さて、長く続いたカダルカナル攻防戦も角松達のお陰で新たな道を切り開こうとしています。前回、陸戦で深海棲艦と戦った角松が思っていることとは…。
俺は夢を見ていた…。
敵に首を絞められ殺されそうになる夢だ…。
俺が俺を殺めようとしている。先日のガタルカナル島での戦闘を思い出させる夢だった。
「うわぁぁぁあああ!!!」
目が覚めてベットから飛び起きる。部屋を見渡すと艦内の医務室で桃井と尾栗が驚いた様子でこちらを見ていた。
「ハァハァハァ…。」
「副長も人の子ですね…。丸一日眠ってましたよ…
痛っ。」おでこの傷を消毒薬でつつかれながら尾栗は話した。
「ところで、柳の容体は?」
「ええ、弾は抜けてますし内臓への損傷も見受けられません。ですが、なるべく早く設備の整った病院に入院させた方が…。なにしろ、応急処置しか出来ませんから…。」と、苦笑いで桃井は話した。
「あっ、そうだ。副長、栄養剤を投与しますから…
待っていてください。」と、桃井は医薬品の保管室へ向かった。
「康平、ガ島陸海軍駐留部隊救出の作戦指揮は誰がするんだ?」角松は駐留部隊救出の際に、上陸部隊の隊長として指揮を行う人物は誰だと尾栗に尋ねた。すると…。
「どうも、船務科の桂木一尉が行うそうです。津田大尉と艦娘の白雪が同行するそうで、追加で5名ほど選抜してほしいと…。あと、目が覚めたら艦長のところへ来てほしいとの事です。」
「…なんだと?俺じゃなくて桂木が指揮をするだと…。」角松はベットから降りて、医務室から出ていこうとする。
「副長!栄養剤…。」
「今はいい。大丈夫だ。」
バタン!
そう話して角松はCICへ向かった。
途中で 艦娘の みらい と出会った。
「副長…。大丈夫ですか?顔色悪いですけど…。」
「いや、大丈夫だ。ところで艦長は?」みらい の心配をよそに角松は梅津艦長の居場所を尋ねた。
「艦長なら、菊池三佐と一緒に艦長室へ向かいましたよ。」
「すまんな、ありがとう。」
みらい にお礼を言い、角松は艦長室へ向かった。CICの前では片桐と出会った。
「副長~激しい白兵戦だったんですよね。顔色からも分かりますよ…。」
「だったら何の用だ…。」
「また、ガタルカナル島へ向かうなら俺を従軍カメラマンとして連れていってください。記者として、現地の状況を撮影したいんです。」現地を撮影したいと申し出る片桐に角松は…。
「…俺らは、ドンパチやりに来たんじゃない。人命救助だ。それに奴らは俺たちの明確な敵ではない…。」と話して、角松は立ち去っていった。
(副長は生真面目だからなぁ。素直に敵だって言い切ってしまえば楽なのに。あくまで、自衛官という立場を変えたくないんだろうなぁ…。)片桐は角松の背中を見ながら思っていた。
1815 [みらい]艦長室
「お前は、少し疲れている…。ここは休んだらどうだ?」梅津艦長に会って最初の一言はこの言葉だった。
「…いえ、飲まず食わずで熱帯雨林を逃げ回っている陸軍や海軍の兵士達と比べれば大丈夫ですよ。」
「梅津艦長。海軍のマリアナ基地と連絡を取ったところ、島の南東マラクル村沖合いに海軍の輸送護衛艦[だいせん][のと]と護衛艦[あらかわ][ちくま]を派遣するとの事です。」津田が本部からの電文を読み上げる。
「さて、上陸部隊だが隊長は桂木一尉を…。」
「いえ、私に行かせてください。」
梅津の言葉を角松が突如遮った。すると梅津は…。
「副長…。なぜ、そこまでして参加したい?」
と、参加理由を尋ねた。角松は、
「私には柳や尾栗の二の舞をさせたくない。その責任があります。その上、先に上陸した経験者が居た方が作戦の遂行も順調になるかと…。」
「…分かった。そこまで言われたら拒否できんな。桂木を副隊長とするが、決して無理はするんじゃないぞ。と、梅津は角松の参加を許可した。
2200 マラクル村 海岸
角松達上陸部隊は沿岸で待機していた。沖合いには海軍の護衛艦の姿が見える。深海棲艦の部隊はここまで侵攻はしていないようだった。辺りは月光に照らされてうっすらと明るくなっていた。
「副長。あれ…。」
桂木が指した方向から大勢の人々がやって来るのが見えた。その一番前には陸軍と海軍の指揮官が歩いていた。
「はるばるご苦労。国防陸軍 第82普通科連隊 総隊長 棟方 宗一 以下、隊員185名!」
「国防海軍ガタルカナル島第82沿岸警備隊 隊長 門前 謙二。隊員、21名。 」と、二人が敬礼する。
(2千人以上が戦死するはずの歴史が・・・。書き変わる!)様子を見ていた角松が思った。だが、合流した国防軍の隊員達の数が予想より少ない。
「あちらの方達は?」門前が津田に質問する。津田は「軍機につき詳しくは申し上げられませんが、特務についている者です。」と、お茶を濁した。すると…。
「津田大尉!船の用意が出来ました。」[だいせん]の乗組員が輸送用意が出来たと報告する。
「報告では、ガタルカナル島には日米双方2千5百名が救出を待っている報告を受け…。その中には陸軍の岡村少佐も居るとましたが…。」
「あいつは身勝手な男でな…。何を思ったか、今さっき部下を数名連れてジャングルへ消えてしまった。」門前は空を見上げながら話す。
「日米双方合わせて2千5百名中、日本軍は1千4百名…。そのうちここへたどり着いたのは201名だ。」
陸軍の棟方隊長がこれまでの経緯を話しはじめた。
「突然の空襲でな、レーダーサイトが破壊され指揮系統は混乱。各自の判断でジャングルへ逃げ込んだのだが、敵に見つからずにここまでたどり着けたのはこれだけだ。」密林を見つめながら、棟方は話す。「ここへ来るまでの間…。密林で火を炊いたあとが幾つもあった。中には、この撤退命令を知らずに今もなお1千名近くの隊員が空腹と恐怖に囲まれながら隠れているだろう…。捜索しようにも、この状況下では十分な捜索活動は出来ないと判断した。」
「そ、そんな…。」白雪はその話を聞いて、ショックを受けていた。しらね から陸戦部隊に出るなら相当な覚悟が必要だと聞いていたが…。ここまで残酷な現実とは思わなかったのだ。
話が終わり…。
「では、各部隊ごとに護衛艦に乗船していただきます。」津田の指揮で隊員達が短挺に乗る。「…これで、歴史が変わるんですか?」ふと、白雪が独り言のように話した。「それは、分かりませんが。この世界の運命は変わりつつあると思います。」桂木は白雪に話した。突如、角松が走り始めた。
「副長~!どこ行くんです!?」桂木が声をかけるが、「お前ら、そこで誘導してろぉ~!」と残してジャングルへと消えていった…。
「ハァハァ…。一人でも二人でもいい…。近くにいるなら出てこい!」
角松は取り残された国防軍の隊員が居ないか息を切らしながら一人で捜索していた。
「フォールドアップ!」
ふと、後ろから何やら声がする。動きを止めて耳を済ませていると…。
「リリースユアウェポン…。」
(ビーチからまだ、201名が脱出していない‼)
角松は声がした方向へ機関銃を向けた。そこには深海棲艦ではなく、普通の人間が立っていた。
「ほぉ、この岡村さまの英語が通じないとは…貴様、日本人だな。」
制帽から見てこの島で活動していた事実上の指揮官。国防海軍の岡村少佐だった。それを見てホッとして角松は銃を降ろす。
「貴様、妙な鉄帽を被っているが国防海軍の軍人か?」
「…いや、軍人は軍人だが…。名前は角松 洋介」
角松は曖昧な返答をしたが岡村は「まぁ、よかろう。同じ日本人だな。」と笑いながら答えた。
「ところで、角松さんとやら…。ここで何をしている?」
「撤退命令を知らずに今もなお、さまよっている陸海軍双方の隊員達を捜索していた所だ。」
「そっか、この辺りは俺と…。」
「岡村少佐ー!」と、遠くから隊員数名がやって来る。「…こいつらが探したが、いねーよ。」岡村は残念そうに話す。だが、希望はなくしておらず部下に捜索結果を尋ねた。しかし…。
「そうか、居ないか…。仕方ない時間切れだ。お前達は海岸へ向かい、短挺で脱出しろ。」
「隊長はどうするんです?」
部下の一人が岡村に尋ねる。帰ってきた返事は驚きの物だった。
「…俺はここに残るよ!」
「えええ!!!???」
と、部下達の驚きの声がジャングルに響き渡る。
「た、隊長一人でどうするんです!?我々もご一緒させてください!」部下の一人が尋ねると…。
「だめだ!」と、一喝された。
「…お前らには任務が残っている。後任は岡村にお任せくださいと門前大佐へ伝えてくれ。それから船だ!1週間後にこの海岸に設営隊脱出用の船を用意してくれと、進言してくれ。」
「た、隊長…。」涙ながらに話を聞く部下に岡村は「早く行け!グズグズしてると、敵の餌食になるぞ!あと、でっかい船を頼むぞ。」と話し、部下の隊員達を海岸へ向かわせた。走り去る部下の姿を見送った岡村は角松に尋ねた。
「角松さん…。あんたはいいのかい?行かなくとも。」
「岡村少佐…。なぜ、こんな大胆な行動を?」
「見ちまったんだよ。」
「えっ?」
「ここへ来るまでの間、あちこちで火を炊いた跡があった。今もなお、撤退命令を知らずにジャングルをさまよっている彼らの事を知っちまったら…。」
「置き去りには帰れんよ…。」
その一言に角松は自分が別世界からやって来たこと、この島が激戦地になる事を伝える決心をした。
「私も二日前に敵の兵士を殺しました。無駄な血をこの手で流したくなかった…。」
「そう、思い詰めることはないさ。あんたは立派に戦ったってことだ。」
敵との戦いで後悔している角松を岡村は励まそうとした。すると角松は、
「…岡村少佐。俺はこの世界の人間じゃない。この世界がゲームとして存在している世界からやって来たんだ。」
「…なるほどなぁ、この島にそんな運命が訪れるのか…。」岡村は水筒の水を飲みながら話す。
「岡村少佐はこの激戦地で生き残ることとなっています。ですが、この行動で世界の運命が変わり…。恐らく、この島での大きな戦闘は発生しないでしょう。」角松は自身が予測した戦争の行く末を話した。だが、岡村少佐は…。
「決められた歴史か…。そんなものあるのかねぇ?」
「えっ?」
「だって、あんた達がこの世界に来たってことは…。まだまだ変わる可能性だって十分ある。俺はそうだと信じるがな。」岡村はそう話して立ち上がった。
「では、急ぎの用だからな。これで失礼する。あんたも無事にこの戦争を乗り切れよ。」と、岡村は角松に話してジャングルへと消えていった。
バラバラバラバラバラバラバラバラ…。
「ー副長、帰艦予定時間です。」SH-60Jから無線が入る。上空からサーチライトで照らされて辺りが明るくなる。
(俺は、岡村少佐みたいに変わり行く歴史に責任を持てるのか?)
と、角松はこの世界に対する責任を取れるのか自問自答を繰り返す事となった。