月の明かりに照らされて (春の雪舞い散る)
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翔の魔石 

 

① 伯爵領再び

 

 運河を渡り月影の国に入り陸路の旅が始まり伯爵家を再び訪ねると前回とうってかわり歓迎された命達

 

 夏の慰霊祭で歌や踊りを披露されることを望まれたので暫しの逗留になった

 

 アクエリアスの結界内での修行で日に日に力を着ける少年達

 

 豊作祈願に続き豊作の喜びに感謝を捧げる踊りを習い始めた巫女達にようやく自在に跳ね回れる…と、言っても宙を滑る様にと表現する方が相応しいのだけど…

 

 あちこちで人と接触事故を起こしている翔

 

 それと翔がグリエと名付けた魔法は一尺位の魚なら熱がすっぽり包み込み全方位から焼ける様になり時間差で二尾なっていた

 

 翔の魔石はバリエーションが豊富で命の勾玉がグリエの余熱を吸った通称熾火の勾玉

 

 これが精製される様になって以来命の指示でチサ達同様に黒い勾玉の、ネックレスを着けている

 

 火怒雷の魔石は准騎士候補のカンが受け入れた赤と黄色のマーブル模様

 

 飛び火蜥蜴の魔石に飛雷蜥蜴の魔石、蓄熱の魔石は赤い磨りガラスの様な勾玉で吸熱の勾玉は青い磨りガラスの様な勾玉

 

 そしてレア物のブルークリスタルと見間違える竜頭氷連山の魔力が封じられた勾玉

 

 最後に朱い霊玉を受け入れた後から現れ始めた朱鷺色の勾玉の八種類有る

 

 が、特筆すべきは錬成の早さで命や真琴のように勾玉化しないけど勾玉を産み出せない分特に熾火に関しては命の黒い勾玉をベースにするためグリエを使えば直ぐに産み出せるのだから

 

 今朝もグリエを七回使って魚を焼いたから既に七個の熾火の勾玉を精製して命に渡している

 

 伯爵家逗留二日目…翔は朝早くから伯爵の孫達に追い掛け回されていた…

 

 「いややーっ!」

 

 そう叫ぶ翔の拒否権は認められず11人の孫達に追い掛け回される鬼ごっこだから翔が逃げ切れるわけもなく滞在中何度も手荒に捕獲されては服を着せ替えられている

 

 皮肉な事に独特な人形文化を持つ伯爵の領内は孫達に人形を贈る風習があり伯爵が孫達に贈った人形が丁度媛歌や翔のサイズ

 

 孫娘達は幼い頃からメイドに人形の衣装を作らせては着せ替え人形にして遊んでいたので自分達が持つ人形の衣装を着せようと追い掛け回していたのだ

 

 おまけにユウには

 

 「翔ちゃんを捕まえた方の衣装を着せる権利が与えられる鬼ごっこ」

 

 と、言われて追い掛け回され始めたのだ

 

 「翔ちゃんつーかまえたっ♪」

 

 そう言って最初に捕まえたのは上から三番目の娘、月花で着せられたのは古代亡国の女王が着ていたとされるもので露出度の高いそれは歌の国では余り好まれず美月の得意分野でもない

 

 

  



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便利な魔法

 

 命と鬼百合がその姿に感嘆の声を上げる昼食の席

 

 「いーなー、翔…みこもそれ着てみたいなーっ」

 

 そう言って羨ましがると羽毛の無い体皮が晒されるこの衣装を好まない翔が嫌な顔をしているのを見咎めるユウに気付いて俯く翔…

 

 その翔を苦笑いして見ながら鬼百合は

「露出度の高いその服は王女のみこは不味いんじゃねぇのか?」

 

 ユウに向かって聞くと

 

 「何を今更…人魚姫の命様は下半身こそ魚体に隠されてますけど上半身の露出度の方こそ問題が有ると思いますが?」

 

 そう言われて命の人魚姫の姿を思いだした鬼百合が

 

 「あーっ、確かにそー言われてみりゃそうか」

 

 と、呟くと月花の後ろで控えるメイドが

 

 「それでしたら私がお作りしましょうか?勿論トモのアドバイスはお願いしますけど複製を良く手伝ってますから滞在中に間に合うよう頑張りますが…」

 

 そう言われて嬉しそうに笑いながら

 

 「うん、楽しみに待ってるからお願いね」

 

 命が一メイドとそう話しているのを驚く伯爵家の大人達を他所に命達はファッションの話題で盛り上がっていた

 

 午後の鬼ごっこの勝者はやはり月花で末妹の月美にその権利を譲り

 

 こちらは童話の赤い頭巾がトレードマークの衣装で若月の人魚姫と交換する事になり喜ばれた

 

 夜になると堅苦しい席の食事を嫌がる翔が吸熱魔法とグリエの事を話して

 

 「お手伝いあるから皆とご飯食べる」

と言い訳したら逆にその

 

 「す、凄い…翔ちゃんって魔法使えるの?魔法をみたいから見せて」

 

 そう言われてしまいどつぼにハマる翔だけど翔には運命の転機の訪れとも言えるかもしれない

 

 対象物の質量にもよるけど瞬時に凍結する様は一種のパフォーマンスだし

 

 ジュースや木の実、草の実を凍結した物は喜ばれグリエの方も伯爵達を唸らせた

 

 「慰霊祭で出店したら大盛況間違いなし」

 

 そう伯爵のお墨付きを貰い料理長の方も

 

 「グリエの方も素晴らしいですが吸熱魔法は是非とも私もお手伝いして欲しいくらいですよ」

 

 笑って言われて照れ臭い翔は

 

 「えーよ、ここ居る間はゆってくれたらお手伝いするさかいゆったってや

 

 みこおねーちゃん、ボクの修行になるんやから一杯お手伝いしたほーがええんやろ?」

 

 誉められて気分の良い翔は以前なら

 

 「みこおねーちゃん…って柄か?あんなんはみこでじゅーぶんやっ!」

 

 そう言って憚らなかった翔がユウも目を見張る程自然に言え言われた命も照れ臭そうに笑いながら

 

 「うん、そーだよ…だから頑張ってね、翔っ♪」

 

 命の声も嬉しそうに弾んでいてその命を見ながらユウは

 

 「命様、黒蓮様にお使いを頼んで宜しいでしょうか?」

 

 そうユウに聞かれた命は

 

 「うん、みこから頼んでおくね」

 

 そう言ってもらい頼む用件を頭のなかで整理するユウだった



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考古学的な衣裳?

 

 勿論、歴史文化の視点から学んでいる為知識は持っていたが参考文献の挿絵を見たことが有るだけで再現しようと思ったこともないから実際に手にしてみるのは始めての衣装

 

 さすがに公式の場(特に歌の国の王家主催のパーティー)では不味いがのパーティーなら美月主催のパーティーなら口煩い者達ですら単純にファッションとして受け入れるのは現金と言うべきか?

 

 水着と思えば気品のあるデザインは好感も持てる一着に仕上がっているのはデザインした人間のセンスの問題だろう、いい仕事をしていると素直に思えた

 

 その衣装をユウが気に入ってしまったのでその衣装で半日過ごさざるを得なくなった翔に拒否権は認められてない

 

 最初この衣装を着せてみたところ思いの外に似合っていたので

 

 『せっかくですのでこの衣裳を翔ちゃんにプレゼントします』

 

 そう言われた翔は

 

 「今日だけで十分やろっ!」

 

 そう言いたい翔が顔をひきつらせるのに構わず

 

 「それでしたら友情の証しに先程迄翔が着ていたドレスと交換で如何でしょうか?」

 

 そう言われた月花が喜んだのは言うまでもなく他の娘達も羨ましがった

 

 その上でユウは月花に

 

 「月花様、もしお差し支え無ければこの服をデザインされた方をご紹介頂けませんか?

 

 出来れば参考文献を持ってきて頂ければ尚嬉しいのですが…」

 

 そう言われた月花は側付きのメイドに指示を与えデザインさせたメイドを呼び寄せた

 

 トモと紹介されたそのメイドにユウは

 

 「勿論、貴女の主人の月花様のお許しを得てからの話になりますが…」

 

 その言って広げた参考文献の太陽神の挿絵を指差しながら

 

 「この太陽神の衣装を作ってみませんか?その衣装を着ていただくのはつい先日光の精霊の巫女となられた真琴様

 

 プラチナブロンドの髪と金色の瞳は太陽神の少年期と思わせるお姿ですから…」

 

 その話を聞いていた月花が

 

 「真琴王子様のお噂はかねがね伺ってますけどその様なお約束を勝手にされても良いのですか?」

 

 そう言われたユウは

 

 「政治的な意図は何もありませんから、私は王妃様に要請を致しますし何よりも王妃様ご自身がこれを着た真琴様を見たがる…

 

 その真琴様のお姿を見て、王妃様はきっと喜びになると私に思わせるからですよ」

 

 そう言われたメイドのトモは

 

 「そうですね…そう言うお話しでしたら真琴様を拝見させていただいてから作るとより精度の高い仕上がりになると思いますが…」

 

 そう言って言葉を区切り主人を見ると

 

 「何を躊躇う必要が有るのですか?あの噂の真琴王子様に逢える…

 

 王子様が私達の前にいらして下さるんですよ?お請けする以外の選択肢は有りません」

 

 そう月花が言うと他の孫娘達だけでなく居合わせたメイド達も力強く頷いたので

 

 「承知しました、早速ラフ画から始めてきますのでお時間を頂いて宜しいでしょうか?」

 

 そうトモに聞かれた月花は

 

 「皆もわかってると思いますが当分トモには衣装作りを専念させますから他の仕事は割り振らないようにっ!」

 

 そう言い渡していた



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親バカに地位名誉も関係ないっ!

 
 目に入れても痛くない愛娘(水の精霊の舞姫)の不在で落ち込む国王は自分の為に開かれている聖誕祭も楽しめないでいる…


 

 翌日ユウから頼まれたのは命が伯爵領の慰霊祭で踊りを奉納の為それまで逗留する事を女王陛下に伝えてほしい

 

 金糸と銀糸を春蘭に届ける事

 

 ユカに白夜の国で若月の製品の販促を行ってほしい

 

 黒蓮に翔の服有るだけとたけと准騎士候補の四人の現在のサイズの見習い騎士の平服を預けてほしい

 

 メモを見たユカは春蘭に金糸と銀糸を渡して

 

 「ユウから貴女にこれらを渡して欲しいとの事です

 

 それと白夜の国の王妃様が貴女の刺繍を大変喜んでいたとの事です」

 

 そう言われて

 

 「これからも喜んで頂けるもの作れるよう精進します」

 

 そう生真面目に答える春蘭にもう少し肩の力を抜いて命様だけでなくみこちゃんも描いてみてはどうですか?」

 

 ユカのその言葉に

 

 「は、はあ?」

 

 その気の無い返事の春蘭に溜め息のユカだったがミナ、りん、留美菜、春蘭からしたら命の居ない日々に未だ慣れない…

 

 と、言うか慣れたくない悲しい現実に押し潰されそうな毎日なのだから…

 

 命と出会って以来会えなかった(りんと留美菜は命が薬師の里に行ったその数日間以外)日の無い三人なのだから…

 

 現状は命に代わり漁港で航海の安全祈願、大漁祈願、航海の無事を感謝し奉納する踊りに連日の好漁に大漁に感謝の気持ちを捧げる踊りを舞う二人の人魚媛

 

 女王の秘書を勤める春蘭に侍女達の立ち居振舞いの指導と忍と瑞穂へのプリンセスレッスン

 

 見習い侍女達の学習指導の雪華に礼儀作法のミナと社交ダンスはスーとそれぞれに担当

 

 創作活動の有る者は空いた時間を利用しそれを行い巫女は踊りの稽古を終えてから創作活動

 

 それらの無い者は自習をするか創作活動をする者の誰かに教えを乞うかなのでそれぞれにその者の元を訪れ習っている

 

 

 今日も朝から慌ただしい歌の国の王宮だったがこの一週間は今日この日のため慌ただしい日々が過ぎていったのたが今日は歌の国、現国王の聖誕祭なのだが…

 

 やはり命のは不在は大きくあからさまに元気の無い国王…夫に呆れる妻子達

 

 それでも何だかんだと言っても日中に祝辞に訪れた来客の応対はしっかりこなしたのだけどその合間合間に溜め息が漏れるの迄は抑えられ無かった

 

 夜の美月主催のダンスパーティーでは久し振りに踊る王妃が最初のパートナーとして誘いユイ、ツバサ、真琴、チサ、観月と踊り最後に観月が

 

 「伯父様に元気を与えてくれると良いのですが…」

 

 そう言って渡されたのはミエが作った命人形人魚姫バージョンで大喜びで受け取ったが暫く考え込んだ後に

 

 「この命はお前に預けよう…」

 

 そう言って命の人形を妻に手渡し彼女の手を取るとパーティーの喧騒から離れお茶を淹れてくれた深潮パーティーに戻らせしんみり語り明かした二人

 

 しかしこの事で改めて国王にとり命が特別な存在であるという事を印象付けたエピソードと言えよう

 

 

 




 勿論命も欲しがったがこの二作品はトモのデザインした物の為完成したら連絡する約束に


 滞在五日目

 「今朝の修行でようやく全員揃って豊作祈願の踊りを習得した巫女達に明日からは次の豊作の感謝の気持ちを捧げる踊りに入るからね

 鬼百合、そっちはどお?」

 そう命に声を掛けられた鬼百合は

 「今はわからんが少なくとも祭典前の四騎士に引けを取らんレベルに仕上げたつもりだぜ?」

 そう言われて

 「じゃあ、すぐは無理でも正騎士も近いよね?

 翔はもう少ししたら槍が帰ってくるから頑張ってね」

 そう言われて

 「そ、それってどーゆー事…」

 その翔の疑問に命は

 「翔の槍は九十九神化して自らの意思で姿を隠してるんだ…力を取り戻す努力をしない翔に怒った槍がね」

 にぎりしめた拳を震わせた翔に

 「だからあん時足手まといと言ったんだ、自分の力で何とかしようとしないで槍に甘えてばかりだからな」

 鬼百合にそう言われて

 「ぼ、ボクのせい…なんやね?」

 力なく呟く翔に

 「せいだった…だ、ユウ達を守る為自らの命を差し出す決意、それがお前を変え…それに真琴の霊玉が応えたんだ」

 そう鬼百合に言われて考え込む翔に
「翔、考えるのは後にして…焼けてるんだろ?配るから出して良いか?」

 そう聞かれた翔は

 「もう余熱はみこおねーちゃんの勾玉が吸うてもーたからよーす見て食うたらえーで…」

 そう翔が答えると

 「ほれ口を開けな、お前はこっちの方が良いだろ?」

 そう言って腰にぶら下げていた巾着袋から煮干しを取り出し翔の口に入れると自らは甘藷を取るとふうふう良いながら食べ始める鬼百合

 命以外が食べ始めるのを見て一本の甘藷熱を奪い冷ましたのをスーに渡して

 「みこおねーちゃんが食べるの手伝ったってや」

 そう頼むと再び鬼百合の隣に座り込んで煮干しをかじり始めた翔に少し割りなみに手渡すと頷いたなみが翔に食べさせ始めた

 八人目は大海原の女神の衣装に九人目は古代の女騎士の衣装

 で、共に命も欲しがり完成待ちで交換衣装は御法がデザインした巫女風と治安維持局の幻の制服

 朝食後は川遊びに誘われた命達で鬼百合とたけ他四人でお昼ご飯は勿論六人の釣果次第になっている

 最悪パンと翔が集め木の実だけと言う可能性が有るのだけに一体どうなることやら…

 月花の家の別荘に着くと降り立ったのは月花、月夜、月美、命と翔、鬼百合とたけ、さと(月花付きのメイド)、ミチ
で別の三台に残る孫達と側付きのメイド達に四人の見習い騎士他命の従者

 ユウは色々雑務が有るため黒蓮と留守番する事にして慰霊祭に向け準備した

 移動中の馬車の中での事

 「命様、頼まれてた物出来ました…」

 そう言って三本の鞘付きのナイフを取り出し命と翔に渡すと渋い顔をして
 
 「その二人に刃物か?」

 そう言われてたけは笑いながら鞘から抜いてみせ

 「鬼百合様、これは木製のペーパーナイフですからご心配なく

 ただ木製でも先端は尖ってるし下手な扱いをすれば簡単に折れますがもう少し細工を施せばそれなりの装飾品になりますよ?」

 そう言って残りの一本をペティナイフで彫刻を始めると鳥の羽の様な模様を描き始めそれを見ていた鬼百合が

 「器用なもんだな?」

 そう声を掛けると

 山ん中の一軒家で家族だけで住んでたし素材も時間もいくらでも有りましたからね…

 そう話しながら器用に掘り進めるたけの手元を見詰める月夜とその姿を見て密かに溜め息を吐く月花

 そして馬車を降りる際たけの手を取り頬を赤らめるのを見て(やっぱり…)と思ったけど取り敢えずは口にはしないでおいた

 鬼百合と少年達が昼食の確保の為釣りに行くのを見て寂しそうな顔をする妹に掛ける言葉の無い月花


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翔のおねだり

 
 新しい術を獲得した翔はその術を活かすべくあるモノをおねだりをするのだけど…


 

 今朝の修行によりグリエの上位魔法ケベックを習得し有効範囲の拡大と火力アップし発動時間もグリエが四半時に対しケベックは半時

 

 さらにケベックは時間差でグリエと発動出来るし勿論ケベック同士を時間差で発動も出来る

 

 で、習得した後ユウと命に

 

 「あんな、お母ちゃん…ボクな、今朝の修行で新しい技ケベックゆーグリエの上位魔法習得したんよ

 

 せやからその…厨房に有るやん?石窯オーブン用スコップが欲しいんやけどこーたってーな…

 

 それあったらグリエとケベックがもっと便利なるんちゃうかな?て思うんよ…

 

 そしたらボクかて色々お手伝い出来るやろ?ボクもーややねん玩具扱いも足手まといも…

 

 なぁ、こーたってーなー…それともやっぱボクがそない我儘ゆーたらアカンのやろか?

 

 せやったらそーないゆーてくれたらちゃんと諦める覚悟は準備しとるからはっきりゆーてくれてええんよ?」

 

 俯いて中々返事の貰えない翔が諦めかけると

 

 「伯爵様にご相談しましょう、当然の事ながら私はこの辺りの店の事は知りませんからね?良い店を紹介していただきましょう」

 

 それで伯爵に朝食の時に相談したら料理長が呼ばれ

 

 「予備のオーブン用スコップは有るか?」

 

 と聞かれた料理長は

 

 「勿論未使用品をストックしておりますが?」

 

 そう答えると

「ならば、それとオーブンで焼く料理を持ってきなさい

 

 翔ちゃんが新しい技、ケベックを習得したからオーブン用スコップが有った色々お手伝い出来るじゃないかと言ってるそうだ」

 

 そう言われた料理長が

 

 「ほう、成る程…焼きプリン今朝のデザートですから丁度良かったですな」

 

 そう言って笑いながら厨房に向かうとその後ろ姿に向かって鬼百合が

 

 「料理って訳じゃねぇが有ったら甘藷や玉蜀黍が有るんなら持ってきてくれねぇか?」

 

 そう声を掛けると

 

 「承知しました」

 

 そう返事を聞いて嬉しそうに笑う鬼百合を見ながらイマイチ状況の見えない翔が目をぱちくりさせてると月花が翔に

 

 「また新しい術を覚えたんですね…」

 

 そう言われたは照れ臭さから

 

 「今まで努力しなすぎただけやから自慢出来る事ちゃうよ…」

 

 苦笑いして言う翔に

 

 「その時が訪れたのが今…なのでしょ?命様…」

 

 そう問われた命が頷くと

 

 「少し前に全魔力を失ったみたい魔法が全く使え無くなると言う経験を経てようやく魔力が回復の兆しの見えてきた翔にとりまさに今こそ修行に取り組むべき時なのです」

 

 そう言って翔を見詰め優しく微笑み掛ける命と思わず視線をそらす翔の二人の姿がほほえましかった

 



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三から上

 
 そう聞いてナニを連想しますか?


 

 今朝の勝者は月夜(つくよ)で月花のもう一人の妹で翔に着せたのは可愛い魔女の衣装で代わりにピンキーエンジェルが贈られた

 

 因みにこれも欲しがる命に赤い頭巾の衣装同様にデザインしたメイドが作製に名乗りを上げた

 

 4番目は最年長の男の子で殆ど紐状の水着で…

 

 鈍い翔は平気で着てたけどそれを見たユウが思わず吹き出し男の子も怒った祖父…伯爵にこぶを作られた為五人目

 

 五人目は月花と同い年の男の子だけど彼

は女剣士の甲冑コスチュームでユウが渡したのは海兵隊の制服のコピーとスカートバージョンにアレンジワンピース

 

 紐状の水着も興味を示した命だけどユウに睨まれ諦めたけど女剣士のコスチュームは

 

 「その内剣舞を覚えるつもりだから丁度いーよっ♪」

 

 命にそう言われて溜め息のユウだった

この時の交換衣装はは真琴王子の翔バージョン

 

 因みに先程のユウの反応を見た水嫌いで泳げない翔は

 

 「みこお姉ちゃんちごて別に着たい思わんけど叩かれ可哀想やからボクのと交換したって」

 

 そう言って二度と着たくない水着を処分して貰った

 

 

 滞在四日目

 

 ユウを交え伯爵夫人とご令嬢に料理長以下厨房の者達が集まり慰霊祭での翔のブースの実演販売の演目を何にするかが話し合われていた

 

 それによりあらかじめ用意する物が異なるからだ

 

 ユウは鬼百合から焼き魚、肉の串焼き

玉蜀黍等をメニューに入れろと言われていたが…その話を翔にしたら

 

 「今みこおねーちゃんに熾火の勾玉つこて一度に沢山のグリエやケベック使えるよー修行しとるから色んな事出来るょーなるんちゃう?」

 

 そう言われて

 

 「沢山ってどれくらい?」

 

 そう翔に確かめると数の数えられない少女バージョンの翔は両手をユウに向けてパッと広げてみせると

 

 「こんだけやで?」

 

 と、言われて

 

 「翔ちゃんそれはいくつ?」

 

 と、聞いたけど自信満々で返ってきた答えは

 

 「沢山っ!」

 

 と、得意気に答えられてガクッ…と肩を落とし

 

 「翔ちゃん…貴女も皆と一緒にお勉強しなさい…」

 

 そう言って翔を見たが

 

 「みこおねーちゃんがお勉強始めたらボクも頑張る?」

 

 そう予想通りのしない言い訳を思いだし溜め息のユウだったが

 

 「当日までの修行で一度に操れるグリエとケベックの数が増やせるよう頑張っていると聞きましたから…

 

 絞りきれなければ色々作れば良いと思いますからまずは一人一人自分の意見をまとめてからで良いと思います」

 

 ユウのその言葉で一旦解散となった

 

 

 六人目の娘の服は神話の世界のフェアリーの衣装で交換衣装は命の水の妖精翔バージョン

 

 七人目は同じく神話の世界のエルフの衣装で交換衣装はこちらも命のお気に入りのピンクのバニー翔バージョン



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修行の成果と翔の槍

 

 勿論命も欲しがったがこの二作品はトモのデザインした物の為完成したら連絡する約束に

 

 

 滞在五日目

 

 「今朝の修行でようやく全員揃って豊作祈願の踊りを習得した巫女達に明日からは次の豊作の感謝の気持ちを捧げる踊りに入るからね

 

 鬼百合、そっちはどお?」

 

 そう命に声を掛けられた鬼百合は

 

 「今はわからんが少なくとも祭典前の四騎士に引けを取らんレベルに仕上げたつもりだぜ?」

 

 そう言われて

 

 「じゃあ、すぐは無理でも正騎士も近いよね?

 

 翔はもう少ししたら槍が帰ってくるから頑張ってね」

 

 そう言われて

 

 「そ、それってどーゆー事…」

 

 その翔の疑問に命は

 

 「翔の槍は九十九神化して自らの意思で姿を隠してるんだ…力を取り戻す努力をしない翔に怒った槍がね」

 

 にぎりしめた拳を震わせた翔に

 

 「だからあん時足手まといと言ったんだ、自分の力で何とかしようとしないで槍に甘えてばかりだからな」

 

 鬼百合にそう言われて

 

 「ぼ、ボクのせい…なんやね?」

 

 力なく呟く翔に

 

 「せいだった…だ、ユウ達を守る為自らの命を差し出す決意、それがお前を変え…それに真琴の霊玉が応えたんだ」

 

 そう鬼百合に言われて考え込む翔に

「翔、考えるのは後にして…焼けてるんだろ?配るから出して良いか?」

 

 そう聞かれた翔は

 

 「もう余熱はみこおねーちゃんの勾玉が吸うてもーたからよーす見て食うたらえーで…」

 

 そう翔が答えると

 

 「ほれ口を開けな、お前はこっちの方が良いだろ?」

 

 そう言って腰にぶら下げていた巾着袋から煮干しを取り出し翔の口に入れると自らは甘藷を取るとふうふう良いながら食べ始める鬼百合

 

 命以外が食べ始めるのを見て一本の甘藷熱を奪い冷ましたのをスーに渡して

 

 「みこおねーちゃんが食べるの手伝ったってや」

 

 そう頼むと再び鬼百合の隣に座り込んで煮干しをかじり始めた翔に少し割りなみに手渡すと頷いたなみが翔に食べさせ始めた

 

 八人目は大海原の女神の衣装に九人目は古代の女騎士の衣装

 

 で、共に命も欲しがり完成待ちで交換衣装は御法がデザインした巫女風と治安維持局の幻の制服

 

 朝食後は川遊びに誘われた命達で鬼百合とたけ他四人でお昼ご飯は勿論六人の釣果次第になっている

 

 最悪パンと翔が集め木の実だけと言う可能性が有るのだけに一体どうなることやら…

 

 月花の家の別荘に着くと降り立ったのは月花、月夜、月美、命と翔、鬼百合とたけ、さと(月花付きのメイド)、ミチ

で別の三台に残る孫達と側付きのメイド達に四人の見習い騎士他命の従者

 

 ユウは色々雑務が有るため黒蓮と留守番する事にして慰霊祭に向け準備した

 

 移動中の馬車の中での事

 

 「命様、頼まれてた物出来ました…」

 

 そう言って三本の鞘付きのナイフを取り出し命と翔に渡すと渋い顔をして

 

 「その二人に刃物か?」

 

 そう言われてたけは笑いながら鞘から抜いてみせ

 

 「鬼百合様、これは木製のペーパーナイフですからご心配なく

 

 ただ木製でも先端は尖ってるし下手な扱いをすれば簡単に折れますがもう少し細工を施せばそれなりの装飾品になりますよ?」

 

 そう言って残りの一本をペティナイフで彫刻を始めると鳥の羽の様な模様を描き始めそれを見ていた鬼百合が

 

 「器用なもんだな?」

 

 そう声を掛けると

 

 山ん中の一軒家で家族だけで住んでたし素材も時間もいくらでも有りましたからね…

 

 そう話しながら器用に掘り進めるたけの手元を見詰める月夜とその姿を見て密かに溜め息を吐く月花

 

 そして馬車を降りる際たけの手を取り頬を赤らめるのを見て(やっぱり…)と思ったけど取り敢えずは口にはしないでおいた

 

 鬼百合と少年達が昼食の確保の為釣りに行くのを見て寂しそうな顔をする妹に掛ける言葉の無い月花

 



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鬼百合とたけの釣りの腕比べ

 

 第1Rの釣果は鬼百合が32尾でたけが一歩及ばず30尾で他は10尾前後だけどたけは

 

 「さすが鬼百合様…師匠達が一目置くお方です…」

 

 そう言って頭を下げると鬼百合の方も

 

 「剣の腕は未々上をいかせる気はないが釣りの腕は直に追い抜かれるなっ♪」

 

 そう言って愉快そうに笑うと

 

 「鬼百合様…」

 

 そう言ってひょうたんと焼けた魚の刺さる金串を鬼百合に手渡たすスーに

 

 「オー、すまんな」

 

 そう言って受け取ると仕掛けを変え切り身餌に切り替えると早速たけの竿がしなる

 

 「ほう、いい引きだな?」

 

 感心する鬼百合にもアタリがあり竿を立てるとやはり竿がしなり引きを楽しむ二人

 

 格闘の末に良型のマスを釣り上げた二人に伯爵家の孫達も初めて見るそのサイズに目を丸くしている

 

 それらを漁師の娘達に託し本格的に飲み始める鬼百合と焼き魚をかじる少年達の明るい笑い声が響く川原だった

 

 たけに好意と言うか恋心を持ちたけとお話ししたい月夜だけど鬼百合や少年達との釣り談義が盛り上がって自分の視線に気付いてくれる気配はない

 

 この時点で月夜の視線に気付かないのは命と翔に当のたけだけでその状態見かねたミチが月花に

 

 「 宜しいのでしょうか? 」

 

 そう聞いてみたけど

 

 ( 自分で声を掛けれなくてどうするのですか? )

 

 そう思いながら月夜を見守る月花

 

 「 あっ… 」

 

 月夜が声を出すより少し前に竿の反応に気付いていてタイミングを伺っていたのだが竿がぐぐっとしなり竿を立てるたけに

 

 「こいつは…この引きはあれだな…」

 

 そう呟く鬼百合にたけも頷くとその相手との格闘が始まった

 

 重い引きに耐えながら様子を伺うたけと見守る命と翔以外の者達

 

 息が詰まる様な駆け引きの果てに鬼百合のサポートのフックが掛かりついに川から引きずり出された

 

 その様子をそっと見守っていたユウと黒蓮に伯爵夫妻と供回り

 

 「あんな物を見せられては腕が疼いて仕方無いだろう?

 

 こちらは良いから手伝ってきたらどうだ?」

 

 伯爵の背後に控えていた料理長にそう告げると

 

 「はい、ではお言葉に甘えまして…」

 

 そう言って頭を下げると腕がなる食材を前に命達の元に走っていくその後ろ姿はすっかり浮かれていた

 

 グリエとケベックにケベックの応用術スチーマーを最大数で10個発動出来るようになった翔

 

 薪や炭等不要な翔の術は自然を汚さないし後片付けも要らない楽々便利な夢のエコロジーな調理器具?

 

 

 午前中で公務を終えた伯爵が僅かな手勢を連れ命達の後を追い掛けてきたのだが元気な若い騎士達は荷物を下ろすと命達が川遊びをしている所に向かった

 

 



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お仕置きの時間~口は災いの元

 遅れてきた騎士達の分も十分に有る魚を再び焼き始めた翔の焼き魚に魔導と縁遠い騎士や兵達が警戒して…

 

 と、言うか翔自体を警戒してるのだから無理もないのだが…

 

 そんな騎士達の耳に聞こえてきたのが

 

 「ダメよ、翔ちゃんっ!ユウママと歩くお稽古もちゃんとするお約束でしょ?」 

 

 と、藍に抱っこされたまま歩こうとしない翔に注意しているが翔自身が甘えさせてくれる藍にベッタリで月花の言う事に耳を貸そうとしない

 

 そんな様子にさすがに呆れた鬼百合が

 

 「翔、程々にしとかんとアタイの方からユウに注意するよう伝えざるを得んぞ?」

 

 そう鬼百合に注意された翔が

 

 「そないな事してくれよったらボクの方も『 お父ちゃんがメイドのお姉さんに色目つこてたてゆーといたるわっ♪「随分愉しそうなお話をお父ちゃんとしてるのね…翔ちゃん? 』」」

 

 そう言われて顔を青くした二人が振り向くとひきつる笑顔のユウから禍々しい闘気が身体から吹き出し…

 

 その気迫に気後れした藍が翔を素直に差し出すと…

 

 その身柄を受け取ったユウは翔の小さな身体を膝に乗せ小さなお尻をぺしっ、ぺしっと翔には十分痛い力加減で叩き始めた

 

 「堪忍したってーな…お母ちゃんっ!」

 

 さすがの翔もそう言って泣きながら謝るから

 

 「まぁまぁ、ユウよ…翔も十分に反省して…」

 

 そう話す鬼百合が言葉を止め溜め息を吐き黙り込むのを見た騎士が小声で

 

 「月花様…今の寸劇は一体?」

 

 と、困惑気味に聞くと

 

 「少なくとも三者には冗談を言い合ってる気は微塵も有りません

 

 翔ちゃんにとりユウ様はそう…逆らえない母親の様な存在で敵なら容赦しないでしょう鬼百合様にとりユウ様は怒らせると面倒臭い存在

 

 ユウ様は仮想の家族を描ける鬼百合様、翔ちゃんが大好きだから自分の思うように振る舞ってほしい…そんな関係の三者です…」

 

 そう言われてやはり余り理解出来無いと言った表情の騎士に

 

 「せめて鬼百合様の気持ちは理解しなさい

 

 ユウ様は鬼百合様にとり大切な命様の協力者であり一目置く存在なのだから邪険にも扱えない…

 

 少なくともそこまで嫌ってない微妙な存在…それが私がお三方から感じる印象です」

 

 そう言われて何と無くわかるようなわからぬような得心のいかぬ様子の騎士に向かい

 

 「だから貴方達は朴念仁と言われているのですよ、全く…」              

 

 呆れてそう言う月花だったが暫くして胡座をかいて座る鬼百合の脚の上に座りツマミの豆菓子を摘まむ翔とその様子を見ながら幸せそうに微笑むユウ達三人の姿を見て

 

 その様子が家族の団らんの様にも見え騎士も漠然とながら理解出来た気がした



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魔女っ子翔ちゃん?

 

 何より魔導は理解出来ずとも程よく焼けた魚は旨いし翔自身が

 

 「ボクは元々火の魔法は得意やなく火の精霊の巫女のチサ様の霊玉呑み込んでもーたからチサ様が力貸してくれてるだけなんよ?

 

 せやからボク自身が理解出来てへんから説明出来ひんのよ」

 

 と、笑って言ったら

 

 「それを笑って言ってどうするのですか…理解しようとは思わないのですか?」

 

 そうユウに言われて

 

 「あはは、そらムリな相談やわぁ~っ…そないな事考えたら速攻で寝てまうんやから考えるだけムダムダ」

 

 そう言われて溜め息を吐くユウに思わず同情する騎士だった

 

 そんなわけで得体の知れない魔導師と言うレッテルは剥がれ精霊の巫女の従者でお調子者の魔女の弟子?

 

 とでも言うべき翔に対する警戒心は薄れ焼き魚は料理長が誉める通りに旨く

 

 (伯爵様がお気に召すわけだ…)

 

 そうやっと納得できたし

 

 「あの外見なら幼い娘達に人気が高いのでは?」

 

 そう聞かれたユウは

 

 「生きたお人形の翔ちゃんは不器用で色々とお世話のしがいのある娘で特におままごとが好きな子達は母親を真似た口調で話しかけてますからね

 

 宮廷のパーティーでも翔ちゃんが掴まり立ちしてよろけながら歩くとその一角は社交パーティー会場である事を忘れさせますね」

 

 そう笑って嬉しそうに話すユウが娘自慢の母親の様にも見えてきた男も苦笑いを浮かべるしかなかった

 

 そんなわけだったのだが…男達はある事にやっと気付いた

 

 「何だ?この異常な釣果は…」

 

 大物狙いの鬼百合とたけだけではなく他の四人も

 

 「今日は良く釣れる日だなっ♪」   

 

 そう言って喜ぶレベルだ

 

 おまけに料理長が捌いてる早瀬ウナギの旨そうな事…彼らにとり今日は騎士達にとって驚きの連続だった

 

 夜になり翔を取り合う孫娘達とその輪に入っていけずいじける少年達

 

 そんな少年達を他所に月花、月夜、月美達の両親だけが訪れ月美にプレゼントを渡すと

 

 「月美、お誕生日おめでとう…」

 

 そう父親が告げるとミサがネックレスにミチも仕上がったばかりの翔の人形を渡しユウは

 

 「翔ちゃんが着ていた物と同じデザインのドレス、ピンキーエンジェルです」

 

 そう言って渡しスーは

 

 「翔ちゃんが焼いたケーキを私達がデコレートしました…」

 

 そう言われて涙を浮かべて喜ぶ月美に

 

 「みこと先生はお歌を歌うねっ♪」

 

 そう言って月美のために歌い月美を喜ばせ伯爵も喜んだ

 

 そして最後に月美が

 

 「ユウさんにお願いが有ります…今夜だけで良いから翔ちゃんと一緒に寝たいから私の部屋に来てほしいの…」

 

 そう言われてユウが頷きこっそり溜め息をついて

 

 「ボクならえーで?」

 



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お茶目な侯爵様は宣った

 

 その大樹の様子を見ながら

 

 「大樹殿は地の精霊の巫女で有る忍王女に誓いを捧げた騎士と聞いてるが?」

 

 そう言われて大樹に代わり

 

 「それはあくまでも精霊の巫女と騎士の主従関係の物ですがそれがお気に召さぬなら大樹の誓いを返しましょう

 

 それで弟のように思う大樹の恋が叶うなら騎士に誓いを返した不甲斐ない主人の謗りも甘受しましょう」

 

そう忍に言われた侯爵は大樹を見て

 

 「命を賭けてと言ったな?

 

 ならばそれを見せてもらうが構わないな?」

 

 「お父様…」

 

 父侯爵に抗議しようとするのを母に止められて肩を落とすヴェルサンディに構わず大樹が頷くのを見て

 

 「地の精霊の巫女様もそれで構いませんね?」

 

 そう問われて忍も頷くと

 

 「歌の女神の国の騎士大樹、貴公に娘はやらんよ、やるのではなく貴家から貴公を婿養子にもらい受ける…

これが私の…侯爵家の答えだ、婿殿よ」

 

 そう言って嬉しそうに高笑いする侯爵と微笑む母をみてやっと事態を理解したヴェルサンディが大樹にしがみつき

 

 「大樹、私達許されたのよ…貴方のお嫁さんになれるのね…」

 

 夢見るような表情で呟くヴェルサンディを引き剥がし

 

 「いや未だ大事な事が残ってるよ」

 

 そう言われて引き剥がされたヴェルサンディが不服そうな表情をする前で片膝を着くと

 

 「我が剣は貴女を守るために在り貴女の敵にのみ振るうこと誓いこの誓いが疑われし時は自ら命を断ち身の潔白を証す事を今ここに誓います 

 

 この神聖なる誓い、受け取ってくれますね?」

 

 この二人の様に身分の高い女性に騎士からの正式なプロポーズを大樹がすると

 

 「勿論喜んでお受けします、大樹様っ♪」

 

 そう言って大樹の頬に口付けして大樹のプロポーズに応えたヴェルサンディ

 

 その二人を一同が祝福する中忍のチョコレート色の霊玉がひとつ…大樹が背負いし黒炎竜に取り込まれて黒炎竜の進化を促したがそれについては後程触れるとして

 

 「気持ちは既に婿殿と呼びたいが色々手続きが正式に済むまでは大樹殿と呼ぶことにして取り敢えず風呂で汗を流してきなさい

 

 その間に食事の支度も整うだろからな」

 

 そう侯爵が言うと謡華と目が合った命は

 

 「雪華、大樹とヴェルサンディ様を祝福したいから準備を手伝ってください

 

 それと侯爵様には事後承諾になりますがスクルド様が出水の精の導きを受ける巫女になりました事をご報告致します」

 

 そう二人に告げると

 

 「そうですか…命様、忍様、スクルドを宜しくお願いします」

 

 侯爵がそう言って頭を下げる侯爵とそれに倣い頭を下げる夫人

 



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地の精霊の巫女を護る騎士

 そう翔に言ってもらうと嬉しくなって翔の身体を抱き締める月美…慰霊祭まで後三日

 

 

 大人達は朝食後に帰りその日一日を別荘で過ごしてから伯爵邸に戻ると忍と媛が大樹を供に訪れていた

 

 王女として、そして地の精霊の巫女として伯爵領を訪れていたのだ

 

 「鬼百合さんにお聞きしますが五人の修行の進み具合を教えていただけませんか?」

 

 そう言われて

 

 「たけは正騎士に推薦出来るし四人は取り敢えず准騎士に推薦出来るまでに仕上げた」

 

 そう自信を持って答えると

 

 「レムさんからもそう連絡有りましたから…あ…」

 

 忍の霊玉がたけの前に浮き受け入れを求めると迷う事無く呑み込み地の精霊の祝福を受けた

 

 「たけ、今夜は早めに休みなさい」

そうユウに言われて

 

 「地の精霊の巫女である忍様が俺の誓いを受け入れをお願いします」

 

 そう言われて誓いを受け取ると

 

 「大樹と力を合わせ私に力を貸して下さい」

 

 そう忍に言って貰い、ホッとすると翔がたけの分の食事を急いで用意してくれそれを食べると眠りに就くたけだった

 

 

 命の中から雪の精霊の踊りを指導していた雪の精が現れ出て

 

 ー雪の精の巫女の媛歌よ…私も受け入れて雪の精霊の巫女となり雪の精霊の踊りを舞いなさいー

 

 そういわれて雪の精を受け入れ二人の雪の精が融合して雪の精霊へと昇華した

 

 そしてその翌日…

 

 いよいよ慰霊祭を明日に控えた伯爵家の城下町に白夜の国に向かうユカが阿を伴いアシスタントとして麦、小明を同行しあき、春菜、菜月、秋菜連れて立ち寄ると

 

 たけの事を聞き先々の事はともかくたけも地の精霊の巫女である忍の預かりにしてもらうよう話し合う事になった

 

 又、正式な認証式は後日としたけ、りゅう、れん、たかの正騎士に昇任

 

 コウ、サク、ケン、カン、トン、ナン、シャー、ペーを准騎士に昇任すること決まったと伝えられた

 

 そして慰霊祭当日ユカは若月の服と麦のアップリケ、ミサのアクセサリー、ミエのバッグの販売

 

 ユウは翔の用意する料理の提供をそれぞれに指揮することになり共に楽しみであり忙しい夜を迎えることになった

 

 命と媛歌は水、地、雪の精霊踊りを…地の精霊の巫女である忍は地の精霊の踊りと水の精霊の踊りを共に舞い奉納し

 

 歌う人魚姫である命は謡華と共に歌い慰霊祭を盛り上げ先人達の鎮魂を願った

 

 麦と小明は直接販売には参加せずエプロンを作りミサもアクセサリー作りを優先しての実演即売会で

 

 特に麦はアップリケの貼る位置をリクエストで聞くサービスも行って自らの新たな可能性を見いだしていた

 

 そしてまた、慰霊祭を盛り上げる役割を果たしていた

 

 

 



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マジッククッキングショー

 そして、今始まる翔が主役のマジッククッキングショー

 

 もちろん詳しい内容を知るのはごく一部の者だけなので皆固唾を飲んで翔の様子を見守っている

 

 そして、その翔の目の前に並べられている30尾の魚が串に刺された状態で焼かれるのを今が遅しと待っている

 

 左手で串を持ち鬼百合が二本持って右手をかざし

 

 ーグリエっ!ー

 

 そうスペルを唱え魚は宙に浮いたままになり残る串も順に焼き始め次に焼くのはローストビーフだけど何も知らされてない人達は翔が何をしているのかさっぱりわからなかった

 

 勿論、それは伯爵にとっては予想通り反応でしかなく

 

 「だからこそ人々が真実を知った時の驚きが大きいだろう?」

 

 が、伯爵の考えで最初に焼き上がった鬼百合が焼酎を煽りながら頭から丸かじりして二本目は阿が受け取ると美味しそうに食べると二人の焼き魚から立ち上る香りにつられて魚を注文する者が現れ始めた

 

 ローストビーフは黒蓮に石窯スコップに乗せて貰い

ーケベックっ!ー

 

 と、スペルを唱え石窯スコップは抜いて貰い新たに魚を焼き始める事にして次の準備はローストチキン

 

 串焼きの魚が三本売れ焼酎もひょうたん三本売れたが酒の販売は免許制で翔達は扱え無い為伯爵邸の出入りの酒屋に

 

 「面白い事をするからお前さんも店の酒を売りに参加しなさい」

 

 と、だけ言われて呼ばれたのだけど確かに面白い事をしていると気付き今度はローストチキンか…と感心している

 

 ケベックでローストチキンを焼きケベックで魚の串焼きを十本のローストポーク焼き魚が四本売れ焼酎もひょうたん四本売れた

 

 次にケベックで玉蜀黍、次のケベックで甘薯、次いで焼き魚を10尾焼き始める頃にはローストビーフが焼けたので黒蓮に出して貰い後はユウが料理して取り敢えず鬼百合が食べるとローストビーフも売れていった

 

 ローストビーフを食い終えた鬼百合がねじり鉢巻も威勢良くグリエやケベックの前に立ち用意された串焼き用のイカの串を掴むとそれらの上に乗せ焼き始めると醤油の焦げる匂いが立ち込め人々が集まり色々な料理が売れ

 

 酒もどんどん売れるのを見た隣の串焼き店の店主が鬼百合に

 

 「なぁ姉さんよ、俺もその天板とでも言うのか?それを借りてうちの串焼き肉を焼かせてもらっても良いかな?」

 

 そう言われてその言葉を待っていた鬼百合は

 

 「あぁ良いぜ、アタイもそろそろ本格的に飲みたくなってきてたからなっ♪」

 

 そう言って最後の一本が焼き上がるとそれは自分の肴にしてかぶりついて焼酎を煽った



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美味しさの秘密

 

 

 串焼き屋がグリエから放たれる熱で焼かれた串焼きを鬼百合に渡し味見してもらうと見ている者が思わず食いたくなる食いっぷりであっという間に食い尽くし串焼き肉はどんどん売れ

 

 串に刺した分みるみるうちにが減ってきたので串に刺し始めたのを見た翔が串焼き屋の店主に命印?の特製アットレーを差し出して

 

 「おっちゃん、これに刺したらグリエん中で焼いたるで?」

 

 そう言われて

 

 「焼き加減がわかるのか?」

 

 と、聞かれた翔が

 

 「あはは、そんなんボクがわかるわけ無いやろ?

 

 ボクのこの術は火の精霊の巫女様の霊力の加護でフレア様がボクに教えてくれんねん、丁度えータイミングをね

 

 焼き加減はおっちゃんのやっとたのでわかっとるよ、フレア様の霊力が」

 

 そう翔が言うと

 

 「成る程、フレア様の聖なる炎だからこそこんなにも旨くなるんだな…」

 

 そう言って頷くと

 

 「そのフレア様の祝福の恩恵を俺も肖りたいっ!」

 

 そう言って翔に手伝って貰いたい者が食材を持って集まる様子を見て笑みを浮かべ頷いていた

 

 

 

 熱々の料理を提供する一方で吸熱魔法で作った氷を使った氷水で冷やした飲み物も喜んで買ってくれたから嬉しくてたまらない翔とその売れ行きに笑いが止まらない酒屋の親父

 

 あらかじめ焼いておいたクッキーに焼いた玉蜀黍と甘薯と蒸した玉蜀黍等と共に売れていき…

 

 翔に用意された素材は既に尽きていたけど周りの店の店主達が食材を持って集まったから未々ケベックはフル稼働中

 

 飲食店コーナーは既に例年に無い賑わいを見せていた

 

 そして伯爵領名物の角力大会もいよいよ決勝になり月夜にとり最悪の事態に向かいつつあった

 

 優勝者には大抵の事なら願い事が叶えられる特典があり決勝に残った二人が望むのは月夜を嫁に欲しい、伯爵家に名を連ねたい…

 

 だったので叶えられない願いでは無いけど二人を好まない月夜は叶えて欲しくない願い事

 

 そんな月夜に優勝した男が最強の俺様の嫁になれと言ったから

 

 「今年の出場者の中では…でしょ?貴方などあの方達の足元にも及びません」

 

 そう言われて見た相手(大樹達)はそれなりに鍛えてはありそうだけど力士体型のその男から見たらチビ共でしかなく

 

 「あんなチビ共まとめて相手してやるわ、あいつらを平らげたらいい加減観念するんだな」

 

 その会話を聞いた媛歌が忍に教えそのついでに

 

 ーどうやら月夜はたけに気があるみたいだね?ー

 

 そう告げておいたから男の目から見た最強の男(大樹)に勝負を挑むと

 

 「たけ、貴方が彼の相手をしてあげなさい」

 

 そう言われてたけが土俵に上がるといきなりぶちかましを仕掛けたけど軽くいなすと勝手に土俵から転げ落ち

 

 その拍子に頭でも打ち付けたのか意識を失い月夜だけでなく街の者達からも好まれてないその男を気にする者はなくそのまま打ち捨てられていた

 

 大会参加者ではないからと優勝の褒美を辞退するたけの頬に月夜が口付けする顔を真っ赤にするたけを見て観客達からも祝福された

 

 



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侯爵家の三姉妹

 「王女の忍様に呼ばれたと仰る騎士様がお見えですが…」

 

 その報告を受けた侯爵は

 

 「こちらに案内しなさい」

 

 そう簡潔に答えると余程大樹に対し好印象を持ったらしい門番の少年が顔を紅潮させて

 

 「承知しました、直ちにご案内いたします」

 

 そう言って頭を下げると大樹を迎えに走った

 

 部屋に案内された大樹が主人への挨拶をしようとするのを止め

 

 「今は時が惜しいので必要有りませんが貴方はこちらの侯爵様のご領地は存じてますか?」

 

 そう忍に聞かれた大樹は

 

 「いいえ、勉強不足で存じません…」

 

  そう答える大樹の姿は確かに姉に小言を言われる弟のようで

 

 「ならばシュー、座長はお前の家の所縁の者…お前が案内して事情を話すのが早かろう?」

 

 と、言われて難しい事情を理解しなくて済むらしいと大樹は喜んで

 

 「シューさんでしたね?何分生まれて初めて国を出ましたからわからない事だらけですから宜しくお願いします、では参りましょうか?」

 

 その大樹の態度は他国の騎士に対する物で十二分に敬意が払われており大樹が出ていった後

 

 「彼は私達小姓に理解が有る方なんですか?」

 

 そうリーダー格の男がユウに聞くと

 

 「いいえ、勉強不足でと言ったあの者は小姓制度知をらないはずですが皆さんの態度や物腰は騎士の物

 

 その程度の事を見抜けぬ者が命様を始め王女宮の…ましてや忍様の騎士等と名乗らせはしません」

 

 そう答えるとシューを乗せ飛んで行く大樹を見ながら自分の知らない所で評価が上がっていく大樹だった

 

 

 

 

 「後は帰りを待つだけですから中断した食事を再開しましょう」

 

 侯爵の言葉で食事は再開され最初は氷の浮いていた冷たい水も温くなり始めていたからユウを見ると頷いたのでウルズに向かい

 

 「あんな、お姉さん…あれ取って欲しいんやけど…」

 

 そう言って指差されたウォーターサーバーを翔の前に置くと目を閉じて左手をかざし暫くすると

 

 「よっしゃ…こんなもんでえーやろ…お姉さん飲んだってみてや、お兄さんたーもね」

 

 そう言われてグラスに水を注ぐと侯爵家の者達が驚いた

 

 サーバーから出てきたのが氷水だったからで

 

 「美味しい…この季節にこんな冷たいお水が飲めるなんて…お父様とお母様に妹達の後に貴方達も頂きなさい」

 

 そう言われて主人達に注いで回り自分達も遠慮しながら飲むと驚いて顔を見合わせる中

 

 「翔ちゃん、もっと冷やしてくれますね?」

 

 そう言って別のサーバーを持っていかせ翔の吸熱魔法で冷やされると

 

 「遠慮は要りません、暑い厨房で頑張る料理人の皆さんに飲んでいただいてください

 

 翔ちゃんもその方が嬉しいでしょ?」

そう言われて

 

 「う~ん…取り敢えず…みこおねえちゃん、完成したばっかの新しい術試してみてもえー?」

 

 そう聞かれた命が頷くと宙に浮き上がり左手を上げ目を閉じる室内の空気の熱を奪い始めた

 



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吸熱魔法の真価

 翔の体を中心にして空気が対流を始め、ちょうど翔の足下に居るウルズは熱を奪われ涼しく感んじる風を浴び驚いて妹達を呼ぶと妹達も驚いたけど喜びやがて部屋全体が涼しくなり

 

 「お母ちゃんこん位でエーか?」

 

 と、翔の問い掛けにユウが

 

 「あまり冷やし過ぎは身体によく有りませんからね」

 

 そう答えると

 

 「凄い…完成したばかりと言う事は陛下は勿論伯爵殿もご存じない?」

 

 その驚きを隠さない侯爵の問い掛けにユウが

 

 「私もこのような魔法の使い方は今、初めて知りましたから…それと翔ちゃんは完成と表現しましたが微妙な熱操作が可能になったと言う事でしょう

 

 

 先程の氷水もそうですが、加減を誤ればただの氷になってしまいますし室温も涼しいを通り越して寒くなってしまいますからね」

 

 そう言われて驚くと共に心配そうに

 

 「ですが…これだけの術を使った翔ちゃん自身は疲れ無いのでしょうか?」

 

 そう心配して聞くウルズに

 

 「私達がフレア様から教えて頂いている翔ちゃんの術の基本は吸魔吸熱魔法と呼ぶもので、冷気を操るのではなく熱を奪う魔法

 

 更に翔ちゃんの特性は、その奪った熱を自分の魔力に変換して自分の魔力に変えて別の術に使うから魔力を蓄えた今は逆に元気一杯なんですよ?」

 

 そう説明されて照れ臭そうにえへへと笑う翔の頭を優しく撫でると嬉しそうに笑う翔が可愛くて

 

 (この笑顔…だからこの子だけが翔ちゃんなんでしょうね、他の従者の少女達は部下だから呼び捨てなのに…)

 

 そう思いながら見るユウの顔は、可愛い娘の自慢をしている若い母親の様に見えてきた

 

 そんな中で一人元気のないミサに

 

 「どうかなさいましたかお嬢様?」

 

 そう聞かれて困った顔をしながら

 

 「そのお嬢様と言う呼ばれ方に慣れないのと、命様のお食事中仕事をしないで食事することに罪悪感を感じてどうにもいごこちが…」

 

 と、そう元気の無い声で答えるミサに

 

 「そのどちらも命様の供をしていく以上、慣れるしかない事なのだと思いますよ?

 

 ユウ様とて最初から美月のスタッフだった訳ではなく見習いとして勉強してその努力の甲斐があっての今があるのでしょうからね?

 

 もちろん、生まれついての才能も有りましょうがそれを引き出す努力をなさったからで貴女がここにいらっしゃるのもその才能があると認められたから

 

 だから不安でしたらまずは努力すれば良いのではありませんか?

 

 少なくともこの場に居る者にはその努力を嘲笑う者は居ませんからね?」

 

 その答えに溜め息を吐いて

 

 「やはり慣れるしかないのてすかどうにも居心地が悪くて仕方がないのです…」

 

 そう自信なさげに呟くミサを

 

 (木念人と言われている私だがそんな私でさえ守って上げたくなる人だな…)

 

 そう思いながらミサをそっと見守る小姓だった

そして食事も終わりに近付き

 

 「媛と留美菜に美輝はいつもので翔もお願いしても良い?」

 

 と、命に言われた四人が頷くとりんも行動を起こし何が始まるのかと見守る中料理長がデザート用の器を持って現れた四人

 

 媛と留美菜の前に器を置きりんは蛍は特製のシロップを持って来ると媛と留美菜に美輝の三人が器に雪を降らせ始めた

 

 



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似て非なるモノ

冷却系の魔法と翔の吸熱魔法はやはり異なるものだと思います


 「はちみつレモン、野イチゴ、草ブドウ、ミカンをジャムにしたものですからお好きなものを掛けてお召し上がりください」

 

 そうりんがウルズに言うと

 

 「じゃあはちみつレモンをお願いします」

 

 そう言われてはちみつレモンを掛けて食べて貰いヴェルサンディがイチゴ、スクルドが草ブドウ、夫人がミカンを食べて目を丸くして驚き侯爵と料理長は小姓のリーダー格の男に運ばせた物を掛けて食べて居る

 

 「翔ちゃん、さっきの水と言い厨房の者達が皆喜んでたよ、私からも礼を言わせてもらうね」

 

 そう言われてやはり照れながら

 

 「ボクも誉めてもろて嬉しいから気にせんでもえーよ?」

 

 さすがにこれだけ誉められると照れるではなく身の置き所がないくらいだった

 

 午後のお茶が終わる頃座長を連れて戻ると暫くユウが話を聞き

 

 「大樹、私と座長さんを連れて王城に案内してください」

 

 と、要請すると命が

 

 「大樹には他にして貰いたい事がありますから忍王女、一緒に来てくださいそれとユウと座長さんも…」

 

 そう言われて立ち上がる一同を誘導して外に出ると祈る命に応えた一角獸が舞い降り

 

 「この子が案内してくれますから頼みますよ」

 

 その命の言葉に安堵の溜め息を漏らすヴェルサンディとスクルド、その二人の反応に気付かぬユウではないから成る程と感心した

 

 その三人を見送り振り向くと大樹に

 

 「大樹は今から三人のお嬢様を空にご案内しなさい」

 

 そう告げる命の言葉を聞いた侯爵夫人が

 

 「それは私は望んではいけない事なのでしょうか?」

 

 そう寂しそうに聞かれて

 

 「いいえ…その様なわけはなくただ、大抵の大人の女性は尻込みしますから…

 

 大樹、夫人様から始めウルズ様、ヴェルサンディ様、スクルド様の順にご案内しなさい」

 

 そう言われて夫人の手を取ると大空へと誘う大樹

 

 帰ってきた夫人に侯爵が

 

 (た何年振りだろうか?少女の様にはしゃぐ妻の笑顔を観たのは…)

 

 そう思いながら

 

 「どうだったかね?」

 

 そう妻に問い掛けると

 

 「えぇ、とても素敵な眺めでしたよ…宙に浮く感覚と空からの眺めはとても素晴らしいものでしたし…」

 

 そううっとりした表情で答える妻に

 

 「確かに興味深い話だが今私が聞きたい事で無いのは承知していよう?」

 

 そう言われて溜め息を吐き

 

 「礼儀正しくハキハキした気持ちの良い少年で、ヴェルサンディとスクルドが好意を持ってるみたいですからどちらかの婿になってもらい息子になって欲しいです」

 

 そう告げるとシューも

 

 「とかく他国の方達からは低くく見られ勝ちな私達小姓を大樹殿は

 

 共に旅立ち侍女の勉強をした少女達がユカ様から厳しい躾を受けていたのを見ているから皆さんの立ち居振舞いをバカになんて出来ないし俺達だって何の努力もなしに今が有る訳じゃない

 

 その両方をこなせる皆さんの事をなぜ尊敬出来ないのか俺には理解出来ないですよ?

 

 そう悲しそうに言ってくれましたから…

 

 彼は尊敬に値する男です家柄や血筋だけで騎士号を得た名ばかりの騎士とは違います」

 

 そう手放しの絶賛を送るシューと呼ばれた小姓の少年



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角豚か?

 その鬼百合の耳に

 

 「侯爵様、料理長が今夜は肉をどれ位用意しましょうかと聞いてますが?」

 

 そう叫ぶ留美菜の明るい声が聞こえたので

 

 「おいおい、まさかその肉たぁ侯爵領名物の角豚の事じゃねえだろうな?」

 

 そう鬼百合が言うと

 

 「勿論我が領内で肉と言って出てくるのは角豚の肉と相場が決まってますからな

 

 

 同じ豚でも角の無い物は角豚と区別する為に豚肉と呼ぶ習わしになってます故に」

 

 そう言われて

 

 「そう聞いちゃ是が非でも久し振りに角豚にかぶりつかにゃ気が済まなくなっちまったぜ

 

 みこっ、風呂に入るぞ…上がってこい」

 

 そう声を掛けると人魚姫の姿で鬼百合の胸に飛び込むと鬼百合に抱かれて風呂場に向かうのを見て

 

 「りんは命様の着替えの支度、なみは恐らく鬼百合の荷物に着替えが入ってるだろうから持っていって上げなさい」

 

 そう指示すると

 

 「はい、承知しましたっ!」

 

 その打てば響くようなやり取りに

 

 「賢くて素直な彼女達が側近く仕えてくれたら良いのに…」

 

 そう呟く夫人に小姓達は複雑な表情を浮かべていた

 

 大樹の気を引きたいヴェルサンディとスクルドの二人は手の空いてる雪華、なみ、りんにドレス選びとヘアメイクを頼むと

 

 「雪華ちゃん…今、歌の国ではどんな髪型が流行ってるのかしら?」

 

 ヴェルサンディがそう聞けばスクルドの方は

 

 「流行りより私が気になるのは、大樹様の好みの髪型でどんな風にしたら大樹様は喜んで頂けるのかしら?

 

 と言うその一言につきますけど実際のところはどうなんでしょうか?」

 

 そう言われた雪華となみは

 

 「流行りかどうかは知りませんけどヴェルサンディ様の長さでしたら観月様と同じ位ですから女神の祭典観覧仕様にしましょうか?」

 

 笑顔でそう答える雪華に驚いて

 

 「でしたらそれがこれからの流行りでしょう?公式の場で観月様が披露された髪型がよく流行ると聞きますからね、お願いできますか?」

 

 そう聞かれてやはり笑顔で

 

 「お任せください」

 

 そう答えるとりんに手伝ってもらい作業に掛かった

 

 その一方でなみは

 

 「スクルド様の長さでしたら真琴様とほとんど同じ長さですから真琴様の女神の祭典仕様にしましょうか?

 

 祭典当日の真琴様のヘアメイク班で鍛えられましたから」

 

 そう言われてスクルドも

 

 「ええ、なみちゃんにまかせます…当然美月のデザインですものねっ♪」

 

 と、こちらも嬉しそうに答えると変わっていく妹達を見て感嘆するウルズも

 

 (私もあの方の為に…そう言えたら…)

 

 そう思いながら変わって行く二人の妹の様子を眺めているウルズだった

 

 



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水の精霊の霊力

 「どうしましょうか?ウルズお嬢様のお時間かあまりありません…」

 

 そう焦る雪華にりんが

 

 「大丈夫ですよ雪華さん、こんな時の為の奥の手がありますから」

 

 そう言って見せたのは観月が愛用している化粧水の瓶で

 

 「観月様の化粧水…ですよね?」

そう雪華に聞かれて

 

 「はい、観月様に空き瓶を頂いた物に命様の霊力を過剰に含ませた霊水ですがこれは癖毛の酷いユミ様も愛用してます

これを使えば思い通りの髪型が出来るんですからね」

 

 そう言われて驚いた一同がりんを見るので瓶の蓋を開けると確かに雪華となみは命の霊力を感じたが

 

 「確かに命様の霊力を感じますけど私を導いて下さるの水草の精様ですから霊水が応えてくれるかはわかりませんよ?」

 

 寂しそうに言う雪華にりんは言った

 

 「そう草の精様が命様の中で水草の精様となられた方だから命様の霊水との相性はばっちりですし水草は普通の植物以上に水とは切っても切れない仲

 

 何より私達の思いに命様の霊気が応えてくれないわけはないじゃないですか?それに…私、言いましたよね?ユミ様も愛用してるって…」

 

 そう言われて「あっ!」と驚いた一同だけどウルズが

 

 「そのユミ様と言うのは美月のデザイナーのユミ様の事ですか?」

 

 そう聞かれたりんが

 

 「はい、そのユミ様ですが精霊の巫女でも女神の依り代でもありませんからご本人はやはり持続時間が短いとは仰ってましたね…」

 

 難しい表情で言うりんに

 

 「霊力が有るとか無いとかよりも親しいかそうでないかなんですね…

 

 わかりました、ウルズ様は私に任せりんちゃんはそろそろお風呂から上がる命様のお手伝いを頼みますね」

 

 そう今までの不安をぬぐい捨てりんに指示を与えてウルズのセットに掛かる雪華に

 

 「そろそろお嬢様達の支度を終えますと伝えておきますね」

 

 そう言って命の着替えを用意するとその場を後にするとウルズは雪華に

 

 「貴女達は皆本当に命様が好きなんですね…」

 

 そう言われて

 

 「はい、皆命様の側に居たくて侍女になりましたから」

 

 そう言い切る雪華が羨ましく

 

 (うちで働く侍女達は皆花嫁修業位にしか考えてませんからね…

 

 もっとも…だからこそ先程雪華ちゃんの言った台詞を言ってももらったところで真実味は全くないんでしょうけど…)

 

 そう考えていると雪華の

 

 「…よし、これで、お、わ、りっ♪と

あ、なみちゃん…スクルド様の支度は済んだ?」

 

 そう声を掛けると

 

 「はい、こちらも今終わりました」

そう答えたので

 

 「終わりましたぁーっ、お嬢様のエスコートお願いしまぁーすっ!」

 

 



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角豚サイコーっ♪

 そう声を掛けると入ってきた小姓達は皆目を丸くして

 

 「私達ではこうはいかんな…私達の技術センスは古臭く柔軟さもないが何よりお嬢様達があぁも喜んでおられる」

 

 そう言って感心して巫女達を見ると

 

 「私達は命様の支度を手伝いに行きますからお嬢様方をお願いします」

 

 雪華がそう言って頭を下げるとなみも

 

 「失礼します」

 

 そう言って頭を下げ退出する二人を見ながら

 

 (奥様の言われた通りだな…確かにあの娘達が奥様やお嬢様方の側に控えていてくれたら有事の際に我々も安心して任せ心置無く最前線にお向けるのだろうが…)

 

 挨拶代わりに地の精霊への奉納の踊り、豊作祈願、花の舞い、水の精霊への奉納の踊りを舞い謡華と共に10曲歌い食事がはじまった

 

 よく冷えた食前酒とジュースに驚く侯爵に夫人と令嬢達に

 

 「精霊巫女様達と翔ちゃんのお陰です」

 

 そう言われて妻の隣に座る翔と固まって座る巫女達を見て微笑む侯爵

 

 夫人に世話されながら角豚の炙り焼きにかぶりつく鬼百合に

 

 「相変わらずお前が焼くと旨いな、侯爵も食ってみな」

 

 鬼百合がそう声を上げると同行してない巫女達になみ、謡華、映見、ミサも勧めると

 

 「う、旨い」

 

 侯爵が唸り

 

 「本当に美味しい…」

 

 そう言って翔の頭を撫でる夫人と大樹を挟んで互いに気を引きあっていたヴェルサンディとスクルドも一瞬その事を忘れる美味しさで

 

 料理長が試食用に小さく切った物を持ってきたの見て

 

 「お前達も遠慮しないで試食しなさい、翔ちゃんも食べてもらった方が嬉しいのだろ?」

 

 そう言って翔を見ると鬼百合が得意気に

 

 「あぁ、伯爵領の慰霊祭じゃあ食い物系でも火を使う店の者達は皆フレアの祝福を受けた翔の火にあやかろうと材料持って集まってたんだぜっ♪」

 

 そう話すとなみも

 

 「火が無いのに焼けていくその不思議な光景を大人の人も魅入ってましたから…」

 

 翔の不思議な霊力を聞くにつれ首を捻りつつ

 

 「あの伯爵が何故翔ちゃんと出会っておきながら養女にと誘わなかったのだろうか?」

 

 そう不思議そうに言う侯爵に

 

 「まぁ、アイツがいるからな…」 

 

 鬼百合が笑ってそう言うと

 

 「そんなのユウが認めないよっ♪」

 

 命も笑って言うので

 

 「伯爵様もそれがわかってらっしゃるから諦めたみたいですからね」

 

 そう穏やかに微笑みながら言う映見

 

 「だが肝心の本人が猫舌で焼き立てが食えんのも笑える話だがなっ♪」

 

 鬼百合に笑ってそう言われても全く気にしない翔はそんな事より侯爵が時折摘まんでいる佃煮が気になって仕方なかったから

 

 「なぁなぁ、お父ちゃん…侯爵のおっちゃんが今食うとるのってイナゴちゃうん?せやったらボクも欲しいんやけど…」

 

 その翔の言葉を聞いて喜んだ侯爵が嬉しそうに

 

 「サイ、厨房に言って貰ってきなさい」

 



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翔の好物と侯爵領の隠れた名物

 

 そう小姓の一人に声を掛けるとそれを聞いた鬼百合が

 

 「アタイもツマミにすると酒が進む好物だからアタイの分も頼むぜっ♪」

 

 そう頼まれたので

 

 「承知しました」

 

 そう答えてもらい待つことにしたのだけど余り食事を摂りたがらない翔を心配した侯爵が

 

 「鬼百合殿、先に翔ちゃんに食べさせなさい」

 

 そう言って妻に渡すと頷いて受け取り翔に食べさせ始め翔も美味しそうに食べるのを見て小鉢を持って戻ってきたサイが驚いたけど侯爵と鬼百合に渡して又侯爵の背後に控える事に

 

 食事を終え本格的に飲み始めた鬼百合と侯爵で爆酒を飲みながツマミは辛炎ハムを軽く炙ったものを出させ

 

 鬼百合と侯爵夫妻が向かい合って座り夫人の膝の上に座り込んだ翔はイナゴの佃煮を喜んで食べていたと聞いた料理長が用意してくれた蜂の子を空炒りをお菓子感覚で摘まんでいる

 

 大樹を巡るヴェルサンディとスクルドの恋の鞘当てが本格的に始まり益々困惑するばかりの大樹とそれを見て呆れる巫女達

 

 ウルズや小姓達は映見の書いた絵を見せてもらう話になり完成品数点と原画のスケッチブックを持ってきて見せていた

 

 当然ながら謡華が未だ命と出会う前の絵も有るので謡華も初めて見る絵も多数あり皆喜んでいた

 

 

 「鬼百合殿ならご存知でしょうが歌の国の王太子は他国の王家ないしはそれに準ずる家柄の娘を迎えねばならず

 

 王太子の十四夜殿の年齢に釣り合う娘は近隣諸国には居らぬ現状」

 

 改まってそう話始める侯爵に、鬼百合が黙って頷くと

 

 「それ故我が家の長女のウルズに白羽の矢が当たったのも又自然の流れではあります…」

 

 「まぁ多少の年の差はあるが特に珍しい訳じゃねぇし本人達や周りが苦にするほど離れてるわけでもねえからな、続けてくれ」

 

 今度は侯爵が頷き

 

 「だが私達は迷った…親族一同の反対を押しきり妻と結婚した私達は…」

 

 そう言って言葉煮詰まる侯爵に代わって

 

 「政略結婚と言われるのを恐れたってところ…か、そしてウルズも長女の自分が先に嫁いじまったら妹達は…だな?」

 

 そう言われて力なく頷くと

 

 「はい、そんなことを口にする娘ではありませんが妹思いの優しい娘ですから…」

 

 そう侯爵が言うのを聞いて

 

 「成る程、そんなアンタ等にとっちゃ大樹はまさに救世主の出現って訳だな?」

 

 そう言われて今度は力強く頷き

 

 「私達は彼に好感を持ち私に仕えてくれる者達の評価も高いが何より娘達が彼に好意を寄せている」

 

 夫人も頷くと

 

 「どちらか一人は泣いてもらうしかないがそれでも惚れた相手…

 

 しかも、皆が祝福するなら二人を応援しないわけにはいかないが…みこは既に応援してるんだぜ?この恋愛模様をよ」

 

 「?」

 

 鬼百合にそう言われて事の意味がわからす顔を見合わせる二人に

 

 「媛に聞いたが二人の為に忍に使いをさせたんだとよ、だからそれを聞かされちまったからあれ以上は責められなくなっちまったんだ」

 

 そう説明された侯爵が感慨深げに頷くと

 

 「わかった四人の若い男女の幸せの為にアタイも一肌脱ごう」

 

 鬼百合が笑ってそう言うと

 

 「四人の男女?」

 

 侯爵が呟いて妻と顔を見合わせると

 

 「歌の国の第二王子がプロポーズした場に立ち会ったのだがその時王太子に言ったんだ

 

 お前も早く嫁さん貰って王妃を安心させてやったらどうだ?

 

 そうアタイが言ったら

 

 気に掛けていた娘から見合いを断られた私はまだそんな気に離れない…貴女の目には女々しいと映るのでしょうが…

 

 そう言って寂しそうに笑ってたんだ」

 

 その話を聞いた侯爵は勢い込んで

 

 「で、では未だウルズも可能性が!?」

 

 そう声を殺して聞かれた鬼百合は

 

 「あぁ、その可能性か有ると踏んだから四人の男女と言ったんだぜ?」

 

 拳を力強く握り

 

 「二人を煽って是が非でも大樹殿の心を掴んでもらわねばな…だが、大樹殿実家はそうしても良いのだろうか…」

 

 そう心配する侯爵に笑って

 

 「それなら問題ねぇ、次男坊のアイツの実家は既に年の離れた兄貴が継いでるから養子に行ったってなんの問題もねぇんだからな…

 

 逆に闇の者との戦いが始まったばかりなのにもう正騎士なんだぜ?大樹を始め巫女達の元に集いし若き英雄達はよ…

 

 このまま放っておいたらどこまで出世するんだろうな大樹の奴」

 

 その鬼百合の指摘に青くなって

 

 「余り出世してからでは引き抜きが難しから我々も気合いを入れねばな…」

 

 そう言って妻と頷き合う侯爵だった

 

 

 

 

 



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若き英雄の物語

②英雄譚

 

 夜明け前アクエリアスの結界に入り歌と踊りの稽古と媛に花の舞を指導し

 

 翔はできるだけ魔力を使わずに歩き回った

 

 踊りの稽古を始めさせる命は忍、留美菜、りんの豊作祈願の踊りを媛に見てもらい

 

 自分はなみと美輝に航海の安全祈願を指導した

 

 その後結界の外に出て謡華と歌の稽古に向かい翔、留美菜、美輝は厨房手伝いに雪華はウルズ、ヴェルサンディにはなみ、スクルドにりんが各々に朝の支度を手伝いに別れ

 

 首都からはにユウからの手紙が朝一番に届き開けてみると

 

 ー大樹に侯爵領に赴き予定が早まったが首都に来るよう劇団に連絡して欲しい

 

 観月様にはこちらから責任をもって連絡しますからー

 

 と、書かれていてその事を話しあっていたら支度を終えて降りてきたヴェルサンディが同行したいと言いスクルドも

 

 「私だって大樹様と町を歩きたいっ!」

 

 そう主張したので

 

 

  「ならアタイもついて行ってやるから往復交代でアタイと大樹のどっちの一角獸に乗るのか話し合いな」

 

 そう告げられ朝食に臨む事になった二人の女の闘いは朝から始まっている

 

 行きは大樹の一角獸にはスクルドが乗り鬼百合の一角獸はヴェルサンディが同乗する事になり食事の時に

 

 「お嬢様方のお供で出掛けるから翔も来い」

 

 そう鬼百合に言われだけどユウに叱られるのを心配して躊躇うって翔に

 

 「大丈夫、貴女が勝手に何処かに行くわけではなく鬼百合パパが一緒に来いと言ってるんですからね?」

 

 忍にそう言われて、命を見ると頷いてくれ最後に侯爵を見ると笑顔で頷いてくれたから

 

 「うん、連れてったってえなお父ちゃん…」

 

 そう答える翔の頭をがしがし撫でる鬼百合の二人を微笑ましく思いながら見守る一同だった

 

 まぁそんなやりとりがあっての翔の同行のだが五人を見送った後の事

 

 「何故鬼百合殿の事をお父ちゃんと呼ぶのだろうか?」

 

 そう不思議そう言う侯爵になみが

 

 「多分深い意味は無いと思います

 

 鬼百合様が好きなユウ様が、以前身体が動かなかった翔ちゃんの面倒を見てた時にそう躾たんだと思います

 

 命様達をお姉ちゃんと呼ばせるのも」

 

 そう言って溜め息を吐くと忍も

 

 「ユウがこちらに来るまではみこと呼び捨てにしてましたからね、命様の事を…」

 

 そう聞いてう~ん…と考え込む侯爵家の者だった

 

 嬉しそうな笑顔を浮かべ、大樹に話し掛ける妹を悔し涙を滲ませ睨むヴェルサンディに

 

 「よく我慢したな、妹にゃ可哀想だがあのにぶちんの大樹の気を引くにゃ片道だけじゃ短すぎる

 

 昼飯を一緒に食い少しだけ買い物もするからその後の帰り道を大樹と過ごす方がアタイとしちゃお勧めだ



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負けて得を取れ

 行きを妹に譲った褒美だ、スクルドの目はアタイと翔で誤魔化すからお前は大樹に適当な事を言って遠回りしな

 

 日が沈む迄に公邸に戻りゃ良いし侯爵にもそう伝えておく」

 

 そう言われてやっと気持ちを切り換える事にしたヴェルサンディだったがそんなヴェルサンディに

 

 「ヴェルサンディ、この先に何かあるのか?」

 

 鬼百合のその突然の問い掛けの意味はわからなかったけど

 

 「未だ月影の国が今の王家と侯爵家と伯爵家が三つ巴の覇権争いをしていた時代の国境の砦跡とその近くに村が在りますがそれがなにか?」

 

 そう聞き返すと近寄ってきた大樹も

 

 「鬼百合様、この先から不穏な気配を感じますが?」

 

 そう言ってきたのを聞いた翔が

 

 「ボクが様子見てくる…」

 

 そう告げるとヴェルサンディに抱かれていた翔の身体が光を放ちフッと消えると目の前に朱鷺色の小鳥が現れ村の方に向かって飛んでいった

 

 「鬼百合様、翔ちゃんが消えてしまったんですけどもしかしてさっき小鳥が?」

そう言われて

 

 「あれが翔の本性、火の精霊の巫女の霊玉で遊んでた小鳥の翔がうっかり呑み込んじまってあの少女の姿になった翔は言わば少女の姿をした霊獣

 

 済まんがこの事は未だ口外しないで欲しいのと出来たら翔の事を嫌わないで

やって欲しい」

 

 そう言われて

 

 「小鳥の翔ちゃんも可愛いから嫌うなんて事有りませんし人魚姫の命様達は良くて小鳥の翔ちゃんがダメなんておかしいって思うんですが…

 

 確かにそう思わない人が多いのでしょうね」

 

 そう言って考え込んでいると

 

 ー山賊崩れが女の子人質に取って金目のモンや食いモンを要求しとる

 

 人数は取り敢えず確認できたんは10人やけど他に隠れとるんが居らんとは言い切らんー

 

 そう鬼百合と大樹に報告すると

 

 「大樹よ、どう思うよ?」

 

 鬼百合にそう言われて

 

 「10人位なら少々増えても問題有りませんがやはり人質の身の安全確保が一番ですね」

 

 その大樹と鬼百合の会話を聞いたスクルドが驚いて

 

 「大樹様、人質とか一体何のお話なんでしょうか?」

 

 そう聞かれた大樹は

 

 「どうやら山賊崩れがこの先に在る村で女の子を人質に取るって事件を起こしてるらしいんだ…」

 

 そう答えると

 

 「何故その様な事を?」

 

 その妹の疑問にヴェルサンディは

 

 「翔ちゃん、来て」

 

 そう言って呼ばれた紅い小鳥がヴェルサンディの差し出した左手の人指し指に止まると

 

 その小鳥を愛しそうに撫でるヴェルサンディを見て

 

 「まさかあの小鳥が翔ちゃん?」

 

 そう言われて頷くと

 

 「き、綺麗な鳥…翔ちゃん、来てっ!」

 

 そう呼ばれてヴェルサンディを見たら頷くのを見た翔がスクルドの指先に止まる翔

 

 



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下手な山賊より面倒な輩

 するとそれまで堪えていた涙が溢れだし泣きながら母親の胸に飛び込むのを見てホッとして残りの山賊達を退治した

 

 それを見て安堵の溜め息を吐く村長に

 

 「安心するのは未だ早いですよ、暫くは目を覚まさないだろうけど念のため縛り上げておいて損はないと思います」

 

 そう大樹に忠告され慌てて縄を用意して縛り上げるのを見守っている大樹に人質にされていた少女とその両親が近寄って来たから何か言う前に

 

 「怖かったろうけどどこも怪我はしてない?」

 

 そう話し掛けると笑顔で

 

 「はい、怖かったけどお兄さんのお陰で痛い目には遇いませんでした、有り難うございます」

 

 そう言われて

 

 「俺も君が無事でホッとしてる」

 

 そう答える大樹の頭の上から

 

 「大樹、ようやく役人のお出ましだ、ある意味役人の相手は山賊より面倒臭えからトンズラこくぞっ♪」

 

 そう笑って言われ翔にも

 

 ー一応ボクが様子見て無事連行されるの見たらお父ちゃんの気ぃを辿っていくさけ…ー

 

 その先に困る翔に

 

 「お嬢様のヴェルサンディにこんな事を頼んで申し訳ないが後で翔に服を着せてやってくれねぇか?」

 

 そう言われたヴェルサンディは

 

 「勿論ですとも鬼百合様、可愛い翔ちゃんのお手伝いを頼まれたのをスクルドが後で知ったらさぞかし悔しがるでしょうね?」

 

 そう言って笑うヴェルサンディを見て翔を取り合ってたユウとユカを思い出し苦笑いする鬼百合

 

 二人の令嬢を乗せた二騎の一角獣が飛び去るのを見ていた村人の一人が我に返り

 

 「一角獣…そうか通りで強いはずだ、あの少年は歌の国の霊獣の騎士と呼ばれる英雄の一人なんだからなっ!」

 

 したり顔でそう叫ぶと少女が

 

 「じゃ、じゃああのお兄さんは騎士様なの?そんな偉い方が私が怪我してないか心配してくれたの?」

 

 そう不思議そうに呟くと

 

 「彼は本物の騎士様だからだよ? 騎士だってだけで威張り腐ってるような輩とは格が違うんだ

 

 彼みたいな男が婿養子で侯爵様の跡を継いでくれたら良いのにな…」

 

 そう溢すと別の者が

 

 「何だお前、彼が飛び乗った一角獣にはスクルド様ともう一騎の一角獣の女戦士の前にはヴェルサンディ様が同乗されてたのを?」

 

 そう話すと別の話好きの女が

 

 「しかも二人のお嬢様方が彼を見る目は完全に恋する乙女の物だね…ありゃ」

 

 面白そうに喋ると

 

 「侯爵様はこの事をご存知なのだろうか?」

 

 そう一人の男が言うと

 

 「バカだね…現在訪問中の歌う人魚姫こと命王女と霊獣の騎士…そして二騎の一角獣が向かった先は侯爵様のお屋敷の在る候都

 

 疚しい事がありゃ絶対足を向けない方向だよ?」

 

 そう答えると

 

 「成る程、こりゃ暫くは目が離せそうにない話になりそうだな?」

 

 と聞かれた女は

 

 「そりゃそうさ、でなきゃいくら功績の有る騎士でも余所者は余所者

 

 侯爵様が認めてなきゃ二人のお嬢様を託すわけがない」

 

 そう女に言われて

 

 「 問題が有るとすりゃあの騎士殿の鈍さだろうな、ありゃお嬢様達の視線に全く気付いてないな 」

 

 そう言われて女も

 

 「 だね、ありゃうちのちび助が大きくなったら格好良い騎士になるって言ってる時の表情してたからね

 

 未々夢に向かって一直線っ!って所だろう…まぁそれはそれで好もしいんだけどさっ♪ 」

 

 そう言って笑うとどちらにしろ全てはこれからなんだろうね…そう思う村人達だった

 



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大樹の夢

 「おや?昨日の騎士様ではありませんか…二日続けてのお越し、一体何事なのですか?」

 

 副座長のその問い掛けには鬼百合が

 

 「どうやら衣装の話が上手く纏まりそうだから首都に来て欲しいんだとよ」

 

 そう話すと団員達も

 

 「成る程、座長らしい話だ…早速支度して明日の朝出発しましょう」

 

 そう話すのを聞いて鬼百合も

 

 「わかった、明日の朝又迎えに来る」

そう告げると

 

 「その様な事をしていただいては申し訳有りません」

 

 そう答えるのをスクルドが

 

 「私達がこちらに来る途中古関の村で山賊騒ぎがありましたが幸いこちらの騎士、大樹様の活躍で事無きを得ましたが…

 

 貴方達も無事と言う保証はありませんから遠慮せずに感謝して良い舞台にするため稽古に励みなさい

 

 何より劇を知らない命様が今回の件で興味を持たれ一度見てみたいと仰ってくださりましたから無事に来てもらわねば困ります」

 

 そう言われて驚く団員に

 

 「アタイも縁有ってお前達の舞台を何度も観たこと有るが骨太の芝居をするお前達の劇はみこに是非とも見せたい物だ

 

 最も…アタイが観に来たのはかなり前だから団員も大分入れ替わったようだがな」

 

 そう言って昔を懐かしむように目を細める鬼百合に

 

 「もしかしたら宇和月婦人に付き添って観に来て居られた騎士の方ですか?」

 

 そう言われて苦い顔で

 

 「あぁ…身辺警護で受けた話だったんだがな…」

 

 そう言って苦笑いし

 

 「まぁそうゆうこったから半年の間にかなり来たからさすがにちっとはわかるつもりだぜ?」

 

 そう言って笑う鬼百合を見て

 

 「明日はどうかよろしくお願いいたします」

 

 頭を下げると

 

 「あぁ、その分久し振りにアンタ等の劇を楽しませてもらうからこっちこそ期待してるぜっ♪」

 

 そう笑って言われて気が楽になった劇団員逹だった

 

 その後はスクルドの独壇場で大樹の活躍を熱く語ると照れ臭そうに

 

 「俺逹がなりたかったのは物語や伝説に出てくる格好良い騎士

 

 小さい頃になりたいと夢見た騎士なんだから騎士になったからもう終り…じゃないんです

 

 騎士はその夢の入り口だしそうなれるように振る舞い修行を積んでるんです」

 

 そう大樹も自分の思いを語ると

 

 「その夢を今の小さい子達に見せてあげて下さい、格好良い騎士を…

 

 情けない現状を知る私達は英雄譚を演じるのは悲しすぎますからね…」

 

 そう言って目を伏せると

 

 「安心しな、みこを慕って集まった少年逹が大樹逹に続けとばかりにと力を着けてきてるが何より大樹とたけと言う者は地の精霊の巫女…

 

 この国の王女になった者の騎士だからこの国の常駐になるだろう」

 



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意識し合う二人

 

 そしてその大樹の言葉を聞いたヴェルサンディーは

 

 「逆にですけど、私からしたら貴方の騎士号は様々な幸運が有ったにせよ自らの力で勝ち得た物

 

 だけど、私達の侯爵令嬢はたまたま侯爵家に生まれ落ちたからに過ぎません

 

 勿論その様に生まれたのだからそれに相応しく生きてきたつもりですしこの先もそうして生きていくのでしょう

 

 ですからたまに思うんですよ…

 

 私達の周りで私達をちやほやする殿方達にとり、肩書きの無い私を見てくれる殿方は果たして何人居るのだろか?と…」

 

 そのヴェルサンディの言葉に大樹は

 

 「俺達が命様の供を許されてすぐの事だけど、俺と海斗って言う幼馴染みの二人はユカ様に言われてその夜の宿を取りに町に先乗りして宿を探したんだ

 

 だけど…命様の事を伏せてと言う縛りがあった俺達はどこの宿屋からも断る以前に話すら聞いてもらえず

 

 最初は落ちぶれてるからと言って、最初は通りすぎた宿に行ったら話を聞いてくれ部屋も空いてるって言ってくれたんだけど

 

 更にその宿の女将さんが、ユカ様に何故命様の名前を出さなかったのですか?

 

 そうすれば断る宿等一軒もなかったのでしょうに?」

 

 そう言われてユカ様は

 

 「肩書きで客を選ぶ程度の宿に大切な命様をお泊めする気はありませんっ!って言ったんだ」

 

 きっと自分の求めていただろうその言葉に

 

 「その宿屋はどうなりましたか?」

 

 そう問い掛けると

 

 「女神の祭典後の今では中々予約の取れない人気の宿になってるそうです」

 

 そう告げられて

 

 「有り難う大樹…」

 

 「君で良いよ、年下の留美菜やりん達にまでそう呼ばれてるからね」

 

 そう苦笑いで言う大樹に

 

 「それなら私の事はヴェルって呼んで…少なくとも今のこの時だけは…

 

 私、この呼び方は家族以外…特に男の人には許してないのよ」

 

 はにかんで言うヴェルサンディに

 

 「わかったよ、ヴェル…でも…「でもなんか要らないっ!」」

 

 大樹の言葉を遮りしがみつくヴェルサンディに苦笑いしながら

 

 「俺が言いたいのはヴェルさえ良ければ皆の…特に侯爵様の前でお嬢様じゃなくヴェル様とお呼びしても良いですか?って事なんだよ」

 

 そう言って真剣に見詰めて聞いてくる大樹の胸に顔を埋め

 

 「えぇ、そう呼んでくれたら嬉しい…特別な大樹君にそう呼んでもらえたらとても…」

 

 そう言って暫くの間寄り添っていた二人けど

 

 「もう帰らなきゃ、間も無く日が沈む…」

 

 大樹にそう言われたヴェルサンディは

 

 「最後に今日の思い出が欲しいの…このネックレスを大樹君に着けてもらいたい…」

 

 そう言って差し出された化粧箱を受け取るとそっとヴェルサンディの首に掛ける大樹に

 

 「似合うかな?」

 

 恥ずかしそうにはにかみながら大樹に聞くヴェルサンディ

 



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アリス

 鬼百合のその言葉を聞いて

 

 「それは頼もしい話ですね…大樹殿、期待してますよ」

 

 そう話して居る所に翔に服を着せたヴェルサンディが戻ってきたのを見た鬼百合が

 

 「そろそろ飯時だがお嬢様方をお連れしても恥ずかしくない店を紹介してもらいたいんだかな?」

 

 鬼百合にそう言われた副座長が

 

 「マークス、アリスを呼んで来なさい」

 

 その言葉に思わず眉を潜める鬼百合だったが、強いて何も言わず成り行きを見守っていると現れたのはりんや留美菜と同じ位の年頃の少女で背丈もりんと然程変わらない位だろう

 

 「副座長さん、私にご用でしょうか?」

 

 そう言って頭を下げる少女に

 

 「こちらのお客様を赤レンガの店に案内して貰いたい、頼めるね?」

 

 そう言われて眉を潜めて

 

 「あのお店は一見さんは入れてくれないはずですよ?」

 

 そう答えると

 

 「アリス、この方逹を良く見なさい」

 

 そう言われて改めて四人?の男女を見ると

 

 「え、あ…お嬢様方…わかりました、ご案内します」

 

 そう言って立ち上がるアリスを見ながら副座長に

 

 「本来女人禁制のこの劇団に居る少女…色々事情有っての事だろうがその事情話しちゃもらえんだろか?

 

 場合によっちゃ力になれるかもしれん」

 

 そう言われて副座長とマークスにアリスが顔を見合わせてアリスが頷くと副座長が

 

 このマークスとアリスは歳の離れた兄妹で二年前の流行り病で相次ぎ二親を亡くしたアリスはマークス以外頼る者が無いので緊急の処置でうちで引き取ってますが…

 

 やはり早急に身の振り方を考えてやらねばと思ってます」

 

 そう言われてギュッと目を瞑るアリスの肩を抱くマークスに向かい

 

 「その悩み、アタイが何とかしてやりたいが…アリスと言ったな?人魚姫に会いたいか?」

 

 そう聞かれて

 

 「歌の国の命王女様の事ですか?」

 

 そう鬼百合に聞き返すと

 

 「あぁ、歌う人魚姫と呼ばれる命王女だがアタイ等はその王女の供としてこの国に来ている…

 

 が、現在命王女が侯爵殿の公邸に招かれているため侯爵殿の使いを頼まれ今ここに来た

 

 もしお前が望むならアタイが推薦してやるから王女の側で仕えないか?」

 

 その意外すぎる提案に

 

 「その様なことを貴女の一存で?」

 

 そう聞かれて笑いながら

 

 「大樹よ、お前達が供として仕えたいって言った時に何か条件言われたか?」

 

 そう聞かれて

 

 「俺達は初めての騎士志望だったから阿様の闘気の洗礼を受けましたが同じ街の侍女志望の女の子達やその後から来た子逹は親の承諾位ですが…

 

 そのこの子の場合保護者である兄の貴方が鬼百合様に妹を宜しくお願いしますと命様にお伝え下さいと言えば良いと思います

 

 実際両親を亡くした子も居たけど引き取って親代わりをしている人がお願いしますと言った事も有りますからね」

 

 そう大樹に言われても自信の無いアリスが

 

 「で、でも私何も…」

 

 そう戸惑うアリスに

 

 「心配しなくても大丈夫、その為の見習い期間で勉強や礼儀作法を習うのが最初にする事だから」

 

 そう大樹が言えば鬼百合も

 

 「それにな、お前ならすぐに出来る手伝いもいくらでも有るから期待してるぜっ♪」

 

 そう言って翔を見てニヤリと笑う鬼百合が面白く無い翔だけど言われてる事が間違いじゃ無いのが余計に面白く無い事でもある

 

 「アリスがその気なら寂しいがいつまでも一緒に居られないのはわかるだろ?

 

 なら、今この方にお願いして命王女様の元へ行けるなら私は喜んでお前を送り出そう」

 

 そうマークスに言われて

 

 「私…命王女様の元へ行きお仕えしたいです…宜しくお願いします」

 

 やっとアリスがそう言ったので兄のマークスも

 

 「鬼百合様、アリスの事を宜しくお願いしますと命王女様にお伝え下さい」

 

 そう言って頭を下げると他の者も頭を下げるのを見て

 

 「アリス、お前の為にこんだけの人間が頭を下げてくれることを忘れるな、お前は一人じゃないんだからな

 

 確かにアリスはアタイが預かったから安心しな

 

 アリス取り敢えず当面の肌着の着替えを用意してきな…

 

 その後で今のお前がすぐに出来るお手伝いのひとつ、早速その赤レンガの店とやらに案内してくれ」

 

 そう言われて肩掛けカバンに着替えを入れて戻ってきたアリス

 

 そのアリスを肩に乗せると頬を膨らませ抗議する翔をを苦笑いして抱き上げるヴェルサンディの後に続いて出ていくのを見送るマークスとその他の劇団員逹

 

 アリスの門出を祝う…そんな気持ちでアリスの旅逹を見送るのだった

 



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ボクのお父ちゃんをとるなっ!

 (格式は高いのだろうが酔仙亭の二階、三階だってひけはは取らないが一見を断るような了見の狭いことはしんぞ)

 

 そう思いながらお任せランチを六人前頼み

 

 「アリス、こいつは翔と言ってみこが妹みたいに扱ってる者だが不器用でまとも飯も一人でよう食わんから手伝いを頼む」

 

 そう言って、翔用の食器と食事用のエプロンを渡すとそれを受け取ったアリスが翔にエプロンを掛けて料理を待っていると

 

 じとっ…と、見る翔の視線に気付いて

 

 「どうかしたの?翔ちゃん…」

 

 そう聞いても

 

 「べっつに…なぁんも無い」

 

 そう言って視線を逸らすがアリスが首を傾げ視線を他に移し、又暫くすると、翔がアリスをじとっ…と見ているのに気付いて

 

 「翔、アリスがどうかしたのか?」

 

 そう、鬼百合に言われて

 

 「ふんっ、あほで可愛無いボクに飽きてその可愛い子に乗り換えるんやろ?ボクはもう要らん子なんやろ?なら放っておいてんか…」

 

 そう言って頬を膨らませる翔に

 

 「お前、何言ってるんだ?」

 

 呆れ顔で聞く鬼百合に

 

 「お父ちゃんがこの子をボクの席に座らせたからやないの…ボク楽しみにしとったんやで?」

 

 そうボソボソ言う翔を不思議そうに見ながら

 

「鬼百合様は翔ちゃんのお父さんなの?」

 

 アリスが不思議そうな顔で翔に聞いてみると

 

 「お母ちゃんがゆーたんや…

 

 『今日から私がママで、水鬼百合様がパパだからちゃんと言う事を聞くのですよ…良いですね?』

 

 て、そないゆーたんやで?」

 

 半ベソかきながら言う翔の頭を撫でながらアリスは

 

 「大丈夫、翔ちゃんの大好きなパパを取ったりしないからね?そんな事したら翔ちゃんとお友達になれないでしょ?」

 

 アリスのその言葉を聞いて

 

 「ボクの友達…ホンマか?ホンマやったらメッサ嬉しいんやけど…ボク友達居れへんからね」

 

 そう言って苦笑いすると

 

 「翔ちゃん、私達はお友達じゃないの?」

 

 淋しそうに聞くスクルドに

 

 「あんな…どんだけウルズ様やヴェルサンディ様、スクルド様がボクを可愛ごーてくれてもボクはみこおねーちゃんの従者の一人に過ぎひんのやから身分が違うやろ?」

 

 そう言われて肩を落とすスクルドに

 

 「友達とか、そない失礼なことはよー言わへんけどスクルド様が大好きなんはホンマの事やけど迷惑や無い?」

 

 そう言われて翔の身体を抱き締めるスクルド

 

 「さぁ、飯が来たようだからみんなで食うことにしようか?」

 

 そう鬼百合に言われて食事を始めた一同だった

 

 付きだしのハチの子の甘露煮はヴェルサンディとスクルド、アリスが嫌がっだ

 

 けど、逆に翔か喜んで食べるため問題なし

 

 勿論鬼百合も好物だし大樹も苦にしないが、余り食事に関心を持たない翔が初めて要求するのを見せたので翔に食べさせる事した方が良いと判断したのだ

 

 



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朴念人の恋の芽生え

 
 色恋に疎い少年が自分が恋している事を自覚します


 

 大樹には代わりに二品目のピリ辛のスープをご飯のお代わりを貰いながら飲んでいた

 

 

 辛味に弱い翔には無理なそれを大樹に任せお好み焼きにメインの角煮に香の物〆のデザートの溶けかかったかき氷を食べ終え

 

 はっきり言って残念な昼食

 

 それでも翔の食事を手伝って自分に出来ることがある事を知ったアリスにはとても貴重な体験で小さな翔の世話は楽しかった

 

 食事の後で命逹に土産を買うことになり

 

 命、忍、ミサ、留美菜、なみ、りん、美輝、翔に似合いそうなコサージュをヴェルサンディとスクルドに選んでもらい

 

 アリスは二人に見立ててもらって、ユウには湖水真珠の指環を贈る予定だ

 

 他には、翔が欲しがった瓶詰めのハチの子やイナゴ等を買ってもらいご満悦の翔

 

 そして最後に大樹に

 

 「今日のお礼をしたいからと言って好きな物を選んでもらえ、あくまでプレゼントするのはお前だと言うんだぞ?」

 

 そう言ってヴェルサンディが選んだのは水牛の角で作ったネックレスにスクルドは水牛の角で造られたカメオを買ってもらい大喜びの二人

 

 スクルドの目を欺き、一足先に帰った鬼百合は忍の元にアリスと寝ている翔をを連れて行くと

 

 「鬼百合、その子誰?もしかして鬼百合の隠し子、それとも拐ってきたの?」

 

 そう言われて

 

 「お、お前なぁ…アタイをどんな目で見てんだよ?」

 

 そうボヤイたら

 

 「こぉーんな目だよぉ~っ♪」

 

 そう言って、左右の目尻を引っ張って見せる命に脱力してへたり込む鬼百合は

 

 「忍、済まんが侯爵に報告があるからこの子、アリスを頼むぞ」

 

 そう言って侯爵に山賊騒ぎと顛末、ヴェルサンディに大樹と日が沈むまでに戻るように言って遠回りさせた事を報告

 

 騒ぎその物より、大樹が山賊達を一蹴した事実が侯爵を事の他喜ばせた

 

 その後で命逹に土産を渡すとやはりミサだけが恐縮するが

 

 「お前だけじゃねえんだから遠慮するな」

 

 そう言って受け取らせた

 

 その同時刻の大樹は、ヴェルサンディと二人、山上湖の畔で夕焼けをみていた

 

 真っ赤な夕陽を浴びる大樹を見ながらヴェルサンディと話ながら漠然とした違和感を感じていた

 

 「大樹様、どうかしましたか?」

 

 先程から首を傾げ、一心に考え込む大樹を見ながら自分と二人きりはつまらないのだろうかと不安なヴェルサンディが堪らずにそう声を掛けると

 

 「う、ん~っ…何か昨日からなんか違和感を感じてたんだけど…」

 

 そう考え込みながら答える大樹に

 

 「大樹様が感じる違和感…」

 

 そうヴェルサンディが呟くと

 

 「それだ、その大樹様だ…貴女の様なお嬢様に大樹様って呼ばれるのに違和感があったんだよ」

 

 ようやく自分が感じていた違和感に気付いた大樹

 



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意識し合う二人

 

 そしてその大樹の言葉を聞いたヴェルサンディーは

 

 「逆にですけど、私からしたら貴方の騎士号は様々な幸運が有ったにせよ自らの力で勝ち得た物

 

 だけど、私達の侯爵令嬢はたまたま侯爵家に生まれ落ちたからに過ぎません

 

 勿論その様に生まれたのだからそれに相応しく生きてきたつもりですしこの先もそうして生きていくのでしょう

 

 ですが、たまに思うんですよ…

 

 自分の周りでちやほやする殿方達にとり、肩書きの無い私を見てくれる人は果たして何人居るのだろか?と…」

 

 そのヴェルサンディの言葉に大樹は

 

 「俺達が命様の供を許されてすぐの事だけど、俺と海斗って言う幼馴染みの二人はユカ様に言われてその夜の宿を取りに町に先乗りして宿を探したんだ

 

 だけど…命様の事を伏せてと言う縛りがあった俺達はどこの宿屋からも断る以前に話すら聞いてもらえず

 

 最初は落ちぶれてるからと言って、最初は通りすぎた宿に行ったら話を聞いてくれ部屋も空いてるって言ってくれたんだけど

 

 更にその宿の女将さんが、ユカ様に何故命様の名前を出さなかったのですか?

 

 そうすれば断る宿等一軒もなかったのでしょうに?」

 

 そう言われてユカ様は

 

 「肩書きで客を選ぶ程度の宿に大切な命様をお泊めする気はありませんっ!って言ったんだ」

 

 きっと自分の求めていただろうその言葉に

 

 「その宿屋はどうなりましたか?」

 

 そう問い掛けると

 

 「女神の祭典後の今では中々予約の取れない人気の宿になってるそうです」

 

 そう告げられて

 

 「有り難う大樹…」

 

 「君で良いよ、年下の留美菜やりん達にまでそう呼ばれてるからね」

 

 そう苦笑いで言う大樹に

 

 「それなら私の事はヴェルって呼んで…少なくとも今のこの時だけは…

 

 私、この呼び方は家族以外…特に男の人には許してないのよ」

 

 はにかんで言うヴェルサンディに

 

 「わかったよ、ヴェル…でも…「でもなんか要らないっ!」」

 

 大樹の言葉を遮りしがみつくヴェルサンディに苦笑いしながら

 

 「俺が言いたいのはヴェルさえ良ければ皆の…特に侯爵様の前でお嬢様じゃなくヴェル様とお呼びしても良いですか?って事なんだよ」

 

 そう言って真剣に見詰めて聞いてくる大樹の胸に顔を埋め

 

 「えぇ、そう呼んでくれたら嬉しい…特別な大樹君にそう呼んでもらえたらとても…」

 

 そう言って暫くの間寄り添っていた二人けど

 

 「もう帰らなきゃ、間も無く日が沈む…」

 

 大樹にそう言われたヴェルサンディは

 

 「最後に今日の思い出が欲しいの…このネックレスを大樹君に着けてもらいたい…」

 

 そう言って差し出された化粧箱を受け取るとそっとヴェルサンディの首に掛ける大樹に

 

 「似合うかな?」

 

 恥ずかしそうにはにかみながら大樹に聞くヴェルサンディ

 



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恋に夢見る乙女と悪夢が見えた乙女

 恥ずかしそうにはにかむヴェルサンディに

 

 「とても良く似合ってるよ、ヴェル…」

 

 そう大樹に言ってもらいこのまま時が止まれば良いのに…

 

 陳腐な発想だけどヴェルサンディの正直な気持ちだった

 

 ヴェルサンディの手を取り一角獣に乗せると

 

 「飛ばすからしっかり掴まるんだよ、いいね?ヴェル…」

 

 そう声を掛ける大樹に返事の代わりに腰に回す手に力を入れて頷くと一角獣の速度を上げる大樹に応えてくれる一角獣だった

 

公邸に着いたのは日が沈む寸前で玄関前ではスクルドが不機嫌さを隠すことなく待ち構えていた

 

 「ヴェル様、お手を…」

 

そう言ってヴェルサンディの手を取り降りるのを手伝う大樹を見て

 

 (ヴェルがお父様以外の男の人にヴェルって呼ばせたっ!?)

 

 その衝撃の事実に震えているスクルドの存在に気づいた二人は

 

 「ただいま、スクルド…」

 

 「ただいま戻りました、お嬢様…」

 

 そう大樹に声を掛けられて

 

 「イヤっ!ヴェルばかりズルい、私もスクルドって呼んでっ!!」

 

 そう言われて戸惑う大樹は

 

 「宜しいのでしょうか?」

 

 そう聞き返すと

 

 「そう呼んでほしいからお願いしたの、スクルドって呼んでっ!」

 

 悲鳴の様に叫ぶスクルドに

 

 「ただいま戻りました、スクルド様…」

やっとそう言って貰えたスクルドも

 

 「お帰りなさいヴェル(あくまでついで)、大樹様…」

 

 そう返事するスクルドだけど当然の事ながらその心中は穏やかじゃない

 

 「俺は侯爵様に帰還の報告をしに行きますからこれで失礼します」

 

 そう言って頭を下げると

 

 「それには及ばないがこれから何か用でも有るのかね?」

 

 そう侯爵に問われた大樹は

 

 「用と言う程の事でも有りませんが黒炎竜に呼ばれてますから食事の時間まで素振りをしようと思います」

 

 その聞きなれない黒炎竜と言う言葉に

 

 「黒炎竜に…騎士の君が素振り?」

 

 そう戸惑う侯爵に

 

 「黒炎竜は真琴様が光の精霊の巫女になられた際に賜りし魔剣ですが、残念ながら俺は未だ正当な主と認められてませんから認めさせる為の修行をしてる所です」

 

 そう答えると鬼百合も

 

 「魔剣は未だその真の姿を大樹に見せちゃいねぇからな

 

 まずは基本の素振りで練った氣を魔剣にぶっつける事から始めてる」

 

 そう指導者の顔で説明する鬼百合にそう言うものなのかと納得するしかない侯爵にとっては魔剣はこれまで縁の無い物だったのだから

 

 大樹達の会話が途切れたのを見て

 

 「私はこれで失礼します、大樹様…お食事の時に」

 

 そう声を掛けると大樹も

 

 「はい、後程お会いしましょう…ヴェル様…」

 

 その大樹の口からは聞きたくない一言に顔を青ざめるスクルドとこの展開に驚く小姓達



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悲しい予感

 

 残念ながら部外者である鬼百合には意味のその意味のわからぬ事ではあるが…

 

 「大樹様、私はここで見てても良いですか?」

 

 そう問い掛けられた大樹は

 

 「上から降り下ろすだけの単調な稽古ですから見てもつまらないですよ?」

 

 そう言われても

「それでも良いの、見ていたいのっ!」

 

 そう言われてまぁ良いかと思い刀身を抜くと素振りを始める大樹は気をみなぎらせて一振り毎に氣を高めていった

 

 屋内に入った鬼百合が侯爵に

 

 「今の会話にどんな意味があるんだ?」

 

 そう真っ直ぐに疑問を問うと侯爵は

 

 「会話自体にはなんの意味も無く言葉通りですが問題は大樹殿がヴェル様と呼びヴェルがそれを許していると言う事実にあります」

 

 そう言われて益々訳がわからない鬼百合が

 

 「イヤ、さっぱり話が見えんのだが?」

 

 鬼百合がそう言うと

 

 「後は私からご説明致しましょう」

 

 小姓の一人にそう言われて頷くと

 

 「あれはヴェルサンディ様が13歳の誕生会の事…

 

 今日で13歳になり大人の仲間入りした私をヴェルと呼んで良いのは家族だけで特に男性は禁止します

 

 いつか私の前に現れるだろう恋するその方以外は…

 

 そう仰ったのでそれを聞いた私は

 

『それは私達もでしょうか?』

 

 と、お尋ねしたら…

 

 『当貴方達は男性なのだから当然の事ながら禁止します…』

 

 そう仰られました」

 

 そう聞いた鬼百合も納得し

 

 「成る程な、スクルドがあんな顔をする訳だ…」

 

 そう言うと

 

 「スクルド様の危機感は相当なものでしょうね…」

 

 そう呟くのを聞き

 

 「まさかこれ程二人の距離が縮まるとは思ってなかったが…」

 

 鬼百合も又そう呟いた

 

 

 

 「この子はアリス、今日から皆の仲間入りだから仲良くしたげてね」

 

 そう命自らの紹介に感激するアリスの余り仕事向きでない服装であるのを見たりんが自分のクローゼットから出してきた海兵隊風のワンピースを渡して

 

 「一応制服の予備はあるけど私達の判断では渡せないから取り敢えずこれを着ててね

 

 遠慮は要らないからね、お友達の証だし早く命様にお仕えできるように一緒に頑張りましょうね」

 

 そう言ってアリスの手を取る留美菜、なみ、りんに美輝と少し年上の雪華が五人を笑顔で見守っていた

 

 

 スクルドは悲しかった…

 

 隣に座る大樹は特別ヴェルサンディと見詰め合っていたり二人だけで話したりしてるわけでなくスクルドが話し掛ければ笑顔で応えてくれる

 

 父や母に長女のウルズとも笑顔で受け答えしているし小姓達とも明るく話しあって互いに尊敬しあっているのがわかるから彼等の男らしさも伝わってくる

 

 でも、ヴェルサンディに対しては特別な笑顔を見せていてそれは多分自分には向けてもらえそうに無い気が強く感じるからだ

 



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ヴェルサンディーの覚悟

 スクルドの哀しみに関わりなくその時は来た

 

 「大樹、黒炎竜に目覚めの時が来たよ…修行に行こ」

 

 そう声を掛けると

 

 「まさかみこが大樹に修行をつけるってゆーのか?」

 

 驚いた鬼百合にそう聞かれた命は笑いながら

 

 「鬼百合、それ変っ♪剣を扱えないみこが剣士の大樹に剣を教えるのは裁縫が得意な麦に鬼百合が裁縫を教えるみたいだよ?」

 

 そう言われてそのわかりやすい説明で納得はしたが面白くない鬼百合がムッとして

 

 「つまりどう言う事だ?」

 

 と、説明を求めると

 

 「魔剣黒炎竜に埋め込んだ黒い勾玉にはみこの呪文黒炎竜が込められてるのは知ってるよね?

 

 だからみこが出来るのは黒炎竜の制御の為の魔力の制御、なれれば黒炎竜を放つ事だって出来るようになるんだよ」

 

 そう説明された鬼百合

 

 (成る程な、やはり黒炎竜はアタイにゃ向かんらしいからアイツはアイツに相応しい奴に受け継がせアタイはアタイに向いた物を出して貰おう)

 

 そう考えていると

 

 「鬼百合や忍お姉さんは知ってるよね?黒炎竜がどん位物騒な呪文かは…」

 

 そう言われて

 

 「あぁ、間違ったって喰らいたかねぇ呪文だ」

 

 そう鬼百合が言えば

 

 「不死身の人狼逹に再生を許さず喰らい尽くしましたからね…」

 

 そう話すのを聞いた侯爵が

 

 「その様な危険な魔法の制御をする修行をせねばならんのですか…」

 

 そう驚く侯爵に

 

 「どんな力だって制御を誤れば危険だけどその分得られる力は大きいんだ

 

 それに勾玉の魔力と地の精霊の巫女の霊玉の祝福を受けた大樹に出来ないことじゃないんだよ?慎重さは必要だけどね」

 

 その話をじっと聞いていたヴェルサンディが不安を募らせ

 

 「命様にお願いします、私をその場に立ち会わせてください…お願い致します」

 

 そう言って頭を下げるとスクルドも

 

 「不安に押し潰されそうになりながら待つのはイヤで私も大樹様の修行を見守りたいです」

 

 そう言って頭を下げるけど

 

 「お前達がついて行った所で何が出来ると言うのだ?精々命様を非難して大樹殿の修行の足を引っ張るくらいが関の山だろう?」

 

 そう言われて返す言葉の見付からない二人に代わり

 

 「二人にとっても良い試練となりましょう闇の者との戦いはまだまだ始まったばかりで今回の試練が大したこと無いと思えるような試練がこの先にいくつも待ち受けてますから」

 

 その言葉にヴェルサンディが

 

 「あの少女の目には山賊達がさぞかし恐ろしい魔物の様に映っていたんでしょうね

 

 私達には侯爵家の者として領民を守らねばならない義務が有ります

 

 例え力なくとも闇の者の前に立ちはだかり守らねばならない義務が…」

 

 ヴェルサンディがそう毅然と言い放つ

 



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乙女達の祈り

 「わ、私には未だヴェル程の覚悟はないけど私は大樹様の応援をしたいしそれがなんになるのかと言われたら困るけど今の私にはそれしか思い付かない…

 

 でも…だからと言って何もしないで待ってるのはもっと辛いから自己満足と言われても良いから大樹様の応援をさせてください」

 

 そう切ない胸の内を口にして再び頭を下げるスクルドを見て

 

 「お二人の覚悟は十分あると思いますよ?同行を許してあげてください」

 

 命にそう言われては認めざるを得ない侯爵が

 

 「わかりました、認めましょう…三人をお願い致します」

 

 そう言って頭を下げる侯爵に

 

 「お任せください、媛の力を借りますね

修行を終えたら媛には観月お姉さんの元に使いをしてもらいますから」

 

 そう言って四人を伴いアクエリアスの結界に跳ぶ命を見送り

 

 「雪華はみこが帰って来たときに飲む茶を用意しといてくれ、りんはみこの寝巻きの準備をアリスに教えながらしな

 

 忍とミサは夫人に付き添い不安を和らげて差し上げな」

 

 そう指示を与えていると

 

 「我々に何か出来ることはありませんか?」

 

 そう言われて

 

 「お嬢様方の床の準備と…腹を減らして帰ってくるだろう大樹になんか食い物を用意してやってくれ

 

 後はアタイも侯爵も大樹の無事を祈ってやることくらいしか出来ることはない…済まんが酒を持ってきちゃくれねぇか?」

 

 そう言われて頷くと侯爵も

 

 「私にも頼む」

 

 そう言って苦い酒を飲む二人だった

 

 

 

 

③ 散る恋実る恋

 

 「大樹もちゃんと気付いてるよね?未だ黒炎竜に正当な主人だと認められてないのは…」

 

 命のその言葉に頷くと

 

 「うん、それなら良いけど今朝までは全く無視されてたのが反応してきたよね?大樹の魔力にさ」

 

 そう言われて

 

 「はい、余り歓迎されてる雰囲気は無いですけど」

 

 そう答える大樹に

 

 「取り敢えず夕方の続きから始めて」

 

 そう言われて素振りを始める大樹はすぐに汗が吹き出し始め玉のような汗が流れ落ちていき足元にシミを作っていった

 

 大樹の中の霊玉の霊力が大樹の魔力や闘気をを後押し魔剣を包み始めた

 

 抗う魔剣と押さえ込もうとする大樹の静かな闘いが続く中

 

 手を揉み絞り見詰めるだけの二人に

 

 「見てるだけじゃ何も変わらないよ?」

 

 そう命に言われたヴェルサンディが

 

 「私達には霊力等ありませんから…」

 

 そう悲しそうに言うと

 

 「祈りの力に霊力は要りませんが今の貴女達にならそれに変わりうるものが有るはずですよ?」

 

 そう言われてもわからない二人が顔を見合わせて考えていると

 

 「大樹、黒炎竜が抗い始めたから更に氣を高めてっ!」

 

 そう叱咤する水の精霊の舞姫

 



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実る恋と精霊の導き

 

 そしてその舞姫を見ながら

 

 (命様はああ言われたけど私達に何が出来ると言うのだろうか?)

 

 そう思い大樹を見て

 

 (出会ってから未だ二日にしかならないし未々互いに知り合えているとは言えないけど誰よりも大切な存在になりつつある…え、私達にある物ってまさか…)

 

 そう気付いてスクルドを見るとスクルドと目が合ったヴェルサンディはスクルドと頷きあい命を見ると笑顔で頷いてくれたので確信を持ち

 

 「一時休戦ね、今は大樹様が私達の元に無事帰っていただかなきゃ…」

 

 独り言でヴェルサンディがそう言うとスクルドも

 

 「大樹様が生きていてこその恋敵」

 

 そう呟きそれに合わせて

 

 「修行もいよいよ大詰めを迎えましたから貴女達の想いを大樹に届けなさい」

 

 そう言われて祈り始めた二人を見て大樹に

 

 「振りが鈍ってきてます、氣を更に高めなさいっ!」

 

 そう言われて氣を高め素振りを続ける大樹

 

 そしてその時は来た…黒炎竜が咆哮を上げ始めたからでそれを聞いた命が

 

 さ「大樹、大きく振りかぶり黒炎竜と叫び振り下ろしなさい」

 

 そう言われて

 

 「黒炎竜っ!」

 

 と、叫ぶと振り降ろした刀身から黒炎竜が放たれ方向を変えると大樹に襲い掛かってきた

 

 「さぁ、仕上げです…黒炎竜よ、我と戦えと叫びなさい」

 

 そう命に言われたけれどれ落ちる大樹の耳には届いておらずその大樹の姿を見たヴェルサンディが

 

 「大樹ーっ!」

 

 そう叫びながら駆け寄るとその声に反応した大樹が命に言われた通りに

 

 「黒炎竜よ、我と戦えっ!」

 

 裂帛の気合いと共に叫ぶと黒炎竜は刀身に還りその真の姿を表しそれを鞘に納めるとヴェルサンディが大樹に抱き付いて嗚咽を漏らすのを見て

 

 「ヴェル…生身で命様の結界から出るなんてなんて無茶をするんだ…」

 

 大樹の胸に顔埋めて泣くヴェルサンディの頭を撫でながら言うと

 

 「だ…だって大樹が…」

 

 それだけをやっと言葉に出来たヴェルサンディを見ながら滂沱の涙を流し

 

 「大樹、さ、ま…」

 

 と、呟いたスクルドは自分の初恋が今終わりを告げたことを理解した

 

 そのスクルドに近寄った命が指差す方を見ると

 

 ー私は出水の精、祈りを捧げる今の貴女の姿を見て貴女を導きたくなりました、私を受け入れてもらえますね?ー

 

 そう言って受け入れを求められたスクルドが命を見ると頷くの見て

 

 「受け入れはどうすれば良いのでしょうか?」

 

 そう訪ねるスクルドに

 

 ー私に向け左手を掲げればそれで良いのです…ー

 

 そう言われて手を掲げて

 

 「私をお導き下さい、出水の精様…」

 

 そう言って祈るスクルドの左手を受け取り契約を交わしたスクルドはヴェルサンディーとは異なる運命を受け入れた

 



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覚悟が問われるとき

 「歩けますか?無理ならここで少し休みなさい」

 

 そう言って媛を見て頷くと頷き返すのを見て大樹に近寄り

 

 「良くやりました…私が出来るのはここまです貴方は一度帰国して同じ魔法剣士の真琴に修行を見てもらうべきでしょう

 

 ですが貴女の為に流した二人の女神達の涙、この涙の落とし前どうつけますか?」

 

 そう命に言われて意味がわからず首を捻る大樹に

 

 「貴方はヴェルサンディとスクルドの事をどう思っているのですか?」

 

 そう問われた大樹は

 

 「明るく元気なスクルド様は…そう、炎の妹の蛍と居るみたいで一緒に居ると俺もなんだか元気が出るような感じだけどヴェルは…」

 

 「私や忍と違い俺が守らなければ…ですね?」

 

 命のその言葉に真っ赤になり

 

 「はい、命様の為に戦う騎士になりたいと思った時とは違うんです、それをなんと言えば良いのかわかりませんが…」

 

 その大樹の言葉に

 

 「ならば考えなさい、ヴェルサンディは貴方のために命懸けで貴方の元に駆け付けたのですよ?

 

 貴方にはその想いに答える義務が有ります」

 

 そう言われて考え込む大樹と答えを待つヴェルサンディ…

 

 「俺は多分初めてヴェルを見たときから惹かれてたと思いますが…」

 

 そう言って言葉を途切らす大樹に

 

 「もう一度言いますがヴェルサンディは命を賭けましたっ!!」

 

 そう重ねて言われて

 

 「わかりました、外に出たら侯爵様にヴェルを俺に下さいとお願いします、勿論こんな言い方じゃなくヴェルの立場に相応しい言葉を選びますけど…」

 

 そう答えるのを聞いて

 

 「頑張りなさい、私も応援します…

 

 媛、結界の扉を和泉の女神の依り代の部屋に開きましたからこれを依り代に渡して明日にでも海斗に送ってもらいなさい」

 

 そう言って媛が結界から出るのを確かめてから扉を閉じ

 

 「では私達も帰りましょう」

 

 そう言って結界から出て侯爵の元に帰ることした

 

 

 

 小半時程で終えた修行か早いか遅いかはわからないけど楽でなかったのは帰ってきた頬のげっそりと痩せこけた姿を見れば一目瞭然

 

 最初はからかうつもりだった鬼百合も流石にからかえない程で

 

 「侯爵様にお願いしたい事が有りますが侯爵様はどちらに?」

 

 そう尋ねる大樹に

 

 「私ならここに居るが改まって頼みたい事とは何かね?言ってみなさい」

 

 そう侯爵に言って貰った大樹は息を呑むと

 

 「身分違いの懸想であるのは承知の厚かましい願いをもうします

 

 貴方のお嬢さんのヴェルサンディを俺…私の妻に下さい…我が愛剣に懸けて命を賭けて守ると誓いますからどうかこの願いお聞き届け下さい」

 

 そう言って頭を下げる大樹

 

 

 



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命を賭ける想い

 その大樹の様子を見ながら

 

 「大樹殿は地の精霊の巫女で有る忍王女に誓いを捧げた騎士と聞いてるが?」

 

 そう言われて大樹に代わり

 

 「それはあくまでも精霊の巫女と騎士の主従関係の物ですがそれがお気に召さぬなら大樹の誓いを返しましょう

 

 それで弟のように思う大樹の恋が叶うなら騎士に誓いを返した不甲斐ない主人の謗りも甘受しましょう」

 

そう忍に言われた侯爵は大樹を見て

 

 「命を賭けてと言ったな?

 

 ならばそれを見せてもらうが構わないな?」

 

 「お父様…」

 

 父侯爵に抗議しようとするのを母に止められて肩を落とすヴェルサンディに構わず大樹が頷くのを見て

 

 「地の精霊の巫女様もそれで構いませんね?」

 

 そう問われて忍も頷くと

 

 「歌の女神の国の騎士大樹、貴公に娘はやらんよ、やるのではなく貴家から貴公を婿養子にもらい受ける…

これが私の…侯爵家の答えだ、婿殿よ」

 

 そう言って嬉しそうに高笑いする侯爵と微笑む母をみてやっと事態を理解したヴェルサンディが大樹にしがみつき

 

 「大樹、私達許されたのよ…貴方のお嫁さんになれるのね…」

 

 夢見るような表情で呟くヴェルサンディを引き剥がし

 

 「いや未だ大事な事が残ってるよ」

 

 そう言われて引き剥がされたヴェルサンディが不服そうな表情をする前で片膝を着くと

 

 「我が剣は貴女を守るために在り貴女の敵にのみ振るうこと誓いこの誓いが疑われし時は自ら命を断ち身の潔白を証す事を今ここに誓います 

 

 この神聖なる誓い、受け取ってくれますね?」

 

 この二人の様に身分の高い女性に騎士からの正式なプロポーズを大樹がすると

 

 「勿論喜んでお受けします、大樹様っ♪」

 

 そう言って大樹の頬に口付けして大樹のプロポーズに応えたヴェルサンディ

 

 その二人を一同が祝福する中忍のチョコレート色の霊玉がひとつ…大樹が背負いし黒炎竜に取り込まれて黒炎竜の進化を促したがそれについては後程触れるとして

 

 「気持ちは既に婿殿と呼びたいが色々手続きが正式に済むまでは大樹殿と呼ぶことにして取り敢えず風呂で汗を流してきなさい

 

 その間に食事の支度も整うだろからな」

 

 そう侯爵が言うと謡華と目が合った命は

 

 「雪華、大樹とヴェルサンディ様を祝福したいから準備を手伝ってください

 

 それと侯爵様には事後承諾になりますがスクルド様が出水の精の導きを受ける巫女になりました事をご報告致します」

 

 そう二人に告げると

 

 「そうですか…命様、忍様、スクルドを宜しくお願いします」

 

 侯爵がそう言って頭を下げる侯爵とそれに倣い頭を下げる夫人

 



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文化交流

 そう言われて名前を名乗るのを忘れると言う失態を犯したことに気付いて

 

 「申し訳有りません、日頃下の者には礼節を重んじる様と言っておきながらこの失態

 

 私の名はアーレスと言って侯爵様の側近く仕える者の一人ですが改めて観月様にお願いしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」

 

 そう問われた観月が

 

 「何でしょうか?言ってみなさい」

 

 そう答えたので

 

 「僭越ながら今朝から巫女様達の勉強を見させていただきましたがあのテキストの完成度の高さに感服しました

 

 それに雪華ちゃん、なみちゃん、りんちゃん達のドレス選びとヘアメイクの技術とセンス

 

 感心すると共に改めて私達の持つ知識と技術の古臭さに気付いた私達は観月様から学びたい事が山の様に有ることに気付きました

 

 どうか私達も美月のご指導をいただくわけには参りませんでしょうか?」

 

 そうアーレスに言われ

 

 「あのテキストはとかく低くみられ勝ちな女性の学者の方達と共におばあさまが編纂に携わった物で…

 

 それが認められ評価を受ける事は先人の功績が認められたことに他ならず喜んで提供致しましょう

 

 それにリン達のドレス選びとヘアメイクに関しては私自身は学びの機会を与えただけで指導者の元で学んた事を身に付けたのはあの子達自身

 

 ですが貴方達の古式ゆかしい技術も又、今を生きる私達が受け継ぎ後世へと受け継がせてゆく事が先人の苦労や功績に報いることならば…

 

 わかりました…貴方達の持つ技術を王女宮の巫女達や見習いの侍女達に教えていただき…

 

 雪華、留美菜、なみ、りんは侯爵様の元に留まり貴女達が学んだことを皆さんに伝えミサは四人のサポートをしなさい

 

 侯爵様、四人の巫女達とミサの事を頼んで宜しいでしょうか?」

 

 そう言われて笑いながら

 

 「勿論、それは私も喜んでお引き受けします」

 

 そう言われて五人を見ると五人も頷き

 

 「他の子を派遣するとか寂しい事を言われ無くて良かったですけど何故美輝ちゃんは?」

 

 雪華にそう不思議そうに言うのを笑いながら

 

 「美輝は貴女達の中で一番経験が浅いのとミナが側に居らず留美菜と美輝の二人が一度に媛の側から離れる様な人事をせねばならない状況には有りませんよ?」

 

 そう言われてその事に気付いた留美菜が

 

 「媛歌様の事は美輝ちゃんにお任せしますね」

 

 そう言って手を取ると美輝も握り返して

 

 「はい、頑張ります」

 

 そう言って互いの手を握り合うのを見て

 

 「雪華、今暫くは美輝の指導よろしく頼みますよ」

 

 そう話がまとまった頃合いを見計らったように戻ってきた大樹

 

 「大樹、修行のその後の事を報告しなさい」

 

 そう言われた大樹は

 

 「侯爵様にヴェルとの結婚を許してほしいとお願いして婿養子を条件にと言って頂きましたが…」

 

 そう言って言葉を詰まらせる大樹に

 

 「貴方は今、いくつですか?」

 

 観月にそう聞かれた大樹は

 

 「15ですが?」

 

 そう答えると

 

 「未々お若い侯爵様は貴方が育つのを待てますからこれからは剣だけでなく色々な事を学びなさい、勿論」

 

 そう言ってアーレスを見るとアーレスも頷き

 

 「私達小姓一同も、大樹様に次の侯爵様として私達やいつか生まれるだろう私達息子達を率いて欲しいと願いますから今は私達の持つ知識を大樹様に役立てたいと思います」

 

 そう言われて

 

 「あの時ハーモニー様は雅様にこう仰られましたね?

 

 人は、自信があるから使命を果たすのではなく使命を果たす為努力するのだと…

 

 俺達だって自信があるから命様にお仕えできるって思ったんじゃなくお仕えできるようになりたくて命様の元に集まったんでしたね…

 

 侯爵様、アーレスさんにその他の皆さん…未々未熟者の俺ですが頑張って侯爵様の期待を裏切らない男を目指しますからどうか宜しくお願いします」

 

 そう言われて頷く侯爵家の一同に

 

 「解りました…大樹の件に関しては王女宮の責任者である私が大樹の退団手続きを取り伯父様の…国王陛下の承認を得ますが問題は…」

 

 ウルズに近寄ると

 

 「貴女が長女のウルズですね?貴女に取り十四夜とはどんな存在か教えてください」

 

 そう問い掛けられたウルズは

 

 「初恋の…幼い私がいつかあの方のお嫁さんになりたいと夢見た王子様

 

 ですが…私に弟が…当家に男の子が生まれない事実を知った時に封印した私の儚い思い出…」

 

 そう答えると

 

 「未だ諦めたままなのですか?確かに貴女に弟が生まれなかったのは事実ですけど間も無く弟が出来るのですよ?

 

 貴女が、お嫁に行けない理由は既になくなりましたし十四夜が今も見合いを断り続けている理由がわかりませんか?

 

 色々障害はあるでしょうがみこや、鬼百合は貴女を応援しているし貴女がその気なら私も貴女の初恋を応援しますがどうなのですか?」

 

 そう問い掛けられたウルズは項垂れて

 

 「私は…諦めたつもりでした…でも今、観月様に改めて問われて全然諦められてなかった事にやっと気付きました…

 

 今度は私の方が断られるかも知れません…だけど、このまま黙って諦めるよりはずっとまし…

 

 もしこの思いが叶わなかったその時は髪を下ろして修道尼となります…」

 

 「「ウルズっ!」」

 

 驚いたヴェルサンディとスクルドが声を上げたけど泣き出しそうな表情で首を降り

 

 「ヴェルと大樹様のお陰で意に沿わない結婚をしなくても良くなりました私は、幼い頃からの夢に…初恋に殉じたいだけです」

 

 そう答えるとウルズの手を取ると

 

 「解りました…貴女の初恋が叶うよう私も応援しますが…侯爵様、まずはお国の女王陛下と歌の国の王妃様の理解と協力を得ましょう」

 

 その観月の言葉に驚いた夫人が

 

 「何故貴女がそこまでウルズに肩入れを…」

 

 そう聞かれた観月が

 

 「 お忘れですか? 私の父が婿養子で有ることを…

 

 幸い、私達の両親は初恋同士の相思相愛の仲の二人にはなんの問題もありませんでしたからその意味からも大樹とヴェルサンディにはお幸せにとしか言えませんが…

 

 そんな訳ですから決して他人事と言ってしまえないと感じますし、その事を思い出していただければ伯父様の説得もより容易いはず

 

 それに何よりも私のサロンに集まる方達は事の他恋ばなが好きな方が多く貴方達の恋物語りも色々伺ってますよ? 」

 

 そう観月が告げると苦笑いの侯爵夫人はウルズに向かい

 

 「今度は私達も応援します…ですから、貴女の思いを今度こそ貫きなさい」

 

 そう言って抱き合う母娘を見て

 

 「侯爵様はまずこの度の経緯、ヴェルサンディと大樹の恋とスクルドが精霊の巫女になった事にウルズの恋の悩みを相談される事をお勧めします

 

 大樹、ヴェルサンディを連れて侯爵様の手紙を持って王妃様を訪ねなさい

 

 ヴェルサンディは王妃様と王女達の理解を得て味方に付けなさい

 

 それとは別に大樹は真琴に修行を着けてもらうと良いでしょう

 

 後は機会があればヴェルサンディを実家に案内する機会をもうけます」

 

 そう言われた侯爵は

 

 「解りました…助言に従い急いで手紙を書きましょう」

そう言って部屋に戻ると手紙を書き始め観月は

 

 「大樹は雪華を連れて王城に行き雪華は自分と留美菜、なみ、りんの荷物を持って来なさい

 

 そう言って雪華を伴い王城に向かう観月

 

 「女王陛下に雪華、留美菜、なみ、りん、ミサを侯爵様にお預けすると報告します」

 

 そう言って公邸を後にし王城を目指す事になった観月達

 

 久し振りに訪れた月影の国の王城ではあるが女王の秘書がすっかり板に着いた春蘭に王太子の恋人としての振る舞いも板に着いてきた瑞穂

 

 命の不在の穴を埋めてきた人魚媛の澪とユカの不在の穴を埋めるミナとスー

 

 「女王様…瑞穂、忍、媛華に続き春蘭、ミナ、スー、澪を引き続きこちらの仕事を任せていただいて宜しいでしょうか?」

 

 その喜ばしい提案を受け驚いていると更に驚いたのが四人の巫女と侍女一人が侯爵家との文化交流使節団として滞在することになったことだ

 



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39話

 

 「 私達の部屋を覗いたら、余程疲れたのか床で丸まって寝てたから取り敢えず私のベッドに寝かせておいて…

 

 って、そう思って抱き上げたら寝ながら涙を流してましたから… 」

 

 そうりんに言われて命と媛歌をベッドに寝かし付け

 

 「 留美菜、りん、今夜の事は暫く伏せておきなさい

魔力に対する抵抗力は注意して何とかなるものでもありませんから皆を…

 

 特に、ミサを苦しめるだけに過ぎないのはわかりますね?」

 

 そう言われて頷くと

 

 「 今夜は、このまま私が三人を見守りますから貴女は休み早朝交代しましょう、頼みますよ? 」

 

 そう、二人に指示を与えて休ませると明かりを消して三人を見守る事にする忍だった

 

 翌朝!忍と交代すべく起きて来た留美菜とりんが部屋に入ると翔を抱いた忍がミサと話しているのを見て

 

 「 命様は未だお目覚めになりませんか? 」

 

 そう、ミサに問い掛ける留美菜に忍は

 

 「 翔も気にして見に来ましたが… 未だ、目を覚ます気配はありません 」

 

 そう言って首を横に降る忍に

 

 「 忍様、外やとあんましお稽古する時間取れんやろ? ボクがアクエリアス様にもろた結界ん中でお稽古しぃひん?

 

 ボクは毎朝修行しとるんよ… ボクもう嫌やねん、足手まといやゆわれんのは

 

 あんまし戦いに役立つ術は身に付かへんけどその内にて思て頑張ってるんよ… 」

 

 そう言われて

 

 「 そうですね、私達はまず習った踊り位は自習で高めないとダメですね? 結界に案内してください 」

 

 そう、留美菜が答えたのでりんも頷き翔の結界に隠り四人は各々の修行をして自らの踊りをの練度を高めるために稽古励む事にした

 

 その日の昼頃、劇団員と共に公邸に着いた鬼百合は劇団員と共に公邸で昼食を取り…その後、王城まで送ると一角獣で公邸に戻り

 

 侯爵から女王と観月の三人で話し合った事を聞かされたので、翌朝船に戻り出港準備をさせ王城によると

 

 「劇団とミナのデザイン契約に関する手続きが終わりましたから私も一先ず公邸に戻りますのでご一緒して宜しいでしょうか?」

 

 そう言われて、ユウを連れ共に公邸に戻る事にした

 

 「お父ちゃんお帰りぃ~っ♪」

 

 そう言って、飛び付いて来た翔の小さな身体を受け止めると

 

 「翔、いい子にしてたか?」

 

 そう鬼百合に聞かれてビクッと身体を震わせ

 

 「 お姉ちゃん達守れんかったボクはお母ちゃんに又お尻叩かれてもしょんない… 」

 

 そう言って、溜め息を吐く翔の頭を撫で

 

 「 お前はお前で頑張ってたのは聞いてる…お母ちゃんだってちゃんと知ってるし女王だってお前を褒めてたんだからよ

 

 町の者に被害がないのはお前のお陰ってな 」

 

 そう言って、翔を慰める鬼百合と侯爵と話し合うユウは

 

 「 予定通り、鬼百合様の船で大樹とヴェルサンディ様に歌の国に赴いて頂き大樹には自らの報告

 

 ヴェルサンディ様にはウルズ様の事を理解していただく努力を頑張って頂くのみです

 

 ただ、ヴェルサンディ様には申し訳ありませんが船はとても小さな船だと言うことです」

 

 ユウにそう言われて、自分の名前が出たヴェルサンディが

 

 「 大好きな大樹様と鬼百合様の二人の霊獣の騎士様と鬼百合様の船でしたら鬼百合様が仲間と認める方達なんですね?

 

 その様な船になんの不満がありましょう? 」

 

 そう話しているの所に観月が訪れて

 

 「 お久し振りです侯爵様、私もそう思いますよ…公女と言う堅苦しい肩書きを忘れて振る舞える素晴らしい空間でしょうからね…

 

 ユウが同行するのが一番ですが、さすがに色々不都合がありますから…王城に居る見習い侍女の中から二名選んでヴェルサンディの世話をさせなさい

 

 その人選はユウ、貴女に任せます 」

 

 そう言われたユウは

 

 「 お任せ下さい… 」

 

 そう答えるのみで

 

 「 みこについては色々予定が変更になり、未だ月影の国に滞在中の上ユカが不在中ですから十六夜とユイの婚約披露宴出席の為一時帰国させますが… 」

 

 名も知らぬ少女 ( セレナ ) の反応を見ながら

 

 「 翔に関しては、町から害虫駆除を望まれ婚約披露宴にまで出ねばならない迄の関わりはありませんから…

 

 侯爵様ともご相談してみこが旅を再開する迄こちらに預かって頂けるよう検討しますが… 」

 

 そう言ってセレナと三人組を見て

 

 「 何かと世話を焼かせる子ですから、貴方達には色々手間を掛けさせますが助けてやってくださいね 」

 

 観月にそう言われて顔を真っ赤にしながら

 

 「 任せて下さい… 私達は勿論この町の皆から愛されてますからね、私達の翔は 」

 

 そうノーランに言われて照れ臭い翔が顔を真っ赤にしながら

 

 「 そないな訳無いやん?ボクみたいなんをそない思てるとかあり得んで? 」

 

 その翔の言葉に

 

 ( 相変わらずそんな事ばかり言ってるのですか? )

 

 そう思い溜め息を吐く観月に苦笑いして頷く一同だったけど

 

 「 しかし…春蘭もですがミナもこちらに来てこれまで垣間見えていた才能が一気に花開いた様ですね? 」

その観月の問い掛けに

 

 「 はい、ユカの手伝いをしてた時もそうですが漠然としたイメージを書き起こしデザイン化する才能…

 

 座長さんも専属契約を結びたいと言われる程ですから次の舞台が成功すればそちらの関係者の注目を集めるのは間違いないでしょうね… 」

 

 我が事の様に喜ぶユウを驚きの目で見るセレナに

 

 「 血の繋がりこそ有りませんが共に大公様の元で育ったミナやミサ、ミチは妹…

 

 その妹の努力が認められたのを喜ぶのは姉として当然ではありませんか? 」

 

 ユウのその言葉に

 

 「 私は世界のファッションの最先端を行く美月はもっとぎすぎすしてるって思ってましたから…すいません 」

 

 そう言って頭を下げるセレナに

 

 「 そう言った凌ぎ合いで高め合う組織も在りますが私の公女宮、美月はそう言ったタイプではありませんし幸い得意分野が被ってませんから… 」

 

 「 私達が互いの足の引っ張り合いをして喜ぶ方ではありませんし…

 

 常に仕事をいくつも掛け持ちする私達は後輩の成長待ちでしたから仕事を任せられる後輩の成長を歓迎するのは当然ではありませんか? 」

 

 そう言われて

 

 「 そうですね、頭の良いノーランに手先が器用なウエスと力自慢のイースに不器用な翔ちゃんの着替えや食事の手伝いをする私が三人を羨んでも仕方無いと言う感じでしょうか? 」

 

 そう聞かれて頷くと

 

 「 その通りで食事の世話はともかくいくら器用でも男の子のウェスに私達の大事な娘の着替えを任せたくはありませんし… 」

 

 そう言ってセレナを見て

 

 「 そのコーディネートは貴女が選んだのですか? 」

 

 そう聞かれてセレナが頷くとユウと観月も頷き

 

 「 ファッションに関する事なら何でも聞いて来なさい、遠慮は要りませんからね

 

 貴女のそのセンスは見逃せ無い物ですが何より翔ちゃんが心を許してる貴女は大切な娘のお友達…

 

 常に手元に置いて置きたいですがそれは叶わぬ願いですから託せる相手…貴女に託したいのですがお願いしてよいですか? 」

 

 そうユウに言われて

 

 「 私なんかで… 」

 

 そう言い掛けるセレナにユウは

 

 「 そんなセリフは翔ちゃんに任せなさい

 

 翔ちゃんは言われれば言うことは聞きますが理解しようとはしませんから託せる人間は自ずと限られ貴女は託せる人間と判断したからお願いするのです

 

 頼めますね?娘の親友の貴女には他の三人とは違う意味で… 」

 

 そう笑顔で言われて

 

 「 は、はい…私、翔ちゃんの親友なんですね? 」

 

 嬉しそうに聞くセレナの頭を撫でながら

 

 「 特殊な存在の翔との距離感が掴めない巫女達はどう接したら良いか迷ってたからな… だろ? 雪華… 」

 

 そう言われて曖昧に笑う雪華に対し

 

 「 私はもう迷ってないですよ? 鬼百合さんをお父ちゃん、ユウ様をお母ちゃんと呼ぶ翔ちゃんは言って見ればお嬢様…

 

 だけどグリエ、ケベック、スチーマーを駆使して料理の手伝いを喜んでする翔ちゃんは岬の仲間だよ… 留美菜、りん

 

 私にはあのイベントの日に屋台を手伝いに来てくれたチサ様と重なるよ」

 

 そう言われて

 

 「……そうですね、チサ様の霊玉を飲み込んじゃた翔ちゃんの事を妹の様に接してたチサ様とやたらとお姉ちゃん風を吹かせる媛歌様

 

 翔ちゃんの事を弄ってる真琴様と翼様のご様子はついつい構いたくなる妹… でしたからね 」

 

 そう言って身動きのできなかった頃の翔を思い出していた雪華は

 

 「 そう… ですね… 翔様と呼んでもいい気もしてきましたけどそんな呼び方して喜ぶ子じゃないですよね?六人の王女様達同様に 」

 

 そう雪華が言うと

 

 「 伯爵様も孫のお嬢様達同様に接してましたからね、十分お嬢様って呼んでも良い位ですよ? 」

 

 そう言って夫人の膝に座っておやつ代わりの蜂の子の空炒りを摘まんでる翔を見て微笑むなみと一同

 

 そんな和む雰囲気の中観月が思い出し笑いをしながら

「 取り敢えず大樹とヴェルサンディ、ウルズの事を伯母様に話してありますし真琴にも大樹の事は頼んでありますから修行頑張りなさい、守りたい者の為に 」

 

 そう言われて、力強く頷く大樹を嬉しそうに見詰めるヴェルサンディを見ながら

 

 「 みこの一時帰国の際の同行者の人選も任せますから頼みますよ 」

 

 そう告げると、海斗を促し大公領に帰っていく観月だった

 



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