OVER LORD外伝~ワニの大冒険~ (豚煮込みうどん)
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はーい、よーいスタート。

モンハンFZが発表されたので初投稿です。

ちょっと加筆修正しました。


これは己の憧れに生きた男の物語…

 

人成らざる身でありながら、誰よりも人という種を愛し、その素晴らしさを謡いながら歩き続けた『漢』

 

後世、人々は彼をこう讃えた…

 

『BEAST LORD』

 

 

 

獣王と…

 

 

 

 

 

 

その日、鰐淵茂(わにぶちしげる)は自身が長くプレイを続けていたVRMMORPG『ユグドラシル』がついに最終日を迎えることを複雑な心境で迎えていた。

 

「長い12年だった…ヴァーチャルの世界だとは分かっていても、もうこの世界を旅することが出来ないというのはやっぱり名残惜しいな。」

 

茂の溜息混じりの憂鬱な一人言が、音の無い静かな空間にただ木霊して剥き出しの岩肌に染み込む。

 

「さて、そろそろ行くかな。」

 

ユグドラシルのとあるエリア深く、その薄暗い不気味と形するに相応しい森の最深部、そこに自然に形成されたままの横穴の洞穴。

その入り口は大樹の根が張り巡らされ、苔むした岩肌は雄大な自然が長い時間をかけて形成した事を唯静かに語る。

そんな洞窟の最深部、鰐淵は腰を下ろしていた荒削りながら何処か玉座めいた大岩から重い腰を持ち上げると己の拠点の外に向かってゆっくりと歩を進める。

 

その大の大人の胴程の太さはあろうかという太く長い尾を左右に揺らしながら…

 

 

そう今日はユグドラシルの最終日、鰐淵は随分前からその日、自分が何をするかは決めていた。

ある者はギルドメンバーやフレンドと最後の語らいをしたり、終ぞ使えなかった貴重なアイテムを使用したり、最後に強敵に挑む者もいるだろう。

それも良い、だが鰐淵は何も特別なことは行わない、精々が装備、アイテム等を万全の物にして唯歩き、ポップしたモンスターと闘う。唯それだけだ。

 

 

エリア『魔の森』、そこは仰々しい名の割りにレベル30帯の動物系モンスターのポップ率がそこそこ高いと言う以外、特に特徴も無い何処にでもある拠点。

その最深部の洞窟を根城にしていたのが鰐淵茂のプレイアブルキャラクター、即ち彼のユグドラシル内でのアバター。

 

種族は人では無く異形種、リザードマン。俗に言う蜥蜴人であるが彼は正確に言えば少し違う。

確かに同じ爬虫類種ではあるが、その姿は蜥蜴では無く鰐をモデルとした赤い鱗を黒金で出来た漆黒の鎧で覆った巨躯のリザードマンである。

 

 

キャラクターネームは『クロコダイン』!!

 

人呼んで獣王クロコダイン!!

 

 

 

それはかつて幼い頃、自分の兄に勧められて読んだ漫画『ダイの大冒険』のキャラクター。

クロコダインは強く、雄々しく、優しく、繊細で、何より仲間の為に何度も己の身体を盾に戦い続ける勇敢な戦士だった。

クロコダインは作中数多くの名言を残し、それは当時の少年達の心に熱い物を残す事となったのだ。

 

茂はそんな彼、クロコダインに成りきってユグドラシルをプレイしていた。

自然、彼の周りにはダイの大冒険好きの同好の士が集まり、最盛期にはそれこそ各ギルドメンバーによるバーン様率いるギルド『魔王軍』が結成されたり、勇者ダイを中心としたギルド『竜の紋章』により勇者軍団が組織され、フレンドのリストには『ダイ』『ポップ』『ヒュンケル』『ザボエラ』『フレイザード』etc.上げればキリが無い程のプレイヤーが集まっていた。

 

しかしそれも昔、ギルド長こと『ダイ』が現実の都合から姿を消し、それに続き事情はそれこそ様々であろうが徐々に徐々にフレンドのログイン率は目に見えて減っていった。

一度そういった人の流出が始まれば人が離れるのは驚く程に早い物であり一人、また一人とフレンドのリストからはログイン中を示す白い文字が消えていく。

そして自然、人が減れば今まで出来たことも難しくなる。

拠点として全員の協力の下拠点として作成された張りぼての様な物ではあるがバーンパレスも維持の難しさから引き払い、現在の拠点が維持費用が極端に安価な魔の森になっているのはクロコダイン一人でも維持管理が無理なく行える、そういった理由からであった。

 

 

 

そうして、ギルドに最後まで残ったのが鰐淵ことクロコダインだった。

 

 

 

 

そしてユグドラシルの最終日を当てもなく、唯一人、既に見慣れたしかし、現実では見ることの出来ない雄大な自然を最後に堪能しながらクロコダインはのっしのっしと森の中を歩き続ける。 

 

歩く、歩く…唯歩く。途中エンカウントしたモンスターを斧で、拳で、粉砕しながら消えゆくであろうこの世界を目に焼き付ける様に歩き続ける。

 

それの何が楽しいと問われれば歩くことと闘う事そのものが楽しいのだと鰐淵は当たり前の様に応えるだろう。

 

 

現実でのクロコダイン、つまり鰐淵は元はプロの格闘家だった。だが、ある日の試合で足を壊し、結果として自力での歩行が非常に困難な身体となってしまった。

 

幸い、「今まで稼がせてもらってきたからな。」とプロモーターである実の兄によって生活面でのサポートもあり、金銭的苦労はさほど無かった。

それに別に格闘家として終わってしまったとはいえ、決して人として腐った訳でも無かった。それでも正直に言ってしまえば時間を持てあましたと言うのは間違いなかったのだが。

 

そんな時に出会ったのがVRMMOゲーム『ユグドラシル』、この世界ではキャラクターを動かすのは本人の実際に身体を動かすイメージだった。ならば鰐淵はヴァーチャルの世界の中とは言え再び自由に歩き、また闘う事もできたのだ。

 

 

だからだろう、自分のリングネーム『マスク・ザ・クロコダイル』の原型であった獣王クロコダインとしてロールし始めたのは。

 

 

これまでユグドラシルの中で過ごしてきた12年間、色々な事があった。出会いがあり別れがあり、自分の半身を如何にあの憧れたクロコダインへと近づけるか…ずっと最初から最後までそれに苦心してきた。

それも遂に今日で終わりを迎える。

寂しさもあるが同時に満足もある。もしかしたらユグドラシル2が近く発表されでもしないだろうかという楽天的な希望もある。

 

 

一言で纏めるならそう「楽しかった」だと自信を持って言えるだろう。

 

 

 

そんな様々な思いを馳せながら、時間を忘れて歩き続けるクロコダインが森の小さな渓流、その向こう岸へと渡ろうとせせらぎの中へと足を踏み入れた瞬間、その身体に本来ならあり得ないはずの強烈な違和感を感じた。

 

 

「…水が冷たい…だと?」

 

思わず声を漏らしたクロコダインは困惑を覚えずにはいられなかった。

が、軽い混乱状態のまま思わずといった様子でそのまま極自然な動きでその手で清流の水を掬い上げる。

やはり掬い上げた水も冷たい。本来VRゲームでは所謂、五感への刺激が大きく制限されている。その筈であるにもかかわらずこの水の触感はあまりに現実にそくしすぎている。異常だ。

 

「どういう事だ?おーいGM、何かバグかしらんが…チッ!クソっ、GMコールも繋がらんぞ…」

 

クロコダインは今現在の自分の置かれた不可解な現象に困惑しながらも、自らが掬い上げたままの手の平の中の清水を見つめる。

その揺らめく小さな水面に映るのは、やはりというべきか鰐淵茂では無く獣王クロコダインの姿であった。

 

しばらくそのまま呆然としていたクロコダインだったが意を決してこの不可思議な現実を計る為にそのまま掬った水を口に含ませる。

 

本来、リアルの世界であれば如何に綺麗に見えようとも川の水を飲むなど出来た物では無い。

繰り返され続けてきた大気汚染と土壌汚染、様々な自然破壊の影響で外出時には専用のマスクすら必要な世の中だ。

今日日しっかりと浄化された筈の水道から飲める飲料水ですら独特の匂いと味で眉をひそめてしまう。それが直接川の水を口に含むと言うのだ。身体が受け付けず直ぐに吹き出すのが正常な反応と言えただろう。

そもそも、此処はヴァーチャルの世界なのだから水を飲んだ所で何かあるという事すら本来はあり得ないのだ。

 

しかし…

 

(…何だこの水は!?うまいぞ!!)

 

ゴクリと喉が鳴り、一口分の非常に良く冷えた水が食道を通り、空の胃袋に届くとクロコダインは嫌が応にもこれが現実であると思い知ることとなった。

 

 

「まさかとは思うが、この身体は俺の作ったクロコダインでここはユグドラシルの中だとでもいうのか?…サービス終了と同時にそのままゲームの世界に閉じ込められた…か?流石に笑えんぞ、これは…」

 

昔、そんな設定のアニメが一時期流行になり、見ていた覚えがある。格闘家というのは存外少年の感性を無くさない気質の所があるのだ。

今現在、分かった目の前の現実に打ちひしがれる様にクロコダインは思わず天を仰ぐ。

そうしてふと、視界の大半を木々で埋め尽くされている中、クロコダインが目にしたのは満天の星空だった。その中心に輝くのはスモッグも排ガスも、空を遮る塵芥の一切無い、映像以外では人生では見る事も無かった煌めく星々に彩られた美しい満月であった。

 

 

先程は自分の置かれた非常識極まりない、思わぬ状況に目眩を起こす様な焦りと絶望を感じていたにもかかわらず、クロコダインはそのあまりの美しさに思わず圧倒されたまま、時間を忘れて唯々呆然と星空を見上げていた。

それが数十秒か数分かはたまた何時間も見上げていたのか…それは分からないがようやくその視線が己の両拳に戻された時にはクロコダインは完全にとは言えないまでもすっかり平静を取り戻していた。

 

 

(分からん…分からん事ばかりだが…悪くはないか。動かなかった足が動く、水も空気も美味い。それに…)

 

 

クロコダインは新たな自分の身体の調子を確かめる様に、自分の尾を振り上げると思い切り地面に叩き付ける。

 

「フフフ…レベルは100のカンストだったからな…成る程、実際にあのステータスが現実に反映されればこうもなるものなのか。」

 

 

思わず自嘲の様な笑いを溢したクロコダイン。

 

さもあらん、尾が叩き付けられた地面は砕け、陥没と隆起を巻き起こして軽く地形が変わっているのだから。それこそリアルであればビルの一つ程度ならば簡単に倒壊させられるのではという破壊力が尾の一振りだけで見て取れる。

 

「この身体ならまた戦える!この状況が俺だけと言う事も無いだろう、先ずは村か町か人を探すべきか…何にせよこの森を抜ける所からだな!」

 

 

 

今、この時、此処より一匹のリザードマンの大冒険が始まる。

 

それは永劫に語り継がれるであろう『アインズ・ウール・ゴウン』の伝説の影に眠る、もう一つの伝説の始まりだった。




あくまで導入なのでこんな感じの設定だよって内容です。色々グダグダだけど深く気にして読んじゃ駄目。一応最後までプロットは(脳内に)出来てるんでエタらないようにがんばります。


次話、岡山に台風が直撃したら。


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そういえばダイの大冒険には女騎士いないな・・・

自分ルビ振ったりの多機能フォームが使えないのでそこんとこ~シクヨロ!!

ちょっと加筆修正しました


「ゲギャギャッーーー!!」

 

薙ぎ払い。

両断されたゴブリンの上位種と思われるホブゴブリンの上半身が鮮血をまき散らしながら在らぬ方角へと吹き飛ぶ…

 

打ち下ろしの左裏拳。

左やや後方から飛びかかってきた二匹目、その頭部を粉砕されたゴブリンの身体が大地にめり込む…その骸は宛ら枝から落ちた熟れすぎた果実の成れの果ての様だった。

 

「ゴガァァッーーッフォ!!」

 

背後、破れかぶれに突撃を敢行したオークの巨体を横薙ぎの尾が吹き飛ばす。

『バンッ!』という破裂音と共に『ビシャリッ!』と森の中の岩肌と木々を破裂した肉袋から飛び出した水飛沫が赤く彩る…

 

 

 

「………」

 

黙したまま周囲を見渡しクロコダインはようやく警戒を解いた…

 

 

 

 

森の中をゆっくりと探索しながら彷徨い始めて既に3日が経過していた。その間に様々な事が判明したのだがそれは一旦置いておく。今のクロコダインにとって正直誤算だったのが自身とモンスター達の戦力差だった。

 

手の中に握られた愛武器『真空の斧』を見つめながら思わず喉の奥からうなり声が漏れる。

 

弱すぎる…

 

いや、この場合正確に言えばクロコダインが強すぎるのだがクロコダインが主観的に捉えればやはり弱すぎるというのが正しいのか。

 

 

 

 

 

ユグドラシルの最終日、クロコダインが保有していたアイテムは勿論インベントリに収納されており、クロコダインは当初無手であった。が、これは直ぐに解決した。

 

何せ念じながら手を差し出せばどういう理屈か、空間の捻れの様な物から自分の望んだ物を取り出すことが出来たのだから。検証の結果取り出せたのは残念ながら最終日に自分のインベントリに所持していたアイテムのみ、拠点などに置いていたアイテムは全部ロストしたと考えるべきだろう。

 

しかし幸いと言うべきか普段から戦闘とフィールドワークを基本プレイとしていたクロコダインのインベントリには消費系アイテムはカンストまで詰め込まれているし装備の類いも直ぐに武器屋が経営出来る程充実のラインナップだ。

またクロコダインは当然の判断としてまずは自分の拠点であった魔の森の洞窟を探したのだが…どういう訳か森の地形が大きく変化しており、もはや其処は魔の森とは呼べる物では無くなっていた。

つまりは拠点を完全に見失ったのである。

 

そして散策の道中、種族『獣王』のパッシブスキル“野生の力”が影響しているのか遭遇する動物、動物系モンスターは例外なく逃げ出すか腹を見せ従属の姿勢をみせるか…自殺志願と言わんばかりに襲いかかってくるのはゴブリンやオークなどの所謂亜人系のモンスターばかりだった。

実はクロコダインも当初はここが現実と変わらない世界であるという事からモンスターを殺すことに忌避感はあったのだがそれは直ぐに無くなった。

何せモンスターはクロコダインを殺気を滾らせて襲ってくるのだからクロコダインもその気になるという物、元々闘う事を生業としていたのだから闘争心は人一倍だ。

 

 

そしてこれは未だ確信を持っている訳では無いがクロコダインの中で一つの答えが見つかっていた。

 

即ち…

 

 

「やはり此処はユグドラシルの世界そのままという訳では無いのだな。」

 

手に入る様々な情報を擦り合わせた結果至った結論にクロコダインの止まることの無い足取りも僅かに鈍る。

 

そんな中、クロコダインの聴覚が何かと何かが激しくぶつかり合う音を捉えた。

耳を澄ませば悪鬼のような興奮したモンスターの雄叫びに混じって気合いを込める様な人間の掛け声が聞こえる。

 

クロコダインは音の聞こえた方へと進路を変えると気持ち足取りを速めて進み始めた。

戦闘中だろう其処へ上手く合流出来れば恐らくではあるがこの世界で初めて人間と出会うことが出来るだろうと考えて。

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

リ・エステリーゼ王国冒険者ギルド、女性のみで構成されたアダマンタイト級チーム『蒼の薔薇』に所属する戦士ガガーランは同僚のマジックキャスターであるイビルアイと共にトブの大森林へと依頼を受けて足を踏み入れていた。

 

依頼の内容は至極単純、住み処を追いやられたと思われるゴブリン等が最近になって森の外に現れる様になった事に対する調査と可能ならばその解決。

既にこの依頼はゴールド級のチームが受注していたのだがそのチームは未帰還、依頼の失敗と見なされ、より腕の立つガガーラン達にお鉢が回ってきた訳である。

蒼の薔薇には他にも勿論腕自慢のメンバーが揃っているのだが…如何せん彼女達は冒険者の最高峰、全員が拠点としている王都を離れる事は冒険者組合としても遠慮して欲しく今回の依頼はガガーランと転移によるフットワークの軽さからイビルアイの二人での任務となったのである。

 

 

元々広大なトブの大森林には森の賢王を筆頭とした強力な魔獣達がそれぞれの縄張りを保持しているとされていて、今回調査を行うこととなったエリアはどちらかと言えば王都側に近い縄張り同士の空白地帯に位置する場所だった。

そこに他所から住み着いたのか、それとも急速に力を付けた魔獣が現れたのか…何にせよその空白地帯とも呼べる場所に新たな支配者が誕生したのでは無いだろうかというのが冒険者組合の調査の結果だった。

 

 

 

そしてガガーラン達が森の中で遭遇したのは大量の子分のオーガエイプを引き連れ、全身の体毛を白く変質させた一際大きな体躯を持つ猿の様なオーガ『シルバーバック』であった。

 

「イビルアイ、あのでかぶつは俺が押さえておくからよ、取り巻きをよろしく頼むぜ。」

 

「…ま、多数相手は私の領分か。いいだろう雑魚は引き受けた。先に依頼を受けていた奴らが不覚を取ったのもこいつ等かも知れん油断はするなよ。」

 

瞬時に互いの役割を確認し終えるとガガーランはウォーピックを振り上げるとシルバーバックとの距離を詰める。

 

「おらっ!!」

 

様子見を兼ねているとはいえガガーランが先制に放ったのは強烈な打ち下ろしの一撃!

それを受ければ唯では済まないとばかりにシルバーバックは大きく後方に飛び下がることで回避し、警戒のうなり声を漏らしながらいつでも飛びかかれる様に構えた屈んだ姿勢のままでじりじりと再び距離を開けていく。

 

それに対してガガーランはこのモンスターに対しての危険度を頭の中で引き上げた。(とはいえ確実に倒せるだろうという評価は覆らないが。)

モンスターも冒険者も少し臆病な位の方が長く生きるものだ。それを思えばこのシルバーバックはそれだけで強者たり得る。

恐らくは此方が踏み込めばその瞬間シルバーバックは飛びかかってくるだろう。今まで多くの修羅場を潜ってきた経験からそう読み取る。

 

だからこそガガーランが選んだのはウォーピックを構えたまま、再び着実に敵との距離を詰めるという選択肢だった。

対してじりじりと下がるシルバーバックも実のところ逃げるばかりでは無い、相手を強敵とみるや萎縮と疲労の効果を持つ魔眼でガガーランの力を削ごうと動いていたのだ。

しかしそれはガガーランの装備する鎧、魔眼殺しのゲイズ・ベインの前には無意味だった。

 

魔眼による弱体が効果を見せないことに遂に焦れたのか素早いジグザグの跳躍を繰り返し、死角から飛びかかってきたシルバーバックからの両手の叩き付けを鮮やかに捌くやはり一枚上手なガガーランの反撃がシルバーバックの胴を強かに打ち付ける…闘いはやはりガガーランが優勢なまま当初の遭遇地点からだいぶ離れながら継続していた。

 

「オ~ロロロロロッォォッ!!」

 

お互いの警戒態勢が続く中、興奮した様子のシルバーバックが突然雄叫びを上げ、ドラミングを行う。

 

そしてここに来てガガーランも気が付いた。このモンスターがやたらと消極的な戦い方をしていた理由を。

 

 

先程の雄叫びが合図だったのだろう、毛色こそ違うがガガーランの相対するシルバーバックと遜色ない…否、より立派な体躯を持ったオーガが背後の木上から強襲を仕掛けてきたのだ!

 

「ちっ!!このエテ公俺を誘い出したってのか!?」

 

一瞬早く、それを察したガガーランは咄嗟に身を捻り躱す。

新たなオーガは無理に追撃することも無くシルバーバック同様にバックステップで距離をとる。結果としてガガーランは完全に前後を挟まれる形で強敵二匹と相対することになった。

 

「上等だぜ、仲良く退治してやるからかかって来いや!!」

 

 

 

 

_______________

 

 

 

ガガーランと2匹の闘いの第二ラウンドは当然の如くガガーランに苦戦を強いていた。

 

地の利、数の利、おまけに二匹のコンビネーションは嫌らしく距離をとっての投石などを多用してくる。ガガーランがどちらかに攻勢を向けようとするともう片方が前に出る。

それを逆手にとってフェイントで迎撃しようとすれば最初は引っかかっていたが今度は逆にフェイントに引っかかった振りで一度ガガーランが痛い目を見る羽目になった。

思いの外この二匹の個体の知能の高さが遠距離武器を持たないガガーランにとって厄介だった。

 

しかし苦戦を強いられているとはいえ、ガガーランに焦りは無かった。

何故ならそう時間をおかずイビルアイが援護に駆けつけることは疑いようも無い上に自分はまだ武技を温存している。

 

 

そんな時、不意にガガーランは直感的に強大な存在感を放つ何かが急接近してくることを感じた。

 

(何だ?まさか森の賢王とか言う奴か?だとしたらちょっと不味いかも知れねぇな。)

 

 

それはオーガ達も同様だったらしく二匹揃って手を止めると同じ方向に顔と視線を向ける。

ガガーランはそれを反撃の好機だなどとは思わなかった。むしろより警戒を強くした。

 

二匹にでは無い。接近する正体不明の何者かに対してだ。

 

 

そうして草木を掻き分ける音が存在の接近を知らせると同時、二頭目の大型のオーガの巨体の腹に何者かの拳が突き刺さった。

 

その一撃にどれだけの破壊力が込められていたのか…吹き飛ばされ大木に打ち付けられ絶命したオーガの腹部は完全に”破壊”されていた。

 

その衝撃の一幕に一瞬息をのんだガガーランはようやくその闖入者の全容をその目で捉えた。

 

 

 

 

そこに居たのは拳を振り抜いたままの姿で漆黒のマントをたなびかせ、同じく重厚な漆黒の鎧を身に纏った巨躯のリザードマンだった。

 

 

 

______________

 

 

(とりあえずオーガを攻撃したが……このプレイヤーは女か?いやどちらだ?)

 

クロコダインの視線が失礼な事を考えているなどおくびにも出さず、ガガーランを真っ直ぐに捉える。

対してガガーランは突然現れたクロコダインを全力で警戒しているだろう事が直ぐに覗えた。

なのでそれを察してクロコダインはまず誤解を解く為に口を開いた。

それに戦闘に横やりを入れたのだから断りを入れるのがプレイヤーとして最低限のマナーであろうと。

 

 

「…戦闘の音が聞こえてな、余計な真似だったか?」

 

クロコダインの問いにガガーランは思わず目を丸くする。

 

「いや、丁度苦戦していた所だ。正直助かった。」

 

固い口調ながらもそう答えたガガーランに対してクロコダインは口元を緩める。

 

「フッ、ならばあのもう一匹も早々に片付けるとしよう。すまんが色々と尋ねたいこともあるのでな。」

 

そう言ったクロコダインは手にしていた片手斧をまるで天に翳す様に雄々しく振り上げる!

 

「唸れっ!真空の斧よっ!!」

 

クロコダインの叫びが響いた瞬間、真空の斧の宝玉が煌めきどこからともなく吹きすさぶ風が無数の刃となってシルバーバックへと襲いかかる。

 

魔獣の類いの強い魔法耐性を持つ毛皮を余りにも容易く切り裂き、風は吹き荒れる…

 

そうして風にざわめく森が静寂を取り戻した時にはクロコダインとガガーラン、二人の前にはシルバーバックの死体が倒れ伏していたのだった。

 

 




オーバーロード設定では魔法使える武器は無いはずですがこの真空の斧にはちゃんとそこの部分を補う設定作ってますのでいずれ作中で描写します。



次話 芋掘りが終わったら。


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そうか…そう言えば5も仲間モンスター街に入れなかったもんね…

ダイの大冒険読み返したら最初期のクロコダインが小物過ぎる件。
因みに今作のクロコダインは完結時の性格を踏襲してます。


 

(こいつは…強ぇ…それも半端じゃねぇ!武器だって何だよあの斧、国宝級どころの騒ぎじゃねぇぞ。蒼の薔薇全員なら…いや無理だな…)

 

 

突然現れて自分が苦戦した二匹のモンスターをあっさりと片付けたクロコダインに未だ警戒を浮かべたままガガーランは意を決して声をかけた。

 

「すまねぇな助かったぜ、だがよちょっと聞いときたいんだがなんでお前さんは俺を助けたんだ?お前さんリザードマンだろ?」

 

軽い口調だったがガガーランの内心は軽くは無かった。目の前のリザードマンは明らかに自分の手に負える相手では無い事が嫌でも分かる。幸い敵対的雰囲気は今は無いが自分、否自分達ではどうにも成らないであろう驚異を前にして気楽ではやっていられない。

未だウォーピックの柄を掴んだままのガガーランの疑問に対してクロコダインはゆっくりと腰に真空の斧を引っかける様に収納し敵意が無い事をアピールしながら答える。

 

「モンスターと人間どちらがプレイヤーかは一目瞭然だ。まさかモンスターが今の状況に答えてくれる訳もあるまい。さて、情報交換と行こうか。正直この3日間分からん事ばかりで疲れた。」

 

クロコダインの苦笑いと予想以上にフランクな態度にガガーランもようやく警戒を解いた。何かは分からないが情報を得たいと言う事即ちクロコダインは対話を望んでいるのだから。

 

「俺の名前はクロコダイン。ギルド竜の紋章のギルド長だ。とは言っても俺一人に成ったせいで結果そうなっただけだしこの世界じゃもう多分関係の無い話だがな!!ガハハ!」

 

そう笑いながらクロコダインの姿からガガーランは何故か異様なまでに安堵感を感じていると言う事が感じられた。

それはまるでこの世界にたった一人で彷徨い続けてようやく同胞に巡り会えたとでも表現出来る様な様相だった。まぁ事実その通りなのだが…

 

「俺はガガーラン、冒険者ギルドの蒼の薔薇所属だ。」

 

「蒼の薔薇か…良い名だな。」

 

「ありがとよ。ところであんたは俺をぷれいやーだっみたいな事を言ってたがそのぷれいやーってのは一体なんだ?見た所あんたはリザードマンの旅人みたいだがもしかしてリザードマンは人間の女をそう呼ぶとかか?」

 

そのガガーランの言葉にクロコダインの明るかった表情が一瞬にして強張った物へと変化する。

 

「…プレイヤーじゃないだと?今は冗談を言っている場合じゃあ無いだろう?悪いが今は真剣に情報が欲しいんだ。」

 

ズイと顔を寄せたクロコダインにガガーランも困惑する。余談ではあるが人の中でも(男女関係無く)非情に大柄な部類に入るガガーランではあるがクロコダインと並べば流石にその差は大人と子供程になる…

 

「ちょっと待ってくれ、本当にそのぷれいやーって言うのが何かわからねぇんだ!そいつは一体なんなんだ?」

 

ガガーランの言葉にクロコダインは軽い目眩を起こすと小さく「なんと言うことだ…」と溢した後で一呼吸置いて精神を安定させる。見ればガガーランの表情は真剣そのもので嘘を吐いているとはとても思えない。

クロコダインはそうしてようやく目の前の彼女が自分と同じ状況に陥ったユグドラシルプレイヤーでは無いこの世界の住人なのだと理解し、また自分がそんな当たり前の可能性を失念していたことに肩を落とした。

 

「いや、済まないガガーラン少し取り乱した…俺は…そうだなプレイヤーを探して遠い…恐らくは本当に遠い所から此処に辿り着いた旅人だ。」

 

明らかに今作ったカバーストーリーなのが解りきったクロコダインの身の上話だが目に見えて落胆した様子のクロコダインにガガーランは追求することはしなかった。

 

「悪いな…そのぷれいやーって奴の情報を俺が持っていたら良かったんだがな。」

 

「いや、気にしないでくれ。それより教えて欲しい、ここから近い街や村ではどこが一番近く情報が集まるだろうか?厄介なことに俺にはこの辺り一帯の土地勘が全くなくてな。幸いこの身体だ、生きていく事には事欠かないだろうが今は何より情報が欲しい。」

 

互いに実直な性格故波長が合ったのだろう、互いの会話のやり取りに警戒の色は既に無くなっていた。しかしガガーランから返って来た返答にクロコダインはまたしても苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべることになる。

 

 

「俺としてはそいつをお前さんに教えるのは吝かじゃ無いんだがクロコダイン、お前さんは街や村には入れないと思うぜ?知っているだろ?人間とビーストマンの関係をさ。そりゃあ厳密に言えばビーストマンとリザードマンは違うだろうけど大半の人間はそう思っちゃくれない。堂々とお前さんが街に足を運べば大混乱になるだろうよ。」

 

ガガーランの言葉にクロコダインの表情は渋くなる。無論そのビーストマンと人間の関係なんぞ知っている訳が無いがある程度想像は出来る。例外はあれど人と亜人種、獣人種が敵対して生存争いをしているのだろう。

 

「…そうか…」

自然クロコダインの視線が足下へ下がりその凶悪な尻尾までするすると丸くなる。いわゆるガチションボリ沈殿丸状態だ。

 

「…だが、そうだな。」

 

続くガガーランの言葉にクロコダインは視線を上げる。それはまるで縋る様な視線だった。

 

「俺も正確な位置までは解らないがよ~今がこの辺りで…太陽の位置が…あーでこーで…」

 

ぶつぶつ言いながらガガーランの手によってウォーピックの先端が大雑把な図形を地面に描き出す。

それは拙いながらのこの一帯の地図であった。

 

「…俺も実際に行った事が無いからあくまで多分って話だがよく聞けよクロコダイン、位置的にあっちの方角だと思うがずっと進めば上下に分かれて逆瓢箪形になっている大湖があるって話だ。かなりでかいらしいから少々のずれは問題ないと思う。」

 

「それで?その湖がなにかあるのか?」

 

「下の湖の麓にはリザードマンの集落が点在しているって話だ。さっきも言ったが俺も実際に行った事が無いから正確な情報じゃあ無い。それでも旅人のお前さんの旅の目的地の一つにはならないか?」

 

ガガーランの言葉にクロコダインは暫く瞑目して考えを纏める。

正直を言えば多少の混乱を招いてでも人の住む街に行って情報を集めたい。

 

「勿論俺も拠点にしている街に戻ったらお前さんが探しているぷれいやーとやらの情報を集めてやるよ。その上で有力な情報があればそのリザードマンの集落に届けてやる。こう見えて顔は広いし情報収集には強いコネがある。大船に乗ったつもりで俺を頼ってくれりゃあいい。」

 

ガガーランのその頼もしい言葉にクロコダインは心底参ったとばかりに頭を掻く。

ガガーランは困っている人物を見ると手を差し延べずには居られないお人好しの熱血漢だった。そしてそれはクロコダインの最も好きだった『素晴らしい人間像』そのものであった。

 

「俺はついているな…初めて出会った人間がお前さんの様に素晴らしい人間で本当によかった。感謝しようガガーラン、俺の次の目的地は決まったぞ!!」

 

地図をよく見る為腰を落としていたクロコダインが再び立ち上がりとびきりの笑顔をガガーランへと向ける。

それにこんな世界へとやって来たのだ…せっかくだ人類未到の地への大冒険、未開の部族を訪ねて等という冒険譚のような真似も悪くない…いやそう改めて考えると楽しみですらあった。そう、それはまるで自分が期待したユグドラシル2の様では無いか。

 

「そりゃあ良かった。助けて貰った恩も返せないじゃアダマンタイトの名が泣くからな。」

 

「助けて貰ったのはこちらだガガーラン。俺の横やりが無くてもお前なら奴らを倒せていたはずだしあれは俺の都合での介入だ。文句こそ言われても筋違いの感謝などこそばゆいだけだ。」

 

ガハハと二人は互いに笑い合う。ほんの短い間のやり取りで二人は互いを友と認め合っていた。

そんな中クロコダインはゴソゴソと腰の無限のポシェットから幾つかのポーションと木の実らしき物を取り出した。これらは無論ユグドラシル製でこの世界では貴重品になる。

 

「さて、俺は早速リザードマンの集落を目指す。ガガーラン礼の代わりだ。お前にこれをやる。力の種と守りの種、食えば一時的だが効果が得られる、それと回復ポーションだ。」

 

「別にいいって、礼なんざ。」

 

ずいと差し出されたアイテムを握ったクロコダインの手をガガーランは気持ちの良い笑顔で遠慮しようとする。

 

「そう言ってくれるな。俺はこの出会いそのものにも感謝をしている、これで受け取って貰えねば恐らくこの出会いに痼りを残すだろう。だから黙って受け取れ。」

 

「しょうがねぇなぁ…」

 

そうして今度こそガガーランの手に幾つかのアイテムが納まると伸ばされたままのクロコダインの手とガガーランの手が硬く結ばれる。

 

「それではなガガーラン。」

 

「あぁ、お前の旅の無事を祈るぜ。」

 

 

短いやり取りではあったが『漢』同士の別れに多くの言葉は必要無いのだ。

互いに同時に背を向けて歩き出す。振り返ることなど無くただ真っ直ぐに…しかし互いの翳す様に振り上げられた手は奇しくも全く同じタイミングであった事を二人は知らない。

 

 

 

 

 

_________

 

 

「私の援護にも駆けつけず随分と楽しそうだったじゃ無いか。え、ガガーラン?」

 

クロコダインと別れたガガーランにふと声がかかる。

 

「お前があの程度に苦戦するタマかよイビルアイ。」

 

ガガーランの視線の先には太い木の幹に背を預け腕を組んでいるイビルアイの姿があった。

 

「所でお前から見てどうだったよ?」

 

何がとは言わない、言う必要も無い。

 

「とんでも無い怪物だ。上空から魔法で封殺しようにもあの様な魔法の武器をもっているのだからな…はっきり言えば勝ち目が無い程だ。正直お前の余計な一言が引き金でいつ闘いになるかと思うと心臓に悪かったぞ。」

 

「そりゃあ悪いだろうよ。止まっちまう程にな。」

 

ガガーランは先程のやり取りを影で息を殺して観察していたイビルアイの珍しいアンデッドジョークに乗ってやりながら問いかけを続ける。

 

「だけど良い奴だった。俺は気に入ったぜ!所でイビルアイ、お前はぷれいやーって何か知ってるか?」

 

「……知っている。」

 

イビルアイは一瞬言い淀んでから答えた。

 

「何だよ、チビ!知ってんなら先に言えよ!?俺はクロコダインに教えてやりてぇ、今から追いつけるか?」

 

「まぁ待て筋肉達磨、知っていると言ってもそれほど私も深くは知らん、だが同時に私よりも詳しい人物に心当たりもある。そいつに近い内に聞きに行ってやる。どうせ情報を届けてやるならそれからでも遅くはあるまい。それにしても奴の化け物じみた強さはぷれいやーだからというならば納得出来るという物だな…」

 

 

こうして二人は王都へと帰還したのだった。

そして王都の冒険者組合にはガガーランから一つの報告が成された、即ち人間に友好的な最強のリザードマンの存在を。




一気に書きました。細かい所はもしかしたら改訂するかもしれません。

導入編終わったから皆さんが大好きな俺っ娘ヒロインはここで一旦退場です。
次回からようやくリザードマン編に入るぞい。ゼンベルとクロコダインで相撲とらせる為に俺はこの話を書き始めました。


次話、ペルソナ5クリアしたら。


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あなたもリザードマン、わたしもリザードマン

リザードマン編って何だよって言うアニメから入った人達はweb版か原作を読もう!!
それと誤字脱字報告してくださった方、ありがとうございました!!


オリジナル設定や技能、アイテムが出ます。ご注意を。


アゼルリシア山脈その南端に広がる広大な森林地帯…トブの大森林の北には巨大な湖が存在していた。

 

その大きさおよそ20キロ四方の湖は上下に分断された逆瓢箪形という独特の形状で上部の大きい湖は水深が深く大型の生物の生存圏であり、下方の湖は上方の湖に比べて浅くその南部の外周は湖と湿地帯が混ざり合う様な地形がかなりの広範囲に渡って広がっていた。

 

そんな湿地帯の一区画にはとある種族の住居が建ち並んでいる。

 

その種族こそが『リザードマン』、所謂蜥蜴人だった。とはいえ彼等はワニをベースとしたクロコダインとはまた違う体系を持つリザードマンであり、その外見はより純粋な蜥蜴を二足歩行にさせたような亜人種であった。

生存圏の違いから人間と関わり合いこそ殆ど持たない彼等はそれでもゴブリンやオークなどとは違ったしっかりとした独自の文化を持った亜人種であった。

 

そんなリザードマンの集落の中にある一軒の家から一人のリザードマンが外へと足を踏み出す。

澄み切った空からは燦々と太陽が照りつけ、彼の黒緑色の鱗が鈍く光を反射する。

屋外に出たリザードマンはこの集落『グリーンクロー』の一員『ザリュース・シャシャ』。彼は眩しそうに瞬きを二、三度繰り返すとバシャバシャと水で満たされた大地を当たり前の様に進んでいく。まぁ実際に人ならば困惑と苦戦を強いられそうなこの地形こそがリザードマンにとって快適なのだが…

 

今のザリュースの目的地は一つ、旅人という烙印を刻まれ、部族を離れ外から知識を集めてきた彼が、長い苦心の果てに作り上げた自慢の生け簀だ。

 

ザリュースが生け簀を作り上げた大きな理由は、過去にリザードマンの主食である魚の不漁から多くの部族が対立し、戦争となり多くの血を流したという事件である。食糧不足ゆえの悲しい歴史、それを何とかしようとザリュースは立ち上がった。

それは今までのリザードマンのあり方を変えてしまうような試みであり、彼の兄、グリーンクロー族長である『シャースーリュー・シャシャ』の協力があったにもかかわらずその苦労は筆舌に尽くしがたい物がある。そしてある程度の成果を生み出した今でもザリュースの生け簀はまだまだ失敗と改良の日々が続いているのだ。

 

そうして日課となっている生け簀の様子の確認に訪れたザリュースはであったがいつもの様に生け簀へと近づこうとしてその歩みを止めた。

 

その理由はただ一つ、生け簀の方からとてつもなく強烈な存在感を感じたからだった。

直ぐさまザリュースは生け簀の周囲に生える背の高い植物に紛れる様に身を潜め息を殺して隠れる。

 

ザリュースの目の前で生け簀の中からボコボコと空気の泡が水面へと沸き立つと、そう間を置かず巨大な影が水面へと浮かび上がる…

 

そして水面が爆発したかの様な水柱を立てた後、その影が生け簀の岸辺へと勢いよく飛び出した。

 

 

その姿は両手に魚を掴み、口にも一匹を咥えたそれは紛れも無く黒鉄の鎧を身に纏ったピンクの鱗を持つ巨躯のリザードマン。

そのザリュースにとっての魚泥棒こそ何を隠そう獣王クロコダインであった…

 

(なっ!?…何者だ!!?)

 

一目見てクロコダインの内包するであろう力を感じ取ったザリュースは困惑した。

生け簀を荒らされた怒りはあるがノコノコ出て行って文句を言うにしても流石に相手が悪い。

今もクロコダインはザリュースに気が付かないまま嬉しそうに道具を取り出して焚き火を起こすとウキウキと魚を焼こうとしている。

 

しかしこの養殖場はザリュースの努力の結晶であり、延いては全てのリザードマンの希望でもある。

それを思えば怖い物などありはしない、ザリュースは相手が同じリザードマンである事もあり、意を決して一言文句ぐらいは言っておかなければとクロコダインに声を掛けることを決心したのだった。

 

 

 

 

 

そう、これがクロコダインとザリュース、二人のリザードマンの初めての邂逅であった。

 

 

 

 

____________

 

 

 

時は少々遡る…

 

 

ガガーランと別れたクロコダインは取り敢えずリザードマンの集落を目指す為に再びトブの大森林を進み始めた。

だが具体的な目的地を持っての行軍となると先程までの昼夜問わずひたすら適当に進むという男らしすぎる進み方を採用する訳にもいかない。

夜はきちんと休息をとり、日中に方角をきちんと確認しながらゆっくりと進む。道中には当たり前の備えとして今の自分に出来ること、出来ないことの把握も欠かさない。

 

まず第一に魔法が使えない。当然である。なにせクロコダインの種族は『獣王』と『リザードマン』であり職業は『バトルマスター』と『グランドガーディアン』。それともう一つの合計3種類である…

所謂、継戦能力重視のガチガチのタンク型前衛職である。

職業の恩恵か、闘気と言うべきかそういった内外的な気功の力を直感的に使用できる。

そしてこれも職業の恩恵か、自分の一度通った場所は直ぐに解るし、森の中を歩くことに関して不思議な程にストレスを感じないどころか安らぎすら感じる。

 

まぁそれでも丸一日歩いても湿地帯どころか森の終わりも見つからないのだが…

 

「しかし弱ったな…フライの魔法かその類いのアイテムでも持っていれば……ん?…そういえば…」

 

上空からならば目的地も直ぐに見つかるだろうにと思わず愚痴をこぼしたクロコダインだったが何かを思い出したかと思うと自分の道具袋に収まっていた一つのアイテムを取り出した。

 

 

それは装飾の施された黒い金属製の筒であった。

 

 

それこそ『魔法の筒』。

そのままな名前であるが様々な制約こそ有れどモンスター一匹を中に収納してアイテムとして携帯できるという特殊な道具であり職業獣王を獲得した際に一つだけ入手できるという貴重品。何処ぞの軍服ドッペルゲンガーとその生みの親であれば垂涎の一品である。

尚、収納時には「イルイル」放出時には「デルパ」というキーワードが設定されている。

 

 

「デルパッ!!」

 

クロコダインの呪文に呼応する様に光と共に筒から飛び出したのは一匹の巨大な猛禽類を思わせる鳥のモンスターだった。

その翼は大きく逞しく、翼長でいえば4メートルは超え、全身は輝く様な美しい淡い紫の羽毛に覆われている。

その眼光は鋭く、何処ぞの伝説のモンスターの如く得意技は『にらみつける』だと説明されても納得のいく鋭さだ。

 

 

「久しぶりだなガルーダ。」

 

「クエッ!」

 

静かに、そして穏やかに懐かしむ様にクロコダインに呼びかけられたガルーダは一鳴きすると呼び出しの成功を喜ぶクロコダインの目の前に着陸して優雅に頭を下げる。それはまるで王に対する臣下の礼だった。

 

「ガルーダ、巨大な湖が周囲にあるはずなのだが空から確認したい、俺を掴んで飛べるか?」

 

早速クロコダインが用件を伝えれば、当然!と言わんばかりに直ぐさまガルーダはとてつもない重量をほこるであろうクロコダインの両肩をそのかぎ爪でがっしりと掴む。

そして軽やかに一度羽ばたき、爆風が木々を揺らした次の瞬間には一気に森を見渡せる程の高度へと一人と一匹は到達していた。

 

「うぉ!」

 

その想像を超える速度に思わず驚きに声を漏らすクロコダイン。

このガルーダ、実はクロコダインが一から作成した唯一のNPCである。

 

作成時には惜しみなく大量のデータクリスタルがつぎ込まれ、レベルは当たり前のようにカンスト、そのスキルも徹底的にクロコダインのサポートをするために作られたゆえに『回復魔法』『蘇生魔法』『各種バフ、デバフ補助魔法』『各属性攻撃魔法』といった優秀なものを備えたモンスターである。

性格はプライドが高いが義に厚く、何よりクロコダインに絶対の忠誠を誇る。それはまさに作中での相棒の再現だった。

 

 

 

遙か上空からトブの大森林を見下ろしたクロコダインは直ぐに目的地である大湖を発見し、ガルーダにそちらに向かえと合図を送る。余談ではあるがやはり進路は大幅にずれていた。

 

「成る程、あれがガガーランの言っていた集落か。ガルーダ、何かあれば呼ぶが後は自分の足で行く、ご苦労だった。」

 

よく見れば確かに湿地帯の周辺に幾つかの集落らしき草木で作られた家の集まりが見える。

クロコダインの命令に一声鳴いてガルーダはゆっくりと湿地帯の中でも開けた陸地に降下するとクロコダインを放し、自分は再び上空に舞い上がった。

 

無事に湿地帯に到着したクロコダインは泥に足を取られる事も無く、淀みない足取りで目的のリザードマンの集落を目指す。

 

そして意気揚々と進むクロコダインは道中不思議な物を発見したのであった。

 

それは湖の一角に面しており、それなりの広さを無数の竹のようなしなやかで頑丈そうな植物で囲ったものだった。そのほかにも良く見れば明らかに人工的な工夫が施されているのであったが、残念なことにクロコダインの興味を強く引いたのはその囲いの中に存在するものであった。

 

「なんだ?この囲いの中だけやたらと魚が多いな…そうか此処はこの旨そうな魚の群生地か!」

 

そう、その中では大きく肥え育った多量の魚たちが優雅に泳いでいたのだ。

 

だが天然の魚などが珍しく、また養殖技術なども触れることの無かった男にとってはやはりこのザリュースの生け簀はそうであることには気がつけなかった。クロコダイン盛大な勘違いである。

 

 

「そういえばこの身体になってから天然の魚は食っていなかったな…」

 

そう思えば途端に胃袋が空腹を訴える様に「グルグル」と音を立てる…その音を聞けば獅子ですら逃げ出すような恐ろしい怪物のうなり声に似ていた。

 

思い立ったら即実行と言わんばかりに軽く肩を回したクロコダインは、勢いよくザリュースの生け簀の中に身を沈めると馴れぬ水中と言うことで多少苦戦しながらも、その常識外れな身体能力のゴリ押しによって両手と口に大きな魚を捕らえて勢いよく水中から飛び出した。

 

ビチビチと元気よく跳ねる魚を尻目にクロコダインは比較的乾燥した草をかき集めるとインベントリから松明を取り出す。

ユグドラシルのシステム的に取り出せば常に火が灯ったそれは実に不思議なことにこの世界でもその炎が消えることはなかった。ここ数日間で何度もクロコダインを助けてきたアイテムである。まぁこれが在るゆえ、夜半の強行軍で進路を見失ったわけでもあるのだが…

 

こういうワイルドな食事こそ『クロコダイン』らしいという憧れから、内心ワクワクしながら魚を出来たばかりの篝火に投入しようとしたところでクロコダインの背後でバシャリ、バシャリと規則的に水を叩く音が聞こえる。

それは明らかに何者かの接近を示していた。

 

 

 

「そこの貴殿、魚を食らう前に一つ良いか?」

 

 

掛けられた声に何事かと振り返ったクロコダインの目の前には一人のリザードマンが立っていた。

鋭く、真っ直ぐに此方を見る瞳はクロコダインから見ても勇敢な戦士の物だった。その瞳には若干怒りの感情が浮かんでいる。

 

 

「俺のことか?何だ?」

 

「先ずは名乗ろう。俺の名はグリーンクロー族のザリュース・シャシャ。ここは我々グリーンクローの縄張りであり、その生け簀…囲いのことなのだがその中の魚たちは養殖という方法で私が稚魚から育て上げ増やしてきたものなのだ。知らぬゆえだと思うが余所者に好き勝手に取って食われては堪らん。まぁその一匹は食えば良い、しかしそちらの二匹は生け簀に戻して貰えると嬉しい。」

 

ザリュースの指先がまず指し示したのは今し方、火に掛けようとしていた一匹、クロコダインの牙のせいで最も弱った…というよりは死んでしまった一匹だった。続けて未だ足下の水たまりでピチピチと跳ねる二匹。

 

クロコダインもそう指摘されてようやく目の前の囲いが生け簀であると合点がいった。解ってしまった以上己に非があるのは明白であり流石にばつが悪く頭を軽く掻いて下げると謝意を表す。

 

 

「いやすまんな、しかし成る程これは養殖場だったのか…話には聞いた事はあったが成るほど、実際にはこういうものなのか…すごいものだな。」

 

養殖という前提で生け簀をよくよく見てみればクロコダインの目にも無数に工夫が見て取れた。その工夫を行ったのが目の前のリザードマンの戦士だと思うと意図せずにクロコダインの口から溢れ出たのは素直な称賛の言葉だった。

 

「おっと、此方の自己紹介がまだだったな。俺の名はクロコダイン旅人だ。この周辺にリザードマンの集落があると聞いて訪ねて来たものだ。よろしく頼む。」

 

 

恐らくは己の常識の範疇外だろう強者の予想外な称賛と友好的な態度に、暫くザリュースは柄にもなく固まったまま激しく瞬きを繰り返すのだった。

 

 

 

 

そして二人のやり取りの影でクロコダインによって調理されていた魚は無事炭の塊と化していた。

 




説明が長いんだよー!!
ちょっと加筆修正、獣王を職業から種族へと変更。


次話、原作11巻を読破したら。


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リザードマンの集落に~クロコダインが~来た~(ウルルン調で

今回かなり短いです。

加筆修正しました。原作未読だとアインズ様達が何をしようとしているのか分からないっぽかったので。




クロコダインとザリュースが集落に着いて早速向かったのは一軒の家であり、そこは当代の族長の家、つまりはザリュースの兄であるシャースーリューの家であった。

 

本来リザードマンは排他的ではあるがそれと同時に強者への敬意を強く持つ種族でもある。それこそがザリュースがクロコダインを集落に招いた最大の理由である。

そしてリザードマンの部族は規律正しい階級社会であり、様々な役職が存在するがその頂点が族長に当たる。そして族長は血筋では無く部族の中で最も強い者が選ばれる。

つまりシャースーリューこそグリーンクロー最強のリザードマンなのだが…当のシャースーリューは弟であるザリュースこそが最強の戦士だと思っており族長もザリュースこそが相応しいと考える。

 

 

そんなシャースーリューは今、弟の口から語られた遙か遠くから訪れた旅人であるクロコダインとの出会いの一幕に堪えきれぬとばかりに声を上げて笑っていた。

 

「そう笑ってくれるな…これでも恥じ入っているのだ。」

 

「ハハハ、すまんすまん。しかし弟の養殖場は見事だっただろう?最初はアレに否定的だったこの集落の者達も今では羨望の眼差しでザリュースの持ち帰る魚を見ている。俺はそれが何よりの自慢なのだ。それなのにこいつときたら未だに嫁を取らん。」

 

「兄者!」

 

話が余計な方向へとずれていったことにザリュースが思わず声を上げる。その声色には若干の羞恥が覗えた。

 

「さて、本題に移るがやはり我々もそのぷれいやーとやらに心当たりは無い。」

 

「…やはりそうか…」

 

クロコダインはシャースーリューの言葉に落胆した様子も無く淡々と受け止めた。

 

「それと村へ暫くの滞在についてだが…クロコダイン、貴殿の旅人としての知見を我等にもたらしてくれるのであれば是非とも歓迎したい。とはいえ養殖も軌道に乗り始めたばかりの我等の食糧事情は未だそこまで明るくは無い。」

 

「成る程…つまりは自分の食い扶持は自分で何とかしろという訳だな?」

 

「噛み砕いて言えばそうなるな。難しい条件か?」

 

シャースーリューの言葉にクロコダインは自信ありげに口角をつり上げゆっくりと首を左右に振る。

それに対し「だろうな。」と小さく呟くとシャースーリューが笑う。

 

「寝床は俺の家を使えばいい、多少窮屈だろうがな。良いな兄者?」

 

そう提案したザリュースがクロコダインへと見上げる様に視線を動かし、再びシャースーリューを見やる。

 

「クロコダイン殿がそれで良いならな。」

 

「是非も無い。すまんがしばらく厄介になる。」

 

 

こうしてクロコダインはリザードマン最強の兄弟との友好を結び、数日の間グリーンクロー族の集落でガガーランからの連絡を待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

「成る程。これがリザードマンの集落を調査した結果か。ご苦労だったなアウラ。」

 

「はい!!アインズ様が命じられた通り隠密スキルを持つ配下を使用しましたのであいつ等は気づいていませんし派遣していた者達も既に調査が完了した昨日の段階で全員撤収を完了させています。万事抜かりありません。」

 

偉大なる主の労いの言葉に溢れんばかりの忠誠心から言葉尻が跳ね上がりそうになるのを堪えつつ、耳をパタつかせるアウラの報告に淀みは無い。

 

「ふむ、リザードマンの予測されるレベルは13前後と言う事だが、強力な個体でも20程度か…これならばコキュートスに与える戦力も予定通りだな。あの冒険者を使ったアンデッドのテストにも丁度良い。」

 

ナザリック地下大墳墓、そのアインズの政務室でアウラからのリザードマンの集落についての報告書に目を通しながらアインズは十分な満足を得ていた。

そのアインズの隣にはアルベドが控える。

 

「それではいよいよと言う訳ですね、アインズ様。」

 

蠱惑的な程しかし静かに室内に響いたアルベドのその言葉はまるで銃の撃鉄を起こすかの様だった…

次にトリガーとなるアインズが肯定を口にするか…否、口を開くまでも無く僅かにでも首を縦に動かせば即座に必滅の弾丸が銃口から放たれるだろう。

 

 

悪意という弾丸が向かう先は言うまでも無くリザードマンの集落、その全て…

 

 

 

入念な準備を行ってアインズが行おうとしていることは至極単純、リザードマンの集落を使った"実験"である。

 

人間以外の種族を使ったアンデッドの作成の実験の為の材料集めの為に…

 

現地人の中ではそれなりの強さであった冒険者を素体にしたアンデッドの性能テストの為に…

 

敢えてコキュートスに指揮官という困難な課題を与える事でのNPCである彼に成長を促しそれは起こりえるのかを調べる為に…

 

 

そのアインズの身の毛もよだつ様なおぞましい"実験"全てがナザリックによるリザードマンの集落への侵攻という行為へと収束するのである!!

 

 

 

「うむアルベドよ、準備が完了し次第予定通り計画を進めるようにコキュートスとエントマに伝えよ。本当ならば私自身で直接推移を観察したいのだが…生憎私はエ・ランテルで冒険者としても活動せねばならん。後で確認が出来る様に映像はしっかり撮っておいてくれ。」

 

そう言って高揚に指示を出したアインズは精神抑制が掛からないギリギリで楽しげに静かな笑いを溢す。

その至高の主の喜悦の様相に従僕の鏡たる二人も釣られて三日月の様に口角をつり上げた。

 

それはリザードマン達の未来を暗示するにはあまりに不吉な一幕であった。

 

 

 

 

 

…だが

 

 

アウラは知らない、故にアルベドも知らない。

 

つまりは至高の存在アインズ・ウール・ゴウンですら知りはしない。

 

 

ナザリックより派遣されたモンスター達がリザードマンの集落を離れたその日、超弩級の『想定外』がその地に訪れていたと言う事を…

 




タイミングが悪かっただけとは言え、アウラがへこむことになりそうだ…




次話、原作11巻(ry


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あれ?こいつってもしかしてエビルスピリッツじゃね?

11巻相変わらず面白かった。まだ買って無い人は書店に急ぐんだ!!(ステマ)


「クロコダイン、覚悟っ~~!!!」

 

張り上げられた声と共にリザードマンの影が湿原をまるで放たれた矢の如く疾走する。

 

「ぬぅっ!?」

 

クロコダインの巨体の右足に衝撃が走り、思わずといった様子で踏鞴を踏むと苦悶とも困惑ともとれる声がクロコダインから漏れる。

 

続いてその衝撃が二度、三度、四度、そして五度…その度にクロコダインの巨体が揺れる。

そう、クロコダインが相対している相手は一人では無い。五人のリザードマンの全てを乗せた愚直とも言える特攻がクロコダインの右足一本に全て殺到しているのだ!!

 

「ぐっ、ぬぅ…これしきで…ぐわぁぁぁ~~~!!」

 

そして遂にクロコダインの巨体がバランスを崩し、その背が泥まみれの地面へと勢いよく叩き付けられた。当然自慢のマントも泥まみれである。

 

「ぐっこの獣王…ぬかったわ!しかしこの俺に土を付けるとは流石はグリーンクロー族の未来の戦士だ、侮りがたし!!」

 

敗北を喫したにも関わらず快活に言って笑うクロコダインの周りにはクロコダインを打ち倒した5人の小さな戦士がわらわら寄り集まってきた。

その大金星に浮かれる様な表情は皆底抜けに明るくシューシューと嬉しそうに音を鳴らす口は開きっぱなしだ。

 

「当たり前だよ、オイラが大きくなったら族長になるんだ!」

 

「何言ってんだよ族長には俺がなるんだ!だよね、クロコダイン!」

 

言い争いになりかけた小さな戦士の頭に手の平を乗せてクロコダインはグイと無理矢理自分の方へと視線を向けさせる。

 

「喧嘩をするなとは言わん。族長の座もいつか正々堂々の闘いで決着を付けるといい。だがお前達はさっきこの俺を倒したときのように、皆の力を一つにすることを大切にしろ。仲間を大切に出来る者こそが族長に相応しい。俺はそう思う。」

 

集落に旅人としての知識の提供をシャースーリューに求められたクロコダインは取り敢えず極めて簡易的な土俵を作るとリザードマン達に相撲を教えた。

 

元々強さと祖霊を信奉する彼等にとって元来神に捧げる儀式という側面を持つ相撲は凄まじい反響を持って受け入れられた。グリーンクローの集落に訪れた相撲ブームである。

 

 

勿論、クロコダインは挑んできた全ての雄達を打ち倒し終身名誉横綱となったのだが、先程の一幕は集落の子供達を相手にした変則的なルールでのお遊びだ。勿論本気では無い、わざと負けてあげたのだ。

 

 

そんなクロコダインの背中に突き刺さる多数の熱い視線…

 

その正体はクロコダインを尊敬する雄のリザードマン達…では無く、強く、子供に優しく、その上苦み走った渋いイケメン(リザードマン基準)に夢中の雌リザードマン達のものであった。

だがクロコダインは努めてそちらを気にしない様にしていた。未だ美的感覚は人間であった頃の部分が強く、リザードマンにモテてもと言うのが正直な所である。(不意に雌の尻尾にドキリとした時は苦悩した。)

 

 

「クロコダイン、遂にお前が敗れる日が来ようとは思いもしなかったぞ。」

 

かけられた言葉と裏腹にザリュースの声は軽い。それは先程までの光景が非常に微笑ましいものだったからだ

 

「ザリュースか。俺とて勝てぬ相手というものはいる。」

 

「クハハハ!それが雌と子供達か?…っと、グハァッ!!」

 

からかう様に笑うザリュースに照れ隠しと表するべきかちょっとイラッと来たクロコダインの鋭い大外刈りがザリュースを襲う。

受け身もまともにとれない程の早業に背を強かに打ち付けたザリュースは目を丸くする。

 

「冗談は相手を選べよザリュース。」

 

「…十分に選んでいるさ。」

 

そんな倒れたザリュースの手を取り、助け起こしてやりながら互いに軽口を叩く。そうして他愛無いやり取りを交えつつ二人は寝床であるザリュースの自宅へと今日も揃って戻っていく。

 

余談だが、幸いなのは彼等を見送るリザードマンの雌達には腐った趣味というか文化が無い事だろう…

ザリュースは強い上に細マッチョの二枚目系イケメン(リザードマン基準)対するクロコダインは言わずもがな…

 

このままではいつかそんな業の深い文化が目覚めかねない…

 

 

 

 

「で、上の湖に狩りに行くと?」

 

「あぁ、チビ共に俺に勝てたら見た事も無い様な大きさの魚を捕まえてきてやると約束したしな。」

 

自宅にて魚の干物をあてに酒を飲み交わす二人、その内容はクロコダインが数日間集落を離れて大湖上流に狩りに向かいたいという内容だった。

 

「俺の持つ魔法の道具袋ならば生かしたままは不可能だが完全に仕留めた魚は収納して持ち帰れる、何よりこの数日ではっきり判ったが俺に普通の狩りは難しすぎる。それに大物狙いの方が俺の性に合っている。」

 

クロコダインの巨体とその存在感からとにかく獲物に逃げられる上、投げ槍で仕留めた際には槍諸共に獲物は粉みじんになっていた。

 

「だが上流は危険だぞ。」そう言おうとしてザリュースは言葉を飲み込んだ。とてもでは無いが自分達にとっての危険が目の前の不思議な友人に通用するとは思えなかったからである。

通常のリザードマンにとって大型のモンスターの生息地である上流の大湖は危険地帯だ。

かつての食糧難の時でさえあそこには殆ど手を出すことは無かった。まぁ移動距離と持ち帰れる量と危険度を考えると割に合わないというのが表するに正確な所ではあるが。

 

「明日の朝には出立するつもりだ。徒歩で向かうから往復を考えて3日程ここを離れる事になるだろうな。」

 

「案内は必要か?」

 

「不要だ、上流の流れを遡れば良いだけだからな。最悪ガルーダを呼べばそれで解決だ。」

 

言って豪快に笑いながらクロコダインは酒をグイと飲み干した。

 

 

リザードマンの集落に凶報を告げる為ナザリックからの使者が現れたのはその翌日であった。

________________

 

 

クロコダインが狩りへと出立したその日、太陽が燦々と照りつける陽気の中ザリュースはシャースーリューと生け簀の様子を見にやって来ていた。

生け簀を見つめて穏やかに兄弟で語りあうのは養殖技術の事であったり所帯を持つことの大変さであったりクロコダインの事であったり…

 

しかしそんな穏やかな時間は突然自分達の集落の上空に現れた禍禍しい気配を放つ暗雲によって吹き飛ばされた。

真っ白な布にどす黒いインクでも垂らしたかの様に青空を犯すそれは明らかに異常な光景である。

 

その光景に不吉な胸騒ぎに二人が集落に湿地を全速力で駆け抜けて戻ってみれば、集落の中央の広場ではおぞましい存在が中空からグリーンクローの集落を俯瞰していた。

 

揺らめく様な黒い霞、その中から浮かんでは消えを繰り返すおぞましき無数の人面は苦しみと絶望に彩られたまさに怨念の形相、その集合体…

それから発せられるのは苦痛に喘ぐ声であり、悔恨と絶望に嘆く声であり、狂っているとしか表することが出来ない嘲笑…

 

しかし重要なのはモンスターの外見や特徴などでは無い。

ザリュースはこのアンデッドを知っていた。かつてのトラウマに背中からは嫌な汗が流れ、思わずブルリと身体を震わせる。見れば隣に立つ自分の兄も同様であった。

 

本当に重要なのは目の前に現れたアンデッドはザリュースとシャースーリューの二人ですら怖じ気づく程に危険な存在だと言う事だ。

事実、少なくともコントロールクラウド等という第四位階の魔法はその力を如実に表していた。

 

(このままでは不味い…魔法の武具以外に効果を与えられない以上闘うならば俺と兄者のみで挑むべきだろう…)

 

そうザリュースが思考を走らせているとアンデッドの様子に変化が訪れた。今まで無秩序にあげられていた怨嗟の声が突如ピタリと止まったのだ。

 

『聞け、我は偉大なる御方に使えしもの。この地に先触れとして来た。』

 

それは幾つもの声が一つとなった意味ある言葉だったが同時に下手な怨嗟の声よりも恐ろしい声だった。

混乱しざわめくリザードマン達を他所にアンデッドの言葉は続く。

 

『汝等に死を宣告する。偉大なる御方は汝等を滅ぼすべく軍を動かされた。これより8日後、この地のリザードマンの中で汝等が2番目の死の供物。必死の…無駄な抵抗をせよ、精々足掻き偉大なる方を楽しませよ。』

 

それだけ言うとアンデッドは誰阻む事も無い中空へと移動する。それを見ていることしか出来ないリザードマン達は各々表情を歪める。

 

『ゆめゆめ忘れるな。8日後を…』

 

そして今度こそアンデッドは黒雲を纏う様にしてそれを駆けて行く…もしかすれば別の部族の元に向かったのかも知れない。

 

 

 

________________

 

 

 

アンデッドの襲来に直ぐさま集落の権力者と有識者が集会場に集められた。

 

まず祭司頭が予想されるあのアンデッドの強さを語り、戦士頭が徹底抗戦を訴え、闘うか逃げるかで議場は荒れる。

しかしそれ等の意見も最終的に決断するのは族長たるシャースーリューだ。難しい決断である。

 

そこで一つの意見が上がる。それは狩猟頭からだった。

 

「…クロコダイン、彼の御仁の力を借りればあるいは何とかならんだろうか?」

 

それは実は誰もが考えていた意見であった。クロコダインの常軌を逸した強さ、その片鱗しか知らぬ彼等でも断言出来る。あのアンデッド程度クロコダインならば容易く屠れると…

 

「それはならん…」

 

断言したのは意外にもシャースーリューだった。

 

「彼は旅人、客人を我等の問題に巻き込む訳にはいかん。」

 

「しかしこの苦難の時において彼がこの地に訪れている事こそ祖霊の導きかもしれんのぉ。」

さりげなく発せられた長老の言葉は狩猟頭の意見を援護するものだった。

 

「…その様な都合の良い考えは捨てるべきだ、それよりも兄者一つ良いか。」

 

議場の末端に座していたザリュースが意見を出そうとする。

ザリュースとてクロコダインの全面的な協力を求められたらと思うが暫く戻ってこないであろう彼をあてになど出来ないしザリュース自身この地のリザードマンの問題にあの気の良い友人を巻き込むことは嫌だった。無論其処にはグリーンクローの戦士としての意地も多分に含まれている。

 

「あのアンデッドは俺達を2番目の供物と言った。つまりは他の部族にも同じ様な宣告を行っているはずだ。そして恐らくだが奴の言う偉大なる御方とやらはこちらの戦力を知った上で実際に俺達を滅ぼせるだけの力があるとみて間違いないだろう。そうで無ければわざわざあの様な真似はするまい。」

 

ザリュースの発言を受けて議場に水を打った様な静けさが訪れる。

 

「その上で断言する、それでも闘う以外に道は無い!そして我等が勝つ為には奴らの想定を上回る必要がある。」

 

「ほう…しかしどうやってだ?」

 

強く断言したザリュースを鋭く睨み付けながらシャースーリューが問う。

 

「かつての戦争と同じだ。俺は同盟を提案する!それもかつて牙を交えた"ドラゴンタスク""レッドアイ"を含めたこの地に生きる全てのリザードマン達による大同盟だ!!」

 

 

 

結局、ザリュースの案はシャースーリューの決定により採用される。

その結果ザリュースはかつて敵対し互いに血を流し合った二つの部族の説得という危険な任務を遂行することになるのだった。

 

 

 

 

こうしてリザードマン達にとっての存亡をかけた闘いが始まろうとしていた…

 

 




鰐「ちょっと出掛けてくる。」
蜥蜴「いってら~^^」

悪魂「やっぱ特に強そうなのおらへんわ!!報告は…ま、ええやろ!」


次話、ボジョレーヌーヴォー解禁されたら。


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闘いの前だし死亡フラグ立てなきゃ(使命感

今回も一気に書いて投稿したのでまた後日編纂するかもです。
オリジナルモンスター出てますがあくまで雰囲気作りの為の存在なので出典とか無いです。


「なぁ、ザリュースよ~そのクロコダインって奴はマジでそんなに強いのかよ?」

 

「あぁ、強い。少なくとも俺はあれ程の強さを持つ者を知らん。」

 

「ま、俺が知ってる最強って言えば…フロストドラゴンだな。旅人時代にドワーフの所で話に聞いたし、古い戦場跡で爪痕を直接見たがありゃ正真正銘化け物だったぜ。」

 

レッドアイとドラゴンタスクの説得に向かったザリュースは無事二つの部族の同盟参加を勝ち取っていた。

レッドアイとは族長クルシュ・ルールーとの話し合いで、ドラゴンタスクとは族長であるゼンベル・ググーとの一対一の決闘によってである。

 

現在はザリュースのペットであるヒュドラのロロロの背に揺られながら、ナザリックのメッセンジャーが一番目の供物と伝えた『レイザーテイル』族の集落に三人で向かっている最中だ。

リザードマンの大同盟が決戦の地に選んだのは、自分達が有利に戦えるであろうその場所であり現在は急ピッチで戦争の準備が進められようとしている。

 

そんな移動の道中でクロコダインの話題になったのは、何よりも強さを信奉するゼンベルが自分を打ち負かしたザリュースにドラゴンタスクの族長に成って欲しいと頼み込んだことがきっかけだった。

 

「ドラゴンか…それでも俺にはあの漢が敗れる姿が想像出来ん。少なくとも俺達など足下にも及ばん、あれこそまさに本当の意味で万夫不当の豪傑だろう。それに心根も良い、文化こそ違えど戦士としてなら直ぐにわかり合えるだろうさ。」

 

そう返されたゼンベルは話に出たクロコダインにその興味を強く引かれた。漢としてザリュースが其処まで褒め称える相手なら一度闘ってみたいと胸が熱くなる。

 

「でもそんなに強いのなら、その力がこの戦において心強いわね。」

 

そうザリュースの背に声をかけたのは真っ白な体色を持つアルビノの雌リザードマン、クルシュだ。

ちなみにザリュースの初恋の相手であり、熱烈なアプローチを受けている彼女もこの道程で満更でも無くなっている。

 

「クルシュ、彼は旅人、異邦人だ。義憤に駆られて助力を申し出てくれるかもしれないが彼の力をあてにして話を進めるのは間違っている。」

 

「そうだな…俺達にはこの地のリザードマンとしてのプライドってものがある。余所者だよりとあっちゃあ祖霊に笑われるぜ。」

 

「…嫌ね、雄って…プライドよりも生きてこそじゃない…」

 

雄二人の意見はクルシュのものと違い、どちらかというとこの苦難にクロコダインを巻き込まない様にという意見だった。

 

 

「勿論クルシュの意見も判るさ、誰だって死にたくは無い。それに今は君を失う事が何よりも怖い。それでもそれならば最初から偉大なる御方とやらに恭順を示した方が良かっただろう。だがそれはとても受け入れられる話じゃあ無い。万が一の最悪の場合は彼に雌や子供を護衛して貰える様に頼むつもりだ。」

 

「ザリュース…」

 

ザリュースの逞しい腕に抱き寄せられて、アルビノの弱い肌を守る為の雑草のケープに隠れたクルシュの瞳が潤むと二人の尾がいじらしく互いをつつき合う。

 

 

 

「言うねぇ…頼むから俺も居るって事忘れんなよ。」

 

一人、何とも言えぬ疎外感を味わいながらゼンベルは深く溜息を漏らすとそのやるせなさを燃料にまだ見ぬライバルを思い闘志を燃やす。

 

 

 

まぁ、その闘志が闘うまでも無く鎮火するのにそう時間は掛からないのだが…

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

ズルリ…

 

 

ズルリ…

 

 

 

 

一人のリザードマンに引きずられて大湖の湖畔から一匹の魚が陸に引き上げられる…

全長は15メートルを優に超えるその魚はその湖の生態系の中でも頂点に位置している。そう…位置していた筈であった。

『湖王魚』、鋭い牙が生え揃った顎は巨大な甲殻類の鎧の様な殻を砕き、全身を覆う鱗はまるでドラゴンの様ですらある。

流線型の肉体は鋼の様な外殻と骨格に柔軟でしなやかな筋肉で支えられ、冒険者基準の難度で言えば100はくだらないだろうモンスターである。

そして少なくともこれを仕留めたリザードマンは歴史を顧みたとしても存在しないだろう。

 

それがたったの一撃…

 

不自由であろう水中でありながら放たれた拳は寸分違わず湖王魚の脳天に突き刺さり、オリハルコンの様な外殻を破壊しその衝撃はそれに留まらず脳をいとも容易く破壊した。

 

インベントリへの収納の都合上ビクリ、ビクリと痙攣しながら、その持ち前の生命力故に未だ絶命していない湖王魚にトドメを刺しながらクロコダインは満足げな笑いを浮かべた。

 

「フフフ…こいつは今まで仕留めた中でも一番の大物だな。」

 

はっきり言ってもはや一番もクソも無い、ザリュースがこの光景を見れば馴れぬ突っ込みに息を切らせているだろう所だ。

きっかり3日間、当初の予定を超え、ザリュースがリザードマンの未来をかけてクルシュ達を連れて戻ってきている間、クロコダインは上流にて狩りを満喫していた。

 

予定していたよりも長い時間狩りに熱中してしまったクロコダインは咆哮を上げるとガルーダを呼び出す。

 

 

 

 

クロコダインがグリーンクローの集落に戻った時、集落は状況の説明とレイザーテイルの集落への案内役を引き受けたリザードマンが一人待機しているだけのもぬけの殻であった…

 

 

 

 

 

___________________

 

 

クロコダインがレイザーテイルの集落へと辿り着くとそこはある意味で既に戦場だった。

レッドアイ族が中心となり泥の壁が急ピッチで築かれ、戦えるであろう戦士達は闘いの準備に余念が無い。

 

クロコダインが戻ってきた事を聞き、駆けつけたのはザリュースとクルシュ、そしてゼンベルだ。シャースーリューは忙しいので来ていない。

 

「すまん、遅くなった。おおよその事情は案内してくれたリザードマンに聞いたが詳しい状況を教えてもらえるか?」

 

緊迫した集落の様子に残念ながら数日ぶりの二人の再会に笑顔は無い。

 

「いや良いんだ、気にしないでくれ。お前は客人だからな、我々の事情に巻き込みたくは無い。だから」

 

「だからお前達を見捨てて逃げろというのかザリュース?言った筈だ、冗談は相手を選ぶものだとな。お前は俺を恩知らずにするつもりか?」

 

ザリュースの言葉を遮ってクロコダインはこのリザードマン達の苦難に手を貸す意思がある事をザリュースに伝える…

 

そしてザリュースの口から感謝の言葉の後に伝えられたのは現在の切迫した状況だった。

 

敵は凡そ5000のアンデッドの大軍勢、森の一部をいつの間にか切り開いて布陣している。今はメッセンジャーが伝えた刻限が守られているがそれこそ向こうがその気になればいつでも戦端が開ける状況にある。

 

対するリザードマンの軍勢は全ての部族を統合しても戦える者は総計1300程、森に討って出るのは無謀であるし又、籠城戦も泥の防壁に援軍が無いと言う状況を考えればそれは愚策中の愚策。

結局現在はアンデッド軍が進撃してきた所を自分達にとって有利になる湿原で総力を挙げて迎え撃つ、という方針が全ての部族長達の会議で決定しているのだった。

そして族長達5人にザリュースを加えた6名2チームの最精鋭が敵の首領を討ち取る為の鏃(やじり)となる。

 

 

 

「そこでだクロコダイン、虫のいい話は重々承知だがお前にはこの集落に残って万が一の時に逃げる雌と子供達を守って一緒にこの地を離れてもらいたい。」

 

そう頼み込んだザリュースの瞳には覚悟があった…万が一とはつまりリザードマンの連合軍の壊滅だ。

その頼みにクロコダインは表情を苦々しいものにした…

 

「…クロコダイン、わかってくれ。」

 

だが万感の思いの籠もったそのたったの一言にクロコダインは仕方が無く首を縦に振る。

仮にここでクロコダインが最前線で闘い、勝利を得た所でそれには意味が無い…とまでは言わないが限りなくそれに近いものでしか無い。

 

「それでザリュース、そろそろそちらの二人を紹介してくれないか。」

 

場の雰囲気を変える様に努めて明るく問い掛けたクロコダインにクルシュとゼンベルはそれぞれ戸惑うような反応を見せた。

今の今までクロコダインの圧倒的存在感に当てられていたのだ。

 

「あぁ、彼女はクルシュ。レッドアイの代表で…俺の惚れたメスだ。」

ザリュースに手を取られ、当然の如くそう紹介されたクルシュは思わず一瞬凍った様に硬直すると『なんて紹介の仕方よ!』と訴えるかの様にザリュースの手を抓り上げた。

 

それを聞き、見ていたクロコダインは思わず驚嘆の溜息をもらす。あの生真面目なザリュースが…と意外に思ったのもあるが、突拍子も無い事を突然口にして恋人に仕置きを受ける。その姿がかの大魔道師と武道家のカップルの姿と一瞬ダブって見えたというのもあるだろう。

どちらにせよ、クロコダインの心の中には穏やかな感情があった。例え本人が独り身であってもだ。

 

「ククク、そうか、その様子だとシャースーリューには随分からかわれたのではないか?…ザリュースよ、この戦負けられんな…」

 

「あぁ…当然だ。」

 

「お恥ずかしい所をお見せしました…」

 

羞恥に顔を伏せたクルシュの謝罪で取り敢えずクルシュの紹介は締められたが彼女は理解していなかった。その姿こそまさにまるで不甲斐ない旦那の為に頭を下げる貞淑な妻の様であると…

 

 

さて次は…と思いクロコダインがゼンベルに視線をやればゼンベルはクロコダインを上から下へ、そしてまた下から上へとしげしげと困惑を僅かに含んだ視線を何度も行き来させていた。

 

「おい、ゼンベル!」

 

「おっふ!」

 

ザリュースの呼びかけにゼンベルがビクリと反応する。クロコダインはそれに不思議そうな表情を浮かべたがザリュースはゼンベルの気持ちがわからないでも無かった。

 

初対面、強い強いと聞いていた相手だ。それでも同じリザードマン、負けず嫌いのゼンベルは会えば早速力比べでもと考えていたに違いない。それが実際会えば理解出来るクロコダインの強さ…さぞゼンベルには刺激が強かった筈だ。

 

「ドラゴンタスク、ゼンベル・ググーだ…です…よろしくお願いします。」

 

((誰だよっお前!!))

 

ザリュースとクルシュの心の中の叫び。それをすんでの所で口に出さなかったのは戦士の醜態をスルーしてやれたのは優しさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、クロコダインの仕留めてきた大量の魚、カニ、亀等によって決戦前の全てのリザードマンの腹を大いに満たす全ての部族を一つにする為の大宴会が催された。

その湖王魚を中心とした見た事も無い上質な骨肉、甲殻は鱗の一枚とて無駄にされぬ様リザードマン達の武具の素材として有効に活用される。

 

闘いの始まりがまた少し近づいた…

 




ゼン「        」

ザリ「ワニ氏、こいつ闘いたいんだって。」

鰐「良いよ!来いよ!」

クル「…バカばっか…」




次話、土曜日(土曜日とは言ってない)


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アインズ様の出番が此処まで台詞3つ位のオバロ

気が付けばお気に入りが1000を超えていました。皆様感謝致します。
やっぱ現金なもので感想やらお気に入りやら増えるとやる気増しますね。


___約束の刻限が訪れた…

 

 

全ての生命に遍く恩恵を与える太陽の光を遮る様に、渦巻く黒雲が空に穴を穿つ様にぽつんと現れる。

穴は見る見る間に広がり、青かった空は今まさに奈落色に染まった…

リザードマン達の誰もが遂に来たのだなと悟る。

 

太陽が消え去り、湿地と森の境界が黒い空気に包まれたかと思うとザワリと鳴動する。

そこに現れたのは無数のアンデッド。

無限とも思える数のアンデッドは後から後から現れては整然と並ぶ。

ゾンビ2200体、スケルトン2200体、アンデッドビースト300体、スケルトンアーチャー150体、スケルトンライダー100体。

 

総勢4950体の死の軍勢…

 

 

 

既に闘いの前の儀式は終わっている、かつて例を見ない大連合の戦士達は各々の身体を5色の染料によって戦化粧を施され、既にその身に祖霊を宿しているのだ。

 

「聞きなさい!5つの祖霊に誘われし、この一つの部族の子等よ!!」

 

全てのリザードマンを代表して司祭であるクルシュが篝火のたかれた祭壇場から声を上げる、その直ぐ側にはザリュースが各族長達が共に並ぶ…

 

クルシュの戦意を向上させる為の儀式めいた演説と舞いを少し離れた場所から見守りながらクロコダインはこのままで良いのかと未だに悩んでいた…この闘いを見守る事を選んだのはリザードマン達の意思を尊重したからだ。

しかしそれは既に答えを決めた後でのくすぶる様な悩みだ。人はそれを後悔とも呼ぶだろう。獣王クロコダインに相応しくなく、しかし苦悩する彼の姿ははまさに獣王クロコダインであった。

 

「さぁ、全てのリザードマン達よ。祖霊は我等の上に降りた!敵は多い、おぞましき不死者共の軍勢だ!だが、我等に敗北はあるか!?」

 

『無いっ!!』

 

いつの間にか代表して声をあげているのはシャースーリューだった。彼の言葉に全ての戦士達の唱和が響き、空気がうねる…それはまるで祖霊とやらが実際に現れたと錯覚させる様な迫力があった。

 

「そうだ、祖霊の加護を受けた我等に敗北は無い!!敵を倒せ!勝利を我等リザードマンに!!」

 

『おぉぉぉぉ!!!!』

 

場が燃え上がる。そこに居るのは死を恐れない戦士だけであった。

 

「出陣!!」

 

総勢1380、三倍の戦力差を超える戦争の始まりだった。

 

 

 

 

 

__________________

 

 

「進軍ヲ開始セヨ。」

 

森の中に作られたナザリックの簡易拠点の中でコキュートスがアンデッドの軍勢に進撃を命じる。

そのコキュートスの隣にはプレアデスが一員エントマが随行していた。

 

アインズからコキュートスが賜ったナザリックの圧倒的力を考えれば収穫祭とでも呼べるこの任務。コキュートスは主人から3つの縛りを受けていた。

 

"決してコキュートスとその配下が戦場に出ない事"

"指揮官として預けた元冒険者のエルダーリッチとその護衛部隊は成るべく温存する事"

"この戦、全ての判断を己の意思で行う事"

 

つまりは、現在布陣しているナザリック基準で言えば雑兵中の雑兵のみでリザードマン達を殲滅させる事、それこそが最も理想的な結果である。

コキュートスは本来ナザリックの内部でナザリックを守る事を任務としている。その事に不満は無い、むしろ栄誉以外の何があろうか?それでもやはり他の守護者の活躍を聞けば羨ましいと感じる自分が居た。

華々しい戦果を欲するは武人の性であり忠誠を示す場を求めるはナザリックのNPCとして当然の事だった。

 

コキュートスの口元から極寒の冷気が漏れ出す…

 

全ては偉大なる至高の御方の為、視線の先、遠見の鏡には今にもぶつかり合おうとするリザードマンとアンデッド達の姿が映っていた。

 

 

 

___________

 

 

 

両軍の激突はリザードマン達が想定した通り、泥と水に覆われた湿地帯で行われた。

 

ここで地の利がリザードマン達に大きな恩恵をもたらした。それは当初想定されていた以上の恩恵だ。

進撃してきたアンデッド達は大きく分けてゾンビとスケルトン、ここで双方の特性が如実に表れた。体重が軽く機敏なスケルトンと、そうとはお世辞にも言えないが力の強いゾンビ、この両者が沼地を進めばゾンビは沼に足を取られることとなり、当然足並みが揃わないのだ。

 

そして…

 

「おおおおぉぉぉ!!!」

 

様々な所から上がる鬨の声と共に武器が振り上げられ、振り下ろされる。

元来リザードマンは製鉄技術を持たない、故に武具は石の斧であったり獲物の骨であったり例外はあれど無骨な殴打武器が殆どなのだ。

 

それがアンデッド達の最前線に立つスケルトン達には非常に相性が良かった。

リザードマンの屈強な肉体から放たれる一撃が次々にスケルトンの身体を砕き、地に沈める。無論被害を出しているのはスケルトンだけでは無い、リザードマンの戦士達も数に押される様にスケルトンが手に持つシミターに切りつけられる者も多く居る。

 

それでも固い鱗という天然の鎧を纏ったリザードマン達は一人の死者を出す事無くこの戦の第一波を凌いだのだった…

実に500以上のスケルトンを打倒するという快挙であった。

 

 

 

 

_________

 

 

「どう見る?」

 

戦場を見渡せる様、土壁の上に並ぶ族長達の中でザリュースが問い掛ける。

 

「舐めて遊び感覚で居るのか…あの動きではそもそも誰も指揮をとっていないと言う事もあり得るな。そうなった時一番不味いのは伏兵によるこの拠点への襲撃だが…」

 

シャースーリューは言外にそれは無いだろうと首を振る、そんな真似をするのならわざわざあんな事前通牒もこんな大軍勢を揃えるなどと言う真似も必要無いからだ。

 

「ぞんび達も…引きつけられてる。」

 

狩猟班達、遠距離攻撃組がゾンビに投石を行う事でゾンビを上手く足止めしている。その間に戦士達がスケルトンの数を減らす。

 

「シャースーリューの意見は俺も正しいと思える。あり得るとしたらあの未だ動きを見せない弓兵と騎馬兵以外をこちらの疲弊を誘う捨て駒としてしか見ていないと言う事だろうな。」

 

「ちっ…舐めやがって!」

 

苛立たしげに言ってゼンベルが尾を叩き付ける。

だがアンデッドの強みとは疲弊しない事にこそある。直に前線の戦士達には抗いようのない疲労が襲いかかるだろう、今でこそ順調だがアンデッド軍の第二陣を考えれば非常に厳しい状況である事は変わらなかった。

 

 

各族長達による戦況予測、その間に状況の変化が訪れた…

 

スケルトンライダーが動き出し、その圧倒的機動力でもってリザードマン達の背後に回ろうとしてきたのだ。それと同時にスケルトンアーチャー達も進軍を開始する。

 

「あれは不味いな…成る程、アンデッド共だからこそとれる作戦という訳だ。」

 

一番早くイエロースペクトルの族長が気が付いたアンデッドの作戦とはスケルトンとゾンビを捨て駒にして乱戦の状況を作り出し、スケルトンアーチャー達による矢の雨で此方に出血を強いる事。

 

ゾンビもスケルトンも刺突属性である矢では殆ど倒れる事は無く、そもそも幾らやられようとアンデッドには被害という概念すらないだろう。

そしてその間を様々な種類のアンデッドビーストが掻き回す…

 

逆にリザードマン達にとってはその頑強な鱗でも飛来する矢は防げるものでは無い、おまけに矢の雨を止める為にはスケルトンとゾンビの壁を突破する必要があり、それを行おうとすればする程、戦線は乱れ乱戦の様相は深くなる。

だめ押しにスケルトンライダーによって退路を塞がれ背後から強烈なプレッシャーが掛かる。未だ祖霊への信仰で持ちこたえてこそ居るが疲労と合わせて一度士気が下がってしまえば一気に危険な状態に陥る状況であった。

 

 

「俺達が出るか?」

 

問うたのはザリュース。彼等族長組が後方待機していたのには当然理由がある。

それは敵の首領が出て来た際、万全の状況で彼等がぶつかれる様にする為だ。

 

「いや…フロストペインを持つお前とクロコダインからそれを借り受けたゼンベルと二人を上手く支援できるクルシュは俺達の切り札だ。行くとしても俺達3人だろう。それに信じよう、五つの部族が一つになった俺達だ、まだ策も残っている。」

 

ザリュースの提案を却下したシャースーリューの視線はゼンベルの腰に装備された一振りの斧に向く…

 

『帰ってきた真空の斧マーク2』…それがゼンベルに貸し与えられた直接の参戦を見送ったクロコダインからの最大限の助力だった。

因みにこの斧の名を聞いた時、その場に居た全てのリザードマン達は全員(名前長いっ!!)と思ったのだがクロコダインは実にまじめな様子で名前を略す事を禁じた。

 

帰ってきた真空の斧マーク2がゼンベルに貸し与えられたのははっきり言えば消去法である。

 

ザリュースにはフロストペインがあり、わざわざ十全に使いこなせるその武器を手放す事は無いとして、シャースーリューも同じく魔法を帯びた大剣がある。

イエロースペクトルの族長はスリングでの投石を武器としているため斧は扱えず、シャ-プテイルの族長はホワイトドラゴンボーンという最強の鎧を持つ故、辞退。

残るクルシュはそもそも使わないと言う事で最終的に鉄のハルバードを置いて、帰ってきた真空の斧マーク2はゼンベルの手に納まった。

 

ちなみに帰ってきた真空の斧マーク2はクロコダインが普段装備する真空の斧と比べ、決して劣る物では無いれっきとしたレジェンドアイテムである。

一撃の威力こそ落ちる物のむしろ装備重量が低い為これはクロコダインと近い体格を持つゼンベルにとっては誂えた様な武器だった。(真空の斧は重すぎてゼンベルでも扱いが難しかった。)

 

 

 

そして戦況が再び動く…

 

 

多くの被害を出しながら、その高い機動性故に罠に掛かり一斉に落馬したスケルトンライダー。

リザードマンの全ての司祭によって呼び出され、使役されたスワンプエレメンタルの活躍。

死を恐れない戦士達の勇敢な猛攻が敵の包囲網に風穴を開けた。

 

 

 

 

 

ここに大勢は決した。

それはつまりリザードマンの軍勢の勝利であり、ナザリックのアンデッド軍団の敗北であった。

 

 

 

 

 

 

故に最後の試練の扉が開く…

 

 

 

 

「認メネバナルマイ、我ガ不徳ヲ…ーーー指揮官タル、エルダーリッチニ命令ヲ下ス。進メ。リザードマンニ力ヲミセツケロ。」

 

 




アインズ様どころかクロコダインすら殆ど出番無いなんてこれもうわかんねぇな…

鰐つ『ゴッズアイテムと化したどたまかなづち先輩』    
       +
鰐つ『帰ってきた真空の斧マーク2』

帰ってきた真空の斧マーク2を借りて完全勝利した、全鐘君UC



次話、銀杏食べたい



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ゼンベル無双

ワニ「今回も殆ど出番が無いんですが…」



豪華な、しかし古びた朽ち果て闇そのものを霞の様に纏わせたローブを身に纏った一体のアンデッドのマジックキャスターが無人の如く沼地を歩く。

その両脇には護衛である、血塗られた巨漢のゾンビ、ブラッドミートハルクが随行する。

 

骨と僅かにこびりついた様な皮のみの顔に、邪悪な笑いを浮かべた彼こそがアインズが冒険者の死体を元に作成したエルダーリッチ、与えられた名は『イグヴァ41』、つまりは被験体41号というそれだけの価値しか見いだされていない哀れな存在。

彼は今回の行軍においてコキュートスに預けられた唯一の知性を持つアンデッドだった。

しかし、それでも恐るべき事にイグヴァは通常のエルダーリッチを遙かに上回る力を持ち、その強さはレベルで言えば30に匹敵するものである。

 

 

「煩わしい…ゴミ共め。」

 

戦場に突如として現れたイグヴァの放ったファイアーボールが沼地に展開していたリザードマンの戦士達を纏めて焼き払う。

その光景を目にしたリザードマンはイグヴァが今回の戦争の首魁であると判断すると各々、疲労とダメージの深い身体を押し、討ち取らんと殺到する。

 

「愚か。」

 

それに対し、ゆったりと歩を進めながらイグヴァが再びファイアーボールを放ち、それは爆発と共に再び突撃を敢行した戦士達の生命を瞬時に奪う。

 

それが都合3度…

その間に両脇に侍らせていたブラッドミートハルクがそれぞれ独自に動き始め、近い者からリザードマンを字面の如くひねり潰し始めるのだった。

 

此処まで圧倒的力を見せつけられ、リザードマン達も遂に現れた真の強者を相手にその絶望を肌で感じていた…

 

 

「逃げよ!!戻って族長達に!!」

 

戦士頭が声を上げ、多数のリザードマンが蜘蛛の子を散らすかの様に撤退を始める…

 

「我等で時間を稼ぐぞ!!」

 

五人の戦士頭が武器を構え、それぞれの距離を取る。それはイグヴァの絶望的威力の火球で一網打尽にされない様にする為の布陣であった。

時間を稼ぐとは言っても彼等とて犬死にする気は無い、誰か一人でも敵にたどり着き接近戦に持ち込めれば僅かな希望があるだろうと一縷の望みにかけているのだ。

 

 

「行くぞ!突撃っ!」

 

 

 

 

_________________

 

 

五人の戦士頭が焼き殺される光景をザリュースは遠目から冷静に見つめていた。しかし、その手に握られたフロストペインを握る手にはギリギリと力が込められる…

 

「出番が来たみてぇだな。」

 

ゼンベルの声に、ザリュースとクルシュその他族長も頷きを返す。その瞳には決死の覚悟が浮かんでいる。

 

「あのエルダーリッチこそが偉大なる御方とやらの右腕、もしくは切り札で間違いないだろう。ザリュースよ、我々であの巨漢のゾンビ2体を引き受けよう。お前達にあのエルダーリッチを任せたい。」

 

シャースーリューは言うが早いか二人の族長と共に進み出る。それは相性を考えれば正しい判断だろうと、全員異論はなかった。

 

「でも…どうやって距離を詰める?戦士頭達との闘いを見る限り150メートル以内は完全に奴の距離だわ。」

 

「あぁ…長いな。」

 

クルシュの問いにザリュースは頭を悩ませる。

ザリュース達が勝つ為には先ずは何より距離を詰めるのが絶対条件だ。しかしその為の凡そ150メートルが絶望的な壁になってくる。

 

「クルシュのドルイドの魔法は?」

 

「難しいわ…あれ程の威力、泥を纏わせる位じゃ気休めにもならないだろうし…」

 

「長いな…たかが150メートル、絶望的な距離だ…」

 

ザリュースの表情が悔しさに歪む…今もこうしている間に大勢のリザードマンが追い立てられ、ゴミの様に焼き殺され、エルダーリッチは嫌味な程、優雅に前進を続ける。いずれファイアーボールの射程が村に到達した時、それは此方の完全な敗北を意味する。

 

「盾を作って進めねぇか?家でも柵でも引っぺがしてそいつを盾によ。」

 

ゼンベルの意見にそれも一つの選択肢だとザリュースは考えた。自分の持つフロストペインに備わった能力、一日3度の『アイシーバースト』ならばあのファイアーボールを相殺できるだろう。

問題はその状態では進行速度が遅くなるという事でとてもでは無いがあの絶望的な距離を埋められない…

 

 

「ザリュースよ、一つ良いか?上手く行くかは分からんが…ーーーーー

 

 

ザリュースが再び頭を悩ませていると、今まで沈黙を守っていたクロコダインが遂に一つのアドバイスを行った…

そのクロコダインのアイデアを取り込みザリュースは作戦を組み立てる。

 

 

 

「成る程…それならば確かに…やれるか、ゼンベル!?」

 

「おう、任せときな!!」

 

クロコダインのアイデアに覚悟を決めた表情で問い掛けるザリュースに対して胸をドンと叩いてゼンベルが答えた。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

イグヴァが無人の野を行くが如く前進を続ける、途中何度もリザードマンの特攻を受けながらも、その全てをせせら笑う様に焼き殺してきたのだ。

 

そんなイグヴァの視界の先、集落からリザードマンとは別の影が現れた…

 

「あれは?…成る程、あれが奴らの切り札か…ヒュドラごときでこの我を止めようとは…愚か!」

 

集落から飛び出したのはロロロだった。

ロロロはイグヴァの魔法の射程範囲の手前まで進んだかとおもうとその鈍重な身体の限界の速度で走り出す。そう、イグヴァに向かって真っ直ぐに。

 

「煩わしいわ!!」

 

イグヴァは嘲笑を浮かべると手にした杖から火球を放つ。それは寸分違わず此方に愚直なまでの前進をするロロロに直撃した。

 

 

「…ククク…フフフ…ハッハッハハハ!!」

 

火球が炸裂し、巨大な爆炎に変わった事でイグヴァは偉大なる方より与えられた己の力に陶酔し、狂った様な笑い声を上げた…

 

しかし次の瞬間、爆炎を貫きヒュドラの巨体が前に進み出たのだ。

 

「ちぃ、やっぱり完全には防げんか…」

 

「次はもうちょい上手く防ぐ!円を描く風…大切なのはイメージ…」

 

「頑張って!!ロロロ!」

 

ロロロの背中には三人のリザードマンの姿があった。その一番前に位置したゼンベルの手には帰ってきた真空の斧マーク2が掲げられている。

 

「小癪な真似を!!」

 

何をしたかは判らないが一撃耐えられた…その事実にプライドを傷付けられたと憤怒したイグヴァは骨すら残さん、と言わんばかりの気迫でもう一度火球を放つ。そして今度のそれは先程とは違い、続けて連射する事を前提としていた。

 

「しゃらくせぇ!!唸れ、真空の斧!!!」

 

火球が接触する直前、ゼンベルが振り上げた帰ってきた真空の斧マーク2の宝玉が煌めき、一瞬で暴風を巻き起こす。

それはロロロとその背に乗る三人をドーム状に包むとイグヴァの炎を掻き消し、吹き飛ばす。

 

「馬鹿なっ!」

 

そうして爆炎が掻き消えるとあれだけ長かった絶望の距離がまた着実に短くなっている…

その光景にイグヴァは動揺を隠せなかった。当然だ、それが魔法を打ち破られたマジックキャスターの正しい反応である…但し二流のと注釈がつくが。かの大魔道師マトリフがその様を見れば鼻で笑うだろう。

 

 

そして間を置かず、次々と撃ち込まれてくる火球の嵐に、帰ってきた真空の斧マーク2を握りしめるゼンベルの頭の中にクロコダインの言葉が蘇る。

 

『ゼンベルよ、お前に預けた帰ってきた真空の斧マーク2は「唸れ、真空の斧」という言葉に反応して風を起こす魔法の武器だ。

どういう風に風が起きるかは使用者のイメージ次第だが…俺はかつてある強敵の放った極大火球魔法に対し、自分をドーム状の風のバリアで包む事で防いだ事がある。

それならばあのエルダーリッチ、奴の魔法程度、対抗できるはずだ。良いかゼンベル?大切なのはイメージだ、風の壁がお前達を守る事を当たり前だと思え。』

 

「応さっ!!唸れっ!真空の斧!!」

 

ゼンベルの咆哮に応える様に宝玉を煌めかせる帰ってきた真空の斧マーク2、より鋭さを増した風が沼地を駆け抜けるとまるで空間が破裂したかの様な音と共に衝撃波が全ての火球を炸裂させた。

 

そして熱風の吹き荒れるその中をロロロは怯む事も恐れる事も無く、全力を振り絞って前進する。

直撃こそゼンベルが防いではいるが、決してその莫大な熱量全てをかき消せている訳では無い。四つの首を盾に、背に乗せた三人を庇うロロロの身体にはかなりの広範囲にわたって熱波によるダメージが蓄積されている。

 

「おのれ、おのれっ供物風情がぁ!!何処まで私に恥をかかせるつもりだ!!」

 

だが逆に言えばその程度のダメージでしかない。ロロロには決意があった。

 

それは死んでもザリュースの本懐を遂げさせる事。あの敵の元に三人を到達させる事。

親に見捨てられ死ぬはずだった自分を拾い、育ててくれた父であり、共に育った兄であり、何より大切な自分の家族の為に、その疾走は距離を詰めるごとに徐々に速度を上げつつあった。

 

 

後、僅か10数メートル。

と、そこでロロロの身体を風の守りを突破した白い雷撃が無慈悲に貫いた。

 

 

それは遂にファイアーボールの魔法では如何ともしがたい状況を悟ったイグヴァの扱えるもう一つの最強の攻撃魔法『ライトニング』だ。

散々見下していたリザードマンに対して手を変える。それはある意味で敗北であり、イグヴァにとってこの魔法を使わされた事は屈辱であった。

 

ライトニングの直撃に麻痺し、硬直したロロロの身体が転がる様にグラリと前へと倒れたのは意識を失いそれでも前に進もうとしていたからであろう。

ロロロの背から飛び出した三つの影、既に彼我のその距離は10メートルを切っていた。当初横たわっていた150メートルというイグヴァのキルゾーン、その絶望的な距離は此処に来て遂に消滅した。

 

相対するエルダーリッチは三人を睨み付けながらサモンアンデッドの魔法により四体の骸骨戦士(スケルトンウォーリアー)を呼び出す。

地面に湧き出た深い闇より這いずる様に現れたそれ等はボロボロではあるが立派な鎧を纏い、上等なシミターとラウンドシールドを持つ、それはまるで王を守る為の親衛隊の様だった。

 

 

 

「進めやぁ!ザリュース!」

 

その状況下、誰よりも早く突貫したゼンベルがスケルトンウォーリアーの一体に躍りかかる。

本来このスケルトンウォーリアーは性能だけで言えばリザードマン一の豪腕であるゼンベルと互角の膂力を持っていた。

そんな骸骨戦士に振り下ろされた帰ってきた真空の斧マーク2がラウンドシールドに防がれた瞬間であった…

 

盾は真っ二つ、それを支えていた骸骨戦士の腕から肩、股間の骨までを粉々に砕きながらいとも容易く刃は地面に到達すると水しぶきを上げる。

 

その余りの一撃に、その場の殆ど全員の動きが一瞬停止した。攻撃を放ったゼンベルですらだった。

 

 

しかし、唯一人止まらなかった男がいる。

 

「死者は、死者の国に帰るがいいっ!!!」

 

そう、ザリュースだ。

フロストペインを構え、肉薄するザリュースにイグヴァは咄嗟に先ずは距離を取ろうと骸骨戦士をけしかける。

 

『我を守れ!』

 

一体の骸骨戦士が二人の間に身体を滑り込ませる様に立ちはだかった。残る二体はゼンベルに向かう。

その僅かな間にイグヴァの杖の先端に炎が凝縮される。イグヴァは一体の骸骨戦士諸共に先ずはザリュースを焼き殺すつもりだった。

 

「アースバインド!!」

 

しかし、それは突如足下から伸びた鞭の様にしなやかで強靱な、絡みつく泥の触手によって杖を押さえつけられる事によって阻害された。先端を下げ、ザリュースに向いた照準を無理矢理逸らしたのだ。

 

「煩わしいと言った!!」

 

杖を放棄し、眼窟の奥に憤怒の炎を燃やしながらその指先からライトニングの呪文を撃ち出したイグヴァとそれの直撃を受けたクルシュ。

 

「ぎゃんっ!」

「クルシュ!!」

 

骸骨戦士を打ち払ったザリュースの視線が一瞬とは言えつい倒れ伏したクルシュに向かう。

 

それをイグヴァは見逃さなかった。

イグヴァの指先が再び紫電を纏い、その先端を倒れ伏したクルシュに向ける。

それに気が付いたザリュースが自らクルシュを庇う為、魔法の射線に飛び込んで来た事にイグヴァは予想通りだと心底愚かなリザードマンだとザリュースを嘲笑う。

 

「ライトニ…」

 

だが、イグヴァは今なら仕留められるという絶好のチャンスと目の前のザリュースに夢中になりすぎて少々視野が狭くなっていた…

一流のマジックキャスターとはどんな状況でも心は氷の様に冷たくクールに在らねばならない。そうで無くてはここ一番で…

 

 

「お前等の負けだぜ!」

 

 

足下をすくわれるのだ…

 

「…おぉ…ぁ…ば!…ば…か…な…」

 

イグヴァを背後から、一刀両断とはまさにこの事だろうというお手本の様な切り口で両断したのは、自身に向かってきた二匹の骸骨戦士を瞬殺したゼンベルだった。

恐るべきは帰ってきた真空の斧マーク2のその切れ味だろう、それを振るうゼンベルは骸骨戦士の盾を紙の如く切り裂き、シミターを枯れ木の如くへし折った。

 

 

「…おゆ…るし…を…ア…イ…ンズ……さ……」

 

 

明らかに致命傷を受けたイグヴァはどうやって発音しているのやら、声にならぬ様なくぐもった声で創造主への深い謝罪の言葉を偽りの生命が消え、その骸が崩れ落ちるまで繰り返す…

 

それと時を同じくして、遠方から勝利を謳うザリュースにとって聞き慣れたリザードマンの雄叫びが聞こえる、シャースーリュー達もブラッドミートハルクを撃破したらしい…

 

「勝ったぜ、俺達がな…」

 

「あぁ。俺達の勝ちだ!」

 

ザリュースが勝利の雄叫びを上げる。

湿地帯に全てのリザードマンによる勝利の鬨の声が響き渡ったのはその直後の事である。

 




善鐘「この斧強すぎるっぺ。」

ザリ「普通トドメは主人公に譲るだろ?空気読めよ…」

桃ワニンガ『…主人公…』


左右を両断される敵のゲス中ボス…フレイザードっぽい?ぽくない?


次話、イイダコが釣れたら。


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リザードマン祝勝会とナザリック反省会

今回、ナザリック勢のやりとりの大部分を短縮する為「説明してやれデミウルゴス。」→「かしこまり^^」の流れが無くなってます。




 

リザードマン達の戦勝の宴が行われている光景をクロコダインは集落の外れで一人、泥壁に背を預け、腰を落としたまま一人眺めていた。

 

先程まで代表としてシャースーリューが敵の残党などが居ないかなどを調べさせ、負傷したリザードマン達をクルシュをはじめとした司祭達が治療を施し終えている。

多くのリザードマンが勇敢に戦い、そして死んでいった。

それを悼みながらも全てのリザードマン達には歓喜が見て取れる。

 

それは、全ての部族が一つになる事で成し遂げる事が出来た偉業の大きさを表していた。

 

その様子を眺めながら、クロコダインはヤシの実を半分に切っただけの様な簡素な器で酒を静かにチビリチビリと味わっていた。

 

 

 

「おぉ、こんな所に居たのかよ。」

 

そんなクロコダインに野太く、粗野な印象の声が掛かった。それが誰のものなのかクロコダインには直ぐに判った。

ノシノシと此方に歩いてくるゼンベルの後ろには恐らくドラゴンタスク出身の戦士だろう雄のリザードマンが二人程いる。

 

「ゼンベルか。」

 

「おいおい、探したぜ!何でこんな所でチビチビやってんだ?」

 

そう言って笑うゼンベルの顔には両頬に思いっきりぶん殴られた跡がついている。ザリュースとクルシュの逢い引きを邪魔した挙げ句、下世話にからかって台無しにした制裁の痕だった。

 

「フッ…余所者のオレが一緒に飲む訳にもいくまい…?」

 

そのクロコダインの言葉にゼンベルは心底、「何言ってんだこいつ?」という表情を浮かべる。

 

「そんな訳あるかよ…お前が後ろに控えてくれたから、俺達は何も考えずにあのアンデッド共に向かって行けたんだぞ!?ザリュースの奴だってその通りだ、ガハハハって言うだろうぜ!」

 

因みに、本当に何も考えていなかったのはあの面子ではゼンベル位のものである。

 

「それに、お前から借りた武器がなけりゃ、多分俺達の誰かが死んでたかもしれねぇ…誰がなんと言おうとよ、クロコダイン、お前さんも間違いなくこの闘いの勝利の立役者だぜ。旅人だとか余所者だとかは関係ねぇ、とにかく乾杯だ!!」

 

「ゼンベル…」

 

そして、屈強なゼンベルの部下にズイと差し出されたのは『酒の大壷』だった。

決して尽きる事の無い酒が壺の中に満たされている、それこそザリュースのフロストペインに匹敵するリザードマンの秘宝である。

本来なら酒で満たされたそれから自分の器で酒を汲み上げるのが習わしであるが、クロコダインは屈強なリザードマンが二人がかりで何とか持ち運んでいる大壷をヒョイと軽く取り上げると大口を開き、大壷を豪快に傾ける。

 

『オォーー!!』

 

どくどくどくっ…!!っと音を立てながらの凄まじい勢いのクロコダインの飲みっぷりにそれを見ていた三人から驚嘆の声が上がる。

 

「旨い…」

 

フゥッ…っと酒精の香る吐息と共に、唯一言をクロコダインは溢す…そこには一言では言い表せぬ万感の思いがあった。

 

「こんなに旨い酒は、初めてだよ…」

 

だからこそ、酒を飲んだ時に出す言葉はその一言しかあり得なかった。

そのクロコダインの姿にゼンベルと連れが笑う、豪快に大口を開けて笑う。

 

「ガハハハハ…いいねぇ、その飲みっぷり!いっちょ飲み比べと行こうぜクロコダイン!!」

 

闘いじゃあ絶対に敵わないだろうが、ドワーフに鍛えられた肝臓を持つゼンベルは酒の飲み比べなら負けんぞとクロコダインから酒の大壷を受け取ると同じく、勝利の美酒を豪快に飲み下すのだった。

 

 

闘いが続く可能性を考えて、飲み過ぎない様に忠告を受けていたゼンベルがべろんべろんに酔いつぶれ、激怒したクルシュによってボコボコにされた後で回復魔法を受ける姿が確認されたのは翌日の朝だった。

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

「アインズ様、ナザリック各階層守護者、御身の前に集まりました。何なりとご命令をどうぞ。」

 

アルベドの言葉通り、アインズの目の前には今、ヴィクティムとガルガンチュアを除いた各階層守護者が集結し、傅いていた。

 

「うむ、ご苦労。早速だが、リザードマンとの戦闘見させてもらったぞ、コキュートス。」

 

「ハッ」

アインズの静かな言葉に対し、傅いたまま、コキュートスは顔を上げる事が出来なかった。

 

「敗北で終わったな。」

 

「ハッ、コノタビハ、私ノ失態、真ニ申シ訳アリマセン。」

 

アインズに会わせる顔が無い…そんなコキュートスはアルベドから、顔を伏せたままである事が不敬であると叱責を受ける。

 

「コキュートスよ、まず先に言っておくが、私は今回の敗戦、強く責めるつもりは無い。それよりも敗軍の将として聞かせてもらいたいのだ。今回、先頭に立つのでは無く、指揮官として闘い、何を感じ取れた?」

 

アインズの問い掛けに戸惑いを浮かべるコキュートスと各守護者達、平静なのはアルベドとデミウルゴスのみである。

 

「失敗は誰にでもある、それは無論、私でもそうだ。しかし、大切なのはその失敗から何を学び取るかだと私は考える。もう一度問おう、コキュートスお前はこの闘いで何故、敗北した?どうすれば勝てた?」

 

アインズ様が失敗などする訳が無いだろうと守護者達が思う中、再び投げかけられた問い掛けにしばしコキュートスは熟考する。

今ならば判る、自らの至らなかった部分が。ここで何も答えられなかったら、それこそ先の敗北の比では無い失望を主に与えてしまう事になる。

 

「先ズハ、リザードマンヲ侮ッテオリマシタ。ソシテ情報ノ不足、モット慎重ニ彼等ノ情報ヲ集メテイレバ、結果ハモウ少シ違ッテイタカト。」

 

「ふむふむ、敵を侮るのはやはり良くないな。そして、闘いにおいて情報は命だ。他にはあるか?」

 

「指揮官ノ不在、低位ノアンデッドヲ動カスニアタッテ臨機応変ナ動キガトレヌ事、ソレ等ヲ踏マエレバ当然、全テノアンデッドノ足並ナミヲ揃エルベキデシタ。」

 

自分で口にして、コキュートスは単純な力押しで良いとしか思いつかなかった己を深く恥じた。

 

「それ以外には?」

 

続きを促すアインズの言葉に、コキュートスはもう一つの見逃せない要因に思い当たった。

それは指揮官たるエルダーリッチを容易く葬った一人のリザードマン…より正確に言えば彼が所持していた武器だ。

 

「ソレトモウ一点、彼等ヲ侮ッテイタトイウ内容ト、些カ似テオリマスガ、エルダーリッチヲ討チ取ッタリザードマンノ所持シテイタ武具ノ一ツガ、想定ヲ遙カニ上回ル業物デアリマシタ。当然、我ガ『斬神刀皇』、『断頭牙』等ニハ及バズトモ比肩シウルノモ確カカト…」

 

そのコキュートスの評価にアインズの反応が大きく変化する。

 

「何だとっ!?…いや、確かにあの斧は凄まじい攻撃力だった。だがそれ程とは…」

 

「私モ映像ヲ介シテシカ見テオリマセヌ故、アクマデモ恐ラクハ…ト、ナリマスガ。」

 

「いや、コキュートスよ、こと武具においてお前の慧眼を私は信頼しよう。しかしそうなるともしや漆黒の剣の様な他のプレイヤーの縁の品という線もあるな…調査部隊の報告からプレイヤー自体は居ない事が判っている、しかし、それだけの武器が報告に上がらなかった事も、ギルド武器の様にリザードマン達の事情があって厳重に保管されていた為だとすれば説明もつく。」

 

後半はアインズの独り言の様であったが、その推察は中々理にかなった考えであった。

 

但し、大前提の部分で食い違いがあるという事を除けばであるが…

 

「コキュートスよ、今回の事で様々な事を得たようだな。私はそれを嬉しく思う、そして聞け!他の守護者達もだ、今回の事で解っただろうが相手が弱者であろうと決して油断はするな。そして万が一失敗を犯した時はその失敗から学ぶのだ。そうであればそれは意味ある失敗となるだろう。」

 

『ハッ!!』

 

微かに微笑みながらアインズの語るソレは、会社員であった自分の欲した理想の上司をロールしたものであった。

 

「とは言え…コキュートスよ。失態は失態、故にお前には罰を与える。」

 

主人のその言葉にコキュートスの身体が強張る。

 

「コキュートスよ、此度の敗北をお前自身の手で拭え。リザードマン共の心を完全に挫き、我がナザリックの力を見せつけ制圧するのだ。今度こそ、誰の手も借りずにお前だけでな。…本当ならば奴等を全て殲滅せよと命じたい所だが、プレイヤーの痕跡が少々気になる。」

 

アインズのその命令にコキュートスは歓喜に身を震わし、凍てつく吐息を無意識に漏らす。

己の失態を拭わせる罰の為にという名目で与えられたソレは武人たるコキュートスにとっては褒美以外の何物でも無かった。

 

「ハハァッ!!」

 

「ふむ、プレイヤーの情報を集め終われば…生き残り共は折角だ、コキュートスよ、お前に預けよう。リザードマンの村を支配し、恐怖等に拠らない統治、そこでナザリックへの忠誠心をリザードマン達に植え付けよ。そのテストケースとして奴らを利用するのも悪くない。」

 

「それは大変素晴らしいお考えかと、このデミウルゴス、アインズ様の深慮智謀に驚かされます。」

 

「流石アインズ様!!」

 

「何と慈悲深い!!」

 

他の階層守護者からの称賛の声を受け、謙虚にいやいや、と答えながら他にも幾つかの深い話を諭す様に語る主を仰ぎ見ながらコキュートスはアインズに対して驚嘆と羨望、憧憬を抱かずにはいられなかった。いや、元々抱いてはいるのだがそれでもである。

 

コキュートスは、結果的に結局口にする事は無かったがリザードマンを皆殺しにせよと言われた時、彼等に慈悲を与える様にアインズに嘆願しようと考えていた。

 

その理由は唯一つ、絶望に立ち向かう彼等の勇猛な姿に戦士の輝きを見たからだ。

それぞれ、一人一人を見ればコキュートスにとって彼等はまさに羽虫に等しい弱者だろう、それでも勝てぬであろう敵に己の守る物の為、全てを投げ打って挑む…それはかつて自分もナザリックに大勢のプレイヤーが攻め込んできた時にした選択と同じであった。

 

故に、彼等にはある種の感銘を受けたのだ。

 

 

それ等を全て見透かし、今回の様な機会を与えて下さった偉大なる主の為にも、これ以上の無様はさらせない…

 

 

だからこそ、コキュートスは片手間でも可能な、多くのリザードマン達を殺す事に全力を出す事を固く誓うのだった。

 

 




『食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。
牙を持たぬ者は生きて行かれぬ暴力の世界。あらゆる悪徳が武装する、ナザリック地下大墳墓。
ここはユグドラシルが産み出したアインズ・ウール・ゴウンのギルド拠点。

クロコダインの体に染みついた強者の臭いに引かれて危険な奴らが集まってくる。

次回、「出会い」。

クロコダインが飲む、リザードマンの酒は旨い。』



うん、最後の一文が書きたかっただけなんだ…許して欲しい。

次話、ジャングルの王者ターちゃんを読み終えたら。




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誰じゃっ!?→俺だ!!→馬鹿なっ!!!?→『獣王クロコダイン!!!!!!』

ここまでテンプレ。そしてここからもテンプレ。だがそれで良い!!


悲報『ジャングルの王者ターちゃん、打ち切り!!』


事態は風雲急を告げた…

 

あの奇跡的な勝利を勝ち取ったリザードマン達を、まさに嘲笑うかの様にナザリックの軍勢が遂にその姿を現したのだ。

 

 

湿地帯を完全に、囲う様に配備されたスケルトン達は先日の様な雑魚では無い。

無数に、そして規律正しく並ぶその全てが魔法の武器と鎧を纏った強力な兵であり、たった一匹でももしやすればリザードマン達を殺し尽くせるのではないかと感じさせる程の危険性を見せていた。

 

それだけでも半ば混乱し、現実味がなさ過ぎるその戦力を、幻や幻覚の類いであろうと判断した族長達の前に更に信じられない様な光景が広がった。

 

一際異様な気配を放つ一団が現れたかと思うと、その中心に位置するアンデッドのマジックキャスターが産み出した巨大な魔方陣が光を放ち、その光が消滅すると見渡す限り視界の全てが氷に包まれる。

次々に体温を奪われ、倒れ伏す仲間達を見ればそれ等全てが幻でも幻覚でも無く、恐ろしい現実なのだと突きつけられるには十分だった。

悲鳴と混乱の絶叫の中、僅かにでも心を強く保てた者達が互いを支え合い、凍り付いた水面から逃げ出す…

 

 

それを成した、死の具現とも言える存在が、今度は神話の軍勢を唯の足場として突如、天から落下してきた大岩の上に姿を現した。

 

その姿を目にしてリザードマン達の誰もが思った…

 

終わりだ…と

 

 

そして、再びあの怨念の集合体と言えるアンデッドのメッセンジャーがリザードマンの集落に現れる。

 

『偉大なる御方の言葉を伝える、偉大なる御方は対話を望まれておられる。

代表となる者は即座に歩みでよ。無駄な時間の経過は偉大なる御方の不興を買うだけだと知れ。』

 

あの時と同じだ…一方的に言いたい事だけを言って去って行ったアンデッド。しかしあの時と今回で決定的に違うのはリザードマン達の心境であった。

あの時にはまだどうやって勝つか等を考える事が出来た。だが今回は違う、何がどう転ぼうとどうにもならない事は幼子でも解る。

 

「ザリュース!!」

 

「応っ!!」

 

その最中、一番に飛び出したのはザリュースとシャースーリューだった。このリザードマンの大同盟、代表をあげよと言われればこの二人であろう事は間違いなく、事実それに異を唱えるリザードマンの声は決して上がらなかった。

 

「ザリュースよ…俺も共に行こうか?」

 

そんな二人の背にクロコダインが声をかける。返って来るであろう答えは解ってはいたが聞かずには居られなかった。

 

「いや、大丈夫だ…クロコダイン、我が友よ。もし…万が一!対話とやらが上手く行かなかった時は我々の事は見捨て…お前はこの地を去れ、お前ならばそれも可能だろう。」

 

それだけ言い残すと、二人の兄弟は覚悟を決めた表情で凍れる湿地帯を歩いて行く…

それを見送りながらクロコダインはその視線を大岩の上に立つ一団へと向ける。

 

見れば分かる…そこに立ち並ぶ数名は間違いなく自分と同等かそれ以上の強さを誇るだろう…

 

 

闘えば間違いなく負ける。

 

 

それを理解してクロコダインは……

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

暫くして、ザリュース達とナザリックの対話は終わり、ナザリックの一団がゲートによってその姿を消すとザリュース達が集落へと戻ってきた…

彼等を迎えた4人の族長達から見ても、その体と心は強烈な冷気と凄まじいプレッシャーによって最早ボロボロだった。

 

「よぉ、どうなったよ…」

 

出来れば聞きたくは無い、しかし聞かねばならない問い。

そんな彼等に対話の結果を問い掛けたのはゼンベルだったがそのゼンベルの声ですら掠れた、無理矢理にでも絞り出したかの様な声色であった。

 

「……結論から言えば、俺達の降伏は認められず4時間後、見せしめとしての闘いを要求された。我等が敗北すれば我々リザードマンは彼等の支配下に入る事となり、万に一つでも勝てれば賠償を行ったうえでこの地の一切から手を引くそうだ……勝てればな。」

 

ザリュースのその言葉にその場の全員に深い絶望が襲いかかる…

当たり前だ。先の闘いですらギリギリの勝利だったというのに…万に一つも勝ち目など無いのは誰もが理解していた。

そして敗北の結果が支配下に入ると言う事だが…生者を憎むアンデッドの軍勢の支配下等…それがどんな恐ろしい事なのかはもはや想像すら出来ない。

 

「そして相手は一人、あの死の支配者の側近、コキュートスという怪物らしい。…つまりはそういう事だ。」

 

ザリュースの言葉を補足したシャースーリューの声にもやはり諦めが見て取れる。まだ数で押してくるのならばそれは先の闘いの延長だ。そこには付け入る隙もあっただろう…だがたった1人の側近を派遣すると言う事はそれこそそのままナザリックの自信を現している。

 

「つまり、闘いは避けられん訳だな?何もせずに膝を屈すれば、それこそ皆殺しに会いかねん…」

 

「あぁ、取り敢えず、闘いに赴くのは戦士級のリザードマン全員とここに居る…」

 

「…クルシュを除いた5人だな…」

 

「だな。」

 

「向こうの狙いは圧倒的な力で我々の心を折る事だと思う。だからこそ俺達の奮闘次第では皆殺しにはならない筈だ…ならばリザードマンの生き残りを纏めるのには残酷な話だが唯一族長達の中で戦士では無いクルシュが最適だ。」

 

「ちょっと、待って!!私も闘うわ!!」

 

「くるしゅ、みんなのいけん…ただしい。」

 

「シャースーリューの意見に異論は無い。」

 

6人のリザードマンの代表達の間で議論が白熱する。

 

「いいんじゃねぇか?俺も賛成だ。」

 

これから彼等が向かおうとするのは闘いでは無い!生け贄の儀式なのだ、そんな所に愛するオスが向かおうとしている。それ自体を止める事が最早叶わないのなら、せめて最後まで一緒に闘いたいというクルシュの訴えをオス達が押しとどめる形だ。

 

「ザリュース、後はお前が説得しろ…俺達は部族の全員に話を伝えてくる。4時間後に又、会おう。」

 

そう言い残し、シャースーリューが他の3人を連れ、クルシュとザリュースをその場に残し、去ろうとする。

 

 

しかし…

 

 

 

「いや…!残るのは…お前達全員と、全てのリザードマンだ。」

 

「お前は…」『クロコダイン!?』

 

 

それは陽光を背に纏い、いつの間にかシャースーリューの前に立ちふさがったクロコダインによって阻まれる事になった。

 

「相手は一人で来るんだったな?ならば今度こそ俺の出番だろう。」

 

 

そして、四時間という時間が経過した…

 

 

 

 

__________________

 

「さて、リザードマン達には時間を与えた訳だが…何をしているか見させてもらうとしよう。」

 

 

アウラの用意した仮拠点にゲートで転移したアインズ達は、階層守護者達を中心に今後ナザリックがこの世界でどの様に動いていくかなどの話合いを行った後、退屈しのぎの意味も込めて、遠隔視の鏡にてリザードマンの集落を観察し始めた。

 

村を俯瞰する様な光景の中を、大勢のリザードマン達がせわしなく動いている。それは闘いの準備であったり逃げ出す為に荷物を纏めたり、様々だ。

 

「無駄な努力ですね。」

 

その光景を滑稽だと笑いながら愉悦に口元を緩めるデミウルゴス。その口調は優しげですらあった。

 

「あの氷の剣と、風の斧を持った奴、それに白色のリザードマンは何処だ?」

 

アインズが取り敢えず興味を持って探しているのはイグヴァを打倒した3人だった。理由は無論レアアイテムを所持していた事と体色の珍しさからだ。

 

「確か、1人はザリュースって名前でしたかね?」

 

アインズの隣に立つアウラが何とかザリュースの名前を絞り出す。名前を聞いたのはつい先程にも関わらず中々出てこない名前。所詮、その程度の情報だ。

 

「……ん?」

 

と、そこでアインズは偶然にも気になる存在を発見した。

それは村の中をズンズンと歩いて行く、巨躯のリザードマンである。アインズの目に止まったのはそのリザードマンの肌が非常に目立つピンク色だったからだけでは無く、他のリザードマンと違い重厚な鎧で身を包んでいたからという事もあった。

 

「アウラ、あの赤い肌のリザードマンは何だ?私が知る限り報告には一切挙がっていなかった筈だが。」

 

「いえ、私の所にも報告は挙がっていません!!でも、おかしいですね…あんなに目立つ奴なら報告に挙がらないはず無いのに…申し訳ありませんアインズ様!!」

 

アインズの問い掛けに、アウラは慌てて答えると深く頭を下げる。

 

「まぁ、丁度タイミング良く調査範囲外にでも出ていたのかもしれん。そういう事もある、責めはせんよ。それよりもあの3人だ、特にあの風の斧は是が非でも欲しい。外には居ないとなると室内か?」

 

 

その後、ザリュースとクルシュの行為を遠隔視の鏡に映し出してしまった事でアインズの周囲で一悶着があり、リザードマンの集落に対する偵察は気まずい空気のまま打ち切られる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、四時間があっという間に経過する…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂にこの時が訪れた…

 

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウンが戦場を見守る中、コキュートスの前に満を持して現れたのは、『獣王クロコダイン』たった1人!!

 

 

運命は遂に両雄を並び立たせた!!

 




『昨日の夜、友と酒に濡れていた。
今日の昼、命を賭ける場所を追っていた。
明日の朝、、ちゃちな信義と、ちっぽけな良心が蜥蜴の村に光を射す。

『此処』は数多の原作が作ったパンドラの箱。質を問わなきゃ何でもある。
次回、『決戦』。

明後日?そんな先の事は分からない。』



次回、PSVRを諦める決心がついたら。



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とある桃鰐の超大戦斧(グレイトアックス)

引っかかったな!タイトル詐欺だよ!!(ゲス顔

色々流れに不自然が生まれない様に会話とか考えましたが私にはこの辺が限界です。

それと1500名を超える方ににお気に入りいただけて私は嬉しく思います。ありがとうございます。これからも頑張ろうと思いました○




四時間、それはアインズの放った魔法で作られた氷が溶け、湿地帯が本来の姿を取り戻すのに掛かった時間でもある。

 

「クロコダイン、やはり、俺達も…」

 

リザードマンの集落の正面出口には、族長達を始めとした生き残りのリザードマン達が集まって1人の『漢』の出陣を見送っていた。

 

「不要だ…お前達では、はっきり言って付いて来られん闘いになるだろう。あれはそういう相手だ。」

 

代表たるシャースリューの言葉に、にべも無くそう返したクロコダインの背中に、リザードマンの戦士達全員の胸の内が悔しさで埋め尽くされた。

ザリュースも悔しさに表情を歪め、握りしめた拳は己自身を傷付ける程に握り込まれている。

 

そして、クロコダインの視線の先にはナザリック・オールドガーダーという上級のスケルトン達によって囲われ、誂えられた決戦のバトルフィールドがある。未だコキュートスも姿を現していないがクロコダインの双眼には既にその強敵のヴィジョンが浮かんでいる。

 

「…だが忘れてくれるな…俺はお前達リザードマンの心を背負って闘うのだ。祖霊などでは無く、唯、今を生きようとするお前達全てのな!」

 

バシャリ、バシャリと水を掻き分ける音を鳴らしながら、クロコダインが歩き出す。その後ろ姿は何処までも堂々とした物であり、まさに『王』の姿だった。

 

それを見送って、クルシュはそっと身を震わしながら俯くザリュースに身を寄せる。

 

「…信じましょう、ザリュース。クロコダインを!!」

 

「…あぁ、元より最早俺達にはそれしか出来ないんだからな…(祖霊達よ!!どうか我が友に力を貸してくれ!!)」

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

クロコダインが決戦の場に現れるとそれを待っていたのだろう。整然と並んでいたスケルトン達が一斉に手にした盾を叩き鳴らし、大地を踏みならす。それはアンデッド特有の無機質さ故、一切の乱れも無く、それはそれは見事であり、これから現れるであろうナザリック最強の武人の行進を声なき喝采、唱和で飾り立てた。

 

そんな中、クロコダインはアリーナ席とでも喩えれる様な大岩から此方を眺めているアインズ達を睨み付ける。

やはり宣言した通り彼等に動く様子は見られないが、先の闘いで姿を一切見せていなかった自分の様な存在が現れた事に対しては動揺の様な者が見て取れたが、だから何だという話でもある。

クロコダインがこれから成さねばならないのは今から現れるだろうコキュートスとの一対一の決戦を制する事その一点だけだ。

 

 

そして遂にリザードマンの集落とは対面に位置する森からコキュートスが現れた。

 

「来たか…」

 

森の大木を次々に一刀のもとに斬り倒し、自然と形成されたスケルトンの花道を堂々と歩き、現れたコキュートス

 

「オォ…コレホド…コレホドトハ…」

 

クロコダインを初めて直接その目にしたコキュートスが思わず口にしたのは戸惑いの混じった驚嘆と興奮の混じった歓喜の声だった。

 

「…………」

 

対してクロコダインは無言のままだ。黙したままコキュートスの姿をじっと見つめる。

この互いのリアクションの差には事前のお互いの認識が大きく表れた結果がある。

クロコダインは相手となるコキュートスの事を自分と同じくカンスト級の強さであると想定していた。だからこそ、コキュートスの姿をみても動揺は無かった。

だが、コキュートスが想定していたのは、生き残っているリザードマンの全ての戦士達だと考えていた。

それがどうだ?今コキュートスの眼前に立つ敵の偉容は…不敬だとは理解していても己の武人としての本能がヒシヒシと伝える、目の前の敵は自らの主たる至高の41人の御方達にすら匹敵しかねない強さを放っているではないか。

 

 

そんな向かい合う2人であったが先に明確に口を開いたのはクロコダインだ。

 

「お前が…コキュートスだな?」

 

「ソウダ、強キ者ヨ。闘イヲ始メル前ニ、是非貴様ノ名ヲ聞イテオキタイ。」

 

「クロコダイン、獣王クロコダインだ。」

 

「獣王クロコダイン…」

 

コキュートスは噛みしめる様にクロコダインの名を呟く。脳裏には至高の41人の1人、『獣王メコン川』の事が過ぎった。その獣王という肩書きを語るのは不敬だと、相手が相手ならば憤怒に燃えていただろうがクロコダインに対しては、酷く胸の内に納得が納まった。

逆にそれ程の相手なのだと、自分の感を信じるなら改めて素直に納得出来た。

 

(イイ加減ナ仕事ヲ…コレ程ノ漢、存在ヲ見ツケラレナカッタ失態ハ、大キイゾ、アウラ!!)

 

らしくも無く、同僚のダークエルフに内心で不満を募らせるコキュートス。しかしそれも仕方あるまい…目の前の相手はそれ程の敵だ。

そして、そのせいとは言い切れないが相手がクロコダインであると知っていればコキュートスはリザードマン相手に使うには些かに過ぎるとして、武器を最高の一振りであるとはいえ斬神刀皇しか持ち出さなかった現在の状況と違い、四本の腕、その全てに武器を持ってきていたはずだ。

 

「さて、先ずは確認しておきたい。先の対話でお前の主はお前が敗れれば素直にリザードマンが暮らすこの地より手を引くと誓ったそうだが…よもやお前の主は男同士の一対一の勝負の結果、交わした約束を反故にする様な恥知らずな輩ではあるまいな?」

 

クロコダインの問い掛けにコキュートスは憤慨する様に、一度冷気を口から吹き出すと力強く答えた。

 

「無論、ダガ既ニ我ニ勝ッタ後ノ心配トハ…侮ルカ、クロコダイン!」

 

「侮りなど有るものか…そうで無ければこちらも死力を尽くせぬというもの!!」

 

空気がビシリビシリと音を立てて張り詰めた…コキュートスが冷気を纏うならば、対するクロコダインは熱気と闘気を纏って断言する。

 

「ならば…」

 

そこでクロコダインの視線がコキュートスから離れ、此方を俯瞰しているアインズに向けるとスゥ~っと息を大きく吸い込んだ…

 

『聞こえているか!!!アインズ・ウール・ゴウン!!俺が勝った場合は約束通りここから去ってもらうぞ!!あれ程の大口を叩いておきながら、万が一にも約束を反故にすればこの獣王からの侮蔑と共に、その名を地に落とすと知れぃっ!!!』

 

 

 

 

 

爆発の様な咆哮を放って言い切ったクロコダインは腰元からオリジナルである真空の斧を抜き放つ…

 

「さぁ、始めようか!!」

 

「応ッ!」

 

 

次の瞬間、赤と白銀のぶつかり合った衝撃波が湿地帯に轟いた…

 

______________

 

 

 

『聞こえているか!!!アインズ・ウール・ゴウン!!俺が勝った場合は約束通りここから去ってもらうぞ!!あれ程の大口を叩いておきながら、万が一にも約束を反故にすればこの獣王からの侮蔑と共に、その名を地に落とすと知れぃっ!!!』

 

そのクロコダインからの宣言にアインズは骨の変わらぬ表情の下に目まぐるしく渦巻く感情を浮かべた…

 

(え、何だアレ!?あいつは確かさっき村の中にいた奴だったよな…まさかユグドラシルプレイヤーか!!?)

 

クロコダインの装備、その強さにその結論に至ったアインズの動揺が精神抑制を発動させる。ちらりと視線を傍に控えるアウラに向ければアウラの顔から血の気が引いて耳が垂れ下がっているのが確認出来た。

普段から、アインズが最も警戒しているのが他のプレイヤーだというのは守護者達にとってみれば常識以前の問題だ。それが解っているからこそアウラの心は今、後悔で一杯だった。

 

「アウラッ!!これはどういう事!!あの様な戦力がリザードマン共の元に居たなど、アインズ様が貴方に調査を御命じになったのは一体何の為だと思っているの!!!」

 

「申し訳ありません!!アインズ様っ!!!」

 

アルベドからの強烈な叱責にアウラは平身低頭で謝罪を行う。だが、そもそも調査の進歩にはアインズも口を出していたし先程、既に一度気にするなと口にしている。アルベドの叱責はアインズにも効いていた。

 

「良い、気にするなとは言わんがアウラ、言った筈だ、次に生かせ。それよりも獣王クロコダインか…正直、全く想定していなかった伏兵だ。これはコキュートスが遅れをとる事も有り得る…か…」

 

「それでしたらアインズ様、わたしも出陣いたしんすが。」

 

シャルティアからの申し出にアインズは一瞬迷うも首を横に振った。

 

「それはならん、この状況でそれをするという事はアインズ・ウール・ゴウンの名のもとに交わした約束を破る事になる。そして悔しいがクロコダインの言う通りそれはナザリックの栄光とコキュートスの尊厳を大きく傷付ける事になるだろう。」

 

「で、ですが…リザードマンも、あのクロコダインって奴も全部殺しちゃえば…」

 

おどおどとしながらも、かなり物騒な事を言うのはマーレだ。彼なりに姉の失態に関して思う所が有ればこそだろう。

そしてそれに答えたのはアインズでは無く、デミウルゴスだ。

 

「ノーバディノウズ…死人に口なし。確かにそれも一つの手でしょうが、それは悪手でもありますよマーレ。敵はアウラの調査をかいくぐった。と言う事は彼、獣王クロコダインの同類、仲間、それに比肩する者が他に隠れている可能性も十分に考えられます。万が一にでもそれ等を逃せば今回の件が醜聞として世に届く可能性もあります。」

 

「デミウルゴスの言う通りだ。それに、こちらは現在戦力の多くを晒している状況だが、此方はあちらの情報を殆ど持っていない。これは致命的だと言える…奴の戦力を計るという意味ではこの戦闘は決して無益では無い。だが、私が万が一コキュートスが追い詰められたと判断した場合は介入する。守護者各員は全員そのつもりで居ろ。」

 

『はっ!!』

 

「それと、シャルティアとパンドラズ・アクター。お前達は今すぐにゲートでナザリックに戻り、第六階層と宝物殿からコキュートスの21武器を幾つか持って来るのだ。最低限そうだな、『断頭牙』『轟キ破壊スルモノ』『大閻魔反命(オオエンマハンミョウ)』だ。」

 

『畏まりました!!』

 

直ぐにシャルティアとパンドラズ・アクターの姿がゲートに消える。主の様子と闘いの様子から迅速な行動が要求されている事が解っているからこそだ。

 

「そして各員、周囲に警戒し、いかなる状況の変化にでも即応できる様にしておくのだ!場合によってはヴィクティムのスキルの発動もやむを得ん事も視野に入れておけ!」

 

 

 

 

_______________

 

 

速度と技でコキュートス、力と守りではクロコダイン、ざっと言い表すならばそんな所だろう。

 

斬神刀皇を二本の腕の両手持ちに構え、放たれた何もかもを両断する様な鋭い斬撃がクロコダインの真空の斧に受け止められる…

 

「オオォォォッ!!」

 

「ぬぅぅんっ!!」

 

やはりクロコダインの力が上か、一瞬のつばぜり合いの後で斬神刀皇がはじき返される。

が、そこはコキュートス。本来ならば晒していたであろう隙を跳ね上げられた二本の腕から素早く、無手であった二本の腕へと斬神刀皇をスイッチさせる事で完全に無くす。

 

(何っ!?)

 

逆に今の隙に自慢の鉄拳を撃ち込もうとしていたクロコダインへとカウンターの一刀を振り下ろす。

 

(堅イ。)

 

獣王の鎧の隙間、並の武器なら難なく弾く堅さを誇る真紅の皮膚を切り裂いて、斬神刀皇の刃がクロコダインの血に濡れる…

今ので腕の一本でもと思っていたコキュートスであったが想定よりも遙かに浅い、与えた傷に自分の想定の甘さにギチリと口元を鳴らす。皮膚を裂いた所でクロコダインの超密度のゴムの様な筋肉が刃を受け止めたのだ。

 

同時、コキュートスの複眼の一つが、ずっと捉えていたクロコダインの拳がコキュートスのボディに突き刺さった。

コキュートスも寸前で二本の腕を交差させ十字受けでガードしたが『ミシリッ…』と嫌な音が外骨格伝導で耳に刺さる。コキュートスのカウンターの斬撃を受けて怯みもせず、尚この威力…

 

 

 

『……強い…』

 

 

準備体操を終えた互いの評価が重なった…

 

 




『変わる、変わる、変わる。

この世の舞台を回す巨獣が、凍てつく世界でまた動き始めた。

天地が軋み、人々は轟く。

宝玉が煌めけば、吹く風も変わる。

昨日も、今日も、明日も闘いに閉ざされて見えない。

だからこそ、切れぬ絆を求めて。

褪せぬ愛を信じて。

次回、『抜斧』。

変わらぬ愛などあるのか。』


尚、アインズ様が持って来いって言った武器『断頭牙』はアニメでいっつももってたハルバード。残り二つはうどんの勝手な妄想武器です。オオエンマハンミョウとはえげつ無い顎を持った他の虫絶対殺すマン的な昆虫の名前です。


次回、そろそろ夜寒いし、毛布を引っ張り出したら。


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とある赤鰐の超・超大戦斧(オーバー・グレイトアックス)

やっちゃったぜ…


オリ設定が今回強く出ています。不満を感じる人もいるかもしれませんがこれはこれで…と思って貰えるとありがたいです。


爆音と共に氷塊と、凍り付いた土砂が湿地帯に舞い上がる。

大地を走った衝撃波が、ギャラリーの如く周囲に配されたスケルトンを魔法の鎧諸共に粉砕した。

 

 

「オオオオォォォッ!!!」

「ガァァァアアアアァァッ!!!」

 

一体誰が信じられるだろうか…?その圧倒的破壊のもたらす情景がたった2人の『怪物』の闘いの余波でしかないと言う事が…

 

それが連続して轟くと同時、湿地帯から白色の極光が天空への階段の如く天地を繋いだ。

 

『スマイト・フロストバーン』

 

コキュートスが放った、それこそが先程の閃光の正体だ。

閃光が掻き消えた後に残っているのは、腕を交差させた防御の姿勢で真っ白に凍り付いたクロコダインの姿。

すわ決着か?と思う者も観戦していた中には居たかも知れないが、こと実際に対峙しているコキュートスの思考にはそんな考えは欠片たりとも湧いてはいない。

 

続けて、コキュートスが放つのは《ピアーシング・アイシクル》大気の水分から氷柱の槍が一瞬で形成され、コキュートスの周囲に浮かび上がる。その数66本。

さらにそこからコキュートスは手にした斬神刀皇の切っ先を「カチャリ」と音を立てながらクロコダインに向け構えると、神速の踏み込みで突進する。それは牙突と呼ばれる突きの極地だ。

それを追う様に66の姿無き騎兵達による突撃(チャージ)が敢行された。

 

「おい…!コキュートス!!」

 

だが、ガチガチに凍り付いた筈のクロコダインの口元が動いた。次に動いたのはその瞳、鋭く、そして澄み切った武人の眼光が閃光の様な早さで迫るコキュートスをはっきり捉え、ギラリと光る!

 

「いつまで…調子に乗っとるかあぁっ!!!」

 

そして、獣王の咆哮と共に体を縛る氷結の呪縛が砕け散った!

舞い散る氷が光を乱反射させ、煌めく獣王のその姿に目を剥きながらも、コキュートスは疾走を緩めない…元よりこの程度の事は想定していた。

自らよりも僅かに速く、ピアーシング・アイシクルがクロコダインに殺到した瞬間、しかし、全力の突きを放った筈のコキュートスの体は肉を貫いた確かな手応えを感じるままに、地面に背中を叩き付ける様にクロコダインに投げ飛ばされていた。

 

それはクロコダインがカウンターで放った見事な雪崩式エクスプロイダーであった。(※所謂裏投げ風スープレックス)

 

 

「グ…ヌゥ…

(コレ程トハ…)」

 

砕けた大地に力任せに埋め込まれた様な体勢となったコキュートスは、素早く飛び上がると一度距離を取る。

時間差で届いたピアーシングアイシクルを迎撃し終えたクロコダインからの追撃は無い…

 

先の一合、確かに斬神刀皇の切っ先はクロコダインに届いた…

しかし、クロコダインは信じられない事にあの突きを手の平を貫通させる事で真正面から受け止め、尚且つそこからコキュートスの突進の勢いそのままに、カウンターのエクスプロイダーにて痛烈な反撃を返したのだ。

そして、クロコダインのダメージを確認して判ったのが、コキュートスの通常のピアーシング・アイシクル程度ではあの頑強な表皮を貫くには至らないと言う事だ。

 

(セメテ他ノ武器ガ有レバ…)

 

思わずにはいられない…

実際、此処までの戦闘の流れでコキュートスの攻撃をクロコダインが受け止め、クロコダインが反撃を放つ…というのが繰り返されてきた。

そして、徐々にではあるが確実に、斬神刀皇で与えられるダメージが減っている…

元来徒手空拳での闘いを行う事の無い、コキュートスの現在の攻撃力は実質4分の1である。

 

並の相手ならばそれでも良かったが、残念ながら獣王クロコダインは容易い相手では無かった…

 

 

 

____________

 

(まるで、あのハドラー親衛隊の様な男だな…。)

 

何度かのぶつかり合いを経て、クロコダインがコキュートスに抱いた印象はその一言に尽きた。

 

全身を覆う見ようによっては、ブルーメタリックとも言える白銀の甲殻はまさにオリハルコンの輝きだ。

身体の各所に備えられた鋭いスパイクは全身凶器の体現、『フェンブレン』を想起させ、寡黙だが何よりも雄弁な武のあり方は城塞の体現、『ブロック』を…悪には悪の正義とでも表すべきか、その威風堂々とした士道のあり方は『シグマ』を思い出さずにはいられない。

そして主に対する忠誠心と、放つ氷の技一つ一つの優美さは女王『アルビナス』と比べても遜色は全くないだろう。

 

何より、氷と熱、対極の性質であってもその純粋な戦士としての在り方は兵士『ヒム』の姿をクロコダインに幻視させる程だった。

 

拳を握り、開き、ダメージを確認する。

 

まだまだ、戦える。

 

自身のスキル『戦闘耐性』はその戦闘中、同じ攻撃を受ければ受ける程その攻撃にダメージ軽減が作用する。その効果を実感しながらクロコダインは軽く腰を落とし、深く息を吸い込み呼吸を整える。

 

瞑想による体力の回復を終えて、クロコダインは今一度構えを取った。

 

 

肺腑に染み渡る空気は凍てつく様に冷たい…

 

 

 

 

_____________

 

 

2人の戦闘を観戦しながらアインズの頭に様々な考えが過ぎっていた。

 

そもそも、未だにクロコダインがプレイヤーであるという明確な証拠は無い。

もしやすれば現地のリザードマンの上位種、そう仮定し、その上であの戦闘力だとすれば現地の強力な個に対する戦力を弱く見積もり過ぎた…今後の自分達のやろうとしている事はもっと慎重をきする必要がある。

 

戦闘を止めるか?いや、まだ状況は何一つ動いていない…

 

他の監視者は?探知カウンターは作動している…シャルティアへの洗脳を行った者との関係は?

 

戦闘が終わった後でどの様な態度で接するべきか…敵対は避けたいがアレを味方にするにはこちらの行いが如何せん悪すぎた。話が出来るだろうか?

 

あの魔法発動体になっている斧はどういう事だろうか?少なくともユグドラシルでそんな事が可能なのはアイテムとしての側面を持つ『復活の杖』等に代表させるワンド系統だけだったはずだ…クレマンティーヌから回収したスティレットともまた違う様に思える…

 

 

 

「アインズ様、只今、戻りんした。」

「お待たせ致しました、アインズ様。」

 

 

アインズの思考はゲートから舞い降りたシャルティアとパンドラズ・アクターの声によって中断した。どちらにせよこの後の全てはこの闘いの流れ次第だ…それならばコキュートスには勝ってもらいたい。

 

「御苦労だったな2人とも。それではアルベド、今から私がコキュートスにメッセージで伝える故、私の合図でコキュートスに向かって武器を投げ渡してやってくれ。」

 

「畏まりましたアインズ様。」

 

アルベドはそう答えるとシャルティアから3つの武器を受け取った。それぞれが透明度が非常に高い氷塊によって封印が施されている。つまりこれを手にし、武器として振るう事が出来るのはコキュートス以外にはいないと言う事だ。

 

《コキュートスよ、聞こえているな?》

 

《コ、コレハ…アインズ様!!》

 

《これより、大閻魔反命、断頭牙、轟キ破壊スルモノをアルベドがそちらに放る。使え、そして私に勝利を見せて欲しい。》

 

《「ハハァッ!!必ズヤ!!」》

 

感極まったコキュートスはメッセージと同時に思わず言葉を声に出していた。頭と耳に届いたコキュートスの言葉に状況を忘れ、思わずアインズの口元に僅かな緩みが浮かぶ。

 

「やれ、アルベド…当てるなよ。」

 

アインズが片手を軽く掲げると、アルベドの手によって槍投げの要領でまるで砲弾の様に氷塊が豪速で風を切り裂き、三度撃ち出された…

因みにこれらは仮にアインズが投げようとすれば、その重量故どうしても両手投げとなっていたであろう…所謂、百年の恋も冷めると言われる女の子投げである。まぁその女の子が男らしい投擲を見せているのが皮肉な所である…

 

 

 

 

_____________

 

 

 

突然、奇声を発したと思うとコキュートスはゆっくりと構えを解いた。

 

「見事ダ、獣王ヨ…故ニコレヨリ我モ持チウル全テヲ出シ尽クソウ。」

 

次の瞬間、コキュートスの両脇に、飛来してきた3つの氷柱が突き刺さった。

 

コキュートスが空いていた手を3本差し出せば、氷は意思を持つ様に砕け散るとそれぞれ内部に封じられていた武器を露わにする。

三つの武器は納まるべくして納まると言うべきか、自ら浮遊しコキュートスのその手に納まる。

 

その外観を白銀の一色で構成された、これ以上は無いだろうといえる程、質実剛健と絢爛豪華を絶妙に融合させたハルバード…『断頭牙』

 

地獄の鬼の金棒と言われれば誰もが想像するであろうソレ。いっそ清々しい程にそうとしか表現出来ない打撃武器『轟キ破壊スルモノ』

 

艶の無い漆黒の捻曲がった刀身は命を刈り取る形。それは凶悪な昆虫の顎を毟り取り、そのまま剣へと加工された物だろう…瘴気を発する呪われた巨大ショーテルは『大閻魔反命』

 

 

それらがコキュートスの手に納まった時、そこには完全な『アスラ』が立っていた。

 

「…成る程、やはりそれが本来のお前のバトルスタイルか。」

 

「ソノ通リダ。」

 

コキュートスの口元から冷気が吹き出す。それは己の完全な戦闘体勢を誇っている様だった。

 

「ならば…俺も出し惜しみ等している場合では無いな…」

 

自然、一度仕切り直しの様相に成っていた戦場に、今のままでは勝ち目が無いと悟ったクロコダインは呟きを漏らすとあっさりと真空の斧をインベントリである空間の歪みに収納して見せた。

 

それによりアインズはクロコダインがユグドラシルプレイヤーだと確信を得る…

 

「出シ惜シミダト?」

 

コキュートスの疑問には僅かに怒りの感情が乗っていた…が、自分もたった今まで万全の装備で無かった事を思えばそれも筋違いかと思い直した。

 

「その通りだ。作成していた当時、些か悪ノリが過ぎた…原作に設定されていた性能を著しく超えてしまったせいで最早別物と化してな…」

 

言いながら、クロコダインの真っ直ぐに伸ばされた腕に引き寄せられる様に空間の歪みから、荘厳な無地の縛布にくるまれた何かが現れる…

コキュートスには何となく分かった。あの布は封印なのだと…

 

 

「正直に言えばあまり使いたくは無いんだ。」

 

クロコダインの豪腕が、躊躇いなく現れた『ナニカ』を掴むと勢いよく、空間から引きずり出す。

 

それが何かは布にくるまれていてもコキュートスには瞬時に理解出来た。

クロコダインの身長よりも長く、断頭牙と比べても尚、厳めしいそれはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに匹敵する程の超弩級の大戦斧だ…

 

 

「さしずめ『オーバー・グレイトアックス』とでも呼ぶべきか…行くぞ、コキュートス…」

 

 

クロコダインの手によって取り払われた縛布が宙を舞い、消える。

 

露わになった鋼の刃…

陽光を反射するコアとして内蔵された魔法の水晶は些かに小さな物だ。されど、故に圧倒的存在感を放つ。

アインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持つとそのステータスを大幅に上昇させる。そしてクロコダインの手にしたオーバー・グレイトアックスもそれは同様の効果を持っていた。

これはギルド武器では無い。しかし、故に実際に戦闘に持ち出される事を前提に創造と強化が施された武器だ。捧げられたデータクリスタルの質と量はスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに劣る物では決して無い。

 

最早、それはワールドアイテムに匹敵する…

 

 

「第二ラウンドと行こうか!!羽ばたけ鳳凰!!」

 

キーワードと共に、クロコダインによって振り抜かれたグレイトアックスの斬撃の軌跡が渦巻く炎となり、炎は鳳凰となり、コキュートスに向かい飛翔する。

 

 

 

それは、かの大魔王バーンの代名詞、彼の放つメラゾーマ、『カイザーフェニックス』の再現だった。

 

 

 




『何故にと問う。故にと答える。
だが、人が言葉を得てより以来、問いに見合う答えなどないのだ。
問いが剣か、答えが盾か。
果てしない打ち合いに散る火花。
その瞬間に刻まれる影にこそ、真実が潜む。
次回『決着』
笑う骸は常に問い、答えは常に誤解の果てに。』


大体4000文字位を目安で書いとるけぇ、コキュートス戦が長ぉなってしもうとる事に関して、ほんまに申し訳のぉ思う。
一応、これでも描きたいシーンがかなりお蔵入りしとるんよ。



次回、岡山県北の川沿いの土手の風評被害が無くなったら。


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貫け、奴よりも速く!!

ちょっと間が空きましてごめんなさい。

今回も捏造スキル、オリジナル設定の嵐です。苦手な人はごめんなさい、戦闘描写が難しすぎて嫌になりそう。書きたかった物が半分も表現出来てないよ。

次辺りで一度クロコダインのステータスと設定を書き出すつもりです。


未だに続く、2人の戦闘は苛烈を極めた…

 

 

カイザーフェニックスに対して、真っ向からぶつかったコキュートスだったが、その身に宿した上位魔法無効化のスキルをもってしてもその熱量を前にしては流石に無傷とはいかなかった。

甲殻を焼く痛みを堪え、押し出す様に構えた断頭牙でもって炎の鳳凰を強引に貫いたコキュートスは、大上段から大閻魔反命を振り下ろす。

 

わざわざダメージを覚悟して炎に飛び込んだのは、今クロコダインは両手でグレイトアックスを振り抜いた姿勢…偏に其処にしかつけ込める程の僅かな隙が無かったからだ。

 

「ぐ…ぬぅ!」

 

疾風怒濤の攻め。

 

鎧の左手甲でギチリギチリと音を鳴らす漆黒の刃を受け止めたクロコダインの口から苦悶が漏れる。

ユグドラシルからのショーテル系統の特徴である防御に対しての高い貫通ダメージは防御に重きを置いたクロコダインにとっては非常に驚異と言えた。

そして、コキュートスの腕はまだ残っている。二つの斬撃と一つの剛撃が駆け抜けざまに振るわれる。

 

「見事…」

 

それら全てを、腕で、斧で、尾で、弾き逸らし、驚異的な戦闘センスでもってダメージを最小限に抑えたクロコダインにコキュートスは本心から称賛の声を漏らす。

 

「貴様こそ、と言わせてもらおう。やはり模倣の鳳凰のような半端な技では通用せんか…」

 

次の瞬間、再び攻勢に出たのはクロコダインだった。

その巨体からは考えられない様な速度で接近したクロコダインの豪腕によって、横薙ぎに振るわれたグレイトアックスがコキュートスを捉える。

 

辛うじて全ての武具を盾に塞いだものの、その一閃によって弾き飛ばされたコキュートスの身体が砲弾の様に吹き飛ぶ。その最中、コキュートスは吹き飛ばされながらも、尾と四腕を振るい体勢を整えると同時に魔法の発動を行った。

 

『マキシマイズ・ピアーシング・アイシクル』

 

その本数こそ21程度だが、作り出されたのは愛刀である斬神刀皇を始めとした己の主より引き継いだ21武器の再現。

 

「爆ぜろ!『爆裂』!!」

 

コキュートスの読み通り、クロコダインの咆哮が響く。共に闘いに誠実な戦士だからこそ分かる事もあった。コキュートスが逆の立場でもここは追撃を入れていただろう。

中空に作り上げられた刃の結界が、コキュートスへの追撃にとグレイトアックスから無数に放たれた爆裂球を次々に刺し貫き、迎撃した。

 

空気を振るわす爆発の轟音に、光を反射しながら砕け舞い散る氷の刃。それはこの戦場にあって尚、美しい氷の花火の様であった…

 

 

((ここで決めるっ!!))

 

そしてここに来て互いが必殺の一撃を放つ体勢へと移行した。

 

コキュートスは四つの武器を交差させる様に構え、自らの闘気をその一点へと集中させる。

その際、コキュートスの背中から廃熱の蒸気の如く吹き出した強烈な冷気は、それはまるでコキュートスの背中に巨大な氷の羽根を作り出したかの様に見えた。

 

 

対するクロコダインは全開にした自分の闘気を右腕一本に集中させる。

唯でさえごついクロコダインの腕が、凝縮された闘気によってパンプアップした事により、まるで拘束具だったのではと錯覚を産み出すかの様に、鎧の肩部と腕甲部の留め具がはじけ飛ぶ。後で修復する必要があるだろう。だがそんな事はこの技の前には些細な事である。

 

「むうううんっ!!!!この獣王会心撃に、砕けぬ物は…無いっ!!」

 

「我ガ闘争ハ今、満タサレル!!三毒ヲ斬リ払エ…アチャラナータ!!」

 

 

獣王と蟲王、その闘いの熱は冷める事を未だ知らない…

 

______________________

 

 

 

2人の闘いを見守っていたザリュース達、リザードマンは一様に言葉を失っていた。

最早、目の前で行われているのは神同士の闘いだと言われた方が納得が出来るであろう等と益体も無いことをザリュースは思考する。

 

「ザリュース…前に言ったよな?俺の知っている最強はフロストドラゴンだってよ…訂正するぜ。コレに比べればアレなんざカミツキガメみたいなもんだ。」

 

ゼンベルの言うカミツキガメとはリザードマン達の食料の一つである亀の一種だ。そこそこに鋭い口で噛みついてくる為、迂闊に手を出せば痛い目を見る事になる…が、しょせんその程度だ。噛みつかれたならそのまま何かに叩き付けるなり爪で首を切り落とすなり、どうとでも出来る。むしろ自分の尾を囮に使って食いつかせる事で捕まえるなんてことすらある。

 

「俺はこれでもまだ、フロストドラゴンの方が強いなどと言われたら…二度とあの山の方には近づかん…一歩たりともだ。」

 

雄大なアゼルシア山脈をどこか遠い目で見ながら、ザリュースはしみじみと言った。ゼンベルも同感だと言わんばかりに山に視線を向ける…

 

目の前の闘いをリザードマン達は固唾を飲んで見守っているがその実、殆どの者には一体どんな闘いが行われているのか皆目検討もつかなかった…

どちらかの気合いの咆哮が響いたと思えばどちらかが吹き飛び、地形が変わる様な大爆発が起きたかと思えば世界は凍り付いては砕け散るを繰り返す…

 

それ等が目まぐるしいと表するのが憚られる程の速度で行われるのだから最早彼等には理解が出来ない世界だった。

 

 

『倶利伽羅剣!!』

 

『獣王会心撃!!』

 

そして、リザードマン達が見守る中で両雄の烈昂の叫びと共に放たれた超威力の技の応酬の余波が凄まじい閃光と衝撃波となって集落へと襲いかかる。

 

「皆、伏せろぉ!!」

 

「きゃあっ!」

 

シャースーリューの叫びに咄嗟にザリュースはクルシュを抱きしめて地に伏せる。

見れば、ほぼ全てのリザードマンが伏せっている中で木材で作られた家々が吹き飛ばされ、倒壊している…

 

「…無事か、クルシュ?」

 

「えぇ…それにしても、もう無茶苦茶ね…」

 

自分の理解を完全に超えた世界に頭痛を覚えながらクルシュも頭を左右に振るう…

 

「全くだ…」

 

それに同意しながらも、ザリュースは立ち上がると頭を一度大きく振るってから息を吸い込むと喉が張り裂けるのではと言う程に叫んだ…もはや自分達には出来る事など何も無いのだから。

 

「頑張ってくれっ!!クロコダイン!!!!」

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

「ぐわあぁぁぁ!!!」

 

クロコダインの放った獣王会心撃とコキュートスのアチャラナータのぶつかり合い。それを制したのはコキュートスであった。

荒れ狂う闘気の渦を突破した不動明王の斬撃がクロコダインを吹き飛ばす。

 

それでも、かつてザイトルクワエを消滅させたあの日、スキルを発動させてまで守りに入ったアルベドの片腕を一撃で使い物にならなくさせたコキュートスの奥義もその勢いを確かに大きく減退させられていた。

 

その証拠によろりと…幽鬼の如く、されど力強く、全身から夥しい血を垂れ流しながらもクロコダインは再び立ち上がる。

 

 

「あれを受けてまだ立ち上がりますか…」

 

デミウルゴスの口調は冷静な物ではあったがその中には確かな困惑が確かにあった…彼らしくも無く、固く結ばれた口元には力が籠もっていた。

 

「確かにあのリザードマン、驚くべき耐久力でありんすが、それでも、コキュートスの方が優勢の様でありんす。」

 

シャルティアの言う通り、尚立ち上がり、何とか再び構えを取ったクロコダインへと追撃の為に四腕を振りかざし、特攻するコキュートス、どちらが優勢かは単純に考えれば一目両全だ。

 

「でも、コキュートスにももう余裕は無いわ。」

 

アルベドの見立ては冷静で、そして正しかった…

もうしばらくは再びクールタイムの関係でアチャラナータを放つ事は出来ない上、五体満足ではあるもののコキュートスの身体に刻まれた多くのダメージは楽観視出来る物では無いはずだ。それこそ平時であれば倒れ込んでいるのが普通のダメージだろう。

 

五月雨の如く、身を削る様に繰り出されるコキュートスの斬撃…その一つ一つが必殺の威力を誇っているだろうに、先程からそれをクロコダインは一歩も引く事無く、真正面から受け止め続けている。

 

それは端から見ていて少々、異様な光景であった…

 

まるで攻めている筈のコキュートスが、クロコダインに傷を与える度に追い詰められているかの様な奇妙な感覚がナザリックの面々に感じられてきたのだ。

 

 

「オオオォォォッ!!」

 

 

 

そして、遂に断頭牙の一撃がクロコダインの左目に深々と刃を食い込ませる…

 

「やった!!」

「頑張れ、コキュートス!!」

 

アウラの歓声が、マーレの声援が…

 

 

 

“ボキリッ…”

 

 

 

 

大閻魔反命を握っていたコキュートスの腕の一つがへし折られる音に掻き消された…

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

(何ヲサレタッ!?)

 

コキュートスの思考を疑問が埋め尽くす。感覚で言えばクロコダインに強烈な一撃を見舞った瞬間、捨て身で向かって来たクロコダインに腕を捕られ、次の瞬間には強固の極みである筈の己の腕が曲がってはいけない方向に曲がっていた。

 

(有リ得ヌ…)

 

へし折れた関節からは、強酸性の液体窒素のような性質を持った己の体液が腕を滴っているのが分かる。

 

(我ガ腕ガ…)

 

それはユグドラシルの理を骨子として持つコキュートスには不可解な技だった…

元来ユグドラシルの世界は“痛み”の無い疑似世界。そして相対するは人知を超えたモンスター達だ。

そんな世界において先程クロコダインが放った技は全く持って存在理由を持たず、それ故にコキュートスにとってはそれが全くの未知の技に思えたのだ…

 

 

それは関節を破壊する為の人の業『関節技/サブミッション』…それは、王者の技だとある者は呼んでいた。

 

 

その一瞬…であった……!

己の腕をへし折られる…それも素手で…等というよもやの事態にコキュートスが意識を逸らした、この瞬間まで…!!

それは時間にしても…一秒にも満たない時間だった…!!

 

だが…

 

その瞬間に…

 

クロコダインは次の行動を起こしていた…!!!!

 

 

「ぬうおぉぉぉ…!!獣王…爆裂拳!!」

 

「グワァァァ~~!!!!」

 

烈昂の気合いと共にクロコダインが打ち出したのは闘気を纏わせた拳の乱打!!爆裂の名を冠するに相応しい、超速で繰り出された四つの剛撃を受けて、コキュートスの身体が吹き飛んだ。

その破壊力は先程までの拳とは一線を隔すものであった…

 

 

2人の距離が再び開いた…

 

 

先程とは逆の光景、戦闘体勢で構えをとったクロコダインと、立ち上がろうとするコキュートス…目まぐるしく変わる戦況はそれだけ両者の実力は伯仲しているからだ。

 

 

よろりとコキュートスが立ち上がったのを確認して、クロコダインは何とグレイトアックスを大地に突き立てるとまるで挑発するかの如くコキュートスに手の平を向ける。

 

「コキュートスよ…『アチャラナータ』で来い!!」

 

否、実際それは挑発であった。

『アチャラナータ』…それは又の名を不動明王剣。クロコダインの知る限り、種族アスラの放つ事が出来る最強の奥義の一つであり、先程自身の必殺技『獣王会心撃』を真正面から打ち破った技だった。

 

「………」

 

無言でコキュートスはアチャラナータの構えに入る…コキュートスのその呼吸は荒い。

都合良く、先程の攻防でクールタイムも終わっている。折れた腕は、関節に氷を纏わせる事で強引に固め、十全には振るえないまでも、多少はマシになった。

 

何より、クロコダインは一度は自分が敗れた技を撃ってこいと言っているのだ…ここで退いては武人の名が廃るという物だ。

 

 

「オオォォォォ!!!!!」

 

コキュートスがアチャラナータを放つ為の構えをとったと同時、クロコダインも魂を燃え上がらせる様に己の内の闘気を増幅、循環させると炎の様な赤いオーラを全身に纏う。

それは、クロコダインの習得している日に二発まで使用可能なスキル『闘魂/ヒートソウル』の発動だった。

効果は至って単純。次に放つ物理属性攻撃の最終ダメージに3倍の補正を加えるという物だ。

 

そして、漲る闘気は再び腕部へと収束する…それも今度は先程と違い、両腕にである。

 

 

「デハ行クゾ、獣王!!」

 

「来い、コキュートス!!」

 

一筋の閃光となったコキュートスを、巨大な闘気の渦が迎え撃つ…その威力は、一度目の獣王会心撃を大きく上回っていた。

 

それでも其処までは先程までと同じだった…

 

もう一つの逆回転の闘気の渦がコキュートスを飲み込むまでは!!

 

「コ…コレハッ!?」

 

もう一つの獣王会心撃がコキュートスに襲いかかった瞬間、遂にコキュートスの前進が止められた…最早、完全な防御体勢に移らねばこの攻撃は耐え凌げる物では無い!!ギシリギシリと最早、体中が悲鳴を上げている様だ!

 

「これで…!!」

 

凄まじい闘気流の中を耐え凌ごうとするコキュートスに対し、既に満身創痍であるクロコダインもついに最後の一手を打つ…

 

「これこそが…!!」

 

左右それぞれの手の平から放たれる獣王会心撃、それがクロコダインの両手の平が組み合わさる事によって遂に一つの巨大な闘気流へと変貌する!!

 

「俺の『獣王激烈掌』だぁっ!!!!」

 

そして、組み合わさったクロコダインの手の平が、まるで咆哮を上げる竜の顎の様な形へと至った瞬間“ギャン”と…空間そのものが捩れ千切れる様な奇妙な音が周囲に轟く…

 

 

「バ、バカナァッ!!?」

 

同時、螺旋を描く莫大な破壊エネルギーの奔流となった闘気の渦が、遂にコキュートスを飲み込む…

 

 

 

それがこの闘いの幕引きの一撃となった…

 




次回予告

やめて!クロコダインの特殊能力で獣王激烈掌をコキュートスが受けたりしたら、熱い忠義で繋がってるアインズ様の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでコキュートス!あんたが今ここで倒れたら、アインズ様やリザードマンとの約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。これを耐えれば、クロコダインに勝てるんだから!

次回、「コキュートス、死す。」デュエルスタンバイ!





次話、ハロウィンが終わったら…


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各種設定及び巻末風ステータス※閲覧注意

タイトル通りです。正直あの勇猛で知られるクロコダインが迷わず逃げを選ぶ内容なため閲覧注意です。別に読まずとも問題はありません。

これは作者の非常に痛々しい妄想の塊であり、まさに捏造の『天地魔闘の構え』状態です。一分の隙も御座いません。

恐らく来るであろう手厳しい声と低評価が怖いけど私は書きたい物を今書いているのだ。



適時、他キャラ追加や情報の更新をするつもりです。

11/14ガルーダの概要を追加。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロコダイン  |亜人種

 

________________

 

真紅の肌を持つ最強のリザードマン

 

 

役職___「竜の紋章」最後の1人。旅人。

 

住居___現在はザリュース邸

 

属性___善[カルマ値:300]

 

種族レベル___リザードマン___15LV

        リザードジェネラル__10LV

        獣王_______5LV

        

        他

 

職業レベル___バトルマスター__10LV

        グランドガーディアン___10LV

        ワールドトレイサー___10LV

 

        他

 

[種族レベル]+[職業レベル]___計100レベル

 

能力表(最大値を100とした場合の割合)

 

HP    | 100

MP    | 5

物理攻撃 | 90

物理防御 | 100

素早さ  | 60

魔法攻撃 | 10

魔法防御 | 75

総合耐性 | 95

特殊   | 40

 

 

 

___________________

 

 

ユグドラシルをプレイしていた際の人間としての名前は『鰐淵 茂』。プロの総合格闘家であり、リングネーム『マスク・ザ・クロコダイル』として活動していた。

リングでのマスクは既に絶滅していた本物の鰐皮を赤く染め上げた物を使用していた。

足の怪我による引退の後、ユグドラシルのプレイを本格的に開始、クロコダインのロールプレイで同好の士とギルド『竜(ドラゴン)の紋章』を立ち上げる。

また、魔王軍ギルド『魔の六芒星』とは同盟関係であり、互いのギルメンの移籍なども行う程良好な関係であった。

 

ユグドラシル時代では極力、ゲートや飛行系の移動を使用せず半徒歩縛りでプレイを続けており、現実での事情もあり、一日の接続時間の長さも相まって『歩数』においてはトップクラスであった。

 

過疎化が進んでも最後までプレイし続け、気が付けば見知らぬ世界へと単身転移していた。

当面の目的は、自分の他に同様の人間が居ないかを探す事と、未知の世界を冒険する事。

 

 

 

__________

 

クラス解説

 

『獣王』…クロコダインをクロコダインたらしめる種族。名の通り動物系亜人種の最高峰、高い基礎ステータスを誇り、パッシブスキルにより下位の獣系モンスターを従属させる事が出来る。

 

『バトルマスター』…様々な武具の扱いと徒手空拳を極めた称号。ワールドチャンピオン程では無いが一つの到達点。クロコダインはその中でも徹底的に拳と斧のスキルのみを習得している。

 

『グランドガーディアン』…ガーディアンの派生職業、どちらかと言えば物理防御特化であるが無論、他の防御能力も高位である。他人の壁になるよりもどちらかと言えば、自分が倒れない様な立ち回りに重きが置かれている。

 

『ワールドトレイサー』…世界を追う者、地図を描く物。ユグドラシル内での歩数がプレイヤー内での上位数名であること、未探索エリアの複数単独踏破等、その他様々な条件で解放される職業。とにかく徹底的に、戦闘継続能力が高い。ある意味、ユグドラシルを本当に楽しんだ者にしか手に入れられないクラスではあるが、ワールドを冠する職業の中では群を抜いて地味。

 

 

 

_________

 

スキル解説

 

『底力』…HPが減れば減る程、防御、各種耐性、クリティカル率、等ステータスが上昇する。地味ではあるが実用性はかなり高く、残りHPが1の時などはマジでやばい。

 

『アックスマスタリー』…与えるダメージに非常に大きなムラがある斧で攻撃した際、与えるダメージ乱数にスキルレベルに応じた補正が掛かる。これにより非常に安定した高火力を与える事が出来る…が、スキル枠一つを潰す価値は斧のみを愛する者意外には見いだせない。

 

『反応防御』…グランドガーディアンのスキル、多段ヒットする攻撃に対し、初撃を受けた段階で防御体勢に移行する。一撃必殺には弱いが、乱舞系の攻撃に対して非常に高い効果を持つ。

 

『戦闘耐性』…ワールドトレイサーのスキル、自身が受けた攻撃に対してその戦闘中のみ同攻撃に耐性を蓄積させる。一度で10%最大90%まで上昇。が、普通其処まで上昇する前に戦闘は終了する。

 

『ラストスタンド』…グランドガーディアンのスキル、戦闘不能に陥るダメージを受けた際、全MP(気力)を消費する事でHP1で踏みとどまる。尚、デスナイト等のスキルと違いMPを回復させれば再発動可能。

 

『ファイナルスタンド』…ワールドトレイサーのスキル、パーティー内での戦闘可能メンバーが自分のみの場合、一撃で最大HPの30%を超えるダメージを受けない限り戦闘不能に陥らない。また、睡眠、毒、等のバッドステータスを受けた状態では発動しない。

 

『ヒートソウル』…次の物理攻撃に一度だけ最終ダメージに3倍の補正を掛ける。日に二度までではあるが基本威力の高い物理技に組み合わせる事で凄まじい効果を生む。

 

『不眠不休』…ワールドトレイサーのスキル、不眠不休での活動でも疲労や空腹等のバッドステータスに犯されない。例え、瀕死の重傷でありながら飲まず食わずで何日間も地下牢に拘束されていても即座に激しい戦闘に参加できる。

 

_____________

 

攻撃系スキル※殆どがデータを改変した元技の再現です。

 

『獣王会心撃』…言わずと知れた獣王クロコダインの代名詞といえる必殺技、その再現。腕に集中させた闘気を乱流として凄まじい回転を加えて放つ。バリエーションと言う程の物では無いが、至近距離で直接相手に叩き付ける様な形で放つ事も出来る。元々は獣王痛恨撃であったが後に改名。

 

『獣王激烈掌』…両手それぞれで逆の回転を加えた獣王会心撃を同時に放つ奥義。別々に放たれた会心撃が一つに重なる事でゆで理論のごとく威力を押し上げる。その二つの闘気の大渦の真空状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的闘気流の小宇宙。

 

『獣王爆裂拳』…特技、爆裂拳の再現。闘気を拳に集中させての神速の四連撃。相手が強大なレイドボスなどで吹き飛ばず、尚且つ闘気の集中が十分であればトドメに零距離獣王激烈掌へと繋げる事も理屈の上では可能。

 

『獣王の雄叫び/ハウル・オブ・ビーストロード』…ピンチから復活する時とかに叫ぶアレみたいな物。自分に付与されたデバフ効果を強制的に解除する。クールタイムが長めの為、実質その戦闘中の使用は一度が精々。

 

『関節技/サブミッション』…プレイヤーが現実世界で習得していた純然たる体術の一つ、スライムやドラゴンなど体格や肉体構造が大きく違う者には使用できない為、ユグドラシル内では実装されていなかった。が、だからこそ結果として初見のNPCには未知の技になった。

 

『ウィッシュ・アポン・スター』…クロコダインが唯一習得した魔法。課金レアアイテム、シューティングスターで無理矢理習得した。

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

ガルーダ  |異形種

 

________________

 

空を裂く忠誠の権化

 

 

役職___クロコダインの相棒

 

住居___魔法の筒かクロコダインの上空

 

属性___中立[カルマ値:0]

 

種族レベル___ガルーダ_____15LV

        ファルコン____15LV

        メイジバード___15LV

        アークレイブン__10LV

        フッケバイン___5LV

        ジュターユ____5LV

        他

 

職業レベル____無し

 

        

 

[種族レベル]___計100レベル

 

能力表(最大値を100とした場合の割合)

 

HP    | 60

MP    | 70

物理攻撃 | 60

物理防御 | 50

素早さ  | 70

魔法攻撃 | 70

魔法防御 | 60

総合耐性 | 60

特殊   | 20

 

 

__________

 

クロコダインの作成したNPC、課金で外装を弄っている。

クロコダインとの意思疎通に必要無い為、人間の言葉を発することは基本的にしないが、不可能な訳では無い。非常に高い知能を持っており冷静で気位が高いドライな性格。

主であるクロコダインの役に立つ為、道具に徹する自分が好き。他者に関してはぶっちゃけてしまえばクロコダインが認めている存在以外などどうでも良いとすら考えている。

 

ユグドラシル時代、制作者のクロコダインの設定の盛り込みが少なかったせいでNPC特有の忠誠心がガルーダの精神の空き容量を埋めている。

 

____________

 

『ゲート』……アインズ等が使うものとはエフェクトが変更されており、ルーラ風に光に包まれて超高速飛行で目的地へと向かう。尚、距離などによる到着時間などに違いは発生しない。




地味にちょいちょい更新してるんだ。


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この素晴らしい闘いに決着を!!

悪死頭凶徒のナザリックの面々…

やたらと穏便に話が進みますが、大前提としてこのアインズ様が総力上げて絶対殺すって言ってたのはシャルティア洗脳した奴に対してと言う事でどうぞ。

コキュートスも死んでなかったからセーフだって…(裏声


静寂…

 

あの全てを飲み込んだ闘気の大渦が吹き抜けた後、クロコダインは渾身の獣王激烈掌を放った両腕の激痛という余韻を残しながら、ゆっくりと歩を進める。

 

「………」

 

凡そ前方30メートル、その視線の先には天を仰ぐ様、倒れ伏した満身創痍のコキュートスの姿があった。

そして、クロコダイン自身も負けず劣らずその姿は満身創痍であったが、見下ろす者と見上げる者、それは余りにも解りやすく2人の闘いの結果を現していた。

 

「……勝負ありだな…」

 

「…見事ダ…獣王…我モ、戦エルダケ戦ッタ…無念デハアレド、悔イハ…無イ…」

 

 

コキュートスの言葉に嘘は無い。自慢の外殻はひび割れ、折れていた腕は千切れ飛び、他の腕も歪に曲がりながらもしかし、その全ての腕は最後まで決して手にした武器を放す事は無かった。

敗者であるコキュートスのその姿に勝者となったクロコダインはある種の感動を覚えずにはいられなかった…己が打倒した漢が本当の武人である事が心の底から誇らしかった。

 

「ありがとう、誉れだ…コキュートスよ。」

 

2人の間には奇妙な事に、確かに友情の様な物があった…

 

 

心地よい沈黙が場を満たす。

 

 

 

しかし…そんな2人の間に介入してきた者達が居た。

 

 

何の前触れも無く、まさに突然に気が付けばクロコダインの目の前には2人の少女が武器を構えた戦闘体勢で立ちふさがっている。

 

 

「そこまで。」

「で、ありんす。」

 

赤い鎧を纏い、奇妙な形の槍を手にした吸血鬼、シャルティア。

鞭を握りしめ、身体にフィットした少年用の服を着たダークエルフの少女アウラ。

 

クロコダインにはこの突然の光景に思い当たる節があった。ユグドラシルの魔法の一つ『時間停止』を使われたのだろう。

クロコダインは同レベル帯のマジックキャスターが使用する時間停止に対して対抗するスキルを持ってはいなかった。その為に時が止まっている間に転移で現れたであろう事は予想でしか無かったが、半ば確信があった。

 

「大丈夫?コキュートス。」

 

コキュートスの隣に転移をした少女の恰好をしたダークエルフの少年マーレが、早速コキュートスに対し魔法での治癒を行い始める。

 

そして、その直ぐ側には、一際存在感を放つ存在、アインズ・ウール・ゴウンが鎧を纏ったアルベドとデミウルゴス、パンドラズアクターを護衛に付ける様な形で倒れ伏したコキュートスを見下ろしていた。

 

「…ア…インズ様…申シ訳…」

 

「…よい、良く闘った、今は傷を癒やせ。」

 

労う様な声色でコキュートスの謝罪を遮り、アインズが合図として軽く手を振るとマーレとパンドラズアクターがコキュートスを担ぎ、ゲートにより転移を行う。

その様子を見送り、ようやくアインズはゆっくりと振り返り、その眼窟に赤い炎を宿らせクロコダインを睨み付ける。

 

「…さて、先ずは自己紹介と行こうか。初めまして、獣王クロコダイン、私がコキュートスの主、アインズ・ウール・ゴウンだ。……やってくれたな…」

 

アインズのその言葉にこの場に残っている守護者一同が微かに動く。それは合図一つでいつでも攻撃に移れる体勢に移行したと言う事だ。

双方に緊張が走る…とは言え、既にコキュートスと闘う事を選んだ時点でクロコダインはある意味で完全に開き直っていた。

 

「一つ聞かせて貰えるか?アインズ・ウール・ゴウン。俺の知るナザリック地下大墳墓とその名、アインズ・ウール・ゴウンは少なくとも特定の個人を指す物では無かった筈だ。それを名乗るお前は一体何者だ?」

 

クロコダインのその問い掛けに最も大きな反応を見せたのは各守護者達だろう。当然だ、アインズが己のギルドの名を名乗り始めたのはつい最近、この地に転移してから以降である。それを当然の如く一番に問い掛けられると言う事はクロコダインがギルドとしてのアインズ・ウール・ゴウンのことを本当に知っていると言う事に他ならないのだから。

 

「フム…その問いかけが出ると言う事は、お前自身プレイヤーで間違いなさそうだな。」

 

「それがユグドラシルのというのであれば答えはYESだが…俺の質問の答えになっていないぞ、アインズ・ウール・ゴウン。」

 

言って、クロコダインは軽くフンと鼻で笑う。アインズの問いかけから逆説的にアインズも自分と同じ様な状況なのだと言う事が伝わってきたのだ。それはつまり、目の前のオーバーロードも中身は日本人だと言う事…それを考えれば少々緊張感に欠けるがこの数奇な巡り合わせには奇妙な物だと笑いも溢れるという物だ…

それはどうやらアインズも同じであった。

 

「それは失礼した、確かにお前の指摘した通り、このアインズ・ウール・ゴウンの名は元々我がギルドの名前だった。私自身はかつて“モモンガ”という名でね…アインズ・ウール・ゴウンのギルド長だったのだが、この世界に転移してから現在、思う所有ってアインズと名乗っている。」

 

どこか戯ける様にそこまで言って、アインズが片手を上げる所作を行うと同時、クロコダインに対し、各守護者達がいつでも攻撃に移れる様な体勢で包囲する。

 

「これは一体何の真似だ?」

 

「そちらの質問には答えた、よって次はこちらの番だろう?先日、我が配下のシャルティアがワールドアイテムによる精神支配を受けた。率直に聞く。獣王クロコダイン、お前もしくはお前の仲間の仕業か?」

 

「全く知らん話だな。」

 

即答である。実際クロコダインは無関係の話なのだから当然だ。アインズもクロコダインが件の犯人だとはもう思っていない。だが、その言葉を聞いてアインズは安堵したのも確かであった、ここで「その通りだ。」等と答えられていれば直ぐさま戦闘となっていただろう。

 

「…だろうな、それでは続けて次の質問だ。見た所今は1人のようだがお前にはPL、もしくはNPCの仲間は居ないのか?」

 

続けてのアインズの問い掛けこそ現状のアインズにとっての本命だ。

 

「答えるのは構わんが、次は俺の番だろうに…まぁいい、転移してきたのは俺1人、そもそも俺のギルドは過疎化のせいで最早俺1人だけだったしな。NPCは一匹、魔法の筒に入れて持っていたガルーダだけだ。今は上に居る…来いッ!!」

 

上空を見上げながら言ったクロコダインに対して、アインズも同様に視線を上空に向けると真っ直ぐにこちらに向かって大型の鳥が滑空してきていた。

周囲が動こうとするのをアインズが停止命令を出すその最中、降下してきたガルーダはそのままクロコダインの頭上に停滞すると『大回復』の魔法でクロコダインに治癒を施したのだった。

 

「…成る程、私と似た様な境遇という訳か…」

 

「何?」

 

それは、この世界に転移したと言う事も、ギルドにて最後のメンバーとして孤独な闘いを続けていたであろう事も両方だった。

クロコダインの疑問の声にアインズはゆっくりと顔を横に数度振るうだけだった。其処は触れてくれるなと言わんばかりに…

 

「しかし、随分と簡単に信じるな…勝手な印象だが、お前ならもっと疑ってくるかと思っていた。」

 

「あぁ…それはな、仮にお前の仲間が居たとして、この状況で動かないなどと言う事は有り得まい?こちらとしても最大限の警戒を行っている現状、理屈で考えれば恐らくお前の言葉に嘘は無い、違うか?ついでに言えば、私の予測が外れていたとしても仲間の窮地において隠れたままの存在など、それこそ恐るるに足らん。」

 

アインズの言葉には仲間に対する己のスタンスがありありと出ていた。それはクロコダインにとっても好ましい考えだ。

 

「道理だな…それで、アインズ・ウール・ゴウン。約束は守って貰えるのだろうな?」

 

未だ、緊迫した雰囲気ではあるが互いに幾つか言葉を交わした、クロコダインとアインズの中には既に互いへの一定の理解があった…

 

「あぁ、私も仲間達の名において誓った約束事を反故にする様な真似はしない。それよりももう一つ聞きたい、こちらの戦力を見ていただろうに…何故、またリザードマン達等の為に我々に敵対した?私がその気になれば確実にお前は死ぬ。それが解らない訳では無いだろう?」

 

「…一宿一飯の恩義のある者達が、理不尽な暴力に晒されようというのだ…退く訳にはゆくまいよ。」

 

正直言って、心底クロコダインの行動が理解出来ない、と思っていたアインズであったがあっさりと返ってきたクロコダインのその返答に、かつて仲間であるたっち・みーが語った「困っている人が居たら、助けるのは当たり前!!」という言葉をまたしてもふと思い出していた。

まぁ、それでもやはり自ら死地に飛び込むその感性は、到底理解は出来なかったが…

 

 

「……正直に言えば敗北を認めるというのは業腹ではあるのだがね…賠償の件もある、明日の正午、彼等の集落に再び伺おう。それが終わればクロコダイン、一度お前をナザリックに招待したいと思う。同胞として互いにせねばならない話も山とあるだろうしな…」

 

「そう言えばナザリック地下大墳墓と言えばユグドラシルのプレイヤー間でも難攻不落として名を馳せていたな。了解した。俺としても元々、当初の目的の一つは他のプレイヤーを探す事だったからな。」

 

話の大筋が纏まった所で双方がゆっくりと手を差し出すが同時にその手を止め、お互いに手を引いた。

 

何のことは無い…互いに握手を交わすなら、明日の相応しい場であるべきだろうと思い立っただけだ。

 

 

「…それではな…帰還するぞ!」

 

『はっ!!』

 

アインズの命令にナザリック一同がそろって答えるとゲートによる転移が行われた。

それを見送って、ガルーダを除けば1人になった所でクロコダインはようやく深く溜息を漏らす…

 

(流石に、肝が冷えたな…)

 

グレイトアックスを大地に突き立て、力を抜くとドサリと倒れ込む様に腰を落とす。実際、コキュートスとの闘いもギリギリだった…もう二度とあんな闘いはごめんだと思う反面、全ての力を解放して全力で闘う事の喜びを覚えてしまったのもまた確かだ。

度し難いこの性は、果たして自分が生来持っていた物なのだろうか?それとも…

 

「クロコダイーーーン!!」

「クロコダインッ!!」

「クロコダインーーー!!」

 

そんな詮無き事をボンヤリ思考していたクロコダインの元に、全ての動けるリザードマン達が駆け寄ってきていた。

 

全てのリザードマン達のその晴れやかな笑顔を見れば、クロコダインも自分が勝ち取った物の大きさを改めて実感する…

 

(後は明日、アインズ・ウール・ゴウンがどう出るか…だな…)

 

 

 

 

“ビーストロード”クロコダイン、その伝説を語る上で、決して外す事の出来ない一戦は、こうして決着と相成ったのである…

 

 




ワニ「話してみたら案外普通に話通じたでござる。」


「夜空の星が輝く影で
悪(ワル)の笑いがこだまする。
村から村に泣くトカゲの
涙背負って荒野の始末

“獣王会心クロコダイン”

お呼びとあらば、即参上!」




次話、情け無用のJ9なので9日後位かな。


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この悪徳ギルドには問題がある。

今回独自設定の解説が非常に多いです。
多くの方が疑問に思っていた様子の武器系統の話ですが正直、クロコダインの能力の再現ありきで今作は書いてたので星に願いをの効果をかなり拡大してます。
この話ではこういうものかと軽く流して下さい。

また、ワールドトレイサーの様な特殊な職業はレベルダウンしても一度条件を満たしているのである程度レベルが戻ったら再取得出来るという設定でお願いします。


アインズの宣言した通り、クロコダインとコキュートスの決戦の翌日、燦々と輝く太陽が直上へと昇ると同時、ゲートを介してアインズはリザードマンの集落へと姿を現した。

 

アインズが同行させたのは意外にもアルベドとアウラのたった2人。無論、隠密系モンスターを周囲に配し、自身の安全には気を配っている。

 

そこにコキュートスの姿は無い。

 

 

先日の闘いの余波にて家々が吹き飛び、土壁は崩れ、もはや集落の体を成していないその場所を一度見渡し、アルベドとアウラは不愉快そうな表情を隠そうともしなかった。

 

「全く…アインズ様がお越しになるのが解っていたのなら、この様な汚らしい塵の山は片付けておくべきでしょうに!」

 

微かに飛翔しているアインズ達が足下を泥で汚すようなことは無いだろうがアルベドが言う様に、少なくとも目の前の光景は集落とは言いがたかった。どちらかと言えばここは爆心地だ。

 

「そう言うな、アルベドよ。今回はこちらが礼を尽くさねば成らん立場だ。……その筈だったのだがな…」

 

アインズの視線の先には大勢のリザードマンが、既にこちらに向かって平伏している光景が移っていた。

これにアインズは疑問を抱かずには居られないが、アルベドとアウラにはごく当たり前の光景過ぎてアインズの戸惑いは察せられない。

平伏すリザードマン達の先頭にはあの日、アインズの前に代表として訪れたザリュースとシャースーリューを筆頭とした族長達が、その後ろにはそれぞれ位の高い者達が続いている。

 

 

「お待ちしておりました…偉大なる死の神、アインズ・ウール・ゴウン様。」

 

やはり代表してアインズに声を掛けたのはシャースーリューである。

 

「うむ…お前は確か、リザードマンの代表だったか…?所で、クロコダインはどこだ?」

 

「俺ならここだ。」

 

野太い声のした方へ視線を向ければ、クロコダインはリザードマン達から少し離れた場所に普通に立っていた。回復魔法の効果だろう、身体はすっかり回復しているが唯一点、左目だけは断頭牙によって刻まれた傷が深々と残り、痛々しい隻眼となっている。

 

それは、本来そう有るべき形に回復したと表現するのが正しいかも知れないが、それはクロコダインの胸の内に納められた事である。

 

 

「私は彼等に対して我が方の敗北を認め、謝罪と賠償に来たのだがね…クロコダイン、これはどういう事か説明して貰えるか?」

 

言いながらアインズの視線は、左右に動いた後、平伏すリザードマン達からクロコダインへと流れていく。

 

「説明も何も、見ての通りだ。昨日の俺達の闘いはこいつ等には少々刺激が強すぎたみたいでな。お前達ナザリックの傘下に加えて貰いたいらしい。とは言え…勝ったのはあくまでこいつ等だ、奴隷や家畜などの不当な扱いでは無く…まぁ、そうだな舎弟みたいな扱いにでもしてやってくれ。」

 

少々困惑気味だったアインズだがクロコダインの説明にさらに困惑は深まる。

クロコダイン曰く、アインズこそが己が探していたプレイヤー。つまり同郷の存在であり、見た目とは違い、話が通じるという事をリザードマン達に説明した所、クロコダインが口利きを引き受ける事でリザードマン達は穏便にアインズの傘下に加わる事を選択したのだと説明を加える。

 

元々、リザードマン達は強い者に対する強い信奉があり、尚且つ彼等にとっての救世主、英雄であるクロコダインがもしアインズ・ウール・ゴウンと再び敵対すれば確実に負けると言い聞かせていればこうもなるだろう。

 

「成る程…了解した、良いだろう。彼等にはアインズ・ウール・ゴウンの名においてナザリックの庇護を与える事を約束する。それをもって今回の一件の決着という形で構わないな?」

 

アインズの中では“元々、下請けの孫会社に契約社員を加える予定だったが、クロコダインという大物のコネと口利きで急遽、子会社への正社員登用に変わった。”みたいな物かと少しばかりずれた納得をする。

 

「はい、我等はクロコダインの助言を信じ、偉大なるアインズ・ウール・ゴウン様のの下に下ります。」

 

幸い、先の勝利のお陰で話の主導権は元々リザードマン側にあったのだ。シャースーリューの言葉に対して元々の予定の一部と合致するアインズが首を縦に振ったのは当然の帰結であった。

リザードマンの自発的な服従という結果には、当初不愉快さを感じていたアウラとアルベドもようやく納得を浮かべている。

 

「ならば…傾聴せよ!今、この時より諸君等リザードマンは繁栄と栄達が約束された!!諸君等が我等ナザリックに敬意と忠誠を捧げる限り、我等も又、諸君等を導こう!!」

 

『ははぁっ!!』

 

こうして、リザードマン達はアインズ・ウール・ゴウンの名の下に、ナザリックの庇護を受けて繁栄が約束される事となった。

 

余談ではあるが、集落の再建の為にナザリックからは大量の労働用スケルトンと重機代わりのマッドゴーレムが数体派遣されるのだが…これが後にちょっとした騒動の種になるとはアインズもクロコダインも全く予想していなかった。

 

 

__________________

 

 

 

「…ここが、ナザリック地下大墳墓か…」

 

リザードマン達との話を終えて、アインズ直々のゲートを介して遂にクロコダインはナザリック地下大墳墓へと足を踏み入れる事となった。

仰ぎ見る程の天井の高さ、何処までも続く様な錯覚さえ起こす通路には超一級品の芸術と断言出来る白亜と黄金のレリーフが続き、シャンデリアの燦然たる輝きが何でも無いことのように視界を照らす。そこはまさに正しく神の神域であった。

 

「おぉ…これは…素晴らしいな。」

 

一体どれ程の労力を惜しまずここに注ぎ込んだのか…それは並大抵では無かっただろうと同じユグドラシルプレイヤーであったクロコダインには良く分かった。だからこそ口をついて出た感嘆の言葉に嘘は無く、また、だからこそアインズにも届いたのだった。

 

「歓迎しよう、クロコダイン。この世界においてお前はナザリックにとって初めての客人だ。」

 

どこか嬉しそうに声を弾ませて、アインズは両手を広げると歓迎の意をクロコダインへと示す。そのアインズの後ろにはいつの間にかソリュシャンとナーベラルを除いたプレアデスの面々を中心に一般メイド達が美しく整列し、一斉に頭を下げていた。

 

その華やかで荘厳な光景に圧倒されつつあったクロコダイン…

 

「さて、ゆっくりと歓迎の宴でも…と行きたい所だが、互いに気になることを先に片付けた方が良いと私は思う。どうだろう?」

 

「そうだな、それがいいだろう。…楽しみは後にとっておくに限る。」

 

アインズの言う通り、クロコダインとしても先ずはお互いの気になる事を片付けるべきだろうと思い、冗談交じりに素直に頷きを返す。

 

「ハハハ…では、私の部屋へ案内するとしよう。各員、聞いての通りだ。私はこれからクロコダインと大事な話をする故、誰も部屋へと入ってくるな。」

 

「しかしアインズ様、このような野蛮な者と二人きりなど、危険なのでは!?」

 

堂に入ったアインズの命令、それに異を唱えたのはアルベドだったが他のプレアデスの面々も同じく不安と不満を浮かべていた。

 

「…口を慎めアルベド。この男は正式な私にとっての客だ…すまないクロコダイン、部下が失礼な真似をした。だが、これも偏に私の事を強く案じる故でね、許して欲しい。」

 

「気にしないでいいんだがな。」

 

内心ではクロコダインに対し黒い感情を渦巻かせながらもアインズに諫められ、頭を下げるアルベド。そこにはやはり外部の者に対する守護者としてのどうしようも無い在り方が存在していた。

 

________________

 

 

アインズの自室に通されたクロコダインは、またしてもその部屋の豪華絢爛さに目を剥く。それをアインズは「豪華すぎて落ち着かないんです。」と冗談交じりに素の口調を初めて見せるのであった。

豪奢なソファーにテーブルを挟み、向かい合う様に腰掛け、改めてクロコダインとアインズは向かい合う。先ずはお互い何から話すべきか…お互いに同じ悩みを抱いては居たが、先に口火を切ったのはクロコダインであった。

 

「コキュートスは…どうなった?」

 

「…今は第五階層、大白球内で回復に努めています。この世界なら回復魔法やアイテムもありますからね。よかったらまた会ってやって下さい。」

 

「そうか。」

 

クロコダインの声色には強敵の無事を喜ぶ安堵が多分に含まれていた。その様子にアインズはクロコダインが本気でコキュートスの容態を気に掛けているのだと察して、それを喜ばしいと感じた。

 

「…所で、その口調が…お前の素なのか?アインズ。」

 

「え?あぁ、そうですね。実は部下の前だとどうしても偉大な支配者って感じで演じないといけないんですよ。その辺、結構苦労してます。」

 

「成る程な…」

 

そこからは互いに話しに花が咲いた…とは言っても双方其処まで饒舌では無かったが、互いの転移後のこれまでや今後のアインズ・ウール・ゴウンとしての目的、ユグドラシル時代の思い出話、少し踏み込んで現実でのプライベート等、互いの事情を擦り合わせるように語る事、語りあわねばならぬ事は尽きる事は無かった。

 

 

____________

 

「そう言えば、ずっと気になっていたんですがクロコダインさんの使ってた斧、アレどうなってるんですか?何で魔法発動体になってるんですか?」

 

「あぁ、アレは…こいつを使った。」

 

そう言ってクロコダインが空間から取り出したのはアインズにも見覚えのある3つの流星をあしらった小さな指輪であった。

 

「シューティングスター…成る程、願いで武器の強化合成を行ったと…でもそんな貴重品そう使えないんじゃ…」

 

「溜め込んだ経験値があるだろう?どうせ上限を超えれば無駄になるんだ、使わんと勿体無い。幸い材料になるワンドやクリスタルは引退した仲間が残した物が大量にあったからな。」

 

シューティングスターによる超位魔法『星に願いを』の習得。そしてその使用によるレベルリセットの繰り返し。不可能では無い…不可能では無いが、明らかに労力と成果の釣り合いがとれていない。

 

「一つの魔法効果にそれぞれ『星に願いを』を一回、それとグレイトアックスには友人のギルド武器を原料にさせてもらった。」

 

魔王バーンの率いたギルド『魔の六芒星』、『竜の紋章』とは同盟のような関係であったが閑散期に解散と引退となったギルドだ。そのギルド武器であった“光魔の杖”を譲り受けたクロコダインは、それを容赦無くグレイトアックスの強化素材へとつぎ込んだ。

そこにレベルカンストからの『星に願いを』…そこからの再レベリングと武器の再強化、繰り返されるその行程は積み上げては崩す石積みの如く、まさに修験者じみた苦行であった。

 

「マジか……ん?じゃあクロコダインさんの所のギルド武器は?」

 

「あぁ、どちらかと言えばあくまでシンボルとして作られたオリハルコン製の何の変哲も無い剣だな。無論、こだわりを持って作られたが、ユグドラシルの初期の時代に作られた物で、本来の持ち主もとうの昔に引退してな…最果ての岬の端に突き立てたままにしてある。」

 

「えぇ~…」

 

アインズドン引きである。ギルド武器を世界の果てに放置してきたなど、アインズからしたら正気では無いとしか言えない。

それでもダイの大冒険のファンの集まりであった仲間達は持ち主が消えた『ダイの剣』ならば、そうしてしかるべきだと納得を示していた。

 

 

「さて、アインズよ…お前はどうしてリザードマンの集落を襲った?勿論、事前に聞いた実験の目的もあったのだろう、彼等をゲームと同じ様なただのモンスターだと思って襲ったというのならわからんでも無い…が、どうもそこら辺、ここで話てみた本来のお前の性格と支配者としてのアインズ・ウール・ゴウンが噛み合わん印象がある。」

 

それはこうして二人で話をしてみても、クロコダインがアインズに強く感じた印象だった。

アインズもクロコダインの言いたい事は何となく理解出来た。改めて同郷の人物と話をすることで自覚したが自分の精神が強制的に沈静化する事を除いても、明らかに変容している。

 

「……はっきり言えば、ナザリックの配下と居るかも知れないギルメン以外のことがどうでも良いとしか感じないんですよ。残酷になったと言えば良いのか?以前にも一緒に旅をした冒険者の人達が殺された時にも、私はそれを少し不快に感じた程度でした…多分こっちに来る前だったらそんな事は無かったとは思うんですが…クロコダインさんにはそういう変化みたいなのはありませんか?」

 

「成る程、その感覚は俺にも心当たりが有るな…俺の場合は、クロコダインとして生きることに違和感を全く感じない事だろうな。お陰で命を掛けることを恐れなくなった。何より、原作の知識をまるで自分の経験してきた事のように錯覚するのだ…」

 

真剣みを帯びたアインズの独白に、クロコダインも少なからずショックを受けていた。

自分にも思い当たる節がある以上、それはつまり自分が自分で無くなることであり、それ以上に恐ろしいのは特にそれに違和感や嫌悪を感じること無く、当たり前の事だと無意識に受け入れていると言う事であった。これは自分1人では決して気づくことの無かった盲点とも言える事実だろう。

 

その事実に、室内を満たしたのは重い沈黙だった…

 

互いに口にこそ出さなかったが、現実の、本来の自分がどうなっているのかと改めて考えると薄ら寒い物を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

後日、アインズとの話し合いをもってクロコダインはリザードマン達と同じく、ナザリック地下大墳墓に『客将』として身を寄せることが決定するのだった。

 




『再戦の為の停戦、破壊の為の建設。
ユグドラシル時代から、連綿と続くこの愚かな行為。
ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らに絶望する。
だが、営みは絶えること無く続き、また誰かが呟く。
「たまには、BARで飲むのも悪くない。」

次回、『新入り』。主は、酒が飲めない。』




モモンガ「……リア充が憎い…」

コキュ「悪ノ心ニテ、愛ノ空間ヲ断ツ!名付ケテ、断頭光牙剣ッ!!ヤァッテヤルゼェェッツ!!!!!」

ザリュース&クルシュ「ぎゃあああああっ!!!!」



次回、Gジェネジェネシス発売までには。


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シェフの気まぐれ~蟲と鼠と双子ちゃん、アインズ様を添えて~

今回の話は山無し、落ち無し、意味なしの三本立てです。


今話と次話でナザリックメンバーのクロコダインに対するスタンスを書きたいと思います。


~コキュートスの場合~

 

視界の全てが白に染まる雪と氷だけの極寒の世界、雪女の案内によってアインズとクロコダインが辿り着いたのがナザリック第五階層『大白球』、そここそが普段コキュートスが身を寄せているエリアであった。

 

「入るぞ、コキュートス。」

 

道中、あらゆるNPCがアインズに平伏す姿を十分に見てきたクロコダインであったが、大白球の中では更に高位の悪魔であったり昆虫系モンスターであったりがアインズの来訪に一斉に敬意を示すその様を見ていれば、成る程確かに支配者としての姿を演じる必要があるのも納得だと強く思う。

 

「コ、コレハ、アインズ様コノ様ナ姿デ申シ訳御座イマセン!」

 

大白球の最奥、そこにコキュートスは居た。あの日の闘いの傷を癒やす為に、頭部以外の全身を淡く輝く氷に封印されている。特に千切れた腕の完全な接続は時間が掛かるだろう。

そのような姿は確かに主を出迎える配下としてはあまり相応しい状態とは言えないだろう。だが、アインズはそれを否定した。

 

「構わん、その傷ついた姿はお前がナザリックの為に働いた故の事、恥じる事等何も無い。」

 

「恐縮ニ御座イマス…所デ、何故クロコダインガ此処ニ?」

 

アインズの隣に立つクロコダインの姿は、やはりコキュートスにとっては当然気になる物であった。

 

「あれからアインズと色々と話してな、友として俺もしばらくはナザリックに客将として身を置くことになったのだ。故に、一番にお前に挨拶に来たという訳だ、コキュートス。」

 

「…成ル程、オ前程ノ男、アインズ様ノ目ニ止マルコトモ当然カ…歓迎シヨウ、我ガ強敵、クロコダイン。」

 

感情を一切覗わせないコキュートスの昆虫を素体にした顔、しかし其処には確かに喜色ばんだ感情の色が確かに浮かんでいた。

アインズもコキュートスの反応に安堵を覚える、クロコダインをナザリックに招くに当たってアインズが一番不安に感じていたのは実際に闘い、敗北を喫したコキュートスの反応であったからだ。

 

「それとだなコキュートス、お前には私から一つ勅命を与える。」

 

「ハッ!!何ナリト、此度ノ失態ヲ必ズヤ濯イデ見セマス。」

 

コキュートスの気合いの入りように全身を封じる回復氷にビキリと罅が入る。

 

「クロコダインに勝て。武人として一対一でだ。それをなしえた時、お前は私が望み、求めた成長という可能性を最も明確な形で示すことになるだろう。期待している。」

 

アインズの勅命、それはクロコダインへのリベンジであった。これには当然クロコダインの了承もある、LVがカンストしているコキュートスが万が一これ以上強くなれるのであれば、それはNPCにとっての大きな可能性だ。アインズとしてはそれを調べずにはいられなかった。

 

「ハハァッ!!!必ズヤ、クロコダインノ首、必ズヤ、アインズ様ノ前ニ捧ゲテ御覧ニ入レテ見セマス!!」

 

「いやっ!?首はいらんぞっ、コキュートス!私はあくまで勝利することでお前の成長を見たいのであってだな…」

 

コキュートスの物騒な発言に思わずアインズの精神も沈静化が作用する。

 

「俺としても殺し合いはもう勘弁して欲しい物だな。アインズも言ったが、俺もお前の成長、言ってしまえば可能性を期待している。…但し、俺も負けてやるつもりはさらさら無いがな!」

 

「…良イダロウ、先日ノ借リヲ返ス日ガ今カラ楽シミダ。」

 

 

2人は互いに熱い視線を交わしながらフフフ…と笑いを漏らす。それは本当に楽しみで仕方ないという戦士特有の獰猛な笑みであった。

 

 

__________________

 

~アウラ、マーレとハムスケの場合~

 

「だからさ、結局はあのおっさんがフラフラ、フラフラ歩き回ってたせいなんだってば!!」

 

第六階層のアウラとマーレの住居である巨大樹のふもとには切り株の椅子にあぐらをかいて座り、大きな声で先日の失態についての愚痴を溢すアウラに行儀良く足を揃えて座る、それを困ったような表情で聞き続けるマーレの姿があった。その周囲にはフェンを筆頭としたアウラのお気に入りのモンスター達も居る。

クロコダインという存在を発見できず、想定外の連続を招いたあのリザードマンの集落の調査に関しては失態ではあったが、アインズからも直々に責は無く、気に病む必要は無いとは言われていたが当事者としてはそうはいかない。

もし、仮にであるが最初の調査でクロコダインの姿を発見できていたならば、アインズがどの様に動いたかはアウラには判らなかったが少なくともコキュートスが重傷を負うことも無く、リザードマン如きにナザリックが配慮するなどと言う事も無かったはずだった。

 

「コキュートスさんも怒ってたもんね。」

 

「言わないでよ…」

 

マーレの一言にアウラの耳が垂れ下がり、深い溜息が溢れた。

コキュートスの初期治療を行ったマーレはあの日、ナザリックに搬送したコキュートスよりアウラへの伝言を頼まれたのだ。『戦場ニ出向イタノガ我デ良カッタナ、コレガモシアインズ様ガ出向カレル戦場デアッタナラバ…言ワズトモ分カルダロウ?』と…それは物静かで冷静なコキュートスだからこそ、本気の言葉であると嫌に成る程アウラには伝わっていた。

 

「ほんと、あのリザードマンのおっさんが何でナザリックに…」「あ、お姉ちゃん。」

 

アウラの視線の先、マーレが慌てたような表情で口元を手で覆う。その視線はアウラの背後に向いていた。

 

「アウラ、その言いぐさはクロコダインに失礼だろう。」

 

『アインズ様っ!?』

 

其処には転移で二人の前に姿を現したアインズとクロコダインが立っていた。

 

「済まんな、クロコダイン。改めて紹介するがこの二人が第六階層守護者、アウラとマーレだ。」

 

既に、先程の話し合いの席でクロコダインはアインズから各守護者の話等、ナザリックの一通りの概要は説明されていた。故に少年風なのが姉のアウラで、少女風なのが弟のマーレという一見すると非常にややこしい状況にもなんとか対応している。

 

「構わんさ。それに俺がおっさんなのは違いないからな。二人とも、俺を呼ぶならおっさんで良いぞ。」

 

ガハハと笑いながらクロコダインは小さな双子の姿を見下ろす。こう見えてクロコダイン、子供好きである。

 

「じゃあ、おっさんで。」「それなら僕は…おじさんで。」

 

先日のこともあり、アウラのクロコダインへの態度は素っ気ない。同時にマーレの態度自体は元々の性格故、幾らか柔らかい印象があるがアウラの背後へ半身を隠している様はクロコダインへの警戒が現れていた。

 

「それにしてもアインズ、お前さんの自慢の配下は優秀だな。俺にもテイマースキルは有るがこうはいかんだろう。流石階層守護者だなアウラ、これ程の数と質を兼ね備えた魔獣共を従えているとは驚いたぞ。」

 

チラリとクロコダインは視線を居並ぶモンスター達へと向ける。獣王として理解出来るのがそれ等全てがアウラによって統制され、それを介して捧げられているアインズへの絶対的な忠誠。

アウラという存在を個としての強さとしてでは無く、群れとしての強さで見ればこれ程の統率力、それは驚異の一言だ。コキュートスとは又違った強さが光る、百獣魔団の将として数多のモンスターの頂点に君臨したクロコダインの目に狂いは無いだろう。

 

「へ、へ~…案外分かってんじゃん…おっさん。」

「よかったね、お姉ちゃん。」

 

クロコダインのその手放しの称賛に、アウラも照れ隠しなのか口を尖らせたまま満更でも無いのか、にやつきそうな頬を引き締めながらその素っ気ない態度を和らげる。とは言え、素直にはなったりは決してしないが…

 

「あぁ…自慢の部下だとも。」

 

アインズのその一言に本当に嬉しそうな表情を浮かべた二人の階層守護者の微笑ましい姿にはクロコダインも口元を緩めるのだった。

 

「そう言えばアウラ、ハムスケはどこだ?あれもクロコダインに紹介しておきたい。今はこの階層に居るはずだったな。」

 

ぐるりと周囲を見渡すアインズの命令で部屋から追い出されたハムスケが身を寄せるのは何も無ければナーベラルの元かアウラの元であるが今ナーベラルはエ・ランテルに居る為にナザリックには居ない。

 

「そういえばアイツ何処に…ちょっと呼び出しますね。」

 

言って一度周囲を見渡したアウラが指笛を吹いて暫くの時が立った後で、アウラのじっとりとした視線が一本の木の陰へと注がれた。

 

「ハムスケ、あんたアインズ様がいらっしゃってるのにその様は何?」

 

そこには木の陰に半身を隠し、オドオドとアインズ達の姿を震えながら見つめる巨大な小動物の姿があった。

その愛くるしい姿には思わずクロコダインも視線が釘付けになる…

 

「あれが、例のハムスケか?…思っていた以上に…何というか、ハムスターだな…」

 

「でしょう?あれでも森の賢王なんて呼ばれてましたからね、ある意味獣王ですよ。おい、どうしたハムスケ、隠れてないでこっちに来て挨拶をせよ?」

 

「殿~…」

 

あれが獣王?いや、賢王か…しかしあのチウが二代目獣王を自称していた事を考えれば、ある意味喋る齧歯類とはそういう天命を背負っているのかも知れない等と益体も無いことを考えながらクロコダインは自分に対して過剰とも言える脅えを見せるハムスケを観察する。

アインズの言葉に恐る恐るクロコダイン達の前へと進み出て来たハムスケではあったがその歩みは遅く、自慢の尾は完全に丸まっていた。恐らくはクロコダインとのファーストコンタクトが外での偶然の遭遇であったならば、ハムスケは即座に腹を見せて伏せっていた事だろう。

そこにはやはり野性的な本能の部分が大きく作用していた。

 

 

「お初にお目に掛かるでござる、某はハムスケと申すもので、え~殿、アインズ・ウール・ゴウン殿の…」

 

しかしそんな自己紹介を始めたハムスケに対して、クロコダインは何とも言えない悪戯心を刺激されてしまった…

 

 

『ガァアアアアッ!!!』

 

 

ほんの出来心ではあった…小さな子供に対して『ワッ!!』と声を掛けて驚かすような、これで一度驚かせて緊張を解してやるつもりで、そんな軽い気持ちでクロコダインは雄叫びを上げた。

 

「ピィッ!!?」

 

次の瞬間、アインズも聞いた事が無いような鳴き声を発して脱兎の如く逃げ出したハムスケ…まさに猛獣の前に無理矢理連れてこられたハムスターがその咆哮を受ければそうもなるだろう。

 

「あ、こら!ハムスケー!!戻って来ーい!」

 

逃げ出したハムスケにアウラが叱責の声を送るが、あの様子ではしばらく帰ってくることは無いだろう。アインズの冷たい視線が責めるようにクロコダインへと送られる。

 

「おじさん…」

「クロコダイン、後で謝っておけ。」

 

「あ、あぁ…すまん。」

 

 




コキュートスとアウラ、マーレに挨拶は済ませた。
残るはデミウルゴスとシャルティアとアルベドだ。

そのデミウルゴスがよりによってBARへ誘いやがった。
あの野郎、何の飲食も出来ねぇアインズをはぶりやがって、許せねぇ!
やいデミウルゴス!蜥蜴人に指一本でも触れてみろ、ただじゃおかねーぜ!

次回、「クロコダイン危うし、飲ませ師・デミウルゴス!」
伊達にあの世は見てねぇぜ!




クロコダインはそんな事言わない。




次話、この土日辺り。


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クロがコーしてダインする…~Baby Please クロコダイン~

プレアデスの面々とセバッさんとの対面は時期的に出来なかったと言う事で。

次回からちょっとオリジナル展開が挟まります、戦闘は(無いです)。

それと次回予告で散々デミウルゴスと酒を飲む感じに書いてたが…悪いな、ありゃあ嘘だ。
まぁ例えば…グラスの中身がバーボンだろうと泥水だろうと俺達には大差ない…(そもそも飲んry)




 

~アルベドとデミウルゴスの場合~

 

玉座の間にてアインズの目の前には平伏すアルベドとデミウルゴスの姿があった。クロコダインは現在ナザリック内で割り当てられた自室となる客間に居る。その後にシャルティアの元に向かう予定だがその際にはアインズの同行は無い。

 

「それで、お前達が聞きたいのはやはりクロコダインの事か?」

 

二人を射貫くように玉座に腰掛けたアインズの眼窟の灯火がギラリと光る。

 

「はい、アインズ様があの男クロコダインを友と認め、ナザリックに招いた事について我等一同、無論、異等あろう筈が御座いません。しかし、アインズ様の友となると言う事はそれは至高の御方々と…我々はあの男が果たしてアインズ様の友として本当に相応しいのか…不敬だとは存じておりますが、やはり疑問を抱かずにはいられないのです。」

 

「アインズ様の深慮智謀であればそこには様々な理由在っての事かと思われますが、我等の懸念を払拭する為にもどうかその心をお聞かせ頂きたいのです。」

 

跪きながらの二人からの進言に、アインズは内心でやはりか…と、思う。

コキュートスを除いた守護者各員には、クロコダインとの話し合いが終わって直ぐにアインズはクロコダインを客将として招くつもりだとメッセージで通達した。

それを直接話したコキュートスは好意的に受け入れ、アウラとマーレはどこか渋っていた。そうなれば守護者内でもカルマ値が低い知恵者二人がどう思っているかは予想出来ていた。正直に言えばアインズがクロコダインを受け入れた大きな理由は同じ境遇であり、また同郷の存在だからという感情的な部分が殆どだ。

しかし、アルベドとデミウルゴスにそれ等を隠し、違和感無く納得させるには幾つか適当な理由が必要そうだ。斯くも支配者とは難儀な物である。

 

「よい、お前達の疑問も最もだろう。クロコダインを内部に招いたのには幾つか理由がある。無論、私の新たな友人としてと言うのも本心ではあるがな。そうだな…デミウルゴスよ逆に問おう、お前の考えるクロコダインをナザリックに招くことのメリットは何だ?」

 

アインズの問い掛けに頭を垂れていたデミウルゴスの頭が持ち上がり、その眼鏡が光を反射する。

 

「先ずは戦力の強化に繋がる事かと、彼の戦闘能力はコキュートスとの闘いで証明されております。次に彼がプレイヤーである事から、アインズ様が軽々しく行えないような様々な実験の材料になるかと愚考します。」

 

デミウルゴスが言うそれは例えばプレイヤーに対する蘇生実験であったり、洗脳、アンデッド化の可否等、アインズとしても正直に言えば興味が引かれる内容だ。

 

「それに、ナザリックが他のプレイヤーを受け入れるという実績を持つことは他のプレイヤーの敵対を防ぐという意味では有用な手かと存じます。」

 

成る程、とアインズは小さく呟いて納得を示す。

つまりは二人を説得するにはそういった方面で切り込んでいけば良いのだ。

 

「その通りだな、付け加えるならばそこにプレイヤーの子孫に関する事情もある。クロコダインには是非私に変わって其処の所を検証してもらいたいものだ。」

 

これはクロコダインとの会話でも話した内容だ。アインズが未使用のままアレと三大欲求を失った話からクロコダインは自分が仮に嫁を作るなら種族的にリザードマンが正しいのか、はたまた人間を性的に愛せるのか…中身が日本人の異業種にとって非常にデリケートな話し合いが行われていたのである。

 

「アインズ様!子孫というのであれば私とアインズ様が居れば十分では御座いませんか!!」

 

興奮したアルベドの肉食獣めいたギラついた瞳がアインズに注がれる。

 

「お、落ち着け、アルベドよ。まぁ、事は大切な問題だからな…慎重な検証と考察は必要だ。くれぐれも早まるなよ。」

 

「大切…アインズ様が私との赤ちゃんを大切な問題と…クフーーーッ!!」

 

「だから落ち着け、アルベド!」

 

内心(どうやって俺が子孫なんて残すんだよ!?無いじゃん!!アレが!!)と思いながらもアインズは何とかアルベドを宥めようと苦心する。が、どうもそれは無理そうなのでトリップ状態のアルベドは一旦放置して話を進めるぞ、とデミウルゴスに視線で促す。

 

「それと客将という立場だが、基本的にクロコダインにはコキュートスと協力してリザードマン達の管理を頼むつもりだ。これについては既に話を通している。」

 

「成る程…」

 

そのアインズの言葉にデミウルゴスの悪魔的思考が答えをはじき出す。

 

恐らく、クロコダインの庇護下に入ったリザードマン達はいずれクロコダインを御輿に徐々にナザリックからの離脱を望むだろう。そうなれば反逆者としてアインズの側からクロコダインを討つ堂々たる大義名分となり、プレイヤーの蘇生実験もアンデッド化も幾らでも検証出来るだろう。

それに加え、基本的にクロコダインの活動の場をコキュートスを監視に付けた上でリザードマンの村に置く事で現在自分が行っている“牧場”経営や今後の魔王の作成にも邪魔をさせない。

何より、あれ程の強敵を目に見えない所で泳がせるよりも目の届く所で管理した方が良いに決まっている。

 

しかし、唯一懸念があるとすればやはり一点…

 

「アインズ様、彼が裏切る事は?」

 

それは裏切りだ…主が友と認めたからと言って自分達が気を抜けない理由は、結局の所其処に集約されるのだから。

かつてアインズ・ウール・ゴウンはスパイの潜入を防ぐ為に、厳しい入団規制が掛けられた。その事情が与える影響はNPC達にとって小さくは無い。

 

「それは無い。」

 

そして、偉大なる主から帰ってきた返答は断言だった。

 

「先日コキュートスが奪ったクロコダインの左眼、あれは治そうと思えば幾らでも方法がある。だが敢えて彼がそれを残したままなのは何故だ?それは我々ナザリックとの敵対の意思が無い事の証明であろう?デミウルゴスよ、お前が何よりもナザリックを愛し、私に忠誠を尽くしている事は理解している。故に別のギルドだったクロコダインを警戒する事も理解出来る…だがここは彼を信じる事にした私を信じろ。よいな?」

(ふぅ…これで何とか二人ともクロコダインさんを受け入れてくれるだろう。亜人種プレイヤーだったからまだ良かったけどこれがもし人間種だったらもっとめんどくさかっただろうな…)

 

「ははぁっ!!全ては御身の御心のままに。」

 

アインズの言葉にデミウルゴスは再び平伏す。が、アインズの考えとは裏腹にデミウルゴスの深い考えは相変わらず少しずれた所にあったのだった。

 

 

 

「クフーーーー!!」

 

 

__________________

 

~シャルティアの場合~

 

「という訳で、客将という立場で今後はナザリックの末席に身を置く事になった。よろしく頼む。」

 

シャルティアの元に挨拶に訪れたクロコダインであったが、周囲から突き刺さる視線は非常に厳しい。

それもこれも此処がある意味、女の園であるという事が原因だろう。ここはシャルティアの守護階層である地下第二階層に存在する『死蝋玄室』のその手前の一室、優雅にテーブルに腰掛け、クロコダインと対面するボールガウン姿のシャルティアの周りには吸血鬼の花嫁達が控えていた。

 

「アインズ様から既に話は伺っておりんす。まぁ、元より私はアインズ様の決定に異論はありんせん。取り敢えずはクロコダイン、歓迎いたしんしょう。」

 

意外な事にシャルティアはその低いカルマ値とは裏腹にクロコダインのナザリック入りを素直に歓迎した。…とは言っても正確な所は死体でも無く、好みの美形でも無く、唯一評価できるのは亜人種である事位だ。ようは興味をそそられる要素が無い為、無関心なだけなのだ。

無論、アインズが友と認めた以上多少の敬意を払う気はある。

 

「所でクロコダイン、お主、吸血鬼化に興味はありんせんか?今なら特別に私が直々に血を吸って…」

「いや、遠慮しておこう。すまんがこの後も色々と足を運ばねばならんのでこれで失礼する。」

 

穏便な断り文句ではあるがクロコダインの内心は「お断りだ。」の一言に尽きる。

 

 

「そうでありんすか…ま、気が向いたなら言いなんし、その際には取り計らいんす。」

 

「…あぁ、ではまたな。」

 

シャルティアの提案に早々に断りを入れてクロコダインは退席しようとするが、当のシャルティア自身は何故クロコダインが足早に去ろうとするのかは理解出来なかった。

 

 

結局の所、邪険にする気こそ無いものの、彼女にとってはどうでも良い事なのだ。

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

「これは…どういう事だ?何が起きている…何故この集落は…」

 

その日、大湿原の上空には新たに再建されつつあったリザードマンの集落を見下ろす一つの影が在った。

ナザリックから派遣されたマッドゴーレムが土壁を築き、大量のスケルトンがリザードマンと共にアインズとクロコダインを讃える建造物の建築や狩りなど、様々な作業を行う傍らで一部のスケルトン達が集落内の警護を行う。

中には反乱なのか多数のスケルトンに対して手にしたハルバードで果敢にも大暴れしている大きなリザードマンの個体も居るが多勢に無勢だろう。

 

「アンデッドに支配されているんだ!?」

 

その誰も彼もが必死に働いている光景は、事情を知らぬ者が端から見た場合、アンデッドの軍勢によってリザードマンが奴隷のように働かされているという風に受け取ってもおかしくは無い光景であった。

奇しくもリグリットから『ぷれいやー』についての情報を仕入れ、ガガーランの代わりにそれをクロコダインに伝えにやって来たイビルアイの眼には眼下の光景は見過ごす事の出来ない状況であった。

 

「クロコダインの仕業とは思えんが…とにかく見て見ぬ振りも出来んか、あの程度ならばやってやれん事も無さそうだ…とにかく情報を集めなければ…」

 

もしこの状況下にクロコダイン、つまりはプレイヤーが関わっているのならば何が何でも情報は集めなければならない。プレイヤーとはこの世界においてある意味、神にすら匹敵する存在なのだから。

だからこそイビルアイはその善性を確かめる為にここにはクロコダインを訪ねて来たのだ。

 

 

 

ナザリックの庇護下にあるリザードマンの集落に今一人の襲撃者が現れるのであった。

 

残念ながら大きな誤解を抱えたまま…

 




デミ「良かったらどうぞ、ナザリック特製ウーロン茶です。」(ウオッカ9、ウイスキー1)
ワニ「…これは俺の知っているウーロン茶じゃない!!」



次話、カフェオレ↑昆布↓まんじゅう↑


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おいでよ人間の村

遅くなりましたごめんなさい。
gジェネやってました。
パソコン(LAN関係)が死んだので携帯からの投稿どぇす。



あの運命の日からリザードマン達の集落にはナザリックの庇護下に入る事で急速な変化がもたらされつつあった。

クロコダインとコキュートスの闘いで荒れ果てた土地は派遣されたナザリックのドルイド系モンスター達の魔法によって元の豊かな湿原へと戻され、倒壊した集落の建物などもスケルトンを中心とした不眠不休の労働力が急ピッチで復興を推し進めていた。

 

「ナザリックの力とは凄まじいな…」

 

「そうだな。しかし、クロコダインが居なければどうなっていたかを改めて考えると本当に恐ろしいな。」

 

統合された集落の再建が進む様子を眺めながら、ザリュースとシャースーリューがしみじみと呟く。岩の塊や森から切り出された丸太などをヒョイヒョイと運んでいくスケルトン達は実際には先日派兵された者達とは違い、高いステータスを誇る戦士である。一体一体が戦闘能力で言えばリザードマンの筆頭である自分達と同等かそれ以上の強さだというのだから恐ろしい話だ。

だが、本当に恐ろしいのはそんな存在をホイホイと派遣するナザリックの存在である。

 

「どりゃああぁぁぁっ!!!」

 

そんな最中、二人の耳に怒号が届く。それは戦闘訓練を行っているゼンベルの声だった。

多数の戦士タイプのスケルトンを相手取り、ゼンベルはハルバードと己の肉体を酷使し続ける。

あの日、彼は戦士としての頂をその目にしてしまった。無論、彼も自分があの域にたどり着けるとは微塵も思ってはいない。

それでもあの日以来、彼の魂が叫ぶのだ。『強くなりたい!!』と…

幸いと言うべきか、アインズはそんなゼンベルに幾らでもスケルトンは倒しても良いと許可を出した…というよりはリザードマン達全体に強くなる事を推奨した。

 

「…ぐはぁっ!」

 

二人が観戦する最中、ゼンベルの拳がスケルトンの頭部を砕くが、同時にそのスケルトンの直剣がゼンベルの脇腹を貫いた。

 

今日の訓練は此処までだろう。そこにいた全員がそう思いザリュースは治療の為にクルシュを呼ぼうと歩き出した。

しかし次の瞬間、その場に残っていたスケルトン達にクリスタルの弾丸が上空から降り注ぎ、突然その身体を粉々に砕いたのだった。

 

「何者だっ!!」

 

何者かの襲撃かと警戒を露わにするシャースーリューの見上げる視線の先には赤い外套を纏った仮面の人間が上空からこちらを見下ろしていた。

ザリュースは突然の襲撃者に対し、素早くダメージを負った状態のゼンベルを庇うように前に出るとフロストペインを構える。

 

しかし、襲撃者からの攻撃は無かった、むしろ…

 

「待て、私にお前達リザードマンと敵対するつもりは無い。クロコダインを訪ねて来たのだが…一体此処で何があった?何だこのお前達を支配している大量のアンデッド共は!」

 

そう言って周囲のアンデッドを一掃したイビルアイは強い警戒を行いながら、ゆっくりと三人の元に降下するのであった。

 

「クロコダインを?」

 

目の前の怪しげな人間に訝しげな視線を送りながらもシャースーリューはある程度の警戒をといた。クロコダインの知り合いであるのならばリザードマン達にとって歓迎しない理由は無いのだから。

だがそれはあくまでもリザードマンにとってであり、ナザリックから派遣された者達にとってはそうでは無い。即座に襲撃者に対応する為大勢のスケルトン達が作業の手を止めて集結してくる。

 

「ちっ、その様子ならば知っているのか?今、奴はどこにいる?」

 

手の平に魔力を集中させ、得意の水晶の魔法で迫り来るスケルトン軍団を一掃しようとしたイビルアイであったが…

 

「…クロコダイントハ、ドウイウカンケイダ…」

「なっ!???」

 

足元から聞こえた不気味な響き…それを声と認識するは一瞬。

ズルリと…イビルアイの足下の影に潜んでいたシャドウデーモンが実体を露わにし、触手がイビルアイの身体にまとわりつくよう、あっという間にその小柄な身体を拘束した。

イビルアイの背中を一気に吹き出した冷たい汗が流れる。完全に探知が出来なかった…それ以前に不意を討たれたとは言え自分を容易く捕らえるような化け物が何故こんな所に潜んでいるのか…

みるみるうちに影に身体を拘束され、自由なのは口元だけ。それはシャドウデーモンからの質問に答えろという意思表示に他ならなかった。

 

「…コタエヨ。」

 

「クッ…誰が…」

 

抵抗を試みるように魔力を絞り出そうとするイビルアイに対し、見かねたザリュースが進み出る。ここで下手に抵抗などされるとどう考えても双方にとって悪い結果が待っているとしか思えないからだ。

 

「待たれよ、イビルアイといったか?クロコダインは我々を救い、現在は偉大なる死の神と友好を結び、その袂であるナザリックにいる。だがそもそも状況で言えばその死の神アインズ・ウール・ゴウン様の眷属を襲ったお前は襲撃者以外の何者でも無いのだ、ここは素直に答える事をお勧めするぞ。」

 

ザリュースの言葉にイビルアイは少し考え込むも、言われてみれば確かに自分の早とちりで攻撃を仕掛けたのだからそこはザリュースの言う通りだと思った。

それに何より自分を拘束するシャドウデーモンと本気でやり合えばただでは済まないだろうし、既にスケルトン達に周囲を囲まれこのままでは殺される可能性が非常に高い…

 

 

「以前に偶然知り合った…あいつが求めていたとある情報を持ってきた。ガガーランの仲間からだと言えば伝わる筈だ。」

 

 

こうして多少のトラブルはあったものの、ナザリックにクロコダインの元にイビルアイが訪ねて来たと言う事がようやく伝わるのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「………という事がありまして、ゴウン様は私たちを救ってくださったのです。」

 

「成る程…すまなかったな、辛い出来事をわざわざ話してくれてありがとう。」

 

クロコダインは現在ルプスレギナと共にカルネ村へと訪れていた。

そこで一連の事件の後で流されるまま、村長となってしまったエンリから彼女とアインズとの邂逅の一幕を村の中を散策しながら聞いていたのだが、クロコダインは想像していた以上にこの世界の殺伐さと人間の愚かしさに苦い思いを抱いていた。

帝国兵を装った法国の者達による虐殺。クロコダインに憤り以外の何を抱けというのか…

 

 

そもそもクロコダインがこの村に訪れたのはナザリックのこれまでの活動をアインズがクロコダインに教えるために紹介した事が起因する。クロコダインとしても、アインズ達と友好を築いている現地住民はガガーランを除いて初めて接する人間としては非常に都合が良かった。

ルプスレギナが供添えというのも彼女が単純にカルネ村担当というだけでなく、獣王と人狼という互いの種族的な相性の良さも織り込んでの事である。

 

「いえ、確かに悲しい出来事でしたが、ネムも無事で今は新しい家族も居ますしルプスレギナさんを始めゴウン様には非常に良くしていただいて居ますから。」

 

そう言って微笑むエンリの側には何名ものゴブリンが付き添っている。

実際このカルネ村は男手こそ数が減ったが、異形の者達の派遣によって以前よりも生活の面で言えば圧倒的に余裕がある。この光景もクロコダインにとってはアインズ達に対しての好印象だった。自らの肩に腰掛け、御満悦のネムが初対面の時から自分を恐れなかったのはアインズがこういった配慮を怠らなかった故だろう。

 

「そうか、ネムもエンリをしっかり助けてやれ。」

「うん。」

「ゴブリン達とも仲良くな。」

「うん。」

 

元気の良いネムの返事に一同の表情に穏やかな笑みが浮かぶ。

そんな彼らの元にカルネ村に転移で到着してからクロコダインの相手をエンリに押し付け何処ぞへと消えて居たルプスレギナがテクテクと近づいてきた。

同時にゴブリン達に緊張が走る。ルプスレギナ、ゴブリン達からは要警戒対象である。

 

「あ、いたいた。クロさんリザードマンの村に派遣してたシャドウデーモンからトラブル発生ってナザリックに連絡があったらしいっすよ。ってネムちゃん良いっすねそこ、アハハハ!」

「でしょでしょ!」

 

クロコダインの肩に腰掛けるネムの姿を見てルプスレギナは可笑しそうに笑う。クロコダインがどういう存在なのか本当の意味で理解して居ない少女を怖いもの知らずだなと思うと可笑しくて仕方がないのだ。

 

「ルプスレギナ、トラブルとはなんだ?」

 

「あぁ、なんでも襲撃者らしいっすよ。小さい女の子らしいっすけど速攻で鎮圧したらしいんすけど、どうもその襲撃者がクロさんの事を知ってて仕掛けてきたらしいっす。なので対処よろしくって事らしいっす。にしても…」

 

「…なんだ?」

 

ルプスレギナのいやらしいじっとりとした視線がネムからエンリへと移り、クロコダインへと注がれる。その口元はニヤリと歪んでいた。

 

「今日の襲撃者といいアウラ様とマーレ様に優しかった事といい、その二人といいもしかしてクロさんってロリコンなんすか?」

 

「ロリ…コン?」

 

エンリとネムの疑問の呟きと同時にクロコダインの剛腕が無言で「プークスクス〜」と笑っているルプスレギナの頭部をむんずと掴んだ。

 

「良いっすか二人共、ロリコンって言うのはっすね。……ぎゃぁぁあっ!!痛っ!痛い!??」

 

「変な言葉を教えようとするな!それと断じて俺はロリコン等では無い‼︎」

 

ルプスレギナの身体が頑強であるからまだ良いものの、人間であれば頭が卵の様に容易く握り潰されているだろう威力のアイアンクローがルプスレギナを襲う。

 

「ハァハァ………なんつー馬鹿力…ユリ姐のお仕置きが可愛く思えるっす…」

 

「全く…少しは反省しろ。」

 

ようやく解放されたルプスレギナがヨヨヨ…と泣き崩れるような体勢でブツブツと愚痴をこぼすがクロコダインに罪悪感は一切ない。何故なら嘘泣きだと分かっているから…クロコダイン、既に何度もルプスレギナによって騙され、からかわれていた。

 

「兎に角、リザードマンの集落でトラブルだったな?確かに心当たりが一つある。俺の予想通りならばかなり重要な情報をそいつが持っているはずだ。俺はこれから集落に向かう事にする、お前はアインズに伝えてくれ。『他のプレイヤーの情報が手に入ったかも知れん。』とな。デルパ!」

 

そこまで言ってクロコダインはガルーダを召喚すると自分を掴ませ、徐々に空へと舞い上がる。

 

あの日、ガガーランと交わした約束通りならばその件の襲撃者とやらは彼女の使いという事だろう…しかし何故?とそこまで考えてクロコダインは自分の間抜けっぷりに心底呆れながら溜め息をこぼした。

 

誰だって村中をアンデッドが彷徨いていれば排除しようとするだろう。クロコダインだってそうする。

 

(何にせよ襲撃者とやらはルプスレギナの話っぷりから生け捕りになっているはずだ。兎に角急いでやらねばガガーランに申し訳が立たんぞ……)

 

 

 

光の尾を引きながら、クロコダインを掴んだガルーダが空を駆けた…

 




ニューロ二スト「わーい、幼女らー^^」
イビルアイ「くっ殺」

次話。クリスマスまでには


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アンデッドに生存フラグを立てるという矛盾

携帯だと非常に執筆がし辛い。

連日連夜の忘年会で私の胃腸はボドボドだ。


あれからシャドウデーモンからの拘束から解放されたイビルアイはザリュースの案内を受けながら集落に新しく建設された神殿へと案内を受けていた。

何を崇め、奉る為の神殿かと問われればそこは二人のプレイヤー、詰まる所アインズとクロコダインの為のものである。肝心の両名はそれを照れ臭いというかむず痒いというか…正直あまり気乗りはしていなかったが、リザードマンとナザリックのシモベ達の双方の強い願いが凄まじい速さで建設を推し進めたのであった。

 

湿地帯のど真ん中に建設されたなど到底思えぬ荘厳な白亜の神殿の内部は床一面がともすれば鏡のように磨かれ光り輝いている。

そこをザリュースに先導されながら大人しく進むイビルアイの目にふと気になる物が映り込んだ。

一枚物の黒曜石で作られた壁面に何やら独特の絵柄で何かが描かれている。視線を先の方に送れば何名ものリザードマンがノミと染料を手に何やら作業を行っている。彼らのその様子は鬼気迫ると言った程に真剣そのものだ。

 

「あれは…?」

 

「壁画ですな。クロコダインとアインズ様の伝説を我等の子孫、さらにその子孫、千年先へと伝える為に。」

 

何処か遠い目で語るザリュースの返答に、イビルアイは彼女の感性ではお世辞にも上手とは言えない独特の壁画をしげしげと眺める。

 

その絵物語の始まりはクロコダインらしき赤いリザードマンが一匹のリザードマンから魚を受け取っている絵から始まっている。

次の絵では大勢のリザードマンの輪の中にクロコダインの姿があった。

さらに次の絵では黒く邪悪な影が天から怯え惑う様子のリザードマンの集落を俯瞰している。そこにクロコダインらしき絵は存在していない。

次の絵では6名のリザードマンが輪になり会談を行っている。中でも目を引くのは白いリザードマンの姿だろう。良く見ればイビルアイの今目の前にいるザリュースらしき姿もある。

次の絵は大勢のリザードマン達が武器を手に、大量の死の軍勢に突撃している絵だった。その先頭には輝く斧を手にしたリザードマンが描かれている。

 

そして、次は…と視線を送ればそこで現在完成している壁画は終わっていた。

 

「なる程…伝説とはこうして作られるのだな。」

 

ザリュースもイビルアイがポツリとこぼした言葉に無言の頷きで同意を示す。

現在も法国で奉られるかつてのプレイヤーかと思われる6大神もこうして現在まで信仰が続いていることを思えば、今自分が目にしている物を1000年先のリザードマン達も眺める事になるのだろうと思うと人よりもはるかに長い時を生きる事になるであろうイビルアイにも感慨深いものがあった。

自分にも国墜としという伝説はあるが、この様に崇められるものではない。

 

そして、案内された神殿の最奥には精巧な作りのクロコダインとアインズの石像が飾られた祭壇があり、そここそがリザードマンの集落とナザリックを繋ぐゲートの出現位置でもあった。

 

ここへ来てイビルアイは話に出て来ていたアインズの威容をついにその目にする事となる。

 

(やはりか…エルダーリッチなのか…?)

 

正直予想は出来ていた。

ザリュースが評した死の神という言葉に、大量の強力なアンデッドを使役する能力、そしてこの様な神殿すら魔法の力で作り上げてしまう様な存在、そんなものが人間などとは想像できなかった。

今でも自分の影に潜んでいるシャドウデーモンも人の尺度で言えば間違いなく邪悪な存在だろう。

だが、そんな理不尽とも言える存在こそがプレイヤーなのだ。

 

そうしてしばらく像を見上げていたイビルアイの耳にふと、ズシリズシリと巨大な何者かの足音が聞こえて来た。イビルアイが半ばその足音の主に予測を抱きながら振り返るとそこにはやはりと言うべきか当然の様にクロコダインの姿があった。

 

「待たせたな、お前が俺を訪ねて来たというガガーランの仲間か?」

 

今は返してもらえている仮面で素顔を覆い、外套で体を隠しているイビルアイを見下ろすクロコダインが彼女に抱いた第一印象は子供ではないか?というものだった。

 

「その通りだ。本人が足を運ぶのは難しくてな…証拠とは言い難いが一応こうしてお前との友好の証も預かっている。」

 

そう言ってイビルアイが懐から取り出したのは、赤い液体で満たされたポーションの小瓶だ。それは紛れもなくクロコダインがガガーランへと送った物であった。

因みにガガーランを始めとした蒼の薔薇のメンバーは現在王都で対八本指の件での活動に従事している。

 

「成る程…イビルアイと言ったか。シャドウデーモンから報告は聞いているがお前が持って来てくれた情報というのはプレイヤーのことに関してという事で間違いないか?」

 

クロコダインの確認に無言で頷いたイビルアイは早速伝えるべき事を伝えようとするがクロコダインがそれを手で制した。

その視線がザリュースの方に向くと事情をなんとなく察したザリュースがその場を離れて行く。去り際に交わされた「悪いな。」「気にするな。」という軽いやり取りが本来ならば、圧倒的力の差が存在するであろう二人、しかしその関係が友として歪なものでない事を表していた。

同時にシャドウデーモンの気配もイビルアイの影から消える。

 

「イビルアイ、悪いがもう一人同席してもらいたい人物がいる。それからでも構わんか?」

 

「…それはもしや死の神アインズ・ウール・ゴウン様とやらか?」

 

イビルアイの脳裏に先ほど目にしたエルダーリッチの石像が過ぎる。

 

「知っているなら話は早い。アインズも俺と同じプレイヤーでな、お前の話を聞きたいらしい。じき、此処に来る手筈だ。」

 

言いながらクロコダインがイビルアイを先導していった先は神殿内の応接室だ。明るく豪奢な作りの上品な室内の様は、とてもここがリザードマンの集落の中とは思えない。その室内の調度品や明かり一つとってもマジックアイテムで構成されている事に内心イビルアイは自分の想定していた以上のプレイヤーの持つ力という物の強大さを改めて感じていた。

 

アインズを待つ間、イビルアイはクロコダインにこの地で何が起きたのかを訪ね、クロコダインはそれを語って聞かせた。同時にナザリックについてもクロコダインの主観で語っても問題がないであろう部分についてはイビルアイに教えておく。今回、運が悪ければイビルアイが殺されていてもおかしくは無い状況だったというのもあるからだ。

 

「…と、来るぞ。」

 

話を切り上げたクロコダインの視線が室内の端へと注がれる、そこには黒い靄の様な空間の歪みが生まれていた。イビルアイは悟る。これがプレイヤーの扱うゲートなのだと。

 

「済まない、お待たせしたかな。」

 

黒い靄を切り裂く様に抜けて姿を現したのは、やはりイビルアイの見た彫像の通り、まさに邪悪の化身と評するに相応しい存在であった。ただ一つ違うと言えばその顔は赤い憤怒の表情を浮かべる仮面に隠されている事だろう。

 

「…また業の深い物を…」

「…あ」

小さく漏らしたクロコダインの呟きにアインズのない筈の心臓が跳ねる。一応来客が吸血鬼とはいえ慎重派な彼にとっては念の為にカルネ村の時と同じ配慮のつもりだったが、そう言えばクロコダインはこの仮面を持つことの真の意味を知っている数少ない存在だ。それを思えば嫉妬のマスクを装備していることそのものが微妙な気分になる。

 

「あ、えっと…初めまして、アインズ・ウール・ゴウン様。王都冒険者ギルド蒼の薔薇のイビルアイと申します。」

 

そんな思考が逸れていたアインズに不慣れな敬語を使い自己紹介をしたイビルアイ。既にクロコダインからその組織としての強大さを聞かされている以上彼女でも流石に無礼な態度は取れなかった。

 

「…うむ、私がアインズ・ウール・ゴウンだ。話は聞いている。なんでもクロコダインにプレイヤーの情報を持って来てくれたそうだな。済まないが私も同席させてもらうが構わないかね?」

 

「はい。」

 

完全に事後承諾の形ではあるがアインズの問い掛けにイビルアイが答える。

 

「アインズ、いい加減その仮面は取れ。イビルアイには既にお前がオーバーロードだと伝えてある。それとイビルアイ、無理に口調を改めんでも良いだろう。ここに居るのは俺達だけだ。」

 

クロコダインのその発言にアインズはブツブツ言いながら仮面を取る。自分としては配慮のつもりだったのに、これでは結果としては自分の非リアっぷりを晒しただけではないかと文句の一つも言いたくなる。

そうしてアインズが骸骨の素顔を晒して見せれば、今度は雰囲気としてイビルアイも仮面を付けたままというのも非常に違和感があるもので…暫く迷った様子を見せながらもどうせ自分が吸血鬼だとは知られている以上、イビルアイはその仮面を外す事にした。

 

「ほぅ…」

 

現地の吸血鬼という稀有な存在に興味を引かれた様子のアインズだったが、冷静になって首を振るう。彼女はクロコダインの客だ …と

 

「それじゃあ、一応言っておくが私もプレイヤーに関してそこまで多くを知っている訳ではない。伝承であったり、人伝の話であったりが殆どだ。それを踏まえて聞いてくれ。」

 

普段の口調に戻ったイビルアイの言葉にアインズとクロコダインは無言で了承の意を示す。二人にとってこの世界のプレイヤーの足跡を知るという事には非常に大きな意味があるのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

イビルアイの語った事の内、いくつかの情報はアインズも既に掴んでいるものも多くあった。

 

法国の祖となった六大神、竜王達と争いを繰り広げた八欲王、人々の伝説に新しい13英雄、これらの他にもゴブリンの王や口だけの賢者等イビルアイの口から語られた話は二人に大きな衝撃を齎した。

特に興味深かったのはプレイヤーの出現が100年毎という規則性をもっているという一つの仮説と現地住民とプレイヤーの子孫である『神人』という存在だろう。

アインズにとってはこの情報は非常に大きい。

何故なら現在この世界に自分の友人達が居なかったとしても、この先の時代現れるプレイヤーの中にアインズ・ウール・ゴウンのメンバーが居ないとは限らない。そして、神人と呼ばれる存在の中にもしかしたら友人の子孫がいるかもしれない…それは砂漠の中の砂の一粒以上の低い確率かもしれない。那由多の果ての奇跡かもしれない…それでもアインズはこの世界に来てから一つ、大きな何かが開けるのを確かに感じていた。

最早狂気にも似たそれはアンデッドの持つ性質、執着故だろう。

 

そして改めて決心する事となる。

 

この世界に、未来永劫『アインズ・ウール・ゴウン』の名を轟かせなければならないと‼︎

 

そんな思いがアインズの中で燃え上がっている中でイビルアイはふと、何かに気がついたかのように語り口を切り替えた。

 

「そういえば、1人…いや、2人か、もしかしたらプレイヤーかもしれない人物がいるな。」

 

その言葉への2人の食いつきは当然大きかった。

 

「何?」

 

「私も会った事はないんだが、エ・ランテルという街に『漆黒』というアダマンタイトの冒険者チームがある。そこの2人、モモンとナーベという男女なのだが異例のスピードで躍進を果たした新人冒険者らしいんだが過去の情報が一切無いそうだ。

冒険者の中にはそういう奴等もいない事も無いんだが、其奴らが活躍し始めた時期とクロコダイン、お前が森に現れた時期は殆ど一緒だ。凄まじい強さだとも噂されているとなればもしかしたらと思ってな…」

 

「成る程、それは気になるな。なぁアインズ。」

 

イビルアイの指摘に深い同意を示したクロコダインであったが、彼はまだモモン=アインズであるとは知らなかった。

 

「アー…ソーデスネー。」

 

 

 

この後、イビルアイは様々な話を二人に聞かせ大量の謝礼を受け取ると丁重に見送られ集落を後にした。

その際、アインズとクロコダインからは蒼の薔薇が困った事があれば見返りとして多少の力になるという約束を取り付ける事になる。

 

この事が後に誰も知る事は無いが大勢の人間の命を救う事となるのだった。




モモンガ「千年王国作らなきゃ(使命感」
クロコダイン「そんな事よりおうどん食べたい。」

イビルアイ「今回のプレイヤーは良いやつっぽくて良かったやで。^^」



次話、「クリスマス↑キャロルが〜↓流れる頃には〜↑(音痴」


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逃げる骨だが面子は立つ。

原作でいうと7巻突入。
6巻を丸々吹っ飛ばすという暴挙ですが、8本指編の辺りで変化少ないしクロコダインはリザードマンの集落でずっっと相撲とかして遊んでたから…しょうがないね。


「オオオオオォォッ!!!!!」

「でぇぇぇいっ!!!!!」

 

ナザリック第六階層の闘技場に二人の戦士が咆哮と共に己の持てる力と技をぶつけ合う。

それを観戦するのは物言わぬ魂なき土くれの人形のみである。しかし、それで良い。出なければ巻き起こる冷気と闘気の余波でいらぬ犠牲が生まれかねないのだから。

 

 

 

既にイビルアイがリザードマンの集落にクロコダインを訪ねて来たあの日からはそれなりの期間が経過した。

クロコダイン自身はリザードマンの集落の復興と管理に奔走していたが、その間にアインズ達は王都で一騒動を起こし、王都に少なく無い犠牲者と多くの救いをもたらしたらしい。

 

らしいと言うのも、クロコダインがそれを知ったのが全てが終わった後で疲れた様子のアインズから直接、王都での騒動の一部始終を聞かされたからであった。

アインズ曰く、始まりは王都に潜伏し、情報の収集などの活動を行なっていたセバスがツアレという不幸な女性を見過ごせず、救った事が発端だった。それは良い事だ。

そして調べれば彼女を苦しめ続けた原因、王都に確かに潜む悪、8本指という組織は王国の一部の貴族とも繋がりを持ち、多くの平民を食い物にし金と暴力と薬物の力で王国の裏の世界を牛耳る、有り体に言えば王都を腐らせる害悪の集団であった。

そんな彼等は愚かにもツアレの件をダシにセバスを強請り、その主人たるアインズにまで集ろうとしたのだが、それが結果としてアインズの耳に届きアインズの「目障りだ、潰せ。」という一言で彼等8本指は一部の利用価値を見出された者以外はいとも容易く、いっそ清々しい程に理不尽な暴力によって物理的に消滅するという憂き目にあったのだ。

 

 

それは良い、因果応報と言えるだろう。

しかし、今回の件にクロコダインの胸中には大きな不満があった。

 

アインズが、より正確に言えば実行計画を立て、指揮を執ったデミウルゴスはこれ幸いとナザリック地下大墳墓の存在を人々から隠す為、王都の物資を強奪する為、架空の魔王『ヤルダバオト』を演じて王都を混乱に陥れた。それも大量の悪魔を召喚するマジックアイテムを王都の中心で使用するという派手な舞台を整えてである…

そんな事をすれば勿論、町中に悪魔型モンスターが大量発生する事になる。そして街を守る為、大勢の兵士や冒険者が戦った。

そして、プレアデスの面々やセバスが騒動に乗じて8本指やそれに連なる貴族達を粛清して廻り、その財とついでに王都の物資等をごっそりナザリックが奪ったそうだ。

 

ちなみにナザリック地下大墳墓の存在とアインズ・ウール・ゴウンを知るイビルアイ。当然今回の件に関してアインズ達の介入を疑っていた彼女であったが、駄目元で先の約束通りアインズに助力を求めた結果、援軍として派遣され陰ながらひっそりと悪魔の排除に協力してくれたプレアデスの面々、アウラとマーレの存在がその疑念を晴らした。

途中、思考の大半が自分の危機を颯爽と救ってくれたモモンへの恋心で埋まってしまったという点も大いにあるが、結果として騒動の全てはかつての八欲王の遺産を偶然にも手に入れた8本指の計画した国家転覆作戦であったとされた。

 

が、クロコダインが気に入らないのはやはり無関係の筈の人間が大勢血を流したという事に尽きる。

 

「ドウシタ、クロコダイン?我ノ相手ヲシナガラ気ヲ逸ラストハラシクナイナ。」

 

グレイトアックスとぶつかり合った断頭牙の強烈な横薙ぎの一撃によって互いの距離が開いた事で、コキュートスはクロコダインに問い掛けた。その声色は不満そうである。

彼にとって闘う相手が自分との戦いに集中出来ていないなど面白い話であるはずが無い。

 

「…すまない。」

 

クロコダインとしても理解はしている。

事実、内密に伝手が構築されていた王国の王女ラナーからは全てを承知した上でアルベドを通じ、アインズには多大な感謝を送られているそうだ。今回の件で王国に巣食う病巣の多くを『極めて少ない犠牲』で排除できたと…蒼の薔薇とも親交が深い彼女の感謝はクロコダインの耳にも届いている。

それにアインズ自身、無辜の人間に極力被害が出ずナザリックにとって最良の選択をしたのだ…それに不満を持つのはクロコダインの個人的な感傷でしか無い。実際クロコダインは明確な悪人を処断する事に異論は無いのだ、この世には煮ても焼いても食えない者が居るというのはよく知っている。

 

「今日ハコレマデダナ。」

 

構えを解いたコキュートスがクロコダインに背中を向ける。

 

「オマエガ何ヲ考エテイルカ、我ニハ判ラヌガ…腑抜ケタオ前ニ勝ッテモ意味ハ無イ…」

 

クロコダインは頰を掻きながら去って行くライバルの背中を見送る。どちらにせよこの胸のモヤモヤは良くない物だ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

ナザリック地下大墳墓、その最奥にして心臓部たる玉座の間は現在静かな興奮に満たされていた。

 

玉座に腰掛けるアインズの視線の先には、悉く頭を垂れて己に忠誠を示すシモベ達。階層守護者を筆頭に仲間達の作ったNPC、そしてその直轄の配下達。一体一体が国すら滅ぼしかねない怪物、それが200を超える数この玉座の間に集って居るのは計らずも実行することとなった王都での大規模作戦の褒賞の席でもあり、又今後のナザリックの行動方針を大々的に配下に周知させるためのものであった。

 

無論、其処にはクロコダインの姿もある。が彼は一人列から外れた位置に直立不動で立って居る。その眼差しはアインズの真意を測る為に真っ直ぐとアインズに向けたまま。

 

「先ずはそれぞれ任務の完遂、ご苦労であった。お前達の働きによってこれまでアインズ・ウール・ゴウンとしても得られたものは決して少なくない。良くやってくれた。」

 

そのアインズの言葉によって配下の全てが歓喜と敬愛の念で震え上がり、それによってアインズ自身も支配者としてのプレッシャーに震え上がりそうになる。

信賞必罰は上司の務め。そうしながらも転移を行ってからこれまで、功を上げた者達に其々褒賞と直々の言葉を与えるとアインズにとっての今回の席で最も大事な話題を切り出した。

 

「それではこれより今後のナザリックの方針を決める。デミウルゴス!」

 

その名を呼ばれアインズの横に立ったのはデミウルゴス、今アインズの両脇にはアルベドとデミウルゴスのナザリック最高の智者が揃った。

 

「アルベド、デミウルゴス二人に命じる。今後のナザリックのとるべき方針を語れ。この場にいる全ての者に周知させる為に。それと他に案のある者は手を挙げることを許す。」

 

今現在、アインズの中の優先順位は『アインズ・ウール・ゴウン』の存続を第一に、続いてその名を世界に響かせる事が続く。

これは延いては他の至高の40人の帰還を信じての方針だ。イビルアイから得た情報の与えた影響は小さくはなく、それはアルベド達も周知している。

その次に他のプレイヤー、つまりはクロコダインの様な存在を自陣に引き入れる事。これは広義の意味ではナザリックの強化とも言えるし自分達にとって脅威となるかもしれない他プレイヤーとの友好的な接触は最大の防御足り得るだろう。

 

「ではデミウルゴスよ、先ずは我々が王都に対して行った作戦の詳細を説明せよ。この場には詳しい話を知らぬ者も居るからな。」

 

主に自分が。等とは思っても間違えても口には出来ない支配者の辛さよ…

 

「はっ!畏まりました。」

 

そして全能たる偉大な主人の前で配下達にデミウルゴスは朗々と語る。それは悪としてのナザリックの存在をどれだけ隠し、どれだけ多くの物資を奪い、どれだけ王国の裏社会を掌握できたかである。

 

「…というわけで、王国の裏社会をはゆっくりと時間をかければ完全に我々が掌握できるというわけだ。無論、強引に今すぐにというのも可能だがね。こうしてアインズ様の主なる目的である世界征服のための足掛かりが整った訳だが、此処までで理解出来ていない愚か者はよもや居ないだろうね。」

 

得意げに、しかし非常に様になる態度で語るデミウルゴス、彼の見下ろす配下、同僚全員の目には理解が宿っていた。

 

そうでないのは…

 

「世界征服…?」

 

主人と…

 

「…デミウルゴス、それは本当にアインズの目的か?」

 

クロコダインだけである。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『世界征服』その言葉にクロコダインはその場から一歩踏み出す様にデミウルゴスに問う。

彼の後ろ、玉座に腰掛けるアインズの表情の無い顔からはその真意は読み取れないが少なくともクロコダインが腹を割って話したアインズ、もとい鈴木悟は少なくともそれを望む様な人間では無いとクロコダインは確信があった。だからこそアンデッド化の影響か非道になろうともクロコダインはナザリックを信じられていたというのに…

世界征服等、まさに魔王の所業では無いか。

 

「勿論です。アインズ様の願いは我らの願い、貴方には分からないでしょうがあの夜アインズ様は確かにそう仰られました。」

 

クロコダインの反応にデミウルゴスはほくそ笑む様にそう切り返す。あの月夜の言葉がある以上、どこまで行ってもデミウルゴス、否、ナザリック全ての配下にとっての正義は其処にあるのだから。

玉座の間に剣呑な雰囲気が満たされる…

デミウルゴスにとってのクロコダインは主人の友人だが結局のところどこまで行ってもカルマ的に相容れぬ他所様でもある。此処でクロコダインがナザリックの方針に意を唱え、敵対の意思表示をしたならば排除に動くべきだと考えた。

幸いこの場には多くの戦力が勢ぞろいして居る。懸念といえば御方の御前である事とこの玉座の間を争いの場にはしたく無いという事だがクロコダインを確実に葬るならば今をおかねば逆に危険だろうとも考えた。

 

クロコダインが武器を抜くか、アインズが一声掛けるか、それだけで此処に集う全ての配下がいつでも飛び出せる…此処は今そんなこの世で最も危険な場所になっていた。

 

そして一方、そんなアインズも面にこそ出てはいないが混乱していた。

 

(世界征服だと?一体どこからそんな話になったんだ!?)

 

そう内心叫びながらも、ふと思い出した。確かにこの世界に転移した日に夜空を見上げた自分はテンションが上がったまま確かに「世界征服というのも面白いかもしれんな。」とキメ顔でそんなドヤった台詞をデミウルゴスに聞かせたかもしれないと…自分の中の厨二心の暴発が今のこの状況なら過去に戻れる魔法があったならば今すぐに使用してあの時の自分の頭を叩きに行きたかった。

 

しかし、今はそんなことを考えて居る場合では無い。アインズから見ても眼前の光景は一触即発である。

 

「ーーー騒々しい、静かにせよ。」

 

なのでアインズは覚悟を決めた。自分で蒔いた種なのだから自分で狩る他ないのだ。でなければ多分、間違いなくクロコダインが死ぬしナザリックの配下にも犠牲が出る。そうなったら最悪以外の何物でも無い。

 

「…デミウルゴスよ、私の何気無い一言をよく覚えていたな、流石だと褒めておこう。」

 

「はっ、恐悦至極に御座います。」

 

「…確かにあの時私は世界征服という言葉を使ったかもしれんが、しかし残念ながらそれは今の私の目指すところでは無い。」

 

アインズの言葉にデミウルゴスのみならず全ての配下に動揺が走る。主人の望みを理解せず曲解していたなど配下の者たちにとってどれ程の失態か。

 

「それではお前にどういう意図があるのか聞かせて貰いたいものだな、アインズ。」

 

そんな中、アインズの真意を真正面から伺えるのはクロコダインを置いて他にはいない。

 

「分かっている…そうだな、さしずめ『世界統治』と言い換えるべきか?私アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に轟かせるという目的は変わっていない…が、私自身が最終的に望むのはカルネ村やリザードマンの集落の様に異形種と人間といったあらゆる種族が垣根を超えた世界だ。この先現れるプレイヤーの可能性も考える必要があるしな。私が先の作戦でなるべく人間を殺すなと言った真意も其処にある。」

 

その場凌ぎのこじ付けではあるがこれはアインズにとっての本音でもある。クロコダインとの接触によってアインズはカルマ値に対して、幸いというべきか等身大の自分の感性を未だに持ったままであった。

日本人の感性で言えば争いなど無く、みんな平和にというのは当然だ。無論、その分敵には容赦のかけらなど無いが…

それはクロコダインも同じであり、そういったアインズの考えに同調する様にクロコダインは納得をアインズに示した。

 

「さて、それではそれを踏まえた上で改めて問おう。アルベド、デミウルゴス今後のナザリックのとるべき方針は何だ?」

 

そしてアインズの言葉に二人は気が付いた。これは方便だと…言葉を変えはしたが本質は変わっていない。リザードマンの集落も庇護の名目だが実質支配下である以上、結局の所クロコダインを納得させただけでナザリックの取るべき行動に一切変化など無いのだ。

 

無論、深読みである。

 

「それでは、僭越ながら…世界を『統治』するに辺りそろそろナザリックの存在を表に出すべきかと。未だシャルティアを洗脳した輩の暗躍がある以上、こちらも裏に潜っていては厄介なことになるかと。」

 

「私も同意見で御座います。そして王国の裏社会という足掛かりを得た以上王国を裏から支配するという手もあるでしょうが、世界を統治するというアインズ様のお考えに沿うならば…」

 

デミウルゴスの意見とアルベドの意見が同調する。つまりはそうすればナザリックにとっての益となる。そのことにアインズは疑いは無い。実際アインズよりも二人は賢いのだから。先程の緊迫した一幕をなんとか乗り切って弛緩したアインズの思考は最早「二人に任せよう。」という投げやりなものだった。

 

 

「私はナザリック地下大墳墓を国として、この地に興す事を提案いたします。」

 

だからこそ厳かに告げられたその提案にアインズの精神安定が発動するのは当然なのであった。

 

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導王国の建国計画が始まろうとしていた。




次回予告
「やめて!アルシェの特殊能力で、あの化け物が隠してたオーラを見たら、タレントの影響でアルシェがゲロ吐いて泣き叫んじゃう!
お願い、死なないでヘッケラン。あんたが今ここで倒れたら、私との約束はどうなっちゃうの? ロバーデイクがまだ残ってる。ここを耐えれば、アルシェを逃がせるんだから!

次回『全員、死す。』デュエルスタンバイ!」


次話、新年開けたら。


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ワニの奇妙な冒険《結婚フラグは砕けない》

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
私はプロポーズしたら断られましたが元気です。
最近星のドラゴンクエストの影響かダイの大冒険の作品の更新があって嬉しい。


アインズ・ウール・ゴウンの国を建国する、遂にナザリック全体がその為に動き始めた。

王国はアルベドがラナー王女を通じ、八本指のコネクションを利用し。帝国にはアインズ、もといモモン自らが赴き帝国の最重鎮であるフールーダ・パラダインに忠誠を誓わせる事に成功していた。

 

 

「……それで、帝国のワーカーをナザリックに派遣させナザリックの防衛力のテストとその他侵入者に対する様々なテストを行うという計画だったか?」

 

自分の執務室の椅子にゆったりと腰掛けたアインズはデミウルゴスが提出し、事前に目を通していた次のナザリックの作戦行動の概要を纏めた書簡にちらりと視線を送る。

 

「はい。如何でしょう?尚、我がナザリックへの侵入等という大罪人を出した点を責め立て、バハルス帝国の皇帝には我々の存在と力を見せつける意味を込めアウラとマーレを帝国に使者として派遣するという事で。」

 

概要はこうだ。

アインズへの忠誠を誓ったフールーダを通じ、皇帝にナザリックへの調査団を派遣する様に誘導する。皇帝は人間の中では優秀らしいのでいきなり大規模派兵などという事はあるまい。

そうしてナザリックへと訪れた冒険者ないしワーカー等を転移以来稼働させていなかったトラップ等の実験に使用するのだ。

 

しかし正直に言えばアインズはこの作戦が気に入らなかった。

メリット自体は理解出来るし実験の必要性は改めて語るまでも無い、それでもアインズの首は縦に振られる事は無かった。

 

「様々なメリットは認めるが却下だな、我がナザリック大墳墓が侵入者の汚い足で踏み荒らされるのは少々不快だ。そして『仮にも』我々が裏で糸を引くというのが良くないな。同様の事を行なった前回の王都の件でクロコダインは無用な人間の犠牲で不満を募らせているからな。」

 

アインズが思い描いたのは友であるクロコダインの事であった。しかし、それにデミウルゴスは恐縮しながらもアインズの真意をどうしても聞かずにはいられなかった。

それはこの作戦の却下の理由では無い。

 

「恐れ多くもアインズ様、アインズ様は何故其処までクロコダインに配慮をなさるのですか? 彼は外部の者であり、時にはナザリックにとって不利益とさえ言える行動さえ行なっております。それが何故?」

 

デミウルゴスの額には珠のような汗が滲んでいた。主人の心を理解出来ないなどどれだけの無能なのかと恐ろしくて堪らないのだ。

そのデミウルゴスの質問にアインズはしばし顎に手を当てると言葉を選ぶ様に考え込む。その時間はデミウルゴスにとって凄まじく長い時間に感じられた。

 

「…まず始めに断っておくが私はお前達に不満等は無い。むしろ私にはもったい無い程の配下だとすら思っている。」

 

「…勿体無い御言葉で御座います。」

 

「その上で言おう。クロコダインは今の私にとって唯一同等の視点を持って『否定』を行える存在だ。ある意味で戒めとも言えるか?お前達はどうしても私の決定には是非もなく肯定をするだろう?」

 

「それは当然かと、アインズ様の御言葉こそがこの世の真理なのですから!」

 

デミウルゴスの言葉は行き過ぎに思えるが、このナザリック地下大墳墓の配下達にとっては何もおかしい事など無いありのままの事実だ。

故にこそクロコダインの事を理解できない。

そして同時にそれこそがアインズにとっての悩みの種でもあった。

 

「デミウルゴスよ、その考えはお前の視野を狭める。私がお前に期待し、望むのはその智謀を持って私を超える事だ。私の言葉を額面のままに受け止め思考を止めるな…話を纏めればそういった意味でクロコダインは私にとって得難い存在なのだ。この意味がわかるな?」

 

「!??なんと勿体無い御言葉を⁈」

 

クロコダインへの嫉妬はある。しかし、アインズのその言葉にデミウルゴスはカミナリに打たれた様な衝撃を受けた。それ程までにアインズが己を買ってくれているなど…宝石の瞳からは歓喜の涙が溢れて止まらない。そして悟った!

 

(アインズ様は先程『仮にも』と仰った。…という事は、あくまでも我々が誘導するという事が不味いという訳で…成る程!?)

 

つまりは牧場の時と同じだ。複雑な兼ね合いを上手く処理するにはアインズが無関係であるという建前が大切なのだ。そしてナザリックへの生贄には自発的に断頭台に登って貰わなければならないのだ。

 

「…それではアインズ様、ナザリック内部の防衛機能に関しては『自然』に侵入者が現れたらという事でよろしいでしょうか?」

 

「うむ、そうだなその時は歓迎してやれ、盛大にな。だが出来得る限りでは様々な調査を事前に慎重に行え。イビルアイ嬢の話では既に廃墟となったギルド拠点すらこの世界には存在するのだからな。ナザリックにもどの様な不具合があるかわかったものでは無い。」

 

「ははぁ!」

 

深く頭を垂れたデミウルゴスは主人の偉大さに感動しながらも悪魔の頭脳を持って思考を高速で回転させるのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほぅ、遂に孕んだか。」

 

「あぁ、結婚もするんだ。しかし俺が親になるというのはなんとも言えない感慨の様なものがある。遂この前までは全く想像していなかった事だからな。」

 

ザリュースは言いながら目の前の生け簀に虫の幼虫と木の実を乾燥させ、混ぜ合わせて粉にした餌を撒き入れながらクロコダインに近況を語る。その中で最たる報告は遂にクルシュが自分の子供を妊娠した事だろう。

自分の兄であるシャースーリューには「これでお前も既婚者の苦労を思い知るのだな。」と揶揄われながらも祝福された。

 

「子供が産まれたらクロコダイン、出来ればお前に名前をつけてもらいたい。」

 

通例部族の子に名前を与えるのは祭司長か族長だ。そしてザリュースの子供はこの統合部族にとっての最初の子供になる。

そうなればシャースーリューかクルシュが名付けるべきなのだろうがやはり其処は是非クロコダインに頼みたいというのがほぼ全員の願いであった。

 

「俺がか?」

 

驚いた様に唸るクロコダイン、パシャリと生け簀から撥ねた生きの良い以前の養殖所の物より立派な魚が再び水面を叩く迄の時間どうしたものかと悩む…

この新たに造られた生け簀はアインズが直々に池を作り、相談やアドバイスはするが基本的に管理工夫は全てリザードマンに一任されている。これはリザードマンの文化的な成長を願っての事でもある。

 

「お前にこそ…」

 

短いザリュースの言葉には言葉にできない様々な思いが乗っていた。憧れ、感謝、親しみ…そんな友人にこそ自分にとっての最大の宝の名付け親になって貰いたい。

ザリュースの言葉に答える様に、真剣な表情で悩み続けていたクロコダインであったがようやく納得出来たのか一つ頷くと重々しく口を開く。

 

「『ディーノ』という名はどうだろうか?俺の故郷で伝説の竜の騎士と太陽の王女の間に産まれた勇者の名だ。無論、名としておかしければ別の名にすれば良いだろう。」

 

照れ臭そうに語りながらクロコダインは太陽を見上げ目を細める。それはまるで太陽に許可を取っているかの様な姿であった。

 

「ディーノ…か、良い名だ!!感謝するぞクロコダイン。」

 

クロコダインの与えた名前に満足そうに笑うザリュース、自分たちにとって神とも英雄とも言える男に貰った名前は産まれてくる我が子の生涯の誉れとなる事だろう。

 

「それで、お前は結婚はしないのか?お前ならばどんなメスも選り取り見取りだろう?」

 

「フ、自分が結婚した途端他人の心配とは、やはり兄弟だな。」

 

ザリュースに結婚はまだか?まだか?と既婚者仲間を増やそうと画策していたシャースーリューとまるで同じだなとクロコダインはザリュースを笑う。

 

「自覚はあるさ。それでもお前に惚れ込んだメスが多くてな、お前が身を固めねば諦めきれず結婚しようとしないメスもいるだろう。」

 

ザリュースは苦笑いしながら撒き餌を撒く。群がる魚群がバシャバシャと水音を立てるがそれはクロコダインの内心の動揺に似ていた。

 

「リザードマンの総数、特に戦士のオスが減ったからな。強い子孫を増やすためにもお前の子を望む声は全体として大きいのだぞ。」

 

一際大きな水音が跳ねる。アインズからもクロコダインは実は言われているのだ…「クロコダインさんの子供ってどういう扱いになるんですかね?」っと…

 

「やめろ、やめろ…俺は結婚は考えていない。それよりもお前たちの祝いだ。久し振りに上流で大物を狩ってくるとしよう。クルシュにも栄養をとらせねばならんからな。」

 

「だろうな、今ならあの時の兄者の気持ちが良く分かる。それと上流に行くならゼンベルにも声をかけてやってくれないか?最近は強くなるために躍起だからな…湖王魚を狩るのは良い刺激だろう。」

 

笑いながら語り合うリザードマン二人、もし仮にこの話の流れのままクロコダインが結婚をした場合、きっとこれ見よがしにそれに便乗する様にアインズはアルベドの怒涛の攻めを受けることとなるだろう。

 

【結婚は人生の墓場】という言葉があるが、墳墓を愛するアインズにとって結婚と言う名の墓場、それは幸せなことなのではなかろうか…

 

 




ワニ「でろりんか…………へろへろだな…」
ザリ「でろりんは嫌だ…でろりんは嫌だ…」

ソリュシャン「へろへろ様の名を頂こうなど…不敬な!(マジギレ)」



次話、新しい靴が足に馴染んだら。


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