HUNTER LORD (なかじめ)
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0話 神様の流れ星の指輪【鬱展開※オバロキャラは関係有りません】

誰が狩人さんを異世界に呼んだのかというお話です。
漁村じゃないよ、農村だよ。

10話の伏線が無え…書いて無え…orz
書き足しました。orz
やっぱり、始めてなのに伏線とかやるもんじゃ無いですね…(T^T)


…だから奴らに呪いの声を…

…赤子の赤子、ずっと先の赤子まで…

…全ての血に狂った者達よ…

 

 

 

竜王国に程近い所にとある農村が有りました。その農村は裕福とは言えませんが村人皆で仲良く助け合いながら毎日とある神様に感謝ながら暮らしていました。

 

その農村の村長の家では、目が不自由なお婆さんと村長夫婦、そしてとても可愛らしい孫の4人でくらしていました。

とある夜その孫のベッドの側でお婆さんが昔話をしていました。

「昔ね、この村には神様がいた事があるんだよ。」

「それ何回も聞いたことあるけど本当なの?お婆ちゃん。」

「本当だよ。昔この村にとても怖~い魔物が襲って来た事があってね、皆もう駄目だって、終わりだって、皆諦めたときにね、その神様が凄い魔法でその魔物を倒しちゃったんだよ。」

「お婆ちゃんも見たの?どんな神様だった?」

「ん~、もうヨボヨボのお爺さんでね、その魔物を倒した後倒れてしまってね。私達が住んでるこの家で看病していたんだ。」

「神様なのに倒れるの!?」

「神様もびっくりしていたらしいよ。私も私のお婆ちゃんから聞いただけだけど、私は本当はまだ若いんだ、まだ寿命ではないんだってうわごとでずっと言っていたらしいからね。」

「神様、死んじゃったの?」

「…うん。皆でありがとうって言って盛大にお葬式をしてね。それであの『祭壇』が出来たんだよ。」

「へー。神様がいた証拠とか無いのかな?村の他の子達は嘘だって言ってたよ?」

「罰当たりなこと言っちゃ駄目だよ。それに形見なら有るんだよ?この指輪さ。」

老婆は懐に厳重にしまっておいた小箱を取り出し中を開けて見せる。

「この指輪の事は他の村の子達や大人にも絶対に言ってはいけないよ。いいね?」

「うん、分かった。」

言いながら孫は指輪をまじまじと見る。その指輪は流れ星を象った模様が入ったシンプルなものだった。その流れ星の模様の大きさならもう少し同じ模様が入りそうそうなスペースも空いている。そして小箱もこの指輪を入れておくだけでは無駄に大きい気がした。しかし、蓋を開けるとすぐ底が見える、まるでその中に何かしまって置けるようなスペースを隠しているように。しかし孫は幼く、宝物を隠しておく宝箱には二重底の物があるという知識等、持っていなかった為、すぐに指輪に目を戻した。

「なんか地味だね。」

「ふふふ、そうだね。でもね、この指輪はとても凄い指輪なんだよ?なんたってなんでも願い事を叶えてくれる指輪なんだから!」

「それ本当!?」

「本当さ!私の母親、あなたの曾祖母が鑑定の魔法が使えてね、そう言う指輪だって分かったんだ。でも一つ問題があってね。」

「問題?」

「使い方が分からないんだよ。」

「駄目じゃん!」

実際は指輪を指に嵌めて願い事を唱えれば良かったのだが、その神様も指輪を嵌めておらず先程の小箱のなかに入っており、この祖母の家の人間も指に嵌めるのは流石に不敬だろう、という話になり実験していなかった。それに

「本当に叶えたい願い事なんてまだ無いしねぇ。私は息子達やあなたが幸せならそれでいいんだよ。」

そう言って孫の頭をなでる祖母。孫も気持ち良さそうにそれを受け入れていた。

「お休み、お婆ちゃん!」

 

 

何時までもそんなささやかな、小さい幸せで良かった。それで不満なんて無かった。

 

しかしそんな、小さな幸せも長くは続かなかった…

 

とある正午。村長である息子が玄関のドアを蹴破る勢いで入ってきた。

「皆逃げるぞ!ビーストマンが…ビーストマンがすぐ近くまで来てやがる!」

「嘘っ!」

 

 

 

 

 

…それからはもう滅茶苦茶だった。

あちこちから上がる悲鳴や鳴き声、その中には段々と獣の声も混じっていった。

 

 

その老婆は幸運だった。目も見えずとても老いていたため一緒に逃げず、納屋に閉じこもっていた為獣に喰われずにすんだのだから。

 

「お袋!済まない、一緒には連れて行けない!」

「早く行きなさい!子供と嫁を守るんだよ!」

「本当に済まない!ぎっどあどで迎えにぐる!」

 

最後はもう泣き声だった。孫と嫁と手を繋ぎ出て行く息子を見送って納屋に鍵をかけた。

 

 

その老婆はとても不幸だった。目も見えず、とても老いていたのに、耳だけは良く聞こえたのだから。

 

獣に喰われた息子夫婦と孫の悲鳴だけは聞こえてしまったのだから。

 

 

ビーストマン…ビーストマン…

 

血と肉に狂った獣共め…

 

誰か奴らに呪いの声を…

 

誰か奴らに我らの怒りを…

 

我らの神よ…

 

狩人をこの世に…

 

決して負けず決して心の折れない…

 

血と肉に狂った獣を狩る狩人を…

 

奴らに我らと同じ苦しみを…

 

奴らに我らの子供達と同じ死を…

 

奴らに報いを…

 

…赤子の赤子、ずっと先の赤子まで…

 

…永遠に狩人に狙われるがいい…

 

…狩人に怯え…望まれず暗澹と生きるがいい…

 

 

 

 

優しかった老婆は、最期は呪詛を吐き続けて死んだ。

しかしその顔は満足気だった。何故ならその指に嵌まった指輪から流れ星の模様が消えていたから。

 

老婆はなんでも願いの叶えられる指輪に自身の救済でも無く、息子夫婦や孫の復活でもなく、獣達への呪いを望んだ。それが正しいのかは分からない。しかしその顔は満足気だった。

何故なら最期に声が聞こえたから。

 

『狩人をご所望ならば、我ら工房の、最高傑作をお届けしよう。

なぁに、問題ない、彼ならば存分に狩り、殺すだろう。相手が血に酔った獣で有ればね…。』

 

 

…狩人よ。どうか、存分に狩り、殺したまえ、もはや血と肉に狂った獣等、

いないと分かるまで…

 



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邂逅
1話 狩人の助言者と人形


下手くそ小説ゴメンナサイm(_ _)m
なんと転移前で1話終わりです。テンポ悪くて申し訳御座いません。


狩人はゆっくりと、ぼんやりと目を覚ます。何時もの事だ。狩人の夢で目を覚まし、墓石に触れ、獣狩りに出かける。

…そう言えば最近はどこに狩りに行ったか?

……思い出せない。かなり長い間眠りについていた気がする。

……?どうしたのだろう?いつもならすぐに誰かから『命令』されたかのよう目的を遂行しようと考え、行動に移せるのに、やはり寝ぼけているのだろうか…?

「おはよう。狩人よ。そして…随分と久しぶりだね。」

 

…!?

 

「なっ!?え、あ、あぁ。」

 

狩人はあまりの混乱に返事とも取れないよく分からない返答をしてしまう。

(ありえない…!ゲールマン!?こいつが、この爺さんが話し掛けてくる事なんて今まで1度も無かった!)

 

そう、ありえない。ゲールマンは狩人の助言者。こちらが話しかけない限り只黙ってそこにいるだけの助言者なのだ。

「うふふ。」

 

「えっ?」

「申し訳ありません、狩人様。狩人様がその様な驚いた顔をなさるところを見たのははじめてなのでつい笑いをこらえられませんでした。」

 

「…人形?」

「はい。なんでしょう?狩人様。」

 

「…有り得ない。」

「え?」

 

「有り得ないだろう?人形に助言者が自分から話し掛けて来るなんて…」

 

そこまで言った所で最初に挨拶をしたきり黙りこんでいたゲールマン、狩人の助言者が口を開いた。

 

「何故、あり得ないと言い切れるのかね?」

 

「それは…それは今まで一度も無かったからだ。あなた達は俺が話しかけるまで一度だって口を開いた事はない…無いはずだ。」

 

「ほう…君の一人称は『俺』なのだな。」

 

「え?」

 

「狩人よ、君があり得ないと言うように、我々も君の声を聞いたのは始めてなのだよ。」

 

「…っ!?」

 

そう、そうなのか?記憶を辿ってみる…。そんなわけ有るかとブツブツといいながらよく思い出してみる。……そう言われて見ればそうだ。こちらも口を聞いたのは始めてだ。こちらから話し掛けた気になっていたが、いつも何か言う前に必要な情報を彼らはこちらに提供してくれていた。

 

「な、なんなんだ…分けが分からない…」

狩人は混乱し過ぎたのかその場に膝をつく。すると人形がこちらに倣うように近くにしゃがみこみ顔を覗いてくる。

「狩人様?」

「ん?な、何だ?」

「大丈夫ですか?もしかして体調が優れないのでしょうか?」

「…いや、混乱し過ぎて目眩がしただけだ。はぁ。済まない人形。俺は大丈夫だ」

「そうですか、安心しました。それと私も狩人様のお声を聞いたのははじめてなのですが、とても素敵なお声なのですね!」

 

「…へ!?」

 

突然人形に誉められ普通に照れてしまう狩人。人形はその名の通り人形なのだが、とても…そうとても人外の美と言うべきか、芸術品のような美しさなのだ。あまり女性慣れしていない、いや、まともな人間と余り会話をしたことのない狩人があたふたするほどに。

 

「さて話しを戻そうか狩人よ。」

 

「あ、ああ。…確か俺達は話しをしたことも無く必要な助言をもらっていたという事…だったか?」

 

「その通り。何故だかわかるかね?」

「…分かっていたらこんなに混乱するか。」

「ふふふ、そうだな狩人よ。では質問を変えよう。君は今まで自分の意志で何かを成した事はあったかね?」

「当たり前だろう。自分の意志で獣狩りに行って…行っていた?」

「なら何故今回の目覚めではしばらく何もせずどこにも向かわなかったのかね?それどころか私が声を掛けるまで棒立ちで隙だらけだったぞ狩人よ。」

たたみかけるようにゲールマンは質問をぶつけてくる。

「…確かに、そうだ。俺は誰かに『命令』されていた…ようなきがする…」

「…ふむ。そうだな。では誰が命令していたか。それがもんだいだね、狩人よ。ふふ、教えよう。…それはとある上位者だ。」

「…そいつはどこにいる?」

「言ったとしてどうするのかね?」

「俺は狩人だぞ。やることなど一つだろ?」

「なる程。だが…無理だぞ狩人よ。」

「…何故だ?」

「その上位者は我々では会うことも、ましてや戦いにすらならないからね。」

「最初の狩人にそこまで言わせるとはな。そいつはいったい何者だ?」

 

 

 

「…その上位者の名は『プレイヤー』だ」

 

 




妄想を文章に起こす事…こんなに大変だとは。
狩人さんはあんな格好良い装束で路上で灯り付けるのに格好良く指パッチンとかしてるんで格好付けな性格で行こうと思っています。


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2話 狩人の夢

この話まで説明回です。狩人さんが納得してもらってから異世界に出荷するための説明回です。狩人さんが納得してない状態でどういう動きするのか私には考えつきませんでした…ゴメンナサイ。


「ぷれいやー?プレイヤーか?」

「そう、プレイヤー。」

「随分俺の知っている上位者とは毛色の違う名前だ。何のプレイヤーなんだ?」

「それは、あの獣狩りの夜を君たち狩人を通じてプレイする事だと私は思っている。それ以外は考えられないからね。」

「そいつらは…俺たち狩人を何だと思っているんだ?チェスの駒のように扱っているのか?」

「ふふふ」

「ん?何がおかしい」

「いや、随分と怒っているようなのでね。」

「それはそうだろう?」

「いやいや、君が怒るのは筋違いだぞ?狩人よ。」

「筋違い?何故?」

「君は今、プレイヤーは狩人の事をチェスの駒として見ているのかと言ったがそれとは全く違うのだよ。君はチェスの駒一つに愛着を感じて何時間も向き合えるかね?」

 

「…。」

 

狩人は何となくだが言っている意味が分かり首を横に振る。

「そうだろう?私はね、狩人よ。プレイヤーは君たち狩人の事を自分自身の分身として操って居たのだと思うよ。」

「分身?」

「その通り。自分自身が介入出来ない代わりに自分の分身を作り、操り、この獣狩りの夜を終わらせようとしてくれたのだと思うよ。そう言う意味ではプレイヤーは君の生みの親、造物主で有ると言える。故に君がプレイヤーに怒るのは筋違いなのだよ、狩人よ。」

 

~っ!?

 

狩人はさっきから怒涛のように自分の中に入ってくる情報の多さに再び目眩を感じる。

「俺の親はちゃんと…ちゃんと…、くそっ!」

「思い出せなくとも無理はない。プレイヤーという特別な者に作り出されたのだから。そう!君は特別なんだよ。狩人!」

「特……別?」

「そうだ。君たち狩人は我々とは違い狩人の夢の外からやってきた。プレイヤーに作られて。しかし、しかしだ。その特別も終わり時間が近い。」

「どういう事だ?」

「君がプレイヤーから解放され我々からも枷が外れた。これがどういうことか分かるかね?いや分かるわけないな、すまない。」

 

当たり前だろ!と、狩人は心の中で突っ込む。

「恐らくだが、この狩人の夢も消去されようとしている。」

今なんと言った?

「狩人の夢が…工房が消えるっ!?」

この場所には良い思い出も悪い思い出もある。俺に取って唯一安らぎを与えてくれる場所でもあった。当然消えていい場所じゃ無い!!

「恐らく、嫌何度も恐らくと付けて済まない。」

 

…良いから続けろと言う意味で、頷いて先を促す。

 

「恐らくだがプレイヤーが全く違う世界に介入を始めたのだろう。他の狩人の夢も消えている、いや、正確には分からんが今までぼんやりと感じていた別の夢の気配も消えている。」

「…そうか、もう、本当の終わりか…」

「ふふふふふ!そう思うかね?狩人よ?」

 

何笑ってんだこのジジイ…!イライラを隠す気もなく答える

 

「どうにもならんだろ。この夢、狩人の工房が消されるなんて。俺達では戦いにすらならないんだろ?」

 

 

「…そうだな。だからこそ君は特別で

正しく、そして幸運だ。」

「はぁ?」

 

何で消されるという話しをしているのに幸運なんだ?

「狩人よ?君は…いや、正確には君のプレイヤーは人助け、つまり救える人間は皆協会に避難させていたと思うのだが、どうかな?」

…いや、何故今そんな話を…

「確かにそうだが、それが?」

「何回も、いや何十回も繰り返しても皆を毎回避難させていたね?その事について君はどう思う?」

「…当たり前だろ。目の前で困っている人がいたら助けるのが当たり前だ、ただし…自分に助けられる力があるのなら、だが。」

「素晴らしい!そう言う君だから安心して余所に行かせられる!」

 

また何か新しい単語が出てきた、は?余所?

 

「余所とは?」

「ヤーナムでは無い、全く違う場所。そう、異世界と言う奴だな。その異世界の住人が獣狩りの狩人をご所望だ。」

「…何故俺なんだ?さっきの話だとプレイヤーの狩人は俺以外にも沢山居るように聞こえたが?」

 

「だから言っただろう?君は正しく、そして幸運なんだよ。君のプレイヤーはとても正しい心根の持ち主だった。やはり子供が親に似るように狩人もプレイヤーに似るんだろう。君も正しい心の持ち主なんだよ。」

「他の狩人は違うのか?」

「他のプレイヤーは最初は人助け等をしていた。しかし何回も繰り返しているうちにやはりというか、狩人の宿命か。血に酔い、また狩りに酔う。闘いにしか興味を持たなくなっていく。」

「そうか…」

「それに向こうのご所望している狩人は誰よりも強いこと、そして何事にも心の折れないこと。それが条件だ。君が適任だろう」

 

……確かに俺は今やどれだけか分からないぐらいの、天文学的な数字の血の意志を自らの力に変えてきた、もう伸ばす力が無いくらいに。武器も全て強化してあり、アイテムも保管箱に入りきらない程貯めこんでいる。それに何度も強敵に殺され続けた事もある。それでも俺は、プレイヤーは心が折れなかった。

「何度も言うぞ、君は強く、正しく、そして幸運だと。」

「……それは分かった。あんた達はどうなる?」

「私はそろそろこの夢から解き放って貰いたいと常々思っていたからね。これを気に、君を送り出して私の狩人の締めくくりとしたい。」

 

「ゲールマン様。私は狩人様に付き添おうと思っています、工房も必要でしょうし。」

「そうだな。狩人を支えてあげておくれ。」

 

ん?人形が付き添う?工房も必要と言ったのか?え?

 

「人形も…付いて来れるのか?」

「はい。使者の方々も付いて来てくれるそうです。」

 

「…は、はは、どういう事なんだ?ゲールマン?」

「狩人は工房込みで狩人だろ?様式美と言うものだよ、狩人よ。…では行くと言う事でいいのかね?…いやその顔を見れば答えは出ているね、ふふふ」

 

そう言われふと鏡を見ると俺は笑顔だった。それでやっと俺は自分の気持ちに気づいた。ワクワクしているのだ…初めての自分の意志での冒険、今度こそちゃんと人を助け『きれる』かもしれない。

 

そう、今までこのヤーナムでは生存者を協会に連れて行って終わりだった。その後は皆おかしくなったり死んでしまった…。俺はまだちゃんと、最後まで人を助けきったことがないんだ。

 

「さてもう時間が無いな。ゆっくり話過ぎた。最後に、これからいく世界は紛れもない現実だ。夢のような君に対する『枷』、世界からの抑止力は働かない。」

「枷?世界からの抑止力?」

「君は今まで不思議に思ったことはないかね?何故あの巨大な獣の肉や骨は断てるのにこの薄いドアはびくともしないのだと?壁は?床は?思ったことはないかね?」

 

…有る。有りまくる。

「それはね、プレイヤーが自らにかけた縛り、枷のような物だと私は思う。」

「なんでだ?鍵を探すよりドアを吹き飛ばした方が楽だろうに」

「あえて難しくしているのだろう?簡単過ぎるとつまらないと。回り道して鍵を取りに行く、それもまた様式美だよ。」

「はぁ、よく分からない奴らなんだな。」

「しかしそれも無くなる、君が本気で殴ればドアや壁、床板など簡単に吹き飛び、地面を蹴れば盛大に抉れるだろう。君のいる領域は『枷』が無ければそういう領域だ。」

 

「つまり…、つまりやりすぎるなって事だな?」

「ふはは、そういう事だ!」

ゲールマンにつられて俺も笑う。

「ふふっ」

 

「さて、君と最後に話せて良かったよ。準備はいいかね?」

「俺は、何をすればいい?」

「今は私の介錯に身を任せたまえ。君は死に、目覚めた時には異世界だ。異世界に着いたらまずは『灯り』をさがしたまえ、工房に帰る為のあの『灯り』を」

「最後の最後でそれか……、あんたは知ってるのか?」

「何をだ?」

「あんたの介錯は…結構痛い!」

「ふふ、はははは!そうか、はは、それはすまなかったな、狩人よ!ん?そうだな、そう言えば君の名前を聞いていなかったな。」

俺の名前…

「俺の名前は…なんだったか?J

「やはり、忘れたか。夢にとらわれた狩人は自分の名前など気にしないからな。ならば何かきめたほうがいいと思うぞ」

「そう言えばそうか。」俺は今背中に背負っている聖剣を見る。

俺がこの獣狩りの夜で出会った狩人の中で尊敬し、唯一『カッコいい』と思ったあの男の名前を借りようか。獣と化し、すでに理性を失って尚、自分の信じた聖剣を見て自分を取り戻した男の名前を。俺はその聖剣を親指で指し、

「ならば…俺は自分を戒める為にコイツの名前を借りよう、血に酔わず狩りに酔わない為に!俺は今後ルドウイークと名乗る事にする!」

「…そうか。あの男と会っていたのだったな。分かったぞ。狩人よ、いやルドウイークよ。…では今生の別れだ。最後になるが」

そこでゲールマンは一旦区切ったあとぽつりぽつりと話し始めた。

「君は既に私を遥かに超え嘗ての弟子を超え、恐らく私が知る限り最強の狩人だ、ヤーナムの、狩人としての最高傑作、君のような傑物をどこかに送り出せると言うのは本当に狩人冥利につきるよ。ルドウイークよ。友の名を借りた狩人よ。どうかこれから行く世界で狩人の力を見せつけ英雄と呼ばれるような男になってくれたまえ。……異世界でも自分の信念を曲げず、狩りたまえ、それが結局君の目的に叶う。」

「ああ、今まで世話になった!ゲールマン、ありがとう。人形、向こうで会おう!さあ!心の準備は出来た!やってくれ!」

「はい。あちらでお会いしましょう。ルドウイーク様。さようならゲールマン様。」

「ああ。さようなら人形。では!いつも見守っているぞルドウイーク、行くぞ!」

 

ブン、と空気を切り裂くような音の後にゴガァッ!と言う凄い音が響く。そして遅れてきた衝撃と共に俺の意識が遠くなる…

 

 

……まずは『灯り』をさがしたまえ。工房に帰る為の『灯り』を……その後は君の信じたままに行動したまえ、それが一番君とその世界の為になる……

 

 

 

 

 

 

 

 

そして狩人は、ルドウイークは目を覚ます。

「今日はよく目を覚ます日だな……」

言いながら苦笑し、辺りを見回す。

木、木、木。

周囲360°……大森林だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ぐはぁ。説明回は書いてて頭ががが
次回から異世界での話しです。長かったなぁ。


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3話 森林浴

今回から異世界。それとbloodborneのゲーム用語の解説も入れた方がいいのでしょうか?

(ざっくりですが水銀弾=他のRPGゲームでいうMPです。)



「いきなり森の中か…、もう少し人がいるような所に来れるのかと思ったんだかな…。幸先良いスタートだ事で…」

狩人、ルドウイークは回りをもう一回ぐるりと見回す。

「本当に木ばかりだな。というかここは本当に俺の知らない世界なのか?」

ルドウイークはヤーナムにあった森の事を思い出す。

「禁域の森…じゃないよな。」

言葉に出してみたもののやはり違う。この今いる森は小鳥の囀りや綺麗に咲く花等もある。対して禁域の森は…

「あの森は入った途端に罠だらけで蛇だらけだったものな。この森程のどかで牧歌的では無かった。」

ルドウイークはこの森の事を牧歌的等と言っているが、この森は現地の人間からしてみればモンスターの巣窟であり、中でも『森の賢王』という超が付くほどの魔獣も住み着いておりそれなりに腕の立つ程度の冒険者では好んで踏み込む者の居ないほど危険な森なのだが、当然この世界に来たばかりのルドウイークはそんな事、露ほども知らないのだった。

「さて、取り敢えず灯りを探すか。…本当に有るんだろうな?それに装備を見直しておくか。」

今装備しているのは狩人の装束一式、右手武器が月光の聖剣、仕込み杖。左手武器が獣狩りの短銃、獣狩りの松明である。

「まあ、月光の聖剣は水銀弾を使うしあまり消耗品を使用しないために装備を替えておくか。ん?あれ?」

狩人は自分のインベントリーの中をみて驚く。

「何だ!?保管箱の中に閉まっておいた分までインベントリーの中に全て収まってる…どういう事だ?」

これはルドウイークの知るよしも無いことなのだが、この世界は『ユグドラシル』というゲームのシステムが適用されており例えbloodborneからやって来ようが強制的に『ユグドラシル』のアイテム所持限界数等が適用されるためだ。そのためアイテム所持限界数が少なめな(アクションゲームで有るためRPGのユグドラシルとは根本的に違うので当たり前だが)ルドウイークとしてはむしろ好都合だった。

「しかしこれは、…輸血液600個に水銀弾も600発って…、どこかと戦争する気か?」

ガトリング銃を持てばとても気持ち良くなれそうだった。

「とは言え、節約するに越したことは無いな。取り敢えず武器を鋸鉈に変えて左手は獣狩りの松明に持ち替えてと…、よし!どちらに向かうか?向こうにするかな。目印にこのデカい木に傷でも付けてみるか」

ルドウイークはその場にあった木に鋸鉈で十字傷を付けようとした…したのだが… 

バキバキっという音を立て横倒しに倒れていく木。

「へ?やってしまったか?」

何時もの癖で普通に鋸鉈を振ったところ、何時もなら弾かれる角度だったのだが、今回は何の抵抗も無く鉈の刃が木に滑り込みそのまま木を両断したのだ。

「これが…『枷』が外れた、俺の力か?」

その通りだった。これが筋力99技術99の一撃だった。

「これは…もし人間に喧嘩を売られても相当手加減しないとあっさり殺してしまいそうだ…。」

予想外の事態に少し呆然としていると少し離れた木立の奥に何かの気配をかんじた。

「…なんだ?」

身構えるルドウイークをよそになんの警戒もせずその正体は姿を現す。

「ニンゲンのニオイがするぞ!」

「ニンゲン、喰う!チョウド腹が減ってる!」

ルドウイークはかつてヤーナム市街で対峙したレンガや石像を持った大男、獣狩りの下男を思い出していた。その大男はこの世界ではオーガと呼ばれているモンスターだった。

「やれやれ、初めての戦闘になりそうだな…、おい、お前等には俺が食い物に見えるのか?」

「ニンゲンは食い物、お前も食い物」

「たからお前は俺達が喰う!」

「これなら、容赦はいらないな…丁度良い、俺が食いたいのなら好きにしろ。」

「ブハハハ!当たり前!お前に言われなくても喰う!喰う!」

「ニンゲンなんて雑魚!弱い!」

「そうだ、人間は弱いんだ。だからあまり苛めてくれるなよ?さっさと終わらせよう。」

ルドウイークはそう言うと左手の人差し指をクイクイとこちらに動かす。

二匹のオーガは顔を見合わせると左の奴から突っ込んできた。右手に掴んだゴツいクラブを大上段から振り下ろしてくる。

「ぐおぉぉぉおおおっ!」

(うるせぇ…。)

そう思いながらもルドウイークは軽く自分の左斜め前に一度ステップを踏むとその攻撃をあっさりかわし、そのまま折りたたまれた鋸鉈の鋸部分をオーガの脇腹に振り上げる。取り敢えずこのぐらいの力で振るとどの程度怯むのか確認するために手加減してだ。しかし…

「げっ!?」

オーガは右わき腹から左肩まで袈裟切りに上半身が吹き飛ばされていた。

もっと加減しなきゃ駄目なようだ。

「はぁ~、なかなかに難しいな。次は仕込み杖でやるか。ん?」

もう一匹のオーガに目をやると呆然とこちらを見ている。

「オマエ、ナニシタ?」

「かわして、切った。それだけだ。」

「そんな訳ない、ニンゲン弱い!何か卑怯な事シタにチガイナイ!!」

「卑怯な事等してないが、まあいい。もう一度見せてやる。来い!」

言いながら狩人は、仕込み杖を変形させ鞭状にする。もちろんオーガはそんな事お構いなしに、

「死ネえええええぇえ!!!」

とさっきのオーガ以上に凄い声を上げて突っ込んできた。

「ぐおおおぉぉお!ごおおおお!」

オーガのグレートソードを振り回す連続攻撃。しかしその悉くをステップだけで全て回避する。しかもバックステップは一度も踏まず、全て前進してのステップで。ルドウイークは一度も手を出していないのにも関わらず逆にオーガが後退しはじめた。

「ぐっ!がぁ!はぁ!はぁ!」

「どうした?」

息の上がるオーガに対して涼しい顔をしたルドウイーク。流石にオーガも恐怖を感じていた。

「来ないのか?ならこちらの番だな。行くぞ?」

ざっとわざと大きな音を出してルドウイークは踏み込む。

「グヒィ!」

その無様な悲鳴と共にオーガは背中を見せて逃げだした。

「見逃してやってもいいか?いや、流石に地の利もない場所で仲間を呼ばれて囲まれるのはまずいか。すまないな。」

オーガは今度こそ本気で恐怖する。全力で走って逃げているのにも関わらずずっと、声色も変えずその声は自分に付いてきたのだ。オーガは死ぬ本当に際の際で『狩人』の怖さを、恐ろしさを知った。まぁ全てが遅かったのだが。

 

シャリン!

それがこのオーガの聞いた最後の音だった。その音と共に全力で走っているオーガを仕込み杖の鞭状の刃が頭から股間までを真っ二つにした。

 

「しまったなぁ、あいつ等を挑発して色々聞こうと思ってたのに予想以上に話にならなかった…でもあいつ等あっちから来たよな。向こうに向かって見るか!」

 

狩人、ルドウイークは久々の未知の冒険に、しかもプレイヤーに操られていない自分の意志での冒険にとてもワクワクして歩き出した。




初バトル。バトルになって無いけど。
レベルカンストが規制やゲーム的な表現もなく現実世界の物理法則が通用するソウルシリーズの一周目程度の難易度に来たらこうなりますよね。
しかもbloodborneは従来の武器強化に加えて更に血晶石で攻撃力上げられるので3周目くらいまでは火力インフレですし。
早くオバロキャラに会わせたいなぁ~…


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4話 森の支配者達

タイトルからしてハム助が出ると思ったか?
…ゴメンナサイ…本当に…


ルドウイークは先程のオーガが来た方向に歩いていた。道中、何匹かオーガやそれより小さいゴブリンに絡まれ、面倒なので一応話し合いで済ませようとしたのだが殆ど会話にならずに諦めた。

面倒な時にヤーナムでやっていたように走り抜けてみようかと思ったのだが

「流石に闇雲に走って気づいたら崖から落ちてましたなんて事になったら全く笑えんしな…、はぁ…地形を把握していないという事がこんなに大変だとは…相手が弱いから良い物の…しかし奴らはオーガと言うのか。名前負けしてないか?」

そう呟きながら最後のゴブリンを仕込み杖で吹き飛ばす。

あれから何匹かのオーガに適当に攻撃しているうちに、今装備している自分の武器は余りに過剰な破壊力だと言うことに気づき、ヤーナムで手に入れたは良い物の、既に最大まで強化したものを持っているため不要な、本来は保管箱の中で埃を被っているはずだった未強化の武器を装備している。一応サブには最大強化した鋸鉈を装備しているので余程の敵が出てこない限り大丈夫だろう。

「オイ!変なニンゲン!」

「はぁ…ん?」

またオーガかぁ…と若干ウンザリした気持ちで振り向くと、そこにはオーガより二周りほど巨大な巨人がグレートソードを肩に担いで立っていた。

「俺に何か用かな?」

「オマエ、俺の部下殺したな!?」

「部下?さっきのオーガの事か?」

「そうだ!」

「ああ、なる程。本当に済まない事をしたな。彼らは俺の事を食べようとするのでね。適当に反撃していたら皆死んでしまったんだ。それで?どうすれば許してくれるんだ?」

「俺と戦え!それで俺に喰われろ!」

「結局それか…まぁ良いか、それとお前もオーガか?」

「俺はトロールだ!」

 

ルドウイークは在らぬほうをチラッと見て、グに問いかける。そちらの方向からは驚いたような気配があった。

 

「んで1対1でいいのか?」

 

「ブハハハ!ニンゲン相手だぞ!1対1に決まってる!俺はトロールのグ!」

 

トロールはさっき聞いただろうが…

 

「グ?」

 

「そうだ!お前の名前は?」

 

「ああ、名前か。そうかグか。俺はルドウイークだ。」

「ブハハハ!」

 

名前を名乗っただけで笑われ、若干だがイラっとする。

(グの方が余程笑えるだろうが…!こっちは吹き出すの我慢したってのに!)

 

「何が、可笑しいのかな?」

 

「ルドウイークだと!やはりお前は臆病者だ!」

 

「…臆病者だと?」

 

「そうだ!そんな長い名前は臆病者の名前だ!」

 

ルドウイークは黙って武器を未強化の仕込み杖からサブの鋸鉈に持ち替える。

(…俺は別にルドウイークとは関わりもない。狩人の悪夢で出会い、聖剣を託されただけだ。なのになんでこの名前を馬鹿にされるとこんなに苛つくんだ?ただ自分の名前を思い出せなくて勝手に借りた名前なのに。)

 

かつて悪夢の世界で出会い、打ち倒し、自分のよすがだった聖剣を自分に託してきた男の事を思い出す。

 

(…ああ。なる程な。ふふっ、俺はやはりあの男に憧れたんだ。自分の理想とは違う形になっていった協会に振り回され、獣を狩らされて、最期は自分も獣になったのに、最期の最期まで自分を見失わなかったあの男に!)

 

「なる程…では俺が臆病者かどうか、試してやろう。かかってこい。」

「ブハハハ、臆病者者め、死ネええええ!」

 

グは先程のオーガ達と同じようにグレートソードを振り回し、どんどんと前に突っ込んでくる。 

 

(…オーガとそんなに変わりないが、やはりリーチはこいつの方が長いな。試したい事も有るし少し相手の攻撃を見るか。)

 

「グオオオオ!」

ブン!

風邪を切る凄まじい音、風圧と共にグレートソードがルドウイークの頭のすぐ上を流れて行く。次は縦振り、次は切り上げ。全てステップを踏み、潜り込み回り込みかわしていく。

かわしていくと

「避けるなああぁあ!!」

むちゃくちゃな要求をしてくるグ

(はぁ…バカか?こいつは…いや、バカなんだろうなぁ…もういいか。次の縦振りに…)

 

「グオオオオ!!!!」

(コイツ、止まった!!疲れたな、ニンゲンめ!!)

グは動きを止めたルドウイークに向かいグレートソードを大上段から振り下ろす!

(俺の勝ちだああぁあ!!)

 

しかし

 

 

一瞬体に衝撃が走ったと思ったらいつの間にか膝を付き、グレートソードを取り落としていた。衝撃の走った方を見るとグレートソードを握っていた右腕が肩口からなくなっていた。

変わりに何かの触手が蠢き、消えていくのが見えた。

 

 

「パリイ成功。」

 

そんな声が聞こえ、グはルドウイークと名乗ったニンゲンを見てみる。

何か奇妙な、ナメクジのような物がその手に収まっていた。

 

 

金縛りにあったように動けないでいるグに対しルドウイークは右腕を腹に突き刺す。そしてその腕を引き抜く、グチャグチャブチブチっという嫌な、本当に嫌な音と共に。

 

「ゴボボボボ、グバア!!オゲエエエ!」

 

グは吐き気をこらえ切れず地面に向かって嘔吐するが、出てきた吐瀉物は、真っ赤だった、血と内臓の混合物だった。あまりの痛みにもんどりうって仰向けに倒れるグ。

 

 

 

「…こりゃ、人がいるところじゃ使えないな。流石にグロテスクに過ぎる…」

 

グに視線を戻すと何やら信じられないような光景だった。傷がみるみるうちに塞がっていく。右腕も生えて来ていた。

 

「再生能力…なのか?」

 

しかしグは傷が塞がっても立ってこない。

 

「ん?」

 

「ぐるじいいい、何でだァ?傷は塞がっているのにいい!!」

 

一応プライドは有るのだろう、血を吐き出しながらも、ヨロヨロと立ち上がってくる。

 

「内蔵は再生に時間がかかるのか?それにしても凄いな、あれを喰らって立ってくるとは…。良い根性だよ。お前に対する評価を、トロールに対する評価を引き上げよう。さて、もういいか…終わらせる!」

 

ルドウイークは発火するヤスリを鋸鉈に擦り付け、炎を起こす。

 

「ヒっ!?」

 

「やはり恐いか?再生しないように傷口を焼くってのはお約束だしな。行くぞ!臆病者め!」

 

「ぐあああ!!オマエええええ!」

 

最後の意地で向かってくるグ、そのグのグレートソードを横に薙払う攻撃を避けざまルドウイークは燃える鋸鉈を、後の先でグの脳天に叩きつける。

 

サクッ!!

「ゴひゅっ!」

 

その声と共にグの頭は燃え上がり、動かなくなった、立ったままの大往生だった。

 

「んで?そこのお前はいつ俺に襲いかかってくるんだ?ずっと俺達の戦いを見ていたが?」

先程から姿は見えないものの、気配を感じていた方向に問いかける。

「…お主は、…いやあなたは何者なのですか?ワシの透明化能力が通用しないなんて…それにグはバカだったが、力だけならこの森で最強であったのに…」

(別に見破ったというよりも、何というか気配がしただけなんだけどな。)

 

これはプレイヤーから見ると普通に見えないけどロックオン出来たという事で狩人には不可視化を見破る能力はない。

ルドウイークは本能的にロックオン機能を使っているだけだった。

 

「この森で最強ね…。他に強いのはいるのか?というか姿を見せてくれないか?」

そう言うと何やら人間の老人の上半身に蛇の下半身を持つモンスターが現れる。

「どうか、どうか命だけは…」

ルドウイークは何だか老人を苛めているような気になってきた。

 

「取らないから安心してくれ、さっきの奴らは問答無用で襲いかかってきたから反撃しただけだ。襲いかかってこなきゃ何もしやしない。」

 

「ははぁー!」

 

「…はぁ。さっきの話しの続きなんだが幾つか質問しても良いか?」

 

「はい!何でも聞いて下さいませ!ワシはリュラリュースと申します!」

 

やっとまともに会話可能な奴と出会えた。少し感動するルドウイーク。相変わらず人間じゃないが…

 

それから幾つか質問しリュラリュースと別れた。分かったことと言えばこの森は西をリュラリュース、東をグ、そして南には白銀の毛をもつ大魔獣、『森の賢王』が支配しているらしい。今日はグと結託してその森の賢王をなんとかしようと話し合いにきた所に俺が来てしまったという事だった。

 

そして何より一番大事な事だが、南に森を抜ければ人間の集落があるという事も分かった。

最後にリュラリュースには東も支配し余り森からモンスターが出ないようにしろと言い含め、自分のねぐらに帰した。

 

 

「さてと、南に向かって行くか。ってゆーか灯りはどこに有るんだ…。頼む!その人間の集落に有ってくれ!」

 

 




オバロの名有りキャラの初めてが…グって…

グが見た奇妙なナメクジは、エーブリエタース(通称エブたそ)の先触れというブラボの秘技(ブラボの魔法)で銃と同様パリイが取れます。
ブラボでは魔法=秘技でオバロで言うマジックアイテムからしか魔法が使えません。


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5話 とっとこ… 

早くエ・ランテルまで話を進めたい…


リュラリュースと別れ南方に進みしばらく歩いていると、段々と木々の影から明かりが漏れてきた。

 

「夜明けか…、しかしこの体は疲れたりしないのか?もう半日以上歩いたと思うんだが。…いや、しかし疲れはしないが、腹が減ったな…」

 

不思議な感覚だった。ずっと休憩もしないで歩いて来たが、足が痛くなったり、息があがったりは全く無かった。にもかかわらず腹は減る。

 

「流石に見たことも無い、野草やキノコなんて食う気はしないしな…」

 

最初はのどかな森、見たことも無い草花、目を楽しませる自然が多くウキウキしながら歩いていたのだがいまはもう若干ウンザリしてきた。何故ならずーっと同じ森、森、森。景色も変わらず、変化も無い。流石にもう半日同じ景色だ、無理もない。

 

「まあ、『青い秘薬』を飲みながらだから、雑魚に絡まれなくなったのが救いか…」

 

青い秘薬は狩人の体を透明にし、敵の目を欺く効果のある薬だ。実験の為に使ったが、自分では余り透明になったという実感がなく、失敗かと思ったが、先程から遠目にゴブリンや虫型の気持ち悪いモンスターを見かけたものの此方に寄ってくる事は無かった。恐らく成功だろう。

そんな事を考えながらあるいていると、

ガサガサッ

と何やら少し先の草むらをデカい何かが横切っていく。 

 

「…ん?何だ今のは?もしかして例の賢王か?」

念のために、懐中時計で時間を確認する。

「…よし、丁度いい。そろそろ薬の切れる頃だ。ご尊顔を拝見するとしようか!」

 

ルドウイークは、静かに先程のデカい物体が入っていった草むらに駆け出す。

 

「ム!何者でござる!?某の狩り場、某の縄張りに土足で踏み入る愚か者は?」

 

(某?ござる?…随分と歴史を感じる物言いだな…永く生きてきたと言うことか?)

 

「俺はルドウイーク!君が森の賢王か?」

 

「…確かにかつてこの地に踏み入った人間が某の事をそう呼んでいたでござるな!で?某に何か用でござるか?」

 

未だに影になって良くは見えないが、どうやらかなりデカい。

(…これは、多少本気を出さないとマズいかもな。こりゃ、グやリュラリュースじゃどうにもならない訳だ…)

 

「用という訳でも無いんだが、俺は獣を狩る事を生業としていてね、凄い魔獣がいると聞いて、後学の為に一度その姿を拝見させて貰おうと思っただけさ。」

 

「獣狩りでこざるか…。ならばお主は某の…」

 

そこで言葉を切る賢王。そして…

 

「敵でござるなあっ!!!」

 

その言葉と同時に賢王と呼ばれた知性を感じさせた動物の気配から、大魔獣と呼ばれるに相応しい気配に変化した。

 

前景姿勢になった賢王の背後から『ビュンッ!!』という音とともに鋭い突きが飛んでくる。

 

「尻尾か!」

すぐさまそう判断しまずは右にステップを踏む、

「甘いでござるっ!」

その言葉と共に今度は尻尾をそのまま横薙に払ってくる。

 

「そっちがな!」

 

その薙払いを前にダッキングの要領でステップし潜り込んでかわすルドウイーク。

 

そのままダッシュで賢王の元に走り右手の未強化鋸鉈を鉈モードで叩きつける。

…が予想していた手応えと全く違った。

ガキンっ!という音で鉈がはじき返される。

 

「ちぃっ!堅い!一旦離脱っ!」

 

ルドウイークは珍しくバックステップを踏み距離を取る。

武器を毛皮で弾けると分かった賢王が、強引に突っ込んでくるのを警戒したからだ。

 

(…?来ないな…)

 

来なかった。

 

良く見てみると賢王は何やら小さい手で頭を必死にさすっていた。

 

「…?賢王?」

 

「…頭が、頭が痛いでござるよ…。」

 

一瞬何を言われたのか分からずキョトンとするルドウイーク。

しばらくしてやっと脳に言われたことの意味が染み込んできた。ルドウイークは左手で頭を抱えながら一応聞いてみる。

 

「……はぁ?んー…?はぁ…、一応、見てやろうか?」

 

「申し訳ないでござるよ…」

 

のそのそと此方に歩いてくる賢王。

 

(…こいつ…本当に見てもらう気かよ…)

 

しかしやっとその全体像が見えてきた。その第一印象は…

 

「嘘だろ…コレが魔獣って…、どう見ても愛玩動物だろう…。」

 

とても丸くて可愛く見えた。

 

「ここにその武器の角が当たったのでござるよ…しかしお主はとても力が強いのでござるな。」

 

見てみると確かにデカいタンコブが出来ていた。

 

「コブになってるな。命に別状は無いと思うぞ…。」

 

「そうでござるか!ありがとうでござるよ!……ではっ!続きを始めるでござるよ!」

 

「……え?…いや…?…えっ?…この流れでまだ戦うの?」

 

「当然でござるよ!まだ白黒付いて無いでござるからなー。」

 

「…はぁ。」

もうやる気なんて欠片も無かった。この獣の全てがやる気を奪っていく。丸っこくて可愛いフォルムに、脳天気(ちょい馬鹿)な性格。

 

(これが白銀の大魔獣だと?森の賢王だと?バカな……仕方無い、別のアプローチで屈服させるか。)

 

ルドウイークは黙って一つの秘技用のアイテムを取り出す。

 

「む?何でござるかそれは?もしかして食べ物でござるか?」

 

「ぐふっ!…ぷっ!…くっそ!笑わせるな!一応戦闘中なんだろうが!?」

 

(戦闘中敵の目の前で食いもの出す馬鹿がどこにいる!確かに腹減ってるけどさぁ…。いや…こいつならやりそうだなぁ…。)

 

「…ふぅ。はぁ、これで終いだ。来い!」

 

「行くでござる!」

 

その言葉と共に賢王が爪を振り上げて吶喊してくる。ルドウイークはと言えば、その秘技用のアイテムを持ち待ち構える。

(射程圏だな…行くぞ!)

 

 

『ぐあおおおおおおおおおっ!!!』

 

 

獣の咆哮、その名前そのままの効果が炸裂し賢王は吹き飛び、辺りの木々もまるで台風の風を浴びたかのように大きく揺れる。

 

「ひええええええ!い、今のは、お、お主の声でござるのか?」

 

「ああ、そうだ。どうする?信じられないならもう一度やってみようか?」

 

「参ったでござる!某の負けでござるよー!」

 

腹を見せてひっくり返る森の賢王。

 

「くくっ!ふふふ、ははは!」

 

突然笑い出したルドウイークにビクッと震える賢王。

 

「あんなに、全身の毛が逆立つようなすごい咆哮は始めて聞いたでござるよ!お願いでござる、忠誠を誓うので命だけは見逃して欲しいでござるよ!」

 

(成功だな。やはり賢いとは言え野生動物。それに…こいつは血に酔ってはいないようだしな。)

 

「…一応聞くがお前は人間の事をどう思っている?」

 

「人間でござるか?…某はずっとこの森で一人で暮らして来た故、余り人間とは関わっていないでござるよ…。余りに執拗に命を狙われた時は撃退していたでござるよ。殿!お願いでござるよ。」

 

「殿?まぁいいか。しかし…」

 

琴線に触れる単語が出てきた事で少し考え込むルドウイーク。

 

(この森で一人ぼっちか…いや俺も人の事は言えないか。俺も身よりなんていないんだしな。)

 

「…もともと、最初に言った通り今日はお前の姿を見にきただけだ。命等穫りはしないさ!ところでこの先に人間の集落が有るらしいんだが知っているか?」

 

「某の縄張りの外に確か人がいっぱい住んでいる場所が有ったでござるよ。そこでござるか?」

 

「そうだ。そこに案内してくれるか?」

 

「勿論でござるよ!某は自分より強い者が出てきたら忠誠を誓おうと決めていたのでこざる!某は今日より、殿の家臣でござる!」

 

「…まあいいか。狩人の猟犬…っぽくは全く無いな。…いやペットだな。うんペットだ。宜しくな!賢王!」

 

「宜しくでござる!では某の上に乗るでござるよ!」

 

「え?いいのか?」

 

「はいでござるよ!」

 

若干、ペットに乗るという罪悪感を感じたが、本人が鼻息荒く進めてくるので飛び乗ってみる。

 

「…まあ、多少不格好だがまあ乗り心地は悪くはない。」

 

「では出発進行でござる!」

 

(あっ、やべっ!これ人に見られたら恥ずかしいかも…)

 

そんなルドウイークの考えを余所に、賢王と呼ばれた大魔獣はノリノリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンリ・エモットは妹のネム・エモットの手を引いてひたすら走る。

いきなり村に乗り込んできた大勢の騎士逹。それに早く気付けたのは幸運だった。

というのも朝起きてから毎朝恒例の水汲みに出掛けようとしたところどこからか巨大な獣と思われる、とても大きな咆哮が聞こえたのだ。

両親と妹と窓から外を見てみると、獣の姿は見え無かったが、変わりに村の入り口に大勢の見知らぬ騎士逹が立っていた。その騎士逹を見た途端に両親が、

 

「ネムを連れて逃げろ!」

 

とエンリ逹を家から突き飛ばすように逃がしたのだ。

 

しかし

 

少しばかり早く気づこうと、相手は訓練を受けた騎士、此方は幼い妹と一緒の只の村娘。

 

先程から3人の騎士が私たちに追いすがってきている。

 

そのうちにネムが転び、騎士に追いつかれる。ネムをとっさに庇うと同時に

 

ザクッ

 

という音と共に背中に痛みと熱が走る。

「てこずらせやがって!」

「もったいねぇ、可愛い子なのにな~。」

「いいから早くやっちまえ!…へぇ確かに可愛いな!」

 

そんなゲスな声を聞きながらエンリはネムを抱きしめる。

 

「お姉ちゃん!」

「ネム!」

 

もうダメだ。そう思ったその時

 

ゴチュン!

 

そういう音が背中の後ろ、騎士の頭の辺りから聞こえた。

 

エンリは恐る恐る、後ろを見てみる。

そこには剣を振り上げている騎士がいた。先程まで、私逹を追ってきていた騎士逹だ。間違いない。

しかし唯一違う所があった。

それは騎士の兜の顔が覗いている部分。そこに、拳大の石が騎士の顔面にめり込むようにつき刺さっていた。

 

「え?」

 

その石が飛んで来た方向に顔を向けると、羽を象った帽子を被り、全身を上等な装束で身を固め、右手には剣をもった、背の高い男の人が、巨大な魔獣を付き従えて立っていた。

その男の人が、口を開く、ニコリと爽やかな顔で

 

「大丈夫かな?お嬢さん方。」

 

「えっ?は、はい。」

 

「そうか、それなら良かった。君らは正しく、そして幸運だった。つまり……」

 

そこで言葉を区切り

 

「もう君たちは大丈夫だよ!後は俺に任せておけっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やあああっとエンリが出せたああ。
何度賢王をハム助と書き間違えたか、分かるか?ハム助。この苦労が。

そして書き上げ、投稿と同時にエビテンからのオバロ11巻発送メール!!

やはり私と君は運命の赤い糸で結ばれていた!
この気持ち、まさしく愛だっ!!

とテンションがあがりました。それだけです。はい。スミマセン…


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6話 対人戦

早く佐川急便さん来て下さい…私のオバロ11巻を持って来て下さい…

最後ほんのちょっと加筆。自分の名前を言って無かったorz


賢王に乗りしばらく進んでいくと、やっと森の切れ目が出てきた。とにかくもうこの森の景色に飽き飽きしていたルドウイークは

 

「賢王、とりあえず向こうに進んでもう森から出てくれ。」

「でもまだ人間の村に行くには回り道でござるよ?」

「そんなに急ぐ事もない、急がば回れって言うだろう?」

「承知したでござる!では森から出るでござるよ!」

「宜しく頼む。」

 

道中、人間でも食べられそうな木の実等、賢王に見繕ってもらい食べたので、空腹も無かった。

夜になってしまったりしなければいいや、という気持ちでなんとなく言ったこの一言が、とある姉妹の命を救うとは誰も思わなかっただろう。

 

「やっっっと、森から出れたあ!…流石に、鬱蒼とし過ぎて圧迫感が凄かったもんな。凄い開放感だ。」

 

森から出たら一面の草原だった。

 

「いい景色じゃないか!…ん?何か遠くで光った?何かが日光に反射したか?」

「うーん、某には見えないでござるなぁ。」

 

ルドウイークは遠眼鏡を取り出し、そちらを見てみる。

 

「何だ?あれは?」

 

どうやら女の子2人が、3人の騎士に追われていた。騎士は既に剣を抜き、女の子逹は足がもつれて追いつかれるのも時間の問題だろう。

 

「どんな理由であれ無抵抗の女性2人に武装した男3人か…、どちらに味方するのか考えるのも馬鹿らしいな。賢王、向こうに走れ!全力でだ!」

 

「了解でござる!」

 

恐らく到着まで数秒だろうがその間にも作戦を考えるルドウイーク。

 

(このスピードなら何とか間に合うだろう。取りあえず相手の方が数が多い以上余り時間をかけたくない。…俺は余りきちんと連携の取れた人間との戦いはした事が無いんだよなぁ…さて、どうしたものか。)

 

bloodborneと言うゲームでの対人戦はレベルでのマッチングである。一番マッチングし易いのは、ある程度ビルドが完成してくる100レベル前後である。当然レベルカンストはマッチング

等望むべくもない。

しかもルドウイークを作成したプレイヤーは痛恨のステータスの振り分けミスをしてセカンドキャラに移ってしまった為、ほぼルドウイークは対人戦の経験が無かった。

 

《余談だが、ルドウイークをレベルカンストまで上げたのはこのプレイヤーのPS4最初のゲームがbloodborneであり、尚且つファーストキャラで、キャラメイクも3時間近くかけて作った力作であり愛着が有った事も有って、救済の意味を込め『何でも練習出来るマン』という名目でレベルカンストまで上げられたと言う経緯が有る。》

 

「取りあえず1人瞬殺して後は彼女達との間に割って入って何とかするか。」

 

そう言って懐から丸い石ころを取り出す。

(これを投げて相手の行動を見るか。3対1なんだ。卑怯等とは言わせないぞ?)

このときルドウイークの頭の中は賢王はまるっきり戦力として考えていなかった。完全にさっきの腹を向けてひっくり返った姿しか頭に無く、魔獣ではなく愛玩動物としか考えていなかった。

 

(石ころを投げてどうなる?まずは命中する。これがベストか。少なからず怯むだろうし、此方を見るだろう。その間に斬り伏せる。次の可能性は相手が気づいて盾や剣で弾かれる。これでもいい、注意がこっちに向くだろう。直ぐに寄っていって斬り伏せる。後の可能性は、相手が避ける、これもベターか?少女逹と騎士の距離が離れる。がこの場合相手がかなりの実力者の可能性有りか…その時は注意がいるな。最後は…少女逹に当たる…一応注意は引ける…か?後で彼女たちに土下座でもしなくてはな…あとは…)

騎士の装備を見る。

(プレートメイルにカイトシールド、ロングソードか。あれがこの世界の標準装備だとすると、もし水銀弾の補充が出来ても銃は使えないな。仕方ない、例外を除いて銃は封印だな。)

もし銃の無い時代、一つの国に銃を持ち込み、量産が利くようになったら、それはもうその国が天下を牛耳るだろう。ルドウイークはそんな物を易々と使う気にはなれなかった。

しかし何事にも例外は有る。例えば使わなければ絶対に勝てない敵が出た場合。まだルドウイークは死ぬつもりも無いし死ぬ訳にもいかない。

あとはあの騎士逹が少女逹を人質に取った場合などか。そんな事になったら

 

(即座に眉間に水銀弾をぶち込んでやる。)

 

そこまで瞬時に思考し視線を戻すと、小さい少女が転び、それを庇った女性が背中を斬られた。

距離的にはもう石ころの射程圏内だった。

 

「ちいっ!当たれよ!!」

 

(どの結果でもいい!頼むぞ石ころ!)

 

ルドウイークは明らかに賢王より石ころを頼りにしていた。

 

 

結果は………予想の遥か斜め上だった。

 

スナップを利かせてルドウイークの手から放たれた石ころは

本来放物線を描いて相手に飛んで行くそれは

ルドウイークからの信頼に答えるかのごとく

弾丸ライナーで、狙い違わず、騎士の兜の真ん中に吸い込まれて行った。

 

ゴチュン!と兜の中から籠もったような嫌な音がきこえた。

「…げ」

「殿!凄いでござるよ!」

「…そうだよな。いや、いいんだよな。これで。…うん、万事順調だな!…すっかり『枷』の事を忘れていた。これもその影響か?」

 

その通りだった。筋力99の球速に技量99のコントロール、あとは神秘99の若干の幸運の複合的な結果だった。

 

と、そんな事を言っていると少女が背中の騎士を見、次に此方に目を向けてくる

ルドウイークは思っていた結果と違い少し、いや大分動揺していたが、あまり動揺していると少女逹を不安にさせるかもしれないと考え、無理矢理いい笑顔を作り問いかける

「だ、大丈夫かな?お嬢さん方。」

「え、は、はい!」

(よく見るとこの子逹よく似てるな。姉妹か?怖かったろうに…、でも方角的に森に逃げ込もうとしたのか?正しい判断だな。何が出てくるか分からない森に逃げ込まれた場合、統率の取れた部隊なら深追いはして来ないだろうし。結果追いつかれはしたが…運も良いんだろうな。俺達が丁度遠回りして森から出てきた目の前だったし。おっと、まだ敵がいるんだったな。)

 

「君たちは正しく、そして幸運だった。つまり…」

 

「もう君たちは大丈夫だ!後は俺に任せておけ!」

 

そこまで言い、賢王から飛び降りて、彼女逹と残り2人の騎士の間に割り込んだ。

 

「…君は邪魔だな。退いてくれ。」

 

石ころが命中し、立ったまま絶命している騎士を指でそっと押すと、ガシャン!という音を立てて崩れ落ちる。

そこまでやって初めて残りの2人はその騎士が死んでいる事に気付いたのだろう。ビクッとなり此方を怯えたような顔で睨んでくる。

 

「き、貴様!何者だ?」

「そ、そいつに何をした!?」

「ふふっ。」

「何が可笑しい!」

「…いや、済まない。君達の台詞が余りにも典型的な悪党の台詞だったものでね。」

「何だとお!」

「…おい待て!?なんだあの男の後ろにいるデカい魔獣は!?」

「…え?…ヒィっ!」

 

(…もしかして、賢王に怯えているのか?…というか俺はコイツがいるのを忘れていたな…彼女の傷の治療もしなくちゃだし、賢王にやらせみるか?)

 

「やっと…理解したか?貴様等は狩る方から、狩られる方に立場が変わったと。…少しばかり遅かったな。彼女に傷を付ける前で有ればまだ慈悲もかけたが、無抵抗の女性を傷つけるような者には要らないな。あの時の貴様等は血に飢えた顔をしていた。貴様等の持っているそれは玩具じゃ無いんだぞ?それを抜いた時点で自分達もそれで斬られる覚悟もしているのだろう?という訳だ。賢王、お前に最初の命令だ。」

賢王に呼びかけ、右手を上げる。

「はいでござる!」

右手を振り下ろしながら

「殺れ。」

 

「承知でござるよ!さてお主ら、少し弱そうでござるが覚悟するでござる!」

「あまり彼女逹に悲鳴や呪詛は聞かせたくない。直ぐ終わらせろ。」

「任すでござるよ!」

 

「ひいいいい!」

「助けてくれえええ!」

 

「うんうん、最初の予想とは違ってそれなりに猟犬役も出来るじゃないか。さて、君は怪我をしていたな?今治療を…」

そこまで言ったときふと考える

(ちょっと待てよ?俺がもってる回復系のアイテムって…輸血液…?)

そう思ったが流石に輸血液をこの少女に使うのは少し、いや全然違う気がした。

(…えっと、本当に俺達狩人は戦闘以外で役に立たんな…んー、あっあれが有った!これだ!聖歌の鐘)

 

目当ての秘技用アイテムを見つけて早速鳴らす。

 

カランカラン

 

 

エンリ・エモットは目の前の男の人が分からなかった。傷を治療すると言ったのにいきなり鐘をカランカラン鳴らし始めたのだ。

(…え?この人大丈夫なの?私達はどうなっちゃうの?見た目は…なんかカッコいい感じなのに…頭がおかしい人なのかしら…)

見た目はプレイヤーの3時間の力作である。

しかし

 

「え?嘘!?」

背中の傷も、痛みも無くなっていた。

「ふう、効いて良かったぁ。何しろ使ったの初めてだしな。…いや、あんな酷い場所に有ったんだ。効いてもらわなければ困るな。」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

姉妹の声がハモる。

「礼はいいさ。君達の村はどこかな?私はつい最近この辺りに付いたばかりでこの辺りの事が全く分からないんだ。もし良ければ君達の村の村長さんなどはいるのかな?」

 

「そうだ!!そうです!!」

「うおっ!」

突然大声を出した少女にびっくりするルドウイーク。

「お願いします。あの騎士逹は村にも大勢残ってるんです。こんな危険な事頼んでいい事じゃないって分かってます。でも他に頼れる人がいないんです!どうか…どうかお願いしますっ!」

「お願いします!」

ルドウイークは黙って先程の騎士逹を処理し終わった賢王のほうをほうを向き一言

「賢王、彼女逹を守れ。」

「殿はどうするのでござるか?」

「決まってるだろう?村に行ってくるのさ。」

「承知したでござる!」

 

エンリ・エモットは内心断るに決まっていると思っていた。

だからこう言った

「え?行ってくれるんですか?」

「ふふっ、可笑しな事を言うんだな。君が頼んで来たんじゃないか。」

「でも私達は今日あったばかりでなんの関係も無いのに、どうしてですか?

「君達は、困っている。」

「はい。」

「俺なら、助けられる。」

「え?…はい。」

「それだけだよ。勘違いしないで貰いたいのだが報酬は頂くぞ?」

「な、なにがいいですか?私に出せる物なら何でも出します!」

エンリは最悪、貰ってくれるのなら自分自身を差し出しても良いとおもった。

あの村が無くなればどの道私たちに行くところなど無いのだから。

「君の名前は?」

「エンリ、エンリ・エモットです。」

「妹の、ネムです!」

「エンリ、ネム、私は今とても腹が空いていてね。報酬には夕食を頂こう!」

 

「え?…それだけ?」

 

「空腹の人間には明日、明後日の大金より目の前の食事の方が大事なんだよ!んじゃ行ってくる!賢王、この子逹の危険を排除しろ。合図を出したら彼女逹を連れて来い!いいな?」

 

「合点承知でござる!では殿、後武運を!」

 

「待って下さい!あなたのお名前は!?」

 

「…名前か、俺の名前はルドウイーク。聖剣のルドウイークだ!」

 

 




長くなるのでぶった切ります。

そして、書き上げたときに佐川がきた。
オバロ11巻来たぜええええ!

んふぃーちゃん爆発しろ!!!


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7話 覚悟

総集編劇場版だと…っ!
11巻はアウラとシャルティアが可愛かったです。(こなみ)

新刊が出る度に蒼の薔薇の誰かがやられたりしてないかビクビクしてるのは内緒


ルドウイークが村の広場に近づき、物陰から広場を見ると何やら村人が一カ所に集め、騎士20人程がそれを囲っている所だった。隊長格だろうか、何やらあまり隊長に向いていなさそうな人間が声をあげた。

「お前ら、ご苦労だった!これで村人は全員か?」

「は!今森の方に2人程逃げたのを追っています。その2人は殺すように指示を出していますので、これで全員かと。」

それを聞いた村人達が悔しそうに睨んでいるのを見ていない振りをしてまた声を上げる隊長格。

 

「さっきの娘か?…うーん、なかなか見た目が良かったのに勿体ないなぁ。まあいい。…ではカルネ村の諸君!君達の今後を発表する!君たちには1人を除き死んで貰う!しかし、これは必要な犠牲なのだ!我々には知るべくも無い事だが、今回の我々の任務はとても重要な案件だと我々は直属の上司より伺っている!君達の尊い犠牲はきっと我々が無駄にしない!では受け入れてくれ!我々も仕方ないのだ。…さて、生き残らせる奴は…」

 

隊長格は舐めるような、嫌な視線で村人達を見回す。

 

「おっ!その娘にしよう!おい君、連れて来なさい。早く。君には私の次に楽しませてやるから。ほら。」

 

「は!有り難うございます!おいお前こっちに来い!大丈夫だ!こっちにおいで、ぐひひ。」

 

その騎士が村人逹の方に近づいていくのを見ながら、ロンデス・ディ・クランプは舌打ちする。

(こいつは非武装の村人に近づく事も出来ない臆病者なのか、…こんな奴が隊長になったのが運のツキだな。ゲスを絵に描いたようなクズめ!)

そんな忌々しい感情を持ちながら何となく見ていると、村人たちの方に近づいていく騎士が動かなくなった。

「…?なんだ?…何か頭に…?」

 

その村人たちに近づいて行った騎士の兜の側面に、ナイフの柄のようなものが突き立っていた。

 

(有り得ない!この鎧はそれなりの魔法による防御が込められているんだぞ!投げナイフか?どんな力で投げれば鉄の兜を投げナイフで抜けるんだ!?)

そこで何やら拍手のような音が聞こえてくる。

 

パチ。パチ。パチ。

そう手を叩きながら、全身を上等な装束で身を固め、背中に大剣を背負った男が物陰から出てきた。そして動かなくなった騎士の横に立ち

我々の前に立ちふさがった。

 

「な、何者だぁ?お、お前は?」

 

「…いい演説だった。とても後学の為になるいい演説だったよ。君らの国の勉学の書物に残すべきだな。まあ、私は罪も無い村人を皆殺しにする為の、説得の為の演説の勉強など、今までも、これからも必要は無いだろうがね。…いや、村人達を殺す、その罪悪感から逃れる為に自分自身に言い聞かせる為の、演説か?どっちにしろ私には必要ないな。」

ベリュース隊長は図星だったか、顔を真っ赤にし

「おい、お前!早くそいつを殺せ!何ぼっとしてる!!」

と吠える。

「…もしかしてこの、彼に言ってるのか?余りこき使ってやるなよ。なぁ?何しろ……もう死んでる。」

 

そう言ってその男は右手の人差し指でチョンとその騎士を押す。

 

ガシャン、という音を立てて騎士が倒れた。

 

「…ヒイイイイ!」

隊長格はみっともなく悲鳴をあげ、騎士逹の後ろに隠れながら

「ァ、ああ、ァ、あいつを殺せ!村人達もだ!もう生き残りもいらん!!」

と命令した。

 

「村人達を殺すか…ならばこう言わせて貰おう。ここから先は、通さん!…と。」

 

広場の中心で、戦いが、始まった。

 

 

 

戦闘開始から5分程経ち、ルドウイークは疑問に思う。

 

(…こいつ等、やる気有るのか?)

 

数の有利は向こうに有るのだ。ヤーナムでは、狩人の夢の世界では、これほどの数の差があっても、もっと卑怯で汚い事をやってきた。

例えば遠くから投擲武器をひっきりなしに投げてきて、こっちがじれて突っ込んだ所を周りから囲んでボコボコにされたり、例えばそれで突っ込んだ所に一人を犠牲にして後ろから切りかかってきたり、これだけの数の差が有れば色々な選択が出来るはずだ。

 

しかし、彼らは自分達の数の方が有利なのにも関わらず、向こうからじれて、緊張に耐えきれなくなり切りかかってくる。しかも2人か、3人で同じ方向から。此方は後出しジャンケンで動きを見てからルドウイークの聖剣で纏めて叩ききるだけでいい。ようは、『寄らば斬る』だけで良かった。騎士一人一人が大したこと無い、いやかなり弱い事は賢王の戦いをチラッと見ただけでわかっていた。こいつ等にどんな卑怯な手を使われても文句は言わないつもりだったのに…村人達を人質にとる以外は、だが。その時は銃も使い全力で仕掛けようとおもっていた。

 

(…。いや、やる気じゃないな。こいつ等は誰かが、自分が犠牲になる覚悟なんてないんだ。皆で仲良く国へ帰ろうなんて思っていたんだろうな。これだけの村人達を殺した後に!国へ帰ったら良くやったと誉めて貰えると!それだけだったんだろう!?)

 

(考えて見ると一番最初に切りかかってきた騎士、ロンデスとか名乗りをあげていたか?以外は、その表情に怯えと後悔しか感じ無かったな。)

 

(やはりコイツ達には圧倒的に覚悟が足りない!他人の命は奪うのに自分の命は取られるわけない、そんなうまい話は無いんだよ!)

 

「うわあああああっ!っぐばっ!!」

 

また、切りかかってくる騎士、今回はたった一人だ。聖剣で鎧ごと叩ききる。

 

「ヒイイイイっ!助けてくれえええ!」

一人が背中を向けて逃げ出す。

「逃がさんよ、ウスノロ。」

 

ルドウイークは狩人の遺骨を使用して『加速』する。

瞬間移動のようなスピードで騎士に追いすがって正面に回り込み、胴を薙払ってぶった斬る。

 

そんな事を繰り返している内に、20人いた騎士は、すでに隊長だけになっていた。




今日は体調悪いのでまたぶった斬ります。
11巻読みました?ぷれぷれぷれあですも含めて超満足でした。


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8話 王国戦士長

ぎゃーー!!一部分丸々抜けたー!!王国領だのなんだのの話がまるっと抜けてました…
という事で少し書き足しました。


「まだやるか?」

ルドウイークは一人になってしまった奴、確かベリュースだったか?等と思いながら問いかける。

「当たり前だ!お、俺はこんな所で死んでいい人間じゃない!!は、早くこいつを殺せ!誰でもいい!500金貨、いや600金貨でもいい!早く!」

 

「お前の部下は一人もいないんだが…?誰に頼んでいるんだ?」

 

「そこの村人達、命は助けてやる!早くこいつを殺せ!一人100金貨まで出すぞ!」

 

流石に頭を抱えるルドウイーク。

「はぁ…」

 

村人達から帰ってくるのは、殺意と憤怒しかない。

 

「…もういい、終わりだ。剣を捨てて鎧を脱げ。命は直ぐには取りはしない。」

 

村人達が、ザワリと反応が帰ってくる。

(…ん?…恐らく俺が金に目が眩んで寝返るかと思ったか…?流石にそれは無いって…)

「そいつは色々聞きたい事が有るので拘束して生かしておきます。他意は無いので安心して下さい。…それとエモット姉妹の御両親はいらっしゃいますか?」

 

「私達です!娘は娘達は無事なんですか!?」

「無事でしたか…良かった…エンリもネムも無事ですよ。森の近くで襲われて居たところを助けました。あと皆さんはエモット姉妹に後でお礼を言っておいて下さい。彼女達が私にこの村を救ってくれと嘆願してきたので、私はここに来たのです。立派なお嬢さん方だ。本当に。」

 

見るからに安堵している村人達。彼女達は村の人気者だったんだろう。

 

そんな話をしながら横目でベリュース隊長を見ていると何やら地面をキョロキョロ見回している。

「ベリュース隊長?何かお探しかな?」

ビクッとなり此方に振り向くベリュース

「い、あいや、な、何でもないのだ、剣をすて、鎧をぬぐ!これでいいのだな?」

 

「ああ。その通り。後は拘束させてもらうぞ?」

 

そう言いながらベリュースの腕と足を革紐で堅く縛りあげる。皮がさけ、血が滲むほどに。

 

「ぎぃっ!痛い!頼む、許してくれ!ぎぃやあああ!」

 

「…お前達はそう言って命ごいしてきた村人を一人でも見逃したのか?それといい加減身分を弁えたらどうなんだ?生殺与奪の権利はこちら側だぞ?」

 

「悪かっ…、ご免なさい。!願いします!申し訳ありませんでしたあおおおお!」

 

「それと探していたのはこれだろ?伏兵を呼ぶための笛か?伏兵はどこに伏せて有るんだ?」

 

「教えます!だから紐を緩めて下さい!」

 

(…こいつマジか…なんでこんなのが隊長なんだ…)

「……ああ、ちゃんと教えてくれたら考えてやる。早くしろ。」

 

呆れながら答えるとあっさり白状する、ベリュース。

村の村長だと言う人に、ベリュースを閉じ込めて置ける倉庫のような物が無いか聞いたところ、納屋が有るというのでそこにベリュースを放り込む。勿論、紐は緩めずに。

 

「では皆さんはそこの村長さんのお宅で身を隠して置いて下さい。私は伏兵を片付けてきますから。その後に私の部下に守らせている、エモット姉妹を呼びますので。」

 

「はい!お願いします!」

 

 

 

 

 

 

エンリとネムは巨大な魔獣と置いてけぼりにされ最初は震えていたが、どうやらこの魔獣はさっきのルドウイークという人の言うことをちゃんと聞いて私達を守ってくれているらしい。

 

「…あ、あの?あなたは一体なんの魔獣なんですか?」

 

そう恐る恐る聞いてみるエンリ。

 

「某でござるか?某は、名前は無いでござるよ。でも昔から森の賢王と、お主等人間には呼ばれているでござる!」

 

 

(…森の、賢王?そんなの私でも知ってる超恐ろしい魔獣じゃないの?なんで私達を守ってくれているの?え?私は話しかけて良かったの?)

 

「すっごーい!!森の賢王様、トブの大森林の魔獣ですよね!始めて見たー!!」

 

(ぎゃーー!!!ネムーーーー!!!!)

 

心の中で可愛い妹に絶叫するエンリ。

 

「お、嬉しいでござるなー。某の事を知ってるのでござるか?」

 

「うん!知ってる!すごい強い大魔獣だってパパが言ってた!!ん?でもなんでそんなに強い賢王様があのルドウイークっていう人の言うことを聞いているの?」

 

「答は簡単でござる!殿が某より強いのでござるよ!」

 

「…え!?」

 

姉妹揃って驚愕の表情をしているエモット姉妹。

 

「某も驚いたでござるよ。殿は某と闘った時も全然本気じゃ無かったでござる。だから忠誠を誓い、命を助けて貰ったでござる。」

 

「あの人ってそんなに凄い人なんだ…」

 

「すっごーい!!!ルドウイーク様すっごーい!!」

 

「そうでござるなぁ!殿は凄いでござるよ!お主達はなかなか話しが分かる人間でござるな!気に入ったでござるよ!確か…大きい方がエンリ殿で、小さい方がネム殿だったでござるな?今後とも、よろしくでござるよ!」

 

エンリは自分の妹の事をとても末恐ろしい子だと思った。

(もしかしたらこの子は骸骨の、アンデッドの王様とかにも好かれるかもしれない…いやきっと好かれる…)

 

そんなあり得たかも知れない別の世界線の事を考えていると、

 

ピーーーー!

 

という笛の音が聞こえてきた。

「きっとこれが合図でござるな。じゃあ、お二方、某に乗るでござるよ。」

 

「えっ?乗っていいんですか?それにもう終わったの?騎士は20人以上いたのに…まだ1時間も経ってないんじゃ。」

 

「殿に掛かればその程度、ものの数では無いでござるよ。この騎士達はちょっと弱すぎでござるからなぁ…ささ、乗ったでござる!」

 

「っわーい!!お姉ちゃんはやく!」

 

「はい…お願いします!」

妹はノリノリで姉はビクビクと賢王に乗り込む。

 

「では凱旋でござるよ!」

 

 

 

 

 

「あ!エンリー!ネムー!」

 

村に着くなり向こうからダッシュで近づいてくる両親、だが、

 

「げぇ!なんだあの魔獣は!?ル、ルドウイーク様!!」

 

「あぁ、心配しないで下さい、既に屈伏させて有りますので。賢王、ご苦労たった!」

 

「殿ー!こっちにはあの後何も無かったでござるよ!」

 

ドタドタ走ってくる賢王に顔をひきつらせる村人達。

(…え?もしかして怖がってるのか!?あれを?)

 

「んー、えっと、皆さんあれは森の賢王なんですが、可愛いと思いませんか?」

 

「可愛い????!!!!」

 

(ハモった!!)

 

と動揺していると村長さんがこっちに近づいてきて

「…流石ですなぁ!あれを可愛いなどと。我々弱者ではとても、とても可愛いなどとは言えません。そして森の賢王といえばこの辺りでは伝説の魔獣!それを屈伏させたとは…もう言葉も有りません!」

「…はぁ。有り難う、ございます。」

 

賢王の方を見てみるとエンリとネムを下ろし、ドヤ顔している。

その前では両親と泣きながらエンリとネムが抱き合っていた。

(…良かった、本当に。助けられて良かったよ。)

 

「ルドウイーク様。この村をお救い頂き本当に有り難うございます!」

 

「いえいえ。とんでもない。困った時はお互い様ですから。それより、亡くなった方や、私が殺した兵士の死体の片付けを先にやりましょう。子ども達には余り見せたく有りませんし。」

 

「そうですな。…え?いえ!あなた様にそこまでやってもらうわけには!!」

 

「気にしないで下さい。さぁ、ちゃっちゃとやりましょう。」

 

 

 

騎士の死体は森の中に荷車で何往復かして捨ててきた。個人的には死者は丁重に弔ってやりたかったが、流石に村の墓場には一緒に入れたくないと言われ、それは仕方ないと割り切り森の少し奥に賢王に穴を掘って貰い、そこに埋めてきた。一応手を合わせ、黙祷はしたのでそれで我慢してもらおう。

 

ちなみに奴らの伏兵の場所に向かうとやたらめったら矢を撃って来たので『加速』を使い瞬殺した。馬も一緒にいたが、馬には罪は無く、軍馬という事であの村で役立つだろうと思い、連れて帰った所、とても喜ばれた。

 

その後あらかた片付けて、色々村長さんに話しを聞いていると、ここはリエスティーゼ王国の領内で、恐らく襲って来た騎士は盾の紋章からしてバハルス帝国の騎士達だろう、という事だった。

(しかし、戦争中とはいえ、戦力を全く置いていない只の村人の虐殺にワザワザ自分の国の紋章をデカデカと付けて来るか…?露見した場合、どう考えてもリエスティーゼ以外の国からも反感を買うだけなのに…)

 

「…帝国の皇帝とやらは、暗愚なのですか?」

 

「いえ、歴代最高の皇帝という噂を聞いた事が有りますな。」

 

「ほう。なる程。」

(…ブラフの可能性が高いな。後であの『バカ』に良く聞いてみるか。)

 

村長さんに話を聞き終え、是非ともという話で、(そもそも報酬に自分が頼んだのだった)エモット宅で昼食をごちそうになっていると、狩人として研ぎ澄まされた聴覚で拾える音が有った。

 

「…ん?」

 

「どうされました?ルドウイーク様?」

 

「エンリ、この村に大勢馬で帰ってくる予定の有る人達はいるか?」

 

「え?そんな人達はいませんよ?…まさか…!?」

 

「…君はやっぱりとても優秀だな。今ので何の話か分かるとは。」

 

「…どういう事だ?エンリ?」

訝しげな顔で聞いてくるエモット父。

 

「…この村に大勢の馬で向かって来る人達がいる。そしてそんな人達が来る予定はこの村には無い。もしかしたらまた…って事ですよね?ルドウイーク様?」

 

「ああ、まだ距離があるが確実に近づいて来てるな。エモットさん、この村の皆さんをまた村長宅に。村長と2人で出迎えます。」

 

「畏まりました。しかしなぜ村長も?」

チラッとエンリをみるルドウイーク

「…もしかしたらホントにお客様かも知れないし、そうだったらルドウイーク様じゃ分からない。村長さんに判断してもらう。って事ですよね?」

 

「ああ。その通り。」

 

「お姉ちゃんすっごーい!!」

 

「エンリに言い含められる時がくるとはなぁ」

 

(仲の良い家族だ。…ずっと一緒にいられる訳でもないし、無責任かも知れないけど…一緒にいる内は守ってやろう…絶対。)

 

 

そうして村長と一緒に村の出入り口に立つルドウイーク。

 

「来ましたね。」

 

「…大丈夫なんでしょうか?」

 

「…まぁ何とかなりそうですね。」

 

見たところさっきの騎士と違い装備もバラバラでどちらかというと騎士というより傭兵のような感じに見える。

 

「私はリエスティーゼ王国、ガゼフ・ストロノーフ!!王国戦士長である!!この辺りの村が襲われているという連絡を受け、見回りしている者達だ!そちらは村長とお見受けした。…そちらは一体どなたかな?」

 

村長をチラッと見ると

「確か、王国の御前試合で優勝したとか。」

「本人ですか?」

「いえ、流石に顔までは見たことはございませんので…」

 

仕方ないか…と気持ちを切り替え、

「…自分の紹介くらいは自分でやろう。俺はルドウイーク、獣狩りを生業としている。この辺りには最近来たばかりでね。丁度その森から出てきた時にこの村が襲われていたので助けた者だ。」

「…なんと!本当に、本当に有り難う。我々では間に合わなかっただろう。何度でも言わせてくれ、本当に有り難う!」

 

ガゼフと言う男は馬から下り、ルドウイークの手を取り、礼を言ってくる。

 

(この男は…とても凄いな。自分の身分をかなぐり捨てて俺のような、よそ者に頭を下げて礼を言うとは。好感が持てる良いヤツだ。)

 

「いえ、こちらも一応、食事目当てで既に頂いてますから。それに困った時はお互い様ですよ!ストロノーフ殿。」

 

「食事に自らの命を掛けるとは…いや、腹が減っている者には明日の大金より今日の食事か。ははは!」

 

さっき自分が言った事をいわれ少し恥ずかしいと同時に、この男はやはり良いヤツだな。という思いを強くした。

 

「ふふふ、…その通りだ、ストロノーフ殿。襲撃者達は、捕虜を一名捉えて、後は皆殺しにした。数が多く、こちらに戦える人は俺だけだったからな。捕虜は一応、本当に一応、隊長格で、既に心はへし折ってある。何でも素直に答えると思う。あそこの納屋の中だ。」

そう言い切り納屋の方を向くルドウイーク、しかしその前に村の門の前に有る、とんでもない物が目に入った。

 

「了解した、おい誰「ああああー!!!灯りがあったーーーーー!!!!!」

 

門の前に、ポツンと灯りが、狩人の工房に帰る為の灯りが、とても不自然に生えていた。

 

 

 

 

 

 




タイトルに反して戦士長出番少なめ。

ひぇ

エモット夫妻が助かったのはエンリとネムを先に逃がし、ベリュース(バカ)がエモット父に反抗されなかった為、助かったという感じです。つまり獣の咆哮に驚いて外を見た為助かったという事です。ベリュースはエンリの顔をチラッとだけみて可愛かったので追っ手を出したのですが、ロンデスさんがせめてもの反抗で殺すように部下に命令しました。捕まっても碌な事にならないですしね。


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9話 月光の使い手

長い…長くない?


「どうし(まし)た!?ルドウイーク殿(様)!?」

 

村長とストロノーフはハモってそう聞いてきた。

 

「え?い、いや、それなんだが。」

灯りの方を指すルドウイーク。

(…おかしい、確かに灯りを見つけたのは嬉しいし、びっくりしたが、何で俺はあんな大声を?…いや、何だか灯りを見つけたら、『喜ばなければいけない』と思ったな、何でだ?)

 

「…いや、何だ?虫でいるのか?ルドウイーク殿。何も無いが。」

 

「え?いや…、そうです。今デカい蜂がブーンと」

(…まさか、俺にしか見えないのか!?いや考えても見ればそうか。こんな風に全く隠す気も無く各地に有れば、イタズラされたり、壊されたり面倒だものな。)

 

「…そうか。では、おい!その捕虜の所に行って尋問するぞ!どこの国、目的、洗いざらい吐かせる!ルドウイーク殿はどうする?」

 

「私も聞いても?」

 

「君が捕らえた捕虜だ、勿論いいとも。それに君が一緒なら、余計に怯えて喋ってくれそうだ!ははは!」

 

「そう言う事なら付き合いましょう。ですが、先に行って始めていて下さい。少し、外の風に当たって心を落ち着けてから行きます。」

 

「…、ああ分かった。では。」

 

ガゼフ達が去って行くのを見送り、灯りの所にいく。ガゼフが去り際に

「英雄殿も、蜂は怖いのか?気を落ち着ける程?…分からん物だな…ふふ。」

等と言っていたが聞こえていないフリをした。

(…さて、行ったか、取りあえず灯りを付けてみるか。)

 

灯りの目の前まで来ると、唐突に自分の頭の中に新しい情報が流れてくるような、何かが頭に新しく書き込まれたような幸福なような不快なような気持ち悪い感覚がルドウイークを襲う。

(…な!?なんだ!?何が…!)

 

確かめるべく、自分の内側に意識を向けるルドウイーク、するとさも当然のようにその情報が見つかる

『新しいスキルがアンロックされました!』

 

『狩人の灯り』

効果ー狩人の工房に帰る灯りを点ける事が出来ます。

アンロック条件、職業が獣狩りの狩人の状態で灯りに近づく

(…新しい情報だけど…もう知ってるよ…。)

なんなんだよ、と愚痴りながらいつも通りにパチンと指を弾くとポーンと音がし灯りがつく。

 

「…はぁ、やっと見つけたぞ。さて、一度工房に帰って……ん?」

 

何やら遠くに人影がチラホラ見える。

 

「…今日はこの村は千客万来だな。やれやれ。取りあえず灯りは点けたし、先にこちらをどうにかするか。」

 

そう一人ごち、ガゼフの所に向かう。

 

 

「おお!ルドウイーク殿、こいつらはバハルス帝国では無く、スレイン法国の者らしい!しかし、紐を外したいのだが、解けないのだ。固すぎてどうにもならん。」

見ると泣きながら紐を外してくれと、懇願しているベリュースがいた。

(…まあ、俺の力で無理矢理縛ったからなぁ。そろそろ外してやるか。)

紐を外しながらガゼフにさっきの事を報告する。

「そのスレイン法国の連中がまたお越しだ。人気者は辛いな。あなたを追っかけ回して居たようだぞ、ガゼフ殿。」

「何!?至急確認しろ!」

 

「村長殿…申し訳無いが、またあなたの家で村人を集め匿って貰っていいか?」

一日で何度村人は村長宅でかくれんぼしただろうか。

「いえ、すぐさま集めて、避難させます。」

「それとガゼフ達が来るときに村長宅の裏に隠していた賢王を呼んでもらえますか?」

 

「その必要は無いでござるよ!先程エンリ殿に殿の元に向かうよう言われ、この賢王、馳せ参じたでござるよ!」

 

「…。…そうか。では、お前は最終防衛ラインだ。村長宅の前を固め、我々以外は入れるな。いいな?」

 

余りのエンリの末恐ろしさに固まりながら賢王にそう指示をする。

 

 

その後は少しバタバタしたものの、村人を避難させ、ガゼフ達と一緒に村の出入り口から一番近い家の陰で話し合う。

 

「…居るな、マジックキャスターに天使か…厄介な奴らだ。」

(マジックキャスター…?魔法を使う?秘技のような物か?)

「…俺が居た所では秘技、いやマジックキャスターと壁役の前衛が揃った敵に、同数の戦士で挑むのは狂気の沙汰だったんだが…此方では違うのか?」

 

「いや、ここでも変わらん、狂気の沙汰だな。勝つ目はほぼ無いだろう。」 

「ふふ、はっきり言う、嘘でも勝つと言わないと出世出来ないぞ?」

 

「ははは!出世等とうに諦めた!いや出世等考えてもいなかった。そういう所が貴族に嫌われ今日に繋がったのだろうな。」

 

「…不器用なんだなぁ、で?どうする?」

 

「行くさ!我々は王の剣!勝つ目が無くとも王の民を守る為闘う!…ルドウイーク殿!」

 

ガシッと、両手で俺の肩を掴んでくるガゼフ。

 

「…ストロノーフ殿、いやガゼフ殿、気持ちは分かるが、俺は男色では無いぞ…」

 

「ふはは!私も違うさ!未だ妻が居ないせいでそんな陰口を貴族連中に叩かれる事も有るがな!ルドウイーク殿、我々が削れるだけ敵を削る。後は村人

を任せてもいいか?」

 

「…はぁ、全く不器用だ、本当に。呆れる程不器用だ。」

 

「何?」

 

「付いて来いと言ってくれるのを待ってたんだがなあ!…俺も行くぞ、ガゼフ!」

 

「しかし、…分かった。これで勝つ目が増えたよ。ルドウイーク殿!」

 

ガゼフは最初断ろうと思ったようだがルドウイークの目を見て諦めたようだった。

 

「…俺が行くんだ、負ける目なんて出させないさ。村人も守り、ガゼフ達も守る。両方成し遂げてみせるさ。」

 

小声で口に出し、決心を固める。

 

「どうした?ルドウイーク殿?」

「いや、何でも無いぞ。ガゼフ殿。」

 

 

「そういう事になった。まあ落ち着いて待っていてくれ、皆。」

 

「ルドウイーク様、行っちゃうの、死んじゃイヤだよ!」

 

「私も嫌です!」

 

「大丈夫さ。絶対に生きて帰ってくる。信じてくれ。」

 

村人達に説明するとエンリとネムが抱きついて泣きそうな顔で、ネムは泣いて引き止めて来た。

 

「…しょうがないな。ほらネム、これを預かって置いてくれ。無くすなよ。帰って来たら返して貰うから。」

 

「え?これなあに?」

 

「これはノコギリの狩人証と言ってな、狩人の証なんだ。大切な物だからな。頼むぞ!」

 

ノコギリの狩人証とはヤーナムで一番最初に手に入れる狩人証で狩人にとっては身分証のような物である。

 

「分かった!ちゃんと待ってる!」

 

「…いい子だ。ほら、エンリも。行ってくるからな。」

 

エンリの頭をぽんぽんと撫で、エンリを自分の体から離す。

「…分かりました。どうか、ご無事で!」

 

「ああ!では皆さん、行ってきます。賢王!後は任せたぞ!」

 

「合点承知!でござるよ!殿、ご武運を!」

 

村人に見送られ、ガゼフ達の元に向かう。

 

「来たか。では行くぞ!」

 

「ああ!ぶちのめそう!」

 

おおおおー!!!

 

 

「奴らの包囲を咬みちぎってやれ!行けえ!」

 

「馬鹿め!無策で突っ込んで来るとは。天使をストロノーフに集中させ近寄らせるな!ストロノーフ以外は脅威等皆無!」

その言葉にニヤリとわらうガゼフ。

「それはどうかな?」

 

「?はったりだ!やれ!」

 

その時、天使がガゼフに殺到した瞬間、天使の間を黒い何かが通り過ぎた。そして、

 

「なぁっ!?何が!?」

 

大量の天使達が光の粒子となり消滅した。

 

「…なんだ?天使と言うから少しは警戒して雷光のヤスリまで使ったのに必要無かったな…」

 

その言葉の聞こえた方角に目をやる敵部隊の隊長。

「なぁんだ!?貴様は、上位天使を破壊したのは貴様か!?」

敵部隊の隊長ニグンはそこに立つ男を見た。全身の見事な装束、右手には細いサーベル、左手には青い見事な盾を装備している。

(何者だ?あの上等な装束からして貴族?有り得ない。)

 

(一応、魔法対策として湖の盾を装備してきたが、これ盾としては3流も良いとこ何だよなぁ…、一応右手には咄嗟に銃を使えるようにレイテルパラッシュを装備してきたが。警戒いらなかったか。)

「くそ!ガゼフと奴にも天使を送れ!」

 

 

 

 

それから数分後、天使はいなくなっていた。

 

ガゼフ達は疲れたのか、座りこんでいるが、ルドウイークはまだ疲れ等感じ無かった。

 

「…有り得ない。ほとんどガゼフとお前に上位天使がやられる等、合ってはいけないんだ!監視の権天使《プリンシパリティ・オブ・ザベーション》かかれ!」

「…はいはい。ガゼフ、そこでちょこっと休んでてくれ。まだ奴らが遊び足りないようだ。」

「…ハァハァ…済まない、そうさせてもらう。」

 

高位天使が右手にメイスを持ち近づいて来ても余裕で後ろを向きガゼフと会話しているルドウイークを見て、ニグンは恐怖と怒りがない交ぜになった感情に襲われる。

「やれーー!!」

 

「…よっ!ほいっと!」

 

サイドステップで攻撃を避け、ステップ攻撃で攻撃する。高位天使も一撃で消えていく。

 

「有り得ない、有り得ない!」

因みに他のマジックキャスター達の低位の魔法は問題無く湖の盾で無効化できた。

 

「高位天使が一撃だと!」

「ニグン隊長!我々はどうすれば!」

「くそ!こうなったら時間を稼げ!最高位天使を召喚する!」

 

「ルドウイーク殿!阻止しなくては!」

 

「…、済まないガゼフ。最高位天使ってのを見てみたい。」

「…は?いや、え?」

「何とかするから許してくれ。」

「…え?…あぁ。分かった。もう好きにしてくれ。ははは…」

 

そんなやり取りをしてると

「見よ!!これが最高位天使の姿だ!ドミニオンオーソリティ!!」

 

「…デカくて、眩しいな。」

 

「ふふふふ、どこまでもなめ腐りやがって。すぐにお前等消し、すぐに、忘れ去ってやる!」

 

「はいはい。」

 

「ホーリースマイトを放て!!」

 

その言葉と共にドミニオンが持っていた笏が砕け散り魔法が発動する。

 

善なる極撃《ホーリースマイト》

 

光の柱が落ちてきた、そうとしか思えなかった。ゴシュウ!という音を立てて地面に着弾する!

 

「凄まじい!これほどとは!見ろ!光の柱の横に立つ男の服もあれほどはためいて……何ぃ!?外れた!?」

 

ルドウイークは何やら身構えるように、何かを警戒するように、平然とそこにいた。

 

「…何だ?連射はして来ないのか?」

 

…今何と言ったんだ、あの男は?第七位階、神の領域の魔法を連射だと?

 

「馬鹿者お!!連射だと?何を言っているんだ!」

 

「…そうか。なら終わりにしようか。」

 

その言葉にゾクッとするニグン、

(…いやそもそも何でホーリースマイトが当たらなかった!避けたのか?)

 

「貴様、何故魔法が当たらなかった?」

 

「そりゃ、避けたからな。あの程度見慣れた物だぞ。」

 

は?いや、こいつの言っている事は強がりだ!そうに決まってる!恐らく命からがら飛び退いたんだ!

そう思い込み、折れそうな心を支えるニグン。

「次は外さん!」

 

「だから外したんじゃなくて、避けたんだ。…まあいい此方もとっておきを出すとするか。」

 

そう思い、インベントリから《月光の聖剣》を取り出す。そして、柄にてを掛けた瞬間、またあの不快なような、幸福なような自分の中に新しい情報が書き込まれるような感覚が襲ってきた。

 

『新しいスキルがアンロックされました!』

 

真の月光の使い手

 

効果ー聖剣のルドウイークと遜色ない、使い手の名に恥じない一撃を放てる

アンロック条件 職業、月光の使い手LV5の状態で月光の聖剣を装備する。

 

 

このスキルはユグドラシルでも、当然、スキルの無いbloodborneでも有り得ないスキルだ。もしユグドラシルプレーヤーがこの職業等を見たら皆が知らないと言うだろう。これはスキルを持たない、システムの全く違う狩人をこの世界に招くための、摺り合わせで幾つかのスキルを狩人に組み込んだのだ。そしてルドウイークと名を替えたこの狩人に対する、この世界と、ゲールマンからのささやかな贈り物だった。

 

 

 

(こんな《力》は今まで無かった…なのに不思議だ。自分の中に意識を傾けると分かる。どういう事が出来るか。これなら、やれる!ここなら周りの『被害』も気にせず試せる!)

 

「はっはっは!何を取り出すやらと思えば随分みすぼらしい剣だな! 」

その言葉で現実に引き戻されるルドウイーク。

 

「ほう、そのみすぼらしい剣の力、目に焼き付けろ!」

 

「こちらが先だぁ!ホーリースマイトを放てぇ!」

 

再び放たれる光の柱!しかしー

 

「くそっ!ちょこまかと!」

 

それを避けつつ位置を調整する。そう、自分と、最高位天使の直線上に誰も入らないように。勿論カルネ村も入らないように。

丁度両軍の間、真ん中辺りに立ち、月光の聖剣に力を注ぎ込んだルドウイーク。

ニグンとガゼフは見た。彼が手をかざした瞬間、みすぼらしかった剣は、光を放つ聖剣に変わっていた。

 

「…なん…だと?」

「あれは、凄まじい魔力の剣か!?」

 

ルドウイークは剣を顔の前に掲げ、意識を集中する。

ニグンとガゼフは見た、彼を中心に魔力が天に向かって立ち上って行くのを!

 

(…不思議な感覚だ。そう言えば、この剣を使うときに言わなければいけないことが有ったような…ん?…はっ!?)

 

ルドウイークは思い当たる、灯りを発見したときも今も、もしかして俺を通してプレイヤーが言っていた事なんじゃないかと。

 

(なる程な。しかしこの剣には《詠唱》なんて必要無いぞ…プレイヤー殿。いや、願掛けみたいな物か、ふふ!面白い!乗ってやるか!)

 

ニグンとガゼフは見た。その立ち上る魔力の中心で詠唱を始める、ルドウイークを!

 

『束ねるは星の息吹!輝ける命の奔流!そして、微かな月の明かり!!』

 

そこまで唱えるとルドウイークは《月光の聖剣》を振りかぶる!

 

ニグンとガゼフは見た!立ち上っていた魔力が全て剣の周りに集まり魔力の渦となっていくのを!

 

「受けるがいい!!ムーンライト・ソーーーードっ!!!!!」

 

 

瞬間、光と凄まじい音が辺りを飲み込んだ。

 

 

ニグンとガゼフは国は違えど、両者とも1部隊を預かる実力者である。その二名が余りの光に目をつむり、そして開けたとき見た物は、信じられない光景だった。

 

ルドウイークが剣を振り下ろした格好で止まり、最高位天使は光の粒子になり消滅していく所だった。そして視線を下に向けると、ルドウイークを出発点として、直径1メートル大に地面が丸く抉れ、煙が立ち上っている。それが恐らく1~2㎞程続いていた。

 

「なんと…遥かに強者だとわかってはいたが…ここまでとは。」

 

「…あなた様は神だ…それ以外は有り得ません…」

 

すっかり、戦意を消失したニグンの元に歩いていくルドウイーク。彼の前に着くと

 

「っひぃ!も、申し訳有りませんでした!」

 

「…お前の名前は?」

 

「ニグン、ニグン・グリッド・イールンでございます!」

 

「ニグン殿、覚えておけ。」

 

「はい!!…何をでしょうか?」

 

 

 

 

 

「貴公にとっては、みすぼらしいこの剣は、私が振るえば、《勝利を約束された剣》だったことを!」




最後のは誤字じゃ無いです^_^;


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9.5話 戦後処理

この話は前の話をあそこで締めたかったのでぶった切った説明やらの部分です。短いです。
前の話でも有りましたけど、パロディ的なセリフが今後出てくると思うのでタグに追加しときます。


「勝利を約束された…剣ですか…?」

 

「ああ、今ので大体、7割程度の威力といった所だな。」

「なんと…まだ全力では無いと…」

 

月光の聖剣は溜め攻撃で光波を撃つ事は、bloodborneの時から出来たのだが、DLCの最初のボスで月光の聖剣の入手先でもある、ルドウイークの物より大分大人しめな技に調整されていた。実際、bloodborneというゲームの世界観にはその程度が丁度良い調整であるとも思える。

しかし、新しく追加されたスキル、《真の月光の使い手》ではそのボスであるルドウイークの使う大技を水銀弾の大量消費で使用する事を可能にするスキルであった。

(…そもそも、スキルってのは何だ?まあ便利だからいいが。それより、10~100発の任意弾数分の消費か。これ自体、基本20発しか持てなかったヤーナムの時では有り得ない。此方の世界専用の能力だな。)

先程のムーンライトソードは70発使用した威力。これが100発の時と、どれだけ違うかは流石に実験は無理だろう、今目の前の惨状がそれを物語っていた。

「…では、降参という事でいいか?ちなみに聞きたいんだが、今日ここに来たのは、国の命令だよな?ニグン殿?」

 

「はい、降参致します。我々の負けです。質問の答えはその通りでございます。」

 

「ふむ、ガゼフ殿?」

 

「何だろう?ルドウイーク殿。」

 

「今日の所はあなた方の命を救ったという事で、手打ちにしないか?このままニグン殿達には一旦国に帰ってもらいたいのだが。」

 

「な!何故!?」

 

「先程言ったように俺は最近この辺りに来たばかりだ。まだ王国に完全に肩入れした訳じゃない。今回はガゼフ殿の事を死なせたくないから助けた。これで彼らを捕らえたり殺せば、もうスレイン法国とは完全に敵対するだろうからな。どうだろうか?」

 

「…ふ、あなたがそこに立つなら我々は何も出来んな。」

 

「戦士長!?いいのですか!?」

 

「彼が立っている場所をよく見ろ!」

 

ルドウイークは両軍の間に引かれた線、ムーンライトソードの爪痕の向こう側に立っていた。引かないなら彼ら側で闘うという意味だろう。

 

「な…!?」

 

「ありがとう。理解頂けたようで何よりだ。だが、ニグン殿、条件がある。」

 

「な、なんなりと!」

 

「実行犯である騎士たちはほとんど死に、一人はこのままガゼフ殿に連れて行ってもらう。しかし、それでスレイン法国の罪は消えたとは思えない。だから、あなた方には金という一番分かりやすい形であの村に賠償してほしい。どうだ?」

 

「畏まりました。直ぐに国に帰り金を持ち、帰ってきます!!」

 

「ああ。来なかったら…此方から取り立てに行こう。」

 

「は!各員全速力で国に帰るぞ!二週間、いえ一週間程お待ち下さい!」

 

「了解した。気をつけてな。」

 

ニグン達を見送り、ガゼフ達を聖歌の鐘で回復してやり、村に帰る。

 

「…済まなかったな、奴らを帰して。」

 

「いや、あなたの言うことも最もだ。それに先程の賠償という事後処理がこの村に取って一番益があるだろう。」

 

「ああ。そう言ってくれると助かるよ。其方はこれからどうする?」

 

「今晩はこの村に泊まり、明日王国に出立する。貴方は?」

 

「一週間、ニグン達を待ち、その間に身の振り方を考えるよ。」

 

立ち止まり少し考えるように話すガゼフ

「…出来れば王国で冒険者をやって欲しい物だ。一週間か、では我々も貴方に対する礼とこの村に援助を出してもらえるよう、国に頼んで戻ってこよう!」

 

「そうか…いや、冒険者とは?」

 

「金で仕事を受け、モンスターを退治する。まあ、対モンスターの傭兵のような物だな。しかし、最高位ともなれば貴族と同格に並び評される存在だ。それに、貴方は獣狩り、腕もいい、最適だと思うが。」

 

「…エランテルでも冒険者になれるのか?」

 

「ああ。エランテルにも冒険者組合は有るぞ。しかし、何故エランテルなんだ?」

 

「ここから近い!」

 

「なる程な!ははは。なら、また来るときには推薦状をしたためて来るとしよう。では今日は村の寄り合い所で休むとする、お休みルドウイーク殿。」

 

「ああ、お休み。ガゼフ殿。」

 

そこでガゼフを見送り、しかしルドウイークはまた村の出入り口に踵を返す。

 

「…俺の夢の世界はこっちなんだよなぁ。ああ、水盆の使者はいるのかな…、そして水銀弾買えるかな。大盤振る舞いし過ぎた…くそぉ、買えなかったらどうしよう…」

 

灯りを見つけた事で気がゆるみ、つい使いすぎたことに後悔しながら灯りに向かうルドウイークだった。




ちなみに、攻勢防壁や監視阻害のスキルやアイテムなんぞ持っていないので戦闘中にスレイン法国に全部覗かれていました。


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10話 狩人の夢

今回は短め。ブラボのかぼたんこと、人形は、可愛い。


ルドウイークはガゼフと別れ灯りの前に来た。来たはいいのだが

「…大丈夫なのか?本当に帰れるんだろうな?」

 

と不安になり灯りの回りにいる使者達に聞いてみるが、当然返事は無い。元々コミュニケーションが取れる相手でないし、期待してはいなかったが。

 

「…まあ、行くしかないか…よし。」

 

と覚悟を決めて手を灯りにかざす。すると遠くから、

 

『ガゼフさん!ルドウイーク様はどうしたんですか!?なんで1人で帰って来ちゃったんですか!!』

 

とエモット姉妹の元気な声が聞こえてきた。

 

「…やっべぇ!まだ無事を伝えて無かった…先にエンリ達に…!?」

 

そこまで言った所でスゥーっと景色が薄くなり、(あっ。)と思った時には見慣れた光景が眼前に広がっていた。

 

「お帰りなさいませ。そしてお久しぶりです。ルドウイーク様。」

 

「…ああ、ただいま。人形。しかし…本当に帰って来れるとは、本当にこの世界はどうなっているんだ…?」

 

「そのご説明を致しましょうか?」

 

「え?出来るのか?」

 

「はい。ゲールマン様がいらっしゃらない今、狩人の夢の助言者の役割は私に移行しました。普く世界の意志を、貴方にお伝えしましょう。」

 

「…!是非お願いしよう。」

 

あんな爺より、人形とは言え美人にヒントを貰った方がやる気も出るよな、等と思いながら、そう返事をした。

 

 

人形からの説明を掻い摘まむと、

元々、この世界では、人間は食物連鎖でいえば草食動物等と同じ、かなり低位の存在だった。しかし、過去に数多くのプレイヤーという存在がこの世界に転位し、人間を救ったのだという。そのプレイヤーの中にはルドウイークに言わせると「クズで救いようがない」と言えるプレイヤーもいたが、中には「凄い人達だ」と思う存在もいた。しかし、今現在はそのプレイヤーという神の力を持つ物達の世界が崩壊し、来訪者は消えた。しかし、彼等の残した遺産は数多く残っており、ルドウイークを呼んだのもその残した遺産の力が働いたのだという。

ちなみにそのプレイヤー達の神の世界はルドウイークの創造主であるプレイヤーの世界とは別の世界だという。だから安心して下さい、と。

別に俺は自分の創造主の心配なんかしていない!と若干ツンデレっぽい事を思いつつルドウイークは気になった事を聞く。

 

「…しかし、なんで君がそれを知っている?」

 

「この『狩人の工房』、それ自体がその神の遺産により形作られているからです。この狩人の工房は貴方に必要な物。しかし、この世界に呼ばれたのは貴方だけ。それでは貴方は闘えません。貴方をこの世界に呼んだのは複数の神の遺産の力なのです。その神の遺産に願いを頼んだ方はこう願ったのです。『永遠に血に狂った獣を狩る狩人をこの世界に』と。頼まれた神の遺産は困りました、神々の世界は崩壊し、神は呼べません。別の世界から狩人を呼ぶのには自分の力では足りないのです。しかし、その神の遺産のすぐ近くに『世界の仕組みを変えてしまう程の』神の遺産が偶然にも揃っていたのです。両者は力を揃え狩人を呼ぶ事にしました。最後の所持者、哀れな老婆の只一つの願いの為に。」

 

そこまで一気に話す人形、ルドウイークは途中から絶句し、何も言葉を挟め無かった。そして恐らく、神の遺産、あくまで人では無く『物』をまるで意志の有る人間のように話すのは、自分と同じ『物』に感情移入しているのだろう。

 

「そして、貴方の力を万全に、十二分に発揮するため、この狩人の夢、工房、そしてあの使者の方々もこの世界に招かれたのです。私には貴方への説明役も兼ねて。」

 

もしユグドラシルプレイヤーがこの話を聞いたら、まず間違いなく、絶対に、口を合わせてこういうだろう。

 

ぎゃああああ!!!!勿体無えええええええ!!!!!

 

と。『世界の仕組みを変えてしまう程の』アイテムなど間違いなくワールドアイテムしかなく、下手をすれば二十の内のいずれか、だと思われる。

しかし、ルドウイークにはそんな事知る由も無く、

「…なる程…凄まじい話だな。俺は託されたのか。」

と言うのが精一杯だった。

 

「はい。貴方にはこの世界でも、血に狂った獣達を狩っていただきます。そして、それが一番、貴方の為になります。」

 

「だな。結局俺にはそれしか出来ない、さもなきゃどこかの国の軍隊で大量殺人の英雄だ。やはり俺はどこかの国の軍隊より、冒険者になった方が良いようだ。」

 

「私もそう思います。そしてこの工房に帰る為の灯りは、貴方に必要の有る場所に灯っているはずです。」

 

「…そいつはご丁寧に…随分と俺に都合の良い世界だ事で。」

 

と肩をすくめ冗談めかして答えると

 

「はい。この世界は貴方に都合の良い世界に作り替えられたのです。」

 

と、とても怖い返し方をされ、再び絶句するルドウイーク。

 

(…可愛い顔してさらっと怖い事言うな。悪気は全く無いんだろうが…無いんだよな?)

「説明は以上です。質問は有りますか?」

「…ん?今は思い浮かばないな。何か有ればその時に頼もう。…とりあえずこの世界でも宜しくな。人形。」

「はい。此方こそ宜しくお願いします。」

ニコリと。そうとても美しい笑顔で返事をされドキッとしたのは表に出すのをなんとか我慢する。

本当はかなり気になるキーワードである『永遠』や『スキル』等、質問するべき事が有ったのだが他にも凄い話ばかりで、頭から完全に抜けてしまっていた。

 

「…さて、やるべき事をやって早くエモット姉妹を安心させよう…ん?そう言えばここに来てる時外はどうなっているんだ?」

 

「外の時間は止まっています。あくまでここは外から隔離された場所。あくまでここは夢の世界。気になさる必要は有りません。」

 

「ああ、そうですか…ははは…それは都合が良いなぁ…」

(どこまで!どこまで俺に都合の良い世界なんだ!ヤバい!プレッシャーが半端じゃ無いんだがっ!!)

 

と、やりとりをしつつ、やりたかった事をやり始める。まずは所持品だ、とにかく保管箱の中身が手持ちの、所持品に突っ込まれていた為、必要な物とそうでないものを、徹底的に分ける。

 

「…これもゴミ、こんなゴミ血晶いらん、HPマイナスとかゴミの中のゴミ!」

という具合で。そうしてやっていると

「…ん?狩人の徴が無い?確かな徴も?」

狩人の徴は血の意志(経験値)を失う事で灯りの場所に転位するもので無限に使用できる、確かな徴は一回につき一つと回数制限が有るが血の意志を失わないというアイテムだった。

「問題有りません。ルドウイーク様、狩人の徴は無くなってはおりません、貴方の中に確かに有りますから。」

 

「人形、分かった。君が言うんなら大丈夫だな。」

 

「はい。大丈夫です。ルドウイーク様。」

 

(…え?どういう意味だ?俺の中には?貴方は徴なんて無くてもちゃんと狩人ですよ、という事か?…まあいいか、1人で戦うならまだしも、この世界では他の人間も共に戦う事も有るだろう。一人で転位して避難しても周りは置き去り、では意味が無いしな。)

 

そう納得し、所持品の整理を終えると今度は持てるだけの消耗品を買いに使者の所に足を向ける。

 

ルドウイークは勘違いしていた。狩人の徴の本当の能力を。ワープ、転位等するものでは無く、その真の能力は、灯りで目覚めてから使った時点までの全ての事を夢にして、再び灯りで目覚めをやり直すアイテムだった。

 

「よーし、これで大体買い物は終わったか。んー?あれ?何でこんなゴミアイテムの所持数が増えてるんだ?」

 

輝く硬貨、それはヤーナムでは地面に撒いて道しるべぐらいでしか使い道が無いアイテムだった。それが今までは所持品99、保管箱99。それが限界だったはずなのに今では相当な量、他のアイテムとは別枠でインベントリに入れるスペースが有った。

 

「…これ、今気づいたが金貨…なのか?これが使えれば外では金に困らないな。帰ったら村長に聞いてみよう。」

 

「今日はこのあとどうされるのですか?」

 

「とりあえず武器の修理もしたし、現実に帰って向こうで休むさ。というか、ここに俺がいたら向こうの時間が進まないんだろ?」

 

「…そうですね、その通りです。また来てくれますか?」

 

「ああ、勿論。」

(…え?今残念そうにしてなかったか!?これは…!いや、気のせいだ、気のせい!)

 

「じゃあな、人形!…に使者!行ってくる!」

 

「はい。行ってらっしゃいませ!ルドウイーク様!」

 

 

そうして、現実に戻り、エモット姉妹に、『心配してたのに!!』とめちゃめちゃ怒られたルドウイークだった。

 




次の話でカルネ村にサヨナラバイバイ!出来そう…いやする!
ここまで書いて、0話に伏線を確認しに行った所…無かった。書いて無かった…orz
恥ずかしい!…やっぱり初小説で伏線張ろうと言うのが背伸びし過ぎました…なので一応書き足しました。


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11話 貰った物

それからの一週間はまさに平和そのものだった。

 

 

ガゼフ達が翌朝出発する時間になり、村長とルドウイークで見送りに出る。

 

「村長殿、役に立てず申し訳無かった。そしてルドウイーク殿、本当に世話になった。部下に死者を出さず戻れるのはあなたのお陰だ。本当に有り難う」

 

「ガゼフ様、そんな事はございません。本当に来てくれただけでも、我々に取っては希望でした。」

 

「そういう事だ、ガゼフ殿。あまり卑下するのは良くないぞ。そんな厳つい顔をして。」

 

「はっはっは!本当にルドウイーク殿には適わんな!…では、ルドウイーク殿への礼とエランテルの冒険者組合への推薦状、そしてこの村への支援、それを持ってまた帰って来る。しばし待っていてくれ。」

「有り難う御座います。」

「…俺への礼等いらんと言うのに。ま、気をつけてな。」

 

そうして手を振り彼は去っていった。

(…本当にまっすぐで頑固な良い奴だ。これからも仲良くやっていきたい物だな。)

 

そして村長に一週間滞在のお願いをすると、村人達はとても快く歓迎してくれた。

その日からカルネ村の周りを囲む柵を作ったり、村の人達と寝食を共にし、平穏な生活をしていく中で、ルドウイークは意外とこんな生活も悪く無いと思っていた。

ちなみに柵作りの時に回転ノコギリを使った所、森の賢王は余程恐かったのかプルプル震えていた。

 

「ルドウイークさん、今日の夕御飯はシチューですよ!私が作ったんです!」

「私も手伝ったー!」

 

「そりゃ楽しみだな!エンリの料理はなかなかだからな。それにネムも手伝ったんならマズい訳ないな!」

 

(…こういうのは、何て言うんだろうな。……そうか、これが幸せなのか、誰かと過ごすと言うのは。孤独も寒さも感じない。本当に何というか幸せな……しかし…)

 

そうして行く中で、まずはガゼフ達が戻ってきた。

村への支援、金や衣類、様々な物資、そして何より他の村からの移住の希望者がこの村には有り難かった。彼らも騎士たちに襲われ、命からがら逃げ延びたのだという。人材は他には変えられない物だ。特に村という小さな集団では。

 

「そして、これが貴方への謝礼、冒険者組合への推薦状だ。しかし、凄いな。我々が去ってかなり早く帰って来たと思ったのに、かなり頑丈そうな柵が出来ているとは。ルドウイーク殿だけで作ったのか?」

 

「いや、まさか。村人達全員で取り組んだんだ。あんな事が二度と無いように。そして、有った時に何とか出来るようにな。」

 

「…なる程な。全くだ。我々もしっかりしなければな!」

 

「…ああ。今後も宜しくな!ガゼフ殿。」

「此方こそ宜しく頼む。では、我々は急ぎ王の元に帰参する、忙しなくてすまない。」

「構わないさ。では、また会おう!」

「うむ!」

 

そう約束をし、二度目のガゼフの見送りを済ませた。

 

その翌日、今度はニグン達が戻って来た。予定より1日早く、かなりの強行軍だったらしい。かなり疲労困憊だった。ルドウイークが少し罪悪感を、感じる程に。

 

「只今、はあはあ、戻りました!ルドウイーク様!」

 

「…あ、ああ。お疲れだったな。ニグン殿、大丈夫か?」

 

「問題など何もございません!そして此方があの村への、はあはあ、賠償金となっております!はあ、どうぞお納め下さい!」

 

途中で息切れを挟む為、頭の中に言葉がすんなり入って来ないルドウイークだったが、その金貨?を入れているには余りにも大きい袋を受け取る。

 

(重っ!え?これ全部金貨か!?いや、宝石とかも入っているな…)

 

「…これか?何というか…これでいいのか?」

 

村の中だったらそんな事言えなかったが幸いここは村の外、流石に両者を会わせるのはどうかと思ったので外で第三者であるルドウイークが面会する事にしたのだ。

貰い過ぎじゃないの?大丈夫なの?という意味でそう聞いてみた。

しかし

「それで、足りないので有れば、すぐに!ぐっ、はあはあ、国に戻り取って参ります!!」

 

「いや、これでいいで…これで十分だ!とてもお疲れだろう。無理はするな。」

 

「…ああ!何というお言葉!!勿体ないお言葉!!有り難き幸せに御座います!!」

 

ルドウイークは確信した。

 

(…うん、こいつどっかおかしいわ。前に会った時はこんなんじゃ無かったもん。)

と。そして少し怖くなって来たので、

 

「ではな!またいつか会おう!」

 

といって面会を打ち切ろうとしたのだが、「ぅぉお待ちをぉ!!!」っと食い気味に言葉を被せられ、ビクッとなりながらも

「な、なんでしょう?ニグン殿」

と平静を装い問いかける。

「スレイン法国の代表として、お願いしたい義があります!!」

「え?ああ。」

 

ルドウイークは考える、どのような願いかを。スレイン法国は人間の為に戦っているらしい。ならば

(ははーん、どっかに手に負えないモンスターでもいるのか?共に戦ってくれ、という願いか。うーん、どうするか?とりあえず聞いてから考えるか)

「願いとは?」

 

しかしスレイン法国は予想の斜め上の願いを持ってきた。

 

「我々スレイン法国の神となって下さい!!!」

 

「…。」

(…かみ?髪?紙?)

とルドウイークは現実逃避してみるが、この言いようからしてなんの『かみ』であるかはすぐに分かっていた。

「神様?」

 

「はい!貴方程の力、神に間違いございません!我々は国に戻り、国の最高責任者である、神官長より託されました!神になって下さるよう願いをきいて頂いてくれと!」

 

…ダメだ。国のトップが頭おかしいとか、怖すぎる。

想像してほしい、大の成人男性が何人も『神になってくれ』と自分に向かって土下座をしてくる光景を。ルドウイークにとってはなかなかの恐怖の光景だった。

(何でこいつらは戦った時には全く無かったプレッシャーを今は出せるの?戦ってる時にもそのプレッシャーで威嚇してれば、ほーりーすまいと?だって当たったかも知れないのに…)

 

「…まず第一に俺は神では無い。それでもし、もしだぞ?俺が神になって、何をしろと?」

 

「我々人類をお救い下さい!」

 

(…え?それだけ?)

待っていてもそれ以上ニグンは何も言ってくれなかったので、

「それだけか?」

と聞いてみる。

「それ以上を我々は望みません!」

 

「ふ、そんな簡単な事か。なら…」

 

ニグン達の顔には笑顔が浮かぶ。しかし

 

「なら断固辞退しよう。そんなもの神で無くとも出来るからな。」

 

愕然とするニグン達。顔が青く変色している。

「まあ聞いてくれ、困っている人達がいるなら手を貸そう。そして俺が本当に手を貸している人間だというのは、君達なら理解出来るよな?」

 

「…はい。」

 

「実はな、俺は今後、エランテルで冒険者をやろうと思っている。だからもし君達が困った時は俺宛に依頼を出せばいい。どうだ?」

 

「…宜しいのですか?我々にも手を貸して下さるのですか?」

 

「ああ。だが依頼内容次第だ、国を滅ぼせだの、誰かを殺せだの、そんな仕事は受けんぞ。そしてもし、組合という公式な場所を通せない依頼も、一応聞くだけは聞こう。もしかしたら、俺に取って公式な依頼より有用な依頼かもしれないしな。一応これは、君達スレイン法国が本気で人類を救いたいという気持ちが有ると信じたからだからな。変な依頼を出して俺を失望させるなよ?」

 

「ははぁーー!!」

 

あと、その態度と話し方はエランテルでは絶対しないでね?等の約束をし、ニグン達と別れた。

 

そして村に戻り巨大な袋の中身を村長に見せると、村長は余りの金額にひっくり返った。

 

 

その晩、ルドウイークは村人達を広場に集め今後の予定を発表する事にした。

「明日エランテルに発とうと思う。」

 

「…。ホントに行っちゃうの?」

「ルドウイークさん、この村でずっと暮らしませんか?あなたなら大歓迎です。」

その言葉にそうだ、そうだ、と皆が同意している。ルドウイークも若干目頭が熱くなるのを感じる、しかし…

 

「皆の気持ちは嬉しいし、本当に、本当にこの村での暮らしは幸せだった。生まれて初めての幸せだった。でも、ダメなんだ。」

シーンとなる村の広場。

 

「俺は託されたんだ、この世界に。使命が有るんだ。この世界を少しでも、良い方に向かうように、悲しみを減らすように、そんな漠然で曖昧な使命だけど。」

見ると、ネムは顔がくちゃくちゃになっていた。エンリは下を向いている。

「賢王。」

「はいでござる。」

賢王らしくない、あまり元気の無い返事だった。何を言われるか分かっているのかも知れない。

「命令じゃなく、友人としてのお願いだ。この村に残り、この村を守ってくれ。頼む!」

「おぉ、殿!某を友人と!某は嬉しいでござる!」

 

「この村には俺はとても大事な物を沢山貰ったんだ。この一週間は俺の宝物だよ。なあエンリ、ネム。」

 

「「…はい。」」

 

「賢王を頼む、そいつも今まで俺と一緒で一人ぼっちだったんだ。どんなに強くても、どんな種族でも、一人ぼっちは辛いんだ。お願い出来るか?」

 

「…勿論です。賢王様は今では私達も友達ですから。」

「私も出来るよ!」

 

「有り難う。そして賢王、お前を友達と呼ぶ、彼女達の住むこの村を、守ってくれ。」

賢王は泣きながらブンブン頭を振り、

「主人の帰る場所を守るのも家臣の勤め!任されたでござる!」

そう力強く約束してくれた。

 

 

 

 

そして夜が明け、出発の時

 

行ってらっしゃい!!!!

 

さよならではなく、そう言われ、ルドウイークはエランテルに向けて歩きだした。

 

 











カルネ村に、サヨナラバイバイ!
でも灯りが有るからすぐ帰って来れちゃうのは内緒…


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冒険者
12話 冒険者


冒険者組合にはその日、珍しく大勢の冒険者達が詰めていた。別に何が有るわけでも無く、たまたま仕事の合間という物がかち合っただけなのだが、低位からエランテルでは最高位のミスリルプレートまで揃うというのは余り無い珍しい光景だ。その冒険者組合では、滅多に会わない他のチームの冒険者同士で談笑するもの、情報交換するもの、我関せずのもの等、色々な光景が広がっていた。

 

そんな冒険者組合に、とある男が入って来たのは昼というには、やや早い10時半程の事だった。

その男を見た冒険者達の反応は大体、低位、中位、高位と三つに分けられる。低位のものは、立派な服だな。とか俺もいつかあんな格好してみたいな。などの比較的可愛らしいものだ。中位のものの反応は、一言でいうなら嫉妬。その男にではなく、自分たちより高位の冒険者達に対するもの。あいつらさえ居なければ自分たちがこの貴族の依頼を受けられたのに。というものだ。

そして高位、彼等は既に自分たちをどう売り込むか、この依頼の報酬で何をするか、という捕らぬ狸の皮算用というのが相応しい反応だった。というのも、この入って来た男は立派な、というにはいささか足りない程の、見事な装束を着込んでおり、帽子の下から見える顔は若い。つまり、若い金持ち貴族だ、という結論だった。若い金持ち貴族は大体、見栄っ張りであり、他の貴族に笑われないよう、非常に金払いがいい、それでいてそこまで危険な場所にはいかない、稼げる美味しい仕事なのだ。

そんな貴族が冒険者組合に来るのは大体が依頼をするためで、一割程度がそれ以外の、彼等冒険者からすると、非常に嫌な来訪理由の可能性も有る。しかし、この貴族は武器を持っておらず、これも見事な、というだけでは足りない程の杖をついており、その嫌な理由ではないと思われた。

 

「いらっしゃいませ、仕事のご依頼ですか?」

しかし、彼等の目論見は次の一言で完璧に打ち砕かれる。

 

「いや、冒険者になりに来た。」

 

その一言で、ザワリと揺らぐ冒険者組合、そして、ひそひそ話が始まる。

 

「どーせ、王都の赤いのか、青いのの話に憧れて来たんだぜ。」

「違いねぇ。すぐに嫌になって帰るだろう。あーあ、何買うか考えてたのになぁー。」

「俺らには回って来ねえって、ははは。」

 

等の諦め半分、呆れ半分といった反応がほとんどだ。いや、全部と言っていい。一名を除いて。

 

「…おい。お前ぇ、冒険者舐めてんだろ。」

ガタンと椅子を倒しながら立ち上がったのは、冒険者チームクラルグラのリーダー、イグヴァルジだった。

それにつられ、冒険者全員がさっきの男を見ると

 

「いや一人です、ええ、説明を?是非お願いします。」

 

その貴族風の男は、聞こえていないのか、わざとなのか、手帳のようなものを取り出し、受付と話し続けていた。

 

「…てんめぇ…!おい!」

 

「…。ほう、最高位がアダマンタイトか。なる程。」

 

「無視してんじゃねーーー!!!」

ついに大声を出すイグヴァルジ。やっとその男が振り向く。

 

「…?さっきから…ん?もしかして俺に言ってたのか?」

 

キョロキョロと回りを見回しながら心底不思議そうに言う男。

「…お前ぇ以外に誰がいるってんだ!ええ!?」

 

「はぁ、何をそんなに怒っているのかな?先輩殿?」

 

「お前、冒険者舐めてんだろ?そんな格好で、武器も持たず、たった一人で冒険者に、なりたいだ?そういうのが一番嫌いなんだよ、俺は!!」

 

「はぁ。ん!なる程!」

 

そう言うなり、また振り返り受付の方をむき、

 

「これは何かのテストだろう?冒険者入門か何かの。」

 

「ええ!?いや、あの、ははは。」

 

と苦笑いで答える受付。

 

「いや、受付さんも当然仕掛け役側か、教えてくれる訳ないな、すまない。」

 

またイグヴァルジの方へ向き直るその男、イグヴァルジはもう青筋で顔が埋まりそうだった。

 

「てんめぇ…この、くそ、ぐ!くぅ!」

とイライラし過ぎて言葉を忘れているようなイグヴァルジにさらに油を注ぐ男。

「で?どうすればいい?貴方をぶちのめせばいいのか?」

 

その言葉を脳に染み込ませるのにたっぷり10秒程沈黙し、

 

「はあーーーーー!!??」

 

と声を裏返して絶叫するイグヴァルジ。

 

「ちょ、おま、お前このプレートが何のプレートが分かるか?」

 

「…学科も試験するのか…それは確かミスリルプレートだな。どうだ?」

 

「そうだ!このエランテルで最高位のプレートだ!!」

 

「いや最高位はアダマンタイトだろう、さっき習ったんだ。それにミスリルとの間にオリハルコンが有るはずだ!」

と、もうクイズ感覚で答える男。

「ふー!何で、くぅぅー!!!このエランテルにはミスリルまでしかいねえんだよ!!分かるか!?つまり、このエランテルで最高位のプレートを持つ冒険者をお前はぶちのめすと言ったんだぞ!?出来ると思ってんのか!?」

 

そうまくしたてるイグヴァルジに、男は酷く冷酷に、冷静に告げる。

 

「出来るだろ。」

 

と。

 

「…はぁ?…お前はもう許さねぇ、叩きのめして叩き出してやる!」

 

「…そうか、なら、」

 

「やってやらぁーーー!!!!」

 

と、男の言葉を遮り思い切り右手で殴りつけようとするイグヴァルジ、しかしー

 

パーン、という音と共に、イグヴァルジの右手が男の左手に弾かれる。

 

ガントレットを嵌めた全力のパンチを、素手でパリィされ、棒立ちのイグヴァルジの胸元に、男は右手をすっと、回りの冒険者曰く、手が霞んで見えた。という程の張り手が入る。

 

バチーンという破裂音と共に、組合の出入り口に向かい吹き飛ぶイグヴァルジ、出入り口の扉を突き破り、そこでやっと停止した。

冒険者達がどよめき、外からは悲鳴が上がる。

 

その貴族風の男、ルドウイークはこう思った。

(…どうしてこうなった…。え?俺が悪いのか?)

 

 

 

ルドウイークは軽く押して尻餅を付かせれば実力差を理解してくれるかな?程度にしか考えていなかった。しかし、やはり何時もの銃や先触れパリィと左手での払いのけパリィという違いは有るが、パリィしたあとの内蔵攻撃という、一連の流れが体に染み込み過ぎているのだろう。手加減してポンと押して尻餅を付かせるつもりが、ポンと言う音はバチーンという、重い破裂音に変わり、尻餅をつくはずのイグヴァルジは、気づけば「かひゅう!」という肺の中の空気を吐き出す声と共に出入り口の扉を突き破り消えて行った。ようは、手加減が全く足りなかった。

 

「…、え、えっと、君達は彼の冒険者仲間かな?」

 

と、とりあえずさっきのイグヴァルジという男が倒したらしき椅子のあるテーブルに腰掛けていた、他の冒険者に、声をかけてみる。

 

「え、あ、あ、はい。」

 

(…これは完全に怯えられてないか?不味いな、ネムに他の冒険者と仲良くしろと言われていたのに…)

 

「んん!あー彼の介抱を頼んでもいいだろうか?」

 

「も、勿論です、はい。」

 

と駆け出して行くクラルグラの他のメンバー。

「あっと!ちょっと待ってくれ!!」

急に呼び止められビクッとこっちに振り向く。

(さっきから介抱を頼むと言ったり待てといったりゴメンナサイ…)

 

「んー、彼が目を覚ましたら、大人気ない対応をして済まなかったと、ルドウイークが言っていたと伝えてくれ。あとその扉の修理代はお詫びに此方で払っておこう。君達も済まなかったな。」

 

「いえ、とんでもないです。こちらこそすみませんでした。彼は任してください。」

 

(やっとまともな反応に…。どうやらテストだと思ったのは勘違いか。大怪我してなきゃいいが…。ん?そう言えば何か忘れているような…)

 

「…!あっ!そうだ受付さん。推薦状が有るんだった。」

 

「え?あっ!はい。どちらの方からのですか?」

 

「我が友、ガゼフ・ストロノーフからの物だ。」

 

その一言で、今日で一番冒険者組合が揺れる。その日、この男、ルドウイークが冒険者組合を揺るがしたのは何度目だろうか?

 

こんな、色々と問題だらけの1日が、今後、リエスティーゼ王国の大英雄、狩人で有り冒険者でも有る、聖剣のルドウイークの誕生した日だった。




一人ですが、チーム名というか二つ名は聖剣で行こうかと思います。
今回ルドウイークが行ったパリィは大体、ダークソウルの素手パリィ→致命だと思って頂ければ宜しいかと思います。


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13話 受付と組合長と都市長vs狩人

勘違い&深読みこそオバロ。


「はあ」

エランテルの冒険者組合の組合長、プルトン・アインザックは組合に設けられた自室に入るなり溜め息をつく。

なぜなら先程、ロビーの受付前を通った時に貴族風の男が冒険者志望だと受付に言っていたからだ。別にそれ自体はいいのだ、もしかしたら彼にはとてつもない才能が有るかもしれない。まあ、そんな確率はそれこそ、『アンデッドの王を戴く国にこのエランテルが平和的に乗っ取られる』確率と同率くらいなものだろう。

(つまり、そんな確率無いに等しい。有るわけ無いだろ。ははは、アンデッドって…無い無い!ぷっくくく、我ながら良い例えだ。)

とはいえ、貴重な冒険者志望だ、受け入れてやりたい気持ちも有る。だが、その後、このエランテルの最高位、ミスリルのイグヴァルジが立ち上がった事でその気持ちは無くなった。イグヴァルジの気持ちは良く分かる。アインザックも元冒険者なのだ。イグヴァルジ寄りの考えを持つのは当然だった。

「…だが今は私は組合長、管理者側というのは厄介なものだな…そろそろか?あの男がイグヴァルジに詰め寄られて、組合から大人しく立ち去るか、それとも…」

と一人ごちたところで バキバキメキィっという音と外から悲鳴が聞こえてきた。

「…やれやれ、イグヴァルジ、流石に扉は壊さないでくれよ。修理代は次の報酬からさっ引くからなぁ…ふふ。」

 

このぐらいやってもあの貴族の家からはむしろ、家の馬鹿息子を止めてくれてありがとう!と言われて終わりだ。

そう言われても冒険者組合長としてはとても複雑なんだがな、などと考えていると自室の扉がノックされる。

 

「どうぞ。空いているよ。」

そう答えると、失礼します、と一人の受付が入ってくる。

(先程の男の対応をしていた受付だな…もしかして、大ケガして動けないとかか?)

 

「す、すみません、さ、先程、冒険者志望の方が来られたのですが…」

 

「ああ、どの位の怪我をさせたんだ?イグヴァルジの奴?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「いえ、あの、先程の男性、ルドウイーク様と言うのですが、推薦状を持って来たんです。」

 

「…え?いや、あの男まだ組合にいるのか?」

 

「はい、今はテーブルにご案内して、待って頂いております。」

 

(……これはどういう事だ?外に叩き出しても戻って来たのか?いや…それよりも…)

「その推薦状、一体誰から?」

「リエスティーゼ王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ様からです。」

 

……。

「はぁ?」

 

(…ガゼフ・ストロノーフだと?あの?貴族から金を払って書かされた?有り得ない!彼がそんな器用ならもっと出世している!そういうのを一番嫌う男だろう!え?じゃあ、ホントに?)

そんな思考を受付が良いタイミングで中断してくれる。

「組合長?」

「あ、ああ。済まなかった。み、見せてくれるか?これか?封印は確かに彼の物か。ん?この開封は誰がやったんだ?」

「私です。一応名前を確認させて貰ったんです。」

「…中身は読んだか?」

と聞くと、受付はすっと目を逸らしながら

「す、少し目に入ってしまっただけです。はい。」

との答えだった。

 

「…まあ、いいか。機密情報でも無いし。」

 

と、アインザックは答えたが、中身を読んで見たところ普通にかなりの機密情報だった。

掻い摘まむと、まず冒険者組合が政治から切り離されているのを承知で頼むから始まり、彼は私より強く、もし彼が帝国に渡り冒険者ならまだしも帝国騎士にでもなられたら、リエスティーゼ王国は滅ぶ。本来は王都の冒険者組合がいいのだが、彼の性格からして、腐りきった貴族に嫌気がさすと困るのでエランテルに頼みたい。との事だった。

ちなみに手紙の最初は既にパナソレイ都市長殿から聞いていると思うが、から始まっている。

 

「…なんだ…これは!?私の所には何も話が来ていないぞ!!!というか丸投げじゃないか!!!一都市の冒険者組合長に国の存亡をかけるとはどういう事だ!!!!」

とアインザックには珍しく怒鳴り散らす。そのタイミングでガラガラと馬車が組合の裏手に止まった音がする。

誰が来たかは大体分かった。

 

「やぁ、ぷるとん。こんにちは。今日は相談が有って来たんだ。ぷひー」

 

「その内容、当ててみましょうか?」

 

「ん?」

 

「これでしょう?」

アインザックはピラッと何枚かの羊皮紙をパナソレイに渡す。それの何枚かに目を通す内に段々とプルプルと震えてくるパナソレイ。

 

「まさか…!もう!もう来ているのか!!!」

 

「…私の所には話が来ていませんよ?パナソレイ都市長。」

そう若干だが怒りのこもったアインザックの言葉にさらに焦ったように答える都市長。

「馬鹿な!だって戦士長が来たのは今日だぞ!2日遅れで同じ場所を出立する筈の男が何故もうここに着く!」

 

そう、確かにガゼフも都市長も悪くなかった。誰が悪いかと言えば、ルドウイークの為に強行軍でスレイン法国とカルネ村を往復し、1日到着を早めたニグン達と、カルネ村を出てから余りの平和な道中に感動し、疲れ難い体も有ってほぼノンストップで、人外の速さで走り抜け、しかも道中、カルネ村とエランテル間の街道沿いに灯りを2つ程発見し、狩人の工房で仮眠を取り予定を縮めてエランテルに到着したルドウイークが悪いのだが、そんな事は誰も知る由も無いだろう。

 

「…それで、彼に粗相などしていないんだろうね?」

 

スッと目を逸らすアインザックと受付。

 

「…まさか!?」

 

「……いや、クラルグラのリーダー、イグヴァルジという男に絡まれていたんです。」

 

「なんと!?…イグヴァルジ?その男は何のプレートなんだね?」

 

「…ミスリルです。」

 

「……ミスリルとはエランテル最高位だったな、つまりエランテルの冒険者の代表とも言える。その代表が…まずいな。それで彼に怪我は?」

 

「いや、私も知らないんです、先程はどうなったんだ?」

 

「あの、ルドウイーク様がイグヴァルジ様を吹き飛ばして、冒険者組合の出入り口が壊れてしまいました。」

 

ミスリルがやられる、それは彼が『本物』だと言うことの証明だった。

 

「…これは、どうしましょう?」

 

「矢張り誠心誠意謝るしかないな。彼に昼食でもご馳走しながら謝ろう。付き合ってくれるか?組合長?」

とパナソレイは何時もと違い、真面目な鋭い顔つきでそう言った。

 

「勿論です。済まないが彼を呼んで来てくれるか?」

 

「分かりました!」

 

そう答え、出て行く受付。それを見送ると気合いを入れ直す都市長と組合長。これから戦いがはじまるのだ。

 

 

 

ルドウイークは受付からここで待っていてくれと言われたテーブルで大人しく待っていた。

 

(……ヒマだ…というか誰も話しかけてきてくれないな。遠巻きからチラチラ見ているが…まあ原因は…)

チラッと出入り口を見る、とは言え壊されたドアは外され、既に外が丸見えだが。

(アレだよなぁ…なんだか凄い怯えられてるよ。参ったな。)

 

流石のルドウイークも彼等の同僚をぶっ飛ばしておいて『ルドウイークと言います!気軽に話しかけてくださいね!』等と言えるほど、剛の者では無かった。

そんな事を考えていると奥からドアを開閉する音が聞こえた。さっきは馬車らしき音と中に入っていく音が聞こえたので、そっちかと思ったがどうやら足音は此方に向かっているらしい。

見ると

(…ナニアレ?怖いんだけど…)

さっき色々世話をしてくれた受付が、こっちに向かって来た。来たのだが…右手と右足、左手と左足が同時に出て歩いて来るのが見えて少し怖かった。

 

「る、ルドウイーク様!失礼します!」

 

「はい。」

 

「申し訳有りません!私は知らなかったんです!」

 

「え?」

 

「本当に申し訳有りません!わ、私は知らなかったんですぅ!うわーん!」

 

といきなり泣きはじめた。

 

(ええーー!!!ナニが!?ナニが知らなかったの!?俺も知らなかったのだが!!??…はっ!?)

 

ふと視線を感じ後ろを恐る恐る見ると白い視線が幾つも、今後同僚となる冒険者達から送られていた。

 

(ぎゃー!!何この状況?え?…というか、先ずはこの娘をなんとかしないと。)

 

「受付さん?」

 

「う、ヒック、はい?」

 

 

「君が何を謝っているのかは分からない。でも人が人に謝る時は、何か迷惑を掛けたとき、後は怒らせてしまった時、後はそうだな、悲しませてしまった時などじゃないか?」

 

「はい。ウッヒック、そうだと思います。」

 

「なら君は俺に謝る必要なんて無いな。だって、俺は色々親切に教えてくれた君に感謝しているから。だから涙を拭いてくれないか?」

とハンカチを差し出した。それで顔を拭くと

 

「有り難うございます!もう大丈夫です!…本当に有り難うございます。あの、組合長と都市長がお呼びなので此方に来て貰えますか?」

 

「え?」

(…組合長は分かるけど、都市長!?え?冒険者になるのに都市で一番偉い人とも面談が有るのか!?そんなに大事なの!?)

 

「わ、分かりました。行きます。」

 

そう言い、付いて行ったのだが更なる衝撃がルドウイークを襲う。

部屋に入った途端、おっさん2人が頭を下げて来たのだ。

 

それから事情を話し合い、食事をご馳走になり、ようやく2人ともまともな話が出来た。

 

「では、本当にカッパーからで良いのかね?」

「ええ、上のプレートは実力で掴みとってみせますよ。それでは今後も、宜しくお願いします、都市長、組合長。」

 

「ああ、こちらこ「ああっ!!」

 

「ど、どうしたんだね!?ルドウイーク君!?」

 

「いえ、何でも無いです。ホントにすみません…」

 

最後の最後で冒険者組合の出入り口のすぐそばに灯りを発見し喜びの大声を上げてしまうルドウイークだった。

 

(くっそ!!プレイヤーは灯りを見つけるとどんだけ嬉しかったんだよ!!まるっきり変人じゃないか!!)

 

 

 

丁度そのころバレアレ商店では、クラルグラのメンバーが買い物にきた所だった。

 

「いらっしゃいませ、あれ?あなたは確かクラルグラの?この前買いに来たばかりですよね?」

 

「ええ、今日使い切っちゃいまして。」

 

「ええ!?5本全部ですか!?」

 

「お恥ずかしながらリーダーがやられちゃいまして。」

 

そのバレアレ商店の店番、ンフィーレア少年は内心焦る、

(…クラルグラってミスリルじゃないか!?エランテル最高位のミスリルがやられる程のモンスターって一体…この辺も危険なんじゃないか!?)

 

「一体何のモンスターですか?」

 

「ああ、いやいや、ルーキーですよ。」

 

「るーきー?そんなモンスターがいるんですか?」

 

「…違うんですよ。冒険者志望の新人に喧嘩を売って返り討ちにあったんです。」

 

「…相手が沢山いたとか?」

 

「一人です。もう強い強い!うちのリーダーの胸当てのプレートに張り手したんですけど鉄のプレートに手形がハッキリ残ってるんですわ。あんなの初めて見た。あれが無きゃリーダー死んでましたよ。ワザと胸を狙ったんですね。今日はプレートは胸にしかして無かったから。」

 

「…凄い。」

 

「しかも、あれだけ強いのに性格も素晴らしいんですよ。俺たちにも、リーダーにもキチンと謝ってきたし、ドアの修理代も持ってくれたし。ありゃあいつか英雄って呼ばれる男かも知れませんね。」

 

「へぇ、ミスリルの人達に言われるなんて本当に凄い人なんですね。」

 

「ンフィーレアさんも、パイプ持っとくなら今の内ですよ。今ならカッパーだろうし。」

 

「はい!有り難うございます!早速明日行ってみます!」

 

 

 

 

 

 

翌日の正午前、ルドウイークは歩いていた。初めての依頼、しかも名指しでの依頼だ。依頼主のンフィーレア君もとてもいい子だ。漆黒の剣という、他の冒険者まで一緒。彼らも気さくでいい人達だ。素晴らしいじゃないか。行き先がカルネ村じゃなければ。

 

(カルネ村から出てきて、あれだけ盛大に送って貰ったのに、エランテルでは一泊だけ…そして、今カルネ村に戻っている…まるで強行スケジュールの旅行のようだ…そして、カルネ村の皆に会うのが恥ずかしい!!)

 

「あっれーw!殿、もう寂しくなったでござるかwww」

「やwはwりwこの村に住んだ方がいいのでは無いですかwww」

 

と爆笑する賢王と村長を何故か幻視しつつ、ルドウイークは初めての依頼をちゃんとこなそうと、やる気のスイッチを入れたのだった。




次回は冒険者としての初仕事です。獣肉断ちをブンブンさせる予定です。


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14話 冒険者と狩人

一度書き上げ、データ飛ぶ。悔しさで死にそうになりました。


ルドウイーク達は順調にカルネ村及びトブの大森林に向けて進んでいた。

「そう言えばンフィーレア君、なんで俺に依頼をしてきたんですか?」

そうなのだ、組合で色々有った翌日に、朝早く組合に顔を出すと既に受付にンフィーレア君がおり、ルドウイークに名指しで依頼したいと言って来たのだ。しかし、警護の依頼と言うことで1人では万全じゃないなと考えていると、漆黒の剣のルクルットが

「あんたがあのいけ好かないミスリルをぶっ飛ばしたルドウイークさんか!?すげぇ!」

と絡んで来たのだ。そこで色々有り、漆黒の剣も一緒でどうですか?と聞いた所、ンフィーレア君が快諾してくれたのだ。

「ああ、僕の家のお店にクラルグラの方が来まして、凄いルーキーがいると話してくれたんですよ!」

そこでビクゥっとなるルドウイーク。ルドウイークにとってはあれは失態なので余り、触れられたくないことだしかし、

(…え?彼等はそこらで言いふらしているのか?それは…マズい…!)

 

「え、えーと?彼等はなんと?」

「ああ、安心して下さい。彼等は凄く強いのに、謝罪もキチンと出来る良い人だと言ってましたよ。でなければ、僕も依頼しませんよ。」

 

その一言でルドウイークは深く安心した。

「にしても平和なもんだねぇ。このままモンスターが出なかったりして!」

「おいルクルット!お前のレンジャーとしての目が頼りなんだからな?警戒を怠るなよ?」

「その通りである!基本が大事なのである!」

「はいはい!ペテルさんとダインちゃんは真面目だねー!それにちゃんと見てるっての!」

「しかし、あんまり油断してると超遠距離からドラゴンが襲撃してくるかも知れませんよ?」

「おいおいニニャ。そりゃどこの物語だよ!あり得るのか?」

「まあ、あり得ませんね、エランテル近郊のドラゴンの話は大昔に天変地異を操るドラゴンがいたという眉唾な伝承と、後はアゼルリシア山脈にフロストドラゴンが生息してるという話てすね。」

その話にルドウイークは頬が緩むのを感じた。

「ニニャさん、ドラゴンは本当にいるんですか?」

「え?ルドウイークさんもドラゴンに興味が有るんですか?」

 

「いや、ふふ、ドラゴンスレイヤー、竜狩りも悪く無いと思いまして。」

 

何気なくそう言うと漆黒の剣とンフィーレア少年の喉から、ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。

 

「し、しかし、そのドラゴンは強いのかね?ホントに。」

「ドラゴンで弱いなんて聞いた事無いですよ。」

「いやいや、以外と第三位階までしか使えないガッカリドラゴンとか、読書がすきなポッチャリドラゴンとかかもしれないぜ?」

「いやいやまさかあり得ないだろ。」

「あり得ませんね。」

「あり得ないのである!」

 

「…まあ、そんなドラゴンはあり得ないとして、この辺りに出てくるのはオーガや、ゴブリンくらいですよね?スルーするんですか?」

 

そう、話題を変えようと頭空っぽで、ヤーナムでは雑魚を避けてたしこっちでもそうだよね?というようなノリでそう聞いてみると、シーンという少しの間が空き、

 

「…スルーは難しいかと、はは」

「ンフィーレアさんもいますし、は、はは」

「少し難しいのである…」

 

と、これが乾いた笑いと言うものか、というリアクションが返ってきた。

(ぐ!そうでした!警護の依頼でした!なんも考えてなくてスミマセンでした!)

 

「それにモンスターをちゃんと狩れば強さに応じた報酬が組合から出るんですよ。」

「黄金の王女様万歳って奴だな!」

「糊口を凌ぐのに必要な仕事である!」

 

「ああ、なる程。昨日講習で習いましたね。依頼をこなしながらモンスターを狩って報酬を増やす、確かに一度の遠征で稼ぎを増やすのは利口ですもんね。」

と納得していると、ンフィーレア君が今までに無く真剣な口調で口を開いた。

「…それに、僕達のような町にすんでいれば貴方達冒険者に依頼が出来ますけど、例えば村に住んでいる人達がエランテルに来る場合、護衛無しで来る人達が多いんです。そう言う人達の為にモンスターを多く退治しておいてあげるという面も有るんですよ。」

 

その言葉にルドウイークはエンリとネム、それにこれから行くであろうカルネ村の皆の姿を思い浮かべる。

(…そうか、ンフィーレア君に言われるまでそんな事にも気づけないとは、俺もまだまだだな。冒険者か…。それだけでなく魔法に武技に…本当に色々教えて貰ったな。はー、今回の依頼は報酬無しでいいくらいだ。)

 

「…おっと、お喋りはそこまでだ。おいでなすったぜ。」

「数は?」

「こりゃ不味いな…滅茶苦茶多い。ゴブリンが20匹?オーガが…8匹か?うん、そんな所だ。」

 

「ルクルットさん、敵は一方向からですか?」

「ああ、ルドウイークさん、そっちからだ。まちがいなく接敵するな、こりゃあ。今からじゃ回避も隠れるのも無理だ。」

それを聞き、ルドウイークは足で一行の前に線を引く。そして

 

「皆さんは、この線から出ないで下さい。」

「ルドウイークさん!1人では!」

「そうなのである!我々も…!」

 

ルドウイークはそのペテルとダインの言葉を自身の背中に背負った武器を取り出す事で遮る。そして流石にむき身はどうなんだ?とその武器に巻きつけていた分厚い布をはぎ取る。

…漆黒の剣の面々は息を飲んだ。

 

「…鉈?いや、随分歪な…」

「…すげぇ、魔化されてんのか?」

「…!見たことも無い武器である!」

「…!…我々も準備だけはさせて下さい!ルドウイークさん!」

 

「ええ、ヤバくなったら早めに声を掛けます。では。」

それだけ言い、ようやく森の切れ目から顔を出したモンスターに向けて、まるで散歩に行くかのような軽いノリで歩き出すルドウイーク。

「…!アナタは、なんという!」

 

そうしてゆっくり歩き、相対距離50

メートル程になる。そこで口を開くルドウイーク

「…先に謝っておこう。お前らに罪は無く、恨みも無いが、それでも!」

そう言い、武器を、獣肉断ちを振りかぶる!

相対距離20メートル。当たる分けがない。

 

「おいおいおい!何やってんだ!!目を瞑ってんのか!?」

「ルドウイークさん!!」

 

しかし、ルドウイークが、獣肉断ちを一閃すると、ジャラララッとまるで巨大な鎖を引きずるような音がし敵の第一陣、ゴブリン13匹の頭部が、弾け飛んだ。

 

「…え?何が…」

「…あれは?ワイヤーで刃を繋げてあるのか!?」

 

その通り。ワイヤー二本で大量の刃のパーツを繋げ、狩人の仕掛け武器でも最大の攻撃範囲を誇る武器、それが獣肉断ちである。

 

そのままルドウイークは踏み込み、呆然としている第二陣、ゴブリンとオーガの混成部隊に、二撃目を繰り出す!自身の身体を回転させ更に遠心力を、上乗せして!

 

またもジャラララララッと音がし、ゴブリンの頭の高さを狙ったその一撃はゴブリンの残り7匹の頭部と、オーガ7匹の膝上を両断し、反対側に弧を描く。残った敵は、オーガ一匹だった。たったの二振り、二振りでオーガ7匹、ゴブリン20匹が壊滅した。

 

ルドウイークは最後の一匹を見やる。

明らかに呆然とし、戦意は失っていたが逃げないのは何が起こったか分かっていないのかもしれない。

「…戦意が無くなったか?だがお前らがこちらに向かって走って来たときの顔は忘れていないぞ?あれは…美味いものを見つけた顔だったな。もしここで、お前を見逃してもどうせまた…」

そこまで言うと、懐かしい言葉を思い出した。

 

『…どこもかしこも獣ばかりだ…貴様も、どうせそうなるのだろう。』

 

獣狩りの夜に、ルドウイークに襲いかかってきた、ガスコイン神父。奴に言われた言葉だ。あの時は血に酔い、頭がおかしくなった奴の言葉と気にしなかった。事実おかしかったのだろう、すぐ近くで奴の妻は死んでいたし、最期は獣に変身して襲いかかってきたんだから。だが、もし、まだ人の残滓が残っていたら。今の俺と同じ気持ちだったのかもしれない。

今はまだお前は人間だが、何時かはお前は獣になり、誰かを襲うかもしれない。そしたら自分を許せない。だからそうなる前にお前を狩る。そういう事だったのかもしれない。

「いや、奴はもういない。憶測も良いところだな、止めよう。…さて、もう一度言おう。お前に罪は無く、恨みもない。恨むのなら俺達の前に出てきてしまった悪運を恨め。」

ルドウイークはそう言うと自分の後方に獣肉断ちを降るう。そこでようやくオーガは悲鳴を上げ背中を見せる。全てが遅いのだが。

 

ジャラララララッと一番ワイヤー二本が延びきった所で、一番遠くまで攻撃出来るところで、一番遠心力を乗せられるところで、今度は全力で前に振り下ろす!…その一撃は、ルドウイークがこの世界に来て、一切の手加減をしない初めての攻撃だった。

 

獣肉断ちの先端はオーガの能天に着弾した。それは武器が当たったなんて生易しい物ではなく、まさに着弾というのが相応しい一撃だった。

 

オーガ一匹の体でその一撃を吸収するのは不可能だったらしく、まずオーガが爆発した。次いでそのまま地面に着弾し、ズンッ!という地響きとともに土煙を大量に巻き上げる。

 

オーガの立っていた場所は真っ赤なクレーターになっていた。そしてそれを行った獣肉断ちの刀身は見えなくなっていた。

最初ペテルはワイヤーが切れ、どこかに飛んで行ってしまったとおもった。しかしよく見ると違った。その刀身はクレーターを作ったあと完全に地面を切り裂き、埋まっていた。

 

「…街道から少し離れているとはいえ、この踏み固められて固い土を、いや地面を切り裂いた?凄いとしか、言えない…」

 

 

(…勝利の喜びは…無いな。まあ、弱い者をいたぶっただけだしな。だが、狩人の時は見逃していたものも冒険者では狩らなければいけない。…確かにそうだ。さっきのオーガを見逃して、誰か別の人が襲われたら俺は自分を許せない。本当に良い勉強になった…。逆に冒険者で有れば戦わなくていい、例えば依頼を受けていないモンスターとも狩人では戦わなくてはならない。そうなったらどちらを優先するか…、そんなの決まっている、この世界には狩人はいない、俺以外!)

 

「そうだ、俺は、いや…」

そうぽつりと呟き、地面に埋まった獣肉断ちを引き抜くと、地面をえぐり出しながらズボンッと、刀身が飛び出て、ジャララララ、ガチンと音がし、ルドウイークの手元にワイヤーによって引き戻され、元の形に戻る獣肉断ち。

そこでこの世界での自分の優先すべき事を宣言した。

 

「俺が…狩人だ!」

 

 






…あれ?おかしいな、1から書き直したら1000文字くらいどっか行っちゃったよ…?



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15話 嵐の前の…

戦闘が終わり、辺りを見回しても他にターゲットになるモンスターもいないことを確認したルドウイークは、お疲れ様でした!とか言ってくれるのを少し期待しながらゆっくりと振り返る。しかし、漆黒の剣のメンバーは皆、

「呆然というのはこういう顔なんだろうな」

とルドウイークが思わず呟く程呆然としていた。少し見ていると彼らの目が自分では無く自分の後ろを見ているのに気づき、ルドウイークは戦闘跡の方に再び振り向き、そして悟る。やりすぎたと。

何しろ地獄絵図が広がっていたからだ。辺りにまき散らされた血と肉片、両脚を切断され苦痛に歪んだ顔をしたオーガの死体。一番奥には血とオーガだった物がこびりついた真っ赤なクレーター。…地獄絵図だ。そしてそんな地獄絵図を描いたのは自分なのだ。

(…マズい…、せ、折角友好的な冒険者の仲間が出来そうだったのに…どうしよう…)

しかし、そんなルドウイークの心配は無用だった。

「…いやぁ偉いもん見たわ。まさか神話に出てくるような強さだとは思わなかったぜ…」

「ええ、本当に…只凄いとしか言えない自分が恥ずかしいです。」

「…ルドウイーク殿はアダマンタイトに早くなるべきである!これは階級詐欺なのである!」

「ダイン?興奮し過ぎですよ?」

 

そのニニャの一言で笑いが起きる漆黒の剣の皆。ルドウイークは少し感動し

「…皆さん、流石に誉めすぎです、すこし恥ずかしいですよ。…後は死体のパーツを剥ぎ取るんでしたっけ?」

と聞くのが精一杯だった。

そうして皆でオーガやゴブリンの死体の一部を剥ぎ取る。そんな中ルドウイークはニニャも普通にやっている事に少し違和感を感じた。

「ん?どうしたんですか?ルドウイークさん?」

 

「あ、ああ、いや、可愛い顔してニニャさんも普通にこういう事出来るんだと思いまして…」

言いながら(ヤバい、これは馬鹿にしてると思われるかも!)と思うが既に遅い。ニニャを見ると下を向いてプルプルしている。

 

「に、ニニャさん、申し訳有りません!失礼な事を言いました!…ニニャさん?」

ニニャを見ると下を向いて顔を赤くしていた。

(…え?あれ?どうしたんだ?)

そう思っていると

「…い、いえ、大丈夫です…少し疲れただけですから。冒険者ならこれくらい皆出来ますよ。仕事になりませんから」

と答えてくれた。どうやら怒ってはいないようだ。だがこれ以上この話をするのは、地雷を踏みかねない!そう思いルドウイークは仕事を再開する。すると、

「…そうだ!ルドウイークさん、少し聞きたかった事があったんだ」

「何でしょう、ルクルットさん?」

 

「俺が狩人だってどういう意味だ?」

 

「ぶっ!」

アレは昔プレイヤーが良く敵の集団を殲滅した後や強敵を倒した時によく言っていたのを思い出し、なんだか言わなければいけない気がして言った言葉なのだが、流石にそんな事は言えないのでかなり困る。

「いや、あれは、何というか宣言と言いますか。俺は狩人だよ、という意味です。ははは!」

 

「へーそうか!あんまり意味は無いのか。」

 

無いので突っ込まないで!と今度はルドウイークが下を向き、プルプルする番だった。

 

そうしてまた出発し彼等とは色々話をした。そんな中で

「そう言えば、カルネ村という村にに泊まる予定でしたけど、ンフィーレアさんは誰か知り合いがいるんですか?」

「ええ、大切なひ…友人がいます!」

 

(…そう言えば俺もカルネ村に居たことが有るって彼らに言ってなかったな。)

「ンフィーレア君、俺もエランテルに来る前にカルネ村に少しだけ世話になった事が有ったんだ。済まない、言うのをわすれていた。」

 

「え?そうなんですか?」

 

その時に有った事を大まかにンフィーレア君に説明する。スレイン法国のガゼフ暗殺未遂等、余り大事に出来ない事などは伏せて置いた。あれは野盗に襲われた事にしてあるので村人達も黙っておいてくれるだろう。知らない方が良いことも有る。すると突然、

「え、エンリは!?エンリ達は無事何ですか!!?」

と叫んだ。

 

「もしかして、エンリの言っていた薬師の友人というのはンフィーレア君の事なのか?」

 

「え、ええ、と言うことは…」

 

「勿論無事さ、何を隠そうあの村で一番先に助けたのが彼女達姉妹だからね。安心してくれ、ンフィーレア君!」

と笑顔で言うと、ンフィーレア君が馬車から降りてルドウイークの手を取り

「本当に、本当に僕の大切な人を助けてくれてありがとうございました!本当に…」

 

「いえいえ。困った時はお互い様ですから。」

(ははーん、大切な人か…青春だなぁ。)

と心の中だけで思っていたがこの面子の中には我慢できない奴もいた。

「大切な人ねぇ…ぐひひひ!」

「おい、ルクルット?」

「流石にこの空気でそれは無いのである!」

 

そして笑顔になる一同。本当に旅の仲間とは良いものだな~とルドウイークはまた少し感動する。

 

その賑やかな空気のまま途中で一泊し、ようやくカルネ村が見えてきた。

 

(…ああ、本当に帰って来てしまった。まだ一週間前くらいか?ここを通ったの…早かったなぁ…)

などとルドウイークが考えていると、

「…ん?何だ?村の中にデカいのがいる…?」

「え!?モンスターか!?」

そうルクルットが言い自然とルドウイークに視線が集まる。

「ああ、心配しないで下さい。俺の友人ですから。」

皆、特にンフィーレア君の安心のため息が漏れる。

そのまま村の出入り口、自分で作った門まで行くと、賢王が出てきた。

 

「何奴でござる?お主らは?ここは殿の命により、知らない奴は通せないのでござる!」

漆黒の剣やンフィーレア君は、信じられないがこいつの登場に、固まってている。むしろ少し怯えている。

(…え?こいつ門番やってんの?というか…)

 

「…お前は誰が来てもそういう対応をしているのか?」

 

「そうでござ…殿?おお!殿!」

 

殿?とルドウイーク以外の面々が不思議そうにする。

 

「ああ、久し振り…でも無いな。元気だったか?」

「殿~!!!」

此方の話しを聞かずルドウイーク目掛けてダッシュで突進して来る賢王。またまたルドウイーク以外の面々から「ひっ!」という悲鳴すら聞こえる。

そのまま抱きつく…いや、タックルしてきたのでルドウイークは賢王の頭の上に飛び乗る。足の裏で。

 

「仕事の依頼主と仲間を脅かすな!!」

「殿!久し振りの再会なのにヒドいでござるよ!」

「ええい!うるさい、暑苦しいから離れろ。」

 

大体久し振りじゃないだろ!と騒いでいると他の面々もようやく緊張が溶けてきた。その時、

 

「賢王さーん?何か有ったんですか?え!?」

という声が聞こえたのでそちらを見ると、エンリが固まっていた。

 

「エンリ、そのひ「ルドウイークさん!!お帰りなさい!」

 

そのまま、ンフィーレア君に気付かずルドウイークの所にダッシュしてくるエンリ。

 

ルドウイークはその時の、優しかったンフィーレア君の、嫉妬と絶望に歪んだ顔を生涯忘れないだろうと思った。

ついでにニニャもジト目でこっちを見ていた。なんで?

 

その後必死に誤解を解き、翌日森に入り薬草を採集しに行くことを決め、解散となった。

ルドウイークは取りあえず暇だったので賢王を連れて散歩をしていたのだが、不意に呼び止められる。ンフィーレア君だった。

「ルドウイークさん、先程は申し訳有りませんでした。」

「いや、気にしていないさ。」

「…やっぱり凄いや…あんなに強くて…伝説の魔獣まで従えているなんて…適わないな…」

 

「…ンフィーレア君、それは違うぞ?」

 

「え?」

 

「俺は戦う事しか出来ない。戦闘の時しか役に立てない。でも君は違うだろ?流石に俺に戦いで勝とうと思うのは間違いだし、俺も負ける訳にはいかない。だけど君は別の分野で俺に勝てばいいんじゃないか?薬師として、誰にも負けないように。」

 

「…そうですね!これからもっともっと努力して誰にも負けないようになります!」

 

そう言い、握手を交わし2人と一匹で村に戻る。そこでエンリが

 

「ルドウイークさん?今日お父さんとお母さんが泊まっていって下さいだそうです!ご飯もまだですよね?」

 

と嬉しそうに言ってきた事でまたンフィーレア君がとても凄い顔をした。その場はンフィーレア君も一緒なら…という事で決着した。

 

 

その後は薬草も森の賢王のお陰で沢山取れ、モンスターも出ず、ンフィーレア君の誤解も解け、帰路についた。

 

「いや~良い村だったな!」

「ああ!飯も旨かったし!伝説の魔獣も見れた!」

「今回は良い仕事だったので有る!」

「ですね、未来のアダマンタイトと知り合えましたし!」

 

「ルドウイークさん、僕は負けません!」

 

誤解は解けたが、ライバル認定だった…

 

そうして、短い旅が終わりエランテルに帰って来ると、エランテルは騒然としていた。

 

「アンデッドだ!墓地に大量のアンデッド!」

 

そんな声が聞こえ、ンフィーレア君を送り、ルドウイーク達も冒険者組合に戻る。

 

「どういう事ですか!?」

 

「分からん!急に湧いてきたらしい、君達低位の冒険者は門の前でバックアップだ!報酬は後で出す!頼まれてくれるか?」

 

「我々は大丈夫です!ルドウイークさんは?」

 

「…勿論。準備しましょう。」

 

ルドウイークは一旦狩人の工房に戻り武器をメンテナンスし、人形に挨拶だけして組合に戻る。

するとニニャが、組合から出てきて声をかけてきた。、

「あ!いたいた!ルドウイークさん行きましょう!」

「ええ、ニニャさん、今行きます!」

 

 

そして、墓地まで全員で走る。

 

「聞いたか?現場の指揮は、蒼の薔薇の忍者と女戦士が執ってるらしいぜ!女戦士はアレだけど、忍者はめちゃくちゃ美人らしい!」

 

「…ルクルット…でも何でアダマンタイトがエランテルに?タイミング良すぎじゃないですか?」

 

「それは分からん…でもラッキーだったぜ!蒼の薔薇なら百戦錬磨だしな。楽勝楽勝!」

 

「そうであるな!彼女達の武勇伝はどれも凄いのである!」

 

そんな浮かれ気分で墓地の門まで着いた、しかし

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

という人でも、アンデッドでも無い、しかし声だけでも巨大なモンスターで有ると分からせる巨大な咆哮が聞こえた事で、浮ついた気分が吹き飛んだ。

 

ルドウイークは本能で悟る、これは自分の良く知っている、獣の咆哮だと。

 

「皆、済まない。俺はどうやら中に行かなきゃならないようだ。」

 

「「え!?」」

 

「俺は獣狩りの狩人だからな。」

 

そう言い、4メートルもの壁に軽く飛び乗り、そこからルドウイークが見たのは、かつて聖堂街の大聖堂で戦った、獣化した教区長エミーリア…それに、そっくりな巨大な獣だった。ただ2つばかり違うのは、頭の協会の服が暗い色のマントに変わり、そのマントを貫き一本の鋭く長く硬質そうな角が生えている事だった。

ルドウイークはその獣の足元に立つ恐らく冒険者らしき人物を確認すると全力で走り出した、何故なら彼等は全く動かなかったから。

 

(…何故逃げない!恐怖にすくんでいるのか?死ぬなよ、今行くから!)

 




前話の、俺が狩人だ!は私がカンストローレンスを初めてソロで撃破した時に自然と口から出た魂の叫びでした。俺は一体何回殺されたんだろうか…それまで頼りになったヴァルトールェ…


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16話 狩人の徴

もし、ユグドラシルにブラボの狩人さんがいたら高火力、高機動力、紙装甲のロマン枠だと思います。弐式炎雷さんが好きそうな。
鎧も盾もいらねぇ早く動きてーんだ!デカい武器以外は重いものいらねー!ってゆうのがコンセプトですから。
なので今作の狩人さんもカンストレベル帯では紙装甲です。



蒼の薔薇の、女忍者ティアと女戦士ガガーランは今回、黄金の王女ラナーから話を聞いた我らがリーダー、ラキュースの命で、ガゼフを救ったという男がどんな男か調査するためエランテルに来ていた。

他の3人は別件で動いており、チームを分けてまでやる必要あんのか?というガガーランの質問にラキュースが

 

「…ガゼフ戦士長程の人が、敵に回したらこの国が滅ぶという人よ。もしかしたら私達の最大の敵になるかもしれない。でも、無理はしないでいいわ。エランテルの組合長に話を聞くだけでも良い。ヤブヘビになっなら元も子もないからね。…お願い!ガガーラン、ティア!」

 

と、いつになく真剣な表情で言われては了解するほか無かった。

 

「…それがアンデッド退治する羽目になるとはねぇ!」

そうウォーピックを豪快に振り回し、アンデッドを吹き飛ばしながら言うガガーラン。

「…ガガーランがやる気マンマンで俺がやるぜ!って言ってたのに。」

そう忍術でアンデッドを焼き払いながら答えるティア

 

「仕方ねーだろ!ミスリルが2チームしかいねーであとは出払ってる!他には低位の冒険者しかいねーっつーんだから。俺達ゃアダマンタイトだからな!」

 

「うん。それに…」

 

「ああ、大量っつーわりには、そこまでの数じゃねー!さっさと終わらして童貞でも探しに行くぜ!」

 

「エランテルには美味しそうな女の子がいっぱいいた。頑張る。」

 

そんなごっつい話をした2人の視界の端に、地面から、いや恐らく地下から出てきたと思われる人影が映った。

 

「…なんだありゃ?女?」

 

「金髪の女、黒いマントに…その内側はビキニアーマー!!」

 

そう興奮したティアとは違い、ガガーランは様子がおかしい事に気づく。よろめき、頭を抑えて苦しそうにしている。だけでなく

「あああああ!!!」

と絶叫し始めた。

 

「おいおい!怪我でも……ああっ!?」

 

そうガガーランが心配そうに言う間に、その女は爆発した。

 

いや、爆発したように見えた。

 

その女は爆発的に巨大化し、そして見たことも無い、巨大な化け物になった。

 

『ギャアアアアアアアアアアアア!!!』

その化け物の咆哮を聞き直感的にガガーランとティアは

 

「おめえら!あいつに近づくな!!」

 

「あれの相手は私達以外無理!」

 

そう味方のエランテルの冒険者に指示を出し、走り出した。

 

しかし、その化け物の近くに来たとき、彼女達はその判断が間違っていた事に気づく。自分達でも無理だと。何故ならその化け物と目が合った瞬間、体が動かなくなったから。バッドステータス等ではなく、レベルの桁が違い過ぎて、目が合った時には死を覚悟、ではなく死を納得した。これじゃ死んでもしょうがない、と。

 

その化け物がティアを鷲掴みする。そしてそのまま化け物は自らの口にティアを持って行く。その状態でもガガーランは

「…テ、ティア…」

と、かすれた声で言うのが精一杯だった。

だがーーーー

その化け物の、ティアを鷲掴みする手にドスッ!という音と共にナイフが突き立つ。

 

「ギャアアアアアア!!!」

 

そう鳴き、ティアを手放す化け物、その化け物の足元にティアを受け止め、立っている一人の男がいた。

 

「吹っ飛べっ!!」

 

そう言い放った男の右腕から何かの触手のような物が飛び出し、化け物を後ろの、この墓地を囲んでいる壁まで吹き飛ばす。

 

「俺はエランテルの冒険者、ルドウイーク。君達は?」

 

「おめえが…あの?お、俺はガガーラン、そっちは」

 

「私はティア。そう、貴方がガゼフを救った人…」

 

そうルドウイークの腕に抱かれ答えるティア。

 

「俺の事をガゼフから聞いているなら話は早い。君達は他の冒険者と共にアンデッドの駆除を頼む。ここから距離を取り、アンデッドを向こうに押し込んでくれ。」

 

そう墓地の反対方向を指を指すルドウイーク。

 

「おめえはどうするんだ?」

「ルドウイークはどうするの?」

 

そう同時に聞かれ、ルドウイークは化け物を指さし

 

「彼女は俺をご指名のようだ。はぁ、やれやれ。こちらとしては不本意なんだがね。」

 

体制を立て直した化け物は真っ直ぐルドウイークを見て、いや睨んでいた。

 

「へ、そうか…任した!」

 

「…なんで女だって分かったの?」

 

「…ぇ……何となくだ!さあ、行ってくれ!」

 

これ以上の話は危険と判断したルドウイークは会話を打ち切る。ただエミーリアも同じだったからと決めつけていただけだ。

 

その背中を見送りながら「助けてもらったお礼、言えなかった。」とティアがぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

「…任されたは良いが、何故この世界にこんな獣が?あそこから出てきたのか?」

 

チラッと地下への入り口のような穴が開いた場所を見る。その視線を獣の頭部に移し、

「あの角による攻撃には注意しないとな。あんなものエミーリアには生えて無かった。後はほとんど一緒か…後はこの場所では…月光の聖剣のスキルは使えないな…それに加速もマズいか…」

 

この墓地を出れば、民家も近くに有る、しかも回りを冒険者が囲むように戦っているのだ。月光の聖剣のスキルの実験はあの一回きり、流石に使った場合他への被害は免れ無いだろう。

それに加速もマズい。余りに攪乱し、獣のターゲットが他の冒険者に移った場合…止められない。つまり…

 

「ふふ…、なんて不利な戦いだ…」

 

と自虐的に笑うルドウイークに向かい獣が一鳴きし、猛然と突っ込んできた。

 

激闘がはじまった。

 

恐らく、ユグドラシルに獣狩りの狩人という職業が合った場合、アタッカーが一番向いているだろう。超火力と抜群の機動力により、味方のタンクが抑えている間につかず離れずのヒットアンドアウェイで攻撃を叩き込んで行き、隙を見てパリィやバックスタブからの必殺の内蔵攻撃を決める。勿論後ろの後衛から支援や回復を貰いながら。それが一番狩人の性能を活かせるだろう。

しかしーーーー

彼は今一人だ。同格のボスの攻撃を自分に引きつけ、攻撃をいなし、避けて攻撃を叩き込む。その間に回復も自分でしなければならない。狩人には防御という物が無い。全て攻撃は当たらないようにしなければならない。

何より、この世界で手に入れた、この獣でも瞬殺出来るだろうスキルの封印、そして元々持っていた狩人の業の封印。更には銃も封印。

…それはもう、縛りプレイと言って良かった。

その難行に挑んでいたルドウイークだが、ようやく獣の攻撃パターンを見抜き本格的に攻撃を叩き込んでいた。

 

「…やはりほとんどエミーリアと同じ能力、しかし…異様にタフだが…っ!あぶねっ!」

 

この世界はユグドラシルの法則で、システムで回っている。恐らくこの獣もユグドラシル側のフィールドボスという扱いになっているのだろう。集団で戦うこと前提のDMMORPGのフィールドボスと、ソロ前提のbloodborneのボスでは耐久力も違ってくるだろう。

 

そんな難行にようやく変化が訪れた。

順調に攻撃を、一方的に叩き込んでいたルドウイークだったが、先程までと違う行動を獣が取った事で、一端バックステップで離れる。

 

「…何だ?何を?」

 

ダーン!ダーン!と獣が両手を握りしめ地面に叩きつけているのだ。まるで悔しがっているように。

「な、何が…あ!?」

それを困惑しながら見ていたルドウイークだったが、急にその獣が後ろに大きく飛び退いた事で、追いかけようとする。この場から逃げると思ったからだ。だが、着地した獣のポーズを見て間違いに気づく。

 

クラウチングスタート。陸上競技の短距離走を見たことが有る人ならそう例えただろう。これ以上無い前傾姿勢で有り、逃げるのではなく、明確に前に走ると告げていた。

 

「…これは…はは、なんて恐ろしさだ…くそ!前に行くわけにはいかないか…」

 

何しろいつ突っ込んでくるか分からない巨大な獣とこれ以上距離を詰めるのは悪手だ、まず避けられない。

そこで、ルドウイークは獣が何かブツブツ呟いている事に気づく。が遠すぎて何と言っているかまでは分からない。呟き終えると、ググッと更に力を込めて前傾姿勢になる獣

 

「…さーて、集中しろ!俺!」

 

獣がスタートを切る。それは今まで見てきたどんな突進よりも早く、ルドウイークでさえ見たことも無いスピードだった。ルドウイークが横にステップを踏めたのは今までの経験等をふまえても自分自身を誉めてやりたくなる見事なタイミングだった。

 

しかし、そのステップの最中、有り得ない物を目撃する。

獣がその巨大な両腕を地面に叩きつけ急ブレーキをかけたかと思うと、その反動で此方に向き直り、そこでまた何かを呟いた。今度ははっきりとルドウイークの元までそれが聞こえてきた。

 

「りゅう…すい…かそく!」

 

それはルドウイークの良く知る、ゲールマンの加速の業、それに近い技なのだろう。ルドウイークから見ても有り得ない、凄まじい結果を生み出した。

一度は急ブレーキで減速したスピードがまた先程と同じ、いやそれ以上のスピードになり、ルドウイークに突っ込んできた。ルドウイークはまだステップ中、当然避けられない。

 

「う、嘘だろ…はは…がぁっ!!!」

 

あまりの有り得なさに思わず笑い、そのまま喰らう、何とか体をひねり角の刺突だけは避けたがその巨体の質量をモロに受け吹き飛ばされる。

 

「…ぐ、い、いってぇ。生きてるのが奇跡だな…」

 

そう言いながら立ち上がるルドウイーク。輸血液を体に叩き込み、獣を見据える。

獣はまたあのポーズをとっていた。

 

「…ふふ、良く分かった。アレは回避は不可能だ。…くそっ!」

 

ルドウイークは新たに武器を取り出す。月光の聖剣ではない、もう一本の聖剣。自身の、いや英雄ルドウイークの名を冠した聖剣。ルドウイークの聖剣を。

そのロングソードを背中の巨大な鞘に叩き込み、一つの特大剣にする。

 

ルドウイークの聖剣は恐らく高レベル帯では最も威力の高い武器になるだろう。ルドウイーク自身も強敵と戦うならこれを選ぶというぐらい、自分の信頼する武器だった。

 

「回避が無理なら迎撃だ。その角をへし折ってやる。…来い!」

 

そしてまた突っ込んでくる獣。ルドウイークは封印と決めていた『加速』を使用した。避ける為では無く、剣の振りを早くするために。

 

ヤーナムにいた時はこの加速はステップとローリングにしか効果が無かったが、この世界では全ての行動に効果が付与されるようになっていたのだ。あのスレイン法国の騎士の伏兵を倒した時にはとても驚いた。

 

しかしーーーー

 

またも獣が何かを呟く

「ふ…らく、ようさい!」

 

ルドウイークの聖剣と獣の頭部から垂直に生えた角がぶつかる。

…はじかれたのはルドウイークの聖剣だった。

 

「こんな細い角に俺の全力の一撃が!!っぐはぁっ!!」

 

ルドウイークは左肩に凄まじい衝撃を感じながら再び吹き飛ばされる。

 

墓石を幾つか砕きようやく止まる。

まだ、ルドウイークの心は折れてはいない。だが、…体は限界だった。

右手にかろうじて握っていた聖剣を杖代わりに立ち上がろうとするが右手の力だけでは無理だった。左手は感覚が無いので見てみると肩口から先が無くなっていた。

 

「…ま、負けるわけには…」

そう、掠れた声で自分を鼓舞し立ち上がろうとし何とか膝立ちになると、横から声を掛けられた。

 

「もう…立つんじゃねえ。」

 

ルドウイークは目だけを動かし、その人物を見ると、ガガーランだった。

 

「に、げろ!」

 

「馬鹿やろう。ルーキーのお前にこんなカッコいい所見せられて、アダマンタイトの俺が逃げるわけにゃ…いかねえんだよ!!」

 

すると後ろから大勢の足音が聞こえる、エランテルの冒険者達だ。

 

「そ、そうだ!」

「ルーキーや余所の冒険者が戦ってんだ!」

「俺達エランテルの、冒険者が逃げる訳には行くか!」

「おめえら、行くぞ!」

 

そう言い、ルドウイークの横をガガーランを先頭に通り過ぎていく。

獣を見ると、三度あのポーズをしている。…その顔は笑っているように見えた。

 

「に、逃げて、くれ…」

 

そう必死に冒険者に頼むルドウイークの視線を遮る人物がいた。

 

「さっきは助けてくれて有り難う。これで貸し借り無しね。」

 

ティアだった。

 

「に、げろ…、頼むから…!」

と言うとティアはルドウイークのそばにより、ルドウイークの目線に合わせるよう膝立ちになる。

そしてティアはニコリと可憐な笑顔になると

「さっきは久し振りに、いや初めて男にときめいた。そんな男の人を置いて逃げるのは、絶対にイヤ!」

 

そう言い放ち、会話は終わりと、ルドウイークを隠すように獣の方に向き直るティア。 

 

(…こんな時に言われても…嬉しくないんだよ!…くそったれ!動け!俺の体!)

 

獣がスタートを切った爆発音が聞こえ、その次に冒険者達の短い悲鳴を聞き、ルドウイークは…意識を手放した。

 

 

 

 

(俺は死んだのか…)

 

ルドウイークは闇の中にいた。

 

(何も出来ず、誰も守れず、死ぬのか…)

 

「動いてくれ俺の体!あの獣を放っておいたらエランテルが!」

 

そう叫ぶルドウイークの頭の中に音声が聞こえた。

 

『CONGRATULATION!この世界での初めての死亡かつアナタの心が折れていない事が確認されたことにより、世界級(ワールド)アイテム「狩人の徴」を入手しました』

 

「…何だと!?一体何が!?」

そんなルドウイークの声を遮るように再び違う内容の音声が聞こえる。

 

『なお、この世界級アイテムは入手と同時に効果を発揮します。アナタが最後に灯りに触れてから死亡するまでの事柄をアナタの夢にし、再び目覚めをやり直します。なお、初回は狩人の夢の工房での目覚めとなります』

 

その音声が途切れ、ルドウイークが目を開けるとそこは本当に狩人の工房の前だった。左手もちゃんと有る。呆然としていると

 

「あら?ルドウイーク様、先程お出掛けになったばかりでどうしたのですか?」

 

という人形の声が聞こえてきた。




微(び)じゃなくて、徴(しるし)です。私は最初、「かりゅうどのび」とずっと読んでました…

狩人の徴はMMOに持ち込むとぶっちゃけチートレベルだと思うのでブラボでは任意で使えましたが今作では死亡したとき限定です。そのチート具合は次の話で人形ちゃんに説明してもらいます。


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17話 ワールドアイテム

説明回と次回の戦いへの繋ぎ回


ルドウイークは声をかけられたがしばらく呆然と人形の顔を見つめる以外何も出来ずにいた。

 

(…俺は何を…?そうだ…あの獣にやられて……!)

 

色々な事を思い出すにつれ、色々な場面がルドウイークの頭の中でフラッシュバックしていく。そして最後の場面、あのティアという女の子が自分の目を真っ直ぐ見て言った言葉を思い出した。

 

『さっきは久し振りに、いや初めて男にときめいた。そんな男の人を置いて逃げるのは、絶対にイヤ!』

 

あんなに自分に真っ直ぐ感情をぶつけてきた人間は今までいなかっただろう。そして自分を守ってくれようとした人はいなかっただろう。そして、あのティアとガガーランは自分達の方が格上なのにも関わらずルドウイークに任すと言ってくれた。しかし、その期待に応えられず、あんな最悪な結果になってしまった。他の冒険者達は?漆黒の剣の皆はどうなった?まさか…

 

そう思った瞬間、ルドウイークの頭はドス黒い感情に支配されていた。

 

(…許さない…あいつは絶対に狩り殺す…。俺の体がどうなってもいい!確実に、殺す!)

 

ルドウイークの体は自然に立ち上がり、目覚の墓石に足を向けていた。

だがそこにもう一度人形が声を掛けてくる。

 

「…どこへ行かれるのですか?そんなに恐いお顔をされて。そんなお顔はルドウイーク様には似合いません。」

 

「決まってるだろう。仲間を殺したあの獣をすり潰しに行くんだ。」

 

「…獣、ですか?もしかしてルドウイーク様もその獣に?」

 

「…ああ、俺もやられた。だがどんな理屈か、何かの間違いか分からないが俺はこうして五体満足でここにいる。ならやるべき事は一つだ。あの獣を血祭りに上げる、それだけだ。」

 

(恐らくエランテルも無事では無いだろう、あれほどの獣に勝てる奴はいなかった。それに唯一戦える冒険者達も俺の目の前でやられた…ぐっ、…仇は討つ!)

 

しかしそれに対する人形の返答は予想外の言葉だった。

「なる程、初めての死を迎えたのですね。お悔やみ申し上げます。それと同時におめでとうございます。」

 

その余りの答えにルドウイークも思わず怒りを込めて返事をしてしまう。

 

「…何がめでたいんだ?」

 

「お亡くなりになったことは残念です。私も貴方がそうなったことには胸が痛みます。しかし、同時に貴方は力を手に入れました。世界級(ワールド)アイテムという力を。」

 

ワールドアイテム、確かそれは目覚める前に暗闇の中で聞いた覚えのあるキーワードだった。

 

「ワールドアイテム…確かにそんな事を夢の中で、目覚める前のまどろみの中で言われた気がする。何なんだそれは?」

 

「その御説明の為に、初回は最後に触れた灯りではなくこの狩人の工房で目覚める事になっているのです。出て行かれたら大変でしたよ。」

 

「…そう言えばそんな事も言われた気がする。…後は確か…灯りに触れてから死亡するまでの事柄を夢にするとかなんとか…」

 

「ええ、その通りです。今、ルドウイーク様が仰られた仲間を殺された、そう言った事も悪い夢だったのですよ?勿論、ルドウイーク様がやられてしまったというのも。」

 

(なにを言ってるんだろう?言葉の意味は分かるが、理解が追いつかない。夢?あれが?…左腕を失った痛みは今でも覚えている。その左腕でティアを受け止めた感触も……いや、それは今はいいだろう。そもそも…)

 

「…そのワールドアイテムというのは何だ?どこに有る?」

 

「まずはそうですね、その右手の手袋を外して頂けますか?」

 

言うとおりに手袋を外すルドウイーク。すると

 

「…なんだ、これは…!?…これが狩人の徴か?」

 

手の甲に逆さ吊りにされた狩人のルーン、狩人ならば絶対に見たことが有るだろう狩りのカレル文字が刻まれていた。

 

「タトゥー…か?いや、傷跡のような…何だこれは?」

 

「それこそがワールドアイテム、狩人の徴です。そして、ワールドアイテムとは世界一つに匹敵すると言われているアイテムの事だそうです。」

 

「…これが?世界一つだと?…そもそも、あの獣狩りの夜、狩人の夢で有った時と同じ能力ならそこまで大したアイテムじゃないだろう?」

 

『狩人の徴』は血の意志を失って最後に触れた灯りに戻るという能力だったはず。その上位版とも言える『狩人の確かな徴』でも消費アイテム扱いで血の意志を失わずに同じ事をする能力だった。

 

「…確かに、時間の流れが曖昧な獣狩りの夜ならばそうでしょう。しかし、今いる此処は現実世界です。観測する人間が何千人、何万人、何億人もいるこの世界ではどうでしょう?」

 

「しかし、この世界には普通に転移の魔法が有ると聞いたぞ?転移できるアイテムは確かに凄いかもしれないが…。それに時間が何の関係が?」

 

「?狩人の徴は転移等をするアイテムでは有りませんよ?」

 

そう心底不思議そうな顔で答える人形。ルドウイークは良くこのアイテムについて思い出してみる。

 

「確か…目覚めを、やり直す…まるで悪夢で有ったかのように…だったか?…まさか…!?」

 

その文言の意味に気づいた時、ルドウイークは背筋がぞっとした。

 

「俺の夢にして…時間を巻き戻すということか!?」

 

「厳密には違いますが表現としては正しいと思います。違う所は、灯りに触れてから貴方の死までの事、全てが実際に起こっていない事になるのです。だから巻き戻すも何も有りません。貴方の悪い夢だったのですから。」

 

ルドウイークは大粒の汗をかいていた。こんな文字にそこまでの力があると知って。

 

「…これは、確かヤーナムでは…、獣狩りの夜では任意に使えたが…この世界でも使えてしまうのか?」

 

「そこが問題なのです。余りにも強力なアイテムだったので使い方だけ転移してくる際に改変を受けました。使えるタイミングは貴方が死亡した時だけです。」

 

「…そうか!確か、獣狩りの夜では俺が死んだとき、狩人の徴を使った時と同じ事が起こっていたな。」

 

「その通りです。つまり狩人の徴は貴方が本来持ちうる能力なのです。しかし、それを任意に使えてしまった場合、いつかどこかに綻びが出てしまうかもしれません。だからこそ、ワールドアイテムという形になり、能力を抑えられているのです。その代わりに確かな徴と同じく血の意志を失いません。」

 

確かに自分の中に有る膨大な量の血の意志は感じられた。

 

「こんなに強力でも能力が抑えられているとはな…コレがワールドアイテムか…だからあの時、俺が狩人の徴が無くなったと言った時、俺の中に有ると言っていたのか…」

 

「はい。その通りです。…この世界が望んだのは全ての能力を使える狩人です。何度倒れても自分の夢にする事で敗北を糧にし、再び強大な敵に立ち向かう狩人。それはつまり獣狩りの夜にいた狩人そのままを連れて来なければいけません。そのワールドアイテムは獣狩りの狩人に必要な物です。この工房や、使者、それに…」

 

「君のように?」

そう先を読んでルドウイークは人形に言ってみる。

 

「まあ!有り難うございます!」

と、頬を赤らめお礼を言ってきた。そんな人形を見ていると先程の怒りが霧散していく。冷静になり、ようやく理解してきた。

 

「良く、分かった。…俺が最後にここに来たのは墓地に向かう前、と言うことは仲間を助けるチャンスが有ると言うことだな。…本当に助かった。後は…作戦を考えなければ。」

 

「ルドウイーク様、もう一つ宜しいですか?」

 

「ん?どうした?」

 

そこからの話はワールドアイテムという、物についての説明だった。ワールドアイテムには攻撃用の物も有ること、それを防げるのもワールドアイテムしかないこと。

 

「…と言うことは、さっき発動したこのアイテムの能力が効いていない奴はワールドアイテム持ちということか?ん?効かないとどうなるんだ?」

 

「その場合は恐らく、ルドウイーク様と同じく記憶を持ったまま時間が巻き戻ったように感じると思われます。」

 

「…それは不味いな。この狩人の徴は見つからない方が良さそうだ。」

 

やり直したい事が有るから死んでくれ。なんて頼まれるのは冗談じゃない。バレても良いことは無いだろう。

 

後は獣狩りの夜とは違い、ショートカットの扉等は開けても、目覚めをやり直した場合もう一度開けなければいけないらしい。微妙に不便だが最悪の場合、枷が外れているので破壊して下さい。との事だった。

以外と人形は脳筋だと思ったルドウイークだった。

 

「…後は、あの獣の対策を練るだけだ。とは言っても…」

 

あの獣で脅威なのは正直、あの突進だけだ。あれだけで全てをひっくり返される。最初の突進の時聞こえたのは恐らく『流水加速』。確かガゼフが使っていた覚えが有る。つまり武技だ。そして二回目、自分の全力の攻撃があんな細い角に弾き返された、『不落要塞』か?確かペテルが『要塞』という武技を使えると言っていた。その上位版だろうか?結論は…

 

「回避も不可能、迎撃もダメ…正直あの突進はどうにもならん…なら出される前に殺すしかない。封印と決めていた、あのスキルで。…どうやっても冒険者の何人かは巻き込んでしまうかもしれない…だが…」

 

大を助ける為に、小を切り捨てる。必要な事だろう。しかしそうなったら…

 

「エランテルにはいられないだろうな。彼等に合わす顔も無い…だが!あんな悪夢のような未来になるのなら!」

 

そう悲壮な決意をし、人形に礼を言う。

 

「有り難う、行ってくる。」

 

「はい。…ルドウイーク様?」

 

「どうした?」

 

「忘れ無いで下さい。何度でも夢にし、やり直せるとはいえ、貴方の体は元に戻るとはいえ…心までは元に戻らないということを。」

 

「俺の心は折れないさ。」

 

「自分の死ならばそうかもしれません。ですが…」

 

「ああ。そうならない為に戦うんだ。大丈夫。」

 

そう言うと、人形が背中から抱きしめてきた。

 

「貴方は今、とても悲しい選択をしたように見えます。本当に良いのですか?」

 

「…元々1人だったんだ。もう慣れてる。」

 

「1人では有りません。私はずっと共に、一緒にいます。」

 

「有り難う人形、…本当に。では行ってくる。」

 

慣れている等と言ったが、ルドウイークは頭の中では理解していた。元々無い物と、一度得て無くす物の重さの違いを。

 

 

冒険者組合の灯りに戻り、すぐにニニャが声を掛けてくる。

 

「あ!いたいた!ルドウイークさん行きましょう!ルドウイークさん?」

 

 

「…ニニャ、君達はここに残れ。」

 

「え?」

 

「これから…とても良くない事が、起きる…気がする。漆黒の剣の皆には死んで欲しく無い。」

 

彼等は門の前に詰めているので大丈夫だとは思うが絶対じゃない。彼等だけでも助けたかった。

 

「…いえ、ルドウイークさん!ここに残るのは貴方です。」

 

「何?」

 

「今の貴方はとてもじゃないけど戦いに行くような顔じゃありません!」

 

思わず、ルドウイークは自分の頬に手を触れる。

「顔?何か変か?」

 

「とても辛そうな顔をしていますよ。今まで見たこと無いくらい。」

 

ニニャと話しているうちに他の漆黒の剣のメンバーも集まって来る。

 

「一応話は聞いてたぜ?確かにあんたの顔、今までの男前の顔じゃねーな。」

「そうで有る!何か悲壮な物を感じるので有る!」

 

「…。ルドウイークさん、何が有ったか我々に相談してくれませんか?我々は貴方と一度旅をしただけですが、本当に仲間だと思っています。確かに我々はあなたに比べれば弱いですが…それでも…」

 

そうペテルがルドウイークに言ってくる。それは嘘偽りない、本心からの言葉に違いないのだろう。ルドウイークの心を揺さぶるのに十分だった。

 

「…本当に君たちは、お節介で、お人好しな良い奴らだな…。有り難う。しかし、時間が無い!移動しながら聞いてくれ!」

 

そう最後の望みをかけ、彼らに相談する事にした。もしかしたら自分に無い知識が有るかもしれない。走りながら敵の詳細を話す。勿論、やり直している事は隠してだが。

 

「げぇ、回避も迎撃も不可能かよ!どうにもならねーじゃん!」

 

「ですね。ルドウイークさんの剛力でも武技『不落要塞』では分が悪いですね…」

 

「本当にそんな化け物が…いるのであるか?『流水加速』も英雄級の武技である!」

 

(…やはりダメか…。しかし彼等だけは絶対に巻き込まないようにしなければ!)

 

そうルドウイークが再度決意したとき、口を開く者がいた。ニニャだ。

 

「皆さん、甘いですね!マジックキャスターとしての立場で言わせてもらうと、私なら空に逃げます!」

 

「空って、まだニニャはフライの魔法使えねーだろ?それにルドウイークさんはマジックキャスターじゃねーじゃん!」

 

「ルクルット…うるさいですよ!それにルドウイークさんならその脚力でジャンプすれば良いんですよ!」

 

(…ジャンプだと!確かに上に避ければ…しかし…)

 

「ニニャ、ジャンプしたあと我々は空中で移動出来ません。下で待ち構えられたら、パクッと食べられてしまいますよ。」

 

そのペテルの言葉に肯定しようとした時、何かが頭の中で引っかかった。

 

それは獣の突進攻撃の瞬間の映像。角が正面に来て、ルドウイークに向かってくる。

その時、ルドウイークに雷が落ちたような衝撃が走る。

思わずニニャの肩を掴み

「ニニャ!いけるぞ!助かった!これで」

 

そう言い掛けたとき、

「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!」

とあの耳障りな咆哮が聞こえる。

 

そこは既に門の前だった。ギリギリ間に合ったという事だろう。

 

「皆、俺は行く!この咆哮の主をぶちのめしに!」

 

そう言い、壁を一気に飛び越える、背中に声援を受けながら!

 

ルドウイークには漆黒の剣と、もう1人、いや2人絶対に助けると誓っている冒険者がいる。勿論全員助けるが、その2人特別だ。2人は前回、夢の中で、この戦いを預けてくれた2人だ。そしてその1人は自分を最期まで守ろうとしてくれた人。

 

 

その1人、ティアが獣に掴まれているのが見えた。

 

その獣の手、万が一にもティアに当たらないように慎重に、しかし、全力でナイフを投げる。

 

獣の手からティアが離れたのを左手で受け止め、獣をエーブリエタースの先触れで吹き飛ばす。

 

「良かった…君が無事で本当に良かった!」

 

「…えと、誰?」

 

「ああ、俺はエランテルの冒険者、ルドウイーク。君達は?」

 

「私はティア。蒼の薔薇のティア。」

 

「俺はガガーランだ、そうかおめえがガゼフのおっさんの…」

 

「奴から聞いているなら話が早い。君達はエランテルの冒険者達とアンデッドを掃除してくれないか?そしてあの獣、モンスターから距離をとり、アンデッドが近づかないように反対に押し込んでくれ。」

 

「おめえは?」

「ルドウイークは?」

 

「あいつを…狩り殺す。」

 

「まじかよ…はは!気に入ったぜ!」

 

「…1人で大丈夫?」

 

「ふ、君達のご期待に応えてみせよう。(今度こそな!)」

 

そう言い、獣の方に歩き出すルドウイーク。

歩きながら武器を取り出す。その武器は、この獣によく似た、教区長エミーリアを始めて撃破した時の武器、『獣狩りの斧』だ。

 

そうして獣の所まで近づいて行くと獣も真っ直ぐ此方を睨みつけていた。

 

「何だ?もしかして待っていてくれたのか?案外優しいじゃないか。」

 

勿論返答を期待しての問い掛けでは無かったが、獣は大きく口を開けると

 

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

という耳をつんざくような、とても耳障りな返事をくれた。

ルドウイークはニヤリと笑うと斧の持ち手を、ジャキン!と言う音と共に伸ばし、ハルバードのような長柄の武器に変形させ獣の咆哮に対し、

 

「ふふ、そうだな。では…名も知らぬ獣よ!存分に殺し合おうじゃないか!!」

 

と答える。

 

そうして、再び激闘の火蓋が切って落とされた。



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