Fate/Grand Order 正義の味方の物語   作:なんでさ

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帰ってきたイバラギン(某猫型ロボット並感)
CCCコラボも終わり、イシュタ凛ピックアップも終了し皆さんのカルデアはどんな風景でしょう。
新たな仲間をお迎えしたか、はたまた空になったカードの前でどこぞの正義の味方みたいにバカ野郎と叫んでいるのか。
どちらかはわかりませんが、ここは気持ちを切り替え、新たなイベントに打ち込みましょう。
そう、遂に復刻しましたよ、あのイベントが。
蘇る悪夢。
常軌を逸した体力と、凶悪に過ぎるヤクザキック。
玉藻、オリオン、孔明のいない方は大変苦労したことでしょう。
しかし、人理修復を経て我々はさらなる力を手に入れた。
今こそ報復の時。
ともに歩んできた仲間とともにこのイベントを(茨木童子で)遊びながらやり遂げましょう!

・・・・・はい、バカなことしてすみません。
やっとイ茨木童子で遊べると思うと、つい楽しくって。
皆さんも、イバラギンイジメとガチャはほどほどにしましょう。間違っても、某グランドガーチャーみたいに初日完走したり、ガチャにのめり込んだりしないように。
でないとイバラギンが(暴力的な意味と人気的な意味で)泣いてしまいますからネ!

それでは14話目、お楽しみください。




戦う者達 前編

魔術世界には人理という言葉がある。

これは不安定で限りある人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させるための理だ。

広大な海を渡るための航海図。

この航海図を、さらに鮮明にしようとした人物がいる。

 

--マリスビリー・アニムスフィア。

 

魔術師たちの総本山である時計塔の各学部を統括する学長にして、十二の君主<ロード>達。

彼はその一角である天体科の先代君主だ。

その彼、或いは彼の一族が長らく研究・提唱してきたのが、人理の継続である。

本来、不確定な未来を確実なものとする試み。

そして、そのための研究施設が人理保障継続機関フィニス・カルデア。

地球には魂があるとの定義に基づき、その魂を複写することにより過去・未来の地球の様子を写す極小の疑似天体、地球環境モデル・カルデアス。

人間には観測できないカルデアスを可視化する専用望遠鏡、近未来観測レンズ・シバ。

カルデアスで起きた事象を観測する観測機、事象記録電脳魔・ラプラス。

観測状況や記録情報を管制するスパコン、霊子演算装置・トリスメギストス。

これらによりカルデアは文明の光を観測し、その輝きある限り人類は存続を約束されている。

人類はカルデアによって、100年先までの安全を保障されていた--はずだった。

とある時期を境にカルデアから文明の光が消失。

兆候も見せず、原因も分からず、突然に人類の痕跡が観測できなくなった。

その後、2004年のとある地域に異常が発生。

本来存在しないはずの過去--即ち、特異点が確認された。

前所長からその任を受け継いだオルガマリー・アニムスフィアはこれを特異点と認定し、レイシフトによる原因の調査及び破壊を提唱した。

 

「そもそもレイシフトというのは、人間を疑似霊子化--つまり魂をデータ化させて、異なる時間軸、異なる位相に送り込む試みです。並行世界移動とタイムトラベルを混ぜ合わせたものとも言えますね。マスター達はラプラスを用いてカルデアスに入り込み、特異点へと介入します。--ここまでは問題ありませんか?」

 

カルデアにある資料室で二人の人物が対面している。

一人はカルデアの一般スタッフに支給される制服を纏った金色の美しい長髪の女性。

彼女の前には大量の文字や図が書き込まれた紙があり、その手にはそれらを記しただろうボールペンが握られている。

もう一方はマスター専用の白い制服に身を包んだ赤銅色の髪をした少年。

彼の前には様々な資料が広げられており、それらを確認しつつ正面の女性の話を聞いている。

 

「・・・・・一つ疑問があるんですけど、さっき、特異点は過去であると同時にifの世界でもあるって言いましたよね? それはつまり、その世界そのものがあやふやだということ。そこにマスターという異物を介入させれば、彼らの存在もあやふやなものになってしまうのでは?」

「いい質問ですね。貴方の言うように、特異点とは現実であり、無数の可能性が入り乱れたもしもの世界でもあります。ふとしたことで本来とは異なる可能性のマスターを映すことも有り得ます。そうなっては彼らはこちらへと帰還できなくなる。ですので、彼らがレイシフト先で"意味消失"をしないように、カルデアでは常に彼らを観測し、その存在を証明しています。僅かでも"ブレ"を発見すれば、すぐさまこれを修正する。そして、この作業を行うに際し用いられるのが、ラプラス及びトリスメギストスです」

 

一通りの解説を終えた女性スタッフに質問を投げかける少年--衛宮士郎。

彼もカルデアの技術に知識があるわけではなく、こうして正規スタッフに説明を受けているのだが、その情報を整理し自分なりの考えを組み合わせ、その正否を確認する。

彼らはこのようなやり取りを、かれこれ1時間ほど続けている。

 

「すみません。ここの案内をしてもらった上に、こんなことまで付き合ってもらって」

「気にしないでください。私もちょうど暇だったので。それに色々話せて楽しかったですから」

 

きっかけはふとしたことだ。

現状に際し、士郎がカルデアの正式なマスターとして登録され、カルデア内の把握のために探索をしていたところ、二人は出会った。

彼のカルデアスタッフへの紹介は、一部を除き簡単に済まされたため、大半のスタッフは彼の顔と名前を知っている程度だ。

士郎の方も顔合わせをしたぐらいで、スタッフ各人の名前を知っているわけではない。

そんなわけで、この女性スタッフが互いを知るいい機会だと、探索に付き合い始めたのだ。

一通りの探索が終わった後、休憩室で会話をしている時にこの施設の話となった。

未だカルデアの知識の少ない彼は資料室で情報収集に向かうことにした。

ここで彼女とは別れようとした士郎だが、ここまで来たら最後まで付き合う、と言い出し、遂にはカルデアの説明までしだしてくれたのだ。

ちなみに今は休憩時間のようで、仕事に支障はないらしい。

 

「でも、よかったんですか? せっかくの休憩時間を俺なんかに付き合って」

「大丈夫ですよ。こう見えてそれなりに体力はありますから。それに、あんまりじっとしているのって好きじゃなくて。こうやって誰かと話してる方が気が休まるんですよ」

 

士郎が申し訳なさそうに言うが、当の本人は全く気にしていないようで、むしろ、たまたま士郎と出会ったことを喜んでいる節さえある。

士郎も本人がそう言うのでこれ以上は気にしないことにした。

 

「あら? 管制室から通信が」

 

そんな時、女性スタッフの横にモニターが表示される。

通信相手は、どうやら同僚の男性スタッフのようで、人手が足りないからきて欲しい、との旨であった。

 

「分かりました、すぐに向かいます。・・・・・ごめんなさい、ちょっと応援頼まれちゃって、行かないといけないの」

「いえ、お気になさらず。もともと付き合わせたのはこっちですし、仕事があるのならそちらを優先させてください。・・・・・本当は手伝いたいんですけど、アレを使うのはちょっと無理なので」

「ありがとうございます。その気持ちだけで十分ですよ」

 

立ち上がった彼女はペンなどの荷物をまとめて、資料室から出て行った。

 

「俺もそろそろ出るか」

 

士郎も広げられた資料を戻していく。

まだ完全な理解には及ばないが、おおよその概要は把握した。

一度に詰め込みすぎる必要はない。

残りはまた後日でもいいだろう。

そこまで考えて、

 

「あ。そういえば、名前とか聞いてなかったな、結局」

 

この施設の話なんかですっかり忘れていた。

もともとそれが目的だったはずだが、こうも完璧に忘れるとは。

これはあかいあくまのうっかりでも移ったか、などという本人が聞けば大激怒間違いなしのことを考えながら、幾つかの資料を借りて自室<マイルーム>に向かう。

カルデアのマスターとなった士郎に与えられた自室は、他のマスター候補に与えられていたものと同規模のものであり、それなりの広さだった。

この部屋なら、小物を置いたりなどある程度の融通は利くのだが、彼がここに来たのは突発的かつ偶発的であり、そもそも、あまりものを持たない性格のため、その広さも相まって非常に殺風景な様子となっている。

自室に戻ってきた彼は、備え付けられたデスクに、借りてきた資料と職員から貰い受けた筆記用具、そしてノートを広げた。

ここで得た情報を整理するためだ。

普通なら、わざわざ自室に戻らずとも資料室ですればいいのだが、彼の状態を考慮するに、できるだけ人目に触れるのは避けるたかったのだ。

 

「彼女の手助けもあって、早めにカルデアのことを知れたのは僥倖だったな」

 

まだ名前も聞いてない女性スタッフに再び感謝しながら、集めた情報を整理していく。

 

「この施設の目的は単純にして明快。創設者たるマリスビリー・アニムスフィアもこれらの情報から察するに平均的な魔術師だな。尤も、魔術師にしては一般人に近しい部分もあるが。その辺りは娘にも引き継がれていたということか」

 

一人の人物--オルガマリー・アニムスフィアのことを考えて、僅かに思考が鈍る。

冬木において、彼が救うことのできなかった人間。

彼は彼女が死ぬのを止めるどころか、その現場を見ることすらなかった。

その原因は他でもない、士郎自身だ。

セイバーとの戦いに熱中した結果、彼は防げるかもしれなかった悲劇を見過ごすした。

冬木の戦いで、彼が気絶などしていなかったら。

大空洞から、二人だけでも離れさせていれば。

防げなかった悲劇に、いくつもの"もしも"を考えてしまう。

 

・・・・・いかんな。"肉体に引っ張られている"のか、それとも精神まで若返ったか。

 

頭を振るい、気を取り直す。

確かに彼女の死は悲劇だった。

だが、そのようなモノは世界中の何処にでも溢れている。

その一つ一つを嘆いている暇はない。

重ねあげられる悲劇の全てに胸を痛めていてはいられない。

彼がすべきは、彼女の意志を継ぎ、いかに多くを救い、同じ悲劇を繰り返させないか。

"たかが"知り合いだからという理由で、気を割くようなことは断じてありえない。

 

・・・・・とにかく、現状の問題はあの男だな。

 

レフ・ライノール。

カルデアの技術顧問にしてオルガマリー・アニムスフィア殺害の張本人。

彼のことは、正体やその目的まで一切不明だ。

マシュの話では、人間の気配ではなかったということだが。

 

・・・・・いや。そもそも、あの男は何がしたかったのだ・・・・・?

 

レフ・ライノールは、先に言った通り、カルデアの技術顧問だ。

その彼が残した成果の一つが、近未来観測レンズ・シバだ。

これのおかげでカルデアはカルデアスの観測を可能とした。

彼の開発が無ければカルデアはその目的を果たせなかったし反抗もできなかった。

結果として、彼は敵に塩を送る形となった。

 

「カルデアを残しておく理由があるのかとも考えられるが、あの映像を見るにそれはない。ならば、単に戯れただけなのかといえば、それも当て嵌まらんだろう」

 

 

レフはカルデアスが燃えた時点でカルデアは不要と言い、彼の目的に移すまでの時間を面倒だったと言っていた。

ならば、カルデアには目的も無ければ遊びもない、ということだ。

では何故、あんなものを開発したのか。

 

・・・・・考えられるのは、どこかで入れ替わった、ということぐらいか。

 

ありえない話ではない。

シバを開発したレフ・ライノールと、オルガマリーを殺したレフ・ライノールが別人であったなら、一連の流れも理解できる。

無論、このカルデアの警備システムを考えれば容易なことではないが、世界には肉体どころか魂まで再現するような人形師がいることを彼は知っている。

そうでなくとも、存在の偽装は決して不可能なことではないのだ。

マシュの言うように彼が人間の枠にすら収まらないのなら、その可能性はさらに広がる。

 

「・・・・・これ以上はただの憶測になるな。アレのことはひとまず後回しだ」

 

正確な情報がない以上、真実には辿り着かない。

一度思考を切り替え、別件に意識を向ける。

 

「焼却された人類史に、七つの特異点、か・・・・・」

 

レフ・ライノールの宣言した通り、人類は滅亡した。

過去から未来に至るまで、人類は悉くが焼き尽くされた。

この時代も例外ではなく、カルデアから外に出れば、あの冬木と同じ光景が広がっている。

カルデアだけはカルデアスの磁場で守られているが、それも時間が経てば終わりだ。

それまでにこの事態を解決しなければ、人類は絶滅することとなる。

これを覆すために必要なのが、七つの特異点の破壊だ。

 

「これらの特異点が冬木と同規模、或いはそれ以上の危険度とすれば、やはり戦力が足りんな」

 

カルデアが保有する戦力とそれらの能力を書き込みながら思案する。

現在、カルデアで戦えるのは士郎を除いて二人。

そのうち、彼が自由に扱える"駒は"一人だけだ。

もう一人は扱うどころか詳細すら分からない。

加えて、本人の立ち振る舞いを考えるに、特異点に自ら出向くことは少ないと見ていい。

つまり、これからのミッションで現地に迎えるのは彼とマシュだけということになる。

カルデアからのバックアップがあるとはいえ、彼らはたった二人だけで特異点を破壊しなくてはならない。

 

「人員の増強が望めぬ以上、他の角度から戦力を増やすほかないか」

 

先ほど見て回った施設の中で、利用できそうなものをリストアップしていく。

それと同時に必要なのが--

 

「彼女を--マシュを鍛えておくべきか・・・・・」

 

マシュ・キリエライトは、お世辞にも戦いに向いているとは言えない。

彼女の力からその在り方まで。

本来の彼女は守られる側の人間だ。

それは冬木の戦いで十分に感じ取れた。

だが、これから始まる戦いでその穴を残したままでは、それは小さくない隙となる。

どうあれ貴重な戦力だ、修復はできずとも補修はしておくべきだろう。

 

・・・・・ああ、本当に・・・・・。

 

なんて無力、と拳を握り締める。

守りたい、守るべきはずの少女を戦いの矢面に立たせる。

それは彼が何より嫌悪すべきことで--それ以上に、彼がすべき選択だ。

彼は自分の弱さをよく知っている。

これからの戦いは、自分一人では戦い抜けないと確信している。

ならば、他の所から戦力を持ってくるのは当たり前の思考で。

他の助けが望めぬ以上、使える戦力を使わないというのはありえない。

巻き込みたくないと、そのような"甘え"を、誰よりも彼自身が許せない。

自らの痛みを軽くするために、救えるはずの命を取りこぼすことなど、そのような愚行は犯せない。

この滅びを他の誰も止められないというのなら。

戦える者がいないというのなら。

自分がやるしかない。

何故なら、この身は--

 

「・・・・・今の俺に、ソレを名乗る資格があるのかな・・・・・」

 

僅かに、息を漏らす。

今の彼は自分すら定かではない。

それは記憶を取り戻した今でも変わらず、彼には分からないことだらけだ。

何故、肉体が若返っているのか。何故、こんな場所にいるのか。

それ以上に、何故・・・・・

 

・・・・・何故、俺は存在していられる・・・・・。

 

それが最大の疑問だった。

ここが彼のいた世界とは似て非なる場所--平行世界である、と彼は考えている。

ならばこそ、衛宮士郎という人間はこの世界にとって異物だ。

それは、人体に入り込んだウィルスのようなもの。

存在そのものが輪を乱し、それ故に予め備わった防御機構に除去される。

ここでの防御機構とは、修正力だ。

矛盾を嫌う世界は、本来存在する筈のない異物を許さない。

世界がそれを認識した時で、異物の排除へと向かう。

彼の宝石翁のように、どの世界からも外れ何処にでもいられるならともかく、ただの人間に過ぎない彼では、世界の目からは逃げられない。

その筈なのだが--

 

 

「カルデアスによる特殊な磁場が世界の目を誤魔化しているのか、それともこの世界の人間との契約で繋ぎとめられているのか・・・・・駄目だな、どれも憶測の域を出ない」

頭を振り思考を打ち切る。

答えの出ない問題をいつまでも考えている暇はない。

やることは山ほどあるのだから。

 

「ん? 俺に通信? これは・・・・・マシュか」

 

まだ使い慣れていないモニターを操作しながら、何とか通信を開く。

 

「どうしたんだ、マシュ。俺に何か用か?」

『はい、実はお願いしたいことがあって・・・・・あ。もしかして、お勉強の途中でしたか。お、お邪魔をしてすみません! また後でかけ直すので--』

「いや、ちょうど終わらせたところだから、気にしなくていいぞ。それより、お願いっていうのは?」

『え、あ、そう、そのことなんですが--』

 

果たして、それを聞いて、何を思ったのだろうか。

怒りだったか。嘆きだったか。或いは別の何かか。

 

「・・・・・話は分かった。十分後に食堂に来てくれ。そこでもう一度話そう」

 

冷めきった心は定かではなく。

一つだけ確かなのは、この身に迷いなど許されていないことだ。

これからの戦いに向け、自分はできるだけの手は打っておかなくてはならない。

 

--"限界"は、そう遠くない未来なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、遅くなりました」

 

カルデアの中央管制室。

そこに先ほど士郎と別れた女性スタッフが到着していた。

スタッフ達と共に作業を行っていたロマニ・アーキマンが彼女に声をかける。

 

「ああ、来てくれたか。休憩中にすまないね」

「いえ。それで、私は何を?」

 

突然の呼び出しにもこうして適応するあたり、彼女の優秀さが伺える。

ロマンが与える指示にも瞬時に理解し、滞りなく行動していく。

 

「それにしても、何だか楽しそうだね。何かあったのかい?」

「え・・・・・? ああ、さっき士郎くんと会って色々とお話ししていたので、そのせいでしょうか」

「・・・・・そうか。彼はどんな様子だった?」

「? どうと言われても、気のいい好青年といった感じでしたけど・・・・・」

「そうか、ありがとう。邪魔をして悪かったね、気にせず作業を続けてくれ」

 

はあ、と言って作業に戻る女性スタッフ。

その姿を見送ってから、つい昨日のことを思い出す。

衛宮士郎が目覚めから会議室の一つで行われた事情聴取。

そこでは様々な質問が行われた。

 

『改めて自己紹介しておこう。"私"の名は衛宮士郎だ。衛宮とでも士郎とでも好きに呼んでくれ』

 

まず最初に驚いたのが初めとは正反対ともとれる口調だったのは致し方ないだろう。

柔和だった面影は鳴りを潜め、飽くまで高圧的に彼は話し合いに臨んだ。

事前にダ・ヴィンチちゃんから聞いていなければ、それだけで狼狽していただろう。

 

『・・・・・こちらも返しておくべきだね。僕はロマニ・アーキマン。このカルデアの医療部門のトップを務めているけど、今はカルデアの代表代理だ』

 

だからこそ、こちらもそれに合わせる。

相手が強硬な姿勢を通すなら、同じように対応する。

対する少年は眉一つ動かさず、そうか、とだけ言ってこちらに質問を促す。

 

『まず聞きたいのは、君が冬木で見せたあの力のことだ。こちらとしては、あれを投影魔術と考えているが、それだけだとあれは成り立たない。君も理解してると思うけど、宝具の投影なんて本来は不可能だ』

 

聞き出すのはある程度の予測を終えているもの。

本来は他に優先度の高いものがあるのだが、先に処理が早く済むものを聞いておきたいのだ。

 

『確かに、そちらの言うようにアレは投影魔術だ。宝具の投影に関しては私の魔術回路が異常に頑丈なのと魔術属性が特異なためだな』

 

そちらでも確認できているのだろう、と視線だけで聞いてくる。

士郎の考える通り、彼のその特異性の秘密はダ・ヴィンチちゃんによって解明されていた。

通常の神経と同化したことにより、常軌を逸する耐久力を誇る魔術回路。

火・地・水・風・空の五大元素にも虚数・無の架空元素にも当てはまらない剣の属性。

どれか一つだけでも封印指定を受けかねない特異性。

これらが合わさって、あの特殊な投影魔術が結実したのだろう。

尤も、まだ秘密はあるのだろうが、それを詮索するつもりはないし、士郎もそう簡単にカードを切るつもりはない。

だから、この話はそこで終わり。

問題は次だった。

宝具の投影という規格外の魔術を行使し、英霊とも真っ向から立ち向かえるその戦闘技術。

どれも魔術師には不要なものだ。

その余分を有する彼は、何故そんなものを手に入れ、何を目的とするのか。

それを聞かなければ、彼を信用することはできない。

故に、次ぐロマニの質問は当然のように『君は何者なのか』ということであり--

 

『すまないが、今はまだ話せる状態ではない』

 

士郎のその一言であっさりと終わった。

ロマニもここまで露骨に黙秘をされるとは思っていなかった。

当然、それで引き下がれるはずもなく、なんとか食い下がろうとしたのだが、本人もまだ現状を把握しきれておらず、カルデアに現れるまでの前後の記憶も欠落しているという。

言ってみれば、彼は誰が敵で誰が味方かもわからない状況にいるのだ。

そんな状況でおいそれと自分の情報を話たくはないということだ。

それでも納得しがたいものはあるが、それ以上の追求はできなかった。

 

 

 

 

「ドクター、顔色が良くないようですが、何かありましたか?」

 

自身を案ずる女性の声に、回想から復帰する。

 

「いや。少し、昨日のことを思い出していてね」

「昨日というと、彼のことですか?」

「ああ。あれは心臓に良くない。経験が無いわけじゃないけど、やっぱり得意じゃない」

 

頰を掻きながら苦笑する。

そんなロマニに、隣の人物もどこか難しい顔を作った。

 

「確かに、彼の豹変ぶりには瞠目せざるをえませんでした。正直、多重人格なのではないかと疑ったほどです」

 

 

女性スタッフの言葉に、流石にそれは言い過ぎじゃないかなと考えたが、口調だけならともかく気配まで変わり切った彼は、なるほど、多重人格というのもあながち的外れではないのかもしれない。

 

「まあ、本質的なところは変わってないようで安心したよ」

「ええ。それは私も同意できます。彼との付き合いは長いものではありませんが、きっとアレこそが彼の根本なのでしょう」

 

スタッフもロマニの言葉に同意する。

彼らがソレに触れたのは、士郎の正体を聞き出そうとした後のことだった。

 

 

 

 

『・・・・・一つだけ、聞かせて欲しい。君があの街で僕らに協力した理由、それは今でも変わらないかい?』

 

士郎は自身の正体を話さない。

それの心情も選択も、ロマニには理解できていた。

しかし、どうしても、それだけは聞かねばならなかった。

冬木において、犠牲になる誰かを救いたいと言った彼の言葉。

それが記憶を失ったが故の疑似的な人格から出たものなのか。

それとも彼という人間が持つ本心からの願いだったのか。

その結果如何で、これからの運命が決定するのだ。

 

『・・・・・・・・・・』

 

その質問に、士郎がわずかに沈黙した。

それに応えるべきか否か。

その判断のために、塾考する。

やがて、彼は一つだけ息を吐き--

 

『ああ。あの言葉に偽りは無い。アレは、俺の心からの想いだ』

 

真剣な目で、自らの本心を語った。

 

『・・・・・うん。それを聞いて安心したよ。これなら君に話せそうだ』

 

張り詰めていた緊張を解き、肩の力を抜く。

こういうのは柄じゃないよね、と考えながら外に控えている人物に合図を送る。

入ってきたのはロマニを補佐し、現カルデア副代表代理を任されている人物だった。

 

『Dr.ロマン、いったい何を・・・・・?』

 

士郎も外の人物の気配には気づいていたので、突然入室してきたことに驚きは無い。

だが、その意図がわからず、わずかに困惑しながらロマニに問う。

 

『君に見てもらいたいものがある。それを見て、これからの選択をして欲しい』

『ドクター、準備が完了しました』

『ありがとう、はじめてくれ』

 

ロマニの指示で会議室に設置されているモニターに映像が映る。

 

『これは・・・・・』

 

士郎は、それ以上言葉を発することができなかった。

そこに映されたのは、冬木の大空洞。

士郎が気絶した後の映像だ。

そこにあったのは、勝利の歓喜でも生還への安堵でもなく--ただひたすらな絶望だった。

絶叫と共に消えていった女がいた。

人間を嘲笑いながら世界の滅亡を告げる男がいた。

絶対的な死の前に自らを奮い立たせる少女がいた。

その少女を身を挺して送り出した者がいた。

映し出されたのは、確かに彼がいた戦場であり--そこには、彼の知らない嘆きがあった。

 

『彼が--レフ・ライノールが聖杯と呼ばれる謎の水晶体と消えた後、カルデアスで映した過去に七つの特異点が観測された』

 

映像が切り替わり、新たに映し出されたのはあの真っ赤に燃え盛る星<カルデアス>だった。

 

『カルデアスは、謂わば地球のコピーだ。過去から未来にまでおける星の様子を映す。カルデアスに光が灯る限り人類は未来を約束されている。そのカルデアスが燃えたということは--』

『あの男の言う通り、人類史は焼却された。そういうことか』

 

士郎の言葉にロマニは無言で頷いた。

事実として、外部への通信は繋がらず、外に行ったスタッフも帰ってこない。

外はあの冬木と同じような世界が広がっているのだろう。

だが、士郎は一つの疑問を抱く。

人類史の焼却、その事実は理解できた。

しかし、本当に七つの特異点だけで人類史を狂わせることができるのか。

少なくとも彼がレイシフトした冬木の特異点程度では世界にさしたる影響を与えられない。

 

『その通りだよ。今回、冬木が問題視されたのは同時期にカルデアスから文明の光が消失したからだ。あの状況では関連があると疑わざるをえなかった。本来ならあの規模の特異点は少々の誤差程度の存在だからね』

 

日本の地方都市一つが消えた程度では人類史に影響は与えられない。

地球という広大な海に対し、あの街など一滴の飛沫程度の存在だ。

大元たる流れに何か起きること自体がありえない。

 

--故に、求められるのはさらに巨大な逆流。

 

『新たに現れた七つの特異点、これらはその規模も異常だが、それ以上に出現した場所が問題だった。これらは人類史の土台。現代に至るまで必ず踏襲しなくてはならない基盤<ターニングポイント>だ』

 

"この戦争が終わらなかったら"

"この航海が成功しなかったら"

"この発明が間違っていたら"

"この国が独立できなかったら"

 

そういった、現在の人類を決定付けた究極の選択点。

これを崩されれば、確かに人類史は崩壊するだろう。

 

『なるほど。それならば合点がいく。歴史にいかな修正力があろうと、柱となる地点を崩されては話にならない。それが七つともなれば、人類の滅亡は確実だろう。犯人は相当の切れ者らしい』

『ああ、それは間違いない。これは他の誰にもなし得ない偉業だ・・・・・到底容認できることではないけどね 』

 

そうだな、と士郎も同意する。

どうあれ、人類の滅亡など受け入れられるはずもない。

 

『この犯人の行動は完璧だ。僕達はその予兆に気づくこともなく人類は焼却された。あの七つの特異点ができた時点で未来は決定している。人類に未来はやってこない』

 

だが。

 

『それは通常の時間軸にいる人間の場合だ。このカルデアが通常の時間軸から離れたことにより、僕達だけはまだ滅亡の未来には達していない。僕達だけがこの間違った歴史を修正できる』

 

それは犯人すらも予想していなかった例外だった。

本来なら一切の反攻を許さないはずの計画に残された、ただ一つの穴。

完璧だった計画の、唯一の計算外。

 

『七つの特異点にレイシフトし、これを破壊する。それだけが人類を救うただ一つの手立てだ』

 

容易いことではない。

カルデアが本来有していた正規のマスターは全員凍結。

所持するサーヴァントはマシュだけだ。

特異点では何が起こるかもわからず、カルデアのバックアップも大したことはできない。

分の悪い賭けだ。

彼らに残された機会<チャンス>は、蜘蛛の糸に等しい。

 

『この状況で、このことを話すのは強制に等しいと分かっている』

 

その重荷をただ一人の人間に背負わせることがどれだけ無謀なことか、ロマニ・アーキマンは理解している。

それでも、彼はそう言うしかない。

卑怯者の謗りを受けようと、未来を取り戻すにはこうするしかないのだ。

故に、彼は言葉を重ねようとして。

 

『もういいですよ。皆まで言わなくても分かりましたから』

 

それは、目の前の少年に遮られた。

ロマニ・アーキマンが背負おうとしている重荷を取り除くために。

彼には先程の冷徹さはなく。

ただ、その瞳に一つの信念を宿しており--

 

『世界を救うため、全霊を以って戦う』

 

自らの口で、そう宣言した。

 

『・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・』

 

しばらく、二人は言葉を失った。

彼らは、自分たちがどれほどのことを言ったのか承知している。

世界のために一人の少年を犠牲にすることを覚悟してきた。

どんな罵詈雑言を浴びされても、甘んじて受け入れようと、

そんな二人にとっては、少年の言葉こそが異常だった。

彼らは、自分たちが少年に何を背負わせようとしているのか理解している。

故に、自らその重みを背負うと言った少年は、彼らの理解の外にいた。

この戦いに身を投じるということは、星の重みを背負うのと同義だ。

それは、到底人の身に耐えられるものではない。

恐らくは、死よりも重いだろう重責。

そのことを、この少年は理解しているのか。

 

『・・・・・・・・・・』

 

当然だ。問われるまでもない。

この少年は自分が何をしようとしているのかを理解している。

理解しているが故に、ロマニ・アーキマンの言葉を遮ったのだ。

彼は無知故に無謀を犯したのではない。

単に彼は、耐えられぬはずの重みに耐えられる人間だったというだけだ。

 

『・・・・・ありがとう。君のその言葉で僕たちの運命は決定した』

 

だから、ロマニ・アーキマンにできることは、彼を全力で支えること。

一つの大きな選択をした彼に見合うように、自身の身を削ってでも彼を最後まで導く。

それだけが、彼が出来る唯一の助けだ。

 

『カルデア所長代理、ロマニ・アーキマンから全局員に通達する。これよりカルデアはマスター適正者48番、衛宮士郎を人類最後のマスターに据え、前所長オルガマリー・アニムスフィアの予定した通り、人理継続の尊命を全うする』

 

放たれたロマニの言葉は、通信機を通じてカルデアにいる全ての人々に伝わっていく。

そこで彼らが抱いたのは如何なる感情か。

始まる戦いへの闘志か。

人類を救える可能性への歓喜か。

まだ見ぬ敵への恐れか。

自らが参戦することへの迷いか。

 

『目的は人類史の保護、および奪還。探索対象は各年代と、原因と思われる聖遺物・聖杯』

何であろうと変わりはない。

彼らは自分たちがやるしかないのだと理解していて--それ以上に、彼らもロマニと同じ決意を宿している。

『これは挑戦であると同時に、過去に弓を引く冒涜だ。我々は人類を救うために人類史に立ち向かうのだから』

 

それだけが、生き残るための。

未来へと進むための道である。

--その果てに、たとえどのような結末が待っていようとも。

 

『以上の決意をもって、作戦名はファースト・オーダーから改める。これはカルデア最後にして原初の使命。人理守護指定・G.O<グランド・オーダー>。魔術世界における最高位の使命を以って、我々は未来を取り戻す!』

 

 

 

「いやー。あの時のドクターはカッコ良かったですね。正直、ただのゆるふわだとだと思ってたんで、見直しましたよ」

「いや、あれは一つのケジメというか、何というか・・・・・って何気にひどいな君!?」

 

何時からこちらの会話に気づいていたのか、一人の男性スタッフが混ざってきた。

それはロマニへの賞賛かと思えば、その実まったくの逆である。

 

「確かに見違えましたよねー、あんな風に堂々とできるなんて・・・・・いつもは臆病者なのに」

「君も聞いてたのか!? そして何で最後に悪口が付くの!?」

 

先ほど士郎に付き合っていたスタッフも聞いていたようである。

そしてやっぱり最後は台無しに。

見ると他のスタッフも頷いており、どうやら彼らのやり取りは筒抜けだったらしい。

 

「何でみんなして聞いてるのかなー!? まだ作業とか残ってるよね!? ちゃんと真面目にやろうよ! それからみんなして最後のところに頷かないでよ!?」

「心配せずとも仕事はしてますよ。でもシバを見てたらここの出来事も映るんで、自然と何を話してるのかわかっちゃうんですよ。あと、ドクターがチキンなのは周知の事実ですから」

「ぐはぁ--!」

 

会心の一撃、ロマニに19000のダメージ。

ロマニは息絶えた。

いやいやいやいや。

 

「ドクター、遊ぶのはその辺にして真面目にして下さい。まだ仕事が残っています」

「何で僕なの!? そこは他のみんなでしょ!?」

 

遂には隣の彼女まで弄りだした。

本人は冷静を装っているが、微妙に口の端がゆがんでいる。

楽しんでるのは明らかだ。

スタッフは全員で笑ってるし、補佐役もそっちに移る始末。

一人の味方もいない状況は、まさに四面楚歌である。

 

「僕一応所長代理なのに、扱い酷くない? もうちょっと敬ったりしてくれてもバチは当たらないと思うんだけど?」

「そんなの決まっています--ドクター、器じゃないんですよ」

「なんでさーーーーー!!」

 

管制室に笑い声が響く。

バカなことをしながら彼らの手は止まらず。

失われた未来を取り戻すために、彼らは自らの使命を果たしていく。

 

 

 

 

ちなみに。

ロマニの叫びに、どこかの少年がくしゃみをしたのは、本当に余談だろう。




ここ最近思うのですが、士郎とマシュのカップリングってどう思われてるんでしょうか。
たまにオルゴールver色彩とか最終決戦ver色彩とか聞いてると、やっぱりぐだじゃないと認められない人とかもいるんじゃね?って。まあ、人それぞれ好みがあるので当たり前なのですが。
しかし、一つ思い出してほしい。
最初、マシュはstay nightのキャラクターであり、士郎のヒロインの一人だったと。これはつまり、士郎こそが正統なマシュの相手ということではないでしょうか!? ほら、士剣ならぬ士盾っていい響きじゃないですか。能力的にもうまく噛み合ってますし。個人的に一位士剣、二位士桜。そして三位が士盾なんですよ。いや、三位はただの妄想なんですが。そんなこんなもあり、一時マシュをどう扱うか悩んでいましたが、その答えに辿り着いて迷いは吹っ切れました。このssにぐだはいなかった。マシュがヒロインやっても是非もないよネ。
まあ、その場合、マシュは士郎の理想に勝利し、その後にはセイバーも上回らなければいけないのですが。
頑張れ、負けるなマシュ。

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