THE IDOLM@STER  二つの星   作:IMBEL

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2週間弱かかってこの内容…。お待ちになった方たちに申し訳ない気持ちでいっぱいです。


第18話 星が輝く時

残された2日間はあっという間に過ぎ去り、遂に朱里はデビューオーディション『シンデレラガールズ』の本番当日を迎えた。

「よーし。着いたぞ」

オーディション会場の傍にある駐車場に車を止め、プロデューサーは助手席に座っている朱里に言った。朱里は「分かりました」と短く答え、着けていたシートベルトを外して、足元にあるバッグを手に取る。

…ちなみに美希の時とは違い、この場に律子の姿はない。今日は他の子の仕事の同伴で、どうしてもこっちに来ることが出来ないらしい。

その為、今日のオーディションは朱里とプロデューサーの二人だけで挑むことになる。…また、プロデューサーも先輩である律子がいない為か、変に緊張しているらしく、表情も硬くぎこちなかった。

(…プロデューサーと一緒なのはありがたいんだけど、そこまで緊張しなくてもさ)

朱里は苦笑しながら車から降り、体をほぐす様に大きく伸びをした。…なんていうのか、彼はそういう未熟な面も含めて、どこか親しみやすい気がする。

新人であるプロデューサーは律子と比べるといささか頼りない面も多いが、今日はプロデューサーと一緒で朱里は安心できていた。

何故なら魂に於いて同性である彼がこの場にいてくれることで、律子とは違った安心感があったからだ。同性である彼がいることで、少しだけだがいつもよりプロデューサーが頼りになる気がする。プロデューサーには悪いが、緊張している顔が変顔のおかげで、いくらか緊張がほぐれているし。後で写真でも取っておくかな、亜美真美あたりは爆笑してくれるかもしれない。

…まあ、ついてくるのが誰であろうと今日のオーディションを頑張るのは自分なんだけれども。少なくとも同性であるプロデューサーが一緒ということが、朱里の精神的なコンディションを更に高めてくれていた。

(うん、いい感じだ)

爽やかな空気を肺いっぱいに吸い込んで、屈伸運動を行う。屈伸を何回か繰り返すうちに、体に気力が漲ってくる感覚がする。体は昨日のうちにゆっくり休ませておいたので、疲労は全く残っていない。心身ともにコンディションは完璧に仕上がっている。

車に乗っている時に聞いたラジオでは今日の最高気温は20度、湿度は50%弱と言っていた。風は少しあり、空は快晴。5月の天候としては文句なしの晴れ日和であり、オーディションに適した天候だった。オーディションは室内で行うので、天候などあまり関係ないのだが、それでも空が晴れているという事実は朱里を少しだけ嬉しくさせた。

「それじゃあ会場入りするけど…忘れ物はない?」

車の鍵を閉めたプロデューサーは朱里に尋ねた。

「大丈夫ですよ。ジャージとシューズに着替え。全部揃っていますから」

朱里はプロデューサーに自分のバッグを掲げてみせる。昨夜何度も確認したし、今朝も家を出る前にチェックしてきたから忘れ物はなかった。

その言葉にプロデューサーは安心したのか、軽く笑ってくれた。

「…よし、じゃあ行こうか」

「ええ」

プロデューサーの微笑みと共に差し出された言葉に朱里は頷き、会場に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

会場に入り、早速、朱里とプロデューサーは受付を済ませた。受付終了時間まで1時間以上余裕があったが、こういうものは常に余裕を持って行動するものだ。

「…はい、こちらがあなたのエントリーナンバーとなります。本日のオーディション、頑張ってくださいね」

係員の言葉と共に渡された朱里のエントリーナンバーは24番だった。…つまりは最低でも自分を含めた24人がこのオーディションに参加するという訳か。しかもあくまでもこの人数は現在の人数、もっと増える可能性だってある。

(…姉さんのオーディションの参加人数を超えちゃったな)

美希が先日参加した『ルーキーズ』の最終参加人数は23人であり、しかも自分の番号で丁度『ルーキーズ』の参加人数を超えてしまうというのは何とも奇妙な偶然だ。これが吉と出るか凶と出るか。

(…にしても、色んな子がいるな)

朱里は顔を上げて、ゆっくりと辺りを見渡す。この辺りを少し見渡すだけでも色々な少女らの様子を観察することができた。

背が異様に小さい子や女子とは思えないほど背が大きな子、自信がないのかおどおどしている子や逆に自信満々でふんぞり返っている子など、個性豊かなアイドルの卵たちがそこにはいた。…中には個性が強すぎて本当にアイドルを目指しているのか? と疑問に思うような子も何人かいたけれども。いくらアイドルだからって、あそこまでアクが強いのは良いことなのだろうか?

(…でも、アイドルを目指す真剣な思いに、違いは何もないんだろうな)

朱里は周りの子の顔つきをぼんやりと見ながらそう思った。

彼女たちがどんな立場であれ、どんな境遇であれ、この場にいる以上、一人一人に何らかの信念や目標があってアイドルを目指している。今日のオーディションの前では全員が同じスタートラインに立つしかない。

成功も失敗も自分の体一つで生み出さなければならない。…だからこそアイドルというものは楽しくて、苦しいのかもしれないけれども。

「朱里」

ふと声をかけられて振り返ると、プロデューサーが自分の後ろに立っていた。心なしか、さっきよりも顔が固くなっている気がするのは気のせいだろうか? 顔色も少し青ざめている気がする。

「初めての会場の感想はどうだ?」

「…そうですね。正直、少し怖い所はありますよ。会場も予想していたよりも結構大きいですし、参加する子も多いですし」

「まあ、正式なオーディションだからね。規模が大きくなるのは仕方ないよ」

…へえ、そういうものなのか。オーディションについては詳しくは知らなかったので、こういう情報は非常にタメになる。

つまりは今後もこれくらいの規模のオーディションを受けることは普通になる可能性が高い訳か。参加人数も20人30人が普通になるのか。朱里は頭の中のメモ帳に早速記録しておいた。

「…」

オーディションのことを説明し終えると、途端にプロデューサーは黙ってしまった。顔色もさっきと比べて、目に見えるほど酷くなっている。

…どうしてこの人はこう、要らぬ責任感や苦労を抱え込みがちなのだろうか。朱里は顔色が優れないプロデューサーを見ながら思う。

今日、頑張るのは自分の仕事。もし失敗したとしてもそれは自分の責任であり、決してプロデューサーの責任じゃないのに。彼はたとえ嘘でも、もっとどっしりと構えて貰っていたい。

「…大丈夫ですよ」

朱里は何でもないように、プロデューサーに向かって言葉を発した。…オーディション前にこれだけは言っておきたかったのだ。あなたは変に気を抱え込まなくてもいいということを伝えたかった。

「私はプロデューサーがいてくれて、安心していますから。…あなたがいてくれるから、こんなに落ち着いていられるんです」

朱里はそう言うと、軽く笑って、手を差し出した。

「だから、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

プロデューサーは差し出した手を数秒見つめ、戸惑いながら差し伸べられた手を握った。

「…だからプロデューサーは待っていてください。私は絶対に勝ってきますから」

朱里は力強く言った。それはまるでプロデューサーだけでなく、自分に言い聞かせるような程の力強いものだった。

 

 

 

 

 

 

あれから1時間後に受付は終了し、オーディション参加者たちは本番が行われるステージまで案内された。

さっき受付の人が教えてくれた情報によると『シンデレラガールズ』の最終的な参加人数は36人。遂に『ルーキーズ』の参加人数より10人以上多くなってしまった。しかも人数が増えているにも関わらず、合格枠は『ルーキーズ』と変わらないたった1枠のみ。

(…姉さんのオーディションよりハードルが上がっちゃったよ)

ため息をつきながら、朱里はステージ脇で自分が呼ばれる瞬間を待っていた。このまま出番を待ち続けるのは恐ろしく嫌だったが、その反面、自分の番が近づいて来るのもたまらなく嫌というジレンマを味わっていた。

(…大丈夫だ、落ち着け)

朱里は心の中から湧き出ようとする恐怖心を押さえつけるように、ジャージのズボンをギュッと握った。

既に20番までの出番は終わり、今は21番の子の審査が行われている。このペースじゃ、もう呼ばれるまでそう時間もかからないだろう。待ったとしてもせいぜい十分弱くらいだろうか?

…時間がないんだ、だから我慢しろ。どんな出来事でも終わってしまえばあっという間だ。1周目で散々やった就活の時だってそうだったじゃないか。準備は恐ろしくかかるくせに、本番は驚くほどあっさりと終わってしまう。就活だってそうだったんだ、オーディションだってそうなってしまうに決まっている。

(…落ち着け、大丈夫だ)

気持ちを落ち着かせるために心の中でそう呟き、口から息を吐き出した。そしてプロデューサーと握った手をジッと見つめる。

あと数時間後にはオーディションの結果が出て、全てが終わっているはずだ。絶対に上手くいく。そのはずだ。その為にこの2週間、あれだけの練習と修正を繰り返してきたんだから。

だから本番の間だけでいい。自分が歌って踊る、たった3分ちょっとの間だけ、気力を最高潮に保って完璧にやり抜かなければならない。さもなければ受かる物も受からなくなってしまう。

朱里は気持ちを落ち着かせるために、右手を握ったり閉じたりという動きを繰り返した。

…そうだ、ここにいるのは自分だけじゃない、プロデューサーもいてくれている。一人ぼっちじゃないんだ。何を心配する必要がある?

それに、プロデューサーには勝つと断言したんだ、やれるだけのことはやってやる。

「それではエントリーナンバー24番、星井朱里さん」

…来た。自分の番号と名前が呼ばれたのを朱里はしっかりと聞きとり、手首の動作を止めた。

「はい」

質問に答える時は物おじせずはっきりと。面接の基本だ。

「では、これから審査を始めます。ステージの上にお上がり下さい」

「はい」

…いつの間にか腕の痺れは止まっていた。それを同時に心もすっかり落ち着いている。まるで研ぎ澄まされた刃みたいに、一点の曇りも感じられない。

それをしっかりと心の中で感じた後、朱里はゆっくりとステージに向かって歩いていく。そしてステージの中央でぴたりと止まり、体を前に向けた。

「エントリーナンバー24番、星井朱里です。よろしくお願いします」

ステージから数メートル離れた所にいる審査員3人にぺこりと頭を下げた。

「…はい、よろしくお願いします。では改めてあなたの名前と歌う曲を教えて?」

朱里は顔を上げて、3人の審査員を見た。今、自分の顔は他の人たちにはどう見えているのだろう? 少し気になったけど、ここじゃあ確認する手段がない。

「エントリーナンバー24番、星井朱里。歌う曲は…『READY!!』」

…さあ、舞台の始まりだ。流れるイントロに合わせて、朱里は動き出した。

 

 

 

 

 

 

空気が変わった。

朱里が踊る姿を見た瞬間、プロデューサーはそう思った。いや、彼だけじゃない、この場にいる誰もが、そう感じただろう。審査員の反応も目に見えて変わったのが分かりやすい証拠だ。

(…今まで見たことがなかったけど…これが朱里の実力か)

1週間前の美希の時と同じだ。始まった瞬間に周りを引き付けるほどの物を披露してくれる。性格は違っていても、そこは姉妹揃って同じという訳なのか。

ダンスも緊張感を感じないほどに踊れているし、ビジュアルの方も問題ない。美希のようにアドリブで本来ないポーズを入れたりすることはなかったが、それでも自分を良く見せるための技術を見せることは出来ている。歌い、踊り、美しく輝いている姿はまさしく『アイドル』といっても過言でもなかった。

そして何よりも秀でているのは、朱里の最大の武器である歌声だ。

どこか大人びて、陰がある歌声。想いを歌で人に伝える力。そして大人びているにも関わらず僅か13歳という年齢のギャップ。そこから生み出される世界は765プロ、そしてこのオーディションに参加している誰にもない素晴らしい物だった。

(同じ曲でも、ここまで…)

そしてもう一つ、プロデューサーが驚いているのは、朱里と美希は同じ曲でオーディションに挑んでいるにも関わらず、全く違う世界を作り出している事だった。

遡る事1週間前、美希のデビューオーディション『ルーキーズ』で美希は朱里と同じく『READY!!』を使用した。

何故この曲を使用したのかは分からない。ただ、美希はこの曲を使って、会場中の誰よりも輝いていた。美希の言葉を借りるのならば『キラキラ』していた。アップテンポでキャッチーなメロディーである『READY!!』は美希の雰囲気にバッチリ合っており、彼女はこれで『ルーキーズ』の合格枠を勝ち取った。

…だが、朱里の『READY!!』は美希と同じ曲にも関わらず、違いがあった。

『明るさ』が前面に押し出されていた美希の『READY!!』とは対照的に、どこか『陰り』が感じられるのが朱里の『READY!!』だった。

…勿論、ただ暗い訳じゃない。朱里の『READY!!』は陰がある中にもどこか柔らかさがあり、包まれるような落ち着きが感じられる。この手のアップテンポの曲は明るく歌ってしまうものだが、朱里はその長所を殺さず、どこか陰がありながらも柔らかい優しさが混ざっているというなんとも不思議な雰囲気を作り出していた。

美希の『READY!!』と朱里の『READY!!』。同じ歌でもここまで違うものか。

(…勝った)

プロデューサーはそう思った。

この『ルーキーズ』と『シンデレラガールズ』。この2つはアイドルの登竜門として行われているオーディションだ。そのためか、アイドルたちにオーディションというものを慣れさせるために、受かればいいといった程度の気楽さで出させる事務所も多い。

そのせいか、今回の『シンデレラガールズ』もお世辞にも上手いと言える子があまり多くはなかった。歌詞を間違えるわ、ダンスで転ぶなどのミスを連発する子も多く、審査員もしらけ始めていたのがプロデューサーでも容易に分かった。

(…朱里の言ったことは本当だったんだな)

それが朱里の実力はどうだ。例えるのならアリの群れの中に、一人だけ肉食系の動物が混じったようなものだった。比べるまでもない周りとの圧倒的過ぎる実力差。それが今回、会場中に星井朱里が見せつけてくれたものだった。必ず勝つという彼女のあの言葉は嘘でもハッタリでもなかったのだ。

プロデューサーはステージで踊る朱里の姿を曲が終わるまでずっと眺めていた。まるで彼女の始まりを目に焼き付けるようにずっと見ていた。




アニマスPは序盤はかなり頼りないんですよね。そんな彼がアイドルたちとぶつかり合いながら進んでいき、成長していく。そんな序盤の頼りげのない彼の様子が再現するのが難しかったりするんですよね。アニマスPは失敗はするけど、決して無能ではないからなぁ…。
さて、次回はオーディションの結果発表ですが…まあ、結果は分かっちゃいますよねぇ?

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