「トマホーク到達まであと1分!」
発射管制士官から報告が上がる。あと1分でトマホークは敵空母に命中するのだ。
「トマホーク発射を決めたのはこの俺だ。これが俺の進んだ砲雷の道。」と、菊池は目をつぶった。
キィィィィイイインンンン
トマホークが敵空母ヲ級を捕らえた。
「ナ、ナンダ!?」
一瞬ヲ級は心のなかで思った。だが、次の瞬間にはトマホークが懐に突っ込んでいた。
ドッカァァアアアンンン!!!!!
という音と共に大爆発を起こす。発艦準備をしていた艦載機や燃料、弾薬に次々と引火し爆発する。辺りは黒煙に包まれた。どこから攻撃されたのかも分からず海の藻屑となっていくヲ級が最後に言った言葉は…。
「今度コソ、シズメテヤル…。」だった。
「ハッ!」艦橋で応急処置をしていたみらいが立ち上がる。
「みらいさん?どうしたんですか?」隣で手伝っていた吹雪が尋ねるが…。みらいは敵機動部隊の方向を静かに見つめていた。
同時刻 みらいCIC
「空母ヲ級…。消えました。」レーダーを見ていた青梅が呟く。「こちらに向かっていた敵機動部隊は引き返しました。」青梅からの報告を受けて安堵の空気が流れる。ふと、菊池が椅子から立ち上がる。「艦長。5分ほど時間をください…。」梅津は静かに頷いた。菊池は青梅に「じんりゅう の動きに注意せよ。」と言い残しトイレへ向かった。
ジャーーーーーー。
水道で顔を洗う菊池。ふと、CICへ向かっていた尾栗がやって来た。
「…なぁ尾栗、この手で敵の命を絶ったのに…。殺した感覚がないのはどう思う?」
「俺が下した判断で、ひとつの空母が沈没した。深海棲艦だといえども…。命があることには変わらない。俺はその命を奪い取ったんだ。…なのになんだ?この蚊を殺した感覚さえ湧かないのは。俺は…。」
「…一体、なんだぁーーー!!!!」
と、尾栗の襟をつかんで怒鳴り。その場に泣き崩れた。
その頃 じんりゅう艦内では…。
「どうする気だ?これでもみらいを潰す気か?」と、角松が滝に尋ねる。
「…。」
「どうするんだ?まぁ、こうなった以上、みらいの砲雷長はもうためらわん。自艦と俺ら二人の命。どっちを取るか目に見えているだろう!」角松の脅迫めいた言葉に圧倒されるしかない滝だったが…。
「…この距離から魚雷を撃てばすむ話だ。」と、角松に詰め寄る。
「可能だな?艦長!」滝が島本に声をかけるが島本艦長は頷かない。
「どうした!?」と、滝が怒鳴る。
すると角松が柳に口をパクパクさせて合図を出した。
(…バッテリー? あっ!)
「…バッテリーです。」
「何ぃ?」滝がこちらを向く。
「みらいの高速航行に追い付くにはバッテリーでの航行と通常エンジンでの航行の2つがあります。しかし、通常エンジンではオーバーヒートする可能性が高い。その為バッテリー航行にて追跡していたものの、みらい高出力には追い付けない。つまり、バッテリーが限界ということです。」と、柳が解説する。
「艦長それは本当か?」滝の質問に艦長は…。
「その方の通りだ。あと10分ほどしかバッテリー航行は出来ない。」
「くっ…。」
ザバァ…。
じんりゅう がみらいの横に浮上してくる。
「総員!対潜戦闘用意!」梅津の掛け声で側面の魚雷発射管に魚雷が装填される。
ピピピピーピッピッピ…。
「じんりゅうより入電。貴艦乗組員を戻す。」と、通信士が叫ぶ。
じんりゅう艦橋
(さすが雅行…。きちっと魚雷を向けていやがる。)
「短い間だったが…。不便をかけてしまってすまなかった。」と、じんりゅう艦長の島本が謝りに来た。「艦長、バッテリーは本当は…。」と、角松が尋ねると…。
「バッテリー切れということにしておこう。」と、話し手を差し出した。角松と握手をした直後、じんりゅうの通信員が無電を持ってきた。
ガチャ…。
じんりゅう内部の仕官室に角松が入ってくる。その手には先程の電文が握られていた。「悪いが先に読ませてもらった。」と、言い滝に渡す。電文には
[宛滝栄一郎 現任務を中止し出頭せよ発 山本五十六]
「あんたと長官がどういう関係か知らんが、出頭とはな。」と、角松が呟く。
「角松副長。今のうちに話しておくが、海軍の中にはあんたらをよく思わないやつらは沢山居るぞ。」
内火艇に乗り込み、みらいへ帰艦した二人は被害の全容に驚いた。
「二人ともよく帰ってきてくれた。あれが例の参謀か…。」
「ええ、日本にはまだみらいの存在を許さないものがいる。そう言ってました。」角松が報告を終えると、梅津は二人の肩にそっと手をのせた。「艦長…被害は?」と、角松が尋ねると。
「重傷者5名軽症者16名だ。」
「・・・!!」
二人は報告を受けて驚いた。だが、「まぁ、今日はゆっくり休みなさい。だいぶ疲れただろう…。」と言って梅津は艦内へ去っていった。
「おっ、洋介帰ってきたか。」
「尾栗?菊池はどうした?」と、尋ねると…。
「あいつは今、ガダルカナルから帰ってきた直後の俺たちと一緒だよ。」と角松に話した。
この戦いで艦内が暗い雰囲気になっているのではないかと心配していたが…。様子は違った。
バチッ!バチバチ!!
「おい、ナットがたんねぇぞ!」
「なんとしても横須賀入港までにこの区域は直すぞ!」
艦内では至るところで破損箇所の修理に当たる隊員達が見受けられた他、食堂では以前よりも活気が増していた。
「…この戦いで艦内が意気消沈しているかと思ったらそうでもなかったなぁ…。みんな死線を乗り越えたせいなのか?」と、夕暮れの艦橋デッキで角松は物思いに更けていた。横須賀入港まであと3日。みらいは夕日に照らされる大平洋を北上する。