城崎 賢人はある日突然人々の寿命が見えるようになった。

そして学校一の美少女、桃瀬 瑠璃の寿命はあと六日だった。

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Q.神の存在を感じるのはいつ?
A.まるで仕組まれているかのように何もかもうまくいかないとき


見えていたのか

【アト ムイカ】

 

 夜はいつだって綺麗なのは何故か人肌恋しくなるからだろう。

 平凡な高校に通う二年生、17歳の城崎 賢人はその夜、ある異変に気が付いた。

 

 「えっ――」

 動揺して思わず手にしていたあたたかいココアの缶を取り落とす。

 やや乱視気味の目に映るのはブレた街灯や信号機の光、そして無慈悲な眼で見降ろすかの様な美しい月。

 そんないつも通りの光景に混じる異変。

 

「なんの数字、いや、なんだこれ……」

 賢人の目に、道行く全ての人間の頭上に様々な数字が見えていたのだった。

 

 

 

 

 

 神の作り出したシナリオがずれた。

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 目的地は沖縄、真っ直ぐ飛べばいいはずの飛行機はやや強めの風に流されて右に逸れてしまった。

 さぁ、どうする?

 簡単だ、左に旋回するに決まっている。

 

 

 1+1+1+……+1+3+1+……

 100項でちょうど100にしたいのに途中で3が混ざってしまった。

 さぁ、どうする?

 これも簡単だ。

 1+1+1+……+1+3+(-1)+……

 こうやって-1を混ぜてやればいい。

 

 エラーというものはいつだって起こる物だ。それはしょうがない。

 原因を究明するのも大事だが、それを修正することもまた大事だ。

 

 どうやって修正するかなんてのは簡単な話で、モノにもよるが『逆』をぶつけてやればいい。

 右には左を。プラスにはマイナスを。

 

 ここで注目したいのが、プラスもマイナスも、右も左も、当初の予定からすればエラーなのだ。

 つまり、風に流されて左に行っていたら右に旋回するし、先に-1が来たら3を入れて直す。

 

 まっすぐ進んでいれば右も左も表れなかった。

 ずっと1だけなら3も-1も表れなかった。

 

 悪には悪を、というのと似ているのかもしれない。

 当初の予定にはないエラーが表れたら、その逆のエラーで相殺する。

 

 神が作り出した混沌に見えても全てが完璧なこの世界に表れたエラー。

 

 完璧な運命(シナリオ)を作ったのは神だ。

 人がそれを知ってはならないし、人がそれを変えられるなんてのはもっての他だ。

 登場人物は舞台の上で踊るだけの存在でなくてはならないのだ。

 

 右には左を。プラスにはマイナスを。

 

 運命が見える者には?

 

 簡単だ――。

 

 

***********************

 

 

【アト イツカ】 

 

 

 翌朝、リビングに降りても状況は変わっていなかった。

 疲れているだけなのかと思ったが、疲れるようなことはしていないしそんなストレスも受けていない。

 

「おはよう賢人。なんか早くない?」

 

「えー、うん。なんか目ぇ覚めてさ」

 食事の準備をする母親の頭の上には『1089』と、はっきりと数字が映っている。

 母に気付かれないようにそっとそこに触れてみたが、何かに触れた感触は無い。やはり自分の目に映っているだけのようだ。

 

「栄治を起こしてきてくれる?」

 

「分かった」

 母親に言われた通りに弟の部屋に行き、まだぐっすりと眠っている弟の頬を少し強めに叩きながら頭上を見る。

 『22087』と、母よりも大分多い数字が浮かんでいる。昨日確認したが、鏡では自分の数字は見えなかった。

 どういうことなのだろうか?

 

「起きる、起きるよう兄ちゃん」

 

「…………」

 これ病気かなぁ、というか確実に病気だよなぁ、と考える。

 だが何かに困っている訳でも無いし、これを親にでも言った日には病院に連れて行かれそうなので黙ったまま朝食を食べていると。

 

「あ、ゼロ」

 

「ん?」

 弟の栄治が食パンを頬張りながら丸い目でこちらを見てくる。

 やはり見えてはいないようだ。

 

『それでは本日のお天気です』

 という美人ニュースキャスター。彼女の頭上の数字が間違いなく『0』だった。

 東京の天気を言う爽やかなおじさんの頭上には『8920』。そんな中で彼女の『0』は目立つが、誰も気にする様子はない。

 

(ま、いっか)

 さっきも考えた通り、何か困る訳では無い。

 早めの朝食を終えた賢人はのんきに鼻歌を歌いながら普段よりものんびりと歩いて学校に向かった。

 

 

***********************************

 

 友達の葛西と話しながら一人一人、頭上の数字を見ていく。生徒は大体二万より多いくらいだ。中には極端に少なく、『500』とかの奴もいたが。

 逆に教師は総じて少ない。特に物理教師の永谷は『78』という脅威の少なさだった。今日も首の骨をゴキゴキならして、遠心力の説明の合間合間に痰が絡んだデカい咳をして生徒にクスクス笑われていた。

 

 なんの意味があるのか、法則性があるのかも分からないまま放課後。

 トイレで連れションをして外に出た時、通り過ぎたその流れるような黒髪と『6』という数字が目に入った。

 

「あっ……!」

 

「なんだよ、瑠璃ちゃん見て『あっ』って。『あっ』って。一目惚れか? オイ」

 葛西が肘で突きながらそんな言葉を投げかけてくる。

 後姿だけでも美人と分かる彼女をこの学校で知らない者はいないだろう。

 10代から20代前半の女性に人気のファッション誌、「Ring A Bell」で清楚系のファッションモデルとして活躍する傍ら芸能活動も始めている彼女は、賢人と同学年の桃瀬 瑠璃だった。

 クラスも違うし、話したことも、目があったことすらもないが賢人は彼女をよく知っていた。

 密かに恋い焦がれていた……という訳では無く、最近メジャーデビューした賢人の好きだったバンドのPVに彼女が出ていたのだ。

 

「美人は少ない、とかか!?」

 

「は?」

 

「いや、なんでもねー。今更一目惚れもクソもないだろ」

 あんまりにも頭が悪い法則を思いついたが即座に一蹴して、ついでに葛西の尻を蹴っ飛ばす。

 

「ちっ……あー、いいなぁ。やっぱ芸能界だからもうヤリまくりかな。30歳ぐらい上のオヤジとかとさ。俺もおこぼれあずかりてーなぁ、羨ましいなぁクソォ」

 

「そんなこと言っている限りはあり得ないんじゃないの」

 彼女は静かなアルペジオと空間系のエフェクトを効かせたベースが心地よい静かなバンドのPVに出ていた。

 そういう印象があるから汚すような言葉をなるべく言わないでもらいたい。

 

「はぁあ~……なにそれいい子ちゃん。で、タワレコ行くんだろ?」

 

「おう、行こうぜ」

 今日もこの下品ながらも音楽の趣味が合う友人とバンド発掘に向かう。

 音楽を聴きながら雰囲気に浸って夜の街を散歩してうっとりするのが趣味、なんてのは恥ずかしすぎるから秘密だ。

 

 

***************************

 

 

「八十八ヶ所巡礼」

 

「いきものがかり」

 

「リンクトホライズン、あーっ!!」

 

「はい、お前が奢りね」

 

「ちっくしょー!!」

 珍妙なしりとりをしていたがとうとう負けてしまう。

 パッと思い浮かんだのをすぐ言う前に確認しておけば良かった。

 普段は負けないのに、今日は負けてしまったのは理由がある。

 

(……酔いそう)

 道行く人々の頭上に表れている数字の奔流に目が疲れている。

 これがゲームの画面だったら頭上に表示されている数字など気にならないのに、現実だとこうも目につくのか。

 信号で立ち止まってようやく流れる数字が落ち着く。

 

(あっ……ゼロだ……このババァ)

 後ろからよろよろと歩いてきた老婆は起きているんだか寝ているんだか分からないほどに目を薄くしか開いておらず、その頭上には『0』の数字が天使の輪っかのように輝いている。

 

「あ?」

 

「は?」

 葛西と同時に声が出た。

 信号は完璧に赤で、車がビュンビュンと走っているのに、その老婆はふらふらと道路を渡ろうとしたのだ。

 

「ババァッ!!」

 一も二も無く叫びながら老婆の首根っこを引っ掴み後ろに引き倒す。

 

(――――!!)

 目をカッと見開く老婆、なんだなんだとこちらを見てくる通行人、騒ぐ葛西。

 だがそんなことは全て頭に入ってこなかった。完全に『0』だった老婆の頭上の数字が急激に増えていく。

 そしてその数字は『1029』という、『0』からほど遠い数字となった。

 

「このクソガキ! なにすんだい!!」

 

「うおっ……!!」

 さっきまでのゾンビみたいな動きは何だったというほど機敏な動きで杖を振り上げて殴ってくる。

 

「ババァ、コラ、ボケババァコラ!! 何やってんだコラ!!」

 自分が老婆を引き倒した理由を知る葛西が老婆の杖を押えながら怒鳴る。

 ぼけっとした自分とは対照的に怒鳴り合う二人を見かねた通行人が通報したのか、五分で警察が飛んできたが、目撃者の証言から賢人に非は全くない事が分かりその日のうちに家に帰された。

 

 

*************************************

 

 

「ったくツイてないな……次からあのテのボケ老人にはぜってー関わんねぇ」

 

「そんなこと言うんじゃないよ。立派な行動じゃないの」

 そういう母の頭上の数字は今朝のまま『1089』だった。

 父は今日も会社終わりに飲み歩いているらしく、迎えに来たのは母だった。

 

「正直、ほっときゃ良かったと思ってるけどな」

 杖で殴られて青あざになった部分に軟膏を塗る。

 感謝されこそすれ何故殴られなければならないのか。

 正直、と言ったがもっと正直に言えばあの場でぶん殴ってしまいたかった。

 

『――くなった大和テレビの坂本 恵美さんですが――』

 

「ん……?」

 今日もまた誰かが亡くなる。

 世界中で毎日ほいほい死んでいるのだから、それがニュースになってもなんら不思議では無い。

 だが何かが引っ掛かりテレビに目を向ける。

 

「不憫ねぇ……朝まで元気だったのに」

 

「え?」

 そこで読みあげられていた訃報の主、それは朝まで元気にテレビに出ていた美人ニュースキャスターだった。

 自宅の扉が開きっぱなしなのを不審に思った近隣住民が通報、警察が駆け付けた時には全身が数十か所刺された姿で発見されたという。

 警察は他殺と断定し、逃げた犯人を追っているようだ。毎年どこかで起こっている事件がたまたま今年は有名人が被害者になっただけの話だ。

 それでも数カ月もすれば人々は忘れるだろう。だが――

 

(ゼロ……だったよな……)

 今朝見たあのニュースキャスターの頭上の数字は確かに『0』だった。

 そしてあの時助けたつもりの老婆の数字も。

 

「寿命……?」

 

「なに?」

 呆けたように答えを口にする自分を母は疑問を目に浮かべて見てくる。

 だがそれどころでは無い。もしも見えているこの数字が『あと何日生きれるのか』ということを教えてくれているのならば。

 

(短いじゃないか母さん!!) 

 『1089』、それはつまりもう3年も生きないことを意味している。

 病気、事故、事件。あらゆる理由は考えられるが、とりあえずの対策としてはしつこく病院に行けと言うしかない。

 そして次に賢人の頭に浮かんできたのは――

 

「あと六日……」

 学校一の美人、当然自分とは全く接点のない桃瀬 瑠璃の『6』というあまりにも短い数字だった。

 

 

 

 

【アト ヨッカ】

 

 

 その日の朝は、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。

 そしていの一番にしたことはもちろん、

 

「母さん!」

 

「なんだ賢人、早いな」 

 リビングで賢人を迎えたのは父だった。

 遅れて母がキッチンから顔を出す。

 

(!!)

 父と母の両方の頭の上に『1088』と数字が浮かんでいる。

 昨日から数字が一つ減っているだけでなく、数字が一致しているのが問題だ。

 

「事故だ……」

 これで分かった。二人はあと3年もしないうちに交通事故か何かで同時に死ぬのだ。

 あるいは強盗殺人かもしれないが、どちらにしろ短すぎる人生だ。だが逆に言えば、まだ1000日以上対策を考える時間があるのだ。

 

「おはようでしょ、賢人」

 

「いや、うん、おはよう」

 慌てることは無い。普通の人間は誰がいつ死ぬかなんてその瞬間まで分かっていないのだから、むしろ分かっているということは覚悟を決める時間があるという事だ。

 それに変えようと思えばその運命は変えられるというのは昨日の老婆のことで分かっている。

 

(俺が助けなきゃ……)

 物理教師の永谷も短かった気がするが、アレはどう考えても身体のどこかに爆弾を抱えているのだろう。

 問題は瑠璃だ。至って健康に見える彼女があとたった五日で死ぬとしたらそれは何かしらの事件か事故に巻き込まれる、それしか無いだろう。そんなことが起こっていいはずがない。

 

 昨日あんな目に遭いながらも賢人の本質はどうしようもない部分からして善良だった。

 

 

 

**************************

 

 

 

 当然だが、その日の授業は全く頭に入ってこなかった。

 ゲホゲボと痰を絡ませて咳をする永谷の苦しそうな声だけがやたら頭に残った。

 そして昼休み。

 

「あの、桃瀬さんいる!?」

 

「え、誰」

 

「いいから!!」

 瑠璃のいるクラスの扉を開いたすぐそばにいた生徒に声をかける。

 部活に入っていない賢人の顔が広いはずがなく、かなり怪訝な顔をされた。

 が。

 

「なに?」

 

「うおっ、桃瀬さん!」

 そのすぐ隣の机に瑠璃はいた。

 友達と昼食をとろうとしていたのか、寄せた机の上にはいくつもの弁当が広げられていた。

 

「――――!!」

 

「あの、……その」

 勢いだけで来てしまったが、そう言えば何をどう言うべきなのだろう。

 あなた、五日後に死にますよ……なんて言えるはずがない、信じるはずがない。

 だがそんな言葉に詰まる自分を見て瑠璃は目を見開いて瞳孔を小さくした。

 そのあまりにも異な反応に賢人はますます言葉に詰まった。

 

「……名前は……?」

 

「え? え……あの、城崎賢人……」

 

「城崎くん!!」

 

「えっ」

 モデルやってるだけあって背が高い。

 175cmある自分の目線のすぐ下にある彼女の眼が自分をどこまでも真っ直ぐに見つめ、何を考えているのか彼女の白い手が自分の手を握っていた。

 

「今付き合っている人いる!?」

 

「え? は? いないけど……」

 ピタッ、と教室の喧騒が収まった。

 クラスの端っこでカードゲームをしているオタクも、机の上に座って話しこんでいる見た目からして不良の連中もこちらを阿呆のような顔で見てくるが、一番阿呆な顔をしているのは自分だろうなと思った。

 

「私と付き合って!」

 

「――、――」

 口を大きく広げて、声にならない声を自分を含むクラス中の人間があげた。

 

「ひと目惚れしたの!!」

 

 数秒遅れて津波の様な声が怒涛のように押し寄せて賢人と瑠璃を包んだのだった。

 

 

******************************

 

 

 葛西がぶっ倒れて保健室に運ばれたと聞いたのは放課後のことだった。

 その反応は行きすぎだとしても、ガタガタ震えている奴や、こちらを見るなりひそひそと何かを話す奴があちこちにいる。

 あの突然の告白は稲妻のように学校中に知れ渡り、晴れて自分は全校の男の敵となった。そんなことを考えるのは後でいい。

 

(増えてはいないか……)

 彼女の頭上の数字は増えていなかった。

 死の運命を変えるというのはどうしたらいいのかぶっちゃけ分かっていない。

 昨日のボケ老婆のようにはっきり分かりやすければ簡単なのだが。死ぬ直前に手を差し伸べればいいのだから。

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

「あ、うん……?」

 彼女の友達の女子に冷やかされ、一緒に帰ってあげなよと言われ夕暮れの中一緒に歩く。

 どうやら彼女も部活には入っていないようだ。曲がりなりにも芸能人なのだから当たり前か――と、今更そんなことを考える程度には自分は彼女の事を知らないのだ。

 ここ最近ちょっと異様なことが連続して起こって頭がついて行かない。

 

「あのさ、なんで昼休み教室に来たの?」

 

(うわヤッベ!!)

 いきなり答えに詰まる質問だ。彼女の周囲を見れば、状況を見ればあるいは死因が分かるのではと思ったが全くそんな事は無かった。

 当然だ。死は大抵突然に来て全てを奪い去っていくのだから恐ろしいのだ。

 

「えーと……前から声、かけてみたくて……」

 とりあえず嘘では無い言葉でその場をやり過ごすことにした。

 この学校の誰だってそりゃこんな美人には声をかけてみたかったはずだ。

 それに加えて自分はあのPVを何度も見て感動し、いつかはその素晴らしさを彼女に伝えたいとは思っていた。

 ……我ながら気持ち悪いと思っていたのでやらなかったのだが。

 

「……なにそれ、それってあれ? もしかして……うわー!!」

 

(えー……)

 あれってアレだろうか。運命だとかいいたいのだろうか。

 話したことが無いから当たり前だが、こんな思い込みが激しい子だとは。

 だが冷静になって考えてみると、今の自分はかなり幸福な状況にいる。

 容姿100%で彼女の事を見ているが、それでも悪く無い。……彼女の頭上の『5』という数字を除けば。

 

「あ、私あっちなんだけど」

 

「俺はこっち」

 どうやら家まで半分の距離を歩いたところで逆方向になるようだ。

 別れていいのかと不安になったが、『0』でも『1』でもなく『5』ならまだ余裕はある筈だ。

 その間に原因らしいものを探ればいい。と、そこまで考えていたら彼女が携帯を取り出した。

 

「ほら、ライン交換しようよ、ね?」

 

「そうだね」

 周りの状況を調べるだけでは無く、彼女から直接、それも悟られないように探るのも大事だろう。

 ラインの登録が終わると可愛らしいアイコンが表示された。これだけで飛び回る程嬉しい男もこの世にはたくさんいるはずなのに今の自分は素直に喜ぶ心の余裕がない。

 

「帰ったら絶対、ぜったい連絡してね!」

 

「うん、分かった。必ずする」

 別れ道で逆方向に歩く途中振り返ると彼女もこちらを振り返っていた。

 やたらと大きい夕陽の上に光る『5』の数字がとにかく不吉だった。

 

 

 

【アト ミッカ】

 

 

 寝不足のまま家を出る。

 あの後彼女とラインでやり取りをしつつネットで彼女の事を調べた。

 

 ≪桃瀬 瑠璃の高校は!?≫

 ≪彼氏の有無は!?≫

 ≪性格は!?≫

 

 という当たり障りのないことをまとめたしょうもない記事から、『最近のま~ん(笑)のファッションwwww』という攻撃的なタイトルを付けた2chまとめサイトにて、超上から目線の『ぶっさ』という書きこみまでも全てに目を通し、さらにはまとめサイトなんかには頼らずに2chに潜りこみ調べてみたが……なんというか普通の駆け出しの芸能人といった感じだ。

 

 素直な応援や、頭の中にチンポしか入っていないような男の下品な書きこみ、明らかな異常者の執着した書きこみ。

 どれもが芸能人なら当たり前で、彼女の身の危険を知るには足りない物だった。

 早朝になって、『彼氏が出来た』と書きこまれたときは驚いたが。

 

(そういえば……付き合うともなんとも言ってない……)

 周りに流されて一緒に帰ったりなんかしてみたが、付き合ってと言われたことに対して返事はしていない。

 普段だったら――自分も高校二年生、好奇心と性欲が旺盛な17歳だ。二つ返事で付き合っていたのだろうが……今はそんなことは考えていられない。

 

「おはよう」

 

「のぉっ、っはよう!!」

 昨日別れた道、その場所でいきなり瑠璃が飛び出してきた。

 もしかしなくても待っていてくれたのだ。そのいじらしい事実に胸がドキンと跳ねる。

 こんなの普通なら泣いて喜んでいるが、彼女の頭上の『4』が現実に心を戻す。

 

「学校行こうよ」

 

「う、うん」

 言われなくともそのつもりだが、二人で歩いていると学校に向かう生徒、特に男子生徒からの視線が非常に痛い。

 努力して彼女のハートを射止めたのでも、あるいは昔からの幼馴染などでも無く、100%彼女の一目惚れだというのだからそりゃ彼女の事を知っている者達の気分は悪いだろう。

 葛西のようにはっきりとオカズにしていると宣言している馬鹿もいるくらいなのだから。

 

「昨日はごめんね、突然」

 

「いや……」

 

「もう、本当は一秒も離れたくなくて……」

 

(ほげっ……)

 なんなんだ一体この積極性は。

 これで彼氏がいなかったってそれは一体全体なんでなのだ。

 

「なんか言われなかった?」

 

「いやー、ツイッターとかラインとかで色々詮索されたけど、途中から面倒になって……」

 普段はほとんど話さないような奴からもピロンピロンと夜中までラインが来て対応するのが面倒になった。

 それは本当だ。どういうことだと聞かれたがそんなのこっちも分かっていない。今はそのラッキーに感謝して彼女の命を守らなければならない。

 話は全部そこからだ。

 

「ツイッターやっているんだ」

 

「うん」

 

「……。結構つぶやいたり?」

 

「そうだね」

 と言っても普通のことはあまり呟かず、ほとんどお気に入りのアーティストのツイートをリツイートするだけなのだが。

 『お前リツイートしかしないんかい』と言った葛西のアカウントもアイドルの画像botをリツイートするbotと化している。

 

「……。アカウント教えてよ」

 

「えっ、ツイッターやっているの? そういうのって……ジムショ、とかから止められたりしないの?」

 

「鍵付いているからね」

 

「へー……」

 そんなこと俺が知っていいのか、と思ったが彼女がこう言っているのだし、何よりもなるべく彼女の状況は知っておいた方がいい。

 そのアカウントは30人もフォローしていない、彼女の本当に仲のいい友達だけが知っているようなアカウントだった。

 不謹慎だとは思ったが、それでもなんだか凄く特別な人間になれた気がした。

 

 

  

 

 やはり怪しい現象は起こらない。

 誘拐されてから殺されるなんて状況も無くはないから警戒していたが、よく考えてみれば学校にいるのに誘拐されるはずがないじゃないか。

 変わったことと言えば、昨日ぶっ倒れた葛西が今日も休んでいた事か。だが担任によるとどうやら葛西は風邪らしい。

 もしかしてぶっ倒れたのはそっちが原因なのだろうか。どちらにしても大馬鹿だあいつは、と思いながら今日も賢人は授業中にお気に入りのアーティストの情報をリツイートしていた。

 

 あれ、と気が付いたのは六限目の授業中だ。

 全く授業に集中せずに携帯をいじり、なんとなく瑠璃のツイッターアカウントを見てみたら奇妙なやりとりがあった。

 

『うん、またプレゼントが来てる』

 

『凄く気持ち悪い……』

 

『まぁしょうがないよね……。先輩もそういうことあるって言ってくるし、分かっているけどさーなんかなー』

 

 と、誰かとやり取りをしている。

 その相手も鍵のついたアカウントらしく、なんのやり取りをしているのかはよく分からなかったが、結構前から何かに悩まされているらしい。

 放課後に聞いてみよう。

 

 

********************************

 

 だが放課後彼女の教室に行っても瑠璃の姿は無かった。

 ゾッとしてすぐに携帯を開いたが、引いた血の気はすぐに戻ってきた。

 

「なんだ……」

 何やら写真撮影の仕事があるらしく、放課後になってすぐに学校を出たらしい。

 どうも話を聞くに、今週末にあった仕事を無理に頼んで今日にしてもらったらしい。

 『週末は一緒にいよう』という彼女のラインを見て鼻の下を伸ばすがすぐに気が付く。

 

「週末――!!」

 今日は水曜。彼女の数字は『4』。

 今週の日曜に彼女の命は『0』となり何かしらの事情で消えてなくなるのだ。

 彼女の乙女な気持ちはともかくとして、週末に時間を空けてくれるというその言葉は自分にとってもとてもありがたいことだった。

 

 

 

 

【アト フツカ】

 

 木曜日の夕方。

 流石に警戒をするのも疲れてきた賢人は初めて瑠璃との帰り道を楽しんでいた。

 

「ごめんね、朝」

 

「いやそんな……」

 昨日は遅くまで仕事をしていたらしく、何やら朝も遅刻したらしい。

 曲がり角で待っていたりなどしなかった。帰り道でも相変わらずちらちら見てくる奴らはいるが、その数も少なくなった。

 もう事実を事実として受け入れ始めたのだろう――と思うとちょっとニヤけた。

 

「城崎くんさ」

 

「ん?」

 

「Blue Velvetを……」

 

「ああ、うん。好きだからよく聞いているんだ」

 確かに昨日も彼らのライブ情報をリツイートしていた。

 だが彼女が言いたいのはそこではないだろう。

 

「えっ、じゃあ」

 

「うん。知っているし、何度も見たよ」

 言いたいこと、それは間違いなく彼らの新曲のPVに彼女が主演として出ているということだろう。

 

「やだ、あれ見たの? 恥ずかしい……誰にも言ってなかったのに」

 

(……! やっぱこの子抜群に可愛いぞ……)

 頬に手を当てて照れまくる彼女は当然のように可愛い。

 目鼻立ちはぱっちりしているし、少し厚い唇がとても魅力的だ。

 無事に彼女の寿命を伸ばせたら、ちゃんとこの子のことを知ってまともに付き合いたいものだ。

 

「そう、だから桃瀬さんは俺のこと知らなかっただろうけど、俺は結構前から知っていたよ」

 と、そこまで言ってからふと気付く。

 

(ん? 一目惚れ……?)

 一目見た瞬間に恋に落ちるという一目惚れ。

 何故あの瞬間に?

 同じ学校にいて今まで何度もすれ違った気もするのだが。

 それとも間近で見たからだろうか。声や体の匂いなんかもあるのかもしれない。

 なんて考えている間に別れの道に着いてしまった。

 

「また明日……、だよね、桃瀬さん」

 彼女の頭上の数字は一日一日着々と減っていっている。

 今は『3』、明日は『2』になる。

 そして自分はと言うと……

 

(俺ってちょろいなぁ……) 

 面食いなのかちょろいのか。彼女の猛烈なアタックに一日ごとに惹かれてしまっていたのだ。

 今では彼女の安否を知るためなどでは無く、彼女の事を知りたいからまたラインを送ろうなんて思ってしまっている。

 頭上の数字から視線を顔に戻すと……

 

「……どうしたの?」

 唇に指先を当て、夕闇の電信柱の後ろに恐ろしい物でも見た小学生のように不安げな顔を瑠璃はしていた。

 

「あ、いや……寂しくて……」

 

「明日もあるし……ちゃんと帰ったら連絡するから」

 あるいは親に置いていかれた子供のような表情だった。

 まだ話すようになって数日しか経っていないのに、もうそこまで自分に依存するものだろうか。

 いつまでもその場を動こうとしない瑠璃を置いていくのは気が引けたが、その場で地蔵のように立っていても仕方が無い。

 家へと向かう時、どこまでも彼女の視線が背中に刺さっているような気がした。

 

 

 

 

【アト イチニチ】

 

 

 

 彼女に関してはやはり、その後も絶命的な何かは見られなかった。

 ここでプロだったら危険なニオイを感じ取ったりするのだろうか。

 

(なんのプロだ一体)

 と昼食の菓子パンを齧っていると。

 

「で、どこまで行った?」

 

「どこも行ってないし、何もしていない」

 マスクを付けて目の下を黒くした葛西が低い声で聞いてきた。

 もう一日くらい休んでもよかったのでは、と思ったがこういう浮ついたことが大好きな奴だ。

 聞きたくてしょうがないから学校に来たといったところか。本当にしょうもない。

 

「本当かよ」

 

「マジだって。大体まだ休日も来てないのに」

 と言ってから『おっと』と思った。

 それだとまるで休日が来たら何かするみたいじゃないか。

 実際今週末は彼女と過ごすわけだが……

 

「ふーん……。なぁ、瑠璃ちゃんってさぁ……処女なの?」

 

「キメぇ」

 やっぱこいつところどころキモいわ、と思ってしまった。

 自分はアイドルや芸能人などそういったことに疎いからなのかはよく分からないが、普通はこんなことも気になるものなんだろうか。

 確かに声優に彼氏がいたら大騒ぎになるのは知っているが。

 

「どうなんだよ」

 

「……今まで彼氏はいた事はないとか言っていたけど」

 

「…………」

 

「なんだよその目。マジだってホラ。男を匂わせてないじゃん」

 じっとりとした目で見てくる葛西に瑠璃の鍵アカウントのフォロワーを見せる。

 30人もいないそのフォロワーは一見して全部女子だ。

 

「こんなのあったのか」

 

「仲のいい女子にだけ教えてたんだろ」

 スマホの画面をスクロールする葛西に対して少しだけ優越感が出てくる。

 別に今そんな必死にならなくても自分はゆっくり見れるのだ。

 

「……。やっぱ具合悪ぃ……早退しようかな」

 

「おいおい、保健室ついて行こうか?」

 

「いや、いいよ。一人で行けるから」

 

「そうか?」

 やっぱりアホだなぁこいつ、と思う程青い顔をして葛西は保健室に向かった。

 本当にそれが聞きたかっただけなのか、戻ってきた葛西はすぐに荷物を纏めてふらふらと帰ってしまった。

 少し心配だが奴の寿命は『19208』だ。時間にして数十年以上生きるというのだから、心配のし損というものだ。

 

 やはり今だけは――いやもしかしたらこれからも。

 気になるのは瑠璃なのだ。

 

 

**********************************

 

 

「しっ、城崎くんさ……」

 

「え?」

 帰り道。明日は一緒にいると言うのに彼女は今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 一体自分の何がそこまで彼女を惹きつけたというのだろう。

 

「悩みとか無い!? なにか心配なこととか、あるんじゃないの!?」

 

「…………」

 あります、あなたのことです。

 そう言えたらどれだけ楽だろう。

 彼女にとっては楽しいデートでも、自分にとっては今まで生きてきて一番気を抜けない週末になるに違いない。

 

「あるの!? それなに!?」

 もしかして彼女は女の勘か何かで自分の腹の中にあったことをある程度見抜いていたのかもしれない。

 イマイチ恋愛ごとに浮かれていない自分を不安に思ってしまったのか。

 

「いやいや、何も無い何も無い! 定期試験の結果が悪かっただけ!」

 

「本当にそれだけ……?」

 

「うん、頭悪いからなぁ」

 

「…………分かった。また、すぐメールするからね。明日の待ち合わせは」

 

「八時、分かっているよ」

 随分と朝早くから待ち合わせるものだ。

 しかも待ち合わせと言うが、なんと彼女は賢人の家の前で待つと言うのだ。

 

「……。じゃあね」

 

「うん」

 いつの間にかまた別れの交差点だ。

 週明けにはこんな腹に鉄球が入ったような気分でなくなっていれば良いのだが。

 昨日とは一転、覚悟を決めたかのような表情で歩いていく瑠璃を賢人が見送る形となったのだった。

 

 

 

 

【バイバイ シロサキケント】

 

 ああ、こんな余計なことを考えていなかったらどれだけ幸せだっただろう。

 普通に映画館に行って食事して。そして最後は夜の公園だ。

 いわゆるデートとやらをしているその間中、ずっと彼女の頭上の『1』という数字を見ていた。

 確実に明日、何かが彼女の命を奪いに来る。

 絶対にそんなことをさせてはならない、といざという時の為に胸の中に入れておいた包丁を触る。

 

「ごめんね遅くまで」

 

「いや……」

 時刻はもう23時55分。後5分で『0』になる。特に何も言わずとも彼女はすすんでこんな時間まで一緒にいてくれた。

 賢人はずっと考えていた。ここで家まで送って、明日の朝迎えに行くべきか。

 それともずっと一緒にいるべきか。

 

(家にいるのと自分といるの、どっちが安全だ!?)

 死が訪れると分かっている自分。鍵がかかっているが何も分かっていない家族がいる家。

 どちらも同じくらい頼りない気がするが、かと言って警察に言っても相手してくれまい。

 下手をすれば瑠璃は気味悪がって逃げてしまうかもしれない。

 人数だけを考えれば家族がいる家の方が安全なのかもしれないが……、今、自分はしっかり備えて武器も持っている。

 唾を飲み込んで覚悟を決める。

 

「あのさ、明日も暇、なんだよね」

 

「う、うん」

 公園の時計はもうすぐ12時になる。

 『0』になる。

 

「このまんま、明日まで一緒に遊ばない!?」

 自分に惚れているということを逆手にとった超ワガママだ。

 付き合って一週間も経っていないのにこんな頼みはあり得ない。

 

「…………」

 瑠璃は俯いて何かを考えだす。当然と言えば当然の反応だ。

 だがそれでも彼女から誘ったというのに、今日もこんな夜遅くまで一緒にいるというのに、彼女は途轍もなく微妙な表情をした。

 

「ダメ?」

 ここで押し通して、明日の12時を過ぎるまで一緒にいればいい。

 それだけなのだ。無理をし過ぎて嫌われるかもしれないが、命には代えられない。

 何かが来ると分かっている自分がそばにいなければならない。

 

「明日……。うん。そうだね。明日が……うん」

 しばらく何かを考えこんだ彼女はそのままゆっくりと頷いた。

 顔を上げた彼女の顔からは、ここ最近ずっとしていた不安げな表情は無くなっていた。

 何か、安堵のようなものをその表情からを感じる。その表情を見て何故か頭に『油断』という言葉も浮かんだ。

 

「よかっ、」

 彼女の顔が波が引くように青ざめるのと、賢人の顎が後ろから持ち上げられるのは同時だった。

 公園の時計が目に入る。23時59分。

 

 まるで優しさすらも感じるような冷たい何かが、顎を持ち上げられて晒された賢人の喉を突き破って入ってきた。

 

「――――!!」

 悲鳴の代わりに、裂けた喉と口から血がドブドブと出てきた。

 呼吸が全く出来ず、喉を掻きむしりながら地面に膝をつく。

 

「ツイッターでキモいって言ってたの俺の事? ねぇねぇ、なんでなんで」

 

(……葛西――?)

 どす黒い血に濡れた刃物を持っているのは、賢人の親友のはずの葛西だった。

 何かを言おうとしたはずが、行動はメチャクチャで地面に倒れ込む。

 時計の長針が12時をさし、瑠璃の頭上の数字が『0』になった。

 

 地面に広がる賢人の血を見て瑠璃が懐から取り出した何かを取り落とす。

 それは護身用のスタンガンだった。芸能人ってそんなものを持ち歩くのだろうか、と抜けていく血と同じくらいの速度で静かに冷静になる頭に疑問が浮かぶ。

 もう痛みも感じ無くなっていた。どこも動かない、声も出ない、まばたきも出来ない。意識があるだけで身体は刺された瞬間に死んでいたのかもしれない。

 

「なんなんだよお前ら高校生の分際で朝帰りとか許されるとか思ってんのか付き合って何日だよどうなってんだどうなってんだ俺は何年ずっと見てきたと思っているんだ」

 

「い――」

 叫ぼうとした瑠璃の口が葛西の手に塞がれ間をおかずに刃物が瑠璃の腹に侵入し、賢人と瑠璃の血が交わる。

 

 

≪早朝になって、『彼氏が出来た』と書きこまれたときは驚いた≫

 

≪凄く気持ち悪い……≫

 

≪まぁしょうがないよね……。先輩もそういうことあるって言ってくるし、分かっているけどさーなんかなー≫

 

 

「…………ぁ……」

 瑠璃の頭上の『0』がボロボロと崩れて行くのと同時に瑠璃も倒れる。

 今更になって分かった。彼女の死因は、ストーカーによる殺害だ。

 振り返ればヒントは沢山あったはずだ。何故気が付かなった、と責める心さえも暗闇に沈んで何も分からなくなっていく。

 

「ふざけんじゃねえぞなにが明日までだビッチがクソビッチが簡単に男に股開くのかテメェは」

 ざくっ、ざくっ、と彼女の身体に何度も刃物を突きたてながら瑠璃の服をビリビリと裂いていく。

 早口な呪詛を巻き散らしながら葛西は自分のベルトを外してズボンを降ろした。

 

「――――」

 彼女と目が合った。その表情を見て、ようやくここ最近のあまりにも都合の良すぎる展開に納得がいった。

 そうだよな。守るためには一緒にいなきゃ。考えることは同じだったんだ。 

 付き合っていればずっと一緒にいても不思議じゃないもんな。

 あの出会ったほんの数瞬で、考えに考えて一番有効な手段を使ったってことか。

 

 

 今の彼女は自分と全く同じ表情をしていた。

 

 

(……見えていたのか)

 

 彼女に死を持ってきたのは自分で、自分に死を持ってきたのは彼女だった。

 二人して気付かずに、そして気付かれないように、相手の命を救うために奔走し、結果としてそれが原因で二人して死ぬことになったのだ。

 

 まるで神が悪ふざけで作った喜劇を演じていたかのようだった。

 

 

 

 

********************************

 

 

 

 

 神が作り出した混沌に見えても全てが完璧なこの世界に表れたエラー。

 

 完璧な運命(シナリオ)を作ったのは神だ。

 人がそれを知ってはならないし、人がそれを変えられるなんてのはもっての他だ。

 登場人物は舞台の上で踊るだけの存在でなくてはならないのだ。

 

 

 右には左を。プラスにはマイナスを。

 

 

 

 

 運命が見える者には――運命が見える者を。

 

 

 

 

 エラーにエラーをぶつけてどちらも消えてなくなった。

 神の作る理不尽なシナリオで動く世界は明日もまた完璧に、無慈悲に進んでいく。

 今はもうシナリオをずらすエラーは無いのだから。

 




最初に起こったエラーは瑠璃の方です。


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