菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
あの後、エミリアに怒られたことと、ふわふわ漂う微精霊が顔に纏わりつく以外には特に問題もなく、普通に朝の一時は終わった。
屋敷の主人、ロズワールの帰還を告げに来たメイド姉妹に、初めて聞いた風を装いながら先導される。好奇心の演技、というのも随分とうまくなったものだ。面白そうだ、という姿勢を見せつつも詮索しないために必須な技能なのだが。
興味津々、という体を装ってロズワールの人物像を聞こうかと思った。だが、果たして菜月賢一はそんなことをするだろうか?
分からない、というのが本音だった。
好奇心に任せて聞くかもしれない。
先入観を排して会うかもしれない。
俺は、菜月賢一が初対面の人物に会うところを見ていない。データが足りないのだ。
だったら、普通はどうするのか?
それも分からない。
どっちでもあり得るからだ。
だから、聞かないことにした。
それは違う。俺ならきっと聞く。だから聞くべきだ。
聞こえない。
聞かない。聴かない。訊かない。
知らない。知りたくない。動かない。動きたくない。
――――――でも。
誰かを真似て動くしかできないならば、誰かを真似ることでしか動けないなら。
それは、
「あー、やめやめ!」
俺は無駄に明るい声で切り捨てた。
「あはぁ、目が覚めたんだねぇ。よかったよかったぁ」
紫の道化。竜胆色の髪に、今紫の襟付きコート。その下も大体が紫で統一してある。 その何よりもの特徴たる顔は、過剰な白粉に、非対称の翼を模した紫色の隈取り、という化粧? の様な物。顔をキャンパスかなにかと勘違いしているんじゃないかと疑うような、特徴的すぎる、痩身に見える男がいた。
いや、男と判断したのはその服装からだ。その化粧を一つ残らず落とし、趣味の悪い髪形を変え、黒いドレスでも着れば――――――そら、脳内で補正してやればまるで貞淑な令嬢の様な姿が浮かぶ。
「うぇ……」
仮にも男を異性として「美しい」などと感じてしまったことに、
んな阿保な。頭を振って思考を切り替える。
エミリアは決まりの悪そうな顔で俺をちらちらとみてくる。メイド姉妹は視線すら合わせない。ロズワールはニコニコして話しかけてくる。
俺は、意を決して踏み込んだ。
「おうよお蔭様でな! マジ感謝感激の雨霰だぜ! キラキラ輝くこの感謝の気持ち、あんた見た瞬間に一気に凝固したんだけれどそれ何!? 随分奇抜な格好だな! 趣味か何か!?」
「ふふふ、良いセンスだぁろう?」
「いんや、全然! まぁ、天才のセンスは凡、人には分からないっていうし、逆説的に超天才なんじゃね!?」
「ん~、いぃ~ねぇ、理解されているというのって。そう、私は天才なのさぁ」
「やべぇ、キャラが濃い! だけど負けねぇぞ何なら腹踊りしてやらぁ! いや冗談だけど」
「元気なようでなぁによりだ。いやぁ、君の血だらけの服、随分洗いづらかったらしぃよ? 特にあの金属の部品なんだけぇど、アレほど精密なのは見たことないねぇ」
「ふっ、やっぱ日本の技術チートはテンプレだな! でも割りと愛着のあるやつだから売るのは勘弁! 柄血だらけって、俺どんだけやばかったのさ!」
元気一杯になるように気分を盛り上げ、どうにかキャラの濃さに追いついて会話する。
いや、本当になんだこのキャラの濃さ。二度目になっても未だに馴れない。買いが引きつってやべぇ。しかも言葉がどもっちまう。キャラの濃さが質量を帯びてるみたいだ。なんか心なし、息が辛いようにも感じてきた。それはマシンガントーキングしてるからだろうか?
余りの会話速度に、メイド姉妹はおろかエミリアすら入ってこれていない。目を白黒させるエミリアという清涼剤をちょくちょく補給しつつ、ロズワールとの会話という難所を乗り越える。頼むからさっさと朝食にしてくださいお願いします。空腹じゃなくて喉がやばい。というか肺が熱くなってきた気がする。なんか空気が重いんだよ呼吸が辛い!
「ろ、ロズワール、お帰りなさい。大事は無かった?」
心なしか、エミリアが俺を見る視線にナマモノを見るような感情が加わった気がする。
気のせいだろう。きっと、流石に虎と一緒の扱いは泣く。
……ん? 菜月賢一もタイガーと同類なような……気にしてはいけないな。
うん。
「平気平気。あはぁ、嬉しいねぇ。君の方から私に声をかけてくれるなんて、四日とんで三時間と十九分ぶりぐらいだよぉ。日記に書かなきゃ」
うーん。
気持ちわ……睨まれた。
「タンムズの月、十五日――――――エミリア様が自分から私に話しかけてくれたよ。ロズワール、嬉ぴー。この調子で仲良くなっちゃうぞぉ、おー。……と」
……何度見ても、ぞわりとするなぁ……
だが、此処で怯んでいては駄目だ。一歩を踏み出そう。
「お、なになに? 日記? 何なら俺が暇を持て余しすぎて取得したギャル文字伝授したろうか?」
「ほう、ギャル文字とはぁ、何だい?」
「ギャル文字ってのはさぁ――――――」
要するに、一文字を複数の要素に分解する遊びの事で、別名としてへた文字とも呼ぶ。
本当に暇潰し程度の気持ちだったが、まさか暗号解読や暗号作成に応用するなんて夢にも思わなかったなぁ。
何がどう転ぶかって本当に謎だ。
「ほうほう、それは面白そうだぁね」
「だぁろぉう?」
ふふふ、にひひと笑いを交わし、ロズワールの日記を覗き見る。
そこで、固まった。
……読めねぇ。
何だこの記号の羅列。
「……わりぃ、ロズワール。故郷の文字とだいぶ違うわ、コレ」
「んん~? そうかぁい? なら、君の故郷の文字で書き直してくれなぁいかねぇ? 実は異国の文字というのにも興味があるんだぁよね」
「まぁ、別に構わねーけど……つかもうこんな仲だし、俺の事はスバルンって呼んでいいぞ! こっちはロズっちって呼ぶからさ」
「え、ちょ、スバル!?」
「ふぅむ、ロズっち。ロズっち、ねぇ……」
あー、やらかしたな、と言いたいのが如実に表れてますよエミリアさん。
でもきっと菜月賢一ならこう言うし、仕方ないよね。
俺なら言わないけれど、菜月賢一なら。
「……悪くなぁいねぇ」
……ロズワールへの扱いは、菜月賢一とタイガーを足して二で割った感じでいいかな。
「じゃあ、これからよろしくな! ロズっち!」
「ああ、よろしくされるとも、スバルン」
後ろの方で「え、レムとラムなんで目にハンカチ当ててちょっとえ、え、え? ど。、どうしたの急に! え? 『ロズワール様に友人ができてうれしい』? いや、その、まぁ、確かにその気持ちはわかるけど……」なんてエミリアの声が聞こえてきたが、俺はロズワールの顔を見ながら、がっちりと握手を交わしていた。とってもいい笑顔だ。
朝食を終えて、俺はエミリアと庭に居た。
腹ごなし、という意味もあるが、俺がエミリアを庭にさそったのだ。
菜月賢一は、こうするだろうか?
……きっと、するはずだ。
でなければ俺がこう動くはずがない。
そのはずだ。
雑談交じりに、本命の質問をする。
「そういやさ、エミリアたんの魔法、俺にも使えねぇの?」
それは、此方での「魔法」について切り口を入れる質問。エミリアの口から訊いて、『魔法』への知識を深めるための質問だった。
こんな時でも魔術師のような思考しかできないのに反吐が出る。魔法というのは科学に存在しない未知で、だからこそきっと菜月賢一の興味も煽るだろう。
「え? うーん、どうかしら。パック、スバルのゲートを調べてあげてくれない?」
「はいはーい。分かったよ」
「うおお、これで俺のチートが目覚めるのか! ひゃっほい!」
迫ってくるパックがぶつかる前に目を瞑り、額にささやかな熱を感じると共に、解析の魔術を掛けられている時の、腹の底を覗かれるような不躾な視線を感じた。これは、恐らくゲートを調べているのだろう。
感覚で言えば心臓あたりか? そこには俺の魔術回路は無い。ということは、ゲートとは魔術回路とは別物なのだろう。
……不味い。もしゲートが俺に存在しなかったならば、俺の世界の怪異の様に迫害、若しくは研究材料として解体されたりしないだろうか? いやエミリアはしないだろうが、それ以外の魔術師……こっちで言うと、魔法使いか。そいつらの行動までは分からない。エミリアのようなお人好しは稀だというのは、こっちでも共通だろう。間違いない。
冷や汗を垂らしながら、額のパックに意識を向ける。ドクドク高鳴る心臓、耳から頬にかけてが熱っぽくなる。それに反するように、首の後ろは冷えていく。
パックに暗示は通るのか?
そもそも俺程度の暗示が、こんな生命体に通用するのか? 神秘だけなら幻想種に迫るだろう、この生物に。
どうする?
どうする?
どうするっ!?
「――――――うん、無理だね。スバルくん。きみのゲートは陰属性だ。リアのような火属性とか、水属性は使えないね。」
「そんなっ! 嘘だろおい異世界デビューにも失敗してチートもナシですかおい!? 随分厳しいなぁ!?」
安堵。ほっと息を吐きだすのをこらえ、口は自動的に用意していた言葉を紡いだ。身振り手振りを加え、些細な違和感を消し去って遺憾の意を表明する。
良かった。
そう、思う。心底から、というのはこういう事なのだ。もう眠りにつきたくなるような倦怠感と、少しマラソンしてきたかのような汗。それらをまとめて心地よく感じる温かさ。
ああ、今、俺は安心している。
異端と見られなかった事に、安心している。
拒絶されずに喜んでいる。
だからこその、良かった、だった。
チート発言は、あながち嘘ではない。
いや、そもそもこの目が
異世界に行く、ということ自体が魔法の領域であり、それを成し遂げた以上は必ず、それを可能にした異常性があるはずだと踏んでいたのだ。
この世界が怪異の産物だという線はもうない。怪異ならばこんな平和かつ人に寄せたような、安穏とした世界は作らない。それに、あの黒い空間を作る意味も分からない。
かと言って異世界とも言いたくない。この辺りは、一応魔術師でもあるのだなぁ、と感じてしまう。
それでも、この世界を異世界だと断定しなければならない。
魔術師の見方は一旦封印だ。
「……つか、陰属性? ってなんだ?」
「ん? ああ、それはだね――――――」
「――――――スバルは魔法に六つ、属性があるのを知ってる?」
パックの言葉を遮ったエミリア。遮ったことにも気づいてないことから、きっと人に教えるという経験をしたいのだろう。その証拠に、後ろでパックがやれやれと言った感じに両手を肩まで持ち上げてる。アメリカンだ。
「六つ? んー、テンプレでいうと……火、水、風、土。それに光と闇……ああ、陰と陽だな」
「そう、で、その六つの属性にはそれぞれ特徴があってね? 特に陰と陽はすごーく珍しいの」
すごーく、のアクセントがかわいくて話が耳に入りません、エミリア先生!
「お、珍しいの!? 俺の属性」
「うん、珍しいわ」
「へぇー! マジかよ! で、どんなことができんの!?」
「ま、まじ? えっとね、陰属性は……『シャマク』って言う――――――」
要するに、デバフ特化の魔法でした。使えねー。
エミリアが屋敷に戻るのを見ながら、俺は暫くその場に留まった。
きょろきょろ確認し、辺りに一目が無いのを確認した後、俺はかめはめ波を打たんばかりに気合を入れて右手を突き出した。
「……アイスニードルっ!」
それは前に突き出し手の先から、氷柱が飛び出るのを意識する感じ。
適性が無い、だからできない。そう言われても、きっと菜月賢一は諦めない。そういう人なんだ。
だから、俺もふざけ半分でやった。当然、できるわけが無いのは知っている。魔術だってそうなのだから。
それが絶対の法則なのだ。
――――――裏返せば、出来ることは、どうにか工夫すればできるのだ。
「なんて、な。ははは」
自分の馬鹿な行動に苦笑して、さてエミリアの背を追いかけるか。そう思ったとき。
手の先に、
「……は? え?」
目を逸らした一瞬の隙に、そこには気候条件的に発生しえない、綺麗な氷柱がさっくりと庭に突き立った。
きらきらと光を乱反射させ、結露した水滴がその透明を白いヴェールで覆っていく。
「おい、まてよ、おい」
それは、エミリアの創り出したような氷柱。
「なんなんだよ、これは――――――っ!?」
間違いなく、俺に創り出せない筈の、
「――――――代わりに調べてきたけど、別に変なのはついてなかったよ、ロズワール。気に成ったのは……まぁ、全くゲートを使った形跡がないってことだね」
「んふふ、そうかぁい? んふふ」
「……あー、じゃあ、僕はリアのところに戻るからね」
「ああ、じゃあね」
「あれ、気に入ってたんだ……」
「こんばんわ……うわぁ」
「んふふ……やぁ、ようこそ。しかし、いきなり酷くなぁいかね?」
「そりゃあ、あんたみたいな変なのが、そんなにニヤニヤしてたらこうもなるわよ」
「いやぁ、ちょっとうれしくってねぇ……さて」
「切り替えは上手いのね……ええ、では、これから暫く厄介になるわ」
「ああ、ちゃぁんと聞いてるとも。自分の家だと思って、ゆっくり寛いでくれたまえ」
「……寛ぐだけってわけにもいかないけどね」
「それじゃあ、これからよろしく頼むよ、銀髪のハーフエルフさん」
「私は、ハーフエルフじゃないわ」
「おっと、これは失敬したねぇ」
「別に、いいわ。じゃあ、私はこれで。適当な部屋を使わせてもらうわ」
「上手くやって……というのは、無用の心配かぁ」
「……なんで、あの方の使いは窓から入りたがるのだろぉうねぇ?」
涼しい夜風がカーテンを揺らし、ロズワールの執務室を吹き抜けた。
【ロズっち/スバルン】
ロズワール の こうかんど が すごく あがった !
ラム の こうかんど が ちょっぴり さがった !
レム の けいかい が すこし あがった !
エミリア の こうかんど が ちょっぴり さがった !
【チャック】
複製魔法で簡単に複製できてしまう。きっと元本を売るだけの方が儲かる。
だってこの世界に著作権なんてないから。簡単に真似されるから。
仮にあったとして、その場合、チャックはスバルの作った者じゃないから、売ろうとしたら犯罪になる。
簡単に金は稼がせない。
つまり、「異世界人だ!! 異世界人だろう!? なあ、異世界人だろうおまえ アイデア置いてけ!! なあ!!! なあ!!!!」ということなのだよ。
【ギャル文字】
別名、ヘタ文字。
携帯電話のメールなどで文字を分解・変形させて文字を表現する遊び・手法。またそれらの文字そのものの呼称。(Wiki引用)
古くから存在してる。古事記にも載ってる。いや嘘です。
でも最も古い物だと、『三国志』にも出てきてるみたいです。ギャルって随分ルネッサンスだね。訳が分からない。ギャルって何なんだ? 教えてください偉い人。
作中のロズワールの文章を(あるサイトで)変換すると、こんな感じ。
「勺・/厶ス″@月、十五日。
――工㍉了様カゞ自分カゝら禾厶レニ言舌ιカゝレナτ<れナニょ。
□ス″ワ─」レ、女喜ひ°─。
⊇@言周孑τ″イΦ良<ナょっちゃぅξ″ぉ、ぉ─。……ー⊂」
……もはや暗号にしか見えない。
何故原作スバル君はこれを修めようと思ったのか。暇し過ぎじゃないのか。
そしてこれを使いこなすというギャルは、本当に何なのか。特殊部隊の別名か?
【紫】
菜月スバルの象徴(になる予定の)色。
ロズワールがここまで紫系統で統一したのは、スバルに紫を刷り込むという、
昴君は元々紫が好きだったが、
【シャマク】
スバルに使う場合、アル・シャマクでなければ通用しない。ゲームでいうと、「デバフ耐性」というのが異様に高いから。
だが、アル・シャマクを使ったら大惨事になる。
スバルのゲートはお粗末な急造品なので、使っても目晦ましにしかならない。ので、自爆しない。
何故寄りにもよってこの属性をスバル君に与えようとしたのか……
少しでもゲートが良くできてたら、お手軽に入れられる殺戮スイッチになってた。自分で掛ける分には、デバフ耐性は機能してくれない。悲しいね。
【
尚、スバルは物質生成の魔術は使えない。温度操作も不得手である。
彼が得意とするのは置換魔術、呪術各種、そして強化解析等の基礎的な魔術に、空間魔術である。
その他の魔術は、礼装の補助無くしては扱えない――――――筈、だったのだが。
【ロズワール】
■■■の考えた、昴の■。
実は何気に