ガダルカナルでの戦いが終わり、海軍から出頭を命じられた[みらい]はマリアナ基地へと入港した。そこでは海軍の司令長官山本との会談が行われることになっていた。そして草加少佐も自身の道を歩み出そうとしていた。
航跡29:マリアナ上陸~海軍参謀会議~
ガダルカナル島にて国防海軍による深海棲艦への、一方的攻撃を阻止した海上自衛隊イージス護衛艦[みらい]はマリアナ基地へ出頭を命ぜられていた。
「麻生専任曹長…。我々、これからどうなるんです?」
「分からんな…。だが、俺たちがやるべきことは専守防衛だ。それを忘れるな。」艦橋で麻生達が話し合っていた。停泊している岸壁には海軍警務隊の車両が停まっており、警備の兵士がこちらを睨んでいた。[みらい]クルーと国防海軍警務隊がにらみ合いをしている頃、角松達幹部らはマリアナ基地本部内の応接室にて司令長官の山本と会談をしていた。
「先日のガダルカナル島沖合での衝突…。我々、国防海軍としては作戦を妨害されたとして認識している。だが、私としては…戦闘突入を回避できるチャンスを授けてくれたことに感謝している。」国防海軍司令長官の山本はそう話した。
「しかし、我々はあなた方を敵に回してしまった…今後、何らかの報復を受ける可能性は高い。我々はそう、判断しています。」梅津は静かに山本に伝えた。
「それに関しては、私から控えるよう伝達はしておく。だが…。我が海軍の最新鋭の戦艦[やまと]に砲撃をした事実は、消すことはできないでしょう。」山本はコーヒーを飲みながら話す。
「話は変わりますが、あなた方護衛艦[みらい]の今後について我が海軍内部で検討した結果をお伝えします。」と、津田が話に介入してきた。
「あなた方の今後についてですが、8月2日に当マリアナ基地を出港し横須賀鎮守府へ向かってください。海軍上層部で会議をした結果あなた方の身柄は横須賀にて暫く待機していてもらいたい。」
「横須賀…ですか。」角松が海軍の判断に驚き、呟いた。
「ええ、横須賀…。あなた方が旅立った場所です。」と、山本は話す。少しの沈黙の後、菊池が話始めた。
「…一つ、確認したいのだがよろしいか?」
「ええ、構いませんが。」
「我々が横須賀へ向かう際…。当然、単艦では行かせないと思うが監視の船はどうなる?」と、菊池はあくまで護衛と言う名目で[みらい]を監視する船舶を気にしていた。だが、菊池の予想通り津田からは「それは、出港当日にお伝えします。」という返事が帰ってきた。
「ところで、あなた方は横須賀の柏木君から…。横須賀所属の艦娘を連れて帰ってきてほしいと頼まれていたな。それに関してだが、我々の方で輸送する艦娘を選定しておいた。」と、山本の話のあとに津田が封筒から資料を出す。
「あなた方の護衛艦の艦内設備から見て、負傷が軽微な艦娘達を輸送するのに適していると判断しました。よって、この三人を乗せて行って欲しい。」
資料には、輸送予定の艦娘三人の名前が記載されていた。
[ 蒼龍 飛龍 瑞鳳 榛名 ]
「こちらの四名ですか…。」梅津は資料を見ながら話す。
「ええ、具体的な負傷内容は資料に記載されていますが…。蒼龍 飛龍の二名については骨折などの物理的損傷。榛名は極度の疲労による体調不良です。
一方の瑞鳳は横須賀帰還と彼女達の看護をする事となりました。」
「…搬送についてはこちらのやり方で、よろしいのか?」角松は津田と山本に質問したが二人からは「貴艦の判断に任せる。」と返ってきた。
「それと、貴艦乗組員についてだが…。」山本の話に梅津は驚いた。
同日 1800 [みらい]艦内食堂
食堂ではクルー達が交代で夕食を取っていた。今日は金曜日で毎週恒例の金曜カレーが出されていた。今日のカレーはカツカレーであり、隊員達は皿に山盛りに持ったカツカレーを食べていた。カレーの良い香りが漂う食堂にふと、艦内放送が流れる。
「皆、そのままでよい。艦長の梅津だ。長きに渡る航海…大変ご苦労である。本日、国防海軍と我が[みらい]幹部との会談があった。本艦は暫しの間、当マリアナ基地にて休息を取るが…。」
食堂で金曜カレーを食べていた隊員。機関室でエンジンの整備をしていた隊員。飛行甲板でジョギングしていた隊員達、それぞれが梅津の言葉に耳を傾ける。
「会談の結果、本艦乗組員への慰安の申し出があった。私は、これを喜んで承けようと思う!」
「ウォォオオオ!!!!」
艦内に隊員達の喜びの声が上がっていた。
「久しぶりの上陸だ。」
「陸の空気を吸える!」
「酒に女だヤッホーッ!」
と、食堂はお祭り騒ぎだった。ふと、食堂に角松が入ってくる。お祭り騒ぎの食堂の状況に驚いたが、隊員達に「今回は、特別の上陸許可だが…。今もなお、ガダルカナル島で戦闘をしている兵士が居ることを忘れるな!それから、一度は銃口を向けた相手だ油断禁物だ!」
「ハッ!」角松に気付き慌てて敬礼する隊員達。調子にのっていた隊員達は雷が落ちるのではないかと察してしたが…。角松は何も言わずに食堂から去っていった。
「…おっかねぇ。怒鳴られるかと思ったぜ。」
「普段の副長なら…怒鳴るんですけどねぇ。どうしたんでしょ?」
「さぁな…。この前のガダルカナルの事が気にかかってんじゃないのか?」と、隊員の一部が角松の後ろ姿を見ながら密かに話していた。
翌朝 国防空軍 マリアナ基地 整備場
コツ…コツ…コツ。
空軍の整備場に海軍の人影があった。普段、海軍と空軍の人物が共に行動するのは いぶき型護衛艦等で行動はするが…。基本的には大規模出撃時の打ち合わせ以外では空軍の整備場にはやって来ない。
「今日、東京へ向かう便はどれかな…?」
「はっ、本日1730。入間基地行きのAC-3型輸送機[しらさぎ]があります。」と、空軍の担当者が話す。
「積み荷は何だ?」と、海軍の制服を着た人物が尋ねる。空軍の担当者は資料をめくり調べる。
「…えー、積み荷は本土の修理工場行きの陸軍向け銃器類ですね。」と、眼鏡を整えながら話す。
「急ぎで悪いのだが…。東京へ向かいたい。乗ることはできるかな?」と尋ねると…。
「こちらは構いませんよ、積み荷も少ないですし乗っていただいても構いませんが…。何用で?」
「いや、明朝に国防省で海軍の緊急会議があるのでな…。」と、話すと「それはそれは、海軍さんも忙しいんですなぁ~」と、空軍担当者が笑い飛ばす。「分かりました。搭乗手続きを行いますのでこちらに記入してください。」と、搭乗手続き用の用紙を手渡す。
「国防海軍 通信少佐 草加 拓海 さんですね。了解しました。あとはこちらで手続きしておきますので…。離陸10分前には当整備場の事務室へお越しください。お待ちしています。」
「あっ、この件はくれぐれも内密に頼む。極秘行動中であるからな…。」と、その男は伝えて整備場から出ていった。
1530 マリアナ基地 埠頭
国防海軍からの計らいにより暫しの休息を取ることとなった海上自衛隊のイージス護衛艦[みらい]は、乗組員241名を三分割し80名ずつ慰安の為上陸を許可された。場所は、梅津艦長と沢井総監が会談した日本料理[料亭 湘南]で行われる事となった。
「おっ?あそこの女の子…。現地の子かなぁ?」
「駄目ですよ杉本二曹!」埠頭から料亭へは海軍の大型トラックの荷台に乗って移動していた。道路沿いの畑で可愛げな少女が農作物を運んでいた為、一部の隊員が手を振り声を掛ける。少女は手を振り、答えてくれた。
「おっ!手を降ってくれたぜ♪」と、夜の宴会に期待を持って楽しみにしている隊員の中に…。角松と津田の姿があった。
「草加少佐とはあの後、連絡は取れていますか?」
「いや、全く取れていない。奴が何をしようとしているかは…詳しいことは分からんが。」と、津田と角松は草加少佐の事について話していた。ふと、トラックと黒色の乗用車がすれ違う…。
(・・・!!!)
「あっ!草加ーっ!」と、いきなり角松が乗用車に向けて叫ぶ。「えっ!?」という津田の反応と同時に角松は荷台から飛び降りた。
「奴だ!追いかけるぞ!」「はい!」
角松と津田はトラックから飛び降り、乗用車を走って追いかけ始めた。
「副長ーっ!?どちらへ行くんですかぁ?」という隊員達に「お前ら先に行ってろぉー!!」と、叫んで二人は去っていった。
ブロロロロロロロオオオオオオ…。
土煙を上げながら走る乗用車の車内では草加少佐と陸軍の軍服を身に付けた軍人が乗っていた。
「…おや?誰か追いかけてきてますね。」その軍人が後ろを見ると全力疾走中の角松と津田の姿が見えた。
「彼らは…私の友人でありライバルでもあります。」
「それでは…?車を止めた方がよろしいか?」
車を止めるか尋ねた陸軍軍人に草加は「いや、結構。彼らとはまた会うはずですから…。」といい車の速度を上げるように指示を出した。
「津田大尉…ハァハァ…奴の行き先分かるか?」
「ハァハァ…。この方向だと、恐らくこの先の漁港から連絡船に乗って楓島飛行場へ向かうつもりでは?」草加の乗った乗用車を追いかけながら、角松と津田は話していた。
「それだ!そっから飛行機で高飛びする考えた!」
その角松の意見を聞いた津田は急に速度を落として…雑木林にある細い獣道を指差した。「この道は大きく迂回して港に出る道です。でしたらこの裏道を通った方が速いです!」津田の意見を聞き、角松は泥だらけになりながら裏道を進んだ。道路を迂回するよりも5分近く早く漁港に着くことができた。ここまで追いかけていた乗用車の横を通り漁港の堤防を進むと、草加達が乗っていったと思われるボートが見えた、
「ハァハァ…。くそっ!ここまでか。」角松は制帽を握り潰す。すると津田がもう1隻止まっているのを見つけた。そのボートに飛び乗ると乗っていた水兵が…「困ります大尉。この船は護衛艦[あらなみ]艦長 武田 信義 をお待ちしています。」と、困る水兵に津田は…。「構わん!山本五十六司令長官からの厳命だ!」と、叫んで角松と共に楓島飛行場へ向かった。
二人が飛行場に到着し、空軍関係者に本日の飛行スケジュールを確認していた。
「今日の飛行予定は、スクランブル(緊急発進)を除いて…着陸便が2機。いずれも本土からの輸送機ですね。」と、担当者が話す。ふと、甲高いエンジン音が鳴り響く。滑走路に向けてAC-3型ステルス輸送機[しらさぎ]が離陸準備に入っていた。
「…ここから本土へ向かうのは今日は、あれが最後です。」と、指を指した。
「あれは空軍機です。私に止める権限はありません!」
「んな事いってられっかーっ!」
キィィィィイイイイインンンンン
大声をあげて角松が飛行機に向けて走り始める。
「ーこちらマリアナ管制。国防空軍4568便、離陸を許可します。」
「こちら国防空軍4568便。離陸許可。離陸許可。了解しました。」
キィィィィイイイイインンンンン
AC-3輸送機が滑走路に進入し、離陸体制に入る。角松は近くまで駆け寄り機体の近くまでやって来た。
「まてぇ!このペテン師め!お前がいくら世界を騙そうと、俺は騙されんぞ!」角松は離陸しようとしている輸送機に向かって大声を出した。すると、中に居た草加が気づいたのか窓越しに口をパクパクさせる。
「イ・シ・ワ・ラ・カ・ン・ジ」
それを読み取ったところで、角松はエンジンからの爆風で派手に転び…。輸送機は東京方面へ飛び去った。
「角松さん!?大丈夫ですか!」と、慌てて津田が駆け寄る。「大丈夫だ。…イシワラ。石原莞爾に会おうってのか!?」傷だらけになりながら、輸送機が飛び去った方向を眺める角松。空は綺麗な夕焼けで赤く染まっていた。
同日 1900[料亭 湘南]
「ようこそ。はるばるお越しくださいました。」料亭の入口で和服姿の女将が[みらい]の乗組員達に挨拶をする。宴会場へ案内されると、おもてなしをする舞妓の姿があった。
「おぉ…。」余りの待遇の良さに驚いたが、酒を飲み始めると普段の様子と変わらなくなった。
「ハハハ。私は幼い頃から船が好きでしてね…。憧れから海上自衛隊に…。」「俺は防衛大学の棒倒しで優勝を…。」「こっちは、[みらい]配属前は掃海挺で不発弾処理をしていたんです。」等々、あちこちで盛り上がっていた。ふと、舞妓が日本の歌を歌い始めた…。すると、急に全員黙ってしまった。全員、元の世界に残してきた家族や大切な人を思い出して涙ぐんでいたのだ。
「はぁ、海軍さんとあろうお方が…。しけちゃいけないねぇ。」と、様子を見ていた舞妓はため息をついた。宴会場前の廊下では、佐竹が夜空に輝く月を眺めていた…。
(俺達はこの世界で何をすれば良いんだ?)
と、考えていたが…。考えていてもしょうがないと思い、持っていた御猪口の酒を庭に撒いた。
2200 護衛艦[みらい]ミーティングルーム
飛行場から戻った角松は、艦これの資料を片っ端から調べていた。それは、草加が飛び立つ輸送機の窓越しに話した石原莞爾についての事だった。
「…遅くまでお疲れ様。珈琲よ。」と、桃井一尉がテーブルに置いた。角松は「ありがとう。」と一言話し珈琲を飲む。手元のパソコンにはこれまで調べてきた艦これ世界の情報をまとめた、資料が表示されていた。艦娘や深海棲艦の事…。国防軍や世界情勢の事。そして、アメリカとの安保条約についての事。様々な情報をまとめていた。
「で、副長…。今日は宴会に参加する予定だったのに、どうして急に帰艦を?しかも、泥だらけで…。」と、尋ねる桃井に角松は「草加少佐が東京へ向かったんだ。奴のこれまでの行動からして何か良くないことを考えているのかもしれない…。」と話した。
翌日 1100 [みらい]資料室
カチカチカチ…。
「…草加が言っていたのはこの男か。」資料室では角松と菊池がパソコンを使い、草加が話していた石原莞爾について調べていた。津田から国防海軍のネットワーク侵入方法を聞き、人物照会をしていたのだ。
「…元防衛省 情報保全隊 陸上自衛隊西部方面担当官で、二年前に依願退官。現在は、東都大学校軍事研究の准教授か。」角松はモニターに表示された履歴を見る。「既に退官した軍人だが…。草加は何故?会おうとしているのか…。」菊池が疑問を抱いていると角松が…。
「奴が会おうとしている人には理由がある。それを調べてほしい。」と、菊池に頼んだ。「…分かった洋介。だが、草加の考え次第で変わるかもしれないぞ。」と、忠告するが角松は「分かっている。出来る限りで構わない。すまないがよろしく頼むぞ。」と、話して資料室から出ていった。草加少佐の不審な動きや護衛艦[みらい]での調査など…。今後の行動に影響が出るとは思ってもいなかった吹雪型駆逐艦娘三人は基地内部の食堂で早めの昼食を取っていた。
「あ~あ…。せっかくマリアナまで来たのに、[みらい]に乗艦していたからって事で休日返上で任務とはなぁ~。」と、昼飯の天丼の海老を食べながら愚痴をこぼしていた。「深雪ちゃん。そんなに凹まないの…。私だって遊びたいんだからさぁー。」と、珍しく白雪が遊びたいと話した。「珍しい~。白雪ちゃんの口から遊びたいって出てくるなんて…。」と、吹雪が驚いた顔で話す。三人が話していると…。「あれ?いつもの三人組でお昼?」声が掛かってきた方を見ると 護衛艦娘の しらせ が昼飯のパスタを持ちながら立っていた。
「あっ、こんにちは しらせさん。」と吹雪が挨拶をする。しらせ は吹雪達の隣のテーブルに座り話を聞き始めた。
「…なるほどねぇ~。確かにこのところ、私達艦娘の休日少ないわね。」と、顎に人差し指を当てながら話す。「ですよねぇ…。」と、白雪が呟く。
「まぁ、ガダルカナル島での攻防戦の直後だし…。暫くマリアナ基地で休息を取るみたいだけど?」「俺らの休日いつなんだよぉー。」と、深雪がテーブルに突っ伏して嘆く。すると、しらせ は梅津艦長に掛け合ってみると言ってくれた。
その日の夜である。梅津艦長に休暇申請しに艦長室にやって来た しらせ は梅津艦長の言葉を静かに聞いていた。
「…私も思っていたのだよ。ここまで来るのに艦娘達の支援がなければたどり着けなかった。本艦の出港予定は明後日8月2日だ。我が艦の隊員達とは別にあなた方にも休暇を与えようと…。国防海軍の山本長官と話し合っていたのだよ。」と、海図を見ながら梅津は話す。ふと、振り返って しらせ の方を見ると梅津はこう話した…。
「君達とは、このあとも共に行動する事となる。横須賀の柏木提督から君達を預かっていると言うのは変わらない。…明日一日しか与えることが出来なく申し訳ないが…。君達にも明日、一日休暇を与える。」と、梅津は吹雪達艦娘全員に一日限りの休暇を与えた。
「あ、ありがとうございます!!」と、深々とお辞儀する しらせ に梅津は…。「艦娘といっても…君達は人間だ。気分転換も必要だろう。今後、どんなことがあるか分からんが…。今のうちにしっかりと休息を取っておきなさい。」と、話してくれた。