転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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今回は、割と物騒なサブタイですが、再び政治パートとなります。
そして、大きな歴史の分岐点がありそうな気配が……






第66話 重なった転生者の足跡に、大西洋憲章は踏み潰される

 

 

 

 1941年7月4日、この日、アメリカ合衆国では盛大に独立記念日が祝われていたが、生憎と本日の舞台はそこではない。

 

既に何度か登場している英国はロンドン、ダウニング街……

 

「これは一体どういうことですかな?」

 

 英国首相執務室に押しかけていたのは、なんとコープ・ハル国務長官だった。

 これをホームグラウンドで迎え撃つのは、史実より何か肝っ玉がさらに据わってる気がする英国首相”ウェリントン・チャーチル”と、日本皇国全権大使……欧州における日本皇国の政治的外交的親玉である”吉田滋”であった。

 要するに日英政治外交古狸コンビだ。

 

「何の話かね?」

 

 まずとぼけてみせるのはチャーチルであった。

 

「なぜ、我が国(アメリカ)に何の断りもなくドイツとの停戦に応じたと聞いているのですっ!!」

 

 するとチャーチルと吉田は呆れた顔を向け、同時にため息をついた。

 

「まず、根本的なことを言おう。君の国(アメリカ)には”中立法”があり、我が国(イギリス)とは同盟関係も何もなかった筈だが?」

 

 チャーチルはジロリとハルを見て、

 

「なぜ、我が国の外交判断に一々貴国の判断を仰がねばならん?」

 

 ド直球だった。

 

「しかし、我々はこの世界の平和を乱すものを打ち倒す義務があるはずですっ!!」

 

「誰のために? 何のために?」

 

「共産主義者の為に、ソ連を救うためにでしょうな」

 

 そう割り込んだのは吉田だった。

 

「米国は中立法と矛盾する法律、”レンドリース法”を今年の3月に可決させていますし。おそらくですが、その最初の対象国はソ連になるのでは?」

 

 

 

***

 

 

 

 さて、ここで”中立法”と”レンドリース法”について少しまとめておこう。

 

 中立法の概要は、

 『大統領が戦争状態にある国が存在していること、または内乱状態にある国が存在していることを宣言した場合には、その国に対して武器や軍需物資の輸出を禁じる』

 

 レンドリース法は、

 『その国の防衛が合衆国の防衛にとって重要であると大統領が考えるような国に対して、あらゆる軍需物資を、売却し、譲渡し、交換し、貸与し、賃貸し、あるいは処分する』

 

 中立法が制定されたのは1935年、レンドリース法は41年、どっちも時の大統領はルーズベルトだ。

 強いて史実とこの世界線との違いを上げるなら、史実はフランクリン・ルーズベルトで今生ではフランシス・ルーズベルトであることぐらいだ。

 どっちのルーズベルトも、ものの見事なダブスタクソオヤジっぷりである。

 

 ちなみに中立法は「米国の孤立主義」ととられることもあるが、もう一つの側面がある。

 例えば、当時の中立法反対派でありルーズベルトの政敵であった共和党議員ハミルトン・フィッシュ3世の言葉を借りるなら、

 

『中立法では大統領が勝手に敵国を認定し、大統領の判断だけで貿易を制限したり、禁輸するようなことは大統領の権限を上回る行為であり、戦争を起こす危険がある。これは議会の宣戦布告の権限を形骸化するものだ』

 

 実際、中立法は恣意的に運用され、史実で日本を追い詰めた対日禁輸措置にABCD包囲網やハルノートは、実は中立法が土台になっているのだ。

 

 

 

「なにを根拠に?」

 

 内心の動揺を出さないハルの胆力は大したものだが、

 

「レンドリース法の主導的立場にある”ハリソン・ホプキンス”元商務長官は、最近は随分と頻繫にそれも”非公式な大統領特使”としてソ連側の人間と接触してるようですな? ああ、そうそう。同じくレンドリース法の後援者であるヘネシー・モーゲンソー財務長官は『日本人の家屋は紙と木でできるので焼夷弾で簡単に焼き払える』と発言し、その手下の財務次官補のハドソン・ホワイトはソ連のスパイですな。そう言えばローニン・カーリー大統領補佐官もソ連のスパイでしたな? 他にもまだまだありますよ? 大統領の奥方はスパイではないが共産主義のシンパ。大統領自身も『スターリンは共産主義者ではなく、ただロシアの愛国者であるだけだ』と語ったとかなんとか」

 

 ホワイトとカーリーがソ連のスパイだったことは、史実のベノナ文書にもしっかり記載されている。

 

「現米国政権には300人ものソ連への協力者が入り込んでいるのは事実ですよ。いつからと聞くのも愚問なほど昔から、米国はソ連の傀儡国家なようですのでね」

 

 吉田はフフンと鼻で笑いながら紫煙を吐き出し、

 

「なぜ、そのようなアカに汚染され自浄作用も満足にない国にお伺いを立てなければならぬのか、皆目見当もつきませんな」

 

 

 

「き、貴殿は我が国を愚弄するかっ!?」

 

 ついに感情制御を失った(演技かもしれないが)ハルに吉田は冷ややかな視線を向け、

 

「愚弄してるのはどっちかな? あなたの国の大統領は、確か非公式の場でこう発言してましたな? 『日本人は頭蓋骨の発達が白人より2000年遅れているから凶悪なのだ』と」

 

 するとチャーチルは愉快そうな顔をして、援護射撃を開始する。

 

「そういえば我が国いる駐英公使と興味深いやり取りをしたようだね? 確か『インド-アジア系、あるいはユーラシア系、さらにいえばヨーロッパ-インド-アジア系人種なるものを作り出し、それによって立派な文明と極東”社会”を生み出していく。ただし日本人は除外し、元の島々に隔離してしだいに衰えさせる』だったかね? どの口がナチスの人種主義(レイシズム)を語る?」

 

 非常に残念だが……史実のルーズベルトも吉田とチャーチルが語ったような発言をしていたらしい。

 

「そ、それは……」

 

「ハル長官、我々は1921年のワシントン会議で、米国主導で”四カ国条約”が提案され、日英同盟を破棄させようとした行為を忘れたとお思いで? あるいは、米国が今でも対日戦争プランが更新され続け、新たな日本孤立化計画を策定中であることを知らないとでも? そういえば、米国陸軍航空隊が”日本を攻撃するための大型爆撃機”を発注したとかなんとか」

 

 もし、これらの陰謀あるいは策謀が成功していたら、この世界線でも”マッカラム覚書”が誕生しただろう。

 

「なっ……!?」

 

「なぜそれを?とは聞かないでくれたまえ。我々とて日々、酒と葉巻を楽しんでるだけではないのでね」

 

 

 

***

 

 

 

「そ、そのような態度をとってよいのですかな? レンドリースには英国に対する多額の援助も含まれているのですよ?」

 

 ちなみに日本皇国はレンドリースの対象に最初から入ってないあたり、米国の真意が見え隠れしていた。

 焦りを可能な限り隠すように努力しながら発言するハルに、チャーチルは実につまらなそうな顔で、

 

「いらんよ。英国はそんな物を頼んだ覚えはない」

 

 代々の”転生者(サクセサー)”が少しずつ変えてきた歴史、積み重ねてきた小さな変化が、英国にこの発言をさせたのだ。

 どこぞの番組ではないが……この時、確かに”歴史は動いた(・・・・・・)”。

 

「レンドリースを餌に英国を踏み台にでもする気かね? 残念だが、我々は米国に縋らねばならんほど困っとらんよ。ドイツとの停戦が成立した以上、無駄な戦費を抑えられるだろうしな」

 

「……ヒトラーを信用するので?」

 

 だが、チャーチルは葉巻を吹かしながら、

 

「いや、まったく。だが、武器やら援助やらと引き換えに貴国の指図されるまま、延々とロシア人を救うためにドイツ人と戦い続けるよりは被害・損失は少ないだろうな」

 

 そして嫌味ったらしい笑みで、

 

「君の大統領が炉辺談話(ラジオ)で吹聴していた『民主主義の兵器廠(プロパガンダ)』がしたければ、直接共産主義国家(ソヴィエト)やら君の大統領が病的なほど愛情を注いでいる中国にでもしたまえ。邪魔はせんよ。協力もせんがね(・・・・・・・)

 

 ちなみにルーズベルトが反日政治家であると同時に、大の中国シンパである事は残念ながら歴史的事実だ。

 一説によれば、彼の母親の実家が中国との交易で膨大な利益を出していたのも理由であるらしい。

 言い方を変えれば、”アメリカの親中派(チャイナハンズ)”の親玉が大統領なのだ。これで日米で戦争が起きない方がどうかしている。

 

「だが、我々には既に貴国(イギリス)への戦費貸付があるっ!!」

 

 ここまでくると恫喝外交じみてくるが、そんなものに動じるようでは英国首相は務まらない。

 

「それは返済するさ。”返済計画通り”にな。約束は守る。それが紳士というものではないのかね?」

 

 無論、英国の多重舌をよく知ってる吉田は「よくもまあいけしゃあしゃあと、どの口で言うか」と目線で告げているが、チャーチルは勿論気づいているが気にしてはいない。

 まあ、チャーチルの発言は『どうせ”参戦しないなら一括で返せ”というつもりなのだろうが、そんなものに応じてやる義理は無い』と暗に言ってるのであるが。

 

「ところでフランス……英連邦カナダのケベック州にも自由フランスを名乗る亡命政府があるが、そこにもそれ(・・)は請求しているのかね?」

 

「ッ!! 本当によろしいので? 今回の発言は、そのまま大統領に伝えますが?」

 

「構わんよ。好きにしたまえ」

 

 そしてニヤリと笑い、

 

「そんなにソ連を助けたければ、米国自らがパトロンではなく”この戦争のプレイヤー”になりたまえ。それが国家としての正しい姿というものだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてこの世界線の”大西洋憲章”は幻に消えた。

 そもそも、「第1回連合国会議」がこの時点でセント・ジェームズ宮殿で開催されていない時点で当然の成り行きだったのかもしれない。

 

 

 この後、帰国したハルはアメリカ人らしく「相手の欠点ばかりをあげつらう報告」をし、それがどこまで影響したのかは不明だが、米国はレンドリース対象国のリストから英国を外した。

 

 そして、世界はより混迷した方向へと動き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、米英が手を取り合う事は、この世界線ではありません。

同じく(少なくとも建前上は)ドイツと敵対しながら、やはり価値観(スタンス)が違いすぎました。

英国の米国に対する考えは、「敵対はしてないが、いつ寝首を掻いてくるかわからない、上昇志向の強い油断ならない国家」って感じでしょうか?

日本皇国は、「赤色勢力に汚染され、自ら除染もできない大国だが信用の欠片もない、強欲拝金主義国家」です。一般市民の感覚では。

なんか、歴代転生者達の努力の跡がw


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