マクロスΔ 〜もう一人の白騎士〜 (宙の君へ)
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第1部
Mission01 登場 ランスロット


アニメを見て書きたいと思いました!

かなりご都合主義になるかと思いますがよろしくお願いします!色々訳が分からなくなってしまいました笑


チュンチュンーーー

 

「ふぅ〜。・・・・ったく時間はいくらあっても足りないな。録り溜めしとくものじゃない。つっかれた〜」

 

凝った肩をほぐし、ん〜、と唸りながら訛った体を伸ばす。時刻は午前七時。どうりで鳥の囀りが聞こえるわけだ。

 

「え〜っと、さっきのが二十話だったから・・・・げっ!あと五話も残ってる・・・・」

 

テレビのリモコンを持ちながらガックシ首を下に向ける。今、少年が観ているのは絶賛放送中のテレビアニメ『マクロスΔ』というアニメだった。産まれてこの方、アニメなんてものには微塵の興味を示さなかったが、今彼はこの『マクロスΔ』というアニメに没頭中であった。

 

「アニメ、か・・・・」

 

少年、榎本花蓮(えのもとかれん)はベッドに身体を預け、思い馳せていた。自室の部屋にはトロフィーや賞状などが、所狭しと飾られている。彼が習っているのは剣道や日本拳法。初めは護身用として習い始めたが、いつの間にかここまでのめり込んでしまった。剣道では一昨年にはIH(インターハイ)で優勝してしまう程までになり、高校二年生ながらにして、名門大学からのオファーが後を絶えない。そのためか、毎日がつまらなく感じてしまう。

 

「僕も、あの世界に行ったら楽しめるのかな・・・・。いや、やめだやめだ。そんな事ありえないし」

 

机の上に飾ってあるあるフィギュアに目がいく。それは幼少期、剣道や日本拳法の習い事で遊ぶ暇がなかった、唯一の娯楽として、小さい頃、亡き母に買ってもらった、『ランスロット』という、とあるアニメのロボット、KMF(ナイトメアフレーム)だった。

 

「今思えば、これが母さんの唯一の形見みたいになったんだね」

 

一人ぽつりと呟く。そっと『ランスロット』を手に取り、感慨に耽っていた。そのまま、ベッドに身体を沈める。

 

「もし、僕も『マクロスΔ』の世界に行けたら・・・・なーんて」

 

柄でもない事を言った自分を自嘲する。我ながら、ここまでアニメに心を動かされるとは思ってもいなかった。

 

「でももし、ほんとに行けるなら・・・・・行ってみたいな・・・・・」

 

ぶっ通しでアニメを見続けたせいか、眠気が襲ってくる。別に明日も休日なので拒む必要もなく、そのまま意識を手放しかけたその瞬間ーーー

 

「ーーーけてーーー」

「っ!」

 

常人では有り得ないスピードで起き上がる。

 

「誰!」

「ーたーーけてーー」

「まただ・・・誰かいるの?」

 

部屋をくまなく見渡すが何も見当たらない。

 

「ーーたすけてーー」

「え・・・?」

 

今度ははっきり聞こえる。より鮮明に。

 

「ー助けて、カレンーー」

「助けてって、一体何を・・・・」

 

次の瞬間、頭に激痛が走る。まるで何かに殴られるような、鋭利な物に刺されるような鈍重のような、鋭いような痛みに苛まれる。

 

「なん・・・だ、これ・・・・!」

 

視界が歪む。平衡感覚を保てなくなり、倒れる。あまりの激痛に意識を保つこともままならない。

 

(だ、だめだ・・・。意識が・・・・)

 

身体の感覚が、五感の全てが抜き取られるかのような感覚を味わう。身体が冷えていき、まるで全てが奈落の底へ落ちていくように感じた。

 

ーーーーーーーー

 

頬に無機質の特有の冷たさを感じる。

 

「んっ・・・・・」

 

だんだん意識が覚醒していく。あれから何時間経ったのか。ポッケに入れておいたケータイを取り出そうとするが、入っていない。

 

「これじゃ、時間がわからないな。そんなことより、ここはーーー」

 

辺りを見渡すが、明らかに自分の部屋では無い。地面は正方形のパネルが、遥か遠くまで続いている。一寸先は闇。自分がいる場所から、半径1m位までは明るいが、その先は徐々に漆黒に染まっていた。そんなことを考えていると、何処からともなく声が発せられた。

 

『いやー、手荒な真似してすまんなー』

「誰、ですか」

『そんな警戒しないでくんな。怪しいもんではないさね』

「姿を見せない時点で、十分怪しいと思いますけど・・・・」

 

声の主は姿を見せることなく、音声だけだった。

 

『はっは〜ん。やっぱり、いつも見てるけどいい男やね〜』

「い、いつも・・・?」

『そうだよ、余はエラい人だからの。まぁ、主らが崇める神というやつさね。主ら人間を観察するのも余の大切な仕事なの』

「は、はぁ。そ、そんなことより、僕はなんでこんなところに?」

『主、今の生活に満足かね?』

「え・・・・?」

『主、言っとったよ。つまんないって』

「まぁ・・・・」

『そこでね。主が楽しめる世界に余が連れてってやろうと思ったの。ほら、主かっこいいし?ええ男やからの!』

 

どうやら、この神とやらはかっこいいという理由だけで、花蓮を呼んだらしい。

 

「そのために僕をここに?」

『そうさね!ここに連れて来るには生身の身体は無理やからの。魂を抜き取ったんよ』

「じゃあ、あの時聞こえた声はーーー」

『あー、それ余の声さね。年頃の男は可愛い声が好きなのやろ?』

 

この神とやらは性別はともかく、あの声はこの神のものだということは分かった。

 

「そこで、楽しい世界って?」

『あ、そうさね。『マクロスΔ』って世界に連れてってあげる』

「なんか怪しい」

『な、何を言うさね!余は神よ!?』

「ほんとですか?」

『ぬぬ・・・!な、ならばその手に持っている人形を何かに変えてみせるけんね!』

 

すると、手に持っていた『ランスロット』が光を帯び、次第にその形を変えていく。

 

「これって、『ランスロット』の起動キーじゃ」

 

手に握られていたのは、USBメモリサイズの鍵のようなものだった。だが、花蓮はこれが何かをよく知っている。アニメで見たKMF『ランスロット』を起動させるためのキーだと。

 

『ほれ、どうさね』

「ほんとみたいですね」

『んじゃ、行ってみようかね』

「え、ちょ」

『ほーれっ!』

 

突如現れたドアが勝手に開き、その中に放り込まれる。眩しい光が花蓮を包み込んだーーー

 

ーーーーーーーー

 

「う・・・・」

 

放り込まれたのだ。普通は何かにぶつかるものなのだが、一向に痛みが来ない。

 

「あ、あれ・・・・?」

 

そっと目を開けると、そこにはテレビで見た『マクロスΔ』の世界が広がっていた。

 

「ほ、ほんとに来たのか・・・・?」

 

立ち尽くしながら、辺りを見渡す。

 

「ここって、惑星アル・シャハルだよね・・・・」

 

どうやら本当に来てしまったらしい。

 

「さーて、これからかどうしたものかね〜・・・」

 

手に握られた黄色のキーを、クルクル回しながら考えていると遠くがなにやら騒がしい。

 

「なんだろ」

 

現場に行こうとしようとしたが、誰かに止められてしまった。

 

「やめときな、兄ちゃん」

「あの、一体何が」

「密航者が見つかったんだよ」

「密航者?」

 

だんだん騒ぎが大きくなる。すると人混みの中から、女の子とは思えない速さで走ってくる人とそれを追う軍の人達がこちらに向かってくる。

 

「あの、密航者って誰・・・・あれ?」

 

先ほどまでいたおじさんがいなくなっていた。どうやら、厄介ごとに巻き込まれないために逃げたらしい。

 

「道を聞きたかったんだけど・・・・」

「ね、ねぇ!そこの君!!」

「え?」

 

振り向くと、先ほどこちらに向かって走っていた女の子だった。

 

「か、匿ってくれんかね!?あたし、あの人達に追われとるんよ!」

「え、あ、いや、僕は・・・・」

「頼んだよ!」

 

そう言って少女は後ろの、木の上へと消えていった。

 

「そこのお前!」

「は、はい!」

「ここで女の子を見かけなかったか?確かこっちに走って行った気がしたんだが」

 

軍の者であろう人達が四、五人こちらに向かってきた。

 

「それなら、先ほどあちらに行きましたけど」

「そうか、協力感謝する!行くぞ!」

「「「「はっ!」」」」

 

遠くなるその背中が、消えるのを見届け、声をかける。

 

「もう大丈夫だよ」

 

木の上から、先ほどの少女が降りてくる。

 

「た、助かった・・・」

「もしかして、君が密航者?」

「な、なんでそれを!」

「あ、ほんとなんだ。捕まえたりしないから安心してよ」

「そ、そうかね?」

(変わった子だな、なんで頭にハートが付いてるんだ?でも、どこかでみたような・・・・)

「あ、あたし、フレイア!フレイア・ヴィオン!」

 

いきなり自己紹介されてしまった。だが、名前を言われたのならこちらも教えるのが常識だろう。

 

「僕はエノモト・カレン」

「エ、エノ・・・・?」

「カレンでいいよ。フレイアさん」

「そうかね?じゃあ、よろしく!カレン!」

「うん、よろしく」

 

それからフレイヤは《ワルキューレ》というグループのオーディションがこの惑星で行われると聞いて、わざわざ密航してまで来たらしい。

 

「ーーーそれでフレイヤさんは、その《ワルキューレ》だっけ?そのグループのオーディションを受けるために密航したと」

「うん、あたし、絶対《ワルキューレ》に入りたいんよ!」

「そっか、入れるといいね」

 

花蓮はというと、正直何もすることがないのでフレイヤと一緒に都市を目指していた。

 

(お金ないし、食べ物とかどうしよう・・・・)

 

そんな事を考えていると、前方で爆発音が鳴り響く。

 

「うわ!なんね!?」

「一体何が!」

 

走り戸惑う市民がこちらに向かってくる。

 

「ヴァールだ!ヴァールが出たぞぉ!!」

 

「ヴァールって、確か・・・・。そんなことより、フレイヤさん!逃げるよ!」

「え、あ、うん!」

 

「《ワルキューレ》はまだかよ!」

「だめ!電波が届かない!」

「ママ〜!怖いよー!」

「大丈夫、大丈夫よ!」

 

突如、出現したヴァールが街を破壊していく。市民も巻き込まれていく。人の肉が焼かれた臭いが立ち込める。

 

「ど、どうしよう・・・。どうしたらいいん!?カレン!」

「・・・・・ッ」

(助けなきゃ、僕が!でも、どうやって・・・・ ッ!)

 

首にかけていた、黄色のキーが輝く。

 

「そうだ、これで!」

 

ヴァールが操る戦闘機がこちらに気付き、こちらに特攻してくる。

 

「あわわわ!こっちに向かってきよる!」

(頼む!来てくれ!)

「『ランスロット』!」

 

特攻してきた戦闘機を、謎の機体が止めていた。

 

「ほんとに・・・・」

 

背中のハッチが開き、コックピットの座席が出てくる。まるで、乗れ、と言っているかのように。

 

「やるしかない!」

 

意を決し、コックピットから降りてきた、ワイヤーに捕まる。

 

「フレイアさん!」

「ふぇ!?」

「来て!早く!」

「ほ、ほいな!」

 

ワイヤーが引き上げられ、座席に花蓮が座り、隣にフレイヤが屈む。すると、座席は前に移動し、ハッチが閉まる。前方のディスプレイの下に、起動キーを差し込む。

 

(アニメと同じ事を言えば)

「初期起動、フェイズ20から始める」

『了解しました。エナジーフィラーの装着、フルスタートを確認。エナジーフィラーの出力低下』

 

機会音声がコックピット内に響く。それにビクッとフレイヤは驚くが、今は気にしている場合ではない。

 

『電圧臨界、到達まで三十秒。コアルミナス相転移開始。デヴァイサー、セットアップ』

「了解、エントリーを確認。個体識別情報登録完了。マンマシンインターフェースの確立を確認」

 

音声認識で初期起動を済ませていく。

 

『ユグドラシル共鳴確認。拒絶反応微弱。デヴァイサーストレス、反応微弱。全て許容範囲です』

 

両手で止めていた戦闘機を投げる。建物に激突し、ランスロットは前回姿勢を起こす。

 

『システム・オールグリーン』

 

操縦桿の上に付いている丸いボタンを二回押す。ランスロットの両脚の横についているランドスピナーが地面に降りる。

両脚を広げ、左手を前に出し、前屈みになる。

 

(こんな感じかな)

「カ、カレン。ど、どうするん?」

「口をしっかり閉じてて、フレイアさん。舌噛まないように」

 

その忠告を受け、フレイアはガッチリ口を閉める。その表情を見て、少しだけ頬が緩む。が、フレイアはなぜか話しかけてきた。

 

「カレンって、髪も目も真っ赤やね」

「似合うかな」

「うん!」

「ありがと。それじゃ、行くよ」

「行こう!行こう!あわわ、口閉じないと」

「ランスロット M.E.ブースト」

『発進』

 

ランドスピナーが高速回転し、地面を走るのではなく、滑るように高速移動する。金と白を基調とした騎士(ナイト)は焼け野原と化した戦場を駆け抜ける。




花蓮の髪型はあるゲームのハ〇ヲの感じです!


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Mission02 突然 ハプニング

誰をヒロインにするか迷っています

今回はフレイアが初恋を経験する話です!


「ランスロット・・・・M.E.ブースト」

『発進』

 

操縦桿を思い切り前へ出すと同時に、ランスロットのランドスピナーが高速回転し、前進。大地を滑る様に移動する。

 

「基本武装はちゃんとあるかな」

 

手元のキーボードを叩き、ディスプレイにはランスロットの機体が映し出される。各所に負ったダメージ、破損した部位などを教えるものだ。その横に武装の名前が映し出される。

 

「強化型スラッシュハーケン、ブレイズルミナス、ファクトスフィア、V.A.R.I.S(ヴァリス)MVS(メーザーバイブレーションソード)か。ランスロットの基本武装はちゃんと揃ってる」

 

よし、と頷く。すると今まで黙っていたフレイアが口を開く。

 

「す、すごい・・・・。使い方わかるん?」

「一応ね」

(まずはファクトスフィアで周りの情報収集からだ)

 

キーボードを叩き、ランスロットのファクトスフィアを起動させる。胸部に内蔵された情報収集センサーが出現。本機のファクトスフィアの精度は極めて高く、走行しながらも落下してくる瓦礫を全て把握するだけでなく、リニアキャノンによって加速した榴弾を全て捉え、データを反映することでそれらを回避・突破することが出来る。もちろん操縦者の技量も必要になってくるが、ランスロットの化け物的運動性を支えているのは、ひとえにこのファクトスフィアのおかげと言っても過言ではないのだ。

 

(前方に二機、後方に二機の計四機か)

 

ディスプレイに映し出されたのは、自分を示す青い三角形の前には、敵を示す赤い丸が二つ。後ろにも同じものが二つがある。すると、前方の二機が先に気づいたみたいで、こちらに機首にある銃口を向けてくる。

 

「フレイアさん、しっかり捕まってて!」

「ほいな!」

 

更に速度を上げ、前方の戦闘機に向かう。ランスロット目掛け、銃弾の雨が襲い来る。が、それらをファクトスフィアで把握、華麗な操縦で滑るようにかわしていく。地面を、プロのスケート選手がスケートリンクを滑るが如くなんなくかわしていく。二機の戦闘機にあと1mもない距離まで来ると、ランスロットの両腕を持ち上げ、操縦桿に付いている丸いボタンを押す。すると両腕の甲部に設置されている、強化型スラッシュハーケンが二基、勢いよく射出される。それらが、戦闘機の一機に突き刺さる。

 

「よし!」

 

射出したスラッシュハーケンを巻き戻す。その勢いも相まって、更にランスロットは加速する。

 

「あわわわ!」

 

フレイアはしっかり、座席に捕まり慌てている。前には崩れた瓦礫がちょうどジャンプ台になっているのが見え、不敵に笑う。瓦礫のジャンプ台とランドスピナーを利用し、跳躍。スラッシュハーケンを巻き戻しているため、自然と機体がスラッシュハーケンの刺さっている戦闘機に接近していく。あと少しというとこでハーケンの先端部が外れ、両腕の甲部に格納される。だが、心配いらない。もう少しで接触できる距離まで肉薄していたから。ランスロットの身体を一回転させ、接近した戦闘機に強烈な回転蹴りを見舞う。威力は絶大、隣にいたもう一機の戦闘機のエンジン部に見事、蹴った戦闘機の機首が刺さり空中で大爆発が起こる。

 

「きゃぁ!」

「戦える!このランスロットなら!」

 

空中で体勢を立て直し、近くの建物に向かって左腕のハーケンを射出。壁に突き刺さり、巻き戻す。建物の壁に両脚を付き、左腕のハーケンの巻き戻しを止め、その姿勢を維持し、残りの二機を見据える。

 

「残りはあれか」

「・・・・・」

 

フレイアは、前方の二機を見据えるカレンの横顔を見つめていた。

腰にマウントされていた銃、V.A.R.I.Sを取り出す。右の戦闘機に照準を定め、ノーマルモードのV.A.R.I.Sのトリガーを引く。三つの緑色の弾丸は、左翼、右翼を貫き、最後にど真ん中を貫通し、爆散する。残りの戦闘機が銃を乱射するが、それを右腕部に搭載されたサクラダイトから発生するエネルギー場で攻撃を防ぐ盾、ブレイズルミナスで防ぐ。外見はただの緑色のビームシールドだが、エネルギー場の強大な反発力を持って相手の攻撃を『捻じ曲げる』ことで攻撃を防ぐのだ。ランスロットに銃弾は全く当たらず、あらぬ方向へと飛んでいく。右手に持ったV.A.R.I.Sをバーストモードに変形。銃口が上下に分かれ、その中から更に金色の銃身が出てくる。

 

「これで、終わりだ」

 

銃口にエネルギーが収束していき、トリガーを引く。ドウンッと、音と共に緑色の光芒は戦闘機に接近していき、その機体のコックピットを狙い撃ちした。爆発はしないが、操縦部を失った戦闘機は、地上へ墜落した。

 

「ふう」

「・・・・・終わったん?」

「うん、ごめんね。怖かったよね」

 

恐る恐る聞いてきたフレイアを安心させるため、優しく問いかける。

 

「ううん。あんがと、守ってくれて。カレンが守ってくれたからあたし、怖くなかった」

 

意外な返答にカレンは目を丸くする。

 

「そっか」

「うん!」

 

ランスロットを地に降ろす。すると、遠くから、何やら歌が聞こえてきた。

 

「何だろ」

「カレン!行ってみんとね!きっと《ワルキューレ》だ!」

「あ、うん」

 

ランスロットを歌が聞こえる方へと走らせた。近づくにつれ、フレイアは鼻歌をし出す。前髪にあるハートが明るいピンク色に輝き出す。

 

「〜〜〜♪」

「・・・・・・」

 

鼻歌を奏でるフレイアを、ただ見つめていた。彼女の鼻歌を聞いているだけでも、とてもいい気分になる気がした。そんな事を思っているうちに、歌が聞こえる場所に付いた。そこには四人の女性達が、まるでライブをしているかのように歌っていた。一人は紫色の長い髪をたなびかせた女性。一人は濃い赤の髪を後ろで結っている大人の女性。一人はピンクの髪をツインテールにした、グラマーな体躯を持った女性。一人は黄緑色の髪を右は耳にかけ、左はそのまま伸ばした斜めの髪型をし、耳は少し尖っている女性。きっと別の人種とのハーフだろう。

 

「カレン!あれが《ワルキューレ》!」

「あれが、《ワルキューレ》・・・・・」

 

歌でヴァール化した人達を救う、民間企業『ケイオス』が誇る、戦術音楽ユニット《ワルキューレ》を保有、運営している。もちろん《ワルキューレ》は人気が高いため、前進翼を採用したVF-31で編隊されたΔ小隊という、護衛兼パフォーマーとして存在しているらしい。詳しいことはカレンもよく分かっていない。よく見ると、ヴァール化した人達が正気に戻っていく。やはり、歌でヴァールを救えるのは本当らしい。フレイアが会いたそうな顔をしているため、ランスロットのハッチを開けようとした瞬間、

 

『そこの所属不明機。無駄な抵抗をするなよ』

「!」

「ふぇ!?な、なんね!?」

 

よく見ると、四方を四機のVF-31 ジークフリートがガウォークモードに変形し、こちらを包囲していた。オープン回線でこちらに問いかける。

 

『パイロット、聞こえるか。お前の目的はなんだ。《ワルキューレ》の奪取か?』

 

声からして、歳は少しいっている。この歳でパイロットをやっているのなら、かなりの手練だろう。

 

「あの機体、見たことない」

「マキナでも見たことないの?」

「あたしだって、何だって知ってるわけじゃないんだよ〜、レイレイ」

「美雲」

「分かってるわ、あの機体のパイロット。私たちに用はあるみたいだけど、奪いに来たわけじゃなさそうよ、隊長さん」

『なに?』

 

美雲と呼ばれた紫色の長い髪をした女性は言った。

 

『そうか。だが、身柄は預からせてもらうぞ。俺達の基地に一緒に来てもらう』

 

「あわわ、どうすんね〜・・・・」

「まずったな・・・・」

 

カレンは冷や汗を垂らした。

 

ーーーーーーーー

 

それからケイオス・ラグナ支部へと連れて行かれ、格納庫でランスロットは両肩と両脚を固定されていた。

 

(なるほど、逃がすつもりはないってことか)

「カ、カレン?」

「ここは大人しく彼らに事情を説明しよう。ほんとのことを言えば少なくともフレイアさんには乱暴なことはしないと思うから」

「で、でもカレンは・・・・・」

「僕は大丈夫。こう見えて、結構強いから」

 

行こうと、カレンに言われ、コクッと、フレイアは頷き、カレンも頷き返す。ハッチを開け、ワイヤーに捕まり、降りる。周りにはケイオス・ラグナ支部の従業員らと武装兵が数人、こちらに銃口を向けていた。その中にはパイロットスーツを着込んだ、四人の男女と、《ワルキューレ》がいた。

 

「ッ・・・・・・」

 

フレイアを庇うようにカレンは自分の後ろに隠す。フレイアはギュッと、カレンの服を掴んだ。周りの人達の中から、巨大な人が前に一歩出て、カレンに問いかける。

 

「私はケイオス・ラグナ支部、マクロス・エリシオンの艦長、アーネスト・ジョンソンだ。単刀直入に聞く、貴官はどこの軍に所属している」

 

身長227cmという巨体ということで、威圧感はかなりのものだ。

 

(ゼントラーディと地球人のハーフか)

「いえ、僕はどこの軍にも所属していません。もちろん彼女もです」

「そうか。では、質問を変えるとしよう。何故、一般人があの場所にいた。避難勧告は発令したはずだが」

「彼女が《ワルキューレ》のオーディションを受けると聞いたので、そのついでに僕も一緒にいただけです。避難勧告を無視した事に関しては失礼しました。ですが、もっと早くヴァールシンドロームが発生することを予想することが出来れば、市民の人達をあんなにも失わずに済んだはずです」

「貴様!誰に口をきいて・・・!」

 

アーネストが無言で右手を上げる。やめろ、という合図だ。それを見た武装兵は一歩下がる。

 

「貴官の言っている事は間違ってはいない。だが、一般人があのような機体を持つ事は不可能だ。それに関しての説明を要求させてもらおう」

「あの機体に関して、教える事は出来ません」

「なんだと!」

 

武装兵が一斉に銃を構える。後ろのフレイアは怯えていた。

 

「すみません、銃を降ろしてくれませんか?彼女が怯えているので」

「ふむ、わかった」

 

アーネストが目線を送ると、武装兵は頷き、銃を降ろす。

 

「あなた方にも秘密があるように、僕にも言えない秘密はあります。それを無理に聞こうとするのはどうかと思いますが」

「失礼した。では、四機のヴァール化した軍人が操っていた戦闘機を撃墜したのは貴官で間違いないか?」

「はい」

「ふむ・・・・・」

 

少し考え込むと、隣にいた壮年の男性がカレンに近づく。

 

「お前があの機体のパイロットか?」

「はい」

(この声・・・・)

 

あのオープン回線で聞こえてきた声と同じだった。

 

「なかなかの腕前だった。何かを師事していたのか?」

「はい、地球のある国に伝わる拳法と剣を少し」

「ほう・・・・・」

 

アーネスト同様、考え込んでしまった。そしてしばらくしてから、

 

「お前、俺達の隊に来ないか?」

「・・・・え?」

「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」

 

周りの人達の声が揃う。

 

「ほう、私も同じ事を考えていたところだ、アラド」

「ま、待ってください!隊長!」

 

今度はモヒカン頭の目つきの悪い男性が前に出てくる。

 

「本当に入隊させるつもりですか!?素性を隠したスパイかも知れないのに・・・・」

「まあまあ、落ち着けメッサー。こいつの目はスパイなんかに向いてないぞ」

(なんか、地味にひどい気が・・・)

「こいつの目をよく見てみろ、素性を隠したスパイの目をしているか?」

(う・・・・)

 

目つきの悪い顔がジロッと、カレンの顔を見る。まるでマングースに睨まれているハブの心境だ。

 

(と、とにかく、笑っておこうか・・・・?)

「あ、あはは・・・・・」

「・・・・・・」

 

引きつった笑顔が出来てしまった。しばらく睨まれ続けた結果、

 

「ふん・・・・」

 

あしらわれてしまった。

 

「おい、もういいのか?」

「はい、どうやらスパイではいことほ確かな様なので」

 

そう言って、メッサーと言う人物はその場を去って行った。

 

「いや〜、すまんな。あいつは無愛想だが、結構いいヤツなんだ」

「は、はぁ・・・・・」

「よし、それじゃあお前さんの答えを聞いてもいいか?入るのか、入らないのか」

「・・・・・彼女の安全は保証出来ますか」

「ああ。なんならお嬢さんも一緒に入るといい」

「ええッ!?」

「では、一つ条件があります」

「カ、カレン!?」

「ほう、なんだ」

「彼女を、《ワルキューレ》のメンバーとして迎えてあげてほしい」

「なんだ、そんなことか。全然いいぞ」

「軽ッ! ってそうじゃなくて、何を言うとるね!?」

「《ワルキューレ》もΔ小隊も人員不足でね、四人だけじゃとても。だが、入る前に二人には検査を受けてもらうぞ」

「「?」」

 

入る前提で話が進んでしまい、結局なし崩しな感じで、カレンはΔ小隊に、フレイアは《ワルキューレ》に配属となった。

 

ーーーーーーーー

 

所変わって、検査室。

 

「な、なんかこういう服着たことあまり無いから少しソワソワするんよ・・・・・」

 

フレイヤは誰もいないのに顔を真っ赤にしながら検査用の衣服に着替えていた。

 

「フレイアさーん、そろそろ始めるってよー」

「え、カレン!?今はダメね!入って来んといて!」

「え?」

 

遅かった。自動扉の前に検査用の衣服に着替えたカレンが、今まさに、上半身裸で、上着を羽織ろうとしていたフレイアをまじまじ見ていた。しばらく間をおいて、

 

「あ!い、いや!わ、悪気は全くなくてーー!」

 

顔を真っ赤にしたカレンが必死に弁解を試みるが、

 

「こ・・・・こ・・・・この・・・ッ!えっちぃぃぃぃぃ!!!」

 

頭のハートまで真っ赤にしたフレイアが、近くにあったイスをカレン目掛けて投げた。

 

「ぐはッ・・・!」

 

見事クリーンヒット。顔面に直撃した。

 

「カレンくん、フレイア。そろそろ検査始めるわよ・・・・・って、何これ・・・・?」

 

二人を呼びに来た、《ワルキューレ》をまとめあげるリーダー、カナメ・バッカニアは、転がっているイスの近くで、鼻血を垂らしながらのびているカレンと、胸を手で隠し、顔を真っ赤にし潤んだ瞳で荒く呼吸しているフレイアを見て、硬直した。

 

「ーーーー全く、年頃の女の子の着替えを覗こうとするなんて、常識がなってないよ、カレンくん」

 

鼻血は止まったのだが、鼻に傷がついたため、絆創膏をしてもらう。ジト目で睨まれながらカナメに注意される。

 

「な・・・!の、覗こうとなんてしてません!僕はただ、フレイアさんを呼びに行こうと思って・・・・!」

「はぁ・・・・カレンくんがわざと覗こうと思ってやったってことではないことは分かったわ。でもこれからは気をつけてね?」

「は、はい」

 

それからやっと検査が始まった。カプセルの中に、何もせずに立つだけという何とも簡単な検査だった。少し離れた場所で、カナメ、レイナ、マキナ、美雲が待機していた。

 

「どう?レイナ」

「二人とも、ヴァール細菌の感染はなし」

「そう」

「でも見て、二人のこの数値」

「これは・・・・・」

 

身体への異常は認められなかったが、この検査である事がわかった。

 

「フォールド波の数値が二人とも、美雲と同じくらい異常なまでに高い」

「間違いないわ・・・・」

 

《ワルキューレ》のメンバーが真剣な顔で頷き合う。

 

「美雲」

「ええ、二人ともフォールドレセプターね」

 

フォールドレセプター

 

レセプターとは受容器。文字通り、フォールド波を受容出来る因子を持った人のことを称して言う。更にそこから歌にフォールド波を乗せて吐き出せるかはまた違った素養や才能が関係してくる。つまり《ワルキューレ》はこのフォールドレセプターを持った人で構成されているのだ。

 

「《ワルキューレ》のオーディションは名前だけ。目的はフォールドレセプターを探すこと」

「まさか、早速一人目が見つかるなんてね〜」

 

レイナ、マキナの順で喋る。そう、フォールドレセプターはそう簡単に見つかるものではないのだ。

 

『二人ともお疲れ様。終了よ』

 

カプセル何のスピーカーからカナメの声が聞こえる。

 

「あれ?もう終わったん?」

「みたいだね」

 

カプセルのドアが開き、《ワルキューレ》のメンバーが待っていた。

 

「二人ともお疲れ様。身体への異常はないから安心して」

「ホントですか!?よかった〜」

「フレイア・ヴィオン」

 

突如、美雲がフレイアに声をかけ微笑する。

 

「み、美雲さん?」

「《ワルキューレ》のオーディション、合格よ」

「え・・・・・?」

「貴女の歌聴かせて貰ったの」

「フレフレ、すっごい歌うの上手いんだね〜」

「胸に、チクチクきた」

「ほ、ほんとに、合格したんかね・・・・?」

「ええ、ようこそ《ワルキューレ》へ」

「よかったね、フレイヤさん」

「カレン・・・・・」

「頑張ってね、僕もΔ小隊で頑張るからさ」

「・・・・・」

「・・・・・?」

 

何も喋らなくなったフレイアをみると頬がほんのり赤みを帯び、こちらをずっと見ていた。頭のハートも明るいピンク色に輝いている。

 

「フレイアさん?」

「え!?な、なんね!?」

「大丈夫?さっきぼーっとしてたみたいだけど、どこか具合悪い?」

「ぜ、全然平気!」

「そう?」

「あらあら〜?もしかして」

「フレフレ〜、もしかしてカレカレのこと・・・・」

「ふぇ!?な、なんですか!?」

「カナメは早く結婚なさい、いつまでも独身じゃ寂しいわよ?」

「ま、まだ22だもん!これからだもん!」

 

さっきからぼーっとしたり、いきなり態度がよそよそしくなったりするフレイアに一抹の不安を覚えるカレンだった。

それから脱衣所で着替える。カーテン一枚で区切ったその奥には、カレンが着替えている。

 

「・・・・・カ、カレン?」

「んー?なに?」

「その・・・・あの時助けてくれてあんがと・・・・」

「ビックリしたよ、君が密航者だなんてね」

 

着替えながら必死に言葉を探すフレイア。

 

「ここにいられるのも・・・・カレンのおかげだから・・・・」

「あの時は必死だったから。フレイアさんを一人にするわけにはいかないし、僕も、女の子を置いて一人で逃げるなんてことしたくなかったし、さ っと」

 

どうやらカレンの方は着替えが終わったようだ。

 

「ほんとにあんがとね」

「気にしないで。また助けが必要だったらいつでも言ってよ、何回でも助けるからさ」

「・・・・うん」

「さ、早く行こ。これから寮の説明もあるし」

「あ、うん!」

 

フレイアの初恋。それは新しい物語の始まりーーー



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Mission03 回想 リフレクション

今回は花蓮と母親の回想!




「ーーーってことで、カレンとフレイアの配属を祝して、かんぱーい!」

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

ここはΔ小隊の男性陣の寮兼飲食店の『裸喰娘々(らぐにゃんにゃん)』。Δ小隊の一人、チャック・マスタグが経営している飲食店で、よく《ワルキューレ》も来ているらしい。今日は新メンバー歓迎会を催してくれたらしく、店は貸し切りである。皆、思い思いに羽を伸ばし、日頃の疲れを癒しているようだ。

 

「入隊おめでとうございます、カレン」

「ありがとうございます、ミラージュ少尉」

 

彼女もΔ小隊の一人、ミラージュ・フォリーナ・ジーナス。統合軍のエースパイロット夫婦の六女ミランダの娘らしい。カレンはあまり他人の出生については詳しく知る必要はないと思い、大事な事だけを覚えていた。階級は少尉。ミラージュ・ファリーナ・ジーナスですよ?

 

(地球人とゼントラーディのクォーターなのかな)

「少尉はやめて下さい、少しむず痒いです」

「そう、ですか?では、ミラージュさんで」

「はい」

「お、もうミラージュとも仲良くなったのか」

 

クラゲのスルメを咥えたアラドが、こちらに歩いてくる。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はアラド・メルダース。Δ小隊の隊長はやらせてもらっている。形式上はお前の上官にあたるが、まぁ、気軽に話してくれ」

「ありがとうございます、隊長」

「初対面では悪かったな。最近、ヴァールの騒動が深刻化して来ていてな、何やら新統合軍の怪しい動きもあったもんだからつい、な」

「いえ。その、あの機体に関しては明日、艦長、隊長、整備班、技術部の皆さんにお話しようと思います」

「いいのか?それじゃあ、お前さんの秘密が」

「いいんです。ここにいる皆さんは、とても優しくて、信頼できる人達が沢山います」

「そうか。なんなら、マキナとレイナにも話しておくといい」

「マキナさんとレイナさんに?」

「あいつらも中々の技術屋だぞ?」

「そうなんですね」

 

遠くで、フレイヤを交えて何やら盛り上がっている。まさかあのような少女達が洗浄で歌っているなんて、未だに信じられない。

 

「そんなことより、カレン」

「はい?」

「お前、《ワルキューレ》の中で誰が好みなんだ?」

 

ピクッ

 

アラドのこの一言により、《ワルキューレ》、ミラージュ、オペレーターの三人の女性陣が聞き耳を一斉にたてる。

 

「そ、そんな、誰が好みだなんていきなり聞かれても・・・・」

「お前さん、顔もかなり良いし、おまけに優しい。もしかしたら誰かに狙われてるかも知れんぞ?」

「そ、そんなことはありませんよ」

「《ワルキューレ》の偏差値はかなり高い。美雲は全てにおいてハイスペックだぞ?家事に関してはよくわからんが」

 

※ アラドはお酒が入っています。

 

心なしか、美雲の顔は満更でもなさそうだ。

 

「それともカナメさんか?彼女は優しいし、気配りもできる。《ワルキューレ》のリーダーを務めるだけじゃなく、仕事も難なくこなす。さらに美人だ」

 

あれ?カナメも心なしか頬が赤みを帯びている。

 

「いや、年頃の男から見たらやはり、マキナか?あいつの身体は中々だからな」

 

マキナはこちらに笑顔で手を振っている。

 

「それともお前はあれか!背の低い子がタイプなのか?それならレイナなんてどうだ?少し接しずらいが、ハッキング能力はかなりの腕前だ。よく俺達の母艦も乗っ取られる」

「それはそれで大丈夫なんですか・・・・?」

 

レイナは生のクラゲを食べながら、頬を緩めている。クラゲがおいしいのか、それともアラドの説明が嬉しかったのかは定かではないが。

 

「それともやっぱりフレイアか!?フレイアなのか!?」

 

チラチラこちらを見てくるフレイアに、カレンは苦笑いをする。

 

「す、少し落ち着いて・・・・!」

 

確かに《ワルキューレ》の面々とフレイアは可愛いし、美人だ。それも、カレンが見たことないくらい。初めて見た時は本当に人間なのかと思ったくらいだ。周りの空気がカレンに語りかける。誰が好みなんだ、と。

 

「み、皆さん魅力的だと思います、よ?」

「ほほう、そう来たか」

 

当のアラドは面白そうにニヤニヤしている。何故か自分が言ったことが恥ずかしくなる。

 

「し、失礼します!」

 

裸喰娘々(らぐにゃんにゃん)』をダッシュで出る。

 

「若いね〜」

 

クラゲのスルメを咥えながら、アラドはボヤいた。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

すぐ近くにあったベンチに腰を降ろす。短い距離とはいえ、全力でダッシュをしたため、息が上がっている。目の前には海があり、満月が海面に映っていた。夜風にあたり、火照った顔を撫でていく。

 

「隊長も、なんてことを聞くんだ・・・・・」

「全くよね」

「え?」

 

独り言で喋ったはずだが、相槌をされてしまった。誰かと思い、見上げると、紫色の長い髪を夜風にたなびかせている美雲・ギンヌメールだった。

 

「み、美雲さん!?」

「隣、いいかしら」

「え、あ、はい」

 

カレンは横にずれ、美雲を座らせる。

 

(な、なんだこの状況・・・・・。それに、いつの間に僕の目の前に)

 

そんなことをグルグル頭の中で巡らせていると、

 

「私、貴方に興味があるの」

「興味、ですか?」

「ええ」

 

そう言うと、美雲はカレンに近づいていく。

 

「あ、あの。美雲、さん?」

(近づいていくるのはなんで・・・・?)

「あの機体、今までで見たことないものだし、なにより」

 

更に距離を詰めていく。

 

「貴方、私のタイプだし」

「え、ちょ、美雲さん・・・!?」

 

後ずさりをするが、とうとうベンチの端まで追い詰められてしまった。

 

(し、しまった!)

「目も大きいし、まつ毛もながい、顔の線も細いし。本当に男の子かしら」

 

そっと、白く長い美雲の手がカレンの頬に触れる。

 

「あ、あの・・・・」

「・・・・・・」

 

カレンの頬を押したり、またはた軽く引っ張ったり、なにやら楽しんでいる。

 

「フフ・・・・」

 

微笑し、カレンから離れる。

 

「いきなりごめんなさい。ちょっとした好奇心よ、気にしないで」

「え、あ・・・・・」

「今日は疲れたでしょ?ゆっくり休みなさい。それと・・・・」

 

顔を近づけてくる美雲に、カレンは顔を赤くし、目をギュッと瞑る。耳元で美雲の甘い声が囁かれる。

 

「私、貴方のこと気に入っちゃった」

「え・・・・?それってどういう・・・・」

 

そう言ってから顔を離し、じゃあねと一言。美雲は帰って行った。

 

「な、なんなんだ?あの人・・・・・」

 

折角収まった火照りがまた来てしまったため、夜風にあたり冷ましてから帰ることにした。そして、物陰からその一部始終を見ていた、前髪にハートが付いた少女は、

 

「み、美雲さん大胆やね・・・・」

 

急に飛び出したカレンを探しに来たフレイアは、たまたま、カレンと美雲の一部始終を見てしまった。

 

「なんだろう・・・・なんか胸の辺りがモヤモヤする・・・・・」

 

このモヤモヤの名前をまだフレイアは知らない。

 

それから、カレンが『裸喰娘々(らぐにゃんにゃん)』に帰ってくる頃には、歓迎会はお開きになっていた。店内は暗く静まり返っている。事前に案内された、自分の部屋に行き、ベッドに倒れ込む。アラドから支給された隊服は、壁にハンガーでかけられている。パーカー型の隊服だった。

 

「今日は疲れた・・・・・」

 

色々あり過ぎた。突然の入隊から検査、母艦の説明や寮の案内、終いにはアラドの一言で迫られるし、美雲にはあんなことされるしで、身体には疲れが溜まりきっていた。

 

「もう・・・・眠い・・・・」

 

すぐに意識を手放した。

 

ーーーーーーーー

 

『花蓮、早くお母さんの元へ来なさい』

『待って母さん!なんで急にいなくなったりしたの!?』

『お母さんはあそこ(・・・)から動けないの。だから、花蓮。ランスロットと共に私の元へ来なさい』

『なんで僕にランスロットを・・・・?』

『ーーーーである私の力を使って造り上げた。人類を、いえ、銀河とあなたを新たな場所へと導く嚮導兵器。それがランスロット。あなたは私の子。ーーーーである私の純血を引くあなたには、ーーーーとして覚醒してもらわないといけないからよ』

 

重要な部分がよく聞こえない。

 

『ランスロットには私の願いが込められている。強くなりなさい、花蓮。そして早く私の元へランスロットと共にーーー』

『待って母さん!まだ聞きたいことがいっぱいあるんだ!なんで・・・・なんで僕と父さんを置いてどこかに行ったんだよ!』

『今は言えないわ・・・・』

『母、さんーーー』

『早く、私の所へーーーきーーーてーーー』

 

ーーーーーーーー

 

「母さんッ!!」

 

勢いよく起き上がる。顔や身体中は汗でびっしょりだった。鼓動が速くなり、息も荒い。

 

「わぁ!?びっくりした!」

「大丈夫?カレカレ」

「汗、びっしょり」

「うなされてた見たいだけど・・・・本当に大丈夫?カレンくん」

「はい・・・・大丈夫です」

「貴方がうなされてるってフレイアが泣きながら連絡してきたのよ」

「うう・・・だって・・・」

 

花蓮のベッドの周りには《ワルキューレ》のメンバーがいた。傍には目からポロポロ涙を流しているフレイアがいた。余程、心配だったのだろう。

 

「ごめんね、フレイアさん。心配かけて」

「もう、大丈夫なん・・・・?」

「うん」

 

こうゆう時どうすればいいのか花蓮は分からなかったが、頭を撫でておけばいいかと思い、フレイアの頭に手を伸ばし、頭を撫でる。

 

「カ、カレン!?」

「泣かないで、僕は大丈夫だから」

「あー!ずるいよフレフレ!カレカレ、あたしにもしてよっ!」

「え、あ、マキナさんにも!?」

 

今頃気づいたのだが、どうやらみんな寝巻きのようである。

 

「皆、寝なくていいんですか?」

「なーに言ってんの、カレカレ。もう朝だよ?」

「え?あ・・・・」

 

時計に目を向けると午前六時を指している。外は地平線から太陽が顔を出していた。そして、ある事を思い出す。

 

「あ!今日は整備班の人達にようがあるんだった!すみません皆さん!先に行きます!」

 

ベッドから飛び上がり、かけてあった隊服を掴み取り、上着を脱ぎ、新しいものに着替える。が、

 

「あわわ・・・・」

「結構絞まってるのね」

「すごい」

「え?」

 

数秒の間、花蓮はやっと気づいたらしく顔を真っ赤にする。《ワルキューレ》の目の前で、ついキャストオフしてしまった。

 

「い、いつまでいるんですか!は、早く出てってください!」

 

朝から大変な花蓮であった。

 

ーーーーーーーー

 

「はぁ・・・・・」

「おいおい、若いのにため息なんてつくんもんじゃねーぞ?」

 

ここは休憩室、朝からの疲れもあるが、整備班と技術部との話し合いで、ランスロットを飛べるようにするため、新しい装備を開発することになった。そこにマキナとレイナも加わり、先程まで色々意見を出し合っていたのだ。

 

「みんな、あんたに期待してるんだぜ、兄ちゃん。中々強いらしいじゃねーか」

「いえ、そんなことは・・・・」

「がっはっはっは!謙遜すんなや!」

 

背中をバシバシ叩かれ痛かった。また机に突っ伏していると、目の前に温かい飲み物が入ったコップが置かれる音が聞こえ、見上げる。

 

「お疲れ様、カレンくん」

「あ、ありがとうございます、カナメさん」

「色々と大変そうね、無理しちゃだめだよ?」

「いえ、まだまだいけます。早く、強くならないと」

「そっか」

「はい。あ、いただきます」

「どうぞ」

 

コップの飲み物を口に運ぶ。中の飲み物は甘いココアだった。程よい甘みが口の中に広がる。

 

「あ、ココアでよかった?」

「はい、僕まだ16なので」

「え、16!?」

「はい、言ってませんでした?」

「初耳・・・・」

「あ、そうでしたか。それは失礼しました」

 

すると、ケイオスから支給された端末に連絡が入る。

 

「はい」

『カレカレ?そろそろ始めるよ〜』

「わかりました、すぐに行きます」

 

通話を切り、カナメに向き直る。

 

「それじゃあ、カナメさん。僕そろそろ行きますね」

「あ、うん。頑張ってね」

「はい、ココア美味しかったです。ごちそうさまでした」

 

年相応の可愛らしい、人懐っこい笑顔を向けられ、カナメの胸が跳ねる。遠くなる背中を見届け、机に突っ伏す。

 

「あー・・・・もう少し話したかったなぁ・・・・」

 

誰にも聞こえない声で呟いた。



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Mission04 飛翔 フライト

ランスロット、翔ける!


午前は装備の形状や詳しい構造などの話し合いが行われ、午後からは急ピッチで作業が進められていく。ランスロット自体は改良せず、既存の武器を使用。もちろん、マキナとレイナにも協力してもらっているため、今のところ思ったより苦戦は強いられていない。『フロートシステム』を採用した飛行ユニットは、本来飛行能力を持たないランスロットに後付けということでコックピットの上部に被せるようにセットする、という構造で造られている。色は赤を主体に、所々に黄色が少しという感じだ。一方、花蓮は、

 

「・・・・・・」

 

格納庫にあるランスロットのコックピット内にはキーボードを叩く音と、キー音が響いている。飛行能力に対応するために、OSのアップデートをしているのだ。近くに置いていた端末に着信が入る。通話ボタンを押し、スピーカーにする。

 

『カレカレ、そっちのほうはどう?』

「今のところ順調です、そちらはどうですか?」

『うん、そろそろ完成しそうだよ』

 

有線接続した端末のキーボードを叩きながら喋ったためか、マキナの声に不満が混ざる。

 

『むぅ、仕事しながらはだめ』

「何がですか?・・・あ、アップデート終わりましたよ」

『あ、丁度よかった!こっちも今完成したよ!』

「ほんとですか?早いですね」

『なんたってあたしとレイレイだもん!』

『当然』

 

会話の中にレイナも混ざる。

 

「まさか一日で終わらせるなんて」

『そう言えば何でランスロットの操縦者はパイロットじゃなくてデヴァイサーって言うの?』

『疑問』

「このランスロットにはユグドラシルドライブの核、『コアルミナス』に使われるサクラダイトと機体の各所に使われているサクラダイトの比率が高く、それによって得られる運動性能は圧倒的ですが、その反面エネルギー消費も激しいです。本体の武装をフルで活用したら数時間も保ちません。余りにも詰め込みすぎたせいか、脱出装置もついてないんです」

『え!?それって危険だよ!』

『だめ、危険』

「脱出装置が無いという仕様と相まって、パイロットというか使い捨てのパーツと言うニュアンスが、デヴァイサーという言葉には含まれているかも知れません」

『で、でもカレカレなら大丈夫だよね?ちゃんと、帰ってくるよね?』

「はい、皆さんのこともちゃんと守りますよ」

 

今度は別の人から着信が入る。

 

(今度は誰だろ)

「はい」

『俺だ』

「隊長?どうしたんですか?」

『お前さんに一つ頼みごとがあってな。ミラージュと模擬戦をやってくれないか?』

「ミラージュさんとですか?」

『ああ。あいつも是非お前とやりたいらしい。もう完成したんだろ?新装備』

「一応は」

『これでお前さんも空中戦デビューということだ。慣れとして付き合ってやってくれ』

「了解です」

 

アラドとの通話が終了し、マキナとの通話に切り替わる。

 

『どうしたの?』

「これからミラージュさんと模擬戦することになりました」

『おー!じゃあ早速お披露目だね!』

「はい!」

 

ーーーーーーーー

 

「いきなりですみません、カレン」

「いえ、大丈夫ですよ。僕の方も新しい装備と空中戦に慣れたいと思っていましたので」

「そうなんですね、ではよろしくお願いします」

 

そう言ってパイロットスーツに着替えているミラージュは、自分のVF-31に向かっていく。カレンもせをむけ、別方向に歩いていく。格納庫の近くまで行くと、意外な二人が待っていた。

 

「あ、来た来た!」

「あれ?マキナさんにレイナさん。どうしたんですか?」

「応援しに来た」

「あたし達もこれからレッスンあるんだけどね。頑張ってね!カレカレ!」

「はい、ありがとうございます」

「油断は、だめ」

「わかりました、レイナさん」

「ん」

 

少しだけ頬を緩めたレイナを見たのは、二回目だ。それにしても、レイナは自分より年上なのだろうか。

 

「じゃああたし達レッスンに行くから!」

「はい、頑張ってください」

 

二人は駆け足で格納庫を出ていく。

 

(二人とも優しいな)

「と、僕も行かないと」

 

ランスロットのコックピットに座り、起動キーを差し込む。

 

「初期起動スタート」

『エナジーフィラーを飛行用に変更。フルスタートを確認。エナジーフィラー出力低下』

「よし、マニュアル通りだ」

『個体識別情報確認・・・・アクセス完了。電圧臨界、到達。デヴァイサーエントリー確認。拒絶反応微弱。デヴァイサーストレス、反応微弱』

「了解」

『マンマシンインターフェースの確立を確認』

 

初期起動が完了したと同時に、横の画面にブリッジオペレーターのニナ・オブライエンが映し出される。

 

『デヴァイサーの搭乗を確認。ランスロット、カタパルトデッキに移動』

「了解」

 

ランスロットが立っている床が、上に動く。天井のハッチが開き、カタパルトデッキに移動する。マクロス・エリシオンの左腕部、Δ小隊の母艦に出た。

 

『よう』

「隊長?」

『お前のランスロット専用カタパルトデッキだ』

 

地面から二本の長いカタパルトが左右、横一直線に出現する。凹みがあり、そこにランドスピナーを設置、助走するという仕様らしい。

 

『フロートユニット、換装』

 

コックピットの上から赤いカラーリングの飛行ユニットが下りてくる。そのまま上に被さるように設置され、ディスプレイに様々なデータが流れ込んでくる。

 

「すごい・・・・・」

『カレン准尉、今回の目的はあくまで空中戦闘に慣れることと模擬戦です。装備はペイント弾を装填した銃でお願いします』

「わかりました」

『なお、フロートはエナジーの消費が激しいため稼働時間に留意』

「了解」

 

空には既にミラージュのVF-31が飛んでいる。

 

『進路、オールグリーン』

 

ランドスピナーをカタパルトの凹みにセットする。機体が浮き、右腕を前に出し、前傾姿勢になる。ランスロット専用電磁式カタパルト。ランドスピナーを高速回転させ助走するのだが、もしもの時を考え、両方からの磁場を発生させる事で、機体を斜めにすることなく、真っ直ぐに維持したまま射出するという保険をかけたのだろう。

 

「すぅ・・・・・」

 

深呼吸をし、気持ちを整える。

 

「ランスロット・エアキャヴァルリー M.E.ブースト」

『発艦!』

「発艦!」

 

ランドスピナーが高速回転し、一気に走り出す。カタパルトの助走を終え、空中に身を投げ出す。すぐさま、フロートユニットを起動。翼が左右に展開され、蛍光グリーンの光が翼の前面に点灯する。スラスターを吹かし、空中を白騎士が翔ける。

 

「すごい・・・!速度が戦闘機を有に越えてます!」

「ほう」

 

「す、すごい。なんて出力だ」

 

スラスターを弱め、速度を落とし滞空する。右手にはペイント弾装填銃が握られている。

 

『ではカレン!行きます!』

「はい!」

 

スラスターを再度吹かし、ミラージュに接近した。

 

ーーーーーーーー

 

「フォー!ワン!ツー!スリー!フォー!」

「はぁ・・・・はぁ・・・・!」

(カレン・・・・模擬戦なんてして大丈夫かね・・・)

「ワン!ツー!スリー!フォー!」

 

《ワルキューレ》はダンスのレッスンをしていた。カナメの合図で皆で踊っている。が、フレイアは中々練習に集中出来ない。

 

「ワン!ツー・・・フレイア!」

「は、はい!す、すみません!」

「もう一度始めから!余計なこと考えないで!」

「・・・・・」

 

最近、どこか上の空のフレイアを見て、美雲はため息をついた。

 

ーーーーーーーー

 

レイナとマキナは端末を見ながら呟く。

 

「フォールドレセプター ノーアクティブ。生体フォールド波、反応なし」

「う〜ん、何でかな〜」

 

その答えを鏡の前で化粧をしているカナメが喋る。

 

「フォールドレセプターは、私達の精神に呼応して生体フォールド波を発生させるもの。戦場や命懸けの状況で精神が高まった方がより力を発揮する・・・・。フフ、本番じゃないとダメなタイプかもね」

 

するとドアが開き、バスタオルを巻いて、片手に牛乳瓶を持った美雲が現れた。

 

「足下が見えてないのよ」

「美雲・・・・」

「空ばかり見上げていても、飛べないわ」

 

ーーーーーーーー

 

「はぁぁぁぁ!」

 

ミラージュがペイント弾を乱射するが、それを悉くかわしていく。後ろをミラージュに取られているが、大した問題ではない。

 

「今だ!」

 

フロートユニットのスラスターを弱め、急停止。更にバック転をして、ミラージュにわざと追い越させる。

 

「嘘・・・・!」

「もらった!」

 

ペイント弾をミラージュの機体に付け、模擬戦は終了した。

 

「やられました。私もまだまだですね」

「いえ、ミラージュさんのテクニックも中々でしたよ」

「ありがとうございます。では、あがりましょうか」

「はい」

 

かいた汗を流すため、シャワールームに行こうとしたが、気になるのれんがかけてあった。

 

「男湯?もしかして浴場かな」

 

扉を開けるて脱衣所を調べる。どうやら誰もいないようだ。

 

「入っていいなら、入っちゃお♪」

 

花蓮の気分は上々だった。

 

カポーーン

 

「ふぅ〜・・・・いい湯だな〜、ずっとシャワーだけだったから、たまにはお風呂も入りたかったんだ〜」

 

大きく伸びをし、疲れをとる。

 

「一人で入るのもいいな〜・・・・」

 

ぼーっとしていると、誰かが入ってくる声が聞こえる。

 

「わぁ!おっきいお風呂やね〜!」

「フレフレはしゃいだら危ないよ〜」

「滑るから、危険」

「美雲も早く〜」

「はいはい」

(ん・・・・?あ、皆の声だ。レッスン終わったのかな。あれ?でも確か、ここ男湯じゃ・・・・)

 

よーく辺りを見渡してみると、

 

(あれ!?し、しきりがない!?)

「・・・・・」

「どうしたの?クモクモ」

「誰かいるわ」

「え!?ここ女湯じゃ・・・」

(えぇ!? 外には確かに男湯って・・・!)

「いるのはわかってるのよ、大人しく出てきなさい」

 

もう逃げ場がないと観念し、

 

「あ、あの!」

「えっ?この声、カレカレ?」

「僕、男湯ってのれんがかけてあったので入ったんです!その、ぜ、全然やましい気持ちなんてなくて・・・・!」

「待って」

「カナカナ?」

「この大浴場、しきりがないわ・・・・」

「えぇ!?」

 

フレイアが絶叫する。

 

「あ、えと!僕、出ますから!皆さんで入ってください!」

(さ、さすがにこれはまずい!)

「いいじゃない。カレンも入って」

「み、美雲さん!?」

「見なきゃいい話でしょ?」

 

結局、一定の距離を取って、花蓮は大浴場の隅にいた。

 

「なんでこう僕はタイミングが・・・・・」

「なんでそんなに離れてるのかしら」

「は、離れるに決まってます!」

 

遠くから美雲に言われ、反論する。

 

「こら、美雲。カレンくんをからかわないの」

「フフ」

「あ、カレカレ!どうだった?フロートユニットは」

「感想、聞きたい」

「あ!すごく良かったですよ、僕初めて空を飛びましたけど、凄く楽しくて」

「おー!好評だね、レイレイ!」

「よかった」

 

それから他愛もない話に花を咲かせ、湯あたりを起こしそうだったので(いろんな意味で)花蓮が先にあがった。

 

「ん〜、気持ちよかった」

「カレン」

「ん?フレイアさん?」

 

後ろを振り向くと、湯からあがったのか、頬が赤く染まっている。

 

「今日の模擬戦どっだったんね?」

「すごく楽しかったよ、気持ちよかった。フレイアさんはレッスンのほうどうだったの?」

「ちょっと・・・気分が上がらなくて・・・。ルンルンも来なかったんよ・・・・」

(ルンルンって、あのハートが赤く光ることかな)

「歌えなくなったとか?」

「ううん、歌えなくはないんよ。ただ・・・・」

 

それ以降黙ってしまったフレイアを見て、花蓮は口を開く。

 

「フレイアさんの歌、僕は好きだよ」

「えっ?」

「なんか、こう、身体が軽くなる感じがして心地いいんだ。それにフレイアさんの歌を聞いてると元気になれるしね。だから、僕は好きだよ」

「そ、そっか・・・・。えへ、えへへへへ」

 

照れくさそうに身体をくねくねさせながら、にやけるてるのか笑ってるのか分からない状態だった。

 

「悩みがあるならいつでも言ってね、フレイアさん」

「ほいな!」

 

フレイアのハートが淡い光を放つ。どうやらご機嫌になったらしい。

 

(よかった)

 

悩みが消えたフレイアを見て、頬を緩める。

 

「おーい、二人とも〜」

「『裸喰娘々(らぐにゃんにゃん)』でご飯食べましょ〜」

「はーい。行こう、フレイアさん」

「はいなっ!」

 

二人は皆の元へ歩いていく。

 

「カレカレに皆の裸見たんだから、奢って貰おうよ〜」

「え、ちょ、そんな!」

「いいわね、私も頂こうかしら」

「あら、美雲から行くなんて珍しいわね」

「フフ、奢りだもの」

「生クラゲ、丸呑み・・・・」

「カレンくん、私と割り勘でどう?」

「え、いいんですか?」

「いいの!だって・・・・カレンくんだから・・・」

「え?最後なんて言いました?よく聞き取れませんでした」

「な、何でもないよ!」

「ルンルンっ♪」

 

今日も花蓮の一日が過ぎていった。



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Mission05 ハヤテ・インメルマン

ついにハヤハヤ登場!

美雲と花蓮の関係が進展!?


「へぇ〜、ここがケイオス・ラグナ支部か。いい感じだ」

 

青い髪の少年はマクロス・エリシオンを見上げながら呟いた。

 

場所変わってここはエリシオンの食堂ーーー

 

「よう、カレン」

「チャックさん、おはようございます。お店の方はいいんですか?」

「ああ、妹達に任せてるからな。心配はいらないさ」

「そうなんですね」

「ところで今から朝食か?」

「はい、一緒にどうです?」

「いいね」

 

そう言って二人はお梵に皿を乗せて、自分が食べれる量を盛っていく。基本、朝食、昼食はバイキング方式だ。

 

「き、今日は銀河イチゴがある・・・・!」

「なんだ、カレン好きなのか?」

 

銀河イチゴとは、普通のイチゴよりひとまわり大きいイチゴである。もちろん、甘みも普通のとは比べものにならない。

 

「何個食べようかな〜・・・・」

 

目をキラキラさせながら、銀河イチゴを皿によそっている花蓮を見てチャックは思った。

 

「お前、男なのになんか可愛いな」

「「「「え・・・・?」」」」

 

食堂にいる全員の、何か危ないものを見る目がチャックに集中する。

 

「そ、そういう意味じゃない!」

 

なーんだ、と言うつぶやきがあちこちから聞こえ、ひとまず誤解が解けたことにほっとする。すると今度はミラージュが恐ろしい形相で食堂に入ってきた。

 

「ハヤテ・インメルマン候補生!いるなら出てきなさい!」

「どうしたんだ?ミラージュ」

「チャック、ハヤテ候補生を見ませんでしたか?」

「ハヤテ?ああ、あの新入りか。いや見てないけど」

「カレンは・・・・ッ!?」

「もぐもぐ・・・・」

 

まるでハムスターのように両頬を膨らませて、銀河イチゴを食べている姿にミラージュは一瞬、目を奪われる。

 

(い、今はハヤテ候補生の教官なのです!任務中に余計なことを考えては・・・!)

「ふはーふふぁん、はふへほうほへいふぁふぁふぉふぉへひはひはほ?(ミラージュさん、ハヤテ候補生なら外で見ましたよ?)」

 

口に食べ物が溜まっているため、何を喋っているのかさっぱりわからない。

 

「外で見たとさ」

 

チャックが意味を理解し代弁してくれた。

 

「わ、わかりました。ありがとうございます」

 

そう言って食堂を出ていった。口の中のものを飲み込んだ花蓮は、

 

「一体どうしたんでしょう?」

「さぁ?」

「まーたあの小僧、ミラージュ少尉の講習をすっぽかしたのか」

「全く、新人のくせに大したもんだぜ」

 

整備班の人達は笑いながら言っていた。

 

ーーーーーーーー

 

「ーーーー」

「見つけましたよ!ハヤテ・インメルマン候補生!」

「お!来た来た!」

 

ニッ、と笑いながら空を指さす。

 

ーーーーーーーー

 

「ぬおおおお・・・・っ!」

「ふん、思い知りなさい。身の程知らずめ。次!右旋回!」

 

ミラージュ専用のVF-31Jが右に大きく傾き旋回する。後ろにはハヤテが乗っている。Δ小隊の母艦、アイテールの甲板にアラドと、メッサーが立っていた。花蓮はハヤテ候補生がどんな飛び方をするのか見るためにやって来た。

 

「あ、隊長。メッサー中尉」

「おー、カレンか」

「今は何をしているんですか?」

「見ての通り、新人の教育中だ」

「教育?」

 

花蓮が空を見上げると、ミラージュのVF-31Jが飛び回っている。

 

「これでわかりましたか?ハヤテ候補生。あなたにはまだ早すぎます。この程度のGにも慣れてないあなたは戦場では格好の的ですよ!」

「へへっ・・・・!生憎、俺は争いごとが嫌いでね・・・・!空を自由に飛べる今がいい感じってね・・・・!うぷっ・・・!」

 

ーーーーーーーー

 

それからしばらくフライトしてから着艦し、複座式のコックピットからミラージュとハヤテが降りてくる。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・!」

「これでわかりましたか?あなたはまだまだ未熟です」

「こんな事で・・・・諦めて・・・・!うぷっ!」

 

顔が青ざめ、口元を押さえる。これは、まずいパターンが予想される。アラドとメッサーは既にその場から消えていた。伝言、「後は頼んだ」。

 

(あ、あの人、まさか僕にも教官をやれと・・・・!?)

「ま、待ちなさい・・・・!ハヤテ・インメルマン・・・・!そ、それだけは・・・いや・・・・・!」

「〜〜〜〜〜〜〜!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

(あちゃー・・・・)

 

花蓮は目を手で隠し、ミラージュはハヤテの嘔吐物を直で頂いた。ミラージュの絶叫が青色の空の下に響き渡った。

 

「うぷっ・・・・気持ち悪・・・・」

「大丈夫ですか?ハヤテ候補生」

「あ、アンタは・・・・?」

「あ、申し遅れました。ケイオス・ラグナ支部第三航行団Δ小隊所属、エノモト・カレンです。階級は准尉で、歳は16です」

「16・・・?俺より一つ下か」

「はい、今後ミラージュ少尉と共に、ハヤテ候補生の教官を担当させていただきます」

「そう、なのか。宜しくな」

「はい。では、早速ですがこれからアーネスト艦長の柔道講習があります。早速移動しましょう」

「な、なにぃ・・・・!?」

 

それからハヤテは色々な講習を受け、完膚なきまでに潰された。先に寮に行って休むということなので先に帰り、マクロス・エリシオンから下までのモノレールにカレンとミラージュ、フレイアが一緒に帰っていた。空は夕焼け色に染まり幻想的な世界を生み出している。

 

「くっ・・・・!ハヤテ・インメルマン・・・・!」

「ミラージュさん落ち着いて・・・・」

「そうだよミラージュさん。あんまし怒るとシワが増えるけんね」

「だ、だって!あいつ、あいつ!私にゲロを!」

「あ、あはは・・・・」

「ゴリ可愛そうやね・・・・」

 

横でブツブツ喋っているミラージュに苦笑いをする。しばらくして下につき、『裸喰娘々(らぐにゃんにゃん)』へと向かう。ミラージュはもう一度念入りにシャワーを浴びてから行くとのことで、別れた。今はカレンとフレイアの二人で帰路についている。

 

「ハヤテって候補生、そんなに問題児なんね?」

「んー、どうなんだろ。僕も少ししか話したことないからよく分かんないけど、ミラージュさんの講習と艦長の柔道の講習を今のところすっぽかしてるらしいよ」

「問題児やね」

「きっといいパイロットになると思うよ」

「何歳なん?」

「17だってさ」

「17かー、あたしにとってはもう折り返し過ぎてるやね」

「そっか、フレイアさんはウィンダミア人だから寿命が・・・・」

「それでもあたしは歌を歌い続けるんね!歌うのが、好きだから!」

「あ、ルンピカだね」

 

花蓮にルンを指さされ、ぱっと手で隠す。

 

「み、見んといてよ!えっち!」

「えっ・・・!ど、どこが!?」

「全部!カレンのバカ!」

 

ベーっとするがその顔は微笑んでいた。どうやら本気で怒ってはいないらしい。そんな話をしているうちに『裸喰娘々(らぐにゃんにゃん)』に着いた。中には意外な人物がいた。

 

「おかえりなさい、カレン」

「あれ、美雲さん?どうしたんですか?」

「貴方を待ってたの」

「僕をですか?でもさっきまでエリシオンにいたはずじゃ・・・・」

 

やはり一体どんな速さでここまで来たのかさっぱり分からない。不思議な人だ。ミステリアス・ヴィーナスと呼ばれているのも頷ける。

 

「外に出ましょうか」

「あ、はい。ごめんね、フレイアさん」

「ううん、気にせんといて」

 

店を出て、外を歩く。自分を待っていたと言われたので何かと思ったのだが美雲は何も喋らず、ただ堤防の上を歩いている。空には満月が爛々と輝いており、ラグナの海を美しく照らす。

 

「あの、僕を待っていた理由って・・・・」

「ただ貴方と話したかっただけって言ったら、怒る?」

 

いたずらな笑みを花蓮に向ける。

 

「いえ、僕も息抜きは大事だと思います。《ワルキューレ》の皆さんも毎日歌やダンスの練習をしていると伺っていますから。たまには、いいと思います」

「あら、優しいのね」

「そんなことありません。僕なんかといて少しでも疲れが取れるなら、散歩などにもお付き合いしますよ」

 

可愛らしい笑顔を見て、美雲の胸の鼓動が速まる。全く、年下でしかも鈍感。我ながら厄介な人が気になってしまったものだ。あんな無防備な笑顔で笑われてしまったら・・・・

 

「風、出てきましたね。そろそろ戻りましょうか」

「え、ええ」

「今日の夜ご飯は何か楽しみですね」

 

目の前で呑気なことを言っている少年に、心が揺らぐ。少しでも彼と長くいたいから誘ったなんて、口を割いても言えない。いつも冷静さを保っていたけど、さすがに今は無理そうだから、少しだけ・・・・

 

トサッ

 

花蓮の背中に何かがもたれかかってくる感触が伝わる。

 

「ん?美雲さん?」

 

振り返ろうとしたが、

 

「見ないで」

 

静止させれた。

 

「今は・・・・見ないで」

「あ、あの、どこか具合でも・・・・」

「違うわ・・・・でも今は見ないで」

 

少しだけ低い彼の背中に頭を預ける。きっと今の美雲の顔は真っ赤になっているだろう。こんな恥ずかしい顔、見せるわけにはいかない。

 

「少しだけ、貴方の背中を貸してほしいの・・・・」

「・・・・?わ、わかりました」

 

数分間この状態が続き、そっと美雲の頭が背中から離れていく。振り返るといつもの涼しい顔をした美雲が微笑を浮かべていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

心配そうな顔をして少しだけ背の高い美雲の顔をのぞき込むように見る。

 

「ええ、大丈夫よ。助かったわ」

「そうですか、よかったです」

「じゃあ、そろそろ戻りましょう」

「はい」

 

その後もいつもの涼しい顔は変わらなかったが、どこか上機嫌な声音色に、さすがのカナメは気づいたらしく色々と問い詰めている。そんな光景を見て、ここの皆を絶対に守り抜くと決意をした花蓮であった。

 

次の日ーーー

 

「待ちなさい!ハヤテ・インメルマン!」

「俺は空を飛びたいんだよ!」

 

艦内を走るハヤテとそれを追いかけるミラージュ。いつもの光景だ。先日の体験をしても、尚懲りていないらしい。

 

「カレン!お願いします!」

「はい!」

 

ハヤテの走る方向に、立ち塞がる様に立つ。

 

「へへっ!悪いけど抜かせてもらうぜ!」

 

左右のステップを付け、どちらに行くか揺さぶりをかける。そして、右に踏み込み、一気に駆け抜けようとするが、

 

「今日という今日は逃がしません!」

 

足を絡められ、体勢を崩したハヤテの胸と右腕を掴んで、床に叩きつける。

 

「いって!」

 

縄を取り出し、手首と足首を結ぶ。

 

「ハヤテ候補生、確保!チャックさん、ハヤテ候補生を講習室に連行してください!」

「あいよっ!」

 

身動きの取れないハヤテを担ぎ、花蓮、ミラージュと共に講習室に連行されるハヤテを見て周りの人達から、見事な連携に拍手を送られた。

 

「ちくしょー!」

「元気がいいのはいいんですが・・・・」

「全くだな、しっかり勉強しろよ?新米」

「このバカが!私とカレンにあなたが勝てるわけないでしょ!」

 

花蓮は苦笑いし、チャックは愉快そうな顔でハヤテを見る。ミラージュはプンスカ状態だ。

 

「ーーーーの活躍により第一次星間大戦は幕を閉じました。そしてーーー」

「ふぁぁ・・・・」

 

退屈なミラージュの講習は、ハヤテにとって苦痛でしかなかった。花蓮も後ろの方で監視をしながら聞いていた。花蓮は一通りの講習も終えている。もちろん、ミラージュによるものだ。

 

(わかりやすいんだけど、ミラージュさん真面目すぎるからなぁ・・・・)

「聞いていますか!ハヤテ・インメルマン候補生!」

「空、飛びてぇな・・・・」

「・・・・・わかりました、そこまで言うなら飛ばせてあげましょう」

(ミラージュさん?)

 

ブリーフィングルームーーー

 

「実技教練?」

 

クラゲのスルメを咥えているアラドが、ミラージュが言ったことを口にする。

 

「はい。ハヤテ候補生は勉学はともかく、実技での成績は優秀なほうです」

「そうか。・・・・で、誰が教えるんだ?」

「私がします!」

「俺はまだ早いと思うんだが」

「空を飛ぶ厳しさを教えてあげるだけです。言ってもわからないバカは、身を持って思い知らせた方がいいと考えました」

「なるほどな。わかった」

「ありがとうございます」

 

そう言ってブリーフィングルームを出ていく。外で待っていた花蓮はミラージュが出てくると、話の内容を聞く。

 

「どうだったんですか?」

「明日に実技教練をします。今度こそ、あのバカを正してみせます!カレンには一応もしもの時のために、機体内で待機、ということでいいですか?」

「わかりました」

 

そういう事で今日も終わりを告げる。明日はハヤテの実技教練。名目上はそうだが、目的は空を飛ぶ事の厳しさを教えると共に、講習をきちんと受けさせること。

 

(大丈夫かな・・・・)

 

一抹の不安を覚える花蓮であった。




美雲さんのキャラが・・・・


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Mission06 ハヤテ・インメルマン 2

ハヤテが初めて機体を操縦!

カナメとも進展か!?


実技教練当日ーーー

 

花蓮とマキナはアイテールの甲板で、教練にてミラージュとハヤテが使う赤と青の機体を見に来た。ぜひ見たいと言い出したのはマキナの方だが。

 

「VF-1EX。統合軍が初めて実戦配備した、全てのVFシリーズの基礎となる機体・・・・!アップデートされたEX型、練習機として最適!つまりは!きゃわわっ♡」

「最後のきゃわわにはどういう意味が・・・・?」

 

全くをもってマキナワールドを理解するのは難しい。そして、それぞれの機体がカタパルトによって射出され、教練が開始された。

 

(僕もランスロットに行かないと)

 

マキナはまだ見ているらしく、花蓮はカタパルトデッキに、発艦準備をしているランスロットに乗り込み、起動して待機する。

 

「いいかヒヨッ子、まずは基本から。右浮上旋回いくよ!右ロール、戻してラダー補正、ピッチアップ、推力増加!」

 

先導してミラージュがして見せる。

 

「右か!」

 

操縦桿を右に倒すが、ハヤテのVF-1EXが回転しながら落下する。倒しすぎたのだ。

 

『バカ!早く戻して!』

「うおお・・・・!」

 

襲い来るGに耐えながら、操縦桿を左に倒すが、今度は左に回転しながら落下する。

 

『今度は戻しすぎ!』

 

するとAIサポートが作動し、自動的に操縦桿を動かし修正、なんとか海に落ちずに済んだ。

 

『ったく!だからちゃんと講習を受けなさいとあれほど!』

「はぁ・・・はぁ・・・!」

「さっさと上昇反転して私の後ろに付きなさい!」

「くっ!言われなくたって・・・・!」

 

今度は手前に引きすぎて、機体が垂直なる。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

なんとか機体の体勢を整えようとするが、言う事をきかずまた落下を始める。

 

「くっそ・・・・!」

『何やってるの!また失速!』

 

ピピピッ

 

AIサポートが作動し、自動的に操縦桿を操作、体勢を整える。

 

「AIのサポートが邪魔で思い通りに動かせないんだよ!」

「あなたが思い通りに動かしたら即墜落です」

『なにっ!?』

「はぁ・・・あっそ」

 

ディスプレイをタッチすると、『support off』と表示される。ハヤテのVF-1EXのAIサポートが解除された。

 

「うおっ・・・!」

 

機体が少しだけガタつく。どうやらAIサポートの縛りが解除されたのは本当らしい。が、サポートが解除された途端、機体があちこちに飛び回る。

 

『戦闘機は機動性を上げるため、わざと安定性をオフにしています』

「うわぁぁぁぁっ!」

 

海に向かって一直線のVF-1EXを見て、

 

「身の程知らずが・・・・」

 

ディスプレイをタッチしようとした途端、音声が聞こえる

 

『ミラージュさん、僕が行きます。ハヤテ候補生の講習は今ので終了していいんじゃないでしょうか、後は最終試験で入隊を決めるか否かは、艦長や隊長に任せましょう』

「それもそうですね・・・・わかりました。カレン、お願いします」

『了解』

 

カタパルトにランドスピナーをセットし、

 

「発艦!」

 

ランスロットを空に向かい射出し、フロートユニットを起動。スラスターをフルスロットルで吹かし、落下を続けるハヤテの機体へ向かう。その速さは、ファイターモードのVF-31にも劣らない速さだった。落下を続けるVF-1EXを両腕でつかみ、海面ギリギリで、受け止めた。コックピットをズームで見ると、当のハヤテは荒く息をし、項垂れていた。回線を開き、ハヤテに問いかける。

 

『ハヤテ候補生、聞こえますか?』

「カレン・・・・?」

『以上のが、本来ミラージュ少尉の講習で受けるはずの内容です。ですが、あなたは実技形式という形で講習を受けたことにします。この後は最終試験行い、あなたを入隊させるかどうかを決めます』

「今すぐか・・・・?」

『いえ、あなたも疲れたはずです。最終試験は明日に行います』

 

そこで実技教練は終了した。

VF-1EXを格納庫にしまい、ランスロットもエレベーターの上に着艦させ、エレベーターで格納庫まで行かせる。

 

「きっとハヤテ候補生、いいパイロットになりますね」

 

近くにいたミラージュにそう話しかけるが、本人は渋い顔のままだった。

 

「あのままじゃ、確実に堕とされます。とてもじゃないけど、入隊させるわけにはいきません」

「じゃあ、最終試験の相手は・・・・」

「もちろん、私がします。ハヤテ候補生の教官である以上、私に責任がありますから」

 

確かに花蓮も教官だが、本来はミラージュの役目だ。ここは彼女の言う通りにしておこう。

 

「わかりました」

 

今日も終わりを告げるが、花蓮はランスロットの微調整があるため、アイテールの格納庫に残って作業をしていた。

 

「特に異常はなしか・・・。マキナさんやここの整備班の皆さんには感謝しないと」

 

花蓮一人しかいない格納庫は、朝昼のように人の声や、機械音が響いていない。そのためか夜の格納庫は少しだけ不気味だった。

 

「よいしょっと・・・帰るか」

 

電気を消し、外に出る。いつ見てもラグナの夜空は綺麗だ。星の輝きや天の河がしっかり見える。アイテールからエリシオンに移動し、下に降りるためのモノレールに乗り込む。さすがに遅い時間だけあって、中には誰もいなかった。ゆっくり動き出し、段々したに降りていく。朝とは違う景色が見れて、全く飽きない。

 

「綺麗だな〜」

 

途中下車などが全くないため、あっという間に着いた。モノレールから降りて、『裸喰娘々』へと向かう道に一人の女性が立っていた。

 

「・・・・カナメさん?」

 

道の壁に寄りかかり、空を見上げているカナメに声をかける。

 

「あ、カレンくん。お疲れ様」

「お疲れ様です、どうしたんですか?こんな遅くに。忘れ物ですか?」

「ううん、カレンくんを待ってたの。ほら、子供一人で帰らせるのは危ないでしょ?」

「それはカナメさんもですよ。女性がこんな遅くに一人でいては危険です。それに有名人なんですから、尚更ですよ」

「う・・・・それはそうだけど・・・・」

「でも、嬉しいです。ありがとうございます」

 

それから並んで歩いていく。

 

(喉渇いたな〜。あ、栄養ドリンクがあったんだ)

 

隊服のポケットからチューブ状の栄養ドリンクを取り出し、キャップを開け、咥える。水分補給にしてはかなり勿体無いが、仕方がない。栄養ドリンクを飲みながら端末を見ていると横からの視線に気づく?

 

(なんだろ?)

 

横を振り向くと、それより少し遅れ、カナメが前を見る。全くわからない。一体どうしたと言うのだ。

 

(もしかして、喉が渇いてるのかな)

 

だとしたら、自分だけ飲むわけにはいかない。花蓮が辿りついた答えは、

 

「カナメさん」

「は、はい!」

 

横を見ようとしたのか、声をかけられビクッとし、物凄い速さで前を向く。

 

「あの、飲みますか?」

「えっ・・・・!?」

(そ、それって間接キスじゃ・・・・!)

「?」

(あれ?違ったのかな)

 

しばらくえーとや、うーんとを繰り返し口にする。よくよく考えたら、男女二人で歩いているって状況、他人から見れば恋人同士では?という考えがカナメの頭を駆け巡り、一人で顔を赤くしているのだ。それを露知らず、飲みかけのドリンクを渡してくる彼の鈍感さには・・・・

 

「だ、大丈夫よ。カレンくんが飲んで?」

「そうですか?」

 

なんとかそれだけを言うことが出来た。

 

(私だけ意識しすぎて顔を赤くしてるなんて・・・・!)

 

恥ずかしさにまた顔が赤くなる。

 

(カレンくんのバカ!鈍感!)

 

心の中で叫んでも本人に聞こえるわけがない。そんなことはわかっている。そして、とうとう『裸喰娘々』に着いた。ここでカナメとはお別れになる。女子寮と男子寮は別々だからだ。

 

「ありがとうございました」

「う、ううん。今日はゆっくり休んでね」

「はい」

 

花蓮に背を向け、女子寮に帰ろうとした時、後ろから声がかけられる。

 

「カナメさん!」

「ん?なに?」

「また明日っ」

「!」

 

年相応の可愛らしい笑顔でそんな事を言われてしまった。少しだけ、自分の時間が止まったかのように思えたが、なんとか返答する。

 

「うん、また明日」

 

そう言って駆け足でかけていく。あの場所を早く離れないと不味い気がしたのだ。

 

(また明日、か・・・・)

 

たった一言でも、カナメにとっては嬉しかった。



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Mission07 緊急 スクランブル

ワルキューレの2ndアルバムの12曲目が愛・おぼえていますかで、嬉しくて鼻水が止まりません


無事、ハヤテ候補生の最終試験は合格に終わり、はれてΔ小隊、コールサイン Δ5として入隊を果たした。ミラージュは不服そうな顔をしていたが、ハヤテの成長ぶりに関心していた。

 

「これからもよろしく頼むぜっ!教官殿!」

 

ミラージュにそう言って、その場を後にする。コックピットからミラージュが降りてき、花蓮の元へとやってくる。

 

「やられました」

「すごいですね、彼。実戦で成長するタイプなのでしょうか」

「そうかもしれないです」

「しかし、ハヤテくんの機体の動きが急に鋭くなったのは一体・・・・」

「わかりません。ですが、フレイアの歌が聞こえてきた瞬間、ハヤテの動きが鋭くなっていました」

「フレイアさんの歌が?」

「ええ。何故かはわかりませんが、聞こえてきたんです」

(これも《ワルキューレ》の力なのかな・・・・)

 

それからメッサーと話し合い、ミラージュとハヤテの戦闘ログを取ることに決まった。

 

「あの、僕はいいんですか?」

「ああ、お前の実力は十分にわかっている。扱う機体が違うからな、アドバイスしようにも出来ない」

「確かに・・・・わかりました」

 

それからメッサーも早めにあがり、アイテールに残ったのはまた花蓮だけとなった。

 

(さてと、僕もシャワー浴びたら帰ろっかな・・・・)

 

と、思った瞬間、艦内の緊急発進(スクランブル)警報が鳴り響く。

 

「スクランブル・・・・!?」

 

花蓮はすぐさまブリッジに向かい、走り出す。

 

ーーーーー

 

「艦長!UNKNOWNがラグナ近辺の宇宙空間でエンフォールド!エリシオンに向かい、大気圏を降下中です!」

 

索敵レーダーに五つの飛来物がこちらに向かって来ていた。

 

「UNKNOWNだと・・・・?今艦内にいる発進可能なパイロットはいるか!?」

「カレン准尉一人だけです!」

 

するとブリッジの扉が開き、花蓮が息を切らして入ってくる。

 

「じょ、状況は・・・・!」

「このエリシオンに所属不明のUNKNOWNが五機接近してきている。まだ敵と判断したわけではないが、事態は急を要する!アイテールをランスロット発艦ポイントまで移動させる。カレン准尉、直ちに現場に急行し、UNKNOWNを強襲せよ!」

「了解!」

 

すぐさまアイテールに向かい、来た道をダッシュで駆け抜ける。スクランブル警報で従業員も廊下を走りながら往復している。その間を上手く避けながら、アイテールに着いた。パイロットスーツには着替えず、隊服のままコックピットに乗り込む。すると、マクロス・エリシオンの左腕部、Δ小隊の母艦、アイテールが本艦から離艦し、ランスロットの発艦ポイントまで移動を開始する。

 

ーーーーーーーー

 

「アラド隊長」

「カナメさん?」

「今夜、一杯どうです?」

「お、いいですね・・・・」

 

突如、上空に巨大な艦が空を覆う。

 

「あれは・・・アイテール!?なんで・・・・」

 

カナメが驚愕に目を剥く。アラドがすぐさま端末を取り出し、艦長専用のものに着信を入れる。

 

「私だ」

『アーネスト!これはどういう事だ!』

緊急発進(スクランブル)だ」

『なんだと!?』

「現在エリシオンにUNKNOWNが接近中だ。幸いにも本艦で残っていた戦闘員であるカレン准尉が単独で撃破に向かった所だ」

『カレン一人だけだと!?危険すぎる!俺が今すぐ行く、アイテールを戻せ!』

緊急発進(スクランブル)だと言ったはずだ!今からお前が来ても、間に合わない。今はカレン准尉に任せるんだ」

『くっ・・・!』

 

ーーーーーーーー

 

『カレン准尉。現在アイテールはランスロット発艦ポイントまで移動中。所属不明のUNKNOWNの武装から、偵察などではなく破壊が目的と断定。ランスロットはフロートユニットを装着し、UNKNOWN(これ)を強襲、撃墜せよ!』

「了解」

『アイテール、発艦ポイントに到達』

 

アイテールはその場で滞空。ランスロットを乗せたエレベーターがアイテールの甲板に移動し、甲板から横一直線に伸びるカタパルトデッキが出現。凹みにランドスピナーをセットし、フロートユニットを装着する。

 

『カレン准尉、状況を確認します。現在もなおUNKNOWNはエリシオンに向けて飛行中。レーダー反応、計五機。全て、新統合軍の機体ではありません。ランスロット、発艦準備』

 

右腕を前に構え、前傾姿勢になる。

 

『ECMによるノイズ、クリーニングスタート。フェイズをプリセット。先行して敵機配置、送信』

「データリンク確認」

『コンプリート』

(数は少ないけど、必ず指揮をとる機体があるはずだ)

「敵機司令機の現在位置確認後、送信願う」

『チャンネルMB、ラジャー』

「ランスロット・エアキャヴァルリー M.E.ブースト」

『発艦!』

「発艦!」

 

凄まじい勢いで射出。フロートユニットを起動し、スラスターを吹かせる。

 

「いきなりで悪いけど、手加減はしない!」

 

腰にマウントされていたV.A.R.I.Sを左手で掴み、ノーマルモードのエネルギー弾を一機に向けて撃ち、そのエンジン部分を破壊。パイロットが脱出したのを確認すると、アイテールに連絡を入れる。

 

「パイロットの脱出を確認。直ちに拘束を」

『了解。拘束用ドローンをそちらに向かわせます』

「よし、これで・・・・」

 

視線を戻し、残りの四機を見据える。四機のUNKNOWNは一斉に大量のハイマニューバミサイルをランスロットめがけて発射し、それをすぐさまファクトスフィアでスキャン、データを反映する。スラスターをフルスロットルで吹かせ、上に向かい飛ぶ。それの後を追うように雲を引きながら飛んでいき、花蓮はスラスターを弱め減速し、ミサイル同士をぶつけさせて破壊し、またフルスロットルで飛ぶ。ループや先程のを何回か繰り返し確実に数を減らしていく。するとコックピットの敵機のパイロットらしき声が響く。

 

『ば、バカな・・・・ハイマニューバミサイルを躱しているだと・・・・』

『あ、あれが、ケイオスの最新鋭機なのか・・・・?』

『ファイターの状態じゃないのに何故あんなに速く飛べる・・・・!?』

 

躱せるのはファクトスフィアで、ミサイルの軌道を先読みしているからである。残り数が少なくなったところで、V.A.R.I.Sをバーストモードに変形させ、エネルギーを収束。今も残りのミサイルがランスロットに飛来しているが、極一点砲撃のエネルギー砲が軸線上全てのミサイルを破壊する。その砲撃は四機のうちの一機の機首と機体の間に命中し、真っ二つする。コックピットから脱出するが、拘束用ドローンに捕まり、これで二人目となった。

 

「後は近接で!」

 

空いている右手でMVSを抜く。刀身に超高周波振動をおこし、近接戦闘では絶大な威力を発揮する。超高周波振動を起こすため、刀身は紅く染まる。一瞬にして間合いを詰め、三機のうちの一機の機首と機体の間を斬る。超高周波振動による切断のため、摩擦熱による発火は心配ない。三人目のパイロットを拘束用ドローンが回収。もう一機にも同様な攻撃を仕掛け、パイロットを回収。そしてランスロットに通信が入る。

 

『司令機は確認出来ず。どうやら既に命令を受けて来たようです』

「了解、ではこのままパイロットをドローンで回収した後、アイテールへ帰投します」

『了解』

 

残りの二機のうちの一機に、右腕のスラッシュハーケンの刀身を展開した「メッサーモード」にし、肉薄。ガウォークに変形するが、両腕を切り落とし、MVSで機首と機体の間を切断。そして、脱出したパイロットをドローンで回収。残り一機となった。オープン回線を開き、パイロットに問いかける。

 

『これ以上の抵抗は無駄です。大人しく投降してください』

 

それに応じ、敵機もオープン回線を開く。

 

『・・・・我々をどうする気だ』

『それは上が判断します』

『殺すのか!?』

『僕は艦長の命令により、あなた達の強襲、及び撃墜の任を負っています。ここであなた達を生かすも殺すも僕次第です。ですが、僕には殺すことは出来ません。ですからあなた達には捕虜として来てもらいます。今すぐ機体を捨て、このドローンに乗ってください』

 

敵機の真正面に、回収された仲間のパイロット達が拘留されたドローンが飛んでくる。観念したのか、ハッチを開き大人しくドローンの中へと入っていった。アイテールに連絡を入れる。

 

「状況終了。これより帰投します」

『了解。お疲れ様でした』

 

それからアイテールに戻り、マクロス・エリシオンへと帰還。本艦とドッキングする。それから花蓮が捕らえた敵機のパイロット達はレディM、上層部らに引き渡した。きっと、取り調べなどが行われるのだろう。尋問などはされない・・・はず。ランスロットを格納庫にしまい、コックピットから昇降用ワイヤーに掴まり、降りる。エナジーフィラーのエネルギーも残り僅かだっためギリギリであった。

 

「燃費悪いのどうにかならないかな・・・・」

 

また一つ、課題が出来た。すると、アラドが花蓮の元へとやってくる。

 

「お疲れさん。かなりの活躍だったみたいじゃないか。パイロット全員を無傷で回収するとはな。それと、一人で行かせてすまなかったな」

「いえ、大丈夫ですよ」

「詫びといっちゃなんだが、明日お前さんを非番にしておいた。ゆっくり休んでくれ」

「いいんですか?」

「ああ、大分無茶させたからな。事後処理は俺達に任せてくれ」

「わかりました、ありがとうございます」

 

確かに時間を見ると午後の9時を指していた。回収した機体は、整備班や開発部が調べているらしい。初めてのスクランブルから無事に帰ってこれただけでもかなりいい方だ。さっきのようなことが戦争になれば頻繁に起きるのだと思うと、少しだけ気が重くなる。

 

(早くシャワーを浴びて帰ろう)

 

エリシオン艦内の廊下を歩いていると、《ワルキューレ》の皆が、休憩室で心配そうな顔で話し合っているのを偶然見つける。

 

「ね、ねえ、カレカレ大丈夫かな。スクランブルで出動して結構時間経ってるけど・・・・」

「だ、大丈夫決まっとる!」

「でも、一人で行ったら帰還率はかなり低い・・・・」

「カレンくん・・・・無事で帰ってきて・・・・」

「・・・・・」

(声が小さくてよく聞こえない・・・・・なんか盗み聞きしてるみたいでやだな。何してるかちゃんと聞こう)

 

ドアを開けると、《ワルキューレ》の皆(美雲以外)がビクッと肩を揺らす。

 

「あ、あの〜・・・・こんな遅くに何してるんですか?」

 

皆の目線が花蓮に集まり、時間が止まる。そして、一番最初に動き出したのがマキナであった。

 

「か、カレカレだぁ〜〜〜!!」

「え、ちょ、ま、マキーーー」

 

言う前にマキナの豊満な胸に顔が覆われる。

 

「ホントにカレカレだよね!?ちゃんと帰ってきてんだよね!?」

「ぷはぁっ は、はい」

 

マキナの目からは涙が流れていた。他のメンバーも涙を拭いていた。フレイアはボロボロ流しっぱなしだが。

 

「ど、どうして泣いてるんですか!?まさか怪我でもしたんですか!?待っててください、直ぐに応急箱を・・・・」

「違うんよ、カレン」

「え・・・・?」

「みんな、心配してたんよ?カレンが中々帰ってこんから・・・・」

「あ・・・・」

(知らないうちに皆に心配かけてたんだ・・・・)

 

改めて皆の優しさを感じる。心の奥まで染み渡り、疲れが取れていくのを感じる。

 

「心配、かけてすみません・・・・」

「本当、心配かけさせて」

 

美雲が花蓮の頬に手を這わせる。ちゃんと帰ってきたことを実感するために。

 

「大人ぶっちゃって。美雲も結構動揺してたのよ?」

 

カナメがいたずらな笑みを浮かべる。

 

「カ、カナメ・・・!」

「あら?図星だったの?」

「ま、まぁいいわ・・・・」

「素直じゃないな〜、クモクモは」

「だけど、そこにファンが惹かれるのもわかる」

「なんか歳に対して、幼さがありますもんね〜」

 

花蓮は美雲がからかわれているのを初めて見る。

 

(本当に仲がいいんだ)

「そんなことより」

 

美雲が花蓮に向き直り、笑みを向ける。そして、フレイア、カナメ、マキナ、レイナ、美雲が揃って口にした。

 

「「「「「おかえり」」」」」

(あ・・・・・)

 

この暖かさだ。幼い頃、母に抱かれた時に感じたあの優しい暖かさに似ている。

 

(そっか・・・・僕はこの温もりを・・・・・)

「ただいまです」

 

この暖かさがあれば、何度でも戦える。守ることが出来る。改めて、そう思ったのだった。だがしかしーーー

 

「〜〜〜ッッ!! だからってシャワールームまで付いてこないでください!」

「いやー、だって〜」

「身体のどこか痛めてるかもしれない」

「背中洗うの、ゴリ頑張るかんねッ!」

「髪も洗って上げましょうか?カレンくん♪」

「大人しくしてなさい」

「や、やめ・・・・ッ!」

 

やめろぉぉぉぉぉぉおおーーーー・・・・

 

夜空に花蓮の絶叫が響き渡ったのは、ここだけの話し。



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Mission08 休日 ホリデー

マクロスΔの劇場版やってほしい・・・・


朝、普通なら小鳥の囀りが聞こえるはずだ。まだ、カモメならいい。だが、このラグナは違う。

 

「ニャー」

「ニャーオ」

 

ウミネコが鳴くことで花蓮の朝は始まる。

 

「おはよう、シロ」

「ニャー」

 

白い身体で、顔が猫、身体がアザラシというこのウミネコの子供はよく花蓮の部屋にやってくる。身体が白いから『シロ』と名付けた。捻りも何も無いことは言わないでほしい(カレンの要望)。先日、ミルクをあげたせいで懐いてしまったのだ。シロは花蓮の肩に乗り、一緒に下に降りる。肩はシロのお気に入りの場所らしい。今日は非番ということで、シロと散歩でもしようと思っていた。その前に朝食を取るために、チャックの元へと行く。よく艦内の食堂で取るのだが(銀河イチゴ目当て)、非番のため今日は『裸喰娘娘』で取ることにした。

 

「おはようございます、チャックさん」

 

厨房の方に行くと、チャックがみんなの朝食を作っていた。流石、この店の店長だ。

 

「おっ、おはようさん。非番だってのに偉いなー」

「習慣づいてしまって・・・・」

「おはようございまーす」

「誰だろ?」

「カッナメっさーーーーん!」

 

真っ先に反応したのがチャック。声だけで分かるとは流石?だ。

 

「あら、カレンくん。早いんだね、おはよう」

「おはようございます、カナメさん」

「シロちゃんもおはよっ」

 

肩に乗っているシロに目線を合わせ、笑顔で挨拶すると、シロも嬉しそうに「ニャーッ」と鳴いた。

 

「あ、カレンくんも、もちろん可愛いよ?」

「え?なんですか?」

「な、なんでもない・・・・」

(折角普通に言えたのに・・・・)

 

当の本人はテレビを見ていた。

 

「おはようございます」

「おはようございまぁす」

「おはよ」

「おっはよー!」

「・・・・・」

 

ミラージュ、マキナ、レイナ、フレイア、美雲の順に入ってくる。そして二階からハヤテも眠そうな顔で降りてきた。

 

「ふぁぁ・・・・・っはよーっす」

「こらハヤテ!ちゃんと挨拶せんといけんよ!」

「お、おお。悪ぃ」

「皆さん、おはようございます」

「ニャーッ」

 

花蓮がそう言うと、肩に乗っているシロはちっちゃい手を上げる。挨拶のつもりなのだろう。

 

(ん?)

 

皆の目線が肩の方へと注がれる。

 

「ニャー?」

「きゃーーー!ウミネコの子供ーーー!」

「シロシロ〜、おいで〜」

「ニャ〜」

 

花蓮の肩から飛び降り、トテトテとマキナの方へと歩いて行く。

 

「よーしよーし」

「ゴリ可愛いやんね〜」

「仔ウミネコですか」

「ちっちゃい」

 

マキナが抱いているのをフレイア、ミラージュ、レイナが見ながらメロメロになっていた。

 

「ハヤテくん、君も触ってみてください。可愛いですよ?」

「え、いや、俺は・・・・」

「大丈夫です!シロは噛みません!」

 

花蓮がシロを指さしながら笑顔で言ってくる。

 

「いや、俺は猫アレルギーで・・・・」

「「「「「「え」」」」」」

「は、ハヤテ、猫アレルギーかね・・・・?」

 

笑いを堪えながらフレイアが言う。何が面白いのか。

 

「な、なんだよ」

「辛いね、それは」

「おーい、皆、出来たぞー」

 

チャックのその一言で、朝食が始まる。

 

「このリンゴいっただきー!」

「あ、ハヤテ!それはあたしの!返すんよー!」

「好き嫌いはだめだよ、レイレイ」

「ニンジン嫌い・・・・」

「珍しいわね、美雲もここで食べるなんて」

「たまには、ね?」

「この前いい店見つけたんだ、一緒に行かないか?」

「彼女さん探しですか?」

「ち、違う違う!」

 

ジト目で睨むとチャックは言葉に詰まる。どうやら図星らしい。

 

「チャックさんも、早く結婚出来るといいですね」

「そーゆーお前はどういうタイプの女性と結婚したいんだよ」

「え、僕ですか?」

 

ピクッ

 

何時ぞやの時と同様、女性陣全員が聞き耳を立てる。ハヤテはもっしゃもっしゃと食べていた。

 

「考えたことなかったですね・・・・」

 

いざ、自分のこととなると全く答えることが出来ない。真剣に悩んでる花蓮を見て、《ワルキューレ》やミラージュは焦って口々に言う。

 

「カ、カレン?今すぐに決めてって訳じゃないんよ?」

「そ、そうよ!ゆっくり決めるといいわ!」

「た、確かに・・・・」

「カレカレのお嫁さん・・・・」

「ま、マキナさん!戻ってきてください!」

「落ち着きなさい」

 

美雲の静止で全員が落ち着きを取り戻していく。流石は美雲だと花蓮は関心した。

 

「皆さんもいつかは誰かと結ばれるかも知れません。そうなったら絶対に幸せになってください」

「カレン・・・・」

「そのためにもヴァール化の原因を早く突き止める必要があります。僕も、まだまだ未熟ですけど、皆さんのこと守り抜いてみせますから」

「こいつ!そんな事言うからお前はモテるんだよ!この無自覚天然野郎が!」

 

チャックは花蓮の頭を掴み、ヘッドロックを決める。

 

「痛い!痛いです!僕は思ったことを言っただけで・・・・!」

 

その光景を見て、笑いが起きる。こんな幸せが何時までも続けばいいと思った。

それから朝食も済ませ、皆はエリシオンへと行った。予定ではシロとの散歩だったが、どうやらマキナが連れてってしまったらしい。

 

「街に行ってみようかな」

 

それから数分歩き、市街地に出る。遠くにはマクロス・エリシオンが係留されているのが見え、海から吹いてくる風が気持ちいい。近くの店から飲み物を買い、看板のような電光掲示板に目を向けると、

 

『ドキドキ流し目ブランニュー からのキュンキュン涙(キラリ) ハートブレイクなドアをノックして ほ・し・い・のよーーー』

(あ、マキナさんだ)

 

何かのCMだろうか。マキナオンリーの歌が流れている。改めてこうゆう風に《ワルキューレ》が何かしらの形でメディアに出てるのは、やはり戦術音楽ユニットだけではなく、一般的にも人気が高い事がわかる。次の瞬間、

 

『貴女の想い人を、下着で仕留めちゃえッ♡』

「ブーーーー!」

 

口に含んでいた飲み物を吹き出す。なんと、このCMは女性用の下着だったのだ。当のマキナも中々際どいものを身につけ、寝そべったり、ポージングを取っている写真が出ては消えてを繰り返す。

 

「あ、あの・・・・」

「うひゃ!」

 

突然声をかけられ、声が裏返る。元々声はあまり低くないため、ただ高くなっただけだった。

 

「うひゃ?」

「え、あ、いや!何でもないですよ!?それより、何か用でしょうか」

「エノモト・カレンさん、ですよね?」

「あ、はい。でも、どうして僕の名を・・・・」

「あの、これ!」

 

声の主を見ると、自分と同い年ぐらいの年齢みたいで、可愛らしい女の子だった。差し出されたのは小さな紙袋と手紙だった。

 

「そ、それじゃ!」

 

少女は頬を赤くし、逃げるように走っていく。

 

「あ、あの!なんで僕の名前を・・・・行っちゃった。でも、なんだろこれ」

 

紙袋の中身は後として、この手紙は一体何なのか。もしかしたら《ワルキューレ》の誰かへのファンレターかも知れない。そう思い、手紙を丁寧にポケットの中にしまう。

 

「な、何するんね!」

「ん?」

 

少女の困惑とも取れる声が路地裏から聞こえてくる。

 

(でもさっきの喋り方どこかで・・・・・)

 

でも助けに行かないわけにもいかず、路地裏を、こっそり覗く。黄色がかった茶髪のショートボブを大きめのリボンで結んだ髪型の少女がチンピラに絡まれていた。

 

(あ、やっぱり・・・・)

 

花蓮の予想は的中した。

 

「は、離して!」

「あぁん?いいじゃねーかよ」

「へっ、アニキ、こいつ《ワルキューレ》のメンバーだぜ」

「ほぉう、コイツぁ上玉だな」

 

四、五人の男達が囲んでいた。そのうちの一人が、フレイアの腕を掴み、その服に手をかけようとした瞬間、

 

「僕の連れに何か様ですか?」

「え・・・・?」

「あぁ?」

 

フレイアを男から奪い返し、自分の元へと抱き寄せる。

 

「てめぇ、いつからいた」

「答える必要はありません。行こう、フレイアさん」

「カ、カレン・・・!?なんで、ここにいるんね!?」

「フレイアさんの声が聞こえてね。もしやと思ったんだけど、やっぱり絡まれちゃってたから」

 

そのままフレイアを連れて行こうとするが、後ろから男が殴りかかる。

 

「無視してんじゃねぇぞ!このガキィィィ!」

 

顔面に当たるはずの拳が華奢な手に寄って、防がれた。

 

「なっ・・・・!う、動かねぇ・・・!」

「少し、痛い目を見ないと分からないみたいですね」

 

手を離し、男の顔の当たりまでジャンプして、身体を回転させ、得意の回し蹴りを男の顔面に食らわせる。そのまま吹き飛ばされ、後ろの壁に激突。ズルりと地面に落ち、気を失った顔を見て、他の男達はゾッとする。

 

「見逃してくれるなら良かったんですが、向かって来るなら話は別です」

 

そのままニッコリ笑顔を作り、

 

「病院送りにされたいのなら、どうぞかかって来てください。僕じゃ至らないと思いますが、相手になりますよ?」

「ヒ、ヒィ〜!!」

「な、何が至らねぇだ!」

「お、覚えてやがれ!」

 

そのまま逃げていってしまった。

 

「全く、大勢で女の子一人に寄ってたかって」

「た、助かった〜・・・・」

「怪我はない?」

「う、うん、あんがと」

「立てる?」

「うん」

 

それからフレイアの護衛も兼ねて、街を散策することにした。フレイアも立派な有名人だ。確かに、襲われるのも無理はない。しかも変装もしないで出歩くとは。後でカナメに、外出時は変装を徹底するように提案しておこう。昼食も取り、午後は水平線が見える崖へと来た。海風が止めどなく頬を撫でていく。

 

「すごい・・・・水平線がくっきり見える」

「でしょ?ここ、あたしのお気に入りの場所なんよ!」

「いいね」

 

そこに座ると、草が風に揺れる音や、波が押し寄せる音が聞こえる。

 

「風が歌ってる」

「風が歌ってる、か・・・・」

 

音楽に関しての知識はあまりない。だがフレイアには分かったらしい。感性が豊かなのか。それとも生まれ持った天性の才能なのか、それは分からない。それとも、ルンが感じ取ったのか・・・・

 

「今日はあんがと、カレン」

「僕の方こそありがとう。お気に入りの場所を教えてくれて」

「そ、それはその・・・・・カレンだから・・・・・」

 

すると最後の言葉を遮るかのように突如強い風が吹く。

 

「え?ごめん!風の音でよく聞こえない!」

「な、なんでもなーい!」

 

空も夕焼け色に染まり、そろそろ帰ることにした。

 

「楽しかったやね〜!」

「そうだね。久しぶりにいい息抜きになったよ」

「あたしも」

(やっぱりカレンはゴリ優しいなぁ・・・・)

「フレイアさん?どうしたの?」

「ふぇ!?な、何でもないんよ!?」

 

いつの間にか花蓮の顔を見つめてしまっていたらしい。

 

「はは、そっか」

(わ、笑った・・・・!)

「へへ、えへへへへ」

 

なぜか、花蓮が笑顔だと自分も嬉しくなる。

 

(そっか、あたしやっぱりカレンのこと・・・・)

「これからも、一緒に頑張ろうね」

「はいなっ!」

 

飛びっきりの笑顔で答えた。

 

(お父さん、お母さん。あたし、初めてこんなにたった一人の人を好きになったんよ。いつか戻ったら、いっぱい聞かせてあげるかんね。あたしの初恋の人のことを)



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Mission09 衝撃 デビューステージ

表現するのが難しい・・・・


「じょ、女装して《ワルキューレ》のライブに出ろって・・・・なんで僕なんですか!」

「今回は惑星ランドールでのワクチンライブだ。もちろんお前も部隊に編成されてあるが、ライブのパフォーマンスは出来んだろ?それにいつヴァールシンドロームが発生するかわからん。最近は謎の機体が先日のライブ中に襲ってきたからな。護衛兼アイドル兼遊撃手として遺憾無く実力を発揮してくれたまえ、うん」

 

そう、花蓮の駆る機体はガウォークどころかファイターにすら変形できない、常に人型形態なのだ。可変式のKMFなら話は違っていただろうが。ようするに、敵が来るまでやることがないのだ。

 

「なーに、すぐに出ろって訳じゃない。お前の出たいタイミングでアイテール(・・・・・)から飛び降りてくれ」

 

さらっととんでもない事をアラドは抜かす。

 

「確かに女装して《ワルキューレ》のライブに出るのが僕の任務なのは分かりました・・・・ですけどなんで僕はアイテールからなんですか!?」

「いやー、《ワルキューレ》の乗るシャトルには彼女等の着替えとか色々な物が積まれてるんだ。そこにお前さん、居れるか?」

「た、確かに・・・・で、ですが、せめてランスロットに乗って下りるのは・・・・」

「無しだ。ランスロットも貴重な戦力の一つ。それに光学迷彩も搭載されてないだろう?一応カタパルトデッキには固定しておく。緊急の時はアイテールのオペレーターに言ってくれ」

「りょ、了解・・・・」

「もちろん《ワルキューレ》の皆には言っておいてある。それじゃあ、三十分後にアイテールに集合だ」

 

そこで解散となった。

 

「はぁ・・・・」

 

それから上層部から、作戦のためのアイドル衣装と、大まかなライブの説明書を貰った。女服なんて着たことがない。これは時間がかかりそうだ。

 

三十分後ーーーー

 

「よし、一人を除いて、皆揃ってるな。ミーティングを始める」

 

アイテールのブリーフィングルームに《ワルキューレ》とΔ小隊が集まる。

 

「まぁ、出撃といっても戦闘任務じゃない」

「当然っすよ、そういう契約なんですからそうでないと困りますからね」

 

そんな事を思っているのはチャックだけだ。

 

「イコニア恒星系、惑星ランドールの自治政府からワクチンライブの依頼があった。ランドールでのヴァール発症による暴動発生率が、一ヶ月以内の見通しで六十パーセントを超えたらしい」

 

ヴァール症候群を導き出すフォールド波の異常波形については、ある程度計測が可能になってきている。なぜそのフォールド波が観測されるのか、発信源は何なのか、今のところはわかっていない。が、人口密集地でフォールド波異常が起きると、ヴァールが起きるということらしい。そうした地域に《ワルキューレ》を投入し、ワクチンライブを行う。《ワルキューレ》の歌に影響された人々のフォールド波が鎮静化し、その遡及効果によりライブを聴かなかった人々にも副次的な影響ができる、というのがカナメの説明だった。

 

「ええと、人がしこたまいるとこに変なフォールド波が発生すると、ヴァールが起きやすい。だから人がめっちゃいるところでライブをやって、変なフォールド波を抑える。んでもって、しこたまいる人間のフォールド波の影響が収まるから、間接的にライブを聴いてない人の発症率も下がるってわけか」

 

ハヤテの理解は大雑把だが、間違いではない。

 

「そういう事です」

「なるほどなー」

 

ワルキューレが歌えば、ヴァールが予防できるということだ。実際パンフレットにも書いてあるし、効果も絶大である。

 

「だからこそ、《ワルキューレ》のワクチンライブを援護出来る俺達の任務は責任重大ということだ。銀河の至る所で、ワルキューレと同様のチームを編成しようという動きはあるらしいが、うちほど上手くいっているところはない。そもそもフォールドレセプターはそこら辺にいるものでもないしな。銀河の運命は、俺達にかかってるってことだ」

『おま、なんだその格好!』

『じ、ジロジロ見ないでください!好きで着てるんじゃないんです!』

『似合ってんじゃねぇか、お前の顔は女々しいからな』

『な・・・・!酷いですよ!見ててください、絶対身長伸ばして男らしくなりますからね!』

『おー、楽しみにしとくわ〜』

「おっと、本命の登場だな」

 

ドア越しから花蓮と整備班達の会話が聞こえ、ブリーフィングルームのドアが開く。

 

「もう、スカート短いよ〜・・・・足がスースーする・・・・・」

「「「「「「ーーーーー」」」」」」

「た、隊長・・・・この服、本当に僕のサイズに合ってるんでしょうか・・・・」

「おー、よく似合ってるじゃないか」

「か、からかわないでください!中尉からも何か一言を言ってください!」

「変装も任務の一つだ」

「た、確かにそうですけど・・・・」

 

スカートの前と後ろを隠しながらモジモジしている花蓮を見て、《ワルキューレ》とミラージュは固まった。ウィッグを付けて、本来の長さよりさらに腰の辺りまで伸び、端整すぎる顔には化粧が施され本当の女の子に見えてしまう。美しい赤の髪と大きな真紅の瞳が良く似合う。

 

「そ、想像以上だね・・・・」

「ここまでとは・・・・・」

「あれ、カレンやんね・・・・・?」

「なんかちょっと・・・・」

「悔しいけど、可愛い・・・・・」

「中々いいじゃない」

 

マキナ、レイナ、フレイア、ミラージュ、カナメ、美雲の順に感想を述べていく。

 

「似合ってるわよ、カレン」

「・・・・あんまり、嬉しくないです・・・・」

「ーッ!」

 

拗ねたように赤く染まっている頬を膨らませる。その顔をみた美雲は何とも言えない感情が押し寄せてきた。

 

「でも、任務である以上精一杯頑張ります!」

 

両手でガッツポーズを決める。しかし、ここにいる皆は思った(メッサー以外)。

 

(((((((((天使だ・・・・・)))))))))

 

エリシオンの片腕が音を立てて分離する。アイテールは、マクロス本体から見れば小さな船に見えるが、実際には二十世紀の原子力空母と同等、もしくはそれ以上のスケールがある。

 

「アイテール発進!月軌道に進出後、フォールドに入るぞ!」

 

第三戦闘航空団、つまりアイテールの司令を兼任しているアラドの命令一下、巨大な戦艦が反重力機関と反応エンジンによって、ラグナの重力を振り切り、真空の宇宙へと上がっていく。

 

「パッ シュワップ シュワシュ YEAR・・・・うーん、難しいなぁ・・・・」

 

音楽を流しながら踊りの再確認をしていた。いつも《ワルキューレ》はこのような踊りをしているのかと思うと、関心せざるを得ない。

 

『アイテール、エンフォールド。フォールド航行終了』

 

艦内アナウンスが響く。首にランスロットの起動キーを付けたペンダントをかける。

 

『カレン准尉、じょ、女装していつでも行けるように待機していてください・・・・プクク・・・・』

「な、なんで笑うんですか!?」

 

スピーカーに向かってついつい反論してしまった。アイテールはランドールの上空で停滞。そこから見えるのは大観衆と、彼らが振るホロ・ライトの輝きはまるで光の海だった。いつもディスプレイ越しからでしか見たことなかったため、実際に目にすると圧巻される。ランドールの宇宙港に作られた特設ステージに詰めかけた観衆はざっと十万人だろうか。だが花蓮の目にはそれ以上に見えた。事実、会場から溢れかえった客が会場の周囲に群れをなしているし、強引に重力制御艇を浮かべ、見物として洒落込んでいる金持ちも少なくない。ワクチンライブといっても祭りである。楽しんだ方が効果は高いし、そもそも効能など最初からあてにしておらずワルキューレのライブに熱狂しているという生粋のファンだけでも、半分は占めているはずだ。

口々に《ワルキューレ》の名を口にする、老若男女。

 

「なんか、僕場違いの気が・・・・・」

「カレン」

「はい」

 

隣には美雲が立っていた。

 

「緊張してる?」

「はい、あんなに大勢の前でこんな格好で歌って踊ってなんて言われてるんですから・・・・」

 

はぁ、とため息をつく花蓮の頭を、美雲の手が優しく撫でる。

 

「大丈夫よ、私達がカバーする。あなたはあなたのやるべき事に集中なさい」

 

そうだ。花蓮の任務は護衛だ。このワクチンライブを狙って襲撃を受けるかもしれない。ランスロットを発艦させた後、Δ小隊に合流。遊撃手として敵を無力化する。

 

(そうだ、それが僕の本来の任務)

「ありがとうございます、美雲さん」

 

それから《ワルキューレ》とΔ小隊はアイテールから出て、地上へと下りていった。舞台裏に《ワルキューレ》を乗せたシャトルが降りる。初めてみる大観衆にフレイアは目と意識が圧倒されていく。

 

「フレイア」

「は、はひっ!?」

 

隣に美雲が立っていることに気が付かなかったのも、意識が呑み込まれていたからだ。

 

「あなたはどんな想いで歌うの?」

「ほへ・・・・・どんなって?」

「歌には、想いを乗せなければならない。精神論の話ではなくて、あなたが何を表現するか・・・・それは、オーディエンスの反応にも直結している」

「ふやぁ・・・・」

 

フレイアは答えることが出来なかった。

 

「クモクモはどんな想いで歌うの?」

 

マキナが問いかける。それに美雲は微笑を浮かべ、

 

「今日、フレイアが私を満足させてくれたら教えてあげるわ。できなければ・・・・あなたは《ワルキューレ》に必要ない」

「!」

 

本気の目だった。そこには嘘も打算もない。たとえこの会場に隕石が落ちてきて全員が死ぬとしても、美雲が考えていることはそれをどうステージに生かすか、それだけだろう。だが、隕石が来てもきっと花蓮が守ってくれる。そんな安心感もあった。

 

「話はもういい?そろそろ開演よ」

 

カナメが手を伸ばす。始まりの儀式(ルーティーン)だ。

 

「銀河のために」

「誰かのために」

「今、私たち」

「瞬間、完全燃焼」

「命がけで、楽しんじゃえ!」

「「「「「GO!《ワルキューレ》!」」」」」

 

そして始まる。奇跡のステージが。

 

ーーーーーーーー

 

舞台裏のシャトルが飛び、少しの上昇した後滞空。そこから、レイナ、マキナ、カナメ、美雲、フレイアの順にシャトルから飛び出す。

 

「歌は愛!」

「歌は希望!」

「歌は生命!」

「歌は神秘!」

「歌は元気!」

 

衣装に付いてある、小型ジェットを吹かせステージにゆっくり着地するが、フレイアは慣れていないのか尻餅を付いてしまった。

 

「はわわわ!」

『おお!あれが新メンバーか!』

『可愛いぞーーー!』

「聞かせてあげる、女神の歌を!」

「「「「超時空ヴィーナス 《ワルキューレ》!」」」」

「わ、《ワルキューレ》!」

 

ステージの上から見るお客さんはもはや怒涛のようだった。十万の叫び、二十万の瞳がフレイアを見ていた。フレイアだけではないが、ここまで来たらもはや関係ない。

 

「改めて、新メンバーを紹介します!」

 

リハーサル通り、リーダーのカナメのフリがあった。

 

(何度も練習した通り、大丈夫・・・・)

「ウ、ウィンダミアから来ました!リンゴ大好き、フレイア・ヴィオンです!よ、よろしゅくおにゅぎゃいします!」

 

噛んでしまった。真っ赤になったフレイアだったが、それすらもキャラ建ての一環と認識してくれたようだ。何人もの観客がフレイアの名前を呼んでいる。プラカードを掲げたり、お揃いの衣装でコスプレをしている人までいる。デビューの発表は昨日だったのに、徹夜で作ってくれたのだろうか。それを見てフレイアは素直に嬉しかった。

 

「それともう一人!今日は特別ゲストも呼んでいます!」

 

ーーーーーーーー

 

『カレン、ライブが始まる。降下を開始してくれ』

「分かりました!」

 

アイテールの緊急脱出扉を開け、助走を付け身体を投げ出す。スカイダイビングだ。

 

(風を掴めば・・・・!)

 

するといきなり落下する速度が加速する。

 

「風に、乗れた!」

 

それを見ていたアラドとハヤテが驚愕する。

 

「あいつも風に乗ってやがる・・・・!」

「マジかよ・・・・!」

(すごい、身体が軽い!)

 

ステージに向かって、降下していく。既にフレイアの自己紹介が終わったと連絡が耳に付けている通信機に入っていた。

 

「あ、来た来た!」

「本当にアイテールから飛び降りて来たの!?」

 

マイクに声が入らないように手で塞ぎ、カナメは驚きの声をあげる。スポットライトが尚もステージに向かって生身で降下してくる花蓮を捉える。

 

『す、すげぇ!あれが特別ゲストか!』

『きっと可愛いんだろうな!でも聞いたことない名前だな、カンナ・シュタットフェルトって』

 

するとステージの上に、衣装のジェットを吹かせながら観客に背を向けた状態で着地する。

 

「紹介します!《ワルキューレ》の専属マネージャー!」

 

マキナから受け取ったマイクを口元に持っていき、ウィッグの長い髪をたなびかせながら振り向く。

 

「歌は祈祷(いのり)!カンナ・シュタットフェルトです!今日は《ワルキューレ》のワクチンライブという事で私も参加させてもらいます!皆さん、楽しんでいってくださいね!」

(よし!ここまでは台本通りだ!)

 

元々あまり低くない声を、さらに上げれば女の子の声と遜色無くなる。端整すぎる顔から放たれる満面の笑みは、二十万の観客達を奮い立たせてしまった。

 

『うおおお!可愛すぎるぅぅぅぅ!!』

『カンナちゃぁぁぁぁぁん!!』

『デカルチャー!!』

 

手を振ってくる大勢の人達に内心、ビビる。

 

「うわー、カレカレ初めてのくせにファンかっさらってく〜」

「カレンの笑顔は次元兵器なみやもんね〜」

「その例えは素直に喜んでいいのかな・・・・」

「お喋りしてる時間は無いわよ」

 

皆が頷きあい、観客達に手を振る。

 

「まずはこの曲、不確定性☆COSMIC MOVEMENT!」

 

そう美雲が言うと観客達はさらに盛り上がる。そっとマイクに手を置いて、

 

「満足出来なかったらクビよ?」

「!」

 

微笑を浮かべて美雲は言った。そして不確定性☆COSMIC MOVEMENTのイントロが流れる。

 

「宇宙の法則を破っても 死ぬまで躍らせて・・・・・Ah!」

「Ride on 3 2 1」

 

歌い出しはフレイアだった。間近で聴くと迫力は段違いで、聴いててとても心地いい。そして、フレイアの歌に合わせて覚えた振り付けで皆に合わせる。

 

「星も人も林檎も おなじ 胞子に量子 素粒子が」

「「「「パッ シュワップ シュワシュ YEAR」」」」

 

すると美雲が花蓮に手を振ってくる。そのジェスチャーを見て花蓮驚愕する。それは『自分の代わりに歌え』のジェスチャーだったからだ。曲は待ってくれない。もうやけくそになった。

 

(も、もうどうにでもなれっ!)

 

息を吸い、

 

「法則リズム ノっていても」

「「「「「!!」」」」」

「あえてハズしたら 変わる運命 予想外」

(うそ、カレカレ上手すぎでしょ!?)

(ビリビリ来る・・・・!)

(練習だってまともにしてないのに)

(ルンがルンルンしてる・・・・カレン!)

(ほんと、とんでもない子ね)

 

全員が初めて聞いた花蓮の歌声。そしてカナメは爪型のディスプレイを開く。

 

「えっ!?カレンくんの歌ったパートだけ、私達のフォールドレセプターがアクティブ状態になってる!ただ聴いてただけなのに・・・・」

(まさか、カレンくんはフォールドレセプターの生体フォールド波を増幅させる力でも持ってるっていうの・・・・?)

 

カナメの中に疑問が浮かんだ。

 

(よし、このまま皆に合わせれば・・・・・ッ!)

 

花蓮の脳内に電流のようものが走る。

 

(何だ・・・・?何か・・・・来るッ!)

 

「な、何だと!」

 

アラドのVF-31のARスクリーンの向こうで、敵襲を告げるアラートが光る。それだけで、アラドはアクロバットのダンサーの顔から、ベテランの戦闘機乗りの顔になる。すぐさまカナメに通信を入れる。

 

『カナメさん!』

「アラド隊長?」

(やっこ)さんが来ました!観客の避難を!』

「わ、分かりました!」

『デルタ・リーダーから各機。招かれざる飛び入りの客だ。例のUNKNOWN・・・・〈ファヴニル〉が出てくるぞ!』

 

一気に、ワクチンライブ会場の上空は混戦になった。被害を抑えるためにワクチンライブは中止、《ワルキューレ》はヴァールが発生した時のためのライブを続行。

 

「皆さん、シェルターはこちらです!」

(ランスロットを・・・・・!)

 

すると《ワルキューレ》の目の前に例の〈ファヴニル〉が機首の銃口を向けていた。

 

(チャンス!)

 

〈ファヴニル〉にダッシュで向かう。

 

「死ねぇ!《ワルキューレ》ぇ!」

「くっ・・・・!」

 

マキナはレイナと抱き合い、カナメと美雲は歯を食いしばり、フレイア胸の中で叫ぶ。

 

(助けて、カレン!)

「させるかぁぁぁぁ!」

「カレンっ!?」

 

全員が声がする方を見ると、花蓮がもうスピードで向かってくる。跳躍し、〈ファヴニル〉のキャノピーに掴まる。

 

「なっ!なんだ貴様!」

「悪いけど、上まで連れてってくれますか・・・・!」

「このッ!」

 

〈ファヴニル〉のパイロットはエンジンを吹かせ、猛スピードで上昇する。

 

「はははっ!そのままGフォースで潰れてしまえ!」

「ぐっ・・・・!!」

 

襲い来る風圧とGに耐える。

 

(あ、後少し・・・・!)

 

そして、雲海を抜けると花蓮はキャノピーから手を離し、首にかけていた起動キーを握る。そして、起動キーに付いてあるボタンを押す。

 

「来てくれっ!ランスロット!」

 

アイテールの甲板に固定されていたランスロットの双眸が翠色に光る。自動でカタパルトの凹みにランドスピナーをセットし、自力で射出する。

 

『で、デルタ・リーダー!こちらアイテール!』

「どうした!」

『ランスロットが、勝手に動いて・・・・』

「何だと!?」

 

花蓮は落下しながら、仰向けになる。雲の一部が一瞬煌めき、ボフッと雲を突き抜け、こちらに飛来してくる機体が見えた。

 

「来た!」

 

だんだん距離が近づき、花蓮の落下速度にランスロットがフロートユニットの速度を調整する。ハッチが開き、コックピットの座席が後ろへ移動。座席に捕まり、何とか座ると座席が前に移動、ハッチが閉まる。起動キーを差し込み、オートを解除する。スラスターを吹かせ、自分を上まで運んで行った〈ファヴニル〉へ飛翔する。

 

「ふん、あのバカ女。死んだか・・・・ん?」

 

 

ディスプレイには下から高速で接近してくる機体を知らせるアラートが光っていた。

 

「なんだ・・・・ッ!」

 

突如、横から雲を突き抜け飛び出してきた機体を見て、口にする。

 

「白騎士・・・だと・・・・」

 

ランスロットはMVSを抜き、コックピットと機体を二つに切り無力化する。

 

「隊長!」

『カレンか!』

「今から僕も行きます!」

『分かった!頼んだぞ、遊撃手!』

「了解!」

 

操縦桿を強く握る。

 

(皆は・・・・僕が守る・・・・!)

 

花蓮の両目のハイライトが消え、精神が研ぎ澄まされ、集中力が極限まで高まるのを感じる。

 

「行こう、ランスロット」

 

スラスターをフルスロットルで吹かせ、皆の元へと白騎士(ランスロット)を飛翔させた。



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Mission10 戦う理由

花蓮が戦う理由が明らかにーーー


いつの間にか大気圏を突破してきたのかーーーシャハルシティで仕掛けてきたあのUNKNOWNは、どうやら新統合軍の水準以上のステルスを備えているようだった。ハヤテのすぐ側を敵機ーーー名前がわからないので〈ファヴニル〉と呼ばれることになった機体の放ったビームがかすめていく。直撃すれば、死んでいたかもしれない。いや、死んでいた。背筋を冷たい汗が走る。それだけで、一キログラムは痩せたのではないかと思った。鼓動が速くなり、逃げ出したい気持ちを必死に抑える。

 

(これが・・・・戦場・・・・!)

デルタ2(メッサー)よりデルタ5(ハヤテ)へ』

 

空戦中は、お互いの機体番号を割り振ったコール・サインを使うように義務づけられている。聞き取り間違いを防ぐのと、通信傍受され個人を特定されないためだ。数字は小隊内での序列に直結しており、1またはリーダーがアラド、メッサーが2、3がチャック、4がミラージュ、そして5が新米のハヤテである。ちなみに花蓮はデルタ0(オー)の機体番号が振り分けられ、ちゃんとランスロットの肩の部分に《Δ00》のステッカーが貼ってある。0の意味はVFシリーズのどの部類にも属さない機体と言うことと、遊撃、つまり独自の判断で行動できることを意味している。

 

『くれぐれも単機で戦闘するな。〈ファヴニル〉のスペックはわかっていないが、こちらのミサイルや自動照準は無力化されると推測される。デルタ4(ミラージュ)と連携して挟みこめ』

「へーへー」

 

さすがのハヤテも言う事を聞くしかなかった。

 

『死にたくなかったら、戦う術を身につけろ』

 

あの時メッサーに言われた言葉が頭の中にこだまする。

まず、空戦においてもっとも大切な技術は、逃げることだ。敵の攻撃から逃げるにしろ、追従から逃げるにしろ、空戦は制空権の争いが秒単位で繰り広げられる。だからハヤテはまず逃げることに徹した。逃げて逃げて逃げまくれば、追いかけている敵が民間人や仲間を撃つ事はない。そして逃げている間は、死なない。そうしている間に味方が反撃の準備をしてくれる。猪突猛進して死んだところで、ブリキで出来た勲章をもらってそれでお終いなのだから。

 

『デルタ0から各機へ!撃ち漏らしがそちらへ行きました!』

「デルタ1、了解」

「デルタ2、了解」

「デルタ3、わかったぜ!」

「デルタ4、了解しました!」

「デ、デルタ5、了解!」

『デルタ5はあまり先行し過ぎないようにしてください!逃げ回ることも、敵にとっては厄介ですから!』

「わ、わかった!」

 

ーーーーーーーー

 

カナメのすぐ側で、バラボラ型のフォールド波変調装置がまた一つ破壊された。彼女達の歌に含まれるフォールド波成分を拡大し、飛ばすことができる変調装置はワクチンライブの急所である。これが破壊されると、せいぜい近くのシェルターに避難した人々にしか歌の効果を及ばすことが出来ない。都市全域をカバーするには変調装置が必要なのだ。

 

(敵は私達のことを研究している・・・・・!?やっぱりただのテロリストや宇宙海賊なんかじゃない!)

 

ーーーーーーーー

 

「あの金色の機体・・・・まさか、あれがリーダー機か・・・・!」

 

すぐにスラスターを吹かせ、金色の縁取りを施された〈ファヴニル〉へと向かう。それに気付いたのか、金色の〈ファヴニル〉はミサイルの雨をランスロット目掛け発射するが、集中力が極限まで高まっている花蓮にはそんなものは当たる訳がなく、僅かな動きで躱していく。首を曲げるだけ、腕を上げるだけ、ブレイズ・ルミナスで防ぐだけなど、極最小限の動きや武装でいなしていく。だが、花蓮も驚いていた。

 

(なんて腕だ・・・・!)

 

これほどのパイロットがいるとは信じられなかった。コックピットは装甲が施されていて見えないが、どうやら無人機ではないらしい。それは動きに人間的なクセがあることからも推測できる。無人機でも、サイバー・コントロールによる遠隔操縦でもない。〈ファヴニル〉には人が乗っているーーーー。

だが、その技倆は人間とは思えなかった。普通の人間なら失神どころか、骨がへし折れて死ぬであろうタイミングでターンをかけ、加速Gをものともせずに突っ込んでくる。V.A.R.I.Sのエネルギー弾を数センチの距離で回避し、悉く躱す。

 

(噂の装甲強化兵(サイバーグラント)というやつか・・・・・だけど、開発元のギャラクシー船団は壊滅したと聞いてるけど・・・・)

 

人間の常軌を覆す動きをとる金色の〈ファヴニル〉と互角のドッグファイトを繰り広げるランスロットも、それを操縦する花蓮も、最早人間の枠では収まっていない。集中力が極限まで高まった状態の花蓮の目はハイライトが消え、光のない虹彩はいつも明るい印象とは裏腹に、冷たい印象を与える。

 

『こちら・・・・・デルタ、聞こえますか?』

 

電波障害の向こうから、オペレーターの声がした。アイテールからだ。

 

『ランドール統合軍、第五航空戦隊が支援に向かいます・・・・・こちらも、〈ファヴニル〉と交戦中・・・・』

 

空母からの援軍は望めないが、ランドールの第五航空戦隊なら確か、

 

(第924飛行隊〈マスケッターズ〉を中心にした精鋭部隊のはず)

 

敵の〈ファヴニル〉は、アイテールに向かったのが二十機ほど、こちらには残り六機。膠着した状況に第五航空戦隊が加われば、勝てる。

 

(後は僕がこのパイロットをたたくだけ)

 

フロートユニットのスラスターの向きを巧みに変え、後ろを取られては取り返し、また取られては取り返すのやり取りを続行する。ARスクリーンに映る《ワルキューレ》を一瞬見て、ビームとミサイルの嵐を簡単に掻い潜り、V.A.R.I.Sの照準を合わせた。

 

ーーーーーーーー

 

歌が聞こえる。《ワルキューレ》の歌ではない。もっとも透き通った、喩えるなら、風そのもののような歌だった。禍々しさは感じられない。むしろ、安らぎを覚える。ハヤテがその歌に耳をすましたその時、

 

『Δ小隊各機!ミサイルだ!退避(ブレイク)!』

 

アラドの叱咤が、ハヤテを現実に引き戻した。間一髪だった。

 

「なんだぁっ!?」

 

ミサイルが、ハヤテの翼のすぐ側をかすめていた。死んでいた。あのコンマ数秒の反応が遅れていたら、間違いなく死んでいた。

 

「何が・・・・どうなってんだよ!」

 

眼前にビルが迫る。ガウォークに変形し、その壁面を駆け上がる。ジェットノズルの噴煙で、ビルのガラスが砕け、水晶の嵐のように舞い散る。急上昇から反転。まだ来る、第二波のミサイル。嵐のようなそれを、腕部のレールガンで迎撃し、掻い潜る。ミサイルの飛来した方向は、これまでハヤテを追い回していた〈ファヴニル〉からではなかった。味方だ。飛来した第五航空戦隊のVF-171〈ナイトメア・プラス〉が、ミサイル攻撃をかけてきたのだ。一糸乱れぬ、ミサイルの飽和攻撃。いくら性能差があっても、統制の取れた攻撃をしかけてくる戦闘攻撃隊、それも不意打ちとなれば脅威という他にない。

 

『ヴァール反応を確認・・・・・・!第五航空戦隊からだ!』

『そんな!?なぜ新統合軍がまとめて・・・・・いいえ、ヴァールがあんな戦術的な動きをするはずが・・・・・』

 

チャックとミラージュの声すら、悲鳴のようだった。

 

『こちらデルタ1!デルタ0、聞こえるか!』

「どうしました!?」

『やられた!第五航空戦隊がヴァールになった!すぐに援護に来てくれ!』

「くっ・・・・!」

 

目の前には敵機のリーダー機がいるが、Δ小隊を、アラドの命令を放棄することは花蓮にできない。出した答えは、

 

「了解!すぐに行きます!」

 

スラスターをフルスロットルで吹かせ、Δ小隊の元へと飛翔する。

 

ーーーーーーーー

 

「何で味方が撃ってくるんだよ、アラド隊長!」

 

まさか撃ち返すわけにもいくかないが、相手は容赦なく撃ってくる。後方の〈ファヴニル〉の追撃もその手を緩めたわけではない。

 

『落ち着け!起きていることだけが現実だ!』

 

アラドが鎮静させなければ、彼らの誰かが。あるいは全員が死んでいただろう。それ程に第五航空戦隊の火力は圧倒的だった。

 

ーーーーーーーー

 

「ぐっ・・・・・」

 

燃える街。屍の山。

差し伸べられた、白い手。

 

「違う・・・・・俺が聞きたいのは・・・・・!」

 

“死神”が吼える。

 

ーーーーーーーー

 

それでも《ワルキューレ》は歌っていた。いや、それだからこそ、歌っていた。そこにヴァールがいる限り、《ワルキューレ》は歌う。それが彼女達の使命だから。自分の意思に反して、味方を攻撃させられている人々を守らなければならないのだ。そして、それが彼女達のファンを守ることになるのだ。だが、変調装置を破壊された今、追い詰められているのは明白になった。

 

ーーーーーーーー

 

「攻撃しろって・・・・・・相手は味方だろ!?」

 

ハヤテは自身が受けた命令が信じられなかった。

 

『そうだ。だが、ヴァール化した以上、鎮圧する必要がある』

 

メッサーの声は空戦中とは思えないほど、冷静だった。そう言っている間にも、メッサーは回避運動から反撃に転じて、VF-171を二機、爆散させていた。あれではーーーパイロットが助からない。助かるはずがない。

 

「《ワルキューレ》の歌を待つんじゃねぇのかよ!」

『待つ。待つが、その間に奴らがミサイルを撃てばその度に、何十、何百の死者が出る。それは本末転倒だ。看過することはできない』

『けれど!』

 

ミラージュの声だった。

 

『命をかけて戦い、守ることが俺達の任務だ。それは新統合軍のパイロットも同じことだ。奴らも覚悟はできている。戦場で敵に洗脳されるのは・・・・墜落されたたのと同じだ。せめて、守りたかったものを害する前に殺してやるべきだ。それが、操られた奴らへの、せめてもの手向けではないのか?』

「けれどよ!」

『納得できないから戦えない、そんなことで腕が鈍るくらいなら戦場(ここ)に出てくるな!戦いたくないならVF-31(それ)から降りろ!これが、お前の選んだ世界だ!』

「くっ・・・・・・!」

 

メッサーの正しさ(・・・)は認めざるを得なかった。けれど、それでも、

 

(俺は・・・・・)

『それでも僕は、助けたい!』

「カレン・・・・!」

 

後方から急速接近してくる機体がある。

 

「確かに中尉の言っていることも正しいことかも知れません。戦場では、甘さが命取りです」

『・・・・・・』

 

メッサーは黙って花蓮の言葉を聞いていた。

 

「それでも、それでも僕はヴァール化した人達を助けたい!殺さないで助ける方法があるはずです!」

『・・・・・』

 

VF-171の機首と機体の間をMVSで斬る。

 

「僕の仕事は殺すことじゃない・・・・・護ることです!」

 

第五航空戦隊から大量のミサイルが発射され、ランスロット目掛け飛んでいく。それをループ、インメルマンターンなどを駆使して躱し、破壊していく。

 

「護るために強くなる・・・・僕は護りたいものを護るために強くなると決めた!だからヴァールの人達も、絶対助ける!!」

 

フロートユニットのスラスターをフルスロットルで吹かせ、第五航空戦隊に突っ込んでいく。ハイライトが消えた両目には確かに、強い意志があった。

 

「それが・・・・僕の戦いだっ!!」

 

《ワルキューレ》の歌をバックに、白騎士は、護るべきものを護るために戦場を駆け抜けるーーー。



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Mission11 宣戦 プロコネーション

国体が大変…


「うぉぉおおおおお!!」

 

V.A.R.I.Sを投げ捨て、もう一本のMVSを握る。VF-171を通り過ぎると同時に機首と機体の間を切断。確実に数を減らしていく。ワルキューレの歌が届く範囲内に斬られ、不時着したコックピット内のヴァール達が鎮静化していてく。

 

「あと少し・・・・!」

 

まだ残っているVF-171がバトロイドに変形し、手に持ったガンポッドをランスロットに向けて、エネルギー弾を発射する。

 

「くっ・・・・!」

 

フロートユニットのスラスターを吹かし、両手のMVSで斬っていく。残りのVF-171を両腕と両腰に格納されている、四基の強化型スラッシュハーケン「メッサーモード」にし、発射する。スラッシュハーケンにもブースターが付いており、花蓮が遠隔操作する事で自在に向きを変えることができる。上手く切断していき、なんとか誰も殺さずに無力化することに成功した。後はーーー

 

「〈ファヴニル〉だけ!」

 

四基のスラッシュハーケンを格納し、スラスターを吹かせようとした瞬間、

 

ピーーーーー

 

エナジーフィラーのエネルギーが底をつき、ランスロットは機能を停止する。

 

「エネルギー切れ!?こんな時に・・・・・!」

 

コックピット内のARスクリーンや、ディスプレイなどが落ち、完全に沈黙した。フロートユニットも機能を停止し、空中に浮かんでいることが出来なくなったため、重力に従うように下へと落下をする。

 

「カレンっ!?」

 

ミラージュが助けに行こうとするが、その前を〈ファヴニル〉の撃ったビームが遮る。破壊されたランドールの宇宙港をランスロットは、身体を地面に擦り付けながら滑り、しばらくした後止まった。

 

『白騎士、沈黙を確認』

『あの女どもめ・・・・!穢らわしい歌を・・・・!』

 

ケイオスが〈ファヴニル〉と呼んでいる機体のコックピットで、騎士(・・)は酷く不快そうな顔をした。彼らの主、彼らの主君の歌が蛮族の歌に穢されたからだ。

 

『空中騎士団各機、作戦を第二段階に移行する。敵の白騎士は沈黙。作戦は成功した』

「ーーーー了解。白騎士と騎航団は、第二段階に移行する」

 

追いかけられては追いかける、あの人型の白騎士はいい腕だ。

 

(あの男と、心ゆくまでやっみたいものではあるがな・・・・)

 

黄金の〈ファヴニル〉が加速し、重力圏を振り切ると、流星のように残る機体も続く。彼らには損害はない。

 

ーーーーーーーー

 

ランドールのヴァールは、鎮圧された。発症した人々は正気を取り戻し、デルタが楯になったことで、都市への被害は最小限とまではいかないが、抑えることができた。

 

「やったよな、俺達・・・・」

 

ハヤテのバトロイドがサムズアップした。チャックがそれに応え、ミラージュも少し遅れて、照れくさそうにサムズアップする。その後ろでは、ワルキューレの歌が続き、人々はそれに聴き惚れている。初陣としては、十分な成果・・・・・のはずだった。

 

(あれは・・・・・?)

 

視界の隅に〈ファヴニル〉を認めるまでは。

 

「おい!あいつら、戻ってくるぞ!」

 

色めき立ち、デルタ小隊が戦闘態勢を取る。だが、敵機の行動は、あまりにも意外だった。スモークを引いたのだ。デルタ小隊のアクロバットと同じ、何かのパフォーマンスを都市上空でやろうとしているだ。〈ファヴニル〉から発射された無人機が、空中に巨大なスクリーンを形成する。映し出されたのは、メガネをかけたひどく美しい男だった。

 

『私はウィンダミア王国宰相、ロイド・ブレーム』

 

ーーーーーーーー

 

「嘘・・・・・・」

 

フレイアは呆然とそのスクリーンを見上げていた。

 

「ロイド殿下・・・・・?どうして・・・・・?」

 

分からなかった。謎の可変戦闘機(バルキリー)と、自分の祖国。その祖国の宰相の顔も、忘れるはずがない。

 

『全てのプロトカルチャーの子らに告げる。我がウィンダミア王国は、大いなる風と、グラミア・ネーリッヒ・ウィンダミア王の名の下・・・・・新統合政府に対し、宣戦を布告する』

 

ロイド宰相のルンが輝いた。本気なのだ。

 

「新統合政府に宣戦布告するなんて・・・・・それが何を意味するのかわかって・・・・・」

 

ランスロットのコックピット内で、激痛に堪えながら、喋る。

そう、いまこの瞬間を以て、フレイア・ヴィオンは、ウィンダミア人は、地球の・・・・・銀河の敵となった。

 

ーーーーーーーー

 

その後、〈ファヴニル〉はランドールから去って行った。Δ小隊は瓦礫の始末など、事後処理を担当。《ワルキューレ》は人々へ慰労を込めて、シェルターへ訪問。やることは決められている。そして、各々のやることが終わり、一度《ワルキューレ》とΔ小隊は集まった。集まった目的はーーー

 

「ーーーーカレンは・・・・・カレンはどこにいるんだよ!!」

「まだ居場所が掴めていない」

「そんな・・・・!ちゃんと捜せよ!ランスロットは見つかって、なんでカレンは見つからないんだよ!!」

「ハヤテ・・・・・!」

「もちろん、ランスロットのコックピット内はくまなく探した。が、カレンはそこにはいなかったらしい。発見した時は、コックピットのハッチが開いていたそうだ。もしかしたら、どこかに隠れているかもしれん」

「だったら今すぐに・・・・・」

「ダメだ。もう日が落ち始めている。一度アイテールに戻り、明朝搜索を開始する」

「だけど!」

「ここには猛獣は出ない。あいつは中々優秀だ、自力で一晩は越せるだろう。命に関わる怪我をしていなければの話だがな」

「っ・・・・・・」

 

ハヤテはやるせない気持ちでいっぱいだった。

それからアイテールに一度戻り、機体の修理や、搜索に必要な物質の確認などやることはいっぱいだ。格納庫ではランスロットの修理か、それとも改修かが決められていた。

 

「戦闘ログから見るに、エナジーフィラーのエネルギー切れが原因でランスロットは機能停止。不時着し、今にいたる」

「レイレイ、ランランちゃん、どうしよっか。カレカレこの前、燃費が悪いとか言ってたよね」

「武装をフルで使ったんだと思う。だから、エネルギー切れになった。それほどまでに、Δ小隊は追い詰められていた」

「実際、カレカレがいなかったらあの飽和攻撃で全滅してたかも知れないもんね」

「・・・・・カレンのために、新しくしたい」

「レイレイ?」

「カレン言ってた。皆を護るために強くなるって。だから・・・・」

「なるほど、強くなるためにはまずは相棒からってね!」

 

コクっと、無言でレイナは頷く。二人はまず、エネルギー効率の見直しから始めた。

 

ーーーーーーーー

 

「アラド隊長、カレンくんはその・・・・・生きているんでしょうか」

「どうでしょうかな。ランスロットを見つけた時、座席に血痕が見つかったそうです。結果はカレンのものでした。きっと、不時着時にどこか打ったんでしょう」

「もし、頭だったら・・・・・」

「もって、明日まででしょうな」

(そんな・・・・・!)

 

ーーーーーーーー

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・ぐっ!」

 

空には星が瞬き、辺りは先の戦闘で荒廃した街。頭に巻いた包帯には血が滲み、激痛が襲う。どうやら、幸いにも額を切っただけだった。血を流し過ぎたのかクラクラする。しかも、早くちゃんとした消毒をしないと化膿する恐れがある。暗い、廃した街を一人、おぼつかない足取りで歩く。

 

(皆のところに・・・・はや・・・・く・・・・)

 

意識が薄れはじめ、地面にうつ伏せで倒れる。すると目の前に、人が走って来る気配を感じる。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・!こんな所にいたのね・・・・・!こちら美雲!カレンを見つけたわ!」

『はいなっ!すぐ行きます!』

(み・・・・くも・・・さん・・・・・?)

「しっかりして・・・・!カレン・・・!・・・・レン!」

(意識が・・・・・・)

 

そこで花蓮の意識は遠のいていった。

 

ーーーーーーーー

 

『ーーーー♪』

『母さん、その歌はなんて言うの?』

『この歌はね、ある惑星に伝わるーーーの歌って言うの』

 

まただ。知りたいところがよく聞こえない。

 

『今の科学では、生物が確認できてる惑星は地球だけだって聞いたよ?歌があるってことは人がいるの?その惑星に』

『ええ、もちろんよ。とっても優しい人達でいっぱいなんだから』

『へぇー。それじゃ、地球以外にも生物がいる惑星があることを知ってるなんて、母さんはすごいね。ノーベル賞ものだよ』

『フフ』

『僕も行きたいな、その惑星に』

『行けるわよ、あなたならーーーー必ずーーーー』

『そうかなーーーー』

 

そこで夢が終わり、意識が徐々に覚醒していく。徐々に聞きなれた、人の話し声も聞こえる。

 

「ーーーレンはーーー?」

「はいーーーまだ意識はーーーー」

「そうかーーーー」

(この声は、隊長にカナメさん・・・・?)

 

ゆっくりと瞼を開けると、白い天井に、身体は冷たい地面ではなく、暖かいベッドの上だった。

 

「回復はまだまだ先だと・・・・・」

「そうか・・・・」

「僕は・・・・・一体・・・・・」

「嘘ーーーー!」

「まさか・・・・意識が・・・・!」

 

カナメは口を抑え、アラドは急いで出て行く。目を動かして辺りを見渡すと、ここは病室のような場所だった。

 

「カレンくん、私だよ。わかる・・・・?」

「はい・・・・カナメさん・・・・」

「ちゃんと記憶の継続もある・・・・!良かった・・・・・!」

「カレンが起きたってほんとか!?」

 

病室らしき部屋のドアが勢いよく開き、中に入ってきたのはハヤテを先頭に、Δ小隊や《ワルキューレ》の皆も来てくれた。

 

「ほ、本当に記憶はあるか!?記憶喪失にはなってないんだな!?」

「落ち着けハヤテ、カレンの記憶には異常はない」

「記憶、喪失・・・・・?」

「うん、カレンくんの傷跡はおでこの右側にあるんだけど、ぶつけた場所が脳の記憶を司る場所でね。記憶障害が起きるかも知れないって、船医さんに言われたの」

「そうだったんですか・・・・」

 

起き上がろうとするが、力を入れる身体のあちこちが悲鳴をあげる。

 

「だめよ、無理に起きちゃ!不時着の影響で身体のあちこちを打撲してるんだから」

「全く、よくそんな身体でほっつき歩いてたもんだ」

 

カナメが手を貸し、カレンを起こす。その光景をみて、チャックは呆れたような顔をするが、花蓮が無事に目を覚ました事に安堵しているようだった。

 

「そうそう、カレカレはなんでコックピットから出てたの?」

「動けないところを、狙われると思ったので・・・・僕だけでも逃げようと思ったんです」

「そうだったんだ」

「本当なら、明日の朝にあなたを捜しに行く予定だったんだけどね」

 

カナメはチラッと美雲とフレイアの方に目線を向ける。

 

「あの二人がどうしてもって聞かなくて」

 

クスクス笑いながら話すカナメを見て、花蓮は二人に目を向ける。服は所々汚れており、ずいぶん走り回って捜してくれたのだろう。

 

「ありがとうございます、美雲さん、フレイアさん」

「まぁ、カレンも見つかり無事、目を覚ましたってことで、もうランドールには長居は無用だな。とっとと帰るぞー」

「よーし!今日はハヤテの初陣とカレンの無事を祝って、パーッとやりますか!ね、隊長!」

「おお!いいな、それ!」

 

アラドとチャックはすっかりその気になってしまった。だが、皆反対な意見はいないらしく、やることになった。

 

「そう言えば、ランスロットは?大丈夫でしたか?」

「あ、それがね!」

 

マキナが笑顔で喋る。

 

「カレカレのランランちゃん、改修することにしたの!」

「改修、ですか?」

「うん!エネルギー効率の見直しと、新しい武装と、新装備とかいっぱい造ることにしたんだ!」

「これで、もうエネルギー切れの心配はなくなる」

「この案はね、レイレイが言い出したんだよ?」

「レイナさんが?」

「カレン、いつも守ってくれるから。だから、相棒を強くすれば、カレンも傷つかないと思った」

 

相変わらずの無表情だが、ちゃんと自分の事を思ってくれてると思うと、少し照れくさかった。

 

「ありがとうございます、レイナさん」

「ううん、お礼なら今もらう」

「え?」

 

ベッドの上で上半身だけを起こした花蓮に抱きついた。

 

「うあ・・・ちょ、あの・・・・・!」

「ギュー」

「ず、ずるいけんね!!レイナさんだけ!」

「そうだよレイレイ!ずるいよ!」

「わ、私だってギューはまだだと思ったのに・・・・」

「・・・・・」

 

美雲はその光景が気に入らないのか、少しだけムッとした顔で花蓮の顔を睨んでいた。

 

(あれ、なんか僕、睨まれてる・・・・?)

「ん、おしまい」

 

やっとレイナが離れ、怒っているマキナとフレイアに何故か説教されてるし、カナメは傍で何故か泣いているし、美雲はふくれっ面で睨んでくるし。一体、自分が何をしたというのだ。この状況を遠くから見ていたチャックからは恨みのこもった目で睨まれた。

 

(チャックさんは毎度のことだし、美雲さんはなんで怒ってるのかな)

 

これは理由を聞いて、自分に非があれば謝ることにしようと思い、

 

「美雲さん」

「・・・・なに?」

「なんで、怒ってるんですか・・・・?」

「怒ってない」

「いや、でも・・・・」

「怒ってない」

「あう・・・・・」

 

取り付く島もない。あれこれ悩んでいると、今度は美雲が口を開く。

 

「この鈍感・・・・・」

「え?」

「本当に怒ってないのよ?」

 

いつもの微笑を浮かべた美雲がそこにいた。

 

「だけど、あなたは少し、勉強したほうがいいわね」

「勉強、ですか?」

「ええ」

 

それはもっと強くなれ、ということだろうか。鈍感な彼には、まだわからないだろう。



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Mission12 追憶 リコレクション

メッサーの運命をカレンは変えることが出来るのか

短めです


「それじゃ、かんぱーい!」

 

アラドの音頭により、ハヤテの初陣&カレン退院祝い兼慰労会という、名目で『裸喰娘娘』を貸し切りにし、パーティみたいなものが始まった。

 

「乾杯、ハヤテくん」

「おう!退院おめでとう、カレン!」

「ありがとうございます」

 

グラスを軽くぶつけ合う。未成年ということであり、飲み物は普通のジュースだ。

 

「聞きましたよ、活躍したみたいですね。視線誘導のマルチロックオンで、敵のミサイルを全部撃ち落とすなんて。初めての人には中々出来ませんよ」

「俺も、必死だったからな。そんで、守りたい奴もできた」

 

そう言ってハヤテの見る先には、フレイアがいた。

 

「そうですか、これからもよろしくお願いしますね」

「ああ!・・・・にしてもこの店、俺達の都合で勝手に貸し切ったりして大丈夫なのか?」

「そ、それはどうなんでしょうか・・・・」

 

確かに、如何なものかと思うが、皆楽しそうだから結局許してしまう。

 

「カレカレ〜」

「ん?マキナさん?」

 

食べ物を乗せた皿を片手にマキナが近づいてくる。

 

「はい」

「あの、これは?」

「しっかり食べないと、身長伸びないよ?」

「う・・・・」

 

生憎、あまりお腹は空いていなかったが、折角の厚意を無下にするわけにはいかず、受け取った。

 

「そうそう、新しい装備の名前、レイレイが思いついたんだって」

「名前、ですか?」

「うん、コンクエスターってどうかな」

「コンクエスター・・・・征伐者って意味のですか?」

「そうそう、「征伐」って、悪い人達とかを大勢でやっつけることでしょ?空中騎士団という悪い人達を、ケイオス・ラグナ支部の皆で立ち向かう!っていう意味で、レイレイが征伐者(コンクエスター)って名前がいいんじゃないかって提案してきたの」

「皆で立ち向かう・・・・」

「うん、カレカレやΔ小隊の皆に任せっきりにしない。私達も一緒に戦う。そんな思いで、レイレイは付けたんじゃないかな」

「いい、名前ですね」

 

改めて心の中でレイナに感謝の言葉を述べた。

 

「ぷはぁ!あぷじゅー!」

「アップルジュースな」

「いいの!はい、カレン!あぷじゅーどうぞ!」

「うん、ありがとう」

 

渡されたグラスに手を伸ばしたら、持っていたフレイアの手に触れてしまった。

 

「あ・・・・・」

「ん?どうしたの?フレイアさん」

「ふぇ!?あ、いや!なんでもないんよ!?」

 

いきなり慌て始めたフレイアに首を傾げる。そんなフレイアを見ていたハヤテは、少し哀しそうな顔をしていた。

 

「じゃあ、僕からも」

「?」

 

隊服のポケットを少し漁り、あげたいものを取り出した。

 

「これ、フレイアさんに似合うと思って」

「これって・・・・・シュシュかね?」

「うん。ほら、このシュシュの色、リンゴの色みたいでね。フレイアさんに似合うと思って買ったんだ」

「・・・・・・」

 

差し出されたシュシュを受け取り、しばらく見つめていた。

 

「いいんかね・・・・・?」

「うん、僕があげたくて買ったんだから」

「・・・・・あんがと、カレン・・・・・・」

「へへ、喜んでくれて僕も嬉しいよ」

 

可愛らしい笑顔を向けられ、フレイアの鼓動が速くなる。ルンもそれに呼応したかのように、ピンク色に輝き始める。貰ったシュシュで、いつも使っている髪留めと交換し、付ける。

 

「どうかな・・・・」

「うん!すごく似合ってるよ」

「にへへへへ」

 

頬をほんのり染めたフレイアが、照れくさそうに笑う。それを見ていた《ワルキューレ》のメンバーは誰にも聞かれないように各々が、小さな声で独り言を言い始めた。

 

「フレフレが少し有利か・・・・・・」

「そろそろ、危ない・・・・・」

「カレンくんだけは・・・・・」

「負けられないわね」

 

四人が怪しい笑みを浮かべながら、飲み物を煽った。

 

「あの四人、なんか大丈夫か?」

「カレンも大変ですね〜」

「隊長、俺は先に戻ります」

「もういいのか?メッサー」

「はい、明日も早いので」

「あ、ああ」

 

メッサーが早めに自室に戻ろうとカナメの横を通り過ぎようとした瞬間、声をかけられた。

 

「あ、メッサーくん。もう寝ちゃうの?」

「ええ、明日も早いので」

「そっか・・・・あまり無理しないでね?」

「お気になさらず」

 

短い会話を終え、メッサーは二階に消えていった。

 

(中尉・・・・?)

 

いつも通りの態度のメッサーだったが、どこかいつもと違う雰囲気を纏ったメッサーが気になっていた。

 

ーーーーーーーー

 

(後は〈ファヴニル〉だけ)

 

ランスロットのコックピット内に、メッサーの声が入る。

 

『俺の・・・聞きたい歌はこれじゃない・・・・!』

(中尉・・・・?)

『俺を救ってくれた女神には・・・・・手出しはさせない・・・・・!』

 

何かに耐えるかのように、喘ぐような声を発するメッサーに花蓮は違和感を覚えた。

 

ーーーーーーーー

 

(あの時の中尉は確かにおかしかった・・・・一体何が・・・・・)

「カレン」

「あ、美雲さん」

「メッサーから目を離さないこと、いいわね?」

「え?それってどういう・・・・」

「そのままの意味よ。忠告として受け取って」

 

踵を返し、また戻って行った。メッサーの身にこれから何が起ころうとしているのか、それともメッサーが何かを企んでいるのか。その答えは、今は出なかった。

 

ーーーーーーーー

 

『はぁ・・・・はぁ・・・・』

 

崩れ落ちる街。山のように積み上げられた屍。思い出したくない過去の記憶。思えばここからだった、自分の懺悔の人生が始まったのは。だが、その時聞こえてきた女神の歌。それが、自分を救ってくれた。そして、運良くその女神と出会い、守ると誓った。憧れや崇拝に似たこの気持ちが、いつまで自分の自我を保たせてくれるか・・・・。もう彼に、時間はあまり無い。

 

「カナメ・・・・さん・・・・」

 

うなされながら、自分を救ってくれた女神の名を呼ぶ。

 

ーーーーーーーー

 

結局昨日は一睡も出来なかった。美雲の忠告の意味、そしてあの時のメッサーの言葉。わからない、歯車が中々噛み合わない。

 

「中尉は一体・・・・・」

「俺が何だ」

「ちゅ、中尉!?」

「だから何だ」

「い、いえ。最近、お身体に何か変化はありませんか?」

「質問の意味がわからないが」

「い、いえ!その、最近出撃ばかり多いので、その・・・・・」

「お前が気にすることじゃない」

「そ、そうですが・・・・」

「たとえ身体に異常をきたしても、確実に任務をこなす。それだけだ」

 

そう言って、メッサーは去って行った。

 

「やっぱり、思い違いだったのかな・・・・・」

 

そのまま花蓮は休憩室へと歩いて行った。曲がり角の蔭で、荒く息をしているメッサーがそこにいた。

 

「はぁ・・・・!はぁ・・・・!まだだ、まだもってくれ・・・・・!」

 

左手首に付けたブレスレットを顔の前に掲げ、祈るようなポーズをとった。

 

(俺が、完全にヴァールになる前に何としてでもΔ小隊を育てあげなければ・・・・!)

 

残された時間は、あまり無い。

 

ーーーーーーーー

 

『たとえ身体に異常をきたしても、確実に任務をこなす。それだけだ』

(あの言葉、どこか生き急いでる感じがする・・・・)

 

この先何か良くないことが起こるのではないか、そんな不安が花蓮を駆り立てる。だが、何も出来ないのも事実。

 

「でも僕は・・・・僕に関わってきた全てに関わり抜きたい・・・・」

 

《ワルキューレ》にしろ、ケイオスの皆にしろ、Δ小隊にしろ、空中騎士団にしろーーー 今、自分に関わっている全てに関わり抜く。それはつまり、途中で投げ出す事は出来ないこと。辛いことがあっても、向き合わなければならないこと。だけどそれでもいい、もう覚悟は出来ている。

 

(この気持ちは変わらない)

「だから僕は「ここ」にいるんだ」

 

絶対に関わり抜いてみせる。他人と距離を置いているメッサーとも。

 

(中尉、いつか聞かせてください。あなたの過去を、戦う理由を)

 

悲劇は刻一刻とーーーー




ちょっと自分でも書いてて訳が分からなくなった…


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Mission13 決意 ディタミネーション

遂に始まるウィンダミアとの戦争!

次回から第2部突入!


次の日の夜、空中騎士団の宣戦布告から始まるであろう戦争に向け、ブリーフィングルームでΔ小隊と《ワルキューレ》の作戦会議が開かれた。誰もが無言で、その場に緊張感が走るが、

 

「ん〜!ごりうまー!」

「止まらなくなるよね〜、クラゲチップス」

「ほいなっ!」

 

この二人により、緊張感が薄れてしまう。

 

「期間限定マヨ七味味」

 

どうやらレイナもお気に召したらしい。フレイアは指に付いた残りカスを舐め、ご満悦の表情だった。そんな呑気な三人を見て、

 

「チッ・・・・」

 

ハヤテは舌打ちをした。そしてルームのドアが開き、アーネスト、アラド、カナメが入ってくる。全員が一斉に立ち、敬礼をする。

 

「待たせたな」

 

いつものおちゃらけた顔ではなく、真剣な表情に花蓮は息を飲んだ。照明を暗くし、ルームの中心に映像が映しだされる。

 

「ウィンダミア。ラグナから800光年離れた場所にあり、その周囲を次元断層に囲われた惑星だ」

 

次々にウィンダミアの映像や、空中騎士団の映像が映し出されていく。

 

「そして、今まで名前がわからなかったため仮称していた〈ファヴニル〉、新型機Sv-262 ドラケンⅢ」

「コイツを操るのがウィンダミアの空中騎士団。王家に仕える翼の騎士達だ」

 

ドラケンの機体が立体に映し出され、先の戦闘での軌道が線で表される。

 

「動きから見て、コイツがダーウェントの白騎士だな」

 

黒に金色の装飾が施されたドラケンが映し出された。

 

「白騎士?」

 

ハヤテが疑問を口にする。

 

「空中騎士団に代々続く、エースの称号だ」

「白騎士・・・・・」

 

花蓮の顔が険しくなった。

 

「白?黒じゃねーの?」

 

チャックも疑問を口にするが、それにはアーネストが答える。

 

「昔は白銀の機体に乗っていた」

「へぇ〜・・・・っ!?」

 

チャックが驚いた顔でアーネストを見る。なぜ知っているのか、と言いたげに。

 

「腐れ縁というやつか・・・・」

「・・・・・」

 

アラドも黙る。それは、何か知っていると言っているのも同然だった。

 

「もしかして、ウィンダミアに居ったんかね?」

「ああ、七年前・・・・独立戦争の時にな」

「新統合軍のパイロットが操られていたのも、ウィンダミアの?」

 

今度はメッサーがタブレット端末を持ちながら聞いてくる。

 

「おそらく」

 

カナメが返答した。

 

「じゃあ、これまでのヴァールの暴動は全部?」

「いいえ、彼等が関与しているのはその一部。生体フォールド波が探知された者だけと、本部は判断しているわ」

「今までのは・・・・」

「実験・・・・」

 

カナメの答えに、マキナとレイナは渋い顔をした。

 

「そして今回、ただの暴徒としてではなく、統制の取れた行動を取れるようになった。推測に過ぎんがな・・・・」

「その推測、多分間違いではないと思います」

 

その推測の裏付けになるアレを花蓮は聴いて(・・・)いた。

 

「僕は戦闘中、歌が聴こえてきたんです。とても心地よくて、禍々しい気配もしない。聴いてて心が安らぐって言うんでしょうか、風そのもののような歌でした。その歌が聴こえてきた途端、ヴァールは統率の取れた動きをするようになりましま」

「・・・・聴こえたか?」

「いえ・・・カレンにだけ聴こえたんでしょうか・・・・」

「それ、俺も聴いたぜ」

 

花蓮の話しに、ハヤテも頷く。

 

 

「なんか聴こえたっつーよりも、感じた?」

「私も聴いたわ」

 

美雲も頷き、アラドは他の《ワルキューレ》の面々に目線を向けると、全員頷いていた。

 

「もしかすると、フォールドレセプターと関係があるのかもしれません」

(何だ・・・・何か思い出せそうなのに・・・・)

 

霧がかかったかのように、手が届きそうで届かないもどかしさが、頭を駆け巡る。

 

(風のような歌・・・・・・風・・・・?)

『これはね、風の歌って言うのよ』

「風の・・・・歌・・・・・」

「風の歌?」

 

ハヤテや、その他の面々も首を傾げる。

「そうだ・・・・思い出した。あれは風の歌・・・・風の歌い手が歌う、風の歌・・・・」

「風の、歌い手・・・・・」

「お、おいカレン。なんだよ風の歌い手とか、風の歌って」

「す、すみません・・・・自分でもよく分からないんです。その、突然頭の中にその単語が浮かんできて・・・・」

「光よりも速く、時空を超えて届く歌声・・・・ほんまに風の歌い手みたいやね!」

「ウィンダミアに伝わる伝説だな」

「そう!ルンに命の輝きを、ちゅーてね!」

「風の歌い手・・・・・」

 

美雲はそっと呟いた。

 

ーーーーーーーー

 

惑星 ウィンダミア

 

林檎畑の空に、六機のドラケンが飛んでいく。

 

「! キース様達のお帰りだ!」

 

山道を歩く家族もそれを見ていた。

 

「白騎士様だ!」

「あぅ!」

 

父親の肩に乗っている幼い子供がはしゃいだ。六機のドラケンは宮殿へと消えていった。

 

ーーーーーーーー

 

ベッドの上で上半身を起こしている、老人の男性の前で、二人の美青年が跪いていた。

 

惑星(ほし)を二つ・・・・解き放ったか」

「はっ。風の歌によるヴァールの制御に成功、制風権確立に向けての第一歩を、無事踏み出しました。しかし、ハインツ様には予想以上のご負担をかけてしまい、時の神殿を含む遺跡の能力解明にもまだ時間がかかるかと・・・・・作戦の見直しが必要かと思われます」

「・・・・・・」

 

宰相ことロイド・ブレームの横顔を、金髪の男性がチラッと見る。

 

「案ずるな、風は必ず吹く・・・・」

 

老人の赤いルンが一瞬輝いた。

 

「地球人共に滅びをもたらす風が・・・・必ず・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

「ああは仰っていたが、陛下のお身体の事も・・・・」

 

目の前にいくつものメガネが飾ってあり、その前でグラスを片手に、服を脱ぎ、楽な格好のロイドが呟く。

 

「作戦を見直すだと?」

 

もう一人の男性が口を開いた。

 

「陛下やハインツ様の事を考えれば、尚のこと時間はかけられないはずだ。・・・・とどめをさすべきだったのだ」

「血を見ることが目的ではない。プロトカルチャーの正当な後継者として、球状星団を正しく導く。そのための戦いだ」

「・・・・・」

 

もう一人の男性は一瞬間を置いて、

 

「お前の剣は錆びついてしまったようだな」

 

静かに呟いた。

 

ーーーーーーーー

 

「いよいよだな、カシム」

「はい、ですが我々は翼を繕えるのに七年もかかってしまった・・・・」

「ん?」

「私はもう23です。最後まで飛び続けることが出来るかどうか・・・・」

「おいおい、俺は33だぞ・・・・ !」

 

すると、上から一人の少年が剣を持って落ちてきた。

 

「はぁぁ!」

 

それを華麗な体捌きで躱していき、観念したのか、剣を納めた。

 

「流石です!マスター・ヘルマン!」

 

赤髪の少年が憧れの眼差しを向けた。

 

「もうマスターではない。この遊び、いつまで続けるつもりだ?」

「もちろん、マスターから一本取るまで!」

「フッ・・・・・」

 

カシムが静かに微笑んだ。

 

「ああ、そうだ。これを見てください」

 

渡された端末をヘルマンは受け取る。

 

「む、これは・・・・ルン?」

 

映し出されのはフレイアだった。

 

「裏切り者の臭い風です!」

「いい歳をして、ルンを抑えんか」

 

赤髪の少年のルンが輝いていた。

 

「え?うわぁ!?」

「ふむ・・・・・・《ワルキューレ》にウィンダミア人・・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

惑星 ラグナ

 

「依頼内容の変更?」

「ラグナ星系、自治組織連合からの要請だ。今までの依頼はヴァールの暴動への対応のみ。そこにウィンダミア王国進行に対する防衛任務を加えられた」

「つまり、ここからは戦争ってことだ」

「それに従い、私達の契約の更新を行います。ケイオスは民間企業です、契約に納得がいかなければ除隊も出来ますが」

「更新、もうしておきました。カナメさん」

「カレンくん・・・!」

 

花蓮が席を立ち、力強い眼差しを向ける。

 

「ほう、腹は据わってるか」

「無論、私も更新します!」

 

今度はミラージュが席を立ち、大きな声で宣言する。

 

「同じく」

 

メッサーも同意する。

 

「聞くまでもないわ」

 

美雲も髪をいじりながら同意。

 

「きゃわわ〜なジークフリードちゃん達を置いて行けないもんね!」

「さっすがマキナ姐さん!」

「一生付いていきます!」

 

マキナの言葉に整備班も賛同、同意した。

 

「整備班」

「は、はい!」

「ランスロットのロールアウトは?」

「作業は予定通り進んでいますが、もう少しかかります」

「わかった」

 

アラドはそれを聞き、頷いた。

 

「俺も・・・・まだ誰ともデートしてないしねぇ〜!」

「ふぇぇぇ!?」

「どうする!?」

「やめとく!?」

 

ブリッジオペレーターがいなくなるのは阻止したいところだ。チャックもオペレーター三人も同意なのだろう。

 

「判子、押す」

 

レイナがクラゲの判子を見せる。同意の表れだ。

 

「ったく。ハヤテ、お前は?」

「・・・・・」

「まあいい、考えとけ」

「ところで、あなたはどうするの?」

 

美雲が隣のフレイアを見る。

 

「うーん、正直戦争って言われてもピンとこんし・・・・」

「そう、でも一つ問題がある。ケイオス本部はあなたをスパイではないかと疑っている」

「す、スパイ!?」

「・・・・!」

「美雲!」

「同じ声はマスコミやファンからも挙がっているわ。ま、メンバーにスパイがいるくらいが面白いと思うけど、彼らの反応を考えると・・・・」

「大丈夫!一日でも早く信じてもらえるように、ゴリゴリ頑張ります!」

 

口ではそうは言っても、顔は動揺を隠していなかった。予想外の返答で美雲は目を丸くしているが、すぐにいつもの美雲に戻り、微笑を浮かべた。

 

「そう、楽しみにしているわ」

「・・・・・」

 

ハヤテはまた考え込んだ。

 

「んじゃ、ここで一番早く更新した、カレンから一言もらうとするか」

「え、ええ!?そんないきなりなんて・・・・!」

「カッコいいこと言ってくれよ?」

「ヒュー!ヒュー!」

(隊長・・・・!)

 

恨みのこもった目をアラドに向ける。

 

「すまんすまん。後でなんか奢ってやるから。今は、な?」

「全く・・・・」

 

そう言って前の方に出て、皆を見据える。

 

「僕も、フレイアさんと同じで戦争と言われても正直ピンと来ません。でも僕は、護りたいものを護るために強くなると決めました」

「護りたいものを護るために・・・・」

 

メッサーが静かに呟く。

 

「この戦争は空を飛ぶ自由や明日や、色んなものが懸かった戦いなのかも知れません。僕は皆さんと自由に飛びたい。そして、皆さんと過ごす明日が欲しいです。ですから戦って勝ちましょう!」

「おー!いいねー!」

「カレンもいいこと言うじゃねーか!」

(そうだ、僕は一人じゃない。皆がいる。だから僕は、「ここ」にいる)

 

空中騎士団、そしてウィンダミアとの戦争。銀河の敵となった故郷にフレイアは何を思う。そしてメッサーは、ハヤテは何を想う。そして、少年の瞳は一体、何を見るーーー



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MissionEX プロフィール紹介

カレン「偶然見つけた資料があるんです」
マキナ「えー!なになに?もしかして恋愛事情のとか!?」
カレン「では早速見てみましょうか」


PROFEEL

 

非公開

 

名前 Enomoto・Karen(エノモト・カレン)(榎本花蓮)

性別 男

コールサイン デルタ0

歳 16→17(予定)

誕生日 11月11日

身長 165cm

搭乗機 ランスロット→ランスロット・エアキャヴァルリー→ランスロット・コンクエスター→???

階級 准尉→少尉(予定)

性格 誰に対しても優しく他人に敬語を使い、よく面倒事に巻き込まれる。フレイアには敬語を使っていないのは、フレイア本人に止めさせられたため。好物は銀河イチゴ。前世でも苺は三度の飯より好きだった模様。《ワルキューレ》からのアプローチも持ち前の鈍感力を駆使し、なんなく無下にする憎い色男(筆者談)。搭乗機はランスロット。燃費の悪さから、マキナ・中島とレイナ・プラウラーを筆頭に整備班と共に改修、新装備を現在製造中。集中力が極限まで高まると目のハイライトが消え、ランスロットの性能と自身の潜在能力を限界まで引き出せる。時折夢に見る母には、銀河と人類を新たな場所へと導く何かと言われているのだが現在のところは不明(本人談)。

 

機体情報

 

第一特秘情報につき口外は厳重処罰

 

No.1

機体名 Lancelot(ランスロット)

形式番号 Δ00

分類 不明

所属 ケイオス・ラグナ支部 第三航空団Δ小隊

製造 不明

生産形態 嚮導機

全高 4.49m

全備重量 6.89t

推進機関 ランドスピナー

武装 MVS×2 V.A.R.I.S×1 スラッシュハーケン×4

特殊装備 ブレイズ・ルミナス

乗員人数 1人 (補助席を使えばもう1人乗員可能)

搭乗者 エノモト・カレン

説明 機体に使われているサクラダイトの比率が高く、圧倒的機動性と驚異的な戦闘力を誇る。だがその分エネルギーの消費が激しく、本機の装備をフルで活用すると数時間ももたないことが判明した。また、操縦が非常に難しく、本支部に操縦できるのがエノモト・カレン准尉だけということもあり、専用機として使用許可。

 

No.2

 

機体名 Lancelot AirCavalry(ランスロット・エアキャヴァルリー)

形式番号 Δ00/A

分類 ランスロットと同様

所属 前項同様

生産形態 嚮導機

製造 ケイオス・ラグナ支部

所属 前項同様

全高 前項同様

全備重量 7.82t

推進機関 ランドスピナー フロートユニット

武装 前項同様

特殊装備 前項同様

説明 ランスロットにフロートユニットを追加し装備した機体。飛行による三次元的な戦術を取れるようになったが、エネルギーの消費は更に激しくなっている模様。武装、特殊装備に関しては特に変更はない。

 

フロートユニット

 

この装備に関してはマキナ・中島、レイナ・プラウラー含む整備班により詳細は明かされていない(マキナ・中島曰く、秘密♡らしい)

 

No.3

機体名 Lancelot Conquesta(ランスロット・コンクエスター)

形式番号 Δ00/D

分類 ランスロット同様

所属 前項同様

生産形態 嚮導機

製造 前項同様

全高 5.06m

全備重量 8.95t

推進機関 ランドスピナー フロートユニット

武装 前項同様+ハドロン・ブラスター(仮称)

特殊装備 前項同様

説明 現在製造中につき、詳細不可。

 

 




マキナ「へぇー、結構詳しく書いてあったね」
カレン「少し恥ずかしかったです・・・・」


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第2部
Mission14 新生 ランスロット


ついに登場、新生ランスロット!

Δ小隊レッツゴー!


花蓮はその日の夜、夢のような、いや夢にしては現実味を帯び過ぎていたものを見ていた。目の前には見慣れたコックピット内。

 

『うぉぉおおおお!!』

『フッ・・・・!』

 

メッサーのVF-31Fと金色のSv-262が激闘の如くドッグファイトを繰り広げていた。

 

『だめだ!戻ってこい、メッサー!!』

 

アラドの荒げた声がコックピット内に響く。

 

(な、なんだこれ・・・・!?今何が起きているんだ・・・・!?)

 

喋ろうにも声が全く出ない。

 

(あれは白騎士!)

『メッサー戻れ!そのままじゃお前はまたヴァールに・・・・!』

(え・・・・・?)

 

メッサーのVF-31FがSv-262の無人機を一機破壊し、Sv-262がVF-31Fのコンテナユニットを破壊する。

 

『ーーーー♪』

 

カナメが歌を歌い、メッサーの機体が金色の光を帯び、ドラケンもその光を帯びる。

 

『貴様も風に乗るかっ!』

 

今も尚、息をするのを忘れてしまうほどのドッグファイトが繰り広げられていた。

 

『・・・・・綺麗・・・・・』

 

ミラージュがあのドッグファイトを見て、言葉をもらした。

 

『うぉぉぉぉおお!!・・・・!? ・・・・風・・・・?』

 

上昇したメッサーの機体がビームを連射するが、白騎士はもう一機残っていた無人機を操作し、変わりにビームを受けさせ、やり過ごす。両者の間に広がる爆煙。そしてその中から、金色のSv-262が姿を現す。

 

『はぁぁぁぁ!!』

 

対峙する両者。金色のSv-262の機首の砲門が開きビームが一閃、メッサーの機体のキャノピーめがけ発射された。

 

(やめろ・・・・・!)

 

迫り来るビーム。そしてそれは、遂にキャノピーを撃ち抜き、返り血がキャノピーの内側を赤く染めた。

 

(やめろぉぉぉぉぉ!!!)

 

そこでその映像は途切れ、花蓮の周りは真っ暗になる。

 

『そう、あれが成すべきことを成すべき時に成せなかったあなたが迎える運命』

『・・・・・・・』

 

花蓮の瞳が揺れる。

 

『でも、あれを先に見せたってことは・・・・・わかるでしょ?』

『・・・・・!』

 

そう、まだ時間はある。やり直すことができる時間が。

 

『決めたのでしょう?護りたいものを護るために強くなるって』

『・・・・うん』

『歩みは止めたくないのでしょう?明日を迎えるためにも』

『・・・うん』

『なら、覆してみせなさい。関わり抜いてみせなさい。そして、私の元へ必ず来て、たくさん聞かせて?あなたの物語を』

『うん、覆してみせるよ・・・・関わり抜いてみせるよ・・・・絶対母さんの所に行くよ・・・・だって、僕にはまだ見えているから』

『フフ・・・・じゃあこれ、あげるわね』

 

声がする方から紫色に輝く光の玉を花蓮は受け取る。

 

『これは・・・・』

『あっちに戻ったら確かめてみて。それじゃ、そろそろクォーツの意識拡張も限界みたいだから、さよならね』

『母さんーーーー』

 

花蓮の姿が消えると、静かな声が暗闇に響き渡る。

 

『覚醒まで、あと少し・・・・・』

 

その声は歓喜を帯びていた。

 

ーーーーーーーー

 

ベッドから静かに起き上がる。

 

「あれが・・・・これから起こる出来事だとしたら僕は・・・・」

 

両手を強く握りしめる。が、あるものが握られていた。

 

「紫色の・・・・・石?」

 

朝日に照らすと、反射しとても美しく、怪しい色を放った。

 

「なんだろ、これ」

 

階段を勢いよく登ってくる足音が聞こえ、花蓮の部屋のドアが勢いよく開く。

 

「グッドモーニング!カレカレ!」

「モーニングコール、しにきた」

「お、おはようございます」

「やだな〜、そこはグッドモーニングって・・・・あれ?その手に持ってるもの何?」

「え?あ、この紫色の石何か分かりますか?不純物が全くなくて綺麗なんですけど・・・・・」

 

手に持った手のひら大の紫色の石をみせる。するとマキナとレイナが凄い勢いですっ飛んできた。

 

「う、嘘でしょ!?これってまさか・・・・!」

「うん・・・・!多分、フォールドクォーツ・・・・!」

「え?なんですか、それ」

 

ーーーーーーーー

 

マクロス・エリシオン

 

「うわぁ・・・こんなでっけぇフォールドクォーツ見たことねぇぞ・・・・」

「これ換金したらどんくらいだ・・・・?」

「一生笑って暮らせるだろうな」

 

整備班達が机に置かれた手のひら大の、紫色の石に食らいついていた。

 

「あの、マキナさん。フォールドクォーツって・・・・・」

「え?知らないの?」

「勉強不足やね〜」

「おい、お前ら!ランスロットを早く完成させろ!」

「は、はい!」

 

アラドの叱咤で整備班達は持ち場に戻っていく。机に残されたフォールドクォーツは電気の光を反射し、美しく輝いていた。

 

「ったく・・・・」

「説明しよう!フォールドクォーツって言うのはね、銀河規模の生命体、バジュラがフォールド鉱石を体内で精製して出来る、空間に干渉できる鉱石なんだよ〜。不純物の多い順からフォールドコール、つまり鉱石のまんまの状態だね。次にフォールドカーボン、人類が精製できるレベルのもの。そして最後に、不純物が全くないものをフォールドクォーツって言うんだよ」

「なるほど・・・・・」

「でもね、フォールドクォーツはバジュラの体内でしか作られないから入手が凄く大変なの。今じゃこの銀河にはいないって言われてるしね〜。でもここまでの高純度のフォールドクォーツ、バジュラクイーンでしか精製出来ないね」

「そんなに凄かったんですね・・・・」

 

花蓮はこの紫色の石がそんなに凄いものだとは全く知らなかった。

 

「凄いのはここからだよ!実はね、このフォールドクォーツをいっぱい使った機体が八年前、つまりフロンティア船団とバジュラの戦いの時に使われたの。YF-29〈デュランダルバルキリー〉と、その改良型、YF-30〈クロノス〉がその代表例だね。ちなみにジクフリちゃんはクロノスちゃんを改良、量産を目的に造られたんだ〜。このフォールドクォーツを使うと、無尽蔵のエネルギー供給が出来て、熱核反応エンジンの性能を限界まで引き上げ、エネルギー転換装甲の常時フル稼働、さらにフォールド波の解析、探知、増幅も出来るっていう・・・・最っ高のきゃわわなんだよ!」

「最後のきゃわわにはどういう意味が・・・・」

 

熱くなり過ぎたのか、少し肩で息をしている。根っからのエンジニアだと花蓮は改めて思った。

 

「でねでね、ランランちゃんにこのフォールドクォーツを使いたいな〜って思って・・・・これを使えばエネルギー供給効率も格段に上がると思うんだ」

「あ、いいですよ?」

「え!?そんなあっさり!?」

「はい、それで皆さんを守ることが出来るなら構いません」

「ありがと〜〜!カレカレ!」

「んむぅ!?」

 

抱きついてきて、マキナの豊満な胸が顔に押し付けられる。

 

(流石にあの夢のことは言えないよね・・・・中尉がヴァールなんてこと・・・・)

 

ーーーーーーーー

 

そして、ランスロットの改修も大詰めになってきた。

 

「えへへ、エネルギー供給効率の見直しだったんだけど、少し改良しちゃった」

「・・・・・」

 

見上げた先には、胸部のパーツや肩アームの形状のデザインが少し変わり、等身も1m程高くなっているらしいランスロットが係留されていた。頭部のデザインも少しだけ変わり、全体的にスタイリッシュになった。

 

「凄い・・・・」

「『コアルミナス』を今までのと交換して、さっきのフォールドクォーツで造って出来たのを積めば、完成だよ!これで燃費の悪さも解消出来るはず!」

「本当ですか!?」

「でもね、フォールドクォーツは恒久的じゃないみたいなの。何かのきっかけで力と輝きを失っちゃうんだって」

「きっかけ?」

「まだ分かってないみたいだけど・・・・それにしても、どこで見つけたの?」

「そ、それは・・・・・」

 

花蓮は言葉に詰まった。夢で母親から貰ったって言っても信じてもらえない。もしかすると、精神科送りにされるかも知れない。

 

「ラ、ランスロットのコックピット内にあったんですよ」

 

苦笑いを浮かべ、頬に冷や汗が流れる。

 

「へぇ〜、そうなんだ」

 

怪しまれると思ったが、どうやらマキナは納得しているみたいだ。

休憩室へ向かうため格納庫を出ようとしたが、視界の隅でアラド以外のΔ小隊が何やら話し合いをしていた。

 

「チャック少尉、シザース軌道時のエネルギーロスに気をつけろ」

「ウーラ・サー・・・・・」

 

メッサーが端末を見ながら、指導する。チャック、ハヤテ、ミラージュとメッサーの間に大きいディスプレイが出現し、フライトログのデータが映し出された。

 

「ミラージュ少尉、右後方の警戒があまい。アラド隊長のフォローが無ければ堕とされていた」

「はい・・・・・」

(あ、そう言えば今日僕以外のΔ小隊で任務があったんだっけ)

 

花蓮は機体がロールアウトしていないため、出撃できなかったからだ。そして、メッサーはハヤテの方を見るが、

 

「以上だ、解散」

 

そう言って端末の電源を切ると同時に、ディスプレイも消える。メッサーは戻ろうとするが、

 

「ちょっと待てよ!呼び止めておいて俺には何もなしかよ!」

「論外だ、話をする価値もない」

「くっ・・・・!」

「いや、一つ忠告しておこう」

 

顔だけをハヤテに向け、

 

「実戦では躊躇うな。確実に敵を堕とせ。今までの戦闘でお前は敵の翼しか狙っていない。ミラージュ少尉、お前もだ」

「・・・・! 空中騎士団はともかく、新統合軍のパイロット達は操られているだけです」

「隊長やチャック、カレンだって新統合軍とやる時は翼を狙ってるぜ」

「隊長達にはその技術がある。ましてやカレン准尉は常に人型形態の状態。空中戦において、ファイターになれない機体

など格好の獲物だが、カレン准尉はそんなことをものともしない。常に不利な状況なのに、一度も堕とされていない。だが、お前達は違う。今のままでは必ず死ぬ」

「くっ!」

「中尉!私のミスについてもう少し詳しく・・・・!」

 

メッサーは今度はちゃんと身体ごと振り向き、ミラージュを見る。

 

「お前の操縦は正確だ、ミスも敢えて言えばの程度に過ぎない」

「では・・・・・」

「そこがお前の欠点だ」

「っ・・・・」

「お前の動きは教科書通り。だから次の動きがすぐ読める。歴戦の勇者を相手にすれば、一瞬で撃ち堕とされるだろう」

「・・・・・」

「ハヤテ准尉は未熟だが、時々予想もしないような動きをする。インメルマンダンスか・・・・デタラメだが操縦センスだけは認めよう」

 

踵を返し、

 

「いずれ死ぬことに変わりはないが」

「なっ・・・・!」

 

その場を去って行った。

 

「厳しいね〜、“死神”様は」

「気にすることねぇぞ、ミラージュ!」

「・・・・・っ!」

 

ーーーーーーーー

 

「えーっと、えーっと・・・・あ!あった!」

 

《ワルキューレ》の控え室で探し物をしていたフレイアは、机の下にあるプレイヤーを見つけほっと胸をなで下ろす。

 

『フレイア、オッチョコチョイ オッチョコチョイ』

「うっさい!」

 

腕時計にバカにされついつい大声で怒鳴ってしまった。

 

「って急がんと!」

 

走って控え室を出て、廊下を走っている最中、

 

ーーーー♪

 

「虹の声・・・・」

 

どこからか歌声が聞こえてきた。

 

「美雲さん・・・・?」

 

歌声が聞こえる方へ向かった。

だんだん歌声が近くなって来ている。歌声の主は、エリシオンの展望台で海風に辺りながら鼻歌をしていた。その姿に一瞬目を奪われるが、すぐに気を取り直す。

 

「その歌、風の歌い手の・・・・」

「フフ、ついね」

 

紫色の長い髪が、夜風でたなびく。

 

「だって、気になるじゃない?歌声から迸る命の輝き・・・・不思議ね?あなたからは何も感じないのにね」

「え・・・・・?」

 

二人のいる展望台には、ただ夜風が頬を撫でていくだけだった。

 

ーーーーーーーー

 

裸喰娘娘

 

「ぷはぁ!ったく、メッサーのやつ、嫌な感じだぜ」

「昔は説教すら無かったけどな〜。こっちがミスしてもジーッと睨んで終わり」

 

裸喰娘娘の屋根裏でハヤテ、チャック、カレン、マキナ、レイナ、フレイアで飲み会みたいなものをしていた。ハヤテは缶を煽り、チャックは顔が赤く染まっている。

 

「ジットリ、ゾクゾク」

「そうなんよ・・・・あの目で何も感じないなんて言われると・・・・はぁ・・・・」

 

フレイアはかなり落ち込んでおり、ルンが黒くなってしまっている。

 

「あらあら〜・・・・」

「ルン、黒」

「ところで、ミラミラは?」

「一人で居残り。あんだけ言われりゃあね〜」

「色々、大変なんですね」

「やっぱカレンはいいやつだよな〜」

「どうしたんですか?いきなり」

 

完璧に出来上がってるチャックを宥める。

 

「ほんに美雲さんも厳しいかんね。ステージはカッコイイけど、長い髪がぶわぁーって流れて」

「あいつの・・・」

「「?」」

 

チャックとフレイアが首を傾げる。

 

「メッサーの飛び方もな」

 

ハヤテはメッサーの機体が飛んでいるのを見た時を思い出す。

 

「青い空に一筋、スッと真っ直ぐな白い線が伸びて・・・・」

「“死神”の異名も伊達じゃないってね。テクニックは隊長よりも上かもな」

「ジークフリードの使い方だって」

「んぁ?」

 

今度はマキナが会話に入る。

 

「ハヤハヤなんか、もう大変。一回飛んだら徹夜明けのお肌みたいで、お化粧の乗りも最悪って感じ」

「ボロボロ、カサカサ」

 

花蓮は化粧を自分でしたことがないのでよくわからないが、要は負荷が多いのだろう。

 

「・・・・ふん」

「その点、メサメサのジクフリちゃんは睡眠バッチリ!最早赤ちゃんのお肌並に」

「スベスベ、モチモチプルプル」

「えへへ・・・・・」

 

スベスベは頬を撫でるだけだったのでよかったが、モチモチプルプルからはマキナの胸を触っていた。しかし、触られている本人は嫌がってはおらず、照れている。

 

「えっと〜・・・・・」

「操縦の負荷が少ないってこと」

「あ〜」

 

今まで微妙な顔をしていたチャックだが、わかりやすく教えてもらい、納得した。

 

「確かにな・・・・」

 

立ち上がり、ベランダの方へと歩いていく。外は街の明かりに照らされ、海には三日月が映えていた。

 

「アイツが飛んでるのを見ると、ゾクッときやがる」

「そうなんよ、隣で踊っとっても見とれちゃうんよね」

 

フレイアもハヤテの隣に立つ。

 

「悔しいけどな・・・・でもよ」

「うん!絶対負けん!」

「明日の訓練で」

「見返してやんだかんね!」

 

二人揃って腰に手をついた格好をする。

 

「お前らさ〜」

「仲良しこよし」

「はは、でもいいと思いますよ。お互いに刺激し合えるのはとてもいいことです」

「「「・・・・・・」」」

「あれ、皆さんどうしました?」

「「「笑ったーーー!」」」

「「ん?」」

 

それから酔ったチャックのどうでもいい話に長時間付き合わされたのは言うまでもない。

 

ーーーーーーーー

 

エリシオン艦内の男子更衣室に二人の男性が着替えをしていた。

 

「聞いたぞ、だいぶスパルタでやってるみたいじゃないか」

「戦いで生き残るためです」

「ま、お手柔らかに頼むぜ。で、お前の方はどうなんだ?身体は大丈夫なのか?」

 

二人は廊下を並んで歩く。

 

「特に問題ありません」

「ならいいが。無理はすんなよ?」

「わかっています」

 

ーーーーーーーー

 

惑星 ウィンダミア

 

ーーーー♪

 

メガネをかけた美しく男性、ロイド・ブレームは手に持った端末と睨めっこしていた。

 

「共鳴率が下がってきている・・・・」

 

すると歌声が聞こえなくなったのに気付き、階段の上を見上げると少年が倒れた。

 

「「ハインツ様!」」

 

二人の従者がすぐに助けにいった。遺跡の機能も停止し、明かりが暗くなっていく。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・」

「ハインツ様、しばらく歌はお控えに・・・・」

「それは困ります」

「「!」」

 

ハインツの後方から、パイロットスーツに身を包んだ黄色い髪を持った美しい男性が向かってきた。

 

「キース!その格好は・・・・」

「敵の偵察隊が制風域に近づいていたので排除してきた」

「そのような報告は受けていない」

 

するとキースと呼ばれた男性は跪いた。

 

「ハインツ様の歌声なくして制風権の確立など有り得ません。何卒、我らの胸に翼をお与えください」

「しかし・・・・!」

「構わない・・・・それが僕の責務だ」

 

少年は立ち上がり、キースの方を向く。

 

「その代わり、一刻も早くこの戦争を終わらせてほしい」

「必ず・・・・大地に刻まれた傷跡にかけて・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

翌日

 

「惑星 イオニデスでヴァール症候群(シンドローム)発生!」

 

エリシオンから離艦したアイテールが、戦闘宙域まで航行していた。

格納庫では出撃準備が急がれていた。

 

「第三種兵装、装着開始ぃ!」

ARIEL(エアリアル)、起動!」

 

ARスクリーンに起動が完了した文字が浮かび上がる。

 

「脱出システム、作動確認!」

 

後方からEX-ギアがハヤテの頭を全部包み込み、作動を確認すると後方へ戻っていく。

 

「整備は万全だぜ!」

「いい感じだ!」

 

整備班とハイタッチを交わす。

 

『プロテクションユニット、接続!』

『MMPブースターパック、装着!』

 

追加装備が装着され、Δ小隊のVF-31はスーパーパック装備状態になった。

 

「新統合軍も既に70%以上が操られ、空中騎士団も現れた。α、β小隊は、ポイントC(チャーリー)の防衛を、Δ小隊はポイントE(エコー)へ。これまでの借りを返してこい!」

 

惑星 イオニデス宙域にデフォールドする。

 

『Δ小隊各機、発進カタパルトへ』

 

Δ小隊のVF-31がアイテールの甲板に出る。

 

『デルタ1より5へ。お前にとっては初めての宇宙戦闘だ。大気圏内の機動の違いや、推進剤の残量に注意しろ!』

「了解!行くぜ、ミラージュ!“死神”ヤローに目にものを見せてやろうぜ!」

「ふっ・・・言われなくとも!」

「・・・・・」

 

後ろに《ワルキューレ》の特設ステージが下から出現する。

 

「歌は愛!」

「歌は希望!」

「歌は生命!」

「歌は元気!」

「聴かせてあげる、女神の歌を!」

 

《ワルキューレ》のメンバーを縁取るように、それぞれのパーソナルカラー色のオーラを纏う。

 

「「「「「超時空ヴィーナス、《ワルキューレ》!!」」」」」

 

それを合図の代わりに、Δ小隊各機のエンジンを点火し、射出される。

 

『ランスロット、『コアルミナス』換装終了!』

「頼んだぜ、カレン!」

「はい!」

 

ハイタッチを交わし、ランスロットのコックピットから降りてきた昇降用ワイヤーにつかまり、乗り込む。起動キーを差し込み、

 

「初期起動スタート」

『初期起動開始、『コアルミナス』の変更を確認、素体、フォールドクォーツ。適合確認をしますか?』

「お願いするよ」

『了解しました。適合確認開始』

 

機械音声と会話をし、キーボードを打っていく。ディスプレイに『Lancelot』と表示される。OSの方もアップデートしてくれたようだ。

 

『適合率、97%。稼働時間はフォールドクォーツによる無尽蔵のエネルギー供給により留意する必要はありません』

「了解、フェイズ22から始める」

『エナジーフィラー装着、フルスタートを確認。出力低下を確認』

 

音声認識で大まかな設定をし、細かい部分はキーボードでしていく。

 

『電圧臨界、到達。コアルミナス相転移開始。デヴァイサー、セットアップ』

「了解、エントリーを確認。個体識別情報アクセス、マンマシンインターフェースの確立を確認」

『ユグドラシル共鳴確認。拒絶反応微弱。デヴァイサーストレス、反応微弱。全て許容範囲内です』

 

OSのアップデートでコックピットの天井までディスプレイになり、上からの攻撃にも対処出来るようになっていた。

 

『ランスロット、起動を確認。カタパルトデッキに移動』

 

ディスプレイにオペレーターの顔が映り、ランスロットの乗っているエレベーターが上昇する。程なくしてつき、上からフロートユニットがコックピットの上部に被さるように装着される。

 

『コンクエスターユニット、装着!』

 

上から、巨大な銃身を折りたたんだ青いユニットが更にフロートユニットの上部に被さるように装着される。コンクエスターユニットからランスロットに送られてくる情報量は凄まじく、ディスプレイにめまぐるしく舞い込んでくる。そして、『Conquest』と表示され、どうやら同期は完了したようだ。

 

『カレン准尉、状況を確認します。現在、新統合軍の70%以上が操られ、空中騎士団と交戦中』

「空中騎士団の撤退を最優先で戦闘を開始します」

『了解。ECMによるノイズ、クリーニングスタート、フェイズをプリセット。選考して味方各機の配置を送信』

「データリンク確認」

『コンプリート』

「空中騎士団 Sv-262 リーダー機の現在位置確認後、送信願う」

『チャンネルMB、ラジャー』

 

操縦桿の丸いボタンを二回押し、ランドスピナーをカタパルトの凹みにセットする。機体が浮き、右腕を前に出し、前傾姿勢になる。

 

「ランスロット・コンクエスター M.E.ブースト」

『発艦!』

「発艦!」

 

もの凄い勢いでカタパルトを走り抜け、フロートユニットを展開。腰にマウントしてあるV.A.R.I.Sを取り出す。フロートユニットのスラスターをフルスロットルで吹かせ、飛翔する。重量が増えたにも関わらず、機動性、運動性は失われていないのも、フォールドクォーツの無尽蔵のエネルギー供給で、機体の基本性能が改良に加え更に底上げされているおかげだ。

 

『嘘だろ、ブースターパックなしであんなに速く飛べんのかよ!』

 

チャックが驚この声をあげる。

 

「すごい、これがフォールドクォーツからのエネルギー供給・・・・・!」

 

するとオペレーターから各機に通信が入る。

 

『Δ小隊各機!前方に巨大な宇宙デブリが接近!』

『なにぃ!?』

『な、なんてデカさなの・・・・!?』

『デルタ1から各機へ!迂回して行く!』

『それじゃ時間がかかります!ここは僕が!』

『デルタ0!?』

 

Δ小隊の後方から高速で接近してくる機体を確認する。折りたたまれていた、砲身が右肩上に展開し、ノーマルモードのV.A.R.I.Sを砲身のソケットに連結し、射撃体勢を取る。

 

「皆さん、避けてください!」

 

前方にいるΔ小隊各機が散開するのを見て、

 

「ハドロン・ブラスター 出力最大!」

 

あんなバカデカイ宇宙デブリには生半可な火力では粉砕出来ない。ハドロン・ブラスターの出力を最大にしなければ撃ち砕くことは出来ないからだ。高精度な狙撃を行う場合はファクススフィアと、マニュアルロックオンを併用しなければならない。ディスプレイの照準がデブリの中心を捉えた瞬間、

 

「っ・・・・・!」

 

トリガー状になっている操縦桿のボタンをクリックすると同時に、ハドロン・ブラスターから極太赤色レーザーが宇宙デブリめがけ発射される。出力最大に加え、フォールドクォーツからのエネルギー供給により更に威力が上がっているハドロン砲は見事、デブリの中心を狙い撃つ。ビビが入り、デブリは爆散した。

 

「す、すごい・・・・・」

「マジかよ・・・・」

 

ミラージュとハヤテが驚愕に目を剥く。

 

「これが、極一点集中砲撃特化のハドロン・ブラスター・・・・・」

 

自身でも驚きを隠せない。

 

(でも、これなら・・・・!)

『Δ小隊、行くぞ!』

『『『『了解!』』』』

 

アラドの号令で、爆散したデブリの中を疾走する。

 

「Δ小隊、見参!」

 

アラドのそんな言葉と《ワルキューレ》の歌と共に、戦闘が開始された。



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Mission15 決断 オーバーロード

表現がヘタクソすぎて・・・・・




《ワルキューレ》の『Walkure Attack!』をバックに、Δ小隊は戦闘宙域へ疾走する。コンテナユニットを展開し、戦闘宙域を漂うアステロイドに《ワルキューレ》を映す。

〈ドラケンⅢ〉が無数のハイマニューバ・ミサイルを発射する。雲を引きながらこちらへ向かってくるが、再度、ハドロン・ブラスターを展開、発射する。拡散することは出来ないが、花蓮には考えがあった。

 

「これならっ・・・!」

 

発射しながら横に薙ぎ払う。間を置いて、遠くで無数のミサイルが次々に爆発していく。ヴァールとなった新統合軍のパイロット達は、アステロイドに映った《ワルキューレ》の歌声を聞いて、正気に戻っていく。

 

「隙ありぃ!」

 

映像に気を取られているヴァールの機体を、両腕だけを展開した状態でレールガンで撃ち、無力化する。

 

『デルタ3!後ろだ!』

「おわっ!」

 

捕まりそうになるが、上昇し逃げる。その後を追おうとするが、アラドが後ろから二本のアサルトナイフで両脚、両腕を切り裂く。

 

「隊長!」

『次行くぞ!』

「ウーラ・サー!」

 

ランスロットの通信が入る。

 

『直上より、ウィンダミア機!カレン准尉!ダーウェントの白騎士は二時の方向に!』

「了解!」

 

フルスロットルで飛んでいく。

 

(今度こそ、逃がしはしない!)

 

ペダルを踏み込み、スラスターを更に吹かせる。

 

「来たな、白騎士」

 

ーーーーーーーー

 

「ぐっ・・・・!」

 

ハヤテは前方のヴァールが操る機体をガウォークで追っているが、アステロイドが邪魔で思うように操縦が出来ない。躱そうとするが、アステロイドに右翼が擦れる。

 

「うぁぁ・・・・!」

 

ぶつかったことで、体勢を維持出来ず宙を漂うが、ガンポッドを構えた新統合軍の機体がここぞとばかりにハヤテの機体に向ける。

 

『デルタ5!』

 

ミラージュの声が聞こえ、ガンポッドからの攻撃と同時に脚部のエンジンを吹かせ躱し、バトロイドに変形する。密着し頭部を対空ビーム機銃で破壊、ガンポッドをミラージュの機体がバトロイドに変形し、アサルトナイフで破壊する。喧嘩ばかりだが、今回も見事な連携だった。

 

「サンキュー、ミラージュ! っ!カレン!白騎士と!?」

 

遠くで幾つものアステロイドを踏み台にし、翠色の軌跡と白色の軌跡が戦闘を繰り広げていた。先を読まれては読み返し、アステロイドに身を隠しやり過ごす・・・・と、そんなやり取りがハイスピードで行われていた。V.A.R.I.Sのエネルギー弾を撃つが躱され、相手のビームも躱す。

 

「っ・・・・・」

「ほう、貴様も風を読むか!」

 

キースの水色のルンが輝きを放つ。更に〈ドラケンⅢ〉を加速させる。

 

「コアルミナス・コーン、展開!」

 

新たに追加された、胸部、両脚の発生装置と従来からあった両腕の装置を一斉稼働させ、錐体状に機体を覆うコアルミナス・コーンを展開する。コアのフォールドクォーツのエネルギー供給により、その防御力は格段に上がっている。

 

(このままじゃ埒が明かない!先回りして、ブラスターで狙い撃つ!)

 

展開した状態で加速、アステロイドにぶつかるが貫通。そのまま突撃していき、行く先にあるアステロイドを一直線に貫通していく。

 

(消えただと・・・・?)

 

キースはレーダーで索敵するが、アステロイドが邪魔で識別が上手く出来なかった。すると、熱源反応のアラートが鳴る。

 

(まさか・・・・・!)

 

前方に巨大な砲身をこちらに向け、狙撃体勢をとった白騎士がそこにいた。

 

「いっけぇ!」

 

ハドロン・ブラスターから放たれた赤色の光芒は幾つものアステロイドを粉砕していき、勢いを緩めることなく〈ドラケンⅢ〉へと向かっていく。迷っている時間は与えない程の凄い勢いで飛来していき、避けられないと判断し機体をバトロイドに変形、両腕に最大出力のピンポイントバリアを形成する。バリアと光芒が衝突し、その余波が周りのアステロイドを吹き飛ばす。

 

「ぐっ・・・・・!」

 

遅いくる衝撃になんとか耐える。ディスプレイに両腕の部分が赤くなっている機体の映像が映り、危険だと知らせる警告音が絶え間なく鳴り響く。なんとか一撃を耐え抜いたが、既に両腕は使い物にならなくなっていた。おまけにピンポイントバリアに機体のエネルギーをほぼ持って行ってしまったため、残量も少なくなっていた。

 

ーーーーーーーー

 

「すげぇ、アステロイドを踏み台にして・・・・よっしゃ!」

 

脚部のエンジンを吹かせ、カレンの援護に向かおうとするが、

 

「ぐっ!追いつかねぇ・・・!」

 

もの凄い速さで飛んでいく二機に、どんどん離されていく。

 

『後ろ上方!』

「なに!?」

 

後ろから〈ドラケンⅢ〉二機がハヤテに向かってビームを乱射する。それを脚部のエンジンを巧みに操作し躱す。

 

『躱した!?』

『そんなバカな!』

 

敵を気にして後ろを向いていたが、前方にアステロイドが近づいていることに気づいたのは、すぐ目の前まで来ている時だった。そこにはフレイアが映し出されていた。

 

「っ・・・・・!」

 

操縦桿を倒し、ペダルを踏み込む。アステロイドを滑り、先程の二機のビームの攻撃をバック転して躱す。

 

「風と・・・!」

「踊っている!?」

 

敵のパイロットは動揺を隠せなかった。そのまま花蓮と同様、敵の攻撃を躱しながらアステロイドを踏み台にしていき、新統合軍の機体のガンポッドを蹴り飛ばし、機体も蹴り飛ばす。

 

「・・・・!」

 

ミラージュもハヤテの成長に驚いた。

 

ーーーーーーーー

 

「「戦うの♪」」

(ルンルン・・・・ルンルン!)

 

アステロイドに映っている《ワルキューレ》を見て、ボーグは、

 

「余計な真似を!行くぞ、テオ!ザオ!」

『我らの真の風を!』

『見せつけてやりましょう!』

 

三機の〈ドラケンⅢ〉がアイテールに向け飛翔する。

 

「抜かれた!α、β小隊迎撃を!」

『α小隊、了解!』

 

α小隊の〈カイロス〉が数機、迎撃に向かうが歯が立たない。

 

「まずい!」

 

カナメが庇うように前にでる。

 

「フレイア!」

 

ハヤテはアステロイドを使い、方向転換する。が、ミラージュは上手く出来ずに、遅れてしまった。

 

「ぐうっ・・・・・!」

 

ーーーーーーーー

 

「皆っ!」

 

花蓮もチャックからの通信で、直ぐに方向転換する。気がつけば、金色の〈ドラケンⅢ〉はいなくなっていた。だが、今はそんなこと気にしている場合ではない。凄まじいスピードでアイテールに向かい、飛翔する。自分が今いる場所からアイテールまで距離が結構ある。このままだと間に合わない。胸の鼓動が激しくなっていく。

 

「間に合えぇぇぇ!!」

 

花蓮の目のハイライトが消える。コアのフォールドクォーツも花蓮に呼応するかのように輝き出し、ランスロットは金色の光に包まれ流星の如く飛んでいった。

 

ーーーーーーーー

 

「くらえぇぇぇ!!」

 

ボーグの機体から大量のミサイルがアイテールめがけ発射された。それをアイテールの防衛機関システムが迎撃するが、撃ち漏らしが特設ステージめがけ飛来してくる。

 

「ピンポイントバリアを!」

 

カナメが叫ぶと、ステージのガラス張りい一枚先に、ピンポイントバリアが展開され、ミサイルを防ぐ。余波でステージが揺れる。

 

「うわっ!」

 

フレイアが転び、起き上がろうとした瞬間、

 

『見つけたぞ!裏切り者!』

「裏切り者・・・・?」

 

三機の〈ドラケンⅢ〉が特設ステージの前でバトロイドに変形する。そのうちの一機がフレイアにガンポッドを向けた。

 

『ボーグ様!側方から高速で接近する機体が!』

「なに!?」

 

彼方が煌めき、金色の流星が近づいてくる。

ランスロットの左脚の発生装置だけを稼働させ、左脚にブレイズ・ルミナスを纏うことで、回転蹴りの殺傷力を上げる。そして、まず《ワルキューレ》から見て右側の〈ドラケンⅢ〉がランスロットの回転蹴りで吹き飛ばされた。

 

「カレン!」

 

《ワルキューレ》に笑顔が戻る。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

「テオ!!」

「コイツっ・・・・!」

 

ザオの機体、《ワルキューレ》から見て左側の機体がガンポッドをランスロットに向け撃つが、首を横に倒しただけで躱されてしまった。

 

「彼女達に・・・・・手を出すな!」

 

V.A.R.I.Sを腰にマウントし、一瞬で間合いを詰める。二本のMVSを抜き、ザオの機体の頭部、両腕、両脚を一気に切断する。

 

「そ、そんな・・・・・一瞬で・・・・・」

 

ザオの機体のシステムがダウンした。

 

「ザオぉ!貴様ぁぁぁ!!」

 

ボーグの機体が振り向く前に、両腰に格納されてあるスラッシュハーケンで両腕を吹き飛ばす。

 

「力の差が・・・・違いすぎる・・・・」

 

ボーグの顔に焦りと恐怖が滲み出す。花蓮は攻撃の手段を失ったボーグの機体を遠くに蹴り飛ばした。

 

「はぁ・・・・!はぁ・・・・!」

 

ランスロットを包んでいた金色の光は次第に消え、一気に疲れが押し寄せる。

 

(さっきのは・・・・一体・・・・)

『カレン!』

 

ランスロットに通信が入る。ディスプレイにハヤテの顔が映し出された。

 

『大丈夫か!?』

「はい、それよりミラージュさんは・・・・」

 

すると二人のコックピットにミラージュから通信が入る。

 

『メイデイ!メイデイ!』

「無線救難信号!? まさか、ミラージュ!」

「行ってください、ハヤテくん!」

「ああ!頼んだ!」

 

バトロイドからファイターに変形し、飛翔する。

 

ーーーーーーーー

 

「く・・・・・!」

 

ミラージュは二機の〈ドラケンⅢ〉に追い詰められていた。ガンポッドまで破壊され、一機のバトロイドの〈ドラケンⅢ〉が「いけ」の合図を出していた。

 

「なめやがって・・・・!?」

 

とうとう追い詰められた。敵の集中攻撃を浴びる。後ろにはアステロイド、逃げ場などなかった。ピンポイントバリアで防ぐが、だんだんもたなくなってきている。

 

『ミラージュ!』

「ハヤテ!」

「くそ!まだ遠い!」

 

コックピット内に推進剤が無くなる警告音が響く。

 

「推進剤まで!?」

 

照準が合わさり、

 

「今だ!」

 

ミラージュに集中攻撃していた〈ドラケンⅢ〉に向かい、レールガンを乱射する。〈ドラケンⅢ〉に全弾命中し、パイロットが脱出するのを見て、ヘルマンが救出に向かおうとした瞬間、爆発に巻き込まれてしまった。

 

「・・・・!!」

「ハヤテ・・・・!」

「くっ・・・・!」

 

ヘルマンは悔しい顔をして、その場を去る。

 

ーーーーーーーー

 

花蓮のコックピット内に敵襲のアラートが鳴り響く。

 

「白騎士・・・・!補給が・・・・!」

 

ランスロットを向かわせようとするが、

 

『カレン准尉は《ワルキューレ》の護衛を。奴は俺が墜す!』

「中尉!?」

 

メッサーのVF-31Fと〈ドラケンⅢ〉がドッグファイトを開始した。

 

「ほう、貴様、少しは風を読むようだな」

「白騎士!」

 

そして、すれ違いざまにキースはメッサーの機体のエンブレムを見る。

 

「死神・・・・」

『聖騎士長より騎士達へ。もう十分だ、全軍枝に戻れ!』

 

ディスプレイにロイドが映る。

 

「いやまだだ、このまま敵を殲滅する!」

「ハインツ様は無用な犠牲は望んでおられない。そのご意思に背くつもりか?」

「くっ・・・・!全軍撤退、枝に帰投する!」

 

キースの機体を先頭に全軍がひいていく。テオ、ザオ、ボーグの機体はヘルマンとカシムが回収し、帰投して行った。

 

「くっ・・・・・!」

 

撃ち損ねたメッサーは、悔しい顔をした。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

「ハヤテ・・・・・」

 

ミラージュは何も声をかけることが出来なかった。

空中騎士団の撤退により、惑星イオニデスでの戦闘は幕を閉じたーーー

 

ーーーーーーーー

 

アイテールはラグナへと帰還し、エリシオンと合体。《ワルキューレ》、Δ小隊の任務は一先ず、終了した。

 

「・・・・・」

 

ミラージュは、堤防で一人座っているハヤテを後ろから見つめることしか出来なかった。

 

「奴は今、どうしてる」

「さぁな。パイロットとしての才能はある。だが、戦士としてはどうだかな」

 

アラドとアーネストはゆっくり、息を吐いた。

花蓮はハヤテとミラージュを探していた。

 

「あの、ハヤテくんとミラージュさん見ませんでしたか?」

「ああ、ハヤテなら、今は一人にさせて置いた方がいいぞ」

「何か、あったんですか?」

「人を初めて、殺したんだとさ」

「・・・・!」

 

別段驚くことではない。今は戦争中だ、自分が撃たなきゃ、誰かが撃たれるのだから。撃たなきゃ、誰も守れない。そのことは花蓮も重々承知していたことだが、やはり、人を殺めることには決して慣れはしないはずだ。

 

(カナメさんに頼んで、検査してもらおうかな・・・・)

 

さっきのあの感覚。あれは一体なんなのか、花蓮にはわからなかった。

 

ーーーーーーーー

 

「え・・・・?ハヤテが・・・・?」

「・・・・」

 

カナメが無言で頷く。他の面々は何も言えなかった。だが、その静寂を一人の声が破る。

 

「早く行きなさい」

「「・・・・?」」

「くだらない言葉に足元をぐらつかせている様な人間は必要ない」

「え・・・・?」

『見つけたぞ!裏切り者!』

「っ・・・・・」

「美雲!」

「フレフレは自分の故郷の星と戦争しなきゃいけないんだよ!?」

「・・・・でもね、そんなことじゃこの銀河全てに歌声を届かせることなんて出来やしない。私達は《ワルキューレ》」

 

フレイアの顎を人差し指で持ち上げる。

 

「あなたは何故ステージに立つの?何のために?どんな思いで歌っているの?もう一度、よく考えなさい」

「・・・・・」

 

そう言って美雲は更衣室を出て行った。

 

「あ、美雲さん」

「あら、どうしたの?」

 

更衣室を出ると、ばったり花蓮と出会った。

そこから、二人で展望台へと向かう。夕焼けが水平線に埋もれ初めていた。

 

「あの時は助けてくれてありがとう」

「あ、いえ。皆さんを護るのが僕の役目ですから」

「でも、あの時のあなたは少し変わってたわね」

「え?」

「優しさを捨て、強さに特化した・・・・そうまさに修羅のようだったわ」

「・・・・・・」

 

花蓮はただ呆然と聞いていた。確かにあの時の自分は、自分が自分じゃない気がした。でも、なぜ美雲がそれを?

 

「ディスプレイに映ったあなたの目、いつもと違ってたもの。とても、冷たい目だった」

「僕の目、ですか?」

「ええ、でも、あなたはあなたよね。ごめんなさい、変なこと言って」

 

そう言って、海の方を見る。その横顔を少し見てから花蓮も海の方を見た。潮風が頬と鼻を撫でていく。ふと、美雲の手が花蓮の手と繋がれていた。

 

「あ、あの、美雲、さん?」

 

流石の花蓮もこれには動揺を隠せなかった。

 

(ど、どどどうしたんだろ、美雲さん!)

「絶対に・・・・帰ってきて」

「・・・・・」

 

いつもの声とは違う、少し弱々しい声で発せられた。それと同時に花蓮の手を握る強さが少し増した。

 

「・・・・はい。絶対帰ってきます」

「約束ね。じゃあ手、強く握って」

「・・・・はい」

 

一瞬躊躇ったが、花蓮も美雲の手を握り返した。

これからも空中騎士団との、ウィンダミアとの戦闘が苛烈になって行くに違いない。花蓮達の戦いは、始まったばかりだったーーー



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Mission16 潜入 エネミーライン

マクロスΔの映画みたい!

少し短いかも知れません、ごめんなさい!


プロトカルチャー

 

およそ50万年前、高度な技術(テクノロジー)で銀河系に一大星間文明を築いたとされる種族。彼らは様々な惑星の現住生物に遺伝子操作を施し、地球人をはじめとする多くの人類種を創りあげた創造主でもあり、その偉大な力の痕跡は銀河の各所に残されていたーーー

 

ーーーーーーーー

 

現在、アイテールはアステロイドに身を隠しながら気を伺っていた。

 

 

「敵艦隊並びに監視衛星、多数展開」

「敵絶対防衛網のネットワークを逆手に取って侵入しましょう!」

「まるで静かなる侵入者(サイレント・ハッカー)ですね」

「腕の見せどころ」

 

レイナが指のマッサージをしながら自信満々に言った。

 

「相手にとって不足なし」

「フフ、この世に」

「開かないドアはない」

 

マキナとレイナがタッチをし、ミッションがスタートした。レイナの服が、歌っている時と同じ衣装に代わる。

凄い速さでキーボードを打っていき、多数の敵艦のメインコンピューターにウイルスをばらまく。だが、防衛システムが作動しウイルスを駆除(バスター)していく。赤い線がレイナめがけ飛んでいくが、マキナがそれをガード。再度、ウイルスをばらまき、メインコンピューターの最終防衛システムを破壊。レイナが親指を下に向け、勝利の一言を発する。

 

「チェックメイト!」

 

メインコンピューターのハッキングに成功。敵艦隊が展開していた防衛フィールドが消滅し、そこらからVF-31が三機とランスロット、《ワルキューレ》を乗せたシャトルが惑星へと降りていった。

 

ーーーーーーーー

 

惑星 ヴォルドール

 

「ヴォルドール。陸地の62%が湿原に覆われた水と緑の惑星。主な資源は木材、果物、そして天然水」

「戦略的価値ゼロ」

 

降下に使った機体は木々が特に生い茂る所に隠しておいた。

 

「私とマキナ、レイナ、メッサー中尉は南側から首都に潜入。美雲とフレイアはミラージュ少尉、ハヤテ准尉と北側から。そして・・・・・・」

「僕、一人でも大丈夫ですよ?」

「ダメだよ!変な人に連れ去られたらどうするの!?」

「あたし達と来たらどうかね?」

「カレカレはこっち!」

 

何故か花蓮の取り合いが始まり、かれこれ十分が過ぎたところで結局美雲の圧力により、ハヤテのグループに加わることになった。

 

「ふぇぇぇ・・・・負けちゃったよ〜レイレイ〜」

「よしよし」

「美雲さんナイス!」

「私にかかればこんなこと出来て当然よ」

「よろしくな、カレン」

「よろしくお願いします、ハヤテくん、ミラージュさん」

「さて、そろそろ行きますか」

「了解だーにゃん!」

「にゃんは入りません、にゃんは」

「にゃん・・・・」

 

銃の確認をしながら的確なツッコミがミラージュから入れられる。

 

「きゃわわ〜!レイレイのにゃんにゃんきゃわきゃわ〜♡」

「フシャーー」

「にゃん、爪立てないで♡」

「こ、これは・・・・」

 

作戦に必要な変装には、猫耳と顔につけるペイント。ペイントはいいのだが、この猫耳を付けるのに少々抵抗を感じてしまう。それはハヤテも同じようだった。

 

「俺猫アレルギーなんだけど・・・」

「ヴォルドール人は猫型哺乳類から創られた種族だから」

「文句があるなら来るな」

 

声がしたほうを振り向けばなんとメッサーが、猫耳を付けていた。

 

「う・・・・・」

「ハヤテも負けてられんにゃん!」

「わかってるよ・・・・」

「そうね、負けてられん・・・」

『くだらない言葉に足元をぐらつかせている様な人間は必要ない』

「っ・・・・!見ててください、美雲さん!ゴリゴリ役に立つとこを・・・・・ってあれ?」

 

美雲に話しかけたつもりがその場所にはもういなかった。なぜなら、

 

「あ、ちょ!美雲さん!皆さんと!団体行動です!」

 

花蓮の手を引いて、遠くまで歩いていたのだ。

 

「単独行動クイーンwithカレン」

「カレンまで巻き込んであの人は・・・・!」

「にゃ、にゃんですとーー!!??」

 

ーーーーーーーー

 

カナメグループ

 

程なくして首都につき、潜入調査を開始する。

 

「うわぁ!色んな猫耳ぃ!たまりませんな〜♡」

(大きな混乱は起きていないようね)

「・・・・お?」

 

マキナが向いている方向に全員が目線を向ける。マキナのかけているメガネをズームにし、生体フォールド波を表した図が出てくる。生体フォールド波が紫色になっていた。

 

「生体フォールド波がこんなに・・・・」

「カナメさん」

「フフ、了解♪」

 

カナメは自分の爪を尖らせた。

 

「あの〜」

「ん?」

「水上バス乗り場ってどこに行けば・・・・」

 

警備兵と話しているカナメの後ろを、メッサーが通り過ぎる際にわざと押す。警備兵に身体を預けるように前に倒れる。

 

「きゃあ!」

「気をつけろ!」

「そっちこそ!でっかい身体でボケーって歩いちゃって!」

 

警備兵が僅かな痛みを感じ、手の甲を見ると引っ掻き傷が三本つけられていた。そこから血が滲みでている。

 

「あ、ごめんなさ〜い」

 

そこから逃げるように退散し、路地裏に入る。持ってきたプレパラートの上に爪を立て、血を一滴垂らす。それを分析する。

 

「分析完了」

「やっぱり出たわね、セイズノール」

「ヴァール化を誘発する物質か」

「軍も警察機構もマインドコントロールされていると見て間違いないわね」

 

ーーーーーーーー

 

「ぶぇっくしょん!・・・くっそ〜」

 

やはり猫アレルギーにはこの星は辛いのだろうか、ハヤテは盛大なくしゃみをした。すると、

 

「お兄ちゃん大丈夫ね?」

「え?」

「風邪でもひいたがね?」

「えぇ!?」

 

どこからともなく知らない人たちが集まりだした。

 

「いいマタタビあるわよ〜?」

 

差し出されたマタタビに微妙な顔をする。

 

「い、いや・・・・」

 

いわゆる押し売りだろう。あたふたしていると服を後ろ引っ張られ、

 

「「お、お構いなく〜」」

 

その場から三人は一目散に逃げ出した。

 

「全く、くしゃみくらい我慢してください!」

「仕方ねぇだろ。だいたい潜入任務って俺達パイロットじゃねぇか。開始早々、二人とははぐれるし」

「私もそう思います。ですが・・・・」

 

そこでミラージュはアラドに言われたことを思い出す。

 

『色んな経験が後々役に立つ。言うだろ?』

「深く潜ったクラゲ程うまい、だそうで・・・・」

「俺はクラゲじゃねぇ」

「私もです!」

 

そこでいきなりフレイアが立ち上がり、

 

「大丈夫!私に任せんかね!レッスンと一緒にちゃーんと潜入訓練は受けて来たかんねー!」

 

実に心配な人ほど自信に溢れているものだ。

 

「・・・・?」

「どうした?」

「クンクン・・・この匂い・・・・!」

 

急にフレイアが走り出した。

 

「ルンルン、きったー!」

「なっ!」

「俺より目立ってんな」

「どうしてこう皆・・・・!」

 

ミラージュは目頭を抑えた。

 

ーーーーーーーー

 

「み、美雲さん。どこまで行くんですか?」

 

花蓮と美雲は森の山道を歩いていた。鬱蒼と生い茂っているわけではないので、日差しがところどころ差し込んでくる。

 

「あなたには聴こえない?」

「聴こえないって・・・・・あれ?何か聴こえる・・・・」

「行ってみましょう」

「あ、はい」

 

しばらく歩くと道が開ける。そこには見張りの機体と、木の上で歌っている女の子と必死に問いかける男の子がいた。

 

「あれは・・・・」

 

見張りの機体に向かって、必死に女の子は歌っていた。

 

「ことばーだけじゃーつたわーらなーいーよ。このむねーにあるーしんーじつーたちーーーーー」

「悲しい歌声ね」

「あの機体のエンブレム・・・・」

 

肩にある狼を象ったエンブレムに目が行き、端末を取り出し調べる。

 

「アルベルト・ララサーバル大尉。新統合軍ヴォルドール航空軍のエースパイロットがなぜ・・・・」

「父さん!返事してよ、父さん!」

「父さん・・・・?」

 

花蓮と美雲の顔が曇る。

 

「この歌なら、《ワルキューレ》の歌なら悪い病気が治るんでしょう!?」

「まさか、アルベルト大尉は敵の・・・・!」

「ええ、そのようね」

「返事してよ、父さん!!」

 

すると、アルベルトの機体の足元に一台の車がやってくる。

 

『I-865。風が変わる、交代だ』

「・・・・・了解」

「あ・・・・」

 

そのままバトロイドの機体は基地へと帰っていく。

 

「父さん!」

「お父さぁぁぁん!!」

 

子供達の悲痛な叫びが花蓮の胸に刺さる。

 

「なんで、あんな小さな子供まで辛い思いをしなきゃいけないんだ・・・・」

「・・・・・」

 

歯を食いしばる花蓮の横顔を美雲は見つめていた。

 

「やっぱり嘘だったんだよ・・・・歌で病気を治るなんて・・・・・」

 

花蓮が何かを言おうとした瞬間、近くの家から声がした。

 

「嘘じゃない・・・・《ワルキューレ》の歌は・・・・」

「あ、フレイア!」

 

そのままフレイアは階段を駆け下り、先程の機体に近づこうとした瞬間、見知らぬ人に捕まり、連れ去られてしまった。それを見ていたハヤテは、

 

「フレイア!」

 

フレイアの後を追った。

 

「きゃあ!」

 

フレイアは突き飛ばされ、木にぶつかる。そのまま壁ドンされてしまい、逃げ場を失う。

 

「やめろ!」

「その子を離しなさい!」

 

ミラージュが銃を向けた瞬間、突如現れた何者かに銃を蹴り飛ばされ、足を絡められ倒れる。隣のハヤテも反応するが、その前に首にサバイバルナイフを突き立てる。

 

「無駄な抵抗は・・・・え?ハヤテくん?それに、ミラージュさん?」

「カ、カレン!?」

「す、すみません!ミラージュさん、大丈夫ですか?」

「え、ええ」

「じゃあ、あの人は・・・・」

「はい、美雲さんです」

「全く・・・・」

 

スカーフを取り、顔を見せる。

 

「遊んでいる暇はないんじゃない?」

「美雲さん!今までどこに・・・・」

 

ミラージュが美雲に詰め寄ろうとしたが、美雲から出された手を見て、立ち止まった。

 

「これは?妙な虫だな」

 

美雲の手の上には小型の虫がいた。

 

「ツノゼミ型マイクロドローンよ。センサーカメラ付きのね」

「え、センサーカメラ?」

 

美雲の爪型プロジェクターから、ディスプレイが映し出されそこにハヤテの顔が映る。

 

「これを使ってある事を調べるわよ」

 

美雲が微笑し、四人は首を傾げた。



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Mission17 兆候 サイン

カレンに異変が!?

遅くなってすみません!


「極秘の政府間協議ですか?」

「ええ」

 

美雲は手に持ったリモコンを一押し、目の前に多数のディスプレイが浮かび上がる。

 

「少しは役に立つ情報が手に入るんじゃない?」

「こんなに・・・・いつの間に仕掛けたんですか?」

 

ディスプレイに映っている映像は全て、美雲が仕掛けたツノゼミ型マイクロドローンからの映像だった。

 

「僕も気づきませんでした・・・・」

 

流石の花蓮も驚きを隠せない。

 

「ちょうど始まるみたいね」

 

ディスプレイの一つにあの、ロイド・ブレームとこの国の代表が会っている映像を見る。

 

「あ、ロイド殿下・・・・」

「・・・・・」

 

ハヤテは真剣な表情でその映像を見つめた。

 

ーーーーーーーー

 

「統合政府の統治も、悪いことばかりではありませんでしたがねぇ。彼らの基地のお蔭で雇用が生まれ、技術が移転されたのですから」

 

老けたヴォルドール人がそう言った。

 

「そうやって飼い慣らしていくのが、彼らのやり方ですよ」

 

ロイド・ブレームも穏やかな笑みを浮かべながら言った。

 

「だとしても、請求過ぎはしませんかねぇ、宣戦布告とは」

「我々には時間がありませんので」

 

その言葉に老人は眉を少し上げる。

 

「ウィンダミア人の平均寿命は確か・・・・三十年程」

「ええ・・・・」

「・・・・・わかりました。大人しく従うとしましょう。ウィンダミア人は敵も味方も、まとめて吹き飛ばす様な方々ですからなぁ・・・・・次元兵器で」

「・・・・・」

 

ロイドはそれには答えず、静かな笑みを浮かべた。

 

「次元兵器?」

 

フレイアが疑問を口にする。

 

「よもや既に持ち込んでいるとか?」

「まさか・・・・」

「では、遺跡のあれ(・・)は?」

「学術調査です」

「ああ、そう言えば宰相殿は学者でもあられましたなぁ。プロトカルチャー研究の論文、拝読致しました」

 

ロイドは一礼した。

 

「『滅亡寸前のプロトカルチャーが、最後に創造した人類種がこのブリージンガル球状星団の民であり、よって我々こそがプロトカルチャーの正統な後継者である』・・・・・そのような話、本当に信じておられるのですか?」

 

老人の言葉にロイドは立ち上がる。

 

「その鍵を握るのが、あの遺跡かと」

 

ロイドは確信の篭った瞳で言った。

 

「遺跡?」

「遺跡・・・・・母さんの手掛かりが分かるかも知れない・・・・・」

(カレン・・・・・?)

 

ハヤテの隣で独りで何かを喋っているのが、気になって仕方が無かった。

 

『わかったわ!』

 

ディスプレイにカナメが映る。

 

『パルガナル遺跡。プロトカルチャーが残した物のようね』

「カナメさん」

『ヴォルドール人が聖地として崇めている場所よ。そこをウィンダミアが封鎖して、何かの施設を建てたらしいわ』

「そこで次元兵器を?」

『可能性はゼロじゃないわね』

「了解、後で合流しましょう」

 

そこで全てのディスプレイを消す。

 

ーーーーーーーー

 

「侵入者だ、防空管制がハッキングされた形跡がある」

「そうか・・・・・」

 

キースとロイドが見上げた先に、一匹の虫が飛んでいった。

 

ーーーーーーーー

 

「なぁ、さっきの次元兵器ってなんね?」

 

車の荷台に乗って移動中の花蓮グループは、フレイアの質問に驚く。

 

「時空間を歪ませて破壊する、絶大な威力を持つ大量破壊兵器。銀河条約により、使用は禁止されているけど七年前の独立戦争でウィンダミアが使ったとされているわ」

 

ミラージュのわかりやすい説明に、納得する。

 

「七年前・・・・もしかしてあの時の・・・・・」

 

フレイアは過去の記憶を引っ張り出す。忘れもしない、全てを飲み込んだ紫色に輝く球体を。

 

「でもあれは地球人がやったって・・・・」

「いいえ、ウィンダミアが新統合軍に対して使用したの。数百万の自国民を巻き込んで」

「でも村長さんは・・・・」

 

言いかけたのを美雲が制する。

 

「あなたが見ている私は本物?それとも・・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

程なくして遺跡の目の前に到着し、近くに隠れる。

 

「クモクモお疲れ〜」

「お疲れ」

 

互いにブイサインをし、あいさつを済ませる。

 

「・・・・・」

 

花蓮とその他のメンバーもん?ペイントと猫耳をとり、遺跡を見上げる。

 

「うわぁ、あれがプロトカルチャーの遺跡?デッカルチャーやね〜」

 

目の前といってもまだ先にそびえる塔を見上げ、感嘆の声を漏らすフレイアの傍ら、美雲は、

 

「なに・・・・この風・・・・」

 

嫌な予感を感じていた。

 

「見ててください、美雲さん!今度こそ役に立つところを・・・・って、あれ?」

 

またもや美雲に話しかけたのだが、そこには美雲はおらず、

 

「み、美雲さん!?またですか!?団体行動を・・・・・」

 

花蓮の手を引いて先へ進んでいた。

 

「また先に行ってるな」

「ふぁ・・・!」

「はぁ・・・・」

 

ミラージュはため息をついた。

 

「どう?セキュリティの方は」

 

カナメは巨大な木の根に座って、セキュリティのチェックをしているレイナに話しかける。

 

「全部ゴミ、カス。こんなんじゃ全然チクチクこない」

 

どうやら遺跡のセキュリティはお気に召さなかったようだ。

 

「あはは・・・・」

 

カナメは苦笑いを浮かべた。

 

ーーーーーーーー

 

「み、美雲さん!どこまで行くんですか!」

「・・・・・」

(誰、私を呼ぶのは)

 

無言のまま花蓮の手を引き、遺跡の内部を進んでいく。しばらくすると道が開け、そこに祭壇のような、幾本もの柱が円を描いていた。

 

「プロトカルチャー・・・・」

「ここは・・・・・ん?カナメさんからだ」

 

端末に着信が入る。

 

『カレンくん、美雲は一緒?』

「はい、何か分かったんですか?」

『ええ。軍への納入品、銀河リンゴと遺跡の地底湖にある水を同時に取り込むと体内にヴァール化を誘発するセイズノールが合成されることがわかったわ。つまり・・・・』

「じゃあ、ここの軍の人達は・・・・」

『ええ、おそらくそれが原因ね。詳しくは・・・・・』

 

突如、端末の向こうで侵入を告げる警報音が鳴り響いた。

 

『見つかった・・・・!?ごめん、切るね!』

 

通話が途切れ、辺りは静寂に包まれた。

 

「美雲さん!皆さんと合流しましょう!」

 

叫ぶが一向に振り向く気配がない。

 

「美雲さん!」

 

近づき、振り向かせようとした瞬間、

 

「追いつけない 君はいつでも この場所から 何を見てたーーーー」

「!」

 

美雲は歌いだした。

 

「美雲さん、歌っている場合では・・・・ぐっ!」

 

突如頭に激痛が走る。自分でも何がどうなっているのか分からなかった。

 

「頭が・・・・・!ぁぁぁ!」

 

頭を両手で抑え、地面に膝をつく。美雲の歌声が増すにつれ、痛みもその強さを増していく。

 

「ーーー・・・・カレン?」

「ぐっ・・・・ぁぁぁ・・・・」

「カレン!」

 

歌い終わった美雲に苦しみに耐える声が耳に入る。それは花蓮から発せられていたもので、走って地面に膝をつき悶え苦しんでいる花蓮を抱きかかえ、顔をこちらに向ける。

 

「っ!」

「み・・・・くも・・・さ・・・・」

 

花蓮の身体に謎の紋様が浮かび上がり、明滅を繰り返していた。

 

「僕・・・・は・・・・・!」

「カレン!」

 

花蓮の手を強く握る。すると、明滅していた紋様は徐々に消え、苦しんでいた顔は安らぎを取り戻していく。

 

「美雲・・・・さん?」

「大丈夫・・・?」

「助けて、くれたんですか・・・・?」

「・・・・・」

 

美雲は何も言えなかった。自分の歌で花蓮は苦しんでしまったのだから。

 

「そんなことより、早く皆さんと合流しましょう・・・!」

 

なんとか立ち上がり、美雲に手を差し伸べる。その手を握り、二人は来た道とは別の、内部に向かって伸びている道を行く。

 

ーーーーーーーー

 

「うわぁ!」

 

ハヤテ、フレイア、ミラージュはカナメ達と敵に分断されてしまい、現在出口を目指して地下を走っていた。しかし、突如自分達をライトが照らす。

 

「な、なんだ!?」

「チッ、罠にかかったのはたった三匹か・・・・」

 

赤い髪のウィンダミア人が舌打ちをする。その他にも双子のウィンダミア人、大きい体躯を持ったウィンダミア人、そして赤い髪のウィンダミア人の後ろから壮年のウィンダミア人がいた。

 

「統合政府の犬共と、裏切り者のウィンダミア人」

「・・・・・」

「空中騎士団・・・・!」

「コイツらが、敵・・・・!」

 

ーーーーーーーー

 

「あれは・・・・・空中騎士団・・・・!?」

「あの三人、やってくれるわね」

 

物陰に隠れ、状況を把握する。

 

「助けに行こうにも、まだチャンスが・・・・・」

 

すると、赤髪のウィンダミア人は跳躍し、三人の前に着地する。

 

「風を穢す裏切り者・・・・」

「っ!」

 

フレイアを庇うようにハヤテが前に出た瞬間、赤い髪のウィンダミア人、ボーグが動き出した。それと同時に物陰に隠れていた花蓮がものすごい速さで接近する。ハヤテの頬を殴る筈の拳を、下から蹴り上げる。

 

「なにっ・・・・!?」

 

更に鳩尾に膝蹴りを見舞い、後ろへ吹き飛ばす。

 

「カ、カレン・・・・!」

「怪我はありませんか?」

 

すると、崩れた瓦礫をどかし、今度は剣を持って挑んでくる。

 

「おのれ・・・貴様っ!」

 

鳩尾に膝蹴りを見舞ったのに全く効いてる気配がない。身体能力が非常に高いウィンダミア人ならではの、速力を活かしあっという間に間合いを詰め、花蓮の顔をめがけ突きを繰り出す。

 

(もらった・・・・!)

 

が、それを懐に隠していたサバイバルナイフの切っ先を剣の腹に沿わせ、僅かに軌道をずらし、そのままボーグの首を掻っ切るように刃先を向け切り払う。それをイナバウアーの如く、上半身だけを倒し躱す。

 

(くっ・・・・!)

(躱した!?あの体制で!?)

 

追撃するが、バック転でことごとく躱された。

 

「身体能力の違いがここまでの差を生むなんて・・・・!」

「あの地球人・・・・中々いい腕をしているな」

 

元の位置に戻ったボーグが渋い顔をする。

 

「統合政府の犬如きが・・・・!」

 

すると、ミラージュが閃光弾を炸裂させ、辺りは白い光に満ちる。

 

「ぐっ・・・・!」

 

空中騎士団のメンバーも不意をつかれ、網膜を白い光が焼く。

 

「今のうちです!」

 

ミラージュはすぐさま遮光メガネをし、目を覆っているハヤテとフレイアを連れていく。

 

「美雲さん!」

「ええ!」

 

物陰に隠れていた美雲の手を引き、花蓮もその後を追う。景色が元の色を取り戻した頃には、そこには誰もいなかった。

 

「ちっ!」

 

ボーグが顔を歪ませ、舌打ちをした。

出口まで走るが、その前には、

 

「なっ!」

 

ミラージュは足を止める。目の前には金髪のひどく美しい男性が立っていた。

 

「白騎士様!」

(白騎士・・・・!?あの人が・・・・!?)

 

花蓮は目を向ける。あの普通の人間では有り得ない飛行をする金色の〈ドラケンⅢ〉を操るパイロットが目の前にいるのだから。

 

「どうして・・・・こんなことするんね!あたしが気に入らんなら、あたしだけ狙えばええね!ハヤテやミラージュさん、カレンに美雲さんは関係ないやろ!」

 

フレイアが涙を浮かべ訴えた。

 

「フレイア・・・・」

「これは戦争だ」

 

ボーグが口を開く。

 

「戦争って・・・・」

「俺たちには制風権を確立し、ブリージンガルの星々を解放するという大義がある。統合政府に強制的に併合された人々に自由を取り戻すのだ」

「なんね、それ・・・意味わからん・・・・」

「何が大義だ・・・・」

「カレン・・・?」

 

フレイアが花蓮を見る。その目は怒りに満ちていた。

 

「人を操っておいて、親子を引き離しておいて・・・・それのどこが大義だって言うんだっ!」

「先に我らの平和を土足で踏みにじったのは、地球人だっ!」

「っ!?」

 

花蓮は言葉に詰まる。

 

「地球人が来るまでは、ウィンダミアは静かな星だった」

「俺たちは俺たちの世界を取り戻す!」

「だからって・・・・だからって!食べ物を粗末にしちゃいけん!」

 

近くに転がっていたリンゴを掴み、前に突き出す。

 

「・・・・は?」

「フレイアさん・・・・」

「皆が・・・カリーおばちゃんやニールスおじさんが、皆が一生懸命作ったリンゴを戦争に使うなんて・・・・それがほんとにウィンダミアの為なんか!?リンゴと皆に謝らんかい!」

 

フレイアはポロポロ涙を流しながら声を張り上げ、言った。それを見ていた花蓮は微笑む。

 

「なっ・・・・」

「はっはっは!一本取られたな、ボーグ」

「マスター・ヘルマン!」

 

ヘルマンが高らかに笑う。

 

「・・・・俺の家も、リンゴ農家だったよ」

 

カシムが静かに口を開く。

 

「え・・・・?」

「だが、畑も両親も兄弟もあの戦争で失ってしまった・・・・これは、戦争なのだ」

「・・・・」

「カシム・・・・」

「茶番は終わりだ」

 

ずっと黙っていたキースが遂に口を開いた。

 

「フレイア・ヴィオン」

「・・・・・!」

「祖国を捨て、なぜお前は穢れた者たちの歌を歌う?」

「祖国を・・・・捨てて・・・・?」

 

ーーーーーーーー

 

「はぁ・・・・!はぁ・・・・!」

 

メッサーは敵に銃を乱射しながら、過去を思い出す。焼け崩れる街、山のような屍、人が焼ける臭い。全てが鮮明に思い出される。そこには手を真っ赤に染めた、自分だけが残っていたことを。

 

「・・・サー中尉・・・・メッサー中尉!」

「はっ!」

「中尉、凄い汗!」

「大丈夫です、先を急ぎましょう・・・・!」

 

ーーーーーーーー

 

キースは静かにフレイアに近づいていく。

 

「あたしは、ウィンダミアを捨ててなんか・・・・」

「では何故歌う。憎むべき者達の歌を」

「あ・・・・・」

『あなたは何故ステージに立つの?何のために、どんな思いで歌っているの?』

 

美雲の言葉がフラッシュバックする。

 

「あたしは・・・・あたしは・・・・」

「お前はただ、“歌”という幻に取り憑かれているに過ぎない」

「え・・・・?」

 

キースは腰にさしている剣を抜き払う。

 

「何の覚悟も持たない者の歌など戦場には不要。その震えるルンごと切り落とし、祖国の大地に返してやろう。それが、同じ風の中で産まれた者としての責めてもの情けだ」

 

剣を構え、フレイアの首を撥ねようとした瞬間、花蓮のサバイバルナイフがそれを遮る。

 

「歌って、フレイアさん」

「カレン・・・・」

 

鍔迫り合いをやめ、キースの剣を弾き返す。

 

「僕は君の歌が好きだ。僕には・・・・僕達には君の歌が必要なんだ。だから、歌って、フレイアさん!」

 

鋭い目付きで空中騎士団を睨む。

 

「彼女には・・・・《ワルキューレ》や皆には手を出させない!絶対に護ってみせる!来てくれ!ランスロットぉぉぉぉぉ!!」

 

花蓮の叫びが谺響すと同時に、壁面を破って、白い巨人が姿を現す。

 

「バカな・・・!白騎士が何故!?」

「まさか、アイツが白騎士の・・・・」

 

キースは口角を僅かに上げる。ランスロットの左手にはカナメ達のグループがいた。右手でハヤテ達を乗せ、コックピットに花蓮は乗り込む。起動キーを差し込み、オートモードを解除。突き破った壁面から、外に出る。あらかじめ、カナメ達を救出に向かわせるために設定しておいたのだ。

 

既に外は敵軍で埋め尽くされていた。

 

『ハヤテくんとミラージュさん、中尉は機体を!』

 

それぞれの機体に乗るため、三人は飛び降り、隠してある場所れへ向かう。

 

『皆さんはライブの準備を!』

 

安全な場所へ降ろし、Δ小隊が集まるまで護衛をする。向かってくる期待を、無力化していく。

 

『デルタ0!』

「隊長!」

『遅くなってすまんな!』

 

アラドとチャックの機体が大気圏を突破し、こちらに来てくれた。

《ワルキューレ》の方を見て敬礼し、アラド、チャックらと共に飛翔する。アラドの機体からドローンが射出され、《ワルキューレ》の周りに集まりだす。あれで当分は心配いらない。

 

「終わらせる、僕が!」

 

五つの機体と白騎士が敵陣に突っ込んでいった。



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Mission18 暴走 オーバーヒート

カレンが遂に・・・・・

書いてる内によく分からなくなってしまった・・・・すみません!少し短いかも知れません!


一気に遺跡上空は混戦となった。鳴り響く、爆発音が目まぐるしく花蓮の耳を殴る。

 

「限りがない!」

 

コックピットは狙わず、両翼やコックピットと機体の間を攻撃していく。

 

「ロイド」

「わかっている。ハインツ様の、風の歌い手のお力を、明日の風のために」

 

上空で戦闘が繰り広げられている下で、ロイドが静かに喋った。

ウィンダミアの時の神殿に一人の少年が立ち、神殿内部の装飾が紫色に光る。息を吸い、

 

「ーーーーー♪」

 

風の歌を奏でる。

 

「なんだ!?なんか聴こえねぇか!?」

「これが、カレンの言っていた!」

「あの歌だ!」

「風の歌か!」

「う・・・・ぐぅ・・・・!!」

 

メッサーは何かに耐えるかのように唸る。

 

「来たわね」

 

《ワルキューレ》メンバーの衣装が変わる。

 

「あの時と同じ!」

「ヒリヒリ痛い・・・・!」

「しかも、この前より全然強い!」

「まさか、遺跡と呼応して・・・・!」

 

フレイアが遺跡を見ると、遺跡の外側に刻まれていた紋様が淡い青い光を放ち始めていた。

 

「風の歌い手・・・・でも、色がない・・・・」

 

フレイアのルンが黒く染まっていった。

 

「風の歌が聴こえるってことは、俺達もヴァールになっちまうってことか!?」

 

チャックが悲鳴にも近い声を上げる。すると、ディスプレイにアラドが映し出された。

 

『落ち着け!《ワルキューレ》がついてる!』

「はぁ・・・・はぁ・・・・!」

 

メッサーの息は治まるどころか、更に激しくなっていた。

 

『必要な情報は手に入った!とっととラグナに帰るとしよう!戻ったらクラゲラーメンを奢ってやる、ラグナエビも乗せてな!』

『了解!』

『月光アワビもな!』

 

アラドの言葉にミラージュとハヤテが嬉しそうな顔で賛成する。

 

「毎度ありぃ!」

 

チャックも少しは気が楽になったのか、その顔からは焦りは無くなっていた。

 

「フッ!・・・全機、フォーメーション・エレボス!」

 

空中騎士団とΔ小隊がぶつかり、それぞれの相手と交戦に入る。

 

「ーーーーーーーー♪」

 

《ワルキューレ》の歌をバックに花蓮はペダルを踏み込み、ランスロットを加速させる。

 

「もっと近く・・・・・!もっと・・・・!」

 

照準を合わせながらVF-171に接近し、右翼に照準が合わさり、機関銃を発射。見事被弾し、VF-171は落下する。そして、コックピットからパイロットが脱出したのを確認し、一息つく。

 

『十二時、敵!』

 

メッサーからの忠告で、意識をすぐに戻す。その間にメッサーが、ハヤテの目の前に迫って来たVF-171を破壊。そして、別方向のVF-171も破壊する。

 

「はぁ・・・!はぁ・・・!」

 

メッサーの顔には、ヴァール化特有の肥大化した血管が浮き出ていた。

すると、接近する機体を知らせるアラートが鳴る。

 

「あれは・・・白騎士・・・!」

『はぁぁぁ!!』

「カレン准尉!?」

 

メッサーの目の前をランスロットが通り過ぎ、白騎士と戦闘を開始した。

 

「くっ・・・・・!」

 

花蓮の援護に行こうにも、身体が悲鳴をあげてしまい、操縦が上手くできない。

白と緑の軌跡が宙に様々な線を描いていく。

 

「動きが前より鋭くなってきている・・・・」

「はぁ・・・!はぁ・・・・!」

 

照準を前で飛ぶ〈ドラケンⅢ〉に合わせる。操縦桿を握る手が震え、目も霞んできた。すると、《ワルキューレ》の歌より更に強い衝撃が花蓮を襲う。

 

「ぐっ・・・・!」

 

身体に紋様が浮かび始める。衝撃をもらったのは花蓮だけでなく、キースも同様だった。

 

「ぬっ・・・・!風が乱れた?」

 

キースのルンが敏感にそれを感じ取る。

 

「燃える火花 渦巻く炎♪」

「う・・・・な、なんね・・・・?」

 

フレイアも敏感に感じ取る。

 

「モヤモヤ、ズンズン、歌が重い!」

 

レイナも違和感を感じていた。

 

「フォールド波が乱れちゃってる!」

 

マキナは爪型プロジェクターで、フォールド波の異常を検出する。

 

「まさか、遺跡が私達の歌に反応してる・・・・!?」

「何、この感じ・・・・」

 

カナメ、美雲も同様の違和感を覚えていた。

 

「くそ・・・・っ! あの機体は・・・・!」

 

《ワルキューレ》に向かって飛んでいくVF-171をズームにすると、肩の辺りに見覚えのあるエンブレムが映る。

 

「あれは・・・!」

 

すぐにペダルを踏み込み、あとを追う。

《ワルキューレ》のすぐ近くにフロートユニットを畳んで着地し、ララサーバルと対峙する。

 

「ララサーバル大尉・・・・!」

 

フレイアから着信が入る。

 

『カレン!あの機体はあの子達の!』

「わかってる!なんとかやってみるよ!」

 

するとララサーバルの機体は花蓮めがけ、ミサイルを発射する。躱せば《ワルキューレ》に当たるため、ブレイズ・ルミナスで防ぐ。

 

「ぐっ・・・・!」

 

襲い来る衝撃になんとか耐え抜き、爆煙が晴れた頃にはその機体は上からこちらにガンポッドを向けていた。

 

「っーーー!」

 

すぐさまV.A.R.I.Sで右脚を撃ち、体制を崩した機体は地面に落下する。オープン回線を開き、直接話しかける。

 

「目を覚ましてください、ララサーバル大尉!あなたの子供達が待っています!ですから、帰ってあげてください!ララサーバル大尉!」

 

必死の問いかけも虚しく、再度ガンポッドを向け、発射する。ブレイズ・ルミナスで防ぐのも間に合わず頭部に被弾し、そのまま地面に倒れる。

 

「カレン!」

 

フレイアはステージから飛び降り、カレンの元へと走る。

 

「しまった!」

 

メインカメラを損傷したため、正面のディスプレイにノイズが迸る。

 

「このままじゃ・・・・!」

 

尚もこちらにガンポッドを向けてくるVF-171を睨む。

 

(僕は、ここで・・・・)

『さぁ、解放なさい』

(母さん・・・・)

 

ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 

『あなたの力はこんなものではないはずよ。さぁ、本当のあなたを見せつけてあげなさい』

(本当の僕・・・・)

『あなたは私の子』

 

花蓮の身体に浮かんでいた紋様が心臓が鼓動するかのように明滅を繰り返す。

 

『あなたは人類と銀河を新たな場所へ導く、〈星の導き手〉なのだからーーー』

「ーーーーー!!」

 

花蓮の真紅の瞳が、蛍光色のように発光する。身体には紋様が完全に浮かび上がり、ランスロットを起き上がらせる。その双眸は赤かった。V.A.R.I.SをVF-171へ向けた。すると、ランスロットの足元にフレイアがやって来る。

 

「撃っちゃいけん!撃っちゃいけんよ、カレン!」

 

通せん坊するかのように、両手を広げる。

 

『さぁ花蓮、行きなさい。あなたならすぐに終わらせることができるわ。護るべきものを護るために、邪魔者を全て跳ね除け行きなさい、花蓮!』

「カレン!撃っちゃいけん!」

『邪魔を・・・・・』

「カレン・・・・?」

 

フレイアは違和感を覚えた。

 

「邪魔を・・・・するなっ!!!」

 

ランドスピナーをフル回転させ、VF-171に肉薄する。V.A.R.I.Sをメインカメラに向け、撃つ。更に、両腕、両脚を撃ち抜き、完全に沈黙させた。

 

「次っ!!」

 

フロートユニットを起動し、飛翔する。

 

「カレン・・・・なんかね・・・・・?」

 

空を飛び交うVF-171を次々にコックピットを残して木っ端微塵にしていく。その戦いぶりは、まさに堕ちた白騎士、狂戦士(バーサーカー)のようだった。双眸は赤く発光し、下手をしたらパイロットごと破壊してしまうのではないかと思うほどの荒い戦闘をしていた。

 

「な、なんだ・・・・あれは・・・・」

 

アラドは驚愕した。

 

「一体何がどうなってんだよ・・・・カレンはどうしちまったんだよ・・・・」

 

ハヤテも同様の反応だった。《ワルキューレ》も歌うことを忘れ、ただランスロットを見上げていた。マキナは口を押さえ、目を見開いていた。空中騎士団も、この事態は想定していなかった。

 

「なんだあの機体は・・・・機体性能なのか?」

「わからん・・・たが一つ言えることはーー」

「もう奴は、先程の奴ではないと言うことか」

 

キースも冷や汗を流していた。すると、空中騎士団全機に通信が入る。

 

『聖騎士長より騎士達へ、データは取れた。全機枝に帰投せよ』

「ーーー了解、全機枝に帰投する」

 

空中騎士団全機が、金色の〈ドラケンⅢ〉を筆頭に流星のように重力圏を飛び出していった。

 

『さぁ!あなたの力を解き放ちなさい!』

「うぉぉぉおおおあああああ!!!」

 

ランスロットが天を仰いだ。それはまるで、戦い足りないと嘆いている狂戦士。花蓮の叫びと呼応して、遺跡もその輝きを増していく。

 

「カレン・・・・ーーーカレン!!」

 

美雲が必死に呼びかける。

 

「何このフォールド波の異常数値・・・・!」

 

カナメは検出したデータに驚くが、遂にはERROR(計測不能)と表示された。

 

「今のカレン、怖い・・・・!」

「このままじゃカレカレは・・・・!」

「だめ・・・・」

 

更に遺跡と花蓮の共鳴は強まり、暴風が襲い来る。

 

「戻ってきて!!カレェェェェン!!」

 

涙を流しながらフレイアは叫んだ。

 

(僕は〈星の導き手〉・・・・人類と銀河を導く者だったんだ・・・・でも僕は皆と・・・・・)

 

奥底の暗闇で花蓮は自分が何者なのか、自問自答を繰り返していたーーー



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Mission19 限界 アンコントロール

遂にここまで来てしまった

無理矢理かもしれません!


時の神殿 最奥地ーーーー

 

丸い球体の中に長い赤い髪を持った、美しい女性が裸のまま眠っていた。その口の口角を僅かに上げて。

 

『凄いわ、これが〈星の歌い手〉の純血をひく〈星の導き手〉の力ーー!花蓮の覚醒は一先ずクリアね、後はランスロットを次のステージにーーー』

 

ーーーーーーーー

 

「どうするありゃあ・・・・・!」

『どうするも何も、止めるに決まってます!』

「ミラージュ!?」

 

ガウォークからファイターに変形し、花蓮の元へと向かい、バトロイドに変形。ランスロットの身体に抱きついた。

 

「しっかりしてください!カレン!」

 

ランスロットのコックピット内にはミラージュの声が響いていた。

 

『聞こえますか!カレン!しっかりしてください!』

「み・・・・らーじゅ・・・さ・・・・」

 

花蓮の心は何とも言えないような黒いものに埋め尽くされようとしていた。

 

『皆さんは僕が護ります』

 

自分が言った言葉が耳の奥に響く。それは、自分に課した誓いだった。蛍光色に輝いていた瞳が、元に戻る。

 

「そうだ・・・・!僕はこんなところでぇ・・・・!!」

 

自力で紋様を抑え込み、なんとか正気に戻る。赤く発光していたランスロットの双眸は元の緑色に戻った。遺跡との共鳴も収まり、吹いていた暴風は止んでいく。

 

『すみません、ミラージュさん。それに皆さんにもご迷惑を・・・・』

「元に戻ったんですね!?」

「ったく、心配かけさせやがって」

 

ミラージュとハヤテは安堵した。

 

『カレン准尉』

「中尉・・・・」

『お前が無事で何よりだ』

 

いつも冷徹で、寡黙なメッサーから耳を疑いたくなるような言葉が発せられた。

 

「あのメッサーが・・・・」

「部下の心配をしたぁ!?」

 

ハヤテとチャック驚きの声が、ヴォルドールの空に響いた。そして、花蓮が自力で〈星の導き手〉の力を抑え込んだ直後に聞こえた声が頭の中に響いていた。『また、奪いに来る』とーーー

 

ーーーーーーーー

 

それからΔ小隊と《ワルキューレ》はラグナへと帰還し、任務の終了がアラドから言い渡された。Δ小隊の各々は戦闘での疲れを取るためにシャワールームへ、花蓮、メッサーは《ワルキューレ》らと共に検査室へと向かった。

 

「どう?レイナ」

「カレンは特に異常はない。でもメッサーは・・・・」

「メッサーくんがどうかしたの?」

 

恐る恐る画面を覗く。

 

「二年前、アルブヘイムでメッサーはヴァールになったけどカナメの歌で正気に戻った。でも今回の戦いで」

 

言い終わる前にレイナはもう一つのディスプレイをアップする。

 

「メッサーの体内に潜伏していたヴァール細菌が風の歌に反応しだした」

「嘘・・・・・」

 

カナメの顔が更に曇った。確かにあの時、メッサーは正気に戻った。もう二度とヴァールにはならないと思っていた。それはきっと、二度とならないと自分が勝手に決めつけていたのだろう。

 

「でも私達の歌があれば、大丈夫」

「そう、よね・・・・・」

 

カナメの目線は画面から外れ、カプセルの中にいるメッサーに向けられた。

それから検査も終わり、二人は更衣室で着替える。

 

「カレン准尉」

「はい?」

「少し、いいか?」

「・・・・?」

 

二人はアイテールの甲板に出て、ラグナの海から吹いてくる潮風を浴びながら遠くを見つめる。

 

「俺は二年前、惑星アルブヘイムの都市、マリエンブルグの駐屯兵だった」

「マリエンブルグって確か、二年前にヴァール症候群(ヴァールシンドローム)で壊滅した・・・・」

「そうだ。そこで俺も一度ヴァールになっている」

(やっぱり・・・・・)

 

メッサーから自身の過去を話されたのは、もしかしたら自分だけかもしれない。だが、こんな機密情報を部下の人間に話すということはそれほど信頼しているということだろう。

 

「そんな俺を救ってくれたのが、カナメさんだった。彼女の歌が、正気を失った俺を繋ぎ止めてくれた」

 

左手首に付けているブレスレットを撫でる。

 

「じゃあ、中尉が飛ぶ理由は・・・・」

「ああ、この手に掛けた仲間達への贖罪と、命の恩人であるカナメさんを護るためだ。だが、先の戦闘でもうわかった。俺に残された時間はもう長くない」

 

メッサーは花蓮を見ることなく、夜のラグナの海を見つめていた。その横顔は、自分の最後を悟った顔だった。

 

「おそらく、次に出撃したら俺は完全にヴァールになるかもしれない」

「そんな・・・・!」

「そこでお前に頼みがある」

 

そこでメッサーは花蓮の方を向いた。その目には強い意志があった。

 

「もし俺がヴァールになったら、迷わず撃ってくれ」

「っ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、風が二人の間を吹き抜ける。

 

「頼む」

 

メッサーは花蓮に向かって、懇願しているかのように頭を垂れた。

 

「ヴァールになって、誰かを害する前にお前の手で俺を止めてくれ」

「中尉ーーー」

 

花蓮が言いかけた瞬間、ラグナの街に空襲警報が鳴り響く。

 

「空襲警報!?」

「奴らか・・・・行くぞ、カレン准尉」

「は、はい!」

 

メッサーとカレンは他のメンバーと合流するために戻っていった。

 

「防空システムの内側にデフォールドされたようです!」

「風の歌は?」

「反応なし!今のところヴァールは発生していません!」

「ふむ、よりによってへーメラーの留守の時にか」

 

現在エリシオンにドッキングされているのは、Δ小隊の母艦アイテールだけだった。

 

「見てろよ、《ワルキューレ》にΔ小隊!」

 

空中騎士団のエンブレムが空に浮かび上がる。

 

『Δ小隊、発進スタンバイ。繰り返す、Δ小隊、発進スタンバイ』

「なめやがって!こんな時に・・・・!」

「中尉・・・・」

 

コックピットからメッサーの乗るVF-31Fを見る。その中でメッサーは左手首につけたブレスレットを前に掲げ祈る。

 

「Δ小隊、発進!」

 

アラドの号令で、カタパルトに設置されたVF-31が一斉に発進する。その後ろからランスロットの発艦が促される。

 

『進路オールグリーン。発艦、どうぞ!』

「発艦!」

 

カタパルトを疾走し、Δ小隊の後を追った。

《ワルキューレ》はアイテールの艦内でモニターを見ていた。

 

「風の歌はまだ聞こえない。私達はここで待機よ」

「人のステージに勝手に乗り込むなんて、いい度胸」

 

美雲が微笑を浮かべた。フレイアは頬を叩き、気合いを入れる。

 

「集中、集中!」

 

目の前に既に、空中騎士団が迫っていた。モニター越しに、白騎士を捕捉する。

 

「白騎士・・・・!」

「死神」

『デルタ0!』

「デルタ2!」

『バックアップを頼む!』

「了解!」

 

白騎士を二人で対処し、残りの期待を他のメンバーが相手をする。三機はすぐに壮絶なドッグファイトを繰り広げた。ファイターによるミサイルの牽制と、後ろからランスロットの射撃。これで白騎士の動きはかなり制限される。

 

「はぁ!はぁ!はぁ!」

 

メッサーの鼓動は次第に早くなっていった。

 

「見つけたぞ、地球人!貴様らの血でこの空を染めてやる!」

「チッ!」

 

ハヤテに一機の〈ドラケンⅢ〉が接近する。

 

「ハヤテくん!」

 

花蓮はすぐに砲身を展開し、射撃する。ハヤテに接近していた〈ドラケンⅢ〉の横を掠めていった。

 

「白騎士・・・・!」

「サンキュー!カレン!」

 

お互いサムズアップすると、花蓮はメッサーの援護に戻る。

 

「はぁぁぁぁ!!」

「ほう・・・・」

 

メッサーと白騎士は後ろを取っては取り返し、取られては取り返しのやり取りを繰り返していた。

 

「はぁ!はぁ!」

 

照準を前方の〈ドラケンⅢ〉に合わせながら、機関銃を撃つ。

 

『デルタ3!七時上方、敵!』

『ウーラ・サー!』

「はぁ!はぁ!はぁ!」

『デルタ5!右に回って!』

『オーケー!』

「はぁ!はぁ!はぁ!」

 

そして遂に、メッサーに限界が訪れた。

 

「グッ・・・・アアアアアアアアア!!」

「中尉!!」

(まさか、ヴァールに!)

 

ペダルを踏み込み、メッサーの機体へ飛翔する。メッサーの叫び声は他のメンバーにも聞こえていた。

 

「中尉!?」

「メッサー!?」

「メッサー!どうした、メッサー!まさか・・・・!」

 

アラドはすぐにエリシオンに連絡を入れる。

 

『艦長!《ワルキューレ》の出動を要請する!』

「む!どうした!」

『急いでくれ!メッサーが!』

「なに・・・・!」

 

《ワルキューレ》が待機している部屋に花蓮が必死に問いかける声が響く。

 

『中尉!しっかりしてください!メッサー中尉!くそ、間に合ってくれ!』

「メッサーくんに何か・・・・!行くわよ!《ワルキューレ》!」

「「「「了解!」」」」

 

全員の衣装が変わり、エリシオンの特設ステージへと向かう。

雲海の上で白騎士、〈ジークフリード〉、ランスロットの三つ巴が繰り広げられていた。

 

「ふっ、おもしろい!」

 

キースが急に方向転換をし、雲海へと消える。その後をメッサーが追い、花蓮もその後を追う。

ラグナの海の上へと戦いの場を変え、また三つ巴が始まる。

 

「うぁぁ・・・・ウオオオオオオオオ!!」

 

メッサーの身体の筋肉が肥大化し、顔には肥大化した無数の血管が浮かびあがる。

 

「中尉!!」

 

花蓮の両目のハイライトが消え、スラスターの向きを巧みに変えメッサーへと近づく。メッサーのコックピット内に、カナメの声が響く。

 

『メッサー中尉!メッサー中尉!』

「アアアアアアアアア!!」

「くそ・・・・!」

 

花蓮の額に汗が滲む。

 

『もし俺がヴァールになったら、迷わず撃ってくれ』

 

メッサーの言葉が脳内に響く。

 

「あなたを死なせはしない!」

 

フォールドクォーツが輝く。ランスロットは虹色の光を纏い、虹色の尾を引いていく。

 

「中尉!しっかりしてください!」

 

メッサーの機体を掴み、必死に問いかける。

 

『メッサー中尉!聞こえる!?メッサー中尉!』

「ーーーー!」

 

カナメの生の歌声を聞き、メッサーのヴァール化が治まっていく。機体の速度を落ちたことを感じると、メッサーの機体を抱え、白騎士から離れる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

『メッサー中尉!大丈夫ですか!』

「カレン・・・・准尉・・・・」

『よかった!正気を取り戻したんですね!』

 

しかし、後ろから白騎士が迫り来る。

 

「くっ・・・・!」

『うぉりゃぁぁ!』

 

チャックが牽制し、更にアラドも牽制する。

 

『デルタ2!応答せよ!メッサー中尉!』

 

エリシオンにボーグの〈ドラケンⅢ〉が接近していく。

 

「歌うなぁぁ!!」

「ーーー!」

 

再度砲身を展開し、ファクトスフィアも起動させる。メッサーの機体を抱えているため身動きは取れない。だが、高精度の射撃ならできる。

 

(狙い撃つ)

 

〈ドラケンⅢ〉の左翼目掛け、発射する。なおも移動している物体に狙い撃つため、移動方向の先に発射。見事、左翼を貫く。

 

「なに!?」

 

やむを得ず、その場を離れる。

 

『分析終了しました!遺跡に異常なし、いつでも風を吹かせることが可能です!』

「よろしい、よくやった!・・・・敵の援軍?」

 

ヘルマンのルンが光るのと同時にα、β小隊の〈カイロス〉が戦闘に加わる。

 

「潮時だな・・・・全機帰投、枝に戻る!」

 

金色の〈ドラケンⅢ〉を先頭に全機帰投していく。

 

「久しぶりだな、ルンがこのような色を見せるとは」

 

キースのルンが淡い光を放つ。戦いの余韻に、しばし浸かっていた。

 

ーーーーーーーー

 

メッサーはコックピットから降り歩こうとした瞬間、足の力が抜け前のめりに倒れそうになるのをアラドが支える。

 

「おっと・・・・限界だな」

「はい・・・・」

 

カナメはブリッジのモニター越しにアラドの肩を借りながら歩いているメッサーを見る。

 

「ご存知だったのですね」

「定期的にデータを送る約束でな。アラドと俺が、レディMに話をつけた」

「無茶だったと思います」

「ふむ・・・・・・俺もだよ」

 

アーネストは深く帽子を被り、目元を覆った。

 

ーーーーーーーー

 

「カレンは知ってたのか?あいつのこと・・・・」

「はい、皆には言わないでくれと中尉からの頼みでしたので言えませんでした・・・・」

「そっか・・・・」

 

今の『裸喰娘娘』にはしんみりとした空気が漂っていた。花蓮の傍にフレイアが近づいてくる。

 

「カレン。外、歩かん?」

 

『裸喰娘娘』を出てすぐの浜辺に行き、大きな岩の上にフレイアが立つ。

 

「ゴリゴリぃーーーーー!!」

「フ、フレイアさん!?」

「へへ、皆頑張っとにあたしも気合い入れんとね!」

「騒がしいな」

「え?」

 

フレイアは立っている岩の下を見ると、身体を預けたメッサーがいた。

 

「ふぇ!?メッサーさん!?」

「中尉・・・・」

「どうかしたのか?」

「う、ううん、別に。ちょっと自分がたるんどると思っただけ」

「そうか・・・・ウィンダミア人は三十年程しか生きられないそうだな。不安にならないのか?自分の未来が」

「考えたこともない。今がいっぱいいっぱいで、よう考えれんよ」

「・・・・フッ。今がいっぱいいっぱい、か・・・・それでいいのかも知れないな」

「はい、先のことはこれから考えればいい。未来は、僕達が作るんですから」

「ああ・・・・・」

 

花蓮、メッサー、フレイアはラグナの空に浮かぶ満月を見上げた。

花蓮がメッサーの転属を知るのは数日後。そして、前日はクラゲ祭り。メッサーの秘めた想いを知ったカナメは、複雑な気持ちになりながらもメッサーを送り出す。そして、悲劇の序章が始まるーーー

花蓮の物語を大きく変える分岐点が、すぐそこまで迫っていた。

 

次回 Mission20 閃光のAXIA



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Mission20 閃光のAXIA

カナメッサー回!

少年は、一人の男の忌まわしい過去を一人の女神と共に断ち切るーーー


吹雪吹くウィンダミアの王宮に一人の男が地に足を着く。

 

「今日の風は一際激しいようで」

 

ロイドの部屋のモニターに一通の着信が入る。

 

『ロイド様』

「なんだ?」

『イプシロン財団のベルガー様がお見えになりました』

「そうか」

 

メガネを上げ、腰を上げた。

 

ーーーーーーーー

 

「風の歌の力を・・・・?」

 

ベルガー、ロイド、キースの三人はウィンダミア王国現国王、グラミア・ネーリッヒ・ウィンダミアの前で傅いていた。ターバンを巻いた、外見は怪しいの一言に尽きる男、ベルガーが口を開く。

 

「はい。この度の調整により、ハインツ様の歌声を増幅することが可能かとーーー」

 

一息ついて、また喋り出す。

 

「プロトカルチャーシステムの能力解明が遅れている責めてものお詫びでございます」

 

時の神殿には、イプシロン財団の研究者達が新しい装備の設置を着々と進めていた。

 

「しかし・・・!あの様な物を使えばハインツ様のお身体への負担が更に・・・」

「構わん」

「っーーー」

「シグルバレンスの能力解明は45%まで完了しております。もうしばらくのご辛抱を・・・・」

「よかろう、風は必ず吹く」

 

ハインツはウィンダミアの景色をただ眺めていた。

 

ーーーーーーーー

 

現在、ラグナではクラゲ祭りの真っ只中だった。

 

「らぐにゃん名物クラゲ饅頭!年に一度のサービス価格〜!」

「安くてファイヤー!」

「上手くてボンバー!」

「こんな饅頭滅多にないんだからねっ!」

 

マキナに続いてチャックの兄弟達もお客を呼ぶ。心なしかどこかで聞いたことのあるセリフに似ている。すると、フレイアが台に乗り歌いだした。

 

「ゆら〜りゆらゆらゆりゆられ〜 ゆら〜りゆらゆらゆりゆらら〜ーーー」

 

終いにはマキナとクラゲのコスプレをしたレイナも歌いだした。

 

「フレイアちゃん可愛い!」

「クラゲ饅頭買っちゃう!」

「おお〜!あんがと〜!」

 

屋台の調理場では、ハヤテとミラージュが作っていた。

 

「クラゲ祭りってさ」

「ラグナの海神様を称えるお祭りです」

「いや、それは聞いたけど・・・」

「これも任務です。この星の行事に積極的に参加し、住民との親睦を図る」

「いや、それも聞いたけど・・・」

 

ハヤテは後ろを振り向く。ミラージュも釣られて後ろを振り向いた。

 

「カップル、多くね?」

 

後ろでは、たくさんのカップルがイチャついていた。

 

「ふや・・・!」

 

さすがのミラージュも赤面する。

 

「クラゲ祭りは恋人達の祭りってね」

 

チャックが羨ましそうな顔で眺めながら言った。

 

「お祭りの夜、クラゲの下で愛を誓い合った恋人同士は永遠に結ばれるって伝説があるの」

 

マキナが付け足した。

 

「はぁ?クラゲの下?」

「見てのお楽しみー!」

「今夜は皆、勝負パンツ」

「ふぇえ!?」

「しょ、しょしょ・・・・!」

「レイレイ〜!女の子がそんなこと言っちゃいけません!」

「私はルール無用の女」

 

何をバカなことを。

 

「恋人同士を・・・」

「永遠に・・・」

 

フレイアの頭の中はこうなっていた。

 

『フレイアさん』

『は、はい!』

『クラゲの下で愛を誓い合うと永遠に結ばれるらしいんだ』

『へ、へ〜。そうなん?知らなかった』

『もう僕達付き合いだして長くなるよね、だから僕は今ここで君に言いたいことがある。フレイアさん、僕の家族になってくれないかな』

『そ、そんな急に言われても、心の準備が・・・・』

『君じゃないとダメなんだ。僕に君を一生守らせてほしい。だから結婚しよう、フレイア(・・・・)

 

ーーーーーーーー

 

「えへ、えへへへへへへ」

「おーい、フレイアー」

「ダメ、完全に自分の世界に入っちゃってるよ」

(あ、危なかった・・・・)

 

体をくねらせながらにやけが止まらないフレイアに、一同はため息をついた。ミラージュの頭の中もきっとこうなる寸前だったのだろう。かなり焦っている。

 

「そんなことより、ハヤハヤ」

「ん?」

「メサメサお祭り来るかな」

「来ねぇだろ」

「でも、明日には行っちゃうんでしょ?」

「転属先は、ララミス星系だったよな・・・・・あの辺りはヴァールは出てないみたいだし、安心だな」

「物足りねぇとか言い出しそうだけど」

「たぁしかにぃ」

 

ーーーーーーーー

 

アイテールの甲板にアラドとメッサーは、へーメルから飛び立つ〈カイロス〉

を見ていた。

 

「反応エンジンの調整があまいですね」

「α小隊のやつか、後で言っておく」

「自分は生きていていいのか・・・・そんなことばかり考えていました。そんな俺を・・・・」

「・・・・」

「申し訳ありません、Δ小隊を育て上げられないままこんな事に・・・・」

「心配すんな。“クラゲの子、親はなくともすぐ泳ぐ”だ」

 

それからメッサーは自分の荷物を持ち、エリシオンの廊下を歩く。そこに、

 

「メッサーくん!」

 

カナメがこちらに手を振っていた。それから二人でエレベーターに乗り、話をする。

 

「そっか、荷物の整理に。明日は皆でお見送りに行くからね!」

 

メッサーはカナメを一度見て、また視線を前に戻した。

 

「お構いなく」

 

ーーーーーーーー

 

「え、中尉がカナメさんを?」

「好きぃ!?」

 

マキナの言葉に花蓮とフレイア、その他の面々も驚きを隠せない。

 

「だって、ブレスレットにカナカナの歌しか入ってなかったんでしょ?」

「それは、命の恩人だからでは・・・・」

「あ、ありえねぇ!“死神”だぜ?“死神”!」

「でも、カナメはアラドが好き」

「え、カナメさんが隊長を?」

「好きぃ!?」

「あ、ありえねぇ!スルメだぜ?スルメ!」

 

またもやレイナの爆弾発言に面々は驚きを隠せない。

 

「三人ともにぶにぶ〜」

「それじゃ恋の歌は歌えない」

「う・・・・・」

「それでは、隊長は気づいているのでしょうか」

「メッサー中尉はどうなんですか?」

「気づいているのかいないのか〜・・・・」

「めんどくせぇなー、好きなら好きって言えばいいじゃねぇか」

 

ハヤテは面倒くさそうに頭をかく。

 

「そこで!ハヤハヤと見せかけてカレカレに重要任務を与えます!」

「・・・・え?」

「っし!」

 

ハヤテはガッツポーズをしていた。

 

ーーーーーーーー

 

花蓮とメッサーは夜のラグナの街を歩いていた。

 

「まさか本当に来るなんて思いませんでした」

「お前達はもう、俺の部下ではなくなるからな」

「・・・・・」

 

エリシオンの展望台にアーネストとアラドはつまみと酒を楽しんでいた。

 

「メッサー抜きでやれるのか?カレンばかりに負担をかけさせる訳にはいかんだろう」

「ああ、わかってる。だが、やるしかないだろう?」

「ふ、わかってるじゃねぇか」

「遺跡のほうはどうなんだ?」

「何の変哲もないただの石ころだとさ。ま、調査は続けているが・・・・」

 

ラグナの街はクラゲ祭りで賑わっており、夜だというのに明るかった。

 

「敵の狙いは遺跡だな。この前もそいつの偵察に来たに違いない。遺跡のない星を狙ったのはカモフラージュだろう」

「レディMからラグナとアル・シャハルの防衛を強化するよう通達があった。残る遺跡がある星はこの二つだからな」

「アル・シャハル・・・・カレンとフレイアもあそこにいたんだったな。ウィンダミアと何か縁があるようだ、エノモト・カレンは」

「俺達もな。それと、レディMからこんなものも届いた」

 

アーネストは端末を操作し、モニターを出す。

 

「これは・・・・設計図?」

「ああ、ランスロットのな」

「バカな!ランスロットのことは俺達しか知らないはずじゃ・・・・!」

「おそらく、この艦内のシステムにハッキングしたんだろう。この前、侵入された形跡が見つかった」

 

設計図にはエナジーウイングという新しい飛翔機関搭載型の、新型にして究極のランスロットらしい。これを花蓮専用に製造、調整しろとのことだった。必要な部品、費用は全て上層部から送ってくらるらしい。だが、メインコンピューター、『コアルミナス』はそのまま流用するようとの指示も付け足されていた。

 

「一から造れとはな。奴らはいったい、どこまで知っている・・・・」

「さぁな・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

「しかし、元気だな。ラグナの奴らは。この前敵の襲撃を受けたばっかだってのに」

「戦争如きに負けてられっかよ」

 

すると、上の方から他の惑星から来た観光客達に話しかけられた。

 

「あ、《ワルキューレ》!」

「フレイアちゃんもいる!」

「フレイアちゃんの歌さいこーー!」

「あんがと!あんがとごさいまーす!」

「頑張ってー!」

「はいなっ!」

 

両手でピースを作り前でくっつける。

 

「フレフレのファン増えてるんだよね。スパイだなんて言う人もだいぶ減ってるし」

「プチブレイク中」

「へぇー、風に乗って飛び立てたってわけだ」

「いやぁ〜、いひひひひひ」

 

花蓮はそんな光景を見て、頬を緩める。そして、岬の方を見る。

 

「あっちも、飛び立てるといいんだけどね」

「そうですね」

 

カナメとメッサーは二人で岬に立ち、海を見ていた。

 

「向こうでは訓練教官だっけ?」

「はい、自分の機体も持って行けることになりました。もう実戦で飛ぶことはないでしょうが」

 

すると、祭りの会場の明かりが全て消える。

 

「なんだ?」

「始まったな」

「あ!」

 

フレイアが海を指さす。そこには、海から無数のクラゲが出てきた。

 

「うわぁ・・・!ゴリゴリデカルチャー!」

「なるほど、確かにクラゲの下だ」

「年に一度、必ず九月の新月の日にクラゲは地表に上がり、卵を産む。生命の神秘ってやつだなぁ」

「この色・・・・緑、黄色・・・・ううん、命の色!」

 

地表に上がるクラゲ達は、まるで夜空を彩る星々のようだった。

 

「教官で満足できる男じゃねぇのにな・・・・」

 

ハヤテは岬にいる二人を見た。

 

「綺麗ね、メッサーくん」

「カナメさん」

 

おもむろに左手首に付けていたブレスレットを外し、カナメに差し出す。それを受け取り、確認する。

 

「何?・・・・AXIA、この曲・・・・」

「俺の命を救ってくれた歌です」

「え?」

「二年前、自分を失いかけた俺をあなたの歌が繋ぎとめてくれた。あなたの歌があったから、俺は生きることが出来た」

「メッサーくん・・・・」

「本当に・・・・ありがとうございました」

 

そしてメッサーはカナメに聞こえない声で呟いた。「あなたは生きてくれ」とーーー

 

ーーーーーーーー

 

そしてついに、メッサーの転属の日が来た。自分の機体を積んだシャトル前で、エリシオンクルーの前で敬礼する。カナメに目を向ける。その顔は少し曇っていたが、すぐに目線を戻す。そして乗り込み、ララミス星系へと飛び立っていった。

 

 

惑星アル・シャハル

 

ーーーーーーーー♪

 

『アル・シャハルにヴァール発生!新たに配備された部隊も一瞬で敵のコントロール下に落ちた!気をつけろ!あの歌が響いている!!』

 

アル・シャハルの空に、五つの軌跡が見える。

 

『くそ!何なんだよ!』

「前よりハッキリ聴こえやがる!」

「あ・・・!」

 

ミラージュはズームにして遺跡を見る。

 

「プロトカルチャーの遺跡が敵の歌に反応しています!」

 

遺跡の紋様が明滅を繰り返していた。別の空から空中騎士団が飛んでくる。

 

「“死神”がいない・・・・?まあいい」

 

Kiss Kiss Feel Love Kiss Kiss Feel Love

 

《ワルキューレ》がシャトルから飛び降り、降下を開始する。

 

「何・・・・この感じ・・・・!」

「やっぱり、遺跡が私達の歌に反応して・・・・!」

 

衣装のガスジェットを吹かせ、砂漠の斜面を滑る。美雲が前に出て歌い、更に反応が強まる。

 

「愛を祈って 奏でるメロディー」

「くっ・・・・」

 

フレイアのルンが激しく明滅する。それは時の神殿まで響いていた。

 

「だ、誰が・・・・!?」

 

ハインツは驚愕する。神殿を介して干渉してきたのだ。

 

「何、この干渉・・・・危ない!」

 

カナメが叫ぶが間に合わなかった。遺跡が輝きを放ち美雲とフレイアとハインツの意識を一つにする。

 

「うわぁ・・・・!」

「くっ・・・・!」

「あ・・・・!」

 

遍く銀河が一瞬だけ見えるがすぐに辺りは暗闇に閉ざされ、

 

「ーーーー!」

「ああ・・・ああ・・・・」

 

二人が見たものは自分達の下に広がる巨大な穴だった。

 

「穴・・・・」

「うわぁぁぁぁ!!」

 

ハインツ、美雲、フレイアの三人は吹き飛ばされ、気を失った。

 

「美雲!」

「フレフレ!」

 

キースのルンも何かを感じ取ったのか、違和感が身体を奔った。

 

「う・・・なんだ!?」

 

時の神殿から眩しい光にロイドは目を隠し、その光が止むとハインツは倒れていた。

 

「この風・・・・!」

 

グラミアも自身のルンで風を感じた。

 

「風が交わったか」

 

ヘルマンはこの機を逃さなかった。

 

「敵の歌が止んだ!一気に叩くぞ!」

『ダー!』

『大いなる!』

『風にかけて!』

 

四機の〈ドラケンⅢ〉から小型の無人機、〈リルドラケン〉が二機ずつ射出された。

 

ミラージュ、チャック、アラドに攻撃を仕掛け始めた。

 

「くっ・・・・!」

「挟み撃ちかよ!メッサーなしじゃ・・・・!」

「くっ!このままじゃ!」

 

花蓮はすぐさまハドロン・ブラスターを展開し、まずミラージュに張り付いている〈リルドラケン〉二機に狙いをさだめる。

 

「当たれぇ!」

 

長距離からの赤い光芒が〈リルドラケン〉をまとめて破壊する。

 

『助かりました!』

「いえ!」

(次はチャックさんのを・・・・!)

『デルタ4!援護を!』

『りょ、了解!』

(僕だけじゃとてもじゃないけどカバーしきれない・・・・!中尉なしだとここまでキツイなんて・・・・)

 

美雲とフレイアに懸命に呼びかける。

 

「クモクモ!しっかり、クモクモ!」

「フレイア!フレイア!」

 

ハヤテは遂に残った白騎士と戦闘に入る。

 

『デルタ0!5を!』

「あれは、白騎士!? 了解!」

 

ペダルを踏み込み、スラスターを吹かせようとするが、その前をカシムの機体のビームが掠めていく。

 

「くっ!」

「先へは行かせん!」

「白騎士!」

「ふっ・・・・」

 

金色の〈ドラケンⅢ〉の背後をとり、照準が合わさる。

 

「もらったぁぁぁ!」

 

機関銃を発射するが、それもことごとく躱される。

 

「くそっ!ぐぁ・・・!」

 

VF-31Jの右翼が被弾する。

 

「デルタ5!うっ・・・・!」

 

ミラージュの機体もボーグに右翼を撃たれた。

 

「ふん、雑魚は後だ。今こそ《ワルキューレ》を・・・・!」

『ダー!』

『了解!』

 

三機の〈ドラケンⅢ〉が《ワルキューレ》の方へと飛んでいく。

 

「しまった!?」

「フレイア!くっ・・・・!」

 

なおもハヤテに張り付いてる白騎士を振り切ろうにも出来ない。

 

「振り切れねぇ・・・・!」

「ふん、少しは風に乗るかと思ったが・・・・っ!来たか!」

 

キースのルンが輝き、別方向へと飛んでいく。

 

「あれは、カレン!」

「白騎士・・・・!」

「待っていだぞ、貴様を!」

 

ランスロットと金色の〈ドラケンⅢ〉が戦闘に入る瞬間、大気圏から謎の物体が降りて来た。

 

「あれは・・・・!?」

 

ハヤテは驚く。

 

「まさか・・・・!」

「ほう・・・・!」

 

花蓮も正体に気付き驚く。キースの口は更に口角を上げる。

 

「何・・・・?」

 

カナメが空に目を向けた。摩擦熱の尾が消え、中かから現れたのは、

 

「デルタ2、エンゲージ!」

 

メッサーのVF-31Fだった。

 

「メッサー!?何のつもりだ!」

 

アラドが回線を開き、メッサーに問いかける。

 

「状況は聞きました・・・・!」

『勝手な真似を!』

「・・・・まだ俺は、Δ小隊の隊員です!」

「ーーーっ!」

「メッサーくん!?」

 

カナメが横を向くと、三機の〈ドラケンⅢ〉が接近していた。

 

「ククク、終わりだ」

『うおおおおお!!』

 

メッサーがガンポッドを撃ち、三機のうち二機を撤退させる。

 

『何を・・・!』

 

そのうちの一機が撃ったビームが《ワルキューレ》めがけ飛んでいく。全員が目を瞑った瞬間、ガウォークに変形したメッサーの機体がそれをピンポイントバリアでそれを防ぐ。が、勢いを殺せずそのまま横に倒れた。

 

「カナメさん、無事か!」

「中尉!」

「え・・・・!?」

 

キャノピーを開け、ヘルメットの防護シールドも上げる。

 

「歌ってくれ、カナメさん!」

「メッサーくん!」

 

カナメは走って機体に向かう。

 

「歌ってくれ、俺がヴァールになりきる前に!」

「っ!」

 

カナメは足を止める。

 

「カナメさん!」

「っ・・・・」

 

カナメは後ろを振り向く。そこにはまだ意識の戻らない美雲とフレイアがいた。そして、カナメは意を決し、

 

「わかったわ!メッサーくん!」

「ありがとう、カナメさん!」

 

再度ヘルメットの防護シールドとキャノピーを閉じ、ファイターに変形。大空へ飛び立つ。カナメは歌う。かつて、自分がエースボーカルとして歌った曲を。

 

「今見た 笑顔が 最後の笑顔かも 知れない」

 

メッサーに襲い来る無数の〈リルドラケン〉からビームの嵐が来る。それをヴァールの力で避け、更には四機の〈リルドラケン〉を撃墜する。

 

「こいつ・・・・!」

『異邦人か!?』

 

ヘルマンの横を白騎士が通り過ぎる。

 

「白騎士!」

 

キースの顔は笑っていた。そして、両者が交錯し、ドッグファイトが始まった。

 

「切なさは この胸のAXIA」

(メッサーくん・・・・!)

「はぁぁぁぁ!!」

 

無数のミサイルを発射する。それを両翼についている〈リルドラケン〉を反転、後ろ向きにし、迎撃する。

 

「っ!」

 

今度は相手から無数のミサイルが発射され、それを巧みに躱していく。使い切ったミサイルポッドをパージし、メッサーの背後につく。それを幾度となく繰り返し、空には紫と緑に輝く光が踊っていた。

 

「あいつ、ヴァールになってまで・・・・!」

『力をコントロールしてるってのか!』

 

ハヤテはガウォークで移動しながらメッサーと白騎士の戦闘を見ていた。

 

「なんて綺麗な・・・・」

 

ミラージュはそのドッグファイトに見とれていた。

 

「白騎士様と互角に!?」

 

ボーグのルンが輝く。

 

「ええ風だ・・・・」

 

メルマンも感じたのか、とても気持ちよい何かに身を任せるように目を閉じる。

 

「フフフ、風が見える!」

 

キースも目を閉じ、ルンで感じる。二人の機体が虹色の輝きを帯びた。それを見ていた花蓮は、

 

「・・・・・」

 

操縦桿を更に握り締める。

 

『俺がもしヴァールになったら、迷わず撃ってくれ』

『俺が飛ぶ理由はこの手に掛けた仲間達への贖罪と、命の恩人であるカナメさんを護るためだ』

『今がいっぱいいっぱい、か・・・・今はそれでいいのかも知れないな』

 

メッサーの言葉が去来する。あんなに美しく、誰もが魅了したメッサーの飛び方。あれは仲間達への償いから来るものではない。メッサーも、飛ぶことに魅了された飛行バカの一人なのだ。

 

「させない・・・・!」

 

だからこそ、あなたは死んじゃいけない。

 

「あなたは死なせやしない!」

 

ペダルを踏み込み、《ワルキューレ》の元へと向かう。そして、カナメの前で着地し、コックピットのハッチを開け、昇降用ワイヤーを降ろす。

 

『乗ってください、カナメさん!』

「カレンくん!?」

『中尉を、あの人を本当に救えるのはあなただけなんです!命を救われたあなたの歌声だけなんです!』

「ーーーー!」

『僕に力を貸してください!中尉を助けるために!』

 

カナメは下を向き、目に浮かんでいた涙を取り払う。そして、もう迷いのない眼差しで強く頷いた。

 

「ええ!わかったわ!」

 

昇降用ワイヤーにつかまり、コックピットの中に入る。

 

「助けましょう、二人で!」

 

ペダルを踏み込みメッサーの元へ、高速で向かう。

 

「一人で 生まれて 誰もが一人で死に行く」

 

『コアルミナス』のフォールドクォーツが反応し、ランスロットも虹色の光を帯び、尾を引いていく。花蓮を象るように虹色のオーラが花蓮を覆う。それと同時に、カナメも赤いオーラを纏う。オーバードライブの効果で、メッサーの気持ちが花蓮とカナメの中に流れてくる。

 

(俺は、ずっと生きていていいのか悩んでいた。だけど、いつからかカナメさんを護ることが俺の生きる意味になっていた)

「メッサーくん・・・・!」

(今ここで消えいる命のだとしても、俺を救ってくれた女神には手を出させない!たとえ、ヴァールになったとしても!)

 

マキナは爪型プロジェクターでフォールド波を検知した。

 

「カナカナのフォールド波をカレカレが増幅させてる・・・・・」

「オーバードライブ・・・・誰かを救いたい・・・ただそれだけの願いのために・・・・・」

 

美雲がゆっくり目を覚ます。

 

「綺麗ね・・・・」

「カレン・・・・」

 

フレイアも目を覚ました。

 

「もらったぁぁぁ!!」

 

メッサーが右翼の〈リルドラケン〉を破壊する。

 

「“死神”、やはりお前も風に乗るかっ!」

 

左翼の〈リルドラケン〉を射出し、今度はメッサーの機体のコンテナユニットを破壊する。

 

「くっ・・・・!」

 

それをパージし、加速する。

 

「中尉ーー!!」

「涙さえ 明日照らすAXIA」

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

すると、メッサーのコックピット何に風が吹く。

 

「風・・・・」

「・・・・・フッ」

「くっ・・・・!」

 

上からメッサーがビームを連射するが、キースはもう一機残っていた〈リルドラケン〉を操作し、代わりにビームを受けさせ、やり過ごす。両者の間に広がる爆煙。そしてその中から、金色の〈ドラケンⅢ〉が姿を現した。

 

「はぁぁぁ!!」

 

対峙する両者。機首の砲門が開く。銃口にエネルギーが溜まっていき、発射。それは、キャノピーめがけ飛んでいく。

 

「ーーーー」

(カナメさん・・・・)

 

キャノピーをもう少しで貫く瞬間、横から高速の爆撃機がメッサーの機体を掴み飛んでいく。

 

「なんだとっ!?」

 

ビームはそのまま地表の岩石に当たり、爆発した。

 

「ーーーーカレン准尉、何を!?」

『勝手に逝くなんて、僕は許しませんよ・・・・』

 

メッサーの機体をランスロットから放たれる虹色の輝きが包み込む。

 

「あなたはまだ、何も護れてないじゃないですか!」

「何を言ってーーー」

「護ると決めた人を置いて先に逝くんですか!あなたは!」

「ーーーー!」

 

花蓮の言葉にメッサーの心は揺れる。

 

「白騎士ぃ!」

「行かせるかよ!」

 

ハヤテがボーグにガンポッドを向ける。

 

「デルタ1より各機へ!何としてでもデルタ2とデルタ0を守り抜け!」

『ウーラ・サー!』

『『了解!』』

(頼んだぜ、カレン!)

 

Δ小隊は残りの〈ドラケンⅢ〉へと突撃する。

 

「心で感じてください!耳で聴いてください!あなたが護りたかった女神の声を!」

 

メッサーのコックピットのモニターにカナメの顔が映し出される。

 

『戦士であるあなたに言う言葉じゃないかもしれないけど・・・・死んじゃいやっ!生きてっ!!』

「カナメさ・・・・ぐっ!」

 

メッサーの顔に肥大化した血管が浮かび上がる。

 

「俺ハ・・・多クノ仲間ヲ手ニカケタ・・・・本当ハ、生キル価値ナンテナイ・・・・グッ・・・アアアアアアア!!!」

 

完全にヴァールになり、ガウォークに変形、ガンポッドをランスロットの腹に突き立てる。そんなメッサーを見て花蓮は歯を食いしばり、大声で叫んだ。

 

「殺して、死んだ仲間達の分まで生きる事が償うってことじゃないんですか!自分の気持ちを、また抑え込むつもりですか!!いつまでも過去を引きずるな!戻ってこい!メッサぁぁぁぁ!!」

 

メッサーは先も、右も左もわからない暗闇の中でただうずくまっていた。だが、そんな世界にヒビが入り、その中から白い手が伸びる。見たこともないのにとても暖かくて優しい。更にビビが大きくなり、暗闇の一部が壊れた。その中から、一人の女性が出てきて、うずくまっているメッサーに手を差し伸べる。

 

『お待たせ、メッサーくん』

「カナメ・・・・さん・・・・」

『ずっと辛かったよね。でももう大丈夫だよ、あなたには私達がついてる』

「あ・・・・」

 

カナメはそっとメッサーを抱き寄せる。

 

『もう、一人じゃない。だから、その背中に背負ってる重荷、私達にも背負わせて?』

「そんなこと・・・・出来ません・・・・これは、俺が償うべきもので・・・・」

『それは一人で背負うには重すぎます。僕達にも背負わせてください』

 

一人の少年が、ビビの中から現れる。

 

「カレン准尉・・・・・」

『皆でなら、怖くないよ』

『あなたは一人じゃありません』

 

花蓮とカナメは手を差し伸べる。

 

『行きましょう、中尉。生きる方が、戦いです』

「・・・・ああ、そうだな」

 

二人の手を握り、メッサーは暗闇の中から抜け出したーーー

 

「アアアアあああーーー・・・・俺は・・・・」

「良かった、戻ったんですね!」

「メッサーくん!」

 

花蓮は抱えているメッサーの機体を地表に降ろす。コックピットのハッチを開け、カナメを降ろす。

 

「メッサーくん!」

 

カナメはコックピットに向かい走る。キャノピーを開け、ヘルメットをとる。

 

「すみません、カナメさん。俺は・・・・」

「ううん、いいの。無事でよかった・・・・」

「カナメさん」

 

カナメは声をかけられた方を向く。そこには、座席を後ろに移動し、こちらを見下ろしていた花蓮がいた。

 

「中尉を、頼みます」

「ええ!」

 

座席を前に移動させようとした瞬間、

 

「カレン准尉!」

 

メッサーに呼び止められた。少しだけ間を置いて、花蓮の目を見据える。

 

「・・・・・俺はずっと殺した仲間達の贖罪のために飛んでいたのかも知れない。だが、それは違った。俺は、飛ぶことが好きだったんだ。それをお前とカナメさんが気づかせてくれた。俺はもう迷わない。お前とカナメさんが繋いでくれたこの命、大切にする。・・・・・礼を言う、ありがとう。エノモト・カレン(・・・・・・・・)

 

花蓮は微笑し、頷く。そして座席を前に移動しハッチを閉める。フロートユニットを起動し、機体を浮かせた状態で再度メッサー達を見る。そして敬礼をした。メッサーとカナメも敬礼し、それを見た花蓮は大空へとまた戻っていった。

 

「デルタ0から各機へ!デルタ2の救出に成功、ヴァールになることは恐らくありません!」

『よくやった!デルタ0!帰ったらなんでも奢ってやる!』

『ほんとか!?ほんとなんだな!?』

『よかった・・・・』

『よっしゃ!後はあいつらを蹴散らすだけだ!』

 

五機の機体は敵陣に切り込んでいく。

 

「Δ小隊、行くぞ!」

「ウーラ・サー!」

「了解!」

「行くぜ、カレン!」

「はい!」

 

メッサーは空に散開していくΔ小隊を見ながらあることを思っていた。

 

(皆、俺はまだそっちにいけないようだ。お前らの命を奪っておいて、言える言葉ではないな。だが、お前らの分まで俺は飛ぶ。償いと護るべきものを護るために。だからもう少しだけ待っていてくれ)

 

「白騎士!」

「来たな、白騎士!」

 

カナメもまた、あることを思っていた。

 

(ねぇ、カレンくん。さすがにほんの一瞬だけ驚いちゃったよ)

 

金色の〈ドラケンⅢ〉のミサイルを躱し、肉薄する。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

V.A.R.I.Sを投げ捨て、MVSを二本抜き、切りつける。それをバトロイドに変形し、ピンポイントバリアで防ぐ。

 

「ぐっ!」

(でも、カレンくんならこうするのは当たり前だよね。あなたがメッサーくんをこのまま放っておけるわけがない。あなたは出会ったときからいつも私達を笑顔にしてくれた。それがあなたの魅力なのかもね)

 

〈ドラケンⅢ〉が、足に収納してある一本の剣を握る。

 

「いざ、尋常に!」

「勝負!」

 

剣と剣がぶつかり合う。火花が散り、剣風が砂漠の砂を巻き上げる。鍔迫り合いをやめ、虹色の帯を引きながら、幾度となくぶつかり合う。

 

(でも私、最近よく思うんだ。やっぱりあなたに会わないほうがよかったって。だって、あなたに会わなければこんなにも、愛おしい気持ちを憶えることも無かったかも知れないからーーー)

 

「カレカレ!頑張れぇ!」

「応援、する!」

「ゴリゴリアターーック!!」

「今一番輝いてるわよ、カレン!」

 

《ワルキューレ》も歌うことをやめ、応援していた。だが、それで十分だ。

 

「「白騎士ぃぃぃぃぃ!!!」」

 

花蓮の両目のハイライトが消える。キースのルンがより一層輝く。そして、最大の衝突が訪れた。衝突の余波が中心から周りに向け放たれる。

 

「うぉぉぉぉ!!」

「はぁぁぁぁ!!」

 

鍔迫り合いで力の拮抗がとうとう上限まで達し、ランスロットと〈ドラケンⅢ〉はお互い弾かれるように左右に吹き飛ばされた。

 

「ぐぁ・・・・!」

 

巨大な岩の壁にぶつかり、コックピット内まで衝撃が訪れる。それはキースも同様だった。

 

『空中騎士団、全機枝に帰投せよ』

「ロイド様!? まだ我々は・・・・」

『白騎士がその状態でまだ戦うつもりか?』

「くっ・・・・!」

『ハインツ様は無用な争いは求めていない。そのご意思に背くつもりか』

「わかった、全機枝に帰投する。ボーグ、お前はキースを」

「ダ、ダー!」

 

ヘルマンの指示で機能が停止した金色の〈ドラケンⅢ〉をボーグが連れて、空中騎士団は撤退して行った。

 

「カレン!応答しろ、カレン!」

 

ハヤテは必死に花蓮に呼びかける。

 

『聞こえてますよ・・・・やりましたね、僕達の勝ちです・・・・!』

「ああ!お前が、メッサーが身体を張ってくれたおかげだ!」

「よし!《ワルキューレ》、Δ小隊!アイテールに乗り込め、帰るぞ!」

「メッサーもな!」

「ああ、すまないな」

 

ランスロットをハヤテが、メッサーの機体をチャックがアイテールに連れて行く。

 

「カナメ」

「美雲・・・・」

「あなたも、メッサーも誰よりも輝いていたわ」

「あなたのライバルはフレイアだけじゃない。私の歌を大事に思ってくれる人がいる。だから私は歌うわ、誰よりも強く・・・・!」

 

見事メッサーを救い出し、空中騎士団を撤退に追いやった花蓮。人の数だけ物語がある。たとえそれが悲しいことだとしても、それは価値あるもの。それこそがその人が生きた証なのだから。

 

AXIA それはカナメとメッサーの出会いを価値あるものにした歌ーーー




いろいろ混ざっちゃいました笑


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Mission21 〈星の導き手〉

今回は〈星の導き手〉関連です!

短いかも知れません!


『それじゃ、始めるわね』

「はい」

 

ここはエリシオンの検査室。メッサーの体内に未だに潜伏しているヴァール細菌を撲滅する検査をしていた。それは、花蓮の血液をメッサーに輸血する、というものだった。フォールドレセプターということもあり、ましてや〈星の導き手〉である花蓮の血液にはヴァール細菌を撲滅する抗体があったことがわかったのだ。

 

「どう?レイナ」

「拒絶反応なし、順調」

「そう」

 

カナメはガラスの仕切り越しにベッドの上で仰向けになっている二人に目を向ける。

 

「カレン准・・・いや、もう准尉ではないな。カレン少尉」

「慣れませんね」

「徐々に慣れる」

 

そう、花蓮はメッサーの救出並びに空中騎士団を撤退に追い込んだ功績が認められ、准尉から少尉に昇進したのだ。

 

「中尉はこの後何かするんですか?」

「いや、溜まりに溜まった有休を使え、とアラド隊長の命令で当分は安静しておくことになった」

「そうなんですね」

 

そんな他愛もない話に花を咲かせる。

 

「メッサーの体内にいたヴァール細菌の全撲滅を確認、終わり」

「よし」

 

マイクを口元に寄せ、

 

『二人ともお疲れ様、終わったわよ』

「よっと・・・・あ、れ?」

 

花蓮はベッドから立ち上がり、足を前に出した瞬間、足から力が抜け崩れ落ちそうになるのをメッサーが支えた。

 

「軽い脱水症状だな。体内の血を失い、体はいま失った血液を作っているとこだ。無理もない」

「うう・・・・」

「すまない、俺がヴァールにさえならなければ」

「い、いえ、いいんです。中尉はこれでもうヴァールにはならなくて済むんですから」

 

花蓮はメッサーの肩を借りて、検査室を出ていく。

 

「あー、やっぱり脱水症状になっちゃったか」

「カナメさん、何か飲料水はありますか?」

「今取ってくるわね」

 

近くの椅子に花蓮を座らせ、メッサーも向かいに座る。

 

「ランスロットの方はどうなんだ?」

「機体の関節部とフロートユニットのスラスターがオーバーロードしていたそうです」

「大気圏内であれほどの戦闘をしたんだ。負荷がかかるのも無理ない」

「修理する事も出来るそうですが、新しく造った方が早いという案も出始めているみたいで」

 

すると医務室のドアが開き、カナメが飲料水が入ったパックを手に入ってくる。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「メッサーくんは何時まで休むの?」

「3日程度です、あまり前線を離れるわけには行きませんから」

 

するとスピーカーから艦内放送による呼び出しがかかる。

 

『お呼び出します。エノモト・カレン少尉、アーネスト艦長がお呼びです。至急ブリッジまでお越し下さい。繰り返しますーーー』

「それじゃ、僕はこれで」

 

一礼して、隊服を羽織り医務室を出る。ブリッジに向かう廊下では、会う人会う人からクッキーやらお手紙やら両手で抱える程の物をもらった(主に女性から)。一度、貰ったものを更衣室の自分のロッカーに置き、しばらくしてブリッジのドアの前につく。センサーが察知し、自動で開く。その前で敬礼をし大きな声で喋る。

 

「エノモト・カレン少尉、入ります」

 

一歩中に入ると閉まった。

 

「来たか、実は貴官に話があってな」

 

マクロス・エリシオンの艦長、アーネスト・ジョンソンはその巨躯を預けた椅子ごと反転させ花蓮の方を向く。

 

「話とは・・・?」

「ああ、レディMからこの様なものが届いた」

 

オペレーターにアイコンタクトを送ると、正面の巨大なモニターにそれが映し出された。

 

「これは・・・設計図、ですか?」

「うむ、機体名〈ランスロット・アルビオン〉。新型飛翔機関〈エナジーウイング〉を搭載した貴官専用の機体だ。対艦隊戦などを想定した高機動広域殲滅兵器というのが名目らしい。〈エナジーウイング〉との親和性とフォールドクォーツとの適合率をさらに上げるため、機体を一から造る必要がある。だが、メインコンピューターと『コアルミナス』は流用するとのことだ」

「製造期間の目処はついているんですか?」

「一から造るとなると、早く完成とはいかんだろう。だがウィンダミアは待ってくれん。早速だが急ピッチで造らせている」

「では僕はしばらく出撃は出来ないのでしょうか?」

「そうなるな」

「わかりました」

 

ブリッジを出て格納庫へと向かう。

 

「おーい、こっちにそれをよこしてくれー」

「ばか!サボってんじゃねぇ!」

「ひぇ!すみません!」

 

確かに急いで造っているらしい。

突如、胸が締め付けられる痛みが襲う。

 

(ぐっ・・・!)

 

手の甲を見てみるとまたあの紋様が出たり消えたりを繰り返していた。

 

『メッサーを救えて満足ですか?』

「誰だっ!」

 

突如、頭の中に謎の声が響く。しかしここは格納庫、作業員全員の目線が花蓮に注がれる。

 

「どうしたー?カレン」

「大声だしやがって、ビックリすんじゃねぇか」

「す、すみません!」

 

そそくさと格納庫を出て、廊下の壁に背を預ける。

 

(誰だ・・・・お前は・・・・!)

『メッサーを救えて満足ですか?花蓮』

 

周りを見渡すが誰もいない。

 

『人助けはさぞかしいい気分でしょう』

(人の頭の中に直接話しかけるお前は・・・・)

『僕は君だ、花蓮。わかりやく言えば、〈星の導き手〉そのもの。実体がないから君の体のイメージでも借りるとしましょう』

 

花蓮の頭の中に自分と瓜二つの人型が現れる。違うとすれば、髪と瞳の色が黒いだけ。その顔は怪しい笑みを浮かべていた。

 

『こうやって面と向かって話すのは初めてですね』

(僕に何の用だ・・・・)

『用も何も僕達は一つなんですから』

(一緒にするな!)

『君がメッサーを救えたのは、僕の力があったからなんですよ?〈星の導き手〉の力があったから何の力も持たない君が救うことが出来たんです』

(何を言ってーーー)

『ヴォルドールでの一件で、僕という〈星の導き手〉の力の片鱗は覚醒した。・・・・彼女(・・)に覚醒を促されたと言った方が正しいか。ああ、それと、美雲・ギンヌメールでしたか、まさかあそこまでコピー出来るとは流石に彼女も思いもよらないでしょうね』

(コピー・・・?)

『そうです、彼女は本物(・・)ではありません。詳しいことはそのうちわかるでしょう』

 

黒花蓮は花蓮の右を歩いていく。

 

『〈星の導き手〉としての覚醒は既に始まっています。いずれ、君の自我も〈星の導き手〉によって飲み込まれ、完全な覚醒を迎える。それが宿主となった君の運命です』

(どうでしょうね、僕は最後まで抗いますよ)

『フッ・・・・それもいいでしょう。だが、君の運命は決して安寧ではない。〈星の導き手〉の因子をその体に宿した宿主となった時点で君は、人並みの幸せも、もう味わえない』

 

黒花蓮は方向転換し、花蓮の後ろを歩く。

 

『君の瞳は、一体何を見るんでしょうね』

 

また方向転換し、花蓮の左を歩いていく。

 

『君がその気になれば世界を・・・・いや、銀河を救う「天使」にも、銀河を壊す「悪魔」にもなれる』

 

そして、目の前で足を止め花蓮の瞳を射抜くように見る。

 

(どっちにもなりませんよ)

『・・・・・』

(僕はここにいる皆さんと過ごす明日が欲しいんです。どんなに望みが薄くても、何も確かなものがなくても、僕は絶対諦めない)

(なんでここまで言いきれる・・・・)

 

黒花蓮はわからなかった。何をしたって最後は結局飲み込まれる運命。そんな抗いようのないものになぜこいつは諦めない?なぜ自分の運命を受け入れない?そして、黒花蓮は目を細めて花蓮を見る。眩い光に向かって歩いていくその背中は、とても力強かった。

 

(眩しいくらい想いが強いんですね、花蓮・・・・君はその背中に何を背負ってきた・・・・?まるで、光のようで、消えてしまいそうだよ・・・・)

 

そっと目を閉じ口角を僅かに上げた。

 

『今日はこのぐらいにしておこう。話せて嬉しかったよ、花蓮』

(・・・・・)

『でも、これだけは忘れないでください。覚醒はすでに始まっているということを』

 

そう言って完全に黒花蓮は消えていった。閉じていた目をそっと開けると目の前には美雲の顔があった。

 

「うわっ!?み、美雲さん!?」

「立ったまま寝るなんて、余程疲れてたのかしら」

「い、いえ、少し考え事を・・・・」

 

苦笑いを浮かべながら頬をかく。

 

「でも大丈夫です、解決しましたから」

「あまり無理はよくないわよ?」

「はい」

 

なぜかずっと自分の顔を見ている美雲に焦る。

 

(ど、どうしたんだろう・・・・)

「あ、美雲ー」

 

遠くからカナメが美雲に手を振りながらこちらに近づいてくる。

 

「捜したわよ、そろそろレッスン始めるよ」

「わかったわ」

 

そう言って歩いていく美雲を目で見送る。

 

「大分落ち着いてきたみたいね」

「あ、はい。飲み物ありがとうございました」

「なんか逞しくなったなぁ」

「え!ほんとですか!?」

 

キラキラさせた目でカナメに詰め寄る。たじろぎながらも首を縦に振ると、心底嬉しそうな笑顔を作った。

 

「毎日牛乳を飲んでいる成果が・・・・!」

(ちょっと関係ないかな・・・・)

 

苦笑いを浮かべながら内心そんなことをぼやく。口に出してしまったらすぐに落ち込んでしまう彼が安易に予想できるからだ。

 

「っと、私もそろそろいくね!」

「あ、はい。レッスンあるんでしたね、頑張ってください!」

「ありがと、じゃあお姉さんからちょっとしたお礼でも」

「そんな、気にしないでくだーー」

 

ちゅ

 

花蓮の頬にカナメの柔らかい唇の感触が広がる。微かな温もりを残して離れていった。

 

「そ、それじゃあね!」

 

そう言ってカナメはそそくさとその場を去っていった。一人残された花蓮は、

 

「柔らかかったな・・・・・」

 

頬をポリポリ掻きながら手に持ったパックのストローを口に入れ、飲料水を飲んだ。すると、端末に着信が入る。

 

「ガイさん?」

『おお、カレンか。ちょいと格納庫まで来てくんねぇか?お前さんの機体が使えない間、あるモンを代わりに使えるぜ?』

 

首を傾げながらまた格納庫へと赴いた。こちらにガイが手を振っている。

 

「来たな、あるモンってのはこいつだ」

「これって、VF-1EX?」

「ああ!ランスロットが完成するまでの間、こいつに乗ってもらうぜ」

「でも、訓練用なんでは?」

「ちゃんと実戦用に改良してある」

 

最終試験でハヤテが乗った青い色のVF-1EXがそこにいた。

 

「基本装備はちゃんとしてある。安心しな」

「ですが、これで相手の機体で太刀打ち出来るんでしょうか・・・・」

「そいつぁお前さん次第だ。機体性能の差が圧倒的戦力の差になることはねぇ。大事なのはそれを扱うパイロットの腕だと思うぜ?」

 

花蓮もそれには一理あると思った。確に機体性能の差は戦力差にも影響する。が、いくら高性能の機体に乗ってもパイロットの腕が悪ければ、宝の持ち腐れのようなものだ。

 

「どうだ?試しに乗ってみるか?」

「はい!」

 

ーーーーーーーーー

 

「ーーーというわけでして・・・・」

「なるほどな、よし。カレン、お前はそれに乗り俺以外のΔ小隊と模擬戦をやってもらう」

「・・・・・え?」

「アラド隊長!それは少し厳しいのでは・・・・」

「自分も同意見です」

 

ミラージュとメッサーがアラドの提案に異議を唱える。が、しかし、

 

「いえ、やります」

「カレン!?」

「いくら旧型のアップデート版だからって最新鋭の機体に負けるという道理はありません」

「へぇ、言うじゃん!」

 

ハヤテはやる気まんまんだった。

 

「それじゃ、全員準備をしろ」

 

ーーーーーーーー

 

アイテールの甲板に四機のVF-31と一機のVF-1EXが現れる。

 

『射出!』

 

アラドの号令で全機はカタパルトにより射出される。

 

「悪ぃけど、手加減はしないぜ!」

 

ハヤテが早速、花蓮の後ろに付く。ペイント弾に装填されたガンポッドを撃つが、それをなんなく躱した。

 

「マジかよ・・・・!」

 

ーーーーーーーーー

 

あれから模擬戦は花蓮の勝ちで終わった。両翼をたたんでの加速や、海面すれすれを飛行したり、メッサー並の技量を遺憾無く発揮した。

 

「参ったー、すげぇな」

 

ハヤテは甲板の上に座り込む。

 

「まさか、VF-1に負けるとは・・・・」

「あれはガイさんが実戦用に改良してくれたんです」

「お前達何をしている、とっとと着替えろ」

 

メッサーの叱咤で全員が戻ってくるのをアラドは眺めていた。

 

ーーーーーーーーー

 

ウィンダミアの格納庫では空中騎士団が集まっていた。

 

「白騎士様、お身体の方はもう宜しいんですか?」

「ああ、今度はこちらから直接ラグナに乗り込む」

「《ワルキューレ》め・・・・!今度こそ・・・・!」

「行くぞ」

 

六機の〈ドラケンⅢ〉がラグナへ向けてフォールドをする。それを王宮から見ていたロイドの口角は僅かに上がっていた。

 




マクロスΔスクランブルにアルビオンが出たらエナジーウイングの乱射で無双しちゃうんではないかと、勝手に妄想している今日この頃


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Mission22 キング・オブ・ザ・ウィンド

文化祭が立て続けで来てしまい投稿出来ませんでした!

これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m


「シグルバレンスの能力解明が60%まで到達しました。起動もできます」

「よかろう、これより全軍の指揮は私が執る」

 

グラミアの一言に軍人達が気合いを入れる。

 

「陛下に感謝致しましょう。この艦に乗ることを許されたことに」

「・・・・・」

 

ベルガーの言葉にロイドはただ、笑みを浮かべていた。

 

ーーーーーーーーー

 

「よし、これでどうだ」

「うわぁ、すごいですね」

 

格納庫にあるVF-1EXに追加装備を付け足した。ランスロット・コンクエスターのMVS二本を両翼の下に装備し、V.A.R.I.Sはガンポッドの代わりということで機体の腹の部分に格納した状態でそこにいた。

 

「でも、いいんですか?」

「ああ、武器も新しく造りなおせって上からの命令だからな」

「一晩で可変戦闘機用に改修するなんてさすがですね」

「まぁな」

 

遠くに目を向けると、着々と完成していくランスロットが見えた。

 

ーーーーーーーーー

 

惑星アル・シャハルの衛星軌道上にいる新統合軍政府の艦隊に警報が鳴り響く。

 

「どうした!」

「巨大な質量を観測・・・・!デフォールドします!」

「なんだ、この艦は・・・・」

 

目の前に現れたそれ(・・)は、フォールドのゲートからその巨躯を出す。

 

「風は吹いている・・・・幕をあげよ、ハインツ!」

「はい」

「全軍、主砲発射! 撃てぇ!」

 

全艦隊から幾本もの主砲が放たれた。

 

「ーーーーー♪」

 

時の神殿に設置された装置がハインツの歌を増幅させる。放たれた幾本もの主砲はシグルバレンスを取り囲むように展開された謎のオーラによって掻き消されてしまった。

 

「な、なんだ!何が起こっている!」

「し、信じられません・・・・風の歌によって次元断層が形成されていきます!」

 

 

今もなお風の歌の効力は増し、近辺の星々にも影響を及ぼしていた。

 

「ぐっ・・・・アアア!!」

 

新統合軍の軍人達の顔に肥大化した血管が浮かび上がる。そして、風の歌にラグナにある遺跡も反応していた。

 

「ーー! これは、風の歌・・・?」

 

花蓮の頭の中に、電流のようなものが走る。

 

「ーー!」

「ー!聴こえた・・・・」

「どうかし・・・・っ!」

「「っ!」」

「この歌・・・・!」

「風の歌い手!」

 

ラグナにまで風の歌が響き渡る。

 

『航空団各員、作戦変更につき発進作業中止!繰り返しますーーー』

「中止だぁ!?」

「一体何が・・・・」

 

ブリッジの艦長の席の目の前に、Δ小隊のメンバーが映し出される。

 

『どういう事だ!』

「アル・シャハルが陥落した」

『陥落!?』

「戦闘開始から僅か十五分・・・・アル・シャハルの新統合軍は完全に沈黙した」

 

 

アル・シャハルの空にシグルバレンスが現れる。

 

「これ程までとは・・・・これがプロトカルチャーの力・・・・!」

 

ロイドは手に持った端末を握り締める。

それから、生き残った惑星のケイオス所属の部隊がラグナのエリシオンに集まった。

 

「よぉ!しぶとく生き残ったか!」

「お前もなぁ!」

 

久しぶりに会ったのか、握手を交わし合う人達や、昔話に花を咲かせていた。

 

「うわぁ、いっぱいおるねぇ」

「球状星団中の部隊が集まってるからね」

「制圧された星の生き残りもな」

「諸君、よく集まってくれた」

 

すり鉢状になっているブリーフィングルームの真ん中に、アーネストとアラド、カナメが立つ。

 

「懐かしい顔が多数見受けられるが、昔話をしている暇はない。早速始めさせてもらおう」

「まずはこれを見てください」

 

部屋の照明が消え、シグルバレンスが映し出された。

 

「戦艦か?」

「初めて見る型ですね」

「ウィンダミアの旗艦と思われるこの戦艦はフォールドリアクターの波形から、およそ五十万年にプロトカルチャーによって建造されたものと推測されます」

「プロトカルチャー?」

「ウィンダミアがなぜそんなものを?」

「不明です。ですが、以前より強力な生体フォールド波が観測されました。あの中に〈風の歌い手〉がいる可能性が高いかと」

 

ここにいる全員が息を呑む。

 

「〈風の歌い手〉が・・・・」

 

フレイアの顔が曇る。

 

「先ほどウィンダミア国王、グラミア6世が統合政府からのアル・シャハル解放を宣言した。次の狙いはラグナに間違いない」

「王様・・・・」

「国王自らお出ましってわけか」

「決戦ね」

「問題は襲撃がいつか・・・・」

「すぐには来ない」

 

美雲がキッパリ言った。

 

「あれだけの力を持つ歌、歌い手の負担も相当なはず」

「そんなことがなぜ分かる?」

 

遠くから一人の男の声が美雲へ疑問を投げかけた。しかし、それに全く動じず涼しい顔で美雲は答えた。

 

「分かるの、私には。いえ、私だけじゃない。あなたもそう思うでしょ?カレン」

「え?」

「・・・・・」

 

花蓮に全員の目線が行く。少しだけ間を置いて、無言で頷いた。

 

「カレン・・・・・?」

 

フレイアは何か胸がモヤモヤして気持ちになった。

 

「風の歌による攻撃が24時間以内に連続して行われたことは過去に一度もありません」

「そこで先手必勝、歌が聴こえて来る前に、こちらからアル・シャハルに奇襲をかける」

「アル・シャハル!?ウィンダミアに攻めるのでは?」

「次元断層の影響で、ウィンダミアに直接フォールドするのは容易ではない。それにアル・シャハルにはグラミア王がいる」

「奇襲作戦はΔ小隊、《ワルキューレ》を中心にラグナ支部で行う。俺たちは常に《ワルキューレ》の歌を身近に聴いているからな。諸君よりは風の歌に対する免疫は強いはずだ」

 

ミラージュ、ハヤテ、チャックは顔を見合わせ頷き合う。

 

「他の部隊にはラグナの防衛にあたってもらう。作戦開始は0400、以上、解散!」

 

アーネストの号令により作戦会議は終了した。花蓮は一番最後にブリーフィングルームを出た。

 

「ラグナの遺跡目当てか・・・・簡単に渡すわけにはいかないな」

 

頬を叩き、気合いを入れ直す。作戦開始時刻までまだ余裕はある。最後の調整をするため格納庫へと足を進めた。

 

ーーーーーーーー

 

現在、シグルバレンスはラグナに向けて移動中だった。司令室の椅子に座るグラミアの後ろから足音が近づいてくる。

 

「・・・・ハインツか」

「陛下、ラグナへはいつ侵攻するのですか?私はいつでも歌えます」

「今は休め」

「え・・・?」

「それもお前の務め。よくやった、ハインツ」

「・・・・・」

 

ハインツの顔は親に褒めてもらい、嬉しそうにしている顔と同じだった。だが、直ぐに顔を引き締め、

 

「はい」

 

お辞儀をしたのだった。

 

「先ほどのアル・シャハルへの攻撃で、この艦の未知なる部分の更に10%が解明されました」

「プロトカルチャーか・・・・」

 

ベルガーとキースは時の神殿を見上げていた。すると、後方から足音が近づいてくる。

 

「ん?これはこれはロイド様」

「神殿に異常は?」

「何も。あれだけの攻撃を受けながら全く・・・・」

「ほう・・・・」

「何をしに来た」

 

キースがロイドに顔を見ず問いかける。

 

「最早、貴様に指揮権はない。大人しく陛下とハインツ様のお世話をしていろ」

「・・・・・・」

 

それには何も答えず、ベルガーと別れてから二人で甲板に出る。

 

「これ以上ハインツ様にご無理をさせるわけにはいかない。我らの命は短い、もしハインツ様のルンが尽きるようなことがあれば・・・・・遺跡とこの艦さえあれば我々こそが正統なプロトカルチャーの後継者であると証明出来る!統合政府と和平交渉することも・・・・」

「プロトカルチャー・・・・そんなもの、統合政府には関係ないことだ」

「っ! 戦争を終えた後の事も考えろ!まだやらねばならない事は多い。私にもお前にも、時間はないのだ!」

「だからこそ、最後のその瞬間まで俺は戦い続ける、たとえ球状星団中の地球人を根絶やしにすることになろうとも。風を穢した者共を許すわけにはいかない」

「・・・・・」

「お前も命が尽きるまで戦い続けると信じていたのだがな」

 

そう言ってキースはその場を去って行った。一人残されたロイドは独り言のように呟いた。

 

「命など惜しくはない・・・・だが、銀河に新たな風を吹かせるまでは・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

ラグナの空は夕焼けに染まっていた。

フレイアのルンはしょぼんとしていた。

 

「ルンショボ」

「ふぇ?」

「大丈夫?ウィンダミアのこと、やっぱり気になる?」

 

顔を上げるとそこにはレイナとマキナがいた。

 

「うーん・・・・アル・シャハルには〈風の歌い手〉さんがおるんやろ?あたしの歌がその人の心に届いたら、人を操る歌やめてくれるかなーって」

「フレフレ・・・・」

 

マキナとレイナは顔を見合い、笑いあった。

展望台に夕焼けに染まる海を見つめる美雲がいた。頭の中にシグルバレンスがフラッシュバックする。

 

「また、私の中にあの風が・・・・・」

 

独り言のように、その言葉は風によってどこかへと運ばれて行った。

 

「艦長、シェルターの準備時間がかかりそうです」

「できるだけ急がせろ」

「はい」

「市民を避難させるんですか?」

「備えあれば憂いなしだ」

 

ふと、アラドが口を開く。

 

「グラミア王はいくつになった?」

 

目の前のモニターにグラミアの顔が映し出される。

 

「35は越えているはずだ。ウィンダミア人にしては、永く生きたものだな」

「執念ってやつか」

「アラド隊長は国王と会ったことが?」

「新統合軍の一パイロットが会える相手じゃありませんよ」

「では・・・・」

「教え子の一人だ」

「教え子?」

 

アーネストは昔を思い出しながら話出した。

 

「俺は当時、艦隊戦の教官として雇われてたんでな。・・・・フッ、デキの悪い生徒だった。何かと言えば「騎士道精神」、正々堂々一対一、艦隊戦には向いていなかった。だが、国と誇りを守るためならば悪魔にもなれる、恐ろしい男さ」

「独立戦争の時も参加を?」

「「祖国を守る戦に、よそ者の力は借りられん」とな。開戦前に解任されちまった」

 

アーネストはやれやれと手を挙げた。

 

「・・・・・」

「戦いましたよ、任務ですからね」

 

カナメが何かを言う前にアラドが先に事実を言った。

 

「艦長、新統合軍の連絡船が着陸許可を申請しています」

「新統合軍の?」

 

ーーーーーーーー

 

「新統合軍参謀局二部、ラウリ・マラン少佐であります」

「ケイオス・ラグナ支部、エリシオン艦長アーネスト・ジョンソンだ」

 

連絡船でやってきたのは白い軍服を身に纏ったどこかウザそう(作者目線)な男が敬礼をし、挨拶をする。それに答えた瞬間、態度が変化した。

 

「いやぁ、話には聞いておりましたが本当に大きなーーー」

「で、どんなご要件で?」

 

話が逸らされる前にすぐに本筋に戻した。

 

「新統合軍総司令部より通達です」

 

机に置かれたマイクロプロジェクターから通達文が映される。

 

「惑星ラグナのプロトカルチャー遺跡を破壊することが決定致しました」

「なに・・・・・?」

「ウィンダミアは遺跡を利用し、球状星団を支配しようとしている。破壊すればそれを未然に防ぐことが出来るのでは?」

「援軍も出さずに何を・・・・」

「ん?何か?」

「いえ、何も」

 

アラドは目線を逸らす。

 

「あの遺跡は、エネルギーシャフトが惑星の中心に向けて伸びています。下手をすれば地殻変動を引き起こす可能性が・・・・・」

 

カナメも遠回しに破壊することに異議を唱えるが、

 

「指向性戦術反応弾を使用しますので、大気圏外への被害は最低限度で済みます。アル・シャハルは十五分で陥落しました、ラグナとて三十分も持たないでしょう。それとも、他に何か手段があるとでも?」

「っ・・・・・」

 

カナメは言葉に詰まった。

 

「それでも承服しかねる」

 

アーネストはキッパリ言いのけた。

 

「ん?」

「おそらく、レディMも同じ意見だと思うが」

「そのレディMの顔を立てて報告に来たのですよ。本来なら了承を得る必要もないこと、既に工作部隊も派遣済みです」

「ッ・・・・!」

「そんな・・・・!」

 

ーーーーーーーー

 

「出撃準備、完了致しました。ラグナへはいつ・・・・」

 

キースとベルガーはグラミアの前で傅きながら言った。

 

「まだだ、まだ風が吹かん。ラグナの指揮官は確か・・・・」

「アーネスト・ジョンソン。フリーの傭兵で、常に不利な陣営につく変わり者だとか・・・・〈百戦百敗・無冠の名指揮官〉などと言われているそうで」

「フッ、相手にとって不足なし・・・・」

 

グラミアは昔を思い出したかのように口角を僅かに上げた。

 

ーーーーーーーーー

 

ラグナでは突然の避難勧告により、住民達が我先にと移動を開始していた。アラドが話があるらしく《ワルキューレ》とΔ小隊を集めた。

 

「レディMが新統合軍と話をつけてくれた」

「ってことは・・・・」

「ああ、奇襲作戦の結果が出るまで遺跡の爆破を待ってくれることになった」

「よかったぁ〜」

「ニャ〜」

 

マキナがシロを抱きしめながら安堵した。

それから解散になり、ミラージュはアイテールの甲板で端末と睨めっこしていた。

 

「どうしたら白騎士と対等にやりあえる・・・・」

 

と、そんなことをぼやいているとドアが開き、誰かが入ってくる。すぐに体が動き、隠れてしまった。

 

(な、なんで隠れてしまった・・・・)

「あれ?ここにもミラージュさんはいないのか、うーん、どこに行ったのかなぁ」

 

辺りをキョロキョロ探している花蓮をミラージュは見る。出て声をかけようとした瞬間、体がぐらつき手すりに頭を打つと思い目を瞑ったが一向に激痛はこない。

 

「あ、危なかった・・・・大丈夫ですか?」

「カ、カレン!?」

 

上半身を支えている花蓮の顔がすぐ近くにあり、焦り出す。上半身を起こし、ミラージュから離れる。

 

「探しましたよ。これ、ミラージュさんにって」

「これは・・・・?」

「惑星エデンにある、お守りという物です。これを持っていると災厄などから守ってくれるんですよ?」

 

ミラージュに赤い刺繍がされたお守りを渡す。

 

「いいんですか?」

「はい」

 

可愛らしい笑顔を見て、胸がはねる。

 

「それじゃ、明日は早いのでこれで」

「は、はい。・・・・あ、あの!」

「?」

「生きて、帰りましょう!」

「・・・・はい!ミラージュさん!」

 

ーーーーーーーー

 

とうとう奇襲作戦開始時刻が近づく。

 

『マクロス・エリシオン、発進スタンバイ。繰り返す、マクロス・エリシオン、発進スタンバイ』

『ウェポンシステム、チェック急げ!』

「イナーシルキャパシター、よし!」

 

Δ小隊は各々のVF-31に乗り込む。

 

「カレン!調整はバッチリだぜ!」

「ありがとうございます!」

「VF-1EX〈カレンスペシャル〉だ!」

「名前はどうにかなりませんでしたか・・・・」

 

そんなことを言いながらすぐに乗り込み、起動する。

 

『ランスロットもすぐに完成させる!それまで、コイツで勘弁してくれよ!』

「充分ですよ!」

 

ブリッジではエリシオンの起動準備が着々と進められていた。

 

「メインリアクター、出力上昇。重力制御システム、起動」

「係留システム、ロック解除」

 

エリシオンを係留していたロックが解除されていく。

 

「発進エリア、オールクリア。マクロス・エリシオン、浮上開始します」

 

エリシオンがゆっくりと浮上する。

 

「ケイオス・ブリージンガル球状星団、連合艦隊総司令、マクロス・エリシオン艦長、アーネスト・ジョンソンである。これより、オペレーション〈アイン・ヘリアル〉を開始する。本物のヤック・デカルチャーってやつを見せつけてやれ!」

 

エリシオンが海の上まで移動し、

 

「マクロス・エリシオン、全速発進!」

 

脚部のエンジンを全速で吹かせ、上空に上がっていく。

 

「トランスフォーメーション、開始します」

「メインエンジンブロック、大気圏外航行モードへ」

 

エリシオンが変形し、航行モードへとなる。

 

「アイテール及びへーメラー、ロック。艦体に接合」

「大気圏突破しました。フォールドドライブ、エネルギー充填完了」

「全艦、フォールド!」

 

エリシオンがゲートに入っていく。

 

(ラグナは守る!)

 

そして、花蓮の中でやつが動き出す。

 

『さぁ、僕の力を使う時が来たよ。花蓮』

 

黒花蓮は口元に弧を描いた。




1/72スケールのVF-31Fが発売されましたねー

パッケージがメッサーとカナメでついつい嬉しくて写メってしまった


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Mission23 究極 ランスロット

遅くなってすみません!

遂に最後で最強のランスロットが誕生!


『現在エリシオンはアル・シャハルの宙域に向けてフォールド航行中。戦闘員は自分の機体内で待機。繰り返しますーーー』

『マクロス・エリシオン艦長、アーネスト・ジョンソンよりΔ小隊各機へ。この作戦でアル・シャハルを取り返すことが出来れば奴らに大きなダメージを与えることが出来るはずだ。貴官らの活躍に期待する、《ワルキューレ》と共に絶対制風圏の確立を阻止せよ!』

「デルタ1、了解した」

「デルタ2、了解」

「ウーラ・サー!カワイイ子ちゃん達のためにも負けられねぇぜ!」

「ハヤテ、私も今回は無心で飛んでみせます!」

「おうよ!背中は任せな、ミラージュ教官!準備はいいか、カレン!」

「もちろんです!自由な空を取り戻すためにもこの戦い、負けるわけにはいかない!」

 

Δ小隊各機が発進スタンバイに移る。メッサーにアラドからの回線が開かれる。

 

『メッサー、体の方はどうだ?』

「問題ありません」

『お前の体内にカレンの血が混ざった影響でお前の中にもフォールドレセプターの因子が取り込まれたらしい。一度ヴァールになり更にはレセプター持ち、かなりの免疫力のおかげで風の歌の影響はもう受け付けないはずだ』

「俺がフォールドレセプターに・・・・・」

『カレン、ハヤテと共にお前には先陣をきってもらう。三人で空中騎士団を圧倒してやれ!』

「了解!」

 

メッサーは右手首につけたブレスレットを握り締める。

 

「機体の反応速度もちゃんと僕についてくる・・・・ランスロットとは別の感覚だ」

 

脚部のメインエンジンの向きを上下に動かし、動作チェックを行う。

 

(ランスロットが完成するまで、この機体でどこまでやれるか・・・・・)

 

花蓮はパイロットスーツとセットのヘルメットを取る。AIのサポートの完全に無くするためだ。

 

ーーーーーーーー

 

ウィンダミア王国 宮廷地下 時の神殿最奥地ーーーー

 

丸い球体の中にいる赤い長髪の美しい女性は目を閉じたまま独り言のように呟きだした。

 

『歌という新たな文化を築き上げた「歌」という名の象徴、リン・ミンメイ。バーチャル・アイドルの暴走でマクロス・シティの全市民をマインドコントロールしたシャロン・アップル。生物の精神エネルギー「スピリチア」を吸い取る地球外生命体、「プロトデビルン」と「歌」で対抗したロックバンド《FIRE BOMBER》。銀河規模の生命体群、バジュラと「歌」でコンタクトした《銀河の妖精》シェリル・ノーム、《超時空シンデレラ》ランカ・リー。そして、ヴァールを「歌」で鎮圧する戦術音楽ユニット、超時空ヴィーナス《ワルキューレ》・・・・・・』

 

懐かしむような声で紡ぐ。それは、ずっとここで生きてきたような口ぶりだった。

 

『そして歴代のエースパイロット達・・・・第一次星間大戦を終結に導いた一条輝。防衛装備しか持たない可変戦闘機(バルキリー)に乗り、自分の歌を響き渡らせた熱気バサラ。歴代のエースパイロットの中でもマクシミリアン・ジーナスに匹敵、もしくはそれに次ぐ程の操縦技量を持ち、「マクロス単機タッチダウン」をしたスーパーエースパイロット、イサム・アルヴァ・ダイソン。八年前の大戦、バジュラ戦役の英雄、早乙女アルト。そして、銀河を導く絶対的な力を持つ〈星の導き手〉、エノモト・カレン・・・・・・あなたもこの物語の英雄になるのよ・・・・・』

 

その声は虚空に消えていった。

 

ーーーーーーーー

 

「艦長!前方に巨大な質量を観測!」

「なんだと!?」

 

エリシオンがデフォールドすると目の前には巨大なウィンダミアの旗艦、シグル=バレンスがいた。エリシオンの横をシグル=バレンスが通り過ぎていく。

 

「グラミアめ!」

「フッ・・・・・」

 

アーネストはシグル=バレンスを見ながらギラつく歯を見せながらニッと笑う。それとは対称的にグラミアは静かに笑った。

 

「敵艦フォールドします!」

「ただでは行かせん!手土産だ、受け取れ!艦全主砲展開、目標、敵艦!」

 

エリシオンの全艦砲がフォールドゲートを潜ったシグル=バレンスに向けられる。

 

「撃てぇ!!」

 

無数の光芒がフォールドゲートの中へと行き、フォールド航行中のシグル=バレンスに命中する。

 

「裏を突かれたな・・・・!」

「このままじゃラグナは!」

 

するとΔ小隊各機にアーネストから着信が入る。

 

『エリシオンが再フォールドするには最低でも45分かかる!その間に先行してメッサー、カレン、ハヤテの三人をラグナに向かわせろ!残りの部隊はアイテールにいる《ワルキューレ》と共にラグナへ!』

「「「了解!」」」

 

花蓮、メッサー、ハヤテの機体がアイテールの甲板へと向かう。背部にはフォールドブースターを積み、行き先をラグナに指定する。三機のバルキリーが発進し、フォールドゲートを潜っていった。

 

「しっかし、なんで俺たちが先なんだ?」

 

ハヤテの疑問にメッサーが答える。

 

『俺たちの体内にはフォールドレセプター因子が宿っている。いくらΔ小隊でもあれほどまでに強力になった風の歌には免疫力もついていけないはずだ』

 

更に花蓮が付け足す。

 

『そこで、Δ小隊の中でフォールドレセプターである僕たちが先行して敵の相手をする。その間にアイテールと他の皆さんもラグナへと突入。絶対制風圏の確立を《ワルキューレ》の歌で阻止するのが今回の作戦です』

「なるほどな」

 

そろそろデフォールドする時間が迫っていた時に通信が入る。

 

『アイテール、離艦しました。現在フォールドスタンバイ中』

「絶対ラグナを守ろうぜ!カレン、メッサー!」

『もといそのつもりだ』

『もちろんです!』

 

三機はラグナの大気圏内にデフォールドする。フォールドブースターをパージし、エンゲージする。

 

「後ろ上方に三つの熱源反応を確認!これは・・・・Δ小隊です!」

「たった三機で乗り込んで来ただと!?」

 

ロイドは酷く狼狽する。

 

「アーネストめ・・・・!」

 

グラミアはニッと笑う。

 

「散開しつつ迎撃を開始!全兵装使用自由(オールウェポンズフリー)、奴らを蹴散らすぞ!」

「「了解!」」

 

メッサーの指示で三機は散開。シグル=バレンスから出撃する数多の〈ドラケンⅢ〉の大軍へとそれぞれ突っ込んでいった。

 

ーーーーーーーー

 

「《ワルキューレ》、準備はいいか?」

「ええ、いつでも行けるわ」

 

アラドの確認に美雲が答え他のメンバーも頷く。

 

『アイテール、フォールドスタンバイ完了。いつでも行けます!』

「よし、俺たちが先に行き、後から〈アイテール〉もラグナへ向けフォールドをする。俺たちは先行している三人に合流

、様々な不安要素や悪条件があるが、ラグナに到着次第《ワルキューレ》の鎮圧ライブを敢行。何としてでもラグナを落とさせるな!」

 

アイテールの目の前にフォールドゲートが出現する。

 

「全速前進!アイテール、発進!」

 

Δ小隊の母艦はフォールドゲートにその巨躯を収めて消えた。

 

「頼んだぞ、Δ小隊、《ワルキューレ》。こちらもフォールドスタンバイを急げ!」

 

アーネストの一声に裏を突かれあたふたしていたクルー全員が改めて気合いを入れ直した。

 

ーーーーーーーー

 

ラグナの上空では激しい混戦状態となっていた。メッサーとハヤテの機体から無数のマイクロミサイルが発射され、〈ドラケンⅢ〉の翼に被弾し、無力化していく。

 

「な、何なんだよ・・・・あの三機は!」

「その内の一機なんて旧型のアップデート版なのに、全然落とせない・・・・・!」

「カレン少尉!」

 

メッサーが目の前の敵をビームガンポッドで牽制し、敵がガウォークに変形したその一瞬の隙を花蓮は逃さない。すかさずバトロイドに変形し、両翼のうち左翼に装着されているMVSを抜き取り投げつける。見事コックピットと機体の間に突き刺さり、それを掴み横に薙ぎ払う。コックピットと機体が切断され、パイロットが脱出する。

 

『ナイスだ、カレン少尉』

『間髪入れずにまだまだ行くぜ!』

『待たせたな!』

 

大気圏外からα、β、γ、Δ小隊が摩擦熱の尾を引いて突入してくる。

 

「アラド隊長!」

 

アラドの期待に例の奴から通信が入る。

 

「敵巨大戦艦、海底遺跡に接近。このまま直上に到達すると予測されます」

「やはり、敵の狙いはプロトカルチャーの遺産ということか・・・・十分に引きつけろ」

 

マランは口元を怪しく歪ませた。

ラグナの衛星軌道上に《ワルキューレ》を乗せた〈アイテール〉がデフォールドする。

 

「衛星軌道上にデフォールド反応確認!サウンドウェーブ探知、《ワルキューレ》です!」

「穢れた風か・・・・」

 

グラミアの顔が僅かに曇る。

 

「みなさん!」

『よっしゃ!これで役者は揃ったぜ!』

『一気にかたをつけます!』

『デルタ0!八時上方!』

「っ!? 白騎士!」

 

VF-1EXを加速させ、白騎士との一騎打ちになる。

 

「ここで、決着をつける!」

「フッ・・・臨むところ!」

 

そしてシグル=バレンスが海底にある遺跡の上に移動し、

 

「今だ」

「ッ! 全バリアを艦底に集中!総員衝撃に備えよ!」

「こ、これは・・・・!」

 

グラミアとロイドのルンが輝き出す。

 

遺跡に設置された指向性戦術反応弾が輝き出す。

 

「ッ!?」

 

キースも感じとり、すぐに方向転換する。

 

「まさか!!」

 

花蓮もすぐさま方向を転換し、脚部のメインエンジンを全速で吹かせる。シグル=バレンスの下の海が次第に輝き出し、その強さを増していく。そして、一気に解放された。赤い丸い球体が上空にいるシグル=バレンスごと包み込む。

 

「ぐぅ・・・・!」

 

艦内に衝撃が襲い来る。

 

「まさか!」

『反応弾!?』

「陛下!」

「ハインツ!!」

 

自軍のVF-171とSv-262が爆発に巻き込まれ、蒸発していく。

 

「総員退避ぃぃぃぃ!!」

「ちくしょーーーー!!」

 

Δ小隊の機体も全速力で爆発から逃げる。もの凄い早さで球体は大きさを増していく。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

ハヤテの機体が爆発の熱で徐々に壊れていく。

 

「デルタ5逃げて!」

「ぐぁぁぁ!!」

 

赤い球体はギリギリで消えたがVF-31J

は爆発し、EX-ギアが作動。ハヤテは上空に生身を投げ出す。

 

「ハヤテ!」

 

ミラージュがガウォークに変形し、ハヤテを救出する。そのまま〈アイテール〉へと着艦する。キャノピーを開け、左手の手のひらに寝そべるハヤテに駆けつける。

 

「ハヤテ!しっかりして!」

「う・・・・」

「ハヤテ!」

「バッカヤロー・・・・無茶しやがって・・・・お前まで死ぬ気かよ・・・・」

「・・・・私はあなたの教官ですから。教え子を見捨てることは出来ません」

「ヘヘッ・・・・サンキューな・・・・」

「医療班、ストレッチャーを!」

 

フレイアは特設ステージからストレッチャーで運ばれて行くハヤテを心配そうな顔で見ていた。そしてミラージュは自分の機体に乗り込み、ファイターに変形して大空へと戻っていく。

 

「反応弾、間に合わなかった・・・・・」

「でも、ウィンダミアの戦艦も・・・・」

 

《ワルキューレ》は上空に目を向ける。

海にはぽっかり穴が空き、その上空ではシグル=バレンスが無傷でいた。

 

「艦は無事か!」

「遺跡が反応弾のエネルギーを吸収し、消滅した・・・・?」

『そのようです』

「母なる大地を穢す不浄の火を躊躇いもなく使う・・・・やはり地球人に銀河の覇者を名乗る資格はない」

 

グラミアが後ろで組んでいた手を強く握る。体を侵食している白い斑紋がパラパラと落ちた。

 

「本艦直下にフォールド反応増大!」

「なに!?」

 

ハインツのルンが輝き出した。

 

「ーーー!」

 

 

爆発の影響で海にぽっかり空いた穴に謎の装置がデフォールドする。

 

「この波形・・・・亜空間から転移してきた!?」

 

カナメは爪型マイクロプロジェクターでフォールド波を検知する。

 

「学者共が言っていたのはこれのことか・・・・・データは取れた。直ちに撤収する!」

「了解!」

 

マランが指示を出し、新統合軍は撤収を始めた。

 

「本艦と地上に出現した未知の巨大システムがリンクして、情報交換を始めています!」

「やはりこの艦が制風圏確立の鍵だったようです」

「うむ」

『陛下、風の歌を歌います。あのシステムから巨大な力を感じました』

「これぞプロトカルチャーの意思、歌うのだ、ハインツ。真の王の名の元に、『ルダンジャール・ロム・マヤン』!」

『『ルダンジャール・ロム・マヤン』!』

 

風の歌が響き渡るのと同時に、シグル=バレンスの形状が変化していく。

 

「変形した・・・・?」

「う、風の歌が・・・・」

「いつもより強い!」

 

風の歌がラグナに響き渡る。

 

「ぐぅ・・・・!」

『アラド少佐、アイランド船から緊急連絡です!』

『デルタ1より全軍に告げる!緊急事態発生!これより、ラグナを放棄する!』

「そんな!?」

「逃げるのかよ!」

「くっ・・・・!」

 

花蓮、チャック、メッサーはアラドに講義しようとしたが、

 

『市民にヴァール化の兆候が表れた!暴動が起れば被害は甚大なものとなるだろう!』

「くっ!」

『《ワルキューレ》の歌で沈静化させつつ収容が完了した市民だけでもラグナから避難させる!避難完了まで一本も退くな、以上!』

 

花蓮はその言葉を聞き苦虫を噛んだように悔しい顔をする。

 

「推進剤も、もう少なくなってきている・・・・どこまでやれるか・・・・!」

 

ペダルを踏み込み、加速しようとした瞬間、通信が入る。

 

「ガイさん?」

『待たせたな!ランスロット完成したぜ!』

「本当ですか!?」

『ああ!急ピッチで造ったからよ、武器は一個しかねぇが今のお前さんなら使いこなせるはずだ!ラグナは放棄しなきゃならねぇが、皆のこと頼んだぜ!』

「はい!!」

 

アイテールの甲板にランスロットの四肢を掴んでいる運搬用シャトルが現れる。

 

「カレンのとこまで行ってこい!!」

 

ブースターを吹かせ、勢いよく射出する。

 

ーーーーーーーー

 

「落ちろぉ!!」

「くっ!」

 

後ろからの追撃を躱しながらなんとかランスロットとの合流ポイントへと向かうが、推進剤が尽きようとしているためスピードを出せない。

 

「これでっ!」

 

二本のMVSを投げつける。上手く両翼に突き刺さり、敵はよろめきながら高度を下げていった。すると、コックピット内に接近するシャトルが近づいてくるアラートがなる。

 

「来た!」

(最後だけ、持ってくれ!)

 

ペダルを踏み込み、残りの推進剤が許す限りの距離を加速しながら飛んでいく。残り100mという所で機体を『自動帰還モード』に変更し、キャノピーを開ける。身を投げ出し、機体から飛び降りる。VF-1EXは〈アイテール〉へと戻っていく。そして、向こうからやってくるシャトルに上手く着地し、コックピットのハッチを開けるためパネルを打ち、ハッチを開ける。その中に入り、首にかけていた起動キーを差し込む。コックピット内が明るくなり、前後、左右、そして天井のスクリーンが外の景色を映し出す。

 

「基本操作は同じか」

 

目の前のスクリーンに文字が浮かび上がる。

 

『Δ00 LANCELOT ALBION from ATION』

「ランスロット・アルビオン・・・・・」

 

するとセンサーが両目を通り過ぎていく。

 

『網膜スキャンによる個体識別情報の登録を完了しました。デヴァイサー、エノモト・カレン少尉。使用許諾確認しました。ランスロット起動』

 

ランスロットの双眸が翠色に発光する。

 

「ランスロット、リフトオフ!」

 

拘束を解除し、運搬用シャトルから切り離された。

 

『皆のこと頼んだぜ!』

『絶対制風圏の確立を阻止せよ!』

『絶対生きて帰りましょう!』

(僕にはまだ、やらなきゃならないことがある・・・・・だから、また力を貸してくれ、ランスロット)

 

『さぁ、行こうか。花蓮』

 

黒花蓮が手を差し出す。

 

(なんで君が・・・・)

『別に君の体をすぐに奪おうってわけじゃない。力、貸してあげるよ』

(・・・・・)

『確かに僕という存在は君の体をいつか奪う。でも君は抗うつもりなんだろう?』

(もちろんです)

『なら僕に人間の可能性ってやつを見せてほしい。僕も、君の可能性にかけてみたくなった。本当に〈星の導き手〉の力に飲み込まれないかどうか』

(僕は君を信用しきったわけじゃない。でも君の力で誰かを護れるなら、喜んで使わせてもらうよ)

 

差し出された手を握る。

 

『僕という〈星の導き手〉の力を君が暴走しない程度まで分け与える。その内にケリをつけるんだ』

(わかった)

 

ーーーーーーーー

 

「ーーーーー」

 

前髪だけが黒くなり、真紅の瞳は発光していた。

 

「行こう、ランスロット!」

 

コックピットの横に折りたたまれているユニットを展開し、左右三枚ずつ計六枚の翠色のエネルギーの翼を発生させると同時に背後に光輪のように翠色の輪が現れた。

 

「海上に謎の熱源反応を確認!」

「主モニターに回せ」

 

シグル=バレンスの司令室のメインモニターには白騎士がいた。

 

「以前と形状が異なる白騎士だと!?」

 

キースも驚きを隠せない。

 

「白騎士・・・・!」

 

しかし、ボーグはテオとザオと共にランスロットめがけ無数のマイクロミサイルを発射する。

 

「くたばれぇ!!」

 

目の前に無数のマイクロミサイルが迫る。それを視線誘導でロックし、右手に持っている銃は、V.A.R.I.Sを踏襲しつつ更なる強化をなされたスーパーV.A.R.I.Sを構える。

 

「これが本物のヤック・デカルチャーだぁぁ!!」

 

左右のエナジーウィングが肥大化し、エネルギーを無数の刃状にし、二連装となったスーパーV.A.R.I.Sと一緒に放つ。眼前に迫っていたマイクロミサイルが一つ残らず爆散した。

 

「な、なんだと・・・・・」

「そんな・・・・」

「デルタ0、エンゲージ・・・・行きます!」

 

市民と《ワルキューレ》を護るためランスロットを飛翔させた。




皆さんはマクロスの中でどんな歌が好きですか?

僕はサヨナラノツバサ〜the end of triangle〜です!


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Mission24 忍び寄る手

最近忙しいのでかなり短いかもしれません!

そして二部完結!次回から最終部です!


浮上し避難を開始したアイランド船に《ワルキューレ》の歌が響く。

 

「この歌・・・・・・」

「《ワルキューレ》・・・・・」

『皆、よく聞け!銀河の女神《ワルキューレ》の歌が響く限り、我々は決して屈したりしない!』

「おお!《ワルキューレ》!」

「もう逢えないなんて 言わないで Shooting Love」

 

美雲とフレイアが先頭に立ち、手を握り合う。

 

「ラグナ・アイランド船浮上!」

「敵は既に逃亡を始めた。勝利の風は我が内にあり。だが、後顧の憂いは絶たねばならない」

「《ワルキューレ》を殲滅する」

 

空中騎士団が前線へと踊り出たのを見て、花蓮はランスロットを向かわせる。

 

「邪魔は、させない!」

 

『α、β、γ並びに各小隊は、アイランド船並びに〈アイテール〉を死守!Δ小隊は白騎士共に攻撃を集中させる!避難が完了するまで市民と《ワルキューレ》を守り抜け!』

「この、ランスロット・アルビオンなら!」

 

両手を広げた瞬間、その姿がブレる。ウィンダミア軍の一般軍人がコックピット内で驚きの声をあげる。

 

「な、なんだこの速さは・・・・・・!追いかけきれない・・・・・!」

 

上空で縦横無尽に影すらも残さない程の高速移動をしているランスロットをロックオンしようとするが全く照準を合わせることが出来なかった。そして、目の前の空が煌めいた瞬間、

 

「ぐぁ・・・・!まさか、やられた!?」

 

自身が乗るSv-262の脚部エンジンに穴が空いていた。すぐさま脱出レバーを引き、その身を空へと投げ出す。そして、数秒の間を置いて、機体が爆散した。それを見ていたキースは上空で滞空するランスロットを睨む。

 

「白騎士・・・・!」

 

ランスロットは更に高度を上げる。そして、左右のエナジーウイングを肥大化させ、無数の刃を射出する。キースはすぐに機体を反転させ躱すが、後ろから付いてきていた一般軍人達の機体に、コックピットだけを残して無数のエネルギーの刃が刺さっていた。パイロット達は一斉に脱出する。

 

「ーーーー」

「おもしろい・・・・!」

 

キースと花蓮の一騎打ちが始まった。そして、ハインツの風の歌がより強力なものとなりケイオスを襲う。

 

「くっ・・・・!」

 

吹き飛ばされたレイナをマキナが後ろから支える。

 

「レイレイ、頑張ろう・・・・!」

「うん・・・・!」

「この風・・・・命を懸けて!」

「これじゃ歌が・・・・!」

「歌が届けられん・・・・!」

 

雲海の上ではハイスピードな空戦が繰り広げられていた。

 

「白騎士、手を抜いているのか・・・・!」

「今のあなたでは、このランスロットには勝てません」

 

スーパーV.A.R.I.Sをハドロンモードの変形させ、左翼の〈リル・ドラケン〉に狙いを定め撃つ。赤い光芒が見事撃ち抜いた。

 

「っーーー!!」

 

左翼の〈リル・ドラケン〉をパージし、右翼の〈リル・ドラケン〉を自律飛行にさせパージする。

 

「無駄です!」

 

こちらに向かってくる〈リル・ドラケン〉を右手のスラッシュハーケンでぶち抜く。乱気流を乗りこなし、前を飛ぶキースに一瞬で追いつく。

 

「なっーーー」

「言ったはずです、ここで決着をつけると!」

 

右脚にブレイズ・ルミナスを展開し、上から蹴り落とす。機体のど真ん中に蹴りが入り、凹む。そこから煙を出しながらキースの機体は落下していった。

 

「白騎士様!おのれぇ、腐った林檎の様な者共よ!今日こそ葬り去ってやる!」

 

ボーグは両翼の〈リル・ドラケン〉を射出させ、〈アイテール〉へと向かう。

 

「しまった!」

 

エナジーウィングをはためかせ、〈アイテール〉へと向かう。接近するSv-262からマイクロミサイルが発射されるが、それを〈アイテール〉の艦砲が迎撃する。爆煙が視界を隠している隙に、

 

「くらえぇ!!」

 

ビームガンポッドから高出力のビームか放たれた。それは〈アイテール〉の《ワルキューレ》の特設ステージに当たる。ピンポイントバリアを張るが、突破されダイレクトに直撃した。

 

「フレイア!」

 

美雲がとっさにフレイアを庇う。そして、特設ステージのガラスが砕け散った。

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

「フレイア!」

 

ミラージュが向かおうとするが後ろに張り付いているSv-262から邪魔される。

 

「くっ!」

「敵空母、サウンドフォールド波沈黙!本艦と出現したプロトカルチャーシステムとの同調安定!」

「作戦は順調です。本艦の攻撃システムを起動、プロトカルチャーの大いなる力が甦りつつあります」

「よろしい。全艦砲撃準備!目標、敵空母!」

 

シグル=バレンスの四門の砲口にエネルギーが充填していく。

 

「みんな無事!?」

「なんとかね・・・・」

「美雲さん!?」

 

美雲はフレイアを庇ったため、右腕を負傷。更には意識を失っていた。

 

「美雲!しっかりして、美雲!」

「クモクモ!」

「美雲さん!ーーーっ!?」

 

見上げると、四つの砲門がこちらに向けられ、そして大出力のビームが放たれた。

 

「逃げてーー!!」

「ああ・・・・・!」

「くっーーー!」

 

四つの光芒は〈アイテール〉へと向かっていった。

 

ーーーーーーーー

 

「間に合え・・・・!」

 

花蓮が〈アイテール〉に着く前にビームが特設ステージに直撃。

 

「みんなっ!!」

 

爆煙が晴れるとそこには、怪我をし、更には倒れている美雲。涙を浮かべ美雲に呼びかけるカナメ。フレイア、レイナ、マキナの悲痛な叫びが花蓮をつんざく。

 

「ーーーー・・・・・・」

 

更には〈アイテール〉に向け発射されたビームが尚も近づいていく。

 

(美雲さん・・・・・)

 

ドクンーーーーー

 

(カナメさん・・・・)

 

ドクンーーーーー

 

(フレイアさん、レイナさん、マキナさん・・・・・・)

 

ドクンーーーーー

 

『絶望と怒りが花蓮を支配していくーーーー』

 

ーーーーーーーー

 

〈アイテール〉に当たる直前に、何かによってビームが防がれる。

 

「なんだとっ!?」

 

ビームを防いでいたのはブレイズ・ルミナスを片手だけ(・・・・)展開したランスロットだった。

 

「カレンくん・・・・・・?」

 

右腕を薙ぎ払うと同時に大出力のビームがあらぬ方向へと飛んでいく。

 

ーーーーーーーー

 

『花蓮、今の力じゃ全滅させることは出来ない。さぁ、怒りに身を任せるんだ、僕を受け入れるんだ』

(そうだ・・・・アイツらが美雲さんを・・・・)

『そう、君が倒すべき相手達だ』

(殲滅してやる・・・・・・・みんなを傷つける奴らは・・・・・・僕が殲滅してやる!)

『そうだ』

(花蓮、君を騙していたことは謝るよ。僕の力を分け与えたのは君の意識を乗っ取りやすくするためなんだ)

 

黒花蓮の口が歪む。

 

『邪魔者は』

 

センメツダーーーーー

 

ーーーーーーーー

 

花蓮の髪が完全に黒色になり、その双眸は闇を携えた黒になっていた。身体には紋様が浮かび上がり、花蓮は完全に〈星の導き手〉の力に飲み込まれていた。

 

「ーーーー・・・・・さぁてと、殲滅の時間です、下等生物共。骨片すら残しやしない」

 

ニヤッと口を弧にする。

 

「まずは・・・・」

 

黒花蓮はまず、ウィンダミア軍に狙いを定める。

 

「っとその前に」

 

目の前のパネルを操作し、フォールドウェーブシステムを起動させる。

 

「『コアルミナス』のフォールドクォーツからのエネルギーを機体全体に循環。機体性能を限界まで引き上げる」

 

ランスロットの装甲が淡く輝き出す。

 

『カレン!あんがと!』

「コイツは確か・・・・」

 

モニターをズームにし、フレイアの顔を見る。

 

「ふん、ウィンダミア人か。まあいい、まずはあのハエ共を黙らせてからです」

 

スーパーV.A.R.I.Sをフルバーストモードに変形させる。

 

「塵と化せ」

 

蒼い極太の光芒がウィンダミアの残存兵力を根こそぎ狩りとる。機体は蒸発し、パイロットは骨片すらも残らない。

 

『デルタ0!何をしている!』

『おいおいおい・・・・・』

『嘘だろ・・・・・』

「こんなものか。下等生物がいきがって。殺すことになんの躊躇いも感じません。そこら辺にいる虫を踏み潰すのと何ら変わらない」

 

ランスロットは一瞬にして敵陣に切り込み、残りの機体を木っ端微塵にしていく。

 

『カレン!何をしている!』

『早くラグナから撤退だ!戻ってこい!』

「カレカレ、なんか様子おかしくない・・・・?」

「いつもと違う・・・・冷たくて、痛い・・・」

「何このフォールド波・・・・」

 

カナメは驚愕する。花蓮から発せられているフォールド波の色が真っ黒だったのだ。

 

「カレ・・・・」

 

美雲がうっすらと目を開ける。

 

「花蓮の体はよく馴染む・・・・もっと楽しませてくださいね」

 

遂に〈星の導き手〉に体を乗っ取られた花蓮。敵味方関係なく攻撃を開始する〈星の導き手〉の前に、あの彼が立ち塞がる。そして、暗闇の中で縛られている花蓮は元に戻れるのかーーーー

 

次回 Mission25 君想フ声

 



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Mission25 君想フ声 前編

すみません、分割させて頂きますので短いです!

メッサーキャラ崩壊してるかもしれません…


「や、やめーーー」

 

喋りかけた瞬間、パイロットごとコックピットがぶち抜かれる。

 

「脆いですね。プロトカルチャーが最後に創造した人類種と聞いたので少々期待していましたが、ハズレでしたか」

 

ウィンダミアの残存兵力を削り取り、残っているのは空中騎士団とシグル=バレンスに残っている兵だけ。そして、

 

「次は、君たちだ」

 

ランスロットが振り向いた先には《ワルキューレ》がいた。

 

(君たちの歌は危険だ。花蓮が二度と戻ってこれない様にするためにも、不確定要素はここで取り除く)

 

スーパーV.A.R.I.Sをハドロンモードにし、〈アイテール〉の特設ステージにいる《ワルキューレ》に照準を定める。

 

「カ、カレン・・・・!?」

「そんな・・・・なんで・・・・」

 

コックピット内のモニターには絶望が張り付いている《ワルキューレ》の面々の顔が映る。

 

「さよなら」

 

操縦桿のボタンをクリックする。砲身が展開されたV.A.R.I.Sの砲口から赤い光芒が放たれた。

 

ーーーーーーーー

 

「僕は・・・・・」

 

花蓮は意識の奥深く底、真っ暗な空間に縛り付けられていた。

 

「みんなが傷ついていくのを見て、それで・・・・・」

 

虚無の空間にこだましては消えていく。

 

「それで・・・・どうしたんだっけ?」

 

わからない。

 

「ドウシタンダッケーーーー」

 

ーーーーーーーー

 

赤い光芒が《ワルキューレ》に迫る。

 

「フレイアーーーー!!」

 

ミラージュが颯爽と飛ぶが間に合わない。

 

(だめ・・・・間に合わない・・・・)

 

諦めかけた瞬間、ミラージュの横を死神のパーソナルマークを携えた機体が猛スピードで飛んでいく。

 

「中尉・・・・」

 

間近まで迫った所をバトロイドに変形。ピンポイントバリアで防ぐ。

 

「メッサー中尉!」

「メッサーくん!」

 

全て防ぎきり、ランスロットと相対する。

 

「へぇ・・・・」

 

黒花蓮の口が歪む。そしてオープン回線を開き、全員に聞こえるようにした。

 

『お見事です。メッサー・イーレフェルト中尉』

「貴様、カレン少尉ではないな。何者だ、本物のカレン少尉はどこにいる」

 

ここにいる全員がメッサーの言葉に驚愕する。

 

「本物じゃ・・・・ない?」

「てめぇ!カレンをどこにやった!」

 

チャックは怒りを顕にし、怒鳴り散らす。

 

『花蓮なら、もういません』

「なに・・・・・?」

『いえ、強いて言うなら僕こそ(・・・)がエノモト・カレンです』

「嘘つかんで!カレンを返すんね!!」

『安心してください、フレイア・ヴィオン。あなたの言っている偽物(カレン)なら眠ってもらっています』

「なら、お前は何者なんだ」

 

アラドが静かな声で問いかける。

 

『絶対的な存在であり銀河を導く者。称して僕、〈星の導き手〉エノモト・カレン』

「〈星の導き手〉だと・・・・・」

 

アラドは目を見開いた。

 

「隊長、なんか知ってんのか!?」

「あ、ああ・・・・〈風の歌い手〉に並ぶウィンダミアに伝わる伝説の一つだ」

「『人と人とが争う時、銀河の覇者が現れ、それを鎮める。そして人々の意識を一つにし、新たな時代を築くため銀河を導く。其の名は〈星の導き手〉』・・・・・」

 

フレイアがポツリポツリと言葉を紡ぐ。

 

『そう、その伝説の通り。地球人とウィンダミア人との戦争を止めるために僕は覚醒しました』

「違うわ!銀河を導くというのは言葉だけ・・・・真実はこの球状星団中の人類種、生物種を全滅させ、一度球状星団をリセットする(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)こと。あなたはそれをしようとしているのね!」

 

カナメがランスロットを睨む。

 

「流石ですね、カナメ・バッカニア。そこまで知っていたとは、教える手間が省けました」

「そんな、どうすれば・・・・・」

『まだ手はあります』

「メッサー?」

 

メッサーは確信の篭った声で言い切る。

 

「カレン少尉の意識を目覚めさせればいい、お前はまだ完全に覚醒しきったわけではないはずだ」

「なぜ、そう思うんです?」

「言ったはずだ、まだ眠ってもらっている(・・・・・・・・・)と。完全に覚醒したのなら、カレン少尉の人格ごと飲み込めるはずだが?」

「・・・・・・」

「そうか・・・・!」

 

まだ希望はある。

 

「そこが活路だ」

「くっーーー」

 

明らかに黒花蓮は焦った。自分が犯した失態に。

 

「俺はカレン少尉に教えられた、『生きる方が戦い』だと。本当は飛ぶことが好きだということも」

「メッサーくん・・・・・」

「そして俺は決めたんだ、『護るべきものを護るために戦う』と。そのために戦い続けると」

「教えてあげます。あなたを救ったのはこの僕の力があったからですよ」

「違う。確かに俺は感じた、あの時救ってくれたのは確かにカレン少尉だったことを!断じてお前なんかではない!」

「黙って言わせておけば・・・・!」

 

黒花蓮は怒りを顕にする。

 

「いいでしょう・・・・・そこまで言うなら花蓮を目覚めさせてみるといい。下等生物であるあなたに出来るのなら!!」

「もといそのつもりだ。『護るべきものを護るために戦う』、それが俺の生きる(戦う)理由だ!!」

 

両者が一斉に撃ち合う。それをブレイズ・ルミナスで防ぎ、片方はピンポイントバリアで防いだ。

 

「下等生物如きが一人で一体何ができる!!」

「一人ではない!俺には仲間がいる!」

「仲間を作るのは弱者のすることだ!弱いから群れを成しているんだろう!!」

「弱いからこそ助け合い、一人だからこそ誰かを愛せる!!」

 

メッサーは機体をファイターに変形させ、一気に加速する。その後を追うようにエナジーウィングをはためかせる。

 

「花蓮は弱くありません!一人でも強くいられる!むしろあなた方といる限り、花蓮は強くなれない!」

「それはカレン少尉が本当に望んだ事なのか!!何も知らないお前が、カレン少尉のことを語るな!!」

 

反転し、再度バトロイドに変形。ランスロットの腹に蹴りを入れ弾き飛ばす。

 

「くっ・・・・!」

「カナメさん!歌ってくれ!」

「メッサーくん・・・・」

「今度は俺と二人で、カレン少尉を!」

「・・・ええ!」

「私達も、協力する!」

「レイナ、マキナ、フレイア!」

「カレカレを取り戻すためにも・・・・!」

「負けてられん!」

「みんな・・・・!」

「私も・・・・歌うわ・・・・」

 

美雲がよろめきながら立ち上がる。

 

「美雲!」

「助けましょう・・・・みんなで!」

『《ワルキューレ》は俺たちが守る!だからお前は、感じたままに飛べ!』

「隊長・・・・」

『カレンを頼む!』

「・・・・了解!」

 

メッサーは機体をカナメの前でガウォークに変形させ、キャノピーを開ける。

 

「乗ってください!」

 

カナメは後部座席に乗り、キャノピーが閉じる。ファイターに変形し、ランスロットへ向かう。

 

「伸ばした指を掠めるほどに 熱く鳴らすよ 涙目爆発音」

 

カナメがメインを歌い、間奏の部分などを他のメンバーが歌う。

 

「集まったところで所詮は烏合の衆・・・・雑兵と変わりません!」

 

ペダルを踏み込もうとした瞬間、一瞬だが反応が少し遅れる。

 

(な、なんだ・・・・一瞬反応が遅れた気が・・・・まさか、花蓮の意識が覚醒しつつあるのか・・・・!?)

 

VF-31Fが金色の帯を引きながら空を舞う。

 

「光の舞・・・・」

「なんてキレイな・・・・・」

「小賢しい・・・・!」

 

ランスロットも同様に金色の帯を引く。二機の後ろにはソニックブームが発生し、上空の雲海を切り裂いていく。

 

「明るい日を目指して 歯ぎしりの輪廻 何も変わっちゃいない 迷宮入りだよ」

(お願い・・・・カレンくんに届いて!)

 

ーーーーーーーー

 

「この声・・・・・カナメさん・・・・?」

 

真っ暗な空間に歌声が響く。

 

(カレンくん・・・・戻ってきて・・・・)

(戻ってこい!カレン少尉!)

 

「中尉・・・・・・」

 

花蓮の意識が徐々に覚醒していく。

 

「僕を・・・・こんなものでぇ・・・・・!」

 

拘束を解くため、蹲るように両腕両脚を前に持っていく。

 

「う・・・ぁぁぁぁ・・・・・!」

 

君は負けないって信じてるよーーーー

 

だって、いつだって君は皆を助けてくれるヒーローだからーーー

 

皆、本当の君を待ってるよーーーー

 

ーーーーーーーー

 

次回 Mission26 君想フ声 後編

 




やっとマクロスΔスクランブルの制限を全部解除しました(遅い)。

現在メッサーの機体で大気圏内をスーパーパックで暴れております!


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Mission26 君想フ声 後編

前言撤回です!

今回の話をもって第二部終了とします!

次回から最終部とさせていただきます!


「落ちろッ!メッサぁぁぁ!!」

 

エナジーウィングを肥大化させ、無数の刃を飛ばす。それをマイクロミサイルで相殺、ハイマニューバミサイルで間髪入れず攻撃していく。

 

「カナメさんの歌が効いていない・・・・!?」

「伸ばした指を かすめるほどに つかみたい宇宙の果てまでも」

 

ランスロットのスラッシュハーケンの刃だけを展開した状態「メッサーモード」にし、それを腕部に格納されてあるアサルトナイフで防ぐ。

 

「くっ!」

 

飛び散る火花が次第に激しくなり、メッサーの顔には焦りが滲む。しかし、それは黒花蓮も同様だった。

 

(何故だ・・・何故たかが下等生物如きが絶対的存在である僕と対等に戦える・・・・!?大気圏内でのほんの少しの加速Gにすら苦痛をおぼえるか弱い雑種が・・・・!)

 

メッサーのアサルトナイフがスラッシュハーケンの刃を砕く。

 

(下等生物がこの僕と対等だと・・・・・?そんなこと喩え天地が翻ったとしても赦させれない!この僕の目の前に立つ存在がいることこそがーーー)

 

一旦距離を取り、ランスロットの右手を握り拳にしメッサーの元へと加速した。

 

「有り得ないッッッ!!!」

 

それに答えるようにメッサーも右手を握り拳にする。さらにその上からピンポイントバリア、さらに金色のオーラがそれを纏う。

 

「カナメさん、しっかり掴まっててください!」

「はい!」

「〈星の導き手〉、お前に引導を渡してやる!」

 

二機が金色の尾を引きながら近づく。そして二つの拳がぶつかった瞬間、激しい衝撃波が辺りを襲った。

 

「なんだ!?この風は!?」

 

ロイドが自身のルンで感じ取る。

 

「二機の衝突により小規模の次元断層が形成、増大していきます!!」

「メッサーー!!」

「メサメサ・・・・!」

 

メッサーの機体内に美雲から通信が入る。

 

「美雲・ギンヌメール!?」

『踏ん張りなさい、あなたが倒れればカレンは戻ってこれないわ』

「わかっている・・・・!」

『私の歌で〈星の導き手〉に干渉しみる。もしかしたらカレンの意識を見つけることが出来るかもしれない』

 

遂に拮抗が崩れ、ランスロットの右手が破壊される。

 

「バ、バカな・・・・」

「ーーーー♪」

 

戦場に美雲の歌声が響く。それは巨大システムと黒花蓮に影響を及ぼし始めた。

 

「ぐぁ・・・・!ダイレクトに干渉してきただと・・・・!?僕に干渉できるのは〈星の歌い手〉だけのはずだ・・・・!」

 

するとそこである疑問が浮かび上がる。

 

「なるほど・・・・美雲・ギンヌメール、あなたが華凛のクローンだったんですね・・・・・ぐっ!」

(カレン、どこーーー!)

 

ーーーーーーーー

 

「う・・・・おおおお・・・・!!」

 

メキメキと音をたてながら、拘束がひしゃげていく。

 

「こん、のぉ・・・・!!」

 

そして遂に、拘束が音をたてながら破壊された。地面に着地し、辺りを見渡す。

 

「出口は・・・!」

(カレン!)

 

聞き慣れた声が花蓮の耳に届く。

 

「美雲さん!」

(今のあなたの体は〈星の導き手〉に乗っ取られてるわ!なんとかあいつから主導権を取り返さないと!)

「アイツ・・・・!」

 

すると直感的に前を見る。

 

「すぐに取り返します!」

(待ってるわ!)

(なんでだろう、よく分からないけどこの先にアイツがいるのが分かる。〈星の導き手〉でもないのに・・・・)

 

気配を感じる方へと花蓮は走った。

 

ーーーーーーーー

 

カナメと美雲の歌声が響く戦場を二つの機体が飛び交う。

 

「はああああ!!」

「うおおおお!!」

 

スーパーV.A.R.I.Sをハドロンモードに、メッサーはガンポッドを手に持ち、同時に撃つ。高出力の光芒がぶつかり海面が激しく揺れる。

 

「はぁ!はぁ!」

 

黒花蓮は体で息をするように激しく息切れをする。

おかしい。体が全くついてこない。

 

(なんで・・・・!花蓮の意識は・・・・!?)

 

そこである事に気づく。縛り付けておいた花蓮の意識そのものが拘束を破っていたことに。

 

(彼女の歌が花蓮の意識を呼び覚ましたのか・・・・!)

「美雲・ギンヌメール・・・・・!!」

 

ならばもう一度絶望させてやるまで。ここでメッサー共々皆殺しにし今度こそ、完全な覚醒を果たすために。

 

「終わりにしよう・・・・メッサー!!」

(ああ!終わりだ!)

「ッ!?」

 

花蓮の意識深くから這い上がってくる何かを感じる。阻止するため黒い花蓮も意識の世界へとダイブする。

 

「・・・・・最後の最後まで、僕の邪魔をするかッ!!」

「もうお前の好きにはさせない!!」

 

力強い目で黒花蓮を睨む。奥歯を噛む力が強くなる。もういい、飲み込んでやる。今度こそーーー!

 

「終われぇぇ!!カレエエェェェェン!!」

 

黒花蓮の体から無数の黒い手が伸びる。それは四方八方から花蓮を囲むようにその体に触れようと伸びる。そして、その体にあとほんの少しで触れるというところで、

 

パキンーーーー

 

「ーーーーー」

 

無数の黒い手のうちの一本が砕け散った。それはまるで波紋のように他の手を破壊していく。

 

「君は一体・・・・何者なんだ・・・・!?」

 

白い光を纏っている花蓮に問いかける。

 

「君が銀河を覆う闇なら、僕は銀河を照らす光になる」

(バ、バカな・・・・まさか、君も・・・・)

「終わるのは・・・・君だッ!」

 

思い切り黒花蓮の頬を殴り飛ばす。そして光の檻に閉じ込め、花蓮は意識の世界から抜け出したーーー

 

ーーーーーーーー

 

「ランスロットが・・・・止まった・・・・?」

 

アラドがそっと口を開く。

 

「みたいっすね・・・・」

「一体何が・・・・」

 

チャックとミラージュが顔を見合わせる。

 

「・・・・・カレン少尉」

「カレンくん・・・・・」

 

花蓮の瞳と髪が黒から真紅と赤に変わり、赤かったランスロットの双眸が翠へと変わる。

 

『・・・・中尉、カナメさん。ありがとうございます、お二人の声しっかり届いていました』

「元に戻ったのね、カレンくん・・・・!」

 

キャノピー内に花蓮の顔が映し出される。そこにはいつもの花蓮が映っていた。

 

「ーーー・・・・」

 

メッサーも静かに息をついた。

しかし、一難去ってまた一難、まだ本当の目的は果たされていない。

 

「再度全艦攻撃準備!目標、敵空母!」

「しまった!」

『待たせたな!野郎ども!』

 

大気圏外から摩擦熱の尾を引きながら航行モードのエリシオンが落下してくる。

 

「艦長!」

「撃てぇ!」

 

シグル=バレンスから高出力のビームが〈アイテール〉めがけ飛来する。

 

「止まるな!進めぇ!」

 

エリシオンの後方にピンポイントバリアを集結させ高出力のビームを防ぐ。

 

「エリシオン!」

 

海に不時着し、エリシオンは沈んでいった。

 

「このままじゃ・・・・!」

 

美雲は全身から力が抜けるように崩れるのをカナメが支える。

 

「美雲!その怪我・・・・!」

「問題ない・・・・!」

「よくも、白騎士様をぉぉぉお!」

「ッ!?」

 

前方からボーグが駆るSv-262が接近してくる。

 

「我らに楯突いたことを、あの世で悔いるがいい!!」

 

無数のマイクロミサイルが射出された。雲の尾を引きながらそれは、真っ直ぐに〈アイテール〉へと進行していく。と、その前にランスロットが塞がり、両腕のブレイズ・ルミナスを展開し防ぐ。

 

「ぐっ・・・・!」

 

先のメッサーとの戦いで機体の損傷が激しいため、警告音がコックピット内に響き渡る。

 

「カレン!」

 

全て防ぎきり、爆煙が辺りに立ち込める。その下からランスロットが重力に従うように落下していった。

 

「カレカレ!」

「フォールドウェーブシステムの限界が・・・・!」

 

ランスロットに搭載されているフォールドウェーブシステムは『コアルミナス』に使用されてあるフォールド・クォーツからのエネルギーを機体全体に循環させ、短時間で爆発的に機体性能(マシンポテンシャル)をアップさせる仕様になっている。短時間に設定されているのは、機体がフォールド・クォーツからの無尽蔵エネルギーを制限なしに機体全体に循環させるのは危険だからだ。もちろんその分の反動も大きい。

 

「届けなきゃ・・・・歌を届けなきゃ・・・・」

「フレイア?」

「ルンルン・・・・ルンルン・・・・ルンピカーー!」

「えっ!」

「ルンピカきた!」

「フレイア!?」

「あの子まさか・・・・!」

 

フレイアが歌いながら〈アイテール〉から飛び出した。

 

「カレン・・・・!」

「動け・・・・!」

 

ランスロットの装甲が淡い光を喪い、元の姿へと戻る。

 

「飛んでる女・・・・」

「命懸けで」

「歌を届けに!」

 

四人も頷き合い、フレイアと一緒に歌う。

 

「みんな!」

「この歌・・・・みんな・・・・!って、フレイアさん!?」

 

フレイアが落下しながらこちらに向かってくる。

正面のディスプレイに〈READY〉と表示される。

 

「来た!」

 

エナジーウィングを再度展開し、フレイアの元へと翔ぶ。

 

『フレイアさん!』

「カレン!」

 

そっと左手でフレイアを掴み、アイテールへと向かう。

 

「な、なんだ!?」

『あの林檎娘!』

 

フレイアをアイテールの甲板に下ろす。

 

『ありがとう、フレイアさん』

「カレンも、無理せんといてな!」

『・・・・・』

 

一瞬、呆気に取られたが直ぐに笑顔になる。

 

『君の歌があれば僕は飛べる!最高にゴリゴリな歌、よろしくお願いします!』

「はいな!絶対届けるかんね!」

「サウンドフォールド波、探知!《ワルキューレ》です!」

 

突如、海が大きな水飛沫を上げる。その中から撃沈されたと思われていたエリシオンが強行型となって浮上する。

 

「敵艦、浮上!」

「なに!?」

「やるな!艦長!」

「行くぜ、グラミアぁ!」

「邪魔はさせん!アーネストぉ!」

 

シグル=バレンスが巨大なピンポイントバリアを張り出す。

 

「いくらエリシオンでも・・・・あそこは・・・・!」

 

腰にマウントしていたスーパーV.A.R.I.Sを握り、ピンポイントバリア発生装置に照準を合わせる。

 

「ッーーー!」

 

フルバーストモードのV.A.R.I.Sから蒼い光芒がシグル=バレンスのピンポイントバリア発生装置をぶち抜く。

 

「シグル=バレンスのピンポイントバリア発生装置損傷!出力低下します!」

「まずい!陛下ぁ!」

 

ロイドがグラミアに覆い被さるように倒れる。

 

「今です!艦長!」

 

エリシオンが〈へーメラー〉を構え、

 

「マクロスキャノン、ぶちかませぇぇぇぇ!!」

 

膨大な熱量を持った光芒が雲を切り裂く。出力が低下しているピンポイントバリアで防ぐことは不可能であり、容易く貫通、直撃した。

 

ーーーーーーーー

 

「本艦の損傷軽微、航行に支障ありません!」

「敵の追撃は不要!本艦とプロトカルチャーシステムの結合を急げ!」

 

現在アイランド船とエリシオン、その他の戦艦はラグナの衛星軌道上でフォールド準備をしていた。

 

「追撃機、確認出来ません」

「直営のΔを除き、航空機の収容完了しました」

 

〈アイテール〉が航行モードのエリシオンとドッキングする。

 

「よろしい!全軍撤退!緊急フォールドスタンバイ!」

 

ミラージュとフレイアがラグナを見下ろす。

 

「ラグナ・・・・」

「私たちの青い星・・・・」

「・・・・・」

 

花蓮は無言でラグナを見下ろす。全軍がフォールドゲートを潜り、ラグナ宙域を離脱していった。

 

ーーーーーーーー

 

黒花蓮が光の檻に触れようとするが、バチバチと音をたてながら弾かれる。まるで闇を拒む聖なる檻のようだった。

 

「この檻の力、ただの人間の力ではない・・・・・やはり」

 

黒花蓮の予想はどうやら的中していた。

 

「花蓮、君が〈星の導き手〉の半分の力を持っていたんだね。つまりは僕の半身ということか・・・・・さながら僕が闇の〈星の導き手〉なら君は光の〈導き手〉だな・・・・・」

 

どちらかが片方を取り込めば、完全な覚醒を迎える。

 

「しばらくは様子見か・・・・・」

 

意識の世界で黒花蓮はポツリと呟いた。




ダイアモンド クレバスを聞いているとミシェルを思い出す…

おお…ミシェル…


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最終部
Mission27 穏やかデイズ


今回はゆったりです!

たまにはゆったりさせましょう┏●


「おーい、そっちの準備はいいかー?」

「もうちょっと真ん中真ん中ー」

「照明はオッケーだー」

 

アイランド船の中にある巨大なアリーナの中ではあと五時間後に行われる《ワルキューレ》のライブ並びにα、β、γ、デルタ小隊の機体紹介、ケイオスの展覧会の準備が行われていた。

目的はあくまでアイランド船内の住民達のヴァール化を防ぐためのライブがメインだ。そのついでと言うことで各小隊の機体の実物大模型がクレーンで設置されている。Δ小隊も各々の分担があるため別行動となっている。

 

「よいしょっと」

 

ガシャン、と重い物を地面に置き額に浮かんでいた汗を拭う。花蓮の今日の仕事は会場の外で、各機体の紹介やケイオスの概要説明並びに警備だ。アラドは今回の催しの代表者としてアリーナの中、チャックは音響の調整のため中、メッサーは照明担当のため中、ハヤテとミラージュはアリーナ内の警備のため中・・・・・・

 

「僕はくじ運そんなにないのかな・・・・・」

 

そう、この役割分担はアラドを抜かしたメンバーでのくじで決まったのだ。

 

『おーっす、外の方はどうだ?』

「順調ですよ」

『残念だったな〜、《ワルキューレ》のライブ見れなくて』

「スピーカーで外にも聞こえるようにしてありますので残念ってほどでもありませんよ。チャックさんのほうは大丈夫なんですか?音響の調整なんて」

 

《ワルキューレ》のメンバーのパネルを留める工具を取り付けながら耳に付けてある無線機と会話する。

 

『任せとけ!俺は数々の料理を作ってきたんだぜ?音響の調整なんざちょちょいのーー』

「やることがまだあるので切りますね」

『あ、おい!まだ俺の話はーーー』

 

チャックの自慢話など好き好んで聞く人はいない。罪悪感に駆られながらも通信を切った。ラグナから撤退してはや一週間。今や球状星団はウィンダミアの手に落ち、どこにいても風の歌が響く状態にある。いつ風の歌が聞こえるか分からない。そのためにもワクチンライブが必須になってくるわけだ。

 

(まだレディMからの指示は来ない・・・・いつまでこの状態が続くんだろう)

 

各惑星にある遺跡にも変化があったらしく、巨大なシステムが出現したとは聞いている。

 

(結局、ラグナを守ることはできなかったな・・・・・)

 

設置が終わり後は開演時間を待つだけ。役員席に座り、空を見上げる。上空の透明ドームは宇宙を映してはおらず、気象制御された空が映し出されいた。今日はどうやら晴天らしく雲がゆったりと流れていく。

しばらくして開演の合図が鳴り、巨大ドーム内からはファン達の怒涛の叫びが聞こえる。

 

「僕も持ち場に着くか」

 

花蓮は腰を上げた。

 

 

ーーーーーーーー

 

あれから数分が経ったがまだまだライブの熱狂は冷めることを知らない。むしろ観客のポルテージは上がっていくばかりだ。外にあるα、β、γ、Δ小隊の展覧会には指で数える程度の人しか見に来ていなかった。それもそのはず、実物ならいざ知らず、実物大の模型可変戦闘機を見に来る人なんて生粋のマニアぐらいだろう。ドーム内から音漏れがし、先程メンバー全員でのライブが終わり今からソロでのライブが始まるらしい。一番手は美雲からだった。どうせこれ以上人は来ないだろうと踏んでいた花蓮に見知らぬ女の子が話しかけてきた。

 

「あ、あの〜・・・・」

「どうしました?入口でしたらご案内しますが」

「い、いえ!その、しゃ、写真撮りたいんよ・・・・撮りたいんです!」

 

サングラスをかけ、帽子を深く被り、手にはカメラを持っていた。服装は至って普通だだが、どこかで聞いたことのある声。

 

「写真、ですか?」

「は、はい!ーーーあ、あの子と一緒に!」

 

少女が指さした先にはフレイアのパネルがあった。

 

「あの、ご本人でしたらあちらのアリーナでライブをしていますよ・・・?」

 

おかしい。機体の撮影ならわかるがこの少女はパネルのフレイアを撮りたいと言い出したのだ。

 

「いえ!パネルがいいんよ!!」

「いいんよ・・・・?」

 

花蓮の顔が怪しいものを見る目に変わる。

 

「ふえ!?い、いいんです!」

「あ、ちょーー!」

 

少女は花蓮の手を引っ張ってパネルへ向かう。

 

「あなたも一緒に!」

「僕もですか?」

 

されるがままにフレイアのパネルの横に立たされる。まずそれを一枚パシャリ、とフラッシュが瞬いた。

 

(あの声どこかで・・・・)

 

花蓮が必死に思い出そうとしていると、また少女から要望が来た。

 

「もう少し顔を近づけてください!」

「こ、こうですか?」

 

パネルに顔を近づけて顔を赤くしている花蓮。全くまだまだ若いお子様だ(筆者目線)。またまたパシャリとフラッシュが瞬く。すると、カメラで撮った写真を確認しながらニヤニヤしている。

 

(ほ、ほんとに大丈夫かな・・・・)

「こ、今度はその・・・・抱きつくとか、ほっぺにチューとか・・・・」

「え?最後の部分なんていいました?」

「だ、抱きついてください!」

「だ、抱きつく・・・・?」

 

フレイアのパネルを指差し、少女の顔を見るとペコペコ頷いていた。本来なら断りたいお願いなのだが、

 

『《ワルキューレ》以外にΔ小隊にもファンがいるからな。ファンサービスは忘れるんじゃないぞ』

 

アラドに言われたことを思い出した。この少女がファンなのかどうかは定かではないが・・・・。

 

(まぁ、ファンサービスは大事だよね・・・・)

 

渋々フレイアのパネルに抱きつくと、少女は物凄い速さであちこちからフラッシュをたく。一通り撮り終わったのかカメラをチェックしている顔はニコニコしていた。

 

「あんがとうございました〜!」

 

そしてその少女は走って帰っていった。フレイアのパネルに抱きつきながらポカーンとしている花蓮だけがそこに取り残されていた。

 

ーーーーーーーー

 

「もうフレイア!どこに行ってたの?」

「えへへ、ごめんなさい」

「はい、あなたの出番よ」

「あんがとうございます!」

 

カナメに見送れながらフレイアはステージに立つ。

 

「フレフレどうしたんだろ、調子いいね〜」

「いいことあった顔」

「このカメラ、気になるわね」

 

マキナとレイナとカナメはフレイアが持っていたカメラの電源を付け、フォルダを開く。そこに写っていたのは、

 

「「「・・・・・・・」」」

 

三人は固まった。そしてさらに、もう一人がやってくる。

 

「あら三人とも何固まってるの?」

 

美雲は片手に持った飲み物が入ったボトルを口に含む。が、三人からは返答はない。

 

「・・・・・?」

 

怪訝に思った美雲は三人に近づき、固まっている理由をその目に焼き付ける。

 

「ーーー・・・・」

 

そこにあったのはフレイアのパネルに抱きついたり、顔を赤くして顔を近づけている花蓮が写っていた。

 

「あの子・・・・抜け駆けしたわね」

「フレフレ〜」

「お仕置き」

「いい度胸じゃない」

 

四人が黒い笑みを浮かべているのを知らずにフレイアはノリノリで盛り上げていた。

 

「お、フレイア調子いいな」

「何かあったんでしょうか」

 

ハヤテとミラージュもフレイアの変化を感じ取る。これからお仕置きされるとも知らずフレイアは終始上機嫌であった。

 

ーーーーーーーー

 

それから何事も無くワクチンライブも終わり、スタッフとΔ小隊は会場の撤去作業をしていた。もちろん外ではーーー

 

「待ちなさーーーい!!」

「ふえええ!!許してーー!」

「フレフレ抜け駆けなんてよくないよー!」

「捕まえる!」

「懺悔なさい」

「「「「懺悔!?」」」」

 

外で撤去作業をしているスタッフが一斉に声を合わせる。

 

「なにやってんだ?あいつら」

「さあ・・・・」

「鬼ごっこじゃないか?」

「美雲さんが走ってますね」

「だな」

「スルメ食いてなーー」

 

ハヤテ、ミラージュ、チャック、花蓮、メッサー、アラドの順に《ワルキューレ》の珍光景もとい鬼ごっこを眺めながら言った。今日は稀に見る穏やかな日であった。



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Mission28 漂流 エンブレイシング

遅くなりました!
今回はミラージュ回です!


美雲は夢を見ていた。遠い場所、遥かな雲を突き抜け目の前は開いた。そこにいたのは遺跡の前で歌う一人の女性。赤い髪をたなびかせ、妖精の羽音のような・・・・・銀河を震わせる声が響く。その身体には紋様が現れあと少しで顔が見えるところでプツン、と切れた。

 

「ーーー・・・・」

 

美雲はゆっくり目を開ける。

 

「夢・・・・・これが・・・・・」

 

謎の部屋で宇宙を模した空間に裸で漂う美雲の声は虚空へ消えた。

 

ーーーーーーーー

 

『ミラージュ少尉、ハヤテ准尉。L36のソーラーパネルの補修お願いします』

「「了解」」

『チャック少尉はB3に向かいデブリの除去を』

 

オペレーターが応答を待っても一向にこず、再度問いかけた。

 

「チャック少尉?」

『お、おお』

「弟さん達、まだ無事かどうか分からないんですよね・・・・」

「ええ・・・・・」

「・・・・・」

 

ハヤテが心配そうにキャノピー越しに映るVF-31Eを見やる。

 

『こちらデルタ0。B5のデブリの除去が完了しました』

『了解しました。続いてB7のデブリの除去をお願いします』

『了解』

 

常に連絡を取り合うために全員の回線は開いたままになっている。どうやら花蓮のほうは順調らしい。ハヤテも負けじと機体を動かした。

アラド、メッサー、艦長にマキナとレイナ、整備班はモニターとにらめっこをしている。

 

「ーーーと、この通り、このアイランド船のフォールドリアクターは今にもイカれちまいそうです」

 

モニターにはアイランド船が映っており四つのポイントが赤く点滅している。

 

「修理するにも資材が足りねぇし、そのうち電力と酸素の供給も止まっちまうでしょう」

「対策は?」

「エリシオンとドッキングさせるしかないでしょうね」

「マクロス級のリアクターなら充分カバーできるハズですが、アイランド船のドッキングシステムが壊れちまいまして」

「ふむふむ」

 

ーーーーーーーー

 

それからなんとかアイランド船に乗っているチャックの弟達を見つけたが、肝心なマリアンヌが乗っていないことに気付き、艦長やアラドに申し出た。

 

「ラグナに残された住民達を助けに行くことは出来ないのでしょうか」

「・・・・・」

 

一息ついてアラドは口を開いた。

 

「遺跡の影響で敵の歌声が強化されている。球状星団の内側に入ることは出来ん」

「ならせめて強行偵察に!」

「今戦力を分散させる余裕はない」

「・・・・ラグナは俺の故郷なんです!仲間が・・・・!家族が!」

「俺たちも気持ちは同じつもりだ」

 

アーネストは目線だけをチャックに向ける。

 

「少し頭を冷やせ」

「す、すみませんでした・・・・・」

「ラグナの皆は無事なんかね?」

 

司令室に巨大モニターが出現する。

 

「ラグナに残ったうちの工作員からの映像だ」

 

巨大システムとドッキングしたシグル=バレンスが映し出される。

 

「ヴォルドールの時と同様、市民に危害は加えられていない。食料と水の配給もあるそうだ」

 

映っていた映像にはウィンダミアの軍人が林檎と遺跡の地底湖の水を市民に配っているところだった。

 

「林檎と水って・・・・!ヴァールにして操るき満々じゃねぇか!・・・・あっ・・・すまねぇ・・・・」

 

とっさに隣にいたフレイアに謝る。

 

「う、ううん!」

「本当に何も出来ねぇのかよ」

「今の俺たちには弾薬も燃料も満足にない。それを手に入れる資金もな。ケイオスは民間企業だ、依頼と金が無ければ動き用がない」

「球状星団連合から防衛の依頼を受けていたのでは・・・・」

「その連合が壊滅状態だ。契約は継続中だが、支払いは望めんだろうな」

「とにかく今はここにいる市民の安全を守ることに全力を挙げるしかない。それに・・・・・」

 

アラドは振り返り、ハヤテ、ミラージュ、チャック、フレイアを見る。

 

「先のラグナ防衛作戦で突如覚醒した〈星の導き手〉のこともある。無闇に球状星団の内側に入れば、風の歌に触発され、カレンの身が今度こそ〈星の導き手〉に取って代わられることかもしれん。今やカレンはこのΔ小隊に、ケイオスになくてはならない存在だ」

「艦長、任務中のデルタ0から緊急入電です」

「繋げろ」

 

モニターに花蓮の顔が映る。

 

「どうした」

『艦長、緊急事態です!アイランド船の後方に巨大なブラックホールの存在を確認!なおも成長し続け、このままだとアイランド船が引きずり込まれます!』

「こんな時に・・・・!」

「直ちにアイランド船とエリシオンのドッキングを急がせろ!ドッキングが完了した後、緊急フォールドに入る!」

 

ーーーーーーー

 

『ハヤテ准尉、メッサー中尉以外のΔ小隊各機はブラックホールの重力に向かって行くデブリを破壊!ドッキングが完了するまで持ちこたえてください!』

『隊長!』

「カレンか!」

『周囲の物を飲み込んで成長してるのか・・・・!?』

「そんなブラックホール聞いたことないぞ・・・・!だが悩んでいる場合ではない!Δ小隊、迎撃開始!」

 

アラドの号令でブラックホールに向かって行くデブリをマイクロミサイルで迎撃する。ランスロットは一度〈アイテール〉に戻る。

 

『ランドスピナーをファストパックに換装!』

 

ランスロットの両脚についているランドスピナーが外され、今度は脹脛の部分にマイクロミサイル左右24個、ハイマニューバミサイル左右7個ずつ格納された増強パックを装着する。〈アイテール〉の甲板に上がり、発艦した。

視線誘導のマルチロックオンで無数のデブリをロック、脚部のパックとエナジーウィング、スーパーV.A.R.I.Sによる一斉射撃で次々に破壊していく。

 

「艦長!こっちは粗方片付いた!」

『こちらのドッキングシステムもハヤテ准尉とメッサー中尉のおかげで修復完了した!直ちに帰還しろ!フォールドに入る!』

「Δ小隊、〈アイテール〉に帰還するぞ!」

「了解!」

 

ミラージュは機体のエンジンを吹かせようとした瞬間、目の前に飛んでくるデブリと衝突する。

 

「ぐぅ・・・・!」

 

更にはエンジン部にも激突し、紫色の鮮やかな光を放っていた脚部よメインエンジンがその光を失っていく。そのままブラックホールの元へと引き寄せられていった。

 

「これで全員か?」

「おい、ミラージュ少尉が見当たらないぞ!」

「え・・・・・?」

 

メッサーの指摘にハヤテの顔が蒼白になる。アラドはすぐさま司令室へと通電。

 

『艦長!ミラージュが!』

「なんだと・・・・!?ミラージュ少尉の機体シグナルは!」

「受信確認!ですが・・・・!」

 

映像にはブラックホールへと向かうVF-31Cの名前が映っていた。

 

『今から救出に向かう!まだ間に合うかもしれん!』

「フォールドを中断することはできん!」

『ばかな・・・・・!!』

 

現にフォールドを途中で中断することは出来ない。エリシオンとドッキングしたアイランド船の目の前に巨大なフォールドゲートが出現する。

 

「そんな・・・・・!」

「ミラージュ・・・・!」

 

マキナとカナメの顔も絶望に染まり出す。だんだんとフォールドゲートの中に入っていく。

 

「ミラージューーーー!!」

 

ハヤテが絶叫した。すると、艦内放送中のスピーカーからオペレーターの大声が聞こえる。

 

『カ、カレン少尉何を・・・・!いけません、出撃命令は・・・・!!』

 

ハヤテは〈アイテール〉の小さな窓から外を見る。甲板から発艦するランスロットがエナジーウィングの翠色の尾を引きながら高速で飛んでいくのを最後に見た。そして、アイランド船とエリシオンはフォールドゲートの中へと消えていったーーーー

 

ーーーーーーーー

 

ミラージュは何度も操縦桿を動かす。

 

「動け・・・・!動け!」

 

だが一向に機体は動かない。目の前のモニターには脚部を破損したことを知らせる映像と、後ろにブラックホールが近づいている警告音が鳴り響く。なんとかバドロイドに変形するが、全く意味を成さない。ただ、されるがままに引き寄せられる。もう諦めたのか、ミラージュは操縦桿を動かすのをやめ、背もたれに寄りかかる。

ミラージュはこれまでの出来事を思い出す。《ワルキューレ》のライブパフォーマンスとして出ることが決まったとき、花蓮が入隊したとき、ハヤテの教官を務めたとき、そして自分が気になる人から大事なものをもらったときーーー

無重力のコックピット内に、お守りが漂う。

 

「あ・・・・・」

 

そっとそれを手に取る。そして、あることを思い出した。

 

『もし、助けが欲しい時は』

(助けて・・・・・・)

『呼んでください』

(助けて・・・・・!)

 

ミラージュの目からは涙が零れる。死への恐怖から来るものなのか、それは自分でもわからなかった。だが、もう会えないのは嫌だった。もう彼に会えないのだけは嫌だったのだ。

 

『僕の名前を』

「助けて・・・・!カレン・・・・!」

『すぐに行きますから』

 

ギュッとお守りを握りしめる。パイロットは常に死と隣り合わせ。そんなことはとうの昔にわかっていた。わかっていたつもり(・・・)だったのだ。実際はこんなにも怖くて寂しいものだとは知らなかった。彼の名前を呼んだところでもう今ごろーーーー

 

引きずり込まれていたはずの機体の動きが止まった。ミラージュは瞑っていた目を開く。そこには、

 

「カ・・・レン・・・・」

 

バトロイド形態の機体の手をランスロットがしっかりと握っていた。あと少し遅ければ光の速度ですら逃げることが困難な領域まで行くところだった。すぐにその場から離れる。ミラージュは徐々に離れていくブラックホールを見やり、再度手を引いているランスロットを見やる。

目の前にフォールドゲートが出現し、二機は吸い込まれていった。

 

ーーーーーーーー

 

しばらくしてアイランド船がデフォールドした場所にデフォールドする。〈アイテール〉に着艦した早々、みんなからは心配された。何しろ勝手に機体を持ち出したのだ。一週間の懲罰房に処されてしまったが、仲間を見捨てるよりはマジだとアラドに言い張り、盛大に背中を叩かれた。

十字の格子が付いた入口のドア、窓のない壁、照明が一つ。

 

「こんな事になるとわかってて、どうしてあんな無茶を・・・・・・?」

 

花蓮が入っている懲罰房の扉の前にミラージュは寄りかかった。カレンも壁に背中を預ける。

 

「不十分な装備では高確率で二次被害を起こします。そして無断での機体の運用・・・・・命令違反ですよ、カレン」

 

静かに怒られてしまった。

 

「どうして、違反してまで私のことを・・・・・」

「・・・・大切な人だからです」

「・・・・・・・」

 

静かな廊下に花蓮の声が響く。

 

「確かに命令や規則を破る人はダメなのかも知れません。ですが、それよりも仲間を見捨てる人の方が、もっと悪いと思うんです」

「命令よりも・・・・・自分よりも・・・・・守りたい、大切なもの・・・・・」

「それが“仲間”だと、僕は思います」

 

格子に置かれた花蓮の手に自分の手を重ねる。

 

「ーーー・・・・」

 

ミラージュの目からは涙が零れ出した。

 

「とっても・・・・・暖かいですね・・・・・」

 

小さな嗚咽が響く。

 

「ありがとう・・・・・カレン・・・・・」

「あなたが無事で、本当によかった」

 

ミラージュが泣き止むまでずっと花蓮は空いている手でミラージュの手を握り締めていたーーー



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MissionEX 告白!?

今回は決別 レゾリューションとちょっとした小話が混ざっています。かなり短いですけど、お願いします!明日、もしかしたらケイオスのお正月が見れるかも…?


シグル=バレンスは、ラグナから移動し現在ウィンダミアの空を滞空していた。

 

「帰ってきました・・・・ウィンダミアの空です、父様・・・・・」

 

ハインツは夕焼けに染まる空に想いを馳せた。

 

ーーーーーーーー

 

「ーーー以上でミーティングを終わる。各自解散、退艦式には遅れないように」

 

シグル=バレンス内部の格納庫の一角で空中騎士団の面々は集まっていた。

そこにロイドが加わり、これから始まる最後の戦いを間近に騎士団に労いの言葉を述べた。

 

「皆、今日までご苦労だった。間近に迫った最後の戦いに研ぎ澄ました翼を惜しみなく羽ばたかせてくれ」

 

一人一人の顔を見渡し、最後にキースを見て促した。

 

「・・・・・キース」

「・・・・・」

 

一息ついて、まずテオとザオを見た。

 

「テオ、ザオ。空中戦においてお前たちのコンビネーションについて来れる者はいない」

 

次にカシムを見て、

 

「カシム、お前の慎重に物事を見極める目は戦場では無くてはならない物だ」

 

次にヘルマン。

 

「ヘルマン、背中は任せた」

 

最後にボーグを見て締めくくる。

 

「ボーグ、誇り高く恐れず立ち向かうお前が先陣を切れ」

「ーーーーはいっ!」

「皆着実に力をつけた。そして我らにはこの背を押す風が吹いている。ウィンダミアに勝利を運ぶ風だ」

 

そして間を置き、右手を胸の前に持ってくる。空中騎士団における敬礼だ。

 

「ーーーーこの戦いに勝利し、我らの空を取り戻す。この胸の・・・・・大いなる風にかけて」

「「「「「大いなる風にかけて!」」」」」

 

ーーーーーーーー

 

「おいボーグ」

「なんだ?」

「お前も白騎士様のようなクールさを身につけた方がいいんじゃないか?」

「ゴホンッ・・・・まあ、俺もいつかは白騎士様のように・・・・・」

「・・・・・なれるのか?」

 

それを遠くで見ていたヘルマンとカシムは静かに笑った。

 

ーーーーーーーー

 

「ロイド、〈風の歌い手(ハインツ様)〉の歌を使ったこの計画・・・・・本当に問題はないのだな」

「ああ、ハインツ様の歌があればこの最後の戦いでは無くてはならいものだ。制風圏確率はすぐ目の前だ」

「そうか」

「キース、心配はいらない。風の歌い手なくしてこの作戦は成り立たない。この大事な時にハインツ様に余計な負担はかけさせないようにな」

「ーーーー?」

 

この言葉にキースは違和感を覚えた。

 

「話はそれだけか?準備があるから私は行くぞ」

 

すれ違いざまに二人のルンが重なり合う。

 

「!!」

 

キースは勢いよく振り向くが、とうのロイドは振り向きもせず歩いていく。

 

(・・・・・今、あいつのルンから何の感情も感じ取れなかった)

『風の歌い手なくしてこの作戦はーーー』

 

キースは手を握り締める。

 

「ロイド、お前は何を考えている・・・・・お前は変わらないはずなのに、そのルンからは何も感じられないのは何故だ・・・・・?」

 

キースは一抹の不安を覚え始めた。

 

ーーーーーーーー

 

「カレン、お前はあがっていいぞ」

「いえ、まだもう少し・・・・・」

「お前の仕事はパイロットだろっ」

 

頭にチョップをもらい小さく呻く。

 

「いたっ」

「ほら、休める時に休まんと身が持たねぇぞ。あ、それとも懲罰房が気に入ったのか?」

「そんなことないですよ!お疲れ様でしたっ!」

 

プンスカ状態で格納庫を出ていった。

突如、体が敏感に何かを感じ取る。

 

「っーーーーこの感じ、風の歌?」

『どうやら、仕掛けてきたみたいだね』

「もう一人の僕・・・・」

『本当に愚かな種族だよ、地球人もウィンダミア人も。だが、その戦いももう終わる』

「なんで、君にわかる」

『呼んでるからさ、彼女が。花凛がね』

「母、さんが・・・・・?」

『どの道ウィンダミアに行かなければ花凛には会えませんよ』

「・・・・・・・」

 

無言のまま歩き出した。

ウィンダミアが更に制風圏の拡大を宣言し、救難信号があった宙域に向かったが既に遅く、残っていたのは残骸だけであった。だが、ハヤテが生存者一名を発見し、帰還。治療が済み次第、話を聞く方向らしい。

 

「ウィンダミア・・・・・・」

「どうしたの?」

 

声がする方を振り向けば、美雲がいた。

 

「ウィンダミアのこと、気になるの?」

「少し・・・・母さんの事がわかるかもしれないと思って」

「ダメよ?勝手に行っちゃ」

「はい」

 

苦笑いしている花蓮をみて美雲も微笑んだ。

 

「随分遠くまで来ちゃったわね」

「この戦いが終われば、ラグナに帰れますよ。大丈夫です」

「そうね」

 

そして美雲は花蓮に抱きついた。突然の事に驚いていたが、すぐに慌て始める。

 

「あなたがいるとやっぱり安心するわね」

「あ、ああの美雲、さん?」

「大好きよ・・・・・カレン」

「え、今なんてーーー」

 

そして離れた美雲の顔は恥じらいのためか、赤くなっていた。

 

「あの、美雲さん・・・・さっきの言葉の意味って・・・・・」

 

さすがの花蓮もあんな間近で言われたら聞き逃すわけがない。開いた口に美雲の指がそっと置かれた。

 

「戦いが終わったら、答えを聞かせてね。それじゃ」

 

長い髪をたなびかせ、美雲は廊下を歩いていった。その後ろ姿を見送りながら、花蓮は考える。

 

「好きって、友達としてかな。でも、友達ってほどの間柄でもないような・・・・・それじゃ、異性として?でも美雲さん、中尉のこと気になってるんじゃ・・・・ん〜?どういう意味だ?」

『君って本当に鈍感なのかただのたらしなのか、それともバカなのか・・・・・美雲・ギンヌメールはメッサー・イーレフェルトのこと好きじゃないのに・・・・・え、でもどうなんだろう』

 

ダブル花蓮は真剣に悩み続けることかれこれ二時間過ぎていたことに気づきもしなかった。廊下をウロウロしている花蓮をΔ小隊の面々は陰から見ていた。

 

「なぁ、あいつ、なんでフレイアの部屋の前でウロウロしてるんだ?」

「ま、まさか!告白・・・・・!」

「な、なにぃ!?」

「青春してるな、メッサー」

「ええ、そうですね」

 

そう花蓮がいる廊下の向かい側はフレイアの部屋(仮)だったのだ。もちろんそんなことは露知らず、花蓮はずっとウロウロしていたとさーーーー



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MissionEX 短編 ケイオスの正月

明けましておめでとうございます!

DX超合金のハヤテ機が発売されましたね、欲しいです(*´﹃`*) そして今度はメッサー機も4月に出るとTwitterで見て発狂。新年早々騒がしい私です笑


「皆さん明けましておめでとうございます。今年もいい年になるように願っています」

「おーい、カレン。そろそろ始めるぞー」

「あ、はい」

 

ーーーーーーーー

 

『ケイオス・ラグナ支部 飲み会の様なもの 新年も頑張って行こー!』と書かれた看板が掲げられた『裸喰娘娘』にいつもの面々が集まる。服装はおめでたい日とあって、着物を着ていた。

 

「ーーーて、なんで僕はこれなんですか!」

「おー、似合ってるじゃないか」

 

花蓮の着物は、やはり期待通りのミニスカ着物というものだった。容姿が女の子っぽいこともあり似合いすぎていて逆に怖い。赤色が基調のミニスカ着物を纏った花蓮は、早々注目の的だ。机の上には地球にある餅やお雑煮などの伝統料理がところ狭しと並んでいた。

 

「お前本当に男か?」

 

ハヤテの質問に前と後ろを隠しながら歩いている花蓮は顔を真っ赤にし反論した。もちろん軽くあしらわれたが。

 

「ほんっとスースーします・・・・・美雲さんからも皆さんに何か言ってください!」

「嫌よ、あなた似合ってるもの」

「なっ・・・・・!美雲さんまで!」

 

一通り会食も進み、アラドが舞台の上へ躍り出た。

 

「よーし、みんな大会やるぞ」

「大会ってなにやるんすかー?」

 

チャックの言葉にアラドはニヤリ笑った。

 

「カルタとかー、人間危機一髪とかー」

「なにそれ危なっ!」

「優勝賞品はもちろんバレッタクラゲのスルメだぜーー!」

 

「えー、スルメかよー」という批判の声を敢えて無視し、アラドは何食わぬ顔で進める。

そして、酔いに酔ってる大人陣はかなりの乗り気である。そして、まずカルタ大会から始まった。

 

「じゃあ行くわよ。えー、犬も歩けば棒にあたる」

「ふっ!」

「あー!?」

 

カナメのちょっと酔った声が響く中、メッサーは同じ言葉の書かれたカードを弾き飛ばした。

 

「メ、メッサー・・・・本気なのか・・・・?」

「無論だ、勝負に情けは無用」

(カナメさんが読み手をしてくれている。ハヤテ准尉には悪いが、一枚も渡さない!)

(うわー、中尉本気だよ・・・・)

「カレン!」

 

声をかけられた方を振り向けば、隣でやっているフレイアがドヤ顔で言った。

 

「一枚も取れないんよ!」

「・・・・・・・・・・・ファイト!」

 

花蓮はサムズアップした。

アラドの飽きた、という一言でカルタ大会は呆気なく終了、とんでもない人である。そして次はとうとうやってきた、人間危機一髪だった。

 

「・・・・・・・」

「プクク・・・・・・」

「メサメサ・・・・・・」

「メッサーくん・・・・・・」

 

沢山の切り口が付いてあるタイルの中にすっぽりとメッサーは入っていた、頭だけを出して。その光景にハヤテをはじめとした面々は笑いを堪えていたが何とか堪えている。チャックとアラドに関しては床をバンバン叩きながら肩を震わせていた。

 

「何故俺なんだ・・・・・」

「じゃ、じゃんけんで決まったんだから仕方ねーだろ。ククク・・・・・」

「と、とりあえず行きますよ、中尉」

 

花蓮手に持ったプラスチックのデカイ剣を一つの切り口に刺した。当たりではなかったため、メッサーは飛び出さない。

 

「そんじゃ次は俺が行くぜ!」

 

ハヤテ、マキナ、レイナ、カナメ、美雲、アラド、チャック、フレイア、花蓮、ミラージュの順に刺していく。が、なかなか当たりが来ない。そして、とうとう花蓮の中にいる奴が目を覚ました。

 

『花蓮、体を借ります』

(え、ちょーーー!)

 

髪と瞳が黒に染まり、奴がやって来た。

 

「まどろっこしい・・・・・まどろっこしいです!」

「え!?カレン!?ーーーって、〈星の導き手〉〜〜〜ッ!?」

「危機一髪というのは、こうやるんだよーー!!」

 

残っていたプラスチックの剣を手に持ち、次々差し込んでいく。

 

「ひぇーーー!全部刺してるぅ!?」

「やれー、カレン!メッサーを飛ばせぇ!」

「ハヤテは黙ってください!」

「貴様・・・・!〈星の導き手〉!バカな真似はやめーーー」

「チェック・メイトだぁ〜」

 

ものすごい笑みを浮かべ、最後の一本を突き立てたと同時に、メッサーは飛ぶ。〈蒼い死神〉と呼ばれ恐れられたパイロットが、戦闘機に乗らずに生身で飛んだのだ。窓ガラスを割り、海へと一直線。

 

「ふはははは!僕がルールだぁ!君のものは僕のもの!」

「人類最強のジャイアニスト・・・・・」

 

カナメがどんよりとした顔で〈星の導き手〉こと黒花蓮を見た。

 

「バッキャロー!その服で股を開くな!パンツ!パンツ!」

「パンツ?そんな布っ切れで僕は止められん!」

「めちゃくちゃだ・・・・・・」

 

その後酔った整備班は黒花蓮に影響されたのか、着物を脱ぎさりパンツ一丁になり、女性陣に粛清されたのはここだけの話。そして黒花蓮と交代した花蓮はパンツ一丁で伸びている整備班のメンバーに戦慄を覚えたのだった。

 

「カレンのバカ〜!なに体取られてるんよ〜!おかげでこっちは見たくないものを見たんだかんね!」

「す、すみません・・・・・」

(見たくないものって・・・・・)

 

きっとパンツ一丁の彼らのことだろう。

 

「ほんっと男子って最低ね!悪ノリが過ぎるのよ!」

「もうお嫁に行けない・・・・」

「レイレイ、泣かないで!」

 

一方海の方では

 

「メッサー!しっかりしろメッサー!」

「・・・・・・・」

「メッサーが死んだ!」

「この人でなしぃ!」

「生きています!」

「「「「でぇぇぇぇぇ!?ゾンビだぁぁぁぁぁ!!」」」」

「ちょーー、逃げないでください!」

「ぎゃーー!来んなー!」

 

あっちはあっちで楽しそうである。

それから火照った顔を冷まそうとその辺を散歩する。

 

「はぁ・・・・・疲れた・・・・・」

 

こういう冷ます時はミニスカは持ってこいだと思う。足を涼しい夜風が通り抜けていく。

 

「ん?・・・・美雲さん?どうしたんですか?」

 

紫を基調とし、胸元の辺りが少しだけ見えている着物を着る彼女はいつもよりまして艶めかしく見えた。

 

「涼みにね」

「そうなんですか」

「あの、楽しかったですか?」

「ええ、とっても」

「今度もまたやりたいです。美雲さんも来てくださいね」

 

少し火照った頬で可愛らしい笑顔を美雲に向ける。胸が跳ね、鼓動が激しくなる。月下の彼はとても美しく見えた。

 

「ええ・・・・そうね」

「おーい。カレンくーん、美雲ー。どこー?」

「あ、カナメさんだ。行きましょう」

 

二人はみんなの元へと歩いていった。

 

「あ!また美雲カレンくん独り占めしてるぅ〜!」

「ずるいよ!クモクモ!」

「カレン!アプジューどうぞ!」

「ありがとう、フレイアさん」

「カレン、今日私の部屋に来る?」

 

レイナの誘いに一同は目を丸くしたが、それは束の間。すぐにレイナは連行されたことは言うまでもない。

 

一方そのころーーー

 

「待ってください!隊長!」

「ゆ、許してくれー!」

「よし、俺らは帰るか」

「そうだな」

 

追いかけっこしているアラドとメッサーを置いて、チャックとハヤテは帰っていった。



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Mission29 ためらい バースデー

昨日のマクロスがとまらない見た人いますか?

劇場版制作の話は残念ながら出ませんでしたが、やはり2ndライブの時に発表されるのでしょうか

どちらにせよ楽しかったです\(^^)/


ハヤテが助けた新統合軍のパイロットが目を覚ましたと連絡が入り、急いでアラドたちの元への向かった。そこにはストレッチャーに横たわったパイロットが顔を強ばらせていた。

 

「ーーインメルマン、だと・・・・・・?アラド、お前どうしてあんな男の息子と・・・・・」

「・・・・・・」

「え・・・・・?」

 

ハヤテの瞳が揺らぐ。

 

「あ・・・いや、何でもない・・・・。すまん、助かったよ。ありがとう」

 

ハヤテがいたことに気づき、目線を逸らしながらお礼を述べ、そのままストレッチャーは医務室へと運ばれた。

 

「なんだよ、あれ」

「親父さんとはうまが合わなかったのかもな。気にするな」

「アンタも親父と知り合いだったのか?」

「まあな。親父さんは俺たちと同じパイロットだった」

「パイロットだった?親父が?」

「ああ」

「なんで黙ってたんだよ」

「そりゃあ、聞かれなかったからな」

「んだよ、それ」

 

すれ違いざまにストレッチャーに横たわっているパイロットに軽く会釈をすると相手も首だけを折り、そのまま行ってしまった。

 

「・・・・・・」

 

その姿を見送り、アラド達と合流した。

 

「あの、さっきの方が?」

「ああ、暫く身柄は預かることになった」

「そうですか」

 

横を見るとハヤテが難しい顔をしており、何かあった事を軽く察した。

 

ーーーーーーーー

 

「毎度あり〜!またのご来店待っちょるよー!」

「ありがとな、お店のお手伝い!」

「マリ姉ちゃんの代わり、助かるぞ!」

「フレイア看板娘!ナンバー1!」

「看板娘?うむ、悪くない響きやね〜。いひひひひひ」

 

チャックの弟妹達と話しているフレイアを遠くから眺めながらハヤテはため息をついた。

 

「何がいひひだよ」

「ここはいつも平和ですね〜」

「まあ、確かにな」

 

お茶を啜り、のほほん気分の花蓮を見ながらハヤテもやれやれといった顔をした。

 

「ああやって動いてた方が気が紛れるんでしょうね」

「空元気」

「故郷の星が今度は全銀河相手に戦争する気アリアリなんだもん」

「クラゲラーメン、お待っとさん!」

 

注文された料理を片手に席を行ったり来たりするフレイアをハヤテは黙って見つめていた。

 

「でねでね!実は私にアイディアが!」

 

突如マキナが腕を組み、語り始めた。

 

「なんです?」

「はぁ〜、一杯のお茶を啜る度に平和の素晴らしさが身に染みますね〜」

「年寄りみたいな事言うな」

 

未だにのほほん気分の花蓮の頭をペシッと軽く叩くが効果は全くない。

 

「ふふ〜ん」

 

テーブルに置いた端末からエアディスプレイが出現し、マキナの画像が二枚程出てきた。

 

「マキナの笑顔ラブリー、立ち姿もラブリー!」

「そうそう!この微妙な見えるか見えないかの際どさがまた・・・・・じゃなくて!」

 

端末を操作し、今度はフレイアの画像が出る。

 

「フレイアのプロフィール?これが・・・・」

「もしかして・・・・・」

「そう、さすがミラミラ」

「ん〜・・・・・?あ、なるほど」

 

ハヤテは覗き込むように見て、気づいた。

 

「そう、11月3日。つまり、明後日はフレフレの誕生日。だからサプライズパーティーってのはどうかな」

「サプライズパーティー?」

「乗った!」

 

横からチャックが参加し同意する。

 

「じゃあ段取りはあたしとレイレイが!」

「うん!」

「料理は俺に任せろ!」

「それから、みんなそれぞれバースデープレゼントを用意して、うーーーんっと盛り上げちゃおう!」

「Yes!」

「Yes!」

「えっと・・・・あの・・・・」

「「ん!」」

 

マキナとレイナはモジモジしているミラージュの前でグッジョブのジェスチャーをして見せた。つまり、やれってことだ。

 

「い、Yes」

 

照れながらジェスチャーをして見せた。ハヤテもそれに続き同じ動作をする。そして残った彼はというと・・・・・

 

「はわぁ〜〜〜」

 

緩い顔をしている。周りには花がいっぱい咲いている幻覚さえ見えるほど幸せそうな顔をしていた。

 

「うん。カレカレもYesってことで」

「プレゼントか」

 

ハヤテは生まれてこの方、女の子にプレゼントなど挙げたことがない。これは確かに悩みそうだ、と気合いを入れた。

 

ーーーーーーーー

 

「このままでは全銀河がウィンダミアに・・・・・・」

 

球状星団が映し出されたモニターを見ながらカナメは眉を潜めた。

 

「あんな小国が新統合軍に喧嘩を売るなど何かあると思っていたが・・・・」

「ですが、今はぴたりと動きを止めています。おそらく歌の出力を上げたことが〈風の歌い手〉の負担となり、すぐに次の行動に出られないのではないかと」

 

的確な説明にアーネストは頷いた。

 

「そうなのよね、美雲」

「ええ。以前私は遺跡を通じ、〈風の歌い手〉と繋がった」

 

アル・シャハルでの戦闘がフラッシュバックする。

 

「遺跡のあった場所に現れたシステムを使えば、こちらも相手に対抗することが出来るかも」

 

コクッと頷き、更に付け足す。

 

「ですが確証がありません。そこで、敵が沈黙している間にシステムの調査をするというのはどうでしょう」

「敵の目が全銀河に向いている今がチャンスってことか」

「はい」

 

そこで一旦解散となり、廊下を歩く美雲をカナメは呼び止めた。

 

「美雲!」

「ん?」

「さっきはどうもありがとう」

「別に深い意味はない」

「そう。ところで、フレイアのサプライズパーティー、行く?」

「そうね、考えておくわ」

 

そう言い残しまた歩いていった。いつもは、はいかいいえの二つ返事の美雲がどちらでもない考えておくと言ったのが珍しく思ったのと同時に美雲も変わったことに嬉しくもなった。

 

「へぇ、考えておく、か」

 

美雲を見送りながらカナメは微笑んだ。

 

ーーーーーーーー

 

一方、ハヤテとミラージュはアイランド船の市街地に赴いていた。今日も多くの市民で賑わい、至る所にカップルがいる。

 

「ーーーで、なんで私まで」

「プレゼントなんて何買っていいか分かんねぇんだよ。どうせお前も用意するんだろ?」

「はあ、そんな事だろうと思っていました」

「お?」

 

ミラージュは提げているバックからキュルルに似た端末を取り出し、電源を付けた。そこには指輪からネックレス、カップなどの様々なものにチェックが付けられていた。

 

「おー、プレゼント候補か。さすがミラー・・・・・」

 

言い終わる前にハヤテはあることに気づいた。そうチェックされているもの全てが、

 

「・・・・・高くね?」

 

中々に値が張るものばかりだった。その言葉に聞き捨てならなかったのかミラージュは腕を組んでジト目で睨む。

 

「何言ってるんですか、女性への誕生日プレゼントですよ?」

「お前、このリストお前が欲しい物並べただけじゃねぇの?」

「なっ!違います!ちゃんとデイジー・デイジーの今月号に載っていたお誕生日に欲しい物アンケートの結果です!」

「お、おお・・・・・」

 

あまりにもムキになるところ怪しいが、ミラージュの気迫に圧され縮こまってしまった。

 

「全く、予算はいくらなんです?そのくらい考えできたんですよね?」

「ぁぁ・・・・・」

「はぁ?」

「つ、つか金じゃねぇだろ?プレゼントは。要は気持ちが篭ってればいいんじゃねぇか?さ、行こうぜ」

「はぁ・・・・・・」

 

ため息をつき、ハヤテの一歩後ろを歩き付いていく。そして、物陰からはやはり尾行する者達がいた。

 

「ほほう、まあまあいい感じじゃなぁい?」

「いい感じなんですか?」

「そうだよ〜カレカレ。ちゃ〜んと見るんだよ〜」

「わかりました!」

「なんかこう、付き合い始めのぎこちなさが残るカップルっつーか」

 

ハヤテとミラージュは一つの店の前で品物を見ていた。

 

「ん〜・・・・なんか違うんだよな〜・・・・」

 

そして横を向いたハヤテの口の動きに合わせてチャックがアテレコをし始めた。

 

「なあ、なんかいいのあったか?」

「そうね〜」

 

ミラージュの方をマキナが担当した。

 

「これなんかどうだ?」

「きゃっ、可愛い〜」

「いや、可愛くない。お前の可愛さに勝てる物はここにはない」

「もう!ハヤテのバカバカ!」

「あっはっはっは!」

 

ハヤテ達の動きと妙に合いすぎてて怖い。しかし、マキナはいいとしてチャックに関してはいささかいかがなものかと思ってしまう。

 

「カレン、これ欲しい」

「猫のぬいぐるみですか?」

「ん」

「いいですよ」

「わーい」

 

後ろを見れば、ついさっき買ったばかりの猫のぬいぐるみを前で抱きしめているレイナがホクホクした顔でそこにいた。

 

「お前らは何しとるんじゃー!」

「あ!ハヤハヤたちが動いたよ!」

 

コソコソと四人は二人の後をついて行った。

 

ーーーーーーーー

 

「結局、ハヤテは途中でミラージュを置いて一人でどっかに行っちまったと」

「ハヤハヤってば・・・・・」

「恋って難しい」

「なぁ、お前は何にするか決めたのかーーーーって、あれ?」

 

チャックが振り向けばこつ然といなくなっていた。

 

「カレカレは?」

「先に帰っててください、だって」

 

レイナが端末を見せるとメールとして送られていた。

 

「まぁ、あいつのことだ。すぐに帰ってくるか」

「だね、じゃああたしらは帰ろっか。お店の飾り付けもあるし」

「ん」

「よーし!ケーキ作るぞー!」

 

ーーーーーーーー

 

花蓮はウィンダミアと聞いてあることを思いついた。確かあそこは年中雪が降っているとデータベースで読んだことがある。ならば、少しばかり故郷を思い出せる環境作ってやればいいのではないのかと。

 

「何個あればいいのかな」

 

人工雪を降らせる装置を借りに来たのだが、何個あればよいのかそこまで考えてはいなかった。

 

「あれ?カレンじゃねぇか」

「え?ハヤテくん?」

 

その場にハヤテがやって来た。自分と考えが同じであったことに驚く。が、すぐに二人共笑い合い、一緒のプレゼントをすることになった。本来は個々で別の物を渡す方が嬉しいのかもしれないが、今回は多めに見てもらいたい。

 

「ふう、こんだけあれば充分だろ」

「急ぎましょう、そろそろ時間になります」

「よっしゃ」

 

二人は急いで装置を引っ張る乗り物を操作し、『裸喰娘娘』へと向かった。

 

ーーーーーーーー

 

「そっち持ってて」

「はい!」

「飲み物これで足りるよね?」

「ちょっと手貸して!」

 

現在『裸喰娘娘』はフレイアへのサプライズパーティーの飾り付けで大忙し。現場を仕切っているのはミラージュだった。

 

「飾り付けは?」

「「バッチリ!」」

「こっちも完了よ!」

 

ハックとザックが同時にサムズアップした。

 

「お料理は?」

「オッケー」

「アラド隊長サボらない!」

「ぉぉ」

 

バツが悪そうに明後日の方向を向いた。

 

「ケーキは?」

「あと少し!それより、カレンとハヤテは何やってんだよ!」

「まさか、まだプレゼントを・・・・・」

 

レイナは外でフレイアを補足。

 

「ターゲット確認。到着まで300秒」

「ウーラ・サー!フレイア、来るよ!」

「え!?もう!?」

「カレンとハヤテは何やってんだよ!」

「アラド隊長スルメ没収!働いてください!」

「そんな殺生な〜」

「メサメサ、ここ届く?」

「こうか?」

「もうちょっと右かなー」

「わかった」

 

ーーーーーーーー

 

それからフレイアへのサプライズパーティーは滞りなく進み、ワイワイ賑わいを始めた。ハヤテも途中から参加したのだが、花蓮に関してはまだ来ていなかった。

 

「ハヤテ、カレンは一緒じゃなかったんですか?」

「途中までは一緒だったんだけど、どこいった?」

「みんな!外!外!」

 

ドアを思い切り開ければ、外は雪が降っていた。フレイアのルンが一層輝く。

 

「雪!雪ーー!」

 

フレイアとチャックの弟妹たちははしゃぎ始めた。

 

「へぇ、中々いいな!」

「へへ」

「わぁ!雪って初めて!」

「デ・カルチャー!」

 

雪を見てはしゃぐフレイアにハヤテは近づいた。

 

「ハッピーバースデー、フレイア!」

「ハヤテ!」

「悪ぃな、遅くなって」

「あれ?もしかしてこの雪、ハヤテが降らせて・・・・・」

「まあな。俺からのプレゼントってことで」

 

指を指した方には人工雪を降らせる装置があった。

 

「わあ!あんがと、ハヤテ!」

「遅れてすみません!」

 

遠くから声がするのと同時に花蓮が駆け足でこちらに向かってくる。

 

「遅いぞ!何やってたんだよ!」

「少し、準備に手こずってしまって」

 

チャックにどやされながらも、苦笑いしながら頭をかいた。そのままフレイアの方へと歩いていき、

 

「遅れてごめんね、フレイアさん」

「カレン」

「僕からのプレゼントはこの雪ともう一つ・・・・」

 

エリシオンの方へと指を指すと、間を置いて夜空に大輪の花が咲いた。

 

「わあ!」

「すっげー!」

「きれいきれい!」

「ほお〜」

「花火、か」

 

珍しくメッサーも頬を緩めながら花火を見ていた。

 

「改めて、お誕生日おめでとう。フレイアさん」

「わぁ・・・・・あんがと、カレン!」

「ルンピカだね!・・・・・・?」

 

いつもならルンをまじまじ見られるのを嫌がるはずが今日だけは違った。フレイアの目線はずっと自分を捉えていた。

 

「そっと瞳閉じて 願い事を一つ 言わないで でもきっと信じてる」

 

フレイアが歌いだし、《ワルキューレ》もそれに合わせる。

雪と花火が彩る夜空の下ではしゃぐフレイアはまるで無邪気な天使のように見えた。

 

「カレン!」

「ん?」

「いひひ、今日はぶっちゃ嬉しかった!みんなと一緒にいれて、大好きな歌も歌えて、心ん中がルンルンでピカピカで!ふわぁって風が吹いたみたいで!それから・・・・・ううん、何もなん。プレゼントありがとう。今日の思い出は一生の宝物」

「喜んでくれて、僕も嬉しいよ」

「いつもありがとう、カレン」

 

微笑んで返すと、フレイアのルンが更に光る。

 

「ね、ねぇ、カレン・・・・・」

「ん?」

「・・・・・・・・・・だ」

「だ?」

「・・・・・大好き」

「えーーー?」

 

聞き返す前に頬に柔らかい感触が訪れた。しばし放心状態だったが、フレイアの顔を見るなり状況がだんだん分かるようになってきた。

 

「え、あ・・・・!さっき・・・・・!」

「いひひひ!みんなには内緒だかんね?」

 

そう言って照れくさそうに笑い、また雪で遊び始めた。

 

「キス、された・・・・・?」

「カレンく〜ん?」

 

ビクッと肩で盛大に反応すると、まるで軋む音が聞こえるほどぎこちなく振り向く。

 

「さっきフレイアにな〜にされたのかな〜?」

 

笑顔を浮かべてはいるが、ものすごく怖いカナメがそこにいた。

 

「ジーーー」

「ちょっと、お話しようか〜」

 

マキナもカナメ同様の表情、レイナは冷たい目でガン見してくる。美雲に関しては、目が前髪で隠れて全くわからない。いや、一つだけわかっている、彼女達は何故か怒っているということに。

 

「あ、あの、皆さんなんで怒っているんです、か・・・・・?」

「鈍感さも行き過ぎれば罪にしかならないんだよ〜?」

「あ、あの・・・・!何を・・・・・!」

「ちょっとお話、しよっか」

 

花蓮の叫び声が夜空に響き渡り、聴取され終わった花蓮の顔はゲッソリしていたことは、ここだけの話。




これが主人公補正なのか…


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Mission30 拡散 オンステージ

ツンデレボーグかわいい(笑)


「我がウィンダミア王国は、風の歌によるヴァールのマインドコントロールに成功。遺跡の封印を解き、制風圏を確立した。独立戦争から既に七年、その間グラミア陛下の風は弱まり、ルンは尽きてしまわれた。我らには地球人程の時間はない。地球人や他の人類種はなぜ、永く生きることが可能なのか・・・・・肉体も弱く、ルンすら持たない彼らがなぜ・・・・・?我らの命はあまりに短い。今戦場に出ている者達のルンも、近い将来尽きる事だろう・・・・・。この宿命に打ち勝つためにも、プロトカルチャーの解明を急がねばなるまい。そして・・・・全銀河に大いなる風の歌を。そのためにはまず・・・・〈星の歌い手〉と〈星の導き手〉の双方の力が必須となる。〈星の歌い手〉と思しき人物は粗方目星は付いている。だが、〈星の導き手〉に関しては全く情報が掴めていないのが現状。プロトカルチャーの解明と〈星の導き手〉捜索の両方を同時に進めていかなければなるまい。ーーーーー以上」

 

電子パネルを打つ手を休め、ロイドはメガネを取り背もたれに体を預けた。

 

「あと一歩・・・・・・あと一歩で、この宿命に打ち勝つことが出来る・・・・・・」

 

自室にはロイドの声が虚しく響くだけだった。

今日のウィンダミアの空は、ただシンシンと雪が降っていた。

 

ーーーーーーーー

 

「ヴォルドールに潜入?」

 

ブリーフィングルームにはΔ小隊と《ワルキューレ》のメンバーが集まっていた。花蓮は定期検診のため席を外している。風の歌がいつどこで響くか分からない現状、いつ触発され〈星の導き手〉が顔を出すか分からない。そのための検査は定期的に行えとのレディMからの命令を受けたのだ。

 

「ああ、この巨大システムをどうにかしない限りウィンダミアに支配された状況を覆すことは出来ん」

 

映し出されたのはヴォルドールにある巨大システムだった。ハヤテとミラージュは顔を曇らせ、口を開いた。

 

「あの時・・・・・カレンは遺跡と共鳴してた。またああなる可能性はあるんじゃないのか?」

 

前回ヴォルドールに潜入した際、突如花蓮のフォールド値が急速増大、遺跡と共鳴した。

 

「〈星の導き手〉を宿しているからと言うなら納得はいきますが・・・・・負担になるはずです」

「ああ、だがあいつは絶対ついてくるだろうな」

 

「全く、困った部下を持ったもんだ」と頭をかいた。微妙な空気が室内を包み込む。

 

「作戦は?」

 

メッサーが口を開き、俯き加減だって皆の視線は再度ディスプレイへと向けられた。

 

「ヴォルドールに降下後、巨大システムに潜入。《ワルキューレ》の歌でシステムを起動させ、データを収集する」

「でも、どうしてヴォルドール?」

「協力者がいるのよ」

「ヴォルドールの新統合軍残存部隊が、解放のために活動をしている」

「私たちの歌で抗体得て、ごく少数だけど風の歌によるマインドコントロールに抵抗出来たそうよ。彼らからの情報によると駐留ウィンダミア軍は規模を縮小しつつあるの」

「他に戦力を回しているのだろう。急速に戦線が拡大した影響だな」

 

確かに全銀河を支配下に置いたウィンダミアは、人手が足りなくなるのは必然といえる。

 

「敵戦力が手薄になっている隙を狙って」

「でも方法は?一度潜入してるし、警戒も強化されてるんじゃ」

「ああ、一筋縄には行かないだろう。そこでだ」

 

アラドはニヤッと口角を持ち上げた。

 

ーーーーーーーー

 

アイランド船市街地にあるビル群のディスプレイが《ワルキューレ》のマークへと一変した。更にはその中からメンバーが現れ、衣装は神話に登場する女神、ワルキューレの姿を模していた。

 

『銀河ネットワークをご覧の皆さんへ!現在、球状星団はウィンダミアの支配下にあり私たち《ワルキューレ》は対ヴァール用ワクチンライブを行えない状態にあります!』

『でもこのまま何も出来ないのはしゃく!』

『だから私たちのライブを銀河中に配信することにしましたぁ!』

『人も国も銀河も超えて、人々に元気を届けたいんです!』

『これはウィンダミアの支配に決して屈しないという私たちの、意志!』

『『『『『女神の歌よ、銀河に響け!』』』』』

 

派手な演出により、会場のボルテージは急上昇。なるほど、行えないならネットワークはジャックして配信すればいいと。

 

「始まりましたね」

「お、カレンか。体の方は大丈夫か?」

「はい」

「この配信データにはレイナ特製の自律型ウイルスを仕込んでいる」

「ウイルス?」

 

ハヤテはアラドに聞き返し、詳しい説明を求めた。

 

「そう。そいつは球状星団内で銀河ネットワークに接続しているありとあらゆる通信デバイスに感染。指数関数的に増殖、侵食していく仕組みだ」

「敵の目を全部《ワルキューレ》で埋め尽くそうって理由っすね?」

「クラゲを隠すならクラゲの群れってやつだ」

「ドヤ顔で言われても、さほどピンと来ません・・・・・」

 

花蓮は苦笑いを返した。

 

「やりすぎじゃねぇの?」

「ちゃんとその分、サービスも用意してある」

「《ワルキューレ》のお色気要員って」

「マキナ・中島ぐらいしか思いつかないな」

 

メッサーはいつもの無表情で言った。その予想は見事的中したのだった。

応援、つまりこのライブ配信を見ている通信デバイスにマキナの色んな画像が届くという仕組みになっており、男に関しては効果は絶大である。さらにさらに他のメンバーのものすごく、いい感じだ!(ハヤテ風)の写真が見たい時は課金する必要があるわけだが、誰もかれも躊躇うことなく課金ボタンを連打しているらしい。ああ、男の性というものだろうか。

 

「うん、なんか闇が見えるな。カレン」

「ですね」

 

遠い目でハヤテと花蓮は明後日の方向を見た。

 

「潜入作戦を遂行すると同時に映像コンテンツの販売も出来るって寸法だ」

「商売上手なことで」

「ここは使ってなんぼ、だろ?」

 

アラドは自分の頭をツンツンと指した。

 

「ウイルスの侵食状況は?」

「ネットワーク総量の32%、尚も上昇中!」

「へぇ、すげぇな」

「今度はレイナさんとマキナさんの歌ですか」

 

ーーーーーーーー

 

フレイアに自分の歌が変わったと言われ、しばし考え込んでいる美雲をカナメは見た。

 

『誕生日を祝ってもらった事がない?』

『誕生日だけじゃない。両親の顔も、どこで育ったのかも』

『え・・・・・?』

『私にあるのは、ただ歌いたいという気持ちだけ』

『美雲、あなた・・・・・・』

『過去なんてどうでもいい。今ここで歌えればそれで』

 

フレイアの誕生日の日に話した事を思い出し、自然と表情は曇ってしまう。

 

ーーーーーーーー

 

「準備はいいんかねっ!?」

『オーーー!!』

「んお、今度はフレイアか」

「キラキラしてますね、今日のフレイアさん」

「フレイアーーーー」

 

ハヤテはフレイアのルンが光る度に異常なまでに胸がドクンと脈打つ違和感に覚え始めた。

 

(なんだ・・・・これ・・・・・・)

「フレイア、ルンピカりすぎ」

「仕方ないよ〜、ハヤハヤとカレカレにあんなプレゼントされちゃったからね〜」

「すごいですね、ハヤテくん。ーーーーハヤテくん?」

 

そして曲もサビへと突入する。

 

「覚悟するんよ!」

 

ドクンーーーー

 

「ーーーー」

 

だんだんフレイアの声がズレていく感覚、曲が遠ざかっていく感覚、目の前がグニャリと歪む感覚、そして自分が空を飛んでいるかのような錯覚さえ覚えた。まるで、無限の空に落ちていくようなーーー、ガンッと後ろの柱にあたり、現実に引き戻された。

 

「おい、どうした?」

「いや、なんでも・・・・・」

「おいおい、まさかお前まで《ワルキューレ》の歌にやられちまったのか?」

「ちげぇよ」

(ハヤテくん・・・・?)

 

そして、ハヤテの変化にいち早く気づいたのは彼だった。

 

『ハヤテ・インメルマン、フレイア・ヴィオンの共鳴の兆候が始まっているのかもしれませんね』

 

しかし黒花蓮には一つだけ懸念がある。下手をしたら暴走するかもしれない。そんな予感さえしてくるのだった。

 

ーーーーーーーー

 

「ふう・・・・・・」

「ほい」

「うやぁ!」

 

会場の外で休んでいたフレイアの頬に冷たい何かが当てがわれ、変な声が出てしまった。見上げてみればペットボトルを持ったハヤテがいた。

 

「ハヤテ?どうしたんね」

「差し入れだ、お疲れさん」

「あ、あんがと」

 

頬を少し赤らめさせた彼女は普段より、色っぽく見えた。ルンも淡い光を放っている。

 

「どうしたね?」

「え!?あ、いや・・・・・」

「あ、そうだ!今日のあたしの歌どうやった?さっき美雲さんに変わったって言われたんよ」

「ああ、だよな!」

「え?」

「お前の歌ってさ、今まではフワッときてグォンと来て、シュバーって感じだったんだけど。今日は本物の空を飛んでるみたいでさ、熱くなってマジぶっ飛んだ!最高にゴリゴリだったぜ!」

「そ、そうかね・・・・・?」

(あれ?どうして・・・・・?あたしはカレンの事が好きなのに、どうしてさっきドキンってなったの・・・・・?)

 

二人の男の間で揺れる心にフレイアは戸惑い始めていたーーー

 

ーーーーーーーー

 

ウィンダミアの戦艦ではーー

 

「おい、何をしている」

「うわぁ!?」

「ボ、ボーグ様!?」

 

目に入ったのは端末のエアディスプレイに映った《ワルキューレ》だった。

 

「貴様らぁ!」

「ち、違うんです!」

「これは敵の研究材料でして・・・・・!」

「何が研究材料だ、敵のプロパガンダだぞ!」

 

端末を取り上げたと同時に、レイナの体全体の映像へと変わった。

 

「うわぁ!?」

『ぶっ飛びのきみが住んでる♪』

 

最後に指を指され、ルンと頬を更に赤く染めた。

 

「うわぁ!ど、どうやったら消えるんだ!?」

 

消そうにも課金ボタンを連打している時点で消えるわけが無い。結果、782コインも課金してしまった。そして、沢山の球体に目と口と羽がついたものが飛び出て、一際大きな物が突如、声を発した。

 

『クズ、ゴミ』

「へーーー?」

『私は安くない女、この程度ではなにも見せてあげない』

 

そう言い残し霧散した。またもや素っ頓狂みたいな声を発し驚いたボーグは、

 

「・・・・!!おのれ《ワルキューレ》ぇぇぇ!!!」

 

吠えたのであった。

 

そして徐々に侵食率が上昇し、遂に到達した。

 

「侵食率100%!」

「球状星団内に大規模の通信障害を確認!作戦成功です!」

「よし!〈アイテール〉発進!」

「了解!」

 

ゴウン、と音を立てエリシオンと離艦した。

 

ーーーーーーーー

 

ハヤテは〈アイテール〉の廊下を歩いていると曲がり角である人物と鉢合わせした。

 

「ん?」

 

あちらもこちらに気づいたらしく、目線を下げ口を開いた。

 

「出撃するのか?」

「あ、はい!怪我、もういいんですか?」

「ああ」

「そうですか。そうだ!いつか親父のこでもーーー」

「今すぐここを去るんだ!」

「えーーー?」

 

突如、声を荒らげて言われた。

 

「君はまだ若い。わざわざ苦しみを背負う必要はないんだ」

「な、なんのことですか?」

「君はウィンダミアと関わってはいけない!」

「どうして、ウィンダミアの話がーーー」

 

それには何も答えず踵を返して帰っていった。

急いでブリーフィングルームへと向かい、自動ドアが開く。中には花蓮を除いて既に皆集まっていた。

 

「遅いぞ、何をしてーー」

「どういうことだよ!俺がウィンダミアと関わっちゃいけないってどういう事なんだよ!」

「っ!」

 

辺りがざわめき出す。

 

「アンタとキノ少佐はウィンダミアに居たんだな!」

「え?」

「聞いたのか?」

「親父が一体何だってんだよ!」

「ーーーみんな」

 

カナメが出るように促すのをアラドは制した。

 

「構いません、いずれ知ることです」

「そう、隠し通すことは出来ません」

 

声がした方を振り向けば、ドアの所には花蓮が立っていた。髪は黒く染まり、瞳は闇を携えた黒眼。

 

「〈星の導き手〉・・・・・・!」

 

メッサーとミラージュは携帯していた銃を黒花蓮へと向ける。

 

「手荒な歓迎ですね、今日は話をしに出てきたんです」

「親父のことをお前は知ってんのか?」

「もちろん。ウィンダミアに次元爆弾を落としたのはハヤテ・インメルマン、君の父親、ライト・インメルマンです」

「なっ・・・・・・!」

 

アラド以外の面々の顔が驚愕に目を向ける。とりわけフレイアは目を向いていた。

 

「あれは確か七年前でしたか、ウィンダミアの独立戦争末期でした。新統合軍第77航空団所属、ライト・インメルマン少佐は、秘密裏にウィンダミア独立派と内通。軍が密かに持っていた次元兵器を強奪、新統合軍を駐留基地ごと壊滅させました。多数のウィンダミア市民諸共巻き込んでね」

「そんな・・・・・・・」

 

フレイアを見れば、信じられないような顔でハヤテを見ていた。

 

「どうしますか?フレイア・ヴィオン。あなたの故郷を怪我した罪人の息子が目の前にいますよ?仇、取ってあげてもいいですが」

 

一瞬のうちにハヤテの頭に後ろから拳銃を突きつけた。

 

「妙な動きをしたら彼の脳天を撃ち抜きます」

「っ!」

「メッサー、ミラージュ」

 

アラドの促しで、二人は銃を下ろす。

 

「下等生物にしては賢明な判断です」

 

そう言って黒花蓮も銃を下ろした。

 

「今すぐウィンダミアに行きましょう、アラド・メルダース少佐」

「何だと?」

「知りたいんでしょう?“真実”を。〈星の導き手〉のこともウィンダミアに行けば分かります。もちろんライト・インメルマンのことも」

「どういうことだよ!」

「ハヤテ・インメルマン、ウィンダミアに行くんです。君が求める“真実”はそこにある」

「ーーーー」

「ではヴォルドールでの潜入作戦、頑張ってください。花蓮を早く、ウィンダミアに連れて行って下さいね」

 

怪しい笑みを浮かべた黒花蓮をアラドは無言で睨んだ。



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Mission31 感覚 エマージェンス

ヴォルドールへ潜入、システムの調査のはずが事態は思わぬ方向へーーー


ヴォルドールに潜入し、数時間が経つ。灰色に覆われた空から雨が仕切りなしに降り注ぎ、地面はぬかるみを増す一方。

 

「嫌な雨だ」

 

スコープから顔を離し、アラドはボヤいた。

 

「巨大システムのメインシャフトが惑星の(コア)に干渉。地殻への影響で気象変動が発生」

『システム出現による、地形の変化は?』

「5.28%。誤差範囲内」

 

木の根元にフォールド探査装置を取り付けた。

 

「前に潜入した時の地図が使えるね」

「迷子にならずに済むな」

 

耳につけている通信機で作戦内容が知らされる。

 

『巨大システム中枢に到着後、《ワルキューレ》は戦術ライブを開始。敵さんの警備体制は掌握済みだが、くれぐれも油断はするな。各自の健闘を祈る』

「了解」

 

そう返し、通信機の電源を切った。今回もグループに別れての行動だ。アラド、メッサー、カナメで一グループ。マキナ、レイナ、チャックで一グループ。美雲、ミラージュと花蓮、ハヤテ、フレイアのグループ別けで、グループ事にシステムの中枢を目指すということらしい。このほうが、敵に見つかりにくいということも含まれているのだろう。

 

「頼りにしてるわね、メッサーくん」

「はい」

『Δ小隊、応答せよ』

 

アラドの端末に通信が入った。

 

「どうした、ララサーバル大尉」

『ウィンダミアのデフォールドを確認した』

「まさか、見つかったのか?」

 

ハヤテの顔が曇り始めた。

 

『とにかく、さっさと終わらせてズラかるぞ』

『ウーラ・サー』

『了解』

 

端末を切り、花蓮は二人を向いた。

 

「先を急ぎましょう」

 

半歩後ろを二人はついて歩いた。

 

ーーーーーーーー

 

「空中騎士団の任務は、プロトカルチャーの防衛だ。キース、テオ、ザオは衛星軌道上で警戒を。ヘルマン、カシム、ボーグは地上で待機。システムの反応が確認次第、観測班と共に衛星軌道上に撤収せよ」

 

ロイドが喋り終わると同時にカシムは撤収する意味を問いだした。

 

「撤収?どういうことです?ヴォルドールで何を」

「心配するな、万が一に備えてだ」

「この実験の詳細をハインツ様はご承知なのだろうな?」

 

キースはあの時の出来事以来、ロイドにはある不信感を抱いていた。

 

「陛下は私に全権を一任されている」

 

グラミアの遺言といい、実際にはロイドしか聞いていないため真実か嘘かはロイドにしかわからない。だが、あの日ルンから何も感じ取れなかったこともあり、しばらく様子見ということで、「そうか」と言い、作戦の内容説明は終わった。

 

ーーーーーーーー

 

やはりと言うべきか、遺跡の周りはマインドコントロールされた兵士達が巡回していた。その隙を狙い、まずはミラージュ、美雲ペアが潜入に成功した。爪型のマイクロプロジェクターを起動し、報告する。

 

「こちらデルタ4、潜入に成功」

 

すると、目の前にはあの美雲がいた。いつも単独行動しているはずの彼女が今回は一緒にいたのだ。こちらの視線に気づいたのか、髪をかきあげ美しい赤い瞳をミラージュに向けた。

 

「なに?」

「い、いえ。いつもなら美雲さん、すぐにいなくなっていたので・・・・・」

「ーーそうね」

 

やはり、最近の彼女は変わったと思う。

空から三機の〈ドラケンⅢ〉が降下し、ガウォークに変形。早速、観測班が作業に取りかかり、三人は壁に寄りかかっていた。

 

「ーーーー何なんだよ、さっきからその顔は!」

 

しびれを切らしたボーグは先程から浮かない顔をしているカシムに食らいついた。

 

「お前はこの作戦に納得しているのか?得体のしれんシステムの起動実験を、有住惑星で行うなど」

「戦略上必要な事なんだろ」

「俺には不吉な風しか感じられん」

「お前、陛下やロイド様が信じられないと言うのか?」

「そうではない。だが・・・・・」

「多少の犠牲は止むを得ん。今は戦争中なんだ」

「・・・・・・・」

 

それでもカシムには納得出来なかった。有住惑星で実験など、危険すぎる。

 

「陛下の命に従えない者など、最早騎士ではない。とっとと翼を折り、ご自慢の林檎畑に帰るがいい」

「・・・・・・」

 

何も言わずにその場をカシムは立ち去る。

 

「・・・・・フン」

 

その光景を見てヘルマンは静かにため息をついた。

 

ーーーーーーーー

 

大きな木の根を軽く飛び越え、花蓮が先に道の安全を確認し、後からハヤテ、フレイアと続く。ぬかるんでいるせいで地盤が脆くなり最悪土砂崩れに巻きこれるかも知れないという理由で、先に行くことを花蓮が買って出たのだ。ハヤテも木の根を飛び越え、フレイアに手を差し出す。

 

「あ、あんがと」

「お、おう」

 

先程からこの調子である。薄々花蓮も気づいており、ああいう女の子では一人で通ることが難しい道になると、どうも気まづい雰囲気になる。なるべくそうならない為にもフレイアでも通れる道を選んではいるのだが、近道が必要な場合はこうなってしまう。何とか空気を変えようと二人に話を振ってみてはしたものの、心ここにあらずという感じだ。内心、居づらいのが本心である。

 

(き、気まづい・・・・何だろう、この空気・・・・・)

 

いつも明るいハヤテとフレイアが珍しく必要最低限の会話しかしないのだ。何かあったのだろうが、率直に聞くのも何だか気が引ける。かといってこの空気に耐えられるほど自分は強くはない。

 

(先を急ごうにもこの雨だし、足を滑らせて落ちたりでもしたら危険だし・・・・・はぁ、どうしたらいいんだ)

 

三人はまた歩き出した。

 

ーーーーーーーー

 

「ここまでは順調ですね」

「レイナのハッキングのお陰です」

「隊長、自分は様子を見てきます」

「あ、ああ」

 

そう言ってライトを片手にメッサーは先へと続く道に消えていった。

 

「隊長」

「どうしました?」

「・・・・・どうしてあの二人を組ませたんですか?」

 

あの二人というのはハヤテとフレイアの事だろうと大方予想はついた。

 

「あのまま、という訳にもいきませんからね。フレイアの歌も、ハヤテの力も我々には必要です。二人には乗り越えていってもらわなければ」

「知りませんでした・・・・・・ハヤテくんのお父さんがあんな事を・・・・・。隊長はハヤテくんのお父さんと親しかったんですか?」

「まあ、私の上官でしたから」

「全て知ってて、ハヤテくんをΔ小隊に?」

「いつか話そうとは思っていたんですがね」

 

アラドは下を向きながら答えた。

 

「ハヤテくんのプロフィールを見た時、お父さんは新統合軍の軍人で戦死したとしか・・・・」

「デカい組織になれば、隠したい秘密も山ほどあります」

「隊長も・・・・・ですか?」

「ハゴロモクラゲにも三本の隠し針と言いますから。ま、そういう事です」

 

ーーーーーーーー

 

現在花蓮組はやっとシステムの近くまでは来たが、場所が悪く巡回兵が四人ほどいた。

 

「こっちはダメか・・・・・。別のルートを探して来ます、お二人は待っていて下さい」

 

しゃがんでいた姿勢から立ち上がり、来た道を走りだした。その姿は、霧のせいかすぐに見えなくなってしまった。

 

「この匂い・・・・・」

「リンゴか?」

 

ハヤテとフレイアはリンゴの匂いがする方へと歩き出した。

 

「騎士ではない、か・・・・・・ここではいい林檎は育たんな」

 

雨が降るヴォルドールの空を見上げ、カシムは呟いた。すると、突如茂みの中から小枝を踏む音を聞き、すぐに身構えた。

 

「やっぱり、リンゴだ」

「一体誰が・・・・・」

 

前に出ようとした瞬間、背後から二人は口を抑えられ連れていかれる。

 

「は、離して!」

「こいつ・・・・!」

 

椅子の様なものに投げ捨てるように座らされた。

 

「何しやがーーー! って、アンタは・・・・・」

「お前ら・・・・・」

「何する気ね!」

「・・・・・何もせん。お前らが何もしなければな」

「え?」

「今の俺は、騎士ではないのでな」

 

横を見れば、空中騎士団の制服が脱ぎ捨てられていた。

 

「えっと、確か林檎農家の・・・・・」

「エクスデール村のカシムだ」

「あぁ〜!山向こうの!」

「なにっ!?」

「あたし、レーヴングラス村!」

「レーヴングラス・・・・ほな、グフタス爺さんを知っとるんか!」

「知っとるも何も、うちの村長さんね」

 

ハヤテは全く話についていけず、カシムとフレイアの顔を交互に見ながら聞いていた。

 

「は〜、あいつの作った林檎はぶっちゃゴリうまでな〜。品評会では何べんも負かされたもんよ」

(ぶっちゃとかゴリゴリってほんとに方言だったのか・・・・・)

 

改めて知ったハヤテであった。

そして二人はどっちからともなく笑いだし、ハヤテはビクついた。

 

(さっきの話に面白い要素あったか!?)

「食え」

 

差し出された焼き林檎を貰い、ハヤテは食べながら二人のウィンダミア話を聞いた。

 

「遅くなりました、あちらに別の道があったので行きーーーーあれ?」

 

忽然と消えた二人に花蓮は動揺した。ハヤテも付いているので安心はしていたが、まさかーーーとそんな嫌な予感がしてくる。すぐにアラドに連絡しようとしたが、下には二人の足跡らしきもの。それがずっと続いている。それの後を追うように行けば、だんだん林檎を焼いたようないい香りがしてきた。

 

(林檎?一体誰が・・・・・)

 

耳をすませば男女の声が聞こえる。

 

「うひゃあ!」

「うおおお!わしと結婚してくれんとルンをぶっこ抜いて死んじゃるけんねー!って泣いて叫んだらしいわ!」

「その男、ダメじゃねぇか」

「そんなダメ男、エリカさんに逃げられて当然ーーー」

「フレイアさん!ハヤテくん!」

 

突如、荒く息を切らした花蓮がやって来た。

 

「無事でーーー あなたは・・・・・」

「やはり、お前も来ていたのか」

 

よく見ると二人には全く危害は加えられてはいないみたいだ。

 

「まあ、座れ」

「で、ですが、あなたは空中騎士団では・・・・・」

「今は騎士ではない、座れ」

 

傍には空中騎士団の制服が置いてあり、それを脱いでいるうちは何もしないと言うことだろうか。大人しく出された椅子に腰をかけた。

 

「システムの破壊に来たか。それがお前の出した答えなんだな?」

 

フレイアは下を見るように俯いた。

 

「だが、本当にそれでいいのか?お前の隣にいるのは地球の民なんだぞ?ウィンダミア人はウィンダミアの風から離れては生きてはいけん。辛くなるだけだ」

 

ここで言っているのは寿命の事だろう。例え地球人と愛し合っても先に死んでしまうのはウィンダミア人。死んだ後残されたその人は一生悲しみ続けるかもしれない。だから、ウィンダミア人はウィンダミアから離れては生きてはいけないと言ったのだろう。同じウィンダミア人となら、少しばかり後に残った人の悲しみも和らぐ。

 

「何勝手に決めてんだよ・・・・!」

「地球の民よ、歳はいくつだ」

「・・・・・17」

「17か・・・・俺に息子が出来た歳だ」

 

懐から一枚の写真を取って見せた。カシムと同じ緑色の髪に、幼さが残る笑顔。空中騎士団の敬礼をしている動きを繰り返していた。

 

「息子だ。六つになる」

「息子・・・・・・」

「六つの頃、初めて親父から俺だけの林檎の苗木を貰った。苦労して育て六年後、そいつは最初の実をつけた。あいつに苗木を渡しても、実が成る頃には俺はもういないかもしれん。それが、ウィンダミア人だ」

 

突きつけられた現状にハヤテは言葉を失った。

 

「国へ帰れ、フレイア。今なら俺が力にーー」

「帰らん!あたしには歌いたい歌があって、一緒に歌いたい人たちがおって、あたしの歌を聞いてほしい人たちがおる!」

 

そう言った瞬間、花蓮の頭に電流が走った。

 

「っーー この歌、美雲さん?」

 

立ち上がり、カシムを見る。

ハヤテにも連絡が来たのか、フレイアも一緒に立ち上がり、カシムも制服片手に端末の出撃アラートを消す。

 

「僕は何が正しいか分かりません。この戦いにも本当は意味は何のかもしれない。ですが、風の歌で罪のない人たちを操っている限り、あなた方の勝手を許すわけにはいきません」

「・・・・・」

 

カシムはただ聞いていた。

 

「あなた方に守りたいものがあるように、僕にも護りたい人たちがいる。そのためにこの戦争を終わらせるまで僕は戦い続けます。そこに確かなものが無くても、確証なんてなくても」

「そうか・・・・・行け」

「見逃してくれるんかね?」

 

フレイアは恐る恐る聞いた。

 

「俺にも何が正しいのかわからん。だがこの戦いを終わらせ、白き翼に戻るまでーーーいや、白い花咲く林檎畑に帰る日まで!俺は、翼の騎士だからな。さあ、行け!」

 

ハヤテとフレイアは走り出した。それに続くように花蓮も走り出した。すれ違いざまに、

 

「カシム・エーベルハルトだ」

「・・・・・ハヤテ・インメルマン」

「インメルマン・・・・・」

「カシムさん、あなたのような騎士と話せてよかった」

「お前・・・・・・」

 

敵である自分に感謝を述べるとはーーー

 

「空で会えば容赦はしません」

「もちろんだ」

 

そう言って花蓮も走っていった。

 

「白騎士・・・・・・」

 

中々面白いやつだ、と心の中で笑った。

 

ーーーーーーーー

 

「ふんふふんふふーん♪」

 

可愛らしい小鳥の囀りのような鼻歌が無機質な洞窟内に響き渡る。

 

『あら、随分ご機嫌ね』

「ご機嫌だよ〜!だってもう少しで会えるんだよ?」

『息子に?』

「うんうん!しかも歌い手ちゃんの歌も毎日聞けるし最高です!」

『華凛って年の割には案外可愛いのね』

「年の割って何よ!」

『あら、そのままの意味よ』

 

青い球体の中で目を開けている赤い長髪の可愛らしい女性は自身の中にいるある人物と会話していた。

 

『彼ら、中々に手こずっているようね』

「何だっけ、確か巨大システムの調査だっけ?」

『ええ、空中騎士団もいるみたいだし。〈風の歌い手〉に出てこられる前に手助けしてあげましょうか』

「そうだね!」

 

その言葉を皮切りに、女性の髪が紫色に変化し、瞳は美しい赤。先ほどの大きく丸い目とは反対に、色っぽく大人の魅力を感じさせる目つきになる。

 

「見せてあげるわ、〈星の歌い手〉の力を」

 

ーーーーーーーー

 

「はあ・・・・・!はあ・・・・・!」

(あの時と、同じだ・・・・・)

 

前にヴォルドールに潜入した時と同じ、巨大システムが《ワルキューレ》の歌に反応する度に自身の内にある〈星の導き手〉の力が暴走しそうになる。

白騎士をハヤテとメッサーが抑えているものの、機体の操作がおぼつかなっている。

そして、後ろから一機の〈ドラケンⅢ〉が追撃してくる。

 

「カシム・エーベルハルト・・・・・!」

「容赦はせんぞ、白騎士!」

『危ないみたいですね、花蓮』

 

まるで誘惑するかのように、弱った獲物を今か今かと待っていた。今度こそ、乗っ取られたら戻ってこれるかわからない。

 

「黙っていろ・・・・・!」

(言葉使いが荒くなっている・・・・?)

 

〈リル・ドラケン〉の攻撃を躱しながら、V.A.R.I.Sで反撃していく。

 

「ハヤテとフレイアのフォールド波同調!」

「来たか・・・・・!」

 

ラグナ防衛で破壊したVF-31Jを改修、更にメッサーのフライトデータを適合させ以前の機体よりも更に出力等向上している。青と白のカラーに更に黒のライン、機体の背面にはVF-31Jの横顔に翼がある。ハヤテ曰く、メッサーに追いつく為にもまずは形から、ということでメッサーの死神のパーソナルマークを元にしている。

 

「風が傾いている・・・!?」

 

ハヤテの共鳴による機体性能向上と、更にメッサーもオーバードライブ状態となった。

 

「仕留めるぞ、ハヤテ准尉!」

「おうよ!」

「くっ!」

 

金色の〈ドラケンⅢ〉も金色の光の尾を引きながら二機の相手をする。

 

「カシム・エーベルハルトッ!」

『まさか、自分の力を制御出来ていないのか?チッ、遺跡の影響か!』

 

コックピットを狙っていくスタイルへと変化していき完全に相手を殺すことのみに特化し始めている。

 

ーーーーーーーー

 

『シェリルの歌歌って!』

「この際何でもいいわ。どちらにせよここにいる以上、本気は出せないしね」

 

そう言って目を閉じ、静かに息を吸った。

 

「落ちろぉぉおお!!」

 

V.A.R.I.Sを連射し、カシムの機体を徐々に追い詰め始めた。

 

「風が・・・・傾き始めている、だと・・・・!?」

 

何とか躱すのでやっとだ。重力圏であんなに素早い動きが出来るのは何故だ、と額に汗を滲ませる。そして、射出されたスラッシュハーケンが〈ドラケンⅢ〉の両翼に刺さり、そこを支点にランスロットは前に移動しながら、ちょうど逆立ちになっている状態でスーパーV.A.R.I.Sをハドロンモードに変形。ターゲット・サークルが遂にコックピットを捉えた。

 

「死ねーーー!」

 

ボタンをクリックしようと力を込めた瞬間、ドクンーーと大きく脈打つ。

 

「ぁっ・・・・・!」

「誓いなさい その涙に 奇跡に取り憑かれてーーー」

 

どこからともなく歌が響きわたる。

 

「歌!?どこから・・・・・!」

 

カナメはフォールド波を検知したが、

 

「この歌と、カレンくんのフォールド波が激しく同調してる・・・・・・・」

「カナカナ!まさか・・・・・!」

 

マキナが上を見ると、空にはランスロットが身動きせずそこに居た。

 

「ぐっ・・・・!あああ!」

『この歌声、〈星の歌い手〉!花蓮の〈星の導き手〉の力が反応して暴走しそうになっているのか!』

「心に鼓動 求めなさい この命返すまでーーー」

 

「何だ、この歌は・・・・・!」

 

ロイドはかなり動揺していた。

 

「もの凄いフォールド波です・・・・・!ウィンダミアから発生しています・・・・!」

「バカな・・・・!陛下はまだご出座されていない・・・・!」

 

美雲の中に、何かが流れ込んでくる。手術台に仰向けになり、覗き込むように見る研究員らしき人たち。巨大システムの前で歌うーーー自分と瓜二つの女性。

 

「ルダンジャール・ロム・マヤン・・・・・」

 

母、さんーーーーーー

 

そして、箍が外れた。自分が何かに縛り付けていたものがなくなる感覚。溢れ出した泉の如く、何かが押し寄せる。

 

「ーーーーあと一秒 生きるために」

「美雲!?」

「魂の背中押せーーー」

「うあああぁぁぁぁああぁぁああ!!!」

 

花蓮の慟哭が空に響いた。

 

「カレン・・・・・!」

 

美雲は虚ろな目になり、歌うことを止めない。先程聞こえてきた歌に合わせて歌い出した。まるで、拍車をかけるように。

 

『覚醒、した・・・・花蓮の〈導き手〉の力が・・・・』

 

黒花蓮は目を剥いた。

 

『〈星の導き手〉の擬似覚醒を確認。SiN・オーバードライブ発動』

 

機械音声がコックピット内に響き渡る。エナジーウィングが形状維持していたのが、突如巨大な翼へと変化する。虹色に輝く翼は遺跡一体を包み込み、その場にいるΔ小隊、《ワルキューレ》、空中騎士団を飲み込んだ。それでも美雲は歌うことを止めない。

粒子の奔流は止まらず、辺りの近いさえも抉りとり、宙へと漂わせる。

 

「ダメ・・・このままじゃ!」

「間に合うといいなーーー」

 

そこで美雲は線が切れたかのように倒れ込んだ。遺跡を包んでいたランスロットの光の翼は巨大システムを破壊していき、徐々に規模を縮めていく。巨大な爆発音が鳴り響き、巨大システムは破壊。ランスロットは光の翼を元のエナジーウィングに変え、双眸の発光が消えそれと同時にエナジーウィングも消失。ランスロットは重力に従うように落下。予定とは大きく逸れたが、システムの破壊に成功。

 

意識不明者 エノモト・カレン 美雲・ギンヌメール

 

作戦終了後も、二人の意識は戻っていないーーー



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Mission32 Eternal Songs

ワルキューレがとまらねぇぜぇ!(テンションおかしい)


「突如聞こえてきた謎の歌と、美雲とカレンの共鳴による時空を歪める程の生体フォールド波により、ヴォルドールの巨大システムとプロトカルチャー遺跡は破壊されウィンダミアも撤退。マインドコントロール下にあった市民と軍人たちも解放された。あれから二日経ったが謎の歌が聞こえてきたという報告はない。代償は大きかったが、ブリージンガルを包んでいたフィールドの一部を崩すことが出来た」

「やはり、プロトカルチャーシステムの攻略が球状星団奪還の鍵ってわけか」

「ーーーー美雲とカレンの容態は?」

「意識不明のままです、カレンくんに関しては集中治療に入っています。脳へのダメージが認められたためしばらくは目を覚まさないかと・・・・・」

「美雲さんの方は?本部から派遣された医療チームからは何も?」

「ええ、美雲を医療船に隔離したまま何の報告もありません」

「レディMからは?」

「いや、美雲に関しては依然沈黙を守り続けている。それよりも、カレンの回復の方へと力を入れろとの事だ」

「・・・・・・・」

ーーーーーーーー

 

薄暗い一室の隔てりの向こうからミラージュは室内を見ていた。部屋の中央にはカプセルがあり、その中に酸素マスクを取り付けられ、治療服の花蓮が静かに横たわっていた。心電図の音が一定の間隔を保ちながら音を鳴らしている。

 

「カレン・・・・・」

「ここにいたのか」

 

声がする方を見れば、ハヤテとフレイアがこちらに向かっていた。

 

「どうかね、カレンは」

「微動だにしません。ずっと、眠ったままです」

「改めて考えると、パイロットの俺たちってこういう時は何も出来ないんだな・・・・・」

「待ってやることはできる」

「・・・・・・メッサー」

 

端末を片手に持ったメッサーが目線を合わせず言った。

 

「俺たちに出来るのは待つことだけだ、カレン少尉の復帰を」

「はい・・・・・・」

 

再度病室を見る。閉じた目を一向に開かない花蓮を寂しそうな顔で見ている自分の顔が隔たりのガラス張りに映った。

 

「《ワルキューレ》とΔ小隊の方ですか?」

「?」

 

通路の奥から壮年の男性の声が響く。

 

「どなたですか?このエリアは関係者以外立ち入り禁止でーー」

「弾薬と資材の納入に参った者です。いやはや迷ってしまいまして」

「ーーーご案内します」

 

ミラージュは一瞬考え、付いてくるよう促した。

 

「恐れ入ります・・・・ところで、美雲・ギンヌメールさんの意識はお戻りになられたのですか?」

「え・・・?」

「っー、何故それを・・・・!」

「おっと、この事は極秘事項でしたね」

「あなた一体・・・・!」

「見ていたのですよ。あの時・・・・・暴走のヴォルドールで」

 

ーーーーーーーー

 

「イプシロン財団ブリージンガル方面統括、ベルガー・ストーンと申します」

「イプシロン財団、銀河中に数千の企業を傘下に持っているという・・・・食料品から軍事産業まで随分手広くやっている様だな」

「はい、ウィンダミア王国もお得意様と一つで」

 

ブリーフィングルームにウィンダミア王国の国旗のマークが浮かび上がる。

 

「それでヴォルドールに?Sv-262もアンタたちが調達したってわけか」

「統合戦争当時、最初の可変戦闘機を開発したチームの流れを汲む技術者たちが傘下におりまして。お蔭さまで良い物が出来たと自負しております。ちなみに、Svというのは〈スレイヤーバルキリー〉という意味を持っていまして、可変戦闘機(バルキリー)を殺すための可変戦闘機(バルキリー)というのがコンセプトでございます」

「アンタ、ウィンダミアのスパイじゃないだろうな」

 

ハヤテは睨みながらベルガーに言った。

 

「ウィンダミア王国は大事なお客様ではありますが、あくまでビジネス。事実、ご注文を頂きましてこちらにも・・・・」

「ウチが使っている業者がアンタたちの傘下だったとはなぁ」

「で、そのあなたがなぜ美雲の心配をするのですか?」

「ファンって訳じゃなさそうだよね」

「ストーカー」

 

カナメ、マキナ、レイナも口調が強くなる。

 

「個人的に興味があるのです。戦術音楽ユニット《ワルキューレ》・・・・・ケイオスは本当に見事な商品(・・)をお作りになられた」

 

ベルガーの口元がゆっくりと弧を描く。

 

「商品だと?」

 

沈黙を貫いていたメッサーが、聞き捨てならなかったのか口を開いた。

 

「先日のヴォルドールでの戦い、美雲・ギンヌメールさんの歌が白騎士のパイロットに干渉、破壊。フレイア・ヴィオンさんの歌が〈ジークフリード〉のパイロットと共鳴。私はあの現象を垣間見、自身の仮説に確証を持てました」

「美雲さんとカレンに何が起こったのか分かるのですか?」

「推測は出来ます」

「で、あなたの考えと言うのは?」

 

ベルガーはキセルを操作し、ブリーフィングルームの映像を宇宙へと変えた。

 

「私はずっと考えていたのですよ・・・・・歌とは究極の「兵器」ではないかと」

 

ーーーーーーーー

 

もう少しーーーーもう少しであなたに会えるーーーー

(母、さんーーー)

早く来てね、私の所へーーーー

(うん、すぐ行くよーーーー)

 

カプセル内で横たわり、ピクリとも動かなかった指が一瞬、ピクッと動いた。

 

ーーーーーーーー

 

「西暦1999年、宇宙から地球にあるモノが落下しました」

「エイリアン・スター・シップ・・・・ASS-1」

「墜落したASS-1を調査した結果、地球人類は宇宙に自分たち以外に知的生命体が存在していることを知りました。人類はASS-1の技術(テクノロジー)を解析、修復すると共に自らも宇宙空間で戦闘可能な兵器を開発。そして西暦2009年、地球人類が初めて経験する異星人との接触。その結果、地球人類は滅びの道を辿るかと思われました」

 

そこで映像が変わり、第一次星間大戦の映像に変わる。

 

「しかし、あるモノが地球人類を守りました。それが、“歌”」

 

モニターにリン・ミンメイが映り、“愛は流れる”が流された。

 

「“歌”が、文化を持たず戦うことしか知らなかったゼントラーディたちの精神に強い衝撃・・・・“ヤック・デカルチャー”を与えたのです」

「ミンメイ・アタック・・・・」

 

アラドが静かに言った。

 

「ミンメイって、あのリン・ミンメイ?」

「そんな話、誰でも知っています」

「銀河ネットワークでも度々ドラマにもなったしね」

「リン・ミンメイ物語、全話録画済み」

「それが、カレンたちと何の関係があるってんだよ」

「まあまあ、そう焦らずに。これは当時、単なるカルチャーショックと思われていました。しかし、本当にそうなのでしょうか?“歌”そのものに何か力があるのではないでしょうか?」

「力?」

「はい、その後も度々“歌”が重要な意味を持つ事件が起きています」

 

そこでまた映像が切り替わる。

 

「人工知能型バーチャルアイドル“シャロン・アップル”が自我に目覚め、その甘美な歌声で地球の首都、“マクロスシティ”の人々を洗脳、支配しようとした“シャロン・アップル事件”」

 

再び映像が切り替わり、“TRY AGAIN”が流れる。

 

「西暦2045年には、マクロス7を中心とした移民船団が人間の生体エネルギー、「スピリチュア」を吸収する謎の生命体の襲撃を受けました。この時、“歌”を利用した特殊ユニット“サウンドフォース”が編成され、これに対抗」

「ーーーファイアーボンバー」

 

ミラージュが口を開いた。

 

「ああそうでしたね。確かあなたの祖父母はマクロス7の艦長と市長、そして叔母様はサウンドフォース“ファイアーボンバー”のメンバーでしたね。ミラージュ・ファリーナ・ジーナス少尉。ーーーーーそして八年前、バジュラ戦役」

 

そこでまた映像が変わる。《銀河の妖精》シェリル・ノーム、《超時空シンデレラ》ランカ・リー。そして、YF-29、愛称(ペットネーム)〈デュランダル〉。

 

「皆さんご存知の通り、バジュラとはフォールド細菌を体内に宿し共生することで無数の個体が超空間ネットワークを形成する集合生命体。西暦2059年、実に今から八年前にこのバジュラと長距離移民船団、マクロスフロンティア船団が遭遇、交戦状態に入りました。ですが、同じフォールド細菌を体内に宿す者達の歌に反応することが分かり、コンタクトに成功しました。人類が高度な知的生命体であり敵ではないと理解したバジュラは、争いを避け別次元の宇宙へと旅立って行きました。そして、この戦役で活躍したのが有名な名門歌舞伎の女形であるーー」

「早乙女アルト」

 

メッサーが言った。メッサーとて知らないわけがない。あのバジュラ戦役を終結に導いた英雄、卓越した操縦技術。もし会うことがあれば色々と教わりたいと思っていたのだ。

 

「バジュラが我々の時空を去った時、その腸内に共生していたフォールド細菌の一部が銀河系内に残り、自らフォールドし新たな宿主に寄生しました。その寄生先こそが人間、今度は腸内だけに留まらず一部は細胞核内に住み着きました。そしてそれがーーー」

「ヴァール症候群(シンドローム)の始まり・・・・・・」

 

カナメが深刻な顔で喋った。

 

「流石にケイオスでもその情報は掴んでいましたか」

 

その言葉を皮切りに映像は消え、元の空が映し出される。

 

「ヴァール症候群(シンドローム)とバジュラって関係があったの?」

「まだ仮説の段階ってことで、指揮官クラスにしか啓示されてないけどね」

「情報差別」

「フォールド細菌は人間の感情に反応し、テレパシーの様に放出。寄生された人間は感情や思考が制御出来ず、凶暴化してしまうと考えられます。また、このフォールド細菌に免疫を持つ者達も同時に生まれてきました。それがあなた方、《ワルキューレ》の皆さん。フォールド受容体(レセプター)の保有者という事です」

 

その場の空気に緊張が走る。

 

「統合政府は公表していませんが、フォールド受容体(レセプター)を持つ者たちが増えています。だが、その力が高い者と低い者がいるようです。受容体(レセプター)所有者が生体フォールド波を発生させる条件、それは生命反応が強く活性化していること。つまりは、命懸けの状態」

「っーーー」

「命の危機に瀕し、その精神が高まるとフォールド波は特に高まる。様々な実験の結果、今のところ命懸けで歌うことが一番効果的であると。皆さんの歌はフォールド細菌と受容体(レセプター)による後天的に与えられたもの。ハインツ陛下の〈風の歌〉とは根本的に違うのです」

 

そしてベルガーはフレイアを見た。

 

「そしてフレイア・ヴィオンさん・・・・・いや、ウィンダミア人のルンには微量ですが生体フォールドクォーツと受容体(レセプター)を宿していることがわかりました。そして、ハインツ陛下は伝説の〈星の歌い手〉の末裔。人類の究極の姿、それがウィンダミア人なのかも知れませんーーーー。しかし、なぜ“歌”なのでしょう?それがプロトカルチャーの仕組んだ事だと私は考えているのです」

「それじゃあ、歌を歌うこと自体が遺伝子的に組み込まれていると・・・・そう、言いたいんですか!」

 

ミラージュは怒声を上げた。

 

「いえいえ、あくまで仮説です。ところで、皆さんはなぜウィンダミア人が短命な種族だと考えたことはありますか?」

 

ベルガーはキセルを口に含み、煙を吐き出した。

 

「ウィンダミア人は高い身体能力を維持するために地球人の倍の速さで細胞分裂が絶え間なく行われているため、テロメアの消費が著しく早いのです。特に〈風の歌い手〉など強力な生体フォールド波を発するウィンダミア人は更に倍の負荷が身体を襲い、常人のウィンダミア人よりも何倍も細胞分裂が行われるため更に短命だと私は考えているのです。しかし、〈星の歌い手〉や、かの伝説である〈星の導き手〉は強力な生体フォールド波を発していながら体内に特殊な因子を宿していることで細胞分裂の速度を抑制、テロメアの消費を抑える働きをしており地球人と同じ、もしくはそれ以上の時間を生きることが可能だとわかりました」

 

そして歩みを止め、来た道を戻る。

 

「それでは、その因子をウィンダミア人が摂取すれば短命という因縁から抜け出せることが出来るのでは・・・・・?その疑問を解決すべく、プロトカルチャーは実験を行いました」

「ま、まさか・・・・・!」

「はい、ウィンダミア人にその特殊な因子を埋め込んだのです。しかし、その特殊な因子と宿主に宿っていたフォールド細菌が反発しあい、埋め込まれたウィンダミア人は精神が崩壊し始めたのです。このことからどう足掻いても短命という因果から抜け出すことは出来ないと、プロトカルチャーは諦めウィンダミア人は今に至るのです」

「非人道的!」

「レイレイの言う通りだよ!」

「そして、〈星の歌い手〉と〈星の導き手〉は宿主を変えながら今で生き延びて来た。宿主の寿命が近くなれば次の宿主へと移動し、更にその宿主の寿命が近くなればまた次のーー、という様に。そして、宿主になった人物は皆、特殊な因子の影響で自我崩壊、精神異常など様々な症状を引き起こしているのです。が、もし、この時代に生きているのだとしたらとっくに死んでいるか、あるいはその特殊な因子と適合し精神や自我が豹変していない宿主がいるかも知れませんね」

「貴様、まさか!」

「やはり、あの病室で寝ている彼がその宿主でしたか」

「っ!」

 

この場にいる全員が身構えた。

 

「手を出してはいません。それに、こんな噂を聞いたことがあります」

 

ブリーフィングルーム一面が宇宙へと切り替わる。

 

「ケイオスのレディMという人物は第一次星間大戦の直後から“歌”の力を研究しているとかーーー。そのレディMが“歌”の力を最大限に引き出せる「最終兵器」と言えるモノの開発に着手しているとーーー」

「「最終兵器」・・・・」

「マジか・・・・」

「遺伝子操作の生体兵器ともアンドロイドという話を耳に聞きましたが・・・・」

「まさか、クモクモがそうだって・・・・・」

「噂ですよ、噂」

「美雲は私たちの仲間!」

「そうでしょうねぇ・・・・・だとしたら、なぜエノモト・カレン少尉と共鳴したのでしょうか?しかも、突如聞こえてきた謎の歌とも共鳴していた。もしあれが前述した〈星の歌い手〉だとしたら・・・・・その生体兵器というのはあながち間違いではありませんねぇ。〈星の導き手〉の宿主であるエノモト・カレン少尉と共鳴するのも頷けます」

「そんな・・・・・!」

「これ以上はーー!」

 

ピピピッ!

 

「おっと、商品の搬送が終了したそうです。そろそろお暇致しましょう」

「こ、このまま帰すんすか!?アイツ、ウィンダミア仲間ですよ!」

「落ち着け!」

「私はただの商人です。兵器や弾薬を取り扱う許可もちゃーんと取ってありますよ?統合政府に」

 

統合政府公認の許可証がディスプレイとして浮かび上がる。

 

「くっ・・・・・!」

「そういうことか。だが、今後ウチとの取り引きはなしと考えてもらおう」

「それは残念。気が変わりましたらいつでもご連絡下さい。それではまた」

 

そう言ってベルガーは部屋を出て行った。

 

ーーーーーーーー

 

ミラージュは病室を訪れていた。集中治療が終わり、経過観察に入った。

カプセルからベッドに移動し、未だ規則正しい息をして眠る少年の手を優しく握る。

 

「いつまで寝てるんですか・・・・・?早く起きて下さい・・・・・」

 

返答は無かった。

 

「美雲さんが、帰って来ないんです・・・・・大切な仲間が生体兵器とか、わけのわからない事を言われて・・・・・・」

 

自然と涙が零れていた。

 

「あなたなら、こんな時どうしますか・・・・・・?」

 

握っている手に自然と力が入る。いつの間にかその彼の手にすがるように泣いていた。

 

「助けて・・・・・カレン・・・・・」

 

ピクッ

 

一瞬、ミラージュが握っていた手に反応があった。

 

美雲、さんーーーーーー

 

 

 

 

 

次回 Mission33 衝動 エクスペリメント



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Mission33 衝動 エクスペリメント

2018年にマクロスの新作発表でまずテンション上
35周年新作映像プロジェクトってワンチャン映画!?でテンション上

来年が楽しみっすね!今回はメッサーさんがイケメンになったと思います!
メッサーさんファン増えるといいな

医療船への侵入は次回です!



規則正しい寝息が耳に届くほど静かな病室。その主はベッドに頭だけを預けた状態で眠っていた。閉じた目の端から涙の雫が僅かながら残っていた。きっと泣き疲れたのだろう。このベッドの主である額に包帯を巻いた少年はゆっくり瞼を開けた。静かにベッドから降り、病院服から近くに畳んであった制服に着替え、もう一人眠っている少女に毛布をかけ、そっと病室を出た。

 

「どう?わかる?」

『僅かだけど、あの医療船から感じます』

「君でわかるってことはやっぱり美雲さんは・・・・・・」

『間違いありません。〈星の歌い手〉の細胞片から複製されたクローンです』

 

小窓から見える医療船を見つめ、花蓮は周りに気をつけながら駆けた。廊下の突き当たりから二人の会話が聞こえ咄嗟に隠れてしまった。

 

「アラド隊長、大丈夫でしょうか。ハヤテくんとフレイア」

「あの二人には乗り越えてもらわないと。過去がどうであれ、あの二人は必要な戦力ですからね」

「実験・・・・・本当に必要だと思いますか?」

(実験・・・・?)

 

花蓮は眉をひそめた。

 

「共鳴したとはいえ、あの時のハヤテはアル・シャハルでのメッサーの様でした。共鳴なのか、はたまたヴァール化の兆しなのか・・・・・本部の医療スタッフはそれを明らかにしたいみたいですからね」

「彼のフォールドクォーツのペンダントの影響も・・・・・」

「どうですかね」

「フレイアのルンについても調査すると聞いています・・・・本当に大丈夫なのでしょうか」

「信じましょう、あの二人を」

 

声からして主はアラドとカナメだろう。指揮官クラスの二人の情報ならまず間違いはない。立ち上がり、立ち去ろうとした瞬間、何故か二人と目が合った。

 

「「「・・・・・・・」」」

 

長い沈黙。アラドとカナメは口をぽっかり開け、こちらを見ている。花蓮は冷や汗をダラダラ垂らしながらこの場を切り抜ける方法を目まぐるしく考えているが思考が追いついて来ない。

 

「お!目、覚めたのか!」

「もう、起きたなら言ってくれればいいのに〜」

「す、すみません・・・・・・」

 

てっきり怒られるかと思ったのだがアラドのそんな言葉と共に緊張が解けた。そもそもなぜ隠れたのかすらわからない。

 

「もう大丈夫なの?」

「あ、はい」

「若いっていいなぁ」

 

アラドが遠い目でしみじみ呟いた。

 

「俺みたいな根っからの軍人にとっては、歳をとることが嬉しいんだ。なんせ、いつ死ぬか分からん仕事だからな」

「それを言ったら私たちもですよ、隊長。戦場で無防備な体を晒しながら歌うなんて、いつ死んでもーー」

「死にません」

「え?」

 

言葉を花蓮によって遮られた。

 

「死なせません、誰も。僕が絶対護ります、この命に変えても」

 

それは自分の最期を予見するような言い方だった。その目は遥か遠くを見ているようーーー

 

ーーーーーーーー

 

「フレフレ、歌えなくなってる・・・・・」

「よぉ、やってるな」

「隊長」

 

検査室にアラドとカナメ、カレンが入ってくる。

 

「あ!カレン!どこに行ってたんですか!勝手にいなくならないでください!」

「ご、ごめんなさい!」

 

ミラージュに詰め寄られ圧されつつも向こうの部屋を見る。

 

「い、今は何をやっているんですか・・・・・?」

「実験だってさ、フレフレとハヤハヤのね」

「美雲もまだ戻ってこないしフレイアもこの調子じゃ・・・・・」

 

チャックは腕組みをして悩んだ。

 

「やはり無茶だったか」

「録音に切り替えます」

 

カラオケで流れていた“破滅の純情”が歌付きに変わる。録音で流したところでフレイアのフォールド波は反応しないので意味は無い。

 

「無駄なことを」

「カナカナ、クモクモのこと何か聞いてる?」

 

マキナの問いかけにカナメは横に首を振った。

 

「何度も本部に問い合せてるんだけど・・・・」

「メサメサの方は?」

「医療船に何度か行ったが、美雲・ギンヌメールのことを聞くと口篭る一方だ」

「・・・・・・」

 

アラドは静かにため息をついた。

 

ーーーーーーーー

 

「おい!今の何なんだよ!」

 

ハヤテの怒声がブリッジに響き渡った。

 

「何でフレイアに歌わせねぇんだよ!」

「歌わせなかったんじゃない」

 

アラドは顔を向けず言った。

 

「え?」

「彼女、歌えなかったのよ」

「ーーー!」

「お前をしばらく任務から外す」

「! でもーー!」

「これは決定事項だ、異論は認めん」

「・・・・わかったよ・・・・!」

 

踵を返しブリッジを出ていった。

 

「飛ぶことが出来ないのは、翼をもがれた鳥と同じ。厄介なもんです、パイロットってのは」

 

ーーーーーーーー

 

「で、どーすんだよ」

「チャックが言い出したんでしょう!フレイアを元気づけようって!」

「いや、言ったけどよ・・・・・」

「困りましたね・・・・」

 

フレイアがいる談話室のドアの陰でチャックとミラージュ、花蓮はどうフレイアを元気づけるか考えていた。と、そこに

「そこで何をしている、お前たち」

「「「!!??」」」

 

傍から見れば隠れながら中を見ている三人は怪しい以外に有り得ない。目を向ければ三人は同時に肩を震わせた。何故ならそこにいたのは

 

「う、嘘だろ・・・・」

「メッ・・・・」

「メッサー中尉・・・・」

 

“蒼い死神”こと、Δ小隊のエースパイロット。メッサー・イーレフェルトその人だったのだから。

 

「・・・・・と言うことでして」

「言い出しっぺはチャックさんです」

「おい!」

 

あっさり名前を出された。

 

「そうか、ならその役俺が引き受ける」

「おー!そいつは助かる・・・・・・え?」

「「「えええええええ!?」」」

 

三人の叫び声に似た絶叫とも取れる声がエリシオンに響いた。

 

「そんなに驚くことか?」

「とうとうメッサーも仲間のことを・・・・・」

「飛行バカのメッサー中尉が・・・・」

「スルメどうぞ・・・・・」

「おい」

 

チャック、ミラージュ、花蓮の順に鼻をすすりながら口々に言った。

 

「ああ、“死神”が今は神に見えるぜ。神だけどよ」

「いつも冷たいメッサー中尉が・・・・・」

「とりあえずスルメどうぞ」

「おい」

「いつもスカしてるからカナメさんに想いをいつまでーーぶほぉっ!」

 

言い終わる前にメッサーに殴り飛ばされた。

 

「・・・・・・」

 

無言による高身長からの上から目線は、最早マングースに睨まれたハブと同じ心境だ。

 

「「フ、フレイアをよろしくお願いします・・・・!」」

 

二人はガクブルになりながら何とか言った。そのまま談話室へと入った。

 

「こんな所で何をしている。フレイア・ヴィオン」

((ええ!?いきなりそんな言葉を使うのぉ!?)

「あ、メッサーさん・・・・・」

 

フレイアは暗い顔をメッサーに向けた。その顔を見たまま無言でフレイアの向かいへ座る。

 

「実験、上手くいってないようだな」

「知っとったんかね・・・・・?」

「まあな」

 

しばらくの沈黙。

ドアの向こうでは花蓮とミラージュがハラハラしながら見ていた。そんな沈黙を破ったのはメッサーだった。

 

「怖いのか?歌うことが」

「っーーー」

 

フレイアの肩が跳ねた。どうやらそうらしい。横目でそれを捉えるとまた視線を外の宇宙に向けた。

 

「今がいっぱいいっぱい・・・・・確か、あの時お前はそう言ったな」

「え?あ、はい」

「俺はその言葉に救われた所もある」

 

これは意外だ、と陰から見ている二人は目を丸くした。

 

「パートナーを信じているか?」

 

そんな事を言われた瞬間咄嗟に言いたかった。「信じている」と。だが、喉からは出てくれなかった。

 

「あたしは・・・・・」

「信じてやれ、ハヤテ准尉を」

 

これはこれは意外に意外。更に目を丸くした。今度はフレイアが口を開いた。

 

「メッサーさんは・・・・・」

「?」

「戦争が終わってもパイロット続けるんかね?」

 

思いがけない質問にメッサーは目を丸くしたが、それも束の間。すぐにいつもの真顔に戻った。

 

「・・・・・」

(ち、沈黙は良くない!ほんっとに良くない!)

(フレイアさんがかわいそう・・・・)

「そうだな」

((やっと喋った!))

 

メッサーは無限に広がる宇宙を見つめフレイアの問いに答えた。

 

「死ぬまで続けられたら、最高だな・・・・」

「死ぬまで・・・・・」

「ああ、死ぬまで」

「そうやね・・・・」

 

フレイアも目の前に広がる宇宙に目を向けた。

 

「好きなんやね、飛行機で飛ぶの」

「・・・・まあな。自分が飛ぶことに魅了された人間だって事を知ったのもつい最近だ」

(そういえば、フレイアはまだ知らなかったな。俺はもうヴァールにならない事を)

「身体の・・・・調子はどうですか?あれから」

 

メッサーはアル・シャハルでの事だとすぐにわかった。

 

「メッサーさん元軍人なんやろ?そやったらウィンダミアのリンゴ、一杯食べとるよね・・・・・」

「・・・・・」

「ほんに・・・・ごめんなさい・・・・」

 

今度は沈黙せずに直ぐに答えた。

 

「お前が謝る事じゃないだろう」

「・・・・・うん、そうなんやけど・・・・・」

 

どうやら負い目を感じているらしい。こういう時何て言えばいいのか、気の利いいた事を言えなど、そんな事は無理だ。だから、思っていることをそのまま口に出した。

 

「ウィンダミアのリンゴは美味い」

 

フレイは向かいに座るメッサーの顔を見た。

 

「・・・だから食いすぎた・・・・それだけだ」

 

メッサーもフレイアを見る。その顔は僅かに微笑んでいた。

 

「かなり話し込んでしまったな。俺はそろそろ行く」

「あわわ!?もうこんな時間かね!?」

 

「実験が始まるぅ!」と騒ぎながら走り出すフレイアを咄嗟にメッサーは呼び止めた。

 

「フレイア・ヴィオン!」

「ふぇ!?」

 

動きを止め、その場でメッサーに振り向いた。

 

「パイロットは続ける」

「!」

 

フレイアの顔がパァと明るくなり、ルンも本来の色を取り戻す。

 

「ずっと!?」

「ああ、ずっとだ」

 

メッサーが微笑するとフレイアはくしゃっと顔を綻ばせた。

 

「あたしも!メッサーさんと話して決めた!」

 

その瞳には迷いはなく、ただ真っ直ぐ自分を捉えていた。

 

「あたし、歌い続けます!約束!」

「そうか。前見て走れ」

「ほいな!」

 

そう言ってフレイアは談話室を駆けて出ていった。

 

“今がいっぱいいっぱいで、よう考えられんよ”

 

彼女のその一言で、自分もまだ頑張ろうと思えるのは内緒。

 

「・・・・・頑張れよ」

 

メッサーはフレイアの背中に小さな声でエールを送った。



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みっしょん マキマキのバルキリーコレクション

ほんと気まぐれです


マキマキのバルキリーコレクション

 

「やっほー!《ワルキューレ》セクシー担当のマキナ・中島だよ〜!そして記念すべき第一回のゲストは〜、ケイオス・ラグナ支部第三航空団に所属する小隊の一つのΔ小隊の我らがエース!じゃーん!」

「メッサー・イーレフェルト中尉です」

「最新話でフレフレを励ますという本来では有り得ない行動が注目を集めているメサメサで〜す!」

「余計なのが多いぞ」

「今回から気まぐれで始めるマキマキのバルキリーコレクションは作品に出てくるバルキリーの説明をただするというよく分からない企画です。読んでも読まなくても本編にはなーんにも影響は出ないのでお好きにね〜!」

「で、今回の機体は?」

「今回は、メサメサのVF-31Fと前作のYF-29についてちょいちょいっと説明しちゃうよ〜。次回は誰がゲストかはお楽しみ♡」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「きゃわわ〜♡こちらがVF-31〈ジークフリード〉のバリエーションの一つ、制宙支配に特化したメサメサ仕様のVF-31F〈ジークフリード〉ちゃんで〜す!マクロスΔの中でも屈指の名シーン、「閃光のAXIA」で、あの白騎士と壮絶なドッグファイトを繰り広げました!手に汗握るドッグファイトだったね!この回を境にカナカナと一緒に人気が急上昇!メサカナのカップリング小説もたっくさんあるから興味のある人はググってみてね♡死神のパーソナルマークが特徴的できゃわわ〜!このVF-31〈ジークフリード〉は大気圏内での機動性を高めるために前進翼を採用しているよ。あたし達《ワルキューレ》は主に大気圏内での任務がほとんどだからその護衛を兼ねている〈ジクフリ〉ちゃんには後退翼より前進翼の方がいいって事だね。正面から見ると『Δ』に見えるのがポイント!」

「確かにな」

「大きな特徴と言えば、やっぱりYF-30〈クロノス〉から受け継いだ独特の変形機構と後部中央にある「マルチパーパスコンテナユニット」だね!特に機首周りの変形はすごいの一言!よくあそこをプラモデルやDX超合金で再現出来たと感心しちゃう!バンダイさんの熱意が伝わってくる〜!」

「俺は実際に乗っているからよく分からないんだが・・・・・・」

「今度見てみてよ!凄いよ〜!」

「ああ、わかった」

「気を取り直して、この「マルチパーパスコンテナユニット」を状況に合わせて換装する事でマルチロールな運用を可能にしているよ!アニメの六話では「プロジェクションユニット」を換装して出撃しちゃってるよ〜!もちろん、ISCや「EX-ギアシステム」などの慣性制御システムを標準装備!また特殊装備として「フォールド・ウェーブ・システム」を搭載!稀少価値のある大型「フォールドクォーツ」ではなくより小型なクォーツや「フォールドカーボン」を代用。基本性能はYF-30より劣っちゃってるけど、マクロス・フロンティア船団製のVF-25〈メサイア〉と同等かそれ以上の水準はバッチリ維持してるよ〜!」

「勉強になるな」

「ちなみにΔ小隊は《ワルキューレ》のメンバー一人ずつとパートナーを組んでいるの。メサメサで言うとカナカナだね。ライブとかの連携を強化するために機体の「フォールド・ウェーブ・システム」はそれぞれのパートナー用に調整されてるの!これで安心だね!」

「これでカナメさんを守ることが出来る・・・・・・!」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「続いてこちら!分類は全領域型超可変戦闘機!前作、劇場版マクロスF〜恋離飛翼(サヨナラノツバサ)〜の終盤に登場するYF-29〈デュランダル〉ちゃんで〜す!」

「こ、これがあの・・・・・!」

「バルキリーシリーズの試作機の一つだね。YF-9〈カットラス〉、YF-19〈エクスカリバー〉と同じく聖剣の名前を冠しているのが特徴!設計段階から対バジュラ戦を想定した機体で、基本武装として多数の火器を搭載!」

「なるほど」

「1000カラット以上の超高純度「フォールドクォーツ」を機体の4ヶ所に搭載する事で、他系列のバルキリーを凌駕する高性能を発揮したね!最終決戦での「サヨナラノツバサ」をバックにVF-27γ〈ルシファー〉とのドッグファイトはマクロスシリーズの中でも名シーンに入るんじゃないかな!」

「あれは凄かったな」

「四つの「フォールドクォーツ」は愛称(ペットネーム)の由来になった聖剣デュランダルの柄にある四つの聖遺物の名前を採っているの。脚部のエンジンに加え、両翼に更に一つずつエンジンを追加!外翼エンジンポッドから先は上下に振ることが出来て、これにより複雑なマニューバーを可能としているのです!」

「高性能なのは知っている。だが対G性能に問題は無いのか?」

「心配ご無用!「EX-ギアシステム」やISCは完備のこと、使用されている「フォールドクォーツ」の総量に比例してISCの対G性能の限界が大幅に高められているんだよ!そのためサイボーグ兵専用のVF-27を上回る機動性にも関わらず生身の早乙女アルトが操縦出来たって事!」

「そうだったのか」

「四つの「フォールドクォーツ」から得られる無尽蔵のエネルギー供給のおかげで熱核タービンエンジンの性能を限界以上まで引き出し、エネルギー転換装甲の常時フル稼働!名実ともにバルキリーシリーズ最強の機体って言っても過言ではないんだね〜!」

「一度乗ってみたいものだな」

「余談なんだけど、運用目的が戦闘ではなくあくまでコミュニケーション。確実に相手の元へたどり着き、「フォールドクォーツ」を介して想いを伝えることから「宇宙最強のラブレター」って言われたり言われなかったり。「フォールド・ウェーブ・システム」は本機が初めて搭載したんだよ!型式番号の29は、恋離飛翼(サヨナラノツバサ)が公開された年が丁度29周年だったかららしいの!」

「最後の方は本当に余談だな」

「と、こんな感じで説明しました〜」

「まあ、いいんじゃないか?」

「ほんと!?文字が多すぎだね〜」

「仕方ない」

「今日のマキマキのバルキリーコレクションはお終い!次回はやるかもしれないしやらないかもしれないよ!」

「わざわざ言うな、そんな事」

「これからも「マクロス」を盛り上げて行こうね!またね〜!」



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Mission34 仲間のために

医療船へ突入!

本編終了後のアフターストーリー書こうか迷う・・・・


「こりゃ結構かかるぞ」

「機体の各所がオーバーロード起こしちゃってますね〜」

 

目の前に立つランスロットの前でガイとハリーを含めた整備班が悩ましい顔をしていた。端末には赤い文字が目まぐるしく往来する。

 

「次の作戦までに間に合わせるのはキツくないっすか?」

「そうなんだが・・・・・よし、アレを〈へーメラー〉から引っ張ってくるよう申請してみるか」

「アレって、アレっすか?」

「使えないわけじゃねぇからな。そっちの調整もしつつランスロットも整備するぞ、気合入れてけよお前ら!」

「「「「おう!」」」」

 

ーーーーーーーー

 

薄暗い部屋の中に二つの人影。目の前には艦内のシステムセキュリティの地図が映り、赤く点滅していた所が緑へと変わっていく。

 

「セキュリティ解除成功・・・・!」

「よし!後は侵入経路の確保か・・・・」

「医療船への侵入って結構難しくない?」

「そこは私の迫真の演技で・・・・・・へっ?」

 

一つの人影が後ろを勢いよく振り向く。

 

「えええ!?カナカナ!?」

 

そこにいたのはやや呆れた顔をしたカナメが立っていた。

 

「呆れた・・・・こんな事をしてタダで済むと思ってるの?マキナ、レイナ」

 

悪い事をした子供をたしなめる様に言った。

 

「わかってる、でも正攻法じゃ無理だし・・・・・私たち心配なの!」

「美雲のことが!」

「クモクモは何考えてるかわからないし、私たちには心を開いてくれてないって思ってた」

「美雲自身が私たちのことどう思ってるか全然わからない・・・・・」

「でも、私たち《ワルキューレ》は今まで一緒にいろんなピンチを乗り越えて来た仲間!違う?カナカナ」

「・・・・・・・」

「お願い!カナカナ!」

 

手のかかる後輩の面倒を見るのも先輩の役目。カナメは一つため息をつき、

 

「わかった。確かにあれもこれも秘密にされるのは気に食わないし」

「それなら、僕も力を貸しますよ」

「「「!?」」」

 

マキナとレイナはカナメの後ろを、カナメは自分の後ろを見た。そこに立っていたのは、

 

「あなたは・・・・・!」

「〈星の導き手〉・・・・・!」

「侵入するにも色々準備が必要だ。少し付き合ってもらいますよ」

「「「・・・・・・・?」」」

 

三人は首を傾げた。

 

ーーーーーーーー

 

「乾燥クラゲです、リンゴの古酒によく合うそうですよ」

「生憎だが、クラゲは嫌いだ」

「おや残念。珍味ですのに」

 

ロイドの執務室の椅子にベルガーは腰を下ろした。

 

「・・・・で、クラゲ食い共との商談はどうだった」

「どうと聞かれましても、守秘義務がありますからねぇ」

「そのフワフワとし立ち回り・・・・お前は正しく陸のクラゲだな」

「ユラユラとしつつ毒を持つものもいます。褒め言葉と受け取っておきましょう」

 

ベルガーはそこで一端区切り、今度は少し控えめな声で声を出した。

 

「時に例の件ですが、プロトカルチャーシステムの能力が解明した暁には、マインドコントロール装置を量産しロイド様は戦争に使用、我々は事業を拡大・・・・・そんな絵を描いておりましたのに、どうやらロイド様には別のお考えがあるようで・・・・?」

 

それには一切返答をしなかった。そこでドアがノックされる音が響く。中に入ってきたのは長い黄色の髪をたなびかせた美青年だった。

 

「おお、これこれはキース様。お仕事のお邪魔な様ですな。では私はこれで・・・・」

 

キースの横を通り過ぎる。それを目線だけ動かし見送る。

 

ーーーーーーーー

 

「陛下、その後お加減は?」

「悪くない、大丈夫だ」

 

ハインツの主治医が軽く会釈し部屋を出ていった。

 

「ロイド、敵の歌い手は何者なのだ?我が風の歌を凌駕しているのをルンで感じた。それに、余の歌でも無く敵の歌い手の歌でもない何者かの歌がこのウィンダミアの地から聞こえたと耳に入れた。それは一体・・・・・」

「はっ、そちらの件については現在も調査中にございます。それに陛下の風の歌に勝るものなど全銀河を隈無く探してもおりません。ウィンダミアの民は陛下の歌をルンで受け止め、翼を羽ばたかせております。その事をお心にお留め置き下さい」

「ああ・・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

ロイドとキースは肩を並べながら城内の廊下を歩く。

 

「何故陛下の担当医が変わった」

「以前の担当医は故郷に帰った。後任の者も優秀な医師だ」

「・・・・・・」

 

しばらく歩き、ロイドとは突き当たりの別れ道で別れ、その背中を見送ってからシグル=バレンスの整備ハンガー「枝」へと向かった。そこには偶然にも探していた人物がいる。

 

「テオ、ザオ」

「白騎士様?」

「いかがなされました?」

 

自機の調整中だったのか、コックピットから飛び降り、キースの前へと歩み寄る。

 

「お前たちの実家は薬も扱っていたな」

「もちろん、家はウィンダミア一の品揃えを誇る商家ですからね」

「もしかして白騎士様、心を寄せる娘でも?」

「は?」

「惚れ薬に媚薬、なんでもご用意出来ますよ!何なりと仰って下さい!」

「このバカ!」

 

テオは弟のザオの頭を叩いた。

 

「調べてもらいたい事がある」

(ロイド、お前は今どこを飛んでいる・・・・・)

 

ーーーーーーーー

 

今日もフレイアとハヤテの実験が始まる。フレイアの顔は悩みが吹っ切れた様に清々しいものになっていた。

 

『わぁ!メッサーさん!この前はあんがとございましたぁ!』

「メッサー、お前何かしたのか?」

「・・・・・任務ですから」

「・・・・・はい?」

 

全く答えになっていないメッサーの言葉にアラドは首を傾げた。

 

ーーーーーーーー

 

「保管庫はここですか?」

「ええ」

「あの、ここに来て何するの?」

「とりあえず中に入りましょう。出来そうですか?」

「チョロい」

 

自動ドアの横に設置されてあるセキュリティに有線接続し数秒、軽快な電子音が響くと目の前のドアは静かに開いた。そのまま四人は中に入る。

 

「侵入するのに何も持たずに行くのはバカのする事です」

「「「う・・・・・」」」

 

的確な指摘に言葉が出ない。

 

「マキナ・中島、麻酔弾はどこにあるかわかりますか?」

「え?あ、うん」

 

目の前に一列に並んだ銃の一つを取り、マガジンリリースボタンを押し取り出す。そこにマキナから受け取った麻酔弾を入れていく。再度マガジンを挿入しサイレンサーを付け取り敢えずこれでもしもの時は何とかなるだろう。

 

「それじゃ、行きますか」

「うん!」

「レイナ・プラウラーはここに残り指示を。マキナ・中島は変装しカナメ・バッカニアを医療船の中まで運んで下さい。僕も変装します」

「わかった」

「それじゃクモクモ探しに行こう!」

「ちょっといい?」

 

カナメの一言に三人は足を止める。

 

「どうして〈星の導き手(あなた)〉も協力してくれるの?」

「・・・・・・」

 

少しの無言から、振り向かず答えた。

 

「・・・・・少しだけ、あなたたちの事を信じてみてもいいかなって思って・・・・・はっ!べ、別にあなたたち三人じゃ心配だなぁなんてこれっぽっちも思ってませんからね!!」

(((うわ〜、あざといけど案外可愛い)))

 

三人は耳まで真っ赤にした〈星の導き手〉らしかぬ言動に頬を緩ませた。

 

「それじゃ、行きましょうか」

「行こ行こ!」

「マ、マキナ・中島!か、勝手に手を握るな!」

「照れてる」

「な、なんだと!?こ、この僕が照れるわけ・・・・・!」

 

しばしいじられキャラに成り下がった銀河の覇者であった

 

ーーーーーーーー

 

「レイナ、準備はいい?」

『よろし』

「うん、あたしもカレカレの変装もバッチリだし」

「行こう」

 

三人は医療船に乗り込んだ。

 

「アーネスト艦長の依頼でエリシオンより緊急の患者が搬送されてくる模様です」

 

白衣を着た男性が手に持ったファイルに目を落としながら、目の前で椅子に座っている中年の男性に言った。

 

「症状は?」

「はい、専属のマネージャーによりますと生体フォールド波の異常だそうです。患者はカナメ・バッカニア・・・・・プロトカルチャーシステムの影響が彼女にも!?」

「彼女もフォールド受容体(レセプター)だ。おそらく美雲・ギンヌメールの歌の影響を受けたのだろう」

 

その頃ストレッチャーに横になっているカナメとナース姿のマキナ、スーツにサングラスをかけた黒花蓮は医療船内、美雲がいると思われる病棟へと向かっていた。

 

「第一関門突破。次は?」

 

ネイル型マルチデバイスからレイナへと通信を入れた。

 

『検査データとカルテの捏造で美雲がいると思われる第三病棟へ侵入』

「りょーかーい」

 

ドアの前になっている警備員に患者のIDを見せる。

 

「よし、通れ」

 

そして、セキュリティにIDをかざすが、ビー!という音と共に《ERROR》という文字が出る。

 

(うそ・・・!?レイレイのハッキングは完璧だったはず・・・・・!)

(え?なになに!?どうしたの!?)

 

もぞもぞ動き出したカナメを黒花蓮は抑えた。

 

(動かないでください!)

「時間ごとにIDのセキュリティが変更されている!?」

「何をしている、どけ」

(あわわ・・・・・!)

 

レイナはとうとう奥の手を使うことを決断しマイクに向かって叫んだ。

 

『カナメ!カレン!マキナ!強行突破!』

「了解!」

「っ!」

 

懐にしまっていた拳銃を取り出し、警備員へ発砲。軍仕様の催眠弾だ、しばらくは起きないだろう。

 

「行きましょう!」

「ええ!」

「うん!」

 

三人は走り出した。

 

『船内に侵入者が入った、繰り返す船内にーーー』

 

廊下の突き当たりの薄暗い場所に身を潜める。

 

「ちっ、鼻が利きすぎますね・・・・」

「ダメ、フォールド通信も遮断されてる・・・・!」

「絶対絶命か・・・・!」

 

ドローンがこちらへと向かってくるのを視界の隅で捉え、後ろの二人へ提案した。

 

「僕が合図を出す、一気に向こうへ走って」

 

二人は無言で頷いた。

 

「3・・・・2・・・・1・・・・今だ!」

 

二人は向こうへ走り抜ける。その後から黒花蓮も後を追い、ドローンを撃ち落とす。

 

(この感じ・・・・!)

 

後ろを振り向けば数多のドローンが接近する。このままでは最悪全員捕まる、ならばーーー

 

「二人はそのまま走れ!その先に、美雲・ギンヌメールがいる!」

「あなたは!?」

「コイツらを足止めします!早く行け!」

 

カナメとマキナはまた走り出した。後ろからは発砲音と怒声が聞こえる。あの発砲音はどちらが撃ったものだろうか。しかし、今は気にしている場合ではない。赤一色に染まった廊下をただ走り抜ける。そしてついにーーー

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・・」

「ここにクモクモが・・・・・」

 

荒い息を何とか整える。後ろからの追っ手は来ていない。自動的にセキュリティが解除された。きっとレイナの最後の悪あがきだろう。おそらく彼女はもうーーー

 

(ありがとう、レイナ・・・・・!)

 

開いたドアの向こう側へ歩みを進める。中は薄暗く幾つも並んだ巨大なカプセル。そしてその中の一個だけ、淡い光を発している物を見つけた。恐る恐る近づき、二人はその中にいるものに息を呑んだ。

 

『ーーーー♪ ーーーー♪』

 

その中にいたのは水の中に身を沈め、眠りながら“GIRAFFE BLUES”を口ずさむ美雲その人であった。

 

「美雲・・・・・・・」

「クモクモ・・・・・・」

『ーーーーー♪』

 

二人は見てしまった。ずっと一緒に戦い続けてきた仲間がーーー。一人の人だと思っていた仲間が、人として造られた何かだと言う事に。そんな事を露知らず口ずさむ美雲は、二人にはどこか美しく見えた。本当の女神のようにーーー

 

「そこまでだ!侵入者ども!」

 

後ろには銃を構えた警備員が二人を包囲していた。どうやら、ここまでのようだ。

 

(美雲、あなたは一体・・・・・・)

 

心には疑問が残った。美雲という人物について、自分たちは無知過ぎた。遠のく美雲を見つめながら二人は連行されて行った。そして、折り返しのように美雲もゆっくり目を開け、

 

『カナ、メ・・・・・・・?』

 

そう、呟いた。

 

次回 Mission35 切望 シークレット



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Mission35 思惑

遅くなりました!次回への繋ぎなどで短いです!
本編もそろそろ終わりに近くなってきました!駄文だらけですけど最後までお付き合いお願いしますm(_ _)m
それとシェリル復活おめでとうヽ(≧▽≦)/


医療船に侵入してからは意外とすぐに解放された。レディMらが色々と手を回してくれたらしく、美雲も一緒にアイランド船へと帰ってきた。すっかり気象パネルは夕焼けを映しており、穏やかな風が辺りを撫でていく。

 

「体はもういいの?」

「ええ、心配かけたわね。あなたたちの事は聞いたわ。医療研究船に侵入したって?」

「捕まっちゃったけどね」

「・・・・何を見つけたの?」

 

美雲のその言葉に三人は言葉に詰まってしまった。

 

「レイナがハッキングを仕掛けたんでしょ?なんの情報も手に入れられなかったはずがない」

「・・・・・何も掴めなかった」

 

一回息を吸い、美雲は空を見上げた。

 

「聞いたの、私。レディMも本部ももう隠しきれないと考えたみたい。過去がない理由がわかった。誕生日がない事も」

「美雲・・・・・・」

「三年前、8月17日。ヴァールに対抗するためあらかじめ細胞にフォールド受容体(レセプター)を植え付けられて誕生した人ならざるモノ。それがあなたの正体だ、美雲・ギンヌメール・・・・・いや、〈星の歌い手〉の複製体(クローン)よ」

「あなた、今までどこに・・・・・・」

「あなたたちに監視の目が行っている間に色々と調べることが出来ました」

「・・・・・・・・」

 

美雲は長い髪をなびかせて、やっと振り向いた。

 

「あなたの中で何かが起こっていた、それは間違いないはずです。〈風の歌い手〉と精神が繋がり、脳神経に変調をきたした。勿論、それは修正済み・・・・・・・本当の人間であれば不可能なことだ。そしてあなたは特別でして、感覚が鋭くなるようにデザインされています」

「カレカレ・・・・・!」

「構わない」

 

マキナの言葉を遮るように美雲が口を開いた。

 

「全部、あなたの言う通りよ。〈星の導き手〉さん。でも私は決めたの、人でも複製体(クローン)でも関係ない。歌い続けると」

「あなたの歌のせいで、またカレンが暴走してもいいとーーーーそう、言いたいんですね?」

「・・・・・・・・」

「いくら複製体だからといって、あなたの中には〈星の歌い手〉の細胞が組み込まれている。カレンとの干渉は避けられません」

「じゃあどうしろって言うの!美雲に歌うなって言いたいの!?それとも、カレンくんがいなくなればいいの!?」

 

カナメが大声を上げた。幸い、周りには誰もいなかった。

 

「カレンは僕の半身です、消えることはその存在自体が消滅する事をいいます。しかし、だからといって美雲・ギンヌメールには歌ってもらわねばなりません。ウィンダミアに行くためには」

「・・・・・・・?」

「本当の〈星の歌い手〉もウィンダミアで待っています、あなたたちの事を」

 

それを皮切りに〈星の導き手〉は形を潜め、元の花蓮へと戻っていた。

 

「あれ、皆さん、どうしたんですか?」

「ウィンダミアで・・・・・・・」

「待っている・・・・・・・」

 

カナメとマキナが考え込むかのように、暗示の如く呟いていた。

 

ーーーーーーーー

 

城内にブーツが地面を叩く音が響く。その音は速く、まるで本人の怒りを著しているようにも思える。ハインツが倒れたと自分の耳に届いたのはつい先程。嫌な予感が自分を駆り立てた。そして、閉まっているドアを思い切り開く。主治医の顔が驚愕と恐怖の色に染まっているのを見ると、今自分の顔は凄く険しい顔の様なのだろう。しかし、今はそんな事はどうでもいい。

 

「・・・・・・・」

 

無言のままハインツを覆っている掛け布団を剥ぐ。

 

「白騎士様、何を・・・・・・!?」

「キース・・・・・・」

 

そのままハインツの服を開ければ、そこにはーーーー

 

「・・・・・っ!」

 

体にはウィンダミア人の寿命の近さを表す白い斑紋が出ていた。

ハインツはバツの悪そうな顔で目を逸らした。

 

ーーーーーーーー

 

「遺跡、風の歌、制風圏・・・・・・全て揃っているのに、ハインツ様の歌には何かがまだ足りないと言うのか・・・・・・」

 

そこでデバイスを起動させ、とある記録を表示させる。

 

「美雲・ギンヌメール・・・・・あの女は何故・・・・・・」

 

そこでロイドの自室のドアが開いた。

 

「キース?」

 

無言のままロイドとの距離を詰める。

 

「何故黙っていた・・・・・」

「何の話だ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、自分の何かが切れた様な感覚がした。素早い動きでロイドの胸ぐらを掴む。

 

「ハインツ陛下の事だ!」

「っ!」

「城を出たという医者について、テオとザオに調べさせた」

「見つけたのか・・・・・?」

「安心しろ、俺一人で会った。話せばお前に殺されると怯えていたぞ・・・・!」

「では、グラミア陛下のことも・・・・・・」

「聞いた、お前が殺したとな。陛下のお命を奪った傷は爆発によるものではなく、何者かの手により刺されたに違いないと!」

「・・・・・ああ、そうだ。私が陛下の風をお止めした」

「っ!貴様っ!!」

 

キースはロイドを突き飛ばし、机に勢いよくぶつかったため色々な物が床に散乱した。

 

「苦しみを止めて差しあげたのだ!助かる見込みはなかった!」

「何故黙っていた!?」

「混乱を避けるためだ。何よりハインツ様のお気持ちを乱すわけにはいくまい」

「ではグラミア様のご遺言は?あれも偽りだとは言わせんぞ、ロイド!」

「偽りではない!ルンを通じ、確かにお気持ちを感じた。グラミア陛下の望む平和を築くには、統合政府を打倒する他ない」

「ハインツ陛下の事は?」

「陛下も納得しての事だ」

「他に何を隠している!」

「・・・・・これで全てだ。もう何も隠してなどいない」

「では何故お前のルンからは何も感じられない?お前は俺と・・・・・・俺たちと同じ空を飛んでいるのではないのか?」

「すまない・・・・・だが、ウィンダミア想う気持ちに偽りはない!信じられないのなら我が命の風を止めるがいい、今ここで!」

「・・・・・もし陛下を裏切る様な事があれば容赦はしない。その時はお前の風を止めてやる、俺の手で」

「・・・・・・」

「時間を取らせたな」

 

踵を返し、キースはロイドの部屋を出ていった。その後ろ姿を見つめた後、息を吐き出した。

 

「キース・・・・・出来ることならお前も同じ空を・・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

「美雲・ギンヌメール。只者ではないと思っていたが・・・・・」

「その事をカナメさんたちには?」

「いや、レディMの方で対処するそうだ」

「そうか。で、話ってのは?」

 

艦長室にはアーネストとアラドの二人。次の作戦について、内容を詰めるところらしい。

 

「こちらからウィンダミアに乗り込む」

「何?」

 

そこで映像が浮かび上がった。

 

「美雲の歌ならば、地殻に伸びるシャフトにも生態系にも影響を与えずシステムを破壊できることが判明した。しかし、占領された惑星(ほし)を一つ一つ解放していたのでは埒が明かん。風の歌を銀河に響かせているプロトカルチャーシステムの中枢がウィンダミアにある。直接そいつを叩く」

「ウィンダミアは次元断層に囲われ、侵入は困難だ。向こうはソレを航行する技術を持っているようだが・・・・」

「科学班によれば、ある作戦を実行すれば可能らしい。そしてその作戦の舞台となるのが・・・・・・」

 

球状星団を映していた映像が、ある惑星を絞り出した。

 

「アルヴヘイム・・・・・メッサーと初めて会った惑星(ほし)か」

「我々には迷っている時間はない。早急にアルヴヘイムへと向かう」

「わかった」

 

ーーーーーーーー

 

遂にウィンダミアへの強行潜入を開始するΔ小隊と《ワルキューレ》。自由な空を取り戻すΔ小隊と《ワルキューレ》の戦いは佳境へ向かう。それぞれの想いを胸に、彼らの最後の戦いが始まろうとしていたーーー

 

次回 Mission36 これが最後なら

 

選択するのは自由か、支配かーーー




シェリルーーー!!!復活おめry(しつこい)


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Mission36 これが最後なら

取り戻せ、自由をーーーー

想いが重なる、その瞬間


『α小隊、β小隊、〈アイテール〉に搭載完了。デストロイド部隊は〈へーメラー〉への搬入を開始せよ』

「んで、どうやってあのスルメおやじと交渉したんだよ。まだ検査の結果はでてねぇんだろ?」

「私が全ての責任を負うことを条件に、あなたたちの出撃許可を頂きました」

「そうなんね・・・・・・・」

 

ミラージュの言葉にフレイアは俯いた。結局、検査での結果は出ず。今回の出撃は見送りになるはずだったのだが、ミラージュが話をつけてくれたらしい。

 

「もし、また暴走したら?」

「隊や市民に危険が及ぶようなら、撃墜してでも私があなたを止めます」

「ミラージュさん・・・・・・」

「・・・・・わかった。でも二度と暴走なんてしない」

「期待してます」

 

シリアスな空気を壊すかのように、格納庫の一角は大いに賑わっていた。

 

「おお、やっと目が覚めたんだな」

「ガ、ガイさん。乱暴に撫でないで下さい・・・・・・」

「もし起きなかったら俺のエクスペクト・パトローナーンムッで起こそうと思ったのによ」

「「「「・・・・・・・・」」」」

「ハリーさん、それは・・・・・・・・」

 

微妙な空気に包まれたここを、ガイが断ち切るように話題を変える。

 

「ゴホン・・・・・・まあ、募る話もあるがそこまでだな」

「あの、機体の方は」

「しばらくは出せねぇな。代わりと言っちゃなんだが、別の物を用意してある」

「別の物?」

 

つい先程、移動申請が受諾されたのか、一つだけ空いていた艦載機場所に〈へーメラー〉から移動してきた機体が収まった。

 

「お、きたきた」

「これは・・・・・・?」

「VF-31A〈カイロス〉。Δ小隊が結成する前にアラド隊長が乗っていた機体だ」

「骨董品だから苦労したぜー?なんせ、機種周りを一からお前用に調整し直したんだからな」

 

竜のスカルマークが描かれたこの機体は確かに、アラドがかつて乗っていた機体だと認識させた。

 

「反応速度も申し分無しのはずだ。ランスロットが直るまでコイツで勘弁してくれ」

「充分過ぎます、ありがとうございます」

「それと」

 

ハリーが前に出てきて、カチューシャの様なものを差し出した。

 

「マキナ姐さんとレイナちゃんからの預かりモンだ。確か、生体フォールド波と遺跡からの干渉を完全にカット出来るジャミング装置らしいぜ」

「なぜカチューシャなのでしょうか・・・・・・」

「言ってくれるな」

 

確かに、作ってもらっただけでもありがたい。ここは、大人しく付けるとしよう。

 

「こんな感じでしょうか?」

「ぶはっ!似合ってる!」

「カレン、お前は本当に男でアルカ?」

「何ですかその聞き方!」

(まあ、でも・・・・・この暖かさを守りたいな、ずっと)

 

この戦いが、最後になりますように。そう心の中で願った。

 

ーーーーーーーー

 

《ワルキューレ》の待機室。それぞれが総力戦に向けて準備をしている中、フレイアは俯いていた。

 

「フレフレ」

 

ポンとマキナがフレイアの肩を叩いた。

 

「復帰後早々総力戦なんて、ツイてる女」

 

レイナがフレイアの肌に耐熱ジェルを馴染ませた。

 

「フレイア」

 

振り向けば、カナメが優しい笑みを向けていた。

 

「いつも通りでいいからね」

「あ、はい」

「美雲、本当に行ける?」

「気を使わなくていいわ。私は私、ただ歌うだけ。でも、この思いも作られたものかも知れない」

「クモクモ・・・・・・」

「この戦いが、最後になればいいわね」

「・・・・・そうね」

 

ーーーーーーーー

 

ウィンダミアの王城、ハインツの自室の窓から見える外は雪が降っていた。すると、ルンが光り中にある人物が入ってくる。

 

「先日のご無礼、申し訳ございません」

 

キースがベッドの前で傅いた。

 

「もうよい。しかし、まだ皆には黙っていて欲しい。それから、ロイドを責めるな。余から頼んだ事だ。して、何用か?お前がただ詫びにきたわけでもあるまい」

「陛下に一つ、お尋ねしたい事がございます」

「・・・・・・・?」

 

意外な事に、一瞬キョトンとしてしまった。

 

「様々な不測の事態が発生しております。その事について、いかがお考えですか?」

「ロイドが言うには体制に影響はないとの事だ。よくウィンダミアをここまで導いてくれている」

 

そこでハインツは昔の事を思い出した。城を抜け出しては、よくロイドに色んなものを教えてもらったことや、腹違いでもたった一人の兄の剣術稽古を木陰から見ていたことなどーーーー思い返せば限りがない程、思い出せる。

 

「父に仕え、余のことも幼い頃から良く見てくれた。ロイドの起こす風に乗っていれば問題はない」

「それは陛下の“真なる風”ですか?」

「・・・?」

 

さすがにこれには首を傾げてしまった。キースは静かに立ち上がる。

 

「あなたが生まれた日、グラミア陛下が一度だけ私を翼竜乗りに連れて行って下さいました。側室の生まれとして、〈風の歌い手〉でもなかった私に、陛下は“真なる風”の乗り方を教えて下さったのです。“真なる風”は己の中に吹くもの・・・・・・己で見つけ、己で乗るもの・・・・・あれが、私が父上と呼ぶことを許された最後の日」

 

そして、敬礼をした。

 

「私は風の騎士。ウィンダミア王の命ならば剣にも盾にもなりましょう。しかし陛下、あなたは流されているだけではございませんか?状況に、その時々の感情に」

「なが、されている・・・・・?余がか・・・・・?」

「・・・・・出過ぎたことを、失礼しました。陛下の風が、正しく吹かんことを」

 

そしてキースは部屋を出ていった。

 

「流されている・・・・・・・どういう意味なのですか、兄様・・・・・・・」

 

ハインツは小さな声で、在りし日のキースの名前を呼んだ。

 

ーーーーーーーー

 

「作戦開始時間までまだ時間があるなー、展望フロアにでも行ってみようかな」

 

誰もいないと踏んでいたのか、片手に飲み物を持ち、展望フロアのドアが軽快な音をたてながら開くとそこには既に先客がいた。美しい紫色の長い髪。間違いない、彼女だ。

 

「美雲さん?」

「ん?」

 

振り向き、こちらの顔を見た瞬間いつもの微笑を向ける。うん、いつも通りの美雲で良かったと安心した。

 

「色々大変ですね。もう大丈夫なんですか?」

「心配かけたわね」

「いえ」

 

そこで会話が途切れ、沈黙が訪れた。

 

(そう言えば、あの告白?だったのかな。あれ以来ちゃんと話してなかったなぁ。そ、それにしても・・・・・)

 

気まづい。ものすごく気まづい。やはり自分はこういう空気には耐性はないようだ。どうしたものかと、飲み物を口に含む。そして、美雲がふいに口を開いた。

 

「この戦いで、最後なのよね」

「そう、ですね。ウィンダミアにあるプロトカルチャーシステムの中枢を叩けば風の歌は全銀河に響かなくなりますし、ある意味最後の戦いですね」

 

生き残れるといいんですが・・・・と苦笑いしながら美雲を見ると、その顔が目の前にあった。

 

「いっ・・・・!?」

 

そして、ゆっくりと手が挙げられる。さっきの言葉が癪に障ったのか。叩かれると身構えたが、フワッと何かに包まれた。

 

「・・・・・んっ?」

 

固く瞑っていた目を恐る恐る開くと、美雲が抱きついていた。

 

「み、みみ美雲さん・・・!?あの、これは・・・・!」

「ちゃんと、帰って来なさい」

 

悲痛とも取れるその言葉に遮られ、ぎこちなくだが、言葉を返した。

 

「努力します・・・」

「あなたが死んだら、私も死ぬわ」

「ええっ!?」

「だって、生きてる意味ないもの」

「ぼ、僕なんかのためにそんな事言ったらファンの人になんと言われるか・・・・・」

「歌うことよりも、大切なもの見つけたの」

 

抱きついた手は離さず、そのまま続ける。

 

「あなたを想う気持ちをやっと見けたわ」

「・・・・・・」

「あなたが好き・・・・大好き」

「美雲さん・・・・・」

 

首に巻かれた手に力が入った。

 

「だから、絶対帰って来なさい。返事はその後でいいわ」

 

頬を紅潮させた幼く見えるその笑顔に、自分の顔も緩むのを感じる。

 

(敵わないなぁ、美雲さんには)

「私たちの最後の戦い、きっちり幕を引いてちょうだいね」

「了解です。でも、美雲さん、三歳だったなんて・・・・・」

 

思わず吹き出してしまった。

 

「何か、問題でもあるかしら」

「いいえ、行きましょうか」

 

そっと手を差し出せば、パァ!と顔を明るくしその手を握り返す。やはり、妖艶な美貌とは異なり、精神年齢は三歳児そのままなのかも知れない。

 

ーーーーーーーー

 

ブリーフィングルームの扉が開いた。ヒールが床を叩く音が響き渡る。やって来たのはーーー

 

「さ、始めるわよ。私がいなきゃ巨大システムを反応させられないんでしょ?」

 

美雲本人であった。後ろには花蓮もおり、チャックの隣へと移動する。

 

「お、お前、美雲さんと何かあったのか?」

「え?なんでですか?」

 

コソコソと小声で会話する。

 

「何かよ、機嫌良くないか?」

「いつも通りに見えますけど・・・・・」

「クモクモ!」

「過去なんてどうでもいい、私は私。今は、歌うだけよ」

「よし、全員揃ったな。作戦開始時間だ、準備しろ」

「「「「「了解!」」」」」

 

アラドの号令に全員が敬礼した。

 

「アイランド船とのドッキングアーム解除。全艦、トランス・フォーメーション」

「リアクター出力正常、フォールド・コンデンサー、問題ありません」

 

エリシオンがアイランド船とのドッキング解除し、戦艦へと変形する。

 

『美雲の情報によれば、現在〈風の歌い手〉は歌えない状態らしい。そうだな?』

「ええ」

『銀河をウィンダミアから解放するには、今を措いて他にない。これより、ケイオスは全戦力をもって反攻作戦を開始する。相手は未だ謎多きプロトカルチャーの子孫。大きな戦力差もある。だが、銀河をくれてやるわけには行かんのだ。ラグナでは“クラゲを侮るカモメは海に引きずり込まれる”と言う。奴らに我々の意地を見せてやろうではないか!』

「随分気合い入ってんなぁ・・・・・」

「ハヤテくん、静かに!聞こえちゃいますよ・・・・!」

『この戦いが、我々にとって最後の戦いである事を願う。諸君らの健闘に期待する!』

 

アーネストが敬礼し、全員も敬礼する。

 

『マクロス・エリシオン、発進!』

 

フォールドゲートの中へと、巨大な艦は消えていった。

 

ーーーーーーーー

 

正装へと着替えたハインツに、従者が頭を下げる。

 

「ハインツ様、お時間です」

「わかった」

 

シグル=バレンスから艦が二隻ほど静かに浮上し、敵を迎え撃つため進軍を開始する。

 

「これより我々は、反旗を翻す愚か者共に反撃するため、惑星ランドールへと向かう!」

 

ロイドのその言葉に続いて、ハインツがウィンダミア軍の前に躍り出る。

 

「皆、今までよくウィンダミアのために戦い、導いてくれた。七年前の屈辱を晴らす戦いも、もう終わりを迎える!今こそ、自由な翼で飛び立つ時だ!」

 

一呼吸置き、高らかに宣誓する。

 

「全軍、翼を広げよ!!」

 

ーーーーーーーー

 

『パイロット各員は、自機に登場し待機せよ!繰り返すーーー』

「行くのね」

「美雲さん!?何でこんな所にいるんですか?」

 

これから《ワルキューレ》はミーティングがあるものはずなのだが、格納庫には美雲がいた。パイロットスーツに着替え、機体に乗り込もうとしていた時に話しかけられたのだ。

 

「ちょっとね」

「・・・・・?」

 

そっと近づいてくる美雲の顔に、驚き喋る前に塞がれた。

 

「んっ・・・・!?」

「・・・・・・・」

 

しばらくその状態が続き、そっと離れていった。

 

「い、今のって・・・・・!」

「これがキスなのね」

 

顔を真っ赤にし口をパクパクしている花蓮と少しビックリしたような顔をしている美雲。これでは当分、主導権はあちらから動くことはないようだ。

 

「おまじないよ」

「お、おまじない?」

「そう、大丈夫っていうね」

(全く、この人は・・・・・)

 

大胆で積極的である。でも、効果はあるかもしれない。

 

「ありがとうございます、美雲さん」

「私も頑張るわ。だから、あなたも頑張ってね」

「了解」

 

美雲の頭に手を乗せ、優しく撫でた。

 

「行ってきます」

 

優しく微笑みながらそう言うと、不意をつかれたのか顔を真っ赤にしたが、恥じらいを込めた笑みで美雲も返した。

 

「行ってらっしゃい」

 

他のメンバーもパートナーと話していた。ミーティングどころではないか。募る話もあるのだろう。

 

「よっしゃ!ゴリゴリな歌、頼むぜ!フレイア!」

「ほいな!任せんかね!」

「ミラミラ、そんな固くならないで」

「は、はい!」

「カナメさん、あの・・・・・・」

「帰ってきてね、絶対よ?メッサーくん」

「はい」

「チャックも、気をつけて。クラゲ待ってる」

「ウーラ・サー!任せろぅ!」

(みんな、いい面構えじゃないか)

 

アラドは最初に機体に乗り込もうとした瞬間、部下達全員に声をかけられた。

 

「「「「「行きましょう、隊長」」」」」

「・・・・・・・・・」

 

一瞬呆気に取られたが、心の中で笑う。

 

(ったく・・・・お前らは)

「全員、生きてラグナに帰るぞ」

 

その言葉皮切りにΔ小隊は各機体に乗り込む。そして、α、β、γ、Δと《ワルキューレ》にアラドからの回線が開かれた。

 

『Δ小隊隊長、アラド・メルダースだ。これから俺たちΔ小隊と《ワルキューレ》はプロトカルチャーシステムの中枢を叩くためウィンダミアに強行潜入するポイントであるアルヴヘイムへと向かう。α、β、γ小隊はランドールにて陽動。皆、この戦いで最後だ。生きてラグナに帰るぞ。帰ったらクラゲラーメン奢ってやる』

「へっ、隊長らしいぜ」

「ええ」

 

ハヤテとミラージュは笑った。

 

「帰ったら忙しくなりそうだなぁ!」

「・・・・・・」

 

チャックは肩を回し、メッサーはブレスレットを前に掲げ、祈りを捧げる。

 

(もう戻ることはないと思っていたが・・・・今は飛ぶ。生きる方が戦いで、守るべきものを守るために・・・・・お前たちの贖罪のために)

 

フレイアは胸の前で手を合わせる。

 

(この戦いが終わったら、カレンに言おう。ちゃんと、あたしの気持ちを・・・)

 

マキナとレイナは肩を寄せ合う。

 

「頑張ろうね、レイレイ」

「うん」

 

カナメと美雲は微笑み合う。

 

「行きましょう、美雲」

「ええ、これで最後よ」

 

美雲は花蓮の乗る機体を見上げる。

守ってみせる、ここの皆を。そのためにーーー

 

「終わらせる、この戦いを・・・・・!」

 

美雲は目を瞑る。

 

“私は大好き、カレンが。カレンだけじゃない、カナメやΔ小隊のみんなと《ワルキューレ》のみんなが・・・・・私の大切な人たち。この戦いが本当に最後の戦いであるなら・・・・・・”

 

『間もなく、ランドールの衛星軌道上にデフォールドします!各員戦闘準備!』

 

信じたい、この先に幸せが待っていることを。

 

“この最後が私たちの未来に繋がる始まりでありますように・・・・・・”

 

 




当初の予定とはかなり外れましたが、次回から戦闘入ります!
美雲とカレンの絵が全く描けない。


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Mission37 極限 ブレイブ

予期せぬ事態で、望まぬルーキー対決が始まるーーー

ウィンダミアの地で、一人の騎士が命を燃やしたーーー


ランドールの宙域にマクロス・エリシオンがデフォールドする。

 

「来たか!我々もケイオスとの連携を開始する!何としてでもアルヴヘイムには行かせるな!」

「「「「了解!」」」」

 

ロイドは艦の司令室である違和感を覚えた。《ワルキューレ》とΔ小隊が全く現れないのだ。

 

(一体どこへ・・・・・)

『ロイド様!』

「どうした」

『敵はケイオスとヴォルドール方面の構成部隊の模様です!』

「マクロス級を投入してきたか・・・・・」

『これは・・・・・!Δ小隊と《ワルキューレ》は現在惑星アルヴヘイムに向かっています!』

「ランドールは囮か・・・・・・しかしなぜあの様な廃墟の星に・・・・いや、まさか・・・・・!?」

 

ーーーーーーーー

 

『衛星軌道上はγ、θ小隊が防衛中!』

「よし、《ワルキューレ》スタンバイを!」

『了解!』

「戦術ライブでフォールドゲートを展開させ、ウィンダミアに突入。制風圏の中枢システムを破壊する。片道切符になるかも知れん、だがこれで最後だ!腹を括れ!」

「「「「了解!」」」」

「ウーラ・サー!」

 

遂に、《ワルキューレ》による戦術ライブが始まった。

 

「行くわよ、みんな!これ以上戦いを長引かせないためにも!」

「「「「はい!」」」」

 

“Absolute 5”のイントロが流れ出し、Δ小隊は《ワルキューレ》を守るようにガウォークに変形する。

 

『システムの反応は?』

 

レイナがネイル型マルチデバイスによる計測を試みる。が、以前と同じく共鳴するどころか反応は鈍いままだった。

 

「ダメダメ、フレイアの生体フォールド波が安定しない!」

 

か細くも歌っていたフレイアだが、次第に声さえも出なくなってしまった。曲もサビに突入するが、上手く連携が取れず何とも言えない歌声を奏でる。

 

『何やってんだ、フレイア!ちゃんと歌え!』

 

ガウォーク形態のVF-31J改がフレイアを叱咤した。

 

「ハヤテ・・・・」

『フレイア!』

「でも・・・・・」

 

そのまま下を俯いてしまった。

 

「俺が暴走しないように、お前は・・・・・」

 

暴走しないなんて確証は得られていないが今は少しの可能性にも縋り付きたい状況。フレイアにはちゃんと歌ってもらわなければならない。言うべき時はしっかり言ってやらねばと、カナメがフレイアの名前を口に出すよりも先に、破裂音が響いた。

 

「美雲・・・・・」

 

美雲がフレイアの頬を叩いた。言葉には出さず、歌いながらただフレイアを見つめる。

 

「美雲さん・・・・・・」

「本気で歌え!フレイア!」

「でも、それじゃハヤテが、ミラージュさんが・・・・!」

『ハヤテを信じなさい!フレイア!』

 

すると、レーダーに敵襲を報せるアラートが鳴り響く。

 

「もう気づかれたか・・・・・!」

 

メッサーが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「ウィンダミアに踏み入ろうなどと!」

「行かせはせん!」

 

三機のドラケンⅢがこちらに向かってくる。

 

「来たか!各機迎撃!」

『俺とカレン少尉が先行します!』

『了解!』

 

VF-31FとVF-31Aがファイターへと変形し、敵軍の中へと突っ込んだ。

 

「フレイア!お前はお前の歌を信じろ!」

「ハヤテ・・・・・!」

 

ハヤテとミラージュも同じくファイターへと変形し、敵軍へと向かう。

 

「フレフレ!」

「フレイア」

「マキナさん、レイナさん・・・・・」

「フレイア!」

「カナメさん・・・・・」

 

横からスッと手を差し伸べられた。

 

「行くわよ、フレイア」

「美雲さん・・・・・はい!」

 

フレイアのルンがありったけの光を放った。完全再起したフレイアの歌が加わり、《ワルキューレ》の歌が増大する。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

ハヤテの中に鈍い痛みが生じる。

 

「ぐっ・・・・!」

(俺は・・・・暴走なんか・・・・・!)

 

花蓮の目の前に見覚えのある機体が接近する。オレンジ色のラインが入ったドラケンⅢ。そして馬の紋章、間違いない。

そして、ヘッドオンし、真っ向からの一騎打ちが始まった。

 

「カシム・エーベルハルト!」

「この風・・・・・そうか、白騎士のパイロット、エノモト・カレンか!」

 

二つの機体が大気を裂き、ドッグファイトを繰り返す。

 

「大いなるルンよ・・・・・我に“真なる風”をッ!」

 

カシムのドラケンが金色の光を帯び、花蓮の後ろへと張り付く。

 

「オーバードライブ!?」

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

フォールドクォーツを積んでいないVF-31Aとの機体性能が圧倒的に大きく、相手からの攻撃を避けるのに手一杯になり、こちらからの反撃が全く出来ない状態へと追い込まれてしまった。

 

「カシム!?」

『風があんなにも鋭く・・・・・!』

 

ザオとテオも驚きを隠さずにいた。しかし、代償も大きかった。著しくルンを消耗するためか、ウィンダミア人の寿命を表す白い斑紋がカシムの首を侵食していく。

 

「ぐっ・・・ああああ・・・・・!!」

『デルタ5!?』

 

明らかに様子がおかしいハヤテにミラージュがいち早く気づくがーーー

 

「ああああ・・・・・アアアアアアアア!!!」

『ハヤーーきゃぁ!!』

 

遅かった。ミラージュ機を突き飛ばし、花蓮とカシムの下へと加速する。

そして、二人のコックピット内に第三者の襲撃を知らせるアラートが響く。

 

「なんだ!?」

「な・・・・!」

「アアアアアアアア!!」

 

VF-31J改が二人に向け、レールガンによる攻撃を仕掛ける。もちろん避けはするが、ハヤテが狙いを付けたのが花蓮であったのは不幸だった。

 

「ハヤテくん!?まさか、暴走して・・・・・!」

「アアアアアアアア!!!」

 

歌っている《ワルキューレ》の頭上をVF-31AとVF-31J改が過ぎる。暴風とも言える風を残し、二機は空を昇って行った。

 

「ハヤテの生体フォールド波が・・・・・!」

「ハヤテ!」

「まさか、暴走!?」

「カレン・・・・!」

 

上を見上げれば、二つの紫色のエンジンの色が点のように交わったり、ぶつかったり、時にはミサイルを撃ち落としたのか爆煙を残しながら激しく衝突する。この光景にカナメとアラドは既視感を覚えた。

 

「これって・・・・・・」

「アル・シャハルでのメッサーと白騎士の様じゃないか・・・・・!」

「アアアアアアアア!!」

 

無数のマイクロミサイルが花蓮めがけ、射出される。

 

「くっ・・・・・!」

 

ガウォークに変形し反転。後方から驟雨の如く接近するマイクロミサイルを左右腕部にあるレールガンで全部迎撃。再度ファイターに変形し、今度はこちらからミサイルを打ち返した。しかし、それをマニューバだけで躱し、撃ち落とす。エンジンのタービンの回転が上がる音がコックピットまで聞こてくる。音速を超えた二機のドッグファイトが苛烈さを上げていく。しかし、花蓮にある異変が訪れた。相手の攻撃してくる場所や方向がなぜだか分かるのだ。勘、とも違う、正しく先読みのような感覚だった。相手の攻撃場所がまるで風のように吹いたりとーーーそう、素直に言うなら、

 

「風が、見えるーーー」

 

主翼を折りたたみ、更に速度を上げた。

 

「ハヤテ!ハヤテ!」

 

ミラージュは必死に呼びかけるが全く応答はない。

 

「何をしている、ハヤテ准尉!」

『ここはカレンに任せろ、メッサー!』

「しかし隊長・・・・・!」

 

アラドは花蓮へと回線を繋げた。

 

『カレン!』

「隊長、ハヤテくんが・・・・・!」

『わかっている、だがこちらの応答に返事がない。何とかしてみるが、期待は出来ないぞ!』

「わかりました!」

『お前が無理だと感じたら最悪撃墜しても構わん!本来はミラージュの任務だったが、カレン、お前に任せる!ハヤテを止めろ!』

「了解!」

 

直後、遺跡に異変が生じる。

 

『生体フォールド波、臨界突破。フォールドゲート、開放!』

 

遺跡の上部に、巨大なフォールドゲートが出現した。

 

「総員、シャトルに搭乗!」

「でも、ハヤテが・・・・・!」

「ハヤハヤはカレカレに任せて!あたし達はシャトルに!」

「行かせるか!」

 

フォールドゲートの前にウィンダミア機が立ち塞がるが、

 

『邪魔させっかよ!』

 

チャックの機体がミサイルで迎撃し、《ワルキューレ》の乗るシャトルの道を拓いた。

 

『チャック少尉!』

「みんな、急げよ!」

「俺たちも突入する!」

 

アラドを先頭に、メッサー、ミラージュと続く。チャックはフォールドゲートが開いている間の防衛だ。

 

「ハヤテ!カレン!」

 

二人の戦闘も終わりが近づいていた。

 

「アアアアアアアア!!」

 

上昇反転したVF-31J改が死角からの射撃をするが躱され、今度はVF-31Aが反転しレールガンによる射撃。コンテナユニットに被弾させた。

 

「グッ!」

 

ハヤテがそれをパージするのを見て、更に追い込む。二機同時に散開し、対面しながら接近する。ハヤテは上から、花蓮は下からと速度を上げていく。

 

「アアアアアアアア・・・・・」

 

止めを刺そうと操縦桿をクリックしようとしたがコックピット内に吹いた。

 

「カ・・・ゼ・・・・・・?」

「ハヤテくん・・・・・・!」

「グッ・・・・アアアアアアアア!!」

 

レールガンを乱射するが、残っていたマイクロミサイル全てぶつけ相殺。両者の間に広がる爆煙の中から、VF-31Aが爆煙を突き抜けた。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ターゲットサークルがコックピットを捉える。暴走を止めるだけ、殺すまではしなくていい。

 

(翼だけなら、ハヤテくんも・・・・・・!)

 

ターゲットを左翼に変更し、ガンポッドで撃ち抜いた。煙をあげながら墜落していくVF-31J改とすれ違い、横目で見た。

 

『カレン、急げ!ゲートが閉じちまう!』

「・・・・・今行きます!」

 

規模を縮小し始めたフォールドゲートへと機体を向かわせる。

 

「チャックさん、ハヤテくんを頼みます!」

『任せとけ!』

 

花蓮もΔ小隊の後を追って、ゲートを潜った。チャックもそれを見届け、安堵するが、

 

『ザオ、カシム!後を追ってください!』

『テオ!?』

「はぁ・・・・・!はぁ・・・・・!感謝する

・・・・・!うおおおぉぉぉぉ!!」

 

二機のドラケンが閉じるギリギリのゲートを潜った。

 

「抜かれた!?」

 

ーーーーーーーー

 

《ワルキューレ》を乗せたシャトルとΔ小隊の数機がウィンダミアの空にデフォールドした。

 

「この山、この雪、間違いない!ウィンダミア!」

 

フレイアがルンを光らせ喋るが、後方からは二機のドラケンと花蓮の機体が同時にデフォールドする。

 

「よそ者が我らの風を穢すなど!」

「この空は飛ばさせぬ!」

『邪魔はさせない!』

「っ!?」

 

後方にまわっていたVF-31Aが、ガウォークに変形しレールガンで牽制する。

 

『隊長、殿は僕がやります!今のうちに!』

「わかった!各機、シャトルを守れ!」

「「了解!」」

「そこをどけぇ!!」

 

ザオの機体からビームガンポッドから高出力のビームが飛来する。それをピンポイントバリアで防ぐが、

 

「しまった!?」

「もらったぁ!」

 

カシム機からも発射され、《ワルキューレ》の乗るシャトルに被弾した。被弾した場所から強風が吹き込み、カナメとフレイアが外へ放り出される。

 

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁぁ!!」

「カナメ!フレイア!」

「なに!?」

 

いち早くミラージュがフレイアをキャッチし、カナメをメッサーが受け止めた。

しかし、残りの三人が乗っていたシャトルは墜落し、機体を地面に擦らせる。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

「カシム・エーベルハルトッ!!」

 

オーバードライブ状態のドラケンと通常状態のVF-31Aがドッグファイトを始めた。

 

「カシム、深追いし過ぎだ!カシム!」

 

しかし、ザオのルンが何かを感じ取った。

 

「っ! この風、白騎士様と同じーーー!」

 

ルンが研ぎ澄まされたカシムの動きが更に鋭くなる。しかし、花蓮も負けてはいなかった。相手の攻撃を先読みしているかのように躱し、一撃も被弾していない。

 

「うおおぉぉぉ!!大いなるルンよ・・・・・!」

 

更に力を研ぎ澄まそうとした瞬間、

 

「かはっ・・・・・」

 

何かが切れたかのように、カシムの機体がその動きを止め地面に落下し始めた。

 

「え!? カシムさん!」

 

花蓮も反転し、落下するカシムを追う。

 

「どうしたんですか、カシムさん!早く立て直してください!」

 

一瞬気を失っていたが、意識を取り戻し機体の姿勢を立て直す。眼前にはリンゴ畑が広がっていた。

 

「あの森に不時着すれば・・・・・!」

(・・・・・・)

 

カシムは機体を操作し、その森の手前で墜落した。

 

「なっ・・・・・カシムさん!!」

 

機体を地面に擦らせ、リンゴ畑の前止まった。花蓮は機体をガウォークに変形させ、近くで着陸しコックピットから飛び降りた。

ミラージュもやってきて、フレイアを庇うように恐る恐るドラケンに近づく。

 

「カシムさん!」

「白騎士・・・・・・」

 

キャノピーが取れ、されけ出されたコックピットには風前の灯のカシムがいた。

 

「ルンが、尽きる・・・・・・」

 

フレイアは悲しそうな顔で呟いた。

 

「しっかりしてください!今、コックピットから・・・・・!」

「よせ・・・・俺の命はもう・・・・」

 

カシムは薄れた声で静止した。

 

「白騎士よ・・・・リンゴ畑は無事か・・・・・?」

 

花蓮は咄嗟に後ろを振り向いた。そこには傷一つついていないリンゴ畑が遠く広がっていた。おそらく最後の力を振り絞って機体をズラしたのだろう。

 

「大丈夫ですよ」

「そうか・・・・・」

 

ウィンダミア人特有の寿命が僅かになると発生する白斑の様なものが皮膚を侵食していく。

 

「敵に頼み事など騎士として有るまじき行為・・・・・だが、一人の大人として、一人の騎士として・・・・・恥を忍んで頼みがある・・・・・・」

「はい・・・・・・」

 

カシムはゆっくり息を吐いて花蓮の紅蓮の瞳を見た。

 

「ウィンダミアの宰相は美雲という歌い手を使い、何かを企んでいる・・・・・」

「・・・・・!」

「おそらく全銀河を巻き込んで善からぬ事を企ているのだろう・・・・それでは我々は何の為に戦っていたのかわからなくなる・・・・頼む、ロイド・ブレームを討て・・・・・そして、この無意味な争いを終わらせてほしい・・・・・!」

 

一人の騎士の切実な願い。その瞳には決意が込められていた。

そして無意識にこんな言葉を口にしていた。

 

「・・・・我が胸の風にかけて・・・・」

 

その言葉を聞いてカシムは僅かに微笑した。

 

「ありがとう・・・・エノモト・カレン・・・・」

 

そしてゆっくりと目を閉じた。ウィンダミアに吹く風を受け、大切なリンゴ畑に囲まれ我が生涯に幕を下ろした一人の騎士の顔は清々しいものだった。

 

“忘れないと思う。祖国のために戦い、祖国の大地で羽を収めた聡明な一人の騎士のことを”



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Mission38 伝説の歌い手

遂にカレンの母親登場!


花蓮とミラージュとフレイアは日が落ち、ただシンシンと降り続く雪の中を王都〈ダーウェント〉に向けて歩いていた。定時連絡にて落ち合う場所が〈ダーウェント〉に決まった。目印は王都だけに、ウィンダミアの王城が構えているらしく見つけやすいとはアラドからは言われているが、自分たちの歩いている道の先には未だそれらしき建物は見えていない。山、山、山である。

 

「・・・・みなさん、こっちに」

「へ?」

 

花蓮に促され岩陰に隠れると、数秒遅れてからウィンダミアの哨戒機がライトで地を照らしながら飛んでいく。どうやら、自分たちの潜入は敵軍に筒抜けらしい。

 

「・・・・・ウィンダミアに到着してから十二時間。大分捜査網も狭まっていますね」

「急いだ方がいいかも知れません」

 

花蓮とミラージュは頷きあった。

 

ーーーーーーーー

 

「そうか・・・・・カシム・エーベルハルトが・・・・・」

「侵入者共は機体を隠し、陸路を移動しているようです」

「我らも現地に赴き指揮を執ります」

「・・・・・・ロイド、キース」

「何でしょう」

「頼みがある」

 

ーーーーーーーー

 

「こちらデルタ1、デルタ4状況は?」

『こちらデルタ4、現在目的地まで30キロのポイントです。今のところ異常はありません』

「マキナ、そっちは?」

『異常なし、現在バイクで移動中でーす。クモクモも一緒だから安心して』

『ジャミングも有効。でもいつ解析されてもおかしくない』

「敵の想定以上の追撃によりデルタ3が離脱。暴走による件でデルタ5も離脱。着陸予定地からも大幅に離れてしまった。だが、作戦に変更はない。このまま王都〈ダーウェント〉に行き、システムに接近。戦術ライブの共鳴により、これを破壊する」

『本当にそんなこと出来るのかな』

「今はその可能性にかけてみるしかない。もし、〈星の導き手〉が言った通りならもしかすると、協力してもらえるかもしれないわ。〈星の歌い手〉に」

『そだね』

「次の定時連絡まで各自通信は控えろ、以上だ」

 

そこで定時連絡が終わり、デバイスの電源を切った。

 

(母さん、一体どこに・・・・・)

 

ーーーーーー♪

 

「ん?」

「どうかしましたか?カレン」

「あっちの方から誰かの歌が・・・・・・」

「歌?」

 

ミラージュとフレイアは首を傾げる。そして、花蓮の指さす方角は、

 

「この道、王都への近道!」

「本当?フレイア」

「任せんかね〜」

 

ピョンピョンと岩と岩を跨ぎ、直ぐに後を追う。ウィンダミア人の身体能力の高さには毎度驚かされた二人であった。しばらくしてフレイアに追いつくと、舗装された道が続いていた。その先には大きな王城。確かに、近道だ。それまでの道が険しかったのだが、フレイアはピンピンしている。

 

「どうかね!ほんとやったろ?」

「さすがですね、フレイアさん」

「にししし〜」

 

そうして三人はまた歩き出した。

おもむろに、花蓮は一つフレイアに問うた。

 

「そういえばフレイアさん、ずっとその音楽プレイヤー持ってますよね、お守りですか?」

「これね?これは、もらったんよ」

「それって、昔にここにいた統合軍の軍人に?」

 

ミラージュがそう聞くと、無言で頷いた。スイッチを押すと、“星間飛行”が流れ出す。

 

「ちっちゃい頃、もらったんよ。軍人さんに。その人にも子供がおるんやって」

「へぇ」

「そしてこっちがーーー」

 

ずっとポケットの中に入れていたある物を取り出す。それは、黄色に輝く石が付いたイヤリングだった。

 

「これは、トパーズですね」

「なんね?トパーズって」

 

フレイアが首を傾げた。

 

「11月の誕生石です」

「ほえー、宝石なんね?」

「そうですよ」

「ほえぇぇえ」

 

物珍しそうにそのイヤリングを見る。

 

「それも誰にもらったんですか?」

「うん、何かよう覚えてないんやけど、カレンみたいに赤い髪に赤い目だったんよ」

「・・・・・・・」

 

花蓮はその人物について思い当たる人が一人いた。いや、その人しかいないのだ。

 

(間違いない。フレイアさんにイヤリングをあげたのは母さんだーーー)

 

ーーーーーーーー

 

「ここは・・・・・・・」

「新統合軍の駐留基地の一つです」

 

アラドたちの目の前に広がっていたのは廃墟と化した建物群だった。

 

「メッサー、俺は入れる場所を探してくる。カナメさんを頼んだ」

「了解です」

 

アラドが視界から消えるのを待ち、はぁとため息を付いた。ウィンダミアに潜入してから十五時間といったところだろう。そろそろミラージュたちとも合流出来るはずだ。美雲たちはしばらく掛かると思う。

 

(俺が代わりに行くべきだった。俺なんかよりアラド隊長と居た方が、余程楽しかったはず)

 

無表情にも近い顔とは裏腹に、心の中ではそんな事を考えていた。隣にいたカナメは無意識に怖い顔をしているメッサーを悲しい顔で見つめていた。

 

「おーい、使えそうな機材があったぞー!」

「行きましょう、カナメさん」

「うん・・・・・」

 

遠くから聞こえてきたアラドの声がする方へ向かって二人は歩き出す。目の前にある錆び付いた鉄の扉を開ければ、中は長机と椅子が沢山並んでいた。食堂だろうか。

 

「・・・・・・」

 

壁の一角に沢山写真が貼ってあるのがカナメの視界に入った。

 

「遺影ですよ。第53航空隊、一癖も二癖もある自信過剰な、いいパイロットたちでした」

 

もう一度、カナメは写真を見る。肩を組み合っている写真や小さな翼竜が地球人の腕に乗り、それに驚いている写真など。そして、目線をずらした先にあった写真にはーーー

 

「え・・・・・・」

「どうかしましたか?」

「この女の人、カレンくんにそっくり」

 

アラドとメッサーも見てみれば、そこに写っていたのは軍人たちの前で歌っているのか、目を瞑り祈りを捧げているように歌う長い赤い髪、どことなく彼に似ている輪郭。

 

「言われてみれば・・・・・・」

(もしかして、カレンくんのお母さん?)

 

ーーーーーーーー

 

「うーん、偵察して来るって言っとったけど、カレン遅いね〜」

「王都の近くですからね、入念に見て回っているのでしょう」

 

花蓮は偵察の範囲を広げ、辺りを見ていた。

 

「ここも大丈夫っと、しばらくは休めるかな」

 

立ち上がり、来た道を戻ろうとした瞬間、

 

ーーーーーーーー♪

 

「まただーーー」

 

今度は先程より鮮明に聞こえる。歌の声が聞こえる方へと歩みを進めた。しばらく歩けば見るからに怪しい洞窟。断続的に聞こえてくる歌は、どうやらこの洞窟の奥かららしい。銃を片手に中へと入っていく。薄暗く、湿っけが辺りに充満している。ピチョン、と雫が落ちる音だけが響く。

 

「・・・・・・・」

 

耳を凝らせば、今度ははっきりと歌が届いてきた。

 

“目覚めれば動き出す物語 いつもと何か違う朝 まぶた擦った”

 

「この歌・・・・・」

 

本来アップテンポのこの曲が、ゆったりとした感じに歌われるとこんなにも違うものなのかと改めて関心する。更に奥へと歩みを進めると広い場所に出る。そこで、青く光る球体。その中に、ずっと探していた人がいた。

 

「母、さん・・・・・」

 

近づき、球体の側面に指が触れた瞬間、弾けるように霧散し、裸の女性が薄く目を開いた。地に足をつく姿さえ、美しく見えるのは気のせいではない。

 

「母さんなの・・・・?」

「待ちくたびれたよ〜、花蓮くん」

 

大人にしては子供っぽい顔、スタイルも申し分ないのだがどこか子供っぽい。息子の名前をくん付で呼ぶのも変わっていない。

 

「よく来たねぇ〜、おいでませ〜」

 

ニコニコした人懐っこい笑顔を花蓮に向けた。花蓮に関しては困惑気味な笑顔を浮かべている。

 

「ひ、久しぶりだね、母さん」

「そうだね〜、見ないうちに大きくなったね」

「そ、そうだ!早く王都に行かないと!外で人を待たせてるんだ、母さんも行こう」

「いいよ、行こう行こう」

 

洞窟の出口に向け歩き出そうとすると同時に端末に通信が入った。

 

「はい」

『俺だ!』

「隊長?どうしたんですか?」

『ミラージュとフレイアが捕まった!』

「え・・・・!?」

『美雲もマキナとレイナを逃がすために囮になったらしい。やられたな』

「そんな・・・・・」

『お前は無事なんだな?今すぐ遺跡に来てくれ!強行ライブをする!』

「わかりました!」

 

端末の電源を切り、振り向くとーーー

 

「遺跡はこっちからが近いよ」

「行こう!」

 

岩壁の一角がドアのように開き、その中へと入る。中は上へと続く螺旋階段だった。二人は走りながら上がり出した。

 

ーーーーーーーー

 

「こいつらか」

 

ロイドは車から身を乗り出し、データを呼び出す。目の前には拘束されたフレイアとミラージュがいた。

 

「フレイア・ヴィオンに、ミラージュ・ファリーナ・ジーナス少尉」

「まさか、ジーナス家のご子孫だったとはな」

「捕虜を連れていけ」

(カレン、どうか無事で・・・・・!)

 

ーーーーーーーー

 

現在アラドたちはウィンダミア王城の近くまで来ていた。もちろん、遺跡もその傍にある。

 

「ミラージュたちの反応は城の中。美雲の反応はシステムの傍で消えている」

「やはり、ミラージュたちは捕まっていたか・・・・・・」

 

すると、後方から砂利を踏む音が聞こえる。

 

「誰だ・・・・!」

「あ、良かった!みなさんここだったんですね!」

「カレンか!」

「どうも〜」

 

花蓮の背後から女性が出てくる。

 

「え!?」

「むむ」

「うそ・・・・・!」

「おぉ・・・・・・」

「・・・・・・」

 

四人は口をあんぐり開けている。メッサーに関しては真顔だ。

 

「花蓮の母、エノモト・カリンです〜」

 

ぺこりとお辞儀をした。それにつられアラドたちもお辞儀をした。

 

「ど、どうも・・・・・」

「お母さん・・・・!?カレカレの!?」

「若い、若すぎる・・・・」

「ラブリー」

「自分はメッサー・イーレフェルト中尉です」

「マジメか、お前は」

 

敬礼をし、自己紹介をしたメッサーを肘で小突く。

 

「すみません、少し僕に考えがあります」

 

そう言って花蓮はその場所から去った。

 

ーーーーーーーー

 

「陛下は何故、このような者共に裁判など・・・・・・」

「慎めボーグ。ロイド様はどうしたのだ?」

「神殿の調査がありますので」

「こちらは任せるとの事です」

(ロイド・・・・・・・)

 

キースは眉をひそめた。

ロイドは美雲を先頭に薄暗い通路を歩く。そして、時の神殿へと着いた。

 

「ここは・・・・・・・」

 

美雲はそのまま階段を登り、ステージに立つ。すると、人の様な文様が付いた壁が光り出す。

 

「これがあなたの真の姿。身に覚えはありませんか?」

「・・・・・・」

「記憶にございませんか、先程から様子を伺っておりましたがやはり・・・・・」

「何のことかしら」

「あなたは、造られし命。七年前、戦争の混乱に紛れこの神殿の最奥からある物が奪われました。何、とまでは分かりませんが、それを元にレディMなる者があなたを・・・・・〈星の歌い手〉を蘇らせたのです」

「・・・・・・・」

「〈星の歌い手〉とは〈星の導き手〉に並ぶ、ウィンダミアに伝わる伝説の存在。その力は長い時を経て、〈風の歌い手〉に受け継がれた」

 

紋様が更に輝きを増す。

 

「その〈星の歌い手〉を蘇らせるとは何と畏れ多い・・・・・しかも真実を伏せ利用していた。いえ、恐れていたのかも知れません。あなたの力を」

 

美雲の脳内に、巨大システムの前で歌う自分と瓜二つの人物の映像がフラッシュバックする。

 

「私は・・・・〈星の歌い手〉・・・・・」

「そう、そうです。記憶はなくともその体には流れています。風が、あなたの歌が」

 

ーーーーーーーー

 

「まずは貴様からだ、ジーナスの者よ」

「・・・・・・・っ」

「ミラージュさん・・・・!」

「大丈夫ですよ、フレイア。彼がきっと来てくれます」

「え・・・・・?」

「私は信じてます」

 

ミラージュは処刑台を進んでいく。下は奈落の底。下から吹き上げる風が総身を震わせた。そして、空を仰ぐ。建物の一角が光った。

 

(うそ・・・・・本当に・・・・・!)

「この風・・・・・・!?」

 

キースのルンが光ったと同時に、近づくエンジン音。大気を裂く音がこだまする。現れたのはVF-31A〈カイロス〉だった。レールガンを撃ち、崖を崩す。

ミラージュの目の前にガウォーク形態に変形した。

 

『お待たせしました』

 

外部スピーカーを通して彼の声が響く。

 

「カレン・・・・・・!」

『フレイアさん!飛んで!』

「うん!」

 

フレイアも走り出した。

 

「逃がすなぁ!」

 

銃を撃つがその前に花蓮がキャッチする。二人を両手に上空に上がった。更に彼方から三機のVF-31が飛んでくる。

 

『これより《ワルキューレ》の戦術ライブを開始する!』

「美雲さんがいない戦術ライブ・・・・・」

『大丈夫、私たちならできる!』

 

Δ小隊と《ワルキューレ》が遺跡へとたどり着く。花蓮と華凛もコックピットから降りた。

 

「どうしたの?カレンくん」

 

衣装を着替えたカナメが聞いてきた。

 

「《ワルキューレ》の皆さん、ここは私に任せて」

「え!?カリンさん!?」

 

突如、華凛の姿が変わる。ヴァイオレット色の髪、妖艶を帯びた目つき。美雲と瓜二つの顔。

 

「あなたは・・・・・・」

「いつまで形を潜めているつもりかしら、《星の導き手》」

「偉そうに」

 

花蓮も髪と瞳が黒くなる。

 

「休暇は充分楽しんだでしょう?」

「ええおかげさまで」

「ロイド・ブレームめ、美雲・ギンヌメールの正体に気づいたか」

「救出は無理よ、今は遺跡の破壊が優先でしょ?」

「ええ」

「カリンさん・・・・・ちがう、あなたは美雲・・・・・?」

 

カナメが驚いたような顔でカリンを見た。他の面々も驚愕している。

 

「違うわ、カナメさん。美雲が、私なのよ」

「え・・・・・・?」

「私は本物の《星の歌い手》。華凛を宿主としてこの体を今は借りているわ」

「あなたが・・・・・・」

「やりますよ、《星の歌い手》」

「ええ」

 

今、伝説が立ちはだかる。



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Mission39 定めの果てへ

失敗に終わるウィンダミアへの突入。
美雲を奪われ、気力を失いかける花蓮に訪れる衝撃の真実。

短めです。次回は最終決戦への繋ぎの話


“ルクス センティーレ,カルティム リースレマ”

 

《星の歌い手》が奏でる星の歌。それは巨大システムを容易に起動させ、《星の導き手》による生体フォールド波の増幅によりウィンダミアの大地が戦く。

 

「な、なんだ、この風は・・・・・!?」

「この歌・・・・・」

 

ロイドの顔が険しくなり一報が入る。

 

「何事だ!」

『わかりません!しかし、この歌は間違いありません!星の歌です!』

「バカな・・・《星の歌い手》は美雲・ギンヌメールではなかったのか!?」

 

しかし、そこで一つ思い当たる事がある。暴走のヴォルドール、そこで響いてきた《ワルキューレ》でもなければハインツの風の歌でもない、もう一つの歌。嫌な予感が頭をよぎった。

 

(まさか、本物の《星の歌い手》が生きていた・・・・・?)

 

すると遠方から爆発音が聞こえた。

 

ーーーーーーーー

 

星の歌が終わると同時に巨大システムが地響きを鳴らし、起動を停止させた。

 

「まあこんなものかしら」

「システムは?」

「完全に沈黙させたわ」

「そうですか」

「・・・・・・・・」

 

一通りの確認をし合った後、元の姿には戻らず、静かに花蓮を見つめていた。それに気づいた《星の導き手》は少し怪しいものを見る顔で尋ねた。

 

「何か用ですか?」

「あなた・・・・・・」

 

何かを言おうとしたが、それはアラドの言葉によって遮られた。

 

「よし、任務完了だ!美雲を奪還したのちすぐにずらかるぞ!」

 

全員が一息着こうとした瞬間ーーー

 

“ルクス センティーレーーー”

 

「っ! 星の歌!?どこから!?」

「まさか、もう目覚めたのね。美雲・ギンヌメール・・・・」

 

《星の歌い手》の顔が険しくなる。まさか、美雲の覚醒がもう完了したとは誤算だった。しかも機能を停止させたはずの巨大システムが美雲の奏でる星の歌で再度起動する。

 

(ここまでね)

「隊長さん」

「は、はい」

 

いきなり《星の歌い手》に話しかけられたアラドは驚きながらも何とか返事をした。

 

「作戦失敗よ。エースの美雲を奪われ、ウィンダミア軍にそろそろ私たちの居場所も特定される。徹底しましょう」

「しかし・・・・・!」

「これ以上は消耗戦よ。今が引き際だと私は思うわ」

「・・・・・分かりました」

「運よく星の歌でフォールドゲートが開いたわ。急ぎましょう。あなたも、文句はないわね?」

「はい」

 

《星の導き手》も賛成し、Δ小隊は各々機体へと、《ワルキューレ》はシャトルに乗りフォールドゲートへと向かう。花蓮の後部座席には元の姿に戻った華凛が乗っている。

 

「全軍撤退!ウィンダミアから脱出する!」

 

アラドの苦渋の篭った声が各機体へと届く。

 

「くっ・・・・・・!」

 

メッサーは歯ぎしりをした。

 

「美雲・・・・・・」

 

カナメはシャトルの小窓から遠のくウィンダミアを、視界から消えるまで見つめ続けた。

 

ーーーーーーーー

 

〈アイテール〉の格納庫には傷が付いた機体の整備のために、整備班の声と機械の音が鳴り響く。それを遠くで聞きながら壁に背を預け、花蓮は自分の手を見つめていた。

 

『あなたが好きよ、カレン』

 

蘇る美雲の声と顔。見つめていた手を握りしめる。

 

「助けられなかった・・・・・・・」

「花蓮くん」

 

顔を上げると、優しい笑みを向ける華凛がいた。

 

「少し、お話しない?」

 

ーーーーーーーー

 

「母さん、あの時言いかけてたことって何?」

「・・・・・・」

 

夜風が頬を撫でる〈アイテール〉の甲板へとやって来るなり、思っていた疑問をぶつけた。

 

「もしも、ウィンダミアがラグナまで来たらあなたはどうするの?」

「遺跡を破壊してでも終わらせるよ、この戦いを。僕に、このブリージンガルの未来を託してくれた一人の騎士のためにも」

「どうやって、破壊するつもり?」

 

振り向いた顔はいつもの朗らかな表情ではなかった。まるで、何かを見透かしているような顔だった。

 

「もう一人の僕が言うには、どちらかがどちらかを取り込み覚醒すれば遺跡の干渉を受けないみたいなんだ。そうすれば遺跡を破壊することもーーー」

「やっぱり、その答えに辿り着いのね」

 

そこに居たのは華凛ではなく、《星の歌い手》。美雲と瓜二つの顔が自分を見つめる。

 

「え?」

「あなた達どちらかがどちらかを取り込めば確かに本当の覚醒を迎えるわ。本来なら(・・・・)

「本来なら・・・・・?」

 

最後の言葉が妙に引っかかる。

 

「取り込まれた方は完全に消滅することは知ってるわね?」

「は、はい」

「残念だけど、あなた達は別よ」

「別って、一体ーーー」

 

妖艶な顔が更に真剣なものへと変化する。

 

「取り込んだ方も、消滅する(・・・・)。あなた達は深く繋がりすぎたの」

「なーーーー」

 

息が詰まる。恐らく情報の整理が着いていないのだろう。

 

「あなたは、《星の導き手》の特殊な因子と適合し過ぎているの(・・・・・・・・・)。でも、そんな体質でも一体化すれば本来の《星の導き手》の力にあなたの体は適合出来ず崩壊する。いくら特別なあなたでも所詮は人間。許容する器が小さいのに対し、入れる物がそれより大きければ大きいほど、尚更ね」

「・・・・・・・・」

「ウィンダミアは巨大システムを制御出来る《風の歌い手》と《星の歌い手》を有している。正攻法じゃ勝ち目はまず無いわ。でもこっちには、私しかいない。《星の導き手》の本来の役目は銀河と人々を平和へと導くこと。遺跡の制御なんて出来ないもの。だから《星の歌い手》と常に行動を共にする必要があった」

「それじゃ、僕はどうしたら・・・・・」

 

やっと声を出すことが出来た。我ながら不抜けた声だった。

 

「遺跡を破壊するしかない。でも遺跡を破壊するには一体化する必要がある。でも取り込んだ方も取り込まれた方もどちらも消える。でも遺跡を破壊しなければこのブリージンガルはウィンダミアの手に落ちる」

「・・・・・・・・」

「自分の存在(いのち)を犠牲にしてブリージンガルを救うか、ブリージンガルの人々を犠牲にして自分が生きるか・・・・・決めるのはあなた自身よ」

 

我ながら傲慢なものだ。このブリージンガルを救いたい。でも、自分は消えたくない。でも、自分が一体化すればこのブリージンガルは救うことが出来る。でも一体化すればーーーーー答えの出ない自問自答を繰り返す。でも、大好きなみんなを救えるのならーーー

 

「僕が犠牲になって、本当にこの戦いが終わるのならーーー僕の最後が、みんなの未来に繋がる始まりになるなら、やることは決まってる」

 

その瞳にはもう迷いは無かった。清々するほど気持ちがいいくらい真っ直ぐな思い。

 

「決まりね」

 

もし自分がケイオスの者で無くても、やがて全て消えゆく定めだとしても、悩んだ果てにこの決断をするだろう。昔、誰かが言っていた。『誰かを守る心が人を強くする』。今の自分にピッタリな気がした。今はみんなを銀河を、美雲を守る。その心があればいい。それさえあれば何も怖いものなど無い。

 

「歩き続ければ、希望はある。僕は立ち止まらないよ、進むべき道がやっと見つかったから」

 

その顔は男らしく、輝いて見えた。

 

「カッコイイじゃん、花蓮くん」

 

一筋の涙を流しながら、聞こえないようにそっと呟いた。




遅くなりましたすみません!


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Mission40 誰が為に

始まる最終決戦!

Δ小隊と《ワルキューレ》は終止符を打つため、ラグナへ向かう!


「・・・・・・・・」

 

廊下の床を叩くブーツの音を聞き流しながら花蓮は格納庫へと向かっていた。

 

『銀河を救うか、あなた自身が生きるか。決めるのはあなたよ』

(やるべき事は決まった。後は、戦うだけ)

 

格納庫に着けば、修理と改修が終わったランスロットが鎮座していた。微かな照明に輝く鋼鉄の装甲、金色に輝く装飾が少し眩しく見えた。そっと手を付けば、鉄特有の冷たさが掌を通して伝わってくる。

 

「これで最後だ、力を貸してくれ。ランスロット」

 

どのような理屈で変化しているのか分からないが、掌を着いた所から新たにマーキングが施されていく。

 

「これは・・・・・・・」

 

ーーーーーーーー

 

「美雲さん・・・・・・」

「んお?フレイア、その手どうしたんだ?」

 

談話室に全メンバーが集まる中、手に巻いた包帯に全ての視線が注がれる。

 

「え!?あ、いや、ウィンダミアでちょっと・・・・・」

「大丈夫なんですか?」

「うん、全然なんも・・・・・」

「・・・・・・」

 

ミラージュは何かに気づいたが、その場では何も言わなかった。

 

「ふむ・・・・・・」

 

アーネストがデータを見ながら静かに唸った。

 

「システムの破壊に失敗し、美雲は敵の手に落ちた。彼女の歌は全銀河に響いたが、その数値は今までにないものだ」

「もしかして、ウィンダミア側に・・・・・」

 

チャックは皆が思っていた事を代弁したかのように言うがそれに反発したの人物がいた。

 

「有り得ない!そんな事!」

 

熱くなったカナメだったが、すぐに我に返り、謝った。

 

「でも、何故風の歌を・・・・・」

「違うよ、あれは星の歌」

 

私服に着替えた華凛がミラージュの疑問に答えた。

 

「でも、美雲ちゃんが歌うと少し違う感じがしたな〜。あれは、闇の色」

 

ーーーーーーーー

 

「どうしたの?レイナ」

「みんなに話がある」

 

照明が全て消え、水槽の僅かな光だけが辺りを照らす。

 

「これ、VF-22にあったボイスレコーダー」

「っ!」

 

アラドが目を見開く。

 

「壊れてデータは消えてたけど」

復元(サルベージ)出来たんですか!?」

 

レイナはそのまま視線をハヤテに移した。

 

「どうする?ハヤテ」

「・・・・・・聞かせてくれ」

「ん」

 

少し考えた後、ハヤテの言葉にレイナは頷き、ネイル型のマルチデバイスで復元した音声を流した。

 

ーーーーーーーー

 

「まさか、ライト隊長が特殊諜報員だったとはな。ったく、大した親父さんだよ」

「親父は殺してなんかなかった。みんなを守ろうとして・・・・・・」

(ライトくんがそんな事を・・・・・自分を犠牲にしてでも誰かを守りたいだなんて、花蓮くんにそっくりだね)

 

よく色々な所に仲間達と行ったことは今でもいい思い出でだった。

すると、談話室のドアが開いた。そこに立っていたのは、

 

「あ、花蓮くん」

「あれ、皆さんどうしたんですか?」

 

事の経緯を知らない花蓮は首を傾げ、先ほどのことを話そうとアラドが口を開いた瞬間、ブリッジから連絡が入る。

 

『艦長』

「どうした」

『小型宇宙艇が着艦許可を申請しています』

「なに・・・・・?」

 

アーネストには嫌な予感がしてならなかった。案の定、その予感は的中する。数分して、談話室のドアが開いた。

 

「お久しぶりです、皆さん」

「ベルガー・・・・・」

 

アラドが睨みつけると、ベルガーは肩を竦めた。

 

「一体何の要件だ」

「いえいえ、美雲・ギンヌ・メールについてです。彼女は・・・・・・〈星の歌い手〉です」

 

ーーーーーーーー

 

「〈星の歌い手〉・・・・・?ただの伝説では・・・・」

 

王城の謁見広間では、玉座に座るハインツの前に、空中騎士団が立っていた。

 

「余にはわかる」

「しかし、何故《ワルキューレ》なんかに・・・・」

「地球人が蘇らせたのだ」

 

「昔、特殊諜報員の地球人が遺跡の地下神殿でとある細胞片を発見しました」

「っ!!」

 

ハヤテはその言葉に反応する。

 

「ライト・インメルマン少佐です。どういう手段を使ってか、細胞片はレディMの手に渡った様ですね」

「まさか、それが美雲?」

「ええ、その通りです」

(やっぱり・・・・・・)

「・・・・・・・・」

 

皆が驚く中、華凛と花蓮だけは表情を崩さなかった。

 

「プロトカルチャーシステムが〈星の歌い手〉に反応すると、人間の脳波がデルタ波レベルで同調し、巨大なネットワークを形成します」

「デルタ波レベル・・・・!?」

「そう、深い眠りと無意識・・・・・ある意味、死に最も近い。取り込まれた人間は莫大な情報量に耐えきれず、自我を崩壊させる危険性もある。あの歌が響けば、全人類は・・・・・・・歌は「兵器」。やはり、私の考えは正しかった様ですねぇ」

 

フレイアが顔をしかめる。ハヤテが反論しようとする前に

 

「違う!」

 

花蓮が先に言っていた。

 

「歌は「兵器」なんかじゃありません!」

「おやおや、〈星の導き手〉。そう熱くならないでください。〈星の歌い手〉は歌うためだけの存在。王家とそれに近い者達だけが操れるとか」

「もし美雲が、敵に操られたら・・・・」

「だとしたら・・・・・・」

「状況によっては美雲・ギンヌメールの命を・・・・・・・」

 

アーネストの言葉に全員の顔が絶望へと染まっていく。

 

「そんな事はさせません」

 

しかし、一筋の希望が彼らには見えた。

 

「他に方法でも?」

「僕と《星の導き手》が一体化すれば遺跡の干渉と星の歌の影響を受けない」

「ほう・・・・・・」

「美雲さんを操れるのはウィンダミアの王家とそれに近い人。ましてや遺跡に詳しい人物が、美雲さんを操るハズだ」

『ロイド・ブレームを討て・・・・・』

 

今は亡き、騎士の言葉が蘇る。

 

「そこまで知っているのならもう、やることは分かっているのですか?」

 

ベルガーの口角が上がる。

 

「ウィンダミア宰相、逆賊ロイド・ブレームを・・・・・・討ちます」

 

「ラグナのシステムに〈星の歌い手〉の舞台、ラグナのシステムに星の神殿が出現した」

 

広間に巨大なディスプレイが表示され、そこにはラグナの巨大システムにある丸い球体、星の神殿が映し出された。

 

「これで全銀河に星の歌を響かせることが出来る。完全な出力でな」

「どうしてラグナに・・・・・」

「球状星団の両極、ウィンダミアとラグナ。風と海。二つが揃わなければ起動しない、言わば安全装置ということだろう」

「あの女の歌で、銀河を制するのですか」

 

ザオの言葉にロイドは首を振る。

 

「命ずるのはあくまで陛下だ。陛下の風の歌が、〈星の歌い手〉の力を目覚めさせる。こうして我らウィンダミアの元に呼び戻したのだ」

「しかし、あの歌は危険だ・・・・・」

 

ヘルマンが唸りながら言った。

 

「だからこそ、プロトカルチャーは我々にルンを与えたのだ。他の人類種よりも星の歌への耐性は強いはずだ」

「しかし!銀河には風の歌こそ響くべきです!」

 

それでも食い下がらないボーグに、ハインツは静かに言った。

 

「ロイドに従うのだ」

「しかし・・・・!」

 

ゆっくり腰を上げたハインツは、空中騎士団の前へと歩みを進める。

 

「陛下、何を・・・・・・」

 

ロイドの静止を振り切り、自身の服へと手を伸ばす。

 

「へ、陛下、何を・・・・・・ !?」

 

服を開け、その肌にはウィンダミア人の寿命の近さを示す白い斑紋が大部分を占めていた。

 

「余はルンが輝く限り歌う。お前達もロイドに従い、その命、預けてほしい」

「はっ!」

 

ヘルマン、テオ、ザオが跪くとボーグも渋々跪いた。

 

「済まなかった、キース。〈星の歌い手〉の確証を得るまで、話すわけにはいかなかった」

「・・・・・・・・」

《ロイド様》

 

ロイドの端末に通信が入る。

 

「どうした」

『新統合軍が制風圏に侵入しました』

 

ーーーーーーーー

 

「新統合軍の艦隊!?」

『民間の船舶に球状星団に侵入するのを禁止すると警告しています』

「次元兵器を使うのですよ」

「なんだとッ!?」

 

ミラージュが机を叩きながら声を上げた。

 

「どういうこと・・・・!?」

「制風圏が崩れかけていると、新統合軍に伝えました」

「その見返りにライト・インメルマンの情報を」

「何でそんなことを・・・・・!」

「今回財団がウィンダミアに投資した額の大半は、回収出来そうにありません。私の立場もどうなるか・・・・・・ですが、銀河が滅びない限り挽回の機会はあります。私は商人です、血の一滴たりとも、タダでは渡しません」

「しかし次元兵器の使用は・・・・!」

「プロトカルチャーシステムが暴走したとでも言うつもりでしょう。情報操作など、いくらでも出来ますからね」

「そんな・・・・・・」

「バカ共が懲りもせず・・・・」

『攻撃開始は二時間後、1800』

『艦長、レディMから通達です。ウィンダミア軍はラグナに進行すると予測される。至急ラグナに向かい、新統合軍の攻撃が開始される前にこれを撃退せよとの事です』

 

しかし、とある事にチャックが気づいた。

 

「お、おい。美雲さんはどうすんだよ」

「どうやら本部は、見捨てるようだな」

「そんな・・・・・!艦長、どうにかなんないんスカ!?」

「軍人である以上、上の命令は絶対だ」

「なっ・・・・・・!こんな時に何を・・・・・!」

「総員、戦闘準備。至急、ラグナに向かう」

「・・・・・行くぞ!」

 

アラドの指示で、Δ小隊と《ワルキューレ》は談話室を後にする。そこに残ったアーネストとベルガーはとある会話をした。

 

「あなたは大胆な人ですね、軍法会議を覚悟で?」

「無論だ」

 

アーネストはニヤッと笑った。

 

ーーーーーーーー

 

「ベルガーか。だが、もう遅い」

「ロイド様!いくらプロトカルチャーシステムでも次元兵器をまともに食らっては・・・・・!」

 

ハインツは静かに口を開く。

 

「七年前と何も変わらぬ。自分たちの利益のためならば母なる大地を穢すことも厭わず、都合の悪いものは全て消し去ろうとする・・・・・・この連鎖、我らの翼で断ち切るッ!」

 

ハインツはロイドを見上げた。

 

「ロイド、〈星の歌い手〉はお前に任せる」

「はっ!」

「キースは騎士団の指揮を」

「はっ」

「銀河系の全人類を、統合軍の支配から解放する!自由の風を導かん!」

「「「「大いなる風にかけて!」」」」

 

シグル=バレンスが静かに浮上する。

 

「お前のやり方を認めた訳ではない。まだ何かを隠しているのかも知れない。だが、少なくともルンに嘘を感じない」

「・・・・・かつてお前と空を飛んだ時、私は永遠を感じた。この空も、私の魂も、このまま永遠に・・・・・今もその想いは変わらない。陛下とウィンダミアを中心に、銀河に永遠の平和を築いてみせる」

「・・・・・・銀河などどうでもいい。俺の魂も一瞬で燃え尽きても構わない」

「・・・・・・」

「この空を守ることが出来るなら・・・・」

「・・・・・・そうだな、果てしなき空のために」

 

ーーーーーーーー

 

花蓮はエリシオン内の展望台で、宇宙を眺めていた。

 

「随分、遠くまで来たなぁ」

 

昔に耽っていると、ドアが開く音が聞こえる。振り向けば、ダンボールを持ったハヤテがいた。

 

「お、カレンじゃんか」

「ハヤテくん?」

 

ーーーーーーーー

 

「おぉ!懐かしいモンばっかだな!」

「これは・・・・・・」

 

二人でハヤテの母親から届いた物を見る。すると、今度はフレイアまでやって来て三人で見ることになった。

 

「これは、親父からの手紙?」

「貝殻と、これは羽?」

「いっぱい送ってくれたんね」

「お袋に親父と同じパイロットになるって伝えたから、何か思うとこでもあったんだろうな」

「見てもいい?」

「おう」

 

フレイアが取り出したのは、紅葉だった。

 

「キレイ・・・・・」

「親父が特殊諜報員ねぇ・・・・こいつも、どこかの遺跡で拾ってきたのかも」

 

フォールドクォーツのペンダントを手に取った。

 

「あ、写真が入ってますよ」

 

花蓮が本の間に挟まっていた写真を取り出した。

 

「お、親父とガキの頃の俺か」

「今より全然可愛い」

「うっせーな!」

「あはは・・・・・」

 

二人のやり取りに花蓮は苦笑いした。

 

(でも、この人どこかで・・・・・)

 

そこで思い出したのは小さい頃、音楽プレーヤーをくれた地球人と全く同じだったこと。

 

(そっか。ハヤテのお父さんが・・・・)

「うひひひひひひ」

「え、フレイアさん?」

「ほんと気持ち悪いよな、笑うと」

「なっ・・・・・・!」

 

またドンちゃん騒ぎを始めた二人を見て、花蓮一つ質問をした。

 

「お二人の夢は、何ですか?」

「え?」

「どうしたんだよ、急に」

「僕の夢は、ここにいるみんなと思い切り笑いたい。戦争のない、平和で楽しい世界でみんなと笑いたいんです」

「それが、カレンの夢なんね」

「いい夢じゃねぇか。俺も、その夢に乗っかるぜ!」

「あ、ずるい!あたしも!」

(優しいな二人共・・・・・だからこそ、僕は・・・・・)

 

花蓮は間を置いてから、ゆっくり口を開いた。

 

「お二人に出会えて、本当に良かったです」

「「・・・・・?」」

 

二人は唐突な事で、首をかしげている。

 

「今までありがとうございました」

「なーに言ってんだよ、これからだろ?」

「早くこんな戦争、終わらせるんね!」

「・・・・・・はい」

 

明るい二人に、救われた気がした。

 

ーーーーーーーー

 

「まさか、最後の舞台がラグナとはな」

「期せずして戻ってきたって感じだな」

 

アラドとアーネストはブリッジから遠くに見えるラグナを見据えた。

 

「俺もそろそろ行く」

 

アラドが出て行った後、アーネストはオペレーターの三人に謝罪をした。

 

「済まなかったな、ベス、ニナ、ミズキ」

「何言ってるんですか、艦長」

「そうですよ、今更って感じです」

「付き合いますよ、こうなるとは思っていましたし。それに、もう乗った艦ですから」

 

その言葉を聞いて、アーネストは笑った。大した奴らしかこの艦に乗っていないことも。そっと、マイクを握った。

 

ーーーーーーーー

 

「よし、お前ら。俺たちの星を奪い返すぞ。今度こそ、絶対に!」

『無論です』

『よっしゃぁ!』

『なんだ、緊張してんのか?隊長』

『こら、ハヤテ!』

『了解です!』

 

各々の返事を聞き、頷いた。すると、全艦放送の合図が鳴った。

 

「マクロス・エリシオン艦長、アーネスト・ジョンソンより各員へ達する。これより本艦は、ラグナ奪還並びに美雲・ギンヌメールの救出(・・・・・・・・・・・・)作戦を実施する」

「っ!艦長・・・・・!」

「それじゃ・・・・・・」

「これで美雲さんを!」

 

アラド、チャック、ミラージュは歓喜を含んだ声を上げた。それは《ワルキューレ》も同じだった。

 

「期せずして、当初の任務に戻った格好だが、これは本部の命令によって行う作戦ではない。本艦が独自で行う作戦である。各惑星のケイオス支部からの応援はまず無いだろう。生き延びるため、ウィンダミアの手にブリージンガルが落ちるのを阻止するために、今ある全勢力を持ってラグナに向かう。星の歌による全人類の意識統一と、ぶつかり、悩みながらも手を取り合いながら歩いていく未来。ウィンダミア側に軍配があるが、美雲を取り返せばこちらの勝利だ。この煩わしい戦いも、これで終わりにしようではないか。銀河の行く末を決めるのは、今を生きる若者たち。そして、これから生まれてくるまだ見ぬ子供たちだ。大切な仲間を取り戻すため、我らの星を取り返すため、最後の反攻作戦だ!一人の軍人として、一人の大人として、諸君らの健闘に期待する!」

 

オペレーターの三人は初めて艦長がかっこいいと思った。

 

「だとさ、いっちょ暴れてやろうじゃないか」

「腕がなるな!ミラージュ!」

「行きましょう!美雲さんとラグナを取り戻しに!」

「マクロス・エリシオン、発進!」

 

アーネストの号令により、エリシオンのメインエンジンに火がついた。遠くに見えるラグナに向け、エリシオンは向かう。

 

ーーーーーーーー

 

遂に始まる最後の反攻作戦。ラグナの地で、長き戦いに終止符を打つことが出来るのか。今、Δ小隊と《ワルキューレ》の最後の戦いが始まるーーー!

 

次回 マクロスΔ〜もう一人の白騎士〜

 

Mission41 LAST MISSION




気づいたらお気に入りが増えていてビックリしました!

感想をくれる方々、ありがとうございます!忙しく返信することはあまり出来ませんがきちんと読ませて貰ってます!凄く励みになりますm(_ _)m

面白いと言ってくださる方々にもそうでない方々にも朗報(多分)です!本編終了後のanother story編もただいま考えています!そちらもお楽しみに!

これからもマクロスΔ〜もう一人の白騎士〜を、よろしくお願いしますm(_ _)m

それでは、次回までさよならです!


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Mission41 FINAL MISSION

「永遠」を願った男と、「一瞬」に全てを掛ける男のすれ違いーーーー

そして、姿を表した謎の巨大兵器

戦いは終わりではなかったーーーー


「新統合軍の通信傍受。第47特派艦隊全滅、強大な生体フォールド波も観測されています」

「星の歌か・・・全艦、全速でラグナに向かう!」

 

展望台からは無数の戦艦がエンジンの火を噴きながら進んでいく。

 

「いよいよだな」

「うん」

「行こうか、二人とも」

「おう!ラグナと!」

「美雲さんを取り返しに!」

 

三人は頷き合い、その場を後にしようとしたが、

 

「カレン!」

「ん?どうかした?」

 

フレイアの声にハヤテも立ち止まるが、フレイアの顔を見て、

 

「遅れんなよ!」

 

そう言い残し出ていった。

 

「えと・・・・その・・・・」

 

中々ハッキリしないフレイアに、花蓮は首を捻った。

 

「生きて、帰ってきて!絶対に!」

「・・・・・・うん、約束するよ」

「破ったら・・・・・許さないかんね・・・・・!!」

 

大きな瞳に涙の膜を張ったフレイアは今にも泣きそうだった。きっと、心配してくれているのだろう。

そんなフレイアをそっと抱き寄せ、優しく呟いた。

 

「分かってる、行ってくるよ」

「ん、気をつけて」

 

自分の隊服を握るフレイアの手に力が篭る。展望室のシャッターが閉まる音が辺りに響いた。

 

ーーーーーーーー

 

「おお・・・これが星の神殿・・・・」

「私はここを知っている・・・・ここが、私のステージ・・・・」

 

ロイドと美雲は浮遊物に乗り、星の神殿を進んで行った。

 

ーーーーーーーー

 

マクロス・エリシオンがラグナの宙域に近づくと同時に敵の警備網が展開された。

 

「敵艦隊補足!迎撃機、多数補足!」

「デルタリーダーより各小隊へ、オペレーション《ラグナロク》始動!各自、己のベストを尽くせ!」

「ラグナは取り戻す!」

「行こうぜ!ミラージュ、カレン!」

「はい!」

「了解!」

 

Δ小隊が発進した後にVF-31A〈カイロス〉がカタパルトへと移動する。

 

『いい?ランスロットは私たちの希望。私の予想が正しければロイド・ブレームは必ず何か仕掛けてくるわ。切り札は取っておく。その時が、あなた達の出番よ』

『分かりました』

『頑張りなさい、花蓮。華凛の為にも』

 

華凛の体を借りている〈星の歌い手〉が優しく微笑んだ。

 

『はい!』

 

ーーーーーーーー

 

『フォールドサウンドステージ、スタンバイ!フォールドサウンドステージ、スタンバイ!』

『VF-31A、スーパーパック装備完了!プロジェクションユニット、接続!』

『データリンク、良好!滑走路、オールグリーン!』

 

ステージに立っているフレイアは花蓮の乗る機体を見つめる。

 

(カレン!)

(行こう、フレイアさん!)

 

そんな言葉が聞こえてた気がして、モニターに映る敬礼する彼に向かい、自分はワルキューレのサインを彼に向かってして見せた。ステージ内には〈星の歌い手〉が選曲した、ランカ・リーの『放課後オーバーフロウ』のイントロが流れ出している。しかも、フレイアソロで歌えなんて言われた時は目玉が飛び出る程驚いたものだ。カナメとマキナとレイナはバックコーラスについている。後ろの三人もウィンクしてみせ、何時でも行けることを知らせる。ランカ・リーが想い人を想って自分で作詞したこの歌。歌い遂げてみせるーーー

 

(届け、カレンに!美雲さんに!)

 

熱核タービンエンジンと、スーパーパックのメインエンジンが噴射する紫色の熱風を噴きながら、VF-31Aは無限の星々が広がる宇宙へと、Δ小隊の後を追って高速を超えた速度で射出した。

 

“君は とっても 優しいから 痛みを自分に 置きかえる”

 

小惑星(アステロイド)を巧みに交わしながら、迫り来るビームの嵐をマニューバで交わしていく。

 

『十二時、敵!』

 

メッサーからの通信を聞き、すぐさま反転。片翼を狙い無力化していく。

 

“放課後別れたら 明日は もう会えないかもしれない”

 

『全機、敵艦に突っ込むぞ!』

 

アラドの指示を受け、六機のバルキリーが一斉にバトロイドへと変形。それは一糸乱れぬ完璧な統率が取れていた。敵艦からの艦砲射撃をスーパーパックの各部に設けられているバーニア、脚部のエンジンの向きや、噴かす威力を自在に操作しながら接近していく。艦一つに二機付き、最終決戦仕様として新たに装備された対艦ミサイルで撃破する。

 

「敵艦隊、完全に沈黙!」

 

オペレーターの報告を聞くが否や、アーネストは声を張り上げた。

 

「全軍、突入せよ!」

 

スーパーパックをパージし、引力に従うように摩擦熱の尾を引きながら降下していく。もちろん、それを星の神殿からロイドも見ており、怪しい笑みを浮かべた。曲も間奏を終え、二番目へと突入したところで、レーダーに反応があった。

 

「敵機の反応!?ったく、用意周到なこって!」

『アラド隊長!』

『数が多くたって!』

『止まるわけには行かねぇだろ!』

「ああ!全機、全兵装使用自由(オールウェポンズフリー)!蹴散らすぞ!」

『『『『了解』』』』

『ウーラ・サー!』

 

戦いの場を重力圏へと移し、迫り来る無数のSv-262Baをたった六機で相手をする事は、絶望的な状況だとウィンダミア兵達は思っていたがそれは根底から覆されていた。眼前で、まるで踊るかのように舞う、六つの紫色の光たち。数ではこちらが圧倒しているというのに、圧倒的物量でも彼らには掠りもしなかった。

フレイアの歌が響き渡る空で、女神を守る六人の騎士たちは次々と敵機を撃ち落としていく。前衛のメッサーと後衛のハヤテ、前衛と後衛の連携を支援する中衛のミラージュ、敵の位置を正確に索敵する電子戦のチャックに、その正確なデータを元に的確な指示をするアラド。そして、時には先行し、時には支援する遊撃の花蓮。全てにおいて死角が見つからないΔ小隊に、なす術なく次々に撃墜されていき、遂に敵の防衛網を突破し、眼前には巨大システムと星の神殿、それとドッキングしたシグル=バレンスが姿を表した。

 

「見えたッ!」

『この反応・・・・空中騎士団!』

 

ーーーーーーーー

 

(そろそろか・・・・・)

 

星の神殿の玉座に着いたロイドが内心で呟くと、ハインツへ回線を開いた。

 

『陛下、号令を』

「真なる王の名のもとに、『ルダンジャール・ロム・マヤン』!」

「ーーーーー!」

 

美雲の衣装が変化し、羽衣のような衣装着た姿を映像として映し出された。

 

ーーールークス・センティーレー

 

「ぐっ・・・・!」

 

キースのルンが星の歌が持つ洗脳にも似た何かを感じ取った。

 

「な、何だよこれ・・・・!」

 

もちろんそれは空中騎士団だけでなく、Δ小隊や《ワルキューレ》も感じ取っていた。

 

「この歌・・・・・・!」

「まさか・・・・・!」

「美雲さん・・・・・!」

「クモクモ・・・・・・!」

「うそ・・・・・!?生体フォールド波、急速増大!」

「こ、これが、〈星の歌い手〉・・・・・!」

 

そして徐々に球状星団の人々の意識が一つになっていく。星の歌によって。

 

「始まったわね」

「おお・・・!フォールド・ニューラルネットが繋がった・・・・・!!」

「これは・・・・どういう事なのだ、ロイド!」

 

ハインツは怒りにも似た感情を露わにした。

 

“全人類の意識を一つにし、我々は大いなる生命体へと進化する”

 

「進化・・・・?」

 

“それが、星の歌の真の力ーーー全人類が一つになり進化することで、銀河に聖なる平和をもたらす”

 

白い鎖のようなものがここにいる全員を縛り付けていく。

 

「なにぃ・・・!?」

「陛下を・・・・ウィンダミアを裏切るつもりかッ!?」

 

“裏切りなどではない。人類は進化する。そして、(コア)となるのがルンを持つウィンダミア人。数百億の意識を繋ぎ、情報処理速度を神の領域に高める事で一瞬を永遠に変える・・・・・我らは儚き命の限界を超え、永遠に銀河を治めるのだ”

 

「ロイドッ・・・・・・!!」

「貴様ァ・・・・・・!!」

 

遂に本性を現したロイドに、キースは怒りを露わにした。

 

「ああ・・・・・・」

「フレイア・・・・・!」

「おお・・・・世界が、生まれたッ・・・・!」

「命が・・・・・」

 

この場にいる全員の目が虚ろなものへと変わり、巨大システムへと向かっていく。たった一人を除いて。

 

「ああ、私は・・・・・・・」

 

“今やお前も私も銀河そのもの。我らが内に歌を響かせよ”

 

「これが、私が、生きる意味」

 

ーーーーーーーー

 

「これが、ロイド・ブレームの・・・・・」

『さぁ、始めるよう。これで終わりにするんだ』

「うん、行こう!」

 

機体を反転させ、エリシオンへと戻る。格納庫では、既に華凛、もとい〈星の歌い手〉がスタンバイしていた。

 

「いいのね、本当に」

「はい、最後まで戦い抜く事は、最初から誓っていますから」

「そう、ならーーー」

 

ーーー行きましょうーーー

 

ランスロットのOSを立ち上げ、コックピット内が明るくなっていく。

 

「行くよ、ランスロット。最後の任務だ」

 

それに応えるかのように、翠色の双眸が輝いた。〈アイテール〉の甲板の一角が煌めいたと同時にエナジーウイングをはためかせ、ランスロットは飛翔する。

 

『花蓮、今までありがとう。ずっと君の中から見てきたけど、中々楽しませてもらったよ』

「散々迷惑かけられたけどね」

 

一時期体を乗っ取った時のことを言っているのだと理解するのに時間はかからなかった。

 

『あの時は済まなかったね。さ、お喋りしている時間はない。止めるぞ、ロイド・ブレームを』

「はい!」

 

拳と拳を合わせ、二人は遂に一つになった。前髪が黒色へ変わり、右目は黒、左目は紅蓮のオッドアイへと変化した。

 

ーーーーーーーー

 

「く、そ・・・・体が、動かねぇ・・・!」

 

するとハインツが、風の歌を歌い出した。ハインツの真の思いを真っ先にルンで感じ取ったのはキースだった。

 

「陛下・・・・・!」

「ロイド様を討てと・・・・!?」

「《ワルキューレ》と手を結ぶ・・・・!?」

「奴らを許せなどと・・・・・!」

「許す訳ではない・・・・・統合政府とはいずれ決着をつける」

「それが、陛下の・・・・・・」

「真なる風だ!ロイド・ブレームを討ち、銀河を守れッ!!」

「ッ!!大いなる風にかけて!!」

 

“自我を守ろうとしても無駄だ”

 

「ぐっ・・・・!」

 

“さぁ、我と一つに・・・・・”

 

「ここまでなのかよ・・・・・!」

 

諦めかけた瞬間、彼の声が響いた。

 

ーーー諦めるな!それでもと言い続けろ!ーーー

 

意識の世界の一部にヒビが入る。それは、次第に大きくなり、遂には砕け散った。

 

「カレン・・・・!」

 

“白騎士か。だが、今更来たところで何も出来まい”

 

「未来は自分たちで作るものだ!意識を一つにする?くだらないね!聞け、これが本当の星の歌だ!」

 

その言葉と同時に、本物の〈星の歌い手〉が歌う星の歌が響く。それは、一つになりかけた意識の世界を壊し、また、個々の世界へと戻る。

 

「な、フォールド・ニューラルネットワークが・・・・!?」

『私の歌で、人々の一つになりかけた意識を解除したわ。あなたの目論見は終わったようね』

「バ、バカな・・・・!」

 

意識が戻ったΔ小隊はランスロットの元へと集まる。そして、復活した《ワルキューレ》による『一度だけの恋なら』のイントロが盛大に流れる。

 

「歌・・・・フレイア・・・・カレン・・・・」

 

美雲の意識も戻りかけていた。

 

「私は・・・・!」

「惑わせるな!『ルダンジャール・ロム・マヤン』!」

「ぐっ!」

 

“『ルダンジャール・ロム・マヤン』!『ルダンジャール・ロム・マヤン』!”

 

一般兵のSv-262Baの機体色が深緑から白色へと変わり、空中騎士団とΔ小隊へ攻撃を仕掛ける。

 

「まさか、ロイド様が!?」

 

苦しみ悶える美雲を見て、フレイアが叫んだ。

 

「み、美雲さん!」

「Δ小隊、行くぞ!必ず美雲を取り戻せッ!!」

『ウーラ・サー!』

『ラジャー!』

『了解!』

『言われなくたって!』

『ハヤテくん!後方敵!』

「なに!?」

 

後ろをリル・ドラケンに取られるが、それをミラージュが撃墜する。

 

「余所見しない!このゲロ男!」

「うっせ!このお節介女!でも、サンキューな!」

 

花蓮は洗脳された敵機を撃墜していくが、如何せん数が多すぎる。

 

「埒が明かない・・・!」

 

すると上空からガンポッドから援護射撃が降り注いだ。ピンポイントに腕を撃ち抜き無力化していく。

 

『貴様を援護する』

「白騎士!?」

『手を貸せ。お前は歌い手を、俺は道を違えた友を止めに行く』

「・・・・分かりました」

『行くぞ!』

 

キースの駆るSv-262Hsがファイター形態へと変形し、それに次ぐように花蓮も後を追う。お互いをカバーし合い、確実に数を減らしていく。それを見ていたヘルマンは、

 

「まさか、二人の白騎士が手を組めばこれ程までとは」

『認めたくはありませんが、確かに心強いです』

 

粗方数を減らし、星の神殿を目指し二機は加速した。

 

「急ぐぞ!」

「はい!」

 

翠色の軌跡を残しながら、空を駆けた二人の白騎士。

 

ーーーーーーーー

 

敵の攻撃を受け、ステージから放り出されてしまったフレイアは、美雲へ懸命に呼びかけていた。

 

「美雲さん!あたし、《ワルキューレ》で歌えて、好きな人ができて、ルンが生きてるって感じで一杯で!美雲さんはなぜ、どんな思いで歌うんですか?」

 

空を飛びながらフレイアは美雲へ問うた。

 

「ッ!!」

 

私はーーーー

 

“美雲さん”

 

愛おしい彼の声が響く。

 

「私はあなた達に出会えたからーーー!あなた達と一緒にいたい!一緒に歌いたい!歌は神秘!」

 

美雲も『一度だけの恋なら』を一緒に歌う。

 

「美雲・・・・!」

「歌姫完全復活」

「おのれぇぇ!《ワルキューレ》ぇぇぇぇ!!」

 

ロイドの叫び声に呼応して、白い〈ドラケン〉が宙に放り出されたマキナとレイナへ向かう。

 

「させるかよ!」

 

チャックが何とか守るが、それでも抜かれてしまう。が、そこに彼が来た!

 

「ワ、《ワルキューレ》!」

「え!?助けて!?」

「い、一度だけだからなぁ!?」

 

今度はフレイアの方へリル・ドラケンが飛んでくる。

 

「はわ・・・・・!」

 

それを横から迎撃し、やって来たのは、

 

「乗れ!フレイア!」

「ハヤテ!」

「行くぞ!」

 

ミサイルの雨を掻い潜り、ミラージュと共に美雲の元へと向かう。

エリシオンも強襲型へと変形し、巨大システムへと向かう。

 

“飛べる!愛の(スピード)生きて(夢中で)スーパーノヴァッティック”

 

『絶対零度θノヴァティック』をバックにエリシオンが先行する。

 

「くらえぇぇぇぇ!!」

 

マクロスキャノンを放ち、星の神殿とシグル=バレンスの分離に成功するも、反撃をもらい、〈へーメラー〉が離脱。

 

「怯むなぁ!〈アイテールアタァァァァック〉ッ!!」

 

星の神殿へと〈アイテール〉を突貫させ、巨大な穴を開けた。

 

「兄様・・・・・」

『行ってくる、ハインツ』

 

敬礼をし、バトロイドからファイターへと変形し、ロイドの元へと向かう。その後を追おうとした瞬間、ハインツから花蓮へ通信が入った。

 

『白騎士様!』

「ハインツさん」

『兄様を・・・・・頼みます』

「・・・・・了解しました!」

 

花蓮もランスロットを飛翔させ後を追った。

 

「美雲さん!」

「フレイア・・・・!」

 

神殿の中へ侵入したが、中にも〈ドラケン〉が構えていた。

 

「しっかり掴まれ!」

「はい!」

「行くよッ!」

 

ミラージュがまず一機を撃墜し、背後にいた敵機をハヤテが蹴り飛ばし、互いの後ろにいる〈ドラケン〉を撃墜。背中合わせになるが、数が多く囲まれてしまった。

 

「チッ!」

 

すると上空から赤と青の閃光が降り注いだ。降下してきたのは、Sv-262Hsとランスロットだった。

 

「キース!?」

「お前・・・・!」

「カレン!」

『〈歌い手〉を連れて行け!』

「お前は!?」

『風は俺と白騎士で止める!』

『二人は美雲さんを!』

 

ミラージュが美雲を連れ、星の神殿から脱出するのを確認し、二人の白騎士は剣をロイドに向けた。

 

「何故理解しない!?」

 

二人の前にまた〈ドラケン〉が躍り出るがそれを難なく両断する。

 

「お前もあの空で感じたはずだ!儚き命を超え、あの『永遠』を!生きる事が出来たのにッ!!」

「俺にとって今この『瞬間』こそが全てッ!!」

 

下からロイド専用のSv-262Hsが出現する。二人がかりで抑え込み、振り降ろされた剣をランスロットが受け止める。

 

「今だ!行ってください!!」

「感謝する!」

 

自身の機体から身を乗り出し、ロイドの元へと跳躍した。

 

「うおおおおお!!」

 

そして自身の持っている剣を友の腹に突き立てた。

 

「がはッ・・・・・・」

「俺はあの一瞬に、命を燃やす輝きを感じた。お前が教えてくれたのだ、ロイド・・・・・」

「わ、たし、が・・・・・・・」

 

星の神殿が揺れ始め、目の前の〈ドラケン〉を切り捨て、キースの元へと向かう。

 

『乗って!あなたの弟さんから、あなたの事を頼まれています!』

「ハインツが・・・・・?フッ・・・・・・」

 

ランスロットの手に乗ったキースを片手に、花蓮も星の神殿から脱出した。

爆発している星の神殿を見下ろしながら、キースは目を閉じた。

 

ーーーーーーーー

 

〈アイテール〉の甲板にΔ小隊と空中騎士団は着艦し、それぞれの無事を喜んでいた。花蓮もコックピットから降り、軽く息をつき、空を見上げた。どこまでも晴れ渡った青空だった。

 

「やっと、終わったーーーー」

 

おもむろに耳を傾ければこちらに駆け足で走ってくる足音が聞こえた。振り向くが否や、自身の胸の中に一人の少女が飛び込んで来た。

 

「おっと・・・・おかえりなさい、美雲さん」

「・・・・・・ただいま」

 

外野の反応は、思った通りでみんな意外そうな顔で見ていた。フレイアに関しては一人でオロオロしている。

 

「終わったな、カレン」

「はい、終わりましたね」

 

ハヤテと花蓮はハイタッチをした瞬間、地震のようなものが起きる。

 

「な、何だ!?」

「うそ、遺跡が・・・・・・」

 

マキナの顔が驚愕に染まっていた。その目線の先には、機能を停止したと思われていた遺跡が点滅を始め、そして変形(・・)した。亜空間から次々と謎の建造物が出現し、遺跡と合体していく。

 

「うそ、だろ・・・・・・」

「何だ、あれは・・・・・・」

 

いつも冷静なキースもこればかりは目を剥いていた。何故ならそこには、マクロス級に変形した遺跡があったのだから。

 

ーーーーーーーー

 

突如マクロス級に変形したプロトカルチャーの遺跡。それは、人類の終焉。宇宙へと飛び立つソレを止めるため、花蓮は単身で挑む。これが花蓮自身の最後の戦い、例えそれで自分が消えるとしてもーーーー

 

次回 マクロスΔ〜もう一人の白騎士~

 

Mission final 歩くような速さで

 




「放課後オーバーフロウ」の歌詞が、花蓮に何となく似ていると思ったため少しいじりました!


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Mission Fin. 歩くような速さで

歩くような速さでいい
きっと銀河は平和になるからーーー


ラグナの海に佇む、マクロス級へと変形した巨大システム。ソレが纏う空気はまるで人類の終焉を物語っていた。

 

「マクロスだと・・・・・・」

「なるほど、まだ終わりではなかったって訳ね」

「母さん、あれは・・・・・・」

「先人プロトカルチャーが遺した最後の切り札みたいな物ね。《人類抹消プログラム》・・・・・この銀河諸共、私達を滅ぼすつもりよ。幾度も争いう事を止めない人間達に程々愛想でも尽きたんじゃないかしら」

 

〈星の歌い手〉は顎に手を置いて真実を話した。

 

「そんな、どうすれば・・・・・!」

「カナカナ、落ち着いて・・・・・」

「手がない訳じゃない」

 

〈星の歌い手〉がそう言うと、この場にいる全員の視線を集める。

 

「至極簡単な事、アレを破壊すればいいのよ」

「マクロス級相手にどう戦えって言うんだよ!エリシオンだけじゃ・・・・・!それに、機体の燃料だって底をつきそうだってのに・・・・・・!」

 

ハヤテの叫びはご最もだ。空中騎士団を含めた全機体の燃料は最早雀の涙にも等しかった。

 

「ーーーー僕が行きます」

 

静寂を切り裂いた、凛とした声。言わずとも分かる、彼の声だった。

 

「ランスロットにはフォールド・クォーツが積まれています。活動限界はありません。だからーーー」

「何言ってんだよ・・・・お前だけ行かせられっかよ!」

「それでも、誰かがアレを止めなきゃ僕達に未来(あす)はありません」

「なんで、いつもいつも・・・・・お前は、全部一人で背負い込むんだよ・・・・・」

 

ハヤテは花蓮の胸ぐらを掴んだ。そして、叫んだのだった。

 

「もっと頼れよッ!!俺を!俺達をッ!仲間だろ・・・・・!?」

「大丈夫ですよ、ハヤテくん。絶対戻って来ますから」

「ッ・・・・・・!!」

 

ハヤテはすぐに分かった。花蓮の顔は確かに穏やかな笑みを浮かべていたが、その瞳に確かな決意があったのだ。自分を犠牲にしてでもここに居る皆だけは守り抜く。これで最後だから行かせてくれ、とーーーー

 

「ぁ・・・ああ・・・」

 

その意味を分かってしまったハヤテは、花蓮の胸ぐらを掴みながら泣き崩れた。その光景を見ていたΔ小隊、空中騎士団のメンバーは今からあの少年が何をしようとしているのか分かってしまった。軍人の勘というものだろうか、嫌なものだと全員が心の中で悪態をつく。

花蓮は目の前で泣く親友をそっと抱き締めた。

 

「君と出会って色んな事がありましたね。思い返せばキリがないくらい、毎日がキラキラで充実していた・・・・・。ありがとう、ハヤテ・インメルマン。君は僕の最高の親友だ」

「ッ・・・・・カ、レン・・・・・」

 

そっと身体を離し、自分を囲んでいる皆に目を向けた。

何も言わず、ランスロットの方へと歩いていく。マクロス級へと変形した巨大システムが、脚部のメインエンジンを噴き上げながら宇宙へと飛び立っていく。本格的にプログラムが始動した証拠だ。

 

「どこ行くんね・・・・?カレン」

「フレイアさん・・・・・・」

「そ、そうだよ、カレカレ!ちゃんと作戦を・・・・・・」

「マキナ」

 

遮るように自分の名を呼ぶ彼女に目を向ければ、今にも泣き出しそうなのを必死に堪えていた。

 

「レイレイ・・・・・」

「カレンに、任せてあげて・・・・・我慢も女の仕事・・・・・・」

「ありがとう、レイナさん」

「ん・・・・・」

 

涙で顔がぐしゃぐしゃなレイナはピースサインを贈る。

 

「でもカレンくん一人じゃ・・・・!」

「そうね!皆でやれば・・・・・・!」

「やめなさい、二人共」

 

カナメとフレイアをたった一声で抑え込んだのは、

 

「やっぱりすごいなぁ、美雲さんは」

「当たり前でしょう、私を誰だと思ってるの」

 

美雲はゆっくりと花蓮の前へとやって来る。

 

「やっぱりこうなるのね」

「そんな気がしてたんですか?」

「ええ、薄々ね」

「・・・・・もっと一緒にいたかったです」

「あら、珍しいわね。あなたから言うなんて。でも・・・・・・」

「・・・・・?」

「私もよ。もっとじゃなくて、ずっと、これからもあなたと一緒にいたかった」

「その約束は来世まで持ち越しです」

「・・・・・・?」

「例え生まれ変わったとしても、僕はまたあなたに恋をすると思うから。その時はもう一度、僕からあなたに会いに行きます。絶対に」

「ええ、待ってるわ」

 

そう言って、花蓮そっと美雲の手を握った。

 

「これは預けておきます」

 

渡されたのは赤く輝くリングだった。

 

「会えた時に、ちゃんとしたのを渡しますね」

 

ニコッと笑ったが、さらっととんでもない事を言った花蓮に美雲は頬染めた。

 

「行ってきます、美雲さん」

「ええ、行ってらっしゃい」

 

美雲に背を向け、今度こそ愛機の元へと向かう。その皆を導く後ろ姿は、大きすぎてとても眩しかった。

 

「隊長」

「メッサー?」

「俺は、悔しいです。何も出来ない自分が・・・・・・・」

「ああ、俺もだよ」

「結局俺は守れてばかりでした。まだ、年端も行かない少年に、こんな重荷を背負わせてしまっている自分が、腹立たしいです・・・・・」

 

メッサーの頬を一粒の雫が滑る。それを見て見ぬフリをし、アラドはメッサーの肩に手を置く。

 

「ああ。だからこそ、送り出してやろうじゃねぇか。カレンのことを」

「はい・・・・・・」

 

機体に乗り込み、出撃の準備が整った所に意外にもある人物から声をかけらた。

 

『白騎士、これを持っていけ』

 

渡されたのはキースが使用していたドラケンの剣、アサルトソード〈ドラケンファング〉だった。それと、

 

『カレン少尉、これを』

 

メッサーからは自身のガンポッドを託される。

 

『銀河はお前に託す、白騎士』

『俺達の思いも連れて行ってくれ。頼んだ、エノモト・カレン』

「はい!」

 

エナジーウイングを広げ、自身の身体を浮かせた。

 

「翼に風を!」

「銀河に歌を!」

「フレイアさん、美雲さん・・・・・!」

 

もう恐怖など微塵もなかった。

ランスロットは敬礼をし、エナジーウイングを巨大化させる。

 

「行っけぇぇぇええ!!カレぇぇぇぇぇえン!!」

「うぉぉぉぉぉおおおお!!!」

 

ハヤテの声と共に、ランスロットは宇宙へと飛び立っていくマクロスへと高速で飛んでいく。

 

「行くわよ!《ワルキューレ》!!」

「「「「はい!!」」」」

サヨナラノツバサ ーWALKüRE editionー

 

イントロが流れ出し、《ワルキューレ》の衣装が変わる。

 

「見つけた!」

 

モニターでマクロスを捕捉し、さらに速度を上げていく。自身に背を向けているにも関わらず、幾本ものビームをランスロットに向けて放った。それを巧みに躱し、更に接近する。今度はこちらを振り向いたマクロスによる再度の攻撃。先程のとは比にならない数のビームが驟雨の如く降り注ぐ。

 

 

「くっ!」

 

追尾性が増しているビームをガンポッドで相殺、アサルトソードで断ち切る。可能な限り躱すが、一発がランスロットに直撃した。青い稲妻が奔るコックピット。

何とか躱した先にいたのは両手を広げ、構えているマクロス級

マクロス級から無数の無人バルキリーが飛び出してくる。

 

「そんじゃ本気出して行くか!ランスロット!」

『MEブースト・オーバードライブ』

 

エナジーウイングが虹色に輝き、鳥の翼へと変化する。ランスロットの双眸から翠色の光が溢れる。

 

宇宙を仰ぎ、美雲は想う。

 

“大丈夫、あなたは一人じゃない。私が傍にいるわ!最後まで、あなたの背中を押し続けるから!”

 

「うぉぉぉぉぉおおおお!!!」

 

虹色の軌跡を残しながら、流星のように無数の無人バルキリーを駆逐していく。

 

しかし、堕とし損ねた機体に身体を捕まれ身動き取れないところをマクロス級の巨大な手に掴まれる。次第に握る力が強まる。コックピット内のディスプレイが次々と割れていくが、

 

「まだだァァァァッ!!」

 

操縦桿を操作し、虹の翼でその手を切り裂き、離脱。ガンポッドを最大出力で放ち、マクロス級の顔面を撃ち抜く。まるで痛みに悶えるかのように残っていた手で顔を覆い、怒涛とも呼べる数のビームを一斉発射した。

追尾してくる幾千ものビームを超加速で躱す。が、その内の一本が右足に直撃し、掻っ攫った。だがそれにも目をくれず、全て避けきった。

 

カナメは涙を流す。

 

“お願い、神様!カレンくんを!”

 

再度最大出力でガンポッドで射撃し、マクロス級の身体にある砲台を薙ぎ払いながら破壊する。

マクロス級の周りを飛びながら、虹の軌跡を残す。

 

「光の・・・・舞」

「何て綺麗な・・・・・・」

 

メッサーとミラージュは目を奪われた。地上からでも見える、虹色に光り輝く光の軌跡に。

 

マキナとレイナは祈る。

 

“カレカレ、無事でいて!”

“カレンなら、勝てる!”

 

 

フレイアは歌う。

 

“届けさせる、カレンに!”

 

遂に真正面へと辿り着き、加速した。ランスロットの後ろには、《ワルキューレ》五人の姿が映る。

 

「なッ・・・・・!?」

 

まだ残っていた一機の無人バルキリーにガンポッドを持っていた左腕部を引き裂かれた。

 

「がはッ・・・・・!」

 

裂かれた衝撃がコックピットまで届き、激しく揺らした。所々から異音が響く。口からは血が流れた。壊れた部品が自分の腹に深く刺さったのだ。

 

「あっぶねぇ・・・なぁ!!」

 

だが痛みにも目もくれず、引き裂かれた左腕部を無人バルキリーに叩きつけ、アサルトソードでガンポッド事突き刺し、そのままマクロス級へと突撃する。

 

ーーー止まるな、行け!ーーー

 

Δ小隊の皆が視えた。

 

(ありがとう、みんな!)

 

仲間に守られながら、自分は飛んでいる。ガンポッドが爆発し、マクロス級の一部に穴が出来た。そこから内部へと侵入する。

(コア)へと通じる外壁を突き破り、遂に辿り着いた。

紫色に輝く、ひし形の(コア)。それを守るかのように現れた、黒い〈ドラケンⅢ〉。両者はぶつかり合った。

幾度も剣をぶつけ、オーバードライブ状態のランスロットにも限界が来ていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

左脚で蹴りをいれるが、それは防がれ敵のアサルトソードで斬られた。しかし、これには花蓮の考えがあった。爆発による爆煙で視界を塞ぎ、アサルトソードを投げる。突如爆煙から飛来するアサルトソードに対応出来るはずがなく、黒い〈ドラケンⅢ〉に突き刺ささり、そして爆散する。陽動に砕け散ったアサルトソード。そこには空中騎士団、そしてカシムの姿があった。

 

ーーー終わらせろ、白騎士!ーーー

 

そう言われてる気がした。

 

「僕の想いの全てをーーー」

 

右手に虹色の光が輝き、(コア)へと突撃した。

 

「この一撃にィィィィィィ!!!」

 

しかし、(コア)に後少しという所で覆っているバリアに防がれた。

 

「ぐ・・・・ぉぉぉぉ・・・・・!!」

 

口と腹からは血がとめどなく流れ出る。

硬すぎるのか、次第にランスロットの右腕部に亀裂が入っていく。

 

(ここまでなのか・・・・・・!?)

 

操縦桿を握る自分の手に、誰かの手が乗せられた。

 

「ッ・・・・・・」

 

横を見れば、自分と瓜二つの顔。自分の半身、消えたはずの〈星の導き手〉だった。

 

『銀河を救うのは、強き想い。これで、全部揃った』

「・・・・・・・」

『行けますか?花蓮』

「ああ、当たり前だーーー!!」

 

虹の翼の輝きとフォールド・クォーツの輝きが全て右手の拳に集まる。

 

『「届けぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」』

 

拮抗が崩れ、バリアに亀裂が入る。そして砕け散り、花蓮の一撃が(コア)へと届いた瞬間だった。

 

美雲は泣いた。

 

「カレェェェェェェェン!!」

 

宇宙に大輪の華が咲いたーーーーーーー

 

 

 

to be continueーーー




マクロスΔ〜もう一人の白騎士〜 本編はここでひとまず幕を閉じます!マクロス級の巨大システムと共に爆発したランスロット。花蓮は死んでしまったのか、それともーーー
続きは次回作のanother story編で!

マクロスΔ劇場アニメ化が発表になりました!焦らしに焦らされて気が狂いそうでした笑
「歌マクロス」も順調な踏み出しのようです!今月の下旬にはAXIAが追加されるらしいので楽しみですね!フレンド、待ってまーす!

それでは皆さん、次の作品までさよなら〜ヽ(≧▽≦)

これからも応援よろしくお願いします!


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another story編
Story00 Re:


another story編の触り部分ですので短いです!




ブリージンガル球状星団

かつて新統合軍とウィンダミアによる戦争の舞台となった星団。そして、一人の少年によって守られた星団でもある。後に語り継がれる英雄ーーーー

 

エノモト・カレン

 

またの名を〈白騎士〉と呼ぶーーーー

 

ーーーーーーーー

 

 

マクロスΔ〜もう一人の白騎士〜

another story

 

 

ーーーーーーーー

 

惑星ラグナ

 

太陽と海に覆われた常夏の惑星。その星に一つの摩擦熱のほうき星が伸びる。

 

「こちらΔ2、メッサー・イーレフェルト。任務完了につき、着艦許可を貰いたい」

『こちらエリシオン。着艦を許可します、お疲れ様です。メッサー中尉』

 

黒いパイロットスーツに身を包んでいる青年は、約半年ぶりにラグナに帰ってきた。大気圏を降下し、雲の海を抜ける。そこには、懐かしい海と街並み。そして、静かに鎮座し先の大戦での補修作業が行われているエリシオンを眼下に見下ろす。愛機を〈アイテール〉の甲板に着艦させ、コックピットから飛び降りた。ヘルメットを取り、篭っていた熱を顔をふり発散させる。

 

「お疲れ様〜、メッサーくん」

 

少し間の伸びた声がした方を振り向けば、赤にしては濃い髪を後ろで留め、海のように蒼い大きい瞳、少し垂れ気味の女性。

 

「お疲れ様です、カナメさん」

「はい、飲み物」

 

手渡されたボトルを受け取り、乾いた喉に流し込む。

 

「メッサーくん見るの久しぶりだな〜」

「ええ、半年ぶりですから」

「それで、会って早々失礼かもしれないけど、どうだった・・・・・・?」

「今回もハズレでした」

「そっか・・・・・・」

「カレン少尉の捜索の協力を各惑星のケイオス支部に通達してからもう一月ですね」

「もうそんなに経つんだ」

「・・・・・・・・・」

 

二人の間にラグナの風が吹く。

 

「戻ろっか、アラド隊長が待ってると思うし」

「そうですね」

 

そう言って二人は甲板を歩いて行った。

 

ーーーーーーーー

 

あの爆発の後からラグナに降ってきたランスロットの残骸。その中に奇跡とも言うべきだろうか、コックピットの部分だけ、何とかその形を維持していた。内部は修復不可能とも思われる程の損傷が酷く、勿論その中に彼はいない。残っていたのは彼の血痕だけだった。以上の事から、彼が生存している確率はほぼゼロに等しいとまで騒がれている。この捜索の協力ですら建前でしかない。

 

「どうするだ、アラド。もう一ヶ月も手掛かりなしなんだろう?もう本部の方は動き出しているぞ、カレン少尉のMIA判定をKlA判定に移す事に」

「・・・・・・まだ認識票(ドッグタグ)すら見てもないのにか?」

「あのコックピットの損傷から見るに、生きている事が奇跡だ。確率はほぼないがな。一ヶ月も経ってMIA判定のままの方が異例。我々にはやるべき事がまだあるのだ」

 

マクロス級へと変形した巨大システムを花蓮が破壊してから早一ヶ月。ウィンダミアと統合政府の間に停戦協定が結ばれ、和平交渉へと移ったご時世。ラグナの復興も着実に進み、《ワルキューレ》の記念ライブも予定されている。

 

「過ぎた事を何時までも悔いていては前へは進めん。分かってるんだろう?アラド」

「分かってるさ、アイツとの約束だからな」

 

アーネストは隊長室を後にし、その場にはアラド一人となった。

 

「平和、か・・・・・・。なぁ、お前は今どこで、何をしてるんだ?カレン・・・・・・」

 

背もたれに寄りかかり、脳裏の裏に彼の姿を思い出した。

 

ーーーーーーーー

 

「レイレイ、そっちの方はどう?」

「ダメ、うんともすんとも言わない」

 

〈アイテール〉の甲板に、二人の美少女が顔を傾げながらあーでもないこーでもないと言い合っている。

目の前には回収されたランスロットのコックピット。何とか電源だけでも付けば何か手掛かりが分かるかも知れないと言い出して、早一ヶ月。何の進展もなかった。

 

「あ〜!もう何で起動しないの〜!」

「疲れた」

 

天才ハッカーにメカニックですらお手上げとは、最早打つ手はないと言っている様なものだ。

 

「平和になったけどさ、何か、ポッカリ空いちゃったよね」

「うん、カレンが居ないと落ち着かない」

 

足を組んで座り込む二人は、ボロボロのコックピットを見上げた。

 

ーーーーーーーー

 

エリシオンの廊下を走る音。黄色がかった茶髪に、癖が残っているセミロング。お馴染みの大きめのリボンで結んだ髪型の少女。

 

「ふぇえ〜、ハヤテとミラージュさんに怒られる〜!」

 

一室に駆け込み、荒い息を整える。

 

「遅いですよ!フレイア!」

「おま、髪伸びたな」

「どう?似合うかね?」

 

フフン、と決めてみせるフレイアを二人はジト目で見る。

 

「ライブの打ち合わせをしたいと言い出しのはあなたでしょう」

「こっちは今日非番だってのによ」

「ご、ごめん」

「まぁいいです、早く始めちゃいましょう」

 

ーーーーーーーー

 

エリシオンの展望台で佇む人影。太陽の陽射しが差し込む。

 

「・・・・・・・・」

 

首に掛けているネックレスを取り出す。そこには赤く輝くリングが、眩しく光る。

 

(僕の方から必ず会いに行きます)

 

蘇る言葉に、胸が痛んだ。

 

(待つのは馴れていたつもりだけど・・・・・・こんなに辛いものだったかしら)

 

だが今は待つことしか出来ない。彼の、帰りを。そっと、そのリングを握り締めた。

 

ーーーーーーーー

 

そして、サジタリウス渦状肢に含まれているブリージンガル球状星団から遠く離れた、一般で言う、天の河銀河の辺境にある星ーーー

 

地球 マクロス・シティ

 

第一次星間大戦終結後から、復興が進み、今となっては文明が栄えた大都市となっている。その大都市にある一軒家。

 

「フンフンフーン♪」

 

可愛らしい鼻歌を歌いながら料理をしている赤く長い髪の毛をポニーテールで結び、ミニスカートにエプロンという何ともご褒美精神に溢れている格好をしている主婦。屈んだら下着でも見えてしまうのではないだろうか。

 

「よし、出来た!そろそろ起こしにいかないと」

 

テラスからは風が吹き込み、室内を通り抜けていく。風がカーテンを揺らし、その先には椅子に寄りかかっている人影が見える。

 

「ご飯出来たよー」

「あ、うん。今行くよ」

 

そっと身体を起こし、テラスから中に入る。黒い髪の毛が少し混ざっている赤い髪。フェイスラインの部分の髪を耳にかけ、額には中くらいの傷。右目はまるで光を拒むかのように静かに閉じられていた。

 

「さ、早く食べないと遅刻しちゃうよ。花蓮くん(・・・・・)

「もうそんな時間か」

「最近よく考え込むよね、何か思い出したりとかしてるの?」

「ううん。母さん、ごめんね。僕、昔の事、今も全然思い出せないんだ(・・・・・・・・・・)

「そっか・・・・・さ、冷めるうちに食べちゃお!」

「うん」

 

かつての英雄と同じ名前の少年、榎本花蓮。この先、ラグナで戦友達と顔を合わせる事になるのはもう少し後の話。

止まりかけていた歯車が、静かに動き出すーーーーー



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story01 Welcome To Walkure World 前編

遅くなりすみません!

歌マク、ガチャ渋くないデスカー?

劇場版マクロスΔ楽しみすぎる、はい!


「それじゃ、行ってきます」

「あれ?どこ行くの?今日は学校休みじゃ・・・・・」

「何言ってるんだよ、母さん。今日は修業式。春休みは明日からだよ」

「え!?そうだっけ!?」

「はぁ・・・・・・・」

 

花蓮は額を押さえ、ため息をついた。自分の母親はこう、なんというかどこか抜けている所がある。

そこが可愛いだのとうちの学校ではかなり人気が高い。まあ、何故こんなにも若く見えるのか謎でならないが。

 

「とりあえず、午前中で終わりだから」

「ああ、うん。行ってらっしゃい」

 

そうして花蓮は玄関のドアを開け、外へと出ていった。家に残った華凛にとある人物が声を掛けてきた。

 

『やっぱり、すっかり忘れちゃってるわね』

「うん・・・・・・」

『まあ、それでも良かったんじゃないかしら。()のおかげで花蓮は消えずに済んだ』

「そうだけど・・・・・・・」

『記憶と自身の消滅の代わりに、花蓮を残す。《星の導き手》にも情があったのね』

「・・・・・・・・・」

 

華凛は俯きそれ以上は何も言わなかった。

 

ーーーーーーーー

 

「ふぅ・・・・・・」

 

長い修業式も終わり、教室で一息つく。立ちっぱなしは肩やら腰に何かとくる。

 

「よっ、ため息なんかついて年寄りか?」

「少し疲れただけだよ」

「確かに、うちの校長話が長げぇからな」

 

クラスの友人の一人が花蓮に肩組みをし、気さくに話しかける。

 

「にしても、いつ見ても痛々しいな。そのデコの傷」

 

友人が自分の額の傷を見ながら零した。斜めに入った中位の傷跡は今も癒えていない。

 

「ん?ああ、これね。昔、交通事故でついた傷でさ、おかげで昔の記憶がほとんど思い出せないんだ。右目も見えなくなっちゃったし」

「記憶障害に右目の失明か・・・・・お前も大変だなぁ、おい」

「あはは・・・・・・」

 

ワザとか本気なのか、友人は涙を目に溜め同情の眼差しを向ける。思わず苦笑いをしてしまったが大丈夫だろうか。

 

「ところで春休みは何すんだ?」

「ああ、実はね・・・・・」

 

そう言って端末を取り出し、母親とのトーク画面を見せる。

 

「なんか《ワルキューレ》のライブの抽選に当選しちゃったみたいで・・・・・」

 

「「「「「「ええええええええええええ!!!!!」」」」」」

 

「っ!?」

「お、おま!《ワルキューレ》ってあの!?」

「う、うん。あの」

「宇宙一倍率が高い《ワルキューレ》のライブに当選したって・・・・・あの間違えて抽選に参加した時のか!?」

「多分そうだと思うけど・・・・・・・」

「ずるすぎる!!」

「クソっ!!我が校の女子の視線を掻き集めるだけに飽き足らず、挙句の果てには《ワルキューレ》のライブに当選しただとぉ!?き、貴様ァァァァ!」

「い、いや!僕は悪いことは・・・・!」

 

それからはかなりの間揉みくちゃにされ、結局帰宅したのが正午回ってしまった。

 

ーーーーーーーー

 

『皆様、こちらはマクロス・シティ 国際宇宙航空、惑星ラグナ行き5426便の優先搭乗案内でございます。ただ今から、小さなお子様をお連れのお客様や特別なお手伝いをされるお客様に搭乗していただきます』

 

「ほらー!花蓮くん早くぅ!」

「ま、待ってよ母さん・・・・・!」

 

バッグを持ってはしゃぐ華凛の後を駆け足で走る。

 

「一般の搭乗はまだだよ、なんでそんなに急いでるの・・・・・・」

「あ、いやぁ・・・・・・」

 

てへへと可愛らしく誤魔化す。

 

「・・・・・・・?」

(さすがに言えないよねぇ、もしかするとケイオスの人たちがこっちまで捜索範囲を広げてるかもってさ)

『当たり前じゃない』

「母さん、行くよ」

「あ、う、うん!」

 

そして二人は地球を飛び立ち、遥か何千万光年先のラグナへと旅立った。

 

ーーーーーーーー

 

「よ、フレイア」

「あ、ハヤテ」

「考え事なんてお前らしくもねぇ」

「んなっ!あたしだって考え事ぐらいするし!」

「へいへい」

「ぐぬぬ・・・・・・・」

 

睨みをきかせるフレイアを他所に、ハヤテは目の前に広がるラグナの海を見た。二人は〈アイテール〉の甲板に立っていた。海風が頬を撫で、思い出す。

 

「そう言えば、カレンもここから見る景色が好きって言っとった」

「・・・・・・・」

「何してんやろ・・・・・・」

「全く、早く帰って来いってな」

「うん・・・・・・・」

「しょぼくれたって始まらねぇ。今は明後日のライブを成功させる事に集中しようぜ」

「・・・・・うん、そうやね」

 

暗かったルンが明るさを取り戻し、フレイアの顔にも笑顔が浮かんだ。

 

「ゴリゴリで歌うかんね!」

「おうよ!」

 

二人は拳をぶつけ合った。

 

ーーーーーーーー

 

「暑い・・・・・・」

「常夏の星だからねー、飲む?」

「うん。ありがとう・・・・・」

 

花蓮は受け取った飲み物を口に含む。

 

「とりあえず、どこに行くの?ライブは今日の夜だよね?」

「うーん、どうしようかなぁ・・・・・」

『ケイオスに行けばいいじゃない』

(そ、それはまだ早いんじゃないかなぁ・・・・・・)

「うわぁ・・・・・ほんとにラグナって《ワルキューレ》の本拠地なんだね」

 

市街地のバレッタシティの空間ウィンドウには《ワルキューレ》の広告が目まぐるしく表示されている。先の大戦を終結へと導いたその歌声は、今も尚その勢いが衰えることを知らない。活動範囲を広げ、人気もうなぎ登りらしい。

 

「どれも美味しそうだね〜、レイレイ」

「生のクラゲ、丸飲み」

「今日は裸喰娘娘でパーティー開くからそれまで我慢して?」

「んー」

「美雲も来るでしょ?」

「そうね、行こうかしら」

「珍しいですね、美雲さんが来るなんて」

 

現在フレイアを除いた《ワルキューレ》のメンバーとミラージュは変装をし市街地へ買い物をしに来ていた。

 

「今日のライブも成功させようね!」

「もちのろん」

 

前方からは特徴的な赤い髪の二人が近づいてくるが、コチラはまだ気づかない。

 

「ウミネコって海沿いにいるんだよね?」

「うん、じゃあ海沿いに行ってみようか」

「そうだね」

 

前方からは変装した《ワルキューレ》とミラージュが近づいてくるが、華凛も花蓮も気づかない。

 

「でね、メッサーくんったらまた難しい顔してキュルルと睨めっこしてたの」

「キュルルもよく逃げませんでしたね・・・・・」

「きゃわわなメサメサ見たかったなー」

 

「楽しみだねー!《ワルキューレ》のライブ!」

「はしゃぎすぎて怪我しないでね?」

 

そして両者はすれ違った。紅蓮の瞳。風に流れて行く赤い髪に、懐かしい匂い。忘れもしない、彼の存在に一同は歩みを止めた。

 

「え・・・・・・・?」

「今のって・・・・・・」

「カレン・・・・・・・!?」

 

美雲は急いで振り返るが、そこにはもう二人はいなかった。

 

「気のせいじゃない、よね」

「間違いない」

「でも、確信がある訳じゃないし・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「一応隊長たちにも知らせてきます!」

 

ミラージュは急いで駆けて行った。

 

「見て見て、銀河イチゴだよ」

「なにィ!?」

 

当の二人は呑気に満喫していた。

 

ーーーーーーーー

 

「なに!?カレンと思わしき人物がラグナに!?」

『はい、私もこの目で見たので間違いないかと』

「生きて、いたのか・・・・・・・」

 

マクロス・エリシオンのブリッジに、喜色の声が上がる。

 

『どうしますか、隊長』

「ライブに来るかもしれない。その時にコンタクトする」

『了解』

 

モニターが消え、アラドは息を吐いた。

 

「良かったじゃないか」

「まだ、本人と分かったわけじゃないがな」

 

それでもアラドの顔には笑みが浮かんでいた。

そして、日は傾き、《ワルキューレ》のライブが始まろうとしている。

 

「緊張する〜・・・・・・!」

「母さん・・・・・」

 

ガッチガチの華凛を見て苦笑いを浮かべると、突如野外の照明が消え辺りを静寂が包む。

 

ーーーーWelcome To Walkure World.

 

突如、自分たち以外の観客が怒涛の歓声を上げた。

 

「・・・・・・・・」

 

ステージに現れたのは五つのシルエット。

今から始まるのはまるで夢のようなライブ

そして、また戦火の灯火も僅かに立ち昇ろうとしていた。

 

ーーーーーーーー

 

劇場版マクロスΔの本編予告が出たので真似した結果

 

※本編や原作とは一切関係ありません

 

ーーーーーーーー

 

マクロス35周年

 

 

いつからだろうーーー?

いつから錯覚していたーーー?

いつから僕はーーー

 

ダマサレテイターーー?

 

 

マクロスΔ〜もう一人の白騎士〜

 

 

「新たなる同士、《ワルキューレ》!見よ、女神の歌声と風の歌の力をッ!」

 

始動する全時空融合計画ーーー

 

「歌は兵器なんかじゃない!」

「それは違うよ、カナメさん。歌は・・・・・兵器だ」

 

ケイオスの制服とは違う、黒い軍服を纏いしかの英雄ーーー

 

 

Another Story編 Truth END

 

 

「例えどんな事があっても・・・・・私達は《ワルキューレ》なんだから!」

 

動き出すプロトカルチャー

 

「あなた方の帰還を待っていた。《星の歌い手》、そして《星の導き手》をその身に宿し者たちよ」

 

「届けなきゃ・・・・・!」

 

「ここは・・・・・?」

「ここは我々プロトカルチャーの戦艦ーーー。これより我々は全銀河を制圧し、一つにする」

 

偽りの真実と、示される真実ーーー

 

「あなた方は騙されていのだよ。《ワルキューレ》などという俗物共に」

 

迫る大戦の予兆ーーー

 

「裏切られた・・・・・・・?」

「ここはあなた方を裏切らない。なぜなら我々は同じ時に生まれ、同じ時を生きるプロトカルチャーなのだから」

 

「私の歌、届けなきゃ!」

 

「君は?」

「私はエイレーネ。あなたの許嫁だよ!」

「・・・・・・え?」

 

まさかのラブコメ展開ーーー!?

 

「ランスロット・アルビオンリベルタス。コックピットを複座式にする事で《星の歌い手》と《星の導き手》の同時搭乗を可能にした究極にして最強の機体。この機体こそ、我々の御旗となろうーーーー」

「全軍に告げる!これより我々プロトカルチャーは全時空融合成就のため、全銀河の制圧を開始する!先んじては人類と銀河の恒久平和の礎として、ブリージンガルを制圧せよ!」

 

逃げ道はないーーーー

 

「身体の底から歌が溢れてくる・・・・・・・」

「あなたの歌は、俺の命そのものだったーーー」

「あたしは好きな歌を歌いたい!一分でも一秒でも長く・・・・・!」

「なんだ、あのランスロットは・・・・・・!?」

 

「裏切り者は・・・・・・」

「僕達が殲滅する」

 

退路はないーーー

 

「美雲!何が起きているの!?美雲!」

「理由なんていらない!歌は、兵器でも道具でもない!」

「何で!?何でお前と戦わなきゃいけないんだよ!カレン!」

 

「お前達が僕を騙したからだ!」

 

後退などありえないーーー

 

「どうか無事で帰ってきて、カレンさん」

「うん、必ず帰るよ君の元へ」

 

「まだ俺は・・・・Δ小隊の隊員です・・・・ッ!」

「俺も命懸けで飛ぶ!お前の歌を、守る為に!」

 

「その歌をやめろ!《ワルキューレ》!」

 

かつての仲間は、討つべき敵へーーー

 

「《白騎士》エノモト・カレン!いや、《星の導き手》よ!逆賊《ワルキューレ》を殲滅せよ!」

Yes Your Majesty(御意のままに)ーーー!」

 

「例え、ルンの風が尽きようとも!」

 

「理想の果てに沈め!《ワルキューレ》!」

 

洗脳されるブリージンガルの人々ーーー

 

「美雲さん、逃げてぇ!」

「やめてぇぇ!カレェェェェンッ!」

 

「消え失せろぉぉぉ!!」

 

偽りの銀河をーーー

 

「行こう、母さん」

「ええ」

 

覆せーーー!

 

人類(ひと)未来(あす)を拒むな!《ワルキューレ》ぇぇええ!!」

 

劇場版マクロスΔ〜もう一人の白騎士〜

Another Story編 Truth END

 

「僕は戦い続けるよ。いつか希望が、銀河を覆い尽くすその日までーーーー」

 

 




実はあの頃の記憶が偽りで、仲間だったみんなが本当は自分の敵だったって話で書くのも面白そうな気も・・・・・


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映画感想とおまけ

映画感想(若干ネタバレ含まれてるかもしれません!)プラスおまけ


マクロスΔの映画を見てきました〜

 

再構成ということで色々と端折られている場面もありましたが、自分的には面白く見れたので良かったです!本作はワルキューレに焦点が置かれているため、主人公はワルキューレです笑

登場人物の掘り下げもされていたので、TVシリーズでは不明だった行動も納得がいったところもありましたね〜。てか、お馴染みの隊長機のアーマード装備、やばかったス!クソカッコ良かったっス!

でもやはり一番期待の斜め上を行ったのが終盤のアレでしたね・・・・笑

あー、やっぱりこうなるんか・・・・・と思わずにはいられなかったです笑 どーーーーしても時間が無いんだ!お金が無いんだ!終盤に何があったんだ!?というどーーーーしても気になる方はネタバレ覚悟で個別で教えます笑

 

マクロスΔ 〜もう一人の白騎士〜

 

キャラクター紹介

 

「僕は、みんなを護るんだ!絶対に!」

「ほざけ。お前の存在などに意味はない。自己矛盾に食い潰されて自滅しろ」

 

エノモト・カレン

 

前回に引き続き今作のキーパーソン並びに主人公の少年。最終超決戦での爆発に巻き込まれる形で消息を絶った。助かった経緯は不明だが地球で静かに暮らしていた模様。

爆発の後遺症によるものか、記憶と右目を失っているため、《ワルキューレ》や自分が本当は何者かさえも分からない。誰にでも優しいのはかつての彼と同じなのに対し、かつての仲間たちとは少し距離を置いた行動をする傾向がある。

その正体は、〈星の導き手〉の宿主。一時期は体を乗っ取られるも仲間たちの協力の末正気に戻った。人類と銀河を守るために、〈星の導き手〉を取り込むがその時点で彼の存在自体は消滅することを〈星の歌い手〉から告げられるが、仲間のためにと自身の存在も厭わない強固な意志力を持つ。Another Story編では〈星の導き手〉としての力は殆ど失われているため、卓越した操縦技術も同時に失われている。

架空のAnother Story編 Truth ENDでは〈星の導き手〉と〈星の歌い手〉の宿主であるカレンとその母親がケイオスから追われる身となっており、プロトカルチャーの遺跡跡に母親と訪れた際、コールドスリープから目覚めた先人プロトカルチャーと出会う。この銀河の真実と《ワルキューレ》がウィンダミアと手を組み新たな戦火の火種を生み出しかねない事を示唆され、失望。裏切られた事と今度こそ火種の芽を摘むため、逆賊《ワルキューレ》の殲滅と恒久和平実現の時空融合成就のため全銀河を相手に戦いに身を投じる。〈星の導き手〉と完全な同調を果たし、性格は冷酷なものへと変化し、自分の邪魔をする者はかつての仲間だろうと排除しようとする。キースやメッサーさえも凌駕する操縦技術と反射神経、洞察力を併せ持つプロトカルチャー最強の戦士として描きたいらしい。



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story02 Welcome To Walkure World 後編

最後が意味不ですみません!

ダラダラとすみません!

ああーー!すみません!


重大な報告

 

皆様に重大な報告がございます。

 

 

本作、マクロスΔ 〜もう一人の白騎士〜 は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

去年の9月23日をもちまして連載一周年が経ちました!

はい!自分の作品ながら気づいたのがつい先程です!ここまで続くとは我ながら思ってもいませんでした・・・・・笑

これも読んでくださった皆様のおかげです!そして不定期ながらもダラダラと諦めず投稿してきた私自身にも褒めてやりたいところだぁ。

さて、今年2018年はマクロスの新作?などなどなど楽しみなことがありますですね!そして、今年の9月23日はこの作品の2周年です。

お気に入りもかなり増えていて私自身かなりびっくりしています!今年も良い一年になりますように(今更感)

頑張っていきましょー!

みんなのアイドル、エノモト・カレン共々どうぞよろしくお願いします!

 

作者 宙の君へ

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

「わぁ!すごいすごい!《ワルキューレ》だよ!?花蓮くん!」

「お、落ち着いて・・・・・・」

 

だが、確かに興奮するのも分かる。最初は無名のアイドル達だったが、今となってはかの《銀河の妖精》や《超時空シンデレラ》にも勝るとも劣らない人気なのだ。どうも彼女たちの歌声には特殊な力があるらしく、聴いた人たちの心を云々と母親が言っていた。

 

「美雲ちゃーーーーーん!!」

「フレフレこっち向いてーーー!!」

 

花蓮は真ん中で歌いながら踊る二人の少女に目がいった。美しい紫の髪を揺らしながら歌う彼女は《ワルキューレ》のエースボーカル、美雲・ギンヌメール。年齢に関する情報一切が不詳という謎の美少女である。その秘匿性から本当は人間ではないのでは?という説がファンの間で囁かれている。まぁ、あれだけの歌唱力と美貌を持ってすればそう思うのも無理はない。まさに《ミステリアス・ヴィーナス》である。

そしてもう一人が黄色がかった茶髪のセミロングを赤いシュシュで結った『元気』という言葉を体現したような少女。フレイア・ヴィオン、齢十五歳にして美雲・ギンヌメールに迫る勢いで実力を上げている。もう一人のエースボーカルと言っても過言ではないだろう。十五歳なのに大人に見えるのは彼女がウィンダミア人だからだ。平均年齢が三十歳のウィンダミアは短命の代わりに脅威的な身体能力を有していると授業でならった。そして、先の大戦の発端であるウィンダミア王国出身だ。最近髪を伸ばし始めたらしい。全て、母親からの情報だが、役に立つとは思ってもいなかった。

関心していた突如、頭に鈍痛が響く。見知らぬ映像がチラついた。

 

「いっ・・・・・・・・・」

 

思わず声が出てしまった。流石に大きかったのか隣で夢中になっていた華凛も心配そうに見つめてくる。

 

「花蓮くん?大丈夫・・・・・?」

「う、うん。ちょっとクラっときて・・・・・何でだろうね、《ワルキューレ》の歌にやられちゃったのかな・・・・・なんて」

「無理しないでね?」

「うん、ありがとう」

 

いくらが鈍痛も引き、何とか気を取り直し意識を《ワルキューレ》のライブへと向ける。気づいたらなにやら《ワルキューレ》のMCが始まっていた。

 

『みなさーん、こんばんわー!今日は私たち《ワルキューレ》のライブに来ていただきありがとうございます!』

「わーー!カナメちゃーーーん!」

「あの人が《ワルキューレ》のリーダー・・・・・・」

 

しかし、奇跡のライブも長くは続かなった。突如として市街地全域のディスプレイが《ワルキューレ》のライブ映像から《緊急避難警告》に変わる。

 

『ヴァール警報が発令されました。市民の皆様は速やかに指定のシェルターに避難してください』

 

けたたましく鳴る警報が市街地に鳴り響く。万を超える観客達の歓喜の声は、惨劇を呼ぶ悲鳴へと変わっていく。

 

「まさか、ヴァール症候群(シンドローム)・・・・・!?」

 

華凛の顔に焦りが現れる。

 

『〈風の歌〉は聞こえなくても、ヴァールの原因は不明って話は本当だったみたいね』

「とにかく花蓮くんを連れてシェルターに・・・・・・」

 

隣を見るがそこには花蓮はいなかった。人が大波のようにシェルターに向かって流れていく。恐らくこの人波に呑まれてしまったのだろう。

 

『まず私たちも安全な場所に行くわよ。どのみちこの人数では探すのは困難ね』

「う、うん・・・・・」

(花蓮くん、無事で・・・・・・!)

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

「生体フォールド波に異常反応!」

「どうしてこんな一斉に!?《ワルキューレ》のワクチンライブ中なのに・・・・・!」

「しかもここ、ゼントラーディ駐屯基地・・・・!?」

 

マクロス・エリシオンブリッジ。オペレーター三人が目の前の映像やディスプレイを見て驚愕する。

 

「最悪の展開だ!至急デルタ小隊へ通達!」

 

艦長、アーネスト・ジョンソンは大きな声を上げた。

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

「う・・・・・・・・・」

 

小さな呻き声を上げ、花蓮は起き上がった。所々体が痛むがそれは、目の前の光景により消えてなくなった。

 

「な、なんだよこれ・・・・・・・・・」

 

市街地バレッタシティー。そこはあの活気溢れる場所とは違い、赤に染まる戦場へと変わっていた。近くのゼントラーディ駐屯基地からはヴァールを発症した兵達が操る104式リガードが銃弾を撒き散らしながら闊歩していた。壊れる建造物。親とはぐれ泣いている子供。

 

『警告する!速やかに基地に戻れ!従わなければ・・・・・・!』

 

新統合軍による静止にも全く意に返さず、ミサイルを発射した。

 

『ぐああああ!』

『くっ!ダメだ!完全にヴァール化している!』

 

爆発音、銃撃音、聞きたくない人の悲鳴。全てが花蓮の中への流れ込んでくる。それは自分の中をぐちゃぐちゃにかき回し始めた。

 

「と、とにかく、今は母さんを・・・・・・・」

「花蓮くん!」

 

前方から聞きなれた声が聞こえた。華凛のものだと理解するのに時間はかからなかった。

 

「大丈夫!?花蓮くん!」

「う、うん。とにかく逃げよう、ここは危険だ!」

 

しかし、逃げ道は見渡す限り、瓦礫やらに遮られどこにもない。あるとすればーーーーー

 

(空ーー)

 

上を見上げる。そこには五つに輝く光が隊列を組んでこちらに轟音を響かせながらやってくる。

 

「あれは・・・・・・」

「デルタ小隊だよ。女神を護る五人の騎士たち」

 

自然に目まぐるしく変わる隊列に花蓮は釘付けになった。とても美しく、そしてどこか懐かしいーーーー

《ワルキューレ》の歌に合わせてヴァールを鎮圧していく様は一種のダンスのようだ。一際目立ったのが青の機体と黒の機体。どちらもエンブレムが入っているのもそうだが、他の機体と比べると明らかに伎倆が違うのが素人の目でもわかる。

 

「本当に歌でヴァールを・・・・・・・」

「そうだよ。あれが戦術音楽ユニット《ワルキューレ》。フォールド・レセプターで構成された戦場の女神たち」

「戦場の・・・・・・・・」

 

花蓮はもう一度《ワルキューレ》を見た。

 

「女神・・・・・・」

 

「デルタリーダーより各機へ。歌の有効範囲にヴァールどもを釘付けにするぞ!フォーメーション・ワルキューレウィング!」

「「「「了解!」」」」

 

「花蓮くんこっち!」

 

二人は瓦礫の平地を駆ける。恐らくシェルターは満員だ。せめてこの近辺から逃げ出すことが出来れば巻き込まれることは無いはずだ。

しかし、その前方に流れ弾が飛来し大きな爆発が起きた。

 

「きゃあ!」

「か、母さん!」

 

自分を庇った華凛へ宙へと体を打ち上げられ、その体をスーパーグラージが掴み連れ去った。

 

「母さん!!」

(何か・・・・・何かあれば・・・・・!)

 

辺りを見渡すとそこには、

 

「搬送急げ!いつでも動かせるように機体のセキュリティーを外しておけよ!」

「大丈夫だ!」

 

瓦礫の山に背を預けるように倒れている巨大なロボット。VF-171〈ナイトメアプラス〉だ。

 

(あれなら、母さんを・・・・・・!)

 

迷う必要はなかった。すぐに機体へ向かい、コックピットらしき所へと飛び込んだ。もちろんこの手の物の操作などしたことがない。

 

「と、とにかく適当に・・・・・」

 

目の前のスクリーンをタッチした瞬間、重低音を響かせながら起動する。

 

「や、やった・・・・・!えっと、動かし方はこれかな・・・・・」

 

左右に付いている操縦桿を動かしながら姿勢を変えていく。

 

「お、おお・・・・・・」

 

これには流石に驚きの声を上げてしまった。勘とは時に役立つものだと改めて学んだ。

 

「よし、これなら・・・・・・!」

 

フットペダルを思い切り踏み込み、脚部のメインエンジンを吹かし、華凛を連れ去ったスーパーグラージへと向かう。

 

「動けないぃ・・・・!」

 

まあ動けないのも無理はない。巨大なロボットに掴まれているのだ。人力ではたかがしれている。しかし、後方の空から高速でこちらに近づいてくる物体がいた。しかも、こちらは人型のロボット。

 

「母さんを返せぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

そして思い切り体当たりをかました。前のめりになるスーパーグラージが手に掴んでいた華凛はその衝撃でまた宙へ投げ出された。

 

「またぁぁぁ〜〜!?」

『母さん!』

 

今度は花蓮が乗る〈ナイトメアプラス〉がそれをキャッチした。

 

「え!?花蓮くん!?」

『よかった、無事で!』

「どうしてその機体に・・・・・」

『母さんを助けるにはこれに乗るしかないと思って・・・・・でも何とか動かせるし今のうちコックピットに!』

 

華凛を誘導し、コックピットの後部座席へと乗せた後、アラートが鳴り響く。

 

「花蓮くん、十時の方向!」

 

言われて方向を見れば、リガードが正にミサイルを放った瞬間だった。

 

「こんのぉ・・・・・!」

 

操縦桿を何となく操作した途端、人型から、何やら戦闘機から足やら手が生えた形態へと変形した。

 

「へ、変形した?」

「と、飛んで!」

「う、うん!」

 

再度フットペダルを踏み、脚部のメインエンジンが火山のごとく噴射する。砂埃を上げながらガウォークへと変形した〈ナイトメアプラス〉は空へと上がる。

 

「と、飛んだ!」

「あわわ!ホバリングしてる場合じゃないよ!」

「え!?ちょっとーーー」

 

華凛が強引に操縦桿を操作し、更に変形。今度は戦闘機へとその姿を変えた。

 

「えぇ!?また変形した!」

「いやぁぁあ!いいから逃げてぇ!」

 

今度は後方からミサイルが雲を引いて接近している。また再度、フットペダルを踏み一気に加速した。

 

「ぐぅ!」

 

襲いかかるGに体が悲鳴をあげる。パイロットスーツを来ているのならまだしも、訓練も受けていない一般人には中々堪えるものだ。

すると前方にも驟雨の如くミサイルが待ち構えていた。

 

(もうやけくそだ!)

 

操縦桿を握りしめ、眼前を見据える。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ミサイルの驟雨に花蓮の駆る〈ナイトメアプラス〉は突っ込んだ。

 

ーーーこれからも続くよ!ーーーー

 

 

 

 




本当にありがとうございます!


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story03.邂逅

どうしてオレの機体だけ商品化されないのか。誰かこの問題を解決してくれ。byチャック


彼女(男の娘)選択画面にありそう

 

 

【挿絵表示】

 

 

友達の父上絵がお上手で

 

 

【挿絵表示】

 

 

2018年放送予定のマクロスの新作、中々新しい情報が入ってきませんねー。眉毛(河森)監督はデルタの続きやハヤテの父親、ライトを主人公にした作品もやりたいと言っているらしいですけど、どうなんでしょうね笑 あまり余った伏線もありますしね!笑

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

操縦桿とフットペダルをデタラメに操作し、驟雨の如きミサイルの合間を縫って行く。もちろん軌道修正はAIが負担しているため、機体の姿勢が右に左にと傾き続ける。

 

「危なーーーッ!」

 

最後のミサイルをバレルロールと同時に頭部機銃で撃ち落とし、加速した。

 

「何とかなるものだね、人生って・・・・・・」

 

こんなハードゲームな人生、二度と送りたくないと思った矢先に、コックピット内に誰かからの通信が入った。

 

「・・・・・・・?」

『そこの統合軍機に告ぐ。直ちに戦闘行為を止めろ』

「せ、戦闘行為って・・・・・僕はただ・・・・・・!うわっ!ロックオンしてきた!?」

「ズルいよ、メッサーさん!そっちは最新鋭機でしょー!」

 

もちろん言われるとおりに指定された座標に移動し、ガウォークに変形。そのまま着陸した。

見渡せば辺りにはΔ小隊の機体が自分たちを囲むようにガウォーク形態で次々と着陸しできた。その中には当然、先程の黒い機体もある。派手なカラーリングが施されたVF-31のコックピットが開き、パイロットと、その後部座席には《ワルキューレ》がいた。

 

「どうしたら・・・・・・・」

「話せばわかってくれるはずだよ」

 

そう言って花蓮もハッチを開いた。

密閉された空間に外の風が吹き込んでくる。少し目を細め、そのまま立ち上がった。

 

「あの・・・・・・・・!」

 

事情を説明するため口を開いたが、当の相手は自分をまるで信じられないものを見る目で見ていた。

 

(・・・・・・・ん?)

 

何故自分が焦る必要があるのか分からないが、焦っている。間違いない、自分は焦っている。焦っている花蓮、視界の隅にとある人物を捉える。紫色の長い髪のとても綺麗な少女だった。

 

「カレン・・・・・なの?」

「え・・・・・・・・・・・?」

 

何故《ワルキューレ》のエースボーカルが自分を知っているのか。疑問が花蓮を駆り立てた。

 

「あの、どうして僕の名前を・・・・・・?」

「え・・・・・・・?」

 

今度は美雲が驚いた声を出す。多分、一生忘れないと思う。

 

「失礼ですけど、あなたは誰ですか?」

 

この時言った言葉を聞いた、みんなの表情を。

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

「心肺に異常なし、ストレス反応なし」

「それじゃ、始めるとするか」

 

マクロス・エリシオン内部にある検査室の一室。数多の機器に繋がれたカプセルが中央に設えてあるだけの部屋にΔ小隊と《ワルキューレ》と華凛がいた。

アラドの命令で検査が始まった。画面には生前の花蓮の身体組織の情報のデータが暗号化された文字が目まぐるしく流れていく。

数分した後に終了を知らせるアラートがなった。

 

「検査終了です。ヴァール細菌の確認は認められず。DNA、骨格の適合率99.9%。エノモト・カレン少尉ご本人で間違いありません」

「まぁ、違うとすれば記憶がないことぐらいかなー」

 

華凛が研究員の言葉に付け足しながら、花蓮の元へと歩く。

 

「ん、あれ?もう終わったんだ」

「うん、はい」

 

差し出された手を握り、設えある椅子に腰を落とす。

 

「あの、カリンさん。記憶が無いって・・・・・・」

「そのままの意味だよ、カナメちゃん」

 

華凛は苦笑いしながら言葉を続けた。

 

「あの子にはね、みんなと過ごした記憶が全部ないの。多分、消滅するはずだったあの子を〈星の導き手〉が記憶と引き換えにカレンくんを残したんじゃないかって」

「記憶が・・・・・・・・・」

「思い出すという可能性はないのか?」

「残念だけど、ないと思っておいた方がいいと思うよ」

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

しばらくの間、ラグナに滞在することになった。何やら先のヴァールの事件のせいで全ての宇宙港に規制がかかっているらしく、自由に行き来出来なくなってしまったのだ。ケイオスの元で世話になることになったのだが・・・・・・・

 

「ここ、どこだ・・・・・・?」

 

天性の方向音痴を遺憾無く発揮し、絶賛迷子中であった。

 

「散策なんてするじゃなかった・・・・・・」

 

とぼとぼ来た道と思しい道を歩いていると、花蓮の耳に歌声らしき声が届いた。

 

「ん?どこから・・・・・・・」

 

その声に導かれるようにまた歩き出した。

そしてたどり着いた部屋の一室。まさか自動ドアだということに気付かず、一歩近づくと勝手にドアが開き、中にいたのはーーー

 

「ふんふふんふん♪ごりご・・・・・り・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

 

目の前にいたのはまさにお着替え中の一人の少女。頭部のハート型のルンが特徴的なウィンダミア人。上半身下着姿の彼女をマジマジと見て、しばらく間を置いて花蓮の顔が真っ赤に染まった。

 

「ち、違うんです!その、悪気は全くなくてーーーーー」

 

顔を真っ赤にした花蓮が必死に弁解を試みるが、

 

「こ・・・・・・こ・・・・・・・この・・・・・・・ッ!えっちぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「うおわぁぁぁ!!??」

 

ガンッ!

 

「グフッ・・・・・!!」

 

すごいデジャブを感じずにはいられない。

 

 



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story.04 歓迎会

お久しぶりです!

今回は少しおふざけ回です笑
たまにはいいよね…?

まさかのツンデレ幼馴染が登場!?


「はい、これでよしっ」

「す、すいません・・・・・・・」

「いいのよ、気にしないで。でも、艦内を歩く時は付き添いを付けなきゃダメよ?まだ道も分からないでしょう?」

「は、はい・・・・・・」

 

騒ぎを聞きつけ駆けつけてくれたのは《ワルキューレ》のリーダー、カナメ・バッカニアだった。彼女が見たのは、鼻血を垂らしながら伸びている花蓮と顔を真っ赤にし息をあげているフレイアだった。あの時の光景と全く一緒だったことに少し笑みが零れてしまった。

 

「あわわ、だ、大丈夫かね・・・・・・!?」

「は、はい!す、すみませんでした!そ、その・・・・・フレイアさんが着替えしてるなんて知らなくて・・・・・で、でも!その、ピ、ピンク色の下着とかみ、見てないので!」

「はわぁっ!?」

「ふふっ」

 

言った本人も顔を真っ赤にし何とか慌てているフレイアをなだめている光景にカナメはまた笑みが零れた。

 

(記憶がなくても、カレンくんは生きてた。帰ってきてくれた・・・・・・私たちを護ってくれた)

 

かつての英雄の姿はそこになくても、戦う力がもうなくても、これだけは言いたかった。

 

「ありがとう、カレンくん」

「え・・・・・・?」

「ううん、何でもないよ。さっ、フレイアも早く準備して帰るわよ」

「は、はい〜!」

 

それから三人で帰ることになった。まあ、方向音痴の花蓮にとってはありがたい話なのと、これから短い間だかお世話になる宿を紹介するついでにそこで歓迎会を開くことになっているらしい。誰のかは教えてくれなかったが。

 

「うわぁ・・・・・本当にウミネコっていたんだぁ」

「カレンくんは見るの初めて?」

「あ、はい。ずっと地球暮らしだったので。本や授業でしか見たことなかったんです。可愛いなぁ、アスカにも見せてあげたいな〜」

「アスカ?」

「あ、僕の幼馴染なんです。小さい頃からずっと一緒で、少し男勝りなのが難なんですけど、根は優しい子なんです」

 

そんな話をしている内に目的の宿についた。

 

「じゃーん、ここが今日からあなたが住む所よ」

「裸喰娘娘?」

「そう!ここのクラゲは絶品なんよ〜」

「く、クラゲ、ですか?」

「お待たせー!」

 

フレイアが勢いよく扉を開けるとそこにはケイオスのみんなが既に集まっていた。《ワルキューレ》にΔ小隊に整備士の面々。既に出来上がっている人もちらほらいる。

 

「あ、あの、これは一体・・・・・」

「言ったでしょ?歓迎会って」

「もしかして、僕の・・・・・?」

「そう!」

 

フレイアは踊るようにクルクル回りながら花蓮の目の前に来ると後に手を組んで、とびきりの笑顔を向けた。

 

「ようこそ!ケイオスへ!」

「「「「「「ようこそー!ケイオスへー!」」」」」」

 

フレイアの後に続くようにその場にいる全員も声を揃えて言った。

 

「それじゃ今日の一番の主役から一言〜!」

「えっ!?」

 

ピンク色の髪をサイドで結い上げている少女からマイクを渡され、全員が花蓮へと視線を向ける。その中にはもちろん

 

(か、母さん!?)

(〜♪)

 

見て見ぬふりをしているのか、明後日の方向を見ながら口笛を吹いていた。まあ、こうなっては仕方がない。ここで世話になる以上、自己紹介も必要だろう。

 

「え、えっと、皆さん初めまして。榎本花蓮です」

「初々しいカレカレもきゃわわですな〜♡」

「録画録画っと」

「知っての通り僕には昔の記憶がほぼありませーーーー」

 

すると花蓮の携帯端末に着信が入った。

 

「ちょ、ちょっとすみせん!」

 

通話ボタンを押すと、空間ディスプレイが出現した。

 

『なぁおい!これでほんとに繋がってんのか!?』

『俺に聞くなっつーの!先生にバレちまったら俺が没収されんだぞ!』

『ちっちゃい男ねー。そんな事気にしてる場合じゃないでしょ』

『か、花蓮くん?き、聞こえるかな・・・・・・?』

『ちょっと七海!何奥手になってんの!念願の花蓮くんとお話出来るんだよ?ほら!もっとグイグイいきなさい!』

『ちょっと!あたしのお尻触んないでよ!このエッチぃ!』

『し、仕方ねーだろ!?大体四十人以上いんのに体育館倉庫に隠れてやんのが間違いなんだよ!』

『おい、お前何食ってんだよ』

『朝飯食ってねーんだよ』

『ちょっと俺にも食わせてくれよ。俺も朝飯食ってなくてよ』

『少しだけだぞ』

『んぐっ!?外はカリカリ、中はフワフワ!これは・・・・・隣町のフランスパンだな』

『コンビニの食パンだバカヤロー』

『はんっ、一体どんな遺伝子操作すればこんな出来損ないが出来あがんのかね』

『べ、別に間違いは誰にでも・・・・・・・』

「あ、あの、皆は何して・・・・・・」

『うぉっはぁ!?繋がってるぅ!』

『え!?ほんとに!?花蓮!あたしよ!あたし!わかるー!?』

「ああ、うん。わかるよ、アスカ」

『はわわわわわっ!?か、かかかかか、花蓮きゅん・・・・・』

『七海が気絶したわ!』

『なんてこった!ここまであがり症だったとは!』

 

それから何やかんやでこんな会話が続き、ひとまず落ち着いた。ケイオスの人達も空気を読んでか、花蓮たちの話に耳を傾けていた。

 

『それより大丈夫なのか!?そっちは!なんかまたヴァールの事件が起きたみたいだけどよ』

「うん、僕も母さんも大丈夫だよ」

『ったく。心配かけさせんじゃないわよ』

「ごめんね」

『べ、別にあんたの事なんか心配してないんだからねっ!勘違いしないでよっ!?』

「うん、してないよ」

『ぬわぁんですってぇ!?なんでよ!?』

「だ、だってさっき勘違いするなって・・・・・・」

『はいはい、夫婦喧嘩もそこまでな』

『誰が夫婦ですってぇ!?』

『お、落ち着きなよアスカ』

『そんな事より、《ワルキューレ》には会えたのか!?なあなあ、会えたのか!?』

「あ、うん。《ワルキューレ》の皆さんなら今ここにーーーー」

 

そこでマキナの口角がニヤリと上がる。

 

「カレカレ〜♡」

 

花蓮の背後から抱きつくように映像ディスプレイを見たのだ。

 

「わひっ!?」

「カレカレのお友達?」

『ふおおおおおおおお!!マキナだ!マキナ・中島だぞうぉい!』

『ダニィ!?』

『な、なんというdynamite body!眩しすぎて直視出来ねぇ!』

『守りたいこの笑顔とはまさにこの事だな。生きててよかった!』

『お、おれ!マキナさんのファンなんですっス!』

「ふふっ、ありがとっ」

 

マキナはディスプレイに投げキッスした。

 

『くっ!!映像越しってのが名残惜しすぎるっ!!』

『おい、お前、元カノにすっげぇ目で見られてるぞ』

『『【悲報】元彼氏の俺、元カノに軽蔑される』っと』

「面白い人達だね!」

「あ、あははは・・・・・・」

 

これだけで済めばよかったのだが更なる人物が投下された。

 

「私のマキナを変な目で見るな。ゴミ、クズ」

『どぶぁぁぁはぁぁぁ!こ、ここ今度はレイナ・プラウラーだとぉ!?』

『俺をもっと罵ってください!その小さいあんよで俺の顔をぉぉおお!』

 

すると今度は何やら映像の後ろの方で女子達がバスケットボールやらバレーボールやらを投げる構えに入り、

 

『死ね、この腐れ変態』

『それ違う!それ小さいあんよじゃない!俺の求める刺激じゃなああああぁい!ゴフッ』

「カレン、怖い、あいつ」

「大丈夫です。倫理の妖精です」

「何してるん?」

 

更なる人物が投下され、花蓮の級友たちのテンションは更に上がる。

 

『フレイア・ヴィオンよ!』

『うわぁぁぁ!本物だー!かわいいー!』

『フレイアちゃんのルンを触りたい!触らせてくれ!』

「ふぇ!?あ、あんま見んといて、エッチぃんやから・・・・・」

 

頬を染めたフレイアが俯くように言ったが、それは彼らにとってはただの着火剤に過ぎなかった。

 

『尊い・・・・尊さが深すぎる・・・・!!』

『そうだ、俺はエッチなんだ!エッチなんだよぉ!』

『落ち着け!お前はもう正気じゃない!』

「な、なんか賑やか人達やね・・・・」

「すみませんすみませんすみませんすみません・・・・・!」

「随分と楽しそうね」

「あ、クモクモ!」

『俺の美雲さんキターーーーーーーー』

『ざけんな!お前のじゃねぇ!俺のだよ!』

『はぁ!?寝言は寝て言え、クソガキ!』

『お前らいい加減にしろ!美雲さんはおれーーーー』

『『『『うるせぇ!丸坊主短パン野郎は引っ込んでろ!!』』』』

「カレンのお友達なの?」

「あ、はい。でももういいです。」

「カレカレ、目が死んでるよ?」

『あああああーーー!!』

『ちょ、アスカ!いきなりどうしたの!?』

『ちょっとあんた!花蓮にベタベタし過ぎよ!』

「あら、それは私のこと?」

『あんたしかないでしょ!?早く離れなさいよ!』

「・・・・・・・」

 

美雲はしばらく無言になり、そして静かに立ち上がる。

 

「クモクモ?」

「あ、美雲」

「美雲さん?」

「あの、美雲、さん?」

 

花蓮の膝の上に跨り、艶めかしく微笑んだ。

次の瞬間ーーーー

 

チュゥ

 

「んんんんっ!?」

「ーーーーーー」

「わぉ」

「録画録画」

「み、みみみ美雲さん!?」

 

映像ディスプレイ越しのみんなも口をあんぐり開けていた。アスカというとなんとも言えぬ顔でその光景を眺めている。もちろんこの場にいるケイオスの職員もだ。

 

「ん、んぅ」

「ーーーーーー」

 

そのキスはなんとも大人っぽくこれではどちらが男かは、まるでわからない。名残惜しそうに離れた唇を、美雲は舌なめずりをする。約一分半にも及んだキスはやっと終了した。

 

「これでこの子はあなたの物じゃなくなったわ」

『ーーーーーーーー』

『え、エロい・・・・・』

『花蓮が羨ましいと思ってしまった俺の心は汚れている・・・・・!』

『し、しし、舌が、か、絡まって・・・・・あふぅ』

『隊長!山下隊員が昏倒しました!』

『クソ!コイツにはまだあの程度のキスの耐性もなかったのか!だからあれほど美少女エロゲをやっておけと言ったのに!準備を怠りやがって!』

「こら、みんなも悪ふざけがすぎるわよ」

『この可憐な、鼓膜を震わす天使の声はーーーー!間違いない、カナメ・バッカニアだ!』

 

そこからさっきと似た会話が続きカナメは困ったような笑みを浮かべていた。何やらメッサーがカナメを庇うように映像ディスプレイに映っていたがそれを見た彼らはブーイングを飛ばしていたが、メッサーの睨みで黙らせてしまったのがすごい。そんなこんなでみんなとの会話も終わり、通話を切ろうとしたがアスカに呼び止められてしまった。

 

「どうかしたの?」

『ーーーーー』

「アスカ?」

『ーーーーーさない』

「え?なに?」

『あんたはあいつには渡さない』

「あいつって誰のことだよ」

『美雲・ギンヌメール!』

 

アスカが指を指す方向には美雲がこちらをいつもの微笑を浮かべながらみていた。

 

『あんたには花蓮は渡さないんだから!』

「・・・・・・・・・・」

『フン!』

 

そのまま言い残し通話は切れてしまった。裸喰娘娘では再度歓迎会が再開し、賑わってきている。

 

「どうしたんだろ、アスカ」

「あからさまな嫉妬よ、あなたが気にすることじゃないわ」

「美雲さん・・・・・・」

「大丈夫よ、私も負けるつもりないから」

「え?」

 

そう言って微笑んだまま美雲は《ワルキューレ》の元へと戻って行った。



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story05 ーーーー

皆さんお久しぶりです。なんやかんやでここまでやってきました。

この小説を書き始めてとうとう2年が経ちました。殆ど私の投稿が遅いこともあり、皆さんにはご迷惑をお掛けしていますが、何卒よろしくお願いします。

そんなことより!マクロスΔの映画が完全新作で制作が発表されましたね!TVシリーズの新作も気になりますが、ほんとワルキューレもΔ小隊も止まらないし裏切らないですねぇ!Fみたいに二本立てで来るとは流石に予想していませんでした!楽しみです!はい!
今回はかなり短く駄文もりもりでお届けします、次回はその分長く書こうと構想を練る時間が欲しいため、また遅くなるとは思いますが、私の事は嫌いになっても、マクロスの事は嫌いにならないでください!←(言いたかっただけ)

この展開、主人公闇堕ちか


「疲れた・・・・・・」

 

花蓮はベッドに腰を下ろしため息を吐いた。まだ下からはみんなの騒ぎ声が聞こえてくる。酒を飲んだら止まらないアラドと艦長のアーネストによる何やらよく分からない『広報部に寄せられた苦情』を読むという催しから始まり、それに整備班が便乗し変な方向へと話が進んで行くのに付いていけず二階の自室へと逃げてきたのだが・・・・・

 

「寝たふりをしてやり過ごそう・・・・・」

 

そのままベッドに潜り込み、静かに目を閉じる。寝たふりのハズがみんなの騒ぎ声がだんだん遠くなり、次第に意識も遠のいていき、そのまま手放した。

 

時間にしてどれくらい経っただろう。まさかあのまま寝落ちしてしまうとは、自分でも驚く程に体や精神は疲れていたのだろう。ゆっくり覚醒していく意識を感じながら、ゆっくり目を開け、時計を見るとまだ夜中の三時を回ったばかりだった。

 

「変な時間に目が覚めちゃったな・・・・・」

 

ベッドから起き上がると物音を建てないようにそっと自室から出た。そのまま階段を降り、まだアルコールの匂いと歓迎会の余韻を残した一階に出た。Δ小隊はもちろん、まさかの《ワルキューレ》まで机に突っ伏して寝ていた。まさか未成年にアルコールを飲ませたのかと、試しにフレイアの顔を見るとどうやら騒ぎ疲れて眠ってしまったらしい。こんな年端も行かない少女が戦場で歌っているなんて誰が思うだろうか。

 

(みんなは怖くないのかな、死ぬかもしれないのに・・・・・・)

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

「どうしたの?カナカナ」

「マキナ」

 

砂浜で酔いを冷ましていたカナメにマキナがそっと近づき、隣に腰を下ろした。

 

「少し涼んでたの」

「みんな騒いでたからねぇ」

 

二人は星空を見上げた。

 

「色んなことがあったね」

「・・・・・・そうね」

「《ワルキューレ》の結成からワクチンライブ・・・・・・」

「色んなこと星に行って、色んなものを見て・・・・・・・」

「カレンくんとフレイアとの出会いもあった」

「あれはびっくりだったよね」

 

アル・シャハルでの出来事は今でも思い出せる。白い騎士が戦場駆け抜けていたあの光景は、あの二人との出会いはΔ小隊と《ワルキューレ》に大きな影響を与えた。

 

「アラド隊長ったら、末っ子が入って来たー!って喜んじゃって」

「初々しいフレフレ可愛かったよねぇ」

 

『フ、フレイア・ヴィオン!命を燃やして、頑張ります!』

『命はちょっと大きすぎないかな、フレイアさん』

『それもそうやね・・・・・うーん、リンゴを燃やして、もおかしいし・・・・』

『リ、リンゴ?』

 

「フレフレ、喜怒哀楽がすごいからカレカレも困ってちゃってたもんね」

「今となっちゃあの末っ子も一人前」

「カレカレも、また戻ってきてくれた・・・・・」

「そうね・・・・・・」

 

カレンは自室から空を見上げた。

 

「初めての空、初めての景色、初めての空気、初めての人・・・・・・全部初めてなのに、なんでこんなにも懐かしく感じるんだろう・・・・・・」

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

「ケイオスに入るん、ですか?僕と母さんが?」

「まあ、一時的にな。そっちの方が何かといいだろうとレディMが気を回してくれたらしい」

「とにかく二人には色んなこと部門を回ってもらいまーす」

「適正試験のようなものだ。よーし、最初はあっちからだな!」

「なんか楽しそうだね、花蓮くん」

「楽しいのかな・・・・・」

 

かくして二人のケイオスの各部門適正試験が始まった。

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

「はぁー楽しかったぁ!」

「つ、疲れた・・・・・・」

「お疲れ様です」

 

カナメから飲み物とA~Dの適正ランクが記された一枚の紙を貰った。

 

「おー!見て見て、オールAだってさ!」

「すごいね、母さん」

「花蓮くんは?」

「このパイロット適正以外、全部Aだったよ」

「その、パイロット適正は?」

「D、適正なし、だってさそりゃそうだよ、僕は一般人で軍人じゃないんだからさ」

「・・・・・・・」

「母さん?」

「え?ああ、ううん。なんでもないよ」

「そう・・・・・・?」

 

確かに花蓮も疑問に思っていた。何故、パイロット適正だけがこんなに著しく低いのか。

 

(僕の記憶と何か関係があるのか?僕は一体、何者なんだ・・・・?)

 

妙な既視感、懐かしさ、いつも隣にいる赤い瞳の美しい女性。

 

『ーーーーー』

 

話しかけてくるのに言葉も声も聞こえない。ラグナに来てからそんな夢を見るのが毎日だ。明らかにここのみんなは自分に何かを隠している。

 

(なんか、気持ち悪いな。これ・・・・・・)

 

次第に花蓮の記憶は歪な形を帯びて現れようとしていた。

 

「あの、カナメさん」

「なに?カレンくん」

「実は相談があるんですが・・・・・」

 

“記憶”という深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。



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