野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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火に勝てる訳ないだろ!
水に勝てる訳ないだろ!
というお話



第129話 蒸発vs.消火

「あらあら、派手にやってるわねぇ恭一君」

 

恭一を囮に上手く調理室から脱出した楯無は、恭一とイーリスが奏でているのであろう衝撃音を遠くに聞きながら、目的地であるセントラル・ルームに辿り着いた。

何でも、此処には極秘データが集積されているらしいのだ。

 

電子端末の前に座る楯無は早速ハッキングし、データをディスプレイに表示させる。

 

「鬼が出るか蛇が出るか」

 

 

検索―――スコール・ミューゼル...........NO DATA。

 

 

「......ふんふむ」

 

これ位は想定内。

思考を切り替え、別方面からの攻め手を考える。

検索条件覧に目をやり

 

「これでどうかしら」

 

検索する対象を『死亡者リスト』に変更。

軍隊では特殊部隊所属の物を死亡扱いにし、経歴を抹消する事は珍しく無い。

むしろ王道だったりする。

 

「ビンゴ♪」

 

スコール・ミューゼルの名が検索に掛かり、情報を開いていく。

 

米軍の死亡者リストに載るスコールは、今から12年前に死亡した事になっていた。

画像データの最終更新履歴も10年以上前。

 

それよりも楯無を驚かせたのは

 

「おかしい......何歳なのよコレ」

 

明らかにデータの中に写る彼女は、外見からして年がいっているのだ。

自分が会った事のあるスコール・ミューゼルは、20代後半から30代の筈。

 

「魔法のエステでも受けたの?......スコール・ミューゼルッ!!」

 

楯無は振り向かずに、背後へナイフを投擲。

 

「うふふっ......何時ぞやのお返しかしら」

 

自分に迫り来るナイフを難無くキャッチした者、スコール・ミューゼルは薄い笑みを浮かべてソレを己の胸元に仕舞った。

嘗てそれは『キャノンボール・ファスト』にて、スコールから投げつけられたナイフ。

楯無はまさに彼女の言葉通り、たった今お返しした訳である。

 

(私の存在に取り乱した様子は見られない......認識が甘かったか)

 

「私が来る事は想定済みだったようね、更識家当主さん?」

「うふふ。どうかしらね?」

 

その言葉に、多くは語らず笑ってみせる。

スコールの指摘は当たっていた。

 

『アメリカの秘匿艦に「亡国機業」の大幹部データが存在する』

 

こんな情報を貰って素直に飛び付く程、楯無は平和ボケなどしていない。

データベースにハッキングはかけたが、本気で信じて調べていた訳では無いのだ。

 

『鬼が出るか蛇が出るか』

 

これはいずれ自分を襲いに来るだろう刺客、スコール本人へ向けた言葉だった。

 

 

________________

 

 

対峙する2人は既にISを展開させている。

 

「貴女を消す前に、聞いておきたい事があるのよ」

「消されるのは嫌だから何でも答えちゃう♪」

 

楯無の余裕を崩さない態度も気に障るが、それよりも

 

「暗部の人間である貴女なら知っているでしょう? 渋川恭一はアメリカに一体何をしたのかしら?」

 

これが最も聞きたい事だった。

ISがこの世に出て、日本という国の価値が一気に世界のトップに踊り立ったのが現状である。

しかし、腐ってもアメリカは大国だ。

ISという存在さえ無ければ、国際的地位から生産力、軍事力に最も長けた国と言える。

そんな大国を操る幹部共が、渋川恭一を恐れている印象を受けたスコールにはどうしても解せなかった。

 

織斑一夏ならまだ分かる。

 

世界を震撼させた初代ブリュンヒルデを姉に持ち、ISの生みの親である篠ノ之束の妹の幼馴染。

正直、織斑千冬の存在だけでも脅威過ぎる。

そんな者を迫害するにあたって、躊躇わせる理由は十二分あった。

 

しかし渋川恭一は何だ?

何故、未だに訓練機しか与えられていない者を脅威と見なす?

仮に篠ノ之束と繋がっている事を知ったとして、それが原因になるか?

なる訳が無い。

寧ろ、それを知れば挙って彼を誘拐なり引き入れるなりして利用する筈だ。

 

 

恭一がわざわざアメリカまで飛んで、遊びでやった事。

結局、箒やセシリア達は恭一に勝てなかったので聞けていない。

だがその後、生徒会長である楯無と教師の千冬だけには恭一も話していた。

そして更識家の力を使って、楯無は更に詳しく調べ上げていた。

 

「『13日の金曜日』って知ってる?」

「......スプラッター映画の? それと何か関係があると?」

「直接関係してる訳じゃないんだけどね」

 

楯無は何とも言えない表情で、スコールに話していく。

恭一が何をしたのかを。

 

.

.

.

 

恭一が束とクロエを巻き込んで敢行した『家庭訪問』

彼が標的と定めたのは、ボッシュ大統領だけでは無かった。

アメリカを牛耳る上層部の人間全てが、彼に玩具と見做されてしまった。

その結果、大統領宅で繰り広げられた惨劇と同じ事態があちらこちらで起きる事となる。

そして、張本人である恭一と束からプライベート回線への強制アクセスが同日、多数発生したと云う。

 

「上層部内に狂鬼の風を齎したその日の日付は11月の3日。曜日は金曜日だったって訳ね」

 

『13日の金曜日』というのは英語圏やドイツ、フランスなどで迷信により不吉とされる日である。

しかし恭一の遊びの被害にあった者達にとって、迷信で忌むべき日とされている『13日の金曜日』よりも『3日の金曜日』に起こった『突然の訪問』こそが真の恐怖。

故に決して公表される事は無いが、極一部の間では恭一は迷信やフィクション世界の殺人鬼よりも恐ろしい存在と揣摩され、忌避される一端となった。

 

「と、まぁ......こんな感じかしらね」

 

それまで静かに聞いていたスコールは、堪えきれず

 

「あはっ、あはははは! あははははははっ!!」

 

珍しく、他人の目を気にする事無く肩を揺すって甲高く笑った。

 

(女、子供を人質に堂々と脅したですって? 清々しいまでのゲスね。彼には恥も外聞も無いと云うの?)

 

スコールはオータムの件で恭一が、容赦知らずだと云う事は知っていた。

しかしそれはあくまで戦闘面に関する事のみだと思っていたのだが、実際はどうだ。

 

(目的のためには手段を選ばない......まるで私と同じじゃない)

 

何故自分が渋川恭一を気にかけていたのか。

一度会い、芳しくない印象を受けたのにも拘らず。

恭一と自分の間に聳え立つ霧がかった不透明な壁が今、消えた。

 

(雛が蔓延るIS学園に留めておくには、惜しいわ)

 

「......何だか嬉しそうね?」

「ええ、嬉しいわ。こんな素晴らしい事を教えてくれた貴女には、コレをプレゼントしようかしら」

 

指を鳴らしたスコールの周りに、無数の火球がゆらゆらと熱を放ち浮かび上がる。

 

「火は水で消えるなんて常識、私のIS『ゴールデン・ドーン』には通用しないわよ?」

 

その言葉と共に放たれた火球は、唸りを上げて楯無へ襲い掛かり

 

「ッッ!!」

 

彼女の目視で少なくとも20~30の炎の塊。

 

(『アクア・ヴェール』をっ.......ッッ!?)

 

水の壁を展開しようとしたが、嫌な予感を覚え瞬時に飛び上がった楯無は、甲板を突き抜け一気に上空まで。

2人が居たセントラル・ルームはスコールの火球『ソリッド・フレア』により大気を痺れさす音を奏で、爆発を起こした。

 

(水壁展開しなかったか......良い判断だわ、でも)

 

それも想定済みよ。

 

既に上で楯無を待ち構えていたスコールの手には炎の鞭『プロミネンス』。

爆発を背後に上昇してくる楯無に向かって

 

「ふふふ。落とし「ハァアアアアアアアッッ!!」ッ!? チィッ!!」

 

想定済みなのはスコールだけでは無い。

火球から逃げるだけで無く、上昇しながら召喚したランス『蒼流旋』を片手にスコールへと水龍の如く疾昇突進してくる。

 

(鞭での迎撃は間に合わないッ!! なら―――っ)

 

撓る鞭を炎で硬化。

炎剣と化した『プロミネンス』で横からランスを無理矢理なぎ払った。

 

「っ......あら、残念」

「良い判断力ね。流石はロシア代表って処かしら」

 

まだまだ余裕が伺えるスコール。

2人の現在の実力は、未だスコールの方が上である。

武器を交わし合った刹那、楯無にもそれが実感された。

しかし、それでも楯無は決して不敵さを態度から消さない。

 

「うふふ、私達の部長は超絶スパルタでね。2手3手読まないと一瞬で意識飛ばされちゃうのよ。もう染み付いちゃったわ♪」

 

千冬や恭一と試合い続けている日常。

格上との戦いは初めてじゃない、寧ろ慣れている。

 

「部長......それも渋川恭一君だったわよね?」

「随分と恭一君にご執心なようね......」

 

恭一の名を口に出すスコールの目が今までとは何処か違った。

それに気付いた楯無の瞳の奥が薄く冷えていく。

 

(興味本位から本格的なモノにランクアップしたって訳?)

 

「彼はIS学園の水に合っているのかしらね?」

「......なんですって?」

 

楯無を探るような目つきに変わり

 

「貴女達が通う学園は光に照らされた場所。専用機を持つ娘達もそう。彼女達の住む世界が黒か白かと問われれば、間違い無く白よ......でも、渋川君はどうかしら? 暗部に携わる貴女なら分かるでしょう? 彼の異質さが」

 

" 異質 "

 

その表現に楯無は直ぐに言葉を返せない。

 

「貴女達を襲撃した文化祭を覚えてるかしら。渋川君と戦った1人の部下が無残な姿で私の元へ帰ってきたわ」

 

己の恋人が手酷くやられたにも拘らず、その事を話すスコールは何やら恍惚な表情を浮かべている。

 

「両腕を引き千切り、片眼を潰し、肩を噛み千切ったというッ!! 人体破壊に何の躊躇いも見せない残虐性ッッ!! 敵と見做した者の家族を人質に脅す下劣性ッッ!!」

 

エクスタシーすら感じさせる物言いに、流石の楯無も表情を強ばらせた。

 

「もう一度言うわ。貴女なら分かるでしょう暗部の人間、更識家当主。渋川恭一は白の世界に生きる者じゃない。彼が居るべき場所は私達黒の―――」

「勝手に貴女の考えを押し付けるなッ!!」

 

スコールの言葉を遮るように、ランスから超高圧水流弾を連射させるが

 

「やっと荒げたわね、声をッ!! それは肯定と見做すわよぉ!!」

 

嬉々として手を翳し、炎の結界『プロミネンス・コート』を展開させ、真っ向から防ぎに掛かる。

 

この行動は2人の格付けを更に明確化させるモノ。

 

スコールの火球に対し、楯無は貫通を恐れ、水壁を顕現させる事をヤメた。

一方、楯無の水流弾に対しスコールは

 

「水鉄砲じゃ話にならないわよ?」

 

炎壁を顕現し、見事に全弾防ぎ切ったのだ。

 

一度距離を取った楯無は大きく深呼吸。

 

(心は熱く、頭は冷静に......あの女のペースに巻き込まれるな)

 

「そもそも渋川君は学園の甘ちゃん共に、受け入れられているのかしらね?」

「......何が言いたいのよ」

 

スコールがIS学園に訪れたのは、学年別タッグトーナメントの時である。

アリーナに出て来た恭一に対する生徒からの罵詈雑言の嵐。

力無き弱者共が醜く囀っていた下らない光景をスコールは思い返して続ける。

 

「彼の強さは愚図でも理解するでしょう。でもそれと同時に、彼は恐怖の対象として見られてるんじゃないの?」

 

ゆらゆら漂う火球の群れが集い、徐々に一つの形を成していく。

集った炎の姿はまるで揺らめく大蛇の如し。

 

「未だに彼は寮に住む事すら許されてないらしいじゃない」

 

爆風を靡かせた炎蛇が一直線に楯無へ飛び込んでいく。

低空で地を這うようにウネりながら楯無を狙う炎蛇。

 

「くっ.....!」

 

楯無はバックステップで距離を取りつつ『蒼流旋』にありったけの水を螺旋状に纏わせ、超高周波振動させていく。

 

「喰い破りなさい」

 

スコールの言葉で炎蛇のスピードが上がり、保たれていた間合いが一気に消えた。

彼女を噛み付かんと口を開けた処に

 

「はぁぁっ!」

 

上から額骨部分めがけて思い切りランスを振り下ろした。

『蒼流旋』は炎蛇毎、甲板に突き刺さる。

同時にランスを纏っていた水、アクア・ナノマシンが炎蛇へと大量に降り注ぎ、独特な音を立て、文字通り消火させた。

 

「貴女はまるで分かっていないわスコール・ミューゼル」

「......なんですって?」

 

今度は楯無が微笑を唇に漂わせる番だ。

 

「恭一君は確かに恐れられてるわ。彼の言動、行動は実力も相まって無垢な生徒達を脅かす事が多々ある。貴女の言うようにね」

 

 

―――でも

 

 

「貴女は知らないのよ恭一君の事を......あの子は確かに異質で畏怖な存在かもしれないッ!!」

 

 

―――それでも、いやそれ以上に

 

 

「恭一君はアホなのよッッ!!」

 

 

『蒼流旋』の刃先をスコールに向けて大いに叫んだ。

 

(.......聞き間違いかしら。今あの子なんて言った?)

 

「唯、強いだけの者に人は惹かれやしない! 恭一君は世界一強いアホなのよ! そんな彼だから私や他の娘達が、共に居るッ!! 貴女は何も分かっていないッッ!!」

 

(攪乱目的......? いえ、あの子の目は真剣そのもの)

 

「もういいわ。貴女から聞きたい事は全て聞けた。消し炭にしてあげる」

 

炎剣を構えた処で、対峙する楯無の表情が一段と明るくなった。

 

「タイムオーバーは私? それとも貴女?」

「ッッ!?」

 

背後に獣の氣を感じたスコールは、ハッと振り向き

 

「...........渋川恭一」

 

「誰が世界一強いアホだァ.....?」

 

腰に浮き輪を装着した恭一が甲板入口で雄々しく立っていた。

 





やっぱりアホじゃないか(呆れ)
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