死が無き者の鎮魂曲 凍結中 (鴉紋to零)
しおりを挟む

登場人物詳細

多分、少しずつ増えていきます


月盛琥珀(つきもり こはく)

 

<男>

 

1000弱

 

性格

自虐的救済主義

 

容姿

栗色の髪に、目は左目が水晶のような透き通った蒼。右目は優しい葉の色のような翠。軽く垂れ目で優しそうな印象を与える

体つき、顔つき共に中性的で一見すると男性女性どちらにも見える

首の根元辺りに葉の形をした痣がある

 

恩恵

 

失う契約(ロストテスタメント)

何かを対価として失い、何かを得る恩恵

例[記憶を捨てて、○○の恩恵をコピーまたは得るまたは借りる]

なお、己の力で失った物を修復することはできず、対価として差し出すものは己の物である必要がある

また、対価として捧げるものの重さは保持者の思い入れにより決まる

 

 

八百比丘尼

死と言う概念そのものが存在しない珍しい不死身の恩恵

 

八風

同時に八個まで風を操り、身に纏うことによって飛翔したり、付加(エンチャント)させたりすることが可能

 

刧火

過去に持っていた恩恵

伝承としては世界の全てを焼き尽くす焔

しかし、琥珀が持っていたのはそれの一部分に過ぎないので、一般的な炎と大差なかった

 

観測不可能領域魔術(○○○○)

永久破壊

観測不可能領域魔術を白夜叉なりに恩恵としての形を与えたもの

己の渇望の度合いのみで発動可能や、燃料が己の精神のみという本来の永劫破壊とは差異がある

 

観測不可能領域物質(○○○ ○○ ○○○○○○○○)

聖遺物 飛龍 誇り高き帝国空母

 

経歴

元は高い地位を持っていた武士

刀の腕はそこそこだが、薙刀の腕は強いと、本人は言っているが、何れも達人レベルであり、その中でも薙刀は群を抜いている

誰かが危ないと思えば自分の身を投げることを躊躇わない

一人称は「私」二人称は「貴方」または、相手の姓を敬称をつけて呼ぶ

なお、アートのみ例外のようだ

 

 

 

 

ART.123番機体(アート)

 

正式機体名称

 

ART.123番機体

 

性別 女性(?)

 

経過年数:3021年

 

性格

 

機械である為か言いたいことをはっきり言う性格であり、相手を無意味にバカにすることはしない。

 

 

外見

 

身長167㎝、重量は本機の意思次第で変更可能。体の所々に機械らしい点が見られる。頭の側面に機械が出ている。黒髪で、根元から先に向けてだんだん白になっていく。髪型はセミロング。無表情。体の中心部には淡く輝くピンク色の核が有る。眼は琥珀色である。

 

 

恩恵

 

『全真理追求機械群:ART.汎用機体.』

間違いなくART.123番機体が機械であることを示す恩恵。

攻撃などを観測して、観測したものを組み合わせて新しい物を作り出したり、観測したものをそのまま再現したりする。また、壊れそうになれば自動で修復する。防水などは完璧。

 

『心を持つ機械』

???

 

『乙女思考機械』

???

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼の者は独りである

あれですね、fateを混ぜた物は僕には無理ですね……

はい、てなわけで問題児シリーズ四作品目です


独り

 

周りには木々があるのみで、人は見掛けられない

 

その誰もいない森の中、彼は歩みを進める

 

足は止めない、疲労はあってないようなものだから

 

唐突に、獣が現れた

 

熊だ

 

彼の技量ならば、熊一匹軽く殺せるだろう

 

だが、彼は殺さない。寧ろ…………

 

「お食べ、腹が空いているんだろう?」

 

彼は背にある薙刀を音もなく抜き、左腕を落とす

 

血が滴る

 

しかし、彼は死ねない

 

落とした左腕は、霞のように現れた

 

熊に左腕を投げてやると、満足そうに帰っていった

 

彼も彼自身は死ねぬ身であることを知っての行動である

 

だが、痛みが無いわけではないのだ

 

その痛みを彼は顔に出すこともなく、圧し殺す

 

死ねぬ自身が苦しめば、誰かが助かる。なら、私は喜んで苦しもう

 

その精神で、彼は痛みを気にしない

 

歩みを進める

 

たどり着いた場所は、ひっそりとした墓地だった

 

近くの花園から幾つか花を摘み、いける

 

西の地であるそこは木の影があるとは言え蒸し暑い

 

彼は何も言わずに、地道に独りで墓を掃除する

 

落ち葉を掃き、水を流し、木を軽く剪定する

 

落ちる葉の中に、一枚の手紙が混じった

 

彼はその混じり物を()()()()()()()()()()、左膝を曲げ、その手紙を蹴り上げた

 

もう一度浮き上がった手紙は彼の目の前に降り、左手に握る何も入っていない柄杓の中に落ちた

 

「………………?」

 

只の木の葉とは違うという理由で興味が湧き、手に取ったそれがまさか手紙だとは思っていない彼は、少しだけ驚いた

 

(失礼なことをしてしまった……)

 

罪悪感が胸に広がる

 

だがしかし、罪悪感より興味が勝ってしまった

 

彼はこの方、800年ほど文を送られてきていない

 

故に、今時の文がどのようなものかという興味が、罪悪感に勝った

 

本当にこれは彼宛に来たのかと思い、彼はその文の名を見る

 

月盛(つきもり)琥珀(こはく)様』

 

改めて、自分宛のものだと知ると彼は丁寧に、封を解いていく

 

中には一枚のカードとおぼしきものが入っていた

 

淡い水色の瞳で、それを読んでいく

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの゙箱庭゙に来られたし』

 

(はて…………)

 

彼は既に少年と呼ばれるには時を重ねすぎている

 

800年の時を生きてきた彼は疑問符を頭に浮かべる

 

中性的な容姿のせいで、乙女が悩んでいるように見えるが、彼は列記とした男であると、ここは彼のために説いておこう

 

と、その時だった

 

一気に襲い来る浮遊感

 

瞬きの合間に、彼の体は中を舞っていた

 

だが、彼は驚いていなかった

 

しかし、別の意味で焦っていた

 

眼下には、彼と同じく中を舞う三人の子供が見えたのだ

 

危ない

 

自身とて同じ状況なのに、彼は子供達を救うが為、力を使った

 

「風よ!」

 

子供達の体はパラシュートでもついたかのようにふわふわと落ちていった

 

彼は、湖に落下してしまった

 

あの子供達がこれから彼の永遠の友となると知らずに……

 




理と同じ位の頻度で更新します!

多分、きっと、メイビー…………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死が無き彼はその場を治めた

ええと、文章量から察した方もいるかと思いますが

このシリーズは一話一話を長めで行こうかなと思っております

故に、更新スピードは…………これも察してください


(眩しいな…………)

 

彼が目を開けて最初に見たものは、太陽と無限に広がる大空があった

 

彼は体を軽く動かし、節々を確認する

 

死がない身なので別にする必要はないのだろうが、どうにもやっておかないと不信感が残るようだ

 

首、肩、肘、手首…………

 

上から下にかけて順々に行ってゆく

 

丁度全ての節々の確認が終わったときだった

 

「お、気が付いたか?」

 

彼は右側から男の声が聞こえた

声から判断するに、まだ若い者であることは分かった

上半身を起こして、声の主を見る

声の主は齢十六、七といったところだろう

金色の髪に、紫色の目という変わった風貌だったが、見に纏う雰囲気のせいか、別段おかしくは思わなかった

 

「はい……ええと、ここは?」

 

金髪の少年に訪ねたところ、回答は一言

 

「どこぞの大亀の背中じゃないか?」

 

と、冗談を言うような笑顔で答えた

 

金髪の少年はそう回答すると後ろを振り向き、後ろにいた女性二人を見た

 

一人は黒い綺麗な髪を後ろに伸ばし、昭和時代の学校の物とおぼしき服装だった

 

もう一人は短く揃えた茶髪で、夏場に着るであろう薄手の服装だった

 

金髪の少年は、二人を見つつ、時よりこちらを横目で見ながら尋ねた

 

「まず間違いないけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前らにも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは、``オマエ''って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

黒髪の女性、いや、少女は茶髪の少女に訪ねる

 

「………春日部耀。以下同文」

 

素っ気ない態度で茶髪の少女は切り返した

だが、黒髪の少女は気にする様子もなく、今度は金髪の少年に問う

 

「そう、よろしく春日部さん。それじゃあ、野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

高圧的で、物怖じすることもなく、彼女は問う

 

そのような態度も嫌いではないが、初対面の場合はあまりよい印象は受けないだろう

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴そうな逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

ケラケラという効果音が付きそうな笑みを浮かべる逆廻君

 

「そう。取り扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

久遠さんはそう言うと逆廻君から目を背けた

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

反応の仕方が愉快だったようで、楽しそうに逆廻君は笑っていた

 

「それで、私達を助けてくれた貴女は?」

 

…………気のせいだろうか、貴方が貴女になっている気が……

 

「ええと、月盛 琥珀(つきもり こはく)と申します。すみません、私がもう少し上手く風を操作できていれば汚れませんでしたのに……」

 

()()頭を垂れる

 

容姿がどう見ても女である上に、着物を着ているため女に見えるが、()()頭を垂れる

 

「気にしないで。水に叩きつけられるよりは、少し荒っぽかったけど地面に下ろして貰った方がいいもの」

 

久遠さんは柔らかく微笑み、励ます……が、何故だろう、勘違いされている気がしてならない

 

 

 

閑話休題

 

 

何かを特にするでもなく、私はただぼんやりと何かが起きるのを待っていた

 

一応、気配から一匹の獣とおぼしきモノが近くの茂みにいるのは気がついている……が、隠れているようなので気にしないでおこう

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

招待して、この待遇である。言いたいことも理解できる

 

逆廻君は苛々した様子でそう告げた

 

「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」

 

どうやら、苛々していたのは久遠さんも同じなようだ

 

「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

春日部さんが的確なツッコミである

 

「そうですね…………何かこの状況を打破する策でもありますか?」

 

と、私は言いながら、茂みに近寄る

 

薄々気付いてはいるのだ、多分、一般常識を逸脱したものが集まっているのだろうと

 

でなければ、兎の気配を感じさせながら人の気配を感じさせる等できない

 

だが、行動に移す前に逆廻君がこう言った

 

「ーーー仕方がねえな。こうなったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

茂みが動揺を表したように揺れる

 

「なんだ。貴方も気付いてたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだせ?そっちの二人も気付いてたんだろ?」

 

逆廻君の同意を求める声に無論私はyesと答えた

 

そして、春日部さんもだ

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「まあ、一応ですが、はい」

 

気配を読むという行動に、確実な根拠はない

 

故に一応、なのである。もっとも、正解しているであろうと踏んでいるが

 

「………………へぇ?面白いなお前ら」

 

逆廻君はそう告げると、三人は見計らったように揺れた茂みを冷たい目で見る

 

自慢のように聞こえるかもしれないが、私があの風を使っていなければ私を含む四人は湖に着水していた

 

故に、このような目を向けているのだろう

 

だが、不憫に思えてきたので一言告げようと思ったその時

 

「や、やだなあ御三人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいまよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じて、ここは一つ穏便に御話を聞いて頂けたら嬉しいでございますヨ?」

 

「嫌だね」

 

「断る」

 

「却下」

 

「はい。構いませんよ」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪。最後の御方はありがとうございます」

 

バンザーイと降服を示しながら、黒ウサギ?さんは言った

 

だが、心なしか目が違った

 

ふざけているような目ではなく、此方を値踏みするような目だった

 

しかし、その値踏みは唐突に終わりを告げた

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

春日部さんが音もなく黒ウサギさんの横に移動し、直上に伸びるウサギ耳を鷲掴みにしたのだ

 

黒ウサギさんにウサギ耳があることより、音もなく移動したことの方が私は唖然としていた

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか、初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとはいったいどういう了見ですか!?」

 

体を捻り、必死に手を解かせようとする黒ウサギさん

 

「好奇心の為せる業」

 

先程から聞いていた静かな声色とはうってかわって、心なしか弾んでいるように聞こえる声色だった

 

「自由にも程があります!」

 

黒ウサギさんはそう叫ぶと、一瞬だけ痛みを堪え、手を振りきった

 

だが……

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

逆廻君が右耳を

 

「………。じゃあ私も」

 

久遠さんが左耳を掴んだ

 

そして、互いに逆の方へ引く…………前に私は現状を理解した

 

「ちょ、ちょっと待_______!」

 

「二人とも、ストップです」

 

ギリギリ間に合った、危なかったと、心の中で軽く安堵する

 

「幾ら彼女がやったことが不快に思ったとはいえ、それを暴力で返すのは如何なものかと思いますよ」

 

優しく諭すように私は告げた

 

「…………わかった、月盛がそう言うなら」

 

「…………わかった、琥珀さんがそう言うなら」

 

二人は少し不満足そうな顔をして手を離す

 

このままでは良くないだろうか、私は

 

「黒ウサギさん……でいいですよね?」

 

私は黒ウサギの方を向く

 

「は、はい」

 

黒ウサギさんは緊張した面持ちで答えた

 

「先程触るなら構わないと言っていましたが、よろしいんですか?」

 

「ま、まあ、その程度なら大丈夫なのですよ」

 

(ふむ…………確認は取れましたね)

 

「……らしいですが、どうしますか?」

 

「「!!」」

 

二人は今度は優しく黒ウサギさんの耳を触り始めた

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

先程の湖を下り、今は私達は川の浅瀬に移動していた

 

風が心地よい温度で吹き抜ける

 

「先程はありがとうございました!琥珀さん!それではいいですか、御四名様。定例文で言いますよ?さあ、言います!ようこそ、゙箱庭の世界゙へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」

 

黒ウサギさんはハイテンションでそう告げた

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!

既に気づいていらっしゃるでしょうが、御三人様は皆、普通の人間ではございません!

その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。

『ギフトゲーム』はその゙恩恵゙を用いて競いあう為のゲーム。

そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

アメリカンさながらの身ぶり手振りで箱庭をアピールする黒ウサギさん

 

「まず初歩的な質問からしていい?貴方の言ゔ我々゙とは貴方を含めた誰かなの?」

 

久遠さんが右手を肩ほどの高さに上げ、告げる

 

「yes!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある゙コミュニティ゙に属して頂きます♪」

 

「嫌だね」

 

(そ、即答ですか……)

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの゙主催者゙が提示した商品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「……………゙主催者゙って誰?」

 

今度は春日部さんだ

 

「様々ですね。

暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開発するグループもございます。

特徴として、前者は自由参加が多いですが゙主催者゙が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。

しかし、見送りは大きいです。゙主催者゙次第ですが、新たな恩恵を手にすることも夢ではありません。

後者は参加の為にチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべで主催者゙のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者は結構俗物ね……………チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間…………そしてギフト掛け合うことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然ーーご自身の才能も失われるのであしからず」

 

笑顔の内に黒い影を見せる黒ウサギさん

 

挑発的な声色に、挑戦的な声が飛んだ

 

「そう。なら最後に一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

 

「どうぞどうぞ♪」

 

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

「………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

楽しげに驚く黒ウサギさん

 

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。

我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。

ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰します

ーーが、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全くの逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だと言うことですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかじ主催者゙は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

「さて、皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補であふ皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させて頂きたいのですが…………よろしいですか?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

私と同じく清聴していた逆廻君が腰かけていた岩から立ち上がる

 

その声は威圧的な声であった

 

そして、先から見ていた軽薄な笑みはなかった

 

「………………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

身構えるような雰囲気で、黒ウサギさんは答えた

 

()()()()()()()()()()()

 

彼は切り捨てた

 

純粋に、単純に、そんなものはどうでも良いと、彼は切り捨てた

 

「腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのはただ一つ」

 

そう言うと、言葉を区切り、逆廻君は此方を見た

 

そして、空を見上げ、言葉を続かせた

 

「この世界は…………面白いか?」

 

その目は至って真剣だった、笑み一つ浮かべないその表情に、言動に、彼女は……

 

「ーーyes。『ギフトゲーム』は人を超えたもの達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

自信たっぷりな様子でそう答えた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自己紹介といざ箱庭へ

新年、あけましておめでとうございます!!

(一週間近く時間が空きましたが)本年もよろしくお願いします!!

そして、早速すみません!遅れました!!




あの後、下山して箱庭を案内することで話がついた彼等は人が踏み固めた獣道を通って下山している

 

その間、彼は質問責めにあっていたが…………言いたくないとのことなので割合させてほしい

 

流石に女扱いされて喜ぶ性癖など持ち合わせていないとのことだ

 

とまあ、紆余曲折ありながらも下山した彼等一行

 

箱庭に入るための門だろうか、その門の前の階段に一人の少年が座っていた

 

ダボダボのローブを着た緑の髪をした少年に対して、黒ウサギは叫ぶ

 

「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

まるで新しい友達を親類に紹介するような調子で、黒ウサギは軽やかな声で叫んだ

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性三人が?」

 

彼は居たたまれないようにさっと視線を少年からそらし、街路樹とおぼしきものを見た

 

「はいな、こちらの御四名様がーーーー」

 

言いかけて、言葉を止める

 

三人?いいや、記憶違いでなければ四人のはず…………

 

「………え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目付きが悪くて、かなり口が悪くて、全身から゙俺問題児!゙ってオーラを放っている殿方が」

 

感覚で分かってはいる。だが、僅かながらの可能性を信じて黒ウサギは彼等に声をかけた

 

だが、現実は無慈悲なものである

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら゙ちょっと世界の果てを見てくるぜ!゙と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

澄ました顔で、当然のことのように告げる彼女(飛鳥)

 

「な、何で止めてくれなかったんですか!」

 

荒ぶる黒ウサギ。ご立腹なのは誰がどう見ても分かるだろう、しかし……

 

「゙止めてくれるなよ゙と言われたんだもの」

 

彼女は怖いもの知らずなのだろうか?そう思わせるほど澄ました顔をしていた

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

嘆きと怒りを込めて、虚しさと共に黒ウサギは叫ぶ

 

だが……

 

「"黒ウサギには言うなよ"と言われたから」

 

ここにも猛者が居たようだ

 

二人揃って(逆廻)の言葉に従っただけという。しかし、魂胆は直ぐに露見された

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

 

鋭い勘?で、二人の魂胆を見抜く黒ウサギ

 

ここまで清々しく答えられた回答の裏は案外読みやすいもので問題児ということを前提に考えられた推理は無論

 

「「うん」」

 

的中する他ないのであった

 

「あ、あの、黒ウサギ。そちらの方は…………いいの?」

 

場の雰囲気に当てられたのか、気後れしながら少年が控え目に意見を主張する

 

「すみません。私は…………」

 

彼は閉じていた口を開き、言い訳染みているが心なしかの弁明と謝罪をしようとする

 

流石にあんなに質問されたのでは、彼でも気付けなかったのが事実なのだ

 

だが…………現実は思ったように動かない。無慈悲なものであることと同じ法則である

 

「「「琥珀(さん)がそんな事するわけない(のですよ!)」」」

 

声色は三種共々違えど、伝えている内容は同一

 

予想の既知にない返答に、彼は眉を少しばかり上げるという心ばかりの驚きと共に、ちょっとした感動をした

 

そして、先程の驚きなど無かったように苦笑いを浮かべる

 

流石に会って間もないのに信用され過ぎではと、僅かばかりの警戒心を忘却し、特に理由もなくまあいいかと理解した時だった

 

「た、大変です!"世界の果て"にはギフトゲームのため野放しにされてる幻獣が」

 

ジンの常時浮かべるような表情ではないことを察し、春日部耀は問う

 

「幻獣?」

 

興味無さげなように見えるその姿、だが、瞳の奥には炎がついているに違いない

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」

 

尋常じゃないほど焦った様子で、早口で説明するジン

 

だが、二人の反応はいまいちだった

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

事の規模を認識できていないのか、

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」

 

はたまた、逆廻の実力を看破しているのかは定かではない

 

「冗談を言っている場合では……」

 

「二人とも」

 

ジンが発言を言い切る前に、彼は少年の発言を遮った

 

「仲間が危険な状態にあるのに、不吉な発言はよくありませんよ」

 

彼の雰囲気は、怒気が混ざっているわけではない。どちらかというと、父性が混ざっているくらいである

 

それ故に、だろうか、罪悪感と思われる感覚が込み上がってきて、ついつい彼女達は彼から目を逸らした

 

そんな光景を見て落ち着きを取り戻したのか、黒ウサギは憂鬱とも冷静とも判断できる声で自身の行動を伝える

 

「はあ……ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

目配せをしながら、黒ウサギはジンに問う

 

ジンの返答は軽く頷くという簡単なものと

 

そして、一言

 

「分かった。黒ウサギはどうする?」

 

その言葉を聞き、返答を確認した黒ウサギの髪は柔らかな青色から変色していた

 

「問題児を捕まえに参ります。事のついでに_______"箱庭の貴族"と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

怒気と共に髪を鮮やかな緋色に染め上げる

 

夜の暗闇によく栄える色合いの赤だなと、彼は思った

 

 

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能くださいませ!」

 

そう叫ぶと黒ウサギは緋色の髪をたなびかせながら垂直に飛び上がる

 

跳躍の際の衝撃で門柱にひびが入っていたが、彼女は知るよしもないだろう

 

あっ、と彼は声をあげそうになった

 

跳躍の高さについてではない。彼はこの程度見慣れているし、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

なら、その声の意味するところはと言うと、失態への恥と悲哀であった

 

自分も行けば早かったのではないか、そんな考えが少し、脳裏を過った

 

「………。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ。」

 

旋風と言える風から髪を庇っていた飛鳥が呟くように言った

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り、大丈夫だと思うのですが………」

 

飛鳥の空返事が響く

 

自信無さげな発言からも分かる通り、眉をひそめ、心配そうにしているジン

 

そんなジンに飛鳥は正面に向き直る

 

「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」

 

心配していたからであろうか、心ここにあらずと言える様な生返事が最初に聞こえた

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えてるのが」

 

目線で貴女の番だと知らせた彼女

 

「春日部耀」

 

一言だけそう告げるて、彼女は門の方を見た

 

「月盛琥珀です。よろしくお願いしますね、ジン君」

 

彼は軽く低頭して、ジンもそれを真似るように低頭する、そしてまた、それを見ていた彼女達も低頭した

 

彼は誰に対してでも腰を低くする

 

例えそれが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………

 

「さ、それじゃ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

ジンの手を取り、新しい玩具を貰う子供のような笑みを浮かべ飛鳥は入っていった

 

それを見た彼は優しく笑い、春日部と共に中に入っていった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼の言葉

……受験生は辛いよ、です…………バタリ


石造り特有の足音が響く

 

その足音は先程入った四人のもの

 

時よりジャリっと軸足に力を入れながら歩みを進める四人

 

唐突に、光が視界を埋め尽くした

 

太陽の光にそっくりで、それでいて何処か違いを感じるような光

 

目を細めながら彼らは箱庭へと入った

 

「………本当だ。外から見たときは箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

猫が鳴いた後、その鳴き声に返事をするように感嘆の声をもらした春日部

 

(猫と会話が出来るのでしょうか……?)

 

彼は内心不思議に思いながら、今は一応聞かなかったことにする

 

彼からすれば、特に驚くようなことではない

 

何人かそのような異能……この世界においては恩恵(ギフト)と呼ばれる力の所有者は幾人か見てきたからだ

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

ジンが心なしか得意気にそう告げる

 

その告げ事に興味を持ったのは久遠だった

 

「それはなんとも気になる話ね。この都市には吸血鬼でもすんでいるのかしら」

 

まさかいるまいという内心が犇々と伝わるような声色で挑戦的にジンに告げる

 

「え、居ますけど」

 

「………。そう」

 

予想以上にあっさりと間違えた故か、気が抜けたような雰囲気で生返事を返す

 

ここでまた猫が鳴く

 

「うん、そうだね」

 

このやり取りで彼は先程の予想を確信に変えた

 

「あら、何か言った?」

 

感動していたのだろうか、先程より微量に大きい声で返事をしたために久遠に問われる春日部

 

「…………。別に」

 

冷たいという印象を受ける声で淡々と返答をする

 

そんな中、彼はというと……

 

「はい!!おねーさん美人だからこれやるよ!!」

 

「え、えっと……」

 

「いいからいいから!!もらっとけ!!」

 

何故かコロッケを貰っていた

 

始まりは至って簡単なことなのだ

 

この地、箱庭は彼からすれば未知の物が沢山ある未明の地

 

落ち着いた見た目に反して好奇心の強い彼は三人を見失わない程度に距離を取りながら出ている屋台を覗いていた

 

その時、ふと手に取った試食を美味しそうに食べたせいか、上記のようになってしまったのである

 

「そ、それじゃあ……いただきます」

 

ここで更に断るのも無粋だろうと思った彼はそのまま出来立てのコロッケを頬張った

 

肉の味が馬鈴薯ととても相まっていて美味しい

 

店先の暖簾の下で彼はとても美味しそうに食べていた

 

それ故に、か…………

 

やはり売り子のいる店は売れるのかというか………

 

彼にコロッケを渡した肉屋は大繁盛していた

 

やはり、美人の客引き効果は凄まじいようだ

 

彼は一言お礼を伝えようかと思ったが、忙しそうなので止めておいた

 

(さて、そろそろ行きましょうか…………)

 

彼はそのとき、一つのミスをしていた

 

そう、ゆっくり食べ過ぎたのだ

 

新天地で迷子になることは彼にしてみればよくあることなので平時なら気にしないのだが、今回は案内人がいる

 

早歩きで色々な店を見て回り、三人がいないか探す

 

以外にも、三人は早く見つかった

 

というもの、騒動を起こしていたから、だが

 

「お、お言葉ですがレデ「黙りなさい!」」

 

久遠の叫び声を聞き付け、早歩きだった足が更に早く動く

 

心なしか嫌な予感を胸に秘め、彼は地を駆けた

 

「私の話はまだ終わってないわ。貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方はそこに座って私の質問に答え続けなさい!」

 

ヒステリックにも聞こえる久遠の叫び声

 

「お、お客さん!当店で揉め事は控えてくださ」

 

そんなやり取りを制止するがために猫族の店員さんが間に入ろうとした時だった

 

「えっと、騒いでるようですが、何か問題でも起きたのですか?」

 

テラスに入るために備え付けの小さな階段を登りながら彼はそう告げた

 

これを好機と見たのか、久遠は更に続ける

 

「ちょうどいいわ。猫の店員さんと琥珀さんも第三者として聞いて欲しいの。多分、面白いことが聞けるはずよ」

 

自信有りげな顔で久遠は話始める

 

「貴方はこの地域のコミュニティに″両者合意″で勝負を挑み、そして、勝利したと言っていたわ。

だけど、私が聞いたギフトゲームの内容は少し違うの。

コミュニティのゲームとは″主催者″とそれに挑戦する者が様々チップをかけて行う物のはず。

……ねえ、ジン君。コミュニティその物をチップにゲームに参加することはそうそうあることなの?」

 

多分、これは確認であろう。己の理解とこの世界(箱庭)の常識との擦り合わせ

 

「や、やむを得ない場合なら希に。

しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです」

 

そして無論、擦り合わせということはその解答が間違えっている訳もなく

 

一方は頷き、もう一方は同意の言葉で返す

 

「そうよね。訪れたばかりの私達でさえそれくらいわかるもの。

そのコミュニティ同士の戦いに強制力を持つからこそ″主催者権限″を持つ者は魔王として恐れられているはず。

その特権を持たない貴方がどうして強制的にコミュニティを賭けあうような大勝負を続けられるのかしら。()()()()()()()()

 

口調は決してキツいものではない

 

命令しているわけでもなく、拷問しているわけでもない

 

だが、いや、それ故に嫌々ながらも言葉を紡ぐガルドの姿は異常だった

 

「強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供をさらって脅迫すること。これに同時ない場合は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだあと、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」

 

額には青筋を浮かべ、意思としては口を必死につぐもうとしているのにガルドの口からはすらすらと言葉が流れ出た

 

「まあ、そんなところでしょう。

貴方のような小者らしい堅実な手です。

けどそんな違法で吸収した組織が貴方の下で従順に働いてくれるのかしら?」

 

夢にも思わないけどと確信しているような様子で、実際には確信している内容を告げる

 

「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」

 

その時、久遠の眉がピクリと跳ねる

 

同時に、周囲から浴びせる嫌悪感も強くなった

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「……そう。ますます外道ね。それで、その子供達は何処に幽閉されているの?」

 

「もう殺した」

 

その場の空気が凍る

 

動いているのは機械的に情報を吐き出しているガルドと……

 

「……ここから先はあまり気持ちの良いものではないですよ?」

 

瞬時にガルドの隣に移動して、ガルドの口を優しく、そして半ば強制的に閉じさせている彼だけだった

 

「…………でも、聞くわ。口を開けさせて、琥珀さん」

 

思考すること、数秒

 

久遠の決断は早かった

 

だが、彼は心情を見抜いていた

 

(………使命感から来るもの、ですかね)

 

そう、これは只の使命感

 

この様子だと覚悟は出来ていないだろう

 

覚悟が出来ていないと言うことは多分、耐えられまい

 

この刹那の内に覚悟が出来るものの方が少ないのは分かっているが、久遠もその例に漏れなかったようだ

 

「分かりました。ですが、手荒な真似だけはしないでくださいよ?」

 

そう言うと、彼は手を退けた

 

そして続くのは悪魔の戯れ事

 

「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思ったが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降は連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど、身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食」

 

「黙れ!!」

 

彼の予想通り、久遠は全てを聞ききることが出来なかった

 

彼は軽く溜めていた息を吐いた

 

「素晴らしいわ。ここまで絵にかいたような外道とはそうそうであえなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしら………ねえジン君?」

 

芝居がかった動作でジンに確認を取る久遠

 

その芝居の中で、久遠はアイコンタクトで彼に謝罪する

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

 

寧ろ、そんなにいれば録な事にならないと言わんばかりの様だった

 

「そう?それはそれで残念。ーーーーーところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことは出来るかしら?」

 

内心の憤慨を隠すように、そして同時に、この未知を楽しんでいるような顔でジンに話しかける

 

「厳しいです。吸収したコミュニティから人質をとったり、身内の仲間を殺すのは勿論違法ですが………裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」

 

多分、ジンは半ば諦めているのだろう

 

前例を知っているが故に、抜け道を知っているが故に、不可能だと断ずる

 

「そう。なら仕方ないわ」

 

辺りに響くフィンガースナップ

 

お姫様の魔法が解けるように、ガルドの拘束が外される

 

「こ………この小娘がァァァァァァ!!」

 

怒りと共に本性を顕にするガルド

 

口が裂け、服は弾け、毛並みが変わる

 

人によく似た顔付きから、獣とも悪魔とも呼べる獣面へ変化していく

 

「テメェ、どういうつもりかしらねぇが……俺の上に誰がいるか話かってんだろうなぁ!?第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が__」

 

()()()()()。私の話はまだ__」

 

「いいえ、ここで終わりです」

 

場の空気を凍り付かせる、琥珀の一声

 

彼の行った動作は普通に一声告げただけ、しかし、彼特有の威厳が、この場を静寂に包んだ

 

「私は途中からしか聞いていないので多くは言えませんが、とりあえず……」

 

そこで一拍、間が置かれる

 

「ガルドさん、怒りを直ぐに暴力へと変換してはなりません。屈辱的なのは分かります、しかし、その様に暴力で訴え続けるといつか破局します。なので、控えなさい」

 

ガルドの目を見て、彼の性質が悪だろうと善だろうと関係なく告げる

 

悔い改めるべき事を、己の行いの軽率さを

 

そして……

 

「次に久遠さん。貴女は己をもっと大切にしなさい。今の行いは運が悪ければ死んでしまっていたところですよ」

 

ガルドと同じように目を見て、そう告げる

 

「でも、琥珀。ガルドは……」

 

少し機嫌が悪そうな態度で春日部は琥珀に意見する

 

「外道なのでしょう?分かっています。ですが、それ故に塵屑の如く滅べと?悪は正義の御旗のもとで粛清されろと?私はそうは思いません」

 

目を閉じて、一つ、深呼吸する

 

「正義は正義の御旗の元でならば、どんな所業でも赦される。というわけではないでしょう?それと同様です。悪だからと言って、決して生き物(兄弟)であることを忘れてはなりません。何をしても許されるなど、有り得ないのですから」

 

彼はそう締め括ると、静かに席についた

 

「ガルドさん。厚かましい事ではありますが、参考までに自首を進めておきます。少しでも、貴方の罪が軽くなるように、ね」

 

顔を綻ばせながら、彼はそう告げた

 

彼の言葉を聞いたガルドは、小さく頷くと静かに席を立ち、去っていった

 

己の行いの重さを知ったガルドの背に言葉をかけるものはいなかった

 

はてさて、彼はというと……

 

「えっと……とりあえず…………私が来るまでの事の顛末を教えてくれませんか?」

 

少しばかり、天然だった




ぬがぁぁ……宿題がァ、テストがァ、数学がァ……何故私を襲うのだァァ…………

琥珀「まあ、鴉紋は時間と反比例して成績が落ちる人ですからね…………」

ぬぐぅぁ……!!

はい。今回も遅れた理由は勉強です

受験生は忙しいのです。特に出来ない人の場合は、ね…………

次も遅いかも……というか、確実に遅くなるのですが、お気に入り登録や、評価など、宜しくお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

旧き魔王との邂逅

執筆時間が何とか確保できたので、頑張って進めていきます……

誤字脱字があれば御報告のほど、よろしくお願いします


あの後、事の正しい顛末を聞いた彼は、そうですかと告げるだけだった

 

その後、戻ってきた黒ウサギに怒られながら抱き付かれるという物珍しい展開になったのはここだけの話である

 

なお、案の定というか、ジンを含めた問題児三人に対してはご立腹だった

 

そして、今は……

 

「待っ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

ご覧の通り、閉店間近の店から突っ張りを受けていた

 

軽く小走りで走ってきたので、皆それぞれ額が少し汗ばんでいる

 

中々に理不尽、そこにこの対応である

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

腕を組み、憤怒していることを顔に出している久遠

 

「ま、全くです!閉店時間の5分前に客を閉め出すなんて!」

 

言い分はまあ、触れないが、状況が分からないので彼はただ耳を傾けているだけだった

 

「文句があるなら他所へどうぞ。あなた方の今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

暖簾の下で腕を組み、睨みを効かせる店員に黒ウサギは驚きを隠せない

 

「出禁!?これだけで出禁とか」

 

「まあまあ。お互いに食って掛からないで話しましょうよ、ね?」

 

店員と同士の間に割り込み、この場の終わりのないヒートアップを止めるべく口を挟む彼

 

と、唐突に此方に足音が近付いてくる

 

足を地面につける回数からして、子供のものと思われる足音は

 

「いぃぃぃぃやほぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィィ!」

 

盛大な声によってかき消えた

 

空飛ぶ幼女、琥珀の横を光のように通過し、十六夜の鼻先を掠めながら、黒ウサギの胸(目的地)に突貫する

 

この場にいる誰もが知らないことだが、フライングボディーアタックと呼ばれるこの技の完成度は、完璧だったと言えよう

 

何故なら、体格差を諸ともせず、黒ウサギと共に空中で四回転を決め、数メートル後ろの水路に着水するほどだったからだ

 

「きゃあーーーーー………!」

 

軽くドップラー効果を混ぜながら響く黒ウサギの悲鳴

 

この唐突すぎる展開に、慣れている店員以外の四人は目を丸くした

 

「………おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

此方も此方でよく分からない会話をしていた

 

「し、白夜叉様!?どうして貴方がこんな下層に!?」

 

目を白黒させながら、白夜叉と呼ばれた幼女に問いかける

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!フフ、フホフホフホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれここが良いかここが良いか!」

 

…………訂正、幼女ではなく、幼女の皮を被ったおっさん(変態)だった

 

ある種の感動の再開のように、頬すりをする

 

ただ、それを胸にするのは如何なものなのだろうか

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

羞恥により日頃以上の力で白夜叉を引き離し、とりあえず目先の店へ投げられた白夜叉は、キックベースのボールよろしく、蹴り上げられた

 

「おっと……」

 

やっとのことで現実に復帰した琥珀は、白夜叉なる人物の落下点に入り、その体を受け止める

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を蹴り飛ばすとは何様だ!」

 

しっかりと彼の腕の中に収まりながら、十六夜を問い詰める

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「逆廻君。ダメですよ、他人を、まして、初対面の人を蹴り飛ばしては」

 

顰めっ面の琥珀に言われたからか、顔をプイと背ける十六夜だった

 

「貴方はここの人?」

 

琥珀に引き続き、現実に戻ってきた久遠が皆が聞くべき疑問を口にする

 

「おお、そうだとも。この″サウザンドアイズ″の幹部で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育のいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

安定して変態だった。これは死ぬまで治らない類いなのだろう

 

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

もう慣れたのか、冷静で、そして冷ややかに白夜叉に釘を刺す店員の表情は、何処か諦めが入っていた

 

「うう………まさか私まで濡れることになるなんて」

 

「因果応報…………かな」

 

春日部の発言に同意するように鳴く猫

 

このようなカオスな空間で、琥珀はただただ苦笑いを浮かべるだけしかできなかった

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私達の元に来たと言うことは……………遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

さも当然のように暴論を述べている白夜叉は変態故にか、生き生きしていた

 

「それにしても……おんしも中々に良い女じゃのう」

 

「へ?」

 

口元からジュルリと流れ落ちそうな涎を飲み、目を輝かせる白夜叉

 

(ま、また勘違いされてる気がします……)

 

不思議なことに、琥珀からは女性から匂いがちな甘い匂いがしているのだ

 

見た目も合間って勘違いされても仕方がない……

 

「ふふ、大丈夫じゃよ……ちょぉっと、触るだけじゃからのう…………」

 

迫り来る魔の手(変態の手)

 

刹那

 

白夜叉は宙を舞った

 

蹴り上げられた白夜叉はどんどん上昇し、そしてお星様になった

 

「琥珀さんは癒しなのですよ」

 

「手は、出させないわ」

 

「琥珀は私達が守る」

 

カッコいいポーズを決めている三人、その隣でヤハハと笑う少年一人

 

いったい何処の戦隊物なのだろうか

 

彼は苦笑いを浮かべ、流れ星となって帰ってくる白夜叉を待っていた

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

「うう、尻がヒリヒリするわい……」

 

「「「「自業自得です」」」」

 

流れ星となって帰投した白夜叉が蹴り上げられた尻を擦る

 

ちゃっかり店員が混じっているところを見ると、彼女もストレスが溜まっていたのだろう

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

尻を擦りながらなので、威厳もへったくれも無いが、店主らしく客を招き入れようとする白夜叉

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない″ノーネーム″のはず。規定では……」

 

「″ノーネーム″だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任をとる。いいから入れてやれ」

 

渋々、苦虫を噛むような表情で店の扉の前から端に移動する店員

 

五人と一匹はサウザンドアイズへと入っていった

 

彼だけは終始ペコペコしていたが

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

開かれた部屋は部屋主に反して凛とした部屋だった

 

漢字一字で表すなら、静

 

この字が最も相応しい部屋だった

 

「もう一度自己紹介しておこうかの私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている″サウザンドアイズ″幹部の白夜叉だ。

この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

ふふん、と胸を張る白夜叉

 

容姿が相まって背伸びする子供のようだ

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

そんな白夜叉に呆れながら相槌を打つ黒ウサギ

 

「その外門、って何?」

 

その隣で皆が初めて聞く言葉について問う

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部近く、同時に強大な力を持つもの達が住んでいるのです」

 

黒ウサギの手書きの地図を見て、一同。似たようなことを思ったようで

 

「…………超巨大玉ねぎ?」

 

「いえ?超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかと言えばバームクーヘンだ」

 

(年輪に、よく似ていますね…………)

 

一名声には出さなかったが、似たようなことを考えていた四人

 

声に出した三人の感想に、ウサミミを力なく垂らす黒ウサギ

 

逆に、白夜叉は呵々と笑う

 

「ふふ、うまいこと例える。

その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。

更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は″世界の果て″と向かい合う場所になる。

あそこにはコミュニティに所属していないもの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ___その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は黒ウサギの持つ水樹の苗に目を向けて、二、三頷く

 

「して、一対誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

予想の境地に無かったのだろう、オーバーリアクションに見えるほど白夜叉は驚嘆した

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すなら同じ神格を持つか互いの種族によほど崩れたパワーバランスがあるときだけのはず」

 

顎に手を当てて、考えを巡らせる白夜叉

 

と、唐突に黒ウサギがちょっとした疑問を聞く

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知りあいだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の前の話だがの」

 

その言葉を聞いた時、若い三人の目付きが変わった

 

「へえ?じゃあ、お前はあのヘビより強いのか」

 

獲物を前に舌嘗めずりをするように問い掛ける逆廻

 

「ふふん、当然だ。私は東の″階層支配者″だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶものがいない、最強の主催者なのだからの」

 

最強、その言葉が完全に三人の闘志に火をつけた

 

「そう…………ふふ。貴方のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティになると言うことけしら」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ、景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

隙をうかがうように目付きを鋭くして軽く睨みあう両者

 

話を半分ほど聞き流し、ずっと庭に見とれていた琥珀がここに来て初めて雰囲気が良くないことに気付く

 

「え、えっと、三人とも、何をする気なんですか?」

 

困惑しながらキョロキョロと両者の顔を見合う彼

 

「抜け目のない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「は!よくわかってんじゃねぇか」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

彼より後から気付いた黒ウサギが止めに入るが、時既に遅し

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に餓えている」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

両者の表情は笑顔なのだが、その笑みは何処か肉食獣染みていた

 

「ふふ、そうか。ーーーーしかし、ゲームの前に一つ確認しておくことがある」

 

「何だ?」

 

うずうずしている三人をじっと見ながら、覇気を纏った白夜叉は告げる

 

魔王としての頃の、圧を最大限に発揮しながら

 

「おんしらが望むのは″挑戦″か___もしくは″決闘″か?それとも___」

 

旧き魔王の牙が唸る

 

 

 

 

 

 

 

「闘争か?」

 

森羅万象を統べる魔の王が、牙を向けた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サウザンドアイズにて《上》

ぶ、文章量多すぎ…………

てなわけで、上下にしました、はい

来週には下を出せるといいなぁ、といった感じです


「今一度名乗り直し、問おうかの。

私は″白き夜の魔王″ーー太陽と白夜の星霊・白夜叉。

おんしらが望むのは、試練への″挑戦″か?それとも対等な″決闘″か?それか、終わり無き"闘争"か?」

 

絶対なる王者の覇気が四人を圧する

 

「水平に廻る太陽と………そうか、白夜に夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

 

驚愕と納得が織り混ざった複雑な表情を浮かべる逆廻

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が指揮棒を振るうように両の手を広げた

 

刹那、地平線の彼方にかる雲海が裂け、旧約聖書の一説が再現される

 

「これだけ莫大な土地が只のゲーム盤……!?」

 

亀毛兎角。というのだろうか、この光景を一言でいうなら、その言葉に尽きた

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?"挑戦"であるならば、手慰み程度に遊んでやる。__だがしかし"決闘"を望むならば話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか。"闘争"ならば__言うまでもないかのう」

 

「…………っ」

 

勝てない。勝てるわけがない

 

人として、恐怖のある者として、目前の相手の実力を肌で犇々と感じた

 

それでも、己が矜持を曲げるのは、些か気に入らなかった

 

故に……

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。アンタには資格がある。__いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

()()()()()()

 

彼らが彼らなりの矜持を貫いた結果がこの言葉だった

 

上の者から見てみれば、大変面白いもので、哄笑をあげながら白夜叉は告げる

 

「く、くく…………して、他の童達のも同じか?」

 

「…………ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

不満一杯。狩猟目前で獲物に逃げられたような顔で、二人はそう返答する

 

だが、一人だけは……

 

「私は、どちらでも」

 

返答が違った

 

「どちらでも、とな」

 

「はい」

 

そこで彼は言葉を区切る

 

「貴女が望むのなら、挑戦でも、決闘でも、闘争でも、応じましょう。私としては、どれでも構いません」

 

臆することなど元より何もないのだ

 

彼の体は死がない

 

彼の魂はここ(肉体)以外に行き場がない

 

死ぬという事柄そのものから外れた人畜無害な外道

 

それが彼だった

 

覇気がどうした、王威がどうした

 

所詮、そんなものは知れているのだと、一騎当千の彼は本能的に分かっていた

 

「ふふふ…………まあ、私の答えは後程にしておくとするかのう」

 

減少する覇気を前に、息を詰まらせていた黒ウサギが深呼吸をする

 

「も、もう!お互いもう少し相手を選んでください!階級支配者(フロアマスター)に喧嘩を売る新人と、新人の喧嘩を買う階級支配者(フロアマスター)なんて冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのはもう何千年も前の話じゃないですか!」

 

半ギレで叫ぶように告げる黒ウサギ

 

それを聞いた逆廻は訝しんだ声色で問う

 

「何?それじゃあ元・魔王ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

ケラケラと笑いながら告げられた面白くない返答を前に、彼を除いた四人は肩を落とした

 

突然、聴いたこともない咆哮が聞こえた

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

動物だった故か、春日部が最も強い興味を示していた

 

「ふむ……あやつか。おんしらを試すには打ってつけかもしれんの」

 

白夜叉が手招きをすると、その咆哮をあげた獣が此方に空を駆けぬけてやって来た

 

鷲の上半身を持ち、下半身は獅子という幻の獣

 

「グリフォン……嘘、本物!?」

 

予想外の事象を前に、驚きが素直に顔に出ている春日部

 

「フフン。如何にも、あやつこそ鳥の王にして獣の王。"力" "知恵" "勇気"の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

グリフォンは手招きをした主のもとへ向かうと、一礼にて礼を告げる

 

「さて、肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンで"力" "知恵" "勇気"の何れかを比べ合い、背に跨がって湖畔を舞うことが出来ればクリア、という事にしようかの」

 

虚空より現れた羊皮紙にゲームの詳細を綴っていく白夜叉

 

『ギフトゲーム〝鷲獅子の手綱〟

 

・プレイヤー一覧

 ・逆廻十六夜

 ・久遠飛鳥

 ・春日部耀

 ・月盛琥珀

 

・クリア条件

 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う

 

・クリア条件

 〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の何れかでグリフォンに認められる

 

・敗北条件

 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します

                            〝サウザンドアイズ〟印』

 

タイムラグなしで挙手、その動作は一切の迷いがなかった

 

「私がやる」

 

その瞳の奥に写る闘志と羨望が、彼女のやる気が満ち満ちている証だった

 

「大丈夫、問題ない」

 

三毛猫相手に、そう告げる春日部

 

「ふむ。自信があるようだが、コレは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我で済まんが」

 

「大丈夫。問題ない」

 

失敗など、万に一つすらありえない。歩みを進める彼女の背中はそう語っているように思えた

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗すんなよ」

 

「気をつけてね、春日部さん」

 

「頑張ってくださいね、春日部さん」

 

「うん、頑張る」

 

皆皆から送られるエールを受けて、彼女はグリフォンに駆け寄った

 

遠方故にあまり声は聞こえなかったが、一つ大切なフレーズは聞こえた

 

「命を賭けます」

 

真っ直ぐにグリフォンの目を見て放たれた一言

 

「だ、駄目です!」

 

「春日部さん!?本気なの!?」

 

反論の声も多々あるが、それでも、彼女は止めはしない

 

「貴方は誇りを賭ける、私は命を賭ける。もし転落して生きていても私は貴方の晩御飯になります……それじゃ駄目かな?」

 

己の憧憬相手が目の前にあるというのに、何故引く必要があるのかと、言わんばかりだった

 

「双方。下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

「ああ。無粋な事はやめとけ」

 

「そんな問題ではございません!!同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには___」

 

「大丈夫だよ」

 

慌てふためく黒ウサギに、春日部は勝ち気な瞳で語りかける

 

気負いもなく、曇りもない、その瞳を

 

「春日部さん、勝ってきてくださいね」

 

一言だけ、そう告げた琥珀

 

誰よりも安心させてくれる言葉を聞いた春日部は

 

「うん」

 

心なしか笑いながら、グリフォンの背を撫でた

 

頭を下げたグリフォンに跨がって、手綱を握る

 

鷲獅子は翼を三度羽ばたかせたのち、ゲームが、始まった

 

雄雄と空を駆ける鷲獅子の姿に、一同見とれながらも彼女の勝利を願った

 

半分ほど回り、少しばかり苦戦していたようだが、それでも、此方に戻ってきた

 

と思った瞬間だった

 

「春日部さん!?」

 

ゴールインと同時に手綱から手が離れ、落下する春日部の姿を見た久藤が悲鳴にも似た叫び声をあげる

 

「は、離し―――」

 

まさかの展開ゆえに駆け寄ろうとした黒ウサギを止める逆廻

 

「待て!まだ終ってない!」

 

黒ウサギを引き止めながら、逆廻は琥珀のいる方を向く

 

見事な観察眼だ、だが、些か順番が悪かった

 

逆廻の視線の先には、既に琥珀はいなかった

 

音もなく、気配もなく数十メートルを一瞬で移動した彼に逆廻の背に戦慄が走った

 

琥珀は既に春日部の落下点に到着しているのだ、それでいて、受け止める体勢が整っている

 

だが、結論から言うと彼の行動は不要だったようだ

 

「なっ…………」

 

彼を除くその場にいた全員が、春日部の取った行動に驚きを隠せなかった

 

ふわり、ふわりと、階段を一段ずつ降りるように春日部は空を歩いてきた

 

その姿は、先程見た鷲獅子の疾走と酷似していた

 

「やっぱりな、お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

春日部の着地の足音に、意識が現実に帰ってきた逆廻が軽薄そうな笑みを浮かべて問う

 

「……違う、これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

 

小首を傾げて問い返す春日部

 

「ただの推測。お前、黒ウサギと出会ったときに"風上に立たれたら分かる"とか言ってたろ。

そんな芸当はただの人間には出来ない。

だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか…………と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。

あの速度で耐えられる生物は地球上に存在しないだろうし?」

 

逆廻の新しい玩具を見付けたかのような視線にそっぽを向く春日部

 

「お疲れさまでした、春日部さん」

 

音もなく、気配だけを感じさせながら彼は己の羽織を着せ、労いの言葉をかける

 

「ありがと、琥珀」

 

春日部は顔を少しだけ綻ばせながら、琥珀に礼を告げた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サウザンドアイズにて《下》

半分寝ながら書いたので、誤字とかあれば教えてください…………

眠気が……俺を襲う……ガクッ


「いやはや大したものだ、このゲームはおんしの勝利だの。………ところで、おんしの持つギフトだがそれは先天性か?」

 

その後、三毛猫とグリフォンに話し掛けられていた途中、拍手の音と共に白夜叉が歩み寄ってきた

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになったの」

 

「木彫り?」

 

首を傾げる白夜叉に三毛猫が多分説明する

 

「ほほう……彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

春日部は頷き、首に下げていた手の平大の丸いペンダントを手渡す

 

見ていて顔をしかめた白夜叉を見て、逆廻と久藤は両端から、琥珀は春日部から木彫りが見えるようにしながら正面にて、その木彫りを観察し、考察する

 

「複雑な模様ね、なにか意味があるの?」

 

「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」

 

久藤の問いに頭を振って否定の意を示す春日部

 

「……。これは」

 

後から見に来た黒ウサギが思考しながらゆっくりと分かったことを述べていく

 

「素材は楠の神木…?神格は残っていないようですが……この中心を目指す幾何学線……そして中心に円状の空白……もしかしてお父様のお知り合いには生物学者がおられるのでは?」

 

「うん、私の母さんがそうだった」

 

春日部は特に驚いた様子もなく、淡々と答える

 

「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表してるのか白夜叉?」

 

逆廻の問いに、白夜叉は半ば生返事で返す

 

数多の芸術品を見た白夜叉からしても、鑑定には時間がかかるようだ

 

「おそらくの…ならこの図形はこうで……この円状が収束するのは…いや、これは…これは、凄い!

本当に凄いぞ娘!!

本当に人造ならばおんしの父親は神代の大天才だ!

まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!

正真正銘〝生命の目録"と称して過言ではない名品だ!」

 

序破急のように段々と加速していく白夜叉の説明

 

興奮を抑えきれずに声を上げる白夜叉に対して、不思議そうに聞く

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ?

でも母さんの作った系統樹はもっと樹の形をしていたと思うけど」

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスがなす業よ。

この木彫りを態々円状にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。

再生と滅び、輪廻を繰り返す生命を遂げて進む円の中心、即ち世界の中心を目指して進む様子を表現している。

中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、生命の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品が未完成の作品だからか__うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されるぞ!

実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

興奮した様子で交渉に移ろうとした白夜叉。だがしかし、現実は無情なようで

 

「ダメ」

 

話し合うかいなく拒否された

 

目に見えて落ち込む白夜叉を苦笑いであやすように頭を撫でる琥珀

 

彼の性格的に、どうしても子供が悲しんでいるのは見過ごせなかったのだろう

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

逆廻が片方の眉を上げて問う

 

「それは分からん。

今分かっとるのは異種族と会話ができるのと、友になった種から特有のギフトを貰えることぐらいだ。

これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士…それも上層に住むものでなければ鑑定は不可能だろう」

 

本来なら、威厳の有る図なのだろうが、容姿と状態で台無しだった

 

「え?白夜叉様でも鑑定出来ないのですか?今日は鑑定をお願いしたかったのですが」

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

参ったなぁ……と言わんばかりに後頭部をかきながらそう告げる白夜叉

 

暫くして、意を決したのか美麗な白髪をかきあげ、逆廻から順に一人一人の顔をじっくりと覗き込んでいく

 

「どれ……ふむふむ……4人とも素質が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度把握しておるのじゃ?」

 

水のように流れる質問

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「少しは分かりますが……なんとも」

 

三つの岩に連続で塞き止められた

 

最後が緩やかな流れだったのが幸いだろうか

 

「うおおおおい?いやまあ、仮に対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに」

 

まさかの事態に奇妙な声を上げる白夜叉に対して、逆廻は拒絶する声色で告げる

 

「別に鑑定なんていらねぇよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

弱ったなぁ、と言わんばかりに深く考える白夜叉

 

そして、妙案でも浮かんだのだろうか、ニヤリと笑う

 

「ふむ。何にせよ″主催者″として、星霊の端くれとして、試練と決闘をクリアしたおんしらには″恩恵″を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉が柏手を打つと、不思議なことに四人の前に一枚のカードが現れた

 

 

 

 

コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム

正体不明(コードアンノウン)

 

 

 

ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム

″威光″

 

 

 

パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム

生命の目録(ゲノムツリー)″ ″ノーフォーマー″

 

 

 

そして__

 

 

 

翡翠色のカードに月盛琥珀・ギフトネーム

"失う契約者(ロストテスタメント)" "八百比丘尼" "八風" "劫火"

"観測不可能領域魔術(○○○○)"

"観測不可能領域物質(○○○ ○○ ○○○○○○○○)"

 

 

 

 

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「ギフトカード……ですか?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息があってるのです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードなのですよ!耀さんの″生命の目録″だって収納可能で、それも好きなときに顕現できるのですよ!」

 

マシンガンのようにツッコミと解説を行う黒ウサギ

 

その内、聖徳太子のように十人からのボケをツッコミ出きるようになるのか、見物である

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

一言で纏められてしまった。黒ウサギからすれば悲しい一言である

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

自棄っぱちで叫ぶ黒ウサギ

 

問題児相手ではなかったら、とても助かる説明だった、現に琥珀はマジマジとカードを見詰めていた

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、お主らは″ノーネーム″だからの。少々味気ない絵に成っているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

「ふぅん……………もしかして水樹って奴も収納できるのか?」

 

そう言うと、逆廻がカードを水樹の方へと向ける

 

すると、水樹は光の粒子となってカードに取り込まれた

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

物珍しい物を見た逆廻はふとした疑問を告げる

 

「出せるとも試すか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティの為に使って下さい!」

 

逆廻のことを信頼はしているが、信用はできない黒ウサギの心中穏やかではないようだ

 

「そのギフトカードは、正式名称を″ラプラスの紙片″、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった″恩恵″の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

スゴいだろう?と言わんばかりのドヤ顔で告げる白夜叉

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ」

 

全知の一端であるラプラスの紙片にレアケースも何もない。いや、それ以前にまだ召喚されて一日も経っていない異世界の人物がレアケースであるかどうかなど知るよしもないだろう

 

逆廻はその程度の事は分かっている筈だ、故に、気になった

 

逆廻のギフトカードを覗き込んだ白夜叉の顔が驚愕に染まる

 

「…………………いや、そんな馬鹿な」

 

パッと逆廻の手からカードを取り上げ、じっくりと念入りにカードを見る白夜叉

 

正体不明(コード・アンノウン)だと……………?

いいやありえん、全知である″ラプラスの紙片″がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方が有り難いさ」

 

そう言うと、今度は逆廻がカードを取り上げた

 

白夜叉はそれでもなお、下を向いて考え込んでいる

 

と、唐突に彼が白夜叉の肩を叩いた

 

「えっと…………白夜叉さん。少し、聞いてもいいですか?」

 

彼は軽く中腰になり、白夜叉にもカードが見えるようにする

 

その光景はまるで親子のようだったが、それを指摘するような者はいないだろう

 

「む?なんじゃ、琥珀よ?」

 

内心の焦りを悟られぬよう、平静を装いながら質問を薦める白夜叉

 

「この観測不可能領域魔術と、観測不可能領域物質って……」

 

「何ッ!?」

 

流石にこれはあり得なかった

 

普通では有り得ない。起きるはずのない異常事態(イレギュラー)

 

そんなばかな、嘘だ、あり得ない

 

先程の逆廻の展開とは訳が違う

 

これでは説明がつかない

 

何故、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………琥珀、後程少し二人で話したいことがあるので残ってもらえぬか?」

 

事情を聴かねばならないと思った。流石に、異常過ぎた

 

「分かりました」

 

そんな白夜叉の動揺を悟り、優しい笑みで肯定の意を示す琥珀

 

そして、暫く寛いだ五人と一匹は店先に移動する

 

「あれ?琥珀は行かないの?」

 

皆が部屋から出ていく中、一人正座で座ったままの琥珀に、春日部が問いを投げる

 

「すみません。少し白夜叉さんとお話があるので……皆さんは、先に行っていて下さい。後から追い駆けます」

 

穏和な笑みを浮かべながら彼はそう告げた

 

「分かった。なるべく早く来てね」

 

春日部は一部の者しか分からない程度の表情の変化を顕にしながら、部屋を去った

 

その後ろ姿を見て、出来れば端的に話を終わらせようと決心する琥珀だった

 

「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!」

 

元気なツッコミが店に響く

 

この声の主は黒ウサギさんだろうと、琥珀は頬を緩めながら察した

 

四人と一匹の気配が離れていった後、白夜叉が戻ってきた

 

「さて…………琥珀よ、お前は何者だ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

流石、元魔王で、三桁に本拠を構える者である。容赦がない

 

「私としては、人間、としか言えません」

 

眉をあげて微かに驚いた琥珀ではあるが、直ぐに解を返す

 

「ふむ…………ならば、その観測不可能領域魔術とやらに心当たりはあるか?」

 

嘘を言っていないと判断した白夜叉は質問を続ける

 

「あるには、あります…………昔、少し変わった人から何かしらの魔法のようなものをかけられました」

 

ふと、脳裏にその時の情景が思い浮かぶ

 

確かあれは……そう、この体が不死身になった時だっただろうか

 

一言で現すならば、影法師

 

その一言が相応しい人だった

 

過去の思い出を懐かしみながら、更に情報を開示する

 

「観測不可能領域物質というのは多分、これではないかと思います」

 

肩にかけていた袋を剥ぎ、鞘に納められた一振りの薙刀を晒す

 

無論、抜き身ではないので刀身は見えないが、一目見ただけで銘作と分かる代物ではあった

 

「ふむ…………」

 

琥珀から薙刀を受け取り、多角的に見る白夜叉

 

「して、琥珀よ。その魔術の効果は分かるか?」

 

白夜叉は丁寧に薙刀を返すと、今度は魔術のことについて問いを投げる

 

「えっと…………」

 

一般的な常識と照らし合わせて答えを求める

 

何せ、影法師の人物と出逢ったのは百年も前のことだ、記憶が薄れていても仕方あるまい

 

「魂の貯蔵、貯蔵した魂の量と質に比例した身体能力の向上、後は……己の渇望による強さを得られる。だったと思います」

 

自信なさげな様子でそう答える琥珀

 

「うむ……分かった。琥珀よ、少し手を貸してくれんかの?」

 

小さな右手をこちらにつき出して、彼が重ねるのを待つ白夜叉

 

彼はその行いの意味を計りかねながらも、その小さな右手を己の両の手で覆う

 

そして……

 

「…………これでよいじゃろ」

 

淡い光に包まれた右手を眺める琥珀に、白夜叉はギフトカードを確認するように言った

 

「この恩恵は……」

 

観測不可能領域魔術が、永久破壊に

 

観測不可能領域物質が、聖遺物 誇り高き皇国空母 飛龍となっていた

 

唐突な変化に目を白黒させていると、白夜叉はハニカミながら告げる

 

「まあ、私からの依頼の前金だとでも思ってくれれば良いよ」

 

「依頼、ですか。なんでしょう?」

 

小さく首を傾げながら、これから頼まれるであろう依頼の内容に耳を傾ける

 

「ノーネームの皆を守ってやってくれぬか?黒ウサギも含めて、まだまだ若いのばかりだからのぅ」

 

その瞳には、子供の成長を見守る親のような雰囲気を感じた

 

それ故に……

 

「……分かりました。必ずや、守りましょう」

 

彼はここに誓った

 

必ず、誰も死なせないと

 

同士も含めて、必ずや()()()()()()()()()()

 

その言葉は、誓いなのか、それとも渇望なのか…………それを知るものは、いなかった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と機械と押し売りと

今回はオリジナル回です


彼はサウザンドアイズを出るときに貰った地図を片手にノーネームへ向かっていた

 

夕日に背中を押されながら、地図とにらめっこをしながら小走りになる琥珀

 

そんな時だった

 

ふと、回りを見るために首を上げた、その時、視界の隅に微かに人影が写った

 

ボロボロで、解れが酷いローブを身に纏った少女が、倒れ込むように奥の道の先へと消える

 

その光景を見て、どうしても彼は気になってしまった

 

何故、路地裏(こんな場所)にいるのか

 

何故、衣服がボロボロなのか

 

疑問点を上げればキリがないほど、彼はその少女に興味が湧いた

 

それと同時に、心配になった

 

身成は置いておくとして、あの動き方は異常である

 

補助器具が無いあたり、特別足が悪いと言うことでもあるまい

 

考察を考えているうちに、不安が募ってきた彼は、その少女の行く先を追う

 

件の少女は直ぐに見付かった

 

と言っても、曲がり角を曲がり、三歩進んだ先で壁にもたれ掛かった状態で休んでいたからである

 

その少女の淡藤色の髪が、琥珀の到来を告げるように少しだけ揺れる

 

「大丈夫ですか?」

 

あやすように、宥めるように、微笑を浮かべた彼は右手を差し出す

 

少女はその手を一瞥すると、ゆっくりと言葉を紡ぐ

 

「すい、ません……大丈夫で、す…………」

 

強がりなのか、はたまた、他者との触れ合いを恐れているのか、その言葉には、拒絶の言霊が含まれていた

 

だが、そんなことでこの愚者(琥珀)の行動が止まるわけがなく

 

「ですが……」

 

彼はやはり食い付く

 

彼は強情故に命を落とした者を多く見た

 

恐れ故に、自ら死を迎え入れる者を幾度も見た

 

故に、その程度では()()()()()()()

 

彼の庇護欲はその程度では止まらないのだ

 

「あなたは、優しいのです、ね。こんな、私にも、声をかけて、くださるなんて…………」

 

弱々しく紡がれる言の葉

 

その言葉が響くほど、彼の欲は増していく

 

何故、このような事になっているのか

 

何故、そんな服装をしているのか

 

疑問はあった。だが、今は聞くときではないと理性が本能を阻む

 

「一般的には、そこまでボロボロの人を見て、放っておく方が変ですよ」

 

安心させるような笑みを浮かべ、彼は言葉を返す

 

「歩けますか?」

 

あまり長くここにいるのは良くない

 

裏路地は人の目に付きにくい、そして、眼前の少女は不明だが、彼は名無しだ

 

そう思っての行動だろう

 

警戒心を抱かせないような笑みを浮かべ、彼女に手を差し出す

 

その行いに対しての返答は些か、予想の範囲を越えていた

 

「ありがとう、ございます・・・でも、私が触れると、呪われる、そうなので・・・」

 

一瞬、彼は目を丸くした

 

平安時代の、呪いの全盛期を聞いた事がある彼は、一瞬本気でそんな呪いがあったのかと考える

 

しかし、数秒後、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

翌々考えれば、呪いなんて幾つも受けているし、体内で封印している

 

今更一つ二つ増えたところで知れている

 

毒を食らわば皿まで、この言葉をその身で体現していたのであった

 

「気にしないでください。呪いなら、慣れてますよ」

 

己の返答の可笑しさに苦笑い半分、笑み半分で答えを返す

 

「で、でもかかってもいいものじゃ、ありませんし…………」

 

まだ食い下がる少女

 

普通ならここで断るのが一般的だが、彼は引かなかった

 

「そうですか?私は気にしませんよ」

 

優しげな笑みを浮かべ、柔らかく目を細めながら、彼は言葉を続ける

 

「呪いも祝福も、元を正せば似たようなものですからね」

 

その人に悪意有って与えるのか、はたまた、善意有って与えるのか

 

悪く言えば呪いであるし、良く言えば祝福だ

 

呪いなんて、所詮、そのようなものでしかないのだ

 

彼は少女の手を取り、ゆっくりと歩幅を合わせて歩く

 

「あ、ありがとう、ございます・・・」

大通りの噴水広場に出ると、少女は

 

「あ、ありがとうございます・・・もう、大丈夫ですから…………」

 

と告げた

 

まだ足取りが覚束無い節があるが、本人がこう言っているのだから、良いだろう

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

ゆっくりとベンチに腰掛けさせながら、彼は最終確認を取る

 

そして、何とか元気が湧いてきたのか、少女は少しだけ力強く返事を返した

 

「はい」

それだけ回復したのならもう大丈夫だろう

 

そう判断した彼は言葉を返す

 

「そうですか……分かりました。それでは、私は行きますね」

 

彼はまた地図を取り出して、行くべき方向を確認する

 

噴水広場という特徴的な建造物のお陰で直ぐにどちらに行くか分かったようで、直ぐに地図をしまった

 

行くべき方向に体を向けたとき、一言少女に言おうと思っていたことを忘れていた

 

「体を大事にしてくださいね」

 

流石に彼も、己の探知範囲外で少女の身に何かあったとしても駆け付けるのは困難を極めるのだ

 

社交辞令も含めて、心の底からその言葉を送った

 

「はい、ありが、とうございます・・・」

 

額に玉汗を浮かべながら、少女は礼を述べる

 

どういたしまして、と笑いながら返した彼は帰路を歩んでいく

 

彼の背中を目で追い掛けながら、少女はふと、こんなことを思った

 

(いい、人だったな。こんな、私に親密にしてくれるだなんて・・・でも、もう会うこときっと・・・)

 

悲観的な観測をする少女

 

そよ風の一陣が広場を駆ける

 

その時、少女が纏っているボロボロのローブの隙間から、ペルセウスの旗が描かれたギフトカードが顔を覗かせていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大通りを抜け、脇道を通り、また大通りへ

 

右に左に歩き回って彼はノーネームの元へ向かう

 

ふと、空を見上げたときに、己が助けた少女のことを思い出した

 

「あの人、大丈夫でしょうか…………」

 

何せ服装がボロボロで、容姿が整っているとなると、痴漢に遭う可能性がある

 

見たところ撃退できるほどの体術が使えるわけでもなさげだった

 

人通りが多いので問題ないとは思うが、それでも心配なものは心配である

 

「ちょっと、そこのお兄さん!」

 

と、唐突に彼は呼び止められた

 

回りを見回し、青年と呼ばれそうなのは彼だけなのかを調べる

 

運良く、なのかは分からないが、回りは比較的女性が多かった故に、彼は己のことではないのかという確信が持てた

 

「私ですか?」

 

声の主の方へ体を向ける

 

声の主はパステルカラーの髪を揺らしながら、ニコニコと笑みを浮かべている

 

胸につけた名札には喜未と書かれていた

 

身長は……目測、150cmといったところだろう

 

「そうそう!ちょっとイケメンの貴方だよ!」

 

常に笑顔を浮かべ、世辞を言う辺り、なかなかこの仕事をして長いのだろう

 

彼は微笑を交えながら返す

 

「イケメンではないですが…………何ですか?」

 

と、次の瞬間、彼女は友人同士で会話しているようなトーンで話し始める

 

「いやね?ちょっと困ったことがあってさー」

 

参ったなぁ、困ったなぁ、と雰囲気的に告げつつ、言葉を続ける

 

「はぁ……」

 

困っているとあれば、無視もできまい。と言うのが彼の心情だった

 

「ちょっとこれをみて欲しいんだけどさ」

 

ゴソゴソと露店の布の上に取り出したのは立方体の箱という表現が適正なものであった

 

何だろうと思い、立方体をじっくりと見つめる

 

全体的に配色は白色で、時より、淡い黄色のひかりを発光させている

 

眺めているうちにも説明は続いているようで

 

「いやね?これを前の発掘の時に手に入れたのはいいんだけどさ、起動してくれないんだよね」

 

稼働中っぽいんだけどね~と、軽く立方体を叩く

 

彼としては

 

「そうなんですか……」

 

としか言えなかった

 

「そこで、あなたにこれを引き取って欲しいんですよ!ああ、もちろん値段は入りませんよ。こちらから頼んでるんですから」

 

ズイズイと、顔をこちらに寄せてくる

 

彼は上体を軽く反らせながら、この展開に対しての本音を述べた

 

「え、ええと……それって、押し付けてるだけなのでは…………?」

 

その言葉を聞くと一転、パッと離れると彼女は宥めるように告げる

 

「まあまあ。私の眼と耳はちょっと特別でね…………道具の意思的なのか見えたり聞こえたりするんだけどもね」

 

一拍置いて、同情を誘うように彼女は続ける

 

「これがあなたをみた時からずっと叫んでるだよ。あなたのとこに行きたい、って…………」

 

彼女はまるでマッチ売りの少女のように、淡い思いを秘めた女の子のように続ける

 

「だから、どうかな?人助けならぬ道具助けをするつもり、ない?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ここで、断ってもよかったが、如何せん、それには興味があった

 

機械弄りなど趣味でもないし、好きでもないが、何処か惹かれる物があった

 

なので

 

「分かりました。引き取りましょう」

 

詐欺上等、押し売り上等、真っ向から貰った

 

「毎度あり!いやー、この子も喜ぶよ」

 

彼がギフトカードに例の物を入れている隣で、ゴソゴソとここからが仕事のように売り物を広げる

 

「んで、どうする?店の中も見ていく?」

 

自信ありげな笑みを浮かべ、後ろに置いていたであろう算盤で肩を叩く

 

「ええと、そろそろ帰らないと同士が心配するので」

 

彼はすまなさそうに軽く頭を下げる

 

事実、色々なことをしすぎてそろそろ夕日が落ちそうなのだ。悠長にしすぎたツケが回ってきていた

 

「あ、そっか。ごめんね?引き止めちゃって。それじゃ、ありがとうございましたー!」

 

笑顔で見送られるなか、彼は帰路を歩みだした

 

この出会いが、全ての始まりであると知らずに



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全真理追求機械群 ART.凡用機体《上》

はい、またオリジナルです

あれですね、一時間で大量に書くのは骨が折れますね


日が沈む、墜ちていく

 

地平線の果てに消えていく

 

燃え落ちるとは、このようなものなのだろうか

 

そんな言葉がふと脳裏を過る

 

そうこうしている内に、彼は地図上のノーネームの本拠地についたようだ

 

額に浮かぶ玉汗が疲労を物語っている

 

と、そこで彼は視線を上にあげる

 

廃墟を一瞥し、その先に抜けているとき、ふと彼は足を止めた

 

誰か、いる

 

そう感じた彼は、ギフトカードを懐から取り出す

 

無手でも十二分に戦えるが、牽制の意味も兼ねて見えるように胸の前で構える

 

「誰でしょうか?この世界での知人は()()()いませんので、友の友、といった人達でしょうか?」

 

木々の合間から此方をみる影達に、淡々とした声でそう告げる

 

だが、何かを迷っているのか、返答はない

 

「あまりに遅いと同士に心配されますので、そろそろお暇したいのですが……」

 

そう告げて、立ち去ろうとした時だった

 

「ま、待ってくれ!!いや、待ってください!!」

 

一人の男性が叫んだ

 

その言葉を聞いて、足を止める琥珀

 

「はい。なんでしょうか?」

 

口元に柔らかな笑みを浮かべ、男性に向き直る琥珀

 

「わ、私達のコミュニティを救っていただき、ありがとうございました!!!」

 

腰が折れるんじゃないかと言うほどのスピードで低頭する男性

 

「え、ええ……?」

 

予想できない事態に、ただただ慌てるしかない琥珀

 

そんな彼にお構い無く、次々と森の中から人が出てくる

 

何人もの人々が自分に頭を下げる状況に、軽くふらつく琥珀

 

話を聞くに、ガルドは己のコミュニティを解体、組織の一員だった彼らも名と、旗印を取り戻したそうな

 

ガルド本人はというと、自首したらしい

 

その後の消息は不明とのことだった

 

「そうですか……」

 

話を全て聞き終えた琥珀は心なしか満足感を得ていた

 

「琥珀殿、実は、折り入って話がございます」

 

先人を切った男性が真剣な眼差しで琥珀を見つめる

 

「は、はい」

 

その場の雰囲気に、軽く緊張しながらも続く言葉を待つ

 

「私達を、どうか、貴方の弟子にしていただけ……」

 

「お断りします」

 

即答だった、即決だった

 

「弟子を取るほどの武を私は持っていません。

授けられるほどの知を、私は持っていません。

施せるほどの勇を、私は持っていません。」

 

絶句する人達に、静かに告げる

 

「なので、弟子は取りません。」

 

突き放すように、厳しい声色と共に拒否の意を示す

 

だが、やはり彼は優しいから

 

「だが、それでも学びたいのなら、私の所属するコミュニティを手伝い、私の背を見なさい」

 

ちょっとだけ、情けをかけてしまう

 

「その中で、己の目で学びなさい」

 

言葉を紡ぎ終えると、また彼は優しげな笑みを浮かべた

 

『はい!!』

 

琥珀の意を察したのか、彼等も気合い一杯に返答した

 

「それでは、おやすみなさい」

 

彼の後ろから就寝前の言葉が聞こえる

 

もう夜だ、時が過ぎるのは早い

 

そして彼はノーネームに入っていった

 

待ち構えていたジンと黒ウサギに怒られたのはここだけの話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂に入り、長い髪をタオルで拭く

 

湯に使ったので、体は少し熱を帯びていた

 

上気した頬が何処か色っぽい

 

己にあてがわれた部屋のベッドに腰を下ろしていた彼は、ふと、今日手に入れたあの立方体を思い出した

 

何の気なく、ギフトカードより召喚する

 

ベッドの上に現れたそれを、膝の上に乗せた

 

そして、嘆くように一言

 

「…………まいりましたね、どうしましょうか…………」

 

その魅力に魅せられて貰い受けたものの、どうすることもできなかった

 

専門の知識があるわけでもなく、透視能力が有るわけでもない

 

淡い光を放ったまま沈黙しているこの機械にアプローチをする方法を、彼は持ち合わせていなかった

 

()()()()アプローチの方法を得ることも出来るが、私利私欲のために恩恵は使用したくない

 

指で機械の表面をなぞる

 

傷や汚れ一つない純白の表面は、明かりが反射していた

 

その行いの結果、何が行われるかも知らずに

 

ピ、と小さな電子音に彼は気付かない

 

そして

 

「…………アナタが、ます、たー?」

 

「!?!?」

 

唐突だった

 

突然だった

 

未知だった

 

あり得なかった

 

誰が予想しただろうか

 

眼前の機械の表面を撫でただけで、起動するとは、思っていなかった

 

突然の展開に目を白黒させる琥珀

 

そして、沈黙が続く

 

ハッっと正気に戻った琥珀はまだこの状況が飲み込めないまま、素直に返答する

 

「え、えっと……買ったのは、私……ですね。はい」

 

自己暗示のように己の行いを確認する琥珀

 

その返答をして、数秒

 

また有り得ない返答が帰ってきた

 

「…………登録、完、了」

 

一瞬だけ淡かった光が強くなる

 

「へ……?」

 

予想外の展開に呆けた声で返すしかない琥珀

 

と、次の瞬間

 

「マスター、こは、く」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

驚愕のバーゲンセールである

 

もう何がなんだが分からない

 

彼はとりあえず、目先の質問を問うことにした

 

「な、何故名前を……」

 

その質問には、アッサリとした回答が帰ってきた

 

無論、彼の感覚からすれば有り得ないものだったが

 

「記憶を、よみと、り、まし、た」

 

今度こそ唖然とする琥珀

 

ここまで驚いたのは彼からすれば百年ぶりだろう

 

驚嘆の出血大サービス

 

日頃では有り得ない展開に、遂に彼はおかしなベクトルで思考を放棄した

 

「ま、まあ。いいですかね……」

 

そうだ、そうだよ、ここは箱庭

 

神々が住まう地なのだから、この程度の事は普通なんだ

 

彼はおかしくなった思考をなだめ、休めるようにベッドに横になる

 

「…………おやす、み、なさい、こは、く」

 

やはりと言うか何と言うか、案の定目を閉じると吸い込まれるように彼は夢の世界に旅立った

 

意識が消える寸前に、就寝の言葉を聞いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーテンの隙間を縫うように、木漏れ日が彼の頬に伸びる

 

その光に照らされて、彼は薄く目を開いた

 

そして、一つ大あくび

 

「ふぁぁ……」

 

剣客とは常に気張るべし、等と昔に聞いた記憶があるが、流石に起きたばかりなのだ、父も許してくれるだろう

 

「おはよ、う。こは、く」

 

何故か胸元から声が聞こえた

 

誰かを抱き締めて寝たのだろうか、と寝惚けた頭は思考する

「おはようございま、す?」

 

とりあえず、誰であっても挨拶をされた以上、挨拶で返すのが道理であろう

 

と、その時、胸元にいた何かが端麗な顔を覗かせた

 

顔に浮かべる表情は無、だが、黒色から先に行くほど白くなる髪が人形のような美しさを醸し出している

 

げんに、()()()()()()()()()()()

 

側面に生えているとも付いているとも表現できるような感覚で機械があったからだ

 

足に当たる感覚からするに、身長は彼とほぼ同じであろう

 

まさか過ぎる展開に、またしても彼は気の抜けた声を発する

 

「へ?」

 

琥珀の視線が謎の女性に注がれるなか、その対象はというと

 

唐突に立ち上がった

 

何故かは彼には分からない

 

只、分かることがあるとするならば

 

「どう、したの?琥珀?」

 

()()()()()()()()姿()()()()

 

彼は驚愕がパニックとなり、そして、驚愕が一周して現実と空想が分からなくなりつつあった

 

なので、彼は事実確認からすることにしたようだ

 

「ふ、服………着てません、よね?」

 

眼前にある女性の裸体相手に何を聞いているんだろうかと、本来の彼なら思うのだろうが如何せん、彼は痴女に会った経験などないのだ

 

「そう、だよ?」

 

何を今さらと言わんばかりに平然とした顔で返される

 

「え、えっと…………な、何故?……というか、誰、ですか?」

 

事態がいっそう分からなくなった彼は矢継ぎ早に質問する

 

「昨日、琥珀に、貰われ、たの」

 

その返答に、彼はおかしな点を感じた

 

昨日自分が貰ったのは機械であって女性ではない

 

「え?で、でも。昨日買ったのはどう見ても機械では…………」

 

その返答に彼女は沈黙した

 

かに思ったが、実際は異なった

 

見上げている体勢であるためどうやって出てきたのかは分からないが彼女の背中から殺傷道具が現れた

 

その様は翼のようであったが、如何せん、翼にしては物騒すぎた

 

「その、機械、なの」

 

つまり、彼女はこれを見せるために沈黙したのか

 

停止していた思考の歯車がやっと動き始めた

 

納得したと受け取ったのか彼女は殺傷道具を元に戻した

 

彼は彼女に座るように指示をすると、大人しく彼女はベッドにしゃがみこんだ

 

そして、流石に裸のままでいさせるわけにもいけないのでついさっきまで被っていた掛け布団をかける

 

やっと普通に目を合わせて話せることができるようになった

 

美しい瞳に見られながら、彼は質疑応答を始めた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全真理追求機械群 ART.凡用機体《下》

今回は少し短めです

正確にいうと、前回のを長くしすぎました


先ずは名からだろうという常識にかられ、彼は問いを投げる

 

「貴女、名前は何と言うんですか?」

 

背筋を正し、改まった表情で告げた問いに、彼女は考え込んだ

 

「名前…………機体名称の、ことなら、ART.123番機体、なの」

 

ART.123番機体

 

それが彼女の名前……否、少し待て

 

確かに機体名称ならそうなのだろうが、彼が求めている答えではない

 

半分思考しながら、曖昧な言葉を紡ぐ

 

「こ、個体名、と言うんでしょうか……」

 

自信無さげに、実際、自信はないのだが、言葉を続ける琥珀

 

「貴女だけの名前を、教えてくれませんか?」

 

そんな問いに、彼女が出した答えは理解不能だった

 

当然と言えば当然だろう

 

ART.123番機体。己の呼称など元より必要とせず、同時に必要だったとしてもART.123番機体(これ)一つで事足りていたのだから

 

「えっと…………無い、んですか?」

 

彼からの問いも、彼女はただ頷くしか出来なかった

 

「そうなんですか…………」

 

彼女はその答えを聞いた彼を見て、胸部がちくりと痛む

 

一瞬不思議に思ったが、彼女は誤認だろうと判断して気にしなかった

 

と、ふとその時、一つの事柄に気付いた

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

目の前の彼は彼女の目から見て平気な顔をしているが、尋常ではない激痛が走っているはずである

 

死んでもおかしくないほどなのに、眼前の彼はというと

 

「とりあえず、黒ウサギから服を頂けるように話をして来ましょうか……」

 

暢気に彼女の事を考えているようだった

 

やっと見付けた追求対象をここで失うのは不味い、と判断した彼女は直ぐ様行動を起こした

 

「こは、く」

 

「はい?なんですか?」

 

名を呼び、抱き付きやすくなった途端、彼女は彼に飛び付いた

 

目を白黒させる彼を無視して、直ぐにデータを確保する

 

(体温データ、損傷具合……インストール)

 

弾き出された結果の大半はやはり臓器の物が多い

 

中には呪術的なものまで含まれている辺り、彼は相当お人好しなのが伺えた

 

腐った臓器や、傷んでいて修復するのに時間のかかる臓器を破壊

 

同時に空いた空間に真新しい臓器を想像し、創造する

 

だが、治してもなお腐るものがあった

 

その様なものに対しては、呪い返しや、反射、永遠治癒を組み合わせて対処する

 

この作業時間、僅か十秒

 

医者泣かせにも程がある

 

急激な体調の改善に彼も思わず呆けた声を出す

 

「へ……?」

 

そんな彼には歯牙にもかけず、淡々と彼女は事後報告を行う

 

「琥珀の、内臓とか、なおし、たの」

 

そこで、また彼は普通ではあり得ない返答をした

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

今度は、彼女が目を丸くする番だった

 

「……?……琥珀の、だから、道具に、言わなくても、いいと、おもうの」

 

その通りである

 

使用した道具に礼を述べるなど、あり得ないことだ

 

心の中で感謝はすれど、そのように礼を述べ始めるとキリがない

 

彼女も道具であるが故に、一瞬彼の正気を疑った

 

だが……

 

()()()()()()()()()

 

訳がわからない。彼女は理解不能としか判断できなかった

 

待機形態とはいえ、彼女なりに人間を見てきた中で、彼は異常だった

 

それ故に、興味を持ったわけではあるが

 

彼も、己の論理が常識的に考えれば異常なのは分かっているようで、補足と弁明を続けた

 

 

「私は、貴女を道具とは思わない」

 

頑なな声色で、貫き通すように

 

「貴女には、意思がある」

 

己で思考し、己の意思で行動を決めている

 

「貴女には、言葉がある」

 

意思疏通をして、他者を理解しようとしている

 

「そんな貴女を、私は物とは思わない」

 

肉体の有無は関係ない、大切なのは精神であると、彼はそう告げた

 

説法を解く、お坊様さながらに

 

「…………わかっ、た、の」

 

彼の言葉は、不思議と彼女の心にストンと落ちた

 

パズルのピースの一つが、埋まったような感覚に近いのだろう

 

彼も彼女の瞳の奥に何かを見たのか、優しい目をしていた

 

そして、彼の右手が優しく彼女の頭を撫でた

 

父のように、兄のように

 

「ん…… 」

 

無意識に、彼女は心地好い声を出す

 

ふと、その時、彼女の体に熱が灯った

 

(機体温度上昇を確認、原因不明、エラー)

 

彼の熱が彼女にも伝播されたのだろうと推測して、彼女はそのエラーを気にかけなかった

 

ある程度時間が経った頃、自然と彼の手は離れていった

 

少しだけ、彼女は胸を締め付けられる感覚を覚えた

 

と、忘れていたことを思い出したのか、改まった様子で彼は考えていた

 

「…名前、どうしましょうか…………」

 

そこなのだ、気掛かりなのは

 

ART.123番機体

 

これでは流石に名を呼ぶときに長すぎる

 

うんうん唸っている彼に、名を気にしていない彼女は告げる

 

「琥珀が、好きなように、よんでくれれば、いい、の」

 

その答えを聞いて、更に彼は悩んだ

 

元より、名付けるのは苦手なのだ

 

生返事を返しながら、色々な名を模索する

 

模索した結果、一二三(ひふみ)や、アルト、などと色々と浮かんでは来たのだが、いまいちピンと来ない

 

結局、色々と捻りを付けようかと思っていたが、諦めた

 

「……アート、なんてどうでしょうか?」

 

由縁は至って簡単、ARTの部分を英語で読んだだけだ

 

流石に適当すぎたか、と無表情の彼女を見つめる彼

 

程無くして、彼女が口を開いて一言だけ告げた

 

「…………あー、と」

 

おかしな所で訓点が入っていたため、彼はもう一度告げる

 

「アート、です」

 

彼の言葉を聞いて、小さく頷いたアート(彼女)は、ゆっくりと言葉を紡いだ

 

「時点から、本機体は、アートなの」

 

心なしか無表情ながらに満足そうな雰囲気を纏っている彼女に、彼も言葉を紡いだ

 

「えっと…………よろしくお願いしますね、アート」

 

はにかむようにして笑いかける彼に、対して、アートは

 

「ん」

 

ただ一言、端的な返事を返した

 




次の更新は少し遅れます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無手之一式

はい。キツいです

主に受験勉強がキツいです

極論から言うと生活するのが辛いです

そして、久し振りだから戦闘描写もキツいです

あ、渇望の関係ですが、軽く独自論のようなものが入ってるので「あれ?」とか、「おかしくない?」とかは御了承を


琥珀達がノーネームにやって来て早一週間

 

彼は木の前で座り込んでいた

 

己の望むものはなんだ

 

己が渇望はなんだ

 

(私は…………()()()())

 

この世の全てを

 

この世に生きる命の総てを

 

その渇望を一点に集めろ

 

抽象的で構わない

 

ただ、そこに……

 

風が吹く

 

これだけで小さな火種は消えてしまうほどの、風

 

だが、彼の前で蝋燭の炎は灯したまま、赤赤と燃えている

 

よく見ると、その炎の周りにはうっすらと淡い…とても淡い青色の光がその炎を包んでいた

 

その輝きが炎を守っていたのだ

 

彼は既に活動を使いこなしていた

 

この鍛練を初めて早三日、今やその防壁を張り続ける時間は丸一日となっていた

 

「…………ふぅ、今回はこのくらいにしましょうか」

 

そう呟くと、彼は活動を止めた

 

と、同時に蝋燭の炎が風に巻かれて消えた

 

何処か儚い散り様に少しだけ目が奪われる

 

だが、彼は直ぐに意識を空想から現実へと戻した

 

理由は明白だ。とある人物に見られていたからである

 

正確に言うと、見られ続けていたからである

 

犯人(アート)は1メートル近く離れた草原に腰をおろしてじっと、何かを言うことなく見ていた

 

「…………私を見ていて面白いですか?」

 

彼は動作の上では、座禅したまま三日過ごしたに過ぎない

 

こんなものを見て、何処の誰が面白いのであろう

 

だが、彼女は満足したようで

 

「おもしろ、かった、よ?」

 

無表情な瞳の先に満たされた色を醸し出しながら、彼女はそう返した

 

確かに、彼は停止している方が美しい

 

静の中に美がある。そう表現するのが最適であろう

 

「そう、ですか」

 

歯切れが悪くなりながらも返答を返す

 

あまり他人に見られるのは慣れていないのだ

 

人とはそこまで関わり合わなかった彼は自然で生きてきた直感で視線を見抜けるが、あまりそれに耐える精神力は持ち合わせていないのである

 

「え、ええと……そろそろ、戻りましょうか」

 

「ん」

 

アートは琥珀の隣を占領するように並んでノーネームの本拠地へと帰った

 

日が沈みかけている黄昏時は、とても神秘的だった

 

 

 

 

 

森の中の草原は存外に本拠地から遠く、彼等が急いでいなかったのもあるので二人が到着したのはもう夜も更けた頃だった

 

本拠地は一階の一室のみ光が点っていて、それ以外は真っ暗だった

 

と、そのとき

 

「はい……………申請に行った先で知りました。このまま中止の線も在るそうです」

 

黒ウサギの落ち込んだ声が室内に響く

 

「なんてつまらないことをしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか」

 

その発言を聞いてか、逆廻の落胆した心持ちの声が聞こえた

 

「どうにもならないでしょう。巨額の買い取り値がついたらしいですから」

 

黒ウサギの口からその事柄の理由を聞いた逆廻は舌打ちをして更に不快感を募らせる

 

「何かあったんですか?二人とも」

 

二人の話声を聞いた彼が、扉から頭を覗かせて問う

 

「はい。実は……」

 

黒ウサギは先程逆廻に言ったことと同様のことを述べた

 

二度目の説明で、内容が好ましい内容ではなかったからだろうか

 

黒ウサギの瞳に映る落ち込みようは先程より酷かった

 

「そうですか…………分かりました」

 

黒ウサギの話を聞き終わった彼は、目を閉じ、思案すること数秒

 

そして、目を開いてこう伝えた

 

「何にせよ、挑めないものは仕方がありません。また別の機会を待ちましょう」

 

口元にいつもの朗らかな笑みを浮かべ、彼は告げる

 

だが、その後、少し茶目っ気を付けながらこう続けた

 

「ですが…………案外、予想もしないところで縁という物は訪れます。挑む時は、存外に近いかもしれませんね」

 

そう告げると、彼は就寝の挨拶をして自室に戻った

 

まさか昨晩のうちに己の言ったことが実現するとも予想もせずに

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 

次の日、またしてもアートに抱き締められた状態で起床した彼は、逆廻の口からまさかの事実を聞いた

 

「そう、ですか……そうなりましたか」

 

まさかあの一言がバタフライエフェクトになったのではと彼は己の行いを悔い始めた

 

その時、逆廻から予想にもしなかった提案を受けた

 

「琥珀。お前に手伝って欲しいことがある」

 

とても真剣な瞳で琥珀の瞳を凝視する逆廻

 

「私に、ですか?」

 

彼がそんな逆廻に対して瞳に浮かべたのは疑問だった

 

物草だからとか、面倒だからとか、その手の理由ではなく純粋に何故己なのかという思いだった

 

「逆廻君。私は皆さんのような特異な恩恵は持ち合わせていませんよ?」

 

ある意味ではアートがその恩恵に値するのだが、彼はそのような考えをしていなかった

 

そんな彼の問いに、逆廻は不敵な笑みで返す

 

「冗談キツいぜ、琥珀」

 

逆廻は見抜いていたのだ

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「バレてましたか」

 

その時、彼はここに来て初めて()()()()()()()()()()

 

刹那、辺りにいた鳥は飛び立ち、獣も森の奥へ姿を隠した

 

「それで、逆廻君のことですから、何か方法はあるのですよね?」

 

不敵とも取られかねない笑みを浮かべ、彼は逆廻にそう訪ねる

 

「ああ。当たり前だろ」

 

そして彼等は、黒ウサギを助けるため。そして、レティシアを助けるために動き出した

 

彼等が向かったのはとある海だった

 

そこには……

 

「クラーケンとグライアイ…………ペルセウスの神話に出てくる魔物でしたっけ?」

 

背負っていた薙刀を抜刀し、臨戦態勢となる琥珀

 

その隣では拳を打ち合わせた十六夜が心なしか楽しそうな笑みを浮かべている

 

「挑戦者よよくぞ参った」

 

指揮棒(タクト)を振るうように大儀そうに腕を振り上げる一つ眼のグライアイ

 

「汝試練を乗り越え我等を打倒……」

 

その海から溢れんばかりの巨体を晒し、定型であろう言葉を述べるクラーケン。だが

 

「悪いが、こっちには時間がねぇんだ。とっとと始めさせてもらうぜ」

 

既に臨戦態勢にあった逆廻は拳を構える

 

型もなく、重心も悪いが、その気迫は鬼気迫るものがあった

 

「すみませんが、同士のためです。どうか、御覚悟を」

 

腰だめに薙刀を構え、重心を前傾姿勢で片足にかける

 

彼は攻めるのは苦手だが、今回はやむ無しとして攻めの体制であった

 

「その意気込みよし。ならば……!!」

 

「さあ、始めるぞ!!」

 

グライアイの言葉に重ねるようにクラーケンがそう吠える

 

その言葉を聞いた瞬間、二人は地を蹴った

 

クラーケンの頭上からパッと飛び降りたグライアイに十六夜が拳を振るう

 

空中での拳である。踏ん張るもののない空中での力は分散する

 

良くて半分ならば問題ない……

 

その思考が甘かった

 

「グギュ!?」

 

瞬く間にグライアイは遥か彼方に吹き飛んでいく

 

その光景に驚嘆するクラーケン

 

表情のない瞳に驚きが現れる

 

「余所見は厳禁ですよ」

 

穏やかな声と共にクラーケンの側頭部に彼の蹴りが刺さる

 

柔軟性ゆえに打撃には強い蛸の頭

 

なのでグライアイ程は……そうクラーケンは考えてしまった

 

()()()()()

 

反撃の為に吹き飛ばされながらも触手を琥珀に伸ばす

 

「慢心 ダメ 絶対……なんて言う言葉がありましたね」

 

刹那、琥珀の姿がかき消えた

 

「アート、今のは大丈夫でしたよ?」

 

眼と音を頼りに琥珀を探すクラーケンに琥珀の声が届いた

 

クラーケン()の真後ろから、聞こえた

 

「でも、いや。なの」

 

苦笑いを浮かべる琥珀の隣にアートが立っていた

 

いや、正確には飛んでいたと言うべきか

 

あの時、アートが観察対象である琥珀の身を案じてテレポートの恩恵をギフトカードの内部より発動したのだ

 

故に、琥珀は強制的に二の手を打てずに移動させられた

 

その隙をクラーケンは見逃さない

 

戦闘のリズムを掴むために八本のうち五本の足で琥珀を狙う

 

だが、その足は空中で弾かれた

 

()()()()……なの」

 

アートか掲げるように右手を挙げて、不可侵の領域を作り出していた

 

よく見れば、弾かれた場所に薄く輝く膜が見えた

 

「アート。大丈夫ですって」

 

苦笑いにも似た困り顔でアートを眺めている

 

アートはやはりと言うか、無表情の瞳の奥に心配そうな色を浮かべている

 

「琥珀!倒さないなら俺がやっちまうぞ!!」

 

グライアイを殴り飛ばし、海の中に落下した逆廻が海面に顔を出しながら叫ぶ

 

「ああ、今終わらせますよ!」

 

波の音にも負けないような力強い声が琥珀から発せられる

 

「アート。逆廻君を引き上げておいてくれませんか?」

 

纏っている風の数を増やしながら何故か()()()()()()琥珀

 

「…………わかった、の」

 

アートはそう告げると降下して逆廻の元へ向かう

 

それと同時に、琥珀の思いを察したのか、アートは不可侵の領域を解いた

 

「ぬ!舐めた真似を……!!」

 

怒りの声を上げるクラーケン

 

一度に動かせる最大量の触手を振り上げる

 

「…………行きます」

 

右手を隠すように力を構え、滞空に必要な分の風以外を足に纏わせる

 

振り下ろされるクラーケンの触手

 

縮地に勝るほどの爆発的な加速を起こす琥珀の風

 

その二つが、交錯する

 

クラーケンの触手が琥珀に触れる直前

 

琥珀がぶれた

 

まるで元からそこにはいなかったように

 

そして……

 

「我流 無手之一式 風魔」

 

淡々と、告げる

 

クラーケンの額には人が作ったと思えないほどのクレーターが出来ており、その内部で何が行われているのかは明白だった

 

ぐらりと傾く巨体

 

「お手合わせ、ありがとうございました」

 

クラーケンが最後に見たのは、此方に向かって丁寧に御辞儀をしている彼の姿だった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序曲

はい。鴉紋です

今回は難産でした。伏線張るのも難しいものですね

それでは、どうぞ


同刻、ペルセウスの本拠地にて

 

「ぐ、ゥ……」

 

「ぎ、ぁ……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何、者だッ……お前ッ……!」

 

目に怒りを宿し、ルイオスは眼前の男を睨み付ける

 

「んー……教えるのはまた今度な」

 

眼前の男はと言うと、背に斬馬刀を背負い直し、友人に告げるような軽さでルイオスに返す

 

燃えるような赤髪、胴着にも似た服装からチラリと映る無数の傷痕

 

白亜の宮殿に傷一つ付けず、否。ペルセウスの騎士に対しても無傷で戦闘した男は、測るように地に伏したルイオスを見る

 

「よし。お前くらいなら……これかな」

 

ルイオスの胸元に向かって褐色の薬液の入った竹筒を投げた

 

「は……?」

 

訳も分からずその薬液を受け取ったルイオスは眼前の男の行動が理解できないと困惑に染まっている

 

元より、この戦いはペルセウスの侮辱より始まったはずなのだが……何故か薬を渡されたルイオス

 

「それをアルゴールだったか?アイツにぶちまけろ。以上だ」

 

そう淡々と告げると踵を返してその場から立ち去る男

 

「お、おい!待て、貴様!!」

 

ルイオスはそう叫んで立ち上がろうとする

 

しかし、体が限界を迎えているのか、意思に反して体は微塵も動かない

 

そうこうしている内に、先ほどまでいた男は霞のように消えてしまった

 

「なんだったんだ……アイツ……」

 

正しく嵐のような男だった

 

その本人はというと、白夜叉の元に身を寄せていた

 

男は疼きを抑えるように左手で右腕を握り締め、哄笑を必死に噛み殺す

 

「そんなに楽しみかの?」

 

対面している白夜叉はまるで自分のことのように笑っていた

 

「ああ」

 

できることなら、直ぐに戦いに行きたい

 

場所がわかっているだけに、己に歯止めをかけるのが辛い

 

「でも。まだ先だ…………まだ、永久破壊(これ)に馴染んでない」

 

歯痒そうに、だが、楽しそうに笑みを浮かべる

 

「せめて……創造階位には達してもらわないと」

 

隣に置いた己の聖遺物に触れながら、男は告げる

 

「ふふ……その後は……必ず」

 

白夜叉は恋い焦がれた乙女の様な瞳を男に向ける

 

その恍惚とした表情を前に、男は心の底から待ち遠しそうな声で

 

「ああ、()()()()()()()()()()()()()

 

幼き頃の約束のように、固い契約をする二人

 

この約束が偽りにならないように……

 

「早く、馴れてくれよ。()()

 

彼の最初で最後の弟子は、不敵な笑みを浮かべていた

 

 

閑話休題

 

 

後日、ペルセウスに挑戦することを伝えに行った黒ウサギは予想に反してとても早く帰ってきた

 

何でも、ペルセウス側は既に準備できているとの事だった

 

準備するようなものは元々無かったので、既にペルセウスの本拠地を目指して五人は歩みを進めている

 

その際に、今回の出来事についての感想と疑問がポロリと口から零れた

 

「不思議ですね」

 

「不思議だな」

 

摩訶不思議、その一言に尽きる

 

話を聞いた限りでは、ペルセウスは決闘に全く乗り気ではなかったはずなのに……

 

男性陣はジンを除いて、顎に手を当てて考えていた

 

「まあ、受けるのだからいいじゃない」

 

苦笑いとも微笑とも受け取れる笑みを浮かべ、久遠は歩みを進める

 

春日部は特に話すこともなく、耳だけを傾けながら淡々と歩いていた

 

と、黒ウサギが

 

「皆さん、見えてきましたよ!!」

 

気合い十分な声で到着を知らせてくれた

 

同時に、皆に緊張が走る

 

何故だろうか、上空からおぞましい気配を感じるのだ

 

場所は……大体……

 

(最上階…………)

 

白亜の宮殿、最上階

 

ペルセウスのリーダー、ルイオスなる人物がいる場所

 

「え、えっと。とりあえず……今回のギフトゲームの内容を確認しましょうか」

 

顔を強張らせながらジンが契約書類(ギアスロール)を広げる

 

 

『ギフトゲーム名 ゙FAIRYTALE in PERSEUS゙

 

プレイヤー一覧 

 

逆巻 十六夜

 

久遠 飛鳥

 

春日部 耀

 

月盛 琥珀

 

゙ノーネーム゙ゲームマスター

ジン=ラッセル

 

゙ペルセウズゲームマスター

ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件

ホスト側のゲームマスターを打倒

 

・敗北条件

プレイヤー側のゲームマスターの降伏

プレイヤー側ゲームマスターの失格

プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

・舞台詳細・ルール

 

*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿から出てはならない

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない

*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない

*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う

*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行することはできる

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。

"ペルセウス"印』

 

今回のギフトゲームの難所は、見たところどれだけ戦力を残して上にいけるかが鍵になってきそうだと彼は即座に判断した

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 

初めての本格的なギフトゲームに、楽しそうな笑みを浮かべる逆廻

 

「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だという事になりますよ。流石にそこまで甘くはないと思いますが」

 

気難しそうな表情で契約書類とにらめっこをしているジン

 

「yes。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずデス。

それにまずは宮殿の攻略が先でございます。

伝説のペルセウスとは違いら黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。

不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が……」

 

「その事なんですが、気にしなくて構いませんよ」

 

ジンと同じく気難しそうな顔でさも深刻そうに状況を整理する黒ウサギに、赤子の手を捻るようだと言わんばかりに彼は告げる

 

「え!?な、なら……どうやって……」

 

唐突な突拍子もない彼の発言に、黒ウサギは驚いている

 

「アート、お願いできますか?」

 

ついこの間、彼は本拠地への帰路についているときに彼は、アートについて軽く尋ねたのだ

 

彼女の恩恵は、彼の恩恵とは比べ物にならないほど応用が可能であり、火力面、利便性、揃ってトップクラスのものだった

 

「わかった、の」

 

その力の一端を、ここに顕彰する

 

彼女が琥珀の手を握ると、二人は一瞬にして見えなくなった。消えたと言っても、過言ではない

 

音もなく、匂いもない、完全に無となった

 

「これでどうですか?」

 

また一瞬で現れた彼を前に、逆廻を除く三人はポカンとしていた

 

春日部と久遠は事の凄さにだが、黒ウサギだけは違った

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「す、すごいわ!!」

 

「……うん。全然わからなかった」

 

アートに対して、尊敬の目で見ている春日部と久遠を横目に、彼は薄く笑った

 

「これで突破はできます。ただ……一つだけ難点が」

 

そう言葉を続けながら、彼は苦笑いを浮かべる

 

「四人、しか、無理、なの」

 

世の中便利ではないと言うか、都合のよいことばかりではないと言うか、虚しいものである

 

「何でもサンプル不足らしくて……それ以上は隠しきれないと、アートが」

 

未だに彼の手を握って離さない彼女にちらりと目を向けて、悲しそうに笑う

 

「いいや、十分だ。というか、ここまで来ると只のヌルゲーだぞ」

 

呆れているような、自信しかないような様子で、口角を上げる逆廻

 

「ま、まあ。確実なゲームメイクは大切なことです」

 

奇想天外で予測不可能な雰囲気を一線するように、黒ウサギは場の雰囲気を変える

 

「それでは……作戦会議といきましょうか」

 

時間は後三十分もある

 

彼等は早速、作戦を考え始めた

 

新成ノーネームとペルセウスとの戦いが、始まろうとしていた

 

「…………どうか、相手のコミュニティの中に、あの人がいませんように」

 

彼女の祈りは、()()()()

 




活動報告にて、アンケートのようなものをしています。

余裕のある方は、回答のほど、よろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対ペルセウス戦 《上》

多分、これが上半期最後の投稿です

八月からは今まで以上に遅れます。確実に


怒号が、絶叫が、悲鳴が、美麗な白地の廊下に響く

 

風切り音が響いたと思えば、水の荒れ狂う音がする

 

剣が空を裂く音がして、鈍器が当たる音がした

 

そんな音達を背で感じながら、逆廻、琥珀、ジン、アートは白亜の宮殿を駆け抜けていた

 

音もなく、気配もなく虎視眈々とルイオスの喉元を食い千切らんと迫っていた

 

引き付け役を任せた春日部と久遠の身を案じながら、四人は廊下をかける

 

先頭の琥珀が後続の三人にハンドサインで行く先を示している

 

と、直ぐに頂上に到達した

 

入る直前に、彼は三人にアイコンタクトを取る

 

本当に良いのか、と

 

透明になっている者同士なら見えるようになっているため、彼は直ぐに表情は読めた

 

アートは相変わらず無表情だが、逆廻はニヒルに笑い、ジンは緊張した面持ちで頷く

 

それを見た彼は、アートの手を引きながら最奥目掛けて駆け抜けた

 

「到着、ですね」

 

アートの手を握っていた琥珀が手を離す

 

連動して後ろの二人の姿が現世に現れた

 

「皆さん…………!」

 

感極まった様子で胸に貯めていた息を吐く黒ウサギ

 

と、彼の視界が少しだけ暗くなった

 

理由を調べるために辺りを見回す彼は、直ぐに答えを見つけた

 

「____ふん。ホントに使えない奴等。今回の一件でまとめて粛清しないと」

 

膝まで覆う羽の生えたロングブーツ、亜麻色の髪が風に揺られている

 

ゲームマスター、ルイオス・ペルセウスその人だった

 

「まあでも、これでこのコミュニティが誰のおかげで存続できてあるのか分かっただろうね。

自分達の無能っぷりを省みて貰うにはいい切っ掛けだったかな」

 

嘲笑を顔に張りつけ、彼等をこれでもかと言わんばかりに見下すルイオス

 

と、唐突にルイオスは高度を下げ、彼等の前に降り立った

 

自由落下の速度より早いが、彼からすれば気にすることもないだろう

 

「なにはともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。…………あれ、この台詞言うの初めてかも」

 

何処かおどけた様子でルイオスは宣言した

 

当然と言えば当然だろうが、未だ入る前に感じた不快感は拭えない

 

(それに…………)

 

ルイオスが腰に下げている赤褐色の液体、あれは何か嫌な予感がする

 

「琥珀、あれ、知らない、の」

 

琥珀の考えていることを読んだのか、アートが琥珀に耳打ちする

 

博識と言うイメージの強いアートが知らないとなると、多分、分かるのは本人だけだろう

 

(でも……)

 

教えてくれないんでしょうねぇ等と、分かりきったことを心の内でぼやいた

 

と、ふと彼は顔を上げると、ルイオスは燃え盛る弓を取り出した

 

夜空に一番星のように赤々とルイオスの弓が燃えている

 

「…………炎の弓?ペルセウスの武器で戦うつもりはない、ということでしょうか?」

 

いぶかしむ黒ウサギに対して、軽く芝居がかった動作で返答するルイオス

 

「当然、空が飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ」

 

それに、と言葉を続けるルイオス

 

「つい先日録でもないことがあったから、滅多なことでは降りないつもりさ」

 

その表情からは憤怒が見てとれた

 

悔しさを噛み締めているその様子を彼は見て、愛用の薙刀を抜きながら考察する

 

(白夜叉さんは特に何かしていないでしょう……となると、誰が……)

 

軽く素振りをして技を直すと同時に、ルイオスが高く飛び上がり、一言、叫んだ

 

「目覚めろ__"アルゴールの魔王"!!」

 

絶望が襲来する

 

その叫び声と同時に逆廻は拳を構え、彼はジンを背にする

 

「アート、一旦ギフトカードの方へ」

 

懐にしまってあるギフトカードを取り出して、アートの方へ向ける

 

「わかった、の」

 

アートの返事を聞き、アートをカードに戻した刹那

 

音が、聞こえた

 

美声だった……最初は、だが

 

絶望の調を奏でる

 

終りが歌う、吟う、唱う、詠う

 

人とは格の違う数千年前の怪物が、今ここに顕現した

 

「な、なんて絶叫を」

 

と、呟く黒ウサギとジンの頭上に唐突に現れた岩石が降ってくる

 

「避けろ!」

 

逆廻の鋭い警告、だが、それよりも早く彼は岩石を切り払う

 

空中で細切れになった岩石が砂塵となって二人の上空で風に消える

 

「二人とも、そこを動かないようにしてくださいね」

 

彼からすれば、何処に動かれても全て切り払えるが、些かそれは手間だった

 

「ッ!!……やはり、お前がッ…………!」

 

その光景を見たルイオスは盛大に舌打ちをする

 

赤髪の男の言う通りだった

 

果てしなく強い、技を一目見ただけで十二分に理解できた

 

「くそッ……!」

 

苦々しい言葉と共に弓を構えるルイオス

 

「逆廻君、アルゴールの方は任せます。僕はルイオスさんの相手をした方が良さそうですからね」

 

構えられた弓矢の先は一点……彼の頭部のみを狙っていた

 

彼が静かにつま先で地面を軽くと彼の体は風に祝福されるように持ち上がり、その身を包んだ風に導かれるようにしてルイオスと同じ高度まで飛翔する

 

「さて…………始めましょうか」

 

彼は薙刀を構える

 

慣れ親しんだ基本的な構えにして、絶対の構え(要塞)

 

彼が構えたと同時にルイオスは炎の矢を放つ

 

空中で分裂、拡散した矢は宛ら散弾銃の弾丸のように彼の全身を射ぬかんと彼に迫る

 

「ふっ___」

 

軽く息を吐くと同時に彼の腕がぶれた

 

同時に当たる筈だった矢が自ら彼を避けていく

 

音もなく、風を切る音すら立てない神業

 

神の領域に足を踏み込んでいると思われても仕方のないほどの武

 

それが彼の、唯一にして最強の武器だった

 

「くそッ!!」

 

ルイオスは叱責と共にヘルパーをギフトカードから取り出して、彼に突っ込む

 

黄金色に輝く英雄の剣

 

だが、それでも

 

十中八九使い手の技量不足ゆえに

 

「確か……こうでしたっけ」

 

即座に薙刀を捨て、無手となった琥珀は己に振り下ろされるヘルパーの柄を掴み、そこを軸にルイオスを地面に向かって投げる

 

勿論、ヘルパーを相手の手から奪っておくことも忘れない

 

「グッ!?」

 

短い悲鳴と共に落ちていくルイオス

 

その姿は宛ら、イカロスのようであった

 

ルイオスの落下地点には狙いすましたかのようにアルゴールが居た

 

逆廻に手痛い反撃を食らったのだろうか、脱力して体を休ませていたアルゴールの頭上にルイオスは落下した

 

舞い降りるように敵から距離を取っている逆廻の元へ彼は降り立つ

 

「お疲れ様です。逆廻君」

 

「別に、あれくらいじゃ、まだまだ準備運動だ」

 

首の骨を鳴らす逆廻は言葉通りまだまだ余裕そうだ

 

彼の目から見て特に外傷もない、大丈夫だろうと判断した彼は今だ拭えない不快感を気にかける

 

もういっそのこと、あの赤褐色の液体を取り上げてしまった方が早い気がしていた

 

「くそッ……!やっぱり頼るしかないのかッ…………!」

 

そんな声が彼の耳に届いた

 

刹那、彼は地を駆けていた

 

「琥珀!?」

 

逆廻の戸惑いの声も置いておいて、彼は間を詰める

 

不味いと判断した彼は、即座に地を駆け抜けてルイオスに肉薄する

 

だが、遅かった

 

回避を許さない石化の光の壁が彼に迫ってくる

 

同時に、アルゴールの絶叫にも似た咆哮が響く

 

迫り来る壁を跳躍と風による飛翔で飛び越えて、上空から状況を伺う

 

と、その時だった

 

「…………?あれは、あの時の……?」

 

ついこの前、路地裏で倒れていた少女が、アルゴールの覚醒に合わせてルイオスの側に走ってきていた

 

そして、ルイオスが何かを叫ぶと、直ぐに手で闇色の何かをルイオスの首筋に付けた

 

未だに光で見えないアルゴールの変化を見ることを諦めて、彼はまた逆廻の隣に降り立つ

 

「どうやら、第二ラウンドに入りそうですよ」

 

その声色には何時もと変わらないようで、だが、僅かな緊張が含まれていた

 

「そうみたいだな」

 

彼と逆廻は、改めて気合いを入れた

 

トクン、と彼の心音が彼の全身に伝わった

 

覚醒の時は、近い

 




…………つい先日、僕にとってとても大切な人を亡くしました

この作品は、その人ともう一人の友人と僕で作り上げたものです……

ですが…………大切な人を亡くした今……この作品を書き続ける意味があるのだろうかと……悩んでいます

なので…………ここまで来てここで止めるのは気になるだろうと思いますので頑張って書きますが…………もしかしたら、次が最終話になるかもしれません…………

その時は……申し訳ありません…………


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。