「北緯27°36´東経171°61´…。現速度、あと五分であの異変が発生した座標です。」菊池と梅津艦長の姿はCICにあった。菊池が、艦の現在地を伝えている。
「…うむ。果たして何が起こるのか。」
「来たときは異様な低気圧に遭遇しましたが、現在のところ観測されていません。しかし、ここが時空の歪みの入り口で…。まだ、それが存在しているのなら…。元の世界に帰還できる可能性があります。」
すると、菊池の推測に対して梅津艦長が…。
「…そのとき。あの、艦隊はどうなる…?本艦の前方、200キロ先にいる日本へ帰還するあの艦隊は…。」
「この世界から脱出すれば、レーダーから消失すると思われます…。」その菊池の言葉に対して…。
「では、救助した草加少佐はどうなる…?」
「…!!」しばらくの沈黙のあと菊池は…。
「分かりません…。ですが、この世界から脱出出来たとすると…。あの男にも何らかの異変が発生すると思われます。」そう、菊池が言い終えたとき…。青梅が…。
「艦長!まもなく、例の座標です!」
「…よし!機関停止!」
梅津の言葉に、みらい は減速を始め…。例の座標で停船した。
「頼む…。俺達を返してくれ…。現実の日本へ!!!」
艦内の乗組員全員が同じことを思った!その時みらい艦内には、波の音しかしなかった…。
「ん?こんなところで停船か?」
草加少佐は、不思議に思った。なぜ、このような海のど真ん中で停船したのか?だがその場にいた角松と尾栗が月を見上げているのに気き…。
「…月?」と、呟いた。
「くっそぅ…。満ちないぜ…。」月を見上げていた尾栗が吐き捨てるように呟いた。
「レーダー反射波!替わり……ありません…。」CICでは、梅津艦長が確認を指示していた。
「やはり…。消えぬか…。」
「変わったか!?月は満ちたか?」
みらいの非番要員が一斉に甲板へ出てくる。だが、待ち受けていたのは悲しい事実だった。
「クッソ!何で満ちない!あの嵐は!?雷は来ないのかぁぁぁああ!」口々に、思っていることを話す乗組員達を角松は何も話さず、ただじっと見ていた。すると、非番要員の一人…。林原があることを話始めた。
「来たときとなにかが違うんだ…。あの軍人が乗っているせいで、俺たちは入り口に入れないんだ!!」
柏原の意見を聞いた乗組員が混乱し始める。
「あんたは、本当だったら海に沈んでいるはずなんだ!あんたが居るせいで、俺たちは入り口入れねぇんだよ!」と、林原が怒鳴り始めた。
「いかん!皆、感情的になっとる!」慌ててCICから出てきた菊池がデッキから顔を出した。
「林原よせ!相手は怪我人だぞ!」角松が慌てて制止に入る。
「じゃぁ!?何で俺たちは帰れねぇんだ!あの軍人を助けただからだろ!副長が、この世界に干渉したからだ!!宛先のない思いを林原は角松にぶつけ続ける。すると、草加少佐が「話を聞こう。貴方達は、どこから来たのだ?」
「俺たちは、平成の日本からこの世界に飛ばされてきたんだ!」林原は大声で叫び、草加に取っ組みかかろうとした。
「面白れぇ。ヤるかてめぇ!」と、関節を鳴らしながら尾栗が警告する。
「その辺でよかろう!」
デッキから梅津艦長の声がした。その声を聞き、全員が艦橋デッキに注目する。
「艦長の梅津だ。部下の不手際には誠に申し訳なく思っている。」
「お目にかかれて光栄です!梅津艦長!助けていただいたことに感謝しております。」草加少佐はその場で梅津艦長に対して敬礼する。
「先程の質問だが…。我々は部隊で行動していたのだが、一昨日未明の大嵐ではぐれてしまったのだ。その為現在、本隊に合流すべく航行していると…。とにかく、現段階ではそこまでしか話すことはできない。」
「では、あなた方の船は本隊に合流すべく航行しているとのことですね。しかし、この船は我々日本海軍の物とはまた違った形であるな…。それも、私が幼いときに見た旧海上自衛隊の護衛艦にそっくりだ。」と、草加少佐は壁に手をつきながら答えた。
「こちらからも伺うが、旧海上自衛隊とはどういう意…。」角松が草加少佐に聞こうとしたとき、CICから緊急放送が流れた。
「CIC艦橋!!魚雷音接近!!距離、3800!!接触まで2分30秒!!」その声に艦内にいた自衛官全員が驚愕する。艦橋向かっていた菊池が
「魚雷………だ……と!?」と呟く。
「全力即時退避、訓練通り取り交わしてみせろ」と角松が叫ぶ!
「了解!!」掛け声と自衛官達は、一斉に持ち場につく。
CICに向けて菊池が全速力で走る。すると、片桐が声を掛けてきた。
「ほ、砲雷長…。魚雷って、本当ですか?」走りながら菊池が「本当だ…。話してる場合ではない。衝撃に備えとけ!!」と言い走り去った。
「マ、マジかよ………。」と残された片桐が呟く。
CICの扉を勢いよく開けて菊池が入ってくる。
「CICソナー!!潜水艦を探知出来なかったのかぁー!!」と菊池が怒鳴ると、
「反射の少ない表面層のダクトに居たと思われます!この海域のデータが不足しています!!」
「馬鹿者!!お前らの訓練不足だ!!」と菊池が怒鳴る!「すみません!!」とソナーから返答が来るが、いまさら遅い。青梅が「魚雷2本、本艦との距離、1000ヤード」と叫ぶ!
「早く医務室へ!」デッキにいた桃井が草加少佐を医務室へ移動させようとする。だが…。
バタン!
「何してんの!魚雷がきてんのよ!!」慌てる桃井にたいして、草加少佐は…。
「この船の戦闘能力をこの目で見たい…。」
「軍人らしい意見だけど、その行為が命取りになるのよ。」と、止めようとする桃井に
「なぁに、一度死んだも同然だ。この船のことを知りたい。」
草加少佐と桃井がやり取りをしている頃、艦橋では
「機関始動!最大戦速!ジックブレーキ解除!」
と角松が叫び、操舵員が舵を取り始める。
キイイイイイインというエンジン音とともに加速し始め「きゃあ!」と、桃井が悲鳴をあげる。
「魚雷接触まで10秒!だめだ!接触するぞ!!!」
CICのモニターを見ながら青梅が叫び、艦橋デッキでは「衝撃に備え!」と麻生が叫ぶ。 しかし、揺れは来なかった…。 魚雷は みらい の艦尾のすぐ後ろを通過したのだった。「かわした!」と、尾栗が叫ぶ!
「CIC艦橋!魚雷発射予想位置にデイタムを設定!」角松の指示でCICにいた青梅が「方位240°距離3200!深度10㍍」と言いつつ、目標を設定する。
「機関始動カラタッタ30秒デダド…!」
深海棲艦である。ソ級は驚いた。艦娘ならすぐに交わすことはできるが、大きな船は普通だったら交わすことが出来ないはずだった。それが、いとも簡単に避けられてしまったのだ。「クッ…。」歯を食い縛りながらソ級は新たな魚雷を放射状に4本発射した。
「目標!魚雷発射!数は4本、放射状に来ます!!」
CICのソナー担当が叫ぶ!すぐに情報は艦橋に伝わり、尾栗が回避運動を指示する。その頃…。
「…や、やられる。」
初の実戦によりCICで震えている自衛官がいた。
「目標!なおも本艦を追尾中!魚雷、1500を切りました!」青梅の声が艦橋に流れる。
「尾栗、かわせるか?」「なぁに大丈夫だ。10°に戻せ!」角松と尾栗が会話している。
「や、殺られる…。」
「雷跡視認!」艦橋デッキにいた麻生が叫ぶ!
「お、お前らが悪いんだぞ…。」
と言いつつ、その自衛官は敵のデータをイージスシステムに入力した。そして、前甲板のVLSの一つが不気味に開く。だが、CICや艦橋に居た他の自衛官は誰も気付かなかった…。
「…やってやる。やられる…………前に!!」
バシュュュュ!!!!!
前甲板から対潜ミサイルのアスロックが発射された。
「これは…。」デッキに居た、草加少佐が驚く。
「前甲板、VLS開放!アスロック飛翔中!!!」
「なに!?」青梅の言葉に菊池が驚く。
「魚雷発射ポイントに向かっています!」という報告が次々に入る。
「誰が発射ボタンを!!!」
一瞬考えたが、CICの中を見回した所すぐに犯人が分かった。明らかに放心状態の自衛官が一人居た。菊池が駆け寄りそいつの胸ぐらを掴み、
「米倉ぁ!貴様ぁ、一人で戦争をおっ始める気かぁ!?」だが、米倉から帰ってきたのは正当な理由だった。
「…や、やらなければやられます!砲雷長…。」
米倉の言葉に菊池は思った。
(…こいつの言うことは戦場なら正当な考えだ。だが、我々自衛隊は専守防衛がモットー…。この行為は…。)
「CIC艦橋!誰が撃てと言ったぁ!現状を報告せよ!」スピーカーから角松の怒鳴り声が聞こえ、菊池は米倉を突き放した。
「ヒューマンエラーだと報告しろ!それからこいつをCICから叩き出せぇ!」
「魚雷、4本のうちの2本!本艦との距離、1000ヤード!」ソナーから連絡が入る。
「柳~!この魚雷はどっちの魚雷だぁー!」
「この魚雷は深海棲艦の魚雷だと思われます。日本の艦娘の魚雷は酸素魚雷ですから、航跡はほとんど見えません!先程の魚雷は二酸化炭素を排出していました!!」尾栗の質問に柳が答える。
「分かった!角度と速度は!」
「左140°相対速度約5ノット!」
「面舵いっぱーい!」
尾栗の掛け声でみらいは左に旋回する。
「距離50!…30!」と、麻生が叫ぶ。魚雷は みらい のすぐ左脇を通過していった。
「かわした!」
「まだだ!残り二本!コース知らせ!」
「雷跡、真艦尾!広がりつつ接近!距離300!」
「…もどーせぇ~!」
麻生からの情報を聞き、尾栗は取り舵を指示する。魚雷は、みらいのすぐ後ろで左右に別れていった。
「魚雷全弾かわしました!遠ざかります。」
CICから連絡が流れ、尾栗は口笛を吹いた。
バサッ!
「あ、あれは!!」
デッキで見ていた草加少佐が目を見張る。先程発射したアスロックが、パラシュートを開いて着水したのだ。
「ナンナンダアレハ!ムッ!探信音ダト!」
着水したアスロックからの探信音に驚くソ級。
「既ニ消エタハズノ兵器ヲナゼ、日本ガ…。」
一瞬考え込んだが、呑気に考えている状況ではないことに気づき慌てて逃げ出す。
その頃CICでは、
「アスロック着水を確認!目標追尾中!」
青梅からの指示を聞き、菊池はあることを考えた。
(あの船は本艦の情報を相当、収集したはずだ。たとえゲームの世界であっても、沈むはずのない船を撃沈すれば…。もう後戻りは…。)しばらくの沈黙のあと菊池は、「艦橋CIC!…魚雷の自爆を進言します。」と、艦橋にいる角松に伝えた。
「…副長!我々にとって、深海棲艦とは敵…なのか?」
という、梅津艦長の言葉に角松は愕然とした。
「…敵として本艦を攻撃してくる以上。我々が身を守るために攻撃するのは、正当な自衛権の行使です。」と、うつむきながら角松は話した…。
「よかろう…。副長、指示を頼む。」
梅津の返答を聞き、角松は「CIC艦橋!魚雷そのまま、指示を待て!」
「…!!!」
菊池は愕然とした。専守防衛を第一の目的とする自衛隊として、敵潜水艦を撃沈するという判断に驚いのた。
ピコーン ピコーン…。
「クソ!コノママジャ逃ゲ切レナイゾ…。」
深海棲艦は吐き捨てるように呟いた。
「アスロック、目標到達まであと10秒!」
「菊池~!魚雷を自爆させろぉ!!!」角松が艦橋から指示する。それをもとに、菊池がアスロックを自爆させた。
ドォーーーン!!!!!
みらい の彼方遠くで大きな水柱が上がる。
「ぉぉ!!」デッキで見ていた草加少佐は驚きの声しか出せなかった。
「CIC艦橋!敵潜水艦の音は聞こえるか?」角松がCICに尋ねる。
「艦橋CIC。敵のエンジン音は聞こえませんが排水音が微かに聞こえます。急速浮上中の模様。」
「…どう?デッキで見ていた感想は?」桃井が草加少佐に訊ねる。すると、
「…これは神の力か、それとも悪魔の企てか…。これが、21世紀の戦闘。」と、空を見ながら呟いた。
一方、艦橋では…。
「…これが、本艦の出来る最善策であったことを願いたい。しかし、追い詰められてしまったのも事実だな…。」と、水平線の彼方から出てくる朝日を見ながら梅津艦長は呟いた。
ソ級が、洋上に浮上してきた。
「…クソ!艤装ガ破損シテイル。コレデハ潜水シテノ攻撃ハ出来ナイ。」自身の被害を確認して、深海棲艦の基地へと舵を取る。
「日本ガ恐ロシイスーパーメカヲ復活サセタト報告セネバ…。」遠く彼方の みらい を時々見ながら、深海棲艦は逆の方向へ進路を取った。