元USNA軍最強の魔法師 (メイス・ハイマツ)
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プロローグ

 

 

「逃げろ!お前たち!」

「ですがこの数‼︎」

「いくら総隊長でも!」

「その総隊長命令だ!行け!」

 

小さな仮面をつけその目は禍々しいまでに強烈な金色の瞳に深紅の髪を持つ少女。

 

彼女は仲間の制止を振り切りなんとしてでも隊長の元に駆け寄ろうとする。

 

「総隊長っ!」

「すまないな…俺がお前のことを推薦したばかりにこんな目に合わせてしまって…」

 

しかし彼はそれを良しとしない…次々に撤退を始める仲間を見届けながら集中を高める。

 

「後は頼むぞ…ベン」

「わかり…ました…総隊長っ…!」

 

ベンと呼ばれた軍人の頰を涙が流れる。

 

見た目だけで判断するならベンはその青年よりも一回り以上も年を取っている。

 

しかしベンにはその背中が誰よりも大きく誰よりも逞しく見えた。

 

それを見てベンは再確認した。

 

彼が自分にとってどれだけ偉大な存在であるか…自分にとってどれだけ大きな存在だったか…そしてこの人についてきて良かったと…

 

「ご武運をっ…‼︎」

「ああ…またな」

「総隊長っ!」

 

先程の仮面の少女は大量の雫をその瞳からこぼしていた。

 

そんな彼女に彼はゆっくりと口を開きこう言った。

 

「お前ならやれるさ…俺と同じところまで辿りつけよ」

 

そして彼は囮となるために粉塵渦巻く戦場の舞台へと飛び出し大声を出した。

 

「お前らの狙いはこの俺だろ‼︎相手してやる!このスターズ総隊長ルイン・シリウスがな!」

 

彼は自分のサイオンを爆発的に放ち自分に向けられている魔法の全てを無効化した。

 

「俺がUSNA最強と呼ばれる所以…」

 

自分の仲間たちが完全に撤退したのをベンから無線を通じ知らされた彼は無線を外し懐に隠していたあるCADを取り出した。

 

「…じゃあな…リーナ」

 

その言葉を最後にUSNA最強の魔法師ルイン・シリウスは姿を消した…

 

彼が使用したのは戦略級魔法と呼ばれている都市や艦隊を一撃で壊滅させることが可能な魔法であり敵の軍隊を一瞬のうちに壊滅させた。

 

のちにわかったことだがこの戦争の真の目的はUSNAの上層部によるルイン・シリウスの抹殺。

 

よってこの件が一般に報道されることはなくルイン・シリウスは任務中に不慮の事故でその命を落としたということになった。

 

「総隊長…ありがとう…ございましたっ!」

「総隊長……っ!」

 

ベンの涙を堪え敬礼しリーナも最初はそうしていたがついに堪えきれなくなりしゃがみこんだ。

 

「ルイン…さんっ!あ…ありがとうっ……ございました…っ!」

 

リーナは次から次に流れ出る涙を必死に拭いながらルインへの感謝を伝える。

 

周りでは彼の部下であった軍人も敬礼を決めながら涙を流していた。

 

USNAの中でもスターズに属す軍人の実力は高い。そんな彼らが涙を流していることからもルイン・シリウスがどれだけの人物だったかを物語っていた。

 

「いいのかい?みんな泣いているよ」

「いいんだよ…これ以上俺がいるとリーナにまで迷惑がかかっちまうからな」

「そうだね」

 

その様子を遠くから見ている二人の人物がいた。

 

一人は僧侶のように頭を丸めもう一人はその姿がばれないようにフードを深めに被っているがその風貌はこの前の青年と同じだ。

 

「それじゃあ行こうか」

「ああ。しばらく世話になるな八雲さん」

「別に構わないよ。僕と君の仲だしね」

 

フードの男が手を差し出すと八雲がそれを握る。

 

「そういえば日本に来ても生活できるのかい?データとかは…」

「抜かりはないさ。既に偽装データを日本のデータベースに送り込んである」

「元スターズ隊長はやることが早いねぇ」

 

その言葉に当たり前だと言わんばかりに口角を吊り上げてニヤリとした。

 

「こいよ…俺と同じところまでな」

 

自分のことを想い泣きじゃくる少女に聞こえていないとわかっていながらも彼はその言葉を贈った。

 

「もういいのかい?ルイン・シリウス…嫌今はルイン・ウォーレスくんかな」

「それも違うな…今の俺の名前は…」

 

彼はフードを外しその素顔をさらす。

 

アンバーと呼ばれる金色の瞳はどこまでも輝きプラチナブロンドの髪は太陽の光を浴び頭に天使のような輪っかを生み出している。

 

「守王 ルイだ」

「これが《クルーアル》…君の本当の姿なんだね」

「って聞いてんのか?」

 

八雲は思わずその珍しい容姿に惹かれてしまい一切ルインの話を聞いていなかった。

 

「ああ、ごめんごめんそれでルイくんは日本で何をするんだい?」

「俺か?とりあえずは学校とやらに行ってみたい」

「ルイくん今歳はいくつだったかな?」

 

ルインはまだ軍人にしては若すぎる気がするがそれでも学生という歳には見えない風貌をしているため八雲はその回答に疑問を持ったのだ。

 

「15だけど何か?」

 

八雲は開いた口が塞がらなかった。

普段からその表情を隠すことがうまい八雲には珍しいことだ。

 

「君がスターズ隊長になったのは?」

「一昨年」

「君が軍入りしたのは?」

「12だな」

 

つまり彼はわずか12で軍人としUSNA軍に入りそこから一年足らずで最強の地位を獲得したのだ。

 

「まぁ君ならそこまで意外でもないかな」

「どーしたんだ?ばれないうちに早くいこーぜ」

 

そして時は流れ半年後…

 

「オォーここが学校ってところか」

 

ルインはかなりの土地を誇る学校の校舎を眺めていた。

 

国立魔法大学付属第一高校…

 

ここに元USNA軍スターズ総隊長ルイン・シリウス改めて守王 ルイが入学した。

 





今後予定

・八雲との繋がり
・ルイン軍入りのキッカケ

まで決まってます。


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〜過去編〜
スターズ総隊長ルイン・シリウス


コメントありがとうございます!
期待に添えるように頑張りたいと思います!




 

ルインがシリウスに任命されてから半年。

 

USNA内で事件が起こった。

その件についてベンジャミン・カノープスが報告を受けルインの部屋もとい彼が快適に過ごすために作らせた部屋の扉をノックした。

 

「ベンジャミン・カノープスです。上より任務の内容が知らされました」

「おーベンか〜入っていいぞー」

「失礼します」

 

ベンは部屋に入った時に驚愕に包まれた。

 

足の踏み場もないくらいに散らばった部屋は到底軍人が衣食住を過ごしている部屋とは思えなかったのだ。

 

軍服はだらしなくほかられ資料と思われるものはシワを作り読むのは解読と変わらなさそうだ。

 

そんな様子を見てベンはまたかと思い呆れた顔でルインに目を向けた。

 

「まずはルイン…片付けようか」

「えっ…お前それ本気?」

「本気です」

 

ベンは足元に落ちているゴミを拾うとそれをもはやゴミ箱として機能していない箱の中に入れた。

 

「ルインも早く」

「……わかったからそんな怖い顔しないでくれる?」

 

スターズでは確かに上下関係はあるが軍人としては少佐という地位でどちらかの言うことを一方的に聞くことはないのだがまだ若輩者のルインはベンの言う通りに部屋の掃除を始めた。

 

「凄い…これは一体?」

 

ベンは一つの今時珍しい手書きの設計図に目が行った。

 

そこに書かれているのは拳銃型のCAD。

一般に作られる物とは違い完全に自分に合わせ設計されてると思われる物だった。

 

「ん?あぁ〜それは俺のあの魔法の使用に合わせたCADだ。どうだ?カッコいいだろ?」

 

その歳に相応しく無邪気に笑う彼をベンはとてつもなく恐ろしく感じていた。

 

彼の俺の魔法というのは彼が持つ戦略級魔法のことを示すとして間違いない。

 

戦略級魔法とは使用難度が高くかなりのケースでそれは個人の専用魔法のようになることが多い。

 

「俺のデータとかを照らし合わせて作ったんだ。まぁまだツメが甘いところがあるがあと一ヶ月で出来そうだぜ」

 

キメ顔でサムズアップをとりまだ少し幼さが残る顔を輝かせる。

 

「しかし…これを一人で…」

 

確かに彼はわずか13でUSNA最強の称号を手に入れたがそれは軍人としてで魔工技師としてではない。

 

しかし彼はUSNAに現在いるトップクラスの魔工技師と同等かそれ以上のことをやろうとしているのだ。

 

「どうしたベン?もう片付け終わったぞ」

「あ、はい」

 

あれから数十分で片付けは終わりルインは事務用の机の前に座っていた。

 

その様子は年相応とは言いがたく見た目の印象も影響しているのか大人っぽく見える。

 

「USNA内で見たことない類の魔法を使役する者が現れた」

「見たことない?ベンがか?」

「はい」

 

ベンもそれなりに歳を重ねている分かなりの経験を積んでいる。

そのベンが見たことないというのはいささか引っかかる物がルインにはあった。

 

「今回の任務はこの魔法師の正体を突き止め可能ならば捕獲、最低でも抹殺が任務だそうだ。これが資料になる」

「捕獲ねぇ〜…まっ了解した」

 

ベンは軽く返事をしたルインに対し本当にこんな感じで大丈夫かと不安を抱いたが借りにもUSNA最強の魔法師、やるときはやってくれるだろうと思いながら退出した。

 

「犯行内容は傷害事件三件…どれもうちの上層部連中を狙った犯行か…通りで俺が使われるわけで」

 

ルインは苦笑いをした。これ以上自分たちの身が危険に晒されるのを避けるため最強戦力を導入してまで決着を早める。自分がまるで私欲のためにだけに使われているのではなかろうかと思ったのだ。

 

「ふむ…確かにここらじゃ見ない魔法だな」

 

一通り資料に目を通しルインは疲れを感じ身体を伸ばした。

 

「…うーん…どっかで見たことあるような感じなんだよなぁ〜」

 

ルインは少し考え込むように顎に手を当てる。先ほどの子供っぽい印象とはまた違い少し大人な感じを醸し出していた。

 

そしてその体勢のまま十分ほど経ちルインが席を立ち上がったところで誰かが扉をノックした。

 

「誰だ?」

「アンジェリーナ・クドウ・シールズです」

「?」

 

ルインはその名前に聞き覚えはなかった。

 

「入れ」

「はい」

 

扉を開け入ってきたのは綺麗な金髪を二つに纏めサファイヤのごとく蒼く輝く瞳は一瞬ルインの意識を持って行った。

 

「今回の任務においてスターズ総隊長ルイン・シリウス少佐の補佐をしろと命を受けましたアンジェリーナ・クドウ・シールズです」

 

はきはきとした声で告げる。

それにより意識を戻したルインはまた面倒ごとを押し付けられたと思っていた。

 

彼は自由奔放な性格であるが同じ部隊に所属している者たちからはその友好的態度から好かれる傾向があるが上層部は操り辛く煙たがる者が多いのだ。

 

そのため今回まだ軍人としては赤子同然のリーナを補佐につけられたのはルインにとって何も有益なことなどなかった。

 

「あースターズ総隊長ルイン・シリウスだ。えっとアンジー?」

 

アンジーとは一般的にアンジェリーナの愛称で使われることが多い。

そのためルインはあえてそう呼んだのだがどうもしっくりきていない様子だ。

 

「どうか…したのですか?」

「いやなんつーかアンジーって感じじゃないしどうもしっくりこなくてな…リーナなんてどうだ?」

「リーナ…ですか?」

「嫌ならいいが」

「大丈夫です」

 

その言葉を聞いてルインは軽く微笑み再び椅子に腰を下ろした。

 

「俺のこともシリウスじゃなくてルインで頼む。総隊長もなしだ」

「しかし…」

「まぁ緊張するのもわかるがまぁさん付けでいいから慣れてくれ。街中でシリウスなんて呼ばれたらエライことになる」

「…わかりました…ルイン…さん」

 

リーナはぎこちなく返事をした。

軍に入って間もないリーナにとっては上司との距離は取り難いものだが急に愛称で呼ぶなど馴れ馴れしく(?)その距離を詰めてくるルインに対しリーナは少しなからず苦手意識を覚えていた。

 

「それで…どのような対策をするんですか?」

 

リーナはまだ測りきれていない距離を慎重に調整しながら資料を見ているルインに話しかけた。

 

「ん…今はまだなんもしねえな」

「え?ですが上から命令が…」

「確か上からの命令は了解したが言われたのは捕獲か抹殺だ。その方法は俺に一任されてる」

 

ルインは命令は受けるがその方法については一切の口出しを許さない。ここが上層部に煙たがられる理由の大半だがそれでもその若さと相反するまるで歴戦の知将のような奇想天外な作戦は様々な場面でUSNAを高みへ押し上げてきた。

 

「リーナもあんまり気を張るなよ。いざという時に対応が遅れるからな」

「わかり…ました…」

 

いい加減にも見えるその対応にリーナは反感を覚えていた。その態度は仮にも総隊長という立場の軍人としてどうなのかと。

 

しかしリーナはまだルインの膨大な知識を若いながらもシリウスと呼ばれているその男の真価を知らない。

 

「もう時間遅いし飯食ってく?」

「…それではお言葉に甘えて」

 

ルインの部屋には自動配膳機が設置されている。基本的にこもって作業をすることが多いとあくまで表面的な理由で無理やりつけさせたものだ。

 

「ん!美味しい!」

「だろ?このスパイスがなんとも言えんないんだよな!」

 

二人揃って料理を頬張るその姿ははたから見れば誰一人軍人とは思わないだろう。

 

そんな和やかな雰囲気の中ルインの端末に連絡が入った。

 

それはベンによる非常回線であった。

 

「どうしたベン?」

『例の魔法師です。捕縛に向かいますか?』

「そうか…」

 

先ほどの声よりもワントーン暗い声はそれだけでリーナに緊張を走らせた。

 

ルインは思考を素早く回転させ今からでは捕縛は不可能であると予想し別の手段に出た。

 

「ベンは逐一俺に連絡をくれ。今回は様子見、俺が捕獲が可能と判断した場合動ける位置にいてくれ」

『イエス・サー』

 

ベンは食事を切り上げ軍服に手をかける。

 

「リーナはベンジャミン・カノープスと合流し一定の距離を保ち俺の後を追ってこい」

「イエス・サー!」

 

ルインは軍服を着用し変装用の魔法を使用した。

 

金色の瞳はその気配をなくし深海の如く蒼く冷徹な視線へと変化し透き通るようなプラチナの髪は眩い輝きから全てを呑み込む漆黒へと変貌を遂げた。

 

「その姿は…」

 

急な変貌にリーナは手で口を押さえ目を見開く。それほどまでにそこにいた彼は先ほどまでのイメージと異なっていた。

 

「これが俺のスターズ総隊長ルイン・シリウスとしての姿だ」

 

その声は重く冷たくリーナの身体の中にどしっと大きくのしかかるようなプレッシャーを放っていた。

 

これがUSNA最強の戦力…

 

それだけでリーナは彼との差を感じた。

まだ自分とさほど年齢も変わらないであるにもかかわらず開いている大きな差。

 

「行くぞリーナ!」

「い、イエス・サー!」

 

部屋から飛び出す彼のその大きな背中をリーナは必死に追いかけた。

 

 




どうでしたか?

感想など待ってます!

次回!例の人物との接触です!


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ルイン・シリウスの力の一端


お気に入り・感想ありがとうございます!


 

 

月明かりが照らす街中を駆ける二つの影。

そしてその影を追うように走る人影があった。

 

「こいつで間違いないか?」

『おそらくは間違いないと思います。総隊長。どうしますか?』

「…ひとまずは俺に任せろ」

『イエス・サー』

 

一旦通信を切るとルインは脚に力を入れてさらに加速する。

 

「止まれ!貴様何者だ?」

「…っ⁉︎」

 

低く轟くような声で呼びかけられ逃走者は一瞬だがこちらを振り向き追跡者の顔を確認した。

 

「っ!」

 

逃走者は一瞬でも振り向いたことを後悔した。相手が自分を見ている目は鋭い眼光を放ち逃走者は威圧感で心臓が押しつぶされるような感覚を覚えた。

 

「貴様…?この国の人間じゃないな」

「くっ!」

 

ルインが言った言葉を理解したかはわからない。ルインが喋っているのは自国の言葉の英語でありその彼の見立てだと逃走者は少なくとも英国系ではなかった。

 

「これは…ここで捕らえるべきだろうな」

 

逃走者はルインの追跡に気づき走り出した。

その上明らかな警戒心と敵対心を少なからず感じ取ったルインはここでの捕獲が先決であると判断した。

 

「ベン、リーナ囲め」

『イエス・サー』

 

ルインの後方から二つの影が飛び出し逃走者の退路を塞いだ。

 

「チッ」

 

逃走者は懐からCADを取り出すとそれをリーナに向ける。

一番脱出しやすい道を選んだ逃走者の考えは間違っていない。

 

しかしそれは彼がいなければの話だ。

 

「くらえ…!」

 

リーナが構えをとると同時に魔法構築が始まり起動式が展開される。

 

「てめぇ俺の仲間に何してんだ?」

「なっ⁉︎」

 

ルインがそう言うと構築されていた起動式が破壊された。

 

《マギカ・デストラクション》

自分自身のサイオンを凝縮し相手の起動式の一部を穿つ様にし魔法式を破壊する魔法。

 

一般よりも多くのサイオンを保有している者しか使えない高等技術であり現在それを使えるのはUSNA最強のルインだけだ。

 

「クソガッ!」

 

魔法が使えないと見るや男はCADを投げ捨て

懐から何かを取り出した。

それは闇に紛れその形を認識させるを困難にした。

 

ルインは知覚系魔法を使用してそのものの大体の形をつかんだ。刃渡り十数センチの先端が鋭利な刃物だ。

 

「マズイ…!」

 

異変に気付いたルインが少し遅れてベンが動き出す。

ベンが感じたのはそれから微妙に感じられる魔法因子。直感的に危険と悟ったのだ。

 

「死ねっ!」

 

逃走者はそれをリーナに向かって投擲する。

ルインが気付いた異変はベンとは異なり《マギカ・デストラクション》を使用した際に自分に向いていた殺意がリーナに移ったのを敏感に感じ取った。

 

「っ⁉︎」

 

飛ばされてきたそれを避けようとするがそれは急に煙幕を噴き出しリーナの視界から消えた。

 

「させるか!」

 

ルインはかろうじてリーナとそれの間に入り知覚魔法でそれの存在を感知し完璧なタイミングで柄を握りそれを防いだ。

 

「ベン!煙を払え!」

「ハッ!」

 

ルインが指示を飛ばすとベンは素早く風を起こし煙を吹き飛ばした。

 

「総隊長!追いますか?」

「いや…深追いはしなくていい。手がかりはある」

 

ルインは先ほど逃走者が投擲した武器をベンに見せる。それは大体ルインが認識通りだったが一つ違ったのはいくつもの穴が空いていたところだ。

 

「ここから煙が噴き出したのでしょうか?」

「多分な…それにこの武器…日本の“ニンジャ”と呼ばれた者が使っていた“クナイ”だ」

「日本…ですか」

 

日本とUSNAは事実上友好な関係ではあるがその実は腹の探り合いをしているようなものだろうとルインは思っている。

 

「スパイでしょうか?」

「さぁな…とりあえず今日は退くぞ」

「イエス・サー」

 

 

 

「それでリーナ…なんで何も話さないんだ?」

 

リーナはそこから直接戻るのではなく他でもないルインに呼び出されていた。

 

「…おっしゃる意味がわかりません」

 

あくまでもリーナは自分がなぜ呼び出されたかわからないという態度をとる。

ルインはやれやれと言わんばかりにこめかみを抑えている。

 

「大方の予想はついている。さっきのことだろ?」

「っ……はい。私はあの時ルインさんやカノープス少佐のように動けませんでした…」

「そうだな。相手からもお前が一番舐められていた」

「…はい」

 

ルインは隠すことなくはっきりとリーナに告げた。リーナの顔からは悔しさが滲み出ている。

 

「仕方ない…で済ませるつもりもないがお前の働きには及第点ぐらいはつけてやれる」

「え…?」

「俺もベンもかなりの速度で追跡していたんだがしっかりとついてこれた。さらには急な連携にいい動きを見せてくれた。仮にもスターズトップツーである俺たちとだ」

 

ルインの言うことは最もだ。

リーナは今日ルインの補佐として着任したわけで連携の確認や作戦もなしに行ったにもかかわらずその指示についてきた。

 

「初めてにしてはよくやってくれた」

 

リーナの艶やかな金髪に優しくルインの手が伸びる。

一瞬身体を強張らせたリーナだったがルインは気にしなかった。

 

「…えっ…?」

「頑張ったな」

 

ルインは優しくその髪を撫でた。

リーナは呆気にとられて状況を理解していない。

 

「え、あっう、うぅ〜」

 

リーナが緊張しながら顔を上げるとルインに優しく微笑みかけられ顔を赤く染め俯いてしまう。

 

「あ、あの…ルインさん…そろそろ」

「ん?あぁ悪い…ついな」

 

ルインは慌ててリーナから手を離す。

リーナも気を取り直すように咳払いをした。

 

「そ、それでルインさん。これからの行動は?」

「ん?あぁ俺は日本に行こうと思う」

「?何故わざわざシリウスである貴方が?」

 

リーナの言うことは最もだ。

何かあるならルインが出向かなくても他の人間がいくらでもいる。

さらに言えば今回の件で実際に日本に行く必要性はあまりない。

 

「確かに俺が出向くことでもないかもしれんな。だからと言って上に頼むわけにもな。どーせ適当な人材を送り込まれて成果はほとんどなしで終わりだろうな」

 

つまりルインは自分で行けば確実に何かを得られるということを確信していた。

 

「今回の件に関しては俺とベンそれともう一人くらい人員が欲しいところなんだが…」

 

ルインは悪い笑みを浮かべリーナのことを見る。そしてリーナもその笑みの理由を理解していた。

 

「どうするリーナ?」

「……行きます!」

 

リーナはルインの補佐官としてではなく自分自身の意志で決めた。今回の件で確かにルインから及第点はもらった。しかし彼女自身はそれに納得していなかったのだ。

 

これはルインがそんな雰囲気を察しての行動だったが今のリーナに気づく余地はなかった。

 

「あっ…あのひとつ聞いてもいいですか?」

「いいぞ」

「ルインさんにはアテがあるんですか?」

 

確かにあてが何もないのに行動するのは浅はかというものだ。

無論そんなわけはなくルインには一つだけ“ニンジャ”についての心当たりがあった。

 

「アテはあるぞ。どれだけ認知されているか知らないがある人物が“シノビ”をやっているらしい」

「その人物はわかっているのですか?」

「ああ。本当かどうかはわからないが」

 

ルインは一枚の写真を取り出した。

今回の件について事件を聞いた時に密かにこの人物のことが頭に浮かんでいた。

 

「資料にあった魔法はいわゆる古式魔法。おそらくこの国のものじゃないと思ってな。俺の知る限りの古式魔法使いを調べてヒットしたのが…」

 

ルインはリーナに写真を見せる。

その写真には少し細身の髪を剃り上げた男が写っていた。

 

「この人物は?」

「日本で有名な忍術使いの…九重 八雲だ」

 

 



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始まりの序章


過去編完結!

次回よりプロローグの続きとなります!


 

 

謎の魔法師を追い詰めてから二日後。

 

「うーん…俺よりもベンの方がいいかもしれないな」

 

ルインは顎に手を当てながら思案顔を浮かべていた。

 

「ルインさん。どういうことですか?」

「俺はこんな見た目だしな。こういう交渉ごとはベンの方が適任だ。頼むぞ」

「イエス・サー」

 

やっと上から許可が下りたルインは日本に向かうにあたりベンとリーナ二人と予定を決めていた。

 

「こちらからある程度の情報は公開し交渉をする」

「交渉?相手方にとってはなんのメリットもないと思いますが…」

 

リーナの言うことは正しい。

今回の交渉において九重 八雲に情報公開の義務はない。

 

「まぁそうだが俺たちが捕獲を前提で話した場合相手に取っても不都合が生じる」

「…?」

 

ルインはリーナに回答を目で求めたがそれの返事は少し首を傾げただけだった。

 

「特に古式魔法とかは国によってはなかなか重宝される物だ」

「?」

 

その話だけでは要領をえなかったのかリーナはさらにわからなくなったような雰囲気を醸し出す。

 

「そこまで遠回しに言わないでもっとはっきりいってあげたらどうですか?」

「すまんすまん。ついな」

 

ベンの嗜めるような言葉にルインは悪い笑顔を見せて勘弁してくれと言うように両手を挙げた。

 

「?………っっっ⁉︎」

 

そこまで行ったところでやっと自分がからかわれていることに気づいたリーナは顔を赤く染めうっすらと涙を浮かべながら抗議の目をルインに向けた。

 

「そんな怖い顔でみるなって。せっかくのかわいい顔が台無しだぞ?」

「なっ⁉︎にゃっにを言ってりゅんですか⁉︎」

 

ルインの直に見るのは危険すぎる眩しい笑顔でそう言われリーナは今にも湯気が噴き出しそうな勢いで顔を真っ赤にした。

 

あまりに唐突だったせいかうまく呂律も回っていないようだ。

 

「はぁ〜〜…ルイン、今はおふざけの時間じゃない。貴方の辞書には反省という文字が」

「ない」

「ですよね」

 

ドヤ顔で言い放つルインに呆れた視線を向けつつベンは頭を抑える。

こればかりはどうしようもないとわかっているのだがやはりどうにかしたいという気持ちはあるようだ。

 

「とまぁそれはさて置き…リーナ」

「ひゃい⁉︎」

 

まだ心の整理が終わっていないリーナは突如として真剣な声で呼ばれへんな声を出してしまった。

 

「続けるぞ?」

「……はい」

 

顔を羞恥の色に染めて俯いているリーナに確認をとりルインは話を戻した。

 

「もし今回の逃走者が“ニンジャ”と関わりがあるならなんとしてでもその魔法の流出は避けたいはずだ」

「…つまり彼方にとって謎の魔法師の捕獲は魔法の流出に繋がるということですか?」

 

リーナの回答に満足したように頷きルインは続けた。

 

「こっちのジョーカーはその魔法師の抹消を約束することだ」

「それでは上からの命令に…」

「リーナ。総隊長とはそういうお人だ」

 

ベンから見たルインの人柄は自由奔放であるが軍務に対して真摯な向き合う。

そのため上層部と何度も揉めたりするがその結果が間違っていたことはなかった。

 

「さてと。んじゃ解散。また一時間後な〜」

「イエス・サー」

「ちょっとルインさん⁉︎本当にいいんですか⁉︎」

「いいのいいの〜気にしたら負けさ!」

「別にカッコよくないですよ!」

 

リーナの抗議に一切耳を傾けずにルインは部屋を退出した。

 

「カノープス少佐…大丈夫なんでしょうか?」

「ん?ルインとは彼が軍務に就いてからの仲だが私は今まで一度も彼が間違ったところを見ていない」

 

リーナはベンがルインに絶対的な信頼を寄せているのがその目を見てわかった。

 

「ベーーーン!リーナ!まずいぞ⁉︎」

「何があったんですか⁉︎」

「俺の…カップケーキがない‼︎」

「ルインさん!そんなことでいちいち騒がないでください!びっくりしましたよ!」

 

くだらないことで大声を出したルインにリーナがびっくりして損したと言わんばかりに声を上げた。

 

「カノープス少佐!なんとか言って…少佐?」

「…いや…そのすまんないルイン。美味そうだったんで」

 

ベンは気まずそうにルインから目を逸らして盗み食いを自白した。

 

「この野郎!確かに俺の冷蔵庫の中のもんは食っていいて言ったが!スイーツはだめっつたろ!」

「ま、まぁ日本には“ワガシ”というスイーツがあるそうだ」

「何に?それは本当か⁉︎よし!すぐに日本に行くぞ!」

「イエス・サー!」

 

まだ見ぬ日本に心を躍らせながらルインは目をキラキラさせる。

ベンも話が逸れたこの気を逃さまいとそれに便乗する。

 

「…本当に大丈夫なのかしら?」

 

若干目的が変わりつつあるスターズトップツーをよそ目にリーナがそう言ったのは仕方がないことだろう。

 

「どうしたリーナ?行くぞ?」

「あ、はい」

 

そうしてその日のうちにルインたちはUSNAから日本へと向かった。

 

 

 

 

「どうも初めまして。USNA軍のベンジャミン・カノープスです」

「こちらこそ。住職の九重 八雲です」

 

ベンと八雲は一定の距離を保ち挨拶を交わす。ベンの顔は少し緊張しているようにも見えるが目的を達成するという意志を感じる。

 

しかし八雲の視線はなんとも言い難い探るような物だ。

 

「後ろの方は?」

「私の部下ですよ。さすがに一人で来るのは不用心だと思いましてね」

 

八雲の視線は後ろに控えている変装しているルインとリーナに移る。二人は軽く会釈をしその視線を流した。

 

「僕はてっきりスターズ総隊長ルイン・シリウス殿が出てきてくれると思ったんだけど」

 

ベンはまさかと笑い飛ばすように八雲の言葉を受け流すが八雲は一人の微妙な動揺を見逃さなかった。

 

「連れてくる部下はしっかりと選んだほうがいいと思うよ。ルイン・シリウスくん?」

「…はぁ〜」

 

八雲が全てを見通すように勘付いてルインへと確信めいた視線を向けた。

それに対しルインは軽く息を吐き大人しくベンの前に出た。

 

「騙すような真似をして失礼した。自分がスターズ総隊長ルイン・シリウスだ」

「っ…ルイン」

「下がれベン」

 

凄みの効いた声で言われたベンはリーナの横までその位置を動かした。

 

「参考にどうしてわかったか聞いても?」

「そこにいるお嬢さんが君の名前を言った時の僅かな動揺と一瞬だけど視線もそっちに行っていたことからかな」

「お見それした。さすがはかの忍術使い、九重 八雲殿ですね」

 

突如として予定が狂ってしまったルインだったがすぐさまその状況を呑み込み対処に動いていた。

 

「あまりお時間を頂戴しても悪いので早速本題に移っても?」

「構わないよ。USNAに侵入した謎の魔法師についてだったかな?」

「はい。その件についてこのようなものに見覚えはないですか?」

 

ルインは先日逃走者が残していったクナイを取り出し八雲に見せる。

 

八雲はそれを受け取るとジッと観察した後ルインに返した。

 

「確かにそれは日本の物だね。妙な手が加えてあるけどある家の《煙苦無(エンクナイ)》と呼ばれる道具だよ」

「そうですか」

 

ルインは一瞬なんのためらいもなく情報を話したことに若干驚いたがすぐに気を持ち直し話を続けた。

 

「そのある家については…」

「その前にUSNAよ目的について聞いてもいいかな?」

「…自分たちに下された任務はその魔法師の捕獲及び日本の古式魔法の解読のための情報を得ることです」

 

ルインは嘘半分真実半分の内容を告げる。

上がどう考えているかは知らないが恐らくはという仮定の話をあたかも真実のように話し上に抹殺の意図はないことをアピールした。

 

「僕はもう俗世に興味はないんだけどそれは僕たち伝統ある古式魔法使いにとってあまりいい話とは言えないね」

 

八雲は顎に手を添えてある考える素振りを見せる。ルインはその裏に気づいていた。

 

「情報提供していただけるなら自分の権限である程度の処理はできます」

「取り引き成立だね」

「協力感謝する」

 

今まで不自然に開いていた距離を詰め二人はお互いの手を交える。

 

「僕は少し君に興味が湧いたよ。ルイン・ウォーレスくん」

「…自分も今のであなたに興味が湧きましたよ…八雲 和尚さん」

 

この二人は互いに相手はこちら側のことをほとんど調べ終わっていると判断したが敵対する意思はないということをこのやりとりで伝えた。

 

 

 

「すみませんでした!私の失態です…」

 

八雲の元を後にし一泊する予定の宿でリーナはルインに頭を下げていた。

 

「私が未熟者だったせいでルインさんの正体が…」

「ああ。そうだな。あの時に僅かでも動揺したリーナ…お前に責任がある」

「っ!…ほんとうにすみませんでした」

 

リーナは悔しさを押し殺しながら頭をさげる。リーナの僅かな動揺によってルインの正体が八雲にばれてしまったと思っているからだ。

 

「しかし元から無理のある提案でもあった…第一こちらも九重 八雲という男を甘く見ていたようだった」

「…?」

「あっち側もすでに俺のことについて調べ終えていたよ。俺の本名がルイン・ウォーレスであることもな」

「っ⁉︎」

 

ルインの正体は特殊機密に分類されるものであり本来は自国のものですら知れることではないのに関わらず八雲は知っていたのだ。

 

「今回は完全にやられた。俺たちの負けだ」

「…はい」

 

ルインは参ったと言わんばかりの表情を見せリーナは若干の悔しさを含んだ顔をしていた。よっぽど自分の失態が悔しかったのだろうとルインは思っていた。

 

「ルイン。“ワガシ”というものを買ってきた」

「本当か⁉︎よくやったぞベン!」

 

ルインはベンから箱を受け取るとすぐに開封して中にある物を口にした。

 

「ん!これはうまいぞ!なんていうスイーツだ⁉︎めっちゃ伸びるぞ!」

「“ダイフク”と呼ばれる甘味だそうだ」

 

満足そうに頬張るルインをベンは買ってきてよかったと自分の息子のように眺めリーナは…

 

「ん?どうだ、リーナも食べるか?」

「え、いいん……いえ大丈夫です」

 

欲しがるような視線を向けながらもリーナは欲求をこらえて言った。

そんなリーナにルインはやれやれと近づいて行って無理やり大福を口に加えさせた。

 

「ふむっ⁉︎」

「疲れた時は甘いもんが一番だ。遠慮しないで食え」

「……ふぁい」

 

リーナは若干戸惑いながらも大福を口に含みその全体に広がる甘味を感じていた。

 

「美味いか?」

「…はい…美味しいです」

 

やっと笑顔を見せたリーナを見たルインは満足そうにしてもう一つ大福を食べた。

 

「…んぐっ⁉︎んんっ!グッ!み、水!」

「ル、ルインさん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

「ルイン!これを!」

 

ルインはリーナに背中をさすられながらベンから受け取った水を勢いよく飲み干した。

 

「な、なんて危ない食べ物だ…今までで一番命の危険を感じた…」

 

ルインは若干恨めしそうな視線を大福に向けたがどうにもその味がクセになったようで帰国する際もちょくちょく口にしていた。

 

 

 

「どうゆうことだね⁉︎私たちは君に捕獲を命じたはずだ!」

「できればですよね?自分はこれ以上我が国に被害を加えられる前に消したまでです」

 

帰国してすぐにルインは例の逃走者のことを処分した。

 

最初の時とは違い目的が抹殺であったために時間はかからずほぼ一瞬の決着となった。

 

「失礼します」

 

上層部への報告を終えたルインはその場を後にする。

 

この件をキッカケにリーナはルインの正式な補佐官としての地位に就いた。

 

そして上層部がルイン・シリウスを目障りに感じ始めたのはこの一件が原因でもあった…

 





お気に入りありがとです!

次回からはいよいよ日本での物語になります!
リーナの登場は来訪者なので時間が…

感想よかったらお願いします!


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八雲の極秘資料1

タイトルはこんなんですが設定などがまとめられています。




 

ルイン・ウォーレスについての調査資料

 

本名/ルイン・ウォーレス

所属/(元)スターズ総隊長。コードネーム/ルイン・シリウス

経歴/年齢12でUSNA軍に正規軍人として配置される。その後数々の任務で功績を挙げる。

二ヶ月後その実力をスターズ前総隊長ウィリアム・シリウスに認められ彼の片腕として前衛で活躍。

ボストン防衛戦にて戦略級魔法に登録された魔法を使用。この戦績を評価しウィリアム・シリウスよりスターズに推薦され第二部隊隊長コードアークトゥルスとしてスターズの一隊を預かる。

配属一年後ウィリアム・シリウスの死により僅か13でスターズ総隊長シリウスの地位に就く。二年間での功績は挙げれば数え切れないほどである。

 

しかしその自由奔放な性格は上層部にとって都合が悪かったようで密かに抹殺の計画が立てたれた。

 

そして半年前ルイン・シリウスは他のスターズ所属の軍人を逃すために囮となったのち不慮の事故で死亡した。

 

・・・と記されているが我々はここ最近妙な噂を耳にした。

 

ルイン・シリウスは任務中ある魔法を使用し漆黒に染まった髪に深海を覗き見たような蒼い瞳の姿をしてると言われている。

 

しかし我々の調査によって一部であるが彼の真の姿…《クルーアル》と呼ばれる姿を捉えている。

 

今ではあまり見ることのないアンバーと呼ばれる金色に輝く瞳にその異名とは反対にまるで透き通るようなプラチナブランドは天使の輪を生み出していた。

 

これが本当の彼だとすると妙な点がある。

都内の噂で飛び交うようになった半年ほど前から見かけるようになった金髪の美青年と。

 

もしこれが本当ならルイン・ウォーレスは生存している可能性が大いに考えられる。

 

この件については我々が引き続き…

 

 

 

 

 

「何書いてんだよ…八雲さん」

「あれ?ルイくんじゃないか。もうそんな時間かい?」

 

八雲はペンを置いてルインの方に向き直る。

ルインはその紙をとって一通り目を通すとビリビリに破り捨てた。

 

「気に入らなかったかい?」

「これが誰かの目に入ってみろ。あんたは戦争でも起こす気か?」

 

ルインはやれやれと言わんばかりにこめかみを抑える。

八雲はただなんとなくこれを書いていたわけではない。

 

「ルイくんの情報はまことしやかだからね。僕の方でもしっかりと整理しておこうと思ってたわけだよ」

「あんたなら記憶してられるだろ…俺はもうただの高校生、守王 ルイだって言ってんだろ」

 

ルインはそう言ってその部屋を後にする。

八雲はルインが出て行ったのを確認して胸元に隠しておいたもう一枚の紙を取り出しこう書いた。

 

名前/守王 ルイ

国立魔法科大学付属第一高校所属の高校一年生

 

 




ギリギリ字数制限超えたぁ〜w

ここに載ってないことは聞かれ次第追記していきたいと思います!


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〜入学編〜
秘められた想い



お気に入り100人突破しました!

ありがとうございます!!!


 

 

ルインが日本へ来てから半年彼は国立魔法大学付属第一高校に入学を決めていた。

 

「ふむ…完全に迷ったな」

 

そして現在絶賛迷子になっていた…

ルインは別に方向音痴というわけではないが初めての学校生活ということで浮き足立っていることは否定できないだろう。

 

「あと10分くらいか…まずいな」

 

端末を使って調べれば簡単にわかるのだが先ほど確認したところ生憎の充電切れ。いよいよヤバイと思いながらどうするかと頭を掻きながらルインはため息をついた。

 

「ん?」

「おっ?」

 

そんなルインが視線を上げると一人の男子生徒と目が合った。

 

(ラッキー道聞けるじゃん)

 

ルインはそう思いながらその生徒に近づいていく。相手も嫌がる素振りはなく友好的な雰囲気だ。

 

「どうも。新一年の守王 ルイです」

「ん?俺は西城 レオンハルト!同じ一年だしタメ口でいいぜ!それと呼び方はレオで頼む!」

「そうか。それなら俺のこともルイって呼んでくれ、よろしくなレオ」

「おう!」

 

二人は軽く自己紹介を交わし笑顔を見せる。

しかし新入生なら今ここにいるのは問題がある。すでに入学式まで時間は10分を切っている。

 

「いや〜助かったよ。実は恥ずかしながら迷子になっちまってな」

「おっ奇遇だな。実は俺も焦って端末を忘れて地図が……ん?」

「Shit…マズイなこれは」

「ああ、全く同感だぜ」

 

ルインはレオに聞けば場所がわかると思っていたのだがそれは向こうも同じようだ。

 

「0と0じゃ足しても0だな」

「おお〜確かにそうだな!上手いこと言うじゃないか!」

 

二人はやや現実逃避気味に頭の悪い方向にどんどんと逸れている。

 

「君たち新入生か?そろそろ行かないと間に合わないと思うんだが…」

「ひょっとして…先輩の方ですか?」

「ああ、私はここの風紀委員長の渡辺 摩利だ」

 

二人は偶然通りかかった摩利に声をかけられ安堵の表情を浮かべた。

 

「お…自分は守王 ルイ、こっちは西城 レオンハルトです。実は端末が使えなくなってしまい道がわからなくて困ってたんですよ」

「そうか。この学校は広いからな。毎年こうやって先輩である私たちが誘導をしているんだよ」

 

そう言った摩利から会場の場所を聞き二人は頭を下げた。

 

「助かりました」

「ありがとうございました」

「ほら急いだ方がいいんじゃないかい?」

 

摩利に促されルインとレオはもう一度頭を下げて会場に向かって走った。

 

「助かったなレオ」

「全くどうなるかと思ったぜ」

 

ルインもレオもかなりの速度で走りながらも悠々と会話を続ける。自分ははともかくレオもかなりの使い手だとルインは見抜いていた。

 

「ふぅ、なんとか間に合ったな」

「とりあえず座ろうぜ」

 

二人はまだ空いている後ろの方にあった二つの席に腰を下ろす。

その時ルインに大量の視線が向けられた。

 

「あ…ルイ、お前一科生だったのか?なら前に座った方が」

「ん?あぁ俺はそんなちっせーことに興味はねぇよ」

 

レオが気を使った理由は簡単だ。

よく見ると前列の方に一科の後列の方に二科の生徒が座っているのだ。

 

ルインは一科生であるにかかわらず空気を読まないでそのままレオの横に座った。

 

彼としてもそう言ったことに興味はないし寧ろくだらないとすら思っているくらいである。

 

USNAにいた頃は多種多様な力よりも一つの技能に特化したものの方が活躍する場面も多くすでにそう言った世界を経験したルインに言わせればそれは愚考に過ぎない。

 

「レオが困るんなら俺は前に行くが…」

「いや、俺は構わないぜ!せっかく知り合えたんだしよ!」

 

最初は気を使ったレオだったがルインの雰囲気を感じ取ったようだ。

 

 

 

 

入学式も終わりルインとレオは二人で校内を練り歩いていた。

 

「やっぱデカイな…簡単に迷いそうだ」

「次は地図もってこないと無理だな…」

 

未だに迷子になってしまったことを悔やんでいるようで若干苦々しい顔をしている。

 

「そいやーお前何組だ?」

「俺はE組だったぜ。ルイは?」

「俺はA組だ」

 

第一高校ではAからDまでが一科、EからGまでが二科となっている。年によって誤差はあるが各クラス入試成績順に均等に分けられているようだ。

 

「にしてもさっきから視線が気になるな…」

「一科の俺と二科のお前がいるからなんだろうな」

 

ルインは元からかなり人目を惹く容姿をしている。

 

しかし今回の場合の視線はそれだけではなく一科と二科の生徒がなぜ一緒にいるのかわからないといったような視線だ。

 

この学校では一科生を《花冠(ブルーム)》と呼ばれ二科生は《雑草(ウィード)》と差別されている。

 

「でよ。俺は山岳部に入ろうと思ってんだ」

「へぇ〜。部活なんて考えてもみなかったな」

「やっぱりルイは魔法系クラブか?」

「まだよくわからんが多分そうだな」

 

そんな視線を全く気にもとめず会話を続ける。似たような性格をしているのか二人はかなり気が合うようだ。

 

「ところでレオはハーフなのか?」

「いや。クォーターだぜ。だからこんな名前ってわけだ。……あっ!ひょっとしてお前も?」

「俺もクォーターだ。俺の爺さんが日本人でな」

 

ルインの言っていることは作り上げた偽りではなく真実だ。

ルインの血縁に日本人は確かに存在している。彼が日本語を流暢に扱えるのは祖父と過ごした時間が多かったからという面もあるようだ。

 

ルインが日本の忍者や苦無のことを知っていたのはこれが影響しているらしい。

 

「へぇ〜それにしてはこう日本人ぽくなっていうか」

「まぁ俺は母似だからな。父さんも婆さんに似てたから日本人って面影はないんだろな」

 

その後ルインとレオはたわいも無い会話をし校門に着いたところで

 

「じゃあなレオ!」

「おう!またなルイ!」

 

ルインは第一高校から比較的近い位置にあるマンションに住んでいる。

 

ルインが扉の前に立ち手をかざすと生体認証で自動的に鍵が開いた。

 

「フゥ〜楽しいところだな」

 

ルインは今日、初めての学校を経験してきた。小学時代はわけあって家庭での勉強、中学時代にはすでに軍入りをしていたルインにとってはとても新鮮なものだった。

 

「あいつらは元気でやってるかな…」

 

彼は夜になると決まって空を見上げている。

彼は天体観測を日本に来てからよくするようになった。

 

この時期に見える星の中でもルインが気に入っているのがアークトゥルスとベガらしい。

 

そんな夜空を見ながらルインはボソッと一人の少女の名前をこぼす。

 

「リーナ…」

 

彼が夜空を見た時に頻繁に浮かぶのは常に自分の横で切磋琢磨してきたリーナの顔だ。

 

今日の入学式で答辞をした司波 深雪という美少女がいたがそれと比べても引け劣らないあのとても可愛らしい顔だ。

 

「って何ホームシックになってんだか…らしくねぇな」

 

誤魔化すように頭をガシガシと掻きながらルインはベランダを後にする。

 

彼は日本に来てリーナと離れてから彼女の存在が自分の中でどれほど大きかったのかを知った。

 

確認するまでもなく隣にいた彼女に知らず知らずのうち、ルインは自分が特別な想いを寄せていることに気づいた。

 

「…I'm dying to meet you」

 

両手でグラスを持ち身体をベランダの手すりに預け上半身を少し前のめりにし俯き加減になる。

 

彼が思わずそう呟いた言葉の意味は《あなたに会いたくて、たまらない》

 

しかしそれが叶わないことは彼が一番よく知っていた。

 

ルインはUSNA上層部により消された人物。

もし生存が確認されでもしたらあの頃ルインと親しくしていたものまでにもその矛先が向かう可能性がある。

 

だからルインは日本へとやってきた。

少しでもリーナたちの危険を減らすために死亡の情報を流し遠く離れた。

 

「今は…まだ時じゃ無い」

 

しかしルインもやられっぱなしで黙っているわけでは無い。

そんな危険なところに自分の愛する者を置いてきてしまった後悔を胸にしまいながら彼は着実に力を蓄えていった。

 

「待ってろよリーナ」

 

ルインのその黄金の瞳は星の光を浴びより一層その強く気高い輝きを見せていた。

 

その奥に眠る深い信念はまだ誰にも明かされることはないだろう…

 

 





どうでしたか?

時間があれば感想、ぜひよろしくです!


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交わった拳

 

 

入学式の次の日、ルインは八雲にそれを報告するため朝早くから九重寺を訪れていた。

 

「入学おめでとうルイくん」

「ああ。八雲さんが色々手伝ってくれたおかげでなんとかなったよ」

 

ルインが日本で不便をしなかったのは何かと八雲が援助などをしてくれたからであった。

 

「いやいや。僕たちの関係はギブアンドテイク、僕が日本での生活を援助する代わりたまに弟子の相手をしてもらうっていうね」

「わかってるさ。本当はいつも通り午後に来る予定だったんだが挨拶ぐらいはすましとこうと思ってな」

 

もちろん八雲だっていくらなんでも見返りもなしにそんなことをするわけがない。

ルインのその高い戦闘技術を持って日本では体験できない闘いを八雲の弟子たちとしているのだ。

 

「守王の兄貴!」

「今日は朝からですか‼︎」

 

ルインの到着を知り八雲の弟子たちが次々と押し寄せてくる。

 

「まぁ時間もあるし胴着あるか?」

「うっす!」

 

そんな光景を見ながら八雲は微笑を見せる。

ルインが日本に来てから数ヶ月で八雲はその不思議な力に気づいた。

 

彼の元には不思議と人が集まり彼に触れたものは自然と彼に心を開くのだ。

 

「これも運命の出会いなのかもしれないね」

「なに気持ち悪いこと言ってんだよ…悪いが俺にそっちのけはねぇ」

「聞いてたのかい?安心していいよ。僕もそっちは興味ないからね」

 

ちょっと引き気味なルインに八雲はなんとも言えない笑みを投げかける。

 

「兄貴!胴着っす!」

「うし!やるか!」

 

ルインは上着を脱ぎ胴着に着替える。

金髪なため少し違和感を感じるが別に似合っていないわけではないだろうとルインは思っていた。

 

「ルイくん、ちょっといいかい?」

「はい?」

「実は今から一人君に紹介したい子がいるんだ」

「俺に?」

「今からその子の乱取りを見ていてくれないか?」

「まぁいいけど」

 

ルインは少し不満げにしながらその相手を待つ。そしてそれから数分後門前が騒がしくなった。

 

「それじゃあ行こうか。気配を消してね」

「わかった」

 

八雲はその人物に気づかれないようにゆっくりと近づいていき後ろから声をかけた。

 

「久しぶりだねぇ深雪くん」

「せっ先生!気配を殺して忍び寄らないでくださいとあれほど…!」

 

後ろから急に頰を突かれた恥ずかしさからかそれとも怒りのせいなのかその頰は若干赤い。

 

「それは難しい注文だね深雪くん。この九重 八雲は忍びだからね。忍び寄るのは性みたいなもんさ」

「今時、忍者なんていません!」

「いくら忍術が魔法の一種と証明されようと我々は由緒正しい術を…」

「だからそれは古式魔法で!」

「そんなことより!」

 

八雲は深雪の言葉を遮り目を光らせその身体を凝視する。正確には制服とセットでだがルインにはただの変態にしか見えなかった。

 

そしてそんな八雲の背後から手刀が襲いかかる。八雲はそれに気づいていながら避けようとしない。

 

「ヘェ〜こいつが俺と合わせたい奴?」

「?…お前もここの門下生か?」

 

相当な速度で振り下ろされた腕を片手で受け止めルインは興味深そうに口角を上げる。

 

「本当なら僕が相手をしたいんだけど…今日の相手は僕の友人だよ」

「師匠の友人…ですか」

「彼も君と同じで昨日から一高に通っているんだよ」

 

青年は八雲がそう言うとルインから一旦距離を取りその容姿を目に焼き付ける。

 

「俺は守王 ルイだ。八雲さんとは数年前からの付き合いでな」

「俺は司波 達也だ。一応ここで修業をつけてもらっている」

 

ルインが名乗るとそれに続き達也が構えを取りながら名乗り返す。

ルインもニヤリと笑い構えをとった。

 

「行くぜ!」

「こい…!」

 

ルインが達也との距離を詰め鋭い拳を放つ。

達也はそれを見切りカウンターで腹部を狙ったがそれは反対の手で防がれた。

 

「やるな」

「お前な」

 

ルインはつかんだその拳を引っ張り達也のことを軽々と投げ飛ばす。

若干体勢が崩れたものの達也は持ち直しルインとの距離を置いた。

 

「お前のその技…ここのじゃないな?」

「へぇ…それに気づくか…そうだ。俺は自分自身の戦闘スタイルを作ったからな」

 

ルインの戦闘スタイルはここで何年も修業していた達也も初めて見るものだった。

 

「それじゃあ続きと行こうか!」

「ああ!」

 

達也は珍しく興味を持っていた。

柔軟性を生かした変則的ホームからの鋭い拳、まるでしなるように降りかかるムチのような蹴り、独特のリズムによる相手の読みを上回る行動。

 

達也自身同年代でここまでの人物がいるとは思っていなかった。

 

しかしそれはルインも同じだった。

 

急所を突くように穿たれる拳、ガードをしても軽く痺れが残るような重たい蹴り、自分のスピードについてくるその反射神経。

 

彼らはお互いにその技と技をぶつけることで相手に対する興味を深めていった。

 

「そこまで!」

 

そんな二人の一進一退の攻防は八雲の声によって終わりを告げた。

ルインの顔は強者と戦えたことによる満足感からか爽やかな笑顔をしており達也もまたどこかスッキリしたような感じだ。

 

「お兄様のあの様なお顔…初めて見ました」

 

それは実の妹である深雪さえも見たことがない様な兄の顔だった。

 

「いい勝負だったよ」

「ああ。まさか俺と同年代でここまでやれる奴がいるなんて思ってなかったぜ」

 

達也から手を差し出されルインはそれを握り強者同士の手が交わる。

 

「これからは同じ一高生としてよろしく頼むぜ司波」

「ああ。それと俺のことは達也でいい。妹もいるしな」

 

達也が深雪に目配せをすると二人の元に近づき綺麗に頭を下げた。

 

「初めまして、司波 深雪です。私のことも気軽に呼んでくださいね」

「初めまして、守王 ルイだ。ルイって呼んでくれ」

「よかったらご一緒に朝食はどうですか?先生もご一緒に」

 

深雪がサンドイッチが入ったバケットを見せるとルインと八雲は嬉しそうに笑いありがたく朝食を共にした。

 

「深雪さんもA組なんだ。クラスメイトとしてもよろしくな」

「はい。よろしくお願いしますね」

「達也はE組か…」

 

ルインのその言葉に深雪は一瞬顔を顰めた。

深雪は自分の兄がまた蔑まれると思ったのだろうがそれは杞憂に終わった。

ルインの顔が裏表のない満面の笑みに変わったのだ。

 

「俺の友達もE組なんだ。西城 レオンハルトっていうんだけど昨日会ったんだけど気さくでいい奴だぜ」

「そうか。それは是非とも話してみたいな」

 

深雪は意外の念を隠せなかった。

ルインはE組の、二科の生徒のことを何の躊躇もなく知り合いではなく友人と言ったのだ。

 

「深雪?」

「お、お兄様⁉︎な、なんでもありません!」

 

そんな深雪の顔を達也は心配そうに覗き込んだ。それに対して深雪の反応は少し過剰なものだったがここにそれを気に留める人間はいなかった。

 

「メッチャ美味かったぜ。ごちそうさま」

「いえ。お粗末様でした」

 

深雪はルインの今までに見たことないタイプの人間性に少々戸惑っていた。

と言ってもそれが外側に現れるわけではなくあくまで心の中での話だ。

 

「それじゃあ俺はこれで。じゃあ学校でな達也、深雪さん。八雲さん、また夕方くるから」

「ああ」

「ええ。また後ほど」

「わかったよルイくん」

 

階段から降りていくルインの背中が見えなくなったところで達也は疑問に思っていたことを八雲に質問した。

 

「師匠の友人…ということはただものではないですよね?」

「それは僕から話すことではないよ。きっと彼から打ち明けられる日が来るさ」

 

達也はこの回答でルインが只者ではないことと八雲が自分たちに秘密にするほどの重要な秘密を握っていることを知った。

 

しかしだからと言って達也は無理にそれを聞き出そうとはしなかった。単純に知る必要がないといえばそうだがそれを今知ったところで何するわけじゃあるまいしもう少しあの不思議な男に触れてみたいという興味があったのだ。

 

「不思議な方ですね」

「…そうだな」

 

その様に感じたのは深雪も同じだった様で達也は珍しく深雪が自分だけに向けていた笑顔でルインの去った方向を見ているのを感じ取った。

 

そんな光景を見ながら八雲も自分がルインと出会った時を思い出す。

 

あの時八雲はルインの本当の姿を知らなかったが何らかの魔法で姿が変わっているのはわかっていた。

 

その時から八雲はルインのことを不思議な少年だと思う様になっていたのだ。

 

本来なら軍属するには早過ぎる年齢なのだがルインとの受け答えはそれ相応の経験を積んできた者たちと同じような感覚を八雲に感じさせた。

 

(本当に不思議な男だよ君は…)

 

八雲はルインの独特な人間性が周りの人たちに少なからず影響を与えているのではないかと推測している。

 

八雲自身も自分がそれに影響されていることも何となく察していたのだ。

 

「師匠。自分たちもこれで」

「失礼します先生」

「うん。朝食ありがとう深雪くん。達也くんもルイくんとまたやりたいなら陽が沈んだ頃にくるといいよ」

「わかりました」

 

今まで達也とルインが出会わなかったのは練習に参加している時間帯だった。

 

達也が参加しているのは朝の練習でルインが参加しているのはだいぶ陽が落ちてからだった。

 

達也はたまにでいいから夕方にも顔を出すかと心の中で決めていた。

 

 



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新たな出会い

お気に入り200超えました!

みなさんありがとうございます!




達也との有意義な模擬戦を終えいい汗をかいたルインは学校へと向かうためにシャワーを浴びていた。

 

その間に考えるのは今日八雲に紹介された兄妹のことだった。

 

(司波 達也か…ただもんじゃないな)

 

ルインはUSNA軍内でもそれなりに体術は修めたほうであった。

 

そんな自分とあくまで魔法を介さない試合ではあるが全くの互角で立ち合った達也の実力は本物であり同時に彼が自分と同じタダの高校生ではないと直感的に感じ取っていた。

 

「まぁ今となっては俺に関係はないがな」

 

キュッと蛇口を捻り水を止めるとルインはその艶のある金髪を撫でるようにタオルで拭く。

 

達也がタダの高校生であろうがなかろうがタダの高校生になった守王 ルイには関係はなかった。

 

彼は今『降りかかる火の粉は払うが余計なことには首を突っ込まない』という理念のもと生活している。

 

つまりあちらから何か仕掛けてくるなら話は別だがこちらからは良き友人・好敵手(ライバル)として接していくということだ。

 

「少し早いけど…まぁゆっくり行くか」

 

ルインは制服を着用してCADを腕にはめた。

基本的に校内でのCAD携帯は一部の生徒しか許されていない。

そのためそれは一時的に預けることになる。だから彼が携帯しているのは例のCADではないものだ。

 

「うし!行くか‼︎」

 

入学式を除けば今日から本格的な高校生活、ルインにとっては初めての学校生活でもあるためその心情はかなり上向きだ。

 

 

 

家を出て間も無くルインは第一高校に到着した。家が近いため思ったよりも始業まで時間があるようだ。

 

ルインはひとまず自分が今日から過ごす1−Aの教室に足を運んだ。

まだ人はまばらだが数人はすでに到着しているようだ。

 

(俺の席はっと)

 

ルインは情報端末で自分の席を確認すると自分の隣の席にすでに人がいることに気がついた。

 

「うわ〜綺麗な髪の毛…」

「うん。そうだねほのか」

 

ルインが颯爽とした様子で席に腰掛けるとその一般的な金髪よりも透明感のある金髪に目を惹かれ隣の女子生徒二人が思わず言葉をこぼした。

 

「?」

「はわっ⁉︎え、えっと!グッモーニング?」

 

ルインがそれに不思議そうに首を傾げながら笑顔を向けると最初に髪を綺麗だと言った女子生徒が何を勘違いしたのか英語で挨拶をした。

 

「ははっ大丈夫だ。日本語で構わない」

「あっ…うぅ」

 

早とちりをしたことが恥ずかしかったのか顔を赤くしてその少女は俯いてしまった。

 

「俺は守王 ルイだ。祖父が日本人のクォーターでな。日本語もこの通り何の問題もなく話せるから気軽にファーストネームで頼むぜ」

「私は北山 雫。それでこっちが私の親友の」

「み、光井 ほのかです!さっきはすみませんでしたっ‼︎」

 

ほのかが勢いよく頭を下げると鈍い音がなった。謝罪に真剣になりすぎて机に額をぶつけたのだ。

 

「お、おい…大丈夫か?」

「大丈夫だよ。ほのかはおっちょこちょいだから」

 

親友が頭を抑え涙を堪えているのにもかかわらず涼しげな雫を見るにいつもこんな感じなのかとルインは思った。

 

「も、もう雫!余計なこと言わないでよ!」

「余計なことじゃなくて本当のことじゃないのか?」

「す、ルイくんまで⁉︎もう二人ともやめてよぉ〜」

 

ほのかが本格的にうなだれると雫とルインは顔を見合わせて笑った。その際若干雫の顔が赤かったのはルインの顔が予想のほか近かったからだろう。

 

ルインも自分の容姿がそれなりにどころかかなり整っていることを自覚している。

彼が街に繰り出せば送られる憧れや羨望の視線を彼自身敏感に感じ取っているのだ。

 

だからなぜ雫の顔が赤くなったのか、ほのかに笑顔を向けた時慌てたのかも理解した上であえて鈍感を演じた。

 

「チッこれだからイケメンは…」

「俺たちだって女子と話したいのにな」

 

二人との会話を終えて席に着いたルインに聞こえてきたのは男子生徒の嫉妬の声だ。

 

彼に向けられるのが好意的な視線だけとは限らない。その中には嫉妬などの負の感情も含まれているしそれにルインが気づかないはずがない。

 

しかし元軍人であったとしても彼はまだ高校生、そんな視線を向けられて優越感を感じることもまた嫌いではなかった。

 

「おはようございます」

 

ルインに視線を向けてたほとんどの生徒の目が入り口あたりに集中する。

 

そこには10人、いや100人に聞いても全員が美少女や美人と答えるに違いない容姿の女子生徒。ルインと朝食を共にした司波 深雪が淑女の様な挨拶をして教室に入ってきたのだ。

 

(スゲェ目立つなぁ〜…まさかリーナと同じレベルの美少女がこの世にいるなんてな)

 

ルインは改めて司波 深雪という女性の魅力を感じた。その上でリーナと同じレベルといったのだからルインにとってリーナはそれほどまでに大きな存在なのだろう。

 

深雪の登場にざわついてきた教室の中でその張本人も目が合いルインは軽く会釈した。

その後ルインは話し声を遮断するために無線型のイヤホンを取り出して一人ひっそりと音楽を聴き始めた。

 

 

 

1−Aの教室内は担当教師の話も終わり授業見学のことで賑わっていた。

先ほどは男子生徒に一緒にと誘われていた深雪だったがほのかの助けによりその状態から抜け出してもう一人の友人を呼びに行った。

 

「ルイさん」

「…」

 

しかし深雪の呼びかけにルインは答えずに腕を組んだまま少し頭を下げている。

もしやと思い深雪が優しく肩を揺すると

 

「ん…なんだ…?なんかあったのか?」

「寝てたんですか?今から授業見学ですよ」

「マジか…起こしてくれてありがとな」

「気にしないでください。でもしっかりと話は聞かないとダメだと思いますよ」

 

深雪の柔らかい注意にルインは面目ないと言わんばかりに謝罪をしている。深雪は本当に反省しているのかどうかわからないといった様子だな特に追求はしない様だ。

 

「ルイと司波さんは知り合い?」

「んー…まぁそうなるかな?」

「私の兄がお世話になっている人の知り合いで知り合ったのよ」

「そんなところだ。それよりも今からの内容について聞いてもいいか?歩きながらでいいからさ」

 

別にルインと深雪が知り合いということはそこまで掘り下げる必要もない話だったため雫もほのかもルインに今からの大体の流れを話した。

 

「ルイさんも一緒にどうですか?」

「俺は魔法の授業には興味ないな…工房にでも行ってみる。誘ってくれてありがとな」

「いえ、気にしないでください。それではまた」

「またねルイ」

「ルイさん気をつけてください!」

 

ほのかの言葉に一瞬ルインは何を気をつければいいのか気になったがさして興味もなかったので突っ込むことはせず爽やかに笑顔を浮かべて別行動に移った。

 

「おっルイじゃないか」

「Hiya レオ」

 

そこでたまたまレオと居合わせて二人は挨拶を交わした。

 

「ん?ルイか」

「達也も一緒だったのか?それに後の二人は…」

 

そこには達也もいた。

その後ろにはルインの見知らぬ二人の女子生徒がいた。

 

「俺のクラスメイトだ。千葉さん、柴田さんこいつは」

「守王 ルイだ。こんな見た目だが日本語は全然オッケーだから気にしなくていいぜ」

 

突然の金髪美青年登場に一瞬驚いた様子を見せたがすぐに愛想よく笑いルインに視線を向けた。

 

「私は千葉 エリカよ!よろしくね守王くん」

「柴田 美月です。よろしくお願いしますね」

「ああ。よろしくな」

 

短く自己紹介を済ませてルインはそのまま達也たちと工房見学を共にした。

 

(やっぱり日本の技術力は凄いな…)

 

ルインが工房に来た理由は彼自身が日本に来てから感じた魔法技術の高さだった。

 

日本は立派な魔法大国であるがその根底を支えてる技術力はルインが今までに学んできたものをはるかに凌駕していた。

 

「それにしてもルイは一科だろ?なんでまた工房に来たんだ?」

「一科の生徒なら講師の方の説明が受けられましたよね?」

「それはちょっと気になるかな。せっかくの機会なのにどうしてなの?」

 

達也を除いた面々がレオの言葉をきっかけにずっと聞きたかったことを口にする。

 

「確かにそうかもしれないけど俺は魔法自体よりもその魔法を使用するための技術ってのが気になったんだよ」

「確かにCADを代表として魔法を補佐するものはたくさんあるからな。ルイがこっちに興味があるのもおかしくはないだろう」

「そーゆーこった」

 

ルインの言葉に達也が補足をしたところで理解したのか妙に納得顔をしたレオとエリカに二人の意見に賛成するかの様に首を振っていた。

 

「そろそろ昼食の時間だな。ルイも一緒にどうだ?」

「んーじゃそーすっかな」

 

達也の誘いに快く応じてルインも四人との昼食の席を共にすることになった。

 

「工房見学楽しかったですね〜」

「有意義な時間だったな」

「こっちに来て正解だったとつくづく思ったよ」

「あんな細かい作業俺にできっかな」

「あんたには無理よ」

 

五人の話題は先ほどの工房見学のことだった。ルインもだが他の面子もそれなりに満足している様だ。

 

「お兄様!」

「深雪」

「私も今から食事なんです。ご一緒してもよろしいですか?」

 

達也は断る理由もないのでそれを承諾するが深雪の後ろにいた一科の生徒たちは納得していない様で深雪の説得を続けている。

 

「いい加減にしたらどうだ?深雪さんも嫌がってるだろ」

 

そんな状況に腹が立ったのかルインの注意する声はいつもの明るい声よりも幾分か低くなっていた。

 

「司波さんは一科生、なら同じ一科生同士で食べるのが当然だろ?大体君だって一科生のくせにプライドはないのか?」

「プライド?生憎とそんなくだらないプライドは持ち合わせてないんでな。それにそんなどーでもいいプライド欲しいとも思わん」

 

ルインは席を立ち他の一科生の面々と対峙する。その瞳はまるで相手を威嚇する様に光りを増していた。

 

「お前たちのくだらんプライドはこの際どうでもいいが深雪さんに迷惑だとは思わないのか?」

「ぐっ…!そ、それは!」

「ルイの言う通り。私たちに司波さんを好きにする権利はない」

「司波さんもお兄さんと食べると言ってるんだから私たちは別の場所で食べればいいだけだよ!」

 

ルインのことを擁護する様な発言をしたのは雫とほのかだ。この二人も何かと思うところがある様子だ。

 

「っっ…あっちに行こう」

 

リーダー的存在の男子生徒は正論を言われて言葉に詰まりその場を後にした。

 

「二人ともありがとな」

「ううん。私もああいうのは嫌いだから」

「ルイさんがズバッと言ってくれてスッキリしました!」

 

二人ともある程度の優越感はあれど差別をするまでのものはない様だ。

 

「ほのか。私たちも別のところで食べよう」

「うん。もう時間も少ないし急ごっか」

 

雫とほのかがその場を離れ別の席を探し始めたところ深雪がルインの前で頭を下げた。

 

「先ほどはありがとうございました」

「気にすんなって俺が勝手にやったことだしな。礼ならあの二人にも言ってやれよ」

「ええ。もちろん」

 

ルインは差別を好まない。

確かに多少の優劣はあるかもしれないが人それぞれ違った努力をしていてその形があるのだ。それを否定することは何があってもしてはいけないというのが彼の考えだ。

 

「飯食ったらどこ行く?」

「次は三年生の実習なんてどうですか?」

「三年生か…どのくらいのレベルなんだろうな」

 

だから彼はたくさんの人との関わりを持ちたいと思うのだ。

 

他人の努力に触れることで自分をまた新たに見つめ直す、それが彼を高みに押し上げた最大のものだった。

 




どうでしたか?
いつもより長くなってしまいました…

それはそうと九校戦に向けてアンケを取ろうと思ってます!
活動報告にのせる予定なので見てってください。

感想などなどよろしくです!


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