転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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さて、ソ連軍はいよいよ赤衛国際革命旅団に”切り札”を使う(使ってる?)ようですよ。
サブタイは、謎かけのようなそうではなくストレートなような?






第342話 マルクス曰く「宗教は麻薬である」との事だが、実際に麻薬を使うのとは天と地ほども意味が違う。そう”深紅の法衣(カーディナル)”の男は言いたいのかもしれない

 

 

 

 ソ連空軍は、モスクワやスターリングラードなどの防空戦力を除けば、一時的な枯渇状態になっていた。

 そして、それを見逃す謂れは少なくともドイツ空軍にはなかった。

 

 サンクトペテルブルグがまだレニングラードだった時代に攻略戦で活躍した四発戦略爆撃機のHe177B”グライフ”、そのエンジンをBMW801系統に載せ替えて各部を強化改設計し、爆弾搭載量最大6t、最大航続距離6000㎞ほどに強化した正常進化型の”He277”戦略爆撃機が投入され、航空戦力が瘦せ細った対ノブゴロド攻略航空隊基地を片っ端から報復爆撃して回った。

 

 まあ、この手の機体は航空阻止攻撃や近接航空支援には向かない機体なので投入された……という側面もある。

 「(軍高官としては)無能な働き者」なウーデッドが元気な史実のドイツじゃあるまいし、「戦略爆撃機に急降下爆撃機能を付ける」なんて真似はしてないので、まだ空軍総司令官になる前のヴェーファーが提唱した『ウラル爆撃機計画』に端を発する機体の末裔らしく、こういう「普通の爆撃任務」にこそ真価を発揮した。

 

 いや、滑走路に対コンクリート用の成形炸薬の集束爆弾、弾薬庫や燃料タンクに貫通してから爆発する半徹甲爆弾、最後の仕上げに残骸だらけになった基地のなれの果てに集束焼夷弾で念入りにロースト……というのがルーチンワークだが、一応は通常爆撃の範疇だろう。

 

 つまり、脚の短い……航続距離の無いソ連機のノブゴロド攻略参加は事実上不可能となり、脚の長い機体も損失と喪失が激しく最早まともに編隊として飛ばせる状態に無かった。

 そして、頼みの綱である長射程の重砲隊は、ドイツ側の圧倒的航空優勢の前にノブゴロドを射程に収める前に物理的に瓦解した。

 

 

 さて、航空戦力は壊滅し火力の柱は失った。

 それでもソ連は、”スチームローラー作戦(Операция «Паровой каток»)”の中止命令を出さなかった。

 何しろ、まだ純粋な地上兵力がどんなに少なく見積もっても220万人以上は確実に健在なのだ。

 つまり、まだ”80万人しか(・・)死んでない”のだ。

 しかも重砲隊や一部装甲車両団を除けば、被害は正規軍じゃなく”赤衛国際革命(がいこくじん)旅団(Красная гвардия Интернациональной революционной бригады)”に集中している。

 70万人弱だった赤軍正規兵が50万人強になった程度(20万人も死んでない)では撤退する理由にはならない。

 これまでの航空攻撃で発生した赤衛国際革命旅団の50万人の損害など、大した問題ではない。

 まだ170万も”ノブゴロドを消耗させるストック”があるのだ。

 

 しかも赤衛国際革命旅団の面々は、喪った戦友の銃を拾い報復の為に戦意旺盛……ということになっている。

 また、”疲労(・・)ポン(・・)ととれる戦闘強化薬”が配布されている。

 厳密に言えば普段から、”メタンフェタミン(・・・・・・・・)”を主成分とする疲労回復薬は常用するよう配布されていたのだ。

 確かに今のソ連には赤衛国際革命旅団全員に行き渡る潤沢な武装は無い。食料もお世辞にも十分とは言えない。

 しかし、『疲労を感じさせなくさせ、つらい現実を考えられないようにするお薬』の製造設備と在庫は十分にあった。

 なのでそれらの”薬”は、赤衛国際革命旅団の面々が常用するのに十分な供給が確保されていた。

 これも「食料が無ければ空腹を忘れさせる”代用品”」を用意する、『ソ連式福利厚生』の一環だ。

 特に突撃直前に服用するよう厳命されている突撃支援薬(・・・・・)は、常備薬のそれと比べて一際強力だ。

 きっと恐怖を忘れて突撃してくれる事だろう。

 

 もっとも”メタンフェタミン”の負の効能、依存性などの麻薬としての作用や危険性はこの時点では世界的には知られておらず、一般的には『副作用のない眠気を飛ばす疲労回復薬』という認識だったようだ。

 これは、乱用開始から依存に至るまでの期間は、約30ヶ月と他の麻薬に比べても中毒になるまでのタイムスパンが長いせいもあったらしい。

 事実、メタンフェタミンのみならずその原型と言えるアンフェタミン系の「ベンゼドリン」は世界中で疲労回復薬として世界中でヒット商品となっていたし、ドイツでもメタンフェタミン系薬剤「ぺルビチン」が一般労働者のみならずダイエット目的の主婦層にまで広まっていたらしい。

 何しろ、「メタンフェタミン入りプラリネ」なんて菓子類が販売されていたくらいだ。

 ちなみに当時の日本では、疲労倦怠感を除き眠気を飛ばすという目的の「除倦覺醒劑」、栄養ドリンクじみた強壮剤の一種という扱いだったようだ。

 

 史実のドイツ軍も戦時中はメタンフェタミン系薬剤「ぺルビチン」を大量供給(特に空軍)していたし、アメリカでも航空機や潜水艦の搭乗員を中心に士気向上や疲労回復の目的で用いられ、米陸軍刑務所では従業員と受刑者約1000人のうち約25%が乱用したなんて記録が残っているので、人の事は言えない。

 

 今生のドイツも全く「ぺルビチン」を使用していないとは言わない。だが、「明らかな作業の効率や判断力・思考力の低下」という副作用が報告されているので、管理や処方や使用は著しく厳格化されていた。

 特に指揮官クラス以上の判断力低下は、戦場では致命的だという判断が一般的だった。

 このあたりのアンフェタミン、メタンフェタミンなどの”覚醒剤”に対する認識は、転生者が多い日独で見識が一致していた。

 

 だが、ソ連では「判断力・思考力の低下」はむしろメリットと考えられたようだ。

 『消耗品に考える頭はいらない。動く手足があればそれでよい』という考え方だ。

 度重なる執拗な航空攻撃、特に対人・対軽装甲に特化した攻撃兵装で赤衛国際革命旅団は50万人ほど数を減らしたが、そもそもこれだけの数を今更撤退させることは難儀だし、仮に撤退させたとしても「次の作戦まで養う余力」は今のソ連にはない。

 

 それにこれだけ数の”雑兵”、士気を保ちながら(あるいは士気崩壊させずに)統制するには”薬物によるコントロール”が一番手っ取り早かったのも確かだ。

 

 つまり、200万人を超える軍勢でノブゴロドを蹂躙する以外にソ連の選択肢はなかったのだ。

 もっと言えば残る220万人のうち赤衛国際革命旅団170万でノブゴロドの防衛戦力を疲弊させ、50万の正規軍で占領できればソ連としては十分に勝利となる。

 その結果、赤衛国際革命旅団が全て摺り潰されても問題はない。そもそもそのための戦力だ。

 

 そしてソ連はそれが十分可能だと見積もっていた。

 確かにドイツの航空兵力は予想以上に強力で、予想以上に……2000機以上のソ連機を失ってしまったが、それでもドイツ空軍の全力攻撃で”たった”80万人しか殺しきれてないのだ。

 

 それならば……もうノブゴロドが目と鼻の先にある現状で220万人もの兵力が残っているのなら、十分に攻略可能だとスターリンもベリヤも考えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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 そして歴史上、稀に見る”最悪の地上戦”が始まった。

 この第18章のタイトルは”オマージュ・オブ・クルスク 1943”だが……実際には、数量的な意味でのオマージュにしかなっていなかった。

 

 質があまりに伴っていなかった。

 その質的低下こそが、史実と比べて大き過ぎるソ連の劣勢を物語っていた。

 

 しかし、それだけではこの戦いの決定打にはならない。

 それは、”この男”もよくわかっていた。

 

 

【挿絵表示】

「それでは、私も大公(わたし)の仕事をしようじゃないか」

 

 サンクトペテルブルグ大公ニンゼブラウ・フォン・クルスは、サンクトペテルブルグ市民軍(ミリシャ)バルト三国義勇兵団(リガ・ミリティア)の頂点に君臨する者ではあるが、それは実務的な指揮権としての権力より権威としての側面が強く、また本人も「大公領としての大戦略とその方針」はともかく、戦場での指揮はプロフェッショナルな軍人に任せるべきだと考えていた。

 機能分与とはそういう物であり、プロの仕事にアマチュアが口を出してもロクなことにならないのは、前世でも今生でも体感として理解していた。

 

 故に直接、クルスが戦場単位に口を出すことは稀だ。

 そして、”自分の役割”を理解しているからこそ、深紅の法衣(カーディナル)をその身に纏うのだ。

 

 ”深紅の法衣”の意味を間違う者はいないだろう。

 ”カーディナル”とは色の事でもあるが、それは枢機卿(カーディナル)の着る法衣の色から来ているとされる。

 カーディナルの語源は、ラテン語の”蝶番(Cardo)”。『枢機卿とは蝶番のように重要なもの』という意味らしい。

 そして、”血の色”でもあるカーディナル・レッドは『信仰のためならいつでもすすんで命を捧げるという枢機卿の決意を表す色』だという。

 

 無論、クルスにそんな思いはない。

 少なくとも彼にとって信仰とは、『人間が生きていく上に便宜上必要な物』と解釈している。

 つまり、信仰自体に命をかけることは決してない。

 何故ならクルスにとり、『人が居て、信仰がある』からだ。

 つまり、順序の問題なのだ。

 故に生命より信仰が優先される事は無い。

 

 つまり、彼はどこまでも宗教家ではなく為政者なのだ。

 

 だからこそ、”深紅の法衣(カーディナル)”を纏う意味も自覚していた。

 本来、正教に”枢機卿(カーディナル)”という地位も役職もない。

 だが、望まれたからこそ新たに正教に、いや……

 

 ”サンクトペテルブルグ正教に枢機卿猊下(・・・・・)は生まれた”

 

 少し言葉遊びをしよう。

 叶えるべき願いや望みがなければ、神と人は関係を築けない。

 人は叶えたい望みや願いがあるから、人智を超えた存在……神に祈る。

 願いや望みが無ければ、人は神を必要としない。

 

 だから、クルスは謁見の間に……聖ゲオロギーの間に立つ。

 深紅の法衣と共に、一人の為政者として”民に望まれるままの姿”を演じるきる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クルスさん、アンタ本当に大馬鹿だ。底抜けの阿呆だよ」

 

 何をやろうとしてるか理解した小野寺は半ば同情するように嘆くような表情をし、

 

「それが殿下にして閣下にして猊下の良いところでしょう?」

 

 シェレンベルクは実に満足そうに微笑んだ。

 

「オノデラ卿、時代は進むよ。間違いなく」

 

「それがドイツの……総統閣下のお望みで?」

 

「きっと総統閣下もこの光景を見たかったろうね」

 

 そう満面の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




別にソ連がメタンフェタミンやアンフェタミンを使うのは、当時の情勢や薬学知識を考えれば不思議じゃないですし、現実のウクライナでも何やら似たような報告がチラホラと……

史実のベトナム戦争では、アメリカ帰還兵の麻薬汚染が社会問題化しましたが、果たして誰がベトナムにそこまで大量の麻薬を持ち込んだんでしょうね~。
黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)”と検索すると、とっても興味深いおとぎ話が読めますw

だけどそんなものを根底から吹き飛ばすような、”深紅の法衣(カーディナル)”を纏った大公殿下の姿が……

無論、クルスは「深紅の衣」を纏う意味はわかってますよ? 多分。
ただ、その影響力と破壊力を理解してないだけでw
まあ、メタンフェタミンやアンフェタミンとクルスを同じ話で並べたのは、暗喩でもあり皮肉でもあるのですが。

まあ、ある意味において「本質的には近似」でしょ?
さて、次回は深紅の衣まで着込んでクルスは一体何を語ってくれることやらw

次回もどうかよろしくお願いいたします。


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