絢爛の神舞も異世界からやってくるそうですよ? (玖兵衛)
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プロローグ~神を降ろした少女~
あまり上手い文章ではないでしょうが、暖かい目で見守っていただけたら幸いです。
では、『絢爛の神舞も異世界からやって来るそうですよ?』をよろしくお願いします。
(※注、死亡に近い表現あり)
※差し替えました。
ここは暗い夜に覆われた世界。
空は分厚い雲に支配され、寒々しく、食べ物もまともにないような世界。
ニティアはこんな世界に産まれた笑うことが好きな女の子だった。
「ほら、皆も笑って」
人々は彼女の前を通ると、その笑顔につられて一緒に笑顔になった。
けれど、それは彼女の近くにいるときだけだった。近くを離れるとすぐに笑顔が消える。
だから彼女は舞うことを覚えた。
ニティアの舞を見ると、人々はちょっとだけ長く笑顔になってくれた。
「さあさあ!皆も踊って、舞って、はしゃいで、騒いで!」
「この世界にはこんなに楽しいことが残っているんだよ!」
けれど、彼女は舞えば舞うほど、人々を笑わせれば笑わせるほど、そんなことはないと気づいていった。
世界に楽しいことなんて残っていないと。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さあ、さあ!お楽しみは始まったばかりだよ!」
それでも彼女は笑顔で舞い続けた。
理由なんて無い。ただ彼女自身がそう思ったからだ。
彼女は笑らって、舞い続けた。
すると人々は彼女のことを疎み始めた。
この世界の何が楽しいのか。
常に飢えて、凍えて、奪い合う。そんな世界の何が楽しいのか。
ニティアほど人々の心は強くなかったのだ。
人々はニティアのことを無視するようになった。
「みんなー!ニティアの舞が始まるよ!踊って騒げば嫌な気分も吹き飛ぶよ!」
ニティアはそれでも舞い続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうか神さま、この世界に光をください」
彼女は舞いながら願うようになった。
「どうか神さま、ここに住む人々の心を温めてください」
彼女の祈りが天に届いたのか、神が彼女の心の中に直接降りてきた。
「神さま、貴方は私の願いを叶えてくれますか?」
けれど、無情にもその神は答えた。
『私には不可能だ』と。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「神さま、私の願いを叶えてくれる神さま。どうか私の声を聞き届けて下さい」
彼女は舞い続け、その身に神を降ろし続けた。
彼女が何度目かの神を降ろしたとき、ある神から一柱の神の話を聞いた。
「ラヒルメ……?その神様ならこの世界に光をもたらしてくれるのですか?」
その神は答えた。
『ラヒルメなら容易いだろう』
そして、神は続けて問うた。
『本当にこの世界に光を与えるのかい?この世界の人々はお前を憎んでさえいるぞ?それに―ラヒルメを降ろそうとして失敗したら君の心と身体が焼かれてしまうよ。
それでもラヒルメを呼ぶのかい?』
「でも、この世界に光が生まれるんでしょう?人々の心が温かくなるんでしょう?それなら何も迷うことはないです」
『わかった』
はっきりとした彼女の言葉に、神は満足したように去っていった。
彼女は、黒く閉ざされた空を見つめ、再び舞い始めた。
「さあさあ!ニティアの楽しい踊りが始まるよ!みんな、一緒に踊ろうよ!」
救おうとしてる人々に見向きもされなくても、
「踊って、騒いで、愉快に過ごそうよ!仲間に入りたいものは寄っといで!」
彼女はただ一人で躍り続けた。
「神様だって寄っといで!こんなに楽しいことはまたとないんだよ!」
ただ一心に、世界に光が与えられ、
「さあさあ!神様だって!寄っといで!」
人々の心が救われることだけを願って。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…くっ!はあはあ…神さま…おねがいです……世界に光を」
ニティアがラヒルメを呼び始めてどれ程たったろうか。
気絶するまで躍り続け、起きたらまた躍り始める。
そんな毎日を過ごしていた。
そして、ニティアは何度かラヒルメを降ろすのに失敗していた。
その都度、心を焼かれ、身体が焼かれた。けれど、ニティアは、その心の痛みも身体の火傷も我慢して躍り続けた。
人々は何日も狂ったように舞を続ける彼女を、痛々しい姿で躍り続ける彼女を、遠巻きに見ていた。
最初は訝しげに見ていた彼らだが、段々とニティアを心配するようになっていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『妾をしつこく呼ぶものは誰だ?』
失敗を重ね、その身体が黒く炭化し左目が焼きつぶれた頃、―ラヒルメは降りてきた。今まで降ろしてきた他の神とは違い、実体を持って。
「…か、かみ…さま。おね……が…い……します。どう…か、……ひかりを……、ひかりを……くだ…さい」
ラヒルメが降りてくると同時に地面に倒れこんでしまう。けれど息絶え絶えになりながらも、身体を起こし、必死にラヒルメにすがる。
『ほお?そなたが妾を呼んだのか?こんな世界を救うために?感心じゃのう』
ニティアの願いに感心半分、呆れ半分といったラヒルメ。
『しかし残念じゃな。妾は滅びの光を与える者。ぬしの願いを叶えるのは容易いが、妾の在り方としては叶える訳にはいかないのお』
「そ、そんな……!おねがいします。わたしにできることなら……なんだって……しますから」
『その身体で何が出来る?はっきり言ってぬしは長くないぞ?そんな相手の願いを叶えて何になる?』
「おねがいします、おねがいします」
『いい加減にするんじゃな。妾を降ろしておると残された時間がさらに少なくなるぞ?』
「もう、わたしにできることはあなたにすがるしかないんです……おねがいします」
『ふん、それでもダメじゃな。妾は起きたばかりで……?』
すげなく断っていたラヒルメは突然言葉につまり、何かを考え始めた。
暫く経った後、ラヒルメは答えた。
『気が変わった。どうやら妾はぬしには借りがあるらしい。今回は特別にぬしの願いを叶えてやろう』
「え?それじゃあ……」
『ふん、甚だ不本意じゃが、ぬしの願いどおり空の雲を払い世界に光を与えてやろう』
「……!ありがとうございます!ありがとうございます!」
『……ふん、悪いがぬしの身体を治すことは妾には出来んぞ』
「ふ、ふふ……わたしは…ねがいがかなえば……じゅうぶんです。ありがとうございます」
『…はあ、ぬしは本当に強いのお。では、始めるぞ』
ラヒルメが手を空にかざすと、空を覆う厚い雲に穴が開く。そこから穴は急速に大きくなり、青空が広がっていった。
『ふむ、こんなものかの』
空から雲が無くなり、太陽の光が十分に世界に行き渡った頃、ラヒルメはそう言った。
「はい、ありがとうございます」
『ぬしの願いはちゃんと叶えたぞ。それではな』
「はい……本当にありがとうございました」
ラヒルメが去ると同時に、ニティアは身体を起こすことも出来なくなる。
遠巻きにニティアを見ていた人々はニティアに駆け寄ってきた。
ニティアがやろうとしてたことと、成したことを理解した彼らは彼女に感謝の気持ちを覚えるとともに、今までの仕打ちを後悔した。
「……あれ?……みんな…どうした…の?なん…で、ないてる…の?」
泣きながら自分を囲み、謝る彼らに、ニティアは不思議そうに言う。
「もう…かなしいことは……ないんだよ?だから……わらって、わってよ」
少しずつ息が弱々しくなっていきながらも、途切れ途切れにいつも通り、ニティアは笑ってくれとせがむ。
泣きながらも、人々は口の端をあげて、無理矢理でも笑顔を見せる。
「ふふ…みんな……ありがとうね」
ボロボロになった姿でもニティアはいつも通りの笑顔を見せた。
「ああ…ひかり……って……あたたかい……ね」
そう言って彼女は目を閉じた。
そして、彼女の身体は細かい光となって空にほどけていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あれ?ここはどこだろう?」
ニティアが次に目を覚ましたとき、彼女は何もない空間にいた。
「火傷も治ってるし、左目も見える。どうしてだろう?周りにも誰もいないし」
よくわからない空間に突然いた彼女は、戸惑いながらも自分の状態をちゃんと認識していた。
「うーん、本当にどう言うことなんだろう?もしかして、ここが死後の世界なのかな?だとしたら思ったより恐くないところだなぁ。……ん?」
自分の居るところを死後の世界だと考えていると、何かを見つける。
自身の上の方から降ってくる、白く、薄いもの。
「あれは……手紙?しかも私宛だ」
彼女はその手紙を手に取ると、その手紙の宛名が自分宛だと気付いた。
“絢爛の神舞 ニティア様”
「絢爛の神舞?なんか仰々しいこと書かれてるけど、うんたぶん私宛だよね!開けちゃおう!」
『悩み多し異才をもつ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの“箱庭”にこられたし』
「箱庭?って何処だろう」
手紙を読み切り、疑問を口に出すと同時に、ニティアは光に呑まれた。
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第一話 ~問題児と苦労ウサギ~
「うわ!」
ニティアの視界は突然開けた。
異世界の上空4000mに放り出されたからだ。
「え?!何処ここ!?」
ニティアは戸惑いながらも、状況を把握すべく周りを見渡した。
そして、彼女は生まれて初めて、光に照らされた世界というものを見た。
雄大な森に、天幕に覆われた巨大な都市、そして世界の果ての大瀑布。
彼女はその美しさに息をのみ、魅力された。
「きれい……」
元の世界において、景色と言えるものは、深い暗闇と心許ない火が届く範囲のものしかなかった。
彼女はその光景に心奪われているうちに、四千メートルの落下は終わりを迎え、
ボチャーン
湖に落ちた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
途中にあった水膜で勢いが衰えていたため、落ちてきた四人は無傷で着水することが出来た。
が、一人着物を着て、泳いだこともなかったニティアは―
「ブクブクブクブク……」
―当然の様に溺れていた。
「だ、大丈夫?」
そんなニティアを見かねてか、猫を抱えた少女がニティアの腕を引っ張り上げて呼吸が出来るようにしてくれていた。
「う、うん。ありがとう。…ごめんね?」
「ううん、コレくらいならまだ平気。捕まって。岸までつれていくから」
ニティアは、猫を抱えた少女に捕まり、陸地まで連れてってもらった。
服を絞りながら、ニティアは礼を言う。
「本当にありがとう。先は助かったよ」
「…あれぐらいなら平気だから気にしないで」
「いやいや、気にするよ。いつか必ず恩はかえすから、期待して待ってて!」
「うん、じゃあ楽しみに待ってる」
受け答えの後、猫を抱えた少女は、ポツリと疑問をもらした。
「此処……どこだろう?」
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」
その疑問に、ヘッドホンをつけた金髪の少年が答える。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しておくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。―私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」
「……春日部耀。以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。じゃあ、そこの絢爛な着物を着た貴女は?」
「私は、ニティア!好きなことは皆と笑うこと!よろしくね!」
「ええ、素敵な趣味ね。よろしくねニティアさん。最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と容量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取り扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」
この時点での四人は正に四者四様だった。
心からケラケラと笑う逆廻十六夜。
傲慢そうに顔を背ける九遠飛鳥。
我関せず無関心を装う春日部耀。
そして、そんな彼らを見て微笑むニティア。
そして、物陰から彼らを覗いている五人目―黒ウサギは思う、
(うわぁ……問題児の割合、高くないですか……)
と。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「……。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
「そこまで慌てるような状況でもないよ。だって、もう人来てるっぽいし」
ニティアは何でもないように、黒ウサギが隠れている物陰を指差す。
暗闇の世界に生きてきた彼女にとって、人の気配読むことなどさほど難しいことでもなかった。
「そうだな、そいつから話を聞くことにするか」
「なんだ、貴方達も気づいてたの?」
「まあ、私の世界はこんなに明るくなかったからねえ」
「当然だ。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?それに、そっちの猫を抱いてる奴も気づいてたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「……へえ?面白いなお前」
軽口を叩いてている彼らだが、ニティア以外の三人は理不尽な召集を受けて怒り、殺気の篭った冷ややかな視線を物陰に向けた。
ニティアは、落下最中にきれいな景色を見たため、さほど怒りはないようだ。
「や、やだなあ。そんな狼みたいな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「脚下」
「お断りします」
「無理そうだね」
「あっは、取りつくシマもないですね♪」
「穏便に済ませたかったのなら、もっと早く出てきた方が良かったと思うよ?」
ニティアの問い掛けに対し、黒ウサギは咄嗟に答えることができず、言葉を必死に探した。そのせいで、
「そ、それは此方にも事情があったと言いますか~、えっと、
「えい」フギャ!」
春日部耀が黒ウサギの耳を鷲掴み、引き抜こうとしてることに気が付かなかった。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとは、どういう了見ですか!?
」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
「……。じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待――!」
十六夜が右を、飛鳥が左を、力一杯引っ張られた黒ウサギは言葉にならない悲鳴を上げた。
そして、ニティアに助けを求めるも、
「流石に、どうにもできないかなぁ」
苦笑いとともに、そう言われ断られてしまった。
黒ウサギの、絶叫は暫く、森林に響き渡り続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「いいからさっさと進めろ」
辛辣な言葉ではあるが、先程までと違い話を聞こうという姿勢になっているため、黒ウサギは気を取り直して、話を始める。
それは“箱庭”という世界の説明だった。
“ギフトゲーム”や“コミュニティ”、“主催者”のことなどを話し、出てくる質問にもテンポよく答えていった。
暫くして、黒ウサギはある程度の説明を終えたのか、一枚の封書を取り出した。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……よろしいです?」
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
今まで静聴してきた十六夜からの言葉に黒ウサギは身構えた。
「……どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなことはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは……たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
「この世界は……面白いか?」
九遠飛鳥と春日部耀もこの質問に食い付く。
世界の全てを捨ててまで来る価値が果たしてこの世界にあるのか?という質問は三人にとって一番重要なことだった。
「――yes!『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証します♪」
ニティアのキャクラターが上手く掴めていない為、暫く影は薄めかもしれませんが、ご容赦をm(__)m
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第二話 ~絢爛少女とギフトゲーム~
今回オリジナルのギフトゲームを作りましたが、あまりその要素は出てきていません。申し訳ないです。
場所は箱庭2105380外門 ぺリベッド通り・噴水広場前。
そこに一人、ダボダボのローブに跳ねた髪の小さい男の子がいた。
「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」
黒ウサギと女性二人が男の子の方へ近づいてくる。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」
「はいな、こちらの御四人様が――」
クルリ、と振り返る黒ウサギ。
カチン、と固まる黒ウサギ。
「……え、あれ?もう二人ほどいませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方と絢爛な着物を着て、周りを笑顔にするような、不思議なオーラを纏った女の子が」
「ああ、十六夜君とニティアさんのこと?十六夜君は“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
「ニティアなら、十六夜が駆け出した暫く後に“やっぱり私も見てくる!”って言って走ってちゃった。あっちの方に」
二人が指差すのは、上空から見えた断崖絶壁の方向。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「“止めてくれるなよ”と言われたもの」
「ニティアのキラキラした目を見たら止められなかった」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」
「ニティアさんにも“私のことも内緒にしといてね!”と釘を刺されてしまったしね」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」
「「うん」」
ガクリ、と前のめりに倒れる黒ウサギ。好奇心のままに行動するする者が半分、面倒だと言って報告をしてくれない者も半分。
呼び出したはいいけれど、問題行動しか起こさない四人に黒ウサギはこの先のことに不安しか覚えなかった。
「くぅ、ニティアさんはマトモそうだと思いましたのにぃ!」
「た、大変です!“世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?…でも、ニティアがゲームオーバーしちゃうのはかなり残念」
「冗談を言っている場合でも、しんみりしている場合でもありません!」
ジンは事の重要性を訴えるが、二人には柳に風。
黒ウサギは仕方なさそうにため息をつき立ち上がった。
「はあ……ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児たちを捕まえに参ります。事のついでに――“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
悲しみから立ち直った黒ウサギは、赤いオーラを発しその身を染めていく。そして近くのものを足場にして駆け上がり、外門の柱に飛び付くと、
「一刻ほどで戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」
と叫んだあと、目にも留まらない速度で三人の視界から消えていった。
一時的に静かになった通りに、
「……。箱庭の兎は随分速く飛べるのね」
という感心した声が響く。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「こ、これはどういうことですか……?」
黒ウサギがニティアたちを追い掛け始めて40分ほど経ち、ちょっと焦り始めた黒ウサギの目には信じたくない光景が写っていた。
「さあさあ!よっといで!ニティアの舞はここからが本番だ!ここからもっと楽しくなるよ!」
『ワハハ、随分愉快な人の子じゃ!こんな気持ちで酒が飲めるのは、随分と久し振りじゃよ』
開けた森の広場の真ん中で、座り込んでお酒を飲む一際大きな鬼の前で、ニティアが舞を舞い、その姿を周りで様々な幻獣が見物していた。
『ううん?おお、月の兎さんではありませんか。貴女もこのギフトゲームを見に?』
目の前の光景を飲み込めずに固まっている黒ウサギに話しかけるのは、ユニコーンと呼ばれる幻獣だった。
「ぎ、ギフトゲーム?」
『ええ、何でもあそこにいる人間から鬼に持ち掛けたらしいですよ。最初は単に無謀な挑戦かと思われてたのですが、これが存外そうでもなさそうなんですよ。ギアスロールはあそこに』
ユニコーンが示す方向には、一枚の羊皮紙がある。
『ギフトゲーム名“鬼の宴会”
・プレイヤー一覧 ニティア
・クリア条件 鬼に楽しい気持ちでお酒を飲んでもらう
・クリア方法 鬼を楽しませる
・敗北条件 鬼が楽しめなかったとき
宣誓 上記を尊重し、誇りの下、ギフトゲームを開催します。
“”印』
『むむ、酒がきれてしもうた!残念じゃがここで宴会はしまいじゃの』
黒ウサギがギアスロールを読むのと同時に大鬼が宴会の終了を宣言した。
鬼の宣言を聞くと、ニティアは舞を止め、鬼に訪ねる。
「えっと、じゃあギフトゲームていうのはどうなるの?」
『もちろん主の勝ちじゃよ!まこと見事な舞を見せてもらった!ワシは心底満足したぞ!ああ!勝者には報酬をやらんとな。よし、これをやろう』
鬼は上機嫌でニティアの勝利を告げると、腰に差してあった小槌を取り出し、ニティアに渡した。
「わあ、綺麗な小槌!こんなの貰っちゃっていいの?」
『何、ワシは鬼じゃからのお。その小槌はまだ持っておるから気にせず持っていくといい』
「じゃあ、ありがたく貰っていくね!」
『ワハハ、本に元気な娘っ子じゃのう。また会うたらその舞を見せとくれの。じゃあ、もうワシはいくでな、気を付けて帰るんじゃぞ?』
「うん!ありがとう!鬼のおじさんも気を付けてね!」
『鬼のワシに挑んでくるものなどそうおらんよ!じゃあの!』
鬼はニティアに別れを告げ、笑いながら帰っていく。
その後ろ姿が見えなくなる頃には、辺りにいた幻獣たちもその場を去り、ニティアと黒ウサギだけがその場に残っていった。
黒ウサギは若干の放心状態から我に帰り、ニティアに詰め寄る。
「ちょっ、ちょっとニティアさん!どういうことですか!ギフトゲームって!何で鬼とギフトゲームをしていたんですか!」
「あれ?黒ウサギ?いつからここに?」
「えっと、ちょうどゲームが終わる直前ですかね…って違います!ちゃんと経緯を説明してください!」
「ああうん、いいよ。えっと、あの鬼のおじさんとギフトゲームをすることになった理由はね。
あのおじさんが一人で難しい顔してお酒を飲んでいたから、笑顔になってほしいなって思って、話しかけたら、私が笑わせてあげることになったの」
「じ、自分から話しかけたのですか!?」
「え?うん、そうだよ」
「……………………恐くなかったんですか?」
「うーん、恐いとかはあんまりなかったかな。そんなことよりも笑顔になってほしいなって、思ってたから」
「はあ、わかりました。次からは気を付けてください」
ニティアの言葉に毒気が抜かれたのか、黒ウサギは彼女を許すことにしたらしい。
「はーい。あれ?結局、黒ウサギは何しに来たの?」
「それはもちろん貴女たちを連れ戻しに来たんです!」
「ああ、じゃあ十六夜くんも見つけなきゃね、何か手掛かりはあるの?」
「まだ、“世界の果て”の方に行ったとしか情報はありませんね。なので、道すがら、森の魑魅魍魎や幻獣に聞いてみようと思います」
「?幻獣さんならさっきいっぱい居たのに聞かなかったの?」
「さっきは、ニティアさんが鬼に挑んだと聞いて頭から抜けちゃったんです!」
「ふふ、もしかしたら十六夜くんも何かに挑んでるかもね」
「や、止めてくださいよ。洒落になりません」
黒ウサギは悪い予感を感じて鳥肌を立てた。
小槌の正体は次の話で明かします。
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第三話 ~崖っぷちのコミュニティ~
読みにくいかも知れませんが、今話も何とぞよろしくお願いいたしますm(__)m
黒ウサギがニティアを回収してからさらに十分後。
先程のユニコーンに再会し、十六夜の情報も手に入れることに成功した黒ウサギは、再び髪を赤く染め、これ以上なく急いでいた。
聞くところによると、十六夜は水神の眷族にゲームを挑んだらしいのだ。
「あーもう!本当に問題児様ばかりなんですから!」
急ぎつつも、黒ウサギは呼んでから数時間で色々やらかす問題児たちに怒り心頭だ。
「いやー、申し訳ない」
黒ウサギの胸元から、黒ウサギの不満に対する応答の声がする。
別にこれは、新手の腹話術でも、黒ウサギのイマジナリーフレンドでもない。
先程、鬼から貰った小槌―『打出の小槌』で小さくなったニティアである。
「そう思うなら自粛して頂きたいのです!」
「あはは、流石に好奇心には勝てないよ」
「やっぱりニティアさんも問題児じゃないですか!っと確かこの辺りのはず」
「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」
恐らく十六夜が居ると思われる所に着くと、後ろから忌々しい問題児の声が聞こえる。どうやら無事らしい。
「もう、一体何処まで来ているんですか!!」
「“世界の果て”まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」
十六夜は小憎たらしい笑顔でそう言う。
「あれ?十六夜くん、さっきよりずぶ濡れになってるね」
「ん?んん?もしかして、黒ウサギの素敵な胸に挟まってるのはもしかしてニティアか?」
「そうだよ!私は黒ウサギほど速く走れないから、こうして小さくなってここに挟まってるんだ!」
「ほう、で?居心地はどうだ?」
「とても柔らかくて温かいね!ここで寝たら気持ちいいだろうなぁ」
「それは俺も是非一度やってみたいな」
十六夜はそう言いながら、黒ウサギの胸を凝視する。黒ウサギはその視線から逃れるように、身体をよじりながら腕で胸を隠す。
「さ、させませんからね!そんなこと!…って違います!そんな話じゃありません!」
「そうか?しかし良い脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺に追いつけるとは思わなかった」
「むっ、当然です。黒ウサギは“箱庭の貴族”と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」
黒ウサギが言葉につまり、首を傾げる。
(黒ウサギが……ニティアさんを捕まえていたとはいえ、半刻以上もの時間、追い付けなかった…………?)
黒ウサギの身体能力は生半可な修羅神仏では手が出せないほどに高い。
そんな彼女から逃げおおせてる事から、十六夜も相応に凄まじい身体能力を持ってることになる。
「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんが無事でよかったデス!水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」
「水神?――ああ、アレのことか?」
え?と黒ウサギは硬直する。十六夜が指した川面には白くて長いものがうっすらと浮かんでいたからだ。
黒ウサギがそれを理解する前にその巨体が鎌首を起こし、叫ぶ。
『まだ……まだ試練は終わっていないぞ、小僧ォ!!』
「わお!随分と大きい蛇だね!」
ニティアが大きい蛇と称したそれは――まさしくこの辺り一帯を仕切る水神の眷族だ。
「蛇神……!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」
「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。俺を試せるかどうかを試させてもらったのさ!結果はまあ、残念な奴だったが」
『貴様……付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』
蛇神が叫ぶと同時に、風が巻き上がり水柱が上がる。どう考えても人が受けて無事でいられる威力じゃない。
「十六夜さん、下がって!」
黒ウサギは庇おうとするが、十六夜はそれを拒む。
「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」
十六夜の放つ殺気は本物だった。黒ウサギもゲーム自体が始まってしまっているため手を出せないと気付いて、歯噛みした。
『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば勝利を認めてやる!』
「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」
『フン――その戯言が貴様の最期だ!』
蛇神が叫びをあげるのと同時に嵐のように川の水が巻き上がる。竜巻のように渦巻く巨大な水柱は計三本。
それぞれが生き物のように十六夜に襲いかかる。
「十六夜さん!」
黒ウサギが叫ぶも、十六夜は不敵に笑っている。
「――ハッ――しゃらくせえ!!」
突如、水柱が弾け散る。
十六夜の一撃で嵐のような激流を凪ぎ払ったのだ。
「嘘!?」
「おお!流石だね」
『馬鹿な!?』
十六夜の所業に驚愕の声と感心する声がする。蛇神は全力の一撃が通じなかった事に放心する。その隙を十六夜は見逃さなかった。
「ま、中々だったぜオマエ」
大地を踏み砕くような蹴りを胴体に打ち込まれ、蛇神は空高く吹き飛び、川に落下した。
「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代くらいは出るんだよな黒ウサギ」
「…………」
「あれ?どうしたの、黒ウサギ。……ダメだ反応が無い」
「シカバネのようだ、ってか?仕方ない胸とか脚とか揉んでおくか」
「え、きゃあ!な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」
「二百年守ってきた貞操?うわ、超傷つけたい」
「お馬鹿?!いいえ、お馬鹿!!!」
「ダメだよ、十六夜くん。そういうことするならちゃんと責任とらなきゃ」
「そうです、そうです。貞操を傷つけるならちゃんと責任をとらなければ…って、それは大事ですが、黒ウサギが言ってるのはそこじゃないのです!」
「そうだな。ちゃんと責任とらなきゃダメだよな。じゃあ、責任とるからいいか?」
「ダ メ で す!!」
「そうか。ま、今はいいや。後々の楽しみにとっとこう」
「さ、左様デスか」
もしかしたら彼は私の天敵かも知れない、と黒ウサギは遠い目をした。
「ねぇ、黒ウサギ。戻してもらっていい?」
「え?ああ、はいはい。よいしょっと、じゃあいきますよ?大きくなあれ!」
「ふう、もどった!」
黒ウサギはニティアを胸元から出し、打出の小槌を振るう。
するとニティアはたちまち元のサイズまで大きくなった。
「ん?もしかしてソレ、打出の小槌か?」
「はい。先程ニティアさんが鬼とのギフトゲームにて得ました。いやぁ、コミュニティとしてはとても大助かりです」
「…ふーん」
「と、ところで十六夜さん。その蛇神様どうされます?というか生きてます?」
「どうもしねえよ。戦うのは楽しかったけど、殺すのは別段面白くもないしな。“世界の果て”にある滝を拝んだら箱庭に戻るさ」
「ならギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句は無いでしょうから」
「あん?」
黒ウサギの提案に十六夜は怪訝な顔で見つめ返す。
「神仏とギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが“力”と“知恵”と“勇気”ですね。力比べのゲームをする際は相応の相手が用意されるものなんですけど……十六夜さんはご本人を倒されましたから。きっと凄いものを戴けますよー。これで黒ウサギ達のコミュニティも更に力を付ける事が出来ます♪」
そう言うと黒ウサギは蛇神に近づこうとする。けれど十六夜が不機嫌な顔で黒ウサギの前に立つ。
「――――――」
「な、なんですか十六夜さん。怖い顔をされていますが、何か気に障りましたか?」
「……別にィ。オマエの言うことは正しいぜ。勝者が敗者から得るのはギフトゲームてしては間違いなく真っ当なんだろうよ。だからこそ不服はねえ――けどな、黒ウサギ」
十六夜はふっと真顔になり、確信を持って黒ウサギに尋ねる。
「オマエ、なにか決定的な事をずっと隠しているよな?」
「……なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」
「いやいや、まだ話して無いことがあるじゃない」
今まで沈黙を守っていたニティアが黒ウサギに言った。
「例えば――私達を所属させようとしているコミュニティのこととか」
「箱庭に着いてから教えようとしていたのです。基礎の説明を全て終えてから言おうと」
「そうか。じゃあ今度は俺からの質問だ。黒ウサギ達はどうして俺達を呼び出す必要があったんだ?」
十六夜の問いはニティアの問いよりも核心を突いたものだ。表情には出さないが、黒ウサギそうとう焦っている。
「それは……言ったとおりです。十六夜さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」
「うーん、確かに最初は純粋に好意か遊び心で呼び出したのかなって思ってたよ。他の人たちも特に不満は無さそうだったし、全員、箱庭に来る理由何かしら理由があったんだとも思う。
だからあんまり気にしてなかったんだけどね、黒ウサギ。貴女からは必死になってる人と同じ雰囲気を感じるの」
「そうだな、黒ウサギの言動には所々、必死さが見え隠れしている。
これは俺の勘だがな。黒ウサギの属しているコミュニティは事情の知らなず、しかも戦力になるような奴らを異世界から呼び、それに頼るしか存続の道がない程の零細コミュニティなんじゃないか?」
「なるほど。確かにそれなら今までの黒ウサギの言動にも納得がいくね。そして、あわよくばコミュニティに入れてから状況を説明しようとしたってところかな?」
「っ……!」
畳み掛けるように交互に放たれた言葉は黒ウサギの目論見を殆んど言い当てていた。この段階でそれらを見破られるのは余りにも手痛い。
「んで、この事実を隠していたってことはだ。俺達は他のコミュニティに入ることも出来るんじゃないか?ちゃんと包み隠さず話さないなら、他のコミュニティに行ってしまおうかな」
「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」
「ああ、いいぜ?だからちゃっちゃっと話せ」
「ゆっくりでも私は大丈夫だよ」
十六夜もニティアも近くの手頃な岩に座り聞く体制をとる。
そして、黒ウサギは覚悟を決め話を始めた。
「まず、今から話すことを黙っていたことを謝罪させていただきます。すみませんでした。
では、話を始めます。まず、私達のコミュニティには名乗るべき名も、誇るべき旗も存在しません」
「ふぅん?それで?」
「それどころか、コミュニティに所属している122人中、ゲームに参加できるようなギフトを持っているのは黒ウサギとリーダーのジン坊っちゃんだけで、後は10才以下の子供ばかりなのですヨ!」
「うん、正に崖っぷちって感じだね!」
「ホントですよねー♪」
ウフフと答えた黒ウサギは膝を付かずにはいられなかった。話すなか、自分達のコミュニティの崖っぷちさ加減を再認識してしまったからだ。
「それで?どうしてそんなことになってんだ?見たところ黒ウサギの戦闘能力はそこの蛇神より強い。そんな奴が居るコミュニティがどうして落ちぶれたんだ?」
「奪われたからです。名も、旗も、仲間達でさえも、全て奪われてしまったのです。箱庭を襲う天災――魔王によって」
「へえ?そんなものまで箱庭にはいるのか」
「Yes。魔王は“主催者権限”という特別な権限をもち、それを悪用する修羅神仏のことを指します。彼らにゲームを挑まれた場合、断ることが出来ないのです。私達のコミュニティもゲームを挑まれました。
そして負けて全てを奪われてしまいました」
黒ウサギ達に残されたものは、何も実らない不毛の地となってしまった土地とギフトゲームにも出れないほど小さな子供達だけ。
「自分を表せるものが何もないって言うのは辛いね。でも、コミュニティを新しく立ち上げることできなかったの?」
「それは可能でした。けれど、それはコミュニティの完全解散を意味します。……それではダメなのです!私達は仲間達が帰ってこれる場所を残しておきたいのです!」
黒ウサギは、例え不義理な真似をしてでも人材を確保しようとした理由を叫んだ。
「いつの日か、名も旗も仲間も全部取り戻したいのです!でも、今の私達には無理なんです!あなた方のような強力なギフトを持ったプレイヤーに頼るしかないのです!
お願いします!不義理な真似をしたことも謝ります!だから、だからどうか!私達のコミュニティのために力を貸してください!」
「いいよ」「いいぜ」
「……え?」
「どうした、黒ウサギ?そんな呆けた顔して。それとも他のコミュニティに行った方が良かったか?」
「い、いえ、そういうわけではないのです!で、でもどおして……」
「私もそうやって頼み込んだ覚えがあるからね。黒ウサギの気持ち、少しはわかるよ。だから力になれるならなってあげたいなって思ったんだ。十六夜は?」
「こんなオモシロオカシイ世界に呼び出してくれた礼だよ。それに、魔王に挑むっていうのは面白そうだからな。あと、箱庭に戻ったら残りの二人にも後腐れないようちゃんと説明しろよ」
「――はい!ありがとうございます!」
二人からの承諾を受け、黒ウサギは目に涙を溜めながらも笑顔でお礼を言う。
「ふふ、黒ウサギはやっぱり笑顔が似合うね」
「ああ、同意するぜ。ん?そろそろ日が暮れてきそうだな。ほら、もう話が終わったんなら蛇神からギフトを貰ってこい。いい加減時間がない」
「は、はい!」
黒ウサギは跳ねる気持ちを押さえきれないまま、蛇神のもとに向かっていくなか、残してきた二人とジンの方のことに意識を回した。
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「うわぁ!これは凄いね!」
「確かにこれは凄まじいな!」
蛇神から水樹のギフトを受け取った後、ニティア達はトリトニスの大滝に来ていた。
その巨大な滝は夕焼けの光を浴びて朱色に染まり、跳ねる水飛沫が幾重にも重なる虹を作り出していた。
「横幅は約2800mもあるトリトニスの大滝です。こんな滝、他の場所には無いのでは無いのではないですか?」
「ああ、確かに無いな!ナイアガラの滝の約2倍とはおそれいった!」
「私は滝自体、初めて見るからとても感動しているよ!」
「ふふ、そうでしょう、そうでしょう」
一行はトリトニスの大滝を暫く眺め、ゆったりとした時間を過ごした。
《打出の小槌》について
皆さまご存知、使用者の願いを叶える小槌。
日本神話では大黒天が所持していますが、童話《一寸法師》では鬼が所持していました。
また、室町~江戸地代の絵巻にもごく僅かではありますが、この小槌を持った鬼が描かれているそうです。
そのため、この小説では《打出の小槌》が複数存在する前提で書いています。
※プロローグを差し替えました。出来ればそちらもご覧ください。
それでは、感想待っていますm(__)m
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