」」

 

「速水奏、年齢に見合わん妖艶さを持つがそれも日々の努力あってのもの。メイクにレッスン、一つ一つを糧にして今の奏が成り立っている。自らの武器をしっかりと理解した真の女というものが奏だ」

 

「「「「「奏さーーーーん!!!」」」」」

 

「鷺沢文香、我がこの業界に入り初めて美というものを認識した女だ。その瞳は澄み、声は子守唄の様に心地よい…! 貴様らに観せるのが惜しいくらいに美しき女だ!」

 

「「「「文香さーーーーん!!!!」」」」

 

「橘ありす、最年少ながらも覚悟がある! 確固たる意思がある! あと10年も経てば見目麗しく姿を現すだけで溜息が出てしまう様な存在になるだろう。必ず見届けよ!」

 

「「「「ありすちゃーーーん!!!」」」」

 

 

橘です!!! と叫びたさそうにしていますけど…文香ちゃんの手前我慢してるようで…

本当にみんな姉妹みたいに見えてしまいますね

 

「高垣楓、楓の歌は一言で言えば魔法だ。多くは語るまい、聴けば分かると言っておくのが一番だと我は判断した! 聴け、そして酔いしれよ!」

 

「「「「楓さーーん!!!!!」」」」

 

「そして、最後だ!

我がプロデュースした最初で最高のアイドル、まだまだ一流とは呼べんが近い将来必ずトップへと上り詰める。そして世界を魅了するアイドルの名は!!

城ヶ崎美嘉!!!」

 

「「「「「うぉぉぉ!! 美嘉ちゃーーーん!!!!」」」」」

 

会場が揺れる、開演前からトップギアの応援が会場を揺らした。

こんな応援を前にして彼女達の心が燃えないわけがない。

 

「さて、他のプロジェクト…シンデレラプロジェクトの紹介はライブ内で行う!」

 

ステージのライトがギルガメッシュくんを照らすもの以外一切消え、彼はマイクを手放す。

 

そして、高らかに歌うように告げた

 

「我が姫達を見よ! 

万雷の喝采を鳴らせ!

余興はここまでだ!!

 輝く星のごとく……

 刮目せよ! シンデレラの舞踏会を!」

 

鐘の音と共に門は開かれた…




最後のアレは完全にローマ皇帝さんのをお借りしております


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英雄王ギルガメッシュ

まさかこんな事になるとは…



ちひろside

 

大歓声が聞こえるステージ裏

ひと仕事終えたギルガメッシュくんが戻ってきた

 

「開演の挨拶お疲れ様です、ギルガメッシュくん」

 

「うむ、これで我の最後の仕事は無事に終わりだ」

 

「…最後…?」

 

「美城に今西、武内を揃えよ。我からのありがたい言葉をやろう」

 

引っかかる言葉を聞きながらも言われた通り3人を集める。

 

「揃ったか…さて、まずは美城! これをくれてやる!」

 

封筒を叩きつけるように常務に投げた。それは見間違えるわけが無い…しっかりと辞表と書いている

 

「何のつもりだ?」

 

「ふん、今この瞬間をもって我は346プロダクションを辞める。3年前に我を雇い散々迷惑を掛けたことをこれで許せ」

 

「確かにキミには多大な迷惑をかけられたが…」

 

「つまり、成功しなかったら事務所をクビになるって噂…自分で流したんだね? でもそれだと、彼女達が舞踏会が失敗したと勘違いしてしまうんじゃないのかい?」

 

今西部長が確信と疑問を口にした。

たしかにその通りだった。ここで辞めてしまえばこんなに盛り上がっているのに自分達がいけなかった…と彼女達は思うだろう。

 

「何、今の奴らには心配などするだけ無駄というやつだ。我が居なくなった如きで今宵の舞踏会が失敗と思う程度の器ならあの場には居なかろうよ。

それにだ、あやつらも何時か我が居なくなる…と薄々気がついているだろうしな」

 

「しかし…彼女達には…ギルガメッシュさん、貴方のようなプロデューサーが必要です」

 

「武内、プロデューサーとは確かにアイドルを導くものだ…が、それは城の階段まで。

言わば馬車だ。馬車が独りでに進めばシンデレラ達は城に着かず道に迷ってしまう」

 

不敵に笑うギルガメッシュは武内プロデューサーに問う

 

「武内、我らが馬車ならば魔法使いは誰だ?」

 

「それは…」

 

彼女達をシンデレラにした魔法使いは誰?

そんなふうに聞かれると答えが思いつかない。

 

「魔法使いは自分自身だ。奴らが自らを変える勇気、それこそが全ての人間が持つ真なる魔法だろう。十年、この事を思い出すのに十年も要してしまったわ!」

 

「自分自身…」

 

「そうだ、我は永き間それを忘れてしまっていたな。いや、アレを飲み干したから忘れたのか? まぁ、どうでもいいことだ。

しかし、急に我がいなくなれば貴様も困るだろう。事務所の我の机を開けよ。マニュアルというものを作っておいた」

 

「……はい」

 

俯き陰を落とすプロデューサーの背を叩き笑う。

そのような顔を王に見せるでない、と

 

「美城、という訳だ。辞表をくれてやる」

 

「……では、受け取ろう」

 

受け取る常務はどこか寂しげに彼を見ていた

 

「今西、3年という短き間だが世話を掛けたな。ご苦労だった」

 

「いやいや、王様くんのおかげでここは大きく変わった…いい事しか無かったよ。世話なんてしてないさ」

 

何時も…まるで我が子を見る様な目でギルガメッシュくんを見守っていた今西部長

 

「そしてちひろ、3年間大義であった。…どこか、シドゥリの様な女だな。懐かしく…愉快だったぞ!

貴様があの日あの時あの場に居なくてはこの瞬間最高の喜びを我は得ることが無かった。礼を言おう」

 

「…っ…は……い」

 

次々と目から涙が溢れ出る。

今生の別れになるとは決まってないはずなのに、このワガママで自己中心的な王様がどこか遠くに行ってしまう気がしてならなかった。

 

「泣くでない。貴様が泣くのは美嘉達のライブが終わる瞬間だ」

 

「…はいっ!」

 

「では、我は美嘉達にどやされる前に消えるとしよう。王の不在の間、城は任せたぞ。………我が臣下達!」

 

眩い光に王が包まれるとそこには誰も居なかった。

 

「いってらっしゃい…王様」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

淀む空気…然しながら身を包むこの空気はどこか心地がいい。

別れは済ませた。後はこの場で本当の最後の仕事を果たすのみ

 

二つの足音が近づいてくる。

 

あぁ…この音だ。我がこの10年間待ち続けた女のモノ

 

「来たか…」

 

金の髪を持ち、蒼き瞳

その姿は間違える事などない

 

 

 

「やはり、ここでしたか英雄王!」

 

 

 

「フハッ…フハハハハハハ!!!

そうだ、そうだともセイバー!! この地にて貴様との決着をつけるっ!」

 

現れたのは騎士王に…贋作の小僧

こちらを睨みつけ既に戦闘態勢は整っているようだ

 

こちらを打倒するつもりなのだろう…だがな、我とて負けられぬ戦いなのだ

 

空間が軋む、大気が揺れる

開かれた王の宝蔵から英雄王の剣が引き抜かれる。かつて世界を分けた乖離剣

 

英雄王最大の切り札にして最強の神造宝具

 

これを見た瞬間から騎士王と贋作者は肌に殺意を感じ取った

 

「慢心は捨てた。我にあるのは勝利のみ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

幾合の剣戟が行われただろうか。

贋作者の腕はもう既に限界がきている

セイバーは天の鎖にて束縛した。

 

 

後は殺すのみ…

 

「っ!!」

 

切り結んでいる最中に贋作者がその手から白と黒の剣を投げるも読めていた一手。 三流ながらも考えた行動だったのだろうが当たるわけがない

 

「当たるか阿呆が!」

 

「お前なら避けてくれると思っていたよ!」

 

ガシャンッと後ろで音がなる。

まさか…!!

 

「一瞬でも緩めば十分です!」

 

先程の双剣が天の鎖に当たり一瞬なれど腕を縛り上げていた部分が緩んだのだ。

星の聖剣が鎖を砕く

 

「貴様…」

 

「ありがとうございます、シロウ!」

 

英雄王は剣を下ろし2人を見つめた

 

「セイバー、そして贋作者よ…名を名乗れ!」

 

「……クラスセイバー…アルトリア・ペンドラゴン」

 

「衛宮士郎だ…!!」

 

アルトリアにエミヤシロウ…

 

「なるほど、アルトリア…そしてエミヤシロウよ。貴様らのこと未来永劫忘れる事は無いだろう…」

 

爆発的な魔力がギルガメッシュとアルトリアを飲み込む

 

「英雄王…いえ、ギルガメッシュ。以前と何か変わりましたね?」

 

以前までの英雄王とは違い戦いの中ながら笑顔だった。何かを守る為に戦っているようだ

 

「貴様こそ心が豊かになったのではないか?」

 

以前までの騎士王とは違い戦いの中だが確固たる意志を持って戦っていた。

 

 

互いに違う目的ながらも誰かの為に何かの為に戦っている

 

「しかし、ここで終いにしよう。

世界を…悪を裁くは、我が乖離剣!!」

 

エアが唸る、風を切り裂き空間を抉り全てを飲み込むべく

 

「シロウ…私に力を!!」

 

「令呪を以て命ずる! セイバー、勝つぞ!!」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天地乖離す開闢の星………!!!!!!」

 

「約束された勝利の剣………!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「アルトリア…エミヤシロウ。我の最後の願いを聞いてもらえぬか?」

 

仁王立ちをし英雄王は倒れているセイバーと贋作者を見下ろす

二つの宝具の余波に吹き飛ばされたようだ。

 

「…貴方が願いとは……らしくないですね」

 

倒れながらも騎士王は微笑みをこちらに向けていた。

贋作者もだ

 

「アルトリア、大聖杯を破壊せよ…貴様にしか出来ん」

 

「自分ですればいいじゃないですか」

 

「それは無理なことだ、我の足を見よ。既に消え始めている」

 

光の粒子が足から上へと登ってくる。我が現界をしていられるのも時間の問題だろう…

 

「分かりました、英雄王…貴方の願いこの騎士王が引き継ぎましょう…!」

 

「頼もしい限りだ。

そしてエミヤシロウ。貴様にはこの世界に生きる者として…そして我を葬った罰として…命ずる、それは――」

 

 

それは王としてでは無く1人の男としてここまで殺しあった相手に頼む一つの願いだった

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉side

 

「ギルガメッシュ、今日のライブ完ペキだったでしょ★」

 

サイコーのライブ、サイコーの仲間達!

 

それにサイコーのプロデューサーが居たから…

 

こんなに幸せな気持ちになれたんだ! 一分一秒でも早くアイツにお礼を言わなきゃ!!

 

ライブの途中からギルガメッシュが見当たらなかった。いつもの事だから事務所に居るんだろう。皆が帰った中、アタシは事務所に向かって走っていた。

 

アイツの部屋へ

 

「プロデューサー!!」

 

開け放った部屋には明かりがなく、人影もなかった…

おかしいな…?

 

いつかの時みたいに机へと歩み寄った。写真が入っていないフォトフレーム、数多くの手紙に書類

 

城ヶ崎美嘉と書かれた手紙が一つあった

 

? なんだろ

 

 

アイツには悪いけど見ちゃっていいよね…?

 

手紙を開けば綺麗な字でこう書かれていた

 

【美嘉、貴様がこの手紙を開いているという事は我はもう貴様の近くから消えているのだろう。

何心配はいらん、美嘉ならばこの先、どのような苦難に襲われようとも乗り越えられる。またいつか我が現れた時は成長した貴様を見せよ。】

 

 

【期待しているぞ。我の最高の宝よ】

 

 

 

「………バカみたい」

 

 

その日以降、アイツがアタシ達の前に現れることはなくなった




戦闘シーンを書こうとしたのですが圧倒的な語彙不足でした。


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番外…? 英雄達の舞踏会

新年、明けましておめでとうございます!
今年も皆様、よろしくお願いいたします


ぐだ男side

 

舞踏会当日

 

宇宙に輝く星々が綺麗な頃合。

本来ならば皆でパーティーを楽しんでいる時間を過ぎているのだが…今現在、この城は…

 

 

白銀の城は襲撃を受けていた。

女性サーヴァントにだ

 

 

「女は普段相手にしねぇが…テメェなら殺り合えそうだなァ!?」

 

「マシュさん、杖を持っててもらえますか? 彼とは対話が必要なようです…女だからって舐めないでよね!」

 

ウォラァァァァ!!!という掛け声と共にベオウルフとマルタが殴り合いを始めている。

その殴り合いたるや資料でしか見たことが無い漢同士の喧嘩から友情へと発展するものだろう。

 

また離れたところでは一人の女性が他を圧倒していた

 

「貴様らに、私を止められるか? 4人に増えたからとて半人前が4つでやっと2人だ。

所詮2対1よ!」

 

「おい、他の俺! 怯むな、殺す気で行くぞ!!」

 

「せめて槍をくれ! ルーンじゃ勝ち目はな…ぐぁぁ!?」

 

「テメェら全員邪魔だ!!」

 

「オルタ、一人で突っ込むと…あぁ、言わんこっちゃねぇ!!」

 

クーフーリン4人は全員でスカサハ師匠を止めている。

そんな現状を見て王は激怒した

 

「えぇい、どうなっておるのだこれは!?」

 

「予告状効きすぎた…みたいですね」

 

「なんて書いたのだ二重人格!!」

 

招待状という名の予告状を書いたのはジキルらしい。

 

「簡単だァ… テメェら女全員で来なければマスターを殺すって書いたんだよ」

 

予告状を書いたのはハイドだ!?

え、俺殺されるの!?

 

「それがこの暴徒共か!! 太陽の戦士達、我と共に制圧をするぞ!!」

 

ギルガメッシュ王の号令と共に飛び出たのはオジマンディアス王とカルナ、それにガウェイン卿だ

 

いやいやいや、待って待って!

今日は戦いに来たんじゃなくて…

 

「みんな落ち着けーーーーーー!!!」

 

「先輩!?」

 

全力の叫びは会場に響き全サーヴァントの動きを停止した。

鶴の一声ならずマスターの一声というものかな?

 

「ギルガメッシュ王! 本当の目的を忘れちゃダメでしょ!?」

 

「む、むぅ…そうだったな」

 

「あの…一体どういう…?」

 

 

 

ここまで来たら全てを明かしてパーティーを始めるまで!

 

「実は…!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

円卓騎士勢side

 

今ステージではカルデアアイドルユニットの『ふたりはジャンヌ★』が歌って踊っている。このサプライズについては我々どころか他のサーヴァント達も知らなかったようで面を食らってしまった。

 

ジャンヌ殿が黒い衣装を、オルタ殿が白い衣装を纏っていた。普段の印象とは真逆なモノを身につけており実に…

 

「可愛らしいですね」

 

「このような余興があるとは知らなかった」

 

ランスロット卿、トリスタン卿と共にワインを頂きながら虚しく過ごす

 

「皆さん、こんばんは! 余興として私達、ふたりはジャンヌ★のライブを観て頂いていますっ!」

 

「この為に多くの苦難がありましたが今日という日をジャンヌ・ダルクと共に迎えられたことを喜ばしく思います。

それと、ギルガメッシュPからエリザベートさんと、それにネロクラウディウスさんに伝言です。

『これが本当のアイドルだ!』らしいですよ?」

 

「「うぉぉぉ、ジャンヌゥゥゥゥ!!」」

 

最前線で叫ぶジル・ド・レェ卿達

信者というものだろうか

 

「私達の歌う次の曲が終われば舞踏会は開始します。思い思いのパートナーと共に踊ってみては如何でしょうか?」

 

「では聴いて下さい…Memories」

 

ダンス…ですか…

私に無縁で…ん?

 

「あぁ…私は悲しい。こうして円卓の面々が集まれたことは嬉しいのですが…このような素敵な出来事がある時、男同士でしか居られないとは」

 

「まぁ、そういうなトリスタン。私も此度は同じだ…共に酒を飲み語らおうではないか。 例えば…我らが王は誰と踊る…とかな」

 

「ランスロット卿、大丈夫ですよ。王が選ぶ相手は貴方や私…ガウェイン卿ですらないのですから」

 

「…ガウェイン卿は何処に?」

 

まさか、私が…

 

「ガウェイン卿?」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

「その様子、まさか誰かにダンスを誘われたのですか?」

 

「ま、まさか…私は王を守る騎士です。そのような事に現を抜かしている場合ではありません」

 

「あら…踊ってくれないの? 悲しいわ…」

 

「ま、マタ・ハリ殿! いいえ、このガウェイン…精一杯エスコートさせていただきます。ランスロット卿、トリスタン卿…では、後ほど」

 

「あぁ…私は悲しい。フェイルノートを使いそうになりそうです」

 

「ダメだ、トリスタン…後でゆっくりと話を聞こうじゃな………トリスタン、我が王に動きが!」

 

「お相手は…何者ですかあの赤き弓兵は!」

 

どうやら彼らはこの先も苦労しそうですね…

 

…おや、あれはマシュ殿…?

ランスロット卿の所へ…あぁ、そういうことですね

 

「お父さん、私をエスコートしてください」

 

「きゅ、急にその呼び方やめなさい! それにエスコート…?」

 

「はい、先輩が気を利かせて私をこちらに送ってくれましたので。ほら、早く行きますよ」

 

「あ、あぁ…わかっ…トリスタン! フェイルノートを下ろせ!!」

 

やれやれ…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ゴールデンside

 

あのゴールデンキングが唐突にパーリィをしようって言ったときゃ、どうなる事かと思ってたがどいつもこいつもいい笑顔してるじゃねーか!

 

「はぁ…いくらパーティとは言え…私には向かないものだな。踊る相手なぞいる訳もない」

 

あん? ありゃぁ、スカサハ師匠じゃねーか。あの様子じゃ、踊る相手がいないってところか?

よし、ここはいっちょオレが…

 

「何してんだスカサハ! ほら、サッサと来い」

 

「クーフーリン? 何用だ、いきなり手を引いて」

 

「俺が一緒に踊るって事だ。俺たちゃ何時も戦ってばかりだが…今回は珍しくあの嫌味な金ピカがみんなの為にパーティーを開くときた…

これで1人でも楽しんでなかったら何をされるか分かったもんじゃねぇ!」

 

「仕方あるまい…ならしっかりとエスコートしろクーフーリン」

 

「あいよ!!」

 

…どうやら、オレの出番は必要なかった様だな!

 

「…メイヴ、オレ達も行くぞ」

 

「クーちゃん、私と踊ってくれるのかしら?

えぇ…えぇ!! いいわ、最高っ! 共に舞いましょうっ」

 

おうおう、次々組みが出来てくな!

 

 

……むしろオレがボッチって奴じゃねーか?

ま、まぁ、女と踊るなんてオレには分からねぇことだし仕方ないことはあるが…言い訳はゴールデンじゃねぇ…! こうなったら誰か誘うぐらい…

 

「金時はん、こんな所に居たんどすか。ずっと探しとったんどすよ。さぁ、うちと踊りましょうか」

 

「げっ、酒呑…!」

 

「げっ、とはご挨拶どすなぁ?」

 

「あらあら、蟲の気配がすると思えば…金時に湧いているとは…金時はわたしと踊るのです。邪魔だては許しませんが?」

 

「大将…!?」

 

最悪だ…! この組み合わせはゴールデンじゃねぇ!!

だ、誰か! 誰かいねぇのか!!

 

「あら、金時さん? そんな強ばった顔をしてどうしました?

お暇ならわたくしと踊っていただきませんか?」

 

「ふぉ、フォックス!!」

 

スリットが激しい見る所に困る蒼ドレスを着ていてとても一緒に居られねぇが背に腹は変えられねぇ!!

 

「あらあらー…そーんなに嬉しいんですか? あ、でもピリピリするから抱き上げるのはやめてもらえます?」

 

後ろで酒呑と大将が騒いでるが今は逃げるが勝ちだ!!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エミヤside

 

やれやれ、やっと料理を全て出し終えたと思えば…

思い思いの相手と踊っているようだ。

黒髭はフランシス・ドレイクと踊っているようだ。マスターは…アン・メアリーとも踊り…多くの相手をしているとはな。

 

英雄王は…ジャンヌ達と話し中か

 

「ねぇ、あんた暇なの?」

 

「…あぁ、確かに暇だが。ダンスの申し込みでも来たのかね? 女神イシュタル」

 

記憶にはあるが経験をした訳では無い。しかし、彼女の見た目は酷く心を締め付けた。かつての聖杯戦争で出会った少女と同じ見た目…心無しか女神イシュタルの要素としてスタイルは良くなっているが

 

「そうよ、直々に女神が来てあげたのだから感謝なさい。ほら、グズグズしない手を引きなさい」

 

「了解した」

 

アマデウスが奏でる曲に合わせ、周りと共に踊る

優雅に華麗に大胆に…が彼女の謳い文句だっただろうか? ならばその通りに踊ってみせよう!

 

「ちょっちょっ!?」

 

踊ること数分、彼女がバテてしまったので会場の隅に座らせてきた。私も少々張り切ってしまったようだ。

 

「おぉっと、休憩は私と踊ってからにするんだな!」

 

「そ、その声は!!」

 

「最近召喚されたばかりのジャガーマン様だ! なーんか、身体がアナタと踊ってほしいみたい!!」

 

なんでさ…

 

まぁいいと踊ったことを後悔した。この後、アイリスフィールにイリヤスフィール、最後にはアルトリアまでやってきた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方その頃 カルデア内では

 

「まさか、ロマニ…こんなことを考えているとはね?」

 

「たまにはいいじゃないかレオナルド」

 

「はぁ…ま、いいけどさ。それじゃあ、ロマニ、共に踊ろうか?」

 

「えぇ!? 僕とかい?」

 

「謝罪も込めてさ」

 

「はいはい、分かったよレオナルド」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

英雄王side

 

会場を観れば太陽王はニトクリスという女性と、ニコラ・テスラは黒いドレスを纏ったアルトリアと共に踊っている。あれはランサーのか?

 

ステージが終わりやってきたジャンヌ共に激励の言葉でも送ってやるとするか。

 

酒を煽り2人に向き合う。

するとどうした事か、何故か泣いていた

 

「うぅ…上手く出来ました…!!」

 

「えぇ…私がアイドルになれるなんて…」

 

「阿呆! 貴様らが立つべきステージはまだまだあるぞ! ここはスタート地点だ!!」

 

「「はいっ!」」

 

――ッ!!

何なのだこの既視感…

 

『ギルガメッシュ、今日のステージ完璧だったっしょ★』

 

誰だ…貴様は誰なのだ?

我の記憶に居座るのは…

 

「どうしたのギルガメッシュ王…?」

 

「む…従者とマシュ・キリエライトか…踊ってきたのか?」

 

「はい、王が気を使ってくれたおかげで…ありがとうございます」

 

酒でも飲んで落ち着くか…

王の財宝から酒瓶を取り出すと1枚の紙切れが落ちた。

 

「あら、英雄王もこんな笑顔見せるのね…? それにこの周りの子達、服装を見るにアイドルかしら?」

 

「可愛い子ばかりですね」

 

「待て、その写真を寄越せ!」

 

右端で写る我

中心にはピンク髪をした女にオッドアイの女…活発そうな者も居れば大人しそうな女もいる………

 

そうか…そうか!!

 

「アルテラ!! アルテラは居るか!!」

 

「私を呼んだか、最古の王よ」

 

従者と盾のデミサーヴァント、ジャンヌ2人を引き連れ外へ出る。

 

「貴様の剣を振るう時が来た。空間を避け!」

 

「ちょ、王様何するつもり!?」

 

「質問はいらない! 貴様らはとにかく着いてこい!!」

 

アルテラが振るう軍神の剣が空間を裂く。その裂け目へエアを握りしめ飛び込んだ。

 

この時のためにカルデアから1つ聖杯を拝借してきた。

 

「貴様ら着いてきてるな!!」

 

「は、はい!」

 

「英雄王、どうするつもりですか!? アルテラが開いた時空も閉じれば私達は潰されるかも知れませんよ!?」

 

「先輩は私に掴まってください!」

 

「かつて世界を裂いた我が乖離剣よ! エアよ! 今一度…世界よりも大きなモノを裂くぞ!!

これより壊すは時空の壁! いざ行こう…」

 

聖杯が輝き我の忘れ物へと光を示す

 

「天地乖離す開闢の星!!!!」

 

 

「「「「うぁぁぁぁぁ!?」」」」



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全ての終わりと始まり

形式上最終話となります。

番外 ある日のカルデアを読んでない方は先にお読みになってからの方が楽しめるかと思います。


衛宮side

 

「ほら、士郎! 早く行かないと遅刻するわよ」

 

「わかってるよ、凛。大丈夫、間に合うから」

 

肌は浅黒く白髪が混じった赤銅色の髪を持つ青年は黒髪の女性に尻を叩かれ玄関へと追いやられる。

 

「こういう時は早めに行っとくものよ? 彼女達のとびきりのステージなんでしょ? 私も後で行くから」

 

「わかった、行ってくるよ凛」

 

スーツを着て、職場へと向かう。まだ勤めて2年程だが先人のマニュアルのおかげで仕事はスムーズに行えた。

 

通勤列車には慣れないけど…やり甲斐はあるし何より彼との約束、俺の贖罪だ。

 

 

「あ、プロデューサーさん。おはようございます」

 

通勤途中、プロダクションへ向かう道中で良く知る女性に声を掛けられた

 

「千川さん、おはようございます。珍しいですね…この時間に出勤なんて」

 

「はい、今日は大事な日ですから。すこし気合を入れるために色々していたら少し遅くなってしまいまして…」

 

「今日は合同ライブですからね。765に346…それに315、876、961プロまで勢揃い」

 

「はいっ、今日のライブは歴史に残りますよ! あ、事務所着きましたね…それではプロデューサーさん、今日は張り切っていきましょう!」

 

足早に事務所へ向かって走っていく彼女を見送りながら今日の事を考える。

彼女達は既に武内プロデューサーと共に会場入りしている。

 

「やっほープロデューサー★」

 

「はぁ…城ヶ崎。何故現場に行っていない?」

 

346プロダクションのある一室

そこに事務所を引っ張るトップアイドル

城ヶ崎美嘉はいた。

 

「あはは…ガラにもなく緊張してさー。久しぶりにこの部屋に来てみたの」

 

「………たしか、キミをスカウトしたプロデューサーの部屋か」

 

そう、間違いなくアイツの部屋だ

趣味が悪い金ピカの

 

「そっ、アタシがスカウトされた時、そのプロデューサーにお姫様抱っこされてビルとビルの間を飛び越えてここに来たんだ。…信じられないでしょ?」

 

それはスカウトじゃない誘拐だ

 

「3年間アイツと一緒に居て、頑張って…突然、アイツは居なくなった。アタシ達を置いてね」

 

………奴が消えたのは俺が原因でもある。だが、元から消えるつもりでもあったのだろう…

 

「でもね、アタシ達は誰も捨てられたとか思わなかった。なんでかな…最初っから最後までよく分からなかった人だけど…大切にしてくれてるっての分かってたから」

 

「キミは今年でアイドル何年目だったかね?」

 

「アタシ? えーと、14…の時にスカウトされて…今年で22だから8年目か。プロデューサーもアタシと同い年だったよね?」

 

「あぁ、そうだ。私も今年で22になる」

 

「…何でそんなおじさん臭い口調なの?」

 

「…私にも事情というものがあるんだ」

 

「へぇ〜気になる〜…ってあれ? プロデューサー…左手の薬指…?」

 

しまっ…いつも外していた指輪を見られた!?

 

「へぇ…へぇー???」

 

「ほ、ほら行くぞ城ヶ崎!」

 

はぁ…無事に終わるのか…今日1日…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月side

 

「しまむー、ちょっと後髪直してー」

 

「あ、ちょっと動かないでください…えーと………はいっ、直りましたよ」

 

「ありがと! それじゃあ、未央ちゃん隊員スタンバってきまーす!」

 

「はい、頑張ってください!」

 

ライブが始まり目まぐるしく動く舞台裏

スタッフさん達も張り切っている。

かく言う私もだ。初のドームライブ…

えへへ…デビューして5年目でドームどライブが出来るなんて!

 

「卯月ちゃん。この後の曲よろしくねっ!」

 

「あ、天海さん! はいっ、島村卯月頑張りますっ!!」

天海春香さん、765プロのアイドルで同年代のアイドルとして憧れ…目標の様な人だ

 

「春香でいいよっ。ふふ、他の事務所の人達と一緒にライブ…とっても楽しみだったんだぁ」

 

「春香さぁん…はぁはぁ…先に行かないでくださいぃ…」

 

後ろから走ってきたのは765プロダクションが新しい企画でプロデュースされた女の子たちの1人…春日未来ちゃんだ

 

「あ、島村さんよろしくお願いします!」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

「春香さーーーん!! 未来ちゃーーーん!! 卯月ちゃーーーん!!」

 

あ、あはは……この大きくて元気な声は876の日高愛ちゃんですね。前に一緒にお仕事したことありましたね。

 

「はぁ…天海…お前、22歳だろ。少しは大人らしく振舞ったらどうだ?」

 

「なっ…もう、冬馬くん! 私だってちゃんとお姉さんになったんだよ?」

 

「何処がだ! お前は17から全然変わってないぞ!?」

 

「こらこら、冬馬。女の子に年齢の話はタブーだぞ! あと俺にもな!」

 

「…天道さんすみません」

 

「なんで俺に謝るんだよ! たしかにおっさんだけど!」

 

315プロダクションの天ヶ瀬冬馬さんに天道輝さん! 男性アイドルのトップに立つ2人だ

カッコイイなぁ…

 

「やぁ、全員勢揃いだね。これはボクも全力で歌わないといけないね…」

 

「玲音、ちゃんと遅れないで来たんだな?」

 

「失礼な、冬馬くん。ボクはしっかりした人間さ」

 

玲音さん…日高舞さんに次ぐSランクトップアイドル!!

まさか、そんな人と一緒にステージに立てるなんて…

 

「皆さん、準備はよろしいでしょうか。スタンバイお願いします」

 

プロデューサーさんが確認しに来た。もう、出番のようだ

 

私はこの凄いメンバーと一緒に歌ったあと、346プロダクションのみんなともう1曲ある…! 私が昔憧れたあの曲が!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉side

 

卯月ちゃん達がステージに上がっている。次はいよいよ初期の346メンバーでの曲だ。

 

気合い入れないとね★

 

「ねぇ、美嘉ちゃん?」

 

「あ、楓さん。どうしたんです?」

 

楓さんは五年経っても綺麗…というか五年経って余計に綺麗になった。ズルいなぁ…

そんな楓さんが驚いた顔をしながらアタシの胸元を指さしている…

恐る恐る自らの胸元を見ると…ネックレスが輝いていた。

 

「346プロさーん! 曲終わり次第お願いします!!」

 

「あ、はい!」

 

呼ばれた後にもう1度ネックレスを見ると輝きは消えていた。気のせい…なわけないよね?

 

曲が終わりアタシ達全員がステージへ上がる! 会場はドーム…360°見渡してもファンばかり!

 

「みんなーおまたせー!」

 

「「「「「美嘉ちゃーーーん!!!」」」」」

 

熱い声援を浴びる。

あの時アイドルになってよかったと、みんなに名前を呼ばれる度にカラダが震え心の底から思う。

アイツが…ギルガメッシュがアタシをここに連れてきてくれたんだ。

なら、アタシはこの先もここに立つだけだ。

 

「な、なんだあれ?」

 

「へ?」

 

ファンのみんながざわめき始める…

な、何かあったのかな? みんなに目配せすると楓さんが再び胸元を指さしてくれた。

 

光っている

 

「美嘉ちゃん、上!」

 

上?

 

瑞樹さんの叫びのまま上を見上げる。

 

 

 

空がひび割れていた

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

王side

 

 

「フハハハハハハハ!!」

 

「お、王様!! も、もう空間が閉じます!!」

 

盾のデミサーヴァントが叫ぶ、確かに先程より窮屈になってきた…が、もう先は見えている。我が置いてきた、あのネックレスがここだと示した。

 

「貴様ら、今一度…我が宝具を放つ!! 反動で吹き飛ばされるなよ!!」

 

後ろではジャンヌ、オルタ、従者が盾子の後ろに隠れている。準備は出来たようだな!

 

「天地乖離す開闢の星!!」

 

光が指し示す時空がひび割れる。さぁて、何処に出ることか!!

 

明るい光が差し込み我らは宙に放り出される。む、ここは…!!

 

上空から落下する際に見えたのは1箇所を中心に集まる雑種共。

 

そして、真下からこちらを見上げているのは…………美嘉か?

 

すこしは成長したようだな。

 

「せ、先輩! 地面まで10秒!! 着地しますっ」

 

「オルタさん!」

 

「私を心配するぐらいなら自分の身を案じなさい!」

 

ドォォォォン!!!!と音を鳴らし地へと着陸する。 ふむ、ギリギリこのステージは壊れなかったようだな。

 

ざわめく雑種共…随分と増えたな

 

「文香、マイクを寄越せ!!」

 

「……へ? あ、は、はい!」

 

なんだこやつら…幽霊でも見たかのように固まりおって…

 

「雑種共、久しいではないか。我が来たぞ!!」

 

雑種共の中では誰? やらなんやらが聴こえてくる…この我を知らんとは舐められたものだな…!!

 

「知らないのか!? あの伝説のシンデレラの舞踏会を作り上げた346のプロデューサーだぞ!」

 

「本当だ! 俺ライブでも見たしブルーレイ買って何回も見直したよ!!」

 

「ギルガメッシュプロデューサー!!」

 

ほう…あの日からどれほど経っているかは知らないが…伝説となったか

 

「この我を知らぬ愚かな雑種の為に一度だけ名乗ってやろう!!

我は城ヶ崎美嘉のプロデューサー…ギルガメッシュだ!

此度、この様な形で現れたのは一種のサプライズというものでな…貴様らには新たな346プロダクションのアイドルを見せてやるためだ!!」

 

「「「「「新しいアイドル…!?」」」」」

 

「何故貴様らが驚く! 黙っていろ」

 

面を食らったアイドル共を一喝し話を続ける。

 

「ここに居るのが新しいアイドル…

言峰白(ことみねはく)、それにこっちが言峰黒(ことみねくろ)

 

「は、白ですか…」

 

「く、黒…安直な…」

 

ジャンヌとジャンヌオルタ

この2人のアイドル名と言った所か。即興だが良い名前だ。流石我

 

「さぁ、音響よ! 曲を鳴らせ!! 白、黒! 貴様らも加わって歌い踊れ!! 盾子と従者は我と共に舞台袖にはけるぞ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください英雄王! わ、私達が?!」

 

「歌うですって?!」

 

「安心しろ! 美嘉、貴様なら二人をリード出来るだろう!!」

 

「え……あ…うん! もちろん任せてよ★

白さん、黒さん! きっと大丈夫!」

 

ふっ…流石は美嘉だな。

 

「安心しろ白、黒! 歌う曲は貴様らが一番練習した曲だ…!!」

はっ、と気がついたような顔で頷く2人

あの、カルナのシゴキを耐えたのだ。必ず出来る

 

「我が宝たち! シンデレラ共よ!!

高らかに曲名を叫べ!

これこそが真のライブ!!

二度目の伝説よ!!」

 

我の意図を察した全てのアイドルが配置につく。音響も…ふっ、あの時のスタッフと変わっていないようだな…

 

 

「さぁ、その曲の名は!!!!!!」

 

 

 

「「「「「「「せーの……!」」」」」」」

 

 

 

「「「「「「「お願い!シンデレラ」」」」」」」




と言うことで…本編はここでお終いとなります

しかーし、たぶん後日談やら各アイドルとの出会いやらお仕事やら…書きます。というより書きたいのでお付き合い頂ければなによりです。


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外伝 パンデミック前編

お久しぶりです。
覚えておられる方はいらっしゃるのでしょうか。

この外伝はまだギルガメッシュがプロデューサーをしていた頃。舞踏会の前の話となっております


その日、事務所は異質な雰囲気に包まれていた。

 

そしてギルガメッシュも珍しくも焦っていた。宝物庫からあるモノが無くなって…否、盗まれていたからだ。

 

「おのれ…我の許可無くアレを使った阿呆は何処の雑種だ!!」

 

ズカズカと廊下を歩く彼の腹に弾丸と言うべき速度で何かが突っ込んだ

 

「うぉぉぉぉ、ぼんばーーーー!!!」

 

「ぐぼぉ!?」

 

不意打ちの一撃、前々から人間にしては能力が可笑しいと疑っていた日野茜のタックルをくらった。

しかし、何時もならばくらわずに避けることが出来るギルガメッシュだが…なぜ避け無かったか?

それはだ…

 

「こんにちは、おにいさん! ところでここどこですか!!」

 

「えぇい、貴様もか茜!」

 

腹部に抱きついた日野茜は普段よりも少し…いや、かなり小さくなっていた。

年齢にして7歳と言ったところか

 

「はい、あかねです!!」

 

話が噛み合わん…!

とりあえず抱き上げプロジェクトルームへと急ぐ。彼処になら誰かかしらは居るであろう…と

 

「 瑞樹!! 楓!! 誰でもいいから出て来い!!」

 

「きゃ!? ちょ、ちょっと誰ですか?」

 

ギルガメッシュの怒鳴りに反応した女、それは二人目にスカウトした川島瑞樹だった。

 

「丁度いい、茜の様子を見ておれ。我はこの元凶を探しに行く」

 

「だから、アナタは誰ですかって聞いてるんですけど」

 

「貴様、まさか我の顔を忘れ………瑞樹、貴様少し若くなったか?」

 

呆れた物言いに彼女の顔を見るとそこには普段と変わらぬ川島瑞樹が居た…のだが、幾分肌の張りが若々しく見える。まさかな…

 

「ちょっと、18歳に向けて若くなった…って失礼ですよ!」

 

あぁ…こやつもか…

 

「あ、あのー…すみません。私、メイド喫茶でバイトしてた筈なんですけど…ここ何処です?」

 

全く見てくれは変わってないもののアレの影響を受けたとみて間違いないであろう安部菜々。

 

「………ふふ」

 

同じく、高垣楓

 

「あ、キャッツの試合やってんじゃーん」

 

少し縮んだ姫川友紀

 

「揃いも揃って…貴様らという奴らは!!」

 

抱え上げられたままジタバタする茜を余所に頭を抱え座り込んだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「へぇ、それじゃあ十年後の私はアイドルをしてるってことですか。…十年後…28歳ですけど…」

 

「え、ナナもですか!? な、ナナは永遠の17歳だから〜…でもアイドルですか…えへへ」

 

「私も…ですか? 驚きました…」

 

「キャッツは!? あの選手は何処に移籍したの!?」

 

10年ほど若返ってこの反応、つまりコイツらは10年経っても成長しなかったわけか…

 

茜にケーキを与え行動を抑止している間に大まかな説明を渋々した。

この事務所で若返りパンデミックが起きているのだからこの事務所内に犯人はいる。しかし子供の妨害を受けながら探すとなると骨が折れるので協力者が必要だったからだ。

 

「つまり、その若返りの薬をばら蒔いた人を探せばいい訳ね。わかったわ」

 

「ナナも手伝いますよ!」

 

「犯人探しは半人前…だったんですね。ふふ」

 

「キャッツの試合観るからパース」

 

何時もならば友紀を引っ叩くのだが今は子供なので許す。

 

「そこでだ、貴様らには子供たちの保護及び拘束の命をくだそう。邪魔されてはたまらんからな」

 

「任せなさい。未来の自分居場所ですものやれることはやるわ」

 

「あ、じゃあナナはお菓子買って来ますね」

 

「私は皆さんを探しますね」

 

「えー…それならあたしはみんなと遊ぶよ」

 

我はいってらっしゃい、と軽く手を振り自分を見送る未来のアイドル達を背に何とも言えぬ違和感を抱いていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「………あの、図書館は…何処でしょう」

 

パッチりとした目を輝かせキョロキョロとした黒髪少女。

 

「ふんふんふふーん ふれでりかー」

 

十年後と変わらぬ鼻歌を歌う金髪少女

 

「ふふーん、ぼくはカワイイですねー!」

 

鏡に映る自分に見惚れるアホ

 

「えぇい、いったい何処までこの感染は拡がっているのだ!? アレはそもそも飲むものであろう。 飲まねば若返らぬぞ!」

 

行く先々で子供化した我がアイドル達を前に珍しく狼狽える。

ある日出社したら周りが皆幼児化していた…という新ジャンルのホラーかもしれない。

幸いなことにありすや仁奈など年少組が来てなかった。奴らまで居たら赤子に戻っていたかもしれぬ。

 

「あれ、ギルさんどしたの」

 

ロビーを通り抜けようとした時、一つ上の吹き抜けから声をかけてきた影が居た。

 

「貴様は無事なのだな周子」

 

「はい? 何が?」

 

ヒョイっと、ひとっ飛びし上の階層に上がってきたギルガメッシュに特段驚かない。周子にとっては慣れたものだった

 

「そーいやさ、この子誰かの子かな? 迷子みたいなんだけど」

 

目線を落とせば周子と手を繋ぐ幼女がいた。オドオドした自身なさげな幼女だった。

 

「ふむ…誰だこれは」

 

「イヤわかんないんだって。名前聞いても答えてくれないしさ」

 

「おい、名前はなんだ」

 

「…っ」

 

ビクッと震え周子の後ろに隠れる。

 

「ちょっと、ギルさん怖がらせないでよ」

 

「名前は、と聞いておるのだ」

 

「………………で」

 

「「うん?」」

 

「……はやみかなで…です」

 

「へぇ、同姓同名の子が居るなんて珍しいねギルさん」

 

今とは似ても似つかぬ様子の奏を一瞥しより一層事態の収束を早めねばと思うギルガメッシュであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ギルくんギルくん!! 大変!!」

 

周子に奏を連れさせプロジェクトルームへと送った我の元に走ってきたのはシンデレラプロジェクトの城ヶ崎莉嘉だった。

 

「ふむ、貴様も影響を受けてないようだな…」

 

「へ、何のこと? じゃなくて、お姉ちゃんが! お姉ちゃんが大変なの!!」

 

美嘉が…?

 

「もしや、突然縮んだ…とかではあるまいな?」

 

「そう、その通りなの!!」

 

「ちっ、遅かったか……。莉嘉、奴が縮む前に何か飲んでいたりしていたか?」

 

「え…うぅん、なんか志希ちゃんから貰ったアロマの匂い嗅いでいたかな…って、ギルくんどこ行くの!? お姉ちゃんはこっちだよ!?」

 

つまりだ、あのバカめが何らかの手を加えた所為で薬の効果が狂い記憶まで過去に退行した…と考えるべきか。

しかし犯人はわかった。奴を引っ捕えねば

 

確か、この事務所のどこかに我と同じで志希は住んでいた。

 

「む、黄金の王よ。其の様な振る舞いらしくないではないか(ギルガメッシュプロデューサーさん。そんなに慌ててどうしたんですか?)」

 

「ぬ、蘭子ではないか。貴様も無事なのだな」

 

「うむ、我は神秘なる力に護られている故に呪いの類は一切効かぬのだ!!

して、この騒ぎは何かの儀式か(はい、私は特に問題が無いですよ。でも、何故か皆さん子供になっちゃってて)」

 

「ハッ、儀式ならばまだマシであったわ!! 志希のバカが問題を起こしたらしくな。我は奴を探しておるのだ」

 

「なんと! ならば我も手を貸そう。くくっ、何案ずることは無い。我の瞳には手に取るように居場所が分かる!(そうなんですか!? 私、志希さんのラボの場所知っています。案内します!!)」

 

「ほう、ならば案内せよ! さっさと奴の根を止めるぞ!!」

 

「断罪はさせぬぞ!?(息の根は止めないでくださいね!?)」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「志希!!」

 

「おー、ギルちんどしたの?」

 

「どしたの? ではないわ戯け!! 貴様の作った薬で事務所が大混乱ではないか!!」

 

「いや、アタシはギルちんの机の上にあった小瓶の中身を薄めて配っただけだにゃー」

 

「それを窃盗というのだ!」

 

「不用心に置く方が悪いっ」

 

ギャーギャーと言い合う2人をオドオドしながら見つめる蘭子はふと、気がついたことを言ってみる。

 

「アルケミストよ! 斯様な発明が出来るならば、その逆も出来るのではないか!(志希さん、そんなことが出来たなら逆に老けさせる薬も出来るんじゃ)」

 

「はっ、そうであった! 我が持っている薬を使えばヤツらは戻るな…ちっ、志希! 貴様も配るのを手伝え」

 

「んー、いや…匂いを嗅がせるだけで大丈夫だと思うよ? 元の薬をかなり薄めたからねぇ」

 

「む、そうなのか! ならば話は早いな、我がばら蒔いてくるとする!」

 

 

 

この後、さらなる悲劇が起こることは蘭子と志希の2人は予期できたのだった。



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外伝 パンデミック後編

結論から言おう。

幼児化したメンバー、それに若返ったメンバーは皆元に戻った。

やはり一部記憶の混濁がみえたが後遺症もないであろう。

 

 

 

…それでだ

我は今、黒髪の小悪魔女とスタイルの良い茶髪の女に絡まれている。

 

「もう…プロデューサーさん。どうしたんですか?」

 

「さっきから上の空ですよ…?」

 

誰だ貴様ら、とは言えぬ。

何故ならこやつらは歳をとったアイドルの誰かなのだから。

 

縮んだ奴らを戻す際に誤って子供組も飲んでしまったようでな。我のウッカリさんというやつだ。

 

「ちっ…今日はハイファイデイズの生披露だというのに…我としたことが」

 

「もっと千枝のこと見てください…」

 

「悩み事だったら仁奈が相談に乗りますよ?」

 

千枝と仁奈だったのかこやつら!?

 

「プロデューサーくん。どうするのよ!?」

 

「はっ! 任せてください、今からサイキックで彼女達を戻します!!」

 

「えぇい、一度黙れ!!」

 

ちっ…何かいい手はないものか…

 

「あのぉ、プロデューサーさん」

 

「む、なんだ雫!」

 

ろくな案を出さない二人と違い雫まだ、マシだ。マイペース…過ぎるがな

 

「えっと…ゴニョゴニョ…でゴニョゴニョ…」

 

「貴様……正気を疑うぞ」

 

「でも、いい案だと思いますよ〜?」

 

確かにその案ならば…まだ幾分マシか…

 

「早苗、祐子! 貴様らは二十代のアイドルを集めろ!! 至急だ!」

 

「「は、はい!!」」

 

「雫、準備を任せる」

 

「はぁい」

 

奴らのプロとしての能力に頼るしかないとはな…

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

三十分も掛からぬ間に早苗を含めたアイドルが集まった。

 

「…あの、私…なにかしてしまいましたか?」

 

不安そうに声を上げるのは三船美優

 

「私は嫌な予感がします…」

 

「私もです…」

 

肩を落とすのは楓に菜々

 

「おいおい★ ホントになんの集まりだよこれ★」

 

最後に佐藤心

 

「火急の問題が起きた故に貴様らは宵乙女の力を借りる時が来た。これは事務所の…幼年組を守る為の事だ」

 

幼年組と聞き目の色が変わる。保護者か貴様らは

 

「まぁ、話はこれからしよう。まずはミルクの1杯でも飲め」

 

「及川農場のミルクですよぉ」

 

コトリコトリと一人一人の前に雫がコップを並べミルクを注ぐ。

彼女達も何の疑いもなく飲み始めた。

 

ここまで上手くいくとなるとこやつらの先が不安だが。

 

 

「それで、プロデューサーくん。どうするのよ」

 

「貴様らの中にハイファイデイズを歌って踊れる奴は居るか?」

 

ハイッと手を挙げたのは安部菜々と佐藤心。大方予想通りであったがもう1人意外な人物がいた。

 

「美優、出来るのか?」

 

「は、はい。あの子達に少しでも教えられたらなと…私もトレーナーさんに教わりましたので」

 

「ふむ、中々上々ではないか!! 楓、早苗の2人は3人から今日の夜までにハイファイデイズを教わりマスターしろ」

 

「ちょ、流石にそれは無理よ!」

 

「…プロデューサーさん、少し大きくなりましたか?」

 

喚く早苗を他所に楓が我を見上げている。

そう、縮んだ楓が我を見上げている

 

「んな!? 何ですかこれ!?」

 

「縮んじゃったパイセンも可愛いぞ★ もちろん、しゅがはもスウィーティー★」

 

「あ、あの私…小さく…」

 

「そういう事ね…えーえー、理解しましたとも。つまるところ今日出る筈だった5人の代わりに私達を縮めたわけね!!」

 

「察しが良くて助かるぞ、早苗。喚いてる暇があったらレッスンを始めろ! 時間は刻々と過ぎて行く!」

 

5人を抱え上げレッスン場へと歩を進めると早苗が一つだけ…と質問をしてきた。

 

「…この若返りの薬を大きくなった子達に飲ませれば良かったんじゃないの?」

 

「戯け、子供達が飲んでしまったのは志希が我の薬を弄って作った物だ。それを無理矢理、我の薬で戻す事も可能だが…貴様ら大人達と違い副作用が起きては問題であろう。 子供の為にカラダを張れ!!」

 

「いい事言ってる気がするけど元々の原因はお前だろ★」

 

ちっ、気がついたか。

 

「でも、こうなったらやるしかありませんね。 プロデューサー、終わったら…」

 

「楓、わかっておる。 我の蔵から最上級の酒を貴様らに振る舞おう」

 

「よっしゃー! やるわよ楓ちゃん。 3人とも悪いけど指導お願いっ!」

 

酒の話を出した途端テンションを上げる幼女。なんとも危ない光景だが今はこれに任せるしかないか…。

 

「では、夕刻に迎えに来る。仕上げるのだぞ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時は過ぎ夕方

 

 

「えぇ…千枝ちゃん達来れないですってぇ!? ギルちゃん大丈夫なのかしら?」

 

「ふん、問題ない。既に代役としてだが最高のメンバーを連れて来た」

 

衣装合わせを終えた宵乙女…ならぬ宵幼女共がやって来る。

 

「あらぁ!! 可愛いじゃないの。 桃華ちゃん達もいいけど…この子達も可愛いわぁ!!」

 

番組ディレクターはクネクネと動き奴らの愛らしさに悶えている。こんな口調だが中々に面白い奴でもある。

面白ければ何でもOKというスタンスを持っている│漢娘《オトメ》

 

「今日はよろしくお願いしますっ!」

 

「はぁいっ、お嬢ちゃんお名前は?」

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

皆固まる

このまま普通に自己紹介したモノなら不味いことになるのは明白ではないか。

 

「はいっ!」

 

挙手をしたのは早苗(幼)

貴様、ドジを踏めば永遠にその姿で過ごしてもらう。

 

「言峰早苗ですっ」

 

貴様ァ!!!!!!

 

「言峰心だぞ★」

 

「こ、言峰美優です…」

 

「言峰菜々でーすっ」

 

「同じく言峰楓です。ふふ」

 

「……」

 

思い思いのポージングを取り映像映えしそうな感じなのだが…やってくれる…このバカ娘共

 

「まぁっ! 5人姉妹なの?」

 

「おい、待て」

 

「もうギルちゃんも人が悪いわねぇ…こんなにカワイイ子達を隠してるんだものっ」

 

話が纏まっているだと!?

 

「それじゃリハお願いねぇ」

 

 

 

 

「………ふっ、我の計算通りだな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜とあるラーメン屋にて〜

 

「激辛麻婆ラーメンだな」

 

「え、いや私頼んでないけど!?」

 

「待っていろ、今作ってくる」

 

長身筋肉質の店主はに中華鍋を火にかけながらテレビを見ていた。

たしか、ギルガメッシュがプロデュースしているアイドルが今日の夜、M○テに出るとメールをしてきたからだ。

 

「…それにしてもどこの世界でもラーメン屋してるんだね…」

 

「(いやー、並行世界と言えどこんなのともあるんですねぇ)」

 

少女と喋るステッキに麻婆ラーメンを出すと腰を据え新聞を広げた

 

『それでは346プロ 言峰シスターズでハイファイデイズです。どーぞ』

 

「ブフッ!?」

 

言峰シスターズだと…?

 

「て、店長さん大丈夫?!」

 

「あ…あぁ…」

 

『明日へ JUMP♪』

 

踊っているのは目の前に座っている少女と何ら変わらぬ子供達。

 

「そうか…ギルガメッシュの子か…」

 

「本当に大丈夫!? 泣いてるよ!?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「プロデューサーくん、正座してくれます?」

 

「なんだ、ちひろ!! 此度の我はこの事務所に貢献してやったではないか!!」

 

「えぇ、そうですね。確かにお仕事がもうそれはすごい量舞い込んできました」

 

ニッコリと笑い書類の束で我をひっぱたいた。

 

「子供になった宵乙女たちに!!!」

 

そう、あの放送を観た全国のファン達が大量のファンレターを寄越すだけでなく各局のテレビ関係者もエライ食いつきを見せたのだ。

 

「ぐっ…」

 

最初はまた奴らを縮めれば良い…と思っていたのだがやはり原液を飲ませた後遺症か子供になっていた時間が長かった為か奴らのカラダが暫くアルコールを一切受け付けなくなっていた。

楓や早苗は酒を飲めないことに泣き暴れもう二度と小さくならないとまで言われたので『言峰シスターズ』は伝説のユニットになった。

 

「また新しい伝説を作ってしまったな!」

 

「ギルガメッシュくーーん」

 

「おっはよ、プロデューサーにちひろさ……」

 

やって来た美嘉の目に映ったのはちひろがギルガメッシュに腕ひしぎ三角固めをしてるシーンであったとか。



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後日談 帰ってきた王さま

このお話は最終話直後のお話になります。
つまり完全な続きです。

成長したアイドル達をお楽しみください。
因みに、カルデアからやって来たギルガメッシュは既に聖杯の泥による汚染はありませんので以前より更にハッチャケてると思いますがご了承ください。


 

「ちひろ! ちひろは居…ぐはっ!?」

 

ステージから降りスタッフルームの扉を開け放つと同時に凄まじい威力の一撃を頬にくらった。

 

放ったのはもちろん…あの守銭奴だ

 

「ギルガメッシュくーん…? 何か申し開きはありますか? ありますよね? でも、あと3発入れられてから話してください」

 

右に左にと往復ビンタをかますこの女、ほとほとシドゥリのようだ。我が冥界から戻った時もこの反応にソックリだったな。

 

「えぇい、いい加減にせんか!!」

 

「まぁまぁ、千川くん。いいじゃないか…僕が生きてるうちにまた会えるとは思ってなかったよ王様くん」

 

ちひろの横暴に憤慨していると部屋の奥から久しい声が聞こえた。今西か…

 

「息災であったか。王の不在の間よく城を守ったな。 ……貴様もいるのであろう美城」

 

「まったく、急に消え急に戻ってくるとは勝手な男だな。キミは」

 

「許せ、あの時はどうしても果たさねばならん事があったのだ」

 

美城は呆れながらも懐から一つの封筒を出した。それは以前、我が突き出した辞表

 

…この女、まだ持っていたのか?

 

「これはキミに返そう。キミは新しいアイドルのスカウトをする為に遠出をしていた…違いないな?」

 

「フハ…フハハハハ!! まさか、貴様がそんな事をするとはな? 歳を食って頭の中身でも変わったか?」

 

「その失礼な物言い…本当に変わらないな…」

 

「プロデューサーさんの部屋、あの時のまま残っていますからちゃんと事務所に戻って仕事してくださいね?」

 

「ハハハ、ギルガメッシュくんも戻ってきて早々大変なことになってしまうね?」

 

呆れる美城、怒るちひろ、微笑む今西

何一つ変わらぬ場へと王は帰還したのだ。

 

「む、そうだ…我が消えた時から何年経っている」

 

「そうですね…ざっと5年ぐらいでしょうか?」

 

5年?

つまりだ、この世界も人理は焼却されずに今に至っている。

ならば、成り行きで連れて来た藤丸に盾子、ジャンヌ共を元に返す手立ても見つかったと言っても過言ではない。

 

「よし我は連れて来た小間使い共を引き連れ一度事務所に向かうとしよう。 ちひろ、悪いがアイドル共は任せたぞ」

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「本当に何一つ変わっておらぬとは思わなんだ…」

 

「へぇ、ここが王様が働いてた場所…」

 

「凄いです先輩。カルデアには無かったようなものが沢山…」

 

「なるほど、ここでアイドルについて知ったのですね」

 

「それをつい最近まですっぽりと忘れていたのだからしょうもないわね」

 

次々に喋る連中を無視しデスクへと歩み引き出しを開ける。

我があの戦いに挑む前にまとめて置いた資料が中に入れてあったのだが…

 

「我が戻ってきた。即ち不要だな」

 

左右に引き裂き屑箱に叩き込む。

部屋はホコリ一つ無く、窓も輝く程綺麗だった。

 

「何時戻ってくるかも分からない部屋の主の為に掃除をしていた私に労いの一つぐらいくれんかね」

 

「貴様の仕業だったか衛宮士郎。ご苦労であった」

 

いつの間にか部屋の入口に佇んでいた掃除人に労いを送る。

奴もそれには虚をつかれた様だ。

 

「まさか…名を呼ばれるとは思いもよらなかったよ。光栄だな」

 

「あ、あの…エミヤ先輩…ですか?」

 

「あぁ、そうか。マシュや藤丸とはある意味初対面だったな。私は衛宮士郎…キミ達が知る赤い外套の弓兵とは似て非なるモノ…とでも覚えてくれたまえ」

 

奴らが話に花を咲かせ始めた所で一度プロジェクトルームへ降りてみようと思った。

そもそもこの5年で部屋はなくなってしまっている可能性もあるが…

 

部屋を出、エレベーターを待つ…

 

「む、この我が汗を流している…だと?」

 

妙な悪寒を感じる。我の直感は間違いなく当たるのだ。このエレベーター…ナニカが乗っている

 

「……」

 

チンっ…と音を鳴らし扉が開く。開く速度があまりに遅く感じた。

 

その扉の奥に居たのは悪鬼の如き面構え、並み居る英雄共など比にするのも烏滸がましい程のオーラを漂わせた城ヶ崎美嘉。

 

「おぉ、美嘉。ライブごくろ「フンッ!!!」ごぉ……!?」

 

場を誤魔化そうと以前のように労いをかけた瞬間、跳ぶように美嘉が間合いを詰め腰に構えた腕を突きの如く的確に我の鳩尾にぶちかましてきた。

 

「ぐぅぅ…はぁ…はぁ…」

 

「あんたが帰ってきたら必ず一発はぶち込んでやるって決めてたの。はぁ、スッキリした」

 

憑き物が取れた顔をしこちらを見下ろす美嘉だが以前の様な乙女らしさは言葉の端から微塵も感じない。

 

「しかし先程の一撃…独学ではなかろう」

 

「うん、ギルガメッシュのお父さん? に5年間教えてもらったんだ。八極拳っての」

 

我の父だと…?

 

「ハッ、言峰か!!!」

 

「せーかいっ」

 

「ぬぐ……常人ならば死体の一つ出来ていてもおかしくないぞ…」

 

「アンタはタダの人間じゃないから大丈夫じゃん?」

 

それにアンタが居なくなった後、自分の身は自分で守れなきゃいけなかったしね? と呟く美嘉の顔は膝をつく我には見えんが…

5年の時は残酷なものか。あの初々しく可愛げのあった美嘉をこうも凶暴に成長させてしまうとは…何が原因なのだ

 

「はぁ…おかえり、プロデューサー」

 

「うむ…戻ったぞ美嘉」

 

溜息をつき肩を落とした後に見せたのは久しぶりに見た笑顔だったがな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時は既に日を跨ぎ深夜となっているがプロジェクトルームの灯は消えない。

 

「それでね、プロデューサー。アタシと莉嘉が一緒に映画に出たの!」

 

「ほぉ…それは興味深いな。アイドルとしてだけでなく役者としての仕事も始めたのか。いや、その素質は元々のモノか」

 

「最初は瑞樹さんがね? 主演をやる事になって…それがもう大評判で! 他の子も女優やってみないかって事になったんだ」

 

美嘉の口から話が尽きることは無く、この5年間どのような事をしてきたのか次々と話してゆく。その瞳には喜びと嬉しさが混じっているのだがギルガメッシュが気付くことは無い。

 

「ふっ…立派になったものだな美嘉よ」

 

「…へ?」

 

唐突な言葉に理解が追い付かず目を点にして固まる。仕方の無いことだ。何せ、あの傲慢で意地っ張りで何を考えているか分からなくて…そんなギルガメッシュが素直に自分を褒めた。

 

その一言を受けたくて。

その一言を聞きたくて。

ギルガメッシュの目に狂いはなかった、と思わせたくて。

 

ここまで頑張れた。

 

「うっ…うぅ……ずるいよぉ…」

 

別れても再会しても流さなかった涙が次々と溢れ止まらない。

 

「はっ、齢20を超えてると言うのに子供のように泣きじゃくりおって」

 

「う、煩いよ…!」

 

考えれば2度目だったかも知れない。ギルガメッシュの胸の暖かさを感じるのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、プロデューサーが他の子達からメタメタにされたり質問攻めされたり、アタシが揶揄われるのはまた別のお話。

 



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4人目は太陽みたいに鬱陶しい女

「ねー、ギルガメッシュ。最初は美嘉で、次は楓さんと瑞樹さん…その次は誰だったの?」

 

ギルガメッシュがカルデアから空間を引き裂き、無理矢理帰還してから早一ヶ月、事務所には以前の様な騒がしさ…もとい、事件が起きまくっている。

そんな日常のある日の事。

双葉杏は一番クーラーが効く部屋ということでギルガメッシュの自室でだらけていた。

 

「貴様、アイドルならばもう少しシャキッとしたらどうだ」

 

「はぁ…わかってないねぇ。5年前と違って杏は今や清楚系アイドルの頂点に立ってるんだよ。カリスマの美嘉、清楚の杏って呼ばれてるんだから」

 

「世間が狂ったか…」

 

「酷いこと言うなぁ…ま、仕事の時はギルガメッシュもシローも困らせないから許してよ」

 

それで4人目は誰だったの、と聞いてくる杏に対して思い返す事にした…4人目…

 

「あれは今日のように茹だるほど暑い夏であったな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「暑い…暑い………」

 

ジリジリと肌が焼けるような、英霊の癖に受肉なんぞしてしまった手前、この手の自然現象にはめっきり弱くなっている。

 

「ギルガメッシュくーん、次に暑いと言ったら3000円貰いますからねー」

 

「鬼め…大体、何故クーラーとやらを使わぬのだ!?」

 

「この前、壊れちゃったんですよねぇ…」

 

黄緑の上着を脱ぎシャツを腕まくりした状態で溜息をつくのは千川ちひろ。 いつもの余裕がある笑みは何処へやら、珍しく疲れきった顔をしている。

 

「なら修理をすればよい! 財政難でもあるまい」

 

「どっかの誰かが高層階のここの窓をぶち割ってしまって修繕に予想以上にお金がかかったみたいで暫く反省の意を込めて我慢しろ…と美城常務からの御達しです」

 

「誰だ、そんな事をした愚か者は…我が説教してやろう!」

 

鏡でも見てくださいねーと言葉を吐き捨てるちひろはいつに無く辛辣だったが、そんな事はお構い無しにギルガメッシュはプンスカと腹を立てている。

 

「そんなに我慢出来ないようなら外にスカウトでもしに行ったらどうです?」

 

「馬鹿め、暑いのにわざわざ外に出る阿呆がどこに……いや、待てそうか外にはクーラーが効く施設が沢山あるからそこでサボってこいと、ちひろ…貴様はそう言いたいのだな!」

 

 

では早速行ってこようッ!! バリーン

 

「また……ふ、ふふふ…帰ってきたら覚えておいてくださいね…」

 

怨嗟の声か、はたまた呪詛か。ゾクリと背筋に感じたソレにギルガメッシュは非常に嫌な予感がしたのだが… まぁ、何とかなるだろ。の精神で事務所からグングンと離れて行きクーラーが効いている施設を探す事にした。

しかし時刻は昼少し前、何処も彼処も人、人、人で溢れかえり王の不快指数は極限まで上り詰めている。

 

「いっその事、エアでサラ地にしてしまうか……いや振るうのも面倒な暑さだな…」

 

夏の暑さが街一つを危険に晒し、同時に守ったことになる。

 

「何処の店も入れぬのならば…昔の知恵だ。河川へと行けば多少なり涼しいだろう」

 

周りの目など気にするか、とばかりにギルガメッシュは地を蹴り高層ビルの屋上へと一気に跳躍し、ビルからビルへ渡り飛び河川を目指す事にした。

 

 

 

 

日差しは暑いものの風が出てきた為か心地よく、子供たちの遊び声が聴こえてくる。

 

「平和なものよ…」

 

戯れる天使の様な童達を特に何も考えずに眺めている英雄王ははたから見たらタダの不審者なのだが顔立ちの良さから誰も警察を呼ばない。武内とは大違いである。

 

 

ボンバーーーーーー マダマダイキマスヨォォォォ

 

 

さて、ちひろはスカウトと言っていたが我の目に適う人材は居るだろうか。 居なかった…などと手ぶらで帰っては奴がなんと言うか分かったものじゃない。

王の財宝から酒を引っ張り出し飲みながら考えるとしよう。

 

 

ウォォォォォマダマダァァァァァ!!!!!!

 

 

「………」

 

 

ボンバァァァァァァァァァアアア!!!!!!!!!!!!

 

 

「鬱陶しいぞ戯けェェェ!!!!!!」

 

川を挟んで反対に居る女が先程から叫びながら右に左に走っている。

折角ののどかな雰囲気が台無しではないか。 我慢の限界を超え全開で怒鳴ったギルガメッシュはゼーゼーと肩で息をしながら件の人物を睨みつける。

 

 

オニーサン コエオオキイデスネ!!! マケテラレマセン!!!

ボンバァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアア!!!!!!

 

「クソ、埒が明かん…」

 

阿呆を黙らせ子ども達の平穏を取り戻すのも王の勤め、などと考えながら川を飛び越え走り込む少女の目の前に着陸し仁王立ちで向き直る。

 

「おい、貴様…暑苦しいぞ場所を考…「うぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!」 がふぅ!?」

 

少女が止まることはなく英雄王ギルガメッシュをタックル一つで吹き飛ばした。

 

(こやつ、まさかサーヴァント…ではないな…)

 

セイバーもビックリなほどの一撃に一瞬血迷うがすぐに思考を取り戻し腹部に埋もれジタバタしている少女の首根っこを掴み引き上げるとハッ、とし顔になり…

 

「おにーさん大丈夫ですか!?」

「貴様が突っ込んで来なければ何ともなかったわ阿呆!」

 

何処かズレている少女にイライラしながら見つめていると…幼い顔ながらも整った顔立ちに好みではないが程よいスタイル。 声に関しては煩いモノの良い声をしており文句はない。 それにあれほど走りながら叫べるスタミナは驚異的だろう。

 

「お詫びを! せめてお詫びをさせてください!!」

「よし、ではアイドルになれ」

「はい!!! ………はい?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…え、終わり?」

「終わりだが?」

 

本当にこの人はノリと勢いでスカウトしてるんじゃないか。 しかしノリと勢いの割には彼が目をかけスカウトされたアイドルは軒並み桁外れに売れている。

うーむ、王様ミステリー…

そう言えば、自分もギルガメッシュに合格にしてもらったんだっけ? と首をひねりながらゴロゴロしている杏に対しギルガメッシュは眉を顰め口を開いた。

 

「…この身が焼けるオーラ…来るぞ」

「へ?」

「プロデューサー!!! お仕事終わりましたぁぁぁ!!」

 

ドカーン! と音を鳴らしてドアが変な方向にひん曲げ入室してきたのは4人目にスカウトしたアイドル…日野茜だった。

 

「貴様は一々扉を壊さんと入ってこれないのか!」

「アンタは一々窓を割らなきゃ外に出られないのかギルガメッシュ。 戻ったぞ」

「何のことかわからぬな衛宮。 我がルールだ」

 

ゲンナリしながらも報告書をギルガメッシュのデスクに上げるあたりシローの苦労さがよく分かる。そもそもギルガメッシュが居なくなってから武内プロデューサーとシローは来る日も来る日も働き皆に仕事を割り当てたりついて行ったり大忙しだった。 その辺りから杏も休みが欲しい! とは言わなくなったのだが…自分では気が付いていない。

 

「今日のお仕事楽しかったです!!」

「それは良かったな。 してそれを言う為だけに来たのか?」

「はい!!!!!」

 

単に久々にギルガメッシュと話がしたいだけなんだろーなぁ…と思い杏は這う這うながらシローと二人で部屋を出る事にした。 部屋からは暫く笑いと怒号が絶えなかったようだった。

 

 



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超番外 王の戦い
Over Turn


お久しぶりです。何となく思いついた超絶番外編です。

シンデレラのクロスなのに『シンデレラ』のアイドル達は一切出ません。あしからず

もしかしたら続くかも?


セイバーに敗れ現界も保てなくなった肉体から意識を手放した英雄王の聖杯への帰り道のことだ。

負けた、そんなたった一つの出来事が彼の心を満たした。自然と零れる笑みだったが不意に残してきた彼女達を思い出す。

 

「はっ、我も丸くなったものよな」

 

言い訳のつもりか、誰も居ない世界に吐き捨てた言葉。

 

「む、分かれ道…だと?」

 

どちらかは聖杯へと戻る正しい道、ならばもう片方は何処へ繋がるか…

暫し考え込んだ英雄王は友に任せる事にした。

 

「天の鎖よ、どちらに行けば愉しいと思う」

『 』

「そうか、なればそうしよう」

 

王は一息笑うと右の道へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これは」

王が目にした世界は彼女達アイドルと共に生活した世界と寸分違わぬ時代である事は目に見えて分かった。違う所を上げるとすれば、所々のビルが倒壊し人々が悲鳴を上げ逃げ惑っているところか。

全く同じ世界で何かあったか。 それともただの似た世界か。

 

「何用だ? 我は今、考え事をしてるのだ。邪魔だてをするならば死を見るぞ娘」

 

異様な闘気を纏った娘、美嘉達と同じぐらいだろうか。 英雄王を目の前にしても殺気を収めず1歩、また1歩と近付いてくる。

刹那、少女の姿はブレ、残像を残しながらギルガメッシュの懐へと潜り込み、その手に握った一振りの剣を振るった。

 

「戯け、欠伸が出るわ」

 

振り切った。そう確信した一線は王の2本の指にしっかりと摘まれ微動だにしない。 つまらなさそうに欠伸をしたギルガメッシュはお返しとばかりに一撃。蹴りを叩き込み少女の身体は吹き飛んでビルを瓦解させる。

 

「ちっ…生きているな」

「私に……切れぬものは…ない…」

「はっ、我を切れなかったようだが?」

 

瓦礫の雨の中、少女は立ち上がり降り注ぐ瓦礫を次々に木っ端微塵に斬り刻んでいく。その剣速は徐々に速まり、最後の一刀に至っては神速の域まで達している。

 

「………切る」

「少しは…愉しませろ雑種ゥ!!!」

 

距離を感じさせぬ殺気と剣の一撃は10数メートル離れているギルガメッシュに飛ぶ斬撃となり襲い掛かるのだが全てを最小限の動きで交わしていく。 一つの斬撃がギルガメッシュの足元へと落ち砂煙を巻き上げた。

 

「目眩しのつもりか」

 

砂煙の中から尚も飛んでくる斬撃を避けるもザワりと、背筋に何か感じたことの無い感覚が走る…

 

ギィィィン!!!!!!!!

 

高音を響かせた正体は黄金の剣と黒の刀。

背後からの奇襲。 少女の身体は人の身を超える稼働をし至る所から血を吹き出しながらギルガメッシュに襲い掛かる。

 

「我に剣を抜かせるなど…フハッ…フハハハハハハハハハ!!!!! 存外やるではないか!! 良い良いぞっ、名を名乗る事を許そうではないかっ」

「…我が名はダークセーラー…我がデストル刀に…切れぬものは無し…!!」

 

豪快に笑い飛ばしたギルガメッシュは鍔迫り合いの状態から少女の周囲に黄金の波紋を生み出し容赦なく破壊を打ち込んでいく。

対するダークセーラーは忌々しい青い雑種犬に匹敵する驚異的な速度で後退し王の財宝からの連撃を躱し弾き凌いでいく。

その様は人間ではなく歴戦の英霊に近しく並大抵の英霊すら歯牙にも掛けぬ程だ。

 

「よし、興が乗った!! 貴様は我が殺してやろうではないかっ」

 

満面の笑みを見せ王の財宝から黄金の双剣を引き抜こうと手を伸ばした時、王の腕は薔薇のムチで締めあげられた。

 

「そこまでですよぉ…デストルドー。 バインドウィップからは逃げられません…っ」

「紗代子ちゃん!!」

「ジェットウルフも到着だぞっ! ってどうなんてるんだー?」

 

色とりどりかしましい娘共が現れあれよあれよ状況が変わっていく。ダークセーラー自身も好機と姿を眩ませた。撤退したのだろう。

 

 

 

それにしても…だ。我を見下しあまつさえムチなんぞで縛り上げるとは……………………………………………

 

 

 

 

 

 

「よい度胸を……しているなッ!!!」

「なっ…!?」

 

ムチが絡みついた腕を強引に引きバインドウィップと名乗った彼女を宙から引き摺り落とすとそのまま地面に叩きつける。

 

「バインドウィップっ!! よくもっ『超はやいパンチ』ッッッ」

 

宙を蹴り駆け寄ってきた幼子の拳は確かに早い…が。

 

「ちっ…」

 

以前の世界で触れ合った…橘ありすを思い出し殴り飛ばそうと握った拳を解き、ジェットウルフの額にキツいデコピンをかまして吹き飛ばした。

 

「2人ともッ!? このマイティセーラーが相手よ…デストルドー!!!」

「我をあの娘の仲間とでも思っているのか? やれやれ…仕方あるまい………こい、雑種共!! 格の違いを見せてやろう!!!」

 

崩壊した街の中央に君臨するは黄金の王。

 

たった1人の戦争が今始まる



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番外
AUOペイ


「時代の波に乗り遅れる我ではないわ! 今の時代、支払いはこのAUOペイよ! 」

 

フッハッハッハッハッ!!! と、若干耳障りな高笑いと共に英雄王ギルガメッシュが煌びやかな店内でスマホを掲げている。

…そんな、映像が都内の至る所の大型ビジョンでCMとして流されていた。

 

美嘉や凛は呆然とした。

必ず、かの自由気ままの王を何とかせねばと決意した。

いや、そもそもだ。何故プロデューサーである彼がCMに出ているんだろうか?

大方、私達の仕事を取りに出掛けてあれよあれよという間に自分が主演を飾ってしまったとかその程度のお話なのだろうけど。

 

 

さて、そのプロデューサーことギルガメッシュと言えばだ。

俗世に染まり過ぎたことも気が付かずに今日もコンビニでアイスを買っている。

 

「人間は脆弱になった、とは思ったがこのコンクリートジャングルの熱に耐えれるあたりは凄まじいかもしれんな」

 

超リッチアイスを手に取りレジに並ぶと目の前の小娘はカゴに多くの菓子類を入れており長々とレジに時間をかけていた。

ちっ、アイスが溶けるではないか! 何をちんたらやっているのだ。 そんな器の小さいことを思いながらも待ち続けていると前に居るやけに整った顔をした小娘はこちらに気が付いたようで振り向き微笑みながらヌカしおった。

 

「財布ないわ」

 

 

 

 

 

「いやぁ、助かった」

 

「ふん、王の気まぐれよ。 感謝するがいい」

 

先程、我のAUOペイで事なきを得た小娘が何故か後ろを着いてきた。

 

「それで貴様は何故付いてきている」

 

「わからないね」

 

イラッとしたのは言うまでも無い。

一ノ瀬志希や宮本フレデリカなど自分の周りに居る小娘はどうにも頭の何処かが外れている気がしてならないのだが、件の財布なし娘も特に気にした様子もなくギルガメッシュの横に腰をかけてお菓子を食べているのでヤツらと同類だと結論付けた。

会話もなくただただ、互いに何かを食しているだけの異質な空気。

2人とも見てくれはいい為に遠目から見たら美男美女が並びデートをしているようにしか見えないし、現に勘違いをしてパニクっている人物も居た。

 

「あわわわ…り、凛! あれ!あれ!」

 

「いい加減慣れなよ美嘉…あいつに限ってそういうのあると思ってるの?」

 

「でも、今度こそって事ない!?」

 

「ないと思う」

 

「貴様らは何をしてる」

 

「何ってそりゃプロデューサーをたまたま見かけたから後を付けようと」

 

「ストーカー?」

 

「違うから! って、プロデューサーと…誰?」

 

唐突にギルガメッシュに声をかけられた美嘉はすんなりと答え、2人の姿に目を点にする。

いつの間にバレたんだろうか…そしてこの女性は誰なのだろうか…

 

「んー、私は私だよ」

 

「そうじゃなくて…」

 

「そろそろ行かなくちゃ。 じゃあね…あ、あとその子にもよろしく言っといて」

 

手を振りながらお菓子が詰まったレジ袋を片手に引っ提げて公園から出ていく姿はまさに自由人というか不思議ちゃんというか。

かの英雄王たるギルガメッシュですら後に彼女のことを「なんだったのだアイツは」と語る程だ。

そんな不思議な出会いはさて置き、最近の彼の露出を問いたださなければなるまい。

 

「ところでプロデューサー。 最近やたらテレビに出てない?」

 

「当たり前であろう。王たるもの民草の前に姿を現さなければ不信と不満を与えてしまうものだ」

 

「いや、何言ってるか分からないから」

 

「顔がいいからな」

 

「言ったよ。この人自分で言っちゃったよ!」

 

「悔しければ貴様らも名指しで仕事を貰えるように励むことだな! フハハハハハっ!!!」

 

「他にどんな仕事してたの?」

 

「CMを数本に雑誌の表紙、ポスター撮影など一日に何度かこなして来たわ!」

 

もうこの人プロデューサー辞めて俳優とかになった方が…ダメだ、業界の人達が軒並み胃を痛める未来しか見えない。

でもプロデューサーが辞めちゃったら…自分も嫌だとモジモジし始めた美嘉をなんだコイツという顔をするギルガメッシュとまた始まったと呆れる凛。

 

「ところで凪はいつ挨拶をすればいいのでしょうか」

 

いつの間に現れたのか。ギルガメッシュの背中からヒョコッと顔を出すように現れた銀髪の少女はジーッと凛と美嘉を見つめている。

 

「貴様、いつの間に来たのだ?」

 

「Pが女の子にPpayをしたあたりから後ろに。先程もよろしく言われてましたよ凪」

 

「貴様の隠密具合にはまゆもビックリであろうよ。 という事で、新たなアイドルだ。 貴様らは先達としてしかと導くことだ」

 

「いやいやいや、急に!?」

 

「相変わらず唐突だねあんたって…」

 

「わーお。歓迎されてませんね」

 

「あ、いや違うよ? 凪ちゃんは大歓迎だけどプロデューサーの事は一回殴らないといけない気がするんだ★」

 

「王を殴るというのか無礼者め」

 

笑顔で拳を握る美嘉の脳天に手刀を落とす。

もちろん十二分に手加減をしてだが。

 

「という事でそやつは任せたぞ」

 

アイスの当たり棒を見て交換に行かねばなるまいと呟き、袋に入っていた残りのアイスを美嘉も凛に手渡し、手を軽く振ってショートカットとばかりに近くのビルの上へと飛び上がる。

人外の動きを見せられてもまぁギルガメッシュだし…と諦めている美嘉と凛は任せたと言われたし先程の凪という少女を事務所に招こうとしたのだが…

 

「あれ? さっきの子は?」

 

「…消えた?」

 

 

 

 

「はいよーPー」

 

「むっ、貴様いつの間に背中に引っ付いていた」

 

「凪が羽根のように軽いから気が付かなかったと」

 

「ふん、我からすれば誰もが羽根のように吹けば飛ぶ軽さよ」

 

ピッタリと背中に張り付いている凪の言葉に高らかに笑いながら次々とビルを飛び移り、川を超え駄菓子屋へと辿り着いた。

ギルガメッシュはそうそうに当たり棒を新たなアイスに引き換えて咥えている。

凪はそのギルガメッシュの片手にカゴを持たせてどんどんと駄菓子を詰めていった。遠慮というものを知らないらしい。

 

「仕方あるまい。我の奢りよ。好きなだけ買え」

 

「流石は凪とはーちゃんのプロデューサーですね。 これは箱買いしていきましょう」

 

「ほう美味いのか?」

 

「チョコといえば黒い雷が最近の流行りです」

 

「貴様、適当なことをサラサラと言葉にしていないか?」

 

余った菓子は事務所の幼年組に分ければ良いか、と細かい事を考えるのはやめた王であった。

 

「店主! 支払いはAUOpayで頼もう!」

 

「うち、現金だけです」

 

「む、そうか?ならば領収書を。名は千川ちひろで」



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