転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
カサブランカにモロッコ方面総司令部を設営したアイゼンハワーだが、日々苦労は絶えない。
本当に苦労の仲良しな男である。
3月中旬、ようやく荷下ろしが終わった。
幸い輸送していた航空機の被害は(フランスには残念なことに)極めて少なかった。
安普請のリバティ船ではなく、まともな海軍の輸送艦に護衛の駆逐艦を付けていたが故に優先攻撃目標から外されたのが原因だった。
離着艦性能の悪さから艦上戦闘機の座をF6Fに奪われたとはいえ、高性能であるが故に海兵隊に採用されたF4U”コルセア”に、陸軍航空隊のP-38E”ライトニング”、P-47C”サンダーボルト”、P-51A”ムスタング”などの高性能機が工兵隊が吶喊で仕上げた野戦飛行場に続々と並び始めている。
ただし、英米関係が最悪なのでこの先、最低でも戦時中は”ムスタング”にマーリンエンジンが搭載されることはない。絶対にだ。
同時に初期兵力の1/3弱が海に沈んだ遠征自由フランス軍にも、彼らに譲渡されたレンドリース対象機(つまり排気タービン未搭載の)P-39Q”エアラコブラ”やP-40E”ウォーホーク”が50機ほど配されていた。
米国にとり自由フランスとは「ケベックを不法占拠してるテロリスト」ではなく、「レンドリース対象の正統なフランス」なのだから当然の処置でだった。
50機と少ないのは、自由フランス軍が準備できたパイロットや整備士の数的限界から逆算されたのだろう。
まあ、とりあえずハルゼーは神経擦り減らしそうになる艦上戦闘機主体の防空戦から解放され、フランス機による爆撃被害は下降線気味だ。
故に本国よりパイロットと追加生産分のF6F-3が届き、戦力を回復したハルゼーは、やはり反転攻勢を連日のように直訴していた。
無論、アイゼンハワーもパットンも、モロッコ全土の掌握が済んでないと反対。
ラヴァルの”焦土作戦”は、1ヶ月や2ヵ月で影響が消えるような類の物では無かったのだ。
実際、”ヘルキャット”の追加と同じ便で届いた補給物資便には、「(
おかげでモロッコは、飢餓地獄に落ちることはないが……まあ、自由フランス軍の増員が来たのは悪い冗談にしか思えなかったが。
米政府ではなく米軍としては痛し痒しというところだ。
そして、アイゼンハワーは陸海統合の米国義勇兵団の長として、自分の権限として「ド・ゴールが手に負えなくなった場合」に備え、予め上層部に許可を取っていたサブプランを実行する。
「なにっ!? 担当支配地域を”仏米”で分けると言うのかねっ!!」
「ええ」
いつ見ても虫の居所が悪そうなド・ゴールにアイゼンハワーは言語学的省エネモードで返す。
「カサブランカに”
「我々の支配領域があまりにも少ないのではないのかっ!!」
「ムッシュ・ド・ゴール。まずは現王都ラバトと旧王都フェズが君の
アイゼンハワーは目に力を籠め、
「回復したとはいえ、貴方の手持ち戦力は増強軽装甲旅団、贔屓目に見てもようやく軽師団規模と呼べる単位でしょう。保有航空機は50機程度、海上兵力は駆逐艦3隻(本来は5隻だったが、空襲と潜水艦攻撃で1隻が中破で帰港、1隻が大破で行動不能・雷撃処分)。それに応じた”
東西で500㎞弱、南北で50㎞弱。港も都市部も山岳部も荒野も森林も含むこれだけの土地を兵力1万ちょっとで治めるのは本来、無茶ぶりもいいとこなのだが……
しかも東の国境の向こう側は
「くっ。しかしだな……」
「そもそも君の旅団は兵站が米軍頼りだ。しかも本格的な装甲戦には向かない」
確かにド・ゴールには米国最新鋭のM4中戦車が(操縦の簡易さ故に)回されているが、その数は大隊ではなく中隊編成の16両、装甲戦力の数的中核は、M3中戦車やM3軽戦車だ。
廉価版のハーフトラックはまだ良い方で、非装甲のトラックやジープが数的な主力と言える。
また榴弾砲などの野砲は、自走砲は無く牽引式だ。
これでも一部の国を除けば贅沢もいいところなのであるが……
「最大拠点であるカサブランカから離れすぎれば、補給もままならないのでは?」
「ならばせめて、ラバトではなくカサブランカ以北とすべきだっ!!」
「……自由フランス軍の兵力で、果たしてカサブランカ防衛は担えるのかね? 万が一にも最大の搬入港であり中央拠点でもあるカサブランカが陥落すれば、モロッコの軍勢は米仏関わらず窮地となるぞ?」
こうして、いわゆる”自由フランス線”以南のモロッコ、つまり国土の大半は米国管轄となったのであった。
☆☆☆
「アイゼンハワー大将、この”フレンチ
カサブランカ司令部、アイゼンハワー執務室にふらりとパットンが訪れた。
この頑固者の来訪を確実視していたアイゼンハワーは、
「
「
アイゼンハワーはニヤリと笑い、
「分かってるさ。英国人に
続きを促すパットンに、
「暴発するなら、”フレンチライン”こそが『米国が許容できる
「英国人が気づくか?」
「間違いなく。連中の政治的嗅覚は性格の悪さに比例する」
歴史上、一度も素直という評価を受けたことのない(そして、それを誇りに思う)民族に対する適切なコメントである。
「上層部がよく許可を出したな? おそらく大将がプランを出した時点でその裏の意図を気づいているだろう?」
「おそらくな。大統領とルーズベルト・ボーイズのマーシャル参謀長は、ジブラルタルを欲している。理由は言うまでもないだろう?」
ちなみにルーズベルト・ボーイズとは「ルーズベルトに尻尾を振って出世した者」という意味(蔑称)で、1939年に少将だったにもかかわらず、ルーズベルトの一任で一気に(大した功績もないのに)大将となり第15代陸軍参謀総長に指名されたのがマーシャルだ。
そして、米陸軍きっての反日親中、ルーズベルトに可愛がられた理由もそこに繋がるのだろう。
第二次世界大戦では、終戦間際にマッカーサーやチェスター・ニミッツとは異なり、マーシャルは日本本土侵攻やソ連邦参戦の必要性を唱えた。
史実では戦中だけでなく戦後もやらかしており退役して国務長官になったおり、中華内戦でアメリカ議会が決定した国民党への支援を遅延させるなど、共産党を利するような行動を取り続けた。
つまり頭のてっぺんからつま先まで真っ赤な米国赤色汚染の申し子。ある意味、ルーズベルトの思想的後継者だ。
そもそも米国で「国務省内部に共産主義者が巣喰っている」という共和党のジョセフ・マッカーシーら反共強硬派がマッカーシズム(赤狩り)を起こしたのはマーシャルの赤色行動故だ。
こんな男が参謀総長やってるのだから、そりゃあ米国は「スターリンの命令で欧州にドイツを挟み撃ちにする第二戦線を作る」ような手下になるわけである。
だが、ルーズベルトの肝いりで少将風情からなり上がったマーシャルを嫌う「典型的(古典的)な軍人」も多く、パットンもその一人であり、言うまでもなく反共主義者だ。
だからこそ、史実のパットン急死は常に陰謀説が付きまとう。
ちなみにこの時代の陸軍長官は、”ヘンリー・ルイス・スティムソン”。ナチス党政権下のドイツに対する攻撃的な姿勢のために民間人なのに選ばれた陸軍長官でマーシャルと同じくルーズベルト
1200万人の陸軍兵と航空兵の動員と訓練、国家工業生産の30パーセントの物資の購買と戦場への輸送、日系人の強制収容の推進、原子爆弾の製造と使用の決断を管理した真性のクソ野郎だ。
スティムソン自体は反日政治家ではあってもアカではないが、「結果としてナチスを倒してソ連に利する」為に気に入られたようだ。
当然、この世界線でも名前は違うがスティムソンが陸軍長官だ。
ちなみにノックスの史実よりも早期引退で成り上がった海軍長官キングもロクデナシだ。
こんな好き勝手な人事をやれば、そりゃあ真面目な軍人さんには好かれないだろう。
「長官がアレでも軍上層部の全員がそうではない。つまり、別にジブラルタルなんか血を流してでも欲しいと思う人間ばかりじゃないのさ」
「実際に血を流すのは、後方で革張りの椅子にふんぞり返ってる民間人長官ではないからな」
転生者だらけの日本とドイツと英国が下手を打たないせいもあるが、このような赤色とそのシンパの俗物が足搔いても、中々米国は全面戦時体制には至らないでいた。
実際、日系アメリカ人というのは今生ではほとんどいないが、それが省かれた”スティムソン発言”は、今のところ「戦争と経済を知らない素人民間人の戯言」と猛反発を食らっている。
健全な労働力を戦時でもないのに1000万人以上も軍隊に動員するなんて、冗談ではないというのがアメリカ保守層の総意だ。
だからこそ、ルーズベルトは焦っていた。
「大統領がこのプランを飲んだ理由は?」
ふと疑問に思いパットンが尋ねると、
「想像だがね。私のプランを参謀総長やら陸軍長官やらに上申するとき、意を汲んで『ド・ゴールが暴発すれば、ジブラルタルを奪取できる口実ができる』というニュアンスを含ませた文章を作成した者がいるんだろうさ」
「実際そうなれば困りものだが……
「実際、ハルゼー辺りは動く、いや”
「だったら……!」
「心配いらんさ。ハルゼーの頭の出来は、マッカーサーといい勝負だ」
アイゼンハワーは
「ジブラルタルを任される司令官の椅子に、アレより間抜けが座っているのは想像がつかん」
「……ところで大将」
「ん?」
「日本人は考慮しなくていいのか? 少なく見積もっても完全編成の1個増強機甲師団規模はいるという話だが」
ちなみに皇国陸軍の基準だと、増強は単純に編成されてる部隊が定数より多く人数が多いという意味ではあるが、一般には火力増強師団という意味も含まれている。
最大編成だと3万人規模となるようだ。
「強い弱いや兵力の問題じゃない。盲目的かと言うとその限りじゃないが、日本人は自分が裏切られない限り原則として英国人を裏切らん。そもそもそういう思考回路が欠落しているのさ。だからこそ、あそこまで律儀に日英同盟を続けられる」
「羨ましい話だな」
「まったくだ」
という訳で、しっかりフレンチ野郎をやりこめるアイゼンハワーでしたw
史実の唯我独尊っぷりを考えると、ド・ゴールは絶対に真意に気づかない安心感があるという。
そして、新旧王都を”支配”するというステータスで、絶対に何か後々やらかすだろうなぁ~という無駄に確信もw
そして、国家上層部の”膿”も実はしっかり観察していて、その意図を探ってるアイクさんですw
上がこれだと、本当に実直な軍人は苦労するよな~と。
同じ陸軍同士というのもあるのでしょうが、パットンが意外と良いポジションに……
まあ、パットンは頑固で「軍人であり過ぎる」ところがありますが、それでも職務に忠実ですからね。
さて、モロッコは少しずつ緊迫の度合いを増してゆきそうですが……
次回もどうかよろしくお願いします。