(旧)マギカクロニクル (サキナデッタ)
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Prologue

 

 

 昔、誰かが言った。

 

 

 

 一度目なら、今度こそはと私も思う。

 避けられなかった惨劇に。

 

 二度目なら、またもかと私は呆れる。

 避けられなかった惨劇に。

 

 三度目なら、呆れを越えて苦痛となる。

 七度目を数えるとそろそろ喜劇になる。

 

 

 

 絶望の未来を変えようと運命に抗い続けている私の姿は端から見たら、確かに喜劇だ。

 

 何度繰り返しても結末は変わらない……無駄だと分かっているのにも関わらず、また惨劇の渦中に身を投じる。確かに笑いは生まれるだろう嘲笑、あるいは苦笑が。

 

 あの言葉を思い出したとき私の中である疑問が生まれた。

 

 では、十度目ならどうなのか?

 

 二十、三十、四十……百まで数えたら果たしてそれは何になるのか?

 

 今となっては、数えるのを止めてしまったので何度目なのかすらも分からない。

 

 でも確かに言えることがある。繰り返せば繰り返すほど私の中で積み重なるものと失うものがある。

 

 積み重なるもの……それは『罪』

 

 数々の時間軸で救えなかった命、見捨ててきた命、そして自ら手掛けた命…………それら全てが枷となり永遠に私から離れることはないだろう。

 

 失うもの……それは『心』

 

 初めは後悔があった。挫折があった。罪悪感があった。けど、繰り返す内に私の心は磨り減っていき、他の皆とは同じ感情を抱くことが出来なくなってしまっていた。

 

 けれども私は歩み続ける。

 

 どれだけの『罪』を重ねようとも、どれだけの『心』を失おうとも。

 

 例え、人間とは呼べない別の存在になろうとしてもその歩みは決して止めない。この命が尽きるまで……

 

 それが私が誓った使命。

 

 

 

 

 忘れない……どれだけ時が経とうとも、世界が変わろうとも、彼女と『交わした約束を忘れない』

 

 決意を新たにまた私はやり直す。希望を掴むために『夜』を乗り越えて『暁』を目にするまで。

 

 そして今…………

 

 

 

 

 

 

 何度この光景を見てきたことか……

 

 私にとっての最大の脅威である。最強の魔女、ワルプルギスの夜は不気味な笑い声をあげながらそこにいた。コイツを今 度こそ倒すために今まで以上の準備を、対策を練ってきた。でもそれも全て無意味だった……

 

 深いため息をつきながら、左腕に付けられている盾をじっと見つめる。砂時計の砂の量も残り僅か……

 これは私にとって の唯一の魔法である時間停止の出来る時間がもうほとんど残されていないということ。

 

 このままではまたまどかが契約をして魔法少女になってしまう……それだけは何としてでも避けなければ……

 

「はぁ……はぁ……ほむらちゃん」

 

 けど、運命は残酷だった。私の思いとは裏腹に荒廃した街の中を一人の少女が私の元へ駆け寄ってくる。

 

 唇を強く噛み締める。口の中にほんのりと鉄の味がするのを感じるがそんなことはどうでもいい。  

 

 お願い……来ないで。私なんか構わないで逃げて……

 

 そう強く念じていると後方の方から風を切る音を耳にする。振り返ってみると膨大な魔力の塊がまどか目掛けて飛んでい くのが見えた。

 

 私は駆け出し、魔力の塊から彼女を庇った。

 

 

 

  

「ほ……ちゃん、ほむらちゃん‼」

 

  目を覚ますとそこには涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる彼女の姿があった。よかった……私あなたを守ることが 出来たのね……

 

「だ、いじょうぶよ……まどか。このくらい……なんと、もな……い」

 

 ふっ……と彼女を安心させるために笑みを浮かべるが、左腕に何か違和感があるのに気づく。とりつけられていた盾が全壊に近い状態になっていて修復が不可能な状態になっていたのだ。

 

 幸か不幸かダメージはソウルジェムにまでは行き届いてはいなかった。けれど、これでもう制限時間に関係なく、時を止めることも過去へ行くことも出来なくなっていた。でもそれも悪くないのかもしれない。

 

 幾度となくさまよってきた時間軸の繰り返し、最悪の運命に抗う私の旅、私は負けたのだ。

 結局、運命に打ち勝つことは出来なかった。

 

 ならば、最期は愛しい『あの子』に看取られて逝くのも悪くない。 だけども次の瞬間、そんな私の考えはまとめて吹き飛んだ。

 

「ほむらちゃん、私魔法少女になるよ」

 

「えっ……?」

 

 身体の奥底が急速に冷えていく。私は血相を変えて声を荒げる。

 

「まどか……ダメっ‼ そんなことをしたらあなたは……‼」

 

「大丈夫だよ、ほむらちゃん。私を信じて……」

 

 天使のように微笑むその笑顔を見つめることは出来なかった。駄々子のようにいやいやと懸命に首を振る。

 

「そんなこと言って! またあなたは魔女になって、また私の前から消えていってしまう!! そんなのもう嫌!!」

 

「ほむらちゃん……もう絶望する必要はないんだよ」

 

 ダメよ…………

 

「さあ、鹿目まどか。君はその魂を代価にして、君は何を願う?」

 

 お願いだから…………

 

「私の__」

 

 まどか…………

 

「願いは__」

 

 あああああああああ……………………!!!

 

 

 

 

 

「ダメぇぇぇぇぇぇえええ!!!」

 

 





※プロローグをしっかり作っておこうと思って、新規の文章を加えてみました。
ちなみに冒頭のは、Frederica Bernkastelの言葉です。


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Chapter1 相棒
第1話 Mの誕生 ~ 幼なじみと転校生



※はじめましての方は初めまして、そうでない方は一ヶ月ぶり! sakiでございます。

 先々週にTSU○AYAで『叛逆の物語』を借りて、そこから無計画で始めてしまった二作目ですが、どうぞよろしくお願いします。

12/6追記 新たにPrologueの章を作りましたが、雰囲気づくりのため、第1話投稿時に書いた「前書き」「後書き」はこのままにしておきます。



 

 第1話 M(magica)の誕生 ~ 幼なじみと転校生

 

 

 

 一ヶ月前……見滝原中学校

 

 

「今日は皆さんに転校生を紹介します」

 

「そっちが後回しかよ!」

 

 失恋の愚痴を一通り思いをぶちまけた後に、何事もなかったかのように切り替える和子先生にさやかがツッコミを入れる。その様子に仁美は微笑みながら、近くの席にいるまどかに声をかける。

 

「それにしてもこの時期に転校生なんて何かあったのでしょうか?」

 

「何でだろうね、えへへ~」

 

「?」

 

 何故か嬉しそうに笑うまどかを仁美は不思議そうに見つめる。

 

「ねぇ、まどか。今朝からずっとその調子だけど…何かあったの?」

 

「うん。ちょっとね~」

 

「変なまどか」

 

 すると急にクラスがざわめき始め、教室に転校生が入ってくる。その転校生の姿にさやかは思わず声をあげる。

 

「うわっ、スッゲェ美人……」

 

「はい、それでは自己紹介行ってみましょう」

 

「暁美 ほむらです。よろしくお願いします」

 

 ほむらは深々と頭を下げる。それから先生が彼女について話そうとしたとき、まどかとほむらの視線が合った。

 

「あ、こっち見た」

 

「♪~」

 

 パタパタとまどかが嬉しそうに振ると、ほむらも笑顔で手を振り返す。その光景にクラスにいる全員が驚きの表情を見せた。

 

 

 

 

 それから昼休み、まどか達は教室で今朝のHRの出来事について話し合っていた。

 

「ほほう……つまりまどかは転校生がここにやって来る前に運命の出会いを果たしたというわけなのか~」

 

「う、運命って……さやかちゃん、それは大袈裟だよ」

 

「そんなこと言って鹿目さん、凄く嬉しそうな顔で暁美さんに手を振ってたじゃないですか」

 

「HR終わった後も凄かったよね。みんな一斉に二人のトコ向かってきて」

 

「わたしもビックリしたよ」

 

「にしても人が悪いな~、さやかちゃんというものがいながらあんな美少女にも手を出してたなんて」

 

「こ、これが三角関係というものですか!」

 

「違うよ!」

 

 まどかが顔を赤くして叫ぶ。

 しかしさやかは悪ノリをそのまま続ける。

 

「そう、そして最後にまどかは運命の選択を求められる! あたしかあの転校生、どちらを選ぶのか……!!」

 

「修羅場ですわー」

 

「もう二人とも!!」

 

「「あははは」」

 

 楽しそうに会話をする三人に話題となっていた人物、ほむらが声をかけた。

 

「まどか、ちょっといいかしら?」

 

「あっ、ほむらちゃん! どうしたの?」

 

 普通に話しかけてきたほむらだったが、まどかの問いかけに対して気恥ずかしそうな素振りを見せる。

 

「えっと……その……」

 

「も、もうお昼でしょ? だから私と一緒に__「あっ、分かった!!」」

 

 最後まで言いきる前にさやかが何かに気づいたのか手をポンと叩いた。

 

「転校生、アンタこれからまどかと一緒にお昼ご飯を食べようと誘おうとしてたな~?」

 

「ええ、そうだけど」

 

「なんだと~、おのれ転校生そうやってまどかの気を引いて何か良からぬことを企んでいるな~。させぬ、させぬぞ~まどかは私の嫁になるのだ~♪」

 

「…………」

 

 さやかの言葉にイラつきを少しあらわにするほむらだが、その二人の間にまどかがうまく割って入る。

 

「そ、そう言えば、授業が終わってからずっと話しっぱなしだったね。じゃあほむらちゃん、一緒に食べようよ!」

 

「ありがとう、まどか。とっても嬉しいわ」

 

「えへへ~」

 

 二人の仲睦まじいその様子にさやかはほんの少しだけ胃がもたれるような感覚になる。

 

「随分と見せつけてくれるね~、お二人さん」

 

「では、さやかさん。私達は邪魔にならないように別の所で食べましょうか」

 

「別にそんな気を遣わなくてもいいのよ。まどか以外ともお話し出来る相手が欲しいから行きましょう、まどか、志筑さん」

 

「うぉい! 何、さりげにさやかちゃんをハブろうとしてるのさ!」

 

「美樹さん、あなたの心遣いとても嬉しかったわ。その想い無駄にならないように一杯お喋りしてくるから」

 

「おう、頑張れよ。……じゃなくて、それ言ったの仁美! お気遣いしたのは私じゃないよ!」

 

「ごめんなさい、あなたが『私に構わず行ってらっしゃい』って顔をしてたからつい」

 

「どんな顔だよ!」

 

「さやかさん、早速暁美さんと仲良くしてらして羨ましいですわ」

 

「流石さやかちゃんだね」

 

 ツッコミを連発して息を切らしているさやかにまどかと仁美は笑みを浮かべていた。

 

「どう見てもおちょくられているようにしか見えないのだけど……」

 

「あなたの扱いはこれで十分よ」

 

「酷ッ?!」

 

「……ってまどかが言ってたわ」

 

「ほむらちゃん、それは内緒のはずだよ~」

 

「まどかァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 それから放課後、仁美と別れた三人は夕暮れの中で共に歩いていた。

 

「どうだったほむらちゃん、学校楽しかった?」

 

「まどかに志筑さん、あと美樹さんも一緒だったからとても楽しかったわ」

 

「私はこの一日で疲れがどっと溜まったよ……」

 

「さやかちゃん、無理しないでね」

 

「何か困ったことがあるなら力になるわよ」

 

「主にあんたら二人のせいだ! くそぅ……転校生には弄られるし、嫁は取られるし、散々な一日だったわ~」

 

「「それは大変だったね(わね)」」

 

「他人事?!!」

 

 そんな他愛のない会話をしながら、道を行く三人。だが、その平和な一時はそう長く続かなかった。

 

 

 

 突如、彼女らのいる空間が歪んだ。

 

 

 

 自分の周りに起きている異変にさやかは戦慄する。

 

 歩いていた道路が消え、電灯も近くにあった公園も無くなり、辺りには見慣れない奇妙で不気味な空間が広がる。

 そしてその空間の中央に人ならぬ謎の生物が佇んでいる。その姿はまさしく異形、これまで見てきたどんなものよりも恐ろしく、おぞましく、狂気を感じさせるものだった。

 

 さやかは、突然現れた『異常』に怯えながら、まどかの腕にしがみついた。

 

「一体何なの? 何がどうなってるの?!」

 

 今のさやかに出来ることは恐怖をまぎらわす為にただ大声をあげることだけだった。

 すると、まどかは怯えるさやかに優しく手をかける。

 

「大丈夫だよ、さやかちゃん」

 

 さやかを落ち着かせようとする彼女の顔には恐れは無く、何か強い意思がそこにはあった。

 

「私が何とかして見せる」

 

「まどか」

 

 ほむらに呼び掛けられて一瞬まどかはきょとんとするが、笑って言い直した。

 

「ううん、『私達』が……だね」

 

「行くわよ」

 

 ほむらはそう言って指にはめてあった指輪を外してまどかに手渡す。

 まどかがそれを指につけると、突然二人の体がまばゆい光に包まれた。ほむらは紫色の光を、まどかは桃色の光に。

 

「さやかちゃん、『ほむらちゃんの身体』頼んだよ」

 

「えっ?! 何、どうなってるの?!」

 

 連続して起こる不思議なことにさやかの頭はもうパンク寸前になっていた。だが二人はそんなことは一切気にせずにいた。

 すると、ほむらを包んでいた光は急に消えて彼女はその場に倒れ混んでしまう。

 

「ちょ……て、転校生?!!」

 

 倒れるほむらにさやかが呼び掛けるが反応はない。慌てふためくさやかだったが、二人に起きている変化は止まらない。

 

 まどかを包む光はより強さを増し、桃色と紫色の二色の光をその身に纏っていた。

 手を胸の前で組み、閉じていた瞳を開く。

 

 そして『二人』は唱えた。

 

 

 

 

 

「『変身!!!』」

 

 

 

 

 

 まばゆい光に包まれて、現れたのは人々の平和と希望を守る戦士、魔法少女だった。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※いかがでしたか? 今回は一作目とはちょっと違う形式で書いているので、まだ慣れてない点がありますが、今後頑張っていきたいです。


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第2話 Mの誕生 ~ 新たなる希望


※作者はほむほむ派です。
※再投稿です。修正箇所は使い魔撃破後のやりとり&サブタイトル



 

第2話 Mの誕生 ~ 新たなる希望

 

 

 

「まど……か、だよね?」

 

 さやかは恐る恐るまどかと思われる少女に声をかける。するとその少女はさやかの方を振り向き、笑顔で答える。

 

「うん、私だよ。さやかちゃん」

 

 さやかは目の前いる親友の姿に目を疑った。

 

 今彼女の前に立っている少女は紛れもなく鹿目まどか。だが、その外見はさやかの知る彼女とは若干違っていた。

 

 彼女が先程まで着ていた見滝原中学の制服は、黒を基とした落ち着いた服装となり、左腕には円盤型の盾が取り付けられていた。そして目付きもいつもよりも鋭くなっていた。

 

「でも何だかちょっと変っていうか、らしくないっていうか……?」

 

『元々のベースはまどかだけど、そこに私の要素も組み込まれているからね。変に思うのも仕方がないわ』

 

 苦笑いしながら答えるさやかに聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「その声…もしかして転校生?」

 

『ええ、そうよ』

 

 倒れているほむらに近づいて耳を澄ませるが、声の発信源はここからではないようだ。

 

「こ、コイツ直接脳内に?!」

 

「違うよ。ここだよ、ここ」

 

 まどかがトントンと自分の胸を叩く。さやかはほんの少しだけ訳の分からない様子でいたが、すぐに理解した。

 

「えええええ?! もしかして転校生とくっついちゃったの?!!」

 

「ん~『くっついた』って言うか…なんて言えばいいんだろう?」

 

『簡単に言えば、まどかと私の精神を一つにした。という感じね』

 

「精神を一つに?」

 

 まだ完全に理解しきれずに頭を悩ませるさやかだったが、その思考は何処からともなく響く奇声によって阻まれた。

 

『ちょっとおしゃべりが過ぎたようね』

 

「そうだね」

 

『奴はこの前に逃した魔女のようね……』

 

「今度は逃がさないよっ」

 

『一気に決めなさい、まどか』

 

 精神体となっているほむらと短い会話を終えたまどかは、盾の中からサブマシンガンとグレネードユニットを取り出して二つを組み合わせた。そして組み合わせて完成した武器を魔女へ向ける。

 

「…………」

 

「さやかちゃん!」

 

「!!」

 

 華の女子中学生にあるまじきものを構えるまどかにあんぐりと口を開ける。

 

「本当はしばらくは隠しておくつもりだったんだけどね。ごめんね、さやかちゃんを巻き込んじゃって」

 

「い、いいよ別に。私も何がなんだかさっぱりだし……」

 

「ありがとう、でも次からは気を付けるからこれだけは約束して」

 

「何?」

 

 まどかは一瞬だけさやかに目線を向けて小さくウインクをしてこう言った。

 

 

 

 

 

「クラスの皆には、内緒だよッ!!」

 

 

 

 

 

 声と共にランチャーは発射され、魔女は悲鳴もあげずに散った。

 

 それ同時に辺りの景色が歪み始めて、気がつけばまどか達は元の夕焼けの路地にいた。

 

「あれ、戻ったの?」

 

 ほむらを腕に抱えたままでいたさやかは気が抜けて、その場にペタンと座りこむ。

 まどかの方も安心した表情を浮かべてはめてあった指輪を外して、倒れているほむらの指に戻した。

 

「ん……」

 

「あっ、転校生! 気がついたんだね!」

 

「お疲れ様。美樹さんも私の身体ありがとうね」

 

 起き上がったほむらは、何事もなかったかのように二人に話しかける。

 

「ほむらちゃん、どうだった? 私の戦い方?」

 

「そうね。前回と比べても格段と良くなっているわ」

 

「えへへ、ほむらちゃんに誉められちゃった///」

 

 賞賛の言葉に嬉し恥ずかしい表情をするまどかだが、ほむらの顔はまだ真剣だった。

 

「でも、油断しないで。使い魔であっても一瞬の油断でその命を失う可能性があるのだから、例えそれがベテランの魔法少女であっても」

 

「ごめんなさい…ほむらちゃん。変にうかれちゃって……」

 

「そんなに落ち込まないで、いざとなったら私がなんとしてでもあなたを守るから」

 

「ほむらちゃん…ありがとう」

 

 小動物のようにしゅんと萎んでいたまどかだが、その後の言葉に満面の笑みを見せる。

 そして嬉しさのあまりほむらの手を握り、じっと彼女の顔を見つめた。

 

「はいは~い、そこまで」

 

 間にさやかは割って入り、二人を引き離す。

 

「いちゃつくのはいいんだけど……いや、よくないか。とにかく、状況の説明をしっかりとしてくれないかな?」

 

「!!」

 

 今自分のしていたことに気づいたまどかは恥ずかしそうに顔を赤める。一方、対照的にほむらは特に気に止めた様子を見せずに面倒そうにしていた。

 

「私としてはあまり気は進まないけど……」

 

「え~、なんでさ~」

 

「はぁ……どうしたらいいかしらまどか?」

 

「…………」

 

「まどか?」

 

 反応しないまどかを不思議に思い、下から顔を覗きこむ。

 

「ウェヒッ?! べ、べ、別にいいんじゃないかな、って私は思うよ!! ほ、ほらもしかしたら、さやかちゃん気になって夜も眠れなくなったりでもしたら大変だし?!」

 

「あたしゃ小学生か」

 

「仕方ないわね。それじゃ、これから私の家に行きましょう。ここで話すようなことでもないし」

 

「おっ、転校生の家か~。どんな感じなのかな?」

 

「あなたが期待しているような物は置いてないわよ」

 

「ちぇっ、つまんないの」

 

「逆にどんなもの期待してたのよ」

 

「ライフルとか日本刀とか手榴弾とか」

 

「あるわよ」

 

「え゛っ…………うそん」

 

 冗談半分で言った言葉なのになに食わぬ顔で答えられて、さやかは言葉を詰まらせる。

 

「嘘じゃないわよ、ほら」ゴソゴソ

 

「いい、見せんでいいから! 早く転校生の家に行こう!」

 

 盾を具現化させて、中身をあさるほむらを制し、惚けているまどかと一緒に再び帰路を歩き始めた。

 

 一瞬だけ、何か緑色の網目の入った球体が見えたような気がしたが、さやかは懸命にあれは小さなメロンだ……とほむらの家につくまで自己暗示をかけていた。

 

 

 

 だが、この時、さやかは気づいていなかった。これから語られる鹿目 まどかと暁美 ほむらの出会い。そして今日の出来事が自分達の日常__運命の歯車を大きく狂わせることになろうとは…………

 

 

 

 

 

 

???「おかしいわね……ついさっきまでここに使い魔の気配を感じたのだけど」

 

???「どうやらまた例の魔法少女に狩られてしまったようだね」

 

???「どういうつもりかしら? 利益だけを求めるのなら、使い魔は普通なら放置しておくはずなのに……」

 

???「さあね、ボクにも検討がつかないや。でも、彼女はイレギュラーな存在だ。警戒するのに越したことはないよ」

 

???「そうね、でもお蔭で手間が省けたわ。それじゃキュウベェ、早くお買い物を済ませて帰りましょうか」

 

QB「確かにこれ以上暗くなると闇討ちに遭う可能性もあるからね」

 

???「もう怖いこと言わないでよ」

 

QB「ボクはあくまで推測の話をしただけなんだけどね」キュップイ

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※変身したまどかの格好は、要するにほむほむの衣装+目付きを合わせたやつです。

※ちなみに二番目はまどか、次は僅差で杏子かな? 原作メンバーに嫌いなキャラはいません。


☆次回予告★


第3話 巡り逢うW ~ 出逢いの瞬間(とき)



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第3話 巡り逢うW ~ 出逢いの瞬間

第3

話 巡り逢うW(ふたり)~ 出逢いの瞬間(とき)

 

 

 

「着いたわよ」

 

「お邪魔しま~す」

 

「おっ邪魔しまーす」

 

 場所は変わってほむらの住んでいるアパート。その部屋の中をさやかは物珍しいものを眺めるように目を配らせていた。

 

「何というか生活感があまり感じられない部屋だね~」

 

「そりゃ、そうよ。まだここに住んでから一週間も経っていないのよ」

 

「そか、確かずっと病院で入院生活していたんだっけ? でもなんかその割には結構慣れている感じというか、凄い落ち着いている感じがしたから、つい」

 

「ふふっ、住めば都だよ。さやかちゃん」

 

 まどかはそう答えながら、ソファーの上でごろんと横になっていた。

 

「いや、アンタはくつろぎすぎじゃね? 下手したら家主のほむらより」

 

「だって前、ここに来たときほむらちゃんが『自分の家のように思ってもらっても構わないわ』って言ってたもん」

 

「そのまんま解釈すんな!」

 

「気にしなくていいのよ。変にかしこまっていられた方が逆に困っちゃうし」

 

「いいの? それじゃ、さやかちゃんも遠慮なく__「あなたはダメよ」__なんでさ!」

 

 軽い伸びをしてまどかと同じように寝転がろうとしたさやかだったが、それを制される。

 

「あなたは普段もそうやって他人に対して遠慮しないのね……」

 

「さやかちゃん……」

 

「差別だー、まどかは良くてあたしはダメなんて差別だー」

 

「何言ってるのよ、差別ではなく区別よ」

 

「アタシ達は物扱いか! よりタチが悪いわ!!」

 

「失礼ね、まどかは人よ」

 

「『は』って何だよ?!」

 

「冗談よ。それよりも飲み物を持ってくるけど、二人とも何がいいかしら?」

 

「さらっと話を切り替えられた……」

 

「は~い、私コーヒーがいいな~」

 

「えっ?!」

 

 まどかの言葉にさやかは目を見開く。それはほむらも同じらしく意外そうな表情でまどかに聞いた。

 

「どうしたの急に? 前、来たときは『こんな苦いのわたしには無理だよ~』なんて言ってたのに……」

 

「まどか、熱でもあるんじゃないの?」

 

「もう二人とも酷いよ! わたしだって最近、パパにお願いして飲めるように練習してるんだから!!」

 

「別に練習するようなものじゃないと思うけど……」

 

「分かったわ。まどかがそう言うのなら」

 

「じゃあ私もチャレンジしてみますかっ! 転校生、コーヒー三つね」

 

「ブラックでいいかしら?」

 

「おう、転校生のと同じでいいよ」

 

「分かったわ、今持ってくるわね」

 

 そう言い、ほむらはパタパタと台所の方へ向かっていた。二人きりになったところでさやかは先程言えなかったことを言う。

 

「にしてもまどか。さっきのアレは何だったの? なんかコスプレみたいだったけど?」

 

「魔法少女のこと?」

 

「魔砲少女?」

 

「なんだか違う捉え方をされている気がする」

 

「いやいや、あれを魔法って呼んでいいのやら…… 」

 

「私は別にカッコいいからいいと思うよ」

 

「どこに現代兵器使って戦う魔法少女がいんのさ…魔法ってもっとメルヘンなやつだと思うけど」

 

「さやかちゃんは夢見過ぎなんだよ」

 

「アンタがいうか…普段からノートに可愛らしい絵描いてるアンタが……」

 

「ほらほらその辺にしておきなさい。美樹さん、喉が枯れるわよ」

 

 お盆に三つのカップをのせたほむらが台所から戻ってくる。

 

「サンキュー」

 

「ありがとう、ほむらちゃん」

 

「「…………」」

 

「……砂糖とミルク持ってくるわね」

 

 コーヒーをすする二人だったが、やはり初心者にブラックは厳しいものがあったようだ。

 

 

 

 

「それじゃ、本題に入りましょうか」

 

「待ってました!」

 

「それじゃ、説明するわ。まずさっきの怪物は魔女といって……」

 

 

 

 それから魔女と魔法少女に関する説明は10分にわたり、さやかは大体の事情を知った。

 

「ふーん、つまりその魔女っていう怪物が町の人達を襲って、ソイツらから皆を守る正義のヒーローが魔法少女というわけね」

 

「訂正するほど間違ってないね」

 

「そうね」

 

「へぇ~、皆の平和の為か…なんか憧れちゃうな。それに何でも願いが一つ叶うなんて」

 

「私も最初は、ほむらちゃんから聞いたときはおんなじこと言ったよ」

 

 まどかの含みのある言い方にさやかは首を傾げる。

 

「最初は、ってどういう意味? まどか、アンタもほむらと同じ魔法少女なんでしょ?」

 

「ううん、違うよ」

 

「えっ…じゃ、じゃあさっき変身したアレは何だったの?」

 

「それがわたしにもほむらちゃんにもサッパリなの……」

 

「どういうこと? 魔法少女って皆あんな感じなんじゃないの?」

 

「色々な魔法少女を見てきたけど、前例のないイレギュラーな現象よ。今にして思えば奇妙な出来事だったわ」

 

「その話さどんなのかアタシにも教えてよ。その…二人が初めて変身したときの話を」

 

「あ、それじゃわたしが話すよ。あの時のこと、ほむらちゃんうろ覚えだったし……」

 

「なら代わりにお願いするわ」

 

「うん。あれはね……」

 

 そうしてまどかは話し始めた。あの日の出逢いのことを、人生の転機を……

 

 

 

 

 

 

 わたしはお買い物の帰り道に河原で黒いちっちゃな野良猫と遊んでいた。

 

「よしよし、ネコちゃん気持ちいい~?」

 

「にゃー」

 

「本当に人懐っこい子だね。もしかして他の人からもご飯を貰ってたりしてたのかな?」

 

 顎の下をそっと撫でてあげるとそのネコちゃんは気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

 愛くるしいその姿を見ながら、ふとあることを思い付く。

 

「そうだ。折角だからこの子に名前をつけてあげよう。どんな名前にしようかな~」

 

 少しの間、考えてネコちゃんにこんな名前をつけた。

 

「エイミーなんてどうかな?」

 

「にゃっ!」

 

 名前が気に入ったのかエイミーはわたしにスリスリと服の下から身を寄せてきた。

 

「ちょっと…服の中に入らなっ…あははっ!! くすぐったいよ~!!」

 

 じゃれるエイミーと遊んでいたら、急にエイミーはわたしの手から離れて道路に向かって走り出した。

 

「うにゃっ!」

 

「わわっ、どうしたの急に…ってダメだよ!! そっちは車が通って危ないよ!!」

 

 道路の方はたくさんの車が走っていた。このままじゃ、車に轢かれてしまうかも……

 

 怖くなったわたしは急いで立ち上がって止めようとした。そうしたら向こうの方から女の子がやってきて、車道へと走ろうとするエイミーを抱えあげた。

 

「全くあなたは…いつもいつも世話が焼けるわね」

 

「にゃー」

 

「ふふっ、くすぐったいわ」

 

 頬を舐められて微笑んでいる女の子は私と同じ見滝原中学の制服を着ていた。わたしはエイミーが無事でよかったと思いつつ、その人を見つめた。

 

(綺麗な人だなー、それに何だかカッコいいかも……)

 

 初対面のまだ話してもいない人になに考えているんだろ、と心の中で笑っていると突然わたしに電流が走る。

 

(あれ、この子どこかで……)

 

 なんて考えていると、その女の子はわたしの視線に気づいたのかこっちを向いて、腕に抱えているエイミーをそっとわたしに渡してきた。

 

「危なかったわね、この時間帯の道路は車がたくさん通るから大事がなくてよかったわ」

 

「えっと…その、ありがとうございます。その子をた、助けてくれて」

 

 ちょっと緊張しながらお礼を言うと女の子は少し可笑しそうにわたしを見ていた。

 

「まるでこの子の飼い主みたいね。でもこのままだったらエイミーだけじゃなく、あなたも危なかったのよ」

 

「えっ?」

 

 わたしは女の子の発言を不思議に思った。エイミーって名前はついさっき私が勝手に名付けたはずなのにどうして知っているんだろうと。

 

「どうしたの?」

 

「えっ、あの、その…どうしてその子の名前がエイミーって知っているの?」

 

「…………」

 

 気になって聞いた質問に女の子は言葉を止めてしまう。なにか考えているようでもあったけれど、それが一体何なのかはわたしにはさっぱりだった。

 

「実は、前にもこの子に会っていてその時に名前をつけてあげようと思って名付けたのだけど…変だったかしら?」

 

 その女の子の言葉を聞いてわたしは気分が高揚するのを感じた。

 

「ううん、全然変じゃないよ。

 私もさっきこの子と会ったんだけど、あなたと同じ名前をつけてたの。だからちょっと気になっちゃって」

 

「そうなの不思議な偶然ってあるものなのね」

 

「もしかしたらわたし達、気が合うのかもね。

 あっ…わたし、鹿目まどかっていうんだ。見滝原中学に通ってる二年生。あなたの名前は?」

 

「ほむら。暁美 ほむらよ」

 

「へぇ~、ほむらちゃんって言うんだ。何だかとってもカッコいい名前だね!」

 

「!!」

 

 ふとほむらちゃんが驚いたような顔をした。どうしたんだろう? わたし変なこと言っちゃったかな?

 するとほむらちゃんが少しおどおどしながらこう尋ねてきた。

 

「へ、変な名前じゃないかしら……」

 

「そんなことないよ、寧ろほむらちゃんのイメージにピッタリだよ!」

 

「そうかしら?」

 

「うん、だってほむらちゃん、スゴいカッコいいし!」

 

「ええっ?!」

 

 慌てるほむらちゃんの姿を見て、今さっき自分の言っていたことを思い出して顔を赤くする。初対面の子になに言ってるの、わたし!

 

「名前負けしてない…わよね……?」

 

「勿論だよ!」

 

 あまり自分の名前に自信がないのかな? そんなことないよ、と言うように強く首を振るとちょっと不安そうにしていたほむらちゃんの顔が和らいだ。

 

「ありがとうまど…鹿目さん」

 

「まどかでいいよ、わたしもほむらちゃんって呼ぶから。ねぇ、ほむらちゃんちょっと今時間あるかな?」

 

「特にないけど…どうかしたの?」

 

 エイミーを地面に降ろして、河原の原っぱの上に腰かける。そしてほむらちゃんの方を見て言った。

 

「もしよかったら、わたしとちょっとお話ししてくれないかな…って」

 

 この時わたしはどうしてこんな大胆なことを言ったんだろう。

 偶然ネコに同じ名前をつけていたのがそれほど嬉しかったのか、それともこの子の持つ不思議な魅力に惹かれたのか…それは今でもよく分からないままだ。

 

 

 

 

 それからわたしはほむらちゃんと色々なことをお喋りした。

 

「そっか、ほむらちゃんは来週から学校に転校するってことになっているんだね」

 

「ええ、学校生活を上手くやっていけるか不安だったけど、こうしてまどかと仲良くなれたのだから心配なさそうね」

 

「ダメだよ。ちゃんとわたし以外の子ともお友だちにならなくちゃ」

 

「善処するわ」

 

「も~」

 

 そうやって話しているといつの間にか辺りは暗くなり始めていて、河原から見える夕日も地平線の向こうへ沈んでいこうとしていた。

 

「まどか、そろそろ家に帰らないとご家族に心配をかけてしまうんじゃない? だいぶ暗くなってきたわよ」

 

「わっ、本当だ! わたしお使いの途中だったのに!!」

 

「ごめんなさい、私のせいで時間を使わせちゃって」

 

「謝らないでよ。わたしはこうしてほむらちゃんと仲良く一緒にお話し出来ただけでもとっても素敵な時間だったなって思ってるから」

 

「あなたは…本当に優しいのね。そうだ最後にいいかしら?」

 

 目を細めて笑うほむらちゃんだったけれど、その瞳はどこか悲しそうなもののように感じだ。そして次の瞬間、ほむらちゃんの雰囲気が一気に変わった。

 

 

 

 

 

「まどか。貴方は自分の人生が、貴いと思う? 家族や友達を大切にしている?」

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 突然の変わりようにわたしは戸惑いを隠せないでいた。どうしたんだろう急に? ほむらちゃん、冗談を言っているわけでもなさそうだし……

 そんなことを考えているとほむらちゃんはさっきまで話していた時よりも低い声でわたしに語りかけてきた。

 

「お願い、質問に答えて」

 

「えっと…大切に思っているよ。家族も…友達も……勿論、ほむらちゃんもわたしの大切な友達よ」

 

「そう、なら良かったわ。貴方は、鹿目 まどかのままでいればそれでいい。今まで通り、これからも。だから今の自分とは違うものにはならないって決して約束して」

 

「う…うん」

 

「それじゃ、また学校で会いましょうね」

 

 ほむらちゃんの話す言葉はとても鋭くて、その言葉はわたしの身体の奥まで貫いていくような気がした。

 なんとかしてそれに頷くとほむらちゃんはさっきまでとは違う、柔らかい笑みを見せながらわたしの前からいなくなっていった。

 

「ほむらちゃん…不思議な子だったなぁ……」

 

 

 

 

 それからわたしはエイミーと別れて家に帰ろうと道を急いでいた。うぅ…パパ困ってないかな? 後で戻ったら謝らないと……

 

『助けて…』

 

「??」

 

 そう思いながら走っていると、ふと何処かから声が聞こえてきたような気がした。

 

「今…誰か? 気のせい?」

 

『助けて……』

 

「誰なの? 何処にいるの?」

 

『誰か…助けて!!』

 

 助けを呼んでいる人が自分を求めている。それを知った瞬間、わたしは駆け出していた。何故だか分からない。それでもこのまま放ってはおけなかった、

 闇雲に走っているはずなのに、本能がこの道を行けと明確な指示を出しているような気がした。

 

 必死に走っていたせいか、いつの間にか見たことのない場所に来てしまった。一体ここは何処なのだろう?

 とりあえず、元来た道に一旦戻ろう。そう思って足を動かそうとしたとき、何かがわたしの足に引っ掛かり転んでしまう。

 

「キャッ‼ 痛てて…わたし、何につまづい__」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしの足元にあったのは確かにモノだった。物ではなく者だ。そこに倒れている人に酷く見覚えがあった。

 ついさっき私と友達になって一緒にお喋りして笑っていた『あの子』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほむらちゃん?!」

 

 血まみれでボロボロになって倒れているほむらちゃんの姿がそこにあった。

 

 

 

☆to be continued…… ★

 





※うーん、我ながら最初から飛ばし過ぎていないか悩む今日この頃……とりあえず、次回も頑張っていきたいな~


☆次回予告★


第4話 巡り逢うW ~ 彼女(まどか)の為にもう一度



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第4話 巡り逢うW ~ 彼女の為にもう一度


※予告したタイトルが少しばかり変わったりします。その理由は、本文を書き終えた後にsakiが思い付きで書いているからです。
※行き当たりばったりの作者だけど、許してね。


第4話 巡り逢うW ~ 彼女(まどか)の為にもう一度

 

 

 

 私は病院の一室で目覚めた。再び始まる一ヶ月の戦いへの嫌気とまた鹿目 まどかを救うことが出来なかった後悔が心を締め付ける。

 それでも私は諦めない。いつかの時間軸であの子と交わした約束を果たすまでは……

 

 布団を払い除け、ソウルジェムを取りだして魔力で視力と肉体を強化させる。そして何も出来なかった弱かった自分との決別の印として三つ編みに縛られているリボンを外す。

 

 早速まどかの監視に移ろうとした時、あることに気づいた。

 

 

 

「私、どうやって時間を巻き戻したの?」

 

 

 

 カレンダーの日にちをチェックすると確かに一ヶ月前の見滝原に戻ってこれている。だけども色々とおかしい。だって前回の時間軸で私は……

 

 

 

『まどか、危ない!!!』

 

『えっ…?!!』

 

 

 

 ワルプルギスの攻撃からまどかを庇って…それで私の盾は……

 

 魔法少女の姿に変身する。あの時壊れてしまっていた盾は、しっかりと左腕につけられていて今も砂時計の砂は静かに流れている。

 

 けれどその直後、私は今後の戦いにおいて致命的ともいえる問題点を発見してしまう。

 

 

 

「時間を止められない……?!」

 

 

 

 どれだけ盾を操作しても、時を静止させることが出来なくなっていた。それだけでなく私の持つ魔力がとてつもなく減っていて、魔女はおろか使い魔ですらも倒せられるのか怪しいレベルまで弱体化していた。

 

 ずしんと私の中に絶望がのし掛かる。このままじゃ、まどかを救うことが出来ない…そんなことになってしまったら私のこれまでの努力は……

 

 ソウルジェムの濁りが急速に早まる。けれど、なんとか我にかえって魔女化を免れる。そうだ、何もまだ全てが終わったわけではない。

 

 そう思い直し、私は病院を抜け出して『ある場所』へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「ほらほら~、ネコちゃん気持ちいい?」

 

「にゃー」

 

 まどかが魔法少女になる最初の分岐点へとやって来た。今まで通りならここで私が何もしなかったらエイミーは車に轢かれて死んでしまい、その子を蘇らせるためにまどかは魔法少女として契約をする。

 

 これまでは時間を止めて何事もなかったかのように、まどかの腕の中に返していたけれどどうしましょうか…? 時間は止められないからまどかとの接触は避けられない…かといって放っておいたら契約をしてしまう……

 

 あまり悩んでいる時間はない…そうだわ。なら、いっそのことこの段階でまどかと接触を果たして仲良くなってしまいましょう。そうすれば前回みたいな気まずい関係にならずに済むわ。

 

 考えをまとめ終えたところで丁度その時はやってきたようだ。エイミーがまどかの腕の中から抜け出して道路に向かって行く。私は目の前を通り過ぎようとするエイミーをそっと優しく抱き上げた。

 

「にゃ?!」

 

「全くあなたは…いつもいつも世話が焼けるわね」

 

「にゃー」

 

「ふふっ、くすぐったいわ」

 

 いきなり持ち上げられて驚いている様子だったけれど、私の顔を見ると、すりすりと身を寄せてきて、頬を舐め始めた。

 前々から考えていたけど、この子ウチで飼ってみようかしら? まあ、野良猫だから基本は放し飼いみたいなものだけど。

 

 なんてことを考えていると、まどかからの視線を感じる。何か話さなくちゃいけないわね。

 

「危なかったわね、この時間帯は車がたくさん通るから大事がなくてよかったわ」

 

 話を切り出すことが出来て内心ホッとする。こういうところは昔から変わっていないわね…悔しい。

 

「えっと…その、ありがとうございます。その子を助けてくれて」

 

「まるでこの子の飼い主みたいね。でもこのままだったらエイミーだけじゃなく、あなたも危なかったのよ」

 

「えっ?」

 

 言葉を詰まらせながらもどうにかしてお礼を言おうとする姿が少し可笑しかった。そう思いながら、話し続けようとしたら突然まどかが不思議そうな声を出した。

 

「どうしたの?」

 

「えっ、あの、その…どうしてその子の名前がエイミーって知っているの?」

 

「…………」

 

 迂闊だった。これまで一度もこの段階でまどかと接触したことがなかったからついボロが出てしまった…どうにかして言い訳を考えないと……

 

「じ、実は、前にもこの子に会っていてその時に名前をつけてあげようと思って名付けたのだけど…変だったかしら?」

 

 我ながら苦しい言い訳…心底自分の口下手さにうんざりしていると、まどかは嬉しそうな顔をしていた。

 

「ううん、全然変じゃないよ! 私もさっきこの子と会ったんだけど、あなたと同じ名前をつけてたの。だからちょっと気になっちゃって!」

 

 良かった…変な人と思われずに済んだわ。もしそんなことを思われた暁には、魔女化まっしぐらね……

 

「そうなの不思議な偶然ってあるものなのね」

 

「もしかしたらわたしたち、気が合うのかもね。

 あっ…わたし、鹿目まどかっていうんだ。見滝原中学に通ってる二年生な。あなたの名前は?」

 

 まどかにしては随分と積極的ね…初対面でここまで気さくに話しかけられたなんて。もしかしてだけど、今までの私の対応が悪かっただけで普通にしていれば、こういう風に接してくれていたのかしら…? 

 取り敢えず聞かれたからにはしっかりと名乗っておきましょうか。

 

「ほむら。暁美ほむらよ」

 

「へぇ~、ほむらちゃんって言うんだ。何だかとってもカッコいい名前だね」

 

「!!」

 

 それは、まどかとの最初の出会いをしたときに言ってもらった言葉。私はギリッ…と奥歯を噛み締める。

 

「へ、変な名前じゃないかしら……」

 

 なにも出来なかった頃の自分を思い出してしまったせいか、自信なさげに答えてしまった。こういうところは全く変わっていないわね…自嘲気味に心の中で笑う私にまどかは強くこう言った。

 

「そんなことないよ、寧ろほむらちゃんのイメージにピッタリだよ!」

 

「そうかしら?」

 

「うん、だってほむらちゃん、スゴいカッコいいし!」

 

「ええっ?!」

 

 予想すらしてない言葉に顔が急激に熱くなっているのを感じる。

 

「名前負け…してないわよね……?」

 

 必死に捻り出した言葉はやっぱりあの時と同じ台詞だった。口調は頑張って今のままにしたけど……

 

「うん! 勿論だよ!!」

 

「ありがとうまど…鹿目さん」

 

「まどかでいいよ、わたしもほむらちゃんって呼ぶから」

 

 初対面で名前呼びは流石に慣れ慣れし過ぎる。そう思ったけど、そんなことはなかったようね。

 

「ねぇ、ほむらちゃんちょっと今時間あるかな?」

 

「えっ?」

 

「もしよかったら、わたしとちょっとお話してくれないかな…って」

 

 そう言ってまどかは原っぱの上にゆっくりと腰かけた。

 

 

 

 

 こんなにもまどかと話したのはいつぶりかしら? 前の時間軸で全く会話しなかったというわけではない。ただ時間を巻き戻してからこんなにも早く話したという記憶がないだけ。

 

「そっか、ほむらちゃんは来週から学校に転校するってことになっているんだね」

 

「ええ、学校生活を上手くやっていけるか不安だけどこうしてまどかと仲好くなれたのだからもう心配なさそうね」

 

「ダメだよ。ちゃんとわたし以外の人ともお友だちにならなくちゃ」

 

「善処するわ」

 

「も~」

 

 さて、楽しい時ほど早く過ぎ去るというけれど、だいぶ暗くなってきている。名残惜しいけど、そろそろまどかを家に返した方が良さげね。

 

「まどか、そろそろ家に帰らないとご家族に心配をかけてしまうんじゃない? 暗くなってきたわよ」

 

「わっ、本当だ! わたしお使いの途中だったのに!」

 

「ごめんなさい、私のせいで時間を使わせちゃって」

 

「謝らないでよ。わたしはこうしてほむらちゃんと一緒にお話しできただけでもとっても素敵な時間を過ごしたんだなって思っているから」

 

 曇りなき笑顔をこちらへ向けるまどか。その笑顔がまた私を明日へと進むための糧となってくれる。その優しさに私は何度も救われたか。そして……

 

「あなたは…本当に優しいのね」

 

 

 

 その優しさのせいで私は貴方を失い続けた。だからこそ言わなければならない。

 

 

 

「そうだ最後にいいかしら?」

 

 今度こそ、貴方を救うために……

 

「まどか。貴方は自分の人生が、貴いと思う? 家族や友達を大切にしている?」

 

「……えっ?」

 

 戸惑いを隠せない表情でまどかは見つめてくる。変に思われたって構わない。この言葉さえ、しっかり聞いてくれれば安易に契約をせずに済むのだから。

 

「お願い、質問に答えて」

 

「えっと…大切に思っているよ。家族も…友達も…勿論、ほむらちゃんもわたしの大切な友達だよ」

 

「そう、なら良かったわ。貴方は、鹿目 まどかのままでいればいい。今まで通り、これからも。だから今の自分とは違うものにはならないって決して約束して」

 

「う…うん」

 

「それじゃ、また学校で会いましょうね」

 

 ぎこちなく答えるその姿に私は笑みを浮かべながら、まどかの元を去った。

 

 

 

 

 本当にこれで良かったのかしら? 振り返ってみてもあれが私に出来る最大の接し方だったと思う。でも決してそれが最良の選択になるとは限らない……

 

「何弱気になっているのよ……」

 

 頭を振って、後ろ向きの思考を取り払う。逆に前向きに考えよう、あれだけ仲良くなれたのだから今後も努力し続ければ、きっと魔法少女の真実も私の本当の目的も信じてくれる。

 

 心に宿る微かな希望を持ちながら、病院へと戻ろうとした時、ソウルジェムが光り始めた。

 

「これは…使い魔の気配ね。しかもまどかの家の方角にいる……」

 

 魔力が著しく減っている現状では、戦うのは得策ではない。ましてや、何の利益もない使い魔などもっての他だ。

 でも私は使い魔のいる場所へと向かった。

 

 何故かって? まどかを危険に晒さないためよ。

 

 

 

 

「くっ…まさかここまでなんて……」

 

 魔女の結界内。私は大量の使い魔達と対峙していた。

 

 私の戦い方は、時間停止からの奇襲&一斉放火からなっている。逆に言えば、時間停止に頼らないと何も出来ない最弱の魔法少女へと成り果てる。それがここまで酷いものになるとは…はっきり言って予想外だわ。

 

 ワルプルギスを倒した後、まどか達に迷惑をかけないように見滝原から居なくなるっていう考えは間違っていなかったわね。先に知ることが出来て良かったわ…もう必要なくなったけど。

 

「ガハッ……」

 

 使い魔の攻撃に腹部を射抜かれてその場に倒れ込む。幾度となく時間を繰り返し続け、戦ってきた結末がたかが使い魔にやられて終わるなんて…無様なものね。

 

 私の戦いに意味はあったのだろうか、望んだ未来を掴むことが出来ずに、ただまどかを最強の魔女に仕立てただけの戦いが……

 

 このまま死ぬ前にいっそジェムを濁らせて魔女になってしまうのも悪くないかもしれない。でも、それだとまどかに危害を加えてしまうかもしれないわね……

 

 様々な考えを巡らせていく内に意識が段々と薄れていく。きっとこのまま目を瞑ってしまえば、すぐに楽になれるのだろう。

 

(……でも嫌だ。こんなところで死にたくないっ)

 

 もう諦めてしまおう。そう思っていたはずなのにどこかで死ぬことを拒んでいる自分がいた。

 

(助けて…誰でもいいから、助けて!!)

 

 心の中で必死に叫ぶ。すると後ろの方から居るはずのない人の声が聞こえた。

 

「ほむらちゃん?!」

 

 

 

 

 

 

 目の前に倒れている少女は間違いなく暁美ほむらだった。

 

「ど、どうして…こんな怪我を……!!」

 

 まどかはこの置かれた状況でどうしたらいいのか分からなかった。

 

 明らかに命に関わるレベルの傷を負っているさっきなったばかりの友達。

 突然、現れた不思議な空間。

 そして眼前にいるたくさんの異形の怪物達。

 

 使い魔達の視線は、まどかとほむらに向かっていた。まずは手負いを確実に仕留め、その後に残ったもう一人を喰らい尽くすのだろう。

 

 まどかはその視線に怯えながらも、ほむらを守るように腕の中に包む。

 ほむらは自分を抱き寄せるまどかを残った僅かな力で振り払おうと身を揺する。

 

「まどか…私のことは、いいから…はや…く逃げて……」

 

「嫌だよ! こんな状態のままほむらちゃんを置いてなんかいけないよ!!!」

 

「でも…このままじゃ、二人とも……!!」

 

「絶対やだ!!!」

 

 両者とも一向に譲る気はなかった。だがそうしている間にも使い魔達はゆっくりと二人に迫る。

 

 

 

 

 

(わたしがほむらちゃんを守らないと!!!)

(私がまどかを護らないと!!!)

 

 

 

 

 

 絶望的な状況が押し寄せる中、二人の思いが交錯する

 

 

 

 

 

 その時不思議なことが起きた。

 見を寄せ合っていた二人の体が突然光出したのだ。

 その光は結界全体を覆って、使い魔達も驚いた素振りを見せる。そして光が晴れた後、その場には……

 

 

 

 一人の魔法少女が君臨していた。

 

 

 

 

 

 

「なるほどね、それが二人が始めて変身したときの話なんだ」

 

「ええ、それから使い魔と戦ったのだけど、まどかったら慌てふためいて、私の爆弾を辺り一面に撒き散らして結界ごと破壊しちゃったのよ」

 

「うわぁ……」

 

「そ、その話はしないでよ……」

 

「ふふっ、お蔭で補充するのに三日も徹夜したのよ?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 イタズラっぽく笑うほむらにまどかは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「いいのよ別に。だってあなたが助けてくれなかったら私は結界の中で人知れずに死んでいたんだから」

 

「そういやさ、その使い魔ってのを倒した後、どうなったの? 聞くにすごい大怪我をしてたらしいじゃん」

 

「それが変身を解いて、意識を取り戻したらほとんどの傷は治っていたのよ」

 

「ふーん、不思議なこともあるんだね」

 

「ホント私も思ったわ。魔法少女がそれを言ったらお仕舞いな気がするけどね」

 

 肩をすくめるほむらに二人は楽しそうに笑う。それから少し話した後、さやかがこんなことを言った。

 

「でもさ、まどかの話を聞く限りだとさ__」

 

 

 

「__転校生ってなにか隠し事してない?」

 

 

 

 ほむらの眉が少しだけ動く。だが、さやかはそのことに気づかずに話を続ける、

 

「河原でまどかと仲良くなったってのは、いいんだけどその後の『あの言葉』あれって一体どういう意味なの?」

 

「あの言葉って?」

 

「その…自分の人生が貴いとか、今のままでいいとかさ、この言葉って魔法少女についてのことだよね?

 でもどうして初対面の子に対してそんなことを口にするのさ? まるでまどかが魔法少女になるのを知っているかのように?」

 

「…………」

 

「さやかちゃん、その話はちょっと__「まどかは黙ってて」」

 

 俯いて黙り混んでしまったほむらを庇うように落ち着かせようとするまどかだが、さやかはそれを振り払う。

 

「それで実際はどうなの?」

 

「魔法少女になる、ではなく魔法少女としての素質を持っていたから私はそう言ったのよ。

 さっきあなた達に話した通り、魔法少女なんて自分から進んでなるものじゃないもの。下手したらあの時の私みたいに誰にも知られることなく死んでしまうことだってあるのだから…そんな危険な戦いに友達を巻き込むことはしたくなかった。だから忠告したのよ」

 

「…………」

 

「わたしも魔法少女のことを聞いたときにね…さやかちゃんや仁美ちゃん、パパやママを絶対に巻き込まないようにしあきゃ、って思っちゃったの。

 それはほむらちゃんと同じ理由じゃないかな? わたしだって大切な人達を巻き込みたくなかったんだもん……」

 

 さやかはまだ腑に落ちなさそうな様子であったが、一人頷いてまどかとほむらの手を取った。

 

「分かったよ。だからいつまでもそんな辛気くさい顔しないで、もっと明るくいこう?」

 

「あなたがそうさせたのでしょう……」

 

「まあ、それはいいとして代わりにだけどアタシにもちょっと条件があるの」

 

「「何(かしら)?」」

 

「アタシもさ、二人の魔女退治に付き合ってもいい?」

 

「「?!!」」

 

 二人の表情が変化する。ほむらが何か言いたそうにさやかに詰め寄ろうとしたけれど、その前にさやかが説明する。

 

「一応監視するってのもあるけど、転校生の安全も考えたら誰か一人は付いていた方がいいかなって思って」

 

「私の安全?」

 

「あっ、そうだよ!」

 

 首を傾げるほむらにまどかは何かに気づく。

 

「変身した後、ほむらちゃんの意識はわたしの方に向かうわけだよね?」

 

「ええ」

 

「じゃあその戦っている間、ほむらちゃんの身体はどうなってるの?」

 

「意識が切り離されている状態だから変身した場所でずっと倒れっぱなしね」

 

 自分の身体が危険な状態にあったはずなのに、ほむらは落ち着いていた。その態度にまどかは憤慨する。

 

「ど、どうして早く言ってくれなかったの?!」

 

「だってあなたにはなるべく戦いに集中してもらっていたかったから…どうしてそんなに怒ってるの?」

 

「怒ってないもん」

 

 口ではそう言っているが、まどかは不機嫌そうな顔をしたまま、頬を膨らませていた。

 

「やれやれ…転校生、このままだったらこれからずっとまどかと戦えなくなっちゃうよ?」

 

「構わないわ。まどかが無事でいるのに越したことはないもの」

 

「口を聞いてもらえなくなったとしても?」

 

「!!」

 

「それはアンタにとってもまどかにとっても、ヤなことでしょ? だからここはこのさやかちゃんが二人が変身した後、アンタの身体を安全な場所まで避難させとく。それでどうかな?」

 

「ほむらちゃんが無事でいられるならわたしはいいけど……」

 

「…………」

 

 まどかはすぐに頷くが、ほむらは悩んでいた。確かに変身中に万が一のことが起きてしまったら自分は帰る肉体を失ってそのまま消滅してしまうかもしれない。

 そうなるのなら、さやかに頼ってもらった方がいいのでは? と思ってしまう。

 

 けれど、もしさやかも同行するのだとしたら、さやか自身の危険も高まるし、魔法少女として契約してしまう可能性も増してしまう。

 

 この二つを天秤にとって選らんた答えは……

 

 

 

「覚悟はあるのね」

 

 

 

「うん、何もしなくてまどかや転校生を失いたくない。それにアタシも町の平和の為に何かしたいって思っちゃったから」

 

「さやかちゃん……」

 

「あなたの気持ちはよく分かったわ。はい」

 

 そう言ってさやかに手を差し出す。それをさやかはニカッと笑いながら握り、まどかもその上に手を乗せる。

 

「それじゃ今ここに見滝原魔法少女三人組、結成だね!」

 

「うん!!」

 

(約一名、違うけどね…ん? この気配は……)

 

「盛り上がっているところ悪いけど、魔女が現れたわ」

 

 心の中でツッコミを入れてると、近くに魔女の気配を感じとる。

 手に持っていたコップをテーブルにそっと置いて、意気揚々としている二人に魔女の出現を知らせる。

 

「おっ、さやかちゃん活躍の機会がこうも早くやってくるとは…舞い上がっちゃうね!!」

 

「ほむらちゃん、場所は?」

 

「北東の方角ね。それと美樹さん、さっき説明したけど、魔女退治は遊びじゃ__「よし、まどか! 直ちに現場へ急行だ!!」」

 

「ちょ…さやかちゃん?!」

 

 舞い上がってるさやかには忠告は聞こえてなくて、そのまままどかの手を掴んで魔女のいる方向へと家を飛び出して行ってしまった

 

「待ちなさい、美樹 さやか! まどか一人じゃ変身出来ないのよ!! ちょっと聞いてるの?!」

 

 さやかに同行を許したのは間違いだったのかもしれない…頭が痛くなるのを我慢しながら、ほむらも彼女らの後を追いかけた。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※前後編で書くのならもう少し計画性を持って書く必要があると痛感されられた今日この頃……前回の2倍以上の文字数ってどういうことよ(苦笑)


☆次回予告★


第5話 放課後のC ~ 傍にいたいその理由


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第5話 放課後のC ~ 傍にいたいその理由


ほむ「さて……第四話更新から十日間、一体何をしていたのかしら?」

saki「えっと、それは……」

ほむ「皆まで言わなくてもいいわ。ケ○姫で今開催されているまどマギコラボにうつつを抜かしていたのでしょう?」

saki「おっしゃる通りでございます……」

ほむ「でも私が貴方を呼んだのは、そのことを攻める為じゃない」

saki「……といいますと?」

ほむ「10月3日、これが何の日か覚えてる?」

saki「あ’’……」

ほむ「貴方は本来はこの日に投稿して、あることしなければならなかった。けど愚かにもそれを忘れていた」

saki「はい……」

ほむ「だから貴方にペネルティを与えるわ」

saki「そ、それって一体……(汗)」


※後書きに続きます。ちなみに10月3日はまどかの誕生日ですね。遅れてごめん、ハッピーバースデー 


 

 第5話 放課後のC(chat) ~ 傍にいたいその理由

 

 

 

 暁美 ほむらが転校してから五日ばかりが過ぎた。

 彼女の今いる時間軸にはいくつものイレギュラーが事態が起こっていて、初めはこのことに不安を抱いていたが振り返ってみるとこれまでの中で五本の指に入るほど充実した日々を送っていた。

 最高の未来を掴むためには、乗り越えるべき壁がまだまだあるが、ほむらの心の中に微かな希望が芽生え始めていた。これはそんな日の放課後のこと__

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 帰りのHRが終わり、クラスの皆が帰りの支度をし始める。ほむらも同じように鞄に荷物を入れ、放課後のパトロールにまどか達を誘うべく二人のいる元へと向かおうとしていた。

 すると彼女達のいる方からさやかの残念そうな声が聞こえてくる。

 

「えー、今日も無理なの?」

 

「ごめんね……さやかちゃん」

 

「二人ともどうかしたの?」

 

「あ、転校生。実はさ、まどかのやつ今日も一緒に帰れないんだってさ」

 

「そう。何か用事でもあるの?」

 

 不思議そうに尋ねるほむらにまどかは、申し訳なさそうな表情をする。

 

「うん……明日には済むはずだから。それで、ほむらちゃん魔法少女のパトロールなんだけど……」

 

「心配する必要はない。昨日と同じように私一人でやるから」

 

「ありがとう、ほむらちゃん」

 

「ところでさ、その用事って一体何なの? 昨日聞きそびれちゃったから聞いてみようと思ったんだけど」

 

「それは……まだ内緒。明日になったら二人にも教えるから……」

 

「分かったわ……じゃあ、まどか。また明日」

 

「それじゃあね二人とも!!」

 

 そう言ってまどかは、ちょっぴり恥ずかしそうな顔をしながら教室を出ていった。

 残った二人はいつもとは違うまどかの様子に互いに首を傾げる。

 

「どうしたんだろうね、まどか?」

 

「さあね、でも明日になればきっと分かるはずだから気長に待ちましょう」

 

「おう、洗いざらい全て吐かせてやろうじゃありませんか~」ワキワキ

 

「……その手の動き止めなさい」

 

「あはは、冗談だってば。そうだ転校生、この後何か用事とかある?」

 

「別に軽くそこらを見廻りして帰るつもりだけど……どうかした?」

 

「パトロール一緒に付いていくついでにさ、ちょっと付き合ってくれない?」

 

 

 

 

 それから二人は帰宅路付近の見廻りをし終えて、CDショップの前にいた。

 

「ここなの?」

 

「うん、昨日いい曲を見つけちゃってね。今日の帰りに買ってあげようと思ってたんだ」

 

「美樹さん、音楽なんて聞くのね」

 

「アンタあたしを何だと思ってるのよ」

 

「冗談よ。それでそのCDは一体誰にあげるものなのかしら?」

 

「えっ……!!」

 

 さやかの事情を全て知っているほむらはニヤニヤしながら意地悪そうに聞く。その言葉にさやかは慌てふためいて顔を赤くする。

 

「ど、どうしてそんな……誰かの為とか分かるのよ……」

 

「だって『買ってあげる』って言ってたから、てっきり誰かへのプレゼントかと思ってたけど……違ったかしら?」

 

「そ、そ、それは……」

 

「分かりやすい性格ね。とりあえずずっと店の前に立っていたら邪魔だから早く入るわよ」

 

 どうにかして言い訳をしようとするその様子にほむらはくすくすと笑う。そして悶えるさやかをCDショップの中へと引っ張っていった。

 

 

 

「どう? 落ち着いた?」

 

「うん……あんなにも取り乱した自分が恥ずかしいよ」

 

「さっきまでの様子を見るに、好きな人への贈り物とかかしら」

 

「アンタってさ……デリカシー無いとかって言われたことない?」

 

「あらあなたがそれを言うの?」

 

「ぐぬぬ……」

 

 まっことの正論で文字通りぐぅの音も出やしない。さやかは諦めた感じで溜め息をつく。

 

「はぁ……もう全部話しちゃうけどさ、アタシ好きな人がいるの」

 

「うん、知ってる。名前は上條 恭介、凄腕のヴァイオリニストだったけどとある事故で腕を怪我してしまい、今は病院で入院中。そんな彼を励ます為にほぼ毎日お見舞いに行ってるのよね。彼の気に入りそうなCDを一緒に持っていって」

 

「ちょっと待てェ!!! な、何でアンタが恭介のことを知ってるの?!」

 

「まどかが教えてくれたわ」

 

「まどかァ!!!」

 

 店の中なのに関わらず叫ぶさやかに周りからの冷ややかな視線が刺さる。そしてワナワナと怒りで身体を震わせているさやかの肩にそっと手が置かれた。

 

「お客様、ちょっとよろしいですか」

 

「「あ……」」

 

 

 

 

「何か言うことは?」

 

「うん……ホントごめん」

 

 場所は変わって近所の公園。

 先程のさやかのシャウトのせいで私達二人は、店の人にこっぴどく叱られて目的のCDを買うやいなや逃げるように店を出ることになった。

 

「全く……なんで私もあんな目に遭わなきゃいけないのかしら?」

 

「悪かったってば~、今度お詫びに何か奢るからさ」

 

 断るのは申し訳ないと思って、一緒に帰ることにしたけど……確実に失敗したわね。まあ責任は私にもあるけど……

 

「そう、それならとびっきり良いものをご馳走してもらうことにするわ」

 

「ははっ……お手柔らかに……」

 

 それにしても今日の私と美樹 さやかを見ると本当に仲の良い友達に見えたわね。これまであまり彼女とは関わることが無かったせいか、まどか達と比べると新鮮なものだったわ。

 さっきみたいに冗談を言い合ったり、上條 恭介についてイジってみたり、一緒に怒られたりと…………結構疲れたけど、それ以上にとても楽しかった。

 

 いつかの時間軸でまどかが言っていたけど、本当は良い子だっていうのは間違ってはいなかったのね。バカみたいに明るくて、笑わせて、そして親しみやすくて…………

 

「転校生? どうしたそんな思い詰めた顔して?」

 

「えっ?」

 

 不意に横から声をかけられて思わず、身を引いてしまう。

 

「いいえ、何でもないわ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ついさっきまで楽しく話していた空間に謎の沈黙が生まれる。急にどうしたのかしら?

 そう思っていると、美樹 さやかはゆっくりと口を開いた。

 

「転校生ってさ……まどかのことどう思ってる?」

 

「まどか……? 何故そんなことを?」

 

 何の脈絡もない話題を振られ、いよいよ彼女が私に何を話そうとしているのかが分からなくなる。彼女の質問にどう答えようかと考えていると美樹さやかは独りでに喋り始めた。

 

「あたしはさ、ドジでちょっとドンくさいところがあるけれど、それでもいっつも誰かの為に一生懸命に頑張っていてとっても良い奴だと思ってる」

 

「そうね」

 

「昔っから、ずっとバカやってる私なんかと一緒にいてくれて本当に感謝している。だからさ、あたしはあの子と友達でいたいし、それと一緒に傍で守ってやりたいって思っている」

 

「美樹さん……?」

 

「転校生はどうしてまどかと友達になろうと思った? どうして一週間前の初めて出会ったとき、魔法少女に関係することを話したの?」

 

「…………」

 

「正直言ってさ、アンタから魔法少女のことを教えてもらったとき、あたしはアンタがまどかを利用して何か企んでるって思ってた」

 

「…………」

 

「でもアンタ達と一緒に魔女探しを手伝っているとさ、段々とあたしの考えていたことがバカな妄想のように思えてきてるんだ」

 

「…………」

 

「あたしってバカだからさ、何でもかんでも物事をハッキリとさせなくちゃ仕方がない性格だから今ここで聞かせて欲しいの。アンタが何を思って、まどかと一緒に戦っているのか」

 

「それは……」

 

「あの時に考えていたことをあたしのバカな妄想で終わらせたいって思っている。だから今ここでハッキリと答えて」

 

「…………」

 

 もし私の話すことを美樹 さやかがしっかりと聞き入れてくれるのなら、きっとそれは今後の事態の展開を更に向上させることが出来るだろう。

 

『私達に妙な事吹き込んで仲間割れでもさせたいの?』

 

 そう確かに頭の中では思っているはずなのに、どうしても口が開いてくれない。今彼女は私のことを必死に信じようとするために答えを求めている。なのに……

 

『どっちにしろ私この子とチーム組むの反対だわ』

 

 なのに、どうして何も話せないの……どうして信じてもらえなかったときのことばかり、考えてしまうの……

 

 

 両手をグッ……と握りしめる。私は憎い……

 ギリッ……と歯を強く噛み締める。信じてくれないことに怯えている自分が悔しい……

 身体を大きく震わせる。別の時間軸での美樹 さやかの印象にずっと囚われたままでいる自分が情けない……

 

 でも勇気を出さなくちゃいけない。今度こそ、私にとっての最高の未来を掴む為に!!

 

「私は……まどかを……!!!」

 

 意を決して、彼女へまどかへのことを伝えようと顔をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、草むらに二つの赤い瞳がこちらを見ていることに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は立ち上がり、視線の先にいるものを捉えた。そして目が合った瞬間、ソイツは草むらの中へと逃げ出した。

 

「アイツは……!!!」

 

「ちょっとアンタ!! まだ話は終わってな__」

 

 私は無意識に走り出していた。美樹さやかの声など今の私にとってどうでもいいものになっていた。

 

 押し寄せる不安で、私の身体が急速に冷たくなっていく。

 

 強い恐れを胸に抱きながら、私は逃げるソイツの後を追いかけ続けた。

 

 

 

 

 

 

「転校生の奴……急にどうしたんだろう?」

 

 置き去りにされたさやかは訳が分からないといった具合だった。

 

「何か用事が出来たのかな? それとも__」

 

 一泊置いて、自分の言おうとした言葉について考える。それはほむらを信じようとしていたことを否定するものだからだ。

 

「__はぐらかされちゃったのかな……?」

 

 さやかは、心の中でほむらに対する不審、疑念が沸き上がってくるのを感じる。

 

「まだ確信は持てないけれど、アイツには何かあたしやまどかに言えないことを隠している……暁美 ほむら、やっぱりアンタは信用ならない……」

 

「あれ、さやかちゃん?」

 

 ほむらの走っていった先を鋭く睨んでいると、後ろから誰かに声をかけられた。まどかだった。

 

「まどか、用事があるって帰ったんじゃないの?」

 

 そう口で言ったところでまどかの姿を見てある程度の察しがつく。彼女の格好はまだ制服のままで、手には色々なものが詰まった買い物用の袋があった。

 

「実はね、帰る途中でおつかいを頼まれちゃって。さやかちゃんこそ、こんなところで何してたの? ほむらちゃんと一緒じゃないの?」

 

「さあ、さっきまで居たけど何か急に顔色変えてどっか行っちゃったよ」

 

「何かあったの?」

 

「ちょっとね……」

 

 さやかの声があからさまに不機嫌になる。その様子に不審を抱いてまどかは聞いた。

 それに対して暗い表情で答えたが、さやかはすぐに表情を切り替えてまどかの持っていた買い物袋をひったくった。

 

「ちょっとさやかちゃん?!」

 

「おおぅ……意外と重っ! 気にしないで別に喧嘩とかしたわけじゃないし、それよりも~こんな重たいものもって歩いてて疲れてるでしょ? だからこのあたしが代わりに持ってしんぜよう!」

 

「ええ……へ、平気だよ。このくらいわたしにだって……」

 

「そう言ってるけど、さっきも立ってるだけでちょっと危なかったぞ~」

 

「もう、さやかちゃんったら……。…………ッ?!」

 

「まどか……? どうしたの?」

 

 頬を膨らませて不機嫌になっていたまどかだったが、突然表情が険しくなる。不思議そうに尋ねるさやかに声のトーンを落としてこう答えた。

 

「魔女の結界」

 

「えっ……?!!」

 

 その言葉でさやかは初めて気づいた。いつの間にか自分達は……魔女の結界の中に取り込まれていたことに。

 そして目の前に髭の生えた綿の怪物達がまどか達を取り囲んでいることに……

 

「どうしよう、さやかちゃん……」

 

「ヤバイね……このままじゃ__」

 

 迫り来る使い魔達に二人は身を寄せ合って怯えていた。まどかはほむらに連絡を送ろうとしたが、どう考えても間に合うはずがない。

 

 

 

無限の(パロットラ・マギカ・)魔弾(エドゥ・インフィニータ)!!!」

 

 

 

 二人が諦めかけていたその時、何処からか声が聞こえてきて、まどか達に取り巻いていた使い魔達が一斉に消滅した。

 

 魔女の結界が無くなっていく。一体何が起こっているのかさっぱり分かっていない二人の元に静かに近寄る者がいた。

 

「危なかったわね。もう少しで魔女に取り込まれるところだったから……無事でよかったわ」

 

「えっ……?! その姿……」

 

「もしかして……」

 

 金髪ロールでベレー帽をかぶった女性が姿を現す。戸惑うさやかの横でまどかは彼女の頭に付いている髪飾りに気づいて言った。

 

「魔法少女?」

 

「ええ、そうよ」

 

 どこか大人びた雰囲気を醸し出している女性はにこやかに答える。そして胸に手を当てて自分のことをこう名乗った。

 

 

 

「私の名前は巴 マミ、あなた達と同じ見滝原に通う三年生よ」

 

 

 

☆ to be continued…… ★





※前書きの続き

ほむ「貴方に課せるペネルティは今日から三日間、毎日投稿し続けることよ」

saki「マジっすか?!!」

ほむ「ちなみに拒否権はないわ」

saki「oh……」

ほむ「まっ、せいぜいこの三連休。充実した日々を送れることを祈ってるわ」

saki「が、頑張ります……」


というわけで今日を含めて三話分、毎日投稿するつもりで頑張ります。


☆次回予告★


第6話 放課後のC ~ 見滝原の魔法少女


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第6話 放課後のC ~ 見滝原の魔法少女


※少し遅れましたが、二日目でございます。

※追記 三滝原じゃなくて見滝原だった……やっちまった。他にも一部を修正しました。



 

 第6話 放課後のC ~ 見滝原の魔法少女

 

 

「巴マミさん…あ、あなたも魔法少女なんですか?」

 

 ほむら以外の魔法少女を見たことが無かったまどかは、恐る恐る聞いてみた。それに対してマミは笑顔で答える。

 

「えぇ、そうよ」

 

「ほへぇー、魔法少女って他にもいるんだ」

 

「わたしも……」

 

 驚く二人のことを見ながら、マミは変身を解いて制服姿に戻る。

 

「ところであなた達、私のソウルジェムを見て魔法少女だとすぐ分かったみたいだけどどうしてか教えてくれないかしら?」

 

「ああ、それはですね__」

 

 説明しようと口を開きかけるが、向かいの方から人の話す声がしてきて段々とこちらへ近づいてきていた。

 

「待って。ここで話すのもアレだからどこかでお茶でもしながら話さない?」

 

「あたしは大丈夫ですけど……」

 

 まどかが買い物の途中であることを思いだし、そっと目配せをする。

 

「わ、わたしも平気です……ちょっぴりだけなら遅くなっても問題ないので」

 

「そう。それならなるべく手早く済ませた方が良さそうね。あっ、あそことかどうかしら?」

 

 笑みを浮かべながらマミは目に入った喫茶店を指差す。

 

「じゃあ早速行きましょう!!」

 

「そうだね」

 

 そうして三人は店へ向かって歩いていった。この時、まどかとさやかは気づいていなかったが共に歩くマミの足取りは軽かった。

 

 

 

 

 それから店に入り、マミがあまり周りに人の居なさそうな席を探してそこに座る。

 

「二人とも何か好きな飲み物頼んでいいわよ」

 

「ええっ! そんなの悪いですよ」

 

「いいのよ、鹿目さん。私が勝手に付き合わせちゃっているだけだし」

 

「分かりました! んじゃ、お言葉に甘えて」

 

「さ、さやかちゃん……」

 

「気にしなくて良いのよ。これでも先輩なんだから」

 

「制服見たときから同じ学校の人ってのは分かってたけど、先輩だったんだ……」

 

「なんかビックリ、こんな身近に魔女と戦ってる人がいたなんて……」

 

 興味津々と見つめる二人にマミは少し恥ずかしい気持ちになる。

 

「んんっ、今はその話は後にして……単刀直入に聞かせてもらうわね。あなた達は魔法少女のことを何処で知ったのかしら?」

 

 軽く咳払いをしてマミは魔法少女についてのことを聞き始めた。それに対してさやかが順々にあげていく。

 

「まず、魔女という化け物から皆を守る為に戦う戦士であること。

 次にキュウベェっていう動物に、願い事を一つ叶えてもらって魔法少女になる。

 そして魔女を倒すと貰えるグリーフシードを使ってソウルジェムを浄化しながら、生活している。

 って感じですかね?」

 

「なるほど、大体の事情は分かっているってことね」

 

「はい、あたし達の知り合いに魔法少女のやつがいてソイツから色々と教えてもらったんです」

 

「知り合いの魔法少女? それって誰かしら?」

 

 これまでずっとにこにこしていたマミの顔に陰りが生まれる。さやかはそれに気づかずに話を続けた。

 

「マミさんも聞いてませんか? この前、うちに転校してきた二年生の暁美ほむらっていう」

 

「名前までは知らなかったけど、そう……暁美さんと言うのね、ちなみにその子は今どこに?」

 

「さあ? さっきまで一緒だったんだけど、急に走ってどっか行っちゃいましたよ」

 

「そう……」

 

 顔の陰りが増える。よくよく注意して聞いてみると声もさっきよりも重々しくなっている感じがする。

 

「後、あなた達二人が魔法少女としての素質を持っていて、キュウベぇに願い事を言えば、すぐに魔法少女になれるてことも知っていたりする?」

 

「はい……それもほむらちゃんから聞きました」

 

「そうそう、それと転校生が言うにはまどかには、凄い素質を持っていてとんでもない魔法少女になるとも話してましたよ」

 

「へぇ……でもそれを知っているのにどうして魔法少女になろうとしてないのかしら? もしかして願い事が決まってないとか?」

 

「いえ、そういうわけではなくて……実はわたし達、ほむらちゃんに契約はするな。って言われているんです」

 

「…………」

 

 更に陰りは増す。そして二人もマミが自分達の話に何か不審を抱いていると気づく。

 

「何故、契約を止められているのかしら?」

 

「『魔法少女になんかなっても苦労するだけよ』とか『魔女と戦うのは命がけで危険よ』とか結構否定的なことばっかり言うもんだから、ちょっと悩んじゃって……」

 

「あら、私は悪くないと思っているのだけど? それに魔法少女になったお蔭で生き甲斐を見つけられたものだし」

 

「生き甲斐……?」

 

「私の大好きなこの町__見滝原の平和を魔女から守る。というものかしら?」

 

「ほぇ~」

 

「凄い……」

 

 マミの話すことに二人は目を輝かせながら聞いていた。

 

「それに魔法少女になってからは前まで空っぽだった自分の中が少しでも満たされたような気分になるの」

 

「なんか……転校生が話していたこととは逆だね」

 

「そうだね。悪いことばかりじゃないって聞いて少し安心したよ」

 

「? 何だかもう自分が魔法少女になっているかのような言い方ね。でも鹿目さんって契約はしてないんじゃ……」

 

 その口ぶりに違和感を抱いたのかマミが問いかけてくる。それに対してまどかは自分とほむらの変身について話した。

 

 

 

「…………」

 

「あの……どうですか? マミさん、何か知っていることがあった教えて欲しいんですけど」

 

「ごめんなさい、でも聞いたことがないわね。キュウベぇと契約してないのに魔法少女になれるなんて……しかも誰かと一体になって変身するって」

 

 もう表情を作るのを止めたのか、それとも自然とそうなったのかマミの顔つきは鋭く、話に出てくるほむらに何か負の感情を持っているようだった。

 

「うーん、マミさんにも分からないか~」

 

「それで二人が一緒に変身出来るって知った後はどうしたの?」

 

「どうしたって言われても……あたしが初めて見た時はある程度、息が合っていて戦い慣れてるな~って思ったくらいですけど」

 

「最初の方は、ほむらちゃん一人で戦っていたけどわたしがただ見ているだけじゃ耐えられなくなって、お願いして変身して一緒に戦ってもらってます」

 

「その時、暁美さんは止めなかったの? あなたが魔法少女になろうとしたのと同じように?」

 

「いえ……特に何も」

 

「なるほど、大体分かったわ」

 

 紅茶の入ったカップに手をかけて中身を一気に飲み干す。そして、二人の方をじっと見つめてこう言った。

 

 

 

 

 

「あなた達はもう彼女とは関わるべきではないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……やっぱり魔法が使えないと不便なものね」

 

 ほむらはため息をついて、近くにあるベンチに腰かけた。

 魔力で少しだけ身体能力を上げて追いかけていた彼女だったが結局、追いかけていた奴を捕まえれず途方に暮れて、先程の場所へ戻ってきたのだ。

 

「美樹さんとの話も中途半端で切ってしまったし……明日、会ってハッキリと話さなくちゃダメね」

 

 後少しで話せるという所だったのに……と内心後悔していたが、彼女の中では決心がついたようで全てではないが、言える範囲のことは話そうと考えていた。

 

「さて……もう遅いから早く帰らなくちゃいけないわね…………ってあれは、まどか?」

 

 ベンチから立ち上がった先には買い物袋を抱えて、急いでいるまどかの姿があった。その様子は危なっかしく、足元もあまり覚束ない感じだった。そして……

 

「あっ!!」

 

 ほむらは慌ててまどかの元へ駆け出していった。

 

 

 

「痛てて……うぅ、やっぱりさやかちゃんに手伝ってもらった方が良かったかな?」

 

 荷物の重さにバランスを崩して転んでしまった彼女だったが、幸い何処にも怪我をしている様子はなかった。

 制服やスカートを払って袋から落ちた物を拾おうとしていると、向かいの方から誰かがまどかの元へ走ってきていた。

 

「まどか」

 

「ほむらちゃん……? どうしてここに?」

 

「偶々、この公園を通っていたらあなたを見つけて……そしたらいきなり転んでしまったから慌てて……」

 

「そ、そうなんだ……。ありがとうね、わざわざ心配してくれて……」

 

「いいのよ。私はただまどかが無事でいてくれれば、いいだけだから」

 

 いつものように明るい笑顔を向けるまどかだったが、ほむらは何となく違和感を覚えていた。心なしかよそよそしい……というかまるで警戒されているような……

 

「そ、それじゃわたしもう家に帰らなきゃいけないから……また明日学校で会おうね。それじゃあね!!」

 

「ええ……まどかも気を付けて……」

 

 早口で喋り、逃げるようにこの場から去っていく姿にまた違和感を感じる。

 

「私……まどかに何かしたかしら……」

 

「その様子だと、どうやらマミの方は上手く言ったようだね」

 

「ッ?!!!」

 

 不安そうに呟くほむらだったが、突如聞こえてきた声に反応して辺りを警戒し始める。

 

「そこまで構えることはないじゃないか。別に僕は君に何の危害も加えるつもりはないのだから」

 

「この声はまさか……」

 

 声のする方を向いてみると、そこにはネコのような外見をして白い生き物が暗がりの中からほむらをじっと見つめていた。

 

「キュウベぇ……あなた、まどかに何をしたの?」

 

「僕は何もしていないよ。『僕は』ね」

 

「それは一体どういう__「それは私から説明するわ」__」

 

 鬼のような形相で睨むほむらにキュウベぇはわざとらしく首を傾げる。

 ほむらは、キュウベぇの言った言葉の意味について問いただそうと歩み寄ろうとしたが、また別の方向から声をかけられて動きを止めた。

 

 そしてその声の主は、忌々しいものを見るかのようにほむらの横から現れた。

 

 

 

 

 

「巴、マミ……?」

 

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※ケ○姫でガチャを回したら悪魔ほむらが当たってテンションがハイになりながら書いていたので、後々誤字や表現とかを修正するかもしれません。


☆次回予告★


第7話 Tの危機 ~ 捻れる関係 


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第7話 Tの危機 ~ 捻れる関係


※三日目ぇ!! 文章構成を考えるのが壊滅的に下手だから、一話に三時間も費やしてしまう……文才が欲しい。

※改めて見返したけど、なんかとてつもないキャラ崩壊が起きてますな……自分なりに修正を加えましたが、それでもアレだったらごめんなさい。



 

第7話 T(trust)の危機 ~ 捻れる関係

 

 

 

 数十分前……

 

 

「それって……どういう意味ですか?」

 

 マミの言った言葉にまどかが食い入るように問いかける。

 

「簡単に説明すると、鹿目さん。あなたは暁美さんに利用されている可能性がかなり高いってことよ」

 

「ッ……」

 

「マミさん、その理由詳しく聞かせてください」

 

 動揺を隠せないまどかとは対照的にさやかは落ち着いた様子で説明を求める。

 

「これはあくまで私とキュウベぇの推測でしかないのだけど……さっきの話を聞く限り、暁美さんの言っていることには矛盾している点があるの」

 

「矛盾……?」

 

 先程、説明をしていたまどかだったが一体どの部分が矛盾していたのか頭を悩ませる。考えるまどかをマミ一瞥して話を続ける。

 

「ええ、暁美さんは鹿目さんが魔法少女になるのを止めた時に言った言葉。命がけで危険、って言ってたわよね」

 

「はい……そんな危険な戦いにあなたを巻き込みたくない、ほむらちゃんはそう言ってくれました」

 

 そういい終えた後、やっぱりね……とマミが言う。

 

「危険な戦いに巻き込みたくないのなら、どうして暁美さんはあなたと一緒に変身して戦うことは許してくれたのかしら……?」

 

「「…………!!」」

 

 二人の目が見開かれる。さやかは疑惑が確信に変わって一層表情が険しくなるが、まどかは懸命に首を振りながらマミの言ったことを否定しようとした。

 

「そ、それは……わたしがほむらちゃんに無理矢理お願いしたから……」

 

「でも二人で魔法少女に変身したときベースとなるのは鹿目さんの身体でしょう? それだったら魔法少女として契約した時と同じく鹿目さん自身が危険にさらされるのは変わらないと思うけれど……そこは暁美さんに何も言われなかったの?」

 

「た、確かに……キュウベぇと契約するときほど強く迫ることは無かったけど……」

 

「それにね。鹿目さんと暁美さんが二人一緒に変身すること……数百年、魔法少女になることを勧誘していたキュウベぇの話でも前例は一度もなかった。

 そこで私達が考えたのは二人一組で魔法少女に変身するシステムは、既存のものではなく暁美さん自身が新たに作り出したものではないかと考えたの……」

 

「それって……」

 

「さやかちゃん……何か分かったの?」

 

「ううん……でも転校生が企んでいることは何となく想像はついた気がしただけ……マミさん続けてください」

 

「分かったわ。ところで二人は魔法少女になるときに願ったことが、その人の能力の元と繋がっているってことは知っているかしら?」

 

「は、はい……」

 

「それも転校生から聞きました」

 

「それでキュウベぇは、鹿目さんが契約をせずに魔法少女として変身出来るのは、暁美さんの叶えた願いのせいなのかもしてないって言っているのよ」

 

 さやかの眉がつり上がる。どうやらマミの言っていたキュウベぇの言い方に違和感を感じたようだった。

 

「ちょっと待ってください。転校生もマミさんと同じようにキュウベぇと契約して魔法少女になったんですよね? それなのにどうしてそのキュウベぇって奴はアイツの願いについて知らないんですか?」

 

「そ、そうですよ! それに……わたし達はそのキュウベぇって子にまだ一度も会っていないんですよ!! そんな会ったこともない人の言葉一つでほむらちゃんを疑えませんよ!!」

 

「鹿目さん……あなた……」

 

 ほむらが自分を騙していることをまどかは頑なに否定し続ける。

 その様子を見るマミの顔はとても悲しげだった。だが彼女は心を鬼にしてまどかに強く言い放った。

 

「キュウベぇが言うからには、暁美さんはこれまでの記憶の中で一度も契約をした覚えがないって言っているわ。

 それに鹿目さんの話を聞くに彼女も長い間、魔法少女をやっているのよね?」

 

「それが……どうしたんですか」

 

「私とキュウベぇの見る限り、暁美さんには魔女どころか使い魔すらも倒せるほどの魔力を持ち合わせていないと思うの。なのにどうして彼女は長い間、魔女との戦いを生き延びていたんでしょうね?

 恐らくだけど、彼女は以前にも別の子と一緒に戦って…………いや、利用していたんじゃないかしら」

 

「そんな……」

 

 まどかの脳内に初めてほむらと変身したときに血まみれで路地裏に倒れていたほむらの姿が映し出されていた。

 

 使い魔との戦いであれだけボロボロになっているのに、それよりも遥かに格上の魔女をどうやって倒して魔力を回復させるグリーフシードを得ているのだろう……

 あれだけ否定していたほむらのこともその考えに至った瞬間、まどかの中でほむらへの疑いの気持ちが芽生えた。

 

 顔を真っ青にしてうち震えるまどかの肩をそっと撫でながらマミは再び話し始める。

 

「暁美さんの能力の詳細は分からないけれど、素質のある少女の潜在能力を利用する…キュゥべえはそう予想していたけど、たぶん間違いないでしょうね。

 彼女が鹿目さんを契約させたくないことや、元々魔法少女だった私に声をかけなかったところを考えると、もしかしたら彼女の能力は既に契約している人には効果がないのかもしれない」

 

「じゃあ、転校生ががまどかに契約して欲しくない理由って……まどかを危険にさらしたくないってものじゃなくて__」

 

「ええ、彼女にとって貴重な戦力となり駒を失いたくないからなんでしょうね」

 

「そんな……嘘、だよね……」

 

 その場に崩れ落ち、涙を流しながら、さやかとマミに否定して欲しいように訴えかける。けれども、さやかは黙って首を横に振った。

 

「いや……それだったらさっき、転校生がどうしてまどかと一緒に戦っているのかっていう質問に答えなかったのかも理由付くよ。何も後ろめたい理由がなかったら突然何処かへ走り出したりしないもん……」

 

「そんな……」

 

「鹿目さん……」

 

 泣き続けるまどかの頭をマミは優しく撫でながら優しく言った。

 

「信じたくないって気持ちはあるけれど、私よりも数多くの魔法少女を見てきたキュウベぇが言っていることよ。それに私はあの子が一度も嘘を言っているのを聞いたことがない

 お願い。暁美さんについては私がこれから調べるから……だから彼女のことがハッキリ分かるまで下手に接触するのは避けてもらえないかしら?」

 

「…………」

 

「任せてくださいよ、マミさん!!」

 

 俯いたまま何も答えないまどかの代わりにさやかがドンと胸を叩く。

 

「まどかのことは何があってもあたしが守ってみせます。だからマミさん……一刻も早くあの転校生の化けの皮を剥いでやってください。きっとそうした方がまどかの気持ちも楽になると思うんです」

 

「美樹さん……お願いするわね。さて、随分長く話し込んじゃったけど今日はこの辺にしてここを出ましょうか」

 

「そうですね。まどか、もし良かったら家まで送っていくけどどうする?」

 

 さやかが心配そうな目で見つめるが、まどかは「いいよ、別に……」と言って買い物袋を持って立ち上がった。

 

「マミさん……今日はありがとうございました……」

 

「いいのよ。こっちも時間を取らせちゃったし……それにあなたにとって辛い話をしてしまって本当にごめんなさい」

 

「いいんですよ……マミさんはわたしやさやかちゃんのこと考えて心配してくれて、ここまでしてくれたんですし……気にしないでください。それじゃ、わたしはもう帰ります……」

 

 ふらふらと危なっかしい足取りでまどかは喫茶店を後にする。その後ろ姿を見ながらマミは小さく呟いた。

 

「鹿目さん……あなたは私が守ってみせるわ」

 

 

 

 

 

 

 翌朝、私は重たい足取りで通学路を歩いていた。正直に言うと今日は学校には行きたくなかった。

 その理由は昨晩、巴マミとインキュベータに出会って言われたことがまだ鮮明に残っているからだ。

 

 

『悪いけれど、鹿目さんと美樹さんにもう関わらないでくれるかしら?』

 

『あなたの企みはほとんど見抜いているわ……今日は忠告だけしに来たけれど、もしそれを破れば次からは容赦しない……』

 

『二人には既にあなたのことは話してあるわ。だからあなたに接してくるのもないと思うから……それじゃ私はこれで』

 

 

「はぁ……」

 

 訳が分からないってのはまさにこの事なのね。私いつの間に彼女から因縁を買ったのかしら?

 でも、もしあの二人が巴マミやインキュベータに妙なことを吹き込まれたら、かなりマズイことになるでしょうね。まどかはともかく美樹さやかは私のことを色々と警戒しているみたいだし……

 

 巴マミには、ああ言われていたけれどせめて昨日のことは美樹さやかに伝えなければならないわ。

 

 

「でさー、昨日の先輩がねー」

 

「まどかさんとさやかさん、いつの間にお知り合いになれたのですか?」

 

「色々とあってね」

 

「!!」

 

 噂をすればなんとやらね……よし、いつも通りに……いつも通りに!!

 心の中で言い聞かせながら並んで歩く三人の方に向かって早足で近づく。

 

「おはよう、まどか、美樹さん、志筑さん」

 

「あら暁美さん、おはようございます」

 

「あっ、ほむ…………」

 

「…………」

 

 いつものように挨拶をしたけれども、しっかりと返してくれたのは志筑仁美だけだった。まどかは途中で何か言いかけていたけれど、目を逸らされてしまった。

 

「まどかさん、さやかさん、どうかされました?」

 

「行こっ……まどか、仁美」

 

「う、うん……」

 

「えっ……ちょっと待ってください! 暁美さんは?」

 

「いいから、行くよ!!」

 

 志筑 仁美は何がなんだか分からないまま手を引かれて、美樹 さやかに連れていかれてしまった。そしてその連れていく際、私は彼女に強く睨まれたような気がした。

 

「……家に帰ろうかしら」

 

 そう思うが、正直言うと巴 マミ達に何を吹き込まれたのかが凄く気になっている。家に帰るのはそれを聞いてからでもいいのかもしれない。

 

 私は大きなため息をついて、それからとぼとぼと一人学校へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 今日一日のほむらちゃんの様子は見ていられないほど、辛いものだった。

 

 休み時間の度にわたし達に話しかけようとするけれど、その度にさやかちゃんに睨まれて哀しげな顔をして席に戻っていく。

 

 お昼御飯のときもさやかちゃんとマミさんの三人で食べているのを物陰からこっそりと眺めていた。その時に一瞬わたしと目が合ったんだけど、ほむらちゃんは走って何処かへ行ってしまった。

 

 そして帰りには遂にわたし達のことを見向きもせずに一人そのまま帰ってしまった。

 

 わたしは本当は今日学校でほむらちゃんに昨日のことについて聞こうと思っていた。けれど、さやかちゃんがそれを許してくれなかった。

 

 さやかちゃんのせいにしているけれど、悪いのはわたしだ。事情も何も聞かずにほむらちゃんに素っ気ない態度を取って傷つけた。本当ならあの時に全部聞いていれば、ほむらちゃんは哀しい思いをしなくて済んだのに……

 

 そんな風に考え込んでいると、さやかちゃんがわたしの手を引っ張って顔を近くに寄せて小声で喋った。

 

「まどか、この後マミさんが魔女退治のパトロールに行くらしいんだけど、どうする?」

 

 普段のわたしなら喜んで付いていくのだろう。けれども今はそれよりもやることがある。だからわたしはさやかちゃんの誘いを断った。

 

「ごめん……昨日、遅くなっちゃったからパパの手伝いが終わらなくて……また明日でいいかな?」

 

「そっか……ごめんね? 昨日、あたし達が引き留めちゃったせいで」

 

 嘘を付くのはいつぶりだろう? さやかちゃんが申し訳なさそうにするのに、罪悪感が胸に刺さる。

 

「気にしないで、じゃあわたし先に帰ってるね!!」

 

「おう、まどかまた明日な~」

 

 さやかちゃんと別れて、わたしは急いでほむらちゃんの後を追う。本当のことを確かめるために、これ以上関係を悪化させない為に……

 

 

 

 

 ほむらが教室を出ていった後、まどかの他にもう一人彼女のことを見ている人物がいた。

 

「暁美さん……まどかさん達と一体何があったのでしょう?」

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※この作品に悪者は一人もいません。ただし、一匹とは言ってない(←ネタバレ)

※後、マミQの推測がちょっと無理矢理だったかな? と思ってしまっている、変に思えたら指摘をくれたら嬉しいな|д゚)チラッ


☆次回予告★


第8話 Tの危機 ~ 君が教えてくれたもの


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第8話 Tの危機 ~ あなたが教えてくれたもの


※第9話の内容の兼ね合いもあって、追加シーンを含めて再投稿しました。

※次のエピソードを前後2話でやっていたら、やるシーンが七つもあるため文章量がえげつなくなるので……計画性が無くてすんません……

追記 文章を少し修正しました。中身事態は変わっていないので、ご安心を。



 

第8話 Tの危機 ~ あなたが教えてくれたもの

 

 

 

 学校を出て、かなり走ってきたけれどほむらちゃんの姿は見えなかった。

 いつも通りならこの道で合っているはずなんだけどなぁ……不安になりながら辺りを見渡すと、わたしは二つほど先にある曲がり角を曲がろうとしているほむらちゃんの姿を捉えた。

 

「ほむらちゃん!!」

 

 息が切れ切れで苦しいかったけれど、それでも何とか追い付くために夢中になって足を動かす。そしてほむらちゃんが通った角を曲がろうとすると足がもつれてしまって、バランスを崩してしまった。

 

「あっ……」

 

 転んじゃう! そう思いながら、ぎゅっと目をつぶる。けれども痛みはいつまで経っても来なかった。

 不思議に思い、そっと目を開けると転びそうになっていたわたしの身体を支えてくれるほむらちゃんが目の前にいた。

 

「大丈夫、鹿目まどか?」

 

 心配そうに聞いてくれるほむらちゃん。だけど、何処か態度がよそよそしくてわたしの胸がチクリと痛む。

 

「あ、ありがとう……ほむらちゃん……」

 

「それでさっき私を呼び止めたけど、用件は何?」

 

「えっと……その……」

 

「悪いのだけどこの後、大事な用事があるの。何も無ければ、もう行っていいかしら?」

 

「用事ってどんなのなの?」

 

 何気なく気になってした質問。だけど次の瞬間、わたしは自分の言った言葉を激しく後悔することになった。

 

 

 

 

 

「貴方には関係ない」

 

 

 

 

 

 わたしの目の前には、もういつものほむらちゃんは居なかった。冷たく鋭い、見たもの全てを威圧するその目に思わず後ずさりをしてしまう。

 

 じっとわたしを見るほむらちゃんはとても怖く感じたけど、勇気を振り絞って言葉を続ける。

 

「ど……どうして、かな? わたし……何か悪いことほむらちゃんにしちゃった……かな?」

 

 我ながら白々しい、あんな態度をとっていたのに……

 ほむらちゃんがきつく唇を噛み締めている。怒っているよね?

 

「ごめんなさい、ほむらちゃん」

 

 頭を下げて昨日の件、そして今日のことについてを謝る。その行為に対してほむらちゃんは、何故か不思議そうに首を傾げていた。

 

「どうして貴方が謝るの?」

 

「だ、だって……今日ほむらちゃんに話しかけられても無視しちゃったし……それに、昨日も……」

 

「気にすることないわ。大方、巴マミに何か言われたのでしょう」

 

 ほむらちゃんの口からマミさんの名前が出て、少しだけ驚く。

 

「マミさんと知り合いなの?」

 

「知り合い……そんな優しい関係じゃないわ。寧ろ私と彼女は敵よ」

 

「そんな……どうして」

 

「その理由は貴方達もよく知っているはずだけど……」

 

「…………!!」

 

「私は別に貴方達の態度が変わったからといって特にどうと言うこともない……というよりは、少し楽になった方かしら?」

 

「えっ……」

 

 意地悪そうに笑みを浮かべて、一歩わたしに近づく。そして耳元まで顔を寄せてほむらちゃんは、小さく言った。

 

「正直言って邪魔だったのよ。あなたも美樹さやかも」

 

 ほむらちゃんの言うことの意味が理解できなかった。身体が震え、全身から嫌な汗が出る。

 

「ど、どうして……そんなこと……だって、あの時一緒に……って」

 

「あれはただ路地裏での恩を返しただけに過ぎない。魔法少女なんてものに理想を抱いてふわふわしている貴方達に短い夢を見せてあげただけよ」

 

「じ、じゃ……じゃあ今までわたし達と仲良くしていたのは?」

 

「相手に好意を向けられたら同じように返す。ただそれだけのこと」

 

 覚束ない口調で話すわたしとは真逆にほむらちゃんはすらすらと、今までどんな風に接してきたことについて話していた。そして……

 

 

 

「でもある時、その好意は一方的なものになった」

 

 

 

「…………!!」

 

「巴マミに何を吹き込まれたのか知らないけれど、貴方達は急に露骨に私を避けるようになった。今日の態度でハッキリと分かったわ。そして貴方達は私にとって敵であることも」

 

「そんなこと……」

 

 否定しようにも上手く話すことが出来ない。それはわたしの心の何処かでほむらちゃんのことをそう思っているからなのであろう。

 

「以前から美樹さやかは露骨に怪しむ態度を取っていたけれど、本音を言うと貴女も私のこと疑っていたのでしょう? ただ一緒にいたのは私が貴女にとって都合のいい力を持っていたから……」

 

「違う……私の話を聞いてよ。ほむらちゃん……」

 

 わたしはそんなこと考えてない。ほむらちゃんを利用しようとなんてそんな酷いこと考えてないよ……

 何も反論できずにただ俯いているだけの自分が情けなかった。

 

「けれど今となってはそんな信用できない奴よりもずっと良い人が現れ、貴女は彼女の方についた。つまるところもう私は用済み。必要なくなったのでしょうね」

 

「違う!!!」

 

 わたしは自分でも考えられないような大きな声で叫んでいた。

 

「わたしがほむらちゃんのことを必要としていない? そんなことない!! この一週間でほむらちゃんにたくさんのことをしてもらった!! たくさんのことを出来るようになった!! 

 そして今まで何の取り柄もなくて、自分に自信を持てなかったわたしにわたしにしか出来ないことを教えてくれた!!

 そんなたくさんの大切なものをくれたほむらちゃんを嫌いになったりしない!!」

 

 胸の底から溢れる激情に任せ、口を動かし続けた。気がつけば、わたしは泣いていた。

 溢れる涙を止めようと必死になっているとほむらちゃんは強くわたしの肩を掴んだ。爪が服を越えて、肉に深く食い込んでくる。そしてほむらちゃんは静かに言い放った。

 

「なら、どうして……どうしてなのよ。まどか……」

 

「ほ……むらちゃん……痛い、痛いよ……」

 

 声を荒げるのと一緒に肩の痛みも増していく。それに我慢できなくなって思わず声を漏らしてしまう。

 その言葉にほむらちゃんはハッとした表情になり、手を私の肩から離す。そして自分の手を見て、身体を震わせて泣きそうな顔をわたしに向けた。

 

「ごめんなさい……」

 

 そう言ってほむらちゃんは走り出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 私はまどかから逃げて人通りのない路地裏にいた。そしてもう一度、まどかを掴んでいた手を見つめた。

 

『ほ……むらちゃん……痛い、痛いよ……』

 

 まどかの泣きそうになるのを必死に我慢していた声が甦る。私は壁をその手で殴り続けていた。

 

 

 

 何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も…………

 

 

 

「うっ……ううっ……」

 

 両手は見るのも痛々しいほどに真っ赤に染まっていた。それでも何故だろうか……どれだけ自分の手を痛め付けても、まどかを傷つけたことによって締め付けられる胸の痛みを上回ることはない。

 

 

 私……バカだ。

 

 何度も時を繰り返すごとに、私とまどか達の心の幅はどんどん広がっていって、すれ違っていく。そんなこともうこれまでのループの中で痛いほど理解してきたつもりだった。

 

 なのにどうして今になってそれが辛くなるの? 苦しくなるの?

 

 ふとあることを思い付いて自分のソウルジェムを取り出す。ジェムはもうほどんど濁りきっていた。予備のグリーフシードはまだ残っているけど、浄化するしようとは思えないわね。

 

 いっそこのままソウルジェムを砕こうかしら……? そんなことを考えながら盾から銃を取り出そうとしていると、ふと近くに魔力の反応を感じた。

 

 魔女の使い魔ね……いいわ、どうせ死ぬなら最期は派手にやってやろうじゃない。

 

 全身に大量の銃と爆弾を付けて、盾から二丁拳銃を取り出し、臨戦態勢に入る。

 

「ふふふ、たかが使い魔相手なのにここまで必死になるなんてね……」

 

 自嘲気味に笑いながら、魔法で強化した脚力で建物を一気に駆け上がっていく。

 

 

 

 

 

 そこから先はよく覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと私は血だまりの上で倒れていた。服はボロボロで自分の血でかなり汚れていた。

 朦朧とする意識の中で自分が何をしていたのかを必死に思い出す。

 

 そうだ。確かあの後、使い魔を追いかけていたらその中の一体が魔女へと変わってそれで……

 

 身体の痛みを我慢しながらソウルジェムを見えるところまで持ってきて穢れの状態を確認する。これだけボロボロになったいたはずなのにジェムは綺麗なままだった。

 不思議に思っていた私だったけれど、その答えは右手の中にあった。

 どうやら無意識の内にグリーフシードを使い、浄化していたのだろう。

 

「案外しぶとい奴ね、私も……」

 

 あれだけ絶望してもなお、生への執着心を忘れなかった自分を嘲笑うように言う。そして重い身体を無理矢理起こして変身を解除する。

 

 傷の方はまだ塞がってはいないが、明日にもなれば完全ではないが治っていることだろう。

 

「危なっかしい戦いではあったけれど、想像以上にできるみたいだね。暁美 ほむら」

 

 用も済んだし、もう帰ろうと思って家へ戻ろうとしたその時、何処からか私に話しかける声がした。

 

「チッ……一体何の用?」

 

 あの忌々しい声……! その声を聞き、思わず舌打ちをする。

 

「随分な嫌われっぷりだね。それともストレスでも溜まっているのかい?」

 

「黙りなさい、キュウベぇ……いや、インキュベーター。こそこそ隠れていないで姿を見せなさい」

 

「その名前を知っているってことは、もしかして君は……」

 

「もしかしなくても私はお前の企んでいることは全て知っている。そして今回のまどか達のこともお前が一躍買っているってことも」

 

「君がここまで生き延びられたのは、単なる強さではなく、その頭の回転の良さのお陰なのかもしれないね」

 

「お前に誉められても一文の価値もない。いいからさっさと姿を見せなさい」

 

「やれやれ……」

 

 めんどくさそうな口調で言いながら、暗闇の中からキュウベぇが現れる。

 

「それで、何故私を付けていたのかしら?」

 

「マミの為に、君がどのような魔法を使って戦うのか観察しようと思っていただけさ。とは言っても……収穫は得られなかったけれどね」

 

 思ってすらもいないことを口走るキュウベぇを見て、思わず笑ってしまう。決して愉快な訳ではない、いけしゃあしゃあと善人ぶった態度を取っていて殺意が湧いたからだ。

 

 そんな私の様子を見て、キュウべぇは首を傾げる。

 

「何がそんなに可笑しいんだい?」

 

「よく言うわよね。人間をただのエネルギー回収の道具としか思っていない分際で……大方私が絶望して魔女になる様でも見ようとしていたのでしょう?」

 

「なるほど……僕たちの目的知っているっていうのはハッタリでもなんでもなかったようだ」

 

「えぇ、そうよ。分かったのならさっさと消えなさい。今にもお前を撃ち殺したくてうずうずしているのだから」

 

「別に構いはしないけど、勿体無いからここらで退散するとするよ」

 

 拳銃を取り出して、奴の眉間へと銃口を向ける。しかし、キュウベぇは焦る様子もなく、優雅にUターンして私に背を向けながら再び暗闇の中へ溶け込もうとしていた。

 

「全く……つくづく君はイレギュラーだよ。君と鹿目まどかを引き離せば、事は上手くいくと思っていたけれど、こうも手こずるなんてね」

 

「ご生憎様、まどかは契約なんかさせないし、私はもう簡単に絶望したりしないわ。お前が目的を教えてくれたお陰でね」

 

「どうかな? どちらも時間の問題さ」

 

「黙りなさい、害獣」バキュン

 

 嫌みをぶつけて、少しだけスカッとした気分になったけれど、奴の一言で今度は銃弾をぶつけてやりたくなった。

 だから撃った。後悔なんてあるわけない。

 

 

 今度こそ帰ろうと今いる建物から出ていく為、出口の場所へと歩こうとする。だけど…………

 

 

 

 

 

「ちょっと待てよ。転校生」

 

 

 

 

 

 私はまた引き留められた。美樹さやかに。

 

「あんたここで何してたのさ」

 

「決まっているでしょう? 魔女退治よ」

 

 相変わらず私のことを警戒しているようで、一定の距離を保ちながらいつでも逃げられる体制をしていた。別に貴女のことなんか誰も襲いはしないのに。

 

 じっと敵意のある目付きで睨んでいた彼女だったが、急に驚いた様子で私の身体を見始めた。

 魔女との戦いでの傷は塞いではいるけれども、身体についた血とかは隠せないからね。

 

「あ、あんた……その血、大丈夫なのかよ?」

 

「私のことを心配するなんて貴女本当に美樹 さやかかしら?」

 

「な、なんだよ!! その言い方!!」

 

「柄にもないことは止めなさい。私達はもう今は敵同士、情けなんか無用よ」

 

 美樹 さやかの横を通りすぎて、出口へと歩みを進める。彼女がここに来ているということは恐らく巴マミも近くにいるのだろう。だとしたら厄介この上ない……面倒事になる前に退散しましょう。

 

「敵って……待てよ、転校生!!」

 

 公園の時のようになにか後ろで言っているようだけど、そんなものなど気にせずに私はこの場を立ち去った。

 

 

 

 

「待てよ、転校生!! くっ……また逃げるのかよ……!!」

 

 遠ざかっていくほむらの背を見ながら、さやかは悔しそうに唇を噛み締める。

 

「美樹さん? 今大きな声がしたけれど、なにかあったの?」

 

 ほむらが出ていった場所からマミが駆けつけてくる。多分、入れ違いになったのだろう。さやかはそう思った。

 

「いえ……今さっき転校生の奴の姿が見えたから話をしようと思って……」

 

「暁美さんと? 思い切った行動をするのね……」

 

「ごめんなさい……マミさん」

 

「いいのよ別に。それで彼女は何か言っていた?」

 

「あたし達のこと、敵って言ってました……」

 

 答えるさやかの声は震えていた。

 

「なんでだよ……なんで何も言ってくれないんだよ……」

 

「…………」

 

 制服の裾を強く握りしめて呻くさやかの姿をマミはただ見ているだけでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

 まどかは暗い表情をしたまま、自宅へ戻った。

 

「まどか、おかえ__」

 

 娘が帰ってきて、いつものように出迎えようと彼女の父、知久はリビングから顔を覗かせるが、どこか様子がおかしいことに気づく。

 

 そしてそっと寄り添い、尋ねた。

 

「何かあったのかい?」

 

「パパ……パパぁ……」

 

 するとまどかは知久の顔をじっと見つめて、涙目になる。

 

 

 

 

 

 傷つくまどかの心、揺らぐほむらの想い……本当のことを伝えられずにすれ違う少女達。物語の行方は、果たして……

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※薔薇園の魔女は人知れずログアウトしました(^^)

※追加シーンは、キュウベぇ&さやかの部分です。後、若干の修正も入れてあります。次回から一章の要となる場面なので頑張っていきたいと思ってます。


☆次回予告★

第9話 Yの過ち ~ 本当の友達 


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第9話 Yの過ち ~ 本当の友達


1/31追記 サブタイ変更しますた。そして改めて最初のまどかパートの部分を大きく修正しました。

※これで少しでも、原作っぽい感じになっていると感じてくだされば幸いです。もしそうでなかったら、ごめんなさい。



 

第9話 Y(yesterday)の過ち ~ 本当の友達

 

 

 

「なるほど……それは大変だったね」

 

「うん……」

 

 詳しくは話せないからパパには、友達のことが信じられなくなってそのせいで喧嘩してしまったと説明した。

 

「それにはしっかりと話し合わなかったまどかにも責任があるね」

 

 パパは、頷いて優しい口調でわたしに言う。

 

「でもわたし…急に怖くなって……今まではとても優しくしてもらって色んなことを助けてくれたりして嬉しかったけど……。

 理由を聞いても全然話してくれないし、みんなもほむらちゃんを避けて……だけど、だけども!!」

 

 もう出しきってしまったと思っていたのに、涙がまた溢れてくる。

 

「パパ…わたし、嫌な子になっちゃった……。

 ほむらちゃんは、わたしのこと大切に思ってくれていたのに、それをフイにしてほむらちゃんの心を傷つけた」

 

 目を閉じて見えてくるのは、ほむらちゃんの悲しそうな顔ばかりだった。それと一緒に込み上げてくる昨日してしまった過ちからなる後悔。

 どれだけ謝っても許されることじゃないだろう。

 

「それでいいんじゃないかな」

 

「えっ?」

 

 パパの言ったことに思わず泣くのを止めて見いってしまう。するとパパはゆっくりと近づいてきて、そっとわたしの頭を撫でた。

 

「本当の気持ちなんて誰にも分かることじゃない。その子のことを信じられないのなら、そのままでも構わないと思うよ」

 

「そんな…そんな酷いこと……」

 

「でもね__」

 

 言葉を遮って、パパはじっとわたしの顔を見つめる。そしてわたしにとても大切なことを言ってくれた。

 

「まどかはそんなこと本心から思っているわけじゃないんだろう? 大切なのは、自分自身がどう考えているか…だ。

 周りのみんながどうとかじゃない、まどかはその子のことをどう思っているんだい?」

 

「わ、わたしは……」

 

「悪いのはその子のことを避けたことじゃない、自分の気持ちをハッキリさせないまま行動を起こしたことなんだ」

 

「あぁ……」

 

「その子、暁美ほむらちゃんだっけ? 僕は、まどかが彼女のことを信用できない怪しい子だと思っているようには見えないけどなぁ」

 

 思えば、本当のことは何一つとしてほむらちゃんから聞いてなかった。ただみんなが想像したことに揺さぶられて、勝手に思い込んで、ほむらちゃんのこと全然考えていなかった。

 

「わ、わたしは…信じたい……。

 ほむらちゃんのことを信じたいよぉ……だって友達だもん! 大切なことをいっぱい教えてもらったんだもん!

 それに、それに……」

 

 もう一度見えてきたのは初めて出会って、河原で一緒に楽しくお話ししていたほむらちゃんの顔だった。それは、わたしが一番好きなあの子の表情。

 

「ほむらちゃんは、わたしの側でずっと笑っていて欲しいから!!」

 

「そう、それがまどかの本当の気持ちだね?」

 

「うん……」

 

 パパがさっきよりも少しだけ力を入れて、頭を撫でる。

 胸のつっかえも大分取れたお陰が、なんだか気持ちがあったかくなったような感じがした。

 

「そうだ。もう一つ、まどかに教えとかなくちゃいけないことがあった」

 

「なに?」

 

「誰にだって知られたくない秘密の一つや二つはある。人によっては変に詮索をされて怒る人もいるんだよ」

 

「でも…どうして隠し事をするのかな? どうして怒るのかな?」

 

 ふと思った疑問にパパは笑いながら説明してくれた。

 

「例えばの話をしてみようか。まどかは誰にも知られたくない秘密は持っていたりする?」

 

「う、うん……あるけど……」

 

「どんな秘密か僕に話してくれないかな」

 

「そ、それは……えっと///」

 

 顔を真っ赤にして顔を横に向ける。

 流石にこれはパパにも言えないよぉ……中学生にもなってぬいぐるみにあだ名をつけて呼んでいるなんて……///

 

「そう今のまどかみたいにその秘密を知られるのが恥ずかしくて他の人に話そうとしない人もいる。

 でもそれだけじゃない。人によっては知られてしまって幻滅させてしまう、呆れられてしまうんじゃないかと不安に思って隠し事をしたりする人もいる」

 

「じゃあ、ほむらちゃんは……?」

 

「僕は、彼女には別の思いがあってまどかに教えたくなかったんだと思う」

 

「それって……?」

 

「まどかに悲しい気持ちや辛い気持ちにさせたくないから……かな?」

 

 頭の中が真っ白になる。パパが一体何を考えてそう根拠付けたのかさっぱりだった。

 だから聞いた。自分では気づくことが出来なかった大切な友達が何を思って隠し事をしているのかを。

 

「前にもまどかは暁美さんにその隠し事について聞いたことがあるんだったんだよね」

 

「そうだよ、さっきも言ったけど…その度にほむらちゃんははぐらかすんだよ……」

 

「その時の彼女、どんな顔をしていたか覚えてる?」

 

「とても悲しい顔をしていた」

 

 言葉の真意に気づき、勢いよく立ち上がる。パパはそれを見て目を細めて笑った。

 

「ただ後ろめたいことを隠しているだけの子がそんな顔をすると思うかい?

 暁美さんが何のことについてまどかに隠し事をしているのか分からないけど、それはきっと彼女なりのまどかへの思いやりだと思う」

 

「それじゃ、ほむらちゃんはわたしのために……」

 

「これはあくまで僕の憶測でしかない。本当の答えは彼女しか知らない。

 でもただ一つ僕が確信を持って言えることがあるよ」

 

「何?」

 

「まどかの友達がまどかに対して酷いことは絶対にしないってことさ」

 

「!!」

 

「それとまどかは一つ勘違いしていることがある。

 友達だからといって隠し事は絶対にないなんてことはない。

 人はその人なりの迷いや葛藤があって秘密を作っている。だからそれについて教えて貰えなかったとしても決して信頼されていないってことは無いんだ。

 僕もママには教えられない秘密を持ってるしね」

 

 照れくさそうに喋るパパを見てわたしは信じられなかった。

 

「パパがママに?」

 

「そうだよ」

 

「どんなことなの?」

 

「秘密」

 

「恥ずかしいこと、後ろめたいこと?」

 

「どっちもかな」

 

「ママは知ってるの?」

 

「夫婦だから、幾つもバレてると思うよ。現に僕もママの秘密結構知っているからね」

 

「言い争いになったりしないの?」

 

 二人が喧嘩して言い争いになる光景を想像して、不安になる。だけどパパはニッコリとしながらこう答えた。

 

「ならないよ。だって僕も詢子さんもお互いのことを信頼しているからね」

 

「凄いなあ……でもちょっぴり羨ましいかも」

 

「話を戻すとね、まどか。本当の友達っていうのはどれだけその人のことを知っているかじゃなくて、どれだけその人のことを信頼しているかによって決まると思うんだ。

 だからもう一度だけ聞かせて欲しいな__

 

 

 

__まどかは暁美さんのことを本当に信じてるかい?」

 

 

 

「…………」

 

 顔を下に向けたまま、首を縦に振る。そして理解した。わたしが今これから何をするべきなのか。

 

「わたし、ほむらちゃんに謝ってくる。そしてなってもらうよ『本当の友達』に」

 

 思いに気づいてくれたのか、パパは肩をそっと叩いてわたしを玄関へと送り出してくれた。

 

「行っておいで、きっと暁美さんもそれを望んでいるに違いない」

 

 

 

 

 

 

 美樹さやかから逃げてきた後、私は家に帰ろうともせずにあてもなく道を歩いていた。辺りはだいぶ暗くなっていて時計を見るともう七時をまわっていた。

 インキュベーターの企みを知った為、諦めて魔女になったり、自害しようとする気はすっかりなくなりはしたけれども……本当にこれからどうしましょうか。

 

 途方に暮れながら近くにあるベンチに腰かける。なんだか今日はよくベンチにお世話になることが多いわね……そんなことを思いながら物思いに耽っていると不意に誰かが私に声をかけてきた。

 

「今晩わ、暁美さん。こんな夜分遅くにどうしましたか?」

 

「志筑さん……」

 

 志筑仁美だった。そう言えば彼女もまどかと同じく、学校で何度か私に話しかけようとしてくれていたっけ? 美樹 さやかのせいとはいえ、申し訳ないことをしたわね。

 

「あなたの方こそこんな時間まで何をやっていたのかしら?」

 

「お稽古の帰り道の途中で暁美さんの姿を見かけたので……」

 

「そう」

 

「…………」

 

「…………」

 

 適当にあしらってやろうとわざと素っ気ない口調で会話をするけれど、彼女は何の反応も見せなかった。いや、彼女は最初から私に会って何を話すのかを既に決めていたのかもしれない。例えどんな対応をされても。

 

「暁美さん、まどかさん達と一体何があったんですか?」

 

「…………」

 

「つい昨日まではあんなに仲が良かった三人が、たった一日で険悪な雰囲気になってしまうなんて私には全く想像もつきませんわ」

 

「奇遇ね、私も二人がどういった心境の変化でここまで変わってしまったのか検討もつかないの」

 

「ふざけないでください」

 

 顔と顔がぶつかる距離まで詰め寄り、キッと私のことを睨み付ける。美樹 さやかの時みたいに誤魔化すのは厳しそうね……

 

「私はこれでもあの二人の親友でいるつもりです。ただの喧嘩や言い争いであそこまで変わるとは思えませんし、暁美さんが二人をそこまで変わらせるようなことをするお方にも見えません」

 

「貴女に私の何が分かるの?」

 

「大切な友人を傷つけたりはしない優しい方だってことは分かってます」

 

 威圧するように私も彼女を睨み付ける。だが彼女は全く食い下がる様子を見せずにキッパリと言った。

 

 これじゃ何時まで経っても埒が空かないわね……正直に話さないと何処までも食らい付いてくる。心の中で大きくため息をついて引き締めていた表情を元に戻す。

 

「分かったわ、私の負けよ。説明するわ……とは言っても所々私の憶測が入るけど」

 

「十分ですわ」

 

 私は昨日の件、そして今日起こったことを彼女に話した。当然、魔法少女のことは伏せておいてね。

 

 

 

「そうだったんですか……」

 

「えぇ、彼女達が私のことをどう思っているのかは分からないけど、少なくとも美樹さんは完全に信用していないことは確かね」

 

「まどかさんはどう思っていると考えてますか?」

 

 先程のまどかとの言い争いのことを思い出す。警戒しながらも一応は私のことを気遣ってくれてはいた。心の優しい子だから美樹 さやかや巴 マミみたいに明確な敵意を持ちながら接することはないだろう。でもやっぱり……

 

「彼女も同じでしょうね。それに私を怖がっている様にも見える」

 

「どうしてさっきまどかさんと話していたときにでも暁美さんが隠していることを教えてさしあげなかったんですか? そうした方が誤解は解けたかもしれないのに……」

 

 確かにそうだ。すべて打ち明けてしまえば、こんなことでうじうじと悩む必要もないだろう。けれど私は……

 

「信じてもらえる確証が無かったから。もし本当のことを話したとしても私のことを拒絶してしまうかも……って不安になっていたからかしら?」

 

「そうやって後ろ向きに考えている内に事態は結局、悪い方に進んでしまって今に至るわけですか」

 

「…………」

 

 ごもっともだ。過去を振り返ってみてもいつも悪い方向に転がっていってしまって失敗する。時には上手くいくこともありはするけど、大体は誰かかしらの協力を得ていないとそうはなっていない。

 

「どうしてこうなってしまったか分かりますか?」

 

「分かるわけないじゃない……じゃなければ現に悩んだりはしない」

 

「それはですね。暁美さん、あなたが『まどかさん達のことを信じていない』からですよ」

 

「…………どういう意味かしら」

 

 彼女の放った言葉にほんの一瞬だけ思考が停止した。面食らったって言った方が正しいのかしら?

 

「暁美さんは、まだ転校してきたから日が浅いせいかもしれないですけど、私達の間でどこか壁を作っていませんか?」

 

「それは__」

 

「仕方がないことは理解しています。だけども相手を疑いながら接している人、距離を置いたままでいる方を信じきるのは難しいと思っていますわ」

 

「……どうすればいいのかしら」

 

 何を弱気なことを言っているんだ、と自分を叱咤しながら志筑 仁美に尋ねる。すると彼女は普段のような柔らかな優しい笑顔を見せて言った。

 

「暁美さんが今からでも間に合うと思っているなら、最低でもまどかさんには話してあげた方が良いと思いますわ」

 

「まどかに……でも……」

 

「わざわざ用事を断って、あなたと話しに来たんですもの。きっと聞いてくれます。

 さやかさんだって、嘘偽りのない本当の気持ちで話せばきっと分かり合えます。ちょっと思い込みが激しいだけで根は友達思いの良い方ですから」

 

「流石、二人のことよく知っているのね」

 

「自分の親友ですもの、当然ですわ」

 

 得意気に話す彼女にちょっとだけ嫉妬してしまう。自分にはこんな風に自信をもって自慢する『友達』が一人もいなかったから……

 

 自嘲しながらそんなことを考えていると、志筑 仁美が私を微笑ましげに見ていた。

 

「どうかした?」

 

「いえ、いつもクールに振る舞っている暁美さんもこんな表情をするんだ、と思うと何だか新鮮で」

 

「失礼ね。私だって落ち込んだりするし、悩んだってするわ」

 

「ごめんなさい、でもそれを知れて良かったですわ」

 

「どうして?」

 

「友人の新しい一面を見ることが出来たから」

 

「!!」

 

 目を見開いてきょとんとした表情になる。そして彼女の言った言葉が恥ずかしく思ったのか顔の周りが熱くなる。

 赤くなっている顔を見られているのか彼女はくすくす笑っていた。

 

「私は待っていますわよ。今度は四人でこうやって楽しく笑い合える時を……」

 

「本当にごめんなさい……私のせいで迷惑をかけて」

 

「そこはありがとうって言って欲しいですね」

 

「ありがとう志筑さん、あなたのお陰で何だか胸の内がスッキリした気がするわ」

 

「どういたしまして。また何か困ったことがあったら是非私に話してください。いつでも相談に乗りますわよ」

 

「頼もしい限りね」

 

「あっ、もしそれが逆の立場だったとしてもよろしくお願いできますか?」

 

「ええ……私なんかでよければ」

 

「暁美さん、よいお知らせ待ってますわよ。それではごきげんよう」

 

 最後に会釈をして志筑仁美はその場を立ち去った。

 

 まさか彼女に励まされるなんてね……意外すぎてビックリだわ。でもそのお陰か本当に楽になった気がする。今度学校で会ったらしっかりお礼を言わなくちゃね。

 明日、もう一度まどか達と話し合って誤解を解きましょう。私の為にも志筑さんの為にも……

 

 心の中でそう決意し、私は今度こそ家に帰るために駆け足で夜道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 これは一体どういうことかしら……?

 

「…………」

 

「ティヒヒ……」

 

 思わず時計を見て今の時間を確認する。時刻はもう八時になろうとしている。

 そうか……きっと私は疲れているのね。昨日今日と色んなことが立て続けに起こったから幻覚を見ているのね。今夜は早めに寝ましょう、そして明日へ向けて頑張ろう。

 

「…………」

 

「よかった、いつまで経っても帰ってこないから心配してたんだよ……?」

 

 あぁ、遂に幻聴まで……ダメね本格的に参ってるみたい……。そうよ、こんなことあるはずない……

 

 まどかが私の家の前でずっと待っていることなんて……

 

「ほむらちゃん……? どうしたの?」

 

 まどかの幻覚が私の手を握る。いや、この感触、この温もり、これは……!!

 

「幻覚じゃない?!!」

 

「?!!」

 

 思わず大声を出してしまい、まどかがビクッと身体を震わせる。

 

「ご、ごめんなさい……急に大声を出して……」

 

「い、いいんだよ別に……いきなり自分の家の前に人がいたら誰だって驚くだろうし……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 どうしよう、凄く気まずい!! 夕方の件もあるし、さっきの志筑仁美との話もあって何を話せばいいのか分からない……何か、何か言わないと……

 

 パニックになって慌てふためいてると、まどかは私の方をじっと見つめて、それから勢いよく頭を下げた。

 

「ほむらちゃん……ごめんなさい!!!」

 

「えっ……?」

 

「事情も何も知らないのに、酷い態度を取っちゃって……ごめんなさい!!!」

 

「ちょっ……まど……」

 

「大切な友達だったのにほむらちゃんのこと疑って__」

 

「落ち着いてまどか!! 貴方どうしてそんなに泣いてるの?!」

 

「__ごめん……グスッ、ヒック……うわあぁぁあ……」

 

 何何何何何?!! どうなってるのよ?!

 家に戻るなり玄関先にまどかがいて、そしていきなり泣き出して……! と、とりあえずこのままだとご近所迷惑にもなりかねないから一旦、家の中に入れましょう。

 

「ま、まどか……とりあえず話は中で聞くから入ってくれないかしら……?」 

 

「グスッ……分かったよ……」

 

 

 

 

「ごめんね? いきなり泣き出したりして……」

 

「い、いいのよ……別に……」

 

 さっきよりは大分落ち着いたようね……それにしてもこんな時間に一体どうしたのかしら?

 

「まどか、こんな夜遅くに私の家の前で何か用でもあったの?」

 

「どうしても今日の内にほむらちゃんと話したいことがあって……」

 

「それってさっきのこと?」

 

「うん……わたしの思い込みで、ほむらちゃんを傷つけて、怒らせちゃったから……」

 

 まどかの申し訳なさそうな態度にまた胸がズキズキと痛む。

 

「いいのよ。あれば私が勝手に傷ついて、勝手に癇癪を起こしただけに過ぎないから。

 それよりも肩の傷、大丈夫かしら? 血が出ていたし、跡が付いていないか心配だったのだけど……」

 

「跡はまだ残っているけど、そこまでのものじゃないよ。そんなことよりもほむらちゃんの方が__」

 

「そんなことなんて言わないで!! 私なんかのせいで大切なまどかを傷つけた方がよっぽど__」

 

「私なんか……って言わないでよ!! ほむらちゃんはわたしの大切な人なんだから!!」

 

「……ッ!! どうして貴女はいつもいつも!!」

 

「ほむらちゃんこそ!!」

 

 じっと睨み合いながら、まどかと口論をする。まどかに対してこんなにも怒るなんて初めてね。

 だけども言い合っている内に私のまどかへの怒りは段々と薄れていった。そしてお互いに口を閉じて何も口にしなくなる。そして__

 

「…………ぷっ」

 

「…………ふふっ」

 

「「あはははは!!」」

 

「お互いのことを想いながら喧嘩するなんて……こんなの絶対に可笑しいよ!!」

 

「そうね。何だか喧嘩するのがバカらしく思えてきたわ」

 

「そうだね! でもこれだけはハッキリと伝えておきたいなぁ」

 

「何かしら」

 

「ほむらちゃん、ごめん……こんなの謝って許されることじゃないけど本当にごめんなさい!!」

 

 今度は泣かずにしっかり私と向き合って謝罪の言葉を言うまどか。でもその言葉を言うのはあなただけではないわ。

 

「私の方こそごめんなさい……私が意気地無いばかりにあなた達を疑わせるようなことをして」

 

「いいんだよ……誰にだって隠しておきたい秘密があるんだからわたしはもうこれ以上、しつこく問い詰めたりしないよ。だってほむらちゃんを傷つけたくないもん!!」

 

「まどか、今はまだ言えないけれど、必ずいつかあなたに話すわ。絶対に、誓ってもいい」

 

「分かったよ、わたし待つよ。ほむらちゃんが勇気を出してくれるその時まで」

 

 天使のようなその笑みに思わず涙が溢れそうになる。でもそれをぐっと堪える。そうしているとまどかはゆっくりと近寄り、それからギュッと私のことを抱き締めた。

 

「ねぇ……もしほむらちゃんが良かったらお願いしたいことがあるんだけど……」

 

「わ、私に出来ることなら何だって構わないわ……」

 

 腕の力が強くなる。ちょっぴりだけ苦しいけど、我慢しながら次の言葉を待った。

 

「わたしの本当のお友達になってくれませんか?」

 

 そう尋ねるまどかの声は震えていた。もしかしたら否定されてしまうのが怖いのかもしれない。

 でも、そんなこと無いわ。私の答えはとっくに決まっているもの。

 

「私でよかったらよろこんで」

 

 まどかと同じように私も彼女の背に手をまわし、そっと抱き締める。

 

 それからしばらくの間、私達はお互いに抱き締め合いながらじっとしていた。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「…………ねぇ、まどか」

 

「…………何、ほむらちゃん?」

 

「そろそろ離れてもいいかしら……///」

 

「うん……///」

 

 名残惜しくはあるけども、いつまでもこうしていられない。手を腰から離して、まどかから離れる。

 長時間抱き合っていたのが恥ずかしかったのか、私もまどかもお互いに顔が真っ赤だった。

 

「ねぇ、ほむらちゃん。もう一つ頼みたいことがあるけど……」

 

「何?」

 

 少し言いづらそうな感じをしているけど、私は急かさずにゆっくりと彼女の次の言葉を待つ。

 

 

 

「今夜、ほむらちゃんのお家に泊まっていってもいいかな?」

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





1/31追記 まどかパートの部分を修正はしたけど、TMHS(知久)さんがやっぱり色々と凄い人に……

※詢子さんも頑張って活躍させなくちゃな……


☆ 次回予告 ★


第10話 Yの過ち ~ ふれた心は輝いた


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第10話 Yの過ち ~ ふれた心は輝いた

 

第10話 Yの過ち ~ ふれた心は輝いた

 

 

 

 まどかの唐突なお願いに私は驚いた。

 そしてそれをあっさりと了承したまどかの両親にもっと驚いた。

 

 正直言って急すぎるというか、なんというか……ただ単純に私の心の準備が出来ていないだけね。

 

 それから色々と話を聞くと、どうやらまどかは夕飯も食べずにずっと私の家の前で待っていたらしい。

 普段ならカップ麺などの簡単な食事で済ませていたけれども、まどかが来ているのならそうはいかない。客人をもてなすような大層な料理を出すことは材料とかの問題で無理だったけど、大丈夫だったかしら……

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末様。ごめんね、簡単なものしか用意できなくて」

 

「全然! とっても美味しかったよ、ほむらちゃん!!」

 

 満足そうな顔で言うまどかを見て少しだけホッとして、テーブルの上にある食器を片付け始める。

 

「あっいいよ、自分の分は持っていくから」

 

「まどかはお客様なんだから私に任せて。洗い物もすぐに終わらせるからそれまで適当にくつろいでて」

 

「はーい」

 

 使った食器を水の入ったタライに入れて軽くスポンジで擦って、汚れを軽く落とす。本当ならしっかりと洗うところだけど、折角まどかが泊まりに来てくれたのだ少しでも時間を無駄にしたくない。

 

 タオルで手を拭いて、リビングに戻ってみるとソファーに座りながら、うつらうつらと舟を漕いでるまどかの姿があった。

 

「まどか」

 

「ふぇっ?!」

 

 隣に腰かけてそっと優しく名前を呼ぶとまどかは慌てて起き、辺りをキョロキョロと見渡した。その様子がおもしろ可愛く思わず笑ってしまう。

 

「ふふっ」

 

「も、もうビックリさせないでよ!」

 

「眠たいの?」

 

 時計を見るともう九時を過ぎている。まどかが何時に寝るのかは把握していないけれど、規則的な生活を送っているのなら普通なら眠くなる時間だろう。

 

「うん……大体家だと十時くらいに寝るんだよね……」

 

「このまま眠っても構わないけど、どうせならお風呂に入ってからにしない? すぐに沸くと思うけど」

 

「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。あっ……でも着替えどうしよう……」

 

「私の服を貸すわ。サイズ的にちょっと大きいけど問題ないはずよ」

 

 胸以外は……心の中でそうぼやく。認めたくないけど、私の周りにいる女の子の中ではダントツに小さい。そう、まどかにも劣っている……

 

「色々とごめんね。迷惑かけちゃって」

 

「仲直りできたんだもの、もう少し遠慮しなくても大丈夫よ」

 

「ありがとう、ほむらちゃん」

 

「いいのよ別に、着替えは置いておくからゆっくり入ってらっしゃい」

 

「え?」

 

「え?」

 

 部屋に行って、彼女用の寝巻きと下着を取ってこようとすると、まどかが意外そうな声を出した。それに釣られて私も声を出す。

 そして次の瞬間、再び予想もしていなかった言葉をまどかは言った。

 

「一緒に入らないの?」

 

「?!!」

 

 とんでもない爆弾発言に頭の中身全て吹っ飛んでパーになる。

 

「ほむらちゃん?」

 

「はっ!!」

 

 まどかに呼び掛けられ、ようやく我にかえる。私としたことが……少し取り乱してしまったようね。

 

「もしかして嫌だった……?」

 

「ち、違う違う……これまで友達と一緒に入ったことなんてなかったから緊張しちゃって……」

 

 過去のループで何度かそういうシチュエーションに出くわしたことがあったけれど、その度に何かしら理由をつけて、一人で入るようにしていた。

 後、その上目使いは反則よ。そんなの見せられて断れるわけないじゃない。

 

「よかった!! じゃあ早く入ろう!!」

 

「わ、分かったからそんなに押さないで頂戴……」

 

 こうして私はまどかにお風呂場へと強制連行されていった。

 着替えをまだ用意してないけど、どうにかなるわよね? 

 

 

 

 

 脱衣場について、二人はお互いに服を脱ぎ始める。

 ほむらはまどかの脱ぐ姿が恥ずかしいのか背を向いた状態で脱いでいた。するとその時、まどかが驚いた表情でほむらの背中を叩いた。

 

「ま、まどか……どうかした?」

 

 急に触れられて心臓をバクバクさせるほむらだったが、まどかの意識は別の方に向いていた。

 

「ほむらちゃん……その傷跡、どうしたの……?」

 

 彼女の身体には無数の傷が残っていた。擦り傷、切り傷、打撲、痣__年頃の中学生にしてはあまりにも多すぎて、痛々しいものだった。

 

 ほむらは傷のことを言われて、そのことをすっかり忘れて浮かれていた自分を叱咤した。こんなものを見せてしまったら絶対にまどかを心配させる。そんなのは既に分かりきっていたはずだったのに……

 

「こ、これは……今日の帰りに転んでたまたま打ち所が悪かっただけで__「違う」__」

 

 苦し紛れの言い訳をするもすぐに看破される。そしてまどかは続けて言った。

 

「わたし保険委員やっているから、どういった時にどう怪我したのかは大体分かるの。ほむらちゃんの傷は普段生活していれば、絶対につくはずのないものだよ」

 

「…………」

 

「もしかして……魔女との戦いで?」

 

「!!」

 

 図星だった。

 ほむらの動揺に気づいたまどかは、数多ある傷の中で一番新しくまだ生々しい傷に触れる。それは先程、さやかと出会う前に戦っていた魔女と使い魔によってやられたものだ。

 

 傷を触られて表情を歪めるが、何とかして平静をほむらは保とうとする。

 

「そうよ。でもこんなの魔力を使えば、どうとでもなるわ」

 

「どうしてそこまでして魔女を倒すの?」

 

「前も言ったけど、魔法少女にとって魔女を倒して得られるグリーフシードはとても重要なもの。それは幾ら数があっても余分になることはないの、だから機会がある内に貯めておきたかったの」

 

「…………」

 

 その説明にまどかは半信半疑で聞いていた。そして事実そうだった。それはあくまで表向きの理由、ほむらがここまでして魔女を倒すのにはある目的があった。

 

 本当のことを隠していることを見透かされていることに気づいているほむらは、一拍置いてもう一つの理由を話した。

 

「そしてもう一つは……まどか、あなたに余計な負担をかけたくなかったからよ」

 

「やっぱりそうなんだね……」

 

 てっきりこのまま話さずにいってしまうのかと思っていたまどかは少しだけ意外そうな顔をする。そして前々から気になっていたことをほむらに質問する。

 

「ねぇ……どうしてほむらちゃんはそこまでしてわたしのことを気にかけるの?」

 

「それはね__あなたが私の最初の友達だったから……」

 

 その答えに驚いた顔をするまどかを見ながらほむらは遠い昔を懐かしむように話し続けた。

 

「私はね、小さい頃から心臓の病気のせいでずっと病院で入院生活を送っていたの。学校には通っていたけど、病気のせいでみんなにとって普通の生活をすることも出来なかった。

 当然、友達はおろか話してくれる人もいなかったわ。クラスでも苛められたりはしなかったものまるで腫れ物を扱うような感じで楽しいことなんて何一つ無かった。

 一時期にはいっそのこと死んでしまおうか……なんて考えてたりもしたわね」

 

「…………」

 

「そんな空っぽの私に生きる意味を教えてくれたのが……まどか、他でもないあなただったのよ」

 

「そう……だったんだ……」

 

「河原であなたと出会って、一緒に話さない? って言ってくれて嬉しかった。

 嫌いだった自分の名前を肯定してくれて嬉しかった。

 そして使い魔とすらもまともに倒すことが出来ない最弱の魔法少女の私に手を差し伸ばしてくれたことが何よりも……嬉しかった。

 これが私の『この世界』でのあなたを守る目的……分かってもらえたかしら?」

 

「グスッ……ほむ……らちゃぁん……」

 

 嘘偽りのない本心を伝えたほむら。その想いはしっかりとまどかの心に届いていた。

 

「ごめんね……ずっと苦しい思いをしていたのに、ほむらちゃんのこと信じてあげられなくて……」

 

「もういいのよ。こうしてあなたが私の為に涙を流してくれる。これ以上に嬉しいことはないわ」

 

「ほむらちゃ__くしゅん!!」

 

 突然くしゃみをするまどかにビックリするが、それと一緒に今の自分達の状況に気づく。

 

「大丈夫……? そういえば私達ずっと下着姿のまま話していたわね。このままだと風邪ひくかもしれないから、一先ずお風呂に入ってしまいましょう」

 

「そうだね……くちゅん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ほむらちゃん……もういいでしょう?」

 

「まっ待ってまどか……私、心の準備が……///」

 

「大丈夫……私も初めてだけど自信はあるから……」

 

「お、お願い……痛いことしないで……」

 

「ほむらちゃんって意外と可愛いところがあるんだね。みんなが知ったらビックリするだろうね」

 

「こ、こんな姿見せるのはまどかだけなんだからぁ……///」

 

「もう……そんな顔されたらもう我慢できないよ……///」

 

「や、優しくして__ひゃん!!」///

 

「ふふっ……ほむらちゃん顔真っ赤だね」

 

「や、やだぁ……見ないで……///」

 

「ウェヒヒ!! とっても可愛いよ、ほむらちゃん」

 

「ばっ……バカぁ……///」

 

「いいのかな~そんなこと言っちゃって? でも嫌だったら仕方がないよね、これ以上はもうしないであげる」

 

「えっ……」

 

「冗談だよ。だからそんな切なそうな顔しないでよ……じゃあ次はどこを触って欲しい?」

 

「それは……その……///」

 

「えへへ……なら次は……ええい!」

 

 

 

「ちょっと……あはははは! や、やめてまどか……そんなに執拗にくすぐらないでっ!!」

 

「脇くすぐられるの弱いんだね。こんど学校でもやってみようかな」

 

「お、お願い……それだけはっ……あはははは!!」

 

「背中洗っているときとは全然違うね~我慢していたの?」

 

「やっやっぱりタオルで普通に洗ってくれていいから……手はもう勘弁して!!」

 

「駄目だよ。ほむらちゃん、身体にいっぱい傷があるんだからそんなに乱暴したら開いちゃうよ!」

 

「でっ、でも流石にこれはっ!!」

 

「しょうがないな~ちょっと物足りなかったけど、このくらいにしてあげる」

 

「ふっふっふっ……掛かったわねまどか!」

 

「えっ、ちょっ……ほむらちゃん?!」

 

「後ろに回り込めばこっちのものよ。さあ……今度は私の番よ……」

 

「やっ、止め……ほむ…………あははは! くすぐったいよぉ! お腹は止めてぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

「つ……疲れたね、ほむらちゃん……」

 

「そうね……今度はもう少し静かに入りましょう……」

 

 お風呂場ではしゃぎ過ぎて着替え終えた後、憔悴しきった状態でベッドに転がり込むことになった。

 

「はぁ~、こんなにお風呂ではしゃいだのいつぶりだろう」

 

「でも…楽しかったわ」

 

「そうだね!」

 

 満面の笑みで答えるまどか。疲れはしたけど、こんな風にまたはしゃぐのも悪くないかもね。

 それから歯を磨き、寝る準備を全部終えて私達はベッドの中に入った。

 

「狭くないかしら?」

 

「ううん、平気だよ」

 

「一人暮らしだから予備の布団とか無かったのよ……ごめんなさい」

 

「謝らなくていいよ。折角のお泊まりなんだから一緒のベッドで寝たかったし」

 

「そう、良かった」

 

 チラリとまどかの方に視線を向ける。するとまどかも私のことを見ていたようでお互いに目が合った。

 

「えへへ」

 

「ふふっ」

 

 今日一日、本当に色々なことがあった。

 まどかと喧嘩して雰囲気が険悪になったと思ったら、その後に謝りに来てくれてもう一度友達になってくれた。それも前なんかよりもっと親密なものの。

 

 彼女は勇気を振り絞って私に歩み寄ってくれて、私に本当の想いを伝えてくれた。

 私もそれに答える為に私自身の想いを伝えた。だけど全てではない……

 

 魔法少女の魂の在り所、ソウルジェムとグリーフシードの真実、『鹿目まどか』という少女を運命から救う為に幾度となく時間を繰り返している少女の話…………

 

 

 

 過去に犯した死よりも重い『私の罪』を…………

 

 

 

 本音を言うのなら今すぐに打ち明けたい。けれど思うように口が動かない……

 これじゃ美樹さやかの時と何も変わらない……

 

『まどかさん達のことを信じていないからですよ』

 

 夕暮れに話した志筑仁美の言葉が脳内によみがえる。

 私の中では信じているつもりだ。まどかは勿論、数々の時間軸ですれ違いはしたが美樹さやか、そして巴マミも……

 それでも、それでも私は…………!

 

「まどか、話しておきたいことがあるの……」

 

「どうしたの?」

 

「信じて貰えないかもしれないけど、どうか聞いて欲しい……」

 

 身体全てが震えてまともに話すことが出来ない。昔、何度もこういった経験はありはしたけど、慣れないものね……

 

 それでも貴女は伝えなければいけない。勇気を出せば望む未来が一歩また近づいてくれるはずだから!!

 

 臆病な自分を奮い立たせようと必死に自身に語りかける。そして…………

 

 

 

 

 

「…………近い内に美樹さんがお見舞いに行っている病院に魔女が現れる。そいつはかなりの強敵で巴マミと相性が悪い奴なの。

 だからもしその魔女を発見したら私に連絡して欲しい……」

 

 

 

 

 

 口から出た言葉は、私が秘密にしていることと何の脈絡もないことだった。

 どうしようもない、救いようがない私の頭にそっと手が置かれる。

 

「やっぱり優しいね、ほむらちゃんって」

 

「えっ?」

 

 不意に誉められてしまい、何がなんだか分からなくなる。

 

「だって敵だって言っていたはずのマミさんのことを心配してくれているんだもん」

 

「あれはその……敵であることには変わりないけど、彼女はベテランの魔法少女だから今後の戦いにおいて貴重な戦力になるから……」

 

「そうなんだ~」

 

 短く返答するまどか、彼女の顔は何故か笑っていた。

 まるで全て見透かされているような感じがしたのでぷいっと顔を背ける。

 

「どうしたのほむらちゃん?」

 

「な、なんでもないわ……」

 

 私の反応を見て、楽しそうにしていたまどかだったけど、ふとその笑顔に陰りが射した。

 

「ねぇ、その魔女には勝てるのかな……?」

 

「分からないわ、少なくとも私と彼女が協力すれば勝てることは確実ね……」

 

『協力できれば』ね。この時間軸の巴マミはインキュベーターの策に完全に乗せられて私のことを警戒している。ああなってしまった彼女とはもう仲間になることが出来ない……

 

「マミさんと仲良く出来ないのかな?」

 

「厳しいと思うわ。私も誤解を解こうと話そうとしたけど、全く聞く耳を持ってくれなかったわ」

 

「そんな……それじゃあもう!」

 

 ここでまどかの目付きが鋭くなるのを私は見逃さなかった。彼女が一体何を考えたのかはほとんど察しがついている。

 

「まどか、何をバカなことを考えているのかしら」

 

「だ、だってこのままじゃ二人ともその魔女にやれちゃうんでしょ? それならわたしも魔法少女になって一緒に戦えば……いやそうしなくてもほむらちゃんと二人で変身さえすれば……」

 

「ダメよ、何があっても契約だけはさせない。

 それにあの変身だって、元の身体のベースはまどかのままなのだから危険には晒せないわ。今までの魔女はそこまで強くなかったから良かったけど、今回のは訳が違う……あなたを傷つけさせたくないの……」

 

「やっぱりそういうことも考えててくれたんだね。でもわたしだってほむらちゃんが傷つくのは見たくないよ……」

 

「大丈夫、あなたは人間だけど私は魔法少女……ちょっとばかり体の出来が違うのよ」

 

 安心させるために言った言葉だけど、これじゃ自分がゾンビであることを自慢しているみたいね……複雑。

 

「でも……」

 

「心配しないで、もしその魔女が現れたら私が何とかして巴マミを説得する。そして二人で戦って勝つ。だからあなたは戦おうなんて思わないで……『あなたは私が守るのだから』」

 

「……分かったよ、ほむらちゃん」

 

 まだ何か言いたそうな感じであったけど、とりあえず退いてはくれた。

 でもこの状況はあまりいいものではないわね……仮にお菓子の魔女を倒したとも、それ以上の強敵はもっと現れる。その度にまたこんなやりとりをしていたはいつか魔法少女として契約してしまうかもしれない……なんとかしなければ……

 

 

 でも、今はその前に……

 

「まどか、もう遅いからそろそろ寝ましょうか」

 

「そうだね……」

 

「ねぇ、もう少しだけあなたの方に寄ってもいいかしら? 久しぶりに誰かと寝るから人肌が恋しくなっちゃって……」

 

「ふぇっ?!」///

 

「嫌だったかしら? ごめんなさい、少し馴れ馴れしかったよね……」

 

「い、いいよ……お……おいでほむらちゃん」///

 

「ふふっ、可愛いわまどか」

 

「もう……///」

 

 まどかとのお泊まり、存分に楽しませてもらうわ。

 昨日今日と辛いことがあったのだもの、少しくらいは甘えていいわよね。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「マミ、何をしているんだい。明かりもつけないで?」

 

「キュウベぇ……帰ってきたのね」

 

「見たところ随分と落ち込んでいるようだけど、何かあったのかい?」

 

「ちょっとね……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「ねぇ、キュウベぇ……私がしていることって本当に正しいことなのかな?」

 

「なんだい唐突にもしかして暁美ほむらのことかい?」

 

「えぇ、確かに彼女はあなたの言う通り得体も知れないイレギュラーな存在。迂闊に放っておくのは危険だと分かっている。

 そんな人を一般人の鹿目さん達と接触させるわけにはいかない。だからわざと二人の不安を煽るような言い方をして無理矢理彼女達を引き剥がした。

 けど、それは間違いだったんじゃないか……今日の美樹さん達を見て思ってしまったの……」

 

「やれやれ……その口ぶりだと敵と見なしている暁美ほむらにも同情しているように思えるね」

 

「彼女のことは以前から監視はしていたけど、正直見ていられなかった……おかしいよね、全部私が仕込んだことなのに……」

 

「全くだ。それで君は一体何を言いたいんだい? ひょっとして後悔しているのかな、自分の選択に?」

 

「そんなわけないじゃない、でも……」

 

「前に僕が話したことを覚えているかい? 希望と絶望の相関についてを……君が行っていることはそれと同じだ。暁美ほむらの孤独の代わりに鹿目まどかの安全を優先させたんだろう?」

 

「…………」

 

「君の決意はその程度のものだったのかな?」

 

「それは……」

 

「マミ……ここまで来たんだ。もう後戻りは出来ない、君が今するべきことは自分の目的の為に突き進むことだけだ。その途中に何があろうとも振り返ってはいけない。君の信念が鹿目まどかを救う唯一の方法なのだから」

 

「ごめんなさい、キュウベぇ……私、弱気になっていたみたい」

 

「気にすることないさ。ほら、今日はもう遅い……明日の魔女退治に向けてしっかりと身体を休めとかないと」

 

「ありがと、励ましてくれて。それじゃ寝る準備をしてくるから待っててね」バタン

 

 

 

「…………」

 

(そうだよ、マミ。君がこんなところで立ち止まってくれちゃ何もかもが救われないんだ。

 暁美ほむらを絶望させ、鹿目まどかと契約を結ぶ。そして三週間後にやってくるワルプルギスの夜で彼女を魔女化させてエネルギーを得る……

 君が上手く働いてくれないと困るんだよ……君たちの為にも、この宇宙の為にもね……)

 

 

 

 

 

 

 そして数日のときが過ぎて、ある日の放課後……事件は起きた。

 

 

「さやかちゃん、あれって……!!」

 

「ぐ、グリーフシード?! どうしてこんなところに?!!」

 

「ほむらちゃんの言った通りだ」ボソッ

 

「何か言った、まどか?!」

 

「ううん……何でもないよ!!」

 

「なら、あたしがここで見張っているからまどかはマミさんを呼んできて! 出来るだけ早くね」

 

「分かった。けど無理はしないでね!」ダッ

 

 

 

(マミさんに……後、ほむらちゃんにも連絡しないと!!)

 

 

 

 訪れた第二の分岐点、待ち受けるはお菓子の魔女__シャルロッテ。

 相性が悪い巴マミ、力のほとんどを失った暁美ほむら、そして彼女に変身を拒まれている鹿目まどか……

 彼女達はこの状況に一体どのようにして立ち向かうのか?!

 

 

☆ to be continued…… ★

 





☆次話予告★


「もう何も怖くない‼」

「お願いです。この戦いが終わったら……」

「どういうことだよ……転校生ェ!!!」

「これが君の狙いだったのか……暁美 ほむら」

「ごめんなさい……これしかなかったのよ……」


第11話 救済へのZ ~ その力は誰が為に 


※第一章もいよいよクライマックス‼


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第11話 救済へのZ ~ その力は誰が為に


※突然ですが、皆さんベタな展開はお好きですか?



 

第11話 救済へのZ(zeal)~その力は誰が為に

 

 

 

(遂に来たわね……この日が)

 

 ほむらは携帯をしまい、魔女の結界へと急ぐ。

 

(今回の時間軸での巴マミとの関係は最悪……話し合いはおろか下手したら会った矢先に襲われかねない。そうなってしまっては高確率で彼女は死ぬ。

 ならば私がこれからすべきことは……)

 

 考え事をしながら走っている内に目的地へと辿り着く。結界の入り口を調べてみると何者かが侵入した痕跡があり、既にまどか達が内部に入り込んでいることが分かった。

 

(力を失った状態でどこまでやれるか不安だけど……やるしかないわね)

 

 

 

 一方、マミと合流したまどかは結界内に侵入し、グリーフシードを孵化させないように慎重に進んでいた。

 

「無茶しすぎ……って怒りたいところだけど、今回に限っては冴えた手だったわ。これなら魔女を取り逃す心配も……っ!!」

 

「マミさん、どうかしましたか?」

 

 訪ねた矢先、後方から誰かが近づいてくるのに気づく。

 マミはまどかを庇うように自分の後ろに回し、迎え撃つ態勢に入る。彼女らに近づく者、それはほむらだった。

 

「ほむらちゃん」

 

「あら、暁美さん。一体何のようかしら?」

 

 笑顔で接するマミ。だが彼女からは敵意__否、殺意に近いものが溢れていてそれは素人のまどかにもハッキリと感じ取れた。

 

「今回の獲物は私が狩る。貴女達は手を引いて」

 

「あなたが何を企んでいるか分からないけどそうはいかないわ。美樹さんとキュウベぇが奥にいるからね」

 

「その二人の安全は私が保証する」

 

「信用すると思って?」

 

「貴女がどう思おうと関係ない。退かないというのなら……」

 

「どうするつもり?」

 

 獲物を忍ばせ、双方臨戦態勢に入り、距離を詰めながらお互いの出方を探る。

 先に動いたのはほむらだった。

 

「まどか、先に謝っておくわ」

 

「えっ?」

 

 盾の中から何かを取りだし、地面に勢いよく叩きつける。叩きつけられたそれはまぶしく輝き、二人の目を眩ませた。

 

「うわっ!!」

 

「くっ……閃光弾?!!」

 

 怯んでいる隙にほむらが一気に距離を詰め寄る。そしてその手がマミの顔へと伸びて…………

 

「かかったわね!!」

 

「なっ……?!」

 

「ほむらちゃん?!」

 

 直後、足元から複数のリボンが出てきてほむらの身体を拘束した。

 

「鹿目さんに免じて危害は加えたりしないわ。でもあんまり暴れられると保証しかねないけどね」

 

「こ、今度の魔女はこれまでの奴らとはわけが違う……うぐっ!!」

 

 必死にもがいて拘束から逃れようとするが、動けば動くほどリボンがほむらの身体を締め付ける。

 その姿にまどかはどうにかしようと、交互に視線を配らせるが、マミに手を引かれてほむらから離されてしまう。

 

「行きましょう、鹿目さん」

 

「で、でも……」

 

「まどか、わ……私のことはいいから早く魔女を……」

 

「うん……」

 

 この場に置いていくべきなのか躊躇するまどかだが、先で待っているさやか達の為にも進むことにした。

 

 

 

 マミに手を引かれ、結界の中を歩いていく。

 あれからどちらも一言も喋らずに気まずい雰囲気が漂っていた。そんなときマミが声をかけた。

 

「幻滅したかしら?」

 

「えっ?」

 

「彼女は鹿目さんにとっては大事なお友達なのよね。それなのにあんな酷いことしちゃって……恨まれてもおかしくないわ……」

 

「その……それは……」

 

「でも心配しないで、使い魔にやられないように結界も張ってあるし、帰りにはちゃんと拘束も外すつもりだから」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 とりあえずお礼を言う。けれどもまた会話が途切れて、再びだんまりとなってしまう。

 何か話題を振るために思い付いたままのことをマミに尋ねた。

 

「あの……マミさん」

 

「何?」

 

「魔法少女って確か、魔女と戦い続けるという使命と引き換えになんでも願い事が一つ叶うんですよね」

 

「そうよ。もしかして叶えたい願い事が見つかったのかしら」

 

「いえ、その……マミさんはどんな願い事をして魔法少女になったんですか? って聞きたくて……」

 

「…………」

 

 願い事の話でマミは一瞬だけ顔を明るくするが、目を逸らしてうつむいた。

 

「あの、どうしても聞きたいわけじゃなくて……話したくなかったら無理しなくても大丈夫です……よ?」

 

「私はね__」

 

 

 

「小さい頃、事故に遭ってたった一人だけ車の下敷きにならずに生き延びて……ただひたすら助けを求めていたの。そしたら私の目の前にキュウベぇが現れてこう願った__『助けて欲しい』と。

 あのときの私はただ生きたかった。それしか願い事がない状態で祈ったわ。後悔しているつもりはないけど、振り返ってみるともっと良いお願いを出来たんじゃないかって思っちゃう……」

 

「マミさん……」

 

 辛い過去の出来事を思い出し、落ち込む姿を見てまどかはさっきの自分の発言を取り消したくなっていた。

 けれどマミは顔を上げてにっこりと笑う。

 

「鹿目さん。あなたはまだ魔法少女になるのかどうか分からないけれど、もしなるとしたらちゃんと考えたうえで願い事を決めて欲しいの。悔いの残らない選択をしてもらいたいの」

 

「悔いの残らない選択……」

 

「鹿目さんは、なんでも一つ願い事が叶うとしたら何を求めるのかしら?」

 

「わたしは……昔から得意な学科とか、人に自慢できるような才能とかも無くて、きっとこれから先ずっと誰の役にも立てないまま迷惑ばかりかけていくのかなって、そう考えると自分が嫌でしょうがなかったんです。

 でもそんなときに、ほむらちゃんと出会って、一緒に誰かのために必死に戦うことを体感して嬉しかったんです。そして、マミさんが昔からずっとこの見滝原の街を守っていることを聞いて憧れたんです。

 だから、もし願い事を叶えてもらうとしたら……それは魔法少女に、誰かを救える力を手に入れたい。それで願いが叶っちゃうんです」

 

「そうなの……なら、鹿目さんはキュウベぇと契約して魔法少女となった時点で願い事は叶ってしまうのね」

 

「はい。こんな自分でも誰かの役に立てるんだって胸を張って生きることが一番の夢だから」

 

「ふふっ、優しいのね鹿目さんは__」

 

 願い事を聞いて、嬉しそうに頷く。そしてそっとまどかに聞こえないくらいの小声で呟いた。

 

「そんなあなただから私は……」

 

「? マミさん、今何か言いました?」

 

「ううん、何でもないわ。でもねあなたは私を憧れているって言っていたけど、そこまで大したものじゃないわよ……」

 

「え?」

 

「無理してカッコつけてるだけで、怖くても辛くても、誰にも相談できないし、一人ぼっちで泣いてばかり……それがあなたが見ている私の本当の姿なの……

 魔女と戦うときだっていつも自分を抑えて、逃げ出したくなる気持ちを隠しながら戦っている。だって、もし死んじゃったら誰にも知られずに、いつしか忘れられて……永遠に孤独であり続けるから……」

 

 ポツリポツリと話すマミは普段、まどかが見ているような優雅で頼りになる先輩ではなく、自分と同じ女の子で、ほむらと同じく傍にいてあげて支えたくなる人に見えた。

 そんなマミを見て、優しく彼女の手を握りしめる。

 

「ほむらちゃんも同じことを言っていました。魔法少女は孤独で常に死と隣り合わせで危険だって。

 マミさんはずっと一人で辛い思いをしていたんですよね?」

 

「うん……」

 

「ならこれからはわたしがマミさんと一緒にいます。

 どんなに危険であろうと、他の誰かがそれを止めようとしても、わたしはマミさんのことを絶対に一人ぼっちにしたりしません。絶対にマミさんのことを忘れたりしません!」

 

「鹿目さん……」

 

「ううん、わたしだけじゃない。さやかちゃんもきっとマミさんと一緒にいてくれます。

 マミさんが街の皆のために戦ってくれるのなら……わたし達はそんなマミさんのことを支えます! だからわたしなんかでよかったら……マミさんのお友達でいさせてください!」

 

 力強く言った言葉にマミは今すぐにでも泣き出しそうな表情で手を握り返す。

 

「本当に友達でいてくれるの? 私の傍にいてくれるの?」

 

「勿論ですよ。でもその代わりと言ったらあれなんですけど、一つだけお願いしたいことがあるんですけど……」

 

「何だって構わないわ」

 

「この戦いが終わったら…ほむらちゃんと仲直りしてください」

 

「!!」

 

 その名前が出てきた瞬間、何かを恐れるような感じでマミは体を強張らせた。

 

「マミさんにはダメって言われていたけど、この前ほむらちゃんと二人で話し合ったんです。

 そしたらベテランでとても頼りになるから一緒に協力して魔女を倒したいって言ってくれて」

 

「意外ね……あの子がそんなこと言う子には見えないけれど」

 

「言ったことをそのまま伝えてはいないですからね。素直じゃないんですよ」

 

「でも……私は彼女にたくさん酷いことを言ってしまったわ。仲良くなるなんて出来っこない……」

 

「そんなことないですよ。だってほむらちゃんは、マミさんとの誤解を解きたくて今日わたし達の前に来てくれたんですから」

 

「…………」

 

「ダメ、ですか……」

 

「よくよく考えてみれば、彼女とは一度たりともまともに話したことが無かったわね。ただ危険なイレギュラーであると思いながら避け続けてきた……分かったわ。

 この戦いが終わったら暁美さんとしっかりと向き合って話し合ってみる。キュウベぇから聞いた情報じゃなく、私自身の目で彼女のことを見るわ」

 

「マミさん……!」

 

「だから協力してくれないかしら? 私と暁美さんが仲良くなれるように、敵同士じゃなく味方で友達になるために」

 

「はい、約束ですよ!」

 

「うん!!」

 

 小指を出し、二人は指切りげんまんをする。

 そうしてお互いに笑いあっていると急に結界内の雰囲気が一変し、直後キュウベぇのテレパシーが届いた。

 

『マミ、グリーフシードが動き出した!! 孵化が始まる。急いで!!』

 

「オッケー、分かったわ。今日と言う今日は速攻で片付けるわよ。鹿目さん、しっかりついてきて!!」

 

「分かりました!!!」

 

 ソウルジェムを高く掲げ、マミは魔法少女の姿に変身する。そしてまどかの手を離さないようにしっかりと掴み、魔女のいる部屋へと走り出した。

 

 道中、行く先に使い魔達が彼女らを阻むがそれらは全てマミの射撃によって撃ち落とされ、やられていった。

 

 

(身体が軽い。こんな気持ちで戦うなんて初めて!)

 

 

 まどかを守りながら使い魔達と戦うマミの姿はとても美しく__

 

 

(もう何も怖くない!!)

 

 

 まぶしい笑顔で輝いていて__

 

 

(私、一人ぼっちじゃないもの!!)

 

 

 希望で満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

「…………そろそろね」

 

 まどか達の後ろ姿が遠退いていく中、ほむらは予め袖の内に仕込んでいたナイフを使ってリボンの拘束を解いていた。そして彼女らに気づかれないようにゆっくりと後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 まどかとマミは魔女の部屋に辿り着き、そこでさやかと合流を果たしていた。

 

「お待たせ」

 

「さやかちゃん、大丈夫?!」

 

「よかったぁ、間に合ってくれて」

 

「気を付けて! 出てくるよ!!」

 

 さやかの無事にそっと胸を撫で下ろすまどかだったが、その安堵はキュウベぇの警告によって打ち消された。

 

 キュウベぇに言われた方を三人は見つめる。するとお菓子の箱の中からぬいぐるみのような可愛らしい外見の姿をした魔女が飛び出してきた。

 

「折角のとこ悪いけど、一気に決めさせて……もらうわよ!!」

 

 それを見るやマミは魔女へ向かっていき、銃と魔力を使って瞬く間に魔女を捩じ伏せる。そしてリボンで動きを完全に抑えてそこへ必殺の一撃を撃ち込んだ。

 

「ティロ・フィナーレ!!!」

 

「「やったぁ!!」」

 

 攻撃が当たり勝利を確信したさやかとまどかは手を取り合い、喜び合う。マミはその光景を見て微笑ましそうに笑う____だが…………

 

 

 

 

 

 魔女の口から巨大な恵方巻みたいなものが出てきて、大口を開けて物凄い勢いでマミへと襲いかかった。

 

「あっ……」

 

「「あぁ……!!」」

 

 

 

 

 

 

『お邪魔しました~」』

 

『ふふっ、まどかでよかったらいつでも来ていいわよ』

 

 夜が明けて休日の昼。まどかは自分の家に帰ろうとしていた。

 本当はこの後にでも一緒に出掛けたり……とか考えていたのだけど、あんまり遅くまで帰らなかったらまどかの親御さんに迷惑をかけてしまうと思ったので、渋々断念したわ。決して誘う勇気が無かったわけじゃないわよ。

 

『でも、ほむらちゃんに悪いよ』

 

『気にしなくていいわよ。私だって独り暮らしだから少しだけ……寂しかったし』

 

『それなら今度はわたしの家に泊まりにおいでよ。パパもママもきっと喜んでくれるよ!!』

 

『なら、近い内にお邪魔しても構わないかしら?』

 

『うん!』

 

 まさかまどかから誘ってくれるなんて……夢でも見ているんじゃないかしら。

 

 お泊まりの約束に浮かれていると、まどかは急に深刻そうな顔をして話しかけてきた。

 

『ねぇ、やっぱり昨日の話だけど……』

 

『巴マミのこと?』

 

『うん……』

 

『彼女が敵意を持って接していてくれさえしなければ、私は協力する気でいるわ。でも、もしそうでなければ……』

 

『ほむらちゃんは…マミさんのことどう思ってるの?』

 

『どうって……?』

 

 まどかからの問いに深く考える。

 私が巴 マミのことを? 何故、そんなことを聞くのかしら?

 

『マミさんは、ほむらちゃんのことあんまり信用していないけれど…それでもほむらちゃんは心配してわたしに警告してくれた』

 

『あれは……ただ魔女と戦う戦力の足しにする為に……』

 

『それは建前だよね。わたしはほむらちゃんの本当の気持ちを知りたいの……』

 

 

 私にとってあの人は…………

 

 

 

 

「ごめんなさい、巴マミ……」

 

 私はゆっくりと魔女の部屋へと続く道を歩いていた。今頃、彼女達は魔女と出会い、交戦している最中だろう。

 

「あなたはこの先に待ち受ける敵。ワルプルギスの夜と戦う上で貴重な戦力となる……

 でも、私が戦う目的はそれではない。私の目的は、まどかを魔法少女として契約させない為に……インキュベーターが作り出した狂ったシステムに彼女を巻き込まないようにする為に」

 

 そう……そのためなら私は何だって犠牲にするって心に決めた。

 

「貴女にこんな仕打ちをさせるのは気は進まなかった……けれど、許して頂戴……」

 

 

 

『マミさん、逃げて‼』

 

『あぁ……』

 

「これも全て__」

 

 

 

 ガブッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     /  ∥ =只= ∥ ヘ

     i  /   ´ `   ヘ  i

      ゙、 ヘ.___,ヘ__,ノヾr’

      |=.|.| | ´╂`.| |..|.=|

      | | | |,・╂>.|,| | i

       ; ,|//.・╋> ;ヽ| i.

     /´,`ヾ、∥, /`ヽ、.i

    /  /   | `´冫 丶. \

  /  /    |  /   .丶  ゝ

  \ /⌒へ、 | 丶,ィ´⌒冫 ノ

    ` ` .|  |ソ__,ノ  |-_〆、  ノノ

       |――|ー|――|

       .| l l l:l| . | l .| l:;

       冫; ; ;! |. l : 〈

       // l l| !l l l i!

       ! l .l l|  i l l l i,.

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       |..:::::::::|   i.::::::::::|

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       ,|:::_:|   / レ、

       ||/ `   |  /

       `|.  l  /  丿

        \_/  ヽ-´ 彡

 

 

 

 

 

「__まどかの為なのよ……」

 

 

 

☆ to be continued…… ★





※計画通り(ゲス顔)

※このままほむほむがマミを救って和解なんてありふれたエンドにする気はありませんよ?
※なので、ちょっとひねくれた展開にしてみました。



次回、第一章完結!!!


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第12話 救済へのZ ~ 希望を求めて


※まさかの9000字……詰め込むだけ詰め込んだらこの様だよ‼

※追記 区切りをよくするために、最後ら辺をカットして次話にChapter1 epilogue を作りました。



 

第12話 救済へのZ ~ 希望を求めて

 

 

 

 まどかとさやかは恐怖でその場から動けずにいた。

 ついさっきまで戦っていた憧れの魔法少女__巴 マミ。そんな彼女の惨状を見て、恐怖し、打ち震え、そして後悔した自分達がどれだけ軽い気持ちで魔法少女という世界に踏み込んでいたのか。

 

「二人とも、早く契約を!!」

 

 キュウベぇが必死に二人に呼び掛けるもただ身を寄せ合っているだけだった。

 魔女はマミの亡骸を食い荒らして、次の獲物へと視線を向ける。

 

「「あああ…………」」

 

「まどか!! さやか!!」

 

 ゆっくりと魔女が迫ってくる。逃げようとするもその視線に身がすくんで、蛇に睨まれた蛙のようだった。

 

 

 

「その必要はないわ」

 

 

 

 そんな彼女達の前に黒い影が舞い降りた。

 

「暁美 ほむら……」

 

「ほ、ほむらちゃん……」

 

 キュウベぇとまどかがその名を呼ぶが、さやかはただ彼女を睨み付けていた。

 三人の姿を一瞥したほむらは盾から重火器を取り出して、魔女へ目掛けて放つ。

 

『?!!』

 

「チッ、やっぱりこれじゃ駄目ね……」

 

 魔女は攻撃を受け、じりじりと後退していく。その様子を見て、ほむらは舌打ちをする。

 

「なら……これで、どう?」

 

 盾の中を探って今度は筒のようなものを手に持ち、魔女へと放り投げた。すると筒の中から大量の煙が吹き出して、それらは魔女を覆いつくし視界を完全に遮った。

 

「よし……」

 

「待てよ……」

 

 その状態を確認して、別の足場へと飛ぼうとする。だが、彼女の腕をさやかが掴んだ。

 それを鬱陶しそうにほむらは見る、一方のさやかは今にも泣きそうな表情をして激昂した。

 

「どういうことだよ……転校生ェ!! アンタ……なんで黙って見ていた!! どうしてマミさんを助けなかった!!!」

 

「さ、さやかちゃ……「まどかは黙って!!!」」

 

 襟元を乱暴に掴み、ほむらの顔を引き寄せる。その態度にほむらは顔色一つ変えずに答えた。

 

「馬鹿言わないで、敵をわざわざ助ける奴が何処にいるというの?」

 

「ッ!!!」

 

 まどかは信じられないものを見るように必死に首を横に振って「そんなはずない……」と自分に言い聞かせていた。

 

「それよりも邪魔よ、貴女」

 

 わなわなと体を震わせるさやかの体を突き飛ばして、その場からマミの亡骸まで飛んだ。そして無惨に食い散らされた身体を肩に担ぎ、分断された頭部を反対側の手を持って、それをまどか達の前へ放り投げた。

 

「ヒッ……」

 

「うっ、くっ……」

 

「よくその目に焼き付けておきなさい。魔法少女になることがどんなことか、そして一番迎える確率の高いその末路を……」

 

 身体を痙攣させるまどか、胃の中のモノを戻さないように必死に口元を抑えるさやか、彼女達を他所にほむらはただ冷酷に魔法少女について語っていた。

 

 それからほむらは何をするかと思えば、マミの身体に手をかざして魔女によってつけられた傷を治し始めた。

 すると傷は瞬く間に……とはいかないが、徐々に塞がっていって分断されていた頭と身体もしっかりと繋がれた。

 

「どういうつもりよ……」

 

「せめてもの償いよ」

 

「アンタ、それでも人間か?! 傷ついた身体を治して、はいこれでお仕舞い。一件落着なんて本気でそう思っているのかよ!!

 そんなことしたって……死んだ人は、マミさんが戻ってくるわけないだろ!!!」

 

「酷いよ……ほむらちゃん、こんなのあんまりだよ……」

 

 そう怒鳴り散らして、マミの表情を見る。それは恐怖で歪んでおり、例え身体につけられた傷が治ったとしても何一つとして救われない遺体だった。

 さやかはマミの亡骸に顔をうずめて泣いた。まどかも少し離れた場所でキュウベぇを手に持ちながら泣いていた。そんなまどかにキュウベぇはそっと囁いた。

 

「まどか、君が契約さえすればマミを生き返らせることだって可能なんだよ。もし本当にまたマミと会いたかったら今すぐ僕に言うといいさ」

 

「本当に……マミさんを生き返らせるの?」

 

「勿論さ! 君はとても言葉では言い表せないほどの素質を持っている。マミを生き返らせるなんて造作もないことだよ!!」

 

 契約の持ちかけに同意しようとするまどか、だがその瞬間に先程起こったマミの末路がフラッシュバックする。

 そして今しがたほむらが言った言葉が脳内で自動で再生される。

 

「うあぁあ……わ、たしは……それでも……」

 

 これから待っている過酷で恐ろしい運命。それでもマミを助けたい。

 自分の命とマミの命、どちらを取るか…………思いあぐねていると、ほむらがそっとまどかを抱き締めた。

 

「大丈夫よ、まどか。あなたが犠牲を払う必要はないわ」

 

「…………えっ?」

 

 ほむらがそっと目を配らせて、マミの方へと視線を向けさせる。するとそこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開いて、まばたきをするマミの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が……起きたの……?」

 

「「「?!!!」」」

 

 死んだはずのマミが生き返ったことによりまどか、さやか、キュウベぇが驚く。それから一泊置いてキュウベぇはあることに気づいて小さく言った。

 

「これが君の狙いだったのか……暁美ほむら。

 ソウルジェムが魔法少女の本体であることを利用して、わざとまどか達にマミの死に様を見せつける……そうすれば二人は契約することを躊躇い、もしかしたら止めるかもしれない。

 それを見越した上でこの方法を取ったわけか……」

 

「えっ…………?!」

 

 とんでもない爆弾発言を耳にしてまどかは目を丸くする。しかし今話したことは近くにいる三人にしか聞こえていなく、マミの生存に喜んでいるさやかの耳には届いていなかった。当然マミにも……

 

「ご名答、そして説明乙。ネタバレするつもりはなかったけど、これが私が考えた策よ。

 残酷で非道なやりかただけども、これがロクに魔力を使うことのできない私に出来る最高の手段だったわ。

 あの時、巴マミと交戦したとき私の狙いは彼女を無力かすることでは無く、ソウルジェムを奪うことだったのよ」

 

「ほむらちゃん……」

 

 マミが生きていたことについての喜びとまた疑ってしまったという罪悪感の二つが混じりあった涙を流すまどか。その彼女の頭をほむらは優しく何度も撫でる。

 

「あなたの考えていることは分かっているわ。だからそんなに自分を責めないで……何も話さずにいた私が全部悪いのだから……」

 

「ごめんなさい!!」

 

 ギュッとほむらの身体に回していた腕の力を強める。

 

「またわたし、ほむらちゃんのこと疑っちゃった……信じるって約束したのに……」

 

「あなたが謝る必要なんてどこにもないわ。これは私が独断で行った行為、責められるのも覚悟はしていた」

 

「ありがとう。それと、図々しいかもしれないけども……もう少しこのままいさせて……」

 

「えぇ……」

 

 

 

 

 

「イヤアアアアアァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

「「「?!!!」」」

 

 ほむらの優しさからなる暖かな気持ちに包まれるまどか。だがその気持ちはマミの鋭い悲鳴によって消えた。

 

「マミさん、落ち着いて!!」

 

「美樹さん……私、死にたくないよぉ……」

 

 魔女に食べられた時のことが鮮明に表れて、怯えるマミ。どう見ても今の彼女はまともに戦える状態ではない。

 そんな彼女を必死にさやかが慰めていると、ほむらが大きく叫んだ。

 

「マズイ、見つかった!!」

 

「「「えっ?!」」」

 

 視線の先には怒りを顕にして凄まじい形相で彼女らを睨む、お菓子の魔女がいた。

 

「あぁ…………」

 

「どうすんのよ、この状況……」

 

「そんな……」

 

 てっきり倒されていると思い込んでいた二人は絶望した表情をし、マミは血の気がすっかり無くなっており顔を真っ青にして怯えていた。

 そんな中、ほむらは立ち上がって魔女と再び対峙する。

 

「こいつを倒すのは私。あなた達は早くこの部屋から逃げなさい」

 

「「…………」」

 

「ほむらちゃん……」

 

 黙ってほむらのことを見つめる三人。しかしそこへキュウベぇがほむらに警告する。

 

「君一人では無理だ。先程の攻撃もダメージはあまり受けていないように見える。

 それにただでさえ少ない君の魔力はマミの治療でほとんど使いきっている。仮に倒せたとしても魔力を使いきって力尽きてしまうよ!」

 

「珍しいわね、お前が私を心配するなんて」

 

 口ではそう言っているが、その目は驚きではなく怒りが篭っている。

 

「でも大きなお世話。私は戦うし、死ぬつもりも……ない!!」

 

 言い切るのと同時に両手に銃を構えて魔女へ向かっていく。

 その後ろ姿を見てキュウベぇは嘆息しているだけだった。

 

 

 

 

「すっげぇ……転校生の奴、魔女を圧倒している……」

 

 さやかちゃんの言う通り、魔女の戦いはほむらちゃんの方が押しているように見える。

 でもわたしにはとてもそうは思えなかった。さっきから一方的に攻撃しているほむらちゃんの顔には余裕が全然見られない。それに心なしか動きも段々と鈍くなっているようにも感じた。

 

「暁美さん……ダメよ、これ以上は……」

 

 マミさんも気づいているみたい。隠しているつもりだったのかもしれないけど、わたし達と話している時のほむらちゃんはずっと肩で息をしていた。

 

『____!!』

 

「くっ……!」

 

 たまに仕掛けてくる魔女の反撃を紙一重で避ける。

 攻撃のペースも悪くなってきて、反撃される機械も増えてきた。ハラハラしながら戦いの行方を見守る。そしてその時が来てしまった。

 

 噛みつきを避けたほむらちゃんだったけど、逃げた先が魔女に予想されてしまって追い討ちを受けてしまった。

 魔女の巨大な胴体がほむらちゃんにぶつけられる。

 

「うぐっ!! がはっ……」

 

「ほむらちゃん!!」

 

「だ、ダメよ鹿目さん。下手に動かないで……!」

 

 口から血を吐いて、そのままお菓子で出来た壁へと打ち付けられた。

 わたしは居ても立ってもいられなくなって、ほむらちゃんの飛ばされた所へと向かう。マミさんに呼び止められたけれど、それでも走り続けた。

 

「ほむらちゃん!!」

 

「ま、どか……逃げなさいって言ったでしょ……」

 

「ほむらちゃんを置いてそんなこと出来るわけないよ」

 

「前に言ったでしょ、あなたは私が守るって……」

 

 確かにほむらちゃんはわたしにそう言った。そしてわたしはそれに頷いた。でも本当は違う、あの時は今にも泣きそうな表情でお願いしていたから反論したくないからそうしたんだ。

 

『まどかは、暁美さんのことを本当に信じているのかい?』

 

 パパの言葉が不意に頭によぎる。そうだよ、ほむらちゃんは勇気を出して本音でわたしに話してくれた。だったらわたしも言わなくちゃ! 本当の気持ちを、わたしがほむらちゃんとどういう関係を望んでいるのかを。

 

「そんなの嫌だよ」

 

「えっ?」

 

 ほむらちゃんがビックリした様子でわたしを見る。その顔が珍しくてちょっとだけ嬉しかったけど、そのまま続けた。

 

「ほむらちゃんとそんな関係なんて望んでいない。わたしはあなたと守る守られる関係じゃなくて、一緒に横に並んでお互いに支え合っていきたいの。

 これ以上、ほむらちゃんが一人で傷つくところなんてもう見たくない。もう二度とほむらちゃんだけに辛い思いはさせない。だからお願い、わたしも一緒に戦わせて。一緒に戦う『相棒(パートナー)』になって!!」

 

「…………!!」

 

 何か言い返そうとする素振りをほむらちゃんは見せたけど、ため息を吐いてそれからわたしに笑顔を向けた。

 

「これじゃ、あの時と一緒ね。あなたは折れる気はないんでしょう?」

 

「勿論だよ」

 

「随分と頑固な子になったわね。でもそんなところもあなたの良いところよ」

 

「ありがとう。じゃあ、久しぶりにやろっか!」

 

「そうね、行くわよ。まどか!!」

 

 立ち上がってわたしの横に立って、中指につけている指輪をわたしに渡す。そして一歩後ろに下がって大きなケーキに寄りかかった。

 わたしは受け取った指輪を中指にはめて、指を組んで大きく唱えた。

 

 

 

『「変身!!!」』

 

 

 

 今の自分とは違う姿、ほむらちゃんと一緒に戦うための自分になる『魔法の言葉』を。

 

 

 

 

 魔法少女に変身したまどかだったが、彼女の右手に何かが握られていることに気づいた。

 

「これって……弓? 今までこんな武器無かったはずなのに……」

 

 いつもとは違うスタイルに戸惑っていると、ほむらがまどかに呼び掛けた。

 

『まどか。来るわよ!!』

 

「ッ!!」

 

 見上げるとそこには憤怒で顔を歪めたお菓子の魔女がいた。先程まで散々ほむらに翻弄された為、怒りが頂点まで達した模様だ。

 魔女は大口を開けてマミと同じようにまどかを頭から喰らおうとしていた。だが、ほむらの言葉に素早く反応したお陰で後ろに飛んで難なく避けることが出来た。

 すると魔女は周囲に大量の使い魔を召喚して、それらをまどかへ向けて襲いかからせた。

 

『盾から武器を取り出して、一気に殲滅させるわよ!!』

 

「オッケー!!」

 

 盾から二丁の拳銃を出し、向かってくる使い魔達へと銃口を向ける。そして容赦無く引き金を引いて使い魔を撃ち抜く。

 

『左後方から複数襲ってくるわ!! 気を付けて!!』

 

『右から魔女の凪ぎ払いが飛んでくるわよ!! 飛び上がって避けて!!』

 

 ほむらからのアドバイスに頷き、体の向きを変えて今立っている足場から別の場所へと移る。

 その移動の最中、爆弾を投げて攻撃するように指示されてそれに従う。

 使い魔が密集しているところへと爆弾を飛ばして、まとめて吹き飛ばす。

 

『爆風で相手が怯んでいる隙に弾の補充をしっかりしておいて!!』

 

「出来たよ!!」

 

『よしっ、なら第二波に構えておきなさい。まだまだ行くわよ!!』

 

 

 

「凄い……」

 

 離れた場所で二人の戦闘を見るマミは、その戦い方に見とれていた。キュウベぇも同じく感心した様子で話す。

 

「僕も実際の戦いを見るのは初めてだけどまさかこれほどとはね……想像以上だ」

 

「そんなに凄いの、あの二人って?」

 

「美樹さんは見慣れているから分からないかもしれないけど、コンビで戦うときもあそこまで息の合ったプレーなんか普通は出来やしないわ。ましてや一つの身体に二つの意識がある状態でなんてね」

 

「鹿目 まどかは暁美 ほむらに足りない魔法の威力、強大な素質を……対してほむらはまどかには無いこれまでの戦闘経験から磨かれた状況判断力、的確な射撃センスでお互いのデメリットを支え合う。

 更に双方のメリットを最大限に活用し、相乗されていってあり得ないくらいの力を発揮している。それぞれ全く違う精神を持っているはずなのに……わけが分からないよ」

 

「違う精神ね……」

 

 キュウベぇの言葉にさやかは表情を柔らかくする。

 

「あの二人は、身体だけじゃなくて心も一つになっているんだよ。きっと……」

 

 その言葉を聞いたマミは少しだけ悲しげな顔を見せた。

 

「羨ましいわね……そういうの……」

 

 

 

 

 一方のまどか達は倒しても次から次へと襲いかかってくる使い魔達に苦戦していた。

 

「ううっ……キリが無いよ……」

 

『私に考えがあるわ。まどか、高台へ飛んで頂戴』

 

「分かったよ」

 

 ほむらは何か作戦を思い付いたらしく、場所を移動するように促した。

 魔女の部屋を一望出来るくらいの高台へと着いたまどかは、ほむらの作戦について尋ねる。

 

「ねぇ、ほむらちゃん。どうやってあんなにたくさんの使い魔を倒すの?」

 

『変身したときに手に持っていた弓があるでしょ、あれを使うの』

 

「でもわたし弓なんて使ったこと無いよ」

 

 弱気な台詞にほむらは可笑しそうに笑う。

 

『大丈夫よ、あなたにならきっと出来る。ほら弓を出して』

 

 言われるがままに弓を出して、魔力で矢を作り出し、限界まで引っ張る。

 それから上空へ矢を向けて、ほむらに言われた通りのイメージを想像する。そして技名と一緒に矢を放った。

 

 

 

「マジカルスコール!!!」

 

 

 

 掛け声と共に空高く放たれた矢は空中で四散して、雨のように一帯に降り注いだ。

 その攻撃によって、魔女の使い魔は全滅して残った魔女も相当弱っていた。

 

『まどか、今のって……』

 

「必殺技だよ!! マミさんだって使ってたでしょ?」

 

『はぁ……油断しないでよ?』

 

「分かってるって、でも次はほむらちゃんも一緒に言ってね?」

 

『正直気が進まないけど……』

 

 呆れた感じで話すほむらだったが、まどかはすっかりノリノリでいた。内心でマミの二の舞になら無いようにしなくちゃ……と思いながら、トドメの一撃を放つべく魔女に矢を向ける。

 

「これで決めるよ!!」

 

『ええ!!』

 

 

 

「『フィニトラ・フレティア!!!』」

 

 

 

 放たれた一撃は魔女を貫き、爆発四散した。こうしてお菓子の魔女、シャルロッテは彼女達の手によって見事倒されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 二人に戻ったまどかとほむらは、魔女の部屋の外で見守っていたさやか達と合流した。

 変身をする前にほむらが負っていた怪我も解除されたときには、やっぱり最初の変身後と同様に治っていた。

 

「ふぃ~、疲れたよ~」

 

「まどか、お疲れさま。何処か怪我とかしてないかしら?」

 

「うん、背中がちょっと痛かったりするけど、多分久しぶりに動いたから筋肉痛だと思うな」

 

「無理は禁物よ」

 

「ほむらちゃんもね」

 

「暁美さん!!」

 

 仲良く横並びに結界の出口へと向かう二人。そんなときマミがほむらに呼び掛けた。

 

「何かしら?」

 

「どうして私を助けてくれたの? 今まで私はあなたにたくさん酷いことをしてきたのに……」

 

「ただ魔女がいたからそれを倒した。それだけに過ぎないわ」

 

「なら、自分の魔力を犠牲にしてまで私を救うことだってしなくて良かったじゃない……そのせいで暁美さんはあんなに傷ついて……」

 

「別にもう治ったから気にしなくて結構よ」

 

 マミの言葉に淡々と返すほむら。そんな彼女の腕をまどかが強くつねった。

 

「ちゃんとマミさんと話さなきゃダメだよ、ほむらちゃん」

 

「……仕方ないわね」

 

「正直言って話したくないっていう気持ちでいるのは分かっているわ。でもそれを踏まえてでも伝えておかなくちゃならないことがあるの」

 

「…………」

 

「私ずっとあなたのこと疑っていた……鹿目さん達を利用して何かよからぬことを企んでいるってずっと勘違いしていた。

 あなたが私のことを気にかけてくれていたのに、私はそれに対してまともに取り合おうとせずにあまつさえあんな酷いことをしてしまった。

 それなのに……それなのに、どんな理由があってもこんな私を魔女から助けてくれて、ありがとう……そしてごめんなさい…………」

 

 話をしている内にマミの目から涙が溢れていた。それでも構わずにマミは懸命に謝罪と感謝の言葉をほむらに言い続けた。

 その一連を見ていたほむらはあることを語り始めた。

 

「私がまだ魔法少女でなく、何の取り柄も無かった弱い自分でいたときだった。自己嫌悪に陥って、いっそ死んでしまおうと思っていたときその心の闇を魔女につけこまれ、殺されかけた。

 でも、そんなとき私を暗い絶望から救ってくれた人達がいた…………」

 

「??」

 

 急に一人、話し出したほむらにマミは不思議そうに首を傾げるだけだったが、ほむらは構わずにいた。

 

「それが私が魔法少女という存在を知って、助けてくれた彼女達に強い憧れを持った瞬間だった。その魔法少女の内の一人があなたなのよ『マミさん』」

 

「!!」

 

「あんた今……」

 

「マミさん、って……」

 

 ほむらの放った言葉に一同、驚きを隠せずにいる。それからほむらは優しく微笑んで言葉を続けた。

 

「まどかに言われてよく考えてみたの。私にとってあなたはどういった人なのか。そして気づいたの、強くて頼りがいがあって……でもちょっぴり繊細で私にとって大切な恩人。

 だからあなたにどう勘違いされようとも、敵対されたとしても私は全然気にしてなんかいないわ。どんな形であれ、『今度は』あなたの命を救うことが出来た……それだけで十分なのよ」

 

 その告白は、これまでの繰り返してきた時間軸の出来事を振り替えり、彼女の本心であった。それを聞いてマミは号泣し、まどかは嬉しそうに二人のことを見ていた。

 

「あけ……みさぁぁん……」

 

「もしあなたが私のことを信じてくれるのならお願いしたいことがあるの、いいかしら?」

 

「うん……」

 

「これから私と魔女を一緒に倒してくれないかしら?」

 

「もちろん……です」

 

「違うよ、ほむらちゃん」

 

 泣きながら応えるマミだったが、そこへまどかが首を振った。そして笑顔でほむらの発言を言い直した。

 

「『私達』と……でしょ?」

 

「そうね……そうだったわね」

 

「ありがとう……鹿目さん、暁美さん。ぐすっ……わぁぁぁあああん!!」

 

 二人にお礼を言って、ほむらの胸の中でマミはこれまでの感情の糸が切れたようにしばらくの間、泣き続けていた。

 

 

 

 

 結界から出て、四人がそれぞれの帰路へ向かおうとしたとき不意にさやかが提案をした。

 

「ねぇ、まどか。このまま魔女との戦いで疲れたマミさんと転校生を一人で帰らすのはマズイと思うから、二人バラバラで家まで送っていかない?」

 

「「えっ?」」

 

 急なことにマミとほむらは固まっていたが、まどかはさやかの意図に気づいたのかにっこりと笑って、マミの手を引っ張った。

 

「それならマミさん、家まで案内してください。しっかりとエスコートしますから!」

 

「えっ、でも……」

 

「ほらほら早く!」

 

「あのっ……鹿目さん?!」

 

 まどかに連れられていく様をほむらは呆然と眺めていると、急に彼女は謎の浮遊感を感じた。

 見るとさやかがほむらの身体を抱えて、背中へ乗せていたのだ。

 

「ちょっ……美樹 さやか?!」

 

「傷は治っていても、まだ無理しているでしょ? 家までこれで送っていくよ」

 

 

 

 夕暮れの帰り道、さやかはほむらをおぶりながらゆっくりと歩いていた。そしてほむらに話しかけた。

 

「あたしもさ……ずっとアンタのことを誤解していたよ。

 この前、公園で話したときだってやましいことがあって隠し事があったわけじゃないんでしょ?」

 

「…………えぇ」

 

「そのことを薄々分かっていたのにさ、しっかりあたしの方から歩み寄ろうとせずに一方的に突っぱねて……ずっと後悔していたんだ。

 だからさ…………その……許してくれ、とは言わないけど……まどか達と一緒にいる間は、あたしと仲良く接してくれないかな? それ以外の時はどんなことをしても構わないからさ……お願い、転校生!!」

 

「…………」

 

 無言でなんの反応も示さないほむらをさやかがただ待った。彼女が自分の謝罪に、償い方に対する応えを……

 ほむらはゆっくりと口を開いた。

 

「そんなやり方じゃ、ダメよ」

 

 そう言い放たれ、さやかは寂しそうな顔をする。だがその直後、彼女の首にほむらの腕がそっと優しく回された。

 

「まどかの親友にそんな酷いことなんて出来ないわ。だから私から代わりに条件を出しても構わないかしら?」

 

「うん……何だって構わないよ」

 

「ほむらよ」

 

「えっ?」

 

「転校してもう一週間経つのだからそろそろ名前で呼んで欲しいのよ。いつまでもそれじゃ『友達なのに』よそよそしいでしょ?」

 

「てん……いや、ほむらぁ……」

 

「何かしら『さやか』」

 

「ううん……何でもない」

 

「なら早く家へ向かって頂戴、だいぶ日も落ちてきたからね」

 

「了解!!」

 

 さやかは表情を明るくさせて、さっきよりも軽い足取りでほむらと一緒に夕日に包まれている街中を歩いていった。

 

 

 

☆ to be continued…… ★





※よくよく考えてみると、まどほむの変身って第1、2話でやったっきりなんですよね。第4話は変身寸前!ってとこで終わっちゃうし……次章からは戦闘シーンかなり増えてくのでそこもお楽しみに。

では、次回また会いましょう。


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epilogue ~ 明日を信じて……


※第2章のepilogueを作る兼ね合いで、ついでに第1章も作成しました。

※内容自体は第12話のラストシーンと変わりませんが、若干の変更がされています。描写に関する部分の変更なので大した影響は出ていないと思います。

※最後の語りを少し変更しました。


 

 

 

 次の日、わたしはいつも通りの待ち合わせ場所でさやかちゃんと仁美ちゃんと合流した。

 

「おはよう。まどか」

 

「おはようございます。まどかさん」

 

「うん! 二人ともおはよう」

 

「それじゃ、まどかも来たことですし……いつも通り行きますか!」

 

 そうして三人で登校していると、向こうから学校へ向かっているほむらちゃんの姿が見えた。

 するとほむらちゃんと目が合って、わたしは嬉しくなって手を振って名前を呼んだ。

 

「おーい、ほむらちゃ~ん!!」

 

 わたしの呼び掛けにほむらちゃんも嬉しそうに手を振って、わたし達の元へ来てくれた。

 

「おはよう。朝から元気ね」

 

「そりゃあ、さやかちゃんはいつだって元気ハツラツ。風の子、元気な子だからね~」

 

「あら居たのね、さやか。色が保護色になって気がつかなかったわ」

 

「なんだと~、ほむらだって暗かったら何も見えないくせに」

 

「誰の性格が暗いって?」

 

「言ってねぇよ!!」

 

「まあまあ、さやかちゃんもほむらちゃんも……」

 

 軽い言い争いをする二人だったけど、そこにはこの前までのようなギスギスした雰囲気は感じられなかった。良かった……ちゃんと仲直り出来たんだね、さやかちゃん。

 

「まどかはピンクだから割りと何処にいても目立つよね~」

 

「ティヒヒ、じゃあさやかちゃんはわたしより地味なのかな?」

 

「言うねぇ~、そこまで言うのなら……まどかをあたし色に染めてやる~」コチョコチョ

 

「あははは!! やめてよ~」

 

 さやかちゃんにくすぐられて抵抗していると、仁美ちゃんがほむらちゃんに話しかけているのが見えた。

 

「暁美さん」

 

「何?」

 

「勇気出せたのですね」

 

「あなたのお陰よ、その甲斐あってこうしてまた彼女達と仲良く出来たから」

 

「私はただ背中を押しただけに過ぎませんわ」

 

「それでも感謝している。ありがとね『仁美』」

 

「はい、ほむらさん」

 

 

 

 こうしてわたし達はまたほむらちゃんと仲良くなれて、もっと親しい関係になりました。

 

 またみんなの笑顔を…そしてほむらちゃんの笑顔を見られるようになってよかった、と思うと……それはとっても嬉しいなって思ってしまうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、このときのわたしは知らなかった……ほむらちゃんのことを何も……

 

 

 どんな願い事で魔法少女になったのか、何のために魔女と戦い続けているのかも……

 

 

 何故そんなにわたしなんかのことを気にかけてくれるのか、彼女は何を考えて生きているのか……

 

 

 そして、時折見せる笑顔の裏に潜む影……内に秘めている闇の正体を……

 

 

 あの事件があるまでは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「これがお菓子の魔女のグリーフシードか……魔法少女の生命線となるものを忘れるなんて、案外アイツらも抜けてるのかねぇ?

 まっ、どっちでもいいや。それにしてもあの二人を殺さなくて本当に良かったのかぃ?」

 

??「問題ないわ。あちら側にはまだこちらの知らない手札が残っている」

 

???「あの青い奴のこと? 見る限りアイツは大した素質も持っていなさそうだけど」

 

??「念には念を入れたいものよ。それに今はまだ好機ではないと告げているからね……」

 

???「そうかい、ならいいや。じゃあ次の作戦は?」

 

??「そうね……風見野にいるあの子にでも協力してもらおうかしら?」

 

 

 

☆ to be continued…… ★







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Intermission1
軌跡の追憶 ~ 登場人物紹介&裏話



※今回は特別編、案内人は彼女にやってもらいます。



 

 

 

「あら、いらっしゃい。その様子だとあなたは彼女達の物語を見届けたようね」

 

「ここは世界の裏側……本来ならば誰からの干渉も受けない孤立した空間。まあ、なにかしらね……分かりやすく言うと物語には直接関与しない場所、『幕間の場』ってやつかしら?」

 

「詳しく話そうと思えば話せるけれど、今はそんな気分でもないしね。とりあえずここで行うことを説明させてもらうわ」

 

「ここでは、物語に登場した人物達の紹介や執筆中の裏話などを喋っていくわ」

 

「もう一度、言うけれどここでの話は物語には直接関わってこないからこのまま第13話を見たとしてもなんの影響もないわ。もしあなたが見る必要が無いと思えば、私はそれでも一切構わない」

 

「さて、いつまでもダラダラと喋るのは私の性分に合わないからとっとと始めましょう。まずは……お約束の人物紹介からよ」

 

 

 

☆鹿目 まどか☆

 

 この物語の主人公。

 平凡でごく普通の女の子であったが、転校生の暁美 ほむらと出会いから魔女と戦う運命を受け入れる。

 自分よりも他の誰かのことを優先してしまうほどの優しい性格で、そのせいで自身を粗末に扱ってしまうこともある。

 

 ほむらとは彼女が転校生として学校に来る一週間前から出会っていて、その間に様々な出来事があり一緒に魔女を倒す仲間であり友達となる。

 その後、さやかとマミからの警告を受けてから隠し事を打ち明けないほむらに不審を抱き、一時だけ距離を置くようになる。

 しかしその態度によってほむらが深く傷ついたことを知り、彼女の家に直接出向いて仲直りをして『友達』となり共に魔女と戦う『相棒』となる。

 

 

 

☆暁美 ほむら☆

 

 もう一人の主人公で主に彼女を中心に物語が進行していく。

 幾つもの時間軸を渡り歩き、未来からやって来た魔法少女。クールな雰囲気を纏った少女として振る舞っているが、昔は気弱で自分に自信が持てずに苦悩していた。

 たった一人の友達である鹿目 まどかを救い、魔法少女という狂ったシステムに巻き込まないことを目的としており、まどかの為ならば何だってする固い決意をもって魔女と戦い続けている。

 

 前の時間軸でワルプルギスの夜の攻撃を受けて、時間遡行が出来ない状態にしまったはずだが、何故か次の時間軸へと移動してしまう。

 だが、目覚めたとき彼女の魔力が激減してしまったり、固有魔法の時間停止が使えなくなってしまったりと大きく弱体化していて、使い魔を倒すことすらもやっとの状態。

 それでも過去のループでの経験を生かして使い魔と戦い、最近では魔女相手でもまともに戦えるようになってきている。

 まどかのことは『たった一人の大切な友達』としていたが、お菓子の魔女戦以降、共に戦う『相棒(パートナー)』となって彼女と横並びになって互いに支え合う関係になる。

 さやか、マミとは一時期敵対していたがしっかりと和解し仲間として接するようになった。

 

 過去の時間軸でまどかに『死よりも重い罪』を犯してしまったらしいが、今はまだ明かされていない。

 

 

 

☆美樹さやか☆

 

 まどかのクラスメートであり、幼い頃からの親友。

 活発的で男勝りな性格の持ち主でちょっぴりアホの子。だが、ほむらが何か隠し事をしていることを見抜いたりなどと相手の本質を見抜くことに人一倍長けている。

 他にも思い込みが激しかったり、昔から想いを寄せている上條恭介の前では華の乙女と変化する。

 

 転校してきたほむらを敵視していたが、疑いきれずに何度か自分から彼女に近づこうとしていた。

 正義感がとても強く街の為に日々戦い続けているほむらや(特に)マミには憧れを持っている。

 今はほむらと和解して友達としての関係を築いている。ちなみに彼女は11話までの段階で一度だけ彼女のことを名前で呼んでいる。

 

 

 

☆志筑仁美☆

 

 まどか達のクラスメートで親友。

 おっとりしていて、さやかとは真逆のお嬢様な性格をしている。

 女の子同士の恋愛事を禁断の恋でいけないと言っているが、実はまんざらでもないとか……?

 

 あまりほむらとは接点が無かったけれども、まどかと言い争いになって落ち込んでいた彼女を励ましてその背中を押してあげたことにより名前で呼び合う関係になる。

 

 

 

☆巴マミ☆  

 

 見滝原中学に通う三年生でまどか達より一つ年上の先輩。

 ほむらと同じく魔法少女だが、ループ云々を抜かすと登場人物の中で一番歴が長い。

 その実力は確かなもので、慢心さえしなければ基本的に敵無しの強さを誇る。

 幼い頃に交通事故で両親を亡くして、その時にキュウベぇと出会い魔法少女としての運命を背負う。

 

 キュウベぇの警告からほむらのことを危険視していて、まどかやさやかに彼女を遠ざけるようにと指示していた。

 だが、ほむらを拒んでいる時の二人の表情を見て自分の行ったことが本当に正しかったのかと悩んでいた。

 お菓子の魔女戦では、魔女に頭部を食われて死んだかのように思われていたが、先のほむらとの戦いでソウルジェムを奪われていた為、難を逃れる。

 その後、まどか達と共に戦おうとするも、魔女に殺されかけたトラウマを拭いきれずに共闘は叶わなかった。

 戦いを終えて、これまでの態度についてをほむらに謝って無事に和解した。

 

 

 

 

 

「こんなところかしらね……ここで紹介される人物は、章ごとにおいての主要人物だけだから毎回、同じ人が書かれることは無いわ」

 

「じゃあ次は、物語を書いているなかでの秘話……というほどのものではないけど裏話的なことを話していきましょうか」

 

 

 

《その1》

 

★当初の予定では、ほむらがまどかと最初に出会うところから始めようとしていた。

 

「一番最初に考えていた構図だったわね。本当は二人の出会い→初変身→魔女少女の説明→日常回→ほむら転校……という流れでなる予定だったけれども、けっこうグダグタ展開になると予想されたから今のような話の作りになったわ。

 前後二話にして、サブタイトルをアルファベット26字にしたのもそれできっちりと話を締められるように計画して考えられたものなのよ。

 でもそれが仇となって第4話や第10話、第12話のような悲劇が起こってしまったのよね。考えているようで実は何も考えていない、作者の計画性の無さが顕になった瞬間だったわね」

 

 

 

《その2》

 

★魔法少女の魂の有り所の説明は、第10話の時点でほむらが言うつもりだった。

 

「本編ではインキュベーターが勝手に説明してくれたけど、本来はソウルジェムの秘密をまどかに話して、そこから巴マミの危機について教える予定だったのよ。

 勿論、そうしなかったのも理由があるわ。作者としてはあの段階で暁美ほむらを素直なキャラにしたくなかったのよ。

 そうなってしまったから、まだ彼女の真実を打ち明けられずに葛藤する描写が無くなって全体的に薄っぺらい物語になるのでは? と危惧したからよ(元々、薄っぺらいとか言っちゃダメだからね)。

 というのが、綺麗な理由で実際はその下りを入れて文字数を計算すると12000字オーバーに達してしまったから泣く泣く削ることにしたらしいわよ……」

 

 

 

《その3》

 

★第11話を完全に書き終えるまで、マミさんを魔女に殺させる予定でいた。

 

「そっちの方が面白そうだった。って思う人もいるかもしれなかったけど、それをやっちゃうと主人公二人の共闘シーンが滅茶苦茶少なくなる感じだったから巴マミ生存ルートに切り替えたわ。

 第12話の後書きにも書いたけど、最初の話から一度も二人で変身していないのに「これじゃ、TVアニメのまどかと同じになるじゃねぇか‼」と途中で思ったのも理由の一つよ。

 後、作者がまどほむのほのぼのシーンを増やしたかったからというのも入ってるわね」

 

 

 

 

 

「これで今回は終りね。色々とカミングアウト出来たので、これで更にこの作品を深く楽しんで、作者が今後どういった展開を作っていくのか予想してもらえると嬉しい限りだわ」

 

「そして物語は第二章に移っていくわね。お菓子の魔女との戦いを終えて、お互いに仲間として相棒といて意識し出した彼女達の前に次はどんな物語が待っているのか期待して待ってて欲しいわ」

 

 

 

「えっ、私の正体ですって? ふふっ……それはいずれ物語が進めば分かることだと思うわ。まあ私の存在を語るのだのだとすれば『魔法少女としての因果そのもの』かしらね。

 強いて名前を付けるとしたら『案内人』って呼んでもらえれば助かるわ」

 

「じゃあこんどこそ今回の話を終わらせてもらうとするわ。それじゃあ、またいつか会いましょう♪」

 

 

 

☆ to be continued next chapter…… ★

 





☆次話予告★


「んで、例のほむらちゃんとはどんな関係なのよ?」

「これはこれで、アリかもね~」

「やっぱり……あなたの方が似合うわね……」

「うん……わたしは、好きだよ……」


第13話 Aのひととき ~ 相棒の証


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Extra1 始まりの朝


※未公開シーンその1は……タイトルの通りです。
※それでは、どうぞッ!!



 

 

 

『鹿…まどか、君には……を変え…れるだ……力が…る』

 

『まどか、ソイツの…葉に耳を………ちゃダメ!!』

 

 耳元で誰かの呼ぶ声が聞こえる。どちらも聞き覚えがない声だ……

 目を開けて、姿を確認しようとしたけども何故か靄がかかって見ることが出来ない。

 

「誰……誰なの?」

 

『騙さ……いで、……ツの思…壺よ!!』

 

『僕と契約…て魔……女になっ…よ!』

 

「ねぇ! あなた達は……」

 

 ちゃんとした返事は返ってこない。わたしの声が届いているのかは分からない。

 ただ分かることと言えば、二人ともまるでわたしに何かを呼び掛けているような感じだ。

 

『ダメェェェェェ!!!』

 

 片方の声…女の子の悲鳴に近い叫びが聞こえる。

 その瞬間、頭の中に何かの映像が流れ込んできた。

 

 黒髪で、綺麗な顔だち、キリッとした目付きに不思議な服を着ている…あの子の名前は……!!

 

「………ちゃん!!」

 

 無意識の内に出したのは、誰かの名前だった。

 だけど、その名前がハッキリと出てこない。

 

 その名前をもう一度出そうと、口を動かそうとした時だった……

 

 

 

 

 

 ジリリリリリ!!!

 

 

 

 

 

「ふぇっ?!」

 

 目覚まし時計がけたましく鳴り響く。その音でまどかは奇妙な声を出しながら目を覚ました。

 

「あれ…? わたし…何だか不思議な夢を見ていたような……」

 

 夢の内容を思い出そうとするも、おぼろげでよく思い出せなかった。

 だがその中で彼女は一つだけあることを覚えていた。

 

「誰だったんだろう、あの子……」

 

 

 

 

 

 それからまどかは制服に着替えて、下のリビングへと降りて行く。

 リビングでは彼女の父親の知久と弟のタツヤがいた。

 

「おはよー。パパ、タツヤ」

 

「おはよう、まどか」

 

「ねーちゃ! おはよ~」

 

「ママは?」

 

「まだ寝てるみたいだね。まどか、いつものようにお願い出来るかい?」

 

「はーい」

 

 知久にお願いされてまどかは母、詢子が寝ている寝室へと赴く。

 

 

 

 

 

 

 バンッ!!

 

 

「Zzz……」

 

 寝室のドアを勢いよく開けるまどか。しかし詢子は起きる素振りを全く見せずにそのまま眠っていた。

 まどかはそのことを気にせずにスタスタとカーテンに近づき、ドアと同じように思いっきり開ける。

 

「うぅん……」

 

 日の光が寝室に差し込んできて、詢子はうなされながら布団をかぶろうとする。

 まどかはそうすることを許さなかった。

 

「おっきろーーー!!!」

 

「うぇあああ!!」

 

 布団を一気に引っぺがして、太陽の光の元にさらす。

 すると詢子はベッドの上で悶え出したが、しばらくするとそれを止めて周りをキョロキョロと見渡した。

 

「……あり?」

 

「おはよう、ママ」

 

 寝ぼけ半分の詢子にまどかは笑顔で挨拶した。

 

 これが鹿目家の朝の習慣なのである。

 

 

 

 

 支度を全部済ませた後、まどかは家族と共に朝食を取っていた。

 すると知久がまどかにこんなことを聞いてきた。

 

「まどか。さっき起きてくる前に何か大きな声で喋っていたような気がしたけど、何かあったのかい?」

 

「えぇっと、たぶんそれ……寝言だと、思う」

 

「寝言?」

 

「うん…ちょっと変な夢見ちゃったから……」

 

「へぇー、どんな夢だい?」

 

 大きい声で寝言を言っていたことに恥ずかしく思いながら、話していると詢子がちょっと興味深そうに夢について尋ねてきた。

 

「よく覚えていないんだけどね……

 目を瞑っていたら声が二つ聞こえてきて、わたしに何かを呼び掛けているの……

 片方が凄い声で叫んでいて…もう一つが……」

 

 不確かな記憶を必死に呼び起こそうとする。そして一ワードだけ思い出した。

 

「……魔法少女に、ならないかって言っていた…気がした」

 

「へぇー」

 

「ほぉーん」

 

「ねーちゃ、まほーつかい?」

 

 まどかの言葉に三人はそれぞれ反応を見せる。

 

「あ、あはは……へ、変な夢だよね……」

 

「確かに不思議な夢だったね」

 

「まっ、いいじゃんか。まどかくらいの歳だったらそういう夢くらい見るって」

 

「まほーつかい、かっこいいー」

 

 詢子と知久はうんうんと頷いている中、まどかは恥ずかしそうに俯いていた。

 そんな様子を見て、詢子はまどかの肩に優しく手を置いた。

 

「なーに、恥ずかしがることないってこの年頃の子はな、みーんな似たようなことがあるさ」

 

「そうなの……?」

 

「そっ、子どもは夢を見ることが出来る生き物だからね。だからそういう経験が出来たまどかはラッキーだってことさ」

 

「夢を見る……じゃあ大人はどうなの?」

 

「んー、そうだねぇー」

 

「夢を叶えることが出来る生き物、じゃないかな?」

 

 知久がフォローを入れると、まどかはなるほどと頷く。

 それに詢子が付け加えて言った。

 

「確かにそうかもしれないけど、大人になるにつれて厳しい現実だって知っていくことになる。

 だから夢を叶えると言っても、必ずしも自分の理想通りになるわけじゃないからな。それだけはしっかりと覚えておきな」

 

「はーい!」

 

「……ってなんでこんな話になったんだろ?

 ま、いっか。そう言えば前に話していた仁美ちゃんのラブレターの件、どうなったんだ」

 

「それがね…あれから更にもう一通ラブレターが届いたんだって

 

「へぇーそれは凄いね」

 

「ふっ……」

 

 感心する知久だったが、詢子はそのことを鼻で笑っていた。

 

「直に告白できないような奴がラブレターなんか書くなっての」

 

「あはは…相変わらず厳しいね。ママ」

 

「当然さ。まだ中学生には先の話だけども、将来のパートナーってのはしっかりと選ばなくちゃいけないからな。

 相手がしっかりとした人じゃないと苦労するのは自分だからね」

 

「そのパートナーってどういう人を選べばいいのかな?」

 

「一緒にいて心が安らぐような人、自分のことを大切に想ってくれる人、その人のことを本気で大事にしたい。

 後は…その人と一緒にこれからもずっと生きていきたい。そういう人だな」

 

「ママにとってのパートナーはパパなんだね」

 

「勿論さ、パートナー選びにはその人への愛も大事になるんだからな」

 

「そうそう。それがあるからパパはママと結ばれたんだからね」

 

 二人はそう言って笑い合う。その様子にまどかは羨ましそうに眺めていた。

 

「いいなぁ……わたしも早く出会いたいな~。そんなパートナーに」

 

「大丈夫。まどかにもきっと良い人が見つかるよ」

 

「そうそう自信持ちなよ。まずはそこからだ」

 

「……そうだね!」

 

 今朝、詢子から貰った新しいピンクのリボンを見ながらまどかは笑顔になる。

 自分の両親のように、大事に想いあえるような人といつか出会えることを祈りながら……

 

 

 

 

 

 これは…全ての始まりの朝に起こった出来事……

 

 

 

 

 





※一応これは番外編のようなもので、本編で明らかになっていなかったことや、今後の物語の伏線みたいな部分が入っているので色々と探してみてください。

※それでは、また次回!!


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Extra2 魔法よりも不思議なこと


※本当はこれがExtra1になるはずだったんですが、急に朝の出来事を書こうと思って、先にあれを投稿しました。

※時系列は第4話のまどかとほむらが変身した後です。



 

 

 

 鹿目まどかは、謎の声に導かれて気付かぬうちに魔女の結界の中へと入り込んでしまっていた。

 そんなことを知らないまどかはそのまま歩を進める。そして彼女は結界の奥で血まみれで倒れている友人、暁美ほむらを発見する。

 

 これは、お互いに支え合い共に戦うことを誓った二人の少女達の話__語られることの無かった絆の物語。

 

 

 

 

 

 

(わたしがほむらちゃんを守らないと!!!)

(私がまどかを護らないと!!!)

 

 

 

 魔女の魔の手からお互いをかばい合いながら身を寄せ合う二人。

 そのとき不思議なことが起こった。

 

「「?!!」」

 

 まどかとほむらの体が桃色と紫色に突然光り出したのだ。

 光は二人を包み込んで、それは結界に広がった。

 やがて光はおさまって中から一人の少女が姿を現した。

 

「えっ、えっ……?!」

 

 謎の現象にまどかはおろおろと辺りを見渡す。

 そして自分の足元にほむらがいることに気付き、体を揺する。

 だが、ほむらは何の反応もせずにまるで死んだように横たわっていた。

 

「ほ、ほむらちゃん…しっかりして!!」

 

「」

 

 返事が返って来ないことに焦りを感じるまどか。

 しかし彼女が待つ声は予想外の場所から聞こえてきた。

 

『これは…何が起こったの?!』

 

「ほむらちゃん?!」

 

 不思議な感覚に戸惑っていると、ほむらがぐったりと地面に倒れている自分の体を見た。

 

『どうして私の体が……? それにこの感覚…自分の身体じゃないような……』

 

「ほむらちゃん、ちょっと待って!!」

 

『まどか?』

 

 色々なことが一辺に起こって頭の整理がつかなくなっている二人。

 取り敢えず、ほむらに黙ってもらうことにしたまどかは自分の体と服装をじっくりと確認してみた。

 

 見慣れない服装に左腕についた大きな円盤のようなもの。

 すらっとした手足に少しだけ高くなった目線。

 そして腰の辺りまで伸びた癖が全くないピンクの髪。

 

 外見だけ見ると髪の色以外は全てほむらの特徴と一致している。

 倒れていた時にしていた彼女の服装。

 それに加えて、直接語りかけてくる彼女の声。

 

 これらを考えてまどかは一つの結論に至る。そしてそれは、ほむらも同じだった。

 

「わたし、ほむらちゃんとくっついちゃった?!」

『私、まどかと融合したというの?!』

 

 信じがたい事実に二人が驚いていると、そこへ今まで動かないでいた魔女が彼女達へと襲い掛かって来た。

 

『……!! まどか、避けて!!!』

 

 それに気づいたほむらは、まどかへ警告するが……

 

「えっ…きゃあああああぁ!!」

 

 いきなりのことにまどかは、完全にパニックに陥ってしまう。

 それによって、無意識の内に盾の中に手を延ばし、中に入っているものをやたらめったらに魔女へと投げつけた。

 

「いやぁ! 来ないでぇ!!」ポイポイ

 

『ま、まどか…それは……』

 

 それが、ほむらお手製の爆弾と知らずに……

 

『ッッッッッ?!!!』

 

 投げられた爆弾の数は総勢20個、一気に投げつけられたのを見た魔女は驚きを隠せずにいた。

 そして爆弾の起爆スイッチが点灯して……

 

 

ドオォォォォォン!!!

 

 

 魔女の身体は結界と共に跡形もなく消え去った。

 

 

 

 

「ふ、ふへぇ……」

 

 結界が無くなった後、力が抜けたのかまどかは地面に両膝をつく。

 すると急に彼女の体が光り出して、彼女の視界を奪った。

 それから目を開けてみると、これまで気絶していたほむらが目を覚ましていた。

 

「ううん……」

 

「ほむらちゃん!!」

 

 慌ててほむらの元へと近づいて、彼女の手を強く握る。

 友達が無事で安心しきっているまどかだったが、ほむらの方は依然として混乱していた。

 

「まどか…? 私…元の体に……」

 

「ほむらちゃん…だ、大丈夫?」

 

「え、えぇ…問題ないけど……」

 

「血がいっぱい流れていたけど、ほんとに平気なの?」

 

「心配には及ばないわ」

 

「ねぇ、さっきのは何だったの? それにあの怪物って__」

 

「ちょっとストップ」

 

 状況が掴めなかったほむらだが、まどかの質問に答えながら段々と落ち着きを取り戻してくる。

 そして間髪入れずに続く質問ラッシュを一旦、止めさせる。

 

「順を追って説明はするけども、ちょっと頭の中を整理させて欲しいの。構わないかしら?」

 

「ご、ごめん! 困らせるようなことしちゃって……」

 

「いいのよ。えっと…何から話したらいいのかしら……」

 

 ほむらが頭を悩ませていると__

 

 

ピリリリリ

 

 

 ふと、まどかの携帯が鳴り出した。

 

「えっと……」

 

「気にしないで」

 

 電話に出ようか迷っていると、ほむらが出るように促す。

 着信元を見てみると、それはまどかの父親の知久からの電話だった。

 

 

ピッ

 

 

「もしもし、パパ? えっ…あっ、大丈夫だよ。

 ちょっと寄り道してて……うん、すぐに帰るから。

 心配かけてごめんなさい……分かった、それじゃあね」

 

 電話を切った後、どうしよう…といった表情でほむらを見つめる。

 

「あのね…パパが早く家に戻ってきなさい、って心配していたから。あの…それでね……」

 

「おつかいの途中だったものね。今日はひとまず家に戻りなさい」

 

「でも……」

 

「明日、あなたの学校が終わった後にしっかりと話してあげるわ。だからもう帰った方がいいわ、あまり家族を心配させてはいけないし」

 

「…………」

 

 釈然としない様子であったが、まどかはほむらと共に結界のあった場所から離れる。

 しばらく歩いていると見慣れた通りに出れて、まどかはホッと息を吐く。

 

「家に帰る道は大丈夫よね」

 

「うん、ちゃんと帰れるよ」

 

「よかった。それならもう寄り道せずに行くのよ」

 

「し、しないよぉ……」

 

「それじゃ……」

 

「あっ、待ってほむらちゃん!!」

 

 背を向けて去るほむらを見送ろうとしたが、大事なことを聞き忘れていたことに気付いて急いで呼び止める。

 

「何?」

 

「明日、どこで待ち合わせすればいいの?」

 

「あちらの方にある総合病院の一階の受付で待ってて。丁度昼過ぎに検査も終わって、退院も出来るから」

 

「分かったよ。じゃあバイバイ、ほむらちゃん」

 

「また明日ね、まどか」

 

 お互いに手を振って、二人はそれぞれの戻る場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「遅くなりはしたけど、なんとか病室まで戻ってこれたわね」

 

 土埃で汚れてしまった見滝原中学の制服から病人用の服に着替える。

 後でしっかり洗濯しておかないと、それとシャワーも……

 

 そんなことを考えながら、見回りで部屋に来る看護師の人を待つ。

 

 

「暁美さん。調子はどうですか?」

 

「かなり良いです」

 

「そう? 良かった、これなら明日退院しても問題なさそうね」

 

「はい」

 

「でも念のために明日もう一度だけ検査するから、それまでしっかり休んでいてね」

 

「分かりました」

 

「じゃあご飯ここに置いておくね。一時間くらいしたら取りに来るから」

 

「ありがとうございます」

 

「また後でね、暁美さん」

 

「…………」

 

 

 色々と考えたいことがあるけど、ご飯を食べてからにしましょうか。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした……」

 

 食事を終えて、食器の入ったトレーを入り口近くの台に置く。

 

 さて……

 この数時間で色々なことがあったわね。いや……

 

「あり過ぎたわね、さすがに……」

 

 破壊されたはずの盾が修復されていて、魔法少女としての力が大幅に弱体化。

 まどかとの接触。そしてあっという間に仲良くなる。

 それから魔女の気配を追って、戦うも時間停止が使えないせいで一方的にやられる。

 

「問題はそれからね」

 

 どうしてか彼女が私のところまでやって来て、戦いに巻き込まれてしまう。

 二人とも魔女に殺されそうになって……

 

「あれは何だったのかしら?」

 

 まどかが既に魔法少女になっていた? それはあり得ない。なら魔女のことだって知っているはずだし、キュゥベえの監視も行き届いているはずだ。

 奴の姿が見えなかったのは、まだまどかの素質に気付いていないから……

 イレギュラーな事態が立て続けに起きているけど、今回のはこれまで以上ね。

 それと……

 

 服を脱いで、自分の体を確認する。

 魔女との戦闘で私は大きくダメージを受けた。傷も負ったし、血も大量に流した。

 それは魔法少女だから平気だとして、もう一つ不可解なことが……

 

「やっぱりほとんど治ってる」

 

 完璧。までとはいかないにも、魔女との戦闘の際について傷は塞がっていて、痕こそは残っているけども完治と言っても差し支えない程だ。

 私の魔法少女としての素質は相当低い。

 美樹さやかや巴マミのように治癒魔法を使えるわけでもないのに、どうしてこんなことが……

 

 本当にこの時間軸は一体どうなってるの?

 予想外のことが起こり過ぎてていて、対応が追い付かない。

 そのせいで大して強くもない魔女に遅れを取ってしまったし、何よりも……

 

 まどかに魔法少女と魔女の存在を知られてしまったのはかなり大きい。

 詳しい事情についてはまだ知らないけども、明日になれば話さざるを得ない。

 そうなってしまったら、あの子の性格からしてかなりの確率で魔法少女になる道を選んでしまう。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息が出ても仕方がない。

 唯一の救いと言えば、まだまどかの素質をキュゥベえに気付かれていないことくらい…か。

 全くおかしなことよね、まるで魔法にでもかけられているみたい。魔法少女である私が言うのは、それこそ変だけど……

 

 初日から様々なアクシデントに見舞われたけども、私がするべきことは何も変わらない__

 

「まどか。今度こそあなたを救って見せる……」

 

 

 

 

 

 

「はぁ…疲れたなぁ……」

 

 寝る準備も全部済ませて、ベッドの上にゴロンと横になる。

 

 家に帰った後、パパに叱られはしなかったけど説明するのが、大変だったなぁ。

 ほんとはちゃんと理由を話したかったけど、あんなこと言っても多分信じてもらえないだろうからね。

 その後、わたしはお風呂に入って……

 

 パジャマを捲って、自分の体のあちこちを見る。

 そこには体の至る所にアザのようなものが出来ていて、青くなっていた。

 体を洗っているときに気付いたけども、触ってみても全然痛く感じなくて、ほんの少しだけピリピリするくらいだった。

 

「それにしても……」

 

 仰向けになって天井をじっと見つめる。

 そして今日あった不思議な出来事を思い返してみる。

 

 ほむらちゃんと河原で出会って、仲良くなって。

 それから不思議なことを言われて、帰ろうと思ったら声が聞こえてきて。

 声を辿ってみたら傷だらけのほむらちゃんがいて。

 変な怪物に襲われると思ったら、わたしにも変なことが起こって。

 

 色々なことがあったけども、それでもわたしの中で一番不思議だったのは__

 

「ほむらちゃんのこと、どうしても初めて会った女の子って思えない……」

 

 何処で会ったのか、それはハッキリと覚えてはいないけども、これは絶対に間違いじゃないってことは断言できる。

 

「明日ちゃんと聞こう。変な子って思われるかもしれないけど、このまま悩んでいても仕方がないもん」

 

 布団をかぶってお気に入りのぬいぐるみを抱っこしながら、目をつむる。

 色々と不安に感じてはいたけども、どうしてかわたしは__

 

「えへへっ!」

 

 明日が楽しみでしょうがなかった。

 

 

 

 

 

 そして今夜もまたわたしは、あの不思議な夢を見ることになる。

 

 

 

 





※この話を先に書かなかったのは、後の方にも書いてありますが全52話完結が当初で、これらのエピソードは考えてはいたけど泣く泣くカットしたものです。

※後付けとかとおもわれるかもしれませんが、そのような事があろうはずがございません。

(まあ、先の展開に少し合わせた部分もあるけどね)ボソッ


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Extra3 誰かを救うために


※お待たせしましたァ……
※まどかとほむほむの関係を調節するのが、結構大変っす……油断するとすぐに親密度A+になってしまう。



 

 

 

『あな……自…を責め………いるわ。鹿目まどか。

 あなたを……できる者な…て誰も…ない、居たら……許さ…い』

 

 夕暮れの中、わたしは顔に"もや"がかかっている女の子と一緒に歩いていた。

 

『でも、あな………命は変え……た。……が救われた…けでも…は嬉しい』

 

 しっかりと表情が見えるわけじゃないけども、女の子はわたしに微笑んでいるような気がした。

 だけど、どうしてだろう。なんだかこの夢、見ているととても胸が苦しい。

 まるで心の中にあった大切なものがポッカリと抜けてしまったような…そんな気分になる。

 

『…法少女の最期……て、そう…うも…よ』

 

 最期って…誰が死んじゃったの?

 

 必死に問いかけようとするも口が全く動かない。今回もただわたしは見ているだけ……

 

『誰にも気付か……くても、忘……られても………仕方のない…とだわ』

 

 今度は悲しそうな声で女の子が話す。

 それを聞くだけでまた悲しい気持ちになっちゃう。

 

「わたしは覚えてる」

 

 そう思っているとこれまで梃子でも動かなかった口が勝手に動き出した。

 自分の意志とは無関係にわたしはそのまま喋り続ける。

 

「……さんのこと忘れない。絶対に!」

 

 また肝心な部分だけが聞くことが出来ない。本当に何なんだろうね、この夢……

 自分の夢の内容なのに変な苛立ちを覚えていると、わたしの口からビックリする言葉が飛び出してきた。

 

「ほむらちゃんだって、ほむらちゃんのことだってわたしは忘れないもん!!」

 

 その言葉を呟いた瞬間、彼女を覆っていた"もや"が晴れて、その顔がハッキリと見える。

 

 それは見間違えるはずがない、昨日会ったばっかりの女の子。ほむらちゃんだった。

 ほむらちゃんは、俯いたままとても辛そうに一言だけ呟く。

 

『あなたは…優しすぎる……』

 

 そう言い終えた直後、夢が急に終わってしまい、わたしは自分の部屋にいた。

 

「どういう…こと?」

 

 

 

 

 

 

 それから放課後、わたしが帰る準備をしているといつものようにさやかちゃんが声をかけてくる。

 

「まーどか、一緒に帰ろ~。

 今日は仁美も習い事休みみたいだからさ、久しぶりに三人でどっか遊びに行こう!」

 

 いつもなら喜んで頷くところなんだけど、今日はほむらちゃんと話さなくちゃいけないことがあるからね。

 わたしは申し訳なさそうに、両手を合わせて謝った。

 

「ご、ごめん! 今日どうしても外せない用事があって、その一緒に帰れないの……」

 

「あれまー、珍しい」

 

「ほんとにごめん。急に入ってきちゃって……」

 

「いいよいいよ。この埋め合わせは今度の日曜にちゃんとしてもらうからさ」

 

「ありがとう、さやかちゃん」

 

「さーてと、さやかちゃんは仁美と二人で仲良く帰るとしますか。

 それじゃあね、まどか。帰り道には気をつけろよなー」

 

「うん、バイバーイ!」

 

 教室でさやかちゃんと別れた後、わたしは待ち合わせの場所となっている病院へと急いだ。

 

 

 

 

 検査を終えた後、私は病院のエントランスでまどかのことを待っていた。

 この時間だともう学校は終わって下校している最中のはず……

 そう思いながら出入り口の扉を眺めていると、外からまどかの姿が見えた。

 

「まどか」

 

「あっ、ほむらちゃん。ごめんね、待った?」

 

「いいえ。私もついさっきここに来たばかりだから」

 

「良かったぁ」

 

 胸を撫で下ろして安心するまどか。

 こういうちょっとしたことでも気を遣ってくれるところ、やっぱりあなたは優しいわね。

 

「さて、色々と話さなくちゃならないことはあるけども…何処でしようかしら」

 

「確かにここじゃあ、あんまり話せる内容じゃないよね」

 

 場所に関しては何処であってもあまり変わらない。

 ただ一つ危惧するべきことがある。インキュベーターあるいは巴マミに出くわして、私やまどかの存在を知られてしまうことだ。

 とっくに気付かれている可能性も十分にあるけども、まだ接触してきてはいない。

 いずれ知られてしまうことだが、それまでにまどかを契約させないように上手く誘導すればいい。

 

 そういったことも考慮すると、話し合いに一番適した場所は……

 

「……私の家で、話す?」

 

「えっ?!」

 

 凄く驚いた様子で私の方を見る。

 まあ、最適というのは嘘ではないけども会って一日しか経っていない人にそんなこと言われたら誰だってそうなるよね……

 

「ごめんなさい、今のは忘れ_「分かったよ」_えっ?」

 

「ほむらちゃんが迷惑じゃなかったら、わたしは全然構わないよ」

 

「……そ、そう」

 

 意外とあっさりとオッケーしてくれた……

 よく分からないけど、それはそれでこちらにとっても好都合ね。

 

「少し歩くけども、しっかり付いてきてね」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 特にこれといった問題はなく私達は家に着いた。

 

「ここがほむらちゃんの家かぁー」

 

「今、鍵を開けるから……入っていいわよ」

 

「それじゃあ、お邪魔しまーす。わぁ…すっごい落ち着いた部屋だね」

 

「必要最低限の物しか入ってないからよ、寧ろ殺風景じゃないかしら」

 

「そんなことないよ! とってもいいお部屋だよ」

 

「ありがとう。飲み物を取って来るからちょっと待ってて」

 

 冷蔵庫の中にはペットボトルが二本だけ…大したおもてなしは出来ないけど仕方ないわね。

 それと、後で買い物に行かなくちゃ。

 

 ジュースの入ったボトルとコップを人数分を持って…ついでにコーヒー用にお湯を沸かしときましょう。

 必要な物を持ってまどかのところに戻ると、なんだか落ち着かなさそうにしていた。

 

「どうしたの?」

 

「うぇっ?! な、なんでもないよ。ただあまり他のお友達の家にあがったことがないから緊張しちゃって……」

 

「そこまで張り詰める必要はないわ。自分の家のようにくつろいで頂戴」

 

「で、でも……」

 

「そんなに力を入れていたら、これから話すことに付いていけなくなるわよ?

 ほら、これでも飲んで落ち着いて」

 

「あ、ありがとう……」

 

 ちびちびとジュースを飲むまどかを眺めながら、説明する内容を思い返す。

 ここが重要なポイントね。如何にしてまどかに魔法少女というものに興味を持たせないか……

 話すことはいつもインキュベーターや巴マミが教えていることだけ、あまり詰め込み過ぎるとかえって逆効果になる。

 

「じゃあ話していくわね。

 昨日私が成っていた姿は魔法少女というものよ」

 

「魔法少女?」

 

「これを見て」

 

 ソウルジェムを取り出して、まどかに見せる。

 

「綺麗だね」

 

「これはソウルジェム、契約を結ぶことによって生み出される宝石で魔法少女としての証のようなもの。」

 

「契約って?」

 

「この世界には素質のある少女を魔法少女に変えるキュゥベえという生き物がいる。

 ソイツが行う契約の内容は、どんな願いも一つだけ叶えること」

 

「どんな願いも……」

 

 案の定、食いついてきたわね。

 話すべきか迷ったけど、この情報を隠したところでまどかが魔法少女になるかは左右されない。

 彼女が魔法少女になる理由は、あくまで誰かの役に立てるような人間になることだから。

 

「ただし、その願いと引き換えに魔法少女になったものは魔女と戦う宿命を背負わされる」

 

「魔女? 魔法少女とはどう違うの?」

 

「魔法少女は契約の際にする願いから産まれてくるもの。

 反対に魔女は不安や恐怖、怒りや悲しみといった負の感情から産まれる怪物のことよ」

 

「じゃ、じゃあ昨日わたしが見たのは……」

 

「あれは使い魔といって魔女の分身のようなもの。

 そしてあなたが使い魔と出くわしたとき、いつの間にか奇妙な空間にいたでしょう?

 あれは魔女の結界で、普通の人間が入ってしまうと命の保証はない」

 

「命って…魔女って人を襲ったりするの?!」

 

「その通りよ。たまにニュースとかで目撃したりする理由のない自殺や殺人事件は大体は魔女が引き起こす呪いによって起きたものなの。

 それに加えて、あいつらは魔法少女と素質のある者以外には姿を見ることすら出来ない質の悪い存在」

 

「さっき、ほむらちゃんは魔法少女は魔女と戦わなくちゃいけないって言ってたよね。

 そんな怖い怪物と戦うなんて…怖くないの?」

 

「…………」

 

 そんな感情、もうとっくに感じなくなったわ。

 

 そう言おうとするのを抑えて、話を進める。

 

「怖い、怖くないの問題じゃないわ。

 戦わなくてはいけない、そういう運命なのよ」

 

「もし…魔女と戦って負けちゃった場合、その魔法少女はどうなるの……?」

 

「……死ぬわ」

 

「!!」

 

 まどかの目が大きく開かれる。

 そう、それでいい。脅すような感じではなくて、ただ教えるべきことをただ教えるだけ。

 

「それに魔法少女だけに限らずに魔女の結界の中で殺されてしまえば、その人は誰にも知られることなく死ぬことになる」

 

「み、みんなの為に魔女を倒しているのに…そんなのって……」

 

「動機は人によってそれぞれ、だけども辿る道は同じ。

 永遠に行方不明のまま、孤独に死んでいく……」

 

「酷い…酷いよ、あんまりだよ!」

 

「魔法少女の現実なんてそんなものよ。一度契約をしてしまったら、後戻りは出来ない。

 死ぬまで戦うことを余儀なくされる」

 

 声を荒げながら嘆くまどか。

 この調子よ。もうひと押しあれば、例えどんなに言い寄ったとしても契約せざるを得ない状況にならない限り、自主的に魔法少女になる可能性はゼロになる。

 

「ほむらちゃん、そのキュゥベえって子は何処にいるの?」

 

「?!」

 

 そう思っていた。だけどまどかは私の予想から大きくかけ離れた反応をした。

 

「ど、どうして…そんなことを聞くの……?」

 

「あのとき魔女の姿を見ることが出来たってことは、わたしにも魔法少女としての素質があるってことでしょう?

 それだったら、わたしは__「駄目よ!!」__」

 

 突然叫んだことに驚いて、まどかはビクンと飛びあがった。

 体の震えを必死に抑えながら、彼女に詰め寄る。

 

「あなたは…今まで、何を聞いていたの……?! 魔法少女になってしまったら、二度と元の生活に戻れないのよ!」

 

「で、でも!」

 

「でもじゃない!! もし魔女との戦いであなたの身に何かあったらどうするの?!

 残されたあなたのことを大切に思っている人達はどうなるの?!」

 

「ほ、ほむら…ちゃん……?」

 

「……!!」

 

 しまった…ムキになり過ぎた。

 荒ぶる気持ちを落ち着かせようと深呼吸をして、再度問いかける。

 

「ごめんなさい、今のは忘れて頂戴。

 ……それよりもどうして急にそう思ったの?」

 

「えっと…わ、わたし、ほむらちゃんの力になりたくて……」

 

「いらないわ」

 

「嘘だよ!!」

 

「?!」

 

「だって、昨日のほむらちゃん…わたしが来なかったら絶対に死んじゃってた!

 友達が…それに街の人達がそんな危険な目に遭っているのに、ほっとけないよ!!」

 

「そ、それは……」

 

 まどかの言う通り、あの場にまどかが駆けつけてくれなければ間違いなく私は死んでいた。

 だからといって、このまま魔法少女にしてしまうわけにはいかない。

 

 失念していた。私のあんな姿を見てしまったまどかなら、必ず自分を犠牲にしてでも力になろうとする。

 いや、私に限った話ではない。誰に対してでも同じことを言うに違いない。

 

「お願い、教えてほむらちゃん」

 

「…………」

 

「お願い」

 

「…………」

 

「ほむらちゃん!」

 

 この目つきは…魔法少女として戦うのを決意したときと同じもの……

 何か…彼女を契約させないようにする方法は……

 

 瞬間、脳裏にこの場を切り抜けるための手段がよぎる。イチかバチか…試すしかない。

 

「その必要はないわ」

 

「えっ?」

 

「あなたが契約をしなくても魔女と戦う方法があるってことよ」

 

「それって……」

 

「あなたも体験したはず、私達が使い魔に襲われたときに起こった現象を」

 

「そ、そうだ! それも聞かなくちゃって思ってたんだ!

 ほむらちゃん、あれって一体何? あれも魔法少女の力なの?」

 

「分からない」

 

「分からな…って、ええっ?!」

 

「私にあれが何なのかは見当がつかない。

 でもあの変身をすれば、あなたは魔法少女として契約する必要はなくなる。

 それに魔女と戦いたくなくなったら、いつでも抜けることが出来る」

 

 いつもならこういったイレギュラーにはあまり触れないようにしていたけど、今回は別だ。

 多少無理を言ってでも、この方法を押し付けるしかない。

 

「でも……」

 

「不安に感じるのは仕方のないこと。でもあのとき変身をして分かったの、あなたには他の人にはない強大な素質を持っている。

 ああして一緒に戦ってくれれば、私も魔女との戦いで生き残ることが出来る。そしてより多くの魔女を倒せる。

 そうすれば、この街の人達を救うことだって可能になる」

 

「…………」

 

「どうせ契約するならキュゥベえではなく、私としてくれないかしら?

 お願い、あなたの力が必要なの」

 

 そう言ってまどかに手を差し伸ばす。

 

 やっていることが完全に奴と一緒ね。

 胡散臭いというか、騙しているというか……正直、自分自身に嫌悪感を覚えるけども文句を言ってる暇はない。

 

「それで、ほむらちゃんやみんなの役に立てるなら…協力するよ!」

 

「ありがとう…まどか」

 

 良心が…良心が痛い……

 こんな素直で優しい子を利用するなんて……

 

「なら早速だけど、魔法少女としての特訓を始めるわよ」

 

「えっ…特訓?」

 

「そうよ。さっきも言ったけども魔女との戦いは命がけ。

 気持ちだけあっても実力が無ければ、あっさりと負けてしまうわ」

 

「そ、そうだね……」

 

「だから特訓よ。強くならなければ、あなたの大切なものも守れない」

 

「……分かったよ、ほむらちゃん」

 

「そうと決まれば、場所を変えましょうか。

 ここだとちょっと狭すぎるからね」

 

「うん!」

 

 こうして私達は特訓場所へと向かっていった……

 

 





※後半のやり取りがやや雑なのは仕様です。
※こんな風に違和感のあるやり取りをしなかったら、第7話でまどかがほむらのことを疑う理由が生まれませんからね。

※ちなみにこのエピソードは2話くらいで終了します。もうそろそろ2月中場になるけど、第3章までもう少し待っててください。


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Extra4 今とは違う自分に


※第4話は、二人の特訓編。
※今回も、ほのぼのとやっていきます。



 

 

 

「着いたわ、ここよ」

 

 特訓の場としてやってきたのは、鉄橋の下にある小さな空き地だった。

 あんまり人が寄り付かないここは特訓にはもってこいの場所。

 そして私が魔法少女になったばかりの時に、まどか達に戦い方を教えてもらった場所。

 

「さあ、始めるわよ」

 

「うん……」

 

「まずは__」

 

 あの姿に変身することが第一ね。

 まどかが契約をせずに戦う方法はこれしかないから。とは言っても、その変身をどうすればいいのかが分からない……

 

「魔女と戦った時の姿になること。

 その為にあなたに聞きたいことがあるの」

 

「何?」

 

「姿が変わる前に何か特別なことをしなかったかしら?

 実を言うとあのときの私、意識を半分失っていたからよく覚えていなくて……」

 

 何かヒントを得るためにまどかに変身したときのことを尋ねる。

 

「特別なことと言っても、わたしも色々なことがあって混乱していたから……

 あるとしたら…ほむらちゃんの手を握っていたことくらいしか__」

 

 私の手…ね。握られていた感覚は覚えてはいるけども、それだけじゃ……

 

 そこまで考えが至った瞬間、ふとあることを思いつく。

 

「そういうことね」

 

 信じられないけども、多分私が考えていることに間違いはないだろう。

 ソウルジェムを取り出して、不思議そうにしているまどかに見せる。

 

「まどか。ちょっとこれに触れてもらってもいいかしら?」

 

「えっ、どうしたの急に?」

 

「いいから」

 

 まどかの手の平の上にジェムを乗せる。するとジェムが輝き出して、それと一緒に私とまどかの体も発光し始めた。

 

「やっぱりね」

 

「ど、どうなってるの?」

 

「詳しいことは分からないけども、あなたが私のソウルジェムに触れていたらあなたも魔法少女として変身できるみたい」

 

 状況がよく分からずに混乱しているまどかに説明する。

 

「そうなの? でも、これじゃただ光っているだけだよ?」

 

「自分が魔法少女になる姿を想像してみなさい。変身するという意志さえあれば成れるはずよ」

 

「わ、分かったよ……」

 

 言われるままに目をジッと閉じるまどか。

 その姿を見ていたら、急に私の目の前が真っ暗になる。

 これは前に一度だけ経験したことがある。ソウルジェムが私の体から離れすぎたときに起きたのと同じもの。

 だけどその時とは違って、意識はハッキリとしている。そして変身が完了したら、私の意識はきっと……

 

「へっ…変身!!」

 

 掛け声と共に視界が急速に晴れていく。

 いつもより少しだけ低い目線、自分よりも少しだけ小さな手、地面に倒れている私の体。

 

 どうやら私の予想は的中したみたいね。

 まどかが私のソウルジェムに触れることにより、どういった理屈かは分からないけど私の意識がまどかの体に移って融合。それによってまどかは契約せずとも魔法少女になることが出来る。

 

「で、出来たのかな?」

 

『えぇ、成功よ。おめでとう』

 

「ほっ、ほむらちゃん?!」

 

 なるほど変身中は口に出したいと思った言葉をまどかに語り掛けることが出来るみたいね。テレパシーと同じと考えれば良さそう。

 

 色々と経験している私はすぐに理解できるけども、そうでないまどかは依然、あたふたしていて倒れている私の体を必死に揺さ振っていた。

 

「ねぇ、大丈夫?! 返事してよ、ほむらちゃん!」

 

『落ち着きなさい。私はここよ』

 

「えっ?」

 

『今はあなたの体の中に入り込んでいて、そこから脳内に直接語り掛けているの』

 

「脳内に直接?」

 

『超能力とかでテレパシーというものがあるでしょう? あれと同じような物よ』

 

「そうなんだ」

 

 今の例えで分かったのかしら? 何にせよ理解が早くて助かる。

 

『じゃあ早速始めていきましょうか。教えたいことはたくさんあるから、しっかりと聞き逃さないで』

 

「分かったよ」

 

 それからしばらくの間、魔力の使い方や私なりの戦い方、拳銃や爆弾などの火器の扱い方を説明していった。

 銃のくだりで、まどかから色々とツッコミを受けたけどそれは全部スルーの方向で。

 

 

 

 

 

 そして大体一時間くらいが経った後……

 

『これでもう教えることはないわ。特訓はお仕舞い』

 

「よ、よかったー」

 

『じゃあ変身を解きましょうか』

 

「どうすればいいの?」

 

『あなたの手にピンクと紫の宝石があるでしょう? それを外して、倒れている私の体に置いてみて』

 

「うん」

 

 これは再びソウルジェムと肉体のリンクを繋げるときの方法と同じもの。

 恐らくこれで変身は解除されて、私の意識も元の体に戻るだろう。

 

 ソウルジェムが私の体に触れた瞬間、変身前と同じ感覚がやってくる。

 目を開くと、心配そうにこちらを覗き込んでくるまどかの姿があった。

 

「無事に戻れたようね」

 

「よかったぁ。このままほむらちゃんが目を覚まさなかったらどうしようって思ったよ」

 

「心配かけてごめんなさい。でもこれでようやく戦えるようにはなったわね」

 

「そうだね!」

 

「だけどこれだけは忘れないで、今回のはただの練習に過ぎない。実際に魔女や使い魔と戦うときは命懸けの戦いになる。

 くれぐれも油断しないで、気を引き締めなければならないわ」

 

「う、うん」

 

 戦うの際に最も重要なことを伝えた後、私はふっと笑みを浮かべる。

 

「これで特訓は終わりよ、初めてにしては中々良かったわよ」

 

「ふへぇー。つ、疲れたよー」

 

「お疲れ様」

 

 私の言葉で力が抜けたまどかはヘナヘナと地面にへたり込む。

 そこへ労いの意味を込めて、彼女の頭を優しく撫でる。

 

「えへへ、ありがとう。ほむらちゃん」

 

「今日はもう帰って休んだ方が良さそうね。ほら立てる?」

 

「ちょっと厳しい…かも」

 

 照れくさそうに笑って私の方に手を差し延ばす。その手をしっかりと掴んで、まどかを立たせる。

 

「とっとっと…」

 

「大丈夫?」

 

「全然平気だよ!」

 

「それなら問題ないけど、何なら家まで送っていく?」

 

「ううん、そこまで気を遣ってもらってもほむらちゃんに悪いし……

 それに結構ほむらちゃんの家からウチまで距離あるから」

 

「じゃあ帰り道に気を付けてね」

 

「ちょっと待って!」

 

 声を掛けられて何事かと思っていると、まどかはポケットから携帯電話を取り出した。

 

「ほむらちゃんと連絡先を交換したいんだけど…いいかな?」

 

「別に構わないけど、どうして?」

 

「だって、これから一緒に戦っていくからお互いにいつでも連絡し合えればいいかなーって__」

 

 なるほど確かにまどかの方に魔女が現れたとき、すぐに駆け付けることが出来るからね。それに思いつくなんて流石ね。

 感心する私だったけども、まどかにはまだ理由があるようだ。

 

「__それに…ほむらちゃんと家でもお話ししたいな。って思ったから」

 

「…………」

 

 もう一つの理由を恥ずかしがりながら話すまどかを見て、私はフリーズした。

 

「め、迷惑だった…かな?」

 

「ぜ、ぜ、ぜ、全然よッ?! 寧ろそれは私も嬉しいと言うか…その……」

 

「本当?! わたしこうやって連絡先を交換したりすることってあまり無かったから、ちょっと不安だったんだ」

 

「私も入院生活が長かったから、こういうのは初めてよ」

 

「そうなんだ!」

 

 昨日からずっと思っていたけども今回の時間軸、まどかの私に対する好感度の上がり具合がとてつもない気がする。

 これまでもこうして連絡先を交換したりすることはあったけども、開始2日目でここまでの関係って…過去最高ね。まあ、これまでとは全く違ったことばかり起きていたから別に不思議に感じたりはあまりしないけど。

 嬉しい誤算というか、何て言うか……

 

「私の方から送るから後で電話なりメールなりで返して頂戴」

 

「うん! あっ、そうだ。ほむらちゃん明日って何か用事あったりする?」

 

「えっ、明日って土曜のこと? 特にないけれど」

 

「ほむらちゃんって、あんまりこの見滝原のこと知らないよね?

 都合が良かったらだけども、明日二人でこの街を見て回らない? わたしで良かったら案内するよ」

 

 ……私は夢でも見ているのかしら?

 ここまで積極的なまどかはマジで一度も見たことがない。いや、一番最初の世界のまどかもこんな感じだったような気がするけども、あれは魔法少女になって自分に自信を持っていたからであって……

 

「ど、どうかな?」

 

「お願いするわ」

 

 即答。正直何回もループしているからこの街のことは知り尽くしていると言っても過言じゃないけども、そんなことは関係ない。

 こうなったら、とことんまどかと仲良くなってみせるわ。そして今回こそは必ず彼女を救ってみせる。

 

「良かった。時間や場所は夜に話し合って決めようね」

 

「そうね」

 

「それじゃ、またね。ほむらちゃん」

 

「また後でね。まどか」

 

 走りながら手を振って、空き地を後にするまどか。そんな彼女の後ろ姿を見えなくなるまで、私は見つめていた。

 完全に姿が見えなくなった後、特訓の後始末をするために空き地に落ちている薬莢を拾い始める。

 

 あまり人が来る場所ではないけど、見つかってしまったら厄介なことになるからね、しっかりと拾わないと。

 

 全ての薬莢を拾い集めて、家に帰ろうと空き地から出て行こうと私は歩き出した。

 

 

 

 

 

「忘れものがあるよ」

 

 

 

 

 

 背後から声を掛けられて、慌てて振り返る。

 するとそこにはいつから居たのか分からないが、忌々しい白い悪魔、インキュベーターがいた。

 奴は口に薬莢を一つくわえていて、ゆっくりと私の元に近づき、ポトリと地面に落とした。

 

「魔力の反応があったから来てみたけども、君はこんなところで一体何をしていたんだい?」

 

「それよりもあなたいつから私を見ていたの?」

 

「質問には答えてくれないのかい? まあ、構わないけども僕が来たのはついさっきさ。

 君がせっせと弾を拾っているときだったよ」

 

「本当?」

 

「僕は嘘はつかないからね。それはそうと僕の質問にも答えてくれると嬉しいのだけど……」

 

 こいつのことは全面的に信用はしていないけども、嘘は絶対につかないことだけは知っている。

 

 奴の答えを聞いて、心の中で悟られないようにホッと安心する。

 

 良かった、まどかの姿は運よく見られていないようね。

 

「何って特訓よ。魔女を倒すためにね」

 

「そんなことに何の意味があるんだい? ただの魔力の無駄遣いじゃないか」

 

「そうよ。魔女との戦いで無駄に魔力を使わないようにするために特訓をしていたの」

 

 懐から拳銃を取り出して、奴に見せてみる。

 インキュベーターは腑に落ちない様子だったけど、私の言うことに頷いた。

 

「まあ魔女とどう戦うかは、君の自由だ。

 それよりももう一つ聞きたいことがあるのだけど、いいかな?」

 

「何よ」

 

「君は魔法少女のようだけど、僕は君と契約した覚えはないんだ。

 これはどういうことだい?」

 

「あら、契約した相手を忘れるなんてあなたもうっかり屋さんなのね」

 

「…………」

 

「それじゃあ私はもう帰らせてもらうわ」

 

「待ってくれ、話はまだ__」

 

 インキュベーターが引き留めようとすると、私の携帯から着信音が鳴った。

 携帯を開いてみると、まどかからのメールだった。

 

 

 

『From:まどか

 

 ちゃんと届いているかな?

 届いていたら、返信してくれると嬉しいな♪

 今日は本当にありがとう! ほむらちゃんも帰り道、気を付けてね!

 夜にまた連絡するからよろしくね(><)』

 

 

 

 メールの内容を見て、私はニッコリ笑いながら即急に返信した。

 

 

 

『To:まどか

 

 ちゃんと届いているわよ。

 私こそ、色々と付き合ってくれてありがとう。

 あなたからの連絡楽しみに待ってるわ』

 

 

 

「誰からだい?」

 

「ふふっ、私の友達からよ。

 それじゃあね、キュゥベえ。また何処かで会いましょう」

 

「えっ、あっ…ちょっ……」

 

 奴に笑いかけるなんて、普通なら絶対にあり得ないことだけども嬉しさのあまりについやってしまう。

 けどそんなことなんか全く気にせず、私は上機嫌になりながら家へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「お帰り、キュゥベえ。どうかしたの?」

 

「マミ。実はこの街に新しく魔法少女がやって来たんだ」

 

「誰なの、その子は?」

 

「それが…かなりのイレギュラーでね。

 その魔法少女と僕は契約した覚えがないんだ」

 

「それってあなたがただ忘れているだけじゃなくて?」

 

「いや、過去に何百万人と契約してきたけども一人たりとも忘れたことはないよ。

 何なら今から全員言っていくかい?」

 

「べ、別にしなくていいわよ……。

 それでその魔法少女はどんな子なのかしら?」

 

「何個か質問はしたけども、見事にはぐらかされたよ。終いには…はぁ……」

 

「終いには?」

 

「僕の話なんかよりも友人からのメールを優先して、そのまま帰ってしまう始末さ。

 全く…色々な意味で、あんな魔法少女は初めてだよ」

 

「…………」

 

「マミ? どうしたんだい?」

 

「いえ…何でも……ないわ……」

 

 





※次回でラストです。ちなみに日程はこんな感じ。

ループ開始(第3~4話、Extra1~2話)が木曜日。
2日目(Extra3~4話)が金曜日。
次回の3日目が土曜日。
ほむら転校初日が5日目の月曜日です。

※それ以外の物語の日程は、希望があれば紹介していきます。では、次回もお楽しみに!!


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Extra5 たった一人の大切な友達


※まどかとほむらの前日談、今回でラストです。
※割りと書くのが大変でした(笑)



 

 

 

 翌日、私は公園の噴水の前でジッと立っていた。

 時刻は9時50分、昨日の夜にまどかと話し合って決めた今日の待ち合わせ場所だ。

 集合時間は10時だったけども、念のために一時間前から今か今かと待っている。

 早く来てくれないか、とソワソワしていると遠くの方からピンク色の髪をした少女が歩いてくる姿が見えた。その少女は私の姿が見えたのか、急に走り出してこちらへと向かってくる。

 

「ほむらちゃーん!」

 

「おはよう、まどか」

 

「おはよう、ほむらちゃん! 待ったかな?」

 

「いいえ、私もついさっき来たばかりよ。あなたも早いのね」

 

「うん、ほむらちゃんと一緒にお出かけするのが楽しみだったからね!」

 

 予定よりも早く来てくれたことといい…健気で可愛い。

 服も可愛らしいし、リボンもいつも以上にしっかりと結んでいるような気がする。本当に楽しみにしていてくれたようね。

 

「確かに格好を見ても、かなり張り切っているわね」

 

「そ、そうかな? ママにも同じこと言われたんだよ

 そしたらママったら、誰かとデートにでも行くのかってからかってきてね……」

 

「デート……」

 

「あっ、ごめんね。変なこと言っちゃって」

 

「気にしないで、それよりもちょっと申し訳なく思って……」

 

「へ? どうして?」

 

「折角張り切ってくれたのに、私の格好があまりにもアレだから……」

 

「そんなことないよ、ほむらちゃんの服とっても可愛いよ!」

 

「あ、ありがとう……」

 

 面と向かって誉められたことに恥ずかしく感じて顔が赤くなる。

 その表情を見られたのかどうかは分からなかったが、まどかは嬉しそうに笑いながら私の袖を引っ張った。

 

「こうやって話すのもいいけど、そろそろ行こっか。

 ほむらちゃんにはこの街の色んな場所を見てもらいたいからね」

 

「そうね。案内は任せるわ」

 

「はーい」

 

 こうして私はまどかに連れられて見滝原の街を回り廻った。

 紹介された場所は、どれも見慣れているところばかりであまり新鮮味を感じなかったけども、何処かいつもの景色と違って見えた。

 

 

 

 

 それから数時間後、私達はショッピングモールの中にあるCDショップに足を運んでいた。

 

「ここがCD屋さんだよ。学校の帰りとかたまに寄ったりするんだ」

 

「まどかはどんな曲が好きなの?」

 

「ええっ! それは…わたしあんまりそういうのに詳しくないんだ。ここは友達の付き添いで来ることが多いんだ」

 

 その友達は十中八九、美樹さやかのことで間違いない。

 それ以外にも私はまどかがどんな曲をよく聞いているのかも知っている。全部何度も時間を繰り返したことにより得た賜物だけども、残念ながらその知識を誰かに披露することはないだろう。

 

「どんな友達なのかしら?」

 

「さやかちゃんって子なんだけど、すっごく明るくて元気なわたしの親友なんだ!」

 

「音楽好きな子なんだ」

 

「ううん。実はそのさやかちゃん好きな男の子がいて、その人のためにここに来てるんだよ」

 

……こういう情報も既に知ってはいるけども、ここまでカミングアウトしちゃって大丈夫なのかしら?

 まあ別に美樹さやかが弄られようとも特に私に問題があるわけでもないから、正直知ったことじゃないけども。

 

「よっぽどその男の子が好きなのね」

 

「そうだよ。たまにわたしがその話題を出すとさやかちゃんったら顔真っ赤になっちゃうんだよ。

 ほむらちゃんは誰か好きな子とかっているの?」

 

「……いるわ」

 

「どんな人?」

 

「内緒、このことは誰にも言わないって決めているの」

 

 私の好きな人…それは言わずもがな……

 まどかの言う「好き」とは方向が少し違うけども、好きということには変わりはない。

 

「ちょっと気になるけど、あんまり詮索するのは良くないもんね」

 

「そういうまどかはどうなの? 気になる人とかは居たりする?」

 

「わたしは…まだそういうのはよく分からないから……でも、いつか本気で好きって想えるような人と出会えたらいいなー、って思っているよ」

 

「あなたのことだから、きっと素敵な人を見つけられると思うわ」

 

「えへへ…ありがとう」

 

 

 

「次はどこに行こっか? ほむらちゃん行きたいトコとかってある?」

 

「うーん……」

 

「えへっ、じゃあ歩きながら探そっか」

 

「そうね」

 

 ショッピングモールの中をまどかと一緒に歩く。

 こうやって普通の女の子として誰かと話すのは、いつぶりかしら?

 まどかとお喋りを楽しみながら、そんな風に思っていると突然私のソウルジェムが発光し始めた。

 

「!!」

 

「ほむらちゃん…どうしたの……?」

 

 顔つきが急に変わったことに気付いたまどかは不安そうな表情で聞いてくる。

 魔女が現れたことを伝えようか一瞬だけ迷ったけども、しっかりとまどかに説明する。

 

「魔女の反応よ…かなり近くにいる」

 

「えっ?! こんな場所で?!」

 

「前も話したけど、魔女は人の負の感情から生まれてくる怪物。

 ソイツらは病院やこういう人が多く集まる場所に現れて結界を作るの」

 

「でも…ここで結界なんか張られたら……」

 

「最悪、大勢の人達が巻き込まれる恐れがある……」

 

「早く魔女を見つけなくちゃ!」

 

 そう答えるやいなや、まどかはいきなり走り出した。

 

「待って、まどか!!」

 

 慌てて私は彼女の後を追おうとする。だけどその瞬間、まどかの姿が突然消えた。

 それと同時に周りの景色も目まぐるしく変化していく。魔女の結界に取り込まれてしまったようね。

 

「結界の中に入ったわ、用心してまど__ッ?!!」

 

 前にいるまどかに呼びかけよう顔を上げると、そこに彼女の姿は無かった。

 

「まどか?! どこにいるの、まどか!!」

 

 血相を変えて彼女の名を呼ぶ。だけど聞こえてくるのは使い魔達の不気味な笑い声だけだった。

 徐々に心の中に焦りが募ってくる…どうしよう、私がしっかりしていなかったせいで……

 

「キャアァァァァァ!!!」

 

 自分の失態を激しく責めていると、何処からかまどかの悲鳴がした。

 

 まさか、魔女に襲われて……

 

 そう考えるや私は夢中になって声のした方向へと足を急がせた。

 

 

 

 

 まどかは突如目の前に現れた魔女に腰を抜かしていた。

 現れたのは、髭の生えた綿のような怪物と、その中央で薔薇に囲まれながら静かに居座る魔女。

 

 薔薇園の魔女。その性質は不信。

 

 怯えながらゆっくりと後ずさりをするまどか。

 

『!!!』

 

「あっ……」

 

 しかし魔女が彼女に気付いて、思わず目を合わせてしまった。

 

『ウオオオォォォ!!!』

 

「キャッ!!」

 

 魔女が咆哮すると、それまで大人しかった使い魔たちが一斉にまどかの元へと行進し始める。

 

「そんな…いや……来ないでッ!!」

 

 

パァン!!

 

 

 涙目になりながら叫んでいると、使い魔の内の一体が突然弾けた。

 急な出来事にキョトンとするまどか。そんな彼女の目の前に魔法少女の姿になったほむらが舞い降りる。

 

「ほむらちゃん!!」

 

「話は後よ……」

 

 今の実力ではこの魔女には勝てないと踏んだほむらは、変身を解いてソウルジェムをまどかに渡す。

 まどかはそれを受け取って両手で優しく包み込む。そして若干声を震わせながらも大きな声で唱えた。

 

「へ、変身っ!!!」

 

 その言葉と共にほむらが倒れ、まどかの姿が変化する。

 昨日の特訓でその変化に慣れた二人はすぐさま魔女の方に視線を向ける。

 

『まどか、気をつけてね。今の私にはこうしてあなたに指示を出すことしか出来ないから』

 

「う、うん……」

 

『大丈夫よ、昨日の特訓をちゃんと思い出してやれば勝てるわ』

 

「分かった!」

 

 緊張と恐怖と不安に苛まれている気持ちを和らげようとほむらが優しく囁く。

 それによって励まされたまどかはキッと表情を変えて、魔女へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 その後、魔女とその使い魔との戦闘が繰り広げられたが、少し危ないところもありはしたものの、ほむらのアドバイスによって使い魔たちを一掃することが出来た。

 残されたのは薔薇園の魔女のみ、まどかは盾の中から対戦車ロケット弾発射器__バズーカを取り出して魔女へと撃ち込んだ。

 

 

ドガーン!!

 

 

『ギャアァァァァァ!!!』

 

『まだよ、攻撃の手を緩めないで!!』

 

 魔女が悲痛な声をあげる。しかしほむらはそのまま撃ち続けることをまどかに指示した。

 一発、二発、三発…砲撃は止むことなく撃ち込まれていく。だが薔薇園の魔女は攻撃を受けながらも立ち上がって大きく飛び上がった。

 

 それと同時に周囲の景色が歪んで、強制的に魔女の結界は解かれた。

 

「えっ?」

 

『逃げたわね……。

 まどか、もう大丈夫よ』

 

 ほむらが悔しそうにしながら、そしてまどかに変身を解除するように言う。

 離れたところで倒れているほむらの体の上にソウルジェムを置き、ほむらが意識を取り戻す。

 

「ねぇ、さっきの魔女は__」

 

「まどか」

 

 逃げた魔女について聞こうとすると、ほむらは起き上がってツカツカとまどかに近づいていった。

 その表情は険しく、まどかはきっと一人で勝手に突っ走ったことについて怒られると覚悟する。

 しかし、ほむらはそうとはせず彼女のことを力強く引き寄せて抱きしめた。

 

「ーーーーー?!!」

 

 声にならない声を出しながら、まどかは目を白黒させる。

 

「バカッ、バカバカバカッ! なんであんなことしたの?! 私が間に合ったから良かったけど…そうじゃなかったら……!!」

 

「ご、ごめん……」

 

「どうしてあなたは愚かなのッ?! 魔女の結界に非力な一般人が迷い込んだらどうなるのか、散々説明したじゃない!!

 確かにあなたは魔女と戦える力を持っている! でもそれは一人だけだったどうにもならないのよ!!」

 

「うん……」

 

「もしあなたに何かあったら残された家族や友人はどうなるのか、もっとよく考えて行動して!!

 それに私だって…あなたを失ったら私は…私は……!!」

 

「ごめんね、本当にごめん……」

 

「忘れないで…あなたは私にとってのかけがいのない人なの……だからお願い、もうあんな真似はしないで……」

 

 抱きしめる力がより強くなる。

 まどかは苦しいと思ったが、それを口には出さずにほむらの頭を彼女の震えがおさまるまでずっと撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 魔女との戦いの後、私達は最後に待ち合わせ場所となっていた公園の中をゆっくりと散歩して回った。

 そして日も大分落ちてきて、まどかとの楽しい時間が終わろうとしていた。

 

「今日は楽しかったわ、どうもありがとう」

 

「ううん、わたしの方こそとっても楽しかったよ! それと…さっきは……」

 

「気にしなくていいのよ、私もちょっと言いすぎちゃったし……」

 

 あのときの行動は危険なものだったけども、感情を抑えきれずに暴走したことについてはこちらにも非がある。

 いずれにしても今回の件を教訓にして、今後気を付けてくれればそれで構わない。

 

「ほむらちゃんは優しいね。わたしのことを心配してくれてただけなのに」

 

「優しくなんかないわ…もうこの話は終わりにしましょう。いつまでも話していてもお互い良い気分にならないし」

 

「そうだね」

 

「じゃあそろそろ帰りましょうか」

 

「あ、あのね…ほむらちゃん……」

 

 名残惜しいけども、暗くなったら危ないからね。

 そう思っているとまどかが何かを話したそうに私の方を見てきた。

 

「何かしら?」

 

「実は昨日からほむらちゃんに聞きたいことがあったんだけど…いいかな?」

 

「別にいいけど……」

 

「わたしとほむらちゃんって…前にどこかで会っていない?」

 

 その言葉に一瞬だけドキッと胸が高鳴る。

 幾つか前の世界でも彼女に同じことを聞かれていた。私はその質問にいつも同じ言葉で答えていた。

 それは今回の時間軸でも変わらない。

 

「ないわ。2日前の河原での出会い、それが私とあなたの初対面よ」

 

「そっか…ごめんね、変なこと聞いちゃって。

 どうしてもほむらちゃんのこと初めて会った時から他人のような気がしなくて……」

 

「ふふっ」

 

「わ、笑わないでよ!」

 

「別にバカにしたわけじゃないのよ。私もそう思っていただけ」

 

「へ?」

 

 まどかがキョトンとした顔になる。意外そうにしているけど、あなたの考えは間違っていないのよ。

 覚えていないかもしれないけど、私達は何度も出会っている。

 あなたにとって私はただの転校生でしかない、けど私にとってのあなたは……

 

「さて、そろそろ帰らなくちゃいけないわね」

 

「え、あっ、うん……」

 

「じゃあね。今度は学校で会いましょう」

 

「そ、そうだね! 楽しみに待ってるから!」

 

「さようなら、まどか」

 

 手を振って別れを告げる。

 

 時間軸によってあなたが私に感じることは違っていた。でも私があなたに対して想うことはたった一つだけ……

 

 あなたは私のたった一人の大切な友達。それだけは変わらない、これからもずっと……

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 ほむらちゃんと別れて、わたしは家へと帰って来た。

 玄関のドアを開けるとパパとママがわたしを出迎えてくれた。

 

「おっ、お帰り。どうだったお友達とのお出かけは?」

 

「うん…楽しかったよ……」

 

「まどか、どうかしたのかい?」

 

「な、何でもないよ…わたしちょっと疲れちゃったから部屋で休んでいるね」

 

「おう、晩御飯になったら呼ぶからちゃんと降りてくるんだぞ」

 

「分かった」

 

 ぎこちなく答えて足早と階段を駆け上がって自分の部屋へと駆け込んだ。

 二人ともわたしの様子に不思議がっていたけども、今はそのことはそこまで重要じゃない。

 わたしは荷物を床に置いて、ベッドに勢い良く飛び込んだ。

 

「…………」

 

 目を閉じて今日会ったことを思い出していく。

 さやかちゃんや仁美ちゃんとは違う子とのお出かけ…それはとっても楽しかったけども、一つだけそれとは違う気持ちがあった。

 それは魔女との戦いが終わってほむらちゃんが言ってきた言葉のこと。

 

 

 

『あなたは私にとってのかけがいのない人なの……』

 

 

 

 わたしは凄く申し訳ない気持ちで一杯だったはずだった。

 だけど何度思い返しても、あのときのわたしは…『嬉しい』と感じてしまった。

 

 それからのわたしは色々とおかしかった。

 ほむらちゃんと一緒にいるだけで、とっても暖かい気持ちになる。必要以上にほむらちゃんのことを意識しちゃう。

 初めてあの子と会ったときから、ずっとわたしはほむらちゃんの何かに惹かれていた。だけど今はそれ以上に……

 

「ほむらちゃん……」

 

 無意識の内に名前を口にする。

 

__まどか。

 

「えっ?!」

 

 ここにはいないはずのほむらちゃんの声が突然聞こえてくる。

 部屋の中を見渡すけども、当然ほむらちゃんがいるはずがない。

 

 もしかして今のって…わたしが頭の中でほむらちゃんのことを考えていたから……

 

 そこまで考えが至った瞬間、無性に恥ずかしく感じて、枕に顔を埋める。

 そしてしばらくの間、その気持ちを落ち着かせるためにわたしはベットの上でコロコロと転がっていた。

 

 

 





※これ以外にもまだ未公開のエピソードは幾つかあります。今後も本編を投稿しながら、こういうのを少しずつ書いていこうかな、と思っています。

※次回からいよいよ新章突入! 二人の新たな活躍を期待して待っててくださると幸いです。


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Chapter2 魔の再臨
第13話 Aのひととき ~ 贈り物



※いよいよ第二章スタート!! まずはこちらのシーンからどうぞ。
※サブタイ、また変えました。予告していたやつは14話で使うので許してくだせぇ……



 

 

 

 吹き荒れる旋風、降り注ぐ雨粒、闇に覆われた大空。

 わたしはひたすら階段を上っていた。理由は分からない、でも本能がこのまま突き進めと命じていた。

 

「まどか、急ぐんだ!!」

 

 肩に乗っているキュウベぇがわたしを急かす。どうして急ぐのか……そのことを問い詰めたい気持ちで一杯だったけど、それでも上り続けた。

 やがて屋上らしき扉が見えてくる。この先に一体何が? そう思いながら一気に扉を開け放った。

 

 

 

「えっ?!!」

 

 

 

 目の前には壊滅した見滝原が広がっていた。そしてその上空には、かつて一度も見たことがないくらいの強大で邪悪な魔女が浮かんでいた。

 

 現状が全く掴めずに慌てふためいていると轟音が聞こえた。音の元を目で追っていると、もっと驚くものがあった。

 

「ほむらちゃん?!!」

 

 わたしの友達であり、一緒に戦う相棒(パートナー)であるほむらちゃんが、一人魔女と戦っていたのだ。

 

 大量の重火器を配置して、それをどうやってかは分からないけれど全て撃ち尽くす。それから橋の上へと一瞬で移動してロードローラーを操り、衝突させる。

 ほむらちゃんの猛攻はそれだけじゃなかった。再び、姿が消えたと思うと今度は河原の方にいて、たくさんの兵器を魔女へ向けて一斉に放ち、魔女を大きく後退させる。そして後退した先にいつ配置したのか分からないけれど、数えきれないほどのミサイル砲があり、それらが一斉に魔女へと撃たれた。

 

「キャァァァアアア!!!」

 

 あれだけ離れているはずなのに爆風がわたしのところまで届いてくる。キュウベぇも飛ばされないようにわたしの髪に必死にしがみついていた。

 

 攻撃の全てを終えたほむらちゃんは、息を切らしながら爆炎を睨み付けていた。今まで戦ってきたけれど、あんな顔で戦うほむらちゃんは初めて見た。いつも冷静に対処して、最善の戦略を見つけ出すような戦い方ではなく、ただがむしゃらに。例えるなら己を犠牲にしても敵を倒す……そんな執念が感じられた。

 

「やったの……かな?」

 

 あれだけの攻撃を食らったからきっと倒れているに違いない。そう確信したときだった。

 

『アハハハハハハ!!』

 

「?!!」

 

 不気味な笑い声が辺りに響き渡って、炎の中からさっきの魔女が姿を現す。しかも……無傷のままで。

 その光景にほむらちゃんは悔しそうな顔を見せる。でもすぐに武器を構えて魔女へと向かっていった。

 

 

 

 それからの戦いは一方的なものだった。

 魔女の元へ辿り着く手前に使い魔と戦って、そこから生まれる隙を突いて魔女本体が攻撃をしかける。炎を飛ばしたり、魔力の塊をぶつけようとしたり……放つ攻撃はどれも強力なもので当たれば一発でやられてしまう感じがした。

 圧倒的に不利な戦況に必死に立ち向かうほむらちゃん。でも何処からともなく飛んできた瓦解したビルがほむらちゃんにぶつけられた瞬間、彼女の動きは無くなった。

 

「酷い……こんなの酷すぎるよ……」

 

「相手は超弩級の魔女。彼女一人で戦うのには荷が重すぎたのさ……」

 

「そんな……」

 

「けれど鹿目まどか。君なら彼女を救うことが出来る」

 

 キュウベぇが催促するようにわたしを見てくる。どうすればいいのか? それは何故かもう頭の中で決まっていた。でもそれは……

 

「契約だけはほむらちゃんにするなって……」

 

「この状況を見て、そんなことを言ってられるのかい?

 このままだと君は彼女との約束を果たすどころか、彼女自身も失ってしまうんだよ?! それだけじゃない、君がここで戦わなければこの見滝原に住む全員の命があの魔女によって奪われてしまうんだ!! それでもいいのかい?!!」

 

「!!」

 

 そんなのは嫌だ。大切な相棒だけじゃなく、大事な家族、大好きなこの街までも全て無くなってしまうなんて……!!

 

「キュウベぇ……ほむらちゃんのところへ連れていって」

 

「御安い御用さ」

 

 

 

 キュウベぇに連れられ、わたしはほむらちゃんの元へ着く。そこにはビルの瓦礫に足を挟まれてしまって身動きが取れなくなっているほむらちゃんの姿があった。

 

「どうして?! どうしてなの……何度やってもアイツには勝てない!! 私のやってきたことは、結局……」

 

 絶望し、打ちひしがれているほむらちゃんの手をわたしをそっと掴んだ。すると彼女は信じられないようなものを見るような目でわたしを見た。

 

「まどか……」

 

「もういい……もういいんだよ。ほむらちゃん」

 

「まさかあなた……!!」

 

「大丈夫。わたしは絶対に今日までのほむらちゃんの頑張りを無駄にしたりしないから……」

 

 大粒の涙を溢しながら、ほむらちゃんは駄々子のように首を振り続ける。でもわたしは決めたんだ……あなたを、この街のみんなを守るために魔法少女になることを……!

 

 

 

「さあ、鹿目まどか。その魂を対価にして、君は何を願う?」

 

「わたしは____」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 気がつけばわたしはベッドの上にいた。辺りを見渡しても、魔女やキュウベぇ、ほむらちゃんの姿はどこにも無かった。

 じゃあ、もしかして今の今までわたしが見ていたのって…………

 

 

 

「ゆめぇ……?」

 

 

 

 

 

第13話 A(after school)のひととき ~ 贈り物

 

 

 

 

 

 目元を擦りながら階段を下りてリビングへ向かう。そこには既に知久が朝食の準備をしていてテーブルに皿を並べていた。

 

「おはよ~パパ」

 

「おはようまどか。今日はちょっと遅かったね」

 

「うん。昨日は色々忙しかったから」

 

「ねーちゃ、ねぼすけ~」

 

「タツヤもおはよう」

 

 椅子に座りながらまどかを指差す弟の鹿目 タツヤ、その頭を撫でていると母親の鹿目 詢子が軽い伸びをしながらリビングへ入ってきた。

 

「うーん……おはよ、三人とも……」

 

「あれ、ママが一人で起きてくるなんて珍しい」

 

「おう、どこぞのお二人さんがいつまでも起こしに来てくれないから自力で頑張った」

 

「いつもそうすればいいのに~」

 

「ああやって起こしてもらわないとシャッキリしないんだよね」

 

 悪びれることなく詢子が笑っていると知久が二人に呼び掛ける。

 

「ほらほら、もう朝御飯の準備出来たから、二人とも顔を洗っておいで」

 

「「はぁーい」」

 

 

 

 顔を洗い終えて、鹿目家四人が席に着く。いつもより少し起きるのが遅かったので、少し急ぎ目に朝食を食べていると詢子がまどかに話しかける。

 

「そういや、さっき忙しいとか言ってたけど何か用事とかでもあったのか?」

 

「ううん。友達と一緒に出掛けたりしてたの」

 

 魔法少女のことは話すことが出来ないのでなるべく包み隠した感じで説明する。そうしていると詢子はニヤッと笑った。

 

「その友達って、もしかして最近仲良くなったあの子かな?」

 

「う、うん。そうだけど、どうして?」

 

「だってね~ここしばらくずっと何かある度にほむらちゃん、ほむらちゃんって言ってるからさ」

 

「そ……そんなことないよ……」

 

「照れなくていいだろ~、ほれほれ」

 

「照れてないもん……」

 

 頬を膨らませて不機嫌そうな表情になるまどか。けれど、その顔は真っ赤になっていた。

 

「まろかー、かおまっかー」

 

「隠すことないじゃん、ていうかバレバレだし」

 

「う~~~っ」

 

「ママ、そろそろその辺にしておいたらどうだい」

 

「たははっ! 悪ふざけが過ぎたかな? でもやっぱり気になってね~、あのまどかをここまで落とした子がどんなのなのか」

 

「確かに僕も前に暁美さんについて相談されたけど、結局分からなかったしね」

 

「何それ?」

 

「!!」

 

 あまり思い出したくないことを話題に出されて、まどかの目が大きく開かれる。

 無理矢理なんとかして話を変えようと考えていたが、努力虚しく続けられた。

 

「実はね先週の金曜日、帰ってきたと思ったらいきなり、喧嘩しちゃったからどうしようって物凄い勢いで泣きついてきてね、相談に乗ってあげたんだよ」

 

「へ~」

 

「それで仲直りしをしに出掛けたと思ってたら、いきなり電話で「ほむらちゃんのお家にお泊まりしたいんだけど!!」って言われてね~」

 

「あーだからあの日、まどかウチに居なかったのか」

 

「もうパパ! そのことは内緒にしてって言ったのに!!」

 

「喧嘩して仲直りしたばっかの相手の家にいきなり泊まるなんて、昔のまどかじゃ考えられなかったよ」

 

「いいな~アタシも見てみたかったな~。積極的なまどか」

 

 悪戯な笑みを浮かべながらチラリとまどかの方を見る。まどかは顔を逸らして視線を合わせないようにしていた。

 

「んで、結局ほむらちゃんとはどんな関係なのよ?」

 

「と、友達だよ……」

 

 本心では相棒(パートナー)と答えたかったが、あらぬ誤解を受けそうなので念のため伏せておいた。

 けれどそんな分かりやすい嘘に騙されるほど詢子は鈍くなかった。

 

「アタシの見立てとしちゃ、もうとっくに友達なんかよりも上の関係になってるんじゃないかと思ってたけど~恋人とか?」

 

「?!! ングッ……!!」

 

 とんでもないことをいきなり言われ、飲み込んだトーストを喉に詰まらせてしまう。空かさず知久が水を渡す。

 

「だ、大丈夫かい?」

 

「んぐんぐ……ぱぁ!! い、い、いきなり何を言うのママ!!」

 

「あり? 違った?」

 

「違うよ!! ほむらちゃんは大切な相棒なの!!」

 

「「相棒?」」

 

「あっ…………」

 

 思わず本音が漏れてまどかは見事に自爆した。二人はその聞きなれない言葉に当然疑問を持った。

 

「相棒? それってどういうことだい?」

 

「あはは……な、何でもないよ……」

 

「ふ~ん……」

 

 首を傾げる知久に対して詢子は何か企んでいる表情を見せる。そしてまどかの肩を掴んで言った。

 

「よしっ、まどか。今日ほむらちゃんウチに連れてこい」

 

「ええっ?!! お仕事はいいの?!」

 

「やれることやったら超特急で帰ってくるからさ。おっと拒否権はないからな~」

 

「ほむらちゃんの都合は…………」

 

「時には自分の都合を相手に押し付けることも大事なんだぞ」

 

「なんでだろう、ママの言うこといつも正しいって思っていたのに今日だけそう感じないよ……」

 

「まーまーいいじゃん____ってヤベッ、もうこんな時間かよっ?!!」

 

 時計を見るとあともう少しで七時になろうとしていた。詢子は急いで朝食を平らげて支度をし始める。

 それを見てまどかも食べ終えて、登校する準備をしようとした。だがその準備の中、一つだけ気になったことがあった。

 

「あれっ? パパーわたしのピンクのリボン何処いったの~?」

 

「ごめんね、まどか。昨日洗濯するのを忘れちゃって、さっき洗濯機を回したばっかりなんだ」

 

「えーっ、じゃあ髪どうしよう?」

 

 悩んでいるまどかの元にポイッと包み紙が投げ渡される。それは詢子からの物で中身は白いリボンだった。

 

「新品のやつが部屋に置いてあったから今日はそれ付けていきな。きっと似合うと思うよ」

 

「ありがとうママ!!」

 

 お礼を言って早速結び始める。結び終えた後、鏡を見てみるといつもと同じ髪型のはずなのに何だか新鮮に感じた。

 

「うんうん、似合ってる。それじゃ行ってくるね!」

 

 そう言って、知久とタツヤの頬にキスをする。そして最後にまどかとハイタッチを交わす。鹿目家伝統の習慣を済ませて早足に詢子は家を出ていった。

 

「さあ、まどかも行ってらっしゃい」

 

「うん、行ってくるね!」

 

「いってらっしゃーい」

 

 二人に見送られてまどかはみんなとの待ち合わせ場所へと急いだ。

 

 

 

 

 待ち合わせ場所に着くとそこにはさやかと仁美、そしてほむらが既に待っていた。

 

「まどか~遅いぞ~」

 

「ごめんごめん、ちょっと家族と話していてね」

 

「おやおや~家族会議とな。実に興味深いですな~」

 

「さやかさん。あまり人様の家庭事情に首を突っ込むものじゃありませんよ」

 

「仁美。何を言っても無駄よ、さやかにとってデリカシーってものは生まれたときにへその緒と一緒に切り落としているんだから」

 

「なるほどそうでしたの」

 

「納得すんな!! あたしにだってそれくらいあるわ!!」

 

「無いわ」

「無いね」

「無いですわね」

 

「うわーん、親友三人が朝から辛辣だー!」

 

「そんなことより早く行きましょう。遅刻するわよ」

 

 ほむらがそう言い、四人はいつもの通学路を歩き始める。いつものように他愛のない話をしているとほむらがあることについて話題を振った。

 

「まどか。そう言えば、いつものピンクのリボンはどうしたの?」

 

「確かに今日のまどかさんのリボンは白ですわね」

 

「あーホントだ。あたし全然気づかなかったわ」

 

「先週のときは真っ先に気づいていらしてたのに」

 

「昨日、洗おうと思ってたんだけど忘れちゃって……それで代わりにママからこれを貰ったの」

 

「うんうん、やっぱりまどかのママのチョイスは最高だね。いい嫁を持ってさやかちゃんは嬉しいですぞ~」

 

「もうさやかちゃんったら、いつもそれなんだから~」

 

「それがさやかさんの良いところでもあるんですけどね」

 

「あっはっは、照れるな~」

 

「……………………」

 

 三人が楽しく会話している中、ほむらは一人ずっと黙っていた。それに気づいたまどかは彼女に声をかける。

 

「ほむらちゃん、どうかしたの?」

 

「いえ……何でもないわ……」

 

「もしかして似合ってなかった?」

 

「そ、そんなことないわ。ただこっちのまどかもとても可愛いって思ってただけよ!」

 

 ちょっとだけ落ち込む姿を見て、ほむらは慌てて首を横に振った。

 その弁解に対してまどかは恥ずかしく思い、顔を赤くする。

 

「か、可愛いって、そんな……」

 

「ちがっ……いえ、違くはないけど……その…………」

 

 まどかが顔を赤くするのを見て、ほむらも先程の発言に対して恥ずかしさを感じる。二人が顔を赤くしている光景に、さやかと仁美はただニヤニヤしながら眺めていた。

 

「おやおや、朝からオアツイですね~」

 

「禁断の恋…………キマシ、キマシ!!」

 

「も~っ、ママ達といい、さやかちゃんといい!!」

 

「ははっ、拗ねんなって」

 

「むぅ……」

 

「でも本当に似合ってますわよ、そのリボン」

 

「これはこれで、アリかもね~。今度からピンクと白、交代で付けていったら?」

 

「考えておくよ……」

 

 むくれるまどかをからかうさやかと仁美。そんな感じに三人は和気藹々と会話をしながら、学校へと向かった。

 楽しそうにお喋りをするまどかだったが、登校するまでこちらを見ているほむらがずっと気になって仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 それから放課後、まどかは帰りの支度をしているさやかに声をかけた。

 

「さやかちゃん。一緒に帰ろ!」

 

「ごめん、今日どうしても外せない用事があるからパスするわ~」

 

「もしかして上條くんのお見舞い?」

 

「まあね~、それよりもあたしなんかよりもほむらと一緒に帰ってあげたら?」

 

「えっ、一緒に帰るつもりだったけどどうして?」

 

 意外なことを言われて、不思議そうにするまどかにさやかはそっと耳打ちする。

 

「だってさ、今日のほむらなんか元気無かったじゃん。だから嫁のアンタがしっかりと慰めてやらなくちゃな~って思ったからさ」

 

「よ、嫁って……それはさやかちゃんじゃなかったの?」

 

「勿論そだよ~、まどかはあたしという存在がいながら他の女にも手を出す浮気者なのだ~」

 

「そ、そんなんじゃないよ!!」

 

「えっ、じゃああたしの嫁であることは否定しなかったりする?」

 

「そんなのごめんだよ」

 

「酷っ!! しかも結構マジトーンだったし!!」

 

「冗談だよ~。それよりも上條くんと上手くいくといいね」

 

「だ~か~ら~、あたしと恭介はそんなんじゃないってば!」

 

「さやかちゃん、わたしと同じこと言ってるよ」

 

「あっ……。と、とにかく急がなくちゃいけないからもう行くね! じゃあまた明日!!」

 

 今度はさやかが顔を赤くしたかと思うと、身体を180度回転させて、逃げるように教室を去った。

 さやかの照れた表情を思い出して笑っていると、今度は入れ違いにほむらがまどかの所へとやって来た。

 

「さやかはどうかしたの? 何だか凄い勢いで走っていっちゃったけど……」

 

「ティヒヒ、朝わたしをからかったお返しだよっ」

 

「そう……それなら一緒に帰りましょう? 魔女探しも含めて」

 

「そうだね! あっ、それならそのついでに一緒に寄り道していかない?」

 

 まどかの提案にほむらは意外そうな表情をする。

 

「珍しいわね、あなたがそんなこと言うなんて」

 

「いっつもはさやかちゃんが決めちゃうから、たまにはね」

 

「分かったわ。それなら案内よろしく頼むね」

 

「りょうか~い!」

 

 

 

 

 それから街中を軽くパトロールし終え、私達はショッピングモールの中を歩いていた。

 

「今日は魔女が出てこなくて良かったね」

 

「そうね。出来ればもう一生出てこないことを願いたいわ」

 

「ティヒヒ、そうだね」

 

「ところでまどか、さっき寄り道したいって言ってたけどここに何か用事でもあるの?」

 

「うん。そうだよ! もう少しで……あったよ!」

 

「ここって……雑貨屋?」

 

「わたしのお気に入りのお店なんだ!」

 

 まどかのお気に入りの……確かに店の内装や売ってある物とかは、まどかの好きそうな可愛らしいものばかりね。

 クスッと笑っていると、不意にまどかに手を握られて店の中へと引っ張られる。

 

「ま、まどか?!」

 

「そんなところにいないで早く入ろっ!」

 

「え、えぇ……」

 

 気のせいだろうか、巴さんとの一件があってからまどかが随分と積極的になった気がする。今までこうして手を繋いだりしたことも無かったし……信頼されているのは悪い気はしないけど、なんだか恥ずかしいわ。

 

 意気揚々と進んでいくまどかに顔を見られていないか、とドキドキしながら付いていく。するとまどかの足がピタリと止まった。あれっ、この場所って……

 

「リボンが一杯……」

 

「うん。わたしがいつも付けているリボンもここで売ってあるものなんだ」

 

「そうなの。でもどうしてここへ?」

 

「今日わたしがイメチェンしたから、どうせならほむらちゃんもイメチェンさせたいなって思っちゃって!」

 

「どうせならって……」

 

「だってほむらちゃん、朝学校へ行く時、わたしのことずっと見ていたよね」

 

「!!」

 

 なるべく見ないようにしていたつもりだったのに、どうしてバレたの?!

 なんて驚いているとまどかが一歩私の元へ近づいて言った。

 

「あの時似合っているって言ってくれたけど、ちょっと恥ずかしかったんだよ?」

 

「ごめんなさい。気を悪くしたのなら謝るわ……」

 

「だーめっ、ほむらちゃんにも恥ずかしい思いさせてあげるんだから!」

 

「が、外見を変えたところで別に恥ずかしがったりなんかしないわ……」

 

「ティヒヒ、強がってもダメだよ。わたしとっくに知ってるんだよ? ほむらちゃんがとっても恥ずかしがり屋さんだってこと」

 

「そんなことっ……」

 

「『相棒(パートナー)』だもの、知らないわけないでしょ♪」

 

「あうぅぅぅ……///」

 

 あれからまどかが変わったことがもう一つ。何かしらある度に私のことを『相棒』と言うのだ。こっちの方は純粋に恥ずかしい……さやかや巴さんの前ならともかく色々な人の前で言ってしまうから、周りの見る目がちょっと痛い。

 一度そう呼ぶのを止めて欲しいとお願いしたのだけれど、そしたらマジ泣きされてしまったから今は仕方がなく受け入れている。

 

「ほらやっぱり♪」

 

 嬉しそうにしながら、まどかは自分の髪を結んでいるリボンに手を伸ばす。そして外したリボンを私の頭にグルッと巻いて優しくリボン結びで止めた。

 

「ほむらちゃん、鏡見てみて。とっても可愛いよ!」

 

「ありがとう///」

 

 見た目としてはあまり変わってないが、それでもまどかが誉めてくれるのは嬉しかった。

 

「ん~でも色はこっちの方が似合ってるかも? よしっ!」

 

 何かを思い付いたまどかは、置いてあるリボンを手に取ってレジまで走っていった。そしてすぐに戻ってきて今しがた買ってきた物を私に渡した。

 

「はい、ほむらちゃんこれ!」

 

「でもこれって……」

 

「わたしからのプレゼントだよ♪」

 

「そんな……あなたに悪いわ……」

 

「気にしないでよ、わたしがそうしたいからしたんだし……もしかして嫌だった?」

 

「そんなわけないわ。凄く嬉しい」

 

「良かった。それじゃ開けてみて」

 

 買った店で開けるのはどうかと思ったけど、レシートも持っているみたいだし大丈夫でしょう。

 そう考えながら袋から取り出してみると、中身はやっぱりリボンだった。だけど、ただのリボンではなかった。

 

「これって……」

 

「わたしとお揃いの色! どうかな?」

 

「まどかとお揃い……」

 

 まじまじとリボンを見つめる。それから頭に巻いていたまどかのを外して、代わりに貰ったピンク色のリボンを付ける。

 

「どう……かな?」

 

「うんうん、さっきよりもず~っと可愛い!!」

 

「そ、そう……?」

 

 ぴょんぴょんと嬉しそうにするまどかを見ているとこちらまで楽しい気分になる。でもこのまま一方的に物を貰うのは申し訳ないわね……何か私もまどかにプレゼント出来ないかしら?

 

 彼女に合うプレゼントはあるか……そう思いながら店の商品を眺めていると、私の視界に『あるもの』が映った。そして瞬間的に悟った。これがまどかにとって理想的なプレゼントになると。

 

「まどか、ちょっと私も買いたい物があるから店の外で待っててくれないかしら?」

 

「?? 一緒じゃダメなの?」

 

「すぐに戻ってくるから……ね?」

 

「分かった。じゃあ外で待ってるね」

 

「ありがとう」

 

 まどかが私に背を向けて歩き出したところで、急いで『あるもの』が置いてある場所へ行く。そしてすぐにそれを手に取り、レジへと持っていった。

 

 

 

「すみません。これプレゼントとして渡したいんですけど……」

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 

 





※詰め込み過ぎた……前回書いたアレ、一応反省のつもりだったんだけどなんの意味も無かったね(泣)

※ちなみにリボンをつけたほむらの姿は、TV最終回のリボほむです。


☆次回予告★


第14話 Aのひととき ~ 相棒の証


ほむらが選んだまどかへのプレゼントとは?



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第14話 Aのひととき ~ 相棒の証


※強さ予想ランキング(叛逆込み)

アルまど≧デビほむ>マミさん≧さやか(円環)≧杏子≧まどか≧ほむら>めがほむ≧さやか≧なぎさ

 ノーマルさやかは、経験が少ないから弱いんだ……き、きっと経験積んだから円環さやかは強くなったんだ(震え声)
 なぎさはぶっちゃけ分かりません。でもほむらの時間停止には絶対に対応出来ないと思います。
 でも、やっぱチート抜きなら最強はマミさんだね!!(異論は認める)



 

第14話 Aのひととき ~ 相棒の証

 

 

 

「お待たせ」

 

 まどかへのプレゼントを買って店の外へ出る。そこには私の買った物を興味深そうに見ているまどかがいた。

 

「ほむらちゃん、何買ったの?」

 

「今は内緒。その……この後、まどかはなにか用事あったりする? もし無ければ私の家に来て欲しいの」

 

 今ここでプレゼントを渡すのは人目もあってちょっと恥ずかしい。なんてことを思っていると、まどかはニッコリと笑って頷いた。

 

「うん、いいよ。でも場所はほむらちゃんのお家じゃなくて、わたしの家でいいかな?」

 

「構わないけどどうして?」

 

「ママとパパがほむらちゃんと会いたいって言ってて……」

 

 申し訳なさそうにもじもじしながら話すまどか。もしかしなくてもこの子、何か変なこと喋っていないでしょうね……? 嫌な予感がしてならないわ。

 

 でも折角誘ってくれたのだからそれを無下には出来ないよね。

 

「分かったわ。粗相をしないように気をつけなくちゃね」

 

「もう、そこまで固くならなくていいよ。いつも通りでいいから」

 

「あまり友達の家に遊びに行ったことが無いから勝手が分からないのよ」

 

 あまりというか、これまでのループを換算しても行ったことのある友達の家ってまどかくらいしかいないのよね。

 さやかや仁美は無いとして、巴さんは……友達って言うよりあの人は先輩、仲間のカテゴリーに含めた方がいいのかしら? そして風見野に住んでるあの子は……家、なのか?

 

 失礼なことを考えていると、まどかに手を掴まれて引っ張られる。

 

「心配しないでわたしが付いてるから!」

 

「そうね、頼りにしてるわ」

 

 こうして私はまどかと手を繋いだ状態のまま、彼女の家へと向かった。

 

 

 

 

「着いたよ。ここがわたしの家!」

 

 何故か自信満々に家を紹介するまどか。思えばこの時間軸でこの家を見たのは初めてよね。これまでは私の目を離した隙にキュウベぇと契約をさせないようにずっと外から見守っていた。

 でも今回はその必要がない、彼女には契約をしようとする意思が見られない。アイツもそれを知っているのか、むやみやたらと契約を迫っていない。

 

「立派な家ね」

 

「ほむらちゃんのお家も素敵だったよ!」

 

「あのアパートが? まどかも物好きね」

 

 お返しに言ってくれたのかと思ったけど、見ると本心から思っているようで、それが可笑しくて笑ってしまう。

 

「笑わないでよ……わたしも一人暮らしをするならああいう場所がいいな~って思っただけだもん」

 

「大変よ一人暮らしは、私も巴さんもこれでも結構苦労してるのよ?」

 

「例えばの話だよ。さあ、早く中に入ろう!」

 

「そうね」

 

「ただいま~」ガチャ

 

「お邪魔します」

 

「おー、おっかえり~お二方」

 

 ドアを開けて家の中へ入ると、近くのドアからスーツを着た女の人が顔をこちらから覗かせていた。多分まどかのお母さんだろう。

 でも何でこの時間に? その疑問はまどかが聞いてくれた。

 

「ママ?! お仕事はどうしたの?」

 

「言ったろ~超特急で帰ってくるって、仕事全部終わらせて一番に戻ってきたのさ」

 

「もう、そんなに張り切らなくていいのに……」

 

「ははっ、それよりもその子かい? 例のまどかを落とした相棒(パートナー)って?」

 

「ちょっ……ママ!!」

 

「」

 

 ビンゴ。やっぱりこの子私について余計なことを言ったみたいね……別に咎めはしないけど、ジトーっとまどかの方を見た。

 

「あっ……あはは……」

 

「全くあなたは……はい、初めまして先週見滝原中学に転校してきました暁美ほむらです。まどかさんとは以前から知り合っててクラスでも大変仲良くしてもらっています」

 

「ほぅ……この歳にしては随分としっかりとしている子だねぇ。アタシは鹿目 詢子、普通に名前で呼んでもらって構わないよ。何ならお義母様でも構わないけど?」

 

 何故だろか『おかあさま』の漢字が微妙に違っている気がする……。

 

「よろしくお願いします。詢子さん」ペコリ

 

「あ~まだ早かったか。それよりも見滝原はもう馴れたかい? 転校してまだ日は浅いけど」

 

「はい、問題ないです」

 

「どうして見滝原に?」

 

「心臓の病気を患っていてその療養にここへ来ました。今は大分良くなって普通に体育の授業にも参加できています」

 

「大変だねぇ~、聞けば一人暮らしもしてるってのに」

 

「両親は二人ともあまり家にいませんでしたから、もう慣れっこです」

 

「へぇ、それじゃあ____」

 

 

 

 詢子さんの質問に順々に答えていく。質問が全て終わった後、詢子さんはポンと私の肩に手を置いてきた。

 

「中学生でここまで出来てるなんて上出来だ。でも、もし何か困ったことがあったらアタシみたいな大人でも良かったら頼ってきなよ。ほむらちゃん」

 

「ありがとうございます、詢子さん」

 

「っと……ちょっと馴れ馴れしかったかな? でもまぁ……これからもまどかのことをよろしく頼むよ。危なっかしいとこあるかもしれないけど、とても優しいやつだから」

 

「勿論です。まどかと約束しましたから」

 

「そうかい。なら二人で部屋に行ってきな、後で飲み物持ってくるからさ」

 

「分かったよママ、じゃあほむらちゃん上に行こっか」

 

「えぇ、それでは」

 

「今だけでもいいからゆっくり休みなよ」ボソッ

 

 詢子さんに手を振られながら私はまどかの部屋へと連れてって貰った。

 リビングを出る前に後ろから詢子さんに何かを言われたような気がしたけど、小声だったせいでよく聞き取れなかった。でも、この数分の間であの人に色々なことを知られたような感じがした。

 

 

 

 

「ここがわたしの部屋だよ!」

 

 部屋を案内されて中へ入る。以前のループで何度も入ったことがあるけれど、内装はこれまで同様だった。

 

「ぬいぐるみが一杯ね」

 

「子どもっぽくないかな……?」

 

「いいえ、まどからしくてとても可愛い部屋よ」

 

「えへへ……///」

 

 嬉しそうに照れるまどか。私も部屋を持っているけどこういった女の子らしいものとは縁が離れている。この子を真似て何か部屋に置こうかしら。

 

「ほむらちゃん、ここに座って」

 

「ありがとうね」

 

「それじゃ何話そっか」

 

「そうね……さっき店で買ったもの見てくれないかしら」

 

 鞄の中からプレゼントの入った箱を取り出して、まどかに渡す。

 

「何が入ってるんだろう? 開けてもいい?」

 

「どうぞ」

 

「どれどれ……これって!」

 

 プレゼントの正体。それはピンク色の宝石が埋め込まれた指輪だった。

 

「リボンのお返しよ、安物だけどもどうかしら……?」

 

「どうして指輪なの?」

 

 必ず来るであろうその質問に私は自分の想いを伝えた。

 

「私とまどかの相棒(パートナー)としての証が欲しかったから……それにあなたは魔法少女に憧れを持っているから、せめて形だけでもその願いを叶えてあげたかったの」

 

「ほむらちゃんの指輪とお揃いだね」

 

「偶然見つけて衝動的に買ってしまったけど、良かったかな……?」

 

 リボンと比べると見劣りしているんじゃないか……不安に思いながら恐る恐る聞いてみると、まどかはギュッと私に抱きついてくれた。

 

「ありがとう……すっごく嬉しいよ。この指輪、ずっと大切にするから!」

 

「そう言ってもらえると私も嬉しい」

 

「早速付けてもいいかな?」

 

「どうぞ」

 

「うーん……どの指に着けよう?」

 

「どうして悩んでるの?」

 

「どの指に指輪を着けるかによって色々と運勢とか変わるんだよ。折角ほむらちゃんからの贈り物だからちゃんと考えたいなって」

 

 今までで一度も聞いたことのない話に興味を持つ。そんなことよく考えたこと無かったけど、巴さんとかもそういうの知っていたのかしら?

 

「どんな意味があるの?」

 

「えっとね……左手が恋人や現状を変えたい時、右手だと自分の能力を発揮したい時とかに着けると願いが叶ったりするの」

 

「指ごとにも違ったりするの?」

 

「うん。結婚指輪を着ける左手の薬指には愛の証、絆を強める効果があってね、愛する人達が同じ指輪をつけることによってお互いに心が繋がって、永遠の愛を得れるんだよ」

 

「ロマンチックね。なら私達のような相棒にはどの指に着けるのがいいのかしら?」

 

「それだとね左手の中指が一番だね。友達や家族とよい関係が築けるから、それに相手の微妙な気持ちの変化にも気付けてそれを素直に受け入れるようになるんだ」

 

「それじゃ、これからは左手の中指に着けることにするわ」

 

「関係を深めるんだったら、別の指でも良いんだけどね。親指とか……」

 

「親指? それってどういう意味が込められているの?」

 

「ええっ?!!」

 

 何気なく言ったことが気になって質問すると、まどかは急に顔を赤くしてあたふたし始めた。気になるわね……帰ったら調べてみようかしら?

 

 そんな考えが通じたのか、慌てながらまどかは私の疑問に答えてくれた。

 

「えっとね……自分の信念を貫きたいとき、自分の意思で現実を切り開きたい時、後は目標を達成したい時に着けるのがいいんだ」

 

「あれ? 関係を深めるっていう意味は?」

 

「ま、ま、間違っちゃったんだよ! 本当は人差し指。自分の気持ちを相手に素直に表現できるようになる! ほらこの前だってお互いの気持ちが伝わらなくて喧嘩しちゃったりしたでしょ?!」

 

 確かにその通りだけど、やけに必死ね……純粋に間違えたのならここまで取り乱したりしないのに。でも現実を切り開く、か__

 

「なら中指じゃなくて左手の親指にしようかしら?」

 

「えっ?!!!」

 

「今の私には守らなくちゃいけない約束があるから……それを再認識させるにはいい機会じゃないかと思ってね」

 

「だ、大丈夫だよ。どんな約束かは分からないけど、ほむらちゃんはしっかり意識しているんだし……

 それに……わ、わたしは一緒に中指に着けたいんだけど、どうかな?!」

 

「まどかが望むなら、それでも構わないけど……」

 

 様子がおかしいまどかを不思議に思っていると、部屋のドアがノックされて詢子さんがひょこっと顔を見せてきた。

 

「邪魔するよ~。飲み物持ってきたけど…………どしたまどか、そんな顔真っ赤にして?」

 

「さあ……私にもよく分からないんですよね?」

 

「ま、いいや。じゃあ飲み物は机に置いておくから引き続きごゆっくり~」

 

 詢子さんは手をひらひらと振りながら部屋から出ていった。

 

 とりあえず一旦、まどかを落ち着かせましょうか……。それから彼女が元に戻るまで五分ほど時間を有した。

 

 

 

 

「ご、ごめんね……急に取り乱しちゃって」

 

「本当に大丈夫? 具合が悪かったら言ってくれてもいいのよ」

 

「うん、わたしは大丈夫だよ」

 

 さっきまで顔も赤かったから熱でもあるのかと心配したけど、無理はしていなさそうだから安心ね。

 

 まどかの体調のことを考えていると、ふと彼女の方から視線を感じる。見るとまどかはじーっと私の髪の毛を見ていて指を頻りに動かしていた。

 

「どうしたの? 私の髪に何か付いていた?」

 

「えっ?! そうじゃなくて前々から思っていたんだけど、ほむらちゃんの髪ってまっすぐ伸びていてき綺麗だなって思って」

 

「手入れとか結構面倒よ。お風呂に入って洗うときや髪を乾かしたりするときとかもそうだし……」

 

「でもこの前のお泊まりで見たときは素早く済ませていたよね」

 

「まどかをあまり待たせたくなかったからよ。本当はもっと時間がかかるわ」

 

「でもわたしも一度でいいから、ほむらちゃんくらいまで伸ばしてみたいな~」

 

「…………」

 

 その言葉が私の脳内にあったとある光景をフラッシュバックさせる。今朝の件といい……変に意識し過ぎているのかしら?

 

 頭の中の映像を振り払おうと自分の両頬を軽く叩く。それを見たまどかは驚いた様子を見せた。

 

「ほむらちゃん、いきなりどうしたの?」

 

「ごめんなさい……またボーッとしちゃって……」

 

「ほむらちゃんこそ大丈夫なの? 無理してない?」

 

「心配ないわ…………ってこれさっきと逆になっちゃったわね」

 

「ティヒヒッ、やっぱりわたし達、気が合ってるんだね」

 

「合っているというか似た者同士って言った方が正しいね」

 

「そうだね」

 

 自分で言っておいてあれだけども、私なんかじゃ彼女の足元にも及ばないわね。まどかが肯定してくれたのはちょっとだけ嬉しかったけど。

 

「ね、髪触ってもいいかな?」

 

「別に構わないわ」

 

「じゃあ触るね……」

 

 私の髪にまどかの手が当たる。思ったよりも不思議な感覚ね人に髪を触られるのって、不快感とかは全く無くてむしろ気持ちいい……何だか心が安らぐ。

 

「ティヒヒッ、ふわふわして気持ちいい。特別なシャンプーとか使っていたりしてる?」

 

「いいえ、市販の普通の物を使ってるわ」

 

「今度どんなのか教えてね。それと近くで見て気づいてけど、ほむらちゃんの髪って真ん中辺りで左右に別れてるね。前は結んでたりしてたの?」

 

「転校する前は、三つ編みにしていたわね。あまり好きじゃなかったから今はもう止めてるけど」

 

「どんなのか見てみたいな、三つ編み姿のほむらちゃん」

 

 ちょっとだけ抵抗があるけれど、まどかがどうしてもって顔をしていたので仕方がなく頷く。

 するとまどかは私の頭に巻いてあったリボンをほどいて、ゆっくりと髪を編み始めた。

 

「んしょ、んしょ……前までほむらちゃん、自分で編んでいたんだよね。凄いなぁ、結構大変なのに」

 

「何事も慣れよ慣れ、難しかったら代わりましょうか?」

 

「大丈夫……手先は部活で鍛えられたから……」

 

 部活……確か手芸部だったっけ? でもあんまり部活に行っている姿は見たことが無いわね。この時期はあまりやることが無いのかしら?

 

 私も部活に入ろうかな、と呑気なことを考えている内に髪は編まれていて両サイドともピンクのリボンでしっかりと結ばれていた。

 

「とっても似合ってるよ。でもなんでだろう、何かが足りない気がする……」

 

 店のときも思ったけど、この子案外こだわりが強いのね。何かが足りないって言ってるけど……どう考えても『あれ』よね。

 

 不本意極まりないけど、鞄からいざという時の為に携帯している赤い眼鏡を取り出す。そしてそれを悩んでいるまどかに気づかれないようにそっとかける。

 

「まどか、足りない物ってこれのこと?」

 

「えっ……? …………ほむらちゃん、だよね?」

 

「えぇ、あなたの相棒(パートナー)の暁美 ほむらよ」

 

「」

 

 目を点にさせてこちらを見て、まどかはそのまま固まってしまった。

 やっぱり似合ってないわよね、嫌っていた過去の自分の姿を見せつけて、私は一体何をしたかったのかしら……?

 眼鏡を取り出した時の自分に呆れていると、固まっていたまどかに動きが見られた。

 

 そして何をするのかと思えば、急に私に向かって抱きついてきた。

 

「____!!!」

 

「わっ! ちょっとまどか?!」

 

「ほむらちゃん、すっごく可愛い!!」

 

「え?」

 

 予想もしないとこに今度は私の思考が固まる。混乱している私に関わらず、まどかはそのまま言葉を続けた。

 

「普段のほむらちゃんはクールでカッコいいイメージだけど、こっちの方は可愛くて何だか守ってあげたくなっちゃう!!」

 

「えぇ……私はあんまり好きじゃないんだけど……その、地味っぽいし……」

 

「そんなこと無いよ! わたしは眼鏡姿のほむらちゃん大好きだよ。あ、勿論いつものほむらちゃんの大好きだけどね!!」

 

「ふぇっ?!」

 

 不意打ちの発言に思わず変な声が出てしまう。今さらっととんでもないこと言わなかったかしらこの子……?

 

 私が恥ずかしそうな顔をしていると、遅れてまどかの顔もさっきみたいに赤く染まる。

 

「え、ええっと……その……///」

 

「ま……まどかは、三つ編み姿の私のことが、す、好きなのよね……///」

 

「そ、そ……そうだよ! うん……わたしは、好きだよ……」

 

「ありがとう……でも私は今の格好が気に入ってるから……」

 

 私達の間に微妙な空気が流れる。どうすれば、分からなくなっているとまどかの方から話を振ってきた。

 

「ほむらちゃんはどうしてその格好、好きじゃないの?」

 

「どうしてって、それは……」

 

「あっ、嫌だったらいいんだよ? 別に、ちょっと気になっただけだから」

 

 昔の私の話をするのは気が進まない。これまでのループでも余程のことが無い限り話しはしなかった。

 だけども、今だけはまどかにしっかりと話しておきたいと思った。私のことを大切な相棒(パートナー)に知ってもらうために、そしていずれ伝えなければならない暁美 ほむらの真実を理解してもらうためにも……

 

「以前にも話したわよね、あなたと出会う前の私のことを」

 

「うん……魔法少女になるまで大変な思いをしていたんだよね」

 

「えぇ、勉強も運動も出来なくて、何も取り柄も無い。いつも周りの人達に迷惑ばかりかけて、何も出来ないまま人生を終える……どうしてもあの格好をするとその時のことを思い出してしまって嫌で堪らなくなるの」

 

 そして私が嫌っている一番の理由は、まどかに守られっぱなしで何も彼女にしてあげられることが出来なかったから。今とは違って、ただ彼女の背中に隠れているだけだったのが許せなかったから。

 

「そうだったんだ……ほむらちゃんもわたしと同じだったんだね」

 

「えっ?」

 

 わたしと同じ? 一体どういうことかしら?

 

 不思議に思っていると、まどかはその理由を説明してくれた。

 

「わたしも前まで一緒のこと考えていたんだ。そしてそんな自分が嫌だった、ずっと変わりたいって思っていたの。

 でもそんな時、ほむらちゃんと出会って全てが変わった。こんなわたしでも誰かの役に立てる、大切な人達を守ることが出来るって分かって凄く嬉しかった」

 

「まどか……」

 

 そんな風に思っていたんだ……だから魔法少女になった時のあなたはあんなに嬉しそうにしていたんだね。

 

「だからほむらちゃんにはとても感謝しているんだ。ほむらちゃんがわたしのことを想っているのと同じくらいに。

 あなたがわたしの生きている意義を教えてくれたから……」

 

「そこまで思っていてくれたなんて……ありがとう、まどか。勇気を出して昔の自分を伝えた甲斐があったわ。もしかしたら呆れられて嫌われるんじゃないかって思っていたから……」

 

「そんなことないよ。わたしはほむらちゃんのどんなことだって受け入れるつもりだよ。相棒(パートナー)だもん!」

 

「それは私も一緒。あなたがどんな人であろうと、全て受け止める。でも…………」

 

 三つ編みをほどいて、リボンを手に持つ。それからまどかに近づいて、彼女の頭にリボンを着ける。

 

 

 

 まどかはどんな姿でも、どんな髪型でも似合っていると私は思う。だけども彼女にとって一番はきっとこれだろう。ピンクのリボンにツインテール。

 私にとって鹿目まどかという存在はこの姿で無くてはならないと思っている。だからリボンを白くしたり、髪を長く伸ばしたり、今の自分から変わろうとするのは絶対に認めたくない。その想いを込めて私はこう言った。

 

「やっぱり……あなたの方が似合うわね……。

 私にとって一番は今のあなたよ。全て受け止めるとは言ったけど、出来ればあなたには今のままでいて欲しい。友達として、相棒(パートナー)として……」

 

「わたしも……どの姿のほむらちゃんも素敵だと思うけど、やっぱり今のほむらちゃんが一番だよ」

 

 ニッコリと笑って私を見るまどか。だけどね……あなたが思っていることと、私が思っていることは違う。

 

「まどか、明日からは二人ともいつも通りの格好で登校しましょう? イメチェンも悪くはないと思うけど、私はあまりこういう姿は人に見せたくないから……」

 

「うん、いいよ。でもその代わりわたしと二人っきりの時は二人で色々と変わろうねっ!」

 

「そうね」

 

 

『おーい、二人とも~夕飯が出来たぞ~。ほむらちゃんも折角だから食べてきなさ~い!』

 

 

 下の階から詢子さんの声が聞こえてくる。外を見ると辺りはすっかり暗くなっていて、気がつけば時はあっという間に流れていた。

 

「すっかり話し込んじゃったね」

 

「私としてもまだまだ話し足りないけど、今日は夕飯をご馳走になったら帰るわね」

 

「ティヒヒッ、今度はわたしの家でお泊まりしたいね」

 

「いつかしましょう。でも今は早く下に降りた方が良さそうよ、いつまでも家族の皆を待たせるわけにはいかないし」

 

「じゃあ行こっか、ほむらちゃん!」

 

「えぇ」

 

 まどかの部屋の明かりを消して、手を繋ぎ合って下へと降りていく。

 

 

 

 こうした穏やかな日々を送れるのは後どのくらいなのだろうか?

 私の心に平穏が訪れるのは一体何時なのだろうか?

 

 それらを永遠に続けたいのなら、私は話さなくてはならない。私の過去、全ての始まりである『はじまりの夜』

 

 そして、いつかは自分の罪ともしっかりと向き合う必要があるだろう。私の『贖罪の物語』はまだ終わりは見えない……

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※まどほむ、ほのぼのストーリーと見せかけて第二章のフラグを建設。この章も全12話で終わらせる予定です。
※次回から物語が動き始めます。お楽しみに!


☆次回予告★

「マミさん、あれから学校にも来てないよね……」

「あなたに教えてあげる。ソウルジェムの真実を」

「もうどうすればいいか分からないの!!」

「これは彼女の問題だ。僕は何も出来ない」

「それならわたしは……」

第15、16話 Fを乗り越えろ 

「奇跡も魔法もあるんだよ!」


 これで決まりだ。


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第15話 Fを乗り越えろ ~ 一抹の不安


※久し振りの投稿です。
 文字数を少なくしていこうという方針でしたが、多分もう無理ですわ。寧ろ増えていく可能性が大…… (^^;

追記~サブタイ変えました。なんかミスマッチだった気がしたんで……すみません。


 

 第15話 F(fear)を乗り越えろ ~ 一抹の不安

 

 

 

「いっけぇ!!」バシュッ

 

『魔女の動きが止まった。チャンスよ、まどか!!』

 

「分かった! 今度こそ逃がさないんだからッ!!」

 

 俊敏な動きで二人を翻弄していた魔女だったが、まどかの攻撃を受けて怯む。その隙を逃さず、弓を目一杯引いて狙いを定める。

 

 

 

「これで決めるよ!」

 

「『フィニトラ・フレティア!!!』」

 

 

 

『アアアァァァァァ!!!』

 

 放たれた矢に貫かれて、魔女は断末魔をあげながら消滅していった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

『大丈夫?』

 

「ううん……ちょっとキツい……かな?」

 

 ほむらの指輪を外して変身を解く。それからまどかはへたりと地面に座り込んだ。

 そこへ遠くでほむらの身体を守っていたさやかがやってくる。

 

「まどか!」

 

「さやかちゃん」

 

「ようやくあの魔女を仕留められたね。お疲れ様」

 

「えへへ、疲れたよぉ……」

 

 にへらと笑みを見せながら、近くで意識を失っているほむらの身体に指輪を返す。

 

「ん…………」

 

「ほむらちゃん、やったね」

 

「えぇ……かなり手強い魔女だったわ」

 

「二人がここまで苦戦するなんて、今まで無かったもんね」

 

 さやかの言葉にほむらは力強く頷く。

 

 この魔女とは過去に何度も戦ってきたが、経験上そこまで強いわけではなく、寧ろ弱い部類に入る魔女だった。それが今回のループのみ急激に力をつけた。ほむらはそのことに疑問を抱く。

 

(それにあの魔女……他の奴等とは行動も全然違った。まるで明確な意思を持っているように……)

 

 これまでとは全く違う現象に不安を覚えるほむら。原因を思索していたが、さやかの発言がそれを遮らせた。

 

 

 

「マミさんがいてくれれば……」

 

 

 

「さやかちゃん、それは……」

 

 まどかが暗い表情をして首を横に振る。なぜこの場にマミが居ないのか、時は数日前を遡る…………

 

 

 

 

 

 

「マミさん、お願いします!」

 

「オッケー、鹿目さん達は後ろに回り込んで魔女を攻撃して!!」

 

「はい!!」

 

 まどかとほむら、そしてマミの三人は魔女と交戦をしていた。

 まどか達は場所を転々と移動して魔女本体に攻撃して、マミは彼女達のサポートに回り、使い魔を相手をする。

 

『ティロ・ボレー!!』

 

 マスケット銃を複数召喚して、使い魔へ向けて撃つ。マミの射撃は全ての使い魔に命中して一匹たりとも逃さなかった。そこへ更にまどか達が魔女に攻撃を仕掛ける。

 

 戦局は圧倒的にまどか達に有利だった。だが突如、魔女は何の予兆も見せずに高速で動きだして使い魔を倒しきって油断しているマミへと迫った。

 

「しまっ…………」

 

 咄嗟に対応しようとするも、もう遅く攻撃をくらったマミの身体は吹き飛ばされて壁へ打ち付けられた。身動きをとれない状況になっているマミに魔女が追い討ちを加えようとする。

 

『マズイ、魔女をこちらへ引き付けて!!』

 

「うん!!」

 

 注意をマミから離すために攻撃をして、気を引かせようとするが魔女は矢が当たったにも関わらず標的をマミに絞っていた。

 

『オオオオオオ!!』

 

「あぐっ……! うっ……」ガクッ

 

 魔女の追い討ちはマミに更なるダメージを負わせて気絶させてしまう。

 

「そんな……マミさん!!」

 

 慌てて彼女の元へと駆けつけようとするが、いきなり辺りの景色が歪み始める。そして気がつけばまどか達は現実世界にいて結界の外へ出されていた。

 

「何何何?! 一体何が起きたの?!!」

 

「わたし達、助かったの?」

 

 ほむらの身体を抱えたままのさやかは不思議そうに周囲を見渡す。

 まどかも不可思議な現象に戸惑ってはいたが、とりあえず脅威が過ぎ去ったことに安堵し、変身を解く。

 

「どうやら魔女は逃げたようね」

 

「でもあっちの方が全然有利だったのになんで逃げたんだろ?」

 

「それは私にも分からないわ。一先ず巴さんを起こしましょうか」

 

「そだね」

 

 意識を失って横になっているマミをなるべく刺激を与えないようにそっと身体を揺する。

 

「マミさん、起きてください」

 

「ぅん…………あれ? 私は確か……」

 

「魔女は逃げたわ。もう大丈夫なはずよ」

 

 目を覚ますマミ。ほむらの言葉にホッと息を吐くが、すぐに表情が暗くなる。

 

「暁美さん、ごめんなさい。私……怖くて身動き出来なかった……」

 

「あんなことがあった後だもの仕方がないわ」

 

「でも私のせいで二人を危険な目に遭わせてしまったし……」

 

「わたしは気にしてませんよ! あれくらいのダメージ、どうってことないです!」

 

 あまりマミに気負わせないようにまどかは明るく振る舞う。けれどもその努力は意味を成さなかった。

 マミは黙って立ち上がり、まどか達に背を向けて何処かへと歩き出そうとした。そんな彼女の手をほむらが掴む。

 

「待ちなさい。何処へいくつもりなの」

 

「ごめんなさい……今の私は足手まといでしかならないわ。一緒にいてはもっと迷惑をかけてしまう……だからしばらく一人にしてくれないかしら?」

 

「些細なミスじゃない、それくらいのことで私もまどかもあなたを責めたりなんかしないわ」

 

「そうですよ。だからそんなに自分を卑下しないでください!」

 

「魔女との戦いはその些細なミスで命を落とすことになる。この前の私がいい例じゃない」

 

「「「!!!」」」

 

 三人は先日あったお菓子の魔女との戦いを思い出す。あの戦いでマミは一度、魔女に殺されている。

 まどかとさやかはその殺された光景を思い出して、ほむらは魔法少女として契約させないためにわざとその状況を作り出したことへの罪悪感から口を閉ざしたままでいてしまう。

 

「皆……本当にごめんなさい」

 

 泣きそうな表情でそう謝って、マミは逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

「マミさん、あれから学校にも来てないんだもんね……」

 

「「…………」」

 

 巴さんがあんな風になってしまったのは、全て私のせいだ。その気になれば、魔女に殺される前に救うことだって出来たはずだ。なのに私がした行動は、ソウルジェムと肉体のリンク圏内から外れないように一定の距離を保ちながら巴さんが魔女に殺される瞬間を見ていただけ……

 

 過去の行動に激しく後悔しているとまどかがそっと私の背中を撫でてくれた。

 

「ほむらちゃんは悪くないよ。あの状況だったらあれが一番だったとわたしは思ってるから」

 

「ありがとうね、慰めてくれて……」

 

「だって本当のことだもん」

 

 まどかは私とインキュベーターとの会話を聞いていたんだっけ。本来だったら責められてもおかしくないのに、この子は本当に優しいわね。

 

「それよりもこれからのことを考えようよ」

 

「これからのこと?」

 

 さやかが首を傾げる。彼女は実際に戦っていないからよく分かっていないけれど、あれだけの強力な魔女が出てきたのだ。今度もあれと同じくらいの強敵達と戦うのならある程度の方針を決めておかなければならないだろう。

 

「今回の魔女はこれまでとは強さのレベルが違っていた。巴さんが戦えない今、この町を守れるのは私とまどかしかいないからね」

 

「そっか……二人も戦えなくなっちゃったら魔女のやりたい放題になっちゃうんだもんね__そうだ!!」

 

 深刻な顔つきで話していると、さやかが何かを思い付いたのか大声をあげる。その様子を見て、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

「どうしたのさやかちゃん?」

 

「あたしが魔法少女としてキュゥベえと契約をすれば、二人の負担を減らせるよ!!」

 

「それって……もしかして!」

 

「やっぱり……」

 

 予感が見事に的中してしまい、頭が痛くなる。さやかは正義感の強い少女だ、だからいくら言葉で警告をしても自分の心を欺けずに契約をしてしまう。その事態を避けるために巴さんには犠牲になってもらったのに……これじゃただ彼女のトラウマを作ってしまっただけじゃない。

 

 どうにかして契約をさせないと説得しようとするが、そこへタイミング悪くインキュベーターがやって来る。

 

「確かにこのまま二人に魔女と戦わせるのは得策とは言えないね」

 

「キュゥベえ!」

 

「何しに来たの?」

 

「そんな睨むことないじゃないか。僕はただ君に有益になることを伝えに来ただけさ」

 

「有益ね……」

 

 半目で奴を見つめる。コイツのことだ、そんなことを言っておいて結局はまどかとさやかに契約を迫るに違いない。さやかがいなかったら即刻、殺してやれるのに。

 

「まどかとほむら、二人で共に変身する魔法少女は確かに強力だ。けれど二人とも気づいているんじゃないかな、魔女との戦いで負ったダメージや疲れ、それらは全てまどかが受け持っているってことを」

 

「「?!!」」

 

 思いもよらない奴の推測に私達は驚きを見せる。さやかはよく分かっていないようだけど、まどかには心当たりがあるみたいだ。

 

「キュゥベえ、じゃあ変身を解除した後にほむらちゃんの傷が治ったりしたのも全部それのお蔭なの?」

 

「そうだね。お菓子の魔女を倒したとき君は背中の痛みを訴えただろう、あれはきっとほむらが魔女の攻撃を受けて壁に打ち付けられたときに負ったものだろうね」

 

「変身したら自動的に私の怪我や疲れがまどかへ移ってしまうってこと?! 何故もっと早く伝えなかったの!」

 

「おや、てっきり察しの良い君なら気づいていると思ったけどこれは予想外だ。それに伝えようにも確証が得られなかったからね、今日のまどかの様子を見てようやく確信に入ったんだ」

 

 一々、人の神経を逆撫でしてくる発言をするわね……感情云々にしても私には明確な敵意を持っている。まどかとの契約が絶望的になったからかしら?

 

 物陰で悔しそうに地団駄を踏むインキュベーターの姿を想像して愉快な気分になる。絶対にあり得ない光景だけどもそれでもこれまでいいように翻弄されていたからその分だけ爽快感が凄いわね。ざまあみろ。

 

「ほむら……あんた今、とんでもないくらい邪悪な顔してるよ」

 

「えっ? あっ……」

 

「深くは聞かないけど、絶対にまどかには見せるなよ。それ」

 

「ほむらちゃんがどうかしたの?」

 

「な、なんでもないわ。まどか」

 

 どんな顔をしていたのか気になるけどさやかのヒき方をみるとかなりやばかったみたい……気を付けなくちゃ。

 

「話を戻すけど、このまま戦い続けていたら魔女との戦いの負担は全てまどかが請け負ってしまう。それも考えるのだとしたら、さやかにも戦ってもらった方が君たちにとっても有利になると思うよ」

 

「そっか……それならあたし__「待ってさやか!!」」

 

 その場の流れで契約してしまうのを防ごうと間に割って止める。

 

「一度契約してしまったらあなたはこれからずっといつ死ぬにか分からない過酷な運命を背負ってしまうのよ。安易に魔法少女になるなんて言わないで」

 

「ほむら……」

 

「さやかを気遣うのはいいけれども、それじゃ君は大切な相棒(パートナー)であるまどかを犠牲にするつもりかい?」

 

「誰がそんなこと言ったかしら、私一人だって変身して魔女と戦いことは可能よ。まどかが身体を休めている間に私が代わりに一人で戦えば、何の問題もないわ」

 

「そんなの駄目だよ!!」

 

 私の出した提案にまどかが強く否定する。

 

「わたし達は相棒(パートナー)だよ? ほむらちゃん一人でそんな重荷を背負わせたくよ」

 

「でもそうじゃなければ、逆にそれを背負うのはあなたのよ。それでもいいの?!」

 

「構わないよ。それで皆を助けられるならどんな痛みだって耐えてみせるもん」

 

「自分を粗末に扱わないでって前も言ったでしょ! どうして分かってくれないの!!」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すよ!!」

 

「あ~、二人とも一旦落ち着けってば。なんであんたらが喧嘩するのさ」

 

「「だってほむらちゃん(まどか)が!!」」

 

「ただの喧嘩ならまだしも、お互いのこと考えて喧嘩ってホント訳わかんないよ……」

 

「それは僕も同意するよ」

 

 どうしてそんな目で見られなくちゃいけないのかしら? 心配して言っただけなのに……不本意極まりない。とりあえずまどかに謝らなくちゃね。

 

「はぁ……ごめんなさい。今のは私が強く言い過ぎたわ」

 

「ううん、わたしの方こそごめんね。でも一人ぼっちでいたら嫌だからね」

 

「今度から気をつけるわ」

 

「わたしもそうするから、もう喧嘩はやめよっか」

 

「そうね」

 

「似た者同士っていうか、変身しているせいで考えることまで一緒になってるんじゃないの?」

 

「だからその目を止めなさい。

 えっと……大分逸れてしまったけど、やっぱり巴さんに復帰してもらうことが一番だと思うのだけど」

 

「わたしもそれに賛成かな。さやかちゃんが契約しても最初の方はまだ戦い慣れていないから危険が一杯だと思うし……キュゥベえ、マミさんの調子はあれからどうなの?」

 

「あまり良いとは言えないね。今の彼女はとても心身ともにかなり弱っている、下手に刺激をしてしまったらかえって逆効果になってしまうから説得はあまりお勧めできないね」

 

「それってさ、キュゥベえでも無理なの? マミさんとはかなり長い付き合いだけど」

 

「それは厳しいよ。僕は君達と同じ人間でないから些細なところまで気を配ることは出来ないし、これは彼女の問題だ。僕には何も出来ない」

 

「そっか……」

 

「さやか、もし魔法少女になるのなら一言私に言ってくれないかしら? 本当はあなたを魔女との戦いに巻き込みたくはないのだけど、本当に覚悟があるのなら止めはしないわ」

 

 最初の内からこうして話し合えれば、これから彼女に起こる事態の相談もしやすくなるから、さやかの魔女化は避けられるかもしれない。契約阻止はやむを得ないけど、まどかがそうする可能性がほぼゼロとなっただけ十分なことだろう。

 

「分かった。じゃあこれから一晩じっくり考えてから伝えるよ」

 

「そんなこと言っておいてすぐに寝るつもりじゃないでしょうね」

 

「さやかちゃんだって真面目にやるときはやる子ですぅ~! あんまりバカにするんじゃないよ~だ」

 

「だからって授業中に寝るのもダメだからね」

 

「まどか、それはいつものことよ」

 

「そっか」

 

「お~ま~え~ら~!!」

 

「マミの方はともかく君達は特に問題はなさそうだね。じゃあさやか、決心がついたらいつでも僕を呼んでくれても構わないからね。それとまどか、君にも念のため伝えとくよ」

 

「ありがとう、キュゥベえ。気持ちだけ貰っておくよ」

 

 どうやら簡単にはアイツは諦めていないよね。それとまどか、アイツに感情はないから気持ちは一欠片も貰えないからね。

 

 インキュベーターはそう言い残して、暗闇の中へと消えていった。

 

「よしっ、今日はこれくらいで解散としましょうか!」

 

「そうね。さやか、しっかりと考えておくのよ」

 

「あたしはアンタのオカンかっつーの。それじゃまた明日ね~」

 

「バイバイ、さやかちゃん」

 

「また明日ね」

 

 手を振ってさやかと別れる。そして私もまどかと一緒に帰る家へと歩き始めた。

 

 

 

「ほむらちゃん、今日も送ってくれてありがとうね」

 

「全然気にしないでこんな時間までまどかを一人にさせておく方が危険だから」

 

「それはそうとほむらちゃん」

 

「何?」

 

「今日もウチでご飯食べていかない? 今日もパパ、張り切って作るって言っちゃって」

 

「迷惑にならないかしら……」

 

「大丈夫だよ。寧ろみんな大歓迎だよ!」

 

 この前、まどかの家へ遊びに行って以来、どうやら私は鹿目家の人達に大変好意を抱かれたようで、ここしばらく夕飯はすっかりお世話になっている。私としても少しでもまどかと一緒にいることが出来るから嬉しい限りよ。

 

「それに……ほむらちゃんに話したいことがあるから……」

 

「話したいこと?」

 

「ほむらちゃんの都合が良かったでいいんだけど、ダメかな?」

 

「そんなことないわ。お言葉に甘えてお邪魔させてもらうわ」

 

「お邪魔なんてそんなこと言わないでよ~。どうせならずっと居てくれてもいいのに」

 

「流石にそれは厳しいんじゃないかしら……」

 

「ティヒヒ、冗談だよ。半分だけね」

 

「残りの半分は?!」

 

「な・い・しょ♪」

 

 なんて何気ない話で盛り上がりながら歩いている内に、彼女の家に到着する。

 まどかの話したいことって一体何だろう。気になって家にあがる前に聞いてみると彼女は「後でね」と答えた。それから元気よく扉を開けた。

 

「たっだいま~!!」

 

「お邪魔します」

 

「お帰りまどか。それと暁美さんもいらっしゃい」

 

「ねーちゃ、ほむほむきたー」

 

 詢子さんはまだ帰ってきていないのね。それにしても話したいことって、一体何かしら?

 

 

 

 

 夕飯をご馳走になった後、私は詢子さんに車で送ってもらうことになった。詢子さんが準備している間、話があると切り出してきたまどかと共に彼女の部屋へと向かう。

 

「それで聞きたいことって何かしら?」

 

 まどかの顔が曇る。こんな時間にわざわざ直接話したいと言ってきたのだきっと深刻な話に違いない。何を聞かれてもいいように身構えた。

 

「あのね、前にキュゥベえとほむらちゃんの話を聞いてどうしても確認したかったことがあるの」

 

「それって?」

 

「ソウルジェムが魔法少女の本体って本当なの?」

 

「…………」

 

「答えて、ほむらちゃん」

 

「いいわ。あなたに教えてあげる、ソウルジェムの真実を」

 

 お菓子の魔女戦で私のとった行動の真意を知っていたのだ、いつかは聞かれると思っていた。

 自身のソウルジェムを取り出してまどかに見せる。それからゆっくりと口を開ける。

 

「魔法少女としてキュゥベえと契約するとき、奴は私達の魂を抜き取ってソウルジェムへと変える。そしてそれが破壊されてしまうと…………死ぬ」

 

「そんな……どうしてそんなこと……」

 

「奴曰く、そうすることが魔女と戦うときに一番好都合らしいわ。私のようにどれだけ傷を負って血を流しても、巴さんのように首をもがれようともソウルジェムさえ無事なら魔力がある限り何度でも復活できるから」

 

 衝撃の事実にまどかはポロポロと涙を流す。その姿を見て、今この場でソウルジェムの秘密を明かして正解だと思った。

 

「酷い……これじゃ、まるで…………」

 

「ゾンビ。そう言いたいのよね」

 

 口に出すのと同時に胸がキュッと締め付けられる感覚を味わう。もう慣れたつもりではいたけど、やっぱりそう簡単に割り切れることじゃない。

 

「これが私があなたに魔法少女になってはいけないと言った二つ目の理由よ。こんな狂ったシステムのせいでこの一生を人間ではなく、バケモノとして生きていくなんて残酷すぎるもの」

 

 そこまで話すとまどかはいきなり私の腕を掴んだ。その力は想像していたよりも遥かに強く、思わず顔を歪めてしまう。

 そして彼女は泣きじゃくりながらこう言った。

 

「バケモノなんかじゃないよ……こうして触れていると分かるもん。心臓も動いているし、温もりも感じる。

 ほむらちゃんは人間だよ。わたし達と同じ……だからそんな悲しい顔しないで、お願い……」

 

 この時間軸でどれだけ私はあなたの言葉に救われてきたのかしらね、今度ばかりは泣きそうになったわ。

 溢れ出そうとする感情を押さえ込みながら、まどかの震えている手をそっと両手で優しく包み込む。

 

「やっぱりあなたは優しいわね。でも正直、不安だった。

 仮にこのことを打ち明けたとして私のことを受け入れてもらえるのか、気味悪がられてまた避けられるんじゃないか怖かったの……」

 

「どんなことがあろうとわたしはほむらちゃんのことを拒んだりしないよ、相棒(パートナー)だもん」

 

「ふふっ、その言葉って本当に便利ね。あなたが気に入るのも無理ないかも」

 

「そうでしょ! 今度からほむらちゃんも使ってみてよ」

 

「考えておくね」

 

「うん!!」

 

 元気は取り戻したようね、これで一つ目の秘密は話すことが出来た。魔法少女が魔女になるということは、また近い内に話すとしましょうか。見た目は明るくなったかもしれないけど、心の底ではきっとショックを受けているに違いないから……一度に詰め込むにはあまりにも重すぎるもの。

 

「ほむらちゃん。このことさやかちゃんやマミさんには話しておかなくちゃいけないかな?」

 

 いつ魔女化のことを話そうかと考えていると、半分忘れかかっていたことをまどかに尋ねられた。

 

「さやかはともかくして巴さんは止めておいた方がいいわね。現時点でもかなり追い詰められているのに、そんな事実なんかそう簡単に受け入れられはしないから。

 それともし明日、さやかが魔法少女にならないと言ったらこのことは伏せておいて頂戴」

 

「どうして?」

 

「知らないでおいた方が幸せなことだってあるのよ。まどかは彼女の悲しむ顔は見たくないでしょ? それにこういう秘密は人が多ければ多いほど、他の人にも伝わりやすくなる。だからあなたもくれぐれも他言は禁物だからね」

 

「分かった。約束する」

 

 話がまとまり、一息ついたところでタイミングよく下の階から詢子さんの呼ぶ声が聞こえてくる。準備が整ったようだ。

 

「それじゃまどか、また明日ね」

 

「わたしも一緒に付いていくよ」

 

「あら構わないけど、明日は確か数学の宿題の提出日じゃなかったかしら?」

 

「えっ、嘘?!」

 

「本当よ。ここしばらく忙しかったからもしやと思ったけど、まだ終わっていないようね」

 

「うぅ~、もうちょっとほむらちゃんとお話ししたかったのに……」

 

「また明日会えるんだから、それよりも宿題を優先させなさい」

 

「はーい」

 

 しょんぼりとするまどかに私はそっと耳打ちをした。

 

「明日はいつもの集合場所じゃなくて、あなたの家の前で待っているから。そうしたら長くお喋り出来るでしょ? だから今日は我慢して」

 

「!! わたし頑張って宿題終わらせるね!」

 

 チョロ…………素直な子で良かった。

 説得を無事に成功させて、私は詢子さんが待っている玄関先まで向かっていった。

 

 不安材料はまだまだあるけれど、必ず皆を救ってみせる。だから今度こそ成功させて見せる。私とまどか、相棒(パートナー)の力で。

 

 

 

 

 

 

「マズイことになったね……」

 

「どうした?」

 

「鹿目まどかにソウルジェムの秘密がバレてしまった。これでもう彼女の方から契約することは無くなってしまった」

 

「私も彼女もそっちの方が好都合だけど、そんなものお前の言い回しでいくらでも対処できるだろ」

 

「自惚れている訳ではないけど、そうだね。でも僕としては効率は少しでも良い方がいい。だから君達側についたんじゃないか」

 

「どうだか、そんなこと言いながらどうせ私のエネルギーも狙ってるんだろ」

 

「否定はしないね」

 

「まっ、何だっていいさ。ターゲット以外はどうしても構わないんだっけ?」

 

「出来れば生き残らせて欲しいけど、彼女だけは確実に残しておいてくれよ。彼女の存在は今となっては鹿目まどかの希望そのものなんだから」

 

「手元を狂わせないように善処するさ」

 

「後は君達、三人に任せるよ」

 

「あいよっ」

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※今回はちょっと話の構成を二転三転しました。重要なシーンがこれからもっと増えていくので、頑張っていきたいです。


☆次回予告★

第16話 Fを乗り越えろ ~ 思惑外れ これで決まりだ。


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第16話 Fを乗り越えろ ~ 思惑外れ


※まどかの「ほむらちゃん」と呼んでいる回数を数えてみると第15話時点で250回を越えていた(笑)
 カウントは、台詞だけではなくまどか視点からの「ほむらちゃ」も含めるので台詞だけだと少しは減るかも……?



 

 第16話 Fを乗り越えろ ~ 思惑外れ

 

 

 

 次の日の昼休み、私は昨日の答えを聞くためにさやかの所へ行こうとした。

 彼女は仁美と何か話していて手が離せなさそうな様子だったが、用件だけは伝えとこうと近づく。

 

「さやか、ちょっといいかしら? 昨日の件なのだけど……」

 

「ごめん、ほむら。今、仁美の調子があんまり良くないみたいで、これから保健室に連れていかなくちゃいけないんだ」

 

 保険委員であるまどかは昼休みに入るや、先生に呼び出されてしまっていてここにはいない。

 本当は話をしたいところだったけど、今は仁美の方が大事ね。

 

「それならまた後で。仁美、無理はし過ぎないでね」

 

「はい……心配かけてすみません……」

 

「謝ることはないわ、それより早くさやかに連れてってもらいなさい。何なら私も手伝いましょうか?」

 

「ノープログレム! 仁美のことはさやかちゃんに任せておきなさいて、あんたはそこで愛しのまどかを待っててやんなさい」

 

「はいはい。それじゃ仁美、お大事に」

 

「では……失礼しますわ」

 

 見たところかなり疲れているようね。彼女も彼女で大変そう……誰にだって辛いときはあるのよね、例え魔法少女じゃないとしても…………

 

 

 

 

 放課後、私はさやかと共に屋上へと向かった。関係のない人にこの話を聞かれるのは最もで、何よりも今からする話は魔法少女である者にも迂闊には話せないこと、場所は選ばなくてはならない。

 

「それで……答えは決まったのかしら?」

 

「うん。あれから考えたけど、あたしは魔法少女になるよ。これ以上まどかやほむら、そしてマミさんばっかりに負担はかけたくないからね」

 

「止める権利はないけれど、自分だけ私達と違って何も出来ないと引け目を感じているのなら成るべきではないと思ってるわ。それにあなたは魔法少女になることの本当の恐ろしさを知らない」

 

「本当の恐ろしさ……?」

 

「えぇ、あなたにも教えてあげる。キュゥベえと契約して背負う代償というものを……」

 

 私は話した。キュゥベえとの契約の裏を……そしてそれによって魔法少女となった者に何をもたらされるのかを……

 

 

 

「そ、その石っころが魔法少女の本体でそれが砕かれたら死ぬ……?!!」

 

「加えて肉体とソウルジェムの距離が100メートルより離れてしまうと、意識のリンクが切れて生命活動を完全に停止してしまう」

 

 予想通りさやかは大きく取り乱していた。魔法少女でなくてもこれほどのショックを受けるのだ、仮に巴さんがこれを聞いたとしたらその衝撃は計り知れないに違いない。

 

 昨日のまどかと同じようにさやかは私に掴みかかって、身体を震わせながら訴えた。

 

「何で……何でもっと早く言わなかったんだよ!!」

 

「…………」

 

「答えろよ!! ほむらもキュゥベえもどうしてそんな大事なこと隠していたんだよ!!」

 

「どうしてですって……?」

 

 気持ちは痛いほど理解できる。けれどもその思いとは別に沸き上がっている思いがあった。

 私は目の前の少女の胸ぐらを引っ張り、彼女の身体を壁と一緒にその思いをぶつけた。

 

「あなたには分かる? この身体がどれだけの重症を負おうとも死ぬことはなく生き続けていることの恐ろしさを……

 自分がこんな気持ちの悪い存在であることが周りの人間に知られて、拒絶されてしまうかもしれないと怯えながら生きていたこの思いを……」

 

 幾つもの時間軸でさやかは、バケモノ同然となってしまった身体に絶望して魔女となった。だけども同じ思いをしているのは彼女だけではない。私にもその気持ちはあった。

 巴さんや杏子みたいに既に魔法少女である人にこのことを明かすのは、特に問題ではない。しかしこれがまどかであったら……もしこれまでの時間軸とは違い、私を拒絶して離れていってしまったら……

 今回の世界でもそうだった。どんな存在になろうともまどかを守る、その信念を捨てるわけではないけれどもそれでも怖いものは怖い。

 

 このことは決してまどかには言ってはいけない。でないとまた彼女を傷つけてしまうから……

 

「ごめん……あたし自分のことばかり考えていた。あんたの気持ちなんて全然だったよ……」

 

「…………」

 

「後悔なんてあるわけないって大それたこと自分の中で思っていたけど……さっきみたいに魔法少女になるって簡単に言えないや。

 ズルいよね、あたし……ほむらの話を聞いて自分の決心が凄く揺らいでる……」

 

「何も悪いことじゃないわ、魂を犠牲にするなんて誰にでも出来るわけじゃない」

 

「やっぱりもう少しだけ考えさせてもらっていいかな? 色々と頭ん中グチャグチャで正直、訳分かんないんだ」

 

「今度こそよく考えて行動してね」

 

 もう彼女が軽々しい覚悟で魔法少女になることは無くなった。これで更に契約せずに普通の人生を歩んでもらえるのならベストだけど……もうそこまで高望みはしないわ。

 

「分かった…………ところでさ、この話ってマミさんは知ってるの?」

 

「いいえ。彼女には何も伝えていない」

 

「そうだよね……マミさんには内緒でいた方がいいもんね」

 

「ところで彼女は今日学校に来ているのかしら?」

 

「昼休み確認しにいったけど、来ていなかったよ」

 

「そう、ならくれぐれも彼女と話す際にはバレないように気を付けてね」

 

「肝に命じておk__ガタッ」

 

「「?!!」」

 

 突然、物音が聞こえて私達は咄嗟に大きく後ろに下がって、音のした方に視線を向ける。

 うっすらとだけど、ドアの隙間から誰かがこちらを見ているのは分かった。その隙間は風に吹かれてゆっくりと開いていき、会話を盗み聞きしていた人物が徐々に明らかになっていく。そこにいたのは……

 

 

 

「「巴さん(マミさん)!!」」

 

 

 

 今日学校には来ていないはずの巴さんがいた。

 昼休みまで学校に来ていなかった彼女が何故ここに?! その疑問が頭の中を巡回してパニックになりそうになるが、心を落ち着かせていつも通りの声音で問いかける。

 

「いつから聞いていたのかしら?」

 

「『マミさんには内緒でいた方がいい』って辺りからよ……」

 

「そう……」

 

 良かった、とりあえずソウルジェムの秘密は彼女には知られていないようだ。けど、まだ全然安心できないボロを出さないように慎重に言葉を選んでいると今度は彼女の方から私達に問いかけた。

 

「それで……私に内緒で何を話していたのかしら?」

 

「…………」

 

「えぇっとですね、マミさんこれは……」

 

「美樹さんは黙ってて!!」

 

 いきなりの大声に思わず飛び上がってしまう。今の巴さんはまさに一触即発、細心の注意を払わなければならない。でないと…………

 

 

『ソウルジェムが魔女を生むのなら、皆死ぬしかないじゃない!!』

 

『あなたも……私も!!』

 

 

「さやかが魔法少女になると言ったから、そのことについて話していたのよ」

 

「へぇ……なら何故それを私に秘密にする必要があるのかしら?」

 

「それは…………」

 

 相手を言いくるめられる程の上手い言い訳が思い付かない……こうしている内にも巴さんの私達に対する不信感は増大していく。

 そう悩んでいると隣にいたさやかが一歩前に出て、訳を説明した。

 

「あたしが魔法少女になりたいと思ったのは、少しでもほむら達やマミさんの負担を減らしたかったからです。

 でもマミさんがこのことを知ったら、自分が戦えなくなったせいであたしが契約してしまう。自分のせいであたしを危険な戦いに巻き込ませてしまったと負い目を感じて欲しくなかったからです」

 

「美樹さん……」

 

 彼女に伝えている内容は全て事実だ。けど、その裏に潜む別の理由を悟られないように上手く言葉を選んでいる。

 インキュベーターと同じ手口で巴さんを騙すのは何だか癪だけど、さやかながらナイスな答えだった。

 

 でもその答えに対する巴さんの反応は私が考えていたものとは全く違った。

 

「大切な後輩に迷惑をかけるだけじゃ足りず、魔女との危険な戦いに身を投じさせるようなことをさせて…………私、バカみたい……」ポロポロ

 

「いや……別にあたしは……」

 

「ごめんなさい、美樹さん……ごめんなさいッ!!」

 

「マミさん!!」

 

 巴さんは最後まで話を聞かずにそのまま階段を勢いよく降りていってしまった。さやかは慌てて後を追いかけようとしたが、彼女の手を掴んでそれを止める。

 

「彼女のことは私に任せて、私も彼女と同じくらい魔法少女を続けているからきっとその方が相談に乗ってくれやすいとおもうから……」

 

「でも……」

 

「あなたは今のあなたに出来ることをしなさい。それとさっきも言ったけど、魔法少女になるのなら真剣に考えて。例え、魂を賭けてまで戦う覚悟が無かったとしても私もまどかも決して咎めたりしない」

 

「マミさんを……頼んだよ……」

 

「必ず連れ戻してみせる」

 

 さやかに強く頷いて、急いで走り去る巴さんを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 さやかとほむらが魔法少女のシステムについて屋上で話している間、まどかは昼休みから休んでいる仁美の容態を見に保健室へと向かっていた。

 

「さやかちゃん、大丈夫かなぁ……」

 

 確かに仁美のことは心配していたが、さやかがソウルジェムの秘密を知ったとき自分と同じようにショックを受けてしまうことの方が大きかった。

 それに彼女はあまり隠し事が苦手なタイプであることも知っている。果たして彼女がマミにこのことをずっと隠し続けられるのか、それも不安だった。

 

 そうして歩いている内に目的の場所、保健室に到着する。

 ドアを開けて部屋の中へ入ろうとしたとき、ドアが反対側から開けられて目の前に人が現れた。

 

「ふぇっ?!」

 

「…………?」

 

 いきなり過ぎて、真っ白になってその場から身動きが取れなくなっているまどか。一方で保健室から出ていこうとした人__少女は全く動こうとしないまどかを不思議そうに見ていた。

 

(み、見かけない人だなぁ……もしかして三年生かな?)

 

「おい」

 

「ひゃあっ?!!」

 

 少女のことをじーっと眺めていると、彼女から声をかけられてまどかは思わずヘンテコな声を出してしまう。その反応を見て少女は困ったように頬をかいた。

 

「いや……そんなに怯えることはないじゃないか……」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「あ~、謝んなくてもいいからさ……ちょっと通してくれない?」

 

「すみません……」

 

 横にずれたとき、まどかは少女とバッチリと目が合う。その瞬間、二人の目が同時に見開かれる。

 

 

 

(何だろう……この人、凄く嫌な感じがする……)

 

「その顔……まさか…………」

 

 

 

 通り道を作ったのに今度は少女の方が動きを止めてしまう。まどかはその目を見て、獰猛な獣と真正面で対面したような気分を味わっていた。

 

 しばらくの間、少女はまどかを見つめていたが視線を彼女から外したと思いきや、足早とその場を立ち去っていった。

 

「今の人……何だったんだろう……」

 

 一人呟くまどかの手は汗でびっしょりと濡れていた。

 

 

 

 

 謎の少女との邂逅の後、保健室に入って仁美の様子を確認しようとしたが、既に学校を早退したようだった。

 

 やることが無くなって手持ちぶさたになったまどかは、屋上へ行ってほむら達と会うために保健室から出て、階段を上ろうとする。

 だが、上の階から走って降りてくる人とぶつかってまどかは転んでしまう。

 

「痛たた……」

 

「ごめんなさい! 私、急いでて……」

 

「大丈夫です……軽く腰を打っただけなので…………って、マミさん?!!」

 

 ぶつけた箇所を擦りながら起き上がろうとすると、ぶつかった人物__マミと顔を会わせた。

 

「鹿目さん……」

 

「良かった。マミさん学校に来れるようになったんですね」

 

 精神的にしっかりと回復したものと思い、安心するがすぐにマミの様子がおかしいことに気づく。

 彼女に近づこうと一歩前に進むが、それと同時に相手も一歩後退する。

 

「どうしたんですか」

 

「前にあなたは誰かの為に頑張って戦っている私のことを憧れているって言ってくれたわよね?」

 

「えっ? はい……」

 

「じゃあ今の私はどう?」

 

「??」

 

 唐突な質問にまどかは困惑する。しかしマミはまどかの反応を無視して話し続けた。

 

「鹿目さんと暁美さんの連携の邪魔ばかりして、戦いの集中の妨げになるようなことをやって……正直に言ってあなた達は私を必要としていないんでしょう?」

 

「そんな……そんなことないです! マミさんは強くて、格好よくて、勇ましくい憧れの先輩ですよ!」

 

「その私は今どこにいるのかしら」

 

 冷たく言い放つ言葉にまどかは地雷を踏んでしまったと激しく後悔する。

 

「だ、大丈夫ですよ。それにわたし達もマミさんに迷惑をかけちゃったりしたこともありましたし、お互い様ですって……」

 

「…………」

 

 彼女にばかり非があるわけではないことを必死に説明するけれど、返された答えは想像もしていないものだった。

 

「もし今の私が本当にそういう理由で戦いをしないでいるのなら良かったのに……」

 

「それってどういう……」

 

 これまで一定の距離を保って会話をしていだが、急に彼女の方からまどかに近づいて、ぎゅっと自分の手を握らせた。その手は震えていた。

 

「本当はね……あの魔女との戦いからずっと怖かったの……迷惑だからとか、足を引っ張るなんて言っていたのはこのことを隠すための嘘」

 

「どうしてそんなこと……」

 

「だって幻滅するでしょ? 鹿目さん達は命がけで魔女と戦っているのに、私はただ戦うことを止めて部屋の隅で怯えているんたもの……」

 

「…………」

 

「情けないっていうのは分かってる。でも、もうどうすればいいのか分からないの!!

 戦いに加わっても足がすくんでまともに戦えないし、かといって怯えて戦いから逃げても皆への罪悪感が胸に刺さる……」

 

「マミさん……」

 

「だからもうこの問題をハッキリさせたくて、鹿目さん達に話をしに来たの」

 

 目尻に溜まっている涙をグッと拭って、キッパリと言った。

 

 

 

 

 

「もう私は魔法少女として戦えない。だから鹿目さん、この街のことは頼むわ……」

 

 

 

 

 

「さよなら……」

 

 言い終えた後、マミは身体を翻して走り去ってしまった。

 

 

 

 

 遠退いていくマミさんの背中をただ見ていることしか出来なかった。そんなとき横からわたしに声をかけてきた者がいた。

 

「マミを追わなくていいのかい?」

 

「キュゥベえ……」

 

 昨日、ほむらちゃんが話した件もあって彼が現れたことを快く思わなかった。わたしの態度を見てかキュゥベえはため息混じりの声で話しかけてきた。

 

「やれやれ……あれほど彼女に説得するのは止めておいた方がいいって言ったのに僕の忠告を聞いてくれなかったんだね」

 

「マミさんを騙し続けているあなたの言葉なんてもう信用できないからね」

 

「騙すとは人聞きの悪い、僕は彼女に魔法少女について聞かれたことは全て答えていた。ソウルジェムについては話さなかったのはただ単にマミがそれについて質問しなかったからさ」

 

「何それ……まるでマミさんが悪いみたいな言い方で……」

 

 自分には決して非がないと主張し続けるキュゥベえに段々と苛立ちを覚えはじめる。マミさんは家族同然のようにあなたと接していたのに……

 

「事実じゃないか、そもそも一を聞いて十が返ってくるというその考え事態が僕には不思議でならないよ。君達だって物事を説明するとき全てを話すわけじゃないないよね、それと一緒だよ」

 

「でもあなたは重要な部分を説明はしなかった。魂をソウルジェムに変えられるなんて……そんなの普通なら耐えられないよ!」

 

「そうかな。僕が契約してきた少女の中には特に気にしないでいた子もいたけどね。それに暁美ほむらだってこの肉体はどれだけ傷ついても死ぬことはないから便利だって言っていたじゃないか」

 

「言葉ではそう言っていても!! わたしには分かる……本当に気にしてなんかいなかったらあの日、出会って魔法少女について話しているときに説明してくれたはずだよ」

 

「どうしてそう言い切れるんだい? 彼女から実際に話を聞いたわけではなさそうだけど」

 

「昨日の話でわたしは魂の抜かれた魔法少女のことをゾンビと一緒だって言いかけた。その時のほむらちゃんの顔、とっても辛そうだった。

 きっと怖かったんだと思う、あんな身体にされてそれを知ったわたしやさやかちゃんがまた離れていっちゃうんじゃないかって……」

 

「あくまで君の推測だろう? 第一、君達がどうしてそんなに魂の有り所に拘るのかすらも分からない」

 

 ただ呆れた様子を見せるキュゥベえを見て、ようやくわたしはほむらちゃんが彼のことをそこまで毛嫌いする理由が分かった。

 彼はわたし達、人間とは全く違った感性を持って生きている。故に人間が抱いている恐れや葛藤を理解することがないのだ。

 

 だからわたしは冷ややかな目付きで彼を睨み付けて小さく囁いた。

 

「あなたには一生理解できないよ」

 

「確かに感情のない僕達とはいつまで経っても分かり合うことは出来ないだろう。それにしてもまどか、君にそんな表情を見せるなんて正直言って驚いたよ」

 

「感情は無くても驚くことは出来るんだね」

 

 今しがた言った台詞の揚げ足を取ってやる。それと同時にわたしは今まで彼に相当下に見られていたことに気づいて更なる怒りを感じる。

 

「そうその反応だよ。初めて君を見たときには考えられないくらい精神的に成長している」

 

「初めて見たときのわたしはどんな感じだったの?」

 

「気弱でおどおどして自分にあまり自信の持つことが出来ない平凡な少女さ」

 

 何一つ間違いのない答えに思わず笑みが溢れる。キュゥベえはわたしのことをじっと見つめながら話を続けた。

 

「それが今は僕が魔法少女についての情報を故意に隠していたのにも関わらず、感情をそのまま表に出さずに強気な態度を保っている。一体何が君をこの短期間の間に変化させたんだい?」

 

「そんなの答えるまでもないでしょ?」

 

「やはり暁美ほむらか……」

 

「ほむらちゃんはきっとまだわたしの知らない辛い真実を幾つも知っているはず……だけど全部をわたしに話してくれない。それがどうしてなのかずっと考えていた。

 それはまだわたしが弱いから、真実を知って傷つくわたしの姿を見たくないから、ほむらちゃんはそのことを隠し続けている。

 だからわたしは決めたの。それなら……胸を張ってほむらちゃんの隣に居続けられるような強い人間になるって、今度はわたしが彼女を支えてあげるってことを」

 

「…………」

 

 あれからほむらちゃんが帰った後、わたしなりに考えた答えを全て話した。キュゥベえは静かに口を挟まずにただ聞いていた。

 

「まさか君『も』障害になるなんて思ってもいなかったよ、鹿目まどか。ここまで僕の予想を裏切ってくれるなんて……思惑外れもいいところだよ」

 

「わたし達は絶対にあなたの思い通りなんかに動かない。それだけは覚えておいて

 

「どうかな、君達人間の決意は想像よりも遥かに脆い。でも君がどうやって抗うのかはほんの少しだけど興味を抱いたよ」

 

 わたしの宣戦布告に対してキュゥベえも強きに応じる。そして彼の目からは、もう容赦はしないといった決意が見られた。

 

 

 

「どう足掻いても魔法少女の末路は絶望さ。それは君と暁美ほむらの場合も変わらない」

 

 

 

 そして最後に捨て台詞を残してキュゥベえは立ち去っていった。

 

 それから数秒も経たない内に息を切らした状態で走っていたほむらちゃんと合流した。キュゥベえが歩いていった方と同じ方角からやって来たけど、どうやら入れ違ったみたいだった。

 

「ま、まどか……巴さんを見なかった、かしら?」

 

「マミさんならさっき会ったけど、何処かへ行っちゃったよ。どうかしたの?」

 

「さやかとの話を聞かれてしまった……」

 

「えっ?!!」

 

 心臓がドキンと跳ね上がる。もしかしてその話を聞いてしまったせいでさっきはあんなに取り乱していたのかも……そう焦ったけど、すぐにほむらちゃんは詳しく話してくれた。

 

「大丈夫、ソウルジェムの秘密はバレていない。ただ彼女にその件を隠すように念押ししていたのを聞かれたの」

 

「そっか……さやかちゃんは?」

 

「巴さんのことは引き受けるから契約について慎重になりなさいって警告しておいたわ」

 

「出来れば契約しないで欲しいね……」

 

「そうね……」

 

 さやかちゃんは大切な友達だ。彼女は危険を省みずに正義感のまま動いてしまう危なっかしいところがある、だから事情を説明したからといって必ずしも契約しないとは限らない。無理矢理にでも止めさせるべきなのかもしれない……

 

「でも最終的にはさやか自身の意思で決めるのだから、例え契約してしまったとしても私達はしっかりと彼女を迎えなくてはならないわ」

 

 声には出していないはずなのに、ほむらちゃんはわたしの考えに答えてくれた。ちょっぴり嬉しい気持ちになるけど、今はそんなことを思っている場合じゃないと余計なものを振り払う。

 

「それよりも早くマミさんを追いかけないと!! さっきわたしに『私はもう戦えない』ってかなり自分を追い込んでいたから……」

 

「それはマズいわね……急いで彼女を探しましょう。早くしないと大変なことになってしまうかも」

 

 ほむらちゃんが今どんなことを考えているのか、わたしには分からない。だけどもマミさんを助けたいという意思は同じはずだ。わたしはほむらちゃんの手を握って学校の外へと走り出した。

 

「急ごう、ほむらちゃん!!」

 

「ええ!!」

 

 

 

 

 

 

???「準備の方は全て整った……後は、最高の舞台を完成させなくちゃいけないわね」

 

??「それで私は舞台係兼、役者ってわけか……めんどくさいなー」

 

???「何言ってるのよ、準備のほとんどは全部あの子がやってくれたのだからあなたもしっかりと働きなさい」

 

??「へいへーい、監督サマ。んでさ、舞台はいいけど肝心の観客はどうしたらいい?」

 

???「そこはあなたに任せるわ。ゲストさえ連れてこられるなら幾らでも構わない」

 

??「こうして後は勝手に役者が寄ってくるってわけね」

 

???「そういうことよ」

 

??「で、そのゲストの名前って何て言ったっけ?」

 

???「あなたも一度は聞いたことあるはずよ。彼女はこちらの世界ではかなり名が知れているからね」

 

 

 

 

 

「見滝原の魔法少女、巴マミの名は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 魂を差し出してでも叶えたい願いってなんだろう? あたしはアイツの言葉を聞いてずっと考えていた。

 

 考えに考えたけど、答えは見つからずにいた。でもそれは案外簡単に見つかってしまった。

 

 難しく考える必要なんか無かったんだ。命を賭けてまで叶える願いなんて。

 

 だからあたしはもう迷わない、後悔なんかしない。大切な人達を護れる為なら、魂なんて安っぽい。

 

 

「もう演奏は諦めろってさ、先生から言われたよ。今の医学じゃ無理だって……僕の手はもう二度と治らない。奇跡か魔法でもない限り治らない」

 

「あるよ」

 

「えっ?」

 

「奇跡も、魔法も、あるんだよ」

 

 

 

☆ to be continued…… ★





※ちなみにここまでで262回、「ほむらちゃん」って呼び過ぎだろって流石に思った。多分2章終わる頃には400くらいいくんじゃないだろうか(笑)


☆次回予告★


「あの廃墟に魔女が……」

「ここよりもずっと素晴らしい場所ですわ」

『相棒でいられるなんて本気で考えていたのかしら?』

「みんな一緒逝くのなら、何も怖くないわ……」

「ごめん、まどか……」

「終演だ。暁美ほむら」


第17話 Bをもう一度 ~ 狂宴の幕開け


「絶対に許さない!!!!!」


※これで決まりだ。


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第17話 Bをもう一度 ~ 狂宴の幕開け

 第17話 B(brave)をもう一度 ~ 狂宴の幕開け

 

 

 

 あれから私とまどかは走り去っていってしまった巴さんを探し続けた。けれどいくら探しても彼女は見つからず、連絡をしても全く繋がらなかった。

 

「はぁはぁ……ほむらちゃん、繋がった?」

 

「いいえ。そっちの方は?」

 

「ダメ、やっぱり家にも帰ってないみたい」

 

「そう……」

 

 頭の中で他に彼女が行きそうな場所を巡らせるも見当がつかない。このまま見つからなければ大変なことになる……私はそう確信していた。

 インキュベーターが言うには魔女と戦わなくなってから彼女の精神状態は大きく乱れている。恐らくソウルジェムも相当濁っているはずだ。まだまどか達には魔女の正体が魔法少女であることを話していない。

 そのことは追々、話すつもりでいる。だけど今は一刻も早く巴さんを見つけ出してソウルジェムを浄化しなくてはならない。さもなければ彼女は魔女となってしまい『まどか』の望んだ未来が消えてしまう……

 

 起こりうる最悪の展開を想像して危惧していると、まどかが何か驚いたような表情をしてこちらを見ていた。いや正しくは私の後ろの方にいるとある人物のことを見ていた。

 

「仁美ちゃん!!」

 

 振り返ってみるとそこには、今日途中で早退した仁美の姿があった。まどかの呼ぶ声に気づいた彼女はゆっくりとした動きでこちらに視線を向けた。

 

「あら……まどかさんにほむらさんではありませんか。ごきげんよう……」

 

「仁美ちゃん、身体の調子はもう大丈夫なの?」

 

「何を言っておりますの?」

 

 心配そうにまどかが尋ねるが、等の彼女は何を言っているのか分からないといった反応をしていた。

 何だか様子がおかしい。そう思った私は仁美に問いかけた。

 

「見る限りあまり体調が良さそうではなさそうだけど、あなたはこれから何処へ行こうとしていたの?」

 

「何処ってそれは…………ここよりもずっと素晴らしい場所ですわ」

 

「!!」

 

 この時、私は彼女の首筋に魔女の口づけがしてあるのを見つけた。少し遅れてまどかもそれを発見して私の方を向く。

 

「仁美、良かったら私達にもその場所へ案内してもらえないかしら?」

 

「あらそうですの。それならご一緒に行きましょう……えぇ、その方がずっといいですわぁ……」

 

 恍惚として話す彼女だったが、急に糸が切れたように項垂れてブツブツと呟きながら歩き始めた。隣にいる相棒(パートナー)と目配せをして私達も黙って彼女に付いていった。

 

 

 

 しばらく歩いているといつの間にか周りに仁美と同じ項垂れた人達が大勢いて皆、ある場所へと向かって歩いていた。

 

 恐らくこれは『箱の魔女』の仕業ね……私はあまりコイツとは戦ったことはないけれど、幾つか前の世界で巴さんはかなり手強かったと言っていた。注意しなくちゃいけないわね……

 

 それから歩き続けて数分後、魔女に魅いられた人達が目指していた目的地が見えてきた。

 

「あの廃墟に魔女が……」

 

 まどかの発言に私はある違和感を抱いた。先の方にある建物は寂れた小さめのホールだった。だけどこれまでの箱の魔女の出現場所とは大きく異なっていた。

 この魔女はホールではなく廃工場に出てくるだったはずだ……これまで各時間軸ごとに違いは発生していたが、魔女の現れる場所が変わっていることはほとんど無かった。しかも例の工場はここから大分遠くの場所にあり、ここまで出現場所にムラがあったことは一度もない。

 

 私は並んで歩いているまどかの手をそっと握る。

 これから起こりうるかもしれない悪い出来事を避ける為に、必要最低限のアドバイスをする。

 

「何があっても、私のことを信じて……」

 

 いきなり手を握られてビックリした様子を見せたが、すぐに真剣な面持ちになってコクリと小さく頷いた。

 

 

 

 

 廊下でマミさんが抱えている悩みを聞いたわたしは、この人になんて言ってあげるべきなのだろうと考えていた。わたしも魔女と戦っているとき、心の何処かで自身の恐怖心と戦っている……だからマミさんが悩んでいることは決して気に病むことではない。

 思ったことをそのまま伝えるのは簡単だ、だけどそれだけではダメ。前に大切な相棒(パートナー)に対してそれをやってしまい、彼女を大きく傷つけてしまった。

 相手の心を労りながら言葉を交わす、その難しさを知ったと同時にわたしは自分の未熟さを痛感していた。

 

 しかしその考えは、視界に仁美ちゃんが映りこんだ瞬間に中断された。

 

「仁美ちゃん!!」

 

「あら……まどかさんにほむらさんではありませんか____」

 

 

 

 仁美ちゃんの普通ではない状態と首筋に浮かび上がっている紋様を見て、すぐに魔女に魅入られてしまっていると気づく。それから彼女の後を追い、廃墟が目に入った。

 今度は一体どんな魔女が待ち構えているのか……戦いを前にして身構える。ほむらちゃんがわたしの手を握ってきたのはそんなときだった。

 

「何があっても、私のことを信じて……」

 

 今までほむらちゃんの方からこういうことをしたのはあまりない。ちょっとだけ嬉しく思いはしたけど、それと一緒にこれまで感じたことのない緊張感に包まれた。

 わたしは魔法少女としての経験はまだまだ浅く、ほむらちゃんがあの建物を見て、あるいはそこにいる魔女の気配を察して何を感じたのか分からない。

 だけどこれだけは確かに分かる。わたしは何があっても、相棒のことを信じ続けるということ。

 

 そして返事と共に緊張しているほむらちゃんの気を少しでも和らげてあげるためにわたしはギュッと握られた手に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 廃墟の中は薄暗くて、わたし達の前を歩く仁美ちゃんの姿を追うのだけでもかなり大変だった。それだけではなく、段々と奥に進むにつれて魔女の結界独特の嫌な雰囲気が身にまとって重苦しく感じる。

 

「さあ……着きましたわ……」

 

 仁美ちゃんの足がピタリと止まる。彼女の横から先にあるものを見てみると、そこにはほんのりと明かりが点っていて、何十人もの人達が集まって何かをしていた。

 

「仁美ちゃん。一体何を……」

 

 言い切る前に仁美ちゃんは前へ進んでいって、虚ろな目をしたおじいさんから大きめのボトルを受け取り、中に大量の液体の入ったドラム缶に注ごうとしていた。

 その容器には見覚えがあった。毎日パパが服を洗うときに使うもの、ママが前にわたしに教えてくれた使い方を間違えると大変なことが起こってしまう日用品……

 

 

『いいか、まどか。『洗剤』とかいったこの手の物は、扱いを間違えるととんでもないことになる。

 例えばこの酸性の洗剤と塩素系の漂白剤を混ぜちまうと有毒なガスが発生して、家族みんなあの世行きだ。だから取り扱うときはくれぐれも注意しろよ』

 

 

「ダメッ!!」

 

 わたしは一心不乱に駆け出して、仁美ちゃんから洗剤のボトルをひったくる。そしてドラム缶の方も何とかしようと向けた。でもその必要はなかった。

 

「早くこっちに!!」

 

 ほむらちゃんも一緒に飛び出していて、わたしが別のことをしている内にドラム缶を蹴っ飛ばしていて中身を床にぶちまけていた。

 ほむらちゃんに手を取られてわたし達は廃墟の中を突き進んだ。

 

「あの部屋に隠れるわよ」

 

 指示にしたがって手前に見えるドアを開けて部屋の中へ滑り込む。一先ずこれでもう安心だ……そう油断しきった瞬間、わたし達の前に魔女が現れた。

 

「まどか、変身するわよ!!」

 

「うん!!」

 

 ほむらちゃんの声が響き、彼女から指輪を受け取ろうと手を伸ばす。

 

 

 

 だけど指輪を受けとる寸前、突然わたしとほむらちゃんの身体を何かが縛り付けた。

 

「えっ?!!」

 

「なっ?!!」

 

 あり得ない出来事に目を白黒とさせる。

 

 嘘だ、こんなことあるはずがない……だって、だってこれは…………

 

 

 

 

 

「どういうことなんですか……マミさん!!」

 

 

 

 

 

 わたし達の身体をリボンで拘束した張本人に向かって大きく叫んだ。するとマミさんは生気の感じさせない表情で言った。

 

「戦えない魔法少女なんて、もう必要なんかないでしょう? だからここでいっそ楽になってしまおうと思ったの……」

 

「巴さん……何をバカなことを!!」

 

「お願いです、目を覚ましてください!!」

 

 二人で彼女を正気に戻そうと必死に呼び掛けるが、まともな反応は返ってこなく薄ら笑いだけが聞こえるだけだった。

 どうにかして拘束を解こうともがいていると、目の前にパソコンのような形をした魔女がじりじりと迫っていた。そしてわたしに画面に映っている『ある映像』を見せつけた。

 

「あっ…………」

 

 次の瞬間、わたしの意識はプツリと途絶えた。

 

 

 

 目を覚ますとそこには魔女もマミさんもいなく、呆然と立っているほむらちゃんの姿があった。

 

「ねぇ、さっきまでいた魔女はどこにいったのかな? それにマミさんも……」

 

 そこまで言ったとき、ほむらちゃんがわたしの方に顔を向けた。その表情を見た途端、わたしの身体の熱が一気に引いた。

 氷のように冷たい目、見るだけで人を傷つけるが出来そうな視線、完璧な敵意の籠った目付き……これまで一度も見たことのないくらい恐ろしい顔つきをしたほむらちゃんが目の前にいた。

 

「ほ、ほむらちゃん?」

 

『……………………』

 

 あまりの怖さに自然と後ずさりをしてしまう。するとほむらちゃんは何を喋ることもなく、ただ離れていく距離を詰めようと一歩、また一歩と足を動かしていた。

 そうしていると背中に堅いものがぶつかる感触を感じる。見なくても分かる、壁とぶつかってもう下がることが出来ないのだ。

 ほむらちゃんは顔と顔がぶつかりそうになるくらいまで近づいてきて、それからゆっくりと口を開いた。

 

『このときを長い間、待っていたわ……』

 

「えっ……?」

 

 声をあげると一緒に肩を力強く掴まれる。それはいつものように優しいものではなく乱暴でまるで身体を引き裂かれんばかりの勢いだった。

 

「痛い……痛いよ、ほむらちゃん」

 

『ずっと求めていたあなたの強大な魔力、素質。それが遂に私のものになる……』

 

「何……言ってるの……?」

 

 身体の芯から急速に熱が引いていく、これから自分は何をされてしまうのか……急変してしまった相棒の顔からは何も読み取ることが出来ず、ただただ不安で仕方がなかった。

 

『そうね、簡単に言うのなら私はずっとあなたのことを騙していたってことになるのかしら』

 

「騙す……?」

 

『えぇ、あなたの持つ魔力を手に入れるために接触して関わりを持ち、そしてその力を手に入れる……』

 

「!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、わたしの中で電流が走った。

 ほむらちゃんはその変化に気づくことなく懐から拳銃を取り出して、銃口を向ける。

 

『今からあなたを殺してその力を奪い取る……偽りとはいえ、それなりの付き合いだったからすぐに楽にしてあげるわ』

 

「…………わたしと相棒でいてくれるっていう約束は嘘だったの?」

 

『逆に聞くけど、この私と……相棒でいられるなんて本気で考えていたのかしら? 所詮あなたは都合のよい駒なのよ』

 

「そっか、分かったよ……」

 

 直後わたしはほむらちゃんの持つ銃を奪うために彼女に飛びかかった。

 出せる力を尽くして銃を手中に納める。それからトリガーを引き、いつでも撃てる体制に入る。

 

『鮮やかね……』

 

「うん……ほむらちゃんとの戦いのお陰だよ」

 

『厄介なことを教えてしまったようね』

 

 自嘲気味に笑う彼女にわたしは躊躇なく弾を撃った。

 

 

 

「あなたじゃない、大切な相棒である『ほむらちゃん』の方からだよ」バキュン

 

 

 

 銃弾は、ほむらちゃん……の偽物の眉間を撃ち抜き、その偽物は撃たれているのにも関わらず平然とした様子でこちらへ不気味な笑みを見せた。

 

『あなたには効かなかったようね、この箱の魔女の精神攻撃が』

 

「ほむらちゃんの真似事をするんだったら、もっと上手くなってからやれば良かったのにね」

 

『鹿目まどかにとっての最悪の暁美ほむらを演じたつもりでいたのだけど、どうして平気でいられたのかしら?』

 

 偽物がわたしの前でした行為は、以前ほむらちゃんを疑っていたときにマミさんの話を元に思い描いていた『妄想のほむらちゃん』がしていたことと同じだったのだ。

 

「最初はビックリしたよ、でもすぐに気付いたよ。本物のほむらちゃんがそんなことするはずないってね」

 

『どうやら私の見通しが甘かったみたいね……』

 

「わたしとほむらちゃんの絆をバカにしていたからだよ」

 

 だけどわたしが偽物だと見抜いた理由にはもう一つだけあった。それはほむらちゃんが廃墟に入る前に言った言葉を思い出したから。

 

『もっと時間をかければ、どのようにしてあなたが彼女に対してそういう感情を抱くようになったのか分かったかもしれないけど……残念ね』

 

「あなたみたいな魔女にこれ以上わたしの大切な思いでを汚させたりしない、もう惑わされたりしない!」

 

『ふふっ、強いのね……でも「あなたの相棒はどうかしら」?』

 

「えっ?!」

 

 その言葉と同時に周りの景色が変わり始めて、いつの間にか目の前にいた偽物も消え去っていた。そしてわたしの目にとまったものは…………

 

 

 

「あ、あぁ……まどか。ごめんなさい……わた、私は……違う。違う、ちが…………あなたは……うわああああ!!!」

 

 

 

 魔女が見せる幻覚に必死に抗うほむらちゃんだった。

 それを捉えた途端、彼女の元へと駆け出そうとする。だけどわたしは自分の身体を拘束しているリボンの存在を忘れていた。無理な体勢で動こうとしたせいでリボンが更にくい込む。

 

「うぐっ……ほ、ほむらちゃ…………」

 

「はぁ……はぁ……大丈夫、私もあなたを、信じじじじ……てるからぁ……」

 

 少しでも安心させてあげるために手を伸ばすも、ほんの少しだけ距離が足りない。そう頑張っていると、今度はマミさんが顔を上に向けて狂ったように笑い始めた。

 

「あと少し……あと少しよ!! これで私は楽になれる。それに、みんな一緒に逝くのなら、もう何も怖くないわ……、一人ぼっちじゃないもの!! あっはっはっはっはhhhh……!!!」

 

 マズい……この状況は本格的にマズい、元々魔法少女であるほむらちゃんとマミさんは今は戦うことが出来ない。わたしも変身しようにもほむらちゃんのつけている指輪がない為、何も出来ない。

 と危機感を感じていると、その最悪の状況に拍車をかけるように魔女の使い魔達がわたし達、三人の手足を捕まえて力一杯引っ張ってきた。

 

「あ、ああああ……」

 

「まど……へ、変身を……」

 

「あっはっはっ、はへぇ…………」

 

 さっきの偽物がやっていた例えとは違い、今度は本当にわたし達を裂くつもりだ。

 正気を取り戻しかけているほむらちゃんだったけど、もう間に合いそうもない…………

 

 

ザシュッ!!!

 

 

 

 

 

 その音と共に胴体が真っ二つに裂けた。

 

 

 

 

 

 魔女の使い魔の身体が。

 

 

 

「えっ……うわっ!!」

 

「くっ……!!」

 

 捕まえていた使い魔は裂かれた後、自然と消滅して同時にリボンの拘束も解けた。そのせいでわたしとほむらちゃんは地面に叩きつけられてしまった。

 

「ほむらちゃん、大丈夫?」

 

「え、えぇ……」

 

 魔女の幻覚からも解放されたみたいでホッと息を吐く。そして少し離れたところでマミさんが力無く倒れる姿も目に入った。どうやらマミさんが気絶したことで拘束も無くなったらしい。

 

「ふぃー、三人とも間一髪ってトコだったね」

 

「!!」

 

 わたしでも、ほむらちゃんでも、マミさんでもない第三者の声に大きく身を構えようとする。だけど隣にいるほむらちゃんがそれを制した。

 声の主は暗闇からこちらへと近づいてきた。わたしはその人の姿を見て、思わず大声をあげた。

 

「さやかちゃん……その格好!!」

 

 現れたのは青のドレスを纏い、右手に剣を持ったさやかちゃんだった。さやかちゃんは驚くわたしを見て、申し訳なさそうに謝った。

 

「ごめん、まどか……本当はあんたにもちゃんと相談するつもりだったんだけどね」

 

「決心はしたのね」

 

「うん……ちゃんと決めたよ。たとえ怪物のような身体に変えられたとしても、あたしはこの街を……大切な人達を守るために戦うってね」

 

『オオオオオオオ!!!』

 

「ヤバそうだったら無理はしなくていいからさ、この戦いはあたしに任せて!!」

 

 ニッと笑うさやかちゃんだったけど、魔女本体が現れたことにより、鋭い表情に変わる。

 そしてわたし達にそう言い残して魔女に立ち向かっていった。

 

「さやかちゃん、一人じゃ危険かも……ほむらちゃん!!」

 

「……………………」

 

 急いで彼女に加勢するために、ほむらちゃんに変身しようと声をかける。けど彼女は何も喋らずにでただ俯いていた。

 まだ魔女に攻撃された残っているのかもと思って、今度は思いっきり身体を揺すりながら名前を呼んだ。

 

「ほむらちゃん!!!」

 

「…………!!」

 

「良かった気付いてくれて、さあ早くわたし達も変身しよう」

 

「そうね。今はそんなことに囚われる場合じゃないわね」

 

 反応してくれたほむらちゃんから指輪を受け取って、変身する状態に入る。そして『魔法の言葉』を大きく唱えた。

 

「『変身!!』」

 

 魔法少女の姿に変身したわたしはすかさず弓を構えて、狙いを魔女へと定めた。

 

「ほむらちゃん、この魔女は絶対に倒そうね!!」

 

「えぇ、もう絶対に屈したりしない!!」

 

 

 

 

 

 

???「チッ……もう少しだったのに邪魔が入ったか。やっぱり君の言った通り、美樹さやかも油断ならなかったね」

 

??「まぁ、こうなることは大体予想は出来ていたわね」

 

???「じゃあさっきのタイミングで邪魔してやればよかったんじゃないのか?」

 

??「心配ないわ。一つ目の爆弾となる箱の魔女は恐らく撃破されてしまう……だけどしっかりと予防線も張ってあるのよ」

 

???「どういうことだい?」

 

??「あの子の能力を思い出せば、自然と分かるはずよ」

 

?「…………」

 

???「ん~、分かんないや」

 

??「ならもう少し待ってなさい。魔女を倒した後……二つ目の爆弾が彼女達を始末する様を」

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※次回、謎の二人組(+α)が遂にまどか達に牙を向く!!!


☆次回予告★

第18話 Bをもう一度 ~ 臆病者でも構わない


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第18話 Bをもう一度 ~ 臆病者でも構わない


※そう言えば、前回のまどかとほむらが最後にした会話。全く噛み合っていないことにお気づきでしたでしょうか?

※後、今回はかなり短めです。その理由は…………



 

第18話 Bをもう一度 ~ 臆病者でも構わない

 

 

 

 私はさやかに助けられた後、箱の魔女の精神攻撃を受けていたときのことを思い返していた。

 そこで私はまどか達の幻影を見せられて過去に行ってきた自身の罪を咎められた。

 

 最初は動揺したが、まどか達が偽物であることに気付いていたことと、いつかはこうして仲間達に責められるであろうと覚悟していたことから然程ダメージは受けなかった。あのことを言及されるまでは…………

 

 

 

『鹿目まどかを裏切ったくせに、まだわたしを救うなんて言ってられるんだね』

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、前の時間軸での出来事がフラッシュバックして私の精神は音を立てて崩れた。目の前にいるまどかは偽物……頭の中では分かっているはずなのに責められる度にとてつもない吐き気と苦痛を感じてしまう。

 

「あれは違うの!! 本当にあなたを救うために……」

 

 

 

『言い訳なんて止しなさい。見苦しいだけよ』

 

『まどかを理由にして自分の行為を正当化するなんてサイテーだね。あんた』

 

『もういい…テメーはただの外道だ……そのままどうにでもなっちまいやがれ』

 

 

 

 マミ、さやか、杏子の幻影が冷たく放つ言葉に心がどんどんと削られていく。

 

『あなたはわたしの友達なんかじゃない』

 

 まどかの言葉が決め手なり、私は限界に達した。

 だけど次の瞬間、目の前にいた幻影は消え去って、代わりに別のまどかが私に囁いた。

 

 

 

『____』

 

 

 

 そして私の意識は現実世界へと戻された。

 

 跪いて頭を抱えていた私にまどかが駆け寄る。偽物でも過去のでもない相棒(パートナー)の鹿目まどかだ。

 彼女の心配そうな表情を見て、私は改めて決意した。

 

「そうね。今はそんなことに囚われている場合じゃないわね」

 

 心がそっちのけの状態であったけど、変身することを促されたので特に意識をしないまま、まどかに指輪を渡す。

 

 過去の贖罪はいつか必ず行う。今の自分がすべきことは何があってもまどかを守り続けること、今度こそは裏切らないように彼女の願いを叶えるために……

 だからもう躊躇わない、何者にも負けたりしない。

 

『絶対に屈したりしない!!』

 

 その掛け声と共に私は意識をまどかと一つにした。

 

 

 

 

 

 

 さやかちゃんと協力して魔女の相手をしていたけど、さっきの幻覚を見せること以外は危険な部分が無かったので、特に苦戦することなく戦っていた。

 だけどわたしは絶対に手を抜いたりなんかしない。わたしとほむらちゃんを傷つけたのだからそれに相応しい程の罰を与えなくちゃいけない。

 

「どりゃあ!!」

 

「さやかちゃん、ちょっといい?」

 

 魔女の攻撃を捌き終わったさやかちゃんに声をかける。

 

「どした、まどか?」

 

「あのね……あの魔女にトドメ刺すのわたしがやってもいいかな?」

 

「あ、ああ……別に構わないよ……」

 

 どうしてだろ? そこまで強い魔女でもないのにさやかちゃん、何だかとっても怯えてる。

 何でだろうね、とほむらちゃんに聞いてみたけど彼女も『わ、分からないわ』と言うだけだった。

 

 とにかくあの魔女をわたしの手で倒すことが出来るのだ、ならば躊躇なんかしないで全力で倒してあげよう。

 矢を限界まで引いて先端に魔力を集中させる。狙いは魔女のど真ん中、わたしの怒りが伝わったのか一瞬、魔女が身震いをしたような気がした。でも後悔しても遅いよ? だってわたしはあなたを…………

 

「絶対に許さない!!!!!」

 

 矢に貫かれた魔女は力無く呻き声をあげながら、消滅した。

 

 

 

 

 戦いを終えて、わたし達は変身を解いてグリーフシードを回収する。そしてほむらちゃんがそれを持ってマミさんの元へと向かった。

 

「よかった……まだ無事なようね」

 

 安心した顔を見せながら、グリーフシードをソウルジェムに当てて穢れを取り除く。すると穢れはみるみる内に無くなっていってマミさんのソウルジェムは元の綺麗な黄色の宝石に戻った。

 

「あれ……ここは?」

 

 目を覚ましたマミさんはキョロキョロと辺りを見渡す。魔女に操られていたときの記憶は残っていないみたいだ。

 マミさんが無事でいるのが分かったさやかちゃんは安堵の胸を撫で下ろして彼女へと近づいていった。

 

「よかったぁ……無事で何よりです!」

 

「美樹さん……それに暁美さんと鹿目さんまで、私は一体……」

 

「大丈夫です。マミさんは悪い夢を見ていただけですから__」

 

 彼女を安心させるために声をかける。そして別れたときからずっと考えていたことを言おうと話し始める。

 

「__それと怖いのはわたしだって同じです」

 

「えっ?」

 

 マミさんは目をパチクリとさせる。話が全く分かっていないさやかちゃんがわたしに問いかけようとしたけど、それをほむらちゃんが止める。

 心の中で彼女にお礼を言う。

 

「初めて魔女と戦うことになったとき、わたしは怖くてパニックになって……がむしゃらになりながら戦っていました。

 それからも危険な目にあったりした後も逃げたしたくなったりもしました……」

 

「なら何故、鹿目さんは戦い続けられるの? やっぱり私よりも強いから?」

 

「そんなことありませんよ。わたしが戦えるのは傍でほむらちゃんが居てくれたから、一人ぼっちだったらすぐにダメになってしまいます」

 

「…………」

 

 すっと息を吸い込んで、続きを話すために口を動かす。まだ言いたいことは言えてない……マミさんを傷つけさせないように、でも嘘偽りのない気持ちを伝える。

 

「それでもマミさんはこれまでずっと一人で戦ってきた、こんなに凄い人のことをわたしは幻滅なんかしたりしません」

 

「鹿目さん……」

 

「マミさんは頑張りすぎているんです、もう一人ぼっちじゃないんだから無理してカッコつけなくても、わたし達の為に強がる必要もないんですよ。

 わたし達はあなたの仲間であり、友達なんだから……もっと素直になっていいんですよ」

 

「仲間……友達……」

 

「足がすくんで戦えなくなっても構わない、怖くて逃げ出したくなっても構わない……そんなときはわたしを、ほむらちゃんを、さやかちゃんを頼ってください。いつでもマミさんの力になりますから」

 

 マミさんと一緒に後ろにいる二人を見る。ほむらちゃんとさやかちゃんはニッコリと頷きながら彼女のことを見ていた。

 

「ありがとう、みんな……こんな泣き虫の先輩でごめんね……」

 

 すすり泣くマミさんの身体をそっと優しく包み込む。

 

 

 

 

 

 

 だけど次の瞬間、マミさんの鋭い声がわたしの耳元で発せられた。

 

「鹿目さん!! 今すぐ私から離れて!!!」

 

 そして、気がつくと____

 

 

 

 

 

 わたしの身体は銃で撃ち抜かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きているのかさっぱり分からなかった。

 

 巴さんがまどかのお陰で立ち直って一件落着、そう思った矢先に突然巴さんが叫びだして銃を召喚してまどかへ向けて発砲した。

 

「あ、ああああぁぁ……」

 

 呻き声をあげながら巴さんは地面に膝をつける。

 銃で撃たれたまどかは何が起きたのか分からない顔をしながら倒れる。

 

 その光景を私とさやかはただ黙って見ていることしか出来なかった。まるで二人のいる世界だけ時間を止められたように…………

 

 

 

「なるほどこれが君の作戦なんだね。一つ目の爆弾は箱の魔女、二つ目は巴マミ。

 操っていたのは魔女だけではなく、彼女も含まれていたって訳か」

 

「その通りよ、あのとき二人を拘束した巴マミは魔女に魅入られていたわけではなく既に彼女の術中に堕ちていたから……その後、意識だけを戻して彼女達が油断した隙を突いた」

 

「捨てたもんじゃないねぇ、アイツの能力も」

 

 

 

 制止した世界を壊したのは、二人の少女の声だった。その声を聞いて、私の中に忌まわしい記憶が甦る。

 かつて一度だけ起きたイレギュラー、鹿目まどかが全くの第三者の手によって殺された時間軸の出来事を…………

 

 胸に込み上げてくる激情を顕にしながら、私は声の発せられてきた方に目を向ける。そしてその人物達の名を叫んだ。

 

 

 

「美国織莉子ォォォ、呉キリカァァァ!!!!!」

 

 

 

 私の声に二人は反応して、ニヤリと笑った。

 それから美国織莉子は魔力の塊を出現させ、呉キリカは鉤爪を手に装備する。

 

「ここまでの流れは完璧、さて後はあなたを殺せばフィナーレよ」

 

「さあ!! 終演だ。暁美ほむら」

 

 それぞれ言い終えた後、二人は私へと襲いかかった____

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※というわけで、まどマギ外伝『魔法少女おりこ☆マギカ』から美国織莉子(みくにおりこ)(くれ)キリカ、登場です。
 第15話まで出すかどうかかなり迷いましたが、彼女ら以上によい敵キャラが思い付かなかったので、出すことを決断しました。下手にオリジナルの敵を出すより、こっちの方がいいかな? と思ったのもありますが……

※次回から第二章後半戦、突如現れた強敵にほむら達はどう立ち向かう?!


☆次回予告★


「やめて……やめてェェェ!!!」

「何度繰り返したの? 何度やり直したの?」

「コイツは殺さなきゃ気が済まない」

「僕は敵でも味方でもない」

「何なんだよ、アイツらは!!!」


第19話 襲撃I ~ 最悪の展開


「彼女らは……魔法少女を狩るもの」

 これで決まりだ。


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第19話 襲撃I ~ 黒白の執行者


※かなり返信遅くなりましたが、tyanドラーさん一言評価ありがとうございました!!

※そしてUA3000&お気に入り20件突破!! 感謝感激であります!!!

追記 サブタイ変更です。だってこっちの方がカッコいいって思ったんだもん!!



 

第19話 襲撃I(iregular) ~ 黒白の執行者

 

 

 

 美国織莉子と呉キリカは他の時間軸では決して現れることはなかった。だけども彼女らの能力はよく覚えている。

 

 美国織莉子は予知能力、未来に起きる出来事を見ることが可能で彼女はその能力を使い、まどかが魔女化した際の危険性を知り、まどかを殺そうと計画した。

 一方で呉キリカは速度低下、私の能力と同じ時間干渉とまではいかないが、その汎用性は計り知れない。

 しかし最も恐ろしいのが彼女ら二人の抜群のコンビネーションでその時間軸の巴さん曰く、契約してままならないのにも関わらず何人もの魔法少女を殺してきていて、一切の躊躇い無くこちらを殺しにかかってくる。

 

 直接対決したときは時間停止を使って、何とか渡り合える……いや防戦だけで精一杯だった。では、能力が使えなくなってていて且つ魔力が大幅に減少し、弱体化してしまっている私が彼女達と戦うとどうなるのか?

 

 答えは簡単。勝ち目なんかあるはずない。だがそう易々と殺られるわけにはいかない、全力で足掻いてやる!

 

 

 魔法少女に素早く変身し、銃を取り出して向かってくる二人に弾が無くなるまで撃ち続ける。

 銃声が廃墟全体に鳴り響く。

 しかし美国織莉子は後ろに下がって避け、呉キリカは銃弾を全て捌ききり、鉤爪をこちらへと突きつける。私はそれを盾で受けた。

 

 ガキィィン!! と激しい金属音が辺りに響き渡り、彼女と至近距離で対面する。

 

「何が目的なの?!」

 

「君達を殺す、ただそれだけさッ!!」

 

 呉キリカのかける力が増していく。両足を踏ん張らせるも徐々に押されて、体勢が崩れていく。このままでは押し倒されてしまう。そうされる前に盾から新たに銃を出して至近距離で発砲する。

 

「甘いよ!!」

 

 だがあっさりと先を読まれてしまい、呉キリカは飛び退いてしまう。銃弾は空を切って廃墟の壁に当たる。

 二人との距離が離れている隙に弾を入れ換えて、まだ目の前の出来事に呆然としていたさやかを叱咤するように呼び掛けた

 

「さやか! 何をしてるの、早くあなたの魔法でまどかを治療しなさい!!」

 

「お、おう!! ……ってなんであんた、あたしの能力知ってるの?!」

 

「いいから! 幼なじみの腕を治したのと同じ要領でさっさとしなさい!!」

 

「願い事もバレてる?!!」

 

 かなり動揺しているみたいだったけど、直ぐ様倒れているまどかの所へ向かって撃たれた傷を治そうとする。

 

「させませんよ」

 

「へっ? おわっ?!」

 

 しかし美国織莉子はそれを許さなかった。魔弾をさやかとまどかの間に放ち、さやかの進行を遮る。

 

「くっ……そこをどけよ!!」

 

「そうはいかないわ。今鹿目まどかに動かれては都合が悪いのよ」

 

「訳の分からないことを……言うなァ!!!」

 

 剣を構えてさやかは飛びかかった。それから攻撃を当てようと剣を振り続けるも美国織莉子はその軌道を見切り、簡単に避けていた。

 

「ただがむしゃらに振っていても、私には当たりませんよ」

 

「う、うるさい!!」

 

「隙だらけです!」

 

「なっ……?! わああっ!!」

 

 剣を弾かれて体勢をグラつかせる。美国織莉子はがら空きになった腹部へ魔弾を撃ち込んで、さやかを吹き飛ばした。そしてそのままさやかは廃材の中に埋もれてしまった。

 

「さやか!」

 

「余所見している暇はないよッ!!」

 

「__!! うっ……!!!」

 

 さやか達の方に気を取られていたせいで私の反応が一瞬遅れる。そのせいで呉キリカの鉤爪が私の左腕を切り裂くのを止められなかった。

 激痛が走り、血がボタボタと溢れ落ちる。声をあげてしまうのを必死に我慢しながら顔を上げる。そこにあったのは私を蹴り飛ばそうと片足を振り上げている呉キリカの姿だった。

 

「うあっ!!」

 

 ゴロゴロと床の上を回って、うつ伏せの状態になって力無く倒れる。

 

 駄目だ……あまりにも力の差があり過ぎる。

 

 悔しさと自分の無力さを痛感しながら、床に拳を叩きつける。

 

「やめて……やめてェェェ!!!」

 

 巴さんの悲痛な叫びが耳に入る。彼女を見ると、操られている状態から抜け出そうともがいていた。

 それを見た呉キリカは鬱陶しそうな表情をして早足に彼女の元へと近づいて、後頭部に重い一撃を当てた。

 

「あっ…………」

 

「君の役目は終わりだ。もうそこで寝てろ」

 

 白目を剥いて巴さんも倒れてしまう。呉キリカはふんっ、と彼女を一瞥してから美国織莉子の所へ歩いていった。

 

 今の状況はこれまでにあった展開の中で最も絶望的なものだ。

 まどかと巴さんは完全にリタイア。さやかも戦いの経験が少ないためまともやり合うことが出来ない。そして私も同じく……せめて時間停止さえが使えれば……

 けど無いものをねだってもどうしようもない。もうこの危機を脱するには……

 

 打開策を探していると美国織莉子が私を見下ろしていた。

 このまま殺されてしまうのか? そう思ったが、彼女はそうしなかった。その代わりに私にある質問をした。

 

「何故あなたは私やキリカの名前を知っていたのですか?」

 

「…………」

 

「それに魔女や私達の戦いの際、あなたはまるで相手の能力や行動を全て分かりきっているような動きをしていましたね」

 

「結構な観察力ね……今とさっきのでそこまで見抜くなんて」

 

「いいえ。その疑問は以前からずっとあなた達の戦いを監視していた頃にも思っていました」

 

「暇人……いえ、勤勉家といった方が正しいかしら? そうしていたから私達が変身を解除した後を狙っていたのね……」

 

「えぇ、あなたと鹿目まどかが変身するあの姿を相手にするには力の差が大きいですから。そんなことよりもあなたについてよ、暁美ほむら」

 

「…………」

 

 上手い具合に話を逸らせたと思ったが、無理だった。美国織莉子は私の時間停止の能力をすぐに見抜いて、そこから更に私が時間をやり直して何度も同じ一ヶ月を繰り返していることに気づくほどのとてつもない頭脳を持っている。

 このまま話を持ち込まれてしまってはいずれそのことに勘付かれてしまうだろう。

 

「まさか、あなた……」

 

 しかし私の予想は悪い方向に裏切られた。持ち込まれる前にバレてしまうとは……

 私が同じ時間軸を繰り返していることに気づいた美国織莉子は表情を険しくして再度私に問いかけた。

 

「何度繰り返したの? 何度やり直したの?」

 

「…………」

 

「そう、そういうことね……これで合点がいったわ」

 

 美国織莉子が私の服を掴んで自分の目の高さと同じ場所まで私を持ち上げる。

 

「インキュベーターが仮説として立てていたものだったけど、まさか本当にそうだったとはね……」

 

「おめでとう、相変わらずあなたの勘の良さには驚かされるわ」

 

「あなたが時間をやり直していることが分かれば、今まで感じていた色々な疑問にも納得がいくわね。

 あなたが他の魔女や魔法少女のことを知っているのか、鹿目まどかが何故あれほどまでに膨大な素質を持っているのか……

 そしてそこまでして鹿目まどかに執着するあなたの理由が……」

 

「…………」

 

「素晴らしいわね、たった一人の少女を救う為に何度も時間を繰り返しているなんて……

 

 

 

 そして自分の欲望の為だけにその想い人を見捨て続けるなんて」

 

 

 

 冷たく言い放つ言葉に私は声を失った。そんな私の様子に気づかないまま美国織莉子は呉キリカに問いかけた。

 

「キリカ、あなたはどう思うかしら?」

 

 その問いに呉キリカはやれやれといった様子で首を振った。

 

「あり得ないね。私だったら時間をやり直したりせずにその想い人と、織莉子と共に死を選ぶ」

 

「ありがとう私も同意見だわ」

 

 二人の会話に私は苛立ちを隠せなかった。

 

 確かに何度も時間をやり直し続けていることは、それと同じ数だけまどかを見捨てていることに繋がる。でもそれでも私は…………

 

 

 

『キュゥベエに騙される前のバカなわたしを助けてあげられないかな?』

 

『約束する。何度やり直すことになっても!! 何度繰り返すことになっても!!』

 

 

 

 ある時間軸で彼女と交わした約束。私はそれを守るために永遠の時の迷路に身を投じている。

 単純にまどかを救うだけならもうとっくに私の戦いは終わっている。

 

 込み上げてくる怒りを原動力に私は掴み上げている美国織莉子の顔へ勢いよく頭突きをくらわせた。

 

「うっ!!」

 

 思いもしない反撃に彼女の手の力が弱まって、私は解放される。そして銃口を美国織莉子へと向けた。

 

 

 

「この野郎!!!!!」

 

 

 

 次の瞬間、私の動きは急速に低下した。

 そして憤怒の表情をした呉キリカがゆっくりと動いている私の身体を何度も蹴りつけた。痛覚を感じる神経の速度も低下しているせいなのか蹴られていても全く痛みを感じなかった。

 

 だが速度低下が解除された瞬間、蹴りの痛みがまとめて私に襲いかかった。

 

「あああああああ!!!」

 

 一気に押し寄せてくる激痛に苦しんでいると更に呉キリカが畳み掛けるように蹴り続ける。

 

「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもッ!!!

 私の織莉子を傷つけたな!! 許さない…………死をもって償えェェェ!!!」

 

 呉キリカの猛攻を受けて、何度か意識が飛びそうになる。けれどその前に攻撃が入って呼び戻される。しばらくの間はそれの繰り返しだった。

 

 

 

「はぁはぁはぁはぁ…………」

 

「」

 

 攻撃が終わり、呉キリカは肩で息をしている。私はもう虫の息だった。

 その様子を静かに眺めていた美国織莉子が声をかけた。

 

「キリカ」

 

「もういいだろ、織莉子。コイツはもう殺さなければ気が済まない」

 

「そう……」

 

 このとき彼女はどんな表情をしていたのか分からない。分かったのは彼女が呉キリカに処刑執行を命じたことだけだった。

 

「ならもういいわ。殺りなさいキリカ」

 

「分かったよ」

 

 そう答えて呉キリカは私が握り締めている銃を奪い、引き金を引いた。それから狙いを私に定めて…………

 

「終わりだ、暁美ほむら」

 

 何度も私の身体へと銃弾を撃ち続けた。

 

 

 

 

 銃撃が終わり、織莉子達の目前にいるのは血まみれになって倒れている暁美ほむらだった。普通の人間なら既に死んでいるが、魔法少女は本体であるソウルジェムを砕かなければ完全には死なない。

 それを知っていた織莉子は、ほむらのソウルジェムを砕こうと彼女の身体を探ろうとした。だがそうする前に彼女の目の前を青い閃光が横切った。

 

「ほむらを殺させるかァ!!」

 

 彼女達の前にさやかが立ちはだかる。そして織莉子は先程まで倒れていたまどかの身体が無くなっていることに気がついた。

 どうやら、キリカがほむらを攻撃している内に傷を回復させて安全な場所に動かしたみたいだ。だけど大した問題ではない、何故ならさやかを倒した後にいくらでも探す時間があるからだ。

 

「そんなボロボロの状態で勝てると思ってるのかい?」

 

「このまま逃げるのなら見逃してもいいですよ」

 

「ふざけるな!!」

 

 さやかが激昂して二人に立ち向かおうとした時だった。

 

 

 

 ファンファンファンファン……

 

 

 

 何処からかパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 その音を聞いた瞬間、織莉子は自分の失態に気づいて舌打ちをした。

 

 ここは今は誰も使っていない廃墟、人が寄り付くはずもない。

 しかしこの廃墟はただ人が近寄らないだけであって近くには当然、人が住んでいる。

 そこの住人がいきなりほむらが発した大量の銃声を聞いたらどうなるのか?

 答えは明らか、不安に思った住人が警察に通報する。ほむらが銃を使ってから大分時間が経過していた。

 

(戦う場所を変えていれば、あるいはもっと早く暁美ほむらを始末していれば……!!)

 

 織莉子は駆け出して、気絶しているマミの元に向かって彼女を担いだ。そしてさやかと対峙しているキリカに撤退を命じた。

 

「キリカ、ここは一旦引くわよ!!」

 

「ま、待て!!」

 

 さやかが呼び止めるも聞くはずもなく、織莉子とキリカはその場から姿を消した。

 残されたさやかはほむらの傷の手当てをして、隠していたまどかの身体を引っ張り出す。

 

「これが見つかったら後が大変そうだな……」

 

 目で見える範囲の薬莢を全て拾って、床にある血だまりを廃材を幾つも積み上げて見えなくする。

 それから二人の身体を魔力で補いながら持ち上げて、廃墟から脱出した。

 

 

 

 

 

 その後、廃墟に警察が到着して魔女に魅入られて気絶していた人達を発見した。

 気絶していた人々は皆、記憶がなくて詳しく情報を聞くことが出来なかった。それから廃墟の調査を行ったが、あちこち倒壊していて思うように動けずに仕方がなく人が入ることが出来る部屋だけ調査した。

 しかし結局は何も見つからずに近隣の住人が聞き付けた謎の銃声の正体は分からず仕舞いで終わってしまった。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※おりこ☆マギカはB○○K○FFで数回しか読んでいないので上手くキャラを書いているのかちょっと不安です……

※まどマギの本編以外の本も買おうかなぁ……。おりマギとかかずマギとか……


☆次回予告★


第20話 襲撃I ~ 一夜が明けて


次回もお楽しみに!!


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第20話 襲撃I ~ 一夜が明けて


※アフターメリークリスマス♪(二日過ぎて)

※冬休みに入ったけど、思うようにキーボードが進まなくて大変でした……


 

第20話 襲撃I ~ 一夜が明けて

 

 

 

『どうして……こうなるって分かっていたのに、あなたは……!!』

 

『ごめんね。またほむらちゃんを苦しませちゃって……』

 

『…………』

 

『ねぇ……最期に頼みたいことがあるの』

 

『…………』スチャ

 

『もう……分かってるんだね』

 

『この頼み事もずっと繰り返してきた……何度もこの手であなたを手掛けてきた……』

 

『そこまで気負わなくていいんだよ……なんて言えないよね』

 

『どうせなら私もこのままあなたと一緒に死ぬのも悪くないと思ってるわ』

 

『そうなの? じゃあ頼み事、もう一個だけしていいかな?』

 

『何?』

 

『後一回だけでいい……ほむらちゃんの魔法を使って時間をやり直して欲しいの。本当はあなたにばかり辛いことを押し付けたくないんだけど……お願い、希望を捨てないで』

 

『…………分かったわ』

 

『ありがと…………うぐっ!!』

 

『大丈夫?! しっかりして!!』

 

『も、もう一つだけ……伝え、たい、ことが……』

 

『何をする気なの……止めて!! 銃を下ろして!!』

 

『あなたと、友達になれて……本当に良かった……』パリン

 

『まどかぁぁぁぁあ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

「見慣れた天井だわ……」

 

 悪夢から醒めて最初に見えたのがそれだった。とはいってもこの前と同じ病院の天井ではなく、私の部屋のものだったけど……

 ここまで考えが至るや私は慌てて飛び起きた。そして意識を失う前に起こった出来事を思い出す。

 

「確か私は……呉キリカに……」

 

 そう口にしていると全身に激しい痛みが襲いかかった。自分の身体をよく見るとパジャマの下に包帯が何重も巻かさっていて、点々と血の跡が滲んでいる。

 現状を確認したことで今がどういったことになっているのか思考を巡らせる。

 

 呉キリカに銃弾を受けて、私はそのまま気絶。その後、さやかと巴さんが何かかしらの手段を使ってあの二人から逃げ切り、避難と傷の手当ての為に私の家に訪れた。恐らくこれで合っているはず……

 

__ガッシャン!!

 

「?!」

 

 すると突然扉の方から物が落ちる音が聞こえる。そちらを向くとそこには驚いた様子でこちらを見るまどかがいた。

 

「ほむらちゃん……」

 

「まどか」

 

 名を呼ぶとまどかは今にも泣き出しそうな顔をしながら、私の胸に飛び込んできた。

 

「うぐっ……!」

 

「よかった……無事に目が覚めてくれて、本当によかった!!」

 

「ま、まどか……傷に響くから少し離れて……」

 

 胸元をすりすりされるのは本来なら嬉しいけれども、今の身体だと相当キツい……

 

「あっ、ごめん!! つい嬉しくて」

 

「別に気にすることないわ。それよりもあなたの方は何ともないの?」

 

「うん。ちょっと危なかったけど、さやかちゃんのお陰ですっかり元通りだよ。ほら!」

 

 なんの躊躇なく、服を捲ってみせてきて思わず吹き出してしまう。ちょっ……無防備過ぎるわよ!!

 私の反応に、行為をやってみせたまどかの顔がみるみる内に赤くなっていく。バシュッと音が出てもおかしくないくらいのスピードで服を戻す。

 

「ほむらちゃんのえっち……」

 

 じっ……とこちらを見ながら小さく呟いた。

 いや、あなたが見せてきたのでしょ?!

 

「起きて早々何しとんじゃあんたら……」

 

「あっ、さやかちゃん」

 

「ほむら。調子はどう?」

 

「最高よ、この怪我さえなければね」

 

 苦い顔をしながら、とんとんと胸の辺りを叩いてみせる。

 

「それと治療してくれてありがとう。あなたがいてくれなかったら今頃、私もまどかもきっと死んでいたわ」

 

「まだ慣れていないから上手く治せなかったけどね」

 

「初めてにしては上出来なものよ」

 

「おぉ……ほむらが珍しくあたしを誉めた」

 

「私を何だと思ってるのよ……」

 

「ま、とりあえずこの三人は無事で何よりだね」

 

「三人?」

 

 その言葉を聞いて血の気が一気に引いていく。そういえばさっきからあの人の姿が見えない……

 

「巴さんは……彼女は何処にいるの?」

 

「…………」

 

 恐る恐る聞いてみるが、さやかから答えは帰ってこない。まさか……あの二人に……

 私の問いかけに答えてくれたのはまどかだった。

 

「マミさんは……あの人達に連れていかれたよ……」

 

「そんな……」

 

 美国織莉子達と戦う上で貴重な戦力を失ってしまった。そしてそれだけでなく、今度アイツらと戦うにあたって慎重に行動しなければならない。

 そうなれば必然的に必要になってくるのは情報だ。情報を集めて巴さんを救い出さなくては……

 

「二人ともあの廃墟の一件があってから私はどれくらい意識を失っていた?」

 

「大体一日くらいだよ。そんなことよりも一刻も早くマミさんを助け出さないと!!」

 

「ダメよ、軽率な行動はかえって奴等の思う壺になる」

 

「じゃあどうすればいいんだよ! このままじゃマミさん、殺されちゃうかもしれないんだぞ!!」

 

「大丈夫、巴さんは殺されない」

 

「どうしてそう言い切れるんだよ!」

 

「奴等の目的が私達全員を殺すことではないわ。もしそうならばあそこで巴さんとあなたはやられている」

 

「じゃあマミさんは人質として連れて行かれちゃったってことなの?」

 

 まどかの言うことにコクリと頷く。そして今自分が隠していることをうっかり漏らしてしまわないように慎重に言葉を選びながら話す。

 

「そうよ、奴等の殺害対象である私とまどかを誘き寄せるためにね」

 

「わたしとほむらちゃんを?」

 

「一体何のためにあんた達を殺そうとするんだよ?」

 

「憶測だけど私とまどかが彼女達にとって脅威になる存在であるからでしょう」

 

 奴等がまどかを狙う本当の理由は、彼女が魔女になって世界を滅ぼす未来を美国織莉子が予知能力を使って見たから。このことは二人にはまだ話せないので適当なことを言って済ませる。

 するとまどかが肩を震わせて言った。

 

「どうして、同じ魔法少女同士なのに殺し合わなくちゃいけないの…?」

 

「認めたくないけれど、こういうのが魔法少女の本来の姿なのよ。

 魔法少女が生きていくためには魔女を狩り続けて、グリーフシードを得なければならない。だけどもその数には限りがある。

 もしも自分達のテリトリーに魔女がいなくなってしまったら、今度は別の縄張りを探さなくてはならない。

 でもその場所に他の魔法少女がいたとしたら? 当然グリーフシードの奪い合いとなってしまう」

 

「じゃあアイツらがあんた達を狙っているのは、予め邪魔者を潰しておくためってことかよ?!」

 

「恐らくね」

 

 これだと美国織莉子達が私利私欲のために動いている魔法少女として勘違いされそうね。まあ彼女らがどういった扱いになろうとも私には関係ないけれど。

 などと思っていると私の言うことに焚き付けられたさやかが勢いよく立ち上がった。

 

「許せない…そんなことのためだけにあたしの親友たちの命を狙うなんて…!!」

 

「いや、これは私の憶測だからそんなに真に受けないでちょうだい」

 

「あ、そうなの?」

 

「何回も言ってるでしょ…」

 

「さやかちゃんは思い込みが激しいから許してあげて、ほむらちゃん」

 

「そんなの分かり切ってるわよ」

 

「相変わらずのこの評価である…。んで話を戻すけどさ、アイツらって結局何者なの?

 ほむらは名前を知っていたけどさ」

 

「私は前に奴等と一度戦ったことがあるからよ」

 

「「えっ?!」」

 

 二人が驚いた様子で私の方を見る。別の時間軸のことだけど嘘はついていないし、これで辻褄合わせもしっかり出来る。

 

「それでどうなったの?」

 

「勝負はつかなかったけどあのまま戦っていたらきっと負けていたでしょうね」

 

「そうなんだ…」

 

「ほむらでも勝てないとなったら、もう二人のあの変身しか残っていないってことじゃん」

 

 確かに以前までならそれも作戦の視野には入れていた。けれどもついこの間、知ってしまったあの変身のデメリットがあるため私の中では不採用となっている。

 

「それもダメよ。そんなことしてしまったらこの怪我やダメージが全てまどかへと移ってしまう」

 

「それくらいヘッチャラだよ、ほむらちゃん」

 

「今の私はある程度の痛みに耐えることが出来るこの身体が魔法少女であっても動くのがやっとの状態よ。そんなのを生身のあなたが受けたら大変なことになってしまう」

 

 まどかを苦しませないために言った言葉ではあるけど、だからといってこのままのんびりと横になりっぱなしでいるわけにもいかない。

 美国織莉子達が攻めてきたときはこの身を呈してでも最後まで戦うつもりだ。

 

「と、なれば現状戦えるのはもうあたししかいないってことか…

 ねぇ、何かないの? アイツらに勝つための作戦とかさ」

 

「あなた一人で戦っても勝機は全くないわ。現状の経験も力も何もかも奴等に劣っている」

 

「ず、随分とズバッというね…」

 

「だからこそ軽率な行動は控えるべきなの」

 

「んじゃあさ、あの二人の戦い方とか教えてくれない? もしかしたらそこを上手く突ければ勝てるかもしれないじゃん?」

 

「さやかちゃん凄い…いつもとは全然違うね。まるで別人みたい」

 

「へへーん、あたしだってやる時にはやるのだ!」

 

 確かにいつも以上に頭が冴えている、いや冴えすぎていて逆に不気味だけど残念ながらそう簡単にはいかない。

 水を差すようで少し申し訳ないけど、突っ込ませてもらうわよ。

 

「戦い方や能力を考慮して出した結論がさっきのなんだけどね」

 

「うそーん……で、でも一応戦い方くらいは聞いておこうかな? 知ってて損はないだろうし」

 

「美国織莉子の魔法は予知、これから起きるであろう未来を知ることが出来る。

 呉キリカは速度低下、対象の動きを遅くしてから武器の鉤爪で攻撃する」

 

「……」

 

 説明をし終えても、これといった反応を見せないさやかを不思議に思ってみてみると、その顔色が髪と引け目を取らないくらい真っ青になっていた。

 そう、巴さんみたいに遠距離攻撃尚且つ、多彩な技を駆使して戦うのなら話は違うけれども、さやかの武器は剣のみでしかも戦い方も真正面から突っ込んでいくタイプ。当然、魔法をモロにくらってしまう。

 

「ぜ、絶望的じゃん…」

 

「やっと分かってくれたのね」

 

「ほむらちゃん…どうするの?」

 

「方法が無いとは限らないよ」

 

 辺りをどうあがいても絶望的なオーラが立ち込めている中、そこへ忌々しい奴が現れた。

 

「キュゥベえ…」

 

「ちっ…一体何の用なの?」

 

 わざと大きく舌打ちをして、顔をしかめるとインキュベーターがため息混じりの声を出す。

 

「君達が困っているようだからアドバイスしに来てあげたというのに、随分な扱いだね」

 

「何さそのアドバイスって……」

 

「鹿目まどかが僕と契約して魔法少女になれば、美国織莉子達に勝つことは容易いってことさ」

 

 そんなことだろうと思ったわ。と心の中で呟いているとさやかがインキュベーターの身体を持ち上げて言った。

 

「ふざけんじゃないわよ。これ以上、あんたのせいで魂を石ころに変えられる人を増やしてたまるか!」

 

 どうやらさやかが契約する前に二人の中で一悶着あったらしい。大方、巴さんやソウルジェムの真実を知らない魔法少女達を騙していたことについてであろう。

 

「そうかい。なら君はどう思っているんだい、まどか?」

 

「わたしもまだ考え改める気はないよ」

 

「まだ……か」

 

 含みのある言い方をまどかはしていたけど、この状況が一向に好転しなかったら恐らく契約することを考えているってことだろう。

 そのことを思って不安になっていると、インキュベーターが紙を取り出してさやかへ渡してきた。

 

「何だよこれ…?」

 

「美国織莉子から君達に渡すように言われた物だよ」

 

「これって……地図かな?」

 

 身を乗り出して紙面を覗きこむ。そこにはある場所を示した地図と美国織莉子からのメッセージが書かれていた。

 

 

 

『美樹さやかへ

 今日の午後六時までに指定された場所に鹿目まどかを連れて来なさい。

 もしも時間通りに来なければ巴マミの命は無いと思いなさい』

 

 

 

「きょ……脅迫状かよ……!!」

 

「午後六時までって、もう時間もあんまりないよ……」

 

「作戦を考える時間も与えないわけね……それにしてもどうして私の名前が書かれていないのかしら?」

 

 私の疑問に答えたのはインキュベーターだった。

 

「君は相当なダメージを受けているからね、まともに動くことはもう出来ないと判断されたんだろう」

 

「ナメられたものね……これしきの傷、どうってこと……ぐうっ!!」

 

 鼻で笑いながら起き上がろうとするも、身体にとてつもない激痛が走って床に倒れこんでしまう。

 

「ほむら、あんたはそこにいなよ。マミさんはあたしがとうにかして助け出すからさ」

 

「相手は何人もの魔法少女を殺しているのよ!! 無策で突っ込んでもただ殺されるだけよ!!」

 

 このまま行かせてしまったら間違いなく取り返しのつかないことになってしまう。

 それを全力で止めようと必死に動こうとするも身体が言うことをきかない。するとそこへ更にインキュベーターの悪魔のような囁きが入る。

 

「そうとも限らない。さやか一人で彼女らに勝つ方法もあるよ」

 

「いい加減なこと____をッ!!」

 

 そこまで言ったところで後頭部に強い衝撃が加わって、私は意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 ほむらを気絶させた後、さやかは彼女の身体にそっと毛布をかけて謝罪する。

 

「ごめん、ほむら。後でちゃんと謝るから……」

 

「さやかちゃん……」

 

「それはそうとキュゥベえ、その方法とやらを早く教えなさい」

 

「勿論、構わないよ」

 

「意外だね。あんたはてっきりアイツらの味方かと思っていたけど」

 

「僕は君達の敵でも味方でもない。あくまで中立の立場でいるつもりだよ」

 

 そうは言うキュゥベえだが、まどかもさやかも全く彼の言葉を信じてなんかいなかった。

 

「…………」

 

「そう、まあどっちでもあたしは構わないけどさ」

 

「ねら手短に伝えるとするよ。マミが殺されたら僕にとっても不都合だからね」

 

 

 

 

 

 

  それからどれだけの時間が過ぎただろう。私は再び意識を取り戻して、後頭部を抑えながら起き上がった。

  辺りを見渡すと明かりは点いているみたいだけど、まどかとさやかの姿は何処にもない。

 

「まさか!」

 

 大慌てで玄関を出ようとしたが、その前に視界にインキュベーターの姿が映り込んだ。

 

「やあ、起きたようだね」

 

「インキュベーター……」

 

「君に知らせておきたいことがあってね」

 

  奴がここにいるってことは、まだ気を失ってからあまり時間が経っていない?

  まだ二人と止められるチャンスがある。と思って安心しかけたが、インキュベーターの言葉でその期待は打ち破られた。

 

 

 

「まどかとさやかが美国織莉子の手に堕ちた」

 

 

 

  それを聞いて、目の前の景色がぐにゃあと歪み出した。

 

「嘘だ……そんな、そんなことが……夢よ、夢に決まってる……」

 

  現実逃避したくて発した一言だが、そこへインキュベーターが追い打ちをかけた。

 

「ところがどっこい、これは現実なんだよ。暁美ほむら」

 

「嘘……そんなのって……!!」

 

  絶望感と喪失感が一気に私に押し寄せてくるのにたまらず私は発狂した。

 

「君もここまでのようだね。じゃあ僕がこの辺で美国織莉子の元へ戻るとするよ」

 

  インキュベーターが満足そうに頷いて、この場から居なくなる。だがそんなことはもうどうでもよかった。

 

 

 

心が闇に支配されていく……

意識が堕ちていく……

 

 

 

「嗚呼……もう駄目、こんなのもう耐えられない……」

 

  ずっと心を支えてきた柱が音を立てて崩れ去る。そして次の瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

『ふふっ……来てみたのはいいけど、何やら大変なことになっているみたいね。さて、どうしようかしら?』

 

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





☆次回予告★



__私は何度も繰り返してきた。この終わりのない戦いを……

__そしてある時、自分にこう誓った……

__私がどうなろうとも、まどかだけは呪われた運命から救い出してみせると……

__それによって私が、人間でも魔法少女でもなくなったとしても……

__まどかのためなら、どうなろうとも構わない!!!


「ほむらちゃん!!」

「暁美さん!!」

「ほむらァ!!」

「君は一体……」

「嘘……だろ……」

「こんなことがあるというの……」


第21話……


「さようなら……まどか……」パリン





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第21話 Dとの密約 ~ 残された道


※明けましておめでとうございます。

※ここ最近、スマホゲーとのまどマギのコラボ率がとんでもないくらい高い気がする。CMでいつもやってる感じがします。何かの前触れですかね(歓喜)

※そして tyanドラーさん、一言評価の感想ありがとうございます!! まどマギらしいと言われて、嬉しさのあまり感想をスクショさせていただきました!!!



※それでは新年一発目のマギクロを……どうぞッ!!



 

 

 

「……ここは?!」

 

 気が付くと私は暗闇の中にいた。禍々しく、不気味で、だけどもどこか心地いい…この空間は一体何?

 

「まさか私、魔女になってしまったの?!」

 

『いいえ、違うわ。『まだ』ね……』

 

「?!!」

 

 疑問を口にしていると何処からかそれに答える声が聞こえてきた。だけどその声を聞いて自分が信じられなくなってしまう。

 すると突然、誰かに肩に手を置かれて耳元で囁かれた。

 

『何を驚いているんの? 『自分自身』の声でしょう?』

 

「ひゃっ!!」

 

 驚きのあまり悲鳴をあげてしまう。それを見てか、声の主は面白そうにクスクスと笑っていた。そしてゆっくりと私の周りをグルリと回り、その姿を見せる。

 

「あなたは……誰なの?!!」

 

『知っているでしょ? 私だってあなたのことをよく知っている』

 

 その私そっくりの声をした人物は、まるで嘲笑っているかのような目つきでこちらを見ていた。

 確かに私はこの人物のことを知っている。間違いなくこの世の誰よりも、だけども一度も見たことがない。

 

 私自身を見て、衝撃を隠せないけれどもこれはキュゥベえ、あるいは美国織莉子達の罠ではないかと捉えて『私』に強く問いかけた。

 

「あなたが暁美ほむらの姿をしているのは分かっている。それを踏まえて何者かと聞いているのよ。

 魔女? 使い魔? それとも美国織莉子の仲間の魔法少女が化けているのかしら?」

 

『ぷっ……あっはっはっは!!』

 

 何が可笑しいのか『私』はその質問を聞いて、笑い出した。

 

 不気味だ。これまでで一度も感じたことがないほどの邪気、しかもそれが自分と全く同じ容姿をしているのだから……

 

 眉をひそめていると『私』は急に笑うのを止めて、黒い宝石をこちらに見せつけてきた。その宝石からも『私』と一緒で禍々しい気を放っていた。

 

 

 

 

 

『私は人間でも、魔法少女でも、魔女でもない。全ての理から外れた、魔なる者。

 そうねぇ……分かりやすく言うとしたら__【悪魔】かしら?』

 

 

 

 

 

 第21話 D(Devil)との密約 ~ 残された道

 

 

 

 

 

「悪魔……?」

 

『えぇ、私が円環の理から奪った力を使って成る姿をそう呼んでいるわ。これが意外と好評でね……美樹さやか達の間でもすっかりと定着してしまったみたいなの』

 

「円環の理……?」

 

 次々と出てくる謎の言葉に頭が混乱してくる。それにさやか達の間って……

 

 そこでようやく私は目の前にいる『私』がどういったものなのか、ようやく理解できた。

 

「あなた、別の世界から来た暁美ほむらね」

 

『あら、気づくのが早いのね。さすが私といったところなのかしら』

 

 以前、別の時間軸でインキュベーターが言っていた。私の時間遡行は正確には時間をやり直しているわけではない。よく似た別の世界に飛んでいるにすぎないと。

 今の私は能力を使うことが出来ないのでそれをすることは不可能だけども、別の世界の全く違う私なら出来ていても何も不思議ではない。でもそれならそれで不可解な点が更に増える。

 

「別の世界の私が一体何の用かしら?」

 

『私がここに来れたのは、全てを並行世界の出来事を見通すことが出来る円環の理の力があって。

 だけどもそれを持っていたとしても、別の世界に行き来したりはしないわ。私は『私の世界』でやるべきことがあるからね』

 

「なら何故、この世界に?!」

 

『あなたのせいよ、暁美ほむら』

 

「私の……せい?」

 

 いきなり責められて、よく分からない状態に見舞われる。私が何をしたというの?

 その疑問に『私』はすぐに答えてくれた。直接でなく、私にしか分からない形で。

 

『以前の世界で、あなたがまどかにしてしまった過ちのせいよ。それで私はここに来なければならなくなってしまった』

 

「まさか別の世界の自分にまで咎められることになるんてね……」

 

『別に咎めてなんかいないわ。寧ろ、褒め称えたいくらいよ』

 

「えっ?」

 

 予想外の言葉に思わず『私』を凝視する。すると『私』は私の頬に手を伸ばしてきてそっと撫でてきた。

 

『あなたは、私の別の可能性……正しい道を選んだかもしれない暁美ほむらなのよ。偽りの世界に大切な人を閉じ込めてしまった私なんかとは違って』

 

「別の……可能性」

 

『本来ならさっさとするべきことを終わらせて元の世界に帰ろうと思ったのだけど、あなたを見て気が変わったの。だからあなたをこの空間に連れてきた』

 

「それってまさか、力を貸してくれるというの?!」

 

『そんなわけないじゃない。私は何もしない__』

 

 開きかけたと思っていた突破口が消えてしまい落胆する。だけど『私』はまだ言葉を残していた。

 

 

『ただあなたに『きっかけ』を与えるだけよ』

 

「きっかけ…ですって?」

 

『私』はニヤリと妖艶な笑みを浮かべて、私にこう言ってきた。

 

 

 

 

 

『悪魔と相乗りする勇気、あなたにはある…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ……」

 

「「さやかちゃん(美樹さん)!!」」

 

 これまで美国織莉子さんと呉キリカさんという人達と必死に戦っていた親友が遂に膝をついてしまった。

 キュゥベえから教えてもらった作戦は最初こそは上手くいっていたけれど、それが織莉子さんに見抜かれてから状況が一気に悪くなった。

 

「回復魔法を使って捨て身の特攻とは……初めはビックリしたけどその程度の小細工じゃ、私と織莉子と破るなんて到底無理だね」

 

「く、くそっ……これくらいでェ……」

 

「その辺りにしておきなさい、美樹さやか。ほとんど魔力を使い切っていて、尚且つこちらには二人に人質がいるんです。もう勝ち目なんか残されていませんよ」

 

 そうわたしは戦いに巻き込まれないように遠くでさやかちゃんの戦いを見守っていた。だけどもいつの間にかキリカさんがすぐ後ろに現れてあっという間にわたしは拘束されて、マミさんと一緒に捕まってしまった。

 ちなみにマミさんはほむらちゃんの予想通り、しっかりと生きていてくれた。だけどもそれと一緒にわたしにとてつもない不安が襲い掛かってきている。もし、ほむらちゃんの予想が『全部』合っていたとしたら……

 

「舐めるんじゃないわよ!! うおりゃあああああ!!!」

 

「やれやれ……君のようなしつこい奴は嫌いだよッ!」

 

「かはっ……」

 

 最後の力を振り絞って立ち向かっていったけど、キリカさんはそれをあっさりと破ってしまい、さやかちゃんはその場に倒れこんだ。

 

「ごめんなさい、美樹さん……私がこんなのばっかりで……」

 

 マミさんは、自分のせいでこんなにもボロボロになってしまったさやかちゃんを見て自分を激しく責め立てていた。

 するともう動けない状態でいたはずのさやかちゃんは、その言葉を否定するかのように立ち上がった。

 

「マミさんのせいじゃ……ないって言ってるじゃないですか。

 こうなったのは……全部アイツらのせいですから、二度とそんなこと言わないでください!!」

 

「美樹さん……」

 

「ふん、何言ってるんだか。元々は巴マミ、君が魔女との戦いで恐れなんか抱かなければ起こらなかった事態じゃないか」

 

「黙れ!! そもそもお前らはなんでまどかとほむらを狙う?! そんなにアイツらの力が怖いのか?! 臆病者はお前たちじゃないか!!」

 

 キリカさんはピクッと身体を動かして一歩前へ踏み出そうとしたけれど、それを彼女の前に出てきた織莉子さんが制する。

 

「えぇ、あなたの言う通り私達は臆病者なのかもしれませんね。ですが慎重……いえ、臆病でなければこれから起こりうる最悪の未来を変えることなんか出来ないですから」

 

「それってわたしが持つ魔法少女の素質のせいなんですか?」

 

 ちょっと怖いけれど、わたしは織莉子さんに感じていた疑問を問いかける。すると織莉子さんは予想外の答えをしてきた。

 

「いいえ。確かにあなたの持つ魔法少女としての潜在能力は計り知れません、ですがそれが直接私が恐れている脅威とは繋がりません」

 

「どういうこと…?」

 

「折角ですから教えてあげましょう。あなたを殺さなければならないのは『ある人物』が最悪の未来を引き起こす可能性を限りなくゼロにするためです」

 

「ある人物?」

 

「お前、勿体ぶらずにさっさと話せよ!! うぐっ……」

 

「もう少し自分の立場を弁えて喋れ。トーシロー」

 

 焦らしつつ説明する織莉子さんの話し方に耐えかねたさやかちゃんは苛立ちを表に出す。だけどそれはすぐにキリカさんによって黙らされた。

 そしてキリカさんは足でさやかちゃんの身体を仰向けにして、お腹にはめられているソウルジェムに手を伸ばした。

 

「な、何を……」

 

「こうすれば大分マシになるんじゃないかと思ってね。人質ならぬ魂質って奴かな?」

 

「魂質? ……魂?」

 

 発した言葉にマミさんが反応してしまう。それを聞いたキリカさんは確かめるようにマミさんに話しかけた。

 

「そういえば君はまだそこの二人と違ってまだ知らなかったよね。ソウルジェムの正体を」

 

「正体?」

 

「そうさ、私達魔法少女はキュゥベえと契約を結んだ時点でそいつの魂を__「聞いちゃダメだ、マミさん!!」」

 

 魔法少女の本体、魂はソウルジェムである。その事実を聞かせないためにさやかちゃんは大声で言葉を遮る。だけどそれによってキリカさんの怒りが有頂天になってしまった。

 

「……君って奴はつくづく癇に障るね。私と織莉子の計画の邪魔立てするだけに飽き足らず、言いたいことを好き放題に……

 暁美ほむらの一件からずっと抑えていたけど、もう限界だ。ソウルジェムの真実は君を実証にさせてもらうよ」

 

 キリカさんはさやかちゃんのソウルジェムを軽く上へと放り投げて、そしてそれを思いっきり蹴り飛ばした。

 その行為にわたし達は声をあげた。

 

「「「あっ!!!」」」

 

 ソウルジェムは窓を突き破り何処か彼方へと飛んで行ってしまった。そのことが何を意味してしまうのか、それはすぐに分かった。

 肉体とのリンク100m以上を離れてしまった為、さやかちゃんは突然糸の切れた人形のように地面に突っ伏してしまう。

 

「「さやかちゃん(美樹さん)!!」」

 

「こういうことさ、巴マミ。契約してしまった魔法少女はその魂をソウルジェムに変えられて、肉体から100m以上離れてしまったら意識を失って動かなくなってしまう……要するに死んだ状態になるってことなのかな?」

 

 説明を聞いてマミさんの顔色が段々と青くなっていく。わたしは着々と組み立てられていく絶望的な展開にただ呆気にとられているだけだった。

 

「う、嘘……だってキュゥベえはそんなこと一度も……!! じゃ、じゃあ今の美樹さんって……」

 

「ソウルジェムが見つからず、あるいは何処かに落ちた拍子に砕けてしまったら美樹さやかは二度と息をすることはないね」

 

「そんな……どうして、私……今の今まで……」

 

 知りたくなかった真実、信頼していた者からの裏切り、ほとんど確定されていると言っても過言ではない大切な後輩の死。

 一気に押し寄せてくる絶望がマミさんの精神を崩していっているのは、わたしの目でもはっきりと分かってしまった。

 

「キリカ……」

 

「分かってるよ、織莉子。さっきのは怒りで我を見失っていた。だけどもう過ぎたことさ、美樹さやかは私がどうにかする」

 

 

 

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。こうなったのは誰のせい?

 

 魔女との戦いで恐怖してしまったマミさんのせい?

 下手にキリカさんを刺激し過ぎたさやかちゃんのせい?

 この計画を企てた織莉子さんのせい?

 さやかちゃんの魂を蹴り飛ばしたキリカさんのせい?

 マミさんに真実を教えずに騙していたキュゥベえのせい?

 

 それとも……

 

 織莉子さん達に目を付けられてしまうほどの膨大な魔法少女の素質を持ってしまったわたしのせい?

 

 

 

「もう……分からないよ……」

 

 わたしが涙を流したその時だった。

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

「どうして……?」

 

 織莉子さんとキリカさんが何かを見て驚いた。一体何に驚いたのか? それは……

 

 

 

「あれ…? あたしどうなってたの?」

 

 

 

 何故か意識を取り戻したさやかちゃんだった。

 

「「さやかちゃん(美樹さん)?!!」」

 

「なっ……?!」

 

「どうして……?!」

 

 ありえない事態にこの場にいる全員が驚嘆する。そしてそのすぐ後に、屋内にカツーンと誰かの足音が響いた。

 

 音のする方に視線を向ける。そこには…………

 

 

 

「ほむらちゃん……」

 

 

 

 傷だらけの身体でこちらへと近づいてきている相棒(パートナー)があった。

 

 

 

 

 どうしてさやかの意識が再び戻ったのか? その答えは、文字通りほむらの手の中にあった。

 彼女の手にはキリカによって蹴り飛ばされたソウルジェムが握られていた。恐らく工場に向かっている最中に偶然見つけたのであろう。

 

 最初は驚いていた織莉子だったが、すぐに頭の中でそのように解釈するとほむらの方を見て、身構える。遅れてキリカも鉤爪を前に突き出して臨戦態勢を取る。

 

「まさかあなたの方からこちらへ出向いてくるなんて思わなかったわ」

 

「えぇ……優秀な情報提供者がいてくれたお陰かしら? 最も私にとってはただの畜生に過ぎないけど……」

 

 織莉子はそれがキュゥベえの仕業であることに気付いて小さくため息をつく。

 

 

(鹿目まどかを目の前で殺してしまっては、魔女化してしまう危険性が大きく高まる。だから敢えて彼女の名は手紙に書かなかったというのに……

 インキュベーターめ……エネルギーの欲しさに暁美ほむらをけしかけるなんて……)

 

 

 だが、それと同時にこれは織莉子達にとってチャンスとも捉えていた。

 

 

(でも逆に今度こそ確実に彼女の息の根を止めてさえしまえば、必要最低限の犠牲者で今回の件を終わらせることが出来る!!)

 

 

 そう考えてキリカに合図を送ろうとしたが、それを行う前にほむらが彼女達に話しかけてきた。

 

「美国織莉子。こんなことを言っても無駄だってことは分かっているけれど、今すぐまどか達を解放しなさい。

 そして今後一切私達に関わらないことを約束して頂戴……」

 

 急なほむらからの命令に織莉子は目を丸くする。彼女の代わりにキリカがそれに対して嘲笑しながら答える。

 

「何を言い出すのかと思えば……君も美樹さやかと同じく、自分の立場を理解していない人間なのかな?」

 

「私をさやかなんかと一緒にしないで頂戴……」

 

「おい」

 

「じゃあ一体何だい? 君には私と織莉子の二人にそういった命令を出せると確信しているってことかな?」

 

「そうよ」

 

 挑戦的なキリカの発言にほむらは冷静さを保ったまま返した。

 

 虚勢を張っている。ほむらの今の姿を見て、織莉子はキリカと同じ考えを持っていた。

 

 だがしかし、もしそれが虚勢でなかったら? 何か考えがあってこの提案を持ち掛けているのでは?

 そういったことも一方で考えていた。予知がどれだけの確率で当たるのか、それは織莉子自身もハッキリと把握していない。

 だからこそ今回の予知は必ず外れるようにしなくてはいけない。だからこそ暁美ほむらの一つ一つの行動に細心の注意を払わなくてはならないのだ。

 

「何を企んでいるのかは分からないけど、無駄な抵抗は止めた方が身のためよ。私達はあなたの言うことなんかには揺らがないし、聞き入れる気はないわ。

 ただこの世界を守るためにあなたを殺す、それだけよ」

 

「そう……それがあなた達の答えなのね……」

 

 ほむらは残念そうに嘆息する。それから彼女は懐から自分のソウルジェムを取り出して手の上に掲げてみせた。

 

「何のつもりなの……?」

 

「『警告』はしたわよ」

 

 突然ほむらの周りにドス黒い瘴気が立ち込めた。

 

 

 

 

「ソウルジェムが呪いよりもおぞましい色に染められていく?! 暁美ほむら……何を考えているんだ?!!」

 

『今、彼女の心には様々なものが渦巻いている。欲望、執念、後悔、贖罪……きっとあの頃の私よりも凄まじいものになっているでしょうね』

 

「?!! 君は一体……」

 

『見ての通り、暁美ほむらよ』

 

「君は、人間でも魔法少女でも魔女ですらもないね……あの現象を引き起こしたのは君が原因なのかい?」

 

『そうと言ったらそう、違うと言ったら違うわね。私はあくまできっかけを与えたに過ぎない』

 

「君は何を企んでいるんだ?! 何を目的としてこんなことを?!」

 

『さあ? 意味なんてないわ…それよりもあなたも見届けてあげなさい。

 かつて『暁美ほむら』だった者が犯した過ちと同じように、全てをかなぐり捨ててたった一人の少女の為に尽くした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『愛』のカタチを…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如発生した瘴気にまどか達は巻き込まれないように身を寄せ合っていた。

 

「な、何だよ……これッ?!!」

 

「暁美さん!!! あなた何をするつもりなの?!!」

 

「ほむらちゃん!!!!!」

 

 彼女がこれからしようとすることそれはきっかけを与えたもう一人の『暁美ほむら』以外、見当がついていなかった。どうにかして止めさせようと必死に呼びかける。

 しかしそれに対して、ほむらは静かに微笑むだけだった。

 

 美国織莉子達も同じだった。今からほむらが行おうとすること、それは確実に阻止しなければならないと分かっている。

 だがそれを分かっていてもほむらには近寄ることすら出来なかった。

 

 五人がそれぞれ思っていると、ほむらが行動を起こした。

 おぞましい色に染まりつつあるソウルジェムを掴んで、徐々に力を籠め出したのだ。

 ミシリミシリ…とジェムにヒビが入っていく。その音は小さな物体からは考えられないほど大きな不協和音を響かせていた。

 

 ほむらは苦しそうな表情を何とか抑えて、まどかに満面の笑みを見せてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら……まどか……」パリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほむらのソウルジェムは激しい音を立てて砕け散った。

 そしてまどか達の前に現れたのは……

 

 

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』

 

 

 

 禍々しき『魔なる者』であった。

 

 

 

 

 

Chapter2 魔の再臨

 

 

☆ to be continued…… ★

 







※第2章のサブタイを伏せていたのはネタバレを防ぐためです。っても要所要所にフラグは立てていたんだけどね(笑)

※この章の残すところあと3話!! こっからどんな展開が待っているのか、是非楽しみにしてもらえると嬉しいです。


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第22話 Dとの密約 ~ 奈落で見たもの


※お待たせしました! レポートなどに追われて、執筆する時間をなかなか確保できませんでした……

※とりあえず10日以上、投降間隔を空けることがなくて良かった……


 

第22話 Dとの密約 ~ 奈落で見たもの

 

 

 

 自らのソウルジェムを砕き、変貌を遂げてしまったほむら。

 禍々しいオーラに包まれたその姿は人間とも魔女とも大きくかけ離れてしまっていた。

 

「嘘だろ……これが……」

 

(ほとばしるこの魔力……間違いない、これが私の予知で見た『最悪の未来』を引き起こす存在!!)

 

 織莉子がその予知を見たのは、今から約二週間前。崩壊した街の中央で静かに佇む姿を目にした瞬間、その者の危険性を瞬時に気付いた。その存在が世界を破滅へと導いてしまうことを……

 そうなる事態を避けるために彼女は策を講じた。力、情報、協力者……集められるものは限りを尽くした。

 しかしその努力は実を結ぶことはなかった。最も恐れていた展開が今、美国織莉子の前に広がっていたのだ。

 

(だけど、このまま尻込みするわけにはいかない。私が今するべきことは……)

 

「キリカ!!」

 

「!!」

 

 織莉子は茫然としてしまっているキリカを鋭い声で呼んだ。

 反応したキリカは一瞬、戸惑った表情を見せたが、織莉子を見て覚悟を決めた。

 

「ごめんなさい。私の考えが至らなかったせいでこんなことになってしまって……」

 

「キミが謝ることなんて何もないさ、誰よりもこうならないように必死に頑張っていた。そのことは私が絶対に保証する」

 

「ありがとう、キリカ」

 

「……行こう。私達の手でアイツを倒すんだ!!」

 

 両者共に武器を構える。そして、目の前に君臨する圧倒的な力を持つ『敵』へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』

 

 だが彼女らの進撃は、ほむらが展開させた真っ黒な翼によって一瞬で止められた。

 翼は目にも止まらぬスピードで襲い掛かり、まとめて壁の方へと飛ばれてしまう。

 

「がッ?!!」

 

「うっ?!!」

 

「なん、だよ……今のパワーとスピードは……まるで、時間でも止められているようだっ…た……」

 

「勝てない……今の私達じゃ、彼女には……」

 

 織莉子達は、真っ赤な瞳を持っている『怪物』の姿を力なく見上げた。

 

 

 

 

 自分達を極限まで追い込んでいた魔法少女が、たったの一撃でやられる様を見てしまったさやかはその光景に圧倒されていた。

 本来ならば、助かったと安堵して喜ぶはずなのだが、全くそんな気持ちにはならない。寧ろ、更に状況が悪くなったと考えていた。

 戦闘の経験が浅いさやかでさえも分かってしまったのだ。姿を変えてしまったほむらの放つ凄まじいほどの邪気を……

 

 さやかは、ほむらが織莉子達の方に気を取られている隙にまどかとマミの元へと急ぎ、二人の拘束を解く。

 

「美樹さん……一体どうなっているの?」

 

「詳しいことはあたしにも分かりませんよ。でも今は一刻も早くここから離れましょう」

 

「さやかちゃん……ほむらちゃんはどうするの?!」

 

 不安でたまらないといった表情で聞いてくるまどかを見て、一瞬だけ答えるのが躊躇われたが、それでもキッパリと言った。

 

「あたし達が助かることだけを考えて、ほむらは……今のアイツはどう考えても普通じゃない……」

 

「でも……」

 

「鹿目さん。気持ちは分けるけど、このままだと私達まで巻き込まれてしまう。ここは一時、撤退しましょう」

 

「はい……」

 

 あの状態のほむらを放ってはおけない。まどかはそう思っていたが、そこにマミも加わって折れざるを得なかった。

 

 

 三人は工場から出て、近くの物陰へと移動して建物の様子を伺う。工場からはまだ、轟音が鳴り響いていた。

 

「それにしても、ほむらのあの姿は何だったんだ? まどか、あんた何か知ってる?」

 

「ううん……あんなの一度も見たことがないよ」

 

「私達どうすればいいのかしら……」

 

「少なくとも、ほむらをこのままにはしてはおけないよね」

 

「でも、どうしたら……」

 

 

 

「どうして暁美ほむらがああなってしまったのか、大体でいいなら僕が教えてあげるよ」

 

 

 

 途方に暮れるまどか達の前に現れたのはキュゥベえだった。

 彼の登場に三人はそれぞれ違った反応を見せる。そんな中、一番最初に口を開いたのはマミだった。

 

「キュゥベえ、暁美さんに一体何が起こったの?」

 

「彼女は自らのソウルジェムに様々な負のエネルギーを取り込んで、それらを一気に放出させて肉体に大量に取り込んだ。今の暁美ほむらは負のエネルギーの中に完全に取り込まれてしまっていて自我を完全に失った状態にいるんだ」

 

「負のエネルギーって……何?」

 

「いい質問だね、まどか。君達は僕と契約するときに『希望』である正のエネルギーによってソウルジェムを輝かせる。負のエネルギーはそれの全く逆、分かりやすく言うならば『絶望』という言葉で括れるかな?」

 

「希望と絶望……」

 

 そう呟きながらまどかは左手の中指にはめられた指輪をじっと見つめた。

 何か思うことがあるのであろうが、キュゥベえはそれには反応せずに解せない顔つきで続きを話した。

 

「だけど彼女の負のエネルギー源は『絶望』だけではなかった。欲望や執念は理解が出来るとはしても、彼女の言うあの感情だけはどうしても分からなかったよ」

 

「彼女……?」

 

 まるで誰かから聞かされたような口ぶりで話すキュゥベえにまどかは、ふと疑問に思う。

 だが、そのことを聞く前にさやかが先に彼に問いただした。

 

「そんなことはどうだっていいよ。それよりもあたしはどうやったらほむらを元に戻すことが出来るのかを聞きたいんだけど?」

 

「どうしたら……か」

 

「お願い、キュゥベえ何か知っていたら教えて頂戴」

 

 頼み込むマミにキュゥベえは首を捻って考え込む仕草を取る。

 

「今の暁美ほむらは、負のエネルギーに自我を飲み込まれてしまっているせいで暴走に近い状態になっている。彼女の自我を呼び起こすことが出来れば、もしかしたら元の人間に戻れるかもしれない」

 

「自我を呼び起こす……」

 

「そうすれば、ほむらちゃんは元に戻る……」

 

「そんなのどうすれば……そうだ!!」

 

 元に戻す方法について考えていると、さやかが何かを思いついたように手を叩く。

 

「声だよ! ほむらの名前を呼び続けたら、もしかしたらアイツの意識を起こせるかもしれない!」

 

「確かにそうすれば暁美さんもきっと……」

 

「どうかな? 負のエネルギーとはいわゆる感情と同じもの、そう簡単に感情に囚われた人間を元に戻せるとは思えないね」

 

 水を差すような言い方で問いかけるキュゥベえだったが、さやかとマミはそんなことなど気にしていなかった。

 

「残念だけど、それにはうってつけの人物がいるんだよ」

 

「さやかちゃん、一体誰のことなの?」

 

「あなたよ、鹿目さん」

 

「えっ?」

 

「なるほど、確かに暁美ほむらの場合であれば、一理あるかもしれないね」

 

「ええっ?!」

 

 自分以外の全員が何故か納得してしまっている事態にまどかは戸惑っていたが、さやかとマミは早速、ほむらと対峙するための準備に取り掛かっていた。

 

「マミさん、取り敢えず先にこれを使ってください」

 

「グリーフシード……どうして?」

 

「ほむらから聞いたんですけど、ソウルジェムは魔力を使う以外でも濁ってしまうみたいなんです。たとえば、心が大きく揺さ振られたりしたときとか……」

 

「そう、それならありがたく受け取っておくわ」

 

 廃墟での戦いで穢れを取り払ったはずのジェムはいつの間にか濁り切る寸前までいっていた。しかしそんなことは特に気にしないで、マミは自分のソウルジェムを取り出して浄化を済ませる。

 まどかも自分の役目を受け入れてほむらの場所へと行く手筈は全て整った。

 が、そこにキュゥベえが思い出すような口調でこんなことをまどか達に言ってきた。

 

「そういえば、そろそろじゃないかな? 美国織莉子達が暁美ほむらに殺されてしまうのは……」

 

「「「ッ?!!」」」

 

 突然の発言に一同はバッと工場の方を振り向く。気が付けば、先程まで聞こえていた轟音も今ではすっかりと聞こえなくなっていた。

 それに加えて、更に予想外の出来事が起こってしまう。

 

「そんな……そんなの駄目だよ!」

 

「「まどか(鹿目さん)!!!」」

 

 なんといきなりまどかが、作戦を無視して工場の中へと走り出してしまった。

 さやかは急いで魔法少女の姿へと変身してまどかの後を追ったが、マミは足を止めてキュゥベえのことをじっと見つめた。

 

「どうしたんだい、マミ? 早くまどかの後を追わなくていいのかい?」

 

「…………」

 

「マミさん、何してるんですか?! 早く、来てください!!」

 

「……分かったわ」

 

 何の反応を示さないことに疑問に思うキュゥベえだったが、さやかからの呼びかけが来ると一緒にマミは黙って走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 中に入ってまどかが見たものは、ほむらの攻撃を受けて魔法少女としての姿を強制的に解除させられてしまった織莉子達だった。

 二人は必死に立ち上がって戦うことを止めずにいたが、それももう限界であることが、目に見えて分かった。

 

「こんなことがあるっていうの……」

 

「織莉子……ううっ……」

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』

 

 トドメを刺そうと翼を展開させて織莉子とキリカに向け振り下ろそうとする瞬間、まどかは夢中になってほむらの元へと走り出す。そして張り裂けんくらいの声量で彼女の名を呼んだ。

 

「ほむらちゃん、ダメェェェ!!」

 

『!!』

 

 突然の大声に驚いたのか、あるいはまどかの叫びが効いたのか定かではないが、攻撃は織莉子達からほんの少しだけ離れた場所に落とされる。

 しかし攻撃は外れたもののその威力は凄まじく、とてつもない風が建物内に吹き荒れて織莉子、キリカは当然としてまどかも共に突風によって身体を舞い上げられてしまう。

 

「きゃああああぁ!!」

 

 空中に放り出され、まどかは為す術なく地面へと真っ逆さまに落ちていく。

 だが、地面に激突する前にリボンで作られたクッションが彼女を受け止めた。

 

「鹿目さん、怪我はない?!」

 

「マミさん……ありがとうございます」

 

「……ったく一人で勝手に突っ込むなっつーの、ビックリするでしょ」

 

「ごめん、さやかちゃん。でも、わたしどうしても……」

 

 しょんぼりと顔を俯かせるまどかにさやかは優しく肩に手を置く。

 

「分かってるよ。どうせアンタのことだから、ほむらだけじゃなくてあの二人も助けたいって思ってたんだろ?」

 

「うん、でもあの人たちは……」

 

「何処に飛ばされたのかは分かんないけど、アイツらだって魔法少女なんだ多少の怪我しててもどうにかなるでしょ。

 ていうかある程度、痛い目見てもらった方が都合良いっちゃいいんだけどね」

 

「美樹さん」

 

 冗談交じりに言った台詞だったが、マミに咎められてしまう。

 それに対して、さやかは少しだけふてった表情で言う。

 

「マミさんだってアイツらに酷い目に遭わされたじゃないですか」

 

「だからといって見捨てていい理由にはならないはずよ?」

 

「うっ、分かってますってば……」

 

「そんなことよりも暁美さんよ、早く彼女を元に戻してあげましょう」

 

「そうですね。まどか、しっかり作戦通り行くよ!!」

 

「うん……」

 

 三人が頷き合って慎重に距離を詰めながら、ほむらに近づいていく。

 

 作戦の手筈としては、まずまどかがひたすら意識が目覚めるまでほむらの名前を呼び続ける。

 その際にも恐らくほむらは無差別に攻撃をしている為、その攻撃をさやかとマミの二人で捌いて、これをただ延々と繰り返すといったものである。

 

 

 

 が、この作戦を実行するにおいて、ほむらの放つ攻撃は予想を遥かに越える強さだった。

 

「うわっ!!」

 

「美樹さん、しっかり!!」

 

 マミの武器は銃のため、ほむらが振り下ろしてくる翼を直接受け止めることは出来ない。そのせいで攻撃を受け止める役目は、ほとんどさやかがメインとなってしまう。

 それでも、マミもリボンでさやかの後ろに壁を作って少しでも衝撃を和らげたり、度々飛んでくる魔力の弾を打ち落としたりと彼女なりに出来る最大限のことをしていた。

 

「ほむらちゃん! お願い、わたしの声を聞いて!!」

 

 このような攻防が何度も繰り返されていく。そんな時、遂にほむらに変化が訪れた。

 

『ア"ア"ア"ア"ア"……マ、ドカァァァ……』

 

「ほむらちゃん?!」

 

「よしっ! このまま名前を呼び続ければ……!!」

 

「あと少しよ! 頑張って!!」

 

 希望の光がようやく見えてきた……とまどか達は思っていた。

 だが次の瞬間、ほむらはこれまでとは全く違う動きを見せた。

 

 突然、翼を羽ばたかせて風を起こし始めたのだ。変化があったことにさやかとマミは図らずも油断していた。

 それによって不意に変わった攻撃パターンに対応することが出来ずにまどかの防衛が疎かになってしまい、まどかは再び、宙に舞い上げられてしまった。

 

「しまった!」

 

「やばっ……まどか!」

 

『マドカァァァァァア!!!』

 

「!!」

 

 ほむらはその隙を逃さなかった。飛ばされたまどかを幾多ものの黒い腕のようなもので捕まえて、なんと彼女をその身の中へと取り込んでしまう。

 その行為が終わったと思いきや、いきなりほむらは天に向かって咆哮した。

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』

 

 そして間髪入れずにさやかとマミに向かって、大量の魔弾を落とした。

 

「うわああああぁ!!」

 

「きゃああああぁ!!」

 

 全ての魔弾を撃ち終えた後、辺りには瓦礫の山しか残っていなかった。

 

 

 

 

 ほむらちゃんに取り込まれてしまっていても、どうしてか意識はハッキリと残っていた。

 取り込まれた後もわたしを掴んでいる無数の手は、ぐッと引っ張り続けてまるで何処かへ連れていかれているような感じがする。

 

 そうしたら急に黒い手たちは、わたしを引っ張るのを止めて身体から離れていき、消えていった。

 自由になったわたしは取り敢えずこの真っ暗な空間を歩くことにした。

 

「ここは、何処なんだろう……?」

 

 不安はありはしたけども、わたしはひたすら前へと進んでいく。

 すると前の方に誰かがうずくまっているのが見えた。顔は見えないけれど、その姿を見た瞬間にすぐに誰なのか確信できた。

 

「ほむらちゃん!!」

 

 走り出してほむらちゃんのいる場所へと目指そうとする。だけど、あと少しで辿り着けそうになった時にわたしの下にあった床がいきなり消えてしまう。

 

「きゃあああああぁ!!」

 

 悲鳴をあげながら下へ下へと落ちていく。

 どれだけ落ち続けたのだろうか、真っ暗闇だった景色が突然明るくなったと思った途端にわたしの身体に衝撃が加わった。

 

「うぐっ!!」

 

 物凄い高さから落ちたにも関わらず、どうしてか傷一つなかった。

 けれど、そんなことは顔を上げたときに目の前に広がる景色を見た瞬間にすぐに消え去ってしまった。

 

「なに、これ……」

 

 わたしの眼前に広がっていたのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎に包まれている見滝原の街だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





☆次回予告★


__わたしは知らなかった。ほむらちゃんがこれまで、どんなことをしていたのか……

__どうしてそこまでわたしのことを気にかけてくれるのか? その真の理由を分からなかった……

__だけど、わたしは遂に知ってしまった。崩壊してゆく街を背景に……

__彼女から『真実』を聞かされる……


第23話 Pを取り戻せ ~ 『全て』を知ったとき


「ごめんね……ほむらちゃん……」


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第23話 Pを取り戻せ ~ 『全て』を知ったとき


※今回は、アニメの第10話でのエピソードがかなり含まれています。

※どうでもいいですけど、あと3日でマミさんの5年忌ですねw



 

 あちこちから火の手が上がり、炎に包まれている見滝原の街。わたしはその街を一望できる高台に立っていた。

 記憶が正しければ、今いる所は綺麗なたくさんの種類の花が咲いている密かなお気に入りの場所のはずだったけれども、そこに一面に広がっているのは彼岸花だけだった。

 

「ここは、本当に見滝原なの……?」

 

 つい口に出した言葉だったけど、当然答える人なんかいない。

 そうしていると何処かから誰かのうめき声が聞こえてきた。その声はわたしがよく知っている……

 

「ほむらちゃん……?」

 

 音は聞こえど姿は見えず、彼女の苦しそうな声を聞いていると段々居ても立っても居られなくなってくる。

 そしてわたしは、ほむらちゃんを探しに行こうと動き出そうとした。すると、そこへ……

 

『そんなに慌てて何処へ行くつもりなのかしら、まどか?』

 

「えっ……?」

 

 真っ黒なドレスを身に纏ったほむらちゃんがわたしの前に現れた。

 

「ほむら…ちゃん、なの……?」

 

 わたしが知っている彼女の像から大きくかけ離れているその姿に動揺を隠せないでいた。

 だけど、それと一緒に以前戦った偽物のほむらちゃんのことを思い出して、油断しないように気を張り詰める。

 すると、ほむらちゃんはクスクス笑い出した。

 

『確かに私は暁美ほむらよ。でも、あなたが知っている『暁美ほむら』とは全くの別人』

 

「どういう…ことなの……?」

 

『今のあなたには知る必要がないことよ』

 

「そんな言い方しなくてもいいでしょ」

 

 突き放すような喋り方にムッとした声で言い返す。

 そんなわたしの返しに驚いたのか、ほむらちゃんは意外そうに言う。

 

『あら、この世界のあなたは随分と気が強いのね。契約もしていないのにここまでなるなんて珍しい』

 

「それよりもわたしは行かなくちゃいけない場所があるから、そこを通して欲しいんだけど……」

 

『勿論、あなたの邪魔をするつもりはないわ。けどその前にこんな話を聞いていく気はないかしら?』

 

「なに?」

 

 今いるほむらちゃんには悪いけど、なるべく急いで話してくれないかな? と思っていたら次の瞬間、わたしは衝撃的な言葉を耳にする。

 

『「暁美ほむら」が歩んできた人生……の話よ』

 

 

 

第23話 P(Partner)を取り戻せ ~ 『全て』を知ったとき

 

 

 

 もう一人のほむらちゃんが言ったことにわたしは慌てて彼女に詰め寄る。

 

「それって…わたしが知っているほむらちゃんについてなの?!」

 

『えぇ、これは私自身のことでもあって『暁美ほむら』のことでもある。両者共に共通しているものよ』

 

「でもどうしてそんなことをわたしに……?」

 

 反射的に食いついてしまったけど、罠であるかもしれないことを思い出して探るように彼女に質問する。

 それに対してほむらちゃんは、ふッと視線を燃えさかる見滝原の街に向けて静かに言った。

 

『そちらの暁美ほむらにも言ったことだけど、あなた達は私が一度も辿り着くことがなかった別の可能性を持っている。

 だからこそ見届けたいのよ、守る守られる関係ではなくて互いに支え合う関係になった暁美ほむらと鹿目まどかがどんな結末を迎えるのか……』

 

 悲しげな目をしながら語るその姿は、わたしが知っているほむらちゃんの面影が残っていて、少しだけ胸が痛くなる。

 わたしやさやかちゃん達と楽し気に話しているときにも、時折見せるその目。それを見る度に何も力になれないことを苦しく思っていた。

 

 陥れるための罠である可能性は十分にある。だけどもそうかもしれなくても、胸の奥底から押し寄せてくる気持ちを抑えることは出来なかった。

 

「聞かせて……」

 

『?』

 

「ほむらちゃんのこと、知りたいの……いや、知らなくちゃいけない気がするの。だからお願い、聞かせて」

 

 その言葉に、もう一人のほむらちゃんはニヤリと笑う。そしてわたしの頭にそっと手を乗せた。

 

『どの世界でもやっぱりあなたはあなたのままね。いいわ、見せてあげる私の全てを!!』

 

「うっ?!」

 

 頭の中に自分のものではない記憶が一気に流れ込んでくる。

 そこには、ほむらちゃんの……『暁美ほむら』という少女の軌跡があった。

 

 

 

 

 場所は見滝原中学校。

 担任の先生の早乙女先生の話が終わって、私は転校生としてクラスに入っていった。

 

『はーい。それじゃあ自己紹介いってみよー』

 

『あ、あの……あ、暁美…ほ、ほむらです。その……えっと…ど、どうか、よろしく、お願いします……』

 

『暁美さんは心臓の病気でずっと入院していたの。久しぶりの学校だから、色々と戸惑うことが多いでしょう。だからみんな助けてあげてね』

 

 自己紹介が終わった後、私はクラスのみんなに質問攻めに遭った。入院生活が長かったせいであまり人とも喋ったことがなかった私はどう話したらいいのか分からないでいた。

 そんなときだった彼女がやって来たのは……

 

『暁美さん。保健室行かなくちゃいけないんでしょ? 場所分かる?』

 

『い、いいえ……』

 

『じゃあ案内してあげる。わたし保健係なんだ。

 みんな、ごめんね。暁美さんって休み時間には保健室でお薬飲まないといけないの』

 

 それから私はまどかに連れられて、保健室までの道を案内してもらった。

 

『わたし、鹿目まどか。まどかって呼んで』

 

『えっ…そんな……』

 

『いいって。だからわたしもほむらちゃんって呼んでいいかな?』

 

『私、その……あんまり名前で呼ばれたことって無くて……。すごく変な名前だし……』

 

『え~? そんなことないよ。何かさ燃えあがれ~って感じでカッコいいと思うな~』

 

『名前負け、してます』

 

『そんなのもったいないよ、せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ!』

 

 これが私とまどかの初めての出会いだった。

 まどかに励まされたのは良いものの、それから数学の授業では問題に答られず、体育でも準備体操の段階で貧血になってしまい、授業を見学することになってしまった。

 そんな中でもまどかは何も出来ずにいた私を元気づけようと精一杯励ましてくれた。だけども彼女の優しさよりも自己嫌悪の気持ちの方があのときの私を覆っていた。

 

 帰り道、まどかに言われた言葉を思い出しながらトボトボ歩いていると私は魔女の結界の中へ入り込んでしまっていた。

 魔女に襲われて殺されそうになった矢先、私の前に二人の魔法少女が現れた。その内の一人がまどかだった。

 

『あ、あなた達は……』

 

『彼女達は魔法少女。魔女を狩る者達さ』

 

『いきなり秘密がバレちゃったね。クラスのみんなには内緒だよッ!!』

 

 それから私は街のみんなの為に戦い続けているまどか達と一緒に楽しい日常を送っていた。そんなある日、悲劇は起こった。

 最大最強の魔女、ワルプルギスの夜が見滝原を襲ってその戦いによってまどかは命を落としてしまう。

 

『どうして? 死んじゃうって分かってたのに、私なんか助けるよりもあなたに…生きてて欲しかったのにッ……!!』

 

 彼女の死体の前で悲しみに暮れる私。そこに現れたのはインキュベーターだった。

 

『その言葉は本当かい、暁美ほむら? 君のその祈りの為に魂を賭けられるかい?

 戦いの運命を受け入れてまで叶えたい望みがあるなら、僕が力になってあげるよ』

 

『あなたと契約すれば、どんな願いも叶えられるの?』

 

『そうとも、君にはその資格があるそうだ。教えてごらん。

 君はどんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?』

 

 奴の言葉を聞いてこの時の私は迷わずに答えた。それが地獄の始まりであることを知らずに……

 

『私は……私は鹿目さんとの出会いをやり直したい!!

 彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!!!』

 

 契約が完了し、私は新しく得た力を使って、一か月前の世界へと飛んだ。

 

 それから美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子が死んで私とまどかは二人でワルプルギスの夜に挑んだ。

 結果は大敗北……二人とも魔力を使い切ってソウルジェムも濁り切る寸前だった。

 私は諦めてまどかと一緒に心中を図ろうと彼女に提案した。しかしまどかは私にこんなお願いをしてきた。

 

『ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね? こんな終わり方にならないように歴史を変えられるって言ってたよね』

 

『うん……』

 

『キュゥベえに騙される前のバカな私を……助けてあげてくれないかな?』

 

『約束するわ! 絶対にあなたを救って見せる! 何度繰り返すことになっても、必ずあなたを救って見せる!!!』

 

 こうして私の終わりなき戦いは始まった。未来を変えるために、たった一人の大切な友達を救うための戦いが……

 

 

 

(誰も未来を信じない。誰も未来を受け止められない。だったら私は……)

 

(もう誰にも頼らない。誰にも分かってもらう必要もない)

 

(繰り返す。私は何度でも繰り返す)

 

(まどか……たった一人の私の友達……

 あなたの…あなたの為なら、私は永遠の迷路に閉じ込められても構わない……)

 

『鹿目まどか。あなたは自分の人生が貴いと思う? 家族や友達を大切にしている?』

 

『あなたはあなたのままでいればいい。さもなければ、全てを失うことになる』

 

 

「あっ…あああ……」

 

 

『いい加減にしてよ! あなたを失えば、それを悲しむ人がいるってどうしてそれに気づかないの?!』

 

 

「ああああああああ……」

 

 

『私ね……未来から来たんだよ?』

 

 

「うわあああああぁ!!!」

 

 

 

 

『これが『暁美ほむら』の全てよ……』

 

「そん…な……ほむらちゃんは、わたしの為に……?」

 

 散りばめられたパズルが凄まじい勢いで組み立てられていく。

 やっと分かった、これまでほむらちゃんがわたしに対して行ってきた行動の全てが……

 

「ほむらちゃんが…悲しんでいたのは……わたしの、せい……?」

 

 信じがたい、だけど受け入れるしかない真実に自分の感情の制御が出来ずにいた。

 涙が溢れ出すのを止めることが出来ない。すると、もう一人のほむらちゃんがそっと手を差し出してきた。

 

『さて…鹿目まどか、あなたはどうするつもり? 

 あなたの為に全てを投げ出して『絶望』の渦中へと自ら飲み込まれていった少女を……どうしたいかしら?』

 

 決まっている。わたしがどうするのかなんてもう決まり切っている。

 わたしは、ほむらちゃんの手を力強く握りしめた。

 

「連れて行って……ほむらちゃんを、わたしの大切な友達…いや、相棒(パートナー)を助けなくちゃ!!」

 

『分かったわ。ならしっかりと掴まっていなさい』

 

 そう言って、ほむらちゃんは背中から黒い翼を広げてある場所へとわたしを連れて飛び立った。

 

 

 

『相棒…それが私と彼女の違い、なのかしらね……?』

 

 

 

 

 

 

 見滝原の街の上空を飛んでいると少し離れたところに巨大なクレーターと、そこへ大量の黒い液体が流れ込んでいるのが見えた。

 それについて不思議に思っていると、もう一人のほむらちゃんが説明してくれる。

 

『あの穴の中に暁美ほむらはいるわ。だけど……』

 

「だけど……?」

 

 わたしの返しに『ほむらちゃん』は何も答えずにスピードを上げる。そして穴の真下へと到着した。

 落ちないように気を付けながら見下ろしてみると、穴の中央に真っ黒な湖の中に沈んでいこうとする相棒の姿を捉えた。

 

「ほむらちゃん!!」

 

『__ッ?! ダメよ!!』

 

 手を離して、落ちようとするのを『ほむらちゃん』に止められる。

 

「離して!!」

 

『私の話を聞きなさい! 下に流れ込んでいる黒い液体は、暁美ほむら自身の感情そのもの。

 幾つものの地獄を潜り抜けてきた彼女でさえ『絶望』に飲み込まれてしまったのに、そんなものをあなたがまともに受けてしまったら!!』

 

「じゃあどうすればいいの?! もう時間はほとんど残ってなんかいない、何か方法があるっていうの?!!」

 

『そ、それは……』

 

 勢いに任せて強く当たっちゃったけど『ほむらちゃん』のわたしを気遣ってくれる心遣いはとても嬉しかった。

 色々と違う所はあるけれども、やっぱり同じほむらちゃんに変わりはないと思った。

 

「ありがとう。もう一人のほむらちゃん」

 

 わたしは掴まれている手を無理やり引き離して、黒い湖の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

『まどか……』

 

 湖へと落ちていく少女の姿をほむらは、黙って見ていた。

 しかしすぐに首を振って、普段の表情に戻る。

 

『いいえ、たとえ彼女であっても私は決して干渉はしない。私はただ見守るだけ……』

 

 まるで自分に言い聞かせるように何回も繰り返す。

 そしてニヤリと笑いながら、まどかへと語りかけた。

 

『見せてみなさい。あなた達の…絶望を切り開くための、力を……』

 

 

 

 

 最初見たときはただの水だと思っていた黒い液体は、かなり粘性があって身動きをすることが難しかった。

 更に物凄い勢いで、ほむらちゃんの感情が流れ込んでくる。それはさっきの記憶とは全く違い、入り込んで来ると共にまるで頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されるような強烈な不快感が襲ってきていた。

 

「こ、れが…ほむらちゃんの……」

 

 力を抜いてしまえば一瞬で狂ってしまいそうだった。けれど、わたしはこれくらいで絶望に屈したりはしない。

 ほむらちゃんはこの苦しみを何度も何度もたった一人で耐え続けてきていたんだから!

 

「ほ、むらちゃ…ん……今度は、わたしが…あなたを……」

 

 懸命に手足を動かして、沈みつつあるほむらちゃんの元へと急ぐ。その身体はもう目から上と左腕だけしか地上に残っていなかった。

 

「たす、け…る、ば……ん……」

 

 身体の力が抜けていく。けど諦めたりなんかしない…絶対にこの手で……

 

「あっ……」

 

 だけどもわたしが辿り着く前にほむらちゃんの身体は完全に沈んでしまった。こうなってしまっては、もう……

 

「ま、だ……だよッ!」

 

 最後の力を振り絞って、黒い液体の中へ潜り込む。そして左手を限界まで伸ばして__

 ほむらちゃんの左手をしっかりと掴み取った。

 

「ごめんね……ほむらちゃん……」

 

 水の中と似たような状態なので上手く声を出すことは出来ない。でも伝えたいことはしっかりと口で伝えたかった。

 わたしは、ほむらちゃんのことを抱きしめて…その上に覆いかぶさって……

 

 

 

 

 

 そうしてわたしとほむらちゃんは____

 

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※この話のためにもう一度、第10話見返してきましたけど、やっぱいいですね。ほむほむサイコー!!


☆次回予告★


第24話 Pを取り戻せ ~ 集束する二人の世界


※第2章も遂にクライマックス!!


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第24話 Pを取り戻せ ~ 集束する二人の世界


※この作品の評価バーになんと色が付きました!! しかも黄色とsakiとしては、嬉しい限りです♪

※これからもマギクロの応援よろしくおねがいします!!!



 

第24話 Pを取り戻せ ~ 集束する二人の世界

 

 

 

 ただひたすらに堕ちていくこの感覚。私は、すぐにそれが絶望に呑まれて行っていることだと分かった。

 けれど、抗いはしなかった。何故ならこうなることは既に知っていたから。別の世界からやって来た暁美ほむら……悪魔に教えられていたからだ。

 

 ふと悪魔との密約を果たしたときのことを思い出す。

 

 

 

『そう。取るというのね、この得体の知れない自らを悪魔と称している私の手を』

 

「まどかの為ならば手段は選ばない。それはあなたも分かっていることでしょう?」

 

『勿論。『私』が生きているのは彼女を幸せなままであり続けることだもの』

 

「理解しているなら、そのきっかけとやらをさっさと与えなさい」

 

『はいはい』

 

 あまり時間が残されていなく焦る私とは対称的に、悪魔は余裕綽々としていた。

 苛立ちを覚えながら、悪魔が行動を起こすのを待つ。

 そして悪魔は、私の胸に手を当てて、禍々しい黒色の光を放った。

 

「ぐッ……!!」

 

 すると突然、私の身体が悪魔が放ったものと同じ光に包まれる。同時に私の中がナニカに支配されているような感覚を感じた。

 気を緩めればあっという間に、全てを持っていかれる。

 

「な、にを…したの……」

 

『あなたの中に眠っている力。それを呼び起こしただけよ』

 

「うそ…よ、私にこん、な力なんて……」

 

 これほどまでの力を持っていたなら、この時間軸のみで起こったあのイレギュラーな事態__私の弱体化が起こるはずがない。

 そう思っていた。だけども悪魔はゆっくりと首を横に振る。

 

『無意識。あなたはこの力を自分の意志とは関係なしに得てしまった。

 だから今の今まで気づくことがなかった。たったそれだけのことよ……』

 

「そんな……」

 

 今、使っているこの力。その正体を私はすぐに気付いてしまった。それと一緒にあのときの出来事が鮮明に甦る。

 そうしていると悪魔は、私の頬に手を添えて嘲笑いながら言った。

 

『あまり時間が残されていないのでしょう? 過去の懺悔よりも現在(いま)の救出の方を優先するべきじゃないかしら?』

 

「言われるまでも…ないわよ……」

 

『なら、行きなさい。あなたの大切な人を救うために……』

 

 悪魔が言い終わるやいなや、空間が裂けて強制的に私の部屋に戻される。

 色々と聞きたいことは山ほどあったけどもアイツの言う通り、時間はほとんど残されていない。

 私は浸食を抑えながら、まどか達が捕らわれている場所へと向かった。

 

 

 

 これはあの時、私がしてしまったことの戒め。だから私はそれを受け入れる。

 けど唯一、心残りなのは……

 

「もうまどかと一緒に居られないことかしら……」

 

 そう呟いて再び意識を深い闇の中へと投じようとした。

 

 

 

「それなら戻って来てよ、ほむらちゃん」

 

 

 

 体をギュッと抱きしめられて、耳元に愛おしい声が聞こえてくる。

 どうして? あなたはこの場所に来れるはずないのに……

 

「ま、まどか……あなたどうしてここに?!」

 

 そう問いかけるもまどかは、私の疑問に答えることなかった。

 

「ほむらちゃん、自分のことを粗末に扱わないでって言ったのに…どうしてこんなことしたの……?」

 

「それは…こうするしか方法が__」

 

 

 パンッ!!

 

 

 言葉を最後まで言い切る前に私の頬に強い衝撃が走る。一瞬、何が起こっているのかがさっぱり分からなかった。

 でもすぐに理解した。まどかに叩かれたのだ。

 

 突然の行為に目を白黒させていると、まどかは泣きじゃくりながら腕の力を強めた。

 

「わだじは…もう、これ以上……ほむらじゃんが…ぐるじぞうにしでるのをもうみだぐないんだよ?!

 辛いことがあるなら…相談じでぐれでも、いいのに……どうして分かってくれないの?!

 いい加減にしてよ!! ほむらちゃんが失ったら、それを悲しむ人がいるってことにどうして気付いてくれないの?!!」

 

「その言葉……!」

 

 いつかの時間軸で私が耐えられなくなって、思わずまどかに言ってしまった言葉。

 偶然、同じことを言ってしまったのか、と考えてしまう。

 だけど、まどかは……こう囁いた。

 

「ほむらちゃん……もう全部知ってるんだよ?」

 

「えっ?!」

 

「ほむらちゃんが何度も時間を繰り返して、みんなを助ける為に一生懸命に頑張っていることも。

 わたしのせいでずっと苦しい思いをさせちゃっていることも……」

 

「なんで……?」

 

 もう訳が分からなかった。この世界に来てから誰にも、インキュベーターにも気付かれていないはずのことなのに、どうして彼女が知っているのか。

 でも考えるのは後回し。どうしても訂正しなければならないことが一つだけあった。

 

「違うわ、あなたのせいじゃない。

 私が弱かったから…意気地なしだったから、未来を…あなたを救えなかった……」

 

「ほむらちゃん……」

 

「私がこんなことをしたのは、これまで犯した罪の贖罪のためよ。

 美国織莉子の魔の手からあなた達を助けることが出来れば、それで良かった。

 あの覆しようもない絶望を切り抜けられるのなら私がどうなっても構わなかった」

 

「でも、こんなのあんまりだよ…あんなに辛い思いして、傷ついてボロボロになったのに、そんなことしたら結局ほむらちゃんは救われないよ……」

 

「いいの。それで私の罪を償えるのなら、安いものだわ。

 それよりもみんなを見捨てて、一人だけ別の時間軸に逃げる方がもっと酷いもの」

 

 すると、まどかは泣くのを止めて力のこもった目つきで私を見る。

 そして、かつて自暴自棄になって追い詰められた私の心を救ってくれた『まどか』と同じことを私に言った。

 

 

 

「みんなを助けられずに見捨ててきたことが、ほむらちゃんの罪なら……

『その罪、わたしも一緒に背負うよ』これは…過去に戻ってなんてお願い事をしたわたしにも責任のあることだから……

 だからこれからは二人で頑張ろうよ。絶望するときも、破滅するときもずっと傍にいるから!!」

 

 

 

 これは一体どんな運命の悪戯なのかしらね?

 微笑みながら、私はまどかの顔をじっと見つめた。

 

「ええ…でも、絶望も破滅なんかも絶対にさせないわ。あなたは必ず私が幸せにしてみせるから……」

 

「それなら二人とも幸せになれるように頑張ろうよ!!」

 

「ふふっ、そうね」

 

「えへへっ」

 

「じゃあ…戻ろっか」

 

「ええ、さやかや巴さんもきっと心配しているでしょうしね」

 

 二人で笑い合いながら、お互いの手を取り合う。

 

 そして深い暗闇にいた私達は、桃色と紫色の光によって包まれて……

『絶望』を振り払って『希望』が待っている未来へとゆっくりと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、現実世界では……

 ほむらの攻撃によって、瓦礫の山に埋もれてしまったさやか達が必死に外へ出ようとしていた。

 

「よしっ、あと少しよ。美樹さん」

 

「うぎぎ…ほむらの奴、ムチャクチャにしやがってぇ……」

 

 実はあれを受けてから二人は気絶してしまっていた。

 しかし、あの攻撃を撃ち終わった途端に、ほむらの猛攻は止んで二人はなんとか一命を取り留めることが出来たのだ。

 

 最後の瓦礫をどかし、マミは下にいるさやかの手を引っ張って瓦礫の山を抜ける。

 

「ふーっ、さすがにあれをダメかと思いましたよ……」

 

「そうね。……ッ! 美樹さん、あれ見て!!」

 

 地上に出られてホッとしていた二人だったが、マミがあるものを見つける。

 それは身を寄せ合って、横に倒れているまどかとほむらの姿だった。

 

「まどか!! ほむら!!」

 

 さやかとマミは急いで二人の元へと走って向かった。

 

 

 

 

 炎に包まれていた見滝原の街は、二色の光によって覆われ、元通りの街並みに戻った。

 変化していくその光景を悪魔は空から静かに眺めていた。

 

「どうやら切り抜けられたようね。お見事だったわ」

 

 悪魔は、もうこの場所にはいない二人の少女に拍手を送る。

 

「だけども、あなた達二人は大事なことをそれぞれ知らない……」

 

 手を叩くのを止めて、禍々しく輝く宝石__ダークオーブを取り出す。

 その輝きをじっと見つめながら悪魔は不気味な笑みを浮かべた。

 

「まどか。あなたが見た『暁美ほむら』の真実は彼女の真実ではない。

 彼女の真の罪の正体を……まだ知らない」

 

 そう呟いて、高度を少しずつ下げていって街に降り立つ。

 そして路地裏の方で微かに燃えている黒色の炎を両手ですくい上げる。

 

「暁美ほむら。まさかこれくらいであなたの『絶望』が終わるなんて甘いこと考えてはいないでしょうね?

 残念だけど、この呪いはずっと存在し続ける。あなたは死ぬまで『絶望』と戦い続けなくてはならない……」

 

 すくい上げた炎を手で消して、ゆっくりと後ろを振り返る。そこには……

 

 

 

 悪魔が消したものよりも何十倍の大きさの炎が再び街を焦がしていた。

 

 

 

 

 

 

「うっ、んん……」

 

「よかった。やっと目を覚ましたのね」

 

「全く…心配させんじゃないよ」

 

 目を開けると、安心した様子で私を見ているさやかと巴さんがいた。

 戻ってこられたのね、と心の中でホッとしていると左手を誰かに握り締められた。いえ、誰かではないわね……この手は暗闇から私を引っ張り出してくれた大切な人のもの。それは……

 

「お帰り。ほむらちゃん」

 

「ただいま。まどか」

 

「一時はどうなるかと思ったけど、何にせよ二人とも無事でよかったわ」

 

「ホントですよね~、苦労するあたし達のことも少しは考えて欲しいもんだよ」

 

「ごめんなさい。心配かけて……」

 

「二人ともごめんなさい……」

 

「まっ、こうしてまた四人揃ったから良いっちゃいいんだけどね」

 

 あれだけ大変なことがあったのに、それでもここまで明るく振る舞えるさやかの姿は、正直言って尊敬に値するわね。誉めてるつもりよ……?

 

「鹿目さん、暁美さん。どこか具合悪かったりしない?」

 

「わたしは大丈夫ですよ」

 

「私も……」

 

「本当に? 特に暁美さんは、一人で突っ走ったりしやすい人っていうのが、今回ので分かったからイマイチ信用ならないわね」

 

「あなただって大概でしょ……」

 

「何か言った?」

 

「いいえ、何も……」

 

 一番最初に突っ走って迷惑かけたのは、あなたなんだけどね……っていうコメントは伏せさせてもらうわ。そんなこと言ったら逆に落ち込んでしまうかもしれないし。

 

「わぁ……」

 

 なんてやり取りをしていたら、まどかが建物の出口の方を見て、感嘆の声をもらした。

 

「どうしたの、まどか?」

 

「ほむらちゃん。さやかちゃんもマミさんもだけど…外を見てみてよ……」

 

 まどかに言われるまま、建物から出る。するとそこには……

 

 

 

 地平線の彼方から朝日が昇り、私達を明るく照らしていた。

 

 

 

「わぁお……」

 

「凄い、とっても綺麗……」

 

 さやかと巴さんもこの景色を見て感動していた。それと同時に私は、この一夜に起こった事件がようやく終わりを告げたのだと確信した。

 

「それじゃあみんな、これから家に戻って学校へ行く準備をしましょうか」

 

「えぇ~」

 

 巴さんの出した提案にさやかが不満をもらす。

 

「文句を言わないの、昨日だって学校に行ってなかったじゃない。さすがに二日も続けて休むわけにはいかないわ」

 

「あっ、昨日の件なら問題はないよ。

 ほむらが寝ている内に学校とまどかの家に電話かけといたから」

 

「まどかの家?」

 

 学校なら欠席の連絡をしなくてはいけないのは分かるけど、どうして彼女の家にも電話したのかしら?

 その疑問には、まどかが答えてくれた。

 

「うん。ほむらちゃんが風邪を引いて、わたしがその看病をしなくちゃいけないからママに学校を休むって言ったの。

 ママは和子先生と仲が良いから上手いこと話をつけてくれらでしょ、ってさやかちゃんから教えられたから」

 

「それでよく許してくれたわね。鹿目さんのお母さん」

 

「だって、その時のまどかの演技がガチだったからね。あれは誰だって聞き入れちゃうよ」

 

「もう! 茶化さないでよ!!」

 

「あっはっはっ、ごめんごめん。『お願いママ!! わたし、このままほむらちゃんを放っておけないよ!!!』」

 

「さやかちゃん!!!」

 

 声マネで更にからかうさやかをまどかは顔を真っ赤にして、後を追いかける。

 その微笑ましげな光景を私と巴さんはしばらくの間、眺めていた。

 

「ハイハイ、二人ともその辺にして…早く戻らないと遅刻しちゃうわよ?」

 

「あっ……ガッコに行くのは確定なんですね……」

 

「諦めなさい。どうせあなたは行っても、ほとんど居眠りするだけなんだから」

 

「なんだとー!」

 

「だーかーらー喧嘩しないの!!」

 

「よーし分かった。なら、今日一日の授業であたしが寝なかったら何か奢るってことにしない?!」

 

「じゃああなたが寝たら、私達三人に何かご馳走してくれるのね?」

 

「あたしの方だけペナルティが厳しい?!」

 

「あなたが持ちかけた勝負よ、異論はないわね?」

 

「うぎぎ……」

 

 悔しそう唇を噛み締めているさやかにまどかが、肩にそっと手を置く。

 

「大丈夫だよ。居眠りをしなければいいんだから」

 

「この二日間、ほとんど休みなしで動いていたさやかちゃんにまだ働けと申すか!!」

 

「平気よ、魔法少女なんだから」

 

 私の言葉がトドメとなって、さやかはガクッと崩れ落ちる。そしてすぐに立ち上がってダッシュで走り出した。

 

「こうなったらさっさと登校して、HRが始まるまでずっと寝る!! 見てろよ、ほむら。最後に笑うのは、このさやかちゃんだぁー!!」

 

「相変わらずね、彼女は……」

 

「でもそれが美樹さんの良いところでもあるからね」

 

「そうですね」

 

 私達三人は、そうして笑い合いながら一緒にそれぞれの帰路へと向かっていった。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※第2章、最終話だと思った? 残念、まだ一話ある。
※このままのほほん(?)としたエンドにはさせませんよ?

※そして次回、遂にあの魔法少女が?!!

Chapter2 epilogue をこうご期待!!


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epilogue ~ 想いだけが私の全て


※第2章最終話! 織莉子、キリカ、そしてほむら……少女達の物語はまだまだ続く……



 

 

 

 

「!!」

 

 まどかと巴さんと一緒の帰り道、いきなり謎の激痛が私を襲った。

 それによって思わず膝をついてしまって、二人が不思議そうにこちらを見る。

 

「ほむらちゃん?」

 

「暁美さん、どうかしたの?」

 

「い、いえ…何でもないわ……」

 

「「…………」」

 

 誤魔化そうとしたけれども、さすがにそれは通用しなかった。

 かといって本当のことを話すわけにはいかない。なので、少々心苦しいけども嘘をつくことにした。

 

「はぁ…ちょっと立ち眩みがしたのよ……そんなに心配することないわ」

 

「全くあなたは…もう少しわたし達を頼ってもいいんじゃないかしら……?」

 

「苦しかったら手を貸すよ? ほむらちゃん」

 

「無理というか、無茶というか…あなた達だってかなり疲弊しているのだから、そこまでしてもらわなくても結構よ」

 

「でも一応、今日は学校お休みした方がいいと思うわ」

 

「…………」

 

「大丈夫だよ。さやかちゃんにもしっかり伝えておくから」

 

 逆に無理をしてしまったらかえって皆に余計な心配をかけてしまうかもしれない。それなら家でキチンと療養した方がいいわね。

 それに…この激痛を今日一日中、耐えられるだけの自信は正直言ってない。だったら私がするべきことは一つ。

 

「分かった。また学校を休んでしまうけど、今日は体力の回復に勤しむとするわ」

 

「何かあったらすぐにテレパシーで教えて頂戴。いつでも駆け付けられるようにするから」

 

「その…迷惑じゃなかったら、ほむらちゃんの看病をしてもいい……んだよ?」

 

「過保護過ぎないかしら……?」

 

 難病にかかっているわけでもないんだから、そこまで気を遣わなくてもいいのに……

 何だかこの一晩で別の方の信頼を大きく失ったような気がするわね。

 

 取り敢えず今日一日絶対安静という条件と引き換えに何とか心配性の二人から解放される。

 そして念のために家の前まで送ってくれて、その後に私は玄関で彼女達を見送った。

 

「それじゃあね、暁美さん」

 

「ほむらちゃん…早く良くなってね……」

 

「えぇ、二人ともまた明日……」

 

 二人の姿が見えなくなるまで、玄関の前で立ち続ける。

 完全に居なくなった後、私は勢いよくドアを閉めて鍵をかけて、それから背を壁にして倒れた。

 

「はぁ…はぁ……」

 

 胸の痛みがどんどん増していって、動機も荒くなる。

 この感覚は、間違いなくあの力がもたらす呪い…でもどうして? あれは、まどかのお陰で治ったはずでは……?

 

 そう思っていると指輪の宝石が禍々しい光を放ち出した。慌ててソウルジェムを確認してみると、とんでもないものがあった。

 

「何よ…これ……?!!」

 

 そこには、卵型に金色のレリーフをした宝石ではなく、黒い正八面体の宝石が私の手の中に存在していた。

 魔法少女、魔女……姿を変えるとき、それと共に魂の容器も変化する。だけどこの変化は一体……?!

 

『なるほどそれがあなたの成り果てなのね……』

 

 困惑する私の前に何処から入って来たのか悪魔が姿を現した。

 

「あなた…これは一体どういうことなの?!」

 

 キッと彼女を睨み付けて理由を問いただす。

 すると悪魔はあのときと同じように王冠型の宝石を取り出した。

 

『これはダークオーブ、円環の理の力を取り込んで変化した私の魂の器。

 あなたと非常によく似た変化によって生まれたもの。だけども少し違う……』

 

「違う……?」

 

『私はたった一つの想い(・・)から魔なる者へと進化した。

 だけども、あなたの場合は複数の思い(・・)を持って変わった。つまりその宝石の形はあなたの心を表しているのね』

 

「心…じゃあ、あなたはどんな思いでその姿へと変わったの?!」

 

『ふふっ…それは希望よりも熱く、絶望よりも深いもの……あなたも持っているものよ』

 

「それって…?」

 

『いつかあなたにも分かるときが来るわ。

 それはさておき、あなたはまだ呪いから解放されてはいないわ』

 

「ならどうして私は戻って来れたの?」

 

『まどかのお陰であなたが『希望』を見つけたからよ。

 けれど、そんなのはその場しのぎに過ぎない……呪いは延々とあなたの肉体、そして精神を蝕んでいくでしょうね』

 

「ど、どうすれば…呪いは解かれるの?!」

 

 ニタァとこれまでで最も邪悪な笑みを見せる悪魔に私は恐る恐る尋ねた。

 それに対して返ってきた答えは残酷なものだった。

 

『今のあなた以上の強大な力によるものではない限り、呪いは決して解かれない。方法があるとするならば、まどかが契約をすることしかないわね。

 つまり不可能ということになるわね』

 

「そんな……」

 

『今はまだ抑え込んではいられる。でも、勿論それには限界があるわ。

 果たしてどこまで耐えられるのかしらね』

 

 嘲笑い続ける悪魔に私はただ愕然とするしかなかった。だけどそんなとき脳裏にある言葉が甦った。

 

 

 

「それなら二人とも幸せになれるように頑張ろうよ!!」

 

 

 

 まどかと交わした約束を思い出す。

 そうだ。もう己を捨てることは出来ない。

 二度も彼女を悲しませるわけにはいかない。

 

 

 

 それなら私は____

 

 

 

「耐えてみせる……」

 

 

 

『えっ?』

 

「あの子の幸せの為なら、こんな呪いなんてどうってことない。

 一生解かれることがなくても構いはしない」

 

『へぇ、どこまで足掻けるのか……

 ふふっ、やっぱりこの世界のあなたは何かが違う。ますます興味が出たわ』

 

 私の回答に悪魔は面白そうに見た後、こちらに手を差し出してきた。

 

『折角だから見せてあげるわ。あなたと同じく過ちを犯した私の過去を……

 もしかしたら、あなたの呪いを解くヒントになるかもしれないしね』

 

「…………」

 

『さあ、どうする?』

 

 別の世界の私の過去……もしそれが呪いを解くヒントになるのなら、見る他はないだろう。

 私は悪魔の手を掴んで、命令をした。

 

「見せなさい。あなたが犯した罪、しかと見届けてやるわ」

 

『なら、しっかりと付いて来なさい』

 

 そうして再び悪魔の創りだした空間へと導かれていく。

 

 たとえ呪いを解く手掛かりを見つけられなくても、私は耐え続ける。

 まどかと共に幸せな道を歩むことが出来るのならば……

 

 

 

 今の私には彼女を想う心だけが、生きる支えだから……

 

 

 

 

 

 

 ほむら達が工場を去った後、織莉子とキリカもようやく瓦礫の中から脱出することが出来た。

 その身は二人ともボロボロでまさに満身創痍だった。

 

「くっ……」

 

「大丈夫かい、織莉子?!!」

 

「手も足も出なかった。一体どうすればいいの……」

 

「織莉子……」

 

「あ~あ~、こんなにボロボロになっちゃって大変なことになったね~」

 

 落ち込む織莉子達の前に一人の少女がやって来る。それを見たキリカは、もの凄い形相で彼女を睨んだ。

 

「黙ってろよ。我先に逃げ出した腰抜けが……」

 

「ふ~ん、そんなこと言うんだ~。それは私に殺してもらいたいってことなのかな?」

 

「お前みたいな奴なんか、今の手負いでも十分だね」

 

「止めなさい、二人とも」

 

 険悪なムードになろうとするのを織莉子が止めさせる。

 二人はまだ不服そうだったが、諦めて別の話題を振った。

 

「で、あんな化け物一体どうやって倒すのさ? 真っ正面からなんて絶対に出来っこないよ」

 

「ああ……あれに普通にやって勝つのは無理だ。織莉子、何か考えはあるのかい?」

 

「……ええ、あるわ」

 

「「!!」」

 

 まさかの返答に二人は驚きを露わにする。

 

「でも、その為にはまた準備が必要になるわね。果たしてあの怪物が再び出てくるまでに間に合うのか……」

 

「心配ないさ、織莉子。もしそうなったら私が命を懸けてキミを守るから」

 

「キリカ……」

 

 何かを言いたそうにしていたが、そこへ少女がため息をつく。

 

「羨ましいね~、忠実な従者がいるアンタは……」

 

「勘違いしないで頂戴。私とキリカはそんな関係なんかではないわ」ギロッ

 

「うおっ…そ、そんなに睨まなくてもいいじゃん……」

 

「それはともかく、もう私達に残された時間はほとんどない。

 体力を回復させたらすぐに動くわよ、二人とも!!」

 

「あぁ!!」「は~い!」

 

 織莉子の言葉に頷き、三人も工場を後にした。

 

 

 

 彼女らの次の作戦とは一体……?

 

 

 

 

 

 

「本当に行っちゃうの?」

 

「あぁ…キュゥベえの情報によりゃ、アイツらは見滝原にいるらしいからな」

 

「私も行く!」

 

「だからそれはダメって散々言ったろ!!

 何のためにこの二日間、お前に一人で生きる術を教えたと思ってんだ!!」

 

「嫌、絶対に付いて行く!! 置いて行かれても勝手に付いて行く!!」

 

「だぁーーー!! わーったよ、けど常にお前のことは見てやれないからな」

 

「うん! 自分の身は自分で守れるようになれ。一番最初に教えてくれたことだよね」

 

「はぁ…何でそれは素直に聞いてくれるんだか……」

 

「ところで、見滝原ってどんな場所なの?」

 

「あん? アタシもちょっとの間しか居なかったから、そこまで記憶には残ってないな」

 

「その間、何していたの?」

 

「ちょっと色々な……」

 

「?」

 

「とにかく行くぞ。アイツらにたっぷり借りを返してやらなくちゃな」

 

「うん!!」

 

 

 

「見滝原か……久しぶりだな……」

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※本来なら第3章で登場させる、とあるキャラ達を先行登場させました。


 それでは次回をお楽しみに!!


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Intermission2
軌跡の追憶Ⅱ ~ 登場人物紹介&章解説(前編)



※今回は特別編。例の彼女が2か月ぶりに登場です。
※サブタイの通り、前後編に別れています。



 

 

 

『お久しぶりね、案内人よ。

 第2章もなんとか終了したから、今回もキャラ紹介&細かな裏話をしていくわ。

 今回はこの二人を呼んで進行していくわよ』

 

「こんにちは、巴マミよ」

 

「やっほ~今回の章で、目まぐるしい活躍をしたさやかちゃんで~す」

 

『そういうわけで、先日5年忌を迎えたマミと戦闘数が多かった割りに、勝率があまり芳しくないさやかと共に進行していくわ』

 

「芳しくないとか言うな!!」

 

「それより前の作者コメから気になってたけど、5年忌って一体何よ?!」

 

『何ってそれは、お菓子の魔女によってマミられたのが2012年1月21日だからよ』

 

「なんでそんなこと覚えてるの?!」

 

『わざわざ作者が調べたからよ』

 

「私だけっておかしくない? アニメでは美樹さんも死んじゃってたじゃない!!」

 

『美樹さやかが死んだ日なんて覚えておく必要なんてないじゃない』

 

「なんてこと言うんだよ?!!」

 

『……とまぁ、そんな雑談なんてどうでもいいから、さっさと始めるわよ』

 

「「お前(あなた)が振ってきたんだろ!!」」

 

『前回も言ったけど、この話では本編とは何の関係もないから正直読む必要は全くないわ。

 人によってはこういう作者の思っていることをキャラに喋らせるっていうスタイルが嫌いな人もいるらしいので、そのような方は気分を害してしまうかもしれないから、読まずに次の話を待っていてくだされば幸いです。

 作者としてもなるべく早めに次の話を書けるようにするので……』

 

「随分と長々と喋ったわね」

 

『別の二次創作でも、こういったコーナーで不快に感じた読者さんがいたからね。その為の保険的なやつよ』

 

「ふーん…取り敢えず早く始めちゃわない? いい加減この茶番に飽きている人もいるかもだし……」

 

「美樹さんの言う通りね。そろそろ始めましょうか」

 

『それでは、キャラ紹介よ』

 

 

 

☆鹿目まどか

 

 

 物語の主人公。

 ほむらとの仲がより親密になり、誰かの役に立てる存在になれた為、自分に自信が持てるようになった。いわゆる強まど(契約したまどか)と同じ感じになっている。

 それだけではなく、第1章と比べて精神的にも大きく成長して、その甲斐もあって心身ともに追い詰められていたマミを救い出すことにも成功。

 終盤では、悪魔ほむらから暁美ほむらの『全て』の記憶を見せてもらったので、時間遡行の事情諸々をほとんど知っている状態にある。(まどマギの二次創作では、結構メジャーだと思いますが)

 ほむらの過去も知ったことから、元々高かった彼女への好感度が今では振り切れそうになっているとか……

 

 

☆暁美ほむら

 

 

 もう一人の主人公。本編の進行は主に彼女視点。

 まどか、さやか、マミへの信頼を勝ち取って、これまでの時間軸以上に仲間意識はかなり高い。

 第2章に入ってから、何度も過去のトラウマを刺激されて危険な状況になっているが、どうにかしてやり過ごしている。

 織莉子達の襲撃により、深刻なダメージを負っていまい戦える状態ではなくなるが、突如現れた平行世界のほむらによって強大な力を得ることに。

 ただしその力の呪いのせいで『絶望』に心を蝕まれてしまうことに……が、それでもまどかをこれ以上悲しませないためにも呪いと戦う決意をする。

 

 

☆美樹さやか

 

 

 第17話でキュゥべえと契約して、魔法少女となる。だが、その前にソウルジェムが魔法少女の本体であるという事情を知って契約したため、ぶっちゃけオクタちゃんフラグは、ほとんど折れてる。

 序盤を除けば、第2章の戦闘のほとんどに参加しているが、戦績はあまり良くない。しかし戦局を大きく覆すための鍵ともなっているので、一概にも役に立っていないというわけではない。寧ろ、さやか無しだったら全滅エンド待ったなしですよ。

 

 

☆巴マミ

 

 

 お菓子の魔女戦から戦いへの恐怖に苛まれて、追い詰められて一時期危険な状態に陥るが、まどかの力で復活。

 ほむら戦では、裏からのサポートでさやか達を助ける。

 閑話でもあったが、能力や力的にはトップクラスの性能を誇っていると確信しているので、イマイチ扱いがぞんざいなのはツラめ。第3章での活躍を期待。

 ソウルジェムの秘密を織莉子から明かされて、キュゥべえに何かしらの感情を持ってはいるが、まだそれは不明。

 

 

★キュゥべえ

 

 

 織莉子戦が第2章の要であったため出番は少なめ、ほむらの魔女化を狙って彼女の心を揺さぶろうとしたものの裏目に出てしまう。

 魔なる者へと変わってしまったほむらを見て、大きく揺さぶられている。

 果たして次章では、どのようなことをしてくるのか……

 

 

★美国織莉子

 

 

 魔法少女おりこ☆マギカの主人公であり、ラスボス的な存在。

 この作品では、まどかではなくて、ほむらのことを危険視していて様々な策を講じて彼女の抹殺を狙う。

 相棒のキリカ以外にもう一人、仲間を引き連れているが、詳しくは不明。

 目的のためならば手段を選ばないくらいの冷酷な心を持ち合わせていて、本作品でもある意味ラスボスみないなポジション。

 

 

★呉キリカ

 

 

 織莉子と共に行動する魔法少女。

 基本的には彼女以外の人には全く興味を示さず、平気で手をかけたりもする。

 作中で何度かキレているシーンがあったが、別にキレ症というわけではなくて、ほむら抹殺の為に策を講じて疲弊している織莉子のことを思っての行動なので、誤解してはいけない。

 

 

☆悪魔ほむら★

 

 

 窮地に追い込まれたほむらの前に現れた平行世界の暁美ほむら。つまり叛逆の物語終了後のほむら。

 何の目的で現れて、何のためにきっかけをほむらに与えたのかも不明。

 傍観者の立場を全うしていて、彼女自身は基本的に何も干渉しない。

 ほむらに円環の理を奪ったときの記憶を見せようとしていたが、その真意はいかに……?

 

 

 

『こんなところかしら。まあ、メインの四人は当然として、かなり人数が多くなったわね』

 

「でも次の章は、これより更に増えるんだよね?」

 

『ええ、あと三人は増やす予定よ』

 

「なるほど、じゃあ後は裏話くらいだな~」

 

『そうね。それでは第13話から話していくわよ』

 

 

 

エピソード7(13~14話)

 

 

「鹿目さんと暁美さんがメインのお話ね」

 

『これは、激しさを増す第2章に入る前に作者がやっておきたかったエピソードよ。

 感想の返信した文の誤字を直そうとしたときに、作者が間違って消してしまったものなのだけど、読者さんの中にこの話を『凪』と表現してくれたのがかなり個人的に好きだったらしいわ。

 他にも、あまりにも平和な話過ぎて第15話以降の展開が怖いってコメントしてくれた読者さんもいたわ』

 

「見事に予想が当たっちゃったわね」

 

「そもそもまどマギ自体が、けっこう暗い展開が続いていたからね。疑っちゃうのも無理ないですよね」

 

『暗い展開になったのは、主にあなたの責任だけど』

 

「うぐっ……で、でもソウルジェムの秘密を隠していたキュゥべえのせいでもあるでしょ?!」

 

『当時観てた作者としては、なんでそんなに悲しむんだろ? むしろQBの言う通り便利じゃん。って思ってたらしいけどね』

 

「じゃあsakiさんは、キュゥべえの肩を持っていたのかしら?」

 

『まさか、むしろ弱点晒したまま何も言わないことについて色々と言っていたわ』

 

「ほむらは、盾の裏にあるからいいとしても他のみんなは、剥き出しだったもんね」

 

『そのせいで2名ほど死人が出たわね』チラッ

 

「な、なんで私の方を見るのかしら……」

 

『当時2番目に好きだった杏子を撃ち殺したあなたの罪は重い、って言ってたわよ』

 

「うっ……」

 

『話を戻しましょう。エピソード7では色々な伏線も一緒に含まれてたわよね』

 

「えっと…リボンと指輪……かな?」

 

「左手の親指に指輪をする意味、結局暁美さんは調べたのかしら?」

 

『いいえ、たぶんやっていないわ』

 

「ちなみにマミさんは知ってるんですか?」

 

「えっ?! そ、それは……///」

 

『気になったら調べてみて頂戴。作者が知ったきっかけは、某指輪の魔法使いが活躍する番組を観て、何気なく調べたら偶然見つけたらしいわ』

 

 

エピソード8(15~16話)

 

 

『何処かの誰かさんが多大な迷惑をかけた回だった気がするわね』

 

「…………」

 

『そして人物紹介でも話したけど、さやかの魔女化がほとんど起こらなさそうなエピソードでもあったわ』

 

「でも、ほとんどでしょ? なんか次の章で、そんなこと無かったかのようにサラッと魔女化しそうなんだけど……」

 

『お望みだったら叶えてあげられるかもよ?』

 

「丁重にお断りします」

 

 

エピソード9(17~18話)

 

 

「さやかちゃん初戦闘の回だったね」

 

『手柄はまどかに持っていかれたけどね』

 

「あの時の鹿目さん、とても怖かったわ……」

 

「あれっ? そのときマミさんって操られていませんでしたっけ?」

 

「…………」

 

「何か言ってくださいよ!!」

 

『サブタイトルで、「B(勇気)を取り戻せ」ってあったくせに結局あなた復帰しなかったわよね』

 

「そ、それは無かったことに出来ないかしら……?」

 

「後は、おりマギメンバーも初登場だったね」

 

『前に書いたけど、作者的に出すのにすっごく悩んだらしいわ』

 

「なんかそんなこと言ってたね」

 

『あとコメントで、かずみちゃんは出ますか? と質問してくださった方がいたけど、かずマギメンバーは出さないわ。

 キャラを出しすぎると、かなりストーリー的に動かしずらくなって、それぞれの見せ場が無くなってしまうから』

 

「私の見せ場ってあったかしら……?」

 

『第11話のアレがあったでしょ』

 

「AAも使ったもんね」

 

「ほ、他にはないの……?」

 

『今のところはないわ』

 

「この小説、24話もあるのに…私の見せ場は、死ぬしかないじゃない!!」

 

「き、きっと次の章ではマミさんの活躍の場もありますよ……」

 

 

 

 

 

『さて、今回は一旦ここで切らせてもらうわ』

 

「次は残りの3つのエピソードの解説だけなの?」

 

『いいえ、これからの展開と第3章の予告も一緒にしていくわ』

 

「こんな茶番っぽいお話だったけど、皆さん次回もよろしくね」

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※補足説明

「死ぬ(トコロ)しかないじゃない!!」

※思ったより長くなったので、次回に続きます。明日には投稿出来るかな?


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軌跡の追憶Ⅱ ~ 登場人物紹介&章解説(後編)


※毎度おなじみ、まどかのほむらちゃカウンター!!

※第2章が終わって彼女は何回ほむらちゃんと言ったのか? 詳しくは後書きで……(2/25 番外編のもプラスしました)


 

 

 

 

『さあ、やっていきましょう。引き続きこの二人と共に解説をしていくわよ』 

 

「おー」

 

「次は、織莉子さんとキリカさんとの戦いからね」

 

 

エピソード10(19~20話)

 

 

『美国織莉子と呉キリカとの最初の戦いよ。

 エピローグの通り、彼女らはまだ暁美ほむらの抹殺を諦めているわけではない。恐らく何かかしらの策を考えて、襲ってくると思うわ』

 

「結局この章では、彼女達のもう一人の仲間の正体は分からなかったわね」

 

「確かソイツって、マミさんや魔女のことを操っていたんですよね? そんな魔法少女なんていたっけ?」

 

『あなたは多分知らない人よ。ちなみにその魔法少女も、おりこ☆マギカに登場するキャラよ』

 

「ただでさえ、強かったたのにまだ敵が増えるというの……」

 

「大丈夫ですって、次章からマミさんも戦えるようになっているんだからきっと勝てますよ!!」

 

『どうかしらね、美国織莉子はとてつもない策士。マミの実力もしっかり考慮して作戦を立ててくると思うけど?

 現に初戦闘のときだって、まどかと暁美ほむらの変身を真っ先に封じにきたでしょう?』

 

「油断は禁物ということね」

 

『他にも、このエピソードのラストでまどかとさやかが捕まったことに「先を読むのが怖い」って評価コメをくださった方もいたわ。

 作者曰く、そのコメントは今もしっかりとスクショで残しているらしいわよ』

 

「半狂乱してたもんな……」

 

「しかもその光景を家族に見られて、しばらくの間、気まずい思いをしたらしいわね」

<事実です( ;;)>

 

『けど、自業自得だから気にすることなくどんどんコメントしてくれて構わないからね』

 

「さりげなくコメ催促すんな!!」

 

「はいはい、次行くわよ」

 

 

エピソード11(21~22話)

 

 

『悪魔ほむらが正式に登場した回ね。

 このエピソードは、暁美ほむらがメインだったわね』

 

「確かに次回予告もちょっといつもと違っていたわ」

 

「いつもは、次回のセリフを抜き取ったやつとサブタイを書いてただけでしたっけ」

 

『2章も佳境に入っていたから、シリアスっぽさを極限まで出すために作者の精一杯の演出よ』

 

「エピソード12の予告でもやってたね」

 

「美樹さん、それは次の解説で……」

 

「でもそのセリフ抜き出しも時々、いじって変えてたりもして……」

 

『作者の計画性の無さが浮き彫りになるから止めなさい』

 

「そんでもって22話で、謎のさやかちゃん弄りもあったから、そこまでシリアスさも引き出せていなかっ__」ピチューン

 

「美樹さん?!」

 

『作者の逆鱗に触れたのね。気にせず進めましょう』

 

「え、えぇ……」

 

『それ以外にも、作者のちょっとした遊び心もセリフの中に混じっていたりもしてたわね』

 

「悪魔と相乗り……云々と、魂質って部分かしら?」

 

『元ネタは一体何なのか、最初のは元々この物語が何をベースにしていたのかを覚えていたらすぐに分かると思うわよ?』

 

「分からなくても、調べればすぐに見つけられるからね」

 

「もう一個、20話のラストにも作者の好きな漫画のセリフを入れたけど、何もツッコまれなくて少し複雑な気分になったらしいよ~」

 

『あっ、戻ってきたのね』

 

「大丈夫だったの?」

 

「はい。ただ真っ白な空間でサンマやサバがひたすらミンチにされる光景を見せられましたけど……」

 

「何よそれ……」

 

『オクタヴィア、青魚……フッ』

 

「アンタ、今何か言った?」ゴゴゴ……

 

『さっ、次行きましょう。次』

 

 

エピソード12(23~24話)

 

 

「前とは違って今度は、鹿目さんがメインとなったお話ね」

 

『この構成は、連載当初から考えていたシナリオらしいよ。前半戦が終わる前に、まどかには暁美ほむらの過去を知ってもらおうってね』

 

「サブタイからずっと気になっていたんだけどさ、あの『全て』って部分何でカギカッコ付いてるの?」

 

『2章エピローグで悪魔ほむらが言った通り、まどかは完全に暁美ほむらのことを知ったわけではないってことよ』

 

「じゃあ、あの全てって何さ?」

 

『もう察しのよい方から分かっていると思うけど、あれは悪魔ほむら自身の記憶よ。

 だからまどかは、本編ほむらの過去全てを知っているというわけではないってこと』

 

「この物語の暁美さんの過去はいつ明かされるの?」

 

『それはネタバレになるから内緒よ。暁美ほむらの罪こそが、この物語の鍵となるのだから』

 

「サラッと、とんでもないことカミングアウトしやがったよ。コイツ……」

 

『そして、23話のお花畑に咲いていた花。これの意味が分かった人はいたかしら?』

 

「確か…彼岸花……」

 

「何処かで覚えがあるような…ないような……なんだっけ? 忘れちゃったよ」

 

『それは叛逆の物語を観れば、分かると思うわよ?』

 

 

 

 

 

『こんな感じかしら? これで全ての要素を解説したってわけではないけど、大体こんなところね』

 

「は~っ、やっと終わったよ……」

 

「美樹さん。お疲れさま」

 

「マミさんもね……」

 

『悪いけど、もう少しだけ話に付き合ってもらうわよ。物語の今後の展開についてだけど……』

 

「それってこのまま第3章に入るんじゃないの?」

 

「もしかして、その前に何かしたりするの?」

 

『正解よ、マミ。

 本当はこの作品はサブタイのアルファベットから分かる通り全26エピソード、52話を予定していたのだけども作者の士気が上がって本編にはない物語も出したいと考えているの』

 

「番外編みたいなものかしら?」

 

『その通り。やっていくのは、第4話後のまどかと暁美ほむらの物語についてよ』

 

「この作者は、どんだけまどほむ書きたいんだよ……」

 

『これからの重過ぎる展開の癒しとしたいのと、同時にどうしてもあの二人があの関係になるまでの経緯を見せたいらしいよ』

 

「だとしたら、エピローグに出てきた三人の奴等の正式な登場はお預けってことか……」

 

『別に章開始直後に出てくるってわけじゃないから問題ないわ』

 

「分かったわ。じゃあこれで私達の役割は全部終わったということでいいの?」

 

『えぇ、今度こそお疲れ様』

 

「ところでさ、次のこのコーナーっていつ頃にやるのか決まってるの?」

 

『第3章が終了した後…ね。

 次の章はこれまで以上に長くなるから、心した方がいいわよ』

 

「当然、これからも頑張っていくわよ」

 

「さやかちゃんも、主役の二人に負けないくらいもっと活躍してやるんだからね!!」

 

『今回はここまで。またいつか会いましょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆次章予告★

 

 

「あなたの願いってどんなものなの?」

 

「えへへ♪ それはね……」

 

 

『全て』を知ったまどかは、ほむらに何を想う……

 

 

「ふん、トーシローが10年早えーんだよ」

 

「お前だけは……許さない!!」

 

「美樹さん!」

 

「邪魔はさせないっ!!」

 

 

 新たな魔法少女は、物語に何をもたらすのか……

 

 

「彼女の存在はいずれ、世界を滅ぼす」

 

「これは、紛れもない真実さ……」

 

「まっ、信じるも信じないもアンタ次第だね」

 

「そんな……」

 

 

 織莉子達の次なる策は……?!

 

 

『私がこの世界に来たのは……』

 

「そうだったの……」

 

 

 悪魔は何を語る? その目的は……?

 

 

「僕は、ただ有益な情報を伝えたに過ぎない」

 

「わ、たしは……今まで……」

 

「嘘だ…嘘だァァァ!!!」

 

 

 連鎖する悲劇……その果てには?

 

 

「これって…まさか、ほむらちゃんの……」

 

「ま、ど…………か…………」

 

 

 そして…二人が歩む先には……

 

 

 

 魔法少女まどか☆マギカ Magica Chronicle

 

 第3章 九人の愚者 篇 2月中旬スタート!!!

 

 

 

☆ to be continued…… ★





※第2章終了時でのほむらちゃんの回数、な…な……なんと443回!! 番外編のも含めてます。

※ちなみにセリフのみだと300回です。多すぎィ!!! 後から加えた番外編の5話だけで50回も言ってたんですね(汗) 


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Chapter3 九人の愚者
第25話 全てはLゆえに ~ 受け入れる覚悟



※お待たせいたしました! 約一ヶ月ぶりに本編再開です!!
※物語もいよいよ後半戦。第3章、遂にスタート!!!

3/1追記~ちょっと諸事情により、一部分だけ追加台詞を加えました。


 

第25話 全てはL(Love)ゆえに ~ 受け入れる覚悟

 

 

 

「あたし…どうしたらいいんだろう」

 

 あたしは全てを失った。

 大切な友人も仲間も…人間という存在も……

 こうなったのも全部自分の責任だっていうことは分かっている。後戻りは出来ないことだって知ったうえでああしたんだ。

 

「ソウルジェム…もうこんなに真っ黒になってる……」

 

 これも因果応報なのだろうか。

 あのとき選択を間違えていなければ、こんな結末を変えられたのかな?

 

 このままだとあたしは確実に魔女になる。またまどか達に迷惑かけちゃうね……

 でもいっか、今更何をしたって変わらないんだ。いつもの楽しかった日々は二度と戻ってこない。

 

「もうどうでもよくなっちゃったなぁ……」

 

 空を見上げる。雲一つない澄み切った夜空だ。

 最後にいいもの見させてもらったね。あたしはこれからこんなにも美しい世界を滅茶苦茶に壊してやろうとしている。

 お願い、みんな。どうか躊躇わないで…過去の思い出に振り回されることないで、一思いにあたしを殺して……

 

 

 

 これがあたしに…相応しい終わり方だから……

 

 

 

「あたしって…ほんとバカ……」

 

 

 

 

 

 

五日前……

 

 今日一日最後の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、号令がかかる。

 それによってあたしは目を覚まして寝ぼけ半分のまま挨拶をする。

 そしてそのままHRに入って先生が連絡を言っていくけども、ほとんどが耳に入らなかった。

 

「……かちゃん、さやかちゃんってば!」

 

「うえっ?」

 

 まだ眠気が残っていたせいか、間の抜けた返事をしてしまった。

 見上げるとそこにはあたしの親友、まどかが心配そうにこっちを見ていた。

 

「もういつまで寝てるの、もう放課後だよ」

 

「あっはっはー、やっぱし疲労には勝てなかったかー。

 こりゃ今日ほむらが学校に来なくてよかったかもねー」

 

「さやかちゃんったら……」

 

「そういうまどかも午前中はぐっすりだったじゃんか。人のこと言えないぞー」

 

「い、いいもん! お昼からはちゃんと聞いていたし」

 

「ホントかなー?」

 

「ホントだもん!」

 

 頬を膨らませてふてった顔をするまどか。

 

 そうやって楽しく話していると、今日の明け方まであった出来事がまるで嘘のように思えた。

 だけども残念ながら無かったことには出来ない。

 

 あたしは現に疲弊しきって、朝からずっと寝っぱなしだったし。

 ほむらは美国織莉子達との戦いで負った傷のせいで学校には来ていない。

 それに魔女の被害にあった仁美もまだ家で療養を取っていて休んでいる。

 

「__でね、わたしどうしても心配だから……って聞いてるの?!」

 

「えっ、あっ…悪い悪いまたボーっとしてた。んで何の話だっけ?」

 

「だ・か・ら、やっぱりほむらちゃんのことが気になるから今日の帰りにお家に行こうかなって思っていたの」

 

「あーはいはい、ほむらのことね。いいんじゃない? 自慢の嫁が看病してやったらアイツも一気に元気になるに違いないよ」

 

「よ、よ、よ、嫁ってそんな……!!」

 

 いつものからかい文句のはずなのに、まどかはこれまでにないくらいの慌てっぷりを見せていた。

 こんな格好のネタを勿論見逃すはずもなく、あたしはまどかの胸を肘でうりうりと弄ってやる。

 

「そう照れなさんなって、じゃああたしは今日はマミさんと帰ろっかな? 一緒に付いて行ったらお邪魔になるだろうし」

 

「邪魔って…そんなことないよ」

 

「いいのいいの、まどかはさっさとほむらのトコ行ってあげればそれでいいの」

 

「う、うん……。それじゃあ、また明日ね」

 

「おう、またねー」

 

 まどかが教室を出ていくのを見送った後、あたしはテレパシーでマミさんに話しかけた。

 

『マミさん。ちょっといいですか?』

 

『あら美樹さん、何かしら?』

 

『相談に乗ってもらいたいことがあるんですけど、このあと大丈夫ですか?』

 

『全然平気よ』

 

『ありがとうございます。じゃあ校門の前で待ってますね』

 

『分かったわ』

 

 そう言ってテレパシーを切って、急いで帰りの支度を始めた。

 

 

 

 

「それで…話したいことって何?」

 

 それからあたしとマミさんは、いつもまどか達と来ている店で向かい合って座っていた。

 

「実はお願いしたいことがあるんですけど……」

 

「何でも来なさい!」

 

 気のせいだろうか、マミさんがいつもよりちょっと元気そうに見える。

 久しぶりの学校だし何かいいことでもあったのかな? そう思いながらあたしはマミさんにあることを頼んだ。

 

「あたしを…マミさんやほむらみたいに強くしてください!!」

 

「別にいいけども…どうして急にそんなことを?」

 

 首を傾げるマミさんにあたしは魔法少女になったここ数日でずっと思っていた悩みを打ち明けた。

 

「キュゥベえと契約してから、魔女や他の魔法少女と戦ったけども、あたしのせいでみんなの足を引っ張っているんじゃないかって思って……」

 

「そんなことないと思うけど…だってあなたがいなかったら鹿目さんや私は魔女にやられていただろうし、それにたった一人で美国さんや呉さんと戦って頑張っていたじゃない」

 

「でも魔女を実際にやっつけたのはまどかだし、回復魔法を使ったごり押し戦法で挑んでもあの二人には手も足も出ませんでしたよ」

 

「あなたはまだ魔法少女になってから日が浅いからそれは仕方のないことよ。無理に自分を責めることはないわ」

 

「はい、だからこそ早く強くなってマミさん達の足を引っ張らないような魔法少女になりたいんです!!」

 

「美樹さん……」

 

 マミさんはそう言うと、優しく微笑んでゆっくりと頷いてくれた。

 

「分かったわ。あなたの気持ち、受け取ったから」

 

「ホントですか?!」

 

「可愛い後輩がここまで私達のこと大事に思ってくれているのだもの。しっかりと叶えてあげなくちゃいけないわよね」

 

「ありがとうございます!!」

 

「ふふっ、それじゃあもう少しだけここでお話ししてから特訓を始めましょうか」

 

「そうですね!」

 

「ところでずっと気になっていたけども、鹿目さんはどうしたの? いつもなら一緒にいるはずなのに……」

 

「あー、それはですね」

 

 あたしはさっきあった出来事を話した。

 その話を聞いてマミさんは可笑しそうに笑う。

 

「鹿目さんったら、まるで暁美さんの保護者みたいね」

 

「あの二人って時々立場が変わったりするから全然飽きませんよ」

 

「そんなこと言ったら二人に悪いわ。でも微笑ましいことは確かね」

 

「やっぱりそうですよね。たまに見ているこっちが恥ずかしいってやり取りをしていたりしますもん」

 

「あら、どんなこと?」

 

「前に学校でまどかが先生に荷物を運んでもらいたいって頼まれた時ですね。結構運ぶのに苦労していたから手伝ってやろうとしたんですよ。

 そしたら先にほむらの奴がまどかのトコ歩いて行って手伝わせてって名乗り出たんです」

 

「やっぱり暁美さん、鹿目さんにはとっても優しいのね」

 

「んでアイツ何をするかと思えば、まどかの背中に回って荷物を持ったんですよ」

 

「それってつまり……」

 

「後ろからまどかを抱きしめているのと何ら変わらない状況でしたよ、あれは……」

 

「大胆なのね」

 

「あたしもそう思って、ほむらに言ってやったんですよ。

 そしたら何とアイツ素であんなことやったらしくて…後ろから持つんじゃなくて半分持ってあげればいいじゃんってからかってやったら、急に顔真っ赤になって…いやぁー思い出すだけでまた笑えてくる」

 

 あまりにも印象的過ぎたことだからあのことは鮮明に覚えている。

 思い出し笑いをしていると、マミさんが二人について質問してきた。

 

「ところであの二人っていつからあんなに仲良くなったのかしら? 私が最初に見たからずっとあんな感じだったけど」

 

「ほむらが転校してきた日に聞いたんですけど、どうやら前の週に既に会っていてそこで仲良くなったらしいですよ」

 

「えっ? 幼馴染とかそういう関係じゃないの?!」

 

「はい。二人ともそれが初対面だって言ってて、それに昔からまどかと一緒に居たけどもそんな話、一度も聞いたことないですからね」

 

「へぇー不思議ね」

 

「ですよね、だからあたしはそのことについてある仮説を立てたんです」

 

「なになに?」

 

「きっとあの二人は前世では恋人同士で、そして時代が流れて運命の再開を果たしたってことですよ!」

 

「…………」

 

「あれ?」

 

 割とそうじゃないかと思った考えだったけども、マミさんが何の反応もしない。

 もしかしてサイコな電波ちゃんな子って思われちゃったかな? うーん、そのポジションはまどかかほむらがなんだけどな~

 

 なんて思っていると突然マミさんがあたしの手を掴んできた。それにビックリしていると、マミさんは目をキラキラさせながら手をブンブンと振ってきた。

 

「その考えは無かったわ…前世から因縁、いえ因果が再び収束したのね__」

 

「あっ…そう、ですね……」

 

 何だか変なスイッチ入れちゃった? すっごい難しいこと喋り出しちゃったけど……

 

 しばらくマミさんの語りは続いたけども、その件があってあたしはマミさんのことを前よりも親しみやすい人だと思えるようなった。でも……

 

「あのーそろそろ特訓始めませんか?」

 

 

 

 

 

 

「う…ん……」

 

 薄ぼんやりとする意識を起こして私は目を開ける。悪魔となった私の過去を見た後、そのまま眠ってしまったようだ。

 

「…………」

 

 寝起きでまだハッキリとしていない頭を頑張って働かせて悪魔が見せた記憶を思い出す。

 

 

 

『まさか私が魔女になるなんて……』

 

『そう、インキュベーターの企みを自分を捨ててでも私は阻止しようとした。だけど、まどか達はそうすることを許さなかった。

 私はみんなの力のお蔭で完全な魔女にならずに再びまどかと出会うことが出来た』

 

『けど…それをあなたは……』

 

『導かれようとする寸前に私はまどかを捕まえて真っ二つに引き裂いた。人間としての鹿目まどかと円環の理としての鹿目まどかにね。

 そして私は宇宙のルールを改変して、まどかが人間として生きられる世界を創りだした』

 

『それで…あなたの世界のまどかはどうしているの?』

 

『友人やクラスメートに囲まれて楽しく暮らしているわ。時折、美樹さやかが彼女を円環の理として目覚めさせようとしてはいるけど』

 

『そう……』

 

『何か言いたそうな顔ね。あなたも私のしたことを責めているのかしら?』

 

『確かにあなたは彼女が願った祈りを否定して、自分の欲望のまま世界を創り替えた。それは批難すべきことなのかもしれない。

 けど…それによって偽りの世界の中であろうとも、まどかは人間として幸せに生きている。それは決して間違ってはいない』

 

『分からないわよ? もしかしたら私が無理やりまどかに幸せになるように改変しているかもしれないし』

 

『恐らくそんなことはしないって思っている』

 

『根拠は……?』

 

『無いわ。それでも少なからず私よりはマシな人ってことは分かる』

 

『…………』

 

 

 

 あの時の私は自分のことだけにしか囚われていなかった。

 それに対して、悪魔がした行為はある意味で円環の理となったまどかを救済した。

 本当に私は愚かね、別の世界の私よりも遥かに劣っている下の下だわ。

 

 

ガチャッ

 

 

 自己嫌悪に陥っていると玄関のドアが開けられる音がした。

 おかしい…鍵は閉めたはずなのに……

 

 ゆっくりと起き上がって玄関の方を見ると、そーっと中に入ろうとするまどかの姿があった。

 

「お、お邪魔しまーす……」

 

「いらっしゃい、まどか」

 

「ひゃいっ! ほ、ほむらちゃん…ビックリさせないでよ!!」

 

 何故か怒られてしまった。これって私の責任なの?

 釈然としなかったけども取り敢えずまどかを家の中に入れてあげる。

 

「ほむらちゃん、もう平気なの?」

 

「えぇ、しっかり休んだから大丈夫よ」

 

「それでもいくら疲れているからって鍵くらいは閉めないと危ないよ」

 

「私はちゃんと閉めたはずなんだけどね……」

 

 よくよく考えてみると、朝に家にいた悪魔の姿が見当たらない。もしかして私が寝た後にそのまま玄関から出て行ったのかもしれないわね。

 随分と律儀な悪魔だこと。

 

「でもでも、ほむらちゃんが元気になって安心したよ」

 

「ありがとう。あなた達の方も何か変わりはない?」

 

「マミさんは何ともなかったけど、さやかちゃんはずっと学校で寝てたよ」

 

「なら、朝の賭けは私の勝ちで決定ね」

 

「ほむらも休んだんだから今回の勝負はなしだー、とか言いそうだけどね」

 

「さやかだからあり得るかも」

 

「うん!」

 

 そう言った直後、場の空気が急に静まり返る。

 ついさっきまで明るかったまどかの表情も一気に暗くなっていた。

 何か話しかけるべきか迷っていると彼女の方からこちらに話してきた。

 

「ほむらちゃんってさ…私を助ける為に何度も時間をやり直しているんだよね?」

 

「!!」

 

 悪魔の力に呑み込まれていたときの記憶が蘇る。あの時のまどかは幻か何かかと思っていたかったけども、やっぱり本物だったのね。

 もう全部知っているとまどかは言っていた。それならもう隠す必要もないだろう。私は彼女の言葉にゆっくりと頷く。

 

「そうなんだ……」

 

「弁解するようで申し訳ないけども、意地悪で隠していたわけじゃないの。信じてもらえないかもしれないと思ったのもあるし、そのことを知ってあなたに負担を抱えてほしくなかったから……」

 

「うん、やっぱりほむらちゃんって優しいんだね。わたしなんかの為にあんなに一生懸命に頑張ってくれて」

 

「『わたしなんか』なんて言わないで。

 前にも話したけども、私にとってあなたはかげがえのない人で、私に生きている意味を教えてくれた大切な人なの。

 だから自分をそんなに卑下しないで、そんなことしてしまったら…私も傷つくから……」

 

 そう言うと、まどかは俯いて体を震わせる。泣いていたわ私はそっと彼女の傍に近づいて涙をそっと拭ってあげる。

 

「あなたが責任を感じる必要はないのよ。これは私がやりたくて選んだ道だから、後悔なんかしていない。もしそうだったら私はとっくに魔女になっているわ」

 

「違うの…嬉しくて……。こんなにも近くにわたしのことを想っていてくれた人がいたなんて…全然気づかなかった」

 

「覚えている方が不自然よ。でもそうだとしても構わないわ」

 

「ありがとう。あなたはわたしにとって最高の友達だったんだね」

 

「!!」

 

 聞き覚えのある言葉に私の忌まわしき記憶が蘇る。

 場所は違ったけども、あれも私のしてきたこと全てを知ってもらったことと同じ。

 

 

 

『まさか自分自身に励まされるとは思っていなかったわ』

 

『そんなつもりはなかったけどね』

 

『なら、私からもあなたに一つアドバイスをあげる。同じ暁美ほむらとしてね。

 私は形はどうであれ、まどかを幸せに出来たのかもしれない。けど、彼女の祈りを否定して踏みにじったことには変わりはない。でも私は自分がしたことを否定する気はないわ』

 

『……たとえそれが誰かに咎められようとも?』

 

『勿論、殺されたって構わない。私は自分の欲望のままにしたことなのだから』

 

『自分の欲望…それって何かしら?』

 

『希望よりも熱く、絶望より深いもの…愛よ』

 

『愛……』

 

『あなたもそれゆえに何度もまどかを救おうとしているんじゃないの?』

 

『それは……』

 

『もっと自分に素直になりなさい。そうすればきっとあなたも自分の罪と向かい合えるようになる。

 やがて、その罪が自分に跳ね返ってきても、それを受け入れることが出来る…そういう生き方をした方がいいと思うわ。その方がずっと楽になれるわよ?』

 

『そんなことはとっくに分かり切っている』

 

『どうかしらね、少なくとも私にはそうは見えないけど?』

 

『根拠は?』

 

『無いわ』

 

『あなた……』

 

『仕返しのつもりはないけど、言わせてもらったわ。それともう一つだけ……』

 

『何よ』

 

『あなたが今手にしている悪魔の力、下手に手放さない方がいいわよ』

 

『……どういうこと?』

 

『この世界にその力を狙っている者達がいるかもしれないから』

 

『まさか美国織莉子?!』

 

『さあね、そこまでは教えられない。でもくれぐれも用心することね、そうなってはお互いに不都合なことになるから』

 

『…………』

 

『そろそろ私は行くわ。頑張って私に面白いものを見せてくれることを祈ってるわ』

 

『ま、待ちなさい!!』

 

 

 

 あの悪魔が言いたかったことは結局よく分からないままだ。

 だけども罪を受け入れることの大事さ、それだけはしっかりと伝わった。全てはまどかへの愛ゆえに…どれだけの罪を背負おうとも、彼女を幸せにすることさえ出来ればそれで十分だ。

 

「ほむらちゃん?」

 

 動かないでいるのに不思議に思っているまどか。私は彼女の横に立ってその体をギュッと抱き締めた。

 

「ふえっ?」///

 

 

 

「何があってもあなただけは守ってみせるから……」

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※次回はまどか視点。そしてこの章で重要な役目を果たすあの子もようやく登場!!


第26話 全てはLゆえに ~ わたしが望むもの



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第26話 全てはLゆえに ~ わたしが望むもの


※今更ですけど、マギアレコードのPV見ました。絶対にインストールすると決めています。

※※※※※

そしてまどかの心情を大幅に変えました。何か見てたら違和感がヤバかったので……



 

 

第26話 全てはLゆえに ~ わたしが望むもの

 

 

 

 綺麗でカッコいい人。わたしのほむらちゃんに対する印象はそこから始まった。

 

 初めて出逢った時、つい見とれてしまったけど、その反面ちょっぴり怖そうだとも思った。

 

 だけどもどこか他人のような気がしなくて、一緒にお話しをしてみるとわたしが思っていた印象と全然違った。

 

 とても優しくて親しみを感じて、わたしはその子に少しずつ惹かれていった。

 

 学校に転校してきて、毎日を送っているとわたしにだけ他のみんなとは違う接し方でいることに気付いた。

 

 そのことを知ったとき何だか特別な人と見てもらえてると思って嬉しかった。

 

 けど、それと共に不安にも感じた。

 

 どうしてわたしにだけ何だろう、なんでそこまで気にかけてくれるんだろうと。

 

 その理由を聞いたとき思わず泣いてしまい、わたしの中で特別な想いが芽生えた。

 

 ほむらちゃんだけの特別な関係、わたしはそれを相棒(パートナー)と名付けた。

 

 前にママから教えてもらったのとは少し内容は違うかもしれないけども、わたしにとってほむらちゃんはそのくらい大切な人になっていた。

 

 他の誰にも感じなかったこの想い。嬉しくて、苦しくて、少し切ない…わたしのこの気持ちは何なんだろうか。その理由を寝たふりをしながらずっと考えていた。

 

 けれども答えはいつまで経っても出てこなかった。

 

 

 

 

 ほむらちゃんに急に抱きつかれてわたしの頭の中はパニックになる。

 

「ふぇっ?!」///

 

「何があってもあなただけは守って見せるから……」

 

 耳元でそっと呟かれた瞬間、わたしの顔が燃えるように熱くなる。

 しかもその抱きしめる強さは今までのよりもずっと強く、ほむらちゃんの温もりを直に感じられた。

 体と体が密着していることを意識してしまうせいで心臓がドクンドクンと高鳴る。

 もしかしたら聞かれているかもしれない、そう思うと余計に恥ずかしくなって離れようとする。

 だけども、その思いとは裏腹にわたしの体は腕に力を込めていた。

 

「うん……///」

 

 抱き合っていた時間はほんの数秒程度だったのかもしれない。

 でもわたしには永遠のように感じられた。

 それなのにほむらちゃんの体がわたしから離れようとしたとき、とても寂しかった。

 もっと近くにいたい、そう思ったけども恥ずかしくて口に出すことが出来ない。

 

「ごめんね、いきなり抱き締めてしまって…ビックリしたでしょう?」

 

 そう言って、ほむらちゃんはわたしから離れてソファーに腰掛ける。

 

「あっ……」

 

「まどか?」

 

「な、何でもないよっ! そ、それよりもこれからどうすればいいのか話し合わない?!」

 

 大きな声を出したのを不思議に思ったのか、ほむらちゃんがビックリした様子でこっちに顔を向けてくる。

 わたしは慌てて別の話題を口に出して、どうにか誤魔化そうとする。

 

「これから?」

 

「そっ、そう! ほむらちゃんが過去でしてきたことは大体知っているから、一緒に今度について考えようって思って!!」

 

「……確かにあなたの言う通りね。今までずっと一人で考えていたから、誰かと相談するなんて思ってもいなかったわ」

 

「もう一人で悩む必要はないんだよ、これからはわたしも一緒に頑張るから!」

 

 う、上手く誤魔化せたかな? とは言っても、これからのことなんて全然考えていなかった。

 ほむらちゃんがわたしの為に一生懸命になって頑張ってくれたことばかりが思い浮かんで……

 また顔が熱くなってくる。これじゃさっきと一緒だよぉ……

 

「そうね、あなたが力になってくれるなんて心強いわ」

 

 わたしの頭の中がぐちゃぐちゃになっているのなんか知らずにほむらちゃんが笑う。

 元はといえば、ほむらちゃんのせいなんだからね!

 

 じっと見つめていたけど、ほむらちゃんはそれに気付かずに話を進める。

 

「でも大体ってどのくらい知っているの?」

 

「どのくらいって言われても…全部なんかとてもじゃないけど話せないよ……」

 

「そうよね…でもその中であなたに対して何か酷いことをした記憶とかはあったかしら……?」

 

「酷いこと?」

 

 別の世界のほむらちゃんから見せてもらった過去を思い返す。

 記憶の中には、わたしがほむらちゃんのことを責めていた場面もあったけど、どれもわたしや他のみんなのことを思いやって言ってくれているものばかりだった。

 

「そんなものは一つもなかったよ。どれもほむらちゃんなりの優しさだなってわたしは感じたよ」

 

「…………」

 

 それを聞いてほむらちゃんは黙って下を向く。もしかして気を遣ってるって思われているのかな?

 

「これはわたしの本心だよ。マミさんが魔女に殺されちゃった後のことも、さやかちゃんがおかしくなっちゃった時や魔女になった後のことも…わたしは酷いことされたなんてこれっぽちも思ってないよ」

 

「……本当?」

 

「うん!!」

 

 目を逸らさずに真っすぐ目を見て言う。

 それでもそう簡単には信じられないよね……

 

 このことを話に出そうか、迷っていたけども思い切って口に出してみる。

 

「わたしの…魔女になりたくないってお願いを聞いてくれたことも、とっても感謝してるんだよ?」

 

「!!」

 

 ほむらちゃんの目が大きく開かれて、体がビクンと揺れる。

 酷いことってもしかしてこのことだったのかな…? でも確かにそんなことしちゃったら誰だって怖いって思っちゃうよね……

 

「頼まれたことにしても私は何度もこの手であなたを殺したのよ…?

 あなたはそんな私と一緒にいて怖くないの…?

 それにあまり記憶に残ってなかっただけで、あなたの思いを踏みにじって裏切ったかもしれないのよ…?」

 

 その声は所々震えていた。

 わたしはその怯える姿を見て、自分自身を恨めしく思ってしまう。

 

「ごめんね…ほむらちゃんだって辛かったはずなのに、それを全部押し付けるようなことしちゃって……」

 

「あなたが責任を感じる必要はないわ。これは私が背負うべき罪だから」

 

「それは無理だよ」

 

 その言葉にほむらちゃんはキョトンとする。

 

「言ったよね、あなたの罪はわたしも一緒に背負うって。

 これはわたし達、二人の責任なんだよ。だから一人で全部抱え込まないで」

 

「何度目かしらね…あなたにそう言われるのは」

 

「わたしも数えるのを忘れちゃった。

 でも平気だよ。これからずっとほむらちゃんのことを見ていれば、いつでも相談にのれるから」

 

「隠し事はしたくないのだけども…癖になっているのかもしれないかもね」

 

「それでも気にしないよ」

 

「ありがとう、まどか」

 

 やっぱりほむらちゃんは笑っているのが一番だね。

 心の中でそう思いながら、わたしもふと思ったことを聞いてみる。

 

「ねぇ、わたしの方からも聞いていいかな?」

 

「何かしら?」

 

「キュゥベえはまだ隠しているけども魔女の正体は魔法少女になんだよね?」

 

「えぇ…魔法少女が絶望したその瞬間、ソウルジェムはグリーフシードへと変化して魔女になる。

 その光景を私は何度もこの目で見てきたわ」

 

「このことはさやかちゃん達には話さないの? ソウルジェムの秘密を話したときみたいに……」

 

 わたしがそう言うと、ほむらちゃんはまた俯く。そして苦しそうな顔をしながら話した。

 

「あなたはまだ知らないかもしれないけど巴さんにはまだソウルジェムの秘密は話してないの。

 それに…出来れば魔女の正体については誰にも知られてほしくない……」

 

「あ……」

 

 そこまで話して、わたしはほむらちゃんが何を言いたいのかようやく理解できた。

 過去の惨劇。思い出したくない出来事のことを……

 

『ソウルジェムが魔女を生むのなら…みんな死ぬしかないじゃない!!』

 

 さやかちゃんが魔女になって…倒された後、真実を受け止めきれなかったマミさんはその場にいたわたし達全員を自分を道連れに殺そうとした。

 その時、ほむらちゃんはリボンで身動きを取れなくさせられていて…それを見たわたしは…マミさんを……

 

「ごめん…変なこと言っちゃって、無神経だったよね……」

 

「いいのよ、あれはあなたの責任じゃないわ。

 巴さんも悪意があって、あんなことをしたわけではないことも分かってる。けど、やっぱり……」

 

 怖い。あのマミさんでさえ、ああなっちゃうんだもん。そう簡単には伝えられないよね。でも……

 

「わたしも同じ気持ちだよ。でもね、いつかは知らなくちゃことだと思うからちゃんと話しておくべきだと思うな」

 

「……そうね。何の事件も起きていない今の内に話しておけば、最悪の事態は避けられる…かもしれない」

 

「いざとなったら協力してマミさんを止めればいいもんね」

 

「だとしたら、また先にさやかに話さなくちゃいけないのね……」

 

「大丈夫だよ。今のさやかちゃんならきっと分かってくれるよ!」

 

「それだといいけど……」

 

 あまり納得していなさそうだけど、取り敢えず魔女についてはこれで心配ないと思う。

 安心しているとほむらちゃんが恐る恐るわたしにこんなことを尋ねてきた

 

「その…もう分かり切っていることだけど聞いてもいいかしら?」

 

「どうしたの?」

 

「あなたはもうキュゥベえと契約して魔法少女にはならないのよね?

 いきなりこんなこと聞いちゃってごめんなさい。でもどうしても気になっちゃって……」

 

 申し訳なさそうに聞いてくるほむらちゃん。

 でも、そう聞く理由も何となく分かっている。

 

 魔法少女にならなかったわたしは何かある度に契約をしようとした。

 そして何度もほむらちゃんを悲しませていた。

 

 だからわたしは安心させるために笑って答える。

 

「大丈夫! 契約なんかしなくてもわたしに出来ることはたくさんあるし、それにもう願いもとっくに叶ってるもん!」

 

「そう…それを聞いて安心したわ……」

 

 良かった、前みたいに思い悩まなくて。

 これからもこうやって相談に乗ってくれたら、ほむらちゃんもきっと楽になってくれるね。

 後は…やっぱりあの人達のことかな?

 

「でも他にもまだ問題は残ってるよね」

 

「……美国織莉子と呉キリカ」

 

「ほむらちゃんはあの人達と前に会ったことがあるんだよね?」

 

「一度だけ。私にとってはあれきりだと信じたかったけども…まさかこの時間軸でも出てくるなんて……

 しかも前とは違って彼女らの動機も変わっている」

 

「前はどんなのだったの?」

 

「…………」

 

 ほむらちゃんは言いずらそうな顔をする。

 過去を知ったからといってもわたしが見たのは、ほんの少しの時間だけ。全部が全部を把握できたわけじゃない。

 でも聞いたのは失敗だったかも、きっとその記憶もほむらちゃんにとっては辛いことだったと思うし……

 

「魔法少女の強さはその人の持つ素質によって決まる。それは魔女も同じ」

 

「?」

 

「あなたは前にキュゥベえにとてつもない素質を持っているって言われたわよね」

 

「そうだけど…まさか……」

 

「その通り、あなたは最強の魔法少女になれるのと同時に最悪の魔女になる可能性を秘めているの」

 

「じゃあ前の織莉子さん達の目的って……」

 

「美国織莉子は魔女化したあなたが世界を滅ぼすという予知を見た。それを実現させないために彼女達は…あなたを契約前に殺すことを目指した」

 

「そんな……」

 

 自分が織莉子さん達に殺される姿を思わず浮かべてしまう。怖くなって少し震えていると、ほむらちゃんが優しく手を握ってくれた。

 

「大丈夫よ、それは以前の時間軸での話。今回の彼女達の標的は…私よ」

 

「ありがとう…でも、ほむらちゃんもわたしと同じ目に遭うのはヤダよ」

 

「心配しなくても私には戦える力があるし、心強い仲間だっている。二度と彼女らの好きになんかさせない」

 

 励ましてくれるのは嬉しいけども、魔法少女同士で戦うのもそれはそれで嫌に感じる。

 厳しい提案かもしれない…それでもわたしはほむらちゃんに聞いてみた。

 

「戦わずに話し合いとかで何とかならないかな?

 ほら、前のマミさんのときみたいに頑張ればきっと……」

 

「そればっかりは不可能ね。前の時間軸ではあなたを魔法少女にしないように気を付ければ、説得は可能だったかもしれない。

 でも一度、暴走した姿を見られてしまったから、もう何を言っても聞き入れようとはしないでしょうね。確実に暴走しないなんていう確証なんてどこにもないのだから」

 

「で、でも…やっぱり戦うのはおかしいよ!」

 

「あなたの気持ちは十分に分かる。でも覚えておいて、話し合いだけでは必ずしも問題が解決するわけじゃないってことを」

 

「うん……」

 

 織莉子さん達はきっと前の時間軸と同じように世界を守るためにあんなことをしているんだろう。

 そう考えたとき、ほむらちゃんに聞きたいことができた。

 

「そうだ、もう一つだけいいかな?」

 

「なに?」

 

「前の時間軸では織莉子さん達は、わたしが魔女にならないために動いていたんだよね?」

 

「そうよ」

 

「ほむらちゃんは…怖くなかったの?」

 

「えっ?」

 

「だってわたし、世界を滅ぼすほどの怪物になっちゃうんだよ?

 普通だったら織莉子さん達みたいなこと考えちゃうんじゃないかって思って……」

 

「…………」

 

 わたしの言ったことについて考え込むほむらちゃん。

 その立場が自分だったらどうなっていたのか、もしかしたらわたしも織莉子さん達と同じことを考えてしまうかもしれない……

 なんて思っていると、ほむらちゃんは予想外の答えを言ってきた。

 

「考えたこともなかったわ」

 

「えっ?」

 

「確かに美国織莉子の言うことにも一理あると思うわ。けど私はそんな答えなんて絶対に認めなかったでしょうね」

 

「ど、どうして…?」

 

「彼女達の行為は、まどかを救うことを諦めるのと同じことなのよ? そんなこと私がするはずがない」

 

「…………」

 

 最低だ、わたし……

 ほむらちゃんは必死になって努力していたのに、わたしは簡単に諦めちゃうなんて……

 どうしてほむらちゃんと同じ答えが出てこなかったんだろ……

 

「それはあなたも同じでしょ、まどか」

 

「えっ?」

 

 自分が嫌になって泣きそうになっていると不意にほむらちゃんはそんなことを言ってきた。

 違うよ、わたしは…そんないい子じゃないよ。

 

「危険を顧みずに暴走した私を助けにきてくれたじゃない。よく覚えていないけどもあなたが必死になってくれていたのはハッキリと分かったのよ」

 

「……グスッ」

 

「ど、どうしたの急に?」

 

「ううん、ちょっと嬉しくて……」

 

 やっぱりほむらちゃんはわたしのことを自分よりもずっと分かっている。

 

 ほむらちゃんに対してだけどうしてわたしが不思議な気持ちになるのか、それが今ので分かったような気がする。

 さやかちゃんや仁美ちゃんはかけがえのない親友に変わりはない、だけどもほむらちゃんとの関係はそれよりも一回り上にあるんだ。

 

 そっか…これが相棒(パートナー)ってことなんだ。わたし達二人にしか存在しない特別な関係。そうじゃなきゃ、あんなおかしな気持ちになんかならないよね。

 

 胸につっかえていた悩みが無くなったお蔭か、幾分か気持ちが楽になった。そうなっていると、ほむらちゃんがわたしにあることを聞いてきた。

 

「ところでまどか」

 

「なぁに?」

 

「さっき願いはもう叶ってるって言ってたよね? あなたの願いってどんなものなの?」

 

「えへへ♪ それはね…さやかちゃんやマミさん、仁美ちゃんにパパとママ…みんなといつまでも笑っていられること。

 そして、ほむらちゃんとこうして一緒に居られること…それがわたしの願いだよ!!」

 

 共に支え合ってきたからこそ、今のわたしの願いは実現している。だから、この願いはずっと守り続けられる気がする。

 

「ありがとう、私もとても嬉しいわ」

 

「えへへ…何だか恥ずかしいね」

 

「私もあなたと同じ気持ちよ、まどか」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 わたしとほむらちゃんの二人がいれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ、こんなところでいいかしら」

 

「はぁ~疲れた~」

 

 特訓が終わって、大きく息を吐く。

 やってみて分かってけどマミさんの指導はかなりのスパルタだった。これならほむらに頼めば…いや、何でもない。

 何だかアイツに頼むとこれよりもドキツイことをやらされそうだ…予感じゃなくて、確信……

 

「最初はちょっと不安だったけど、そんなことはなかったわね」

 

「ふっふっふっ…あたしの成長速度を甘く見てもらっちゃあ困りますよ?」

 

「こら、調子に乗らないの」

 

「はぁ~い」

 

 マミさんに褒められて得意になっていると案の定、注意されてしまった。

 でもこれで少しはみんなの足を引っ張らずに済むかも……

 

 少しだけ嬉しい気分になっているとマミさんが何かに気付く素振りを見せた。

 

「全く…あら、この反応は……」

 

「どうしましたマミさん?」

 

「使い魔の気配…ここからかなり近い……」

 

「えっ、本当ですか?!」

 

 使い魔…魔女とは違ってグリーフシードは落とさないけども、人を襲うことに変わりないって前にマミさんは言っていた。

 なら絶対に放っておくわけにはいかないよね!!

 

「行くわよ、美樹さん!」

 

「はい!!」

 

 元気よく返事をして、あたしはマミさんの後を追いかけた。丁度良いや、特訓の成果を見せてやるッ!!

 

 

 

 

 

「そう言えば、ほむらちゃん」

 

「何かしら?」

 

「ほむらちゃんの記憶の中にわたしの知らない魔法少女の子がいたんだけども」

 

「あぁ…佐倉杏子のことね」

 

「その子は仲間にならないの?」

 

「勿論、仲間に引き入れるつもりよ。でも…あの子、まだ見滝原に来ていないらしいのよ」

 

「どうして?」

 

「分からない…いつもならもっと早い内に現れるはずなのに……」

 

「何かあったのかな? もしかして魔女に……」

 

「それはないわ。彼女は魔法少女の中でも指折りの実力者、そこらの魔女や魔法少女なんかあっという間に返り討ちよ」

 

「じゃあ何で…?」

 

「もし彼女が現れなかったら、こちらから協力を頼む必要があるわね」

 

「そうだね……」

 

 

 

 

 

「美樹さん、そっちに行ったわよ!!」

 

「了解! せやっ!!」

 

 剣を召喚して、逃げる使い魔へと思いっきり投げつける。

 それは凄まじい勢いで飛んで行って使い魔へと命中……

 

 

ガキンッ!!

 

 

「「?!!」」

 

 しなかった……

 

 あたしとマミさんは何が起こったのか分からなかった。

 そうしている内に使い魔はどんどん遠のいていく。

 それに気づいたあたしは走って後を追いかけようとした。するとそこへ……

 

「ちょっとちょっと、何やってんのさ」

 

「えっ?!」

 

「この声、この魔力…まさか!」

 

 マミさんがその声の主に驚いている。

 すると突然あたしの周りが少しだけ暗くなった。

 気になって上を見上げると……

 

「わっ!!」

 

「よっと」

 

「やっぱり……」

 

 あたしと同じ歳くらいの赤髪の少女、そして小学生くらいの緑髪の小さな女の子が上から降ってきた。

 慌てて後ろに飛びこうとしたけども、うっかり足を滑らせて転んでしまう。

 そんなあたしは対照的に二人の少女は綺麗に地面に着地する。

 いきなりの登場に呆気に取られていたけどもすぐに我にかえって声をかける。

 

「アンタ達、いきなり何さ! 危ないでしょ!!」

 

「あん? 何だお前?」

 

「…………」

 

 赤髪の奴はあからさまな敵意を向けながら話してくる。

 それに対して眉をひそめていると、後ろの方からマミさんが……

 

「佐倉さん。どうしてここに…?」

 

「えっ、知り合いですか?」

 

「佐倉杏子。隣町の風見野に住む魔法少女よ」

 

 マミさんの言葉にその杏子って奴は手をヒラヒラと振って見せた。

 

 

 

「よう、久しぶりだな。マミ」

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※まどかのほむらへの想いは「親愛」という言葉が一番だと改めて思い、変更しました。

※この話を読んでくださった読者様方、今回の急な変更、本当に申し訳ありませんでした。
※次話は明日にでも、投稿できるように頑張ります。今回のようなミスを繰り返さないことを気を付けながら……


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第27話 Kは誰の手に ~ 錯綜する信念


※久しぶりに10000字近く書いた気がする。今回は戦闘シーンにそれなりに力を入れてみました。出来は…気にしないでください……



 

第27話 K(Key)は誰の手に ~ 錯綜する信念

 

 

 

「何しにこの街に来たのかしら、佐倉さん?」

 

「ふっ……」

 

 警戒しながら目的を探るマミさん。それに対して杏子という奴はただ不敵な笑みを浮かべていた。

 あたしはそいつの態度がどうにも気にくわなく感じて声を荒げる。

 

「お前、マミさんが質問してるんだ。笑ってばっかいないで何か言えよ!」

 

「うっせーな部外者は黙ってろ」

 

 何か反応が来るかと思っていたけど、帰ってきたのはやる気のない適当な返事だった。

 苛立ちを感じていると、マミさんが挑発するような物言いで話しかける。

 

「まあ、あなたのことだからどうせ私達の縄張りを奪いにでも来たんでしょうね」

 

「縄張りねぇ…んなもん今のアタシにはどうでもいい」

 

「じゃあ一体何を……」

 

 

キェエエエエ!!!!

 

 

「「「!!」」」

 

「逃がすかッ!」

 

 二人が話しているとさっきあたしが仕留め損ねた使い魔が奇声をあげて、何処かへ逃げようとしていた。

 それに気づいて急いで追いかけようとする。だけど…そこに……

 

「だからお前は何してんのさ」

 

 杏子に槍を喉元に突き立てられて、またしても邪魔されてしまう。

 

「何すんだよ!!」

 

「あれ使い魔だよ? 倒してもグリーフシードは落とさないぜ?」

 

「だってほっといたら誰かがアイツに殺されちゃうんだよ?!」

 

「はっ?」

 

 意味が分からないとでも言いたげな顔であたしを見つめる。

 それからそいつはあたしとマミさんのことを交互に見て、一人で納得した様子を見せる。

 

「あー、お前もマミの奴と同じクチの魔法少女ってことか。人助けやら正義の為に戦っている」

 

「そ、それの何が悪いのさ! 大体アンタには関係のないことでしょ!」

 

「迷惑なんだよね、そんなモンの為にむやみに使い魔狩られるのは。

 アンタがしていることって卵産む前の鶏を絞め殺しているのと同じことだぞ?

 テキトーな奴、食わせてグリーフシード産ませた方が絶対得だと思うけどねぇ」

 

「見殺しにしろっての…魔女に襲われる人達のことを…?!」

 

「はぁー、さすが巴マミの弟子って感じだな。

 この世界のルールを全然理解しちゃいない」

 

「損得よりももっと大事なことがある…最もこんなことあなたに言っても無意味でしょうけどね」

 

 好き勝手言われるのが耐えられなくなったのか、マミさんが話に割って喋る。その声には少しばかり怒気が混じっていた。

 

「大事なことねぇ…それって魔女の餌しか価値のない奴等を救って愉悦感に浸ることか?

 見返りもないのによくそんなことが出来るよな、感激するよ『偽善者さん』」

 

「ッ?!」

 

 それを聞いた瞬間、あたしの中で何かがキレた。

 腰にかけてある鞘から剣を一気に引き抜いて、杏子へと振り下ろす。

 けど、寸前のところで槍で防がれてしまい、その隙に蹴りを入れられて押し負けてしまう。

 

「あっ…!!」

 

「美樹さん!」

 

「おぅおぅ、こりゃ本格的な指導が必要かもしれないね」

 

「黙れ! アンタみたいな自分勝手な奴がいるから…魔女に襲われて苦しむ人がいなくならないんだ!!」

 

 再び剣を構えて、突撃しようとする。

 けど、杏子は難なく避けてあたしの後ろにいるマミさんに向かって襲い掛かろうとしていた。

 

「!!」

 

「マミさんッ!」

 

「この際だ、師弟共々ぶっ倒してやるよ! ゆま!」

 

「うん!」

 

 その掛け声で今まで黙っていたゆまという女の子は、ハンマーを取り出してあたしに向かってくる。

 攻撃に備えていると後ろの方から轟音が聞こえてくる。もうマミさんは戦い始めたみたい。

 

 にしてもあたしの相手がこんなちびっ子だなんてね…向かってくる少女を見ていると、無性に腹が立ってきた。

 

「舐めるんじゃないわよ!!」

 

「キョーコの…邪魔はさせないっ!!」

 

 あたしは叫び、もう片方の手にも剣を持つ。二刀流の心得なんかはないけども、手数では圧倒的に有利になるはず。

 そう踏んで二本の剣を勢いよく叩き込む。ゆまはハンマーを横に持ってガードする。このまま押し込んでしまえば、いつかはガードが崩れてチャンスがやってくるはず……

 だけども今のあたしの心にはそんな悠長なことをしている余裕はなかった。

 杏子とかいう奴はマミさんと戦っている。アイツとあたしの実力はとてつもない差があるのは、さっきやり取りで十分に理解できた。

 頭の中では分かっているはずなのにあたしはどうしても自分自身の手で倒したいと思っていた。

 

「おりゃあああああ!!」

 

「キャッ!!」

 

 魔力を一気に高めて、力任せにハンマーを叩き落す。それからすかさず、ゆまの足を払って転ばせる。

 心の中でガッツポーズを取って、地面を強く蹴ってゆまの横を駆け抜ける。

 狙いは佐倉杏子。あたしをバカにするのはともかく、街の皆の為に一人でずっと頑張って来たマミさんの頑張りを侮辱するのは絶対に許せない!

 マミさんとの戦いでがら空きになっている背中へ剣を振り下ろす。

 攻撃が当たったことを確信して笑みを浮かべる。だけども……

 

「良い気になってんじゃねーぞ、ひよっこ」

 

「えっ……」

 

 悪感が走る。

 どうしてコイツはこんな表情をしていられるのだろうか? その答えはすぐに分かった。奴はぐるりと後ろを振り向いて手に持っている槍を勢いよく振るう。すると、槍の持ち手部分が幾つも折れ曲がって、不規則な動きであたしへ向かってきた。

 

「やばっ…!!」

 

「美樹さん!!」

 

 避けきれない…そう思う前に肩に凄まじい激痛が走る。肩に槍が刺さった衝撃で手に持っていた剣を床に落としてしまう。

 そして今まで一度も味わったことの無い痛みに耐えきれず声をあげる。

 

「ああああああっ!!」

 

 痛みに苦しんでいるあたしの姿を見て、杏子はニヤリと笑う。それ見て彼女に対する怒りが高まる。

 けど、同時にあることに気づいた。アイツのあの顔…まだ何か仕掛けてくるような……

 嫌な予感がして後ろを振り向く。するとそこには復帰したゆまがハンマーを構えて横に薙ぎ払おうとしていた。

 

「やめてェ!」

 

「ええぃッ!!」

 

 マミさんの悲痛な叫びが響き渡る。そして再び体に凄まじい激痛がやって来た。

 

「がっ……」

 

 さっきよりも重たい強力な一撃。意識が飛びそうになるのを抑えながら、あたしは路地裏の壁に勢いよく叩きつけられる。

 力なく倒れていくあたしを見て、杏子は蔑んだ表情で吐き捨てるように言う。

 

「ふん、トーシローが10年早えーんだよ。アタシに戦いを挑むなんてな」

 

「くっ……」

 

「佐倉さん…あなた!」

 

「先に仕掛けてきたのはアイツだ。そして怪我を負わせたのもアイツだ。

 言ったよな、今のアタシらはここの縄張りなんか興味ないって。あのひよっこが何もしてこなきゃ、そのまま痛い目を見ることもなかったかもしれないのにな」

 

「あくまで自分には非がないって言いたいの…?」

 

「あぁ、アタシはただ魔法少女としての本当のあり方を教えてやったに過ぎない。

 それをそこのバカが過剰に反応したせいでアタシらも戦わざるを得なくなったってわけだ」

 

 戦いに発展させるように言ったのはそっちじゃないか。そう言ってやりたかったけど、口が上手く動かせない…痛みのせいで体の自由が利かなくなっている。

 

「まっ、今日はこの辺にしといてやるよ。ここでアンタも倒しておくのも悪くないけど、何だか本調子じゃなさそうだもんな」

 

「随分と優しいわね。あなたならそれを利用して倒しに来ると思っていたけど」

 

「そんなことしたって何も面白くないだろ。

 それと調子整えとくのと一緒にそこのバカの教育もしてやれよ、噛みつく相手をよーく考えてから戦えってな」

 

「…………」

 

 もう耐えられない。好き放題言って、やるだけやったら帰るって…ふざけんな!!

 湧き上がる怒りを源にゆっくりと立ち上がる。体のあちこちが悲鳴をあげていたけども、それを無理やり鎮めさせる。

 

 あたしが立ち上がるのを見て、三人ともかなり驚いた様子でいる。

 

「おっかしいなー、全治3ヵ月はなるくらいにかましてやったんだけどな。ゆま…お前手加減したか?」

 

「ううん……」

 

「美樹さん、あなたまさか…!!」

 

 マミさんだけがあたしのしたことに気付いていた。

 これは前に美国織莉子と呉キリカとの戦いでやったのと同じこと。キュゥベえに教えられた魔法少女ゆえに出来る戦法、痛覚の遮断。

 

「あはっ……」

 

 さっきまで苦しめていた痛みが消えたことにあたしは歓喜の表情を浮かべる。

 ゾンビだなんだ言っていたけども、ほむらやキュゥベえの言う通り確かに都合がいいかもしれないね…特にあたしみたいな力のない魔法少女には!!

 

「お前……」

 

「美樹さん。お願いもうやめて! 佐倉さんにはもう戦う意志はないわ!!」

 

 必死にあたしを止めようとしているけども、意味ないですよ。もう決めたんだ、アイツを叩きのめすまで倒れる気はないって。

 自分の弱さがみんなの…まどかの、ほむらの、マミさんの枷になっている。だからここで勝利さえすれば、あたしはその弱さを克服できる!! そう確信していた。

 

「お前だけは…許さない!!」

 

「はぁ…お前の意志はよーく分かったよ」

 

 深いため息をついて、奴も同じように武器を構える。それでいい…勝ち逃げなんか絶対にさせない。何があっても必ず倒す!!

 

「口で言ってもダメ、痛めつけてもダメとなると…後はもう__殺すしかないよね__」

 

「…………」

 

 奴の目つきが変わって口元が緩む。それにつられてあたしも笑う。

 

「二人ともお願いだからやめて!!!」

 

 マミさんの声を合図にあたし達は同時に飛び出す。

 奴の槍とあたしの剣が交差して、そして……

 

 

 

「そこまでよ」

 

 

 

 

 

 

 さやかが危ない、と巴さんに言われて急いで来てみれば……

 

 今まで姿を見せていなかった佐倉杏子。そして美国織莉子達と同時に現れたイレギュラー、千歳ゆまがいるなんて……

 それに加えて、満身創痍のさやか。どうしてこうなったのか大体の見当はつくけども想像以上に酷いことになっているわね。

 

「二人ともお願いだからやめて!!!」

 

 二人が本気の殺し合いを始めようとしているのを見て、すぐさま魔法少女姿に変身する。

 それから地面に落ちているさやかの剣を持って、激突する両者の間に割って入った。

 さやかの攻撃を剣で、杏子のは盾で受け止める。激しい衝撃が両腕に加わったけどもどうにかその場に留まる。攻撃を止められて驚く二人に私は静かに言った。

 

「そこまでよ」

 

「なっ…?!」

 

「ほむら?!」

 

 両者とも後ろに飛びのいて私から離れる。

 突然の乱入者に杏子は不満そうな顔で私のことを尋ねてきた。

 

「何なんだアンタは…アイツの味方か?」

 

「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵。あなたはどちらかしら、佐倉杏子?」

 

「アンタ…どこかであったか……?」

 

「さあね」

 

 味方ではあるが、下手に刺激しないようにさしあたりのない言い方にする。

 杏子は自分の名前を知っていることに不思議がっているけど、いつものように適当に誤魔化す。

 

「はぁ…はぁ…さやかちゃん!」

 

「まどか(鹿目さん)!!」

 

 そうしていると私達の元に遅れて、まどかがこの場にやって来る。万が一、美国織莉子達の襲撃だった場合に備えて同行してもらったのだ。

 さやか達が彼女の名前を呼んだのに杏子は反応し、私とまどかの交互を見る。

 

「鹿目…まどか、そしてほむら…か。そうかお前らのことか、キュゥベえが言っていた契約せずとも魔法少女になれるイレギュラーは」

 

「ほむら。一体どういうつもりだよ!!」

 

 正確にはそれはまどかのことなんだけどね。

 野暮だから口では言わずに心の中でツッコむ。そんなことを考えているとさやかが声を荒げながら私に近づいてきた。

 

「それはこっちの台詞よ。自分より各上の相手に殺し合いの勝負を挑むなんて」

 

「あ、アンタには関係ないだろ!!」

 

 ダメね、完全に頭に血が上っている。

 さやかの説得を諦めて、ここは杏子に引いてもらおうと彼女の方を振り向く。

 すると何故か、杏子は槍を構えて戦闘態勢に入っていた。

 

「雑魚に絡まれて厄日かと思っていたけど、まさかこんなラッキーがあるなんてな。アンタとは一度、戦ってみたいって思っていたんだよ」

 

「待ちなさい。私は別にあなたと戦いに来たわけじゃなくて……」

 

「問答無用!!」

 

 私の意志とは関係なく次々と槍を振るう。

 

 まともに戦っても弱体化した今では勝てる見込みは少ない。それに彼女には私達の仲間になってもらう必要がある。

 これらがあり、私は下手に反撃することが出来ない。なので回避だけに専念する。

 

 そうしていると、後ろの方でさやかが力なく倒れる。そんな彼女にまどか達が駆け寄る。

 

「さやかちゃん、大丈夫?!」

 

「酷い怪我…待っててすぐに治療するから…!」

 

「マミさん…あたし何も出来ませんでした……」

 

 さやかは泣いていた。恐らく全力を尽くしても杏子に勝つことが出来なかった自分が悔しくて仕方がないのだろう。そんな彼女に巴さんは優しく慰めた。

 

「心配しないで、美樹さん。

 私のことをバカにされたからあなたはあんなに怒ってくれたのでしょう?

 ありがとう。あなたの優しさはしっかり伝わったから、もう休みなさい」

 

「グスッ…マミさん……」

 

 さやかは意識を失う。

 それでも巴さんは気絶するさやかを治療しながら優しく頭を撫で続けていた。

 

「さやかちゃん……」

 

「…………」

 

 私とまどかは黙って二人のことを見守る。

 お互いに思うことはあったけども、それは胸に秘めておきたい。今のさやかにとって巴さんの言葉が一番通ると思うから。

 

「よそ見してんじゃねーぞ!!」

 

 感傷に浸っていると、杏子が再びこちらに槍を突き立ててきた。反撃されずにただ避け続けられていることに相当のストレスを感じているみたいだ。

 しばらくの間、その状況が続いていく。そして杏子の体力に限界が訪れる。

 

「はぁ…はぁ…お前、何で反撃しねぇ……」

 

「言ったはずよ。私にはあなたと戦う意志はないって」

 

 肩で息をする杏子にそう言い聞かせる。

 けど、彼女の方も躍起になっているみたいだ。全く…似たもの同士、もう少し仲良くすればいいのに……

 内心呆れていると杏子が大振りの攻撃を仕掛けてきた。

 

「ちっ…オラァ!!」

 

 不本意だけど、一発だけ攻撃して彼女を落ち着かせましょうか。そう思って杏子の攻撃を避けようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが瞬間、私の体の動きが急速に遅くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまで見切れていた攻撃のスピードが格段に上がる。だけど、突然起こった現象に反応する間もなく、杏子の槍が私の体を切り裂いた。

 

「「?!!」」

 

「きゃあああああ!! ほむらちゃん!!!」

 

 まどかが悲鳴をあげる。私が攻撃を受けたことに巴さん、千歳ゆま、そして杏子も驚いていた。

 

 何…何が起こったの……?!

 

 紅に染まる視界の中、私は自分の手を見る。

 すると、とんでもないことが起こっていることに気が付いた。

 

 おかしい…そんなはずはない。

 私は、さやかと杏子の争いを止めるために…魔法少女になったはず……なのに…!!

 

「どうして…変身が……」

 

 私は魔法少女の姿ではなく、普通の見滝原の制服姿になっていた。

 さっきの攻撃が見切れなかったのは、攻撃の速度が上がったからではない。魔力で強化していた身体能力が低下したからだ。

 

「お前…何でこんなことしやがった…!」

 

 杏子は震えながら私に聞いてきた。あの大振りの攻撃には杏子の当てる意思が感じられなかった。それに仮に当たったとしても、魔法少女の姿ではそこまでのダメージはないと踏んだ上での攻撃だったんだろう。私はその問いかけに短く答える。

 

「分から…ない……」

 

「ほむらちゃん…ほむらちゃん!!」

 

「何で…どうしてなの、暁美さん……」

 

 その返答にまどかと巴さんはただ私の名前を呼んでいた。するとそこに杏子が……

 

「どけっ、お前ら!! ゆま、早く来い!!」 

 

「う、うん!」

 

「コイツの怪我、治せるか?」

 

「やってみる!」

 

 私に縋りつく二人を無理やり引き離して、千歳ゆまを呼びつける。そして、彼女に怪我を治させるように言う。

 

 彼女の治癒能力は、さやかや巴さんよりも上だった。

 そのお蔭か傷はみるみる内に塞がっていって、それと同時に激しい眠気に襲われた。

 

「何がどうなってんだよ……」

 

 薄れゆく意識で、杏子の言葉が鮮明に残った。

 

 

 

 

 

 

 暁美ほむらのことを遠くから監視していた私は携帯を取り出し、織莉子に電話をかける。

 

「もしもし…織莉子」

 

『どうしたのキリカ?』

 

「佐倉杏子が暁美ほむら達と接触した。そして、君の言う通り彼女にも異変が起きていたよ」

 

『!!』

 

 電話越しからでも彼女のショックな様子がハッキリと分かる。

 今、織莉子がどんな顔をしているのか考えるだけで胸が張り裂けそうなくらい痛むけども、それを抑えながら報告を続ける。

 

「後、そいつと一緒に千歳ゆまとかいう魔法少女も一緒にいたんだけど…どうすればいいかな?」

 

『…………』

 

「織莉子? 織莉子?」

 

 その名前が出た瞬間、織莉子が無言になる。

 不思議に思って何回も彼女の名前を呼び続けるとようやく気付いてくれたのか、咳払いをしながら応えてくれた。

 

『何でもないわ。引き続き、暁美ほむらの監視を続けて頂戴』

 

「君の言っていた例の彼女はどうするんだい?」

 

『彼女は優木さんに任せるわ』

 

「あのちんちくりんに?! 不安だなぁ……」

 

 とんでもない名前が出てきたことに思わず大声を出してしまう。

 まあ、現状で私以外に動けるのはアイツしかいないから当然と言えば当然だけども……

 

『暁美ほむらの監視を任せるよりはマシよ』

 

「まっ、確かにすぐにバレそうだもんな」

 

『…………』

 

 また織莉子が無言になる。以前からずっと気になっていたけども、他の人の名前が出ると彼女は必ず一人で何か考え事をし始める。

 何度も相談に乗ろうとしたが、大したことじゃないと言っていつも誤魔化される。信頼されてないとは、思っていないけども、ずっと一人で悩んでいる姿を見ていると私の方も不安になってしまう。

 

「そろそろ切るね。何かあったらまた連絡する」

 

『ごめんね、キリカ』

 

「何がだい?」

 

『まだ暁美ほむらから受けた傷が回復していないのに無茶させちゃって』

 

 そのことを指摘されたせいか、ズキンと胸の辺りが疼いた。軽い処置は済ませたものの正直言ってかなりキツイ。

 けど、そのことは決して織莉子には明かさない。言ってしまえばまた彼女に負担をかけてしまうから。

 

「気にすることはないさ、織莉子のことを想えばこれくらいどうってことない。寧ろ私としては君の方が心配で仕方がないよ」

 

『ありがとう』

 

「礼には及ばないよ。それじゃあね、織莉子」

 

『えぇ』

 

 通話が終わり、携帯をしまう。

 下では暁美ほむらの傷の手当てが終わったみたいだ。今ここで襲撃してしまおうかと思うが、織莉子の指示がまだ来ていないのでグッと堪える。

 それでもやっぱりアイツの姿を見ると、心の底から怒りが湧き出て本能を刺激させる。

 だけどもその激情をどうにかして抑える。その代わりに奴に向かって最大級の恨みを込めた言葉を放った。

 

「暁美ほむら。お前だけは絶対に許さない…必ず私と織莉子の手で殺してやる」

 

 

 

 

 

 

 杏子との戦闘で大怪我を負いはしたが、千歳ゆまの治療のお蔭で普通に学校に行くことも出来た。

 さやかの方も色々とあったけども、何ともない様子で普通に生活していた。

 

「まどか。ちょっといいかしら」

 

「うん、なあに?」

 

 昼休みになって人通りの少ない所にまどかを呼ぶ。

 要件は杏子についてだ。さやかや巴さんを連れてこない辺りで察してくれたのか、真剣な表情で私のことを見ていた。

 

「昨日会った佐倉杏子って子についてなんだけど……」

 

「一緒にわたし達と戦ってもらえるように協力しに行くんでしょ」

 

「そう。だから今日の放課後、一緒に来てくれないかしら?」

 

「いいけども、わたしでいいの?」

 

「さやかを連れていくとまた面倒なことになるし、巴さんも前に彼女と一騒動会ったからあまり連れていきたくないの。そもそも魔法少女としての考え方が根本から違うから争い事に発展しかねないし……」

 

「そっか、分かったよ」

 

「じゃあ戻りましょうか」

 

「そうだね」

 

 こうして過去のことを気兼ねなく話せるのは、本当に気が楽で助かる。

 まどかに心の中で感謝しながら私達はさやか達のいる教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 それから放課後になって私達はゲームセンターに向かって、杏子のことを探した。

 これまでの経験もあって彼女の現れる場所は大体わかっていたからすぐに見つけられた。

 

「お前らは……」

 

「昨日ぶりね。佐倉杏子、千歳ゆま」

 

「おねーちゃん、もう怪我はだいじょーぶ?」

 

 私の無事な姿を見て、杏子も千歳ゆまも安心している様子だった。怪我の具合を案じる千歳ゆまにまどかがお礼を言う。

 

「ありがとうね、あなたのお蔭でほむらちゃんすっかり元気になったから」

 

「えへへっ」

 

「その…何だ、この前は悪かったな……」

 

「気にしなくていいわ、あれは私の方に原因があったから」

 

「そうか。それで要件はなんだ?」

 

「単刀直入に言うわ、私達に協力してほしい。10日後に現れる最悪の魔女を倒すために……」

 

「……………………」

 

 私の頼みを聞いて、杏子は眉をひそめる。

 

 ここで協力してくれるか否かで今後の動きが大きく変わる。もう時間はあまり残されていない。協力してくれることを祈りながら私は彼女の返事を待った。

 

 

 

 

 あたしは学校で仁美と別れて、帰宅路を一人で歩いていた。

 まどかとほむらは放課後になるやすぐに居なくなっちゃうし、マミさんも用事があると言って帰ってしまった。

 

「なんか…寂しいな……」

 

 ポツリと独り言を呟く。

 昨日気絶した後のことを聞くと、あたしの代わりにほむらがあの佐倉杏子と戦って大怪我を負ったらしい。傷はすぐに治されていたけども、何だか気まずかった。

 

 また自分の力不足のせいで、ほむらが傷ついた……

 

 もっと強ければ、足手まといにさえなっていなかったら違った結果になっていたかもしれないのに。

 あたしが魔法少女になるためにした願い事は、恭介の腕を治すこと。だけどもそれとは別に魔女と戦い続けているまどか達の力になりたかったからというのもある。

 守られるんじゃなくて、誰かを守るためにこの力を手にした。だが現実はどうだ…肩を並べて戦えるかと思えば、またみんなの足を引っ張っている。

 

 ほむらは魔法少女としての素質や戦闘能力はあたしよりも低いけども、持ち前の知識と経験を生かして格上の相手ともそれなりにやり合える。

 マミさんもベテランだけあって、あたし達のことを常に後ろから支えてくれている。

 そして一番の親友のまどかは…歴代の魔法少女の中でもトップクラスの素質を持ち、経験不足のデメリットをほむらと協力して補っている。

 

 こうして考えてみると全然良いトコないよなぁ。こんなのでこれから先、戦っていけるんだか。

 何だかもう既に置いて行かれてしまっている感じがする。まどか達はもしかしたらあたしのことを見限って三人で仲良く魔女退治をしているんじゃないだろうか。そんな気がしてならない。

 

「……って何考えてんだよ! まどか達がそんなことするはずないじゃない!!」

 

 邪な考えを振り払って、少しでも前向きでいられるように別のことを頭に思い浮かべようとする。

 するとあたしの目の前に一人の少女が現れた。

 

 

 

「よぉ、アンタが美樹さやかかい?」

 

 

 

 見覚えのない子だ。同じ学校の生徒でもないみたいだし…取り敢えず何者なのか尋ねてみる。

 

「誰なの…アンタは…?」

 

「優木沙々。アンタの知り合いの仲間さ」

 

 沙々と名乗る少女は不気味な笑いを浮かべながら、こちらを見つめてくる。

 

「ふーん、知り合いねぇ…こんな回りくどいことしないで直接会いに来ればいいのに」

 

「それが出来たら苦労しないんだよね。なんてったってあまり表を歩けない身分でいるからねぇ」

 

「そんなにヤバイ奴なの? 誰なのさ」

 

 あたしの問いかけに沙々はニヤリと笑う。

 その表情を見た瞬間、背筋がゾッとする。

 何でだろう、聞いてはいけない質問をした。そんな予感がしてならない。

 急いで取り消そうとする。だけど沙々は、それよりも早くその名前を口にしてしまった。

 

 

 

 

 

「美国織莉子」

 

 

 

 

 

「ッ?!!」

 

 予感が確信に変わる。さっきコイツは美国織莉子の仲間と名乗っていた。ということは、まさか……!!

 あたしの結論が出る前に沙々は静かにこちらに歩み寄って手を差し出す。

 

「一緒に来てもらうよ。彼女の所へ…あっ、もちろん拒否権があると思うなよ」

 

 最後の脅しを聞いて思わず恐怖を抱いてしまう。逃げれたかもしれないけども、その感情のせいであたしは黙って彼女の後を付いて行くことしか出来なかった。

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★





※色んなキャラに視点が変わるから、もしかしたら読みずらいと感じるかもしれません。もしそのようなことがありましたら今後、話の構成にも工夫をしますので何なりと言ってください。


☆次回予告★

第28話 Kは誰の手に ~ 美国織莉子の影


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第28話 Kは誰の手に ~ 美国織莉子の影


※空前絶後のォ~、超絶怒濤の文字数ゥ!!
※今回の話は、適度な休憩をとりながらご覧なさってください。(約16000字)(予定通り再投稿しました)



 

第28話 Kは誰の手に ~ 美国織莉子の影

 

 

 

「……詳しく話を聞かせてもらおうか」

 

「今話した通りよ。10日後にこの街に最悪の魔女__ワルプルギスの夜がやって来る」

 

 ワルプルギスの夜。その名が出てきた瞬間、杏子の目が大きく見開かれる。

 

 歴史の中で語り継がれている伝説の魔女。

 彼女がもたらす被害は通常の魔女とは比較にもならないほど強大で、巨大な自然災害にも匹敵するレベルまである。

 

 しかし杏子は、そんな凶悪な魔女がこの場所に襲来することよりも別のことに反応した。

 

「そういうことを言ってんじゃねぇ。アタシが聞きたいのはどうしてアンタがそれを知っているかだ」

 

「……言えない」

 

 恐らく杏子なら私が時間を何度も巻き戻している事実を信じてくれるであろう。

 けど、やっぱり言うのに若干の抵抗がある。

 まどかには時間遡行のことを話したが、それは彼女が既にそれを知っていたから仕方がなく話したに過ぎない。

 

 誰の顔も見ないようにしていると、後ろにいたまどかが私の手をきゅっと掴み、ただ黙って私の顔を見つめてきた。

 批難しているのか、それとも呆れてるのだろうか…彼女の方を見ていたら杏子がわざとらしく咳払いした。

 

「ボケっとしているトコ悪いんだけど、アタシが素性の知れない奴なんかに手を貸すと思ってんのか?」

 

「……あなたの言うことは最もだわ。でも、あなた達の力が無かったら大変なことが起こってしまう」

 

「そうかもな。でもアタシらには関係ない。それに戦力なら十分足りてるんじゃねーか?」

 

「アイツに対抗するにはまだ足りない……」

 

「随分とアタシのことを買うねぇ。それにその言い草、まるでワルプルギスを知っているみたいだな……」

 

 杏子の疑いの目が更に強まる。

 彼女が仲間になってくれる可能性は極めて低い。しかしこちらもそう易々と引き下がれない。

 勝利を確実にするために何としてでも彼女を引き入れなければならないのだ。

 

 何か方法はないか…悩んでいると杏子が千歳ゆまを引っ張り、立ち去ろうとしていた。

 

「ワリィがいつまでもお前らと構っている暇はねぇんだ。アタシらにも用事があるからな」

 

「待って…まだ話は……」

 

「杏子ちゃん、待って!!」

 

 私が彼女達を呼び止めるより先に、まどかが二人の前に回り込んで行く手を塞ぐ。

 

「言ったろ、構っている暇はないんだってな」

 

 不機嫌な顔をしながら乱暴に言われて凄む杏子。しかしまどかは臆することはなかった。

 

「どうしたらわたし達に協力してくれるの?」

 

「だからな…アタシらは……」

 

「お願い!! 杏子ちゃん達の力がないとこの街の人達、みんな死んじゃうよ!!」

 

 その懇願を聞いて杏子の表情がガラリと変わる。

 早足にまどかの元へと歩いて、彼女の胸倉を掴みあげた。

 

「お前もアレか、誰かの為に魔法少女の力を使うっていう輩か。

 ったくこの街の魔法少女はバカばっかだな、そんな生き方をしているとどんな目に遭うのか全く分かっちゃいない」

 

「分かるよ」

 

「どうせつくならもっと分かりずらい嘘をつくんだな。知ってんだぜ、お前はキュゥベえと契約せずとも魔法少女になれるってことをな」

 

 杏子の腕の力が更に強くなる。

 この状態が続くとまどかに危険が加わる。そう不安に感じて止めようとする。

 

「佐倉さん。今すぐ鹿目さんから離れてくれないかしら」

 

 そんな声が流れてきたのは、その時だった。

 私達の所にゆっくりとその人物がやって来る。

 

「巴さん……」

 

「盗み聞きたぁ、趣味が悪いんじゃねぇんか?」

 

「それはこっちの台詞よ。一般人にまで危害を加えようとするなんて、あなたも相当落ちぶれたようね」

 

「あっ?」

 

 表情はお互いに普通だが、両者から漂う明確な敵意がひしひしと伝わって来る。

 何故、巴さんがここに? 思うことは色々とあるけども今はそんな暇なんてない。

 これまで温和な態度を取っていた千歳ゆまも今の彼女の言葉に怒りを露にする。

 まさに一触即発、急いで彼女達の間に割って入ろうとする。だけどその行動を起こすよりも早くまどかは動いた。

 胸倉を掴まれていた腕を振り払い、逆に彼女の手を握りしめた。

 

「何のつもりだ…?」

 

「ダメだよ、杏子ちゃん。マミさんも…魔法少女で戦うなんておかしいよ」

 

「黙れ、遊び感覚でこの世界に首を突っ込んでる奴はすっこんでろ」

 

「そもそも杏子ちゃんは何でそんなに怒ってるの?」

 

 その問いかけに杏子のこめかみ辺りがピクリと動く。これまで表に出さなかった怒りが徐々に表れてきているのが分かった。

 

「何で…だと? 決まってんだろ。

 いつ死ぬか分からない、そんなクソッタレな世界に自己満足の偽善の心を持ち込んでやって来るお前に腹が立ってるんだよ!!」

 

「私…に?」

 

「あなたの言う偽善の心は私にも当てはまるんじゃない? 鹿目さんだけじゃなくて私にもその気持ちをぶつけてみたらどうなの?」

 

「お前とはわけが違うだろうが!!

 コイツは魔女との命懸けの戦いを強いられることなく、自分の気分次第でいつでもそこから抜け出せるんだぞ…それなのに何も感じねぇのか?!」

 

 杏子の怒り方はこれまでの彼女からしては考えられないものだった。

 彼女は確かに正義の為に戦うという偽善者ぶった考え方をする人間を嫌う傾向がある。でも今の彼女からはそういったものがまるでない。まるで八つ当たりのように感じられる。

 そしてその怒りの矛先も単にまどかだけに向けられているとも思えない。

 

 その変わりように驚いていたのは巴さんも同じだった。

 

「どうしたの佐倉さん? あなたらしくもないわ」

 

「うるせぇ…マミお前だって自分から望んでこんな生き方を選んだわけじゃないだろ?」

 

「そ、それは……」

 

「だけどなぁ…お前はどうなんだ?

 甘ったれた正義感で命懸けの戦いに入って来て…アイツみたいな魔法少女を見ても、魔女と命を懸けて戦う覚悟があんのかよ!!」

 

「キョーコ……」

 

「…………」

 

 複雑な顔で事の成り行きを見守る千歳ゆま。その反応を見て、私は杏子が一体何に対して怒っているのかがようやく理解できた。

 一方で激昂する彼女を黙って見つめていたまどかは静かに口を開いた。

 

「あるよ」

 

「!!」

 

「鹿目さん…?」

 

 意外な発言に杏子はギロリとまどかを睨み付ける。しかしまどかは一切戸惑う素振りを見せないまま話を続けた。

 

「わたしはこれまでずっとある人に守られ続けていた。全てを捨てる覚悟を決めて……

 だけどもわたしはそれに気づかないまま生きてた。そんな自分の為に必死で頑張ってくれている人が一番近くに居たのにも関わらずに…」

 

「…………」

 

「でもね、この前ようやくそれに気が付いたんだ。

 確かに前のわたしは杏子の言うようなその甘ったれた正義感で魔女と戦っていたよ。

 けど、今はもう違う…もう誓ったんだ。同じようにわたしも全てを捨てて、その子と共に戦うって」

 

「……それはそいつに対する罪滅ぼしか?」

 

 杏子の問いかけに、まどかはゆっくりと首を横に振る。

 

「ううん…その子がわたしのことを大切に想ってくれているのと一緒で、わたしもその子のことを大切に想っているからだよ」

 

「何だよそれ…お前にとってそいつは何なんだよ…?」

 

相棒(パートナー)だよ。ねっ、ほむらちゃん?」

 

 その言葉を聞いて、目頭が一気に熱くなる。溢れんとする感情を抑えながら、私は頷いてみせた。

 

「どうしても守りたいんだ。ほむらちゃんの未来、ほむらちゃんの周りにいる大切な人達全員……」

 

「バッカじゃねぇの。受けた恩はどれほどのものかは分からないけども、その返済全てを終わらせるまでお前自身はどうすんだよ。

 全てを捨てるってそんなどこぞの正義のヒーローじゃないんだから、アタシから見りゃただの自己満足にしか見えないな」

 

「……その通りだね。わたしがこんなことしても、ほむらちゃんは絶対に認めないね。でもわたしはそれを止める気はない。

 これ以上、ほむらちゃんが不幸になるのは見たくない。苦しむのも、悩むのも嫌。そうじゃないとわたしは納得することが出来ないんだ」

 

「それならお前の周りは…? そいつには縁がなくても、お前にとって縁のある奴がいるよな。そんな奴はどうするんだ見捨てるのか?」

 

「勿論、助けるよ。わたしの周りの人達も全て。

 でもそれは正義のヒーローなんてカッコいいものじゃない、そうすることで自分が満足するから…他人の迷惑なんて考えずに自分勝手に助ける。それがわたしの戦う理由だよ」

 

 全てを話したまどかは溜め込んでいた力を抜いた。

 穏やかな表情に戻った彼女を見て、杏子は無言で頭を掻きむしって大きなため息をつく。

 

「……お前の言いたいことはよく分かったよ」

 

「ごめんね、長々と喋っちゃって」

 

「自分が満足する為に戦うってか…そういうのもまた魔法少女の生き方の一つなのかもな……」

 

「そう…? わたしは凄い欲張りさんだって思ったけど?」

 

 首を傾げるまどかに杏子はニッと笑ってみせた。

 

「それでいいだよ。魔法少女はみんな自分の為に戦って生きていくのが一番だ。

 お前はそれをよく分かっている…悪かったな何も知らないなんて言って……」

 

「優しいね、杏子ちゃんは」

 

「ふん、素直に間違いを認めただけだ」

 

 そっぽを向く杏子をまどかは楽しそうな顔で見つめている。

 二人の様子を見て、巴さんや千歳ゆまの雰囲気も穏やかなものに変わる。

 私は静かにまどかと杏子の所に歩いて行く。

 

「まどか」

 

「なぁに、ほむらちゃん?」

 

「ありがとう。私なんかの為に……」

 

「えへへ、いいんだよ。さっき言ったみたいに全部わたしの自己満足なんだから…寧ろごめんね、ほむらちゃんの迷惑を考えないで勝手なこと言っちゃって」

 

「そんなことない。凄く嬉しかったよ…まどか」

 

 お互いの顔を見つめ合っていると、そこへ杏子がニヤニヤしながらその光景を眺めていた。

 少し離れた場所にいる二人も私達を見る目がとても温かった。

 

「随分と仲がいいな。見てて微笑ましい限りだぜ」

 

「当然だよ。相棒(パートナー)だもん」

「当然よ。相棒(パートナー)なのだから」

 

 見事に声がハモったのを聞いて、杏子は盛大に笑い出した。

 

「はっはっは! こりゃ参ったわ。こんなん見せつけられたらたまんないな!!」

 

「別に見せつけてるわけじゃ……」

 

「う、うん。そうだよ……」

 

「……協力」

 

「「えっ?」」

 

「協力してやってもいいぜ。ワルプルギス討伐」

 

「「!!!」」

 

 その言葉にその場にいる全員が反応する。

 まどかは嬉しさのあまり声を震わせながら必死に聞き返す。

 

「ほ、本当に…?」

 

「あぁ、それでいいよな、ゆま?」

 

「うん!」

 

 躊躇うことなく満面の笑顔で頷く千歳ゆま。彼女も心の何処かで一緒に戦うことを決意してくれたのか、何にせよ仲間が増えることに心強いことに変わりはない。

 

「本当にいいの…? 杏子」

 

「二言はないさ。ただ問題はあっちの奴が受け入れてくれるかどうかだな」

 

「わ、私?!」

 

 いきなり振られて慌てふためる巴さん。そんな彼女にみんなからの視線が集中する。

 居心地悪そうに困った素振りをする彼女だったが、杏子と同じように深いため息をついて頷いた。

 

「ここで拒否したら私が悪者みたいじゃない」

 

「へっ、分かってんじゃん。じゃあ早速……」

 

 杏子が懐から三人分のお菓子を取り出して、皆の前に差し出した。

 

「くうかい?」

 

 それを受け取って共に笑顔を浮かべる。

 杏子は満足そうにした後に自分と千歳ゆまの分のお菓子を出した。

 

「それじゃ、話も纏まったことだし行きましょうか」

 

「あん? 行くってどこへ?」

 

「ゆっくりと話が出来る場所よ。それと一緒に話してあげる、私のこと…全部とはいかないけどね」

 

 さっきまで怖くて言えなかったことけども、まどかのお蔭で勇気をもらった。

 私も守って見せるわ、まどかと…彼女の愛する世界を全て……

 そして遂に私の心にも踏切がついた。この世界が最後だ、何が起ころうとも二度と諦めたりしない。私達全員の力で未来を切り開いてみせる!!

 

 私の言ったことにそこにいるほぼ全員が驚いた顔をする。だけどその中でまどかだけは嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 それから私達は今いる場所から近くの喫茶店へと移動した。

 ちなみに巴さんがここにやって来れた理由は、昼休みに偶然、私達の話を耳にしたらしい。

 それ本当かなのかどうか、疑わしかったけれども今はそんな些細なことを気にしていられない。

 

 彼女達にどういう風に私のことを話そうか…心の準備をしようと大きく深呼吸する。

 

「喫茶店なんて久しぶりにきたね、キョーコ」

 

「あぁ、そうだな」

 

「好きな物一つだけならおごってあげるわよ」

 

「マジか?!」

「ほんとう?!」

 

「ふふっ、私達と一緒に戦ってくれるお礼よ」

 

「やった!」

 

「勿論、鹿目さん達もよ」

 

「ありがとうございます。何だか初めて会ったときのことを思い出しますね」

 

「そうね」

 

「…………」

 

 緊張感の欠片もない四人の様子を見て、私は何とも言えない気持ちになる。

 

「あっ、ほむらちゃんはどれがいい?」

 

「……まどかと同じ物でいいわ」

 

 そんな会話をしている私達と反対側の席では、他の三人が楽しそうにメニューを眺めながら頼むものを選んでいた。

 まあ、思っていた以上に杏子達と友好的な関係を築けたことに今は喜んでおきましょうか。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、本題に入りましょうか」

 

「おっ、待ってました」

 

 私は全員の顔を見渡す。

 それを聞いて、杏子が皿に残ったケーキを頬張りながら不敵な笑みを見せる。

 

「遂に分かるのね、暁美さんのベールに包まれていた正体が」

 

「私は…未来から来た人間なの」

 

「「「…………!!」」」

 

 思っていた通りの反応をしているわね。

 どこまで信じてもらえるのかは分からないけど、そのまま話を続ける。

 

「魔女の強さや現れる場所、杏子達のことを知っていたのは全部それのお蔭よ」

 

「なーるほど、それならキュゥベえが契約した覚えがないっていうのも頷けるな。

 そんで、お前がアタシとの戦いのとき魔法を使わなかった理由も分かった」

 

「どうして魔法をつかわなかったの?」

 

「さっきほむらは未来から来たって言ったろ、コイツの魔法は時間に関係することにしか使えない。マミと違って実践向きじゃないってことさ」

 

 首を傾げる千歳ゆまに杏子が丁寧に説明する。半分正解、半分間違い…といった所かしら。

 この二人には信じてもらえた。後は……

 

「突拍子もない話だってことは思うかもしれないけども、これは嘘偽りない本当のことなの」

 

「マミさん。信じてください!」

 

 あれから全然喋らない巴さんに声をかける。

 まどかと一緒に頼み込んでいると彼女はゆっくりと顔を上げた。

 

「……何となくそうじゃないかって思っていたわ。

 低い戦闘能力を補える豊富な知識、普通の魔法少女であれほどの戦いなんて出来ないものね」

 

「アタシの動きを読んでいたのもそのせいか」

 

「嫌というほど手合わせされたからね、大体のことは挙動を見れば分かるわ」

 

「はっ、こりゃ敵に回したくないタイプだな」

 

「それとさっきのセリフから察するに鹿目さんもこのことを知っていたみたいね」

 

「はい。とはいっても、つい最近まで知らなかったですけど……」

 

「すごーい! じゃあ、お姉ちゃんたちはこれから起きること全部知ってるんだね!!」

 

「全部…というのは正確じゃないわね。どの時間軸も似たような出来事が起きたこともあるけども、一つたりとも同じ結末に至ったことはないわ」

 

 目を輝かせている千歳ゆまの発言に首を振ってみせる。

 すると杏子が何かに気付いたような反応をして、こちらを見つめた。

 

「……って待てよ。お前、今どの時間軸も…って言ったよな?」

 

「えぇ」

 

「もしかしてお前…過去に戻ったのって……」

 

「察しがよくて助かるわね。どの世界のあなたも」

 

「暁美さん。あなた…一体何度繰り返したの?」

 

 遅れて気付いた巴さんのした質問は、美国織莉子が私に対してしたものと同じものだった。

 

「さあね、数えるのも止めてしまったわ」

 

「「!!」」

 

 先程の告白なんかとは比較にならないくらいの驚きが二人の顔に表れる。

 発言と共にまどかも苦しそうに俯いていたが、再び話を続ける。

 

「私が過去に来た理由はただ一つ。これから起きる絶望の未来を…ある大切な人の未来を変える為よ、そしてその大切な人は……」

 

「みなまで言わなくても分かるよ」

 

「そうだね」

 

「一目瞭然よね」

 

 名前を言おうとした所で口を挟まれてしまう。

 それから三人は同時に私の隣に座っているまどかに向かって一斉に指をさす。

 

「まどかって奴の為だろ?」

「このお姉ちゃんのためでしょ?」

「鹿目さんの為よね?」

 

「「えっ?!」」

 

 どうして分かった? みたいな反応をしていたら全員が気付かないと思っていたのか、という顔で呆れていた。

 

「……ま、まあ私の話はこんなところよ」

 

「そう…苦労したのね、暁美さん。今まで迷惑ばかりかけてごめんなさい」

 

「気にしなくていいわ。信じろっていう方が難しい話だから」

 

「こりゃ、お前に対する評価も変えなくちゃいけねぇな。最初はただのバカかと思っていたけども、お前はそれ以上の底なしのバカだ」

 

「それは褒め言葉として受け取っていいかしら?」

 

「あぁ、鹿目まどかといいすっげぇコンビだよ」

 

「「コンビじゃなくて相棒(パートナー)だよ」」

 

 私とまどかは顔を見合わせて、得意げに言ってあげた。

 そのハモりに杏子は目を丸くする。それから隣にいる巴さんにそっと声をかけた。

 

「なあ、コイツらって…もしかして……」

 

「もしかしないのよ、今はまだ…ね」

 

「まだデキてねーのか?! あれで!!」

 

「残念ながら……」

 

「キョーコ。何の話ー?」

 

「お前にはまだ早い話だ」

 

「「??」」

 

 千歳ゆまは意味が分からず、まどかはどんな話をしているのかが分からなくて不思議な表情をする。

 何だかあらぬ誤解をされている気がするわね……

 

「それはともかくして色々と教えてくれてサンキューな。

 でも、こっち側だけ一方的ってのもアレだから、アタシらも話すとするよ。いいか、ゆま?」

 

「へーきだよ」

 

「佐倉さん。何を話してくれるのかしら?」

 

「アタシ達がこの街に来た理由とその経緯をさ」

 

「それって縄張り争いの為じゃなくて?」

 

 私の発言に杏子は頭を振る。

 イレギュラーな事態に驚いていると、巴さんが説明を入れてくれる。

 

「暁美さん達が駆けつけてくる前にその話はしたのだけど違うみたいなのよ」

 

「あぁ…アタシとゆまはある魔法少女を追ってこの街にやって来たんだ」

 

「ある魔法少女?」

 

 杏子の言う魔法少女について私は何となく見当が付いていた。そして同じくまどかも……

 

「杏子ちゃん。その人達って……」

 

「やっぱお前らとも接触してやがったか」

 

「えぇ、かなり危険な目に遭わされたわ__」

 

「こっちも同じだ。危うく死にかけた__」

 

「美国織莉子にね」

「美国織莉子にな」

 

 その名が出た瞬間、巴さんと千歳ゆまがビクッと体を動かす。

 巴さんの反応は仕方がない。恐怖心に付け込まれて彼女らの人形にされていたものね。

 きっと千歳ゆまも似たような目に遭わされたのでしょう。

 

「マミさん。大丈夫ですか…?」

 

「大丈夫…ちょっと嫌なことを思い出しただけだから」

 

「意外だな、お前がやられるなんて」

 

「ちょっと直前にトラウマになることが起こっちゃって」

 

 トラウマになること。言うまでもなくお菓子の魔女に殺されたことであろう。

 あの問題は巴さんは解決したと言っていたけど、やっぱりまだ罪悪感が残っている。

 

「もうそれは平気なのか?」

 

「一応ね…佐倉さん達はいつ頃に襲撃されたの?」

 

「最初にアイツらがやって来たのは10日前だったか、ある目的を達成するために協力して欲しいって頼まれた。

 理由とか色々と聞こうとしたんだが、一向に口を割らないモンだから断ったんだ。

 そしたらアイツらいきなり襲い掛かってきやがて苦戦はしたけど何とか切り抜けたんだ」

 

 偶然だろうか10日前と言えば、ちょうど巴さんが魔女に殺されかけた日と一致している。

 まさかあの段階から既に動いていたなんて……

 

「その後、キュゥベえに奴等について詳しく聞いてみたらよ。とんでもないことが分かった」

 

「とんでもないこと…?」

 

「何かしら…?」

 

 私は無言のままで次の言葉を待つ。

 そして杏子の口から衝撃的な事実が告げられた。

 

「奴等、見滝原や風見野周辺の魔法少女達にも同じようなことをしたらしくてよ、当然そんな怪しい誘いになんか誰も乗るはずがない。

 そしてその断った魔法少女は、奴等の手によって殺された。巷ではこのことを魔法少女狩りって呼ばれていたよ__」

 

「暁美さん。知ってた?」

 

「い、いいえ……」

 

 あまりのショックに口が上手く動かない。

 だけど一番ダメージが大きかったのはまどかだった。体を小刻みに震わせて、目尻に涙をためてて今にも泣き出しそうだった。

 

「酷いよ、どうして…何のために…?」

 

 何のために…勧誘は間違いなく私を殺すための戦力を整えるべく。

 そして殺すのは、恐らく報復を避ける為だろう。自分達の目的遂行の最中に邪魔が入られると厄介だし、勧誘を受けた魔法少女達が一丸となって襲い掛かられたら流石の彼女達もひとたまりもない。

 

 考えとしては正しいのかもしれないけども、明らかにそれは人道的な道を大きく外れた常軌を逸した行為だ。

 だが、杏子の話にはまだ続きがあった。

 

「__だが、ただ一人それから逃れた奴がいた……」

 

「誰なのその人は…?」

 

「優木沙々、アタシと同じく風見野を縄張りにしている魔法少女さ」

 

 全く聞き覚えの無い名前だ。

 それからただ一人を除いて…その言葉が意味することは大体察しがつく。

 

「そいつは美国織莉子の誘いに乗って協力する道を選んだのさ」

 

「その優木沙々という魔法少女について詳しく教えてくれないかしら?」

 

「お前、過去のことならある程度知ってるんじゃなかったのか?」

 

「残念ながらこの時間軸は美国織莉子達のお蔭でイレギュラーのてんこ盛りなのよ。

 だけどまさかここに来て新たな魔法少女が出てくるなんて……」

 

「しかも敵っていうね…佐倉さん。彼女の魔法とかって分かっていたりする?」

 

「前に一度、関わった程度だからな…でも奴はグリーフシードから魔女をわざと孵化させ使役して戦っていた。多分だが、奴の魔法は洗脳系の類だろう」

 

「せ、洗脳……」

 

 巴さんの顔色が悪くなる。これまでの出来事全てが綺麗に当てはまっていくわね。

 彼女が操られていたのも、その時期に限定して魔女の動きがおかしかったのも全部、優木沙々って奴の仕業なのね。

 

「そいつを仲間に引き入れた後、アイツらはまたアタシの元へやって来た。だけどそんな危険な奴等の仲間になる気なんて微塵もなかった。

 まあ当然、戦いになるわけだ。三対一で相当不利な戦いを強いられたよ、とんだ災難だよ__」

 

 今までやれやれと言った感じに喋っていた杏子だったが、徐々に口調が荒くなっていくのが分かった。それと共に千歳ゆまの顔も影も濃くなる。

 

「でも、一番の被害者はゆまだった……」

 

「「「えっ…?」」」

 

「戦いが激化していく中で優木沙々が操っていた魔女の内の一体が奴の管理から抜け出した。

 ゆまとその母親は偶然、その魔女の通り道を通っちまった。それを見ちまったアタシは急いで魔女の後を追ったが……

 だけど間に合わなかった…ゆまの母親はわけも分からないまま魔女に襲われて殺されて、残ったゆまは…生き残るためにキュゥベえと魔法少女の契約を結んだ」

 

 そこまで聞かされて、さっきの杏子の激昂の理由が分かった。

 彼女の横では千歳ゆまが悲し気な顔をしている。この子も巴さんと一緒の境遇に立たされていたのね…魔法少女になるかならないか、その選択の権利が与えられないまま強制的にこの世界に入ってしまった。

 

「じゃあ佐倉さん、あなたがこの街に来たのは……」

 

「ゆまを魔法少女の道へ引きずり込んだアイツらに借りを返すのと、それを止められなかったアタシ自身にけじめをつける為だ。

 そんなことをしてもゆまの人生は返ってこないが…それしかアタシには出来ないからな……」

 

「佐倉さん。あなた変わったわね……ううん、戻って来たかしら?」

 

「戻って来たって何だよ…?」

 

「昔、一緒に戦ってた頃のあなたによ。誰かの為に戦う魔法少女、私はカッコいいと思うわ」

 

「……そんな慰めなんていらねぇ」

 

「あっ、キョーコ照れてる!」

 

「バッ…照れてねーよ! 変なこと言うな!!」

 

 乱暴な言葉遣いだけども顔で台無しね。

 まどかも暗い顔をしていたけども、今のやり取りで少し元気を取り戻したみたいだ。

 

「もういいだろアタシの話は! ほむら。さっさと切り上げろ!!」

 

「はいはい。これからの方針は大体分かったわね。

 現状一番注意すべきことは美国織莉子、呉キリカ、優木沙々の三人。特にまどかや千歳ゆまは必ず私達の内の誰かが一緒にいなくちゃいけない」

 

「暁美さんと佐倉さんがいれば問題無しね」

 

「でもなるべくマミさんも一緒に居ましょうよ! やっぱり一人だと危ないですから」

 

「ありがとう。鹿目さん」

 

「取り込み中悪いけどよ、もう一人伝えとかなくちゃいけない奴がいるんじゃねーか?」

 

「それってさやかちゃんのこと?」

 

「ああ、あのボンクラにもしっかり言い聞かせとかなきゃ何しでかすか分かったモンじゃないだろ」

 

「佐倉さん。あまり彼女のことを悪く言わないで」

 

「別に悪いとは言ってねーさ、危なっかしい奴だって思ったからさ。念には念を…ってな」

 

「確かにさやかにはそういう一面もあるけれども、その真っ直ぐさが彼女の良いところなのよ」

 

 ほむらの言葉にマミも頷く。

 

「そうね。彼女のお蔭で私達もたくさん助けてもらったわ」

 

「随分と信頼してるんだな。アイツのこと」

 

「うん。だってさやかちゃんはわたし達の大切な友達で仲間だもの」

 

「……そっか」

 

 どこか寂しげな表情をしながら杏子は言う。

 まどかはそんな様子が少しだけ気になったが、まずはさやかに電話することが先だと思い、携帯を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り……

 

 美国織莉子の使いとして現れた優木沙々。

 さやかはそんな得体の知れない不気味な少女の後ろを黙って付いて行っていた。

 それから歩き始めて数分後、さやかの視界に塀に囲まれた屋敷が映り込んだ。その外見は周りの家々と比較しても段違いで、まるでその部分だけ別の世界から持ってきたようにも思える。

 屋敷に圧巻していると不意に前方を歩いていた沙々の足が止まる。

 

「着いたよ。ここが美国織莉子の家だ」

 

「えっ?」

 

「まあ、無理もないよね。私だって初めて見たときアンタとおんなじ顔をしていたし」

 

 ケラケラと愉快そうに笑いながら再び歩き出す。

 すると今度は屋敷とは違う意味で衝撃的なものをさやかは発見した。

 それは曲がり角を曲がった瞬間に現れた。

 

「何よ…これ……」

 

 目に入ったのは壁一面に書かれた落書きだった。

 落書きといっても近所の子どもがするような可愛らしいものなんかではない。書かれているのはこの家の住人に対する暴言の数々であまり口には出したくない強烈な言葉もあった。

 

「美国久臣って名前をどっかで聞いたことない?」

 

「それって確か前にニュースで出てた政治家の……」

 

「美国織莉子の父親なんだってね。そいつの失脚と自殺からあの人の環境が劇的に変化しちゃってこんな有様になってるんだって」

 

「…………」

 

 自分には全く関係のない話だと面倒そうに語る横でさやかは無言で塀を見つめていた。

 同情の眼差しを送っていることに沙々は気付いたが、敢えてそのことには突っ込まないでさやかを軽くどついた。

 

「ボーっとしてないでさっさと行くよ」

 

「……う、うん」

 

 塀を横切り、屋敷の門を抜けて進んでいく。

 扉を開けて中に入ると、織莉子が玄関の前で待ち構えていた。

 

「美国織莉子……」

 

「お帰りなさい優木さん。ちゃんと彼女を連れて来てくれたみたいね」

 

「まあね、って言ってもコイツに何の用があるの?」

 

「それは秘密。これから彼女と話すことがあるから優木さんは二階へ行っててくれないかしら?」

 

「またそうやって私を除け者にする。あの黒い奴と話すときもそうだよね」

 

 織莉子のお願いに沙々は不服そうにする。

 そんな彼女に織莉子は平坦な口調でこう答えた。

 

「あなたが聞いても全く得にならない話よ。どうしても聞きたいのなら同席しても構わないけど?」

 

「ふん、分かったよ」

 

「部屋に紅茶とお菓子を置いておいたから好きに食べてていいから」

 

「……礼は言わないからね」

 

 素っ気なくそう答えて階段を上がっていく。

 そんな彼女の後ろ姿を一瞥してから織莉子はさやかを見る。

 

「改めて…ようこそ美樹さやか。今日はあなたに話があって来てもらったの」

 

「アンタなんかと話すことなんか何もない」

 

「確かに私とキリカはあなた達のことを襲い、殺そうともした…そう警戒するのも無理もない。

 だけど知って欲しいのよ。どうして私達が何故こんなことをするのか…特にあなたにはね」

 

「あたしに?」

 

 その言葉に眉を寄せる。怪訝そうな目つきを向けられながら織莉子は理由を語り始める。

 

「暁美ほむらや鹿目まどかは論外として、巴マミは恐らくこの事実を話したらまともな精神でいられなくなってしまう。

 あなたくらいしかいないのよ私の話を聞いてしっかりと聞いてくれる人は……」

 

「…………」

 

「でも、まずは上がって頂戴。客人をこんな所で立ち話させるわけにもいかないからね」

 

 織莉子に促されるままにさやかは奥の部屋へと連れていかれる。

 いつ襲われてもいいように常に警戒を怠っていなかったさやかだったが、織莉子はそんな素振りを全く見せることはなかった。

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「…………」

 

 椅子に腰かけるやすぐに美国織莉子から紅茶を出される。

 もしかしたら毒を入れられているかもしれないと一瞬だけ警戒したけど、それはないと考え直してカップに口をつけた。

 マミさんの淹れる紅茶とは違った味だな…そう思っていると美国織莉子もあたしと同じように椅子に座った。

 

「まず最初に聞かせてくれないかしら、あなたは一体どこまで知っているのかしら?」

 

「何をさ…?」

 

「ソウルジェムの秘密、魔女の正体。それから暁美ほむらについてよ」

 

 後半の二つを聞いた瞬間、体に謎の悪感が走った。

 

 以前ソウルジェムの秘密については、ほむらに聞かされたけどその内容はかなり衝撃的なものだったことを覚えている。

 魔法少女として契約すると同時に魂をソウルジェムに変えられてしまう。

 これを上回る残酷なことなんてそんなにないだろうと勝手に思い込んでいた……

 

「そ、ソウルジェムのことなら知ってるけど……」

 

「あなたはソウルジェムが穢れで完全に濁り切ってしまったら何が起こると思う?」

 

「えっ、魔法が使えなくなる…でしょ?」

 

「30点。あながち間違いではないけど、実際は…濁り切ったソウルジェムはグリーフシードへと変化して私達、魔法少女は魔女になる」

 

「!!!」

 

 ふと、あたしはポケットから青色に光る自分の魂を取り出してみる。気のせいかソウルジェムの濁りが少しだけ増えたような気がした。

 

「で、出鱈目を言うな! そんな嘘なんかであたしを騙せるとでも…!!」

 

「嘘じゃないよ」

 

 声を荒げて反発しようとすると誰かがそれに被せるように話してきた。

 出来ればソイツの姿は二度と見たくなかった。

 

「キュゥベえ、アンタ何でここにいんのよ……」

 

「利害の一致さ。美国織莉子達の目的は僕にとっても都合がいいからね」

 

「つまり…あたし達を裏切ったのね」

 

「裏切る? 僕はあくまで君達、魔法少女にとっては中立の立場でいるつもりでいたけど」

 

「アンタね…!!」

 

「ムキになるだけ無駄よ、どうせ私達のこともただのエネルギー源としか思っていないのだろうし」

 

 胸倉を掴もうとするのを美国織莉子に制される。

 癪ではあったけど素直に言うことを聞いて、さっき彼女が言っていたあることについて尋ねる。

 

「で、今のエネルギー源って何のこと?」

 

「それについては彼の方がよく知ってるわ」

 

「やれやれ…じゃあ説明するよ。元々僕達は__」

 

 そこからしばらくの間、キュゥベえの話は続いた。

 現実味を全く帯びていなくてにわかには信じられなかったけれど、それが嘘であろうが本当だろうがコイツに対する印象は最底辺に位置づけられることに変わりはない。

 

「__ということなんだ。美樹さやか、君もこの宇宙の為に犠牲になるつもりがあるのならいつでも言ってくれて構わないからね」

 

「ふ、ふざけんな! そんなのあたし達には何も関係もないじゃない!!」

 

「広い視点で考えてみれば、君達にとっても有益なことじゃないか。何をそんなに怒っているんだい?」

 

「もうあなたは黙ってなさい」

 

「酷いなぁ」

 

「美樹さやか。今の話を理解したという体でもう一つ話さなくてはならないことがある」

 

「……何よ」

 

「暁美ほむらについてよ」

 

「!!」

 

 魔女のインパクトが大き過ぎてすっかり忘れていたけど、一緒に美国織莉子はほむらについても何か言おうとしていた。

 ゆっくりと後ろに下がっていくキュゥベえを視界から外して、彼女と向き合う。

 

「私達がこうしてあなた達を襲っているのはしっかりとした理由がある。それは世界を守る為よ」

 

「世界を…守る…?」

 

「そう、世界の全てを滅ぼすほどの強大な力を持った怪物がいつかこの地に現れる。私の予知がそれを教えてくれた」

 

「予知……」

 

「暁美ほむらから聞いているのでしょう?」

 

「初めは何かの間違いだと思っていた。だけど次第に予知は鮮明になって、よりその怪物の恐ろしさを感じさせられた。

 私とキリカはその怪物を倒す手がかりを掴むのと同時に共に戦ってくれる仲間を探した。でもそう簡単にはいかなかった。

 まずその怪物自体が何者なのかすらも分からなかったし、仲間になろうとする魔法少女もいなかった。それどころか逆に目をつけられて命を狙われ続けるなんてこともあったわ。

 ところがある日、私達を襲ってきたある魔法少女が魔力を尽きさせて突然苦しみ始めた」

 

「…………」

 

「残念なことにその魔法少女の犠牲によってようやく私達は真相に近づくことが出来た。

 それからキュゥベえを捕まえて魔法少女の全てを語らせて怪物の正体を遂に見つけた……」

 

「それって…もしかして……」

 

 頭が悪いと自覚しているあたしでもここまで来ると流石に分かってしまう。

 

「暁美ほむらよ。彼女の存在はいずれ、世界を滅ぼす…そう予知は教えてくれた」

 

「そんな……」

 

「残念だけど、これは紛れもない真実よ。それからある魔女結界で彼女の姿を発見して、私達は暗殺の機会を伺っていた。

 そして決行したのが…後はあなた達も知っての通りよ」

 

「どうして襲う前に話そうとしなかったんだよ? ほむらならきっと話くらいは聞いてくれるんじゃ……」

 

「あなたは突然見知らぬ人間に『あなたは世界を滅ぼす怪物になるから死んでくれ』なんて言われたらどうする?」

 

「それは……」

 

「仮に信じて貰えたにしても、潔く暁美ほむらが命を差し出すとでも?」

 

「じゃ、じゃあ殺さずに世界を救う別の方法を探せばいいじゃないか」

 

「言うのは易し行うは難しよ」

 

「何でだよ! ソウルジェムを濁らせて魔女にさせないようにすればいいだけでしょ?!」

 

 さっきの話からだと、怪物の正体は魔女となったほむらだろう、あたしはそう解釈していた。

 でも実際はそれ以上にもっと複雑な事態だということをすぐに思い知らされた。

 

「魔女の強さはその魔法少女自身の強さに比例する。暁美ほむらが魔女になったところでもたらされる被害は微々たるものよ」

 

「……どういうこと?」

 

「彼女は魔女よりももっと恐ろしいものに変貌できる。その力の片鱗はあなたも見たはずよ」

 

 魔女よりももっと恐ろしいもの…そう言われて咄嗟に浮かんだのは、二日前に見たあの怪物だった。

 たしかあの時は、ほむらがあたしのソウルジェムを持ってきてくれて、美国織莉子達と対峙して、それから……

 

「ちょっと待ってよ。アンタ達と戦った時にほむらは自分のソウルジェムを砕いていたよね…?」

 

「やっと気付いたようね。本来ならソウルジェムが破壊されたら、持ち主の魔法少女は死に至る。

 でも、暁美ほむらは違った…ソウルジェムを砕いた瞬間、彼女の魂の入れ物は別の物に変化したの」

 

「別の物って…?」

 

「それは私にもキュゥベえにも分からない。だけどその変化が終わって、気が付いたら…予知に出てきたあの怪物が目の前に現れていた」

 

「…………」

 

「後はこの前に見た通りよ。圧倒的な力で私とキリカはやられて、鹿目まどかのお蔭で暁美ほむらは元の姿に戻れた」

 

「元に戻れたんだったら、もう心配する必要はないんじゃ……」

 

「残念だけど今は一時的に元に戻れているに過ぎないわ。このままだといずれ、またあの怪物が覚醒する。

 その証拠に佐倉杏子との戦いで彼女は何故か変身を強制的に解かれていたでしょう? あくまでこれは私の推測に過ぎないけど、あれは怪物としての覚醒が進行しているせいで起きたもの」

 

「何でそう言い切れる…?」

 

「ソウルジェムが濁る=魔法を使えなくなる。これは魔女化が進行しているのと同じこと。

 暁美ほむらの場合だと…怪物化の進行=魔法を使えなくなる。彼女は魔法少女になる為の魔法すらも使えなくなっているのでは…? ということよ」

 

「そっか…」

 

 ややこしい話だったけど、大体は理解できた…つもりでいる。

 もし美国織莉子の予想が正しいとすれば、ほむらはまたいずれあの怪物に……

 

「な、何か方法はないの?!」

 

「分からないわ」

 

「キュゥベえ、アンタも黙ってないで何か言いなさいよ!!」

 

「黙ってろと言われたり、喋ろと言われたり…君達は本当に理不尽だね」

 

「つべこべ言うな!」

 

「はいはい…結論から言うと解決策は今の所はない。でも、暁美ほむらの怪物化を遅らせることは可能だ」

 

 その言葉を聞いて、あたしと美国織莉子は同時に目を見開く。

 キュゥベえはあたし達の顔をそれぞれ見た後、怪物化を遅らせる方法を語った。

 

「簡単なことさ。美国織莉子が言ったようにあの怪物が魔女と同じシステムで成り立っているのなら、魔女にならないするのと一緒で魔力を使わせたり、精神的なストレスを与えないようにすればいい」

 

「つまり、暁美ほむらをこれ以上戦わせないようにすればいいってこと?」

 

「やった! これで何とかなるんだ!!」

 

「それはどうかな?」

 

 誰かが横からあたしの喜びに水を刺す。

 声のする方を見ると、いつの間に居たのか呉キリカが扉に背中をつけてそこに立っていた。

 

「キリカ。いつから居たの?」

 

「丁度戻ってきたところさ。それで詳しくは聞いてないけど、たとえ暁美ほむらを戦わせないようにしても、結局は解決策が無かったら殺すんだろ? ならさっさと殺っちまった方が楽でいいじゃん」

 

「なっ…!!」

 

 その言葉にカッとなって、呉キリカの肩を掴む。

 だけど呉キリカは冷静な表情のままであたしの腕に手をかけた。

 

「よく考えてみろよ。お前がしようとしているのは、たった一人救うのにこの世界全ての人間を見殺しにしているのと同じことなんだよ?

 暁美ほむらはお前にとってそこまでして守りたい奴なのか?」

 

「くっ…な、何でアンタ達は諦めてんのさ……きっと何かあるはずだ! 誰も死なずに済む方法が!!」

 

「はぁ…佐倉杏子との話を聞いていた時から思っていたけどさ、お前って本当に青いな。

 頭だけかと思いきや、中身まで真っ青だ」

 

「何だと?!!」

 

「止めなさい。キリカ」

 

 挑発する呉キリカを美国織莉子が抑える。

 そして彼女はあたしの方を見て、こんなことを言ってきた。

 

「美樹さやか。そこまであなたがそこまで言うのなら、少しだけ時間をあげます。

 あなたのやり方で暁美ほむらを救ってみなさい」

 

「織莉子…?」

 

「どういうつもり…?」

 

「言葉通りよ。あなたの言う誰も死なずに済む方法は私達では見つけられなかった…けど、あなたならそれを見つけられるかもしれないって思っただけよ」

 

 多分だけどコイツはそんなことは考えていない。

 でも、いずれにせよ好都合だった。

 

「分かった。でも、一つだけ約束して」

 

「何かしら?」

 

「ほむらが怪物になるまでの間はアンタ達は絶対にアイツに手を出すな。上にいる優木沙々もね!!」

 

「……約束する。それとあなたの為に私からアドバイスを送るわ。

 このことは誰にも話さないことをおすすめするわ。それは暁美ほむらも同じ、下手にショックを与えてしまうのもマズいからね」

 

「どうするかはあたしが決める」

 

 美国織莉子にそう言って、あたしは席から立ち上がって、後ろを振り返らずにそのまま屋敷から出ていった。

 

 

 

 

 

 

「あーあ、本当によかったのかい? あんな約束しちゃって?」

 

 織莉子が新しく淹れた紅茶を飲みながらキリカが不満そうに言う。

 

「いいのよ。こうしておけば彼女も必然的に私達に協力せざるを得なくなる。

 少しくらいは希望を抱いてもいいじゃない……」

 

「織莉子…?」

 

 最後の方だけ少しだけ声のトーンが落ちたことにキリカは不思議に思う。

 それについて聞こうとする前に上の方からドタドタと階段を降りてくる音が聞こえてきて、空になった皿とカップを持って沙々が部屋に入って来た。

 

「話終わったー? げっ…もう帰ってきたのか」

 

「ここは元々、私と織莉子の家だぞ。不満か?」

 

「大いに不満ですぅー。あなたが居なかったら美国織莉子は簡単に私のものに出来るのに」

 

 爆弾発言に近い言葉に織莉子は動揺する。

 それを見たキリカは声を荒げながら沙々を睨み付けた。

 

「ちょっ…優木さん?!」

 

「どうぜコイツのことだ。あの時みたいに君を操り人形にするくらいしか考えてなんだろ?!」

 

「さあー、どうでしょうかぁー?」

 

「ぐぐぐ…前々から思っていたけど、やっぱお前はここで殺す!!」

 

 魔法少女の姿になって鉤爪を構えるキリカ。

 それを見ても、沙々はおどけた態度を変えないで更に煽り立てる。

 

「きゃーこわーい(棒)」

 

「待てや、コラー!!」

 

「……二人ともなるべく早く帰ってきなさいよー」

 

 外へと出ていく二人の後ろ姿を見ながら、織莉子はそう告げる。

 彼女の様子からして、キリカと沙々の争いはもう慣れている雰囲気みたいだ。

 

「はぁ……」

 

「美国織莉子。一つ聞いてもいいかい?」

 

「何かしら…?」

 

 屋敷に戻って織莉子が一人ため息をついていると、キュゥベえが声をかけてくる。

 織莉子に億劫そうに見つめられるキュゥベえだったが、そんなことを全く気にしてはいなかった。

 

「さっき美樹さやかにしていた話だけど、どうして優木沙々にも一緒に伝えなかったんだい? 彼女だって君達の仲間なんだろう?」

 

「…………」

 

「何か理由があるのかい?」

 

「……彼女はあくまで協力者に過ぎないわ。そこまで深入りさせる必要はないからよ」

 

「ふぅん」

 

 自分の胸の内を悟られないように答える織莉子にキュゥベえは素っ気なく返事をする。

 そして織莉子に背を向けて、最後にこう言い残して彼女の目の前から姿を消した。

 

「いずれにきても僕は期待しているよ。君がこの宇宙を救ってくれるってね」

 

「…………」

 

 織莉子は無言のまま、キュゥベえがすり抜けていった壁をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 美国織莉子の屋敷を出た後、あたしの携帯に着信が入った。相手はまどかだった。

 

「もしもし、まどか」

 

『さやかちゃん。大丈夫?!』

 

「うおっ、いきなりどうしたのさ?」

 

 通話ボタンを押すやいなや、大音量で話しかけられたので思わず携帯を落っことしそうになる。

 えらく焦っててるけど、何かあったのかな?

 

『マミさんから聞いたら、さやかちゃん一人で帰っちゃったみたいだから心配になっちゃって……』

 

「おっ、心配してくれたのかー。さっすがあたしの嫁だねー」

 

『もう…さやかちゃんたら…でも何ともなくてよかった』

 

『まどか。変わってもらっていいかしら?』

 

 からかいはしたけども、純粋にあたしのことを心配してくれたのは少しだけ嬉しかった。

 すると今度は通話相手が切り替わって、ほむらの声が聞こえてきた。

 その声を聞いた瞬間、あたしの体が一気に冷たくなる。

 

『さやか、無事なようで何よりだわ』

 

「ほむら…アンタの方こそ大丈夫なの?」

 

『?』

 

 ほむらの声を聞いてしまうと、どうしてもさっき美国織莉子と話したことが思い浮かんでしまう。

 あたしなりに考えたけども、あの話はやっぱり誰にも伝えるべきじゃない。

 

『私は平気よ。そっちも何ともない?』

 

 嘘だよね? そう言いたくなる気持ちを抑えながら、喉の奥から別の言葉を必死に絞り出した。

 

「うん…大丈夫だよ……」

 

 今の一言で、ほむらとの距離が大きく離れたような気がする。胸にチクリと刺す痛みと同時に自分のソウルジェムがまた少し濁ったように感じた。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※こういったことはない……と思うのでこれからもよろしくお願いします(笑)

※マギアレコード5月にリリース決定しましたね。まだ1ヶ月ほどあるけども今から待ち遠しいです♪


☆次回予告★


第29話 Rなんてしたくない ~ 逡巡する思い


※次回もお楽しみにッ!!


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第29話 Rなんてしたくない ~ 逡巡する想い


※皆様、超絶お久しぶりです!!
※一ヶ月以上も待たせてしまって、本当に申し訳ありませんでした!!
※新生活に慣れるのにかなりの時間を要しました……

※さて…前置きはこのくらいにして、マギクロ最新話をどうぞッ!!


 

 

 衝撃の事実を知ってから一夜が明け、一つの志を胸に今日こうして学校へやってきた。

 それはこれ以上、ほむらを戦わせないようにすること。

 本当ならすぐにでも説得出来ればいいんだけど……

 

「はぁ……」

 

 あたしは教室の窓から外の景色を眺めながら深いため息をついた。

 なんでだろう…昨日からほむらの姿どころか声すらもまともに聞くことが出来なくなっている。

 いつもの待ち合わせ場所で待っていられなくなって、こうして人がほとんどいない教室でただ茫然としているだけ。

 今頃、まどか達は不思議に思ってるだろうな……

 

「さやかさん?」

 

「うぇっ?!」

 

 なんてことを考えていると不意に後ろから声をかけられた。

 意識がそっちのけだったから思わず、ヘンテコな叫び声をあげてしまう。

 あたしに話しかけてきたのは仁美だった。

 

「こんな朝早くに珍しいですわね」

 

「えっ…そ、そうかな? 仁美こそどうして学校に?」

 

「委員会の用事があって早めに登校しなくてはいけなくて…確か連絡はしていたはずでしたけど……?」

 

 いつもは欠かさず朝のメールのチェックをしていたけども、毎朝の習慣を忘れてしまうくらい今のあたしには心の余裕がなかったみたいだ。

 

「あはは…ごめんごめん。携帯見るの忘れてたわ。急いでたから~」

 

「そうなんですか、もう用事は済みましたの?」

 

「も、勿論! だから特にすることがないからここで黄昏ていたわけ」

 

「さやかさん。黄昏るの使い方、間違ってますよ」

 

「こ、細かいことはいいんだよ!」

 

「よかった。いつも通りのさやかさんで安心しましたわ」

 

「安心したってどうして?」

 

 ホッとしているその様子に疑問を抱く。それに仁美は不安気な顔であたしのことを見つめて答えた。

 

「だって…さっきのさやかさん、とっても怖い顔をしていらしたから。

 何かあったんじゃないかって心配だったんです」

 

「!!」

 

 その言葉が胸に深く突き刺さる。

 自分の内に留めておくつもりだったのに、それどころか全く関係のない仁美を心配させてしまうなんて…今度から気をつけないと……

 

「あっ、上條君……」

 

「えっ?!」

 

 仁美の言葉に反射的に振り返ってみると、松葉杖を使って廊下を頑張って歩いている恭介の姿があった。

 よかった…もう退院出来たんだ。

 心の中でホッと安心していると、ふと恭介がこちらに気付いて目があってしまう。

 

「さやかさん。上條君のところへ行ってあげたらどうでしょうか?」

 

「う、うん……」

 

 仁美に促されて、教室を出ていく。

 それに気づいた恭介はふらふらと危なげな動きをしながら、あたしの所へ向かった。

 

「やあ、さやか…久しぶりだね……」

 

 数日ぶりの再会になんて言葉をかけようかと悩んでいたら、向こうの方から話しかけてきてくれた。

 

「そ、そうだね。退院おめでとう。調子はどうなの?」

 

「あれからかなり良くなったよ。前は立つことすら難しかったのに、こうしてまた学校に来られるなんて夢みたいだ」

 

「よかった…うん、本当によかった!」

 

 以前、病院で会った時とは違って、明るく楽しそうに振る舞う恭介を見ると、こっちも嬉しく感じる。

 この時あたしは初めて魔法少女になって良かったと思った。

 これまでずっと迷惑ばかりかけていたから…誰の役にも立てなかったから……

 

「さやか…僕、ずっと君に謝りたかったんだ」

 

「えっ?」

 

「ずっとお見舞いに来てくれていたのに、あんな酷いことを言ったから」

 

「い、いいんだよ別に。あれくらいこと全然気にしてないし……」

 

「でもずっと心残りだったんだ。いつか謝ろうと思ってはいたんだけど、中々言い出せなくて…それに君も病院に来なくなって……」

 

「恭介……」

 

 確かに契約をしてからずっと色々なことがあり過ぎて、お見舞いに行く余裕もなかったね。

 ちょっとだけ申し訳ないと思いながらも、あたしは恭介に笑顔を見せる。

 

「もういいじゃん、過ぎたことなんだしさ。あたしは恭介が元気になってくれるのが一番なの! だから、そんな顔しないで」

 

「ありがとう、ふふっ……」

 

「どうしたの?」

 

「前に奇跡も魔法もあるって言ってくれたよね。その通りだなって。

 僕これからまたバイオリンを頑張ろうと思う。僕の身に起こった奇跡、それを精一杯いかして、お世話になった人達みんなに恩返ししてあげたいんだ。

 勿論、さやかにも…だからまたステージで演奏をするとき、是非見に来てくれないかな?」

 

「うん! ちゃんとした演奏聞かせてよね、期待してるよ」

 

「ははっ、参ったな…これからもっと頑張らなくちゃいけないね」

 

 そうだ。恭介だけじゃなくて、あたしも頑張らないと…恭介の未来、大切な人達の未来を守る為に……

 誰も悲しい思いをしないような結末に…あたしが変えるんだ!!

 

 

 

第29話 R(regret)なんてしたくない ~ 逡巡する思い

 

 

 

 それからしばらくして昼休み。さやかは屋上へ行き、テレパシーでマミを呼び出した。

 マミは連絡をしてからすぐにやって来た。

 

「美樹さん。話したいことって何かしら?」

 

「一つ聞いていいですか…ほむらについてですけど……」

 

「暁美さん? そういえばさっき会ったときに聞いたけど、彼女と何かあったの?

 何だか今朝からずっと避けられ続けているって言っていたけど……」

 

「いえ…大したことじゃないから大丈夫です」

 

 さやか自身そんなつもりではなかったが、無意識に行っていたみたいだ。

 笑って誤魔化し、もうこれ以上に言及されないように急いで要件を彼女に伝える。

 

「最近のほむら、マミさんから見てどう思いますか?」

 

「どういうこと?」

 

「恐ろしい怪物に姿が変わったり、魔法少女に急に変身できなくなったり…普通じゃないと思うんです」

 

「まあ…確かにそんなこと今まで一度もなかったわね」

 

「あたし、そのことでずっと考えていたんです。これ以上、ほむらを戦わせちゃダメだって」

 

「…………」

 

 マミは黙って話を聞く姿勢を続ける。

 

「あんな状態のまま戦い続けていたら、いつか取り返しのつかないことが起こりそうな気がするんです。

 もしそうしたら、マミさんにかかる負担も大きくなりますけど…でも、あたしも頑張りますから!!」

 

「美樹さん。あなたが暁美さんのことを心配する気持ちは分かるけど、それは私達がどうこう決める問題ではないわ」

 

「なっ……」

 

 意外な発言に思わず絶句する。さやかには自分の提案をマミなら聞き入れてくれるという確信があった。

 しかし、ほむらから魔法少女として戦う覚悟を聞かされた今の彼女は頷くことは出来なかった。

 

「私はね…暁美さん自身がどうするかが大事だと思ってるの」

 

「マミさん。どうして……」

 

「詳しくは本人から聞いた方が早いと思うわ。それと美樹さん、一つだけいいかしら?」

 

「は、はい。何ですか?」

 

「あまり無理をし過ぎないようにね。何だかずっと一人で思い詰めているみたいだから……」

 

「そ、そうですか?!」

 

 今朝の仁美のときと似たようなことを言われて、動揺を露わにしてしまう。

 だが、マミはそんな挙動を気にしないまま優しい表情をさやかに向ける。

 

「困っていることがあるのなら何でも相談に乗って頂戴。

 情けない姿を何回か見せちゃっているけど、一応は先輩なんだから」

 

「ありがとうございます。マミさん……」

 

「じゃあまた後でね」

 

 マミはそう言って屋上を後にする。

 彼女なりの気遣いをしたつもりではいたが、その思いはさやかには届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 さやかの様子がおかしい。

 私がそれに気づいたのは朝、教室で会ったときから。

 何故か私にだけそっぽを向けて、話しかけてもどこかそっけない。

 まどか達に何かあったのかと聞かれてけども心当たりは全くなかった。

 

 モヤモヤした気持ちを抱えながら下校の準備をする。さやかに呼びされたのはそんな時だった。

 教室には私とさやか、そしてまどか以外には誰もいない。

 

「さやか。話って何かしら?」

 

「あのさ…それよりも今日は何かごめん。あたし感じ悪かったよね……」

 

「別に気にしてはいないわ。それよりもあなたの方が気がかりだったわ」

 

「あはは…ここでデレてもらってもどう反応すればいいか困っちゃうな……」

 

「さやかちゃん、大丈夫? 顔色悪いよ?」

 

「へーきへーき。それよりもさ、ほむらアンタにどうしても話しておきたいことがあるんだけど」

 

「私に…?」

 

 話しておきたいことって一体何かしら?

 よく分からないけども、折角だからこの機会にさやかにも話しましょうか。私の秘密、時間遡行についてを。

 

「ほむらさ、最近自分の体がおかしいって感じない?」

 

「……どういうこと?」

 

「前にあたしが佐倉杏子に気絶させられていた時、魔法少女の変身がいきなり解かれたそうじゃん」

 

「そうだけど……」

 

 まどかか巴さんに聞いたのかしら?

 チラリと後ろを向くと、まどかが無言で頷いていた。どうやら話したのは彼女みたいね。

 あの現象は何だったのかはまだ分かっていないけども、今の私にとっては些細な問題だったに過ぎない。でもさやかは違っていた。

 

「ほむら、アンタはもう戦うべきじゃないって思うんだ」

 

「えっ?」

 

「さやかちゃん、それってどういう……」

 

「いつ変身が解かれるか分かんない不安定なままで戦うのは危険だからさ」

 

「…………」

 

「それに美国織莉子との戦いの傷もまだ完全には治っていないんでしょ?」

 

「そうだけど……」

 

「魔女やグリーフシードのことはあたしとマミさんで何とかするからさ」

 

「でも、さやかちゃん……」

 

「大丈夫。このことはマミさんにもあらかじめ話してあるから、だから……」

 

 確かにここしばらくは安息の時は全くと言っていいほどなかった。

 今の私の体には凄まじいほどのダメージと傷跡が残っている。おまけに悪魔化のせいでいつまた暴走するか分からない時限爆弾に近い存在だ。

 さやかの言う通り、もう私は戦うべきではないのかもしれない。けど……

 

 

 

 あの子の幸せの為なら、こんな呪いどうってことない。一生解かれることがなくても構いはしない。

 

 

 

 別の世界の自分に対して言ったあの誓いを嘘にはしたくはない。

 それにこの世界は自分に起こっている現象を除けば、これまでの時間軸では最高と言っても過言じゃないくらい上手く事が進んでいる。

 巴さん、さやか、杏子、千歳ゆま…そしてまどか。みんな苦しみながらも必死に戦っていた…なのに私だけ逃げることは許されるのだろうか、いやそんなはずはない。

 

「心配しないでさやか、そこまで気を遣ってくれなくてもいいのよ」

 

「でも……」

 

「この程度の苦しみ、これまでの時間軸で味わってきたものに比べたらどうってことない」

 

「時間…軸…? それって、どういう?」

 

「あなたにも全てを話すわ。私がこれまで辿ってきた軌跡を……」

 

 それから私は巴さんや杏子の時と同じように全てを明かした。

 さやかの反応は二人の時と同じだったけど、どこかショックを受けているようにも見えた。

 

「そんな…噓だよね?」

 

「本当よ。だから私は普通なら知らないような魔法少女の秘密も知っていた」

 

「だ、だったら尚更じゃん! アンタは十分これまで頑張って来たんだからこれ以上、無理しなくたっていいでしょ?!」

 

「そういうわけにはいかないわ。これは私自身との決着でもあるの。

 今回の時間軸は今まで前例がないくらい上手くいっている。このチャンス…何としても逃すわけにはいかない」

 

「それでもアンタが倒れちゃったら本末転倒だよ!」

 

 さやかの言うことは正しいのかもしれない。でも、私はまだ残されている希望に全てをかけたい。

 みんなが幸せになれる結末を掴むためにも。

 

「私はもう倒れたりしない、この残酷な運命に打ち勝つまでは…絶対に」

 

「で、でも……」

 

 その時、間にまどかが入ってとある質問した。

 

「ねえ、さやかちゃん。どうしてそこまで必死になってほむらちゃんを戦わせたくないの?」

 

 彼女としては何の意図もない素朴な疑問だったのだろう。

 けど、それを聞いた瞬間、さやかは目の色を変えてまどかに掴みかかった。

 

「どうしてだって?! アンタは心配じゃないの…自分の相棒(パートナー)がとんでもないことになっているかもしれないのに?!!」

 

「く、苦しいよ…さやかちゃん……」

 

「さやか、止めなさい!!」

 

 咄嗟の出来事だったせいで、私はまどかに掴みかかるさやかを思いっきり突き飛ばしてしまう。

 その後すぐに我に返って自分が今、何をしたのかに気付く。

 

「ごめんなさい。私、つい……」

 

「い、いいんだよ。あたしもどうかしてた…まどか、大丈夫?」

 

「うん……」

 

 それぞれ謝りはしたけども、辺りには重苦しい空気が漂っていた。

 沈黙が少しの間だけ続いていたが、それをまどかが破って再びさやかに尋ねた。

 

「さやかちゃん。何で今日はそんなに怖い顔をしているの?」

 

「な、何でってそれは……」

 

「もし、わたしとほむらちゃんでよかったら相談に乗るよ?」

 

「それは……」

 

 戸惑うさやか、私達は彼女が事情を話してくれるのをじっと待った。

 だけどそれは唐突な乱入者によって中断せざるを得なくなってしまう。

 

「この反応は…!!」

 

「どうしたの、ほむら?」

 

「魔女…だよね?」

 

 確かめるように聞くまどかにコクリと頷く。

 さやかはまだ慣れていないのか、上手く発見することが出来ていないみたいだ。

 

「魔女だって? 一体どこに?!」

 

「こっちよ。二人ともついてきて」

 

 荷物を持って、教室を飛び出す。まどかとさやかもその後に続く。

 

 

 

 この時、私は大きな過ちを犯した。

 目の前にある希望を追いすがっていたせいで、魔法少女の世界の厳しさを軽んじていた。

 さやかの必死の警告、それをしっかりと聞いてさえいれば『それ』は避けられたかもしれないのに……

 

 

 

 

 

 

 三人は結界を見つけ、中を進んでいく。

 結界内は不思議なことに色が存在せずに白と黒だけがそこにあった。

 やがて魔女の部屋へと辿り着いて、その扉を開ける。

 そこにはまるで神に祈りを捧げるように膝をつく魔女がいた。

 

 影の魔女。その性質は独善。

 

 ほむらはこの魔女には覚えがあった。

 かつての時間軸では、自暴自棄に陥ったさやかによって倒されていたが、その力は強大で普通の魔女よりも高い戦闘力を誇っている。

 

「この魔女はかなり強力よ。まどか、油断しないで」

 

「うん!!」

 

 指輪をまどかに手渡そうと腕を伸ばす。

 しかしそれをさやかは制した。

 

「待って…言ったでしょ? ほむら、アンタはこれ以上戦っちゃいけないって」

 

「さやか! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?!」

 

「そうだよ! ここはみんなで協力しないと!」

 

「大丈夫。あたし一人でも十分に戦える」

 

 二人の言うことにさやかはただ笑ってみせる。

 無謀としか思えない行動にほむらは引き留めようとするが、それよりも早くさやかは飛び出してしまった。

 

 自らの危機を察知した影の魔女は、背中から枝状の触手を生やしてさやかへ襲い掛かる。

 

「でやあぁぁぁ!!!」

 

 向かってくる無数の触手を剣で切り裂き、徐々に距離を詰めていく。

 それと共に攻撃も激しくなり、さやかは二本目の剣を召喚して更に近づく。

 しかしそんな真正面からのゴリ押しなど通用するはずもなく、触手に足を取られてさやかの動きがストップしてしまう。

 

「なっ…?!」

 

「さやかちゃん!!」

 

「早く脱出を…!!」

 

 二人の叫びがこだまするが、もう遅い。

 さやかを完全に捉えた触手は、彼女を押し殺そうと一ヶ所へと集結していく。

 

「ぐっ…あああああ……!!」

 

 必死に抵抗するも触手の力はどんどん強まっていくばかりで、為す術がなかった。

 だが、さやかも力を振り絞って負けじと剣を触手に突きつける。

 

「やめて…もうやめて!!」

 

「くっ…まどか。変身するわよ!!」

 

「ダメだッ!! 変身するなッ!!!」

 

 声を張り上げて、二人の変身を止める。

 この魔女にこれ以上やられていたら、ほむらはまた戦うことになってしまう。

 さやかはもうなり構っていられなかった。

 

「まだだ…あたしは……負けない!!」

 

 奥の手の痛覚遮断を使い、さやかを取り巻く触手を斬り払う。

 そしてもう一度、捨て身の特攻を仕掛けて、影の魔女の首へと剣を向ける。

 

「ああああああああ!!!」

 

「さやか!!」

 

「やった!!」

 

「終わりだアァァァ!!!」

 

 完全に仕留めた…そう確信した瞬間だった。

 何とこれまで斬り払ってきた触手が地面に根付き、後方からさやかに襲い掛かってきた。

 特攻を仕掛けているさやかにそんなこと分かるはずもなく動きを止められてしまい、再び捕まってしまう。

 

「ぐっ…こんなのまた……」

 

 力づくで脱出を図るさやかだが、取り巻く触手の量は先程よりも計り知れないほど増えていて、さっきのようにはいかなかった。

 痛覚を遮断してもなお、敵わない敵に焦りを抱くさやか。

 

「ぐぅ…あ、あたしの剣は…まだ……」

 

 力を発揮しようとするもそれが段々と弱まっていくことに気付いた。

 慌ててソウルジェムを見ると、ほとんど濁り切っていて魔女になる一歩手前だった。

 

「そ…んな……ぐあああぁぁぁ!!」

 

 さやかの悲痛な悲鳴が響き渡る。

 その光景にまどかとほむらの我慢は限界に達していた。

 

「もうダメッ! 見てられないよ!!」

 

「行くわよ! まどか!!」

 

「「変身!!!」」

 

 指輪を受け取ったまどかは祈るように手を組み、ほむらとの融合を果たす。

 変身したまどかはすぐさま弓を手に取って、さやかを捉えている触手に向かう。

 そして弓全体に魔力を集中させて、力強く振り下ろした。

 刃のように切れ味を増した弓柄はあっという間に触手を斬り刻んで、さやかは解放させた。

 

「うわっ!!」

 

 落下していくさやかを抱えて、比較的安全なほむらが倒れている場所まで連れていく。

 そしてソウルジェムがかなり濁っていることに気付いたまどかは盾からグリーフシードを取り出してさやかに渡した。

 

「さやかちゃんはそこで休んでてね」

 

『後は私達がアイツを片付けるわ』

 

 そう言って魔女の元へと駆け出していくまどか。

 その後ろ姿をさやかはやりきれない表情で見つめていた。

 

 再びまどかは魔女の前に立ち、今度こそ倒すべく弓を構える。

 影の魔女もそれに迎え撃つ為に大量の触手を生やして、まどかに襲いかかる。

 

『来るわよ!!』

 

「うん!!」

 

 襲い掛かってくる触手を右へ左へと避け、隙を見計らって矢を放つ。

 下手に突っ込もうとはせずに慎重に攻撃を当て続けていく。

 

『アアアアアアアア!!!』

 

 影の魔女は自身が追い込まれていることに気付いたのか、雄たけびをあげて背中だけでなく、地面のあちこちから触手を生やして一斉にまどかに向かわせる。

 

『チャンスよ! あれをまとめて撃ち落として、そうすれば大きな隙が出来る!!』

 

「分かった!!」

 

 ほむらのアドバイスを聞いて、まどかは弓矢に魔力を込める。

 そしてその矢を天高く向け、掛け声とともに放った。

 

「『スプレッドアロー!!!』」

 

 放たれた矢は空中で拡散し、それらは正確に魔女の触手を撃ち抜いていった。

 矢の雨は触手だけでなく、魔女本体にも命中してほむらの言う通り大きな隙が発生する。

 

『これで決める!』

 

「行くよ! ほむらちゃん!!」

 

 まどかは空高く飛び上がり、弦を限界まで引き絞って狙いを魔女に向ける。

 桃色と紫色の光が弓矢に集まって、強力な魔力が矢に宿る。

 

「『フィニトラ・フレティア!!!』」

 

 そう叫び、矢を魔女へと放とうと弦から手を放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、矢を放とうとした瞬間、突然まどかの変身が解かれてしまった。

 

「えっ…?」

 

 まどかは何が起こっているのか、さっぱり分からなかった。

 いきなり身体のバランスが崩れて、ほむらとのリンクも途切れて、そして……

 

「まどか!! 危ない!!!」

 

「!!!」

 

 変身が解除されて無防備になっている自分の目の前に復活した触手が向かってきて……

 

 

 

 

 

ザシュッ!!!

 

 

 

 

 

 

「ここに居たのね、佐倉さん」

 

「んだよマミ、何しにきた?」

 

「あっ、おねえちゃんだ」

 

 杏子はちょっと不機嫌そうに、ゆまは嬉しそうにと、それぞれ違った反応を見せる。

 

「特に用事はないわ。ただ何となく会いたいって思っただけよ」

 

「へっ…何だそりゃ、随分とらしくないこと言うじゃんか」

 

 鼻で笑う杏子にマミは意味ありげな笑みを向ける。

 

「そうかしら? らしくないと言えば、佐倉さんあなたも今まで何をしていたの?」

 

「別に…気ままにそこら辺をブラついていただけさ」

 

「なら、どうして魔法少女の姿に変身しているの?」

 

「いいだろ。アタシがどんな格好してようが……」

 

「もうキョーコ、いい加減ほんとうのこと言ったら?」

 

「わーったよ! 言えばいいんだろ言えば」

 

 ぶっきらぼうに対応していた杏子だが、素直にマミに白状しようとする。

 

「みなまで言わなくてもいいわ。倒していたんでしょ? この前、自分のせいで逃がした使い魔を?」

 

「…………」

 

 ピタリと言い当てられた杏子は、気恥ずかしく感じたのかマミとゆまに背を向ける。

 

「なんでキョーコ怒ってるの?」

 

「さあ、どうしてかしら?」

 

「お前らなぁ……」

 

 さっきからやたらと自分をからかってくるマミに何か言ってやろうと立ち上がろうとする。

 だがその瞬間、杏子は遠くにある何かの気配を察知した。それはマミも同じだった。

 

「魔女の反応ね……」

 

「あぁ…ちょっと距離があるな。それと誰かそいつと戦ってるな」

 

「鹿目さん達かしら?」

 

「…………」

 

 杏子は意識を結界の方に集中させて、中で何が起こっているのかを確かめようとする。

 

「キョーコ、どうしたの?」

 

「何だか嫌な予感がする……」

 

「「えっ?」」

 

「急ぐぞ。マミ、ゆま!」

 

 勢いよく立ち上がった杏子は壁を蹴って、屋根の上へと移動する。

 

「佐倉さん、それってどういう……」

 

「いいから早くしろ!!」

 

「まってよ、キョーコ!」

 

 焦る杏子の姿にマミとゆまは不思議に思いながら、その後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「あああ……」

 

 嘘だ…あたしはこんなの認めない……

 こんなこと…起きるはずがない、起こっていいはずがない。

 

 必死に首を振って、目の前にある現実をなかったものにしようとする。

 だけど…その光景は消えることはなかった。

 

 あたしの隣には、意識を失ったままの目をほむらがいる。そして目の前には触手に貫かれて、そこから血を滴らせているあたしの親友の姿が……

 

 

 

「まどかァァァ!!!」

 

 

 

 まどかの指から紫色の指輪が離れる。

 その指輪はゆっくりと地面に落ちて、かん高い金属音を辺りに響かせた。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※前回ほどではないにしろ、今回も長くなってしまいましたね。まあ、もう皆様にとっては普通の長さになっているんじゃないかと思いますが(笑)
※それはさておき、まもなくマギレコが配信されますね。今やってるソシャゲがFEヒーローズだけなので、配信が待ち遠しいです。
※あ、勿論このお話もなるべく以前のような更新ペースで投稿していくつもりでいるので、よろしくお願いします。

※では、また次回にお会いしましょう!!!



☆次回予告★


「まどか…目を開けてよ……まどかァ!!」

「分かっていたさ…魔法少女の運命なんてどうやったって変わりっこないってね」

「みんなの先輩なのに…私は何もしてあげられない……」

「あたしの迷いが…まどかを……」

「覚悟は出来たかい? 美樹さやか?」


第30話 Rなんてしたくない ~ 裏切りの契約


次回もお楽しみに!!



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第30話 Rなんてしたくない ~ 叶わぬ願い


※タイトル変更しました。
※今回で物語が大きく動きます。つまりここからが、第3章の本番ってことになりますね。
※そして遂に「あのお方」がアップを始めます。

※最後に長らくお待たせして誠に申し訳ございませんでした。それでは…本編をどうぞッ!



 

 

 

 先程、見滝原の病院に一人の少女が搬送された。

 外傷は特に目立ったものはないが、それよりも意識が全く戻らないことが問題だった。今の彼女は植物状態といっても差し支えない。

 少女の名前は鹿目まどか。何故彼女がこのようなことになってしまったのかは、彼女の友人以外は明確には分かっていない。

 ただ一つ分かることと言えば、鹿目まどかは生死をさまよっている極めて危険な状態にいることだけである。

 

 そんな彼女の元に詢子が駆け寄る。

 

「まどか…おい、返事してくれよ…まどか!!」

 

 悲愴な顔で何度も身体を揺するも反応はない。

 詢子は唇を深く噛みしめてまどかの手を強く握った。その手は少しだけ冷えていた。

 

「くぅぅぅ……」

 

「鹿目さん……」

 

「よせ、今は何も話しかけるな」

 

 詢子は手を握ったまま、嗚咽を漏らす。その後ろ姿をマミと杏子は見つめていた。そしてその隣には……

 

「…………」

 

 茫然と立ち尽くしているほむらがいた。

 

 

 

第30話 Rなんてしたくない ~ 叶わぬ願い

 

 

 

 マミ達が魔女の部屋に辿り着いて見たものは惨憺たる光景だった。

 満身創痍のさやか。

 意識を失ったまま倒れ込むほむら。

 そして二人の状態を合わせたよりも危険な状態に陥っているまどか……

 

 杏子は顔を真っ青にさせながら、まだ意識のあるさやかに駆け寄る。

 

「おい、一体何があったんだ?!」

 

「…………」

 

「テメェ、聞いてんのか?!!」

 

「止めて佐倉さん!!」

 

 何も応えないこと苛立ちを感じて、乱暴しようとするのをマミが慌てて制する。

 それから魔女の方を見て、十分な距離を保てていることを確認して二人に指示を出す。

 

「とにかく今はここから脱出しましょう。

 佐倉さんは暁美さんを、ゆまちゃんは美樹さんの支えになって、美樹さん…立てる?」

 

 マミに問いにさやかはゆっくりと頷いて立ち上がり、おぼつかない足取りで歩き始める。

 その姿を見て、大丈夫そうだと判断したマミはなるべく衝撃を与えないように優しくまどかを抱え上げた。

 

 急ぎながらかつ慎重に結界内を進むマミ達、するといきなり周りの空間が歪みだして出口を目指すまでもなく脱出することが出来た。

 それから三人はそれぞれ怪我を負った者の治療に移った。しかし……

 

「どうしようキョーコ…マドカ全然目を覚まさないよ!!」

 

「クソッ、ほむらの奴も同じだ…大して怪我なんかしてないってのによ!」

 

「ど、どうしよう……」

 

 三人の外傷は、ゆまとマミの魔法で治すことが出来た。だが、治療が完了してもまどかとほむらは意識を取り戻すことはなかった。対処できない問題に追われて、二人の焦りがマミにも移っていく。

 するとさやかが低くしわがれた声で呟いた。

 

「まどかの…指輪……」

 

「そうよ! ゆまちゃん、鹿目さんの手にはめられている指輪をこっちに渡して頂戴!!」

 

 さやかの助言でマミは指輪のことを思い出す。

 そして、ゆまからまどかの右手にはめられていた指輪を受け取り、ほむらにつけた。

 

「う…ううん……」

 

「暁美さん?!」

 

「巴さん…? 私は一体…?」

 

「良かった、気が付いたのね……」

 

 意識を取り戻したばかりでまだ朦朧とするほむら。

 だが、彼女の無事な姿を見ることが出来てマミは安堵のため息を吐く。

 

「……私は確か、魔女と戦っていて…トドメを刺そうとした瞬間に急に意識が……」

 

 意識を失う直前のことを思い出すほむら。そしてすぐに重大なことを思い出す。

 

「そうだわ…!! まどかは…まどかはどうなったの?!!」

 

「鹿目さんならあっちに……」

 

 言い切る前に、駆け出してまどかの元へと寄る。そして彼女の姿を見て、息を呑んだ。

 傷こそは治ったものの、服のあちこちには穴が開いていて、そこから血の痕が付いていた。

 それを見た瞬間、ほむらは膝から崩れ落ちて、彼女の体を何度も揺すった。

 

「まどか…? ねぇ…目を覚ましてよ……まどかァ!!」

 

「_____」

 

「まどか…まどか……」

 

 まどかの体に顔を付けて、泣き続けるほむら。

 他のみんなは、それを黙ってみていることしか出来なかった。

 しかし…一人だけ違った。

 

 これまで大きな反応を見せてなかったさやかが、ゆっくりとほむらに近づいてその肩に手を置いた。

 

「ほむら……」

 

「さやか…?」

 

 ほむらは顔を上げてさやかの方を見る。

 その表情は虚ろで自分と同じようにショックを受けているものだとほむらは思った。

 他の三人もそう思っていた…その表情が急変するまでは……

 

 さやかの表情は一瞬で怒りの色に染まり、涙を流し続けているほむらの顔を思い切り殴りつけた。

 

「「?!!」」

 

 バキッ…と鈍い音が辺りに響き、ほむらは倒れる。他の三人は何が起こっているのか全く理解できない状態だった。

 勿論それはほむらも同じで、頬を抑えながらさやかを見た。

 

「さ、さやか……?」

 

「お前に…まどかに近づく資格なんて……ない!!」

 

 激昂したさやかは、ほむらの胸倉を掴みあげて何度も殴り続けた。

 予想外の出来事に茫然としていたマミ達だったが、ようやく我にかえって慌てて、さやかを抑えつけた。

 

「美樹さん、止めなさい!!」

 

「何考えてんだ!! おい!!」

 

「全部…全部、お前のせいだ…ほむらァァァ!!!」

 

「あぁ、あぁぁぁ……」

 

 ほむらは隣で倒れているまどかの姿を見る。

 そして顔に両手を当てて、再び泣き崩れた。

 

 それを見たさやかは歯をギリッと鳴らして、抑えつけているマミと杏子を引き離して、彼女達に背を向けて歩き始めた。

 立ち去ろうとする彼女に杏子が怒鳴りつける。

 

「おい、どこへ行くつもりだ!!」

 

「…………」

 

 一旦、足を止めたが、振り返ってほむら達を一瞥した後にすぐまた歩を進めた。

 追いかけようとした杏子だが、マミによって止められてしまう。

 

「マミ…これからどうするつもりだ?」

 

「鹿目さんの傷はとりあえず治したけども、このままでいるわけにはいかないし……」

 

「どうするか……」

 

 しばらく考え続ける二人だったが、やがて杏子が口を開いた。

 

「病院に連れて行こう」

 

「なッ…?! 佐倉さん…?!!」

 

「この際どうこう言ってられねぇよ…コイツの安全が第一よ」

 

「でも…この状態をどうやって説明するつもり?」

 

「ここを使うんだよ。ここを」

 

 その問いかけに杏子は、人差し指で自分のこめかみを叩いた。

 そしてマミにあることを話して、それを行うように諭す。

 

「確かに…今はそれしかないわね」

 

 マミはまどかに近づき、彼女に手をかざす。

 すると服の穴や血の痕は、みるみる内に消えていって一見したら、ただ眠っているのとさして変わらない状態になった。

 

「あまりこういうことはしたくなかったけれど……」

 

「全く…相変わらずこういうことに関しては頭固いよなぁ、ホント」

 

 それからすぐにマミ達は救急車を呼び、まどかを病院へと連れて行った。

 その間、杏子はずっとマミのことを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「鹿目さん…本当にごめんなさい……」

 

 悲しみを心の奥で抑えている詢子にマミは頭を下げた。

 

「巴さん、アンタが謝る必要なんてどこにもないよ。これは仕方のない事故なんだよな?」

 

「そ、それは……」

 

「あぁ…そうだぜ」

 

 口ごもるマミに代わって杏子がそう答える。

 詢子はその言葉を表情一つ変えずに聞き、静かに頷いた。

 

「そうか。なら、もうそろそろ家に帰りな。

 子どもがこんな遅い時間まで外にいるのは危ないからさ」

 

「……はい。みんな行きましょうか」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

「何でしょうか?」

 

 病室から出ようとするのを呼び止める詢子。

 一同が振り返った後、ほむらの方を見てこう言った。

 

「ほむらちゃん…ちょっと二人っきりで話したいんだけどいいかな?」

 

「!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください…!!」

 

 名指しをされて、これまで全くの挙動を見せていなかったほむらの体がビクンと震える。

 それを見たマミが一歩前に出ようとする。しかしそれを杏子が制した。

 

「よせ」

 

「佐倉さん……」

 

「大丈夫、あたしはそんな姑息な手は使わないよ。ただ本当に話がしたいだけなんだ」

 

「……分かりました」

 

 今にも消えてしまいそうなくらいの微かな声量でほむらは答える。

 マミはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、杏子によって無理やり病室から連れていかれた。

 

 

 

 病院から出た後でも、やっぱりマミはほむらのことが気になって仕方がなかった。

 そして不意にその思いが漏れてしまった。

 

「暁美さん、大丈夫かしら…?」

 

「きっと大丈夫だよ。さっきの人、とっても優しそうだったもん」

 

 マミの言葉にゆまが笑顔で答える。

 だが、杏子は対照的に険しい顔をしていた。

 

「…………」

 

「どうしたのキョーコ?」

 

「なあ、マミ…お前はどう感じた? まどかの母親を見て?」

 

「えっ?」

 

「やっぱ親子って似るもんなんだな、アイツと一緒で強い人だ」

 

「そうね……」

 

「でもな、そんな強さも結局は意味なんかないんだよ。どんなに強い信念を持ったとしても、アタシら魔法少女の生き様は変わりはしない。

 分かっていたさ…魔法少女の運命なんてどうやったって変わりっこないってね」

 

「佐倉さん……」

 

「キョーコ……」

 

 杏子は強く歯噛みして、二人に背を向ける。

 そして静かにこう告げた。

 

「マミ…ゆまのことを頼んだ」

 

「「えっ?!」」

 

「ゆま…お前といた数週間、悪くなかったぜ……」

 

「なに言ってるのキョーコ…全然わかんないよ!!」

 

 ゆまの体がカタカタと震える。口ではこう言っても、彼女には杏子の言ってることの意味をしっかりと理解していた。

 

「ありもしない希望にすがろうとしたアタシがバカだった……」

 

「ねぇ、佐倉さん…お願いだからやめて…ゆまちゃんを一人にしないで」

 

「誰かの為に生きたってどうしようもないんだ。だからアタシは戻らせてもらうぜ」

 

「やだよ、キョーコぉ……」

 

「さよならだ。マミ、ゆま」

 

 杏子はそう言って闇夜の中へとゆっくりと歩き出した。

 二人は後を追いかけようとしたが、何故か足が動かずにその背中を見ることしか出来なかった。

 

「私…みんなの先輩なのに…何もしてあげられない……」

 

 完全に姿が見えなくなった後にマミは静かに泣き続けるゆまの横で悔しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 詢子さんとの話が終わった後、私はそのまま家に帰ろうとはせずに病院の屋上へ向かった。

 屋上に着いた後、ゆっくりとフェンスに向かって歩き出す。

 

「…………」

 

 フェンスの前に立った後、私はついこの間までの出来事を思い返した。

 まどかと本当の絆を結べて、杏子の協力も得られてやっと五人揃ったというのに……

 

「どうして…どうしてなのよッ!!」

 

 力任せにフェンスに拳を打ち続ける。

 衝撃は伝わってきているはずなのに、痛みは全く感じはしなかった。

 気が付けば打ち続けていた拳は痛々しいくらいに真っ赤に腫れあがって、少しだが血が滲んでいた。

 

「私は…どこで間違ったというの……」

 

『全部…全部、お前のせいだ…ほむらァァァ!!!』

 

 唇を強く噛みしめて、自問する。

 その瞬間、何処からか声が聞こえてきた…いやこれはフラッシュバックに近いものね……

 

 甦ってきたのはさやかの激昂だった。

 確かに以前に一度だけ、魔法少女の変身が強制的に解除させられたことがあった。

 でも、それは…私だけの問題のはずなのにどうして……?

 

 

 

『それはあなた達がその力のことを真に理解していないからよ』

 

 

 

 今度は幻聴なんかじゃない。

 後ろを振り返ると、禍々しい衣装を纏った自分がそこにいた。そう別の世界から来た「悪魔になった」自分だ。

 

「力のことを…?」

 

『そうよ、疑問に思ったことはない?

 何故、融合したあなた達の力があれほどの強さを持っているのか』

 

「それは…まどかの持っている魔法少女としての素質が……」

 

『どんな力を彼女が秘めていたとしても、それはインキュベーターがいなければ解放することは出来ない。つまり契約をしなければ、彼女はただの人間と同等なのよ』

 

「なら、私の力だっていうの? 時間停止も使えなくなって、弱くなってしまった私の…?」

 

 悪魔ほむらは艶やかな笑みを浮かべる。

 それからゆっくりとほむらの元に近づいて、指を突きつけた。

 

『その通りよ。でもあなたの力はそれだけじゃないでしょう? あの悪魔の力…いえ、この言い方は正確じゃないわね____』

 

「…………」

 

『____まどかの、『円環の理』の力。

 今まで言わなかったけども、あなたも引き裂いたのよね? あの子とその願いの全てを』

 

「あああぁぁぁ……」

 

 心の奥底に閉じ込めていた忌まわしき記憶が蘇る。

 ほむらは両耳に手を当てて、悪魔の言葉を必死に聞かないようにしていた。

 

『あなたはそれを代償にして円環の力を得た。

 しかも私のように一部ではなく全てを…素質の低いあなたには、そんなもの到底受け止められるはずないわよね』

 

「やめて!!」

 

『そのせいで様々な異変があなたの身に降りかかった。もしかしたら変身の強制解除もそれが原因なのかもしれなわねぇ』

 

「じゃあ、まどかがああなったのは…私の、せい……?」

 

『あの変身はまどかがあなたの中に眠る円環の力を引き出しているもの。

 その力の供給源である者があんな不安定な状態のまま戦えば、今回のような結果になるのは必然。

 美樹さやかの言っていたことも、あながち間違いじゃないってことになるわね』

 

 ほむらが膝から崩れ落ちていく様を悪魔は黙ってみていた。やがて、彼女に向かって懇願した。

 

「私を、殺して……」

 

『耐えてみせるんじゃなかったの? その呪いから?』

 

「もう私は、戦えない…戦う意味を失った……」

 

『そう。あなたがそう言うのなら、私は躊躇いなくやるわよ。

 だってそれが私がこの世界に来た理由の一つなのだから』

 

 蒼白な顔色なまま、ほむらは驚いた顔をする。

 

「でも…あなたは見届けるって……」

 

『基本的にはね。私もあまり他の世界で面倒ごとを起こしたくないし。

 あなたを殺すのは緊急の時って決めていた』

 

「緊急?」

 

『恐らくだけど彼女らはもう紛れているわね。この世界にとっくに』

 

「どういうこと…?」

 

『今のあなたには関係ないことよ」

 

「そう……そんなことよりも良かったわね。厄介事が起こる前に私を殺すことが出来て』

 

『……まだダメよ』

 

「えっ…?」

 

『あなたは別世界とはいえ、まどかを傷つけた。そんなあなたの願いをどうして私が叶えなければならないの?』

 

「そんな……」

 

『精々苦しみなさい、暁美ほむら。己の罪のに絶望しながらね……』

 

 悪魔はそう言って、何処かへ消えてしまった。残されたほむらは……

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 喉が張り裂けんばかりの声量で叫んだ。

 目からはとめどなく涙が流れ続け、拳もあまりにも強く握り過ぎていたせいで血が流れていた。

 その絶望の咆哮は、見滝原全体に響き渡った。

 

 そして…………

 

 

 

 ほむらはその場に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 ほむら達の元を去った後、さやかは美国織莉子の家に向かった。

 玄関のドアを乱暴に開けて靴を脱がずにズカズカと織莉子の元に近づく。

 織莉子はその様子に動じることなく、静かに紅茶を飲んでいた。

 その平然たる態度は、さやかの精神を更に刺激する。そしてさやかは両手をテーブルにバンッと叩きつけた。

 

「どういうことだ!!」

 

「いきなり何? 何をそんなに怒っているの?」

 

「とぼけるな!! 全部知っていたんだろ!! あのままほむらが戦い続けていれば、まどかにも被害が来るってことを!!」

 

「鹿目まどかが?」

 

「そうだ! そのせいで…まどかは……まどかは!!!」

 

「待って…どういうことか一から説明して頂戴」

 

 目に涙を溜めながらさやかは話し続けた。

 その話の詳細を織莉子は無言で聞く。詳細を語られていくにつれて彼女の顔色がどんどん悪くなっていく。しかしそのことをさやかが気付くことはなかった。

 

「なんてこと……」

 

「アンタがそのことを話してさえいれば…ほむらを説得出来ていたかもしれなかったんだ!!」

 

「美樹さやか、それは……」

 

「うるさい! お前のせいでまどかはあんなことになったんだ!!」

 

「……私の能力は未来の出来事を全て見通せるわけじゃない。

 これまで見てきた予知の中で鹿目まどかがそんな重傷を負うなんてものは無かった」

 

「なんだと…この……!!」

 

「その辺にしておけよ」

 

 身を乗り出して織莉子に掴みかかろうとするのをキリカが阻止する。

 そしてキリカはさやかの服を掴んで、壁に向かって放り投げた。

 一瞬の出来事に対応できなかったさやかは壁に打ち付けられて、苦しそうに声をあげた。

 

「うぐっ……」

 

「さっきから黙って聞いていれば…お前のやっていることはただの八つ当たりだ。いや責任転嫁って言った方が正しいね」

 

「何…?!」

 

「その鹿目って奴が怪我したのは織莉子が原因だって言ってたけど違うじゃん。

 原因は、暁美ほむらの説得を失敗してわざわざ戦わざるを得ない状況を作ったお前だろ。こんなのその辺の子どもでも分かることだろ」

 

「ちがっ…!!」

 

「織莉子、こんな奴のこと気にすることはない。君は十分に頑張っている私が保証する」

 

「ありがとうキリカ。私の言いずらいことを代わりに言ってくれて」

 

「あれだけ大見栄張っていた奴がこんな姑息なことをするなんて…笑えないね」

 

 キリカの言うことは正論で、さやかは何も言い返せなかった。

 そしてさやかは無言で立ち上がって、そのまま何処かへ走り去っていった。

 

「ふん、ひよっこの癖に偉そうにするからそうなるんだ」

 

「…………」

 

 その様をキリカは鼻で笑う。

 だが織莉子は何も喋らずにただ俯いていた。

 

「織莉子…やっぱり最近の君はどこか様子が変だ。いい加減、話してくれないか?」

 

「……いいえ、何でもないわ」

 

 笑って誤魔化すのを見て、キリカは悲しそうな顔をする。

 

「そんなに頼りないのかな…私……」

 

「キリカ……」

 

 さっきまでさやかに対しての物言いとは、違ってその声はとても弱弱しかった。

 そんな姿を見ていられなくなった織莉子は素直に胸の内を明かした。

 

「私は美樹さやかにあなたと同じことを言えなかった…いえ、言う資格がなかった……」

 

「何故? 君が一体何をした?」

 

「それは……」

 

「私達が殺してきた魔法少女のことかい? あれはどうしようもないことだ、現に見逃した奴等はほぼ例外なく私達に報復してきたじゃないか。

 これから起こる危機になんか目もくれないで、ただ自分の欲のままに戦う連中だ」

 

「違う…私はそのことをとっくに受け入れている。問題なのはそこじゃないのよ」

 

「じゃあ何だっていうんだい?」

 

「罪を背負うって決めたにも関わらず、そこから逃げたのよ。美樹さやかや暁美ほむらと同じで……」

 

「…………」

 

 織莉子の言葉にキリカは黙って聞いていたが、やがて表情を険しくした。

 それから冷淡な口調でこう提案する。

 

「君があのことを気にしているっていうのなら、私が今すぐにでも君の悩みを取り払っても構わないよ。君ばかりが重荷を背負っていくのはもう見たくないんだ」

 

「ありがとう…でも大丈夫よ。

 もしここであなたに頼んでしまえば、私はただの卑怯者になってしまうわ」

 

「織莉子……」

 

「そんなことよりも、美樹さやかの言うことが確かなものだとしたら…かなりマズイわ。

 急いで何か手を討たないと…取り返しのつかないことになる……」

 

 

 

 

 

 

 呉キリカの言葉が胸に刺さり、耐えきれなくなったあたしはとにかく走り続けた。

 だけどもそれはいつまでも続くことはなく、足に限界を迎えて近くのベンチに力なく座った。

 

「ハアッ…ハアッ……」

 

 自分でもよく分かっていた。

 あそこで美国織莉子を責めるのはお門違いだってことを……

 でも…そうでもしなかったら、まどかをあんな目に遭わせたのは……

 

「何をそんなに落ち込んでいるんだい? 美樹さやか?」

 

「?!!」

 

 何処からともなく声をかけられて、慌てて辺りを見渡す。

 声の主は分かっているけども姿が全く見当たらない。そんなことを考えているとそいつ(・・・)は姿を現した。

 

「キュゥベえ…今はアンタに構っている暇なんてないの、どっかへ行ってくれないかしら?」

 

「君達の最近の僕の扱いには遺憾を感じるよ。

 それはさておき、美樹さやか。君は今何か悩みを抱えているね」

 

「白々しい…どうせどっかで見ていたんでしょう? そしてあたしの情けない姿も」

 

 コイツの喋り方と姿にはどうもイライラさせられる。どうせ無駄だけども、一体くらい殺ってもいいんじゃないかって思うくらい。

 

「まあね、でも情けないっていうのはちょっと違うんじゃないかな?」

 

「えっ?」

 

「君が美国織莉子に対してやっていたのは、間違いなく八つ当たりだ。彼女を責めるのはお門違いだ」

 

「何よ…情けないじゃなくて滑稽だって言うの…?」

 

 キュゥベえに対してストレスを感じていたけども、次のアイツの発言でそれらが全部吹っ飛ぶことになった。

 

「いいや、悪いのは美国織莉子でも君でもない。全部『暁美ほむら』だ」

 

「ほむらが……?」

 

「事実じゃないか、彼女が君の警告を素直に聞き入れてさえいれば、こんな状況にはならなかった」

 

「それは……」

 

「それだけじゃない。いつ変身が解かれるかも分からないリスクを背負っておきながら、それを全て鹿目まどかに押し付けた。

 普通だったら考えられないことだ。そこは無理も承知で単身で戦うべきじゃないかな?」

 

「た、確かに……」

 

「原因のほとんどは、暁美ほむらの慢心じゃないかな? それが結果的にあの状況を招いた。

 そして大変なことに彼女は今、自分自身の失敗で自爆しかけている。そうなってしまえば、この世界は…この宇宙は終わりだ」

 

「この世界が…終わる?」

 

 もしもそんなことが起こってしまったら…みんなが死ぬ?!!

 あたしの家族も、恭介も、仁美も、マミさんも、そしてまどかも……

 

「それと言い忘れていたけども、鹿目まどかがああなったのは暁美ほむらだけの原因じゃない」

 

「ど、どういうこと?」

 

「君にも原因があるってことさ。君が美国織莉子達の提案をためらってからこそ、この事件が起こったと言っても過言ではない。

 無駄な犠牲を出さずに解決しようとした君の働きは画期的だった。でも全く無意味だったけどね」

 

「あたしの迷いが…まどかを……」

 

「だけども幸いにまだ誰一人として死人は出ていない…そろそろ僕が何を言いたいのか察せれたかな?」

 

 ここまで言わなくても十分に理解できる。つまりコイツはあたしに……

 

「今ならまだ間に合う。これ以上、まどかのような犠牲者を出さない為にも君の力が必要になる」

 

「…………」

 

 裏切れってことよね。ほむらを…あたしの仲間達を……でも、そうしなかったら……

 

『あぁ、あぁぁぁ……』

 

 ほむらの心は多分もう限界だ。

 いつまたあの姿になるか、分からないし……

 

 そう考えていると不意に呉キリカのあの言葉が蘇った。

 

『原因は、暁美ほむらの説得を失敗してわざわざ戦わざるを得ない状況を作ったお前だろ』

 

 ……違うッ!!

 出来る限りのことはした…まどかがああなったのは、暁美ほむら全部アイツのせいだ。

 そしてあたしには、それを止められなかった責任がある。

 なら…それを果たさなければならない……

 

「覚悟は出来たいかい? 美樹さやか?」

 

 キュゥベえの問いかけに…………あたしは、静かにゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やれやれ…上手くいったようだね。

 

 現状で暁美ほむら達は、佐倉杏子と千歳ゆまを仲間に引き入れ、外部からの守りは厳重だ。

 

 それを美国織莉子、呉キリカ、優木沙々の3人だけで崩すのは厳しい。

 

 だが、外が強固になることは逆に内側が疎かになる可能性が非常に高い。

 

 あのメンバーの中だったら、美樹さやかが一番付け入りやすい。

 

 彼女の持つ強い正義感。けど、強すぎる正義感は潔癖症と同じで、心の余裕をすり減らす。

 

 彼女のような思春期を迎えたばかりの未熟な精神では逆にそれが仇になる。

 

 鹿目まどかがあんなことになるのは予想外だった…でも今の意識不明の状態は好都合だ。

 

 だって死んでさえいなければ、契約を結ぶことは可能だからね。

 

 美樹さやか…君には期待しているよ。頑張って暁美ほむらを倒して、最期は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 この宇宙の為に死んでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※しばらく見ない内にUAがなんと7000を超えておりました。そしてお気に入り数も30件を突破!! 圧倒的感謝です!!

※私もスキマ時間を有効に活用して執筆を進めておりますので、皆様気長にお待ちください。何かありましたら作者コメか活動報告で呟きます。(全く関係のないことも言ったりしますがw)

※ではでは…次回の31話でお会いしましょう!!



☆次回予告★


「ひとりぼっちじゃない、ゆまがついてるよ」

「誰か…私を……」

「アンタ、死にたいんだってね……」

「そこをどけ、テメェに構う暇はねぇーんだ」

「どういうつもりだ? 美樹さやか?」


第31話 希望へのS ~ トカゲの涙


「全部…お前のせいだァァァ!!!」
「全部…テメェのせいだァァァ!!!」



※次回もお楽しみに!!


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第31話 希望へのS ~ トカゲの涙 


※マギレコにハマって執筆を忘れ、つい最近☆4キリカをゲットしたsakiでございます。
※メイン、外伝、魔法少女、ミラーズ。どれもストーリーが面白くて凄く良いアプリだと思ってます。私にもあんな感じの才能があればな~ と思っちゃいますね(笑)

※さて、それはさておき今日9/20をもって連載1周年を迎えることができました! これまでモチベが保てたのも皆様のお蔭です。今後もこの作品の応援よろしくお願いします!!!





 

 

 

 夜道をふらふらとおぼつかない足取りで歩くほむら。その目に光は消え去っており、生気は全く感じられなかった。

 当てどころもなく、ただただ彷徨い続ける。

 

 そんな彼女の携帯に一通の着信がかかった。

 発信はマミからだった。

 このまま無視をするか、切ってしまおうと考えていたほむらだったが、何故か指が勝手に動いて電話に出てしまった。

 

『もしもし、暁美さん?!!』

 

「…………」

 

 通話ボタンを押すやいなやスピーカーからマミの声が聞こえてくる。

 その声には余裕が感じられず、かなり焦っているようだった。

 

『ごめんなさい。こんな夜遅くに…でもどうしても気になっちゃって』

 

「…………」

 

『暁美さん。あなたにも色々と思うことがあるのかもしれないけど、鹿目さんの件はあなただけの責任じゃないわ。

 あの変身解除はちゃんと前兆が起こっていた。それなのに関わらず、しっかりとあなた達の傍に付いてあげなかった私にも原因はあるのよ』

 

「…………」

 

『私がこんなこと言うのもおかしいけどね…そのことは鹿目さんも分かってると思うの。

 今はまだ寝たきりのままだけど、目を覚ましたらきっと同じようなことを言ってくれるわ……』

 

 長々と喋り続けるマミの声は所々が震えていて、必死にほむらを励まそうとしているのが伝わって来ている。

 無論、それはほむらも理解はしている。

 しかし今の彼女には今更な言葉だった。

 

「……あなたの言う通り、優しいあの子ならきっと私のことも許してくれるでしょうね。

 だけどもそれはこの世界だけの話、どれだけの償いをしようとも私の罪は一生消えることはない……」

 

『そ、それはそうかもしれないけど……』

 

「もう私には無理なのよ…これ以上の何かを背負って生きていくのは、だったらいっそのこと死んだ方が__」

 

『バカなこと言わないで!!』

 

 最後まで言い切る前にマミが強引に遮る。

 

『あなたは私達の大切な仲間であって友達なのよ?! そんなこと私が絶対にさせない!!』

 

「……ありがとうマミさん。あなたにそんなこと言ってもらえるようになるなんて」

 

 表情はそのままだが、一瞬だけほむらの声が優しいものになる。

 しかしそれはすぐに次の言葉と共に消えてしまう。

 

「昔の私が羨ましく思えるわね……」

 

『ど、どういうことなの…?』

 

「マミさん…みんなに伝えて。私はもう…私じゃない……」

 

『待って暁美さん!! 待って!!』

 

「さようなら……」

 

 そう言って、ほむらは電話を切って携帯を持っていた手の力を緩める。

 携帯はゆっくりと落下していき、カシャンと音を鳴らして地面に落ちた。

 

 ほむらはそれに目もくれることなく、再び闇夜の中を歩き出す。

 その場には点々と水の跡が残されていた。

 

 

 

第31話 希望へのS(Sacrifice) ~ トカゲの涙

 

 

 

「暁美さん!! 暁美さん!!」

 

 何度も携帯に向かって彼女の名前を呼び続けたけど無意味だった。

 

 どうしよう。佐倉さんだけじゃなく、暁美さんまで…悪いことがどんどん連鎖していってる……

 

「一体どうしたらいいの…?」

 

 その場に蹲って必死に思考を巡らす。

 みんな段々おかしくなってる…だからこそ私がしっかりしないといけないのよ。

 

 後ろを振り向き、ベットの上で静かに眠るゆまちゃんを見ながら気力を奮い立たせる。

 あれからずっと泣いている彼女を放っておくわけにもいかないので、今日はひとまず家に泊めてあげることにしたのだ。

 同じ境遇にいる身としてその苦しみは痛いほど理解している。

 

 寝ているゆまちゃんの頭をそっと撫でてから、部屋の外に出る。

 そして今自分が何をするべきなのか考え直そうとした。すると突然、私の携帯が鳴りだした。

 

「……!! まさか、暁美さん?!!」

 

 震えながら携帯を開いて、通話ボタンを押す。

 そこから聞こえてきた声は予想外の人だった。

 

『……もしもし、マミさん?』

 

「その声…美樹さん?!」

 

 電話をかけてきたのは事件の直後、すぐにいなくなってしまった美樹さんからだった。

 ここしばらく様子が変だったことに不安を抱きながら会話をする。

 

「心配してたのよ…急に何処かへに行っちゃって、どうしようかと思ってたわ……」

 

『ごめんなさい。あたしもいきなり過ぎて気がおかしくなっちゃってたみたいで……』

 

「そう…でも、元に戻ってくれてよかった」

 

『はい、本当にすみませんでした』

 

「いえ…あんなことが起きて冷静でいられる方が無理なことだもの」

 

 どうやら落ち着きを取り戻してくれたみたいで少しだけホッとする。

 そう安堵していると今度は美樹さんの方から話しかけてきた。

 

『マミさん。あたしがいなくなってから何が起こったのか話してくれませんか? それと…ほむらのことも……』

 

「!!!」

 

 美樹さんの口から出たその名前を聞いて、胸が締め付けられるような痛みを感じる。

 電話の切り際に言っていた暁美さんの不穏な言葉…それは数日前に彼女が変化した恐ろしい怪物の姿を連鎖させる。

 あれがどういうものなのかは全く分からないけども、暁美さんがただならない状況に置かれてしまっていることは間違いない。一刻も早く見つけ出して何とかしなくちゃ……

 

『マミさん…?』

 

「あっ、ごめんなさい。ちょっと色んなことが立て続けに起こっていたから、つい……」

 

 軽く謝ってから私は全てを話した。

 それを美樹さんは黙って静かに聞いていた。

 

 

 

 

「__それで暁美さん。今回の件で凄く責任を感じてて、死んだ方がいい…って……」

 

『言ったんですか? アイツが…そんなこと?』

 

「えぇ、そう言って暁美さんは…暁美さんは……ッ!!」

 

 話している内に段々とさっきの出来事が鮮明になっていき、声に感情が込め過ぎながら喋っていた。

 そして無意識の内に私は涙を流していた。

 

「もういいんですよ。マミさん……」

 

「美樹さん…?」

 

『大丈夫です。アイツのことは任せてくださいよ…だから今日はもう休んでください。絶対に『何とか』してみせますから……』

 

「ごめんなさい…私……」

 

『じゃあそろそろ切ります。お休みなさい』

 

 そう言って美樹さんは、最期まで言い切る前に通話を切った。

 きっと一刻も早く暁美さんを見つけるために急いでいたのね。

 

 大切な仲間の為に頑張り続けている彼女のことを考えると、それと同時に自分自身の不甲斐なさに胸が痛んだ。

 

 美樹さんは文字通り命を懸けて、魔法少女の世界に入った。

 それに対して私は…? 恐怖に囚われて怯えて、苦しんでいる仲間に手を差し伸ばすことさえ出来やしない。

 私は無力だ。何も…何もしてあげられない。

 

「やっぱり私は…ダメね。魔法少女失格だわ」

 

「ううん、ちがうよ」

 

「!!」

 

 突然聞こえてきた声に驚き、咄嗟に後ろを振り向く。するとそこには泣きつかれて眠ってしまったはずのゆまちゃんがいた。

 ひょっとしてさっきまでの会話のせいで起こしちゃったのかしら…?

 

「ごめんね、起こしちゃった?」

 

「ゆまはずっとおきてたよ」

 

「もしかして…話聞いてた?」

 

 ゆまちゃんはこくんと頷いて、私の手を優しく握った。

 

「マミはダメな魔法少女じゃないよ。

 みんなの為に魔女と戦う凄い人だよ」

 

「どうして、そんなことが分かるの……」

 

 根拠の無さそうな、励ましの言葉に少しだけムッとくる。そんな余計な気遣いは無用よ……

 

「キョーコが言ったから」

 

 予想もしなかった返答にまじまじと彼女の顔を見つめる。

 その視線に彼女は一切目を逸らさずに話を続けた。

 

「マミはすごいやつで、むかしからずっとあこがれていたんだって」

 

「佐倉さんがそんなことを……」

 

「マミはダメなんかじゃない。だからなかないで、ゆまももうなかないから」

 

 なんて強い子なんだろう。

 親を魔女に殺されてから間もなく、更に唯一頼れる存在であった佐倉さんと離れ離れになったばかりだというのに。

 この子はその苦しみに耐えている。

 それに対して私は…私は……

 

 気が付くとまた涙を流していた。

 

「だいじょうぶ。ひとりぼっちじゃない、ゆまがついてるよ」

 

「ゆまちゃん……」

 

 ゆまちゃんがそっと私に抱きつく。

 自分よりもずっと小さな体であったけども、それはとても心地よく私の心を癒してくれた。

 

 

 

 私はまだ頑張れる…みんなの為に、今度こそ……

 

 

 

 

 

 

「チッ…ヤな天気だぜ……」

 

 空を見上げながらアタシは吐き捨てるように言った。病院を出てからあてもなく歩き続けていたけども、そろそろ宿の代わりになる場所を探さないとな…このままだとずぶ濡れになっちまう。

 そうなったらただでさえ、気分が悪いってのにますます酷くなる。

 

「…………」

 

 なんでこんなに不機嫌になってんだよ…初めから分かりきってたんだろ。希望を抱くこと自体が間違いだって。

 

 辺りは住宅街だが、どの家の明かりも消えてとても静かだ。みんな寝静まっているんだろう。

 

「久しぶりかもな、一人になるのって……」

 

 たった10日。とても短かったけど悪くない時間だった気がする。

 今となっちゃ懐かしい思い出だな。そう思い出……

 

「畜生…センチになってんじゃねーよ」

 

 そんな独り言を呟きながら歩いていると、道路の先に小さな人影が見えた。ほむらだった。

 

「アイツ何やってんだ?」

 

 遠くからで良く見えないが、何だかおぼつかない足取りで見てて危なっかしい。

 

「……はぁー」

 

 なんてため息をつきながら、後を追いかけることにした。

 ったく気にせずに無視しときゃいいのにホント何やってんだろアタシ……

 

 しかし瞬間、人通りのない通路の景色が消えて目の前に白と黒の二色の世界が一面に広がった。

 

「これは…魔女の結界?!」

 

 おかしい。ソウルジェムにも何の反応もなかったはずだし、ましてやこんな図ったようなタイミングと場所に魔女が現れるわけがない!

 突然の現象に戸惑っていると頭上から人間の声が聞こえてきた。

 

「やぁ~、久しぶりぃ。佐倉杏子」

 

 声を聞いてアタシの中の疑問が全て解決した。

 そういや居たよな…こんな喋り方をして、こんな能力を使って以前アタシに襲い掛かってきた魔法少女が…見上げるとそこには確かにヤツがいた。

 

「いきなりどういうつもりだ。優木沙々?」

 

 アタシの問いかけに応じる様子の見せずに、優木沙々は不気味な笑みを浮かべる。

 刻々と過ぎていく無駄な時間の経過に段々と苛立ちが募ってくる。

 

「もう一度聞く。何しに来た?

 こっちはオマエ如きに付き合ってる暇はないんだよ」

 

 煽るような言い方をしてやると、優木沙々は少しムッとしたような顔をして、ようやく口を開いて喋り出した。

 

「何ってそりゃ…たまたまあなたの姿を見かけたもんだから、この前の仕返しをしてやろうと思っただけですよォ」

 

「ふん。助っ人二人でようやく戦えるようになったヤツがタイマンでアタシと渡り合えるってのか?」

 

「随分とナメられてますねぇ…でもこれを見ても同じ態度を取っていられますかなぁ?」

 

 自信満々に喋る優木沙々。

 その時背後から殺気を感じ取り、大きく飛び上がる。直後、今立っていた場所から大量の黒い棘が生えてきた。

 

「なっ?!」

 

「へぇ~不意を突いたつもりだったけど、そう簡単にはやられてくれないか」

 

 感心した様子で話す優木沙々だったが、ヤツが攻撃の手を緩めることはなかった。

 着地後も次から次へと地面から棘が出て来て、アタシを串刺しにしようとしていた。

 

「くっ…この、魔女は…まさか……」

 

「ついさっき見つけたばかりの新しい魔女さッ。

 かなり弱っていたけど、中々強かったからね遠慮なく駒にさせてもらったよ」

 

 何とか避けつつ、攻撃をしてくる魔女の姿を捉える。結界の雰囲気でとっくに察してはいたが、やっぱり『あの魔女』だった。

 

 影の魔女は声にならない咆哮をあげ、自身の周りに使い魔を呼び寄せてこちらへと仕向けた。

 咄嗟に変身しようとするも、使い魔達の攻撃でそれが出来ずに大きく吹っ飛ばされてしまう。

 

「うぐッ……!!」

 

「あらら随分と苦戦しちゃってるみたいですねー。

 まあ無理もないか、この街の魔法少女ですら敵わないくらいの強さだし」

 

 優木沙々はそう言いながら、懐から何かを取り出してこちらに見せつけてきた。

 それは見覚えのあるものだった。

 

「……!! オマエそれって……」

 

「ああ、この魔女の結界に入った時に拾ったんだよ。最初見たときは安物の指輪かと思ったけど、結構面白くてねー」

 

「面白い…?」

 

「ほーら、よく見て見なよ」

 

 優木沙々はそう言って指輪をこちらに乱暴に投げつけた。

 よろよろと立ち上がって、どうにかキャッチする。間違いないね…鹿目まどかが付けていたものと同じやつだ。恐らく魔女の攻撃をくらった衝撃で……

 

「…………」

 

 数時間前の惨劇が脳裏に蘇る。

 嘆き、憤り、悔み…そして別れ。

 

 ……何であんなことになったんだよ。

 アタシが、アイツらが何をしたってんだよ。

 希望を抱くこと自体が間違い?

 そんなんあってたまるか……

 

「さーてと無駄話もこれくらいにして、そろそろ仕返しを済ませちゃいますか。

 ズタボロにしてこの魔女と同じ、私の傀儡(にんぎょう)にしてあげるよ」

 

 掛け声と共に魔女は唸り声をあげて、アタシの前に立つ。

 操り人形にされているコイツに果たして自我はあるんだろうか…いや、んなことはカンケーない。

 

 考えりゃ簡単じゃないか、何でああなっちまったのかなんて。

 アイツは、ほむらのせいとか言ってたが全然違う。ほむらでも、アイツでも、鹿目まどかでも、アタシのせいでもない。

 

 

 

 全部…テメェら魔女のせいだ。

 

 

 

 向ける矛先が定まり、これまで胸の奥に抑え込んでいた怒りが一気に競り上がって来る。

 もう限界だ。この胸糞ワリィ気持ちを全部コイツに吐き出してやる……

 

 手に持っていた指輪を強く握り、ポケットの中に乱暴にしまう。

 すぐさま魔法少女に変身し、槍を召喚して槍先を魔女へ向ける。そして喉も張り裂けんばかりに叫んだ。

 

「全部…テメェのせいだァァァ!!!」

 

 その叫びは結界全体に響き渡り、魔女の身体を大きく震わせた。

 

 

 

 

 

 

 私はただ歩いていた。

 今自分が自分がどこにいるのかも分からずに。

 ゆらりゆらりとまるでこの世とあの世を彷徨う亡者のように。

 

 そうしていると雨が降って来た。

 雨粒がポタリポタリと落ちて私を濡らす。

 だけど全然気にはならない。何故なら……

 

 もう私には何も感じられないのだ。

 感じられるはずの雨粒の冷たさも。

 動いているはずの心臓の鼓動も。

 この胸の痛みも……

 

 少しずつ…少しずつ……

 歩を一歩進める度に感覚は薄れていった。

 胸の奥底に潜む何かがそうさせている。

 ゆっくりと芯から肉体を蝕み、全てを凍らせていく。

 

 恐怖は感じない。むしろとても心地よかった。

 私に取り巻くあらゆる障害を払ってくれる。

 何もかもを忘れさせてくれる。

 あと少し、あと少しで私は解放される……

 

 

 

 はずだったのに何故か私の歩は止まってしまう。

 ペタリと地面に膝を着いてしまった。

 立ち上がりたくても身体が言うことを聞かない。

 一体どうしてしまったのだろう。そう思っていると背後から何かがゆっくりと近づいてきた。

 それは正面に回り込んで私のことを、見上げた。

 

「にゃー」

 

「エ、イミー…?」

 

 私の前に現れたのは、かつて命を救った小さな黒猫だった。

 エイミーはこの世界に来た最初の日に出会い、それからも放課後や休みの日に会いに行ったこともあった。でも、どうしてこんな所に…?

 

「にゃー」

 

 不思議そうにしているとエイミーは膝の上に飛び乗り、そっと私の手を舐めだした。

 励ましてくれているのだろか?

 私にネコの気持ちは分からない。

 だけども不思議かこの子に触れていると、とても暖かな気持ちになる。

 その熱は私の凍った身体をゆっくりと溶かしていく。

 

「にゃッ!」

 

「痛ッ!」

 

 ぼんやりとしていると不意にエイミーに指を噛まれる。それほど痛くなってないのに思わず声を出してしまう。

 その衝撃で視界を覆っていた闇が晴れて、自分のいる場所がどこかを初めて知った。

 

「ここって……」

 

 自分のいる場所。

 そこはこの世界のまどかと初めて会った河原だった。どうやら無意識で歩いている内に偶然来てしまったのだろう。

 

 いや本当に偶然なのだろうか。

 ここで歩くのを止めてしまったのも、エイミーがこんな雨の中でも私の元にやって来たのも。

 

『ほむらちゃん』

 

「えっ?!」

 

 突然まどかの声が聞こえて慌てて顔を上げる。

 するとそこには信じがたい光景があった。

 

 二人の少女が河原で夕焼けに照らされながら、隣り合って座っていた。

 一人は黒髪の少女、もう一人は可愛らしい赤いリボンを付けたピンク色の髪の女の子。

 彼女達はお互いに笑いあいながら楽しそうに談笑していた。

 

『ほむらちゃんって別の街から引っ越してきたんだね。実はわたしもそうなんだ、とは言っても結構前の話だけどね』

 

『どんな街に住んでいたの?』

 

『うーんとね…詳しくは覚えてないけどもいい場所だったよ』

 

『羨ましいわね。少なくても私が住んでいた所よりは良さそうだわ』

 

『そうかなぁ』

 

『きっとそうよ。ふふっ』

 

 黒髪の少女が笑うのと同時に夕焼けに包まれた景色は消え去り、闇夜の世界が現れる。

 急すぎる出来事にどう反応していいのやら分からなかった。

 今のは一体何? 幻覚…なのかしら……

 

 分からない。どうして今になってこんなものを見るのか。

 あの頃の私は希望があった…前例のない出来事が起こることによって未来を変えることが出来るかもしれないと……

 でもたとえ未来を変えたとしてもそこに私の居場所はない。あってはいけない…彼女の願いを踏みにじり、裏切った報いは死をもって償う以外に方法はないのだ。

 それは百も承知。死ななくてはいけない…なのに、なのに何故私は……

 

「嫌だ…私は、ただ……

 お願い…誰か、私を……」

 

 

 

 私の葛藤は続いた。

 周りで起きている変化に気付くことなく。

 ただ延々と……

 

 雨の勢いが激しくなることも。

 エイミーが途中でいなくなったことも。

 背後から忍び寄る気配にも。

 

 

 

「やっと見つけた」

 

 

 

 後ろから誰かの声が聞こえる。

 私は俯いた状態から立ち上がり振り返った。

 

 そこには全身雨に濡れたさやかがいた。

 

「さやか……?」

 

「こんな所にいたのか…随分と探したよ」

 

「あなた…どうしてここに……?」

 

 私の問いかけにさやかは小さく溜息をつく。

 そしてその後にニッと笑ってみせた。

 

「決まってんじゃん。アンタを見つける為だ」

 

 まさか彼女も巴さんと同じく私を……

 自分のことをこれだけ案じてくれている仲間達の顔を思い返すと、胸が締め付けられるように痛むのと一緒に少しだけ暖かくなる。

 

 もしかして…もしかしてだけども、私はまだ…この世界でみんなと生きていたいと望んでいるのかもしれない。

 もう誰にも頼らない。そう思いながらずっと一人で戦い続けていた。

 これまでも、これからも…終わりの見えない迷路を孤独に彷徨い続けると。

 だけどもそんな幻想(もの)は存在しないことをこの世界は教えてくれた。

 私が長い間、抱えていたものを彼女達は受け入れてくれた。

 

 もし…もしも…みんなが私の犯した罪を、過ちを受け入れてくれるとしたら……

 逃げるのではなく、許してもらうのでもなく、認めてくれるなら……

 私は、もう一度やり直せるかもしれない。

 

「さやか…私は、私は……ッ!!」

 

 全てを目の前の仲間に告白しようと意を決する。

 罪を受け入れて新たな自分になれるように。

 

 

 

 

 

「ほむら…アンタ、死にたいんだってね」

 

 

 

 

 

 しかしそんな望みはあっさりと『裏切られた』

 

「えっ…?」

 

「マミさんから聞いたんだ…死んだ方がいいって」

 

 確かにそんなことを言った記憶は残っている。

 でも何故さやかがそれを話す必要がある?

 

 意図が分からずに混乱している私を見ながら、さやかは自身のソウルジェムを取り出して前に掲げて静かに言った。

 

「あたしはあの人とは違う…望みを叶えてやるよ」

 

「……ッ!!」

 

「暁美ほむら…お前を、殺してやる!!!」

 

 魔法少女に変身してゆっくりと近づく。

 私は驚愕のあまり動けないでいた。

 そして……

 

「全部…お前のせいだ。この…悪魔がァァァ!!!!!」

 

 渾身の力で振るわれた拳を受け、私は大きく吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

「らあぁァァァァァ!!!」

 

 怒りに任せた一撃がまた一つ使い魔を消滅させる。杏子の脅威的な猛襲に沙々は焦っていた。

 

「あ、あわわわ…!!」 

 

 少し前までは自分が優位に立っていたはずなのに…どうしてッ?!

 そう考える間にも杏子は使い魔を蹴散らし、徐々に魔女に近づいていく。

 

「な、なな、何やってんのさ! 早くアイツを倒しちゃってよ!!」

 

 沙々はパニックになりながらも魔女にヤケクソ気味に命令を下した。

 慌てる沙々とは対称的に魔女は無機質な顔で彼女を一瞥し、複数の触手を召喚して襲い掛からせた。

 

「しゃらくせえェェェ!!!」

 

 しかし杏子はその攻撃に動じず槍を薙いで触手を切り裂き、消滅させる。

 そうして一気に魔女との距離を詰める。だが次の瞬間、沙々の焦っていた表情がニヤリと歪んだ。

 

「くらいやがれ!!」

 

「今だッ!!」

 

 その掛け声と同時に杏子の背後から無数の触手が現れて、彼女の手足を拘束する。

 

「何ッ?!」

 

 まさかに不意打ちに驚く杏子に沙々は畳みかけるように指示を繰り出す。

 

「そしてこのまま押しつぶしちゃいなァ!!」

 

『____!!』

 

 魔女はそれに応じ、まだ残っている使い魔達を杏子へと仕向ける。

 そうして杏子は抗う間もなく全身を黒い影によって覆いつくされてしまった。

 

「し、しまっ……」

 

「勝った!!」

 

 勝ち誇る沙々、その傍らで黒い塊がゴリッゴリッと鈍い音を立てながら蠢いていた。

 その光景を見て、沙々は少しだけ後悔しながら塊に声をかけた。

 

「ちょっとやり過ぎたかも……」

 

 良くて全身複雑骨折。最悪な場合だと……

 思考がそこまで行きついた所で沙々は考えるのを止めて、その場から立ち去ろうとした。だが……

 

「うおおおおおおォォォ!!!」

 

 突如、黒い塊は弾け飛んで中からズタボロになった杏子が出て来る。

 あまりにも唐突過ぎることに沙々も魔女もどうすることもかなわなかった。

 当然その隙を杏子が見逃すはずなかった。

 

「終わりだァァァ!!!」

 

 一閃。斬撃と共に魔女の頭と胴を繋ぐ首がゆっくりとズレていく。

 魔女は声にもならない悲鳴をあげながら接合部からどす黒い液体を吹き出しながらゆっくりと消滅していく。

 

「!!」

 

 魔女の消滅と共に結界が消えていくのに気付いた杏子はそのまま何処かへと走り出す。

 沙々はただ茫然とその後ろ姿を見つめていた。

 

「…………」

 

 その傍らにグリーフシードはなく、魔女の頭だけが残されてた。

 

 

 

 

 

 

 さやかに吹っ飛ばされた私は彼女からひたすらに逃げていた。

 何故私を襲うのかと、疑問を投げかけながら。

 

「オラァァァ!!」

 

「さやか! お願い、話を…!!」

 

「うるさいッ!!!」

 

 激昂しながら剣をこちらへと投げ飛ばす。

 どうにかして身体を捻って避けるが、そのせいでバランスを崩してその場に倒れてしまう。

 慌てて顔を上げると、冷徹な目つきで私を見下ろすさやかがいた。

 

「……終わりだ」

 

 剣を両手で握り、刃を突き立てようとする姿に思わず目を瞑ってしまう。

 

「うっ…!!」

 

「…………」

 

 しかしいつまで経っても刃は私に突き立てられなかった。

 不思議に思い、恐る恐るさやかを見ていると彼女はただ前を見つめていた。

 

 ひょっとして思いとどまってくれたのか…?

 そう期待し、声をかけようとする。

 

「さや__」

 

「どういうつもりだ? 美樹さやか?」

 

 しかしそれは第三者の声によってかき消されてしまう。その声を聞いた瞬間、ぞわりと全身が凍り付くような感覚に囚われる。

 

「勝手に行動して織莉子の計画に支障をきたしたらどうするんだ」

 

「でもキリカ…今度は私達にとっていいように作用してくれたみたいね」

 

 どうしていつもこうなのだろうか……

 私の抱く希望は必ず悪い形で裏切られる。

 

 顔を上げて、さやかの見つめる方向を見る。

 そこには美国織莉子と呉キリカ。

 

 

 

 

 

 絶望が目の前に広がっていた…………

 

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 

 





次回予告

第32話 散華



☆お楽しみに……★


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第32話 希望へのS ~ 散華

※久しぶりに戻って参りました。
※一部文がおかしな点があると思いますが、それは後程修正していくのでお願いします。



 

 

 

『…………』

 

 キュゥベえは全てを見ていた。杏子と沙々の戦い、さやかの裏切り、織莉子達の来襲。

 そしてもう一つの異変を。

 

 

 

 今日の夕方、急患として搬送された鹿目まどか。彼女もまた極限の状態に置かれていたのだ。

 

「……親族の方には連絡は済ませたか?」

 

「は、はい。すぐにこちらに向かうと」

 

「そうか」

 

「あの……」

 

「何だ?」

 

「この子、本当に大丈夫なんでしょうか?

 ずっと意識も失ったままだし、それに何だか凄く弱っている気が……」

 

「……ここに搬送されたとき、全身を隈なく検査したが命に関わる傷は負っていなかった。

 それだけじゃない、呼吸・脈拍・血圧、その他のバイタルデータにも異常は何一つない。しかし……」

 

「しかし、何ですか?」

 

「この子に表れている症状は長い間ずっと休むことなく、限界まで体力を使い果たした人間と同じ状態にあるのだ。

 それも普通の人間じゃ到底考えられないレベルの…簡潔に言うなら……死にかけている」

 

「何で…何でそんなことがこの子に…?」

 

「分からない。だが今は私達に出来る限りのことを尽くすしか方法はないんだ」

 

「……はい」

 

 

 

 キュゥベえは病室の隅でその様子をずっと観察していた。

 

『……ようやく君の謎が解けてきたよ。鹿目まどか。

 まだ確証は持てないけども君と暁美ほむらの間には恐らく……』

 

 そう語っている間にも事態は進み、まどかを別の病室に移す作業が行われていた。

 

『もしもこの予想が本当に正しかったら非常にマズいことになる。

 下手をしたら鹿目まどかは…今夜ここで命を落としかねない』

 

 まどかの身体が担架に乗せられる。

 そしてそのまま病室から運び出されていった。

 

『どうやら全ての運命は君の生死で決まるようだね。暁美ほむら』

 

 

 

 

 

 

 別世界からやってきたほむら。悪魔ほむらは遠く離れた場所で事の成り行きを傍観していた。

 

『遂に始まったようね』

 

 かつての仲間に拳を振るい、剣を抜き、守るはずであった友を斬ろうとする様はあまりにも悲しい光景だった。

 

『それがあなたの選んだ道なのよね。

 全てを知り、悩み、苦しんだ末の決断……

 はあ、本当にあなたはどうなったって私という存在の前に立ちはだかるのね。この世界でもあの世界でも……』

 

 困惑した状態で必死に逃げるこの世界の自分。

 そして決して届くことない言葉を伝えながら。

 

『こうして自分がやられていく様を見るのはあまり良い気分ではないけど…仕方がないのよ。

 そうでもしないと…またあの子に同じ苦しみを味わせてしまう。だから…早く全てを終わらせて……』

 

 まるで自分に言い聞かせるように独り言を呟く悪魔。その最後の言葉は…哀願のようにも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 私の眼前には三つの人影があった。

 美国織莉子、呉キリカ、そして…私達の仲間であるはずのさやか。

 

「キミもようやく覚悟を決めたみたいだね」

 

「…………」

 

「最初は織莉子の計画の邪魔にしかならないと思っていたけども、一体どういう心境の変化がキミに起こったんだい?」

 

「…………」

 

「だんまり…か。まあ何にせよキミのお蔭で事が運びやすくなったことは確かだ。そうだろう織莉子?」

 

「ええ、そうね」

 

「……別にアンタ達に感謝してもらいたくて、やったことじゃないわよ」

 

「確かにその通りだわ」

 

 素っ気ない態度を取りながらも織莉子達と会話をするさやかの姿に私は信じられない気持ちでいっぱいだった。

 聞きたいことは色々ある。だけども私の口から出たのはたった一言。

 

「どうして…なの……?」

 

 声に反応した織莉子は険しい表情をしながら、こちらに顔を向ける。

 

「私達と彼女の目的が一致しているから、ただそれだけのことよ」

 

「そんな…だってあなた達の目的は……!」

 

「当然あなたの抹殺。依然として変わりないわ」

 

「嘘よ、さやかが…そんなこと……」

 

「信じられないというのかしら? 実際に彼女に襲われ、殺されかけたというのに」

 

 

 

『アンタ、死にたいんだってね』

 

『あたしはあの人とは違う…望みを叶えてやるよ』

 

『全部…お前のせいだ。この…悪魔がァァァ!!!!!』

 

 さやかから発せられた言葉が次々と蘇る。

 そしてその後に奮われた幾つもの刃。あれは本気の殺意から来る攻撃だった。

 だとしたら彼女は本当に……

 

「残念だけども今の美樹さやかと私達は協力関係にある。それだけが真実」

 

 美国織莉子の言葉がトドメとなって私はガクリと項垂れた。そんな私を見下ろしながら呉キリカは鉤爪を私に爪先を向ける。

 

「織莉子…もういいだろう。そろそろ終わらせよう」

 

「これで私達の悲願は達成される。最期に何か言い残すことはある?」

 

「……ッ!!」

 

 どうにかして抵抗したかったが、体力の限界と先程の一件でソウルジェムを大きく濁らせたことによってもうほとんど力は残っていない。

 このまま殺されるしか道はないというの…?

 

「待って」

 

「何かしら、美樹さやか?」

 

「まさかここに来て裏切るつもりなんじゃないだろうね。もしそうなら……」

 

「勘違いしないでくれる?

 これはあたしが最初に始めたこと。だから決着はあたし自身でつけさせてもらう」

 

「へぇ……」

 

 予想外のことに呉キリカは感嘆する。だがそれとは正反対に織莉子は複雑そうな表情でいた。

 

「本気なの」

 

「何さ文句でもあるわけ?」

 

「別に…ないわ……」

 

「ならもう邪魔しないでよ。

 あたしはどうせもう____」

 

 美国織莉子に何かを囁いたさやかだったが、あまりにも小さく聞き取ることは出来なかった。

 いや…今の私にはそんなことを気にしている余裕なんてない。

 

 右手に剣をギュッと握りしめて、こちらを睨むさやか。その目には迷いは存在せずにただ純粋な殺意が宿っていた。

 そしてゆっくりと腕が振り上げられていく……

 

「さやか……」

 

「もう…何も言わないで」

 

 剣先が頂点に達する。そして柄を両手で握り……

 

 

 

 斬ッ!!! と剣は振り下ろされた。

 

 

 

第32話 希望へのS ~ 散華

 

 

 

「ハアッ…ハアッ…ハアッ!!」

 

 降りしきる雨の中、杏子は息を切らせながら走っていた。優木沙々との戦いで満身創痍であるにも関わらずひたすらと……

 

 チクショウ…何なんだよ。この胸騒ぎは…!!

 あんときと全く同じだ。あのまどかって奴がやられた時のように。

 

 何故こんなにも必死になっているのか、それは杏子自身も理解できなかった。

 本来なら自分以外の魔法少女達がどんな目に遭おうが関係などないはずなのに。

 頭ではそう考えていても、足は止まらない。

 

「クッ…どんどん魔力が小さくなってる奴がいる!

 何やってんだよほむら(アイツ)は!!」

 

 目指す場所まで距離はまだまだある。

 杏子は跳躍して屋根伝いに移動をする。

 そして更にスピードを上げ、反応のする方へと向かう。ただ一つの願いをその胸に込めながら。

 

 

 

 頼むから…今度こそ間に合えッ!!

 

 

 

 

 

 

 寸でのところで魔法少女に変身し、盾で攻撃を防ぐ。剣による衝撃が加わり、そのまま地面に膝をついてしまう。

 

「グッ……」

 

「……ッ!!」

 

 ギリッと歯噛みする音が聞こえる。恐らくさやかのものだろう。

 ようやく私は遅蒔きながら現実を理解した。

 

 さやかは…美国織莉子達と同じく本気で私を殺そうとしている。

 理由は分からない。かといってそのまま交戦するわけにもいかない。ならば私が取る行動は一つ。

 

「ヴァァァッ!!」

 

「!」

 

 再び剣が振るわれる。

 さっきは咄嗟で盾で攻撃を受けてしまったけども今度は違う。

 

「ごめんなさい。さやか!」

 

「なっ…?!」

 

 足払いをして彼女のバランスを崩す。

 その隙に立ち上がり盾から逃走のための武器を探る。

 

 閃光手榴弾。これがあれば……!!

 盾から取り出してそれを投げつけようとする。だが次の瞬間、頭部に凄まじい衝撃が与えられて私の身体は飛ばされ、鉄橋の柵に叩きつけられた。

 

「あ”っ…ぐぐ……」

 

「そう簡単に逃げられると思ったのかい?」

 

「残念だけど、あなたの行動は予知済みよ」

 

 そうだった…美国織莉子の能力は予知。そして呉キリカは速度低下…全快の状態でも彼女達から逃げ切るのは容易ではない。一体どうすれば……

 

 そう考えていると突然視界が赤色に切り替わる。

 慌てて目元に手を当てるとその手は血で真っ赤に染まっていた。今の攻撃でつけられたようね……

 

「うっ……」

 

 立ち上がろうとするも失血による立ち眩みでその場にうずくまってしまう。

 

「もうその状態では逃げることもままならないでしょう。それでは後は頼みましたよ、美樹さやか」

 

 二人はその場から数歩下がり、私が逃げ出さないように監視に戻る。

 そうしてさっきの足払いから復帰したさやかが再びこちらに近づいてくる。

 

「…………」

 

「ねえ……」

 

「…………」

 

「どうして…美国織莉子達と手を組んだの…? 何か理由があるのなら……」

 

「ほむら……」

 

 私の問いかけにさやかがやっと口を開いてくれた。

 その表情は今までの怒りに満ちたものではなく憂いを秘めたものだった。

 

「あたしね…もう全部知ってるんだ」

 

「えっ?」

 

「アンタの身体がどうなっているのか。このまま放っておいたら一体何が起こるのか」

 

「それって……」

 

「自分でも気づいてるんでしょ?」

 

「…………」

 

 さやかが言っているのはあの呪いのことに間違いない。おおよそのことは美国織莉子から説明されたのでしょうね。

 

「それであなたは…彼女達の方に付いたってわけ」

 

「うん……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 静寂の時がしばらくの間流れ、激しい雨音だけが辺りに聞こえていた。

 やがて、さやかはゆっくりとこちらに近づいてきて私の胸倉を掴みあげる。

 

「なんで…あたし達に黙ってたんだよ!! どうして……」

 

「落ち着いて…きっとまだ方法はある……私達に出来ることが必ず__」

 

「方法なんてもうない!!」

 

「!!」

 

「そうやって迷っていたせいで…まどかはどうなった!!」

 

「それは……」

 

「あたしはもう…必要のない犠牲者は増やしたくない。だから…だからァ……」

 

 さやかは泣いていた。

 剣を握った手は頻りに震え、涙がポロポロと瞳から溢れていた。

 

「もうアンタを殺すしか…方法はないんだよ!!!」

 

「…………」

 

 愚かだ。私はどれだけ愚かだったのだろう。

 こんなにもこの子は私の為に必死に悩み、苦しんでいたというのに…私はそれに真剣と向き合おうとしなかった。

 その結果まどかが…彼女の周りにいる人達をどれほど悲しませたか……

 

「うっ…ぐぅあああ……」

 

 急に全身に激痛が走り、再びあの感覚が私に襲いかかる。心が闇によって蝕まれてゆく感覚が……!

 

 しかもこれまで何かとは比にもならない…物凄い勢いで私を侵食していってる。

 視界が更にぼやけ、意識が朦朧とする……

 今見えるのは…禍々しく光るソウルジェムと涙でぐちゃぐちゃになっている私の仲間……

 

「ほむら……」

 

『ギッ…アグッ…ううううううゥゥゥ!!』

 

「もう限界のようね…キリカ」

 

「ああ準備はもう出来てる」

 

 戦闘態勢に入る美国織莉子と呉キリカ。

 自分がどうなっているのか全く分からない。でも…もしこの呪いに屈したら、私は二度と元の自分には戻れない!!

 

「ダメッ……お願、いだ…から……」

 

「ほむら…アンタはあたしが殺す」

 

 次の瞬間、私の頭にある記憶が蘇る。

 それは…かつての失われた時間軸での記憶。

 

 

 

 

 

 

『そっか…それがアンタの秘密ってわけね』

 

『ええ』

 

『ごめん』

 

『どうしたのよ急に?』

 

『何かさ…あたしのせいで転校生に迷惑かけてたみたいだから』

 

『別にあなたのせいじゃないわ』

 

『またまた…そんなこと言っちゃって』

 

『真実を伝える勇気が無かったから、あなたに余計に不信感を与えてしまったのよ』

 

『じゃあお互い様ってことで』

 

『そうね……』

 

『…………』

 

『…………』

 

『最期にアンタに会えて良かったよ。あたしのことを本当に分かってくれたのは…転校生アンタだけだったから』

 

『鹿目まどかや巴マミではないの?』

 

『あの二人は…あたしなんかとは違うよ。アンタもそう思うでしょ?』

 

『……そうね。彼女達はどこまでも真っすぐでいつだって憧れだった』

 

『うん…あたしもおんなじ』

 

『そう』

 

『…………』

 

『…………』

 

『ねぇ……』

 

『なに?』

 

『手握ってもいい』

 

『構わないわ』

 

『ありがと』

 

『不思議なこともあるものね。まさかこの世界での最初の理解者があなたになるなんて』

 

『うん…あたしもだよ』

 

『…………』

 

『あのさ…あたしの一生に一度のお願い聞いてくれる?』

 

『……内容によるわ』

 

『このまま魔女になったらさ、アンタの手であたしを倒してほしいんだよね』

 

『……いいわ』

 

『ありがとね。それともう一つ』

 

『一度だけじゃないの…?』

 

『あはは、おまけってことで…もしこの世界でまどかを救えずに時間を戻すことになっても諦めないで欲しいんだ』

 

『そんなの言われるまでもないわ』

 

『言う必要なかったか…お願い一つ損しちゃった』

 

『損も何も最初から一つだけじゃない』

 

『そっか…あっ……』

 

『どうしたの?』

 

『もうソウルジェムが……』

 

『そう……』ギュッ

 

『離れなくていいの? もう魔女になっちゃうんだよ?』

 

『ひとりぼっちは寂しいでしょ? 最期まで付き合うわ』

 

『てん…いや、ほむら。みんなを…あたしの親友を守ってあげて……』

 

『ええ』

 

『じゃあ…後のことは頼んだよ……』

 

 魔女となった美樹さやかは…私によって倒された。その間、彼女は一切の抵抗をせずに静かにその場を佇んでいた。

 私はさやかとの約束を胸に、結界を後にした。

 

 

 

 

 

 

「その必要はないわ」

 

 私はさやかの手を強く握りしめてそう言った。

 戸惑いを見せている内に彼女から離れ、鉄橋の柵にもたれかかる。

 

「アンタ一体何を……」

 

「いいのよ、さやか…あなたがこれ以上傷つくことはない。これは私自身が撒いた種。だからそのケジメはしっかりとつける」

 

 呪いにもがき苦しむ姿から一変した私にさやかだけでなく美国織莉子達も動揺を隠せていなかった。

 私はさやかに笑顔を向けながら盾から一丁の拳銃を取り出す。そしてそれを……自分の額に向けた。

 

「「!!」」

 

「ほむら…何を?!」

 

「言ったでしょう。あなたが傷つく必要はないって」

 

「アンタ……まさか?!!」

 

 照準がブレないようしっかりと両手で銃を押さえる。そうして引き金に指をかけ、ゆっくりと力を込めていく。

 

 私は…『最期』の言葉としてあの時の彼女と同じことを呟いた。

 

 

 

「後のことは頼んだわよ……」

 

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 パァン!!!

 

 銃声が鳴ると共に…私の意識は遥か遠くの彼方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 銃で自分の頭を撃ち抜いたほむらは…グラリと後ろに倒れてゆき、そのまま柵を越えて下の川へと落ちていった。

 

「ッ!!」

 

 さやかは慌てて走り出し、落ちたほむらの行方を視線で追う。

 しかし雨のせいで流れが増しているせいで川は荒れ、とても橋からでは見つけ出すことが出来るはずもない。

 

「そんな……」

 

「…………」

 

「……これで、終わったんだね。織莉子?」

 

「…………」

 

 崩れ落ちるさやかを複雑そうな表情で見つめる織莉子。キリカは彼女からの返事が返ってこないことに不安を感じていた。

 

 重苦しい空気が流れる空間。そこに新たに足を踏み入れる者が一人現れる。

 

 

 

「おい…一体どういうことなんだよ……」

 

 

 

「!!!」

 

「キミは……」

 

「佐倉杏子…!!」

 

 肩で息をしながら口にしたその問いかけに答える者はいなかった。

 何も喋らない三人を睨み付けたまま、杏子は再び口を開く。

 

「銃声が聞こえて…それから誰かが橋から落ちてった。まさか……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「黙ってないで何か言いやがれ!!」

 

「行きましょう。二人とも」

 

 激昂する杏子に背を向けて歩き出す織莉子。

 その後ろ姿を二人は黙って見ていたが、直ぐ様追いかけ始めた。

 

 当然、杏子はそのまま見過ごすはずもなく……

 

「待て! こっちはまだ何も聞いてないぞ!!」

 

「ハァッ!!!」

 

「ぐわッ…!!」

 

 織莉子の放った光弾は杏子の腹部に命中。

 それにより杏子は数歩後退させられ、地面に膝をついてしまう。

 死闘を繰り広げて、その後も休まずに走り続けていた彼女の体力はもう限界だった。

 

「チクショウ…まだ話は……」

 

「そんなに真実が知りたいのなら教えてやるよ」

 

 諦めの悪さに苛立ったのかキリカが杏子の目の前にやって来る。

 そして見下ろしたまま短くこう言った。

 

「暁美ほむらは私達の手で始末した。キミが見たのは彼女の遺体だ」

 

「なんだとオッ…!! ぐぐぐ……」

 

「キリカ!!」

 

 立ち上がろうとする杏子の背中に蹴りを入れるキリカ。織莉子は叫んで制止させようとするがその必要はなかった。

 一蹴り入れて気が治まったのかキリカは早足で歩き出してそのまま織莉子を追い越していった。

 

「もう行こう…ここにいる必要は、もうない」

 

「え、ええ……」

 

「…………」

 

 遠ざかる三人。身動きが取れない杏子はただそれを見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 ほむらを倒し、杏子を打ちのめした織莉子達。

 目的を達成して帰路につく彼女達の足取りはどれも重たい。

 

「織莉子」

 

 キリカは先程からずっと沈んだ表情をしている織莉子に声をかける。

 一体何がこれ以上彼女を苦しめているのかそれがずっと不思議でたまらなかった。

 

「織莉子…これで全部__」

 

「まだ終わってないわ」

 

「えっ?」

 

「?!!」

 

 その発言を聞いてさやかはビクンと身体を揺らす。だが二人はそれには気付かないまま話を続ける。

 

「何故…もうアイツは倒したはずじゃ……」

 

「まだ暁美ほむらのソウルジェムが残っている」

 

「……そうだった。ということは」

 

「私達には彼女の肉体を見つけ、そのソウルジェムを砕かなければならない」

 

「じゃあ今すぐ……」

 

「この雨で増水した川の中から見つけるのは困難よ。夜が明けて天候が回復してからにしましょう」

 

「待ってよ……」

 

 そのまま歩き出そうとする二人を後ろから呼び止めるさやか。

 織莉子はその揺らいでいる彼女に労いの言葉をかけた。

 

「美樹さやか。あなたはよくやったわ。

 後のことは私達で終わらせるからあなたは何もしなくて構わないわ」

 

「…………」

 

「何も心配する必要はない。彼女がやって来る前と同じ元の暮らしに戻ればいいのだから……」

 

「そんなこと…簡単に_「無理でしょうね」_?!!」

 

「あなたはそれも覚悟の上で協力をしたのでしょう?」

 

「……でも」

 

「初めは辛いかもしれない…でも後悔の念に囚われ続けていては前には進めない。

 たとえどんなに苦しくても罪を背負っていくしかないのよ…私達は……」

 

「…………ッ!!!」

 

 話を聞くことに堪えられなくなったさやかはその場から走り去ってしまう。

 そんな彼女をみる織莉子の目はやはりどこか悲し気なものだった。

 

「織莉子」

 

「さあ帰りましょう…キリカ」

 

「本当はそれだけじゃないんだろう? キミが苦しんでいるのは……」

 

「…………」

 

 キリカは彼女の葛藤を理解していた。

 だがそれを分かっていたとしても出来ることは何もないことも知っていた。

 

「ごめんなさい」

 

「えっ?」

 

「私の心がもっと強ければ…あなたを苦しませないで済むのに」

 

「キミがこんなにも辛い思いをしているのに私は何もしてあげられない。

 でも…これだけは伝えておきたい。私は何が起きようともキミの世界を守り続ける。

 たとえそれが虚構の世界であっても……」

 

「……ありがとう」

 

「それじゃあ今度こそ_「いたいた。やっと見つけたー!」_はぁ……」

 

 話の最中であったが、遠くからの呼びかけで遮られてしまう。

 キリカは小さく舌打ちをしてから声のする方に目を向けた。

 

「アンタら傘もささずにこんなトコで何やってんのさー」

 

「優木さん…あなた今までどこにいたの? テレパシーにも反応しなかったみたいだったけど」

 

 現れたのは沙々だった。

 鉄橋に向かう途中、織莉子は彼女にも声をかけていたみたいだ。

 

「戦ってたんだよ。あの赤い奴と」

 

「佐倉杏子のこと?」

 

「うん。この前の借りを返すつもりでいたのにアイツときたら…何だよあの馬鹿力、バケモンクラスだよあんなの」

 

「そう、そういうことだったのね」

 

「ふーん。図らずもコイツはキミにとって都合の良いことをしていたみたいだね」

 

「なになに何の話さー?」

 

「お前は知らなくていい」

 

「なんだとー!!」

 

「はいはい…もう遅いんだからやめなさい二人とも」

 

 また喧嘩になりかけようとするが、織莉子はそれを何とか止める。

 そして場が落ち着いた後、彼女は沙々にこんな問いかけをした。

 

「ねぇ、優木さん」

 

「なに?」

 

「何故あなたは私達に協力しているのか…その理由を覚えている?」

 

「アンタに雇われたからでしょ? グリーフシードと快適な住居を提供させてもらう代わりとして」

 

「そう…それならいいの……」

 

 不安そうだった織莉子の顔に少しだけ明るさが戻る。この質問に何の意味があるのか…それはまだ彼女とキリカしか知らない。

 

「お世辞にも快適とは言い難いけどー」

 

「お前……」

 

「まー、私は寛容ですから別に文句は言わないですけど~」

 

「やっぱりここで刻んでしまった方がいいんじゃないかなぁ…織莉子?」

 

「いいのよ…私にはこれで……」

 

 それから三人は明日なる戦いに備えて織莉子の家に帰っていった。優木沙々が持ってきた傘をさし、共に歩きながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜が明け、新しい朝がやってくる。

 激しく降り続けていた雨は止み、川の増水も収まっていた。

 

 そんな光に照らされる街の河原に倒れている人影が一つ…暁美ほむらだった。

 落水した彼女だったが運良くその身体は河原に流れ着き、川の底に沈まずに済んだみたいだ。

 

「……………………」

 

 かろうじてまた息はあるも、目覚める様子は見られない。

 意識を失ったままのほむら。そしてそこに近づく新たな影が……

 

「いた……」

 

 その影の主は美樹さやか。

 彼女は一言だけそう呟いてほむらへと歩み寄る。

 

 そして彼女は魔法少女の姿に変身し…ゆっくりとほむらに手を伸ばしていった。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 

 




※次話に進む前にこれまでのお話の文章やセリフを少しだけ変更、場面(キャラの活躍シーン)の追加を行いたいと思います。

※今までの話の流れに支障をきたしたり改編することはありませんのでご安心ください。なお変更が多かった場合は再投稿をして変更点を前書きに書かせてもらいます。

※今後も不定期更新が続きますがよろしくお願いいたします_(..)_



☆次回予告★



近づく織莉子達との決戦の時!

「さあ全てを終わらせましょう」

「キミは最早不要だ。ここで死ね」


苦悩する杏子!

「アタシには似合わないんだよ…そういうのはさ」

「難しく考えすぎなんだよ、もっとバカになんな」


物語の鍵を握るのは……?!

「どうしたってほむらを殺した罪は消えない!」

「さてと…そろそろ動きますか!」


第33話 Oは排除せよ



See you!! Next story……


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第33話 Oは排除せよ ~ 誰がために

第3章後半戦スタートです!


☆これまでのあらすじ★

世界をも滅ぼす力を持つ暁美ほむらを中心に見滝原で魔法少女同士の争いが勃発。
ほむらは相棒の鹿目まどかとその仲間達と共に自分の命を狙う美国織莉子らと激闘を繰り広げていた。

まどかに瀕死の重傷を負わせてしまったことを激しく後悔するほむら。
そんな彼女の元に織莉子達と手を組んだ美樹さやかが現れ、襲撃を受けてしまう。

一方でほむらの異変を感じ取った佐倉杏子は彼女の元に駆け付けようとするも、織莉子の仲間である優木沙々によって妨害されてしまう。

満身創痍になりつつも勝利を収めた杏子だったが、その先で彼女が見たのは…橋から河へと落ちていくほむらの姿だった……


さて、どうなる第33話!!



 

 

 

 事件から二日…見滝原の街はこれまでの騒動が嘘のように平和な時が流れていた。

 

 魔女の発生も魔法少女同士の衝突も何も起こらなかったのだ。

 

 だがその束の間の安息もまもなく終わりを迎えようとしていた。

 時刻は午後一時を過ぎた辺り、ゆまはマミのマンションで退屈そうにしていた。

 

「マミ…はやくかえってこないかな?」

 

 お昼はマミが予め用意していてくれたものを食べたので特に心配はない。

 しかしゆまはもっと別のものを求めていた。

 

 いつもなら…否、これまでの二週間通りの生活なら彼女の傍に杏子がいた。

 両親を失って天涯孤独の身となったゆまにとって杏子はたった一人のかけがえのない家族だった。

 たとえマミがどれだけゆまを気遣ってあげたとしても、彼女の力だけでは本当の笑顔は戻らないのだ。

 

「キョーコ、どこにいっちゃったの…? グスン……」

 

 寂しさのあまり涙が溢れそうになる。

 けれど、ゆまはそれをグッと堪えた。なぜなら……

 

「ダメ…マミとやくそくしたもん。もうなかないって……」

 

 幼いながらも過酷な現実に向き合おうとするゆま。だが、そんな少女に"悪意"がもたらされる……

 

 

 

コンコン……

 

 

 

「えっ?」

 

 どこからか何かを叩く音が聞こえる。

 誰かがドアをノックしたのかとゆまは思ったが、それは音は全くの反対の方向からだった。

 

「もしかして…キョーコ?!」

 

 ゆまは胸に微かな期待を抱き、後ろを振り返ってみる。すると…次の瞬間……

 

 

 

 

 

ガッシャーン!!!

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 ベランダの窓ガラスは跡形もなく砕け散った。

 

 

 

 

 

 

「昨日どれだけ探しても暁美ほむらのソウルジェムは見つからなかった…だとすれば残された在りかは決まって来る……」

 

「織莉子。私はいつでも行けるよ」

 

「まだダメよ…優木さんが彼女をここに連れてくるまでは」

 

「あのチビ助、もし失敗したら……」

 

「大丈夫よ。あの子のことだからきっと」

 

 

 

ピリリリ……

 

 

 

「ほら来た。……もしもし?」

 

「…………」

 

「分かった、彼女はあなたの好きにして構わないわ。

 でも手出しはしちゃダメよ。あの子は大事な取引の道具なのだから……」ピッ

 

「織莉子……」

 

「もういいのよ、キリカ。ここまで来たらもう後には引けない。さあ全てを終わらせましょう」

 

 

 

 

 

第33話 O(Obstacle)は排除せよ ~ 誰がために

 

 

 

 

 数時間前……

 

 静まり返った病院の一室。そこにいるのはアタシと鹿目まどかの二人だけだ。

 この病院の医者や看護師の目を盗んで折角会いに来たけども、肝心のまどかのヤツがずっと寝ていてまるで起きる気配がしない。

 

「こっちは色々と苦労してるってのに、何て顔して寝てるんだか」

 

 小さな寝息を立てながら眠るまどかの頭をアタシはそっと撫でる。

 

 あの現場を見てからアタシは河原からほむらの行方を追った。

 本当は川の中に入った方が手っ取り早いと思ったが、優木沙々との戦いの傷と河の急激な流れが相まってこっちが死にかけたので諦めた。

 微かではあるがアイツの魔力の反応があるからまだ死んではいないだろう。

 

 けど、それよりももっと気になるのが……

 

『…………』

 

 美樹さやか(アイツ)鹿目まどか(コイツ)達の仲間じゃなかったのか? どうして美国織莉子達なんかと手を組んでいやがったんだ?

 何故そこまでして暁美ほむらの命を狙う?

 

 チッ…何もかもが分かんねぇ。

 そもそもの話だけども何でアタシが出会って数日も経っていない奴等のことで頭を悩ませなくちゃいけないんだよ。確かに協力するとは言ったけど、その話もあの件で無かったことにしたじゃねーか。

 

 そうだ。自分のことだけを考えて生きていけばいい。他人なんかに振り回されたりなんかするからあんなことが起きちまうんだ。だからこれで……

 

『キョーコ!』

 

 吹っ切ろうとするが、不意にアイツの声が聞こえて来てそれを妨げる。

 驚いて周りを見渡すもゆまの姿はどこにも見えない。なんてこった…何でアイツの幻聴が聞こえてきちまうんだよ……

 

「はあ…………」

 

 でっかいため息をついて頭を抱えていると、突然後ろで病室のドアが開かれた。

 

 ヤベッ! 部外者のアタシがこんなトコで見つかったら…!!

 窓から逃げれば…いや完全に手遅れだな。こうなったら適当に言い訳をして逃げるしかないか。

 

「あれ、アンタは確か……」

 

「えっ?」

 

 ドアの方を振り返ってみるとそこにいたのは、えっと…確か……

 

「前にまどかが運ばれたときに一緒にいた子だっけか。アンタみたいな若い子がこんな真昼間からなーにやってんだい?」

 

「げっ……」

 

 思い出した。この人まどかの母親じゃねーか。

 病院の看護師や医者なんかよりも厄介な人と出会っちまった……

 

「おいおい、人の顔見るやいなや「げっ……」はないだろー」

 

「あー……」

 

 ヤベー声に出てたのかよ。初対面での印象サイアクだったのにこれじゃもっと……

 

「ま、そんなことはいいや。ほら、そんなとこに突っ立ってないで座りなよ。

 せっかく見舞いに来てくれたお客さんなんだし、持て成しくらいさせて頂戴な」

 

「あ、あぁ……」

 

 言われるがままに椅子に座られてしまう。

 まどかの母親はそんなアタシの姿をまじまじと見つめていた。

 

「な、なんだよ……」

 

「いやー、前のときとはまどかの病室は別の場所だったのにどうやって見つけられたのかなーって思ってさ」

 

「……自力で見つけた」

 

「スゴッ…こんな広いのになかなかやるじゃん」

 

 ホント苦労したよ…朝っぱらから医者や看護師に見つかんないようにずーっとウロウロしてたからな。あの時の苦労を思い出してついため息をついてしまう。まどかの母親はそれを見て、ふっと笑いアタシにペットボトルを渡してきた。

 

「まどかの為にわざわざありがとね。

 にしても何だってそこまでして見舞いに来てくれたんだい?

 アタシとしては嬉しい限りだけどさ」

 

「……これを渡しに来たんだ」

 

 そう言ってポケットからあるものを取り出してまどかの母親に渡す。

 

「これって…指輪?」

 

「あぁ……」

 

 優木沙々と戦った際にアイツから渡されたもの。

 まどかのヤツ、前にマミ達と話していた時もずっと大事そうにしていたからな。

 無意識の行動だったっぽいけどもそれもあってよく覚えてる。

 

 まどかの母親はその指輪をじっと見つめていた。

 そして今までとは違う柔らかな笑みを浮かべる。

 

「これはな…まどかにとって大切な宝物なんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「一番最初にほむらちゃんがウチに遊びに来てくれたときにあの子がまどかにプレゼントしてあげたものなんだ」

 

「へぇーアイツがねぇ……」

 

 あのクールな性格に似使わず案外可愛いトコあんじゃねぇか。

 おっと…こんなことアイツの前で言ったら何されるか分かったもんじゃねぇな。

 

「扉越しにその時の話も聞いてたんだけども微笑ましくてニヤニヤしながら聞いてたよ」

 

「随分と趣味が悪いことで」

 

「まぁねっ」

 

 互いにニヤリと悪い笑みを見せる。

 だけど、ほむらの話をしている内にまたあの時の出来事が蘇ってしまう。

 

 アタシの様子が変ったのを察したのかまどかの母親の表所が真剣なものに変わる。

 

「ほむらちゃんに何かあったのかい?」

 

「……いや、アタシにも分からない」

 

 あの衝撃的な出来事を説明なんか出来るはずもなく、また嘘をついてしまう。

 だって言えるわけがねぇだろ…アイツらのダチが裏切ってほむらを殺しかけてたなんて……

 

「そっか…大変なんだな」

 

「追求しないのか?」

 

「アンタが分からないって言ってるんだからそれ以上追求したって仕方ないだろ?

 それにアタシはまどかを、アイツの友達を信じてるからさ」

 

「…………な、なあ…一つ聞いてもいいか」

 

「ん、どした」

 

「アンタ、あの後アイツと何を話したんだ」

 

「ほむらちゃんとかい?」

 

「あぁ……」

 

 まどかがこの病院に搬送された後、この人はほむらだけに何か話しをしようと引き留めた。

 十中八九、真実を聞き出すためだろう。あの状況で世間話なんざ始めるわけもない。

 

「あの時アンタは姑息な手は使わないって言っていた。アタシはそれは本当のことだけ思っている。だからこそ一体何を話していたのかが気になるんだ」

 

「なるほどね…まっ、そこまで隠しておく必要もないから話してもいいかな」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

『ほむらちゃん。そこまで気に病まなくてもいいんだ。今回のは不運な事故…そうなんだろ?』

 

『本当にそう思ってるんですか?』

 

『……あぁ』

 

『私…もうまどかには会わないです』

 

『ど、どうして?!』

 

『だって私と関係をもったせいで…あの子の日常を何もかも変えてしまった。

 これまで幾度となく迷惑をかけてきて…遂にはこんな目に遭わせてしまった……』

 

『……ほむらちゃん』

 

『ごめんなさい…本当にごめんなさい。

 謝っても許されないのは分かってます…でもッ!!』

 

『今回の件の真意はアタシには分からないよ。

 でもね…これだけはハッキリと断言出来る。

 ほむらちゃん、あなたはまどかを危険な目に遭わせて傷つける子なんかじゃない。寧ろ今までずっとあの子のことを守ってあげたんじゃないか?』

 

『……!! なんで…そう言い切れるんですか?』

 

『何度もウチに来て一緒に時間を過ごしたんだ。まどか程じゃないけど、あなたのことを色々と知ってるつもりだよ』

 

『詢子さん……』

 

『頼むからもう会わないなんて言わないでくれ…そんなことをしたらアタシも、まどかも悲しむ』

 

『うっ…うっ……』

 

『その傷が癒えた後でもいい…またアタシ達に会いに来て欲しい。いつでも待ってるからさ』

 

『……はい』

 

 

 

 

 

 

「……そんなことがあったんだな」

 

「まどかは幸せものだよ。アンタやほむらちゃんみたいに大切に想ってもらえる友達にたくさん出会えたんだから」

 

 雨が降り注ぐ中、おぼつかない足取りで歩いていたほむらの姿を思い出す。

 あの時アイツに声をかけられていたら、何かを変えられたのだろうか。

 

「アイツ…そんだけ悩んで苦しんでたんだな」

 

「それはアンタもだろ?」

 

「えっ?」

 

 突然の不意打ち気味の言葉に驚いてしまう。

 

「アンタもほむらちゃんと同じく何か悩んでる顔をしてる。

 上手く隠してるつもりかもしれないけども、アタシにはちゃんと見えてるよ」

 

「……オイオイ、マジかよ」

 

「マジ! 何について悩んでるのかまでは分からないけどね」

 

 なんて人だよ…将来まどかもこんなのになるとしたら末恐ろしいや。

 

「別にその事情に首を突っ込むつもりはないけども一つアタシからアドバイスをしてあげる」

 

「アドバイス?」

 

「アンタやほむらちゃんの年頃の子は誰しも他人には言えない大きな悩みを抱えている。

 時にそれは自分を惑わせ、正しい道を見いだせなくなる。

 これから先に起こりうるかもしれない事に恐れていたって何も始まらない。

 そんなときはね…自分が一番正しいって思うことをするんだ」

 

「自分が一番正しいと思う?」

 

「そっ、人生何が起こるのかは誰にも分からない。

 その先の道を決めるのはアンタ自身で、今みたいに思い悩んだ末に決めるのも、直感的に感じて選んじまうのものも悪くない。全部自分の自由だ」

 

「…………」

 

「でも今のアンタは悩み過ぎて何も答えを見つけられずにいる」

 

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ……」

 

「簡単だ。難しく考えすぎなんだよ…もっとバカになんな」

 

「…………」

 

「まあ、これはアタシの一意見に過ぎないからそれを信じるも信じないも自由だ。

 けど、自分自身が正しいと思って決めた選択に後悔だけはしないで欲しい…それだけは信じてもらいたいかな?」

 

「……そうか。ありがとう、色々と教えてくれて」

 

「良いの良いの、もし良かったらまた会いに来て頂戴な。今度はしっかりともてなしてあげるからさッ」

 

「あぁ……」

 

 一応の礼儀としてまどかの母親に頭を下げて病室のドアに手をかける。

 

「そういやアンタの名前なんていうんだい?

 アタシは鹿目詢子。知っての通りまどかの母親だ」

 

「……佐倉杏子だ。ほむらとまどかの友達…みたいなもんかな?」

 

「そっか…じゃあ杏子ちゃん、また会おうな」

 

 詢子の言葉にアタシは静かに頷き、そして病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「杏子ちゃん…変わった子だねぇ」

 

 詢子はそう呟きながら眠り続けているまどかの頭をそっと撫でる。

 

「まどか…アンタも早く目ェ覚まして大事なお友達に元気な姿を見せてやんな。そしたらきっとみんなも元気になれるはずだからさ」

 

 そう優しく声をかけて、杏子が持ってきてくれた指輪を近くの台に置く。

 そして自分の腕時計を見て今の時間を確認した。

 

「もうこんな時間か…そろそろ仕事に戻らないとな。

 ……じゃあな、まどか。また来るよ」

 

 鞄を抱えて病室から出ようとする詢子。

 するとドアがゆっくりと開けられて病室内に誰かが入ってきた。

 

「あれ、アンタは……」

 

 

 

 

 

 

 アタシは病院を出て、そのすぐ近くにあった公園に立ち寄り、先程まどかの母親に言われた言葉についてを考えた。

 

『難しく考えすぎなんだよ…もっとバカになんな』

 

「もっとバカに、ね……」

 

 バカな自分…昔あの人と一緒に正義と平和の為に魔女と戦っていた頃のアタシ。

 ただひたすらに一直線で誰かを助けようと必死になっていたっけ。

 

 今のアタシは…自分一人の為に魔女と戦って生きている。この生き方は誰が何と言おうと正しい…それがなくちゃこの世界で生き抜くことなんざ出来やしない。

 

「…………」

 

『キョーコ!』

 

 じゃあ、何故あの時その生き方に背いた?

 なんでアタシはアイツに手を差し伸べた?

 

『お前といた数週間、悪くなかったぜ……』

『久しぶりかもな、一人になるのって……』

 

 どうして悔む必要がある?

 一番懸命な選択をしたんじゃなかったのか?

 

「…………はあぁぁぁぁぁあ」

 

 バッカみたいにデカいため息をつく。

 もう考えるのはヤメだ、この一か月にあったこと全て忘れちまおう。それが一番だ。

 誰かの為にだなそんな生き方はな……

 

「アタシには似合わないんだよ…そういうのはさ」

 

 風見野に帰ろう…そしてこの街にはもう二度と訪れない。たとえ魔女の狩場に困ることになったとしても…だ。

 

 見滝原から去ることを心に決めるアタシ。

 けども…そう簡単に運命は逃してくれなかった。

 

「アンタ…こんなトコで何してんの……」

 

「はっ…? 何だよ急……ッ!!」

 

 咄嗟に声をかけられてその方を向いてみると

 

「テメェは……」

 

「何だ…まだアンタこの街にいたんだ」

 

 三日前にアタシとやりあったあの青い魔法少女だった。確か…美樹さやかって言ったっけ?

 

 いや、今は名前なんかどうでもいい。

 それよりもコイツにどうしても聞かなくちゃいけないことがあるんだ。

 

「お前…二日前、鉄橋に美国織莉子達と一緒にいたよな?」

 

「うん……」

 

「そこで一体何をしていた…?」

 

「何って…アンタも見たでしょ。そんなことわざわざ聞いて__」

 

「ほむらを殺そうとしたんだろ」

 

「ッッッ!!!」

 

 これまで虚ろだったアイツの目が一気に見開かれ、鋭い目つきでこちらを睨み付けてきた。

 

「……んだよ、その目は」

 

「別に関係ないでしょ…自分の為に魔女に人を殺させてるアンタには」

 

「……否定はしねぇよ。けどよ、アイツはお前の仲間じゃなかったのかよ」

 

「…………」

 

「だんまりか。そんなに言いたくねぇんなら…力ずくで吐かせるまでだ」

 

 ソウルジェムを取り出していつでも変身出来るように構える。ここじゃ少し人目につくかもしれねぇが知ったことか。

 だが、戦う気満々のアタシに対して美樹さやかは極めて落ち着いていた。

 いや…正確には覇気がまるで感じられないって言った方がいいか。

 

 なんて不気味に思っていると美樹さやかが口を開き、しわがれた声でゆっくりと話し出した。

 

「言ったところで何になるっていうのさ……

 あたしはもう越えちゃいけない一線を越した…

 もう後戻りは出来やしない……」

 

「何でそうなっちまったんだよ…美国織莉子らに脅されてんのか?!」

 

「違う…これはあたしが自ら決めたこと……」

 

 自分の意志でほむら達を裏切った…?

 それを聞いて堪えられなくなったアタシは思い切りアイツの肩に掴みかかった。

 

「どうしてだよ! 何がお前をそうさせた!!」

 

「…………」

 

「答えろ!! アイツらがどれだけお前のことを大切に思ってたのか分かってんかよ!!」

 

 

 

 

『確かにさやかにはそういう一面もあるけれども、その真っ直ぐさが彼女のよいところなのよ』

 

『そうね。彼女のお蔭で私達もたくさん助けられてもらったわ』

 

『随分と信頼してるんだな。アイツのこと』

 

『だってさやかちゃんはわたし達の大切な友達で仲間だもの』

 

『……そっか』

 

 

 

 苦楽を乗り越えて、美国織莉子達と戦ってきた仲間だったはずだ。

 アタシがマミの生き方をバカにしたときアンタは怒り、何も考えずにがむしゃらに向かってきたよな。

 

「テメェにとってアイツらはその程度のモンなのかよ…アイツら一緒に戦ってきた時間は…全部偽りだったのか!」

 

「黙れッ!!!」

 

「ッ!!」

 

 とんでもない力で突き飛ばされて地面に倒れてしまう。さっきまでの覇気のない姿はどこにいったのか、美樹さやかは凄まじい形相でアタシを見下ろしていた。

 

「アンタには関係ないって言ってんでしょ!!

 何も知らないくせに…好き勝手に喋ってんじゃわよ!!」

 

「……んだと!」

 

「それに…話したトコで……どうしようもないよ……

 どうしたってほむらを殺した罪は消えない!!」

 

「お前……」

 

 もう一度掴みかかってやろうとしていたが、また一変したアイツの様子にアタシはどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

 だがそんな時間は直ぐ様なくなってしまった。何故なら……

 

「見つけたよ、佐倉杏子」

 

「!!」

 

「その声はまさか…ッ!!」

 

 呉キリカ。その名を呼ぼうとした瞬間、辺りの景色に変化が起きた。

 この感覚…優木沙々の時と同じ!

 

「ん、なんだキミもいたのか。美樹さやか」

 

「暁美ほむらの時といい、ターゲットの元に着くのが早いことで」

 

「……今度は意図していたわけじゃない」

 

 その返答に呉キリカは興味がないといった様子を見せ、視線を美樹さやかからアタシに向ける。

 

「あっそ、まあそんなことはどうでもいいや。

 佐倉杏子。キミに一つ聞きたいことがある。」

 

「何だよ」

 

「暁美ほむらのソウルジェムを知らないかい?」

 

「!!」

 

「はっ? ほむらのソウルジェム?

 そんなもん聞いてどうする……いやお前のすることは分かりきってるか」

 

「で、どうなんだい」

 

「知らねえなァ、それに知ってたとしても誰がテメェに教えるか」

 

「ふぅん…そうかい」

 

 

 

 

 

「ならいいや、キミは最早不要だ。ここで死ね」

 

「なッ?!」

 

 身の危険を本能的に察したアタシは身を伏せる。

 さっきまで身体のあった場所に呉キリカの鉤爪が通る。

 もし判断が一瞬でも遅かったら……

 やっぱコイツは段違いにヤベェ!!

 

 魔法少女の姿に変身して武器を取り出し身構える。

 過去に対峙した時と同じくアタシの身体は少し震えていた。

 

 武者震い…ではないよな。

 でももう逃げ場は何処にもねぇんだ…腹くくるっきゃない!

 

「これから行われる織莉子の計画にとってキミは邪魔な存在だ。

 あのガキんちょと同じ運命を辿らせてあげるよ」

 

「あのガキ…?!!」

 

 その言葉を聞き、悪感が走る。

 

 アイツらに接点のあるガキといえば…アタシの知る限りでは……

 

 青ざめているアタシを見て呉キリカはニヤリと笑い、ポケットからあるものを取り出した。

 それは緑色のデカいリボンだった。

 

「そうさ、キミの予想通りだ」

 

「ゆまに…ゆまに一体何をしたッ!!!」

 

「私は何もしてない。やったのはあのチビ助だ。

 マンションにいたガキんちょに奇襲を仕掛けてそのまま魔女の結界に閉じ込めてやったって言ってたかな?」

 

「魔女の結界にだとッ?!」

 

「残念だけど今キミのいる結界ではないね。まっ、仮にいたとしてもどうなってるのかはこのボロクズを見たら大体察しがつくと思うけど」

 

「テメェら……」

 

 何故だ…何故なんだ。

 あんときといい、どうしてアイツを巻き込む……

 魔法少女としての道もアタシは進ませたくなかった…なのにテメェらはゆまを地獄の道に引きずり込んだ……

 アイツがテメェらに何をしたっていうんだ。

 アイツはただ普通の平凡で幸せな生活を送りたかっただけなのに……

 

 前にゆまは言っていた。

 両親と共にいた暮らしは辛かったって。

 母親からの虐待を受けて、アイツの身体には酷い傷がいくつもあった。

 普通じゃねぇ過酷な人生をこんな小さな頃から体感していた奴に…何でそんな真似が出来んだよ……

 

 もう限界だ…テメェらには一切の情けなんかかけねぇ……

 呉キリカ、美国織莉子、優木沙々…テメェら全員ッ__

 

「ぶっ殺す!!!!!」

 

「やれるものなら…やってみろッ!!!」

 

 アタシの槍とヤツの鉤爪が火花を立ててぶつかり合う。死闘が今、始まった……

 

 

 

 

 

 

 時刻は夕方。

 マミは授業を終え、ゆまの待つ自分の家へと向かっていた。

 

「ゆまちゃん、ちゃんといい子でいるかしら?

 きっと一人で寂しい思いをしているから早く帰ってあげなくちゃね」

 

 その足取りはいつもよりも軽く、マミ自身も早くゆまの顔を見たいと思っていた。

 しかし家へと近づくにつれて普段とは違う違和感を強く感じるようになる。

 

(何かしら…この胸騒ぎは……?)

 

 そんなことを思いながら自分の部屋の前まで歩いていき、鍵を開けて部屋に入る。

 マミはそこでとんでもない光景を目の当たりにしてしまう。

 

「ッ!! 何よ…これ……」

 

 酷く荒らされた自室。

 粉々に砕け散ったベランダのガラス。

 微かに感じる魔女のいた痕跡。

 

 そして____

 

「ゆまちゃん?! どこにいるの!!

 お願い…返事をして!!!」

 

 大声でゆまの名を呼びかける。

 だが幾ら呼んでも彼女の返事はなかった。

 

「千歳ゆまなら既に連れ去られた後だよ」

 

「キュゥベえ…何でここに……?

 それに連れ去られたってどういうことなの…ゆまちゃんに何があったの?!!」

 

 突然現れたキュゥベえに問い詰めるマミ。

 しかしキュゥベえは一切動じることなく彼女にある問いかけをする。

 

「マミ、君は暁美ほむらのソウルジェムがどこにあるのか知っているかい?」

 

「暁美さんの…知らないけども、どうして?」

 

「そうか、なら僕から一応の警告をしておく。

 もうこれ以上、美国織莉子達の件には関わらない方がいい」

 

「急にどうしたの、らしくないわね」

 

 異様な様子のキュゥベえを見て不審に思う。

 

「これ以上、魔法少女同士で互いを潰し合って無駄な犠牲が出るのは僕としても不都合なんだ」

 

「魔法少女同士で…? じゃあゆまちゃんはそれに巻き込まれて?!」

 

「いや、千歳ゆまは彼女達に誘拐されたんだ」

 

「!!!」

 

 誘拐。その言葉を聞いたマミは直ぐ様、玄関へと走り出した。だがキュゥベえは彼女の前に回り込んで足を止めさせる。

 

「待つんだマミ!!」

 

「どいてキュゥベえ、ゆまちゃんを助けにいかなくちゃ……」

 

「そうか、君とは知らないんだったね。あの後に起こった事件を」

 

「事件?」

 

「あまり時間がないから手短に話すよ。

 君が病院を出て佐倉杏子と別れた後にね___」

 

 そうしてキュゥベえは二日前に起きた裏切りの事件の顛末を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

「オラァァァ!!」

 

「くっ…!」

 

 鉤爪による攻撃をかわして槍で大きく薙ぎ払う。

 確実に当たると確信していたが、寸でのところで避けられた。

 

 チッ…アイツの能力のせいで攻撃が全然当たらねぇ!!

 

 詳しくは分からねえが戦い始めてからかなりの時間が経っている。

 向こうには速度変化の固有魔法があるが、今のアタシにはそれはない。

 その有無のせいでがアタシら二人の戦力の差は決定的ものになっていた。

 

「はぁ…はぁ……」

 

「さすがのキミもそろそろ限界みたいだね」

 

「ナメんじゃねぇ、まだまだこれからだ……」

 

「フッ…その強がりはいつまで続くかなッ!!」

 

 速度を操り、"高速で"アタシの背後に回り込む。

 アタシを遅くして一気にたたみかけるつもりみてーだが、そうはいかねえよ。

 

「そこだァ!!」

 

 背後にいる呉キリカへ向けて全力で槍を振るう。

 ……だがその攻撃は空を切るだけだった。

 

「なっ?!!」

 

「腑抜けが!」

 

 気が付くと奴はアタシの目の前にいた。

 

 この一瞬でまた移動しやがったのか!!

 ヤベェ…防がねぇと……

 

 咄嗟に槍を構えて防御する。だが……

 

「ハァッ!!」カァン!

 

「ッ!! しまった」

 

 金属同士がぶつかるような甲高い音がなり、奴の攻撃でアタシの槍が手から離れ、弾き飛ばされてしまう。慌てて武器を拾いに行こうとするが___

 

「隙を見せたな」

 

「あっ……!」

 

 アタシは焦りのせいで判断を見誤った。

 

 次の瞬間、奴の鉤爪によりアタシの身体を引き裂かれ、斬り口から大量の血が溢れ出る。

 

「ガアァァァッ!!!」

 

 激痛で地面に倒れ込む。

 斬られた部分に手を当てて、治癒しようとするが精々出血を抑えるくらいのことしか出来なかった。

 

 やっぱマミのようにはいかねぇか…ならッ!!

 

「うおおおおお!!!」

 

「へぇ…その傷でもまだ立ち上がれるのか」

 

「けっ、これくらいどうってことねぇさ……」

 

「痛覚遮断、美樹さやかのを真似たか。

 けど…それも全部無意味だ」

 

「くっ……」

 

 槍までの距離はまだ遠い……

 下手をすりゃさっきと同じことになるが、このまま丸腰ってわけにも……

 

 焦りを感じていると呉キリカはアタシのあることについて気が付いてしまった。

 

「何故キミは新たに武器を出そうとしないんだい?

 巴マミや美樹さやかならとっくにそれをして私に向かってくるはずだが」

 

「悪りぃがアタシは一途なモンでねぇ…そういった真似はしないのさ」

 

「隠そうとしたって無駄だ。キミは武器の生成や傷の治癒には長けていないだろう?

 私も同じさ…この手は織莉子の為に邪魔者を排除するためだけにある!!」

 

 武器を取りに行かせまいと攻撃の手を再開する。

 けど残念。時間は十分に稼がせてもらったぜ!

 

「多少時間はかかるがなァ、出来ねぇってわけじゃねぇんだよォッ!!」

 

 槍を生成して再び構え、空高く飛び上がる。

 そして狙いをさだめ、魔力の全てをぶつける!

 

「くらいやがれッ!! 盟神抉槍(くがたち)!!

 ハアアアアアアアッ!!!」

 

「ぐっ……!!」

 

 攻撃は僅かに当たったらしく呉キリカは顔を歪めていた。一安心…と思ってるかもしれねぇがまだ終わらねぇよッ!

 

 槍を多節棍に変形させて奴の身体に巻き付ける。

 

「何っ?!」

 

「もらったッ!」

 

 そのまま力を込めて奴を拘束する。

 いくら素早く動けようともこうしちまえばこっちのもんだ!

 

 完全にアタシのペースとなり、このまま勝負をつけてようとした。

 けど……

 

「うあっ…!」

 

「…………」

 

 突然肩に刺さった剣がそれを妨げた。

 美樹さやかが背後から攻撃をしかけてきたのだ。

 

「テメェ……」

 

「あたしらの邪魔をするなら…誰であろうと容赦はしない」

 

 アタシの肩から剣を抜いてそれをこちらに振りかざす。そのせいで拘束が緩んでしまい、呉キリカを自由にしてしまった。

 

「全く余計なことをッ…!!」

 

 呉キリカは爪を多節棍の節々に目掛けて振り下ろす。次の瞬間、アタシの武器はただのバラバラの棒に変わる。

 そして……

 

 

 

 呉キリカの鉤爪全てがアタシの身体を貫いた。

 

 

 

 その一撃がアタシの意識を根こそぎ持ち去ろうとする。消えゆく意識の中、アタシは必死に手を伸ばしていた。相手は呉キリカでも美樹さやかでもない。

 こんなアタシを____と呼んでくれた……

 

「ゆま……」

 

 

 

 

 

 

 杏子にトドメをさしたキリカはこのことを報告するために携帯を取り出す。

 

「さてと…織莉子に連絡しなくちゃ」

 

「…………」

 

「お前はどうするんだ、このまま織莉子の所へ戻るのかい?」

 

「いや……」

 

 素っ気ない返事をするさやかにキリカは大きなため息をする。

 

「ふん。また単独行動か」

 

「別にいいでしょ…アンタらには迷惑はかけないんだし」

 

「ならさっさと行きな。また何かあれば連絡するからさ」

 

 手で追い払うような仕草をしてさやかをこの場から離れさせようとする。

 さやかはそのまま背を向けて、無言で結界から出ていった。

 

 

 

☆ 

 

 

 

 時刻は再び夕方。

 仕事を一通り終えた詢子は椅子に座りながら大きく伸びをする。

 

「うーん…今日のお仕事は終了っと。

 じゃあ帰るとしますかな」

 

 デスクの上にあるものを片付けて帰る支度をし始める。それをしてると詢子はふとあることを思い出し、その手を止めた。

 

「あの後どうしたんだろうな…『さやかちゃん』」

 

 

 

数時間前……

 

 

『あれ、アンタは……』

 

『あっ…どーも詢子さん』

 

『さやかちゃんじゃん、久しぶり。学校はどうしたのさ』

 

『えっと…色々と事情があって抜けてきました』 

 

『おいおいサボりかー? 和子に言いつけちゃうぞー』

 

『あはは…勘弁してくださいよー』

 

『にしてもさっきといい今日は見舞いに来てくれる子が多くていいねぇ』

 

『誰か他に来てたんですか?』

 

『あぁ、まどかの友達で…杏子ちゃんって子がね』

 

『杏子ッ?!』

 

『ん? 知り合いだったのかい』

 

『ま、まあそんなとこですね……』

 

『ほーん……ってヤバッ! もう戻らないと!!

 ごめんさやかちゃん! 悪いんだけど私もう戻らないと!!』

 

『あっ、分かりました! お仕事頑張ってくださいね!』

 

『ありがと。それじゃッ!』

 

 

 

「何にせよさやかちゃんは元気そうで良かった」

 

 いつものように明るく振る舞うさやかを思い出して笑みがもれる。

 支度を終えて、帰ろうとすると詢子の携帯に着信が入った。

 電話はまどかの入院してる病院からだった。

 

「!!」

 

 慌てて携帯を手に取り、通話ボタンを押す。

 連絡の内容は…とんでもないものだった。

 

「まどかが…いなくなった?!」

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって見滝原の某所。

 さやかは携帯で何者かと連絡を取り合っていた。

 

「オッケーそっちの方は引き続き任せた。

 アタシはまだやんなくちゃいけないことがあるから…それじゃーねー」

 

 通話を切ってふっと傍らを見つめる。

 視線の先にいるのは…穏やかな寝息を立てて眠る鹿目まどか。

 

「う、ううん……」

 

「おっ、ようやくお目覚めか」

 

 意識を取り戻したまどかはキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「ここは…何でわたしこんな所に……」

 

「まーそれは後々説明するよ」

 

 さやかはそう言いながらまどかに指輪をはめる。

 

「これって……」

 

「病院にあったのを取って来たのさ」

 

「さやかちゃん。教えて一体何が起きてるの?」

 

「それも説明するから大丈夫だって」

 

 そう言いながらそっとまどかの頭を撫でる。

 そして手のひらに拳を打ちつけて不敵に笑った。

 

「さてと…そろそろ動きますか!」

 

 

 

 

 

 

 

NEXT → 美国織莉子との最終決戦が遂に始まる!!

 






☆次回予告★



夢の中でまどかが見たものは!

『よろしくね。暁美さん!』

『私に……近づかないで』


決戦に赴く少女達の思いは!

「織莉子…もし私がいなくなったら……」

「もう戦うしか道はないのよ!!」

「こんなこと絶対に間違ってる!!」


そして始まる最終決戦!

「これだけの魔女と戦えるかな? ベテランさん♪」

「こんな所でなァ…倒れるわけにはいかねぇんだよ!!」


第34話 正義の在処


See you!! Next story……


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リメイクのお知らせ+α

 

 

お久しぶりです。作者のサキです。

この一年更新ペースが低下している状態が続いています。理由としてはリアルの事情でこの作品の続きを書く時間が設けられないからです。最新話の33話からもう五か月以上が経過しててさすがにこれ以上遅くするのはいけないと思い、方針を変えることにしました。

 

初期の頃、私はこの作品を全52話⁺α(おまけ)構成で完結させると言っていましたが一話一話の文章量を減らして話の一区切りがついたところで投稿していこうと思っています。

この投稿は今のマギカクロニクルではなく、これから出すリメイクの方に乗せるつもりでいます。

ストーリーの流れや伏線は変えたりはしませんが、文章の手直しやメインキャラ達の活躍の描写、サイドストーリーなどを新たに追加しようと考えています。

 

ちなみにA~Zのサブタイはこんな感じにしようと思っていました。ネタバレはありません。

 

 

41~42話

縛られるE(ego)

45~46話

Gの裁決(guilty)

51~最終話

Hの明日(Hope)

47~48話

Jは下された(judgement)

35~36話

永遠のN(nightmare)

C は止まらない(cruel)

37~38話

Qを乗り越えて(quandary)

49~50話

Uは何処へ消える(utopia)

43~44話

未来へのV(vow)

39~40話

X を越える者(xtreme)

 

 

読者の皆様、私の勝手な事情で色々な変更をしてしまって申し訳ありませんm(__)m

もしよろしければこんな作者ですが今後もよろしくお願い致します!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第34話 正義の在処(一場面)

 

 

「さやかちゃん。一体何が起きてるの?

わたしが倒れてる間に何が……」

 

事の詳細を問おうとするが、さやかは人差し指を口と鼻に当ててそれを遮る。

 

『あたしは何も話せない。

でもマミさんのところに行けば全て教えてくれるはずだよ』

 

「マミさんが…?」

 

『そう、今まともに動けるのはあの人だけだからね。

あっ! そうそうアンタに渡さなきゃいけないのがもう一つあるんだった』

 

さやかは何かを思い出したかのようにポケットをまさぐり、そこからあるものを取り出す。

そしてそれをそっとまどかの前に差し出した。渡されたもの。それはほむらのソウルジェムだった。

 

「これって…まさか、ほむらちゃんの……」

 

『うん。これはまどか、アンタに持っててもらいたいんだ』

 

「でもどうして? どうしてさやかちゃんがほむらちゃんのを?

もしかして…ほむらちゃんに何かあったの?!!」

 

『詳しくは言えない…でもアンタがこれを手放さない限り、アイツが死ぬことはない。

だから何があっても守り抜くんだよ。さもないと…全てが終わる』

 

そう言ってさやかはまどかに背を向けて走り出した。

 

「待って! さやかちゃん!!」

 

『時間がないんだ。早くマミさんと合流して!

駅の近くにあるでっかい公園に向かう途中で多分会えるはずだから!!』

 

慌てて後を追おうとしたが、みるみる距離は離れていってしまいやがて姿が見えなくなってしまった。

少しの間その場で立ち尽くしていたまどかだが、さやかに言われたことを思い返して公園へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

『ふぃー何とかまどかも動いてくれたか』

 

『ねぇ、どうして詳しく事情を話さなかったの?』

 

とある廃屋。まどかと別れたさやかは汗を拭いながら古びた椅子に腰かけた。

そんな彼女に少女は先程のことについて問いかける。

 

『しょうがないじゃん、あの時点でマミさんが家を飛び出して例の場所に向かってたんだからさ。

もたもたしてたら先に美国織莉子達と接触しちゃうよ』

 

『さやかちゃんは一体何を考えているの?

何でわたしがここにいるのかもまだ教えてくれないし』

 

『今ここで教えちゃったらアイツに居場所がバレちゃうからさ。

時が来たら全部話すつもりだからもう少し待ってて頂戴な』

 

『うん……』

 

少女を説得して一息つこうとするさやかだったが、直ぐ様彼女にテレパシーでの連絡が入る。

テレパシーの内容を知らない少女は不思議そうにさやかの方を見た。

 

『どうかしたの?』

 

『ちょっとまた出なくちゃいけなくなった。また留守番頼むね』

 

『分かったよ』

 

その応答にニッと笑い、早足に廃屋から出ていった。

 

『じゃあ行ってくるね『まどか』』

 

 

 

 

 

☆ See you next Chronicle!!★

 

 

 

 



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