転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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第180話 古狸は祝杯をかかげ、サンクトペテルブルグの男は「当然だよ」と笑う

 

 

 

ロンドン、ホテル”The SAVOY”、ラウンジ

 

 

 

「チャーチル、今日は奢る。存分に飲め」

 

 先に”Old Parr(オールドパー)”を楽しんでいた盟友と言ってよい日本皇国欧州方面統括本部長”吉田滋”に、

 

「ヨシダ、随分機嫌がよさそうじゃないか?」

 

 いつもは12年物だが、今日は18年物を開けていた。

 

「ああ。若者……というほど若くはないが、有望な者の旅立ちが決まった」

 

「ニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグか?」

 

 席に着き、今日は吉田に合わせることにしたのかシャンパンではなくスコッチウイスキー、”ジョニーウォーカー ブラックラベル”をオーダーするチャーチル。

 

「知っていたか? まあ、それも当然だな」

 

「懲戒免職に国籍剝奪……理由も理屈もわかるが、皇国外務省(お前の実家)も中々無体なことをする」

 

 ぐびりと喉を湿らすチャーチルに、

 

「あれでいいんだ。アヤツは日本皇国に”斬り捨て”られねばならん。そうしなければ、未練が残る。頭の片隅にでも日本皇国の思いがあれば、飛ぶのに躊躇う。それでは意味がない。アヤツはあれで結構、義理堅い」

 

 吉田は、来栖任三郎という人間をよく知っていた。

 外務省職員という肩書や、日本皇国臣民という枠組みは、今の来栖にとって手枷足枷にしかなっていない。

 そして、日本皇国政府も外務省もまた、来栖を持て余してしまうということも、吉田は理解していた。

 

(皇国は、”ソ連並びに共産主義者に対する構造的な絶対敵対者”だ。だが、そうであるが故に簡単に全面戦争にはならない)

 

 吉田は政治力学に精通してるからこそわかってしまう。

 どのような状況下であっても説明不要の”絶対的な敵”というのは、とにかく便利なのだ。

 特に国内の綱紀粛正を図るには。

 多くの読者諸兄はご存知かと思うが、国内をまとめるにはある程度の”内的な緊張感を生み出す要素”、言うならば”パブリック・エネミー”がいた方が都合がいいのだ。

 そして、天皇家と直結した国家神道を政治の骨子とする日本皇国にとり『皇帝を殺して、神を否定した共産主義者』とは、理屈抜きに”相容れない敵”とするのに申し分ない。

 そして、国内の左派系反動勢力は、”ソ連という母体がある限り”どれほど狩ろうと無限POPするモンスターのように必ず湧いて出る。

 それは放置すれば厄介この上ないが対処し続ける(適度に間引きし続ける)限り、統治という側面においてはとても都合の良い存在なのだ。

 一例ではあるが……ソ連が崩壊し冷戦構造が終結、「突然、共通の敵を失った旧西側陣営」が、その後どうなったか思い出してみると分かりやすい。

 対立構造とて立派な秩序だ。敵味方がハッキリと陣営分けで来ていたあの時代は、その後の「誰が敵で、誰が味方なのかわからない混沌とした時代」よりも秩序だってたといえる。

 

(だから来栖の根源的願望は、日本皇国ではかなうことはない)

 

 正直に言えば、全面戦争する確立ならソ連より米国の方がまだ高いと吉田は考えていた。

 ソ連とはイデオロギー的衝突だろうが、今みたいな国内の赤化汚染やルーズベルトのような精神的汚物が大統領でなくとも、米国とはいずれ国益や権益、利益などの言葉が並ぶ「経済的衝突の果ての軍事衝突」するだろうと予想はつく。

 

「だから無体だと言っている。フォン・クルスを自由にするということは、それだけ多く死ぬと言うことだ。誰とは言わんがな」

 

 すると吉田はクスリと笑い、

 

「良いではないか? どうせ後始末をするのは我々ではない。それにな、赤い連中などこの世から一人でも多く消えた方が良いとは思わないかね? この世に貧富の格差がある限り、どうせ革命ごっこに身を投じる輩は、完全に消えることはないのだから」

 

「違いない。人間は平等と公平を実現できるとする夢想家は、遥か太古からいた。所詮、共産主義とはその末端にすぎん」

 

「我々はただ見てればよいのさ」

 

「お手並み拝見か?」

 

 吉田は頷き、

 

「「フォン・クルスに」」

 

 日英の腹黒古狸二匹は、乾杯するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******************************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、当然こうなるわな」

 

 1941年2月中旬、ムルマンスクで大捕獲劇があった頃、俺、来栖任三郎に懲戒免職の通知と国籍剝奪の通達が届いた。

 当然の結末と言ったところだろう。

 というか……

 

「なあ、ハイドリヒ……なんでお前が伝書鳩の代役やってんだよ?」

 

 そして、その通達を持ってきたのはNSR長官だった。いや、なんでだよ?

 なんで伝書鳩かって? ベネトン・シューマッハカラーのBf109で飛んでくるからだよ。

 

「なに、スケジュールを伝えるついでに少しはお前の今後の立場って奴をレクチャーしてやろうかと思ってな」

 

「はぁ?」

 

 何を言ってんだコイツ。

 

「まず、4月1日よりお前は正式な役職として”サンクトペテルブルグ総督”に就任する。そして、国籍もドイツに変わる。当然だな。サンクトペテルブルグはドイツの保護領だ」

 

 そうなるだろうな。

 ロマ人(ジプシー)にでもクラスチェンジするんじゃなければ、まさか無国籍のまま過ごすわけにはいかんし。

 そもそもサンクトペテルブルグは、扱い的には「バルト海沿岸諸国の承認を受けたドイツの”特別保護領”」扱いだ。

 ゆくゆくは国際自由貿易都市にしたいところだが、対ソ連用兵器を大量生産しなきゃならん現状ではそうも言っていられない。

 ドイツ人が総督やってた方が、当然”座り”が良い。

 

「細かい外交的な摺合せ、国籍移管やら何やらの手続きはこっちでやっておく。悪いようにはせんから、心配するな」

 

「正直、助かる」

 

「ちなみにドイツ人としての名前は”ニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグ”で決定だ」

 

「それがイマイチ納得いかないんだよなぁ……フォン・クルスまでは諦めたが、なぜ”デア・サンクトペテルブルグ”を付ける必要がある?」

 

「まあ聞け。それが今後のスケジュールを聞いていればわかる」

 

 ……嫌な予感しかしないんだが?

 

「4月1日午前10時より、お前への国籍授与式兼サンクトペテルブルグ総督就任式が予定されている」

 

「うげ……それって総統閣下が主催するって感じの?」

 

「当り前だろう。他に誰が主催できる?」

 

 いや、そりゃそうだけどさ……

 

「いっそエイプリルフールのジョークとかには……」

 

「なるわけ無いだろ?」

 

 デスヨネー。

 

「その後、総統閣下との懇談が非公開で行われる」

 

 うわっ……そりゃいつかはご対面するとは思っていたが。

 

「そしてその後、午後7時よりバルト海沿岸諸国よりの賓客を招いた晩餐会が開かれる」

 

「ちょっと待ていっ!! さすがにそれは聞いていないんだがっ!?」

 

「それはそうだろう。初めて伝えるんだから」

 

 コヤツ、しれっと言いおった!

 

「しょうがないだろ? バルト海沿岸諸国各国からの強いリクエストだ。流石に無碍にはできん。お歴々もお前を値踏みしたいし、顔を繋いでおきたいってところだ」

 

「マジかぁー。俺なんかと顔繋いでどうすんだよ? ”バルト海特別平和勲章”の時、各国のお偉いさんには会ったんだからそれで良いじゃん」

 

 一応、顔と名前ぐらいは一致させているけどさ。

 

「今回来るのはあんな下っ端じゃないさ。本物の”国家の重鎮”って奴だ」

 

「噓だろ……」

 

「とりあえず、お前の公式な”総督としての初公務”がこれとなる。気張れよ?」

 

「お前、他人事だと思ってからに」

 

「実際に他人事だしな」

 

 コンニャロー!

 

「ああ、それと非公式ではあるし正式な階級が与えられる訳じゃないが、ドイツ軍におけるお前の立場は”元帥”待遇になるからな? 場合によっちゃあ国防会議への参加が要請されると思うから覚悟しておけよ?」

 

 やらかしたこと考えれば、まあ納得だ。

 というか、サンクトペテルブルグのマネージメントとプロデュースを除けば、俺にできるのは軍事面や軍政面だけだろうし。

 

「あー、それに関してはやることやってるからな。いや、でも元帥待遇は流石に盛り過ぎだろ?」

 

「階級でしか語れないこともあるし、認めない者もいる。世の中はそんなもんだ。特に軍人ならばな」

 

「世知辛いねぇ~」

 

「この事は国家上層部しか知らんし、会議参加メンバーは総統主催の非公開とか非公式になる。ゲーリングとかは入れないから安心しろ」

 

「それは助かるな。マジで」

 

 モルヒネ野郎とお話とか、流石に嫌すぎる。

 

「とりあえずはこんなもんか? 3月31日の昼までには、ベルリン入りしとけよ?」

 

「はいよ」

 

 マジで気が進まんけど。

 

「ところで、4月1日なら高確率でスモレンスクで派手にドンパチやってるはずだが良いのか?」

 

「お前が前線指揮するわけでも、総統閣下が一々”狼の巣”で指示を出すわけでもなし、構わんだろ」

 

 そういえば、今生で”Wolfsschanze(ヴォルフスシャンツェ)”って無いみたいだしな。

 ま、総統閣下は原則として首都に居るってのは、好ましいことだ。

 

「そういう予定だって事は理解してくれ」

 

「Ja. 服装はタキシードとかでいいのか?」

 

「礼服はこっちで用意しよう。前日の昼までにベルリンに入ってくれというのは、それも入ってる」

 

 何やら聞くからに面倒な一日になりそうだねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、直属の上司と本人のエピソードでした。

外交狸のラスボスである吉田はどこまで読んでいたかは不明ですが来栖、フォン・クルス本人としては、

「遅かれ早かれ、当然こうなるわな」

という感じですね。
本人もよく言っていましたが、「外交官のお仕事」はしてませんからね。
逆に言えば、これで来栖を縛る枷は、無くなりました。
日本皇国臣民や外務省職員というのは、実はある種の「精神的拘束具であると同時に外付けの良心回路」としても機能していたのですが……

それにしても、ドイツもバルト海沿岸諸国も動きが早いことw


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