攻殻機動隊 -北端の亡霊-   作:変わり種

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第10話

「こちらは新型の近距離防空システムになります。レーダーで捕捉した敵機並びにミサイルをこの発振器より照射される出力100kWの高エネルギーレーザーにて迎撃、即座に破壊可能です」

 

会場内では早くもセレモニーの開始を待たずに、宣伝を始めるブースが出始めていた。通り掛かった少佐の目の前では、この見本市の目玉ともいえる米帝軍需企業が開発した新型防空システムが展示されている。車体は典型的な多脚式で、細長い4本の脚の先には鋭いカギ爪が付いている。山中など不整地での対空陣地構築にはもってこいだろう。

 

会場奥を見れば大型スクリーンにロゴが投影され、スタッフが慌ただしくスタンドマイクなどのセッティングを行っていた。その脇では背広姿のいかにもお偉方風の人間たちが、挨拶を繰り返しながらお決まりの社交辞令を交わしている。

 

《バトー、配置にはついた?》

 

《ああ、バッチリだ。年寄りどもの顔が良く見えるぜ》

 

彼にはよりステージに近いところで警戒に当たらせていた。何かが起こったとき、最も駆け付けやすくするためだ。一方の自分は、セレモニー会場の後方から全体を眺めていた。怪しい動きをする者を見つけ次第、関係者を装いつつ近づき、バトーと連携して身柄を押さえるのだ。

 

「大変お待たせいたしました。これよりオープニングセレモニーを行います。ご来場の皆様には大変恐縮ではございますが、セレモニー会場にお集まりくださいますようお願い申し上げます」

 

落ち着いた男の声のアナウンスが流れる。すると、雑談に興じたり展示ブースを視察していた関係者たちが一斉にセレモニーが行われるステージの方へと歩き出した。軍関係者が多いためか、彼女の前を通り過ぎる男たちは例外なく軍服姿で、屈強な体つきをしている。

 

その中から少佐は懸命に挙動不審な人物がいないか目を光らせていた。それだけではない、会場内の監視カメラと警備用のドローンからも映像を受信し、自らの電脳内で展開して監視を続ける。写っている人間の数は100をゆうに超えるが、AIを使えば挙動が怪しいかどうかの判別はすぐにできる。少佐にとってはそのような作業など朝飯前のことだった。

 

今のところ、特に怪しい人影は見受けられない。そうしている間に、来場者たちが集まり終わってセレモニーが始まる。長々しい挨拶をしているのは主催者の代表である、武田春義という男だった。ほとんど禿げ上がった頭はスポットライトの眩い光に照らされている。彼は外務省の幹部OBで、見本市の開催を主導した一人だった。

 

表向きでは戦災により壊滅した関東圏の振興のためだが、経済効果にあやかれるのは彼と結びついている企業くらいだろう。彼は退職後、典型的な天下りで外交政策研究所といったシンクタンクの顧問を務めたのち、国際通商振興協会の参与に就いたものの、良くも悪くもその並外れた手腕で数々の開発事業やイベントを誘致してきたという。もっとも、その裏では数々の企業との癒着も取り沙汰されているが。

 

少佐はそんな男の挨拶を黙って聞き流していた。幼い頃のこの辺りの思い出話をしたかと思えば、東京の悲劇について語り出すなど、よくもまあこれほどの長い挨拶を考えるものだ。そのうち来場者の大半も飽き始めたところで、ようやく挨拶が終わり、武田は自分の席に戻った。

 

その時、少佐の目にあるものが映る。

 

大勢の来場者たちに紛れ、スーツ姿でセレモニー会場に立っている一人の男。どこか見覚えがあるその男は、演壇に目を向けて引き続き行われる役員の挨拶を聞いていた。いや、そうではない。聞いているのを装っているだけで、その注意は全く別の者に向けられているようだ。そこで、ようやく少佐はその男のことを思い出す。

 

(外事の連中か)

 

彼は9課に来ていた外事のエビナという男だった。勘付かれない程度にさりげなくその近くを見回すと、もう1人の骸骨っぽい顔のヨシダも見える。彼らが来ているということは、その近くにロシア側の工作員もいるのだろう。

 

《バトー、気づいた?》

 

《ああ、ちょうど今な。役者が揃ってきやがった…》

 

バトーは面倒臭そうに溜め息をつきながらそう答えた。しかし、予想とは裏腹に何かが起こるという気配は何もない。セレモニーも順調に進行し、やがて司会者が再びマイクの前に立つと、閉会を宣言する。

 

「それではオープニングセレモニーを終わります。皆さま、どうぞ最後までお楽しみ下さい」

 

結局、何も起こらないのだろうか。だとすれば、犯行のタイミングはいつなのか。今日の午後には新型無人機のデモ飛行が行われ、明日以降も防空システムの実演や車両の展示走行が行われる。狙われる可能性も十分にあるが、それでもセレモニーよりは参加者は少なく、効果的な目標であるとはいえない。だとすれば、いつだ。

 

来場者は再び互いに雑談に興じつつ、ステージから離れて展示ブースの方へと向かっていく。時折笑い声が聞こえる中、少佐は何度も周囲を見回す。異状はない。本当に何も起こらないのか。

 

その時だった。

 

《少佐っ!》

 

バトーが叫んだ。同時に聞こえる破裂音。ステージ後方から煙が上がり、白い軌跡を残しながら放物線を描く光が、演台を飛び越えて来場者が集まっていたステージの目の前に突っ込む。その数は5つ。瞬時に身をかがめるものの爆発は起こらず、弾は床をバウンドすると灰色がかった濃い煙を猛烈な勢いで噴き出した。

 

スモークグレネードだ。

 

驚いた来場者たちが一気に後ろのブースの方へと殺到する。催涙ガスも含まれているのか、逃げる来場者はみな酷く咳込んでいる。煙は瞬く間に広がり、ステージ前はほとんど見えなくなった。迫りくる白い壁に追い立てられるがまま、出入り口へと殺到する来場者たち。だが、逃げ惑う彼らが向かう先には4人の警備員が立っていた。

 

ゲート付近で警備に当たっていたはずの重装備の警備要員だ。なぜ彼らが持ち場を離れてここにいるのか。それは分からないが、彼らは躊躇うことなくSMGの銃口を来場者たちに向ける。目の前のあまりの出来事に、逃げ惑っていた来場者たちは凍り付いた。

 

間もなく、SMGのトリガーに指が掛けられる。

 

それを見た少佐は、考えるよりも先に体が動いていた。

 

抜き出したセブロM5を連射し、警備員の1人に浴びせる。貫通力の高い高速徹甲弾は警備員の義体化された脚の骨格を粉々に砕き、足元から崩れるように倒れさせた。それを見た来場者たちは悲鳴を上げ、左右へ散り散りになって逃げ出す。

 

警備員側は障害の排除を優先したのか、来場者に向けていた銃口を少佐に向け直した。彼女はその場の机を押し倒すと、後ろへと身を隠す。間もなく乾いた連続音が轟き、無数の9mm弾が襲い掛かった。金属製のテーブルだったが発射速度の速いサブマシンガンの攻撃に大きくへこみ、早くも弾が貫通し始める。

 

このままでは自分まで蜂の巣にされてしまう。少佐は一気に体を起こすと、大きく踏み切って跳躍した。その高さ、10メートルあまり。驚異的なその動きに射手は追いきれず、弾幕に隙ができる。

 

それを見逃さなかった少佐は、空中からバースト射撃でもう1人の警備員の脚を折り砕くと、瞬時に肉薄して別の1人を蹴り飛ばし、ブースのパーテーションに激突させる。最後に残された1人が少佐に銃口を突きつけたが、その頃にはバトーも到着していた。背後から電脳錠を刺された警備員は、体を硬直させたまま床に倒れる。

 

《こいつら、いったいどうしちまったんだ?》

 

《ウイルスかもしれないわね。今から潜るから、周りの警戒宜しく》

 

《おい!》

 

戸惑うバトーにそう言った少佐は、言い返す暇も与えず身代わり防壁を通して警備員の電脳にアクセスする。

 

見えてきたのは激しく損傷した記憶野。それだけではない、言語、視覚、運動など、あらゆる領域が障害を受けていた。この様子は以前、異常行動を起こした機長の電脳を解析したときと似ている。まるで貪り食われたかのような損傷。これは、明らかにウイルスに起因するものだろう。

 

さらに深部へと潜る少佐。機圧が徐々に高まり、全身が締め付けられるような痛みに襲われる。ウイルス感染による影響もあるだろう。痛みをこらえながら進むと、ゴーストラインが見えてきた。周りを取り巻く記憶がどんどん弾けて萎んでいく。どうやら、ウイルスはいまこの瞬間も脳を貪り食っているようだ。

 

まずはそれを止めなければ。少佐は防壁アレイを展開する。食い尽くされた記憶がもはや意味のない断片化した情報と化し、辺りに漂う。例えは悪いかもしれないが、水中を漂う肉片のようだった。

 

(そこか!)

 

少佐は急速に形を変える記憶の塊を見つけるや、周囲の記憶ごと防壁で包囲した。記憶は徐々に食い尽くされ、萎んでいく。そして、間もなく完全に消失しようとしていたとき、内部から表面を食い破って黒い塊が出てきた。

 

赤い目を2つ持ち、線虫のようにうごめきながら記憶に食らいついていく謎の物体。これこそがウイルスの実体なのか。少佐は冷静に相手の動きを観察する。信じられないが、動きは生物のそれとまるで違わない。好物でも食べるかのように記憶を貪り食う真っ黒い怪物。間違いない、これがウイルスの本体だ。

 

少佐は防壁を強め、一気にウイルスを押し固める。最初は暴れ狂っていた黒い線虫も、少佐の力には及ばず、やがて丸まって黒い塊となった。これで動き出すことはないだろう。あとはこれを本部で解析すれば、ワクチンに近いものがつくれるはずだ。

 

意識を徐々に浮上させた少佐は、警備員の電脳から落ちる。

 

「少佐、どうだった?」

 

「ウイルスを押さえたわ。あとはこれを解析すれば、いけるわね」

 

真っ先にそう訊いてきたバトーに、少佐はそう答えた。周りでは来場者たちが駆け付けてきた他の警備員に先導され、建物の外へと避難している。

 

だが、少佐には一つ引っ掛かるものがあった。どこから、この4人がウイルスに感染したのかということだ。今日が初日だということも考えると、それ以前にこの4人に接触してウイルスを仕掛けるのは難しいだろう。すなわち、4人が行動をともにしている間に狙われたとしか思えなかった。

 

そしてそれは、この見本市の期間中に他ならない。

ふと、会場入りしたときのことが頭に浮かんだ。あの時、バトーとの交信に入っていた微妙なノイズ。それが分割送信されたウイルスだとしたら、全てが説明できる。

 

《本部!県警に連絡して会場を封鎖。タチコマ、会場から逃げる怪しい者がいないか監視しろ。課長には後から連絡するわ》

 

《了解》

 

瞬時に指示を出す少佐。そこへ、バトーが訊いてくる。

 

「現場封鎖して意味あるのか?最初から場外から送信してきているかもしれないぜ」

 

「それは考えにくいわ。警備員の交信に使っていたのは会場だけのローカルネットよ。その内に外部と通信するような端末を設置したら、余程の馬鹿でもなければ見落としたりはしないわ。少なくとも私達がここに来てから、そんな異状はなかったし」

 

「つまり、犯人の野郎はこの近くにいるってことか」

 

「そうね…」

 

少佐はそう答えた。同時に、あることに気づく。もし、本当に犯人側が会場内のローカルネットを経由してウイルスを撒いていたとしたら…。

 

まずい!

 

思わず振り向いた少佐。大半の来場者が逃げ終えた会場内は静まり返っていたが、控え室の方から背広の一団が出てきた。おそらく、先ほどの騒ぎの中で退避していたのだろう。その中には、先ほど挨拶に立っていた武田氏の姿もある。周りには数人の警備員が張り付き、屋外へ通じる非常口までエスコートしていた。天井近くには耳障りなプロペラ駆動音とともにドローンが飛び、会場内を監視下に収めている。

 

その時、突如として爆音が轟いた。

 

無人のはずの展示車両が突然起動し、エンジンが唸りを上げる。赤松製作所製の装甲機動車だった。ギヤが勝手に操作され、マフラーから白煙を噴き出した機動車は車輪止めを弾き飛ばすと、一直線に武田氏に向かって進み始めた。

 

銃声が響く。警備員たちが懸命に応戦するものの、拳銃弾程度ではエンジンブロックを撃ち抜くには至らない。武田氏の傍にいたボディガードと思しき背広の2人が強引に彼を引きずって物陰に隠れさせる中、運悪く逃げ遅れた警備員数名が機動車にはね飛ばされる。

 

機動車はなおを止まらず、エンジンを唸らせてバックすると、隠れている武田氏に向かって突っ込んでいく。凄絶な衝撃音が轟いて、彼らが身を隠していた展示ブースは無惨にも轢き倒された。パーテーションが折り重なるように倒れ、照明がショートして火花を散らせる。

 

すぐに少佐たちが救援に駆け付けようとするものの、行く手を塞いだのはこともあろうか警備用のドローンだった。モーターから甲高い駆動音を響かせると、ドローンは一気に高度を落として襲い掛かる。搭載されているのは暴徒鎮圧用のテーザーガンだが、電圧は100万ボルト近くと油断できない。メーカーが展示も兼ねて警備に当たらせているだけあって、スペックも自信のあるものなのだろう。

 

放たれた電撃針を横っ飛びして躱した少佐は、セブロから火を噴かせる。急速離脱するドローンだが、少佐の敵ではない。プロペラの一つがモーターごともぎ取られ、続けて放たれたもう1発が胴体を粉々に粉砕する。

 

バトーも負けていない。FNハイパワーを連射してドローンを片っ端から撃ち落とし、早くも警備ドローンは全滅した。目の前ではまだ武田氏側が装甲機動車から逃げ惑っていたが、徐々に追い詰められている。早く向かわなければ、轢き殺されてしまうのは時間の問題だった。

 

「先に行くわ!バトー、援護を!」

 

大きく飛び上がった少佐。そのまま装甲機動車のボンネットの上に着地すると、構わずセブロを車体に向けて連射する。暴れ牛の如く機動車が動き回る中、同一箇所にあり得ないほどの正確さで撃ち込まれる高速徹甲弾の嵐に、さすがの装甲も耐え切れず数発で大穴が穿たれた。

 

彼女は手早くピンを抜きその中に手榴弾を放り込むと、ボンネットを蹴って車から飛び降りる。間もなく炸裂した爆薬で車体からは火柱が上がり、同時に獣のようなエンジンの唸りが一瞬にして断ち切られる。

 

安心もつかの間、再び響き渡るエンジンの唸り。

 

あろうことか着地した彼女のすぐ背後でもう一台の装甲車が動き出し、爆音とともに一気に彼女に突っ込もうとしていたのだ。思わず声を上げるバトーだが、到底この距離では間に合いそうもない。

 

しかし次の瞬間、装甲車が突如として吹き飛び、真っ赤な炎に包まれる。振り返った少佐。そこには、グレネード砲からは微かに白煙を上らせるタチコマの姿があった。

 

「少佐、援護にきました~!」

 

「遅い!武田氏の保護、最優先だ!」

 

「りょうかい!」

 

タチコマが元気よくそう答えた。会場内からは続々と不気味な起動音が響き続ける。少佐とバトーは武田氏側に合流すると、ひとまず非常口を目指した。とにかくこの場を離れることが何より重要だったのだ。

 

一方、タチコマはチェーンガンから火を噴かせて襲い掛かってくる兵器の迎撃に当たっていた。幸い、展示用ということで実弾は装填されておらず、襲ってくる車両群もほぼ軽車両が中心だった。また1つ、向かってきていた4輪バギーをスクラップにしたタチコマは、少佐を追って出口へと向かう。

 

非常口では警備員が先にドアを開け、外の安全を確かめようとしていた。そこへ背広姿のボディガードが拳銃を抜き出し、警備員に代わって開いたドアの微かな隙間から外の様子を窺う。バトーとともに後方を固めていた少佐は、彼が抜き出したその銃を見るや、目を疑った。

 

(セブロM5?一介のボディガードがなぜ?)

 

特徴的なフィンガーレストとスライドの刻印。間違いはなかった。しかし、セブロM5は政府機関にしか出回らない官用モデルのはずだ。それをこの男が持っているという事は、彼も政府機関のいずれかに属しているということになる。

 

「行けるぞ、来い!」

 

安全を確かめた警備員たちの声がドア越しに聞こえた。それを受けてボディガードの先導のもと、武田氏が外へ出ようとする。考えるのは後にするほかない。今は目の前のこと以外に気を配っている余裕はないのだ。襲い掛かってきた警備アンドロイドを撃ち倒した少佐は、弾倉を替えつつ彼らの後に続いていく。

 

「危ない!伏せろッ!」

 

だがその時、鋭い悲鳴が耳に飛び込んできた。

 

とっさに武田氏の腕を掴み、引きずり倒す彼女。

 

同時に周囲に雷でも落ちたかのような凄絶な衝撃音が響き渡った。何と、突如として非常口のドアが壁ごと吹き飛んだのである。ドアはそのまま反対側の壁面に激突して大破し、もうもうと粉塵が舞い上がる。倒された武田氏はかすり傷で済んだものの、巻き込まれた警備員とボディガードは吹き飛んだドアの直撃を受け、瓦礫の下敷きになっていた。

 

起き上がった少佐の目に飛び込んできたのは、凄まじい威圧感のもと仁王立ちし、行く手を塞いでいるアームスーツの姿だった。屋外展示されていた、ドイツ製の軍用強化外骨格だろう。輪郭は一部が直線的で、流線型である海自の303式に比べると無骨な印象がぬぐえないが、カタログスペックは現用のアームスーツの中でもトップクラスだった。

 

「ふざけんな!アームスーツかよ…。少佐!」

 

「分かってる!とにかく中に戻るわよ!」

 

壁に沿って移動を始める少佐。警備要員が全滅した以上、武田氏を守れるのは自分たちしかいなかった。武田氏を背負い込んだバトーはタチコマの支援を受けつつ、少佐の後に続いていく。バトーの背中に必死にしがみ付く彼は、もはや顔も上げることすらできず、完全に震えて縮こまっている。先ほどまでの自信に満ち溢れた態度からは予想もつかない、あまりに滑稽な姿だった。

 

先頭に出たタチコマが、グレネード砲を発射する。向かってきていたイスラエル製の兵站輸送用多脚車両が派手に吹き飛び、続いて掃射されるチェーンガンが立ち塞がる警備用アンドロイドを粉砕した。

 

「どんなもんだい!」

 

得意げにそう叫んだタチコマ。

 

しかし次の瞬間、突如として彼の体が眩い閃光に飲み込まれた。響き渡る一瞬の悲鳴。

 

少佐ですら、何が起こったのか分からなかった。弾き飛んだタチコマは2、3回ほど床を横転すると、壁面に激突してようやく止まる。右側の脚2本が蒸発したかのように消し飛び、胴体のFRP装甲はドロドロに溶けていた。体の右半分が黒く焼け焦げ、煙がもうもうと立ち上る。

 

「タチコマッ!」

 

バトーが叫ぶ。彼の装甲を瞬間的に溶かすほどの熱量など、通常の弾薬による攻撃ではあり得なかった。だとすれば、相手は…。

 

振り向いた少佐。そこには4本の支持脚のもと自立する、対空戦車の姿があった。この見本市の目玉商品とされ、レーザーを用いて攻撃する最新式の近距離防空システムだ。

 

《外のタチコマ3体をよこして!大至急よ!》

 

「少佐、タチコマが!」

 

「動けるようなら死んだフリさせといて!逃げるわよ!」

 

戦車は主砲の照準を無惨な姿になったタチコマから少佐たちに絞り込む。搭載の高出力化学レーザー発振器の出力は100kWをゆうに超える。タチコマですらあの有様になったこと考えると、直撃を受けたら全身義体の自分の体も黒焦げになるどころか、蒸発しかねなかった。

 

間もなく発射されたレーザーは展示ブースのパーテーションを貫き、壁面に命中して眩い光を放つ。合板の壁は一瞬で蒸発し、大穴が穿たれた。反対側に逃れようとする少佐たちだが、行く手を塞ぐように先ほどのアームスーツが建物内に突入してくる。2人は完全に挟まれてされてしまった。

 

もはや、万事休すだった。

 




2018/10/18 一部修正

どうも、変わり種です。
今回登場したレーザー兵器ですが、コンセプトとしては艦船用のCIWSを陸上配備型にしたものに近いです(いわゆるCounter-RAM)。そのため射程距離も10キロ~15キロ程度という設定。ただ、そもそもの目的が近接防空なので、突っ込んでくる迫撃砲弾やロケット弾を迎撃するには十分でしょう。現実でいうところの、イスラエルのアイアンドームに相当する兵器です。発射には膨大な電力が必要ですが、本作に登場した物は発振器の材料開発で変換効率を高め、車載ガスタービン発電で賄えるレベルまで落としたという感じで・・・。
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