Fate/CrazyRed (仲人)
しおりを挟む

最狂の英霊

デッドプールがひたすら迷惑する話が書きたいです。


日本の某所にある冬木、その街の商店街を白髪の少女が駆けていく。そして、それを追う黒いコートを着た男性。

 

「キリツグー、早く来ないと置いていっちゃうよ!」

 

「はいはい、全くお転婆なお姫様だな」

 

少女は紫のコートを羽織り、初めて見る物ばかりの為か興奮しきりのようだ。

透き通るような白い肌と真っ赤な瞳、その整った容姿から御伽噺から飛び出して来たのかと思う様な印象を受ける。

それとは反対に、少女からキリツグと呼ばれた男はコートから何から黒一色の地味な日本人であった。

 

傍から見れば異色過ぎる組み合わせであったが、どこか親子の触れ合いにも思える光景に待ちゆく人は微笑みを浮かべていた。

 

だがしかし、そんな二人の出会いは散々な物であった。それは数ヶ月前に遡る。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

デッドプールは今、宙を舞っている。正確には首が胴体からオサラバしてるのだが。

理由は単純明快だ、少女の側に立つ白い服の女が振るったハルバードの一閃により、切り離されたのだ。

 

そのまま地に落ち転がる頭、それを真っ赤な顔で睨みつける銀髪の少女。普通の人間ならば嘔吐待ったなしの現場であるにも関わらず、少女は怒り心頭といった面持ちのままだ。

暫しの静寂の後、転がり落ちた生首が突如として叫び声をあげる。

 

「おうコラ、テメェ人がせっかく久しぶりに休めたからオ〇ニー楽しんでたっつーのになに出会い頭に首チョンパしてくれてんだよ!?イク前に逝っちまうぞあぁん!?」

 

「な、生首なのに喋った…?って言うか、なんでヘラクレスじゃ無くて何処の馬の骨かも分からない男が召喚されたのよ!」

 

残された胴体はハート柄のトランクス一枚の姿で、股間部からはイチモツがこんにちはしていた。

 

「知るかバーカ!それよりそこの身体に俺ちゃんの頭乗せろよ、さっさと一発ヌいちまうか───」

 

生首の言葉を遮る様に振り下ろされたハルバード、スイカ割りよろしく縦割りにされる頭部。

 

「イリヤを馬鹿にする奴、許さない」

 

「OKOK、一先ず落ち着こうぜ、な?パンツ直したいから乗っけて頂けませんかね?」

 

「……リズ、仕方ないから乗せてやって」

 

イリヤと呼ばれた少女が女性に指示を出すと、不承不承ながらも割られた頭を首に乗せる。

すると、割れた筈の頭蓋や溢れた中身は瞬時に再生し、元の形へと戻っていく。念願の再会にデッドプールは一息吐くと、既に萎れたイチモツをパンツにしまいつつ、今現在手にいれた情報を頭の中で整理する。

 

(イリヤ…ヘラクレス…召喚。あ、Fateかコレ!)

 

「あー、お嬢ちゃん。差し支えなきゃ教えて欲しいんだけんどもよ、これって聖杯戦争でサーヴァント呼び出そうとしたの?」

 

「そうよ、わざわざヘラクレス縁の品まで用意したのにとんだハズレを引いちゃったわ」

 

「んぁー、イリヤちゃんよ。今って西暦何年?」

 

「えっと…2004年だったかしら。それが何か召喚失敗と関係してるの?」

 

「いや全く、つかそんな昔に召喚されても俺ちゃん知名度この頃本土でしか高くねぇぞ…せめてアメリカで聖杯戦争してればなぁ」

 

何ぶつくさ言ってるんだ的なイリヤの視線を無視しつつ、いつもの赤と黒のコスチュームを着ていくデッドプール。

更に二本の刀を背負い、腰にはテレポート機能付きのベルトを装着する。身支度が済めば思い出したかの様に振り返り、膝を曲げ目線を合わせる。

 

「えーっと、それで俺ちゃんと契約はするのか?」

 

「…本当は嫌だけど、再召喚の儀は難しいかも知れないから結んであげるわ」

 

こうして最強のマスターと最狂のサーヴァントのタッグが誕生する事となった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

所変わって冬木市郊外に存在するアインツベルンの森。

大昔にアインツベルンに買い取られた広大な森の中を、イリヤを肩車したキリツグが歩いていた。

 

「それで、これからどうするの?」

 

「聖杯戦争が始まり次第衛宮士郎と遠坂凛の二人に接触、そのまま同盟結んで他陣営とも手を組めたら組むんだ」

 

キリツグの言葉にふむふむと頷いて見せるイリヤ。キリツグはそのまま話を続ける。

 

「だがまぁ…一先ず厄介なのはランサーだな。原作でも何だかんだ最後まで残ってたし何より対一じゃ俺ちゃんでも勝てるか分からん」

 

「つまり、同盟を組んだら真っ先にランサーを叩くべきなのね」

 

「そうなるな、十中八九その裏にマスターの親父を殺した原因を作った腹黒神父も居るしな」

 

キリツグのその言葉にイリヤは少しばかり暗い表情になる。日本に来る前にアハト翁すら知らなかった情報も全てバーサーカーであるデッドプールから教えられたのだ。

 

曰く、冬木の聖杯はこの世すべての悪により汚染されている。

 

曰く、キリツグは最後までイリヤを取り戻そうとしていた。

 

曰く、言峰綺礼こそ真の仇である。

 

最初の内は信じられずにいたが、アハト翁に問い質したところ確かにキリツグは来ていたと言われ、イリヤはキリツグに対する恨みが霧散するのを感じた。

捨てられた訳では無かった、その事が何よりも嬉しくそしてアハト翁に対する怒りが湧き上がる。

 

だがその怒りをぶつけようにも力の差は歴然、どうする事も出来ずにいたがバーサーカーは違った。

アハト翁に対してイリヤの聖杯としての機能を他のホムンクルスに移す事を求めたのだ。それに対してアハト翁は頑として拒んだが、バーサーカーの耳打ちした言葉を聞くと青ざめながら了承した。

 

後ほど聞いた話によると、『アハト翁の胡桃をもぎもぎしてからもぐもぐさせる、自分は幾ら殺されようがやると決めたらやる男だ』と脅したらしい。危うくアハト翁はアハト婆になる所だったようだ。

 

そして、日本に発つ前にイリヤの機能は他のホムンクルスに移され、傍付きのメイドであるリズらと共にアインツベルン城へと運ばれた。

因みにバーサーカーがそのホムンクルスを見た時、ダッチワイフみたいだと呟いていたがイリヤはその言葉の意味を知らず、流されたが知っていれば恐らくバーサーカーの尻に蹴りが放たれた事は想像に難しくない。

 

斯くして、晴れて自由の身になったイリヤはこうして日本へと赴いたのだ。今のイリヤの胸の内にあるものは二つ、一つはまだ見ぬ弟である士郎と会いキリツグとの思い出を聞く事。もう一つはキリツグの仇である言峰綺礼を倒す事。

 

その二つの思いを胸に幼くして最強のマスターと呼ばれるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは聖杯戦争へと挑む決意を固めていた。操るは最狂のバーサーカー、そのバーサーカーの胸中には呼び出されるであろう紫色のライダーの胸に対する期待が渦巻いていた。

 

イレギュラーであるデッドプールが招くのは、果たして如何なる終わりなのか…今はまだ誰も知らない。




デッドプールの宝具

何事もまずは形から【クレイジードッペル】

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1

デッドプールの知識の中にある姿に変身する。一日に一度の制約があるものの、解除する迄は如何なる看破術も受け付けない。
また、英霊等に化けた場合はその英霊の持つ宝具を一つだけ使用可能。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂宴の始まり

伏線とか色々張りたいけど、語彙力が無い故に難しいです。


「ふふふ、流石のバーサーカーも私とリズの二人には勝てないみたいね」

 

「イリヤ、次はそこに刺す」

 

「きったねーぞ!二人がかりで…ちょ、止めっ!アーッ!」

 

───シュコン!

 

見事に打ち上げられた黒ひげ人形──エドワードではない──が床に転がる。三人は今黒ひげ危機一発で遊んでいたのだ。

理由は簡単、ただただ暇だったからである。

 

冬木市に着いてから数週間が経ったものの、未だ他陣営に動きは無い。おまけに情報収集をしようにもイリヤもリズも目立つ容姿であり、バーサーカーはそもそも動くつもりが無かった。

時代は化学が進歩しており、少なからずパソコン等も普及しているのだ。それなのにわざわざ出歩いて危険に身を晒す位ならいっそ引きこもってそういった類の物に頼ろう、といった結論に至った為だ。

 

結果として、日がな一日遊び呆けるイリヤとバーサーカーとリズ。それに対して小言を漏らすセラと言うのが最近のアインツベルン城での日常風景だった。

 

「だぁー、クソ!また俺ちゃんの負けかよ…名前負けも良いとこじゃねぇか」

 

「バーサーカー、言葉が汚いです」

 

「へいへい、気ぃつけまーす」

 

黒ひげ危機一発を片づけながら悪態をつくバーサーカーにセラの小言が飛んでくるが、それを適当にあしらいながらバーサーカーは立ち上がった。

 

「バーサーカー、どこ行くの?」

 

「ちょっくら視察、俺ちゃんが帰って来るまでに罰ゲームでも何でも考えときな」

 

普段ならば拠点で、といつも口にしていたバーサーカーが腰を上げた。その事に少しばかり違和感を感じつつもイリヤはその姿を見送った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

デッドプールは普段の赤いタイツ姿では無く、衛宮切嗣の姿へと変わっていた。死せずして英霊として喚ばれた影響からか霊体化が出来ないため、わざわざ姿を変えないと出歩く事すら難しい。

街中を歩きながらデッドプールはこの世界についての情報を改めて脳内で整理していく。

 

調べて分かった重大な事実が一つある、この世界にはアメコミが存在しない。

理由は分からないが、幾ら調べてもスパイダーマンやアイアンマンといった単語が見つからないのだ。つまり、信仰や信奉といった英霊達の力の源が得られない。

だが逆を返せば、弱点や真名を暴かれる心配も皆無に等しいと言う事にもなる。それがメリットとなるかデメリットとなるかは現状分からないが、少なからず原作知識というアドバンテージがある自分はまだ有利だと信じていた。

 

そうこうしている内にデッドプールは、日本に来た当初に訪れた商店街へと来ていた。漫画やアニメ等で見た事はあったが実物を見るのは初めてであった。

 

(アメリカじゃこんな場所無ぇからな、興味はあるけど今は情報収集が先だな…)

 

そんな事を考えつつ歩を進めていると、とある店先から飛び出して来た少女とぶつかってしまった。

 

「うぉっと、大丈──」

 

「はい、平気です。こちらこそすみません…慌てていたものですから」

 

デッドプールもといキリツグは言葉に詰まる。謝罪してきた少女、間桐桜をじっと見つめたまま固まってしまっていた。

予定外の接触に頭を回転させるものの、とりあえず良い案も浮かばなかったためにその場を離れようとする。

だが、そんなキリツグを見て桜は呼び止める。

 

「あ、あの!服にアイスクリームが!」

 

「うぇ?あ、あー…」

 

こうして、キリツグはラスボス候補の一人との邂逅を果たすのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

喫茶店の席に向かい合って座る少女と男、互いに何も喋らず沈黙したまま彼此数十分は経っている。目の前に置かれた熱かった筈の珈琲は既に冷たくなっていた。

 

(ヤベェ、迂闊に聖杯戦争の事とか喋れねぇからなんて言えばいいのか分からん!)

 

キリツグの内心は先程から嵐の如く乱れていた。服の弁償がしたいからと引き止められ、一度は断ったものの桜が頑として引かずそのままずるずるとこの店に連れて来られたのだ。

どうやって現状を切り抜けたものかと思考を巡らせていると、不意に桜が口を開いた。

 

「あの、お名前を伺っても宜しいですか?」

 

今更な質問ではあったが確かに今の今まで自分は名前を口にしていなかった。別に金さえ受け取れば話す必要も無いのだろうが、キリツグの顔で金を少女から受け取るのは些か気が引けた。

何よりイリヤがキリツグの顔で変な事をするなと口酸っぱく注意するものだから、尚のこと桜に対して無碍に対応出来ずにいたのである。

 

「…黒田、です」

 

「黒田さん、ですか」

 

ぱっと名前が浮かばず、適当に黒一色だから黒田。一先ずはそれで通そうと思い名前を述べた。

その後は桜からの質問に対して適当に答えつつ、頃合を見て席を立つ。後日またこの喫茶店で、との言葉に頷いて見せれば珈琲の代金を支払って店を後にした。

 

数日後、再度あの喫茶店の前に立ち寄ったキリツグは桜から綺麗に仕上がったコートを受け取る。そのまま雑談を交わしながらふと桜の手を見れば、其処には刺青のような物があった。

キリツグは胸中で遂に来たか、とぼやきながら何気ない風に装いつつ問いかける。

 

「おや、桜ちゃん…それは?」

 

「あ、コレは…その」

 

言い淀む桜に対して言えない事ならば構わない、と返せばキリツグは緩く笑みを浮かべた。桜もその言葉に一つ会釈を返せば、踵を返して足早に去って行った。

その姿を見送りつつキリツグは気を引き締め直す。記憶が確かならば残るサーヴァントはランサーとアサシン、そして同盟を組むべきアーチャーとセイバーの筈である。

 

つまり、間も無く聖杯戦争の火蓋が切られた事になる。その事にキリツグは楽しみ半分面倒臭さ半分といった面持ちで帰路へとついた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

言峰教会へと続く坂道を、赤服のツインテールの少女と赤髪の少年、更に黄色い雨合羽を着た少女?が下っていた。

 

「でもまさか、衛宮君が最後のマスターだとは未だに信じられないわね…おまけにセイバーを引き当てるなんて」

 

「そんな事言われてもな…俺だってまだ心の整理が追い付いてないんだ」

 

ツインテールの少女と赤髪の少年は言葉を交わしながら道を進む。一方その後ろをついて歩く少女は黙ったままだった。

しかし、そんな少女が不意に二人の前に飛び出し庇うかのように立ちふさがる。

 

「どうかしたのか、セイバー」

 

「この気配…サーヴァントです。士郎、凛、戦う準備を」

 

ただならぬ気配に三人は身構える、すると路地から人影が二つ現れる。一人は子供、一人は大人程の大きさで、街灯に照らされたその姿を確認した瞬間、セイバーと呼ばれた少女と士郎と呼ばれた少年は同時に叫ぶ。

 

「キリツグ!?」「親父!?」

 

視線の先に佇むのは、セイバーにとって苦い思い出の男であり、士郎にとっては大切なたった一人の親である男──衛宮切嗣。

その居るはずの無い者の登場に困惑し、未だ動けずにいた二人とは反対に、初対面であるツインテールの少女──凛は問いかける。

 

「貴方、衛宮君のお父さんなんですか?」

 

「違うよ、もうキリツグは居ない人。これはバーサーカーが化けてるだけ」

 

その問いに紫色の服の少女が答えた。その答えに三人は瞠目する。

 

「バーサーカー…サーヴァント!?」

 

「くっ、逃げて下さい!」

 

凛の言葉に続いてセイバーが声を荒げる。士郎と凛の二人はすぐ様来た道を引き返そうとしたが、気が付けば眼前にはバーサーカーである衛宮切嗣が立っていた。

振り返ると先程まで居たはずの場所にバーサーカーは居らず、幻影などでは無いという事が分かる。つまりはセイバーすら追えない速度で動いて見せた、と言う訳だ。

 

───そんな化物相手にどう戦う?

 

士郎と凛の頭の中ではそんな思考が渦巻き、殺されると警鐘を鳴らしている。

そんな二人の事を気にする風も無く、バーサーカーが口を開いた。

 

「よぉ、ちっぱい騎士王様。それに絶倫朴念仁とアカイアクマ、とりあえず俺ちゃん達と手ぇ組まねぇか?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

弓なんか飾りです

ようやくアーチャーの登場


目の前のバーサーカーと言われた男の言葉を頭の中で反芻する。

 

明らかに実力で言えばあちらが上、であるにも関わらず手を組みたいとはどういう事か。

おまけにバーサーカーとはその理性を代償に、ステータスの強化を図るクラスである。意思の疎通が可能なバーサーカーとは何者なのか。

 

次々に疑問が湧き出ては新たな疑問に塗り替えられ、結果として問いに対する答えは口に出来ずにいた。そんな二人に対してバーサーカーは再度言葉を投げかける。

 

「おいおい、口縫いつけられたみたいに黙りこくっちまってどうしたよ?次は目からビームか?手から鋼鉄の爪でもはえるってか?」

 

ケタケタと笑いながらバーサーカーは身を翻す。

するとその姿は今までの士郎やセイバーの知るキリツグでは無く、赤と黒の全身タイツに変わってしまっていた。

一見すると日曜の朝などにやっているヒーロー番組に出てきそうな姿ではあるが、しかしながらこの年でそんな物を見る筈の無い士郎と凛は未だ黙ったままだ。

そんな二人を見かねてか、セイバーが口を開く。

 

「バーサーカー、貴方は何故我々と手を組もうと思い至ったのですか?こちらとしても、明確な目的の見えない罠かも知れぬ同盟は結びたくありません」

 

「なるほどなるほど、確かに騎士王様の言う事も一理あるな。んじゃまぁ…信じる信じないは別にしてお前らに話をしてやるよ」

 

そこから語られた話は俄には信じ難い物だった。

今回執り行われる聖杯戦争の結末、セイバーとバーサーカー、アーチャーを除く召喚されるサーヴァントの真名、大聖杯の内部に潜むアンリマユ(この世全ての悪)

そして、バーサーカーは大聖杯の破壊を目的とし、全サーヴァントと手を組むつもりだとも告げる。

それら全ての情報を開示したバーサーカーは、首を傾げながら改めて問いかける。

 

「さぁ、どうする?こっちは攻略本片手にゲームスタート、おまけに倒す必要はないと来てる…説得するだけの簡単なお仕事だぜ」

 

「…その、イマイチ信じきれないんだけど」

 

「だーもう、煮えきらねぇ奴らだな!もうこうなりゃ最終手段だ!」

 

士郎の言葉を聞き両手を上げて叫ぶバーサーカー。よもや戦闘かとセイバーが立ち塞がるも、その心配は稀有に終わる。

バーサーカーはその膝を曲げ地面につけると、そのまま両手と共に頭を下げる。その姿は正しく土下座であった。

 

その姿に仕方無く折れた士郎と凛の二人はバーサーカーを立たせ、一旦士郎の屋敷へと戻りはじめた。

道すがら互いに自己紹介を済ませ、帰宅すると衛宮邸はランサーに襲われたとは思えない程傷一つ無かった。

 

「あーん?あの青タイツ野郎士郎のトコに来てないのか?」

 

バーサーカーの呟きに対して士郎が首を傾げながら聞き返す。

 

「青タイツ…?」

 

「さっき言ってたランサーのサーヴァントだよ、青いタイツ着てたろ?赤い槍持ってさ」

 

「あ、あぁ…確かに赤い槍を持った奴には学校で襲われた。ただ、青じゃなくてえんじ色だったぞ?」

 

「…はいぃ?」

 

「えんじ色の服に、赤い槍を持った女の人だったな」

 

バーサーカーは記憶の中を辿る。

赤い槍を持った女のランサー、えんじ色の服──即ち。

 

「馬ッ鹿じゃねぇのか!あの脳筋女ァ!」

 

バーサーカーの魂の叫びが木霊した。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

所変わって寂れた洋館。

此処は嘗て行われた聖杯戦争の折に建てられた双子館なる建物、その屋内に佇む人影が一つあった。

月明かりに照らされた姿は美麗な男の様にも見えたが、しかしその胸元がその答えを否定する。

その直後、新たな気配と共にもう一つの槍を携えた人影が現れた。こちらは絶世と謳われても何ら遜色ない程の美女である。

二人は月明かりが射し込む室内に並び立つと、静かに言葉を交わす。

 

「首尾は?」

 

「お主の言う通り、他陣営に対して少しばかり手出ししてきたぞ。途中見知らぬ小僧に要らぬ世話もかけさせられたがな」

 

「殺したのですか?」

 

「運が悪ければ死ぬだろう、急いていたので確認はしておらん」

 

淡々と交わされる会話の中に、殺されたかも知れない少年へと謝辞など込められていない。あくまでこの二人は聖杯戦争を勝ち残る為に、己が願いの為に戦っているのだ。

故に他者に対する感情など無い。槍を携えた女が真実を語っていればの話であるが。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

時間は少しばかり遡り、数分程前に戻る。

今更ながら凛のサーヴァントであるアーチャーの姿を見ていなかった為、凛にアーチャーについての話題を振ってみた。

 

「そういや凛ちゃんよ、お前んトコの弓兵は何処いんだ?」

 

「あ、私も気になるー!」

 

今までさしてセイバー等に興味を示さなかったイリヤも声をあげる。お兄ちゃんと言うだけでこの違い、実情を知らぬセイバーは以前会っているにも関わらず無関心なイリヤの態度に少しばかりしょげた。

 

「あー。アーチャーは…その、偵察に出てるのよ!だから今は居ないの!」

 

明らかに怪しい態度にバーサーカーとイリヤは不敵な笑みを浮かべる。先程のランサーの件もあるのだ、もしかすれば正史とは違うサーヴァントなのかも知れない。

つまりそれは、恥ずかしいサーヴァントである可能性も秘めている。

 

気になったバーサーカーは凛へと詰め寄り、マスク越しにも関わらず満面の笑みを浮かべる。

 

「なんだよー隠さねぇで出せよー、ほれそこでジャンプしてみ?」

 

「な、何で跳ねなきゃいけないのよ!」

 

「良いからほら、士郎とか俺ちゃんとかめっちゃ気にしてるから!」

 

「訳わかんない…」

 

その場で跳ねる凛であったが、小銭は愚か何とは言わないが揺れる音すらしない。バーサーカーはすぐ様手を差し出し、それを止めさせる。

 

「凛…俺ちゃんが悪かった。謝るから止めてくれ」

 

「はぁ?結局何だったのよ…」

 

凛が跳ねるのを止めた時、衛宮邸の屋根に何者かが突如として現れた。バーサーカーが振り返るとその眉間を銃弾が撃ち抜く!

だがしかし、そんな物日常茶飯事であるバーサーカーからすればどこ吹く風。口元を押さえて見つめる凛を放って弾丸の来た方へと向き直る。

 

「おいおい、随分とご挨拶じゃねぇの。俺ちゃんのプリチーフェイスに顔射ぶちかます様な阿呆はどこのドイツだ?」

 

「確かにワシのこの服はナチスドイツの物を参考にしたものであるが、ワシはれっきとした日の本の国の武士よ!」

 

「あーん…て、テメェは!」

 

「ワシは第六天魔王にして、此度アーチャーのクラスとして召喚されしサーヴァント。織田信長である!」

 

黒一色の軍服に深紅のマントを羽織り、その背後には火縄銃を展開したアーチャーが月光を背に立っていた。

その光景に凛は頭を抱え、士郎は空いた口が塞がらず、イリヤとセイバーはただただ困惑していた。

そして、バーサーカーは本日二度目の魂の叫びを夜空へと放つ。

 

「めっちゃカラーリング被ってんじゃねーかぁ!」




裏設定:

今回呼び出されたサーヴァントが違う理由は、世界の抑止力による歴史の改竄。本来のサーヴァントを知っているバーサーカーを消そうとしたものの、そもそもこの世界の存在では無く尚且つ編集部にすらかち込む様な奴だった為、泣く泣く消去は断念し最大限の嫌がらせに走った故の召喚。

本当は子ギルを呼ぼうとしましたが、シリアルになりそうだったので急遽変更になりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邂逅、その後

話が進まなくて誠に申し訳ございません…!


───衛宮邸 浴室

 

湯気が立ち込める浴室内に一つの気配があった。

湯船に浸かり身を清めるその姿は未だ見えず、男か女かすらも判別が難しい。がしかし、その者が不意に窓を開ける。

内部に充満していた湯気は浸入してきた外気と混ざりあい、その濃度を薄めていく。そして、ようやく晴れた視界に映し出された姿は───

 

「やっほー、何人かは期待してたかな?皆の予想通り俺ちゃんでしたー」

 

手にしたアヒルを潰して見せれば、何とも情けない鳴き声が木霊する。

 

「にしても3話も使ってようやく本家のチュートリアル越えたくらいってどーよ?おまけに俺ちゃんの入浴シーンとか、ディスクウォーズでやってたじゃねーか」

 

一人きりという事もあるのか、メタ発言全開で喋るバーサーカーもといデッドプール。風呂に入るのにマスクを外さず、尚且つバスキャップまで被っている。

 

「おい、テメェコラ。人様を遠回しにハゲ扱いすんじゃねぇよ」

 

とまぁ、字の文との会話はこの程度にしておこう。

アーチャーとの初邂逅の後、敵意剥き出しのアーチャーへ凛が同盟についての説明をすればアーチャーからの返答は『変態かと思い撃った、是非もなし』で終わった。バーサーカーからすればとばっちりもいい所ではあったが下手に仲違いを起こせば今後の戦況に響きかねない、との判断により止む無く矛を収めた。

 

にも関わらず、アーチャーがセイバーの姿を見つけるや否や『沖田め此処で会ったが百年目!』と叫び、帯刀していた刀を抜いて切り掛る。咄嗟にセイバーも風王結界(インビジブル・エア)を纏わせた剣で応戦。

剣戟が交わされる度にアーチャーの熱量を孕んだ魔力と、セイバーの風の魔力が混ざり合い怒涛の熱風が辺りに吹き荒れ、周りにいた士郎や凛は思わず後ずさる。

その暴風に煽られイリヤも思わず体勢を崩し、あわや転倒といった所でバーサーカーに支えられた。

 

そのままイリヤを士郎に預けると、バーサーカーは白熱する剣戟の只中へと進んでいく。アーチャーは既にセイバー以外眼中に無くひたすらに刀を振るい、セイバーも並々ならぬ剣筋に捌くのが精一杯である。

そんな中に飛び込んだバーサーカーは、手を伸ばし声を張り上げる。

 

「はーい、ストップ!一旦お前ら冷静にな──」

 

剣戟が乱れ舞う最中眼前に現れたバーサーカーに気が逸れた二人は思わず剣先がブレる。結果としてバーサーカーはまたも頭部が輪切りになった、しかも今回は三枚卸である。

 

「お前ら、人の頭煮卵かなんかと勘違いしてんじゃねーだろうな?」

 

辛うじて首と繋がったままの口が声を発し、その光景に見慣れたイリヤ以外の者は絶句する。サーヴァントとはいえ人間が頭部の大半を失い、尚且つそのまま喋るとは想像もつかない筈である。

しかしバーサーカーはそんな事など微塵も気にせず、アーチャーとセイバーにくどくどと説教を垂れる。頭部からは血がドバドバと垂れる。

やれ刃物を振り回すのは危険だのやれ周りに迷惑をかけるなだのと、バーサーカーの知人が聞けばお前が言うなと叱られること間違い無しの内容であったが、事実アーチャーの勘違いにより起こった争いによりイリヤが怪我をしかけたのは事実である。

アーチャーの謝罪によりその場は治まり、頭部の修復が済んだバーサーカーは士郎に風呂を借りて冒頭に至るというわけである。

 

「どこぞのデビルハンターじゃねぇんだから、不死身さ見せつけるために斬られてたんじゃ割に合わねぇぞ」

 

独りごちるバーサーカーは再度アヒルを掴んでは鳴らし、赤く染った湯船から立ち上がるのであった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

荒れに荒れた初対面の日から二日経ち、サーヴァントの三人は今やそれなりに交流を深めている。

 

「バーサーカー、また子供が産まれました。二百万頂きます」

 

「バーサーカー、儂は事業が成功した。一億もらうぞ」

 

「何でお前ら壮絶な人生送ってた割に人生ゲ〇ムは順風満帆なんだよ!ふざっけんな!」

 

三人はテレビ画面に向かってコントローラーを握ったまま会話をしている。

画面に映し出された映像には、セイバーの操るキャラクターが一位。アーチャーの操るキャラクターが二位。NPCが三位。デッドプールの操るキャラクターが四位と表示されていた。

 

「やはり王として生きた経験の賜物と言えますね」

 

「だって儂ほら、革新の申子じゃからな」

 

「へーへー、流石王様は違いますねー」

 

既にセイバーとアーチャーとの金額の差は到底ひっくり返せるものでは無くなっており、バーサーカーとしては如何に早くこの遊びを切り上げるかを考えていた。

最初の内は、士郎も凛も学業の為昼間は家に居らず、イリヤは安全面を考慮しアインツベルンの城で過ごしている為、暇潰しと交流を兼ねてのゲームであった。

始めのうちは慣れないゲームに四苦八苦する二人だった。だがしかし、次第に操作になれ内容を理解すればそこからは怒涛の勢いで追い抜かれた。

漸く人生ゲ〇ムが終わり、決算の画面に切り替わった所で黙りこくっていたバーサーカーが不意に口を開いた。

 

「俺ちゃん思ったんだがよ、このチームには(おっぱい)が足りない気がする」

 

「「はぁ?」」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

衛宮邸での発言の後、家を飛び出したバーサーカーはキリツグへと姿を変えて街を散策していた。既にセイバーとアーチャーは同盟を結び、ランサーの正体は知れている。

残るキャスターとアサシンは恐らくだが街に出向く可能性は低い、つまり出会う確率が必然的に高くなるのはライダーのみ。

そして、ライダーは原作のままであればあの見目麗しいメデューサである。キリツグの脳裏に浮かぶのはあのグラマラスな肉体、流れる様に艶やかな薄紫色の髪、嗅いだことは無いが絶対に甘いであろう香り。

そのどれもが男の心を鷲掴みにする魔性の女、それが現実に現れればどうするか。勿論言わずもがなである。

 

そんな下卑た妄想とは裏腹に、真面目一辺倒な表情のまま海辺へと出た。些か冷たい潮風が肌に沁みるが、意外とこういった場所にこそお目当ての人物は居たりするものである。

暫く波止場を散策していたところ、遠方からバイクのエンジン音が近付いてきた。ふと気になり傍に寄っていくとワインレッドカラーのライダースーツを纏い、派手ながらもどこか落ち着いた装飾が施された大型バイクに跨る女性が居た。

 

「どうも、随分と派手なバイクですね」

 

バーサーカーはあくまでキリツグとして女性に接触を試みる。するとライダースーツの女性は徐ろにヘルメットを脱ぎ、閉じられたライダースーツの前を下ろす。

その顔には右額から左頬へ掛けて、袈裟に大きな傷跡。その大きく開かれた前部分から覗く谷間は凄いの一言に尽きる。

 

「へぇ、アンタ見る目があるじゃないのさ!名前はなんて言うんだい?」

 

その顔、その声、その胸がバーサーカーの記憶の中のとある人物と合致する。

フランシス・ドレイク、またの名を悪魔(エルドラゴ)と呼ばれ恐れられた人物。第五次聖杯戦争の騎兵(ライダー)である。




ライダーとの初対面。正体がバレずに帰宅する事が出来るのか!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会いは突然に

2004年は初代プリキュアが放送開始された年だそうで、カラーリング的にセイバーと魔人アーチャーのプリキュアがワンチャン…?


 

ライダーからの問いかけにバーサーカーは言い淀む。

恐らくではあるが、原作の流れであればマスターは間桐桜ないし間桐慎二のはず。

どちらにしろ桜との関係性があるならば、以前名乗った名前で統一しておいた方が色々と問題は少ないと判断し、ライダーには黒田という名前で通しておく。

 

そのままライダーの跨るバイクの事についての話になると、息もつかせぬ勢いで自慢話が繰り広げられた。バーサーカーとしては乗り物には頓着せず、もっぱら他者のバイクや車にタダ乗り──ハイジャックとも言う──であった為に詳しい話はさっぱりであった。

しかし、ライダーの自慢話の語口は大人の様な嫌味たらしい物ではなく、子供の如く身振り手振りを交えつつ純粋にコレが凄いアレが凄いと褒め称える自慢だった。

その姿に若干の愛くるしさすら感じたバーサーカーはただただ話を聞き続けた。そうこうしている内に次第に日は傾き、昼前に出掛けたにも関わらず既に夕刻。ライダーはふと我に帰ると何か思い出したのか慌ててバイクに跨り直すと、エンジンを蒸し爆音を轟かせる。

 

「っと…悪い、知り合いを学校まで迎えに行かないといけないんだ!」

 

バーサーカーはチャンスとばかりにライダーに提案する。

 

「すみません、僕も少しばかり学校に用があるんですよ。もしご迷惑でなければご一緒させてもらえませんか?」

 

「あぁ、構わないけど…アンタその年で知り合いが居るのかい?」

 

「えぇ、まぁ…」

 

痛い所を突いてくるライダーに誤魔化す事も出来ず曖昧に答える。とにかく桜か慎二と接触するにはこの機を逃すと手間である為必死なバーサーカーは、上手くいくよう願いながらバイクの後部座席に跨る。

 

「んじゃあ、ちょいと飛ばすからしっかり掴まってなよ!」

 

言うや否やウイリー走行で駆けだすバイク、不可抗力で胸でも触れたら良いな等と楽観視していたバーサーカーは振り落とされそうになりつつも、しっかりとライダーの胴体に腕を回して耐えていた。

 

数十分もしない内に穂群原学園に着くと校門前で下校する生徒達を眺める二人。

相も変わらずライダーがスーツの前面を開けている所為で男子生徒の視線は胸元に釘付けである。しかしライダーはと言うとそんな物気にせず出てくるであろう人物を待ったまま微動だにしない。

バーサーカーは男子生徒達の気持ちに共感しながらも、手を出す事は即ち悪魔(エルドラゴ)と呼ばれた女海賊との一騎討ちを意味する事になる。そこまでして触れたいかと言われれば、流石にデメリットが大きすぎるため今はまだ理性で押し留めていた。バーサーカーなのに理性とはこれ如何に、ではあるが。

暫くすると向こうの方から女子の集団、その中心に居るのはバーサーカーのお目当ての人物──間桐慎二である。

 

「やぁ、慎二君。久しぶりだね…僕を覚えているかな?」

 

女子を侍らせ得意げな慎二の前に立つと、にこやかな笑みを浮かべつつ背中に手を回す。訝しげな表情の慎二に声をかければ更にその顔には困惑の色。

 

「悪いけど、貴方の様なみすぼらしい格好のおじさんは知らな…」

 

慎二の背中に硬い物が当たる、意識を向ければソレは小型の拳銃であった。バーサーカーは銃を体で隠しつつ耳打ちする。

 

「良いから口裏合わせな、でなきゃテメェのクソの出が良くなるお(まじな)いがかかることになる」

 

ドスの効いた声に慎二は怖気を感じ、ゆっくりと頷いた。

 

「…あ、あぁ!フランスに留学していた時に会ったおじさんじゃないですか!お久しぶりです!」

 

「思い出してくれたかい。久しぶりだね、少しばかり話がしたいんだが…良いかな?」

 

「え、えぇ。そういう事だから…皆また今度遊びに行こう!」

 

取り巻きの女子は不満気な声をあげるも、仕方が無いと諦め散り散りに帰って行く。ライダーはバーサーカーに連れられた慎二を見送りながら、未だ現れない待ち人を待つ。

我が主人(マスター)であり、大切な宝である間桐桜を。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

慎二とバーサーカーは以前桜と共に訪れた喫茶店へと来ていた。なるべく人気が少ない場所が好ましいと言ったら、此処を案内されたからだ。

 

「さて、単刀直入に言うぞ。お前はライダーのマスターか?」

 

バーサーカーの問いに慎二は首を振る。

 

「んじゃ次の質問だ。あのハゲ爺はサーヴァントを召喚してたか?」

 

慎二は一瞬反応に困ったように固まるものの、静かに頷いた。

 

「なるほど、んじゃジジイは聖杯戦争に参加してるのか…」

 

「いえ、お爺様はもう居ませんよ」

 

その言葉にバーサーカーは首を傾げる。居ないとはどういう事か、仮に姿を消しているだけなら居ないとは言わず行方が知れないとでも言う筈である。

 

「居ない?どういう事だよ」

 

「ライダーが殺しました、それもたった一発の銃弾で」

 

今度はバーサーカーが固まった。

 

あの化物然としたジジイが死んだ?

 

サーヴァントを呼んだ状態で?

 

たった一発の銃弾で?

 

詳しく話を聞こうとする前に、慎二は自ら事の真相を語り出した。

 

曰く今回の聖杯戦争において、臓硯自ら呼び出したアサシンのクラスのサーヴァントは異例であったらしく、一先ず能力を試す名目で外部に出向かせていた。

更にアサシンのマスターの権限を桜に譲渡、その上で桜をマスターとしてライダーを召喚するという変則召喚を行ったらしい。

 

「へぇ、流石は召喚システムのご本家はやる事がスゲェな。狡賢さもバケモノだな」

 

「そして、召喚されたライダーが聖杯に託す願いについてお爺様に聞きました」

 

臓硯の願いは永遠の命、その答えにライダーは『人の命ってのは散ってこそ美しいんだ、いつまでも続く命なんざ炉端の石ころにすら劣るよ』と吐き捨てたらしい。

その言葉に怒りを覚えた臓硯が喚き散らせば、ライダーは取り出した銃で臓硯を殺害。桜の体内に埋め込まれた刻印蟲すらも死滅したとの事だった。

 

臓硯が死んだ理由は恐らくライダーのスキルにある、星の開拓者によるものだろうと当たりをつける。

 

"不可能を不可能のまま可能にする"

 

つまりは、バーサーカーの存在すら殺しうる力でもある。いよいよをもって対立は不味いとバーサーカーは判断し、改めて同盟を組むべく思考を巡らせる。

暫し思考に耽っていると、慎二はバツが悪そうにバーサーカーを覗き見ていた。

 

「あん?どうしたワカメ。腹減ったのか?」

 

「いえ、そろそろ解放して欲しいなと…」

 

「あぁ、そうだったな。とりあえず帰って良いぞ」

 

その言葉に対して、待ってましたと言わんばかりに勢い良く立ち上がる慎二。しかしバーサーカーはその腕を掴んで再度座らせる。

 

「二つ程言い忘れてたぜ、一つ目は桜に今後手ぇ出すなよ?出したら何処に居ようが何してようが俺ちゃんがお前をぶち殺しに行くからな」

 

気を抜いていた所に不意打ちの如く浴びせられた殺気に慎二は縮こまる。

 

「それともう一つ、ライダーの奴割と散財する()があっから気ぃつけろよ」

 

二言目は遠回しに慎二に真面目に働けと促す。バーサーカーの心中では、真面目になったらワカメでは無く昆布と呼ぼうと決まっていた。

 

漸く解放された慎二は暗くなった商店街を走って帰る。家で待つ妹と最近出来た姐に対する遅くなった言い訳を考えながら。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

バーサーカーも衛宮邸に帰り着くと満面の笑みのイリヤと凛に出迎えられた。理由も分からず促されるままに室内に入れば、背中を押されて床へと突っ伏す。

 

「おい、何しやがんだよ!」

 

そのままイリヤと凛が背中に跨がれば、瞬く間にキャメルクラッチと逆海老反り固めを決められた。

 

「「(おっぱい)が無くて悪かったわねぇ!」」

 

バーサーカーは思い出した、家を飛び出した際に言い放った言葉を。

そして、障子の裏から覗くちっぱい騎士王(セイバー)ちっぱい魔王(アーチャー)に睨まれつつ、バーサーカーは二つ折りにされるのであった。

 




感想で頂いた通りの展開が構想初期からあった為、その感想の内容に割と驚きました。

次回は少しばかり日常話と言う名のバーサーカー学校侵入イベントでもやりたいですね…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの──

よくよく考えたら姐さん黄金律あったんですよね、慎二の働く意味とは…うごご


 

「え、兄さん…今なんて?」

 

「だから、僕は近い内にアルバイトをするって言ったんだよ」

 

思いもよらない兄の言葉に桜は驚愕のあまり固まってしまう。帰宅してから今のいままで普段と変わらずぶすっとしたままだった兄が、突然働くと言い出せば誰だって固まるだろう。

 

「兄さん、もしかして熱でもあるんですか…?も、もしかして頭をぶつけたとか…毒を盛られたとか!?」

 

「どんだけ僕の頭がおかしいと決めつけたいんだ!…お爺様が亡くなられたのなら、兄である僕が間桐家を継ぐのは当たり前だろう。なら、それなりに社会の事を学ぶべきだと思ったんだよ」

 

兄である慎二の言葉に桜は素直に納得していた。

臓硯が存命中は二人共が臓硯の傀儡であり贄であった。だが今は忌まわしき臓硯は居らず、魔術師としては才が無いものの頭脳であれば優秀な慎二である。表だって動きやすいのはもちろんの事、多少性格に難はあれど人付き合いも多様な為家督を継いで当然と言えた。

逆に桜は魔術師として優秀な能力も頭脳をも持つが、如何せん人付き合いは未だ苦手な部分もあった故に、慎二の考えは妥当であった。

 

「ありがとうございます、兄さん…」

 

「…ふん、出来の悪い妹に変わって働くのは兄の務めだからな」

 

互いに胸の内の蟠りは未だ残ったままではあるが、少しずつでも歩み寄る事が出来ている。その事に嬉しさを覚えながら桜は微笑む。ともあれ、今はまだ聖杯戦争の最中である。今はまだ気を抜かず生き残るべく頑張ろうと心に誓う桜だった。

 

「なんだいなんだい、随分と男らしくなったじゃないか!」

 

そんな穏やかな雰囲気の中へ酒瓶片手に颯爽と現れたライダーは、照れ臭そうに視線を逸らす慎二の背中に張り手を食らわす。

 

「いッ…!!」

 

不意打ちとサーヴァントの膂力で打ち込まれた平手打ちは慎二の背中に甚大なダメージを負わす。痛みのあまり声すら出す事が出来ずに呻いている。

 

「にしても急にどうしたんだい、あの黒田とかいう男に何か言われたのかい?」

 

「ライダー…さん。その黒田って人、お知り合いなんですか?」

 

「んん?マスターも知ってるのかい?」

 

桜は以前出会った男の名が出てきた事で思わず身を乗り出す。先日は思わぬ質問に上手い返しが見つからず、逃げ帰ってしまった為に謝りたいと常々考えていたのだ。

しかしライダーの返答は今日知り合ったばかりで詳しい事は知らない、との事だった。ならばと慎二に視線を向けるも、相変わらず痛みに苦しみ悶えているために話を聞けそうにない。

その場は仕方無く諦め、また後で聞こうと決めた桜は食事を済ませた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

───双子館

 

「998…999…1000」

 

「良くもまぁ、飽きもせずに続けなんだな」

 

蝋燭の揺らめく明かりに照らされながら、バゼットは腕立てを繰り返す。そんな姿を眺めながらランサーとして呼ばれたスカサハは、呆れとも取れる口調で話しかけた。

聖杯戦争が始まってから二日、碌に戦いもせず日がな一日体を鍛えてばかりいる自分のマスター。仮にも戦争と名が付いているのだから、もしかすれば自身を殺せるやもしれない英雄達と相見えるのはランサーにとって期待できるものであった。

だがしかし、実情は初日に他陣営にちょっかいを掛けた程度で、まともな戦いはまだ出来ていないため不完全燃焼真っ只中である。

 

「貴女は本来呼ばれる筈の無い特異物(イレギュラー)、そんな事が他陣営に知れれば瞬く間に私は包囲されるでしょう」

 

それなら他陣営が潰しあってからでも遅くはない──後出しは私の専売特許ですから。

そう言って再度筋トレに没頭するバゼット、流石の脳筋である。

 

(全く、セタンタといいこやつといい…ワシの元には戦いと己が肉体にしか興味が無い者しか集まらんのか)

 

嘗ての弟子の事を思いだしながら、ランサーは窓から見える夜空を眺める。ひっそりと以前逃がした小僧にでも会いに行くかと考えながら。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

───言峰教会

 

礼拝堂のステンドグラスから差し込む光に照らされる黒衣を纏った男。言峰教会の神父であり、聖杯戦争の監督役である言峰綺礼である。

 

「ギルガメッシュよ、此度の聖杯戦争…どう思う?」

 

感情の読めない表情のまま独白すると、礼拝堂に並べられた椅子に突如として金髪の青年が現れた。

 

「何処ぞの道化が何やら甲斐甲斐しくも踊っているようだぞ。だが所詮道化は道化…王を愉しませる為の児戯に等しい戯れであろうよ」

 

不遜極まりない物言いの青年は、数年前の聖杯戦争にて弓兵(アーチャー)のクラスで呼び出されたサーヴァント。名をギルガメッシュ、英霊の中でもずば抜けた実力の持ち主であり、自らを英雄王と名乗る程には傲慢である。

 

「ふむ、貴様は動くのか?」

 

「何故王たる我がわざわざ出向く必要がある?然るべき時に、然るべき場所で、然るべき褒美をくれてやるのみよ」

 

そう言い残し高笑いと共に礼拝堂を後にするギルガメッシュ。その後ろ姿を見届けた言峰は一人考える。

 

(バゼットとの同盟は反故になり、あれ程息巻いていた凛も未だ動きは無し…おまけにマキリの翁の死亡とは)

 

言峰をしても臓硯の死とは驚愕に値する物だった。生に執着し永久の命を得るためならあらゆる手段も厭わない、自分と同じく人としての生き方を捨て外道に堕ちた間桐臓硯が死んだ。

その事に些かの愉悦を感じつつも、未だ満たされぬ心に新たな刺激を求め、言峰は聖杯戦争を見届ける。

互いの憎悪と怒りをぶつけ合い、殺し合う聖杯戦争を願って。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「はー…なるほどなるほど」

 

士郎は目の前の簀巻きにされたまま転がるバーサーカーを見つめていた。二つ折りにされた後衛宮邸の屋根の上に放り投げられた為、様子を見に来たのだ。

だが、当の本人はさして気にした様子も無く虚空を見つめたまま金メッキングぶちのめすだの師匠来んの!?だのと意味不明な叫びを上げていた。

 

「バーサーカー、大丈夫…か?」

 

「んぁ?お前この姿が大丈夫に見えるなら今すぐ眼科に行く事をオススメするぜ、多分手遅れだろうがな!」

 

暴れ回るバーサーカーの縄を解き二人で屋根に腰掛ける。今までこうして二人になる事など無かったため、どう切り出したものかと考えていた、バーサーカーの方から話しかけてきた。

 

「そういや女連中はどうしたんだよ、乳繰りあってんのか?」

 

「いや、アーチャーが慰安酒だとか言ってお酒飲み始めたんだ。今頃は皆酔い潰れてるんじゃないか?」

 

バーサーカーは知らない事だが、士郎がバーサーカーの様子を見に来る前から出来上がったサーヴァント二人の聖杯問答ならぬちっぱい問答が繰り広げられており、そこから逃げる様にして士郎は屋根へと上がって来ていたのだ。

因みに、セコンドはイリヤと凛が務め審判はいつの間にか現れた我らが藤ねぇが取り仕切っていた。

 

「じゃからわしの様に平らである方が美しいに決まっておろう!挟めはせぬが少女らしさ全開であるぞ!」

 

「何を言うのですか、少しばかり膨らみがある方が男性受けが良いのです!揉めるか揉めないかの瀬戸際こそ正義!」

 

「うんうん、青春だねぇ!良いねぇ!」

 

最早ツッコミ不在の衛宮邸の居間は、某猫型真祖っぽいナマモノもびっくりな酔いどれ空間(カオスディメンション)へと成り果てていた。

 

そんな事とはつゆ知らず、バーサーカーはふと思い出したかのように問いかける。

 

「なあ士郎、お前…本来起きた筈の聖杯戦争について知りたいか?」

 

「本来起きた筈の…?」

 

「あぁ、俺ちゃんが知る俺ちゃんの居ない聖杯戦争さ。気になるか?」

 

そう漏らすバーサーカーの視線──マスク越しな為視線と言うかは分からないが──は士郎をじっと見つめる。その視線に一瞬気圧されるも、ゆっくりと力強く頷いて見せればゆっくりとバーサーカーは語り出した。

 

本来呼び出された筈のサーヴァント達、そしてそれらの英雄達との戦い、三つの結末、未来の自分との決着。

その全てを聞いた士郎は、暫し押し黙ったまま下を見つめる。このまま自分が他者の為に自分を抑え込んで正義の味方と言う理想を貫けば、何れ自分は自分を殺す羽目になる。だけれども、今更正義の味方になることを辞める等死んだ親父に面目が立たない。

その二つが士郎の胸中で渦巻き、綯い交ぜになっていく。

そんな時に、バーサーカーから声が掛かった。

 

「自分を犠牲にしてる様じゃ、英雄(正義の味方)とは呼べねぇよ」

 

その言葉に士郎はハッとなり顔をあげる。そのままバーサーカーを見やれば、そのまま続けざまに告げられる。

 

「ヒーローってのはな、何かしら自分の為に戦ってんのさ。自分の愛する国の為、自分の愛する金の為、自分の愛する女の為。」

 

「自分の為…」

 

「惚れた女一人でも守れりゃ、ソイツは立派な英雄(ヒーロー)さ」

 

そう言いながら士郎の頭を撫でるバーサーカーは、優しい声音でそう言った。

 

「英雄ってのはな、いつだって自分のワガママを通すもんだぜ!だからな士郎、オメェも多少なりともワガママになりやがれ!」

 

そう締めくくるとバーサーカーは士郎に下の片付けを促す。気が付けば随分と時間が経っていたらしく、下からの喧騒はすっかり鳴りを潜めていた。

 

「そうだな、ありがとう…バーサーカー」

 

そう言って士郎は梯子を使って下に降りて行った。バーサーカーはソレを見届けると背後に向け体を捻る。

 

「んでぇ、師匠…俺ちゃんとしっぽりしに来たわけかい?」

 

「貴様に師匠呼ばわりされる筋合いは無いぞ?」

 

バーサーカーの視線の先から現われたのは、二槍を携えたランサー。戦闘態勢であるらしい構えから、バーサーカーも背中の二刀を抜き構える。

 

不死対不死、第五次聖杯戦争における特異物(イレギュラー)同士の決闘が始まろうとしていた。




どうもデッドプールのキャラが安定しません…皆さんから見てどうですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はじめてのたたかい

初のマトモな戦い、になったらいいな


 

「前書き雑過ぎじゃね?幾らネタが無いからってよ…あ、俺ちゃんのDVD&ブルーレイも宜しくな!」

 

バーサーカーの虚空へと放たれた言葉に対して、ランサーは首を傾げる。

 

「あぁ悪い、こっちの話だ。んで…実際何しに来たのよ?」

 

「お主と先程まで話していた小僧が居ただろう、どうにも私の師としての勘が騒いでな」

 

「するってーと、アイツを鍛えてみたいって事かい?」

 

問われた事に対してランサーは肯定の意味を示す様に頷く。それを見たバーサーカーは肩を竦めつつ溜め息を吐き出した。

 

「士郎も厄介な奴に目ぇつけられちまってまぁ…俺ちゃん知ーらね!って出来りゃあ楽なんだが、どうにもアンタを見てると古い知り合いを思い出してね。はいそうですかと通す気にはなんねぇんだわ」

 

「ほう、ならば私を止めてみせるか?」

 

「冗談キッツいぜ、誰が好き好んでアンタなんかとガチで殺り合うってんだよ。まだハルク殺す方が数千倍マシだぜ!」

 

「そのハルクとやらの実力は知らんが、私の力は知っているようだな?」

 

「そりゃそうさ、ケルト神話に名を残す英雄達を鍛えあげた不死身の紫バ…お姉さんだろ」

 

バーサーカーの言葉に一瞬眉尻が跳ねるも、訂正した途端にうむうむと抑揚に頷くランサー。内心肝が冷えたと思いながらも更に言葉を紡ぐ。

 

「でだ、提案なんだが今から30分以内に俺ちゃんを殺せたら士郎の奴を煮るなり焼くなりしょっぴくなり好きにしていい、ってのはどうだい?」

 

「神をも殺す私がお主如き殺せないと言うのか?馬鹿げた話だが…面白い、乗ってやろうではないか!」

 

その言葉を皮切りにランサーは跳躍し左手の槍を投擲。

狙うはバーサーカーの胸部、並の英霊であれば回避すらままならぬ速度で放たれた槍──だが、それは虚しく空を斬り屋根に突き刺さる。

 

「わお、流石は槍の名手だ。テレポートが無ければ死んでいたかも知れない!でも当たらないんじゃ意味が無いぜ。あぁ、もしかしてポールダンスでも見せてくれんのかい?」

 

気が付けばバーサーカーはランサーの背後に居た。

反撃を想定してすぐ様振り返るも、バーサーカーは刀を肩に置いたまま微動だにしない。

 

「お主、私ですら追えぬ速度で…?いや、その様な実力があるようには見えんが」

 

「はん、見た目で判断してるといつか痛い目見るぜ。声がみゆきちだから女かと思ったら男キャラだったとか、ショタっぽいのに声がオッサンだったとかな!」

 

「訳の分からん事をぶつくさと…少しは戦士らしく真面目に戦えんのか?」

 

「俺ちゃん戦士じゃねぇもん。つか気になったんだけどさ、ケルト神話の連中って何で皆ボディライン強調したがんの?」

 

「やかましい!来ないのならばこちらから行くぞ!」

 

軽口ばかり叩くバーサーカーに業を煮やしたランサーは後ろ目掛けて蹴りを放つ。それを身を捩り躱したバーサーカーのお喋りは留まることを知らない。

 

「いやほら、アンタとクーフーリンはまだ分かんだよ。師弟だからな?でもあの大門先生に至っては半裸じゃん?だからケルト神話の奴らって露出癖か何かあんのかなってさ」

 

頭部への蹴り、振り返り様の突き、胴体への薙ぎ払い。

それらをバーサーカーは刀でいなしつつ既の所で躱してゆく。

かつそれでいて相手の無駄口が止まることはなく、ランサーとしては非常に集中力を掻き乱されるやりづらい戦いだった。

 

「師匠、そろそろ時間になっちまうけどどうする?」

 

バーサーカーは腕時計を見ながら首を傾げる。確かに既に時間ギリギリである、ならばとランサーは手にした槍先を相手へと向ける。

 

「私としては使いたく無かったのだが、こうも小馬鹿にされては仕方あるまい…」

 

そう言い放たれた直後、ランサーの槍から魔力が迸る。それに対してバーサーカーは僅かばかり身構えた。

 

「さらばだ、狂戦士よ」

 

ランサーがそう告げた次の瞬間、バーサーカーの頭上を囲む様に現れた無数の槍。それらが一気に降り注ぎ、屋根にバーサーカーの身体を縫い付けていく。

その様を見届けたランサーは踵を返し屋根を降りようとした───が。

 

「おい、ふざけんな!宝具かと思ったのに単なるバスターじゃねぇか!」

 

確実に体を貫いていたにも関わらず、背後から飛んできた怒声に思わず振り返る。

見れば確かにバーサーカーは無数の槍に体を串刺しにされているのだが、依然としてぎゃあぎゃあと喚き散らしているではないか。

 

「まさかお主…不死身なのか?」

 

「見りゃ分かんだろ?つまりアンタは俺ちゃんの挑発に乗った時点で負けてたんだよ」

 

些か反則に近い気もするが、口約束とは言え交わしてしまった物を反故にするのは戦士としての矜持が許さないと諦めたランサーは潔く負けを認めた。

 

 

 

 

 

 

「つまりだ、聖杯は使い物にならないと言うのか?」

 

「そゆこと、アンタにわかり易く言い替えるなら水瓶の中にありとあらゆる糞が詰め込まれてる様なもんだ」

 

バーサーカーの言葉にランサーは顔を歪める。あの後バーサーカーから共同戦線について持ち掛けられ、更に冬木の聖杯の現状についても説明を受けていた。

ランサーからすれば聖杯等元より興味が無い為気にはしていなかったのだが、その様な状態であるならばマスターには伝えておいて損は無いと踏んだためより詳しく聞き出していたのだ。

 

「なるほど、表現方法については何ともあれだが…一応私のマスターにも話してみるとしよう」

 

「ん、最悪手ぇ組めなくてもこっちに喧嘩吹っかけなきゃなんでもいいんだがな」

 

タイツのいたる所が穴だらけのバーサーカーは何やら携帯端末を弄りながら答える。この男の思考は読めた物じゃないと考えながらランサーは立ち上がると、屋根を蹴って夜空へと舞い上がる。

 

「ではな、狂戦士よ。何れまた相見える事があると良いが」

 

「俺ちゃんとしては今度は水着で頼むわ、パラオ忘れんなよ!」

 

最後の最後まで理解の範疇外だと思いながらも、ランサーは拠点へと戻るのであった。




グダグダ戦闘模写で申し訳ないです…後デッドプールの台詞量を増やすとどうしても地の文が減りますね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夢の中で

物凄く今更何ですが、キャラ崩壊注意です。

後チョコ食べてるばらきー可愛いですね!


 

 

イリヤが目を覚ますと、そこは衛宮邸の居間とは正反対の洋風なインテリアの部屋だった。

辺りを見回すと部屋の中央に草臥れた合成皮革のソファーが一つ鎮座しており、その前には型式の古いテレビが向き合う様にして置いてある。

更に壁紙は黄ばみ所々剥がれ落ち、地面には食べ掛けのピザの箱やビールの空き瓶に卑猥な表紙の雑誌が散乱していた。

しかしイリヤはその光景に顔色一つ変えることなく、勝手知ったる我が家の如く壁際に据え付けられた棚から一枚のDVDを取り出す。

そして、テレビに繋がれたデッキにセットすれば画面に映し出されるのはFate/zeroのタイトルだった。

 

始まったオープニングを食い入るように見つめテレビの前で座り込むと、そのままアニメ鑑賞を続ける。

他陣営の召喚シーンが終わり遂に切嗣がセイバーを召喚するという所で唐突に画面がブラックアウトする。

 

「ちょっと、邪魔しないでよ!」

 

「うるせぇ、なーに人の夢ん中に転がり込んだ挙句アニメなんざ見てんだ!つーかFate/zeroもう5回以上見ただろ?」

 

振り返れば其処にはコック帽を被ったバーサーカーが立っていた、手には以前教わったチミチャンガが握られている。

 

「別に良いじゃない、切嗣とお母様の活躍は何度見ても嬉しいもの。それに敵を知る勉強でもあるのよ?」

 

「へいへい、雇い主様の仰る通りにー…ラスト部分は初見で泣いた癖に」

 

そう返せばバーサーカーは徐にマスクの顎部分に手を掛け捲り上げ口元を晒す、そして手にしたチミチャンガを一口頬張るとソファーに腰掛けた。

 

「いやぁ、士郎の和食も良いけどやっぱチミチャンガも美味いわ…日本じゃ材料揃えらんねぇからな」

 

そのまま黙々と咀嚼し平らげればイリヤの事などお構い無しにソファーでだらけるバーサーカー、漸くお気に入りの椅子が出来たと喜ぶイリヤはバーサーカーの膝上に腰掛ける。

 

「ロリコン大歓喜」

 

「ロリコンって何?」

 

「あぁん?青髭の旦那の事さ…あ、ありゃぺドフィリアか?」

 

「あぁ、あのギョロ目のキャスターね。アレがロリコン…」

 

他愛無い会話をしながらイリヤは再度テレビの電源を立ちあげる、すると場面はアサシンがアーチャーに倒される場面へと変わっていた。

そのシーンを眺めながらバーサーカーは口を開く。

 

「そういや今回の聖杯戦争のアサシンはハサンじゃ無いらしいぜ」

 

「そうなの?バーサーカーが言ってた佐々木小次郎って事?」

 

「さぁな、ただ今までの流れから行きゃあ佐々木小次郎も変わってる気がするがな」

 

「ふぅん…」

 

イリヤからすればどの様な英霊であれ説得出来るか否かの部分のみが肝であるためあまり気にはしていないのだが、実際に説得する立場のバーサーカーからすれば一大事である。

話が通じなければ最悪倒さねばならず、倒すと聖杯起動の鍵になってしまうので極力避けたいのだ。

 

「まぁ、残るクラスはキャスターとアサシンだけだからな。上手いこと行くことを願っててくれよ?」

 

「勿論よ、なんたって私のバーサーカーは最強なんだから!」

 

「おい馬鹿やめろ!それ完全な負けフラグじゃねぇか!」

 

そんなやり取りを繰り広げつつアニメ鑑賞は続く、そして一通り見終わると唐突にイリヤが口を開いた。

 

「バーサーカーは、恋人とかは居なかったの?」

 

「はぁ?なんだよいきなり」

 

「んー…何となく」

 

要領を得ない返事に眉を顰めながらもバーサーカーは考える、過去の恋人について。

 

「あー、何だかんだ俺ちゃんモテるから居たには居たぜ?ただ、もう女医だけは絶対に勘弁」

 

心底嫌そうな声音で放たれた言葉に対して、イリヤは何も言えなかった。

その後もなんだかんだと話をして、お互いの意識は現実へと引き戻されていったのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

バーサーカーが目を覚ますと、そこは瓦葺きの屋根の上だった。

 

「はい、イリヤはマトモな扱い受けて俺ちゃんだけ屋根の上。これってあんまりじゃない?マジ最悪なんですけどー」

 

寒空の下で寝ていたにも関わらず寝起きからいつも通りの軽口を叩き、勢い良く滑り降りると片膝をついて着地する。

 

「スーパーヒーロー着地!この高さならあんまり腰に負担掛からねぇから良いな。さてさて、今日のご飯はなんだろなー?」

 

そんな事を言いながら衛宮邸に入ると、中にはアーチャーとセイバーが居り朝食後のお茶を啜っていた。

 

「何じゃ、バーサーカー。今頃起きおったのか?他の者は皆既に出て行った後じゃぞ」

 

「すみません、バーサーカー。貴方が起きて来ないので朝食は全て頂いてしまいました」

 

さらりと告げられたご飯ありません発言に固まるバーサーカー、だが次第に体を震わせると口を開いた。

 

「んの腹ペコライオンクイーンが!豹を見習って多少なりとも残すとか出来ねぇのか!?」

 

「私は出された物を残すのは不躾だと教わりました、それに私は女王では無く王です!つまりライオンキン──」

 

「ウルセェ、気遣いも出来ねぇ癖に何が王だ!後それ以上言うと色々版権とか危ないから言うな!」

 

ぎゃあぎゃあ喚き散らす二人を他所に、アーチャーは棚から取り出した煎餅を片手にテレビを眺める。それから暫く言い合いが続いた後に諦めたらしいバーサーカーは台所へと向かった。

 

「なんぞ作るのか?」

 

「仕方ねぇからパンケーキ焼くんだよ、絶対にセイバーには分けてやらねぇからな!」

 

それから数十分の内に焼き上げられたパンケーキ10枚の内5枚はバーサーカーが食べたものの、1枚はアーチャーが食べてみたいとの事で奪われ4枚は気が付いたら無くなっていた。

 

「あー、昔らんま1/2でこんな奴居たわ…気が付いたら食われてんだよなぁ」

 

「美味でした、おかわりを所望します」

 

「ねぇよ!」

 

食べ滓の付いた口元を拭いながらセイバーは凛々しい顔付きで告げるも、ばっさりと切り捨てられていた。

 

 

 

 

 

「そうじゃ、バーサーカー。儂な…服が欲しいんじゃ」

 

腹ごなしも済み居間で寛いでいると、アーチャーが唐突にそんな事を口にした。

しかしそれに対してバーサーカーはつっけんどんな態度で返す。

 

「あぁ?んなモン1人で買いに行けよ、ガキじゃあるめぇし」

 

「いやほらな、こんな超絶可愛い美少女が街中を1人で歩くのは危ないじゃろ?じゃから、現代慣れしておるお主を抜擢したのじゃ!」

 

バーサーカーはその言葉に何言ってんだコイツとでも言いたげな雰囲気を漂わせつつも、あくまで言葉を選んで返す。

 

「お前みたいな貧乳ロリババア攫うやつなんざ早々居ねぇよ、それに俺ちゃんこの後自家発電(おてての上下運動)に勤しむ予定がありますのん」

 

直後バーサーカーの眉間に風穴が開く、見ればアーチャーの背後には火縄銃が展開されている。

 

「お主が不死身なのはとうに知っておるが、死ぬまで撃ち抜いても良いんじゃぞ?」

 

「だーもう、分かったっつーの!その代わりにセイバーも付いてこいよ?」

 

半ば強制的にセイバーも連れ立ってアーチャーとバーサーカーは新都へと向かうのであった。




最近中々筆が進まず悩んでいます。
何かモチベーション上げる方法とか無いですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セカンドエンカウント

投稿が遅くなってしまい申し訳ございません、なかなかセイバーの聖杯に対する思いを上手く変える理由が浮かばず筆が進みませんでした。
おまけにかなりのパワープレイになってしまったので、多少難のある進行かも知れませんが良ければよろしくお願いします。


 

新都のとある喫茶店に、セイバーとキリツグの姿があった。

何故二人なのかと言えば、単にアーチャーが一人で買い物は済ませると言い始めた為に待ちぼうけを食らったのである。

斯くして二人は手頃な店に入ると、互いに言葉を交わすでも無くただただ暇を持て余し、セイバーは注文したパフェを食べキリツグは携帯端末を弄んでいた。

暫く無言のままで居たセイバーだったが、パフェを食べ終わると唐突に口を開いた。

 

「バーサーカー、少しばかり話があるのですが…宜しいですか?」

 

「何だよ改まって気持ち悪ぃ、金の心配なら要らねぇよ。アハト翁から有難く頂いた軍資金がたんまりあるから好きなだけ食いな。あぁ、デートのお誘いなら士郎にしてやれよ?今ならデザートにチェリーのクリームパイもご馳走してくれるだろうさ」

 

携帯端末から一度も視線を外さずに言葉を返すキリツグの姿に、セイバーは少しばかり第四次聖杯戦争の事を思い出す。

最後の最後まで分かり合えなかったマスターとサーヴァント、それが仮初の姿であり中身も違うとはいえ再度こうして向き合い言葉を交わせている事に、僅かばかりの幸福感を感じていた。

 

「いえ、そういう事ではありません。話というのは私の願いについてです」

 

その言葉を聞いて一度セイバーに視線を向けたものの、すぐ様携帯端末へと戻ってゆく。

言外に続きを促すかのような仕草にセイバーは続け様に語り始めた。

 

「貴方から聖杯が使い物にならないと教えられてから、ずっと考えていました。私の願いは叶わぬ物なのだと…いえ、叶えてはならない願いなのではないかと。嘗て共に戦った友や部下達の想いを無碍にするなと言う神の啓示では無いのかと…」

 

俯きつつ話すセイバーの言葉を聞いていたキリツグはゆっくりと視線を上げる。そのまま暫くセイバーを見つめた後にゆっくりと話し出した。

 

「神の啓示なんて綺麗事抜かしてねぇで素直に間違いだったって認めろよ。とは言え、考えを改めたんなら俺ちゃんがどうこうする必要は無くなったわけだ」

 

「と言うと…何かするつもりだったのですか?」

 

「とりあえず聖杯に未練がある限り…お前を拉致監禁して延々と目の前で士郎の和食を俺ちゃんが食べるだけとかな?」

 

「なんと卑劣な…!血も涙もないのですか!」

 

「お前の前マスターよか有情な方だぜ、つーか変に善人サーヴァント混ぜるからFate/zeroは欝になるんだよ。はなっから情け容赦の無い奴ら出しとけってんだ。バーサーカーがカーネイジにアサシンがパニッシャー、キャスターはDr.Doomだろ?後はランサーのロケットラクーンとセイバーはクッソ臭ぇクズリな、アーチャーが居ない?俺ちゃんだよ!」

 

目の前でベラベラと罵詈雑言と共に意味不明な単語を並べ立てる嘗てマスターであった男の姿に、セイバーが感じていた先程までの幸福感は薄れていく。

そして込み上げてくるのは真面目に悩んでいた馬鹿らしさと目の前の男を少なからず信頼していた自分自身の愚かさだ。

こうしてバーサーカーに対して悩みを打ち明けたのも、今朝方士郎から『バーサーカーのおかげで新しい道が見えた気がする』との言葉を聞かされたからであったのだ、だと言うのにいざ話してみればこれである。

 

「貴方と言う人は…私が真面目に話していると言うのに何ですかその態度は!」

 

「あぁん?いつ俺がお前の悩みを聞いてやるって言ったよ、テメェが勝手にベラベラ話し始めたから相槌打っただけだろうが!調子こいてんじゃねーぞ、似非委員長キャラのMrs.エアーマンが!」

 

喫茶店という事も忘れて互いに声を張り上げる二人の間に、突然紙袋が放り込まれる。意識を逸らされ視線を投げ込まれた方へと向ければ、其処にはアーチャーが立っていた。

 

「アーチャー、買い物は終わったのですか?」

 

「うむ、この通り無事に戻ったぞ。それにしても、お主らいつ見ても諍いばかりしておるの?」

 

「うるせぇんだよスカルガール。まさか地球の裏側まで買い物に行ってたんじゃねぇ…よ、な?」

 

言葉尻が弱まるキリツグの視線の先には、紫髪の少女が驚いた様な顔で突っ立っている。

その少女を見つめたまま固まっていたキリツグの手から落ちた携帯端末の画面には、昨夜戦ったランサーの乳揺れシーンのみを集めた動画が延々とループされていた。

 

 

 

アーチャー曰く『ナンパされていた桜を通りかかった自分が助けたら、礼がしたいと言うので連れてきた』との事だった。

そして、現在キリツグと桜が向き合う形で座りその横ではセイバーとアーチャーが携帯端末の事を秘密にするという約定の下、大量に注文された甘味に舌鼓を打っていた。

 

「あー、久しぶりだね…桜ちゃん。とりあえず俺ちゃんの正体については説明いる?」

 

「いえ、兄さんから聞き及んでいますので…大丈夫です」

 

そんな会話を交わすと互いに再度黙り込む、その光景に業を煮やしたらしいアーチャーから横やりが飛んできた。

 

「何じゃ焦れったい、どうせ同盟を結ぶのであるなら遅かれ早かれ全て話すのであろう?ならば男らしくさっぱと話さんか」

 

「うるせぇな、結構デリケートな問題なんだよ。お前みたいに戦国ボンバーな脳みそじゃねぇんだこっちは」

 

「貴方の場合はボンバーと言うよりカオスでしょうね、理解が追いつきませんから」

 

「一々口挟むんじゃねぇ、黙って食ってろ。まぁ、とりあえずだ…画面の前の皆は多分数回は同じ文面見てっから飽き飽きしてるだろうけど、桜ちゃんは初だから勘弁な?」

 

キリツグの口から語られる話に桜は聞き入りながら頷く、そして粗方説明が終わる頃には既に外は夕暮れ時になっていた。

 

「何か今の内に聞いときたい事ある?無いなら解散するけど」

 

その問いに対して桜は小さく首を振って見せた。それならばとキリツグが立ち上がれば、次いでアーチャーとセイバーも後を追うように席を後にする。

その姿を見送りながらライダーへの説明をどうするか等と考えていたら、不意にキリツグから声を掛けられた。

 

「俺ちゃん達士郎の家に居るから、何かあったら何時でも来な。とびきり美味いパンケーキとチミチャンガご馳走すっから」

 

そう言い残して会計を済ませた三人は店内を後にする。残った桜はと言うと、頭の中で今後の動向について考えを巡らせつつ衛宮邸へ向かう算段を建てていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「いやー、タイトル的に何かあんだろうなとか思ってたけど…まだ隠しダネがあったとか。このマシュー・マードックの目を持ってしても見抜けなんだ」

 

衛宮邸に帰り着いたキリツグがボヤく視線の先には、丼飯を掻き込むバゼットとそれを横目で見つめるランサーが居間に居た。

士郎から話を聞くと、バーサーカーばかりに頼っては居られないと思い、凛と共に街を散策していたら知り合ったとの事だった。

 

「士郎よぉ、hollow時空ならまだしもstaynight時空でこんなクソ危ねぇ奴ら拾ってきたらダメでしょ。ジャンケンしたら後出しでぶち殺そうとする様な脳筋と現実じゃ神様ですら相手にならないのにウ=ス異本だと簡単に負けちまうクッ殺さんなんだぜ?」

 

「聞こえているぞ、狂戦士よ。私も止めたのだが、少年がどうしてもと言うものだからな」

 

「良いじゃないか、バーサーカー。食事は大人数でとった方が楽しいだろ?」

 

「そうです、お陰で私は久しぶりにアンパン以外の食事が取れました!所で…貴方がバーサーカーですか?」

 

空になった皿を卓上に置いたバゼットはキリツグへと向き直ると、じっと見つめてきた。

下から上まで舐め回す様に観察した後、暫くの沈黙を挟み紅潮していく顔。

 

「カッコいい方…ですね。同盟の件、受けさせて頂きます!」

 

「え、あぁ…はい」

 

すんなりと決まった同盟関係に戸惑いを隠せないキリツグではあったが、斯くして残す勢力は魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)のみになった事に一先ずは安堵の溜息を吐いた。

この後、バーサーカー本来の素顔を見たバゼットが本気パンチを食らわせたり、ランサーの胸を見て落ち込む二騎士を慰める士郎と凛が居たりしながら、聖杯戦争は終盤へと向かって行くのであった。




自分の書くバゼットさんは堅物具合が軟化しております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

潜入

いつの間にかUA10000越えのお気に入り数100突破しておりました、ありがとうございます!
拙作ではありますが、今後も読んでいただけると嬉しいです。


 

ランサー陣営と同盟関係になって二日が経った日の朝。

士郎が目を覚ますと横には何故かイリヤが眠っており、おまけに普段であればまだ日も登って居ない時刻だと言うのに、部屋は既に日の光に照らされていた。

 

「え…あれ、イリヤ?って言うか、明るい!?今何時だ!?」

 

慌てて時計を手に取れば、針は普段鳴るはずの時刻の一分前で止まっている。そして、時計の上部には一発の銃痕が残されていた。

寝惚けた頭を無理矢理覚醒させると、イリヤを起こさない様静かに布団から出て居間へと向かう。

すると其処にはバゼット、ランサー、セイバーの三人が大量に積まれたパンケーキを黙々と食す光景が広がっていた。

 

「士郎、おはようございます。今日の朝ごはんはバーサーカーが用意してくれましたので、士郎はゆっくり休んでいて大丈夫ですよ」

 

「おはようございます、士郎君。顔に似合わずバーサーカーは料理がお上手なんですね」

 

セイバーとバゼットは事も無げに挨拶し、またパンケーキを頬張っては幸福そうに瞳を閉じている。ランサーは食事の手を止めると、傍らに置かれていた紙を士郎へと手渡してきた。

 

「バーサーカーからの言伝だ、何やら勝手に動いてスマンと言っていたな」

 

受け取った紙を開くと、そこにはこう書いてあった。

 

『士郎へ。お前がこの手紙を読んでいる頃には俺ちゃんは士郎の家には居ないでしょう、師匠に頼んでルーン魔術で寝かしつけてあるからな。

さて、本題に入るんだが…最近俺ちゃんてばセイバーと口喧嘩ばっかしてて色々迷惑掛けてっからちょいと詫びも兼ねて学校に情報収集しに行って来ます。その代わりと言っちゃなんだが、師匠と濃密な時間(地獄のケルト式トレーニング)でも受けて暇を潰しといてくれ。

もしかしたら乳揺れとかラッキースケベがあるかも知れないだろ?役得役得!っつーわけで死なない程度に頑張れよ、アヴァロン有るから余程死なないだろうけどな。

P.S美綴ちゃんのケツがあまりにも魅力的で俺ちゃんを誘惑してきたら触っちゃうかも知れないけど、代わりに謝っといてくれ』

 

読み終えた士郎の心中にある物は、何故バーサーカーは情報収集の為に学校へ行ったのかという事と、何故遠坂はバーサーカーを止めなかったのかという事だ。

思考したまま固まる士郎であったが、暫くした後に何か自分には思いつかない考えがあるのだろうという結論に至る。

そして、大人しくパンケーキを食べ始めるのであった。

 

 

 

 

「学校行くって話題後書きに出してから五話位挟まってますけど?って言うか、手紙に対する士郎の反応予定と違うじゃねーか!どうなってんだ作者!」

 

「ちょっと、バーサーカー。衛宮君の顔でそういった独り言は言わない約束でしょ?」

 

通学路に凛と士郎に化けたバーサーカーが居た、互いに普段通りを装いながら学校へと向かっている最中らしい。

 

「おっと、悪いな。でもやっぱりアイデンティティの欠如は不味いと思うわけよ、漫画ならともかくこれ小説じゃん?つまり台詞だけでキャラらしさを出していかねーとイカンのよ。おまけに俺ちゃん口が悪いだけのキャラになってたから少しでもイメージ回復を兼ねてだな…」

 

「はいはい、私が悪かったわ。お願いだから衛宮君の顔で流暢に喋らないでくれないかしら、中身がバーサーカーだって分かってても流石に気味が悪いわ」

 

ベラベラと言葉を並べ立てる士郎の喋りを遮る様に言葉を返す凛、会話の内容さえ聞かなければカップルの様にも見える光景だ。

 

「おいおい、中身が違うとは言え彼氏の顔見ながら気味が悪いはねぇだろ?士郎が聞いたら泣いちまうぜ」

 

「ハァッ!?だ、誰が衛宮君なんか彼氏にするって言うのよ!魔術師としては凡才以下、確かに顔は良いかも知れないけど…そんな関係じゃないわよ!」

 

そう言いつつも顔を真っ赤に染める凛、それに対して士郎はニヤニヤと笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「ハッ、よく言うぜ。こないだの街探索してる時…手ぇ繋いでたんだろ?バゼットから聞いたからな、言い逃れは出来ねぇぞ」

 

「ッ──!」

 

トドメの言葉を浴びせられた凛の左腕が振るわれる、しかしその拳は士郎の顔を打ち抜くこと無く虚しく空を切る。

士郎は僅かに身体を反らしてそれを回避、そのまま身を翻して駆け出していた。

 

「待ちなさーい!その記憶消せー!と言うより一発殴らせなさい!」

 

「おーおー、今の内に腕力だけでも鍛えときな!いずれペガサスキッド顔負けのスープレックスガールと戦う事になるだろうからな!何なら赤繋がりでチョークスラムか悪魔繋がりで地獄の断頭台でも習得したらどうだ!?」

 

ぎゃいぎゃいと騒ぎながら追う凛とそれから逃げるニセ士郎。

そんなカップル然とした光景をあろう事か通学路で見せた所為で、後に本物の士郎は同級生からさんざ揶揄われる羽目になるのだった。

後、凛に対する周りの評価も眉目秀麗なお嬢様から恋するお嬢様へとシフトしていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「キング・クリムゾン!学校内ドタバタイベントなんて無かったんだyo」

 

「だから止めなさいってば!」

 

時は経って放課後、帰路についているニセ士郎と凛の二人は朝のやり取りの延長の如く騒ぎながら歩いていた。

 

「それで?どうだったの」

 

頭痛を堪えるかのように額に手を当てながら凛が問いかける、それに対して士郎は一呼吸置いてゆっくりと口を開いた。

 

「美綴ちゃんの尻はヤバイ、女子特有の柔らかさと鍛えられた引き締まり方のバランス…俺ちゃんはあの尻に真理を見たぜ」

 

「そうじゃないでしょ!アンタが一成にキャスターが居るか聞くって言うから連れて来たのに何してるのよ?」

 

「美綴ちゃんが弓道部に戻って来いってしつこいから追っ払う為に仕方無くケツ叩いただけだぜ?俺ちゃん弓矢はブルズアイの所為でアレルギーが出ちゃうからダメだって言ったのに聞く耳持たずなんだもんよ」

 

「はぁ…呆れた。所詮はバーサーカーなのよね、期待した私が馬鹿だったわ」

 

溜息混じりに呟くと凛は昨日バーサーカーから提案された話を思い返していた。

曰く、キャスターは柳洞寺にいる可能性が高いから一成に話を聞きに行きたいので協力して欲しいという事だった。

だが実際は連れて来たというのに碌に情報収集すらせず尻を触って帰ってきただけ、とんだ骨折り損である。

 

「おいおい、本当なら士郎が一成に話聞きに行って死んでたかも知れない所を救ってやったっつーのにその言い草はあんまりじゃねぇの?後な、一成には話を聞けなかったけど葛木先生からちゃんと聞いてきたぜ」

 

その言葉を聞いた途端頭を跳ねあげる凛、その表情はまるで信じられない物を見るような顔だ。

 

「何だよその顔、俺ちゃんだってやる時はやるんだぜ?まぁ、詳しい話は帰ってからだ。他の連中にも纏めて説明した方が手っ取り早いからな」

 

そんなやり取りを繰り返している内に衛宮邸へと帰り着いた二人が初めに目撃したものは、庭に突き立った無数の槍とその中で疲弊し倒れ込む士郎の姿。

そして、その光景を作り出した元凶であるランサーは士郎へ向けて叱咤を飛ばしているのであった。

 

 

 

 

「とまぁ、葛木先生から聞いた話を纏めるとそんなトコだ」

 

散々扱かれ萎れた士郎の介抱も終わりセイバー、アーチャー、ランサー、バーサーカーの各陣営が囲む食卓の席でバーサーカーによる情報の伝達が行われていた。

バーサーカーの話によると間違い無く柳洞寺にサーヴァントは居るが、恐らくキャスターでは無い可能性があると言うのだ。

 

「待って下さい、バーサーカー。本来であればそのクラスは呼ばれない筈だと貴方自身が先程言っていたではありませんか」

 

「普通ならな、だけど俺ちゃんみたいなイレギュラーが居るんだから呼ばれてもおかしくは無いぜ?」

 

セイバーからの質問に対してバーサーカーは自身を親指で指しながら答える、それに対して周りの面子も静かに頷いている。

 

「ま、行きゃあ分かるだろうよ。それに…葛木先生の話通りならあっさり終わるかもしんねーからな」

 

言いつつバーサーカーはパンケーキを頬張り咀嚼する。

決行は翌日の深夜、場所は柳洞寺。相対するはジャンヌ・ダルク…救国の乙女の異名を持つ聖女である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

敵は柳洞寺にあり?

お久しぶりです、恥ずかしながら帰ってまいりました


月明かりに照らされる柳洞寺へと続く階段を昇って行く人影が二つ。一人は少しばかり小柄で黒いマントを羽織った軍人風の服を纏った少女、もう一人は赤と黒を基調とした全身タイツ姿の長身の男。

そんな二人が参拝と言うには些か不釣り合いな時間帯にも関わらず黙々と石段を踏みしめていた。

 

 

「のう、バーサーカーよ。策があるとはいえワシらだけで大丈夫なのか?お主正直不死身以外今の所手柄無いじゃろ…」

 

「おいおい、天下の第六天魔王様が何を弱気になってんだよ…って俺ちゃんへのさりげないディスりいれてくるんじゃねーよ。色々あっただろーが、おっぱいタイツ師匠の参戦とかそもそも俺ちゃん自身の存在そのものとか」

 

敵陣の最中と言うにも関わらずバーサーカーとアーチャーは緊張という二文字は微塵も感じさせない程に軽口を叩き合っていた。

因みに、なぜこの二人なのかと言えばバーサーカーは言わずもがな『不死身だし俺ちゃんが行くのは最適解だろ』という理由で。アーチャーは『寺と言えばワシじゃろう?是非もないじゃろう!』と半ば強引について来たのであった。

その言い分に凛や士郎らマスター陣も納得とはいかずとも、単独行動スキル持ちならばと渋々了承したのであった。

 

「それにしてもこの階段長すぎじゃねぇの?もう何段登ったか数えるのも飽きてきたってーの!」

 

不満げにバーサーカーは言葉を漏らすと石段の合間に設けられた踊り場へと腰を据えた。歩を進めていたアーチャーもそれに倣い足を止める。

未だ終わりの見えない石段を見上げては、ふぅと一息ついてバーサーカーへと言葉を返す。

 

「随分と今更じゃが一々喧しい奴じゃのう、立候補したのならば登らぬか。後二陣営さえ引き込めばほぼ勝ち戦なのであろうが?ランサーを引き入れた手腕を振るって見せよ!」

 

大大名の名に恥じぬ叱咤を浴びせたアーチャーは直ぐ様歩み始める。それに釣られるようにしてバーサーカーも立ち上がれば溜息交じりに再度登り始めるのであった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

柳洞寺へと続く階段にある最後の踊り場へとたどり着いた二人は、じっと眼前に佇む山門へ視線を向けていた。

バーサーカーの知識によればあの山門にはアサシンのサーヴァントが居る、との情報が齎されていたのだがその様な姿は微塵も見受けられない。

 

「居らぬようじゃな、飛んだ拍子抜けじゃの?セイバーに対し得意げに『お前なんざアサシンにコテンパンにされるから留守番してろ』とか抜かしたわりに誰も居らぬとはのう!」

 

静寂に包まれた山門を見据えつつ大笑いするアーチャー、それに対しバーサーカーは中指を突き立てて文句を垂れた。

 

「ウッセーんだよロリババァ、原作じゃあの控えめ胸な騎士王様は佐々木小次郎っつーアサシンにやられかけてんだ。保険を掛けて何が悪いってんだよ、後護衛役には最適だろ?直感はピカイチなんだからよ」

 

「正史ならば、じゃろうに。お主のせいで改変された歴史である現在においてその佐々木小次郎とやらが居る可能性は低かったであろう?」

 

「一々癪に障る物言いしやがって。オメーもあの腹ペコ騎士王と同じで俺ちゃんに突っかからねぇと気が済まねぇのかよ!」

 

踊り場で口喧嘩を始めた二人、そんな二人の耳に聞こえたのは飛来する何かの風切り音であった。

それが直撃する寸前で互いにその場から離れる様に地を蹴れば、先程まで立っていた場所には剣が刺さっていた。その剣は蒼の柄に金色の鍔の両刃剣…二人には馴染のある物であった。

 

「む、外してしまいましたか…正々堂々(ふいうち)にも関わらず避けられるとは中々やりますね」

 

「あんたはんが殺気駄々漏れにしてるからとちゃいます?そないに力むと可愛らし顔が台無しになってまうさかい気ぃつけなはれや」

 

声のする方へとバーサーカーとアーチャーが振り向けば、山門の上に立つ影が二つ。背後から照らす月明かりにより顔までは確認できないが、片やマフラーを靡かせる帽子を被った女性、片や身の丈はありそうな剣を担いだ前部分をはだけさせた着物を羽織る少女である。

 

その人影を視認したバーサーカーはただ一言叫んだのであった。

 

「F**k!」




みんな大好き謎のヒロインと鬼のエントリーです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖女様

誤字報告ありがとうございます、確認不足で申し訳ございません。

何やらとてつもない勢いでお気に入り登録が増えていって正直驚愕しています、デッドプール人気すごいですね


「クソッタレ、とんでもねぇ奴出してきやがったなガイアの野郎!…アラヤだっけか?」

 

バーサーカーの吐き捨てるような叫びは夜空へと消えていった。その声を隣で聞いていたアーチャーは小首を傾げつつバーサーカーへと問い掛ける。

 

「なんじゃ、そんなに手間取る奴らなのか?」

 

「手間取るってもんじゃねーよ、お前に分かるように説明するなら言う事聞かねぇ森長可が二人居るって言えば満足か?説得して聞くような連中じゃねぇぞ」

 

「…是非も無いよネ!」

 

白目で答えるアーチャー、心なしか頭身も縮み服まで脱げているようである。バーサーカーは背に担いだ二つの刀を諸手で引き抜くと刃を打ち合わせて音を響かせる。

 

「さぁて、お前はどっちが良い?モツ抜き大好き鬼娘か未来のお友達か」

 

「ふむ、ならばワシはお友達とやらを選ぼうかの!臓物を抜かれるのは気が乗らんからな」

 

バーサーカーとアーチャーは互いの標的を定めれば不敵な笑みを浮かべて腰を深く落としてゆく、その姿を見やれば山門の上に立つ影もするりと降りて待ち構える。

 

「聞いとったんとちゃう気がするけどまぁええわ、うちは鬼やし長ったらしい言葉より力づくの方が好みそやしね」

 

「鬼って皆そうなんですか?ちょっと理解に苦しみますね、真正面からのぶつかり合いなんて草臥れるだけだと思うんですが」

 

着物をはだけさせた少女は恍惚とした表情で全身タイツの男を待ち構える。額から伸びた二対の角はまさしく鬼のソレ、手にした得物を振りかぶればバーサーカーの頭蓋を叩き割らんと振り下ろす。

自身の頭蓋目掛けて接近する大剣を、眼前で交差させた刀で受け止めるとバーサーカーは小さく溜息を吐いた。

 

「藪も突いてないのに鬼が出るってこの山はどうなってんだ、少しでも歩けばジャガーノートが転がってんじゃねーのか?」

 

「ふふ、面白い人なんやねぇ。鬼を相手にしてこないにべらべらと喋るんは早々居らんかったさかいに」

 

バーサーカーは力づくで大剣をはじき返すと石段を蹴り後方へと飛び退く、クラス補正があるにも関わらずアサシンの大剣を弾くのに手間取るとは。内心では若干の焦りを感じつつ次の一手を拱いていた。

 

「さて、お主の相手はワシな訳じゃが…その剣、セイバーじゃろ?」

 

「いいえ、私はセイバーではありません。この世のあらゆるセイバー(無駄に増えたアルトリア顔)を誅殺すべく舞い降りた暗殺者なのです!」

 

踊り場へと突き刺さった剣を引き抜き天へと掲げるもう一人のアサシン、頭上からは不思議と光が降り注ぎその姿を照らしていた。

その姿を眺めつつアーチャーは独り考えていた、バーサーカーと同じ臭いがすると。

 

 

 

 

息つく暇もない程の剣戟を繰り広げるアサシンとバーサーカー、傍から見ればバーサーカーが圧されているのは明確であった。だがしかし、当の本人は微塵もそのような気配は感じさせることなく大剣を捌いていく。

 

「ヒュー、流石は酒呑童子様だ。気ぃ抜いたら俺ちゃんバッサリやられちゃいそ―!」

 

「相変わらず余裕のようやねぇ、ほんならもう少し本気出して相手しよか?」

 

「はっ、勘弁してくれよ。俺ちゃんこの後聖女様の説得イベントが待ってんだぜ?ここでAP使い切ったら黄金のリンゴ齧らなきゃだろ!」

 

幾度目かの振り降ろしを弾き返すとアサシンの腹部目掛けて蹴りを放つが、大した手応えは無くアサシンは身軽な動作で距離を取る。

互いに碌なダメージを与えられず無駄に時間ばかりが過ぎていた。僅かばかりの睨み合いの後バーサーカーは不意に両手に持つ刀を背中の鞘へとしまい込む。

 

「おや、降参でもしはるん?ほんならうちの勝ちって事やねぇ、骨の髄まで確りと味わわせてもらいまひょか」

 

バーサーカーの行動に小首を傾げつつにんまりと笑みを浮かべるアサシン、それに対しバーサーカーは鼻を鳴らして眉を顰めた。

 

「おいおい、何勘違いしてるんだ?俺ちゃんは降参した覚えはねぇぞ、このままやり合ってても埒が明かねぇから秘密兵器を使う事にしただけさ」

 

そう言うなり器用に口笛を吹くバーサーカー、しかしその口笛に対して何かが起こる気配は微塵も感じられない。

 

「ふふ、大仰な事言うた割には何にも起きひんやないの…?」

 

アサシンは歩みを止めずバーサーカーへと更に近付いてゆく。そして自身の手が相手の心臓を貫ける程の距離へと到達した瞬間、バーサーカーへと迫る紅き閃光を目にした。

瞬時にあの閃光は危険だと察知したアサシンは横へと飛び退く、その直後バーサーカーの身体を穿つ閃光。それは深紅の槍(ゲイボルグ)であった。

 

貫かれたバーサーカーはそのまま槍と共に吹き飛び、山門の扉を撃ち抜いて衝撃音を響かせていった。

 

「ふむ、加減はしたつもりであったが…些かやりすぎたか?」

 

吹き飛んだバーサーカーを見やるアサシンであったが、突如として現れた声の主の方へと振り返る。そこには二振りの槍を携えた女性が一人佇んでいた。

 

「なんや伏兵さんがおったんかいな、いけずやわぁ」

 

「ふん、彼奴の言う通り少しは骨のある相手の様だな。行くぞ!」

 

鬼と神殺しの戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

石畳で整えられた参道の上に転がるバーサーカーだったモノ、捩じり折れた四肢は所々骨が剥き出しになり頭は百八十度回っている。

 

「ぅう…予想以上に効いたぜ、質の悪いマリ○ァナでもキメた気分だ。ハイライトの消えたぐだ子が俺ちゃんを呼んでやがる」

 

次第に人間の形へと復元を始めたバーサーカーはぶつぶつとぼやきながら胸部を貫いていた槍を引き抜いた。それを放ると共に首を捻り戻せば、漸く辿り着いた柳洞寺の境内をゆっくりと見回す。

 

「さて、葛木先生の言う通りならあの聖女様が居る筈なんだがな。こんだけ爆音ぶちかましといて気付かれてない訳ねぇよな」

 

肉体の違和感を確かめるかのように肩を回しつつ歩き出せば、先程収めた刀を抜き取り構える。

参道を中程まで進んだ所で歩みを止めるバーサーカー、数瞬の後飛来した何かを弾くとそれは黒い霧のような物も纏った槍だった。

 

「おーほー、葛木先生め…俺ちゃんのこと上手く騙しやがったな。何が聖女様だっつーの」

 

憎々し気に呟いたバーサーカーは気配のする方へと向き直る。そこには黒のタイトドレスの上に黒のファーコートを羽織った黒き竜の魔女が居た。

 

「こんな時間に参拝とは、礼儀知らずも甚だしいわね?私は神なんて下らない物信じてはいないけれども、もし仮に居たとするならば迷惑千万でしょうね」

 

「おいおい、ちゃっかり新宿衣装着てんじゃねーの。プロット版から挿げ替えるのは勘弁だぜ!」

 

地を蹴り駆け出すバーサーカー、迎え撃つは黒き聖女(ジャンヌ・ダルク・オルタ)

決戦の火蓋は落とされた。




ノリと勢いで書き上げたので、誤字等ありましたらご報告下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

竜の魔女

ネトフリのパニッシャー面白いですね


柳洞寺の境内で対峙したバーサーカーとアヴェンジャー。緊迫した面持ちで睨み合い、互いに一撃目を放つ機会を窺っていた。

山門より向こう側では、ランサーとアサシンの絶え間ない剣戟音が鳴り響き戦闘の激しさを物語っている。

そんな最中、膠着状態を破ったのはバーサーカーだった。

 

「初めまして、ジャンヌちゃん。俺ちゃんはバーサーカーのデッドプールってんだ、よろしくな?」

 

構えを解き両腕を広げて見せれば、話し合おうとでも言いたげに自己紹介を始めた。その姿に訝しむアヴェンジャーではあったが、攻撃の意思はないと分かるも構えは解かずに言葉を返す。

 

「デッドプール?そんな英霊聞いたことが無いわ。おまけに聖杯戦争であるにも関わらず他のサーヴァントと仲良くお友達ごっこしてるらしいじゃないの、イカれてるんじゃないかしら?」

 

デッドプール(死の賭け)と言うよりヘッドフール(間抜けなお頭)ね″そう告げるアヴェンジャーに対しバーサーカーは首を傾げつつ答える。

 

「ハッハー、流石はオルタちゃんだ。俺ちゃんを逆上させようって魂胆か?そんなフレポ礼装にも劣る安っぽい挑発になんざ乗る訳ねぇだろ」

 

と言いつつ両手を眼前に持って来れば中指を立てて見せつける。その仕草にアヴェンジャーはピクリと眉を上げて睨みつける。

 

「おっと、煽り耐性低いのはどっちだよ?これくらいでキレてたら俺ちゃんと会話できないぜ、堪え性の無い尼さん?」

 

バーサーカーが追撃のように言葉を投げれば見る見る内にアヴェンジャーの顔は険しさを増していく。そして、尼さん発言の直後バーサーカーの足元から突如として爆炎が吹きあがった。

 

「殺すわ、骨も肉も魂も残さず焼き殺してあげる!私が(シスター)ですって?神なんてクソ喰らえっての、あんなモノに仕える奴らと一緒にするんじゃないわよ!」

 

怒号と共に巻き上がる爆炎は更にバーサーカーを飲み込み、アヴェンジャーの怒りに呼応するかのように炎は黒く大きくなってゆく。

そして、手にした剣を振りかざせばバーサーカーの頭上に数本の槍が出現。周りを取り囲むように回転した後に、一斉に燃え盛る炎の中へと奔ればバーサーカーを串刺しにしてゆく。

 

「ふん、呆気ないわね。面倒だけどあの二人の加勢でもしてあげようかしら」

 

呆気ない幕切れに拍子抜けだと言わんばかりの態度で鼻を鳴らすと、踵を返して山門へと向かい始めるアヴェンジャー。背後では未だに勢いが衰えない黒い炎が煙を上げている。

だがしかし、突然背後から声を掛けられた。その声は明らかに先程焼き殺した筈の男の声である。

 

「おいおい、デュヘインされるかと思って尻の穴締めたのにそれで終わり?師匠の時も言ったけどオタクら正体バレてるのに宝具ひた隠しにし過ぎなんだよ、もっと過激なヤツお見舞いするくらいの気概はねーのかっての」

 

思わず振り返れば其処には、業火の中から悠々と出てくる影が一つ。

黒いライダースジャケットを纏い、体にはチェーンを巻き付けた姿の男。その頭部は剥き出しの頭蓋骨、それが燃え盛る炎に包まれていた。

 

「さぁて、仕切り直しと行こうぜ?復讐者相手にはお誂え向きの姿だろ」

 

バーサーカーが宝具により復讐の精霊(スピリットオブヴェンジェンス)へと変貌を遂げたのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

振るわれた大剣がランサーの頬を掠め紅い痕が滲んだ、石段を蹴り背後へと飛べば数段下の踊り場へと着地し僅かばかりの距離を取る。

召喚された土地によりサーヴァントは知名度での能力向上があるとはいえ、地力では確実に此方が勝っている筈である。であるにも関わらず、アサシンとの攻防は僅差ではあるものの彼方の方が押していた。

 

「解せんな、何故貴様のような魔の者に私が圧されているのだ?」

 

手にした槍を振るいつつ体勢を整えると、アサシンは不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「寺におるあの黒い娘の力のおかげで随分と力が漲りよるんよねぇ。あそこで喋ってはる娘も同じような事言うとったわ、当人は竜の力がどうこう言うっとったんやけど…うちも原理はわからんさかいに」

 

アサシンがちら、と視線を向けた先には意気投合した金髪のアサシンとアーチャーの姿があった。二人は『セイバーなんぞ時代遅れ、今は飛び道具こそジャスティス!』『セイバー倒すべし!慈悲は無い!』等と叫び合っている。

此方の味方に引き入れるという作戦は成功?したようだが、不穏な言葉に一抹の不安を覚えるランサー。しかし、その不安も眼前に佇むアサシンに比べれば些細な悩みである。

 

(殺さずに説得しろとは、随分と無理難題を吹っかけてきおって…)

 

内心独り言ちるランサーであったが、地を蹴れば鬱蒼と生い茂る木々の中へと駆け出してゆく。それを逃すまいと後を追うように駆け出すアサシン、その口元には変わらぬ笑みが湛えられていた。

 

ランサーとアサシンが山へと入って行った直後、塀の上に何者かが出現した事は誰一人気付くことは無かった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ほらほら、どうした?出目金青髭男爵(ジル・ド・レェ)が居ないとなんも出来ない小娘サーヴァントなのか?俺ちゃん程度に肉弾戦で負けてるようじゃこの先生き残れないぜ!」

 

左右の拳に鎖を巻きつけたバーサーカーは無遠慮にアヴェンジャーへと目掛けて強烈な突きを放ってゆく。それを手にした旗の柄で器用に受け流すと、バーサーカーの背後へと回り旗の先端で胴体を貫く。

そのまま魔力を流し込み黒炎を爆発させれば勢いよくバーサーカーは吹き飛び塀へと激突する。

 

「るっさいのよ、好き勝手にべらべらと!別にジルなんて居なくても私一人でなんだって出来るっての!それよりアンタ、急に姿が変わったかと思えば…燃える髑髏ですって?ちょっと良いなと思っちゃったじゃないの!」

 

琴線(中二心)に触れたのか思わず本音を漏らすアヴェンジャーだが、口走った内容を思い返した途端その頬は見る見るうちに紅潮してゆく。

その姿にほくそ笑むバーサーカーは、逆さまにひっくり返ったまま問いかけた。

 

「自分の気持ちに素直になっちゃえよ、好きなんだろ?こういうの。俺ちゃんと手を組めば一日眺め放題、なんなら別の姿だって拝ませてやれるんだぜ?」

 

その言葉にピクリと肩が跳ねるアヴェンジャー、既に陥落寸前の様である。その隙を見逃さなかったバーサーカーは直ぐ様立ち上がり駆け寄って行く。

 

「決断するなら今の内だぜ?なんたって…ラスボスのお出ましだからな」

 

アヴェンジャーへと背を向ける形で立ち止まると、直後に飛来する斧を片手で受け止める。視線の先には金髪の美青年が塀の屋根に立っていた。

 

「下等な道化如きが我の宝物に気安く触れるとは、厳罰を下さねばなるまいて。容易く死ねると思うなよ?」

 

「ヒュー、王様はトランプをやったことがねぇのか。道化(JOKER)王様(KING)より強いってのを知らねんだろうな」

 

握り締めた拳の親指を立てたバーサーカーはその手を自身の首元へと添える、そして真横へと滑らせれば拳を振り下ろして見せる。

 

塀の上に立つ美青年(ギルガメッシュ)はバーサーカーの返答に高笑いで応える。

 

「フハハハハハハ!随分と嘯くではないか、道化風情が!この我より強いだと?笑わせるな、どこの馬の骨とも知れぬ貴様如きにこの我が負ける筈が無かろう!だがまぁ、近い内に貴様のその思い上がりを其処な雑種共々へし折ってやろう。精々足掻くがよい、道化よ」

 

一頻り笑った後にギルガメッシュは一息吐くと、先程撃ち出した斧を別の宝具で回収する。そのまま踵を返すと夜の闇へと溶けるように消えて行ったのだった。




やっとギル様降臨!後ジャンぬチョロインにしても良いですか?(震え声)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。