航跡41-1:新満州国へ
8月15日 0500
「洋介…。本当に新満州国へ行くのか。」
「ああ、あいつと決着を付けなければならんからな。」埠頭で角松は尾栗と菊池と話していた。
「体には気を付けろよな。」と、尾栗。
「大丈夫だ。それより俺が留守の間、艦を頼んだぞ…。特に海軍の動きには。」
「任せとけって。」
「副長、出発時間です。」みらいが時刻を角松に伝える。
「じゃ、行ってくる。皆も体には気を付けろよな。」
夜明けの埠頭から二人は静かに旅立った。
ガタンゴトン…。ガタンゴトン…。
横須賀を出発してからどれぐらい経っただろうか?いくつも列車を乗り継ぎ、船に乗り換え…。また鉄路とバスで朝鮮半島を南北に縦断。新京に着いたのは1週間後だった。
「…角松洋介さんですね?」駅前で小太りの男性に声をかけられた。
「私、海軍の如月と申します。こちらでの案内役を任命されました。」
「これはどうも…。」
「よろしくお願いします。」
角松とみらいが挨拶すると車へ案内された。
「とりあえず、一旦軍の宿営地へ案内しますね。」二人を乗せた車は町中を走る。しばらく走ったときの事だった。
パァン!
乾いた音と共に車が急ブレーキをかける。
「どうしましたか?」
「いや、パンクですな…。あいにくスペアを持ってない。」
「ここからは歩けますか?」
「ええ、歩けますけど…。だったら歩きましょう。この町の様子も見たい。」角松とみらいは付添人と共に宿営地へ向けて歩き始めた。ふと、市場の中を通り抜けた時…。角松は目でみらいにモールス信号を送った。
[コノグンジンハニセモノ コノサキデマク!]
「どうですか?この町は…。しまった!逃げられた!」
慌てて追いかける付添人。路地を走っていると支那服を着た男性にぶつかった。「気を付けんかばか野郎!」と怒鳴ってそのまま走り去る付添人。だが、その足跡には血が付いていた。
「丘に上がってからは完全に潮気を抜かないと駄目ですよ。」支那服の男性は角松とみらいにこう告げた。
「さっきの付添人…。殺したのか?」
「いや。太ももを刺しただけだ。致命傷じゃない。」
「と、ところであなたは?」
みらいが尋ねると支那服の男性はこう告げた。
「私が国防海軍上海陸戦隊連絡将校 如月克己」
血の付いたナイフを水道で洗いながら如月は話した。
「よく、偽物だと見破りましたな。」
「海軍の男はポケットに手を突っ込んで話したりはしないからな。あの付添人は駅で話してきたとき手を突っ込んでいた。」
「なるほど…。洞察力には優れているようだが…。まさか二人で来るとは思ってませんでした。」と如月。
「彼らの目的はなんだ?」角松が尋ねると如月は
「たぶん、あなた方を処分したかったのでしょう。草加少佐のジパング計画には邪魔になりますから。」
「じゃあ、あのパンクは?」みらいが尋ねると如月は「私の部下に狙撃させたのだ」と答えた。
「どうやら…。俺たちは敵の陣地に入り込んだようだな。」と、角松は呟いた。如月に案内された角松達は町中の古びた雑居ビルへ入った。ひび割れた壁に充満するタバコの煙…。入り口にはホームレスらしき薄汚い男性が横になっていた。だが、如月の姿を見ると立ちあがり敬礼する。
「異状はないか?」
「はっ、異状ありません。」
部屋の扉を開けると、中にはスーツ姿の男性らが数人いた。
「如月さん無事でしたか。そちらの方々は?」
「あぁ、例の日本から特命で来た方だ。」と、如月は角松へ視線を向けた。
「あっ、名前は角松洋介。所属は…。」と、所属を言おうとしたところ如月に制止された。「…私は、護衛艦娘の みらい です。よろしくお願いいたします。」と、みらいがペコリと頭を下げる。
「まぁ、とりあえず掛けてください。ここにいる人間は全員、特命で調査を引き受けている。…いわば海軍警務隊の隊員ですから。」
別室のソファに腰かけた如月は熱い烏龍茶をコップに注ぐ。
「…まぁ、とりあえずどうぞ。」
如月は二人に熱い烏龍茶を渡す。ひと口飲んだあと如月は話を始めた。「我々の元にも海軍内部…。いや、国防軍内部での不信な動きについて調査しています。先日、あなた方がガダルカナルで敵対した超弩級原子力戦艦 [やまと]…。あれは、我が国防軍が旧日本海軍の大和型戦艦を元に改良し極秘で建造された戦艦です。」
「…そうでしたか。」と、みらい が呟く。
「あなた方が真っ先に知りたいのはこの人物の動きですよね?」と、如月は書類が入った封筒から調査書を取り出した。
「国防海軍通信小佐 草加拓海 。我々が調査した情報によると、既にこの新満州国へ入国しているとのこと。あなた方が追跡してくるのは山本長官より連絡が来ています。彼は、この世界の行く末を知ったと明言されておりましたが。」
「ああ、信じられないかもしれないが…。俺はこの世界の人間じゃない。」と、角松が事情を説明し始めた。
30分後。
「…なるほど。なかなか興味深い話ですね。だが、これまでの情報を元にすると…。既にこの世界はあなた方がいた世界とは繋がっていない。」
「それは、俺もこの体で体験した。現に、俺の家族は…。この世界にはいない。」と、角松は歯を食い縛りながら話した。
「この世界は既に変わりつつある。その行く末を知るのはあなた方が海上自衛隊と、草加小佐ということになります。」如月は淡々と話を続ける。すると、
「あ、あの…。私が言うことじゃないと思うのですけど…。この世界、いやこの戦争の行く末を逆から考えると予測可能と言うことですよね?そうすれば、犠牲者も減らせるし…。戦争も早く終結できる。私の経験では、戦争の行く末を変えられると感じますが…。どうでしょうか?」と、みらいが声をあげた。
「…戦争の行く末を変えられる。それは、ごもっともだが…。それにともない、起こるはずのない戦闘が必ず起こる。それにより新たな犠牲者が出ると考えるが。」如月はこれ以上の戦闘で犠牲者が出ることを危惧していた。
「…奴の計画。四海に囲まれ独立しかつて西洋の旅人が夢を抱いた力強い国。それが、ジパングだと言っていた。」