菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
放送が終わってから気づいて、急いで書き上げました。
まあ、一日もかかってしまいましたがね。
これは、有り得る可能性の一つ。
星視の台での、スバルの一日。
ピピピピピ。ピッ。
「ん、むぅ……」
菜月スバルの朝は小うるさい目覚ましを止めることから始まる。
目を開けて白い天井が視界一杯に広がると、「ああ、カルデアにいるんだ」という気分になってくる。
スバルの心は、未だに四畳半の菜月家の自室にあった。
人理焼却という、謂わば世界の滅亡を経ても人はさほど変わらない。過ぎ去った昨日に思いを馳せ、まだ見ぬ明日に期待を寄せ、のうのうと今日を貪る。そんな怠惰な生き方は、逆に人理修復という一大案件の中では丁度良い過ごし方となっていた。
何せ、期限は一年なのだ。一年も張りつめていれば、確実にどっかで無理が来る。故に、そういう緩やかな生き方をすることが多いのも道理である。
とは言え、スバルは普通にだらけて居るだけで、そんなことは一切考えていないのだが。
さて、起きた。捲れ上がったシャツを直し、布団をベットの足元に畳む。
何をしようか。時計を見ると朝飯の時間だが、今日の当番はエミヤだ。恐らく混雑が予想される。もう少し時間を遅らせていくことにしよう。
自分の呼び出したサーヴァントも何処かに出かけたようで、カルデアから与えられた自室には自分以外居ない。
霊体であろうが見透かす視界でも姿が確認できない以上、それは確定といっていいだろう。
スバルは少し悩んでから、取り合えず催してきたものを片付ける為にトイレに姿を消した。
ジャー、という音が流れた後、スバルはマイルームのトイレから出てくる。ついでに洗面台で寝癖を直し、歯も磨く。因みに、歯磨き粉はマヨネーズ味である。なんだそれ。どこで売ってんだそれ。
ペッ、と黄味がかった歯磨き粉を吐き出し、口をゆすぐ。口端に残った歯磨き粉を洗い、顔を洗って時計を見る。そろそろ良い頃合いだろう。
自動ドアの閉まる音を後に、無機質な廊下に出る。
廊下の片隅に等間隔で立つアクリルの板は何なのか。大分ここに馴染んできたが、これは未だに分からない。魔術がかかっているわけではないようだし、ホントに何だろうか。
食堂は確かこっち、そんなことを考えながらフラフラと歩く。まだ脳が起き切っていないのだろう。
歩く途中で、一つの部屋のドアが開く。あの部屋は……立香の部屋か。
「あ、おはよう、スバル」
「おう、おはよう、立香」
互いに挨拶を交わし、並んで食堂に行くことにする。
雑談を楽しみながら歩いていると、長い廊下も僅かな時間で通り抜けてしまえた。
本当に立香は聞き上手というか、話しやすい相手だ。だからこそあんなに多くの英霊に好かれるのだろうか。
そんなことを口にすると、何処からか自分のサーヴァントたちが現れて自分では不満なのかとでも言ってきそうなので、やめた。
さて、カルデアの食堂なのだが、基本的に注文形式だ。券売機なんかないし、食料の残数から日毎に出せる料理も変わる。基本的には当番の決めた料理を食べるか、食材があるなら注文できる程度だ。
しかしこの前ワイバーンから魔素を抜く方法が確立されたお陰で、大分肉類には余裕ができてきた。難点といえば筋張っているというところだが、エミヤの下拵えなら安心して食せるだろう。それは他でもない自分が良く分かっている。脂質が多いということで女性スタッフは敬遠しがちだが、男性スタッフ、率いてはマスターである俺と立香にとっては豊富な食べ応えのある肉である。
とりあえずステーキでも頼んで、付け合わせはお任せにするか。そう考えていると、立香の注文に気を引かれた。
「エミヤ、ポテトサラダある?」
「ああ、ジャガイモはまだいくらか残っていた。今作ろう。スバルはどうする?」
ポテトサラダ! 即ちマヨネーズがまだあるということ!
だったらそれを頼むしかない。しかし、ステーキと合うのか? ステーキなら皮つきポテトの方が良いのではないのか?
どうしてもマヨネーズを食べたい。一方で、腹は既にステーキの腹になっている。
スバルはそこまでの事を刹那で考え、反射的に注文を口にした。
「じゃあ俺もポテトサラダ、とステーキ」
合う合わない、カロリーに脂質などの問題を度外視して本能が導き出した答えだった。
言った直後に「エミヤに止められるのではないか」等と危惧して、顔を伺った。
「……まあ、いい。最近は頑張っているようだし、このくらいは許そう」
「よしっ!」
思わずしてしまったガッツポーズ。それほどまでに、この注文が通ることが嬉しかったのだ。
なんせ、カルデアの娯楽といえば運動、食事、勉強、後は文豪系サーヴァントの屯う図書室での読書しかない。
図書室にいると文豪系サーヴァントの執筆に巻き込まれたりするし、大抵の本は持ち出せないので自室に逃げることもできない。
ロマンやダヴィンチちゃん、メディア達に勉強を教わるのも楽しい。彼らの授業は個性に満ちているからだ。しかし、彼らがいない間にケイローンやスパルタクスに出会うと地獄のように勉強させられる。違う、俺は勉強で死にたいわけではないのだ。この年にもなって知恵熱を出したのは新鮮というか、朦朧とした思考で「これで宿題の期限が伸びる……」と考え、即座にもう駄目だなと感じた。
かといって運動をしているとバトルジャンキー達に間々巻き込まれる。その点では可愛い後輩とのんびり体を鍛えられる立香がとても羨ましい。なんでこっちくんだよ、あっち行けよ。まあ、立香に仕向けるというのを考えなかったわけではないが、マシュとほのぼのとしている様を見ると邪魔する気が無くなるのだ。
別にマシュに筋力で負けてコンプレックスというか苦手意識があるというわけではない。ないったらない。
そういうわけで、カルデアで唯一リスクを冒さずに憩いの時間を過ごせるのはこの食事時だけなのだ。
時折邪魔が入ることもあるが、命の危険を感じるような事態には陥らない。食堂で騒げばそこの主を敵に回すと理解しているからだ。
脇に捌けて、エミヤの調理を待つ。そういえば、という感じでスバルが言う。
「立香。お前、マシュとはどこまで進んだんだ?」
「うぇっ!? い、いきなりなんだよ」
「何って、恋バナ?」
「いやいや、俺の耳には下世話なもんにしか聞こえなかったぞ」
「恋バナって大体そういうもんじゃん?」
「いーや、俺が修学旅行でした時はこう、もっとドキドキするような、なんか甘酸っぱいもんだったぞ」
「え、立香恋バナしたことあんの?」
「そりゃあるよ」
「へー、因みに誰の事が好きだったの?」
「三年の稲穂泉せんぱ……何言わせんのさ!」
「ふぅーん、へぇー」
「なんだよそのニヤニヤ笑い。てか、俺はもう失恋してるから。結局切り出せずに卒業してった先輩だし、元々カルデアに勧誘されなければ先輩と同じ大学に進学するはずだったんだけどなぁ……」
「お、おう、なんか悪いな」
「いや、いいよ。で、スバルは誰が好きなんだよ」
「おれ? 俺は勿論……」
「そら、マスター。そこのたわけもだ。注文の品は出来上がった。持っていけ。ああ、因みにそいつは『エミリア』とかいう女に惚れているらしいぞ、現在進行形でな」
「え、そうなの?」
「おう、まあな!」
誇らしげに胸を張る。エミリアへの愛は、引け目など生まないのだ。
「(付け加えると、依然聞いた話を総合すれば恐らく架空の女性だと思われる)」
「(え、じゃあまさかスバルって……)」
「(それ以上言ってやるなよ、マスター)」
横を歩く立香の口端がぴくぴく動く、どうしたのだろうか。
二つ並んだ空席に着き、並んで「いただきます」。
白米もスープもほっといて、まずナイフとフォークでステーキを切り分ける。
厚さは親指を寝かせるよりもあるだろうか。大きさからみると、恐らく足肉だろう。外側に当たる部分には白い脂身がジュウジュウと鉄板の上で輝いている。
その端をフォークで抑え、ナイフで切り込む。
ああ! これだよこれ! ステーキを切り分ける抵抗と、ナイフが鉄皿に当たる音! これが良いんだ。
香るソースの香りに鼻を鳴らし、柑橘類を使用したようだと感じ取ると、最近採取したミカンの様な果実が連鎖して思い出される。植生も何もかもが不明な異常な植物だからダヴィンチちゃんへ解析に回したが、可食であったのだろうか。
切り分けたステーキの小塊を、抑えるために刺していたフォークで持ち上げ、断面のピンクを見る。
肉汁が滲み出ているのがよく分かった。ソースと混じって、色を薄めながら滴るそれを白米の上でワンバウンド。口まで持ってきて勢い良く横からかみついた。
ああ、柔らかい。たと言って歯ごたえが無いわけでもない。簡単に噛み千切れる割に、奥歯で何度も噛み締められる。噛み締める度に流れ出す肉汁がたまらないのだが、今はフォークに残ったもう半分も食べなければ。白米を薄く染めているのを見ると、後々掻っ込む際への期待が膨らむ。
口に残っている分を飲み込み、次の肉を投入した。
口内を染め上げる肉の旨み。肉汁の甘さに、さっぱりとしたソース!
自分も料理の腕には自負があるが、流石に英霊には敵わないとつくづく思い知らされる。
口いっぱいに肉を楽しんだ後は、箸に持ち替え白米を一掬いして頂く。勿論、肉汁の滴った部分だ。
白米で肉に染まった舌をリセットしつつ、左手でスープを持ち上げる。どうやら、コンソメスープのようだ。透き通った中に照明の輝きを受けて黄金色に輝く油分がある。
一口含むとたちまち鼻腔を突き抜けて心地よい香りが駆け抜ける。
肉とは違う旨味。スープに溶け込んだ数多の具材の旨味っ!
もっと飲みたいところだが、それは一先ず堪える。
そして、目は本命に向かった。
白い小山。サラダの器に盛られた、処女雪のように興奮を掻き立てる雪山。
ニンジン、キュウリ、そして、マッシュポテト。全てが白に染まり、包み込まれている。それはまさにその調味料の懐の広さを表していて――――――
その名は、そう、ポテトサラダである。
箸で一撮みし、震えながら食べる。
舌で味わう酸味、ポテトの触感。それよりも、マヨネーズッ!
ああ、マヨネーズ。調味料の神よ。
ピリリと香るペッパーも、丁寧潰されたポテトも、全てはマヨネーズを引き立てるものでしかない。
あゝ、素晴らしき
やはり、歯磨き粉とは段違いだ。
「スバルってホントにマヨネーズが好きだよね」
「おう! なんせうちは一家そろってマヨネーズ狂いだからな! 何なら体の九割はマヨネーズで出てきていると言っても過言ではないくらいだ!」
「いや、それは過言でしょ……」
てかてかとした笑顔で、心なしか目尻に涙さえ浮かべてポテトサラダを味わうスバルに、立香が言った。
するとスバルが間髪入れずに答え、その笑顔に苦笑いしながらも突っ込みを入れる。
そんな会話を聞きつけたのか、マシュ・キリエライトが自分の分の配膳を持って立香の隣まで駆け寄る。
タタタ、という小走りに気づき、振り返った立香にマシュは言った。
「先輩っ! お隣、よろしいですか?」
「ああ、いいよ」
その初々しい姿に、スバルは知らず知らず笑みを漏らした。
胸の内にある可愛い後輩との日々を思い返し、それを重ねてしまったのだ。
さあ、ご飯が終わったら訓練でもしようか。
こんな、ありふれた幸せを取り返す為に。
なお、此処までリア充しているような日々はそこまでない模様。
【マヨネーズ味の歯磨き粉】
何とかバビロニアって会社産。どこぞの金ぴかは関係ないでしょ?
細かなメーカーの味の違いまで再現しており、菜月家では主にこの種類の歯磨き粉が使われている。備蓄は常に一年分以上買い貯めている。
何故かカルデアにもあった模様。
ありがとう、FGO。
おめでとう、五周年。
それはそれとして、キャストリア出ろぉぉぉおおお!!!。