野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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渋川恭一の取扱書は必読だって言ってんだろ!!というお話




第51話 謳歌してこその日常

『VTシステム』との激闘から数日が経った。

あの日以来、恭一の周りは少し変化が訪れているようである。

 

「おはよー渋川君」

「おはよー、今日も朝からお肉なんだねぇ」

「おはようございます、先輩方。いつか漫画肉食ってみたいっすよ」

 

タッグトーナメントを観戦していた生徒達は恭一に対して何を思ったのだろうか。

 

これまでの学園生活の中でISの事をよく学び、理解している3年生は恭一の実力の高さを素直に受け止め、『織斑一夏』のオマケという見方から『渋川恭一』を一個の存在として接してくるようになった。

 

「ふんっ...先輩に媚売ってるよあの野蛮人」

「何で退学にさせないのよ、この神聖な学び舎に相応しくないでしょ」

「弱味でも握られてんじゃない? あの男ならやりそうじゃん」

 

「「「 キャハハハハハ 」」」

 

2年生、1年生の中では1、2組を除くとかなり評判が悪く、以前よりも明確な敵意を向けられるようになってしまった。

実力が高い者はこの間の試合で恭一の動きの精度、攻守に置るバランスの良さを理解出来るのだが、残念ながらそのような実力者が1、2年生には少ない事を現状が物語っていた。

そして頭では理解出来ても、心では納得は出来ない大人の考えをまだ持てない子供達が大半であった。

 

 

さらに云えば非常に残念な事に、未だこの男の性格を知る者がこの学園では少なすぎた。

 

 

「...気にしない方が良いよ渋川君」

「あの子達まだ1年でしょ、渋川君がどんだけ凄い戦い方をしたのか理解出来てないのよ」

「くくっ...気にしない方が良い事を敢えて気にしてみる...それもまた良しッッ!!」

 

「「 はっ? 」」

 

―――ガタッ!!

 

恭一の言葉に呆気に取られた3年の生徒を余所に、勢い良く立ち上がると

 

「ひゃっほぉぉぉぉうッッ!!」

 

恭一はその場から陽気な雄叫びと共に、立ち幅跳びの要領で飛び上がり、着地点は当然―――

狂者に餌として目を付けられた子羊達のテーブルの上だった。

 

 

―――ガッッシャン!!!!

 

 

「きゃあっ!!」

 

目の前のテーブルに、突如飛んできた狂者に悲鳴を上げる。

幸運にも食事は全て終えていたため、彼女達の制服を汚す事は無かった。

 

予め空中から食べ物の有無を確認していた恭一には当然の事なのだが。

 

「何やら楽しそうな会話してんじゃねぇか。俺も混ぜてくれよ...なぁオイ?」

 

目の前に現れた獣の如き氣を撒き散らす恭一を前に、彼女達は呼吸すら困難な状態である。

まるでライオンと同じ檻に閉じ込められた、そんな心境だった。

 

(あああありえないッッ!!! 何メートルあったと思ってるのよッッ!!!!!)

 

先程まで脅威を感じていなかった彼女達はようやく理解する。

自分達が蔑んでいた男は何もかもが普通じゃないと云う事を。

そんな彼女達を余所に、恭一は食べ終わっている皿に目を向ける。

 

「オイオイ...まだ残ってんじゃねぇか。ちゃんと全部食わねぇと、お残しは許しまへんでおばちゃんに怒られンぞ?」

 

「「「 えっ 」」」

 

言われて目をやるが、其処には何も無い。

自分達は全部食べたのだ、残っているはずが無い。

 

「しょうがねぇなぁ...俺が食べさせてやっか!!」

 

恭一はフォークを手に取ると、何かを刺す動作とした。

 

「ほれ...ア~ンしろ」

「あっ...あの....」

「何だよ、早くしろよ...照れてんのか?」

「な、無い...何もっ.....刺さってない......」

 

震えた声で何とか主張する。

 

「............」

 

少女の声に対し、男は不思議そうな顔をする。

 

「....オイ、そこのお前ら」

 

「「「「 ッッッッ!!!?!!?!? 」」」」

 

恭一は近くのテーブルに座っていた4人の生徒に話しかけた。

彼女達を覚えているだろうか。

一夏のクラス代表就任を祝うパーティーの最中、恭一を揶揄した結果、彼に餌と認定されてしまい、頭から喰われた可哀想な子羊達である。

当然、恭一は彼女達の事など覚えていないのだが。

 

「刺さってるよな? 真っ赤に染まった美味そうなトマトの切れ端がよ」

 

「「「「 ッッッッ!!!!!!! 」」」」

 

問われた4人の少女達は全力で頷く。

 

「ほっ...良かった良かった。」

「えっ...で、でも......」

「誰にでも間違いはある、気にする事はない。だが、俺は突き刺したんだからな、トマトにフォークを」

「あうっ......うう.....」

 

もう何を言っても無駄だった。

 

「口を開けろ...食べさせてやる」

「ひっ....」

 

言われた通り、口を開く事しか出来なかった。

 

「オイオイ...もっと大きく開けなきゃ入らねぇぞ?」

 

恭一の持つフォークは少女の口を通り過ぎ、ゆっくりと眼に向かっていく。

 

「そっ、そこ違うっ......」

「........」

 

彼はもう言葉を発しない。

無表情のままである。

少女は恐怖のあまり失禁してしまっている。

それでも、誰も助けに入らない。

入れない。

 

「だ、だれかっ....たすっ、たすけっ.......」

 

尖ったモノが眼球に突き刺さる―――

 

「はぁーい、そこまでにしてあげて恭一君」

「あ゛ぁん?」

 

絶賛お楽しみの処を邪魔され、不機嫌を隠さず顔を向ける。

 

「あ゛ぁん、て...チンピラみたいな反応じゃないさ」

「会長か...」

「もう良いでしょ? その子、気を失ってるわよ?」

「.........」

「ほーら、そんな怖い顔しないの! カッコ良いだけよ?」

 

楯無の和やかな雰囲気に恭一も毒気を抜かれたのか、普段の彼に戻ったようだ。

 

((......助かった))

 

標的にならずに済んだ2人は安堵する。

 

―――本当に?

 

「お前ら何処のクラスだ?」

 

「「 えっ? 」」

 

「ああ、見りゃ分かるか」

 

恭一の手には2人の生徒手帳が握られていた。

 

「なっ...なんでッッ!?」

「い、いつの間に....」

 

2人は青ざめる。

 

「俺も時の世界に入門したからな」

「何処のスタンド使いよ...」

 

恭一の動きが見えていた楯無は呆れた口調で突っ込む。

 

何て事は無い、ただ少女達が恭一から楯無に視線をかえた瞬時にカバンから抜き取っただけの事である。

 

「3組か...」

 

名前とクラスを確認した恭一は笑顔で手帳を返す。

 

「休み時間になったら遊びに行くからよ。楽しみに待っててくれよな」

 

「「 ヒィィィィィイィィィイッッ!!!!!! 」」

.

.

.

彼女達は保健室へ飛び込み、早退届けを出した。

本当に強烈な吐き気を催していたので、受理されてホッと一安心する。

これで大丈夫だ。

 

その日の昼休み―――

空の容器を手に持つ恭一が笑顔で彼女達を見舞いに行く姿が、多数目撃されたらしい。

 

 

________________

 

 

 

「むっ...恭一殿、何処へ行ってたんだ?」

 

昼休みが終わる頃、ほっこりした顔の恭一が教室に戻ってくると頬を膨らませたラウラが近づいて来た。

 

「おう、ラウラか。とある生徒のお見舞いにな」

「むぅ...一緒にご飯を食べたかったぞ...」

 

むくれるラウラの頭を優しく撫で

 

「んじゃ夜は一緒に食うか?」

「うむ! 約束だからな恭一殿ッッ!! 嫁も連れて行くからな!」

「おう」

 

ラウラは嬉しそうにトテトテ自分の席へ戻っていく。

 

「結局、皆の前では『恭一殿』で定着したみたいだな」

 

一部始終を見ていた箒が苦笑いでやって来る。

 

「ああ...皆の前で『パパ』呼ばわりされるのは、さすがにな」

.

.

.

『VTシステム』との激闘を終えた次の日の事である。

学校は休みであり、怪我を負った恭一は部屋でお休みを命じられ、ラウラが見舞いに来ていた。

 

「なぁラウラよ」

「なんだパパ」

 

寛いでいる恭一の背中に甘えるように抱きついているラウラに声をかける。

 

「今は2人きりだから良いが、皆の前で俺を『パパ』と呼ぶのは無しな」

「むっ...何故だ?」

 

ラウラは眉間にしわを寄せる。

 

「さすがに恥ずかしいって云うか、キツいだろ...色々と」

「むむっ!! でもパパは私の好きなように生きても良いって言ったぞ!!」

「ああ言ったな」

「私は何処でも『パパ』と呼びたい! 私の好きに生きて良いんだろう? だからパパの意見は却下だ!」

 

ラウラはどうだ、と言わんばかりエッヘン、と胸を張る。

 

「ふっ...青い、まるでコバルトターコイズな未熟さよ」

「どういう意味だ?」

 

せせら笑う恭一にムッとなる。

 

「確かに俺は好きに生きて良いと言ったが...お前だけか? 好きに生きてるのはよ」

「うっ....」

 

恭一の言葉を理解したのか、言葉を詰まらせる。

 

「俺は誰だ?」

「...渋川恭一だ」

「俺はどんな男だ?」

「パパは...超天上天下超唯我独尊男だッッ!!!」

「ヨーシヨーシヨシヨシヨシヨシ」

 

超が付く程、褒められた恭一は上機嫌でラウラの頭を撫でる。

そんなラウラも嬉しそうに、はにかむ。

 

「ラウラも好きに生きてるが、目の前の男だって好きに生きてんだぜ? さぁこんな時はどうすりゃ良いんだ?」

「...力でねじ伏せる」

 

小さな声だった。

父と慕う者に力を行使するのは、ラウラとて良い気分では無いのかもしれない。

 

そんな小さくなっているラウラの様子を見かねた恭一は―――

 

「ふむ...娘の我侭を簡単に力で抑え付けるのは心苦しいモノがあるな」

「じゃ、じゃあ...ッッ」

「ジャンケンだ」

「へ?」

「ジャンケンで俺に勝ったら、2人きり以外でも『パパ』と呼んで良いよ」

「わっ、分かった!」

 

 

「「 じゃ~んけん...ぽんっ 」」

 

 

恭一が出したのは『チョキ』

それに対してラウラが出したのは『グー』

 

「や、やたっ!! 勝ったっ..........ッッ!?」

 

『グー』の形で前に出した拳が『チョキ』のハサミ部分に挟まれた。

 

「えっ? パパ?」

 

―――ギュッッッ!!

 

ラウラの拳を挟んでいる恭一の人差し指と中指に万力が込められる。

 

 

グッ...ググググググ.....ッッ

 

 

「~~~~~~~~ッッ!!!!!!」

 

ラウラは声にならない声を上げる。

『グー』だったラウラの拳は恭一のハサミにより無理やり『パー』に変えられてしまった。

 

「ほら、な?」

「え~~~~~ッッ?!!?!」

 

自慢気な恭一と現状に驚くしかないラウラ

 

「よく憶えておけ娘よ。この世には石をも断ち切る鋏があるという事をッッ!!」

「うんッッ!! やっぱりパパは凄いなッッ!!」

 

強者の風格を纏った父からの熱い謎理論に対し、娘も熱く頷く。

 

「公正な勝負での決まりだ。文句は無いなラウラ?」

「うん...敗者が語る言葉に価値無し、分かっている」

 

しょんぼりするラウラを軽く撫でると

 

「ほれ、今は二人なんだ、遠慮すんなよラウラ。リンゴでも食うか? 剥いてやるよ」

「う、うんッッ!! 一緒に食べたいぞ!」

 

すっかり仲睦まじい親子の関係が成り立っている恭一とラウラだった。

.

.

.

「それで...どうして『殿』なんだ?」

 

箒の疑問も最もである。

 

「ドイツの部下に日本に詳しい奴が居るそうでな。そいつからアドバイスを貰ったんだとさ」

「ううむ...?」

 

そうは言ったものの、恭一も箒と同じく首を傾げるしか無かった。

 

 

________________

 

 

 

「ヘッ....クシッ!!!」

「風邪ですか? クラリッサお姉様」

「いいえ大丈夫よ。それよりも、皆さん画面に集中なさい。この『戦車道』は我が黒ウサギ隊に通ずるモノがあるのよ」

 

「「「「「 イエス、マムッッ!!!! 」」」」」

 

黒ウサギ隊は今日も仲良し。

 

 

________________

 

 

 

「―――今日の授業はこれまでとする」

「起立...礼」

 

「「「「「 ありがとうございましたっっ 」」」」」

 

授業が全て終わり、恭一はとある場所へ行くために席を立つ。

 

「急いでるみたいだけど、用事でもあるの?」

 

挨拶もそこそこに、教室を出た処でシャルロットが話しかけてくる。

 

「デュノアか...『打鉄』のメンテをしに、整備室に行くんだ」

「僕もまだメンテナンスしてなかったや...一緒に行ってもいい?」

「おう。ISも大事にしてやらねぇとな。お前さんもピッカピカにしてやれ!!」

「だいたい恭一にやられたんだけどね」

 

(ISを纏っている時だけじゃ駄目だ。恭一の私生活でも何処か弱点を見つけなきゃ)

 

恭一のストーカーが趣味になりつつある貴公子だった。

 





やっと戦いが終わったんや。
ゆっくり日常を楽しませてくれや(にっこり)
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