秋、とんぼ飛ぶ   作:紅葉yey


原作:東方Project
タグ:幻想郷 蜻蛉 田んぼ
食べ物がおいしい季節

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秋、とんぼ飛ぶ

 秋の空、黄昏の時間に飛び回る姿があった。その姿は稲穂のようで、力強さのある飛翔であった。かつて人は彼らを秋津虫と呼び、ちっぽけなその姿に強さを見た。揺れる稲穂の上を何匹も何匹も群れを成して飛び交う彼ら秋津虫の姿に人は魅了されたのだ。

 

 果たして彼らは今どこにいってしまったのだろうか。人が右を向けばそこには高いコンクリートの塊が、左を向けばそこには黒い煙を出しながら動く鉄の塊がある。そこに彼ら秋津虫の姿は無い。そのまま人が歩みを進めると、少しだけ開けた空間に、僅かばかりの面積の田が都会の街に押し潰されんとばかりにひっそりとあった。

 

――ああ、いた。

 

 彼らはまだそこにいた。その様子に人は安心する。だけど何故だろうか、そこに見える彼らの姿にはかつてあった強さを感じられないように見えた。狭苦しい空間の中で、都会の熱にのぼせてしまっているその姿を人は惨めだと、そう思ってしまった。黄昏時、数歩先に立つ影すらも本来であれば誰であるか判別することが難しい時間帯であっても、今は煌々と文明の灯に照らされてはっきりと誰かの姿を認識出来てしまう。あれはいったい誰だろうか、そう考えることを人は辞める。

 

 人はそこで、彼らをどれ程眺めていただろうか。いつの間にか日は沈み切り、文明の灯が月の明かりを覆い隠していた。人はもう一度だけ彼らの姿を目に焼き付けると、瞼を閉じ、それ以降彼らを視界に入れることは無く、歩いてきた道を引き返す。文明の灯に包まれた今へと帰っていく。そこには不確かな物は何も無い、ただ分かり切った現実のみがあった。人はその事を少しだけ惜しいと思いながらも、歩みを止めることは決してない。

 

 しっかりと目に焼き付けた筈の秋津虫達の姿は文明の灯に上書きされてしまった。いつしか人は彼らの姿を目から脳の片隅に追いやり、そして脳の片隅からも追い出したそれを心の中に少しだけ残す。ほんの少しだけ残ったそれを人は無くすべきではないと理解している筈なのに、気が付けばそれさえもどこかへ忘れ去ってしまった。

 

 人が彼らの事を忘れ去ろうとも、彼らは確かにそこにいる。小さな田の周りで、群れとも言えないほどの数の秋津虫達は飛び続ける。時に餌を求め、時に番を求め、彼らは飛び続ける。飛んで飛んで飛び続けて、いつしか彼らは人の領域からも飛び去った。

 

 サラサラと、稲穂が風に揺れる。サラサラと、小川のせせらぎが聞こえる。

 

 数える程しかいなかった彼らの数がいつの間にか一匹、二匹と、数を増やしていた。既に日は暮れ、辺りを照らすのは月と小さな星々の光だけ。そんな中を彼らは自由に力強く飛んでいた。野を越え山を越え谷を越えて、どこから集まったのか数を増やしながら飛び続ける。

 

 飛び続けるとんぼ達だが、やがて彼らも疲れる。そのまま眠りに着きまた次の日に彼は飛ぶのだ。だが文明の灯が尽きること無い人の領域で生活していた彼らは夜になってもすぐに眠ることは出来なかった。疲れた羽を震わしながらも彼らは光を求めて飛び続けた。

 

 やがて彼らはどこかの山の中腹辺りに灯を見つける。どんちゃんどんちゃん、喧しくも楽しげな音が灯の元から聞こえる。彼らにとってその程度の喧しさはどうってことは無かった。人の領域の喧噪に比べれば静かな物だと、そのまま彼らは灯に向かって飛び続けた。

 

 そこでは人や人のような何か達が騒いてた。果てこれはいったい何の祭りだろうか、それとも何かの祝いだろうか。外から来た者ならばきっとそう考えるだろうが、秋津虫達にはそんな事関係ない。彼らは灯の近くの地面や草木、または地面に置かれた酒瓶の上の降り立ちそっと羽を休めた。

 

 人のような何かが秋津虫の乗った酒瓶を持ち上げた。どうやら残っていた中身を飲み干してしまおうとしたらしい。それを掴んで自分の顔の前まで持ってきた人のような何かは、丁度瓶の口の所に秋津虫が止まっているのを見つけた。

 

―――ああ、そういえばもう秋だな。

 

 人のような何かはふと悪戯心を芽生えさせ、秋津虫の顔の前に指を伸ばしグルグルとゆっくり回し始めた。これはなんだろうかと、秋津虫はその指から目を離せないでいた。ゆっくり回るその指に集中していると、横から何かが伸びてきて秋津虫はそれに捕まってしまった。初め、回る指に集中していた秋津虫は突然の事で何が起こったのか分からなかったが、すぐに目の前の人のような何者かに捕まってしまったことに気が付いた。羽をしきりに動かして逃れようとするが、人のような何かの力は強く抜け出ることは出来なかった。

 

―――おお、こいつは生きが良いとんぼだな。悪かったよちょっとした悪戯さ。

 

 人のような何かはそう言って、暴れる秋津虫をすぐに解放した。秋津虫は慌てて飛び抜け、人ような何者から離れて、喧騒からも少し離れた木に留まった。人でない何者かが特別追ってくるようなことがないことを確認すると秋津虫は喧騒を子守歌にし、そっと眠りに着いた。

 

 また次の日に飛ぶために、秋津虫、秋の虫であるとんぼ達は皆静かに眠りに着いた。遠くでは稲穂が揺れ、近くでは楽し気な宴が催されいる。

 

 豊穣の秋が、やって来た。




 特に明言はしていないけど、一応幻想郷を意識している。
 最近マジでトンボ減ったきがする

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