東方信頼譚   作:サファール

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今回は全体的に前フリな回ですかね。原作のアレが出て、そして布石をばら撒きまくって終わる…………みたいな感じに仕上がっています。こういう回はあまり得意ではないんですけどね……トホホ。

 前回は一万を優に超える文字数でしたが、反省して今回は一万五百字に収まっていますw


 それでは、どうぞ。


 


11話.実直に咲く笑顔と虚飾で彩る笑顔

 あの後僕が起きたのは病院に寝かせられてから一週間後だった。知らない天井だ、と言おうとして、ここが病院の天井である事に気付き、顔を左右に動かしてみると、そこには病床に顔を伏せて床に正座をしている永琳が居た。病院だと言うのに、寝ずに僕の隣に居てくれたのかと思いながらその優しさを心に染み込ませていると、彼女が身じろぎをした。

 

「ん……私、いつの間にか…」

「おはよう、永琳」

 

 顔を上げた彼女に微笑んで、その寝ぼけた顔を拝む。

 彼女は呆けた顔をして、そのまま暫く硬直する。そして、立ち上がって俯いた。顔に前髪が掛かってどんな顔をしているのかが見えない。

 

「……………で」

「へ?」

 

 よく聞き取れなかった。

 

 

 

 

「巫山戯ないでよ馬鹿ぁ!!!」

 

 とても女性一人のものとは思えない怒声が院内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

「何か言う事は?」

「ごめんなさい…」

 

 時刻は昼近く。僕は現在、永琳に笑顔で何時間も説教されていた。彼女との約束を守れなかったのもあるのだが、それよりも死にかけたことに対して怒っているようだった。逐一あの時の事を出しては、やれ傷を負い過ぎだの、やれもっと上手く闘えなかったのかだの、色々と理不尽な事で僕を叱っては、最後に「良かった…」で締める。それが何時間も延々と続くのだ。無限ループって怖いよね。

 

「兎に角、生きてて良かった…」

 

 これでこの台詞を聞くのは何十回目だろうか。もう耳にタコだ。あと少しで三桁に到達するのではないだろうか。ここは個室なので周りの人に迷惑になる事は無いのだが、それでも長過ぎると思う。

 

ドカドカドカ…

「あ、来たみたいね」

 

 また同じような説教が続くのかと思いきや、永琳はドアの方を見ると、丸椅子から立ち上がってその人が来るのを待った。

 

「起きたのか!修司!」

「雄也!?」

 

 床か抜けるんじゃないかと思うくらいに足音を立てて思いっきりドアを開けた大男は、開口一番そう叫んだ。豪快な性格なのはいいのだが、時と場所を考えてほしい。流石に個人の性格は隊長としては管轄外だ。

 

「病院では静かにしなさい」

「あ、すいません、八意様…」

 

 突撃してきてから、雄也は永琳に気付いて慌てて敬礼をした。だがすぐにこちらに振り向くと、捲し立てる様に次々と心配の言葉をかけてきた。

 

「お前、やっと起きたんだな!お前が帰ってこないから心配だったんだぞ!お前が死んじまうと思ったら夜も眠れなくてよ!それに────」

「あーはいはいストップストップ。もう十分分かったから、病院では静かにね?」

「おっと…すまん…」

「そんなにしょげることじゃないでしょ。アップダウン激しいね」

 

 僕は雄也の激し過ぎる感情反応にツッコミを入れ、その場が少し和む。

 永琳は席を外すと言い、病室を出た。雄也はその間に永琳が座っていた丸椅子に腰を下ろした。

 

「……八意様には後でお礼を言っておかなくちゃな…」

「急に八意様が出て行ってしまったけれど、どうしたんだろうね」

 

こちらとしては説教が一先ず終わってほっとしているのだが、雄也の顔を見るに、何か真剣な話があるようで、僕はまた顔を引き締めた。

 

「…雄也、何か僕に用があるのかい?」

「あぁ、修司……あの時の事なんだが……」

 

 あの時の事と言われて、僕は最初、何の事を言っているのかが分からなかった。山で死にそうだった時なんかは意識が朦朧としていたし、永琳の顔しか判別がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「────本当に済まなかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 雄也の突然の謝罪に、僕は目を白黒させた。だって、全く身に覚えが無かったからだ。

 

「……え?」

「俺は…修司を探しに森に入った時、お前を妖怪と間違えて攻撃してしまった。幸い、初撃は避けてくれたが、それでも俺は俺がやっちまった事には落とし前をつけたい。どんな処分でも受けるつもりだ!」

 

 丸椅子を後ろに蹴飛ばしてその場で土下座をする雄也。病床で半身を起こしてそれを見ていた僕は、信じられない告白に心臓の鼓動が速まるのを感じた。

 

 雄也が僕を襲った…?

 いくら敵地のど真ん中だったからって、幾ら何でもそれはあんまりだ。瞬時に敵味方の区別もつかないほど耄碌された覚えはない。

 それとも、もしかして雄也は、僕と分かってて(・・・・・・・)攻撃を仕掛けたのか?優しい僕なら、今謝罪しても軽い罰で済むと思って…?

 

「それは────」

 

 言いかけて、修司は頭をブンブン振った。

 駄目だ!たった一回の失敗ですぐに疑うな!闇に呑まれれば全てを失う。意識をしっかり保て!

 蘭と別れてから、僕は闇が胎動しているのを感じていた。まるで、僕が取り込んだ人格のように、一人の精神を持っているように思えるのだ。最初は、自分の思い過ごしかと思ったが、今、はっきりした。人格達と同じように、闇も意識を持ち始めている。僕は、冷や汗を出しながら、事の意味を理解した。

 

「…………」

 

 雄也は僕の次に発する言葉を、床を見つめながら、聞き逃すまいと耳を澄まして微動だにしない。それが僕の心に罪悪感となってのしかかり、取り敢えず顔を上げるように言った。

 

「駄目だ。そんな事は出来ない」

 

だが雄也は頑なに自分を罰してくれと言って聞かない。男気溢れるその姿に感銘すら覚えるが、僕はその雑念を振り払い、何か当たり障りの無い罰を考えた。

 雄也は、一度こうと決めたら曲げない性格だ。正に、『男に二言はねぇ!』という言葉を体現したようなその豪快な性格に惹かれる女性も少なくはない。

 それを鑑みて、小さいものでも何でもいいので、兎に角今後の生活に支障の起こらないような命令を考えているのだが、如何せん何も思いつかない。

 

「……………あっ」

 

 いい事を思いついた。これならば、僕も得をするし、雄也も納得してくれるだろう。

 

「……処罰を決めたよ」

「何でも言ってくれ」

「雄也、君には────」

 

 勿体ぶるように一度大きく息を吸い、目の前で土下座している親友の頭を見る。

 

 

 

 

「────これからの訓練の後、僕の特訓に付き合ってもらう。拒否権は無いよ」

 

「……へ?そんな事で……いいのか?」

 

 雄也は間抜けな声を上げて、顔を上げた。

 僕は特訓の内容について説明した。

 しかし、それはいつも、雄也が休憩の時間に僕に、手合わせと称して吹っかけていた模擬戦とさして変わりない内容だった。

 当然、雄也は抗議した。それではいつもと変わらないではないかと。しかし僕は聞いてくれ、と説明を追加し、雄也のその先を黙らせた。

 

「言ったでしょ?これは特訓だって。雄也も強くするのも目的の内。今後こんな事が起こらないように、僕と一緒に鍛えようよ」

「一緒に……か?」

 

 雄也が顔を暗くする。もう僕に刃を向けたくないのだろうが、そんなトラウマに悩まされているようでは、防衛軍の兵士の名が廃る。そんな軟弱者に育てた覚えはない。

 

「そう、一緒に。次にあいつを倒すための戦略を整えたいんだ。協力してくれるよね?」

「も、勿論!こっちに出来ることがあれば、精一杯やらせてもらうぜ!」

 

 息を吹き返して目に光を灯す彼に僕は微笑んで、何とか説得に成功したことを密かに喜んだ。こういう所は意外と単純なんだなぁ。

 僕は改めて彼に立つように言い、今度は素直に従ってくれた。

 

 

 その後の談笑に興じていると、ノックの音がして、永琳が帰ってきた。雄也の清々しい顔で察したのか、彼女はふふっと笑うと、病室に入ってきた。

 それを見た雄也は、用事はこれで終わったから帰ると言い、倒した丸椅子を元の位置に戻した。

 

「それじゃあ、俺はこれで帰る。また壁外で会おうぜ」

「うん、またね」

 

 僕は手を振り、雄也と別れた。

 

「彼との話はどうだった?」

「分かってるんでしょ。気配がドアの裏からずっと動かなかったから」

「あら、気付かれてたのね」

 

 恐らく雄也も気付いていたのだろう。だからあの時、「八意様には後でお礼を…」と、わざわざ声に出して言っていたのだ。

 

「ふぅ…説教はもういいかしらね。十分反省しているみたいだし」

「でも、また僕は行かなきゃいけない。あいつは危険過ぎるから」

 

 永琳はそう聞いて顔を顰めた。だが僕は努めて笑い、全く不安を寄せ付けない笑顔を彼女に見せた。

 

「大丈夫だって。すぐに行くわけじゃない。ちゃんと対策を練ってから行く。今度は生きて帰ってくるさ」

「………本当に?」

「本当本当大本当。だからさ、永琳も笑いなよ。折角の美人顔が台無しだよ?」

「…もぅ……馬鹿…」

 

顔を赤くして俯く永琳を茶化すような笑いに変え、そこからは久々の明るい話で病室を埋め尽くした。

 と言っても、彼女と僕の口から出てくるのは、最近までの苦労話ばかりで、どっちかというと居酒屋のようなノリだった。お酒飲んだ事ないのにね。

 

 

 

 

「────あ、話は変わるんだけどね」

「うん、何?」

 

 急に真面目な顔になった永琳。たった今思い出したようで、間の抜けた声を出していたが、そんなに重要な話しならば忘れないだろうに…。

 

「議会の連中────あ、私とツクヨミ様以外よ?────が、あなたが死にかけで帰還した事にとても怯えていてね、回復したらすぐにこっちに来て報告をするようにと言っていたわ。報告書だけじゃなくて、あなたの生の声を聞きたいらしいわ」

「それはまた、大層仕事熱心(・・・・)な事だね」

「全くよ…。病み上がりを呼びつけるってどういう神経してるのかしら」

「まぁいいよ。拒否なんて出来ないからね、行くしかないさ」

 

諦めたように苦笑を浮かべて僕は言った。

 

「あと、ツクヨミ様も呼んでいたわ」

「げっ…」

 

僕はこれ見よがしに嫌そうな顔をした。それを見て永琳は若干吹き出す。僕がツクヨミ様を苦手な事を知っているので、僕の嫌そうな顔が余計に理解出来たようだ。

 

「はぁ………そっちは謹んで辞退したいなぁ…」

「残念ながら、どっちも強制事項よ。あなたの立ち位置では逆らえないわ」

 

 防衛軍の部隊長の位置づけとは、市民の上に立ち、政治家達に膝を折ると言った感じだ。市民と上役との間に立っている。

 

「私の従者というのも、ただ私という盾があるだけだし、あなたって意外と偉くないのよ?」

「僕はあまり人の上には立ちたくないからね。これでいいのさ」

「欲がないわね」

「それ、誰かさんにも言われたよ」

 

 頭の中で、特異な存在である地這いの妖怪の事を思い浮かべる。

 

「…で、僕はもう退院出来るのかな?」

「森であなたが使った謎の薬のお蔭で、外傷は完璧に治っていたから、もう退院出来るわよ。修司が入院したのは、気絶してから目を覚まさなかったから」

「あぁ、それには心当たりがある」

 

 きっと、蘭との戦闘で脳を酷使し過ぎたのだろう。まだまだこの闘い方には慣れが必要だな。

 

「……それよりも、修司があの時に使ったあの力。あれは何なの?あなたの能力って一つじゃなかった?」

「それはね────」

 

 どうせいつかバレるだろうと思っていたので、永琳に詳しく僕の会得した能力について説明する。僕の本来の能力で永琳から取り込んだ事も。その部分を話している時に、永琳は微かに顔を動かした。自分の能力までもが昇華されているとは思いもしなかったのだろう、僕が説明し終えると、彼女が小声で、「やっぱり出鱈目よ…」と言っていたのを聞き取った。

 

「僕も驚いてるよ。………それじゃあ、さっさと報告しに行こうかな…」

「それには賛成ね。あいつら、相当ビビっていたから、あなたがゆっくりしているのが耳に入ったら、処罰されるわよ?」

 

 それはご勘弁願いたい。

 

「打ち首とかありそうだなぁ…」

「有り得るから怖いわよね」

 

 永琳がそう言って溜息をつくと、恐らく僕の荷物が入っているだろう鞄を部屋の隅から持ってきた。

 僕はベッドから出て、永琳からその荷物を受け取ると、永琳を部屋から出して着替え始めた。

 

「先に手続きしてるわ外で会いましょ」

「また永琳が主治医だったのか…」

「当たり前じゃない。居候の治療は家主の義務よ」

 

 そんな義務あるわけないのにな。

 去り際に言われた一言に永琳の気遣いを感じ、そっと言葉を零した。

 どうやら荷物というのは僕の服のみのようで(短槍は軍に返却されたらしい)、改めて僕の軽装ぶりを再確認した。武器だけ持って出掛けるって、近所に遊びに行くような感覚じゃないんだから、と思うが、やはり僕にはこれが合っている。

 

 着替えが終わり、受付に一応挨拶だけしてから、僕は自動ドアを通って病院を出た。そして目の前に広がる光景にナニコレとツッコミを入れたのは懐かしい思い出。

 すぐそこの道路に自動車を停めて待っている永琳に向かって片手を挙げながら、僕は最早何も入っていない鞄を引っ提げて駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 永琳も付いていくと言うので、僕は永琳を家に降ろさずに、そのまま本部に直行した。てっきり僕が報告するところまで付いてくる(永琳ならやりかねない)と思っていたのだが、意外にも彼女は車で待っているというので、先に議会の人達に報告する為に僕は会議室の扉をノックした。

 

 案の定彼らは情けないほどにビクビクしており、あまりの恐怖に軍を動かそうと提案する極論を言い出していた(チキン)もいた。

 僕は一応都市では一番の実力者(防衛軍の中では)なので、僕を瀕死に追い込むような妖怪の台頭に、議会の連中震撼した。しかも相手は一人だと言うから尚更彼らの恐怖心は増幅し、椅子に座って喚き散らすだけの阿呆と化していた。

 

 彼らは僕の報告で対策を練るなどとのたまっていたが、実際は軍を動かすくらいしか頭が回らないだろう。妖怪を見たことも無いのに妖怪にどうやって対抗するのか非常に見物だ。

 だが、ここで大人数で森に出たところで、生き残るのは恐らく僕の部隊のみなので、ここで一つ提案をさせてもらった。

 

 それは、僕が定期的に山に出向いてソイツを弱らせて、進軍させないようにする、というものだった。この提案に議会者達は、「そうだそれにしよう!」と、一瞬で満場一致の即決定を下した。

 こんな状況でも、彼らは私腹を肥やす事しか頭にない。軍を動かす時にかかる費用の事が頭を過ぎったのだ。そうして金を浪費するくらいなら、一人でやってもらった方が都合が良い、と彼らは考えたのだ。

 つくづくこいつらの下衆加減には額に青筋を浮かべる。

 

 結局、僕の報告は報告書と変わらない内容だったので、特に問題も無く、僕が蘭と闘うことでカタがついた。

 永琳が車の中で何も訊いて来なかった。きっと訊くまでもないと思っているんだろう。実際その通りだ。

 

 

 

 

 次はツクヨミ様との対()ということで、僕達は今都市中央のドでかい建物の前にいる。永琳はまた車で待っているようなので、こっちはツクヨミ様との一騎打ちに臨む気概で顔を引き締めた。

 この前は、危うい場面が多々あったが、今は違う。今回はただ蘭の事について色々話すだけだし、何も気を付ける事は無い筈だ。だが、そうは言っても絶対にガードを張ってしまうのが僕。備えあれば憂い無しと言うし、一応の対策は考えておこうか。

 

「こちらです。ツクヨミ様は既に居りますので、粗相の無いように」

「ありがとうございました」

「はい。では、私は…」

 

 どうせ、またあの美味しいお茶を煎れにいったのだろう。それも、高級な緑茶を。高い茶葉を使っているのもあるだろうが、あれはあの人の技量も相当関係している。むむむ、侮れないな…。

 

「────ドアの前で何を考え込んでいるのだ。早く中に入れ」

「……はっ!?す、すいません!」

 

 緑茶について変に考えていると、中からツクヨミ様が声をかけてきた。

 待たせるのは悪いので、急いでドアを開けて中に入る。

 この部屋は前回会った時と同じ部屋で、全面ガラス張りの壁が神々しく輝いていた。

 

「やっと来たか。まぁ座れ」

「失礼します」

 

 今回はそんなに身構えていないのだが、それでも神様を目の前にすると、何だか緊張してくる。今は神力で脅すような真似はしておらず、こっちとしてはかなり過ごしやすい感じだった。

 

「では、早速本題に…と言いたいところだが、今回は喉は乾いていないのか?」

「へ?…あぁ、大丈夫です。僕は先程まで議会の御方達に報告をしていただけですから、全然ですよ」

 

 そうだ、前は急いで来たとか何とか言って、意味不明な攻撃を仕掛けていたんだ。今更それを掘り出してくるとは、何たる皮肉屋だ。

 

「先に飲み物が来るのを「失礼します」…言った傍から来たようだ。私は乾いていてな」

 

 側近の人がお茶を煎れてきた。僕が部屋に入ってからすぐに来たという事は、相当ドアの前ど考えていたようだ。その事を考えると、ちょっと自分が恥ずかしくなった。

 コトン…と湯のみが二つテーブルに置かれ、側近は礼をして部屋から出ていった。

 先程喉が乾いたと自分で言っていたくせに、湯のみに手を出していない。つまり、誰かに聞かれては困る話だという事だ。薄々それは察していたので、側近さんにお礼を言い、僕はその美味しいお茶に手をつけた。

 

「ズズ…………ふぅ。やはりあの人が煎れるお茶は美味しいですね」

「だろう?これが理由で採用したと言っても過言ではない」

 

あぁ、側近さん、こんな事を言われて可哀想…。

 

「………そうですか」

「可哀想とでも思ったか?だが、人生はそんなものだ。何がどう作用するかなんて、誰にも分からない。そう思わないか?」

「それはごく稀な現象ではありますが、確かに一理ありますね」

「ふふっ…。お前との会話には飽きないな」

 

 こっちとしてはいい迷惑だ。話の奥深くまで深く読み込んで、機知に富んだ返答をしなければならない。それは僕の十八番なので大して苦行ではないのだが、相手が神となると、どうしても気を張ってしまう。

 

「……まぁ、それは今はするべきではない話だ。それで────」

「わざわざ側近さんを離してまで聞かれたくない話です。一体どんな内容ですか?」

「……やはり他とは違うな、お前は。もしかしたら永琳よりも話術に長けているのかもしれないな」

「それは過大評価です。僕はそんなに凄い人間ではありませんよ」

 

 そう言って、僕はお茶を啜る。ツクヨミ様もそれに合わせて湯のみに口をつけ、互いに一旦息を吐く。

 

「では、話に入ろうか」

「僕が死にかけた妖怪の事ですか?」

「それは別にいい。そういう奴が出てくるのは能力で分かっていた。そして、お前が死にかけるのもな」

 

 能力というのは、あるというだけで何かしらの恩恵が得られる。特に、様々な場面で応用が効く能力は重宝するものだ。ツクヨミ様や僕の能力が最たる例だろう。

 

 

 

 

「私が話題に挙げたいのは、これから先にある計画の事だ」

 

 

 

 

「計画?」

 

 ツクヨミ様から放たれた一言は、今まで知りもしなかった事だった。防衛軍の定例会議や、永琳からも聞いていないいきなりの計画発言に、僕は瞠目した。

 恐らくこれは、最重要機密事項なのだろう。側近の人まで退けてから話すような事だ。永琳は知っているかもしれないが、それは今問題ではない。問題は、何故それを僕に話したかだ。

 

「何故…と言いたげな顔をしているな」

「当たり前ですよ。何故一介の部隊長である僕にその事を話したんですか?」

「永琳の名目上の従者であり、同時に防衛軍の戦力の殆どを担っている特隊の部隊長でもある。そんな規格外なお前だ、資格くらいあるだろう」

 

 まだ信用しきってないくせに…。心の中で僕はそう毒を吐いた。ツクヨミ様の瞳には、人間を見下している色がある。しかも、僕は元は得体の知れない存在だ。そんな奴に資格があるなんて、裏しかないと言っているようなもの。

 きな臭い。現在の僕の都市の貢献方法が武力である事を考えれば、何か僕にやらせようとしているのだろうか。それも、こうやって二人っきりで呼び出してまで秘密にする事が。

 

「それで、その計画とは…?」

「よくぞ訊いてくれた。まず、(けが)れや妖怪の本質については知っているな?」

「無論です」

 

 穢れ。それは、人間に寿命を与えるもの。都市の人間はこれを全く持っていないので、寿命が無い。それは、僕も同じだ。

 そして、その穢れの塊として畏れられている生物が、妖怪である。妖怪とは穢れの象徴であり、また人類の永遠の敵である。都市は防壁と軍を結成することでこれを長年退けてきたというが、最近は蘭のような知性を持った妖怪も増え、力もそれに比例してどんどん強くなっていっている。

 防衛軍は、敵の戦力を削る為に、妖怪を殲滅する部隊を編成しようという事になった。まぁ、その役は全てこちら(特隊)に押し付けられたのだが…。それに加え、周辺の調査の護衛もとなると、もしかしたら僕の部隊から死者が出るかもしれない。

 

 穢れや妖怪がどうしたというのだろうか。それを解決する為に僕達に白羽の矢が立ったのではないか。

 僕は、今更だがツクヨミ様の思惑に気付いた。僕に強靭な部隊を作らせ、血なまぐさい事を全てやってもらおうとしているのだ。それにまんまと引っかかってしまった僕だが、後悔はしていない。どのみちやるだろうとは思っていたからだ。

 

「そうか、なら話は早い。これはお前が来る前から定期的にやっている事なのだが、我らは密かに、穢れの汚染度を調べている」

「はぁ…汚染度…ですか」

「ここ最近までは汚染度も規定値以下に留まっていたので問題は無かったのだが、妖怪側の力が強大になった事で、ここら一帯の穢れが増加し、そろそろ防壁を越えて来そうなのだ」

「え?それは、ちょっと拙くないですか?」

 

 都市内は穢れを完全にシャットアウトしている。

 だが、妖怪の凶暴化に伴って、その防御が崩されつつあるそうだ。ならば防壁を強化して外とのコンタクトを拒絶してしまえばいいと思うかもしれないが、それは出来ない。何故なら、穢れは物理的に防げるものではないから…だそうだ。所謂、空気汚染のようなもの。感染すると寿命が出来てしまう、一種の病原菌だ。

 

「そうだな。このままこの地に居ては、我らはいずれ穢れに侵食されてしまうだろう。……そこでだ、我々は考えた。穢れが無い土地(・・・・・・・)への移住をな」

「穢れの無い土地……」

 

 そんなものがあるのだろうか。曰く、これまで調査に出て他の人類や、穢れの無い土地は見つからなかったと言う。

 

「そんな夢みたいな土地があるというのですか?」

「あぁ、あるぞ?あそこに」

 

 ツクヨミ様が人差し指で天井を指す。ん?天井がどうかしたのだろうか。確かにピカピカに掃除されていて、穢れを微塵も感じさせないが…。

 

 

 

 

 

 

 

「我らが移住しようとしている土地。それは────月だ」

 

 

 

 

 

 

 

「………えぇっ!?」

 

 信じられない。いくらここがファンタジーで奇想天外な世界だとしても、月に住むだなんて無茶過ぎる。

 

「嘘ではないぞ?名付けて、『月移住計画』だ。かっこいいだろ?」

(これまた安直な…)

 

 僕はその圧倒的ネーミングセンスに落胆しつつも、この計画の重要性に気付いた。

 これは、都市の全員の命運を賭けた計画だ。もし成功すれば(本当に月に住めるのか疑問だが…)、僕達は穢れの無い土地で暮らす事が出来る。逆に失敗すれば、恐らく全員死ぬだろう。それは僕も例外ではない筈だ。

 

「…勝算はあるんですか?」

「ロケットは永琳が設計するのだぞ?成功しないわけがない」

 

 最近事ある事に永琳が僕を訪ねてくるのは、それが原因か。研究室にも入れてくれなくなったし、話す時間も前より少なくなった。だから永琳は僕と出来るだけ長く居ようとして……ってのは考え過ぎか。

 

「…計画はいつ実行するんですか?」

「珍しいな。先に時期を訊くなんて。大抵の奴は自分の仕事内容を優先するのだが…」

「ちょっとこっちにも事情がありまして」

 

ロケットが完成してこの地球とさよならする前に、蘭に勝っておきたい。いつまでなのか期間を知りたいのだ。

 

「予定としては、あと百年。遅く見積もっても、残り百五十年だ」

 

自分が不老なのは理解しているけど、それを改めて実感した。百年を普通だと思っている自分がいるのだ。いよいよ感覚が狂ってきたな。

 

「分かりました。それで、僕にわざわざ知らせたという事は、その時に仕事でもあるんですか?」

「明察だ」

 

 ツクヨミ様はそう言い、立ち上がってガラス張りの壁に歩いて行った。

 

「お前とお前の部隊には、その時に来たる決戦で戦って欲しい」

「その相手とは……」

「十中八九、妖怪だ」

 

 彼女曰く、ロケットを飛ばす時に、防壁を突破して妖怪の大群が押し寄せてくるらしい。能力で分かったことなので確証は無いが、念には念を入れておいて損は無い。僕達には最後のロケットの発射準備が出来るまでロケットを防衛して欲しいそうだ。

 ロケットの数は合計四つ。最初は権力者達が乗ったロケットで、次に人民を乗せたものを二つ、最後に防衛軍兵士の脱出用。

 

「いいですよ」

「良かった。お前以外に適任がいなかったのだ」

 

 僕を使う為に色々と仕組んでいるくせに、ツクヨミ様はわざとらしくホッとした表情をした。彼女の手の平の上で踊らされている感覚は拭えないが、どちらにしろこう転ぶしかなかった気がする。

 僕は、ツクヨミ様から、防衛AI兵器の使用許可と、都市を自由にしていいという許可を貰った。勿論、その時が来た時だけだが。

 

「訊きたかった事はそれだけだ。まだ時間はある。……頼んだぞ」

「…善処します」

 

 善処という言葉を使ったのには、もしかしたらの緊急事態(・・・・)に備えての布石だ。よしんば彼女が裏切るとした場合に備えての…。

 

「善処…か。まぁそれでもいい。もっと兵士らしい答えを求めていたのだがな。……もうよい、帰れ」

「はい、失礼しました」

 

 兵士らしい答えと言われたって、こっちはそんな精神は皆無な18歳だ(精神年齢的な意味で)。

 今回の対話では、ツクヨミ様からは何の嫌がらせや脅し、騙しが無かった。道楽で何かやってくることはあっても、重要な部分ではしっかりと真面目に話をしてきた。

 何か裏があるのではないかと不安になってしまう。

 

 ツクヨミ様から退出しろと言われたので、有り難くこのでっかい建物を後にした。永琳はツクヨミ様もの会話の内容が気になったようでしきりに僕を問い詰めたが、僕は悟られないように黙秘を貫いた。永琳はこの計画の事を知っているし、それに僕が関与する事を嫌がる筈だ。いや、確実に嫌がる。

 

 

(ここに来てから数年。平穏な時間の方が少なかったな)

 

 静かに決意を新たにし、僕は明日からの特訓を考えた。

 この時、ツクヨミ様の笑顔がガラスに映っていたのだが、僕はその違和感に気付けなかった。

 

 




 (今のうちに……………今のうちに原作キャラを出しておかなきゃ…)
 ↑ほっといてくださいw



 なんとなくですが、この小説のあらすじみたいな場所を見返していましたら、少々書き足したいなって思いまして…。もっと沢山の人に見てもらいたいなと思った時に、どうすればいいかを考えたのですが、あらすじがちょっと味気ないかなという結論に至りました。
 ですので、どういったものにするかが決まりましたら、予告無しに変えてしまうかもしれません。
 ハーメルンで読みたい小説探しをする時って、大体は題名とタグ、そしてあらすじを見て決めますよね。ですからもっと惹きつけられるような文章にしようと思います。一応あのあらすじは暫定の文章でしたからね…。

 さて!序章もいよいよ終盤に近いです。当初はアニメみたいに12話で終わらせてやろうかなと予定していましたが、なんだか序章に含めておきたい事を書き立てていったら、思いの外筆が乗ってしまい、12話に収まりませんでしたw
 果たしてこの小説は何話で完結するのか……有名なハーメルンの東方小説家様達のように大作になってしまいそうですw。将来的にいい作品に仕上げられたらいいな。



 とまあ、今日はこの辺で。さようなら~。



 と言うかこの日クリスマスイブ!?!?皆さんとりあえずメリークリスマスですっ!!!
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