見渡す限り青い世界。セーラー服の少女は青く染まる。ガラス越しには、大小さまざまな魚たちがゆうゆうと泳いでいる。不思議な場所だ。上も下も右も左もどこを見ても魚が泳ぐ水槽になっている。ここは水族館だろうか。まったく知らない場所なのになぜか心はとても落ち着いている。絶えず青白い光のベールがゆらゆらと降り注ぎ、大きな魚がすぐ近くを泳いでいく。
「どういたしました、お嬢さん。」
ふいにかすれた優しい声が聞こえた。
振り向くと、声の主は伸ばしたひげが良く似合う、白いスーツの老紳士だった。
少女は老紳士からすぐ目をそらして、空ろな目で青い世界を眺める。
「わたし道に迷ったみたいなんです。いつの間にかここにいて・・・・おかしいですよね。」
足元には綺麗な色の小魚が楽しそうに泳いでいて、その近くを大きなウツボが、ずずずと身をうねらせながら重くゆったり進んでく。
きっとわたしは今美しい世界にいる。はずなのに、心は何とも思わない。私の心は死んでしまったのだろうか。冷たい海の底みたいに何も感じず何もかも過ぎてゆく。
「おかしくなんかありませんよ。ここは不思議で特別な場所ですからね。あなたみたいなお嬢さんは特に迷い込みやすいんですよ。」
老紳士は目を細めて笑う。少女はおおきなクラゲが、ぷかぷかと気泡と一緒にのぼっていくのをただただ眺めていた。
「わたしは・・・・。」
青黒い魚の群れが光を遮り、闇が二人の輪郭をぼかしていく。
「・・・・わたしは、なぜここにいるのでしょうか?」
その途端、さっきまで透明なプラスチックのような心が、水彩絵の具が水に溶けるように、感情が押し寄せてきて少女のなかにさまざまな感情が交差していく。瞳からこぼれた涙がぽろぽろと頬を伝う。目頭が熱い。
老紳士は少女の頬を伝う涙をハンカチでそっと拭うと、かすれた優しい声で少女に言葉をかけた。
「大丈夫です。あなたならきっと帰れます。さあ手をとって。・・・行きましょう!!最後の電車が行ってしまう前に。」
差し出された冷たい老紳士の手をぎゅっと握って少女は顔を上げた。目の前はいつの間にかステーションになっていて電車が停まっていた。電車の中は客一人いなくて、がらんとしていた。けれどなんだか少女が乗るのを待ってるみたいだった。
「さあ。」
老紳士は少し悲しそうに笑って促す。
「ありがとうございました。」そう言って乗り込むとドアはすぐに閉まってゆっくりと出発しはじめた。世界は相変わらず青いままで魚たちはすぐそばを泳いでいる。
「さよなら。」
海が好きです。魚とか。海中散歩って言葉をヒントに作ってみました。言葉で世界観を作り出すのってとても難しい。がんばりたいものです。