忍たま乱太郎〜食満留三郎の弟〜 (誰かの影)
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留三郎の弟の段

新たに忍たまの小説を書こうと思い投稿しました。自分忍たま大好きですので。この年になるとギャグ漫画が安心してみれます。死なないから。

ちなみにオリ主を食満先輩の弟にしたのは完全な趣味と食満先輩が大好きだからです。


「忍術学園に入学したい。」

 

兄に打ち明けた夜が明け朝日が昇り、父と母と兄の四人での朝食。しかしこの慣れた光景も今日でしばらくお別れ。父と母は新しい服をくれた。どうやらまえから行きたがっていた事が分かっていたらしく用意していたらしい。

 

「辛かったらいつでも帰っておいで。」

「私達は家族なんだから…。」

 

「父さん、母さん……。」

 

しんみりしてしまい思わず涙が零れそう………だった。

 

「それはそうと、はいお弁当!それからこれは学園長先生へのお土産!ほかにもほかにもほかにも……。」

 

「「えっ………。」」

 

思わず兄共々涙が吹っ飛んでしまった。あれやこれや持たされて結局持ちきれず父が用意した荷馬車に乗り学園に向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく!お袋はいつの間にこんなに用意していたんだ?」

「あはは……涙も流せなかった。」

 

兄弟水入らずな会話をしながら荷馬車は野を越え山を越え川を越え……そして、小三郎の目に背の高い半鐘台が映る。

 

「あれが、忍術学園だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷馬車は立派な門の前で止まった。小三郎は飛び降り門を見る。

 

「ついに来たんだ。忍術学園…!よしっ!兄者の恥にならない様に、雨にも負けず!風にも負けず!めげない悄げない泣かない!僕頑張る!父さん、母さん!そして斜向かいのおじさんおばさん!近所のじいちゃん、ばあちゃん!見ていてください!!!」

 

「す、すげぇ意気込みだ!良し頑張れ!槍が降っても大砲が飛んでも!」

「いや、それは死ぬ。」

「ツッコミ冷たっ!」

 

留三郎とワイワイやっていたら突如門の小さい戸が開き、中から黒い忍者装束の人が顔を出した。

 

「山田先生!」

「食満留三郎、な〜に漫才じみた事言ってんだ…また沢山の荷物だな!」

「いや〜、お恥ずかしながら母があれもこれも持って行けと言われて…っとそうだ。小三郎!」

 

兄に呼ばれて小三郎は歩み寄る。

 

「山田先生。紹介します。弟の小三郎です。」

「ありゃ〜。君が学園長の言っていた編入生!」

 

「ご紹介に上がりました。食満留三郎の弟。食満小三郎です。この度は忍術学園に編入生となりました。至らぬところ多々ありますがご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

 

凄まじく綺麗でお上品で丁寧な挨拶に山田先生はぽかーんと口を開けた。

 

(ち、ちょっと留三郎!この子は本当にお前の弟なのか⁉︎小さい頃にそっくりだがまったく言葉遣いがお上品だぞ!)

(弟ですよ!間違いなく!正真正銘!しかも俺が口が悪いみたいじゃないですか!)

 

何やら小声で留三郎と話す先生の姿に小三郎は頭に?マークを浮かべた。

 

「ウオッホン!ご丁寧な挨拶ありがとう。私は一年は組の実技担当山田伝蔵だ。よろしく。小三郎!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎とは門の中で別れるとこになり、小三郎は山田先生に連れられ学園長先生の庵に向かった。

 

「学園長先生!山田伝蔵です。編入生の食満小三郎くんが参りました。」

「うむ。入るが良い!」

 

障子がガラッと開くとそこには……誰もいなかった。

 

「あら?学園長!学園長先生〜!」

 

山田先生が身を乗り出し見回す。突如目の前に導火線がついた何かが転がった。

 

 

 

ボン!

 

 

「ヌォッ!」

 

「グホッホ!」

 

山田先生が身を引くと同時に煙の中から咳き込みながら一人の白髪の老人と犬が立っていた。

 

「学園長先生!普通に出てきてくださいよ〜!」

「普通などつまらんわ!」

「ヘムヘムヘム!」

 

小三郎がぽかーんと口を開いていると学園長と目があった。

 

「君が食満留三郎の……。」

 

はっとして慌てて畳に座り。

 

「は、はい。食満留三郎の弟、食満小三郎と申します。この度は忍術学園入学のご許可ありがとうございます。」

「うむ。丁寧な挨拶ありがとう。まぁ、硬い姿勢は崩して結構。」

 

硬い姿勢は不要と言われふぅ〜っと一息つく。

 

「さて改めと、此度より君を忍術学園に入学の許可を出す。これが一年生の装束じゃ。それと…。」

 

学園長は装束の入った箱の上にハガキの様な物を置いた。

 

「これは?」

「わしのプロマイドじゃ!」

「ダァァァ!」(ドテ〜ン!)

 

山田先生は派手にこけた。

 

「ありがとうございます!大切に保管します!」

「も、貰って嬉しいものじゃないぞ?」

「あぁ!こちら、母から学園長先生にと持たされたものです。つまらないものかもしれませんがどうぞ!」

 

山田先生をよそに小三郎は風呂敷に包まれた箱を差し出す。

 

「おぉ!これは嬉しい!何かな?」

 

学園長が風呂敷を解き、箱の蓋を開けると、そこには何とも美味しそうなきな粉餅が入っていた。

 

「これは美味そうじゃ!ヘムヘム早速お茶の用意だ!」

「ヘムヘム!」

 

そんなやり取りを障子の穴から複数の人物が見ていた。食満留三郎を始め6年生の先輩。

 

(うわー。小さい頃の留三郎そっくりだ!)

(その前に本当に弟なのか?言葉遣いと言い物腰と言い留三郎とまったく違うぞ!)

(是非とも我が作法委員会に欲しいものだ。)

(いや体育委員会だろ!留三郎の弟なら体力が有り余っているはずだからな!)

(ボソボソ………図書委員会が貰う。)

(((長次が珍しく喋った!)))

 

(全員却下だ!我が弟は断然用具委員会だ!)

(そっちこそ却下だ!前に守一郎が入っただろうが!)

(ちょっ…留三郎!文二郎押さないで!障子が!あっ!)

 

バラバリバリ!ドンガラガッシャァァン!!!

 

「「「「ドアァァァァァ!!!」」」」

 

障子にもたれ掛かった為、骨組みにヒビが入り6年生全員が部屋の中に雪崩れ込んできた。

 

「あ、兄者。」

「や、やぁ。小三郎。入学おめでとう。」

「何やってんだ!6年生が揃いに揃って!!!」

 

 

 

 

 

 

 

山田先生に怒られている先輩方を見て小三郎は少し可笑しく笑った。

 

(面白いとこだな。忍術学園って!あっははは!」



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編入。一年は組の段

6年生が雪崩れ込んできた後、壊れた障子は6年生が直すことになり小三郎装束に着替え、山田先生に連れられ校舎に向かう。

 

「ここが校舎だ。」

「大きいですね!」

「全学年は三組、い組、ろ組、は組だ。君は一年は組に編入と学園長は言われた。ちなみに私は一年は組の実技担当だ。よろしくな。小三郎!」

「はい!よしなに末長くお願いいたします!」

 

「っ…それは結婚相手に言う言葉だと思うが…まぁいい。」

 

転けかけた山田先生に続き校舎に入り、階段を登り3階の一年は組と書かれた戸の前に止まった。中からワイワイと楽しげな声が聞こえる。その戸の前でもう一人の先生らしき人が立っていた。

 

「山田先生!」

「お待たせしました、土井先生。」

 

山田先生はすっと小三郎に手を向ける。

 

「編入生の食満小三郎くんです。」

「君が…!本当だ。あの頃の留三郎そのものですね!私が一年は組の教科担当の土井半助だ。よろしくな、小三郎。」

「食満小三郎です。分からないこと沢山で、ご迷惑おかけするかも知れませんが精一杯頑張りますので、ご指導、よろしくお願いします!」

 

ペコッと綺麗な挨拶をすると土井先生はかなり驚いた表情をした。

 

(や、山田先生。顔はそっくりですが中身がまるで違いますね?)

(だろ?学園長には菓子包み持って来たしな。)

(マジですか⁉︎)

 

ヒソヒソ話に小三郎はキョトンとした顔をする。

 

「て、丁寧な挨拶をありがとう。」

「では準備が出来たら声をかけるから、それまで待っていなさい。」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイワイと楽しげな声の中、山田先生と土井先生が教室に入る。

 

「一年は組の諸君!春休みが終わり、今日からまた忍術学園の生活が始まる!気持ちを切り替えて取り組むよう願う!」

 

「「「は〜い!」」」

 

「そして、今期から、新しい仲間が増えることになった!みんな仲良くする様に!」

 

「「「は〜……えっ……エェェェェ⁉︎編入生⁉︎」」」

 

土井先生の言葉に一年は組一同がどっと騒いだ。

 

「一年は組に編入生が⁉︎」

「どんな子?」

「趣味が合うといいなぁ!」

 

「静かに!……それでは、入って来なさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎は戸を開けて一年は組の教室に入る。目に映るは自分と同い年の子ばかり。少し緊張する。しかし。緊張は一瞬で砕けた。

 

「「食満先輩⁉︎」」

「えっ?」

 

小三郎を見るや否やぽっちゃりした男の子とトロンとした目が特徴的な男の子が飛び出してきた。

 

「縮んじゃったんですか⁉︎」

「分かった!善法寺伊作先輩が作った変な薬飲んで小さくなったんだ!」

「えっ…あの…僕は食満留三郎の…。」

「分かった!隠し子だ!」

「エェッ⁉︎」

 

「な訳あるか!お前ら!」

 

騒ぎ出す教室に食満留三郎が入ってきた。

 

「どっ…ドッペルゲンガー⁉︎」

「違うわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「エェッ⁉︎食満先輩の弟⁉︎」」」

 

食満留三郎と山田先生と土井先生の説明で何とか一年は組は落ち着きを取り戻した。

 

「えっと…初めまして。食満留三郎の弟。食満小三郎です。よろしく。」

 

挨拶を終えると一気に全員が小三郎を取り囲む。

 

「よろしく!私は乱太郎。」

「僕しんべえ。」

「俺はきり丸。」

 

一番前に座っていた三人組を始め、学級委員の庄左ヱ門、伊助、三治郎、団蔵、虎若、兵太夫、金吾、喜三太が自己紹介を始めた。

 

「よろしくね。よろしく。」

 

直ぐに仲良くなれそうだと思い、顔が綻ぶ。その様子に土井先生と山田先生。留三郎は頷いた。

 

「大丈夫そうですね?」

「は組は仲良しが取り柄ですから…。」

「土井先生、山田先生。小三郎をよろしくお願いします。」

 

留三郎は再度頭を下げた。



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授業と学園案内の段

留三郎は6年生の教室に帰り、ようやく静かになった一年は組。

 

「さて、小三郎の席はどこにしたものか…。」

 

土井先生が見回す。その時、喜三太が手を挙げた。

 

「先生!僕と金吾の隣なら空いてますよ〜?金吾も良いよね?」

「もちろん!歓迎するよ!」

 

喜三太と金吾が小三郎に向かってカムカムと手を振る。

 

「決まりだな。小三郎の席は喜三太と金吾の間だ。」

「はい。」

 

小三郎は足早に喜三太と金吾の間に座った。

 

「よろしくね〜。小三郎。僕は喜三太。」

「よろしく!僕は金吾!」

「よろしく。喜三太、金吾。」

 

にこやかに笑う小三郎に喜三太も金吾もその他みんなもにこやかになる。

 

「ほらほら。質問攻めは休み時間にやれ。では授業を再開するぞ?」

 

「「「は〜い。」」」

 

「…さて、小三郎も入った事だし。今までの復習をする。忍たまの友の火器のページを開け。」

 

全員が教科書忍たまの友を開く。小三郎も持ち物から忍たまの友と筆記用具を取り出す。

 

「さて、お前たち火器は知っているな?」

「「「はい、甘柿!渋柿!干し柿!山柿!」」」

 

小三郎以外全員の間違った発言に小三郎はずっこけ、土井先生はパタッと床に伏した。

 

「教えたはずだ、教えたはずだ……。」

 

(こ、これは流石に……よし。)「はい!」

 

小三郎が勢いよく挙手をする。

 

「ん?な、なんだ。小三郎。」

 

小三郎はすっと息を吸ってから吐く。

 

「火器という物は火と火薬を使った武器のことで、火縄銃、焙烙火矢、石火矢などの総称であります。」

 

小三郎の淡々とした説明をは組一同はまるで神仏を見るような目で小三郎を見ていた。

 

「い、以上です。」

「「オォォ!!」」

 

説明が終わると拍手喝采!土井先生が駆け寄り頭を撫でる。

 

「偉い!よく分かったな!編入したばかりなのに!」

「いや、忍たまの友のこのページに書いてありました。」

 

 

「えっ⁉︎」

「マジで⁉︎」

「ほ、ほんとだ!全然気がつかなかった!」

「お前たち授業中、忍たまの友の何処を読んでいるんだぁぁぁ!!!」

 

土井先生の罵声に小三郎は苦笑いを浮かべた。

 

(これは…頑張ることがたくさんありそうだな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間になるとは組全員が小三郎を取り囲んでいた。

 

「それでは新しい仲間!食満小三郎に色々質問してみよう!」

「「「「◯✖️△☆□!!!」」」」

「ち、ちょとちょと!一遍に質問しないで!聖徳太子じゃないんだよ!」

 

庄左ヱ門の言葉を合図に一斉に質問攻めにされたが制止をかけて一人づつにしてもらった。

 

乱太郎「えっと、得意なことは?」

「家事手伝いかな?あと体動かす事。」

しんべえ「好きな食べ物は?」

「なんでも食べるよ?強いて言うなら厚揚げかな?」

きり丸「おれよくバイトするんだけど。バイトやったことはある?」

「バイトはないけどボランティアなら。」

きり丸「タダ働き⁉︎」

団蔵「うち馬借なんだけど馬は好き?」

「好きだよ。たまに畑耕す時に借りるし。」

兵太夫「からくりは好き?」

「うん。面白いよね?なんであんな風に動くんだろう?」

虎若「火縄銃は好き?」

「もった事ないから分かんないなぁ。」

伊助「綺麗好き?掃除はちゃんとする?」

「好きかどうかは分からないけど人並みには掃除はするよ?」

庄左ヱ門「お茶好き?」

「大好きだよ?京都のお茶美味しいよね?」

喜三太「ナメクジ好き?」

「き、嫌いじゃないよ?」

金吾「僕、剣術学んでいるだけど、何か出来る?」

「兄者から簡単な武芸なら。」

三治郎「僕生物委員会何だけど、生き物好き?」

「蚕が好きかな?」

 

小三郎は全員の質問にきちんと答えた。午後からは授業が無い為、は組全員で忍術学園内を案内した。お風呂場、厠、用具倉庫、医務室、食堂、そして…。

 

「此処が忍たま長屋だよ?」

 

忍たま長屋とは忍たまが忍術学園にいる間に寝泊まりする宿舎のような物。

 

「おっ。来たな?」

「土井先生!」

 

長屋の前で土井先生が立っていた。

 

「小三郎の部屋は此処だ。」

 

土井先生に案内されついた場所は丁度金吾、喜三太の部屋の隣だった。開けると既に荷物が運び込まれてあった。

 

「うわぁぁ……こんな立派な部屋を…ありがとうございます!」

「いいなぁ!一人部屋!」

「でも荷物多いね!」

「よし、それじゃ私たちの部屋にも案内しよう!」

 

乱太郎、きり丸、しんべえを先頭に土井先生も連れだってそれぞれの部屋を見て回る。しかし、団蔵、虎若の部屋に来た時、事件が起きた。

 

「此処が、団蔵、虎若の部屋で〜す!」

「「あ、開けちゃダメ〜!!」」

「な、なんで?」

「「とにかくダメ〜!」」

 

二人が必死に止める姿に土井先生は何かを感じた。

 

「さては団蔵!虎若!」

 

土井先生が勢いよく戸を開ける、途端に悪臭が流れてきた!

 

「グアッ!」

「「「ウエェェェ!!!」」」

 

中には脱ぎ捨てらた変えようの装束や褌など洗濯物が大量に散らばっていた。

 

「コラァァ!洗濯物はその日のうちに出せとあれほど言っただろう!!!」

 

土井先生の怒りが爆発、しかしより怒る者がいた。

 

「団蔵〜!虎若〜!!!ウガァァァアア!!!」

「「ヒィィィイイィィィ!!!」」」

 

なんと伊助が烈火の鬼の如く怒り狂い、団蔵と虎若に襲いかかったのだ!

 

「どうしてお前らはいっつもいっつも片付けないんだ!!!」

「ごめんごめん!片付けるから!」

「ヒィィィイイィィィ!!!」

 

「おい、伊助!それくらいにしてやれ!」

 

それから伊助をなんとか落ち着かせたが団蔵、虎若はしどろもどろして中々片付かない。その時、小三郎が声をかけた。

 

「洗濯物、よこして?洗ってあげるから。」

「えっ⁉︎」

「おいおい!編入したばかりの小三郎がそんな事しなくても…。」

「いや、やらせてください。これからみんなと過ごすんだもの…困っているなら助けないと。伊助。井戸はどこ?」

 

小三郎は伊助に案内され井戸に向かう。その他のは組は部屋の掃除になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

井戸でたらいと洗濯板を用意して、小三郎と伊助はゴシゴシと洗う。しかし溜め込まれていた為、汚れが中々落ちない。

 

「ウガァァァアア、落ちない!」

「確かにしつこいね?うっ、臭いも取れない。……そうだ!伊助。食堂から灰を貰ってきてよ!」

「は、灰?なんでまた?」

「あれで汚れや臭いが取れるんだよ?」

 

それを聞くや否や、伊助は食堂まで走っていき、戻ってくる時は、カゴに灰を入れて戻って来た。

 

「これだけあればいい?」

「上等!」

 

小三郎は灰を水の中に入れ、再び洗濯を始める。するとどうだろう。あれほどしつこかった汚れや汗臭さが一気に剥がれるようになくなったのだ。

 

「す、凄い!どうなっているの!」

「母さんから教えてもらったんだけどね?」

 

 

『木灰・ワラ灰などにはアルカリ成分が含まれており、油を乳化したりタンパク質を分解する性質があります。これを利用すれば大概の汚れは落ちるんです。読者の皆さんも是非お試しあれ。あと、最後には綺麗な水ですすぐように。」

 

 

「てな訳。」

「へぇ〜、君絶対いいお嫁さんになれるよ!」

(ドテ〜ン!)

「よ、嫁って……。」

 

すっ転んだ後に、伊助が手を差し出した。

 

「小三郎とは仲良くなれそうだよ!改めて僕、二郭伊助!よろしくね!」

「あっ…あはは!改めてよろしく。食満小三郎だよ。よろしくね伊助!」

 

 

 

 

 

二人はがっちりと握手を交わした。

 



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波乱な歓迎会の段

簡素とか言っておきながら長くなった。


伊助と共に洗濯を終わらせ戻って来ると団蔵と虎若の部屋は随分と綺麗に片付いていた。

 

「うわぁ。綺麗になったね?」

「小三郎の働きっぷりを見ていたら手伝わなきゃって思って…。」

「あぁぁ…タダ働き〜…。」

 

乱太郎を始め、みんな苦笑い。きり丸はなぜか泣いた。

 

「団蔵、虎若。」

 

伊助が妙にニコニコ顔で団蔵と虎若に近寄っていく。

 

「「は、ハイィィィ……。」」

 

二人ともおとなしく正座をして伊助にこっ酷く怒られた。

 

「伊助って綺麗好きなんだね?」

「綺麗好きも度が過ぎてる部分があるけどね〜。ははは…。」

 

庄左ヱ門の苦笑いに小三郎は微笑む。

 

「でも、みんな嫌いじゃないんだね?」

「!…小三郎って鋭いなぁ!」

 

 

 

「「「あっはははははは!!!」」」

 

 

みんなで笑っていると小三郎は「友達ってこんなに楽しいんだな!」っと心底思った。その時半鐘がなると同時に小三郎の腹の虫が鳴いた。もう五時を回っていた。

 

「あっ……お、お腹すいちゃった……。」

「僕もぺこぺこ〜…。」

 

小三郎に続き、しんべえの腹の虫も鳴いた。

 

「じゃあ、みんなで食堂に行こう!」

 

庄左ヱ門を先頭に再度食堂に向かう。ちなみに団蔵、虎若は伊助の怒りに疲労困憊。その時、前から四年生と思わしき人物が歩いてきた。

 

「やぁ!一年は組のみんな!」

「こんにち…もうこんばんわかな?こんばんわ〜。」

「浜守一郎さん!斎藤タカ丸さん!」

「やぁ!乱太郎!一年は組に編入生が入ったんだってな!」

「留三郎先輩から食堂に来いって言ってたから、迎えに来たんだ。」

「そうだったんですか!小三郎!」

 

乱太郎に呼ばれ小三郎は前に出る。

 

「紹介するね、小三郎。こちら四年ろ組の浜守一郎さん。こちらが、四年は組の斎藤タカ丸さん。」

 

「始めまして、浜守一郎さん。斎藤タカ丸さん。一年は組に編入生となりました、食満留三郎の弟。食満小三郎です。どうぞ、よしなにお願い致します。」

 

小三郎はキラキラ輝くような丁寧な挨拶する。は組全員は「おぉぉ!」っと驚き、守一郎先輩とタカ丸先輩も「ほえー」っと言った感じで驚いていた。

 

「噂には聞いていたけど、丁寧な言葉を使うんだね〜。」

「よほどご両親の教育が良かったんだろうな?」

「あの〜、斎藤タカ丸先輩?」

「何かな?」

「タカ丸先輩って大人びて見えますね?」

 

小三郎の発言にみんなが再び驚いた。

 

「勘がいいね〜。そうだよ?本当は6年生の年齢なんだけど忍者の知識が浅いから四年生なんだよ?」

「そうだったんですか。」

 

 

 

 

 

「本当小三郎って勘がいいよね?」

「あの食満留三郎先輩の弟だけに見抜く力を受け継いでいるんじゃない?」

 

「ところで斎藤タカ丸さん。留三郎先輩が食堂に来いって…どういうこと?」

 

ヒソヒソ話をする乱太郎ときり丸をよそに三治郎がタカ丸先輩に尋ねる。

 

「準備が出来たんだ。」

「「「準備?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守一郎さんとタカ丸さんに連れだって食堂にたどり着く。すると小三郎以外のは組は何かを察したらしく、「小三郎、先に入って!」っと言われたので、なんだろう?っと入った。すると。

 

「「「「歓迎!入学おめでとう!食満小三郎くん!!!!」」」」

 

そこには学園のほぼ全員が集まっており、「食満小三郎くん、歓迎会」と言う張り紙が貼られていた。

 

「えっ…あの…これは…。」

「何ってお前の歓迎会だ!小三郎!」

「あっ、兄者!6年生の皆さんも!」

「6年生だけじゃないぞ!」

 

周りを見ると、一年い組、ろ組、二年生、三年生、四年生、五年生、くのいちの人も大勢が小三郎に注目していた。

 

「ぼ、僕のために?」

「そうだぞ!」

 

「一年は組には連絡が遅れちゃったけどね?」

 

留三郎とタカ丸さんの言葉を聞き、小三郎は再度全員を見る。思わず涙が溢れてきた。

 

「ど、どうしたの⁉︎」

「お腹でも痛いの⁉︎」

「小銭落としたの⁉︎」

 

「「「きり丸!それはない!」」」

 

 

 

 

 

「ご、ごめん。た、ただ嬉しくて…僕、こういうの初めてで…。」

 

しかし、泣くのは悪いと思い小三郎は嬉し涙を拭う。

 

「食満小三郎です!一年は組に編入となりました!至らぬところありますが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!!!」

 

とびきりの笑顔を全員による向ける。みんなは拍手喝采で答えてくれた。そして指定された席に座り、机の上になんとも美味しそうな料理が並んだ。

 

「歓迎会だけど、お残しは許しまへんでぇ!!さぁ、召し上がれ!食満小三郎くんも遠慮なく食べてね!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四年生の平滝夜叉丸と田村三木ヱ門が交互に話したり、綾部喜八郎が一緒に穴掘りしないかといったり、四年生は個性が豊か。二年生は全員真面目な人が多いが池田三郎次がいらぬお世話を焼き、川西左近に怒られた。

 

「個性豊かだね?」

「あはは、確かにね?」

 

伊助と話しているとオレンジ色の髪の三年生が近づいてきた。

 

「よぉ。三年ろ組、富松作兵衛だ。よろしくな?小三郎!」

「はい!よろしくお願いします。富松作兵衛先輩!」

 

作兵衛と挨拶を交わしていたら、突如留三郎が飛んで来た。

 

「富松作兵衛!」

「は、はい!すみません!決していじめたわけじゃ!!!」

「何を言っているんだ?」

「へ?」

 

留三郎は小三郎を隣に寄せる。

 

「こいつが俺の弟だ。いろいろ教えてやれよ!」

「は、はい!任せてください!じゃ早速用具委員会の仕事を…。」

「今教えなくていい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「富松作兵衛先輩って楽しい人だね?」

「でも、妄想が酷い時あるんだよね〜?ねっ、しんべえ?」

「ん〜!どれも美味しい!」

「って!聞いてないし!」

 

隣に座る喜三太の問いかけそっちのけでしんべえは美味しそうに料理を食べていた。

 

「そう言えば小三郎、厚揚げが好きって言ってたよね?それなら豆腐も好き?」

「うん。好きだよ。」

「それなら是非紹介したい人がいるんだよ!久々知先輩〜!」

 

伊助が五年生の席に声をかけると、長いまつ毛とくせっ毛に、太眉が特徴の先輩が歩み寄ってきた。

 

「呼んだかい?伊助。」

「小三郎、こちら久々知兵助先輩!僕の所属する火薬委員会の委員長だよ。」

「お初にお目にかかります。久々知先輩。食満小三郎です。よろしくお願いします。」

 

立ち上がりペコッと頭をさげると久々知先輩も頭を下げた。

 

「よろしくな。小三郎!でもなんで俺を紹介したんだ?伊助。」

「彼、厚揚げや豆腐が好きなんですって!ねっ?小三郎。」

「はい。作りたての豆腐は特に美味しいですよね?……久々知先輩?」

 

小三郎が首をかしげる、すると久々知先輩が物凄く嬉しそうな顔をして抱き、高い高いしたりくるくる回したりして来た。

 

「作りたて豆腐!その良さが分かるんだな!美味いよな!豆腐美味いよなぁ!厚揚げ美味いよな!あはははは〜〜♫」

「ちょっ…久々知先輩どうしたんですか⁉︎伊助どういうこと⁉︎」

 

困惑する小三郎を伊助は楽しそうに見る。

 

「久々知先輩は忍術学園では豆腐小僧と呼ばれるくらい豆腐が好きなんだ。小三郎が厚揚げ、豆腐好きと知って嬉しいんだよ。ちなみに豆腐作りも上手だよ?」

「な、なるほど…。」

 

理解すると久々知先輩はようやく小三郎を床に下ろし手を握った。

 

「是非火薬委員会に入ってくれ!火薬委員会は定期的に豆腐パーティーをするから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々知先輩のこの言葉に委員会全員の委員長に火がついた。

 

「待て久々知兵助!食満小三郎は生物委員会だ!三治郎曰く、蚕が好きらしいからな!」

「生物委員会は大半が一年生じゃないか!」

「いや、彼は言葉遣いから教養がある。作法委員会だ。」

「ボソッ…物腰穏やか…図書委員会に欲しい…。」

「保険委員会だ。彼の物腰は保険委員向きだ。」

「金吾曰く、体を動かす事が好きらしいから体育委員会だ!イケイケドンドン!」

「いいや、会計委…「却下だ!」留三郎テメェ!話を遮りやがって!」

「文次郎!お前、団蔵や佐吉に飽き足らず、おれの弟を寝不足にして殺す気か!我が愛しの弟には貴様など指一本触れさせん!!小三郎は用具委員会だ!」

 

 

 

 

それぞれの委員会委員長がぶつかり合う。留三郎と文次郎など表に飛び出し派手に乱闘。

 

「や、やめて下さい!僕で争わないで!」

「大丈夫大丈夫!」

「きり丸!」

「ここは食堂。食堂には忍術学園、最強の食堂のおばちゃんがいるから。」

「乱太郎?食堂のおばちゃんが最強?」

 

乱太郎の言葉にキョトンてしてからおばちゃんを見る。そこには右手におたま、左手に鍋を持ち阿修羅の様な形相になった食堂のおばちゃんがいた。

 

「食堂で乱闘、喧嘩は!許しまへんでェェェエエ!!!」

 

そこから凄かった。羅刹の如く技の流れで一瞬で委員長全員を叩き伏せたのだ。

 

「ありゃりゃ。乱太郎に伏木蔵に左近。委員長全員を医務室に運ぶよ!」

 

三年生の装束を着た、紫色の髪の先輩が乱太郎と一年ろ組の伏木蔵と左近に指示を出すが、乱太郎も伏木蔵も左近もキョトンとして。

 

「あれ?」

「誰だっけ?」

「もう一人、編入生?」

「だぁぁぁ!」(ドテ〜ン!)

 

紫色の髪の先輩がすっ転んだ。

 

「三反田数馬だ!嫌がらせか!」

「「「冗談で〜す。」」」

「も〜!」

 

委員長全員が運ばれていき、料理もなくなり、波乱な歓迎会は終わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。お風呂に入った後、みんなが寝静まった頃、小三郎は自室で手紙を書いていた。

 

『拝啓、父さん、母さん。

忍術学園に無事に入学し、一年は組に編入となりました。は組のみんなはとても明るく、先生方や先輩達も優しく、すぐに友達もでき楽しく過ごせそうです。これから先、きっと色んな困難や悩むこともあるかもしれません。でも僕は逃げません!めげない!悄気ない!泣かない!僕頑張ります!!!

敬具。」

 

書き終えるとノックをする音が聞こえ、戸を開くと留三郎が立っていた。あちこち傷だらけだが。

 

「兄者!」

「ハハッ。見っともない所を見せてしまったな?」

「兄者。傷だらけ!」

「問題ない、すぐに治るし、いつもの事だ。」

「もう!兄者は好戦的なんだから!親より先に死んだら親不孝者だからね!それにちゃんと野菜食べてる?三食ちゃんと食べてるの?夜更かしはダメだよ!」

 

小三郎の注意にガクッとなり。「お前は俺のお袋か!」っと突っ込まれた。そして二人で月を見る。

 

「いつもより。綺麗に見える。」

「あぁ、本当だな。」

「兄者。」

「なんだ?」

 

留三郎が小三郎を見ると、今まで一番いい表情をしていた。

 

 

 

 

「友達、仲間って、いい者だね!」

「あぁ!そうだともな!」



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真面目な小三郎の段

お気に入りありがとうございます!


「ん…。ん〜〜!!はぁっ!」

 

布団から起き上がりグッと伸び、布団を押入れにしまい、顔でも洗おうと井戸に向かった。しかし他のは組はまだ夢心地らしく、小三郎は忍び足をして通り過ぎた。

 

 

 

 

井戸で顔を洗い、歯を磨き、部屋に帰ってからツバキ油に浸した柘植の櫛で髪を解かし、装束に着替えて髷を結い頭巾を被る。そして再度部屋から出て忍たま長屋の庭に下りる。スゥッと深呼吸をした後に、パンチやキックを繰り出し何時実家でやっていた兄から教わっていた体術の基礎形を行う。

 

「はっ!やぁっ!タァッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

7時少し前、金吾が目を覚ました。そとから小三郎の声が聞こえる。

 

「タァッ!てやぁっ!」

「小三郎?何やっているんだろう?」

 

金吾は眠い目を擦りながら起き上がり戸を開ける。

 

「でやぁぁぁぁぁ!おわわわ!いてっ!」

 

小三郎が回し蹴りを繰り出そうとしたが体制を崩し尻餅をついた。

 

「小三郎!」

「いてて…あっ金吾!おはよう。」

「おはよう。何やってたの?」

「いやぁ、実家では六時半に起きてたから目が覚めちゃって。兄者に教えられた体術の鍛錬をしてたんだ。」

「随分早く起きたんだね?って言うか鍛錬なら付き合ってよ!僕も剣術の鍛錬してるんだ!」

 

金吾の言葉に小三郎はうなづき、じゃあ時間が空いた時に。っと約束を交わした。それから金吾は厠に向かった。それから間も無く、みんなが起きてきた。

 

「おはよう!」

「おはよう小三郎!」

「早いね!もう起きてたの?」

「六時半には起きてるよ?」

「「「早ッ!」」」

 

一通りみんなと挨拶を交わしたが、三人足りなかった。乱太郎ときり丸としんべえが部屋から出て来ないのだ。寝てるのかな?っと思い起こしてあげようっと部屋に近づく。

 

「んぎぎぎぎ!」

「んぎぃぃ〜〜!」

 

部屋の戸の前まで来ると何やら踏ん張る声が聞こえた。小三郎はノックをしてから戸を開けた。

 

「乱太郎、きり丸、しんべえ。おは……ってしんべえ!どうしたの、その頭!」

 

小三郎の目に頭の毛が剣山のようになったしんべえが映った。よく見ると忍び熊手をクシがわりに乱太郎ときり丸が髪の毛を解いている。

 

「あぁっ!小三郎!大変なんだよ〜。昨日しんべえがリンスを切らしていて…。」

「ど、どう言うこと?」

「実は、かくかくしかじか……。」

 

きり丸曰く、しんべえの寝癖はとてつもなく剛毛になり、いつもはお風呂でリンスと呼ばれる南蛮渡来の整髪料をつけているのだが、それを切らしたらしく、こんな頭になったらしい。強度はもはや鋼鉄並み。濡らしてもダメらしい。

 

「でもそれじゃあ頭巾がかぶれないじゃない?」

「そうなんだよ!」

「どうしよう!」

「あ〜ん。助けて小三郎〜。」

 

しんべえの助けを求める声に、世話焼きな小三郎は考える。

 

「濡らしてもダメ…ん〜……あっ…あれだ!しんべえおいで!」

 

何かを閃いたらしく、しんべえとついでに乱太郎、きり丸を引き連れ井戸に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

井戸で小三郎はしんべえの髪に水をかける。

 

「あ〜ん!冷たいよぉ〜。」

「我慢してしんべえ!」

「小三郎!濡らしても乾いたら同じだよ?」

「俺たちも最初は試したんだけど…。」

「だから、これを使うんだよ!」

 

何かの液体が入った竹筒を二人に見せる。

 

「「ナニコレ?」」

「椿油。」

「椿油⁉︎」

「明かりに使う?」

「そう!」

 

しんべえの頭を乾いた布で粗方拭いた後に椿油をほんの数滴垂らし揉む。

 

「んっ…あっ…なんだかいい気持ち〜…。」

 

しんべえの顔が綻ぶ。さして柘植の櫛で髪を解かす。しばらくすると乾いてきた。

 

「あぁっ!しんべえの髪が!」

「剣山にならない!それどころか風になびいてる!」

 

ピィカ〜ン!しんべえの髪はしっとりツルツルピカピカになり、朝風になびいた。

 

「うわーい。髪がツルツル〜♫」

「これでよし!」

「なになに⁉︎」

「どう言うこと⁉︎」

 

 

 

 

『椿油にはオレイン酸を大量に有しており、さらに殺菌作用のあるサポニンも含まれており、美容にとても効果を発揮します。遡ること平安時代から王侯貴族、庶民まで幅広く愛用されておりました。中でもオレイン酸は人の肌と同じ成分で保湿効果もあり、髪を柔らかくしたり、肌の角質をとりツルツルスベスベになるのです。」

 

 

 

不思議がる乱太郎ときり丸に小三郎が説明する。

 

「「「へー!」」」

「ちなみに僕も髪と肌に使っているからモチモチのスベスベ!」

 

小三郎が頭巾を取ると、そこには美しい黒髪が存在し、しんべえが頬に触れるとぷるんっともち肌だった。これは食満留三郎にはないもの。

 

「モチモチ〜、美味しそう〜♫」

「だ、だからって食べないでよ?」

「小三郎って物知りだね?」

「椿油なんて明かりにしか使わないからな〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなで朝食を食べ、八時半に半鐘がなり授業が始まった。

 

「起立、礼。」

「「「「おはようございます!」」」」

「おはようみんな!」

 

学級委員、庄左ヱ門の号令と共にみんなが元気よく土井先生に挨拶を述べ、先生も挨拶を返す。

 

「では今日も忍具について勉強だ。忍たまの友の忍具のページを開け。」

 

「あぁっ!しまった!」

「どうした乱太郎!」

 

乱太郎の声に全員が注目する。小三郎も覗く。

 

「間違えて忍具のじゃなくて、寝具のカタログ持って来ちゃいました!」

「「だぁぁぁ!」」(ドテ〜ン!)

「ちょっ…いくら何でもそれ間違えるか?」

 

小三郎は金吾の肩を借りて起き上がりながら苦笑い。

 

 

なんやかんやで勉強は出来た。流石のは組も「苦無」は覚えていたらしく土井先生を涙させた。忍び熊手、まきびし、忍者刀、手裏剣、しころ。たくさん覚えることがあり大変だが小三郎は遅れを取らないように黒板に書かれた事は全て写した。両隣の金吾と喜三太はその真面目っぷりに驚いていた。しんべえは途中から寝てしまい土井先生に何度も叩き起こされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わり次は実技のため、みんな校庭に集まった。

 

「よし全員集まったな!今日は手裏剣の練習を行う!的をよく見てる落ち着いて投げるような!」

「「「は〜〜い!」」」

 

みんなが元気よく挨拶をしたのち、全員が一斉に的に投げた。小三郎は流石に一遍に投げてはと思い投げなかった。全員が投げた手裏剣は的に当たらず、山田先生に飛んでいった。しかし山田先生は分かっていたらしく手裏剣収容箱の板で受け止めた。

 

「まったく〜。お前達!お約束もいい加減にしろ!」

「だって〜。」

「これは〜。」

「一年は組の〜。」

 

「「「「お約束ですから〜♫」」」」

 

全員が嬉しそうに声を揃える。山田先生は呆れ顔でうなだれてしまった。

 

「あ、あの〜…出遅れたんですけど〜。」

「ん?あぁ!小三郎!いいぞ、投げなさい。的をよく見て、集中するんだ。」

 

山田先生は淡い希望を小三郎に抱いていた。

 

(頼む、この子だけでもまともであってくれ…!」

 

一方で小三郎は他のみんなが壊滅的に悪いと見て、「自分だけでもしっかりしなくちゃ!」と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパン!

 

 

 

 

 

 

小三郎の投げた手裏剣は的の真ん中…とは行かなかったがギリ的に命中した。その途端に山田先生を始め、一同が声を揃えた。

 

「うおぉぉぉ!!」

「「「オォォ!!!」」」

 

「まっ、まぐれだよ。」

「「「小三郎!」」」

 

途端にみんなに囲まれた。

 

「すごいよ!まぐれでも!」

「初めては組のお約束を断ち切った!」

「本当に初めて?天才だ!」

「コツがあったら教えて!」

 

みんなが褒めた得る中、山田先生が飛んで来て、小三郎を抱きしめた。

 

「うわ!山田先生⁉︎」

「私の…私の願いは天に届いたぁぁぁ!小三郎!ありがとう!!!うおぉぉぉ!」

 

山田先生、男泣き。小三郎は戸惑ったが、みんなに胴上げされたり褒めまくられはにかむ様に笑った。

 

 

 

 

 

 

「い、今まで山田先生はどんな目にあって来たんだろう?」



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ろ組の訪問の段

ろ組初登場。


編入生して早二週間。小三郎は授業も実技も人並みにこなしていった。分からない所があれば土井先生、山田先生に聞きに行き、朝六時半には起床し鍛錬も怠らない。おまけに物腰も相まってクラスメイトからはかなり人気者になっていた。

 

「山田先生!」

「土井先生!」

「漸く真面目な忍たまがは組に来てくれたぁぁぁ!」

 

職員室では土井先生と山田先生が手を取り合い嬉し泣きをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で一年は組。午後からは自習となり、それぞれ好きな事をして過ごしていた。遊ぶものがほとんどであり、小三郎も例外なく遊んでおり、今はは組の中でも力持ちな虎若と腕相撲の最中。ちなみに金吾が仲介役。

 

「おんどりゃぁぁぁぁ!!」

「ワァァ!」(バン!)

「小三郎の勝ち〜!」

「あ〜!また負けた!小三郎強いなぁ〜!」

「いやぁ、でも油断できなかったよ。」

 

小三郎と虎若はお互いに認め合いながら握手を交わした。その時、何処からか生暖かい風が吹いて来て、教室の扉がギィ〜〜ッと開いて暗雲と共に誰かが入って来た。は組全員が慄いた。

 

「「「「こんにちわ〜〜…。」」」」

 

乱太郎「あっ!一年ろ組の…伏木蔵、平太、孫次郎、怪士丸!」

伏木蔵「どうも乱太郎〜。」

「何か用?」

「新しい編入生の食満小三郎に挨拶をと思ってね?」

「歓迎会の時はバタバタしちゃって挨拶も出来なかったから〜。」

「ちょうどろ組も自習だから…。」

「小三郎はいるよね?」

 

「いるよ。小三郎〜!」

 

乱太郎に呼ばれ席を立ち、乱太郎の隣へ。

 

「君に挨拶がしたいんだって。」

「よろしく小三郎〜。鶴町伏木蔵。よろしく。」

「僕は初島孫次郎〜。よろしくね〜。」

「ぼ、僕は下坂部平太……よろしくね……。」

「僕は二之坪怪士丸。よろしく、小三郎。」

 

妙に暗いトーンで喋るろ組に小三郎は少したじろいだが笑顔をうかべる。

 

「僕は食満小三郎。よろしくね。伏木蔵、孫次郎、平太、怪士丸。」

「「「「よろしくね〜…。」」」」

 

挨拶を終えると伏木蔵達が小三郎を取り囲む。

 

「食満先輩にそっくりだね……。」

「兄弟だからね?」

「伏木蔵なんてドッペルゲンガーだって騒いでたんだよ?」

「スリルとサスペンス〜。」

「フフフ…。」

 

しばらくたわいもない事を話していると、扉から気配がし、小三郎はハッと扉を見た。そこにはまるで幽霊の様な人物が立っていた。

 

「「「ヒェ〜!お化け〜!」」」

 

乱太郎達の絶叫と共に他のは組も絶叫した。

 

「お化けではありません。」

 

よく見ると山田先生や土井先生と同じ装束を纏った教師であった。

 

「お初にお目にかかりますね?食満小三郎くん。私は一年ろ組、教科担当の斜堂影麻呂です。どうぞよろしく。」

「よ、よろしくお願いします。斜堂先生。」

「し、斜堂先生も小三郎への挨拶をしに来たんですか?」

 

乱太郎の言葉に斜堂先生は頷く。

 

「それもありますが…伏木蔵くん達?」

「はい。」

「今は自習の時間です。遊ぶのは構いませんが、教室を出てはいけません。」

 

ごもっともな発言に伏木蔵達は首を下げ謝った

 

「ごめんなさい、斜堂先生。」

「すみません。」

 

謝るろ組に斜堂先生はそれ以上は言わなかった。

 

「分かればいいのですよ。それと小三郎くん。」

「は、はい。」

「一年ろ組は、ご覧の様に暗いかもしれませんが根はいい子達なので、仲良くしてくださいね〜。(ニタァ〜」」

「「「「仲良くしてねぇ〜〜?」」」」

 

斜堂先生と伏木蔵達が同時にお化けみたいにニタァ〜ッと笑い、小三郎はうっといった感じで後ずさりながら引きつり笑い。

 

「よ、よしくね?あははは……。」

 

 

 

 

 

 

ろ組が帰って行き、小三郎は再び腰を下ろした。

 

「もしかして、ろ組が暗いのは…。」

「御察しの通り。」

「斜堂先生の影響だよ?」

 

庄左ヱ門と三治郎が苦笑い気味で答えた。小三郎はは組で良かったと心から思った。

 

「そういえばい組の子は来ないのかな?」

「来ないと思うよ?い組は真面目だから。」

「やめとけ小三郎。い組は優秀だけど嫌味ったらしいからさぁ。」

 

庄左ヱ門が答えるときり丸があからさまに嫌そうな顔をした。

 

「優秀といえば小三郎も優秀だよね?実技なんかパパッと出来ちゃうじゃない?」

「そう?まだまだだと自分で思うけど…。」

「謙遜するなって!」

「小三郎はは組のいいお手本だよ。もっと胸を張っていいと思うよ?」

「そう?じゃあ……えっへん!」

 

庄左ヱ門に胸を張れと言われて胸を張って見る。

 

「よ!一年は組一出来る子!」

「みんなのお手本!」

 

クラス中が小三郎に拍手を送った。



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保健委員会との交流の段

不運委員会が登場!どうなる小三郎!


とある昼下がり。小三郎は自室で今日の宿題を早々に終わらせ一息ついてた。その時扉がノックされた。

 

「はい、どうぞ。」

「やぁ、小三郎。」

「乱太郎。どうしたの?」

「実はね?」

 

乱太郎の話によると明日の休みに保健委員会が薬草探しがてら裏山の森にハイキングに行くらしく、委員会との交流も兼ねて小三郎にも参加して欲しいらしい。

 

「どお?」

「いいね。僕裏山初めてだから。」

「良かったぁ〜。じゃあ明日の9時ね。お弁当は食堂のおばちゃんに私から言っておくから。」

「じゃあ明日。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

「「「ようこそ!保健委員会へ!食満小三郎!」」」

 

伊作先輩と左近先輩と伏木蔵に快く迎えられ小三郎の顔もにこやかになる。

 

「改めて、食満小三郎です。今日は保健委員会にお招きいただきありがとうございます!精一杯務める所存であります!」

「そんな硬くならなくていいよ!」

 

小三郎の持ち前の丁寧な挨拶に乱太郎が突っ込む。伊作先輩がくすっと笑う。

 

「留三郎そっくりだけど、性格は幾分違うね?」

「あのー、伊作先輩?」

「どうしたんだい?小三郎。」

 

少し屈み尋ねる。小三郎は周りを見る。

 

「紫色の髪の……そうだ!三反田数馬先輩は?」

 

「「「あっ……。」」」

 

ガシッ!小三郎を誰かが後ろから抱きしめた。

 

「覚えてくれてた…僕の事忘れてなかったぁぁ!」

 

小三郎が振り返ると、嬉し涙を流している三反田数馬先輩が小三郎を見ていた。

 

「君はいい奴だね!小三郎ぉぉぉぉぉ!うわぁぁん!」

 

大泣きし出した三反田先輩を乱太郎、伏木蔵、左近先輩、伊作先輩が宥める。

 

「ご、ごめんなさい!」

「誰か足りないと思っていたんです!」

「すみません!」

「申し訳ない!」

 

「「「で、誰だっけ?」」」

「だぁぁぁ!」(ドテ〜ン!)

 

三反田先輩がすっ転んだ。

 

「今、小三郎が言ったばかりじゃないか!三年は組、三反田数馬!!!」

 

そんなやりとりを小三郎はジト目で見ていた。

 

「こ、小三郎?」

「そ、そんな目で見ないでよ?」

「自分たちの委員会のメンバーを忘れるなんて……どうなの?(ジト〜〜。)」

「ほんとそうだよ…(ジト〜〜。)」

 

三反田先輩も小三郎同様ジト目に。

 

「か、数馬先輩…。」

「よ、よしてくれ。数馬…小三郎…。」

 

 

 

 

 

 

小三郎「こんな委員会…。」

三反田「あって…。」

小三郎&三反田「「いいんかい?」」

 

「「「だぁぁぁ!」」」(ドテ〜ン!)

 

寒すぎるダジャレに乱太郎達は盛大にすっ転んだ。

 

「よろしくお願いします。三反田先輩。」

「よろしくね?小三郎。」

 

小三郎と数馬はがっしりと握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃ〜い!」

「ヘムヘム〜!」

 

外出届を出して、小松田さんとヘムヘムに見送られ、いざ裏山に出発。それから半刻たち、一年は組の教室に留三郎が訪ねてきていた。

 

「きり丸、しんべえ。」

「食満先輩!」

「何か御用っすか?」

「小三郎が見当たらないんだ。何処かに出かけたのかと思ってな。」

「小三郎なら今日は保健委員会の交流も兼ねて、裏山の森に薬草取りがてらハイキングに出かけましたけど。」

 

しんべえの言葉を聞いた途端に留三郎は真っ青になった。

 

「何ィィ⁉︎保健委員会とハイキングだとぉぉぉぉぉ⁉︎⁉︎」

 

留三郎は大慌てでは組を飛び出して行った。

 

「どうしたんだろう?食満先輩。」

「さぁ?」

 

 

 

 

 

留三郎はすぐに私服に着替えて、音速で外出届を出して後を追った。

 

「伊作!そして保健委員会の良い子達!頼むから小三郎を不運に巻き込まないでくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で保健委員会はそんな事など知らずに裏山の森の中を歩いていた。

 

「小三郎。なんか僕たちより荷物袋が膨らんでいるけど何が入っているの?」

「これ?えっと…お弁当に鉤縄に打竹に包帯に薬壺にトイレットペーパーに懐に苦無2本、ほかにもほかにも……。」

「な、なんでそんなにも…それにペーパーは使わないんじゃ…。」

 

伏木蔵が首をかしげるが左近先輩が首を横に振った。

 

「いや、備えあれば憂いなしって言うからな?それじゃ小三郎!」

「なんですか?」

「ペーパー少しくれないか?」

「はい。」

 

小三郎からペーパーを少しもらい左近先輩は何処かへいった。

 

「ほら、持ってきて良かった♫」

「「アララッ!」」

 

乱太郎と伏木蔵がこけかけた。しばらくしてから左近先輩が戻って来て、再び歩き出した。薬草を集めながら裏山の山道に入るとき、数馬先輩が短く悲鳴をあげた。

 

「痛っ!」

「どうした!数馬!」

「笹で手の甲を切っちゃいましたぁ…。」

「すぐに治療…あぁしまった!包帯も薬も持って来て…。」

「はい、伊作先輩。薬壺と包帯。」

 

小三郎は荷物袋から薬と包帯を取り出し差し出す。

 

「助かったよ!ありがとう、小三郎!」

「用意がいいんだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやりとりを後ろから追って来た留三郎が見ていた。

 

「流石だ、小三郎…お前の備えの良さで…保健委員会の不運を帳消しに出来れば…。」

 

それからは小三郎の用意した道具は要所要所で役に立った。高い木の上に生えている薬用の苔を採るのに鉤縄。洞窟に生えるキノコを探しに打竹。何時もなら何か不運に見舞われる保健委員会だが今回はすんなり薬草が集められ裏山のてっぺんまで来れた。

 

「小三郎!見てごらん!」

「うわぁぁ…!」

 

伊作先輩に言われ、側に来ると、そこにはなんとも美しい眺めだった。地平線の彼方も見えるくらいの光景。

 

「綺麗ですね〜。伊作先輩?」

 

気がつくと伊作先輩は小三郎の手を握っており、他のメンバーも側に寄って来ていた。

 

「ありがとう。なんだか今日の保健委員会は幸運みたいだ!」

「君のおかげだよ。おかげで薬草も沢山集まったよ。」

「ペーパーありがとな!助かったよ。」

「本当にありがとう!」

「スリルはないけどエキサイティング〜。」

 

 

お礼を言われて小三郎もにっこりと笑う。

 

「どういたしまして。」

 

それからはお弁当を食べ、保健委員会のメンバーと遊び、薬草を摘んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「保健委員会メンバーの不運を小三郎の用意の良さで打ち消した…フッ…心配するまでもなかったな。」

 

隠れて見ていた留三郎は帰ろうとした時だった。伊作先輩が邪魔な石を投げた。

 

 

 

 

ゴチ〜〜ン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。留三郎は伊作にタンコブの治療をしてもらっていた。

 

「伊作、俺の弟を委員会の交流に誘ったんだってな?」

「うん。彼は君によく似ているよ。」

「兄弟だからな。」

「今日は珍しくいい事尽くめでね。薬草も沢山集まったし。不運にも見舞われなかったし。でも留三郎が不運だったね?鍛錬の途中で石が降って来てタンコブなんて…。」

「不運じゃない、不注意だ。」

「あっはははは!」

 

伊作の笑い声に、留三郎は苦笑いを浮かべた。

 




不運が来たのは留三郎の下でした。


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苦労兄弟の段

世話を焼く、それは食満兄弟の似た部分の一つ。


小三郎は用意の良さは学園中に広まっていた。保健委員会の交流のあと、火薬委員会、作法委員会、生物委員会、用具委員会、体育委員会との交流が度々ありその度に小三郎の用意した道具は役に立たった。しかし未だに何処の委員会に入るかは決めてなかった。小三郎にしてみればどの委員会も楽しそうだからだ。学級委員長委員会でも小三郎の事は度々話題になった。

 

「ってな訳で、小三郎はまだ何処に入るかは決めてないんですよ。彼は気の利く奴だし。」

「彼はい組のようでは組だよねぇ?羨ましいよ。小三郎は色々手伝ってくれるんでしょ?」

 

庄左ヱ門の会話に一年い組、学級委員長の今福彦四郎が羨ましがる。その理由は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前。

 

庄左ヱ門が当番で教室の掃除をしていたら、小三郎がやって来て。「手伝うよ!早く終わらせよ?」っと言い箒を持ち出し。またある時は乱太郎が職員室に提出物を運んでいる時、「乱太郎!半分持つよ!」っと言い提出物を半分持ち。しんべえが鼻水を垂らしていた時に、「はい、しんべえ。鼻かんで?」っとペーパーを差し出し、団蔵と虎若の洗濯物騒動がまた起きてブチ切れた伊助を宥めたのち洗濯をささっと終わらせ、兵太夫、三治郎のカラクリ考案に付き合ったりと何かと世話を焼いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼よく身が持つよね?」

「まぁ、彼の性分なんだろうけどね?でもお陰で僕は大分楽になったし、彼は今や、は組には欠かせない一員だから。」

「いいなぁ〜。い組は優秀かも知れないけど、たまに一平が手伝ってくれるだけで、伝七も佐吉も全然手伝ってくれないから…。」

 

庄左ヱ門と彦四郎の話を聞きながら、五年い組学級委員長、尾浜勘右衛門と五年ろ組の鉢屋三郎がクスッと笑い出した。

 

「どうしました?」

「いやぁ、やっぱり小三郎は留三郎先輩の弟なんだなぁ〜っと思ってね?」

「僕達も一年の頃はよく留三郎先輩に世話を焼かれたよ。」

 

留三郎先輩は昔から好戦的で文次郎先輩と会うたびに喧嘩していたけど、非常に仲間思いで世話焼きで、勘右衛門先輩が手裏剣で怪我した時なんかは伊作先輩を担いで飛んで来て、三郎先輩が忍者の才能がないと諦めて学園を飛び出した時なんかは全力疾走で連れ戻しに来たのち大泣きしてくれて、などなど留三郎先輩の活躍を庄左ヱ門と彦四郎に話した。

 

「「すっごい良い先輩じゃないですか!」

「だろ?そういう人の良さはそっくりだよ。」

 

学級委員長委員会の仕事が終わり、四人が部屋から出た時だった。

 

 

 

 

 

 

ガラガラガチャ〜〜〜〜ン!!!

 

 

工具箱を担いでいた富松作兵衛先輩が工具箱をひっくり返した。すると…。

 

「富松作兵衛ェェェエエ!大丈夫かぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」

 

何処からとまなく留三郎先輩が飛んで来て安否を確認する。その向こうで喜三太が落とし穴にはまった。

 

「喜三太!大丈夫⁉︎」

 

何処からか小三郎が飛んで来て喜三太を引っ張り上げる。そして今度は廊下を踏み外し伊作先輩と乱太郎が転倒仕掛けた。

 

「伊作ゥゥゥゥ!!!」

「乱太郎ぉぉぉぉ!!!」

 

留三郎先輩が伊作先輩を小三郎が乱太郎を支えて阻止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たしかに…。」

「似てる…。」

「「あっはははは!」」

 

その光景に思わず学級委員長委員会全員が笑った。



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一年い組の社会見学の段if

い組登場。優秀ない組と真面目かつ穏やかな小三郎。どちらが優れているか。


お天気は快晴。小三郎は1年い組と共に町に社会見学をしに来ていた。何故は組の小三郎がい組の授業にいるのか。それは数日前に安藤先生が「い組との交流も兼ねて、い組の優秀さも是非知ってもらいたい。小三郎君はは組のようなおバカにはもったいない。」っという事で小三郎は土井先生、山田先生と話し合い、授業に参加する事になった。

 

 

 

 

 

 

彦四郎「それじゃあみんな。優秀ない組らしくちゃんと社会見学しよう!」

一平「今回はは組の編入生。食満小三郎も一緒に受けてもらうからね?」

伝七「まぁ、あの食満留三郎先輩の弟だから他のは組の奴とは違い足手まといにはならないだろうけどね?」

佐吉「まぁ、頑張れよ。」

一平「こら!伝七、佐吉!嫌味な事言わない!」

小三郎「あはは。よろしくね?い組のみんな。」

 

小三郎は嫌味など大して気にも止めなかった。

 

 

 

 

こうしてい組➕小三郎の社会見学が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐吉の場合

 

「はい、いらっしゃい、いらっしゃい!産地直送の野菜だよ〜!」

 

佐吉は八百屋を見学対象に選んだ。水々しい野菜が美味しそう。佐吉は八百屋の老亭主に声をかけた。

 

「あのー。質問いいですか?」

「いいよ。なんだね?」

「さきほどから観察していたのですが、たいへん儲かっているように思うのですが。」

「まあまあだね?」

「まあまあって、どのくらいの儲けですか?」

「あぁ、いや、それは…。」

「正確に教えてもらいたいのですが。あっ、ならお店の売り上げの伝票を見せてください!」

 

佐吉のこの言葉に老亭主は怒った。深聞きも良くないのだ。

 

「そんなもの見せられるかぁ!!帰れ帰れ!」

「うわぁぁ〜〜!」

 

佐吉は町から逃げて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝七の場合

 

 

「魚〜!魚〜!採れたて新鮮な魚だよ〜!」

 

伝七は魚屋を見学対象に選んだ。どの魚も活き活きしていて客もどれを買おうか悩んでいる。

 

「魚をスケッチさせてもらってよろしいですか?」

「あぁ。いいとも!」

 

魚屋の亭主から許可をもらい、筆と紙を取り出しいざスケッチ……出来なかった。活きが良すぎて魚やエビが飛び跳ねる。

 

「魚もエビも上手く書けません…あっ、タコを書かせていただきます!」

 

気をとり直してタコを書こうとしたが、ウネウネ蠢き回り上手く書けない。

 

「新鮮すぎる、もっと活きの悪い魚介類はないんですか?」

「そんなものうちに置いてある訳ないだろう!帰れこのタコ!」

「グェ!うわぁぁ〜〜!!!」

 

失礼な事を言った為、亭主が怒りタコを投げつけられ伝七はタコと共に町から逃げて行った。

 

 

 

 

その間にもい組は余計な事、場違いな事を口走り、店の人を怒らせ次々に逃げ出して行った。しかし一人だけは逃げることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎はい組が次々に逃げ出しているのを知らず、のびのびと社会見学をしていた。そして餅屋を対象に選んだ。餅に限らず団子なども置いてある。

 

「餅〜!美味しい美味しいお餅はいらんかね〜!」

「美味しそうですね!一つ下さい。」

「はいよ。」

 

お金を支払い、一つ購入。そして実食。

 

「これは美味しいお餅ですね!このもち米は何処から仕入れているんですか?」

「越後さ。あそこは水が綺麗だからいい米が出来るんだよ。」

「なるほど!この中のあんこは甘さひかえめですが、このあんこも仕入れで?」

「いいや、そのあんこは自家製だよ。もちがほんのり甘いから甘さは控えめにしてあるんだよ。」

「へぇ〜。産地もさることながら、ご亭主のあんも最高ですね!」

「そ、そこまで褒められると照れるなぁ。」

「あの、あと25個くらい包みで頂けますか?学園のみんなにも是非食べてもらいたくて。」

「おや、そんなに気に入ってくれたのかい?宣伝もしてくれるなら負けてあげるよ。」

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!今度は友達も連れてきます!」

 

小三郎の愛嬌の良さ、褒め言葉ですっかり餅屋の亭主に気に入られた。それから反物屋、八百屋、魚屋、油屋でもお得意の愛嬌と物腰で次々に気に入られ、お陰で社会見学は充実したものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここは何処だ?忍術学園はどっちだ?」

「こ、小三郎は?」

 

一方でい組のみんなは町から逃げ出している途中で野犬に追い回されて迷子になっていた。しかも小三郎を置いてけぼりにしてしまった事に気がつき真っ青。しまいには泣き出すものも出ててんやわんや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事とは知らずに小三郎は食事処の一角を借りて報告書をまとめていると日が高くなっている事に気がつきそろそろ集合場所に行こうと立ち上がり、お店の人にお礼を言い向かう事にした。

 

「あれ?」

 

しかし集合場所には誰一人もいなかった。

 

「い組のみんなはまだ社会見学してるのかな?ん?」

 

ふと筆らしき物が落ちている事に気がついた。よく見ると任暁佐吉と書いてある。それだけじゃない、町の外へとい組の落し物が続いているのだ。小三郎は拾いながら追跡を始めた。一応迷子にならない様に草を結んだりしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕達は優秀ない組なんだ!泣くんじゃない…!」

「みんなぁ。泣くなぁ〜。」

 

伝七と佐吉が一生懸命宥めるが本人たちも涙ぐんでいる。とうとうみんな泣き出す時だった。

 

「お〜い!お〜い!」

 

「「「……え?」」」

 

い組全員が声のする方へ顔を向ける。

 

「お〜い!伝七、佐吉〜!い組のみんな〜!」

 

そこにはまるで仏様の様な後光が差し、満面な笑みを浮かべながら手を振りこちらに駆けてくる小三郎が見えた。

 

「「「け、食満小三郎…!」」」

「探したよ〜。集合場所変更なら言ってよね!っで、何で泣いてるの?」

「こ、小三郎〜…。」

「まぁいいや。それよりもはい、落し物。」

 

佐吉が泣き出そうとしたが小三郎が遮る。そして全員にそれぞれの落し物を配る。全員がぎこちなく泣きながらだがお礼を述べた。

 

「それからね?餅屋さんで社会見学していてお餅美味しかったからみんなの分も買って来たんだ!」

「「「え?」」」

 

小三郎が包みを出し、みんながポカンと口を開け、涙が止まる。

 

「みんなで食べようよ?」(ニコッ)

 

小三郎の笑顔と何より自分達の為に買ってきてくれた気遣いと探しに来てくれた優しさにみんなホロリと涙が溢れた。そして、小三郎を先頭に町近くまで戻り川原で食べる事にした。

 

「「「美味しい〜!」」」

 

い組もすっかり涙が消え、普段はなかなか素直にならない伝七と佐吉も今回ばかりは素直に餅を受け取り食べていた。それからみんなで忍術学園へと、帰路についた。

 

「ねぇ。小三郎。」

「ん?何?伝七、佐吉。」

「社会見学前に……。」

「嫌味な事言って…ごめんな。」

 

謝りを聞いて、小三郎は笑顔を浮かべ、「気にしてない。」っと言った。



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実技授業の段

戸部先生登場。


山の向こうから朝日が昇り、今日も忍術学園を照らし出す。小三郎はいつもの様に早起きで鍛錬に励んでいた。しかし今日は金吾も一緒。金吾は小三郎の早起きを見習い自分も早起きしようと真似たらしい。

 

「一二!一二!」

「一二!一二…むにゃむにゃ。」

 

しかし金吾の方は未だに早起きには慣れていないらしく、立ったままうたた寝し始めた。

 

「ちょ…器用だなぁ。」

 

そんな様子を離れた場所から山田先生と戸部先生が見ていた。

 

「金吾には良い相手ですなぁ?」

「はい、それにしても彼、食満小三郎くんでしたかな?実に良いものを持っている。」

「は組の期待の星ですからな?…戸部先生?」

「ゆら~り…腹が減った……。」

「戸部先生!朝食までまだ一時間はあるんですよ!しっかり!」

 

山田先生の方へ倒れこみ、大慌てで支える。そんな先生方を余所に小三郎は金吾を起こし鍛錬を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を食べ終え、今日は実技三昧。みんな校庭に出て準備体操。

 

「おイッチにあサンシ!」

「「「おイッチにあサンシ!」」」

 

山田先生の掛け声に合わせてみんなも声を出しす。

 

「良し!身体が解れた所で今日は石垣登りの訓練を行う!各自好きな道具を使い、この練習用の石垣を登れ!」

「「「は〜い!!」」」

 

みんなが元気よく返事をした後、それぞれ忍び熊手、苦無、鉤縄などを持ち出し十メートルはある石垣を登ろうとしたが、お約束通り、ずり落ちたり鉤縄が全く違う場所に引っかかるで大騒ぎ。

 

「だぁぁ!もう!お前達は!」

「「「えへへ〜〜 」」」

「えへへ〜〜、じゃない!小三郎を見習え!」

 

みんなが「我らがは組の出来る子」小三郎に注目する。小三郎は用意してある道具箱からコの字型の鉄製の道具を何本も持ち出した。そして鉤縄を腰に装着した。

 

「よっ!ホッ!よっ!」

 

小三郎はコの字型の金具を石垣の隙間に差し入れ、足場を作りながらゆっくりだが確実に登って行った。

 

「先生!小三郎のあの便利な道具は何ですか⁉︎」

「あんなの習ってない!」

 

(バリバリ!)「ちゃんと教えたはずだぁぁぁ!!」

 

空間を破り土井先生が現れた。そして山田先生が横に立つ。

 

「小三郎が使ったコの字型の鉄製の金具はかすがいと呼ばれる道具で主に石垣登りの足場を作ったり、襖と襖に差し込み戸締めにも使う道具です。物音を立てずに登りたい時に便利です。」

 

 

「「「へ〜〜!」」」

 

「頼むから授業内容を少しでも覚えてくれ!…すみません、山田先生。貼っておいて下さい。」

「承知しました。」

 

土井先生の破った空間を山田先生がガムテープで貼り付けて修復。そうこうしていると小三郎が石垣の上に登り終えた。そして今度は鉤縄の鉤をしっかりと引っ掛け、素早く降りてきた。

 

「ふぅ〜。」

「小三郎合格!」

「凄い凄い!」

「なるほど〜。素早く降りる為の鉤縄だったのかぁ。」

 

は組全員が小三郎に賞賛を送る。小三郎も照れながらも誇らしげに胸を張る。

 

「みんな。先生は何も素早く登れとは言っていない。ゆっくりでも構わないんだ。もう一度、始め!」

 

山田先生の再号令の声と共に、再び石垣登りが始まった。小三郎は山田先生に言われて乱太郎ときり丸とでしんべえのフォローに回った。

 

「僕石垣や壁登り苦手なんだよね〜。」

「それなら僕がやった様にかすがいを足場に登ればいいよ。」

「じゃあ小三郎が先に登って、次にしんべえが登って。」

「しんべえの後に俺らが後ろから登ればいいんだな?」

 

 

 

 

 

 

 

小三郎が先に石垣にかすがいを打ち込み登り、しんべえを真ん中に、後から乱太郎、きり丸と言う形で登り始める。普段は体重が重たく中々登れないしんべえだったが今回はかすがいと言う足場がある為、すんなりと登って行けた。

 

「しんべえ!」

「あっ、ありがとう小三郎。」

 

先に上がった小三郎が手を差し伸べる。しんべえは手を取り登りきった。その後で乱太郎、きり丸も登り終えた。

 

「やった〜!登れた〜。ありがとう、小三郎、乱太郎、きり丸。」

「良かったね!しんべえ。」

 

初めては組全員が登れた。山田先生も下で涙を流していた。

 

「よくやった…!よくやった!全員合格!」

「「「やった〜!!!」」」

 

上では全員が飛び跳ねながら大喜びをした。一年は組が初めて全員合格になった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後からは戸部先生による剣術及び武術の授業。

 

「ゆら〜り。」

「「「ゆら〜り。」」」

「そ、そこは真似しなくていい。ゴホン!今日は武術の基本。瞑想を行う。瞑想は何か、分かるか?」

 

戸部先生の瞑想という言葉には組が次々と反応を示した。

 

「早く走ること!」

「それは疾走。」

「うわぁぁぁ!助けてぇ!」

「それは逃走。」

「空が飛べたらな〜。」

「それは空想。まぁ、近いか…」

「あんなことや、こんなことや…あわわ…。」

「それは妄想。似て非なる。」

「たけのこ!」

「うむ。孟宗竹だな?」

 

「「だぁぁぁぁ!」」

 

戸部先生は汗を垂らしながらも冷静に突っ込んでいった。小三郎と金吾がこけた。

 

「違うよみんな!」

「瞑想って言うのは心を無にして精神を統一する修行だよ!」

 

流石は金吾、家が武家なだけ基本は知っていた。それから全員が座禅を組み、戸部先生の合図と共に瞑想開始。戸部先生はハリセンを持ち見回る。

 

 

「……………………………………。」

 

 

 

チャリ〜ン。

 

「小銭〜!アヒャヒャヒャ!」

「きり丸失格!」(スパ〜ン!)

 

早くもきり丸が他者には聞こえない小銭の音で雑念が現れ失格になった。

 

「…あっ!洗濯物干しっぱなし!」

「伊助失格!」(スパ〜ン!)

 

外の風になびく洗濯物が目に入り、伊助が声をあげて失格。

 

「う〜。足が…。」

「乱太郎、団蔵失格!」(スパ〜ン!)

 

足が痺れ、もぞもぞと動き乱太郎と団蔵が失格になり、それから続々と雑念や足が痺れ動き、失格となった者が出始めた。残るは金吾、三治郎、小三郎、そして以外にもしんべえが残った。

 

「三治郎は山伏だから座禅で瞑想は得意そうだね。様になってる。」

「金吾も武家の子だから大丈夫だろう。」

「やっぱり小三郎はそつなくこなすよね〜。姿勢が真っ直ぐだもの。」

「でも、しんべえは意外だね?真っ先に食べ物の雑念が過ぎると思ったのに。」

 

庄左ヱ門の言葉に失格者全員がしんべえに注目する。真剣な面持ちで微動だにせずに座禅を組み瞑想している。戸部先生も注目している。

 

「意外だな。しんべえがここまで瞑想に集中出来ているとは………ん⁉︎」

 

戸部先生は気がついた。よく見るとしんべえの鼻から鼻提灯が出ている。つまり寝ているのだ。

 

「………しんべえ、失格。」(スパン!)

「ん?………あれ?もう晩御飯?」

「「「だぁぁぁぁ!」」」

 

金吾も三治郎も小三郎も瞑想が打ち砕け、戸部先生も転けてしまった。

 

 

 

 



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秘伝の奥義の段

牧之助登場!忍者繋がりで小三郎があの技を繰り出します!


別の日の校庭。

 

一年は組全員が真剣な面持ちで金吾と小三郎を見ていた。金吾と小三郎は互いに木刀を持ち構えている。

 

「たぁぁぁ!」

「やぁぁぁ!」

 

カン!カン!カァン!

 

金吾と小三郎の木刀がぶつかり合う。因みに喧嘩をしている訳じゃない。お互いに鍛錬をしていたらいつの間にか全員が集まって来たのだ。

 

「たぁぁぁ!」

「あぁっ⁉︎」

 

次の瞬間、小三郎の木刀が金吾の木刀に吹き飛ばされてしまった。

 

「金吾の勝ち!」

 

乱太郎の言葉に金吾と小三郎は互いに頭を下げ握手を交わす。

 

「やっぱり金吾には敵わないなぁ〜。」

「いやぁ。小三郎も強かったよ!」

 

「どっちも強いんじゃない?」

「だけど小三郎は剣術あまり得意そうじゃないね?」

 

兵太夫と三治郎の言葉に小三郎は苦笑いを浮かべる。

 

「う〜ん…兄者からは主に体術を教わってたからなぁ。」

「小三郎、体術出来るの⁉︎」

 

伊助以外にも皆、小三郎が体術ができるのか興味津々。

 

「やってみようか?」

 

小三郎は少し離れて、スゥッと深呼吸をする。

 

「タァッ!はぁ!やぁっ!てやぁっ!」

 

パンチやキックや飛び蹴りなどを披露する。

 

「「「オォォ!!!」」」

 

みんな初めて見る小三郎の体術を見て感心する。金吾も思わず見惚れた。

 

「「「凄い凄い!」」」

「多分、体術では絶対小三郎に負けちゃうなぁ〜。」

 

 

「ほぅ。素晴らしいなぁ。」

「戸部先生!それに食満留三郎先輩!」

「よっ!」

 

は組全員が振り返るとそこには剣術師範、戸部新左ヱ門先生と留三郎先輩が立っていた。

 

「兄者!」

 

小三郎は目を輝かせ留三郎に近寄る。

 

「いいぞぉ!ちゃんと鍛錬しているなぁ!」

「うん!」

「金吾も上達している。その調子で励むように。みんなもな。」

「はい!」「「「はい!」」」

 

全員が元気よく返事をすると、乱太郎が留三郎先輩に尋ねた。

 

「所で、留三郎先輩?どうして戸部先生と一緒に?」

「うっ…それは…。」

「留三郎は学園一の武闘派だが、剣術は未だに苦手でな。こうしてたまに私が個人授業しているのだ。」

「何故バラすんですか!」

 

戸部先生がしれっと暴露した事に留三郎先輩が慌てる。

 

「あぁ。だから僕には体術を教えて、剣術は一切教えなかったんだ。」

「留三郎先輩にも苦手なものだあったんですね〜。」

「ま、まぁ。俺でも人間だからな?」

 

与太話をしていたら何処からかヘムヘムが駆けてきた。

 

「ヘムヘムへ〜!」

「どうした?ヘムヘム。」

「ヘム!ヘムム、ヘムヘム!」

「何?花房牧之助が私に決闘?また迷惑な…。」

 

戸部先生の初めて見る嫌そうな顔を小三郎は見る。そして牧之助と言う言葉には組全員と留三郎先輩もげんなりした顔をする。

 

「花房牧之助って?」

「自称剣豪で勝手に戸部先生をライバルと言い張り、あの手この手で決闘を申し込んでくる傍迷惑なやつ。」

 

小三郎は若干驚いた。普段は誰にでも寛容な乱太郎がここまで嫌そうな顔をするのは相当迷惑な奴なんだと思った。

 

「ヘムヘム。追い返しなさい!」

「ヘム〜!ヘムムヘムヘムムヘム!」

「なにぃ⁉︎学園長が許可を出したぁ〜⁉︎」

「「「だぁぁぁぁ!」」」

 

その場にいた小三郎以外、全員がすっころんだ。しかし戸部先生は何かを思いついたらしく小三郎に近寄った。

 

「へ?何ですか?」

 

戸部先生は徐に小三郎の肩に手を置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小三郎、お前が相手をしてあげなさい。」

「ハイィィィィィィ⁉︎」

 

戸部先生の言葉に全員が飛び起きた。

 

「それがいいよ!牧之助は凄く弱いから小三郎なら勝てる!」

「いつもは俺たちなんか眼中にないみたいだけど〜。」

「小三郎なら出来る!」

 

乱太郎、きり丸、しんべえの言葉には組全員が小三郎コールをあげる。

 

「だ、大の大人に勝てるかな?あ、兄者?」

 

よく見ると留三郎までもコールに混ざっていた。

 

「だぁぁぁぁ!」

 

小三郎がひっくり返った。すると留三郎が近寄ってきた。

 

「小三郎。」

「は、はい?」

「あの手を使ってもいいぞ?」

 

「「「あの手?」」」

 

留三郎の言葉に全員が首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後一二時を過ぎた頃、校庭では忍術学園の男子生徒全員、くノ一少々、教員全員、学園長が集まった。

 

「え〜!お弁当にキャラメル〜、アイスクリーム〜。いかがっすか〜!」

 

きり丸は銭稼ぎで忙しそう。なんやかんやで三年は組の浦風藤内がアイスクリームを購入していた。そしていよいよ花房牧之助と戸部先生が場に現れた。戸部先生の横に小三郎も控えている。

 

「戸部新左ヱ門!今日こそ決着………誰だ?そいつは?一年にいたか?」

 

牧之助の言葉に乱太郎達が飛び出した。

 

「牧之助!聞いて驚け!」

「この子こそ!は組一の出来る子!新しい仲間!」

「忍術学園一の武闘派、食満留三郎先輩の実弟!」

 

 

 

「「「食満小三郎だぁぁぁぁ!」」」

 

「な、なんか恥ずかしいなぁ〜。」

 

小三郎は照れながら頭をかいた。

 

「出来る子?なんだ。なら乱太郎達と変わらないな!ガッハハ!」

「それはどうかな?花房牧之助。私に挑みたくば先ずはこの食満小三郎を倒してからだ。侮ると痛い目に遭うぞ?」

 

戸部先生の目がキランッ!と輝いた。そして戸部先生は少し後ろに下がった。六年生の席では善法寺伊作がハラハラとしており留三郎を揺すっていた。

 

「留三郎!いくら君の弟でも危険すぎるよ!」

「大丈夫だ。俺の弟を侮るな。それに一応学園長には木刀と条件を出した。死にはしない。」

「お前の弟の実力を見れるいいチャンスかもな?」

「文次郎まで〜!一応、保健委員は待機させておくからね!」

 

伊作の後ろには伏木蔵、左近、数馬が控えていた。

 

「スリルとサスペンス〜。」

「まぁ、大丈夫と思いますけど。」

「保健室行きは牧之助だろうね?あっ、始まるみたいだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牧之助と小三郎が歩み寄る。

 

「まぁ!加減はしてやろう!」

「はい。不束者ですがよろしくお願いします。」

「「「それは結婚相手に言う言葉!」」」

 

 

学園長が立ち上がった。

 

「それでは〜。始め!」

 

「おりゃぁぁぁぁ!」

 

牧之助が木刀で叩きかかったが小三郎はスッと右に避けた。

 

「ぬ!よくぞかわした〜。だが甘い!」

 

今度は横に木刀をなぎ払った……が。

 

「よっ!」

「何ィィ⁉︎」

「「「オォォ!」」」

 

何と小三郎はバク転を繰り出し飛び避けた。それからも牧之助は何度も打ちに行くが全てかわされた。

 

「本当だ…足運びバラバラだぁ〜…。」

 

小三郎は理解した。この人は………弱いし下手だ。

 

「凄い!小三郎は身軽だね?」

「牧之助が弱すぎるんじゃない?全部避けられてるし…。」

「でも……留三郎先輩が言っていたあの手ッて何だろう?」

 

は組は留三郎のあの手と言う言葉が気になっていた。

 

「なかなかやる!ならば突きはどうだぁぁぁぁ!」

(今だ…!)

 

小三郎は十分引きつけた後に再びジャンプを繰り出し、牧之助の背後を取った。その時だ。

 

「!山田先生!小三郎の手!」

「あれは…結印の臨⁉︎」

 

小三郎の手はちょうど九字印の臨の形になっているのを山田先生と土井先生は捕らえた。そして留三郎と小三郎の視線が重なる。

 

(やれ!小三郎!)

 

「兄者直伝!秘伝食満流体術奥義!………◯年殺し〜〜〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ!………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あれは……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

悲鳴と共に牧之助が凄まじく吹っ飛んだ。文次郎が留三郎を見る。留三郎は満足気な顔をしていた。

 

「な、なんちゅーもん弟に教えたんだ!留三郎!」

「だから言っただろ?俺の弟は強いってな!」

「なんかよく分かんねーけどすげーな!お前の弟!」

「ボソボソ……人体の急所への一撃…見事。」

「品がないな。」

 

立花仙蔵だけは何故か遠くを見ていた。

 

一方で三年生。

 

「ヤベェ!あの技まじでヤベェ!!!」

「あんなの…予習出来ない…!!」

 

作兵衛と藤内が抱きつきあい震えた。

 

一年い組。

 

「こぇ〜!!!」

「お、お、お、お、落ち着け!佐吉!」

「でで、伝七も落ち着いて!」

「あれ…牧之助死んだかもね?」

「「「演技でもない事言うな!一平!!!」

 

 

教員陣

 

「と、留三郎の奴…。」

「何を教えているんだ……カンチョーだなんて…。」

「でも、決まれば効果的ですわ。」

「し、シナ先生。意外と冷静ですね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「やった〜〜〜!!!」」」

 

は組全員が小三郎を取り囲む。

 

「まさかカンチョーで倒すなんて!」

「君…ぶっ…面白すぎ〜!」

「あっははは!」

「よし!胴上げだ!」

 

全員で小三郎を抱え上げて胴上げ。小三郎も少し困惑したが素直に喜んだ。

 

「牧之助……哀れなり…。」

 

戸部先生は向こうで垣根に突っ込み、伸びてしまっている牧之助に合掌した。牧之助は伊作率いる保健委員に運ばれて行った。

 

 

 

 

 

「つ、つ、つ、強いなんて聞いてない…………がくっ!」

 



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どの委員会にしようかな?の段

いよいよ委員会が決まります。


小三郎が忍術学園に入学して早4ヶ月もたった。持ち前の穏やかな性格もありみんなからは人気者だが、最近少し困る事があった。それは…。

 

「小三郎!兄者と一緒に用具委員会に!」

「いや会計に!」

「いいや、作法委員に!」

「体育委員に!!」

「ボソ、図書委員会…。」

「保健委員会に是非!」

「火薬委員会に!」

「生物委員会に!」

 

「「「「「入ってくれ!」」」」」

 

 

先輩や先生方が場所時間関係なく自分達の委員会に勧誘して来るのだ。小三郎もそろそろ入る委員会を決めようかと思っていたが、悩む。小三郎は勧誘から隠れるため茂みの中でうずら隠れをしながら考えていた。ちなみに隣には乱太郎、きり丸、しんべえがおり、一緒にうずら隠れをしていた。

 

「ん〜…どの委員会にしようかな?」

「小三郎ならどの委員会でもやれそうだよね?ちなみに私は保健委員。」

「俺は図書委員。」

「僕は用具委員。勧誘になっちゃうけど…僕は小三郎に用具委員会に入って欲しいなぁ。」

「迷うなぁ〜。」

 

小三郎は立ち上がり、今度は木の葉の中に隠れ考える。乱太郎達も真似をする。そして次は水の中に隠れたり、木の上に隠れたり、壁に張り付き観音隠れをしたりした。

 

「…思ったけど…なんでついて来るのさぁ?」

「だって〜。」

「小三郎を真似すれば実技の成績が伸びると思って〜。」

「迷惑〜?」

「な、何その声のトーン…。」

 

乱太郎、きり丸、しんべえが妙に1オクターブ高い声を出す。小三郎は転けかけた。しかし直ぐに立ち直した。その様子をあちこちから各委員会の顧問の先生方が見ていた。

 

「何としても小三郎は手に入れたい…!」

「彼の様な出来る子なら生物委員会も安泰…!」

「彼なら保健委員会の不運も断ち切れる…!」

「作法委員会…作法委員会…。」

「体育委員会に、体育委員会に…!」

「彼が入れば…会計委員会の即戦力になる…ここは何としても…!」

 

そして先生方が小三郎目掛けて縄を投げた。

 

「うわっ!」

 

小三郎は身を翻しかわした。てっきり各委員会の人達が強行手段で捉えようと縄を投げたかと思ったからだ。…しかし、縄の先は輪っかになっていなかった。

「な、なんだ?この縄…。」

「あっ、コレって…浜守一郎さんの時の…。」

「「その通り!」」

 

声と共に何処からか庄左ヱ門と彦四郎と三郎先輩と勘右衛門先輩が飛び出してきた。

 

「学級委員長委員会で〜す!」

「どの委員会も楽しそうで悩む、食満小三郎の為に!」

「学級委員長委員会がくじ引きを用意したよ!」

「さぁ!この縄から一本選んでくれ!」

 

「こ、この縄からですか?」

 

小三郎は周りに散らばる縄を見る、先生、先輩方は自分を引け、自分を引けと祈っている。その時、きり丸が何かに気がついた。

 

「乱太郎。なんか縄数多くないか?」

「そういえば…十数本あるよね?」

 

委員会は全てで七つのはずだが縄の数は何故かそれ以上。小三郎はその内の一本を手に取る。

 

「じゃあ、強く引っ張って!」

「は、はい!」

 

小三郎はグイッとひっぱる。すると、スカと書かれた看板が飛んできた。

 

「「残念!スカで〜す!もう一度!」」

「「「だぁぁぁぁ!」」」(ドテ〜〜!)

 

乱太郎達がすっ転んだ。

 

「なんでスカなんてあるのさぁ!庄左ヱ門!」

「いや〜、鉢屋三郎先輩の考えで面白みを出そうと…。」

「面白み、いらなくない?」

 

そんなやりとりを尻目に小三郎は次の縄を手に取る。

 

「おんどりゃぁぁぁぁ!!」

 

小三郎はありったけの力で縄を引っ張った。すると…。

 

「うわぁぁぁ!」

「エェッ⁉︎伊助⁉︎」

 

思いっきり引っ張ったら何と茂みの中から縄の端を腰に結んだ伊助が飛んできたのだ。

 

「うおっとぉ!」

 

小三郎は伊助を何とかキャッチ。

 

「す、少しは加減してよねぇ……。」

「ご、ごめん。でも何で伊助?」

「「小三郎オォォ!!!」」

 

訳が解らないと首をかしげると、茂みから土井先生と久々知兵助先輩と斎藤タカ丸先輩、少し遅れて池田三郎次先輩がやってきた。

 

「土井先生!久々知兵助先輩に斎藤タカ丸先輩に池田三郎次先輩!じゃあ、僕は…。」

「あぁ!今日から君は!」

「火薬委員会の一員だ!」

「僕と一緒だね〜。同じ編入生同士仲良くしようね?」

「よろしくな!」

「よろしくね!小三郎!」

 

伊助はにこやかに笑い小三郎に抱きつく。小三郎もにこやかに笑う。

 

「よろしくね!伊助!先輩方も土井先生もよろしくお願いします!」

「よぉし!そうと決まれば早速豆腐パーティーだ!」

「と、豆腐パーティー?」

「火薬委員会の恒例行事だよ!さぁ行こ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火薬委員会が小三郎を手に入れて、他の委員会はガーン!っと言った表情になっていた。特に留三郎は涙を流していた。

 

「小三郎…!独り立ちしないでくれぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火薬委員会!」

 

兵助先輩は火薬ツボ、タカ丸先輩は焙烙火矢、三郎次先輩は万人敵、伊助は火車剣、そしてメンバーの真ん中に小三郎が消火用の水瓶を持ち、立つ。

 

「食満小三郎!よろしくお願いします!!!」

 

こうして小三郎は火薬委員会に入った。



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火薬委員会親睦豆腐地獄?の段

火薬委員会では小三郎が入りお祭り騒ぎになっていた。

 

「「「ようこそ!食満小三郎!火薬委員会へ!!!」

 

食堂を貸し切り、「火薬委員会新メンバー歓迎豆腐パーティー」っと言う催し物が始まっていた。

 

「先ずは自己紹介をしよう。私が顧問の土井半助だ。って言うまでもないな?」

「俺が委員長代理の久々知兵助だ。」

 

久々知兵助先輩は何故か目をキラキラさせている。

 

「僕は斎藤タカ丸。よろしくね~?」

「僕は二年ろ組の池田三郎次だ。左近から聞いてるぞ。かなりできる奴だってな!」

 

「そして!お馴染み、同級生の二郭伊助!言うまでもないけどよろしくね~!」

 

伊助は余程嬉しかったのか飛びついてきた。

 

「っと!一年は組、編入生の食満小三郎です。正直、火薬の知識は全くの皆無で至らぬところありますが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」

 

自己紹介が終わり、伊助が離れると今度は兵助先輩が飛びついてきた。

 

「絶対に火薬委員会に来てくれると思ってたよ!小三郎!」

「ど、どうしたんですか?」

 

飛びつかれ回され、高い高いされ、困惑する小三郎にタカ丸先輩が近寄ってきた。

 

「久々知くんね?君が豆腐好きと知ってから小三郎を火薬委員会に小三郎を火薬委員会にっていつも呟いていたんだよ?」

 

小三郎はそうだったって思い兵助先輩を見る。しばらくしてから小三郎を下ろし台所に歩いて行き何かを持ってきた。

 

「小三郎が厚揚げが好きと聞いたから今回の豆腐パーティーは……厚揚げステーキにしてみました!」

 

さっと皿に乗っていた布を取ると、そこにはいい感じに焼き色の入った厚揚げステーキが乗っていた。

 

「「「オォォ!!!」」」

「美味しそう!」

 

全員が声をあげ、小三郎も思わず舌なめずりをする。

 

「それでは、おばちゃんに習って〜!お残しは許しまへんで!」

「「「いただきま〜〜す!」」」

 

全員がそれぞれ小皿に取り分け食べようとした時だった。三郎次先輩が小三郎に近づいた。

 

「小三郎!これかけると美味いぞ〜?」

「本当ですか!じゃあ……「だめ!」い、伊助?」

 

かけて下さいっと言おうとした時、伊助が割って入って来て三郎次先輩の腕を掴んだ。

 

「何をする伊助!僕は後輩を思って…。」

「唐辛子粉振りかけるのが後輩を思ってですか⁉︎僕の親友に余計な事しないで下さい!」

 

まるで番犬の如く、ガルルルッ!っと唸り声を上げる。

 

「うっ…わ、分かったよ!ちぇ、コミュニケーションのつもりだったのに…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、伊助。何もそこまで…。」

「小三郎は三郎次先輩をよく知らないからそう言えるんだよ!本人はコミュニケーションや世話を焼いてくれているようだけど…その大半が迷惑なんだから…!」

 

それからは土井先生を始め、兵助先輩、タカ先輩、三郎次先輩と合流を深めた。聞くところによると火薬委員会は火器を愛用する人は入っちゃいけない決まりらしい。土井先生曰く、過去に大爆発があったそうな。

 

「だから、虎若や仙蔵先輩、三木ヱ門先輩みたいな人は愛用武器と全く異なる委員会なのかぁ。」

「火器を愛用する忍者は常時火種を持ち歩く。そう言った生徒は火薬庫に近づかないようにするのも火薬委員会の役目だ。」

「爆発したりしたら大変だからねぇ〜?」

 

兵助先輩、タカ丸先輩の話を聞きなるほどと頷く。

 

「それだけじゃないぞ?火薬委員会は新たな火薬の生成も行なっている。」

「ほぇ〜!土井先生ってなんでも出来るんですね!」

「い、いやぁ。私なんて…ッて!小三郎の目がキラキラしている!」

 

「土井先生も凄いけど、我ら火薬委員会には火薬を研究している「早すぎた天才さん。」って言う人もいるんだよ?」

「早すぎた天才さん?か、変わった名前ですね?」

 

小三郎が苦笑いを浮かべると兵助先輩が立ち上がった。そして台所から今度は大鍋を持ってきた。

 

「さぁ!募る話はこれくらいにして、今度は麻婆豆腐だ!今日は沢山豆腐を作ったから遠慮なく食べてくれよな!」

「く、久々知くん?一体後何品出てくるのかな?」

 

小三郎は豆腐料理を食べながら周りを見る、何だかみんなが冷や汗をかいている。

 

「ま、まずい…久々知兵助先輩の豆腐地獄が始まる!」

「豆腐地獄?」

 

小三郎が首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして思い知った。その後、次々に豆腐料理は運ばれてきた。味噌汁に白和え、湯豆腐に豆腐がゆ……。

 

 

 

 

「こ、これは……。」

 

正直食べきれない……かと言って残すのも申し訳ない…兵助先輩の笑顔を崩したくない…どうしようっと火薬委員会全員が考えていると……救世主が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁ〜〜!美味しそう!火薬委員会だけずるい!」

 

何処から匂いを嗅ぎつけたのかしんべえがやって来たのだ。伊助、小三郎にはしんべえの身体から後光が差して見えた。それからは有無も言わせずしんべえが平らげてしまった。

 

「こらしんべえ!火薬委員会の親睦会だったのに!」

「まぁまぁ、久々知くん。良いじゃない?見てよしんべえの顏。あんなに美味しそうに食べているじゃない?」

 

タカ丸先輩がしんべえを指差す。とても幸せそうな顔で食べている。その表情に兵助先輩もそれ以上何も言えなかった。

 

「体術なら負けないけど…食べっぷりではしんべえに勝てないや!」

「あははは……まぁ、何はともあれ、助かった〜〜。」

 

こうして皆、福富しんべえのおかげで豆腐地獄から救われた。



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用意周到の段

家事全般も出来る小三郎。


とある日曜日、乱太郎、きり丸、小三郎は部屋の中で布の山を睨んでいた。

 

「これが?」

「あぁ…期限は今日の夕方…。」

「なるほど。それなら善は急げだね?」

 

小三郎達はそれぞれ一人ずつ用意してある座布団に腰を下ろした。その前には針と糸が置いてある、それを各自が手に持つ。

 

「「「それでは、雑巾作り、開始!」」」

 

こうしてきり丸の雑巾作りのバイトが始まった。何故こうなったかと言うと、きり丸がバイトを引き受け過ぎた為であり、また小三郎は土井先生から頭を下げられ私の代わりに手伝ってくれと言われた為である

 

「……よし!……よっ!」

 

家事の得意な小三郎は縫い物もできる為、スラスラと進んでいく。最初はしんべえも誘おうと思ったらしいけど、針で指刺すかも知れないと思い、誘わなかった。普段は潮江文次郎先輩と七松小平太先輩と中在家長次先輩が手伝うらしいがこう言う細かい作業は苦手らしい。

 

「小三郎早いね!」

「さすがサブちゃん!は組一出来る子!手際がいい!」

「さ、サブちゃんって……まぁいいや。忍術学園に来る前は家の手伝いもやっていたからね?縫い物もそれで覚えたんだ。」

「「へぇ~~。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チクチク、ヌイヌイ、チクチク、ヌイヌイ。それからは与太話を交えながら三人で雑巾を次々生産していく。乱太郎も器用な方で小三郎ほどではないがスラスラ進み、流石のきり丸もササッと仕上げていく。

 

「なんか…凄い貧乏な生徒って感じだね?」

「ぶっ!」

「貧乏って言うなぁ!乱太郎!小三郎も笑うなぁ!俺が惨めじゃないか!」

「ご、ごめんきりちゃん。」

「ごめんなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてお昼を回る頃には全ての布が雑巾になった。きり丸も大喜び。それから小三郎はお礼の代わりに雑巾一枚を貰った。そして納品しにいくきり丸を乱太郎と見送った。

 

「ところで小三郎?なんで雑巾を貰ったの?」

「いや、伊助にあげようかな?ってね?」

「あぁ、なるほど。」

 

綺麗好き、掃除好きな伊助ならきっと雑巾は喜ぶだろうと乱太郎も頷いた。それから乱太郎と別れて、忍たま長屋に戻り伊助に雑巾をプレゼントした。案の定伊助は喜んでくれた。

 

「ありがとう!ちょうど雑巾欲しかったんだ!」

「よかった、喜んでくれて。」

 

それからは伊助と庄左ヱ門の部屋を一緒に雑巾がけをした。普段から整理整頓が行き届いているが、一層ピカピカになった。それから伊助と別れて自室に戻ろうかと廊下を歩いていると、しんべえと喜三太に呼び止められた。

 

「あっ。いたいた。」

「小三郎〜!」

「しんべえ、喜三太!どうしたの?」

 

「実は…。」

 

喜三太によると食堂のおばちゃんがまきを切らしたらしく、これから用具委員会が裏山にまきを集めに行くらしく、小三郎もどう?っと言うことらしい。

 

「でも僕もう火薬委員会だよ?」

「大丈夫!もう留三郎先輩が久々知先輩に許可貰ったらしいから。」

「早っ!ならいいかぁ…えっと…用具委員会メンバーは…兄者に守一郎先輩、作兵衛先輩、平太に喜三太にしんべえ……よし。じゃあ準備して来るから門で待っててって兄者に伝えて?」

 

「「準備?」」

 

喜三太としんべえが首をかしげるが小三郎は自室に入っていった。二人は取り敢えず留三郎先輩に報告をする為に戻った。

 

 

 

 

 

 

そして三十分後、小三郎は荷物を背負いながら用具委員会のいる正門までやって来た。

 

「遅くなりました!兄者、守一郎先輩、作兵衛先輩!」

「やっと来たな?…って、何だ!その荷物は!」

「随分沢山の入ってるな!」

「一体何が入っているんだ?」

 

「えっとですね?忍者の基本的な携帯品一式に平太がちびっちゃった時の替え用の袴と褌に、しんべえがお腹空いた時用のおにぎりと水、喜三太のナメクジさん用のキャベツに、あれば何かと便利なトイレットペーパーに、包帯と薬壺に、目印用の五色米、ほかにもほかにもほかにも………。」

 

 

 

「お前は心配性のお袋か!」

「すまん作兵衛。小三郎は母似でな?」

「ま、まぁ、用意周到で。」

 

 

やいのやいの言う作兵衛の後ろでは平太としんべえと喜三太が潤んだ瞳で小三郎を見ていた。

 

 

「替え用の袴と褌………持って来てくれたんだ……。」

「僕のことまで思ってくれて…。」

「ナメクジさんのことまで思ってくれるなんて…!」

 

「「「仏様だ〜………!ありがたや、ありがたや…」」」

「「「だぁぁぁぁ!!」」」

「ほ、仏様だなんてそんな……。」

 

先輩方は盛大にこけた。小三郎は照れながら頭をかく。



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用具委員会のまき拾いの段

用具委員会と交流、お気に入り件数がもうすぐ20!みなさんありがとうございます!


午後三時くらいを過ぎた頃、用具委員会➕小三郎はヘムヘムと小松田さんに見送られ裏山の森に出掛けた。荷車に一年生四人と作兵衛を乗せ、留三郎が荷車を引き、守一郎が後押しをした。

 

「留三郎先輩!守一郎先輩!荷車なら俺が…。」

「作兵衛。お前は今まで俺の右腕になっていてくれたんだ。今は四年生の守一郎がいる。たまには荷車に乗り、一年生と一緒に揺れていろ。」

「だ、だけど…。」

「そうだよ。作兵衛。君はよく働くから、たまには揺られていなよ!」

 

守一郎にも言われて作兵衛は再び腰を下ろした。

 

「富松先輩って兄者に大事にされているんですね?」

「まぁ、守一郎さんが来るまでは俺が留三郎先輩の片腕だったからな?でも先輩方!疲れたら言ってくださいね!」

「おう!」「あぁ!」

 

荷車はユラユラ揺れる。ユラユラユラユラ。

 

「あ…荷車で歌思い出した…。」

「どんな歌?平太?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドナドナド〜ナ♫子牛をの〜せ〜て〜♩荷馬車はゆ〜れ〜る〜♫」

 

「「「だぁぁぁ!!」」」

「ヌォッ⁉︎」

「おっと!」

 

平太が口ずさんだ歌に全員がひっくり返った。危うく留三郎も守一郎も躓きかけたが堪えた。

 

「俺らは町に売りに出される子牛か!」

 

作兵衛が鋭いツッコミを入れる。すると途端に留三郎が声をあげた。

 

「大丈夫だ!」

「と、留三郎先輩?」

 

作兵衛と守一郎と一年生全員が留三郎を見る。何故か涙目になっていた。

 

「どんなに予算が足りなくても!お前達を売りに出したりしないから…!!!」

 

「「「だぁぁぁぁ!」」」

 

小三郎以外、再びこけた。

 

「その前に兄者。人身売買は犯罪だよ?」

「つ、冷たいツッコミ…じゃあ、喜三太何か歌ってくれよ。」

「分かりました〜♫」

 

再び荷車が動き出す。すると、何処からか冷たい風が吹いてきた。

 

喜三太「まず〜しさに〜まけた〜♫」

平太「いえ〜♫」

しんべえ「世間に〜♫」

小三郎「負けた〜♫」

 

 

 

「やめろ!ますます暗く、辛くなるじゃないか!小三郎!お前だけは真面目だと思っていたのに!何一緒になって歌っているんだ!」

「いや〜。乗りも大事かな〜って。」

 

やいのやいの言う作兵衛に小三郎はニンマリと笑ってみせた。

 

「じゃあ、次は僕が歌います!」

「小三郎が?」

「楽しみ〜。」

 

 

またまた荷車は動き出す。すると何故か紙吹雪が舞い始めた。

 

 

小三郎「よさ〜く〜が、き〜をきる〜♫」

平太・喜三太・しんべえ「ヘイヘイホ〜♫ヘイヘイホ〜♫」

小三郎「こだ〜まがかえ〜るよ〜♫」

留三郎・守一郎「ヘイヘイホ〜♫ヘイヘイホ〜♫」

 

 

 

「な、なんか一気に時代が古くなった様な…まぁ…いいか…まき拾いだし…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎の「与作」は裏山の森中にこだました。それからポイントにたどり着き、各自まき拾いを始めた。途中、平太が茂みから飛び出したキツネにビビりちびっちゃったが小三郎は手際よく替え用の袴と褌を差し出した。しんべえの鼻水もトイレットペーパーで拭いてあげ、喜三太にナメクジさん用のキャベツを渡した。

 

 

 

 

帰りは荷車にまきを入れ、各自、背負子に乗り切らなかったまきを背負い忍術学園に帰った。ちなみに小三郎の荷物は一緒に荷車に乗せて貰った。そして帰りも「与作」がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂のおばちゃんは大喜びし、夕飯の時は用具委員会と小三郎の分はとても豪華にしてくれた。しかし、富松作兵衛は少し疲れた顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂。

 

「どうした?作兵衛。疲れた顔して。」

「なんかあったの?」

 

疲れた様子で湯に浸かる作兵衛を心配して、神崎左門と次屋三之助が尋ねる。

 

「いや、少し今日はツッコミ過ぎたなってな?」

「ま〜。作兵衛は真面目だからな!」

「今日はさっさと寝るべきだよ?」

 

左門と三之助が気遣う言葉をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、作兵衛は様々な歌を歌う、喜三太としんべえと平太と小三郎の夢を見てうなされた。

 



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火薬委員会の仕事の段

今回より誰の台詞かを分かりやすくしました。


今日は火薬委員会の仕事がある為、小三郎は伊助と共に火薬倉庫横の詰所に向かっていた。

 

伊助「失礼しま〜す!一年は組、ニ郭伊助。」

小三郎「並びに食満小三郎。ただいま参りました!」

タカ丸「どうぞ中へ。」

 

詰所の戸を四年は組の斎藤タカ丸が内側から開けて中に招き入れた。中は座敷になっており、二年い組の池田三郎次、委員長代理の五年い組の久々知兵助、そして顧問の土井半助先生が在庫の早見表や予算表を見ていた。

 

久々知「よく来たね!伊助。そして小三郎!」

小三郎「よろしくお願いします。久々知委員長。土井先生。」

 

小三郎は挨拶を終えると伊助の席の隣に座った。

 

久々知「さて、それではミーティングを始める。」

三郎次「ミーティングって言っていますけど、どうせ掃除と在庫確認と雑談で終わりでしょ?久々知委員長代理。」

 

話を聞いていると、火薬委員会の仕事は主に在庫確認と掃除が殆どであり、通称、地味委員会と呼ばれているらしい。小三郎は内心ホッとした。どうやら火薬でうんたらはないようだ。

 

土井先生「どうした?ホッとして。」

小三郎「いやぁ。僕火薬のことは殆どで無知で。湿気はダメくらいしか知らなくて。でも掃除なら任せて下さい!」

三郎次「お前も掃除好きの綺麗好きなのか?」

伊助「小三郎はは組の中で、二番目に部屋が綺麗なんですよ?三郎次先輩。案外先輩より掃除上手ですよ?」

 

伊助の挑発じみた発言に三郎次がムッとした表情をする。

 

久々知「まぁまぁ二人とも。それじゃあ一年生とタカ丸は火薬庫の掃除。残りはここで予算計算と火薬の在庫確認を行おう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各自がそれぞれの場所に着く。火薬庫では伊助ははたきを持ち埃を払い、小三郎は下で箒を持ち埃を集め、タカ丸は壁や棚をカラぶきで拭く。隣の詰所では久々知兵助委員長が予算計算をして、三郎次は在庫確認、土井先生は足りない火薬の発注の書類を書く。

 

タカ丸「小三郎が来てくれて大助かりだよ〜。これなら早く掃除が終わりそうだね?」

伊助「真面目だもんね〜?小三郎は。全く団蔵や虎若に君の垢を煎じて飲ませたいよ!」

小三郎「あははは……って言うか、飲ませるほど垢が出たら…伊助、君絶対黙ってないでしょ?」

伊助「親友でもたらいに打ち込む!」

小三郎「せめてお風呂にしてね?伊助。」

タカ丸「つ、冷たいツッコミだね?」

 

小三郎の冷たいツッコミにタカ丸は苦笑い。

 

 

 

 

 

 

 

一方で詰所では久々知委員長代理が予算計算を終えた。

 

久々知「三郎次。これを会計委員会に提出して来てくれ。」

三郎次「分かりました。」

土井先生「すまない三郎次。これも出して来てくれ。」

三郎次「発注表ですね?分かりました。」

 

 

 

 

 

三郎次が詰所から出て行き、しばらくしてから小三郎達が入って来た。

 

小三郎「火薬庫の掃除終わりました。」

久々知「ご苦労様。こっちも片付いたから、三郎次が帰って来たら豆腐シェイクにしようか?」

小三郎「豆腐シェイク?」

 

小三郎が首をかしげる。

 

伊助「委員会活動が終わったらみんなで雑談したりおやつ食べたりするんだよ?ちなみに豆腐シェイクは火薬委員会の裏名物なんだ!」

小三郎「火薬…関係ないね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから久々知委員長とタカ丸が豆腐シェイクを作り、小三郎がコップを並べ、伊助がお菓子を用意していた。その時、詰所の戸が勢いよく開き、三郎次が息を切らして入って来た。

 

三郎次「た、大変です!ぜー、ぜー!」

土井先生「ど、どうした三郎次!そんなに慌てて。」

 

土井先生が宥め、みんなもなんだなんだ?って集まる。しかし三郎次はかなり切羽詰まった表情をしている。

 

 

 

 

 

三郎次「か、か、火器組がこっちに来ます!!」

 

「「「な、なんだってェェェエエ⁉︎⁇⁉︎」」」

 

 

小三郎以外全員が飛び上がった。

 

小三郎「火器組?」

 

小三郎は首を傾げた。中編へ続く。

 

 

 

 

 

 



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人質作戦決行の段

三郎次「火薬組が火薬狙っています!」

「「「なんだってェェェエエ⁉︎⁉︎」

 

詰所内は大パニックになり小三郎以外ドタバタと走り回った。小三郎は伊助を捕まえて話を聞くと、火薬組とは一年は組、火縄銃の佐武虎若、四年ろ組、石火矢の田村三木ヱ門先輩、六年い組、焙烙火矢の立花仙蔵先輩の三名の呼び名であり、三人とも火器を愛用する忍たま。

 

伊助「だから、火薬庫の火薬を度々強奪していくんだよ!」

小三郎「ご、強奪って…大袈裟だなぁ。ともかく!先輩方!土井先生!落ち着きましょう!」

 

小三郎が声を上げて場を収めた。

 

久々知「す、すまない。我々火薬委員会にとって火薬組は天敵なんだ。」

三郎次「的確に個別に弱点狙って来ますしね?」

タカ丸「だよね〜。」

伊助「ですよね〜?」

土井先生「だな?」

 

 

 

 

 

委員会全員の様子を見ると小三郎は嫌な予感がした。

 

小三郎「まさかと思いますけど…久々知先輩は豆腐でつられて、タカ丸先輩は立花先輩の美髪でメロメロにされて、三郎次先輩はステーキでつられて、伊助は虎若に掃除したと言われてチェックしに行っちゃって、土井先生は練り物の事で揺すられたなんて……言いませんよね?って言うかお願い言わないで!」

 

 

 

 

全員「まさにそれ!」

小三郎「ダァァァァァ!!!」

 

言い当てられ火薬委員会全員が小三郎に拍手を送る。小三郎が忍たまの友を取り出しあるページを開き突き出す。

 

小三郎「忍者たるもの私情に流されるな!って基本姿勢なページに書いてあるじゃないですか!!」

土井先生「えらい!よく勉強したな!」

小三郎「そんな事言ってる場合じゃありません!」

 

 

 

 

 

 

 

それから作戦会議が開催された。三郎次曰く、食堂で三人が火薬委員会へ火薬をもらいに行こうと聞いらしい。食堂と火薬庫は大分離れている。少なくとも立花仙蔵は緊急時以外はあまり走らない。おそらく歩いて来るためあと五分強っと言った所。小三郎は何かを思いついた。

 

小三郎「石火矢の田村先輩の石火矢って、あの何時も連れ立っている……。」

伊助「そう。石火矢のユリコ。そういえば虎若も照星さんから貰った火縄銃を大事にしてたっけ?」

小三郎「…………立花先輩はダメだけど…田村先輩と虎若を無力化ならできるかも。」

 

 

小三郎の発言にみんな驚いた顔をして注目した。

 

三郎次「何をするつもりだ?」

小三郎「人質を取れば何とかなるかな?っと。」

久々知「人質⁉︎」

小三郎「はい、虎若は伊助が言っていた大切な火縄銃を、田村先輩はユリコちゃんを人質に取れば無力化出来るんじゃないかと。」

 

小三郎が言い終わると火薬委員会全体が凍りついた。

 

伊助「こ、小三郎。君は普段は真面目で優しくて、は組のお兄さん的な立場だけど…たまに10歳とは思えない案を出すよね?」

三郎次「絶対ろくな大人に…いや、何でもない…。」

 

敵に回しちゃいけないと三郎次は思い黙った。

 

久々知「立花先輩はどうする?」

小三郎「今の僕では立花先輩の効果的な人質が分かりませんから………立花先輩は諦めるしか…。」

タカ丸「立花先輩はまだ火薬の消費が荒くないから大丈夫だと思うよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれこれ意見を出したが、立花仙蔵は諦めることにした、それから小三郎が人質を確保の為、詰所から出て行き、残りはなるべく惹きつけるよう準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎はまず忍たま長屋の団蔵と虎若の部屋に赴いた。中に入ると予想はしていたが大量の洗濯物やお菓子のカスなどで汚れていた。伊助なら放って置かないだろうが小三郎は洗濯物は無視してタンスや押入れを調べた。

 

「これかな?」

 

そして見つけた。押入れの中に木の箱があり、開けると少し古いがまだまだ使えそうな火縄銃があった。小三郎は箱ごと持ち出した。そして誰にも見つからないように忍たま長屋を出た。次に火器倉庫に赴いた。今度は田村先輩のユリコの確保だ。久々知先輩曰く、火薬庫に火器は持ち込めないと決められており、火薬を取りに来るときは必ずユリコは火器倉庫にしまってあるらしい。火器倉庫を開けると、目の前にユリコと書かれた札が吊るされた石火矢があった。小三郎はとめを外してユリコを確保。その時だった。背後から誰かに肩を叩かれた。

 

????「何してるんだ?小三郎?」

小三郎「うわぁぁぁぁ!!」

????「ぬおおっ⁉︎」

 

 

 

 

果たして小三郎に声をかけたのは誰か?そして火薬委員会の火薬の行方はいかに⁉︎さらに後半へ続く。



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兄弟じゃないか!の段

用具委員会がブチ切れます。


小三郎に声を掛けた相手、それは。

 

小三郎「あ…兄者!びっくりしたぁぁ…。」

留三郎「びっくりはこっちだ!…で、火器倉庫で何コソコソしているんだ?ん?それは会計委員会、四年ろ組、田村三木ヱ門の石火矢ユリコじゃないか。それに背負っている箱は火縄銃の箱、小三郎!何処に戦しに行くつもりだ!」

 

腕を組み、小三郎を見る、小三郎は俯く。そして顔を上げる。

 

小三郎「兄者!僕は火薬委員会。これは火薬委員会の秩序を守る為には必要なんだ!」

留三郎「ち、秩序⁉︎まてまて!話が見えん!火薬委員会をぶっ壊すつもりか⁉︎久々知兵助の豆腐をぶっ飛ばすつもりか⁉︎」

 

小三郎は説明を始めた。火薬委員会のが管理している火薬を火器組の三人が狙っていること。その為に自分は虎若と田村先輩の無力化を図る為に二人の大事にしている火縄銃とユリコを人質に取る為に行動していること。そして今、他の火薬委員会が時間を稼ぐ為に戦っている事。

 

 

 

 

留三郎「な、なるほど…。確かに虎若と三木ヱ門は火器が好きだからそれで無力化は謀れるだろう。人質としては有効だ。しかし小三郎。仙蔵はどうする気だ?あいつは主に焙烙火矢を愛用するが、焙烙火矢は言い方を悪くすれば使い捨て。仙蔵が虎若と三木ヱ門の分の火薬を持って逆に脅してきたら、人質計画はその時点で形勢が逆転してしまうぞ?」

 

ごもっともな留三郎の意見。しかし小三郎は火薬庫から持ち出しておいた、大きめの焙烙火矢を取り出した。留三郎に嫌な予感が走る。

 

小三郎「その時は、特攻を仕掛け!僕諸共、立花先輩と爆死する!」

留三郎「おいやめろ!お前は忍たまだ!何処ぞの特攻兵か!俺泣くぞ!」

 

留三郎は小三郎の体を掴む、しかし小三郎は暴れる。

 

小三郎「離して!兄者!男にはやらねばいけない時があるんだよ!」

留三郎「お、男前!だからって死んだら下の子もないだろ⁉︎」

 

それからは両者、やめろ!やめない!っと押し問答が続いた。その時、留三郎を探しにきた富松作兵衛を筆頭に用具委員会がやって来た。

 

作兵衛「あ、留三郎先……。」

守一郎「な、何やっているですか⁉︎」

喜三太・しんべえ・平太「兄弟喧嘩⁉︎」

 

留三郎「お、お前達!小三郎を止めてくれ!こいつ立花仙蔵と爆死する気だ!」

用具委員会「えぇぇぇぇ⁉︎」

 

 

 

その後、小三郎は作兵衛がいつも迷子組を縛る縄で縛られた。その後、守一郎に持ち物チェックされ「こしころ」一本、袴の中に苦無4丁、懐に手裏剣、火車剣、多数の投射武器が出て来た。

 

作兵衛「ま、マジだ…マジで立花先輩と刺し違える気満々だ…!恐ろしい奴…!」

守一郎「よくもまぁこんなに隠し持って…。」

しんべえ「流石小三郎!」

喜三太・平太「準備怠り無しだね?」

留三郎「褒めてどうする!」

 

 

小三郎「離してよ!早くしないと火薬が奪われちゃう!!」

 

小三郎は縛られていてもジタバタと暴れる、喜三太としんべえ、平太が抑える。

 

喜三太「どうしちゃったのさ!小三郎!普段は真面目で優しい君なのに〜!」

留三郎「俺から説明しよう。実はかくかくしかじか、四角いムーブ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作兵衛「つまり、火薬を守る為にユリコと火縄銃は確保したけど、立花先輩には人質が通用しないから…特攻を仕掛け共に爆死しようと⁉︎おめぇは南蛮の狂信者か⁉︎テロリストか⁉︎」

 

守一郎「兄が武闘派なら、弟は過激派だったとは…。」

 

小三郎「でもやらなきゃいけないんだ!僕は火薬委員会!火薬は守る!」

作兵衛「お、男前だ…!」

 

小三郎の決意の瞳に作兵衛が後ずさる。

 

 

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎「馬鹿野郎ォォォォ!!!!!!」

 

スパァァァァァァァァァァァァァァアン!!!

 

 

 

 

 

 

 

なんと留三郎が小三郎をはたき飛ばしたのだ。そして小三郎の胸グラを掴んだ。その場にいた誰しもが固まった。

 

留三郎「早死には親不孝って言ったのはお前だろが!たかが10歳がカッコつけてんじゃねぇ!!!………ッ……なんで俺を頼らないんだ…ッ!俺はっ…俺らは…ッ!!!血を分けた兄弟じゃないか!!!」

 

小三郎「!!!」

 

用具委員会一同が目を疑った。忍術学園一の武闘派と呼ばれた食満留三郎が……。

 

 

留三郎「うぉぉぉぉぉ………ッ!!!」

 

泣いているのだ。そこにいるのは用具委員会がよく知る留三郎ではなく、一人の兄としての留三郎だった。

 

小三郎「うっ…ヒック…兄者ぁぁ……ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!うわぁぁぁん…ッ!!!」

 

泣きながら謝る小三郎を留三郎は縄解き、力一杯抱きしめた。

 

作兵衛「…ッ…ヤベェ…俺まで泣けてきた…。」

守一郎「うん…兄弟って…ッ…良いもんだねッ!」

 

すすり泣く作兵衛と守一郎の後ろから喜三太としんべえと平太が泣きながら小三郎にくっ付いた。

 

喜三太「死んじゃいやだよ…ッ!」

しんべえ「一年は組には小三郎が必要なんだよぉぉ…!うわぁぁぁん!」

平太「僕はろ組だけど…ッ…君が大好きなんだよぉ…。」

 

 

小三郎はようやく自分の過ちに気がついた…簡単に命を散らしてはならない…自分をこんなにも大事にしてくれる仲間がここにいる。大好きな兄がここにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んじゃダメだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「ごめん!ごめんねッ!死なないよ!まだみんなと一緒にいたい!泣かせてごめんねッ!!!」

 

 

小三郎は喜三太としんべえと平太をがっしりと抱きしめた。その外から留三郎、作兵衛、守一郎が抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火薬庫では既に戦意喪失した火薬委員会を尻目に火器組が火薬を物色していた。

 

仙蔵「よし、今回はこれくらいで良いだろう。」

三木ヱ門「そうですね!早くユリコの所に行かなくちゃ!」

虎若「これで照星さんの火縄銃が試せる!…それにしても…小三郎が見当たらなかったのは引っかかりますね?」

 

真面目な小三郎が委員会をサボるような事はしないと思い虎若は首をかしげる。

 

伊助(小三郎…早く…!火薬が持ってかれちゃう!)

三郎次(小三郎…裏切ったのか…。)

久々知(大丈夫…彼なら…彼なら必ず…っ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火器組が火薬を外に持ち出して行き、いよいよダメかと思ったその時だった。

 

三木ヱ門「ん?な、なんだ?あれは?」

仙蔵「どうした?三木ヱ門。」

 

三人が前方を見ると、土煙を上げながら何かが全力でこちらに向かって来ている。

 

 

留三郎「こらぁぁぁぁ!!火器組ぃぃぃ!!!」

 

それは荷車を全力で車の如くスピードで迫り来る食満留三郎、並びに荷車に乗る用具委員会と小三郎だった。

 

伊助「さ、サブちゃん!!」

久々知「戻って来てく……な、なんで留三郎先輩と用具委員会のみんな、あんなに殺気立っているんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎「富松ぅ!いつもはぶっ放しまくる三木ヱ門に今日は逆にユリコをぶっ放してやれ!!!」

作兵衛「へい!ユリコ!ファイヤー!!!」

 

ズドーン!

 

荷車に乗っているユリコを三木ヱ門に向けてぶっ放した。

 

三木ヱ門「ユリコ!うわぁぁぁ!…ユリコの浮気者ぉぉぉぉぉ!!!」

留三郎「富松ぅ!そのまま三木ヱ門に打ち続けろ!!」

作兵衛「イエッサー!!!」

 

伊助「な、何がどうなっているの⁉︎」

三郎次「い、戦⁉︎」

タカ丸「ぐ、軍隊?」

 

戸惑う火薬委員会を横に、荷車を作兵衛と守一郎に任せ、留三郎と喜三太、しんべえ、平太が降りて来た。そして一年は虎若に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喜三太「虎若!」

しんべえ「よくも小三郎を泣かせたな!」

平太「ゆ〜る〜さ〜な〜い〜よ〜?」

 

虎若「は⁉︎な、泣かしてないよ!なんの話⁉︎ち、ちょっと!へ、平太!なんかキャラ違くない⁉︎」

 

後ずさる虎若に三人がジリジリ近寄る。そして、喜三太がナメクジ壺を向け、しんべえが鼻を構え、何故か平太が袴を脱いだ。

 

喜三太「かかれ!ナメクジさん達!」

しんべえ「忍法・鼻水固め!」

平太「即席奥義・ちびっちゃった袴アタック…。」

 

それぞれがばっちい物を虎若目掛けて放った。

 

虎若「ギョエェェェエエ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仙蔵「な、何がどうなっているんだ⁉︎」

留三郎「立花仙蔵ぉぉぉぉぉ!!!」

 

困惑する仙蔵のもとに、土煙を上げながら鉄双節棍を振り回し、鬼のような形相の留三郎が突っ込んで来た。

 

留三郎「よくも俺の可愛い弟を泣かせたな!!!勝負だぁぁぁ!!」

仙蔵「な、なんの話だ⁉︎くっ!」

 

仙蔵はその場に火薬壺を置き、苦無二本で節棍を受け止めた…が…。

 

留三郎「しゃぁっらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

仙蔵「ぬおぉぉおぉぉぉ⁉︎」

 

なんとそのまま凄まじい馬力で仙蔵を押したのだ。

 

仙蔵「待て待て!どこにこんな馬力があるんだ⁉︎文次郎の時は互角なのに、これでは文次郎以上…。」

留三郎「うるせぇぇぇ!!お兄ちゃんパワーを舐めるなぁァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火薬委員会が呆気に取られていると、小三郎が取られた火薬を抱えながらメンバーのもとにやってきた。

 

小三郎「食満小三郎!任務完了しました!」

久々知「い、一体どういう事なんだ?これは…。」

 

 

こうして火薬委員会の秩序は守られた。

 

 

 

一方で火器組はリミッターの外れた用具委員会に追いかけ回されていた。

 

留三郎「まてぇぇぇ!腰抜けェェェエエ!」

作兵衛「ファイヤー!!!」

喜三太「待て!虎若!」

平太「待って〜?」

 

 

三木ヱ門「ユリコォォォォ!僕の何が悪かったんだ!!!」

虎若「やめてぇぇ!僕知らない!知らないってばぁぁぁ!!」

仙蔵「と、とにかく逃げるぞ!」

 

その日一日中、火器組は用具委員会に追いかけ回されたそうな。ちなみに虎若の火縄銃は小三郎が後でもとに戻しましたとさ。



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ろ組からの誘いの段

忍術学園

 

今日は朝から大雨な為、小三郎は朝練はやめて部屋でゆっくりと身支度をしていた。

 

小三郎「えっと、部屋干しよし、筆記用具に半紙に忍たまの友、良し!…あとは…。」

 

本日授業に必要な物を確認してから部屋の雨戸を少し開けて外の様子を伺う。

 

 

 

ザァァァァァァァァア!!!

 

 

 

外は相変わらず大雨。

 

小三郎「今日の山田先生の授業は無しかな?」

 

そう思っていると、部屋の戸がノックされた。

 

小三郎「はい。起きてますよ。」

 

返事をすると庄左ヱ門と無茶苦茶ブルーな伊助が入ってきた。

 

庄左ヱ門「おはよう!小三郎。」

伊助「おはよう……小三郎…もうだめ。」

小三郎「おはよう、庄左ヱ…ってどうしたの⁉︎伊助⁉︎」

 

いきなり倒れかかってきた伊助を抱きとめる。庄左ヱ門が苦笑いを浮かべる。

 

庄左ヱ門「実はね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

庄左ヱ門によると雨の日はどうしても洗濯物がたまるらしく、綺麗好きな伊助にとっては拷問も同じらしい。

 

伊助「洗えないし…洗ったら乾かないし…部屋干ししたら臭うし……。」

小三郎「そこは我慢しようよ。ねっ?」

 

伊助の背中を二、三度叩くとようやく落ち着いた。庄左ヱ門はそんな二人を笑顔で見たのち、小三郎の部屋を見て回る。

 

庄左ヱ門「やっぱり一人部屋なだけに広く感じるね?それに、ちょっと荷物多いけど整理整頓も出来てる。」

伊助「流石僕の親友〜!ん?な、何このゴミ!!!」

 

伊助は小三郎の部屋の隅に転がる丸まった半紙のゴミを見つけた。

 

伊助「小三郎!君は綺麗好きな奴だと思ってたのに!!!」

庄左ヱ門「い、伊助!抑えて!」

 

鬼の様な形相で掴みかかってきた伊助を庄左ヱ門が止める。しかし小三郎は笑いながら答える。

 

小三郎「ごめんね伊助。でもあれ今はゴミじゃないんだ。」

伊助「は?」

庄左ヱ門「今はゴミじゃない?」

 

訳がわからないっと言う表情をする伊助と庄左ヱ門に小三郎は説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

『これは、半紙の中に竹炭が入った、いわゆる湿気取りみたいな物です。竹炭には除湿、消臭効果もあり、使った後はこのまま竃などに放り込んでしまえば無駄がありません。現代は半紙ではなく、主に新聞紙が使われていたりします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「ってな訳。分かった?」

庄左ヱ門「へ〜!物知りだね!」

伊助「すごい!竹炭にそんな効果があったなんて!ちょっとやってくる!」

 

小三郎の説明に拍手を送ると途端に伊助の掃除スイッチが入り、部屋から出て行った。

 

小三郎「元気になったね?ところで庄左ヱ門。何か用だったんじゃ?」

庄左ヱ門「あぁ!そうだった!勘がいいから分かっているかも知れないけど、今日の山田先生の授業は無しってこと。」

小三郎「了解。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして授業が始まったが、雨はますます酷くなり、終いには雷まで鳴り始めた。

 

土井先生「で、あるからし…(ピッシャァァァァァン!!!)うおっ⁉︎」

全員「「「ヒェェェェエ!!!」」」

 

巨大な雷鳴に一年は組のみならず、一年全員が悲鳴をあげた。土井先生がそっと雨戸を開け、外の様子を見る。風も吹き出し、もはや嵐だ。

 

土井先生「これは酷いなぁ。もはや台風じゃないか。」

乱太郎「先生〜。忍術学園が吹き飛ばされませんか〜?」

土井先生「大丈夫だ。……多分な。よし、授業を再開するぞ!」

 

 

 

 

 

 

授業は昼で終わったが、外で遊ぶことも出来ず、室内も明かりをつけなくては薄暗い有様。みんなは自然と教室に集まり各々時間を潰した。その時、教室の戸がギィ〜〜ッと何とも不気味な音を立てて開いた。みんなが何だ?っと見るとそこには…。

 

小三郎以外全員「ギャァァァ!お化け〜〜!!!」

????「違う違う。」

子供の幽霊…では無く、ろ組の伏木蔵達がいた。

 

乱太郎「び、びっくりした〜。伏木蔵達か〜…。」

きり丸「なんか用か?」

伏木蔵「実はね?」

 

 

 

 

伏木蔵曰く、薄暗い昼間を利用して怪談話を行うらしく、は組との親睦も兼ねてやらないかと言う誘いだった。少し身震いしたが皆怖いもの見たさ聞きたさにより参加する事にした。すると小三郎は立ち上がり徐に平太の手を取った。

 

小三郎「平太、トイレ行っておこ?こんな雨降りにちびったら大変だから。」

平太「へ…?う、うん。ありがとう…。」

 

全員「だぁぁぁぁ!」

 

小三郎のお兄ちゃんっぷりに、その場にいた全員がひっくり返った。

 

乱太郎「サブちゃんったら〜。」

きり丸「お兄ちゃんキャラだなぁ〜。」

しんべえ「待って〜!僕も行く〜。」

喜三太「僕も行く〜!小三郎お兄ちゃん!」

 

小三郎「ちょっ……お兄ちゃんって…まぁ、いいかぁ?」

 

 

最終的にみんなが小三郎の後に続いてトイレへ向かった。

 

 

続く。

 



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雨降りの怪談の段

雨が降る中、みんなトイレを済ませて、ろ組の教室前に到着する、平太が少し待つよう行ってきたのでは組は薄暗い廊下で待っていた。

 

小三郎「そういえばろ組の教室は初めてだね?」

乱太郎「普段は伏木蔵達が来るからね?」

 

しばらく談笑をしていると、ろ組の教室が開き、初島孫次郎が首だけ出してきた。

 

小三郎「わっ!びっくりしたぁ。」

孫次郎「ウフフ…お待たせ〜…どうぞ中へ〜…。」

 

孫次郎に誘われは組はろ組の教室に入室。中は雨戸が閉めてある為真っ暗。すると、一斉に沢山の灯明皿に灯がともり、室内が明るくなる。

 

ろ組全員「こんにちわ〜…ようこそ?、ろ組へ…。」

小三郎「お、お招きいただきありがとう…ございます…。」

 

いつにも増して不気味さが出ているろ組に挨拶をして、は組全員が指定された席に座る。ちなみに、小三郎の横にはしんべえと喜三太が座った。

 

しんべえ「小三郎がそばは安心できる〜。」

喜三太「はにゃ〜ん。」

小三郎「どういたしまして。」

 

 

伏木蔵「それじゃあ、スリルとサスペンス&ホラーな怪談話を始めよう。」

 

雷鳴轟く、雨が降りしきる、そんな天気の中、怪談話が始まった。

 

ザァァァァァァァァア!!ゴゴォォォォ…ピッシャァァァァァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪士丸「女の手は六兵衛の首を掴んで離さない!「助けてぇぇ!」っと…よく見たら、白い女の手と思ったのは、庭木に干してあった褌だったそうな。」

 

伏木蔵「なにそれ?」

乱太郎「変なの〜。」

伊助「汚いな!ちゃんと洗ってあるの?その褌!」

団蔵「突っ込むとこ違うと思うけど?」

 

 

落ち話であった事に終始ビビリまくって小三郎にしがみついていた用具委員組はホッと胸を撫で下ろした。

 

しんべえ「良かった〜。怖かったけど見間違いの話かぁ。」

平太「で、でもまだこれからだと思う…。」

小三郎「まぁまぁ、何かあったら君たち三人は守ってあげるから。火薬委員会の件もあるし。」

喜三太「頼りにしてるよ〜。」

 

話が終わり、部屋の灯が一つ消えた。その時、戸がノックされ、伏木蔵が出ると、そこには彦四郎率いるい組がいた。

 

伏木蔵「どうしたの?彦四郎。」

彦四郎「いやぁ、は組の姿が無かったからどうしたのかなっ?て。」

伝七「でっ?何やってるんだ?」

 

伝七の問いかけに伏木蔵はニッと笑い。「怪談話〜。」っと答えた。い組は「うっ。」っと呻き後ずさる。

 

佐吉「ふ、ふん!は組もろ組も暇だな!」

団蔵「い組もやる?結構度胸試しになるよ?」

佐吉「あいにく、暇じゃないんでね?」

きり丸「とかなんとか言っちゃって…怖いんじゃないの〜?」

佐吉「なんだと!」

伝七「断じて怖くない!」

 

きり丸の挑発にまんまとい組は乗ってしまい、そのまま伏木蔵達に教室に引き込まれた。

 

伝七・佐吉「は、はめられた…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして一年生全員が集まり、怪談話が始まった。最初の内は笑い話、落ち話だったが灯が次々と無くなるに連れ、ろ組の怪談話も次第に恐ろしいものになり、中には震え出すものもいた。

 

兵太夫「な、なに?伝七。ふ、震えてるの?」

伝七「へ、兵太夫こそ…。」

 

団蔵「さ、佐吉。ち、ち、ちびるなよ?」

佐吉「だ、だ、だ、誰が。」

 

 

 

 

 

ガタガタガタガタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして明かりの数もわずかとなった。

 

伏木蔵「じゃあ、僕達ばかりじゃあれだから…。」

孫次郎「小三郎〜。何かあればどうぞ〜…。」

小三郎「ぼ、僕?わ、分かったよ。」

 

小三郎が一歩前に出る。皆息を飲んだ。

 

三治郎「な、なんだか嫌な予感…。」

伊助「普段が真面目だから…ものすごく怖そう…。」

 

皆が小三郎に注目する。灯が小三郎の輪郭を照らす。

 

 

小三郎「今から話すのは、そうだね?実は一週間前にこの忍術学園で僕が体験した話なんだ…。」

 

らんきりしん「えぇぇっ⁉︎」

伝七佐吉「実話系⁉︎しかも忍術学園⁉︎」

 

全員が飛び上がる。そして小三郎の話を生唾を飲み聞く。

 

 

小三郎「僕は夜中に目が覚めてトイレに行ったんだ…周りは真っ暗、僕の足音だけが…ギシ〜ッ…ギシ〜ッ…。」

 

平太「ヒィィィイイィィィ!!!」

 

平太が悲鳴をあげて孫次郎と怪士丸の後ろに隠れる。

 

怪士丸「だ、大丈夫だよ?平太…。」

孫次郎「平太ってばビビリなんだから…。」

 

小三郎「その時!!!」

 

怪士丸&孫次郎「ヒィッ⁉︎」

 

小三郎が急に声を張り上げ、珍しく怪士丸と孫次郎が震えた。

 

 

小三郎「風で忍たま長屋の窓がガタガタ…ガタガタ……そして風が止んだ時、背中に感じたんだ………誰かが…後ろにいる…。」

 

乱太郎(ごくっ…)

小三郎「もうトイレどころじゃない!!!」

きり丸「ヒィィィ!!!」

小三郎「でも振り向くのも怖い……。」

しんべえ「ウゥゥゥゥ……。」

小三郎「どうしよう……!!!」

喜三太&金吾「ヒェェェェエ……!!」

 

小三郎の意外と上手な話し方に一同はガタガタて震え出す。三治郎など小声だがお経を唱えている。伝七と佐吉などは彦四郎にくっ付いている。

 

 

小三郎「……ええぃ。ままよ。勇気を出して……振り返った……そして見ちゃったんだ…………………そこには!!!!!(←ドアップ)」

 

兵太夫「うわぁぁぁぁぁぁ!」

伝七「ヒェェェェエ!!!」

団蔵「佐吉イィィィ!!!」

佐吉「団蔵ぉぉぉぉお!!」

 

小三郎がいきなりドアップになり、声を張り上げた為、教室内は大パニック。しかし小三郎はニコッと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「そこには、山田先生の女装、山田伝子さんが立っていたんだ♫っと言う落ち話。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばしの沈黙。そして。

 

 

 

 

 

乱太郎「なにそれ⁉︎怖いぃぃ!!!」

きり丸「だ、だめだ寒気が…!!!」

しんべえ「もう夜中トイレに行けないよ〜!」

平太「イヤァァァァァァァァ!!!」

孫次郎「へ、平太落ち着いて!」

伏木蔵「スリルどころじゃない!ショック死レベル!」

伝七佐吉「もうやだぁぁ!」

彦四郎「お、お、お、落ち着いて!落ち着いてみんな!」

庄左ヱ門「怖いのはわかるけど落ち着いて!」

 

 

 

 

騒ぎまくる一同を見て小三郎は首を傾げる。

 

小三郎「あれぇぇ?お、落ち話の筈なのに…。」

????「本当にそうよ!!なんで私で悲鳴をあげるのよ!」

 

教室の戸が勢いよく開くと、そこには山田先生の女装、山田伝子が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び沈黙…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎以外全員「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!お化けェェェエエ!!!」

 

全員が叫び、飛び上がる、そして床に伏した。

 

伝子「何よ!失敬ね!……あぁぁ⁉︎」

小三郎「た、た、大変だぁ!」

 

 

みんながパニックになり、失神してしまい魂が抜け出してしまった。伝子さんと小三郎は慌てタモでかき集め元に戻したのち、伝子さんにこんな不気味な事するんじゃない!っとこっ酷く怒られたそうな!

 

 




小三郎の怪談はクレしんのあれです。


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気分転換の段

今回はからくりコンビ+小三郎です。


食満小三郎が忍術学園にやって来て早数ヶ月、山も色んできた。小三郎はすっかりは組の人気者になり同時にある噂が立っていた。それは小三郎は絶対にへこたれないし弱音も吐かないという事。そして以外にも歌が好きな事。

 

小三郎「〜♫〜♬〜♪〜 。じょ〜だん混じりで〜、ウィンク投げたら〜♬」

 

今日も授業が終わり、昼過ぎ、小三郎は忍たま長屋の近くで歌っていた。

 

団蔵「上手だね?」

 

加藤団蔵が近くで聞いていたその時、笹山兵太夫が近寄って来た。

 

兵太夫「小三郎。」

小三郎「♬〜。あぁ、兵太夫。どうしたの?」

兵太夫「実はね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団蔵と別れ、兵太夫に連れ立って井戸の側まで来ると、そこには項垂れた夢前三治郎がいた。何時もはニコニコしているが、今日はニコニコしてなかった。寧ろ泣き腫れが見えた。

 

小三郎「ど、どうしたの!三治郎!」

三治郎「…小三郎…ねぇ。どうして小三郎は何があってもへこたれないの?」

小三郎「へ?……あっ、もしかして今日の徒競走?」

兵太夫・三治郎「ど、どうしてわかったの⁉︎」

 

今日の実技の徒競走の時に三治郎は乱太郎と走っていた。二人ともは組の中では足が速く良きライバル同士であるが、小三郎は見逃さなかった。あの時、三治郎が凄く悔しそうにしていた事。

 

小三郎「やっぱり悔しかったんだね?」

三治郎「うん……いつもいつも練習しているのに…成果が出なくて……やっぱり…走る才能ないのかな……ぐずっ…。」

兵太夫「だから、そこまで暗くならなくても!」

 

兵太夫がフォローを入れるがあまり効果はない様子。小三郎は三治郎の肩に手を置いた。

 

小三郎「三治郎。成果なんて今すぐ出さなくても僕いいと思うよ?それに……たまには息抜き、ガス抜きしなきゃ。」

三治郎「……どうしたら小三郎みたいにへこたれないの…?」

兵太夫「うん。実は、小三郎はへこたれないってみんな噂してるんだ。」

小三郎「なにそれ。まぁいいや。でも僕だって落ち込む時はあるよ?……そうだ!まだ日が高いし三人で裏山にハイキングでも行こうよ?気持ちの切り替えになると思うし、三治郎も学園外の空気を吸うべきだよ?」

 

 

 

三人は裏山へ行く事に決めた。三治郎も乗り気ではなかったがきっと気持ちに整理もつくと思い行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外出届を提出し、三人は裏山に向かった。三治郎は相変わらず俯いていたがせっかくの三人初めてのハイキングだから笑顔は難しいが楽しもうとする。

 

小三郎「……みんなは僕のこと、へこたれない奴って噂しているみたいだけど、僕はそこまで強くないよ?僕だって成果が出ない時あるし、出来ないこともあるもの。」

兵太夫「へ〜意外。なんでもできる奴だと思ってた。」

三治郎「そういう時…小三郎はどうするの?」

 

三治郎が立ち止まり聞く。小三郎も立ち止まり、しかし背中越しに語る。

 

小三郎「まずはジダバタする。練習して、やって、やってやりまくる!」

三治郎「でも…それでもダメだったら…?」

 

三治郎が今にも泣きそうになり、兵太夫が慌てるが、小三郎はそんなの御構い無しにあたりを見回す。そして、アケビの実を見つけた。小三郎は道具袋から鉤縄を出し、投げて木に引っ掛け登り、アケビの実をもぐ。その様子に二人ともぽかーんっとしたが三治郎が怒った。

 

三治郎「答えてよ!僕は真剣に悩んでいるのに!!!」

 

三治郎が目に涙をためて叫ぶが小三郎は慌てずに穏やかに答えた。

 

小三郎「練習はやめる。」

三治郎「へ…?」

小三郎「乱太郎達と遊んだり、昼寝したり、他の委員会の手伝いやったり、何もしなかったり。そうしているとね?気持ちが楽になるし、また違った答えも見えてくるものなんだよ?はいよ。」

 

小三郎は木の上から二人にアケビの実を落とした。三治郎と兵太夫は慌ててキャッチした。そして小三郎も木から飛び降りた。

 

三治郎「………本当にそうなの?」

小三郎「僕の場合はね?あん。美味い!ぺっ!」

 

三人はアケビの実を食べ、再び歩き出した。道中、花を愛でたり、鹿を見たり、きのこの群生地を見たりと小三郎ペースで山を登っていった。不思議な事に、三治郎も最初こそ、浮かない顔だったが次第に少しずつであるが笑顔が戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして頂上。頂上は花畑みたいになっているため、今の時期は満開。その中で、三人は追いかけっこをしたり、虫と戯れたり、楽しい時間を過ごした。三治郎も楽しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遊び疲れ、休憩している時に、小三郎はまた三治郎に語りかけた。

 

小三郎「僕ね?忍術学園に来る前はよく兄者に体術を教えてもらってたんだ。筋がいいって褒められたんだよ?でもね?ある時全然ダメになっちゃった。やってもやっても兄者の方が強い、勝てないって思っちゃったんだ。あれが俗に言うスランプなのかな?」

 

三治郎と兵太夫は黙ったまま話を聞いている。

 

小三郎「それからジダバタして、練習やりまくってね、無理が祟って足やらかしたんだ。父さんにこっ酷く怒られたよ。そしてね?「今のお前ではきっとやってもダメだ。だからよく休み、よく食べて、足が治ったら違う事を始めなさい。」って言われてね?治ったら庭や森で遊んだり、母さんの手伝いをやったんだ。そうしていく内に少しずつだけど気持ちも落ち着いて、そして分かったんだ。」

 

兵太夫「何が分かったの?」

三治郎「……。」

 

二人が聞くと小三郎は立ち上がり、そして少し歩み、くるっと二人の方を向く。

 

小三郎「兄者は兄者。僕は僕。だから、違って当たり前だし、それに今すぐ出来るようにならなくてもいい、焦らなくても良かったんだってね?だからね三治郎。」

 

風がさぁーーって吹き、タンポポの綿毛が飛び交う。

 

小三郎「今は走るのやめて、よく遊んで、よく食べて、よく休みなよ?そうすれば三治郎も何かわかるはずだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばしの沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、三治郎がふっと優しく笑った。

 

三治郎「やっぱり小三郎は強いね?」

兵太夫「ってか本当に10歳?僕たちより達観して見える。」

小三郎「強くないよ。弱くもないけどね?」

 

小三郎がニコッと笑うと、三治郎が立ち上がった。

 

三治郎「なんだか楽になった!ありがとう、小三郎。僕しばらく休憩してみるよ。」

小三郎「やっと笑顔が元に戻ったね!良かった良かった。」

三治郎「うん!兵太夫もごめんね?暗くなっちゃって。」

兵太夫「いいよいいよ。同室じゃない。」

 

 

三人はとびっきりの笑顔で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ、忍術学園の門では山田先生と土井先生、そしては組のみんなが三人の帰りを待っていた。

 

山田先生「遅いですな?」

土井先生「裏山にハイキングってありましたがね?」

乱太郎「ハイキングなら誘ってくれれば良かったのに。」

きり丸「裏山なら薬草取り放題だったのに!」

団蔵「金儲けから離れなよ〜。」

喜三太「大丈夫かな?」

金吾「まぁ、小三郎も一緒だから心配はないと思うけどね?」

 

 

みんなが心配する中、庄左ヱ門が何かを聞き取った。

 

庄左ヱ門「あれ?」

しんべえ「どうしたの?庄左ヱ門。」

庄左ヱ門「なんか聞こえてこない?」

 

みんなが一斉に耳をすませる、すると…。

 

 

小三郎「つ〜きが〜、しず〜んで〜、ほしかげも〜な〜し〜♬や〜みが〜、せま〜れば〜、おいらのせ〜か〜い〜 」

 

何処からとも無く小三郎の歌声が聞こえて来た。さらに歌声が聞こえる。

 

兵太夫「走れ、走れ、飛べ、とべ、お〜と〜も〜なく〜♬」

三治郎「四方、六方、八方〜、しゅ〜りけん♪四方、六方、八方〜、や〜ぶれ〜♫」

 

 

三人「「「じょ〜だん交じりで〜、Wink投げたら〜、打ちか〜え〜されたよ〜〜、肘鉄砲〜〜〜♫♪♬」」」

 

 

 

 

 

 

 

そして夕日をバックに小三郎と兵太夫と三治郎が笑顔で歌いながら帰って来た。

 

虎若「あっ、帰って来た!」

 

全員が駆け寄る。

 

小三郎「あっ、みんなただいま!」

伊助「ただいまじゃないよ!心配したんだから!」

金吾「それにハイキングなら誘ってよね!」

みんながやいのやいの言うなか山田先生と土井先生が割って入った。

 

山田先生「まぁまぁまぁ、無事に帰って来たからいいじゃないの?」

土井先生「そうだぞ?それにしても……三人とも、なんだか幸せそうだな?」

 

土井先生は小三郎と兵太夫と三治郎を見る、三人とも笑顔だが、特に三治郎は憑き物が取れたように晴れやかな笑顔だった。それを見て、土井先生も山田先生もふっと笑った。

 

山田先生「ハイキングは楽しかったか?」

三治郎「はい!とっても!ね?兵太夫、小三郎。」

兵太夫「うん!」

小三郎「今度はみんなで、先生方も一緒に行きましょうね?」

土井先生「ハハハ!そうだな!」

 

 

小三郎はみんなに笑いかけた。みんなそれ以上何も言えず、終いには小三郎につられて笑った。

 

 

 

それからみんなで夕食を食べ、お風呂に入り、小三郎は部屋で明日の準備をしていた時、部屋の戸が叩かれた。

 

小三郎「はいどうぞ?」

三治郎「こんばんは〜、小三郎。」

小三郎「三治郎。どうかした?」

 

小三郎は三治郎を部屋に招き入れた。

 

三治郎「今日のことでお礼が言いたくて、ありがとう。連れ出してくれて、あのままじゃきっとジダバタしすぎて怪我してたかも知れない。」

 

三治郎のお礼に小三郎はニコッと笑う。

 

小三郎「どういたしまして。また悩んだら相談してね?どんだけでも聞いてあげるからね?」

三治郎「うん!ありがとう!」

 

 

小三郎と三治郎は堅く握手を交わした。

 



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ご無沙汰の段

お待たせしました。山田利吉、登場です!


秋中旬、山もすっかり色んだ頃の忍術学園。今日も小三郎達は組はまぁまぁ真面目に授業を受けていた。

 

土井先生「此処をしっかり覚えておけよ!今度テストに出すぞぉ!」

全員「は〜〜〜〜い!」

土井先生「特に乱太郎、きり丸、しんべえ!よく勉強する様に!!」

乱太郎「そ、そんなピンポイントで言わなくても…。」

きり丸「生徒いじめはいけませんよ!」

しんべえ「お腹すいたぁ〜。」

 

土井先生の話を真面目に聞いているのやらいないのやら、そんな様子を小三郎は苦笑いで見ていた。そして授業が終わった。

 

小三郎「土井先生、乱太郎達が一番心配なんだね?金吾?」

金吾「まぁ、言っちゃ悪いけど…ねぇ?喜三太?」

喜三太「うん。まぁ、人のこと言えないけど、ペーパーは苦手だから。」

 

 

一年は組は3クラスの中で一番適応力が高いがペーパーテストは庄左ヱ門、小三郎を除いて壊滅的である。小三郎が来る前など全員の合計点が100点であり、その大半が庄左ヱ門の点数と言う有様。因みに小三郎が来てからは合計点がぐっと上がった。

 

 

 

 

 

 

職員室

 

土井先生「ふぅ。」

山田先生「お疲れ様です、土井先生。お茶でもどうです?」

土井先生「あっ。ありがとうございます。」

 

土井先生は机の前に腰を下ろし、山田先生に出されたお茶を飲む。

 

土井先生「はぁ。あの三人絶対わかってないなぁ!」

山田先生「ハハ。乱太郎達ですな?」

土井先生「少しは庄左ヱ門や小三郎を見習って欲しいものです。」

山田先生「まぁまぁ。それでも彼、小三郎の影響が多少なり出てると私は思いますがね?」

土井先生「確かに、宿題の提出率が上がりましたね?」

 

世間話をしていると、二年い組の三郎次が戸をノックした。そして入室。

 

三郎次「失礼します。山田先生。お客様をお連れしました。」

山田先生「客?いったい誰だろうか?まぁいい。通しなさい。」

三郎次「はい。どうぞお入り下さい。」

 

三郎次と入れ替わりである人物が入って来た。それは…。

 

????「ご無沙汰です。父上。土井先生。」

山田先生「利吉じゃないか!」

土井先生「やぁ!大分ご無沙汰じゃないか。利吉くん。」

 

やって来たのは山田先生の実子、山田利吉であった。

 

山田先生「どうしたんだ?何か用か?」

利吉「いやぁ。ようやく仕事が一段楽したので、母上に会いに行く前に父上の顔も見ておこうかと…。」

土井先生「親思いないい子ですね?山田先生。」

山田先生「や、やめて下さいよぉ。土井先生。こっぱずかしい。」

 

山田先生と土井先生と利吉であれこれ世間話をしていると再び戸がノックされた。

 

 

小三郎「失礼します。土井先生お見えですか?」

土井先生「小三郎だな?いるぞ。入って来なさい。」

 

土井先生の承諾を得て、小三郎は戸を開け中に入る。

 

小三郎「土井先生、この計算が……っと。お客様がお見えでしたか。出直します。」

山田先生「あぁっ!食満小三郎。少し待ちなさい。」

小三郎「はい?」

 

山田先生に呼び止められ再び振り返る。その時、利吉と小三郎の目があった。

小三郎「こんにちわ。初めまして。」

利吉「こんにちわ。」

 

小三郎は持ち前の愛嬌でニコリと笑う。つられて利吉も笑う。

 

山田先生「小三郎は初めてだな?こいつは私の息子の利吉だ。」

利吉「初めまして。山田伝蔵の息子、山田利吉。よろしくね?

小三郎「あぁっ!息子さんだったんですか!初めまして利吉さん。僕は食満小三郎と言うものです。今年一年は組に編入しました。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。」

土井先生「どっ……それは婚約挨拶……君のお約束だなぁ。」

 

 

苦笑いをする土井先生をよそに利吉は驚いた様に小三郎を見た。

 

利吉「食満?もしかして、六年は組の食満留三郎くんの?」

小三郎「はい!食満留三郎の弟です!」

 

利吉は山田先生を見て何かゴニョゴニョ言い出した。

 

利吉(まさか留三郎くんに弟がいたなんて。しかも言葉遣いが乱太郎くんより凄い。)

山田先生(私も最初は腹違いかと思ったがどうやら実の兄弟らしくてな?)

 

二人のゴニョゴニョを聞いていると小三郎はハッとした。

 

小三郎「分かった!矢羽音ですね!」

利吉「⁉︎」

山田先生「な、なんと!」

土井先生「覚えていてくれたかぁ!嬉しいぞぉ!小三郎ぉ!高い高いしてやる!」

 

『矢羽音とは忍者同士が語る暗号の様な物で、他人が聞いても分からない忍者の言葉のやり取りです。』

 

小三郎は見事言い当てた。土井先生は嬉しさのあまり、小三郎を抱きしめ回したり、高い高いをしたりした。

 

利吉「ちょ、ちょっと父上!彼は乱太郎くん達と同じクラスですよね⁉︎」

 

利吉の言葉に山田先生はふっと笑う。

 

山田先生「そうだが…彼は一味違うぞ?」

利吉「一味?」

 

 

山田先生は土井先生のとなりに立ち、小三郎を崇める様な姿勢を取る。

 

山田先生「彼こそ!我らがは組の期待の超新星!みんなのお手本!実技はクラスでトップ!」

土井先生「火薬委員会の守護神!食満小三郎だぁぁぁ!!!!」

 

パパ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!

 

小三郎「そ、そのフレーズ恥ずかしからやめて下さいよ!」

 

照れる小三郎を床に下ろした後、山田先生は何かを思いついたらしく利吉に近寄った。そして再び何やらゴニョゴニョ言い出した。そして小三郎は分からなかった計算方式をようやく土井先生に聞くことが出来た。続く。



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お手本と苦労人とお約束ブレイクの段

 

昼からは山田先生の実技の授業の為、皆校庭に集まった。間も無くすると山田先生がやって来た。

 

山田先生「全員揃ったな?」

全員「は〜い!」

山田先生「よろしい。今日は今までの授業内容を復習するぞ!っと。その前に、今日は特別に私の息子、利吉も見学する!」

利吉「や、やぁ、みんな。」

全員「利吉さん!」

 

 

 

 

全員がにこやかに笑うが利吉だけは何故か引き攣った表情をする。小三郎はその理由が分かっていた。午前中に職員室にいた為会話を聞いた。前回も見学兼特別講師をやったが悉く酷い目にあったそうでトラウマらしい。

 

 

 

 

山田先生「それでは先ずは手裏剣の復習。的をよく見て、慌てずに投げる!」

 

 

山田先生の合図と共に小三郎以外の全員が一斉に投げ出す。途端に利吉は悲鳴をあげて山田先生の後ろに隠れた。手裏剣はお約束の如く、ブーメランのように曲が山田先生の方へ飛んでいく。しかし山田先生と利吉には手裏剣は刺さらなかった。何故ならその前で小三郎が道具箱の蓋で防いだ為。

 

 

小三郎「……も〜!みんな真面目にやろうよ!山田先生と利吉さんに怪我させる気⁉︎」

乱太郎「でた!」

きり丸「我らがサブちゃんの!」

しんべえ「お約束を素でぶっ壊す!」

全員「お約束ブレイク!!!」

小三郎「だぁぁ!……な、なんじゃそりゃ?」

 

転ける小三郎とおかしな事を言うは組に山田先生が頭を抱えるが小三郎と目が合い頷いた。

 

山田先生「食満小三郎!みんなにお手本を見せなさい。」

小三郎「はい!」

 

小三郎もうなづき白線に立ち手裏剣を手に持ち、的をじっと睨む。みんながまるで神仏を見るようなキラキラした目で見る中、利吉はまたこちらに手裏剣が来るのではないかハラハラしている。

 

小三郎「たぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「おぉぉぉ!!」

利吉「⁉︎」

 

小三郎の投げた手裏剣は見事的のど真ん中に命中した。みんなが拍手を送る。

 

庄左ヱ門「流石は小三郎!」

団蔵「よっ!一年は組の出来る子!」

 

小三郎「はぁ、みんなも出来る子になろうね!」

全員「は〜い!」

小三郎「まったく……。」

 

全員が元気よく返事をする、小三郎はため息をつくが決して嫌な顔はしなかった。それからは棒渡り、鉤縄、塀越えなど小三郎はそつなくこなし、石垣登りの時はしんべえのサポーターに回り、お約束が起きようとしても「お約束ブレイク」で阻止したりと何かと世話を焼いた。

 

利吉「ち、父上!小三郎くんは本当には組なんですか⁉︎」

山田先生「どうだ?彼は素晴らしいだろ?流石は留三郎の弟だ。って言うか利吉!今の言い方まるでは組がダメ生徒みたいに聞こえるが?」

 

ムッとした表情で山田先生は利吉を見る。

 

利吉「いや!決してそう言う意味じゃ……。」

山田先生「……ハハハ。まぁ、事実か。しかしな利吉、小三郎が来てからは組の授業態度はぐっと良くなったぞ?」

 

笑う山田先生に利吉も笑顔が溢れる。そして小三郎とは組のみんなを見る。

 

乱太郎「完璧だね!小三郎!」

きり丸「流石はサブちゃん!」

しんべえ「いつもありがとう〜。」

庄左ヱ門「いや〜尊敬するよ。僕に代わって学級委員長もやってみる?」

 

小三郎「さ、流石にそれは遠慮するよ…。」

 

みんなが小三郎褒め称える。小三郎は照れ臭そうに頭を掻く。

 

庄左ヱ門「よ〜し!みんな!小三郎を見習って僕たちも頑張ろう!」

小三郎「慌てずゆっくりで、失敗しても良いんだからね?」

 

全員「おぉぉぉ!」

 

 

庄左ヱ門の号令と小三郎のアドバイスの後にみんな声をあげ訓練に励む。

 

利吉「彼は…優しくて気遣いの出来る良い子ですね?」

山田先生「あぁ。良い子だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

 

利吉「それでは父上、は組のみんな。僕はこれで。」

山田先生「うむ。母さんによろしくな?今度の連休には帰るさ。」

利吉「絶対ですよ!」

乱太郎「さようなら、利吉さん。」

小三郎「さようなら、最近寒くなって来ていますから、道中お気をつけて。」

 

利吉「ご丁寧にどうも。小三郎くん。それじゃあ。」

全員「さよ〜なら〜!」

 

 

 

 

 

 

 

みんなに見送られ利吉は帰って行った。そして学園が見えるか見えない所まで来ると、再度振り返った。

 

 

利吉「食満小三郎くんかぁ……フフ。苦労人だな。」

 

 



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お説教とお手伝いの段

秋も通り越し冬。昼間はまだしも朝と夜は寒い。そして、今日も寒い夜しかも雪がちらついている。ほとんどの部屋は火鉢が支給され誰しもが暖をとる中、氷の間の中で会計委員会の面々は近々やって来る予算会議に向けて算盤を操り、鼻水を垂らしながら計算をしていた。

 

団蔵「は、ハックション!さ、寒いぃ〜。」

佐吉「うぅぅ……。」

左門「潮江委員長!」

三木ヱ門「いくら貴方がギンギンに忍者でも風邪引いちゃいますよ!」

文次郎「バカタレ!暖を取ってヌクヌクしていたら眠くなってその隙に首取られるぞ!」

 

ガチガチ震える中、潮江文次郎が声を張り上げ喝を入れる。しかし寒すぎる。すると一番震えていた佐吉が突如震えなくなった。しかし唇が真っ青。そして…。

 

佐吉「あ、れ?眠くなって……あぁっ……。」

団蔵「うわぁぁぁぁぁぁ!!佐吉ぃぃ⁉︎」

佐吉「こ、これは流石に……。」

三木ヱ門「ま、まずいんじゃ……。」

 

みんなが心配する中、突如文次郎が佐吉を立たせ、頬を軽くはたき出した。

 

文次郎「佐吉!起きろ!寝たら死ぬぞ!!!」

佐吉「あぁっ……お花畑……。」

団蔵「佐吉ぃぃ⁉︎ダメだ戻って来い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒ぐ会計委員会。その時、会計委員会室の戸が開いた。立っていたのは…。

 

小三郎「どうしたで……寒っ!って…何やってんですか⁉︎潮江文次郎先輩!!」

文次郎「食満小三郎!決して虐めているわけじゃないぞ?会計委員として根性を……。」

 

小三郎は慌て駆け寄り佐吉の体に触れる。

 

小三郎「会計も根性もクソもありますか!!!あぁっ!!こんなに冷たくなっちゃって!文次郎先輩!!!」

文次郎「な、なんだ…うっ…。」

団蔵「ひっ!」

 

その場にいた会計委員会全員が思わず息を飲み小三郎を見た。普段は優しく穏やかな彼だが今日は違った。髪を振り乱し、鬼を通り越して閻魔大王の形相になった食満小三郎がそこにいた。

 

小三郎「そこに正座!」

文次郎「は、はい。」

小三郎「団蔵!すぐに佐吉を風呂に入れてきて!佐吉死ぬよ!」

団蔵「わ、分かった!」

 

団蔵は佐吉を担ぎ風呂場へと向かった。そして、その後はキレた小三郎から文次郎へ説教の嵐。

 

小三郎「ギンギンに忍者は結構ですが!死んじゃったら元も子もないでしょ⁉︎って言うか先輩!結構臭いますよ!ちゃんと風呂入っているんですか⁉︎クマも酷い!寝ているんですか⁉︎えぇっ⁉︎まったく!バカタレは貴方ですよ!!!」

 

文次郎「…か、返す言葉が…って言うか言葉を出す隙がない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな様子を左門と三木ヱ門は口をあんぐりと開け見る。

 

左門「な、なんて奴だ…!」

三木ヱ門「あの超ギンギンに忍者している潮江文次郎会計委員長を言葉で押さえ込んでる…!!!」

 

小三郎の凄まじいマシンガン説教の嵐を前に文次郎も本当の事を言われ何も言い返せずにいた。

 

文次郎(こ、こいつ…本当に留三郎の弟なのか⁉︎)

小三郎「聞いていますか⁉︎潮江文次郎会計委員長!!!」

文次郎「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてから復活した佐吉と団蔵が帰って来て、小三郎の説教も終わった。その後、強制で先輩方を風呂に押し込め、そして小三郎は事務の倉庫から火鉢を引っ張り出して来て炭を焚べ火をつけた。暖かい気が部屋全体を包む。

 

小三郎「これで良し!」

団蔵「暖か〜い。」

佐吉「生きてて良かった〜。」

 

三人が暖をとる中、小三郎は机の上に広がっている会計報告書が目に入った。そしてチラチラと見ていたらある事に気がついた。

 

小三郎「団蔵。この計算間違ってるよ?」

団蔵「げっ!」

小三郎「佐吉。数字の端数は切れるところはスパッと切って揃えた方が見易いし計算し易いよ?」

佐吉「あぁっ⁉︎」

 

 

小三郎「これもこれも…こっちも!あぁっ!もう!」

 

 

 

小三郎がよく見ていくと、あるわあるわ。予算の偏り、ムラがある箇所。訂正していく小三郎を団蔵と佐吉は尊敬の眼差しを送る。そしてしばらくすると先輩方が帰って来た。

 

左門「こっちだぁぁ!ぐえっ!」

三木ヱ門「行き過ぎだ!」

文次郎「ふぅ。さて、とんだ邪魔が入ってしまったが……な、なんだ?」

 

 

 

 

 

シャカシャカシャカシャカシャカシャカ!パチパチパチパチパチパチパチパチ!シュッ!シャカシャカシャカシャカ!パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

 

 

神崎左門と田村三木ヱ門と潮江文次郎が思わず目を疑った。そこには文次郎も出来ないようなスピードで算盤を弾き、新たな半紙に音速の如く、正確に筆を動かし書き記している小三郎とその横で合掌し拝む団蔵と佐吉の姿があった。

 

 

 

左門「は、はぇぇぇ!」

三木ヱ門「じょ、冗談だろ⁉︎10キロ算盤を意図も容易く……も、文次郎会計委員長?」

文次郎「………………。」

 

文次郎は真剣な面持ちで小三郎を見る。

 

 

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!チャキィィィィン!

 

小三郎「良し!計算と振り分け終了!あっ!文次郎会計委員長。見違えりましたね!あと、勝手ながら予算報告書を訂正して起きましたのでご確認を願います!それでは、僕はこれで…あと、ギンギンに忍者やるなとは言いませんけど、適度な休息もして下さいね?」

 

小三郎が別に纏めた報告書を文次郎に差し出す、そして帰って行った文次郎は無言のまま受け取り確認を始める。そして……。

 

 

文次郎「お前、いや、食満小三郎!会計委員会に変更しろ!」

 

小三郎「はい⁉︎」

 

会計全員「賛成!」

 

 

 

 

 

 

全員が会計委員会に招こうとした時だった。

 

火薬委員全員「ダメェェェ!!!」

 

 

火薬委員会全員が飛び込んで来た。この後、会計と火薬が激しく論争したのはまた別のお話。



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新年早々の段

新年、あけましておめでとうございます。と言い訳で四季を無視してお正月。


元旦当日、小三郎は何時もの習慣で忍術学園が休みにも関わらず六時半に起床。そして装束ではなく普段着に着替え、室内で腕立て伏せ、腹筋、背筋をしながら鍛錬をしていた。そして七時過ぎ、小三郎は胴着を羽織り外へ。しかしながら休みの為か今だに誰もおらず。辺りを見回すと、少し離れた場所で何かを摘んでいる保険医の新野先生がいた。小三郎は草履を履き歩み寄る。

 

小三郎「新野先生!」

新野先生「おや。食満小三郎くん。あけましておめでとう。」

小三郎「あけましておめでとうございます。何を摘んでいるんですか?」

新野「これだよ。これ。」

 

新野先生の横に座り指差された所を見ると、そこには。

 

小三郎「あっ!冬イチゴだぁ!」

 

 

 

 

 

『冬イチゴとは木苺の仲間で、冬に熟す為冬イチゴと呼ばれ、酸味であるクエン酸を豊富に含み、キレート作用によってミネラルの吸収を助け、血液をサラサラにしたり、細胞や血管に有害な活性酸素を撃退してくれたり、また、腎臓機能に働いて血管を丈夫にしたり、各臓器への酸素の供給や血圧の健康の維持にも働きます。さらに、大腸菌の殺菌や食中毒の予防、胃の粘膜の修復、口臭の消臭、皮膚細胞の活性化、白血球の働きを活性化させて免疫力の向上にもつながる、普段は見捨てられがちだけど中々に侮れない果実なのです。』

 

 

小三郎「へ〜!実家にいた頃おやつ代わりに食べていましたけど、意外と効能が沢山あるんですね!薬にする為に摘んでいるんですか?」

新野先生「それもあるけど、今日の夕食のデザートに使うからとおばちゃんに頼まれたんだ。それにしても小三郎くんは乱太郎くんから聞いていたけど随分と早起きなんだね?健康的だ!」

 

ニコッと笑う新野先生に小三郎はいや〜っと頭を撫でながら照れる。それからは新野先生を手伝い冬イチゴを摘んだ。そして八時前、漸くみんな起き出し、一年は組の一番仲の良い三人が小三郎の部屋を訪ねた。

 

伊助「おはよう、小三郎!明けまして……あれ?」

金吾「いないね?」

喜三太「トイレかな?」

 

伊助と金吾と喜三太が出て行こうとしたのを外にいた小三郎が呼びかけた。

 

小三郎「お〜い!こっちだよ〜!」

 

伊助「ん?」

金吾「あっ!」

喜三太「あそこだ!」

 

三人が草履を履き駆け寄ってきた。

 

伊助「あけましておめでとう!小三郎!」

金吾「元旦なのに早いねぇ。相変わらず。」

喜三太「新野先生も明けましておめでとうございます。」

 

小三郎「明けましておめでとう!伊助、金吾、喜三太。」

新野先生「明けましておめでとう。今年もよろしく。でも怪我と病気はしないでね?」

 

三人「は〜い!」

 

 

 

 

 

三人が元気よく返事をするのを見て新野先生もニコッと笑う。すると喜三太が新野先生が持っている籠の中を見た。

 

喜三太「わぁ〜!冬イチゴだぁ♬」

金吾「木苺の仲間?まだ生えていたんだね?」

伊助「でも下手なの取ると酸っぱいんですよね?薬の材料ですか?」

 

小三郎「実はね?」

 

 

小三郎が夕食のデザートに使うらしいと言うと三人とも眼を輝かせた。

 

喜三太「なんだろう!パイかな?ケーキかな!」

伊助「それなら僕たちも手伝います!」

金吾「よし!」

 

それからは四人で冬イチゴを摘み取り、たまにつまみ食いしながら新野先生の持つ籠に入れていく。

 

金吾「うっ、酸っぱ!」

喜三太「あははは!ハズレ〜。」

小三郎「少し色が赤黒い方が甘いよ?」

伊助「うげっ!腐ってる!」

小三郎「そりゃ食えないよ。」

 

 

 

ワイワイ騒ぎながら摘んで行き、20分位経つと籠はいっぱいになった。

 

新野先生「ありがとう。おかげで助かった。それじゃ私はこれを食堂のおばちゃんに持って行くから、じゃあね?」

 

小三郎「それではまた。」

 

小三郎に続き、三人が「失礼しました。」と丁寧に頭を下げた。

 

小三郎「さて、雑煮。食べに行こうか!」

伊助・喜三太・金吾「賛成〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなに正月挨拶を済ませて食堂に向かう、ちなみに先頭はしんべえである。

 

しんべえ「あ〜ん!待ちきれない!」

小三郎「しんべえ、廊下を走っちゃダメ!」

乱太郎「もう。しんべえったら!」

きり丸「昨日の夜から餅の話しかしなかったからな。」

 

 

走り出そうとするしんべえを小三郎が止める。そんな様子に乱太郎、きり丸は苦笑い。そして食堂、すでに先輩型は食べ始めている。みんながおばちゃんの用意する雑煮を受け取り椅子に座る。小三郎は何処に座ろうかな?っと眺めていたら。紫色のフサフサ頭、三反田数馬先輩と黒頭の富松、では無く、浦風藤内先輩がおいでおいで。っと手招きして来たので近寄って行く。

 

小三郎「明けましておめでとうございます!数馬先輩っと…。」

数馬「明けましておめでとう。小三郎っと…話すのは初めてになるのかな?」

 

数馬先輩がチラッと横目に見ると藤内先輩が立ち上がり歩み寄る。

 

藤内「明けましておめでとう。まともに話すのは始めてだよね?数馬と同じクラスの浦風藤内だ。よろしく!小三郎!」

 

ニコッと笑い握手を差し出す藤内先輩に小三郎もニコッと笑う。

 

小三郎「明けましておめでとうございます!藤内先輩!知ってかと思いですが、一年は組、食満小三郎です。これからもよろしくお願いします。」

藤内「あはは!噂には聞いていたけど本当に礼儀正しいよな!」

数馬「藤内も、予習通り出来たね?」

 

数馬先輩曰く、藤内先輩はいつかまともに話す時のために小三郎と話す予習をしていたそうだ。小三郎は転けかけたが堪えた。そして数馬先輩の隣に座る。

 

 

おばちゃん「それでは、新年!お残しは許しまへんでェェェエエ!!!」

一年は組全員「いっただっきま〜す!」

 

一年は組、中でもしんべえが特に美味しそうに食べている。しかし、小三郎だけはそんなしんべえを少し心配そうに見ながら食べていた。

 

数馬「どうしたの?小三郎?」

藤内「しんべえに何か心配事があるのか?」

小三郎「えぇ。まぁ。」

 

小三郎は心配していた。そして。

 

しんべえ「むがっ!ぐぐっ!」

きり丸「うわぁぁぁぁ!」

乱太郎「た、大変だ!餅が詰まったんだ!」

 

小三郎の心配事が的中した。それはがつぐしんべえが餅を詰まらせないかだ。しかしながら小三郎はすでに見切っていた。

 

 

タン!タン!ヒューン!シュタッ!

 

小三郎は途端に飛び上がり、机から机に飛び移り、一瞬でしんべえの後ろに回り込んだ。そしてしんべえの胴に両腕を回し、ちょうどお腹を抱えるような形。そして思いっきり腹部を突き上げた。

 

小三郎「おんどりゃぁぁぁぁ!!」

しんべえ「ゲフゥゥゥ!!!(スポーン!ベチャ!)」

伝七「うげっ!」

 

しんべえの口から餅が勢い良く飛び出し、向かいにいた一年い組の伝七の顔面に当たった。

 

小三郎「ふぅ。」

しんべえ「ハァァ…死ぬかと思ったぁ。」

小三郎「がついじゃダメだよ!良く噛まなきゃ!」

伝七「だからって僕に当てるなよ!」

小三郎「ご、ごめん伝七!。」

伝七「まったく!これだから阿保の…いやお前には借りがあるから許す…。」

 

伝七は悪態をつこうとしたが小三郎には社会見学の時に借りがある為、何も言わなかった。

 

 

 

藤内「新年早々大変だなぁ。小三郎。」

数馬「流石。一年は組の苦労人!」



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タチが悪いの段

正月を過ぎた頃、突如寒波が全国に押し寄せ、忍術学園は雪に閉ざされていた。昼だろうが吹く風はとても冷たく、一年は組のみんなは火鉢を囲み、教室の隅により互いに暖め合っていた。

 

乱太郎「寒い!」

きり丸「まじこれやべぇ…。」

しんべえ「ほっぺがあかぎれになりそう…。」

 

らんきりしんとみんなが震える中、小三郎は少しだけ窓を開け外を見る。そとは一面銀世界。と言うより吹雪。よく見ると校庭を雪の中を縄で括られた左門と三之助を引きずる作兵衛が見えた。

 

 

作兵衛「まったく!足跡を辿ればいいだろうが!」

左門「いや。決して迷子では…なぁ!三之助?」

三之助「ただ厠へ……。」

作兵衛「黙れ!タチ悪りぃんだよ!お前ら!」

 

 

 

小三郎「さ、作兵衛先輩大変だなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼間でも寒く夜は滅茶苦茶冷える。特に小三郎が所属する火薬委員会の火薬庫は一切火気を持ち込めないから火薬壺のチェックは最悪である。しかし、詰所は極楽。

 

タカ丸「う~!火薬庫寒いよ~!」

三郎次「う~!」

兵助「我慢してくれ。終わったら湯豆腐が待っているから。」

 

火薬委員会では久々知兵助委員長お手製の豆腐がある為、豆腐パーティーならぬ鍋パーティーをやる。詰所では仲良し伊助と小三郎が鍋パーティーの用意をしている。伊助は皿と箸を並べ、小三郎は鍋の味をチェック。今回は小三郎が味付けをする事になった。

 

伊助「小三郎、ほんっとお嫁さんになれるよ!」

小三郎「だから!なんで嫁なのさ!婿にしてよ!」

 

冗談を交えながら話していると火薬壺のチェックを終えた先輩方がやって来た。

 

タカ丸「詰所暖か~い!」

三郎次「おっ?なんか美味そうな匂い!」

兵助「何鍋にしたんだい?」

小三郎「今回は!」

 

小三郎が鍋の蓋を開ける。そこには白濁のスープに彩り野菜と魚と豆腐が浮かぶなんとも美味しそうな鍋があった。

 

小三郎「豆乳鍋にしてみました!」

 

豆乳、それを聞いた途端、兵助が目を輝かせながら小三郎を抱き上げ、抱きしめたり、回したり、高い高いしたりした。兵助は豆腐、大豆に関係することは大好きなのだ。

 

兵助「小三郎!やっぱりお前は分かっているなぁぁ!!お前大好きだ!」

小三郎「よ、喜んでもらえて…良かったです。」

三郎次「豆腐……だ、大豆尽くし!」

タカ丸「でも美味しそうだね~!」

伊助「兵助委員長!小三郎が困っています!」

 

伊助の言葉に兵助ははっとなり慌てて小三郎を下ろした。それから間も無く土井先生もやって来て火薬委員会、冬の鍋パーティーが始まった。

 

タカ丸「この魚は三郎次くんの実家から?」

三郎次「はい!父が送ってくれた物です!」

 

三郎次の実家は漁師でありたまに採れた魚を送ってくる。今回は鍋の具材になった。

 

三郎次「でもまぁ、よく捌けたなぁ?」

伊助「当然です!小三郎はは組一の出来る子ですから!……三郎次先輩はよく骨が混入しますけどね?(ボソッ)」

三郎次「今バカにしただろう⁉︎」

小三郎「まぁまぁ。こら伊助!「こんな」三郎次先輩でも先輩なんだから!」

 

兵助&タカ丸&土井先生「ぶっ!」

 

 

兵助とタカ丸と土井先生が思わず吹いた。

 

兵助「こ、こんな三郎次先輩って……ぶっ!」

伊助「ぶっ…くくっ。あっはははははは!!!こ、小三郎〜。君、た、タチ悪いよね?あっはははははは!」

 

兵助が含み笑いをして堪らず伊助は笑い転げた。小三郎はなんで笑うんだ?っといった感じでぽかんとする。

 

 

食満小三郎、普段はは組一の出来る子にして真面目で穏やかでみんなのお手本的な存在だが、少し天然な部分がある、その分タチが悪い。

 

 

三郎次「こんな三郎次先輩って…フォローになってないぞ!」

小三郎「うわぁ!すみません!決して悪気は無かったんです!」

三郎次「悪気がない分タチ悪いなぁ!お前は!」

 

詰所内を三郎次は両腕を上げながら小三郎を追いかけ回す。しかし土井先生が三郎次を止めた。

 

土井先生「まぁまぁ三郎次!小三郎に悪気は無いし謝ったんだから!」

小三郎「ごめんなさい。」

三郎次「まったくぅ。」

 

タカ丸「それにしても小三郎くん味付け上手いね?」

三郎次「って!タカ丸さん一人で黙々食べないで下さい!」

伊助「ヒィヒィ!だめ……つ、ツボにはまった…あっはははははは!!!」

三郎次「いつまでも笑うなぁ!伊助!」

 

 

こうして美味しく、笑いのある鍋パーティーは終わり、火薬委員会一同身も心もポカポカになった。



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節分の不運の段

一月が過ぎ、二月。今日は節分の為、忍術学園の生徒達は豆まきを楽しんでいた。その中でも、豆腐小僧こと久々知兵助は一番楽しんでいた。

 

兵助「鬼は外!福は内!豆腐小僧は俺!」

三郎次「じ、自分で言いますか?それ。」

 

火薬委員会は今日も詰所に集まっていた。恐らく催し物の回数は学園一だろう。今日は節分パーティー。

 

三郎次「しっかし…見事に大豆尽くしですねぇ〜!」

タカ丸「仕方ないよ。委員長が久々知くんだから。でも小三郎のお陰で味のバリエーションも増えたからいいじゃない?それに……久々知くん。小三郎が来る前より一層楽しそうだし。」

土井先生「だな。」

 

タカ丸と三郎次は兵助を見る。

 

兵助「鬼は外!」

伊助「福は内!」

小三郎「ドンドンドン!チャカチャッチャ!ドド〜ンがドン!チャカチャッチャ!」

 

小三郎だけは豆を縦横無尽に撒き散らし、聞いたことのあるフレーズを口ずさむ。

 

三郎次&土井先生「だぁぁぁぁ!」

 

三郎次と土井先生がひっくり返った。

 

土井先生「こ、小三郎…お前は本当に…。」

三郎次「真面目なのかふざけているのかどっちなんだ!」

タカ丸「でも髪は綺麗だよね?」

 

小三郎の割と綺麗な髪をタカ丸は目を輝かせてみる。

 

 

 

 

 

 

しばらくして巻き終わり、委員会全員で恵方巻きを食べる。案の定、三郎次が伊助と小三郎にちょっかいを出してきた。食べ終わるまで喋れない為、伊助は非常に嫌そうな表情を浮かべる。そして小三郎にちょっかいを出した…その時だった。

 

パシッ!

 

三郎次(は?)

小三郎「…………。」

 

なんと小三郎は片手で三郎次の手を掴み、片手で何食わぬ顔で恵方巻きを食べる。三郎次が次々ちょっかいを出して行くが、やる度に手を払われ、はたき落とされ、触れることも出来なかった。その内に小三郎は食べ終えた。

 

小三郎「ぷはぁ。ごちそうさま。三郎次先輩。何か用ですか?」

 

ニコリと笑い尋ねる。すると三郎次は一歩下がり土下座。

 

三郎次「参りました…。」

伊助「凄っ!」

土井先生「流石だな。」

 

土井先生に褒められ、小三郎はニコリと笑った後に立ち上がった。

 

伊助「どこ行くの?」

小三郎「ちょっとトイレ。」

伊助「ならついでに僕も行こう。」

 

伊助と詰所を出て厠に向かう。その途中であちこちから豆まきの声が聞こえてきた。

 

小三郎「こりゃ豆の回収が大変だね?」

伊助「小三郎も縦横無尽に撒き散らしたけどね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厠を済ませて戻る途中、小三郎の目に明かりがついている保健室が見えた。前の渡り廊下に豆が散乱している。

 

伊助「あっ。乱太郎達もやったんだ。保健委員会は別名不運委員会だからきっと沢山蒔いたんだろうね?………小三郎?」

 

答えぬ小三郎を伊助は覗く、小三郎は怪訝な顔で保健室を見ている。

 

小三郎「静か過ぎやしない?」

伊助「へ?…そう言われるとなんだか影すら動かないね?あれ?」

 

伊助も保健室を見る、その時。障子が僅かに開き、その中から、鼻水と涙でベタベタな顔になった伏木蔵が這いずり出てきて倒れた。

 

伊助「ふ、伏木蔵!!!」

 

伊助と小三郎は只ならぬ物を感じ取り、伏木蔵に駆け寄る。しかし。

 

小三郎「伏木蔵!だいじょ……んっ⁉︎」

伊助「伏木蔵!「ダメ!伊助!!!」うわぁぁ⁉︎」

 

咄嗟に小三郎は身を翻し伊助を抱え込み植木に突っ込んだ。

 

伊助「 イッタタ…何するの!」

小三郎「保健室の中から変な臭いがしたんだ!毒かも知れない!」

伊助「えぇっ⁉︎」

 

二人はすぐに吸わないように覆面を着用し、伏木蔵に近寄る。そして伏木蔵を揺する。

 

小三郎「伏木蔵!伏木蔵!」

伏木蔵「…うっ…こ、小三郎に…伊助?お、お願い…まだ中に……もっぱんが引火して…がくっ。」

伊助「伏木蔵ぉぉ!!」

 

 

 

 

『もっぱんとは、沢山の刺激物が入った竹筒で、今で言う催涙弾です。』

 

 

 

小三郎と伊助が中を覗くと、そこには同じく、鼻水と涙でグチャグチャになった伊作、数馬、左近、乱太郎が横たわっていた。

 

小三郎「こ、これはまずい!伊助!すぐに兵助先輩の所へ!土井先生もいるはず。」

伊助「わ、分かった!」

 

伊助が応援を連れて来る間に小三郎は外から声をかける。

 

小三郎「乱太郎!大丈夫⁉︎」

乱太郎「だ………大丈夫じゃない……まさか…豆が不運になるなんて……。」

 

乱太郎とまだマシな伏木蔵曰く、節分の為、不運を払おうと豆巻きをしたが、豆に足を取られた伏木蔵が薬棚を倒してしまい、さらにうどんを作って来た左近先輩が薬と豆に足を取られ、熱々のうどんをぶち撒けそれの一つが数馬先輩に被り、飛び上がっと同時に火鉢をひっくり返して炭が飛び、不運にももっぱんに引火してしまったそうだ。

 

小三郎「な、何その不運のピタゴラスイッチ。」

伊作「ずまない…みんな…ごんなづもりじゃ……。」

小三郎「伊作先輩!喋らないで!もっぱんがまだ充満しているんだから!」

 

しばらくすると伊助が火薬委員会と偶然出会った留三郎を連れて戻って来た。

 

留三郎「大丈夫か!いさ…うわっ。」

火薬委員会一同「うわぁっ……。」

 

あまりの惨状に思わず絶句した。それからはみんなで協力しながら何とか保健委員会を救出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

 

 

伊作「すまない。留三郎。また世話をかけてしまった。」

留三郎「気にするな。同室じゃないか。それにお礼なら小三郎と伊助に言え。特に小三郎な?あいつが違和感に気がつかなかったら危なかったんだぞ?」

 

布団で横になっている伊作を看病しながら留三郎は言う。

 

留三郎「しっかし。麻痺性のもっぱんとはえげつないもの作りやがる。」

伊作「いやぁ。今度の予算会議の為に使おうと思っていたんだけどね?」

留三郎「バッキャロォオ!!!死人が出るわ!!」

 



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サラサラヘアーとモチモチ美肌の段

今回、くのいち初登場!


パシャパシャ。

 

小三郎「ガラガラ!ぺっ!ふぅ〜。」

 

小三郎は今日も朝早く起き、井戸で顔を洗い、ふさ楊枝で歯を磨いていた。早起きは何時もの日常。しかし、そんな小三郎を茂みの中から三人のくのいちが見ていた。ユキとトモミとオシゲである。何故小三郎を観察しているかと言うと、遡ること昨日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユキが忍術学園新聞を見ている時だった。

 

ユキ「……………!!!悔しィィ!!!」

トモミ「ど、どうしたの⁉︎ゆきちゃん?」

オシゲ「どうしたんですか?」

 

急に声を張り上げたゆきにともみとおしげが驚く。ゆきは大層悔しそうに新聞を二人の前に広げた。

 

ユキ「これよ!この忍術学園で綺麗なサラサラヘアーは誰だ?のアンケート!」

トモミ「またぁ?」

オシゲ「前もありましたね?またくのいち教室が誰も乗ってなくて悔しいんですか?」

ユキ「その後の記事が問題なのよ!」

 

新聞を裏返しある一面を指差した。

 

トモミ「なになに?髪も綺麗だが、一位の立花仙蔵に肌のきめ細かさなら負けない忍たまが見つかった?」

オシゲ「その名は…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トモミ&オシゲ「えぇぇぇぇ!!??食満留三郎の実弟、一年は組一出来る子。食満小三郎⁉︎」

 

 

小三郎「あっはははは!あははは!」

 

三人の脳内に傷一つないもちもちの肌の笑顔が素敵な小三郎のビジョンが見えた。

 

ユキ「髪ならず肌まで男子の方が綺麗なんて…。」

オシゲ「私たちの出番が少ないのもあるとおもいますけど……そう言えばこの前、しんべえ様が小三郎の頬を触っていましたですよ?」

 

三人がうなだれていると突如トモミが立ち上がった。

 

トモミ「こうなったら!食満小三郎を調査研究する必要があるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして冒頭に戻る。しかし、くのいちは気がついていないが、勘が鋭い小三郎は既に見られていることに気がついていた。

 

小三郎(ユキちゃん達…尾行バレバレなんだけどなぁ?)

 

しかしかと言って指摘したら面倒ななりそうだったので黙ることにした。

 

ユキ「それにしても小三郎って早起きよね〜?」

トモミ「きり丸から聞いたんだけど毎日鍛錬しているみたいよ?」

 

二人が話しているとオシゲが何かを見た。

 

オシゲ「あっ。何か顔に付けてますよ?」

 

二人がオシゲの言葉に小三郎を見る。小三郎は竹筒から何かを手に取り顔に塗っている。

 

トモミ「何か塗っているわ!きっとあれが肌のきめ細かさの秘密なのよ!」

 

 

三人があれこれ言っているうちに小三郎はいつも椿油を塗り終えて自室に戻って言った。三人が追いかけようとした時だった。

 

????「何をしているんだ?」

 

ユキ&トモミ&オシゲ「キャァァァ!……あぁ⁉︎食満留三郎先輩!」

 

くのいち三人の後ろには留三郎が立っていた。その時、トモミはハッとして立ち上がった。

 

トモミ「留三郎先輩!肌触ってもいいですか⁉︎」

留三郎「は⁉︎ま、まぁ構わんが?」

 

留三郎は少し屈む。トモミがそっと触れてみる。

 

トモミ「……もちもちじゃないわ。」

オシゲ「留三郎先輩はもち肌じゃないんですね?」

留三郎「もち肌?……はは〜ん。お前ら新聞のアレを見たんだな?」

ユキ「留三郎先輩!小三郎がよく塗るあれはなんなんですか?」

 

ユキの質問に留三郎はぽか〜んっとした。

 

留三郎「知らないのか?椿油だ。」

 

トモミ「椿油⁉︎」

オシゲ「灯りに使う?」

 

 

留三郎「なんだ?知らんのか?女子ならあれくらい常識だと伊作は言っていたんだがな?小三郎はあれを小さい頃からお袋にあかぎれたら大変!とか男子でも綺麗にしなさい!っと言われ塗られていてな?その内塗るのが当たり前になったんだ。でもまさか。今や仙蔵に負けぬ美肌になっていたとは!流石我が弟だ!」

 

留三郎は満足げにうなづきながら再び鍛錬に戻った。そしてくのいち三人組は図書館に赴き、椿油の効能を調べ驚く。そこには美容効果抜群っと書かれていた。そしてさらにがっかりした。

 

ユキ「まさか…女子より男子の方が綺麗なんじゃ…。」

トモミ「弱気になっちゃダメ!髪も肌も女の特権なのよ!」

オシゲ「でも私達…髪には気を使っていましたけど、肌まであまり気にしていませんでしたです…。」

トモミ「オシゲちゃんまで!よし!こうなったら!確かめましょ!」

ユキ&オシゲ「何を?」

トモミ「本当にスベスベもちもち肌なのか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一年は組の教室では…。

 

きり丸「うおー!柔けぇ!」

乱太郎「スベスベもちもち〜!」

しんべえ「お餅みたい!」

伊助「流石僕の親友!肌も髪も綺麗!」

庄左ヱ門「流石。美肌小僧だね?」

喜三太「はにゃ〜ん♪ナメクジさんみたいにしっとり〜♬」

 

小三郎「ちょっ……そんなに気持ちい?」

 

小三郎のほっぺをみんなが触りまくっていた。その時、教室の戸が開かれくのいち三人組がやって来た。

 

ユキ「食満小三郎いる?」

乱太郎「ユキちゃん!トモミちゃん!オシゲちゃん!」

きり丸「いるけどぉ?」

 

みんなが退き、小三郎が三人をみる。目つき以外はまさに留三郎そのもの。やはり実の兄弟。よく似ている。

 

小三郎「何か用?」

 

ニコッと持ち前の人の良さで女の子だろうとみんなと変わらない分け隔てない笑顔を見せる。

 

ユキ「ちょっと悪いんだけどぉ?」

トモミ「少し肌を触らせてくれない?」

小三郎「へ?ユキちゃん達も?まぁ、いいけど?」

 

小三郎はどうぞ?っと言い座り直した。そしてユキ達は小三郎の肌に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぷるん。

ユキ「!!!」

 

 

つるん。

トモミ「!!!」

 

 

むにゅん。

オシゲ「!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはまさにくのいちが触ったことの無い心地よい感触だった。

 

ユキ「何これ⁉︎」

トモミ「まるで絹を思わせる滑らかさ!そしてお餅みたいにぷるんぷるんでしっとり。」

オシゲ「すごいです。こんな気持ちのいい感覚は初めてですぅ。」

 

 

 

三人の心のビジョンはまさに柔らかい餅の中に練りこまれた感覚。そして。

 

くのいち三人組「私達…!気持ち良さと勝てぬ悔しさのあまり……失神!」(バタっ。)

 

小三郎「うわぁぁぁ⁉︎大丈夫⁉︎」

乱太郎「た、大変だ!すぐに保健室へ!」

くのいちがいきなり失神した為教室内は大慌て。しかし誰も気づいていない。

 

 

 

 

いつもは負けてばかりのくのいち教室に……初めて勝ったことに。

 

美肌な小三郎に四年生の滝夜叉丸と三木ヱ門が嫉妬したのはまた別の話。



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幸せの花の段

本当は昨日のうちに投稿したかった!


とある放課後、小三郎はきり丸の手伝いがてら図書館にいた。委員長が中在家長次先輩なだけにきちんと本が整理されている。

 

きり丸「よし。図書カードの確認終わり!サブちゃんの方は?」

小三郎「こっちも大丈夫かな?ただ孫次郎がそろそろ返却期限迫ってるね?」

きり丸「またろ組かよ!」

 

そんな事を言いながらきり丸は何故か薬草の図鑑を見出した。

 

小三郎「きり丸薬草好きなの?」

きり丸「いやぁ。ほら。この薬草結構珍しいものでね?売ればいい銭になるんだよぉ!アヒャヒャヒャヒャヒャ!見るだけでよだれがぁ!」

小三郎「はい、よだれ拭き。」

 

小三郎は懐から布切れを出してきり丸に差し出した。

 

きり丸「あぁ!悪いねぇ!流石サブちゃん!用意周到で!」

小三郎「褒めてくれてありがとう。それにしてもきり丸、銭が好きだね?」

 

それからきり丸と別れて、図書館を出て自室に戻る。その途中で庄左ヱ門に出会った。

 

庄左ヱ門「小三郎!探したよ!」

小三郎「庄左ヱ門。何か用だった?」

庄左ヱ門「実はね?」

 

 

 

庄左ヱ門曰く、明日はきり丸の誕生日らしく、みんなでサプライズパーティーをやるらしくその連絡だった。

 

庄左ヱ門「それでね?みんな各同室でプレゼントを用意する事になったんだ。でも小三郎は一人部屋でしょ?だから僕と伊助の連名でどうかな?って…。」

小三郎「なるほど…あっ…。」

 

 

小三郎は先ほどのきり丸の会話を思い出した。

 

きり丸(この薬草結構珍しいものでね?売ればいい銭になるんだよぉ!アヒャヒャヒャヒャヒャ!)

 

小三郎は何かを思いついた。

 

小三郎「庄左ヱ門。僕は僕でプレゼント用意するからいいよ。」

庄左ヱ門「いいの?」

小三郎「大丈夫!お金は問題ないから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、小三郎は用具倉庫から背負いかごとハサミを、図書館で薬草図鑑を借りて外出届けを出して裏山及び裏裏山へと出かけた。目的はきり丸が言っていた珍しい薬草。

 

小三郎「銭が好きなら銭になる物が一番だよね!」

 

夜までに帰ってこればいい。小三郎はヘムヘムに見送られ出かけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは裏山の入り口の小川でネコヤナギを見つけた。小三郎はふた枝くらい折って籠に入れる。そして山道を登っていくと今度はオウレンの花。小三郎は目的の薬草以外にも様々な薬草を籠に入れる。

 

小三郎「きり丸、喜んでくれるよね?」

 

小三郎はどんどん山奥へ、しかし迷わない様に草を結びながら入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で忍術学園では庄左ヱ門率いる一年は組がパーティーの飾りつけをしていた。

 

伊助「そういえば…小三郎は何処?」

庄左ヱ門「朝ごはん食べた後すぐ出かけたらしいよ?」

伊助「プレゼント買いにいったのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼が過ぎ、小三郎は裏裏山まで来ていた。流石にここまで来ると珍しい薬草が多々ある。そして、3時くらいには籠はいっぱいになっていた。しかし、小三郎は浮かない顔、きり丸が言っていた薬草がどうしても見つからないのだ。

 

小三郎「何処にもないなぁ。やっぱりダメか?」

 

小三郎は辺りを見回した後、少し開けた場所が目に入りそっちへ歩む。その時、小三郎は目を見開いた。

 

小三郎「あ、あったぁ!!」

 

 

少し行った所、崖の斜面にサンシュユの花が咲き誇っていた。小三郎は籠を下ろし、鉤縄を生い茂った木の枝に引っ掛け、崖を降り始めた。

 

小三郎「こんなにたくさん!来てよかった。これならきり丸も喜んでくれる!」

 

小三郎はハサミで枝を切りながら持てるだけ持った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花を見つけたことに、舞い上がっていたのかもしれない。だからこそ、早まったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉤縄をかけた枝が折れた。

 

 

 

小三郎「えっ?」

 

途端にふわっとした感覚に囚われた。小三郎は……落ちた。大した高さの崖ではないがそれでも子供にはそれなりの高さ、体中を打ち付け、その瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カァ…カァ…。

 

カラスが鳴き、日が傾き夕暮れになる。食堂の飾りつけは終わっていた。しかしながら途中できり丸にバレてしまい、全て水の泡になったが、全員はそれどころではない。小三郎がいつになっても帰って来ないのだ。

 

乱太郎「どうしたんだろう?」

しんべえ「いつも遅れないのにね?」

 

一音は組は帰らぬ友を心配する。中でも一番の親友、伊助はかなり心配そうにしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、日が落ちかける。流石に教師陣も心配し出した。中でも兄である留三郎は落ち着きなくハラハラして、居ても立っても居られなくなり、長次を連れて捜索に向かった。

 

留三郎「行き先は裏山から裏裏山だ!何しに行ったのか知らんが、あのバカが!何しているんだ!」

長次「ボソッ……逸る気持ちは分かるが、抑えろ。」

留三郎「分かっている!」

 

二人は猛スピードで裏山へ向かった。その時、長次が何かを見つけた。

 

長次「ボソッ。待て。」

留三郎「どうした⁉︎」

長次「草が結んである…。」

 

留三郎はハッとした。小さい頃に小三郎に教えていた。迷わない様にするには草を結んで目印にしろ。

 

留三郎「これはきっと小三郎だ!」

長次「急ごう……夜はまだ寒い…。」

 

二人は結ばれた草を頼りに進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍術学園ではもはやパニックになっていた。しんべえ、喜三太は半べそになり、伊助は心配のあまりカリカリしている。

 

土井先生「大丈夫だ。きっと見つかる。」

山田先生「だから泣くな。怒るな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み夜、留三郎と長次が裏裏山に入り少し行った時、留三郎が足を止めた。

 

留三郎「ここから、結び草がない……くそっ!何処だぁぁぁぁぁ!小三郎ぉぉぉ!!」

 

叫ぶ留三郎。その時、長次がまたもや何かを見つけた。

 

長次「何か……ある。」

 

長次が指差した方へ進むと、そこは開けた場所…そこには籠が転がっていた。留三郎はその籠に見覚えがあった。

 

留三郎「これは…用具倉庫の籠だ!そういえば小三郎がハサミと借りて行ったって書いてあったな。」

長次「気をつけろ。少し向こうは崖みたいだ…。」

留三郎「あぁ…ん?」

 

その時、留三郎は木が目に入った。よく生い茂った木だ。その一つの枝が折れている。まだ新しい。留三郎は顔面蒼白なりながらゆっくりと崖へ歩み寄る。

 

留三郎「長次…明かりを貸してくれ……。」

長次「あぁ……。」

 

明かりを受け取り…留三郎は一歩、また一歩と崖に歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い違いであってくれ…!頼むから……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎は明かりを崖下へ向けた。その瞬間。留三郎は固まった。そして長次も見た。崖下で倒れている小三郎を。

 

留三郎「あっ……あっ……こ、小三郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

留三郎と長次は崖を滑りおり小三郎へ歩み寄る。

 

留三郎「おい!おい!嘘だろ⁉︎小三郎!頼むから目を開けてくれ!小三郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

取り乱す留三郎に長次が制止をかけ、小三郎の脈を見る。

 

長次「大丈夫…生きている…だが呼吸がか細い…。」

留三郎「俺が小三郎を背負っていく!長次!お前は一足先に忍術学園に戻り、伊作と新野先生に伝えるんだ!」

長次「わかった…!」

 

 

長次は猛スピードで忍術学園へ向かった。留三郎は小三郎を背負った。その時、小三郎の手からサンシュユの花が落ちた。しかし、一輪のみはしっかりと握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背負いながら山を下り、忍術学園に戻る途中。

 

小三郎「うっ……うぅぅん……あ、れ?あ、兄者?」

留三郎「小三郎!気がついたか!」

 

留三郎は少しホッとして小三郎を見る。

 

小三郎「なんで…兄者が?」

留三郎「お前が中々帰って来ないから迎えに来たんだ。お前、崖から落ちたんだぞ!」

 

留三郎の言葉に小三郎は思い出した。落ちたこと、そして、手元に籠はなく、サンシュユの花一輪のみ。

 

小三郎「兄者……戻って……薬草……持って…帰らなきゃ……。」

留三郎「馬鹿野郎!誰に頼まれたか知らんが今はお前の治療が先だ!」

小三郎「お願い……戻って……あれは……きり…丸の……。」

留三郎「お、おい!」

 

再び小三郎の意識は途絶えた。留三郎は足早に裏山も通過する。そして、しばらくすると複数の明かりが見えた。他の六年生と五年生だ。

 

伊作「留三郎!」

久々知「小三郎!」

留三郎「早く!早く小三郎を……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎はすぐに医務室へ運ばれた。奇跡的に骨は折れておらず、一種のショック状態になっているだけ。小三郎が怪我をして戻って来たと聞きは組全員が駆け足で飛んで来た。

 

乱太郎「小三郎ぉぉぉ!」

きり丸「大丈夫かぁ⁉︎」

新野先生「慌てないで!傷に触るから!」

 

新野先生と他の保健委員会メンバーが慌てて乱太郎達を抑えた。みんな小三郎が寝る布団を囲む。

 

伊助「あぁぁ!こんな傷だらけに…!」

金吾「目を開けて!小三郎!」

三治郎「嫌だ!嫌だよ!死んじゃヤダァ!」

兵太夫「縁起でもないこと言うなぁ!」

 

 

みんながあれこれ騒ぐ、土井先生と山田先生が制止をかける漸く場が収まった。

 

留三郎「そういえば……薬草を随分気にかけていたな。それに…きり丸。お前がどうとか言っていたな?」

きり丸「お、俺っすか?」

 

きり丸がキョトンとする中、小三郎が目を覚ました。

 

小三郎「うっ……あれ?ここは…?」

乱太郎「小三郎!」

しんべえ「よかったぁ…よかったぁぁ……うわぁぁぁん…!!!」

 

小三郎が目を覚ますと同時にしんべえが泣き出し、他のみんなも泣くものホッとするもの、様々。その時、小三郎はハッとして手に未だに握られていた、サンシュユの花をきり丸に差し出した。

 

小三郎「はい……きり丸。」

きり丸「えっ……こ、これって……。」

 

きり丸は驚いた。小三郎の握っていた花は間違いなく、きり丸が見ていた図鑑に載っていた薬草。小三郎はすまなそうな表情を浮かべる。

 

小三郎「ごめんね?本当は…沢山の薬草を採ったんだけど籠ごと…置いて来ちゃった……こんな一輪じゃ……大した銭にならないけど……売ってお金にして?それが……僕からのプレゼントだよ?……誕生日…おめでとう。きり丸…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きり丸「っ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

儚げに笑う小三郎にその場にいる誰もが心打たれた。小三郎はきり丸の一番喜ぶプレゼントを用意しようとしたのだ。そして今でも、すまなそうに謝り、それを差し出したのだ。きり丸は花を握り、大粒の涙を流した。

 

きり丸「うっ……売れるわけっ…ないじゃないかっ!小三郎は!俺のために!……疲れることも!タダ働きも惜しまずに!こんな……こんなドケチな俺のために怪我までして採って来た花を!売れるわけないじゃないかぁっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

きり丸は小三郎を抱きしめて大声で泣いた。他の人ももらい泣きする者もいた。

 

留三郎「そう言うことだったのか…。」

伊作「なんて…友達思いなんだっ!」

三治郎「仏様だ!仏様の何者でもない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きり丸「ううっ…ヒグッ…小三郎ぉ…ありがとう…!ありがとう…!!!」

 

小三郎「あははは……。」

 

 

きり丸は泣きながら何度も何度もお礼をいった。

 

 

 

 

 

 

小三郎が採って来たサンシュユの花は教室に生け花にして飾られた。後から留三郎が薬草の入った籠を取って戻って来たが、きり丸はどれも売りはせずに何本か同じように生け花にして残りは全て保健委員会に寄付した。

 

 

 

 

 

きり丸「……俺……幸せ者だったんだ……ありがとう。小三郎。」

小三郎「どういたしまして。」

 

数日後、きり丸はしばらく花を見つめ笑っていた。その横で元気になった小三郎も笑っていた。不思議な事にその生け花は何日経っても枯れなかった。



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茶を嗜むの段if

小三郎のイメージCVについてですが自分は折笠愛さんかな?っと思っています。


三月、朝は未だに寒いがそれでも日中はだいぶ暖かくなり鳥もだいぶ活発になり春の到来を告げる。

 

庄左ヱ門「大分暖かくなって来たねぇ?」

小三郎「そうだね?梅も咲いてるしね?」

 

今日は天気が快晴で比較的暖かい。小三郎は庄左ヱ門に誘われ学園内の梅の木の下でお茶を嗜んでいた。

 

小三郎「このお茶美味しいね?」

庄左ヱ門「そういうの小三郎くらいだよぉ。みんな「渋っ!」って言うから。小三郎が用意してくれたこのお団子も美味しいよ?」

 

庄左ヱ門は皿に乗ったお団子を食べながら笑う。

 

小三郎「でも絶対しんべえ辺りが嗅ぎつけて来そうなんだけど……。」

庄左ヱ門「それはないよ。だって……ねぇ?」

小三郎「そうだね?可哀想だけど…あれはフォローしきれない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前の授業で乱太郎、きり丸、しんべえは盛大にやらかしてしまった。何をやらかしたかと言うと、暖かくなって来た為、最近居眠りが多くろくに授業を聞いていなかった為、今日のテストで仲良く0点を取ってしまったのだ。当然土井先生は怒り、現在補習授業中。

 

 

 

らんきりしん「あぁぁん!どうしてこうなるの⁉︎」

土井先生「自業自得だ!小三郎があんなに起こしに来たのに!!!」

らんきりしん「助けてぇ!小三郎ぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「?」

庄左ヱ門「どうしたの?」

 

何かを感じた小三郎に庄左ヱ門は首をかしげる。

 

小三郎「い、いやぁ。今どこからか乱太郎、きり丸、しんべえの悲痛な助けを求める声が……。」

庄左ヱ門「あははは……絶対叫んでる…。」

 

 

しばらく庄左ヱ門と談笑していたら、五年生二人と一年生一人が歩み寄って来た。

 

勘右衛門「お?なんだなんだ?随分洒落たことしてるじゃないか?庄左ヱ門、小三郎。」

三郎「俺たちも混ぜてくれよ!」

彦四郎「こんにちわ。小三郎。その節はどうも。」

 

庄左ヱ門「尾浜勘右衛門先輩!鉢屋三郎先輩!」

小三郎「こんにちわ。彦四郎。別に気にしないで。」

 

 

 

 

 

やって来たのは学級委員長委員会のメンバー。ちなみに小三郎もみんなの勧めもあって、学園唯一の一年は組、副学級委員長をしていたりする。その為、学級委員長委員会に所属こそしていないがたまに手伝いをする。

 

 

庄左ヱ門が再びお茶を淹れ、小三郎は皿に追加のお団子を並べた。

 

庄左ヱ門「どうぞ。」

勘右衛門「ありがとう!」

三郎「♪〜。」

 

ズ〜、ゴクッ。

 

彦四郎「……渋っ!」

 

流石五年生二人は平気な顔をしているが彦四郎のみベェー!っと舌を出した。

 

庄左ヱ門「その渋いのが良いんだよ?」

彦四郎「そ、そう?」

小三郎「お口直しにお団子もどうぞ〜?」

勘右衛門「いっただっきま〜す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三郎「このお団子美味しいね!」

彦四郎「あっ。もしかして社会見学の時のお店?」

小三郎「そうだよ?美味しいでしょ?」

勘右衛門「しっかし、よくしんべえが嗅ぎつけて来ないな?」

庄左ヱ門「実は、かくかくしかじか。」

 

学級委員長メンバー四人「あ〜あ。可哀想に。」

 

 

 

 

 

三郎「所で彦四郎、小三郎。さっき言ってたその節ってなんだ?」

彦四郎「うっ……そ、それを暴露したら伝七と佐吉に怒られます。」

小三郎「聞かないであげて下さい。」

三郎「そ、そうか。なんかごめん。」

 

 

 

 

 

 

 

しばらく学級委員長メンバーとお茶を楽しみ、日も大分傾いて来た所でお開きとなった。先輩と彦四郎を帰した後に二人で後片付けを始める。

 

庄左ヱ門「別に片付けくらい一人でやったのに。」

小三郎「お茶のお礼と思ってよ?」

 

 

 

 

 

片付けも終わり、庄左ヱ門は忍たま長屋へ、小三郎は教室にらんきりしんの様子を見に行く。そして別れる際。

 

小三郎「結構なお点前でした。」

庄左ヱ門「お粗末様でした。」

 

二人とも礼儀正しく、まさに作法委員会もびっくりな返し挨拶を行い別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして教室。小三郎が入って目に入ったのは、沢山の答案用紙に埋もれながら眠っている、らんきりしんだった。

 

小三郎「おやおや。」

土井先生「やぁ、小三郎。」

小三郎「お疲れ様でした。土井先生。」

土井先生「まったくだ。なんとか合格点にはなったがな?」

 

小三郎は余ったお団子を教台に置く。

 

小三郎「どうぞ四人で召し上がって下さい。僕からの差し入れです。」

土井先生「おぉ!すまんな!」

 

 



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同行厳禁?の段

久々です。

小三郎が初の女装をします。


六年い組、立花仙蔵。今日は学園長からの指示のもと、密書をとある所まで届ける為に関所付近まで来ていた。いつもなら一人だが今回は後ろに旅姿をした可愛らしい一人の姫君を連れていた。

 

仙蔵「此処を抜ければすぐに目的地です。もう少しですよ。食満子姫。」

????「あの〜…。立花先輩?何故に僕がお姫様の姿で?」

 

可愛らしい姫君、その正体はなんと一年は組、食満小三郎。ちなみにメイクと衣装は立花仙蔵がやりました。ちなみに何故小三郎が同行しているかと言うと、偶然に学園長に用があり、仙蔵と鉢合わせたからである。

 

仙蔵「嫌か?よく似合っていると思うが?」

小三郎「そうじゃなくて!なんで僕だけ女装なんですか⁉︎結構恥ずかしいですよ!」

 

地団駄を踏む小三郎を見て仙蔵は関所を指差した。

 

仙蔵「あそこの関所は男性には特に厳しく検査をする。しかし女へはかなり緩い。ましてや何処かの姫君なら尚更だ。その為にはお前に女になってもらわねば。それにお前は……悔しいがかなり可愛いぞ。髪はさて置き……肌は……負けた……クソッ!!!」

 

仙蔵は近くに生えていた草花を太刀で叩き斬った。

 

小三郎「立花先……コホン。仙蔵様。人や物、動植物に当たるのは感心しませんよ?父上様が聞いたらお嘆きになります。」

仙蔵「⁉︎」

 

仙蔵は思わず小三郎、食満子姫に見惚れた。風になびく、仙蔵には負けるがそれでも美しい黒髪が揺れ、憂いの表情。優しき姫君の姿がそこにあった。

 

小三郎「どうしました?」

仙蔵「………留三郎の弟LOVEの気持ちがなんとなくわかった気がする。」

小三郎「は?」

 

 

 

小三郎は首を傾げるが列が進み前に進む。その時、仙蔵が急に立ち止まった。

 

小三郎「どうしましたか?」

仙蔵「や、山本喜三太。福富しんべえ…。」

小三郎「え?」

 

小三郎がヒョイっと脇から覗くとそこにはクラスメイト二人の姿が。

 

 

 

 

 

 

 

 

喜三太「あれって立花先輩?」

しんべえ「うん。でも……連れているあの凄〜く可愛いお姫様は誰だろう?」

喜三太「うん。誰だろう?……でも……はにゃ〜ん。」

しんべえ「うん……えへへ〜。」

 

喜三太&しんべえ「可愛い〜。立花先輩〜!」

 

 

 

 

 

二人は笑顔を浮かべかけて来た。仙蔵はかなり嫌そうな顔をしているが小三郎は割と普通にしている。

 

喜三太「立花先輩!」

仙蔵「や、やぁ。喜三太。しんべえ。」

しんべえ「そちらの可愛いお姫様は誰ですか?」

仙蔵「いやぁ。こ、この方は……。」

 

小三郎は察した。立花先輩はこの二人が苦手なのだと。そして。喜三太としんべえに歩み寄る。

 

小三郎「お初にお目にかかります。私はこの先の武家の娘で食満子と申します。」

 

小三郎は正体がバレていない事を逆手に取って食満子姫を演じる。喜三太もしんべえも気づいていない様子。小三郎のまったく動じない姿に仙蔵は少し驚いている。

 

喜三太「僕は山本喜三太。」

しんべえ「僕は福富しんべえ。よろしく。所で立花先輩?どうしてこんな可愛いお姫様と一緒で?」

 

小三郎「訳があり、私は今まで親戚の家に預けられておりまして、実家がようやく落ち着きましたから、先日父上様から帰って来るように言われたのです。しかし最近は何かと物騒なので、仙蔵様に警護を依頼したのです。」

 

仙蔵(留三郎。お前の弟……絶対将来有望だわ。)

 

次々と紡ぎ出す小三郎の演技に仙蔵は感心する。

 

喜三太「それなら僕たちもお使いがあるから。」

しんべえ「お伴します。」

仙蔵「い、いやぁ!お前は自分たちのお使いに……。」

小三郎「良いではありませんか。仙蔵様。私は賑やかな方が好きですし……。(立花先輩。この場合は喜三太もしんべえもあえて連れだった方が吉です。)」

 

小三郎はなるべく小さな声で仙蔵に話しかけた。

 

仙蔵(どう言う意味だ?)

小三郎(下手に突き放したら、検問の時に乱入されかねません。)

仙蔵「!……なるほど。」

 

思えば自分は神経質になっていたのかも知れない。ならばあえて連れだつのもありかと仙蔵は考えた。

 

仙蔵「よし。ならば同行を許可しよう。ただし!あまり騒がないように!」

喜三太&しんべえ「は〜い♪」

 

こうして、喜三太&しんべえを加えて関所の列に並んだ。そしてやがて順番が回って来た。

 

役人A「次の者入れる!」

仙蔵「はい。さっ。食満子姫。」

小三郎「はい。」

 

役人複数「!!!」

 

思わず役人達は小三郎の女装姿に見惚れた。可憐で幼く、しかし何処か凜としている。

 

役人B「か、可愛い!」

役人C「やばい!マジでやばい!目が天国!」

 

役人のほぼ全員が目がハートになり釘付け。

 

小三郎「お勤め、ご苦労様です。」

 

ニコッと微笑みかけた。その途端倒れ出す者続出!

 

それからはやはり男である仙蔵、喜三太、しんべえは厳しく検査をされた。しかし小三郎は完全に姫君だと思われ、小道具の飾り袋だけを調べられただけだった。

 

役人A「しかし、姫君の護衛に子供もいるとは面妖な。」

仙蔵「彼らは私の後輩で、用心棒の卵です。今回は実戦も兼ねて同行しているのです。」

役人A「あぁ。だから先輩と呼ばれているのか。」

 

 

役人Aを仙蔵は上手く言いくるめた。

 

 

 

役人B「なんだ!このナメクジ壺は!それにお前鼻をかめ!」

喜三太「それは僕のペットです!乱暴にしないでください!」

しんべえ「ごめんなさい。」

役人B「まったく!それでもあの姫君の護衛か?」

喜三太「いえ。お使いの途中で出会って。」

しんべえ「ついでに家まで護衛することに。」

役人B「なんだ。お前達小間使いなのか。」

 

 

役人Bは勝手に喜三太としんべえを小間使いと勘違いした。

 

 

こうして無事に四人とも関所を通り抜けれた。

 

喜三太「お姫様、足元に気をつけてくださいね?」

しんべえ「疲れたらいつでも言ってくださいね?」

小三郎「はい、お気遣いありがとうございます。……ん?」

 

小三郎はにわかに気配を察知し、林の中を見る。仙蔵もすでに気がついており同じ方向を見ている。

 

仙蔵「 分かるか?」

小三郎「はい。誰か見ています。」

 

二人が立ち止まった、その時!しんべえと喜三太の悲鳴が轟いた。

 

しんべえ「うわぁぁぁ!」

喜三太「キャァァ!」

 

仙蔵「!…しまった!」

小三郎「しんべえ、喜三太!」

 

現れた山賊にしんべえと喜三太が捕まっていた。気配に気を取られて気がつかなかった。仙蔵が脇差を抜く。

 

仙蔵「おのれ!俺の後輩から手を離せ!」

山賊A「おっと。下手に動くな?こいつらの首が飛ぶぞ?」

仙蔵「くっ。卑怯者め!」

山賊B「返してほしくばそこのお姫さんを差し出しな?お侍様?」

喜三太「立花先輩!」

しんべえ「ダメです!」

 

 

小三郎「私がそちらに行けば、その子達を解放するのですね?」

 

山賊との会話の間に小三郎が入り込んだ。

 

仙蔵「なりません!姫!」

小三郎「仙蔵様、私なら大丈夫です。(立花先輩、僕が奴らに隙を作ります。)」

仙蔵「し、しかし。(出来るのか?)」

小三郎「人の命には帰られません。(こういう事もあろうかと色々準備してきましたから。)

 

相手に分からないくらい小さな声で会話をする。そして小三郎が再度山賊を見る。敵は二人、林の中に二人、何となる。

 

そして小三郎が山賊に歩み寄る。

 

小三郎「さぁ!その者達を離しなさい!」

山賊B「よし、これでお前らは用済みだ!おらっ!とっとと行け!」

 

しんべえ&喜三太「うわぁぁぁ!!」

 

しんべえと喜三太は蹴飛ばされ解放された。そして小三郎が山賊に捕まる、その時だった。

 

小三郎「おんどりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィイン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

山賊A「ぐっ………あああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎は山賊の大事な部分を思い切り膝で蹴り上げた。山賊は泡を吹いて倒れた。突然の出来事にもう片方の山賊は思考が遅れた。仙蔵はその隙を見逃さなかった。

 

仙蔵「もらった!」

山賊B「し、しまった……(ドスッ!)グアッ……!」

 

仙蔵は峰打ちを食らわし、山賊は伸びてしまった。

 

 

喜三太「お、お姫様!」

しんべえ「つ、強い!」

 

喜三太達が見惚れているて、後ろからガサガサと音がした。残りの山賊がやって来たのだ。その時。

 

仙蔵「喜三太、しんべえ!伏せろ!」

 

仙蔵は焙烙火矢を投げた。喜三太としんべえは顔を青くして伏せた。焙烙火矢は頭上を通過し茂みの中へ、そして爆発。

 

山賊C「ギャァアァァァァァァ!!!」

 

山賊D「こ、こいつら只者じゃねぇ!うわぁぁぁぁぁ!」

 

 

最後の一人だけ討ち漏らし、逃げる。しかし、小三郎は逃さなかった。

 

小三郎「させない!中在家先輩直伝の技!踢腿飛針!!」

 

 

小三郎が今度は足を蹴り上げる。すると、つま先から何かが飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山賊D「ギョエ〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仙蔵「て、踢腿飛針⁉︎しかも中在家先輩直伝の技って…。」

小三郎「はい。中在家長次先輩に伝授して貰いました。」

仙蔵「あいつ……物騒な技教えやがって…。」

 

 

『踢腿飛針とは、履物のつま先に仕込んでおく、針。暗器の事で、蹴り上げると同時に針が飛ぶと言う者です。』

 

 

 

 

 

ポカンっとしているしんべえと喜三太に小三郎が歩み寄る。

 

小三郎「ごめんね?喜三太、しんべえ?」

喜三太「へ?」

しんべえ「その声って……小三郎⁉︎」

 

声をいつものトーンに戻すとやっとしんべえと喜三太は姫君の正体が小三郎だとわかった。小三郎はもう関所は越したので女物の着物を脱ぎ、普段着になり、髷を直す。いつもの姿に戻った。

 

喜三太「小三郎!」

しんべえ「う、うわぁぁぁん……!怖かったよぉ〜!!」

 

小三郎「ち、ちょっ……は、鼻水!鼻水垂れてるから!」

 

緊張の糸が解れ、喜三太としんべえは泣き出してしまった。

 

 

 

それから四人である所、っという場所に着き、無事に密書を届け終えた。立花仙蔵は小三郎に感謝を述べた。厳禁トリオが初めて成すべきことが成せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

 

きり丸「サブちゃん!姫様になって!」

伊助「僕たちも食満子姫見てみたい!」

 

小三郎「嫌だよ!恥ずかしかったんだから!!こっちに来ないでぇ!!」

 

留三郎「減るもんじゃないし、してやれよ。俺も見てみたい!」

 

小三郎「兄者までぇ!」

 

女装見たさに小三郎を追いかけ回すは組と留三郎の姿があった。



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小三郎の歌の段

今回は小三郎があの歌を歌います。春といえばあの歌ですよね?


春爛漫、ようやく長い冬が過ぎ忍術学園に春がやって来た。

 

小三郎「これはこっちで、胴着はもう着ないかな?よし!箪笥の整理完了!あとは火鉢を片付けてと…。」

 

小三郎は冬物を片付け、火鉢を水洗いして事務の小松田さんに返却した。そして忍たま長屋に戻る時ふと草はらを見ると、乱太郎、きり丸、しんべえが何やら気の抜けた表情で寝転んでいた。小三郎は何かを思いつき、三人の背後に回り込む。

 

乱太郎「春だね~?」

きり丸「だなぁ~?」

しんべえ「ね~?」

 

三人とも暖かくなり、眠そうな表情を浮かべている。

 

 

 

 

っと、その時!

 

 

 

 

 

 

ガサガサガサ!

 

小三郎「ばぁぁ!!」

らんきりしん「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

背後の茂みから突如小三郎が現れ、大声を上げた。途端に乱太郎達は猫の如くジャンプをした後ひっくり返った。

 

乱太郎「こ、小三郎ぉぉ……。」

きり丸「脅かすなよぉ~。」

しんべえ「び、びっくりしたぁ……はぁ、はぁ…。」

 

小三郎「あっははは♪ごめんね?あんまりだらーっとしてたから喝を入れたんだけど?」

乱太郎「お陰様で目が覚めました!」

 

それからは小三郎もしんべえの隣に寝そべる。

 

小三郎「でも暖かいね?春爛漫。」

しんべえ「春肉まん⁉︎美味しいそう!」

 

乱太郎&きり丸「だぁぁぁぁ!」

しんべえ「えへへ〜〜♪」

小三郎「春一番のボケありがとう。しんべえ。」

乱太郎&きり丸「ツッコミ冷た!」

 

しんべえのボケにひっくり返えり、小三郎の冷たいツッコミに反応する。

 

 

しばらく他愛もない話をしていると小三郎の鼻の先に何かが触れた。

 

小三郎「ん?………桜の花びら?」

 

手に取るとそれは薄桃色の桜の花びらだった。

 

乱太郎「もう四月だからね?日当たりの良い場所は咲いてるかもね?」

しんべえ「はぁ〜。お団子食べたい!」

きり丸「満開の銭〜!アヒャヒャヒャ!」

小三郎「花より団子、花より銭って感じ?」

乱太郎「そ、そんな変なふうにかけなくても…。」

 

乱太郎が苦笑いを浮かべると、小三郎は立ち上がった。

 

小三郎「歌っても良いかな?」

乱太郎「あっ!是非歌って!」

しんべえ「小三郎歌上手だもんね!」

 

きり丸「ちょ〜っと待ったぁ!」

 

二人が賛同する中、きり丸がストップをかけた。

 

小三郎「……何か銭儲け思いついたの?」

きり丸「正解!」

乱太郎&しんべえ「だぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

用具倉庫、現在、用具委員会の先輩方が何かを修復中。

 

留三郎「守一郎。そっち持っててくれ。」

守一郎「はい。」

作兵衛「留三郎委員長。釘追加持って来ました!」

留三郎「俺の側に置いてくれ。」

 

テキパキと作業する中、三人の耳に何かが聞こえて来た。

 

小三郎「皆さん一緒に夢咲かせましょ〜♪ 皆さん一緒に花咲かせましょ〜♬」

 

留三郎「お?」

守一郎「この歌声は……。」

作兵衛「留三郎先輩の弟、小三郎の歌声ですね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴシゴシゴシ、サッサッサ。

 

一方で生物委員会、ただいま飼育小屋の掃除中。

 

八左ヱ門「ふぅ。こんなもんか。よし!みんな!お疲れ様!」

一平「はい!お疲れ様でした!」

孫次郎「お疲れ様さまで〜す……。」

三治郎「はぁ〜!やっと終わりましたね?孫兵先輩。虎若。」

孫兵「あぁ。」

虎若「これでやっと遊べる!」

 

掃除が終わり、みんなが飼育小屋から出る。その時、伊賀崎孫兵のペット、マムシのジュンコが首から滑り降り何処かへ行く。

 

孫兵「ん?お〜い!ジュンコ!待って!どこに行くんだ?」

 

孫兵が慌てて追いかける中、孫次郎が何かを聞き取った。

 

小三郎「チョイトお花見気分で♬イナセに決めたところで♪世の中はチャッカリシッカリ 花より団子♫」

 

孫次郎「あれ?何か聞こえない?」

三治郎「へ?……あっ。虎若この歌声って!」

虎若「うん!小三郎が歌っているんだ!」

一平「ちょうどジュンコが行った先だね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園長「ふぅ〜。暖かいのぉ。」

ヘムヘム「ヘム?ヘムヘムゥ!」

 

学園長とヘムヘムがお茶飲みまったりしていると突如ヘムヘムが何かを感じ取った。

 

学園長「なんじゃ?ヘムヘム。ん?」

 

小三郎「チョイト移り気な恋は 春爛漫の花には〜♫どんな娘もウットリシットリ あばたもえくぼ〜♩」

 

 

聞こえて来たのは小三郎の歌声。意外と上手な歌声に学園長も思わず耳を傾ける、そして立ち上がった。

 

学園長「聞きに行くか!ヘムヘム。」

ヘムヘム「ヘムヘムゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「ア~♩ 義理と人情に ほだされて泣かされても〜♪愛を一途に〜♬ ただ信じる花であれ〜♬……あれ?」

 

 

乱太郎「どうしたの?あっ。」

 

小三郎が急に止めたので乱太郎が聞くがその理由は直ぐにわかった。

 

 

喜三太「ちょっとぉ。急に止めないでよ?」

金吾「続けて!」

団蔵「やっぱり上手だね〜?」

 

見るといつの間にか小三郎を生徒、教師陣が囲んでいた。よく見るときり丸がすでに弁当とキャラメルを売っている。

 

小三郎「な、なんか大事になっちゃった。」

乱太郎「良いじゃない?歌えば?」

 

乱太郎に笑顔で言われ、小三郎も笑顔になり、息を吸う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「桜咲いて春が来ました〜♬喜び咲かせます〜♫いつか風に散ってゆきます♪ だから生きるのです〜♫」

 

 

 

 

 

 

小三郎が再び歌い出すと、何処からか再び桜の花びらが飛んで来た。

 

兵太夫「いよっ!小三郎!」

庄左ヱ門「一年は組一できる子!」

伊助「ピュイーーー!(指笛)」

 

 

 

 

 

 

小三郎「花吹雪キラキラ♪ 儚くてキラキラ♫人の世もキラキラ♬ せつなくてキラキラ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチパチパチパチ!ピュイーーー!ピュイーーー!

 

 

小三郎が歌い終わると見に来た全員から拍手喝采が送られた。

 

 

 

小三郎「ありがとう!どうもありがとう〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客に手を振りお礼を述べる。少し後ろの方では山田先生と土井先生が顔を合わせ苦笑い。

 

土井先生「小三郎…あいつは忍者より歌い手の方が向いているんじゃないか?」

山田先生「才能が沢山ありますな?」

 



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小三郎は魔人?の段

ドクたま初登場!


春のよく晴れた日、小三郎は乱太郎、団蔵、しんべえと一緒に街から食堂のおばちゃんに変わって食材を運んどいる最中。ちなみにきり丸はバイト中。

 

しんべえ「今日の夕飯はカレー♪」

小三郎「よくわかるね?」

団蔵「しんべえは食材を見れば大体なんの料理か分かるからね?」

乱太郎「ある意味才能だよね?」

 

乱太郎、団蔵が前、小三郎としんべえが後ろから後押しをして会話をする。その時、前方から聞きなれない声がして来た。

 

????「おーい!忍たま!」

乱太郎「ん?」

????「な〜に楽しく話してんの?」

団蔵「あ!ドクたまの。」

乱太郎「しぶ鬼、いぶ鬼、ふぶ鬼、やまぶ鬼!久しぶり〜。」

 

小三郎「……しんべえ。あいつらは誰?」

しんべえ「へ?あっ、そっか。小三郎は初めて会うんだったね?ドクたまって言ってドクタケ忍者のたまご。」

 

小三郎「ドクタケ忍者って兄者から聞いたあの悪名高い……。」

 

ドクタケ忍者と聞き小三郎は怪訝な表情を浮かべた。それを見てしんべえは直ぐに訂正を入れた。

 

しんべえ「あぁ!友達だから!」

小三郎「なんだぁ〜。敵かと思っちゃった。」

 

小三郎が前に出ると、しぶ鬼達は一斉に注目した。

 

しぶ鬼「あれ?誰そいつ?」

いぶ鬼「は組にそんな子いたっけ?」

 

小三郎「初めまして、ドクたまの皆さん。一年は組に編入した食満小三郎と申します。どうぞ、よしなに。」

 

ふぶ鬼「あっ。これはご丁寧に、僕はふぶ鬼。」

やまぶ鬼「私達はドクたま。私はやまぶ鬼。よろしく。」

いぶ鬼「僕はいぶ鬼。」

しぶ鬼「そして僕はしぶ鬼……って違〜う!」

 

小三郎の丁寧な挨拶にドクたま一同が頭を下げながら挨拶を返す。しかし途中でしぶ鬼が声を張り上げた。

 

しぶ鬼「今日は友達として来たわけじゃないんだ!」

いぶ鬼「おっとそうだった。」

ふぶ鬼「授業の一環で。」

やまぶ鬼「忍たまの荷物をなんでもいいから奪うことになったの!」

 

乱太郎&団蔵&しんべえ「えぇ〜〜〜〜〜〜〜⁉︎」

小三郎「!」

 

ドクたま達の言葉に乱太郎達は声を上げる。しかし小三郎は直ぐに顔つきが変わりそして、しぶ鬼達が手裏剣を出すと同時に、なんと袖口から小刀が出て来た。

 

しぶ鬼「えぇっ。刀⁉︎」

いぶ鬼「ちょっ…どこに隠してたの⁉︎」

 

予想外な事に忍たまのしかもは組の一人が普段着の中から刀を出した事にたじろぐ。乱太郎達が前に出た。

 

乱太郎「ふふん。ドクたま達!」

団蔵「聞いて驚け!見て慄け!彼こそ一年生中、最強!は組一できる子!」

しんべえ「用具委員会委員長、食満留三郎先輩の実の弟!」

 

 

 

ジャジャジャジャ〜〜〜〜〜〜ン!!

 

 

乱太郎&団蔵&しんべえ「食満小三郎だぁ!!!」

 

パパ〜〜〜ン!!

 

小三郎「それ恥ずかしいからやめてってば!しかも最強って付け足されてるし!」

 

 

 

 

 

 

恥ずかしがる小三郎に対し、ドクたま達は後ずさる。

 

 

しぶ鬼「ま、マジかよ……⁉︎」

いぶ鬼「か、彼が噂の……忍術学園の魔人……っ!!」

小三郎「ま、魔人?」

ふぶ鬼「ある時は一人の侍の尻に風穴を開け…ある時は六年生を罵倒させ……。」

小三郎「はぁ⁉︎」

やまぶ鬼「またある時は…山賊を素手で真っ二つにした……ひっ!!」

 

 

小三郎「ちょ、待って待って!!絶対噂が180度曲がってる!!」

 

 

後ずさるドクたまに小三郎は絶対違うと訂正するが、乱太郎達は苦笑いを浮かべた。

 

乱太郎「でも間違ってなくない?確かに尻に風穴開けたし……。」

団蔵「潮江先輩を罵倒したし。」

しんべえ「山賊をやっつけたし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しぶ鬼「こ、怖くなんかないぞ!」

 

後ずさるドクたま達だがリーダーであるしぶ鬼は小三郎にジリジリと、それでもガタガタ震えながら寄って来た。

 

小三郎「ふ、震えているけど?」

しぶ鬼「む、武者震いだぁい!!騙されないぞ!忍術学園の魔人だろうが、は組一できる子だろうが!は組にいる以上お約束があるさ!!えい!」

 

しぶ鬼は小三郎目掛けて手裏剣を投げて来た。それを見た乱太郎のメガネがキランっ!と輝いた。

 

乱太郎「甘いね!しぶ鬼!小三郎は別名!」

団蔵「は組の「お約束ブレイク」と呼ばれている!故に!」

しんべえ「お約束は通じない!」

 

小三郎「……見えた!おんどりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

カキ〜〜〜ン!チャリチャリン。

 

 

小三郎は手裏剣の軌道をよく見てから、小刀を振る。切っ先が見事手裏剣の真ん中を捉え叩き落とした。

 

しぶ鬼「うっそぉぉ⁉︎」

 

あまりにも度がすぎるお約束ブレイクにしぶ鬼が声を上げた。小三郎はしぶ鬼の手裏剣を拾う。その瞬間。

 

しぶ鬼「ご、ごめんなさい!見逃す!見逃すから手裏剣投げないでぇ!!」

 

しぶ鬼が取り乱した。恐らく手裏剣を投げ返されると思ったのだろう。

 

小三郎「え?いや、返すだけ…。」

 

いぶ鬼「やめてぇ!!投げ返さないで!!」

やまぶ鬼「まだ私たち手裏剣の受け止め方習ってないのよ!」

 

小三郎「いや、だから返すだけ……あぁ!もう!ドクたま静かに!!」

 

ドクたま一同「は、はいぃ!!」

 

小三郎がしびれを切らし、大きな声を上げ制止を呼びかける。ドクたま一同は速やかに静かになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから小三郎は説明した。自分は手裏剣を返すだけ、そして自分はそんなに凄いやつでも恐ろしい奴でもないと。

 

しぶ鬼「な、なんだぁ。噂の一人歩きかぁ。」

いぶ鬼「あぁ〜。慌てて損した。」

 

胸を撫で下ろすドクたま達に小三郎はふぅ。っと一息ついた。

 

しぶ鬼「なんだか……無駄に疲れたぁ。」

ふぶ鬼「もう荷物を奪うって空気じゃなくなっちゃったし。」

やまぶ鬼「……出直しましょうか?」

 

しぶ鬼達、ドクたまは出直すことにし、その場から去っていく。

 

しぶ鬼「食満小三郎!」

小三郎「なに?しぶ鬼。」

 

 

しぶ鬼に呼ばれて小三郎は振り返る。

 

 

 

しぶ鬼「この借り、絶対返すからなぁ!」

 



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お手伝いでプッツンの段

小三郎をブチ切れます。


とある放課後、中庭で生物委員会委員長代理の竹谷八左ヱ門と小三郎が何かを作っていた。

 

トンテンカンテン、トンテンカンテン。

 

八左ヱ門「ふぅ。小三郎。少し休憩にしよう。」

小三郎「はい。」

 

 

 

乱太郎「竹谷先輩〜。小三郎〜。」

八左ヱ門「ん?乱太郎、きり丸、しんべえ。」

小三郎「やぁ。」

 

休憩に入ろうとした時、お馴染み乱太郎達が近寄って来た。

 

きり丸「何作ってんすか?」

八左ヱ門「これか?これはな、生物委員会で使う小屋だ。」

 

八左ヱ門が説明するとしんべえがなんとも言えない表情を浮かべる。

 

しんべえ「生物委員会で使う小屋…?」

 

しんべえは三治郎達が小屋にぎゅうぎゅう詰めになった生物委員会メンバーを想像した。

 

しんべえ「三治郎も虎若もかわいそう。こんな狭い小屋で会議だなんて…。」

 

小三郎「だぁぁぁぁ!」(ドテン!)

きり丸「おっ!小三郎が珍しくひっくり返った!」

小三郎「じょ、常識的に考えなよ!しんべえ!生物委員会で使う小屋なら飼う生き物の小屋でしょ!」

しんべえ「冗談だよぉ。おふざけおふざけ♪」

乱太郎「ところでなんで火薬委員会の小三郎が生物委員会の仕事を?」

 

小三郎「それがぁ……。」

 

 

 

 

火薬委員会はあまり仕事がないので小三郎は余った時間で他の委員会を手伝うことにした。そして偶然に生物委員会が小屋の製作をしていたので一緒に手伝うことにした。最初は全員で作業をやっていたのだが途中で伊賀崎孫兵のペットが逃げ出し、次に一平がトンカチで謝って指を打ち、それから孫次郎が角材に躓きノミをぶちまけ、三治郎に刺さりかけ、さらに虎若が釘に袴を引っ掛け、お尻から破けてえらいことになり、最終的に八左ヱ門先輩と自分だけになってしまったと説明する。

 

 

 

乱太郎「うわ〜。大変ですね?でも!小三郎は大丈夫です!」

きり丸「保証します!」

しんべえ「は組一できる子!一年生中最強ですから!」

小三郎「そ、そんなに僕は凄くないよ!」

乱太郎「またまたぁ。謙遜しちゃって〜。」

 

小三郎のやりとりに八左ヱ門はふっ笑う。

 

八左ヱ門「兵助が羨ましいよ。生物委員会はほとんどのメンバーが一年生だから。孫兵は自分のペットで忙しいし。」

小三郎「自分で良ければいつでも手伝いますよ!」

八左ヱ門「ハハッ!頼もしいな!兵助がお前をかなり頼りにしている理由がわかるよ。」

 

乱太郎「そっかぁ。生物委員会も火薬委員会も六年生がいないもんね?」

小三郎「タカ丸先輩は四年生だしね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トンテンカンテン、トンテンカンテン。

 

八左ヱ門「小三郎。そっち支えてくれ。」

小三郎「はい。」

 

乱太郎達と別れてから再び作業開始。しかし乱太郎達は気がついていた。いくら小三郎が手伝っているとは言え八左ヱ門はかなり疲れている様子。

 

乱太郎「竹谷先輩…やっぱり疲れているみたい。」

きり丸「一度三治郎あたりに言った方がいいんじゃないか?」

 

乱太郎達は足早には組の教室に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三治郎「竹谷先輩が疲れている?」

乱太郎「うん。」

三治郎「…そっかぁ。僕ももしかしたら疲れているんじゃないかな?って思っていたんだ。」

きり丸「なんだよそれ?分かっているなら考えてやれよぉ。」

三治郎「そうだけど…。」

 

そう言うと三治郎は手を組み目をキラキラさせる。

 

三治郎「責任感の強い竹谷先輩は僕達、生物委員には甘いし、小三郎はよく気をきかせてくれるしぃ。」

 

乱太郎「だからってこのままだと竹谷先輩いつか絶対倒れちゃうよ?」

しんべえ「小三郎だって火薬委員会なんだからいつでも手伝えるわけじゃないんだよ?」

 

乱太郎としんべえに言われ流石にまずいと思い三治郎は真剣に考える。

 

三治郎「ん〜。僕達が小三郎見たいになんでもテキパキ出来ればいんだけどぉ。」

 

乱太郎「とりあえず。生物委員会顧問の木下鉄丸先生にそうだんしたらどう?」

三治郎「木下鉄丸先生に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木下鉄丸先生。普段は青筋を立てた怖い顔の先生だが本当はとても生徒思いの優しい先生。三治郎と乱太郎達がことを告げる。

 

木下先生「ぬぁにぃ⁉︎竹谷八左ヱ門が疲れているぅ⁉︎しかも火薬委員会の小三郎が手伝っているぅ⁉︎」

三治郎「はい。」

木下先生「なんとかしなくちゃ…よし!この木下に任せなさい!」

三治郎「お願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トンテンカンテン、トンテンカンテン。

 

一方で八左ヱ門と小三郎はあと少しで完成までこぎ着けていた。

 

八左ヱ門「よし、小三郎。釘をあと数本残して、あとの道具を用具倉庫に返して来てくれ。」

小三郎「分かりました。」

 

小三郎はもう使わないであろう道具を集めて用具倉庫へ向かった。それと入れ違いに木下先生と三治郎と乱太郎達がやって来た。

 

木下先生「竹谷!」

八左ヱ門「あっ。木下先生。」

木下先生「ん?食満小三郎も一緒なのでは?」

八左ヱ門「小三郎なら今さっき、もう使わない道具を用具倉庫に返しに行かせました。」

木下先生「そうか!ここからの作業は、私に任せろ!」

八左ヱ門「えっ。でもあと少しで完成なんですよ?」

 

八左ヱ門が断るが木下先生はトンカチを奪うように取る。

 

木下先生「いいからいいから!生物委員会顧問として協力させてもらう!」

八左ヱ門「き、木下先生….!!」

 

八左ヱ門はありがたさで涙を浮かべた。木下先生は優しく肩に手を置いた。

 

木下先生「お前にはいつもいつも苦労をかけていた。少し休んでいろ。小三郎が戻って来たらもう手伝わなくていいと伝えてくれ。」

八左ヱ門「ありがとうごさいますぅ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八左ヱ門は近くの石に腰を下ろす。三治郎が歩み寄る。

 

八左ヱ門「三治郎!」

三治郎「ごめんなさい。竹谷先輩。いつもいつも頼ってばかりで……後で他の一年生にも行っておきます。」

八左ヱ門「いいっていいって!おかげで先生も手伝って下さることになったんだから……。」

 

八左ヱ門と三治郎は木下先生を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木下先生「よぉぉおし!作るぞぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシィィィイン!!!バキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木下先生「ぬわぁぁぁぁ⁉︎」

三治郎「ああっ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲劇は起きてしまった。木下先生が張り切りすぎて思いっきりトンカチで釘を打った途端、板に大きな亀裂が入り、そのまま崩れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八左ヱ門「あっ…あっ……アァァァァァッ⁉︎⁉︎」

木下先生「………すまん竹谷。気合いを入れ過ぎた。」

らんきりしん&三治郎&八左ヱ門「だぁぁぁぁ!」

木下先生「ぬわははははは………は?」

乱太郎「……ん?」

乱太郎達がすっ転び木下先生が誤魔化す様に笑う中、全員は何かを感じた。そして感じる方へ顔を向けた瞬間。その場にいた全員が凍りついた。

 

小三郎「あと少し……あと少しだったのに!!竹谷先輩と一緒に作った飼育小屋を一発で壊しちゃうなんて!!!」

 

そこには般若も鬼も凌駕する形相になった小三郎がわなわなと震えながらたっていた。

 

乱太郎「げ!」

きり丸「や、やべぇ!小三郎がプッツンしちゃった!」

三治郎「木下鉄丸先生!逃げてくださいぃぃ!!」

 

小三郎「逃がすかァァァァぁぁぁぁぁ!」

 

小三郎は懐から手裏剣を取り出すと辺り構わず投げまくる。

 

しんべえ「ヒェェェェエ⁉︎」

八左ヱ門「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

木下先生「ま、待て待て食満小三郎!決してわざとじゃな「勝負だぁぁぁぁぁ!」って問答無用⁉︎うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

そのまま木下先生は逃げていき、プッツンしちゃった小三郎は猛スピードで追いかけて行った。

 

乱太郎「はぁはぁ。竹谷先輩?大丈夫ですか?」

八左ヱ門「待て待て!なんて殺気放ってんだ⁉︎小三郎の奴!さっきまでの人懐こいのはどうした⁉︎」

しんべえ「小三郎は普段は優しくて真面目なんですけど、一度プッツンしちゃうと物凄く怖いんですよ!普段は正座でお説教ですけど……今回はやばいですよ…。」

きり丸「怒らせるとマズイタイプなんすよ!」

 

八左ヱ門「な、なるほど…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「まてぇぇぇ!腰抜けぇぇ!!!」

 

木下先生「こ、こんなに怖いやつだなんて、思いもしなかった!!!助けてくれぇぇ!!!」

 

木下鉄丸先生は途中で留三郎と山田先生、土井先生が小三郎を抑え込むまで追いかけ回された。



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嵐の海の段if

兵庫水軍登場!

25期が始まりましたね!


今日は社会見学の為、小三郎は自室で荷物の整理をしていた。行く場所は兵庫水軍の海。初めての場所。

 

そして集合時間になり、一年は組全員が門の前に集まった。

 

山田先生「それではこれより、社会見学に向かう!」

は組一同「は〜〜〜〜い!!」

 

 

全員が元気よく返事をしていざ、出発!!

 

小三郎「兵庫水軍かぁ……楽しみだなぁ!」

乱太郎「そっか。小三郎は兵庫水軍は初めてだったね?……ん?うわぁぁ…。」

小三郎「どうしたの、乱太…ってしんべえ!」

 

 

しんべえ「うへへ〜〜。」

 

そこには恍惚の表情をしているしんべえがよだれを垂らしながら歩いていた。

 

きり丸「よだれ!よだれ!」

小三郎「はい、手ぬぐい。」

しんべえ「ありがとう〜。」

 

小三郎が懐からから手拭いを取り出し、しんべえに渡す。

 

乱太郎「そんなに兵庫水軍の第三協栄丸さんの所でお魚食べるの楽しみなの?」

 

 

乱太郎達曰く、兵庫水軍に行くと必ずお魚バーベキューをするらしくしんべえはそれが楽しみで仕方ないようだ。

 

しんべえ「楽しみ〜〜!」

きり丸「今度は鼻水!」

小三郎「はい、トイレットペーパー。」

しんべえ「ありがとう、小三郎。毎回ごめんね〜?」

 

小三郎は今度は懐からなんとトイレットペーパーを取り出し渡した。

 

乱太郎「毎回思うけど、その懐の中どうなっているのさぁ?」

団蔵「あっ。それ僕も気になる!」

虎若「僕も!」

 

乱太郎達は小三郎の懐の中を覗き見るが、小三郎はさっと身を翻し隠した。

 

乱太郎「なんで隠すのさ!」

小三郎「乱太郎のエッチ!」

団蔵&虎若「どっ!……エッチって……。」

 

小三郎がおちゃらけではぐらかし、団蔵と虎若がこけかける。

 

伊助「でもしんべえじゃないけど、お魚バーベキュー楽しみだね?」

庄左ヱ門「そうだね?」

 

それからは全員でお魚コールをする。

 

は組一同「お〜さかな〜♫お〜さかな〜♪バ〜ァベ〜キュ〜♪」

 

小三郎「魚魚魚〜〜♫さかな〜を〜たべ〜ると〜♫頭頭頭〜♪あたま〜が〜よく〜なる〜♩」

 

金吾「ちょっ…。」

喜三太「古いよ〜、小三郎〜。」

兵太夫「でもぴったりじゃない?」

 

小三郎が懐かしい曲を歌うと金吾と喜三太が古いと言ってきたがまさにぴったりなのでみんなが歌い出した。

 

は組一同「さ〜さぁ〜♫み〜ん〜なで〜さかな〜をーたべ〜よぉ〜♫さかな〜が〜ぼく〜らを〜♩待って〜いるぅ〜〜♪」

 

全員が歌い中、土井先生は何やら山田先生とヒソヒソ話をする。

 

山田先生「スト〜〜プ!」

庄左ヱ門「どうかしましたか?山田先生。」

山田先生「私たちは楽しい遠足ではなく!社会見学!すなわち兵庫水軍の事を勉強しに行くの出会って!美味しいお魚を食べに行くわけじゃない!くれぐれも誤解しないように!」

 

ごもっともな注意に小三郎は理解するが、後のは組はぽかんとしており、しんべえなど顔から涙と鼻水とよだれを垂らしている。そしてお魚バーベキューなどないと言われ、泣き出してしまった。

 

しんべえ「そんなぁぁぁ……うわぁぁぁん!」

乱太郎「しんべえ!鼻水!」

きり丸「よだれよだれ!」

 

乱太郎ときり丸がなだめる中、小三郎が再び懐に手を入れた。それを見た先生を含む全員が注目する。

 

小三郎「対しんべえが泣いちゃった時用の……デカデカ手拭い!!」

 

全員「で、デカっ!!!」

 

小三郎が取り出したのはしんべえくらいなら楽に包めそうなでかい手拭い。それでしんべえの顔を包んだ後、勢い良く引っ張ると……。

 

しんべえ「復活!」

小三郎「ふぅ。」

 

はい、もとどおり!

 

乱太郎「て、手際がいいね?」

きり丸「お前は手品師か⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田先生「兵庫水軍の海に到着!」

 

浜辺、波の音が心地よく、カモメが歌う、綺麗な海に着いた。

 

小三郎「ここが兵庫水軍の海…!」

乱太郎「そうだよ。あっ!あそこに総大将の第三協栄丸さんが……。」

は組一同「うえっ⁉︎」

 

乱太郎に言われて小三郎とは組全員が指差した方を見る。そこには……。

 

 

 

 

 

 

 

協栄丸「みなさ〜ん。お待ちしておりました〜〜ん。」

 

は組一同「ギョエ〜〜〜〜!!!」

 

そこには浦島太郎に出てきそうな乙姫様に扮した兵庫水軍大将、第三協栄丸がニコニコ顔でいた。しかし余りの君悪さに全員、小三郎も含め悲鳴をあげた。しかしよく見るとそれは変装ではなく、旅行先などにある撮影プレート見たいなものだった。

 

山田先生「だ、第三協栄丸さん!なんですかそれは!」

協栄丸「いや〜。来てくれたみんなに遊んでもらおうと思って〜。ほら、お魚バーベキューも用意しました。」

 

お魚バーベキューがあると聞き、しんべえが鼻水とよだれと涙を流し喜ぶ。小三郎はそれをすでに見越していたので再び手拭いを取り出し拭いてあげる。

 

土井先生「困ります!我々は楽しい遠足に来たのではありません!社会見学をしに来たんです!」

協栄丸「えぇ〜。じゃあこのお魚バーベキューは?」

土井先生「中止です!」

 

しんべえ「そんなぁぁぁ!ウググッ⁉︎」

 

再び泣き出してそうになったしんべえの顔面に手拭いを当てた。

 

小三郎「はい、チーンして。」

しんべえ「チーン!!!ありがとう。」

小三郎「どういたしまして。」

 

 

は組一同「だぁぁぁぁ!!」

 

小三郎としんべえのやりとりにコケた。

 

乱太郎「一体何枚手拭いもっているのさぁ!」

 

乱太郎が突っ込む中、協栄丸はある事に気がついた。

 

協栄丸「あれ?山田先生。は組の良い子達の数が……庄左ヱ門、伊助、団蔵、虎若、兵太夫、三治郎、喜三太、金吾、そして、乱太郎にきり丸にしんべえ……この子は?」

 

協栄丸は小三郎を見る、目が合い小三郎も頭を下げる。

 

山田先生「彼はは組に新しく加わった編入生で、食満小三郎と言うものです。」

小三郎「初めまして、第三協栄丸さん。一年は組に編入生しました、食満小三郎と申します。今日は社会見学に参りました。ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」

 

協栄丸「は⁉︎」

は組一同「おぉぉぉ!」(パチパチ)

 

小三郎のお約束、綺麗で丁寧過ぎる挨拶に協栄丸は度肝を抜かれた顔をし、他のは組が手を叩いた。

 

協栄丸(や、山田先生。小三郎くんだけもの凄〜く優等生に見えるんですけど。)

山田先生(実際そうですよ。我らは組の期待の星ですから。)

 

ひそひそ話を終え、協栄丸は小三郎を見る。

 

協栄丸「丁寧な挨拶ありがとね。でもそんなに固くなくていいぞ?俺たちかな〜り柔らかいから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして社会見学が始まった。

 

 

協栄丸「では山田先生、土井先生。我々は何をすれば?」

山田先生「いやぁ〜いつも通り、普段どおりで結構ですよ?」

協栄丸「普段どおりだってよぉ〜!」

船員「「へい!」」

 

 

まずは荷物の積み入れ、次に道具の壊れていないかの点検、帆の点検、進むべき場所、危険な海路を海図で確かめ、船に破損個所がないかの点検を見学した。小三郎は全ての要所できちんとメモを取っていく。

 

小三郎「やはり大きい船は点検も大変ですね?」

協栄丸「まぁな?でも我々は「船中の四攻」で役割を分担しているからスムーズに行うからそこまででもないぞ?」

小三郎「船中の四攻?」

協栄丸「そう!船頭、舵取り、山立、手引きを船中の四攻と呼ぶんだ。あそこで戻しそうになっているのは舵取りのかげろうは腕は優秀だが陸酔いが酷くて。」

小三郎「お、陸酔い?船酔いじゃなくて?」

協栄丸「そう。海上は大丈夫だけど陸に上がると毎回なっちゃうんだ。おっと、まだ説明が残っていたな?」

 

話が逸れたが再び説明に戻る。

 

協栄丸「あそこにいるのが、四攻の中で一番偉い、船頭の由良四郎。陸酔いもしないぞ!そして、潮の流れや、危険な暗礁などを見定め、舵取りに伝える、山立の鬼蜘蛛丸、でもほら。やっぱり陸酔いしちゃうんだ。」

小三郎「あらら。」

協栄丸「そして、あれが船の帆を扱う。手引きの疾風。以上だ。」

 

小三郎「なるほどなるほど。良くわかりました!」

 

小三郎はささっとメモを書き進める。

 

山田先生「ほらほら、みんなも小三郎を見習え!」

土井先生「明後日までには見学結果を提出してもらうぞ!」

 

は組一同「ヒェェェェエ!」

 

全員が一斉に筆を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り書き終えると団蔵が船頭の由良四郎に声をかけた。

 

団蔵「由良四郎さ〜ん!今日は船を出さないんですか?」

由良四郎「今日は天候が悪いので船は出せませ〜〜ん!」

三治郎「天候が悪いって、こんなに晴れているじゃありませんか?」

 

三治郎の声に小三郎は沖の方を見てみる。そこには何やら嫌〜〜な黒雲が迫って来ている。

 

小三郎「みんなあれ見て。なんだか嫌〜〜な雲。」

兵太夫「あー!ほんとだ!」

伊助「一雨来そうだね?」

 

由良四郎「小三郎くんの言う通り、怪しい雲が出ていますから時期に悪くなります!」

 

船が出せないと聞きみんなが残念がる。しかし、土井先生がちょっとだけでも出せないかと言われ、ちょっとだけ出航となった。小三郎は懐の中を確認した。

 

小三郎「まぁ……何とかなるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由良四郎「では!ちょっとだけ!出航!」

 

浜辺を出て船は沖へと出る。鬼蜘蛛丸とかげろうはすっかり陸酔いが治り、たくましい海の男に戻った。みんな真剣でかっこいい。そんな中、小三郎は由良四郎と話したのちいそいそと何かを準備中。

庄左ヱ門「それにしても……大将の第三協栄丸さんは相変わらず船酔い治らないんだね?」

伊助「まぁ。らしいけどね?」

 

そんな中、空には暗雲が立ち込め始めた。

 

鬼蜘蛛丸「やっぱり。嵐が来ます。」

由良四郎「やはりそうか。一年は組のみなさ〜〜ん!天候が怪しくなって来ましたので、気をつけてください!」

 

小三郎「みんな〜!こっちに来て!」

 

乱太郎「へ?小三郎?」

きり丸「何してんだ?」

 

小三郎に呼ばれて側によると、帆を張る柱に何やら縄が巻かれている。その縄の端を一人一人に手渡した。

 

庄左ヱ門「なぁに?これ?」

小三郎「波が荒れて海に投げ出されるといけないから命綱!腰に結んでね?」

伊助「まさかこの縄も自前?」

小三郎「もちろん!」

きり丸「一体どんだけ用意してんだ!」

小三郎「こんだけ〜♫(ニコッ)」

きり丸「普通に言うな!」

 

 

 

 

 

 

船は帆をたたみ、いよいよ空が暗くなってきた。は組のみんなは小三郎が用意した縄を腰に縛った。雷が鳴り、風が吹き出し、波も荒れだす。

 

は組一同「うわぁぁぁぁ!!」

 

みんなは揺れる船にふらつく。

 

 

由良四郎「これしきの嵐の海!」

かげろう「我ら兵庫水軍!」

鬼蜘蛛丸&疾風「難なく乗り切って見せよう!」

 

 

「「いざ!」」

 

 

しかし流石は兵庫水軍。海の男たち。荒波にも動じず、船中の四攻の役割も含め、テキパキと働き、荒れる海を渡っていく。

 

 

は組一同「うわぁぁぁぁ〜〜!!………うわぁぁぁぁ〜〜!!!」

 

揺れる船に全員があちこちに滑り、ふらつくが小三郎の縄のおかげで投げ出されはしない。しかし何処かのアトラクション見たく振り回されてもいる。

 

土井先生「流石は海の男たち!」

山田先生「実にたくましい!みんな!よく見ておくように!!!」

 

は組一同「は、はぁぁい!!」

 

 

振り回されながらも小三郎はしっかりと兵庫水軍の働き、動きを観察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして見事に嵐を乗り切り、浜に戻って来た。みんな船酔いでヘトヘトになっていたが小三郎だけは木箱の上に紙をしき、見学結果を書き記している。

 

乱太郎「もう……サブちゃんは真面目なんだから〜……。」

きり丸「いや……そうでもなさそうだぞ?」

 

小三郎が立ち上がろうとした時、ふら〜っとなりそのまま伏した。

 

小三郎「ダメだ…気づかないようにして頑張っていたけど…まだ揺れてる……うぇ〜。」

 

金吾「ふ、船酔いしているのに……それを勘違いだと自分に言い聞かせて書いていたのか…!」

三治郎「小三郎〜。休みなって!」

 

 

 

 

 

 

みんなが浜辺で休む。その様子を兵庫水軍と先生方が見る。

 

協栄丸「みんな大丈夫かな?」

山田先生「少し休めば大丈夫ですよ!それに……まぁ、飴も必要でしょう。ですよね?土井先生?」

土井先生「そうですね?お〜いみんな!よく頑張ったご褒美に……お魚バーベキューをやるぞぉ!!」

 

 

 

は組一同「やったぁぁぁぁ!!!」

 

お魚バーベキューと聞き、全員の顔色が一気に良くなり、飛び跳ねて喜んだ。無論、小三郎も。



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油断すると…の段

嵐の海の段の続きです。

真面目小三郎が出ます。


兵庫水軍の社会見学が終わり、いよいよお待ちかね!お魚バーベキューが始まることになった。しかし、みんなが楽しみにしている中、船頭の由良四郎が血相を変えて飛んで来た。

 

由良四郎「お頭大変です!」

協栄丸「どうした?由良四郎。」

由良四郎「それが、どうやらさっきの嵐で発生した高波がここまで来たらしく、お魚バーベキュー用のお魚が籠ごと流されてしまったようで。」

協栄丸&は組一同「えぇぇぇぇぇ!!!???」

 

鬼蜘蛛丸「うっぷ……う、迂闊でした……まさか波がここまで……ウプッ!」

疾風「陸酔い治るまで喋るな!」

 

鬼蜘蛛丸が青白い顔で口元を抑え、すまなそうに謝る。

 

しんべえ「そ、そんなぁぁぁ…!」

乱太郎「あぁ!しんべえ泣かないで!」

きり丸「サブちゃ〜〜ん!サブちゃん出番だよ〜!!」

小三郎「はい。涙とよだれと鼻水拭いて!」

しんべえ「あ、ありがとう……。」

 

再び小三郎が懐から手拭いとトイレットペーパーを取り出し、しんべえが受け取る。しかしみんな、小三郎も含めてとてもがっかりしている。

 

庄左ヱ門「まぁまぁ。みんな!なくなっちゃったのはお魚だけだからさぁ。みんなでお魚獲ればいいんじゃない?」

 

は組一同「え?」

 

庄左ヱ門の言葉にみんなが首をかしげた。

 

土井先生「庄左ヱ門の言う通りだ。忍者たる者、嘆いてばかりはダメだぞ?」

山田先生「それに食料調達は今の世に置いてもっとも優先される事でもある!よし、それじゃあ!特別野外授業!なんでもいいから食料を探す事!」

 

は組一同「えぇぇぇぇぇ⁉︎」

乱太郎「なんか授業になっちゃった!」

しんべえ「お魚バーベキューがぁ!」

きり丸「タダ働き!」

 

全員が文句を垂れる中小三郎が前に出た。

 

小三郎「でも山田先生の言葉は間違ってないよ。それにお魚バーベキューが中止とは言ってないじゃない。頑張ろうよ。そうだ!兵庫水軍の方じゃなくて僕が料理してあげるよ!」

 

団蔵「えっ⁉︎」

虎若「マジで⁉︎」

伊助「そりゃいいよ!小三郎味付け抜群だから!」

 

みんなが一気にやる気になった。その時、協栄丸達、兵庫水軍の方も集まって来た。

 

協栄丸「獲るのはいいけど俺たちも同行するぞ?」

由良四郎「海は美味しいものもたくさんありますが、同時に危険な生き物もたくさんいますから!」

 

土井先生「それじゃあ、各チームに分かれて、チーム一つに兵庫水軍の方一名と言う方で。散策開始!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1チーム、庄左ヱ門、伊助、団蔵、疾風。

第2チーム、虎若、三治郎、兵太夫、鬼蜘蛛丸。

第3チーム、金吾、喜三太、小三郎、由良四郎。

第4チーム、乱太郎、きり丸、しんべえ、協栄丸。

 

と言う振り分けになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1チームは波が少しある岩場に竿と餌を持ってやって来た。

 

疾風「ここならたくさんの魚がいるはずだ。」

 

疾風の言葉に水面を覗くと、そこには沢山の魚影がある。

 

伊助「うわぁぁ!一杯いる!」

団蔵「これなら入れ食いじゃない?」

庄左ヱ門「じゃあ、早速取り掛かろうか?」

 

庄左ヱ門達は釣りの準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2チームは少し大きめの小舟で少し沖に出て、網の準備をしていた。本当は陸地で釣りでもやろうとしたが、鬼蜘蛛丸の陸酔いが悪化した為、海上で網漁を行うことにした。

 

鬼蜘蛛丸「そっち網絡まってないか?」

三治郎「大丈夫で〜す!」

兵太夫「こっちも大丈夫です。」

虎若「って言うか鬼蜘蛛丸さん。元気になりましたね?」

鬼蜘蛛丸「俺は海に出ればへっちゃらだからな!」

 

鬼蜘蛛丸が爽快に笑った後に網を海に投げ入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3チームは潮の引いた磯にやって来た。ちなみに何故に磯に来たかと言うと、由良四郎曰く、「もっとも確実に食料が手に入るから。」だからである。

 

由良四郎「ウニや尖った貝で怪我しないように気をつけて!稀にウミヘビとかもいるから!」

 

金吾&喜三太&小三郎「は〜い!」

 

三人は熊手と鑿を持ち、貝拾いを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4チームは第3チームのすぐ側の岩場で第1チームと同じく釣りの準備をしていた。違いと言ったら波が少し大きめ。

 

協栄丸「ちょっと波があるが、ほら!」

乱太郎「うわー!」

しんべえ「お魚が一杯!」

きり丸「お魚で…。」

 

きり丸が沢山の魚影を見て銭儲けと言おうとした時だった。

 

小三郎「銭儲けはいいけどちゃんとお魚釣ってよ〜!きり丸〜〜!」

 

きり丸「だぁぁぁぁ!」

 

乱太郎達が磯の方を見ると小三郎が手を振っていた。

 

きり丸「お前小三郎!俺以上の地獄耳だな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一刻。

 

庄左ヱ門「わぁ!また釣れた!」

伊助「こっちも!」

団蔵「こっちも釣れた!でもまた鯵だぁ!」

 

庄左ヱ門と伊助は入れ食い状態だが団蔵のみ何故か鯵ばかり釣れる。

 

疾風「鯵釣るの上手いなぁ!団蔵くん。」

団蔵「やめてくださいよぉ〜。人を鯵獲り名人みたいに……。」

庄左ヱ門「まぁまぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2チームは仕掛けた網を掛け声を言いながら引き揚げていた。

 

鬼蜘蛛丸「えいや!そらよ!」

虎若「どっこい!こらしょ!」

三治郎「オーエス!オーエス!」

兵太夫「さ、三治郎それ南蛮語?」

三治郎「少し前にカステーラさんから聞いたんだ。あっ!見えてきたよ!」

 

三治郎が指差すと、水底から網が上がってくる。大量では無いがいろんな魚が掛かっている。それを魚入れに入れてさぁ戻ろうとした時、鬼蜘蛛丸が何かを飲む。

 

兵太夫「鬼蜘蛛丸さん。何を飲んでいるんですか?

鬼蜘蛛丸「あ?陸酔い止め。」

虎若「だぁぁぁぁ!」

三治郎「お、陸酔い止めなんてあるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリカリ、ポロ、カリカリ、ポロ。

 

第3チームは次々に岩に張り付く貝やカメノテや食べられそうな海藻を取り籠に入れていく。だが……。

 

金吾「た、確かに確実に食料が手に入るけど…これは……。」

喜三太「地味すぎじゃない?小三郎、由良四郎さん。」

 

非っ常に地味、地味である。

 

由良四郎「そうか?一番安全だと思うが……。」

小三郎「そうだよ。金吾、喜三太。安全第一だよ?」

 

喜三太「あっ。久しぶりに真面目小三郎が出た。」

小三郎「僕はいつでも真面目だよ!まぁ、それは良しとして……金吾、喜三太!足下!!!」」

 

小三郎は素早く苦無を取り出し、金吾の右足元に投げた。

 

 

ジャキン!

 

 

金吾「うわぁぁぁぁ!」

喜三太「危ないじゃないか!!小三郎!」

小三郎「何言っているの?もうすぐ二人とも危なかったんだよ?」

喜三太「へ?」

 

訳がわからないと喜三太と金吾は足元を見る。そこには……。

 

金吾「ぎゃぁぁぁぁ!!ウミヘビィィ!!!」

喜三太「キャァァァァ!!」

 

そこには頭を苦無で刺され岩場に磔になった猛毒のウミヘビがいた。

 

由良四郎「やっぱりいたか!三人とも、噛まれていないか⁉︎」

小三郎「大丈夫、仕留めました!」

 

 

由良四郎はそれでも危ないと言い、持っていた刃物でウミヘビの頭を切り落とし海に捨てた。そして胴体は食べられるらしく籠に入れた。

 

金吾「あ、ありがとう小三郎…。」

喜三太「も、もし噛まれていたら……。」

小三郎「最悪死んでた。」

喜三太「ひぃぃぃ!!」

小三郎「いい?金吾、喜三太。忍者の食料調達は本来は地味であるものなんだよ?それにサバイバルで派手さを求めたり今みたいに油断したら次に待つは死だよ?」

 

小三郎の話に金吾と喜三太は青ざめる。現に先ほど死にかけたのだから。その様子を山田先生、土井先生が目を輝かせ見ていた。

 

山田先生「おぉ!素晴らしぞ!小三郎!」

土井先生「本当に…彼が来てくれて良かったですぅ!」

 

 

 

 

涙を流す土井先生の存在を知らずに小三郎はあれをご覧よと乱太郎達を指差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

金吾と喜三太が乱太郎達の方を見る。お約束のごとく坊主かと思われたが意外な事にかなり大量である。

 

協栄丸「入れ食いだぁ!」

乱太郎「よかったねしんべえ!これならお腹一杯になるよ!」

しんべえ「うわーい!」

きり丸「余ったら分けてくれますよね⁉︎アヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

きり丸の目が小瀬になっているのは置いといて、金吾と喜三太はある事に気がついたら。海面が上昇したのか乱太郎達の立つ岩のすぐ下まで海水が来ているのだ。協栄丸も気がついていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァァァァァァァァァァ!!!ザバァァァァアアン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

らんきりしん「うわぁぁぁぁ!!」

協栄丸「ぬおぉぉぉぉ!!!」

 

高い波がやって来てあっという間に四人を飲み込んでしまった。しかしすでに察していた土井先生、山田先生が救助にあたり事なき得た。

 

小三郎「ほ〜ら。油断した。で?魚釣りするの?」

金吾「………貝を……。」

喜三太「拾いますです……。」

 

 



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小三郎は料理上手の段

長らくお待たせしました。かなり駄作気味ですがお楽しみいただければ幸いです。


小三郎と金吾と喜三太は他のチームより早く浜辺に戻った。

 

小三郎「第3チーム!ただいま戻りました!」

山田先生「おかえり。成果は?」

喜三太「ほら!」

金吾「こんなにたくさん採れました!」

山田先生「おぉ!これはすごい!」

 

籠の中には大量の貝などが入ってるのを見て山田先生はびっくり!

 

それから由良四郎さんに大きめの鍋を貸してもらい、中に水を入れ火にかけ沸騰するまで待った。

 

小三郎「では!調理開始しまーす!」

金吾&喜三太「は〜い!」

 

三人とも何処から持って来たのか割烹着姿になっていた。

 

小三郎「先ずは沸騰した水に先ほど採れたこのワカメなどの海藻を入れます。そして蓋をして5.6分煮ます。」

 

鍋に入れ、待っていると庄左ヱ門達、第1チームが戻って来た。

 

庄左ヱ門「第1チーム、ただいま戻りました!」

小三郎「おかえり〜。おぉ!大量だね!……な、なんか鯵がやたら多いような…。」

庄左ヱ門「いやぁ、じつはね?」

 

庄左ヱ門が言うに自分と伊助は色んな魚が釣れていたんだけど、団蔵が何故か鯵ばかり釣り上げてしまったらしく鯵率が半端なくなってしまったらしい。団蔵がうなだれている。

 

小三郎「あらら。でも坊主よりはいいじゃない?団蔵も元気出して!それに鯵は魚の中で一番ハズレがないから。」

 

小三郎の励ましに団蔵も笑顔に戻った。そして鍋がグツグツ言い出す。

 

喜三太「小三郎〜。もういんじゃない?」

小三郎「さて中身は?開封!」

 

パカンと開けると、中の煮汁が茶色っぽく変身している。

 

金吾「あれ?なんか色変わったね?」

伊助「ちょっとこれ大丈夫なの?」

 

伊助が怪訝な表情を浮かべる。

 

小三郎「どういうこと?」

伊助「いやだから。汚れが取れたんじゃ…。」

小三郎「違うよ!これが旨味なの!」

団蔵「えぇっ⁉︎こんなに出るの?」

伊助「なんか凄いのが出来そう!なんか手伝う事ある?」

小三郎「じゃあ鯵をさばいてくれない?」

伊助「わかった!」

庄左ヱ門「僕も手伝うよ。」

 

魚をさばくのは伊助と庄左ヱ門と疾風さんにまかせ、小三郎は次の行程に移る。

 

小三郎「次に海藻を取り除いて……ここで!僕たちが拾った貝の出番!」

団蔵「うわっ!すげー!」

 

小三郎はそのまま鍋に全てぶち込む。しかし勢い余って汁が飛んだ。

 

金吾「あちっ!」

喜三太「アチャチャ!」

団蔵「あっつ!」

小三郎「あぁっ!ごめん!」

金吾「もう!気をつけてよ!」

 

幸いにやけどする事はなかった。それから一煮立ちしてから貝を鍋からあげる。鍋の中の煮汁は濃い茶色に変わっていた。

 

金吾「なんか美味しそう!」

喜三太「凄いね〜!元々水だよ?」

 

小三郎はそこに醤油と塩など少しづつ加え味を整える。そして小皿に入れ団蔵と金吾に味見をさせる。

 

小三郎「どう?」

団蔵「うわっは〜!すげぇ美味い!」

金吾「これは…凄いねぇ!小三郎!」

 

大好評を頂いていると兵太夫達、第2チームも戻って来た。

 

兵太夫「第2チーム、戻りましたぁ。」

三治郎「大量です!」

小三郎「おかえり〜。」

虎若「あっ。なんだかいい匂い!」

鬼蜘蛛丸「なんだなんだ?」

 

再び小三郎の周りに集まり鍋の中の出汁を見る。そして全員、味見をせがんだが……そんなに味見したらなくなっちゃう!っと拒否。

 

小三郎「後からもっと美味しくなるから。じゃあ、今伊助と庄左ヱ門が魚をさばいているから、兵太夫、三治郎はそっちを手伝って。金吾、喜三太、団蔵、虎若はさっき出汁取った貝の中身を出して。」

 

小三郎が指示を出すとそれぞれ魚班、貝班に分かれた。ちなみに兵太夫と三治郎を魚班にした理由は器用そうだから。

 

由良四郎「陸酔い止め、ちゃんと効いているみたいだな?」

鬼蜘蛛丸「はい!おかげであまり気持ち悪くありません。」

小三郎「お、陸酔い止め……。」

 

小三郎は苦笑いを浮かべながらみんなと貝の中身をほじくった。

 

金吾「いよっと!」

喜三太「ほいっと!」

 

金吾と喜三太は爪楊枝で器用に中身を取り出すが、団蔵、虎若はと言うと……。

 

団蔵「うぅ〜!あっ⁉︎」

虎若「グギギギ……だぁぁ!もう!」

 

ほじくる途中で爪楊枝を折るわ、貝の身を強引に引っ張り千切ってしまうわでてんやわんや。細かい作業は苦手らしい。

 

 

 

すると。

 

 

 

 

 

 

 

????「第4チーム……ただいま戻りました……。」

 

土井先生「遅かったな?乱太……って!なんだ⁉︎どうした⁉︎お前達!」

 

全員「ふ、船幽霊!!」

 

乱太郎達、第4チームが帰って来たが三人とも、協栄丸もずぶ濡れの海藻まみれになっており、さながら海女房か船幽霊みたいになってしまっていた。

 

小三郎(あっ……また波に攫われたんだ。)

 

小三郎が察した通り、一度は先生方に助けられたが再び波に攫われたと乱太郎が説明した。ちなみに成果は坊主。

 

きり丸「お魚がぁ!!ああん!」

しんべえ「波で攫われちゃったぁ!うわぁん!」

 

小三郎「まぁでも無事で何より……早く塩を落としておいでよ。しんべえもきり丸も元気だして。」

 

小三郎に言われ乱太郎達は近くの小川へと歩いて行った。

 

 

伊助「小三郎。魚捌き終わったよ?」

小三郎「じゃあ次はその身をすり鉢で擦って?」

伊助「す、するの?てっきりお刺身かと…。」

小三郎「一部はお刺身で、あとの切り身は団子にしたいんだ。」

伊助「へ?……あぁ!なるほど!すり身にして、団子にして!このお出汁に入れちゃおう!ってこと?」

小三郎「ご明察!」

三治郎「何それ!すっごく美味しそう!」

 

喜三太「さっすがサブちゃん!いいお嫁さんになれるよぉ!」

小三郎「だから!嫁じゃないよ!婿にしてよ!」

 

 

冗談を交えながら、団蔵と虎若がすり身を担当する事になった。流石はは組の力自慢。あっという間にすり身が出来ていく。

 

小三郎「流石だね!は組の力自慢!」

団蔵「いやぁ。」

虎若「それほどでもぉ。」

 

小三郎の褒め言葉に二人は照れながら笑う。そして小三郎、三治郎、兵太夫でそのすり身を丸くしていく。

 

三治郎「……なんだか黒古毛般蔵先生が作る忍者食みたい。」

兵太夫「あぁ。分かる。」

小三郎「黒焦げになったパンを象が食べる?」

三治郎「だぁぁぁぁ!」

兵太夫「違うよ!黒焦げのパンじゃなくて黒古毛般蔵先生!」

 

三治郎がずっこけ、兵太夫が説明する。忍者食を研究している人でたまに忍術学園の食堂のおばちゃんのピンチヒッターでもそうだ。しかしゲテモノばかりな上不味いらしい。

 

小三郎「でも忍者食研究家なんでしょ?食べても害はないんじゃ…?」

兵太夫「舌に害ありまくり…。」

三治郎「でも、このすり身団子は美味しそう!」

 

そして、すり身団子を作り終え、刺身も出来上がり、あとは団子を鍋に入れて火が通るのを待つだけ。

 

協栄丸「小三郎くん。料理上手なんだね?」

小三郎「家で家事手伝いをやってたら自然と身について。」

疾風「俺たちの料理なんかワンパターンだからなぁ〜。」

由良四郎「大きくなったら是非兵庫水軍に来てもらいたいな!」

小三郎「そうですね〜…考えておきます。」

 

小三郎がそう言った時だった。突如空間がバリッと破けて、留三郎が現れた!

 

留三郎「それは解せ〜〜ん!!」

喜三太「あっ!留三郎委員長!」

留三郎「小三郎は大きくなったら俺と一緒に……むががが!!」

伊作「留三郎!小説で空間破りはあんまりわからないから!!ごめん小三郎、ここ貼っといて?」

小三郎「はい、兄者を頼みます。伊作先輩。」

留三郎「ま、まて!行かないでくれぇ!俺の可愛い弟!」

小三郎「はいはい。修正修正。」

 

は組一同「冷た!」

 

 

 

そんな騒動の中、鍋も出来上がり、持ち帰り用の魚も用意し、ようやく乱太郎達が戻って来た。

 

乱太郎「あれ?伊作先輩の声がしたけど?」

小三郎「気のせい気のせい。さぁ。もう食べれるよ?しんべえも満足できるくらい沢山用意したからね?きり丸、持ち帰り用の魚も用意したから。」

 

しんべえ「ほんと⁉︎うわぁい!」

きり丸「サブちゃん!神様仏様、海神様!」

小三郎「お、オーバーな……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、お魚バーベキューならぬ、お魚パーティーが始まった。小三郎が作った鍋はとても好評で帰り際に協栄丸さんにレシピを渡した。

 

 

 

 

ちなみにその頃、忍術学園では……。

 

 

 

 

 

 

留三郎「小三郎ぉぉぉ!帰ってこ〜〜い!」

伊作「帰って来るから大丈夫だって!」



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忍者の三病の段

今回は食堂での話です。い組と伏木蔵と平太も出ます。


夏が来た。夜明けが早くなり、日も高くなり、それに伴い気温も上がる。当然教室では……。

 

土井先生「であるからして……。」

一同「ぐで~~。」

 

みんな机にぐでーっといった感じになっている。

 

土井先生「お前達!もっとシャキッとしろ!」

乱太郎「だって土井先生。」

きり丸「こうも暑くちゃ……。」

しんべえ「ぐでー…ジュブジュブ……。」

庄左ヱ門「溶けてる溶けてる!」

 

土井先生「まったく!小三郎を見習え!見ろ!あのシャキッとした姿を!」

 

土井先生の言葉に全員が小三郎を見る。流石はは組一出来る子。ダラッとせずにシャキッとしている……否、違う。

 

小三郎「土井先生。僕もみんなと同じです。」

土井先生「は?でもシャキッとしているじゃないか?」

小三郎「いいえ。これはシャキッとしながらぐでーっとしているんです…。」

 

土井先生&は組一同「だぁぁぁぁ!」

 

小三郎の訳の分からない言い回しに全員がすっ転んだ。

 

喜三太「小三郎大丈夫⁉︎」

金吾「あまりの暑さに頭がおかしくなっちゃったんじゃ……。」

小三郎「あはは。大丈夫大丈夫。なんとか…ね?」

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りをしながらも教科は終わり、お昼となり、みんな食堂へと向かう。

 

乱太郎「えっと今日のお昼ご飯はピリ辛野菜炒め定食と唐揚げ定食だったね?」

しんべえ「僕は唐揚げ定食!」

きり丸「俺も!」

 

ほぼ全員が唐揚げ定食を頼んでいる。しんべえ曰く、唐揚げ定食はかなり人気があり、あの優秀揃いのい組も真っ先に頼みに来るそうだ。

 

しんべえ「っと言う訳で唐揚げ定食がおすすめだよ?小三郎。」

小三郎「そうなんだ?じゃあ、ピリ辛野菜炒め定食下さい。大盛りで。」

おばちゃん「あら嬉しい!何時も野菜炒め定食売れ残っちゃうから。」

 

乱太郎「だぁぁぁぁ!」

団蔵「しんべえのおすすめに逆らった!しかも大盛り⁉︎こんな暑い日に!」

 

みんなが驚く中、小三郎は何食わぬ顔で席に着いた。その時、しんべえがブーイングを入れてきた。

 

しんべえ「ずるいよおばちゃん!小三郎だけ大盛りなんて!」

おばちゃん「だから書いておいたじゃない。」

しんべえ「へ?」

 

しんべえがメニュー表をよく見ると、野菜炒め定食の横の方に、野菜炒め大盛り可と書かれている。要するにしんべえ含め全員、人気のある唐揚げ定食ばかり目が行ってしまっていたのだ。

 

小三郎「あはは。忍者の三病。敵を侮るなならぬ。メニューを侮るな。な〜んてね!」

 

は組一同「忍者の三病?」

小三郎「へ?な、何?さっき授業でやってたのにもう忘れたの⁉︎」

 

兵太夫「いや〜。」

三治郎「お恥ずかしい〜。」

 

みんながうっかりっと言う感じで頭を掻く。小三郎はあちゃ〜っと言った感じて頭を抱える。こんな所を土井先生に見つかったら今度こそ血反吐を吐いて死んでしまう。そう思った時だった。

 

????「忍者の三病とは、恐怖を抱く、敵を侮る、あれこれと迷うの三つの心情の事だ。」

小三郎「兄者!それに伊作先輩!」

留三郎「よっ!」

伊作「まったくぅ。こればかりは基本中の基本!幾ら何でもひどいよ!乱太郎!それにみんなも!」

 

いつもは優しい善法寺伊作も流石に基本の事なので珍しく怒った。

 

 

伝七「まったくアホのは組は…。」

一平「でも、まさか野菜炒め定食大盛りOKだったなんて。」

彦四郎「メニューを侮っちゃったね?ハハハ…。」

佐吉「メニューもろくに見れないなんて。」

一平「でも佐吉。佐吉野菜炒め定食だけど、普通盛りだよ?」

佐吉「こ、これは…ふ、普通盛りで良かったんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「何を伝七も佐吉も言っているんだか……。」

伏木蔵「は組には負けたくないって躍起になっているんだよ…。」

小三郎「うおっ!びっくりしたぁ!!伏木蔵〜……驚かさないでよ!」

 

小三郎の席の横にはいつの間に来たのか、ろ組の伏木蔵と平太が座っていた。

 

伏木蔵「ごめんごめん。脅かすつもりはなかったんだぁ?ただ同じ野菜炒め定食だから一緒に食べようと思ってね?ね、平太。」

平太「うん……ほら僕も大盛り…。」

 

平太も小三郎と同じく大盛り。伏木蔵曰く、平太はビビリだけど結構食べる方で、さらにはビビる時のリアクションでかなりエネルギーを消費するらしい。

 

留三郎「おっ?なんだここは野菜炒め組か?俺もいいか?」

平太「あっ…僕の前にどうぞ…。」

 

 

留三郎が同じ席に座り、四人で食べ始める。野菜炒め定食はピリ辛でご飯が進む。

 

 

伏木蔵「意外ですね?留三郎先輩は肉食系だと思っていたんですけど?」

留三郎「ハハハっ。よく言われるんだよなぁ?ただこう暑い時こそ沢山食べないと持たなくてな?」

小三郎「だよね。暑い時は食欲がなくなりがちだけど、食べないとバテちゃうからね?」

平太「それ分かるよ……怪士丸なんかよくバテるよ…?」

小三郎「あ、怪士丸ってちゃんと食べてるの?妙に痩けてるけど。」

伏木蔵「大丈夫。怪士丸はあれが普通なんだから。でも小三郎はやっぱりイメージ通りだね?」

 

すると伏木蔵は徐に小三郎のほっぺを触った。

 

小三郎「な、何?どう言う事?」

伏木蔵「いやぁ〜。沢山食べるから肌もモチモチでツルツルでほんのり薔薇色なんだねって思って。」

小三郎「そ、そりゃどうも。」

 

小三郎が苦笑いを浮かべると、留三郎が笑い出す。

 

留三郎「ハハハッ!すっかりみんなと仲良しだなぁ!」

平太「小三郎はい組、ろ組、は組関係なく接しますから……。」

留三郎「小三郎らしいな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて食べ終えた小三郎はは組一同を見る。そして。

 

 

小三郎「みんな実技の授業が終わったら教室集合ね?僕がみっちり忍者の三病を叩き込んであげる。」

は組一同「えぇ〜〜〜〜〜〜⁉︎」

 

全員が嫌そうな声をあげたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシィィィィィィィイン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎がテーブルを思いっきり叩いた。全員がすくみ上る。そしてとびきりの笑顔を見せる。

 

小三郎「やるよね?みんな?」

は組一同「や、やります、小三郎さん。よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎は定食の皿を返却口に入れると伏木蔵と平太と留三郎に別れを言い食堂を出て行き、後から乱太郎達がうなだれて出て言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平太「ち、ちびってしまった……。」

留三郎「ああ言う処は母似だな?」

伏木蔵「スリルとサスペンス〜。」

 



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贈り物騒動の段

長らくお待たせしました!伊賀崎孫兵が登場します。


小三郎「たぁ!はっ!てゃ!」

 

夏真っ盛り。小三郎は毎日の鍛錬のおかげか夏バテにならずに今日も早起きをしてゴザを相手に体術の練習に挑んでいる。するとそこへ小包を持ったヘムヘムがやって来た。

 

ヘムヘム「ヘ〜ム〜。」

小三郎「ん?おはようヘムヘム。どうしたの?」

ヘムヘム「ヘムヘム〜。」

小三郎「僕宛に小包?」

 

小三郎はヘムヘムから小包を受け取り、部屋へ戻り汗を拭ってから小包の封を破る。中には母からの手紙と小壺から入っていた。

 

『小三郎へ。貴方が忍術学園に入ってから大分経ったけど順調ですか?友達はたくさん出来ましたか?先日庭のクチナシの花が咲きました。椿油に混ぜて香油にしましたので送ります。』

 

 

 

小三郎「クチナシ…そっかぁ。もう八月かぁ。ん?」

 

しみじみ思っていると手紙にまだ先がある事に気がついた。

 

 

 

 

 

 

『追伸:留三郎からの手紙で知りましたが、崖から落ちたそうですね?友達思うのは大変素晴らしい事ですが自分も大切にして下さい。それからご飯もたくさん食べて、よく遊び、よく学び、そらからそれからそれからそれから……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「追伸が長いよ!母さん!」

 

手紙を片付けた後に返事の手紙を書き、ヘムヘムに渡してから早速髪につけようと頭巾を取り髷を外し、小壺から数滴垂らし櫛で梳かす。

 

小三郎「この香り……実家を思い出すなぁ………でも、甘えない!めげないしょげない泣かない!兄者の様な立派な忍者になるまで僕頑張る!!!シャァァァッラァァッ!!!」

 

甘えの感情と夏の暑さを吹っ飛ばすために気合いの雄叫びをあげた。

 

 

バタバタバタ!

 

途端に複数の足音が近づいて来る。

 

乱太郎「ど、どうしたの⁉︎大丈夫⁉︎」

きり丸「小銭無くしたか⁉︎」

しんべえ「ご飯ひっくり返したの⁉︎」

 

 

小三郎「あっ……///……た、ただの気合い……あっ…ハハハハハ……///……ごめん。」

 

小三郎は恥ずかしさで少し赤くなりながら頭をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーン!カーン!

 

ヘムヘム「へ〜ムヘムヘムヘム!」

 

 

 

 

 

 

半鐘が鳴り、一限目の授業が始まる。

 

庄左ヱ門「起立!礼!」

全員「おはようございます!」

土井先生「おはよう!では今日は……ん?クンクン……しんべえ、何か果物食べたか?」

しんべえ「僕食べていません!」

土井先生「それにしてはなんだか甘いいい匂いがするが?」

 

確かに土井先生の言う通り、は組の教室内にはほんのりと甘い香りが立ち込めている。

 

喜三太「クンクン、クンクン。ん?先生!小三郎から匂いがします。」

金吾「クンクン。あっ。ほんとだ!いい匂い。」

しんべえ「美味しそう!」

乱太郎「よだれよだれ!」

 

全員が鼻をヒクヒクさせ、香りを嗅ぐ。

 

小三郎「すみません。実家からクチナシの香油が送られて来てつけてみたんです。あっ。授業の妨げになりますか?」

土井先生「いや。むしろいい香りだ。さぁ!授業を始める。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の火薬委員会で小三郎は斉藤タカ丸先輩と伊助に引っ張りだこにされた。

 

タカ丸「小三郎は他の忍たまとは違い清潔にしてるよね〜?」

伊助「その匂い。僕の家でも嗅いだ事あるよ?クチナシだよね?染物に使うんだよ。」

 

小三郎「褒めてくれるのは嬉しいけど…タカ丸先輩。伊助。苦しい……。」

 

タカ丸と伊助が小三郎に抱きつく様にしているため息苦しそうにしている。その様子を呆れた様に三郎次が、微笑ましく兵助が見ている。

 

三郎次「あんなに清潔にして、男としてどうなんでしょうかね?」

兵助「いいじゃないか。臭い匂い漂わすよりいい匂いを振り撒く方がいいさ。それよりもタカ丸さん!伊助!小三郎がいい加減潰れるぞ!」

 

伊助「あぁっ⁉︎」

タカ丸「ご、ごめん…。」

小三郎「ぷはぁ!極楽が見えちゃった。」

三郎次「オーバーな!」

 

しばらく他愛もない会話をしていると火薬壺を運ぼうとした三郎次が大声を上げた。

 

三郎次「うわぁぁ!へ、蛇だぁ!!」

兵助「なに⁉︎」

 

全員が三郎次が指差す壺の後ろを覗く。

 

伊助「あっ。ジュンコだ!」

小三郎「じ、ジュンコ?雌なんだ?誰かのペット?」

伊助「三年い組。通称、毒虫野郎こと。伊賀崎孫兵先輩のペットだよ。マムシのジュンコ。よく逃げちゃうんだよ。」

小三郎「ど、毒虫野郎?誰だよそんな呼び名付けたのは!野郎って失礼だと思うけど。でもそうなら孫兵先輩に返して上げないと。ホラ、こっちにおいで?」

 

小三郎が噛まれない様に注意しながら手を出す。最初こそ警戒していたが、ジュンコが鼻をひくつかせ何かを感じ取ると、それまでの警戒を解き、小三郎の手から登り首にすっと巻き付いた。ジュンコの表情はいつになく、少し酔っているかの様になっている。

 

伊助「ジュンコが自ら小三郎の首に…。」

兵助「クチナシの香りの影響だな。」

タカ丸「だね?クチナシの香りは蛇が好むって昔から言われているから。ちなみにクチナシのクチって言うのはくちなわ、すなわち蛇の事なんだよ?」

三郎次「って言うか、小三郎よく平気だな?」

 

普通なら嫌がるはずだが小三郎は平然としている。

 

小三郎「いやぁ。実家で薪拾いや草むしりすると必ず蛇に出くわしましたから慣れてますし…以外にこのジュンコちゃんだったっけ?大人しいし…よく見ると可愛いし。」

 

小三郎はジュンコの頭を指でそっと撫でる。

 

小三郎「でも孫兵先輩探しているよね?ちょっと届けてき…「ジュンコぉぉぉ!!」……目の前にいましたわ。」

 

小三郎が火薬庫の扉を開けると同時に伊賀崎孫兵が血眼になりながら火薬庫付近の草むらを探していた。

 

小三郎「孫兵先輩。ジュンコちゃんならここですよ?」

孫兵「へ?ジュンコぉぉぉ!!」

 

小三郎の首に巻きついているジュンコを見て孫兵は声を上げた。

 

小三郎「火薬庫内の壺の裏側にいました。今お届けに行こうかと。」

孫兵「そうか。よかったぁ。ジュンコぉ…心配したんだぞ…ほら、生物飼育小屋に帰ろう。」

 

孫兵が手を差し出す。しかしジュンコは一向に小三郎から離れようとしない。

 

孫兵「どうした?ジュンコ?ま、まさか浮気⁉︎」

小三郎「いやいや違います!」

兵助「小三郎のクチナシの香油の匂いが好きなんだろう。」

孫兵「久々知先輩。クチナシの香油……確かに小三郎から甘い香りが……そうか!その手があったか!小三郎!」

小三郎「は、はい?」

 

急に肩を掴まれ戸惑う。

 

孫兵「僕に香油を分けてくれ!」

小三郎「は、はぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火薬委員会の面々と孫兵を連れて小三郎は自室へと向かう。そして中へ入れる。

 

兵助「へ〜。きちんと整理整頓出来ているんだな?」

伊助「勿論です!小三郎はは組有数の部屋綺麗の一人です!」

三郎次「まっ。ましな方か。でも一人部屋とは贅沢な。」

タカ丸「乱太郎達が三人だから二人で残りを割ると一人残っちゃうから仕方ないよ。」

 

 

小三郎「はい。孫兵先輩。」

孫兵「これでもっとジュンコや他の虫達と仲良くなれる!」

 

小三郎から小壺を受け取るとなんと孫兵は香油を大量に頭に振りまいた。

 

小三郎「孫兵先輩!かけ過ぎです!ほんの数滴で……うっ。」

 

孫兵からは何故かいい匂いはせずかえって変な匂いを発した。

 

伊助「孫兵先輩……お風呂入ってます?」

孫兵「い、いや。最近虫の世話で疎かにしていたなぁ。」

 

タカ丸「そ、そりゃ、ダメだよ。香油ってものは肌や髪を清潔にしてからじゃないと……はっきり言って…。」

 

三郎次「なんとも言えない…だけど決していい匂いじゃありません。」

 

孫兵「そ、そんな!あ、あれ?じ、ジュンコ?」

 

小三郎の肩からジュンコは降りてそのまま床下に逃げてしまった。

 

孫兵「ま、待ってジュンコ!行かないで!」

 

孫兵は大慌てで部屋を飛び出し行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵助「……どうやらジュンコには凄まじい悪臭に感じたんだろうな?」

伊助「小三郎…今度からはそれはなるべく使わないようにね?」

小三郎「う、うん……(あ〜ぁ。半分以上なくなっちゃった。)。」



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鉤縄と穴掘りの段

綾部喜八郎が出ます。


 

小三郎「四方六方八方〜しゅ〜りけん♫四方六方八方〜や〜ぶれ〜♬」

 

授業が終わり、小三郎は一人で校庭を歌いながら散策していた。

 

小三郎「じょ〜だん混じりで〜……「ミシッ」んッ⁉︎タァァァ!「バキっ!」。」

 

校舎裏を通っている時、踏んだ地面に違和感を感じとっさにジャンプ!そこに落とし穴が口を開けた。しかし……。

 

 

シュタ!ミシッ。

 

小三郎「えっ⁉︎うそぉ!うわぁ!」

 

なんと着地した場所にまで落とし穴があった。流石の小三郎も修正が聞かずそのまま穴に……「何ノォォォ!!「ジャキン!」。」咄嗟に懐に隠していた苦無を突き刺し、下までは落ちなかった。

 

小三郎「ふぅ。」

????「おやまぁ。やるね?」

 

安堵の息をつくと上から声がした。

 

小三郎「やっぱり!四年い組、通称穴掘り小僧。綾部喜八郎先輩!」

喜八郎「上手く回避したね?ほい。捕まって。」

 

喜八郎の差し伸ばした手を掴み、小三郎は穴から出る。

 

小三郎「ジャンプした先に落とし穴とはかなり計算した落とし穴ですね!危うくやられるとこでした!」

喜八郎「まぁまぁ怒らないでよ。それよりも今日は一人なんだ。他に何か用事ある?」

小三郎「いいえ、特にはありませんが。」

 

そう言うと喜八郎は持っている鋤とは別の鋤を小三郎に差し出した。

 

喜八郎「なら一緒に穴掘りしようよ?」

小三郎「はい?まぁ…暇でしたから、いいですよ?」

 

 

 

 

 

 

こうして喜八郎と小三郎の合同作業で巨大落とし穴作りが始まった。

 

喜八郎「ところで何で今日は一人なの?」

小三郎「お恥ずかしながら……。」

 

 

 

 

 

小三郎は説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

回想、四限目。

 

 

山田先生「今日は鉤縄を使い、塀を登る授業を行う!では先ず食満小三郎!みんなにお手本を見せてあげなさい!」

小三郎「はい!」

 

山田先生に指名され、小三郎は鉤縄を握り締め前に出る。しんべえと喜三太がニコニコ顔で見ている。

 

乱太郎「どうしたの?しんべえ、喜三太。ニコニコして。」

しんべえ「いやぁ。ごめん。ただ小三郎がかっこよくて。」

喜三太「実技の時の小三郎って留三郎先輩に似ててかっこいいんだもん。」

虎若「似てるも何も実の兄弟じゃない。確かにかっこいいけど。」

 

みんながワイワイ言う中、小三郎は鉤縄を振り回し投げると見事に練習用の石垣に引っかかった。それから強めに引っ張りちゃんと掛かったか確認してから登り始める。

 

庄左ヱ門「やっぱり小三郎は出来るね?」

伊助「何たって一年生中最強だからね。」

団蔵「それに優しいし!」

兵太夫「でもいざプッツンしちゃうと……。」

三治郎「下手したら殺される……。」

 

兵太夫と三治郎が少し前の小三郎による放課後の補習の時を思い出し青ざめた。そうこうしているうちに小三郎は上まで登り終え、あらかじめ立てかけてあるはしごで降りてきた。

 

山田先生「大変よ〜く出来た!さぁ!ではみんなも見習って行うように!では庄左ヱ門から!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想終了。

 

小三郎「この後が酷くて、庄左ヱ門は鉤縄の確認不足で尻餅。伊助と団蔵は落ちて来た鉤縄の鉤で頭を汚して、虎若は振り回し過ぎて石に鉤をぶつけた弾みで自分が鉤縄に巻かれて、兵太夫と三治郎は一緒にやろうとしたんですけど、それが災いして鉤縄が絡まり、喜三太は登っている途中でナメクジさんを見つけて、何を思ったのか両手を離してしまい真っ逆さま、幸いにも金吾が受け止めたがその弾みで逆に金吾が手首を捻挫してしまい……。」

 

小三郎の長く細かい説明を喜八郎は黙々と穴を掘りながら聞いていた。

 

喜八郎「おやまぁ。なんか大変だねぇ?そうなると乱太郎達はどうなったの?」

小三郎「いや、乱太郎ときり丸は今回珍しく登れたんですよ?しんべえも登りましたし。ちなみに三人はきり丸の用事で街へ一緒に出かけました。」

 

小三郎の言葉に喜八郎は思わず手を止めた。

 

喜八郎「しんべえも登れたの?どうやって?」

小三郎「先に乱太郎達に上に登ってもらった後に、上に用具から借りた滑車を設置し、片方の縄をしんべえに結び、滑車に縄を通し、もう片方を僕が下から引っ張れば!しんべえは上に釣り上げられるって言うわけです!」

 

要するにしんべえを荷物の様に釣り上げたと言い訳。思わず喜八郎はこけた。

 

喜八郎「それじゃあ鉤縄の練習にならないでしょ!」

小三郎「山田先生にも言われました。でもしんべえだけ登れないなんて可哀想で…。」

 

小三郎の言葉に喜八郎は再び鋤を動かし始めた。

 

喜八郎「留三郎先輩もそうだけど…君っていい奴なんだね?」

小三郎「え?兄者がどうしたんですか?」

喜八郎「ちょっとね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは黙々と掘っていき、気がつけば大分日が傾き、大分大きな穴が出来た。それから喜八郎と一緒に骨組みと布を穴に被せ、土をかけて馴染ませて完成!

 

小三郎「結構大きな落とし穴が出来ましたね?」

喜八郎「そうだね?ありがとう。楽しかったよ。」

小三郎「僕も意外と楽しかったです。穴の中ひんやりしていて。」

喜八郎「でしょ?さて、喉乾いたね?水でも飲みがてら休憩にしようか?」

小三郎「はい。」

 

 

小三郎と喜八郎がその場を離れて少し歩いた時だった。

 

????「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

小三郎「えぇっ⁉︎」

喜八郎「おやまぁ。」

 

振り返ると誰かが落ちたらしく、落とし穴が口を開けていた。小三郎が駆け寄るとそこには。

 

小三郎「乱太郎!きり丸!しんべえ!」

喜八郎「大成功〜。」

 

乱太郎「小三郎に…綾部喜八郎先輩?」

きり丸「って事はこの落とし穴…喜八郎先輩が?」

小三郎「いや、僕も一緒に掘った。」

喜八郎「名付けて、「先輩後輩の共同合作、大落とし穴初号〜」なんちゃって。」

小三郎「今適当に思い付きましたでしょ?」

喜八郎「うん。」

 

 

らんきりしん「たはっ……。」

 

 

二人のやり取りに乱太郎達は穴の中で伏した。

 



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変装してみるの段

お気に入りがもうすぐ70件、みなさんありがとうございます!


八月も終わりが近づき、それまでの蒸し暑さがだいぶ薄れ、日陰はかなり涼しくなった。

 

土井先生「と言い訳で、変装を行う場合は変装する者に成り切らねばならない。変装の名人こと、五年ろ組の鉢屋三郎も不破雷蔵なりきっている。つまり……。」

 

小三郎「少しでもおかしな言動や行動はしてはいけないっという事ですね?」

 

土井先生「その通りだ、小三郎!流石だな。」

喜三太「流石は小三郎~。」

金吾「凄い凄い!」

 

 

全員が小三郎に拍手を送ると同時に半鐘が鳴り、今日の授業が終わった。みんなが遊びに行く中、小三郎は筆を用意する。

 

乱太郎「あれ?小三郎は遊ばないの?」

小三郎「先に宿題を終わらせるよ。」

きり丸「真面目だな~?サブちゃんは。」

しんべえ「でも小三郎ならパパッと済ませちゃいそう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなが遊びに行く中、小三郎は教室に残り、本日の宿題を始める。

 

 

小三郎「……これくらいならすぐに終わりそうだな?」

 

筆を順調に進めて行くと誰かの足音が近づいて来た。

 

????「おっ?小三郎一人か?」

小三郎「あぁっ!……あっ…えっと……。」

 

小三郎は入って来た五年生の先輩に見覚えがあった。それは図書委員会で見た。しかし何か違う。

 

小三郎「不破雷蔵先輩……いや、違いますよね?……あっ!不破雷蔵先輩に変装した鉢屋三郎先輩!」

 

三郎「正解!」

 

三郎は教室の窓から校庭を見下ろす。

 

三郎「みんなは遊んでいるのに、お前は真面目だな?小三郎。」

 

小三郎「宿題とトイレは早い方がいいですから。」

三郎「ハハッ!違いないな。」

 

小三郎が人懐こそうに笑うと三郎も笑う。そして小三郎の側により宿題の内容を見る、そして変装の基本のページが開いているのが目に止まった。

 

三郎「今日は変装の授業だったのか?」

小三郎「はい。実技ではありませんが。あっ。そう言えば鉢屋三郎先輩は変装の名人って呼ばれていましたね?」

三郎「昔からモノマネが得意だったんだ。最初は声真似だけだったんだけど、そのうち姿、服装、髪型も真似してたら……いつの間にかこんな事に……だから最初は遊びだったんだよ。」

 

小三郎「特技を活かしたいい例ですね!でもやっぱり限界はありますか?」

三郎「流石に一年や二年に変装は無理だよ。」

 

そう言うと三郎は教室から出て、今度はしんべえに変装して来た。

 

三郎「ご、五年生になったしんべえ?」

三郎「ほら、身長までは真似できない。そうだ、君なら知ってるかもだけど、あからさまに無理な相手に変装しない事。相手をよく観察してから変装する事。教科書には当たり前な為省略してあるけど、これも基本だよ?」

 

小三郎「あぁっ!土井先生が授業中言ってました。」

 

小三郎は筆で今言われた事を追記しておく。しばらくして宿題も終わった。

 

三郎「小三郎の体型ならしんべえ以外なら上手く変装出来るんじゃないかな?よし。ちょっとついておいで?」

 

小三郎「はい?」

 

 

 

 

 

小三郎は教科書などを片付け三郎と教室を後にし付いていくと、付いたのは「鉢屋」と書かれた五年生の忍たま長屋だった。

 

小三郎「ここ三郎先輩の部屋?」

三郎「そうだよ?君なら変装メイクを教えてもいいかな?っと思ってね?」

小三郎「まさかのご伝授⁉︎ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で乱太郎達、他の忍たまは校庭でサッカーを楽しんでいた。

 

乱太郎「小三郎遅いね?」

きり丸「サブちゃんの事だから細かいとこまで勉強してるんだよ!」

庄左ヱ門「ハハッ。違いないね。」

 

みんなが話していると、突如団蔵が輪から抜けた。

 

虎若「団蔵どこ行くの?」

団蔵「ちょっとトイレ。」

 

 

団蔵がトイレに行くと同時に草むらから三郎が覗き見る。

 

三郎「よし、今がチャンスだ。ちょっといたずら&伝授、開始。行ってこい!」

団蔵?「はい。」

 

草むらから団蔵?が飛び出し、みんなの所へ駆け寄る。

 

団蔵?「お待たせ〜。」

乱太郎「はやっ!」

虎若「もう済んだの?」

団蔵?「うん。さぁ、サッカーの続きやろうよ!」

 

 

それから、全員が目を疑った。普段から体力のある団蔵だか今回はまるで違う。軽快なフットワークで翻弄しゴールを決めまくる。

 

三治郎「ど、どうしちゃったの団蔵⁉︎」

兵太夫「ナイスプレー!!」

 

みんなが団蔵?の周りに集まる。

 

団蔵?「いやぁ。たまたまだよぉ。」

きり丸「またまた〜。謙遜しちゃって……あれ?デジャブ?」

 

きり丸が何処か違和感を感じる。すると団蔵?は再び輪から外れる。

 

乱太郎「どこ行くの?今度は。」

団蔵?「汗が鬱陶しいから拭いてくる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団蔵?が校舎の角を曲がる、きり丸はやはり浮かない顔をしている。

 

しんべえ「どうしたの?きり丸。」

乱太郎「どうしたの?きりちゃん。」

 

全員が集まるときり丸は顔を上げる。

 

きり丸「団蔵って、おだてると調子に乗る方じゃなかったか?あんな風に謙遜するか?」

 

きり丸の言葉にみんながハッとする。

 

虎若「確かに……。」

庄左ヱ門「あんな風に謙遜するような性格じゃないよね?」

 

 

みんなが考える中、本物の団蔵がやって来た。

 

団蔵「あれ?何かあったの?」

 

団蔵が現れるなりみんながギョッとする。それもそのはず、先ほど向こうに行ったのに、後ろから来たのだから。

 

伊助「えっ⁉︎な、何でそっちから来るの⁉︎」

団蔵「え?だってトイレはこっちじゃない。混んでたから時間がかかっちゃって。」

金吾「だ、だって!君さっきトイレから帰って来たんだよ⁉︎」

団蔵「えぇ⁉︎」

乱太郎「じ、じゃあさっきの団蔵は……。」

しんべえ「分かった!さっきの団蔵はきっと鉢屋三郎先輩の変装だったんだ!」

 

しんべえの言葉に誰しもが納得するが、喜三太が異議を唱えた。

 

喜三太「それはありえないよぉ。三郎先輩の変装だっとしても、さっきの団蔵は僕たちの背丈は同じくらいだったじゃない?さっきの授業でも、プロの忍者でも子供に変装するのは無理だって土井先生が言ってたじゃない。」

 

乱太郎「じゃあ……さっきの団蔵は……だれ⁉︎」

 

 

みんながあれこれ考える中、次は兵太夫が発言した。

 

兵太夫「い組の伝七や佐吉あたりのいたずらかな?」

庄左ヱ門「それもどうかな?い組は実戦に弱いタイプが多いから。」

乱太郎「庄ちゃんってば冷静通り越してさりげなく毒吐いた!」

伊助「とりあえず…曲者だといけないから、土井先生に言った方がいいんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でいたずら組、小三郎は三治郎に変装して職員室前に来ていた。

 

三治郎?「先生方に通用しますかね?」

三郎「まぁ、宿題提出を変装で来ただけだから怒られはしないよ。」

 

三郎に行ったこいと言われ、三治郎?は職員室の戸をノックする。

 

三治郎?「失礼しま〜す。」

土井先生「三治郎……ん?」

山田先生「どうかしたのか?……ん?」

三治郎?「小三郎の代わりに宿題の提出に来ました。」

 

入室し、宿題を提出しに来た三治郎に土井先生と山田先生は少し違和感を感じた。そしてふっと笑った。

 

土井先生「それはご苦労。」

山田先生「ついでにみんなにも宿題提出を促すよう頼めるかな?三治郎に変装した、食満小三郎。」

 

山田先生の言葉に三治郎に変装した小三郎はやっぱりっと言った具合で笑った。

 

小三郎「やっぱりバレましたか。上手く変装したと思ったのに。」

土井先生「私はお前達一年は組の担任だぞ?生徒、しかも担当クラスの生徒の変装を見抜けないわけはない。」

山田先生「私も一年は組の実技担当者。そして……。」

 

山田先生が衝立の後ろに隠れ、次に出て来たのは。

 

伝子「女装の達人よぉ?そんな見た目だけの変装なんて見破れるわ。」

 

小三郎「伝子さん!」

土井先生「や、山田先生「伝子さんよ!!」で、伝子さん……何も女装しなくても……。」

伝子さん「プロの技を見せているだけよ?そして……鉢屋三郎くん。そこにいるんでしょ?」

 

伝子さんが戸の方に呼びかけると、戸の裏から三郎が出てきた。

 

三郎「やっぱりダメでしたか。」

伝子さん「ダメとは言わないわ。ぱっと見は三治郎だからとりあえず合格点ってとこかしらね?ね?土井先生?」

土井先生「確かに乱太郎達なら騙せれるな?」

 

 

 

 

そうこう話していると複数の足音が職員室に近づいて来た。

 

乱太郎「土井先生、山田先生!大変です!忍術学園に曲者……あぁぁぁぁぁぁ!!!」

三治郎「ぼ、僕⁉︎」

小三郎「やぁ。」

 

乱太郎達が入って来るなり、三治郎に変装した小三郎を目撃し、驚きの声を上げる。小三郎はニコリと笑い手を振る。

 

庄左ヱ門「そいつです!そいつが曲者です!」

伝子さん「違うわよ。三治郎に変装した小三郎よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!お化け!!!」」」」」

 

伝子さんを見た瞬間、全員が叫び声を上げ何処かへ逃げて行ってしまった。

 

小三郎「あらまぁ。」

 

伝子さん「ちょっと!何で逃げるのよ!待ちなさーーい!!」

 

 

 

伝子さんは逃げて行ったみんなを追いかけて行った。

 

小三郎「伝子さんってそんなに不気味ですか?僕はあれはあれでありだと思いますが?」

三郎「ま、マジか?」

土井先生「小三郎……お前は天然なのか冷静なのか。」



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小三郎の装束の段

長らくお待たせしました。それではお楽しみください。


夏も過ぎ、秋になり涼しくなった。山も徐々に色んできた。

 

小三郎「よし。今日の宿題終わり!」

 

小三郎は自室で土井先生に出された宿題を素早く終わらせ一息つくために床に寝そべった。

 

乱太郎「小三郎〜。」

小三郎「ん?乱太郎。どうしたの?」

 

自室に乱太郎が訪ねてきた。手には湯呑みが持たれている。

 

乱太郎「勉強ご苦労様って思って。はい。お茶どうぞ。」

 

乱太郎がお茶を差し出す。

 

小三郎「な〜に?柄にもなくお茶の差し入れなんて。」

乱太郎「いやぁ。よく勉強教えてもらっているからお礼も込めてね?」

小三郎「まぁ、丁度喉乾いていたから、ありがとう。」

 

小三郎はお茶を受け取り、一気に飲み干した。

 

小三郎「ぷはぁ!ご馳走さま……あ、あれ?」

 

小三郎は急にウトウトし始めそのまんま横に倒れ眠りに落ちた。

 

乱太郎「フッフッフ……ごめんね、小三郎。」

 

乱太郎のメガネがキランっと輝くと、は組全員が小三郎の部屋に入り取り囲んだ。

 

庄左ヱ門「上手くいったみたいだね?」

乱太郎「なんたって善法寺伊作先輩秘蔵の眠り薬だから!」

 

 

乱太郎がピースサインをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「すぅ…すぅ…むにゃむにゃ……。」

 

乱太郎「っと言うわけで、サブちゃんの懐の中はどうなっているのか!?みんなでチェックしよう!」

 

は組全員「おー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎は用意がとても良い、いや、良すぎる。大抵の物は全部懐から出てくる。は組全員はその中はどうなっているのか気になった。

 

庄左ヱ門「まずは上着を脱がせないとね?」

 

庄左ヱ門が小三郎の装束を触ろうとした時だった。

 

小三郎「う…ん…。」(コロン)

 

小三郎が寝返りを打ちかわした。

 

庄左ヱ門「あれ?」

 

小三郎「兄者……それ、鉄双節棍じゃなくてネギ……むにゃむにゃ……。」

 

は組全員「だぁぁぁぁ!!」

 

 

 

全員が小三郎の寝言にひっくり返った。そして仕切り直しに次は団蔵と虎若が脱がそうとした時だった。

 

パシパシッ!

 

団蔵「え!?」

虎若「な、なんで!?」

 

なんと団蔵と虎若の手を小三郎が寝ているのにはたき落したのだ。

 

金吾「ま、まさか……起きてるの?」

喜三太「いや……喉が動いていない……完璧に寝ている…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで土井先生のミニコーナー!

 

土井先生「狸寝入りかそうでないかの見分け方は喉の動きに注目しよう。人間は寝ているとき、唾液の分泌量が大幅に減る。朝起きた時に口の中がネバネバするのはこの為であり、狸寝入りの場合は本当に寝てはいない為、口の中では唾液の分泌量はそのまんまの為、いつかは飲み込まなくてはならなくなる。これが見分け方の基本である。」

 

 

コーナー終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きり丸「じゃあサブちゃんは本当に……。」

しんべえ「寝てる。」

 

改めて全部が小三郎により興味を持った。そして兵太夫が袖をめくろうてした時だった!

 

小三郎「むにゃ……食満流体術丸秘奥義……仏滅掌…。」

 

ドスッ!

 

兵太夫「グエェッ‼︎」

 

小三郎が突如貫手を繰り出し、兵太夫に地獄突きを食らわした。

 

兵太夫「ゲホっ!ゴホッ!かはっ……。」(パタ。)

三治郎「兵太夫!?」

は組全員「大丈夫!?」

 

兵太夫が気を失い全員が駆け寄る。

 

伊助「じ、冗談でしょ?あり得ないよ!寝ながら体術を繰り出し、しかも急所に!」

乱太郎「と、とりあえず医務室に運ぼう!」

虎若「手伝うよ!」

 

気を失った兵太夫を虎若がおぶり乱太郎と共に医務室に向かった。

 

 

 

 

 

庄左ヱ門「まいったねぇ?迂闊に手を出すとやられる……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が寝ている小三郎を見ながら悩んでいると、伝七と佐吉が足早にやって来た。

 

伝七「おい!さっき兵太夫がぐったりした様子で医務室に運ばれてったけど何があった!」

 

佐吉「ってなんでみんな寝ている小三郎を取り囲んでいるの?」

きり丸「伝七に佐吉!」

しんべえ「実は…かくかくしかじか、四角い豆腐の賽の目切りで……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐吉「つまり、いつも用意のいい小三郎の懐の中はどうなっているのか知りたくて…眠り薬を飲ませたはいいけど、どう言い訳かまるで起きているかのように反応され、迂闊に手を出せないって事?」

 

佐吉の言葉には組全員がうなづく。

 

伝七「ふん。バカだなぁ!そんなの手と足を押さえればいいじゃないか!佐吉、小三郎の足を押さえて、手を押さえるから。」

 

 

伊助「ダメ!危ないって!」

 

 

伊助が叫ぶと同時に誰かがやって来た。

 

留三郎「どうした?お前ら?って何をしている!!」

 

しんべえ「あっ!」

喜三太「留三郎委員長!」

 

やって来たのは小三郎の実の兄、留三郎だった。しかししんべえと喜三太に目もくれず、伝七と佐吉を凄まじい血相で睨む。

 

留三郎「伝七に佐吉……お前ら今小三郎を手篭めにしようとしたな?あ?返答次第では鉄双節棍で砕いてやる!」

 

伝七「ヒィィィ!してません!してません‼︎」

佐吉「ほ、本当です!でもすみません‼︎」

 

あたふたする伝七と佐吉を見て、留三郎はフッと笑った。

 

留三郎「ハッハッハ。すまんすまん。冗談だ。」

 

笑う留三郎にその場にいた全員が胸をなでおろした。しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴトッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎の懐から鉄双節棍が滑り落ちたのを見てみんな凍り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎「なるほどな。つまり小三郎の懐の中を見たいか。だけどあたかも起きている如く反応され迂闊に手を出せないって訳だな?うむ。それは…。」

 

全員「そ、それは?」

 

全員が息を飲む。

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎「食満流体術・裏奥義・睡拳だ。」

 

 

全員「すいけん?」

 

乱太郎「よくニラと間違える…。」

留三郎「それはスイセン。」

きり丸「よく池に咲く…。」

留三郎「それはスイレン。」

しんべえ「よく田んぼに生える〜。」

留三郎「それはスイバだ。今となっては読者も知らん。」

 

留三郎はは組のボケに的確にテンポ良くツッコミを入れる。

 

 

留三郎「睡拳とは寝ながら相手を攻撃する拳法だ。」

伝七「んなアホな!」

佐吉「幾ら忍たまの二次小説でもそんな設定……。」

 

伝七と佐吉がやいのやいの騒ぎ出す…が。

 

留三郎「……っと言うわけで、こう言う場合は起きている時と同じように接してやるのが効果的だ。」

 

伝七&佐吉「む、無視されたぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎に言われ、一番仲がいい伊助が小三郎の耳元で囁いた。

 

伊助「お願い小三郎。懐の中見せてくれない?」

 

すると小三郎は仰向けに寝返りを打った。

 

庄左ヱ門「い、いいよって事かな?」

 

庄左ヱ門が恐る恐る近寄り装束に手をかける。すると小三郎はスゥスゥと寝息をたてているだけだった。そして脱がし終えると、不思議と軽かった。みんなも手に取り振ったりしたが特に変わった所はない。

 

伊助「これといって…。」

団蔵「特に変わった所は…。」

きり丸「ねぇな。」

しんべえ「だね?」

 

一通りぐるっと回り、再び庄左ヱ門の手に回って来た時、ある事に気がついた。

 

 

庄左ヱ門「あれ?なんだろう。このポケット。」

 

小三郎の装束の裏側に他にはないポケットが付いていた。庄左ヱ門が手を突っ込んだ。その時だった。

 

庄左ヱ門「あ、あれ?手が……抜けない!す、吸い込まれるぅ!!ウワァァァ!!」

 

全員「し、庄左ヱ門!!!」

 

なんと庄左ヱ門が小三郎の装束の裏ポケットに吸い込まれた!

 

 

 

 

 

庄左ヱ門「ウワァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

一体庄左ヱ門は何処へ行くのか?

次回に続く。



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おかしな忍術学園の段

庄左ヱ門「……んっ……う〜ん……。あれ?学園の校庭?」

 

庄左ヱ門は目を覚まし、辺りを見回した。そして小三郎の装束を調べていたら不自然なポケットを見つけ手を入れたら吸い込まれた事を。しかし奇妙な事に今いる場所はよく見知った学園の校庭だった。

 

????「あれ?庄左ヱ門。」

庄左ヱ門「あっ。伏木ぞ……ってエェェェ!?」

 

庄左ヱ門は話しかけて来た一年ろ組の鶴町伏木蔵を見て驚きの声を上げた。いつも縦縞が入り暗い感じの伏木蔵が今は笑顔で縦縞がなくなり、明るい好少年になっているのだ。驚きのあまり言葉が出ずにいた時、今度は下坂部平太がやって来た……富松作兵衛の様に用具箱を肩に背負って。

 

庄左ヱ門「エェェェェェェェェェエ!!!???」

 

平太「ん?やぁ!伏木蔵。庄左ヱ門!今日もいい天気だね!さてと!修補修補!!」

 

何時ものビビリの怖がりやな平太では無く、キリッとした表情の太陽が似合う少年になっていた。

 

庄左ヱ門「ど、ど、ど、どうなっているの!?」

伏木蔵「どうって……何時もの僕たちじゃない。やだなぁ!もう。あっはははは!」

 

キラキラな表情で笑う伏木蔵に庄左ヱ門は引き攣った表情をする。すると向こうの方から何やら土煙を上げながら走って来る誰がが見えて来た。それはなんと!一年は組のしんべえだった!

 

庄左ヱ門「ししし、しんべえがすっごいスピードで走ってるぅ!!」

伏木蔵「すごいよねぇ?は組が誇る俊足のぽっちゃり忍たまだね?あっ。乱太郎ときり丸が来たよ?」

 

庄左ヱ門が見るとそこには何も変わった様子のない乱太郎ときり丸がいた。

 

乱太郎「あっ。庄左ヱ門に伏木蔵。」

きり丸「珍しい組み合わせだなぁ?」

庄左ヱ門「よかったぁ。二人とも普通だ。」

 

庄左ヱ門がほっとした時だった。

 

 

 

チャリーン!

 

 

 

 

何処かで小銭が落ちる音がした。どうやら伏木蔵が落としたらしい。その小銭がコロコロと転がりきり丸の足元に。

 

伏木蔵「おっと!」

きり丸「おいおい。気をつけろよぉ。銭は大事なんだぜ?はい。」

庄左ヱ門「エェェェェェェェェェェェェェェェエ!!!きき、きり丸が小銭を返しタァァァ!?」

 

なんとドケチであるはずのきり丸が小銭を拾い、落とし主である伏木蔵に返したのだ。

 

乱太郎「驚く事ないじゃない。キリくんは人の小銭は絶対に届けるんだから。」

庄左ヱ門「エェェェ!?ってかキリくんって。」

 

乱太郎の言葉に庄左ヱ門がさらに驚く。

 

 

きり丸「っと!そうだった!しんべえどこ行ったか知らない?」

伏木蔵「あぁ。あっちへ行ったよ?」

きり丸「サンキュー!よし行くぞ!乱太郎!」

乱太郎「あぁん!待ってよぉ!キリくん!私そんな早く走れない!」

庄左ヱ門「ら、乱太郎足遅!」

 

何時もの乱太郎は俊足だが、何故か今の乱太郎は牛歩も牛歩になっている。見送った後で今度は一年い組のみんながやって来た。サッカーボールをラフティングしながら。

 

彦四郎「やぁ!庄左ヱ門!」

庄左ヱ門「あっ。彦四郎。め、珍しいね?い組がサッカーなんて。」

伝七「はぁ?何行っているだよ?」

佐吉「僕たちはよくサッカーやっているじゃないか。」

一平「昨日もは組とい組で試合したじゃない?」

 

庄左ヱ門「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

普段はガリ勉で全然遊ばないい組とサッカーの試合なんてあり得ない。庄左ヱ門はすっ転んだ。

 

伝七「いい試合だったよなぁ!」

佐吉「珍しく彦四郎が[神の◯◯ト]を使ったもんな!」

一平「やっぱり頼りになる学級委員長!」

 

庄左ヱ門「ひひひ、彦四郎が頼りにされてるぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからも奇想天外なものを庄左ヱ門は見た。

 

滝夜叉丸「私が千輪の名手?ふん。私などまだまだ未熟者。」

 

硬派で自分に厳しい滝夜叉丸。

 

喜八郎「またこんな所に穴が…埋めなくちゃ。」

 

穴掘り小僧ならぬ穴埋め小僧な喜八郎。

 

作兵衛「え?用具貸してくれ?好きに持ってけ?ふぁぁ…寝みぃしかったりぃ。」

 

不真面目で無責任な作兵衛。

 

留三郎「そっち押さえてくれ、文次郎。」

文次郎「よし来た。」

留三郎「すまんなぁ。手伝わせて。」

文次郎「なぁに。気にすんな。」

 

仲の良い留三郎と文次郎。

 

小平太「あぁあ……私はやっぱりダメだぁぁぁぁ。」

長次「細かいことは気にするな。」

 

細かいことを気にする小平太ともそもそ喋らない長次。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして極めつけが……。

 

 

土井先生「練り物うめぇぇ!おばちゃん!ちくわとはんぺんおかわり!」

おばちゃん「はいはい!土井先生は練り物がお好きですねぇ?」

土井先生「はい!大好物です!」

伝子さん「でも練り物ばかりでは栄養が偏りますわよ?しっかり野菜も食べなくちゃ。」

 

練り物大好きな土井先生と美女な伝子さんだった。庄左ヱ門の感じる違和感が徐々に恐怖に変わって来た。

 

庄左ヱ門「ち、違う……な、なんか変だ。うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「「あぁっ!どこに行くの?庄左ヱ門!」」」

 

みんなが一斉に追いかけて来た。そして来るわ来るわ!所々おかしな人が。

 

清潔な団蔵、虎若。全然湿ってない喜三太。火縄銃を持つ金吾。不潔な伊助。からくりでは無く竹細工に興味のある兵太夫に三治郎。

 

どれを、何処を見ても異様、奇怪。

 

 

その時!庄左ヱ門の足元に落とし穴が開いた。

 

 

庄左ヱ門「ウワァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

庄左ヱ門は再び真っ暗な所へ落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の上の方から伊助の呼ぶ声が聞こえて来た。

 

伊助「庄左ヱ門!庄左ヱ門!!」

庄左ヱ門「うっ……うわぁぁぁぁぁぁ!!」

伊助「うわっ!びっくりしたぁ!」

 

庄左ヱ門は汗だくの状態で飛び起きた。

 

庄左ヱ門「はぁ…はぁ…。」

伊助「大丈夫?かなり魘されてたよ?」

庄左ヱ門「はっ!小三郎の!小三郎の装束の中に異世界が!」

 

取り乱す庄左ヱ門に伊助は?を浮かべる。

 

伊助「何言ってるの?結局小三郎の装束は脱がせなかったじゃない。」

庄左ヱ門「へ?あっ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

庄左ヱ門は思い出した。乱太郎が眠り薬を飲ませようとしたが、感の鋭い小三郎には見破られてしまった事を。

 

 

庄左ヱ門「さ、最初から夢だったんだ……よ、よかったぁ……夢で良かったぁぁぁ…っ!うわぁぁぁぁん!」

 

伊助「ちょちょちょ!庄左ヱ門!?どれだけ怖い夢見たのさぁ!」

 

庄左ヱ門に抱き着かれて泣かれ、伊助は苦笑いを浮かべた。その様子を外から聞いている一人の忍たまがいた。小三郎である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「へ?僕の装束の中はどうなっているのかって?さぁね?」

 

小三郎は読者に向けてウィンクを飛ばした。

 




装束のポケットを抜けた先はおかしな忍術学園でした。


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修羅の如くの段

食満兄弟が戦います。


十月も終わりに近づき、校庭では冷たい風が時おり吹く。小三郎はそろそろ冬物の服用意するため押入れに潜り込んでいた。

 

小三郎「これと、これ。……これはまだ暑いかな?」

 

服を整理していたら誰かが近づいてくる気配を感じた。

 

留三郎「小三郎!いるか?」

小三郎「兄者!うっ……薬臭い。」

留三郎「す、すまん。伊作が今自室で薬草を煮込んでいてな。」

小三郎「あぁ…逃げて来たんだ。立ち話もなんだから入ってよ。ちょっと散らかっているけど。」

 

小三郎が自室に留三郎を入れる。

 

留三郎「服の整理か。」

小三郎「急に夜は寒くなって来たから。そう言えば、兄者と二人っきりになるのは久しぶりだね?」

 

ニコッと笑う小三郎に留三郎もニッと笑う。そして小三郎の頭に手を置いた。

 

留三郎「ハハッ。そうだな!どうだ?忍術学園には…っと、聞くまでもないか。お前、実家にいた時よりいい顔になった!」

小三郎「だって楽しいんだもん!あっははは!」

 

小三郎は実家にいた時でも明るく振る舞っていたが、時折寂しそうにしていた。しかし今はそれは見られなかった。留三郎は何かを思いついたような表情を浮かべた。

 

留三郎「そうだ!明日はたしか、授業は午後までだったな?しんべえから教えてもらった、美味しいうどん屋さんがあるんだ。兄弟水入らずで一緒に行かないか?」

小三郎「いいねぇ!じゃあ、午後に門前で。」

留三郎「決まりだな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、午前の授業が終わり、後は正午まで自習となった。小三郎はその時間で宿題を片付けていた。それにつられ、隣同士の喜三太、金吾も終わらせてしまおうと一緒にやっていた。

 

喜三太「今日の宿題は簡単だねぇ~?」

小三郎「書き取りと算式が少しだからね?」

金吾「小三郎。この算式どうやるんだっけ?」

小三郎「あぁ。それは先にこの数字とこれを足して…。」

 

その様子を伊助と庄左ヱ門が見ていた。

 

庄左ヱ門「喜三太と金吾、ちょっと真面目になったね?」

伊助「小三郎と同席だから移ったんじゃない?」

庄左ヱ門「ふぅ。おかげで僕の荷も軽くなったよ。」

 

胸をなで下ろす庄左ヱ門に伊助が笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがてお昼となり、小三郎は普段着に着替えて部屋を出る。

 

三治郎「あれ?小三郎どこ行くの?」

小三郎「兄者としんべえが言ってた美味しいうどん屋さんに行くんだよ。」

兵太夫「留三郎先輩と?あっ、そういえば乱太郎、きり丸、しんべえもうどん屋さんに行くって言ってたね?」

小三郎「そうなんだ。じゃあ会うかもね?っと、そろそろ行くね?兄者が待ってる。」

兵太夫「あぁ!ごめんごめん。」

三治郎「気をつけて。最近何かと物騒だから。」

小三郎「ありがとう。じゃあ行ってきます。」

 

三治郎と兵太夫に見送られ、小三郎は忍たま長屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で六年生の忍たま長屋。

 

伊作「留三郎、出かけるのかい?」

留三郎「小三郎とうどん屋さんにな?」

伊作「あぁ!あそこのうどん屋さん。行くのはいいけど、あそこまでの道の途中に森があるだろ?最近、山賊が出るって言うから気をつけて。」

留三郎「あぁ。肝に命じておく。じゃ、行ってくる。」

 

伊作に見送られ、留三郎は長屋を出て門前に行く。その途中で小三郎と出会い、共に出門表にサインをして出かけて行く。

 

小松田さん「気をつけて〜。」

ヘムヘム「へ〜ム〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

山も大分色んできており、ススキとクズの花が咲いており秋の到来を感じる。

 

小三郎「秋だね、兄者。」

留三郎「そうだな。栗くらいならもうなっているんじゃないか?」

 

 

他愛もない会話をしながら歩いて行くと、道は森の中に入って行く。この先に美味しいうどん屋さんがある。

 

留三郎「そういえば伊作が、この辺りに山賊が出るって言ってたな。」

小三郎「最近物騒だね?三治郎も言って……あれ?」

 

小三郎は道に何が落ちているのを見つけ、近寄り拾い上げる。それはどうやら手拭いらしい。

 

小三郎「あれ?これ乱太郎のだ。そういえば、乱太郎、きり丸、しんべえもうどん屋さんに行くって兵太夫が言ってたなぁ。ん!?」

 

小三郎のお得意の勘の鋭さが発動し、森の方を見る。

 

 

 

誰か来る。

 

 

 

留三郎「隠れるぞ!」

 

留三郎も気配に気がつき、共に別々の場所に隠れた。

 

小三郎「狸がくれ。」

 

小三郎は木の上に登り身を潜める。

 

留三郎「木の葉隠れ。」

 

留三郎は茂みと落ち葉の中に身を潜めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山賊A「いやぁ!いい年頃のガキが三人もかかりやしたねぇ!兄貴!」

山賊B「高く売らなきゃな!がっははは!」

 

やって来たのは一人は大人にしては身長が小さく、もう一人は見るからに悪者そうな男、山賊だった。留三郎は落ちていた枝を拾い、反対方向に投げる。

 

山賊A「ん?何か音がしやした。」

山賊B「新たな獲物かもしれん!行ってみよう。」

 

山賊達が去って行くのを見ると、小三郎は木から降り、留三郎は茂みと落ち葉から出て来る。

 

留三郎「楊枝がくれ、バッチリ決まったな。だが…。」

小三郎「ま、まさか、三人って。乱太郎達じゃ!」

留三郎「その可能性は極めて高い。この森はそんなに広くはない。何処かに小屋から隠れ家的なものがあるのだろう。あの山賊の口ぶれからするに。敵はさっきの2人か…見張りが一人で三人だろう。幸いにも、鉄双節棍を持って来た。救出に向かおう。」

 

小三郎「武器なら僕も。手裏剣はもちろん。焙烙火矢に忍び熊手にこしころに、草履に飛針。他にも他にも色々……。」

留三郎「お前なぁ。うどん食べに行くのになんでそんなに武装してるんだ!戦に行くわけじゃねぇんだぞ!」

 

 

留三郎が呆れながらも小三郎からいくつか武器をもらい山賊が来た方向へ歩んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で乱太郎達は山賊のアジトの小屋の中で縛られていた。

 

 

しんべえ「お腹すいたよぉ…うわぁぁぁぁん!」

乱太郎「まさか山賊に出くわすなんて…。」

きり丸「俺たち……どうなるんだろう……うっ。土井先生…。」

山賊C「うるせぇ!泣くな!」

 

らんきりしん「ひぃ!」

 

 

見張り役の山賊が声を上げると三人はすくみ上った。その時、小屋の戸が叩かれた。山賊は戸に歩み寄る。

 

山賊C「合言葉は?」

 

山賊が戸の向こう側の相手に声をかけるが返事は来ない。っと次の瞬間!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォーーーーン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山賊C「のわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

らんきりしん「ヒェェェ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと戸が爆破され山賊が吹っ飛び、柱に後頭部を打ちつけ伸びてしまった。そして誰かが中に入って来た。

 

小三郎「乱太郎、きり丸、しんべえ!大丈夫!?」

留三郎「三人とも無事か!?」

 

乱太郎「小三郎!留三郎先輩!」

小三郎「よかった。怪我はないみたいだね?」

しんべえ「小三郎ぉ…。」

きり丸「サブちゃん……。」

 

 

 

 

らんきりしん「怖かったよぉぉ…!」

小三郎「あぁ!泣くのは後後!今縄を切るからね?」

 

小三郎はこしころを取り出し三人の縄を切る。

 

乱太郎「ありがとう!でもなんで山賊に捕まっているって分かったの?」

小三郎「これ乱太郎の手ぬぐいでしょ?落ちていた場所のすぐ近くに山賊がいて、隠れて話を聞いていたらもしやと思ったんだ。」

 

小三郎が説明していると留三郎が割って入った。

 

留三郎「話はそこまでだ。サッサっと逃げ……とはいかないか。」

 

留三郎は小屋の外へと目を向ける。小三郎も見ると全力で走ってくる山賊が目に入った。留三郎は鉄双節棍を持つ。

 

 

山賊B「な、なんじゃこりゃ!?俺らの拠点が!」

山賊A「だ、誰だお前らは…(グサッ!)いってぇぇ!!」

 

 

なんと小三郎が山賊目掛けて手裏剣を数枚投げつけた。は組のお約束補正がかからない小三郎の手裏剣は見事に山賊二人に命中した。その隙に留三郎、小三郎、食満兄弟が急接近!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎「子供を誘拐するとは……てめぇらの血は何色だぁぁぁ!!」

小三郎「勝負だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乱太郎達は留三郎の背後に怒り狂う阿修羅の様な幻影を見た。留三郎は山賊Bを鉄双節棍でボコボコに叩き伏せた。

 

 

留三郎「お前はもう……死んでいる。」

山賊B「アベシッ!!!ガクッ。」

 

山賊Bは変な悲鳴をあげて気絶してしまった。

 

 

 

山賊A「な、なんだこいつら!は、早い!のわ!?」

 

小三郎は小柄な山賊の背後に回り込み、腰に手回した。

 

山賊A「い、いつの間に!」

小三郎「おんどりゃぁぁぁ!!!」

 

小三郎は全力でそのまま背後にブリッジの様に身体を捻った。

 

小三郎「食満流体術必殺奥義!蛇亜満(ジャーマン)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ボゴッ!!グキッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山賊A「ヒデブッ!……ガクッ。」

 

小三郎にジャーマンスープレックスを決められ、そのまま山賊Aは卒倒してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しんべえ「凄い!」

乱太郎「小三郎と留三郎先輩。あんなに強かったんだ!」

きり丸「でも……なんか昔くさい台詞を聞いたようなぁ……。」

 

 

 

 

 

 

 

その後、哀れボロ雑巾の如くボコボコにされてしまった山賊を役場に連行した後、らんきりしんも含め、食満兄弟は美味しいうどん屋さんでうどんを食べることが出来た。しかし、乱太郎ときり丸は再度心に決めた。

 

 

 

乱太郎&きり丸「食満兄弟は…怒らせない様にしよう。」

 



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小三郎と三年生の段

小三郎と作兵衛と数馬と藤内の絡み話です。


十一月末、昼は暖かいが夜は寒い。その為忍術学園では風邪が流行っていた。そんな中、小三郎は医務室で三反田数馬の薬作りの手伝いをしていた。

 

数馬「ごめんね~小三郎。手伝わせちゃって。」

小三郎「別にいいですよ~、でもまさか保健委員会、数馬先輩以外、不運で足を滑らせ池に転落して全員風邪で全滅なんて。」

数馬「不運だよね。僕はたまたまその日は藤内の予習に付き合っていたから免れたけど。」

小三郎「でも僕もお手伝いしますから!」

 

小三郎は胸をポンっと叩く、その姿に数馬はニコリと笑う。

 

数馬「君は本当にいい子だよね?僕は影が薄くてみんな忘れられるけど小三郎はちゃんと覚えてくれているもんね?」

 

小三郎「何を隠そう、「お約束ブレイカー」ですから。」

 

お約束ブレイカーとは小三郎の別名の一つであり、忍術学園のお約束が一切適用されず、お約束が起こりそうな場合、阻止する為この名がついた。

 

数馬「窓から見ていたけど、今日の手裏剣の練習も何故か山田先生に飛んでいったけど阻止したもんね?」

 

小三郎「そんなとこ見ないで下さいよ~。でもなんでブーメランみたいにターンするんだろうか?あれさえ直ればなぁ……あれ?」

 

薬草を擦っていくといつの間にやら一番大事な葛根がなくなってしまった。

 

 

『葛根とは葛の根の事で現代では葛根湯の名前で親しまれている風邪薬です。しかしその歴史は意外にも深く、平安時代から存在します。』

 

 

小三郎「葛根が無くなっちゃいました。」

数馬「こっちもだ!これは堀に行くしかないね。大変な仕事にあるから小三郎はもういいよ。」

小三郎「あ。力仕事なら任せて下さい!まだまだ手伝いますよ!」

 

小三郎の言葉に数馬はすまないね。っと言いつつも笑う。しかしながら二人では大変だと言い応援を呼んでくると長屋の方に行き、小三郎は先に校庭で待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると数馬が浦風藤内と富松作兵衛を連れてやって来た。

 

数馬「おまたせ。」

藤内「やぁ。小三郎。」

作兵衛「よぉ。」

 

小三郎「藤内先輩!作兵衛先輩!こんにちは!」

 

ニコリと笑い礼儀正しく挨拶を交わす。藤内は今度の穴掘りの予習がてら手伝うことに決め、作兵衛は同室二人が風邪で寝込んでいるので進んで手伝いに来てくれたらしい。小三郎はお礼を述べる。

 

小三郎「ありがとうございます!でも作兵衛先輩。神崎左門先輩と次屋三之助先輩を放置しても大丈夫何ですか?もしまた迷子にでもなったら……。」

 

小三郎の言葉に作兵衛は苦笑いを浮かべる。

 

作兵衛「後輩に心配されるなんて……左門も三之助もしっかりして欲しいもんだな。大丈夫。二人ともよほど怠いらしくて大人しく寝てっから。」

 

藤内「それはそうと、まずは用具倉庫から鋤と鍬を持って来なきゃ。葛の根はかなり掘らなきゃいけないからね?」

 

小三郎「ご心配なく!既に鋤と鍬は用意して来ました!」

 

 

小三郎は懐から鋤と鍬を取り出た。

 

数馬&藤内&作兵衛「えぇぇぇぇぇ!?!?」

 

衝撃的な光景に先輩三人は声をあげぶっ倒れた。

 

数馬「まってまって!どこから出したの!?」

小三郎「ここから。」

作兵衛「いやいや!無理があるだろうが!!」

藤内「その懐どうなっているのさ!?」

 

先輩三人の怒涛のツッコミを小三郎は難なくさっさと捌いていき、最後には満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

小三郎「じゃあ、行きましょうか?」

数馬&藤内&作兵衛「まさかのスルー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所が変わり訓練場から少し外れた所。

 

作兵衛「おっ。生えてる生えてる。」

 

そこにはまだ花が咲く前の葛の葉が生い茂っており辺り一面を覆っていた。

 

数馬「じゃあ早速取り掛か…「数馬先輩ストーーップ!!」へ?」

 

小三郎のスキル、「感の鋭さ:A」が発動しガシッと数馬の腰を掴み引き戻す。そして持っている鋤で地面をこっ突くと途端に地面は崩れ、落とし穴が開いた。

 

数馬「あ、危なかった〜。ありがとう小三郎!」

小三郎「気がついてよかった。」

作兵衛「しっかし鋭いなぁ!その感、留三郎先輩もびっくりだわ。」

藤内「俺でも分からなかったよ。流石は将来有望、一年は組一出来る子だね!」

小三郎「そ、それ恥ずかしいです…。」

数馬「でも本当じゃない。お陰で不運に見舞われなかったし。」

 

三人の言葉に小三郎は照れながらも胸を張って見せた。そして葛の根を辿り、地面を掘っていく。

 

藤内「でも奇跡的に花が咲いてなかったね。数馬。」

作兵衛「んぁ?花が咲いちゃダメなのか?」

小三郎「花が咲くと根の栄養が花に持ってかれちゃうんですよ。」

数馬「その過程で、根も小さくなっちゃうんだ。」

藤内「おまけにもう十一月末。」

作兵衛「ん?って事は数馬!珍しくラッキーじゃねーか!」

 

そうである。普段保健委員会メンバーの手伝いをすると手伝い人まで不運を受けるが今回はラッキーなのだ。

 

数馬「小三郎のお陰だよ。前も保健委員会との交流でピクニックに一緒に行った時もどういうわけか不運に合わなかったんだ。」

藤内「凄いじゃないか。保健委員会の不運も素で蹴り飛ばす。不運ブレイカーだ!」

 

 

藤内の言葉に小三郎は苦笑いを浮かべる。

 

小三郎「あはは…(実際は不運じゃなくて、不注意なんだけどね?)。」

 

 

 

四人で根を掘り収穫して行くと、作兵衛の鍬がガキンッ!と何かに当たった。

 

作兵衛「ん?なんだ石か?」

 

作兵衛が手で土をかき分けて行くと、それは何と蓋がされた壺だった。

 

作兵衛「お、おい!なんか壺が出て来たぞ!?」

きり丸?「お宝!?アヒャアヒャ!」

 

突如何処からかきり丸?が姿を現した。

 

数馬「き、きり丸!一体何処から。」

小三郎「な〜んて!」

 

きり丸かと思ったらきり丸のお面をつけた小三郎だった。

 

数馬「小三郎か!びっくりした!」

藤内「そのお面良くできてるね?」

小三郎「鉢屋三郎先輩から貰いました。」

作兵衛「おい!こっち無視するなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤内「それにしても、なんでこんな所に壺が?ご丁寧に封までされているじゃん。」

数馬「こう言うのって…なんかあれじゃない?ほら。開けちゃいけない壺とか。」

作兵衛「ま、まさか……。」

 

先輩三人が話す中、小三郎は壺を持つ。そして下ろす。

 

小三郎「でもお宝系ではありませんね?意外と軽いです。お宝なら金銀財宝ですからこのくらいの壺でも重いはずですから。」

 

小三郎の言葉に先輩方は目を丸くした。

 

作兵衛「普段の一年は組ならここで騒ぐのがお約束だけど…。」

数馬「真面目だね?小三郎。」

藤内「流石お約束ブレイカー。」

 

それから色々中身に対して意見を言い合ったが、最終的に小三郎が開けることにした。小三郎はなんと頭巾の中から苦無を取り出した。最早三人は突っ込まない。そして封を切り蓋をゆっくり開ける。中身は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作兵衛「はぁ?なんじゃこりゃ!?」

 

出て来たのは学園長のプロマイドやフィギュアだった。三年三人はがっかり。小三郎は平然としている。

 

数馬「きっと誰かが処分に困ってここに埋めたんだ。」

作兵衛「誰だ!こんな所に埋めたのは!」

藤内「全く。不法投棄だよ。でもどうする?もらっても嬉しくないし……また埋めるのも…。」

 

うーんと考える中小三郎はプロマイドとフィギュアを手に取る。

 

小三郎「僕が貰っておきますよ。」

作兵衛「は?べ、別に良いけどよ。」

藤内「貰っても嬉しくないと思うけど?」

 

それでも誰も欲しがらない物を引き取ると小三郎は言うので先輩方は譲った。それからは収穫した根を持ち帰り、洗い、干して解散となった。四人とも汗と土まみれになってしまったので、少し早めのお風呂に入る事にした。

 

作兵衛「ってか風呂沸いているのか?……冷た!」

 

まだ早い為、風呂は水風呂状態。

 

小三郎「僕が火をつけて来ますから温度確認お願いします。」

数馬「わかったよ。」

 

 

小三郎は風呂の裏に回り、釜に順序良く薪や例のブツなどを入れて火種を入れる。しばらくすると一気に燃え出した。

 

小三郎「今火が付きましたので!」

藤内「早いね!薪乾燥していたの?」

小三郎「はい。」

 

 

しばらくすると湯が湧き始め、数馬の合図と共に、火を弱め、小三郎も入浴する事にした。

 

作兵衛「う、うぅぅー!!」

藤内「作兵衛!年寄りくさいよ!」

数馬「でも気持ちいね?」

小三郎「最高〜。」

 

 

 

 

 

しばしの間、極楽気分を味わいよく身体を洗い温まってから出た。

 

 

 

作兵衛「でもあのプロマイドやフィギュア。ほんとうに貰って良かったのか?」

小三郎「もう使っちゃいましたよ?」

数馬「は?」

 

 

 

先輩三人は頭に?マークを浮かべた。

 

藤内「使った?」

小三郎「はい。風呂焚きの焚き付けに。」

 

 

作兵衛&数馬&藤内「はぁぁぁぁ!?だぁぁぁぁ!」

 

 

三人ともひっくり返った。

 

小三郎「プロマイドもフィギュアも濡れても大丈夫なように油でコーティングされているんですよ。」

 

ニコニコ顔で発言する小三郎。

 

 

作兵衛「こいつ…普段は真面目なのに…。」

数馬「乱太郎から聞いたよ…小三郎はたまにぶっ飛んだ発言をするって。」

藤内「本人は悪気はないんだろうな?でもまさか燃やすなんて……やば、学園長先生が気の毒に思えて来た。」

 

 

 

 

小三郎「よく燃えました!はい!」

 

 

ニコニコ顔で笑う小三郎に三年生は苦笑いを浮かべるのだった。



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朝の始まりの段

うわぁぁぁぁぁ!?もう年越しちゃった!!読者の皆様あけましておめでとうございます!本当は12月中に1話上げたかったけど家や会社で大忙し!でもこの小説は続けて行きたいと思いますので今年もよろしくお願いします。


十二月。時々雪が降り、下級上級生問わず朝は布団から出るに出られないくらい寒い。しかしそんな季節でも小三郎は朝早く起きて、体術の鍛錬に励んでいた。因みに今日は兄の留三郎も一緒。

 

小三郎「やぁ!たぁっ!はぁっ!」

 

蹴りや拳を留三郎に繰り出すが、そこは流石は学園一の武闘派の留三郎。軽くいなす。そして一瞬の隙を突き、小三郎の背後に回った。

 

小三郎「っ!?しまった!」

留三郎「よっと!」

 

留三郎は小三郎の腰を掴み、高い高いの要領で揺すった。

 

小三郎「あ〜ぁ。まだまだ兄者には敵わないなぁ。」

留三郎「ハハハッ!そう簡単に俺を超えられん。しかし前より格段に強くなってる!日々の鍛錬が実を結んでいる証拠だ。これからも励めよ?お前は絶対に強くなる!」

 

小三郎「うん!めげないしょげない泣かない!僕頑張る!」

 

留三郎に頭を撫でられ小三郎は照れながらも素直に喜び、久しぶりに自分の信条を口に擦る。

 

伊作「仲がいいね?」

留三郎「おぉ!伊作!」

小三郎「おはようございます!伊作先輩!」

 

やって来たのは六年は組、留三郎と同室の善法寺伊作。小三郎の挨拶にニコッと笑い、挨拶を返す。

 

伊作「しかし元気だね?みんなはまだ布団の中か火鉢に引っ付いているのに。」

小三郎「あはは…確かに寒いですけど。授業が始まれば嫌でも出なくちゃいけませんし。っと。そろそろ朝食の時間になりますね?みんなを起こして来なきゃ。じゃあ兄者、伊作先輩。また。」

 

留三郎「おう!またな。」

伊作「じゃあね。」

 

留三郎と伊作に見送られ忍たま長屋に戻る。それからが修羅の始まり。庄左ヱ門と伊助はすでに起きておりクラスメイトを起こしていたが一年は組の中で一番寝起きが悪いのは団蔵と虎若。

 

 

 

 

小三郎「団蔵!虎若!朝だよ!朝食始まるよ!」

虎若「嫌だ…。」

団蔵「寒いよぉ〜…。」

 

布団の中でまるで春巻きみたいに丸くなる団蔵と虎若。しかし小三郎は有無も言わせず布団の端を掴む。

 

小三郎「火縄銃の子と馬借の子が寒さに負けてどうする!!おんどりゃぁぁぁ!!」

 

小三郎は有無も言わせず布団の端を掴み、ものすごい勢いで引っ張り布団を剥ぎ取った。団蔵と虎若はガタガタと震える。

 

団蔵「さ、寒い…。」

虎若「サブちゃんの鬼!」

 

小三郎「へ〜?」

 

虎若が鬼と言った瞬間、虎若はしまった!っと言った具合に自分の口に手を当てた。

 

小三郎「なら、鬼は鬼らしく……喰らってやろうか?え?」

 

団蔵「や、やめてやめて!舌なめずりしながら近寄らないで!なんか妙に怖い!」

虎若「起きる起きる!起きるから!」

 

二人は先程の寒さは何処へやら、飛び起き、テキパキと着替え始めた。その様子を庄左ヱ門と伊助が苦笑いしながら見ていた。

 

庄左ヱ門「流石は小三郎だね?あの二人を一発で起こすなんて。」

伊助「そりゃあ…多分だけどあれ起きなきゃ団蔵と虎若。確実に小三郎に噛まれてたよ?小三郎って加減が苦手だから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

庄左ヱ門達が話しているのをよそに小三郎は乱太郎達の部屋へ歩んでいく。

 

小三郎「乱太郎。きり丸。しんべえ!朝だよ!起きてる?」

乱太郎「あっ!サブちゃん!いい所に!」

 

戸が開き乱太郎が出てくるや否や手を引かれ部屋の中へ。

 

小三郎「どうしたの?ってありゃま。しんべえ。またリンス忘れたの?」

しんべえ「うん…。」

 

しんべえの髪がまるで剣山のようになっていた。しんべえの髪は剛毛なため髪をリンスをせずに洗うと乾いた後にこのように鋼鉄をも弾く髪になってしまうのだ。

 

きり丸「ってな訳でいつものアレ!」

小三郎「すでに出してありまーす!」

きり丸「相変わらず早えな!」

 

すでに椿油と櫛を出してあり、油を櫛に塗りしんべえに近寄る。

 

小三郎「はい頭出して。」

しんべえ「お願いしまーす。」

 

しんべえの髪を櫛で梳かす。最初は表面だけだがだんだんと剛毛が解かれてゆく。そしてしまいにはサラサラヘアーに変わった。最後に濡れた布で余分な油を取り除き、いっちょ上がり!

 

小三郎「はい終わり!」

しんべえ「ありがとう!小三郎!」

乱太郎「いつもごめんね?助かるよ。」

きり丸「んじゃ。着替えるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂

 

おばちゃん「お残しは許しまへんで!!!」

全員「いっただきまーす!!!」

 

 

こうして一年は組の朝は始まる。



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女装でバイトの段

小三郎はきり丸のバイトの手伝いで町に来ていた。女装姿で。

 

きり丸「お兄さ〜ん?お安くしますよ?買ってくださ〜い?」

小三郎「……聞いてない…女装でなんて聞いてないよぉ!きり丸!」

きり丸「だって女装姿の方が客受けがいいんだよ。それに……かなり可愛いわよ?食満子ちゃん!」

 

きり丸の言葉に嘘はなかった。現に小三郎の方にはきり丸以上に人だかりが出来ているのだ。

 

待人「食満子ちゃん!これ売ってくれ!」

待人「食満子ちゃん!こっち見て!」

待人「なんて可愛いのかしら!ご両親が羨ましいわ!」

 

小三郎「は、はい!ありがとうございます♩またのご来店をお待ちします。(ニコッ)(あぁ。恥ずかしい)」

 

精一杯演技をして女の子らしく振舞う。その度に客は小三郎に釘付け。中には卒倒する者もいた。

 

きり丸「まぁまぁ。人気ね?食満子ちゃん!」

小三郎「大変よ!客捌きが!」

きり丸(でもサブちゃんはなんだかんだでやる時はしてくれるんだよな?)

 

 

 

 

 

 

 

全部商品が完売したのはお昼過ぎ。きり丸はバイト主にお駄賃をもらいご満悦。そしてきり丸オススメの蕎麦屋さんでお昼にする事にした。女装姿のまま。

 

小三郎「なんで着替えないの?」

きり丸「ここの蕎麦屋さん。女性なら少し安くなるんだよ!」

小三郎「きりちゃんのドケチ!」

 

きり丸は肉そば、小三郎は盛り蕎麦を頼み、来るまで色々話す。そして小三郎はなんとなく窓から外を見た途端、ドキッとした。

 

きり丸「どうしたの?食満子ちゃん。」

小三郎「や、やばい。兄者と伊作先輩だ!」

 

きり丸も外を見ると買い物帰りであろう善法寺伊作と食満留三郎がいた。

 

きり丸「おーい!伊作先輩!留三郎先輩!」

小三郎「なぜ呼ぶ!?」

 

きり丸の声が届き、伊作と留三郎が近寄ってくる。

 

伊作「やぁ。きり丸!なんで女装…あれ?」

留三郎「誰だ?その子?バイト仲間か?ん!?」

 

伊作と留三郎が小三郎を見る。そして小三郎の視線と留三郎の視線が一致。

 

ズキュウウウン!!!

 

留三郎のハートが射抜かれた。そしてジリジリと近寄る。

 

留三郎「こ、小三郎か?」

小三郎「あ、兄者?ちょ、ちょっと怖いんだけど?」

 

鼻息交じりに近寄る留三郎に席を立ち後ずさる。そして思いっきり抱きつかれた。

 

小三郎「ぎゃっ!」

留三郎「俺の妹ぉぉ!!」

伊作「弟でしょ!少し落ち着け留さん!」

 

ガン!伊作のチョップが留三郎の脳天にクリーンヒット!

 

留三郎「ゴフッ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊作「なるほど。つまり女装の方が客受けがいいからそんな格好を……。」

きり丸「そうなんすよー。でも、食満子ちゃん可愛いでしょ?」

 

きり丸の言葉に伊作は再度小三郎の女装姿を見る。艶やかな肌に少し軽めな紅の入った唇。パッと見れば女の子そのもの。

 

伊作「ほんと可愛いよね?その化粧は誰かにやってもらったのかい?」

小三郎「いえ。以前、立花仙蔵先輩と「とある所」という場所に密書を届ける時にご伝授してもらいました。」

 

留三郎「仙蔵グッジョブ!!!」

 

何時もあまり気の合わない立花仙蔵を留三郎が始めて褒めた。

 

きり丸「おかげでバイトも上手くいきました!ありがとう!食満子ちゃん。」

小三郎「そりゃどういたしまして!二度とやらないからね!」

 

 

 

やがて注文した蕎麦が来て、伊作達と食べ忍術学園へ戻る。道中、道行く人が小三郎に釘付けであった。小三郎は着替えようと思ったがどうせ洗うと思いそのまま。そして門前では乱太郎としんべえが待っていた。

 

しんべえ「あっ!帰ってきた!」

乱太郎「きり丸!小三郎!おかえ……!?」

しんべえ「あっ!食満子姫だ!」

 

乱太郎は絶句した。しんべえと喜三太から聞いてはいた。小三郎の女装は可愛いと。しかし想像を遥かに超えていたのだ。そして真剣な面持ちで小三郎に近寄り手を握った。

 

乱太郎「お嬢さん。どうか嫁になって下さい。」

小三郎「はい!?」

 

きり丸&伊作「だぁぁぁぁ!」

留三郎「やらん!!!」



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予算会議の準備の段

忍術学園、火薬委員会の拠点、火薬庫詰所。そこにはいつもの様な穏やかな雰囲気ではなく物々しい雰囲気に包まれたメンバーがいた。

 

久々知「ついに、予算会議の時期が来た。」

タカ丸「そうだね。三郎次、準備は出来てる?」

三郎次「はい。焙烙火矢に万人敵、いつでも使えます!」

伊助「いざとなったら全て焼き払います!」

小三郎「ま、待ってください!皆さん!」

 

次々恐ろしい事を言う火薬委員会のメンバーに「火薬庫の守護童子」こと小三郎が制止をかけた。

 

小三郎「予算会議ですよね!?そんな戦に行くみたいな…。」

久々知「そうか。小三郎は初めてだったな。」

タカ丸「予算会議とは戦そのもの。」

三郎次「全ての委員会が予算を多く取ろうとあれこれ戦い合う。」

伊助「それに火薬委員会は毎年大した予算が来ない。しかも度重なる火器組の襲撃で火薬はなくなる始末!でも!久々知先輩!タカ丸さん!三郎次先輩!今期の火薬委員会には超戦力がいます!」

 

伊助が立ち上がり、小三郎を前に押した。

 

伊助「一年生中最強!は組一出来る子にして火薬庫の守護童子!食満小三郎!」

 

 

パパ〜ン!!

 

小三郎「恥ずかしいからやめてよ!ってがなんか二つ名が増えてるし!」

 

恥ずかしがる小三郎に委員長である久々知兵助は笑う。

 

久々知「アッハハ。だけどこの前虎若を殺ったじゃないか?」

小三郎「人聞きの悪い事言わないで下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは一週間前の事。偶然火薬庫に忍び込んでいる虎若を見つけた時。

 

小三郎「こらー!この泥棒銃火器オタクがぁ!!」

虎若「げっ!?こ、小三郎!ちちち違う!つい出来心で!ってかそんなに口悪かったけ!?」

小三郎「問答無用!」

 

有無も言わせず小三郎は謎の構えを取る。そしてゆらゆらと揺れる。

 

小三郎「食満流体術・参の構え!柳桜!」

虎若「ちょっ…な、何それ!?何する気!?ねぇ!」

 

小三郎は答えない。そしてピタッと動きが止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばしの沈黙。そして虎若が瞬きをした瞬間。

 

 

 

 

 

虎若「え……。」

 

 

 

 

小三郎は虎若の背後にいた。

 

 

 

 

 

小三郎「食満流体術。散り桜。」

 

 

 

 

ゴスっ!

 

 

虎若「がっ………ガクっ…。」

 

小三郎の手刀を首の両側にもろに受け、虎若の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三郎次「こ、こえぇぇ….。」

 

三郎次は詰所隅まで後ずさり震える。

 

伊助「まぁあの後虎若は気絶したから、目覚めた時には何も覚えてなかったらしいですけどね?」

小三郎「あれでも加減したんだけど。」

 

すまなそうに頭を掻く。

 

久々知「だけど少なくとも怪我人は出る。」

小三郎「あぁあ……だから乱太郎達嫌そうにしていたのか…でも僕の体術では精々三年生までが限界です。流石に上級生相手は…。」

久々知「それは心配ないさ。それは俺たち上級生に任せればいい。なぁ。タカ丸。」

タカ丸「そうだねー。僕も頑張ってみるよ。」

伊助「それにサブちゃん。なんだかんだで色々用意しているんでしょ?」

 

にっと笑う伊助に小三郎立ち上がる。

 

小三郎「まぁ。色々とね?」

 

小三郎がすっと袖の中に手を入れると小刀が出て来た。さらに袴に手を入れると苦無や手裏剣が出て、さらに頭巾を外すとコシコロが出て、袴の裾をたくし上げると鋼鉄の長い針が出て来た。

 

久々知「こ、小三郎。」

三郎次「お前は歩く武器庫か!」

 



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小三郎対団蔵&佐吉の段

あの骨が出ます。


火薬委員会の後、小三郎は真剣な表情で鍛錬に励む。乱闘になる恐れもあるならせめて自分と伊助ぐらいは守らないと。いつも以上に蹴りや拳に力が入る。そんな様子を物陰から同じ一年生が二人見ていた。予算委員会の佐吉と団蔵である。

 

団蔵「やってるやってる……うわぁ…いつも以上に力入ってるなぁ。」

佐吉「実際どうするのさ?火薬委員会の戦力を削るために小三郎を取り押さえろなんて文次郎委員長も無茶苦茶だよ!」

団蔵「確かに……一年生中最強の小三郎。特に一対一じゃ勝てない。でもこっちは二人!いくら最強の小三郎でも苦戦するはず!」

 

 

 

 

しかし、小三郎は並の一年生とは次元が違う。すでに感の鋭さで二人には気がついていた。誰かは分からないがジリジリ近寄ってくるのは分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バサっ!茂みから野生の馬借若旦那……ではなく、団蔵が飛び出した!

 

小三郎「団蔵!」

団蔵「ごめんね!小三郎!でも予算会議の為なんだ!覚悟!」

 

暴れ馬の如く飛びかかる団蔵を小三郎は持ち前の瞬発力で回避。すると小三郎の背後の茂みから佐吉が飛び出した!

 

小三郎「っ!?佐吉!」

佐吉「悪く思うなよ!」

 

佐吉が掴み掛かる。しかし小三郎は逆に佐吉の伸ばした腕を掴んだ。

 

佐吉「えぇっ!?」

小三郎「悪いけど、その言葉返すよ!悪く思わないで!食満流体術!払い投げ!」

佐吉「うわぁぁぁぁ!?」

団蔵「えちょっ!わわわわぁぁぁ!」

 

小三郎は佐吉を団蔵で目掛けて投げ飛ばした。幸い団蔵が受け止めた為佐吉は怪我をしなかった。

 

団蔵「大丈夫!?佐吉!」

佐吉「な、なんとか…。」

 

二人は立ち上がり小三郎を睨むがすぐに顔が引きつった。

 

小三郎「……。」

 

小三郎の目が本気になっている。よく伊助が部屋の汚さでキレるのも怖いがは組一同がもっとも恐れるのは小三郎が本気でキレた時である。小三郎は伊助とは違う。下手をすれば手が出る。

 

小三郎「大方、文次郎先輩からの指示で僕を抑え込もうとしたんだろ?」

 

団蔵(ドキッッ!!!)

佐吉(ば、バレてるぅ!!!)

 

慌てる二人に小三郎は苦無を手に持つ。

 

団蔵(ま、まずい!)「ま、待って!サブちゃん!仕方ないんだよ!」

佐吉「そうだよ!僕たちも会計委員会の秩序の為に…。」

 

 

 

 

 

ヒュン!タン!

 

団蔵&佐吉「ひっ!!!」

 

 

小三郎が投げた苦無が団蔵と佐吉の顔の間を通り抜け、後ろの木に刺さった。

 

小三郎「僕も火薬委員会の為に頑張らなきゃいけない。兵助先輩にもタカ丸先輩にも三郎次先輩にも期待されている!だから応えなきゃいけない!だからこそ!ここで君たちに押さえ込まれるわけにはいかない!!!」

 

団蔵&佐吉「〜〜〜ッ!!!」

 

小三郎の凄まじい気迫に圧倒される。そして小三郎がゆっくりと二人に歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

まずい……これはまずい!

 

 

団蔵と佐吉の顔からサァーッと血の気が引く。

 

団蔵「な、なんだよ…こ、これ!」

佐吉「あ、足が…動かない!」

 

恐怖のあまり体が動かない。小三郎は二人の肘のある箇所に指を添えた。

 

 

小三郎「食満流体術超絶奥義!」

 

 

 

 

ビシッ!!!

 

 

団蔵「ガッ!!」

佐吉「イッ!!」

 

 

 

 

 

小三郎「骨法!上腕骨内上顆・破骨掌!!」

 

デコピンの容量で団蔵と佐吉の肘の出っ張った骨を弾いた。二人は肘を抑え悶絶。

 

団蔵「痛い!地味に痛い!!」

佐吉「あぁぁぁ!!ビリビリするぅ!」

 

 

 

 

ここで保健委員会からミニコーナー!

 

乱太郎「上腕骨内上顆とは肘の出っ張った骨のことであり…。」

伏木蔵「謝って打ち付けるとビリビリするあの箇所の正式名称であります。」

左近「西洋医学ではファニーボーンと言われており…。」

数馬「ファニーボーンとは南蛮語でおかしな骨という意味です。」

伊作「デコピンでもビリビリするけど、あまりやりすぎるとビリビリがなかなか取れなくなるので注意するように。」

 

 

小三郎「説明ありがとう。保健委員会のみなさん。」

乱太郎「またね〜?」

伏木蔵「スリルとサスペンス〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団蔵と佐吉を見るとまだ悶絶している。小三郎はくるりと向きを変えて歩き出す。

 

団蔵「ま、まて!っ。イテテ!」

佐吉「くっ。文次郎先輩。申し訳ありません。」

 

 

 

小三郎win



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予算会議の乱は僕が止めるの段

五月半ば。いよいよ予算会議。小三郎は部屋で髷を解き、つげの櫛に椿油を浸し髪を解く。その表情はまさに死地に赴く武者。しかし何処か穏やかである。

 

そんな身支度をしている小三郎を部屋の外で伊助が待っていた。そこへ火薬委員会の面々がやって来た。

 

平助「伊助。」

伊助「久々知先輩。タカ丸先輩と三郎次先輩。」

タカ丸「小三郎は?」

伊助「まだ準備中らしくて…。」

三郎次「準備って何をそんなに……小三郎〜!置いてくぞ〜!」

 

三郎次が声をかけると同時に戸がゆっくり開く。

 

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ギャァァァァァアアアア!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶叫が上がった。そこには髷を解き髪が靡き、頭にロウソクを付け、右手に刀、左手に火縄銃。全身白装束に身を包んだ小三郎が立っていた。

 

 

小三郎「おまたせしました。さぁ……逝きましょうか?」

 

平助「○つ墓か!お前は!!」

タカ丸「しかも「逝きましょうか」が字が違う!!」

三郎次「本当にやめろ!シャレにならない!」

伊助「殺戮に行くんじゃないよ!?予算会議だよ!?確かに乱闘にはなる時もあるけど小三郎の野郎としている事は殺戮だよ!!!」

 

みんなが必死に止めるのを見て、小三郎はニッと笑う。

 

小三郎「冗談だよ♫冗談♬」

 

普段の様に愛想よく笑う……しかし火薬委員会のメンバーが小三郎の部屋の中にあるモノを見た瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

背筋が凍った。そこには大きな研ぎ石と試し切りしたであろう木偶が転がっていた。

 

 

 

 

 

「「「「殺る気満々……っ!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎は普段の装束に着替えいざ、予算会議室へ向かう。葛を背負って。

 

伊助「その葛なに?」

小三郎「備えあれば憂いなし。でしょ?」

平助「はははっ。頼もしいな。」

 

 

 

 

 

 

 

ドォーン!!!

 

 

 

 

伊助「な、何!?」

タカ丸「爆発音…だよね?」

三郎次「それに…なんだか騒がしい声が…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予算会議室

 

小平太「文二郎貴様ぁぁ!!」

仙蔵「予算よこせぇ!」

長次「ぬわははは!ヒャハハハ!!!」

伊作「とりあえず落とし紙投げるね?」

 

文二郎「体育委員会!バレーボールを投げるなぁ!!作法委員!生首フィギュアを投げるなぁ!図書委員会!図書カードを手裏剣がわりに投げるなぁ!保健委員!嫌がらせか!?」

 

そこはもはやカオスな状況。生物委員会と学級委員長委員会のメンバーがハラハラと見ている。

 

平助「勘右衛門!八左ヱ門!無事か!?」

勘右衛門「平助!良かった!まだまともな委員会が残っていたぁ!」

八左ヱ門「生物委員会はまぁ、予算は今回は大丈夫なんだけど……これじゃ…。」

 

パチパチパチパチ。

 

八左ヱ門「ん?な、何やっているんだ?小三郎?」

 

乱闘している委員会以外の人が小三郎を見る。小三郎は葛から算盤と筆を取り出し何かを計算中。そこへ、留三郎率いる用具委員会もやって来た。

 

留三郎「な、なんじゃこりゃ!?」

作兵衛「よ、予算会議は?はっ!左門!?」

 

乱闘の中からヨタヨタと三年ろ組の神崎左門が出て来て倒れた。

 

作兵衛「左門!左門!どうした!?」

左門「と、刻が見える…。ガクッ。」

作兵衛「左門〜〜!!!」

 

それからは左門を始め次々と怪我人が続出。体育委員会が投げた砲丸に当たるもの。図書委員会のカードが刺さるもの。生首フィギュアに当たるもの。小三郎はそれらを見ながらなおも筆と算盤を動かして書き進める。

 

留三郎「こ、小三郎は何をしているんだ?」

平助「わ、分かりません。急に何かを計算し始めて…でも止めちゃダメな空気が…。」

留三郎「小三郎一体何を…なっ…。」

 

留三郎が小三郎の記入している紙を見て、思わず絶句した。そこには。

 

 

「修補及び怪我人の治療費」

机、扉、窓の格子、壁、本棚の破損。計五万文

床、天井、柱の破損。計三万文。

 

怪我人、現在70名。切り傷、打ち身、打撲など計7万文。

 

 

留三郎「こ、こいつ。こんな状況で修補代と治療費代を計算している!?」

八左ヱ門「は!?」

勘右衛門「ま、まじかよ!?」

伊助「サブちゃんすご〜い!!」

 

 

小三郎は再び葛に手を入れ、焙烙火矢に似た玉を取り出し着火。

 

小三郎「皆さん!そこまでです!!!」

留三郎「ち、ちょっと待て!ふ、伏せろ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その刹那、凄まじい爆発音が響き渡り、余りの凄まじさに爆心地にいた全員が気絶してしまった。

 

小三郎「ふぅ。何とかなった。」

留三郎「何とかなったじゃない!!焙烙火矢爆発させる奴があるかぁぁ!!」

平助「い、今のは焙烙火矢じゃなくて「鉄はう」!?大丈夫です。留三郎先輩。これは鉄はうといって大きな音がするだけです!」

留三郎「は?」

 

留三郎が振り返ると部屋は吹き飛んではいなかった。そして大量の投擲物から文二郎が這い出して来た。

 

文二郎「か、火薬委員会……焙烙火矢を投げるなぁ……。」

 

それを機に各委員会の委員長が起き出した。

 

小三郎「そこまでです。各委員会の委員長方。今回の予算は用具委員会と保健委員会で八と七で分配です。見てください!壁や天井や床や戸や窓を!破損しちゃっています!それに怪我人も出ています!乱太郎!及び保健委員会の皆さん!直ぐに見てあげて下さい!」

 

乱太郎「わ、わかったよ!伏木蔵、左近先輩!数馬先輩!伊作先輩!」

 

乱太郎の声に保健委員会は怪我人の治療の為医務室へ向かった。小三郎は紙を文二郎に突き付けた。

 

小三郎「詳しい見積もりはここに。あっ、あと拒否は出来ませんからね?他の委員長もです。誰のせいか分かりますよね?」

 

文二郎「ぐっ…。」

仙蔵「くっ。」

小平太「うっ…。」

長次「もそっ…。」

 

怪我人や破損させたのは間違いなく自分達が関わった為小三郎の意見を拒否出来なかった。その後に安藤先生がやって来た。

 

安藤先生「な、なんです!これは!」

小三郎「ご心配なく。安藤先生。予算の話し合いは既にすみました。あとお願いします。」

 

 

そのやり取りを、留三郎は誇らしく。火薬委員会のメンバーは尊敬の眼差しで見ていた。

 

留三郎「流石は俺の出来た弟!」

平助「す、凄すぎる。他の委員長を抑えちゃうなんて。」

 

 

こうして予算会議は終了し、各委員会の委員長も小三郎の言葉に異を唱えられず、予算は用具委員会と保健委員会に回った。そして小三郎に二つ名が増えた。

 



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作法委員会のピンチの段if

作法委員会伝七を小三郎が自覚なく口説き落とします。


一年い組、黒門伝七は作法委員会の活動で生首フィギュアの手入れの為に倉庫へ足を運んだ。

 

伝七「よし!真っ先に準備をして良いところを見せよう!」

 

外に茣蓙を敷き、その上に生首フィギュアを並べる。

 

伝七「まだ一個あったよな。」

 

再び倉庫に入り見回すと棚の上にアヒルさん学園長ヘアーの生首フィギュアがあった。

 

伝七「あれだ。あれ?」

 

伝七は踏み台に乗り手を伸ばすが、僅かに届かない。

 

伝七「くそっ!あとちょっと…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、茣蓙を敷いてある場所には他の作法委員会の綾部喜八郎、浦風藤内、笹山兵太夫が来ていた。

 

兵太夫「あれ?もう準備が整ってる!」

藤内「綾部先輩ですか?」

喜八郎「いや。来た時には準備が出来てた。立花先輩は遅れるって言ってたから…伝七かな?まだ倉庫にいるのかも。見てくるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾部喜八郎が倉庫に入る。しかし中には誰も見当たらない。喜八郎が伝七を呼ぶと。棚の陰からアヒルさんの生首フィギュアを被った誰かが出てきた。

 

喜八郎「え?で、伝七?」

アヒルさん「はい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普段は成績優秀(授業なら)な黒門伝七が哀れな姿で茣蓙の上に座り項垂れる。何故こんな事になったかと言うとフィギュアに手が届いたが踏み台を踏み外し転倒し落ちてきたフィギュアがハマってしまったらしい。

 

 

作法メンバー伝七以外「ぶっ…クククッ…。」

喜八郎「わ、笑い事じゃない。」

 

笑いかけたが何とか堪えた。それから引っ張ったりしたが一向に抜けない。

 

伝七「どうしよう!このまま抜けないなんて…。」

兵太夫「だ、大丈夫だよ!」

 

兵太夫がフォローしていると向こうから誰かがやって来た。乱太郎きり丸しんべえだ。

 

兵太夫「あっ。乱太郎達だ。」

伝七「へっ!?ま、まずい!隠れなきゃ!普段は成績優秀な僕がこんな姿じゃ…。」

 

慌てる伝七を落ち着かせフィギュアの山の中に隠した。

 

乱太郎「こんにちわ!作法委員会の皆さん!」

きり丸「何しているんすか?」

 

兵太夫「見てわかるでしょ?作法委員会の活動で生首フィギュアの手入れだよ。」

 

乱太郎「そんなんですか?」

しんべえ「でもおかしいなぁ?こっちの方から面白そうな匂いがしたのに…。」

 

乱太郎達が周りを見回すが生首フィギュアが積んであるだけで特に面白いものはない。

 

乱太郎「気のせいみたいだね?」

きり丸「お邪魔しましたぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。」

 

作法委員会が胸をなで下ろすと兵太夫が何かを聞き取った。

 

????「ま〜さか〜りかつ〜いでき〜んたろう〜♫く〜まにま〜たがりお〜うまのけ、い、こ〜♩」

 

喜八郎「歌?」

藤内「結構上手いですね?誰が歌ってるんだろう?」

兵太夫「忍術学園で綺麗に歌える忍たまは僕達は組に一人しかいません。」

 

徐々に歌声が近づく。

 

兵太夫「筆記は庄左ヱ門以上に出来き。実技に置いては最優秀。戦闘力は一年生中最強!忍術学園一の武闘派。食満留三郎先輩の実弟。」

 

兵太夫の言葉に合わせたように歌いながら鉞を担いだ小三郎がやって来た。

 

小三郎「あれ?作法委員会の皆さん。精が出ますね?」

兵太夫「やっぱり小三郎だ!」

藤内「相変わらず歌が上手いなぁ!」

喜八郎「どうも〜サブちゃん。でもまた何で鉞持っているの?」

小三郎「いやぁ。食堂のおばちゃんが薪を切らしたらしくて薪割りを手伝っていたんです。」

 

小三郎が近づくと視界に生首フィギュアが映りその中のアヒルさん学園長のフィギュアが目に留まる。

 

小三郎「ジーー……伝七?」

伝七「な、何でわかったの!?」

小三郎「いや。途中までは誰か分からなかったけど、メンバーに見当たらなかったし、それに普段は優秀で真面目な伝七が委員会をサボるのも考えられないから。もしかしたらって思ったんだ。」

 

ニコリと小三郎は笑う。

 

伝七「//////……た、大した観察力だな……。」

小三郎「そう?見たまんまだけどね?伝七は優秀だし顔も綺麗だし……他にも他にも…ほんと伝七はカッコいいよ!」

伝七「////////////…ボン!」

 

照れ臭さと小三郎の素敵な笑顔によりそのまま伝七はひっくり返ってしまった。

 

小三郎「あれ?」

兵太夫「うわぁぁぁ!伝七!?」

藤内「で、伝七が悩殺されたぁ!?」

喜八郎「おやまぁ。」

小三郎「で、何でアヒルさん被ってるの?」

兵太夫「質問遅いよ!!!この天然!」

小三郎「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「つまり、棚の上にあったフィギュアを取ろうとして滑って転んだ弾みに被ってしまって取れなくなったって事?」

兵太夫「そうなんだよ!引っ張っても取れないし…。」

 

委員会メンバーが考える中、小三郎は鉞を振り上げる。

 

小三郎「割っちゃいますか?」

伝七「や、やめてくれ!!僕の頭まで割る気!?」

小三郎「大丈夫!痛くないから。気持ちよくて極楽だよ?」

藤内「死前提!?ダメだよ!それにこのフィギュア結構高いんだから!!」

 

割ることは却下された。

 

 

 

 

伝七「おしまいだぁ。一生取れないんだぁ。」

兵太夫「で、伝七。落ち込まないで!」

喜八郎「そうそう大丈夫だよ。」

 

伝七をフォローするのを見て小三郎は何かを思い出した。

 

小三郎「そういえば…似たような話を兄者と喜三太から聞いた事がある。」

兵太夫「喜三太と留三郎先輩から?」

小三郎「うん。少し前に用具委員会を手伝った時にみんなの思い出話を聞いてね?なんでもしんべえは昔お寺のご本尊の首を被って抜けなくなったんだって。ほら。今の伝七みたい。」

喜八郎「でもさっきしんべえ達に会ったけど。」

藤内「普通だったけど?」

小三郎「なんでも黒古毛般蔵先生って言う人が胡椒を隙間に吹き付けくしゃみの反動で抜けたらしいですよ?試してみます?」

兵太夫「やってみる?伝七?」

 

伝七を見ると少し考えてから頷いた。

 

伝七「背に腹はかえられない。頼むよ。」

 

伝七の言葉を聞くと小三郎は懐に手を入れる。

 

小三郎「確かぁ。あった!」

 

小三郎は懐から胡椒の入った袋とすり鉢とすり棒を取り出し茣蓙の上に置く。

 

兵太夫「出た!小三郎の不思議な懐!」

伝七「待て待て!何処に入っていたんだ!?」

小三郎「何処って此処さぁ?」

 

小三郎が自分の懐を指差すと作法一同はすっ転んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すり鉢で胡椒をすり竹筒に詰める。

 

小三郎「はい伝七。少しフィギュア持ち上げて?」

伝七「こう?」

小三郎「そのままね?」

 

竹筒を隙間に差し込み、息を吹き付けフィギュア内部に胡椒を散布。

 

伝七「ふ、ふぁ…ふぁ…ふぁっくしょん!!!」

 

スポーーーン!

 

兵太夫「やったぁ!取れた!」

藤内「あぁ!?フィギュアが!」

 

見事くしゃみの反動でフィギュアが取れたが弾みで飛んでいってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仙蔵「少し遅れてしまったなぁ。みんなちゃんとやっているか?」

 

実習で遅れた作法委員会委員長立花仙蔵が倉庫へ向かう途中、そこへ何かが飛んできた。

 

仙蔵「ん?なんだあれは?」

 

目を凝らしてよく見るとそれは先程伝七が被っていた学園長ヘアーのアヒルさんフィギュア。しかし反動で顔のパーツがめちゃくちゃ。

 

 

 

仙蔵「ギョエェェェェ!!なんだこの生首フィギュアは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。伝七は泣きながら喜んでいた。

 

伝七「取れたぁ!うわぁぁぁん!」

小三郎「良かったね伝七。ってか伝七も泣くと鼻水と涙すごいなぁ?」

 

小三郎は懐にから手拭いを取り出し伝七の涙と鼻水を拭う。

 

兵太夫「何はともあれだね?」

喜八郎「良かった良かった。」

藤内「まだですよ!飛んでいったフィギュアを探しに行きませんと。」

 

藤内の発言を聞きみんなで飛んでいった方を見ると、立花仙蔵が走って来るのが見えた。

 

仙蔵「お前達!生首フィギュアが飛んできたぞ!どういう事だ!」

兵太夫「立花仙蔵先輩!」

藤内「良かった〜。手間が省けた。」

仙蔵「どういう意味だ?それになんで火薬委員の小三郎がいるんだ?」

 

小三郎「実はカクカクシカジ、ウェイクでして…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎が一通り説明を終えると立花仙蔵は納得した。

 

仙蔵「なるほど。だからフィギュアが飛んできたのか。伝七。張り切るのは大いに結構だ。だが過ぎたるは及ばずが如しだ。以後、準備は複数人で行う事。いいな?」

伝七「はい…すみませんでした。」

兵太夫「今度は一緒にやろうね?」

 

しゅんとする伝七に兵太夫がフォローを入れる。

 

仙蔵「小三郎も世話をかけたな?礼を言おう。後のことは作法委員会が行う。ありがとう。」

小三郎「いえいえ。世話焼きなものですから。じゃ僕はこれで。」

 

小三郎は再び鉞を担いで金太郎を歌いながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

 

小三郎が寝る準備をしていると、誰かが戸を叩いてきた。

 

小三郎「はい。どうぞ。」

兵太夫「こんばんわ。小三郎。」

小三郎「兵太夫。っと後ろにいるのは…伝七?」

伝七「こんばんわ…その……ちゃんとお礼が言いたくて、昼間はありがとう…あのままじゃどうなっていたか…。」

 

伝七がお礼を言うのが慣れてないのかもじもじしながらもお礼を述べる。小三郎はふっと笑い。

 

小三郎「いいよぉ。お礼なんて。僕達友達でしょ?助けるのは当然だよ。」

伝七「と、友達?」

 

兵太夫と伝七が面食らったような表情を浮かべる。

 

小三郎「違うの?あの時の社会見学から友達と思っていたんだけど?まぁいいや。これからもよろしくね?伝七。」

 

小三郎が握手を求め手を差し出す。伝七はぎこちなくだが手を取った。小三郎の笑顔に顔を赤くする。

 

伝七「よ、よろしく…。」

兵太夫「伝七?なぁに顔赤くしてるのさぁ?」

 

兵太夫がからかうと余計に顔を赤くして小三郎から手を離し急ぎ足で自室に戻っていった。

 

小三郎「こら兵太夫!からかわないの!」

兵太夫「は〜い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年い組の長屋。

 

戻って来た伝七は呆然と虚空を見つめていた。

 

佐吉「どうしたの伝七?顔が赤いよ?」

伝七「………。」

佐吉「伝七?」

伝七「男でも……惚れるかも…。」

佐吉「は!?」

 

 

 

これが後に小三郎の二つ名が増えるきっかけであったりなかったり。



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ろ組とピクニックの段

お待たせしました!放置気味ですみません!今回、小三郎が毒されかけます。


秋暮れ。山も色み、夏の暑さが嘘みたいに涼しくなって来た時期。小三郎はいつもの様に出された宿題をこなしている。

 

小三郎「………はぁぁ〜!終わった〜!」

 

忍たまの友を閉じ、筆を置くとパタンと寝転び、グッと伸びる。すると俄に気配を感じた。

 

小三郎「?誰?」

 

起き上り周りを見る。そしてはっと窓を見る。そこには…。

 

平太「フフ…。」

 

再び気配を感じ、今度は天井を見る。

 

怪士丸「アハハ…。」

 

また気配を感じ、部屋の隅の床を見る。そこには床の板が一枚だけ上がっている。

 

孫次郎「ウフフ…。」

 

小三郎「………背後に伏木蔵!!」

 

小三郎がくるっと背後を振り返えり指を指す。そこにはニタっと笑う伏木蔵がいた。

 

伏木蔵「流石小三郎…。よく気がついたね?」

 

伏木蔵が話すと同時にろ組4トップが部屋に入ってくる。

 

小三郎「何か用?」

伏木蔵「いや〜。い組が前に交流会やったじゃない?」

平太「だから親睦を込めて…。」

孫次郎「ピクニックでも行こうかなって思ったんだ〜。」

怪士丸「一緒にどう?」

 

そういえばろ組とはまだあまり交流はしていなかったと思い小三郎は笑顔で頷く。

 

小三郎「いいねぇ!行くよ!僕も伏木蔵達の事もっと知りたいし!」

 

伏木蔵「じゃあ決まりだね?明日朝門の前ね?」

孫次郎「楽しみ〜。」

平太&怪士丸「そうだね〜。」

 

なにやらキラキラが青白いが気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、小三郎は普段着に着替え、食堂のおばちゃんに米をもらい、釜で炊く。炊き上がったらおにぎりを四つ作る。

 

食堂のおばちゃん「小三郎くん上手だね〜。」

小三郎「実家で母さんに家事の手伝いをしていたら身につきました。」

 

出来上がったおにぎりをたけのこの皮に包み、待ち合わせの正門前に行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「お待たせ〜。」

伏木蔵「おはようぉ。小三郎。」

怪士丸「それじゃあ…。」

 

全員「出発〜………。」

 

ろ組トップ四と小三郎は門を出て森の方へ向かう。小三郎はとりあえずろ組に合わせようと一緒について行く。暑かった夏と比べれば大分涼しくなり風が心地よい。

 

伏木蔵「今年の夏は暑かったよね〜。小三郎?」

小三郎「だよね?日向先生は大丈夫そうだけど…斜堂先生大丈夫だったの?」

 

ろ組の実技担当こと、日向墨男。斜堂影麿先生とは対照的に明るい先生で恐らく最も太陽が大好きな先生だろう。斜堂影麿先生は反対に暗い場所が好きそうだ。

 

怪士丸「大丈夫じゃなかったよ…授業の時倒れちゃって…。」

孫次郎「それから患っちゃて…急に笑い出したり明るくなったりてんやわんや。」

平太「あの時の斜堂先生…怖かった…。」

 

小三郎は明るくなった斜堂先生を想像する。明るい笑顔で太陽の下を駆け回る斜堂先生。

 

小三郎「た、確かにちょっと…。」

 

小三郎でもそれは引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく森の中を進むと開けた場所に分かれ道がある。

 

伏木蔵「分かれ道だね。」

 

小三郎は周りを見る。左の道は花や太陽光が降り注ぎ明るい道。

 

孫次郎「ピクニックの心得その一は〜。」

平太「気持ちのいい場所、道を歩く。だから…。」

 

ろ組全員「「「「当然こっち〜。」」」」

小三郎「は?」

 

ろ組は右の道を歩く。右の道は更に暗く深い森に続いている。

 

小三郎(ま、まぁ。親睦会だし…ろ組に合わせるのが筋……斜堂先生の影響力すごいなぁ。)

 

反論も考えたが他人を尊重する性格の小三郎はろ組に合わせようと決め一緒に深い森に入って行く。

 

 

 

 

 

 

小三郎は気づかない。顔にろ組の様に縦縞が入り始めていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ろ組+小三郎「ひ〜かげが気持ち〜い。コースをあ〜る〜き〜。き〜にい〜た場所〜で〜、お〜べんと〜を〜。」

 

暗く薄気味悪い森の中を歌いながら深い草むらを掻き分けてろ組と小三郎は進んで行く。最初は小三郎も顔が引きつっていたが…何故だろうか?だんだんと慣れてきたのだろうか?なんとも表現し難い…いい気分になっていた。途中で孫次郎のマイペースさに振り回されたり、平太が飛び出した鳥にビビたり。普段はは組のみんなと太陽の下で遊んだりしていたが…これはこれで心地よい。

 

伏木蔵「あ。あれ見て。」

 

伏木蔵が指差した先には岸壁にポッカリと口を開けた洞窟がある。

 

孫次郎「洞窟って僕たちにぴったりのコース。」

怪士丸「小三郎も洞窟でいい?嫌なら変えるけど?」

 

怪士丸の言葉に小三郎は首を横に振る。

 

小三郎「ううん…ああいう場所…意外と好きだから…。」

 

小三郎の表情がだんだんと暗くなって来た事にろ組トップ四はニタっと笑う。そして洞窟に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の中はひんやりとしていて薄暗い。

 

小三郎「あっ。打竹あるんだった…。」

 

小三郎は懐から小さな竹筒と火の付いてない松明を取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

忍具ミニコーナー。

斜堂先生「打竹と言うものは竹筒に火種を入れたもので、マッチやライターがない時代に直ぐに火をつけたい時に使うものです…。意外と火種は長持ちしますので、アウトドアに最適ですよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打竹から火種を取り出し松明につける。すると光に反応したのか蝙蝠が飛び出した。

 

平太「ギャァァァァ!!」

 

飛んで来た蝙蝠に平太がビビリすってんころりん。

 

孫次郎「平太ってばビビリなんだから…。」

怪士丸「でも凄いね?その懐。」

小三郎「まぁね…。ウフフ…。」

 

笑う小三郎の背後に人魂が浮かぶ。ろ組メンバーは再びニタっと笑う。

 

伏木蔵「そろそろお昼じゃないかな?ピクニックの心得その二。気に入った場所でお弁当を食べる。」

小三郎「そうだね…確かに気に入ったかも…。」

 

適当な場所に松明を置き、五人はお弁当のおにぎりを食べる。

 

孫次郎「中身何かな?」

小三郎「僕のは朝早めに起きて自分で作ったんだ…。全部塩むすびだけど。」

孫次郎「わぁ。美味しそう。」

小三郎「なんだったら交換しようか?」

 

お弁当のおにぎりを互いに交換し合い食べる。

 

怪士丸「これ美味しいね。塩が丁度いいね。」

孫次郎「こんな塩むすび始めて〜。」

平太「形も綺麗…。」

 

小三郎の塩むすびはろ組に好評。お弁当を食べ終わり再び歩き出すと再び森の中に出た。さっきよりも深い。

 

伏木蔵「じゃあ。ピクニックの心得その三。みんなで遊ぶ。」

 

荷物を木の下において……。日陰ボッコをしたりかくれんぼをしたりと遊ぶ。森の中にろ組と小三郎の含み笑いが木霊する。

 

小三郎(ろ組って暗いけど居心地良いかも………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、一年は組の教室。

 

 

土井先生「みんなおはよ………な、なんだ!?このモヤモヤした空気は!」

 

土井先生が教室に入るや否や暗くジメッとした空気を感じ取った。

 

伊助「小三郎!しっかりして!!」

 

慌ててふためく伊助が小三郎を揺する。土井先生は小三郎を見てギョッとした。そこには笑顔が可愛らしい小三郎ではなく、顔に縦縞が入り、人魂が浮かぶろ組っぽい小三郎が座っていた。

 

小三郎「あ…おはようございます…土井先生…。」

土井先生「こ、こ、小三郎どうした!?」

乱太郎「昨日ろ組の伏木蔵達とピクニックに行ったらしくて、帰ってきたらこんな状態に!」

土井先生「い、い、一体何が!?………!?」

 

その時、土井先生は背後に気配を感じ振り返ると、戸を半開きにして斜堂影麿先生が、障子の隙間から伏木蔵達がじっと小三郎を見ている。

 

斜堂先生「小三郎くん…。」

伏木蔵「小三郎〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ろ組全員「こっちにおいで…こっち…。」

 

手招きする無数の手。小三郎は立ち上がりフラフラと伏木蔵の元へ歩み寄る。しかし、は組全員が小三郎を抑え込む。

 

庄左ヱ門「だめだぁ!小三郎!!」

団蔵「戻ってこれなくなるぞ!!」

小三郎「呼んでる…行かなくちゃ……。」

三治郎「ダメダメダメ!!君はは組の!!ろ組の子じゃない!」

 

小三郎を抑え込み、みんなが戻って来いと言う。すると小三郎の縦縞取れて行き、人魂も消失。それを見ると斜堂先生はすっと戸を閉める。そして乱太郎は伏木蔵を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伏木蔵「ちっ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伏木蔵が舌打ちしたのが見えた様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斜堂先生「失敗ですね…ですが諦めませんよ?土井先生。小三郎くんはろ組に欲しい人材ですから…。」

 

伏木蔵「絶対サブちゃん手に入れるよ〜。」

孫次郎「サブちゃんだ〜い好き。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやりとりを柱の向こうから一年い組の安藤先生と伝七と佐吉が見ていた。

 

安藤先生「絶対渡しません!小三郎くんはい組です!」

伝七「絶っったい渡すもんか!」

佐吉「な、なんでそんなにマジになってるの?伝七?」

 




みんな小三郎が欲しいのです。


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深夜の授業の段、前編。

今日は秋晴れ。空は晴れわたり心地よい陽気が忍術学園を包む。一年は組の良い子達は食堂でお昼を食べていた。因みにメニューはちょっぴり辛めのカレー。さらに今日は忍術学園恒例の深夜の授業。

 

乱太郎「深夜の授業が忍術学園恒例の行事だなんて知ってた?」

 

きり丸「知らなかったぁ。おまけに今回が一年生の番だなんてな?」

 

乱太郎「夜くらいゆっくり寝たいよね。」

 

乱太郎ときり丸がため息をつく。すると。

 

留三郎「何を言っているんだ!」

 

声をかけて来たのは忍術学園一の武闘派、食満留三郎先輩だった。

 

乱太郎「食満留三郎先輩!」

留三郎「小三郎!夜は忍者にとってなんだ?」

小三郎「夜は忍者にとってゴールデンタイム。夜に授業は深夜での行動を身につけるために行うもの。だよね?兄者。」

 

留三郎の後ろから小三郎が現れる。

 

きり丸「おぉ!久しぶりの食満兄弟お揃いで。」

 

留三郎と小三郎はカレー皿を取り席に座り食べ始める。

 

留三郎「忍者は常に戦いを意識して行動せねば……辛!」

小三郎「食事の時くらい楽にしたらどう?兄者。……辛!」

 

意外とカレーが辛かった為、二人は水を飲む。

 

 

乱太郎「………やっぱり兄弟だね?同じだ。」

きり丸「違いない。」

 

乱太郎達はしばらくしてしんべえと合流し、忍たま長屋へ。小三郎は食事を終えたら、留三郎と軽く鍛錬をする。

 

留三郎「いいぞぉ!前より断然キレが良くなっている!」

小三郎「そう言って…くれるのは嬉しいけど…っ!」

 

留三郎の蹴りをギリで交わし、バク宙を繰り出し間合いを取る。

 

小三郎「未だに兄者から一本取れないなぁ。」

留三郎「ハハ!そう易々と取らせんぞぉ!大好きな弟でもなぁ!!」

 

 

 

 

 

微笑ましい光景を他の六年生が物陰から見ていた。

 

文次郎「普通大好きなんて口に出すか?」

仙蔵「いや、俺は留三郎の気持ちがわかる。小三郎は可愛い奴だからなぁ。」

文次郎「あんなキレたら手に負えない奴がか!?」

伊作「確かに小三郎はキレたら怖いけどいつも保健委員の仕事を手伝ってくれるし、いい子だよ。」

長次「もそ……。」

小平太「どうした?長次?」

 

六年生全員が長次を見る。

 

長次「小三郎…めんこい…。」

 

六年生全員「だぁぁぁぁ!」

 

長次の言葉にひっくり返った。

 

 

 

 

 

 

留三郎「な、何やってるんだ?あいつら。」

小三郎「さぁ?」

 

しばらくして鍛錬を終え、忍たま長屋に戻る。ちらっと隣の金吾と喜三太の部屋を除くと、二人は既に夜に向け寝ている…ナメクジだらけで金吾が魘されているが。

 

小三郎「…今度改造してあげよう。」

 

小三郎は自室に戻る。そしてみんなと同じく布団を敷き夜の為に寝る。しかしみんなとは違う部分はちゃんと戸や窓に暗幕を張り、光がなるべく入らないようにしている。こうする事でぐっすり眠れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして深夜。小松田さんのフクロウの鳴き真似声の合図で起床。小三郎は筆記用具と忍たまの友、その他諸々手に持ち、懐に入れ、庄左ヱ門引率のもと教室へ向かうのだが………。

 

 

 

小三郎「なんで僕が先頭?普通学級委員長の庄左ヱ門でしょ?」

庄左ヱ門「いや〜。流石に夜の教室って不気味で…うん。正直に言うね?」

 

小三郎以外「怖い!!!」

 

小三郎「それでも忍たまか!!もう…あれ?」

乱太郎「どうしたの?小三郎?」

 

小三郎が立ち止った。乱太郎が前を見ると階段前でい組がたむろしている。

 

佐吉「で、伝七先に行ってよ…。」

伝七「こ、ここは学級委員長の彦四郎に…。」

彦四郎「や、やだよぉ!怖い!一平!」

一平「なんで僕に降るのさぁ!」

 

そこには二階の暗がりが怖くて尻込みする一年い組がいた。

 

小三郎「どうしたの?伝七、佐吉、彦四郎に一平?」

 

い組「ギャァァァァ!」

 

小三郎の声に驚きい組全員が卒倒し魂が抜ける。

 

乱太郎「あぁ!い組達の魂が!」

 

小三郎「乱太郎持ってて!」

 

小三郎は筆記用具と忍たまの友を乱太郎に渡すと懐から虫取り網を取り出す。そして素早く魂の飛んでいく方へ先回りし網を振り回し、い組の魂を回収。

 

兵太夫「おぉ!」

三治郎「さっすがサブちゃん!」

 

全員が拍手を送る中、小三郎は回収した魂をい組に戻す。そして彦四郎達は目を覚ました。

 

小三郎「声かけただけで驚かないでよぉ。そんなギャァァァァ!だなんて。お化けでも見たような声出して。」

 

彦四郎「ご、ごめん。」

佐吉「悪かったよ。」

伝七「起こしてくれて…ありがとう。」

一平「迷惑かけてごめんねぇ。」

 

素直に謝るい組に乱太郎達はコソコソ話す。

 

きり丸「なぁ。い組の奴ら小三郎には素直じゃないか?」

乱太郎「まぁ。サブちゃんはい組ろ組分け隔てなく接するからねぇ?」

しんべえ「小三郎はは組、もとより、一年生中最強だからじゃない?」

乱太郎「それもあるね?」

 

らんきりしんが口々に言う中、小三郎は階段に足をかける。

 

小三郎「暗くて足元がよく見えないから、気をつけて登るんだよ。しんべえは一緒に登ろうか?転げ落ちたら危ないし。」

しんべえ「わぁい!ありがとう。小三郎。」

 

小三郎がしんべえの手を握り一緒に登り、他のは組も後に続く。

 

金吾「サブちゃん男前!」

虎若「一年生一イケメン!」

 

小三郎「おだてても何も出ないよ!ほら行くよ!」

 

は組一同「はぁぁい!」

 

彦四郎「ま、待って!」

一平「僕たちも一緒に行く!」

佐吉「ひ、彦四郎!い組のプライドはないのか!?…で、伝七?」

 

伝七は何故かぽ〜としている。

 

伝七「男前だよな?小三郎って…。」

佐吉「で、伝七ぃぃい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

い組も交えて二階へ上がる。三階の教室へは廊下を抜けた反対側。みんながビクビクする中、小三郎は躊躇なく歩む。

 

乱太郎「小三郎怖くないの?」

小三郎「お残しした時のおばちゃんと、入出門表で死ぬまで追いかけてくる小松田さんの方がよっぽど怖いよ。」

 

全員「だぁぁぁぁ!!」

 

全員がすっ転ぶ。

 

団蔵「こ、怖さの方向が違いすぎる!」

喜三太「サブちゃんメンタル硬いよねぇ?」

 

廊下を歩いていると、先頭を歩いている小三郎が足を止めた。

 

乱太郎「どうしたの?小三郎。」

小三郎「誰かいる。先に言っとくけどお化けじゃないからね?」

団蔵「出た!お化け〜!って騒ぐはずのお約束を壊した!お約束ブレイク!」

 

前方を見るとそこにはいかにも火の玉が浮かびそうなクラスの子達。

 

乱太郎「あっ。一年ろ組の伏木蔵に孫次郎に平太に怪士丸。」

伏木蔵「こんばんわ〜。乱太郎。小三郎〜。」

孫次郎「こんばんわ〜。サブちゃん。」

平太「怖いよ〜!」

怪士丸「落ち着いて。平太。」

 

そこには同じ一年のろ組の面子。聞くところによると平太が暗がりを怖がり上に上がれないのだとか。

 

小三郎「いつも日陰ボッコとかしてるのに?」

平太「怖さが違うよ〜!」

 

涙目でビビる平太に小三郎は階段の上の暗がりを見る。何もいない。

 

小三郎「じゃあ平太。あの暗がりと骨格標本のコーちゃん。どっちが怖い?」

 

平太「骨格標本のコーちゃん!!」

 

は組一同「即答!?」

 

小三郎「じゃあ大丈夫だね?」

 

い組一同「何が!?」

 

ツッコミが飛び交う中を小三郎はスルーして階段を上る。その後をピタッとくっ付いてくる。こうして一年生全員が無事に三回にたどり着いた。そこには…。

 

斜堂先生「こんばんわ〜。一年生の良い子達…。」

 

一年生一同「ギャァァァァ!お化け「お化けじゃなくて斜堂先生ね!」。」

 

騒ぐ事を見越して小三郎が制止する。

 

小三郎「こんばんわ。斜堂先生。」

斜堂先生「はい。小三郎。こんばんわ〜。」

 

一年生がそれぞれのクラスに入り、いよいよ、ちょっぴり怖〜い深夜の授業が始まる。

 



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深夜の授業の段、後編。

三階の教室に着くと、まず小三郎がゆっくりと戸を開ける。そして中を確認する。

 

小三郎「右良し、左良し、天井良し、床良し!」

 

戸を全開にして教室に入る。

 

団蔵「ねぇ。どうして今中を確認したの?」

小三郎「んが!どうしてって!………ほら、こう夜だと暗くて見えづらいじゃない?もしかしたら此処に曲者がいたらやられちゃうでしょ?だから先に中が安全か確かめたんだ。………誰だ!」

 

団蔵とみんなに説明を行うと背後に気配を感じ振り返ると同時に懐から苦無を取り出す。

 

????「ま、待て待て!俺だ!小三郎!」

小三郎「その声は…。」

は組一同「土井先生!」

 

暗がりから出席簿を持った土井先生が冷や汗を流しながら出てきた。

 

土井先生「小三郎なら気付くと思ったが…お前いつも苦無持ち歩いているのか?」

小三郎「はい。有事に備えて。いつでも殺れます!」

 

土井先生「うっ。ま、まぁ。忍者としては正解か…。」

は組一同「サブちゃんこぇぇ!!」

 

全員教室に入りいつもの定位置に座る。

 

土井先生「え〜。それでは、深夜の授業1時間目を始める。だが先ずは…小三郎!流石はは組一出来る子だ!まずは安全を確認する。基本中の基本だ。みんなも小三郎を見習え。先ずは安全だぞ!」

 

は組一同「は〜い!」

 

それから授業が始まる。深夜の授業とは言えやる事は基本変わらない。しかし薄暗くて忍たまの友がよく読めないし字もろくにかけない。隣に座る金吾、喜三太は眠そうに欠伸。しかし小三郎は真面目に授業を聞く。

 

土井先生「では乱太郎、きり丸!夜道で暗い時はどうする?」

 

乱太郎&きり丸「は〜い!明かりをつける!」

小三郎「だぁぁぁぁ!」

土井先生「それじゃあ敵に居場所を教えているも同じじゃないか!!」

 

乱太郎ときり丸の答えは間違いではないが、それは一般人の答え。忍者が夜明かりをつけるのは命取り。小三郎はひっくり返り、土井先生の声が響く。

 

土井先生「全く…小三郎。答えてくれ。」

小三郎「はい。夜、暗くてよく見えない時は、地面に伏して雲をすかすように見るようにすれば、暗闇に目が慣れてよく見えるようになります。」

 

指名された小三郎は浦風藤内先輩を見習いちゃんと予習していたのでバッチリと答える。

 

金吾「流石だね?」

喜三太「よっ。流石は出来る子!」

 

全員が拍手する中、小三郎は首を横に振った。

 

小三郎「あのねぇ…いつも言っているけど…忍たまの友を見ればちゃんと書いてあるんだってば!!」

 

忍たまの友をみんなに見せバシバシとページを叩く。

 

乱太郎「ほんとだ!」

きり丸「土井先生ぇ〜。書いてあるなら最初から…。」

 

 

土井先生「お前たちは…。」

小三郎「君達は…!」

 

土井先生と小三郎はわなわなと震え出す。そして。

 

土井先生「ちゃんと!」

小三郎「教えてもらってたじゃないか!!」

 

土井先生がチョークを投げ、小三郎が背後から筆を乱太郎ときり丸に投げる。チョークは額に、筆は後頭部に挟み撃ち。

 

乱太郎&きり丸「あいでぇぇ!!」

 

 

土井先生が腹を抑える。

 

土井先生「あぁあ……胃が痛い…。」

小三郎「胃薬と水。どうぞ。心情お察しします…。」

土井先生「小三郎ぉぉ!!」

 

小三郎が素早く駆けつけ、懐から胃薬と水を取り出し差し出す。土井先生は小三郎に泣きついた。

 

乱太郎「それにしても…。」

しんべえ「眠い…。」

 

全員があくびをすると、小三郎は再び懐に手を入れ、何かを全員の空いた口に投げ入れた。

 

「へ?」

「な、何?…………げっ!?」

 

 

 

 

 

は組一同「すぅーすぅーするぅぅ!!!!」

小三郎「ハッカ飴!少しは眠気が飛んだだろ!」

 

小三郎が投げ入れたのは子供は少し苦手なハッカ飴だった。

 

三治郎「サブちゃん…アグレッシブ!」

兵太夫「流石、食満留三郎先輩の弟!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二限目は山田先生の実技の授業。みんなは再び小三郎を先頭に校庭に出る。そして再び出口で今度はみんなで確認する。

 

伊助「右良し。」

虎若「左良し。」

団蔵「上良し。」

庄左ヱ門「地面良し。」

 

みんなが確認すると小三郎がしんべえの鼻にちり紙をあてがう。

 

小三郎「しんべえの鼻水!」

しんべえ「ちーん!!」

小三郎「良し!」

 

は組一同「だぁぁぁぁ!!」

 

全員がすっ転んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田先生「では深夜の授業、手裏剣の練習を行う!忍者は夜戦う時もある。しかも相手は見えずらい!」

 

山田先生が的を指差す。月が出ているとは言え見えづらい。

 

乱太郎「よし!てやぁぁぁ!」

 

乱太郎が手裏剣を投げたのを引き金に全員が的めがけて投げる。お分かりだろうか?は組が手裏剣を投げると必ず先生に向かう事を。小三郎は山田先生の前にスタンバイしている。案の定ブーメランの様にこちらに手裏剣が飛んでくる。

 

 

きり丸「!小三郎危ない!」

 

きり丸が声を上げると同時に小三郎はかっと目を見開き懐から苦無を取り出し両手に持つ。そして飛んでくる手裏剣を叩き落として行く。そして、最後に飛んできた手裏剣を人差し指と中指で挟み受け止めた。

 

小三郎「食満流体術、二指○空把!」

虎若「あっ!なんかで見たことある技!」

 

虎若の言葉に耳もくれず、小三郎は受け止めた手裏剣を投げる。投げられた手裏剣はみんなの間を通り、見事的に命中した。

 

山田先生「素晴らしいな!流石は出来る子!」

小三郎「ありがとうございます。みんなも的をちゃんと見て!」

 

小三郎は振り返り的を指差す。

 

乱太郎「でも小三郎〜。」

きり丸「こんなに暗くちゃ…。」

 

いつのまにか月が雲に隠れて的が見えずらい。

 

しんべえ「どうせ見えないから、適当に♫」

 

は組一同「適当に〜♫」

 

 

全員が楽しく適当に投げた。すると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見事、全ての手裏剣が的に命中していた。

 

は組一同「おぉ!的に当たった!」

 

全員が的に当たった事を喜ぶ中、山田先生と小三郎は頭を抱えた。

 

山田先生「あちゃー。適当に投げたら当たるとは…。」

小三郎「…これがは組にとっては常識なのでしょうか?僕がおかしいのでしょうか?」

 

色んな意味でショックを受けた小三郎は項垂れた。山田先生が慌てて小三郎を揺さぶった。

 

山田先生「そ、そんな事はない!君が正しいんだ!そんな変なショック受けるな!君が来てくれたおかげでは組の成績が上がったのも事実なんだ!」

 

実際はそうである。小三郎が来る前は宿題は忘れるわ、道具は壊すわ、ふざけるわで大変だった。しかし小三郎が来てからは真面目な小三郎がみんなの良きストッパーになっているのだ。

 

小三郎「山田先生……はい!僕もっと頑張ります!!」

山田先生「小三郎!それでこそは組最後のストッパー!!」

小三郎「な、なんか二つ名がまた増えた様な。」

 

 

 

それからは塀登り、鉤縄、マラソンなど行った。塀登りではジャンプのタイミングを誤り、団蔵と虎若が塀に激突。鉤縄では伊助が投げた鉤縄が何故か三治郎に絡まり、マラソンでは先頭を走る庄左ヱ門が石に躓き、後続者全て、小三郎も含み転倒。幸い怪我人は出なかった。

 

 

 

 

 

 

こうして全ての深夜の授業が終わり、朝日が昇って来る。一年生は長屋に戻り、朝食まで自由時間。

 

 

小三郎「はぁ。疲れたぁ。」

 

小三郎もみんなと同様に自室で布団に寝転ぶ。小三郎は山田先生の言葉を思い出す。

 

山田先生「君のおかげでみんなの成績が上がったんだ!」

 

 

 

 

小三郎(僕のおかげで…か…。だったら…頑張らなきゃだよね?…みんな、大切な友達だから…。)

 

ふっと笑むと小三郎は寝息を立て始める。その様子を土井先生と山田先生が見ていた。

 

土井先生「おやすみ、小三郎。」

山田先生「お疲れ様。朝食までゆっくり休みなさい。」

 



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部屋の掃除の段

長らくお待たせしました!長いスランプからようやく治りました!
亀更新ですがこれからもご愛読くだされば幸いです。


とある真夜中。忍たま達も小三郎も眠る。

 

しんべえ「もう食べられない…むにゃむにゃ…。」

きり丸「小銭〜。アヒャヒャ…むにゃ…。」

乱太郎「父ちゃん母ちゃん…見ててくれらん…むにゃ…。」

 

小三郎「母さん…用意多すぎ…むにゃむにゃ…。」

 

乱太郎達も一人部屋の小三郎も寝言を言う中、一人だけは魘されていた。喜三太と同室の金吾だった。

 

金吾「うぅぅ………ジメジメ………ヌルヌル………がは!はぁっはぁっ…。」

 

悪夢から目が覚めた。金吾は汗びっしょり。そして辺りを見回す。

 

金吾「うわぁ…。」

 

床に這うナメクジ。餌のキャベツは腐ってズルズル。湿気が酷くてカビだらけ。とても安眠出来ない。

 

金吾「はぁ。何とかしなきゃなぁ。かと言ってナメクジさんと喜三太を離れ離れにさせるわけにもなぁ…うっ。」

 

この惨状をどうにかしなければと考えていると寒さで冷えたのかはたまたストレスかお腹に痛みが走った。金吾は自室から出て厠に向かった。

 

 

小三郎「……ん、ん?」

 

一方で一人部屋の小三郎も目が覚めた。布団から出て窓を少し開ける。外はまだ暗く恐らくまだ2時くらい。再び布団に戻ろうとしたが僅かに尿意を感じた。

 

小三郎「厠行っとくかな?」

 

眠た眼を擦り灯りを持ち自室を出て厠に向かう。忍たま長屋の厠へは向かうと灯りが灯っていた。

 

小三郎(あれ?こんな夜更けに誰かいる?)

 

まぁいいやと思い灯りを置き用を足す。そして戻ろうとした時、個室の戸が開いた。

 

小三郎「あれ。金吾。」

金吾「あ、小三郎だったんだ。」

 

 

 

 

 

 

二人で忍たま長屋に戻る。

 

小三郎「お腹壊したの?」

金吾「いや。多分寝冷えかな?ちょっと悪い夢見ちゃって。」

 

ははっと苦笑いする金吾。しかし金吾は出来れば自室に戻りたくなかった。

 

金吾「ねぇ。しばらく小三郎と同室にしてもらえないかな?」

小三郎「へ?僕は構わないけど…なんで急に?」

金吾「実は…見てもらった方が早いかな?」

 

金吾に案内され小三郎は後に続き、そして部屋を覗き見た。

 

小三郎「うわっ………こりゃ酷いね?」

 

そこにはカビだらけの部屋、腐ったキャベツ、極め付けにナメクジ塗れになりながら熟睡している喜三太。

 

小三郎「だ、大丈夫なの!?喜三太!死んでない!?」

金吾「だ、大丈夫だよ。いつもの事…。」

 

金吾が苦笑いを浮かべるが明らかに不健康そうだ。

 

小三郎「こりゃ体調もお腹も悪くなるよ。わかったよ。とりあえずしばらく僕の部屋においで。」

金吾「ありがとうぉ。恩にきるよ。」

 

金吾を部屋に招き入れ、布団をもう一つ用意する。金吾は辺りを見回す。そこには自分達や他の忍たまの部屋にはない葛籠と桐の箪笥などが置かれており、心地よい香りが立ち込める清潔な部屋。

 

金吾「この葛籠と箪笥、もしかして自前?」

小三郎「そうだよ。僕の母さんがあれやこれやと用意しちゃって…さて、敷けたよ。」

 

布団を敷き終え、片方に小三郎が潜り込み、もう片方に金吾が入る。

 

金吾「はぁぁ〜。久しぶりに熟睡できる…。」

小三郎「そりゃよかっ「むにゃ…。」寝るの早!」

 

余程安眠出来なかったのか金吾は直ぐに眠ってしまった。クスッと笑い金吾に布団をかけ直してあげ自分も目を閉じ眠る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして朝日が昇る。小三郎はいつも通りの体内時計で6時半くらいに起きてグッと背伸び。そして横ではまだ金吾は寝ている。小三郎は起こさないように髪を解かし髷を作り装束に着替える。そして朝の鍛錬を始める。そして7時過ぎくらいに続々と他のは組の良い子も起き始めてきた。

 

乱太郎「おはよう。小三郎。」

きり丸「あいからわず早いなぁ!」

しんべえ「むにゃむにゃ…あっ。おはよう。小三郎。」

小三郎「おはよう。乱太郎。きり丸。しんべえ…よだれついてるよ?」

 

小三郎は懐からちり紙を取り出ししんべえの口元を拭う。その時。喜三太がこちらに寄って来た。

 

喜三太「おはよう。乱太郎、きり丸、しんべえに小三郎。」

らんきりしん&小三郎「おはよう。喜三太。」

喜三太「ねぇ。金吾見なかった?」

 

喜三太の問いに小三郎は自分の部屋を指差す。

 

小三郎「僕の部屋で寝てるよ?」

喜三太「えぇ〜!なんで小三郎の部屋に?」

 

不満気に眉を歪める喜三太。そしてその声が聞こえたのか金吾が出て来た。

 

金吾「ごめんね。喜三太。でももう限界だったんだよ…。」

 

近づいてくる金吾。心なしか昨夜のちょっぴりげっそりした感じはなくなっていた。

 

喜三太「限界って、僕との同室が不満なの!?」

 

怒り出す喜三太に小三郎が割って入った。

 

小三郎「喜三太あのねぇ!あんな部屋じゃ誰だって限界を迎えるよ!分かってる?」

喜三太「へ、へ?な、なんで小三郎が怒るの?」

 

どうやら何にも理解していないのか喜三太は首を傾げた。ついでに乱太郎達も首を傾げた。

 

らんきりしん「どういう事?」

小三郎「見た方が早いね?」

 

乱太郎達も連れて小三郎は喜三太と金吾の部屋へ行きそして戸を開けた。

 

らんきりしん「ギヤアァァァァァァァァア!!!」

 

あまりの惨状に絶叫。そして放心。

 

小三郎「ほらね!湿気でカビだらけ!餌のキャベツは腐ってズルズル。ナメクジさんは放し飼い!少しは隣で寝る金吾の身になりなよ!ずっと君の事を考えて我慢してたんだよ!」

 

喜三太「だ、だって……。うっ。ひっく…。」

 

叱られ涙ぐむ喜三太に小三郎は優しく抱き寄せる。

 

小三郎「…ごめんね。ナメクジさん大好きなんだよね?それは分かるよ。でも喜三太、君は金吾もナメクジさん同様に大事なはずだよ?」

 

背中をさすり怒った非を詫び、喜三太を離し金吾の方へ向ける。

 

喜三太「ひっく…ごめんね…金吾ぉ…そんなに我慢してたなんて…。」

金吾「分かってくれればいいよ!」

 

金吾は笑顔で喜三太を抱きしめた。それを小三郎は笑顔で見た後に乱太郎達を見て力強く手を叩きあわせた。

 

パチン!

 

らんきりしん「はっ!」

小三郎「いつまで放心してるの!」

 

乱太郎達を正気に戻し三人は顔を洗いに行った。小三郎は喜三太を見る。

 

小三郎「さて。掃除しますかね?」

喜三太「小三郎も手伝ってくれるの?」

小三郎「乗りかかった船さ。見放さないよ。金吾も手伝ってくれる?」

金吾「もちろん!」

 

喜三太と金吾が装束に着替える間に水桶と雑巾とたわし、大きめの乾拭き用の布を用意しておく。

 

喜三太&金吾「お待たせ。」

小三郎「じゃあ始めようか?」

 

喜三太はナメクジさんを壺に戻し、腐ったキャベツを片付ける。金吾は部屋から机などを持ち運ぶ。小三郎は部屋から布団を引っ張り出して竿にかけて干す。そして三人で部屋をタワシで擦り、雑巾をかけて、その後で乾拭きで仕上げる。部屋は見違えるほど綺麗になった。

 

小三郎「ここで…。」

 

小三郎が懐に手を入れる。

 

金吾「お!久々に小三郎の不思議な懐!」

喜三太「何が出てくるのかな?」

 

二人が見ていると小三郎は茶色い液体が入った竹筒と刷毛が出てきた。

 

小三郎「これを床に塗るよ?」

喜三太「何それ?」

小三郎「柿渋。」

金吾「柿渋?」

 

 

 

ここでミニコーナー!

 

小三郎『柿渋とは、まだ青いうちに収穫した渋柿の未熟果を搾汁し発酵熟成させたもで、日本では古くから、この柿渋を塗料や染料、あるいは万能民間薬として、多岐に渡り活用されて来ました。家屋や生活道具、衣料品の耐久性を高め、防水・防虫・防腐・消臭効果を与えるなど、その効能は驚くほど多彩。天然素材だから人体にも環境にも優しい天然のワックスなのです。さらに柿タンニンには、毛細血管の老化を防いで高血圧を予防したり、胃の粘膜を収れん保護したり、二日酔いや口臭を防止する効果もあるとされています。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金吾「へぇ!凄いものなんだ!」

喜三太「これならナメクジさんにも影響ないね!」

小三郎「じゃあ。塗ろうか?」

 

三人は刷毛を手に取り柿渋に浸し床を塗る。そして塗り終えたら一旦乾かす。そしてまた塗る。これを3、4回繰り返した。部屋の床は綺麗な飴色になり艶が出てカビ臭さもなくなった。

 

喜三太「すご〜い!こんな綺麗になるんだ!」

金吾「やっぱり小三郎はなんでも知ってるんだね!」

小三郎「ありがとう。さて次はナメクジさんの壺の置き場を作らないとね?」

 

小三郎は再び懐に手を入れ、今度は長めの薄い銅板を取り出した。

 

喜三太「何それ?銅板?」

小三郎「そう。ただの銅板。」

金吾「それをどうするの?」

 

金吾の言葉に小三郎はふふんと得意げに笑い部屋の隅、いつもナメクジさんの壺を餌入れが置いてある場所を囲むように銅板を貼り付ける。

 

小三郎「喜三太。そこに壺を置いてナメクジさん達を出して?」

喜三太「へ?う、うん。分かった。」

金吾「銅板だけじゃナメクジさんは超えちゃうよ?」

 

金吾の言葉に小三郎は「まぁ見てて?」と言う。壺を置き喜三太が合図を送ると、壺からナメクジさん達が這い出してきた。そして、床を這い銅板に差し掛かった時だった。

 

喜三太「あ、あれ?」

金吾「ナメクジさんが銅板を超えてこない?」

 

見るとナメクジさん達はまるで銅板を嫌がるような仕草をしている。喜三太は何か感づいたように飛んだ。

 

喜三太「そうか!ナメクジさん達は銅板が嫌いだった!」

金吾「そうなの!?」

 

 

 

 

 

 

再びミニコーナー!

 

小三郎『ナメクジやカタツムリが移動する際に出すネバネバは銅と反応し電気ショックの様な不快な電磁波を発します。ちなみに現代では主に園芸、庭園の鉢植えに使われています。』

 

 

 

 

 

つまりこれで金吾の所まではナメクジさんは来ない。安眠は保障された。その後小三郎は喜三太と金吾に何度もお礼を言われた。

 

金吾「ありがとう!小三郎!」

喜三太「ありがとねぇ〜小三郎!」

小三郎「今度からはちゃんと掃除してね。じゃあ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその夜。

 

 

小三郎「ねぇ?」

金吾「ん?」

喜三太「なぁに?小三郎。」

 

自室で小三郎は何故か喜三太と金吾に挟まれ寝ていた。

 

小三郎「何で部屋綺麗にしたのにこっちに来るのさ!」

 

金吾「だって…。」

喜三太「小三郎いい匂いするし…安心できるから?」

 

どうやら金吾は初めて寝た小三郎の部屋の味をしめてしまい、喜三太はそれを聞きつけやって来た。

 

小三郎「動けないんだけど!これじゃあ寝られない!」

 

 

小三郎の声が虚しく忍術学園に響いた。

 

 



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狙われた小三郎の段

みなさん長らくお待たせしました!稗田八方斎さん登場です!


ドクタケ城ドクタケ忍者隊詰所。

 

八方斎「みなさん。この小説では初の登場となります。稗田麻婆豆腐じゃなくて!稗田チンゲンサイでもなくて!」

風鬼「お頭〜。しっかりしてください!」

八方斎「す、すまん。初めての小説での登場だからついき、き、緊張してしまって…。」

 

八方斎の言葉に古参メンバーにして八方斎の右腕的な存在にしてドクタマ、ふぶきの父親である風鬼が転けかけた。

 

風鬼「たかが字しかないでしょうに!」

 

 

メタ発言ばかりする二人。その時、襖が開き一人の海兵帽を被ったドクタケ忍者が入って来た。ドクタケ城水軍創設準備室室長にしてドクタマ、しぶ鬼に父、達魔鬼。

 

達魔鬼「お頭、風鬼。メタな発言はそろそろ控えた方がよろしいかと。」

八方斎「おぉ!達魔鬼!戻ったか。…で、対象人物はどんな感じだったか?」

達魔鬼「こちらが…忍術学園一年は組に編入したと噂される、食満小三郎の似顔絵です。」

 

懐から食満小三郎の似顔絵が描かれた紙を出し八方斎に差し出した。

 

八方斎「うむ。どれどれ?」

 

八方斎が紙を広げ風鬼も横から見る。そこには笑顔が可愛らしくて上手く表現されたモチモチ肌。食満小三郎が描かれていた。

 

風鬼「こいつがふぶ鬼達が言っていた魔人?とてもそんな風には見えませんが?」

八方斎「うむ…儂も未だに本人に会った事はない。忍術学園の忍たまと言えば、乱太郎、きり丸、しんべえの様に…。」

 

八方斎は今までの事を思い出す。よくバカにされたり励まされたり助けられたり、なんだかんだで良い子達だ。八方斎は再度似顔絵を見る。とても可愛らしい。

 

八方斎「して。小三郎に関しては?」

達魔鬼「どうやら用具委員長、食満留三郎の実弟。そして…彼は歌が非常に上手い。やはり、「忍術学園一の歌い手」と噂されるだけあります。私もこの耳で聞きました。殿に聞かせる価値はあります。」

 

 

 

 

半月前のこと。ドクタケ城城主・木野小次郎竹高が噂でやって来た「忍術学園一の歌い手」を聞きつけ是非聞いてみたいと駄々をこねたのだ。それから達魔鬼は宅配者に変装し忍術学園内部に入り小三郎の歌声を聴いた。

 

小三郎「つ〜きが〜しず〜んで〜♩星影も〜な〜し〜♫」

 

その歌声は変声期前の少年特有の澄んだ声であり心地よい声だった。達魔鬼すら思わず聞き入るほどに。

 

風鬼「まさかお頭。攫うんで?」

八方斎「そのまさかだ。たまには悪党らしくやらなければ…ガッハッハッハ!ぬぉ!?」

風鬼「ほらお頭!頭が大きいんだからそんなに見上げるから!」

 

頭から逆さまになった八方斎を起こす。

 

八方斎「ゴホン!では攫うのは達魔鬼!お前に任せよう。だか歌い手は体が資本!決して暴力はするな?」

 

達魔鬼「御意。」

 

 

最後の方を妙に優しく言うと達魔鬼はすぐにシュッとその場を後にした。

 

八方斎「さて。儂は座敷牢の様子を見ておくか。」

風鬼「へ?地下牢に放り込むんじゃ?」

八方斎「バカモン!さっきも言ったが歌い手は体が資本!風邪引いたらどうする!?……そうだな?プライベートはやはり大事だから…あれもこれも用意せねば。」

 

詰所を後にする八方斎の後を風鬼が追いかける。

 

風鬼「もう〜。お頭はなんだかんだで悪になりきれないんだから〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で忍術学園。授業が終わり、小三郎は乱太郎、きり丸、しんべえと一緒に裏山の川辺で水切りで遊んでいた。

 

乱太郎「よし!四段!」

きり丸「俺も四段!」

しんべえ「僕は大岩一段!」

 

乱太郎、きり丸、しんべえはそれぞれの成果を言い小三郎を見る。

 

小三郎「よ〜し!それ!」

 

石を投げると水面を跳ねていき、そして対岸の石に当たって砕けた。

 

小三郎「よし!僕対岸渡り!」

らんきりしん「おぉー!!」

 

それから木に登ったり、一年は組の秘密基地に行ったりと楽しく遊んだ。そして今度は隠れんぼ。

 

乱太郎「も〜い〜か〜い!」

 

きり丸「も〜い〜よ〜!」

しんべえ「も〜い〜よ〜!」

小三郎「ま〜だだよ〜!」

 

小三郎はあちこち見回す。そして背の高い茂みの裏に隠れた。

 

小三郎「よし。も〜い〜むぐっ!?」

 

その時、誰かに背後から口元に布を押し当てられ腕に囚われた。

 

小三郎「むぅ〜!!むぅ〜!?」

達魔鬼「そんなに暴れなくても大丈夫だ。食満小三郎くん。」

 

小三郎は自分を捕らえた相手と目が合った。

 

小三郎(赤いサングラス…ドクタケ忍者!?うぅっ……えっ…何で……身体が……痺れ……。)

 

小三郎の抵抗する手が次第に緩み、瞼も重くなる。

 

達魔鬼「良い子だ。大丈夫だ。命は取らない。」

 

徐々に意識が遠のいて行く。

 

小三郎「あっ…あっ……。」

乱太郎「小三郎〜!もういいの〜?」

小三郎「ら、乱太……乱太郎……。」

乱太郎の声が聞こえる。声を出せば届く距離。しかし声が出ない。

乱太郎「きりちゃんみーつけた!」

きり丸「あちゃ〜!一番最初か〜!」

小三郎「き、きりま…る…。」

体が動かない。

乱太郎「しんべえみーつけた!」

しんべえ「えへへ。見つかっちゃった。」

小三郎「し、しん…べえ…。」

 

最後の力を振り絞り上手く動かせない腕を必死に伸ばすがそれは達魔鬼の手にそっとしまわれた。

 

達魔鬼「では、一緒に来てもらおう。」

 

達魔鬼は小三郎を八方斎に丁寧にと言われたのでおんぶしてその場から走り去った。

 

 

 

小三郎(土井先生…山田先生……兄者……。)

 

小三郎の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し立ち、乱太郎達は小三郎を探し回った。

 

乱太郎「小三郎〜!」

きり丸「小三郎!何処だ〜!?」

しんべえ「もう帰ろうよ!何処〜!?」

 

 

 

らんきりしん「小三郎〜!!!」

 

 

 

 

裏山の森に三人の声が響いた。小三郎にもうその声は聞こえない。



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囚われた小三郎の段〜前編

ドクタケ城、ドクタケ忍者隊詰所。

 

風鬼「全くどうなっているんだ!?あいつの服の中は!」

雷鬼「普通子供が持つか!?こんなの!」

 

ふぶ鬼の父親、風鬼。ケツアゴが特徴のドクタケ一のガンマン雷鬼が小三郎の脱がした装束の中を確かめていた。中からは大量の忍具、焙烙火矢など多々出てくる。さらには髷の中からこしころ。旅の中には苦無など多数。二人は頭を抱えた。

 

 

 

 

一方で座敷牢。小三郎は敷かれた布団の中で眠っている。そして目を覚ました。

 

小三郎「あ………はっ!」

 

小三郎は慌てて起き上がる。見渡すとそこは見知らぬ部屋。立ち上がるとそこは牢獄。しかし床は畳。戸を引っ張ってみるが南京錠が設けられて開かない。再度周りを見る。中の衝立の奥に戸を見つけて開けてみるとそこは厠。その横の戸が小さな風呂場。

 

小三郎「これって…座敷牢?」

 

小三郎は冷たい地下牢ではなくお姫様などが軟禁される座敷牢に軟禁されていた。すると外の戸が開き中に誰かがやって来た。

 

八方斎「目を覚ましたか。」

小三郎「だ、誰?」

八方斎「儂はドクタケ忍者隊首領、名を稗田八方斎。」

 

乱太郎達なら此処でチンゲンサイだのザーサイなどダサいなど間違い放題がお約束だが。

 

小三郎「稗田…八方斎さん?」

八方斎「おぉ!やはり。お約束が適用しないは本当か。」

 

八方斎は格子に近づく。小三郎は一歩下がる。

 

八方斎「大丈夫だ。言う事さえ聞けば酷いことはしないし、座敷牢の中では好きにしてればいい。………それにしても…なかなかどうして。自分で言うのもなんだが。儂の見立て服は似合っているな。」

 

小三郎「?……はっ!」

 

小三郎は自分の姿を見てようやく気がついた。装束ではなく能の舞台に立つ白拍子に似た服装になっていた。

 

小三郎「装束返して!」

八方斎「今調べ中だ。調べが終わったら返してやろう。しかしあんなに大量の忍具を…お前は戦にでも出かけるのか?まぁ。今はそんな事は良い。お前を攫って来たのは…。」

 

八方斎がニヤリと笑う。小三郎は良くない話に決まっていると思った。

 

小三郎「仲間にはならないぞ!」

八方斎「違う。」

小三郎「拷問されても吐かないぞ!」

八方斎「流石に子供相手には気が引けるが…。」

小三郎「忍術学園を脅す気か!?」

八方斎「それなら学園長を攫うだろうに。」

 

あれこれ小三郎は言うが八方斎は全て頭を横に振り否定。

 

小三郎「じゃあ僕に何を……ま、まさか!あんな事やこんな事や!ビー!とかバキューン!とか……僕をズバキューン!!!とか!?」

八方斎「だぁぁぁぁ!!」

 

まさかの爆弾発言に八方斎はずっこける。

 

八方斎「お前は儂とドクタケ忍者隊をなんだと思っているんだ!!幼気な子供にそんな事するほど外道ではない!!」

 

ドクタケ忍者隊「お頭…そんな趣味が…。」

 

八方斎「違うわ戯け!!!」

 

小三郎と幻滅な視線を向ける部下に声を張り上げて全力で否定する。ドクタケ言えど人は人、ましてや小三郎は十の子供。そんな子供相手にそんな乱暴をするほど悪ではない。

 

八方斎「お前を攫った理由は…。」

小三郎「ごくっ…。」

 

息を飲む小三郎。その様子を天井裏から一人の茶色の装束を着た忍者が見ていた。

 

????「ドクタケが子供を攫うなんてな……しかも忍術学園の…。」

 

茶色の装束の忍者はその場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で裏山では忍術学園ほぼ全員で小三郎の捜索をしていた。

 

庄左ヱ門「小三郎〜!!」

伊助「小三郎〜!何処なの〜!?」

虎若「そっちいた!?」

団蔵「ううん。川下にはいないみたい。」

兵太夫「秘密基地にもいない!」

三治郎「ダメだ!山頂の花畑にもいない!」

 

は組は手分けして小三郎の行きそうな場所を探すが何処にも手がかりは無し。

 

三郎次「小三郎〜!!何処にいったんだ〜!!」

左近「四郎兵衛!久作!どうだった!?」

久作「森の方へは斜堂先生率いるろ組が捜索中。」

四郎兵衛「街の方へ行ってないみたい。」

 

二年生は裏山周辺の探索を行っている。中でも珍しく三郎次が真っ先に飛び出し捜索している。

 

数馬「小三郎〜!小三郎〜!うわぁぁぁぁぁ!」

藤内「大丈夫!?数馬!」

 

二年生よりも東の方を隈なく探索していたら数馬が木の根につまづいてこけた。

 

数馬「僕は大丈夫!それよりも小三郎を!」

藤内「何処に行ったんだろう?こんなに探してもいないなんて。あっ!作兵衛!孫兵!」

 

別働隊の作兵衛と孫兵に合流。

 

藤内「いた!?」

作兵衛「東の池の方まで見て来たけど……見つかったのは孫兵の蜘蛛だった。」

孫兵「生きていたのかぁ!よかった!!」

藤内「だぁぁぁぁ!!」

 

藤内はこけたがその後ろから数馬が物凄い殺気を放った。

 

数馬「真面目に探してよ………!!!」

 

三年一同「ご、ごめん…!」

 

ちなみに左門と三之助は近くの木に縛り付けられていた。

 

そして四年生と五年生は裏山から裏裏山の間の森を探索していた。

 

平助「八左ヱ門!勘右衛門!いたか!?」

八左ヱ門「ダメだ!なんの手がかりもない!」

勘右衛門「妙だよ。こんなにも手がかりがないなんて!」

タカ丸「久々知くん!」

平助「タカ丸!三郎に雷蔵!どうだった!?」

三郎「裏裏山には行ってないみたいだ。」

雷蔵「足跡も痕跡もなかったよ。」

 

 

 

 

 

そして六年生。

 

留三郎「小三郎ぉぉぉ!!」

 

兄である留三郎は狂ったように辺り中を木々をなぎ倒しながら探索。

 

伊作「留三郎落ち着いて!」

仙蔵「文二郎!長次!小平太!いたか!?」

文二郎「何処にもいない…なんの手がかりもない…。」

長次「もそ…何処にもいない。」

小平太「走って海まで行って来たがいなかったぞ!」

 

 

意見を交換する中、留三郎は震えている。

 

留三郎「小三郎………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして陽が傾き始め、全員が裏山前の広場に集まった。結果は何処にもいない。痕跡もない。

 

土井先生「山田先生…。」

山田先生「…………恐らくはかくれんぼの最中に忍者に攫われたのかもしれん。」

 

喜三太「忍者ですか!?」

金吾「なんでわかるんですか?」

 

山田先生「忍者は大体何かをした後は痕跡を残さないようにするのが常。こんなにも探索してなんの痕跡もないとするとよほど手練れの忍者。」

 

山田先生の発言に留三郎は頭を抱える。もう限界だ。

 

留三郎(何故だ?何故小三郎なんだ!?小三郎…お前に何かあったら…っ!)

伊作「留三郎…。」

 

伊作が励まそうとする、その時、木の上から誰かが降りてきた。

 

????「攫われたのは…食満小三郎と言う男の子か?土井半助。」

土井先生「お、お前は…!!」



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囚われた小三郎の段〜後編

木から降りて来たのは茶色の忍者装束を着た忍。

 

土井先生「お前は…!」

乱太郎「ミソタレガケ忍者、所詮そんなモンさん!」

 

尊奈門「違う!タソガレドキ忍者、諸泉尊奈門だ!」

 

間違いだらけの乱太郎にタソガレドキ忍者の一人、尊奈門が突っ込む。それを機に続々とタソガレドキ忍者が現れた。

 

伏木蔵「あっ!ひとりでできるもんさん!」

昆奈門「雑渡昆奈門だよ。伏木蔵くん。」

 

タソガレドキ忍者組頭、雑渡昆奈門が優しく伏木蔵の頭を撫でる。そして読者の方を向く。

 

昆奈門「えぇー。小説では初となります。タソガレドキ忍者組頭雑渡昆奈門です。よろしく。」

 

土井先生「読者への自己紹介はいい!それよりも小三郎の事を知っているのか!?」

 

土井先生の言葉に尊奈門は頷く。しかし留三郎が凄まじい人相でタソガレドキ忍者に詰め寄った。

 

留三郎「貴様かぁぁぁ!?曲者ぉお!小三郎を何処へやったぁぁぁ!?!?」

伊作「留三郎抑えて!!!」

 

摑みかかる寸前で伊作が羽交い締めにして抑え込む。

 

尊奈門「?半助。用具委員長くんと食満小三郎は何か関係があるのか?」

土井先生「関係も何も実の兄弟だ!」

昆奈門「へぇ〜。用具委員長くんに弟が…。」

土井先生「で。小三郎は何処にいるんだ!?」

 

尊奈門「小三郎はドクタケ城の座敷牢に軟禁されている。」

 

 

は組一同、及び全員「えぇえぇぇぇぇぇ!?ドクタケ城に!?」

 

全員が聞いて声を上げる。そして留三郎がガタガタ震えだす。

 

留三郎「ドクタケ忍者…ま、まさか!あいつら小三郎を!」

 

以下留三郎の妄想。

 

八方斎「グフフ…良いではないか!」

小三郎「あ〜れ〜!」

 

留三郎「ま、まさかこんな事とか!」

 

ドクタケ忍者「フヘヘへ!」

小三郎「ひっ!た、助けて!助けて兄者〜!!!」

 

留三郎「うわぁぁぁぁぁ!小三郎ぉぉ!!」

仙蔵「少し黙れ!そんなわけあるか!」

 

留三郎はあれやこれや如何わしい事をされている小三郎を想像するが仙蔵が腹パンを食らわし大人しくさせた。しかし、一年は組の全員も騒ぎ出した。そして一斉に走り出した。

 

は組一同「サブちゃん!今助けに行くよ!!!」

 

山田先生「待て待てお前たち!もう夜になる!それにここからドクタケ城はそれなりに距離がある!」

土井先生「小三郎は必ず救い出す!四年生以下は忍術学園で待機。五年生、六年生と我々教師でドクタケ城へ行く!」

 

乱太郎「で、でも土井先生!」

土井先生「行きたい気持ちは分かる。でも小三郎は優しい奴だ。小三郎にとって何が一番辛いと思う?」

 

引き止める乱太郎と他のは組生徒を見る。

 

きり丸「俺たちが怪我をする事…?」

土井先生「そうだ。それにさっき尊奈門の話を聞くあたり小三郎は軟禁されている。少なくとも酷い事はされていない。」

団蔵「軟禁って牢屋にぶち込まれるじゃないですか!」

 

団蔵の言葉に山田先生が首を横に振る。

 

山田先生「牢屋にぶち込まれ自由を奪われるのは軟禁ではなく監禁だ。話を聞くあたり小三郎は座敷牢に軟禁されている。話を整理すると。小三郎は座敷牢に軟禁されている。監禁をあえて僅かに自由が出来るしかも座敷牢に軟禁されているんだ。少なくともドクタケ忍者は小三郎に酷いことをする気は無いと言う事。」

 

伊助「つまり…小三郎に何かして欲しいから攫った?そしてそれは小三郎の体に関わる事?」

 

伊助の言葉に尊奈門はある事を思い出した。それは八方斎が小三郎に言ったこと。

 

八方斎【お前は忍術学園一の歌い手と言われているらしいじゃないか。殿がその噂を聞いて是非聞きたいらしく歌ってくれないだろうか?】

 

尊奈門「そういえば。八方斎は小三郎に歌ってくれって言っていたな?」

 

尊奈門の言葉を聞いてみんなハッとした。小三郎は歌が上手いこと。その時、伊作の悲鳴が聞こえた。振り向くと伊作が吹き飛ばされ留三郎が凄まじい速さでドクタケ城へ走っていった。

 

山田先生「いかん!他の先生方!四年生諸君!下級生を頼む!」

 

山田先生と土井先生とその他の上級生は留三郎の後を追い、乱太郎達下級生は四年生の先輩方に引率されて忍術学園へ戻った。残されたのはタソガレドキ忍者。

 

尊奈門「どうします?組頭。」

昆奈門「乗りかかった船だ。助けに行きますかぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈む夕暮れ、小三郎は八方斎と風鬼に連れられ殿の部屋へ来ていた。小三郎はなんとか逃げ出せないかとあたりを見回したが、どこも見張りだらけ。逃げる事は不可能だった。しかし小三郎は緊張していた。まさか頼まれたのが殿様の前で歌えだなんて。

 

小三郎(………どの道逃げられなさそうだし…やるだけやるか。)

 

「殿のおな〜り〜!」

 

八方斎が頭を下げるのを見て小三郎も囚われの身と言えど相手は殿様と思い頭を下げることにした。

 

竹高「パカラッパカラッパカラ。」

小三郎「どっ!」

 

しかし小三郎は思わず転けかけた。乱太郎達なら知っているが何故かドクタケ城の殿様竹高は張り子の馬に入り口で擬音を言いながら入って来た。

 

小三郎「な、何故張り子の馬?」

風鬼「それは突っ込むな。」

 

そして何故か風鬼に釘を刺された。恐らく聞いては行けないのだろうと口を噤んだ。

 

八方斎「殿!ご所望通り、忍術学園一の歌い手、食満小三郎を捕らえて参りました。」

竹高「おぉ!良くやった!珍しく成功とは。」

八方斎「殿!珍しいは……まぁ珍しいか?」

 

 

小三郎(えっ?な、なんだか………緊張して損した?)

 

八方斎と竹高の話を聞いていると噂に聞くほど悪ではないなと思い苦笑いを浮かべた。

 

竹高「ほほぅ?其奴が…。」

小三郎「!」

 

竹高が馬から降り…ではなく張り子を脱いで小三郎に近寄る。そして小三郎をあちこちから見る。

 

竹高「ほぅ…ほほぅ…これはこれは…中々どうして……。」

 

竹高は小三郎を見回したのちに正面に立つ。小三郎は息を飲む。しかし。

 

竹高「可愛いのぉ!乱太郎達とは違うこの表情!育ちの良さが伺える。」

八方斎「そうでございましょう!殿!乱太郎達は少し下品な所がありますが彼は中々でしょう?」

 

竹高は小三郎の頭をよしよしと撫でた後に八方斎を見る。八方斎も小三郎の頭を撫でる。

 

小三郎(な、なんなんだよぉ!ここの殿様と八方斎さんは!ってか乱太郎達、下品って何したの!?)

 

小三郎は頭を抱える。

 

竹高「では、早速歌ってくれるかの?舞台は用意した。」

小三郎「ぶ、舞台?」

 

腰元達がさっと障子を開くとそこには庭園があり、真ん中に紅白の幕で飾られた舞台があった。八方斎に押され小三郎は舞台に立つ。

 

小三郎(……歌うからにはちゃんとするか。)

 

小三郎は深呼吸の後にスゥッと息を吸う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城の下ではドクタケ忍者隊が鍛錬の真っ最中。また下働きは夕飯の準備をしていた。

 

小三郎「つ〜きは〜しず〜んで〜♪星影も〜な〜し〜♫や〜みが〜せま〜れば〜♬おいらのせ〜か〜い〜♪」

 

小三郎の澄んだ歌声がドクタケ城に響く。働いているものは思わず手を止めた。そして続々と庭に集まりだした。

 

小三郎「走れ〜走れ〜飛べ〜飛べ〜♫お〜と〜も〜無く〜♬四方六方八方〜しゅ〜りけん♪四方六方八方〜や〜ぶれ〜♫」

 

小三郎の歌に合わせてドクタケ忍者達が団扇を振り時に指笛を鳴らす。八方斎と竹高は部屋から小三郎の歌声を目を閉じ聴きいっていた。

 

小三郎「じょ〜だん混じりで〜♬Wink投げたら〜♪打ちか〜え〜されたよ〜♬肘鉄砲〜♫」

 

ドクタケ忍者「うぉぉおおぉぉぉ!!」

 

歌い終わるとドクタケ忍者隊から歓声が上がる。しかし八方斎の一喝した。

 

八方斎「こらぁぁ!お前達!仕事に戻らないか!殿の御前だぞ!」

竹高「まぁ良いではないか八方斎。小三郎とやら近うよれ。」

 

竹高は扇子で小三郎をカムカムと呼ぶ小三郎はそれに従い近くに歩み寄る。

 

竹高「見事!見事であった!よしよし!」

小三郎「は、はぁ。」

 

再び頭を撫でられはにかむ。竹高は何かを思いついたように手を叩いた。

 

竹高「そうじゃ!宴じゃ八方斎!宴を開こう!」

八方斎「宴でございますか?」

竹高「どうせ歌えば聴こえてしまうんじゃ。それなら宴でも開けば良かろう。どうせ何処とも戦はしておらんし…。」

八方斎「御意。では支度を致します。」

 

八方斎が風鬼に目をやると風鬼はシュッとその場から離れた。小三郎は自分はどうするべきか考える。八方斎がいる以上逃げられない。何処も見張りがいる。無理。その時、竹高が小三郎に目線を合わせるように座った。

 

竹高「小三郎。儂と遊ぶかの?」

小三郎「はい?」

 




ドクタケ忍者って言うほど悪い事してないような。


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小三郎奪還!の段

ドクタケ城へ続く道の林の中を五年生と六年生、山田先生と土井先生が走りながら向かっている。先頭を行くのは小三郎の兄留三郎。

 

留三郎「小三郎!待っていてくれ!兄者が助けにいくからな!」

平助「留三郎先輩!気持ちは分かりますが焦らないで下さい!」

留三郎「しかし平助!」

山田先生「久々知平助の言う通りだ!」

 

ビュンと加速し留三郎の前に山田先生が回り込み立ち止まる。

 

山田先生「少し冷静になれ!留三郎!お前が小三郎が大事な事は百も承知だ。もとより後輩好きなお前なら弟ともなるとより可愛いのだろう。だが忍者たる者、冷静さを失うと守るものすら守らなくなるばかりか!お前自身も危うくなるのだぞ!そんな事、小三郎はもとより、同じ用具委員のしんべえや喜三太、富松作兵衛や浜守一郎も悲しむのだぞ!」

 

留三郎「はっ!」

 

山田先生の言葉を聞きはっとして立ち止まった。すると珍しく犬猿である潮江文次郎が横に並んだ。

 

文次郎「全くアホが!忍者の基本だろうが!小三郎の事はお前だけじゃない!俺も、仙蔵も、小平太も長次も伊作も!小三郎と同じ火薬委員会の久々知平助も!みんな大事なんだよ!お兄ちゃんだからって出しゃばるんじゃねぇ!」

 

留三郎「文次郎…。」

 

文次郎の横に仙蔵が小平太が長次が並ぶ。

 

仙蔵「私も密書の時に世話になってな。いい弟を持ったな。留三郎。だから私も小三郎が大事だ!」

 

小平太「私はまだ関わりがあまり無いが、あいつとはまだバレーボールをやって無い!きっとあいつなら昔の留三郎の様に良いトスとレシーブを行うだろう!」

 

長次「もそ…何時ぞやの時…一緒に小三郎を探しに行ったな…これも何かの縁だ…それに前きり丸と図書委員の仕事を手伝ってくれたからな…。」

 

留三郎「文次郎…仙蔵…小平太…長次…。」

 

留三郎の肩に誰かが手を置いた。同室である善法寺伊作だ。珍しく不運に巻き込まれる事なくついて来ていた。

 

伊作「留三郎…みんな小三郎が大好きなんだよ?多分小さい頃の君と重なるんだろうね?僕も小三郎は大好きだよ。素直だし、優しいし。それに…彼に関わると何故か不運が来ないんだよね。」

 

苦笑いを浮かべる伊作。思わず留三郎の目から涙が溢れ出す。

 

留三郎「みんな…っ…すまない…っ!…ありがとうっ!」

 

袖口で涙を拭う。再び山田先生が前を向く。

 

山田先生「わかったな?留三郎。みんな小三郎が大事なんだ。私と土井先生は尚のことな。だって…ねぇ?土井先生?」

土井先生「はい…山田先生…だって留三郎。」

 

意味ありげな視線をお互い向け合うと同時に留三郎を見る。

 

留三郎「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土井先生&山田先生「だって小三郎がいないと!誰があの子達のストッパーになるんだ!!!誰がお約束を壊してくれるんだぁぁぁ!!!」

 

五年生&六年生「だぁぁぁぁ!!!」

 

全員思わずすっ転んだ。山田先生と土井先生からしてみれば今の小三郎はは組に無くてはならないストッパー兼お約束ブレイカー。いなくなったら全てが元に戻ってしまう。

 

土井先生「そんな事になったら今度こそ胃に穴が開いてしまう!」

 

 

平助「ま、まさか先生方、私欲とは…。」

勘右衛門「まぁ。らしいちゃらしいけど。」

八左ヱ門「ってか感動的な空気が台無しです!」

 

竹谷八左ヱ門に一喝され一同は再び走り出しドクタケ城へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ドクタケ城では一丸となり小三郎救出を誓う留三郎達など知る由もなく小三郎は冷たい牢屋で鞭打たれる事も、酷い事もされる事なく、気に入られて竹高と一緒に投扇興や花札、カルタやトランプで遊んでいた。

 

小三郎「よっと!」

 

小三郎が扇子を投げると見事台の上の的に当たった。ちなみに竹高は当たらず顔は罰ゲームで墨だらけ。しかし竹高は怒る事もなく小三郎との遊びを楽しんでいた。

 

竹高「はっはっは!強いのぉ!よし次はカルタをしよう。八方斎。読みを任せる。」

八方斎「御意!」

 

ドクタケ忍者が道具を片付けると八方斎がカルタを並べ始め、竹高は上座に座り、小三郎は向かいの席に座る。

 

小三郎(手加減は失礼だよな?よし!)

 

小三郎は白拍子衣装の袖を捲り紐で止める。それを見た竹高も袖を捲る。

 

八方斎「では……犬も歩けば棒に当たる〜。」

 

八方斎が読み上げると竹高と小三郎は数ある札を見る。

 

竹高「ここじゃ!」

小三郎「あぁ!?」

竹高「はっはっは!先制点は儂じゃな?」

小三郎「やりますね〜。殿〜。あっ。(ってなんか馴染んじゃって来てるぅ!?)」

 

小三郎も段々と竹高と八方斎に愛嬌のある笑顔を見せ始めていた。思わず自分が囚われの身とも忘れ。

 

 

 

そして札を取り合い、小三郎15枚、竹高15枚で同点となった。途中で竹高がるとゑを間違えた事に小三郎はクスッと笑った。竹高も楽しそうに笑う。そうこうしていると日は沈み、ドクタケ城に提灯が灯り宴が始まった。ほぼ全てのドクタケ忍者が庭に集まり料理を食べ、中には酒を飲む者もいる。小三郎は竹高の横に座らされ共に楽しむ。そして。

 

竹高「ではまた歌ってくれ。」

小三郎「はい。」

 

小三郎は立ち上がり舞台に上がる。全員が小三郎に注目する。

 

小三郎「じてん〜しゃ〜で〜はぁし〜ぃた〜♫制服〜翻し〜♪それぞ〜れ〜の〜夢を〜抱いて〜♬未来はむげ〜ん〜で〜♬」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森を抜け留三郎達はドクタケ城にたどり着いた。しかし門番すらいない。

 

土井先生「どういう事だ?門番すらいないぞ?」

 

土井先生が周囲を見渡すが門番の気配はなし。その時、全員が歌声を聴いた。

 

小三郎「はしぃ〜た後〜ふりか〜えるとぁき〜♫それは〜もぉと〜♬ずぅと〜先〜だぁね〜♪おもい〜きり〜風を〜すぅい〜こんだ〜♬」

 

留三郎「小三郎の歌声だ!」

仙蔵「!おい。上に提灯が沢山飾られているぞ!」

 

仙蔵が指差す方を見ると城の中庭の部分に提灯が飾られており、ワイワイと楽しげな声が聞こえる。その時、タソガレドキ忍者が姿を現した。

 

土井先生「諸泉尊奈門!」

尊奈門「半助。先に見て来たけど…食満小三郎は五車の術の天才なのか?竹高と八方斎と仲良く宴をやっているぞ?」

 

全員「はぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タソガレドキ忍者と共に石垣を登り、こっそり中庭を覗いた時、全員は思わずすっ転びそうになった。

 

小三郎「えいえ〜んだぁと〜♫感じ〜ぃるもぉの〜♪なにか〜ひとつ〜出会い〜たぁい〜♬なんの〜ためぇに〜♬誰の〜たぁめに〜♫生きてる〜の?知り〜た〜い〜♪」

 

ドクタケ忍者「ウオォォォォォオ!!!」

 

小三郎の歌が終わると客席からまたもや歓声が上がる。ライブ会場みたいになっていた。

 

文次郎(ライブ会場か!?此処は!?)

平助(ってか、なんか小三郎楽しそうじゃありませんか?)

 

小三郎は歌い終わると再び竹高の横に座り頭を撫でらる。

 

留三郎(あ、あ、あいつ!小三郎の!小三郎の頭をぉぉ!?)

伊作(留三郎抑えて!)

仙蔵(それくらい良いだろう!このブラコン!)

 

仙蔵と伊作が取り乱す留三郎を抑える。

 

勘右衛門(ってかかなり馴染んでない?)

八左ヱ門(小三郎は素直だし優しいからきっと好かれたんだろう。誰に対しても憎まれ口を叩かないからな。)

 

小三郎は怒ると怖く手が出るが、基本留三郎同様に面倒見がよく、素直で優しく、決して相手の嫌がることや嫌味を言わない良い子。竹高や八方斎にも嫌なことは一言も発していない。

 

そんな事を話していると山田先生がある事に気がついた。

 

山田先生「酒壺がある。下手に出ると小三郎の身が危ない。此処は酒壺に眠り薬を入れて眠った後に奪取しよう。」

昆奈門「それならこれを使うといいよ。」

 

タソガレドキ忍者組頭雑渡昆奈門が液体が入った竹筒を渡す。

 

昆奈門「私らが潜入する時にたまに使う眠り薬。朝までぐっすりさ。」

山田先生「かたじけない!」

 

山田先生は受け取り、さっとドクタケ忍者に変装して中庭に降りた。そして酒壺に眠り薬を入れる。その時、一人のドクタケ忍者がやって来た。

 

ドクタケ忍者「おい。次の酒!」

山田ドクタケ「へい!こちらを!」

ドクタケ忍者「ん?お前みたいなドクタケいたか?」

山田ドクタケ「いやぁ。自分はいつもは台所の下請けでして。」

ドクタケ忍者「なんだぁ。下請けかぁ。なら知らないか。お前も楽しめよ!稀代の歌い手にあんなに楽しそうな殿は久しぶりだ。」

 

ドクタケ忍者が出て行くと山田先生は隙間から小三郎を見る。小三郎はみんなが助けに来ているなどとは知らずに竹高と八方斎と楽しそうに談笑していた。その会話をよく聞こうと山田先生は近くまで歩んでいき、料理を持って来た下請けドクタケを演じる。

 

八方斎「小三郎くんは本当に素直な良い子だね?全く乱太郎達ももう少し可愛げがあれば…。」

竹高「あやつらのせいで一度出城を壊されたからの!」

小三郎「なんかすみません!は組のみんながご迷惑かけたようで!みんな良い子なんですけど、たまに迷惑なことしちゃうから…土井先生も胃痛持ちで…。」

八方斎「ほう?土井半助も苦労しているのだな?」

 

山田ドクタケ「だぁぁぁぁ!」

 

ドクタケに変装した山田先生が盛大にずっこけた。そのはずみで料理が散らばる。

 

ドクタケA「おい!何やってんだ!」

ドクタケB「あ〜あ。もったいない。」

山田ドクタケ「す、すんません!すぐに新しく作り直します!」

 

山田先生は慌てて片付け再び幕の中へ消えていった。

 

八方斎「全く!あの下請けめ。」

小三郎「まぁまぁ。八方斎さん。失敗は誰でもありますよ〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏で変装を解くと山田先生はみんなの場所に戻った。

 

土井先生「山田先生!どうでしたか?」

山田先生「どうにもこうにも!小三郎の奴、八方斎と竹高と世間話やは組の良い子達に関して謝っていたぞ!」

 

全員「だぁぁぁぁ!」

 

 

再び転けた。

 

 

小三郎「お酌しますね?八方斎さん。竹高様。」

八方斎「おぉ!すまないね。」

竹高「うむ。受けよう。」

 

小三郎がとっくりを持ち二人に酒を注ぐ。そして飲んだ時だった。

 

 

カラン!

 

 

八方斎と竹高が盃を落としたのだ。

 

小三郎「え?八方斎さん!竹高様!あれ?」

 

八方斎と竹高は眠っていた。それだけじゃない。周りのドクタケ忍者も次々に眠り始めたのだ。

 

小三郎「ど、どうなってるの?」

留三郎「小三郎ぉぉお!!」

小三郎「あ、兄者!?それに山田先生土井先生!平助先輩!他の先輩方も!どうして此処に?」

 

首を傾げる小三郎に再び全員が転けた。

 

留三郎「どうしてって!お前攫われて囚われていたんだぞ!!!」

小三郎「あ。すっかり忘れてた。」

留三郎「お前なぁぁ!」

土井先生「まぁまぁ。留三郎。無事なら良いじゃないか!さぁ。小三郎!今の内に忍術学園に帰ろう!」

 

土井先生が手を差し伸べる。しかし小三郎は何かを思い出し殿様の部屋に入り布団を二枚敷き始める。

 

平助「小三郎何やってるんだ!早く逃げるんだ!」

小三郎「だってこのままじゃ八方斎さんと竹高様が風邪引いちゃうじゃありませんか!」

 

小三郎は八方斎を担ぎ布団に寝かせ、もう片方に竹高を寝かせて掛け布団をかけた。

 

全員「お前は良い子か!!!」

 

先輩方の声を余所に小三郎は竹高の物であろう筆と墨で何やら紙に書く。

 

留三郎「ええい!小三郎行くぞ!」

小三郎「うん。もういいよ。……。」

 

留三郎に背負われた後にスヤスヤ幸せそうに眠る八方斎と竹高に頭を下げた。

 

小三郎「八方斎さん…竹高様…さようなら。」

 

全員がその場から去ろうとした時。無数の手裏剣が飛んできた。

 

山田先生「!危ない!」

 

山田先生は咄嗟に苦無を手に持ち全ての手裏剣を撃ち落とした。

 

達魔鬼「ふっふっふ。流石は実技担当、山田伝蔵。」

山田先生「お前は!ドクタケ忍者隊・水軍創設準備室室長、達魔鬼!!」

達魔鬼「何時ぞや忍術学園に侵入した時以来だな?」

 

達魔鬼の目が小三郎と会う。

 

小三郎「兄者!この人だ!僕を攫ったのは!」

留三郎「何ぃ!?貴様!よくも小三郎を!!」

土井先生「やめろ留三郎!お前ではまだ達魔鬼に挑むは無謀だ!奴はドクタケ忍者隊の中でも相当な手練れだ!」

 

土井先生の言葉を聞くや否や達魔鬼は同じく苦無を手に持ち山田先生と激しくやり合う。

 

山田先生「くっ。前よりも早い!此処は私が請け負う!お前達は早く行け!」

文次郎「山田先生!助太刀します!」

山田先生「ならん!こいつは強い!私も必ず後から…くっ!」

達魔鬼「それは俗に言う死亡フラグだぞ?山田伝蔵。」

 

徐々に押される山田先生。その時。無数の手裏剣が達魔鬼に襲い掛かった。

 

達魔鬼「!何奴!」

昆奈門「タソガレドキ忍者組頭雑渡昆奈門。山田先生。此処は私が引き受けよう。」

達魔鬼「タソガレドキ忍者!」

山田先生「雑渡昆奈門!何故!?」

昆奈門「なぁに。乗りかかった船だし…それに伏木蔵くん達が悲しむ顔を見たくはないのでね?」

 

昆奈門は小型の手に持つ。そして留三郎におんぶされた小三郎を見た後留三郎を見る。

 

昆奈門「用具委員長くん。弟くんを大事にしなよ?」

留三郎「い、言われなくとも!」

山田先生「雑渡昆奈門。面目ない!礼を言う!」

 

山田先生は離脱し他の全員と共に忍術学園へ闇の中をかけて行った。

 

達魔鬼「くっ…。」

昆奈門「あれ?やらないの?」

達魔鬼「ふっ。上等!」

 

ドクタケ城に鋼がぶつかり合う音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎は忍術学園に着くなりみんなに抱きつかれた。

 

乱太郎「小三郎〜!」

きり丸「サブちゃ〜ん!うわぁぁん!」

しんべえ「無事でよかったぁぁ!うわぁぁぁん!」

 

乱太郎達を始めには組のみんなが小三郎に抱きついた。

 

小三郎「みんな心配かけてごめんね!僕は大丈夫だよ!」

 

団蔵「本当に心配したんだからね…!」

三治郎「本当に…本当に良かったぁぁ!!」

 

そして最後に一番の親友である伊助が飛びついてきた。

 

小三郎「伊助…。」

伊助「よかった…本当に良かった…グスッ…お帰り…お帰り!小三郎!」

小三郎「うん…うん…っ!ただいま!伊助ッ!」

 

涙が溢れる小三郎。そして続々と二年生、三年生、四年生が集まり小三郎を抱き締めた。しかしそれを押しのけて留三郎が来た。

 

小三郎「兄者…。」

留三郎「小三郎…!」

小三郎「兄者!!」

留三郎「小三郎ぉぉぉ!!俺の可愛い弟ぉぉ!!」

 

小三郎が自ら抱きつき留三郎はしっかりと抱き締めた。

 

土井先生「一件落着ですね。これで…。」

山田先生「そうですなぁ。これで…。」

 

 

土井先生&山田先生(一年は組の秩序は守られた…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。小三郎は大変な目にあった。留三郎にぎゅうぎゅうに抱きつかれながら寝る羽目になり、さらに伊助を筆頭に火薬委員会のメンツにもぎゅうぎゅうに抱きつかれた。

 

小三郎「ね、寝苦しい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でドクタケ城では八方斎と竹高が小三郎の置き手紙を見て泣いていた。

 

『八方斎さんと竹高様へ。

誠に突然ながら迎えが来たのでこれで帰ります。八方斎さん。最初は怖そうな人と思いましたがとても優しく僕に服まで見立てくれましたね?ありがとうございました。お陰で楽しい宴が出来ました。

 

竹高様。僕の歌を褒めてくれてありがとうございました。強面だけど、所々子供っぽくて楽しい殿様。お遊び楽しかったです。お陰で充実した攫われでした。

 

僕はこれで忍術学園に帰ります。お体にお気をつけて。また何処かで。

食満小三郎より。」

 

 

竹高「天の使いじゃ!あの子は天の使いだったんじゃ!」

八方斎「儂は……こんな良い子を攫ったのか…。」

 

それから…ドクタケ忍者の悪い行いも大幅に減ったそうな。




評価、感想お待ちしております。


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ポップコーン騒動の段

室町にポップコーンがあったか?なんて疑問は捨てましょう。


ドクタケ忍者に攫われたり救出されたりしてから数週間。小三郎は変わらず授業も実技も真面目に取り組んだ。変わった事と言えば。

 

乱太郎「えい!」

きり丸「やぁっ!」

しんべえ「とぉっ!」

 

は組全員が実技をかなり真剣に取り組むようになった。相変わらずいくつかは山田先生の方へ飛んでいくが。

 

山田先生「っと。なんだなんだ?やけにみんな真面目に取り組んでいるじゃない?」

 

山田先生がそう言うと。全員が振り返り。

 

庄左ヱ門「だって!」

伊助「次小三郎が攫われた時に!」

三治郎「僕たちで!」

兵太夫「助けられるように!」

虎若「ならないと!」

 

小三郎「ちょっ!そんなに何度も攫われないよ!」

山田先生「はははっ!愛が深いな?小三郎。」

小三郎「茶化さないで下さい。嬉しいような恥ずかしいような…っと!」

 

顔を赤くする小三郎だがすぐには組が投げた手裏剣が飛んで来たのを見て道具箱の蓋で受け止めた。

 

小三郎「気持ちはありがたいんですけど……な〜んでみんなブーメランみたいに手裏剣が飛んでくるんでしょう?」

山田先生「まぁそこはお約束じゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実技が終わり今日の授業はこれで終了。全員が校庭や裏山で遊ぶ中、小三郎は留三郎と共に体術の鍛錬。

 

小三郎「はっ!やぁっ!」

留三郎「ふっ!はぁっ!」

 

小三郎のパンチやキックを留三郎が受け止めたり受け流して防御。

 

小三郎「はぁぁっ!!」

 

小三郎はバク転で距離を取ると回し蹴りを繰り出した。

 

留三郎「!回し蹴りが出来るようになったか!だがまだ重さが足りない!」

小三郎「あぁっ!?」

 

回し蹴りの足をいとも容易く留三郎は受け止めた。

 

小三郎「あ〜あ。とっておきだったのに。」

留三郎「だが形は綺麗だったぞ。もっと鍛錬すれば完璧に身につくだろう!」

小三郎「うん!」

 

留三郎に頭を撫でられ素直に笑顔を浮かべる。

 

 

ヘムヘム「ヘム?へ〜ム〜!」

 

そこへ小包を持ったヘムヘムがやって来た。

 

小三郎「ヘムヘム。何?その小包。」

ヘムヘム「ヘム〜。ヘムヘム。ヘムへヘム。」

小三郎「僕と兄者に?」

留三郎「なんだ?小三郎。」

小三郎「……あっ。父さんからだ。」

留三郎「親父から?」

 

ヘムヘムが持って来た小包の受け渡し書にサインをして留三郎と共に自室に戻り小包を開ける。

 

小三郎「手紙と……なんだこりゃ?」

留三郎「なんだ?南蛮語か?」

 

中に入っていたのは何かが入った南蛮語で書かれた麻袋と手紙。

 

留三郎「俺が読もう。なになに?」

 

 

『留三郎、小三郎。元気にしているか?父さんと母さんは変わらず元気だ。この前は父さんは山へ芝刈りに、母さんは川へ洗濯に行った。母さんが川で洗濯をしているとなんと大きな桃が流れて来たんだ。」

 

留三郎&小三郎「だぁぁぁぁ!」

 

思わず兄弟揃って仲良くすっ転ぶ。

 

留三郎「桃太郎か!」

小三郎「げ、現実にあるんだね?」

 

再び留三郎は手紙を読む。

 

『だが母さんはスルーした。」

 

留三郎&小三郎「だぁぁぁぁ!」

 

再びすっ転んだ。

 

留三郎「拾えお袋!そこは拾え!」

小三郎「か、母さんらしいけど…。」

 

『そんな事はどうでもいいとして…。」

留三郎&小三郎「どうでもいいんかい!なら書くな!」

『この前市場に南蛮店と言う南蛮の行商人が来ていて南蛮のお菓子を買ったんだ。送るから兄弟仲良く友達にも分けて食べなさい。』

 

 

突っ込みどころ満載の手紙を読み終えて小三郎は改めて麻袋を見る。

 

小三郎「なんて書いてあるのかな?読めない。」

留三郎「貸してみろ。…………ん〜。六年生で多少は南蛮語を勉強するがぁ……ん?この単語はポップ…コーンと書かれているな?」

 

麻袋に書かれている文字を指差して言う。

 

小三郎「どう言う意味?」

留三郎「確か〜、ポップは大衆向けとか流行りのっと言う意味で、コーンはトウモロコシの事だ。だから〜、流行りのトウモロコシって意味じゃないか?」

小三郎「流行りのって…何が流行り?」

留三郎「さぁ?とりあえず開けて中を見よう。もしかしたらトウモロコシのおやつなのかも知れん。」

 

留三郎は麻袋を開けて中に手を入れる。そして中身をすくう。

 

留三郎「なんじゃこりゃ?」

小三郎「豆?」

 

袋の中に入っていたのは黄色いトウモロコシの粒。乾燥しているのかカチカチだ。留三郎と小三郎はこのまま食べるのかと思いいくつか手に取り食べる……が。

 

小三郎「うげっ…。」

留三郎「うっ…。」

「「固っ…。」」

 

思わず吐き出した。とてもじゃないが固くて食べられたものではなかった。

 

留三郎「南蛮人はどんな顎をしているんだ!?」

小三郎「本当にこれお菓子なの?あれ?なんかある。」

 

小三郎が覗くと中に紙が入っていた。取り出し広げて見るとまたもや南蛮語。流石の出来る子小三郎でも南蛮語は無理。留三郎も手に取る。

 

留三郎「……ん?ロースト…炒ると言う意味の単語があるな。このまま食べるんじゃなくて炒めて食べるのかもな?」

 

小三郎と留三郎は部屋から出て食堂へ行き、おばちゃんの許可をもらい台所へ。

 

小三郎「炒るんだから鍋でいいよね?油って敷くのかな?」

留三郎「敷くべきだろう。くっ付くと始末に悪い。」

 

留三郎が棚から食用油を取り出す。小三郎はかまどに火をつけて鍋を熱する。その時、六年い組、留三郎のライバル、潮江文次郎がやって来た。

 

文次郎「ん?何しているんだ。食満兄弟。」

小三郎「文次郎先輩!」

留三郎「何ってこれさ。」

 

留三郎は麻袋を文次郎に見せる。

 

文次郎「な、なんだ?南蛮語か?」

小三郎「父さんが市場の南蛮店って言う珍しい行商人から買って送って来たんです。でも説明文が南蛮語で……お菓子らしいんですけど。」

 

小三郎は留三郎から麻袋を取り、文次郎に中身を見せる。

 

文次郎「なんだ?豆か?………固ぇ!」

留三郎「文次郎の顎でも噛み砕けないとはな。」

文次郎「俺をなんだと思ってる!?」

 

それから文次郎も交えて説明文の解読に当たる。小三郎もいるため今回は犬猿同士でも喧嘩はしないようだ。

 

文次郎「………正直に言う。分からん!」

留三郎「俺もこれ以上の単語は分からないな。文次郎、他の六年生で誰か南蛮語が出来る奴を知らないか?」

 

留三郎の言葉に文次郎は考える。

 

文次郎「……それも分からん。と言っても六年生は俺とお前、善法寺伊作、中在家長次、七松小平太、立花仙蔵の六人しかいない。とりあえず全員召集だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文次郎が他の六年生を呼びに行くと、少し経ってから六年生全員がやって来た。そして早速解読に取り掛かった。

 

小平太「なっははは!さっぱり分からん!」

仙蔵「だろうと思っていたさ。……クローズ……キャップ……クローズとは閉めると言う意味だった。それにキャップは蓋の事…。」

伊作「つまり炒っている最中は蓋を閉めろって意味だね?……あっ。ローストの前にオイルって単語があるよ?オイルは油だ。」

長次「………ソルト……グッド……ソルトは塩、グッドは良いの意味……つまり味付けは塩が最高らしい…。」

 

全員が意見を出し合いながら留三郎がまとめる。

 

留三郎「つまり鍋に油を敷いたのちにこれを入れて蓋をして振りながら炒めるっと言うわけか。」

 

留三郎が言うと早速小三郎は鍋に油を敷き中にトウモロコシを入れ蓋を閉めて振りながら炒める。すると。

 

パン!

 

小三郎「へ?」

仙蔵「パン?」

 

小三郎と六年生全員が鍋を見る。

 

 

パン!パパン!ババババババババン!!!

 

小三郎「な、何これ!?あ、兄者助けてぇ!」

留三郎「な、なんだなんだ!?とりあえず俺に貸せ!アチャチャチャ!!!」

伊作「留三郎!小三郎大丈っ…ドワァァァ!!」

 

留三郎が慌てて小三郎から鍋を奪う、しかし鍋の胴を持ったため火傷、伊作が助けようとしたが足がもつれてそのまま留三郎と小三郎を巻き込み倒れてしまった。これが悲劇の引き金になってしまった。倒れ込んだと同時に鍋の中身をぶちまけてしまい、更に残りが入った麻袋がかまどの中に落ちてしまったのだ。

 

 

ババババババババババン!!!

 

 

小三郎「うわぁぁぁぁ!」

伊作「ま、豆が!豆がぁぁ!!」

留三郎「こ、小三郎!伊作!大丈っ……ぬおぉぉ!!」

 

文次郎「ど、どうなってやがる!?豆が数倍に膨れって!まずい!台所から溢れるぞ!!」

 

ポップコーンがどんどん出来て行き、とうとう小三郎と伊作と留三郎を飲み込み食堂に溢れてきた。

 

仙蔵「ちょっ!どうするんだ!これ!?」

小平太「なんだなんだ!?クラッカーか?」

長次「もそ…これはまずい…。」

 

どんどんポップコーンが増えて行き仙蔵達は食堂の外へ避難。一方中では小三郎が必死にかまどに蓋をしているが溢れ出てしまいどうする事も出来なくなってしまっている。

 

小三郎「だ、ダメだ!抑えきれない!わぁぁぁ!!」

 

ババババババババババン!

 

さながら機関銃の如くかまどからポップコーンが噴出する。

 

伊作「ごめんよぉ!!まさかこんな時に不運がぁ!!」

留三郎「そんな事より水!かまどの火を消せ!!」

伊作「無理だよぉ〜!このポップコーンが邪魔して進めない!!」

 

 

 

 

食堂の外では他の六年生がどうしようか悩んでいた。

 

仙蔵「どう助けるあれ?」

文次郎「まさかここで伊作の不運が発動するとは……。」

小平太「お!美味いなぁ!これ!」

長次「結構イケる…。」

文次郎「呑気に食うな!」

仙蔵「本当だ。癖になるな。」

文次郎「お前もか!仙蔵!」

 

飛んでくるポップコーンを食べる六年生。その時、一年は組の乱太郎達が騒ぎを聞きつけてやって来た。

 

乱太郎「どうしたんですか?」

きり丸「楽しい事っすか?」

しんべえ「あー!それ美味しそう!」

 

続々やって来るは組の良い子達たが、小三郎の声にみんなが反応した。

 

小三郎「誰か助けてぇ!」

 

は組一同「!?小三郎!!!」

 

は組全員の顔がぐわっと変わり、食堂の扉に体当たり!

 

は組一同「小三郎!大丈…なんじゃこりゃ!?」

 

は組の良い子達が食堂に入るとそこは沢山のポップコーン。

 

おばちゃん「な、なんなのこれは!?」

 

騒ぎを聞きつけて食堂のおばちゃんと土井先生も駆け付けた。そしてようやく弾け飛ぶ音が止み、台所から小三郎と留三郎と伊作を救出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田先生「まったく!どうすんだ!これ!」

小三郎&留三郎&伊作「ごめんなさい…。」

 

騒ぎが収まり全員で弾け飛んだポップコーンを集めると大皿10杯分以上出来てしまい忍術学園全員で食べているが一向に減らない。

 

山田先生「お前達も責任持って食べろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎、留三郎、伊作も席に着きポップコーンを食べ始める。

 

小三郎「ごめんねぇ、みんな。僕のせいで…。」

伊助「まぁまぁ元気出してよ。ともかく美味しいからいいじゃない。」

団蔵「そうだよ!」

三治郎「この塩味もいいけど…お醤油でもいいんじゃない?」

 

小三郎は謝るも一年は組は笑いながら食べる。初めての南蛮のお菓子に興味津々であるようだ。

 

 

留三郎「本当に申し訳ない!親父が変なものを送って来たばかりに!」

伊作「君たち食満兄弟のせいじゃないよ……僕こそごめん…不運に巻き込んでしまって…。」

仙蔵「まぁいいさ。おかげで食べ方も分かったんだから次に気をつければいいさ。」

小平太「それにしてもこの何とかコーンは癖になるなぁ!手が止まらん!」

長次「もそ…南蛮の文化は面白いな…。」

文次郎「一種の保存食なのか?まぁ美味いが。」

 

六年生も始めて食べる南蛮のお菓子。小平太はどうやらハマってらしく手が止まらない。

 

 

小三郎の家から送られたポップコーンは意外にも全員に高評価だった……しかし、その日の夕飯のデザートもポップコーンだったのは言うまでもない。



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五年生対六年生の段if〜前編

あの段のifです。


とある昼下がり。小三郎は今日の宿題も早々に終えて校庭をぶらぶらしている。すると向こうから二年い組の池田三郎次と川西左近がやって来た。

 

小三郎「三郎次先輩、左近先輩。こんちにわ。」

三郎次「やぁ。小三郎。」

左近「やぁ。」

 

道行き挨拶をしてそのまま横を通り抜ける。

 

三郎次「……あいつはからかっても何の得もないだろうなぁ?」

左近「三郎次。小三郎だけはからかっちゃダメ!下手したら留三郎先輩に殺されるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校庭を歩いて行くと、今度は何やら六年生と五年生の人だかりが見えた。そして傍に乱太郎、きり丸、しんべえの姿もある。

 

小三郎「どうしたの?乱太郎。なんだか物々しい雰囲気だけど?」

 

乱太郎「小三郎!」

きり丸「あぁん!サブちゃん!救世主様!」

しんべえ「助けてぇ!僕たちまだ死にたくない!」

小三郎「へ!?ちょ、ちゃっと待って!説明して!

 

 

乱太郎曰く、二年生にからかわれてその事を竹谷八左ヱ門に言ったら自分達も六年生にからかわれではないが意見を聞いてくれないだの迷惑しているだの共感し、それを運悪く六年生が聞いてしまい険悪になり勝負をする事になったらしい。しかも学園長先生の思いつきで宝探しで対決という事。さらに宝役が自分達で怖くて仕方ないらしい。

 

 

 

 

小三郎「な、なるほどね。あの〜学園長先生?」

学園長「おぉ!食満小三郎。なんじゃ?」

小三郎「乱太郎達がこんなに怯えて可哀想だから……僕が宝役を代行してもよろしいでしょうか?」

 

 

全員「!?」

 

 

全員が小三郎に注目する。乱太郎達が慌てる。

 

乱太郎「い、いや悪いよ小三郎!君は何も関係ないじゃない!」

きり丸「そうだよ!何も俺たちは変わってくれなんて言ってないよ!」

しんべえ「怪我するよ!」

 

心配する乱太郎達、しかし小三郎は笑顔を見せる。

 

小三郎「僕の性格知ってるでしょ?それに…君たちの役に立てるなら……怪我しても本望じゃない?」

 

らんきりしん「!!!」

 

小三郎の性格は優しく世話焼きで面倒見が良い。決して誰かにお願いされずとも困っている人はほっとけない。乱太郎達は涙を流す。

 

乱太郎「ごめん…っ!ごめんね!小三郎!」

きり丸「本音言えば……変わって欲しかったたぁぁ!仏様ぁぁ!!」

しんべえ「ごめんね!いつも迷惑ばかりかけて!今度カステラあげるね!」

 

全員がしんべえが誰かに食べ物をあげる発言にびっくり。

 

 

留三郎「小三郎が宝か……異議はない!俺にとっては宝も同然!」

兵助「悪いですけど留三郎先輩!火薬委員会の宝でもあります!それに俺……今物凄くやる気湧いてきました!!」

 

留三郎と兵助が睨み合う。心なしかほかの先輩方もやる気がメラメラ上がって来た。

 

学園長「よし。宝役、食満小三郎に代行。開催は1時間後だ。小三郎はその間に逃げるなり隠れるなりしなさい。人数の少ない五年生にはヘムヘムをつけよう。」

 

小三郎は足早に自室へ戻った。乱太郎達も付いて行く。

 

八左ヱ門 「小三郎には飼育小屋の時に世話になりましたからね!俺にとっても宝です!」

仙蔵「私も密書の時に世話になったからな。私にとっても宝だ。」

文次郎「会計委員会にとっても宝だ。団蔵の清書にいつも世話になっているからな。」

留三郎「全員勘違いするなよ!兄弟の絆を舐めるなよ!」

 

 

 

 

全員がメラメラ燃える中、留三郎のブラコンスイッチも入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍たま長屋では小三郎が色んな道具を袋や服に詰め込む。その姿をは組全員が見守る。

 

庄左ヱ門「小三郎も大変だね?そんな事に首突っ込まなくても。」

伊助「でも小三郎らしいんじゃない?優しいって事だよ。にしても……いつになく目が本気だ。」

 

今の小三郎はまさに死地に赴く顔、ある程度詰め終わると髷を解き椿油を馴染ませた櫛で丁寧に解く。

 

三治郎「な、なんか……本当に死にに行くような……。」

団蔵「よ、よせよ。縁起でもない…。」

 

解き終えると髷を結い、そして実家から持って来た桐の箪笥から十二個の盃をそれぞれの前に並べる。

 

金吾「こ、これって……水盃!?」

喜三太「なにそれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニコーナー

「水盃とは通常、盃は酒を入れ酌み交わすことで、親睦を深め、お互いの関係を強固にする手段として使われ事であるが、水盃は酒ではなく水を入れて飲み交わしその後、盃を地面に叩きつけてて割る。割るということはその盃は使えない。即ち盃を酌み交わすのはこれが最後と言うこと。今生の別れの儀式です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎は水の入ったトックリで一人一人の盃に水を入れる。そして全員が飲んだ。小三郎は立ち上がり自らの盃を叩きつけて割った。全員が息を飲んだ。

 

小三郎「みんな…元気でね…?君達がしてくれた事、絶対忘れない!ありがとう。もしあの世で出会えるのなら……また遊ぼうね!これにて、今生の別れとします!」

 

小三郎は部屋から出て走り去った。

 

伊助「ちょっ!縁起でもないこと言わないで!」

虎若「死んじゃやだよぉぉ!!」

兵太夫「君の言葉本当に洒落にならないから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなが別れを惜しみ引き止めようとするが小三郎は全て振り解き、走り去った後、柱の影では山田先生と土井先生が頭を抱えた。

 

山田先生「小三郎ったら……真面目なんだけど…。」

土井先生「やる事たまにオーバーですよね?」

 

 

校庭の茂みに隠れ、周りの様子を伺う小三郎。

 

小三郎「さて……やりたい事やったし…どう来るかな?」

 

 

そして開始の狼煙が上がった。中編に続く。

 



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五年生対六年生の段if〜中編

小三郎が茂みに隠れてから間もなく狼煙が上がった。

 

小三郎「始まった…!」

 

小三郎は身を低くして息を潜める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五年生と六年生はそれぞれサッと散り、小三郎を探索する。

 

 

仙蔵「さて。何処を探したものか…。」

文次郎「やはり兵太夫と三治郎のからくり部屋か?」

 

文次郎の言葉に留三郎は首を横に振った。

 

留三郎「それは違うな。」

伊作「どうして言い切れるんだい?」

留三郎「小三郎はこういう場合、仲間に迷惑にならないように行動する。だから……そこだ!」

 

留三郎がビシッと草むらを指差した後に手裏剣を投げる。極限まで研がれた刃が戦輪の如く草むらをなぎ倒して行く。

 

小三郎「!」

小平太「いたぁぁぁ!!イケイケドンド〜〜ン!!!」

長次「ふははは!!見つけたぁぁ。」

 

七松小平太と中在家長次が小三郎に飛び掛った。しかし小三郎は直ぐに覆面を着用。そして懐から竹筒を取り出し着火。その竹筒を見て伊作がギョッとした。

 

伊作「保健委員会印のモッパン!?まずい!覆面を!」

 

しかし伊作達六年生が動くよりも早く投げたモッパンが炸裂。

 

小平太「ギヤァァァァァア!!!」

長次「ぐぼぉ!」

 

小平太と長次が叫び声を上げた。もとより目の良い小平太と長次にとってモッパンはまさに目潰し!刺激性の粉のせいで涙と鼻水が止まらなくなってしまった。小三郎は走り去るのが見え文次郎と仙蔵が追おうとした時、小三郎が地面に落としていく物体を見て仙蔵がギョッとした。

 

仙蔵「焙烙火矢だとぉ!?ぬぉぉぉお!!!」

文次郎「何なんだあいつの懐は!?ぐはぁぁ!!」

 

爆発に仙蔵と文次郎が巻き込まれた。しかも焙烙火矢が煙多めの火薬を使用しているため凄い煙。

 

留三郎「小三郎!お前はゲリラ兵かぁ!?ブェ!?」

伊作「留三郎大丈、イテッ!」

 

留三郎が顔面に飛んできた瓦礫が直撃し、伊作には小石が直撃した。

 

 

まさかのモッパン爆撃に六年生が苦戦する中小三郎は覆面をつけたまま逃走。その様子を離れた場所で見守る一年は組。

 

しんべえ「す、すごい!」

兵太夫「六年生全員を。」

虎若「爆撃しちゃった!」

庄左ヱ門「何かやらかすとは思ったけど…やっぱり僕たちとは一線も二線も画しているよね?」

伊助「本当にあの懐と袋どうなってるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は組が見ている事など知らぬ小三郎。今度は木や雑草が生い茂る訓練用の林に身を潜める。そして草を輪っかになるようにいくつか結び、袋からオニビシの実を取り出し草の影に巻く。

 

 

 

ミニコーナー。

土井先生「オニビシの実とは撒菱の事で、菱の実は三角錐の形をしており基本的にどのように置かれても、刺が上を向くようになり、追っ手の足を傷つけるように出来ているぞ。え?撒菱は鉄製ではないのかって?それは少し古い知識だ。使い捨てにしては勿体無く、鉄はこの時代では高価である為、鉄製の撒菱もなくはないが一般的に重さもさほどない菱の実が使われていたという意見もある。因みにこの菱の実は食べることも出来るぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度巻き終えると林の中へ入って行く。そして大きな木の影に身を潜める。

 

 

 

 

 

一方で五年生はヘムヘムの鼻を頼りに小三郎を探索中。

 

兵助「忍たま長屋にはいないか。」

勘右衛門「乱太郎達と違ってお約束は一切適応されないし……となると…。」

ヘムヘム「ヘムヘム〜!」

 

ヘムヘムの後をついて行くと林の中を指差す。

 

八左ヱ門「おほ〜。隠れ訓練用の林かぁ!」

雷蔵「マジで忍者してるよ。」

 

雷蔵が足を踏み入れた時、何かが足に引っかかり躓きかける…その時、三郎が何かに気がつき咄嗟に雷蔵の襟を掴み引き寄せた。

 

三郎「危ない!雷蔵!」

雷蔵「うわぁ!」

 

引き寄せた後に三郎は足元の草影を指差した。

 

勘右衛門「あぁ!?菱の実だ!」

 

草の影には小三郎が撒いた菱の実が転がっている。さらに転倒の罠、草結びもいくつかある。

 

兵助「しかも草結び!こんなのもしも躓いてこけたら大怪我だぞ!」

勘右衛門「っ!中に潜んでいるのは確かかもだけど…迂闊に進めないぞ!」

 

他にも撒かれているかも知れないと言う心理が五年生を揺さぶる。その時、八左ヱ門が木を指差した。

 

八左ヱ門「木だ!木を渡りながらなら!」

 

全員が成る程と頷き木に登る。流石は上級生綺麗な身のこなしで木を渡って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな木の影に隠れて様子を伺いながら次の手を考える小三郎。

 

小三郎「まだ焙烙火矢とモッパンはあるな?さて。六年生は巻いたけど五年生はどうなるかな?」

 

忍具の確認を終えると気配を感じ再び覆面を着用する。それと同時に五年生達が木から降りて来た。

 

兵助「見つけたぞ!小三郎!」

勘右衛門「まさか草結びに撒菱の二重罠を一年生でやるとは…やるじゃないか。」

八左ヱ門「だけどまだまだだな!木の上を渡れば撒菱は効果はない!」

雷蔵「またまた覆面までつけちゃって〜。」

三郎「可愛い顔が台無しだぞ?ってな訳で…。」

 

 

五年生一同「俺達に捕まれ!小三郎ぉ!」

 

全員が一斉に小三郎に飛び掛った。乱太郎達なら悲鳴をあげて何も出来ないだろうが、そこはは組一出来る子小三郎!すぐに懐から何かを取り出し着火して足元に投げつけた。すると大きな音が出て煙が立ち込めた。

 

兵助「なっ!?鳥の子!?」

 

 

 

ミニコーナー

土井先生「鳥の子とは鳥の子紙を糊貼りして中あきの玉を作り中に焔硝と発煙剤をつめる。口火に点火して投げると大音響と共に黒煙が立ち込める。発煙による煙幕を目的とした手投げ弾。要するに煙玉である。」

 

 

立ち上がる煙幕に紛れて、小三郎は五年生の間をすり抜け走る。それにしても煙が酷すぎる。

 

兵助「ごほ!ごほ!小三郎の奴!火薬委員会秘蔵の最も煙が出る火薬を使ったな!」

勘右衛門「前が見えない!」

八左ヱ門「あっちだ!裏門へ逃げ…ゴホゴホ!!」

雷蔵「いて!」

三郎「アイタッ!」

 

凄まじい煙でてんやわんや。雷蔵と三郎はお互いにぶつかってしまった。しかしそこは火薬委員会委員長久々知兵助。煙から出て小三郎を見る。小三郎は忍術学園の塀によじ登り瓦の上を走る。

 

小松田さん「ちょっとちょっと!小三郎くん!学園から出るなら出門表に!ってか出るか出ないかどっち!?」

 

事務員兼リアルセコム小松田さんが飛んできて小三郎を追跡、その後ろを五年生が追跡。

 

五年生一同「待てぇぇ!!小三郎ぉぉ!!」

 

すると前方の塀の上を爆走してくる人影が目に入った。六年生達だ。

 

六年生一同「小三郎ぉぉ!!見つけたぞぉぉ!!」

 

小三郎「ヤバッ……。」

 

小三郎が冷や汗を流す。そして六年生と五年生に挟まれる瞬間。

 

小松田さん「ギャァァアァァ!!!」

 

小松田さんの悲鳴がこだました。

 

留三郎「捕まえ……あれ?小松田さん!?」

 

留三郎が捕まえたと思ったのは小松田さん。ぶつかった時の衝撃で目を回している。

 

兵助「もう逃がさないよ!……あれ?装束の上着!?」

 

兵助が掴んだのは小三郎の上着だけ。そして上着から何かが3つ落ちた。

 

 

全員「げっ!!??」

 

 

ドカァァァァン!!!

 

 

全員「ギャァァァァァァァ!!!」

 

 

落ちたのは大きめの焙烙火矢。大爆発と共に中に仕込んでおいた白粉が舞い全員真っ白になってしまい倒れた。一方で小三郎は塀の下で事なき得ていた。

 

小三郎「危なかったぁ。小松田さん巻き込んでごめんなさい。」

 

目を回している小松田さんに謝ると出門表のバインダーの紙に名前を書き塀を再び超えて出て行った。目指すは裏山。後半へ続く。



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五年生対六年生の段if〜後編

長らくお待たせしました。後編です。&お気に入り150件突破!皆さんご愛読ありがとうございます!


小三郎「どうも。この小説のオリジナル主人公の食満留三郎の弟。食満小三郎です。今僕は忍術学園から脱出し裏山の森の中に潜伏中です。何故逃げているかと言うと……五年生と六年生が険悪になってしまい、さらに学園長の思いつきで宝探し対決をする事になり、最初は乱太郎達が宝役だったんですけど……不憫で可愛そうだったので僕が代役を務める事にしました。」

 

読者の方を向き一通りの説明を終えると再び木の樹洞に隠れて持ち物を調べる。

 

小三郎「あちゃ〜。さっき「空蝉抜け」やったからだいぶ減っちゃったなぁ?」

 

 

 

ミニコーナー

土井先生「空蝉抜けとは、逃げる時に上着を掴まれたら上着を脱ぐと言う遁術の一つだ。空蝉とは蝉の抜け殻と言う意味。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で忍術学園では焙烙火矢に仕込まれた白粉を落とす五、六年生がいた。今はしばしの休戦。兵助と八左ヱ門が残された小三郎の装束を調べていた。

 

兵助「苦無に手裏剣にコシコロに、忍び熊手、打ち竹にモッパンに………どうなってんだ!?この上着は!」

八左ヱ門「でも重さはあまり感じないぞ?」

 

その様子に兄である留三郎が歩み寄る。

 

留三郎「それは恐らくお袋直伝の収納術だろう。」

兵助「留三郎先輩。」

勘右衛門「収納でも限界あるでしょ!」

 

勘右衛門の言葉に留三郎は首を横に振る。

 

留三郎「お袋は小三郎よりも詰め込んでいるぞ?実に倍は詰め込んでいたし、挙句には布団まで入れていたぞ?」

 

五年生一同「どんだけぇぇぇ!?」

 

五年生の言葉に留三郎は小三郎の装束を指差す。

 

留三郎「そんだけだが?」

五年生一同「だぁぁぁぁ!」

 

留三郎の言葉に五年生が転んだ。それから間もなく六年生の身支度が終わり小三郎探索へ出て行く。その後で五年生とヘムヘムも裏山へ探索に出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仙蔵「にしても留三郎!お前の弟はどういう教育がされているんだ!爆撃なんて聞いてないぞ!」

留三郎「何を言ってる!今のご時世自分の身くらい守れるようにしないと。」

文次郎「だからってやり過ぎだろうが!」

伊作「まさか保健委員会のモッパンまで持っていたのは盲点だった。きっと乱太郎が渡したんだろうね?それにしても…木が例年より生い茂ってるね?」

 

全員が小三郎の爆撃にあれこれ言う中、善法寺伊作が周りを見る。例年よりも生い茂った木々。隠れる場所は幾らでもある。その時、七松小平太が再び飛び出した。

 

小平太「とりあえず、埒があかん!邪魔な木は吹っ飛ばせぇ!イケイケドンド〜〜ン!!」

 

小平太が両手に苦無を持ち周りの木を地面ごと掘り起こしながら突き進む。ほかの六年生も後に続く。そして。

 

小平太「いたぁぁ!」

 

小平太が樹洞に身を潜める小三郎?を見つけた。

 

長次「待て、小平太。」

小平太「どうした?長次。」

 

中在家長次が小平太の肩を持ち止める。他の六年生も追いついた。そして留三郎が声を上げた。

 

留三郎「もう逃がさ……ん?」

 

全員が樹洞に身を隠している小三郎の違和感に気づいた。動かないのだ。

 

長次「さっきはすぐに爆撃して来たが今回は動かない。罠だ。」

 

そう言うと留三郎が手裏剣を取り出す。伊作がそれを見てギョッとした。

 

伊作「ま、待って留三郎!いくら君の弟でも怪我させる気かい!?」

留三郎「案ずるな伊作。あれは小三郎じゃない!」

止めに入る伊作を手で止める留三郎。そして手裏剣を投げる。投げた手裏剣は小三郎?に命中。しかし奇妙な事に声を上げない。少なくとも痛い!とか、ギャ!っとか言う。

 

留三郎「やっぱり張り子か!」

 

それは小三郎の装束を着せた粗末な張り子。しかしご丁寧にカツラまで被せてあるためパッと見、間違えそう。

 

文次郎「珍妙な張り子作りやがって!」

 

文次郎が袋槍で張り子を斬り伏せた。

 

 

 

プツン。

 

 

その時、何かが切れた音がした。ふと文次郎が張り子をよく見ると、何かが書いてある。

 

「頭上注意です。」

 

文次郎「何ぃ!?」

 

文次郎とその他の六年生が見上げると無数の手裏剣と鉄針が降って来た。全員が得意武器で手裏剣を捌く。

 

文次郎「ふぅ……留三郎!!お前の弟なんなんだ!?マジで殺しに来てるぞ!?」

仙蔵「この罠は間違いなく致死性だ。どんな育て方したんだ?教養はかなり高いが。」

小平太「流石にビビったぞ!」

長次「もそ……一度教育を直した方がいい気が……。」

伊作「怖いよ!君の弟!気立ては優しくて良い子だけど!」

 

全員が留三郎にクレームを入れるが留三郎は胸を張った。

 

留三郎「お袋から教養高く育てられ、忍者の技もすぐに吸収する。気立ては優しく誰とでも仲良くなれる。そして!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留三郎「俺の可愛い弟だ!!!」

 

留三郎の発言に全員が頭を抱えた。

 

六年生一同「ダメだ…このブラコン…早く何とかしないと…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で小三郎は森の中を走っていた。なぜ六年生が近づいて来たのが分かったのかと言うと。

 

小三郎「小平太先輩って本当に人の子なのかな?木々をなぎ倒してくるなんて。」

 

小平太が木々をなぎ倒して来たから。やがて森を抜け山道に出た。しかし。

 

 

兵助「あぁ〜!見つけたぞぉ!!」

小三郎「うわっ!兵助先輩!」

 

小三郎は逃げようとしたが背を見せるのは危険と判断し後ずさる。

 

八左ヱ門「逃がさないよ!」

勘右衛門「食らえ!万力鎖と微塵の捕縛共演!」

 

八左ヱ門と勘右衛門が微塵と万力鎖を小三郎の脚めがけて投げつけた。小三郎はかろうじてジャンプで回避。しかしそこにすかさず雷蔵が印地で白粉が入った袋を投げ、三郎が鏢刀で袋を破いた。

 

小三郎「うわっぷ!?けほ!ゴホッ!」

 

白粉を吸い噎せる。その隙に五年生全員が飛び掛った。

 

五年生一同「捕まえたぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎はカッと目を開いた。

 

小三郎「まだです!」

 

小三郎は袴から扇を二本取り出し開く。

 

小三郎「忍法!霞扇!!」

 

五年生一同「!?」

 

 

ミニコーナー

土井先生「霞扇とは扇の羽の紙が二重になっておりその間に粉末状の眠り薬が入っており仰ぐと風と共に拡散する暗器の一種である。」

 

 

小三郎が扇を仰ぐとピンク色の靄が発し五年生に降りかかった。

 

兵助「?うっ…ま、まずい!みんな覆面!」

 

五年生全員が覆面を着用する僅かな隙に小三郎は全力で走る。

 

兵助「あっ!待て!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小三郎「はぁ!はぁ!」

 

小三郎は全力で裏山の森を駆け抜ける。正直に言うとさっきの霞扇で懐はからっぽ。もう後は逃げるしかない。しかし。

 

小三郎「あぁ!?しまった!崖!」

 

とても登れそうにない崖にぶつかってしまった。小三郎何とか登れないかと思い、大きな岩の上に登るがそれ以上は無理だ。

 

六年生&五年生「小三郎ぉぉ!!」

 

小三郎に追いつき六年生と五年生が小三郎の乗る岩を取り囲んだ。

 

留三郎「小三郎!兄者の胸に飛び込んでこい!さぁ!早く!!!」

兵助「小三郎!こっちこっち!痛くしないからさぁ!!!」

 

留三郎と兵助は顔が大きくなりどちらも血走った目で小三郎を見る。

 

小三郎「ひぃぃ!も、もう逃げられない!しかも……どっちも怖いぃぃ!!と、投石!!」

 

小三郎は崖や転がっている石を投げつける。

 

留三郎「ちょ!石を投げるなぁ!」

勘右衛門「石投げちゃいけないんだぞ!」

文次郎「往生際が悪いぞ!」

伊作「痛っ!」

仙蔵「大丈夫か!伊作!小平太!岩を削れ!」

 

仙蔵の合図と共に小平太が苦無を持ち岩を削り出した。

 

小平太「イケイケドンドーン!!」

小三郎「ちょ!小平太先輩!本当に人間ですかぁ!?」

 

小平太に岩を削られ岩がある揺れ始めた。小三郎は咄嗟に苦無を岩と岩の間に差し込み崖に張り付く。同時に足場は崩壊。

 

仙蔵「本当に往生際が悪いぞ!」

八左ヱ門「降りてこい!お前は完全に包囲されている!」

 

小三郎「くぅっ…!」

 

張り付くのも限界がある。

 

小三郎(もうダメか……乱太郎、きり丸、しんべえ……みんな……。)

 

陽も傾き夕暮れになる。小三郎が諦めかけたその時!優しい良い子のみんなの声が聞こえた。

 

は組一同「小三郎ぉぉ!!!」

 

声と同時に小三郎の目の前に鎖が降りて来た。小三郎が見上げると。

 

乱太郎「小三郎!その鎖に掴まるんだ!」

きり丸「今生の別れならなぁ!俺たちが探してやる!」

しんべえ「お別れなんてさせないよ!今度は僕たちが守る!」

 

小三郎「乱太郎!きり丸!しんべえ!みんなぁ!!」

 

崖の上には黄昏に照らされた一年は組のみんなが立っていた。変わらぬ笑顔がそこにあった。小三郎は鎖に掴まる。

 

庄左ヱ門「よ〜し!みんな引っ張れ!」

 

は組一同「オーエス!オーエス!」

 

 

 

 

留三郎「あぁぁぁ!!待て!小三郎おぉぉ!」

 

留三郎がジャンプをして手を伸ばすが……その手は僅かに小三郎の脚先に触れただけだった。

 

 

しんべえ「掴まって!小三郎!」

 

鎖で引き揚げられしんべえの手を借りて崖の上へ。そして学園から終了の花火が上がった。

 

小三郎「みんなぁ……。」

伊助「よく頑張ったね!小三郎!」

団蔵「すごいよ!あの潮江文次郎先輩から逃げ延びたんだよ!」

虎若「本当にすごいよ!自慢していいよ!」

 

全員が賞賛を送る中、小三郎は突如泣き出した。

 

小三郎「みんなぁ…うわぁぁぁぁん!」

 

兵太夫「ちょ!どうしたの!?」

小三郎「ごめん…グスッ…みんなの顔見たら…ヒック…なんか泣けてくるんだよぉ……うわぁぁぁぁん!」

三治郎「あははは。頑張ったね!」

金吾「よく頑張ったよ!君がナンバーワンだ!」

喜三太「頑張ったねぇ〜?よしよし。」

 

全員が小三郎を抱きしめよしよしと頭を撫でる。

 

 

仙蔵「負けたな。」

文次郎「あぁ。俺たちの負けだ。」

兵助「僕たちも負けましたよ。なぁ。雷蔵。」

雷蔵「あぁ。今回の勝者は……。」

三郎「俺たちから逃げ延びた。一年は組の食満小三郎だ!」

 

五年生も六年生も既に険悪ではなくなった。勝敗はどちらでもなく、無事逃げ延びた小三郎に与えられた。泣く小三郎の様子を留三郎が見つめる。

 

伊作「一本取られたね?留三郎。君の自慢の弟に。」

 

留三郎「伊作……あぁ。初めて一本取られた!見事だ!小三郎!俺の最高の弟だ!」

 

留三郎は静かに拍手をして小三郎を褒めた。



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留三郎の憂鬱の段

あけましておめでとうございます!あーだこーだやってたらいつの間にか年が明けてしまった。


忍術学園、用具倉庫。そこでは用具委員会委員長、食満留三郎筆頭に漆喰を練り骨組みを作り、外壁の修補の準備をしていた。

 

留三郎「よし。骨組み完成!」

守一郎「道具も用意しました!」

下級生「漆喰と下地も塗り終えました!」

 

それぞれが道具を持ち壊れた外壁に向かう。外壁は爆破でもされたのか粉々。

 

留三郎「それにしても焙烙火矢の予習で外壁破壊されるとは…。」

作兵衛「す、す、すいません!留三郎先輩!藤内にはきつく言っておきます!」

留三郎「いやいいんだ。予習は悪い事ではない……はぁ。」

 

留三郎が作兵衛にフォローを入れるが何処と無く疲れているのか気分が乗らないのかため息。

 

しんべえ「留三郎先輩。なんだか疲れてません?」

喜三太「休んだ方がいいですよ?」

平太「倒れたら大変ですよぉ…。」

 

しんべえ達が心配そうに見る。留三郎はハハッと笑い。

 

留三郎「すまんすまん。ちょっと昨日のテストでな。なぁに、支障はないさ……ぬぉ!?」

 

守一郎&作兵衛「留三郎!?」

 

バシャァァァン!!

 

 

留三郎は石に躓きそのまま漆喰にダイブ。

 

作兵衛「やっぱり変ですよ!留三郎先輩!」

守一郎「伊作先輩見たいですよ!?」

留三郎「そ、それは伊作に失礼だと思うぞ?守一郎。俺は大丈夫だ!……はぁ。」

 

留三郎は起き上がるが再びため息。

 

作兵衛「ほらやっぱり疲れているじゃありませんか!壁の修補は俺たちでも出来ますから今日は休んで下さい!」

守一郎「そうですよ!不安全な状態は絶対事故に繋がります。休んで下さい。」

 

みんなに言われ留三郎も無下には出来ないと思い、何かあったらすぐに呼べとだけ言い長屋に戻っていった。

 

留三郎「……くそぅ。下級生に心配されるなんて…情けない…っ!」

 

留三郎はやけっぱちに石ころを蹴る。しかし小石は木にあたり跳ね返り自分の額に命中。

 

留三郎「いってぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六年忍たま長屋。留三郎は自室に戻ると同室の善法寺伊作が薬を煮込んでいた。

 

伊作「あれ?留三郎……って漆喰まみれじゃないか!?どうしたんだい?」

留三郎「どうしたもこうしたもない!……はぁ。らしくないなぁ。」

 

留三郎は押入れから替えの装束を出して着替える。伊作はピンッと感じた。

 

伊作「昨日の鉄双節棍のテストだね?」

留三郎「っ……。」

 

 

それは昨日の鉄双節棍のテスト。鉄双節棍は留三郎の得意武器だが今回のテストでは全然本領を発揮出来ず、六〇点。しかも一位は名前も顔も出ない「喪部野喪部助」だった。それが留三郎を多大に凹ませた。

 

留三郎「文次郎ならまだなにくそ!って思うけどなんでよりによって喪部野喪部助なんだよ!!顔も出ない癖に!適当に思いつい「留さんメタ発言!」す、すまん伊作。はぁ。」

 

何かを言いかけたが伊作が遮った。再びため息。そしてふて寝。

 

伊作(かなり凹んでいるなぁ。)

 

伊作は医務室へ完成した薬を持って行く。するとそこに用具委員会のメンバーがいた。

 

伊作「用具委員会のみんな!」

作兵衛「善法寺伊作先輩!」

伊作「どうしたんだい?留三郎なら長屋だよ?」

喜三太「その留三郎先輩の事で…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室で話を聞くと、留三郎先輩の為に何か元気になる薬がないか聞きに来たらしい。

 

伊作「留三郎は病気でも疲れているわけでもないんだよ?ただ昨日のテストで自分に納得がいかないらしいんだ。」

しんべえ「なんか以外。」

喜三太「悪い点取ってもより練習に励むかと思いました。」

 

しんべえと喜三太の言葉に作兵衛は首を横に振る。

 

作兵衛「分からないでもないかも…俺だってそういう時はあったから…。」

守一郎「かえって下手な慰めも良くないなぁ。」

 

どう慰めるかと考える中、はっと平太が何かを思いついた。

 

平太「ねぇ。今度また用具委員会でピクニックに行くから、みんなで留三郎先輩のお弁当作ってあげたらどうかな…?」

 

平太の言葉に伊作が頷いた。

 

伊作「それはいいよ!留三郎は後輩大好きだからきっと喜ぶよ!」

 

そして喜三太が何かを思い出した。

 

喜三太「そうだ!どうせならあの時のヤケアトツムタケ忍者の愛妻弁当みたいに作りたいなぁ。」

しんべえ「あれ美味しそうだったよねぇ?は〜くまい、あずき〜♫それにだ〜いず〜み〜そ〜♬」

 

前に見た忍者のお弁当を思い出す。しかし作兵衛が制止をかける。

 

作兵衛「待て待て!弁当はいいけどあんなの作れるのか?それに今この中で誰が料理出来るんだ?」

 

全員「あっ。」

 

伊作は薬は作れるが料理は得意でない。守一郎は出来なくはないが素材そのまま。作兵衛は出来るには出来るがそんなにレパートリーがない。下級生は論外。

 

しんべえ「あっ!」

 

その時、しんべえにある人物が浮かんだ。

 

しんべえ「そんだ!なんで気づかなかったんだろう!出来るよ!愛妻弁当作れる人!」

作兵衛「誰か頼りがあるのか?」

 

作兵衛は首を傾げる。しんべえは満面の笑みを浮かべる。

 

しんべえ「留三郎先輩には愛妻ならぬ愛弟がいるじゃない!」

 

しんべえの言葉に全然があっ!と声をあげた。

 

 

 

 

全員「小三郎!!!」

 

 

 

 



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小三郎のお弁当の段

小三郎の出番は少ないかも。


小三郎「ありがとう、ヘムヘム。」

ヘムヘム「へ〜ム〜。」

 

一年忍たま長屋で小三郎はヘムヘムから手紙と本を受け取り自室へ。ヘムヘムが持って来たのは実家からの手紙。

 

小三郎「これは僕宛。こっちは兄者宛だね。」

 

仕分けをしているて部屋の戸がノックされた。

 

喜三太「小三郎〜。いる〜?」

小三郎「喜三太?どうぞ〜。」

 

戸が開くと用具委員会全員と善法寺伊作がいた。

 

小三郎「あれ?皆さんどうしました?用具の手伝い?にしては善法寺伊作先輩もいるし……あれ?兄者は?」

 

兄がいない事に首を傾げるとしんべえがそばに寄って来た。

 

しんべえ「小三郎!愛妻弁当作って!」

小三郎「は!?…/////し、しんべえ…僕は君の事を確かに友達として好きだけど……////でも、しんべえが望むなら…す、末永くよろしくお願いします…。」

 

全員「だぁぁぁぁ!」

 

赫らむ顔で照れ臭そうにしんべえを見る。全員がこけた。

 

作兵衛「違う違う!告白じゃねぇよ!」

小三郎「えっ!?び、びっくりした〜。おしげちゃん捨てて来たのかと。」

喜三太「い、今のはボケじゃなかったのね?」

 

伊作「でも相談はあってね?」

 

伊作先輩の話を聞く。兄者が鉄双節棍のテストで良い結果が出せずに落ち込んでいる事。他のモブが一位になった事。

 

平太「だから……気晴らしに今度用具のみんなでピクニックに行くんだ…。そこでみんなで留三郎先輩にお弁当作ってあげようと思うんだけど…。」

 

守一郎「俺たち料理あんまり得意じゃないから…。」

喜三太「だから小三郎の力を貸して欲しいんだ。」

小三郎「なるほど。でも愛妻弁当って。」

 

しんべえ「前にね?」

 

しんべえが歌いながらヤケアトツムタケ忍者のお弁当の内容を小三郎に教える。小三郎はしんべえの歌を聴き、そして何かを思い出したように手を叩いた。

 

小三郎「よし!分かりました!では、食満留三郎の弟、この食満小三郎。兄者を元気付ける為のお弁当を作る任務。謹んで受け賜わりましてございます!」

 

小三郎は正座をし直して両手を床につけて頭を下げた。

 

全員「だぁぁぁぁ!!」

 

再びこけた。

 

作兵衛「一々オーバーだな!」

喜三太「突っ込んじゃダメです、作兵衛先輩。」

しんべえ「あれはサブちゃんのキャラです。」

 

小三郎「あっ。皆さんのお弁当も作りますので。」

 

小三郎の言葉に全然が目を輝かせた。それから話し合い、お金はしんべえが小切手で全額負担してくれる事になり、買い出しは作兵衛と守一郎がついて回る事に決まり、伊作は留三郎を見ている事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後のピクニック当日の午前5時。事前に許可を得て台所に立つ割烹着姿の小三郎。ご飯はおばちゃんが事前に炊いてくれていた。ちなみにおばちゃんも手伝ってくれる事になった。

 

小三郎は手慣れた手つきでおかずを作って行く。卵焼きに豚の生姜焼きに焼き魚。

 

小三郎「か〜わのりでんぶ〜♬やきもろ〜こ〜♬」

 

しんべえに教わった歌を歌いながらそれらをお弁当箱に詰めて行く。

 

おばちゃん「小三郎くん上手だね〜。私も負けないわ!」

 

おばちゃんもひじきや芋の煮っころがしなど手間のかかる煮物を作り詰める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が昇り始める。小三郎は桜澱粉と海苔でご飯に細工していく。

 

小三郎「ふぅ〜。出来た〜!」

おばちゃん「あらまぁ。可愛く出来たじゃない!」

 

それぞれのお弁当に異なる細工をして蓋を閉じ包みに入れる。その一つ、留三郎のお弁当に何かを入れると同時に小三郎が急に机に伏した。

 

おばちゃん「小三郎くん!?どうしたの!?…あら?」

 

小三郎「zzz………むにゃ…。」

 

いくら出来る子でもまだ十。小三郎の体力は尽き眠りに落ちてしまった。それでも頑張った、みんなに喜んで欲しいから、兄に元気になって欲しいから。

 

おばちゃん「よく、頑張ったねぇ?あとはおばちゃんに任せておきなさい。おやすみ。」

 

おばちゃんは優しく小三郎の頭を撫でておんぶして自室に寝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。用具委員会はおばちゃんにお弁当をもらいに来た。

 

おばちゃん「はい。みんなのお弁当!」

 

しんべえ「わぁい!小三……むぐぐぐ!!」

留三郎「小三?」

作兵衛「なんでもないです!」

 

作兵衛が慌ててしんべえの口を掴み羽交い締め。その時、おばちゃんが留三郎に歩み寄る。

 

おばちゃん「はい。留三郎くんの分!きっと美味しいわよ!」

留三郎「?きっと?」

守一郎「さぁ!出かけましょう!」

 

留三郎がなんとなく違和感を覚える中、守一郎が遮り用具委員会はピクニックへ出かけた。朝の清々しい空気。道に咲く花。木の香り。用具委員会のメンバーは楽しそうに談笑しながら歩いていく。留三郎も段々と溜息などはなくなり笑顔を見せる。そしてお昼時に前にやって来た辻堂に到着。

 

留三郎「よ〜し。お弁当にするかぁ!」

 

全員がお弁当を出すが何故が全員留三郎を見る。

 

留三郎「なんだ?食べないのか?」

守一郎「まずは先輩が開けてください。」

留三郎「?あぁ。」

 

留三郎がお弁当の蓋を開けた。次の瞬間「おぉ!!」っと歓声を上げた。

 

留三郎「こ、これは…!」

 

そこには唐揚げをメインに卵焼きに焼きもろこにセタシジミの甘露煮、ミニトマト。ひじきなどの煮物にウサギに切ったりんご。そして桜澱粉をふりかけた白米。そして「兄愛」と切られ飾り付けられた海苔。留三郎の中で全てが繋がった。

 

しんべえ(わぁい!小三…むぐぐ!)

おばちゃん(きっと美味しいわよ!)

 

しんべえとおばちゃんの言葉、そして「兄愛」とやるのは一人しかいない。

 

留三郎「小三郎…?これ!小三郎が作ったのか!?」

 

全員「正解!!!」

 

全員が声をあげる。

 

留三郎「ど、どう言う事だ!?」

守一郎「留三郎先輩。みんな先輩を知っているんですよ?だから、みんなで励ます事にしたんです!」

作兵衛「そうです!たかがテストがなんです!」

喜三太「留三郎先輩ならまたいい点取れますよぉ!」

しんべえ「そんな喪部野モブ助けに気持ちで負けちゃダメです!」

平太「留三郎先輩……元気…出して下さい。みんな元気な留三郎先輩が好きなんです…。」

 

全員の言葉に留三郎の心は動かされた。

 

留三郎「そうか……知っていたのか……ざまぁないな。後輩に心配されて……。」

 

その時、喜三太が何かに気がついた。

 

喜三太「あれ?何かお弁当にくっ付いてますよ?」

 

喜三太が指差し、留三郎が見ると手紙のような物がくっ付いていた。

 

 

 

『兄者へ。兄者の好きなもの詰め込んだよ!元気出して、僕は元気な兄者が大好きだから。また町の甘味屋さんに行こうね! 小三郎より。」

 

留三郎(小三郎…!)

 

留三郎は次の手紙を読む。

 

『留三郎へ。先ずは謝ります。小三郎の事ばかり気にして貴方に手紙を書くのが遅れてしまいました。』

 

留三郎(お袋…!)

 

『風邪は引いていませんか?友達と仲良く出来ていますか?貴方は昔はよく同世代の子にいじめられて泣いていましたね?よく覚えています。でも、貴方は小三郎が生まれてから泣かなくなりました。お兄ちゃんと言う自覚があったのでしょうね?でもね。留三郎。本当は甘えたいのに、悩みを聞いて欲しいのに、弟の面倒を母が見ているから我慢しなければと……ごめんなさい。貴方に甘えさせてあげらるなくて……でも、私の大切な息子。貴方達兄弟は私の宝です。体に気をつけて。小三郎とも仲良くね。

母より。』

 

追伸「最近寒くなって来ましたから暖かくして下さいね?それから風邪をひいたら生姜湯がいいですよ?他にも首にネギとか、加湿するとか、ほかにもほかにも。」

 

 

 

留三郎は涙を流すもはにかむように、笑いながら手紙を握る。

 

留三郎「追伸が……長いんだよ……ありがとう…お袋!小三郎!ありがとな!お前らは……最高の後輩だ!!」

 

留三郎は全員を寄せギュッと抱きしめる。全員が笑い、そしていよいよお弁当タイム!全員がお弁当を開けるとまたもや驚いた。

 

守一郎「これは…!」

作兵衛「すっげぇ!」

 

守一郎のお弁当はおかずこそ変わらないがメインは焼き魚。作兵衛は生姜焼き。そして細工海苔で「敬愛」と細工されていた。そして一年生は、喜三太のメインは肉巻きポテト。平太はおからハンバーグ。しんべえはでかい唐揚げ。そして細工海苔は「親愛」と細工されていた。

 

 

 

全員が感激しそして食べる。もちろん味は最高。しんべえなど美味しすぎて泣く始末。

 

留三郎(まさに…愛だな…お前の愛!受け取ったぞ!小三郎!)

 

留三郎「うぉぉぉぉ!!!!元気出てきたぞぉ!!」

 

守一郎「俺も!」

作兵衛「自分も!」

しんべえ&喜三太&平太「僕たちも!」

 

それから全員で缶蹴りをしたり鬼ごっこをしたりして遊んだ。留三郎は悩みも結果も吹っ飛びいつも以上に楽しんだ。

 

 

 

その夜。小三郎が留三郎に抱きつかれて離さないのはまた別の話。



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良からぬ企みの段

長らく放置してしまい申し訳ありません。それでもご愛読してくださる皆様、ありがとうございます!


とある放課後の一年ろ組。そこでは斜堂影麻呂先生とろ組の暗いけど良い子達が何かを相談していた。そして何故か黒板には何処で手に入れたのだろうか、食満小三郎の似顔絵が貼られている。

 

斜堂先生「あの話だけだと思っていましたかぁ〜……。」

 

斜堂先生のドアップに背後で笑うろ組達。そしてまじまじと小三郎の似顔絵を見つめる。

 

斜堂先生「いいですねぇ…食満小三郎くん…是非とも君が欲しい…。」

 

孫次郎「斜堂先生…言葉を選んだほうが…。」

怪士丸「かなり危なそうな人に見えます…。」

 

孫次郎と怪士丸の言葉にはっとなる斜堂先生。

 

斜堂先生「おっと…ありがとうございます…でも皆さんも…お好きでしょ?彼が…。」

 

ろ組全員「は〜い…。」

 

 

良からぬ企みが動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は組の良い子達は小三郎の勤勉さと真面目さに影響され程よく清掃され、宿題の提出率も良くなり今は珍しく居残りする者はおらず、長屋では小三郎一人勉強机に向かっていた。珍しく考えているのか動かない。その時、背後からろ組4トップが忍び寄る。

 

伏木蔵「小三郎〜…あれ?」

 

伏木蔵が小三郎に触れた瞬間、パサッと音を立て……小三郎の首が取れた。

 

平太「ギヤァァァァァァァァ!!」

孫次郎「お、落ち着いて!平太!」

 

絶叫し走り回る平太。宥める孫次郎。

 

怪士丸「に、人形だ…これ。」

 

よく見ると装束を着た藁の張り子。そして4人に何者かが忍び寄る。

 

????「…いらっしゃい…。」

 

不気味な声が聞こえ、伏木蔵のうなじ部分にちょんと誰かが触る。振り返る四人。そして見たのは…。

 

伏木蔵「ギャァァァァァァ!!のっぺら坊!!」

平太「うわぁぁぁぁぁ!!」

孫次郎「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

怪士丸「わぁぁぁぁぁ!!!」

 

そこにはのっぺら坊が立っていた。へたり込む四人。しかしのっぺら坊はピースサインをする。そして顔を持ち上げた。

 

小三郎「大せ〜こ〜♫」

 

顔は張り子、出て来たのは一年は組のできる子、小三郎だった。

 

伏木蔵「な、なんだ小三郎か……はぁ、はぁ…。」

孫次郎「びっくりしたぁ……。」

怪士丸「へ、平太大丈夫?」

平太「ち、ちびっちゃったぁぁ……。」

 

平太が袴に触れると同時に、小三郎は懐から袴と褌と拭き用の手拭いを取り出し衝立の裏に平太を手招き。

 

小三郎「はい、着替えよう?」

 

伏木蔵&孫次郎&怪士丸「だぁぁぁぁ!!」

 

三人はすっ転び、平太は衝立の裏に。

 

伏木蔵「相変わらず…用意がいんだから…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平太が着替え終わり、全員は小三郎が出した座布団に座る。

 

小三郎「改めていらっしゃい。そして脅かしてごめんね?」

 

小三郎は悪戯っぽくべっと舌を出して笑う。

 

伏木蔵「まさか驚かすはずが驚かされるなんて…。」

孫次郎「びっくりしたよ〜。でもなんでまた人形とのっぺら坊?」

 

孫次郎の問いに小三郎は忍たまの友を差し出し、あるページを指差す。

 

平太「驚忍の術?」

小三郎「えへへ。一回やって見たかったんだ?」

 

 

 

ミニコーナー

土井先生「驚忍の術とは、迷信などで敵を驚かしてその隙につけ込む、五車の術の一つのこと。」

山田先生「平たく言えばびっくりさせる事だが驚いた相手は隙だらけになると言う訳だ。一瞬の隙でもプロの忍びの世界では命取りになるぞ。」

 

 

 

 

 

伏木蔵「まんまとはまっちゃった訳だね?」

小三郎「ごめんね?ところで僕に用があって来たんでしょ?」

 

首を傾げる小三郎に伏木蔵が口を開く。

 

伏木蔵「実は今度の休みにまたみんなでピクニックに行こうと思ってるんだ。」

孫次郎「前にまた一緒に行こうって言ったじゃない?」

平太「だからどうかな?って……。」

怪士丸「今度は少し遠いけど乱太郎が紹介してくれた神秘の池に行こうかと思うんだ…どう?」

 

4人の話を聞いて小三郎は笑顔で頷く。

 

小三郎「神秘の池かぁ。うん!行こう!僕、伏木蔵達とのピクニックまた行きたいなぁ。って思っていたんだ。何故かその後の記憶が曖昧なんだけど……。」

 

小三郎の言葉に四人はニィッと口元に笑みを浮かべた。そして約束を交わし四人は部屋を後にする。その帰りに乱太郎ときり丸としんべえに出会った。

 

乱太郎「あれ?伏木蔵達。」

伏木蔵「やぁ。うふふ……。」

 

伏木蔵は笑う。そして通り過ぎる。

 

きり丸「な、なんだ?あいつら。」

しんべえ「ぶ、不気味な笑い…。」

 

 

 

 

 

良からぬ企みが回り出した。

 



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