変わらない信条、というお話
「はぁっ.....ふぅっ......何で付いて来てるんですか?」
「肩で息してる人に言われたく無いわよん」
痛む傷を押してまでレインに会う理由は何か。
地下牢を閉ざす重い扉を開ける恭一の後ろには、楯無の姿が在った。
レインが収容されている牢屋の手前で息を整える恭一。
「ふぅ......居ても良いっスけど邪魔しないで下さいよ?」
「はーい♪」
カツカツと足音を鳴らし、鉄格子の前までやって来る。
「傷の具合はどうですかい」
「オメェは......渋川か?」
ベッドの上でボンヤリしていたレインが、声の主に顔を向ける。
「束姉ちゃんの開発したナノマシンですからね、アンタの傷も直に全快しますよ」
「......オレはオメェらの敵だぜ? 情けを掛けたつもりか?」
どうやらレインは自分を治療した事に不満があるようだ。
「情けついでにアンタの正体を知っているのは俺と楯無先輩、そして織斑先生に山田先生の4人で打ち止めだ」
「あ゛ぁ?」
どういう意味だ?
「他の奴には話さねぇってこった。無論、アンタの恋人にもな」
「テメェッ!! あぐっ......っ......!」
急に叫んだせいで、傷口が開くがそれ以上に、恭一の言葉はどうやら彼女のプライドを大きく刺激したらしい。
「ふざけんなよガキが! 何様のつもりだ、あ゛ァ!? テメェみてぇなクソガキがオレ
を憐れんでやがんのか!?」
アリーナで闘り合う前からそうだった。
コイツの眼が何故か気に入らなかった。
その理由が何となく分かったような気がする。
「スカしやがって!! テメェにオレを―――」
レインはベッドから這い出て、鉄格子の前に来ては更に声を
「吠えるな」
「ッッ!?」
悪魔的な、言の葉なのに寧ろ暴圧。
「あ......う......」
レインよりもボロボロな状態の恭一に、氣だけで圧倒されてしまい、言葉が続かない。
「俺達が生きてる地球には一体何億、何兆の生物が存在してるんだろうな?」
「......急に何の話だ?」
いきなり話が飛んだようで、先が見えてこないレイン。
「ククッ......なに、簡単な話だよ。この地球上、全生物の生殺与奪は俺にあるって事だ」
「はァ? オメェ頭イカれてんのか?」
常識ある高1が真面目な顔で話して良い内容じゃねぇ。
小学生ですら躊躇う程、幼稚な妄想だ。
(一体、何が目的だコイツ......)
困惑するレインを余所に恭一は続けていく。
「ライオンより北極熊より癌細胞より俺の方が強ェ......そしてISを刃とするお前達よりもな」
(眼がマジだ......コイツ本気で言ってやがる)
「世界の頂きに居る奴ってのはよォ、何しても良いんだよ」
「何してもだァ?」
「何者かを殺傷するも、愛でるも自由。相手が受け入れようが拒否しようが無関係。条件に一切左右されやしねぇ。自らの意志を希望む通りに実現させる事が出来る」
―――それが世界の頂点に立つ者にのみ、許された地上最強の我侭
「それを持ってんのが、テメェだってのか? どんだけ傲慢なんだテメェはッ!! 神にでもなったつもりか!?」
「神じゃねぇ......地上最強の生物だ。間違えんなよ」
駄目だコイツ。
マジで狂ってやがる。
コイツはオレを試そうだとか、冷やかそうだとか、そんな事は一切思って無ェ。
マジで自分が世界で一番強ェって思ってやがる。
畏怖い程伝わってくる一点の翳りすら無い自負心。
0が0であるように、黒が黒であるように。
目の前の少年からは己こそが最強だという想いに、一切の揺らぎが感じられない。
レインはアリーナで闘り合った時以上に、恭一に恐怖した。
「俺を否定したけりゃ簡単だ。俺に勝ってみろよ。俺を跪かせてみろ。俺を敗者にしてみろ......何なら今からもう一度、闘るか?」
「......闘らねぇよ」
今度闘ったらオレは殺される。
そんな未来が見えてしまったレインに抗う気力など、もう無かった。
.
.
.
「スコール・ミューゼルにはもう連絡してある」
「......えっ?」
これから話す内容こそ、恭一の本題だ。
「10日後の修学旅行で『亡国機業』と決着を付ける。その後になるが、アンタは自由の身になるな」
「自由......? どういう意味だ?」
まるで伝わってこない。
「スコール・ミューゼルが倒れりゃ、アンタはどうするつもりでいる?」
「オレは......」
自由だと言われても、そんな事今まで考えた事など無かった。
オレが叔母さんに従う理由。
腐りきったこの世の中を、狂ったこの世界を切り裂くため。
しょうも無ェ世界に嫌気を差したオレの我侭。
ISを持ち、力を持ったオレの我侭。
仮にスコール叔母さんがコイツに敗れたとして。
(コイツの我侭に負けたオレはこの先、何を目的に生きていけば良い......)
「道は無限大だぜ? ダリル・ケイシー」
いつの間にか下を向いていたレインは、はっと顔を上げる。
「このまま『亡国機業』に依存するも良し、目の前の気に入らねぇ色男にリベンジ咬ますも良し、残りの学園生活を謳歌するも良し......ってな」
オレは―――
「18の小娘が勝手に終わってンじゃねぇ。これからだろうがよ」
「......オメェほんとに15のガキかよ?」
コイツ、年齢詐称してンじゃねぇか?
「実は最近16歳になりまして」
「そう云う事、言ってんじゃねぇよッ!!」
「おお、ナイスツッコミ」
し、しまった。
何てベタなツッコミしちまったんだ。
「う、うっせぇな!! 用が済んだらとっとと出てけよ!」
「んじゃあ、そう云う事で......養生しておくんなまし、ウヘラヘラ」
奇妙な笑い方しやがって。
ホントにムカツク野郎だ。
恭一の姿も消え、再び静寂が訪れた牢屋内。
「狂った世界を壊すつもりが......それ以上に狂った奴が居たもんなぁ」
あんな奴、逆立ちしたって勝てやしねぇ。
強さとかの次元を超えてやがる。
少なくとも、あんな天然記念物に会った事は今の今までねぇな。
大丈夫かねぇ、スコール叔母さん。
「まずは傷を治して、その後は―――」
その後は―――
直ぐには考えつかねぇが、1つだけ。
「取り敢えず、フォルテに逢いてェなぁ」
本心から出た言霊が部屋の隅々に、緩やかな余韻を残した。
この考え方だけは1話から変わらないしぶちー。