さて、横須賀での国防海軍との会談が終わり…。トラック諸島へ向かうこととなった護衛艦[みらい]。出航前夜の人それぞれの一時を書いてみました。
航跡16:交流~みらいとしらせ~
護衛艦みらい への物資搬入の作業が終わる頃、提督の元に乗船する吹雪 白雪 深雪 暁 響 と護衛艦娘の みらい しらね しらせ が集まっていた。
「この作戦では、先日の戦闘で負傷しトラック諸島にて治療を受けている、我が横須賀鎮守府の艦娘の移送及び、ガダルカナル島での護衛活動である。」
と、提督が皆に向かって話していた。
「えー、この作戦は、先日入港した海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦 みらい との合同作戦となる君たちは、みらい艦長の梅津 三郎 氏の指揮下に入って行動してもらう。」
「えっ?提督?私たちは提督の指揮から離れるということですか?」と、白雪から質問が出てきた。
「…ああ、本来ならば私が前線で指揮をすべき所だが、今回は作戦の都合上このような形になった。」と、提督が話す。
「この理由については、現段階では極秘とさせていただく事をお許し願いたい…。」深々と頭を下げる提督に、
「我々にたいして、敬語とは…。少し、気味が悪いですね…。」と、しらね が呟く。すると、「大丈夫です!どのような理由があろうとも、この駆逐艦 吹雪!頑張って任務を遂行します!!!」と、若干ハイテンション気味の吹雪の一声でミーティングは終了した。
その頃、みらい デッキでは…。
「よっこらっせ、と…。」
「あっ、航海長どちらへ…?」
柵を乗り越え上陸しようとしている尾栗に、甲板で星空を見ていた佐竹が見つけたのだった。
「なんだ、佐竹か…。」
「航海長はこれからどちらへ?」と、尋ねてくる佐竹に
「なぁに、ちょいと陣中見舞いといこうじゃないか?あちらさんから、色々と貰ったんだから。」と、お酒のボトルを持ちながら陽気に笑う尾栗に、佐竹はあきれていた。
「航海長、話に行くんですか?日本はこの戦争に負けると…。アメリカに吸収合併されると…。」その佐竹からの問いに尾栗は、
「…んなこと、言えねえーだろ。彼らは深海棲艦と戦って制海権を奪取し、日本を守り抜くっう使命を持ってやっているんだぞ…。」
尾栗の言葉に佐竹は納得した。すると…。
「なんだったら、佐竹?貴様も一緒に来るか??」
横須賀鎮守府内、詰所
みらいから出てきて、昼間に物資の搬入作業に携わった河本兵曹長を探しながら歩いていた尾栗達。
「誰だ貴様ら!」と、警備の兵が尾栗達を呼び止めた。
「別に怪しいもんじゃ、ねぇーよ。」
警備兵に事情を話したところ、みらいのすぐ近くにある休憩所に案内された。
「坂上二等兵入ります!」
と、警備兵が入室し尾栗達も続いて中に入る。
「ぁ?誰だテメェら?」
と、中のメンバーから声がする。
「海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦 航海長尾栗 康平 三等海佐。」
「同じく、海上自衛隊第82航空隊 佐竹 守 一尉。」と、尾栗の自己紹介に続いて佐竹も自己紹介をした。
「三等海佐って…。少佐クラスじゃねえか!」と、慌ててその場にいたほぼ全員が起立して敬礼する。だが、一番奥の椅子に小太りな男性が座ったままだった。
「…私がこの補給班の兵曹長、河本です。こんな夜遅くに、どのようなご用件で? 」と、グラスを持ちながら、話した。一呼吸を置いたあと、尾栗が
「~いや、昼間の間、皆さん方に補給のお手伝いをしてもらいましたから、お礼に上がったんですよ。さ、皆さん、座ってください。俺、博多の生まれだから、こういう堅苦しいの好きじゃないんすよ。」と、笑いながら話す尾栗の一声で全員が席に座った。
「こいつはうめぇや♪」
「バーボンって、とうもろこしから作ったアメリカの焼酎だろ?」
「休暇の時に東京のバーで女と呑みてえなぁ~」と、あちらこちらから歓喜の声が上がる。酒の話で盛り上がっていると席にいた一人が…。
「ところで尾栗三佐。あなた方が別世界からやって来たってのは…。ホントなんですか?」その言葉に全員が黙り込んでしまった。
コト…。
と、グラスをテーブルに置いた尾栗が話始めた。
「…酒が入ってから話すと現実味が薄れるが、本当の話しだ。」と、河本達は驚く。
「…俺らは本当は、ハワイ沖で行われる日米合同軍事演習に参加するために向かっていた…。だが、ミッドウェー沖で異常な低気圧に遭遇…。気づいたらこの世界に飛ばされていたんだ。」
すると、聞いていた河本の部下が質問してきた。
「尾栗三佐はこの世界の未来を知っているんですか…?」
その言葉に尾栗は…。
「…日本はなぁ、この戦争のあと大きな経済発展を遂げるんだ。世界中が、優れた我々日本の製品を求めてやって来る。現に、アメリカや中国で走っている車は大半が日本車だ。」と、尾栗は艦これの攻略本に記載されていた戦後の様子を話した。
「…ところで尾栗さん。戦後の事は分かったが、それまで本土は無事なのかね?」
「河本兵曹長は、お住まいはどちらで?」
「広島だがね。妻と娘二人が住んでいる…。」と、タバコに火を付けながら話してきた。
(広島…。)
尾栗はみらいにある艦これ攻略本の内容を思い出した。2016年11月…。深海棲艦による本土空襲が本格化し、翌2017年4月18日に国防海軍の基地が近い広島市周辺に大規模空襲があるのだ。
「…どうなんだね?」
と、言う河本の言葉に我に帰った尾栗は「ええ、大丈夫です…。」と、答えるしかできなっ
た。
「よぉし!お客さんが来ているんだ!いっちょ、歌うかぁー!」と、部屋にいた一人が話始めた。
「しけた軍歌なんて歌うんじゃねえぞ…。」と、河本がタバコを手に取りながら呟く。「近藤!お前の十八番をやれ!」と、声がかかり歌が始まった。
尾栗と佐竹が歌を聞いていると河本が声をかけてきた。
「こいつらと一緒に歌を歌っているとなぁ…。いつも思うことがあるんだよ。」
「…えっ?」と反応する尾栗に
「いつも夕飯のあとに皆で歌を歌うんだ。そうしながら一日一日を過ごしている…。絶対、生きて帰ろう…。戦場で死んでたまるかってんだ!」
という河本の言葉に驚く尾栗だった…。
その頃、鎮守府内では吹雪 白雪 深雪 暁 響 が食堂に集まり夕食を食べながら話し合っていた。
「明日からの遠征だけど…。あの提督の様子…。ただ事じゃなかったよね?」と白雪が皆に訊ねる。
「確かに、普段の提督とは違うな。」
「そうかしら?私を推薦するなんて、やっと一人前のレディとして見てくれたのかも♪」と、響の言葉を聞いていなかったのか?それとも勘違いしているのか?暁は少し喜びながら話す。
「…けど、提督が自分の指揮下から私たちを外して護衛艦みらい の梅津艦長に任せるなんて…。」
と、白雪が呟いた。
「でもさー。なんか考えがあるからこうしたんだろ?」と、腕を頭の上で組み背伸びしながら深雪が話す。
「ところで、提督やみらいさん、しらせさんはどこ行ったのかなぁ?」と吹雪が白雪に聞いてきた。
「…ああ、もしかしたら宗谷お祖母さんのところに行っているんじゃない?」と白雪が答える。
尾栗が河本のところへ差し入れをし、吹雪達が遠征について話し合う2時間程前、提督とみらい が乗った車が横須賀鎮守府を見渡せる高台へと続く道を登り高台のとある大きな御屋敷に向かっていた。
ピンポーン
「ハァーイ!!」
と、私服姿のしらせ が玄関に向かって走っていた。扉を開けるとそこには柏木提督と みらい の姿があった。
「…あれ提督?それに みらい さんまで…?どうしてここに?」と提督に尋ねるしらせ。
「それはこっちだよ、しらせ こそ何でここに?」と、質問をそのまま返す提督に…。
「何も書くにも、ここは私のお祖母ちゃん家だよ?明日から遠征で遠くにいくから今日はここで過ごそうと思って…。」
「えっ?ここ、しらせのお祖母ちゃん家だったの!?」と驚きを隠せないみらい。
それもそうだ、横須賀鎮守府を見渡せる高台に大きな日本家屋の立派なお屋敷なのだから…。
二人は家に上がり中を歩いていると提督が、
「しらせ?ところで宗谷さんはどちらに?」
「ええ、書斎にいるわ」
「…お祖母ちゃん?」
しらせ が書斎の障子を開けると中には椅子に座り眼鏡をかけ、読書をしているお婆さんがいた。
「その声はしらせかい?」
「お祖母ちゃん、私の鎮守府の柏木提督がいらっしゃったんだけど。」
しらせの声に、椅子から立ち上がり宗谷はこちらに向かってきた。
「あら、柏木さんお久しぶりでございます。」
「こちらこそお久しぶりでです。宗谷さん。」
挨拶を交わす二人に しらせは
「あれ?二人とも知ってたの?」
「ああ、俺が自衛官の頃何かとお世話になったんだ。」と、訳を話す柏木提督。
「まぁ、立ち話も何ですからどうぞ座ってください。」と、隣室の和室に案内される。
「ところでしらせ?このお方は?」
と、みらい がしらせ の耳元で尋ねてきた。
「おや、こっちの子はみかけない顔だねぇ?」と、宗谷に行きなり振られたみらいは…。
「はっ!はい!!…私は海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦の3番艦 みらい と申します!!」と、緊張して裏声になっている みらい に宗谷手を差し出し、
「初めまして みらい さん。私は、海上保安庁所属 初代南極観測船 宗谷 と申します。」
「ど、どうも…。」と、緊張しながら宗谷と握手する。
「ところで みらい さんは しらせ の友達だそうですね?数少ない しらせ の友人になってくれてありがとう…。しらせ は小さいときから人付き合いが苦手でねぇ~」と、突如 しらせ の昔話を始める宗谷に
「お祖母ちゃんヾ(゚д゚;)恥ずかしいからその話はいいよぉ~」と、しらせが制止する。それを見ていた提督は思わず吹いてしまった。
「もぅ~提督も笑わないでよぉ~」
と、顔を真っ赤にしながら話す しらせ。
「ハハハ…。ところで柏木さん?ここへ来たのは何か用があるから来たのでは?」
「えぇ、明日からの遠征について宗谷さんに相談したいことがありまして…。おっと、すまんが しらせ大事な話だから、一旦席をはずしてくれないかな?」
と、提督が席を外すよう頼んできた。
「ええ、いいですよ…。みらい!私の部屋に行こっ!色々と見せたいものもあるし。」
「うん…。」
しらせ に言われて部屋から出る みらい は、宗谷の事がずっと気になっていた。提督が、今回の遠征について宗谷に話している頃、しらせ と みらい は しらせの自室にやって来た。
「ここが、しらせの部屋なの…。」
しらせ の自室は鎮守府の相部屋の倍はあり、12畳程の和室の中に、南極観測に使う資料や道具等が綺麗に整理整頓されて置かれていた。そして、縁側からは広い庭が見え月明かりが差していた。
「ところでみらい~ここには何しに来たのよ?」と、明日からの遠征に備えゴソゴソと荷物を整理しながら しらせ が尋ねてきた。
「いやぁ、提督から一緒に来てくれって言われてついてきただけなの。」と、苦笑いで返答する。
「ところで明日の出港時間聞いてる?」
と、部屋の時計を見ながらしらせが尋ねる。現在の時刻は1830だ。
「梅津艦長の話だと、明日の0600に出港する予定よ。」と、みらいから聞いたしらせは少し考えたあと…。
「…そっか、0600出港か。」と、呟き…。
「んじゃ、明日の0500にここを出れば良いから…。せっかくだから泊まってく?」
「へ?」しらせ の言葉に少し驚いたみらいだったが、折角の機会ということで柏木提督と相談してみたところ…。奇跡的に外泊許可を得ることができた。
「んじゃ、みらい しらせ !明日の朝0500に車を迎えに来させるから…。今日はここでゆっくり休みなさい…。明日から忙しくなるからな。」と、二人に明日の予定を伝え車に戻る柏木提督。
ブロロロロン…。
提督の運転する車は、暗い山道を赤いテールランプを残しながら鎮守府へ戻っていった。
「みらいさん。夕食を用意するまでの間、しらせと一緒にお風呂に入ってきなさい。」と、後ろから宗谷が声を掛けてきた。
しらせに案内されて風呂場にやって来たみらい。風呂は鎮守府のドックよりか一回り小さかったが、数人で入ってもゆっくりと足を伸ばして入れるゆったりとした構造だった。みらい が身体を洗っていると、先に浴槽に入っていたしらせがこのようなことを話始めた。
「あ~あ…。明日から遠征かぁ~ このお風呂にもしばらく入れないのかぁ(泣)」
「ハハハ…。また、ここに帰ってくれば入れるよ…。」と、慰めるみらい。
「でもさぁー。私が一緒に着いていって役に立つことあるのかしら?」と、膨れっ面で みらいに遠征の事を言ってくる。
「私、みらいと違って観測に特化してるから…。持ってる武器は護身用の機関銃だけだよ~戦地に行くなら、せめてCIWS位は追加しておきたいなぁ…。」
「ハハハ…。私はイージス護衛艦として生まれてきたからね…。日本を守るって使命があるし…。でも、しらせ はしらせで私には出来ないことだってあるでしょ?例えば、気象観測や海洋観測とか…。私よりも観測機器はいいでしょ?航行するのに気象データと海洋データは大切なんだから!」と、みらいが話した直後…。
ザハァ!
と、浴槽から立ち上がるしらせ。
「そうよね!私が呼ばれたのは気象と海洋観測のデータ採取をやってくれと頼まれたからだわ!明日から頑張るよ!ありがとう みらい♪」
翌朝 横須賀 宗谷邸前
みらいとしらせの二人を迎えに車がやって来た。
「おはようございます。横須賀鎮守府よりお迎えに上がりました。」と、迎えの兵が敬礼する。
「おはようございます。」と、二人は挨拶し車に荷物を積み込み始めた。すると、家から宗谷が出てきて…。
「しらせ。みらい…。これを持っていきなさい。」と、二人に御守りを渡した。「私が艦娘の時に使っていた艤装の塗装の欠片が入っているの。これがあれば安全な航海を続けられるよ。」
「ありがとうおばあちゃん!」と、宗谷に抱きつく しらせ。みらいも「ありがとうございます。」とお礼を言う。
「あと、これ途中で食べなさい…。」と、宗谷は二人におにぎりを渡した。
「おばあちゃんありがとう…。」と、すでに涙ぐむしらせ。みらいも宗谷としらせの三人で一夜を過ごし、今までのストレスやこれから先の航海への不安を幾分、和らげることができた。
ブロロロロロロロロロロ…。
宗谷邸から鎮守府に向けて、二人の乗った車が出ていく。「ありがとう~!おばあちゃん~!」という、しらせに続いて…。「宗谷さぁーん!ありがとうございました~!」と、みらいも大声でお礼を言った。
横須賀鎮守府 埠頭
みらい達が護衛艦みらいに到着する頃、時計は既に出港20分を切っていた。二人は自室に置いていた荷物を取りに一旦戻り、船に戻ったときには出港時間だった。
「あれ?みらいさんとしらせさん?昨日はどちらに行っていたのですか?」と、港を離れるみらいの甲板で吹雪が聞いてきた。
「あぁ、昨日の夜は宗谷さんのところに行っていたの。」
「そうでしたか、急に姿が見えなくなったので少し心配していたのですよ…。」と、吹雪は少しだけスネていた。ふと、視線を岸壁に向けるとそこには柏木提督をはじめとする横須賀鎮守府の艦娘達が並んでいた。
「総員、帽振れ~」
艦橋からアナウンスが流れ、甲板に整列したみらいクルーや吹雪達艦娘も一斉に敬礼した。「あっ!」ふと、隣にいた尾栗が声を上げる。
「河本兵曹長ー!!」と、叫びつつ手を上げる。すると…。岸壁にいた河本は無言で敬礼をした。
「よし…。機関前進半速~」
艦橋で梅津が指示をする。そしてマイクを取り…。
「これより、深海棲艦との戦闘海域に入る。対空、対潜、対水上警戒を現にせよ。」
朝日に照らされながら、海上自衛隊のイージス護衛艦みらいは横須賀港を出港した。
~神奈川県 三浦市城ヶ島~
東京湾の出口に当たる城ヶ島の灯台で一人の若い男が望遠鏡で護衛艦みらいを見つけていた。みらいを確認すると…。
ピッピッピ…プルルルル…。
「…あぁ、私だ。例の護衛艦が横須賀を出た。」と、携帯電話で話す。
「…了解した。引き続き、例の件。横須賀鎮守府の監視を頼む…。安室君…。」
電話を終えた男は駐車場へ向かい…。
ブオオン…。ブオオオオオオオォォォォォォォ…。
という、スポーツカー特有のエンジン音を残し立ち去った…。