Fate/Grand Order 正義の味方の物語   作:なんでさ

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お待ちいただいている方々、お待たせしました。良い感じに筆が乗らず、執筆が停滞していました。申し訳ないです。今回は少々長めとなっているので、それで一つお許しを。
それでは7話目どうぞ。


状況把握

『・・・・・以上が、今までの経緯です』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ロマニ・アーキマンの説明に、オルガマリー・アニムスフィアは頭を痛めていた。

彼の話はこうだ。

ファーストミッション直前に爆発が発生し、職員の大半が死亡。コフィン内で待機していた47人のマスター適正者達も全員が危篤状態となるが、ロマニ・アーキマンの判断で凍結保存し延命に成功。

コフィンは出力不足で安全装置が起動、レイシフトは中断される。しかし、中央管制室にいながらもコフィンに入っていなかった三名が特異点にレイシフト。

一人は、カルデア所長、オルガマリー・アニムスフィア。

一人は、英霊と融合しデミ・サーヴァントと化したマシュ・キリエライト。

そして、記憶喪失者にしてマシュのマスターとなった少年。仮名として、エミヤと名乗る。

マシュとエミヤは特異点で合流。後にカルデアと通信を行いロマニの指示で霊脈を目指す。

その際に襲われていたオルガマリーを発見し救助。その地点がちょうど霊脈の真上だったため、気絶した彼女の介抱のためにもベースキャンプを設営し今に至る。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「所長・・・・・?」

現状に考えを巡らせるため黙り込んだ彼女に声を掛けてきた男に、なんでもない、と返しまた思考に耽る。

 

・・・・・まったく、本当に。

 

 どういうことよ、と心中でため息を吐く。

 

 

 

Dr.ロマンから齎された情報の多くは理解できた。

爆発は人為的なものらしいが、反抗勢力がいたということで説明できる。

マシュのデミ・サーヴァント化も問題ない。元々、彼女は"そのために生み出された"のだから。

無論、何故今になって成功したのかは疑問だが、有り得ない話ではない。

一連の事態に対し、一応の納得はできる。

しかし、どうしても見逃せないことがある。

 

・・・・・エミヤって、誰よ・・・・・?

 

知らない。そんな人間はカルデアにはいなかったはずだ。

目が覚めた直後は、カルデアにいない見知らぬ人間という存在をすんなり受け入れていたが、こうして頭がハッキリしている今では疑問しか湧いてこない。

彼は誰なのか。何故マシュと契約できたのか。そして何より--何故カルデアにいたのか。

最初の二つに関しては、さほど重要ではない。

彼が誰かなど本人にも分からないのだから調べようがないし、どこの誰でも敵対しないのであれば問題ない。マシュとの契約もたまたま適性があった、ということで納得できる。

しかし、彼がカルデアにいたという事実だけは見過ごせない。

言うまでもなく、カルデアには厳重な警備とセキュリティが敷かれている。

まずカルデアに訪れようとしても、標高6,000mの雪山が行く手を防ぎ、辿り着くのは容易ではない。

 入館時には事前の氏名登録はもちろんのこと、塩基配列や霊器属性の確認、指紋認証、声帯認証、遺伝子認証、魔術回路の測定まで行う徹底ぶりだ。

 入館後も魔術と科学の両方の警戒網が張られている。

 さらに言えば、カルデアのほとんどの場所はカルデアスを観測するための装置である"近未来観測レンズ・シバ"による監視が行われいる。仮に外部の人間が侵入しようものならすぐに発見できる。

--そんな場所に、職員でもない人間がいた。

 

それがどれだけ異常な事態なのか言うまでもないだろう。

そんなことはあるはずがないし、あってはならない。

故に、少年が何故カルデア内にいたのか謎だ。

--尤も、まったく可能性がないわけではない。

少年が得体の知れぬ"誰か"ではなく、"今日カルデアに来る予定だったマスター適正者"であったというのなら説明は付く。名も知れぬ部外者が侵入した、よりも、今日訪れる予定だった人物という考えの方が現実的だろう。

少年が発見された際に近くにいたレフ・ライノールも同様の結論に至った。

記憶喪失に関しては、少年が入館時に霊子ダイブを用いたシミュレートを行い、その際に何らかの問題が発生し彼の記憶に異常をきたしたのだろうと予想された。

オルガマリーもロマニから話を聞いた際、その予想に納得し、なるほど流石はレフだ、と感心したものだ。

--だが、この予想は完全に外れることになる。

 

なるほど、確かにそれならば、おおよそのことに説明がつく。

少年がカルデアにいたこと。記憶を失ったこと。マシュと契約を結べたこと。

これらの疑問に対し、明確な解を見出すことができる。

しかし--それは飽くまで、先の前提が成り立てばの話だ。

事件後、ロマニはレイシフトしたエミヤとマシュの反応を観測し通信を行った際、彼らのサポートのためにも一度彼らのデータを確認する必要があると思い、データベースを閲覧したのだ。

--しかし、そこに少年のデータは存在しなかった。

 

いや、これには語弊がある。

データは確かに存在した。しかし、そのデータが登録されたのは、事件から数分後。二人がレイシフトする直前であり、それ以前のデータは一切存在していなかったのだ。

これが意味するところは、少年がカルデアの正規マスター適正者ではないということだ。

よって、レフの予想は可能性から外れる。

ここにきて最初の疑問に立ち戻ることになる。

何故、少年がカルデアにいたのか。

予想は外れ、手掛かりも無い今では、分かるわけがない。

唯一手がかりらしきものといえば、少年が覚えていたエミヤという名前だけだ。

しかし、それだけでは情報が少なすぎる。おまけにその名前が本人のものなのか他人のものなのかも不明。ここまで謎だと、手掛かりなど有って無いようなものだ。

 

・・・・・八方塞がりね。

答えの出ない問題に、さらに頭が痛くなるが、取り敢えずこの問題は捨て置く。

今はもっと重大な事態に直面しているのだ。いつまでも一つのことにかまけていられない。

まずはカルデア所長としての責務を果たすべきだ。

その考えを実行するため、彼女は口を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

記憶喪失者である少年--エミヤは、周囲を警戒しながらその様子を見ていた。

オルガマリー・アニムスフィアが目覚めてから約十分。マシュの姿を見た途端に興奮気味に叫び出した彼女をなんとか落ち着かせ、通信でドクター・ロマンから状況説明をしてもらった。

それを聞いた彼女は、恐らく考えを纏めるためだろう、暫くの間黙り込んでいた。そして漸く考えが纏まったのか、彼女が口を開いた。

 

「・・・・・色々と疑問はありますが、おおむねの事態は把握しました。まずはロマニ・アーキマン。専門外の分野でありながら、よくぞ的確な指示を行ってくれました。私がそこにいても、同様の行動を取っていたでしょう」

『なっ・・・・・!?』

「・・・・・ちょっと待ちなさい、その驚きは一体なんなの?」

『いや、だって、あの所長が素直に人のことを褒めるなんて、何か不吉なことが起きるんじゃないかと思って・・・・・』

「どういう意味よ・・・・・!?」

 

緊張感の欠片も無いやり取りである。

・・・・・結構、真面目な話だったんだけどなぁ。

 

傍らの少女に視線を向けると、彼女も曖昧な表情で沈黙していた。

あの感じだと、いつものことなんだろう。

溜息を吐き、オルガマリーさんって苦労人なんだな、なんて埒外のことを考えながら、周囲の警戒は怠らない。

正直に言って、オルガマリーさんの声がかなり大きいので、それに釣られて骸骨共がやってくるかもしれない。

 正面から来てくれればいいが、後方や側面から襲われたら戦いにくい。

オルガマリーさんを助けたときは彼女を背に戦えたからいいものの、今度も同じとは限らない。或いは、彼女を真っ先に襲ってくる可能性もあるのだ。

それに、さっき以上の物量でこられたら、さすがに対応しきれない。

そして、問題はそれだけじゃない。

・・・・・あの違和感は一体・・・・・?

 

戦い始めてからずっと感じている違和感。

最初の方こそ気にならなかったが、戦いに慣れだした頃から浮き彫りになってきた差異。

・・・・・頭でイメージする動きと実際の動きが合わない。

 

想定する動きに肉体が追いついていないのだ。

特に顕著なのが間合いだ。明らかに踏み込みが足りない。

敵の一歩手前で剣を振ってしまって、その隙に斬られそうになったのは一度や二度じゃない。

まるで、"体が縮んだ"かのような錯覚。

なんとかその場は切り抜けたが、早めに修正しないと次に屍を晒すのはこちらになるだろう。

そんなことを考えている間に話は終わったのか、オルガマリーさんがこちらに歩み寄ってきた。

 

「もう話は済んだのか?」

「ええ、お陰様でね。そちらも異常はないみたいね」

「ああ、今の所はな。さっきに比べれば静かなもんだよ」

「そう・・・・・ところで、貴方に言っておきたいことがあるのだけれど、構わないかしら?」

 

--言いたいこと。

そこに、どのような意味が込められているのか。

現状、俺の立場は非常に危ういものだ。

記憶喪失者。正体不明の男。デミ・サーヴァントと契約したマスター。

今の肩書きを考えただけでも怪しすぎる。

カルデアの所長である彼女が俺に疑念を抱くのも当然だろう。

場合によっては拘束。最悪、問答無用で排除される可能性もある。

本来なら自らの出自を明かし、和解の意を示すなりするのだが、残念なことに記憶の無い俺ではそれができない。

できれば穏便に済ませたいが--

「そんなに身構えなくてもいいわよ。単にお礼を言いたいだけだから」

「お礼・・・・・?」

 

予想外の言葉に面食らうが、はて? 何かお礼を言われるようなことをしただろうか。

 

「コホン。Mr.エミヤ、この度は我々とは無関係でありながら、職員の救助活動をはじめとする様々なご協力頂いたこと、カルデアを代表してお礼申し上げます。本当にありがとうございました」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先ほどとは違う、丁寧な口調。おそらく、カルデア所長としての対応だろう。発せられた彼女の言葉にそういうことか、と納得する。だが--

 

「・・・・・気持ちは嬉しいけど、その言葉は受け取れない。結局俺は--」

 

--誰も助けられなかった。

確かに彼は、見ず知らずのカルデアの人間を助けるために奔走したのだろう。

少しでも多くの人を救うために力を尽くしたのだろう--だが、それは飽くまで過程の話だ。

確かに彼は奔走した。尽力した。しかし結果として。彼は誰も救えていない。

管制室にいた人間は姿を見ることすらできなかった。唯一の例外である少女も、彼には助けることはできなかった。

 最終的に彼女は一命を取り留めたが、それは彼以外の存在による力だ。

 そして目の前にいる彼女は直接助けられたものの、それは自分じゃなくてもできたことだ。

 或いは彼が存在せずマシュ・キリエライトだけだったなら、オルガマリー・アニムスフィアが襲われる前に彼女の下に辿り着いたかもしれない。

救ってみせると宣いながら何もできなかった。むしろ足手纏いだったかもしれないのだ。

故にこそ、目の前の彼女の言葉を受け取るわけにいかず--

 

「あなた、馬鹿じゃないの」

 

何故か、罵倒の言葉が聞こえた。

 

「え・・・・・・・・・・?」

「何を考えてるかは知らないけど、私たちを助けたのはあなたよ。無闇に自分を卑下するのはやめておきなさい」

 

確かに彼はほとんどの人間を救えなかったし、彼以外ならもっと上手くできたかもしれない。

しかし同時に、彼が彼女たちを助けたのは変わりようのない事実だ。そして、自分以外ならと考えることに意味はない。

 現実として、あの事態に動いたのは彼だけで、ありもしないもしもを考えたところで、何が変わるわけでもない。

 

「過去を振り向くなとは言わないけど、後ろばかり見ていも何も始まらないわよ。私たちは結局、前に進むことしかできないんだから」

 

その言葉に、どれほどの意思が込められているのか。

少年が彼女と出会って、まだ一時間と経っていない。当然、少年が彼女のことを理解するには短過ぎる時間であり、発せられた言葉の真意を掴むことはできない。

しかし、その言葉に乗せられた重みはだけは感じられ--

 

「凄いな、オルガマリーさんは」

 そう、ありのままの想いを伝えた。

しかし、彼女はそんな賞賛を否定するかのような言葉を紡ぐ。

 

「別に大したことないわ。それに、私からすれば、見ず知らずの人間を助けるために。何の躊躇もなく危険に飛び込むあなたの方が凄いわよ」

 

後に続く、色々な意味でね、という言葉には少々の含みがあるのだが、少年はそれに気づいた様子もなく、

 

「俺の方こそ大したことはないよ。結局は俺がそうしたかっただけだからな」

 

さっきと変わらず、自身を卑下しているのだった。

 

・・・・・どうしようもないわね、これは。

 

恐らく、これが彼にとっての当たり前なのだろう。ここまでくると、是正のしようがない。というより、そこまでする義理は無いし、これは本人の問題だ。他人がとやかく言うのは不躾というものだろう。

 

・・・・・さっきより、前向きになっただけマシか。

 

先ほどまでの暗さではないので問題ないだろう、と判断する。

 

『所長がここまで他人のことを気にかけるなんてーー遂に心の雪解けの季節がやってきましたか?』

「なんであなたが聞いてるのよ!」

 

突然現れた画面のドクター・ロマン対し、顔を赤くしながら、うがー!、と吠える。

笑うロマン。叫ぶオルガマリー。

再び始まったやり取りは、先ほどの焼き直しである。

少年はそんな彼らを見て苦笑しながら、さっき告げられた言葉を思い返す。

 

・・・・・前に進むことしかできない、か。

 

その通りだ、と彼は思う。

過去は変えられない。仮定の話に意味は無い。

彼らが今を生きる人間だというのなら、その思いは過去や可能性ではなく未来にこそ向けられるべきだ。

 

「IFの話は、考えないようにしてたんだけどな・・・・・」

 

どれだけ可能性を考えても現実は変わらないし、考えるたびに虚しくなるだけだ。

だからこそ、もしも、という想いは振り払ってきたのだが--

 

「--まったく、何を考えているのやら」

 

今の自分に記憶はない。

ならば、自身が今まで何を思い、何を成してきたのかなど、分かるはずもない。

だというのに、あんなことを考えたのは--

 

--ノイズ。

 

ズキリ、という痛みが、頭の中に響く。

 

・・・・・よっぽど、俺に思い出させたくないようだな。

 

記憶を探ろうとする頭に、まるで蓋をするかの如く痛みが走る。

 過去を考える度にこうなのだから、たまったもんじゃない。記憶を封印した人間は、何を思ってこんなことをしたのか。

 ドクター・ロマンは悪意は感じられないと言っていたが、それはそれで余計に訳が分からない。

 悪意の反対は善意。ならば記憶を封じた人間は、コレを良かれと思ってやったということだ。だが、記憶の全てを封じることによるメリットとは一体なんなのか。

・・・・・ほんと、何があったのやら。

 

もう何度目かもわからない思考。

答えの出ない自問自答に溜息が出る。

ドクター・ロマンは時間が経てば戻ると言っていたから、戻るまで待つしかないんだが--

 

「先輩、少しいいですか」

「・・・・・ん?」

 

隣からの声に振り向くと、マシュがこちらを見上げていた。

 

「どうした、何かあったか」

「はい。先輩に少しお聞きしたいことがあって」

「俺に聞きたいこと?」

一体なんだろうか、と一瞬思ったが、一つだけ思い当たる節がある。

 

「先ほどの戦闘で、先輩は弓と剣を使っていましたが、あれはどこから持ち出したのですか」

 

ごくごく、自然な問いかけ。

何も持っていなかった俺があんな物を使っていれば不思議に思うのも当然だろう。

「私も気になるわね、ソレ」

「・・・・・所長?」

 

いつの間にあのやり取りを終えていたのか、オルガマリーさんが話に割って入ってきた。

その顔は、彼女が少々厳しい性格だということを考えても、非常に険しいものだった。

 

「私もさっきの戦闘の映像を見たわ。最初はサーヴァントを退がらせて敵に突っ込むあなたの姿を見て正気を疑ったけど、その後のことには卒倒しかけたわ。一体、どこからあんな"モノ"を持ち出したの?」

 

それは問いかけというよりも尋問に近かった。発せられる言葉からは一切の虚飾は許さぬ、という意思がありありと感じ取れる。

しかし俺には彼女が何故それほどまでに緊迫しているのか分からない。

俺としても確かに不思議なことだと思うが、それにしたって尋常じゃない。

どこからともなく武器を持ち出すということが、それほど重大なことなのか。

「・・・・・どこからって聞かれると俺も分からないんだが。ただ、頭の中にイメージが浮かぶんだ」

「イメージ・・・・・・?」

「多分、設計図なのかな。それが頭の中に浮かんで、次の瞬間、手の中に生み出されてるんだ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

俺の言葉を吟味しているのだろう、彼女は口を閉ざし考え込んでいる。

しかし自分で説明しておいてなんだが、アレは生み出したというより、"引き抜いた"、という風に感じるのは何故だろうか。

 

「・・・・・・わかりました、ひとまずこの問題は不問に付します。今はこれからの方針について話しましょう」

 

暫くして考えを纏めた彼女はアレのことは捨て置き、別の問題に意識を向けたようだ。

 

「所長、方針とは具体的にはどのような」

「私たち三人で特異点Fの調査を行います」

 

 退避や救助待ちの選択を考えていたためか、マシュはオルガマリーの言葉に、少なからず驚きを得ているようだ。

 実際、この場所の調査はファースト・オーダーとやらで、今よりもっと大規模な人員で行われる予定だった。

 それを、今この場にいる三人だけで完遂しようというのは、どうにも無理があるように思える。

 

「私たち三人だけで、ですか?」

「ええ。と言っても、現場のスタッフ数も練度も不十分なので、調査はこの異常事態の原因の発見に限定します。解析・排除はカルデア帰還後、改めて第二陣を編成してから行います」

 

 彼女も、その無謀さは重々承知しているようで、この場で全てを解決するつもりはないらしい。

 あくまで俺たちがやるのは、本命を成功させる前の下準備、ということのようだ。

 

「ーーあなたも、それで構わないかしら?」

 

 自身の考えを明らかにしたところで、今度は俺に水を向けてきた。

 構わないか、と問われれば問題ない。

 だが、それを実行に移す前にーー

 

「幾つか質問していいか・・・・・?」

「ええ、いいわよ」

「それじゃ一つ目の質問だけど、オルガマリーさんは自衛手段を持ってるのか? この先もあの骸骨共はいるだろうし、敵の数が多すぎると守りきれる自信がない。もし戦う術が無いのなら、大人しく救援を待つべきだと思うんだが・・・・・・」

「その点に関しては問題ないわ。さっきはいきなりのことで混乱してただけで、本当ならあんな下級の使い魔もどきにやられたりしないわよ」

 

自信に満ちた声で告げる彼女だが、俺からすればその突然にどれだけ対応できるかこそが重要だ。

 如何に強い力を持っていようと、常に冷静さを保ち正確に行使出来ないのであれば意味が無い。

とはいえ、本来は後方指揮官が主な仕事であろう彼女に、そこまで要求するのは酷なことだろう。

 どの道、前に出るのは俺たちなのだし、自衛の手段があるということで納得しよう。

 

「じゃあ二つ目だ。調査は原因の発見だけに限定するって言っていたが、本当にそれだけでいいのか? 」

「ええ、それだけでいいーーというよりも、それしかできないというのが現状ね。カルデアの設備も人員も大きく損なわれて向こうからの支援は期待できない。だから現場での行動は必要最低限で良いわ」

「それならいっそのこと、ここで救助を待っている方がいいんじゃないか? もちろん事前の調査があった方が後続が円滑に行動できるだろうけど、さっきオルガマリーさんも言ったように、今の俺たちは戦力不足だ。大した成果もあげられずに死ぬ可能性だってある」

「あなたの言うことも分かるけど、そういう訳にもいかないのよ。資金集めや新しい部隊の編成にもかなりの時間が掛かる。その間、魔術協会の連中が黙っているはずがない。最悪、カルデアを接収されるかもしれない。最低限、連中を引き止められるだけの成果が欲しいのよ

 

どうやら魔術師の業界でも色々あるようだが、一つ気になる単語があった。

 

「魔術協会ってなんだ?」

「ああ、そういえばあなたは知らないわよね。魔術協会っていうのは、言ってみれば魔術を管理する組織よ。魔術の研究や一般人に魔術が漏洩するのを防ぐことを主な活動としているわ」

「なるほど、そういうものか」

 

やはりどこの世界にもそういう組織はあるのか、と妙な納得をしてしまう。

 同時に、彼女がこのまま調査を続行する意味を理解した。

 要は利権絡みの話なのだろう。俺にとっては大して関係ないので、気にする必要も無い。

 

「他に質問はあるかしら?」

「いや。大体のことはわかったし、大丈夫だ」

「そう。それなら私からも一ついいかしら?」

「ん? 別に構わないけど・・・・・・」

 

他に俺にするような質問があるのだろうか。

 

「さっき、ここで救助を待つことを言っていたけど、それはあなたにも言えることよ。本当に私たちについてきても良いの? 本来あなたが来る必要はないし、実際、あなたには関係のないことでしょう?」

 

問い掛けられて、初めて認識する。

考えてみれば当然のこと。

本来なら関わりのない、たまたま巻き込まれただけの存在。

そんな人物がわざわざ命を賭した調査をする必要は無い。

このままおとなしく救助を待っていればいいだけだ。だが--

 

「ああ、構わない」

 

即答だった。

一切の迷い無く。一切の躊躇無く。

彼は命を賭すと答えた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その答えを、オルガマリーは理解できなかった。

何故、踏み込む必要の無い危険に飛び込むのか。何故、賭ける必要の無い命を賭すのか。

本来なら関係のない、ついて来る必要のない存在。

そんな彼が、自分たちを手助けする理由が分からない。

だからこそ。彼女は、その心を問うた。

 

「・・・・・・何故、と聞いても構わないかしら?」

 

--その問いを、彼女は投げ掛けるべきではない。

 

彼女が現状を理解できてない訳がない。

彼女の目的には、一人でも多くの戦力が必要なのだ。

だからこそ、自らの意思で危険な調査に協力するという彼は非常に有難い存在だ。

普通なら、彼の気が変わらぬようにすべきなのだ。

何故か、と。どうして、と。

そのような問いを投げ掛けるべきではない。

問い掛けた結果、彼の気が変わってしまったら、調査の成功率が著しく低下する。

カルデア所長として、そのような事態は絶対に避けるべきなのだ。

それでもその問いを投げ掛けたのは--巻き込みたくないという、彼女の想い故だろう。

その想いに対し、

 

「こんなことをする奴がいて、マシュやオルガマリーさんがそれを止めようとしてる。それを放っておくことなんてできない。こんなことを起こした誰かを俺は許せないし、二人にも傷ついて欲しくない」

 

目の前に誰かを傷つける存在がいる。目の前に悪意を撒き散らす存在がいる。

それだけで自分が戦うのには十分だ、と彼は告げる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

オルガマリーが少年の全てを理解したとは言い難い。

それでも--この瞬間、彼女は少年の異常性、その一端を垣間見た。

「・・・・・・分かりました。私からの質問も終わりです」

 

告げて、線を引く。

これ以上踏み込めば、"また甘さ"が出てしまう。

彼は事態を解決するための道具だと考えなければいけない。それが、カルデア所長としての最善の行動と、己に言い聞かせ、自らに課せられた責務を、今一度思い返し、自身を切り替える。

 

「それじゃ、調査を始めるわよ」

 

宣言し、道無き道を進む。

後ろの二人もそれに倣い付いてくる。

--ここに、特異点Fの調査が開始される。




本当なら、今回でシャドウサーヴァント戦まで持って行くつもりだったのですが、変な方向に筆が進んでしまったので断念しました。これでも結構削った方で、最初は一万以上だったので、どこを落とすかでかなり時間を食いました。もう少し上手く纏められるようにしたいと思います。

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