これは理想に向かい破滅を選んだ少年の物語。
「貴方、変わったわね」
引き吊りながらも凛とした声で少女は語りかける。
その場に存在するのは二人、黒髪を伸ばした少女、そしてコートを着込んだ少年だ。
そして、少年が少女に拳銃を向けている。
「そうか?」
少年は冷たい声で言う。
「そんなに変わったとは思わないんだけどな」
「変わったわ」
少女は少年を軽蔑するように見据えて言う。
「貴方は元々空っぽだった。けど、あの子と居るときだけは貴方と言う者があった。けど、今の貴方は───」
────今までより空っぽよ。
少年は黙って少女を見据える。
言葉が出ない。否、言い返せないのだ。
何故ならば。空っぽ、それを虚無感と言うならば少年が日々感じていたものでもあるからだ。
それを認めずに生きてきた。
しかし、全てを捨てた少年は。
「そうだな、俺は空っぽだ」
それを認める。
虚勢に意味は無く、自分と言う者に意味など無いと認めていたのだ。
故に彼は全てを捨てたのだ。
日常を、平穏を、大切だった人を。
「何故、あの子を殺したのか聞いていいかしら?」
「ああ、お前と話すのも最後だから構わない」
「じゃあ、何で?」
「アイツを生かしてたら多くの人が死んでた、だから俺が殺した」
「ふざけないで、それは管理者である私の仕事よ!貴方がやる必要は無いでしょ!」
少女は少年を責めたてる。
自分がやるべきだった、やらなきゃいけなかった。それがせめてもの罪滅ぼしだ、と。
「罪滅ぼし、か」
少年が呟く。
「じゃあ、俺と同じだな」
「何を───」
少年が言った罪滅ぼしの意味を少女は完全には理解できなかった。
少年の罪を少女は一つしか知らない。
しかし、少年の言った罪滅ぼしは少女の物より含みを持ち重さがあるようだった。
「俺の罪をお前が知る必要はない」
それはまるで、生きていることこそが罪のように────
「俺が生きる意味、それは正義の味方であることだ。その為には今はお前が邪魔だ」
「邪魔って───」
少年は冷たい声で淡々と告げる。
「最後の警告だ、令呪を捨てろ」
「それは────」
少年は会話の中で若干下がった銃口を少女に向け直す。
拳銃の機構が擦れるカチャという音が少女の恐怖を煽る。
「わ、分かった。令呪を放棄するわ」
少女は手の甲に宿る魔力を棄てる呪文を紡ぐ。
「こ、これでいいかしら」
少女は異物の無い綺麗な手の甲を少年に見せる。
「ああ」
「ふぅ、これで────」
低い発砲音が鳴り響く。
「え───」
少女の肩が深紅に染まる。
硝煙の香りが立ち込め、次に僅かに鉄臭い匂いが漂う。
「銃には慣れないな、頭を狙ったはずだけど」
「なん、で」
踞り喘ぐように少女は問う。
「お前は教会の神父と知り合いだろ。何らかの手段で再び令呪を獲得する可能性がある。なら、徹底的に可能性を潰さなくちゃな」
そして、少年は近付き少女を仰向けにして彼女の額に銃口を突き付ける。
───そこを越えたら先は絶対に引き返せんぞ。
少女の側に居た男の言葉を思い出す。
知ってる。それに引き返せないというなら彼女を殺したときにその覚悟はしてある。
「じゃあ、さよならだ───」
───遠坂。
引き金を絞り、凶弾が弾き出される。
凶弾はあまりに容易く少女の額を貫く。
「はぁ───」
「友人を殺した気分はどうですか?」
紫の髪を靡かせ長身の女性が現れる。
「煽っているつもりなのか?」
「ええ、私は貴方を許してませんから、煽りもします」
「そうか」
少年は煽りを半ば無視し、少女だった物を見据える。
「処理しますか?」
「構わない。どうせ神父がやるだろう」
「分かりました」
少年は遺体から目を反らし踵を反すと歩き出した。
───俺にはもう味方は居ない。
そこの奴も只の道具だ。
彼女が最後に俺に残した道具だ。
俺は彼女に死を与えた、その代わりに彼女はそれを託した。
「次はどうしますか」
不意に女性の声が届く。
「さて、どうするかな」
少年は受け流すように誤魔化した。
「私としてはこの戦いを一刻も早く終わらせないのですけどね」
「俺を殺すためにか」
「はい、私の今生での願いは貴方を殺すことですからね。分かっているでしょう────」
────衛宮士郎
「ああ、この戦いが終わったら俺の命をくれてやる。そのかわり、」
「ええ、私はこの戦いが終わるまでは貴方を生かしますし、手伝います。彼女の最後の命令ですから」
「そうか───」
少年は再び歩き出す。
───俺は二度と戻れない。ならば全てを捨てて多くを救おう。
それが、彼女が少年に託した願いだと信じて少年は再び歩き出す。
───これで良いんだよな、桜。
正直、自分が鉄心endの先を読みたいが為に書きました。
誰か続きを書きたいと思ったなら書いてもいいんですよ?w
もし、作者が書く気になったならば続きを書く可能性があるので感想やアイディア等があれば書いてくれれば幸いです。