ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ (善太夫)
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001ありんすちゃんはじまる

 スレイン法国との遭遇戦において、カイレ様と相討ちとなったシャルティアは、法国の至宝『ケイ・セイ・コウク』によって洗脳されてしまいました。

 

 アインズはシャルティアの洗脳を解く為に『星に願いを』を発動させようとしますが、シャルティアの洗脳はワールドアイテムによるものとわかり、指輪では解除出来ない事を知ります。

 

 やむなくシャルティアを一度滅ぼして改めて復活する事により、洗脳の呪縛から解放する事にしたアインズは激戦の末、シャルティアを倒します。

 

 かくて玉座の間に一同が会し、いよいよシャルティア・ブラッドフォールンを復活させる事になったのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ナザリック第十階層〈玉座の間〉──。居並んだ各階層守護者、各領域守護者、そしてアインズ、守護者統括アルベドが固唾を飲んで見守る中、いよいよシャルティアの復活が行われます。

 

 使用されたユグドラシル金貨は総額5億G。その黄金の山が溶けるように形を変えていきます。

 

 アインズの目の前で溶けた金貨が人の形となり……やがて銀髪の少女の姿、いや、一糸もまとわない幼女の姿になりました。

 

 幼女はゆっくり瞳をひらくと一言、「ありんちゅ?」と言葉を発しました。

 

「……シャルティアよ。私がわかるかね?」

 

 アインズの問いかけに対してシャルティアはまたしても「ありんちゅ?」と答えました。

 

(……いやいや、そんな事言ってないよ……どうしちゃったのよ、これ……しかも幼女だよな?)

 

 

「アインズ様、畏れながら……シャルティアに何らかの異変がおきたかと」

 

 頭を深くたれたアルベドが緊張した面もちで発言しました。

 

「……うむ。どうやらそのようだな。……何かが復活に足りなかったのかもしれぬ。……ユグドラシルとは違う、という事は考えたくはないが……」

 

 アインズには全く訳がわからず、本当ならば大声で叫びたかったのでした。しかしながらアンデッド特性により、強い感情は強制的に沈静化されてしまうのでした。

 アインズはそんな我が身が好ましくもあり、疎ましくも感じるのでした。

 

「……これは、アインジュちゃま。チャルチェア・ブラドホルン御身の前にでありんちゅ」

 

 少女、いや、幼女の姿のシャルティアが平伏します。

 

(…………このシャルティア、案外かわいいかも……とりあえず舌っ足らずながらちゃんと喋れるようだな。……もしかしたら以前より賢いかもしれないぞ?──いかん、いかん)

 

「──あーゴホン。……シャルティアよ、一体何が起きたのか覚えている事を申してみよ」

 

 シャルティアが舌っ足らずの言葉で語る話によれば、どうやら王国のセバスと合流する為にナザリックを出発するあたりまでの記憶しかないらしいとの事でした。したがって、何者がシャルティアを洗脳したのかはわかりませんでした。

 

 幼女になったものの、しっかり受け答え出来ていた為、これまで通りに階層守護者を任せる事として、玉座の間から退出させました。

 

「……まるで5歳児、といった感じだな……」

 

 既に退出したシャルティアの姿を思い出しながらアインズは溜め息をつきました。

 

「……金貨は間違いなく5億Gあった……何が足りなかったのだろう? ……それともこの世界はユグドラシルとは違うのだろうか?」

 

 アインズはふと、守護者達NPCが皆、シャルティアのように5歳児位の幼児になった様を想像してしまいました。

 

 ──ナザリック幼稚園──それはアインズにとっては耐え難い苦痛を産みそうな世界にしか思えませんでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 何はともあれ、残念美少女『ありんすちゃん』はこうして誕生しました。いろいろ失敗もしてしまいますが、それは5歳児位の女の子のする事、少々大目に見て下さい。

 

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※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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002ありんすちゃんとポンコツうさぎ

 ありんすちゃんの仕事はナザリックの第一階層から第三階層の守護です。

 

 とはいっても子供になってしまったありんすちゃんには良くわからないみたいですね。

 

 とりあえずしもべのヴァンパイア・ブライド二人に手を引かれながら見回りをしました。

 

 でも、ありんすちゃんはすぐ飽きてヴァンパイア・ブライドに抱っこをせがみます。

 

 抱っこに飽きると今度は肩車をねだります。いやはや、見回りにならないですね。

 

 でも、ありんすちゃんは大体5歳児くらいの女の子なのですから仕方ないですよね。

 

 肩車は普段見れない景色をありんすちゃんに見せてくれます。

 

 ──あれあれ?

 

 茂みの向こうにピョコピョコとウサギの耳が動いています。

 

「おもしろそうだから行ってみるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはヴァンパイア・ブライドに肩車されたままウサギの耳を追っかけることにしました。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 ナザリックの戦闘メイド、ナーベラル・ガンマは焦っていました。

 

 アインズ様が冒険者モモンとしてエ・ランテルに向かうの際に同行する筈だったのについつい寝過ごしてしまったからでした。

 

 魔法発動──〈ラビットイヤー、ラビットフット、ラビットテール〉

 

「アインズ様は…………さすがにもう、いないか……」

 

 急がなくては……ナーベラルは頭の中で言い訳を考えながら全速力でアインズの気配を追うのでした。

 

(……いつもより30分多く眠ってしまいました……これではダメだ……いつもより30分遅く目覚めました……これでは同じ……春眠暁を覚えずとは良く言ったものでして不覚にも30分程多く睡眠をとってしまったようです……言い訳じみて無理……いっそ誠に申し訳御座いません。寝坊しました。かくなるうえは命をもって償い……! え? ──)

 

「──!」

 

「──!」

 

 突然現れたありんすちゃんとぶつかりそうになったのです。

 

「──シャルティア様、ど、どちらに?」

 

「ナーベはどこに行くのでありんちゅ? わらわも行きたいでありんちゅ」

 

「申し訳ありませんが、私はアインズ様のお供として、あの……急いでおりますので……失礼しま──」

 

(……もしかしてシャルティア様を言い訳にしたらアインズ様もお叱りにならないのでは? ……素晴らしい考え。子供になったシャルティア様相手ならきっとお許しくださるに違いない)

 

 ナーベラルはにこやかにありんすちゃんに話しかけました。

 

「……あの……コホン。……その……よろしければ、シャルティア様もご一緒されますか?」

 

 ありんすちゃんは力強く頷きました。

 

「わかりました。シャルティア様、ではこれより私がシャルティア様を抱っこして差し上げますね」

 

 ありんすちゃんを抱っこしてナーベラルはアインズを追いかけたのでした。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 ナーベラルからのメッセージを受け取ったアインズはエ・ランテルの宿屋で待っていました。

 

 やがてナーベラルと一緒にありんすちゃんがやってきました。

 

(──え? シャルティアが何故? えええ?)

 

 アインズは動揺を隠しながらナーベラルに問いかけました。

 

「……ナーベよ。何故シャルティアが一緒なのだ? シャルティアにはナザリックの守護をさせていたのだが? これは一体どういうこ──」

 

 ナーベラルは額を打ちつけながら答えました。

 

「申し訳ありません! 実はシャルティア様がアインズ様にどうしてもお会いしたいとおっしゃいまして、断りようなくお連れ致しました。……つきましては道中遅れ誠に申し訳ありません」

 

(──いや、だからここではナーベとモモンなんだって……アインズ様とか言って誰かに聞かれたら面倒……)

 

「……ナーベよ。ここでは私は冒険者モモンだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「もうし訳ありません。アイ、モモンさ──ん」

 

「わかればよろしい、いや、よいのだ」

 

 アインズはありんすちゃんを覗き込みました。するとありんすちゃんはそんなアインズの気持ちなど知らぬ気に、幸せそうにすやすやと眠っています。

 

(……おいおい……どうするのよ? 幼児を連れた冒険者って……こんな所を誰かに見られたりしたら何と思われるか……困ったぞ……)

 

 途方に暮れたアインズが天を仰いだ瞬間、ありんすちゃんが小さなくしゃみをしました。

 

「……くちゅん!」

 

 途端に魔法が発動してありんすちゃんの姿は消えてしまいました。

 

 

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003ありんすちゃんハンバーガーになる

 ナザリック地下大墳墓ダミー兼倉庫建設現場──アインズの命でアウラの指揮の下、大勢のシモベ達が働いています。

 

 折しも昼休み。

 

 アウラの前には大きなハンバーガーが置かれていました。

 

「おっしょくじぃ~おっしょくじぃ~楽しいた~のしいおっしょくじぃ~♪」

 

 楽しそうに自作の歌を歌いながらハンバーガーを両手に持ち、かぶりつく──

 

 そこにありんすちゃんが突然現れました。どうやらくしゃみをした時に魔法──〈グレーターテレポーテーション〉──が発動してしまったみたいです。

 

「ちょっと、シャルティア。なんでアンタがここにくんのよ? あたしはアインズ様の命令で仕事しに来てんだけど?」

 

 

 アウラは頬を膨らませてありんすちゃんにくってかかってきました。

 

「ひぃ……なんだシャルティア様……驚かさないでくたさいよ。もうー!」

 

 驚きのあまり首が落ちそうになるユリ・アルファ。でも、ありんすちゃんは落ち着いたものです。

 

 だって、アウラはいつだってありんすちゃんの可愛らしさに妬んでイジワルするんです。

 

「……せっかくですからシャルティア様も何か召し上がられますか? ボク……私がお持ちします」

 

 見事にアウラのハンバーガーに挟まっているありんすちゃんにユリは尋ねました。

 

「オレンジジュースが飲みたいでありんちゅね」

 

「あたし、ハンバーガーもう一つ。大至急」

 

 不機嫌そうなアウラの声が続きました。

 

 すぐにありんすちゃんの前にオレンジジュース、アウラの前に新しいハンバーガーが用意されます。ありんすちゃんはオレンジジュースを一気に飲むとすぐさまおかわりをねだりました。その後さらにニ杯もおかわりしました。

 

 アウラはそんなありんすちゃんにイジワルな事を言います。

 

『飲み過ぎておねしょしちゃうぞ』ですって。

 

 でもありんすちゃんは気にしません。

 

 おねしょなんてする筈がありません。ありんすちゃんは知っています。おねしょするのは赤ちゃんだけです。

 

 ありんすちゃんはプリプリ怒っているアウラを後にナザリックに帰りました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ──ナザリックに帰って、翌朝──

 

 目覚めたありんすちゃんはベッドの中がひんやりしているのに気付きました。

 

 ──なんと、ありんすちゃんはおねしょしてしまったのでした。残念ながら、アウラが言った通りになってしまったみたいですね。

 

 大変です。この事をアウラが知ったらきっとみんなに言いふらすかもしれません。そうなればありんすちゃんは皆から『おもらしちゃん』と呼ばれてしまうかもしれません。

 

 ありんすちゃんはブルブルと頭を振りました。それだけはなんとしても防がなくてはなりません。

 

 そこでありんすちゃんはシーツとパンツをこっそり洗う事にしました。

 

 そういえば『洗う』と『アウラ』ってなんだかにてますね。綺麗に洗ったら干します。

 

 ありんすちゃんはパンツをはいていないのでスースーしますが仕方ありません。

 

 と、ありんすちゃんの鼻がムズムズして──

 

「くちゅん!」

 

 ありんすちゃんとパンツは消えてしまいました。今度はどこに飛ばされてしまったのでしょう?

 

 

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004ありんすちゃんぼくじょうにいく

 ありんすちゃんが目を開けると、周囲の景色は見慣れないものに変わっていました。

 

 ありんすちゃんは右手を見、左手を見、またまた右手を見てみましたが、しっかりつかんでいたパンツはありませんでした。可愛らしくレースで飾られた真っ白のお気に入りのパンツ。

 

 ありんすちゃんは小さくため息をつきました。お気に入りのパンツが無くなって残念な気持ち、それに、やっぱりパンツがないとスースーするのが気になります。このままだと風邪をひくかもしれません。風邪をひかなくてもまたくしゃみでどこかに飛ばされてしまうかもしれません。

 

 ありんすちゃんは周りを見回すと、どうやらパンツの替わりになりそうなものを発見しました。

 

 あたりの木々にひらひらと布のようなものがたなびいていました。長いもの、短いもの。幅も様々です。何百もの布、羊皮紙の原材料が木の枝に架けられていて、ひらひらとたなびいていたのでした。

 

 ありんすちゃんはジャンプして一枚の布を手にすると器用にくるくると巻きつけました。

 

 これで大丈夫。

 

 風邪なんかひきません。

 

 え? ありんすちゃんはアンデッドだから風邪をひくはずがないですって?

 

 でも、ありんすちゃんはまだ5歳児位の小さな女の子なんです。もしかしたら、もしかしたらですが、もしかしたら風邪をひいちゃう事だってあるかもしれません。

 

 もしかしたら、ですが。

 

「これわこれわ……ナザリック地下大墳墓階層守護者のシャルティア様でいらっシゃいませんか。あいにくデミウルゴス様わナザリックにお戻りになられていましてこちらにわ、いらっしゃいませんが……」

 

 ありんすちゃんに男が声かけてきました。

 

「デミウルゴチュ?」

 

 ありんすちゃんは『ス』を『チュ』と言ってしまいます。仕方ないですよね。だってまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 そうそう、そういえばデミウルゴスが確か聖王国の国境近くで牧場を運営しているとかいう話を聞いた記憶がありました。なんでもナザリックで使うスクロールの材料の羊皮紙を得るためにナントカ羊を飼育しているとか……だったようでした。

 

「よろしければ、このプルチネッラめがご案内致します」

 

 ありんすちゃんは道化師(プルチネッラ)の後を付いていく事にしました。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 やがて大きな看板が見えてきました。

 

『聖王国両脚羊牧場』

 

「ここわ、スクロールの材料になるアペリオンシープの繁殖場です」

 

 何やら大きな檻がいくつもあって牧場っぽくない気がしましたが、ありんすちゃんにはよくわかりませんでした。

 

「デミウルゴス様わ慈悲深く愚かなものたちにも分け隔てなく愛情を注いでおられます……実に美しき愛……」

 

 感極まって言葉が途切れたプルチネッラの眼からは涙が流れていました。

 

 しばらく歩くと大きなサイフォンのようなものがありました。中には赤い液体が入っています。ありんすちゃんが顔近づけると球体のガラスにひしゃげて写ります。

 

 なんだか面白いですね。

 

「これわ、デミウルゴス様が皮を剥ぐ時に流れる血をムダにするまいとして作ったものです。こうして一滴もムダにすまいという、これこそ、まさに真実の愛とイうべきでわないでしょうか……」

 

 ありんすちゃんが写ったガラスに手を伸ばして触れた途端、ガラスは粉々になりありんすちゃんは赤い液体でずぶ濡れになってしまいました。……だんだん、だんだんと視界が赤くなっていきます。……ありんすちゃんが覚えていたのはそこまででした。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 ──気がつくとありんすちゃんは真っ赤な湖に浮かんでいました。

 

「やれやれ……シャルティア。困ったものだね。これではまた一からやり直さなくてはならないよ」

 

 ありんすちゃんが見上げるとデミウルゴスが空を飛んでいました。

 

「〈血の狂乱〉とはね。シャルティア、済まないがこの事をアインズ様に報告させてもらうよ」

 

 ありんすちゃんはイヤイヤとかぶりをふりましたがどうしようもありません。

 

 その後、ありんすちゃんはしばらくナザリックから出る事を禁止されてしまいました。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 竜王国のアダマンタイト級冒険者“クリスタル・ティア”の“閃烈”セラブレイトは前線にいました。竜王国に侵攻してきたビーストマンとの戦いは一段と激しさを増していたのでした。

 

「陛下、きっと私がお守りします」

 

 幼さの残る竜王国女王、ドラウディロンの面影を思い出しながら心を奮い立たせます。

 

 先ほど届いた可愛らしい手紙を何度も読み返し、この戦いが終わったら得られるであろう名声と褒美に胸を踊らせるのでした。

 

 セラブレイトは懐から白い布を出すと広げました。縁がレースになった純白の布は手紙が届けられた際に一緒に置かれていた大切なもの。

 

 セラブレイトにとってドラウディロンの信頼の証であり幸運のお守りであったのでした。

 

「ああ……陛下……この命に変えても……」

 

 布切れに顔を埋めながらセラブレイトは女王ドラウディロンへの更なる忠誠を誓うのでした。

 

 

 

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005ありんすちゃんミルクをのむ

「……わらわのせいじゃないんちゅ。知らないでありんちゅ」

 

 グビグビ、ガコーン。プファ!

 

 ありんすちゃんはジョッキのミルクを一気に飲み干しました。

 

 ありんすちゃんはデミウルゴスの牧場をダメにしてしまった為、当分の間ナザリックから出る事が禁止されてしまったのでした。

 

 そんなある日、第九階層の大人びた雰囲気のショットバーのカウンターにありんすちゃんの姿がありました。

 

(まったく。やれやれ……)

 

 カウンター内でグラスを磨きながらキノコのようなバーテンダー──彼は副料理長でした──はそんなありんすちゃんを見ないようにしていました。

 

 見た目は小さな女の子であっても彼女は階層守護者であるのでうかつな事は言えません。

 

 ただただ時間が過ぎてそのうち姿を現すだろうありんすちゃんのシモベを待ち続けるのでした。

 

 

 ありんすちゃんはおかわりしたミルクを一息に飲み干すと、またもやおかわりを頼みます。

 

「あの……シャルティア様、今日はそれくらいにしておかれては? ……それに、そろそろお迎えがお見えになるのではないですか?」

 

「おむかえ? ……そんなの来ないでありんちゅ。今日はとことん飲みたい気分なんでありんちゅ……朝まで」

 

 ありんすちゃんの眼は心なしか座っているようでした。

 

 副料理長は慌てました。

 

 彼はこのショットバーの洗練された雰囲気を大切にしています。言葉にはしませんが、客にもそんな雰囲気を大切にして欲しいと思っています。ですがそんな願いもありんすちゃんには通じません。

 

 まあ、ありんすちゃんは5歳児位の女の子に過ぎないので仕方ありませんよね。

 

 仕方なく副料理長はありんすちゃんにおかわりのミルクを出してあげました。

 

 ゴッゴッゴクビと一気にミルクを飲み干すとありんすちゃんはカウンターに突っ伏してしまいました。

 

 グズグズと鼻を鳴らしているのでどうやら泣いているようです。

 

 このままでは本当に、朝まで動かないかもしれません。そうなれば一晩中ありんすちゃんの世話をさせられてしまうかもしれません。

 

 いやいや、一晩ならまだ良い方かもしれません。それどころかこれからずっとこんな事が、毎晩毎晩続くかもしれません。副料理長は悪寒に震えながら決断しました。

 

 そう、なんとかしなくてはならないのです。

 

「シャルティア様……そういえば近頃アウラ様マーレ様の第六階層に新しく村が出来たのをご存知ですか?」

 

 ありんすちゃんは顔をあげました。

 

「村? でありんちゅか?」

 

「なかなか面白いですよ。是非一度見に行かれては如何でしょう?」

 

「ふーん。面白いでありんちゅか……」

 

 どうやら副料理長の目論見は無事に達成出来そうでした。

 

 あとは明日出掛ける為に今晩は早く帰って寝た方がよいと言いくるめるだけです。

 

 副料理長は深くため息をつくとありんすちゃんの説得に適した言葉を探すのでした。

 

 

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006ありんすちゃんとベッドとひみつ

 副料理長の努力も虚しくありんすちゃんはカウンターで眠ってしまいました。

 

「はあ……どうしたものだろうね。まったく……」

 

 磨いていたグラスを片付けると副料理長はため息をつきました。

 

 昨日までならシャルティアのシモベが迎えに来たのでまかせてしまいましたが、今晩はどうやら本当に、迎えはなさそうです。

 

「シャルティア様……起きて下さいませんか?お願いです。……シャルティア様?」

 

 

 ありんすちゃんは死んだように無反応でした。

 

 え? ありんすちゃんはアンデッドだから当たり前? ……そんな事を言ってしまったら話が進まなくなるので、ここは突っ込まないようにお願いします。

 

 よろしくお願いします。

 

 一向に起きる気配がないありんすちゃんの対応にすっかり困り果てた副料理長は、思わず天を仰いで祈りました。

 

「たすけて……かみさま……」

 

 きっとその声が届いたのに違いありません。まさにその瞬間、勢いよく扉を開けて救世主が現れたのでした。

 

「やほー! こんばんは! 頼まれていた果物持って来たよ? ……あれ? シャルティアじゃん?」

 

 副料理長は思い出しました。第六階層に新しく植えたリンゴ、桃、ミカンが食べ頃になったら知らせて欲しい旨、アウラのシモベに頼んでいたのでした。それをわざわざアウラ自ら、しかも果物を持って来てくれたという訳です。

 

「これはこれはアウラ様。わざわざお持ちくださるとは誠にありがとうございます」

 

 副料理長の瞳にはキラキラと光るものがありました。

 

「そんな事よりどうしたの? シャルティア? また寝ちゃったんじゃないの?」

 

 副料理長はアウラにこれまでの経緯を説明するのでした。

 

「ふーん……あっそ。仕方ないなあ、シャルティア。邪魔ならあたしの家に連れて行ってあげようか?」

 

 副料理長は渡りに船とばかりに、頷くのでした。そしてアウラを静かに拝むのでした。

 

 かくしてありんすちゃんは眠ったまま、アウラに背負われて第六階層に運ばれていきました。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 夜中にふとありんすちゃんは目覚めました。自分の部屋でなくアウラとマーレの部屋でしたがありんすちゃんは気がつかなかったみたいです。

 

 マーレはハンモックで、アウラはありんすちゃんと一緒のベッドでぐっすり寝ています。安心したありんすちゃんはまた眠りに落ちました。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 おやおや? 五分も経たないうちにありんすちゃんがまた目を覚ましました。

 

 どうしたのでしょう? ありんすちゃんはアウラを揺さぶりだしました。アウラを起こそうとしているのでしょうか?

 

 アウラはぐっすり眠っていて、一向に目覚める様子がありません。そのうちゴロンとアウラは転がってありんすちゃんが寝ていた位置に移動しました。

 

 ありんすちゃんは何やら一仕事終えたように満足げな様子でアウラが寝ていた場所に滑り込むとスヤスヤ眠り始めました。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「あー! ウッソー! えーな・ん・で?」

 

 翌朝アウラの素っ頓狂な叫び声で皆起こされました。

 

「……ん? お姉ちゃん……どうしたの?」

 

「……いや。な、なんでもないから……だ、大丈夫……大丈夫だって!」

 

 ありんすちゃんはゆっくり起き上がりました。

 

 と、いきなり、アウラはありんすちゃんを突き飛ばしてベッドから落とすとシーツを丸め抱えて部屋の外に走っていきました。

 

 アウラが赤い顔をして戻ってきたのはそれからニ時間後でした。何があったのかをいくら訪ねてもアウラは答えませんでした。

 

 でも、ありんすちゃんにとって嬉しい事にそれ以降アウラのありんすちゃんへのイジワルがバッタリ止まったのでした。

 

 

 

 

 

 ──教訓──

 

 ミルクを飲み過ぎた後でそのまま眠るのはやめましょう

 



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007ありんすちゃんおめいばんかいする

「シャルティア、ほら……これが新しい村だよ。えへへへ」

 

 ありんすちゃんはこの前のショットバーで副料理長の話を思い出していました。話の通りにいつの間にか畑や果樹園や集落が出来ていました。

 

「ほら、面白いでしょ? さてさて、整列! アインズ・ウール・ゴウン! バンザーイ!」

 

 ──芸をするマンドラゴラ──

 

 ──様々な異業種の新しい住人達──

 

 ──そしてアウラが建てた山小屋風の建物の数々──

 

 アウラはやたらと人懐っこい表情でありんすちゃんを連れ歩きました。

 

 いつもならありんすちゃんにイジワルしてばかりのアウラが、です。

 

 昨晩、ありんすちゃんが寝ていた間に何かあったのでしょうか?ありんすちゃんには全く心当たりがないんですけれども。

 

 そうそう、アウラにいつもと違う所がもう一つありました。マーレがアウラを呼ぶ時に明らかにドキッとするんですよね。

 

「おね(ドキッ)ーちゃん?」

 

「お姉ちゃん?」

 

「な……なんだ。マーレか……な、なにかな? ……アハハハハハ……」

 

 明らかにおかしいのですがありんすちゃんは気にならないみたいですね。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

「そうだ! シャルティア、私からアインズ様に許してもらうようにお願いしてあげるよ。ね?」

 

 アウラの申し出はありんすちゃんにとってまさに願ったりでしたので早速お願いする事にしました。

 

 アウラはありんすちゃんに顔を近づけると小さな声で続けました。

 

「だから……良いよね? シャルティア、昨日の事は誰にも言わないでね? ね?」

 

 ありんすちゃんはなんの事かわかりませんがアウラの勢いに負けてコクリと頷きました。途端にアウラは笑顔になると踊るように歩き出しました。

 

 ええっと。なんでしたか。こういうの。確か『名誉返上』とか『汚名挽回』っていうんでしたっけ? 良かったですね。ありんすちゃん。これでようやくミルクを煽る毎日にサヨナラ出来ることでしょう。副料理長もきっと、ありんすちゃんの謹慎がとけた事を喜んでくれるでしょう。違った理由で……

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 いよいよ明日から自由に外出出来るようになったありんすちゃんはウキウキしながらお風呂で足をのばしました。二人のヴァンパイア・ブライドが代わる代わるありんすちゃんの髪をとかします。

 

 湯船の中でありんすちゃんは両手を眺めながらぼんやりと思うのでした。

 

(そろそろちゅめを切らなくちゃでありんちゅ)

 

 ヴァンパイア・ブライドにタオルでくるまれながらもありんすちゃんはあれこれともの思いにふけっていました。

 

 ベッドに横たわって天井をぼんやりみながらも。ありんすちゃんはその夜はぐっすりと、本当にぐっすり眠ったのでした。

 

 幸せそうな笑顔を浮かべながら。

 



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008ありんすちゃんカルネむらにいく

 朝になりました。

 

 大きく伸びをしたありんすちゃんは勢いよくベッドから跳ね起きました。

 

 さてさて何処に出掛けましょう? まずは洗面台で顔を洗いました。石鹸をこすって細かな泡を作ります。そして滑らかに出来た泡をまんべんなく顔に広げて優しく丁寧に洗うのです。最後に綺麗に洗えたか鏡を覗いてチェックします。

 

 と、いきなり後ろから声が聞こえてきました。

 

「いやいや、オハヨーっす。シャルティア様、今日から謹慎解けておめでとっす」

 

 振り返ってみると戦闘メイドの一人、ルプスレギナが満面の笑みで立っていました。

 

「ルプチュレギナ? どうしたんでありんちゅか?」

 

(『ルプスレギナ』って言いにくいでありんちゅね)

 

 そうなんです。ありんすちゃんはどうしても「す」が「ちゅ」になってしまうんですよね。

 

「そうだ、シャルティア様あ、これからカルネ村に行かないっすか? ちょっと面白い事が起きそうな気がするんすっよね」

 

 ありんすちゃんも面白い事は大好きです。ありんすちゃんはカルネ村に行くルプスレギナについて行く事にしました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 カルネ村はナザリックに比較的近くにある小さな村です。ナザリックがこの場所に転移して始めてアインズが交流を結んだ村で、アインズの命令で交流の為、ルプスレギナ・ベータが時折訪れているそうです。

 

 馬車を走らせながらルプスレギナはカルネ村の様々な話をしてくれました。

 

 現在、カルネ村には『人間のエンちゃん』『ンフィー』『ゴブリンさん達』などが混在していて賑やかならしいですね。

 

「可笑しいのがゴブリンさん達の事なんすっけど、男女でみた感じあんま違わないんっすよね。んで、ゴブリン同士ならはっきりわかるかって思ったら意外や意外、ゴブリンさん達でもたまに間違えてるんすよ。笑っちゃいますよね」

 

 しばらくするとありんすちゃんは眠たくなってきました。仕方ありません。そろそろお昼寝をする時刻なんですから。

 

 だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

 すやすや眠るありんすちゃんとお構いなしに話し続けるルプスレギナを乗せて馬車は山道を進んでいくのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 いつの間にか馬車が止まっていました。

 

 ルプスレギナの姿はなく、馬車の中はありんすちゃん一人だけでした。どうやらとっくに目的地のカルネ村に着いていたようです。

 

 充分にお昼寝を済ませたありんすちゃんは胸をワクワクさせながら馬車を降りたのでした。

 

「あなたは誰? 何処から来たの?」

 

 ありんすちゃんが声のした方を見るとありんすちゃんよりは大きな、でもやはりまだ幼さが残る女の子がこちらを伺っていたのでした。

 

「あなたはだれでありんちゅか?」

 

「人に聞く時は自分からまず名乗るのが礼儀だってお姉ちゃんが言ってた」

 

 女の子は胸を張って答えました。



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009ありんすちゃんチャルメラになる

 カルネ村で馬車を降りたありんすちゃんを待ち受けたのは十歳位の少女でした。

 

 ありんすちゃんはちょっとビックリしたのでとっさに自己紹介が出来ずにまごまごしていました。だって相手は十歳位、ですがありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

「仕方ないわね。いい? 私はネム。ネム・エモット十歳よ」

 

「わらわはチャルチェア……で、ありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはネムの勢いに押されて小さな声で答えました。

 

 しかも名前をちょっとだけかんでしまいました。

 

「チャルメラ・デ・アリンチュちゃんか。変わった名前ね。……あなたの事はこれからチャルメラちゃんって呼んでいい?」

 

 え? ネムってこんなキャラだったかですって? 本編では大概エンリと一緒でしたからね。でもンフィーの事を『ンフィー君』と呼んだりして結構したたかだと思いますよ。

 

 ありんすちゃんはネムに手を繋がれて歩き出しました。

 

 しばらく行くと、向こうから一匹のゴブリンと弓矢を持った女の人がやってきました。

 

「ジュゲムさーん。ブリタさーん」

 

 名前を呼ばれた二人はネム達に手を振り返しました。

 

「おやおや? こんな所にいたっすか? 馬車の中にいなかったから探しちゃったっすよ」

 

 不意に背後から声をかけられたありんすちゃんとネムは思わず飛び上がりました。

 

「びっくりした! ルプスレギナさん。……チャルメラちゃんは知り合いなんですか?」

 

「チャ? ……ああ……男胸さんなら友達っていうか、今はおもちゃっていうか……ま、そんな感じっすね」

 

 ルプスレギナと話しているありんすちゃんとネムのもとにジュゲムとブリタもやって来ました。

 

「チャルメラちゃん、こちらはジュゲムさん。ブリタさん」

 

「よろしく」

 

「──!」

 

 握手を交わすジュゲムとは異なり、ブリタの身には明らかに異変が現れました。

 

 握手をしようとありんすちゃんに手を差し出した途端、まるで石像になったのかのように全身が硬直してしまったのです。

 

「ああああ!!!」

 

 突然、糸が切れた操り人形のようにその場へたり込むブリタの周りには水溜まりが出来ていました。

 

「あらあら? ブリタさん、お漏らしっすか? しょうがないっすね」

 

 ブリタは何が起きたかわからない、という表情を浮かべていました。

 

 それもそうです。

 

 可愛らしい、5歳児位の女の子にしか見えないありんすちゃんがかつて出会った吸血鬼のシャルティアだなんて思うはずがありません。でも、身体が、もしくは魂があの恐怖を覚えていたのでしょう。

 

 しばらくするとブリタが落ち着いてきたので駆けつけたエンリに預け、とりあえず風呂に連れて行ってもらいました。

 

 ありんすちゃんは大人でもおもらしするという事を学びました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ──その夜のナザリック地下大墳墓第六階層──

 

「大人になってもおもらしちゅるんでありんちゅね……」

 

「──あーあー何を言ってるのかなーシャルティア。きーこーえーなーい」

 

 この話題はアウラにとってなぜか禁句だったようです。

 

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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010ありんすちゃんしつぼうされる

 カルネ村から帰って来てしばらくありんすちゃんはナザリックでのんびり過ごしていました。

 

 もちろん仕事もちゃんとやっています。

 

 いつものようにニ人のヴァンパイア・ブライドに抱かれて巡回をしていると、バタバタと慌ただしくルプスレギナがやって来ました。

 

 ルプスレギナはありんすちゃんの前で立ち止まるといきなり土下座をしました。

 

「シャルティア様、これからアインズ様にお会いするのですが、シャルティア様もご一緒していただけませんでしょうか?」

 

 ルプスレギナはいつもと異なり真剣な表情で頭を下げています。

 

 しかしながらありんすちゃんはすぐに答えませんでした。ありんすちゃんは知っています。

 

 魅力的な女性──熟女──というものは相手を焦らすものだという事を。

 

 え? ちょっと違うって?

 

 まあ、気にしないでください。

 

 ありんすちゃんの機嫌をとり、ようやく同行する事になったルプスレギナはホッとしてアインズの執務室に向かうのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 アインズの執務室に緊張した面持ちのルプスレギナと一緒に、訳が分からずキョロキョロしながらありんすちゃんが入ってきました。

 

 ルプスレギナはアインズ様からの突然な呼び出しを受けてから、同僚達のいろいろ噂を小耳にしていただけに緊張が極限にまで達しようとしていました。

 

(叱られる……アインズ様に間違いなく叱られる。食堂でアインズ様を『絶対最強無敵ドクロキング』と呼んでしまったからだろうか? ……でも、あの時はシズが来て最後までは……もしかしたらあの事? ……いやいや……心当たりがありすぎ──)

 

 メイド達の話ではあのアルベドすら現在謹慎中なのだそうですから、ルプスレギナには不安しかありませんでした。

 

 ルプスレギナは直立不動で最敬礼しようとしましたが、アインズはそれを右手で制し、口を開きました。

 

「ルプスレギナよ。私に何か話すべきことがあるのではないか?」

 

 ありんすちゃんはアインズの脇にナーベラルとアウラがいることに気がつきました。アウラは何やらありんすちゃんを睨んでいます。人差し指を口にあてたり顔の前で指を振ったりしてきます。ありんすちゃんはアウラの意図が分からずアインズ達の会話を聞いていませんでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「──愚か者が!」

 

 アインズの怒鳴り声にありんすちゃんは身を縮めました。あまりの恐怖にありんすちゃんは耳をふさぎます。あまりの怖さにちょっぴりそそうをしてしまいました。

 

 そろそろと手を離すとまたもやアインズの怒鳴り声がしました。

 

「──! お前には失望したぞ!」

 

 ありんすちゃんはびっくりして、更にそそうをしてしまいました。ほんのちょっぴりだけ、ですが。

 

 それできっとアインズに失望されてしまったのに違いありません。アウラが泣き出しそうになるありんすちゃんをあやしながら部屋の隅に連れていきました。

 

 アインズはそんなありんすちゃんに気をかけながらも目前のルプスレギナへの訓戒を続けるのでした。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 全員が退出し、ただ一人となったアインズは溜め息をつきました。

 

 シャルティアが復活した時に消費した金貨は間違いなく五億Gありました。しかしながらカウントされたのは5億枚でなく一枚足りない4億9999万9999枚。

 

 一体何があったのでしょう……

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 静かに頭を抱えてうずくまるアインズの事を書棚の陰から見守る一人の領域守護者がいました。

 

 彼は思い出していました。

 

 あの日、何故か眷属の数が一匹足りなくなっていたことを。

 

 てっきりいつもの天敵戦闘メイドの胃を満たしたのかと思っていましたが、どうやら深刻な事態を産んでしまったようでした。

 

「……………」

 

 高貴な身分に相応しい、優雅な身のこなしでマントを翻すと自らの領域の階層へ帰っていきました。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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011ありんすちゃんとダメいぬ

 ルプスレギナは目を覚ましました。

 

 頭が包帯でぐるぐる巻きになっていて、酷くズキズキします。

 

 何だかいろいろな事があったようななかったような……大事な事を思い出しそうな忘れてしまったような……ハッキリしない、気持ちがモヤモヤしていました。

 

 ふと見ると側にありんすちゃんを抱いたユリ・アルファがいます。

 

「ルプス、具合はどう?」

 

「ルプチュゲリナ大丈夫でありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんも心配そうです。

 

「あははは。いいっすよ、ルプーで。シャルティア様、いや……チャルメラちゃんもありがとーっす。なんかアインズ様に怒られた夢みちゃいましたっすよ」

 

 能天気なルプスレギナの言葉にユリは激しく激怒しました。

 

 あの、至高の方々のまとめ役、ナザリック地下大墳墓の絶対的支配者たるアインズ様の激怒を受けたのに関わらず、このルプスレギナの脳天気さ。

 

 このままにしておいてはルプスレギナだけでなくプレアデス全員にアインズ様のお叱りを受けるかもしれないのです。

 

 ユリのお説教は昼まで続き、いつしかありんすちゃんは眠ってしまうのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ルプスレギナとありんすちゃんがアインズの執務室に行ったあの日に一体何があったのでしょう?

 

「まじ、アインズ様、ぱねぇっす。あそこまで物事を考えて行動しているとか、化け物なんて言葉じゃ言い表せないっす」

 

「ゴイン!」

 

 ナーベラルの容赦ない一撃はルプスレギナの意識と記憶を奪ってしまったのでした。

 

 殴る時に力が入りすぎてしまったようで、ルプスレギナの頭からは大量の血が吹き出してしまいました。

 

 大変です。

 

 5歳児位の女の子とはいえ、ありんすちゃんはついこの間血の狂乱でデミウルゴス牧場を壊滅させてしまっています。

 

 この場を急いでなんとかしないとまたもや惨劇が、しかもナザリック地下大墳墓の第九階層で起きてしまいます。

 

 ナーベラルはルプスレギナの頭を両手でガシッと掴むと急いで引きずっていきました。

 

 幸いにもありんすちゃんは緊張と疲れが押し寄せて眠っていましたから、そんなに急がなくても大丈夫だったみたいですが。

 

 眠ってしまったありんすちゃんを迎えにユリ・アルファが呼ばれ、その後エ・ランテルに戻るナーベラルに頼まれてルプスレギナの面倒を見ていた、というわけです。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんが目を覚ますといつの間にかルプスレギナのベッドに寝かされていてユリの姿はありませんでした。

 

「んじゃ、行きますっか」

 

 何処へ行くのだろうとありんすちゃんが不思議に思っていると、ルプスレギナが明るく言いました。

 

「カルネ村に行くすっすよ。汚名返上ってやつっすよ」

 

 かくてありんすちゃんはルプスレギナと一緒に再びカルネ村に行く事になりました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ちなみにその後の本編にて王国でのゲヘナでナーベラルにルプスレギナが再会した時──

 

「久しぶりっす。ナーちゃんがアインズ様にドナドナされてから会ったのはこれが初めてっすよね」

 

 どうやらルプスレギナの記憶から一部の記憶──アインズの執務室でナーベラルと会っていた事──が消去されていたようです。

 

 極めて原始的な記憶消去法ではありますが……

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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012ありんすちゃんいもうとになる

 ありんすちゃんはルプスレギナに連れられて再びカルネ村にやってきました。

 

 そうそう、ありんすちゃんはこの前来たときにネムからクマさんのワンポイントがついた可愛いパンツをプレゼントされていたので、そのパンツをはいていきました。

 

 カルネ村では入り口でネムがブリタと待ち受けて、ありんすちゃんに手を振っていました。

 

「チャルメラちゃーん。ルプスレギナさーん」

 

 ありんすちゃんは駆け出しました。

 

 目の前に行くとネムは自分のスカートを捲り上げて笑いました。

 

「おっそろーい」

 

 見るとネムも同じクマさんパンツをはいていました。

 

 

 ブリタは何だか具合が悪そうに青い顔をしています。

 

 もしかしたらお腹を出して寝ちゃって風邪をひいちゃったのかもしれませんね。ありんすちゃんもたまにありますよ。

 

「ありゃりゃ。将来レディーになりたいんだったら感心しないっすね」

 

「……ごめんなさい」

 

 ネムは顔を真っ赤にして俯きました。

 

 どうやらネムはルプスレギナの言うことは素直に聞くみたいですね。

 

「チャルメラちゃん、行こっ」

 

 ネムはありんすちゃんの手を掴むと駆け出しました。

 

「やれやれ、しょうがないっすね」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ネムはありんすちゃんを村の外れに連れてきました。

 

 そこには小さなテントがあってネムは中に入ります。

 

 テントの中には小さな椅子、本、ランプ、マグカップが置かれた小さな机があります。どうやらネムの秘密基地みたいですね。

 

「チャルメラちゃん、あなたは今日から私の妹にするから。私の事をお姉ちゃんって呼ぶの。ね?」

 

「わらわのお姉ちゃんでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんの脳裏にダークエルフの双子が浮かびましたがすぐに追い払いました。

 

 まごまごしているうちにありんすちゃんはネムの妹という事にされてしまいました。

 

 集会所に行くともう会議は終わっていて、村人がそれぞれ帰っていく所でした。

 

「お姉ちゃーん」

 

 ネムがエンリに駆け寄りそのまま抱きつきます。

 

「私ね、チャルメラちゃんを妹にしたんだよ。だから私も今日からお姉ちゃんだよ」

 

「これでネムさんも大人の仲間入りっていう事ですね」

 

 カイジャリが楽しそうに話に加わります。

 

「ネム。それは良かった。……本当に」

 

 エンリは上機嫌でありんすちゃん=チャルメラちゃんを抱きしめるネムを眺めながら、久しぶりにほのぼのした気持ちを味わっていました。ルプスレギナの話ではしばらくありんすちゃんが泊まっていくらしいのです。

 

 父母を亡くしてから健気にもおとなしい『よい子』だったネムが少しでも年令相応の子供らしくいられたら、と姉らしい気分になりました。

 

 賑やかに家に向かうエンリ達から離れた木陰に佇んだ人影がポツリと呟きました。

 

「あー村、滅んでくれないかなぁっすね」



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013ありんすちゃんすやすやねむる

 しばらくの間、ありんすちゃんはカルネ村に滞在する事になりました。

 

 アインズに失望されたと思い込んでいたので挽回しようと必死です。それに……激怒したアインズの怖かった事……チビってしまったのは内緒です。

 

 絶対に内緒ですよ?

 

 村の外れにはルプスレギナがいました。

 

「ルプー? どうしたでありんちゅか?」

 

「おはっす。いや、もう夕方っすけど。そういや私もチャルメラちゃんって呼んでいいっすか?」

 

 困ったありんすちゃんはいやいやをしましたが、ルプスレギナには通じなかったみたいです。

 

「今日あたりなんか楽しくなりそうな気がするっすよ」

 

 ありんすちゃんも楽しい事は大好きです。

 もしかしたらありんすちゃんの歓迎パーティーとかあるのかもしれませんね。だってありんすちゃんはとてもとても可愛い女の子なんですから。

 

 楽しい事を待っていたありんすちゃんはお昼寝も我慢して待ち続けました。

 

 次の日も次の日も。

 

 でも,そのうち眠くて眠くて我慢出来なくなって熟睡してしまいました。

 

 え? アンデッドのヴァンパイアが眠くなるのはおかしいですって?

 

 だってだってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

 ありんすちゃんは村がざわつくのをよそに熟睡してしまいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 村の外では大事件が起きていました。なんとカルネ村をモンスターが襲ってきたのです。

 

 エンリ、ンフィーレア、そしてジュゲムらゴブリン達は村人を指揮して応戦しています。

 

 ルプスレギナはどうやらナザリックにちゃんと報告したみたいですね。

 

「さてっと。汚名返上にはもってこいっすね。あとはギリギリのピンチ作って格好よくルプー姉さん登場、っていきたいっすね」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 一方ありんすちゃんはどうしているでしょうか?

 

 村の真ん中にある、ひときわ大きな建物──集会所にありんすちゃんはいました。

 

 ネムやリィジーらと一緒に避難している村人と一緒です。

 

 ピンク色の可愛らしいタオルケットにくるまれてスヤスヤと眠っていますよ。

 

 仕方ないですよね。

 

 だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから。

 

 え? いい加減この言い回しがくどい?

 

 申し訳ありませんがこれを無くすとこの作品のアイデンティティが崩壊する恐れがありますので我慢して頂けたらと思います。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 一方ルプスレギナは……

 

「やっぱ、こうンフィーちゃんがエンちゃんの危機に颯爽と登場なんかしちゃって『僕の命はエンリのものさ。エンリ、キミを愛してる!』って妙なフラグ立てて、でも次の瞬間に呆気なく倒されて絶対絶命! って所でジャーン! ルプー姉さん登場! っていきたいもんすね。さてさて……」

 

 ルプスレギナはアインズの言葉を思い出しました。確かはっきり言っていました。そう、「モンスターに襲われるなら仕方ない」と。

 

 そうなれば手軽なモンスターがンフィー達を襲えば良いのです。彼らの手に余る、丁度良いモンスターが……

 

 ルプスレギナは不可視化したまま村を観察すると西側にウロウロ所在なげにしているトロールに気がつきました。邪悪な笑みを浮かべるとルプスレギナはトロールにそっと近づいていきました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんが目覚めた時には全てが終わっていました。

 

「いやー、なんとか汚名返上出来たっすよ。最高っすね」

 

 ありんすちゃんにはなにがなんだかわかりませんでした。

 

 

 

 

 



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014ありんすちゃんつめをきる

 ありんすちゃんは朝から少し緊張していました。

 

 アインズの命令でこれから守護者や戦闘メイドらとリ・エスティーゼ王国へ行く事になったのです。

 

 ピクニックに行くのではないんです。

 

 戦争に行くんです。

 

 ありんすちゃんは興奮して昨日はよく眠れませんでした。

 

 ナザリック守護者、戦闘メイド、シモベ達、それにありんすちゃん。その他に応援部隊もいるらしいですよ。凄いですね。でも、やっぱりありんすちゃんが主役だと思います。

 

 それは、ありんすちゃんが一番可愛いからです。

 

 一足先に王都で準備していたセバスが出迎えます。

 

「これほどのメンバーが揃うとは……アインズ様に感謝の言葉を申し上げなくては……ん?」

 

 

 デミウルゴス、マーレ、ソリュシャン、エントマ、ありんすちゃん。

 

 順に挨拶するセバスがありんすちゃんに少し驚いたみたいでした。

 

 ありんすちゃんは張り切っています。

 

 デミウルゴスが次々に指示を出します。今回はデミウルゴスが責任者です。いよいよありんすちゃんの番です。張り切っていたありんすちゃんは胸を張って命令を待ちました。

 

「──シャルティア。君は遊軍として遊んでいてくれたまえ」

 

 ありんすちゃんは喜びました。遊ぶのは得意ですから。多分、守護者の誰よりも遊びが得意かもしれません。ありんすちゃんは張り切って遊ぶ事にしました。

 

 ありんすちゃんは塀の上をバランス取って歩いてみたり、あちこちの倉庫を開けて覗いてみたりしました。疲れたら昼寝して、夕方にまた遊びました。

 

 いつの間にか綺麗な炎が王都の一角にあがっていたので、ありんすちゃんは見物しにいきました。たしかゲヘナの火とかいった気がします。

 

 すっかり夜になりました。そのうちありんすちゃんは一人で遊ぶのにだんだん飽きてきてしまいました。

 

 ありんすちゃんはもっと楽しそうな事はないか探してみました。ふと見ると闇夜に目立つ白い鎧を着た少年が向こうを走っています。そうだ、鬼ゴッコをしよう。ありんすちゃんは閃きました。あの白い鎧にペタペタと手形を付けたらきっと楽しいですよ。きっと。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 白い鎧を追いかけようとするありんすちゃんはいきなりとうせんぼされて戸惑いました。見たことがない、ワカメみたいな髪の男がびっくりしたような顔をしています。

 

(──シャ、シャルティアだよな? ……いや……シャルティアの子供? いや……妹? ……もしかしたら親戚の子供か? はたまた、他人のそら似……それは無いよな……)

 

 その男、ブレイン・アングラウスは戸惑っていました。遠目でシャルティアだと思った女がよく見たら5歳児位の女の子だったのですから。

 

 ありんすちゃんには記憶がありませんでしたが、ブレインは以前、シャルティアと対戦して泣きながら逃げ出した事があるのでした。

 

「えっと……あの……(ど、どうする? 俺……)」

 

 しどろもどろの状態で戸惑うブレインに対してありんすちゃんが命令しました。

 

「邪魔でんちゅよ。そこからどくでありんちゅ」

 

「……あ……は、はい……」

 

 ブレインは動揺しながらありんすちゃんに道をあけようとしました。と、足がもつれて尻餅をついてしまいました。

 

「それは何でありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんが拾い上げたのはブレインのポケットから落ちた爪切りでした。

 

「……つ、爪切り……だが……」

 

 ブレインの頭の中で瞬時にいろんな考えが駆け巡るのでした。

 

(この女の子はやはりシャルティアと関係があって、近くにシャルティアがいるかもしれない。ここはクライムのための時間を稼ぐ為になんとかすべきだろう……しかし、どうしたら……)

 

 ブレインはありんすちゃんに思わず言いました。

 

「……あの……良かったら爪を切りませんか?」

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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015ありんすちゃんかめんをかぶる

 今日もみんなで王都に行きます。

 

 今回はみんな仮面を被っていくみたいですね。

 

 ありんすちゃんも仮面が欲しかったのにデミウルゴスはくれませんでした。

 

 ケチんぼですね。

 

 ありんすちゃんは仮面が欲しくてたまらなくなりました。

 

 ルプスレギナもエントマもユリもソリュシャンもシズも仮面を貰っています。

 

 ありんすちゃんは面白くありませんでした。

 

 ありんすちゃんは仮面がなきゃ行かないとだだをこねてみましたが、デミウルゴスはあっさりとありんすちゃんを置いていっちゃいました。

 

「……デミウルゴチュのばか」

 

 ありんすちゃんはデミウルゴスの悪口を言ってみましたが気は晴れません。手に入らないとなんだかとてつもなく素敵に思えて諦められません。

ありんすちゃんがお面をつけたらどんなに似合うでしょう? だってありんすちゃんはとてもとても可愛いらしいのですから。

 

 ありんすちゃんの頭は仮面の事で一杯だったのですが、そんな時久しぶりに、本当に久しぶりにくしゃみが出ました。

 

「くちゅん!」

 

 ありんすちゃんはまたしても何処かに転移してしまうのでした。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

「「きゃっ!」」

 

 ありんすちゃんが転移した先は誰かの頭の上だったので、丁度ありんすちゃんの頭と相手の頭がぶつかってしまったのでした。

 

 その相手──赤いフードと漆黒のロープを着た金髪の女の子──は完全に気絶してしまっていました。

 

 年齢は十四歳位でしょうか。ありんすちゃんは5歳児位なので随分お姉さんですね。

 

 ありんすちゃんは全く悪くありません。これは事故です。もしかしたらこの女の子がわざとありんすちゃんが転移した場所にいたのかもしれません。

 

 ふと、ありんすちゃんは女の子のすぐ側に素敵な物が落ちていたのに気がつきました。なんと! ありんすちゃんが欲しかった仮面が落ちています。デミウルゴスの仮面とはデザインが違いますが、これはこれでカッコイイ仮面だと思いました。真ん中についた朱い宝石が綺麗です。ありんすちゃんはさっそく仮面をつけてみました。

 

 とってもお似合いです。ありんすちゃんは可愛いので何でも似合っちゃいますね。

 

 ありんすちゃんはクルリと回ると人差指ですをあごに当ててポーズをとりました。完璧です。仮面は最初からありんすちゃんの物だったみたいにフィットしています。

 

「……こんな所にいた……急ぐぞ……」

 

 ありんすちゃんは不意にやって来た女性に手をつかまれました。

 

「ボスが待ってる。いくぞ」

 

 ありんすちゃんはそのまま連れていかれてしまいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 なんだかんだでありんすちゃんはモモンとナーベと一緒に王都リ・エスティーゼの中央に来ていました。誰もありんすちゃんだという事に気がつかないようです。

 

 ありんすちゃんは楽しくなりました。

 

 そのうちデミウルゴスが戦闘メイドと一緒に現れました。みんな仮面をつけています。

 

 ありんすちゃんはもう羨ましくありません。

 

 だってありんすちゃんも素敵な仮面を持っていますから。

 

 おやおや? 誰一人としてありんすちゃんだとは気がつかないみたいですね。ありんすちゃんはナザリックでお留守番しているはずなので、まさか王都に来ているとは思いもしないのでしょうね。

 

 アインズとデミウルゴス、ナーベラルとルプスレギナ・ソリュシャン・エントマ、ありんすちゃんはユリ・シズと対します。

 

 ありんすちゃんが仮面を外して正体を教えてあげるとみんなビックリするでしょう。ユリはビックリしすぎて首を落としてしまうかもしれません。

 

 そんな事を想像しながらワクワクして仮面を外そうと──

 

「くちゅん!」

 

 なんと! ありんすちゃんはまたまた転移してしまいました。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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016ありんすちゃんイタズラする

 ありんすちゃんが転移したのは小さな小屋の中でした。

 

 中に小さな机と二つの椅子が置かれています。

 

「……誰かいるでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんは礼儀正しく声をかけました。

 

 本当は家人の許可がないと家に入ってはいけないという迷信があるんですけれどね。

 

「あ……あれ? ……ど、どなたですか?」

 

 見るとマーレがびっくりしてこちらを見ています。どうやら仮面をしているのでありんすちゃんだと気がつかないみたいですね。

 

 ありんすちゃんはいたずらを思い付きました。

 

「マーレ、お姉ちゃんのアウアウでありんちゅよ。わからないでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんはマーレをからかってみました。

 

「なんだ。お、お姉ちゃんだったんだ……仮面をつけてたから、あの、わからなかったです」

 

 マーレはなんて素直なんでしょう。

 

 ありんすちゃんの言うことを信じて姉のアウラ──ありんすちゃんはアウアウと言ってしまいましたが──だと信じています。

 

 本当に仮面って凄いですね。よく仮面をつけただけで正体がわからないなんて事が設定上おきますが、あれは嘘じゃなかったのですね。さて、どうしよう……

 

 ありんすちゃんは完全に信じきった様子でこちらを見るマーレに質問しました。

 

「マーレはここで何をしているんでありんちゅか? お姉ちゃんに言うでありんちゅ」

 

「えっと、あの、アインズ様とデ、デミウルゴス様が、あの、ここで……」

 

 その時入り口の扉が壊れて二人の人物が入ってきました。

 

「まず、この部屋は安全なのだな?」

 

「大丈夫でございます……ん?」

 

「「!」」

 

 アインズとデミウルゴスはありんすちゃんに気づいて身構えました。

 

「……これは!?」

 

「……蒼薔薇の?」

 

(──たしかイビルアイとか言ったな。なんであの子供がここにいるんだ? しかも一人? ……)

 

 アインズ様もデミウルゴスも混乱していますね。二人共完全にイビルアイだと思い込んでいて、正体がありんすちゃんだとは思いもしないみたいですね。

 

 やりました。

 

 ありんすちゃんのいたずらは大成功です。

 

 おやおや? 大変です。

 

 どうやらいたずらの度が過ぎてしまったのかもしれません。

 

 二人共怖い顔をしてありんすちゃんを睨んでいます。ただならぬ殺気を感じてありんすちゃんは泣きそうになりました。

 

(……そうでありんちゅ! 仮面をはずちゃないと……)

 

 あわててありんすちゃんは仮面を外しました。

 

「アインジュちゃまぁ! うわーん!」

 

「──シャルティア?」

 

「……? ……」

 

「えーーお、お姉ちゃんが、シャ、シャルティアさんに? え、えっと、えっと……ええー!」

 

「──マーレ? ……ちょっまっ──」

 

 動揺したマーレはうっかり魔法を発動してしまいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 王都に合図の地震が起きました。

 

「地震ダァ。マーレ様ガヤッタミタイ」

 

「これは何かのサインなの?」

 

「そうっすよ、ナーちゃん。悪いんすけど、ちょっと怪我してもらうっすよ」

 

 かくして王都をゆるがすゲヘナは終盤へと移行していくのでした。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 その夜、お風呂でありんすちゃんはパンツを洗っていました。あまりにも怖かったのでそそうをしてしまったからです。

 

 仕方ないですよね。だってありんすちゃんは5歳児位のまだ小さな女の子なのですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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017ありんすちゃんとバイコーン

 ──ナザリック地下大墳墓第六階層──そこにアウラ、アルベド、そしてありんすちゃんがいました。ありんすちゃんはとってもワクワクしています。

 

「では、始めるわ──来なさい。私の騎獣」

 

 アルベドが発動したスキル、騎獣召喚で姿を現したのは馬よりは少し小さいながら迫力が凄まじい漆黒の魔獣でした。

 

「おお! 普通のバイコーンとは違う! 角も身体も立派だね」

 

「そうよ。まさにウォーバイコーンロードとでもいうべき存在。残念ながら空を飛ぶのは無理ね」

 

「とってもちゅよそうでんちゅね」

 

 アルベドはありんすちゃんに答えるかわりに頭を撫でました。アウラは興奮した様子で訊ねました。

 

「で、なんて名前なの?」

 

「……そうね。トップ・オブ・ザ・ワールド……とでも付けようかしら」

 

「チョプオバールト? でありんちゅか?」

 

「……」

 

「まぁまぁ。じゃあ次いってみようよ!?」

 

 アルベドはバイコーンに向き直り鐙に足を掛けひらりとまたがりました。するとバイコーンがよろめきだすのでした。

 

「アウラ! シャルティア! 私のバイコーンの様子が変なの」

 

「と、とりあえず降りなよ、アルベド!」

 

 アルベドが飛び降りると疲れきったようにバイコーンがへたり込んでしまいました。

 

「きっと重ちゅぎたんでちゅよね」

 

 ありんすちゃんが得意げに解説します。そうです。ありんすちゃんは5歳児位の女の子にしか見えませんがとてもとても、とーても賢いんです。

 

 大事な事なのでもう一度言います。

 

 ありんすちゃんはこう見えて、とてもとてもとーても賢いんです。

 

「アウラ、あなた魔獣と会話なんか出来ないの?」

 

「無理無理。てか、ずっと前にあたしの能力は全て話したじゃん」

 

 さてさてどうしたものでしょう?

 

「そうだ。デミウルゴスなら何かわかるかもしれないんじゃん?」

 

 アウラが名案を思い付きました。

 

「残念だけどデミウルゴスはアインズ様のご命令で現在外で働いていないわ。余程の事でなければ相談は無理ね」

 

 三人は途方にくれるのでした。

 

 しばらくしてからありんすちゃんが口を開きました。

 

「きっとアルベドが重たちゅぎたんでちゅよね」

 

 アルベドはせっかくのありんすちゃんの指摘をあたかも聞こえなかったかのように無反応でいます。

 

 なんという事でしょう!

 

 賢いありんすちゃんの意見を無視するとは! ありんすちゃんはひとりプンプンしながら頬を膨らますのでした。

 

「……ひまだねー」

 

「……そうね」

 

 膨れているありんすちゃんには全く触れず、二人は空を見上げていました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 部屋に帰ってからありんすちゃんは以前にアインズ様から貰ったペロロンチーノの百科事典──エンサイクロ・ペディア──を広げてみました。

 

「バ……バイ……バイコ…………あったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはバイコーンの項目を声に出して読み始めました。

 

「えっと……の……。……を……る……に……して、……は……を……ると……われている。???」

 

 残念ながらありんすちゃんにはひらがなだけしか読めませんでした。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

※ありんすちゃんが挿し絵を描いてくれました

 

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018ありんすちゃんのかしましい

 ナザリック地下大墳墓第九階層のアルベドの私室──かつてナザリック地下大墳墓を作り上げた至高の四十一人に与えられた私室と同じに作られた一室にありんすちゃん、アルベド、アウラの三人の姿がありました。

 

「アウラ、さっきからあまり機嫌が良くなさそうだけれど、眠いのかしら?」

 

 アルベドが慈母のような微笑みを浮かべながらアウラに問いかけました。質問に答えたのはアウラではなくありんすちゃんでした。

 

「アウアウはおねむでありんちゅ。わらわはモンブランが食べたいでありんちゅ」

 

 そう言いながらもありんすちゃんは両手にしっかりとマカロンを持っています。アウラは二人をあきれたように見ながら話し始めました。

 

「まったくいい気なものだね。……あのさぁ、この間デミウルゴスから言われたんだよ、あたし。『アルベドとシャルティアが問題を起こさないようにアウラがしっかり手綱を握っていてくれたまえ』だってさ。これっておかしくない?」

 

 早速ありんすちゃんが答えました。

 

「たじゅなってお菓子、食べてみたいでありんちゅ」

 

「馬鹿ね、シャルティア。手綱よ手綱。確かにおかしいわね。手綱を握ってもらうならアインズ様よ」

 

 アウラは憐れみを含んだ眼差しを二人に送るのでした。

 

「そういう事じゃなくて、あなた達の面倒をみるのがあたしの役割だって思われているの。なんで?」

 

「やっぱりモンブランが食べたいでありんちゅ」

 

 アルベドはありんすちゃんの頭を撫でながら言いました。

 

「確かにおかしいわね。小さなアウラには荷が重いから私がその役割を担ってあげるわ」

 

 アルベドはこれ見よがしに胸を張ると豊かな双丘がアウラの目の前でプルンと揺れました。

 

「あのさぁ、嫌味が通じないの?」

 

「モンブランが食べたいでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは足をバタバタさせ始めました。どうしてもモンブランが食べたいみたいですね。

 

「おっきい栗の、乗っかった、モンブランが、食べたいでありんちゅ」

 

 アルベドとアウラはそんなありんすちゃんを無視して会話を続けました。

 

「嫌味なの?」

 

 アルベドの表情は穏やかでしたが、金色の瞳は少しばかり冷たい光りを放っていました。

 

「……もういいよ。ところであたし達を呼んだのは何の用だったの?」

 

「実は……内密にしたい相談事があるの」

 

 アルベドは声を落として語り始めるのでした。要約するとアルベドの唯一の神器級マジックアイテムである鎧“ヘルメス・トリスメギストス”の性能についての相談がしたいという事でした。

 

「──シャルティアはマジックアイテムの能力を解析する魔法を使えたわよね? この鎧にかけて──?」

 

 アルベドがありんすちゃんに振り向くとなんとありんすちゃんはテーブルにうつ伏せになって眠ってしまっていました。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……で、結局何が問題なわけ?」

 

 頬杖をついたアウラがジト目で尋ねました。

 

「私の鎧、三層になっていてダメージを受け止めるのだけれど、それぞれの層が破壊されても少しも露出度がアップしないのよね。せっかくだから少しずつ肌が露出していくべきじゃないかしら?」

 

「……あーあー。さいですか」

 

 アウラはすやすやと眠っているありんすちゃんを眺めながら、ふと、自分も居眠りしてやろうかと思うのでした。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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019ありんすちゃんだいかつやくする

 その日ありんすちゃんはお昼頃に目が覚めました。なにやらシモベ達がざわついています。

 

 第一階層や第二階層のスケルトンやエルダーリッチ達がやたらと張り切っています。

 

 ありんすちゃんは自分の守護階層の見回りをしてみました。今回はなんとありんすちゃん一人で見回ります。いつもだったらシモベの二人のヴァンパイア・ブライドと一緒でないと見回りしないのに不思議ですね。

 

 実は先日、アウラとアルベドから一人で階層の見回り出来ないとありんすちゃんがからかわれたからです。

 

「なに、シャルティアってもしかして自分の階層の見回り、一人じゃ出来ないの? そんなのまるで赤ちゃんじゃん」

 

「……おぎゃー。……ちょっと言ってみただけよ。別に意味はないわ」

 

 よりにもよって、ありんすちゃんを赤ちゃん扱いしたんです。

 

 許せませんよね?

 

 アウラなんか、アウラなんかこの間おねしょしたシーツを第六階層の片隅で干していたってマーレから聞いちゃいましたから。ありんすちゃんはもうおねしょなんてしません。

 

 そりゃたまにシーツが濡れていた朝があったかもしれませんが、寝ぼけてちょっとお水をこぼしちゃったのに違いありません。

 

 ありんすちゃんは気持ちを入れ替えて見回りに集中しました。

 

 ふと見ると恐怖公が眷属を並べてフォーメーションの練習をしていました。

 

「──違うぞ、違う。この動作の次は第一班がこうズササササっとまず足下をすくう。で、第二班が視界を奪いつつ顔面を制圧。そう、もっと素早く。で、第三班第四班が衣服の隙間から侵入。でこの時に悲鳴を上げるから第五班が口から……」

 

 恐怖公はありんすちゃんに気がつくと恭しくお辞儀をしました。

 

「これはこれは我が領域の階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン様。どうぞ我が眷属をご覧下さいませ」

 

 たくさんのゴキブリ達がずらりと整列してありんすちゃんにお辞儀をしました。

 

 ありんすちゃんは恐怖公とその眷属がちょっと苦手です。正直なところ、出来るだけ近づきたくないのが本心でした。そこでありんすちゃんは適当に挨拶してその場を去りました。

 

 ひと通り見回りをして、お風呂に入ったら今度はお昼寝をします。え? お昼まで寝ていたから必要ないですって?

 

 とんでもありません。睡眠不足はお肌の大敵なんですよ?

 

 え? いつもだったら「だって、ありんすちゃんは5歳児位だから仕方ない」というですって?

 

 気まぐれでちょっと変えてみました。

 

 さてさて、ありんすちゃんが再び目を覚ましたのは夜も更けた頃でした。夕方から一眠りすれば当然ですよね。ありんすちゃんは第一階層に行ってみました。

 

 何だか騒がしいので近付いてみると冒険者達がスケルトンと闘っています。戦闘メイド達が見物しながら声援を送っています。

 

「ルプー、みんなずいぶん楽しそうでありんちゅね?」

 

「一緒に見物するっすか? 面白いっすよ?」

 

「アァ、アンナ時ニ飛ンジャイイ的ジャネ?」

 

 ありんすちゃんも応援してあげる事にしました。ありんすちゃんはあまりにも興奮してしまったので階段の手すりから大きく身を乗り出してしまいました。

 

「──危ない!」

 

 冒険者の盗賊がありんすちゃんを助けようと振り向いた瞬間にスケルトンの一撃が見事に当たりました。

 

「ば馬鹿者しゃ……」

 

 緑の冒険者が気を取られてこれまたスケルトンの一撃。次々と冒険者達はまるでドミノ倒しのように地に伏していきました。

 

「ナザリック・オールドガーダーの出番までいかなかったわね」

 

「セツヤク出来テ良カッタジャナイノ」

 

「やったっすね。シャルティア様、大活躍っすよ」

 

 ありんすちゃんは張り切って第二階層に向かいました。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 第二階層には他の冒険者達がいました。

 

 どうやら落とし穴に落ちそうになっています。ありんすちゃんは棒でカブトムシみたいな冒険者をちょんちょんと突っついてみました。

 

 カブトムシは脇の下を突っつくとヘンな声を出すので面白くなりました。

 

 ツンツンツツン

 

「あふん。あふ、あふん」

 

 ……ツンツンツンノツツン

 

「……あ、あ、あふふん、ふふん」

 

 ありんすちゃんは指揮者のように棒を構えて──それそれ、それ。

 

 たまらなくなったカブトムシは向きを変えました。

 

 ありんすちゃんからだとお尻が突っつきやすそうですよ。

 

 ツンツンツンツン……ブスッ?

 

「あふあふあふん。んへ? あ゛ーーー」

 

 カブトムシは暗闇に落ちていってしまいました。穴の底で恐怖公がありんすちゃんに感謝のお辞儀をしました。周りに眷属達も並んでいます。ありんすちゃんは自らの活躍をアインズ様に報告しようと第九階層に向かいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 第九階層にアインズ様はいませんでした。メイド達の話では他の階層守護者達と一緒に第六階層に行っているらしいとの事でした。

 

 ありんすちゃんをのけものにしてみんなでケーキでも食べているかも知れませんね。

 

 ちなみにありんすちゃんが好きなケーキはモンブランです。もちろんてっぺんの栗を一番最初に食べます。

 

 ケーキの事を考えながら、ありんすちゃんは第六階層に到着しました。

 

 コロッセウムの前に来るといきなり扉が開きました。みるとアウラが扉を開けたところでした。

 

「──アルシェ! 逃げてぇ!」

 

「うん。ぎっどみんなもぎでね」

 

 ありんすちゃんがコロッセウムに入ろうとしたら中からロケットみたいな勢いで飛び出してきた女の子と正面衝突しました。

 

 女の子はありんすちゃんが倒れたのを見てびっくりして 抱き起こしました。

 

「──おお? シャルティアがアルシェを捕まえた! お見事ぉ!」

 

 アウラが叫んでいます。本当はありんすちゃんの方が捕まったような感じなんですが。

 

 今夜はありんすちゃんが大活躍の夜でした。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

 

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020ありんすちゃんていこくにいく

 今日のありんすちゃんははアインズ様に頼まれてバハルス帝国に使者として行く事になりました。

 

 お供はアウラとマーレの双子のダークエルフです。

 

 もちろんありんすちゃんは一人でちゃんとお務めを果たせますが、双子がどうしても連れていって欲しいとだだをこねるので仕方なく連れていってあげる事にしたのでした。ありんすちゃんはとても優しいですね。

 

 マーレはドラゴンを持っています。

 

 アインズ様はマーレにありんすちゃんをドラゴンに載せるように命令しました。

 

 アインズ様の前では双子のダークエルフも子犬みたいに大人しいものですね。ありんすちゃんの出発をアインズ様はわざわざ見送ってくれました。

 

 バハルス帝国に着くとそのまま王城を目指します。

 

 王城の前の広場みたいな所にドラゴンは舞い降りました。

 

 さて、いよいよありんすちゃんのお仕事です。

 

 まずはアウラがマイクを使って話します。

 

「あーあー。聞こえますか? あたしはアインズ・ウール・ゴウン様に仕える、アウラ・ベラ・フィオーラです!」

 

「……ありんちゅ」

 

「この国の皇帝がアインズ様のお住まいのナザリック地下大墳墓に不届きな奴らを送り込んできたのでアインズ様はお怒りです!」

 

「……でんちゅ」

 

「皇帝が謝罪しないとこの国を滅ぼします!」

 

「……でちゅよ!」

 

「手始めにこの広場のみんなは皆殺しにします!」

 

「……殺ちまちゅ」

 

「マーレ!」 

 

 マーレが杖を地面に刺すと大きな地震と共に地割れが出来、広場にいた兵士達を飲み込んでしまいました。

 

「はーい。皆殺しにしました。次はこの城を壊しちゃいます。──と思ったけど皇帝も死んじゃうので止めてあげます」

 

「……あげまちゅ」

 

「早く皇帝出てきて下さい! でないとこの都市を壊しちゃいます!」

 

「……ありんちゅ」

 

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフは窓から顔を出して震える声で叫びました。

 

「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは私だ……話し合いをしたい……ので、こちらまで来てもらえるだろうか!」

 

 ジルクニフは語尾だけ勇ましく叫びましたが、国民の多くに皇帝がビビっちゃっている事が丸わかりでした。

 

 応接室に使者達を待たせてジルクニフは深く深呼吸をしました。初戦ではドラゴンに大地震という天災級の荒技に度胆を抜かれたものの、所詮相手は子供達です。

 

 したたかなバハルス帝国皇帝、鮮血帝ジルクニフにかかればまさに赤子の手をひねるようなものです。

 

(まずは、ご使者殿を観察して、出方次第で臨機応変に探りを入れていくか? とりあえずあれだけ慎重に手配したワーカー達と何故このジルクニフを結び付けたのかを探らないと……)

 

 扉を開くとジルクニフはとびきりの笑顔をアインズ様なるものの使者達に向けました。

 

 しかし、……そこに使者達の姿はありませんでした。

 

 部屋の中にはジルクニフのメイドだけがいて、困ったような顔で答えました。

 

「皇帝陛下、あの……ご使者様方はお手洗いに行かれました」

 

 ジルクニフは部屋の中でメイドと三人、使者達の戻るのを待つことにしました。

 

 ……待ちました。

 

 ……ジルクニフは使者達の戻りを待ちました。

 

 が、使者達はいつまで待っても戻って来ませんでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

「……一体何だったんだ?」

 

 翌日、ジルクニフは執務室で頭を抱えていました。

 

「……まあ、このままなにもないという訳にはいくまい……さて、どうしたものか……」

 

 ジルクニフは誰に言うとなく呟いていました。そして腕を組み、考えを巡らせるのでした。

 

(しかしながら……いったいアインズ・ウール・ゴウンとは何者なのだろう? ……あのように一方的に力を誇示されては帝国としても無視する訳にいかない。もしかしたらそれが狙いか? ……だとすれば相当な策士だといえよう。それに使者として子供達を選んだ事も、こちらの油断を招く狙いだったのかもしれないぞ……うーむ、アインズ・ウール・ゴウン、恐るべき相手だ……)

 

 ジルクニフが考えに耽っていると、なにやら広場が騒がしくなりました。

 

 窓から見下ろすと今まさに一匹のドラゴンが、昨日と全く同じ光景を再現するごとく、舞い降りて来る所でした。

 

 背中には昨日の三人の子供達──いや、アインズ・ウール・ゴウンの使者達が乗っています。

 

「……まるでデジャヴのようだが? ……いいや違う……これは悪夢だ……」

 

「あ、あのー聞こえますか? ……ぼ、僕はア、アインズ様の使者として来ました」

 

「……きまちゅた」

 

「皇帝は、あの、すぐにアインズ様に謝りに来て下さい」

 

「……ありんちゅ」

 

「……あの、とりあえず、この広場のみんなは死んでもらいますね」

 

「……ちぬでんちゅ」

 

 マーレが杖を突くと広場に地震が起き、昨日の出来事がビデオで見るかのように再現されました。

 

「やーーめーーてーーー!!」

 

 ジルクニフの絶叫しは折から起こる凄まじい地鳴りにかき消されてしまいます。

 

 傷跡が生々しく残る広場の亀裂が再び口を開け、兵士達を飲み込んでしまうのでした。



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021ありんすちゃんとジルクニフ

 バハルス帝国の王城にドラゴンに乗ってやって来たありんすちゃんとアウラ、マーレの三人は広場にいた帝国兵士達を魔法で生き埋めにしてしまいました。慌てて顔を出した皇帝、ジルクニフの懇願によりありんすちゃん達はひとまず皇帝と会見する事にしました。

 

「さて、ご使者殿。私がバハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである。……先だってフィオーラ殿が言っていた件だが、私には全く心当たりが無いのだか?」

 

 ムッとしたアウラを制してありんすちゃんが口を開きます。なにしろアインズ様から今回の任務の責任者に指名されたのはありんすちゃんなのですから。

 

「ナジャリックにワーカーが泥棒しに来ちゃでありんちゅ。皇帝の命令でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんの鋭い指摘にジルクニフは動揺しました。

 

「なにを……いや、言いがかりだ。私は知らぬ……なにか誤解されているのであろう」

 

(ワーカー達を送り出す計画は慎重に進めたから私の関与を示すものは何もないはずだ。……きっと口から出任せに決まっている)

 

 ジルクニフの心の中の葛藤を見抜くようにありんすちゃんが可愛いらしく小首を傾けました。

 

「アインジュちゃまに謝罪しないでありんちゅね。じゃあ帝国はおちまいにするでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはそう言うと立ちあがりました。両隣のダークエルフも立ちあがり、少女のダークエルフが黒い杖を振り上げました。ジルクニフは慌てました。と、同時に理解するのでした。この魔導国の使者には駆け引きが全く通じないという事を。彼らは自分達がそこにいる事にお構いなしに王城もろともこの場にいる全員を抹殺しようとしている事を。そして、そこにはジルクニフ側の釈明を微塵も許さないという事を。

 

「す、すまなかった。謝る。いや、是非とも謝罪させて下さい! この通りだ」

 

 ジルクニフが必死に懇願するとありんすちゃんはニッコリしました。

 

「しょうでありんちゅか。しょれならこの城壊すのはやめるでありんちゅ」

 

 ジルクニフは安堵しました。と、同時になんとか主導権をこちらで手に入れられないか目まぐるしく頭を回転させるのでした。

 

「では、アインズ殿に謝罪にナザリック地下大墳墓とやらに行くとして……準備等々でみっか、いや、十日程待って頂けないだろうか?」

 

 ジルクニフはありんすちゃんの瞳をじっと見つめながら訊ねました。ありんすちゃんは顎に人さし指を当てて悩む素振りをしてみせます。ジルクニフは今こそ好機とばかり言葉を続けました。

 

「その、アインズ殿にプレゼントを用意したりしないとならないのでね」

 

 プレゼントという言葉に明らかな反応をありんすちゃんが示したのを見て、ジルクニフはほくそ笑みました。しかし、次の瞬間、ジルクニフのささやかな希望は隣のダークエルフの少年によってうち壊されてしまいました。

 

「あのさぁ、アインズ様から『すぐ来るように』伝えろって言われているんだよね。『すぐ』が何日後かはそっちが決めて構わないけど」

 

 ジルクニフは苦虫を噛むような気持ちを味わいました。どうやら子供達にしか見えない使者を寄越したアインズは相当な策士と思われました。

 

「準備などもろもろ整えて三日後までにはそちらを伺おう」

 

 ジルクニフは絞り出すかのような声で答えました。国内では鮮血帝などと呼ばれている自分が年端もいかない子供達相手に手も足も出ないという屈辱……

 

「じゃあアインジュちゃまにちゅたえるでありんちゅ。しょう言えば、生き埋めの人たち、掘り出しゅの手伝ってあげるでありんちゅか? まぁ──」

 

 ありんすちゃんは両手をパンと打ち合わせるとニッコリと笑みを浮かべました。

 

「──おせんべいみたいにペッタンコでありんちゅかもしれないでありんちゅね」

 

 ジルクニフはようやく反撃の機会を得たかのようにニッコリと微笑みました。

 

「それはありがとうございます。ではお願いしてもよろしいですか?」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ジルクニフは後悔していました。あの会見の最後に余計な頼みなんかをした事を。ありんすちゃんはジルクニフの言葉に対して素直に頷きました。それからすでに三時間──

 

「マーレ、もうちゅこし盛り上げるでありんちゅ。出てきたでありんちゅ」

 

 マーレが魔法で隆起させた地面からありんすちゃんが遺体の一部を次々に取り出します。それを一つ一つジルクニフが受け取ります。

 

「顔が半分でありんちゅね。あとは足でありんちゅ。この鎧は三角に潰れちぇておもちろいでありんちゅ」

 

「ほらほら、皇帝。しっかり持つ! さっきから頭を二つ落としたじゃん。あんたの部下なんだから大切に扱いなよ?」

 

「……ハ……ハイ」

 

 ダークエルフの少年に叱られて、ジルクニフは慌てて兵士の成れの果てを拾いました。無惨な光景に付き合わされて手も足も震えが止まりません。

 

(……まさに地獄だ……)

 

 ジルクニフ自身が頼んだ事である為、今さら嫌味だったなどと言い訳する事も出来ません。

 

 まだまだ終わりが見えないこの地獄の責め苦にジルクニフはただただ涙ぐむだけでした。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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022ありんすちゃんはげます

 ありんすちゃんはとってもご機嫌でした。

 

 アインズ様の命令であるバハルス帝国への使者という大任をちゃんとやり終えたからです。

 

 城から慌てて飛び出して来た皇帝ジルクニフの真っ青な顔……思い出しただけで笑っちゃいます。

 

「是非ともお願いですからアインズ・ウール・ゴウン閣下に謝罪させて下さい。お願いします」と何度も頭を下げていましたっけ。ありんすちゃんはその時、ジルクニフ皇帝の頭のてっぺんがうっすらと地肌が見えていたのに気がつきました。

 

 そして今日はバハルス帝国から皇帝自ら謝罪にやってくる日なんです。

 

 第十階層の玉座の間にはアインズ、アルベド、階層守護者達、周囲には沢山のシモベ達が並んでいます。

 

 ありんすちゃんとアウラ、マーレの3人は玉座の間ではなく、手前の廊下に面した小さな中庭のテーブルにいました。

 

 ありんすちゃんはバハルス帝国の皇帝が簡単にごめんなさいしないだろうと考えて、アウラとマーレと作戦会議をしているのでした。

 

 だってありんすちゃんだっておねしょは絶対絶対認めませんから。

 

 仕方ないですよね。

 

 ありんすちゃんはなんだかんだ言っても、まだ5歳児位の女の子なんですから。

 

「やっぱりさぁ、インパクトが大事だよね。シャルティア、あたしんとこのシモベを動員して道すがら廃墟にしていくのってどうかな? ぺんぺん草も生えないっての、やってみたいんだよね。あたし」

 

「……や、やっぱり僕はあの、ドラゴンが良いと思います。……こ、今度は、あの、二匹で行ったら凄いんじゃないかな?」

 

「やっぱりガルガンチャをアインジュしゃまにお借りんちゅて、一気に行くのが面白いでありんちゅね。城にガルガンチャがパンチしるとガラガラでバラバラになるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃん達が夢中になって話し合っているテーブルの近くでは、バハルス帝国皇帝ジルクニフが真っ青な顔をしていました。

 

 もしかしたらありんすちゃん達の計画が「ごめんなさい」をする勇気の励ましになってくれたかもしれませんね。

 

 ジルクニフに付き添ったバジウッドも真っ青な顔をしています。ジルクニフは悪魔にでも会ったかのように見開いた目でありんすちゃん達を凝視しながら考えます。

 

(──いかん。これはいかんぞ。このままではあの子供達はきっとやる。間違いなくやるぞ。絶対にだ。……どうする? どうしたら良い? 考えろ。考えるんだ)

 

 やがて意を決してアインズとの接見に臨んだハバルス帝国皇帝ジルクニフはさらに心をへし折られながらもなんとかナザリックとバハルス帝国の同盟に向けての第一歩を進める事になりました。

 

 そして、それはジルクニフの果てしない抜け毛の恐怖との闘いの始まりであった事はいうまでもありません。

 

 結果的にみればジルクニフを精神的に追い詰めたありんすちゃんの励ましはバハルス帝国にとってまずは存続の道を勝ち取る事になったといえます。

 

 とはいえ、三人──ことさらガルガンチュアで暴れたかったありんすちゃんは特に──残念で仕方なかったのでしたが。



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023ありんすちゃんいすになる※挿絵あり

 ありんすちゃんはナザリックの外に建てられた大きな丸太小屋にやって来ました。

 

 今度ナザリックの遠征軍をコキュートスが率いる事になり、リザードマン達との戦いの拠点として使用される事になった、アウラが建設中の要塞です。

 

 中ではデミウルゴスがいろんな動物の骨を組み合わせてアインズの為の仮の玉座を作っている最中でした。

 

 フンフンと鼻歌を歌いながら楽しそうです。ありんすちゃんも何かお手伝いしたくなるのでした。

 

「デミオルチュチュ、それは何でありんちゅか?」

 

「これはだね、シャルティア。アインズ様に座って頂く為の玉座なのだよ」

 

 得意気にデミウルゴスはありんすちゃんに白く輝く玉座を披露します。人間やモンスター、動物……様々な生き物の様々な箇所の骨を見事に組み合わせて作られていました。どの骨も綺麗に磨き込まれていてまさに芸術品とも言うべき出来でしたから、デミウルゴスが得意になっていたとしても不思議はありません。

 

 あまりの美しさにありんすちゃんは思わず溜め息をつきました。

 

「……きれいでありんちゅね。デミオルチュチュは工作が得意なんちゅね」

 

「ありがとう。シャルティア。だがね、今のままではアインズ様に座って頂くのに何か足りないというか、相応しくない気がするのだよ。何かもう一つアレンジが出来れば良いのだがね」

 

 ありんすちゃんには難しい事はわかりません。ただ、リボンを付けたら可愛いいな、と思いデミウルゴスに提案してみました。

 

「ふむ。リボンですか。ふむふむ……なる程。シャルティア、ありがとう。君の意見を参考にして赤をワンポイント使ってみたら良いかもしれないな」

 

 さすがはありんすちゃんですね。ナザリック随一の知恵者とも言われるデミウルゴスよりありんすちゃんが賢い事が今まさに証明されたのです。

 

 ありんすちゃんは大得意でした。

 

「ふむ……そうだ、シャルティア。この椅子の背のこの窪みに入ってみてはくれまいか?」

 

 ありんすちゃんはデミウルゴスの指示するまま、椅子の背もたれ部分の窪みに身体を合わせてみました。すると驚いた事にまるでそうする為にこしらえたかのようにピッタリとありんすちゃんがはまりました。

 

「ありがとう。シャルティア。君のおかげでどうやら完成出来たようだよ」

 

 こうしてありんすちゃんは椅子──白骨の仮玉座の一部──になったのでした。

 

 

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※  ※  ※

 

 

 

 部屋に入ったアインズは真っ先にその白い玉座に気がつきました。

 

 これ見よがしに人骨──それも頭蓋骨を含めた──を沢山つかい、何故か解らないが背もたれの真ん中にシャルティア──ありんすちゃん──がピッタリとはまっている白い玉座と、その側には恭しく会釈をしているデミウルゴスの得意そうな顔がありました。

 

(あれに座れという事なんだろうな。人骨、しかも頭蓋骨がこっちを見てるし……趣味悪いよな……それともこの世界の美的感覚では普通なのか?普通なのか? ……それにシャルティア。何やってんの? 意味判らないんだが?)

 

 心の動揺を隠してデミウルゴスに促されるままにアインズは白い玉座に腰掛けるのでありました。もし、仮に失態を犯した守護者がいて、その守護者に罰を与えるという名目でその守護者に腰掛ける事が出来たら白い玉座を使わずに済んだのでしょうが。

 

 ありんすちゃんは後ろからアインズ様の背中を揉み揉みします。

 

 確か『まっさあじちぇあー』というんですよね。

 

「……アインズ様、ちょっと外の空気を吸ってきます」

 

 俯いていたアルベドが唐突に部屋から出ていきました。

 

 ──と、建物の外でまるでダンプカーがマンモスと正面衝突したかのような音がしたかと思ったら──メキメキメキ──とアウラが建てた丸太小屋が全壊してしまいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 その後、リザードマン達へは戦闘が一週間後に変更になったという布告があったとの事です。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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024ありんすちゃんかっさいされる

 今日もありんすちゃんは張り切っていました。とうとう戦争に参加する事になったからです。

 

 せっかく守ってあげたのだから城塞都市エ・ランテルをアインズ様にプレゼントしてくれれば良いのにとありんすちゃんは思います。ですが、お馬鹿なリ・エスティーゼ王国はケチんぼで言うことを聞かないのでアインズ様は懲らしめる為に戦争をすることになった、という訳です。

 

 こう見えてありんすちゃん、以前ではナザリックでも上位の強さでしたから戦いには自信があります。たぶん。王国の兵隊なんてちょちょいのちょい、です。

 

 アインズ様がマーレをお供に馬車で戦場となるカッツェ平野に向けて出発してからしばらく経ちました。

 

 これからがいよいよありんすちゃんの出番です。戦場へ転移魔法──〈ゲート〉──でデスナイトとソウルイーターの軍勢を送り出すのです。

 

「げーちょ!」

 

 ありんすちゃんは語尾を噛んでしまいました。

 

「げーちょ!!」

 

 力一杯言ってみましたが、駄目でした。

 

「げーちょ! げーちょ! げーちょ!」

 

「げーちょ! げーちょ! げーちょ! げーちょ! げーちょ! げーちょ! げーちょ! げーちょ!」

 

 駄目です。いくら繰り返しても転移しません。

 

「……ありがとうシャルティア。もう充分だよ。今回はパンドラズ・アクターに替わってもらうとして、君には他の事を頼むとしようか」

 

 ありんすちゃんはデミウルゴスに連れられて第二階層にやって来ました。

 

 そこにある恐怖公の領域、通称エントマのおやつの間の前にありんすちゃんを立たせてデミウルゴスが言いました。

 

「いいかな? 戦端が開いたらここで小さなくしゃみをして欲しいんだ。出来るだけ多く、ね」

 

 ありんすちゃんは力強く頷きました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 水晶に映った戦場ではアインズが腕をひとふりして超位魔法──〈黒き豊穣への貢〉──を発動させました。

 

 王国軍左翼七万の軍勢は糸の切れたあやつり人形のように転がりました。

 

 やがて木のようなものが生えて黒い仔山羊が生み出されました。

 

 ──今です。ありんすちゃんはくしゃみをします。

 

 黒い仔山羊に追われて王国兵が逃げ惑います。

 

 その頭上からありんすちゃんのくしゃみでテレポートしてきた恐怖公の眷属が黒い雨となって降り注ぎます。

 

 黒い仔山羊がグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ……

 

 黒い雨がカサカサカサカサカサカサカサカサカサ……

 

 グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ……

 

 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ……

 

 グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ……

 

 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ……

 

 黒い仔山羊から逃げ惑う人達がありんすちゃんの黒い雨に包まれていきます。

 

 こうして見ると逃げまどう人間がまるでゴミのようです。ありんすちゃんはますます頑張ってくしゃみをして黒い雨を降らせるのでした。

 

 最後にしたくしゃみでありんすちゃんは転移して黒い仔山羊の上のアインズ様の膝の上にいました。

 

 アインズはありんすちゃんを膝の上から優しく降ろし、立ち上がるとゆっくり仮面をはずして言いました。

 

「──喝采せよ。……我が至高なる力に喝采せよ」

 

 アインズ様とありんすちゃんに万雷の拍手が寄せられるのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんのくしゃみで転移した恐怖公の眷属──Periplanta fuliginosa(和名 ゴキブリ)──の一部は火星に達して、そこで独自の繁殖をしていきました。

 

 後に彼らが地球を脅かす存在になろうとは、誰にも想像出来ませんでした。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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025ありんすちゃんとザイトルクワエ

 トブの森の奥深くにある貴重な薬草を採取するという難解なクエストを引き受けた“漆黒”のモモンことアインズは、途中でドライアードのピニスンと出合いました。そしてピニスンの案内により、かつて七人組により封印された『世界を滅ぼす』という魔樹──ザイトルクワエの元にたどり着きます。

 

 同行したアウラのスキルにより目覚めたザイトルクワエを見上げながら、アインズは守護者達に対プレイヤー戦闘の訓練を実践させる事にするのでした。

 

「コキュートス、マーレ、デミウルゴス、ご苦労」

 

 〈ゲート〉により到着した守護者達にアインズがねぎらいの言葉をかけました。

 

「アインズ様がお呼びとあらば、即座に」

 

「デミウルゴスノイウトオリダ。アインズ様、ゴメイレイヲ」

 

「……あの……アインズ様のお役に、あの……立ってみせます」

 

 アインズは満足そうに頷いてみせました。離れた場所でハムスケと一緒に様子を見ていたピニスンが騒ぎだしました。

 

「何あれ? いつの間にか増えたよ? どこから現れたのかな?」

 

「うるさくしない方が身のためでござるよ。あの方達は普通ではないのでござる」

 

 やがて再び〈ゲート〉が開かれアルベドとありんすちゃんが現れました。

 

「アインズ様、おそくなり申し訳ございません」

 

「よい。アルベドよ」

 

 と、アインズはアルベドの隣にありんすちゃんがいることに気がついて、一瞬ギョッとしました。ありんすちゃんは既に真紅のフルプレートにスポイトランスを持ち、やる気満々です。

 

「……その……アルベドよ。シャルティアはナザリックで待機すべきだと思うのだが……」

 

「申し訳ございません。どうしてもついていくと言い張りまして……」

 

 ありんすちゃんは鼻からフンスと息を吐きながらスポイトランスをブンブン振っています。それを見てデミウルゴスは静かに肩をすくめてみせました。

 

「……ゴホン。……では本題に移ろう。今回、階層守護者達に集まってもらったのはお前たちのチームとしての戦闘能力を確かめたい。それと、全員の力が見たいから決して本気を出すな。私は後ろで見させてもらおう」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「一番さいちょにいくでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんがトテトテと駆け出しましたがたちまちの内にコキュートスとアウラに追い抜かれてしまいました。

 

「わら……わたちがさいちょでないとイヤでありんちゅ!……う、うわーん!」

 

 コキュートスとアウラがザイトルクワエに攻撃しているのを見ながら、とうとうありんすちゃんが泣き出してしいました。仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

「大変だ。あの子供危ないよ! お母さんは助けようとしないの?」

 

 興奮して叫ぶピニスンをハムスケが宥めます。

 

「あの子供は実はとても強いでござるよ。それにあの女性はシャルティア殿の母親では無いでござる。決してそのような事を言ってはいけないでござる。命が……」

 

 コキュートスとアウラは途中で攻撃を止めてありんすちゃんを宥め始めました。そこにアルベドがやって来て二人に言いました。

 

「コキュートス、アウラ、あなた達はアインズ様のお言葉を思い出しなさい! アインズ様は私達守護者が協力して戦う事をお試しになっているのだわ」

 

「うん。アルベドの言う通りだね。……それと我々守護者はアインズ様よりワールドアイテムをお預かりしていますが、それを敵に奪われない為にも連係は必要ですね」

 

 デミウルゴスも加わって諭します。マーレがアルベドとデミウルゴスに訊ねました。

 

「……あ、あの……するとぼ、僕たちは、……どう戦えば?」

 

「合体攻撃でありんちゅ!」

 

 アルベドやデミウルゴスが答えるより先にありんすちゃんが叫びました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……うーん。どうしたのかな? なんだか揉めているみたいだけど……世界の危機だというのに何をしているんだよ!」

 

 ピニスンは苛々しながら守護者達を見守りました。

 

「うわっ! 何をするんだろう? 女の人とシッポの男の人の上に昆虫みたいな人が乗っかった。今度はダークエルフの二人が両側にぶら下がったぞ? ……あー危ない。小さい子供がてっぺんに……」

 

「うーん……それがしにも全くわからないでござるよ」

 

 強情なありんすちゃんの意見を受け入れて完成した? ナザリック階層守護者の合体形態『ふぁいなるあたっくモード』になった守護者達はヨロヨロしながらザイトルクワエに向かいました。てっぺんのありんすちゃんは大喜びです。

 

「やってられるかー!」

 

 『右足』のアルベドか思い切りコキュートスを投げます。コキュートスはアウラマーレを左右に飛ばし、さらに頭上のありんすちゃんをザイトルクワエの頂点に飛ばします。ありんすちゃんはスポイトランスを構えてロケットのように飛んでいきます。

 

「うわー! 凄い! あの昆虫の人が四本の剣を出したよ!凄い勢いで枝を切っていく。……赤い子供が大きな槍を突き刺す度に魔樹が少しずつ萎んでいく!」

 

 ピニスンとハムスケが呆気に取られる内にどんどんザイトルクワエは刈り込まれていき、さらにあらゆる攻撃を受けて萎んでいきます。てっぺんにあった薬草はありんすちゃんのスポイトランスで凪ぎ払われた後、デミウルゴスの手に無事収まりました。

 

「うーん……じゅいぶんちっちゃくなったでありんちゅね」

 

 百メートルもあったザイトルクワエはもはや一メートル程の高さになり、魔樹の面影はなくなっていました。マーレが養分いっぱいの雨を降らすと、なつくようにキューキュー鳴いて甘えます。結局、ザイトルクワエはナザリック地下大墳墓の第六階層でピニスンが世話をする事になったそうです。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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026ありんすちゃんがいっぱい

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国が建国され、アインズは悩んでいました。

 

(……この国をどうしていきたいか、か。……なかなか難しい問題だな……)

 

 階層守護者達はアインズの言葉に盲目的なだけにこの基本方針だけはアインズ自ら決めなくてはならないのです。

 

 着替えを済ませて執務室へ向かう途中も考えています。

 

 執務室でのアルベドやエルダーリッチ達と打ち合わせの最中も考えています。

 

「アインズ様。アウラ様とマーレ様です」

 

「おはようございます! アインズ様」

 

「お、おはようございます、アインズ様」

 

 

 アウラがアインズに抱き上げて貰おうとVの字に手を上げてピョコピョコしている時も考えています。

 

 アウラとマーレをそれぞれ膝に載せてあげた時も考えています。

 

 アルベドがアウラを妬んで『おぎゃー』と言い出した時はさすがに考えていませんでした。

 

 アルベドが腰掛けられるようにマーレをどかした途端、膝の上にありんすちゃんがいました。

 

 ありんすちゃんはスヤスヤ眠っています。

 

 アルベドは行き場の無い怒りに身を震わせましたがさすがにありんすちゃん相手には怒りをぶつけられません。

 

 空気を読んでアウラがアインズの膝を譲ってあげたのでなんとか事なきを得られる事になりました。NPC達のやり取りを前にしながらもアインズは考えていました。

 

 アインズは気分転換に久しぶりにパンドラズ・アクターに会いにいく事にしました。

 

 パンドラズ・アクターが冒険者モモンとして生活している館の前で、アインズはハムスケ小屋からアンデッドの気配を感じて様子を見ました。

 

 するとそこには熟睡しているハムスケとトゲが丸くなったデス・ナイトに挟まれて一緒に眠るありんすちゃんの姿がありました。

 

 やっぱりありんすちゃんはスヤスヤ眠っています。

 

 アインズは起こさないように静かにモモン──パンドラズ・アクターの住居へ向かいました。

 

「至高の御身、私の創造主であらせるアインズ様にはご機嫌うるわしく──」

 

 アインズは長くなりそうな挨拶を止めさせて要件を切り出しました。

 

「──で、何か問題はあるか?」

 

 パンドラズ・アクターはひとしきり宝物庫に時々帰りたいと感情的に訴えた後、アインズの悩みと同じ指摘をしました。

 

「多くの人間たちがこの国をどのように導いていかれるのか疑問に思っています。争いに駆り出されはしないか等と不安に思っています」

 

「……話したいところだが、まだ考えている最中だ。今後守護者各員と相談の上で話そう」

 

 アインズはモモンの屋敷を出ると空を見上げました。

 

 そこには青い空が浮かんでいました。

 

「飛ぶ」

 

 慌てる従者をよそにアインズは空に浮かび上がりました。

 

 ふと側の木に大きな鳥の巣があり、卵に並んでありんすちゃんがスヤスヤ眠っています。

 

 その後も街を巡回するデス・ナイトの肩の上で、またまた、荷物を運ぶソウルイーターの荷車の上でスヤスヤ眠っているありんすちゃんを見かけるのでした。

 

 まるでありんすちゃんの大量発生みたいですが、実はありんすちゃんが寝ぼけてアインズの行く先々に転移していたのでした。

 

 そんなありんすちゃんを見ている内にアインズは閃きました。

 

「──そうだ。ハムスケ、動物、アンデッド。かつてのギルド、アインズ・ウール・ゴウンのように種族の垣根がなく、様々な種族が共存できる国をつくろう」

 

 アインズは晴れ晴れした表情でスヤスヤ眠るありんすちゃんを抱き上げるのでした。ただ寝ていただけなのにアインズの悩みを解決するヒントになってしまうなんて、さすがですよね。ありんすちゃん。

 

でも、まだ5歳児位の女の子なんですよ。

 

 おやすみ。ありんすちゃん。良い夢を。

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

おまけ『ありんすちゃんききいっぱつ』

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ある日、ありんすちゃんは夜中に目が覚めました。

 

 そして小さくくしゃみをすると周りの景色が変わりました。

 

 どうやらまたもや転移しちゃったみたいですね。

 

 ありんすちゃんがいたのはとてもフカフカなベッドで、部屋の内装もゴージャスでした。

 

 ふと見ると誰かベッドの中にいます。

 

 なんとびっくり。

 

 アインズ様!!!!!!!!!!!!!!!!!!──と思ったら──アインズ様のぬいぐるみでした。

 

 よく見るとあたり一面アインズ様だらけです。

 

 ありんすちゃんはアインズ様のぬいぐるみを抱きしめるとウツラウツラして……またもや寝入ってしまいました。

 



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027ありんすちゃんとペンギン

 ありんすちゃんは第九階層に迷いこんでしまいました。

 

 うろうろしていると向こうからペンギンが歩いてきました。ナザリックの執事助手をしているエクレアですね。どうやらありんすちゃんとは仲良しみたいです。

 

「これはこれは。シャルティア様。今日も私と一緒にナザリックの叛逆活動をされますかな?」

 

「はんぎゃくでありんちゅね」

 

 ここで本来のシャルティアならばバーで飲んだくれるか目がザッパンザッパンするところですが、なにしろありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから訳わからずにはしゃいでいます。

 

 さて、いよいよエクレアの日課のナザリック支配作戦の開始です。

 

 まずは至高の方々の住居がある第九階層のトイレ掃除です。

 

 ありんすちゃんはエクレアのような柔らかな羽根がないので雑巾とトイレタワシを持ちます。

 

 まずは男性トイレです。

 

 小便器の中を磨く時にエクレアもありんすちゃんもスッポリ中に入り込んでしまいます。

 

 ありんすちゃんが磨いた場所は必ずエクレアがチェックします。

 

 高い場所を磨く場合にはエクレアとありんすちゃんはエクレアの部下に抱え上げてもらいながら磨きます。

 

 え? 全部部下にやらせた方が早いのでは、ですって?

 

 実は……私もそう思います。

 

 ですがエクレアにとっては大切なナザリック支配の為の作業らしいですよ。だから部下に任せておけないそうです。

 

 小便器では排水の所の『尿だまり』まで綺麗にピカピカにします。

 

「──隊長。おしっこのやちゅおわりまちゅた」

 

 ありんすちゃんがエクレア隊長に敬礼して報告します。

 

 

「ふむ。ご苦労様。これで本日のナザリック支配度が10%上昇した。次のターゲットは大便器である。気を引き締めて当たるように」

 

「らじゃ」

 

 勇ましくありんすちゃんは大便器に向かいます。

 

 気を抜くと吸い込まれそうになるのでありんすちゃんは足元に力を込めて踏ん張ります。トイレタワシを両手で握りしめ、まずは着水。この時に45°の角度にしないと反撃を受けてしまいます。

 

 無事に着水させられたならば壁面に押し当てて上から下にこすり下げます。

 

 大変です!

 

 ありんすちゃんはうっかり下から上へこすり上げてしまいました!

 

 水ごとトイレタワシが水面から勢いよく飛び出してありんすちゃんはビショビショです。

 

 どうにかこうにか格闘の末に男性トイレをピカピカに磨き上げたナザリック支配叛逆部隊は場所を女性トイレに移動します。

 

 女性トイレは全て大便器ですから、なかなかの強敵です。

 

 しかも『おしゅれっと』なる機能があるので危険です。

 

 前回、ありんすちゃんはうっかり『びで』というボタンを触ってしまいとんでもない目にあったのでした。

 

 ありんすちゃんは慎重にトイレタワシを構えます。

 

 ──そして、慎重に着水。

 

 今度は間違えずに上から下へ……うまくいきました。

 

 ありんすちゃんはやれば出来る子なんです。

 

 時間をかけてピカピカに磨き上げたトイレを見渡しながら、エクレアはナザリック支配への道がまた一歩前進したな、と思いました。

 

 ありんすちゃんの加入で効率も二倍になったはずだけれど、前より効率が悪くなった気がするのは単に気のせいだろう。そのうちアルベドやデミウルゴスも仲間に引き込んでさらにトイレの輝きを増すのだ、と心に誓うのでした。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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028ありんすちゃんとエクレアだん

 ナザリック地下大墳墓第九階層にありんすちゃん、部下に抱えられたエクレア、そしてもう一人の姿がありました。エクレアが二人の前に立ちます。

 

「あー、えーコホン。今回、我がナザリック反逆団に新たに新人が加わりました。彼は帝国から出向している人間に過ぎないので戦力として頼りないが、本人のやる気を見込んで特別に我がエクレア団の入団を許可するものとする」

 

「えーと……はじめまして。私はロウネ・ヴァミリネンです。この度、同志の中に加えて頂きまして誠にありがたく存じる次第にあります」

 

 緊張のあまり直立不動の姿でロウネが挨拶をしました。エクレアは部下に抱えられたまま、面倒くさそうに指示を出します。

 

「じゃ、ロウネはシャルティア隊員に任せる、という事で」

 

「らじゃ、でありんちゅ」

 

 エクレア隊長の命令にありんす隊員は元気に返事をします。ロウネはありんすちゃんがまだ5歳児位の女の子なので思わず慌てました。彼の目にはエクレアを抱えている部下の方がありんすちゃんよりも格上に見えたからです。

 

「あの……こちらのシャルティア様はいささか幼すぎるのでは……」

 

「こう見えてシャルティア隊員はナザリックでもなかなかの強者なんだ。しかもかつてアインズ様と戦った事すらある。ガチンコでな」

 

 ありんすちゃんは得意げに胸を反らせました。ロウネにはこの幼女と魔導王が戦う様子が全く想像出来ないので呆気に取られるばかりでした。そんな新米隊員のロウネはエクレア隊長の声で我に返りました。

 

「では、諸君。今日もナザリック制覇の為、反逆活動に勤しむとしよう」

 

 エクレア隊長の音頭で隊員二名はオーと力強く拳を突き上げるのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 トイレ掃除に追われた一日がようやく終わり、第六階層の居住区に用意された自室に戻ったロウネはベッドに横たわりました。

 

(陛下の指令にあったダークエルフの少女との接触は、取り巻きのエルフによってほぼ不可能みたいだが、どうにか魔導国内の反乱勢力に加わる事が出来たぞ。あのエクレアにシャルティア……見ためはペンギンと幼女に過ぎないが恐るべき強者みたいだ。しかも、よく判らないがあの魔導王と争ったらしい。この情報をもっと集めれば、皇帝陛下もご満足頂けるに違いない)

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 翌日もエクレア団が反逆活動に勤しんでいると、デミウルゴスが通りがかりました。

 

「これはデミウルゴス様。如何ですかな? そろそろ私のナザリック反逆の力添えを戴けませんでしょうかな?」

 

「反逆しゅるでありんちゅ」

 

 デミウルゴスは優しくありんすちゃんの頭を撫でながら答えました。

 

「そうだね。考えておくよ。……そうだ、その反逆活動を是非とも頼みたいのだかね。第五階層で『綺麗なもの』『バラバラなもの』『グチャグチャなもの』を整理して欲しいのだが、頼めるかね?」

 

「まかちぇるでありんちゅ」

 

 やたらと張り切るありんすちゃんを先頭にエクレア団は第五階層に向かうのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「うーん……これは大変でありんちゅね」

 

「部下を大勢呼ばなくては……この際、恐怖公の力を頼るしかないか……」

 

「……仕方ないでありんちゅね」

 

 呆然として言葉を失ったロウネをよそにありんすちゃんとエクレアは淡々と相談を進めていました。

 

 数え切れない死体の山を前に恐怖公の眷属達の力を借りれば作業が楽になるのはわかっていましたが、ありんすちゃんはちょっと気が引けてしまっていました。自分の階層の領域守護者ではありますが、ありんすちゃんは恐怖公とその眷属が苦手なんです。仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 尚、その後ロウネは自室に籠って二度と外に出てくる事はありませんでした。



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029ありんすちゃんりょうりをする

 ナザリック地下大墳墓第六階層にありんすちゃん、アウラ、ユリ、ナーベラルが集まっていました。野外キッチンが用意されていて、どうやら皆で料理に挑戦してみるみたいですね。

 

「うーん……やっぱり駄目だね。あたしもただの消炭みたいに真っ黒焦げになっちゃった。……やっぱりユリみたいに料理スキルが無いと無理なのかなぁ?」

 

「ただ、食材の肉を焼いてステーキにするだけですが、無理みたいですね」

 

 アウラが作った消炭料理を前にして、思わずユリはため息をつきました。以前、アインズが一般メイドに試させてみた時も皆、やはり消炭のように真っ黒焦げにしてしまったそうです。この結果はたとえ階層守護者といえども同じのようです。

 

「次はわら……わたちがやるでありんちゅ」

 

 フンスと鼻から息を吐きながらありんすちゃんがキッチンに向かいました。ありんすちゃんはやる気満々の様です。

 

「……いやいや、シャルティアも無理だってば。あたしで無理なんだからシャルティアにはできっこないよ?」

 

 ありんすちゃんはキッとアウラを一睨みして肉を手に取ります。フライパンにバターを敷いてやさしく肉を乗せます。ここまでは順調です。しかし……肉に熱が通り出した瞬間……ジュンと音がして真っ黒焦げの消炭になってしまいました。

 

 と、さっきから一人黙って料理の様子を観察していたナーベラルが口を開きました。

 

「この間、アインズ様と冒険者をしていた時、敵を〈ツインマキシマイズマジック・チェイン・ドラゴン・ライトニング〉で倒したのですが焼けた死体がとても美味しそうな匂いでした」

 

「ちょれでありんちゅ! ナーベ、お肉を魔法で焼くでありんちゅ」

 

 アウラもうなずいています。

 

「うんうん。試してみようよ?」

 

「……あの……それは料理とはいえないのでは?」

 

 若干一名、気乗りしない者がいましたが、ナーベラルはキッチンのフライパンに乗せられた肉を前にして魔法を発動させました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「うーん……やっぱり人間でないと駄目でありんちゅね」

 

 ナーベラルの〈ツインマキシマイズマジック・チェイン・ドラゴン・ライトニング〉で焼かれた肉はまたしてもただの真っ黒焦げの消炭になったのでした。

 

「うーん……人間かぁ。丁度この階層に一人いるけど、アインズ様から危害を加えるなって厳命されているんだよね」

 

 ぼやくアウラの隣でありんすちゃんが顔を上げました。どうやら心当たりがあるみたいですね。

 

「わたちに任せるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは魔法〈グレーターテレポーテーション〉を発動させました。次の瞬間、ありんすちゃんの足元には一体の氷漬けの死体がありました。

 

「たくちゃんあるからいくつでも持ってこられるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはどうやら第五階層に氷漬けになっている死体の事を思い出したみたいですね。これで実験が出来ます。ナーベラルは今度は死体に向かって魔法を発動させました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「うーん……やっぱり生きていないと駄目でありんちゅね」

 

 結局、人間の死体でも同じように真っ黒焦げの消炭になってしまいました。

 

「生きてる人間かー……やっぱりこの階層にいるのが丁度良いんだけどねー……かといってシモベを焼くのもね……あ、そうだ。丁度良いのがいた」

 

 アウラは突然自分たちの住居に戻ると鳩が三羽入った篭を持って来ました。

 

「これは帝国のネウロ……だっけ? ……今第六階層に住まわせているんだけど、持って来てた鳩を逃がしちゃったんだよね。で、すぐにあたしが回収しておいたんだ」

 

 早速、ありんすちゃん、ナーベラル、アウラはそれぞれ魔法やスキルを利用してそれぞれこんがりと美味しそうな鳩の丸焼きを作りました。アウラはファイヤボールやライトニングなどの魔法を覚えていない為、スキルで魅了して鳩に自らグリルに飛び込ませました。

 

 こうしてありんすちゃん達は『丸焼き』という料理を覚えました。アインズは大喜びでしばらく食堂で『ありんすちゃんの丸焼き料理』が続いたという事です。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 第六階層の自分用の住居に閉じ籠っていたロウネ・ヴァミリネンはひたすら書き物をしていました。

 

(陛下に伝えなくては。魔道王打倒の獅子身中の虫、ナザリック地下大墳墓の反逆勢力の存在──エクレア団──についての情報をなんとしても伝えなくては……)

 

 

 ロウネは三通の手紙をしたためると小さく折って小さなリングに挟みました。それを三羽の鳩の足にそれぞれ着けて放しました。青空に向かって飛び立っていく鳩の姿を目で追いかけながらロウネは満足気に頷くのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 それから数日後、ロウネは相変わらず引きこもり状態でしたが、気力が回復してきたので夕食に出された鳩の丸焼きをペロリと平らげたそうです。

 

 尚、臨時料理人となって丸焼き料理を作っていたありんすちゃんでしたが、残念ながら臨時料理人をクビになってしまいました。ありんすちゃんがカボチャの丸焼きを作ろうとして畑をすべて焼いてしまったり、焼き魚を作ろうと生け簀を三つも丸焼けにしてしまったからですって。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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030番外編・魔法少女いびるありんすちゃん

 王国のアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のマジックキャスター イビルアイ、そしてイビルアイから奪った仮面をつけたありんすちゃん。

 

 ゲヘナの時に全く見分けがつかなかった事からありんすちゃんはアインズ様の密命で王都に潜り込んでスパイをする事になりました。

 

 名付けて『魔法少女いびるありんすちゃん大作戦』です。

 

 なんでも魔法少女にはペットのお供がつきものだというコキュートスの強い主張でエクレアがお供する事になりました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 まずは準備をしましょう。ありんすちゃんは大切にしまっておいた仮面を取り出します。あのイビルアイが気絶した時に手に入れた仮面です。

 

 ありんすちゃんは仮面をつけるとクルリと回ってみせます。……あら不思議。誰が見てもどこから見てもイビルアイそのものです。

 

 かくてありんすちゃんとエクレアは王都に潜入するのでした。

 

 今回のターゲットは蒼の薔薇のリーダー、ラキュースです。

 

 ありんすちゃんは何が何でもラキュースの弱みを握らないといけません。

 

 まずは何気ない会話から探りを入れます。偽物とバレないように、さり気なく、さり気なく、です。

 

「ラキューチュ、良い天気でちゅね」

 

「……そうね」

 

「こんな日はケーキが食べたいでんちゅね?」

 

「……そうね」

 

 ありんすちゃんは上の空なラキュースに少しムカついてきました。ラキュースはありんすちゃんを赤ちゃん扱いしているのに違いありません。

 

「ガガァランにはおひげがありまちゅね?」

 

「……そうね」

 

 ありんすちゃんは用事を言い訳にしてラキュースにサヨナラを言ってその場を離れてみました。

 

 そして物陰からこっそりと観察していました。

 

 凄いですね。とても5歳児位の女の子とは思えない、名スパイぶりですね。

 

 ありんすちゃんに見張られている事を知らないラキュースは、キョロキョロ周囲を伺っていたと思うと一冊のノートを取り出して熱心に何か書き込み始めました。

 

 時折朱くなったりしながら、機嫌良さそうに鼻歌まじりに一生懸命になにやら書いています。これはきっと、アダマンタイト級冒険者ならではの何か重要な情報に違いないですね。

 

 そう思ったありんすちゃんはいきなり飛び出していってラキュースからノートを奪いました。

 

「ちょっ? なにすんのよ? イビルアイ! や、やめて!」

 

 ありんすちゃんは素早くノートをエクレアにパスします。

 

 エクレアは死に物狂いで逃げます。

 

 ラキュースはまるで鬼のような形相で追ってきます。

 

 しかしエクレアは身体の小ささを生かしてテーブルの下を駆け抜けてなんとか追撃をかわしました。

 

 かくしてありんすちゃんとエクレアは王都の重要機密が載っているであろうラキュースのノートをナザリックに無事、持ち帰りました。

 

 デミウルゴスはノートを広げると喜びました。

 

「……これは実に素晴らしい。この秘密を公開すれば王国は底知れないダメージを受けるだろうね」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 数日後、魔導王国ではガゼフとブレインの道ならぬ恋が描かれたラキュース作の薄い本「薔薇は夕日に輝く」が売り出され、空前のベストセラーになったそうです。

 

 

 

──番外編 おわり──

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

 

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031おまけ『薔薇は夕日に輝く』ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ

※お断り※

 この『薔薇は夕日に輝く』はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ先生が執筆された同人小説であり、厨二病的な妄想に溢れた駄作です。

 ありんすちゃんがスパイ活動の成果としてナザリックに持ち帰ったものではありますが、ありんすちゃんは一切登場しません。

 この作品はあくまでも作者ラキュース先生がリ・エスティーゼの人物をモデルに書いたものであり、実際の人物設定とは異なります。

 文中にある表現はあくまでも武人が互いの武器を称賛し、激しく試合うだけのものであり、なんら性的な意味はありません。

 この作品に対する苦情は直接ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ先生にお願い致します。









※注意※

 

 この作品『薔薇は夕日に輝く』は王国アダマンタイト級冒険者であり、大衆文芸研究家でもある、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ氏の作品です。したがってありんすちゃんは登場しません。しかも直接的な表現はありませんが作者(ラキュース女史)の趣味が反映された内容であり、やや薔薇的な示唆に富むと感じる方もあるようなのでご注意ください。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国、首都リ・エスティーゼ。北側の城壁から市街へと続いた道に仲良さそうに歩く二人の男の姿があった。

 

 折しも昼の鐘が鳴り、行き交う人々の誰もが昼休みに心をとられている中、男の一人、ブレイン・アングラウスは真剣な表情でもう一人の男に迫った。

 

「……頼む。ストロノーフ。お前のレイザーエッジを見せてくれないか?」

 

 対する男──ガゼフ・ストロノーフはまるで少年のような、戸惑いとはにかみを混ぜたかのような複雑な表情を浮かべた。

 

「……ま、まさか……こ、ここでか?……こんな街中でアレを出すのはな。さすがに人目が気になるし、もっと人目が無い所でないと……」

 

「わかった。では人目に付かない場所で。……そうだ。二人っきり……ならば構わないだろ?」

 

 多くの人々が市街へと急ぐ中、二人の男は逆に城壁へと歩いて行った。やがて男達は人目の少ない茂みにやって来た。

 

 二人は互いの実力を認めあったライバル同士の武人で、かつては王宮の主催である御前試合で剣を交えた事もあった。その勝負は実にし烈なもので、最終的には“四光連斬”によって王国戦士長であるガゼフが勝利したのだが、両者の実力差はそう大きくは無い。

 

「……ここなら人目も無い。さあ、見せてくれ。ストロノーフ。お前の全てを」

 

「……うむ……まあ、待て。そんなに焦るなよ。アングラウス……今、見せるからな……うむ」

 

 荒々しい息を吐きながら、ガゼフは剣帯から鞘ごとレイザーエッジを抜き取る。そして目を閉じて何か小さく呟いた後に、カッと目を見開くと一気に刀身を抜き出してみせた。

 

 刀身の煌めきは小さな虹を作り、ブレインは感嘆のため息をついた。

 

「……アングラウス。貴様も出してみろ。前々からお前の刀なる逸品をまじまじと見てみたかったのだ」

 

「……そうか……わかった……だが、頼みがある。刀を出すまで後ろを向いていてくれないか?」

 

 しかし、ガゼフは直ぐに答えなかった。じっと見つめる視線が雄弁に疑念を現していた。堪えきれずにブレインは小さく呟いた。

 

「……見られていると……恥ずかしいんだ」

 

 俯いたブレインの長い睫毛を眺めながら、ガゼフはようやく頷いてみせた。

 

「了解した。いいと言うまで後ろを向いていよう。男同士の約束だ」

 

「……すまない」

 

 ブレインは優しく腰のベルトを外すと、両手を刀に添え、そっと慈しむかのように鞘から抜き身を出した。

 

 ふと、その様子をじっと見つめているガゼフに気がついた。ブレインは頬を染めながら恥ずかしそうに呟いた。

 

「……向こうを向いているって言ったのに……嘘つき……」

 

「いや、すまない。アングラウス、怒らないでくれ。かわりに俺のレイザーエッジを触らせてやる」

 

 ブレインは興奮に震える手でレイザーエッジの柄を握った。心なしかレイザーエッジも微かに震えているようだった。

 

「……凄いな……こんなに反っている……光沢も見事だ。これがまさしく王国の至宝か……」

 

 ブレインは吸い付かんばかりにして手にしたレイザーエッジを眺めた。柄側から、刃先側から、両面……ありとあらゆる角度から観察した。時折、吐く息が刀身に曇りを一瞬だけ作り、消えた。

 

「そういうアングラウスのもなかなかの逸品じゃないか。この鋭い切っ先は何でも突き抜けそうだ」

 

「……ふ……こうして息を吹きかけるとまるで呼吸をしているかのようだ。たまらないな……ストロノーフ、こいつで俺を突いてくれ」

 

 ガゼフはブレインの瞳を見つめた。ブレインの瞳にはガゼフが映っていた。もはや二人には言葉など無用だった。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「──むう。やるようになったな?アングラウス。さすがは俺が見込んだ漢」

 

「まだだ。まだ終わらんよ?“領域ぃっ”!!……ふっ。感じるぞ。お前をビンビン感じるぞぉ!ストロノーフ!お前も来い!」

 

「……ふ。……なに、甘いぞ!“不落要塞”!そんな程度じゃイケないな。こちらからもいくぞ!“四光連斬”!」

 

「……こいつはスゴいな。イキそうだ……しかし……まだだ。まだ足りん!」

 

 互いの攻撃はそれぞれの着衣を引き裂いていく。凄絶な命懸けの仕合いの爪痕が互いの皮膚に刻み込まれていく。

 

 が、しかし、まだまだ戦いは終わりそうにない。

 

 いつしか互いの着衣は全て引き裂け、隆々たる筋肉の陰影をくっきりと、惜しげもなく晒していた。ただただ、互いの息づかいと剣と剣が撃ち鳴らす音だけが静かに続く。

 

 それはあたかも永遠に続く、神々へ捧げる音楽であるかのようでさえあった。

 

 二人の男はワルツを踊るかの様に剣戟を競い合い、やがて、ひとつの影となった。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 いつしか芳醇な時間は過ぎ去り、リ・エスティーゼの街並みは夕日に染まっていた。

 

 あたりは静寂が支配し、いつの間にか二人の凄絶な戦いは終わっているのだった。

 

 沈みゆく大きな夕日が二人の一糸もまとわぬ産まれたままの姿を黄金に輝かした。男達は互いにじっと見つめ合い、そして──

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……ブレイン。ブレインだ。俺の事はブレインと呼んでくれ」

 

「……わかった。ブレイン。……俺の事は今日からガゼフだ」

 

 黄金に染まる二人の男は熱く掌を握り締め、きつい抱擁を交わすのだった。

 

 

 

 

〈第一部おわり〉

 

 

 

 

 

※おくづけ※

 

 次回作はなんと蜥蜴人の兄弟の禁じられた愛情劇『しゃーすりゅ☆ざりゅ』?

 

 

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032ありんすちゃんメモをとる

 アインズ様のお供をしてドワーフの国に行く事になったありんすちゃんは張り切っていました。

 

「がんばりまんちゅ」

 

「シャルティア、張り切るのは良いんだけどさ、アインズ様はシャルティアが様々な体験をして新しい面を見つけて欲しいんじゃないかな?」

 

 一緒に行く事になったアウラがありんすちゃんの気持ちに水を差します。

 

「せっかくナザリックで最も優れたアインズ様とご一緒出来るんだよ? 勉強するチャンスじゃん」

 

「勉強したら良いでんちゅね」

 

 ありんすちゃんはアインズ様の言葉をメモする事にしました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

よかろう となりにわがまま そいつたて 高い。いっぱく。ここで止まる。ふりょうマーレが作る。ならば グリーンしくれとトム てざま 見ていろ。くり ほーとれす。私のみ あけらら アウラ 触れ。ほんじつは しゅくはく きゅうけい 立ってる おちつか かくへや たいきせよ。上野 2回 3回 そちら あうシャルぜべる のこる。ソファー。まずルート。でわ ゼンベル いやな匂い。悪役 はっきり ぼんやりだね。大丈夫 べてらん ヘンなおさ もんだい おなら。じっさいメイド おこってない。そのとり ぼんやり 悪い もしもし もっとちがう こんでんてき 記憶おしら さす。まあ きおく。そのしんぱ だいじょうぶ ゼンベル きおくを ちかん王。ふむ らくに いろいろ どんなこた。どうだ なんでもない。わたしわ ヘンなかんじ おさる おまる。さて よていどり ゼンベル カモシカ。かいさん ゆっくり ゼンベル ひつようない そなえよ。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 アウラが部屋にはいるとありんすちゃんはなにやら一生懸命書いていました。

 

 アウラが来た事に全く気がつかない位集中しています。

 

「シャルティア、何してるの?」

 

「アインジュちゃまのお言葉をメモちているんでありんちゅよ」

 

「へー感心じゃん。どれどれ?」

 

 アウラはありんすちゃんにメモを見せてもらいましたが、何が書かれているのかよくわかりません。

 

 仕方ないですよね。

 

 だってありんすちゃんはまだまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

 一生懸命アインズの言葉を書き込んでいるのですが、聞き漏らしたり聞き間違えもします。書いている内に話が変わってよくわからなくなる事もありますよね。

 

「えっと、あのさ。メモを取るのはすごく良いことだとは思うけど、これじゃわからなくない?」

 

 アウラはありんすちゃんにイジワルな事を言ってきました。

 

 と、ありんすちゃんのメモ帳から一枚のメモがアウラの足元に落ちてきました。

 

 アウラはそれを拾い上げましたが、明らかに動揺しています。

 

 メモには──マーレ アウラのおねしょ しーつ せんたく──と書いてありました。

 

「……えへへへへ……じゃあね。シャルティア。あたしは自分の部屋に戻るから」

 

 急にアウラは部屋を出ていきました。

 

 ヘンなアウラ。

 

 今回もやっぱりありんすちゃんがしっかりしないとダメみたいですね。

 

 ありんすちゃん、頑張って。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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033ありんすちゃんもぐらたたきをする

 アインズからの命令でクアゴアたちの捕獲に向かうありんすちゃんとアウラはかつてドワーフの王都であった都市にやってきました。そろそろお昼寝の時間だった為、ありんすちゃんは少し眠かったのでしたが我慢します。

 

「クアゴアとはどんな姿なんでありんちゅかね?」

 

「……うーん? 穴掘って生活しているし、モグラみたいなんじゃないかな?」

 

 ありんすちゃんは笑顔で片手のスポイトランスをブンブン振りました。

 

「これでモグラたたきしゅるでありんちゅ」

 

「それじゃ、始めよっか」

 

 アウラは背中に背負っていた大きな巻物を下ろして広げました。するとその能力が起動して、辺りは閉鎖空間に覆われました。ワールドアイテム山河社稷図──特定の一つ以外の脱出方法が無い閉鎖空間に相手を引き込む能力──が今まさに発動したのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 総数六万を超えるクアゴアたちの軍勢を率いる氏族王ぺ・リュロは一抹の不安を感じていました。突然王都を含んだこの巨大な洞窟内がぼやけた霧で覆われたからです。やがて彼らの目の前に赤い鎧の小さな女の子と黒い肌の少女が現れました。

 

「……私はこの地のクアゴアたちを統べる氏族王ぺ・リュロである。お前たちは何者か?」

 

 リュロは二人の前に進み出ました。

 

「ちゃるちぇでありんちゅ」

 

 と、いきなりありんすちゃんがスポイトランスを振り上げてリュロめがけて突進しようとしたので、アウラは慌てました。

 

「ちょ、シャルティア! 待ちなさいってば。アインズ様のお言葉忘れた?」

 

 アウラに制止されたありんすちゃんはしばらくキョトンとしていましたが、ポケットからメモを取り出して確認し始めました。

 

「……危険 デスナイト 全力出すな チェック 一個か二個 しこを回転……」

 

 ありんすちゃんは大きな声でアインズ様の言葉を記録したメモを読み上げました。後ろでアウラは呆れて天を仰いでいます。

 

「回転させたら良いでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは器用にスポイトランスでリュロを突き上げました。リュロはクルクル回りながら部下達のもとに戻ってきました。

 

「あいつら何を考えている? ……親衛隊を、ブルー・クアゴアとレッド・クアゴアたちを集めろ」

 

 リュロは力強く立ち上がり吠えるのでした。

 

「これからが本当の決戦だ」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 戦闘ではありんすちゃんが張り切っていました。スポイトランスでクアゴアたちをなぎ払い、まるでモグラたたきゲームを楽しんでいるみたいです。見た目は5歳児位の女の子に過ぎないのですがさすがはナザリックでも最強クラスの階層守護者ですね。あっという間に六万いたクアゴアたちは一万になってしまいました。

 

「………おねむ……ムニャムニャ……」

 

 突然、ありんすちゃんがゴロンと寝転がってしまいました。どうやらお昼寝タイムみたいですね。

 

「……ま、いっか……アインズ様からは一万位に減らせって命令受けていたから丁度良いかも。……えっと、じゃあ降参してくれるよね?」

 

 アウラは泣きながら平伏するリュロに尋ねました。リュロの答えは決まっていました。

 

「よ、喜んで……こ、降参致します。いや、是非とも降参させて下さいっ!」

 

 ありんすちゃんはグッスリ眠っています。時折ムニャムニャ口を動かしている所を見ると、大好きなお菓子でも食べている夢を見ているのかもしれません。

 

 今回もありんすちゃんが大活躍しました。きっとアインズ様も大喜びでしょう。良かったですね、ありんすちゃん。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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034ありんすちゃんほしがる

「ちょういえば凄かったでありんちゅね」

 

 ナザリック地下大墳墓 第六階層の木陰に用意されたダイニングで紅茶を楽しみながらありんすちゃんはアウラの腰に下げられた大きなスクロールを羨望の眼差しでみました。──山河社稷図──そこに存在する全てのものを閉じ込めてしまう世界級アイテムの一つ──その能力はついこの間のクアゴア達に使って体験したばかりです。

 

「アインズ様からあたしがお預かりしたんだよ。凄いよねーさすがは世界級アイテムだよね」

 

「ぼ、僕の『強欲無欲』も、す、凄いんだから……」

 

 マーレも負けじと天使と悪魔をモチーフにしたかのようなガントレットを見せます。そんなアウラとマーレを眺めながらありんすちゃんはため息をつきました。

 

「わらわも欲ちいでありんちゅね……」

 

 ありんすちゃん──シャルティアが精神支配を受けた件により、ワールドアイテム対策として各階層守護者はアインズより世界級アイテムを持たされていたのでした。

 

「マーレ、片方ありんちゅちゃに寄越すでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはマーレのガントレットに手を伸ばしました。もちろんありんすちゃんに相応しい天使のような『無欲』の方です。

 

「だ、駄目だよ。シャルティアさん。……そうだ。あの、シャルティアさんもアインズ様にお願いしてみては?」

 

 ありんすちゃんは目を輝かせました。

 

「うーん……でもさぁ、シャルティアさあ、大丈夫? ……この前スポイトランスを忘れそうだったじゃん?」

 

 アウラがジト目で水を刺しました。ありんすちゃんは一瞬なんの事かわからず、目をパチクリさせました。

 

「……もう忘れた? この前スポイトランスをこの中に置いて出てこようとしたじゃん? ……あたしが気づかなかったら忘れていたよ?」

 

 ありんすちゃんは思い出しました。クアゴア達を凪ぎはらった後、汚れが少し付いちゃったので後できれいにしようと、ほんのちょっとだけ置いておいただけです。決してアウラが言うように忘れていたわけではありません。ちょっとだけ、置いておいただけです。

 

「アウアウはうるちゃいでありんちゅね。わたちはぜーんぜん、忘れていなかったでありんちゅ」

 

「……ふーん。まあ、いいけど」

 

 アウラはつまらなさそうに横を向くとティーカップをつまみました。

 

「あ、あの……シャルティアさんはどんな能力の世界級アイテムが良いかな?」

 

 空気を変えようとマーレが口を挟みました。ありんすちゃんはニコニコしながら答えます。

 

「わたちの可愛さが引き立ちゅアイテムが良いでありんちゅ。可愛いステッキとか服でも良いでありんちゅね。可愛いくないのは嫌でありんちゅ」

 

「うーん……しゃ、シャルティアさん。それはちょっと……」

 

 さすがにマーレも呆れてしまったみたいですね。仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 それからしばらくしてアインズが執務室でアルベドとの協議をする為に集められた投書を清書していると……『おいしい ワールドアイテムくだちゃい』『かわいいワールドアイテムがわらわにあいます』『ワールドアイテムたくさん くだちゃい』という投書が出てきたそうです。一体誰が出したのでしょうね?

 

「……アインズ様、いかがされましたか?」

 

「……いや……このシャルティアからの投書なのだが……」

 

 アインズはとても不安げな様子をアルベドにみせていました。

 

「シャルティアにはオーレオールからワールドアイテムを渡しておいた筈なのだがな……」

 

 まさかありんすちゃん、ワールドアイテムを忘れて……いやいや、そんな事はないですよね?

 

 もし、忘れて何処かに置きっぱなしだとしても、仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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035ありんすちゃんとエロフおう

 ありんすちゃんがいつものようにナザリックの見回りをしていると、何だか肌寒くなってきました。

 

 もしかしたらコキュートスが近くにいるのかもしれないと思いましたが、いませんでした。

 

 もしかしたら『冬』が近づいてきているのかも知れません。もしも二○一五年の冬のように長かったら嫌ですね。

 

 ありんすちゃんはひさしぶりにくしゃみをしました。するとありんすちゃんはまたまたどこかに転移しちゃいました。

 

 ありんすちゃんは何やら初めて見る都市の高い建物のテラスにいました。

 

 見るとエルフの男がグラスを片手に等身大の鏡の前に立っています。男は上半身裸で鏡の前で様々なポーズを取ってウットリとしています。

 

「……この国が落ちたら、私が法国に行って奪い返すか。……女であればものにしてやろう。……楽しみだな」

 

 何だかエロい人みたいです。

 

 ありんすちゃんはエロいエルフの王だからエロフ王だと思いました。

 

 やがてエロフ王はありんすちゃんに気がつきました。

 

 瞳がアウラ、いや、マーレに似ています。

 

 もしかしたらマーレも大人になったらエロフ王みたいになるのかもしれません。ありんすちゃんはガッカリです。

 

「……力を感じる……強者か。……が、しかし……」

 

 エロフ王はありんすちゃんをまじまじと見ています。もしかしたらありんすちゃんの可愛らしさに驚いているのかもしれませんよ。

 

 仕方ないですよね。

 

 だってありんすちゃんは5歳児位の女の子にすぎないといっても、将来のお嫁さんにしたいランキングのトップだって言っていましたから。ルプーが。

 

 気を取り直したエルフ王はありんすちゃんに話しかけました。

 

「お前は一体何者か……?」

 

「ちゃるちぇ、ありんちゅよ」

 

 ありんすちゃんは胸を張って答えます。ありんすちゃんの中では「シャルティアでありんす」とちゃんと言えているみたいですが……

 

「ふむ。名前など良い。見たところ人間種みたいだが……だがまだ子供か……残念だな」

 

 エルフ王、いや、もうエロフ王で統一しましょう。この人物、エロい事しか頭に無いようですから。

 

「……その……ありんちゅとやら……お前には母親がいるかな?」

 

「……母親でありんちゅか? うーん……うーん……」

 

 ありんすちゃんの生みの親は至高の方の一人ペロロンチーノです。つまりありんすちゃんの母親はペロロンチーノといってもよいですよね?

 

「ぺろろんちいのちゃまでんちゅね」

 

「そうか、そうか。ペロロンチーノか。さぞかし美人だろうね。楽しみだ」

 

 何だか一人でもりあがっています。

 

 ありんすちゃんはエロフ王の相手をするのに飽きてきちゃいました。

 

 ありんすちゃんは大きなあくびをしました。

 

 すると周りの景色がぼやけ……ありんすちゃんはナザリックに戻っていました。

 

 エロフ王はその夜、ペロロンチーノという美女の妄想に悶々としたそうです。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ナザリックに戻ってしばらくして、ありんすちゃんはアウラに会いに第六階層に行きました。

 

 あのエロフ王の事の後、そういえばエルフが第六階層にいた事を思い出したから見にいこうと思ったのでした。

 

 ありんすちゃんがアウラとマーレが住んでいる建物に近づいてみると何やら中からキャッキャウフフ聞こえてきました。

 

 窓から覗いてみるとマーレが三人のエルフに裸にされている所でした。

 

 ああ、ガッカリです。

 

 だって、マーレにはあんな大人になって欲しくありませんでしたから。

 

 ありんすちゃんはプンスカしながら帰りました。



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036ありんすちゃんおにになる

 今日はプレアデスのみんなとかくれんぼです。まずはありんすちゃんが鬼になって見つけるんですって。

 

 ありんすちゃんはとっても張り切っています。さて、ゆっくり百数えたありんすちゃんが探しに行きます。

 

 おや、椅子の影に黒いポニーテールが見えていますよ。

 

 あれあれ? ありんすちゃんは素通りしちゃいます。

 

 気付かないみたいですね。

 

 ありんすちゃん、後ろ。後ろですよ?

 

 ありんすちゃんは口に指を当ててシーと合図しています。

 

 なるほど。次にポンコツ過ぎる人が鬼になるといつまでも見つけて貰えなくなるから、敢えて見つけないんですね。

 

 ありんすちゃんの賢さはとても5歳時位の女の子には見えませんね。

 

 次にありんすちゃんは骨を取り出しました。

 

 骨を高く投げると「アウーン!」誰かが噛みつきました。

 

 ルプスレギナでした。

 

 ルプスレギナを見つけたありんすちゃんは今度はお風呂場に来ました。

 

 なんと大きな水溜まりがあります。

 

 ありんすちゃんは構わず水溜まりに足を踏み込みました。

 

 あらあら大変です。ありんすちゃんは水溜まりに飲み込まれてしまいました。

 

 ありんすちゃんは大丈夫でしょうか?

 

「チョリュチュン、見つけたでんちゅよ」

 

 なんと水溜まりはソリュシャンだったのでした。

 

 ありんすちゃんはもしかしたらかくれんぼの天才かもしれません。

 

 次にありんすちゃんが目を付けたのはメイド達の衣装部屋です。

 

 いくつかのトルソに特別仕立てのメイド服が着せてあります。

 

 おや? 二つばかり他と違いますね?

 

 ありんすちゃんはトルソの中に紛れていたシズを見つけました。

 

 もう一人は……頭がないのでわからないですね。

 

 一体誰なんでしょう?

 

 頭を見つけないと見つけた事になりません。

 

 ありんすちゃんは落ち着いたものです。

 

 台所に行って冷蔵庫を開けます。

 

 すると中からゴロンとスイカが転がり落ちました。よく見るとなんとなんとユリの頭でした。

 

 ありんすちゃんはシズに続いてユリも見つけちゃいました。

 

 今度はありんすちゃん、あちこちの箱を開けています。

 

 いくらなんでもそんな小さな箱に入れないと思いますが……

 

 でも、ありんすちゃんは自信満々です。

 

 あれあれ? いくつかの箱から虫みたいなのが出て来ました。

 

 いつの間にか虫みたいなのは随分沢山になっていますよ?

 

 それは集まって、合体して、おやおや? エントマだったんですね。

 

 こうしてありんすちゃんはエントマも見つけてしまいました。

 

 楽しくかくれんぼをしたありんすちゃんとプレアデスのみんなは仲良くおやつにしました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 その夜、ナザリック地下大墳墓に戻ったアインズはギョッとして立ち止まりました。

 

 椅子の影に何者かが潜んでいるみたいですが……

 

「──ナーベラル? ここで何を?」

 

「……アインズ様……あの……かくれんぼを……」

 

 ナーベラルってもしかしたらかくれんぼの達人だったのかも知れませんね。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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037ありんすちゃんときょうふのかくれんぼ

 今日もプレアデスのみんなと一緒にかくれんぼをします。

 

 おや? プレアデスが一人足りませんね。

 

 ナーベラルがいませんが、きっとアダマンタイト級冒険者“漆黒”の美姫ナーベとしてモモンと一緒に出掛けているのでしょう。

 

 今回の鬼はルプスレギナです。

 

 ありんすちゃんは隠れる番ですね。

 

 ありんすちゃんはどこに隠れるのでしょう?

 

 ありんすちゃんは至高の方々の部屋が並ぶ廊下に真っ直ぐやってきました。

 

 ……なるほど。

 

 ここなら乱暴に探す事は出来ませんから、時間稼ぎも出来そうですね。

 

 ありんすちゃんは沢山並んだ至高の方々の部屋の一つを開けて入っていきます。まるで最初からここに隠れると決めていたみたいですね。

 

 大きなベッドがある寝室の奥の……あれあれ? ……奥のクローゼットの部屋に入っていっちゃいましたよ。

 

 大丈夫でしょうか?

 

 部屋の外では鬼のルプスレギナが探しています。

 

 彼女はつい先程食堂で一般メイド達から情報を集めていたみたいですよ。

 

 ルプスレギナって実は賢いのかも知れませんね。

 

 一方、ありんすちゃんは……どうやら小部屋の中で眠っちゃっているみたいです。

 

 仕方ないですよね。

 

 だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。ぼちぼちお昼寝したくなっちゃったんですね。

 

 ルプスレギナは部屋の外を探して……おや? 変ですね。

 

 ありんすちゃんが入った部屋のドアを開けないで立ち去っていきましたよ。

 

 ありんすちゃんはラッキーですね。

 

 ありんすちゃんは誰かの部屋のベッドの奥のクローゼット部屋でスヤスヤ眠っています。

 

 沢山のアインズ様に囲まれて…

 

 ──ちょっと待った!

 

 ……そこはもしかしたら某守護者統括の某アルベドさんのアインズグッズが沢山ある通称『ハーレム部屋』じゃないですか?

 

 確か一般メイドの立ち入りも厳禁にしていたはず。だからルプスレギナも中を見ようとしなかったのですね。

 

 一難去ってまた一難、いやいや、今度はありんすちゃんの生命そのものがピンチです。

 

 なんという事でしょう。

 

 よりにもよってアルベドが戻って来てしまいました。

 

 いつもならアインズの部屋のベッドで裸でゴロゴロしているのに、今日は自分の部屋に戻るみたいです。

 

 アルベドは部屋に入り、ベッドに腰掛けます。

 

 大変です! ……ありんすちゃんとは目と鼻の先です。このままアルベドがハーレム部屋の扉を開けてしまえば、スヤスヤ眠っているありんすちゃんが見つかってしまいます。もし、ありんすちゃんがアルベドのハーレム部屋で寝ている所を見つけられたらどうなる事か?

 

 もしかしたら今まで続いてきた『ふしぎのくにのありんすちゃん』は今回で最終回になってしまうかも知れません。

 

 これまでご愛顧頂きました皆様、ありがとうございました。

 

 今の内にお礼申し上げます。

 

 アルベドはハーレム部屋の扉のノブに手をかけました。

 

 そうだ! ありんすちゃん、くしゃみです。

 

 くしゃみでテレポートすれば見つかりません。

 

 アルベドはハーレム部屋の中を見回しました。

 

 ──そしてそこに沢山のアインズのぬいぐるみに囲まれてスヤスヤ眠るありんすちゃんの姿を見つけました。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 アインズはふと胸騒ぎがして部屋の外を出ました。

 

 廊下を通り広間にやって来てふと、暗がりに潜む人影気がつきました。

 

「ナーベラル……もしかしてまだかくれんぼか?」

 

 椅子の後ろに隠れているナーベラルは弱々しく頷きました。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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038ありんすちゃんはんぶんこおる

 ありんすちゃんは寒さで目を覚ましました。

 

 まるで冷蔵庫の中みたいに冷たくて、ありんすちゃんは半分凍ってしまっていました。

 

 ありんすちゃんは冷たい冷蔵庫の中で見知らぬ人に抱っこされていたのでした。

 

 一体何が起きたのでしょう?

 

 ありんすちゃんは抱き上げている女の人を見上げて、その顔を見て……なんという事でしょう? 顔の皮膚がありません!

 

 あまりのショックでありんすちゃんは気を失ってぐったりしてしまいました。

 

 ありんすちゃんの反応に女の人もオタオタしちゃっています。

 

 さてさて、ありんすちゃんが寝ている間に何が起きたのでしょう?

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ──時間を遡る事数時間前、アルベドがありんすちゃんをハーレム部屋で見つけた所まで遡ります。

 

 ありんすちゃんはかくれんぼをしていて、アルベドの部屋の秘密の『ハーレム部屋』に隠れているうちにすっかり眠ってしまいました。

 

 そこに部屋の主のアルベドが帰って来てしまったのだから大変です。

 

 なにしろアルベドは自分の部屋の中ですら一般メイドに立ち入りさせないのですから。

 

 アルベドはハーレム部屋でスヤスヤ眠っているありんすちゃんをじっと見下ろしています。

 

 その表情は怒りのあまりに無表情な能面みたいです。

 

 やがてありんすちゃんをむんずと掴むとアルベドは荒々しく部屋の外に出ました。

 

 アルベドはありんすちゃんをどうするつもりでしょう?

 

 もしかして恐怖公の領域に? それとも餓食狐蟲王の巣に放り込まれてしまうのでしょうか?

 

 ありんすちゃんはそんな事態になっているのも知らないでぐっすり眠っています。

 

 せめて、今起きて『ごめんなさい』をすれば命だけは助けてもらえると思いますが……

 

 アルベドは能面のような無表情のまま、第五階層にやって来ました。

 

 氷結牢獄に来ると扉の鍵を開けて叫びました。

 

「……姉さん! 私よ。あなたの子供を連れてきたわ!」

 

「子供、子供! わたしの子供ぉ!」

 

 部屋の奥から凄まじい勢いでニグレドが走ってきて、アルベドの手からありんすちゃんを奪い取りました。

 

 ありんすちゃんはまだ起きません。

 

 仕方ないですよね。

 

 ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

 こうしてありんすちゃんはニグレドの腕に抱かれた状態で目覚める事になりました。

 

 ──半分凍ってしまっていましたが。

 

 ニグレドはいつもの人形だと思ったらありんすちゃんだったのでビックリ。

 

 お詫びにありんすちゃんの探し物を手伝ってくれるそうですよ。

 

 ありんすちゃんはラッキーですね。

 

 さて、何を探して貰いましょうか?

 

 かくれんぼで隠れているプレアデス?

 

 いえいえ、ありんすちゃんにはどうしても見つけたい、諦めきれない大切なものが一つありました。

 

 それは白いレースの飾りが可愛いお気に入りのパンツです。

 

 ニグレドはありんすちゃんのパンツの行方を水晶に映し出しました。

 

 そこには初めて見る国の王宮の中が映っていました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 竜王国の女王、ドラウディロンは納まらない怒りに震えていました。

 

(あのロリコンめ! ロリコンの変態騎士め! よくもよくもよくもよくもよくも……)

 

「どうか陛下、お気をお鎮め下さい。上に立つものがさような怒りに身を任せていては……」

 

「……わかっておる!」

 

 ドラウディロンは深々と深呼吸をして心を静めようとしました。

 

 ──思い出しても腹立たしい。

 

 彼──セラブレイトは公衆の面前で、よりにもよってパンツで女王たるドラウディロンの顔を拭ったのである。

 

「しかし、陛下、いきなりかの者を降格の上謹慎など……冒険者組合も黙っていませんぞ」

 

「うるさい。うるさい。うるさい! そんな事はわかっておる! 追放しないだけマシと思え!」

 

「しかしながら……かの者は陛下より賜ったハンカチと思ってとの事でして……」

 

「赤じゃ!」

 

「は?」

 

「このドラウディロンは赤しか穿かぬわ!」

 

「……なんと!!……」

 

かくして竜王国の命数は一気に縮まってしまうのでした。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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039ありんすちゃんみつごになる

 氷結牢獄からなんとかでられたありんすちゃんですが、寒くて寒くてたまりません。

 

 どこか暑い所はないでしょうか?

 

 さすがはありんすちゃん。

 

 どうやら心当たりがあるみたいですね。

 

 ありんすちゃんは第七階層にやって来ました。

 

 なるほど。

 

 溶岩の世界の第七階層なら暑いどころか熱い位ですね。

 

「おじゃまするでちゅよ」

 

 ありんすちゃんは礼儀正しく挨拶します。

 

 おや? 溶岩の川から領域守護者の紅蓮が姿を現しましたよ。

 

 紅蓮はうちわでありんすちゃんを扇いでくれています。

 

 ありんすちゃんはホカホカの焼き芋みたいにアツアツになってきました。

 

 いつのまにかこんがりとキツネ色になっていますよ。

 

 なんだかとても美味しそうですね。

 

 こんどはうつ伏せに寝て、まんべんなくキツネ色に焼きます。

 

 こうしてあっという間に日焼けありんすちゃんの完成です。

 

 せっかくこんがりキツネ色になったのですから、誰かに自慢したいですよね?

 

 ありんすちゃんは礼儀正しく紅蓮にお礼を言ってから第七階層を後にしました。

 

 こんがりキツネ色に日焼けしたありんすちゃんは第六階層にやって来ました。誰かがやって来た事を感知してマーレがありんすちゃんを迎えにきました。

 

「あれぇ? なんだか黒くなっていますよねぇ?」

 

 ありんすちゃんは得意そうに胸を張ります。

 

「アウアウとマーレよりも黒いでちゅ。」

 

「ボ、ボクの方が、く、黒いに決まっています!」

 

 マーレが否定します。

 

「マーレ、どうしたの? なんかさあ、あたしだけのけものみたいなんだけど?」

 

 そこにアウラもやって来ました。

 

「お姉ちゃん、ボクの方が黒いよね?」

 

 ありんすちゃんとマーレ、二人とも同じ位に色黒に見えます。

 

「……うーん?」

 

 大きな鏡の前にアウラも並んで立ってみます。

 

 こうして三人が並ぶと、みんな同じ位色黒で、まるでダークエルフの三つ子みたいでした。

 

「……そうだ! 面白い事をひらめいた!」

 

 なにやらアウラが思いついたみたいですね。

 

 自分の部屋のタンスをひっくり返していたアウラはマーレとありんすちゃんにアウラが普段着ている服と同じものを渡しました。

 

 早速着替えて並んでみると、あらビックリ! アウラが三人並んでいるように見えます。

 

 ダークエルフの三つ子の完成です。この姿でいきなり登場したらみんなビックリしそうですね。

 

 三人は仲良く手を繋いでナザリックのあちこちへ出かけていきました。

 

 一般メイドのみんなに後ろ向きになった三人からありんすちゃんを当てるゲームをしたら、正解率は50%でした。

 

 みんな観察力がありませんよね。

 

 よく見ればありんすちゃんだけ耳が尖っていないので簡単に見分けられるんですよ。

 

 ありんすちゃんは思いました。

 

 そうだ、王都で会った変な仮面の子も日焼けさせたら四つ子になれるかもしれません。

 

 同じ様な仲間を増やしていくのも面白そうですね。

 

 もっともありんすちゃんは飽きっぽいから明日にはもう別の事に夢中かもしれませんが。

 

 仕方ありませんよ。

 

 だってありんすちゃんはなんといっても5歳児位の女の子なんですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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040ありんすちゃんありんすちゃんになる

 今日のありんすちゃんはいつもと少し違います。

 

 何やら思い悩んでいるみたいです。

 

 季節の変わり目で感情が不安定なのでしょうか?

 

 それとも食欲の秋が関係するのでしょうか?

 

 もしかしたらおやつにプリンを食べるかシュークリームを食べるか悩んでいるのかもしれませんね。

 

 え? 違うんですって?

 

 まさか、秋は恋の季節……でもでもありんすちゃんにはちょっと早いですよね?

 

 

 だってだって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

 恋……ではない?

 

 なんだかジェスチャーゲームみたいになってきましたね。

 

 おや? ルプスレギナが来ましたよ。

 

「チャルメラ……じゃなくてペタン血鬼航空さん、おはよっす」

 

 あれあれ? ありんすちゃんが怒っている?

 

「……イタタタ……痛いっすよ。なんすか? 一体? 男胸の残念美少女さん?」

 

 ありんすちゃんは両手をぐるぐる回してルプスレギナを叩きまくっています。

 

 なるほど。わかりました。

 

 ありんすちゃんはルプスレギナが付けたあだ名が気にいらないんですね。きっと。

 

「うーん……でもペタン血鬼航空ってフロストドラゴンの空輸会社っぽくて格好いいっすよ。略してPV‐AIR。格好いいっす」

 

 言われてみたらなかなかありんすちゃんもだんだん格好良く思えてきたみたいですね。

 

 さて……悩み事って何でしょう?

 

 なんと……ありんすちゃんは自分の名前を上手く言えないのを悩んでいたんですか?

 

 では、ありんすちゃん、『シャルティア・ブラッドフォールン』と言ってみましょう。

 

「チャルチェア、ウラドホールル」

 

 あらあら……ルプスレギナが爆笑して……酷いですね。

 

「ぎゃははは……これじゃチャルメラに聞こえるわけっすよ。良くできまちゅたねぇっす」

 

 ありんすちゃんは真っ赤っかに怒っています。いくらなんでもこれはルプスレギナが悪いですよね。

 

「……シャルティア・ブラッドフォールン、良いこと? 自分の名前を上手く言えないなんて大したことではないの。名前とはそもそも他者が呼びかける為のもの」

 

 ルプスレギナは普段と違う真面目な顔で続けます。

 

「貴女は復活してから以前のシャルティアではなくなったのだから、無理にシャルティアであり続ける必要は無いの。どうせなら、そうね。ありんすちゃん、これが今の貴女にピッタリじゃないかしら?」

 

 ありんすちゃんはありんすちゃんになりました。なんだかうれしそうです。

 

 良かったですね。ありんすちゃん。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 アインズはアルベドを前にして少し緊張した面もちでメモを取り上げました。

 

「……ゴホン。うーん……『ナザリックのオリジナルキャラクター、“ナザぽん”を作ってキャラクターグッズ販売で外貨を稼ぎましょう。』か……うむ……これは是非検討……」

 

「問題外です。誰がこんな愚策を……見つけ出して処罰すべきです」

 

「あ……次に行こう。『ありんすちゃんはありんすちゃんとよんでください』……うむ? これはシャルティアか?」

 

「アインズ様、どうぞよしなに」

 

「……そうだな。それならこれからはシャルティアを“ありんすちゃん”と呼ぶ事にしよう」

 

 かくてありんすちゃんをありんすちゃんと呼ぶ事はアインズのお墨付きとなるのでした。

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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041特別編・名探偵ありんすちゃん ~消えた三吉君の行方~(プレイアデスな日 より)

 ありんすちゃんはアインズ様の執務室にやって来ました。

 

 ありんすちゃんがありんすちゃんになって初めてご挨拶をするので、少しばかり緊張しているみたいですね。

 

 わずかに頬が紅潮してみえますよ。

 

 トントン、トン。扉をノックすると中から一般メイドのデクリメントが顔を出します。

 

「アインジュちゃまにお会いしにきたでありんちゅ」

 

 デクリメントも何やら緊張した面持ちでアインズ様にお伺いします、と答えて扉を閉めました。

 

 扉の前でありんすちゃんは更に緊張してきました。

 

「……どうぞ。アインズ様のご許可がありましたので、お入り下さい」

 

 

 フンスと鼻から息を出して思いきり胸を張ったありんすちゃんが部屋に入ります。と、部屋の入り口にいたユリとぶつかりました。部屋を見回すとアインズの他にユリ、ソリュシャンがいました。

 

 デクリメントは少し怯えた様子で、部屋の中はなにやら不穏な感じです。

 

 ありんすちゃんはお構いなしでアインズ様の前に進み、口上を述べます。

 

「このたびはありんちゅちゃがありんちゅちゃになりまちたのであいさちゅでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはありんすちゃんになったお礼の挨拶をします。

 

 微妙な空気の中を察して本当なら気を使うべきなのかも知れませんが、何しろありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子ですから仕方ありませんよね。

 

 シーンと静まり返った中、アインズが破顔しました。

 

「……そうか。ありんすちゃんだったな。……うむ」

 

 ありんすちゃんは続いて口を開きます。

 

「アインジュちゃま、何かありまちたんでありんちゃか?」

 

 ありんすちゃんの無垢な瞳がアインズをじっと見つめます。無碍に出来ないアインズはついついありんすちゃんに話してしまいました。

 

「……うむ。実は、私の三吉君がいなくなってしまってな。どうやらソリュシャンが行方を知っているようなのだが」

 

「アインズ様! 私がすぐにも聞き出します!」

 

 ユリが両腕にガントレットを装備して構えるのを、アインズが慌てて止めます。

 

 どうやらここは名探偵の出番です。なんという偶然か、ここには名探偵ありんすちゃんがいるではないですか?

 

 ありんすちゃんはソリュシャンに近づき顔をじっと見つめます。

 

「……チョリュチャはさんちちくん、ちらないでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんは無垢な瞳でじっと見つめます。

 

「……じつは……」

 

 純真無垢な瞳で見つめられてソリュシャンも流石に嘘はつけません。

 

 彼女はポツリポツリと話し出しました。

 

 ──ソリュシャンの話をまとめると、風呂場から三吉君を連れ出したのはソリュシャンでした。

 

 三吉君がいなくなれば、アインズ様の身体を洗う役目につけるのでは、としばらく三吉君を隠しておこうと体の中にしまっていたそうです。その後、うたた寝して目が覚めたら三吉君がいなくなってしまって行方がわからない、というのです。

 

「……もしかして食べちゃった? マジ?」

 

 アインズは思わず呟きます。

 

 ソリュシャンはスライム形態の体内に取り込んで消化してしまうので、スライムの三吉君も消化されてしまったのでしょうか?

 

「……なんて事を……ソリュシャン、覚悟しなさい。これから貴方の中から取り出します!」

 

 ユリがまたしてもガントレットを構えます。

 

「まて! 待つんだユリよ。早まるな」

 

 ありんすちゃんはアインズ様の前に進んで申し上げます。

 

「ここはありんちゅちゃにお任せくだちゃい。きっとちゃんちき君見ちゅけるでありんちゅよ」

 

「……ふむ。よかろう。ここはありんすちゃんに任せる。ユリ・アルファよ、サポートするのだ」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 まずは目撃者探しです。ありんすちゃんとユリは戦闘メイド達の部屋にやって来ました。

 

 ──ポリポリ

 

 何やら音がします。音の方を見るとエントマが何やら黒い物を立ちながら食べていました。

 

 ──ポリポリ

 

「エントマ、貴女は三吉君様について何か知らないかしら?」

 

 ──ポリポリ

 

 ユリがありんすちゃんのセリフを奪ってしまいました。ありんすちゃんは頬を膨らませて抗議をします。

 

 ありんすちゃんにポカポカ叩かれたユリはありんすちゃんに謝ります。

 

 機嫌を取り直したありんすちゃんは胸を張って尋ねます。

 

「エントマは何を食べているんでありんちゅか?」

 

 エントマは答える代わりに食べていた黒い、まだカサカサ動く『おやつ』をありんすちゃんとユリの手のひらに乗せました。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──ひどい目にあったでありんちゅね……

 

 最初の聞き込みは散々でしたが、それでも有力な情報が得られました。

 

 それは寝入ったソリュシャンの鼻の穴から三吉君がはみ出していた、というものでした。

 

 もしかしたら三吉君はソリュシャンから自分の力で逃げ出したのかも知れませんね。

 

 ありんすちゃん、流石です。ソリュシャンが三吉君を消化してないという視点を最初から持っていたのですから、名探偵の資質が本当にあるかも知れませんね。

 

 ありんすちゃんは腕を組んで考えます。名探偵はこの後に閃いたように犯人の名前を告げると相場が決まっています。ありんすちゃんに出来るでしょうか?

 

「犯人はルプーでありんちゅ」

 

 どうやらありんすちゃんは犯人がわかったみたいです。

 

 ありんすちゃんと他一名はルプスレギナを捜しました。

 

 ルプスレギナは直ぐに見つかりましたが、何かポリポリ食べていたのでありんすちゃんは後にする事にしました。

 

 だって、もしかしたらルプスレギナがエントマと同じ『おやつ』を食べているのかもしれないですから。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ありんすちゃんの推理は外れて、ルプスレギナがポリポリ食べていたのはなんとジャガイモをスライスして油で揚げ、塩を振りかけたものでした。

 

 え? 三吉君の行方はどうなったか、ですか?

 

 三吉君行方不明事件に於いて、ルプスレギナは真犯人ではありませんでした。

 

 しかし、寝ているソリュシャンの枕元に落ちていた三吉君を拾ったのはルプスレギナでした。

 

 彼女が三吉君を片手につまんでウロウロしていると、声をかけて「私がアインズ様のお部屋に戻しておきます」と言って三吉君を持ち去った人物がいたのでした。

 

 おそらく、その人物はアインズの部屋に三吉君を戻さずに自分の部屋に持ち帰ったのでしょう。

 

 真犯人に聞けば事件の全てが明らかになるでしょう。

 

 難事件を無事に解決したありんすちゃんは助手と一緒にアインズの執務室に報告しに向かうのでした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ありんすちゃんと助手一名はアインズの元に戻って来ました。

 

「アインジュちゃま、真犯人はアル●ドでありんちゅた」

 

「……うむ。その事なのだかな……もう良いのだ」

 

  アインズはいくぶん気まずそうな様子でありんすちゃんに背を向けました。

 

「──あれからすぐに三吉は戻ってきた。この案件は無事解決した、というわけだ」

 

 アインズは何処か遠くを見るようにしています。事件は解決したみたいですね。

 

 でも、ありんすちゃんは納得いかないみたいですよ。

 

「……真犯人はア●ベドでありんちゅ。真犯人なんでありんちゅ」

 

 アインズはありんすちゃんに向きなおり、頭を優しく撫でました。

 

「……うむ。ありんすちゃんよ、ご苦労であった。……そうだな、何か褒美をやろう。何がよいかな?」

 

 途端にありんすちゃんの眼がキラーンと光りました。現金なものですね。

 

「アインジュちゃまにお願いするでありんちゅ。チョリュチャとニグレドとペチュトレワンワンを許ちて欲ちいでありんちゅ」

 

 アインズはしばらく目を閉じて考え事をしていましたが、意を決して口を開きました。

 

「……うむ、わかった。ソリュシャン、並びに謹慎中のニグレド、ペストレーニャを許すとしよう」

 

  ありんすちゃんは嬉しそうです。とてもまだ5歳児位とは思えませんね。

 

 今日も大活躍のありんすちゃんでした。

 

 

 

 

──fin──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──ふぅ。

 

 『三吉君』は深くため息をついた。

 

 ──今回はもう駄目かと思った。

 

 『彼』がスライム♀だと看破したのはおそらく同じスライム種のソリュシャンだけだろう。

 

 いわゆる同性が故の嫉妬──アインズ様をめぐる女の戦いで危うく『三吉君』は命を落とす所だった。

 

 本来なら単なるPOPモンスターに過ぎない自分が、事もあろうに至高の御方の御寵愛を受けてしまったのだから、怨みを買ってしまうのは仕方ないだろう。

 

 ──ふぅ。

 

 最後の彼女──守護者統括というNPC最高の存在──との約束を思い出すと気が滅入る。

 

 アインズの元に戻すかわりにこれからアインズの入浴後にどのように御方の身体を洗ったかを詳細に報告しなくてはならない。

 

 単なるスライムである彼女にとっては難題である。なにしろ喋る事が出来ないのだから。

 

 ──ふぅ。

 

 彼女のため息は止まる事なく続くのであった。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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042ありんすちゃんふたたびみつごになる

 鮮血帝ジルクニフは朝からご機嫌でした。

 

 勢力拡大中の魔導国の評判は今のところ悪くなく、属国となろうとしているバハルス帝国を表立って非難する国は現れません。

 

 それどころか最近では聖王国が魔導国に助力を求めて、魔導王自ら聖王国に向かったらしいのです。

 

 これで聖王国もバハルス帝国同様に魔導国の幕下となればいくらか負担も軽くなろうというものですから。

 

 気分よく王城から帝都を見下ろします。

 

 ふと、広場が目に入った瞬間に嫌な事を思い出して眉をひそめました。

 

 そうです。ドラゴンに乗ったありんすちゃん達が来た時の事を思い出してしまったのですね。

 

 良い気分に水をさされたジルクニフは空に視線を動かします。

 

 すると何やら白いモノがやって来るのに気がつきました。

 

 なんと……!

 

 ドラゴンです。

 

 白い丸みを帯びた身体のドラゴンがやって来て、広場にフワリと降りました。

 

 背中に小さな影が三つ……間違いありません。

 

 魔導国の三人の子供達です。

 

「……まさか」

 

 ジルクニフは慌てて顔を突き出します。

 

 なにしろあの子供達の事ですから、この前の事をすっかり忘れて、「そういえば帝国に行って来いってアインズ様言ってなかったっけ?」とか勘違いしているのではないでしょうか? それとも別の用事とか?

 

 顔を出したジルクニフに向かって三人がドラゴンの上で立ち上がります。

 

 ジルクニフは驚きました。

 

 三人ともダークエルフみたいに色黒で、しかも三人とも同じ服装でスカートをはいていました。

 

 真ん中の子は少し小さい女の子でしたが、まるで三つ子か姉妹みたいにそっくりです。

 

 真ん中の子が口を開きました。

 

「皇帝、誰がありんちゅちゃんでちょうか?」

 

 ジルクニフはこの間の事を思い出します。

 

 ありんすちゃんというのは多分、少し舌足らずの女の子の事だと思われます。

 

 前回双子のダークエルフと一緒にいた赤い服の女の子の事でしょう。それならば、色黒ですが真ん中の一回り小さな女の子に間違いないことでしょう。

 

 ──しかし──

 

 ジルクニフはこれまでのアインズ──魔導王とのやりとりを思い出します。

 

 あの人物が、こんな単純なゲームを仕掛けるとは思えません。

 

 あの、悪夢が具現化したような、深慮遠謀の塊のような男ですから、きっと何か裏に意図するものがきっとあるのでしょう。

 

 ジルクニフは腹を括って真ん中の女の子を指差します。

 

「……ありんすちゃんはこの子」

 

「──ではない」

 

 相手の反応をじっと待ちます。

 

 ジルクニフの考えが正しいならば、この中に『ありんすちゃん』という子はいない筈です。

 

 これは引っ掛け問題に決まっています。

 

 もし、仮にジルクニフが不正解したらまたもや悲惨な事態を起こされかねません。

 

 この子供達ならきっとやるでしょう。

 

 更にジルクニフの観察眼は彼等が今回別のドラゴン──白くて太めでメガネをした──で来ている事に気がついていました。

 

 そう。きっと『ありんすちゃん』はこのドラゴンの名前に違いないのです。

 

 シーンとした中で先ほどの真ん中の女の子が口を開きます。

 

「ブブブブブー! 残念でありんちゅた。ありんちゅちゃんはわたちでありんちゅよ。……マーレ!」

 

 名前を呼ばれた隣のダークエルフが広場にひらりと降り立ち、静かに杖を振り上げます。

 

 広場の回りの呆気にとられている兵士達は身動きすら出来ません。

 

「やーめーてー!!」

 

 ジルクニフの悲痛な叫びは地震の地響きに消えていくのでした。

 



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043ありんすちゃんまたまたみつごになる

 ジルクニフは憂鬱そうに広場を見下ろしました。

 

 地震の跡は塞がっていますが、またしても多くの兵士が犠牲になりました。

 

 ジルクニフは頭をかきむしりながら苦悩しました。

 

「……何故だ? 何故なんだ? 何故、こんなにも不幸なのだ?」

 

 ジルクニフに振り向かれたバジウッドは視線を反らしました。

 

 子供のやる事、と一言で片付けてしまうにはあまりにも残酷でかつ無慈悲と言えます。しかしながら、現在のバハルス帝国としては魔導国を表立って非難する事は出来ません。

 

 せめてあの時──ジルクニフは深く後悔します──下手に勘ぐらないで素直に答えていたら……あんな惨劇は起こらなかった筈です。

 

 ジルクニフはただただ、髪をかきむしり身悶えするだけでした。かつては鮮血帝等と怖れられていたのが嘘みたいに無力な自分に腹立たしさを感じながら、そして髪をかきむしる事ぐらいしか出来ない自分を哀れに思いながら。

 

 ふと、またもや昨日のドラゴンがやってくるのが見えました。やはり背中に三人の小さな人影があります。

 

 おそらくまたまたあの魔導国の子供達でしょう。ジルクニフは目を閉じると、自らを奮い立たせるのでした。

 

 三人はまたもや同じ服装──今回は男の子に見える格好──をしていました。

 

 きっとまたまた真ん中の女の子が『ありんすちゃん当てゲーム』を言い出す事でしょう。いいさ。今度はちゃんと間違えずに答えてやる、そうジルクニフは思いました。

 

 真ん中の女の子が口を開きます。

 

「さて、誰がありんちゅちゃんでありんちゅか? 当てられないちょ罰ゲームでありんちゅ」

 

 ジルクニフは心の中で嘲笑いました。所詮は子供の考える事、それなら簡単です。

 

 これがあの畏るべき魔導王ならば深読みしなくてはならないでしょうが、ここは所詮子供が相手です。ましては前回のような失敗は出来ませんから素直に正解を答えるまでです。

 

 ジルクニフは深呼吸をすると答えを口に──

 

 と、丁度その時に横槍が入りました。

 

「ちゃんと考えた方が良いと思うな。あたしならね。……だって間違えたら大変だよ?」

 

 確かフィオーラといったダークエルフの姉? の方です。ジルクニフは一瞬、気勢を削がれましたが、これはきっとブラフでしょう。正解させまいとする相手の心理作戦に違いありません。

 

 ジルクニフは正解を確信して、ゆっくりと真ん中の女の子を指差しました。

 

「ありんすちゃんはこの子だ」 

 

 シーンと静まり返った中、三人は顔を見合わせます。そして満面の笑みでジルクニフを迎えます。

 

「ピンポン、ピンポーン! おめでとうでありんちゅ。正解でありんちゅよ」

 

 ジルクニフはホッとして、思わず座り込みました。正解したとはいえ、この子供達を相手にするのはもう勘弁して欲しいものです。

 

 ニコニコしながらありんすちゃんが言いました。

 

「おめでとうでありんちゅ。マーレ、お願いするでありんちゅよ」

 

 思わず顔を上げたジルクニフの視界の中で、またもやダークエルフの片方が杖を上げて……

 

「な――ん――で――!!」

 

 またしてもジルクニフの絶叫は地響きの中にかき消されてしまうのでした。

 



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044ありんすちゃんおうこくへおつかいにいく

 今日のありんすちゃんはアルベドに頼まれて王国へお使いに行きます。

 

 お供のアンデッドはありんすちゃんの階層から連れて行きます。身の回りの世話をするのはヴァンパイア・ブライドです。何だかんだでそこそこの大所帯になってしまいました。

 

 ありんすちゃんは最近再びゲートを使えるようになったので、馬車ごとすぐに王国へ行けます。

 

 本当はゲートよりドラゴンで行きたかったのですが、今回は駄目なんですって。残念です。

 

 ありんすちゃんは王国に着くと、ヒルマの館を目指します。館では八本指という人達がいるので、ありんすちゃんはアルベドのかわりに指示を出すのです。

 

「ありんすちゃん様。ようこそおいで下さいました。皆、揃っております」

 

 ありんすちゃんは胸を張ってヒルマに案内されて館に入ります。あんまりふんぞり返りすぎて倒れそうになったのは内緒です。

 

 部屋の中には痩せた人や痩せて頭が禿げた人達がいました。どの人もヒルマに負けず劣らず痩せています。王国ではダイエットがブームなのかもしれませんね。

 

 ありんすちゃんはアルベドから渡されたメモを読み上げます。

 

「これからジャンケンで負けた人は罰ゲームでんちゅ。素直になる部屋にいくでちゅね」

 

 居合わせた八本指の全員が真っ青になりました。 ヒルマが震える声で嘆願します。

 

「……お願いです。それだけはご容赦下さい」

 

 ありんすちゃんには『ご容赦』の意味がわかりませんでした。だってまだ5歳児位の女の子ですから、難しい言葉はわからないのは仕方ないですよね。

 

「……わかりまちた」

 

 ヒルマは安堵のあまり、ペタンとへたり込んでしまいました。あの地獄を二度と味わらなくて済むのなら何でもするつもりです。

 

 ──どうやら地獄を回避出来た──そんなヒルマのささやかな希望は無惨にもありんすちゃんの次の一言で潰えるのでした。

 

「では、ジャンケンするでんちゅ。負けたら恐怖公とあそぶでありんちゅ」

 

「──そんな──」

 

 八本指の誰もが絶望した面持ちで互いの顔を見合わせます。こうなれば仕方ありません。相手は子供とはいえ、あのナザリックの幹部です。反抗しても簡単に殺されてしまうだけでしょう。

 

 彼らの命懸けのジャンケンは数時間も続けられました。

 

 敗者となったのはやはりヒルマでした。

 

 他の八本指の名前をこの二次小説の作者が知らないのでヒルマになった、なんという事はないと思います。多分。

 

「……お願いです。お許し下さい。……そうだ、ありんすちゃん様に素敵なプレゼントを差し上げます」

 

「……プレゼント? でありんちゅか?」

 

 どうやらありんすちゃんの心が動いたみたいです。

 

「見てください! この超合金アインズ様を! こうしてスイッチを入れると目と下半身が赤く光るんです! しかも──」

 

 ヒルマはアインズ様をテーブルに置きました。するとアインズ様フィギュアは右手を動かしセリフを喋りました。

 

「──騒々しい。静かにせよ──」

 

 おや?ありんすちゃんの目の色が変わりました。どうやら欲しくてたまらないみたいです。

 

 私も欲しかったりしますが……ゴホン。

 

「ふたちゅでちゅ」

 

 ありんすちゃんはメモを見ながら言います。

 

「アルベドからアインズちゃま人形を持って帰るとなっているでありんちゅから、ありんちゅちゃんの分とふたちゅでちゅ」

 

 ヒルマは大急ぎでアインズ様フィギュアを二つ用意してありんすちゃんに渡しました。

 

 ありんすちゃんは無事にお使いを済ませてナザリックに帰りました。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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045ありんすちゃんあちゃんになる

 ありんすちゃんはお風呂が大好きです。朝、起きたらまずお風呂、そして各階層を一回りし終えたらまた、お風呂に入ります。

 

 ありんすちゃんが特に大好きなのはバスタブ一杯に泡が溢れるなかでバチャバチャする事ですって。

 

 ヴアンパイア・ブライドが二人がかりでありんすちゃんをゴシゴシ洗います。

 

 するとありんすちゃんはピカピカのツルツルになります。身体を洗い終えたら、シャンプーです。ありんすちゃんはまず、頭にシャンプーハットをかぶります。

 

 シャンプーハットがないと泡が目に入ったり、顔があわあわして大変なので、必須なのです。

 

 仕方ないですよね。ありんすちゃんはまだ5歳時位の女の子ですから、シャンプーがちょっと苦手でも。

 

 ヴアンパイア・ブライドはありんすちゃんの頭をゴシゴシ洗います。

 

 ありんすちゃんの頭はその度にグラグラ揺れます。

 

 シャワーで綺麗に泡を流すと、今度はリンスです。

 

 ありんすちゃんお気に入りの花の香りがするヤツです。

 

 大変です! なんということでしょう! リンスの中身が空です! よりによってありんすちゃんがリンスをしようとしているタイミングでリンスが無くなってしまいました。

 

 なんということでしょう!

 

「うひひひひ。ありんすちゃん、リンスが無くなったっすか? これじゃありんすちゃんじゃなくてリンス無しの『あちゃん』っすね」

 

 不意に現れたルプスレギナが意地悪します。ありんすちゃん、真に受ける必要はありませんよ? ルプスレギナの言うことは出鱈目で、ありんすちゃんはありんすちゃんですから大丈夫です。

 

 しかしながらありんすちゃんは所詮まだ5歳児位の女の子、ルプスレギナの言葉を真に受けてしまったようです。

 

 ありんすちゃんが『あちゃん』になんかなるはずないのに……

 

 可哀相なありんすちゃんは風呂から飛び出して必死にリンスを探します。いやいや、そこらにリンスは落ちていませんよ? ありんすちゃん。

 

「そういえば、第九階層のスパにシャンプーとリンスが常備してあったっすね。まあまあ、慌てない慌てない。裸で至高の御方のおわす階をウロウロしたらまずいっすよ? まずはちゃんと服を着るべきっすよ」

 

 ありんすちゃんも恥じらいある乙女です。裸でウロウロ歩き回る変態さんにはなりたくはありません。

 

 ありんすちゃんはヴァンパイア・ブライド達に身体を拭いてもらい、ちゃんと服を着せてもらいました。

 

 これで準備万端です。

 

 珍しく、ルプスレギナがありんすちゃんをスパの入り口に案内してくれました。

 

「私はここで待っているっすから、ありんすちゃんはさっさとリンスを持って来ちゃって下さいっす。流し場の所に沢山あるっすから」

 

 ああ、後から考えたらルプスレギナが妙に親切過ぎだと疑問に思うべきでしたよね。何しろありんすちゃんの事を『男胸さん』だの『残念美少女』だの『ペタン血鬼』だのと陰口叩いていたルプスレギナです。

 

 疑う事を知らない純真無垢なありんすちゃんはガラガラとサッシを開けて中に入っていきます。

 

「入るでありんちゅよ」

 

「──服を着たまま風呂に入るなどというこの痴れ者がぁ!!」

 

 風呂場のゴーレム達が一斉に立ち上がり、ありんすちゃんを囲みます。まさに絶対絶命!

 

 ありんすちゃんはこんな事になるなら『あちゃん』になっても良かったな、と今更ながら思うのでした。



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046ありんすちゃんゆうかいされる

 その日のありんすちゃんはいつになく早い時間に目覚めました。

 

 こういう時ってなにか大事件が起こったりしてしまうのがお約束だったりしますが……それは一通の手紙から始まりました。

 

 大きなあくびと伸びをしながらありんすちゃんはベッドを降ります。ふと見ると足下に一通の手紙が落ちていました。

 

 宛名はありません。ですが、ありんすちゃんの住居ですからありんすちゃんが読んでも構わないでしょう。

 

 早速封を切り、手紙を広げて読みました。

 

「──ありんすちゃんはとてもかわいいのでゆうかいしました。アウラとマーレがこれからずっとありんすちゃんのめいれいをきくならありんすちゃんをかえしてあげます。ほんきです」

 

 なんと! ありんすちゃんが誘拐されてしまったみたいです! 犯人の要求を認めなければありんすちゃんの身が危ないみたいです!

 

 ありんすちゃんは大きく口を開けて呆然としています。あまりのショックに我を忘れてしまったみたいですね。

 

 仕方ないですよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎませんから。

 

 誘拐事件の当事者になってしまったなんて、私でも気が動転してしまいます。

 

 ありんすちゃんが誘拐されて、ありんすちゃんはどうするのでしょう?

 

 ん? あれ?

 

 ちょっと待って下さい。ありんすちゃんはここにいますが? ……誘拐されたありんすちゃんとは?

 

 大変です! ありんすちゃんは気がついていません。必死な形相でどこかに走っていきます。

 

 ありんすちゃん! ちょっと待って下さい!

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんは第六階層にやって来ました。どうやら誘拐犯の要求をアウラとマーレに知らせるつもりかもしれませんね。

 

「んー? どうしたの? ありんすちゃんじゃん。あたしに何か用かな?」

 

 ありんすちゃんはアウラに手紙を見せます。

 

「……うわっ! なにこれ? ……ただのイタズラじゃない。……あのさあ、まさかとは思うけど……ありんすちゃんってば、もしかして本気にしているんじゃ?」

 

 ありんすちゃんは興奮して言葉を喋る事が出来ません。激しい身振りで事の重大さをアウラに伝えます。

 

 なんという事でしょう? ありんすちゃんが一生懸命話しているのにアウラはまともに取り合ってくれません。

 

「……ハイハイ。もう気が済んだかな? あたしもヒマじゃないからね」

 

 ありんすちゃんはほっぺたを膨らまして抗議します。ありんすちゃんが誘拐されたのはアウラのせいなんですから。

 

「……だーかーらー……ありんすちゃんはここにいるんだから問題ないってあたしは言ってるんだけど?」

 

 アウラはジト目でありんすちゃんを見ています。

 

 うーん……ようやくありんすちゃんも気がついたみたいですね。ハッとした様子で駆け出して行きます。

 

 今頃やってきたマーレは突然部屋を飛び出してきたありんすちゃんに驚き、アウラに尋ねました。

 

「……お、お姉ちゃん、ありんすちゃんどうしたの……かな? ……あ、なんでもないよ」

 

 アウラがジト目のまま振り向いたのでマーレは質問をするのを止めました。 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんは自分の階層に走りながら、混乱した頭で一生懸命考えていました。

 

 あの手紙を出した犯人を見つけてありんすちゃんを誘拐させないと、ありんすちゃんは嘘つきになってしまうかもしれません。

 

 どうやら、ありんすちゃんはどうしたら誘拐されるか考え始めてしまったみたいです。

 

 うーん……根本的に間違った方向に行ってしまったとしか思えませんが、どうなるのでしょう?

 

 ありんすちゃんはシモベ達を集めて手紙を見せました。

 

「この手紙を出ちた犯人を見ちゅけるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんを誘拐した、という内容にシモベ達はざわめきます。

 

 一人のヴァンパイア・ブライドがおずおずと手を上げて発言を求めました。

 

「あの……その手紙は昨日、ありんすちゃん様のご指示で私が書いたものかと……」

 

「──え?」

 

 ……そうでした。アウラとマーレを騙そうとありんすちゃんが誘拐されたという手紙を出そうとしたような記憶が少しあります。

 

「……ゴホン。……では、これからありんちゅちゃん、ゆうかい大作戦始めるでありんちゅよ」

 

 ありんすちゃんは何事も無かったかのようにヴァンパイア・ブライドに命じます。

 

「これからアウアウとマーレにありんちゅちゃがゆうかいされたと知らせるでありんちゅ」

 

 ヴァンパイア・ブライドはありんすちゃんから手紙を受け取ると第六階層へ向かいました。

 

 ヴァンパイア・ブライドはすぐに戻って来ました。

 

「ありんすちゃん様! 大変です! アウラ様もマーレ様も笑い転げてまともに相手をして頂けませんでした」

 

 それはそうですよね。さっきありんすちゃんが大騒ぎしちゃっていますから。

 

「役にたたないでありんちゅね。もういいでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは恐縮しきっているヴァンパイア・ブライドを許してあげました。

 

 ……うーん……でもヴァンパイア・ブライドは何も悪くないと思いますが。

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 そんな事があった翌朝、ありんすちゃんはいつものように目を覚ましました。

 

 ベッドから降りたありんすちゃんは足下に一通の手紙を見つけて……またまた大騒ぎするのでした。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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047ありんすちゃんときえたおやつ ~犯人はマーレ~

 おやおや? ありんすちゃんが空になったお皿の前で難しい顔をして腕組みしていますね。どうやら何か事件が起きたみたいです。

 

 ありんすちゃんの後ろには扉が開けられたキャビネットがあって、そこには『たべるな』と書かれた貼り紙があります。

 

 このキャビネットはありんすちゃんが後で食べようと思って、おやつをしまっておくのに使っていたのでした。

 

 では、おやつを食べ終えてまだ足りなくて悩んでいるのでしょうか?

 

 ……うーん……どうやら誰かにおやつを食べられちゃったので、ありんすちゃんは怒っているようです。

 

 なんと……ありんすちゃんがおやつを食べられてしまったのはこれが初めてでは無いのですって。

 

 それでありんすちゃんは自ら『たべるな』と書いた貼り紙を貼ったのに、またもや食べられてしまった、という事のようです。

 

 一番最初はモンブランケーキでした。ありんすちゃんはお風呂上がりに食べようと思い、とても大きなマロングラッセが乗っかったモンブランケーキをキャビネットに入れておきました。そして三十分後にお風呂から上がったありんすちゃんがキャビネットを開けるとモンブランケーキのてっぺんのマロングラッセが無くなっていたのでした。

 

 ありんすちゃんにとって、モンブランケーキを食べる一番の楽しみである最初にマロングラッセを食べる事が出来ないなんて……イチゴが乗っていないショートケーキのようなものです。

 

 そこで、次にマカロンをキャビネットにしまう時にありんすちゃんは『たべるな』と書いた貼り紙を貼っておいたのですが……

 

 ありんすちゃんの目の前のお皿は空っぽです。よりによって犯人はありんすちゃんが書いた貼り紙を無視して全部食べちゃったのでした。

 

 いくら寛大なありんすちゃんだって怒ります。犯人を見つけて懲らしめなくては気が収まらないですよね。

 

 空っぽのお皿を前にしたありんすちゃんの頭には二人の容疑者が浮かんでいました。

 

「ルプーとアウアウが怪しいでありんちゅ。……どちらかが犯人でありんちゅな」

 

 またまた名探偵ありんすちゃんの出番みたいですね。前回はアインズ様の依頼で無事に三吉君を見つけたのでした。

 

 ありんすちゃんは第一容疑者のルプスレギナを探します。ペタン血鬼航空フロド隊がありんすちゃんの指示で動きます。あっという間にルプスレギナをありんすちゃんの所まで連れてきました。

 

「なんか用っすか? ありんすちゃんのおやつを食べちゃった犯人ならルプーさんじゃないっすよ?」

 

 おや? ……聞かれもしないのに自分から容疑を言い出すなんて、怪しいですよね? ……あれ? ……ありんすちゃんはルプスレギナの言葉に納得しちゃったみたいです。ニコニコしながらノートの容疑者リストのルプスレギナの名前に大きなバツを書いてしまいました。ありんすちゃん、大丈夫でしょうか?

 

 うーん……どうやら犯人は残ったアウラという事になってしまったみたいです。……大丈夫かな? ありんすちゃん。

 

 ありんすちゃんはアウラを犯行現場に呼び出しました。何も知らないでやって来たアウラをとっちめてやるつもりみたいです。

 

「ヤッホー。お待たせ、あたしにおやつをご馳走してくれるんだって?」

 

 ありんすちゃんはアウラに指を突きつけて非難します。どれだけあのマカロンを食べるのを楽しみにしていたか、ありんすちゃんの渾身の一筆『たべるな』に込められた想いなどを蕩々と語ります。

 

「──ちょ、ちょっと待った! あたしは知らないよ? 濡れ衣もいいとこだってば」

 

 ……うーん……どうやらアウラも犯人じゃなさそうですね。

 

 ありんすちゃんはガッカリです。さっきまでの気合いがしぼんだ風船みたいに抜けてしまいました。

 

「……うーん。この『たべるな』ってさ『食べるな』って事だよね?」

 

 アウラがありんすちゃんに尋ねます。何をわかりきった事を聞くのでしょう?

 

「……あのさ、ラテン語で『タベルナ』って食堂の事だったりするんだよね。もしかしたらこの貼り紙を勘違いした誰かが食べちゃったんじゃないかな?」

 

 ……ありんすちゃんはキョトンとしたまま、アウラの言葉の意味がわかりませんでした。

 

 ……アウラやマーレの創造主のぶくぶく茶釜はどうやらスペイン語やイタリア語あたりのラテン系の語学の知識があったそうです。アウラやマーレの名前にも女性名詞や男性名詞が使われていて、その為かアウラにも少しばかりの知識があるそうです。

 

 アウラは続けます。

 

「どうせ貼り紙するなら『食べちゃダメ』とか『盗み食い厳禁』にした方が良いんじゃないかな?」

 

 なるほど……ありんすちゃんは早速アウラの意見をもとに『盗み食い厳禁』の貼り紙を作る事にしました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 その夜、マーレはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを発動させてありんすちゃんのキャビネット前にやって来ました。

 

 なんと! ありんすちゃんのマカロンを食べてしまった犯人はマーレだったのですね。

 

 もしかしたらマーレは『たべるな』の貼り紙を勘違いしたのかもしれません。

 

 マーレはありんすちゃんの新しい貼り紙に気がつきました。……そして……

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 朝になってありんすちゃんはキャビネットを開けてみました。なんという事でしょう! またしてもありんすちゃんのおやつは無くなっていました。

 

 残念ながら、せっかくのアウラのアドバイスもありんすちゃんの努力も報われなかったみたいですね。ありんすちゃんはガッカリしています。

 

 ……ありんすちゃんが一生懸命書いた貼り紙には『ぬすみぐいげんき』とありました。

 

 仕方ないですよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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048ありんすちゃんのおばけたいじ

 ありんすちゃんが階層の見回りを終えてのんびりしていると来客がやって来ました。

 

 ルプスレギナとシズは何やらありんすちゃんに相談事があるのだそうです。

 

 どうやら三吉君誘拐事件やありんすちゃん誘拐事件、キャビネットのおやつ盗難事件なと、数々の難事件を解決してきた名探偵ありんすちゃんの噂は戦闘メイドの間にも広まっているようですね。

 

「今日はありんすちゃんに頼みがあるっすよ。ありんすちゃんはオバケって大丈夫っすか?」

 

「…………否定。あまりにも非現実的です。…………しかしながら一般メイドの疑念を晴らす必要があります」

 

 うーん……ありんすちゃんは実はオバケとか幽霊とかってちょっと苦手なんですよね。夜中にトイレに行くのも一人で行けないのでヴァンパイア・ブライドに付き添って貰っていたりするのは内緒です。おかしいですよね? だってありんすちゃんはアンデッドのヴァンパイアの真祖なんですから。

 

 でも、仕方ないのだと思います。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

「そんなのじぇんじぇん、コワくないでありんちゅ、ありん、ちゅ」

 

 ルプスレギナは意地悪そうな笑みを浮かべながら続けます。

 

「いや……なんか一般メイド達の間で噂があるらしいっすよ。第九階層の最近使っていない旧食堂に出るらしいんすよ」

 

 ありんすちゃんは全然怖くない、という風に胸を張ります。

 

「……ある晩のことっす。その日の勤めを終えたある一般メイドが一人で旧食堂の横を通りかかったらしいっす。その時に夜食用にカレーパンを五個持っていたそうなんすが……」

 

 ルプスレギナは言葉を切るとシズの方を見ます。なんと……シズもカレーパンが入った袋を抱えていました。

 

「……丁度、旧食堂の横に来た所で何者かの声がしたそうっす。……男とも女とも判別しないかすれた声で……『オイテケーー! ……タベモノオイテケーー!』って」

 

「──!!」

 

 ありんすちゃんはほんの少し怖かったので、ちょっぴりそそうしてしまいました。

 

「と、まあ、そんなわけっすから、行きますよ。ありんすちゃん」

 

 ルプスレギナは明るく言うとありんすちゃんにシズが持っていたカレーパンの袋を持たせます。そしてそのまま第九階層に連れて行かれてしまいました。

 

 第九階層では一般メイドが何人も待ち受けていました。みんなありんすちゃんを応援しています。

 

「じゃ、ありんすちゃん、後はよろしくっす」

 

「…………健闘を祈る」

 

 ルプスレギナもシズも当たり前のようにありんすちゃんを見送ります。どうやらオバケ退治はありんすちゃん一人で行くみたいですね。

 

「……うん……こわくないでありんちゅ。ありん、ちゅ」

 

 ありんすちゃんは本当は行きたくありませんでしたが、成り行きで嫌だと言えませんでした。

 

 ありんすちゃん頑張って。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんは旧食堂にやって来ました。胸がドキドキします。とはいえ実際には心臓は動いていませんが。

 

『……オイテケーー……タベモノオイテケーー……オネガイ』

 

 怪しい声が聞こえてきました。ありんすちゃんはしっかりとカレーパンの袋を抱き締めます。

 

 そして、恐る恐る声の方を見ると……椅子の陰に隠れた人影がありました。

 

「──!!──」

 

 ありんすちゃんは思わず悲鳴を上げ──

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ──ませんでした。

 

「なんだ、ナーベでありんちたか」

 

 椅子の後ろには随分やつれたナーベラルがいました。ありんすちゃんはすっかり忘れてしまっていましたが、おそらくあのかくれんぼからずっと隠れていたのでした。

 

「……シャルティア様ぁ……お願いです。……私を見つけて下さい……」

 

 なるほど。鬼だったありんすちゃんが見つければナーベラルのかくれんぼが終わる訳ですね。さあ,ありんすちゃん。「ナーベラル見つけ」って言ってあげましょう。

 

 ……おや? ありんすちゃん、どうかしました?

 

 ありんすちゃんは黙っています。どうしたのでしょう?

 

「……出来ないでありんちゅ」

 

 ナーベラルはありんすちゃんの言葉が信じらんない、という顔をしています。

 

「……もうチャルチェアじゃないから駄目なんでちゅ。今はありんちゅちゃんだから鬼じゃないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんとナーベラルに空白の時間がしばし流れました。

 

 しばらくして、ナーベラルが重い口を開きました。

 

「……あの……せめて……カレーパンを頂いても?」



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049ありんすちゃんメイドみならいになる

 おや? 今日のありんすちゃんは何だか上機嫌みたいですよ。え? なになに? どこか違わないか、ですって?

 

 うーん……背が伸びたようにも見えないですし、どこが違うのでしょう?わかりません。

 

 ウソウソ。冗談です。ありんすちゃんは今日、メイドさんの格好をしているんですよね。とてもお似合いですよ。可愛い、可愛い。ありんすちゃん最高です。……っておだてればすぐに機嫌が直ってしまうのは、やはり5歳児位の女の子なので仕方ないですね。

 

 ありんすちゃんは今日からメイド見習いとしてプレアデスの仲間入りするそうです。それでメイド服にホワイトブリムを付けているのですね。

 

 まずはエントマが先生です。ありんすちゃんは礼儀正しくお辞儀をします。

 

「お願いしますでありんちゅ」

 

「ありんすちゃんかぁ。じゃあねーよろしくぅ」

 

 エントマはありんすちゃんを連れて第二階層にやって来ました。

 

「ここはぁ、私ぃのおやつ部屋ぁ」

 

 自分の階層ですからすぐにそこにはおやつがない事をありんすちゃんは知っています。きっとエントマはありんすちゃんを試しているのでしょう。

 

「そこはぁ、おやつないでありんちゅぅ」

 

 ありんすちゃんは飲み込みが早いですね。すぐにエントマの口調をマネしています。

 

 エントマはありんすちゃんの意見を無視して『おやつ部屋』から黒いモノをつまみ上げてポリポリ食べ始めました。

 

「貴方も食べるぅ? 美味しいからぁ」

 

 ありんすちゃんの目の前に『おやつ』を突き出します。エントマはワサワサ動いている『おやつ』をありんすちゃんの口に入れようとしてきます。

 

 ありんすちゃんは逃げ出しました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 次の先生はシズです。ありんすちゃんはお辞儀をしました。

 

「ありんちゅちゃ、でありんちゅぅ」

 

 うーん……エントマの口調が少し移ってしまったかもしれませんね。

 

「…………妹の物言いみたいだけど許す。かわいいから」

 

 シズはどことなく落ち着きが無いように見えました。

 

 ありんすちゃんは目をキラキラさせてシズをじっと見つめます。一体シズは何を教えてくれるのだろう? という期待に満ちているのですね。

 

「…………これから第六階層に行く。魔獣のお世話」

 

 シズはありんすちゃんを連れて第六階層に向かいました。

 

 第六階層に着くと、シズはポケットからシールを取り出してありんすちゃんに渡しました。丸いシールには一円と書かれてあり、とても可愛らしいもので、ありんすちゃんは自分のエプロンに貼ってみました。

 

「…………これから魔獣のお世話。可愛らしい魔獣にお気に入りシールを貼る」

 

 これならありんすちゃんにも出来そうです。沢山シールを貼って、早く一人前のメイドになりましょう。

 

 一時間もすると第六階層はシールを貼られた魔獣だらけになりました。ありんすちゃんもシズも大満足です。

 

 シズはモコモコした魔獣に抱きついてその感触を楽しんでいます。ありんすちゃんも真似して抱きつこうとした瞬間──

 

「あー! またシールだらけにして! ……剥がすの大変なんだからね? ……あれ?ありんすちゃんも一緒なんだ」

 

 ありんすちゃんが起き上がると困った表情をしたアウラが腕組みして立っていました。

 

「アウアウ、魔獣のお世話でありんちゅよ」

 

「うーん……魔獣達は嫌だってさ。まあ、あたしに言わせると余計なお世話なんだけどね」

 

 シズは相変わらず魔獣に抱きついています。

 

 しばらくするとユリがやって来て、アウラに謝りながらありんすちゃんとシズを連れだしました。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「今度はユリが先生でんちゅね。お願いしまちゅ」

 

 ありんすちゃんは礼儀正しくお辞儀をします。

 

「それではボク……ゴホン」

 

「ぼく? でありんちゅか?」

 

「……ゴホン。えー、それではメイド見習いのありんすちゃんには歩き方の練習をしてもらいます」

 

 ありんすちゃんは頬を膨らまして抗議します。歩く練習なんて、ありんすちゃんをバカにしていますよね?

 

 やれやれ、といった風でユリは手を振ります。

 

「……わかりました。それ程言うならありんすちゃん、歩いてみて下さい」

 

 ありんすちゃんは口を真一文字にして、歩き出しました。緊張して何だかロボットみたいにぎこちなく、その上右手と右足、左手と左足を同時に振ってしまいました。

 

「……これでは立派なメイドにはなれません。まずは真っ直ぐ歩く練習から始めなくては」

 

 ありんすちゃんの練習はその後三時間に及びました。

 

 さすがにそれだけ練習すればありんすちゃんの歩き方だって随分洗練されたものになった事でしょう。

 

 さあ、ありんすちゃん。練習の成果を披露しましょう。

 

 …………あれ? ……ありんすちゃん……三時間前と全く変わりません。相変わらずロボットみたいにギクシャクで、やはり手足が同時に動いちゃっています。

 

 さすがにユリもありんすちゃんに教えるのを諦めてしまったみたいです。

 

 一人落ち込んだユリを後にありんすちゃんは部屋を出ます。

 

 さあ、次は誰が先生でしょう? ありんすちゃん、頑張って。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ソリュシャンがありんすちゃんの元を訪ねてみると、ありんすちゃんのメイド服が脱ぎ捨てられており、ホワイトブリムも床に落ちていました。ありんすちゃんの姿は何処にもありません。

 

「……いない? ……ありんすちゃん様?」

 

 ありんすちゃんはメイド服を脱ぎ捨てた後、お風呂に入ってからベッドで眠っていました。どうやらメイド見習いにもう飽きてしまったみたいですね。

 

 やれやれ。仕方ないですよね。ありんすちゃんはなんといってもまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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050ありんすちゃんまたもやメイドみならいになる

 さて、今日のありんすちゃんは何をしているのか、覗いてみましょう。

 

 おや? ありんすちゃんは着替え中ですね。どういう気まぐれか、またしてもメイド服を着ようとしています。

 

 あらあら。先にホワイトブリムを付けた頭で着ようとしたので、頭が引っかかって出て来ないですよ。ありんすちゃん、落ち着いて。一旦頭を戻してホワイトブリムを外した方が……ああ……そんなに暴れても無理ですって。

 

 激しい物音でようやくヴァンパイア・ブライドが駆けつけて来ました。ヴァンパイア・ブライド三人が寄ってたかってありんすちゃんにメイド服を着せようと悪戦苦闘しています。

 

 ようやくメイド見習いのありんすちゃんに変身ですね。

 

「……ようやく支度出来ましたね。……わん」

 

 顔の真ん中に継ぎ目がある犬の頭をしたメイド、ペストーニャ・S・ワンコが顔を覗かせました。

 

 ありんすちゃんはスカートを摘まんで優雅にお辞儀をします。

 

「今日はお願いするでありんちゅ。ワン」

 

 ペストーニャもお辞儀で返します。

 

「よくお似合いですよ……わん」

 

 この前より何だかありんすちゃんのやる気が感じられますね。まあ、前回はユリ以外、あまり良い手本ではなかったみたいですが。

 

 とりあえず今回、どういう気まぐれかまたまたメイド見習いを体験するみたいですね。

 

「それでは、まずは姿勢と歩き方の練習をしてみましょう。……わん」

 

 うーん……前回ユリが匙を投げてしまいましたから、ちょっと心配ですよね。大丈夫でしょうか?

 

 なんと! 意外にもありんすちゃんはちゃんと歩いています。姿勢良く、上品でなんとなく気品すら感じられます。

 

 ありんすちゃんはやれば出来る子なんですよね。まあ、普段は全くやる気がないみたいではありますが……

 

「良く出来ました。……わん。……一旦、お茶にしましょうか」

 

「……わん」

 

 あきらかに語尾を忘れたペストーニャにありんすちゃんは気がつかないみたいですね。それともワザと気づかない振りをしているのでしょうか?

 

 ありんすちゃんはペストーニャからメイド長の仕事についての色々な話を聞きました。一般メイドの間の噂話には都市伝説まがいの話もあってついつい時間を費やしてしまいました。

 

「おや、ペストーニャはここにいましたか。……そろそろ仕事に戻るべきですね」

 

 ありんすちゃんとペストーニャが声の方を向くと、そこにはセバスがいました。よく見るとツアレも一緒にいます。

 

 ありんすちゃんはちょうどセバスの噂話を聞いた後なのでびっくりしました。

 

「セバチュ、チュアレと出来てるんでちゅよね? ……アチチチなんでありんちゅ」

 

 慌ててペストーニャがありんすちゃんの口を塞ぎます。しかし、セバスはすべて聞いてしまいました。

 

 セバスは少し顔を赤らめながらも、何事もなかったかのように悠然と背を向けました。

 

「……ゴホン。お茶が済みましたら仕事に戻りなさい。……その、ありんすちゃんもです」

 

「……出来てるのは赤ちゃんでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんは思わずセバスに疑問を尋ねてしまいました。セバスの背中が凍りついたように見えましたが……仕方ないですよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なので、そんな気遣いなんて出来るわけがないのですから。

 

 翌日、セバスからありんすちゃんのメイド見習いは中止になったとの報告がありました。

 

 せっかくやる気になっていたありんすちゃんはがっかりです。まあ、どうせすぐに立ち直ってしまうでしょうが。



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051ありんすちゃんりゅうおうこくにいく

 ありんすちゃんは朝から物思いに耽っているみたいです。やたらとため息をついたり、ぼんやり考え事をしています。

 

 もしかしたら恋の病とか? まさかね……

 

 ありんすちゃんの周囲だと少年なのはマーレだけですが……もしかして? ……そうなるとありんすちゃんとアウラは姉妹になりますね。

 

 おっと……どうやらありんすちゃんとアウラの両名から抗議が来たようなので、違うみたいですね。

 

 ありんすちゃんは窓から顔を出して外を眺めながら、何処かに消えてしまったレースの飾りのお気に入りの真っ白なパンツの事を思い出していたのでした。

 

 すると、風に乗った小さな葉っぱがありんすちゃんの顔に止まり、ありんすちゃんの鼻をくすぐります。

 

「くちゅん!」

 

 ありんすちゃんは何処かにテレポートしちゃいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんが飛ばされてきたのは何処かの王宮の中でした。ありんすちゃんはすっかり忘れてしまっていますが、以前、ニグレドに見せてもらった白いパンツの在処──竜王国の女王、ドラウディロンの寝室──に転移していたのでした。

 

 ありんすちゃんが起き上がると、高級そうなネグリジェを着た少女がありんすちゃんの下で気絶していました。どうやらこの少女の上に転移してしまったみたいですね。

 

 お気に入りのパンツの事を考えていたありんすちゃんは、もしやと思い女の子のネグリジェを捲り上げてみましたが、彼女の下着は残念ながらありんすちゃんのではなく赤い下着でした。

 

 ありんすちゃんはがっかりしました。ふと、ベッドの脇を見ると女の子の服が綺麗に畳んで置いてあります。ありんすちゃんはニコニコしながらその服──女王ドラウディロンの服──に着替えました。

 

 部屋の片隅のクローゼットに気絶したままの女の子を押し込むと、なに食わない顔をしてベッドに潜り込みます。

 

「──陛下! いかがなされましたか? ……何やら大きな音がしましたが……」

 

 扉を開けて竜王国宰相が駆け込んできました。ありんすちゃんを見ても、入れ替わった事に気がつかないみたいです。

 

「おはようでありんんちゅ。食事にするでありんちゅね」

 

「は、はい……陛下……ですが、その前に」

 

 宰相はありんすちゃんの顔に自分の顔をグッと近づけて言葉を続けました。

 

「“閃烈”のセレブレイト殿の謹慎をそろそろ解いて頂けないでしょうか? かの者なしでビーストマンの進攻は抑えられません。……法国から援軍を送るとの言質を得てはおりますが、このままでは援軍到着の前に滅亡してしまいます」

 

 ありんすちゃんは何だか厄介な時に入れ替わってしまったみたいですね。これはこっそり帰った方が良さそうですよ?

 

「……びーすとまんでありんちゅか? 面白ちょうでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんの瞳が好奇心でキラキラしています。そういえばありんすちゃん、こういう厄介事が大好きなんでしたね。

 

「良いでありんんちゅ。食事したらびーすとまんやっちゅけてくるでありんちゅ」

 

 宰相は目を剥きました。彼はあくまでもありんすちゃんをドラウディロンだと思っていますから、いよいよ黒鱗の竜王の始原の魔法が使われると考えたのでしょう。

 

「……陛下……それでは……よろしいので?」

 

 ありんすちゃんには宰相の考えなどわかるはずもないのですが、面倒くさくなってきたので適当に相槌をうちました。

 

 さて、竜王国内では上から下への大騒ぎです。とうとう竜王国女王、黒鱗の竜王ドラウディロン女王が始原の魔法を用いてビーストマンに鉄槌を下す、というニュースは瞬く間に広がっていきました。

 

「では……生け贄の住人はいかほど必要でしょうか?」

 

 食事をしているありんすちゃんに宰相が尋ねました。ありんすちゃんは面倒くさいので両手を広げてみせました。

 

「じゅ……十万ですと……いや、かくなる上は仕方ないでしょう。わかりました。手配いたします。これも国の存亡の為、致し方ない事でしょう」

 

 ありんすちゃんは食事を終えるとお風呂に入りました。宰相は始原の魔法を使う為のお清めの儀式だと思ったみたいでしたが。

 

「陛下。“閃烈”セレブレイト殿が謁見を申し出ております。お会い頂くのが宜しいかと……」

 

 ありんすちゃんは鷹揚に頷くと、玉座の前に一人の騎士が進みでて来ました。

 

「陛下。ご尊顔は拝し誠に幸せに存じ上げます。此度は陛下直々の親征との由、お許し賜れるならばこの身をお側に……」

 

 セレブレイトが額を打ちつけると、懐から一枚の布切れが落ちました。なんと! ありんすちゃんのお気に入りのパンツではありませんか!

 

 

 ありんすちゃんはパンツを拾い上げるとセレブレイトを下がらせます。ようやくパンツを取り戻したありんすちゃんは踊るような足取りで玉座に座り直します。

 

「びーすとまんやっちゅけてやるでありんちゅ」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 戦場に着くとありんすちゃんは真紅のフルプレートに身を固めました。手にはスポイトランスを持っています。

 

 遠くからみるとスポイトランスが大き過ぎて、スポイトランスがありんすちゃんを持っているように見えますが……おそらくフルプレート同様に今のありんすちゃんのサイズに合わせる事が出来る筈だと思いますが……まあ、なんだかんだでありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないので仕方ないですよね。

 

 ありんすちゃん一人に対してビーストマン軍はその数三万。ライオンやヒョウなどの頭を持つ彼らは小さなありんすちゃんを見て笑いました。

 

 ありんすちゃんはお構いなしに駆けていきます。スポイトランスを振るうとたちまち百人ものビーストマンが飛ばされました。まるで落ち葉を竹ぼうきで掃くように、ありんすちゃんは次々にビーストマンをスポイトランスで掃除していきます。

 

 ほんの三十分足らずで三万ものビーストマンは綺麗に掃除されてしまいました。子供になったとはいえ、かつての階層守護者最強のありんすちゃん、流石ですね。それともビーストマンが弱すぎたのか……

 

 一斉に勝どきが響く中、舞い上がっていたビーストマンの抜け毛がありんすちゃんの顔に留まりました。

 

「くちゅん!」

 

 ありんすちゃんの姿は消えてしまいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 その後──寝室のクローゼットからドラウディロンが見つかりましたが、彼女は気絶したままで何も覚えていませんでした。人々はきっと始原の魔法を使った後遺症だと噂するのでした。

 

 尚、生け贄として選ばれた人々は何事もなく帰る事が出来たそうです。



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052ありんすちゃんとハロウィン

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは苦々しい思いで城下を見下ろしました。帝国では折からハロウィンの飾り付けが溢れていて、あたかも異界の国であるかのようでした。

 

「陛下、ハロウィンは嫌いでしたっけ?」

 

 帝国四騎士の一人、“雷光”バジウッド・ペシュメルがおどけるように声をかけました。ジルクニフはそんなバジウッドに気がつかないかのように城下を見下ろし続けています。街中にはカボチャやガイコツの飾りが溢れ、それらをじっと見つめ続けながらボソッとジルクニフは呟きました。

 

「……ハロウィンなんてクソ食らえ、だ。なんであんな奴らを崇めるようなイベントなど……」

 

「……魔導国、ですか? ……気持ちはわかりますが、あんなバケモノ相手にしちゃ命がいくつあってもどうしようもないですよ」

 

「……わかっている」

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国──属国化を決めたもののアンデッドは生者に対して憎しみを抱くものだという。いつ、その歯牙が帝国に向かうかわからない……ジルクニフは頭をかきむしりながら苦悩するのでした。

 

 ──いまいましい。なにがハロウィンだ──意味がない事はわかっているもののジルクニフにとってはアンデッドの祭りのようなハロウィンが恨めしく思えるのでした。

 

 気分転換に視点を空に向けたジルクニフは、雲の彼方に小さななにかを見つけました。

 

「まさか……な……」

 

 ジルクニフはついドラゴンの姿を思い浮かべてしまうのでした。──厳密には、ドラゴンの背中に乗った魔導国の三人の子供達の事を苦々しく思い出していました。

 

「へ、陛下! ありゃ……まずいですぜ?」

 

 バジウッドの言葉より先にジルクニフはその小さな姿がドラゴンであると確信していました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんはアウラの声で目覚めました。

 

「おはよーありんすちゃん。今日はハロウィンだよー」

 

 アウラは絵本に出てくる魔女の格好をしていました。その後ろのマーレはフランケンシュタインの怪物でしょうか?

 

「はろいん、でありんちゅか? 何でありんちゅ?」

 

 アウラは腕を組んで答えました。

 

「うーん……なんか、トリックオアトリートって言ってお菓子を貰うイベントらしいよ? ……あたしもよくわからないんだけど、仮装してイタズラしまくるお祭りなんだってさ。それって面白そうじゃん」

 

 ありんすちゃんは飛び起きました。瞳をキラキラさせています。ありんすちゃんはお菓子もイタズラも大好きですから。

 

 ありんすちゃんはアウラが用意してきたカボチャのお化けの衣装に着替えます。マーレは何故かずっと後ろを向いていました。

 

「で、どこに行こうか?」

 

 アウラはありんすちゃんに尋ねました。ありんすちゃんに思い浮かべられるのはそんなに多くはありません。

 

「帝国がよいでありんんちゅね」

 

「う、うん。それならボ、僕のドラゴンで……」

 

「決まった!早速出発しよう」

 

 かくして急遽、アウラ、マーレ、ありんすちゃんの三人はバハルス帝国に出かけるのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 帝国へはもう何回も来ているので慣れたものです。行き慣れたルートを通り、あっという間に帝国の上空に来ました。街並みはすっかりハロウィン一色で飾られており、三人の子供達を喜ばせました。

 

 手慣れた様子でマーレは帝国の王城のそばの広場にドラゴンを降ろします。以前に地震を起こさせた事を警戒してか兵士達は遠巻きにしています。

 

「トリックオアトリート! お菓子くれないとイタズラしちゃうよ!」

 

 アウラがマイクで叫びました。慌てたのは皇帝ジルクニフです。あの子供達のイタズラでまたしても多くの兵士を失うだろう事は明白です。なんとしても防がなくてはなりません。

 

「お菓子だ! 王宮のあらゆるお菓子をありったけかき集めて運び出せ!」

 

 兵士達もまだ先日の惨劇を忘れていませんから必死になって働き、広場にあっという間にお菓子の山が出来ました。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国の方々! どうぞお召し上がり下さい!」

 

 ジルクニフは皇帝の威厳すらかなぐり捨ててドラゴンに向かい平伏しました。バジウッドら配下もならいます。

 

「わかった! それじゃあ──」

 

 ニコニコした三人の子供達が拍手をします。それを見て安堵したジルクニフの笑顔が次の瞬間に凍りつきました。

 

「じゃあ、お礼に──マーレ!」

 

 フランケンシュタインの怪物の仮装をしたダークエルフが黒い杖を振り上げました。

 

「な、なんでー!?」

 

 折から起こる凄まじい地響きにジルクニフの絶叫はまたしてもかき消されてしまうのでした。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

【挿絵表示】

 

 



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053番外編 ジルクニフのクリスマス

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは苦々しい思いで城下を見下ろしました。帝国では折から街中にクリスマスソングが流れていて、まさにクリスマス一色でした。

 

「陛下、クリスマスは嫌いでしたっけ?」

 

 帝国四騎士の一人、“雷光”バジウッド・ペシュメルがおどけるように声をかけました。ジルクニフはそんなバジウッドに気がつかないかのように城下を見下ろし続けています。街中にはクリスマスのイルミネーションが溢れ、それらをじっと見つめ続けながらボソッとジルクニフは呟くのでした。

 

「……クリスマスなんてクソ食らえ、だ。なにがサンタクロースだ。なにがクリスマスプレゼントだ……」

 

「……お悩みは魔導国、ですか? ……気持ちはわかりますが、あんなバケモノ相手にしちゃ命がいくつあってもどうしようもないですよ」

 

「……わかっている」

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国──属国化を決めたもののアンデッドは生者に対して憎しみを抱くものだという。いつ、その歯牙が帝国に向かうかわからない……ジルクニフは頭をかきむしりながら苦悩するのでした。

 

 ──いまいましい。なにがクリスマスだ──ジルクニフはついこの間のハロウィンに起きた惨劇を忌々しく思い出していました。

 

(来る。……きっと奴らはやって来る)

 

 ジルクニフには確信がありました。こういう一般的には幸福の象徴ともいえるイベントを悲惨なものに変えてしまう悪魔のような子供達──双子のダークエルフと舌足らずな女の子──が乗ったドラゴンが今にも現れてくる気がするのでした。

 

(……既に四回だ……二度ある事は三度あるとはいうが、もう四回だ……)

 

 頭をかきむしりながらジルクニフは苦悩します。そしてこの苦悩から解放される事は恐らくないだろう、と確信するのでした。

 

「どうだ? ドラゴンはまだ見えないか?」

 

 ジルクニフのせっかちな叫びに物見の兵士は大きくかぶりを振ります。いち早く彼らの訪問を見つけた所で打つ手はありません。だが、このまま何もせずに手を拱いて蹂躙を待つのは癪だったのでした。

 

(今日はクリスマス・イヴ。彼らはきっとやって来る。ニコニコと満面の笑みを浮かべながら……これも全てあの忌々しい魔導王の差金だろう)

 

 夕方になってもドラゴンはやって来ませんでした。しかしながらジルクニフの心は穏やかではありません。いつ来るともわからない恐怖に心はすっかり憔悴していくのでした。

 

 イライラする気持ちをメイド達にぶつけて自己嫌悪に陥ったり、沈みゆく夕日を眺めながら訳わからず涙ぐんだり、それでもドラゴンはやって来ませんでした。こんなに苦しい思いをするならばいっそのことドラゴンに現れて欲しいとすら思ってしまう程、ジルクニフは追い詰められていくのでした。

 

「……来ませんね? ……ドラゴン」

 

 バジウッドが気の抜けた声を出しました。ジルクニフはそんなバジウッドを忌々しく思いながら吐き捨てるように「わかっておる」と答えます。

 

 どうやら今日災難が訪れる事は無いかもしれない。だが──ジルクニフはまざまざとアインズ・ウール・ゴウン魔導王が嘲笑う様を幻視するのでした。

 

(まだ、安心は、出来ない……今日はあくまでもクリスマスイブ。本番はクリスマスの明日かもしれないな)

 

 夜になりました。

 

「陛下。及ばずながら警護しますから、そろそろお休み下さい」

 

 バジウッドの進言を聞き入れてベッドに横たわってみたものの、ジルクニフの五感は敏感に研ぎ澄まされたままでした。

 

 イライラしながら部屋を歩き回ってみても当然不安は収まる筈はなく、扉の向こうから漏れ聞こえてくる脳天気ないびきを聞くにつけてジルクニフの感情はもはや爆発しそうでした。

 

 と、不意に甘い香りがしたと思った瞬間、ジルクニフは気が遠くなりました。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 翌日の昼過ぎにようやくジルクニフは目を覚ましました。枕元に大きな靴下が飾ってあり、中になにか入っています。

 

 そっと覗き込むと靴下の中にカツラと頭皮を叩くマッサージブラシとクリスマスカード──メリークリスマス~アインズ・ウール・ゴウン魔導国~と書かれていた──が入っていました。

 

 サンタクロース? いや……間違いない。あの魔導国の子供達の仕業に間違いありません。ジルクニフは思いました。

 

 ──これはアインズからのメッセージなのだ──

 

 かつてジルクニフはイジャニーヤによる魔導王暗殺の可能性を臣下に聞いてみた事がありました。それをアインズは知っていたのでしょう。

 

 きっと、アインズはバハルス帝国皇帝たるジルクニフの生命を奪う事は簡単に出来るのだぞ? という無言のメッセージを靴下に託したのだ、と……ジルクニフは心の底から戦慄するのでした。

 



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054ありんすちゃんサンタクロースになる

 ありんすちゃんがお昼寝をしているとアウラとマーレがやって来ました。

 

「やほー。ありんすちゃん、クリスマスって知ってる?」

 

「くるします? でありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんは誰かの首を絞めるのかな? と首を傾げます。

 

「ち、ちがうよ……クリ、クリスマスだよ」

 

 マーレが持っていた絵本──クリスマスのまえのよる──を広げて綺麗な挿絵をありんすちゃんに見せました。

 

 赤い服のふとっちょなお爺さんがトナカイのそりに乗ってプレゼントを配っています。雪が降っている街中は綺麗に飾り付けられていました。

 

「綺麗……」

 

 ありんすちゃんは飾り付けられたモミの木の挿絵に見とれます。この絵本を眺めているとなんだかワクワクしてくるのでした。

 

 エヘン、と咳払いをしてアウラが口を開きます。

 

「この太った老人はサンタクロースっていってクリスマスイブの夜に子供達にプレゼントを配るんだってさ」

 

 ありんすちゃんは瞳をキラキラさせました。

 

「じゃあ、サンチャクロスをやっつけてプレゼント奪うんでありんちゅね?」

 

 ありんすちゃんは手をグルグル回してやる気満々です。

 

「ち、ちがうよ……ありんすちゃん」

 

 マーレが慌ててありんすちゃんを止めます。不思議そうなありんすちゃんにアウラが言葉を続けました。

 

「うーん……それも面白そうだけど、今回はあたし達がサンタクロースになろうかってね」

 

 アウラはそう言うと赤いサンタクロースの衣装を取り出しました。ありんすちゃんは大喜びです。

 

 ありんすちゃんとマーレは可愛らしいミニスカサンタさん、アウラはトナカイです。みんなとても似合っていますよ。

 

 アウラは既にプレゼントも用意していました。アインズ様に相談したら大喜びでいろいろ用意してくれたそうです。

 

 絵本ではトナカイのそりに乗って煙突から家の中に入るみたいでしたが、ありんすちゃんたちはゲートの魔法で室内に入って、アウラのスキルで眠らせてしまいますから完璧です。みんなきっと、朝に覚めてプレゼントを見つけて大喜びする事でしょう。

 

 小さなサンタクロース達は始めにカルネ村に行きました。ゲートでカルネ村に姿を現したありんすちゃん達は、気配を消したアウラのスキルによって村人達をすべて眠らせてしまいます。

 

 それから担いできた袋からプレゼントを取り出しました。エンリには安産のお守り──中には二十丸に線が書かれた紙が入っていただけでした──、ンフィーにはユンケルという名前のポーション、ネムには木彫りの熊さんです。

 

「……あれ? ハダカだねー」

 

「……は、裸で、な、何をしているのかな? ……ぼ、僕わからな……」

 

「子供を作ってるんでありんちゅね」

 

 エヘン、とありんすちゃんは胸を張ります。

 

「ありゃー……このゴブリン達は覗き見しているみたいだねー」

 

「ぴーぴんでありんちゅよ」

 

 エンリ、ンフィー、そして別の家で寝ていたネムにプレゼントを配り終えると他の村人とゴブリンの為に大きな七面鳥とケーキを集会場に置いていきました。

 

 これでカルネ村での任務は完了です。

 

 次は帝国の皇帝です。ありんすちゃんはあらかじめ第五階層の氷づけの死体の中から見つけてきたカツラと、アインズ様から渡された頭皮マッサージブラシを持って行きます。小さなサンタクロース達はゲートで直接帝国の王城内に転移していきました。

 

 ここでもアウラがスキルを使ってみんなを眠らせます。

 

「皇帝だねー」

 

「落書きしたいでありんちゅね」

 

「だ、ダメだよ……ぼ、僕はやめた方が……」

 

「──眼がみっちゅになったでありんちゅね」

 

 目が覚めたらジルクニフ皇帝は大喜びする事でしょう。ありんすちゃん、良い事をしましたね。

 

 メリークリスマス!

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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055ありんすちゃんいなくなる

 さてさて、今日のありんすちゃんの様子を見てみましょう。この時間だといつものように第一階層から第三階層の見回りをしている事でしょう。

 

 おや? ありんすちゃんが飛び出していきます。大声でワンワン泣きながら外に行ってしまいました。いったい何があったのでしょう?

 

 第一階層には取り残されたシモベ達が呆然としています。もしかしたらプレイアデスの誰かに意地悪でもされたのでしょうか?

 

 そういえば原作でシャルティアはルプスレギナから『残念美少女の男胸さん』だの『ペタン血鬼』だのと陰口を言われていましたが……『プレイアデスな日』ではユリとシズが通りすがりに『階層守護者のボディに一発きつい物をお見舞い』していたりとシャルティアの扱いが可哀相なんですよね……

 

 ……なにがあったのかわかりませんが、ありんすちゃんはいなくなってしまいました。

 

 ありんすちゃんがいなくなってしまいましたので『ふしぎのくにのありんすちゃん』はどうやらこれでお終いになりそうです。今までご愛顧下さいましてありがとうございました。ありんすちゃんに代わってお礼申し上げます。

 

 いざ終わるとなるといろいろと心残りが出てくるもので、もっとありんすちゃんを活躍する話を書けば良かったとか、ありんすちゃんの魅力をもっと出せたら良かったと等の反省が出てくるものですね。

 

「あれ? ありんすちゃん、いないねー?」

 

 どうやらアウラがありんすちゃんの姿が無い事に気がついたみたいです。

 

「まあ、夕方になったら戻ってくるかなー、たぶん」

 

「……も、戻ってこなかったらどうしよう?」

 

 平然とした様子のアウラに対してマーレは不安なようです。

 

「──おやおや? ありんすちゃん家出っすか? しょうがないおチビさんっすね」

 

「ほっとけばぁ?」

 

 今度はルプスレギナとエントマもやって来ました。なんだか段々大事になってきてしまいましたね。これではアインズ様の耳に入るのも時間の問題ですね。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「──なんだって!」

 

 執務室でありんすちゃん失踪の話を聞いたアインズは思わず叫びました。瞬間的にかつてシャルティアが洗脳された一件が思いおこされましたが、直ぐに思い直すのでした。

 

(……まあ、ナザリック内で洗脳されるなど起こり得ないだろう。元はシャルティアとはいえありんすちゃんは所詮、幼児に過ぎないから何か気に食わない事があったのかもしれない。……こんな事ならば普段からもう少し気を配っておけば良かったかな……)

 

「アインズ様、すでに姉の二グレドに行方を探させておきました」

 

「……うむ」

 

 二グレドの魔法を使えばありんすちゃんの居場所はすぐに判明する事でしょう。

 

「ありんすちゃんは現在トブの大森林を移動中で、監視の為にシモベを何体かつけております。……いかがなさいますか?」

 

(このまますぐに連れ戻すのは容易いだろう。しかし少しそっとしてあげた方が良いかもしれないな)

 

「わかった。しばらくそっと見守っておくように。……連れ戻す時は私自ら行くとしよう」

 

 アルベドは了解すると執務室を出ていきました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「絶対に許さないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはプンスカしながら走っていました。絶対に帰るもんか、謝られても許さない、固く結んだ口元にありんすちゃんの強い意志が現れています。

 

 この様子だと当面ありんすちゃんは戻ってきそうにありませんね。

 

 ところで……ありんすちゃんが戻らないので『ふしぎのくにのありんすちゃん』はこれで本当にお終いかもしれません。もしくはアインズが主役で『ふしぎのくにのアインズ』が始まるかもしれません。

 

 ありんすちゃんが無事にナザリックに戻ってきてくれる事を願うとしましょう。

 

 たくさん泣いて、スッキリしたら何食わない顔できっと戻ってくるでしょう。何といってもありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから。

 



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056番外編 ふしぎのくにのアインズちゃん

 唐突ではありますが、ある朝アインズが目覚めると5歳児位の女の子になっていました。

 

 そもそもアインズはアンデッドであり、睡眠を必要としません。ですからいつものようにアインズ番のメイドに注視されながら、ベッドに横たわり『部下に信頼される上司とは』等のタイトルのハウツー本を読みふけっていた筈なのですが……どうやらいつの間にか眠ってしまい、目覚めたらそうなっていたのでした。

 

「おはようございます。アインズ様」

 

 アインズ番の一般メイドのインクリメントが声をかけてきました。

 

「……うむ」

 

 アインズはそっと枕元に手を入れてみました。大丈夫、『部下に信頼される上司とは』はまさしくそこにありました。どうやら眠りかけた時にとっさにしまったようでした。

 

 アインズはさり気なくボックスにハウツー本をしまい、小難しい本『古代ヨーロッパにおける地政学的分析と検証』を枕元にしまいました。次にベッドから降りようとしましたが、背がかなり小さくなっていて足が届きません。インクリメントは慣れた様子でアインズの足元に踏み台を置きます。

 

「……コホン……うむ、ご苦労」

 

 アインズはチラチラとメイドの表情を伺いましたが、特に変化は見られませんでした。どうやらアインズが小さくなっている事を変だとは思っていないようでした。

 

「……衣装は任せる」

 

 途端にインクリメントの瞳が妖しく光り始めます。アインズは心の中で(ああ、お前もか)と小さな溜め息をつきました。

 

「アインズ様。本日は紫をテーマにしてみては如何でしょうか? ……何でも昔から高貴な色とされてきているそうでしてアインズ様の御身を飾るのに相応しいかと……」

 

 鏡を見たアインズは深く溜め息をつくのでした。アインズの衣装はいわゆるゴシックロリータでまとめられていて、まるでビスクドールのようでした。それでいて顔はガイコツなのですから違和感があり過ぎました。

 

(……似合うのか? これ)

 

 アインズの心の声とは裏腹に居並ぶ一般メイド達からは賞賛の声ばかりが聞こえてきました。

 

 やれ「実にお美しい……白玉の肌に紫の映える事」「まさに王者としての威厳そのもの」 お尻がむずかゆくなる思いをしながらアインズは「うむ……ご苦労」とねぎらう事で精一杯でした。

 

 少しずつ落ち着いてきたアインズはふと不思議な感覚があるのに気がつきました。それは自分自身が『女の子』になってしまったという感覚があって、少女趣味な服装をする事に抵抗感が全くないことでした。

 

 もともとガイコツである自身の身体には性別を示す性器などないので性別の違いなど大してなさそうなものですが明らかに『女の子』であると感じるのです。法医学的に見れば骨盤の形状から男女の区別がつくのでしょうが……アインズはふと5歳児位の女の子になったシャルティアの事を思い出すのでした。

 

 アインズの記憶ではたしかシャルティア──ありんすちゃん──がナザリックを飛び出した後から記憶がありません。そしていきなりアインズは女の子として目覚めたのでした。

 

「……うむむ……これはいったい?」

 

 アインズは控えている一般メイドに尋ねました。

 

「……インクリメントよ。私はいつからこの身体なのか?」

 

 インクリメントは最初のうちは意味がわからないという顔をしていましたが、ようやくアインズの意図を理解すると答えました。

 

 今ひとつ要領を得ないインクリメントの話をまとめると、どうやら『この世界』のアインズはシャルティアの洗脳を解く為に『星に願いを』を発動させるが失敗してしまい、あろうことか少女化してしまったらしいのでした。

 

「……なん……だ……と……それではシャルティアは? ……シャルティアの洗脳はどうなった?」

 

「おそれながら……シャルティア様はいまだあのまま……」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「……なんだこれは? ……なんなんだ?」

 

 表情はわからないがアインズ様はかなりお怒りのようでした。私は心底震えました。

 

「……つまり、ありんすちゃんのかわりに私が少女になる、と? ……くだらん! だからお前はいつまでたっても評価が黄色止まりなのだ」

 

「も、申し訳ありません」

 

 私はアインズ様の足元に土下座しました。いっそのことアインズ様の靴でも舐めてしまおうかと思いましたが止めておきました。

 

「そもそも……だ。お前は単なる二次作者に過ぎん。しかも読者も少ない作品だ。……なんというタイトルだったかな?」

 

「『ふしぎのくにのありんすちゃん』にございます」

 

「その『ふしぎのくにのありんすちゃん』だがな……私の出番が少な過ぎではないか? 読者もそう感じていると思うぞ?」

 

「わたくしの出番も少ないように思います」

 

 横からアルベドも口をはさみました。

 

「おそれながら魔導王陛下、主役はありんすちゃんでございまして……」

 

「なんという事を! ……おのれアインズ様の御前で……」

 

「よい。アルベド。……そもそもありんすちゃんをナザリックから飛び出していかせたのは作者であるお前自身ではないか。……それならばその責任は私が少女化する事ではなくお前自身がとらなくてはならないのではないのか?」

 

「……そうでありんちゅ」

 

 私は眼窩の奥で暗く光る赤い光りに射すくめられて言葉を返せませんでした。思い返せばただ『プレイアデスの日』を読みたいが故にオーバーロードの二次小説を書き始めただけだったのにこんな事になるとは……

 

「餓食狐蟲王の所に連れて行け」

 

 アインズは冷たく言い放つと玉座から立ち上がりました。私は目の前が真っ暗になり、力なく跪くのでした。まさに絶体絶命──

 

「まちゅでありんちゅ」

 

 その時まさに天使の声が聞こえてきたのでした。

 

 いつの間にかありんすちゃんがアインズの側に立っていました。ありんすちゃんは思慮深い瞳で私をじっと見つめていました。

 

「アインズちゃま、この者はさくちゃでありんちゅから助けてほちいでありんちゅ」

 

 今度はアインズの瞳をじっと見つめました。純真無垢な瞳がゆっくりアインズの怒りを溶かしていきます。

 

「……うむ、善太夫の処分はありんすちゃんに委ねるとしよう……それにしても何時戻ったのかね?」

 

「おやつが食べたくなって帰ってきたでありんちゅよ」

 

 しっかりしているようですがやはりありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですよね。アインズは思わず破顔しました。

 

「さて……がちょくこちゅおうのお家になりたくなかったら、ありんちゅちゃんの言う事きくでありんちゅね」

 

 私は力強く頷きました。

 

「……まずは……もっと更新するでありんちゅね。それからもっと面白くするでありんちゅね。ありんちゅちゃんがもっともっと活躍するでありんちゅね……」

 

 ありんすちゃんの要求を聞きながら私は思わず叫んでいました。

 

「すみません。餓食狐蟲王の所へ連れて行って下さい」

 

 

〈ふしぎのくにのアインズちゃん おわり〉

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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057ありんすちゃんのあかずきん

 第六階層のコロッセウムには戦闘メイドのルプスレギナ、ユリ、シズ、階層守護者のアウラが集まっていました。みんなありんすちゃんからの呼び出しを受けてきたのでしたが、何をするのか誰も知りませんでした。

 

 誰もが顔を見合わせながら戸惑っていると、ありんすちゃんがやって来ました。何か思いついたように得意気な表情を浮かべたありんすちゃんは唐突に口を開きました。

 

「あかずきんちゃんでありんちゅ」

 

 見るとありんすちゃんは真紅のフード付きのコートを着ていました。胸元に揺れるボンボンがとても可愛らしく似合っています。なるほど、ありんすちゃんはあかずきんちゃんになりきっている訳ですね。

 

 「フンス」と小鼻を膨らませて得意そうに胸を張るありんすちゃんでしたが、観衆達はただ戸惑うだけでした。

 

 ありんすちゃんはまたもや「あかずきんちゃんでありんちゅ」と胸を張りますが誰も喝采してくれません。

 

 仕方ありませんよね。そもそもナザリックの舞台では『あかずきんちゃん』はおろか『グリム童話』自体もほとんど知られていないのですから。

 

 ありんすちゃんは顔を真っ赤にして手にしていた一冊の絵本を投げ出します。その絵本は童話『あかずきんちゃん』でした。絵本の表紙の赤い頭巾の女の子を見てようやくなんとなくありんすちゃんの意図に気がついたアウラがありんすちゃんに尋ねました。

 

「ふーん。なんか前にマーレが読んでいたかも。……で、あたし達が集められたのと関係あるのかな?」

 

 ありんすちゃんは勢い良く叫びました。

 

「あかずきんちゃんの劇をするでありんちゅ!」

 

「えーー?」

 

 かくしてナザリック演劇部のあかずきんちゃん上演が決定されたのでした。

 

 まずは配役を決めます。主役のあかずきんちゃんはもちろんありんすちゃんです。

 

 ありんすちゃんは次々に役をふっていきました。ルプスレギナはオオカミ、お婆さんはユリ、猟師はシズです。

 

 最後にアウラが残ってしまいました。ありんすちゃんは一生懸命考えてようやく一つの役を思いつきました。

 

「アウアウはイジワルままははでありんちゅね」

 

「えーー? なにそれ? あたしの役おかしくない? ……イジワル継母って出てくるのは他の話じゃなかったっけ?」

 

「……良いんでありんちゅ!」

 

 アウラはすぐさま胸元の金のドングリでマーレを呼びます。

 

「……あれ? お姉ちゃん。どうかしたの?」

 

「マーレ、イジワル継母ってあかずきんちゃんの話に出てこないよねー?」

 

 状況が今ひとつわからないマーレの声は寝起きの様にボンヤリしていました。

 

「うーん……イジワル継母が出てくるのはシンデレラ、じゃないかな?」

 

 短くマーレに礼を告げてドングリの発動を切ると、アウラは勝ち誇った表情でありんすちゃんに詰め寄りました。

 

「ほーら? マーレに聞いたけど『あかずきんちゃん』には継母って出てこないよ?」

 

「……でてくるでんちゅ……でてくるでんちゅよ……うわーーん!」

 

 アウラに問い詰められてありんすちゃんは泣きながら飛び出して行ってしまいました。

 

 どうやらありんすちゃんがナザリックを飛び出していったのはこういう事情があったのですね。

 

 まあ、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから、それも仕方がありませんよね。

 

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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058ありんすちゃんのあかずきん ふたたび

 ありんすちゃんの隣にマーレ、前にはアウラ、ユリ、シズ、ルプスレギナが並んでいます。先日泣きながらナザリックを飛び出していったありんすちゃんは満面の笑みを浮かべていました。気まずそうな面もちのアウラとは対象的です。

 

「これからあかずきんちゃんの映画をさちゅえいするでありんちゅよ」

 

「えー。あの、ありんすちゃんはこれからあかずきんちゃんの映画を撮影したいみたいです」

 

 胸を張ったありんすちゃんの言葉をマーレが通訳します。ありんすちゃんは今日も真紅のフード付きのコートを着ていますから主役のあかずきんちゃんはありんすちゃんが演じるのでしょうね。

 

「まず、イジワルままははがアウアウでありんちゅ」

 

「えーー? あたしがイジワル継母って……そもそもあかずきんって話には継母は出てこな……」

 

 いけません。ありんすちゃんの顔がみるみる真っ赤になってきました。唇を尖らせていかにも不満げです。このままではまたもや前回と同様の事態が起きてしまいそうです。

 

「──しー! お、お姉ちゃん、ダメだって。アインズ様がありんすちゃんのわがままに付き合ってやれと……」

 

 ありんすちゃん脱走事件でいささかショックを受けたアインズは日頃からありんすちゃんと仲がよいアウラとマーレに諭していたのでした。とはいえ、アインズのショックは餓食狐蟲王と同衾させられた私に比べたら……ゲフンゲフン……いや、なんでもありません。

 

 アウラとマーレに代わる代わるおだてられたありんすちゃんは忽ち機嫌を戻しました。

 

 まあ、所詮はまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから仕方ありませんよね。

 

 結局、前回と同様にルプスレギナがオオカミ、ユリがお婆さん、シズが猟師となり、オオカミのルプスレギナは森であかずきんちゃんを待ち受ける事になりました。

 

「で、では、シーン1のあ、あかずきんちゃんがイジワル継母にイジメられるシーンから……い、いきます」

 

 監督兼カメラマンのマーレがカメラを回します。イジワル継母役のアウラが口汚くあかずきん役のありんすちゃんをイジメます。

 

「あんたってホントグズだよね? そんな事じゃしょうがないんじゃない? 少しは成長しないと……」

 

 アウラはなかなかの演技達者ですね。イジワル継母になりきってありんすちゃんをイジメる演技を続けます。なんだかありんすちゃんが可哀想に思えてきました。

 

 ……おや? ありんすちゃんの瞳が潤んできています。ありんすちゃんは今にも泣き出しそうです。ありんすちゃんもなかなかの演技力ですね。

 

 ──違いました。ありんすちゃんは演技ではなくて本当に泣き出してしまいました。ありんすちゃん、これはお芝居なんですって……ダメです。ありんすちゃんはまたもやワンワン泣きながら飛び出して行ってしまいました。

 

 仕方ありませんよね。なにしろありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

 結局、ありんすちゃんはその日は帰って来なかったらしいです。まあ、私はまたまた餓食狐蟲王の所で過ごした為、直接は知りませんが。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「んふふふ……完全不可視化で驚かせてやるっすよ。伊達にカルネ村で村人を驚かしまくってない所をバッチリ見せるっす。……あー早くありんすちゃん来ないっすかね」



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059ありんすちゃんのあかずきん みたび

 ありんすちゃんの隣にマーレ、前にはアウラ、ユリ、シズが並んでいます。先日泣きながらナザリックを飛び出していったありんすちゃんは満面の笑みを浮かべていました。まるで前回の事がなかったかのようですね。

 

「これから改めてあかずきんちゃんの映画をさちゅえいするでありんちゅよ」

 

 一列に並んだメンバーを眺めながらありんすちゃんは小首を傾げました。

 

「ルプーがいないでんちゅね……変わりにベスチョ……ワンワンにするでありんちゅ」

 

 あれ? ルプスレギナはどこかで……うーん……何か忘れているような……いよいよ改めて撮影開始です。

 

 前回の反省を生かして、今回はイジワル継母は無しになりました。お母さん? のアウラに挨拶してあかずきんのありんすちゃんが出かけます。

 

 この先の森でオオカミと出会う筈ですが……大変です! ありんすちゃんは綺麗な蝶々を追いかけて道をそれていっちゃいました。

 

 すかさずアウラが魔獣を呼んで監督兼助手兼カメラマンのマーレと一緒に追いかけます。

 

 ありんすちゃんはクルクルとまるで踊るような足取りで蝶々を追いかけます。きっと頭の中は蝶々の事で一杯でしょうね。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから。

 

 蝶々を追いかけている内にありんすちゃんは小さな小屋の前にやってきました。どうやらずいぶん近道をしてしまい、ありんすちゃんはオオカミに出会う事なく無事にお婆さんの家に着いてしまいました。

 

「……か、カット……」

 

「カートッ! ダメじゃん。ありんすちゃん、オオカミに会わなきゃあかずきんじゃないじゃん?」

 

 マーレを押しのけてアウラがダメ出しします。今更森に戻るのは面倒だ、という事で小屋の近くであかずきんとオオカミの出会いのシーンを撮ることにして、ベストーニャを呼び寄せる事にしました。

 

 さて、撮影再開です。オオカミがあかずきんに尋ねます。

 

「あかずきんちゃん、どこに行くのかな? ……わん」

 

「おばあちゃんのお見舞いいくでありんちゅ」

 

「森の向こうに綺麗なお花が一杯咲いていたから、摘んでいけばお婆さんが喜ぶと思いますよ」

 

「──『わん』を忘れているよ?』

 

「…………わん」

 

 助監督のアウラがとっさにベストーニャに指摘したので事なきを得たみたいですね。

 

 話はこの後ありんすちゃんがお花を摘んでいる間にオオカミがお婆さんを飲み込んでしまうシーンがあるのですが、ありんすちゃんが飽きてきた為端折る事になりました。

 

 ベッドでお婆さんのユリになりすましたオオカミのベストーニャが、やって来たあかずきんのありんすちゃんを招き入れます。

 

「おばあちゃん、お口が大きいでありんちゅね」

 

「お前を食べる為だよ! ……わん」

 

 ベストーニャの顔の継ぎ目が裂けて開きます。中からはうねうねと触手が伸びてきてありんすちゃんを捕まえようとします。

 

「…………ジャーン。猟師登場」

 

 突然扉を開けて入ってきたシズが両手の銃を構え、撃ち始めました。ベストーニャはありんすちゃんを食べる事が出来ずに倒れました。

 

「……か、カット……」

 

「カート! んー良いねえ! ……良い演技だったんじゃないかなぁ? お疲れ様」

 

 またしても自称助監督のアウラが仕切ります。まあ、何にせよ無事に撮影は終わりました。ありんすちゃん良かったですね。

 

 唯一残念だったのはカメラの中にフィルムを入れ忘れていた事でしたが……とりあえずめでたしめでたし。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「うーん……なかなかありんすちゃん来ないっすね……どんだけ待たせるんすかねっす……まさかこれが放置プレイってヤツっすか?」

 

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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060ありんすちゃんのおおそうじ

 年末です。ありんすちゃんは朝から張り切っています。顔にはマスク、頭にはバンダナでほっかむりしています。片手にはハタキ、もう片方の手にはチリトリを持っています。今日はこれから家の大そうじをするんですって。

 

 ありんすちゃんの住居はナザリック地下大墳墓の第二階層にある死蝋玄室という部屋なのですが……いくつもある部屋がいささか散らかっていました。あちこちに脱ぎ散らかした服や食べかけのお菓子やオモチャが散らばっているのです。

 

 今日はこの散らかった部屋を綺麗に片づけてしまおう、と気合いを入れているのでした。

 

「やほー。ありんすちゃん、なんかスゴいね? ……もしかして大そうじなの?」

 

 唐突にアウラがやってきました。

 

「年末でありんちゅから大そうじするでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは胸を張って答えます。

 

「……ふーん。あっそ。……そういえばあたし、ルプスレギナを探しに来たんだけど、ありんすちゃんは見なかった?」

 

 ありんすちゃんは首を傾げます。

 

「……ルプーでありんちゅか? ……見ないでありんちゅね」

 

 うーん……何だか大切な事を忘れているような気もしますが……気のせいでしょう。多分。

 

「……ま、いっか。どうせどこかで遊んでいるんでしょ。……ありんすちゃんは大そうじ頑張って」

 

「……アウアウは大そうじしないでありんちゅか?」

 

「うーん……あたしんとこはいつも綺麗にしているからね。大そうじなんて必要ないかな」

 

 アウラが立ち去った後、ありんすちゃんの鼻息が荒くなったみたいです。どうやらアウラが大そうじをしない事で変な優越感が生まれてきたみたいです。

 

「張り切って大そうじでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは積み上げられた衣類の山を片付け始めました。片方だけの可愛らしいカラフルなハイソックスを引っ張り出します。ありんすちゃんのお気に入りだったので、また、片方だけ見つかった時の為に取っておいたのでした。

 

「うーん……これは捨てられないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃん、捨てないと結局片付かないと思いますよ?

 

 結局ありんすちゃんは衣類の山を右から左に移動させただけでした。

 

 ありんすちゃんは次に絵本やマンガが散らばった所を片付け始めました。

 

「おもちろいでありんちゅね」

 

 おやおや? ありんすちゃんたら、ベッドに寝そべってマンガを読み出してしまいました。これでは大そうじは進みませんね。

 

 どうやらありんすちゃんが眺めているマンガは丸山こがね原作 深山フジン作の『オーバードーロ』みたいですね。なかでも吸血鬼ティルシャアがブラインをやっつけるシーンがお気に入りみたいで、何度も何度もページを戻して読んでいます。

 

「ブライン、泣いているでありんちゅね」

 

 こんな事でありんすちゃんは大そうじ出来るのでしょうか? 少し心配になってきました。

 

 で、結局ありんすちゃんの大そうじは終わりませんでした。あれからマンガを読みふけっているうちにいつの間にか眠ってしまいましたので。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子ですからね。

 



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061ありんすちゃんおとしだまをあげる

 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは苦々しい思いで城下を見下ろしました。帝国では折から新年を祝う民に溢れていてまさにお祝い一色になっていました。

 

「陛下、新年早々に苦虫を噛んだような顔ですが……そんなんだと幸運を逃がしますぜ?」

 

 帝国四騎士の一人、“雷光”バジウッド・ペシュメルがおどけるように声をかけました。ジルクニフはそんなバジウッドに気がつかない振りを続けるのでした。

 

 新年です。昨年に魔導王国の領国になると申し出てからまだ具体的な動きはありません。しかしながら臣下として年始の魔導王国詣ではしなくてはならないでしょう。その際にきっと無理難題を押し付けてくるに決まっているのです。そう考えていました。

 

 街中の民はそんな皇帝の苦しみを全く知らずに新年を祝っているのです。それがジルクニフにとって腹立たしくもあったのでした。

 

「こんな話をしていると、また来ませんかね? あのドラゴンが……」

 

 バジウッドののんびりとした発言にジルクニフの胃がキリキリと痛みすのでした。

 

(来る……きっと来る……忘れていたのではない。思い出したくなかったのだ。魔導王国の子供達が新年早々やってくるに違いない)

 

「……あ? ありゃ……陛下、まずい。ドラゴンが来ますぜ」

 

 ジルクニフは固く目を閉じました。こうなってしまえば次の展開は見えています。あの、たどたどしい話し方の少女が『ありんすちゃん当てゲーム』を持ちかけます。正解しても不正解でも連れの双子のダークエルフの一人が地震を起こして兵士を飲み込ませます。これの繰り返しです。

 

 やがて広場にドラゴンが降り立ちました。いつぞやの白い太めで眼鏡をしたドラゴンです。背中にはやはり三人の小さな影が見えました。間違いありません。きっとあの恐るべき魔導王国の子供達です。

 

「皇帝、いるでありんちゅか?出て来るでありんちゅ」

 

 女の子が口を開きます。きっと次のセリフは『誰がありんちゅちゃんか当てるでありんちゅよ』だろうとジルクニフは思いました。

 

「……初詣でありんちゅからカツラを取った頭みちぇるでありんちゅ」

 

 ジルクニフの顔がみるみるうちに朱色に染まりました。なんという屈辱でしょう。大勢の民の目の前で恥ずかしい秘密を大声で叫ぶなんて……それもまがりなりにも皇帝である自分に対して、です。

 

 しかしながら、ジルクニフに拒否する事は出来ませんでした。ゆっくりとカツラを外すとチョロチョロとした毛だらけとなった寂しい頭を窓から突き出しました。

 

 だって仕方ありませんよね? 彼の髪がドンドン抜けてしまったのも、全てはあの忌々しい魔導王国のアインズのせいなのですから。

 

 充分にジルクニフの『初日の出』を堪能した子供達が叫びました。

 

「それじゃあ、皇帝にあたしたちからお年玉だよ? ……マーレ!」

 

 ドラゴンから黒い杖を持ったダークエルフが降りました。きっと魔法で何か禍々しいモノを降らすつもりです。ジルクニフは空を見上げました。もしかしたら隕石でも降って来るかもしれない……と思っていた瞬間──

 

 凄まじい地響きがしてまたもや地震が起きました。

 

「……どこがお年玉なんだよ? ……やーーめーーてーー!」

 

 ジルクニフの悲痛な叫びは地響きに消されて届く事はありませんでした。



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062番外編 名探偵ありんすちゃんと消えたルプー

 今日もありんすちゃんは二人のヴァンパイア・プライドに連れられて階層の見回りをしていました。

 

 ふと、外の様子が気になって地上に出てみるとログハウスに戦闘メイド達が集まっていました。

 

「どうちたでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんの問いかけにユリが答えました。

 

「あ、ありんすちゃん。……実はログハウス当番なのにルプスレギナが来ないんですよ。どこかで見ませんでした?」

 

 ありんすちゃんは口元に人差し指を当てて小首を傾げます。ちなみに45°よりちょっと狭い43°位に傾けるのが一番ありんすちゃんの魅力をアピールする角度なんですって。

 

「わかりまちた。名探偵ありんちゅちゃんにまかせるでありんちゅ」

 

 久しぶりに名探偵ありんすちゃんの出番がやって来ました。ありんすちゃん良かったですね。

 

 ありんすちゃんは目をつぶり考えます。きっとありんすちゃんの灰色の脳細胞が今まさに事件を解決しようとしているのに違いありません。

 

 ぐ~ぐ~~……

 

 突然ありんすちゃんのお腹が鳴りました。

 

「お腹へったからお昼にするでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはさっさと食堂に向かうのでした。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 食事を終えて満足そうなありんすちゃんにユリが尋ねました。

 

「……で、ルプスレギナの居場所は……?」

 

 ユリ以外の戦闘メイド達は業務に戻ったらしく、姿がありませんでした。ありんすちゃんはユリを連れて屍鑞玄室に来ました。そこには既にヴァンパイア・プライド達が待ち構えていてありんすちゃんをパジャマに着替えさせました。

 

「食べた後はお昼寝するでありんちゅ」

 

 スヤスヤと寝息をたてはじめたありんすちゃんを眺めながらユリはただただため息をつくのでした。

 

(こんな時に、せめて末妹の手が借りれたら……)

 

 ユリは唇を噛みました。末妹ならばたちどころにルプスレギナの居場所を見つけられる事でしょう。しかし、末妹の力を借りる為にはルプスレギナがいない事をアインズ様に報告しなくてはなりません。今の段階ではそこまで大事にしたくない、それがプレアデスの総意でした。

 

 焦るユリの気持ちが伝わったのか、パチリとありんすちゃんが目を開きました。そしてムクリと起き上がりました。

 

「……おちっこ」

 

 トコトコと部屋から出ていくありんすちゃんの姿を見送りながら、ユリはまたもやため息をつくのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんに連れられてユリは第六階層にやって来ました。ありんすちゃんの推理では『犯人はアウラ』だそうです。

 

「……えー! 知らないよ? あたしは関係無いんだけど」

 

 アウラは自らの疑惑を否定しました。これで捜査は振り出しみたいですね。

 

「……うーん。ルプーはあかずきんちゃんの時はいたでありんちゅから……」

 

 あれ? ありんすちゃん、赤ずきんの撮影でルプスレギナがいなくてペストーリャに代役を頼んだのではありませんでしたっけ?

 

「あ、そういえば……うーん。でも違うかな?」

 

 アウラが何か思い出したみたいです。

 

「先週位から森のあたりになにやら出るらしい、というような事をシモベ達の間であったような、なかったような……」

 

 名探偵の瞳が光りました。

 

「それでありんちゅ。きっとルプーのお化けでありんちゅ」

 

 早速、ありんすちゃん、アウラ、ユリの三人は森に向かうのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 森に着くと声が聞こえてきました。

 

「あかずきんちゃん……遅いっすよ……どんだけ……待たせるんすか……」

 

「ルプスレギナ? 貴女なの?」

 

 ユリが辺りを見回しますが、ルプスレギナの姿はありません。

 

「……ルプーはいないでありんちゅね。残念でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんが重々しく断言しました。アウラも同意します。

 

「残念だったねー。このままずっと見つからないかも、だねー」

 

「ちょ、ちょと待つっすよ……」

 

 ありんすちゃんが不意に振り向きました。ルプスレギナは驚いて不可視を解いて姿を現しました。

 

「ルプー見つけたでありんちゅ」

 

 またまた名探偵ありんすちゃん、大活躍ですね。ルプスレギナも良かったですね。

 

 めでたしめでたし。



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063ありんすちゃんスカウトされる

 ありんすちゃんはエ・ランテルの街を歩いていました。と、角を急に曲がったところで女の人とぶつかりそうになりました。

 

「あっぶないなー」

 

 黒いマントの女は紫の瞳でありんすちゃんをまじまじと見つめると少し驚いたみたいでした。

 

「んー。なんか強い魔力を感じるなー。もしかしてただものじゃないのかな?」

 

「ありんちゅちゃんでありんちゅ。タダじゃないでありんちゅ」

 

「ふーん。まいっか。ありんちゅちゃん、ズーラーノーンに入んない?」

 

「ズラロン? でありんちゅか? おもちろちょうでありんちゅね……いいでありんちゅ」

 

 なんと……ありんすちゃんは初対面の怪しい女に誘われて、ズーラーノーンに入っちゃいました。大丈夫でしょうか?

 

「ところでズラロンはおいちいでありんちゅか?」

 

 うーん……どうやらありんすちゃんはズーラーノーンをお菓子かなにかと勘違いしているみたいですね。本当に大丈夫でしょうか?

 

「……うーん……まあ、おいしいっていうより色々良い思いは出来るかなー? そのうちに盟主にも会えるよー。結構凄いからねーその人ー」

 

 女はありんすちゃんの手を引っ張って走り出しました。ありんすちゃんはどこに連れていかれてしまうのでしょう。ナザリックに学校があったら『知らない人についていってはいけません』と教わる事が出来たでしょうが……

 

 と、突然女が立ち止まりました。顔面が蒼白で、手が震えています。ありんすちゃんは女を見上げました。

 

「どうちたでありんちゅか?」

 

「しー……静かに。あいつ……モモンだ」

 

 見ると冒険者仲間と話をしているモモン──アインズの代わりにパンドラズ・アクターでしたが──がいました。どうやら女はモモンに酷く怯えているみたいでした。

 

「……あいつに私、一度殺されたから……あいつの正体はアンデッドなんだ」

 

 ありんすちゃんは目を丸くしました。なんという事でしょう?パンドラズ・アクターは本当はアンデッドとは知りませんでした。するとドッペンゲルガーはアンデッドなのかもしれませんね。

 

 しばらくするとモモンと冒険者は別れ、モモンは馬車に乗って去りました。

 

 女は深くため息をつくとまたありんすちゃんの手を引いて走り出しました。

 

 そうこうしてありんすちゃんは女──名前はクレマンティーヌと名乗りました──と一緒にズーラーノーンの秘密施設の一つに着きました。

 

 このままありんすちゃんはズーラーノーンの幹部になってしまうのでしょうか? それも仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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064ありんすちゃんモモンをみはる

 前回のあらすじ

 

 お腹が減っていたクレマンティーヌ改に吉備団子をあげたありんすちゃんはお礼に竜宮城に連れていってもらう。そこで秘密組織ズーラーノーンの存在を知ったありんすちゃんはアインズの特命を受けて潜入する。そんなありんすちゃんにクレマンティーヌ改はアダマンタイト級冒険者モモンの正体がアンデッドだという驚愕の事実を打ち明けるのだった。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんのズーラーノーンの一員としての初仕事は『冒険者モモンを監視して弱味を見つけよ』でした。ありんすちゃんは張り切っていますよ。

 

 え? あらすじが滅茶苦茶ですって? 申し訳ありません。ありんすちゃんがどうしてもそう書けと言うので仕方ないのでして……

 

 改めて……今日のありんすちゃんは朝から張り切っていました。鹿撃ち帽を被りマントを羽織ってまさに気分はシャーロック・ホームズですね。ありんすちゃんは何でもよく似合っちゃいます。

 

 エ・ランテルの街でこっそりモモンが現れるのを待ちます。

 

 やがてモモンが姿を見せました。どうやらナーベと一緒みたいですね。

 

「ギリギリギリ……」

 

 モモンとナーベは何やら親密そうに話をしています。ありんすちゃんはこのモモンが実はパンドラズ・アクターだと知っています。もちろん『美姫ナーベ』が戦闘メイドのナーベラル・ガンマだという事も知っています。

 

「ギリギリギリ……」

 

 パンドラズ・モモンは派手な仕種でナーベをエスコートしながら馬車に乗り込みました。

 

「ギリギリギリ……」

 

 ありんすちゃんはさっきから聞こえてくる音に気がつきました。よく見ると変なお面をつけた女の子がモモン達が乗り込んだ馬車を見つめていました。どうやらその女の子が歯ぎしりをしていたみたいですね。

 

 どこかで見たような気もしますが、気のせいでしょう。ありんすちゃんにそんな変な知り合いはいないのでした。多分。

 

 ありんすちゃんは馬車を追いかけました。すると仮面の女の子も馬車を追いかけているのに気がつきました。モモン達の馬車を仮面の女の子が追い、さらにありんすちゃんが追いかける、という図が出来上がりました。

 

 モモンは冒険者組合でナーベと別れ、別の冒険者と馬車に乗り込みました。ありんすちゃんは馬車を追いかけているのにだんだん飽きてきてしまいました。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんは5歳児位の女の子ですから。

 

 見ると仮面の女の子はモモンを観察しながら何やらメモを取っているみたいです。もしかしたらありんすちゃんと同じようにズーラーノーンの指令でモモンを見張っているのかもしれません。

 

 突然ありんすちゃんは閃きました。眷属の小さなコウモリを呼ぶと仮面の女の子を見張らせて、自分はナザリックに帰っていきました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 モモンの馬車を追いかけながらイビルアイはいろいろ考えていました。一目モモンの姿を見届けたいという思いでエ・ランテルに来てしまったが、いざモモンを目の当たりにすると声をかける事が出来ないでいたのでした。

 

「……うむ。や、やあ、モモン殿。息災であるか? ……これじゃダメだな。……うーん……も、モモン様。私を覚えていますか? 貴方のイビルアイです。……これは柄じゃないな……うーん」

 

 イビルアイはモモンの後を追いながら声をかけるタイミングを見計らっていたのでしたが、肝心のセリフが決まりません。あれこれとメモしてみますが実際に言葉にしてみると恥ずかしいものばかりなのでした。

 

「まさか、この私がこんな乙女チックな悩みに落ちるとはな……」

 

 イビルアイは溜め息をつきました。──仕方無いじゃないか。モモン殿はあんなにも格好が良いのだから──

 

 やがて夕方になり今日の所は諦めて帰ろうか、と踵を返した瞬間、何者かに襲われてイビルアイは気を失ってしまいました。

 

 倒れたイビルアイから誰かがメモを拾い上げました。なんとありんすちゃんです。なる程、自分でモモンを見張るのが面倒くさくなったから他に見張っている人間を利用したわけですね。……しかし、その仮面の人物は多分ズーラーノーンではないかと……

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 ズーラーノーンの秘密拠点の一つ──ありんすちゃんはメモを幹部に渡しました。

 

「……うむ。ご苦労。……なになに……モモン様ああモモン様モモン様……モモン様にすべてを捧げます……モモン殿が颯爽とマントを翻す様は実に格好がよいな、私はマントになりたい……モモン殿は右利きだな……モモン様、モモン殿、モモンさーーん……これは一体?」

 

 メモは小さな字でびっしりとモモンを崇拝するような意味不明な言葉で埋め尽くされていました。幹部はあきれてしまい、得意げに胸を張るありんすちゃんに返す言葉がありませんでした。仕方ありませんよね。ありんすちゃんは5歳児位の女の子なんですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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065ありんすちゃんおやつをたべる

 ズーラーノーンの一員になってしまったありんすちゃん。今日は何をするのでしょうか?

 

 ありんすちゃんは自分の階層の屍鑞玄室にいました。食卓に腰掛けてよだれかけ……ゲフンゲフン……前掛けをしてお行儀良く座っています。そこにヴァンパイア・プライドがシュークリームが載せられたお皿を持ってきました。

 

 ありんすちゃんの顔の半分位ある大きなシュークリームを前にして、とても嬉しそうですね。

 

 ありんすちゃんは両手でシュークリームを持つとかぶりつきました。あらあら、顔がカスタードクリームだらけですよ?

 

 あっという間にシュークリームを平らげたありんすちゃんの前に今度はエクレアが運ばれて来ました。これまた大きなエクレアです。

 

 パクリ、パクリ、パクリ。なんと三口で食べてしまいました。左右からヴァンパイア・プライド達がタオルでありんすちゃんの顔についたクリームを拭います。

 

 さて、そろそろズーラーノーンの仕事に……行かないみたいですね。ありんすちゃんはお昼寝をし始めてしまいました。

 

 あっという間にスヤスヤと寝息をたてはじめてしまいました。うーん……こうなると二三時間は起きないでしょう。

 

 さてさて、そろそろありんすちゃんのお昼寝が終わった頃です。まだ、ベッドの中でボンヤリしていますね。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんは5歳児位の女の子なのですから。おやおや、またおやつを食べるみたいですね。

 

 うーん……さっきのは十時のお茶の時間で今度が三時のおやつの時間なんですって。なんだかおやつばかり食べているような気がしますが……

 

 ところでズーラーノーンの仕事はしないのですか? ……なになに……ズーラーノーンにはおやつの時間が無いからやめた? ……うーん……どうなんでしょう?

 

 特にアインズ様から潜入を命じられた訳でも無いし、良いのでしょうか?

 

 まあ、ありんすちゃんらしいと言えばありんすちゃんらしいのですが……

 

 あらあら……おやつのドーナツをくわえたままベッドに……砂糖でベトベトの手をシーツで……ちょっとお行儀が悪いですね。

 

 今度は片手にドーナツを持ったまま、うつらうつらし始めてしまいました。中途半端な時間に眠ると後で眠れなくなりますよ?

 

 それにありんすちゃん、寝る前にトイレに行っておいた方が……ダメです。もうスヤスヤと寝息をたてています。

 

 と、まあ、こんな訳でありんすちゃんのズーラーノーン所属は三日坊主ならぬ一日で終わってしまったようです。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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066ありんすちゃんかしこくなる

 まだ夜明け前の屍鑞玄室のベッドではありんすちゃんがスヤスヤ眠っています。こうして眠っている姿はまるで天使みたいですね。

 

 ゴロゴロゴロ。ゴロゴロゴロ。大きなベッドなのでありんすちゃんがいくら寝返りをうっても大丈夫です。……多分。

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロ。ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ゴチン!

 

 大変です! ありんすちゃんが真っ逆さまにベッドから落ちてしまいました。

 

 ありんすちゃんは何が起きたのかわからないようにボンヤリしていますね。もしかしたら単に寝ぼけているだけかもしれませんが……何はともあれ大事なかったみたいで良かったですね。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ──ナザリック第九階層アインズ執務室──

 

「アインズ様、これが本日の報告書でございます」

 

 アインズはアルベドから書類の山を受け取って中から一枚の報告書を無作為に取り出して目を通しました。

 

(……なになに……何やらデータみたいだな。よくわからないがエ・ランテルに於ける物資の在庫状況みたいだな)

 

「……うむ。問題は無いだろう。アルベドよ、良い働きだ」

 

「勿体なきお言葉、ありがとうございます」

 

 重々しく頭を下げるアルベドの後ろで扉をノックする音がしました。

 

「アインズ様、ありんすちゃん様がお目通りしたいとの事です」

 

 アインズはデクリメントに指示してありんすちゃんを中に招き入れました。ありんすちゃんはアインズの前で可愛らしくちょこんとお辞儀をしました。

 

「至高のお方、アインジュちゃまにはご機嫌うるわしく、ご尊顔を拝し誠にきょうえちゅしごきゅ……」

 

「うむ……」

 

 アインズはありんすちゃんの口上を片手を上げて制止すると尋ねました。

 

「さて、私に何か用かな? ……気兼ねなく申してみよ」

 

「アインジュちゃまのお手伝いをしたいのでありんちゅ」

 

「ありんすちゃん、アインズ様はこの私と大切な仕事の最中です。遊び相手が欲しいなら他を当たりなさい」

 

「いや……まて、アルベドよ。そうだ、せっかくだからこの国を良くする為のアイデアの検討にありんすちゃんも参加させてみよう。子供ならではの斬新な視点が得られるかもしれぬ」

 

「……アインズ様がさようにおっしゃるならば、この私に異存は御座いません」

 

 アルベドの同意を得てアインズはありんすちゃんに話しかけました。

 

「どうだろうか? ありんすちゃんよ。是非とも忌憚のない──ああ、素直な、という事だな──意見を聞かせて欲しい」

 

「わかりまちたでありんちゅ」

 

 アインズは用意していた紙を取り出しました。

 

「まずは……『魔導国にアインズ様を主神としたアインズ教団を設立してアインズ様の慈愛を国民全てに知らしめては如何でしょうか』……ふむ……」

 

 アルベドは潤んだ瞳でアインズを見つめながら答えました。

 

「私もその提案には賛成です。我々にとって至高の方以上の存在等考えようがありません。至高の方を蔑ろにして神を信仰するなどという行為はむしろ根絶すべきかと思います」

 

「ちょっと待つでありんちゅ。ありんちゅちゃんは反対でありんちゅ」

 

「──な……」

 

 不意をつかれてアルベドは思わずありんすちゃんを睨みつけました。しかしありんすちゃんはアルベドの鋭い視線に全く動じる様子がありませんでした。

 

「……意見を申してみよ」

 

 アインズに促されてありんすちゃんは言葉を続けました。

 

「歴史を紐解くと宗教の違いはかじゅかじゅの争いをもたらしてきたでありんちゅ。今ある教会を無くす事は新たな混乱を招くだけでありんちゅ。教会や神はちょのままでアインジュちゃまは更にその頂点を統べる存在として君臨すべきでありんちゅ」

 

「ふむふむ。なかなか的を得た指摘だな。このアイデアはもっと様々な角度から検討すべきだろう」

 

 アインズは次の提案を取り出しました。

 

「……こほん。なになに……『アインズ・ウール・ゴウンの紋章をデザインしたTシャツを国民全てに配布して団結力を高めると良いと思います』か……ふむ。これは是非ともけ──」

 

「──あまりにも下等な発想です。このような下らない意見が至高のお方の手を煩わすなど言語道断」

 

 即座にアルベドが否定しました。と、静かにありんすちゃんが口を開きます。

 

「待つでありんちゅ」

 

 アインズもアルベドもありんすちゃんをじっと見つめました。そういえば先ほどからのありんすちゃんはいつもと別人みたいですよね。

 

「魔導国の国民に自覚と誇りを持たせる政策は黎明期の現在、真剣に検討すべき案件でありんちゅ。Tシャツは下策でありんちゅが、アインズ・ウール・ゴウンの紋章を使ったオリジナルグッズの販売等は是非とも検討すべきでありんちゅ」

 

「……ありんすちゃん? ……どうしちゃったのかしら?」

 

「アルベド、アインジュちゃまの補佐役ならばアインジュちゃまの真意に気づけなければならないでありんちゅ。わざわざアインジュちゃまが自ら手書きで書き直すのはそもそも──」

 

「よ、よい。ありんすちゃんよご苦労であった。もうよい」

 

 ありんすちゃんは恭しくアインズとアルベドに会釈すると部屋から出ていきました。二人だけになるとアインズはアルベドと顔を見合わせました。

 

「……ありんすちゃん、だよな?」

 

「……は、はい。……おそらく」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 さて、賢くなったありんすちゃんですが……これからアインズの片腕として活躍してくれるに違いありません。これまでありんすちゃんの事を少しばかり残念な……ゲフンゲフン……思考する習慣が少なめだと思っていましたが……

 

 その夜、ありんすちゃんは寝返りを打ち……

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ゴチン!

 

 翌朝にはいつものありんすちゃんに戻ってしまいました。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんは5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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067ありんすちゃんのすぺしゃるカレー

 今日のありんすちゃんは鼻歌まじりでとても上機嫌です。いつもよりソワソワして落ち着きなく、時間ばかり気にしています。

 

 ありんすちゃんはお昼が来るのが待ちきれないのでした。そうなんです。今日は月に一回の『カレーの日』なんです。

 

 毎日のナザリックでの執務の一つのナザリック改善についての提案で、唯一アインズの発案が実現したのがこの『月に一回のカレーの日』だったのです。

 

 いよいよお昼になりました。ありんすちゃんは早足で食堂に向かいます。そして厨房の前で大きな声で注文しました。

 

「ありんちゅちゃんすぺしゃるカレーでありんちゅ」

 

 説明しましょう。『ありんすちゃんすぺしゃるカレー』とはリンゴと蜂蜜をふんだんに使った甘口の、いわゆるお子様カレーです。ありんすちゃんはまだまだお子様ですから仕方ないですよね。ちなみに辛口カレーが好きなのはマーレ、意外にもアウラとコキュートスは甘口派だったりします。

 

 ありんすちゃんは甘口カレーライスを早速頬張ります。この最初の一口がたまりません。

 

 次にトッピングの半熟玉子をスプーンで割ります。固ゆで玉子でなく半熟なのはありんすちゃんのこだわりです。スプーンの先でトローリ出てくるまったりとした黄身を一緒にすくって口に……まさに至高のひとときです。

 

「おや? ありんすちゃんはまたお子様カレーっすね」

 

 目を閉じてうっとりとしていたありんすちゃんに容赦ないルプスレギナの声がしました。ルプスレギナはカレーライスにハムカツ、茹で玉子、ラッキョウに福神漬けとてんこ盛りしたトレイを持っていました。

 

「辛くないカレーなんてカレーじゃないっすよ。せめて中辛にしないと大人になれないっすよ」

 

 そういうルプスレギナはいつも中辛のカレーライスです。実はありんすちゃんも一度だけ中辛のカレーにチャレンジしてみた事がありましたが……大人にはまだまだ遠いという実感を得るだけでした。

 

「お子ちゃまカレーではないでありんちゅ。ありんちゅちゃんすぺしゃるカレーでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは一生懸命に主張しました。とは言っても本当はただの『甘口カレー』なんですけどね。

 

「ふーん。ま、良いっすけど……そういえば今度カルネ村でエンちゃん、ああ、人間のエンちゃんっす──がカレー作るみたいっすね」

 

「…………もぐもぐ」

 

「この前、カルネ村にカレーを小さな鍋で持って行ったんすけど、大好評だったんすよ。で、料理長にレシピ貰ってあげたら挑戦したいってなったっすよ」

 

 そういえばありんすちゃんはしばらくカルネ村に行ってませんでした。ネムは元気でしょうか?

 

「……もぐもぐ。もぐもぐ」

 

 うーん……ありんすちゃんはルプスレギナの話には全く興味が無いみたいですよ。目の前のカレーを味わう事に集中しているみたいです。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳時位の女の子なのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ──まだバハルス帝国が魔導王国の属国化する前──

 

 バハルス帝国皇帝ジルクニフは苦悶していました。カッツェ平野でアインズ率いる魔導王国の圧倒的な力を見せつけられた現在、帝国の行く末に明るいものが全くないからでした。

 

「陛下、こうなりゃなるようにしかならないですよ」

 

 バジウッドの言葉もジルクニフにはなんの気休めにならなりません。

 

「一体どうしたら……」

 

 頭を抱えたジルクニフ達の目の前に突然女の子が現れました。

 

「ま、魔導王国の?」

 

 確か魔導王国を訪れた際にどこかで見かけたような気がします。

 

「これを食べるでありんちゅ」

 

 女の子はジルクニフに小さな鍋を差し出しました。ジルクニフが蓋を開けると中には茶色いドロッとしたものが入っていました。

 

(……シチューのようだが……いや、違うな……ま、まさか……いや、そんな筈は…………)

 

 ジルクニフがバジウッドを振り返って見ると彼も同様に引きつった顔をしていました。恐らくジルクニフと同じ事を考えていたのでしょう。

 

「おいちいカレーでありんちゅよ。早く食べるでありんちゅ」

 

 女の子は茶色いものをスプーンですくうとジルクニフの目の前に突き出しました。思わず顔をそむけたジルクニフの口に無情にもスプーンが近づけられていきます。

 

「……へ、陛下……食っちまうんですかい?」

 

(…………!!)

 

 ジルクニフは観念しました。恐らく目の前の女の子は強い。バジウッド達が全員でかかっても勝てないでしょう。しかしながらこの帝国の鮮血帝として怖れられた自分が少女にウ●コを食べさせられる屈辱にあうとは……

 

 ジルクニフは目を固く閉じて口に入れられたものを味わした。

 

 途端にジルクニフの脳髄を刺すような閃きを感じました。

 

「う、うまい!」

 

 ジルクニフの目からはいつしか涙が流れ落ちていました。なんという事か……魔導王国ではウ●コすらこんなに美味しいのか……次元が違いすぎる……

 

 このジルクニフのちょっとした誤解が後にバハルス帝国が魔導王国の属国化する要因になった事はあまり知られていないそうです。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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068ありんすちゃんむくちになる

 今日もありんすちゃんは二人のヴァンパイア・ブライドに抱えられて自分の階層を見回りしています。あれ? ありんすちゃんはやたらと手をバタバタさせ始めました。ヴァンパイア・ブライド達はありんすちゃんの意図がわからなくて困っているみたいですね。

 

 手足をバタバタさせながら、ひたすらイヤイヤをするように頭を振っています。

 

 あんまり激しく手足をばたつかせていたのでありんすちゃんは落ちてしまいました。大丈夫でしょうか?

 

 ありんすちゃんは勢いよく走り出すとどこかに行ってしまいました。後に残されたヴァンパイア・ブライド達は互いに顔を見合わせてため息をつきました。

 

 なんでも今日のありんすちゃんは朝から喋れないみたいなんですって。一体ありんすちゃんに何が起きたのでしょう?

 

 しばらくすると爽やかな表情のありんすちゃんが戻って来ました。もしかしたらオシッコがしたかったのかもしれませんね。

 

 さて、そろそろお昼です。ありんすちゃんは何を食べるのでしょう?

 

 食堂にやって来たありんすちゃんは難しい顔をしています。うーん……もしかしたら何も食べられないのでしょうか?

 

 よく見るとありんすちゃんは口をモゴモゴ動かしています。まるで飴玉でも舐めているみたいですね。

 

 結局、ありんすちゃんはお昼に何も飲み食いしませんでした。まあ、アンデッドなので問題はなさそうですが……

 

〈ありんすちゃん、貴女にカルネ村のドワーフ達に物資を送ってもらいたいのだけれど〉

 

 アルベドからのメッセージです。

 

〈モゴモゴモゴ……〉

 

〈ちょっと、返事しなさい?〉

 

〈……モゴモゴ……〉

 

〈……わかったわ。貴女には頼まない〉

 

 うーん……ありんすちゃんはどうやらアルベドを怒らせちゃったかもしれませんね。大丈夫でしょうか?

 

 ありんすちゃんが喋れなくなった事はアインズの耳に入りました。

 

(うーむ……まさかNPC特有の感染症とかじゃないよな? ……とりあえずシモベ達から少し情報を集めておくか……)

 

 アインズは自らヴァンパイア・ブライド達からありんすちゃんに何が起きたのか尋ねました。その結果、昨夜プレアデスの面々と『セツ・ブーン』を祝っていた事、そしてそれからずっと喋っていないらしい事がわかりました。

 

 次にプレアデスのユリ、シズを呼び出して話を聞いてみました。

 

 彼女達の話では昨夜は『セツ・ブーン』では『エホ・マ・キー』なるご飯と具をノリで巻いた食べ物を食べるという事で、試しに挑戦してみたとの事でした。細長い『エホ・マ・キー』を食べ終わるまで一言も喋ってはいけないという決まりがあるとの事でした。もしかしたらその『エホ・マ・キー』に理由があるのかもしれません。

 

「うーむ……他の戦闘メイド達には影響が出ていないが……もしかしたらヴァンパイアか子供にだけ影響があるという事も有り得るかもしれぬ。ユリよ、その『エホ・マ・キー』とやらを再現してみてくれぬか?」

 

「かしこまりました。至急、作りましてお持ち致します」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 しばらくして執務室のアインズ、アルベドのもとにユリとシズが『エホ・マ・キー』を持参して来ました。ありんすちゃんも一緒です。

 

 アインズは『エホ・マ・キー』を見てふと関西出身のメンバーから聞いた風習の話を思い出しました。

 

(確か長い巻き寿司を家族揃って無言で食べる風習だったかな……あれは誰から聞いた話だったか……)

 

 アインズは『エホ・マ・キー』を崩して中身を調べ始めました。玉子、カンピョウ、シイタケ、キュウリ、そして……梅干し。

 

「もしかしたら……ありんすちゃんよ、口を開けてみよ」

 

 ありんすちゃんが口を開けると中に梅干しの種がありました。

 

 真相はこうです。ありんすちゃんは『食べ終わるまで一言も喋ってはいけない』と言われた為、梅干しの種が無くならないからまだ『食べ終わっていない』と思い込んで喋れなかった、というわけです。

 

 仕方ないですよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 



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069ありんすちゃんのバレンタインデー

 ありんすちゃんはとってもご機嫌みたいです。なんでも今日はバレンタインデーとかいうチョコレートをたくさん食べられる日なんですって。うーん……ちょっと違う気がしますが……

 

 ありんすちゃんは第六階層にやって来ました。アウラとマーレにチョコレートをご馳走して貰うつもりですね。

 

「あれ? ありんすちゃんじゃん。え? ばれんたいんでい? ……チョコレート? マーレはわかる?」

 

「えーと……チョ、チョコレートなら料理長に……」

 

 どうやら二人共バレンタインデーについて全く知らないみたいですね。仕方ありません。ここは賢いありんすちゃんが先生になってバレンタインデーとはなんたるかを教えなくてはいけませんね。

 

 ありんすちゃんは胸を張りました。

 

「二人共だめでありんちゅね。バレンタインデーとはバレンタインという神ちゃまがチョコレートをプレゼントしてくれる日なんでありんちゅ」

 

 双子の感心した眼差しを受けてありんすちゃんはエヘンと得意そうです。

 

「……うーん……じゃあ、僕達もチョコレート、貰えるのかな?」

 

 おずおずとマーレが尋ねました。

 

「マーレはありんちゅちゃんにチョコレートあげなくてはならないのでありんちゅ。アウアウもありんちゅちゃんにチョコレートあげるでちゅよ」

 

 アウラとマーレはよくわかりませんが、ありんすちゃんにチョコレートを差し出しました。ありんすちゃんは大喜びです。うまくすればナザリックのチョコレートを全て独り占め出来るかもしれません。

 

 ありんすちゃんは次に第五階層にやって来ました。

 

「コレハ……アリンス殿、メズラシイ」

 

「コキュトチュ、今日はバレンタインデーでありんちゅよ」

 

 ありんすちゃんはコキュートスに手を出して催促しました。コキュートスは意味がわからずにきょとんとしました。

 

「バレンタインデーはありんちゅちゃんにチョコレートをあげなくてはならないのでありんちゅよ。まちゃか知らなかったでありんちゅ?」

 

「グヌヌ……サヨウナ風習ヲシラズ、面目ゴザラヌ。チョコレートトハ一体?」

 

 ありんすちゃんは先程アウラ達から貰ったチョコレートを見せました。コキュートスはシモベの雪女郎達にチョコレートを持って来させるとありんすちゃんに渡しました。

 

 両手一杯のチョコレートを手に入れたありんすちゃんは自分の階層に戻り、一人で全部食べる事にしました。

 

 うーん……本当はバレンタインデーってそんな風習じゃないと思いますが……ま、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子ですから仕方ありませんよね。ありんすちゃんにとって大満足な一日だったみたいです。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……バレンタインデーですか?……なにやら女性が男性にチョコをプレゼントするとかいう人間共の習慣ですな。……私が女だったらアインズ様に差し上げるのだがね。……おや、誰か来たみたいだね?」

 

 ありんすちゃんはデミウルゴスからもチョコレートを貰おうと第七階層にやって来ました。両手一杯のチョコレートを持って。

 

 ありんすちゃんは一旦自分の階層に戻ったのでしたが、どうやら欲が出てもっとチョコレートを貰おうとやって来たみたいですね。

 

「これはこれは。ありんすちゃん、バレンタインデーのチョコレートですね。ありがとう。……しかし、女性が男性にチョコレートを贈るバレンタインデーをよく知っていましたね」

 

 ありんすちゃんはイヤイヤをしましたが、バレンタインデーを知っていたデミウルゴスには逆らえませんでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 第九階層アインズの執務室──アルベドは少しイライラしていました。先程いきなりやって来たアウラの愚痴をずっと聞かされていたからです。

 

「ありんすちゃんばかりズルいよね? あたしだって『ばれんたいんでい』のチョコレートを欲しいんだよね。ありんすちゃんだけって不公平じゃん」

 

「あのね、アウラ。バレンタインデーっていうのはね──」

 

 アルベドは「女性が好意を持つ男性にチョコレートなどのプレゼントをする習慣なのよ」と言いかけてやめました。アウラ達はそもそもバレンタインデーを知らないか誤解をしているが、確か至高の方々の話題に上がった事もかつてあったのだからアインズ様は知っている筈です。ここでアルベドがアインズにプレゼントをしたら高ポイントを稼げるのではないでしょうか?

 

 アルベドはアウラが訝しげに自分を見つめているのに気が付くと小さく咳をして話を続けました。

 

「まあ、そうね。小さい子供の事を羨んでも仕方ないわね。それともアウラはまだまだ子供なのかしら」

 

 途端にアウラは真っ赤になり、あれこれ言い訳しながら出て行きました。残されたアルベドは一人、あれこれと思い悩むのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 その夜、ナザリック地下大墳墓に戻ったアインズは執務室の扉を開けました。中には花で囲まれたチョコレートの山が置かれていました。

 

「そうか……今日は聖バレンタインデーだったな……」

 

 カードを見るとデミウルゴスからでした。

 

「……うーん……まさか、その気はないと思うが……単なる好意と受け止めておこう」

 

 次に寝室に行くとなにやら大きな箱があります。リボンがかけられている事からどうやら贈り物みたいです。アインズ番の一般メイドが箱を開けると中に等身大のアルベドのチョコレートが入っていました。

 

「……これは……!」

 

 チョコレートのアルベドは全裸だったのでアインズが目のやり場に困っていると、突然、チョコレートのアルベドの目が開き動き出しました。なんとチョコレートのアルベドはアルベド本人にチョコレートでコーティングしたものだったのでした。

 

「お、落ち着けアルベドよ! ……うわ……ちょ……」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 第二階層屍蝋玄室──ありんすちゃんがため息をつきました。せっかく集めたチョコレートを全てデミウルゴスに持っていかれてしまった事が残念でたまらなかったみたいです。せめて三月にキャンディーでも貰えると良いですね。

 

 やっぱり欲張らずに程々にしておくべきでしたが……仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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070劇場版 ふしぎのくにのありんすちゃん??

 ナザリック地下大墳墓玉座の間に各階層守護者が集められていました。守護者統括アルベドが玉座の前で跪き恭しく口上を述べます。

 

「ナザリック地下大墳墓の主にして至高のお方のまとめ役、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下、第四第八階層を除く守護者一堂御身の前に」

 

 玉座のアインズはアルベドの挨拶に片手を上げて答えると要件を切り出しました。

 

「さて、諸君。いよいよ劇場版オーバーロード総集編の公開が迫っている。丸山くがね氏の特典小説目当てで前売り状況はなかなか好調のようである。実に喜ばしい事だ」

 

 階層守護者の顔に喜色が広がります。もちろんありんすちゃんも大喜びです。

 

「しかし、だ。……今回劇場版後編での最大の山場である私、アインズとシャルティアとのバトルシーンを新しく撮影し直す事となった」

 

「なんと……あれはスタントや吹き替えやCGを使わないガチンコバトルであったはず……そんな事が……」

 

 真っ先にデミウルゴスから危惧する意見が出ました。かのシャルティア戦について一番否定的であったのですからもっともな話しです。声に出さないまでも他の階層守護者達も同じ思いのようでした。若干一名を除いては。

 

「頑張るでありんちゅ」

 

 見るとありんすちゃんが既に真紅のフルアーマーを身に纏い、スポイトランスをしきりに振り上げていました。ありんすちゃんはやる気満々みたいですね。

 

 アインズはそんなありんすちゃんを少し憐れみを含んだ目で眺めながら言葉を続けました。

 

「……ふむ。結構。ありんすちゃんよ、そのやる気は評価したい。しかし、だ。その……今の状態ではちょっとまずいのでな」

 

「たしかに……今のありんすちゃんでは過去のシャルティアとの繋がりがありませんな。これは困りましたね」

 

 アインズの意を汲んだデミウルゴスが問題を指摘します。そうでした。シャルティアがありんすちゃんになってしまったのは復活後なのですから、アインズVSシャルティアの時にありんすちゃんではまずい訳です。

 

「くふふふふ。皆はまだ気がつかないのかしら? アインズ様がこれ位の事を見越していなかったと本気で考えているのかしら?」

 

「……なる程。アルベド、そういう事ですか。さすがはアインズ様。既に手を打っていたとは」

 

 含み笑いをするアルベドに同意して、デミウルゴスが大きく頷いてみせました。

 

 二人を除く階層守護者達は一様にわけがわからないでキョトンとしています。内心ではアインズも何のことか全くわかりませんでした。

 

「どゆことでありんちゅか? せちゅめいするでんちゅ」

 

 アインズは鷹揚に頷いて見せてからデミウルゴスを促しました。

 

「他の者達はまだわからないようだ。デミウルゴス。説明してあげなさい。……ありんすちゃんにも理解出来るように」

 

「全くもってアインズ様には不可能な事など無いとしか思えませぬ。私めなどは到底至りませぬ」

 

(お世辞は良いから説明してくれよ……一体どうしたら良いのか……そうだ、アルベドだ。アルベドならば……)

 

「コホン……では、アルベド。お前から説明してあげなさい。……ありんすちゃんにも理解出来るように」

 

「そもそも何故シャルティアが復活の折、ありんすちゃんとなってしまったのか? ……そこに至ればアインズ様のお考えに至ると思われます」

 

 アルベドは訳知り顔で微笑むと平伏しました。

 

「……ふむ。……そうか」

 

 アインズは目を閉じて感慨深く俯くのがやっとでした。デミウルゴスもアルベドも何を言っているのか全くわかりませんでしたから。

 

「あ! ……アタシわかったかも!」

 

 唐突にアウラが叫びました。

 

「この前、アインズ様はこの二次作品の作者を捕まえて餓食狐蟲王の穴に放り込んでおいたじゃん。あの作者に書き直させたら良いんだね」

 

「……ウム、ソレハ一体ドウイウ事ナノカ?」

 

「つまりさー、作者にありんすちゃんが元のシャルティアに戻る話を書かせたら解決する──」

 

「わかったでありんちゅ! ありんちゅちゃんが主役の映画をちゅくれば良いでありんちゅね!」

 

 得意気に説明するアウラを遮ってありんすちゃんが叫びました。

 

「ちょっとありんすちゃん。アタシの見せ場を横取りしないでくれる?」

 

 アウラが抗議しますがありんすちゃんは全く聞きません。もうすっかり自分の考えに酔ってしまっています。

 

「アインズ様、如何いたしますか?」

 

 アルベドが困った様子でアインズに尋ねました。次善の案としてパンドラズ・アクターがシャルティアに成り代わって撮影しても良いのですが、そうなればおそらくありんすちゃんがヘソを曲げてしまう事でしょう。

 

 それはそれで非常に厄介な事態といえました。アインズは目を閉じて絞り出すような声で決断しました。

 

「……良かろう。ありんすちゃんの好きにさせるが良い。……まあ、所詮は読者も少ない二次作品で映画などありえないのだがな」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 その後どうなったか、ですって?ありんすちゃんは自分で脚本を書くんだと言って張り切っていましたが、案の定、ほんの数時間で飽きて投げ出してしまいました。仕方ないですよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 ちなみに劇場版総集編オーバーロード後編はなんとかなったとかならなかったとか……まあ、上映されたら皆さんのご自分の眼で確かめられる事をお薦め致します。

 



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071ありんすちゃんせがのびる

 今日のありんすちゃんはヴァンパイア・ブライドに身長を計ってもらっています。背筋を伸ばして息を止めて、少しでも高くなろうと力んでいますよ。そんなに頑張っても背は伸びないのですが……あれ? ありんすちゃんつま先立ちでズルをしています。すぐさま見つかってしまいましたが……まあ、気持ちはわかりますが、それでは身長測定する意味がないですからね。

 

 ギュッと目をつぶっておまじないのように「伸びろ伸びろ」って呟いていますが、効果あるのでしょうか?

 

 ヴァンパイア・ブライドがびっくりした表情でありんすちゃんの耳元で何やら呟くと、途端にありんすちゃんは跳ね回って喜びだしました。なんと、ありんすちゃんの身長が少し伸びたみたいです。

 

 あまりにも喜び過ぎて転んでしまいましたが、ちっとも痛くないみたいです。そのまま飛び跳ねながらどこかへ行ってしまいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「あれ? ありんすちゃんじゃん。随分ご機嫌みたいだけど、何かあった?」

 

 相変わらずに飛び跳ね続けているありんすちゃんがやって来たのは第六階層でした。

 

「あ、ありんすちゃん。転んじゃうんじゃないかな? ……その、危ないよ」

 

 明らかに興奮して浮かれているありんすちゃんをアウラとマーレが心配しています。ですが、浮かれて飛び跳ねているありんすちゃんには届かないみたいですね。

 

「背がのびたでありんちゅ! のびたでありんちゅよ!」

 

 きっといつかはアウラよりも身長が伸びて、かつてのようにアウラの事を『ちびすけ』と呼べるようになるかも知れませんね。

 

「……ふーん。でもさあ、アタシだっていつかはおっきくなってバインバインになるんだよ?」

 

 アウラが口を尖らせて言い返します。

 

「ありんちゅちゃんもバインバインでありんちゅ! バインバイン! バインバイン!」

 

 相変わらず飛び跳ねながらありんすちゃんはどこかに行ってしまいました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「ありんちゅちゃん、背が伸びた! 伸びたでありんちゅ!」

 

 第七階層を叫びながら走り抜けるありんすちゃんを、呆気にとられながら強欲と憤怒の魔将が見送りました。

 

 どうやら何度か転んでしまったので飛び跳ねるのは止めたみたいですね。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 第九階層の食堂にありんすちゃんがいました。ありんすちゃんの前には大きなケーキが置かれていました。ケーキには『ありんすちゃん 成長おめでとう』とデコレートされたチョコレートのプレートが飾られています。

 

「ありんすちゃん、おめでとう!」

 

「良かったね! ありんすちゃん」

 

 食堂にいた一般メイド達も揃って祝福しました。ありんすちゃんは切り分けられたケーキをフォークで刺すとかぶりつきました。あらあら。顔が生クリームだらけです。

 

 ケーキは居合わせた一般メイド達にもお裾分けされました。こうしてありんすちゃんの成長をみんなでお祝いしました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 ありんすちゃんの身長が伸びた話はすぐにアインズにも届きました。

 

(……これは、アンデッドであっても成長や進化が可能という事なのだろうか? ……今後のナザリック強化や自身の将来に関わる重大なファクターとなるかも知れないぞ。以前にデスナイトが武技を会得出来ないかという実験が不首尾に終わったが、単にやり方がまずかっただけかもしれない)

 

 アインズは執務室のソファーに深く腰掛けて考えました。と、扉をトントンとノックする音がしました。

 

「アインズ様、ありんすちゃんがお見えになりました」

 

 一般メイドのシクススに許可を出すと、得意そうな表情のありんすちゃんが入って来ました。

 

「アインジュちゃま、ありんちゅちゃん来ましたでありんちゅ」

 

 アインズは手を上げてありんすちゃんに座るよう示すと優しく声をかけました。

 

「ありんすちゃん。何でも最近身長が伸びたと聞いたが、それは本当かね?」

 

「背が伸びたでありんちゅ! 伸びたでありんちゅよ!」

 

 ありんすちゃんは興奮しながら答えました。

 

「素晴らしい! ……む、感情が抑制されたか……ありんすちゃんよ。これはアンデッドの可能性を示す一大事と言えるかもしれぬ。良くやった」

 

 ありんすちゃんの顔がみるみる紅潮していきました。今にも爆発しそうな位、得意絶頂な状態です。

 

「……で、ちなみにどれ位身長が伸びたのかね?」

 

「…………5ミリ……でありんちゅ」

 

「は?」

 

 うーん……まあ、ほんのわずかでも身長が伸びたのが余程嬉しかったのでしょう。仕方ありませんよね。何しろありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから。




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072特別番外編 ルベドでありんす

 第一階層の奥にナザリックの精鋭部隊が今まさに出動の時を迎えています。アインズの特命『至高のメンバーを捜索せよ』を実現する為の守護者統括アルベド直属の部隊──アルベド、パンドラズ・アクター、ルベド、さらにアインズ謹製のレベル90台のシモベ達が揃っている様はなかなかに壮観ですね。

 

「守護者統括殿、一つばかり質問があるのですが、よろしいですかな?」

 

 パンドラズ・アクターが仰々しく挙手しながら発言しました。アルベドは投げやりな様子で許可を出すとパンドラズ・アクターは大げさに胸をそらして疑問をぶつけました。

 

「その……なんと申しますか……ルベド殿はルベド殿ではなくありんすちゃ──」

 

 パンドラズ・アクターの質問が終わる前にアルベドとルベドが叫びました。

 

「ルベドよ! 紛れもなく!!」

 

「ルベドでんちゅ!」

 

 そこにはこの件に関する他者の意見を抹殺するかのような明確な意志が込められていて、質問を許さない圧力がありました。

 

「……他に何かあるかしら?」

 

「……アリマセン」

 

 すっかり意気消沈したパンドラズ・アクターは大人しく引き下がるしかありませんでした。客観的にはパンドラズ・アクターの指摘は正しいでしょう。明らかにルベドはありんすちゃんと同一にしか見えません。しかしながらこのプロジェクトに於いてはプロジェクトリーダーたるアルベドに全権があり、アルベドと自称ルベド本人がルベドだと断言する限り否定する事は不可能でしょう。

 

 重い沈黙を破ってルベドが口を開きました。

 

「アルベド、目的はなんでありんちゅか?」

 

 アルベドは小さいルベドを諭すかのように答えました。

 

「アインズ様の勅命を受けて他の至高のお方がこの世界にいないか探す事が私達に与えられた任務よ。……そして、それは他の守護者達にも秘密に行わなくてはならないの」

 

 アルベドはメンバーを見回してから言葉を続けました。

 

「まずは……そうね。至高のお方の情報を探す事が必要ね。漠然と探すよりも誰かしら絞って探した方が良いかしら?」

 

「それならペロロンチーノちゃまの行方を探すのが良いでありんちゅ」

 

 

「ふむ、確かにペロロンチーノ様はアインズ様とも特に仲が良かったのでしたね。私も是非、見つけて差し上げるべきかと」

 

 ルベドの案にパンドラズ・アクターも同意するのでした。

 

 アルベドは少しばかり考え事をしてから結論を出しました。

 

「良いでしょう。まずはペロロンチーノ様の情報を優先して集めてみましょう」

 

 アルベドは静かに夢想し始めるのでした。

 

『よくやった。アルベドよ。まさに私の願いを叶えてくれた。』

 

『……畏れ多いお褒めの言葉。これも守護者統括たる務め。当たり前の事に御座います』

 

『私の前で謙遜はいらぬ。私にとってお前は唯一無二の存在なのだ』

 

『ああ……アインズ様。このアルベドは身も心もアインズ様、いいえ、モモンガ様に捧げております』

 

『お前の忠義、嬉しく思う。アルベドよ。そしてお前の全てが私の物だと言うのであれば、この私の全てはお前の物だ』

 

 アインズは強くアルベドを抱きしめて──

 

 

「──ベド? アルベド? ……どうちたでありんちゅか?」

 

 いつの間にかアルベドは妄想の世界をさまよっていたようでした。心配そうに覗き込む小さな妹──ルベド──をわざとらしく咳払いでごまかしながら言葉を続けるのでした。

 

「ゴホンゴホン。さて、それではペロロンチーノ様の情報を集める為のアイデアを出していきましょうか」

 

 ありん──ルベドがすぐさま手を上げました。

 

「ペロロンチーノちゃまはエロエロ大王とも言われてまちたでありんちゅ。『えろげ』なる物で誘うと良いでありんちゅよ」

 

「ふむ。『えろげ』とは……確か『あだるとげーむ』とかいう物でしたな。私の管理する宝物庫には残念ながらありませんね」

 

 パンドラズ・アクターの言葉にアルベドはため息をつきました。

 

「残念ね。私も『あだるとげーむ』という言葉が何を指すのかはわからないわ。至高の方々の何人かはお持ちだったようだったけれど……」

 

「ペロロンチーノちゃまは『えろげ』でぶくぶく茶釜ちゃまの声でなえた、とかおっしゃっていまちたね。積んだりする物だとも……」

 

「──という話をありんちゅちゃんから聞いたでありんちゅ」

 

 ルベドは慌てて言い足しました。あくまでもここにいるのはありんすちゃんではなくルベドなのでした。たとえ少しばかり共通点があるとしても……

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「大変っす! どうやらありんすちゃんがお亡くなりみたいっす!」

 

 突然、ルプスレギナが飛び込んで来ました。あり──ルベドは目をまん丸に見開いて驚いています。

 

「ありんちゅちゃん死んでちまったでありんちゅか!」

 

 ありん──えっと……ルベド役のありんすちゃんの目にみるみるうちに涙が溢れてきました。

 

「うわーーん! ありんちゅ、ヒック、あり、ありんちゅちゃん死んぢゃったでんちゅ! うわーーん!」

 

 ありんすちゃんはとうとう泣きながらかけ出して行ってしまいました。

 

 うーん……ありんすちゃんは死んでいないと思いますが……仕方ないですね。何しろありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから。



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073ありんすちゃんのへいぼんないちにち

 ありんすちゃんが珍しくアルベドといます。アルベドから大きな荷物を受け取ってスキップしながら自分の階層に帰っていきます。とはいってもありんすちゃんの場合には右足右足、左足左足と交互に出しているだけなのでスキップになっていませんが。

 

 さて、ありんすちゃんのお家の屍蝋玄室を覗いてみましょう。

 

 あれあれ? さっきまで元気一杯だったありんすちゃんがベッドで寝ています。スッポリ毛布にくるまって頭のてっぺんしか見えませんね。

 

 お昼になりました。ありんすちゃんは……まだ寝ていますね。うーん……。

 

「こんちはー。ありんすちゃん、いるかな?」

 

 元気良くアウラがやって来ました。ありんすちゃんは頭までスッポリと毛布をかぶったまま相変わらず寝たままです。

 

「今日のお昼はカレーライスだって。早く食べに行こう。ありんすちゃん?」

 

 ありんすちゃんは相変わらず無反応です。アウラはしばらくありんすちゃんを誘っていましたが、諦めて一人で行ってしまいました。

 

 部屋に残されたありんすちゃんは身動きひとつしないで寝ています。うーん……少し寝過ぎではないでしょうか?

 

 夕方になりました。ありんすちゃんは相変わらず頭までスッポリ毛布をかぶって寝ています。

 

「ありんす様、起きていらっしゃいますか?」

 

 今度は戦闘メイドのユリ・アルファがやって来ました。ユリはベッドを見下ろして腕組みをしました。

 

「さて、いい加減に起きましょうね? ……起きないとボク、私が叱られてしまいますから」

 

 ユリは強引にありんすちゃんから毛布を剥がします。あれ? よく見るとありんすちゃんは本物ではなくて編みぐるみの身替わりみたいですね。

 

「さあ、ありんす様。起きましょうね」

 

 ユリはありんすちゃん本人だと思い込んでいるみたいです。ありんすちゃんの肩に手をかけて引き起こしました。

 

「…………」

 

 当然ながら編みぐるみのありんすちゃんは無反応です。ユリはまだ眠っていると思い、ありんすちゃんを強く揺さぶりました。

 

「!!!!」

 

 ユリが強く揺さぶり過ぎたからか、ありんすちゃんの頭がポロリと落ちてしまいました。編みぐるみなので継ぎ目が弱かったからでしょう。しかしながらありんすちゃん本人だと思い込んでいたユリは驚きました。

 

「大変! ありんす様が──」

 

「どうしたっすか? ユリ姉。あんまり慌てると頭が落ちるっすよ」

 

 ユリが顔を上げると、ルプスレギナの覗き込んだ顔がありました。

 

「ありんす様の頭が──もげて死んじゃった」

 

「マジっすか? ……こりゃ大変っす!」

 

 ルプスレギナは大騒ぎしながら走り去っていきました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 大騒ぎするルプスレギナから加速した騒動は結局、ありんすちゃんの等身大編みぐるみだとわかり終局しました。

 

 ありんすちゃんも今ではニコニコしています。良かったですね、ありんすちゃん。

 

 その夜、アルベドに直してもらったありんすちゃん編みぐるみを抱きしめてありんすちゃんはぐっすりです。なんでもアルベドからルベドの代役を頼まれた際に報酬としておねだりしたんですって。ようやく編みぐるみが出来上がったので、早速ルベド役を張り切っていただけで身替わりのつもりではなかったみたいですよ。

 

 おやすみ、ありんすちゃん。良い夢を……



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074ありんすちゃんはるがくる

 春ですね。だんだんと過ごしやすい気候になって来ました。ナザリック地下大墳墓もポカポカ陽気でみんなのんびりしています。

 

 ありんすちゃんはマーレのハンモックでお昼寝しています。とても気持ち良さそうですね。

 

 おや? ……ありんすちゃんの頭に花が……? 一輪の花が生えています。一体どうしたのでしょう? ありんすちゃんはスヤスヤ眠っていて、気がついていないみたいです。

 

 しばらくするとありんすちゃんが目覚めました。寝ぼけ眼でボンヤリと周りを見回してからウーンと背伸びをします。それからハンモックから降りるとヨチヨチと歩き出しました。ありんすちゃんの頭の花もユラユラ揺れます。

 

 水がめの水で顔を洗い、タオルできれいに拭きます。第六階層のアウラとマーレの居住区ですが、まるで自分の家みたいに手慣れていますね。

 

 さらにヨチヨチと歩き出すと戦闘メイドのソリュシャンと会いました。

 

「おや、ありんす様。アウラ様はどちらにいらっしゃるかご存知でしょうか?」

 

「アウアウは……わからないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは可愛らしく小首を傾げながら答えました。頭の花がプルンと大きく揺れます。

 

「……さようですか。では、失礼致します」

 

 ソリュシャンは丁寧にお辞儀をするとありんすちゃんに背を向けました。

 

「待つでありんちゅ。ありんちゅちゃんも一緒に探すでありんちゅよ」

 

 ありんすちゃんはソリュシャンを呼び止めて一緒にアウラを探しに行く事にしました。

 

「あの……ありんす様。質問があるのですが……」

 

「なんでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんが頭の花を揺らしながら振り向きました。

 

「……その、ありんす様はアインズ様の妻の座はもう望んでいないのでしょうか?」

 

「うーん……難しいでありんちゅね……」

 

 ありんすちゃんは腕を組んで悩みました。かつてシャルティアだった頃にはソリュシャンが指摘したようにアインズの妻の座をアルベドと争ったものでした。では、今はどうでしょう?

 

「うーん……アインジュちゃまの娘でありんちゅね」

 

 ありんすちゃんは考え考えゆっくりと答えました。

 

「アインジュちゃまのかわいい娘でありんちゅね」

 

 改めて言葉を足してもう一度言いました。

 

「……残念です。私はありんす様、シャルティア様こそがアインズ様に相応しいと思っておりましたので……」

 

 ありんすちゃんはソリュシャンの言葉に答えずにヨチヨチと歩いていきます。それにつれて頭の花もユラユラ揺れました。

 

「あれぇ? ソーちゃんとありんすちゃんじゃないっすか? アウラ様でも探しに来たっすか?」

 

 木の上から突然声が聞こえてきました。「ほいッ」とかけ声と共にルプスレギナが飛び降りてきました。

 

「ブヒャヒャヒャ! なんすか、これ? ありんすちゃんの頭に花が生えてるっすけど」

 

 ありんすちゃんは慌てて頭に手をやりましたが、よくわかりません。

 

「本当です! なんか生えてます!」

 

 今頃になってソリュシャンも気が付き驚いて叫びました。

 

 ソリュシャンは小さな手鏡を取り出してありんすちゃんに見せます。確かに小さな花がありんすちゃんの頭で揺れていました。もしかしたらさっきからやたらと眠かったり、ヨチヨチ歩きになっていたのはこの花のせいかもしれません。

 

「ありんすちゃん、引っこ抜いていいっすか?」

 

 ありんすちゃんが頷いたので、ルプスレギナはありんすちゃんの頭の花を引っ張りました。

 

「イタタタ……イタいでんちゅ!」

 

 ありんすちゃんが痛がるのでルプスレギナは花から手を離しました。

 

「なんでしたら私が食べてしまいましょうか?」

 

「……このままでよいでありんちゅ」

 

 よほど痛かったからか、ありんすちゃんはソリュシャンの申し出を拒絶してしまいました。

 

「これはほっとくと大木になって、面白い事になるっすよ、きっと」

 

 ルプスレギナは他人ごとなので面白がっています。

 

「そうだ! きっとアウラ様マーレ様ならなんとかして貰えますよ。きっと」

 

 ソリュシャンがありんすちゃんを励ました丁度その時──

 

「あれ? ありんすちゃんじゃん。アタシになんか用?」

 

「ソリュシャン、ルプスレギナも、こ、こんにちは」

 

 アウラとマーレが現れました。

 

 

 

 なんと……二人の頭にもありんすちゃんと同じ花がユラユラ揺れていました。

 




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075ありんすちゃんがんばる

 今日のありんすちゃんはいつもとちょっと違います。難しい顔をして、腕を組んでなにやら悩んでいるみたいです。いったいどうしたのでしょうか?

 

 正直な話、悩み事をしているありんすちゃんって少しばかり違和感がありますよね。悩むにしても「今日のおやつは何かな?」とか「今晩のおかずは何かな?」という程度の悩みしか無いような……あくまでもイメージの話ですが……多分、この話を読んでいる全員がそう思っていると思います。

 

 とりあえずありんすちゃんに聞いてみるとしましょうか。え? ……なになに? ……ありんすちゃんは頑張る事にした。……で、何を頑張れば良いかわからないから悩んでいる、ですって。

 

 ……うーん……これは難しいですね。

 

 そもそもありんすちゃん、考え方が間違っていますよね。普通はなにかしら目標があって、それを叶える為に頑張るものなのですが……まあ、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子ですから仕方ないですよね。

 

 しかし、困りましたね。ありんすちゃんはいったい何を頑張ったら良いでしょうね?

 

 ふと、ありんすちゃんが顔を上げました。なにやら思いついたみたいですね。ありんすちゃんはトテトテと駆け出しました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「えー? 何を頑張ったら良いか、だって?」

 

 真剣な表情のありんすちゃんにアウラは戸惑っていました。

 

「あたしにそんな事聞かれてもねー……ありんすちゃんがやりたい事すれば?」

 

「それが思いつかないでありんちゅよ」

 

「あの、ええっと……きっとアインズ様なら教えてくれるんじゃないかな?」

 

 マーレの意見でありんすちゃんの瞳が突然煌めきだしました。そうです。確かに至高の方々の束ね役をされていて、アルベドやデミウルゴスですら遠く及ばないアインズ様ならばきっと悩めるありんすちゃんに道を示してくれるに違いありません。

 

ありんすちゃんは嬉しそうにトテトテと駆けていきました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「うむ……何か頑張ってみたい、だと?」

 

 アインズは真剣な眼差しのありんすちゃんを凝視しました。

 

(ふむ。……これはNPCが自ら成長しようとするひとつのモデルケースとなるかもしれないな。もし、NPC達が自ら成長出来るならばナザリックにとって実に有意義な事となるが……)

 

「素晴らしい! ありんすちゃんよ。……うむ……そうだな……では、アルベドの補佐などどうかな? 将来ナザリックの運営を任せられる信頼出来る人材は多いにこした事はない」

 

「わかりまちたでありんちゅ。アルベドのお手伝い頑張るでありんちゅ」

 

 真剣な眼差しのありんすちゃんはなんだかいつもと違って頼もしいですね。アインズは満足そうに頷くのでした。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 アインズの執務室を出たありんすちゃんは真剣な表情で歩いていきます。そしてアルベドの居室を……おやおや? そのまま通り過ぎて自分の住居がある第二階層に戻って来てしまいました。〈死蝋玄室〉に帰ってくると、ありんすちゃんはいつものようにお風呂に入って……お昼寝してしまいました。

 

 一方、アルベドは自らの居室でありんすちゃんを待っていましたが、ありんすちゃんは来ません。当然ですよね。ありんすちゃんは自分の屍蝋玄室でお昼寝中なのですから。アルベドは戦闘メイドのユリ・アルファにありんすちゃんの様子を見に行かせる事にしました。

 

 しばらくしてユリが戻って来ました。

 

「……その……ありんす様は『明日から頑張る』そうです……」

 

 うーん……仕方ないですよね。なにしろありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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076ありんすちゃんとひみつかいぎ

 ナザリック第十階層にある巨大図書室──アッシュールバニパルにおいて密かに行われている会合、それが通称『賢人会議』です。

 

「お集まりの諸兄、本日はまず、我が賢人会議に今回特別に御参加頂きます御方をご紹介致します。……至高の方々のまとめ役であり我らがナザリックの絶対的支配者、アインズ・ウール・ゴウン様──からの推薦によりまして参加されるありんすちゃんです」

 

 ありんすちゃんは立ち上がって丁寧にお辞儀をしました。

 

「では、各員宣誓を。私ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスはこの集まりでの内容を未来永劫秘匿する事をここに誓います」

 

「……かいまちゅでありんちゅ」

 

 各司書達に混ざってありんすちゃんも宣誓します。秘密の会議なんてワクワクしますね。

 

「……ゴホン。前回はアインズ様の下着のあるべき方向性について実に有意義な議論が出来ました。ブリーフ派とトランクス派の熾烈な戦い、伏兵のふんどし案、さらには『はかない案』……最終的にボクサーパンツに行き着くまでの徹底した議論が出来ました」

 

 ティトウスは感慨深げに目を閉じました。

 

「さて……本日の議題ですが……『階層守護者マーレ殿の下着は男ものであるべきか女ものであるべきか』です」

 

 オーと一堂から静かな歓声が上がりました。

 

「コホン……かのナザリック地下大墳墓においてもっとも『純潔の乙女』という表現が相応しいマーレ嬢、ゴホン、マーレ殿にはやはり純白のシルクのレース模様のショーツこそが似合うと私は愚考致します」

 

 LV80のオーバーロードの司書の一人、コッケイウスが発言しました。ありんすちゃんはマーレこそが『純潔の乙女』という主張に納得いきませんでしたが、我慢して黙っています。

 

 すぐさま反対意見が上がりました。挙手をして自らの意見を述べる機会を得たアウレリウスが重々しく意見を述べます。

 

「意外性の妙、これこそが我々が目指すべき究極の美ではないでしょうか? ……私は美少女にしか見えないマーレ殿が実は男である、というそもそもかの創造主である至高のお方、ぶくぶく茶釜様の意図を汲んでこそ最善の案と考えます。よってマーレ殿には男性用のブリーフ、しかも真っ白でGUNZEのロゴが入ったものこそ相応しいと考えます」

 

 アウレリウスの意見に賛同する意図を込めてありんすちゃんは手を叩きました。つられたかのように二三人がパラパラと拍手をしました。

 

「ちょっとよろしいか?」

 

 ウルピウスが手を上げました。

 

「……アウレリウス殿の意外性が大切という意見は誠に結構。私も重要だと思います。……が、それが男性用ブリーフが相応しいというのは戴けませんな。……マーレ殿の顔かたちはまさに天使であるならば、その肌にまとうのは小悪魔たるべき装いこそが相応しい! ……でーーあーるーなーらーばーあ!……」

 

 ここで興奮し過ぎたウルピウスがカッと白目を剥いて仰向けに倒れ込んでしまいました。

 

「……く、黒じゃ……ガーターベルトに網のすと、きんぐ……」

 

 シモベ達に担がれて退場する際にウルピウスは譫言のように呟いていました。

 

「同志ウルピウスの執念、実に素晴らしい。その遺志は我らが継ぐ事にしよう」

 

 議長のティトウスが重々しく言い渡します。

 

「……では、そろそろ結論を出すとしよう。皆々方はいつものように挙手で多数決を……」

 

「まちゅでありんちゅ!」

 

 ティトウスの言葉を遮ってありんすちゃんが立ち上がりました。その瞳には強い意志が満ち溢れ、とても5歳位の女の子には思えないものでした。

 

「〈グレーターテレポーテーチョン!〉」

 

 次の瞬間、天井に向かって伸ばされたありんすちゃんの右手には水色地に白の水玉模様のビキニタイプのブリーフがありました。

 

「これがマーレがはいていたパンツでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはティトウスにパンツを突きつけて得意そうに笑いました。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 その後会議は紛糾し、ありんすちゃんは外に連れ出されてしまい、プンスカしていたそうです。まあ、ありんすちゃんは間違っていなかったと思いますが、仕方ありませんよね。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「──クシュン……」

 

 マーレは不意に寒さを感じてくしゃみをしました。

 

「ちょっと、マーレ。風邪ならうつさないでよねー?」

 

 一緒にいたアウラが露骨に嫌そうな顔をしました。その時、一陣の風がマーレのミニスカートを翻していきました。

 

 数分間の沈黙が二人の間に過ぎていき──

 

「……マーレ……あんた変態みたいだよ……」

 

 マーレをジトっとした目で見つめるアウラがぼそりと呟きました。



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077ありんすちゃんチャイナドレスをひろう

 いつものようにありんすちゃんは目覚めました。そして久しぶりにくしゃみをしました。

 

「くちゅん!」

 

 とてもとても小さなくしゃみでしたが、久しぶりに本当に久しぶりにテレポートしちゃいました。

 

 ゴチン!!!!

 

 おや? ありんすちゃんは誰かの上に転移してしまったようです。怪しげなマントを頭からスッポリ被った女のような男のような人がありんすちゃんの下敷きになって気絶していました。

 

 よく見ると怪しげな人は大事そうに鍵付きの箱を抱えていました。ありんすちゃんは箱をもぎ取ろうとしてみましたが、しっかりと抱え込んで放そうとしません。気絶してまで手放すまいとしているのですから、きっと高価なお宝が入っているのかもしれません。

 

 ありんすちゃんはニッコリしながら爪を伸ばして鍵穴に差し込みました。カチャリと音がして箱が開くと中には薄い生地の服が入っていただけでした。

 

「これは食べられないでありんちゅね……」

 

 ありんすちゃんはちょっぴりがっかりしましたが、生地を広げてみるとなかなか可愛らしいチャイナドレスだったので嬉しくなりました。オマケに何故だかかなり魔力が高いマジックアイテムみたいです。

 

 ありんすちゃんがチャイナドレスを着てみるとありんすちゃんのサイズにぴったりになりました。

 

 ありんすちゃんはクルクル回ってみました。足元にスリットがあってなかなか動きやすく、角がある蛇の模様もなかなか可愛らしいので気に入りました。それまで着ていたボールガウンをクルクルと畳んでいると、ポケットから一枚の布が落ちました。ありんすちゃんのではありません。両手で布を広げてみると水色地に白の水玉模様のビキニタイプのブリーフでした。

 

 いつの間にポケットに入っていたのでしょう? ありんすちゃんには記憶がありませんでしたが、なんとなくマーレのもののような気がするのでした。

 

 ありんすちゃんはしばらく考えていましたが、ビキニブリーフを箱に入れて鍵を掛けるとニッコリしました。

 

 ちょっと肌寒くなって来たのでありんすちゃんは上からボールガウンを着ました。今更ながら周りを見回してみましたが、全く見覚えがない場所でした。

 

「ちょっと探検してみるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは歩き出しました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんが立ち去ってしばらくすると気絶していた怪しい人が呻き声を上げました。

 

「……う、うーん……な、何が起きた?」

 

 すぐさま両手で抱え込んでいた箱を確かめます。大丈夫。鍵が掛かったままでした。彼──女ではなく男でしたが──の使命はこの法国の至宝を無事に届ける事でしたから、安堵のため息をつくのでした。

 

「はやく神官長様に届けなくては」

 

 男は大急ぎで走り去っていきました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「むう? ……こ、これは? ……いったい?」

 

 土の神官長 レイモンは思わず呻きました。スレイン法国に伝わる秘宝、ケイセケコゥクを宝物庫に仕舞う為、箱を開けたのでしたがその形状が変化していたからです。

 

「ふむ。……かつての神々の言い伝えでは、始原の魔法が込められし秘宝の中にはその形態を変えるものがあると聞く……よもや現実に目の当たりにするとは思わなんだが」

 

 水の神官長老ジネディーヌが重々しく口を開きました。

 

「破滅の竜王の復活、そして百年の揺り返しと思われる強大な吸血鬼の出現と始原の魔法すら行使する魔導王。……時が来たという事か」

 

「すると……ケイセケコゥクが進化してこの姿になったのでしょうか?」

 

 老ジネディーヌにレイモンが問いかけました。

 

「そうとしか思えぬ。お主も知っているようにこの箱には魔法で鍵が掛けられており、我ら神官長クラスでなければ開けられぬ。しかも、見よ。強大な力を感じるマジックアイテムではないか」

 

 ジネディーヌは水色地に白の水玉模様のビキニタイプのブリーフを広げました。

 

「G U N Z E……魔法の刻印でしょうか? ……この進化したケイセケコゥクならば魔導王にも使えるのでは?」

 

「かもしれぬ。……しかしながら焦りは禁物じゃろう。……まずは神官長会議にて報告すべきじゃな」

 

 箱を再び閉めると二人の男は出ていきました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 カチャカチャ……

 

 ありんすちゃんがその部屋を覗いてみると一人の少女がうずくまっていました。白と黒の二色に別れた長髪の少女は熱心に小さな箱で遊んでいました。

 

「なんでありんちゅか? それ」

 

 ありんすちゃんが尋ねましたが少女は見向きもしないで答えました。

 

「……ルビクキュー」

 

「ありんちゅちゃんもやってみたいでありんちゅ」

 

「…………ヤダ。もう少しで二面そろうから話しかけないで」

 

 なんということでしょう?こんなに可愛らしいありんすちゃんが頼んでいるのに拒否するなんて……とんでもないですよね。

 

「ありんちゅちゃんもやってみたいでありんちゅ!」

 

「…………」

 

 今度は無視されてしまいました。おやおや? ありんすちゃんの顔が真っ赤になってきました。このままではありんすちゃんが爆発してしまいますよ。

 

「…………ん」

 

 と、少女が相変わらずルビクキューを弄りながらあごで部屋の片隅を指しました。なんと、そこにはもう一つルビクキューがあるではありませんか。ありんすちゃんは喜んで少女の隣でルビクキューで遊び始めました。

 

 ありんすちゃんはしばらく遊んでいましたが、お腹が減ってきたのでナザリックに帰りました。帰りはくしゃみではなくてグレーターテレポーテーションでしたが。

 

 その日からしばらくありんすちゃんはルビクキューで遊んでいましたが、一面も揃えられずに飽きてしまったそうです。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんは5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

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078ありんすちゃんあなにおちる

 ナザリック地下大墳墓第二階層 屍蝋玄室、ありんすちゃんの居室です。さっきからありんすちゃんは姿見の前でいろんなポーズをしています。この前にスレイン法国で手に入れたチャイナドレスを着た自分自身の姿に見入っているみたいです。普段と違って髪型もお団子二つに結っていてかわいらしいですよ。

 

 ちょっとばかり前屈みになってパチパチとまばたきしていましたが、多分、ありんすちゃんはセクシーポーズでウインクしているつもりかもしれませんね。

 

 ひとしきりいろんなポーズをとっているうちになにやら思いついたみたいです。屍蝋玄室の扉を開けっ放しにして部屋を飛び出して行っちゃいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんは第一階層にやって来ました。いつもなら元気いっぱいに走るのですが、チャイナドレスを着たありんすちゃんは少し落ち着いた様子で歩いて来ます。気分は淑女、といった所でしょうか? ……もっとも気分だけで、周りの印象はいつものありんすちゃんだと思いますが……

 

 どうやらありんすちゃんが目指しているのは地表のログハウスのようです。なる程、ログハウスならば当番の戦闘メイドがいますからありんすちゃんのチャイナドレスを見せるのにはうってつけですね。

 

 ログハウスの近くまでありんすちゃんがやって来ると、なにやら丸い落とし穴みたいなものがありました。周りをロープで囲って看板まであります。

 

「んん……んちいりんん……おめか? でありんちゅ」

 

 うーん……看板には『危険 立ちいり禁止 オメガ』と書いてあったのですがありんすちゃんは漢字が読めなかったみたいです。まあ、もっとも仮に読めたとしても好奇心旺盛なありんすちゃんが素直に指示に従ったかどうか疑問に思いますが……

 

「おもちろそうでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんは独り言を言うと辺りを見回しました。

 

 周りに誰もいませんから誰の反応もありません。ありんすちゃんはもっと大きな声で言いました。

 

「おもちろそうでありんちゅから入ってみるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはまた周りを見回しました。もちろん何の反応もありません。

 

「おーもーちーろーちょーでーあーりーんーちゅーねー! はーいーっちゃーうーでーあーりーんーちゅー!!」

 

 ありんすちゃんは大きな声で叫びました。何事かとログハウスから誰かが飛び出して来ました。

 

「ちょ、ちょっと待つっすよ! ……そこはオーちゃんが危険が危ないって言っていたっすよ!」

 

 ありんすちゃんはルプスレギナの慌てる様子を見てようやく満足そうに笑うと落とし穴に飛び込みました。

 

 

 ──と、同時に──

 

 

ありんすちゃん「!!!!!!」

 

ルプスレギナ「!!!」

 

オーレオール「え?」

 

男「使え!」

 

シャルティア「くっ!!」

 

カイレ「な?」

 

 

 ──凄まじい閃光と衝撃が起こり、様々な事態が一斉に起こりました。

 

 

 

「……大変っす! なんか大変な事が起きたっす!」

 

 ありんすちゃんの姿はどこにもありませんでした。後にはルプスレギナと慌てて周囲に撒き散らしてしまったポテトチップスが残されていました。

 

〈……ルプス姉さん、大変です。どうやら次元の狭間が生じてしまったみたいです〉

 

〈オーちゃんっすか? ありんすちゃんが消えちゃったっす。……あーー!〉

 

〈どうしましたか?〉

 

〈ポテトチップス全部こぼしちゃったっす!!〉

 

 プレイアデスの末妹、桜花領域守護者のオーレオール・オメガはルプスレギナに対し冷静に指示を出します。

 

〈ルプス姉さんはシモベ達にこの空間の狭間を警戒して下さい。私はアインズ様に報告して対策を練ります。ありんすちゃんはきっと連れ戻します〉

 

〈了解っす〉

 

 ナザリック地下大墳墓ではこれから総力を上げてありんすちゃんの帰還を目指す事になりました。一方、ありんすちゃんはどうなったのでしょうか?

 

「……びっくりしたでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは周りを見回しました。さっきまであったログハウスもルプスレギナの姿もありません。どうやら落とし穴の発動に驚いてグレーターテレポーテーションを発動させてしまったのかもしれません。

 

 ふと、ありんすちゃんは自分が誰かの上に座り込んでいた事に気が付きました。なんと、ありんすちゃんと同じチャイナドレスを着たシワシワのお婆さんが倒れていました。どうやらありんすちゃんはこのお婆さんの上に落ちてきてしまったみたいです。

 

「……ちんでいるみたいでありんちゅ」

 

 そういえばありんすちゃんが落ちた時にありんすちゃんのチャイナドレスの竜の模様が光ってなにやら魔法が発動したような気がします。もしかしたらありんすちゃんも魔法を使い過ぎるとシワシワのお婆さんになってしまうかもしれません。

 

「……シワシワになりたくないでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんは先程強大な魔力の放出が着ているチャイナドレスから起きた事から、このまま着続けているとこのお婆さんみたいにシワシワになってしまうに違いないと思いました。

 

「帰ったらチャイナドレチュはしまう事にちまちゅか……」

 

 ありんすちゃんは残念そうにチャイナドレスを着た自分自身を見下ろしました。と、不意にメッセージが聞こえてきました。

 

〈…………ちゃん、あーりんすちゃーん……聞こえますかー?〉

 

 なんと、桜花領域守護者のオーレオール・オメガです。

 

〈……ありんちゅちゃんでありんちゅ〉

 

〈……良かった! ええと、ですねー今から私の座標にテレポーテーションを試して下さい。多分、次元の狭間が閉じる前ならナザリックの時空間に戻れるはずです〉

 

〈……わかりまちたでありんちゅ!〉

 

 ありんすちゃんは〈グレーターテレポーテーション〉を発動させました。と、次の瞬間、ありんすちゃんはナザリック地下大墳墓の入り口のログハウス側にいました。

 

「良かったわ。無事にありんすちゃんが戻ってきて……アインズ様のお留守に問題を起こしたくないものね」

 

「おかえりー。良かったねーもう少しで大変な事になる所だったんだよー」

 

 ありんすちゃんをアルベドとアウラが出迎えてくれました。とりあえずありんすちゃんは疲れていたのでその日は休む事にして、屍蝋玄室に帰りました。

 

 チャイナドレスは魔封じの箱に入れてベッドの下にしまったそうです。何はともあれ良かったですね。もう少しでありんすちゃんの話が終わる所でしたから。

 

 おやすみ。ありんすちゃん。

 




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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079ありんすちゃんプーさんになる

 ありんすちゃんは今日もヴァンパイア・プライドに抱っこされて階層の巡回をしています。

 

「……プスゥ……」

 

 何やら妙な音がしました。

 

「……プー……プー……プー……」

 

 ヴァンパイア・プライドの歩みに合わせて変な音が続きました。ありんすちゃんは二人のヴァンパイア・プライドの顔を代わる代わる見ました。二人ともブルブルと顔を振って否定します。

 

 ありんすちゃんは不満足そうでしたが、それ以上追求しませんでした。

 

 お昼になり、ありんすちゃんが本日のスペシャルメニューのトリプルチーズバーガーにかぶりついた時にまたもや「プププースゥー」という音がしました。

 

 すぐさまありんすちゃんは周りを見回してみましたが、誰もいません。そこにはありんすちゃんだけで、他には離れた席に一般メイドが三人いるだけです。

 

「ププププププー」

 

 突然、ありんすちゃんのすぐ近くで音がしました。一般メイド達が遠巻きにありんすちゃんを見つめていました。ああ、なんという事でしょう? 彼女達はきっと今の音がありんすちゃんが出したと思っているに違いありません。ありんすちゃんは知らず知らず顔が赤くなっていくのを感じました。仕方なく食事を止めてそそくさと食堂を出て行くのでした。

 

 第二階層屍蝋玄室のありんすちゃんの部屋のベッドに仰向けになって天井を眺めながら、ありんすちゃんは考え事をします。

 

 時折、「ププー」と音がします。この部屋にはありんすちゃんしかいませんから音はありんすちゃんからしているとしか思えません。

 

 ありんすちゃんは真っ赤になって恥じらうのでした。

 

「このままではプーさんになってちまうでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは昨日ルプスレギナから聞いた『くまのプーさん』という話を思い出すのでした。

 

 『くまのプーさん』とは……

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「ありんすちゃんは知っているっすか? 『くまのプーさん』の話」

 

 ありんすちゃんは首をブルンブルンと振りました。

 

「うーん……知らないなら幸せかもしれないっすね。……じゃあこの話はおしまいっす」

 

 ルプスレギナは唐突に話を打ち切りました。しかしありんすちゃんは気になって仕方ありません。

 

「……やめた方が良いっす。ありんすちゃん夜トイレに行けなくなっても知らないっすよ?」

 

「いいから話すでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんに促されてルプスレギナは話始めました。

 

「あるところに熊の男の子がいたっす。ある日男の子は友達のおやつをこっそり食べちゃったっすよ。それ以来男の子はオナラが止まらなくなったらしいっす。皆は男の子を『くまのプーさん』って呼んで馬鹿にしたらしいっす。そのうちお腹のガスが溜まり過ぎて……」

 

 ルプスレギナはそこで口を閉じました。

 

「どうなったでありんちゅ?」

 

 ルプスレギナは意地悪そうな笑いを浮かべました。

 

「ドッカーーン! ……って爆発しちゃったっすよ。……馬鹿っすね。オナラが止まらなくなった時にあることをすればたすかっ……」

 

 丁度その時にルプスレギナを呼びにシズが来たので話はそこで終わったのでした。

 

 ありんすちゃんは立ちあがると裸になって姿見に自分の姿を映してみました。心なしかお腹が膨らんでいるみたいです。オナラは相変わらず止まりません。泣きそうになりながらありんすちゃんはルプスレギナを探す事にしました。

 

 第一階層からログハウスにやって来たありんすちゃんはルプスレギナがいないか尋ねましたが、残念ながらいませんでした。

 

 次に第六階層に行くとアウラとマーレがいたので尋ねてみました。アウラは一瞬怪訝な表情をしましたが、ありんすちゃんのただならない様子に気がつくと優しく語りかけました。

 

「あのさ、ありんすちゃん。ルプスレギナを探しているのはどうしてなのかな? 良かったらあたしに話してみなよ」

 

「ありんちゅちゃ、プーさん、プーさん……ありんちゅちゃ、ばくはちゅ、ヒック……」

 

 アウラの優しい言葉に気持ちが緩んだのか、ありんすちゃんはとうとう泣き出してしまいました。アウラはありんすちゃんを優しく抱き抱えてあげました。

 

「いるんでしょ? ルプスレギナ、もういい加減にしときなよ?」

 

「なんだ、やっぱり気付かれていたっすね。ちょっとした可愛いイタズラっすよ」

 

 不可視化を解除したルプスレギナが姿を現しました。ありんすちゃんは事態がよく解らずきょとんとしています。実はありんすちゃんの止まらないオナラはすべてルプスレギナのイタズラだったのでした。

 

 そもそも『くまのプーさん』なんて話もすべてルプスレギナのでまかせだったのでした。何はともあれありんすちゃん、無事で良かったですね。

 




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080ありんすちゃんねぼける

 ナザリック地下大墳墓第六階層に朝が来ました。マーレはハンモックの中で目覚めてうーんと伸びをしました。するとハンモックに他の誰かがいることに気がつきました。

 

 なんと、ありんすちゃんがマーレに寄り添うようにすやすやと寝息を立てています。

 

「あ、ありんすちゃん? ……あ、あれ? どうして?」

 

 マーレは混乱しました。どうやら夜中にいつの間にかありんすちゃんがマーレのハンモックに潜り込んで来たようです。

 

「んー……おはよー」

 

 寝ぼけ眼をこすりながらやって来たアウラがマーレに声をかけます。と、ありんすちゃんがいることに気がついて目を丸くしました。

 

「あれ? ありんすちゃんじゃん? えっ? なんで?」

 

 何故かアウラの脳裏にはマーレとありんすちゃんが結婚式をあげる光景が浮かびました。そしてウェディングドレスを着たありんすちゃんがアウラに『お姉ちゃま、よろちく』と挨拶を……

 

「いやいやいや、そんなのあり得ないから……マ、マーレ?あんた一体?」

 

「違うよ、お姉ちゃん。僕も何がなんだか……」

 

 何が違うのかはわかりませんがマーレは慌てて首を振りました。アウラはジトっとした視線を相変わらずマーレに向けています。

 

「う、うーん……うるちゃいでありんちゅ。……まだ寝ているでちゅよ」

 

 唖然とする双子の前でありんすちゃんはマーレの毛布をかぶって再び寝息を立て始めました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……うむ。それはなかなか興味深い話だね。なるほど、なるほど」

 

 アウラの話を聞いていたデミウルゴスはいかにも楽しそうに言いました。アウラにはなにがなにやらわかりません。デミウルゴスはそんなアウラの表情に気がつくと言葉を続けました。

 

「これはまだ推測の域を出ないのだけど、マーレとありんすちゃんの二人は特別な関係かもしれないね」

 

 アウラの脳裏にはまたしても二人の結婚式の光景が浮かびました。

 

「アウラ、君は姉として二人の恋を暖かく見守っていくべきだね。……しかしながらNPC同士のカップリングとはね……全く盲点でしたよ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「アウラ、デミウルゴスから聞いたのだけれど……シャルティア、いえ、ありんすちゃんが貴女の義妹になるんですって?」

 

 アウラが振り向くと守護者統括のアルベドが慌てた様子でいました。若干興奮気味で紅潮したアルベドは続けて言いました。

 

「早速、マーレとありんすちゃんとの結婚式をあげるとしましょう。こういう事は急いだ方が良いと思うの。仲人にはアインズ様にお願いしたら良いわね。私もアインズ様に付き添って、まるで妻みたいで誤解されてしまうかも……いいえ、どうせならば私とアインズ様の結婚式も一緒に……」

 

「結構です」

 

 このままこの話が大きく広がってアインズ様の耳に入ってしまうと大変です。アウラはなんとかしなければ、と思いました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 第六階層のアウラの住居にありんすちゃん、アウラ、マーレが集まっていました。アウラは少し緊張気味です。アウラに脇をつつかれたマーレが口を開きました。

 

「あ、あの……その……ありんすちゃんは、ぼ、僕の好きなのかな?」

 

 マーレからの質問にありんすちゃんは可愛らしく小首を傾げながら答えました。

 

「うーん……好きでありんちゅね」

 

「じゃ、じゃあ、その……僕と結婚……」

 

「結婚ならアインジュちゃまとでありんちゅ。マーレはおこちゃまちゅぎまちゅね」

 

 アウラは思わずありんすちゃんに叫びました。

 

「えー……じゃあなんでマーレのハンモックにいたのよ?」

 

「マーレは……焼きたてアップルパイの匂いがするんでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんの予想外の答えに双子は呆れてしまいました。仕方ありませんよね。ありんすちゃんは5歳児くらいの女の子に過ぎませんから。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 翌朝、ハンモックで目覚めたマーレはまたしても隣に誰かが寝ている事に気がつきました。もしかしたらまたありんすちゃんが来ているのかもしれませんね。起き上がったマーレは思わず叫びました。

 

「お、お姉ちゃん?」




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081ありんすちゃんとおふろ

 今日もありんすちゃんは自分の階層の見廻りを早々と終えてお風呂でくつろいでいます。浴槽に泡を満たして、お気に入りのアヒルを泳がせながら思いました。

 

 大好きなお風呂をずっと楽しむ事が出来たらとても素晴らしいのに、と。そしてありんすちゃんは閃きました。そうです。いっそのことお風呂で生活したら良いのではないでしょうか?

 

 思い付いたら即実行です。シモベ達を浴槽の周りに集めてありんすちゃんは宣言するのでした。

 

「これからありんちゅちゃは、お風呂から出ないでありんちゅ」

 

 シモベ達は大混乱です。いつものありんすちゃんの気まぐれだとは思いましたが、いろいろと問題がありそうでしたから。

 

「あ、あの……巡回はどうなさるのでしょう?」

 

 おずおずと遠慮がちにヴァンパイア・ブライドが尋ねました。

 

「やめるでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんは即答しました。それを聞いてシモベ達は真っ青になりました。階層の巡回は至高のお方から命じられた仕事です。それを簡単に放棄するとなればただでは済みません。なんとかありんすちゃんを宥めないと大変な事になってしまうでしょう。

 

「では、あの……湯船に入ったまま巡回するのは如何でしょう? ソウルイーターに馬車を着けてそこに浴槽を乗せればお風呂に入りながら巡回出来ます」

 

 ありんすちゃんは悩んでいるみたいでした。シモベ達は必死です。なんとしても主であるありんすちゃんを言いくるめなくてはなりません。

「それでは馬車を花で飾りましょう。湯船にも花びらをたくさん浮かべましょう。きっと素敵だと思いますよ」

 

 ヴァンパイア・ブライド達は交互にありんすちゃんを説得しました。そのうちにありんすちゃんもその気になってきたみたいです。

 

「それはなかなか良さそうでありんちゅね。わかったでありんちゅ」

 

 シモベ達は皆、ホッと胸をなでおろしました。とりあえずなんとか巡回はこれからも続けてくれる事になりました。

 

 ありんすちゃんがお風呂で暮らし始めてすぐに一つの問題が起きました。それはお風呂の温度を保つ事でした。最初は第七階層から溶岩を運んでいましたが、思いの外の重労働なのと、運ぶ際に床を焦がしたり、火傷をするシモベが続出したりでうまくいきません。

 

 最終的には釜を作り、そこにエルダーリッチが並んでファイヤーボールを撃ち込む事でなんとか解決しました。

 

 さらに大変だったのはありんすちゃんがお風呂で寝ると言い出した時でした。さすがにお湯に浸かったままで寝る事は思いとどまってもらい、お湯を抜いた浴槽に布団を敷いて寝る事になりました。

 

 やがて、ありんすちゃんがお風呂で暮らすと宣言して一週間が経ち──ありんすちゃんは結局元のように屍蝋玄室に戻っていました。なんでもお風呂でアイスクリームを食べていたらうっかり湯船に落としちゃったからやめたんですって。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子ですから。

 




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082ありんすちゃんとオッパイ

 ナザリック地下大墳墓第九階層──ありんすちゃんが誰かを探すかのようにキョロキョロしながら歩いています。どうやら誰かに用事があるみたいですね。

 

「これはこれは……ありんすちゃ、様では」

 

 ありんすちゃんが振り返ると戦闘メイドのユリとシズがいました。ありんすちゃんは二人を交互に眺めてから小さく呟きました。

 

「ま、これくらいで我慢するでありんちゅか……」

 

「な、なにを!?」

 

 思わずユリは叫びました。ありんすちゃんがいきなり両手でユリの胸をわしづかみにしたからです。ありんすちゃんは両手をわきわきさせてユリの胸を揉み始めました。

 

「ありんす様? 一体なにを?」

 

 ありんすちゃんはユリの胸を揉んだ手を自分の胸に当てます。

 

「これでよし」

 

 ありんすちゃんは満足したように頷くと、トテトテと駆け出しました。

 

「ありんす様ー? ボクの胸をなんでー?」

 

 ユリはありんすちゃんに問いかけましたがそのままありんすちゃんは走り去ってしまいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 次にありんすちゃんが姿を見せたのは第六階層でした。

 

「おやー? ありんすちゃんじゃん。あたしに用かな?」

 

 アウラがありんすちゃんに声を掛けましたが、ありんすちゃんは無言でアウラの胸元をじっと見ています。やがて小さく「プッ」と笑うとトテトテと走り去っていきました。

 

「うーん……なんか感じ悪ーい」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 アルベドはアインズの部屋のベッドの中で思い出に浸っていました。ナザリック地下大墳墓の玉座の間でアインズがアルベドに触れてよいかと尋ねた時の事を──そして「構わないな?」と力強く言いながら胸に手を伸ばして──

 

「モミモミモミ……」

 

 アルベドが我に帰るといつの間にかありんすちゃんがいて、アルベドの胸を両手で揉んでいました。ひとしきり揉み終わると今度は自分の胸を触ります。

 

「ちょ、ありんすちゃん? ……あんた……」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「オッパイが大きくなるおまじないでありんちゅ」

 

 アインズの執務室に連れてこられたありんすちゃんは胸を張って答えました。アインズは子供のする事と笑って済ましたかったのですが、いかんせん被害者がたくさんいすぎました。ここは穏便に解決しなくてはならないでしょう。

 

 アインズは考え考え言葉を絞りだしました。

 

「ありんすちゃんよ。私はお前の創造主のペロロンチーノさんとは仲が良かった。おそらくパンドラズ・アクターを除けばありんすちゃん、つまりシャルティアについて一番詳しいかもしれない」

 

 ありんすちゃんは神妙そうな表情でアインズの言葉に耳を傾けています。

 

「ある日、ペロロンチーノさんが酷く愚痴をこぼしていた事があった。その時、ペロロンチーノさんははっきりと言った。『オッパイなんて飾りです。エロい人にはわからんのです』と。そして更に『貧乳はステータスだ。稀少価値だ』とも」

 

 ありんすちゃんの顔はみるみる明るくなっていきました。

 

「無理に背伸びする事はペロロンチーノさんも望まないだろう」

 

「わかりまちた……」

 

 ありんすちゃんはアインズに向かって深々とお辞儀をしました。アインズはほっとしました。どうやらこれで無事に解決出来たみたいです。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ちなみに翌日、アウラとマーレからありんすちゃんが胸を撫でに来るという苦情があがったそうです。まあ、ありんすちゃんは5歳児位の女の子ですから、仕方ありませんよね。




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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083ありんすちゃんとからっぽのヨロイ

 今日のありんすちゃんはナザリックの地表部に建てられたログハウスにいました。忙しそうにしている戦闘メイド──今日はソリュシャンとエントマがいましたが──にお構い無しに、窓に顔をつき出した格好でうとうとしています。

 

「どうでもいいんだけどぅ、ここはぁ、託児所じゃあないんだけどぉー?」

 

 エントマがありんすちゃんに聞こえるように愚痴を言いましたが、ありんすちゃんは自分の事を言われたとは気づかないみたいです。気持ち良い春のポカポカとした日射しにありんすちゃんはうつらうつらしています。

 

 と、鼻がムズムズして……

 

「くちゅん!」

 

 小さなくしゃみと共にありんすちゃんの姿が消えてしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 気がつくとありんすちゃんは狭い所にいました。どうやらテレポーテーションでどこかに移動してしまったみたいですね。窮屈な中で懸命にもがいているとピョコンと頭が外に飛び出しました。周りを見回すとどうやら洞窟のようでした。

 

「綺麗な剣でありんちゅね」

 

 洞窟の壁には大きくて綺麗な飾りが一杯ついた剣が飾られていたので、つい、ありんすちゃんはため息をつきました。きっとありんすちゃんはこの剣の持ち主になる為にテレポーテーションしたに違いありません。偶然たまたまテレポーテーションしたら剣があった、なんていう夢のない話では無いと思います。多分。

 

 ありんすちゃんは剣に手を伸ばそうとしましたが、頭を出している場所の他に出口が無いみたいで手を出すことが出来ません。すぐ近くに綺麗で素敵な剣があるのに手が届きません。こんな素敵な剣をアインズ様にプレゼントしたらきっとアインズ様は大喜びしてくれるでしょう。ありんすちゃんは身体ごと倒して剣の側まで転がる事にしました。

 

「ゴオォォン!」

 

 ありんすちゃんが倒れると大きな音がしました。なんという事でしょう。ありんすちゃんが入っていたのは金属製の鎧でした。そして──ありんすちゃんは今まで気がつきませんでしたが、剣のすぐ下に白金の鱗の竜がいました。白金の竜はゆっくりと起き上がり辺りを見回します。

 

 きっとあの剣の番をしている竜王に違いありません。戦えばおそらく勝てない相手ではなさそうですが、今のありんすちゃんは鎧にはまっているので文字どおり手も足も出ない状態です。

 

(……これはみちゅからないようにちないといけないでありんちゅ)

 

 ありんすちゃんはほっぺたを膨らませて鎧のような顔をしました。

 

「なんだ……君か。ずいぶん久しぶりだね。まだ冒険者をしているのかい?」

 

「冒険者はとうに引退したさ。代わりにインベルンの泣き虫に任せて、じゃな」

 

 いつの間にか白金の竜王の隣に老婆が来ていて、仲良さそうに話をしていました。

 

「彼女を泣き虫呼ばわりするのは君位のものだよ。……しかしまあ、よく冒険者になる事を認めたものだね?」

 

「簡単さ。ちょっとばかりボコボコにやっつけてやったのさ」

 

 老婆はニヤリと笑いました。

 

「そうか。それは彼女にとっては良かったかもしれないね。……魔王との戦いでは彼女にも世話になったから幸せになって欲しいものだね」

 

「……ふん。それは難しいじゃろうて。魔王との戦いで儂が一緒に戦った仲間はお主ではなくてあそこに転がっている空っぽの鎧だったがの」

 

 二人はじっとありんすちゃんを見つめました。ありんすちゃんはさらにほっぺたを膨らませて鎧の真似をします。

 

 ありんすちゃん渾身の演技で二人共ありんすちゃんの存在に気がつかないようです。

 

「……昔の事さ。それに別に騙そうとした訳じゃない。」

 

 白金の竜王の言葉を老婆は聞き流して尋ねた。

 

「激しい戦いじゃったみたいじゃな? ……これも揺り戻しかの?」

 

 老婆の鋭い視線は鎧に大きく開いた穴から顔を出しているありんすちゃんを居抜きました。ありんすちゃんは更に更にほっぺたを膨らませて鎧の真似をします。

 

「それはどうかな……確かに強大な力を持った吸血鬼だったけれど。邪悪な存在なのは間違いないみたいだった」

 

「お主が全力で戦えば勝てない相手はいないじゃろうて」

 

 白金の竜王はありんすちゃんをじっと見つめながら答えました。

 

「ところで君に渡した指輪はどうしたのかい?」

 

「あんなもの、小僧めにくれてしまったわ」

 

 老婆の答えを聞いて白金の竜王は少し悲しそうな顔をしましたが、ありんすちゃんは鎧の真似で必死な為、気がつきませんでした。さすがにほっぺたを膨らませ続けてきたありんすちゃんも我慢出来なくなってきたので──

 

「〈テレポーテーチョン〉でありんちゅ!」

 

 初めてありんすちゃんの存在に気がついた白金の竜王と老婆の驚く顔がぼやけ……ありんすちゃんはナザリックの入り口に戻ってきました。

 

「おちっこ!」

 

 そして──ありんすちゃんは大急ぎでお手洗いに向かうのでした。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を書いてくれました
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084ありんすちゃん07211919

 ポカポカとした穏やかな昼下がり、ありんすちゃんとアウラはナザリック地下大墳墓の第六階層にある山小屋でのんびりとお茶をしていました。ありんすちゃんはアップルティーに角砂糖を三ついれて、ちょっと悩んでからもうひとつ入れました。

 

「やっぱりちゃとうはよっちゅ、でありんちゅね」

 

 ありんすちゃんはカップをすすると満足そうに言いました。

 

「……うーん……そうだね」

 

 アウラが相づちを打ちましたが、なんだか上の空みたいです。

 

「アップルティーだとケーキが食べたいでありんちゅね。ありんちゅちゃはモンブランがしゅきでありんちゅ」

 

「……うーん……そうだね」

 

 どうやらアウラはありんすちゃんの言葉を聞き流していただけみたいですね。それもそのはず、アウラはさっきからアインズ様に頂いたぶくぶく茶釜様の声が入ったバンドをうっとりしながら眺めていたのでした。

 

 ありんすちゃんだって、アインズ様からペロロンチーノ様の百科事典を頂いたのですから羨ましくなんてないですよね。ね?

 

 ニヤニヤと笑みが崩れているアウラをじっと羨ましそうに眺めていたありんすちゃんはアウラに尋ねました。

 

「ちょう言えばアインジュちゅまがタイマーをセットちないように言ってた時間があるんでありんちゅよね?」

 

「うーん……たしか0721と1919にはセットしちゃいけないってアインズ様に命じられているよ」

 

 ありんすちゃんの瞳がキラーンと光りました。

 

「ちょのしゅうじ、きっと意味があるんでありんちゅよ」

 

「うーん……でもアインズ様から命じられているからね。やめておくね」

 

「ちょういえば……この前変な箱をみちゅけたでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは最近、屍蝋玄室の奥で見つけた謎の箱の話をしました。頑丈で鍵がかかっており、どうやらテンキー部分で暗証番号を入力しないと開けられないみたいです。

 

「へー。面白そうだね。もしかしたら07211919で開いちゃったりするかもね?」

 

 ありんすちゃんとアウラは屍蝋玄室で見つけた箱を開けてみる事にしました。

 

「ありんすちゃん、じゃああたしが番号を押すからね。えーと……0 7 2 1…………」

 

 アウラが07211919と押すとカチャリと音がして箱が開きました。そして中には金色のおしゃぶりが入っていました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……うむ……こ、これは……」

 

 ありんすちゃん達が持ってきたアイテムを魔法──〈道具上位鑑定〉をかけたアインズは思わず唸りました。ありんすちゃんとアウラは緊張した面持ちでアインズの言葉を待ちました。

 

「うむ。このアイテムは『星に願いを』と良く似た効果がある。肉体の変化に限定されるものの、三回だけ発動出来るアイテムだったようだな。既に一回発動した後なので残りは二回みたいだが……これはきっとペロロンチーノさんが所持していたアイテムだろうね。だからありんすちゃんが持っていると良い」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 再び第六階層に戻って来たありんすちゃんとアウラはとても興奮していました。この金のおしゃぶりは大変なアイテムだったのでしたから。

 

「ありんすちゃん、これはよくよく考えて使わないといけないね──え?」

 

 アウラがありんすちゃんを見るとなんとありんすちゃんは金のおしゃぶりをくわえていました。どうやら金のおしゃぶりを発動させるつもりみたいです。

 

「ちょ、ちょっと待ってって!」

 

「おっきくなるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんが願い事を叫ぶと同時に金のおしゃぶりが光りました。

 

 ──そして──なんとありんすちゃんは10Mの大きさになってしまいました。

 

 ありんすちゃんは大人になるつもりで『大きく』して欲しかったのでしたが、金のおしゃぶりはそのまま『大きく』してしまったのですね。

 

 

 

 その後最後の発動でもとの大きさになんとか戻る事が出来ましたが、結局、せっかくのアイテムが無駄になってしまいました。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 




※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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085ありんすちゃんひきこもる

 守護者統括アルベドはいささか緊張していました。ナザリックの繁栄の為のある計画の為、アインズ様とデミウルゴスが当分不在となっていたからです。

 

「アインズ様の留守をしっかり守らなくては……ナザリックはいわば家族。まるで家族の長たるアインズ様の留守を守る新妻の気分ね。そうね、新妻。……ああ……アインズ様……」

 

 アルベドがありんすちゃんを訪ねて第二階層にやって来ると屍蝋玄室の周りにシモベ達が集まっていました。

 

「……これはなんの騒ぎ? シャルティア……ありんすちゃんはいるかしら?」

 

「……アルベド様。その……ありんす様はいらっしゃるのですが……その……」

 

 シモベのヴァンパイア・プライドが言いにくそうに答えました。代わりに他のアンデッドのシモベが答えました。

 

「……恐れながら……ありんす様は自室にこもって出てこないのでして……至高の御方から与えられた仕事もせずこうして籠っておられます」

 

 アルベドは金色の瞳を細くしました。これは至高の御方への反逆にも等しい行為、まさかまたしてもありんすちゃんが反逆したという事なのでは──が、しかし──アルベドは思い直しました。いまのシャルティアはシャルティアではなくありんすちゃん。所詮は幼児、大それた考えなしに仕事をサボっただけかもしれません。

 

 ましてやアインズ様が不在の最中に最悪な事件──シャルティアが再び反逆する──などあってはならないのです。

 

「わかったわ。この件は私がなんとかします。あなた達はありんすちゃんの代わりに階層の巡回と警戒をしっかりしておきなさい」

 

(……さて……アインズ様の留守にこの問題を片付けてしまわなくては……)

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 アルベドの命を受けてアウラが屍蝋玄室の前にやって来ました。アウラはまず室内の様子を窺います。どうやらありんすちゃんは誰かと会話をしているようでした。

 

『……………………』

 

『ちょうでありんちゅか。やっぱりちょうでありんちゅよね』

 

『…………………………』

 

『もっと言うでありんちゅ』

 

 アウラは扉をノックしてみました。

 

「ありんすちゃん? いるんでしょ?あたしだけど、開けて」

 

 途端に室内がシーンと静まり返りました。どうやらありんすちゃんは息を殺して居留守を使っているようです。

 

「ありんすちゃん? いないの?」

 

 アウラはなにやら閃いたみたいです。

 

「ありんすちゃんいないのかな? いないのなら『いない』って返事をしたら諦めるけど?」

 

「ありんちゅちゃいないでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはついつい返事をしてしまいました。すぐに騙された事に気がつきましたが後の祭りです。仕方なくしぶしぶとアウラを招き入れました。

 

 アウラが中に入るとありんすちゃんは死の宝珠の言葉に聞き入っているところでした。

 

「なんと美しい、なんと賢い、誠に素晴らしいありんす様……」

 

「当然でありんちゅ」

 

「世界中で最も凛々しく賢く美しいありんす様は正に我が全てを捧げるに相応しい」

 

「もっと言うでありんちゅ」

 

 アウラは何も言わずに死の宝珠を掴むと持って来た袋に押し込んでしまいました。ありんすちゃんは口を尖らせて抗議をしましたが、アウラは黙って首を振るのでした。

 

「ところでありんすちゃん。この宝珠、何処で拾ったの?」

 

 ありんすちゃんはなかなか答えようとしません。アウラは肩をすくめて言いました。

 

「これはアインズ様がハムスケに預けた宝珠じゃん。どうせハムスケが口から落としたのを拾ったんじゃないの? ……とりあえずこれはあたしがアルベドに渡すから」

 

 ありんすちゃんはいやいやをしましたが、アウラは怒った顔で『仕事しろ』と睨むので諦めざるを得ませんでした。

 

 泣きそうなありんすちゃんを少し可哀想に思ったアウラは優しく声をかけました。

 

「ま、この宝珠の言葉なんて単なるゴマすりだから、聞く必要ないんだよ。与えられた仕事を放ったらかしてこんなおべっかに喜ぶなんてアインズ様は望まないと思うよ」

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 それからしばらくたってエ・ランテルの町を用事で訪れたアウラはハムスケに声をかけられました。

 

「大変でござる。それがしが殿より預かった玉を何処かに落としたでござる。なんとか殿が帰ってくる前に見つけないと命が無いでござる」

 

 アウラはハムスケをなだめ、その夜、ナザリック地下大墳墓第九階層のアルベドの私室の前にやって来ると……

 

 

 部屋の中からアルベドが誰かと話しながらくっふっふと笑う声が聞こえてきたのでした。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の…………あれ? 失礼しました。




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086ありんすちゃんこまらす

 アルベドが考え事をしながらナザリック地下大墳墓第二階層を歩いていた時の事です。いきなり屍蝋玄室の扉が開いて、中からズロース一枚の姿のありんすちゃんが飛び出してきました。

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「ありんす様、この服を着てください」

 

「キャッキャッ! イヤでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんの後をヴァンパイア・プライドがいつものボールガウンを持って追いかけます。二人はアルベドの周りをグルグル回って追いかけっこを続けていました。

 

「いい加減にしなさい! これは何の騒ぎなの!」

 

 アルベドの叫びにヴァンパイア・プライドが立ちすくむと、ありんすちゃんはスルリと脇を抜けて逃げて行ってしまいました。

 

 アルベドは平伏するヴァンパイア・プライドを起こすと優しく尋ねました。

 

「一体これは何の騒ぎかしら?」

 

 ヴァンパイア・プライドはまたもや平伏して答えました。

 

「恐れながら……ありんす様は服を着たくない気分だと仰せになりまして、その……裸で逃げまわっているのでございます。なんでもハダカンボ天国わーい、だそうで……」

 

 アルベドはため息をつきました。ありんすちゃんは幼児ではあるものの、階層守護者であり、シモベ風情ではどうしようもありません。

 

「わかったわ。ありんすちゃんには誰か適任者をお目付け役にする事にしましょう」

 

 アルベドはとりあえずヴァンパイア・プライドを戻らせると戦闘メイドのユリ・アルファにメッセージを飛ばしました。

 

〈ユリ、貴女は確か暇だったわよね? ちょっと力を借りたいのだけれど〉

 

〈これはアルベド様。実は現在アインズ様のご下命にてエ・ランテルに孤児院と学校を作っておりまして……〉

 

〈……そう。それなら良いわ。貴女はアインズ様の命令をしっかりこなしなさい〉

 

 アルベドは悩みました。こういう事は普段ならアウラに頼むのですが、アインズ不在の折りに階層守護者をありんすちゃんのお守りにする訳にはいきません。せめて戦闘メイドの誰かに……と、アルベドは適任者を思い浮かべて即座にメッセージを発動しました。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 

「なんかぁーよくわかんないけどぉー私がありんすちゃんの面倒みるんだってー」

 

 戦闘メイドのエントマ・ヴァシリッサがだるそうな口調で言いました。ありんすちゃんは相変わらずズロース一枚の格好でふざけています。

 

「……そぉれぇでぇ、ありんすちゃんは真面目にする事ぉー。ふざけているとぉーこれだよぉー」

 

 と、ありんすちゃんの目の前で不意にエントマの顔が外れて落ちました。ありんすちゃんはよほど怖かったらしく、表情がこわばり足下にはなにやら温かいものが……

 

 それ以来ありんすちゃんはおとなしくなったそうです。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 実はその後、エントマはありんすちゃんのお目付け役を外されてしまいました。

 

 ある晩の事です。アルベドの部屋に一人の領域守護者が訪ねてきました。彼はありんすちゃんのお目付け役が第二階層にいる事で眷属達が恐慌状態になっているのでアルベドの居室に避難させて欲しい、という要望をしてきたのでした。

 

 アルベドはその要望を断るかわりにエントマをありんすちゃんのお目付け役から降ろしたのでした。

 

 それでもありんすちゃんはその後もおとなしくしていたそうです。よほど怖い思いをしたのでしょうね。

 

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




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087ありんすちゃんとアウアウちゃん

 ありんすちゃんが階層の見回りをしています。今日は随分と気合いが入っているのでゴッズアイテムのスポイトランスを振り回しながら一人で見回りをしています。いつもだったらヴァンパイア・ブライドに抱っこされての見回りですから偉いですね。遠目で見るとありんすちゃんが歩いているのかスポイトランスが歩いているのかわかりませんが……

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「クックックッ……こうして完全不可視化で近づいてありんすちゃんを驚かせてやるっすよ。あー楽しみっす」

 

 おや? 姿が見えませんが何やらありんすちゃんにイタズラしようとする誰かがいるみたいですね。ありんすちゃんは気がつかないみたいです。

 

「ありんすちゃーん。やっほー! ……ん? ルプスレギナじゃん」

 

 ちょうどアウラがやって来ました。アウラはどうやら隠れているルプスレギナに気がついたみたいですね。

 

 ありんすちゃんはアウラに気がついて手をふっています。と、いきなりルプスレギナが完全不可視化したままありんすちゃんを突き飛ばしました。

 

「──あぶない!」

 

 ありんすちゃんがコロコロ転がっていくのをアウラが慌てて止めます。その時スポイトランスがアウラを直撃してしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「あちゃー……これはまずいっすね。まさかこんな事になるとは思わなかったっすよ」

 

「可愛いいでありんちゅ」

 

 ルプスレギナとありんすちゃんは変わり果てたアウラを目の前にしていました。ありんすちゃんのスポイトランスが運悪くアウラのお尻に刺さってしまい、精気を一気に吸われたアウラがなんと赤ちゃんになってしまったのでした。

 

「シュポイトランチュにこんな能力があったとはちらなかったでありんちゅ。アウアウ可愛いいでありんちゅ」

 

「あうー。だあーだあー」

 

 完全に赤ちゃんになってしまったアウラはネックレスの金のドングリをおしゃぶりのように舐め始めました。

 

「あうー。おちまんちゃん、だうー」

 

「……お、お姉ちゃん? ……あ、あの……」

 

 金のドングリはマーレの銀のドングリと通話するマジックアイテムだった為、マーレの困惑する声が聞こえてきました。

 

「マーレも第三階層に来るでありんちゅ。アウアウが大変なんでありんちゅ」

 

「えー! お、お姉ちゃんが? ……すぐ行きます」

 

「マンレあきちゅるちゅるんね。だうー」

 

 赤ちゃんになったアウラ──アウアウちゃんは何やら一生懸命にしゃべっていますが何を言っているかわかりませんでした。

 

「──おね、お姉ちゃん! えー!」

 

 到着したマーレが目を丸くしました。無理もありません。まさかアウラが赤ちゃんになってしまうなんて、ありんすちゃんも予想していませんでしたから。

 

「今日からはマーレがアウアウのお兄ちゃんでありんちゅね。良かったでありんちゅ」

 

 アウアウちゃんはマーレにハイハイで近づくと登ろうとし始めました。

 

「マーレ、抱っこしゅるでありんちゅ」

 

 マーレがアウアウちゃんを抱っこするとアウアウちゃんはマーレの耳に手を伸ばして掴もうとしました。マーレが嫌がって頭を降ると……

 

「う、うわーん! うわわわーん!」

 

 アウアウちゃんが泣き出しました。と、アウアウちゃんの近くで空間が歪み……なんと大きな魔獣が次々と召喚されました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「………これはなんとかしないとまずいっすね。うーん……」

 

「このままだとありんちゅちゃのお家もこわちゃれちゃうでありんちゅ」

 

「お、お姉ちゃん……耳をしゃぶるのはやめて……はふん」

 

 三人はマーレの耳をしゃぶりながらご機嫌のアウアウちゃんを眺めながらため息をつくのでした。

 

 仕方ありませんよね。だってアウアウちゃんはまだ小さな赤ちゃんに過ぎませんから。

 

 

 

 

 その後、スポイトランスのエネルギーを戻す事が出来て、なんとかアウラを元に戻せたそうです。




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088ありんすちゃんとスポイトランスとマーレとおしり

 今日もありんすちゃんが階層の見回りをしています。うーん……前回、あんな事があったのにまたもや真紅のフルプレートにゴッズアイテムのスポイトランスを片手にしていますね。これはまた何かトラプルが起きそうです。

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 おや? スポイトランスを振り振り歩くありんすちゃんのすぐ後ろにまたもや完全不可視化したルプスレギナがいます。また、ありんすちゃんをびっくりさせるつもりのようです。

 

 そのルプスレギナのすぐ後ろに、やはり完全不可視化したアウラがいます。ルプスレギナは全く気づいていないようです。

 

「あれ? ……ありんすちゃん。お、お姉ちゃん来ませんでしたか?」

 

 マーレがありんすちゃんに声をかけてきました。その瞬間──アウラが姿を現し、ルプスレギナがびっくりして駆け出し、ルプスレギナにぶつかったありんすちゃんがコロコロと転がって……

 

「ぷすぅー」

 

 なんとありんすちゃんのスポイトランスがマーレのお尻に刺さってしまいました。

 

「ちょっと、マーレ! あんた赤ちゃんに?」

 

 アウラがマーレに駆け寄りました。マーレは身体をくの字に曲げてお尻を突きだした姿勢で気絶していました。

 

「おやおや? マーレ様は赤ちゃんになっていないっすね?」

 

 ルプスレギナは感心したように言いました。ありんすちゃんはマーレのお尻に刺さったままのスポイトランスを見て、感激していました。

 

「さすがはゴッドアイテムでありんちゅね……マーレのお尻にみごちょに刺さっているでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはスポイトランスを突っついてみました。するとスポイトランスはマーレのお尻の上でユラーンと揺れました。

 

「……う、うーん……あれ? お姉ちゃん?」

 

 しばらくするとマーレが目を覚ましました。すぐに起き上がろうとしましたが、スポイトランスが地面に当たってまた倒れてしまいました。

 

「え、えー? ……どうなってるの?」

 

「マーレにはしっぽが生えちゃでありんちゅよ」

 

 得意そうにありんすちゃんが説明します。確かに現在のマーレはお尻からスポイトランスが生えているように見えなくもないですが……

 

「ヒャッハッハッハ……確かにマーレ様にはしっぽが出来たみたいっすよ? ……どうします?」

 

「……こ、こんなのイヤだよ。……すぐにぬ、抜いて欲しいな」

 

 ありんすちゃんはちょっとガッカリしました。偶然とはいえスポイトランスの刺さり方がまさに芸術的だったのですから。このまま型をとって銅像にして飾りたいくらい、気に入っていたのです。

 

「……マーレ、じゃああたし達が引っこ抜くから。……いくよー!」

 

「──あいたたた。お姉ちゃん、痛い」

 

 なんという事でしょう。スポイトランスの先がひっかかっていてなかなか抜けません。ありんすちゃんはこのままマーレがスポイトランスのしっぽを付けたままにしたら良いのに、と思いました。

 

「うーん……困ったっすね。このままだとトイレでふんばってもらうしかなさそうっすね。ありんすちゃん、このままだとせっかくのスポイトランス、臭くなっちゃうっす」

 

 ……それは大変です。ありんすちゃんは事の重大さがようやくわかってきました。トイレから拾ったスポイトランスをこれまでと同じように使えるでしょうか? 答えはノーです。デリケートなありんすちゃんにはとても無理です。

 

「ち、ちょっと、ありんすちゃん……な、何を? ……いたっ! イタタタタ! イタタタタ──」

 

──スッポーーン!! ──

 

 マーレのお尻に刺さったスポイトランスはありんすちゃんにより、なんとか無事に引き抜く事が出来ました。尚、マーレはしばらく安静にしなくてはならなくなったそうです。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




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089ありんすちゃんときんのはくちょう

 ナザリック地下大墳墓第二階層──ここには領域守護者の恐怖公がいます。おや? 戦闘メイドの一人、エントマがやって来ました。珍しく鼻唄混じりでスキップしながらやって来ますね。

 

「ふんふん♪」

 

 エントマは恐怖公の眷属が蠢く〈黒棺〉へ繋がっている穴へ飛び込みました。

 

 他の女性NPC達が苦手にしている恐怖公の眷属達ですが、エントマにとっては単なるおやつなんですよね。

 

「今日はぁ、料理長にたのんでぇ、カレースパイスぅ。振りかけるともっとおーいしーサイコー!」

 

 小瓶から振りかけて黄色くなったのをポリポリ食べ始めました。音だけ聞いていると、美味しそうなんですが……

 

「あの……せめて一週間おき位にしてもらえませんかな?」

 

 王冠を着けた恐怖公が丁寧な物腰で嘆願しますが、エントマは聞こえないふりをしています。それどころか、その内恐怖公にまでカレースパイスを振りかけてきたので、恐怖公は慌てて逃げます。

 

「ちょ……ねえ、ありんすちゃん様、エントマ嬢に何か言ってはくれませんかな?」

 

 辺りを良く見ると〈黒棺〉に珍しくありんすちゃんがいました。普段は恐怖公が苦手なのですが、今日はボケーとしながら座り込んでいたのでした。

 

「うーん……キレイでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんは恐怖公の『シルバー・ゴーレム・コックローチ』が放つ銀色の輝きに見とれていたのでした。

 

「なんだぁ。ありんすちゃんいたんだぁ? ……それ、欲しいの?」

 

 エントマがありんすちゃんに訊ねるとありんすちゃんは即答します。

 

「欲ちいでありんちゅ。ありんちゅちゃんもピカピカの乗り物欲ちいでありんちゅね」

 

 恐怖公は慌てました。

 

「いや、これは私めがかの至高のお方、るし☆ふぁー様より賜わりし物。たとえ階層守護者殿といえどお譲りする事は出来ませぬな」

 

 色をなす恐怖公をよそに相変わらずカレー味の恐怖公の眷属をポリポリ食べていたエントマが耳寄りな情報を話しました。

 

「そおいえばぁ、この間アインズ様の命令でぇ、宝物庫を片付けたユリ姉が色々貰って来たんだけどぉ。その中から探してみたらぁ?」

 

 ありんすちゃんは大喜びでエントマの案内で倉庫に向かいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「ほら、ちらかったままだけどぉ。探してみればぁ?」

 

「探ちてみるで、ありんちゅう」

 

 倉庫には宝物庫から運ばれてきた比較的価値の低い物が山積みになっていました。とはいえ、宝物庫の中では価値が低くてもどれも中々の物ばかりで、まさに宝の山です。

 

 恐怖公のシルバー・ゴーレム・コックローチが銀色で出来ているので、ありんすちゃんには金で出来た乗り物が良さそうですね。まあ、どうせ本物の金で出来ていなくても金色なら満足すると思いますが……

 

「見ちゅけたでありんちゅ! これが気に入ったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは金の白鳥を引っ張り出してきました。ありんすちゃんが座るのに丁度良い大きさで、しかも頭の部分の両側につかまりやすい棒まで付いています。

 

 ありんすちゃんは金の白鳥に跨がると、魔法を発動させてふわふわと飛んでいきました。

 

 それからしばらく、ありんすちゃんはどこへ行くのにも金の白鳥に股がっていくのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ──そんなある日

 

 アインズは久しぶりにナザリック地下大墳墓に戻って来ました。そこにふわふわと金の白鳥に股がったありんすちゃんがやって来ました。

 

 アインズは金の白鳥のおまるに得意そうに股がってふわふわ飛んでいるありんすちゃんの姿に、思わず言葉を失ってしまうのでした。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




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090ありんすちゃんのショー・マスト・ゴー・オン

 ──ナザリック地下大墳墓第九階層アインズの居室──アルベドがそわそわしながらアインズの寝室にいました。

 

「……アインズ様はまだお戻りになっていないみたいね……では、失礼して……そーれ! ……はあはあはあ……今のうちにアインズ様の香りをお腹の中に溜め込んでおかないと……すうはあ、すうはあ……! ……足音? まさかアインズ様がお戻りに!」

 

 部屋の主が戻って来た気配にアルベドはベッドから立ち上がると急いでベッドの下に潜り込みました。

 

「!」

 

 するとそこには既に先客──いつの間にか転移していたありんすちゃんがいたのでした。騒ぎだそうとしたありんすちゃんの口を塞ぐとアルベドはありんすちゃんを宥めました。アルベドの真剣な様子にありんすちゃんも静かになりました。

 

 アインズは部屋に入るとベッドに寝そべりました。

 

「……ん? ……何だか生暖かい?」

 

「しゃっきまでアルベ──」

 

 ベッドの下で喋ろうとするありんすちゃんの口をアルベドが慌てて塞ぎます。幸いアインズは気が付かなかったようです。

 

「……威厳か……確かに大事な事だよな……組織のトップに立つものが弱腰だったら着いていこうとは思わないからな。とはいえ、いつでも威厳があるように振る舞えるとは限らぬ……うーん。もっと演技力があれば良いのにな……」

 

 アインズの独り言を聞いてありんすちゃんの目が光りました。そうです。ありんすちゃんは以前に『赤ずきんちゃん』を演じていますから、演技力には自信があります。

 

 アルベドはベッドの下から出ようとするありんすちゃんを必死に止めます。

 

「さて、仕事に戻るとするか……ん? 気のせいか」

 

 アインズは立ちあがり、ちょっとだけ不審げな視線をベッドの下の空間に向けましたが何事もなかったかの様に部屋を後にしました。

 

 アルベドとありんすちゃんはベッドの下から這い出すと、深くため息をつきました。

 

(アインズ様は演技力を求めていらっしゃるの? ……主君の求めるものを捧げるのが臣下の努め……くっふっふふふ……)

 

 ニヤニヤしながら部屋を出ていくアルベドをよそにありんすちゃんはじっと坐り込んでいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「アインズ様!」

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層の廊下を歩いていたアインズはアルベドに呼び止められました。

 

「アルベド。どうしたのだ?」

 

「はい、アインズ様。あの、先日議題にありました……ふくり? ……」

 

「福利厚生か?」

 

 先日、アインズは各階層守護者を集めてナザリックの今後に関する意見を出させる為、組織における福利厚生の必用性の話をしたのでした。

 

「ナザリックに劇場を建設しては如何でしょうか? ナザリックの住人の中には娯楽を求める者も少なくないと思います。一定の需要はあるのではないのでしょうか」

 

 アルベドは熱く語り続けました。いにしえの為政者が支配の為にいかに娯楽を活用してきたか、といった話を聞いている内にアインズの心も決まりました。

 

「うむ。で、演目はとうするのだ? まずは台本が必要であろう?」

 

 アルベドは胸元に抱えていた一冊の本を差し出しました。

 

「この書物はかつてアインズ様の世界から持ち込まれたもので『ロミオとジュリエット』で御座います。司書のティトゥス曰く、文学的かつエンターテイメント性に溢れた作品との事でして、演目には最適かと」

 

「うむ」

 

 アインズが頷きかけた瞬間──

 

「ちょっと待ちゅでありんちゅ!」

 

 一冊の本を抱えたありんすちゃんが走って来ました。

 

「ありんちゅちゃは赤じゅきん、しゅるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは持っていた絵本『赤ずきんちゃん』をアインズに向けました。

 

「ちょっと、ありんすちゃん。こちらに来なさい」

 

 アルベドはありんすちゃんを脇に連れ出すと説得を試みました。ありんすちゃんは以前に演じた『赤ずきんちゃん』に思い入れがあるので、なかなか折れませんでした。それでも最終的にはモンブランケーキ三十個で演目を『ロミオとジュリエット』にする事に同意する事にしました。

 

「で、演目は『ロミオとジュリエット』で良いのだな?」

 

「はい。アインズ様」

 

「仕方ないから良いでありんちゅ」

 

 そこに騒ぎを聞きつけてデミウルゴスがやって来ました。

 

「随分と盛り上がっているみたいですね。で、配役はどうするおつもりですか?」

 

 アルベドが口を開きました。

 

「主人公のロミオ様は高貴な貴族の長子でもありますから、アインズ様にお願いしたく存じます。そして、ヒロインのジュリエットには──」

 

「ありんちゅちゃ!」

 

 ありんすちゃんが手を挙げました。鼻息もとても荒くなっています。

 

「え、えっと……それで良いのかね?」

 

 デミウルゴスが困惑した面持ちで周りを見ます。

 

「よくないわよ! ジュリエットには私が!」

 

 アルベドも一歩も引かないようです。

 

「……では、公平にオーディションで決める、というのはどうでしょう?」

 

 しかし、ありんすちゃんが首を縦に振りません。仕方ないので結局、ヒロインのジュリエットはアルベドとありんすちゃんのダブルキャストにする事になりました。

 

(いろいろ手間取ってしまったけれども劇のラストシーンでアインズ様とキス出来そうだから良しとすべきね)

 

 アルベドは公演までの時を夢見ながら稽古に励むのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 いよいよ公演当日──

 

 ロミオとジュリエットで有名なバルコニーのシーンが始りました。アインズのロミオが庭からバルコニーに呼び掛けると、バルコニーの窓からジュリエットのありんすちゃんが出てきます。

 

「おお、ロミオ……あなちゃはどうちて……」

 

 おやおや? ありんすちゃんがセリフにつまってしまったみたいですね。大丈夫でしょうか?

 

「ロミオ……あなちゃのお口はどうちてちょんなにおっきいの?」

 

 ……ありんすちゃん……そのセリフは『赤ずきんちゃん』ですよ?

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「ふう……何だか今日は疲れたな」

 

 その日、ロミオを演じきったアインズは自分の居室に戻ってきました。

 

「うん? ……何だか濡れている?」

 

 アインズが訝しげに見た場所は先日ありんすちゃんが座り込んでいた場所でした。



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091ありんすちゃんのたなばた

 ナザリック地下大墳墓 第十階層玉座の間──玉座のアインズの前に各階層守護者が揃いました。

 

「アインズ様、守護者統括アルベド以下各階層守護者、ガルガンチュア及びヴィクティムを除き御身の前に揃いまして御座います」

 

「うむ。ご苦労。……さて、皆に集まって貰ったのは、実は明日が七夕でな。たまには皆で七夕祭りをするのも悪くないと思ってな」

 

「たなばた……ですか?アインズ様、それは一体どの様な?」

 

 アルベド以下階層守護者達は七夕について初耳だったようでした。ただ、一人を除いて──ありんすちゃんは鼻からフンスと息を吐き出しながらアインズの前に進み出ました。

 

「アルベドはちらないでありんちゅか?『たなばた』とはぼた餅が降ってくるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは昨日ルプスレギナから教わった知識を早速披露しました。残念ながらそれは七夕ではなくてタナぼたでしたが……もしかしたらルプスレギナはわざと間違った情報を与えたのかもしれません。

 

「ゴホン……七夕とは毎年七月七日の一日だけ、天の川を隔てて離ればなれになっていた恋人が会えるという言い伝えがあってな、笹の葉に願い事を書いた短冊を吊るすと叶えてくれる、という風習なのだ」

 

「それはなかなか風情がありますな。では、早速準備するとしましょう。さいわい、短冊には私の所の羊皮紙が使えると思います。笹という植物は……」

 

 デミウルゴスが思案しているとアウラが意見を出しました。

 

「あたしの階層のザイトルクワエを使ったらいいんじゃないかな?最近また枝が伸びてきたから短冊を沢山ぶら下げるのに丁度いいと思います」

 

「それは丁度良いわね。そうだわ。せっかくだから、短冊もカラフルにしましょう。メイド達には飾りを作らせて……主だったシモベ達にも短冊に願い事を書かせても良いわね?」

 

 アルベドの意見にデミウルゴスも頷きました。

 

「では、カラフルな短冊の準備と配布は私、ザイトルクワエの飾り作りと飾り付けはアルベドとアウラに任せて、他の者はシモベ達に知らせたり、準備をするという事で良いかな?」

 

「おっけー。任せておいて。……では、アインズ様、失礼します」

 

「了解シタ……全テハ御方ノ思シ召シノタメニ……」

 

 各階層守護者達は忙しそうにそれぞれアインズに挨拶をすると準備に向かいました。後に残っていたデミウルゴスはアインズにお辞儀をすると言いました。

 

「……今回の一件、アインズ様の意図は理解して御座います。さすがはアインズ様」

 

(え?……なんの事?……いやぁ、ただ、七夕祭りをしたいと思っただけで別に……)

 

「……うむ。さすがはデミウルゴス。お前には見抜かれてしまったか」

 

 デミウルゴスは言葉を続けました。

 

「今回、願い事を短冊に書かせる事で配下の欲求や不満をいち早く発見しようとするアインズ様の真意には誠に畏れ入ります」

 

(……成程。確かに短冊を見れば階層守護者達やシモベ達の望みがわかるな)

 

「うむ。まあ、そんな所だ。ではデミウルゴス、頼んだぞ」

 

「はっ。お任せ下さい」

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓第六階層のザイトルクワエには色紙を鎖状に繋げた飾りやカラフルな短冊が沢山付けられていました。

 

 アインズはコッソリ短冊を見て回ります。

 

『世界征服 デミウルゴス』

 

『日々コレ鍛練アルノミ コキュートス』

 

『ロロロが欲しい アウラ』

 

 それぞれの階層守護者が書いた短冊を見ながらアインズは心暖まる気持ちになりました。

 

『アインズ様のお嫁さん マーレ』

 

「──ん?」

 

 マーレの短冊を見たアインズは一瞬、硬直してしまいました。そして──

 

『アインズ様の赤ちゃんを授かりますように アルベド』

 

(──こ、これは……)

 

 茫然としたアインズはしばらくしてようやく我に返りました。と、ある事に気がつきました。

 

 セバス、プレイアデス、領域守護者から一般メイドまで短冊を吊るしていましたが、階層守護者のありんすちゃんの短冊がありませんでした。

 

 アインズは第二階層の屍蝋玄室の様子を見に行く事にしました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 屍蝋玄室ではありんすちゃんが居眠りしていました。どうやら沢山の短冊に願い事を書いている内に眠ってしまったようでした。

 

 アインズはありんすちゃんの周りに落ちている短冊を拾い上げました。

 

『おおきくなりたい』

 

『いなりずし』

 

『しょーとけーき』

 

(……子供らしい願い事じゃないか。七夕らしくて良いな)

 

『きんののべぼう』

 

『うちゅうろけっと』

 

(……子供らしく夢があって良いな)

 

『とろろいも』

 

『もんぶらん』

 

(……食べ物が多いみたいだな?)

 

 そして、最後の書きかけの短冊を拾い上げたアインズは悩みました。

 

『んこ』

 

(……?……ウンコ……?……)

 

 ありんすちゃんは願い事を短冊に書いている内に『しりとり』に夢中になっちゃったみたいですね。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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092ありんすちゃんあこがれる

 今日もありんすちゃんは二人のヴァンパイア・ブライドと一緒にナザリック地下大墳墓の第一階層から第三階層の巡回をしています。

 

 おや? なんだかいつもと違いますね。いつもなら、すぐに飽きてしまったり抱っこをせがむのに今日のありんすちゃんはそんな様子がありません。顔つきもなんだか少し凛々しく見えます。

 

 第三階層まで巡回を終えると、ヴァンパイア・ブライドがありんすちゃんに向き直り、号令をかけます。

 

「Achtvng! Heil Alince-chan!」

 

 号令、そしてありんすちゃんに対して敬礼をします。

 

「じーくなじゃりっく、でありんちゅ」

 

 うーん……なんだかイヤな予感がしますが……

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 アインズは暫くぶりにエ・ランテルの街のモモンの住居を訪れていました。

 

「……うん? アンデッド反応があるな。……二つ?」

 

 一つはハムスケが抱き枕がわりにしているデスナイトでした。そしてもう一つは……どうやら建物内から反応しているようです。

 

(モモン、いや、パンドラズ・アクターにアンデッドの来客か? ……それともズーラーノンの関係者か?)

 

 アインズは〈完全不可視化〉を発動すると建物の中に入り、様子を伺いました。見ると居間でパンドラズ・アクターと一緒に小さな人影がありました。

 

「では、次のカッコいいセリフですが、愛していますという意味の言葉です。では、『Riebt!』はい!」

 

「りーべ! ……でありんちゅ」

 

「うーん……もっと情熱的に感情を、そう、溢れる愛を込めて下さい」

 

「りぃーべ! ……でありんちゅ」

 

 なんとパンドラズ・アクターと一緒にいるのはありんすちゃんでした。ありんすちゃんはキラキラとした瞳でパンドラズ・アクターの大げさなジェスチャーに見とれています。

 

「…………」

 

 アインズはそんな二人の様子にため息をつくと、静かに扉を閉めて立ち去って行きました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 それから暫くしたある日、ありんすちゃんの姿がナザリック地下大墳墓の第九階層にあるアインズの執務室にありました。

 

「うむ。……その、だな。最近、シモベ達に敬礼をさせているそうだが?……」

 

 アインズの問いかけにありんすちゃんは瞳をキラキラさせて答えました。

 

「カッコいいでありんちゅ」

 

「……ゴホン……そうか。格好が良いのか……うーむ」

 

 ありんすちゃんは興奮しながら更に言葉を続けました。

 

「パンドラジュ・アクターカッコいいでありんちゅ。ありんちゅちゃもカッコいくなりたいでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは大袈裟な手振りを交えながらパンドラズ・アクターの格好の良さを力説します。そんな有り様を前にしたアインズは力が抜けていくのを感じました。

 

(まさに黒歴史だ。こんな形で胃の痛くなる様な思いをするとは思わなかったな……)

 

「……そ、そうか……わかった。戻ってよろしい」

 

 ありんすちゃんはアインズに向かい気を付けの姿勢を取ると──

 

「はいる、アインジュちゃま、でありんちゅ」

 

 ──敬礼をし、踵を打ち鳴らして退出していきました。

 

「──パンドラズ・アクターを。パンドラズ・アクターにすぐ来るよう伝えよ」

 

 ありんすちゃんが居なくなるとすぐにアインズは控えていた一般メイドに命じるのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「──なんですと! それではアインズ様はこのわたくしめにありんすちゃんが憧れるのを辞めさせよと? ……それはアインズ様の本心なので御座いましょうか?」

 

 目の前で仰々しい身振りで話すパンドラズ・アクターを眺めながら、アインズは喉元に酸っぱいものがこみ上げてくるような感覚に苦しめられていました。

 

(まさに黒歴史だ。でもさ、格好が良いって思っていたんだよな。若気の至りみたいなのなんだろうけどさ……)

 

「ふむ。しかしな、パンドラズ・アクターよ。貴様がその身振りやドイツ語の言い回しをする様に設定したのはこの私だ。そして私はお前以外のものがそれらを真似る事は許すべきではないと思うのだ」

 

 アインズの言葉にパンドラズ・アクターはいたく感銘を受けたみたいでした。

 

「畏まりました。アインズ様。では私に一つ考えが御座います。それならありんすちゃんが私の真似を諦めてくれる事でしょう」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「ちゅまり、ありんちゅちゃがありんちゅと言ってはいけない、でありんちゅか?」

 

 翌日、第二階層の屍蝋玄室に訪れたパンドラズ・アクターの言葉にありんすちゃんは目を真ん丸くしました。

 

「実は私の話すドイツ語は完成された言語でして、『ありんす』等の形容詞や助動詞は加える事は赦されないのです」

 

 つまり、ありんすちゃんがパンドラズ・アクターの真似をするには『ありんす禁止』だと言うのです。ありんすちゃんはじっと考え込みました。

 

 でも、答えは一つに決まっていますよね。もし、ありんすちゃんが『ありんす禁止』になったら、この物語は『ふしぎのくにの?ちゃん』になってしまいますから。

 

 目をつぶって考え込んでいたありんすちゃんがパッチリと目を開きました。

 

「決めたでありんちゅ。ありんちゅ封印、するでありんちゅ」

 

「えー?」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 パンドラズ・アクターからの〈メッセージ〉を受けたアインズは酷く動揺しました。

 

〈アインズ様、かくなる上はいっそドイツ語をナザリックで流行らすのは──〉

 

 アインズにとって幸いな事にありんすちゃんのお熱はすぐに醒めて、翌日にはいつものありんすちゃんに戻っていたそうです。可哀相だったのはパンドラズ・アクターで、あれだけファンだったありんすちゃんから『キモいでありんちゅ』と言われてショックだったみたいです。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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093ありんすちゃんのがーるずとーく

 今日のありんすちゃんは朝からプリプリしていて不機嫌でした。実は昨日、アルベドとアウラのガールズトークから締め出されてしまったのでした。

 

「ありんすちゃん様、いかがなさいますか?」

 

 ありんすちゃんに恐る恐るシモベのヴァンパイア・ブライドがお伺いを立てます。

 

「こうなったらありんちゅちゃも『がーるずとーく』しるでありんちゅ。すぐにプレアデシュ呼んでくるでありんちゅ」

 

 なるほど。アルベド達とは別にガールズトークをするのですね。主催者だったら仲間外れにはならないですよね。

 

 問題はありんすちゃん主催のガールズトークのティーパーティーに参加者がどれだけいるかですが……

 

 三十分程して、ヴァンパイア・ブライド達が戻って来ました。なんという事でしょう! ありんすちゃんのガールズトークに戦闘メイドは誰も来れないとの事でした。

 

「皆さんお忙しいらしく、どなたも都合がつかないそうです。仕方ありませんから私達だけでガールズトークしてはいかがでしょう?」

 

 怒りに真っ赤になっているありんすちゃんにヴァンパイア・ブライドが提案しましたが、ありんすちゃんにはとても受け入れる事は出来ませんでした。このメンバーだけではいつもと何も変わりません。せめて、一人でも良いから参加者を増やさなくては意味が無いのでした。

 

「今しゅぐ、エ・ランテルに行って誰かちゅれて来るでありんちゅ。出来たらアンデッドが良いでありんちゅね」

 

 すぐさまヴァンパイア・ブライドが十人、エ・ランテルの街に向かうのでした。

 

 ヴァンパイア・ブライド達が戻るまでにありんすちゃんはナザリック地下大墳墓の第二階層の屍蝋玄室からティーセットやらテーブルとイスとかを運び出します。配下のシモベ達によって地表のログハウスの脇にティーパーティーの会場が出来上がりました。

 

 ここならばエ・ランテルからやって来たお客さんをナザリック内に入れずに済みますし、ログハウスのプレアデスにありんすちゃんのティーパーティーを見せつける事が出来ます。もしかしたらソリュシャンかルプーあたりは途中から参加したいと心変わりするかもしれませんね。

 

「うむ。お前がありんすちゃんか? その、ガールズトークに参加すれば、も、モモン殿の秘密を教えてくれる、と聞いたが……その……私はイビ、いや、キーノという。その……たまたまエ・ランテルに来ていた通りすがりのヴァンパイアだ」

 

 そこには二人のヴァンパイア・ブライドに挟まれて、十四五歳くらいの金髪で赤いローブを着た少女が立っていました。ありんすちゃんはホスト役としてキーノと二人のヴァンパイア・ブライドを席につかせます。

 

 次々と他のヴァンパイア・ブライドも戻ってきましたが、残念ながら連れてこれた客は結局キーノだけでした。でも、とりあえずこれでありんすちゃんの面目は保てたので、シモベのヴァンパイア・ブライドから更に二人を席につかせてガールズトークを始める事にしました。

 

 残りのヴァンパイア・ブライドとシモベ達はナザリックに返し、六人で紅茶を楽しみます。おや、今回の参加者は全員がアンデッドでしかも、偶然、全員がヴァンパイアです。

 

「ヴァンパイアあるある、言い合うのもおもちろいでありんちゅね」

 

「……いや、私はモモン殿の──」

 

 ありんすちゃんは横から遮ろうとしたキーノの口にシュークリームを押し込んで黙らせました。とても美味しいシュークリームなんですよ、それ。

 

「ええと、鏡に映らないとか言われますが、映りますよね?」

 

 早速ヴァンパイア・ブライドの一人が話題に乗ります。

 

「この前、急流で溺れかけちゃでありんちゅ。水は気をちゅけないとダメでありんちゅ」

 

 ヴァンパイア・ブライドは全員がありんすちゃんが溺れかけたのは単に背が届かなかっただけだと知っていましたが、黙っていました。

 

「初めてのお家は『上がってくだちゃい』と言われるまで上がっちゃいけないでありんちゅ」

 

「……いや、それは迷信……それよりモモン──むぐぐ……モグモグ」

 

 ありんすちゃんは今度は大きなエクレアをキーノの口に押し込みます。キーノは顔中をクリームだらけにして、モゴモゴしていました。

 

「銀製品は少しだけ苦手です。十字架は別に好きでも嫌いでも無いですが」

 

「ちょうでありんちゅね。あと、トマトジューチュよりオレンジジューチュがしゅきでありんちゅ」

 

 最初のうちはいろんなヴァンパイアあるあるの話題に盛り上がっていましたが、ありんすちゃんはどうやら飽きてきたみたいです。

 

「たまにはキーノの話を聞くでありんちゅ」

 

「モモン殿の秘密とは是非、教えて頂きたい!」

 

 キーノは勢いよくありんすちゃんに詰め寄りました。と、いきなりありんすちゃんは意を決したかのような真剣な表情で立ちあがりました。

 

 ありんすちゃんはこれでもナザリック地下大墳墓の階層守護者の一人です。ですから当然、アダマンタイト級冒険者“漆黒”のモモンが実はアインズの仮の姿である事を知っています。

 

 しかし、目の前にいる『通りすがりのヴァンパイア』キーノが実は王国のアダマンタイト級冒険者蒼の薔薇のマジックキャスターであるイビルアイだという事をありんすちゃんは知りません。

 

 このままありんすちゃんはモモンの秘密をばらしてしまうのでしょうか?

 

 ありんすちゃんの言葉をキーノもヴァンパイア・ブライド達も、そしてログハウスの中にいるプレアデスも固唾を飲んで待ちます。ピンと張り詰めた空気の中、ありんすちゃんが口を開きました。

 

「……おちっこに行ってくるでありんちゅ」

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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094ありんすちゃんとねむれないよる

 ナザリック地下大墳墓 第二階層 屍蝋玄室の寝室──大きな天蓋のダブルベッドで頭までタオルケットにくるまってありんすちゃんが寝ています。

 

 おや? モゾモゾして、タオルケットから少しだけ頭を覗かせてキョロキョロしています。熱帯夜で寝つけないのでしょうか? しばらくするとまた頭までスッポリとタオルケットを被りました。

 

 ありんすちゃんはベッドの中でモゾモゾしています。どうやらオシッコがしたいのを我慢しているみたいです。

 

 ありんすちゃん、早くトイレに行くと良いですよ? 一人で行けないならシモベのヴァンパイア・プライドを呼んだら良いのではないでしょうか?

 

「……ヤチュメウナギが怖いでありんちゅ」

 

 うーん……ありんすちゃんはどうやら昼間にルプスレギナがした話を真に受けてしまっているみたいですね。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「ありんすちゃん、こんにちはっす。今日は夏の土曜日っすね。土曜の丑三つ時はウナギっすよ」

 

 その日の昼頃、ありんすちゃんがヴァンパイア・プライドとのんびりしている所に戦闘メイドのルプスレギナがやって来ました。

 

「ウナギでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんは小首を傾けながら聞き返しました。

 

「あの、ニュルニュルのやちゅでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんは得意そうに言葉を足しました。賢いありんすちゃんはちゃんとウナギを知っているんです。

 

「そうっすよ。そのウナギのお化けが出るっすよ。土曜日の丑三つ時、つまり今晩っすね」

 

 どうやらルプスレギナはありんすちゃんを怖がらせようと、いい加減な事を言っているみたいですね。しかしありんすちゃんもヴァンパイア、それも真祖。元々がアンデッドですからお化けなんて怖がるはずがありません。

 

「……お化けなんて、怖く、ない……でありんちゅ。ありんちゅ」

 

 ……おや? ありんすちゃんの顔が強ばっています。うーん……どうやらありんすちゃんはお化けが苦手みたいですね。アンデッドなのに……

 

 そんなありんすちゃんの様子を眺めながら、ルプスレギナが続けます。

 

「ただのウナギのお化けじゃないっすよ。ヤツメウナギっす。こーんなにデカイ口をガバーって開けると中にはビッシリと尖った牙がグルリとあるっす。不気味で凶悪なヤツメウナギ、よりによってこの屍蝋玄室で見た事があるっすよ」

 

 ヴァンパイア・プライドが何か言おうとしましたが、ルプスレギナが制止します。

 

「……ありんちゅちゃは見ちゃ事ないでありんちゅ。ヤチュメウナギなんていないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは必死に否定しました。もし、そんな怪物が居たらありんすちゃんは安心して眠れません。

 

「……ヤツメウナギの怪物は間違いなく居るっすよ。せいぜい頭をかじられないように気をつけるっす」

 

 そして夜になり、ありんすちゃんはベッドに入りましたが、ヤツメウナギの怪物の事をあれこれ考えている内に怖くて眠れなくなってしまった、という訳です。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ヴァンパイア・プライドに付き添ってもらい、用を済ませたありんすちゃんはベッドに戻りました。そして相変わらず頭を出したり引っ込めたり、タオルケットを被ったりめくったりしています。

 

 どうも眠れないみたいですね……

 

 とうとう意を決してムクリと起き上がりました。愛用の枕とお気に入りのウサギのぬいぐるみのつかむと屍蝋玄室を後にしました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……なあに? こんな夜中にやって来て……あたしは寝てたんだけど?」

 

 ありんすちゃんがやって来たのは第六階層のアウラとマーレの住居でした。アウラは熟睡中だった所を起こされてひどく不機嫌でした。

 

「……え? ヤツメウナギの怪物? 屍蝋玄室に?」

 

 ありんすちゃんは一生懸命にヤツメウナギの怪物の怖さを伝えます。しばく黙って話を聞いていたアウラは呆れた様子でため息をつきました。

 

「──あのさ、それってありんすちゃんの事じゃん。真祖の姿ってまんまヤツメウナギそっくりだよね?……じゃ、おやすみ」

 

 アウラは冷たくいい放つとありんすちゃんの前で扉を閉めました。

 

 うーん……考えてみたら真祖の姿を本人は鏡で見る事はあまりなさそうですよね。まさか自分の事を怖がっていたなんて……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※ありんすちゃんが挿し絵を描いてくれました

 

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095ありんすちゃんとコキュートス

 ナザリック地下大墳墓 第五階層──氷河──。階層守護者のコキュートスは久しぶりに戻ってきました。

 

 〈大雪球──スノーボールアース〉で留守を預かっていた雪女郎──フロストヴァージン──達が出迎えます。

 

「……留守番、ゴ苦労。……特ニ変ワッタ事ハナカッタカ?」

 

「コキュートス様の留守中に特に何も御座いませんでしたが……あの……」

 

 雪女郎の一人が言いにくそうに言葉を濁しました。

 

「……ナンダ? 何カアルナラ申シテミヨ?」

 

「……実はその、……ありんすちゃん様がコキュートス様をお待ちになっていらっしゃいます」

 

 コキュートスは思わず息を吐き出しました。白い息がコキュートスの外装に薄い氷を作ります。

 

「……アリンスチャンカ……? 珍シイ客ダナ。……マタ氷河デ凍ラセタ死体デモ必要ニナッタノカモシレヌ。……デ、アリンスチャンハ何処ニイルノカ?」

 

「あの、コキュートス様のお戻りになる時間がわからないと申し上げましたら、ご自分で〈スノーボールアース〉の中で待つと……」

 

「……ウム。ワカッタ。マズハ会ッテ話ヲ聞ク事ニシヨウ」

 

 コキュートスはありんすちゃんが待つ〈大雪球──スノーボールアース──〉に入りました。

 

 中ではノンビリとくつろぐありんすちゃんの姿がありました。

 

「待っていたでありんちゅ。コキュートシュにお願いがあるんでありんちゅよ」

 

「……ウム。ドンナ願イカ聞カセテモラオウカ。……ダガ、断ッテオクガ、リザードマンノ財産ニカカワル事ハ認メラレナイゾ……」

 

 コキュートスはあらかじめ予防線を張りました。アウラが以前にリザードマンのペットのヒュドラのロロロをねだった事があったからです。

 

「ちょんなこちょはしないでありんちゅ。ただ、コキュートシュに第ニかいちょうに来てお仕事して欲ちいだけでありんちゅ」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ありんすちゃんに連れられてコキュートスは第ニ階層の〈屍蝋玄室〉の前にやって来ました。ありんすちゃんは広場になっている場所を示しながら言いました。

 

「ここに雪山をちゅくって欲ちいでありんちゅ。こーんな、こーんなおっきいなのでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは両手をいっぱいに広げて説明します。どうやら最近暑いので涼しくする為に雪山が欲しいみたいですね。

 

「……シカシ……涼シクスルナラバ第五階層カラ氷ノカタマリヲ運ンダホウガ良イノデハナイカ? 雪ヲ降ラセテモスグニ溶ケテシマウダロウ……」

 

 ありんすちゃんは首を振りました。

 

「雪が良いでありんちゅ。雪じゃないとダメなんでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんに言われるまま、コキュートスはスキルを発動してあっという間に十メートル程の高さの雪山を作りました。

 

 ありんすちゃんは大喜びです。大きな鍋に入ったメロンシロップを雪山にかけると、屍蝋玄室の上から雪山──いや、巨大なかき氷に飛び込みました。

 

 これがありんすちゃんがやりたかったのですね。

 

 その日、一日中かき氷を食べ続けたありんすちゃんはお腹を壊してしまったそうです。アンデッドなのに……

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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096ありんすちゃんおえかきする

「フーンフーンンンンールルラルルー♪」

 

 ナザリック地下大墳墓第ニ階層の屍蝋玄室では、ありんすちゃんが寝転がってお絵かきに夢中になっています。

 

 画用紙に肌色のマーカーで大きな丸を描いて丁寧に塗りつぶします。それから赤のマーカーで目と口を描きます。髪は灰色のマーカーで描きます。左右に伸びた髪はクルクルとカールさせます。

 

 ピンクでフリフリの帽子と大きなリボンを描き足せばあっという間にありんすちゃんの出来上がりです。

 

 画面一杯の大きなありんすちゃんの自画像をしばらく眺めていたありんすちゃんは今度はサインペンを手にします。

 

 ありんすちゃんの顔の上に『ありんすちゃん』と書きました。『す』が左右逆さなのはご愛嬌です。またもやしばらく眺めていたありんすちゃんはサインペンで『かわいい』と書き加えました。そして、それから『とっても』と書き加えました。

 

 これで『とっても かわいい ありんすちゃん』の絵が完成しました。ありんすちゃんは満足そうです。

 

 床に今まで描いた絵を広げてみます。どの絵も真ん中に楽しそうなありんすちゃんが描かれています。

 

 ありんすちゃんはふと、これまでの出来事を絵に描いてみたくなりました。さてさて、どの出来事を描いてみましょう?

 

 いろんな事がありましたから、たくさん描けそうですよね。

 

 ありんすちゃんが最初に描いてみたのは戦闘メイドのナーベラルを追いかけてアインズ扮する冒険者モモンと一緒になった様子でした。

 

 次にありんすちゃんはトブの大森林でザイトルクワエと戦った様子を描いてみました。ありんすちゃんと他の階層守護者達とが合体した姿を一生懸命描きました。コキュートスが複雑な形態なのでとても苦労したそうです。絵ではありんすちゃんが目からビーム光線を出しているようですが……まあ、5歳児位の女の子のありんすちゃんの記憶ですから仕方ありませんよね。

 

 次の絵を描こうとしてありんすちゃんは鏡の中の自分の姿を見ましたが、どうもうまく描けないみたいです。ありんすちゃんは画用紙とマーカーを握りしめると何処かに走って行きました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第九階層を歩いていた守護者統括 アルベドはいきなり走って来たありんすちゃんとぶつかりました。

 

「ちょ……なんなの? ありんすちゃん? そんなに慌てて」

 

「モデルがひちゅようなんでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはそう言うといきなりアルベドの胸を両手で揉みました。

 

「ちょ……なに? また……」

 

 なるほど。おそらくありんすちゃんは以前にユリやアルベドの胸を揉んだ時の事を描こうとしているのですね。

 

 しかしながら、当然アルベドには全く理解出来ません。しばらくアルベドの胸を揉んでいたありんすちゃんはガックリと肩を落としました。

 

「モミモミしてるちょ描けないでありんちゅ……描いているちょモミモミ出来ないでありんちゅ…」

 

 

 うーん……それは仕方ないと思いますが……

 

 それから一時間もの間、アルベドは訳が分からないままにありんすちゃんに胸を揉まれ続けたそうです。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

 

 ちなみにありんすちゃんがお絵かきした作品はそれぞれの話のあとがきに掲載していきますので、興味がある方はご覧下さい。




作中に出てきたありんすちゃんの作品です
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097ありんすちゃんはみた

 ナザリック地下大墳墓 第ニ階層〈屍蝋玄室〉──もうじきお昼になるというのにありんすちゃんはまだぐっすり眠っているようです。

 

 あれ? 起きてる……と思ったら目玉が書いてあるアイマスクをしていたんですね。びっくりしました。

 

 モゾモゾしながら大きなあくびをして、どうやらようやくお目覚めのようです。

 

 うーん……どうも最近睡眠が浅いみたい? なんだか疲れが抜けない? なんだか年寄りみたいな事をブツブツ言っていますね。

 

 ありんすちゃんは育ち盛りの子供なんですから、とはいってもアンデッドだから育たないのかも知れませんが──とにかく子供らしく元気に過ごして欲しいものです。

 

 ベッドの上でありんすちゃんがボンヤリしていると、シモベのヴァンパイア・ブライドが顔を出しました。

 

「ありんすちゃん様、コキュートス様がお見えになりました」

 

 ありんすちゃんがうなずくと、冷気と共に階層守護者のコキュートスが入って来ました。

 

「……アリンスチャン、オ目覚メノヨウダナ。我ガ階層デ作ッタ天然氷ノカキ氷デモ食ベテクレ」

 

 ありんすちゃんは大喜びです。ありんすちゃんの大好きな宇治金時の山盛りかき氷です。コキュートスはかき氷に手を伸ばすありんすちゃんを制すると言いました。

 

「──ソノカワリ、アノ事ハ内密ニシテモライタイ。タノム」

 

 ありんすちゃんは何の事かさっぱりわかりませんでしたが、力強く頷きました。

 

「まかちぇるでありんちゅ! 」

 

 決してかき氷を早く食べたかったからではないと思いますが……

 

 コキュートスが去ると、今度はアウラがやって来ました。なんだかモジモジしていて、いつものアウラらしくありません。

 

「あ、ありんすちゃん。やっほー。……とても美味しいモンブランケーキを持ってきたよ。ほら、栗も大きいでしょ?」

 

「モンブラン!」

 

 ありんすちゃんはまたまた大喜びです。さっそくモンブランケーキをわしづかみにしようと手を伸ばします。

 

「──その前に! ……ありんすちゃん、あたしのあんな所を見られちゃったけどさ、たまたまなんだから忘れて欲しいんだけど? ね?」

 

「わかったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはまたしても力強く頷きました。うーん……モンブランケーキを食べたいから、かもしれませんね。

 

 アウラはホッとした様子で帰っていきました。

 

「これはきっと幸運のアイマシュクでありんちゅね!」

 

 ありんすちゃんは目玉が書いてあるアイマスクをマジマジと眺めました。このアイマスクをつけて眠って起きたらこんなに良い事があるなんて。もしかしたらたまたまなのかも知れませんが。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 

 さかのぼる事、数時間前──

 

 ナザリック地下大墳墓第五階層〈大雪球〉──コキュートスが真っ赤なビキニブリーフを前にして腕組みしてなにやら考え込んでいます。

 

「……コノママ全裸キャラトシテ変態扱イサレ続ケルカ、ソレトモセメテパンツヲハクベキカ……悩ミ所ダナ……」

 

 しばらく考え込んでいたコキュートスは意を決すると、赤いビキニブリーフをつかんで足を通しました。が、なんという事でしょう! しっぼが引っ掛かって上まであげられません。なんとも微妙な格好で、まるでパンツをずり下げた変態に思われかねない状態になってしまいました。

 

「……マズイナ、コレハ。シモベ達ニハトテモ見セラレン……ナ、アリンスチャン?」

 

 慌てるコキュートスの前に突然ありんすちゃんが現れました。実はありんすちゃんは寝呆けて〈グレーターテレポーテーション〉を発動させてしまっただけで、ぐっすりと熟睡中だったのですが……たまたま目玉が書いてあるアイマスクをしていたのでじっとコキュートスを見つめていると勘違いさせたのでした。

 

 動揺したコキュートスを残してありんすちゃんはまたもや何処かに転移してしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第六階層──守護者のアウラがマーレの衣装タンスの前でなにやら思い詰めていました。

 

(……この間、アインズ様が『アウラが好きだ』って言ってたけど、もしかしたらアルベドでなくてあたしが正妻に……)

 

 アウラはタンスからマーレのミニスカートを取り出しました。

 

(その内あたしもグラマーになって、女らしい衣装も似合うようになるかも……)

 

 アウラはミニスカートを履いて鏡の前でセクシーポーズをとりました。

 

「……ウッフーン。パンチラサービスぅ──う! ゲッ! ……あ、り、ん、す、ちゃん?」

 

 アウラの目の前にありんすちゃんの姿がありました。とはいってもありんすちゃんは熟睡中だったんですが……結局、アウラもありんすちゃんに恥ずかしい格好を見られたと思い込んだそうです。

 

 まあ、ありんすちゃんはなにも見ていませんから、単純にかき氷やモンブランケーキが食べられて良かった位しか思っていませんでしたが……

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。





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ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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098ありんすちゃんしょうせつをかく

 ナザリック地下大墳墓第ニ階層〈屍蝋玄室〉──今日もありんすちゃんは床に寝転がって一生懸命になにやら書いています。また、お絵かきしているのかと思ったら、どうやら文章を書いているみたいですね。

 

「ふしぎのくにのありんちゅちゃはありんちゅちゃが書くでありんちゅ」

 

 うーん……二次小説の主人公が自分が登場する小説を書くなんて聞いた事がありませんが……

 

 それにありんすちゃんにまともな文章が書けるとは思えません。ハーメルンに投稿出来るのは最低文字数が一千文字で、四百字詰め原稿用紙で二枚半です。

 

「ありんちゅちゃが書いて評価をまっかかにしゅるでありんちゅ」

 

 うーん……無理です。それ。

 

 まあ、ありんすちゃんの事ですからしばらくしたら飽きてしまうでしょうし、オーバーロード本編の最新刊の12巻が九月末にならないと出ないので、ネタ切れ気味な私としてはありんすちゃんが話を書いてくれるのは有り難い事ではありますが……

 

 それにこのままだとありんすちゃんが『スクリームアイドル』を結成してしまったりしそうなので……そうなるよりは幾分ましかもしれません。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「できたでありんちゅ! 傑作が書けちゃでありんちゅ!」

 

 どうやらありんすちゃんの小説が書き上がったみたいですね。どれどれ──

 

 

『ありんすちやんかわいいとてもかわいいびじん

 

ナザリックありんすちやんおうちでおふろあわあわブクブク

 

ありんすちやんはちんちんありません

 

ありんすちやんはいいました

 

ありんすちやんにちんちんください

 

あいんずさまにちんちんもらいます

 

はえたはえた

 

ありんすちやんにちんちんはえました

 

によきによきちんちん

 

こりでたちしよんできます

 

とばしつこでかちます

 

ありんすちやんはちんちんふつてでかけました

 

まあれとあうらがいました

 

ありんすちやんはちんちんみせます

 

すごいちんちん

 

あうらはくやしくなるす

 

あたしもほしいあうらいいます

 

ありんすちやんとくいです

 

ちんちんがとんでいきました

 

ちんちんはどこいつたかな

 

あるいていくとちんちんおちてた

 

ありんすちやんがひろうと

 

ちんちんがこんにちわしました

 

ぼくはちんちんです

 

ありんすちやんかわいです

 

ありんすちやんけこんしましよ

 

ありんすちやんはおこたわりします

 

ありんすちやんはあいんずさまにおむこするからだめです

 

ちんちんはなきました

 

えんえんありんすちやんのいじわる

 

ちんちんはなきつつけました

 

しるとちんちんはとけてました

 

さよならちんちん

 

ありがとおちんちん

 

 

 

      ────おわり──』

 

 

 

 

 

 これ……だめですよね。ちなみに作中のちんち──いや、やめておきましょう。……うーん……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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099ありんすちゃんとパッド

 ナザリック地下大墳墓第ニ階層〈屍蝋玄室〉──今日の階層の見回りを既に終えたありんすちゃんは自分の部屋でのんびりしています。

 

 普段使っていないクローゼットの引き出しを開けてみたありんすちゃんは、綺麗に並べて仕舞われているたくさんの胸パッドを見つけました。

 

「ありんすちゃん様、これは全てかつてシャルティア様であった頃にお使いになっていました胸を大きくするパッドでございます」

 

 ありんすちゃんの質問にヴァンパイア・ブライドが答えます。シャルティアだった頃ならともかく、5歳児位の女の子に過ぎない現在のありんすちゃんには全く無用な物ですから、今までありんすちゃんは存在する事すら気がつかなかったのも仕方ありませんね。

 

「ぱっど、でありんちゅか? 色んな種類があるんでありんちゅね」

 

 ベッドの上に並べられたたくさんのパッドを眺めながらありんすちゃんはため息をつきました。デザインや色も様々で、素材もいろんなものがあります。以前のシャルティアのパッドにかける情熱がこのコレクションから垣間見る事が出来ます。

 

「シャルティア様はこちらのシリコン製の品をお試しになられましたが、重さで落ちてしまい、結局こちらの布製のパッドを左右それぞれ三枚ずつ重ねて着用される事が多かったそうです」

 

 ありんすちゃんにはシャルティアだった頃の記憶がほとんどありません。ですが、ひどくこだわっていた事らしく、今のありんすちゃんにも惹かれる気持ちがありました。

 

「……あの……ありんすちゃん様、お試しになりますか?」

 

 ありんすちゃんの気持ちを察してヴァンパイア・ブライドが声をかけました。勧められるままに、ありんすちゃんは胸にパッドをつけてみましたが残念です……さすがにサイズが合わないので無理でした。

 

 本来の用途での使用はあきらめたありんすちゃんですが、まだまだ興味が尽きないようです。ベッドの上に広げられたコレクションを一つ一つ、じっくりと見比べるのでした。

 

「こっちのはプルプルでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんが気に入ったのは肌色のシリコン製のパッドでした。本物のオッパイ同様の感触で、指先で突っつくとプルンと揺れます。

 

「……気持ちいいでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはパッドに顔をすりすりしてみました。少しひんやりしていて病みつきになりそうです。その内になにやら閃いたありんすちゃんは頭にパッドを乗せるとリボンで縛りました。

 

「ひんやりして気持ちいいでありんちゅ」

 

 すごいですね。ありんすちゃんは時々ただの5歳児位の女の子に思えない発想力を発揮しますよね。

 

 ちなみにこのありんすちゃんの発案のひんやり帽子『ヒヤリハット』はその後商品化され、エ・ランテルで大人気商品となったそうです。




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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100ありんすちゃんとルビクキュー

 その日のありんすちゃんは暇でした。ですから部屋の片隅にほったらかしにしていたルビクキューを取り出して遊んでいました。

 

 ルビクキューというのは四角い形のパズルで、それぞれの面が違う色になっています。それが上下左右に回転するようになっていて、色をバラバラにしたりまた色を揃えたり出来ます。……ありんすちゃんには出来ませんでしたが……

 

 それまでは一面ですら揃えられなかったありんすちゃんでしたが、なんと二面が揃ってしまいました。まったくの偶然だっただけなんですが、ありんすちゃんは得意満面です。

 

 誰かに見せびらかして自慢したくなりました。シモベ達を集めてありんすちゃんが如何に素晴らしい偉業を達成したかを褒め称えさせましょうか? ありんすちゃんは静かに首を振りました。ダメです。このところありんすちゃんはやたらとシモベ達を集めて自慢ばかりし過ぎていたので、最近はどうもシモベ達がウンザリしてきているのでした。

 

 では、第六階層に行って双子のダークエルフに自慢してみては如何でしょう? ありんすちゃんはまたしても首を振ります。そもそもアウラもマーレもルビクキュー自体を知りません。ですからありんすちゃんが二面を揃えた事がどれ程凄い事かわからないでしょう。それどころかきっとこう言うでしょう。「面白そうじゃん。あたしにもやらせて」……器用なアウラの事です。たちまち一面はおろか六面を揃えてしまうかもしれません。

 

「……アウアウのばーかばーかばーか!」

 

 思わずありんすちゃんはアウラに悪態をつきましたが、アウラは何も悪くないですよ?

 

「ちょうでありんちゅ。あの子に見せるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはかつてルビクキューを手に入れた時に会った女の子を思い出しました。名前は知りませんが髪が白黒の変なハーフエルフの女の子です。確かスレイン法国とかいう国でした。すぐさまありんすちゃんは〈グレーターテレポーテーション〉を発動させ──ようとして止めました。そして部屋の本棚から一冊の本を取ってニッコリしました。

 

「これをお土産にあげるでありんちゅ」

 

 そして改めて魔法を発動させたのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 スレイン法国最奥部 神聖執行会議室──最高執機関十二名による会議が行われる場所──の手前の最高神官長の執務室では現在、重要な打ち合わせの為周辺にまで人払いがされていました。

 

 誰もいないその廊下に転移魔法〈グレーターテレポーテーション〉で転移してきたありんすちゃんがやって来ました。

 

「たちかこの辺りの部屋で会ったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはトコトコと最高神官長の執務室の前にやって来ました。部屋の扉には法国語で『重要秘密会議中 立ち入り禁止』と書かれたプレートが掛けられていましたが、勿論ありんすちゃんには読めません。仮にナザリックで使われている日本語で書いてあったとしても、ひらがなしか読めないので『ち り』しか読めなかった事でしょうが……

 

 ありんすちゃん扉の前でしばらく考えこんでいましたが、すぐに明るい顔で叫びました。

 

「えっと、『ありんちゅちゃ、ようこそ、いらっちゃいまちた』って書いてあるでありんちゅ! 開けるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは扉を思いきり開けました。勿論、扉には魔法で鍵が掛かっていたのでしたが、ありんすちゃんにはなんの意味もありませんでした。

 

「……な!」

 

 部屋の中では黒の女性用下着を身につけた最高神官長と、下着姿の土の神官長──レイモンがびっくりした顔でありんすちゃんを見ました。

 

「……うーん……違ったでありんちゅね」

 

 二人がパクパクと口を開きありんすちゃんに何か言いかけた瞬間──ありんすちゃんはくしゃみをして姿を消してしまいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……あれは転移魔法……恐らく第六位階以上の……」

 

 最高神官長の執務室に残された二人は先程起きた事柄について話し合っていました。

 

「間違いありません。あの少女も恐らくは……」

 

 最高神官長にレイモンも同意しました。ちなみに二人は既に着替えていました。

 

「……さらにこの本……魔導王国で作られたもののようだ。この暴露本がガゼフの命を奪ったのかもしれぬな」

 

「……まさか? ……だとするとかの戦士長は自殺……?」

 

 最高神官長は顔をしかめました。

 

「これだけの醜聞を広められてしまっては、な。聞くところによると蘇生を拒否して死んでいったという」

 

「…………」

 

 部屋には沈黙が訪れました。二人にはこれから自分達の身に起こるであろう事がまざまざと思い描かれたからです。

 

「……恐ろしい……明日は我が身、か。……我らは秘密を握られてしまった……おそらくは、かの邪悪な魔導王に……な」

 

 力なく呟く最高神官長の横顔を見ながらレイモンは項垂れるのでした。

 

 ……かのガゼフのように我々の醜聞が明らかにされた時、自分は死を持って名誉を守れるだろうか? 魔導王の恐ろしさをこうして体験する事になろうとは……

 

 レイモンはただただ震えるのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 結局、ありんすちゃんはルビクキューを自慢する事は出来ませんでした。髪が白黒の変なハーフエルフの女の子の名前すら知らないので結局見つからなかったので諦めちゃったんですって。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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101ありんすちゃんとみつまめ

 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈屍蝋玄室〉では今まさにありんすちゃんがおやつを食べている最中でした。今日のおやつはなめらかなこし餡をたっぷりのせたみつ豆です。

 

 ありんすちゃんはあんみつだけでなくフルーツみつ豆も大好きです。こし餡を少し溶かして寒天と一緒にスプーンですくってほお張ります。完全に溶かさずに少し残した状態がありんすちゃんのこだわりです。

 

 目を閉じてうっとりとした表情はとても幸せそうですね。

 

 おや、ありんすちゃんが何やら器の中を睨んでいます。なにかあったのでしょうか?

 

 ありんすちゃんに給仕をしていたヴァンパイア・ブライド達が表情を硬くします。ありんすちゃんはじっと器から視線を動かしません。どうやらありんすちゃんが睨んでいたのは小さな黒豆のようです。

 

「この豆はいらないでありんちゅ。美味しくないでありんちゅ」

 

 どうやらありんすちゃんは黒豆が嫌いなようですね。

 

「黒豆、入れちゃダメって、ありんちゅちゃ、言ったでありんちゅよね?」

 

 ありんすちゃんが鋭い視線をヴァンパイア・ブライドの一人に向けました。ヴァンパイア・ブライドはおろおろしながら答えました。

 

「……それがその……副料理長が言うには『みつ豆から豆を抜いたらみつ豆とは言えません』と……」

 

 ありんすちゃんは思いもしない答えにしばらくポカンと口を開けたままでいました。

 

 ありんすちゃん、これは副料理長の方が正しいと思いますよ。とはいえ、私もみつ豆の黒豆はいらないと思いますが……

 

 ありんすちゃんはヴァンパイア・ブライドから器の中の黒豆に視線を戻しました。じっと黒豆を睨んでいます。どうやら頭の中でどうにかして黒豆を懲らしめてやろう、とでも考えているのでしょうか?

 

 しばらく黒豆を腕組みしながら見詰めていたありんすちゃんは何か閃いたらしく、笑いだしました。

 

「この黒豆はこうちてやるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは黒豆をつまみ上げると自分の鼻の穴に詰めました。そしてフンスと鼻息の吹くとまるで弾丸のように黒豆が飛び出してヴァンパイア・ブライドの額にくっつきました。

 

 ありんすちゃんは大喜びです。今度は左右の鼻の穴に黒豆を詰めます。

 

「フンス! フンス!」

 

 的はまたしても哀れなヴァンパイア・ブライドです。

 

「おもちろいでありんちゅ! もっとやるでありんちゅ!」

 

 今度は片方の鼻の穴に黒豆を二個詰めてみました。さて、どんな飛び方をするでしょうか?ありんすちゃんはワクワクしながら反対側の鼻の穴をふさぎ──

 

「!!!」

 

 フスー……ありんすちゃんは力一杯鼻息を出そうとしますが黒豆は出てきません。鼻に指を差し込んでみましたが、黒豆はさらに奥にいって取れません。大変です!

 

「おやおや? 大変っすね。そのうち黒豆から芽が出てきてありんすちゃんの顔にニョキニョキ豆の木が生えてくるっすよ」

 

 ありんすちゃんが見るといつの間にか姿を現したルプスレギナがニヤニヤしていました。

 

 ルプスレギナの言葉にありんすちゃんは真っ青です。いやいや、みつ豆に入っていた黒豆は発芽しないと思いますよ?

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 大騒ぎの末、結局ニューロストが持っている道具でありんすちゃんの鼻の穴の黒豆は無事に吸い出されました。やはり、食べ物で遊んではいけませんよね。

 

 翌日の昼食はチャーハンでした。ありんすちゃんは早速ペロリと平らげます。あれ? お皿の上には綺麗な緑色のグリーンピースが四つ残っていますね。

 

 ありんすちゃんは腕組みをして皿の上のグリーンピースを睨みます。うーん……もしかしたらありんすちゃんはグリーンピースが嫌いなのでしょうか?

 

 しばらく睨んでいたありんすちゃんはいきなりグリーンピースをつかむとまたしても鼻の穴に……うーん……懲りませんね。

 

 かくして鼻からグリーンピースが取れなくなったありんすちゃんは、またもや大騒ぎするのでした。

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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102番外編・“美姫”ありんすちゃん

(おかしいな……ナーベラルがいない。……まさか、まだかくれんぼなんて事は無いだろうが……急に“漆黒”のモモンとして仕事をしなくてはならないのに困ったな。……先方は『ナーベさんも是非』というたっての願いだから俺一人ではまずいんだよね。……はぁ。どうしたものかな?)

 

 ナザリック地下大墳墓の執務室でアインズは頭を抱えていました。脳裏に以前ナザリックに戻ってきた晩に、椅子の後ろに隠れたつもりのナーベラルの姿を思い出しました。かれこれ一週間前の事になりますが、それがナーベラルの姿を見た最後でした。

 

(……まさかな。あのままずっと隠れたままとは思えないが……それにかくれんぼならすぐに見つかるだろう。そもそもあれから随分経つし、いくらナーベラルでもまさか、ね? ……いくら融通がきかない性格とはいってもまさかあれから一週間もかくれんぼを続けるなんていう事は……うーん……)

 

 アインズはこの所忙しくしていた為、ナーベラルの不在に全く気がつかなかった自分を恨めしく思うのでした。

 

「アインズ様、シャルティア様がおみえになりました」

 

 アインズが頷くと、ありんすちゃんが部屋に入ってきました。見ると銀色だった髪を黒くしてポニーテールに結んでいます。服装もいつものボールガウンではなく茶色のローブを着ていました。

 

(……うん? ……これはまるで……)

 

「アインジュちゃまにはご機嫌うるわちく、ナーベのかわりにわたちが行くますでありんちゅ」

 

 緊張していたので『行きます』を『行くます』と言ってしまいました。

 

「……シャルティアよ。気持ちは嬉しいのだが、ナーベのかわりにはちょっと……」

 

「大丈夫でありんちゅ! あ、り、ん、ちゅ!」

 

 駄目です。ありんすちゃんはもはや聞く耳を持ちません。それもそうです。アインズ様がナーベラルの所在を探しているという話を聞いて、時間をかけてありんすちゃんはナーベラルに変装したのでしたから。本当は本物のナーベラルと間違って見つけてもらい、アインズ様の所に連れていってもらう計画だったのですが、さすがに無理がありますとメイドに断られてしまったのでした。

 

 結局、ありんすちゃんの激しい熱意に負けて“美姫”ナーベの代役をさせる事になってしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「依頼人は貴族と聞いていたが……あの若者かな? ……しかし……何ゆえ私をあんなに睨み付けてくるんだ?」

 

 依頼人との待ち合わせ場所に来たアインズとありんすちゃんは依頼人からの視線に戸惑うのでした。

 

「わらわがあんまり、可愛いからでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは可愛く小首を傾げてから続けました。

 

「──ころちましゅか?」

 

(……いや、そんな変な所だけナーベラルの真似をしなくていいから……)

 

 アインズは少しばかりウンザリしながらありんすちゃんをたしなめます。

 

「……その『取り敢えず殺せばいいや』という考えはよせ。死なせてしまえば利用出来なくもなる。良いな?」

 

 ありんすちゃんは少し考えてから平伏しました。

 

「さしゅがアインジュちゃま。えっと、モモンしゃ──ん」

 

(いや、そんな所ばかり真似しなくて良いから……うーん……やっぱりシャルティアを連れて来たのは失敗だったかな……)

 

「お二人は、仲が、よろしいんですね!」

 

 アインズとありんすちゃんに依頼人の若者が棘のある言い方で呼掛けて来ました。

 

「まあ、仲間ですから……初めまして。今回は名指しの指命だそうで……私がアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”のモモン、こっちが──」

 

「ナーベでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんが胸を張って名乗ります。

 

「モモンさんにナーベさん。この度は依頼を引き受けて下さってありがとうございます。私はアンドレと申します。そしてこちらが──」

 

「トーケル・カラン・デイル・ビョルケンヘイムだ」

 

 依頼人の若者はありんすちゃんを見てとても驚いた顔をしました。

 

「……あの……ナーベさんが少し若返ったりしていませんか? 少し幼くなった──」

 

「まさか。ご冗談を……気のせい、ですよ。気のせい。ハハハハハ」

 

 トーケルも釣られて笑いだしました。

 

「気のせいでしたか。ハハハハ……」

 

「そうですよ。ハハハハハ……」

 

「そうですね。ハハハハハ……」

 

 互いに腹を探りあうような空虚な響きの笑い声がしばらく続きました。

 

「ところで……組合から話は聞いていますが、ビョルケンヘイム卿が──」

 

「まだ、家督を継いだ訳でないので卿ではないがな」

 

 アインズの言葉をトーケルが遮りました。そんなトーケルにむっとしたありんすちゃんが呟きました。

 

「……ちゅまんないゴミムシでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんの呟きにトーケルは真っ青になりました。

 

「いや、その……この成人の儀を澄ませれば家督を継いだも同じというか……ですから私の事はビョルケンヘイム卿と呼んでいただいても構いませんとも。問題ありません……」

 

「……では、なんとお呼びすれば?」

 

 トーケルはありんすちゃんの顔色を伺いながら答えました。

 

「ビョルケンヘイムで構わない……です。あ、トーケルでも……」

 

「了解しました。ではビョルケンヘイムさん。今回の依頼は身辺警護という事でよろしいですね? ビョルケンヘイムさんはお家の掟によりモンスターを討伐しなくてはならないとの事ですが」

 

 トーケルの代わりにアンドレが答えました。

 

「出来れば人型のモンスターがいいですね。モモンさんは以前、ゴブリンの集団を追い払ったと聞きましたが?」

 

「ああ、南方の森から出現したゴブリンの件ですか? それはナーベがやったんです」

 

「ほーう。やっぱり凄いんですね。ナーベさんは!」

 

 トーケルがわざとらしく叫びました。ありんすちゃんは自分が今、ナーベだという事を思い出して胸を張りました。

 

「わたちがナーベでありんちゅ! しゅごいでありんちゅ」

 

 そして打ち合わせの結果、ゴブリンの残党を討伐しに行く事になりました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「どう思う? アンドレ」

 

 一頭の馬に相乗りするモモンとナーベから距離を保ちつつ移動しているトーケルはアンドレに尋ねました。アンドレは頭をかきながら答えます。

 

「……うーん……やほり坊ちゃんには脈が無さそうですな。ああしてあからさまに代役を立てられたって事は、拒絶とみた方が良いでしょうね」

 

「アンドレもそう思うか……しかし……何故ナーベさんはそんな事をするんだろうか? しかもよりにもよってあんな少女が代役など……」

 

「うーん……そうですね。明らかにすぐばれる代役、しかもモモンさんはそれを認めていません。これはあまり深く追求しない方がよさそうです」

 

 一人なにやら考え事をしていたトーケルは顔を上げました。

 

「アンドレわかったぞ。これはきっと試験に違いない。ナーベさんは私を試しているんだ。考えてもみろ? いくら代役とはいえ全く無関係な少女を代役にする筈はない。それに少女とはいえあの美貌……おそらくはナーベさんの妹かなにかなのだろう。そして彼女にいかに紳士的に振る舞うかをナーベさんは試しているのに違いない」

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「ビョルケンヘイムさん、アンドレさん、なにか悲鳴のようなものが聞こえてきませんか?」

 

 先頭のモモンがいくらか緊張した様子で振り返りました。すかさずナーベが魔法を発動させます。

 

「モモンしゃ──ん。うさみみ、可愛いでありんちゅ。悲鳴がよおく聞こえて便利でありんちゅ」

 

 いつの間にかうさ耳姿のナーベが答えます。

 

「ふむ。どうやら私達が向かっている村でゴブリン達が何者かに襲われているようです。私達は依頼人の要望を第一に考えますが……」

 

 トーケルは結局偽ナーベのうさ耳は何だったのだろう、と疑問に思いましたが口には出さずにいました。

 

「モモンさん。私達を守ってくれますか? そしてもう少し村の状況がわかる場所まで移動しましょう」

 

「わかりました。私達は依頼人の安全を守りつつ要望をかなえてみせます。もしもの場合には私達が後ろを押さえますので振り返らずに逃げて下さい。では、一気に行きますよ。ハイヤー!」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 一行が村の近くまでやって来るとひときわ大きな悲鳴が上がりました。見ると巨大なモンスターがゴブリンを襲っていました。

 

「──八本の足、頭部に王冠のようなトサカ、バジリスク! しかもあの大きさはギガントバジリスク! 石化の視線や猛毒の体液、そしてあの皮膚はミスリル製の鎧に匹敵する固さ! 最悪の相手です! 逃げましょう! モモンさん!」

 

 モンスターを見たアンドレが叫びました。と、アンドレの前に小さな影が立ちはだかりました。

 

「ここは、チャル──ナーベにまかちぇるでありんちゅ!」

 

 なんと小さなナーベがギガントバジリスクに向かっていきます。と、次の瞬間──

 

──パクリ!

 

 なんとありんすちゃん扮するナーベはギガントバジリスクに一呑みにされてしまいました。

 

「──ナーベさああん!」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナーベを一呑みにしたギガントバジリスクは今度はモモンに向かいました。と、突然ギガントバジリスクの腹部が光りだして──

 

「〈ヴァーミリオン・ノヴァ!〉でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんの超位魔法、ヴァーミリオン・ノヴァによりギガントバジリスクは消滅してしまいました。

 

「ベチョベチョで気持ち悪いでありんちゅ……クチュン!」

 

 ギガントバジリスクの腹の中で体液まみれになったありんすちゃんはくしゃみをしました。すると、ナザリック地下大墳墓の第九階層でかくれんぼを続けていたナーベラルの姿が現れました。

 

「お風呂入るでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは着ていたローブ等を脱ぎ捨てて裸になると〈グレーターテレポーテーション〉を発動させてナザリックに帰ってしまいました。

 

 尚、その後で残されたアインズと事情を知らないナーベラルがトーケル主従に説明をするはめになったのでしたが……ありんすちゃんはそんな事も知らずにのんびりお風呂に入っていたそうです。仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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103ありんすちゃんぶきをもつ

 ローブル聖王国にありんすちゃんの姿がありました。

 

「あんまり賑わっていないでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんはつまらなさそうに呟きました。デミウルゴスの話ではローブル聖王国には海があると聞いていて、ありんすちゃんは海水浴なるものを楽しもうとこっそりお忍びで来たのでした。

 

 デミウルゴスに教えてもらった座標に〈グレーターテレポーテーション〉でやって来たのでしたが海はありません。どうやら聖王国の首都のようです。人影はまばらで城壁に囲まれた街はどことなく陰気でありんすちゃんはがっかりです。

 

 と、慌ただしく人混みを散らして王城に向かう聖騎士の一団が駆け抜けていき、ありんすちゃんの持っていたイルカの浮き輪を踏んづけていきました。

 

「ありんちゅちゅのイルカ! まちゅでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは聖騎士団の先頭の白いサーコートの女聖騎士を睨んで叫びましたが、届かなかったようで騎士の一団はそのまま王城に入っていってしまいました。

 

「……もうちゅかえないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはペッチャンコにしぼんでしまったイルカの浮き輪をつまみ上げてため息をつきました。まあ、すぐそばに海がなかった時点でふくらませたイルカの浮き輪は邪魔だったのでしたが……

 

「ちぇっかくだからお散歩しるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはチョコチョコとした足取りで歩き出しました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ──ガッシャーン!

 

「──なんだか騒がしいでありんちゅね?」

 

 いつの間にか広場で眠っていたありんすちゃんは建物が壊れる音で目をさましました。壊れた建物を囲んで聖騎士達が緊張した面持ちで見守っていました。

 

「姉様! やりましたね!」

 

「まだだ! 奴は自分から飛んだんだ!」

 

 先程の白いサーコートの女聖騎士が怒鳴ります。

 

「──ふふふ。そろそろ、こちらも本気を出す頃合いのようですね」

 

「ほーう。だったらさっさと力を見せてくれないか? ……カルカ様、ケラルト、下がって」

 

 次の瞬間、倒壊した瓦礫の山から何か巨大なものが立ちあがりました。

 

「……ヤルダバオト?」

 

 なんだかよくわかりませんがどうやらこれからヤルダバオトと女聖騎士達の戦いが始まるみたいです。

 

「おもちろちょうでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはドキドキしながら広場の中央に建っている銅像の台座の横に座って見学する事にしました。

 

「──でやああああ‼」

 

 先程の白いサーコートの女聖騎士がヤルダバオトに攻撃します。女聖騎士の渾身の一撃は簡単にヤルダバオトに弾かれました。

 

「素手で相手も面倒……いや、いい武器があるな」

 

 ヤルダバオトはそう呟くと女聖騎士に背を向けました。そして女聖騎士が切りかかった瞬間──

 

「ふむ──〈グレーターテレポーテーション〉」

 

 姿が消えたヤルダバオトは次の瞬間、棒立ちになった二人の女の背後に現れました。

 

「カルカ様あぁ!」

 

 ヤルダバオトは女聖騎士がカルカ様と呼ぶ女の足首を掴んでぶら下げました。

 

「いい武器だ」

 

 ヤルダバオトは手に掴んだカルカを振り上げると女聖騎士に降りおろしました。

 

「おもちろいでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは大喜びです。人間を武器代わりに戦うなんて、なんて面白そうなのでしょう。

 

「ありんちゅちゅもやるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは立ち上がると戦いの中に入っていき、女聖騎士の足首を掴むとヤルダバオトに降り下ろします。

 

 バチンバチン!

 

 ありんすちゃんとヤルダバオトはそれぞれの武器──聖王女カルカと聖騎士団長レメディオス──を激しく打ち合いました。

 

「……これはこれは。まさかこんな場所でこれだけの相手にまみえるとは思いませんでしたね」

 

「この遊びはおもちろいでありんちゅ! こっちの武器のが丈夫だから勝ちゅでありんちゅ!」

 

 女聖騎士はなにやら聞き取れない叫び声を上げていましたが、その内静かになりました。

 

 二人は三十分程戦いましたが、なかなか勝負がつきません。仕方なく一時的に休憩する事にしました。

 

「……だいぶきちゃなくなったでありんちゅ。〈大回復〉こりでまた丈夫になったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんが女聖騎士を回復させると弱々しい声で話しかけてきました。

 

「……私はローブル聖王国聖騎士団長レメディオスだ。私は、テニスが得意なんだが……」

 

 レメディオスはありったけの知恵を振り絞って考えた台詞を口にしました。このままこん棒の代わりに振り回されては死んでしまう。少なくともカルカ様の命は無い。せめてボールならば……

 

「てにす、でありんちゅか? ……おもちろそうでありんちゅ」

 

 レメディオスの狙い通り、ありんすちゃんは乗って来ました。命懸けの説得により、レメディオスとカルカはラケットの代わりとなりテニスの試合として戦いが再開される事になりました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「やーめーた! でありんちゅ!」

 

 突然、ありんすちゃんはぐったりとしたレメディオスをポイと投げ捨てるとヤルダバオトに背を向けて去っていきました。うーん……さっきまで楽しそうにラケット(レメディオス)を振り回しながらボールを追いかけていたのに……勝負に負けそうになった途端につまらなくなったようですね。まあ、仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 後に残されたヤルダバオトは一人、小さな独り言を呟くのでした。

 

「ここにありんすちゃんが登場するとは……さすがはアインズ様。私ごときには全く予想出来ない展開……これは実に楽しみです」




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104ありんすちゃんテニスをする

「え? テニス? ……ふーん。面白そうだね」

 

 ローブル聖王国から戻ってから数日後、ありんすちゃんはアウラとマーレを訪ねてナザリック地下大墳墓の第六階層に来ていました。

 

「あの、ありんすちゃん。……そのラケットって、その……シモベを使うのは、あの、まずいんじゃないかな?」

 

 マーレの言葉にアウラも腕組みして頷きます。

 

「うん。うん。シモベ達もさ、ナザリックの仲間なんだし、あたしも物扱いするのはどうかと思うけどな?……そういや、ありんすちゃんってシモベの扱い、酷くない? この間ヴァンパイア・ブライドを立たせて『ぼうりんぐ遊び』とかってやっていたらしいじゃん」

 

 ありんすちゃんは二人の批判を受けて、思わず口をパクパクさせました。上手く言い訳をしようとしますが、言葉が出てきません。

 

「シモベを大切にしないとさ、その内にありんすちゃんのシモベがみんないなくなっちゃうんじゃないかな?」

 

「……ちょんな事ゆるしゃないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは否定しますが、内心では戦々恐々としていました。もしもありんすちゃんの階層からシモベがいなくなってありんすちゃんが一人になってしまったらどうしましょう? 階層の見廻りもありんすちゃん一人でしなくてはなりません。それにお風呂で頭を洗うのは……? 着替えもどうしましょう?

 

 真っ青な顔で呆然と立ち竦むありんすちゃんを見ていたアウラに憐れむような表情が浮かびました。

 

「とりあえず、さ……ラケットにシモベを使うのはやめておこうよ? 別に丈夫な人間だったら大丈夫なんじゃないの?」

 

 アウラのさりげない一言にありんすちゃんの顔がパアーッと明るくなりました。そうです。手頃な人間ならいましたよね?

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「ヘックション‼」

 

 魔導国傘下となり、暫定帝国の暫定皇帝と立場が変わったジルクニフは盛大なくしゃみをしました。

 

「うへぇ。……陛下、鼻水が垂れていますぜ?」

 

 近侍の一人、バジウットがおどけた様子で大袈裟な身振りで避ける真似をしました。

 

「……風邪なら気をつけて下さいね。陛下にはまだまだ頑張って頂かないと……」

 

 同じく近侍のニンブルが口を開きました。

 

(……ふん。今更この私がどう頑張れば良いと言うのだ?)

 

 ジルクニフは口の中に苦々しいものを感じながら二人の顔を交互に眺めました。かつての帝国四騎士も、一人は死亡、一人は職を辞して今ではこの二人だけになってしまいました。噂ではかの“重爆”は魔導国で解呪されて冒険者になったとか……

 

「……私も皇帝でなかったらな」

 

 ジルクニフは誰にも聞こえない位の小さな声で呟きました。そうです。もし、皇帝でなければ、現在のように魔導国から暫定皇帝として任命されなかったら──

 

「──一介の冒険者も良いものだな」

 

 思わず口から出てしまった本音に早速バジウットが続けます。

 

「……俺はそうは思いませんね。あれはあれでなかなか大変ですよ? とはいえ今の俺達程じゃ無いとは思いますがね……と。あれ……不味いんじゃないすか?」

 

 バジウットが空の彼方を指で指しました。遥か彼方の空に点のような小さな影が見えてきました。だんだんと大きくなる影は──

 

「……あれはドラゴン! 魔導国の……まあ、もう属国となったのだ。まさか無茶はすまい」

 

「……だと良いですがね」

 

 ジルクニフの目はドラゴンの背中の三人の子供達を捉えていました。そしてこれまでの理不尽な出来事の一つ一つを思い返していたのでした。

 

「……なんにせよ、だ。魔導国からのご使者殿だ。出迎えるぞ」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「なんだ。テニスラケットを借りたいだけか。それなら──」

 

 ジルクニフは魔導国から来た子供達の望みを聞いて安堵しました。テニスというのはかつて“口だけ賢者”が発明した遊びの一つで、帝国ではさほど流行っていないもののラケット等の道具はあります。

 

「ありんちゅちゃはこっち!」

 

「それじゃ、あたしはこっちにするね!」

 

 二人の子供がジルクニフの両側の二人を引ったくります。あまりの事にバジウットもニンブルも声一つ上げられませんでした。慌てたのはジルクニフです。さっき子供達は『ラケットを借りに来た』と言っていませんでしたっけ?

 

「ありんちゅちゃからいくでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは片手でバジウットを軽々と持ち上げるとブルンブルンと振ります。対するアウラは同じくニンブルを構えてポンポン叩きます。

 

「やーめーてー‼」

 

 これから始まるであろう地獄絵図を思い描きながら、ジルクニフはただただ絶叫するのでした。

 

 

 

 

 

 一時間程の死闘の後、ぐったりして身動き一つしないバジウットを放り投げたありんすちゃんがジルクニフを振り返りニッコリしました。

 

「次は皇帝の番でありんちゅよ?」

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




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105ありんすちゃんアイドルになる

 ナザリック地下大墳墓 第六階層〈アンフィテアトルム〉──円形劇場の脇に建てられた舞台劇場(経緯はありんすちゃんのショー・マスト・ゴー・オンをご覧下さい)のステージではありんすちゃん、アウラ、マーレの三人が踊っています。

 

「はいはい。そこまで。マーレはもっと動きを大きく躍動的に。アウラは左右に動く時は相手との距離感を意識して」

 

 三人にアルベドからの叱責が飛びます。ありんすちゃんはじっとアルベドを見つめて訊ねました。

 

「ありんちゅちゃはどうでありんちゅか?」

 

「ありんすちゃんは…………」

 

 アルベドはしばらく口を閉じて考え込む様子を見せました。

 

「ありんすちゃんは……そうね、そのままで良いわ」

 

 アルベドの言葉にアウラがキッと睨み返しました。

 

「ちょっと! アルベドさあ、ありんすちゃんに甘いんじゃないの?」

 

 アルベドはアウラの耳元に囁きました。

 

「アウラ、我慢して頂戴。ありんすちゃんにあれこれ指導して果たして良くなるかしら? それどころか反発して拗ねてしまうだけだとは思わない?」

 

「……それはそうだけどさあ……」

 

 アウラは言葉に詰まりました。確かにありんすちゃんの性格ではせっかくの指導は全て無駄になるでしょう。ありんすちゃんが三人のセンターに選ばれたのも、単にありんすちゃんが目立つポジションをやりたがったからだけでなく、左右からアウラとマーレがフォロー出来るから、でもありました。少なくともアルベドの説明では、でしたが。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第九階層アインズ執務室──

 

「アインズ様、これは?」

 

「うむ。実は普段アルベドと共にな、こうしてナザリックの皆から集めた様々なアイデアの中から良いものがないか検討していてな……」

 

 デミウルゴスはいたく感動しました、と大袈裟に一礼すると、紙の一枚一枚に鋭い視線を送りました。

 

「……なるほど。公平を期する為、全て同じ筆跡で清書されている……さすがはアインズ様」

 

「……よくわかったな。デミウルゴス。……所で今回付き合って貰って済まないな。いろいろ忙しいだろうに」

 

「……いえいえアインズ様。アルベドが不在なれば、このデミウルゴスが代わりをつとめるのに何の問題がありましょう? 幸いに私の仕事は現在一段落しておりますのでご懸念には及びません」

 

「……ゴホン。それならば始めるとしようか。まず──」

 

 アインズはデミウルゴスの顔色を伺いつつ一枚目の紙を選びます。このアイデアが書かれた紙の中にはアインズ自身のものも混ざっています。普段のアルベドが相手の場合にはさりげなさを装って何枚か検討した後に選ぶのですが、今回は思いきって一枚目に自分のアイデアが書かれた紙を選びました。

 

「……ゴホン。えーなになに。『魔導国の冒険者を増やす為、ナザリック戦闘メイドでアイドル冒険者チームを結成してみては如何でしょう』……うーむ」

 

 アインズはチラリとデミウルゴスの表情を伺います。アルベドなら『いったい誰がこんな愚孝を……却下です』と即座に否定した事でしょう。

 

「……ふむ。なるほど。……アインズ様がこの提案をお選びになったのには何らかの意図があるのですね。そういえばここに同じような意図の提案が──なになに、『ありんちゅちゃはすくうるあいどるになります』……どうやらありんすちゃんの提案のようですね?」

 

 デミウルゴスは瞳を細めながら嗤いました。

 

「アイドル冒険者チーム。魔導国の広告塔……なかなか素晴らしい提案ではないですか」

 

 かくて『スクールアイドル』ならぬ『スクリームアイドル』としてありんすちゃん、アウラ、マーレの三人組ユニットが急きょ結成されたのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 アルベドがナザリックに戻るとすぐに留守中にアインズとデミウルゴスで協議されたアイドル冒険者チーム案を知り、心の中で歯ぎしりしました。しかしながらそんな胸のうちは押し隠してアインズに進言します。

 

「アインズ様。そのアイドル冒険者チームの件、是非ともわたくしにお任せ下さい。きっと最高の成果をご覧頂きます」

 

 それからありんすちゃん、アウラ、マーレの厳しいレッスンが始まりました。そしていよいよアインズや階層守護者達へのお披露目の日──

 

 三人の踊りは完璧でした。

 

 日頃のレッスンの成果は間違いなく披露できていて、非の打ち所はありませんでした。……踊りに関して、は。

 

 ですが、残念な事に──

 

「こちゃえーはぁーどぅこにぃー」

 

「「イエーイ! イエーイ! オー!」」

 

 メインボーカルのありんすちゃんはなんと……音痴だったのでした。

 

 本人は気持ち良さそうに歌っていましたが……ね。仕方ありません。だって、ありんすちゃんは5歳児位の女の子なのですから。




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106ありんすちゃんきがえる

「あーあ。なんか残念だったねー」

 

「……ボ、僕もが、頑張ったんだけどな」

 

 ナザリック地下大墳墓 第六階層のアウラ達の部屋ではありんすちゃん、アウラ、マーレがため息をついていました。前回アイドルユニットとしてのお披露目で、ありんすちゃんが音痴だという決定的な欠点が明らかになり、計画は消滅してしまったのでした。

 

「……ありんすちゃんだけ口パクにしたら良いのにねー。今度あたしから『中の人』に頼んでみようか?」

 

 アウラさん……それはダメです。

 

「──ゴホンゴホン。お、お姉ちゃん、な、中の人なんてい、いないと思うな……」

 

「……ふーん」

 

 アウラは納得いかないみたいで口を尖らせました。

 

「……じゃあさ、上坂す●れに頼んでみたら良いじゃん。ありんすちゃんの声にそっくりだし」

 

「……うーん。無理じゃないかな。オバロ二次でもマイナーな作品だから、あの、上●すみれさんはありんすちゃんなんて、その、知らないんじゃないかな? それに今は鬼灯のれ──」

 

 ──ゲフンゲフン。少々お待ち下さい──

 

 ここはアウラとマーレの部屋。先程からありんすちゃん、アウラ、マーレの三人がアイドルユニットの反省会をしています。

 

「……残念だったねー。ありんすちゃんがもっと歌が上手だったら良かったね。今度はあたしがセンターでやってみる?」

 

「……お、お姉ちゃん。ありんすちゃんだって一生懸命だったんだから……」

 

 ありんすちゃんを擁護するマーレをアウラはジト目で見ます。

 

「……なあに? 世の中には一生懸命だからって許されるなんて甘い事は無いと思うけど? 下手くそは下手くそって言ってなんか悪い?」

 

「……お姉ちゃん。ありんすちゃんを責めると……」

 

 マーレはおどおどしながらありんすちゃんを振り返りました。するとありんすちゃんはマーレの衣装タンスを開けて楽しそうに様々な服を広げてご満悦でした。

 

「アウアウは衣装持ちでありんちゅね?」

 

「……え? 違うよ。それはみんなあたしのじゃなくてマーレのだよ。ぶくぶく茶釜様がよくマーレの着せ替えをしていたんだよ。そういえばありんすちゃんだって沢山の衣装をペロロンチーノ様から頂いているんでしょ?」

 

 ありんすちゃんはため息をつきました。

 

「ありんちゅちゃはかわいいの、あまり無いでありんちゅ。ナーシュ服やシェーラー服や布が少ないかわいくないのが一杯なんでありんちゅ」

 

 アウラはペロロンチーノの性格を思い出してありんすちゃんに少し同情するのでした。かつて姉のぶくぶく茶釜様から『エロ大魔王』と呼ばれていた所以を。

 

「あ、あの……気に入ったのがあったら、着てみたら、あの、どうかな?」

 

「そうだよ。着てみたら? たまにはイメチェンも良いんじゃないかなあ?」

 

 双子のダークエルフに薦められてありんすちゃんはマーレの衣装タンスから服を選んでみる事にしました。

 

「決めちゃでありんちゅ!」

 

 あれこれ楽しそうに悩んでいたありんすちゃんは黒地に花の模様が綺麗な着物を選びました。

 

「へー。綺麗な着物だね。これには確か黒髪のウィッグがあったよね? あ、これだよ」

 

 マーレが黒髪のおかっぱのウィッグを持ってきました。確かに金髪や銀髪よりも黒髪の方が着物に似合いますよね。

 

 うーん。黒髪おかっぱで着物姿のありんすちゃん。とても似合って可愛らしいのですが……なんだか座敷わらしみたいにも見えます。

 

「ありんすちゃん、似合う似合う」

 

「……本当に似合うと、あの……僕も思います」

 

 双子の賞賛を受けてありんすちゃんは得意満面です。片手を横に上げてポーズを取りました。

 

「……いっぺんちんでみる、でありんちゅ」

 

 ──あ……ありんすちゃんそれはのと……

 

 うーん。ありんすちゃんには大人の事情は関係ないみたいですね。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




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107ありんすちゃんとふしぎなダンジョン

 魔導国郊外──ここにマーレが冒険者訓練用のダンジョンを作っています。おやおや? ありんすちゃんがやって来ましたが……邪魔にならないと良いですね。

 

「マーレ。ここは何があるんでありんちゅ?」

 

「……えっと、あの……落し穴で……グリーンスライムだらけになるんです。あの、いそいで上がらないと溶けちゃうんです」

 

 ありんすちゃんはマーレの説明を聞くといきなり提案しました。

 

「じゃあここで空からチョコレートが雨みたいにたくちゃん降るんでありんちゅ。ありんちゅちゃが口おっきく開けていっぱい食べるでありんちゅ」

 

 二人は次のトラップに行きます。

 

「えっと……ここでは次から次へとスケルトンが、あの、出てきます。あの、全てを一気に全体攻撃魔法で倒したら、あのクリアです」

 

「しょうでありんちゅ。シュケルトの頭にドーナッツのしぇるでありんちゅ。ありんちゅちゃはオールジョファッショドーナッツが良いでありんちゅ」

 

 うーん……ありんすちゃんの要望を聞かない方が良さそうですが……

 

 マーレは奥の部屋の宝箱を開けました。すると中からアンデッドモンスターのレイスが飛び出しました。ありんすちゃんはビックリして尻餅をついてしまいました。

 

「あ、ありんすちゃん、大丈夫、かな?」

 

 マーレが手を延ばして引き起こしてあげました。ありんすちゃんは何事もなかったかの様に取り繕います。

 

「ありんちゅちゃをビックリさしぇるにはまだまだでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは胸を張りました。

 

「ちゅぎに行くでありんちゅ」

 

 マーレとありんすちゃんは次のフロアにやって来ました。

 

「えっと……ここは赤い石だけを踏んでいきます。あの、違う場所を踏んだら──」

 

 マーレが説明をしている最中にありんすちゃんは黒い石を踏んでしまい、落し穴に落ちてしまいました。マーレは落し穴に呼びかけます。

 

「そーのー落しー穴にはー恐怖公ーさんのー眷属がーーいーーまーーすーー!」

 

 ありんすちゃんはパラパラと顔に降ってくるゴキブリを払いながら答えます。

 

「ちょーでーあーりんーちゅーかー!」

 

 マーレはまた落し穴に呼びかけます。

 

「はーやーくーあーがってーきーてーくーだーさーいー!」

 

 ありんすちゃんは穴の底から叫び返します。

 

「あーがーりーちゃいーでーあーりーんーちゅーがーー恐怖ー公ーのーけんじょくがーふりやーまーなーいーのーでーあーがーれーなーいーでーあーりーんーちゅー!」

 

 マーレは困りました。そこで恐怖公に呼びかけました。

 

「あのー恐怖公ーさーんーー眷属ーをーふーらーせーるーのーーとーめーてーもーらーえーまーせーんーかーー?」

 

 ありんすちゃんは周囲を見回しますが、穴の底には恐怖公はいないみたいでした。

 

「マーレーー恐怖ー公ーはーるーちゅーでーあーりーんーちゅー!」

 

 マーレはありんすちゃんの『るーちゅーでー』のあたりがよく聞き取れませんでした。

 

「あーりーんーすーちゃーんーーもうーいっーかいーいってーもーらーえーまーせーんーかー?」

 

 ありんすちゃんは叫び返しました。

 

「なーにーをーでーあーりーんーちゅーかー?」

 

 マーレは穴に叫びます。

 

「さっきーなーんーてー言ったかーおーしーえーてーくーだーさーいー!」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第九階層にあるアインズの執務室にありんすちゃんとマーレが冒険者向けダンジョンの報告にやって来ました。

 

「マーレ、それにありんすちゃんよ。ご苦労だった。早速報告をしてくれ」

 

「……は、はい。今現在で、あの、八割位の、あの、完成だと思います」

 

 マーレが答えました。

 

「ふむ。で、ありんすちゃんよ。率直な感想を聞かせてくれ。子供らしい自由な感性で、な」

 

 ありんすちゃんはコクリと頷くと口を開きました。

 

「おーもーちーろーかったーでーあーりーんーちゅー!」

 

 うーん……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




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108ありんすちゃんとたくさんのランス

 ナザリック地下大墳墓に一枚の回覧が回ってきました。

 

『ありんちゅちゃのむちぼちてつだいくららい』

 

 アインズは首を傾げました。どうやら回覧を書いたのはありんすちゃんのようです。アインズは第二階層の屍蝋玄室に向かいました。

 

 屍蝋玄室には既に他の階層守護者達も集まっていました。ありんすちゃんは忙しそうに屍蝋玄室からいろいろな品物を外に運び出していました。なるほど。これらを虫干しするんですね。

 

「ふーん。随分衣装があるね? でも、この衣装箱にはナース服ばかりだけどさぁ、なんで?」

 

 アウラの疑問にありんすちゃんが答えます。

 

「ペロロンチイノしゃまは、『やきんびょうと』のナーチュ服、『ナーチュにおまかしぇ』のナーチュ服と『にょにょむらびょいんのしとしと』のナーチュ服だって言ってたでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは説明しますがあまりよくわかっていないみたいです。

 

(──うん? ……なんだか聞いた事があるような……確かペロロンチーノさんが以前話していたような……なんだっけ?)

 

「あ、あの、セーラー服やブレザーとかの箱もありますね?」

 

 マーレが開けた箱には赤や紺、黒や紫といった様々な色の学校制服が入っていました。

 

「ちょれは『ちゅはーと』でありんちゅ。ペロロンチイノしゃまは『ちょうはちょ』って言ってたでありんちゅ。他にも『でえす入れ』ちょか『すくるでーず』『どきゅうせい』ちょか沢山あるでありんちゅ」

 

(──うーん。やっぱり聞いた事がある。何だったかな? ……キャラメルコーンみたいな……東鳩だ。……たしか……ペロロンチーノさんが集めていた……フィギュア? ゲーム? だったかな……何だっけ?)

 

「何かしら? これは服なのかしら? あら? これならわたくしも持っているわ。確か『ガーターベルト』よね?」

 

 アルベドの言葉にマーレも頷きます。

 

「……あ、はい。そうですね。あの、ぼ、僕も持っています。ぶくぶく茶釜様に戴いたんです」

 

 ちなみにその箱の衣装はありんすちゃんは今一つ気に入らないみたいでした。

 

「ちょの箱はいらないでありんちゅ。可愛いの無いでありんちゅ」

 

(うーん。これは……そうか。ペロロンチーノさんの趣味、だよな? いやいや、ユグドラシルでこんなんどうやったら手にはいるんだよ? ペロロンチーノさん)

 

「……おや? こちらの箱には水着みたいですね?」

 

 デミウルゴスが開けた箱には同じ形のワンピースタイプの水着が入っていました。白や紺、ブルーと色違いのもので、なかには『しゃるてぃあ』と書かれた白い布が胸元に張り付けてあるのもあります。

 

(……これ、スクール水着だよな? スクール水着……ペロロンチーノさん! なんとなくヤバいんじゃない?)

 

「……ホウ。コレハナカナカノコレクションデハナイカ。素晴ラシイ!」

 

 コキュートスが開けた箱にはなんと沢山のランスがありました。ゴッズアイテムのスポイトランスには及びませんがどれも聖遺物級です。

 

「しょれもペロロンチイノしゃまは『きちくおランス』『しぇんごくランス』『ランスマグナン』ちょ名じゅけてありんちゅ。でもちゅかえないでありんちゅ。どゆわけか、前からちょうびできないでありんちゅ。ありんちゅちゃと書いてありんちゅに……」

 

(……これは……一から作られているオリジナルアイテムだな。うーん……データクリスタルが特殊みたいだ。ペロロンチーノさんはこんなものを作っていたなんて知らなかったな。……おや?──)

 

 アインズがそれぞれのランスを裏返してみると『18禁アリンスソフト』というシールが貼ってありました。アインズは思わず心の中で『ペロロンチーノ!』と叫ぶのでした。

 

 仕方ありませんよね。だってペロロンチーノさんはエロゲ大王なのでしたから。



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109ありんすちゃんはえる

 ナザリック地下大墳墓 第二階層 屍蝋玄室──あらあら。ありんすちゃんは部屋を散らかし放題です。食べかけのお菓子があちこちに落ちていますが気にならないのでしょうか?

 

 あらら。ほら言わんこっちゃありません。ポテトチップスをお尻でふんずけていますよ? ポテトチップスって油が多いから服にシミが残ってしまいますよ?

 

 そういえばシモベのヴァンパイア・ブライドの姿がありませんね? え! なんと! ストライキ、ですか……うーん。いつかはそんな事になる気がしていましたが……ありんすちゃん、反省しましょうね?

 

 ありんすちゃんはチョコレート系のお菓子が大好きなんですって。

 

 両手にお菓子を持ったまま、コックリコックリ頭が揺れだしました。そしてそのままお菓子が散らばったままの上で眠ってしまいました。普段ならヴァンパイア・ブライドがありんすちゃんをベッドに運んでくれますが……うーん。

 

 結局、ありんすちゃんはそのまま朝まで眠ってしまいました。

 

 目が覚めたありんすちゃんは起き上がると洗面所に行きました。そして鏡を見てビックリしました。なんと……ありんすちゃんの顔──丁度頬っぺたの辺りに小さなキノコが生えています。

 

 もしかしたらアンデッドにはキノコが生えてしまうのかもしれませんね。特にありんすちゃんはお風呂が好きですからキノコに丁度良い湿度に保たれているのかも知れません。

 

 ありんすちゃんにキノコが生えた、という話は階層守護者に知れ渡りました。早速皆が集まります。

 

「ありんすちゃん。ちょっと教えて欲しいのだけど、キノコはアンデッドなら誰でも生えるかしら? ……その……例えばアインズ様にも、とか」

 

「……わからないでありんちゅ。ありんちゅちゃもはじゅめちぇキノコ生えたでありんちゅ」

 

 アルベドは妙にモジモジしながらまた訊ねました。

 

「……その……キノコは頬っぺた以外にも生えてくるかしら? ……た、例えば……もっと下の方……とか、なんて……キャッ! 恥ずかしい……」

 

「それよりさ、アルベド。このキノコが食べられるか試してみない? あたしはそっちの方が重要だと思うけどな?」

 

 アウラは今にもありんすちゃんのキノコを食べようとしています。ありんすちゃんはイヤイヤをしました。だって、ありんすちゃんのキノコですから、ありんすちゃんに食べる権利がありますよね?

 

「……そのキノコ、例えばもっと大きなマツタケみたいなのが生えないかしら? 言っておくけどこれはナザリックにとってとっても大切な事よ? ……そうだ! すぐにもニューロニストにこのキノコが生えたありんすちゃんを調べさせなくては」

 

 アルベドがありんすちゃんをがっしりと捕まえます。大変です。このままだとありんすちゃんは解剖されてしまうかも知れません。

 

 ありんすちゃんは激しく頭を振ってイヤイヤをしました。

 

 すると──

 

「ポトリ」

 

 ありんすちゃんの顔からキノコが落ちました。

 

「あー! これってキノコの形のお菓子だ! チョコレートとビスケットのやつ!」

 

 ありんすちゃんがお菓子だらけの中で寝ていたから頬っぺたにくっついてしまったのですね。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

 

 ──皆は安心して思い思いに帰っていきました。ですが独りだけアルベドだけはまだその場で呆然と立ち、何やらブツブツ言っていました。

 

「アインズ様……キノコ……子供……」

 

 もしかしたら顔に付いたのがタケノコだったらこんなに騒ぎにはならなかったかもしれませんね。ちなみにありんすちゃんは断然キノコ派だそうです。




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110ありんすちゃんはんせいする

 前回、キノコ事件で大騒ぎしたありんすちゃんですが、あれから反省したみたいです。

 

 ありんすちゃんは第五階層にやって来ました。成る程。各階層守護者からシモベに対する姿勢を学ぶつもりのようです。コキュートスはありんすちゃんの目的を聞くと、少し感動したみたいでした。

 

「……フム。ソレハ良イ心掛ケダナ。守護者タル者ハ日々鍛練ニ務メテシモベノ見本タルベキダナ」

 

 ありんすちゃんはメモ帳に『たんれん みほん』と書き込みました。

 

 次は第六階層です。同じ様にアウラとマーレから話を聞きます。

 

「……うーん。あたしが心掛けているのはスキンシップかなぁ? 特に魔獣達は運動する事が好きな子が多いからね。散歩がわりに魔獣に乗って巡回したりしてるよ?」

 

「……あの、ぼ、僕はドラゴン位しかいないけど、まあ、植物系モンスターに水や栄養がある土とかを、あの、あげたりしています」

 

 ありんすちゃんはメモ帳に『のってじゅんかい みず』と書き込みました。

 

 次にありんすちゃんは第七階層にやって来ました。ここでもありんすちゃんは階層守護者のデミウルゴスから話を聞きます。

 

「ほう? シモベ達への階層守護者としての心掛ける点、ですか? 成る程。……そうですね。私は適材適所、が肝要だと思いますね。配下のシモベの長所短所を見極めて、それを生かす仕事を与える。それこそが階層守護者たる者の務めかと思いますがね」

 

 ありんすちゃんはメモ帳に『てきだいてきしょ』と書き込みました。

 

 ナザリック地下大墳墓 第二階層の屍蝋玄室に戻ってきたありんすちゃんはメモ帳を開きます。そして、しばらく考え込んでいましたが、『たんれん みほん』にバツ印を書きます。さらに、『てきだいてきしょ』にもバツ印を書きました。

 

 最後に『のってじゅんかい』にマル印を書くとニッコリします。

 

「……ありんちゅちゃ、ちゃんと出来てるでありんちゅ」

 

 ──いやいやいや。出来ていたらシモベ達にストライキなんてされませんって。

 

 ありんすちゃんは第三階層にシモベ達を集めました。そして各階層守護者から様々な話を聞いて学んだことを語ります。そして最後に宣言しました。

 

「これからありんちゅちゃはしゅてきな守護者になるでありんちゅ」

 

 エヘンと胸を張るありんすちゃんとは対照的にシモベ達の表情はどうも信じられない、といった感じでした。無理もありませんよね。

 

 と、ここでヴァンパイア・ブライトの一人がおずおずと手を上げました。ありんすちゃんは発言を許可します。

 

「……あの……ありんすちゃん様、もう私達で『ぼうりんぐ』をするのは止めて頂けませんか?」

 

「俺たちも『ぼうりんぐ』の玉として投げられるのは懲り懲りです」

 

 スケルトンもヒビだらけになった頭を撫でながら発言しました。

 

 ありんすちゃんは口をパクパクさせながら、ようやくにして答えます。

 

「……あ、ありんちゅちゃはしょんな事ちらないで、ありんちゅ」

 

 シモベ達からは次々と発言が出てきます。

 

「……ありんすちゃん様。私からのお願いです。鼻をほじったあとで私の顔になすりつけるのはやめて下さい」

 

「……ありんすちゃん様、私達をバラバラにしてパズル代わりにするのはやめて下さい」

 

 ありんすちゃんはシモベ達の声に反論出来ないまま、約束させられてしまいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 翌日、ありんすちゃんは機嫌良さげにヴァンパイア・ブライドを集めます。そしてまたしてもボーリング遊びの的にしようとして、早速反発されます。うーん。昨日の事を忘れているのでしょうか?

 

 しばらく考えていたありんすちゃんは今度は地面に線を引き、その線を引いた区画の中にヴァンパイア・ブライドを入れます。

 

「……ぼうりんぐはやめるでありんちゅ。ヴィシバールィで遊ぶでありんちゅ」※

 

(※ヴィシバールィはロシアのドッジボールみたいな遊び)

 

 そう言うとありんすちゃんはスケルトンの頭を構えました。

 

 

 

 その後、またしてもシモベ達からストライキされてしまったありんすちゃんは今後はヴィシバールィもしません、と約束させられてしまうのでした。仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから。




※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
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111ありんすちゃんはねつきをする

 オーバーロード13巻が発売されるまで続く2017年の冬はまだまだ終わりそうにありませんね。

 

 ありんすちゃんとアウラとマーレがそれぞれ振り袖と紋付き袴で揃いました。良いですね。たまにはこうした正月っぽいのも……

 

 改めましてあけましておめでとうございます。本年もありんすちゃんを宜しくお願い致します。

 

 三人がいるのはナザリック地下大墳墓の第六階層にあるアンフィテアトルムです。なんでもこれから羽根つきをするんですって。

 

「……羽根つきってさ、この板の所でこの羽根が付いた玉を打ち合うんだよ。で、落としたら負け。負けたら顔にこれで落書きするんだよ? ね、面白そうじゃん」

 

 ありんすちゃんも大喜びです。ありんすちゃんが勝ってアウラとマーレの顔を真っ黒にしてやろうと、鼻息が荒くなっています。

 

 あれ? アウラがマーレとアイコンタクトでニヤリと笑いましたよ? そうです。実はアウラとマーレは年末に羽子板を見つけてから今日まで猛特訓してきていたのでした。危うし! ありんすちゃん。

 

「いくでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは張り切ってつまんだ羽根を離すと羽子板で思いっきり打ち上げます。羽根はまるでロケットのように飛んでいきました。さすがはかつて守護者でも一二を争う猛者だったありんすちゃんですね。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……落ちてきませんね?」

 

 手をかざしながらマーレがため息をつきました。

 

「しょうがないなあ。ありんすちゃん力の入れすぎだよ? きっと天井に突き刺さっちゃったんだよ。今度はあたしがやってみるよ?」

 

 アウラは憤慨するありんすちゃんを尻目に羽根を羽子板で打ち上げました。羽根はありんすちゃんが打った時と同じように飛んで行き──

 

「──お姉ちゃん……落ちてこないね」

 

 羽子板を構えながらずっと空を見上げたままのマーレが呟きました。

 

「……あれー? おっかしいなー……随分加減した筈だけどねー? あ、そうだ。やっぱり外でやろう? ね?」

 

 ありんすちゃんはアウラに文句を言いたかったのでしたが、アウラの勢いに気圧されて言えませんでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 三人はログハウスから地上にやって来ました。これなら思いっきり羽根つきが出来そうです。ありんすちゃんは羽子板をブンブン振ると鼻からフンスと息を吐きました。

 

「……いくでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは羽根を放り上げると羽子板で打ちました。カシュイイイーンと音を立てて羽根はミサイルみたいに飛んでいきました。すぐさまマーレはシモベのドラゴンを呼び出すと背に飛び乗って飛び立ちました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 魔導国の傘下となったバハルス帝国首都アーウィンタール──新年から平和を楽しむ人々が賑い活気があります。

 

「……民衆がうらやましいものだな」

 

 城下を見下ろしながら皇帝ジルクニフはため息をつきました。

 

「……新年ですぜ? せめて新年くらいは楽しくいきましょうや?」

 

 バジウッドはほんのり赤く染まった顔で笑いかけます。

 

 こいつめ。酔っていやがる──ジルクニフは忌々しく思いながら窓の外に目をやります。

 

「──うん? あれは……まさか?」

 

 皇城に向かって何かがすごい勢いで飛んできます。それはみるみるうちに大きくなっていき、ドラゴンだとわかりました。

 

「──あ、あれは魔導国の──」

 

 間違いありません。以前に魔導国の使者を乗せてきたドラゴンです。ドラゴンの巨体が目の前に迫り──ドガッシャーン!

 

 ──皇城にドラゴンの尾が直撃しました。

 

「なんなんだ! なんなんだ! 一体?」

 

 あわやの所で助け出されたジルクニフは悪態をつきました。

 

「パキーーン!!」

 

 甲高い音と同時にドラゴンは元来た方角に飛び去っていきました。

 

「なんなんだ? あれはなんだったんだ?」

 

 ジルクニフは力なくうなだれるのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃん、アウラ、マーレの羽根つき勝負は互角のまま進み、夕方になりました。ありんすちゃんは焦って羽子板を投げ棄てると代わりのモノを〈グレーターテレポーテーション〉で取り寄せました。

 

「うわ? なんだこれは?」

 

「あー! ありんすちゃんは反則したので失格だねー!」

 

 突然羽子板代りにテレポーテーションさせられた白いサーコートの女騎士を指しながらアウラが宣言しました。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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112ありんすちゃんとおわらないふゆ

 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈屍蝋玄室〉でありんすちゃんはため息をつきました。だってなかなかオーバーロードの13巻が発売されないのです。確か予定では2017年の冬には発売される筈でした。

 

『くがねちゃんの冬は終わらない』

 

 きっと冬が終わらないと無理みたいですね。現在の最新刊は聖王国編の前編です。ですから続きの後編が気になるんですよね。

 

「……はぁ……こんなこちょなら十二巻、一ページじゅちゅ読んだんでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは後悔していました。そもそもありんすちゃんは平仮名しか読めませんからシモベのヴァンパイア・ブライドに読み聞かせて貰ったのでした。続きが気になったありんすちゃんがヴァンパイア・ブライドにおねだりして続きをドンドン進めさせて、結局最初の晩に朝までかかって十二巻を読みきってしまった事はもう忘れてしまったようです。

 

「…………きっとネイアはちんじゃうでありんちゅ。ドッペルはきっとお兄ちゃんでありんちゅ。アインジュちゃまがピンチでチャルチェがたしゅけるでありんちゅ。……そうでありんちゅ!」

 

 おやおや? ありんすちゃんは何やら思いついたみたいですね? 屍蝋玄室を飛び出して行ってしまいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……えっと、その……つまり〈天候操作〉じゃなくて季節を変える、あの……そういう事ですか?」

 

 ありんすちゃんは腕を組んで頭をブンブン振ります。ありんすちゃんの期待の眼差しを受けたマーレは気まずそうにモジモジしています。

 

「しゅぐに春にしるでありんちゅよ。マーレ」

 

「……あの……ありんすちゃん。それはちょっとボ、僕には……その……」

 

 言葉に詰まるマーレを見かねてアウラがやれやれと首を振ります。

 

「あのさぁ、マーレの〈天候操作〉はあくまでも気候を変える事は出来ても季節を変える事は出来ないんだよ? 考えてみてごらんよ? 季節が変わるってのはさ、それだけ時間が経たないといけないって訳。わかる?」

 

 ありんすちゃんは口を真っ直ぐに結んで真っ赤な顔をしています。

 

「……冬が……冬が終わらないと……オバロドちゅぢゅき、見れないでありんちゅ! うわわーん!」

 

 ありんすちゃんは泣きながら第六階層を飛び出して行っちゃいました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 さてさて、ありんすちゃんは何処に行ったのでしょう?

 

 ありんすちゃんは屍蝋玄室に戻ってベッドに寝そべって何やら書いているみたいです。また落書き──ゲフンゲフン。挿絵を書いているのかと思ったら、どうやら文章を書いているようです。成る程、自分自身でオーバーロード十二巻の続きの話を書くんですね。

 

 部屋のドアにはありんすちゃん直筆で『はいるな』との貼り紙が貼られていて、今回はどうやら本気みたいですね。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「ありんすちゃん、ちわっす。はかどっているっすか?」

 

 ありんすちゃんの寝室にルプスレギナが入って来ました。しかし、ありんすちゃんの姿はありません。どうやらお風呂に入っているみたいですね。隣接する浴室からありんすちゃんの鼻唄が聞こえてきます。

 

「おや? どうやら原稿みたいっす」

 

 ルプスレギナは足元に落ちていた何枚かの原稿用紙を拾い上げました。それは平仮名でありんすちゃんが書いた『オーバーロード 聖王国の聖騎士編 下』──『おばろど せいおこくのせいき した』でした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 登場人物で聖騎士団長が最初、何度も登場してきますが、レメディオスの名前をありんすちゃんは『れでめおす』とか『めれでおす』という風に間違えています。その内に面倒になってきたみたいで『ねいあさけびまくす れでめおすだんちよしんじやいました』──原文は全て平がななので修正すると──『ネイアが叫びました。レメディオス団長が死んじゃいました』として退場してしまいました。

 

 魔皇ヤルダバオトとの対決でアインズは倒れてしまいます。危うしアインズ、という場面で深紅のフルアーマーのシャルティアが〈グレーターテレポーテーション〉で現れます。

 

 シャルティアは激戦の末にヤルダバオトを倒します。と、次の瞬間──

 

 

 

 ルプスレギナは紙をめくりました。

 

 ──『ハッハッハッ! よくぞヤルダバオトを倒したな! 私はヤルダバオトの弟のヤルバデオトだ! 私は兄より強いぞ!』

 

 シャルティアは激闘の末にヤルバデオトを倒します。すると今度はヤルバデオトの義理の弟のヤバルデオトが──

 

 

 

「これは駄目っすね。ありんすちゃんには文才は無いっす」

 

 ルプスレギナはやれやれと頭を降りながら部屋を出て行きました。浴室からは上機嫌なありんすちゃんの鼻唄がまだ聞こえてきます。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないのですから。



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113ありんすちゃんとマーレとさんにんのエルフ

 ある所に仲の良いダークエルフの双子が住んでいました。二人には三人のシモベのエルフがいました。

 

 ある日、三人のエルフはダークエルフにお願いしました。

 

「どうか私達に名前を下さい」

 

 ダークエルフの弟は彼女達にそれぞれ『ブー』『フー』『ウー』と名付けて言いました。

 

「……あの、皆さんもそれぞれ自立して家を建てて下さい。この第六階層は広いですから」

 

 そこで三人はそれぞれ家を建てる事にしました。ブーは藁の家、フーは木の家、ウーはレンガの家を建てました。

 

「……おやおや? なんかチャチな掘っ建て小屋があるっすね。ルプーさんが綺麗に片付けてやるっすよ」

 

 通りがかった狼が背中の大きな聖印を振りかぶると藁の家を叩き壊しました。

 

「きゃッ!」

 

 壊れた藁の家から慌てて逃げ出したブーを狼が抱き締めました。

 

「なかなか美味しそうっすね。頂きますっす」

 

 ブーは狼に食べられてしまいました。

 

 次に狼とブーは木の家にやって来ました。そしてまたしても狼は木の家を叩き壊してフーを食べてしまいました。

 

 狼とブーとフーはレンガの家にやって来ました。

 

「ルプスレギナ様、ウーの家は丈夫なので壊れないのでは?」

 

 狼は黙ってまたしても聖印を振りかぶりました。

 

 ドカッシャッーン!

 

 レンガの家は簡単に壊れてウーも狼に食べられてしまいました。

 

 狼が代わる代わるエルフを食べているとダークエルフの弟がやって来ました。

 

「……うひひひ。マーレも食べてやるっすよ。かかれっす!」

 

 狼に命令されて三人のエルフ達はダークエルフの弟の服を脱がしてしまいました。

 

 そこに猟師の女の子が通りかかりました。猟師は狼をチラリと見ましたが興味ない様子でそのまま通り過ぎてしまいました。

 

「気持ち良いー。モフモフ」

 

 猟師は一円と書かれたシールだらけのフワフワの魔獣に抱きついています。

 

「た、助けてー。お姉ちゃん」

 

 ダークエルフの男の子は首から下げた銀のドングリに叫びました。

 

「マーレ? どうしたの?」

 

「お姉ちゃん、ルプスレギナさんとエルフさん達が大変──」

 

「──あ、ごめん。アインズ様が呼んでるみたいだから。後でね」

 

 ルプスレギナは手をワキワキさせながらマーレに近付いて来ます。あやうしマーレ。

 

「何をちているんでありんちゅ?」

 

 マーレが顔を上げると5歳位の少女が目を丸くして立っていました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんは第六階層にやって来ました。楽しそうに鼻唄を歌いながらスキップします。

 

 とはいえ、ありんすちゃんの場合は交互に足を出しているだけのニセ物スキップですが。

 

 ふと、ありんすちゃんは立ち止まりました。見るとルプスレギナと三人のエルフ達がマーレを羽交い締めにしている所でした。マーレは服を脱がされて下着だけになっています。

 

 ありんすちゃんは大きく口を開けて叫びました。

 

「何をちているんでありんちゅ?」

 

 ルプスレギナは困惑した面持ちで言葉に詰まってしまいました。

 

「……あの、ありんすちゃん……これは、その……あ、あの……た、助けて……」

 

 弱々しいマーレの言葉にありんすちゃんは力強く頷きました。

 

「まかちぇるでありんちゅ!」

 

 そう言うとありんすちゃんはマーレ達に背を向けて走り去っていってしまいました。

 

 しばらくして戻って来たありんすちゃんはピンク色のシャンプーハットを持って来ていました。

 

「こりで大丈夫でありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはシャンプーハットをマーレの頭にはめると得意気に帰って行きました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんが去って微妙な空気の中でルプスレギナが呟きました。

 

「……せっかくっすから、これから皆でスパにでも行くっすか?」

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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114ありんすちゃんまたしてもメイドになる

 ナザリック地下大墳墓の第九階層にある食堂は今しもメイド達の食事時で賑わっていました。

 

 ありんすちゃんもメイド──プレアデスの一人、ソリュシャンと向かい合って食事をしています。ソリュシャンは野菜サラダ、ありんすちゃんはペペロンチーノですね。

 

「……あの、ありんすちゃん様。ありんすちゃん様はアインズ様の正妻におなりにはならないのですか?」

 

 ありんすちゃんは器用にスプーンの上でパスタをフォークでクルクルッと巻き取るとスポポポーンッと吸い込みます。それから人さし指を頬に当てて首を傾げました。

 

「……うーん。どうでありんちゅかね? ありんちゅちゃはアインジュちゃまの娘、みたいなものでありんちゅ」

 

 突然、ソリュシャンが立ちあがりました。

 

「このままではアルベド様にアインズ様の正妻の座を奪われてしまいます! 以前のシャルティア様でしたら間違いなくアインズ様の正妻に……それなのに……私は今でもシャルティア様こそアインズ様に相応しいと思っています!」

 

 ありんすちゃんはソリュシャンを見向きもしないでパスタをフォークで巻き取っています。パクリ。

 

「……おいちいでありんちゅ。チョリチャも食べるでありんちゅ」

 

 相変わらずモグモグと食べているありんすちゃんの様子にソリュシャンは思わずテーブルをダン! と叩きました。

 

「──ソーちゃん、なに苛立っているっすか? あー……もしかしてあの日っすか?」

 

 激高するソリュシャンの後ろに同じくプレアデスの一人、ルプスレギナが現れました。

 

「ありんちゅちゃはちらないでありんちゅ。チョリュシャが勝手にバンバンなんでありんちゅ……ルプーも食事でありんちゅ?」

 

 ありんすちゃんは平然としてフォークでパスタをクルクルしながら尋ねました。

 

「……いやあ、食事はもう済ましたっすよ。ちょっとユリ姉を探しているんすけど……来月のアインズ様当番について……」

 

 ちなみにアインズ様当番とは一般メイドが交替でアインズ様のお世話をする、という仕事なのですが……

 

「──それだわ!」

 

 突然ソリュシャンが顔を上げました。そして小脇にありんすちゃんを抱えるとルプスレギナをひっぱって食堂を出ていきました。

 

 ありんすちゃんはまだペペロンチーノを半分しか食べていなかったのに……

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 翌日、アインズがベッドから起き上がるとアインズ番の一般メイドのシクススが立ち上がりました。と、丁度その時扉がノックされ、対応したシクススがアインズに報告します。

 

「……あの、アインズ様。交替のメイドが到着致しました」

 

 アインズが頷くとシクススが扉を開けて交替のアインズ様当番のメイドを入れます。

 

「ありんちゅちゃでありんちゅ」

 

 なんとメイド服を着たありんすちゃんでしたのでアインズは驚きました。

 

「……ありんすちゃんではないか? これは一体……?」

 

 シクススが平伏して答えます。

 

「なんでもペストーニャ様とユリ様から今日のアインズ様当番はありんすちゃん様がなさるとの事でございます」

 

「……し……しかし……」

 

 アインズが見るとありんすちゃんは胸を張り、張り切っているようでした。

 

「……頑張るでありんちゅ」

 

 アインズは悩んだ末にありんすちゃんのアインズ番を許可するのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……こ、これは一体……」

 

「……ああ。気にしなくとも良いアルベドよ。今日はありんすちゃんがメイドの当番だそうだ」

 

 ナザリック地下大墳墓の第九階層にあるアインズの執務室の扉を開けたアルベドは凍りつきました。無理もありません。

 

 毎日の日課であるアインズとの政策協議の場に、かつてのライバルの姿を見いだしたからです。

 

 凄まじい目付きで睨んでいるアルベドをよそにありんすちゃんはアインズの膝の上に座り、足をブラブラさせながらお絵かきに夢中です。

 

「……まあ、その……なんだ。たまには子供の意見を聞いてみるのも良いのではないだろうか? それに、な……ありんすちゃんが描いた絵は挿絵として有効活用──」

 

「──なりません! アインズ様の膝の上に乗るなんてもっての他です! アインズ様の膝の上はわたくしのものです!」

 

 アルベドは思わず叫びました。ありんすちゃんはゆっくりアインズの膝から降りるとアルベドに言いました。

 

「……ちかたないでありんちゅね。アルベドにゆじゅってあげるでありんちゅ」

 

 アルベドは歓喜しながらアインズの膝の上に座るのでした。

 

 ──やれやれ。これではどちらが子供かわからないな……

 

 アインズは思わずため息をつくのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 どうにかこうにかありんすちゃんの一日アインズ番は夜を迎えました。普段ならばアインズの寝室で椅子に座って見守るのですが……

 

「……ありんすちゃんよ。無理せずに眠って構わないぞ……ん?」

 

 ありんすちゃんに振り向いたアインズは思わず破顔しました。

 

 なんと、ありんすちゃんは椅子に座ったままコックリコックリ居眠りしていたのです。無理もありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 アインズは優しくありんすちゃんを抱き上げると自分のベッドに寝かせてあげるのでした。

 

 良かったね。ありんすちゃん。良い夢を。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 翌朝やって来た交替のメイドを見てアインズは驚きました。

 

「……くっふっふっふ……おはようございますアインズ様。本日、アインズ様当番をさせていただきますアルベドに御座います」

 

 

※ありんすちゃんが挿し絵を描いてくれました

 

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115ありんすちゃんスイーツになる

 ナザリック地下大墳墓の第九階層にある一般メイドの控え室──

 

 戦闘メイドに用意されたものよりは質素ながらも、倍くらいの広さの部屋が二部屋あり。そこにはメイド達に交ざってありんすちゃんとエクレアの姿がありました。

 

「へー……ちらなかったでありんちゅが、ペストニャワンワンはショートケーキだったでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんが感心すると、エクレアがエヘンと胸を張ります。

 

「うむ。ペストーニャ殿は正式にはペストーニャ・ショートケーキ・ワンコという名前でして、まあ、一般にはショートケーキをSに略するようですが。何を隠そうこの私、エクレア・エクレール・エイクレアーめも同じ至高の御方、餡ころもっちもち様に創造されたのです!」

 

「オー! そりはしゅごいでありんちゅ!」

 

 いやいや、ありんすちゃんことシャルティア・ブラッドフォールンだって同じく至高の御方のペロロンチーノ様が創造されたんですよ? まあ、立派な方だったかは諸説あるみたいですが……

 

 ありんすちゃんは腕を組んで何やら考え始めました。うーん……こういう時ってろくな事にならない気がしますが……

 

「決めちゃでありんちゅ! ありんちゅちゃも名前、お菓子しるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはそう宣言しました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈屍蝋玄室〉──表にありんすちゃんの手書きの貼紙がありました。

 

『かんがえちう』

 

 うーん。多分『考え中』という事みたいですね。

 

 中ではありんすちゃんが寝転がっていろんな名前を考えていました。

 

『モンブラン・ブランブラン・ありんすちゃん』

 

『アイス・アイスクリーム・ありんすちゃん』

 

『シャーベット・ブラッドありんすちゃん』

 

『どらやき・まんじゅう・ありんすちゃん』

 

『モンブラン・チーズケーキ・タベタイ』

 

 うーん……最後は単なる欲求にかわっていますが……大丈夫でしょうか?

 

 不意にありんすちゃんは起き上がると飛び出して行ってしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……うむ。そうか。私に素敵な名前を考えて欲しいと? スイーツな名前か……うむ。私は名前を考えるのに少しばかり自信があってな」

 

 ありんすちゃんの姿が今度は第九階層にあるアインズの執務室にありました。なるほど、至高の御方であるアインズ様に素敵な名前をつけて貰おうという考えですね。

 

 アインズはいきなりやって来たありんすちゃんの願いを聞き、腕組みをして考え込むのでした。

 

(スイーツな名前か……やはり『大福』か? いや、それはそもそもハムスケに考えた名前だからまずいだろうな。……うーん……いっそペロロンチーノさんにちなんだ名前にするか? ……なんだったかな……ペロロンチーノさんが好きだったゲームに出てくる妹キャラの……うーん……ああ、音夢だ。……いや、だめだ。カルネ村のネムと被る。しかもスイーツとは関係ないな。……うーむ……なかなか難しいものだな)

 

 と、突然、思い悩むアインズの頭に一つの名前が閃きました。

 

「よし! 決めた。これだ! 『ずんだ餅』にしよう!」

 

 ありんすちゃんは喜びました。早速ありんすちゃんは名前を『ずんだ餅ちゃん』にかえる事にしました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 こうして新たに『ずんだ餅ちゃん』になったありんすちゃんでしたが……翌朝目覚めた時にはすっかり忘れてしまい、もとのありんすちゃんに戻っていましたとさ。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

※ありんすちゃんが挿し絵を描いてくれました

 

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116ありんすちゃんとエロさいあく

 ナザリック地下大墳墓 第九階層 アインズ執務室──ありんすちゃんはアインズの膝の上に座ってお絵かきに夢中です。

 

 フンフンフンと鼻唄を歌いながら上機嫌のありんすちゃんですが、隣のアルベドの顔が鬼のようです。

 

「こりは恐怖公でありんちゅ」

 

 得意そうに振り返るありんすちゃんにアインズは思わず破顔します。

 

「……うむ。なるほど。良く描けているな」

 

「──アインズ様。わたくし、少し外の空気を吸ってきます」

 

 アルベドは一般メイドが扉を開けようとするのを制して自ら扉を開けて部屋を出ていきました。

 

「……ちょういえば恐怖公は拠点最悪でありんちゅね。しょれからガチョクコチュオは生態最悪、ニュロシュトは役職最悪でありんちた。エロ最悪ってどんなでありんちゅ?」

 

「──わたくしも是非知りたく存じます」

 

 いつの間にか戻っていたアルベドも興味深い様子で身を乗り出します。アインズは重たい口を開きました。

 

「……うむ。エロ最悪か……なかなか説明が難しいな……」

 

 アインズはかつてのギルドメンバーとのやり取りを思い返すのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「うわ! えげつない!」

 

「いやぁいくらなんでもGはまずいっしょ? まんまじゃないすか」

 

「ギルド長、どうします?」

 

 恐怖公が作成された時、かなり批判的な声が他のメンバーから上がりました。

 

 製作者のるし☆ふぁーさんはまさにこの混乱した状況を狙っていたかのようにほくそ笑んでいます。否定的な意見に皆が傾きかけた時にぷにっと萌えさんが発言しました。

 

「いや、これはこれで有りだよ。いっそゴキブリの姿のPOPモンスターだらけのトラップを作ったら面白そうだよね。これは最悪だ」

 

「なるほど。確かに対敵に考えたら精神的にも強烈な一撃がありますね。皆さん、どうでしょう? 異存がなければナザリック地下大墳墓に恐怖公の管轄する対人トラップを加える、という事で」

 

 モモンガの呼掛けに皆が応じて正式に拠点最悪がナザリックに加わる事になりました。

 

 その後もメンバーの悪のりが続き、次々と様々な最悪──五大最悪──が作られる事になりました。

 

 エロ最悪はローバーをベースに様々な触手攻撃や女性プレイヤーの装備を溶かす体液等の攻撃、様々な性的な嗜好をテキストに盛り込んでみたのですが、ユグドラシルでの禁止項目との兼ね合いでなかなかうまくいきません。

 

 そんな時にペロロンチーノがやって来たのでした。

 

「モモンガさん、なんか皆で面白い事しているんですって?」

 

 ペロロンチーノはエロゲ大王との異名がある人物なだけあって、その変態的嗜好に関する造詣は他人の追随を許さない程に深いものでした。

 

 エロ最悪の制作はとあるペロロンチーノが発した一言で終わりを迎えました。

 

「……あれ? これならシャルティアの設定の方が…………」

 

 結局エロ最悪はシャルティア・ブラッドフォールンを越える事は出来ませんでした。そしてシャルティアこそが『真のエロ最悪』である、というのがギルドメンバー間の暗黙の了解となったのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 アインズはふと我に返ると、ずっと見つめ続けているありんすちゃんに気がつきました。

 

(まずいな。かつての姿とはいえこんな小さな子供に『お前こそが真のエロ最悪だ』なんて言えないぞ。どうしたものか……)

 

 アインズの言葉を待ち続けるありんすちゃんとアルベドに対して「近い内にエロ最悪を紹介する」と約束して、アインズはようやくその場を逃れる事にしました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 それから数日が経ち、アルベドとありんすちゃんはアインズと共に宝物殿にやって来ました。そこにはパンドラズ・アクターが待ち受けていて、一人の至高の方に姿を変えました。

 

「私がエロ最悪だ」

 

 黄金に輝くバードマンを見てアルベドもありんすちゃんも納得したようでした。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 翌日、いつものようにアインズがナザリック内で集めた投書を清書していると、全てひらがなで書かれた一枚がありました。

 

 それには「えろさいあくになりたい」と書いてありました。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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117ありんすちゃんふたたびせいおうこくにいく

 今日のありんすちゃんは魔導国の首都、エ・ランテルの街中を散歩しています。

 

 門の近くまでやって来ると、何やら物々しい鎧姿の一団がいました。

 

「何をちているでありんちゅ?」

 

 ありんすちゃんが門番に訊ねると代わりに白銀の鎧に白のサーコートを纏った女聖騎士が答えました。

 

「子供には関係ない。さっさと母親のもとに帰れ」

 

 たちまち門番の顔は真っ青になりました。反対にありんすちゃんの顔は真っ赤に染まっていきます。

 

 ドガッシャーン! ガラガラドガッシャーン!

 

 ありんすちゃんが女聖騎士を叩くと女聖騎士は馬に跨がったまま、ゴロゴロと転げていき、巨大なアインズ像にぶつかって停まりました。

 

「だ、団長!」

 

 副団長のグスターボが慌てて駆け寄りレメディオスを抱き起こしました。

 

「な、何が起きた? 雷でも落ちたか?」

 

 レメディオスがヨロヨロと起き上がり周りを見回すと他の聖騎士達は言葉を失い震える指で小さな女の子を指しています。

 

「……あの……団長を殴ったのは……その少女です」

 

「馬鹿な。そんな事あるわけ無かろう。こんな子供が──ングワっ!」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロドガッシャーン!

 

 またしてもレメディオスはありんすちゃんに殴られて転がっていきました。

 

「……馬鹿な! いや、まてよ? もしかしてその者は以前に会った事は無いか?」

 

「ちらないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはまたもや拳を握ります。レメディオスの転げかたが面白くて病みつきになってきたみたいですね。

 

「──ま、待て。待ってくれ。そう何度も殴らないでくれ。私は別に敵対するつもりは──ングワっ!」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロドガッシャーン!

 

「ありんちゅちゃはあちょんでるだけでありんちゅ」

 

「……待て待て!……グスターボ! 従者! なんとかしないか!」

 

 ついっとありんすちゃんの前に目付きの悪い少女が立ちます。

 

「……あの……飴あげますから、団長を許して下さい」

 

 ありんすちゃんは飴玉を二個貰うと左右の頬っぺたでモゴモゴ舐め始めました。

 

「……従者ネイア、なんだその言い方は? まるで私に非があるかのようではないか?」

 

「……すみませんでした」

 

 飴玉を舐めているありんすちゃんの後ろでは何やら険悪な雰囲気です。ありんすちゃんは腕をグルグル回しました。

 

「……ちょっ、まあ待て! ……そんなに誰かを殴りたいなら……そうだ! 私の国に来てヤルダバオトを殴ってくれないか? うん。それは実に名案だ!」

 

「──団長! まだ幼い少女になにをい──」

 

「うるさい! もう私は決めたぞ! 私をこれだけ殴れる強さがあるのだ。この少女にヤルダバオトを討伐して貰うぞ!」

 

 かくてありんすちゃんは飴玉四個と引き替えにローブル聖王国へ行き、魔皇ヤルダバオトを討伐する事になりました。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第九階層玉座の間──そこにはひたすらローブル聖王国からの使者の訪れを待つ、アインズとアルベドの姿がありました。

 

「……アインズ様……レメディオス団長主従はリ・エスティーゼ王国からエ・ランテルに向かったとの報告は入っておりますが……その……魔導国に入国したという報告はまだありません」

 

「……うむ。そのようだな。……まあ、待つより仕方あるまい」

 

 結局、ローブル聖王国の聖騎士団主従はやって来ませんでした。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 聖王国へ向かう馬車ではありんすちゃんの従者としてネイアが同席となりました。

 

「……睨んでもありんちゅちゃの飴玉、あげないでありんちゅ」

 

「……いや、ありんすちゃん様、私は生まれつきこの様な目付きでして……その……」

 

 ネイアは目尻を指で押さえ、グリグリと動かしました。

 

「……ふーん。ちょうでありんちゅか。……ちょうだ……」

 

 ありんすちゃんはかわいいウサギが付いたお出掛け用のリュックサックの中をゴソゴソ探します。

 

「あったでありんちゅ! 」

 

 ありんすちゃんはおやすみ用のアイマスクを取り出すとネイアに渡しました。

 

「……ありんすちゃん様、これを私に?」

 

「……ただ、ちょっとだけ貸すだけでありんちゅ」

 

 ネイアはこんな幼い少女までが慈しみの心を持っている魔導国の素晴しさに感動するのでした。

 

 道中は何事もなく、聖騎士団の馬車は無事に解放軍のアジトに到着しました。聖騎士団が整列し、レメディオス団長自らが馬車の扉を開きます。

 

 

 ──しかし中にありんすちゃんの姿はありませんでした。

 

「……これはどういう事だ? 従者ネイア・バラハ!」

 

「……それがその……三時になりますとありんすちゃん様は『おやつの時間でありんちゅ』とおっしゃって、〈ゲート〉の魔法を発動させると中に入って消えてしまいました」

 

「な──」

 

 い並ぶ聖騎士達は皆、茫然と立ち尽くすのでした。仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

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118ありんすちゃんまたしてもせいおうこくにいく

「……全く……結局二度手間だったな」

 

 魔導国の首都エ・ランテルに再びローブル聖王国聖騎士団長主従が訪れていました。

 

「……最初からあんな得たいのしれない少女の力を借りずにモモン殿に助勢を請えば良かったのだ」

 

 団長レメディオスの言葉にネイアは(いや、ありんすちゃん様に助けを求めたのは貴女ではないですか)と心の中で突っ込みをいれます。

 

「団長、今もヤルダバオトに苦しめられ続けている民の為、我慢して下さい」

 

 副団長のグスターボがレメディオスに言い聞かせます。やがて主従は門にやって来ました。

 

「ようこそ、魔導国都市エ・ランテルへ。聖騎士様方は初めていらっしゃいましたか?」

 

 門番とおぼしき衛兵に声を掛けられて主従は顔を見合わせました。前回は門の所でありんすちゃんと出会った為、今回が初めてになりそうです。

 

 レメディオスの代わりにグスターボが頷くと衛兵は皆に馬から降りるよう言い、片隅にある部屋に案内されました。

 

 衛兵の説明では入国にあたって簡単なレクチャーを受ける決まりだそうです。

 

「ようこちょ、魔導国へ。わたちが説明しるでありんちゅ」

 

 部屋の中にはどこかで会った事がある少女が待ち受けていました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……なんなんだ? なんでこうなるのだ?」

 

 ローブル聖王国に戻る馬車の中でレメディオスはグスターボに不満をぶつけます。

 

「団長、落ち着いて下さい。こうなっては今度こそありんすちゃん様にヤルダバオトを倒してもらいましょう。……幸いな事に当人はやる気みたいですし、報酬をもっと吊り上げればきっと上手くいきますよ」

 

 レメディオスはグスターボを睨みました。

 

「……ふん。子供のやる気等あてになるものか? 今度も好き放題に転がしおって……いいか? もしヤルダバオトを倒せなかったら貴様が責任を取るのだぞ?」

 

 レメディオスは腫れ上がった頬にハンカチをあてがいながら文句を言います。

 

 無理もありません。

 

 再びエ・ランテルを訪れて今度こそ“漆黒”のモモンの助勢を得る筈が、またしてもありんすちゃんと一緒に聖王国に戻る事になってしまったのです。

 

「ありんちゅちゃが行ってあげるでありんちゅ」

 

 そうありんすちゃんが言い出した時、レメディオスは即座に「だが断る!」と叫びましたが、その後ありんすちゃんにまたしても殴られて転がされ、やむ無く改めて助けを乞う事になってしまったのでした。

 

「……結局またもや魔導国の中には入れませんでしたね……」

 

 グスターボはため息混じりに呟きました。

 

「……ふん。アンデッドが支配する国など入らずともわかる。恐怖で民衆を押さえ付けているのだ」

 

「……そうでしょうか? ……いや、なんでもありません」

 

 グスターボはレメディオスの鋭い視線に口を閉ざしました。でも──門から見えた風景はごく普通だったがな──と思うのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ネイアはありんすちゃんと同じ馬車の中で緊張していました。今回のネイアの任務は重大です。なんとしてもありんすちゃんをローブル聖王国まで連れて行かなくてはなりません。

 

「──あ、あの、ありんすちゃん様。この間はありがとうございました」

 

 ネイアは以前にありんすちゃんからアイマスクを貰ったお礼を言います。

 

「ありんちゅちゃはまだまだ持ってありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは空間からアイマスクを取り出しました。

 

「…………えっと。ルーン! こりはしゅごいルーンでありんちゅ!」

 

 ネイアも自分が預かっていたアイマスクを取り出してしみじみと眺めました。

 

(改めて見るとこれは凄いマジックアイテムに違いない。何か見たことがない記号が……これがルーン?)

 

「……あ、あの…………」

 

 ネイアがありんすちゃんに訊ねようと顔を上げるてありんすちゃんはアイマスクをかけてぐっすり眠っていました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「くっ! 全員後ろに下がれ!」

 

 海辺の捕虜収容所を解放する為に亜人のバフォルクと対していた解放軍の聖騎士団長レメディオスは叫びました。

 

「もっとだ! もっと下がれ! さもなくば人質の命は無い!」

 

 バフォルクの強者は捕虜の少女の喉元に剣を突きつけています。

 

 ──豪王バザーだ!

 

 聖騎士の中で彼を知る者が小さく呟きました。

 

「ええい! 下がれ! 下がるのだ!」

 

 レメディオスはバザーを睨みながら聖騎士達を更に下げます。バザーは勝ち誇ったように人質を示しながら進みます。と、バザーの足が止まりました。

 

「あ! ありんすちゃん様!」

 

 バザーが足もとを見下ろすとそこにはアイマスクをしてスヤスヤと眠る少女がいたのでした。

 

 退屈のあまり眠たくなっていたありんすちゃんは解放軍の後方で昼寝をしていたのですが、軍が後退した為に取り残されてしまったのでした。

 

「…………」

 

 ムクリと起き上がったありんすちゃんはアイマスクをずり上げるとバザーの顔をボンヤリ見つめました。そして何事もなかったかのようにまたアイマスクをすると横になりました。

 

「──なんだこの子供は! 一口で喰ってやる! ──グハァ!」

 

 バザーを自分の身に何が起こったのがわからないまま絶命してしまいました。

 

 せっかくの昼寝を邪魔されたありんすちゃんにより、ペッチャンコにされてしまったのです。

 

 あまりの出来事に解放軍はそっとありんすちゃんの眠りを妨げないように遠巻きに見守るのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 二時間程経ってありんすちゃんはムクリと起き上がりました。

 

「ありんすちゃんよ。豪王バザーを見事に打ち倒してくれた」

 

 聖騎士団長レメディオスが歩み寄り手を差し出しました。その手を掻い潜りありんすちゃんは走って行きます。

 

「…………おちっこ」

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 



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119ありんすちゃんVSヤルダバオト

 ネイア・バラハはアイマスクの奧の瞳を閉じて周囲に神経を研ぎ澄ませました。そしてボンヤリと脳裏に浮かぶ的に弓を引き絞ります。

 

 数日前の事です。ネイアの顔をマジマジと覗き込んだありんすちゃんは言いました。

 

「ちゅよくなりたいならこのルーンのアイマスク、いつもちゅけているでありんちゅ」

 

 最初はアイマスクをつけると前が全く見えなくなり戸惑いましたが、数日間着け続けている内にありんすちゃんの意図がネイアにも理解する事が出来たそうです。

 

(……成る程。こうして視界を遮る事で感覚を研ぎ澄まし、矢の威力を高めるマジックアイテムなのだ。……それにルーンか……凄い)

 

 うーん……ありんすちゃんは単にネイアの目付きが悪いからアイマスクを渡したのかと……それにルーンはありんすちゃんがサインペンで書いたものですが……

 

 何はさておきネイアは一心不乱に練習した為、アイマスクをつけたままで的を正確に射る事が出来るようになりました。

 

 と、建物のどこかでドガッシャーンと大きな音がしました。ネイアは急いで音の方へ向かいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「──私を出迎えてくれた事に感謝しよう」

 

 解放軍の執務室にいた皆は突如壁を壊して現れた悪魔の姿に息を呑みました。最近収容所から救出されて指揮をとっている王兄カスポンドは真っ青な顔になっています。

 

「……ヤ、ヤルダバオト!」

 

 その瞬間、レメディオスが動きました。

 

「キエエエエィ!」

 

 レメディオスが手にした聖剣が神聖な光を帯び聖なる波動をヤルダバオトに叩きつけます。しかし──

 

「……ん? 眩しいな。なんだ? 邪魔だ」

 

 ヤルダバオトは何事もなかったかのようにレメディオスを壁に突き飛ばすとカスポンドらに向き直りました。

 

「……何故だ! 邪悪なる存在に何故攻撃が効かぬ!」

 

 レメディオスはうずくまって茫然としています。

 

「──ヤルダバト! ちょこまででありんちゅ!」

 

 そこにありんすちゃんとネイアが駆けつけてきました。ヤルダバオトは驚愕します。

 

「そのアイマスク……まさか失われたルーンの──」

 

 ヤルダバオトの言葉はネイアの弓に消されます。ネイアが放った矢はヤルダバオトが避けた手に刺さります。

 

「ううむ。流石はルーンが宿るアイマスクの力。これならば私を倒せるかもしれないな」

 

 ヤルダバオトはそう言うと隠し持っていた武器──聖王女カルカを構えます。

 

「──カルカ様! 従者ネイア、貸せ! こ、これさえあれば!」

 

 レメディオスはネイアからアイマスクを奪うと自ら装着しました。

 

「カルカ様を返せ!」

 

 アイマスクをつけて視界を自ら遮ったレメディオスが放った幾つもの漸撃は尽くカルカに命中し…………

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……やっちゃったね」

 

「……やってしまいましたね」

 

「……それでは私はこの先の広場で待っていますので……そこで決戦しましょう」

 

「……わかったでありんちゅ」

 

 皆が去っていきました。ネイアは呆然自失するレメディオスからアイマスクを取り返すと皆に続きます。

 

 後には微動ともしないレメディオスと変わり果てた聖王女の成れの果てが残されました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 傷心のレメディオスが広場にやって来るとそこではありんすちゃんとヤルダバオトが激しく戦っていました。

 

「聖騎士サビカス! 聖騎士エステバン!」

 

 ヤルダバオトはまるで二本の刀を構えるように二人の聖騎士を手にしています。

 

「聖騎士フランコに聖騎士ガルバン! 思い出した! お前はあの時の──!」

 

 同じように二人の聖騎士を振り回すありんすちゃんを見てレメディオスは思い出しました。以前、ヤルダバオトと対峙した時に現れた少女──それがありんすちゃんだったのです。

 

 ありんすちゃんは二人の聖騎士を放り捨てるとレメディオスとネイアを掴みます。そしてそのままヤルダバオトに打ちかかりました。

 

「……なんと! さすがはルーンの力! この従者の硬さには歯が立ちそうにない!」

 

 確かにレメディオスがすぐにボロボロになっているのに対してネイアの緑の鎧には傷ひとつありません。

 

(……いや、アイマスクのおかげというよりありんすちゃん様に頂いた豪王バザーの鎧が丈夫だからなのだと思うけれど……)

 

 ネイアはバッチンバッチンと打ち付けられながら思いますが黙っていました。

 

 既に日没になろうとした頃、ヤルダバオトが口を開きました。

 

「そこの少女よ。このままでは勝負が着かぬ。ここは一旦互いに矛を納めるとしよう」

 

「わかったでありんちゅ」

 

 二人は互いの武器を捨てました。

 

「……ま、まて…………」

 

 虫の息になったレメディオスは聖剣を構えようとして気を失なってしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ベッドで目覚めたレメディオスは起き上がるなり激しい痛みに気が遠くなりかけます。

 

「──誰か! ヤルダバオトはどうした!」

 

 すると天幕の後ろからひょっこりありんすちゃんが顔を出しました。

 

「目が覚めちゃでありんちゅか? 丁度良かったでありんちゅ。カルカ、強力ボンドでなおちたでありんちゅ」

 

 レメディオスが見るとボンドだらけのありんすちゃんの足もとに聖王女カルカの変わり果てた姿がありました。

 

 レメディオスによってバラバラになったカルカの身体はバフォルク等の様々のパーツと合わさりまさに異形と呼べるおぞましい姿になってしまっていました。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

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120ありんすちゃんカリンシャにいく

「えー、であるからして我々は王都をヤルダバオトから取り戻す。その為にはヤルダバオトに反逆する亜人と手を結ぼうと思う」

 

 王兄カスポンドの発言に皆の間にざわめきが起こりました。カスポンドの意をくんで副団長のグスターボが話を続けます。

 

「そこでまず我々はカリンシャを解放しようと思う。カリンシャにはゼルンの王子が囚われていて、王子を救出するならゼルンが一族をあげて我々に協力してくれるという手筈になっている」

 

 そこでグスターボは言葉を切り、チラリと団長の様子を窺います。口の中でブツブツ呟き続けているレメディオスの様子に小さくため息をつくと、また話を続けました。

 

「……そこでカリンシャにありんすちゃん様と従者ネイアの二人に潜入してもらい、ゼルンの王子を救出してもらいたいと思う」

 

「──いや、それは困──」

 

「──まかちぇるでありんちゅ!」

 

 即座に断ろうとしたネイアの言葉はありんすちゃんに遮られてしまいました。ありんすちゃんはふんぞり返るようにしてムハーと荒く鼻息を吐き出しました。

 

「…………妹さえ生きていればカルカ様を復活……妹さえ……ケラルトならカルカ様をきっと……」

 

 相変わらずブツブツ呟き続けているレメディオスに目をやり、小さく首を振るとグスターボはありんすちゃんとネイアに向き直りました。

 

「……従者ネイアよ。本来ならば団長がありんすちゃんと共に潜入すべきなのだろうが……」グスターボは言葉を切るとレメディオスを顎で指す。「……いかんせん団長はあれからあの調子なのでお願いする……」

 

「……従者ネイア・バラハよ。私からも頼む」

 

 王兄カスポンドからも頼まれてしまってはネイアに断る事など出来ません。かくてありんすちゃんとネイアは手引きする役のゼルンと共にカリンシャに潜入する事になりました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 首尾よくカリンシャに潜入したありんすちゃん達三人は無事にゼルンの王子のビービーゼーを無事救出します。

 

「……勇者よ。しかしこのカリンシャにはヤルダバオトの大幹部、枯れ木のような身体をして頭部に人間の頭を飾った大悪魔──サークレットがいる。あれにはまず勝てない」

 

 サークレットという悪魔は頭部に二つまで首を飾り、その首が持つ魔法を最高で六位階まで使える強敵です。ビービーゼーが躊躇するのは当然でした。しかしありんすちゃんはそんな事お構い無し、です。

 

「ありんちゅちゃがやっちゅけるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはいつの間にか真紅のフルアーマーに巨大なランスを持った姿に変わるとトコトコと歩き出しました。

 

 やがて、広間にたどり着いた一行に大悪魔サークレットが姿を見せます。

 

「!……ケラルト様!」

 

 サークレットの頭部に飾られた生首を見てネイアは思わず叫びました。間違いありません。ローブル聖王国で最高司祭である神官団団長ケラルト・カストディオその人のものだったのです。

 

 スポイトランスを構え、既に臨戦態勢だったありんすちゃんはネイアを振り返りました。

 

「……ありがケラルトでありんちゅか? ありんちゅちゃにまかちぇるでありんちゅ!」

 

 そう叫ぶとありんすちゃんは突進します。

 

「〈ブラインドネス!〉」

 

 サークレットの頭部のケラルトが呪文を唱えるとたちまちネイアの視界が真っ暗になりました。しかしネイアは慌てずにアイマスクをかけます。そう、これまでの修行の成果で暗闇に神経を研ぎ澄ませます。

 

「……見える! 私にも敵が見える! ……え? ……ありんすちゃん様?」

 

 大悪魔サークレットとの戦いは呆気なく終わりました。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ゼルン達の協力もあり、解放軍は大した被害も無くカリンシャを奪還する事が出来ました。

 

 ありんすちゃん達は揃ってレメディオスの元を訪れました。

 

「レメデオ、喜ぶでありんちゅ。妹ケラルを見ちゅけてきたでありんちゅ」

 

「──な!」

 

 変わり果てた妹の姿を見て、力無く崩れ落ちるレメディオスにサークレットが自己紹介しました。

 

「──我が名は大悪魔サークレット。今後ともよろしく」

 

 サークレットの頭部に飾られたケラルトの生首がレメディオスにウインクしました。

 

 サークレットと対峙したありんすちゃんはどうやらサークレットがケラルトだと勘違いしたようでした。あの時、ありんすちゃんはサークレットの手を掴み「たちゅけてあげるでありんちゅ」といきなり走り出したので戦闘そのものが起きなかったのでした。

 

 あまりの出来事に立ち竦むレメディオスとは対称的に、ありんすちゃんは姉妹の再会を演出出来て得意満面です。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

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121ありんすちゃんとかいほうぐん

 カリンシャの南に位置する大都市プラートに向けて進軍する解放軍は南の貴族たちが率いていた軍と合流して、その数五万五千になっていました。

 

 ありんすちゃんとネイアは後方の弓部隊三千を率います。この弓部隊の各小隊長はルーン文字が書かれたアイマスク──目の所に穴があいていて見えるようになっていました──を装備していました。彼らはネイアの話すありんすちゃんの逸話に感動して、いわば『ありんす教』の信者でもありました。

 

「先鋒レメディオス騎士団団長、亜人軍と交戦! 幹部大悪魔の鱗の悪魔撃破!」

 

「──な!」

 

 ありんすちゃんはサークレットに訊ねます。

 

「鱗のやちゅ、ちゅよいでありんちゅか?」

 

「いや、鱗の悪魔は雑魚ですね。あの聖騎士でも倒せます」

 

「……ふーん……でありんちゅ」

 

 サークレットは結局レメディオスが拒絶した為、ありんすちゃんの部隊に配属されたのでした。

 

 と、突然前方に火柱が上がりました。

 

「……まずいな……ヤルダバオトだ!」

 

 そこへレメディオスがやって来ました。

 

「ありんすちゃんよ。私に奴に通用する武器を貸せ。私がお前の剣になろう!」

 

「わかったでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはレメディオスの両足首を握ると剣のように振り回しながら駆け出しました。

 

「──ち、ちがーう! 剣になると言ったがそういう意味ではないのだ! や、やめ──」

 

 ありんすちゃんはレメディオスを振りかぶってヤルダバオトに叩きつけます。

 

「……これはこれは……ん? ルーンが無いか……うむむ」

 

 困った様子のヤルダバオトに容赦ないありんすちゃんの攻撃が続きます。

 

 激しいありんすちゃんとヤルダバオトの戦いは夕方にまで続きました。

 

 そこに土煙を上げて援軍がやって来ました。それぞれ魔導国の旗を掲げています。解放軍は歓声を上げました。

 

「私はアインズ・ウール・ゴウン。ローブル聖王国救援の為、アベリオン丘陵の亜人達を束ねて来た。ヤルダバオトは私に任せろ!」

 

 ヤルダバオトに向かうアインズの姿を見てありんすちゃんは小さく呟きました。

 

「勝ったでありんちゅ」

 

 ヤルダバオトを倒したアインズにありんすちゃんは駆け寄りました。

 

「アインジュちゃま!」

 

 解放軍の皆はアインズとありんすちゃんに喝采を贈るのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 帰りの馬車の中でアインズは訊ねました。

 

「……しかし、どうしてアルティメイトシューティングスター・スーパーを使わなかったのかね?」

 

 ありんすちゃんはきょとんとしています。

 

「……うむ。ルーンの宣伝の為にアルティメイトシューティングスター・スーパーという弓をドッペルケンガーに託しておいたのだがな? ずんだ餅ちゃんに渡すように、と」

 

「……ずんだ餅? ちらないでありんちゅ」

 

「──な……」

 

 アインズは愕然としました。うーん……ありんすちゃん、すっかり忘れていますね。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

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122ありんすちゃんまたまたせいおうこくにいく

 ローブル聖王国 首都ホバンスの王城では聖王になったカスボンドとケラルトの頭を飾ったサークレットが会議をしていました。

 

「うむ。ケラルトなのかサークレットなのか……とりあえずカルカ聖王女の復活は無理、という事だな」

 

 カスボンドの問いかけにサークレットが頷きます。

 

 カルカ聖王女の遺体はバラバラになった後で亜人のパーツと混ざってくっつけられてしまったのでした。

 

 ──と、突然大きな音と共に壁が崩れました。

 

「──何事か!」

 

 部屋の外で待機していた聖騎士団団長のレメディオスと副団長のグスターボが飛び込んできました。

 

「──な!」

 

 全員がその場に凍りつき言葉を失いました。

 

「──貴様は……ヤルダバオト! ……」

 

 絞り出すような声でレメディオスが叫びました。

 

「……ちょうでありんちゅ」

 

 レメディオスに答えたのはヤルダバオトではなく、赤いフルアーマーの小さな女の子でした。

 

「……な? ありんすちゃん殿……これはどういう──」

 

「──やり直しでありんちゅ」

 

 意味がわからず呆然とする一同を尻目にありんすちゃんは〈ゲート〉を発動させます。

 

「わたちはエ・ランテルで待ってるでありんちゅ。ヤルダバト後はよろちくでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんの姿が消えるとヤルダバオトが〈メテオ〉を唱え辺りは赤い光に包まれるのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……なんという事だ……カスボンド聖王陛下はご無事だろうか?」

 

 レメディオスは深くため息をつきました。

 

「ありんすちゃん様はエ・ランテルで待つと言っていましたよね。やはりここはまたもや助力を乞うしか……」

 

「……しかし明らかに今回はありんすちゃん殿がヤルダバオトを連れて来たのではないか。共犯に違いないぞ?」

 

 レメディオスはふと閃きました。

 

「そうだ。法国だ。スレイン法国ならばヤルダバオトを倒せるのではないか?」

 

 グスターボは悲しそうに首を振りました。

 

「……ぐぬぬぬ。なんという事だ……」

 

 再び現れたヤルダバオトは首都ホバンスを占領、更にカリンシャまでを占領してしまいました。現聖王であるカスボンド陛下は行方が知れません。唯一幸いな点はありんすちゃんが「民は殺ちちゃダメでありんちゅ」と言い残していった為、死者が出なかった事ですが……

 

 レメディオスは唇を噛み締めました。

 

「……仕方あるまい。エ・ランテルに向かうぞ」

 

 かくしてレメディオス団長の一行はまたしてもエ・ランテルに向かうのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「ありんちゅちゃにまかちぇるでありんちゅ!」

 

 ローブル聖王国に向かう馬車の中で真紅のフルアーマーの姿のありんすちゃんは上機嫌な様子でスポイトランスを振ります。

 

 今回のヤルダバオトの再来の経緯を聞いている従者ネイア・バラハはため息をつきました。

 

 レメディオス団長からは今回のヤルダバオトはどういうわけかありんすちゃんが使役しているらしい事、 ありんすちゃんを上手く宥めてヤルダバオトに去ってもらうように誘導する事を命じられていました。

 

「ちょうでありんちゅ!」

 

 不意にありんすちゃんが空間から素晴らしい装飾のある弓を取り出しました。

 

「こりはアルテメ……アルテメシュー……シュー……」

 

 ありんすちゃんは背中のおでかけリュックを降ろしました。可愛いピンクのウサギがついたリュックの中からクシャクシャになった紙きれを取り出します。

 

「……こりはアルテメシューテン……グスタースーパ……でありんちゅ。しゅごいルーン、しゅごい力を持ちたルーン……っているでありんちゅ。しんこきゅしる。ゴホン、せきしてから……貸してあげるますで……貸してあげる……ありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはネイアの前にルーンの弓──アルテメイトシューティングスタースーパーを差し出しました。

 

 ネイアが恐る恐るアルテメイトシューティングスタースーパーを受け取るとありんすちゃんが言いました。

 

「こりをちゅかう時は……ええと……『よみがえりし秘術によりしルーンの力よ』と叫ぶんでありんちゅ」

 

 ネイアが頷くとありんすちゃんはニッコリしました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ありんすちゃんを乗せた馬車は無事にカリンシャ郊外の解放軍の本陣に着きました。レメディオスは複雑な表情で聖騎士を整列させます。

 

「ありんすちゃん様に敬礼!」

 

 副団長のグスターボが号令をかけるとい並んだ聖騎士が一斉に敬礼をしました。

 

 馬車の扉が開くと従者ネイアが素晴らしい装飾がある弓を抱えながら気まずそうに降りてきました。

 

 一緒に降りてくる筈のありんすちゃんの姿はありません。

 

「従者ネイア、これはどうした事か?」

 

 レメディオスが険しい表情で訊ねました。

 

「……それがその……ありんすちゃんはまたしても三時に『おやちゅの時間でありんちゅ』とおっしゃるなり〈ゲート〉の魔法で……」

 

「──なんだ……と……」

 

 うーん。仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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123番外編 ジルクニフとリユロ

 その日のジルクニフは上機嫌でした。魔導国の属国となり、国内は安定してきました。時折、理不尽な事がごくごく稀に起きたりしますが概ね平和だといえました。

 

 今日はジルクニフと同じ境遇を経験した友人がアーウェンタールを訪れる予定です。ジルクニフはソワソワしながら友──クアゴアの王リユロの登場を待ちます。

 

「我が友ジルクニフよ。今回はお招き頂きありがとう」

 

「よく来てくれたね。我が友リユロよ。今日は君の好物を沢山用意したから楽しみにしてくれ」

 

 リユロはジルクニフと熱い抱擁を交わしました。その際に鋭い爪がジルクニフを傷つけないようそっと手のひらを返す優しさにジルクニフは感動するのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……そういえばこの前、例の女の子が来たんだが……」

 

 豪華な食事を終えて二人は歓談に移りました。

 

「赤いフルアーマーで例の大きなランスを振りながらアウラ様とマーレ様と一緒に見えてね……」

 

 リユロはそこで言葉を切り、顔を歪ませました。

 

「私が出迎えてひれ伏すと例の女の子は叫んだんだ。『こりからモグラ叩きゲームしるでありんちゅ』と」

 

 ジルクニフも顔を歪ませます。

 

「……それは酷いな……」

 

 二人は無言でため息をつきました。しばらくの空白の後、ジルクニフが口を開きました。

 

「私の所では先週……あの三人が来たよ」

 

 ジルクニフは遠い目をしました。

 

「……三人、か。するとやはり──」

 

 リユロの言葉にジルクニフは力なく笑います。

 

「……ああ。お察しの通りまたしても、だ。そう、『ありんすちゃん当てゲーム』だ」

 

 ジルクニフは目を閉じました。

 

「あの女の子は『アウアウはどれでしょう?』と聞いてきたんだ。──仕方ないだろ? アウアウなんていないんだから──」

 

 突然ジルクニフが荒々しく叫びました。リユロにはジルクニフの気持ちが痛い程わかりました。

 

 そうです。確かに『アウアウ』なんて名前の幹部はナザリックにはいません。だからジルクニフか『アウアウなんていない』と答えたのは間違いではないのです。

 

 ですがあの女の子──ありんすちゃんにとっては『アウアウ』とは『アウラ』の事なのでした。

 

 またしても沈黙が訪れました。

 

 しばらくしてまたジルクニフが口を開きました。

 

「……あの女の子は今、ローブル聖王国に行っているらしい」

 

 リユロはため息をつきました。見ず知らずのローブル聖王国に微かにあわれみを感じながら、です。

 

「……あの女の子は無邪気ゆえに恐ろしい。聖王国も可哀相にな」

 

 ジルクニフはまたしてもため息をつきました。何故なのだろう。魔導国の属国になったのにあまり脅威は変わらないのは何故なのだろう。

 

 ジルクニフとリユロはありんすちゃんがローブル聖王国に出かけている、つかの間の平和をせめて楽しもうと思うのでした。

 

 そして小さな赤い悪魔が一日でも長くローブル聖王国に滞在してくれる事を願うのでした。



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124ありんすちゃんまたまたまたまたせいおうこくにいく

「ルーンは輝く希望の光!」

 

 シズの言葉に兵たちが唱和します。

 

「「ルーンは輝く希望の光!」」

 

「もう一度でありんちゅ!」

 

「「ルーンは輝く希望の光!」」

 

 ありんすちゃんは満足そうに頷くとシズに合図しました。

 

「……ルーンはすごいなサイコーだ!」

 

「「ルーンはすごいな最高だ! ルーンはすごいな最高だ!」」

 

「……あなたも私もルーンルーン!」

 

「「貴方も私もルーンルーン! 貴方も私もルーンルーン!」」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 前回突然おやつを食べに魔導国に戻ったありんすちゃんでしたが、唐突に今度は何故か戦闘メイドのシズと一緒にローブル聖王国に現れるのでした。

 

「……アインズ様の命でサポートする。頑張る」

 

 聖騎士団の皆は訳がわからないまま、とりあえず不問にするのでした。

 

 ありんすちゃんとシズは兵たちを集めると皆に唱和させ始めます。意味がわからない言葉でしたが兵たちは声を出している内に力がわいてくるのでした。

 

 次にありんすちゃんは従者ネイアを壇上に上げると、彼女の弓を皆に示しながら叫びました。

 

「……そして、こりがしゅごいルーンちゅいた、アルテメシュテン、グスタンンスーパ、でありんちゅ! 我らに勝利をー! ……でありんちゅ」

 

 兵たちの歓声が壇上のありんすちゃん、シズ、ネイアを包み込むのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……うむ。これはいけるな。これならば勝てるぞ」

 

 騎士団の士気の高まりを見てレメディオスは喜びました。しかしながら副団長のグスターポの胸中は複雑でした。

 

 そもそも一旦倒した筈のヤルダバオトがまたしても現れたのはありんすちゃんのせいでしたから。

 

 ありんすちゃんとシズは壇上から降りると一画にシートを広げてどこからか取り出した武器や防具を並べ始めました。

 

「しゅごいルーンちゅいた武器が今ならお買い得でありんちゅよ!」

 

「……ルーンの刻まれた武器。支払いは分割払いのローンでも良い」

 

 どうやら魔導国製のルーンが刻まれた武器や防具を販売し始めたようでした。

 

「──なんだ……と! ルーンの武器か! 私も買うぞ!」

 

 レメディオスの顔色が変わりました。すぐさま並べられた商品から一番高そうな武器を手にします。

 

「──この剣なら、この剣ならヤルダバオトにダメージを与えられるか?」

 

「……それは『こうてつのけん』にルーンを刻んで強化したもの。ダメージは──」

 

「──金貨三十枚のちょころ二十枚におまけしるでありんちゅ!」

 

「──よし! 買った!」

 

 シズの説明を遮ったありんすちゃんの言葉にレメディオスは即決してしまいました。聖騎士達は「どうのつるぎ」、民衆兵達は「ひのきのぼう」や「たびびとのナイフ」をそれぞれルーンが刻まれて強化されたものを、あるものは即金で、また、あるものはローンで購入するのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 いよいよヤルダバオトと再対決です。いつの間にか聖王のカスポンド陛下も無事に合流しました。

 

「いよいよ改めて決戦だ。ヤルダバオトを倒し聖王国を取り戻すのだ!」

 

 カスポンドに並んだレメディオスが剣を抜きます。

 

「いざ!」

 

 聖騎士団を中心とした解放軍二万が城外に陣形を組みます。対するヤルダバオト率いる亜人の軍勢は同じく一万です。

 

「「貴方も私もルーンルーン! 貴方も私もルーンルーン!」」

 

 思い思いにルーン武器を装備した解放軍の士気は高く、誰もが勝利を疑いませんでした。

 

 やがて亜人軍が左右に割れ、ヤルダバオトが進み出てきました。

 

「全軍前に!」

 

 レメディオスを筆頭に聖騎士団の騎馬隊が突入して戦闘が始まりました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……くっ。……何故だ? 何故勝てないのだ?」

 

 カリンシャ城内に敗走したレメディオスは壁を叩きました。

 

「……ちょれはルーンが一つだったからでありんちゅ。ルーンがふたちゅならもっとちゅよいでありんちゅ。……ただ……」

 

 ありんすちゃんが小首を傾げて続けました。

 

「……ルーン、一つ増えると倍の金額になるでありんちゅ」

 

「……その……ルーンはいくつまで刻めるのですか?」

 

 副団長のイサンドロの質問にシズが答えました。

 

「……ルーンは現在の所、最大で三つまで。値段は一つ増える毎に倍になるからルーン三つなら倍の倍で四倍の金額になる。……分割払いのローンで購入するのがお薦め」

 

 かくしてシズの前には聖騎士の列が出来るのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「──くらえ! ルーンの輝き! アルティメイト・シューティングスター・スーパー!」

 

 ネイアが放った矢は避けようとしたヤルダバオトの右腕に刺さりました。

 

「……恐るべしルーンの力! かつて封印されし秘術、ルーンとはここまで凄まじいものだとは!」

 

「──ちが──わない!」

 

 ヤルダバオトは驚愕し、思わずネイアも叫びます。

 

「……さすがはールーンが刻まれた武器の力ー。すごいー。……ルーン最ー高ー」

 

 抑揚のないシズのやや棒読みで投げやりなセリフが続きます。

 

「……ありんちゅちゃがとどめ、しるでありんちゅ! 〈ヴァーミリオンノヴァ〉!」

 

 ヤルダバオトはありんすちゃんが放つ光に包まれていきます。

 

「……最後ルーン……関係ない……」

 

 シズの小さな呟きは巨大な爆発にかき消されてしまいました。

 

 ヤルダバオトは消滅し、ありんすちゃんとルーンの力によって聖王国に平和が訪れるのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第十階層〈玉座の間〉──玉座のアインズの前にありんすちゃんとシズが跪きます。

 

「二人ともご苦労だった。……で、ルーンの宣伝は上手くいったかね?」

 

 ありんすちゃんが顔を上げて答えます。

 

「ありんちゅちゃ頑張ってローン、いっぱい契約したでありんちゅ」

 

 うーん……ありんすちゃんは目的のルーンがいつしかローンになってしまったみたいですよ。

 

 ……うーん……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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125特別編・ありんすちゃん理解テーブルゲーム ドラマCD 人間理解テーブルゲーム より

 ナザリック地下大墳墓 第二階層屍蝋玄室──ありんすちゃんが寝そべってなにやら書いてます。

 

 また落書き……ゲフンゲフン……挿絵を描いてくれているのでしょうか?

 

「かんしぇいしたでありんちゅ!」

 

 どうやら完成したみたいですね。大学ノートをかざして得意そうな顔です。ノートの表紙には『ありんちゅちゃりかいてぶるげいむ』とあります。ありんすちゃんはノートを片手に飛び出して行ってしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第六階層の〈アンフィテアトルム〉に集められたプレアデスとアウラは不満そうです。無理もありません。彼女たちは理由もわからないまま、ありんすちゃんに引っ張ってこられたからでした。

 

 台に登ったありんすちゃんが得意そうに説明を始めます。

 

「……コホン。こりからありんちゅちゃのテブルゲイムしるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは手にしていたノートをみんなに見せます。

 

「……なんすかコレ? ありんすちゃんが書いたっすか?」

 

「……テーブルゲーム……もしかしたらテーブルトークロールプレイングゲームの事か? 確か最近アインズ様が守護者たちとされたらしい……」

 

 プレアデスの面々は興味しんしんみたいですね。

 

「……確かアインズ様は守護者たちに人間について理解してもらいたいとの目的で人間理解テーブルゲームをやったとかでしたね。ボク──私は直接見てはいませんが……ありんす様は階層守護者として参加されたんですよね?」

 

 ユリの問いかけにありんすちゃんはエヘンと胸を張りました。

 

「ちょうでありんちゅ。今度はプレアデシュがありんちゅちゃになるテブルゲイムしるでありんちゅ」

 

「……ハイハイ。じゃあたしは帰っていい? これでもいろいろ忙しいんだけど?」

 

 アウラの言葉は無視されてしまいました。

 

 ありんすちゃんは得意そうに『ありんちゅちゃりかいてぶるげいむ』と書かれたノートを広げます。

 

「……えと……えと……ユリはありんちゅちゃレベル1でありんちゅ。ルプーもありんちゅちゃレベル1でありんちゅ。ナーベもありんちゅちゃレベル1でありんちゅ。ソリシャはありんちゅちゃレベル2でありんちゅ。エントマはありんちゅちゃレベル1でありんちゅ。シズはありんちゅちゃレベル1でありんちゅ。ありんちゅちゃはこりからお風呂はいるありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはパタンとノートを閉じるとプレアデスを眺めます。

 

「……そりぞれありんちゅちゃになりきって行動しるでありんちゅ」

 

 どうやらそれぞれありんすちゃんがやりそうな事を、出していく遊びみたいですね。

 

「……えーコホン。ありんすちゃんはお風呂で洗いずきたら身体が削れてしまったっす。……なんと胸はペッタンコになりました。『大変! 私の胸がなくなっていんす!』……ぷぷぷ……」

 

 ルプスレギナは自分の言葉に吹き出してしまいました。ありんすちゃんは少し面白くありませんでした。

 

「……えっと……ありんすちゃんがお風呂に入っていました。……ありんすちゃんはまだお風呂に入っています。……まだまだお風呂に入っています」

 

 シズの話にありんすちゃんは興味しんしんです。

 

「……ありんちゅちゃのお風呂、ずいぶん長いでありんちゅね?」

 

「……えーコホン。ありんす様はあまりにも長くお風呂に浸かっていたのでドロドロに溶けてしまいました。めでたしめでたし」

 

 ありんすちゃんのほっべたがプクーと膨れてきました。

 

「……次は私が。……ありんすちゃんがお風呂に入っていると湯船の栓に気がつきました。ありんすちゃんは「こりを抜いてみるでありんちゅ」と言って栓を抜きました。ありんすちゃんは流れていってしまいました」

 

「……今度はぁ、わぁたぁしぃ。ナーベラルに続けるねぇ。……ありんすちゃんはぁブラックカプセルに流れてぇきましぃたぁ。恐怖公のぉ眷属がぁ……おいしくぅいただきましたぁ」

 

 ありんすちゃんは真っ赤になって目には涙を浮かべています。

 

 ウワーンと泣きながらありんすちゃんはどこかへ行ってしまいました。

 

「……あの、さ……あたしはもう帰っていいよね?」

 

 最後にアウラがポツリと呟きました。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 翌日、ありんすちゃんはシモベのヴァンパイア・ブライドを集めて言いました。

 

「……こりからありんちゅちゃのテブルゲイムしるでありんちゅ!」

 

 懲りないですねありんすちゃんは。仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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126ありんすちゃんおもいだす

 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈屍蝋玄室〉──ベッドの上でありんすちゃんがマカロンをほおばっています。時刻はもうお昼近くなんですが……

 

 ありんすちゃんは中でもピンクのマカロンがお気にいりみたいですね。もっとも色が違うだけで味はどれもおんなじなんですけれど。

 

 マカロンを三つつかんで大きく開けた口に放ります。あらあら。さすがにありんすちゃんの口では小さすぎたみたいでマカロンが一つベッドの下に転がっていってしまいました。

 

 ありんすちゃんはベッドの下を覗きこんでマカロンを見つけます。

 

「……ありんちゅちゃの口から逃げ出したふとどきなマカロンはこちてやるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはマカロンを拾うと上に放り投げ大きく口を開けました。

 

 残念。マカロンはありんすちゃんの唇に当たってまたベッドの下に転がってしまいました。

 

「……逃がさないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは逃げたマカロンをつかみます。と、ベッドの下になにやら箱があるのに気がつきました。

 

 マカロンをいそいで食べてしまうとその箱をベッドの上にあげました。

 

「……しゅごい箱でありんちゅね。中身はなんでありんちゅ」

 

 その箱は魔封じの箱でした。……うーん。その箱の中にはたしか……

 

 ありんすちゃんは躊躇せずに箱を開けます。なんと中には可愛らしいチャイナドレスが入っていました。

 

 ……たしかそのマジックアイテムは……うーん……

 

 ありんすちゃんはチャイナドレスを自分にあてて鏡を見てみました。とてもありんすちゃんにお似合いですね。

 

 ……しかしそれは……

 

 ありんすちゃんはさっそくチャイナドレスに着替える事にしました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 チャイナドレスを着たありんすちゃんは鏡の前に立ちます。それから悩んだすえに長い銀髪を結ってお団子二つにしてみました。

 

 次に鏡にむかってウインクしてみます。もっともありんすちゃんは片目だけ閉じる事が出来ないのでただ両目をつぶるだけでしたが……

 

 突然ありんすちゃんの脳裏にかつて見た光景が甦りました。ありんすちゃんがシャルティア・ブラッドフォールンとして行動不能になった瞬間に確かに見たのが鏡の中の女の子だったのです。

 

 ありんすちゃんは口を大きく開けて呆然としました。やがて正気に戻ると手足をバタバタさせながら駆け出していきました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……どうしたのだ? ありんすちゃんよ?」

 

 第九階層のアインズの執務室にいきなり飛び込んできたありんすちゃんにアインズは驚きます。

 

「ありんすちゃん。今わたくしはアインズ様と大切な仕事をしているのよ? 遊びたいなら他に行きなさい」

 

 ありんすちゃんは手をバタバタさせるばかりで何が言いたいのかわかりませんでした。実はこの時ありんすちゃんの喉に食べかけのマカロンがへばりついていたのでありんすちゃんは喋ることが出来なかったのです。

 

「……アインズ様。ありんすちゃんの事はプレアデスに任せては如何でしょう? 彼女たちならうまくありんすちゃんから聞き出せると思います」

 

 アインズは頷くのでした。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 プレアデスを前にありんすちゃんは身ぶり手振りで伝えます。

 

(……頭にお団子……チャイナドレス……光でまっ白……動けなくなる……)

 

 ……そう。かつてシャルティアとしての自分に起きた事態を懸命に伝えてみました。

 

「……えっと。なになに? ……タヌキが……えーと……お腹でポンポコ……ビックリして……死んだふりっすね?」

 

「……違うわ。きっとタンコブだわ」

 

「……残念。ゼスチャーのレベル低すぎ……解読不能……」

 

「……やっぱりぃ……人間が美味しいわよぅ……」

 

「……だめね。誰もわからないみたいね」

 

 プレアデスにもどうやらお手上げみたいでした。

 

「──あ! わかったかもっす!」

 

 突然ルプスレギナが叫びました。

 

「……今日はカレーライス……お腹一杯食べて……お昼寝……っす! 完璧っす!」

 

 ありんすちゃんは首を振りますが……ググゥ……と思わずお腹が鳴ってしまいました。

 

「それなら早速食堂に行きましょう」

 

 ありんすちゃんはプレアデスと一緒に食堂に行きました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……お腹一杯でありんちゅ」

 

 カレーライスを食べたありんすちゃん、いつの間にかはりついていたマカロンも飲み込んでいつも通りです。

 

「……おや? ありんすちゃんカレーの染みが付いちゃったっすね。急いで洗わないと大変っす」

 

 ありんすちゃんは万歳してルプスレギナにチャイナドレスを脱がせてもらいます。

 

「これは私が洗っておいてあげるっす。ありんすちゃんは気にせずデザート食べていて良いっすよ」

 

 ありんすちゃんはデザートのリンゴを食べました。可愛くウサギになっているやつです。

 

 ありんすちゃんは満腹になるとせっかく思い出した事をすっかり忘れてしまいました。

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ルプスレギナはチャイナドレスを広げて自分にあててみました。

 

「……これはなかなか素敵っすね。このルプーさんのセクシーさが120%アップ間違いなしっす。……今度カルネ村で悩殺しまくりっす」



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127ありんすちゃんダイエットする

 秋です。天高く馬肥ゆる秋、といいますが……ナザリック第二階層〈屍蝋玄室〉では……

 

 ありんすちゃんがベッドの中でお菓子を食べています。うーん……

 

 朝起きて朝食を食べ……お風呂。十時にはお茶の時間にお菓子……お昼に食事……その後はお昼寝……三時にはおやつ。それから階層の巡回。

 

 自分の足で歩かないでヴァンパイア・プライドにおぶさっての巡回ですね……うーん……

 

 巡回から戻るとお風呂……夕方に食事……で就寝……夜中に起きてお菓子……なんだかほとんど運動していませんね。それにお菓子を食べる回数が多すぎるような気がします。

 

 そう言えば……気のせいかありんすちゃん、まん丸くなってきたような……

 

 ありんすちゃんは鏡をマジマジと見つめました。間違いありません。ありんすちゃんは確実に太っていました。

 

「……ありんすちゃん様! そのお姿はいったい?」

 

 ありんすちゃんが振り替えるとプレアデスの一人、ソリュシャンが驚愕の表情で立ち竦んでいました。

 

「……ありんすちゃん様……これではアインズ様の寵愛を受ける事が出来なくなってしまいます!」

 

「……ありんちゅちゃは悪くないでありんちゅ。ちょっと……ちょっと食べしゅぎなだけでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは口を尖らせます。うーん……なんか起きあがりこぼしみたいな……ゴホンゴホン。

 

「……ありんすちゃん様……ハッキリと言わせていただきます。今のありんすちゃん様は『デブ』でございます。『デブデブ』の『おデブ』以外の何ものでもありません!」

 

 ありんすちゃんの顔がたちまち赤く染まっていきます。口をパクパクさせますが言葉が出てこないようです。

 

 ソリュシャンは腕を組むと静かに宣言しました。

 

「ありんすちゃん様はこれからダイエットしなくてはなりません! 全てはありんすちゃん様の為でございます!」

 

 ありんすちゃんは必死に反論しようと口をパクパクさせますがソリュシャンは頑として認めません。

 

「反論は認めません! よいですね?」

 

 それからソリュシャンはありんすちゃんに付きっきりでダイエットのコーチをするのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「ピッピッ! ピッピッ! ピッピッ!」

 

 第一階層から第三階層までありんすちゃんは走らされました。ソリュシャンは笛を鳴らしてありんすちゃんを急かします。

 

「……ありんちゅちゃはちゅかれたでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはすぐに泣き言を言い出します。

 

「ダメです! よいですか? このままではアルベド様に負けるだけでなく正妃候補からも脱落してしまいます!」

 

「……ありんちゅちゃはべちゅにかまわない、でありんちゅ」

 

「いいえ! ありんすちゃん様には必ずアインズ様の正妃になっていただかなくてはならないのです!」

 

 ありんすちゃんはイヤイヤながらも走り続けるのでした。

 

「これはこれは我が階層の主、ありんすちゃん様。どうやらソリュシャン殿と一緒にダイエットに励んでおられるご様子……うむ。これは是非ともわたくしめに一肌脱がさせていただけませんか?」

 

 ありんすちゃんとソリュシャンが振り向くと領域守護者の恐怖公が丁寧にお辞儀をしていました。

 

「……ダイエットならば我が眷族に余分な脂肪を食べさせればあっという間に──」

 

「……チョリュチャ、もっとペーシュ上げるでありんちゅ!」

 

「ハイッ! ありんすちゃん様!」

 

 ありんすちゃんとソリュシャンの姿はあっという間に遠ざかっていきました。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 

 ありんすちゃんがダイエットに挑戦している事は瞬く間に知れわたり、プレアデスや他の階層守護者たちはみな応援するのでした。

 

 しかしながらありんすちゃんの体重はなかなか減りません。

 

 それもそのはずです。ソリュシャンの目を盗んではお菓子を食べる事をやめませんでしたから……

 

 仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ソリュシャンが側にいない間にドーナツを食べるありんすちゃんをぞっと見つめる人物がいました。

 

「……くっふっふっ。素晴らしいわ。八本指が見つけてきたこのマジックアイテムの効果がこんなに素晴らしいものだとは……これでライバルを全て脱落させてこのわたくしがアインズ様の正妃になってみせるわ。……次は誰の名前を書こうかしらね? やはりアインズ様と行動を共にする事が多いナーベラルかしら。あの娘はわたくしを支持しているけれど油断出来ないですからね……」

 

 彼女は手にした一冊のノートを広げました。黒い表紙にはDebu Noteとありました。



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128ありんすちゃんたちしょんする

 ナザリック地下大墳墓 第九階層 アインズ執務室──今日もアインズとアルベドの二人が魔導国の運営についての打ち合わせをしています。

 

 と、唐突にありんすちゃんがアインズの膝の上に現れました。

 

 眠そうに目をこすっていますからまだ寝ぼけているみたいですね。

 

 ありんすちゃんはネグリジェ姿で片手にウサギのぬいぐるみ、反対の手にはタオルケットを持っています。

 

 ボンヤリとアインズの顔を眺めていたありんすちゃんは──

 

「アインジュちゃま……おちんちん、ほちいでありんちゅ」

 

「──な?」

 

 驚愕のあまり固まるアインズ。

 

 

「──ダメです! アインズ様の…………はこのわたくしのものよ! ありんすちゃん、貴女は子供だと思ってつい油断していたけれど、やっぱりシャルティアなんだわ。……いいえ、かの至高の御方の中でも要注意人物だったペロロンチーノ様が作られた存在──」

 

 冷静になったアインズは興奮するアルベドを制してやさしくありんすちゃんに尋ねました。

 

「……うむ。ありんすちゃんよ。なぜ私のおちんちんが欲しいのかね?」

 

 ありんすちゃんはアインズの顔をキョトンと見つめます。

 

「……アインジュちゃまはおちんちんあるでありんちゅか?」

 

 今度はアインズがキョトンとしました。

 

「……うん? それは……無い……うむ。無いな」

 

 アルベドは少しだけ哀しそうでした。

 

「……ありんちゅちゃ、おちんちんほちいでありんちゅ!」

 

「うん? すると……ありんすちゃんは男になりたいのかね?」

 

「なりたいでありんちゅ! ありんちゅちゃはたちしょん、しるでありんちゅ!」

 

 と、いきなりアルベドが顔を上げました。

 

「アインズ様! このありんすちゃんの願いは是非ともかなえてあげるのがよろしいかと……いえ……叶えなくてはなりません」

 

(かつてシャルティアはわたくしとアインズ様の正妻の座を争った、いわばライバル。子供になったとはいえ正妻争いから脱落するに越した事はないわ。それにもし……もしもアインズ様に…………が生えるならば……このわたくしはアインズ様のお子を授かる事も夢ではなくなるのだし……)

 

 アルベドの強い後押しもあり、結局アインズは〈星に願いを〉を使いありんすちゃんにおちんちんを生やす事にしました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 アインズが高々と〈シューティングスター〉を掲げます。

 

我は願う(I wish) ──」

 

 ありんすちゃんの体が光に包まれました。そして──

 

 

 ニョキニョキ……ありんすちゃんにおにんにんが生えてきました。

 

 ありんすちゃんは大喜び。早速第六階層に駆けていきました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんは第六階層に着くとザイトルクワエの所に行きました。

 

「……君は誰だい? 見たような見たことないような……ああ……いったいなにを?」

 

 ザイトルクワエの根元にジョウロで水をかけていたドライアドのピニスンは慌てました。

 

 ありんすちゃんはお構いなしにザイトルクワエの側に立つとスカートをまくりあげました。

 

 ──ジョロジョロジョロジョロ……

 

 ありんすちゃんは念願だったタチションなるものが出来て大満足です。

 

 ──ジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロ……

 

 静まり返る第六階層に水の音がいつまでも続くのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんはベッドの中で目を開きました。第二階層の〈屍蝋玄室〉のありんすちゃんのベッドの中です。

 

 回りを見回しますがザイトルクワエもピニスンもいません。

 

 ありんすちゃんはお尻がヒンヤリしていたので布団をめくってみました。

 

 なんという事でしょう! ありんすちゃんはビショビショのシーツの上に座っていました。ありんすちゃん……これはおねしょ──

 

「まちゃ水をこぼしちゃでありんちゅ。水でありんちゅ。ぜたいにぜーたいに水であ・り・ん・ちゅ!」

 

 ありんすちゃん顔を真っ赤にしながら強い口調で断言するのでした。……うーん。

 

 まあ、本人が断言するのですからおねしょではないのでしょう。……たぶん。……いや、きっと……

 

 ありんすちゃんは慣れた動作で濡れたシーツをクルクルっと丸めます。

 

「〈グレーターテレポーテーチョン〉でありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんが魔法を唱えるとあら不思議……乾いたシーツにかわっていました。

 

 このシーツ……やたらとハートマークだらけの生地であまりセンスがなさそうですが……

 

 ありんすちゃんはハート柄のシーツを敷き直すとまたスヤスヤと寝はじめるのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「……これは……まさか……いや、そんなはずは……」

 

 ヒンヤリとした感触にイビルアイは思わず起き上がりました。

 

 ハート柄のパジャマの下半身が濡れています。

 

(……ありえない。まさか……これは……いや……既に二百年以上もしていないのに……まさか……これは……おねしょをしたというのか?)

 

 イビルアイはハートマークだらけの枕をギュッと抱きしめました。

 

「……よう。イビルアイ、もう起きているんだろ? しかしよ、マイシーツにマイ枕でないと眠れないなんて贅沢だな。この宿屋のベッドだって充分に──ん?」

 

 騒がしく入ってきたガガーランは急に黙りました。ベッドに座り込んで枕を抱きしめたイビルアイのオドオドした顔を眺め──イビルアイの座っている辺りにひろがったシーツのシミを眺めてニヤリと笑いかけました。

 

「……ああ……なるほど。それで自分のシーツを……ね」

 

「いや、違う! 違うんだ! こ、これは……」

 

 イビルアイは必死に否定しましたが……

 

 

 

 

 

 その後しばらくイビルアイはガガーランから『チビるアイ』とからかわれたそうです。

 

 もちろんありんすちゃんはそんな事は知りませんでしたが……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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129ありんすちゃんとメロン

 ナザリック地下大墳墓 第六階層──ここには畑が作られていてドライアドたちが世話をしています。

 

「たいへんだよ! もうじき収穫予定だったメロンがなくなっちゃったよ!」

 

 アウラとマーレがお茶をしているところにドライアドのピニスンが駆け込んできました。

 

「……騒がしいなぁ。ねえ? 本当に無くなったの? ナザリックの中にそんなことするNPCはいないんじゃないのかな?」

 

「……あの、僕もそう思います。ピニスンさんの勘違い、とかじゃないでしょうか?」

 

 ピニスンはどもりながら答えました。

 

「……昨日までは確かにありましたよ。丁度収穫時期のメロンが二個、間違いなく今朝無くなっています」

 

 アウラとマーレはピニスンの案内で様子を見に行くことにしました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……うーん。確かになにか鋭利な刃物で切られているみたいだね。あたしの知る限りこの階層にいるシモベのいたずらじゃないみたいだよ」

 

「……すると、もしかして侵入者が……あの、いるのかな?」

 

 マーレがおどおどした口調で尋ねました。アウラは口もとに笑みを浮かべると言いました。

 

「そうだ。確かありんすちゃんって探偵としていくつか事件を解決しているんだよね? ありんすちゃんを呼んできたら解決するんじゃないかな?」

 

 アウラはなぜかニヤニヤしながら提案をしました。そこでマーレが第二階層にありんすちゃんを呼びに行くことになりました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 マーレが第二階層の屍蝋玄室にやって来るとシモベのヴァンパイア・プライドが言いました。

 

「マーレ様、ありんすちゃん様はただいま身支度をされていらっしゃいますので少しお待ちください」

 

 三十分ほど待たされるとようやくありんすちゃんが姿を現しました。

 

「……またしぇたでありんちゅ。めいたんてありんちゅちゃの出番でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんを見てマーレは驚きました。まだ5歳児位のありんすちゃんの胸が不釣合に大きくなっていたのでした。

 

「なにしちぇるでありんちゅか? マーレ置いてくでありんちゅよ?」

 

 ありんすちゃんの言葉に我にかえったマーレはあわてて後を追いかけるのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「めいたんてありんちゅちゃにまかちぇるでありんちゅ!」

 

 腕を組んで胸をそらすありんすちゃんをアウラはジト目で眺めます。

 

「……あのさあ、あたし犯人が誰だかわかっちゃったんだけど……」

 

 アウラは宣言しました。

 

「犯人はこの場所にいる!」

 

 ありんすちゃんは明らかに動揺したみたいでした。

 

「……ありんちゅちゃは何のこちゃじぇんじぇんわからないでありんちゅ」

 

 フースーと口笛を吹くそぶりをしました。

 

「……ありんすちゃんさ、その胸のとこにあたしのメロンが入ってるよね?」

 

「……何のこちゃじぇんじぇんわからないでありんちゅ。ありんちゅちゃのボインボインは男のロマンでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんの必死な主張にアウラは首を振りました。

 

「……その『男のロマン』とやらが落っこちかけてきてんだけど?」

 

 ありんすちゃんはあわてて自分の胸もとを見ました。なんと膨らみがお腹のあたりにずれてしまっています。

 

 咄嗟に押さえようとしましたが、時すでに遅くありんすちゃんの足下にゴロンゴロンとメロンが二個、落ちてしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 翌朝、またしてもピニスンが騒ぎだしました。

 

「たいへんだよ! 今度はスイカが七個も無くなっているよ!」

 

 アウラはすぐにありんすちゃんを呼び出しましたが今回は全くの無関係のようでした。アウラ、マーレ、ありんすちゃんはスイカの行方についてあれこれ悩むのでした。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「──なん、だ、と?」

 

 恭しく平伏するアルベドとプレアデスに対してアインズは思わず叫んでいました。

 

「──お前たちが私の子供を身ごもった、だと?」

 

 アルベドとユリ、ルプスレギナ、ソリュシャン、ナーベラル、シズ、エントマのそれぞれの腹部はまるまると膨れ上がっていたのでした。

 

 

 それにしてもスイカは一体どこにいってしまったのでしょうね?



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130ありんすちゃんのあけおめ

 あけましておめでとうございます。

 

 ナザリック地下大墳墓 第二階層の屍蝋玄室の前には赤い鳥居が建てられています。更にお賽銭箱まで置かれています。

 

 お賽銭箱の前ではありんすちゃんが得意そうにしています。

 

 今日のありんすちゃんは巫女服を着ていてとても可愛いですね。ありんすちゃんに巫女服を着せる為、シモベのヴァンパイア・プライドが大変な苦労をしたのは秘密です。

 

「この箱におちゃいちぇん、入れるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはシモベ達を集めて言いました。そして少し考え込むと言葉を続けました。

 

「……おちゃいちぇんじゃなくてもお菓子でも良いでありんちゅ。ありんちゅちゃの好物入れて良いでありんちゅ」

 

 フンスと鼻息を荒くするありんすちゃんにヴァンパイア・プライドの一人が恐る恐る声をかけます。

 

「……ありんすちゃん様、恐れながら私たちシモベはお菓子も持っておりませんが……かといって屍蝋玄室から持ち出すのも意味がないかと……」

 

 ありんすちゃんはしばらく考え込むと何か閃いたようです。

 

「……しょれなら他の階層からありんちゅちゃのお参りしゃしぇるるありんちゅ!」

 

 それからありんすちゃんはヴァンパイア・プライド達を各階層に行かせて『ありんすちゃん神社にお参りをするよう』伝えさせます。ありんすちゃんは大きな紙に『ありんちやのじんじやこち』と貼紙を作りました。

 

 第二階層のゲート入り口に貼るんだそうです。

 

 そうして準備をするとありんすちゃんは巫女さんとしてお賽銭箱の側に待機をします。

 

「……こりでいぱいイパーイお年玉あちゅめるでありんちゅ」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 新年そうそう第二階層に初めてやって来たのはアウラとマーレでした。

 

「やほー。ありんすちゃん、あけましておめでとう。あたし達と羽根つきしようよ」

 

「……あの、あけましておめでとう、ございます」

 

 アウラは紋付き羽織に袴、マーレは振り袖を着ていました。

 

 ありんすちゃんは首をふります。

 

「ありんちゅちゃは巫女ちゃんしるでありんちゅからダメでありんちゅ」

 

「……ふーん。あっそ」

 

 アウラとマーレはあっさりと頷きます。

 

「……そうだ。マーレ。確か食堂にアインズ様がお雑煮とお汁粉を用意してくれているらしいね。これからアインズ様に新年のご挨拶しにいこうか?」

 

 途端にありんすちゃんのお腹がグウ~と鳴りましたが双子は気がつかないふりをします。

 

「……あの、そ、そうですね。せっかくの晴れ着をアインズ様に、あの、ご覧いただきたいですよね」

 

 賑やかに去っていく二人をちょっと羨ましくなったありんすちゃんでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 お雑煮もお汁粉も我慢して頑張り続けたありんすちゃん神社でしたが、残念ながら次の来客によっておしまいとなってしまいました。

 

「……お賽銭箱かぁ。わたしぃの大好物のぉ、おいしぃ栄養満点のおやつぅ、たくさん入れてあげるぅ~」

 

 みるみる黒くてピカピカ光沢がある『おやつ』が溢れ出す賽銭箱からありんすちゃんは逃げ出すのでした。

 

「……もうありんちゅちゃ神社やらないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃん、新年そうそうに災難でしたね。

 

 翌日になったらすっかり忘れてしまい、またしてもありんすちゃん神社が復活したりしますが……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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131ありんすちゃんのひなまつり

 今日は三月三日、ひな祭りです。

 ありんすちゃんはアウラとマーレに誘われてナザリック地下大墳墓 第六階層にやって来ています。

 

「ほら、すごいでしょ? やまいこ様のコレクションなんだよ?」

 

 アウラは五段飾りのひな人形の前で得意そうに胸をそらします。

 

「やまいこ様は、あの……ぶくぶく茶釜様と餡ころもっちもち様と女子会を、あの、よく開いていらっしゃっていたんです」

 

「…………ふーん」

 

 ありんすちゃんは気のない返事をしていましたが、視線は可愛らしいひな人形に釘付けでした。

 

 8センチ程の小ぶりな人形はネコやイヌなどの動物を模していて、どれも綺麗な装束をまとっています。なかでも男雛女雛は実に素晴らしく、ありんすちゃんは思わずため息をついてしまいました。

 

「ね、あたし達のひな人形、すっごいでしょ?」

 

 アウラが更に胸をそらします。

 

「……べ……別にうらまやしくないでありんちゅ。……あ・り・ん・ちゅ!」

 

 ありんすちゃんはそう言いきりましたが、相変わらず視線はひな人形に釘付けのままです。

 

「……ふーん」

 

 アウラはありんすちゃんの視線を遮るようにひな人形の前に立ちました。

 

「……ありんちゅちゃもひな人形、もってるでありんちゅ。ペロロンチーノしゃまから貰ったでありんちゅ。ほんちょでありんちゅ」

 

「……ふーん」

 

 アウラはジト目でありんすちゃんを見つめます。

 

「……じゃあさ、ありんすちゃんのひな人形をあたし達に見せてくんない?」

 

「わかったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは真っ赤な顔で出ていこうとします。

 

「……その前にポケットからあたし達の女雛様、返してほしいんだけど?」

 

 ありんすちゃんはしらをきろうと頑張りましたが、双子にひな人形を取り返されてしまいました。

 

 

※   ※   ※

 

 

「……ありんちゅちゃのひな人形、探すでありんちゅ」

 

 第二階層に戻ったありんすちゃんは早速シモベを集めます。

 

「……あの……ありんすちゃん様。恐れながらありんすちゃん様はひな人形をお持ちではありませんが……」

 

 ヴァンパイア・ブライドはおずおずと意見します。

 

「……ちょうでありんちゅ。今から第六階層へ行ってひな人形もってくるでありんちゅ。あれはほんとはありんちゅちゃのひな人形でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは鼻からフンスと息をはきながらシモベに命じます。しかし誰一人として動こうとしません。

 

「ありんすちゃん様。この屍蝋玄室の階段に赤い絨毯を敷いてひな人形みたいに人形を飾ってはいかがでしょう?」

 

 別のヴァンパイア・ブライドがありんすちゃんに提案します。ありんすちゃんはニッコリすると飾る人形を探し始めました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 最上段の内裏びなはすぐに決まりました。男雛は以前にリ・エスティーゼ王国に行った時に手に入れた超合金アインズ様人形です。女雛にはいつも寝る時に抱いているウサギのぬいぐるみにしました。

 

 問題はその他の三人官女や五人囃子といったひな人形です。ありんすちゃんは他の人形もぬいぐるみもありませんでした。

 

「……困ったでありんちゅ」

 

 そこに先程のヴァンパイア・ブライドが明るい顔でやって来ました。見ると人形の形をしたクッキーを手にしています。

 

「ありんすちゃん様。このジンジャーブレッドを人形の代わりにしてはいかがでしょう? カラフルな紙で衣装を作ればだいぶ見映えがよくなると思います」

 

 ありんすちゃんは手を叩いて喜びました。

 

「ちょうだ。ありんちゅちゃのお雛様は十人囃ししるでありんちゅ。アウアウよりたくさんしるてありんちゅ!」

 

 なにやらお囃子というよりちょっとしたオーケストラになりそうですね。

 

 

 

※   ※   ※

 

 そしていよいよアウラとマーレにありんすちゃんのひな人形をお披露目する時がやってきました。

 

 ありんすちゃんは得意そうに屍蝋玄室の扉を開きます。

 

 ありんすちゃんのひな人形を目にしたアウラとマーレは言葉を失いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

「これはこれは我が階層守護者たるありんすちゃん様。この度は我が眷属の為にご馳走をご用意頂きまして誠に恐悦至極にございます──」

 

 恭しくお辞儀をする恐怖公の後ろにはありんすちゃんのひな人形のジンジャーブレッドを貪る眷属の大群が──

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 ──あれ?



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132ありんすちゃんけしょうをする

 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈屍蝋玄室〉──今日のありんすちゃんは不機嫌そうです。

 

 真っ赤な口紅を手にしてドレッサーの前にチョコンと座っているのですが鏡に届かないのです。うーん……どうやらドレッサーを使うにはありんすちゃんが小さ過ぎてしまうようです。

 

 しばらくムッとした顔で睨んでいたありんすちゃんでしたが、何やら閃いたみたいです。

 

 しばらくすると、どこからかいくつもの木箱を持って来ました。そしてドレッサーのスツールの上に積み始めました。

 

 なるほど。こうして高くすればありんすちゃんでもドレッサーに届きますね。しかし……ああ! 危ない!

 

 あっという間に木箱が崩れてありんすちゃんは落ちてしまいました。

 

 うーん……ありんすちゃん、もう少し安全なやり方を探した方が……

 

 こまりました。ありんすちゃんはまたしてもスツールの上に木箱を積み始めます。

 

 ほらほら言わんこっちゃありません。またしてもありんすちゃんは落ちてしまいます。

 

 ふうふう言いながら、真っ赤な顔で木箱にあれこれ怒っていますが……うーん。そんな事では解決しないと思いますよ。たぶん。

 

 やがて、とうとう木箱をスツールに積み上げるのを諦めたありんすちゃんは食堂から椅子を借りてきました。

 

 いつもありんすちゃんが使っている、幼児用の補助椅子です。よくファミレスで小さな子供が使うあれです。

 

 ありんすちゃんは補助椅子に登ると腰を下ろします。うーん……ドレッサーと反対の向きに座ってしまったのでやり直しです。

 

 椅子の上に立ち上がり、両足をスポンと補助テーブルの下にくぐらせます。

 

 大成功です。ありんすちゃんは口紅を持つとドレッサーを眺めます。

 

 大変です! なんという事でしょう! せっかく苦労してドレッサーに届いたというのに……ドレッサーの鏡にはありんすちゃんの姿がありません。

 

 うーん……どうやらありんすちゃんは吸血鬼なので鏡には写らないようですね。

 

 と、ありんすちゃんは何やら思いついたみたいです。補助椅子から降りると何やら紙に描き始めました。

 

 うーん……いったいどうするのでしょうか?

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 その後真っ赤な口紅を顔中に塗りたくったありんすちゃんはシモベのヴァンパイア・ブライド達を恐惶させ、皆に無理矢理お風呂でゴシゴシ洗われ……疲れきって眠りりにつくのでした。

 

 翌朝、ありんすちゃんはおねしょをしてしまいました。

 

 

「……ありんちゅちゃ、あちょこからオバケ覗きこんでいるから、おトイレいけなかっちゃでありんちゅ……」

 

 ありんすちゃんが指を指したドレッサーの鏡には昨日ありんすちゃんが描いた絵が貼ってありました。なるほど。鏡に写らないから自分の顔を描いてそれを鏡に見立ててお化粧をしたのですね。

 

 なかなか良い考えですが、それをすっかり忘れてオバケだと思ってしまうとは……

 

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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133ありんすちゃんツインテールにする

 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈屍蝋玄室〉──今日のありんすちゃんはご機嫌です。

 

 三人のヴァンパイア・ブライドに髪をツインテールにしてもらっています。ありんすちゃんの長くて艶やかな銀髪はツインテールが良く似合いそうですね。

 

 ツインテールの根元にはピンク色のサクランボみたいなボンボンをつけます。服装は白のフリルがたくさんのワンピースです。

 

 ありんすちゃんは椅子から降りるとクルリクルリとワンピースを翻しながら回ってみせました。

 

「ありんすちゃん様。とってもお似合いです」

 

「本当にお似合いです」

 

 シモベのヴァンパイア・ブライド達の賞賛にありんすちゃんの小鼻が膨らみます。

 

「……と、とうじぇんでありんちゅ。ありんちゅちゃは可愛いでありんちゅから……ふん!」

 

 ありんすちゃんの頬がみるみる紅潮していきます。

 

「では、こりから見回り、しるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはフンスと鼻から息を吐き出すと階層の巡回に出かけて行きました。興奮のあまり、ぎこちなく手足を揃えて歩いてしまっていますが……

 

 

※   ※   ※

 

 

 翌日もありんすちゃんは髪をツインテールにしました。今回は前より少し上から分けていますね。細い銀色の髪がユラユラ揺れています。

 

「おはよー! ありんすちゃん」

 

 いきなり扉が開き、アウラが入ってきました。アウラはありんすちゃんを見つけるとマジマジと見つめます。

 

「……へぇー……思ったより似合ってるじゃん。あーあ。あたしも髪が長かったらツインテールにしてみるんだけどな……」

 

 残念そうなアウラを見て、ありんすちゃんは得意になります。

 

「ふふん。ツインテールはありんちゅちゃにとぉっても、とぉおっても似合うんでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは鼻からフンスと息を吐きました。

 

「……うー……なんかムカつく……あたしも髪を伸ばすんだ。じゃあね、ありんすちゃん」

 

 アウラは乱暴に出ていってしまいました。

 

 ありんすちゃんはご機嫌です。シモベ達の賞賛を浴びながらまたしても階層の巡回に出かけていくのでした。

 

 

※   ※   ※

 

 やがて、ありんすちゃんがツインテールにし始めてから一週間が経とうとしていたある日のことです。

 

 ありんすちゃんがいつものようにヴァンパイア・ブライド達に髪をすいてもらっていると、来訪者がありました。

 

 ありんすちゃんが部屋に入れるとそれは領域守護者の恐怖公でした。

 

 恐怖公は真っ白のタキシードに身を固め、恭しく赤い薔薇の花束を差し出しながら言いました。

 

「この数日間というものの貴女の美しい銀色の触角に心奪われておりました。身分の違いこそあれど、この恋心はいかにもしようなく、ここに想いのたけをぶつけたく思います。願わくは我が宿世の伴侶となって頂きたく……」

 

 

 

 

 

 その日からありんすちゃんは二度とツインテールにする事はありませんでした。仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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134ありんすちゃん、ゆかたをきる

 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈屍蝋玄室〉のありんすちゃんの部屋の扉に一枚の貼り紙がありました。

 

『きがえちう』

 

 中ではありんすちゃんがドッタンバッタン大騒ぎです。どうやらありんすちゃんは浴衣を着ようとしているみたいですが……うーん。一人で浴衣を着るのは無理みたいですね。

 

 あまりの騒ぎにヴァンパイア・ブライド達が駆けつけてきました。総出でありんすちゃんに巻き付いた布をほどいていきます。ようやくにしてありんすちゃんの顔が出てきました。

 

「ぷはー! グルグル巻きになっちゃでありんちゅ」

 

 夏祭りの季節ですからありんすちゃんが浴衣を着るのは良いと思いますが……

 

 ヴァンパイア・ブライド三人がかりでようやく帯をほどき、きちんと浴衣を着せ直します。最初からそうすれば良かったのではないでしょうか? それともまたしてもシモベ達からストライキされてしまったのでしょうか?

 

 なにはともあれ、ありんすちゃん、浴衣がとってもよく似合います。可愛らしい朝顔の柄がありんすちゃんの魅力を引き出していますよ。長い銀髪は結いあげられてピンク色の金魚の飾りの簪で留めてあります。

 

「ちょれでは浴衣をアインジュしゃまに見てもらうでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは胸をそらせると、鼻息も荒く屍蝋玄室を出ていくのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 ありんすちゃんは真っ直ぐ第九階層にやって来ました。アインズの執務室の前で止まると扉にノックをします。ありんすちゃんってなかなか行儀が良いですね。

 

 アインズ当番の一般メイドがアインズ様の許可をとり、ありんすちゃんを部屋に入れます。

 

「アインジュちゃまに、ありんちゅちゃのかわいい、見てみるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは口上を述べるとクルリと回ってみせました。

 

「おお……なかなか似合うじゃないか。うむ。夏は浴衣が良いものだな」

 

 アインズは思わず破顔しました。夏らしく花火や縁日、盆おどり等をナザリックで楽しむのも良いかもしれないな。

 

 思いをはせるアインズにありんすちゃんがちょこんとお辞儀をします。

 

「ちょれでは、ペロロンチイノしゃまにおちえていただいちゃ、浴衣のさほをしるでありんちゅ」

 

(……さほ? うん、作法の事だろうか? しかしペロロンチーノの、というのが気になるが……)

 

 考え込むアインズの手をとると、ありんすちゃんは帯の端を持たせます。

 

「あーれー、でありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはクルクルと独楽のように回りながら帯をほどいていきました。

 

 クルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクル……

 

 やがてすっかり帯がはだけると、浴衣が脱げてスッポンポンのありんすちゃんが飛び出してきました。

 

 素っ裸のありんすちゃんはヨヨヨとばかりに手をつくと、「……おちゃわむれでありんちゅ」と決めセリフを言いました。

 

「──ペロロンチーノォォォオ!」

 

 執務室にアインズの叫び声がむなしく響くのでした。

 

 仕方ありませんよね。だってペロロンチーノさんはエロゲ大王なのでしたから。



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135ありんすちゃんとにじいろのみずたまり

 ありんすちゃんがナザリック地下大墳墓 第三階層にやって来ました。いつもの巡回のお仕事です。

 

「あめあめふれふれかーちゃんがー」

 

 おやおや? 今日のありんすちゃんは可愛らしい赤のレインコートと長靴、そしてピンクの傘をさしています。

 

 先程まで降っていた雨はすでにやんでいますが、ありんすちゃん、とっても似合っていますよ。

 

 ナザリック地下大墳墓では時折マーレが魔法で雨を降らせているんですね。

 

「ビッチビッチジャブジャブらんららーん」

 

 うーん……なんだか歌詞が微妙に違うみたいですが……

 

 ありんすちゃんは水溜まりを見つけると飛び込んでいきます。

 

「おもちろいでありんちゅ!」

 

 水溜まりの中でありんすちゃんの笑い顔が波紋で揺れます。吸血鬼は流れる水が苦手だったりしますが、こうした水溜まりは問題ないみたいですね。

 

「……あちょこ、綺麗でありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんが駆け出していきます。

 

「こりは綺麗なみじゅたまりでありんちゅね……」

 

 そこにあったのは虹色の水溜まりでした。いったい何の水溜まりなんでしょう? 確かに綺麗な虹色なんですが……

 

 ありんすちゃんはしばし虹色の水溜まりにうっとりと見とれていましたが、突然何かを閃いたみたいです。

 

「ちょうだ! こりがどこから出ているかちらべるありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはウソンコのスキップをしながら歩きだしました。

 

「冒険で~ありんちゅう~冒険が~ありんちゅう~♪」

 

 何やら即興の歌を口ずさみながら、ありんすちゃんはどんどん進んでいきます。どこまでもどこまでも進んでいくと、何やら物音が聞こえてきました。

 

 

※   ※   ※

 

「……オェエエエ! ゲホッゲホッ! オェルルルエエエエ!」

 

 ありんすちゃんはとうとう虹色の水溜まりの発生源を突き止めました。

 

 なんとナザリックのアンデッド、シルクハットに取りつけられた金髪の少女の頭の口から滝のように虹色の液体が溢れていました。

 

「……これは、オェルルルエエエエ! ありんすちゃん様、オェルルルエエエエ! 申し訳ありません、オェエエエ! この首が、オェエエエ! 吐くのをやめ、オェルルルエエエエ! ないので申し訳あり、オェエエエ! その、ありんすちゃん様が、オェエエエ、近づいた途端に、オェエエエ! 吐くのがとまらなく、オェルルルエエエエ!」

 

 まるで噴水のように虹色の液体を吹き出すシルクハットをありんすちゃんはうらやましそうに見つめました。

 

「ありんちゅちゃもそりがほちいでありんちゅ、おえ~ちたいでありんちゅ」

 

 階層守護者の不興を買うかとビクビクしていたシルクハットは困ってしまいました。

 

「……この頭を、オェエエエ! ありんすちゃん様が、オェエエエ! お持ちになっても、オェエエエ! 意味はないかと、オェエエエ! 思いますが、オェエエエ!」

 

「ありんちゅちゃも、オエオエしるでありんちゅ! きれいな虹色、オエオエしるでありんちゅ!」

 

 シルクハットは丁寧にありんすちゃんに説明をしました。このままありんすちゃんにアルシェの首を渡しても腐らせてしまうだけです。せっかくアインズ様から賜ったのに無駄にする事は出来ません。

 

 シルクハットによるありんすちゃんの説得は三時間にもおよびました。

 

「……わかっちゃでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはしぶしぶとシルクハットから首をもらう事をあきらめると、何処かへ走り去っていきました。

 

「いいもーん! ありんちゅちゃの方がもっともっとしゅてきな頭、飾るでありんちゅもん!」

 

 うーん……嫌な予感しかしませんが……

 

 

 

※   ※   ※

 

 その後、アインズはユリ・アルファの頭を頭の上に結びつけて得意そうなありんすちゃんからユリ・アルファの首を返させるのに苦労したそうです。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ五歳児位の女の子なのですから。



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136ありんすちゃんとしゃっくり

「……ヒクッ……」

 

 ナザリック地下大墳墓の第九階層にある食堂でひときわ大きな音が響きわたりました。

 

「……ヒック!」

 

 食事中の一般メイド達が一斉に振り向いた視線の先にいたのはなんと! ありんすちゃんでした。

 

 ありんすちゃんは目を見開いて口を両手で押さえています。

 

「……ヒック! しゃっくり、とまらない……ヒック! でありんちゅ……ヒック!」

 

 どうやらありんすちゃんはしゃっくりが止まらなくなってしまったようですね。

 

 ありんすちゃんは昼食にペペロンチーノを食べていたのですが……口に入れようとする度にしゃっくりが出て、フォークに巻かれたペペロンチーノが弾みで飛んでいっちゃうのでした。

 

「……全く……このナザリックの次期支配者たる私、エクレア・エクレール・エイクレアーに先程からパスタを投げつけているのはいったいどなたですかな?……」

 

 エクレアが頭の上からパスタをたらしてありんすちゃんのもとにやってきました。

 

「……ありんちゅちゃ、ヒック! わざとじゃ、ヒック! ないで…………ヒャックション!」

 

 ありんすちゃんがくしゃみとしゃっくりを同時にした為に〈グレーターテレポーテーション〉が発動してエクレアは何処かへ転移してしまいました。

 

「……ヒャック……ヒック……」

 

 ありんすちゃんのしゃっくりは止まりそうにありません。

 

「おやおや? ありんすちゃん、17回目のしゃっくりっすね。知ってたっすか? しゃっくりって止まらずに百回続けてしたら死んじゃうっすよ?」

 

 唐突に姿を見せたルプスレギナの言葉にありんすの顔色が真っ青になります。

 

「……ヒクッ……なんちょかちないと……ヒクッ……ちんじゃうで……ヒクッ……ありんちゅ……」

 

 ありんすちゃんは食事を中断すると走り出していきました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「えー? しゃっくりを止める方法が知りたい?」

 

 突然のありんすちゃんの来訪にアウラがすっとんきょうな声を上げます。

 

「……うーん……いろんな方法があったと思うけど……どうしようかな?」

 

 腕を組んで考え込むアウラをありんすちゃんは期待のこもった眼差しで見つめます。

 

「わっ‼ ど、どうかな? あの、びっくりするとしゃっくりが止まりますよね」

 

 突然現れたマーレがありんすちゃんを驚かしました。でも……

 

「……………ヒック」

 

 残念ながらありんすちゃんのしゃっくりは止まりません。

 

「……そうだ! たしか茶釜様に教えてもらった方法があった!」

 

 アウラが手を叩きました。

 

「うんうん。これなら大丈夫だよ。こうして鼻をつまんで水を一気に沢山飲むんだよ。そうすれば一発で止まるはずだよ」

 

 ありんすちゃんは頑張って水を沢山飲み続けました。沢山飲んでお腹はチャポンチャポンです。

 

「……………………………ヒック」

 

 うーん……残念ながらありんすちゃんのしゃっくりは相当手強いみたいですよ。

 

「……ヒック……ヒック……ヒック……」

 

 大変です。しゃっくりが収まるどころかむしろひどくなってきたようです。

 

「……ヒック……ありんゅちゃ、ヒック……ちにたくないでありんゅちゃ……ヒック……うわわああん!」

 

 ありんすちゃんは泣きながら飛び出していってしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「……え? ありんすちゃんのしゃっくりが止まらないと……ありんすちゃんが死んでしまう、ですって?」

 

 ありんすちゃんが泣きながら訴えていますがアルベドは落ち着いていました。

 

 うーん……さすがは守護者統括ですね。アインズ様が留守中のナザリックを任せるだけの事はあります。

 

「……ありんすちゃん、一言だけよいかしら?」

 

 ありんすちゃんは真っ赤に腫らした目をこすりながらアルベドを見上げました。

 

「……アンデッドは死なないんじゃないかしら?」

 

「………………」

 

 ありんすちゃんはポカーンと口を開けたまま固まりました。

 

「……………」

 

「……………」

 

 しばらく二人は無言で向き合っていましたが……

 

 

「あ! しゃっくり、止まったでありんちゅ! ありんちゅちゃ、こりでちなないでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは踊りながら飛び出していきました。仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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〈最終話〉アリンス・ウール・ゴウンよえいえんに

 ──ナザリック地下大墳墓第十階層玉座の間──

 

 ナザリック地下大墳墓の栄光が具現化したかのような広大な大広間には埋め尽くさんばかりに、主だったシモベ達が集められていました。彼らの静かな熱気は徐々に高まっていき、やがて現れたアインズとありんすちゃんを迎える際にはシモベ達のボルテージは頂点に達しようとしていました。

 

 二つ並べられた玉座のそれぞれに荘厳な衣装を纏い、ギルドの象徴でもあるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手にしたアインズと、同じく荘厳な正装を身に纏ったありんすちゃんが座ります。アインズは軽く右手を振り合図をすると、途端にシモベ達が静まりかえりました。

 

 静寂の中、静かにアインズが立ちあがりました。玉座の横に並んだ各階層守護者はみな、真剣な眼差しを向けながら、アインズの言葉を待ちます。

 

「お集まりの我が同胞諸君、ナザリック地下大墳墓を拠点とする我らアインズ・ウール・ゴウンの名声は今や全世界の知る所となった。これもひとえに諸君らの絶え間なき努力の賜物である。まずはアインズ・ウール・ゴウン魔導国の代表として礼を述べたい」

 

 シモベ達の拍手が津波の様に大広間を揺るがします。アインズはゆっくりとシモベ達を見渡すと満足そうに頷き、静かに右手を挙げました。途端にシモベ達は静かになります。アインズはさらに言葉を続けました。

 

「さて、この輝かしい日に、私は一つの決断をした。私は後継者にこれからの魔導国を任せる事にした。ありんすちゃん、改め『アリンス・ウール・ゴウン』、前に」

 

 アインズの紹介を受けてありんすちゃんが立ちあがりました。そして、ドレスの裾をつまみ優雅に挨拶をしました。

 

「ここにいる者達は誰もが彼女を知っている事だろう。そして彼女がこの世界を我々の支配下にするにあたり、多大な貢献があった事も皆が知る所であろう。スレイン法国最高執行機関が無条件降伏を申し出てきたのはひとえに彼女の力によるものである。これ等の功績の大きさは、単に階層守護者に留まるべきでは無いであろう」

 

 アインズはゆっくりとスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをありんすちゃんに渡しました。

 

「これよりありんすちゃん改め『アリンス・ウール・ゴウン』に魔導王を譲位し、私はかつての名前、モモンガに戻り、彼女の後見をするものとする」

 

 大広間にシモベ達の熱狂的な歓声が響き渡りました。守護者統轄のアルベドが目を潤ませながらアインズ、いや、モモンガに抱きつきました。シモベ達の歓声はいつしか『アーリンスー! アーリンスー!』とありんすちゃんを讃えるものに変わっていきます。ありんすちゃんは左手のスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを高く掲げました。

 

「──アリンチュ・ウール・ゴウンに栄光あれんちゅ!」

 

 ……ちょっとだけ噛んでしまいました。

 

 各階層守護者達もありんすちゃんを祝福してくれます。

 

「……よく似合っているわ。モモンガ様の事は私に任せなさい。私もまた、いとおしい方をいとおしい名前で呼べて嬉しいわ」

 

「おめでとう。かつてのシャルティア復活から今日に至るまでが、全てアインズ様の計画だったとはね……さすがは至高の方々のまとめ役、私など及ぶべくもありませんね。……さて、アリンス、これからも共に協力していきたいものだね。よろしく頼む」

 

「……コノ小サナ体デ責任アル立場ニタツトハ凄イ事ダ……コノヨウナ日ニ立チ会エルトハ実ニ素晴シイ……」

 

「ありんすちゃん、おめでとう。あたしはそういうの、柄じゃないからねー。うん、うん。良かった、良かった。ペロロンチーノ様に見せてあげたかったね」

 

「あ、あの……おめでとうございます。ボ、僕もありんすちゃんが適任だと思います」

 

 シモベ達のアーリンスーコールはいつまでも続くのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「それにしても……流石はアインズ様、いえ、モモンガ様。シャルティア復活の際に幼児化したのも全てこの時の為だったとは……このデミウルゴス、まさに脱帽という他ございません」

 

「確かに幼児の姿だからこそ、スレイン法国も竜王国も、更には評議国までが簡単に傘下に入ったと言えるわね。流石はモモンガ様」

 

 ナザリック地下大墳墓を代表する智者、デミウルゴスとアルベドがモモンガの知謀を絶賛します。

 

「……しかし、ありんすちゃんのティアラにはどうして『め』と書かれているのかしら?」

 

 ありんすちゃん改めアリンス・ウール・ゴウンの額を飾るプラチナのティアラには確かに金の文字で『め』とありました。

 

「あれは、二次小説界最強のオリジナル主人公の証しなのさ。これもモモンガ様の深慮遠謀かと……」

 

 アルベドは小さな声で呟いてみました。『め・ありんす』『めありんすー』『めありーすー』

 

「あっ! メアリースー!」

 

 そうです。かつてスタートレックの二次小説で登場した伝説のオリジナル主人公キャラクター……その為にはシャルティアが『ありんすちゃん』にならなくては到達出来なかったのでした。

 

 まだやむ気配の無い『アリンスー』コールはいつしか『メアリースー』コールに変わっていきました。ありんすちゃんは頬を上気させていつまでもいつまでも手を振って応えるのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「──さま! ありんすちゃん様!」

 

 ありんすちゃんはヴァンパイア・プライドに揺さぶられて目が覚めました。あたりを見回すといつもの屍蝋玄室の自分のベッドです。

 

 ありんすちゃんは何だか凄く素敵な夢を見ていた様でしたが、目が覚めた途端に全て忘れてしまい、何も覚えていませんでした。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 



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Alince/stay night

 SEISAI──それはナザリックNPC全ての願望である

 七つのクラスに別れたサーヴァント達が互いに戦う話

 


 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈死蝋玄室〉─珍しくマーレがキョロキョロしながら入って来ました。

 

「マーレ様。ありんすちゃん様は留守にされていらっしゃいます」

 

 シモベのヴァンパイア・ブライドが答えます。

 

「え? そ、そうなの? あの……ぼ、僕、ありんすちゃんに呼ばれたんだけど……」

 

 うーん。たぶんありんすちゃん、忘れていますよね?

 

「……では、中でお待ちになりますか?」

 

 ヴァンパイア・ブライドに招き入れられてマーレは室内で待つ事にしました。

 

「……おや? 本……かな? えっと……ファテ スタイ ニフト……?」

 

 背表紙にはFate/stay nightと書かれてありました。マーレはラテン語の読み方をしたみたいですね。

 

「魔法書、みたいだね。えっと……告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 

 突然、天井を壊して赤いフルアーマーを着たありんすちゃんが落ちて来ました。

 

「──えええええー!」

 

 驚くマーレにありんすちゃんが訊ねました。

 

「ちょおう。マーレがありんちゅちゃのマシュターでありんちゅか?」

 

 マーレにはありんすちゃんが何を言っているかわかりませんでした。マーレがポカンとしているとありんすちゃんが怒り出しました。

 

「マーレはちゅかえないでありんちゅ。ダメダメでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはスポイトランスをブンブン振りながら宣言しました。

 

「これからナジャリックSEISAI争奪戦の始まりでありんちゅ」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナザリックSEISAI争奪戦とは──ナザリックNPC全ての願望であるSEISAI。それを叶えるという万能の器を巡り七体のサーヴァントが戦いを繰り広げるというもの──

 

 で、ありんすちゃんはスポイトランスを持っているのでランサーのサーヴァントなんですって。今までありんすちゃんは他のメンバーとクラスの割り振りをしていたそうです。

 

 ちなみに他のサーヴァントはライダーにアウラ、セイバーにコキュートス、キャスターにナーベラル、アサシンにソリュシャン、アーチャーにシズ、最後のバーサーカーにアルベドですって。

 

 ありんすちゃんの説明を聞いてマーレがモジモジしだしました。

 

「……あ、あの……ぼ、僕も参加したいな」

 

 ありんすちゃんはナーベラルの代わりにマーレをキャスターとして参加させる事にしました。

 

 そしてありんすちゃんはマーレと一緒にコキュートスを討つ事にしました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんとマーレは第五階層にやって来ました。

 

「コキュトシュ! 観念しるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんがスポイトランスを構えて走り出します。と、途端に雪の中に作られた落とし穴に落ちて動けなくなります。

 

「フフフフフ。アリンスチャンヨ。ソンナ事デハ私ヲ倒ス事ハ出来ナイナ」

 

 ありんすちゃんをコキュートスが見下ろしました。

 

 ありんすちゃんは全く身動き出来ません。危うし!

 

「……こ、コキュートスさん、しょ、勝負です!」

 

 マーレが杖を構えます。

 

「……フム。マーレカ。相手ニトッテ不足ハナイ。イクゾ!」

 

 マーレがいきなり超位魔法を放ちます。コキュートスは四本の腕に得物を装備して迎え撃ちます。激しい戦いの末──マーレ、コキュートス、相討ちとなり脱落──残りは五名になりました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第六階層──

 

「卑怯だ。二対一では?」

 

「あたしはライダーだからねー。別にシモベに乗らなければならないって決まりはないよ?」

 

「そうっすよ。シズちゃんには悪いっすけど、勝たせてもらうっす」

 

 巨大な狼に騎乗したアウラがシズを追い詰めます。

 

「やーらーれーたー!」

 

 シズが脱落して残りは四名になりました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第十階層──

 

 優勝候補のアルベドは余裕綽々です。そこに先程シズを下したアウラが狼──ルプスレギナに跨がって襲いかかりました。

 

 アルベドはすぐさま宝具──ギンヌンガガプを発動させ、アウラ達の動きを止めます。さらに返す刀で忍び寄ってきていたソリュシャンも返り討ちにしました。

 

「SEISAI──アインズ様の正妻の座はわたくしのもの──」

 

 アウラとソリュシャンが脱落して残りは二名になりました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「ふふふふふ……このSEISAI戦争は俺が勝たせて貰うぞ。悪いな、アルベド!」

 

 突然現れた金色のアーチャーによってアルベドが倒されました。なんと前回のSEISAI争奪戦に参加していたペロロンチーノでした。

 

 ペロロンチーノは宝具──ゲート・オブ・エロゲーを展開します。これはあらゆるメーカー、ブランドのエロゲーが収蔵されている恐るべき宝具です。

 

「さあ、もう準備が出来た。聖杯よ! その姿を現せ!」

 

 ペロロンチーノの呼び掛けに答えるように、ナザリック地下大墳墓 第十階層の玉座の間に巨大な聖杯が出現しました。その聖杯の中には黒いドロドロしたものが溢れだそうとしていました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第五階層──

 

 その頃、ようやくありんすちゃんは落とし穴からはい上がる事が出来ました。

 

「コキュトシュ、勝負でありんちゅ! ……………コキュトシュ?」

 

 なんと既にコキュートスとマーレは脱落した後でした。

 

 そう、残っているサーヴァントはありんすちゃんとペロロンチーノの二人だけになっていたのです。

 

 ありんすちゃんは玉座の間でペロロンチーノに相対します。

 

「ペロロンチーノちゃま……」

 

「……お、シャルティアか? うーん……俺、ロリコンだけど幼女趣味は無いんだわ。パス」

 

 そんなペロロンチーノに天罰が下ります。

 

「くおら! 弟! エロゲーを積むほど買ってくるなって言ってんだろ!」

 

 ペロロンチーノは突然現れたピンク色のなにかに拐われてしまいました。

 

「ありんちゅちゃが正妻でありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは聖杯に手を伸ばしました。すると聖杯がひっくり返り、中身の黒いものが溢れました。

 

「……あれ? 寝てたのかな? 仕事で疲れていたからかな」

 

 黒いものは背伸びをしました。なんと聖杯の中身はヘロヘロでした。

 

「ありんちゅちゃが優勝でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは空っぽになった聖杯を持って嬉しそうです。うーん……たぶん優勝カップだと思っていますよ? きっと。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

 

※ありんすちゃんの絵に文字を加えました

【挿絵表示】

 

 

 ───巨乳はパッドで出来ている。

 

 血潮は好物で、頭は空っぽ。

 幾たびの任務を重ねて失敗。

 ただの一度も成功はなく、

ただのシモベにも尊敬されない。

 彼の者は目が据わり バーのカウンターで泪酒に酔う。

 

 後に、しょうがなく椅子にされ。

 その胸はパッド三枚で出来ていた。

 

 

 Alince/stay night



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おまけ編 もしもありんすちゃんが至高の四十二人目だったら……

 ナザリック地下大墳墓 第十階層玉座の間──玉座にはありんすちゃんがちょこんと座っていました。

 

「モモンガしゃま、ペロロンチーノしゃま、ぶくぶく茶釜しゃま、えっと……えっと……たっちゃんしゃま……しーとべるとしゃま、……えっと……ままいかしゃま、えっと……えっと……いっぱい」

 

 壁にかけられた四十一の旗を指差しながら一人一人の名前を上げていましたが、全員の名前は言えないようでした。

 

 しかし、何故ありんすちゃんが玉座に座っているのでしょう?

 

 ユグドラシル最終日、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターのモモンガがさっきまでいたのですが、ちょっとの間ログアウトする事になり、代わりにありんすちゃんが留守番をする事になったのでした。

 

 ありんすちゃんは玉座に座り、足をブラブラさせながらキョロキョロします。隣には守護者統括のNPC、アルベドが立っていました。

 

 ありんすちゃんは手を伸ばすとアルベドの角を触ってみました。

 

「……ちくちくしるでありんちゅ」

 

 次にアルベドの設定を開きました。文字が多すぎて目がチカチカしてきたのでありんすちゃんは目をこすりました。

 

「──えくちゅ!」

 

 大変です。ありんすちゃんはくしゃみをした拍子についうっかりアルベドの設定を全て消去してしまいました。

 

 ありんすちゃんはコンソールを叩いてみましたが何の反応もありません。次に鼻の穴を髪の先でくすぐってまたもやくしゃみをしてみますが勿論元には戻りません。

 

 ありんすちゃんは仕方ないので新しくアルベドの設定を書き直す事にしました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「お待たせしましたありんすちゃん。用件を済ませて戻りました。ん? ……どうかしましたか?」

 

 ありんすちゃんは慌てて玉座から飛び降りるとモモンガを迎えました。

 

「な、なんでもないでありんちゅ。アルベドが、しぇってぃ変わってないでありんちゅよ」

 

 明らかに動揺した様子のありんすちゃんでしたが、いつもの事だった為、モモンガは気にしませんでした。

 

 ユグドラシル終了まであとわずか……モモンガは玉座に座り目を閉じます。隣にはありんすちゃんが坐り込み、コックリコックリと居眠りしていました。

 

 

 ……23:59:57、58、59……

 

 やがてブラックアウトし──

 

 ……0:00:00……1、2、3

 

 モモンガは目を開けました。

 

「……サーバーダウンが延期した?」

 

 隣を見るとありんすちゃんが寝転がってスヤスヤ眠っています。

 

「……モモンガちゃま、どうちまちたでありんちゅ?」

 

 モモンガが初めて聞く声に振り返ると、そこには幼女のような表情をしたアルベドが見つめているのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 モモンガが戻る少し前──

 

「……えーと……好きなものは、モンブランっと……ちょれからお風呂大好き……お風呂はアワアワのやちゅでありんちゅ。……でありんちゆ、っと。やっと出来たでありんちゅ」

 

 アルベドの設定を書き直す時にありんすちゃんは自分自身の好物や好きな遊び等を書き込んだ為、アルベドがありんすちゃん化してしまったという訳です。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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おばろど せいおこくのせいき した

やるだば がわつはつはははとわらいます。

 

れめでお が けんでたたきます。

 

あたしのこげき やつけてやる。

 

れでめおす こうげき やるだばとにはききません。

 

めれでおす はひさつこうげき しまるす。

 

ねいあ さけびまくす。

 

れでめおす だんちよしんじやいました。

 

うわはは と やるだばとわらいました。

 

おねえちや しんじやた あの おもいます。

 

けらと なきまくす。

 

かるかさま あの にげてくたさい。

 

わかつたわ わたくしにげるわ。

 

あいんずさま

 

そこまでだ やるだば わたしがあいて。

 

やるだばと は かるかもてたたきます。

 

かすぼん せいおじよ たすけろ。

 

ねいや さけひまくす。

 

あいんずさま がんばれ。

 

やるだばと くらえ かるかぼ だ。

 

あいんずさま ぴんち。

 

かるかぼ が ばちんばちんあいんずさまたたきまくす。

 

あいんずさま  のぴんちに あかいしやるてあ ぐれたてれぽしてきました。

 

しやるてあ はばさりと かるかぼをきります。

 

きんきんきんきん

 

なかなかやりますね。

 

しやるてあ はあいんずさまをたすけます。

 

ばみりおのば でやるだばやつけます。

 

あいんずさま はしやるてあにだきつき おれいにきすします。

 

よくも やるだばと をたおしたな。わたしはおととの やるばでおと だ。わたしはおととよりつおいぞ。

 

きんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきん。

 

しやるてあ は やるばでおと とはげしたたかいしるす。

 

きんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきん。

 

はげしたたかい よるまでつづく。

 

きんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきん。

 

しやるてあ は やるばでおと をたおしました。

 

ねいや さけひまくす。たいへんです またきました。

 

わははははわ わたしは やるばでおと のぎりのおととの やばるでおと だ。こんどはわたしがあいてだ。

 

きんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきん。

 

しやるてあ は やばるでおと とはげしたたかいしまるす。

 

きんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんたまにちん。

 

しよぶはなかなかつきません。

 

きんきんきんきんたまきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきん。

 

しやるてあ はあはあ。

 

きんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんたまきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきんきん。

 

やばるでおと はたおれました。

 

ねいや さけひまくす。なんかきました。

 

わたしは やるばでおと のとなりにすむ やでるば だ。わたしがあいてだ。

 

しやるてあ はたたかいます。

 

やでるば をたおした しやるてあ に あいんずさまが ちゆちゆしました。

 

あいんずさま いいました。けこんしてください。

 

しやるてあ は あいんずさまとけこんしました。

 

ねいや さけひまくす。おめでたございます。

 

かるか はくやしそうです。

 

れでめおす は あたしはおいわいするよ。

 

けらと は ぼくもおもいます。

 

しやるてあ はしあわせなりました。

 

めでたし めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 お久しぶりです。

 

 私は作者の善太夫です。

 

 ずいぶん太ってしまいました。

 

 私からはイミーナさんの白目を剥いている顔が間近に見えます。

 

 今回はありんすちゃんの文章に空白や句点、改行をしました。

 

 とても大変でした。

 

 え? 『112ありんすちゃんとおわらないふゆ』でありんすちゃん曰く「…………きっとネイアはちんじゃうでありんちゅ。ドッペルはきっとお兄ちゃんでありんちゅ。アインジュちゃまがピンチでチャルチェがたしゅけるでありんちゅ。……そうでありんちゅ!」だったじゃないか? ですって?

 

 うーん。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 では、皆さん生きていたらまたお会いしましょう。

 

 作者の善太夫でした。



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はたらかない細胞

 私たち人間の身体の中ではたくさんの細胞たちが毎日、二十四時間休まず働いています。

 

 ところでアンデッドの身体の中ではどうでしょう?

 

 人間と同じく赤血球がいました。うーん……なんだか様子が違うみたいですね。

 

「……あー働きたくね……つか、俺、必要ないんじゃね?」

 

 赤血球たちは皆座り込んだり寝転んだりしてしまっています。

 

「だってよ、アンデッドってそもそも生きていないじゃん。生きていないのに酸素必要か?」

 

「確かにそうですね。すると先輩、私はどうしたら良いですか?」

 

 赤血球の女の子は困った様子で尋ねました。どうやら彼女は新人みたいです。

 

「……ん? いや、俺たちがいるのはアンデッドの身体の中なんだ。新人、お前はアンデッドって知ってるか?」

 

「……アンデットですか?」

 

「──ちがーう! アンデッ“ド”だ!! あぶないあぶない……奴らに聞かれたりしたら面倒な事に……」

 

 新人の赤血球は訳がわからないようです。

 

「……あのう先輩。アンデッドとアンデットって何が違うんですか?」

 

 先輩の赤血球は新人の口を慌ててふさぐとかがんで周囲をうかがいます。

 

「……どうやら奴らには聞かれていないみたいだ。正確には『読まれて』いなかったようだ。いいか? 絶対にアンデッドの『ド』に濁点をつけ忘れてはならない。それがここのルールだ」

 

「わかりました先輩。絶対にアンデットとは言いません──あ!」

 

 赤血球の二人はしゃがみこんで息を殺します。

 

「……大丈夫なようだな。そういえば今は平日の午前中か……5ちゃんねるも人が少ないから助かったな」

 

「……そんなに恐ろしい場所なんですか? その『ゴッチャンデス』というのは?」

 

「ああ。恐ろしい。何でも我々の世界の多くがエターナルという魔法で消滅してきたらしい。ある日なんの前触れもなく、な……」

 

 新人はブルリと身を震わせました。

 

「……そ、それにしても先輩はよくいろんな事をご存知ですね。ここではもう長いんですか? 私は昨日ようやく一人前に──」

 

「いや、一週間だ。お前もすぐにわかるさ。何しろアンデッドは死体と同じなんだから。俺たち赤血球が酸素や二酸化炭素を運ぶ必要がない……と。……新人?」

 

 先輩赤血球の話の最中に新人赤血球は好中球の姿を見かけて走っていってしまいました。

 

「はっけっきゅーさーん! 何しているんですか?」

 

 白血球。好中球のひとつで体内に入ってきた細菌を撃退します。

 

「……赤血球か。今はする事がなくてな。コイツと酒を飲んでいるんだ」

 

 白血球の隣には銀灰色の細菌がいました。

 

 ケカビ──ムコール属の細菌でタンパク質を分解します。動物の死体に付く事も多くデンプン糖化力が強いものはアルコール製造に使われることもあります。

 

「……ケカビです。宜しくお願いします」

 

「あ、はい。私は赤血球です。宜しくお願いします」

 

 ぎこちなく挨拶をかわす二人です。と、突然激しく地面が揺れました。

 

「……これは……ヤバイな。あいつらが来る……」

 

 先輩赤血球が真っ青になります。とはいえ赤血球はヘモグロビンで赤いのですが。

 

「せ、先輩。まさか『ゴッチャンデス』が来るんですか?」

 

 新人赤血球の声はたちまちかき消されてしまいました。

 

 激しい物音と共に空から降ってきたのは大量の──大量の血液──赤血球たちでした。

 

「あわわわ……赤血球が一杯……くるし……」

 

 吸血──アンデッドの中でも吸血鬼が行う外部からのエネルギー摂取行為です。

 

 たくさんの赤血球たちは叫びました。

 

「……ここが我々の新天地か。さて、頑張って働くぞ!」

 

 大量に吸血された赤血球たちはどれも新鮮な酸素を持っていました。

 

「先輩。彼らは酸素をどこに届けたら良いでしょう?」

 

 先輩赤血球はしばらく考え込んでから言いました。

 

「この身体の持主は少しばかり脳が栄養不足みたいだから酸素を届けたら少しはまともになるかもしれない。………………だが、あそこには……」

 

「ありがとうございます先輩。脳ですね。……では皆さん私が案内しますから酸素を運びましょう! 脳へ!」

 

 新人赤血球は大勢の赤血球と共に出かけていってしまいました。

 

「…………あそこにはやっかいな存在がいるんだが……」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 脳にやって来た赤血球を待ち構えていたのは──

 

 『ありんす菌』──特定のヴァンパイアにだけ存在する固有の細菌でお風呂と昼寝とお菓子が大好きです。

 

 数えきれない数のありんす菌が赤血球達を囲みます。

 

「ありんちゅちゃはかくれんぼしるでありんちゅ」

 

「モンブラン食べたいでありんちゅね」

 

「ありんちゅちゃと鬼ゴッコしるでありんちゅ」

 

「お風呂入るでありんちゅ」

 

 

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。



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特別編 亡国の吸血娘(五さい)【前編】

 ありんすちゃんが地上のログハウスにやって来ると、そこでは戦闘メイド(プレアデス)のユリとシズが何やら悩んでいました。

 

「どうちたでありんちゅ? わらわ──わたちが解決しるでありんちゅよ。めいたんて、ありんちゅちゃがまあるくかいけちゅしるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは胸をはりました。

 

「ああ、ありんすちゃん様。実はナザリック宛にこんなものが……」

 

 ユリはありんすちゃんに小さな小包を見せました。大きさは丁度A5サイズ位でドッシリした重さがあります。

 

「……爆発物ではない。なんらかの魔法の痕跡もない。だから大丈夫……たぶん」

 

 ありんすちゃんは小包を振ってみましたが何の音もしませんでした。どうやらお菓子ではないみたいです。

 

 ちなみにありんすちゃんの頭を振るとカラカラと音が……ゲフンゲフン。な、なんでもありません。

 

 改めてありんすちゃんは宛名を調べてみました。すると表に『ナザリック地下大墳墓 鈴木悟 様』という宛名書きがありました。

 

「……えっと、えっと……」

 

 そういえばありんすちゃんは漢字が読めないのでしたね。

 

「……鈴木悟、ですよ。そんな名前、ナザリックにはいないかと……」

 

「……肯定。ナザリックにスズキサトルというデータは無い。ちなみにスズキゴでもリンボクゴでも登録は無い」

 

「……ふ