8月1日 0700 マリアナ基地小会議室
出港前に梅津艦長を始めとする[みらい]幹部らはマリアナ基地内部の会議室にて、国防海軍参謀らと共に行程の最終確認をしていた。
「…なるほど。我々が予定していたルートより…大分西にずれるな。」海図し書かれたルートを見ながら菊池が話す。ルートが当初の予定より西に変更になった原因は、東京都沖ノ鳥島近海の海底で見つかった謎の構造物の調査の為だった。既に、父島にて調査していた日本海洋研究開発機構の研究員や国防海軍の調査隊は本土へ一度帰還し…。後日、改めて当該海域を調べることとなった。調査開始日が[みらい]の通過予定日と重なったのと、まだ極秘事項であることから[みらい]は西へ迂回することになった。梅津達が航行ルートを確認していると、会議室に若い一人の男が入ってきた。
「彼が、あなた方と共に横須賀へ向かってもらう…。えっと、名前なんだっけ?」と、度忘れする初老の参謀に「滝 栄一郎 中佐です。いい加減名前を覚えて頂けませんか(怒)」と、イラつきながら自己紹介する。
「…随伴艦は我が海軍のSS-801[じんりゅう]を用意致しましたが、中佐殿この艦でよろしいのですか?」と、初老の参謀が尋ねるが「空いている護衛艦がなければこれでよい。」と、申し出を断った。そして、
「改めまして、国防海軍中佐の滝 栄一郎です。」
「海上自衛隊イージス護衛艦[みらい]艦長 梅津 三郎です。」と、二人は固く握手をした。
同日 1000 マリアナ基地埠頭 護衛艦[みらい]
乗艦に手間取っていた負傷した艦娘達も乗艦し、所定の配置に全員が付いた。
「出港用意! 抜錨!」
ガラガラガラガラガラガラガラガラ…。
角松の一声と共に錨が水飛沫を立てながら引き上げられる。
「機関前進微速。取舵20°」梅津が艦の動きを指示し、[みらい]は静かに埠頭から離れる。港から出るまでは湾内用タグボートが随伴したが…。出入り口付近までの随伴であり、タグボートに乗っている国防海軍の隊員達は敬礼で見送った。一方、滝中佐が乗艦しているSS-801[じんりゅう]は[みらい]よりほんの少しだけ遅れて基地を出港した。
SS-801[じんりゅう]艦内
滝中佐は潜望鏡を使い、海中から護衛艦[みらい]を監視していた。
~前日夕方 マリアナ基地宿泊棟 応接室~
「…は?彼らは別世界からやって来たと言うのですか…?」滝は同じ海軍のある人物と護衛艦[みらい]の事について話をしていた。
「んな、バカな事あるわけない。」渡された資料を見たが現実離れした話であり、時空を越えた艦があるなど…あまりにも馬鹿馬鹿しく思った。
「だが、これは現実なのだ…。君も知っておるだろう、先日のガタルカナル島の戦闘を。」
「…ええ、私の耳にも入っていますが。それが?」
その参謀はグラスにウイスキーを注ぎながら話した。ガタルカナル島での戦闘を[みらい]が予言していたと…。
「…で、私を呼んだ理由は?」と、滝が尋ねるとその参謀は「その艦が明日、横須賀へ向けて出港する。我が海軍の艦が護衛という名目で監視につくが…。君に行ってもらいたいのだよ。」
「私がですか…?」唖然とする滝にその参謀は…。
「あの[みらい]という船の戦闘能力を暴いてきてほしい…。手段は君に任せるが、私と我が国防海軍の名誉に泥を塗らないようにしてほしい。」と、話でグラスのウイスキーを飲み干す。
「…なぜ私に?私以外にも人が居るのでは?」滝が質問するが「…今までの君の仕事ぶり。見させてもらったよ。なかなか、大胆なことをしているではないか…?」と、不気味な笑みを見せながら滝中佐の履歴が書かれた紙を見せる。そこには滝がこれまでに行っていた裏の事業が記載されていた。
「これを暴かれたくなければ…。協力するんだな。」と、その参謀は笑みを浮かべる。滝は額に汗を浮かべながらうつ向いていたが…。その拳はきつく握られ震えていた。潜望鏡から護衛艦[みらい]を背後から監視する。やはり、あの参謀に言われた話が未だに頭をよぎる。正義と悪どちらを取るべきか、滝は悩んでいた。
出港二日目 夕方[みらい]士官室
「艦長…。話とは何でしょうか?」
角松 尾栗 菊池の三人は、梅津艦長に呼び出されて士官室に来ていた。梅津と一緒に艦娘の みらい の姿もあった。そして、梅津は自身が考えていた事を話始めた。
「…この世界に来て二ヶ月が経った。ガタルカナル島での戦闘でこの世界の明確な流れが理解できたと同時に、国防海軍との繋がりも出来た。」と、これまでの行動を振り替える。その上で梅津は…。
「この先、国防海軍から作戦への協力要請があると予想している。だが、イージス艦がこの世界に存在するとはいえ…。[みらい]のイージスシステムはこの世界の物とは明らかに違う。そこで、ここに居る みらいさん の助言で…。」梅津が頷くと みらい はある無線機を取り出した。
「か、艦長これは?」驚く角松に梅津は…。
「本当はこのようなことはしたくなかったが…。事態の急変やこの艦が殺戮目的に使用されそうになった場合に、国防海軍や敵の手に渡らないように自爆用のプラスチック爆弾を仕掛けることにした。」
「じ、自爆ですか…。」菊池は眼鏡を触りながら呟いた。目の前には自爆用起爆装置が置いてあった。
「暗証番号を入力し、この無線機の赤いボタンを押せば起爆する仕掛けになっている。この事は隊員達には伝えない方針だ。」
「立案したみらいさんはどう思ってる?」尾栗はみらいに尋ねた。すると、みらいは重い口を開いた。「私が船だったとき…。米海軍の空母ワスプと対戦し、ワスプを撃沈しました。しかし、その戦闘で乗員5名の命が海に散りました。私にはそれを防ぐ使命がある。これから先、戦闘は激しくなるでしょう…。我が身を守らなくては相手を守ることは出来ない。専守防衛とはちょっと違うかもしれませんが…戦時下であるこの状況では、先制攻撃もじさない考えであります。」
みらいの発言は予想通り、この世界であくまで自衛隊として存在するか。それとも、国防海軍の一員として行動するのか。長年、自衛官として任務してきた角松にとって…。重い一言だった。
「まぁ、今その話はよかろう…。砲雷長。辛い仕事になるが…。自爆用爆薬のセットを航海長とみらいさんと共に頼む。…副長は一旦残ってくれ。」
「…了解しました。」と、二人は敬礼して士官室から出ていった。
「副長…。この先、我々はほぼ100%戦闘に巻き込まれるだろう。その上で、今のうちに次期艦長候補の君に…。この艦のこれからの行動を頼んでおきたい。」
「えっ?しかし、艦長は…。」突然の梅津の発言に角松は驚いた。部屋の丸窓から夕焼けのオレンジ色の光が差し込む。護衛艦[みらい]は一路、横須賀へ向けて航行していた。