転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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この章のラスト・エピソードになります。

クルスの大公就任演説、その影響とオチ(?)っぽい何かかなと。






第296話 血圧を上げる書記長と大統領、そして平常運転の大公

 

 

 

 バルト海沿岸諸国の王たちの信任を受け、新たにサンクトペテルブルグ大公に就いたニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグ……

 しかし、その就任に心穏やかならざる者がいた。

 そのうちの1人が、

 

「あの俗物をまだ始末できんのかっ!!」

 

 そう激昂する小男の名はイジョフ・スターリンと言う。

 

「何故、たった一人の男を抹消できんっ!? 」

 

 そして、ふと思いついたように……

 

「懸賞金だ……懸賞金をかけよっ! 100万ルーブルの懸賞金だっ!!」

 

 

 

 実に史実のルーデルのざっと10倍、現在の日本円換算で10億円の懸賞金がフォン・クルス大公にかけられた瞬間だった。

 ただし、後年の歴史研究家に言わせると……

 

『この時点でも、スターリンはフォン・クルス大公の”真の価値と脅威”を全く理解していなかったのさ。単に「サンクトペテルブルグを奪ったドイツ人に尻尾を振って傀儡になった日本人」を嫌悪し憎悪していただけだ』

 

 つまりは、

 

『何しろ、賞金が”安すぎる(・・・・)”。第二次世界大戦と呼ばれた戦争の後半にフォン・クルスが与えた”致命的な影響”を加味すれば、最低でもこの10倍は必要だろう』

 

 更には、

 

『戦後、”バルト海条約機構(Baltische Vertrags Organisation:BVO)”加盟国の満場一致をもって”サンクトペテルブルグ大公国(・・・)として独立することを考慮すれば、更に倍額だな。何しろソ連自壊まで”絶対的敵国(・・・・・)”であり続けたのだから』

 

 ただし、仮に賞金が跳ね上がったとしても、その金額を目当てに行動する”濡れ仕事”の専門家は居なかったとされる。

 というのも、当時のスターリンの評判から、『懸賞金が支払われる可能性は極めて低く、仮に任務に成功したとしても支払われるのはルーブルではなく弾丸である可能性が高い』と目されて居たからだ。

 裏社会の人間でさえも、おおよそそういう認識だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 無論、激怒したのはスターリン一人ではない。

 米国大統領、フランシス・ルーズベルトだ。

 

「小癪な猿め……やってくれるっ!!」

 

 と血圧と一緒に怒りのボルテージは上がるが、かと言って今の米軍にサンクトペテルブルグに直接打てる手はない。

 ただ、米国レンドリース法の立役者ハリソン・ホプキンス元商務長官、ハドソン・ホワイト財務次官補、ローニン・カーリー大統領補佐官などの『赤い紐付きの取り巻き』は健在であり、米国政権に入り込んでいる300人ものソ連への協力者は未だに逮捕者が出ていない。

 そして、そのような者達を経由して『スターリンからのヨーロッパで第二戦線を展開する要求』を突きつけられていた。

 本質的に言えば、アメリカがソ連のいうことを聞くという状況が既に異常なのであるが……それが1930年代以降の現在に至るまでのアメリカ合衆国という物だ。

 

 既にそこに疑問を挟むことすらできなくなっていた、そこまで赤色汚染されていたルーズベルトではあったが、それでもバルト海の奥座敷とも言えるサンクトペテルブルグに直接攻撃をかける手段がないことは理解していたし、確かに基地化・米国拠点化に成功したアイルランドは米国にとり有益な『欧州に対する橋頭堡』ではあるのだが……

 だが、ルーズベルトという個人ではなく合衆国として考えると、中立法が足枷となり日英どころかドイツとさえ公的には”交戦状態にはない”のだ。

 如何に政府中枢がコミュニストに浸食されていようと、『米国有権者の国外に対する無関心』は強固な物であり、コミンテルン・インターナショナル系マスゴミが如何に「ドイツは悪!」と叫ぼうと、自国に損害や被害が出ていない以上、所詮は”大西洋対岸の火事”だ。

 ソ連へのレンドリースに疑問は感じながらも拒絶まではしないが、かといって米国が直接ドイツと戦うのは論外ということだろう。

 良くも悪くも、この時代のアメリカ的解釈と言えるだろう。

 

 そもそも、ドイツにおける自動車メーカーのオペル(クルスも同社の”アドミラル”というハイエンドモデルを所有している)は相変わらず”GM傘下(・・・・)として健在”であり、反ユダヤ思想の強い男が会長を務めるフォードに至っては、フォード・ドイツという直接の子会社で”タウヌスG93A”という小型車まで現地生産してドイツ自動車市場に食い込んでいるのが現状だ。

 

 そして、自動車大国米国の輸出もまた止まっていない。

 史実では真珠湾攻撃からの参戦で、民需向け生産リソースの大半が軍需に向けられ、例えば1942年から終戦までは民間車の生産が、事実上禁じられていた。

 ところがどっこいこの世界線では、『レンドリース向けの生産を優先する』という理由で、民間市場向けの新型車の開発は制限されている(産業リソースを軍需に向けるという理由)が、現状でも米国自動車市場は堅調であり、普通に民間車の生産は継続されている。

 大衆の購買意欲は、「対岸の火事」認識のせいか戦争の影響を受けている様子はない。

 つまり、『完全な戦時状態には移行していない』のだ。

 

 それどころか日英とドイツの停戦がなったことで、日本向け、英国向け、ドイツ向けの自動車輸出量は徐々に上昇傾向にあり、現状が”仮初めの平和”だとしても、この状況が長引くほどマーケット拡大に期待できるということだ。

 アメリカという国が、大きく国際的信用を落としているのは事実だが、別に大統領が阿呆でも製品に罪はない。

 

 そして、如何にルーズベルトでも、「真珠湾並みにショッキングな出来事」がない限り、これ以上の規制は難しいだろう。

 例えば、史実では平然と行なわれていた対日輸出制限も「戦争状態にない」以上は難しい。

 資本主義とはその本質において、原則として資本力を上回る政治力は存在しないし、儲けられるときに儲けないのは悪徳でしかない。

 当然だ。米国自動車産業に従事する有権者の数を考えれば、敵に回せば下手をしなくとも1944年の次の選挙に勝てなくなってしまう。

 そして、44年の大統領選でライバルとなるのは共和党のデューイ……ゴリゴリの保守で、穏健派の米国孤立主義者だ。

 

(次の大統領で私が勝たねば、合衆国はこの戦争に関われなくなる……)

 

 だからこそ、在任中に是が非でも『参戦にたる既成事実』を作り上げねばならなかった。

 

「ハル君、ド・ゴールとジローを呼びたまえ」

 

 だからこそ、ルーズベルトは名目上『合衆国主導ではない』形での”戦争の実績”を積み上げる決意をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ただ一方、その頃のサンクトペテルブルグでは……

 

 

フォン・クルス大公(Erzherzog von Cruz)、また贈り物が届いておりますよ」

 

 そう苦笑するのは、今やサンクトペテルブルグ産業統括のシュペーアで、

 

「いや、そういうのはもう満腹なんだが……」

 

 とクルスは少将食傷気味だ。

 というのも大公就任からこっち、各国のお歴々から公民問わずに祝電と贈答品が相次いでいるのだ。

 その下心が透けて見えるだけに、内心は癖癖していた。

 

「それと大公(Erzherzog)って呼び名はやっぱり慣れんな」

 

「そこは早めに慣れてくださいよ。既に閣下は”サンクトペテルブルグ大公ニンゼブラウ・フォン・クルス(Ninseblau von Cruz dir Erzherzog Sankt Petersburg)”が公的な立ち位置なんですから」

 

 ちなみにドイツ語の”Erzherzog”は、”軍隊統率者”という意味であり、中世においては選帝侯と同等の位で15世紀以降はハプスブルク家の親王の称号になるそうな。

 何というか今のクルスの立ち位置とそこに至る経緯を考えると、何というか……とても皮肉であると同時に『的を外していない』感がひしひしとある。

 

「ところが、今回の貢物の出処は割と面白いですよ?」

 

「ほう? どこだい? シュペーア君」

 

「オペルを通じて米国本土GMより”キャデラック・シックスティ・スペシャル”、ドイツ・フォードより”リンカーン・コンチネンタル・カブリオレ”ですね」

 

 クルスはエンスージアストというほどではないにしても、車好きという話はハイソな人々には割と有名な話であるようだ。

 公用車としては、大公主任に合わせて防弾化された運転手付きのメルセデスベンツの770Kなどの重厚な高級リムジンを使っているようだが、私用車としては前述のオペル”アドミラル”のコンパーチブルや今やチェコではなくドイツ企業となったタトラ社のT77a、T87、他にも軍用にも納品されているシュコダ社の全輪駆動車や仏シトロエンの前輪駆動車なども保有している。

 クルス個人としては、かなり重くなる防弾仕様車は自分で運転する分にはあまり好きでは無い様だ。

 本人曰く『BMWはオサレ過ぎてハイドリヒみたいな伊達男なら様になるが、どうも俺っぽくない』とのことらしい。

 GMは最高級のキャデラック・シリーズ70ではなくカスタムモデルの60スペシャル、フォードはわざわざコンパーチブルとクルスが興味を持ちそうなチョイスするあたり、実にあざとい。ちなみにどっちも上記の理由で史実ではレアな”42年式”。

 この世界線で、アメリカがどういう状況にあるのか如実に物語っている。

 つまり、これはクルスのカーコレクションとNSR生え抜きの整備士たちの仕事が増えたというのみならず、

 

「それ、露骨な売込みじゃないのか?」

 

 まあ、サンクトペテルブルグ大公領はこの先、大規模なモータリゼーションが起こることが確実視されているので、さもありなんだ。

 ドイツに未だに強い販売チャンネルを持つ北米二社なら如何にも狙いそうな事である。

 

 実際、クルスの保有車の多くは、サンクトペテルブルグ総督就任以降に宣伝広告もかねて自動車メーカーから贈答された物であったりする。

 クルスの公用車はベンツ一択だろうけど、私用車ならば……という事だ。

 クルスの知名度と影響力は、本人が考えているよりずっと大きいようだ。

 

 これもまた、某プレジデントの思惑と現実が合致していないことを示す好例であろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、クルス、ついに賞金首の仲間入りですw
賞金額は、史実のルーデル閣下の10倍ですが……この先の「ソ連にとっての疫病神」っぷりとその被害額を考えると格安ですw

そして、「米国が戦争状態にない・戦時に移行していない」為に強権が思うように発動できず、何もかも思い通りにならない大統領。
資本主義が思わぬところで足を引っ張り、「政治と商売はまた別」というところでしょうか?
平時に金儲けを邪魔すると選挙に勝てなくなるという。
まあ、戦争も政治の一形態ですしw

そして、貢がれてまた保有自動車が増えるクルス。
この男、ヒットラーやハイドリヒ並みに自分で運転する機会が多いのは意外と有名な話らしいです。
一歩間違えれば暗殺者ホイホイになりそうですが、NSRは優秀なようですよ?
まあ、バルト三国義勇兵団(リガ・ミリティア)やらサンクトペテルブルグ市民軍(ミリシャ)やらお稚児さんトリオやらおっかない連中が進んで身辺警護やってるようですがw

これからもよろしくお願いします。



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