モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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進む物語とこれからの君へ

 少し冷たく当たり過ぎただろうか?

 

 

 朝起きていつもの様にミズキを起こしてやろうと思い、俺はそんな事を考えた。

 

 いや、そもそも今日は起こさなくても良いか。

 

 

 着いてくるなんて言われた時は思わず強く返してしまった。

 その時は「着いてくるな」の一言で無理矢理会話を終わらせて、ミズキに嫌な思いをさせてしまったかもしれない。

 

 

「……相変わらず、人付き合いはダメだな」

 この目覚めの悪さはいつもの事だ。

 

 

 こればかりは性格で、どうしようもない。

 思えば村の皆やカルラやヨゾラにも、あまり良い接し方は出来なかったな。

 

 嫌いじゃないんだ。

 むしろ、楽しかった。一緒に居たいと思った。

 

 

「……っ」

 そんな事を思ってしまって、俺は拳を強く握る。

 

 

 ダメだ。

 

「一緒には居られない」

 俺は誰かと居るべきではない。

 

 

 

 いや、居たくないんだ。

 

 これは弱い俺のわがままなんだ。

 

 

 

 もう、誰も失いたくない。

 

 だから、俺は一人で良い。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

「うんむ、忘れ物は無いかの?」

「はい、大丈夫です。その……ありがとうございました」

 この村長に出会わなければ、俺は奴の———怒隻慧(どせきけい)の手掛かりをいつまでも掴めなかったかもしれない。

 だから、俺は誠意を込めて村長に頭を下げた。

 

 

「カッハハハハ! おかしいの、礼を言うのはこちらだと言うのに」

 いつものように大きく笑い、彼はこう続ける。

 

「ワシからこそ、礼を言う。村を救ってくれた英雄よ……心よりの感謝を。また、気が向いたら遊びに来ると良い。ワシらは大歓迎だ。ここを……モガを、第二の故郷と思ってくれて構わんでのぅ!」

 笑顔で言う村長は俺の肩を何度か叩く。

 

 普通に痛い。

 

 

「……ありがとうございます」

 第二、か。本当は第三になるんだがな。

 

 

「おめぇがアランか!」

 そうやって村長と話していると、村に停まっていた船から一人の男が話しかけてくる。

 モンスターの一匹や二匹が乗りそうな大きな船で、彼の姿はとても高い位置にあった。

 

 彼が、村長の言っていた人物か。

 しかし大きな船だな。階段を使ってやっと降りて来る彼を見ながら俺はそう思う。

 

 

「……はい、俺がアランです。早速ですが怒隻慧の事で───」

「焦るな焦るな! 船旅は長いんだ、いくらでも話してやる。今は別れを惜しむ時間だろう?」

 暗い色の髪に蒼い瞳が印象的なその男性は村長と同じように肩を叩きながらそう口を開いた。

 

 

 鍛え上げられ、ガタイの良い身体。

 しかし目の前で愛想良く笑う彼の第一印象は、愉快な人物という所か。

 

 歳は三十代後半から四十代前半という所だろう。

 しかし老いを見せ付けない身体つきは頼もしさすら感じられる。

 

 

「そ、そうですね……。すみません」

「謝るような問題じゃぁねーよ! ま、俺は船で待ってるから挨拶を済ませてから登って来い」

 ニッと笑う彼は、そう言った後に村長に話し掛ける。

 

 一体どういう繋がりで村長と仲良くなったのだろうか。

 まるで旧友とでも話すように、二人は会話を弾ませていた。

 

 

「アーラーンーさーん。これ、お土産です!」

 そうやって二人を見ていると、背後から女性のそんな声が聞こえる。

 

 受付嬢か。彼女の性格からして嫌な予感しかしない。

 

 

「……これは?」

「モガハニーです!」

 振り向いて彼女が手渡して来た物を手に取る。

 

 瓶に詰められた褐色の液体。

 これは一時期数万単位で取引されていたという、モガの村特産モガハニーか?

 

 

「農場の蜂の巣箱、直ってたのか……」

「アランさんとミズキちゃんが二人で頑張ってる間に、モモナさんが修復してミミナさんが手入れして、なんとかアランさん出発に間に合った訳ですよ!」

 なぜか自分の胸を張り、そう自慢気に話す受付嬢。

 貴女は何かしたんですか、とか聞いたらダメなんだろう。とりあえず頂いておこう。

 

「……ありがとう」

「……とれたて。味が薄くならないように、とれたてで摂取するみゃ」

 そう言う農場のアイルーミミナはスプーンを三つ渡して来る。

 

「……なぜ三本」

「……予備」

 そうか……。

 

 

「ミャ! アラン、ミズキの事頼───グフェッ?!」

 ん? ミズキがどうしたって? てかなんで殴られてるんだこのネコは。

 

「……アホ」

「あ、危なかったミャ……今日ばかりはミミナに大感謝ミャ」

 何が危なかったんだ……。

 

「もー、危ないですねモモナさん。ミズキちゃんの密───グフェッ?!」

「……アぁイぃシャぁぁぁ?!」

「ごめんなさい」

 ミズキがどうした……?

 

 そういや、あいつこの場に居ないな。

 

 

 見送りはしてくれないのか……。

 まぁ、昨日あれだけ強く言ってしまったしな……。

 

 ……別に、良いんだ。

 

 

 俺は一人になる位が丁度良い。

 

 あいつだって、俺と居たら不幸になる。

 

 

 だから、これで良いんだ。

 

 

 

 でも、見送りくらい来いよ。

 

 お前の甘い所とか、色々注意して……一応少しの間でも師として剣の振り方だけだが教えたんだ。

 今後どうすれば良いかとか教えてやろうと思って一晩考えていた事も無駄になってしまった。

 

 

 ……まぁ、良い。

 

 

 

 また会う事が出来たのなら、色々教えてやろう。

 

 

 

 ……じゃあな。

 

 

 

 

「もう良いのか?」

「……あぁ」

 船に登ると彼は笑顔で出迎えてくれた。

 

 さて、長い船旅だ。

 ゆっくりアイツの事について聞くとしよう。

 

 

 

「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はリーゲル、医者をやっている」

 そう言いながら、リーゲルさんは右手を出して来る。

 

 俺は迷わずにその手を握り───違和感を感じた。

 硬い。まるで、人の腕ではないような、防具を握ったような感覚。

 

 よく見れば、それは本当に人の腕ではなかった。

 

「あぁ……気になるか?」

「あ、いえ…………そういう事では」

「義手なんだよ」

 義手……?

 

 

「本物の腕じゃないって事だ。本物はお前の探してる奴に喰われちまってな……不便だから作った」

「な……」

 彼も、アイツに襲われた人物という事か。

 そして生き延びた。アイツを探しているという理由には大体見当が付く。

 

 

「気色が悪いか? ん?」

「いえ、そんな事は。……凄いですね」

「お、褒めるか。成る程これは良い! ほれ、握手しようか。リーゲル・フェリオンだ」

「アラン・ユングリングです。宜しくお願いします」

「おぅ! 楽しい船旅にしよう」

 しかし、謎の多い人物ではある。

 

 

「船を出すぞ。甲板に出て手を振ると良い」

「……手は振りません」

「照れ屋さんか?」

「そういう訳では」

 また会えるとは、限らないからな。

 

 

 ただ、甲板には出て村を見る。

 

 

 村人のほぼ全員が船着場に集まっていて、全員が手を振ってくれていた。

 

 良い村だったと思う。

 暖かく、生き生きした活気のある村だ。

 

 

 

「…………あいつ」

 ただ、その中にミズキの姿はなかった。ムツキも居ない。

 

「ん? どうした」

「……いえ、なんでも」

 最後まで出て来ないつもりか……。

 

 

 船が動き出す。

 

 視線をミズキの家に合わせるが、一向に誰かが出てくる気配はなかった。

 

 

 

 次第に島が小さくなっていき、もう肉眼では見えなくなる。

 

 あの野郎……。

 

 

 

 まぁ、良い……。関係ない。俺には関係ない。

 

 

 

 

「いつまって突っ立ったんだ? 中に入れ入れ」

「あ、はい……」

 そうだ。何も俺は師弟ごっこをやる為にモガの村に来た訳ではない。

 

 アイツを探して、殺す為に。

 その為の情報を得る為に、ここまで来たんだ。

 

 

 

 あのイビルジョーやカルラの事は、思わぬ副産物だったがな。

 カルラの事はタンジアに着いたらウェインに調べさせれば良いだろう。最悪それだけで話がつく。

 

 

 

「この船には、一人で?」

 リーゲルさんに連れられた部屋は船の大きさと比べると小さな部屋だった。

 ベッドが一つに向かい合うソファーが一対。キッチンと食べ物を入れて置く蔵、それになぜか大タルが二つ置いてある。

 

 

「ん? あぁ、そうだな。まぁ、この船は砂上船にもなる優れもんだ。俺はこの船に住んでいるみたいな物だからな」

「移動しながら医者をやっているという事ですか?」

「察しが良いな、そういうこっちゃ」

 成る程、移動診療所か。

 

 

「お前は飲める口か?」

 そう言いながらキッチンからグラスを四つ取り出すリーゲルさん。

 なぜ四つ……?

 

「結構です」

「お茶か?」

「それで」

 答えを聞くと、彼は四つのグラスの内三つにお茶を入れてソファーの前の机に置く。

 そうしてから置いてある樽の前に立って「ありゃ、どっちだったか? こっちか」と呟いてからタルの蓋を開けた。

 

 

 中に入っていたのは濃厚なブレスワインだったようで、蓋を開けた瞬間その芳醇な香りが部屋中に広がる。

 樽の中は酒が入っていたのか。と、なるともう一つの樽は違う酒が入っているのだろう。

 

 

「飲め飲め。話をするにぁ、まずは喉を潤さないとな?」

 そう言いながら、リーゲルさんはベットに座り込んで手に持ったグラスを口元で逆さにした。

 豪快に喉に吸い込まれていく液体を、彼は一気に飲み干す。

 

 

「そうですね……」

 さて、やっと話を聞ける。

 

 この人がなぜ怒隻慧を探しているのかは大体予想はついたが、その成果がどれ程の物かはまだ未知だ。

 四年前のあの時から消えたアイツの手掛かりを、彼は握っているかもしれない。

 

 

「ん、そろそろだな」

 俺がお茶を一口飲んだ所を見てから、彼はグラスにもう一杯の酒を入れる為に樽に手を伸ばす。

 ベッドのすぐ側に置いてある樽はさっきとは別の樽だ。違う酒を飲む気なのだろうか?

 

 

「もう大丈夫だぜ、ここまで来たら泳いで帰れだとか鬼でも言わねーだ───ってありゃ? ありゃりゃ、寝てやがるぁ?!」

 …………は?

 

「…………は? あの、リーゲルさん?」

 樽の蓋を開けると同時に妙な反応をするリーゲルさんに俺は困惑を隠せなかった。

 

 

 おい。

 

 

 待て。

 

 

 嫌な予感がするぞ。

 

 

「こーら起きろミズキ。んな所で寝る奴があるか! ムツキもだ!」

 ミズキだ?! ムツキだぁ?!

 

「ちゃっと待て!!」

 思わず吹き出しそうになったお茶をなんとか堪えながら、立ち上がって樽の前に立つ。

 上から見上げれば樽の中には体操座りで丸まって目を瞑っているミズキとその膝の上で同じような格好をしたムツキの姿があった。

 

 

「……お……前…………ら」

 言葉を失うとはこの事を言うのだろうか。比喩表現ではなく、本当にそれ以外の言葉が出て来なかったのだ。

 

 確かに俺は、強く言って何を言ってきても連れてくる気はないと言動で示した。

 だからと言って、こんな、密航?! ミズキにそんな行動力があるなんて思わなかったのは俺の過ちか。

 

 

 混乱する頭で俺は考える。

 

 こいつどうする気だ。

 

 こんな所に隠れて、流石に船を引き返して貰う訳には行かない。

 というかリーゲルさんの反応からして───グルだな。

 

 

「…………んぁ? あー……アラン? おはよー」

 そんな俺の心の中の葛藤など気にもしてないボケた表情で朝の挨拶をしてくるミズキ。

 一瞬この樽ごと海に放り投げようかとも思ったが、二人の過去を思い出してなんとか思い留まった。

 

 

「……何してる」

「……尾行?」

「密航ニャ、ミズキ。ちょっと違うニャ」

「成る程、密航」

「何してるって聞いてるだろ……っ!!」

 樽を持ち上げてひっくり返す。頭から落ちて地面を転がる二人にイラつきつつも、内心楽しんでいる自分が居るような気がした。

 

 いや、ダメだ。

 ……ダメだろ。

 

 

 とりあえず、二人はタンジアに着いたらモガの村に送り付ける……絶対にだ。

 

 

 

「いったぁ……何? 何? 地震?!」

「せ、世界が反転したニャ……ホロロホルルニャ……」

 この二人は……。

 

「……ったく、お前らなぁ」

 本当に、困った奴だ。

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「ここに隠れるとかどうだ? 防具と武器とか荷物は倉庫にしまっといてやる!」

 朝方、リーゲルさんに訳を話すと彼は心良く私の相談に乗ってくれました。

 

 

 私の相談っていうのは、島を出て暫くアランの乗る船に隠れていて……島が見えなくなる位離れてから登場。

 もう連れて行くしかなくなるよね、大作戦なのです!

 

 我ながら頭が回り過ぎて怖い。もしかして天才なんじゃないかな?

 なんてムツキに言ったら物凄く馬鹿にした表情で無言で私を見て来たので傷付きました。

 

 

 それで、気が付いたら隠れていた樽の中で寝てたんだけど。

 アランに叩き起こされる形に。

 

 酷いんだよ?

 頭から地面に落とされるし。頭にチョップするし。

 頭割れちゃいそう。モンスターだったら確実に部位破壊されてるダメージを貰いました。

 

 

「お茶おいしいねー」

「ずっと息苦しい樽の中だったから生き返るニャ」

「……お前達分かってるんだろうな」

 呆れ声でそう言うアラン。う、怒ってるかな? 怒ってるよね……。

 

 でも、引く訳には行かない。

 

 

 

 私には、アイシャさんに授かった二つの言い訳がある!!

 

 

 

「別に、私アランに着いていくなんて言ってないし」

「……は?」

 そう、これがアイシャさんから教わった一つの言い訳!

 

「私、旅に出るから。その旅の向け先にアランが居るだけだもん」

「とんでもない屁理屈が出て来たニャ。アイシャだニャ。絶対にアイシャだニャ」

「面白い言葉遊びだな娘っ子よぉ!」

 ムツキは若干引いていたけど、リーゲルさんは褒めてくれました。

 

 初めて会った時は変な感覚がしたんだけど、この人は普通に良い人です。

 でも、あの感覚は何だったんだろうね?

 

 

「一人で旅なんてやめておけ。お前みたいのは直ぐにでも死ぬ」

「じゃあアランに色々習いたいな!」

「帰れ」

 むぅ……。

 

 

 流石はアイシャさん曰く頑固無表情無慈悲なアラン。

 でも、私にはアイシャさんがとっておきと言っていた魔法の言葉があるのです。

 

 良く意味は分からないんだけど、こう言えばアランは逆らえないってアイシャさんは言っていた。

 アイシャさんが言うのだから、間違いはないのです。

 

 

「アラン……」

「なんだ……」

 呆れ半分でお茶を喉に流し込むアラン。

 一方でムツキも手伝ってくれずにお茶飲んでるし、もぅ。

 

 良いもん、アイシャさん直伝の技使うから。

 

 

「お金を取る気なら、代金は私の身体で払うから!!」

「「「ブゥゥゥゥッォ?!?!」」」

 私がそう言うと、お茶を飲んでいた二人どころかお酒を飲もうとしていたリーゲルさんまで全員が口の中の水分を吹き出してしまった。

 

 え?! なんか私変な事言った?!

 

 

「アイシャぁぁぁぁあああああ!!!」

 叫ぶムツキ。まるでイビルジョーの如く、怒りに全身から凄いオーラを放つメラルー。物凄く怖い。

 

「おいミズキそれはアレだよな? あの受付嬢に言えって言われたんだな?」

「お前よ、悪い事は言わないから二度と身体で払うとか言うんじゃぁねぇよ?」

 何か、発言に問題があったみたい。

 

 世間的に悪い事を言ってしまったのかな?

 

 うーん、アイシャさんたまに抜けてる所あるからなぁ……。

 

 

「…………はぁぁぁ」

 そして、とても大きな溜息をつくアラン。

 頭を抱えるその姿に、やっぱり凄く罪悪感を覚えた。

 

「あ、アラン……。……ごめんなさい。……困らせてる?」

「そりゃ、な」

 う……。

 

 

「悪かったな」

「……ぇ?」

「お前に狩りを教えるのを途中で放り出した形になった。お前はそれが中途半端で嫌だった……そうだろ?」

「アラン……」

 ふふ、半分は正解です。

 

 

 でもね、違うよアラン。

 私が教えて欲しいのは……確かに狩りの事もなんだけどね。

 

 あの素敵な体験を、まだ私は体験したかったから。

 ただ、それだけなんだ。

 

 

 

「だから、まぁ……。危険の無い場所には連れて行ってやる……かもしれない。……だから俺の言う事は絶対に守れ。……良いな?」

「アラン……っ!! う、うん!! やった! あっはは、ありがとぅ、アラン!」

「嫌気がさしたら直ぐにでも村に樽で送り付けるからな」

 酷い。

 

 

 でも、良かった。

 

 これでまた、素敵な体験が出来るかも知れない。

 

 

 

「っと、話は纏まったか?」

 ソファで話す私達二人の話が纏まった所で、リーゲルさんがベッドから話しかけて来る。

 何もかも密航を許してくれたこの人のお陰。本当にありがとうございます。

 

 

「……そういえば話の途中でしたね」

「まぁ、その話より重要な事があるぁ」

 重要な事……?

 

 

「飯だよ」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「十五年前だ」

 皆が食べ終えたご飯の食器を片付けながら、リーゲルさんは唐突に口を開いた。

 

 

 海の上でのご飯らしく、お魚のソテーを頂きました。

 流石にお父さんの物と比べる事は出来ないけど、私は大満足のお味。

 

 

「後に怒隻慧と呼ばれるようになったそのイビルジョーは、突如としてとある村に現れた」

 食器に水だけを浸けると、彼は樽からお酒を酌んでベッドに座る。

 

「どせきけい……?」

 イビルジョー……?

 

「俺が探しているモンスターだ」

 と、アランは軽く私に説明してくれた。

 

 

 モンスターは生き物だ。

 だからそれぞれ個体で生きていて、偶にその種族から見ても強力な個体が出現したりする。

 丁度人間であるハンターにも強さがバラバラであるみたいにね。例えば、私とアランなんてモスとリオレウスみたいな差がある。

 

 実力の伴う個体には噂や格付けから、本当の名前とは違う名前で呼ばれたりするの。

 有名な人だとヘルブラザーズっていう二人が有名だよね。

 

 その、ハンターでいう有名どころの人。つまりモンスターでいうその種族でも強力な個体にもヘルブラザーズみたいな二つ名を与えられる事があるの。

 ギルドが監視したりして、ずっと警戒してないと危ないような個体。それが、二つ名モンスター。

 

 

 とは、後にムツキに聞いた話で私の知識ではありません。

 

 

 

「村に現れた?」

「あぁ……」

 聞くと、表情を暗くするアラン。

 

 もしかして……その村って───

 

 

「俺と、アラン……お前の故郷だ」

 どこか遠い所を見ながらリーゲルさんはそう告げる。

 

「あなたは……あの村の生き残りだったんですか?」

「あぁ……。いや、まさか俺以外に居たとは思わなかったがな」

 私はこの時なんだか違和感を感じた。

 

 それが何なのかは、分からないんだけど。

 

 

 なんでだろうね?

 

 

「まるで地獄を見るような光景だった。目の前で妻が喰われ、俺の目に映るのは真っ赤になった村だった場所。今でも夢に見る」

「…………腕は、その時に?」

「……あぁ」

 その話を聞いて、なぜか私の脳裏に映る光景。

 

 

 なんだろう、これ。

 

 

 

「それが、あなたがアイツを探している理由ですか」

「俺はアイツの居場所を探してる。そうだな……言葉にするとコレは何も間違っちゃいない」

 二人は、そのイビルジョーが憎いのかな。

 

 憎いん……だよね。

 

 

「変な言い回しですね……」

「ふっ、そうか? はっは、変かぁ」

 お酒が回っているからか、アランの言葉を聞いて大袈裟に笑うリーゲルさん。

 ふと立ち上がると、彼は徐ろに右手を取り外してベッドに置いた。

 

 義手って凄い技術だなぁ……なんて思ってそれを見ると、義手の手の甲に綺麗な石が嵌め込まれているのが見えた。

 蒼く光る綺麗な石。どこかで見た事がある気がする……。

 

 

「なぁ、お前ら。人がモンスターを狩る事についてどう思う?」

 そして唐突に、彼はそんな質問をしてきたの。

 

「狩りについて……?」

「自然に生きる生き物を、己が勝手に狩りと称して殺す事を……お前はどう思う?」

 アランに顔を近付けて、リーゲルさんはそう聞いた。

 己が勝手……? それは、違うと思う。

 

 

「勝手じゃなくて、ちゃんと生態系の間引きって理由があるニャ」

 それに答えたのはアランではなくてムツキだった。

 うん、そうだよね。私達ハンターは生態系の調整役。だから、必要以上には狩らない。

 

 決して、人間だけの都合で殺してる訳じゃない。

 

 

「そんなのは、人間が勝手に決め付けた生態系だ。生き物ってのはな、自然ってのは、人間が手を加えなくても勝手に廻って行く。それを調整者気取りした人間が勝手に弄くり回すから、余計に世界のバランスは悪くなる…………違うか?」

 そ、そう言われると……なんとも返し難い。

 

 

「人間は勝手に世界の生き物を自分の物だと思ってる。なぁ、そんなのはおかしいと思わないか?」

 なんでこんな話になったのか分からない。

 

 

 ただ、リーゲルさんの言っている事はなんだか正しい気がして。

 私はハンターという仕事が悪い事なのかなって、一瞬思ってしまった。

 

 アランの言葉を聞くまでは。

 

 

「人間も、自然ですよ」

 目を瞑ったまま、アランはその一言だけをリーゲルさんに告げる。

 

 それが彼の考え。

 

 

 きっと、彼を取り巻く環境を作っていた考えなんだと思った。

 

 とっても素敵な考えだと思った。

 

 

 

「…………。……なるほど、はっはっはっは!! なるほどなるほど上出来だ。面白い答えだ気に入ったぁ!!」

 大笑いしながらアランの肩を叩くリーゲルさん。

 一体どんな意図があってあんな事を質問してきたのかな……?

 

 ふと船の外を見て見ると、まだ夕方には早いのに空は暗くなっていた。

 窓に着いている水滴を見てやっと雨が降っていた事に気がつく。

 

 

 嵐かな……?

 大きい船だから、大丈夫だと思うけど。

 

 

「酔っ払って変な事聞いてるニャ?」

「そんなに弱かねぇっての。素だよ素!」

 なんだろう。変な感じがする。

 

 

 嫌な感じがする。

 

 

「所で、俺はミズキの答えも聞きてぇな」

「ぇ、あ、えーと……私───」

 そんな私の言葉を掻き消すように、空で雷が鳴った。

 

 遮る物の無い海上で、轟音が響く。

 

 

 外は大嵐になっていて。

 

 船が、一度大きく揺れた。

 

 

 

 

「ニャ?! 水没?! 漂流はもう嫌ニャーーー!」

「お、お、お、落ち着いてムツキ!」

 凄く大きく揺れた……。床が鳴ってるし、なんだか私も不安だ。

 

「大丈夫だ大丈夫。この船はそう簡単には沈まない…………が、どうやら厄介なお客さんが来ちまったようだな」

 そう言いながら甲板の方に視線を移すリーゲルさん。

 それに合わせて、私もアランもその視線の先を追い掛ける。

 

 

「ゴァァァァ……ッ!」

 巨大な、何かが居た。

 

 完全な形は嵐とその何かの体色のせいで分からない。

 

 

 黒いシルエットに、一対の翼。

 

「甲板にモンスターが居るニャ?!」

「落ち着けムツキ! 閃光玉はあるか?」

「こんな時が来るかと思って持ってきたボクを誰か慰めて欲しいニャ……」

 そんなプルプルと震えるムツキから閃光玉を貰って、立てかけてあったボウガンと片手剣を手に取るアラン。

 

 ふ、船の上で戦うの?

 

 

「ちーと、ヤバイか? こんな事もあろうかと、ほらよ!」

 後ろからリーゲルさんのそんな声。振り向くとリーゲルさんは私の片手剣───というか双剣を手に持っていた。

 

「防具着る暇はないだろうが、これだけでも気休めになるだろ」

「あ、ありがとうございます!」

 ここでアランの役に立つために、船に乗せてくれたリーゲルさんの為にも戦って、頑張ろう。

 

 

 そう思って、私もアランに続いて甲板に出る。

 

 

 

「……ぇ」

 ただ、視界に映ったその存在に私の身体は動かなくなっていた。

 

 

 背中から伸びる一対の翼の先は脚のように爪が並んでいる。

 だから、最初に見た時はティガレックスみたいなモンスターなのかな? なんて思ったの。

 

 次に視界に映る四本(・・)の脚を見るまでは。

 

 

 

「古龍…………?」

 それは、この世界の絶対的な理。

 モンスターと呼ばれる生き物達の中でも、頂点に君臨すると言われている種族。

 

 その種の特徴は、他のどんな種族にもない強大な能力や体格。

 

 と、いうよりは他の生き物とは全く異なる特異的なモンスターの総称みたいな物で。

 もっと言ってしまえば人が定めた種族に当てはめられないような規格外の生物。

 

 

 それが、古龍。

 

 

 数年前モガの村を襲った超巨大モンスター、大海龍ナバルデウスもその種に含まれる。

 

 その強大な力は天災とも呼ばれる物で、人間は愚か他のモンスターだって古龍から見れば小さな存在だった。

 

 

 目の前の生き物は、まさにそれだ。

 

 流線型の頭部に一対の翼、四本の脚。

 実際に見た事なんてないんだけど、いつかアイシャさんに聞いたとある古龍の姿にそのシルエットは良く似ていた。

 

 

 鋼龍クシャルダオラ。

 未知の生物である古龍種の中では、比較的研究が進められているモンスター。

 アイシャさんがいつか見せてくれたモンスター図鑑で見たシルエットがこんな感じだった気がする。

 

 

 

「なんだ……こいつは……っ?!」

 アランのそんな声。

 

 嵐が酷くて、アランの姿がハッキリと見えない。

 それなのに目の前のモンスターの存在感だけはハッキリと私に伝わった。

 

 

 危険だ。

 

 身体が、感覚が、私にそう告げる。

 

 

 

「ゴァァァァアアア!!!」

 咆哮が空間に響く。

 

 骨にまで伝わってくる、恐怖。

 

 

 私の身体は動かない。

 

 

 

「逃げろミズキ!」

「……ぇ───」

 アランの声が聞こえる。

 目の前のモンスターが動く。

 

 何もかも飲み込んでしまいそうな黒い身体が、私の身体を撫でた。

 

 

「ミズキぃ!!」

 身体が浮く。

 

 不思議と無い痛覚。

 

 

 何故か視界に映るリーゲルさんの船。

 

 

 ぇ……私、船から……落ちてる…………?

 

 

 次の瞬間、私は海面に叩きつけられて視界が海水に妨げられた。

 

 

 

 何……これ…………嫌だ…………嫌───

 

 

「───ッ!!」

「……っぁ!」

 突然視界が開ける。目に映るのは海面に浮いているリーゲルさんの大きな船。

 

「大丈夫かミズキ! ミズキ!」

「……ぁ……ぁ、アラン……?」

 そして、海に沈んだ私を助けてくれたアランだった。

 

 

「アラン……」

「生きてるな?! ……はぁ。なら良い」

 良くない。

 

 こんな海の中に飛び込んだら、アランだって───

 

 

 それに船にはムツキとリーゲルさんが残ってて、その船は今モンスターに襲われている。

 

 全然、良くないんだ。

 

 

 

「おーい生きてるかぁ?!」

 船の上から聞こえるリーゲルさんの声。その肩には、ムツキが乗った───私が隠れていた大タルが担がれていた。

 

 

「気休めだがこれに掴まれ!! 絶対に諦めるなよ?! お前らはまだこんな所で死ぬべきじゃぁないんだ!!」

 そして投げられた大タル。

 

 

「嫌ニャぁぁぁぁぁ!!!!」

 そんなムツキの悲鳴と共に、私達の目の前に大タルが流れて来た。

 私とアランはそのタルに掴まる。

 

 

 嵐のせいで、リーゲルさんの船と私達は直ぐに離されてしまった。

 視界が悪くて船を見失ってしまうし、大タル一つで私達はこの大海に流される事に。

 

 

 

「アラン…………ごめんなさい」

「……ミズキ、怪我は無いな? 意識はしっかりしてるか?」

「ぇ……あ、うん」

「嫌ニャぁぁ……漂流は嫌ニャぁぁ……」

 アラン、なんだか優しい……?

 

「生きてくれてるなら、それで良い。ミズキ……なんとしてでも生き残るぞ。こんな事で死んでたまるか……」

「あ、えと、う、うん!」

 こんな事になってしまったのに……アランは凄いなぁ。

 

 

「嫌ニャぁぁ……嫌だニャぁぁ……」

 

 

「それに……」

「それに……?」

「リーゲルさんにはもっと話を聞きたかったからな……。あの人は何か変だった」

 変……?

 

「リーゲルさん……大丈夫かな?」

「多分、大丈夫だ。俺達よりはな」

 あ、やっぱり私達大ピンチ?

 

 

「ミズキ……諦めるなよ」

「う、うん」

 

「もうダメニャぁぁ……」

 ムツキぃぃ……。

 

 

 

 こうして、私達は西も東も分からない状況で大海原を漂流する事に。

 

 結果的には、とあるキャラバン隊に助けられるんだけど。

 本当、もうダメかと思ったよ。助けてくれた団長さんには感謝しても仕切れない。

 

 

 

 所で、リーゲルさんの船に現れたあのモンスターは何だったんだろう?

 

 思い返すと、なんだか禍々しい物が脳裏に映る。

 

 

 

 流線型の頭部には───眼が無かったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「ゴァァァァアアア!!!」

「ったく、感動の再会を良い所で邪魔しやがってよ。てか何だ? お前さんは……。見た事ない奴だな」

 

「ゴァァァァ……」

「まぁ、良いか……。悪いが俺もまだ死ぬ訳には行かねーんだ。手加減は出来ねーかもしれねーぞ? そっちが本気ならなぁ」

 

 

「ゴァァァァアアア!!!」

「へぇ、そうかい。ほいじゃ、派手に暴れて貰おうかねぇ……」

 

 

 

 

「ライドオンッ!!」

「グォォォアアアアアッ!!!」

 

「■■■■■■!!!」

 

 

    ★ ★ ★

 

 

 孤島地方、イビルジョー出現事案の報告書。

 

 今回の普通生息域から外れたイビルジョーの出現の報告。

 原因は調査中であるが、密猟者によるモンスターの輸送が原因との見解をギルドには報告したい。

 

 件のイビルジョーは村のハンターであるミズキ・シフィレと助っ人のアラン・ユングリングが討伐。

 死骸は見つからなかったが、孤島地方からは完全に消滅したと見て間違いはない。

 

 ここに、イビルジョーによる生態系の破壊は解決したと見る事をギルドに報告する。

 

 

 ギルド受付嬢アイシャ。

 

 

 

「ふぅ……」

 いやぁ、堅苦しい文字は本当に疲れますね。

 

 私はアオアシラのハグの予備動作のように手を広げて身体を伸ばします。

 今日も朝日が眩しい(時刻は午後二時)ですね。おやすみなさい、徹夜です。

 

 

「おーい娘っ子や、船が着いたぞ」

「なんですか? おやすみなさい?」

 村長がその場で寝ようとする私に話し掛けて来るので、おやすみなさいと一蹴。

 

 私は眠いんです。

 

 

「あのハンターが帰って来たのにつれないのぅ。お、そう言っとる間に来たわい」

「え゛ハンターさん?!」

 そう聞いて顔を上げると、そこにはもう忘れたくても忘れられないそんな顔が。

 

 本当にずっとずっと、どこで遊んで来たのか。

 

 笑顔で久しぶりだと挨拶をしてくるあのハンターさんの姿があったのです。

 

 

 もう、本当、なにが久しぶり、ですか。

 

 何年待ってたと思うんですか。

 

 

 ミズキちゃん行っちゃいましたよ!!

 

 他にも色々あったんですよ?!

 

 

 そんな事を言っても、この人は困ってしまうかも。

 

 

 しかし、これだけは言いますね。

 

 

 

「おかえりなさい。あ、今度はもう何処にも行かせませんよ。永住してもらうつもりで居てくださいね!!」

 そう言うと、ハンターさんは苦笑いでとりあえずは了承してくれた。

 

 ふふ、変わってないですね。

 

 

「冗談ですよー、だ」

 行ってらっしゃい、ミズキちゃん。

 

 モガの村は当分大丈夫なので。

 

 

 頑張って来て下さいね。

 

 

 

 END……




読了ありがとうございます。
これにて第一章完結です。ここまでお付き合いして下さった方々は本当にありがとうございました!!

さて、もうお気付きかと思いますが第二章はあのお話にそって話が進んで行く予定です
賛否両論あるかと思いますが、もし宜しければまた今後もお付き合いして下さると嬉しいです。



さてさて、余談を。
私の作品ではゲームの主人公、つまりプレイヤーキャラを名有りで登場させる予定はありません。今回のモガの村のハンターみたいな登場の仕方で貫きたいと思っています。
やっぱり、ゲームの主人公は私達プレイヤーの分身のような物ですし。そう易々とキャラクターとして出そうとは思えないんですよね。私の意見ですが。


さて、本当に第一章終わらせる事が出来ました。
重ね重ねですが、本当に皆様の応援のおかげです。

感想とか評価とか貰えるともっと頑張れるので(貪欲)気が向いたらお願いします(`・ω・´)←

Re:ストーリーズとしては、今回が今年最後の更新になりますです。
年始には登場人物紹介とかやってみるつもりです。もし宜しければ、お楽しみになって下さい。

第二章もその後淡々と書いていくと思います。



さて、長くなるので今回はここまでで。

皆様良いお年を!!!

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