菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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嵐の前

 「見つけたわ! ……ってどうしたの? そんな警戒して。え? あ、貴方……!」

 

 「エミリア、様? 何故ここに……」

 

 入ってきたのは白銀の美少女、エミリアだった。後ろから差し込む夕日が反射して、その銀髪が本物の金属のような輝きを見せる。まさに後光!

 そんな美しいエミリアは、やけに殺気立った一堂に疑問を持ち、そしてラインハルトの方を見て固まる。当然、視線はラインハルトに釘付け。

 うん、ラインハルトに嫉妬している俺がいるが、此処は抑えよう。どうやら知り合いらしいし。美貌に目を止めたわけではない筈だ。違うはずだ。絶対違うはずだ。

 ……目に力を込めて、ラインハルトの「線」を見る。うん、この距離なら、いつでもなぞれる。

 いや、まだなぞりはしないよ? だから一度ブルリと震えてエミリアの方へ近づいた席を戻せ。いくら感謝の心があるからと言っても、これは許さんぞ? 何なら背中にぴったり張り付いてく……はっ! 合法的にエミリアに近づける! やったー!

 

 ふぅ、さて、真剣にいこう。

 エルザはまだ来てない、ということは、一週目の時は俺が居ない方が良かった……?

 いや、セーフだ。既に死んでなかったことになってるし、セーフだ。

 軽く震え始めるが、深呼吸して息を整える。

 

 「ねぇ、どうして貴方がここにいるの?」

 

 「いえ、少し通報がありまして。エミリア様こそ、何故このような所に? まさか、徽章を……?」

 

 「えっ!? そっ、そのっ! それは……」

 

 嘘つくの下手なんだなぁ。ラインハルトも呆れてる。

 

 「……はぁ、まあいいでしょう。今回は見逃しましょう」

 

 「あ、ありがとう!」

 

 うんうん、良かったねぇ。

 ラインハルトがここにいる理由は俺で、徽章とやらが盗まれたのがばれたのは俺のせいってことになるけど……

 やべぇ、今から死に戻り(やり直)した方が良いかなぁ?

 自殺用の道具は……フェルトのナイフとかか?

 いや、流石にここまで来てそれはもったいない。

 今回は捨て回としても、もう少し情報を集めるべきだ。

 例えば、いつ、エルザがここに着くか、とか。

 

 隙間から漏れ出る光は橙色。夕日。

 エルザは陽が沈みかけた頃にはいたから、つまりもうすぐの筈だ。

 人を殺すのにも多少手間取る。だしたら、もう来てもいい頃合い。

 まだか……?

 

 まだか!?

 

 緊張に包まれるスバルを見て、そして真剣な顔でそれに付き添うラインハルトの佇まいを見て。本当にただ事ではないと確信したエミリアは緊張で唾をのみ、速やかに自身の用事を済ませるためにフェルトの下へ向かった。

 危険があるのかもしれない。さっさと逃げるべきなのかもしれない。しかし、それでも取り返さねばならないものがある。

 直接交渉に持ち込み、場合によっては武力行使――――――今は刺激しないために隠しているパックの力を借りることも視野に入れている。

 ただ優しいだけが王の振る舞いでないことを知っている。ただ優しいだけの人間が上に立てるわけではないことを、十分に知っているからこその選択肢。

 そして、それを通してまでも王選に懸けるものがある。

 だから、引くわけにはいかないのだ。

 

 「お願い、私の徽章を返して。あれは本当に大事なものなの」

 

 「やだね。こっちも飯の種がかかってんだ。これをおめおめと返しちゃあ、頑張り損どころか信用迄失っちまう。そうなったらもう、おしまいだ。信用の無い奴が食ってけるほど、此処は優しいところじゃねぇんだよ」

 

 ぶつかり合う意思。

 この王都の、スバルの繰り返してきた今日の一日におけるもう一つの戦いが、開かれる。

 

 取り返したい者に、返せない者。

 どちらにも将来がかかっており、故にどちらも譲ることができない。

 そのまま泥沼に縺れ込み、そして実力行使になるのは目に見えている。

 そうなれば、主武器がナイフであるフェルトは劣勢になること確実。相手は精霊使いで、マナを使い切るのを待てば勝てるだろうが、それまでに殺されないという保証もない。そして、フェルトの技量ではそこまで持ち堪えれる自信が無かった。

 ましてやこんなに狭い盗品蔵で、高速の魔法から逃げ切れる程の小回りはできそうにない。壁伝いに跳ぶには広すぎ、しかし逃げ場としては狭い。こんな中途半端な室内で三次元行動できるのならば、それは正しく化け物としか言いようがない。

 だからこそ、フェルトの内心は大荒れに荒れていた。

 このまま返してもじわじわ飢え死に、返さなくては勝ち目の低すぎる殺し合いに身を投じることとなる。

 最善の道は諦めてもらうこと。しかし、それは叶わないと、肌で理解していた。

 故に次善の策は話し合い。暴力を望まないエミリアもそれに応じるからこそ、この無意味な話し合いは続いていた。

 

 無意味。そう、無意味なのである。

 どちらも相手に何かしらのメリットを提示できない以上、もはや交渉として成り立つ前の話。どちらもデメリットを回避することばかりに専念しているからこそ、このままで決着がつくわけがない。

 故にフェルトが待つのは雇い主の到着。雇い主さえ来れば、後はそいつを交えて対話してもらえればいい。最悪、その場で逃げ出す手もある。自分の仕事は盗み出すことで、決して交渉の卓に着くことではないのだから。

 それはエミリアの望むことであった。財布の中身に自信の無いエミリアは、相手が徽章に提示したであろう金額を超える額を出せる自信がなかった。

 所持金にして、計聖金貨四枚分。小遣いとしてはかなりの量だが、それでも徽章を買い戻すには足りない。

 だからこそ望むのは雇い主との交渉。仕事が理由で譲れないフェルトが相手なら無理かもしれないが、依頼した方なら説得できるかもしれない。何より、敵の陣営に所属していることから、殺す理由ができる。

 エミリアはそう、無意識のうちに思っていた。

 

 殺すのだとしたらフェルトより雇い主。

 

 一見非情のようだが、これは甘えに満ちた答えである。

 万全を期するなら、此処でフェルトの首を落とした方が確実だ。態々依頼人を待って、敵の数を多くする理由は無い。

 それができないのは、一重に彼女の幼さがあるのだろう。

 殺すことができない。殺さなくては行けなくても、いざ殺すとなれば多大なトラウマを負うであろう。

 故にこそ、せめて「殺さなければいけなかった」という逃げ道を作らなければいけないのだ。

 そうでなければ、精神が崩壊してしまうため。

 

 要求の異なる二者の交渉は、奇妙なことに同じ結論を持って均衡していた。

 それゆえ、交渉の声にも熱が無く、半ば世間話染みたモノへ変わっていた。

 

 曰く、随分足が早いのね。

 曰く、どうやって精霊使いになったか。

 曰く、徽章とは何ぞや。

 

 両者にとって答えられないことはぼやかしつつ、そうやって会談は進んでいく。

 それはああ、本当に、依頼人が来るまで続くのだろう。

 

 

 

 ――――――その交渉の場に、彼女たちしかいなければ。

 

 

 

 和やかに話し始めた少女たちを見て、スバルが席を移る。

 

 「なあ、ちょっといいか?」

 

 「あん? 何だよ兄ちゃん。ここはあんたの出る幕じゃねーぞ?」

 

 「いや、なに。交渉が詰まってるなーって思ってさ」

 

 「……ええ、そうだけど。貴方は一体、何がしたいの?」

 

 うん、貴方って言われるのは割と傷つくな。

 そんななどうでもいいことから、スバルは自己紹介を始める。

 

 「まあ、まずは俺の事を知ってもらおうじゃないか。俺の名前は菜月スバル。右も左もわからない上に天衣無縫の無一文! ……って言いたいところなんだけど、まあ、現金は持ってはいないな」

 

 「う、ん? 現金はって、それ以外ならあるの?」

 

 「ああ、俺が話しかけたのもコレの事だ」

 

 そう言って、エミリアの疑問に答えるようにスバルは携帯をテーブルの上に置く。

 

 「ああ、それさっきの」

 

 「そうだ。俺はこれと交換で徽章を買い取る」

 

 「ちょっと!?」

 

 慌てたようなエミリアを遮るように、言葉を続ける、

 

 「――――――そして、その徽章をあんたに渡す。これで一件落着じゃないか? ついでにこんな物騒な所からはさっさと帰った方が良い」

 

 「ぶ、物騒? 確かに貧民街は危険だけど、自衛能力が無いわけじゃのよ?」

 

 「それに、あっちが吊り上げる可能性を見れば、まだここで決めることはできねぇな。悪いが、そういうのは直接雇い主に――――――」

 

 「欲を掻くなよ?」

 

 冷たく、重い声を意識してスバルは言う。

 ため息を吐き出すように、ゆっくりと、しかし威圧的に。

 テーブルに手をついて、覆いかぶさるように体をフェルトに近づける。

 目を細め、フェルトの瞳孔を貫くように睨み付ける。

 生来の顔立ちと、知らず知らず溜まったストレスによる目の悪さが相極まって、それはもはや地上げ屋も斯くやという恐ろしさを醸し出す。死をも経験したスバルから漏れ出る貫禄は、数瞬前のへらへらしたものとは一変していた。

 急変した雰囲気にエミリアは戸惑い、しかし置いてけぼりになったことを自覚しながら、自分にできる事は無いとも気付いて傍観する。

 

 「欲を掻きすぎると――――――その腸、ぶちまけることになるぞ?」

 

 いやマジで。と、内心で続ける。

 つくづく緊張感が無いが、本人はもとよりシリアスが苦手な体質。こうして脳内でふざけてもいないと、ロクに鉄皮面を維持できないのだ。

 まあ、

 

 「背伸びするなよ。口の端、引き攣ってんぜ?」

 

 だからと言って、鉄皮面を維持できるとは言っていないが。

 余裕のある笑いで、フェルトにそう返される。

 

 「うぇぇ!? マジ!?」

 

 「ああ、マジもマジ。つくづく向いてねぇなぁ。兄ちゃん」

 

 フェルトの言葉に、頑張って作り上げた雰囲気が崩れる。

 慌てて顔に触れるも、さした違いは見られない。

 どういうことだと見返すと、

 

 「ひひっ、まあ、あんたにゃまだ駆け引きは無理だろ」

 

 と言われた。

 つまり嵌められたのだ。

 ブラフ。はったり。それは交渉事に置いての基本であり、時には弱肉強食すら覆し得る手札。

 故に、交渉事は相手の嘘を見抜くことが第一に考えられると言ってもいい。

 無論、利益の追求も必須だ。だが、それだけでは足元を掬われてしまう。

 本当に手堅い交渉人というのは、嘘を見抜ける能力のあるものなのだ。

 

 しかし、嘘がバレたとはいえ、スバルの脅しが利かなかったわけではない。

 現に今、フェルトはあと一押しで陥没しようとしていた。

 もうすぐ来るという指名手配犯。そいつが、依頼主より早く来ないという確証はない。

 ならばここでもらえるものを貰って、さっさとずらかるのも手だ。

 しかし、フェルトはその怯えを見抜かれる訳にはいかなかった。

 甘く見られて損をするのはフェルトだからだ。後ろ盾のない状況下で甘く見られれば終わり。骨身に染みた摂理だ。

 そう結論付け、フェルトは腰のナイフを抜く。

 そして、それをテーブルのど真ん中に突き刺す。

 

 ダンッ! と、音が響き、エミリアとスバルをびくりとさせる。

 

 「こっちだってむざむざ死ぬつもりはねぇよ」

 

 それは、この後来るであろう指名手配犯との戦闘を指すのか、それともスバルとのそれか。

 音を交えた威圧行為。行っていることはスバルと同じだが、フェルトには「刃物」という分かりやすい脅威と、長年の経験を込めたはったりがあった。

 仕返し染みたその威嚇行為に押されて、スバルは思わず一歩下がってしまう。そしてそれに気づいて歯噛みをした。

 そして認める。この少女を侮っていたことを。戦闘力ではトントンだろうが、そも、彼女の立つ舞台はそこではない。彼女は誇り高き戦士などではなく、生きるために尽力する盗賊なのだと。

 それでも引けない理由がある。その意思を示すように一歩踏み込み、エミリアの傍に立つ。

 

 同時に、エミリアは困惑した。当然だ。知らない赤の他人が、身銭を切ってまで手助けしてくれるのだ。だからこそ、その真意を知るために問いかける。理解して、信用したいという思いから、その問いかけが生まれた。

 同時に戸惑う。自身のその好意に。何故ここまで好ましいのかと、自らに問いかけてしまう。

 しかし答えは明らかだった。精霊を使役するものとして、必然的に高くなる鑑定眼。人の本性を察する見分。

 それが、スバルの行為を純然たる善意だと判断したためだ。まあ、その善意が何処から来たものかは、分かっていないが。

 

 「貴方、なんでそこまでするの?」

 

 「んー、まあ、あんたは覚えてねぇだろうが」

 

 ――――――俺は一度、あんたに救われたんだ。

 

 そういう前に、舞台に次の舞台の役者が揃う。

 後ろで木の扉が軋む音を奏でながら開く。

 

 「あら、まあ。勢ぞろいじゃないの。剣聖までいるなんて。ええ、意外ね」

 

 時間だ。

 

 「でもまずは、貰うものを貰わないとねぇ」

 

 交渉何て舌戦はここで仕舞い。

 

 「ああ、それなんだが、同じもんが欲しいって奴らがここにいてな。そっちで交渉してくれ」

 

 次なる演目は過激な舞踏。

 

 「あら、その必要はないわ」

 

 血の華が咲き乱れ、肉の雨が弾ける凄惨な舞台。

 

 「だって、全員此処で死ぬんだもの」

 

 

 

 

 その名も、「殺し合い」という。

 




【フェルトのナイフ】
 ごくごく普通の、鋳造されたナイフ。
 刀身が細く、耐久性に難がある。
 また柄が短すぎ、近接時に扱うためには指に挟む方法をとる必要がある。その都合上、最低でも指が二本なければ十全に扱えない。また、適切に扱うにも慣れが必要。
 投剣としても使え、所持者の丁寧な手入れにより、切れ味もそこそこ。
 消耗品前提なので何本か似たようなものを保持している。
 スバルの世界でいう、教会の代行者が使うそれと酷似しているのは偶然に違いない。

 フェルトはこれの他に、一本のみ立派な短剣がある。盗まれないために、常に腰に差している。自身が盗賊なので、一番安全な保存場所は自身の懐と理解しているのだ。それは自身の腕に対する自負である。

【精霊使いの鑑定眼】
 精霊使いは純真無垢な精霊を扱うため、必然的に「人の汚れ」、つまり悪意を見分けるのに長ける……というわけではなく。
 いや、それもあるのだが、全体数の少ない希少な人材なので、周りによって来る多くの存在が「明確な悪意」を持つ者か、「純真無垢な精霊」ぐらいしかおらず、それ故に受け慣れない善意へ対して敏感になるだけの事。
 多くは成人する前に捻くれて、精霊との繋がりが消えるか、或いは俗世との縁が断たれることとなる。

 え?エミリアは違うって?育ての親が良かったんだよ。

【死に戻り】
 ■■■■■の■■■■■■に付随した機能。
 スバルはこれを「舞台装置」だと認識している。

【直死の魔眼】
 万物の「綻び」をなぞり、「死」を押し付ける超能力。
 魔眼でいうと虹クラスの物。封印指定である。
 有機物、無機物問わず、全ての「死」を点と線で認識できる。
 「」に接続している能力ともいえる。
 目に宿るものではなく、脳の機能の一種。
 原作の保持者がチートと評されるのはこれを保有しているのみならず、使い熟せるからだろう。
 ※極秘事項:昴の持つ特異性は「直死の魔眼」()()()()

 どんな線で在ろうとも、点であろうとも、なぞれなければ意味を成さない。
 強い力を扱うにはそれに相応しい技量か、或いは力量が必要なのだ。
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