エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第57幕 修羅

 

 

 

元長州維新志士、志々雄真実‥‥

幕末の動乱で死んだと思われていた男はあの動乱の中、同志に抹殺されそうになったが、全身を炎で焼かれながらも彼は死ななかった。

そして、10年と言う歳月をかけて、日本へ‥‥明治政府へと復讐戦争を挑んできたかと思ったら、彼の目的は、戦争は戦争でも復讐ではなく、動乱の再来とこの国の覇権を手に入れることだった。

彼が戦国時代に生まれていれば織田信長と良いライバルになっただろうし、この国の歴史は異なっていたかもしれない。

それぐらい、彼は生まれた時代を間違えた男であった。

そして、彼の野望を挫く為、剣心達は京都へと旅立った‥‥

その中で、剣心達は志々雄の計画の一つ、甲鉄艦による東京砲撃を阻止し、志々雄の切り札である甲鉄艦、煉獄を撃沈する事が出来た。

志々雄は当初、剣心達を取るに足らない存在かと思っていたが煉獄を沈められた事で考えを改め、国盗りの前に剣心達の抹殺を意気込んだ。

志々雄は剣心達に決闘を申し込み、剣心はそれを受けた。

決闘の場所は京都の山奥‥志々雄が地下の活動拠点としたアジトであった。

そして、今、志々雄の最初の刺客、“明王”の安慈こと、悠久山安慈を左之助は何とか倒す事が出来た。

最初の決闘を終えた後、安慈から衝撃的な事実が明らかになる。

この先に居る志々雄の精鋭部隊、十本刀は“盲剣”の宇水と“天剣”の宗次郎の二人のみ‥‥

“百識”の方治も居るが、彼は戦闘には向いていないので、戦闘員と見なさず、決闘の人数には含まれていない。

その他の十本刀は剣心が京都にて世話になった元御庭番衆が営む料亭、葵屋へと向かい、その店の者達の抹殺に向かったという。

剣心は戻るかこのまま先を進み、従来の通り志々雄を討伐するか、それとも葵屋へと戻るか迷ったが、このままこの罠だらけの迷宮であるアジトを戻るよりも先に進んだ方が早いと判断した剣心は先へ‥‥志々雄の下へと向かうことにした。

でも、剣心はこういった事態を読んでいなかったわけでは無い。

剣心は自らの剣の師、比古清十郎に葵屋の護衛を頼んでいた。

万が一の事態だと思ったのだが、取り越し苦労にはならなかった様だ。

 

(師匠頼む‥間に合ってくれ‥‥)

 

ただ、葵屋が十本刀からの攻撃を受ける前に比古が葵屋に到着する事を祈るしか剣心には出来なかった。

 

「さあ、着いたわよ。次の間‥この部屋を開けたらもう引き返す事は‥‥」

 

由美が「引き返す事は出来ない」という前に、

 

「さっきも緋村が言ったでしょう。戻るつもりはないって‥‥」

 

「戻る」なんて選択肢はハナから存在しない。

この修羅道を歩んだ時から勝利という鍵を手に入れない限り日本は地獄から抜けることは無い。

信女が次の部屋の扉を蹴り倒す。

決闘の次の間‥そこは安慈が居た部屋と異なり、明かりが全くなく狭い部屋だった。

ここはまるで幕末の夜をもしているかのように感じられた。

 

「う、宇水‥どこ‥‥」

 

部屋の中は真っ暗なので、由美には人が居るのか居ないのか分からなかった。

しかし、剣心、斎藤、信女は確かにこの部屋から人の気配を感じ取っていた。

鉄臭い血の匂いと殺意が充満したこの部屋では殺気がブスブスと身体を刺してくる。

 

「宇水!!」

 

由美は声をかけても返事をしない宇水が居るのか分からず声のボリュームを上げる。

すると、

 

「やれやれ、騒がしい‥‥」

 

真っ暗な部屋の中から男の声がした。

通路の明かりが入り、暗闇に目が慣れてくると、その部屋の壁にはいたるところに目の絵が描かれていた。

 

「‥いらっしゃい」

 

そして部屋の真ん中にはカメの甲羅を背負った妙な衣装の男が居た。

 

(カ○仙人‥まさか、かめ○め波を撃つなんてことはないわよね?)

 

宇水の恰好を見て、某アニメ・漫画の登場キャラに見えた信女。

 

「宇水!!」

 

「そう気安く呼ぶな。お前など、志々雄亡き後、私の足を舐める価値もない女だぞ」

 

「なっ!?」

 

宇水の言葉に思わず絶句する由美。

女のプライド傷つける言い方に由美はカチンときた様だ。

 

「志々雄亡き後?」

 

そして剣心は宇水の言葉‥「志々雄亡き後」の部分に反応する。

彼は十本刀の一人いわば志々雄の部下のはずだ。

それにもかかわらず、彼は下剋上を公言しているので妙だ。

 

「ほほう‥たった三人か‥‥まぁ、いい‥志々雄を殺す前の試し斬りだ。さあて、先にあの世が見たいのは誰だ?」

 

「随分と威勢がいい事を言うわね。まさに弱い犬ほど、よく吠えるってやつね」

 

信女は冷めた目で宇水に言い放つ。

 

「女、あまり舐めた口をきくなよ。お前から血祭りにしてやってもいいんだぞ。ここ暫くは女を斬っていないからな‥‥久しぶりに女の肉を斬る感触と血を浴びたいのでな」

 

「貴方が私を‥‥?ふっ、目が見えないだけでなく、頭の回転も鈍っているのかしら?」

 

わざと挑発するような言い方は血気盛んな信女らしいと剣心と齋藤は思った。

勝気で自信過剰、自分の剣筋に全くの疑いもなく相手を斬る欲は獣と言うより、童子《どうじ》鬼の申し子のような彼女はどんな相手にもぶれない。

 

「ほざけ、女、お前だけでなく、貴様ら全員の首、志々雄の首と共に我が祝いの膳に据えてやる」

 

「宇水、貴方なんて事を!!今の言葉は即刻、志々雄様に伝えるわ」

 

「分からん奴だな、最初から宣言してあるだろう?隙あらばいついかなる時でも斬りかかって良いという条件で私は志々雄の下に居るのだぞ」

 

「くっ‥‥」

 

由美は懐に仕込んだ小刀を手にする。

 

「志々雄はその事を‥‥?」

 

剣心は宇水に自分を殺す暗殺者を同志に入れたのかを問う。

 

「むろん、承知。それでも奴は私が必要らしいよ。この心眼がね」

 

「心眼?」

 

(いい年をして中二病?)

 

宇水の心眼と言う言葉に剣心は訝しい顔をし、信女は呆れる。

二人のそんなリアクションを知らず、宇水はギロッと由美を見る。

すると、由美は抜きかかった小刀を再び鞘に納める。

 

「ほう、思いとどまったか、よしよし、そんな小刀では猫の子一匹も殺せないからな」

 

「まぁ、落ち着きなさい、貴女には道案内という役割があるんだから」

 

信女が由美の肩をポンポンと叩いて、彼女の事を諌める。

 

「くっ‥‥」

 

由美は悔しそうに顔を歪める。

 

剣心達が宇水の部屋に着いた頃、安慈の部屋にて左之助は目を覚ました。

そして現状を安慈から聞き、左之助は剣心達の後を追う。

方向音痴な左之助だが、安慈の部屋から宇水の部屋までは一本道なので、迷う事はなかった。

 

 

「ほう、その女よりも背が小さなヤツが、抜刀斎か‥‥その冷や汗は葵屋の事を知らされたか?安慈の奴、等々裏切りおったか‥‥」

 

「身長の事は触れないであげて、彼、結構気にしているのよ」

 

(信女‥‥)

 

「御託はいい、そこを退くか否か、さっさと決めるでござる」

 

剣心は逆刃刀に手をかける。

それと同時に心の中で信女に対して余計な事を言うなと愚痴る。

 

「緋村、落ち着きなさい」

 

「今井の言う通りだ。焦りは余計な緊張を生み、緊張は力を半減させる」

 

そんな剣心に信女は逆刃刀に手を添えて剣心を諌める。

そこへ、左之助が剣心に追いつく。

 

「左之。大丈夫なのか?」

 

「おうよ、なるほど、次の相手はコイツか‥‥」

 

「ああ」

 

「それで、どうする?アイツは私を相手にしたがっているみたいだけど?」

 

「いや、ここは俺がやる。お前達はさっさと先へ行け」

 

信女は宇水を相手にしても良いと言うが、そこを斎藤が宇水を相手にすると言う。

 

「斎藤‥‥」

 

「ダメよ。葵屋が皆殺しになろうが、此処で戦え、それが志々雄様の命令でしょう!?」

 

由美は納得できないのか声を荒げる。

 

「行け‥‥」

 

「すまぬ」

 

しかし、剣心は由美を無視して先へ‥志々雄の下へと急ぐ。

 

「待ちなさい!!そんな勝手‥‥」

 

「うるせぇ!!オメェも来るんだよ!!」

 

左之助が由美を抱えて先を目指す。

 

「コラー!!私に触れて良いのは志々雄様だけよ!!」

 

由美の声が宇水の部屋に木霊しながら遠ざかって行く。

 

「斎藤。一応、薬と包帯はここに置いておくわ‥‥先でまっているから‥‥」

 

「ああ」

 

信女は通路に薬と包帯を置いて剣心達を追いかける。

剣心達がこの部屋を通り過ぎる際、宇水は一切攻撃をしてこなかった。

武士道なのか、それとも斎藤に勝って追いかける自信があるのかは分からなかった。

 

「畜生 次の間はまだかよ!この重てぇ女担いで走るのは結構つらいんだよ!」

 

信女が剣心達に追いつき、三つ目の部屋を目指している中、左之助は由美が重い、走りづらいと愚痴る。

 

「なんですって!!」

 

「だったら、こう、膝裏と脇の下に手を置いて抱きあげれば少しは早く走れるんじゃない?」

 

「うぉっ、オメェ、足はぇな」

 

左之助はいつのまにか隣を並走していた信女に驚く。

そして、信女は由美が抱きにくいなら、お姫様抱っこすれば少しは走りやすくなるのではないかと言う。

 

「冗談じゃないわ!!そんな抱かれ方絶対に嫌よ!!」

 

しかし、由美は左之助からお姫様抱っこをされるのは嫌だと言う。

 

「それに宇水なんか死ねばいいけど、奴は斎藤を斃すわ。そしたら、次はアンタ達の番なのよ」

 

「斎藤があんな奴に負けるかよ」

 

「私もそう思うわ」

 

(志々雄の暗殺を公言しているけど、今のアイツは正直志々雄よりも下‥‥アイツはただ虚勢を張っているだけの負け犬‥‥)

 

左之助と信女は斎藤と宇水の剣腕を比べると斎藤の方が上だと言う。

そして信女は、志々雄の暗殺を公言している宇水は既に志々雄の暗殺を諦めていると判断した。

志々雄が無事なのが何よりの証拠である。

でも、これまでの半生を心眼の修業に費やしたにもかかわらず、志々雄への復讐を諦めれば、自分の生涯を否定する事になる。

それは宇水にとって耐え難い事なのだろう。

だからこそ、彼は志々雄の暗殺を周囲に公言し、虚勢を張り、自分よりも弱い者を手にかけてその憂さを晴らして来たのだろう‥‥

しかし、剣心の後を継いだ志々雄の事だ。

煉獄の件を見ても彼の勘の鋭さはかなりのものだ。

そんな彼が宇水の虚栄心を見落とす筈が無い。

とっくの昔に、彼の虚栄心と虚勢など見破っている筈だ。

それでも、宇水の剣腕はそこら辺の二流、三流の剣客よりは腕が立つので、敢えて駒として置いているだけなのだろう。

 

「アンタ達は知らないのよ。宇水の心眼を‥‥奴の心眼は血の匂いを嗅ぐたびに冴えわたるまさに神技なのよ」

 

(まるで鮫ね?あの中二病患者は‥‥)

 

由美は宇水の心眼を舐めるなと言うがそれでも信女は斎藤が宇水に負けるとは思えなかった。

 

「どうかしらね。潜った修羅場の数でならば、あの中二病より斎藤の方が上よ」

 

「ちゅ、中二病?宇水は目が見えないけど、そんな病にはかかっていない筈よ」

 

「変に格好つけている奴って事よ」

 

信女は由美に中二病について教えるが、剣心、左之助、由美の三人にはあまり理解されなかった。

 

「おい、次の間はまだかよ!?」

 

「強がならなくても、もうじきよ!次は十本刀最強、瀬田の坊やだからね!今度は こうはいかなくてよ!」

 

大久保暗殺の真犯人、瀬田宗次郎‥‥

十本刀最強とされる青年‥‥

剣心も信女も宗次郎の名前を聞き、緊張が増す。

彼の剣腕は新月村にてその断片的なモノしか見えなかったが、間違いなく彼は一流の剣客の領域に居る。

その宗次郎がこの次の部屋に居る。

新月村、煉獄と外部的要素で決着はつかなかったが、今回の決闘では嫌でも決着をつけなければならないし、決着をつける事になるだろう。

宗次郎が待つ部屋を目指している中、途中にある部屋にて、

 

「「っ!?」」

 

剣心と信女は人の気配を感じて立ち止まる。

 

(居る‥‥)

 

「緋村‥‥この部屋に居るのは‥‥まさか‥‥」

 

「ああ、間違いない‥‥奴だ‥‥」

 

剣心も信女もこの部屋に居る人物が誰なのか察しがついたみたいだ。

 

「気が早いわね、そこは方治の部屋で今は空っぽよ」

 

由美はその部屋に中には誰もいないと言う。

 

「そこは空だってよ、おい剣心!信女!」

 

左之助は剣心に声をかけるが、剣心はその場から動こうとはしない。

 

「それは違う‥‥この部屋には確かに居るわ‥‥禍々しい殺気を内に秘めている狂人が‥‥」

 

「あん?信女、あんたもか?間違いないんだな?この部屋には誰か居るんだな!?」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

信女、剣心の二人は確かにこの部屋には確かに人が居ると言う。

 

「テメェ 俺達をハメようとしたな!」

 

「ちょっと言いがかりはよしてよ!」

 

由美は左之助の言葉に心外だと声を荒げる。

 

「それで、どうする?緋村‥‥相手にするの?」

 

信女は剣心にこの部屋の中に居る人物と戦うのかを尋ねる。

この部屋の中に居る人物は志々雄でなければ、十本刀でもない。

葵屋がピンチの中、時間もない。

本来ならば、無理に戦って時間と体力の消耗をする必要もない。

無視をすれば出来なくもない。

それでも今、闘わなければ彼と戦う機会を失うのは必至‥‥

 

「―――約束で‥ござるから‥‥」

 

「‥‥そう」

 

「蒼紫を必ず連れて帰るという操殿との約束、そして蒼紫との再戦の約束。この機を失えば二つの約束は永遠に失われる。約束を果たすのは今‥‥この闘いの扉だけは‥‥拙者自らの手で開けねばならぬ‥‥」

 

剣心はそう言って方治の部屋の扉に手をかける。

 

(まったく、お人好しなんだから‥‥それだから、損な戦いしか出来ないのよ‥‥)

 

(でも、そんなところが緋村らしいんだけどね‥‥)

 

信女は方治の部屋へと入って行く剣心の後ろ姿を見つつ、自らも部屋の中へと入った。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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